私のヒーロー道(休載) (ヘイ!タクシー!)
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雄英高校受験します

ただ一人称書いてみたかっただけ。
ちなみに個性の影響で葵よりちょい強め。まあプロヒーローには格段に劣りますが


『私が来た!!』

 

 テレビで朝の番組が流れている。時刻は朝の4時。こんな時間からでもオールマイトの映像が出てくるのは、やっぱり彼の人気の証なのだろう。

 

 オールマイト。No.1ヒーローであり平和の象徴。前髪を角のように二本立てた金髪と筋骨隆々のマッチョボディ。一人だけ周りと画風が違うと言ったら良いのか………彼だけは何かが違うと雰囲気でわかるほど隔絶した絶対的存在。

 

 彼は今、テレビで犯罪者(ヴィラン)と呼ばれる人達を瞬く間に倒していた。

 そんなテレビに映るオールマイトを横目で見ながら、私・邦枝 椿は着替えて道場に向かった。

 

 __________

 

 世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つ超人社会。"個性"とは先天性の持つ超能力の一種だ。

 そんな"個性"蔓延る社会の中で、“個性”を悪用する"ヴィラン"を“個性”を発揮して取り締まるヒーローは人々に讃えられていた。

 

 "ヒーロー"。人々に“個性”が発現した超常黎明期において、“個性”を利用して人々を救う職業となった役職だ。

 "自警団(ヴィジランテ)"と呼ばれた人々の活動が、世論に押される形で制度として認知されたのがヒーロー制度の起こり。

 

 そのヒーローの活動は絶大的で、今やCMやバラエティ、ニュースなど様々なメディア・マスコミに進出している。

 若者が成りたい職業No.1の職業がヒーローなのだ。

 そんなヒーローに成りたい人の一人である私もまた、ヒーローになるために自分の稽古を行っている。

 

 

 目を閉じる。周囲の感覚を掴み構えを取る。

 息を整え、私は踏み込みと同時に木刀を抜刀し振り抜いた。

 

「フッ!」

 

 気合いを込めた息が口から漏れる。

 残心を残した体勢のまま、私は目を開き息を整える。

 

「スゥー………ハァー……」

 

 私は残心を解くと周りを見回して確かな手応えを実感した。

 抜刀術の影響で、私を中心とした半径数メートルから数十メートル離れた位置にある藁で出来たかかしが全て斬り倒されている。

 若干掃除が面倒だなぁって思わなくもないけど、これもまあ稽古の一つだと思って諦めるしかない。

 

「さっさと片付けちゃいますか」

 

 やる気を上げるためにそんな一言を呟いて、私は掃除を始めた。

 

 

 ____________________

 

 朝食を食べ終えた私は()()()()を終えると、受験のための支度を整えて外に出る。

 

 

 そう、受験です。私は今日、入試倍率300倍偏差値79と言われている超難関の雄英高等学校入学試験を受けるのですッ!!

 緊張のせいなのか感情が高まっている気がしなくもないのだけど、それでも今日は受験なのだ。落ち着いていかなければ。

 

 雄英高校は、オールマイトを始めとした名だたるヒーロー達を卒業生として社会に排出している程の超有名校。偉大なヒーローには雄英卒業が絶対条件と言われるほど、ヒーローになるための登竜門としての地位になっているくらいだ。

 ここで将来が決まると言って良い程には大事な入試。

 

 友達は推薦で入ることが確定しているし、是非とも同じ学校で一緒に通いたい。

 

 私は雄英高等学校入学試験会場の看板が置いてある校門を通り過ぎると、校舎を見上げる。

 雄英高校の校舎は大学のような二つのビルだ。そのビルの中に入って行き、案内板に誘導されながら入試()()()()説明会場にたどり着く。

 

 会場は驚くほどの広さだった。

 …………まあ、当たり前でしょう。入試倍率300倍なら最低でも一万人以上の人が入りきらなければならないからね、うん。

 少し心臓の音が五月蝿いのは決して会場の雰囲気に呑まれているわけではないはず……。

 

「スゥー……ハァー……」

 

 私は何時ものように深呼吸を入れる。

 やっぱりどうしても緊張してしまうわね……。当たり前か、私はこの試験を()()()()()()()で挑むようなものなんだし。それに今までの稽古があるとは言えまだまだ未熟だし……。

 

 受験番号の書かれた席に着いた。後は説明が行われるのを待つだけ。そう考えて先程入り口で貰った説明のパンフレットに目を向ける。

 

 どうやら実技試験は対ヴィランの戦闘試験なようだ。

 4種の機械が相手らしいし、私にとっては有難い。武器の持ち込みも有りとくれば、多分大丈夫だと思う。

 これが武器無し個性のみで敵を倒すと言った試験なら、かなり厳しい試験になったかもしれないけどね………

 

 そんなことを思っていると私達の席の前にある舞台上に奇抜な格好をした一人の男性が立った。

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 しーーーーーん………

 

 突然のノリと男の掛け声に付いていけなかった私を含む受験生は皆無言となった。

 

 彼の事はあまり見たことがないけど、ラジオではこのテンションのヒーローの声を聞いたことがある気がする。

 たしか名前はボイスヒーロー『プレゼント・マイク』だっかな。とてもテンションが高かったのを覚えている。

 

 そんな周りの無言の空気にもめげない男は一人テンション高く再び話始める。

 

『こいつぁシヴィー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!!』

 

 そう言ってプレゼントマイクはテンション高めの状態を維持したまま説明を始めた。

 

 試験はここから別の場所に移動して行うようだ。受験生はA~Gのグループで分けられ、各自別々の場所で試験を行う。敵は三種類のいるようだけど難易度によってポイントが違うと。

 

 そこで一度、一人の生真面目そうなメガネ男子が質問を入れた。もう一種類の敵は何だと言った質問だけど、プレゼントマイク曰くその敵は0ポイントのお邪魔虫らしい。

 

『俺からは以上だ!!最後にリスナー達へ校訓をプレゼントしよう』

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」!!』

 

 ここでプレゼントマイクは一度言葉を切って溜める。

 

Plus(更に) Ultra(向こうへ)!!!』

『それでは皆良い受験を!!』

 

 プレゼントマイクはそう締め括って舞台裏へと消えていった。

 

 

 ____________________

 

「Plus Ultra。更に向こうへ…ね」

 

 所変わって、私は今実技試験場にいた。

 試験場はビルで囲まれた市街地を想定している会場だった。一辺ニ、三キロ程の四角街が試験場の範囲。

 この範囲の街がいくつも敷地内に仮想戦闘場所としてあるのだから、雄英はとても広い。

 

 私が自前の木刀の手触りを確かめていると、後方何十キロと離れたビルからここまで届く大音量のプレゼントマイクの声が聞こえた。

 

『ハイスタートー!!!』

 

「えっ?」

 

『どうしたぁ!?実践じゃあカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れ!!!』

 

 その声の意味を理解したかと思うと、私を含めた数人の受験生達は瞬時に動き始めた。

 遅れて全員の受験生達も走り始めた気配が後ろから感じ取れたけど、私はその事を意識から外して集中することにする。

 目の前に三階建ての低めのビルが見えたので、私はその屋上に跳躍した。

 

 武術の基本的足捌き、『縮地』だ。本来なら至近距離にいる相手の懐に一歩で間合いを詰める体捌きだけど、私やお爺ちゃんみたいにこの技を極めれば十数メートルを一歩で跳べる。

 

 そのまま近場の五階建てや十階建てのビルの屋上や、勢いをつけて側面の壁を蹴りつけ、二十階建てのビルを跳ぶ。

 

 やっぱり高い建物から見える景色は違うね……。私と同じような考えの人達が、個性を使って高い位置から探索を行っているのが見える。

 私もそれに習って辺りを見回す。すると市街地の中心辺りに大きな広場が見えた。そこには仮想敵とされた大量のロボットが群がっている。

 それが確認できたのでビルの壁や屋上を縮地で跳んでその場所に移動する。

 

 どうやら私は一番乗りらしい。広場に到着した私の方へと一斉にロボット達が振り返った。

 

『標的捕捉!!ブッ殺ス!!!』

 

『人間ダ!人間殺ス殺ス殺ス!!!』

 

「なんか凄く物騒じゃないかしら!?」

 

 ビックリだ。いや、まあ仮想だけど敵なんだから物騒なのはわかるけど………なぜか釈然としない。

 まあそんなことは置いておこう。そう思い私はこの場でポイントが一番高くて大きい5ポイントの敵へと突入する。

 が、私の進行方向に1ポイントと3ポイントの敵が割り込んできた。

 

『死ネ死ネ死ネ!!!』

 

『人間ナド壊レレバイイノダ!!』

 

「だからなんでそう物騒な………」

 

 腰に挿した木刀へと手を掛けて、そのまま仮想敵の下へ縮地を使って距離を詰める。

 未だ私がいた位置の方へと顔?らしきモノが向いている二体のロボットへ木刀を抜刀した。

 

 胴が上下に分かれたのを手応えで感じ取りながら、5ポイントの敵へと縮地で突っ込む。

 木刀で5ポイントの敵を一閃し、その場から巨体が崩れ落ちてくるのを回避する。

 

 ドオン!!という重くお腹に響いた音を聞き取りながら、私は次の標的へと目を向けた。

 

 




書いてて主人公沖田さんに変えたくなった。


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0Pの敵

まった。まだ主人公の口調が不安定なんだけど


 私はビルで囲まれた街を跳ぶ。

 ポイントは今のところ61ポイント。多分順調だとは思う。

 

 先程プレゼントマイクの音声で、残り時間6分程度だとわかった。以外と制限時間が短かったなぁ、という思いが過った。けど、残りのロボット達も少なくなってきているし、むしろ時間が多かった方なのかなとも思わなくもない。

 

 それにこの会場ではニ千人程の受験生がいるんだ。ロボットを造る個性がいたとしても受験生の人数が多過ぎる。だから振るい落としも兼ねて時間を短縮しているんだと思う。

 

 私はポイントをできるだけ多く集めるために、少なくなってきたロボット達の下へと跳ぼうとした。

 

 その時だった。爆発音が街全体に響き渡り、地面が揺れた。

 私や周りの受験生が驚いて音の方向へと目を向け、そしておののく。

 

「あれは……流石に倒すのはキツイでしょ………」

 

 音の発生源は倒壊するビル。その中から出てきたのは、ニ、三十メートルはあるかと思われる巨大なロボットだった。

 あれがプレゼントマイクの言っていた0ポイントのお邪魔虫くんなんだろうね。お邪魔虫と言うより怪獣の方がしっくりくる気がするよ………。

 

 受験生の人達はあのロボットを見てすぐに戦意を無くし逃走を図っている。

 私もあれを相手にするのは酷く面倒だと思い、その場から撤退しようとした。

 

 けど、それが出来なかった。なぜなら、退散しようとして振り返ると目の前に変な少年がいたからだ。

 

「うぇいうぇいうぇいうぇ~~~~~い」

 

 よくわからないけど、親指を突き立ててサムズアップを繰り返す、うぇいうぇい言ってる変な顔の少年だ。

 

 あまりの間抜け顔に、試験であるにもかかわらず一瞬吹き出しそうになるぐらい、緊張感の抜けた顔と行為だ。

 いや、むしろ試験だからこそ、場に合わない行動と表情がツボに嵌まるのかもしれない。

 ヤバイ………笑える………。

 

 私がなんとか声を押し殺しながらも、腹筋崩壊寸前になりそうな時、後ろから轟音が響き渡る。

 

 その音で今自分達がピンチであることを思い出した。

 危なかった。こんな危険な場所なのに、私達だけシュールな光景になっていたよ。

 

「そこの貴方。何をしてるのかわからないけど危ないよ。早くこの場から離れないと」

 

「うぇいうぇ~~~い」

 

 ダメだ。完全に頭がイカれているのか個性の反動なのかわからないけど、私の声が聞こえてないのはわかる。

 

 ロボットの巨体が仇になっているのか、動きが遅いからまだ私達は襲われていない。けど、このまま彼を放って置いたら絶対にあのロボットの被害を受けると思う。なんせ瓦礫がボールのように辺りに飛び散っているくらいなのだから。

 

 少年とは言え同世代の男の人を担いで運ぶのは筋力的に厳しい。とするとあのロボットを壊さないといけないのだけど、あの大きさと力が危険だ。

 試験で、しかも何の得点にもならない相手に危険を犯して倒すのはアホだし………

 

「……っと、ヤバイわね。こっちにも瓦礫が飛んできたか」

 

 あの機械は鈍足なりに着々と近づいてきている。丁度私のいる位置に巨大な瓦礫が飛んできたのだ。私は木刀を一閃し、縦に瓦礫を切ってやり過ごす。

 やはりあのパワーは厄介だなと考えたとき、ふと思い直した。

 

 そうだよ。あのロボット凄く遅くない?

 

 それに気付いた私は、そのロボット目掛けて縮地で跳ぶ。

 頭のおかしい男子のいる位置に飛んで行くだろう瓦礫を、出来るだけ地面に叩き落としながら近づいた。

 

 ビルの合間を駆けて跳んで来る私を捕捉したのか、巨大なロボットは私にこれまた巨大な腕を伸ばしてきた。

 けど動きがとても遅い。

 

 ビルの側面を蹴って伸びてくる腕の上を跳ぶ。そのまま腕に着地して、さらに縮地でロボットの頭の横に移動。息を整えて木刀を抜刀する。

 

「壱式 破岩菊一文字」

 

 私が今できる最高速度の抜刀で、そのロボットの胴体と頭を切り離した。

 

 ロボットは胴体から頭がずり落ち、そのまま地面に落下した。ドシンッ!と重い音を立てたロボットは、今度は胴体も倒れる。

 

 さらに響き渡る鈍重な音をBGMに、私は残心を残したまま地面に着地して、溜めていた息を吐く。

 

「ハァーー……」

 

 息を吐いたのと同時に汗が頬を流れる。

 

 やっぱり心月流抜刀術は神経を削る。まあ、私の力を最大まで振り絞った一撃だったからしょうがないのだけど。まだまだ未熟かな………。

 

『終了~~!!!!』

 

 ここでプレゼントマイクから試験終了のお知らせである。

 結局私のポイントは61………これが良いのか悪いのかわからないけど、多分大丈夫だとは思いたい。

 でもなぁ………雄英ってたしか40人未満しか合格できないって聞くし、ちょっと危ないかもなぁ……。

 

 不安で押しつぶれそうになりながら私は出口に向かって歩き始めた。

 途中で間抜け面を晒していた彼のことを思い出したけど、まあ多分不合格で二度と会うことも無いだろうと思い直し、すぐに思考の彼方である。

 

 ____________________

 

 

 一週間後。筆記試験も終えた私は家で日課の稽古を行っていた。

 筆記はかなりの手応えなので自信はあった。そちらの面は個性の影響で明るい方だし、天才の友達が勉強の面倒を見てくれたし。抜かりはないわ!

 

 ただ試験結果内容はとても心配だ。私立の併願校は受かっているけど、やっぱり雄英じゃないとダメ。

 

 なんと言っても雄英に落ちれば推薦組のあの子がとても心配になる。あの天才の友達はとても天然なのだ。

 簡単に人に騙されるし、露出に対する羞恥心が全く無いのが問題だ。あれだけ忠告しているのに服を創れば問題無いなんて台詞を宣う。

 あのダイナマイトボディを隠すのに私が中学時代どれだけ苦労したことか………見せられるごとに私の何かもゴリゴリとすり減るし……うぅぅ………私だってそれなりにあるのに……あれを見ると自信が無くなってくるよ………。

 

 稽古を終わらせたのになぜか暗い気持ちになりながら、道場から出て玄関のポストへと歩く。ポストの中を見ると、雄英高等学校と書かれた封筒が目に入った。

 

 来た!!合格安否の知らせ!!

 

 先程の暗い気持ちは何処へやら。私はポストから封筒を取り出す。持ってみると何か硬く重い物が入っているのがわかった。何だろうかと思いつつも、封筒と何か大事な物っぽいのが入っているのだ。きっと私は合格したのだろう。

 

 ルンルン気分で家に入り、リビングまで行ってソファに腰を下ろす。ワクワクしながら封筒の封をを開けた。

 中に入っていたのは何かの機械だった。

 ボタンが付いているので押してみると、いきなり空間にホログラム映像が写し出される。

 

『私が投影された!!!』

 

「わっ!?お、オールマイト!」

 

 なんと写し出されたのはオールマイトである。一人だけ画風の違う姿に鳥肌が立つ。

 けど、何故雄英からの手紙なのにオールマイト?卒業生だから??

 

『邦枝椿女子。君は不思議に思っているだろう?何故私が写し出されたのか。答えは簡単。私が今年から雄英に勤めることになったからさ!』

 

「おおー……」

 

 これはビックリである。あのNo.1ヒーローが学校の先生。私もオールマイトの一ファンであるから嬉しくないわけがなかった。

 

『さて、結果報告だが邦枝女子。筆記はほぼ満点。実技も61ポイント。さらに救助活動(レスキュー)ポイントも加えれば85ポイント。文句無しに合格だ!!と言うか一位だ!おめでとう!!』

 

「わぁ………やったぁ!!!」

 

 私は年甲斐もなく喜んでしまった。と言うかレスキューポイントなんてモノもあったのね。知らなかった。

 まあ、ヒーロー科なのだ。当然と言えば当然なのか。

 

『雄英に入ってからも苦難は色々あると思うが、まずは合格したことを素直に喜んでくれ!それでは今度は学校出会おう。またな!!』

 

 そう言うとオールマイトが写し出されていたホログラム映像は途切れた。

 だが私は映像が終わっても喜びで興奮が抑えられなかった。この喜びを分かち合う為にスマホを取り出し、友達に電話をかける。

 

 三回程のコール音の後、通信が繋がった。

 

『おはようございま』

 

「聞いてよモモ!私、雄英に受かったわ!」

 

『まあ……ほんとですか!?それは大変喜ばしいことですわ椿!』

 

「うん!これでまた一緒の学校ね!やった!」

 

『私もとっても嬉しいです!本当によかったぁ……』

 

 どうやら私はモモにも心配をかけていたらしい。スマホから安堵の声が聞こえてくる。私は良い友人関係を持ったものだ。

 

「これから手続きとか色々やらないとだけど、今度遊びに行かせてよ。その時に雄英合格おめでとう会でもやろ?」

 

『ええ、良いですわ。私も準備して楽しみに待ってます!』

 

「うん!じゃあまた今度電話する。じゃあね!」

 

 



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最初のテスト

相変わらず誤字がひどいな。ついでに主人公の本性が少しずつ出てきた


 春。

 今日から私は高校生だ。しかも雄英の。チョー楽しみです。

 

「やっハロー、モモ」

 

「お早うございます椿。元気ですわね」

 

 という訳で早速教室である。一番乗りとはいかなかったけど、それでも二番目。といっても真面目な彼女が早いだけから仕方ないのだけど。

 

「相変わらず早いねモモは。私も早起きして来てるんだけどねぇ……」

 

「椿は一人暮らしでしょう?しょうがないわ。それに私は車で直接来てますし」

 

「まあそうなんだけどね~……なんだろ?性格の問題?私負けず嫌いだから」

 

 初めての高校生活だけど、運良く彼女と同じA組になれて良かった。今のところ新鮮味はないけど何だろうか、彼女といると落ち着くのだ。

 

 そんな風に何時ものように他愛ない会話を彼女としていると、教室のドアが開いた。と言うか入る時も思ったけどドア大きいな。バリアフリーか。

 

 ドアから入ってきたのは………何だろうか。髪が真ん中で白色と赤色に別れている奇抜なファッションをしている人だった。個性の影響かな?私も金髪で派手だけど彼の頭はとても個性的だね。

 

「あ。あの人知ってますわ」

 

「え、そうなの?なんで?」

 

「同じ推薦組ですので。説明会の時に会いました」

 

「なるほど……」

 

 それからは先程の二人だけの空間だった教室が嘘のようにどんどん制服を着た生徒達が入ってきた。以外と皆真面目なのかな?隣の人と会話もせずに自分の席に着いている。

 

「なんかこれだけ人数いるのに静かね。皆真面目くん?」

 

「周りが誰も知らない人たちなのだから仕方ないのでは?私も椿がいなかったら黙って授業待ちすると思いますし」

 

「あー……それもそっか」

 

 バンッ!!

 

 と、そこで勢い良く扉が開かれた。その音に一瞬ビクンと反応して、思わず音の発生源を見てしまう。

 そこにいたのはガラの悪そうな金髪の少年だった。なんせ足で扉を開けるくらいだ。特に目付きがヤバいし。

 

 その不良のような少年はズカズカと彼の席まで移動する。

 ドカッ!と教室内に音が響き渡る。

 アレだね。彼はまんま典型的な不良なのだろう。机に足を乗せているところなんか特にね。

 

「何ですかあれ?野蛮ですわ」

 

「THE不良って感じ。……あ、でも優等生っぽい子が注意してるよ」

 

 なんと言うか本当に優等生みたいなメガネ男子が不良少年に注意している。と言うか彼、試験会場で質問してた人だ。受かってたんだね。

 

 優等生くんが今度は新たに入ってきた少年の所へ行ってしまったので、興味の失せた私は再びモモに振り向こうとして気付いた。

 

 もう一人入ってきた少女の後ろに何かいる。何あれ寝袋?うわっ!起き上がった!

 

 寝袋マン?が教室に入ってきて教壇の前に立った。寝袋を脱いで出てきたのは、髪がボサボサのくたびれたおっさんみたいな人だ。

 

「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 一番時間を無駄にしてそうな大人が何か言ってる。

 

「担任の相澤消太だ。よろしく」

 

 担任だったよ。

 その担任の先生は体操服に着替えてグラウンドに出ろと言ってきた。いきなり何かの訓練ですか?

 

 __________

 

「モモ。何するんだろうね」

 

「さぁ……この後入学式があったはずなんですが、良いのでしょうか?」

 

 早速私たちは更衣室で着替えてグラウンドに出た。

 相変わらずの発育暴力を目の当たりにしてしまったがその辺は気にしない。また胸が大きくなったとかそんな呟き気にしちゃいけない。

 

 クラスの皆が集合すると、相澤先生の説明が入った。

 

「てば早速やるぞ。今から行うのは個性把握テストだ」

 

「個性把握テスト!?」

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

 いきなりテストらしい。クラスの何人かが声をあげる。が、相澤先生はそれらの質問に坦々と応えて黙らせた。

 雄英の『自由』な校風。なんでもありなのか。流石ヒーロー科である。

 

 まずは試しとばかりに先生はあの不良少年を呼ぶ。あの不良少年は爆豪と言うらしい。

 爆豪少年はソフトボール投げの円の内に立つと、おもいっきり振りかぶってボールを投げた。

 個性を使ったのか手が爆発してボールがすごい勢いで飛んでいく。

 うわっ、ホントに凄い。見えなくなっちゃったよ。

 

「まず自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ」

 

「おお!さすが英雄!」

 

「めっちゃ面白そうじゃん!」

 

 先生の言葉に何人かの生徒が騒ぎだす。それもそうだろう。何せ個性を使って計るのだ。楽しくないはずがない。

 ただ私は憂鬱だ。先程の爆豪君みたいに私は()()()()()()()()個性を持ってないのだ。

 

 さらに私の苦難は続くらしい。

 

「面白そうか………ヒーローになるための三年間。そんな腹づもりで過ごす気か?よしわかった。トータル成績最下位の者は見込み無し判断して除籍処分にしよう」

 

「「「はああああ!?」」」

 

 相澤先生はそんなことを宣いやがった。

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の『自由』。ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 最悪だ。私は個性無しだよ?最下位確実である。あまりにもあんまりな現実に、私は思わずモモの柔らかい二つのクッションに飛び込み泣きつく。

 

「ヤバいよモモ………私絶対最下位だよ……」

 

「大丈夫ですわよ椿。あんなのウソに決まってます」

 

「いや、絶対嘘じゃないと思う。だってあの人凄く性格悪そうじゃん」

 

「だとしても貴女はたぶん最下位は無いと思いますけど………」

 

 なんか呆れられた視線で見られたけど無理ですよ?あんな700メートル超えの超記録、私には出せないからね?

 

「理不尽だと思うかもしれないが、世の中は常に理不尽だ。自然災害、大事故、凶悪なヴィラン………そういう理不尽を覆してこそヒーロー」

 

 生徒達の不満が出るなか、相澤先生は彼等に理解させるように言ってくる。

 

「これから雄英は君達に苦難を与え続けるさ。『Plus Ultra』。全力で乗り越えて来い」

 

 ____________________

 

 

 まずは50メートル走だ。まあこれはなかなか自信がある。

 出席番号の早い人から二人ずつ走る。私の出席番号は9だし割りと早めだね。

 とりあえず周りの人達のレベルを見るために観察しなくては。

 

 最初は肌が小麦色で目が真っ黒の女の子と、ナルシストっぽい男子だ。

 なんかナルシストくんは後ろ向いてるけど何なんだろう?

 

『START!!』

 

 うわ、あのナルシストくんお腹からレーザー出してるよ。なんか気持ち悪ッ。

 だけどなるほど。レーザーの推進力で飛べるのか。あ、レーザー切れた。転び方もダサいな。

 ………なんだろ。彼は生理的に受け付けないわ。

 

 もう一人の少女は足裏から液体を出して上手く地面を滑ってるね。摩擦があそこまで少なくなってるのは何か特殊な液体でも出してるのかな?

 結果は二人とも5秒代。それが平均ならやっぱり結構速いな………

 

 そんなことを考えていると、私の番が回ってきた。今のところメガネ少年の三秒代がトップだけど、こんな序盤から好成績が出てるくらいだから多分最高は2秒超えるか………

 

 私はスタート前に立ち、いつもやっている戦闘体制の格好になる。やはりこれが一番なれているのだ。

 

『START!!』

 

 スタートの音と共に、私は縮地を使って前に跳ぶ。一歩では届かないが、勢いをつけた二歩目は更に大きく跳躍することができる。

 私はニ歩目の着地でなんとか50メートルの線ギリギリに辿り着いた。

 

『2秒89!』

 

 グゥ……やっぱり1秒代にまったく届かないや。初動が大事な心月流としては一歩で最高速度に持ってかないとダメだね。

 

 ちなみにモモは2秒06。バイクにロケットブースターとかありですか。ていうか危ないよ。いや、「ちゃんとヘルメットとパラシュートは付けてたから大丈夫ですわ」じゃなくてさ。

 

 __________

 

 二種目は握力測定。

 うん。これはダメだね。私、鍛えてるとは言えか弱い女の子だよ? 46kgでしたよ?これでも普通はすごいからね?

 と言うか百さんや。トンてなんですか㌧て。一人だけなんかちがくない?

 

 

 三種目は立ち幅跳び。

 これも縮地を使うしかない。結果は23メートルと、みんな何かしらの個性で飛んでる中、順位的には上っぽい記録が取れた。

 

 まあ、相変わらずの百様は桁が違いますけどねー。驚いたのはこの競技で一位じゃなかった事くらいか。

 自分を浮かせる女の子がいたけどあの子かな?

 

 

 四種目は反復横跳び。

 まあこれは武道の者として負けるわけにはいかないね。剣術の基本は足捌き。110回と好成績だと思う。

 

 さっきから女子の胸やお尻をジロジロ見てくる小さい変態が、私と同じくらいの成績を出してきたのが不愉快だけど………。て言うかジロジロ見すぎなのよ。ステップしてるときに胸見んな変態!

 

 ちなみにモモちゃんも良い成績を出していた。あの発育の暴力を見せないために、私は峰田くんと名乗る変態の目を潰しておくので忙しくてそれどころじゃなかったけど。

 

 

 5種目はボール投げ。

 これはとても低い成績になってしまった。よく人を吹っ飛ばすからある程度は飛ばせるけどな………やっぱりボール投げは専門じゃないのよ………。

 結果40メートル。人間なら木刀使えばもっと飛ばせるのにッ!

 

 そういえば記録が私と同じくらいの頭ボサボサの少年はニ度目で凄い結果だしてたね。なんか指が腫れてるのが気になったけど。

 

 てかモモ。大砲とか初めて見たよ。

 

 

 六種目は長座体前屈。

 身体はまあ………私は柔らかい方ですよええ。ただ身体から何か出して距離を伸ばす人たちには負けた。物理的に勝てないわ。

 

 

 七種目は上体起こし。

 これは良い成績だ。私は稽古のお陰で瞬発力が売りなのだ。鍛えてるから上体起こし自体も苦じゃないし。

 弾むもの取り出す系の人には流石に負けたけど………

 

 

 最後は持久走だ。

 走行距離は10キロ。これも私にとっては余裕。

 

 だからと言ってね、モモ……。私のペースに合わせてバイクで走るのは止めて。そこまで疲れる距離じゃないけどイライラするから。

 

 ____________________

 

 持久走も終わって相澤先生の下へ皆が集まる。

 多分私的に最下位はないだろう。私より酷い人いたし。と言うかもしかして好成績じゃない?流石にモモがいるから一位は無理だけど、5位辺りならなんとか………

 

「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。成績はホログラム映像で一斉開示。ちなみに除籍はウソな」

 

「「「!!?」」」

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 なんかさらっと除籍処分の話は無しだと言われた。

 まあ、途中からあまりその辺りは気にしなかったけどね。それでも成績が芳しく無かった人にとっては衝撃的事実だろう。隣のボサボサ少年なんか凄い形相だ。

 

 …………と言うかこの先生、合理的大好きだな。

 

 ちなみに結果。私は四位でした。モモちーは一位だよ

 。やったね!

 

 




今のところ爆豪くんに実力で負けてる感じかな。

あと、書いてる途中で私の好きな作品書いてくれてる作者さんに評価頂いちゃったよ!やったね!


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コスチュームは着物……

一人称書きやすいですねマジで。1話の時と大分変わってきた気がするけど、その辺は勘弁で。


 個性把握テストも終わった次の日だ。

 これから私たちはヒーローになるための授業を受けることになる。と言っても午前中は必修科目の勉強だ。ヒーローたる者、一般常識は確実に学ばなければならない。

 

 まあ、ヒーローの先生達が普通に授業を行うのは中々クルものがあったけど。ヒーロー衣装で普通に授業しないでほしい。とてもシュールです。

 

 昼は大食堂で安価な学食が食べれる。一流のシェフ、クックヒーロー達が作っているからとても美味しい。

 

 そして午後である。科目はヒーロー基礎学。しかもオールマイトが担当だ。これでテンション上がらない方がおかしいだろう。

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」

 

「おお………オールマイトだ!すげぇ、本当に先生やってる!!」

 

「画風が違いすぎて鳥肌が……!」

 

 宣言通り普通にドアからオールマイトがやって来た。

 ヒーロー基礎学は様々な訓練がある分、単位数が最も多いし担任がオールマイトだからやる気も倍増だ。

 

 オールマイトはいつも見るテレビのような大袈裟な動きで私達に説明を始めた。

 

「早速だが今日はコレ!戦闘訓練をやってもらう!!それに合わせて、皆に送ってもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた………戦闘服(コスチューム)をプレゼントだ!!」

 

「「「戦闘服!!!」」」

 

「着替えたらちゃんとグラウンドに集まるんだぞ!では解散!!」

 

 皆のテンションが高まるのが肌で感じ取れる。

 

 コスチュームか………確かにテンションの上がる事ではあるけど、私的にはちょっとビミョーだった。

 何故なら衣装に問題があるからだ。渡された服と他人の服を見比べて思う……やはり自分だけ違うと。

 

 

 私の格好はアレだ。右足にスリットが入った赤の着物、帯や刺繍は金色で、黒のストッキングとブーツを履いている。また、鞘のついた鎖を右肩から左腰にぶら下げて、木刀を鞘に挿している格好だった。

 

 この衣装を着て改めて思う。皆何かしらアメリカンのコスプレみたいな感じなのに………なんで私は着物なんだよ!

 確かに木刀などの刀を使うって書いたよ。足を動かす為に動きやすい格好でって書いたよ。

 でもさー………足にスリットの入った着物はないんじゃないかしらー………なにコレ?太股までがっつり見えてるんだけど。凄い恥ずかしいんだけど。

 ……いくら黒のストッキングで大部分の肌は隠れてるからって言ったってさ………。

 

 そもそもなんで和風なのさ。

 髪が金髪だったから服は赤色にして花の椿をデザインしようとしたんだよ。でもさ、周りがアメリカンなのになんで和風?別に花は和風以外にもあるよね?

 確かに椿をイメージしてって書いたよ。下は金糸で刺繍された椿がとても綺麗だから満足だよ?でもなぁ……アメリカン……

 

「椿。その着物は似合ってますよ」

 

「えー……まあ、ありがとうと言って、ってモモ!?貴女なんて格好してるの!?」

 

 ビックリした!モモの格好を見て私の愚痴など吹き飛んでしまうくらいビックリした!

 モモの衣装が胸元から臍にかけてパックリと開いたレオタードと言ったその………凄くセクスィーな格好なのだ。とてもじゃないけど私はそんな大胆な格好は無理だ。

 

「貴女の個性は理解してるけどさぁ!せめて上から羽織る物くらい着なさい!ハイ出す!今すぐ出す!!」

 

「何をそんなに慌ててるのよ椿………私は肌の露出などまったく気にしませんわ!」

 

「良いとこの令嬢が何言ってんだ!?てかホントにお嬢様かよ、どんな教育させてんだあの親!!」

 

 どんだけ羞恥心が無いのだこの娘!

 いや、よく見たら他の女子たちも何だかんだ言ってエロくないか?身体のラインが諸に出てるスーツとか着てるよ……。

 

 うーん………これは逆に私の方がおかしいのか?………いやいやいや。騙されるな私。

 ワタシ、ジョウシキジンデス。

 

 むしろ着物で良かったのかもしれない。そんな考えで落ち着けた私は、皆に置いてかれないようグラウンドに向かった。

 

 __________

 

「始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 さて、いよいよだ。雄英に入って初のヒーロー学授業。楽しみである。

 

 オールマイトの説明では、二人一組にタッグを組んで行う、2対2の対人屋内戦闘らしい。

 ヒーロー組とヴィラン組で役割を決めて実戦を想定した訓練。

 

「ヴィラン出現率は屋内が圧倒的に高い。監禁・裏商売・アジト………真に賢しいヴィランは屋内(やみ)に潜む!」

 

 と言うわけだ。状況設定は、ヴィランがアジトに核兵器を隠していてヒーローはそれを回収する為に動くと。実にアメリカンだね。

 

 勝敗は、ヒーロー側が制限時間内にヴィラン側を捕まえるか『核兵器』を回収すれば勝利。ヴィラン側は制限時間まで『核兵器』を守るかヒーローを捕まえれば勝利。

 

「ちなみにコンビと対戦相手はくじで選ぶぞ」

 

 くじか………雄英合格者なら大丈夫だとは思うけど、できれば足を引っ張らない人がいいな。特にあの変態くんとボサボサくん。

 

 変態くんは把握テストを見てた感じ、あの頭に生えてる黒い球が個性みたいだね。くっついたり弾んだりしてたけどその辺は彼がコントロールしてるのかな?

 ボサボサくんは自分の身体を犠牲にして超絶パワーを引き出すのかな。と言うか何だあの被り物。凄くダサくないだろうか。センスが感じられない。

 

 まあセンス云々は置いとくとして、どっちも場合によっては強いと思うけど身体能力がな………

 

 っと、くじ私の番だ。ハイハイ今引きますよ~……。ふむ、Cだね。パートナーは誰かな?む、あそこにモモっち発見。とりあえずモモは何だったか聞いてみよ。

 

「ぅおーいモモ。なんだった?」

 

「あら椿。私はCでしたよ」

 

「えっホント!?やったね!私もCだよ!」

 

「椿とコンビですか。とても嬉しいです」

 

 ナイスタッグである。私たちは切っても切れない特別な縁でもあるのかもしれないね。

 近・中レンジの私と中・遠レンジのモモ。戦闘の相性もバランスも中々良いし、これは勝つる。

 

 そのあと、オールマイトが対戦相手のくじ引きを行った。AとD………私達じゃないのか。残念。

 

 Aはボサボサもとい被り物くんと、名前と雰囲気が可愛らしい麗日ちゃんだね。

 麗日ちゃんはポワポワして可愛いのが特徴だ。あと立ち幅跳びボール投げ一位。

 

 Bは……うわっ絶対合わないでしょあのタッグ。よりにもよってあの不良くんとメガネくんだよ。絶対無理だなあれ。

 

 さて、ヴィラン組が訓練場所であるビルの中に入ってから五分後にスタートか。モニターでここから戦闘が見られるからその間に他の女子とも仲良くしなきゃ。

 女子のグループを組むのは大変だからなー。できれば優しそうな麗日ちゃんと仲良くしたいけど、それは後だ。

 

 と、言うわけであそこにいるロックなファッションの彼女に話しかけてみる。

 

「うし。行くよモモー」

「へ?どこへ?」

 

 モモを巻き込んで彼女の所へ行く。ふむふむ、近くで見ると中々センスのある髪型だね。どこの美容室通ってるのかな?

 

「ヘイそこの彼女!私達とおしゃべりしよーよ!」

 

「どこのナンパですか!」

 

「えっ………モモ、ナンパ知ってるの!?何処のどいつだ私のモモにそんな低俗な言葉を教えたのは!」

 

「貴女ですわよ………」

 

「うぉぉ………なんか濃い人達が来たよ」

 

 失礼な。私が濃い部分なんてこの派手な着物くらいだ。

 

「私の名前は邦枝 椿。こっちが八百万 百。ヒーローを目指す者同士、仲良くしよ?」

 

「よろしくお願いしますわ」

 

「オッケー。ウチも友達欲しかったんだ。名前は耳郎響香。呼び捨てで良いよ、私もそうするから。……と言うか二人のコスチューム凄いね」

 

「止めて。私はこんな服にしたかった訳じゃないの」

 

「似合ってるから良いじゃないですか椿」

 

「君はもっと羞恥心を持とうか」

 

 やっぱり突っ込まれてしまった。まあ、響香……呼び捨てで良いって言ってたし、響香でいいか。響香のコスチュームは派手さはないけどロックだからね。羨ましい。

 

 む……どうやら戦闘が開始されるようだ。一応他の人の個性を詳しく知っておきたいし、どんな戦術を取るのか見てみたいし、モニターに集中するか。

 

 




大分個性の強い主人公になってきた。
まって。主人公性格変わりすぎじゃね?どうした?


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戦闘訓練は電撃戦さ!

ううむ………私は主人公をどうしたら良いのだろうか?

3位!


 A、Bチームの戦闘が終わった。

 

 特に語ることは無かったかな。とても参考にできる訓練とは言えなかったし。

 あの二人建物壊しすぎだろ……度の過ぎたケンカじゃ無いんだからさー……。緑谷くんに至っては超大怪我してるし。左腕は確実にイカレただろう。

 

 結局三人の個性が少し詳細にわかったくらいで次の戦闘に進む。飯田くんは把握テストで大体予想ついてるし、満足な結果と言えよう。

 

 次はBのヒーローチームとIのヴィランチームの戦闘だ。そしてBチームにはもう一人の推薦組であるハーフイケメンが出るようだ。

 

 推薦組、と言うことはやはりモモみたいなチート個性なのだろうか。把握テストでは右から氷を出していた所を見たけど。

 

 もう一人の………少年?異形型かな?は障子目蔵くんだ。彼もまた中々便利そうな個性だ。口元と耳をマスクのような何かで覆っている。また、背中から腕にかけて水掻きがついた腕が6つ付いてる。

 

 男子と話してる所を見た時は口のようなものが腕の先端に出来ていたから、身体の複製みたいな個性なのだろうか。

 

 

 Dチームは透明な少女と影の薄そうな尻尾がついた少年だ。

 と言うかあの透明少女。何も着てないと言ってたけど、恥ずかしくないのだろうか。というかウチのクラスって全体的に羞恥心を何処かに置き去りにしてる気がする。

 全く、制服を見たときはなかなかのバストを持っていたが………全く、けしからんな!!

 

「椿?鼻血が出てますわよ?ハイこれティッシュ」

 

「おっと、私の熱いパトスが………ありがとねモモ」

 

「大丈夫?次にやるかもしれないんだからリカバリーガールのとこ行った方が良いんじゃない?」

 

「ん。大丈夫だよ。よくあることだから」

 

 ふう、危なかった。

 とりあえず私は、前にいる峰田くんの後頭部に袖から取り出した針を投げつけた。人のこと言えないけどお前は自重しろ。ハァハァ言うな変態。

 

 __________

 

 

 速攻でしたね。轟くんが一瞬でビル全体を凍らせて戦闘が終了してしまった。

 というか威力がヤバいな。初見であれを回避するのは私も無理だ。いや、集中すれば地面から伝わる冷えを回避できるかもしれないけど………アレが空間まで広がって凍らせるなら、回避は不可能だろう。

 

「ううむ………推薦組の個性はズルいな」

 

「貴女のそれも十分ズルいと思いますけど?」

 

 なんかモモが言ってきたけど無視だ。剣術は私の努力だ。ズルなんかじゃないもん。

 

 

 さて、二組目の戦闘も終了したことだしそろそろかな?

 オールマイトが再びくじを引く。出たのはCとEだった。

 

「おっ、とうとう私達だよモモ。頑張ろうね」

 

「ええ。気合い入れていきましょう!」

 

 どうやらモモもやる気バッチリの様子。

 私達はヴィラン役だった。相手の人達は………ああ。あのナルシストくんと褐色肌の女の子、名前は確か芦戸 三奈ちゃんか。

 

 にしてもあの娘もコスチュームが大胆だな。あんなに胸元を開けて恥ずかしくないのだろうか?

 アレか。発育が良いからって見せびらかしてるのだろうか。揉むぞこのやろう。

 

 

 __________

 

 私達は五階建てのビルの四階にいる。目の前にはハリボテの核兵器ロケットがあった。

 

「さてと。じゃあどうする?ここで二人で防衛戦を行うか、どっちかがヒーロー側に突っ込むか」

 

「そうですわね………前の二チームはどちらかが突っ込んで負けてますし、私達は逆に残ってみましょうか」

 

「了解。じゃあ今のうちに罠でも仕込んでおこうよ。まきびしとか」

 

 まずは罠の設置。まあこれは当たり前か。というか、せっかく待ち伏せしているのにやらなきゃアホだ。

 

「とりあえずモモは障害物に出来そうな物をいっぱい取り出してね」

 

「わかりましたわ」

 

 本当はモモの個性で核兵器全体を硬い物で覆うのが手っ取り早いんだけど………モモの衣装が危ないからダメなんだよねー……

 しかもモニターで逐一見られてるから大きな物は創造させれないし。アレ?意外と大変?

 

 ちなみにモモの個性は『創造』だ。生物以外なら知識があればなんでも創れる。ただし欠点は大きな物を創る時に時間がかかるのと、取り出す時に出す面積が大き過ぎて服が弾け飛んでしまうのだ。

 

 ぶっちゃけこれが男なら関係ないのかも知れないけど、モモは女の子だ。服が弾け跳ぶのは死活問題である。まあ、彼女はその事を全く気にしていないのが問題なんだけど……。

 

 そんなことを考えながら、モモが創造した硬い球体をその辺の床に大量に転がしておく。まきびしは危ないから止めておいた。

 

 その間、モモに鎖を創造してもらっていた。

 私はその鎖を核兵器の周りの天井や床から張り巡らせたり、所々この部屋に障害物として張り巡らせたりする。

 

 鎖に乗った感じ、私が乗ってもまったく撓まないくらいに鎖を張るができた。私が思いっきり蹴りつけても微動だにしない。さすが百印。設置がしやすい。

 

 準備をしていたら既に5分経っていたらしい。いつの間にか始まっていた。

 

「罠の準備も終わったし、後は警戒するだけだね」

 

「そうですわね。こっちには椿もいますし。頼りにしてますわ」

 

「いや、私が正確に気配察知できる範囲って、この部屋くらいだからね?まだモモが監視ドローンを創造して見回りした方がましだからね?」

 

「ごめんなさい……私、カメラの構造がまだわからなくて………」

 

「無理言ってごめんなさい。マジで忘れて」

 

 そんな他愛ない会話を続けていると、誰かが近くまで近づいて来ているのを感知した。

 大まかな距離と方向しかわからないけど、二人が確実に此方に向かって来るのは確かだ。

 私は戦闘の為に意識を切り替えた。

 

「モモ。二人が四階に上がってきたわ」

 

「ようやくですわね」

 

 二人の移動速度は大分早い。だんだんと彼等の輪郭がわかるまでには近くなってきているのがわかる。

 

 そして、私達のいる部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「核兵器見つけた!」

 

「それにマドモアずぶぅえッ!!」

 

 そんな堂々と入ってきた侵入者相手に余裕を持たせる訳がない。

 私は縮地でナルシストくんーーーーーー確か名前は青山だったかーーーーーーの側まで距離を詰めると、その生理的に受け付けない顔面に木刀の一撃を入れる。

 

 廊下の壁まで吹っ飛んだ彼は、そのまま壁に上半身をめり込ませて動かなくなった。

 

 私が急に近くに現れたことで驚いた芦戸ちゃんは横に飛び退く。

 丁度よく転がされた球体の上に足を乗せた芦戸ちゃんだが、何故かその球体が溶けて普通に地面に着地された。

 

「せっかく設置した罠が機能しないとは………少しショック」

 

「何今の!?いきなり隣に現れてビックリしたんだけど!」

 

「歩いただけだよ?やり方は企業秘密だけど」

 

 そう言いながら私はその場から動かず芦戸ちゃんに目を向け続ける。彼女は此方を警戒して、私の方を向いててくれるから助かった。

 

 瞬間、彼女の真横から巨大な網が飛んできて芦戸ちゃんに覆い被さった。

 

「うわっ!」

 

 印象的な登場で私に注意が向いていたから、ノーマークのモモが投網を創造して彼女に投げつけたのだ。

 突然の出来事に硬直している彼女に、また縮地で跳ぶ。

 そのまま彼女の手に、オールマイトから貰った確保証明のテープを網の隙間から巻き付けた。

 

「こんなもの私の酸で!」

 

「いえ、もう終わったわ芦戸ちゃん。手首見て」

 

「へ………?」

 

 芦戸ちゃんは近くにいた私を見て、その後自分の手首を見て固まってしまった。

 まあ、彼女の意識をすり抜けて行ったのだ。彼女からしてみれば突然現れた私が知らない間に彼女を確保したのだ。事態についていけてないのだろう。

 

 戦闘が終わったことで、私はモモに駆け寄って思いっきり抱きついた。

 

「やったねモモ!私達の勝利だよ!」

 

「椿………ちょっとは手加減と言うものを覚えましょう?」

 

 ………たしかに。あれだけ準備したのに即効で終わってしまった。あの準備は何だったのだろうか………。私が鎖の上を移動して悪役っぽいアクロバットな戦いをしようと頑張ったのに………

 

 

 ____________________

 

 

 そのあと気絶した青山くんを叩き起こして訓練終了。

 私達はオールマイト達がいる所まで戻ってきた。

 

「あー………なんというか、芦戸少女と青山少年はドンマイだった。相性が悪かったな、うん」

 

 帰ってくると、オールマイトが何だか微妙な表情をしていた。

 それもそうだ。なんせ轟くん達に続いて、私達もすぐに終わってしまったのだから。

 

 

 とは言え、私が使った縮地とは本来こういった電撃戦として用いるのが基本なのだ。

 相手の意識の隙間を縫うように詰め寄る歩方技術。それが縮地。断じてビル越えをするために使う歩方じゃない。

 

 最初から二人は核兵器に注意が向いてしまったから簡単に近付けたし、ニ度目は網に意識が持っていかれたから簡単に近付けることに成功。

 私に意識が向いている状態で行ったら、多分反応されたかもしれないのだ。

 

 だからそんな酷い奴を見る視線を私に向けないで。

 

「アレが入試一位………」

 

「凄い速かったね。飯田くんみたい」

 

「何の個性なんだ?」

 

 ううむ。チラチラ見られてる。恥ずかしいからそんな見ないで欲しい。照れる。

 それと爆豪くん。君、さっき凄い落ち込んでなかったかな?なんで睨むの?私何かした??

 

「むぅ。轟少年達同様に今回も採点が難しいな………八百万少女や邦枝少女はお互いに協力出来ていたから良かったぞ!青山少年と芦戸少女は目的物を見つけたからと言って油断しないように!以上!!」

 

 オールマイトのありがたい評価を頂いて、私達の訓練は終わった。

 

 余談だけど響香は電気の持つ個性の男子と組んで勝っていた。にしてもあの男の子どっかで見た気が……

 

 

 




なんとなく私の中で主人公の設定が決まった回でした。


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少し私の家の話をしよう

USJまでちょっと間が空くっぽいので、ね。
シリアスにしようと頑張ったよ。


 戦闘訓練が終わった次の日の朝のHR。

 今日も今日とて相澤先生が教壇に立つ。

 

「君らには今日、大事なことをやってもらうぞ」

 

 先生は昨日の実技成績に触れた後、唐突に言ってきた。

 一体なんだろうか?一昨日や昨日の事から、大事なことはヒーロー科にとって大変な事と言うことだろう。今度は何をさせられるのか。

 

「これから学級委員を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいの来たー!!!」」」

 

 ホントだよ。皆どんな無理難題が来るかと思って緊張してた分、凄いホッとしてるよ。

 

 と思ったら皆いきなり手を挙げ始めた。

 元気だなー…………。えっ?私はいいのかって?大丈夫だよ。私は指導者になりたい訳じゃないから。モモのサイドキックになるのが私の天職だから。

 

 まあ、私の事は置いておいて。皆がワイワイ手を挙げてたら決まるものも決まらないだろう。という訳で

 

「ハイハーイ。なら私は投票がいいと思いまーす」

 

「まだクラスメンバーのこと詳しく知らないのに投票なんて無理じゃないかしら?」

 

「なら自分のに投票を入れればいいよ。その中で票を勝ち取れる人が委員長に相応しいということで」

 

「なるほど」

 

 近くの席にいた蛙っぽいけど愛嬌のある女の子の反論に私は妥協案を発案。それを聞いたクラスメイト達は納得したように黙った。どうやら私の意見に賛成らしい。

 

「なるほど実に良い案だ。どうですか先生!!

 

「早く決めりゃ何でも良いよ」

 

 メガネ君が先生から許可を取れたので、私の案は採用なのだろう。

 

 フッフッフッ………皆騙されてやがる。全員が自分に票を入れれば私の一票が決めてになるのだ。つまり!モモが委員長になることが今確定したのだ!

 

 モモには良い上司になってもらいたいからね~。私頑張っちゃうよ~。

 

 __________

 

 投票結果。緑谷君に三票入ってしまった。

 

 なんでや!なんで彼に入れるんや!しかもなんで私に一票入ってるんや!

 はぁ~……まあ、モモは副委員長になれたわけだしまだ良かったのかな。にしても誰が私に入れたんだ?モモは二票だから違うにしても………謎だ。

 

 

「うーん………悔しい」

 

「ちぇー。絶対モモが委員長だと思ったのにー」

 

「と言うかウチは他の人が自分に入れなかったのが驚きだなー」

 

 時は変わって私は今、モモと響香を誘ってランチタイムである。モモと私はお弁当なのだが、響香は学食という事で食堂に私達はいた。

 

 ちなみに私は慣れているので気にしてないけど、八百万さん家のお弁当は豪華だ。響香がそのお弁当を見た時、絶句してしまうほどなのだから。

 

「あのさー………もしかして百の家ってお金持ち?」

 

「そうだよ」

 

「………そんなことないですわ。普通です。大きさなら椿の家と変わりませんよ」

 

 アレが普通か。フッ………世の中って不平等だよな。行く度に美味しいもの食べさせてもらってる私が言えたことじゃないけど。

 

 

 その後はなんか警報が鳴って一悶着あったけど、まあどうでも良いことだろう。何故か他の委員決めの時に、緑谷君が飯田君に委員長を譲っていたのが気になったけど。

 

「………私の立場は?」

 

「ああ、拗ねないでモモ!私は今でも委員長がモモに相応しいって思ってるから!」

 

 そのお陰で拗ねてる可愛いモモを宥めれたので万事OKだ。ちなみに私の宥め方は抱き付いて頭を撫でるの一択。柔らかいぜ。

 

 ____________________

 

 

「んじゃあモモ。また明日ね」

 

「ええ。また明日」

 

 放課後。昔から少しずつモモが続けている、心月流の指南を私はモモにしていた。場所は私の家の道場で行っている。

 今日も二時間ほど稽古を行い、モモは執事さんが送迎車する車で帰っていった。

 

 モモがいると私だけしかいない家の敷地も明るくなるのだけど………彼女が帰れば寂しい空間になってしまう。

 昔は無駄に広大な敷地の中も、静まり返る家の中も、全てが怖くてよく泣いたのは懐かしい思い出だ。

 

 

 私の家はとても大きい。邦枝家は戦国時代から柳生家と並ぶ将軍家御指南役を勤めた大名の家系だ。その邦枝家は柳生家が滅びた今でも残っている。

 それも一重に、邦枝家が江戸時代の頃からオランダとの外交を担っていた大名で、明治にはイギリスとの外交を担い、廃刀令から除外されたのが理由だ。

 

 だから私達の家系は外国の血が多く混ざっている。

 そして邦枝心月流抜刀術は唯一江戸時代から滅ぶことなく受け継がれ、海外にまでその名を広めた由緒正しい名門の流派でもあるのだ。

 ヒーロー社会となった今でも。いや、むしろヒーロー社会だからこそ、心月流の門を訪れる人は後を絶たない。

 

 まあその辺は、分家の叔父に道場の看板は任せているから私には関係ない。あの人はその事でキィキィ五月蝿く言って来るけど。

 

 

 私は家の中に入ってすぐ居間に向かう。帰ってきたら必ず行く場所だ。

 居間に入り、私は()()()()()()()()()()()()の前に座る。

 

「お父さん、お母さん。今日も私は元気一杯に学園生活を送ったわ……。今日のお昼はモモと、昨日話した新しい友達の響香とご飯を一緒に食べたの。……それと、モモがクラスの副委員長になったわ。モモは委員長になれなくて、とても悔しそうにしていたけどね」

 

 これは毎日朝と夕方に行う両親への報告だ。これは自己満足かも知れないけれど、もしかしたら天国で心配してるかもしれない両親を安心させるために行う会話なのだ。

 

「それじゃあ私は夕飯の準備をしてくるわね。お休みなさいお父さん、お母さん」

 

 

 

 ____________________

 

 

 私がモモと知り合ったのは、まだお父さんもお母さんもお爺ちゃんも生きている頃だった。

 

 裕福な彼女の家と、名門である邦枝家はパーティーに出ることが多い。出会いの時も何処かのパーティー会場の挨拶で彼女と会ったのだ。

 

 同い年であった私達はすぐに仲良くなった。幼馴染というやつだ。

 それからはずっと二人一緒だった。幸いだったのが私には才能があったことだろう。

 彼女の才能のせいで、付いていけるのが私一人だけだったから。

 

 モモはその才能のせいでよく孤立することが多かった。頭は良いのに要領が悪く中身が子供だった彼女は、周りの子達から遠巻きにされていた。

 その度に私は彼女の相手をしたり、集団の中に引っ張っていったりしたので、それは大層なつかれた。

 

 他の人より早熟だった私は、彼女と他の人の仲を取り持った。あまりにもしつこく私だけになついた時があって、嫌いになりそうな時もあった。それでも私は世話の焼ける妹と思って接し続けた。

 

その時は楽しく幸せな時間だったと今でも思う。

 

 

 その生活が変わったのが私が八歳の時だ。

 

 両親が死んだ。

 死因は飛行機テロに巻き込まれたのが原因だ。その時、二人は仕事で飛行機に乗っていたそうなのだ。

 

 孫にどんな時でも厳しく稽古をつけてくる厳格なお爺ちゃんが、その時初めて泣いていたのを見た。

その泣いている顔で、私に謝りながら両親の死を告げてくるのだ。

 

 お父さん達は死んでないと、否定することも拒絶することもできなかった。

ましてや受け入れることも、私にはできなかった。

 

 その頃からだと思う。私が心月流に打ち込むことで、両親の事を忘れようと躍起になったのは。

 お爺ちゃんに今まで以上に厳しくしてもらうことで、私は稽古に没頭することができた。

 この時の影響で、私は戦闘の度に口調が無意識的に変わってしまうのが少し気になるが。

 

 

 個性のお陰もあってか、私は十歳の時にお爺ちゃんから免許皆伝を認められた。

 その後は免許皆伝者のみが教わることのできる抜刀術をお爺ちゃんに教えて貰っていたけど、数ヵ月後にお爺ちゃんは病で倒れてしまった。

 

 それから毎日家で一人だった。親権は入院したお爺ちゃんが持っていたから、叔父は私の面倒など見てくれない。

 

 

 広い家の中、私は独りぼっちになった。一時期は女中さんが居てくれたが、誰もいなくなった家で給料など払えるわけがない。

 稽古に明け暮れていた私は仲のいい女中さんなど居らず、私には何も告げずに誰も家にいなくなった。

 

 

 私は何もできなかった。

 

 

 お爺ちゃんに稽古で森に放り出された経験により、私は何とか飢え死にすることはなかった。

 でも、それだけだ。

 時が過ぎる度に私の中のナニカが磨り減っていくのだ。

 身体が疲れてなくても、精神が疲れていく。家にいるだけで胸が苦しい。

 

 独りだけの夜は、10歳の女の子の私にとって苦痛でしかなかった。暗い森で寝たこともあったが、それでも稽古だと、いつか終わると思って我慢することができた。

 

 いつ終わりが来るかもわからない毎日の夜を、私は涙を流しながら布団の中に潜り、朝が来るのを震えて耐えた。

 

 

 今まで、私はどんな厳しい稽古だって乗り越えてきた。

 

 でも………私以外誰もいない独りだけの家は駄目だった。

 誰かがいた家。暖かい人達がいた家。厳しくも人間味のある人がいた家。

 それが全て無くなり、空虚な家になった。生活感が残っているのに何一つ物音のしない家になった。

 暗く、怖く、そして………どうしようもなく両親が死んだ現実を私に突き付けるのだ。

 

 両親を求めて家中を必死に探した。何度も、何度も。数え切れないぐらい何度も、部屋を見回って家族を探し続けた。

 誰もいないと頭では理解しているはずなのに、心が理解することを拒んだ。

 

 一度探し終わると心が磨り減る。寂しくなる。苦しくなる。

 だから私は両親を求めてまた探し始める。

 

 

 大好きだった両親のいた家は何処にも無くなった。そこには空虚になった家と、歩むことを止めた私だけが残った。

 

 




BB欲しいのに5章までしか終わってないよ………


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好意の証

課題の期日がパない。


「そういえばさ………百と椿は仲良いけど、いつから知り合ったの?」

 

それは授業の休み時間の時だった。ドア側の壁の端っこの席にいるモモの周りに集まって喋っていた時、響香がそんな事を聞いてきた。

 

「ん~……あれ?何処だっけ?場所が今一覚えてないや」

 

「酷くないですか!?」

 

「いや………だってだよ?私はただ両親に付いて行っただけだからね?いちいち場所なんて覚えてないよ」

 

「あれ?二人は学校で友達になった訳じゃないの?」

 

「違うよ?まあ、確かに小・中って同じ学校に通っていたけどね~。いわゆる幼馴染というやつですよ。幼馴染ならイケメンが良かったけど」

 

まあ嘘だけど。あんな鈍感系主人公みたいな奴の幼馴染ポジションなんかに、誰が進んでなるか。

なんなんだあれは。ラッキースケベとか絶対されたくないわ。マジで遠慮だわ。むしろ私がラッキースケベ起こしたいわ羨ましい。

 

そんな事を思っていると、視界の端でモモが机に突っ伏してしまった。

 

「さっきから椿が冷たい………!」

 

「ごめんごめん嘘だよモモ~。泣かないで。ほら、いい子いい子~」

 

拗ねてしまったモモにすぐ抱き付いて彼女の頭を撫でる。こうすると彼女は骨抜きになって大体の事を許してくれるのだ。

 

「はふぅ……」

 

「………あんたらの関係がよくわかんないよ」

 

「幼い頃からのスキンシップだよ。喧嘩すると相手に抱き付いて仲を再認識するんだー」

 

「へぇー………幼馴染ならではの仲直り方法か。いいねそういうの」

 

「私は公共の場では止めて欲しいと言っているんですが………」

 

モモが恥ずかしそうにそんな事を宣いやがった。

君は普段の個性発動の時とかコスチュームとか、もっと恥ずかしがらないといけない時があるでしょ!何なのその感性!?

 

「………モモがもっと周りの目を気にしたら止めてあげる」

 

「?私は常に周りを意識して向上心を養っていますわよ?」

 

「いや、そう言うことじゃなくてさー………」

 

はぁー………。あまりの勘違いな台詞に私は溜め息を漏らしてしまう。

 

大体さ。この抱き付いて相手に好意を伝える方法を最初に実行したのはモモでしょうに。

何をそんな恥ずかしがる必要があるのか………服装の件といい、この子の感性がマジでわからない。

 

まあ、そんな恥ずかしがるモモも可愛いけどねー。

 

 

今となっては恥ずかしがるモモになってしまったけど、子供の頃はよく一緒に何度も抱き付いたものだ。

あの時が懐かしい。

なにせこの好意のお陰で、私は今の私としてあり続けることができたのだから。

 

 

____________________

 

 

お爺ちゃんが入院して二週間後の頃だ。再び私がモモに会ったのは。

 

お爺ちゃんが仲の良かった八百万家に連絡を入れ、私の面倒を見てくれるよう頼んだのだ。

私が引き取られてからと言うもの、モモの両親は私を家族の様に接しようとしてくれた。

 

でも………私はそれに応えることができなかった。

 

だって………あの人たちを受け入れたら、私の中で両親が死んだと認める事だったから。

 

私は二年間地獄のような稽古に打ち込むことで、両親は死んでいないと幼いながらの自己防衛として自分を誤魔化していた。

誰も家からいなくなった時、私は両親を求め続けることで、少しずつ自分を壊しながら何とか崩壊することに耐えていた。

 

そんな危うい均衡を続けた後だ。

これで二人と二度と会うことが出来ないなんて理解すれば、今度こそ私は壊れてしまう。

 

だから私はいつも逃げた。自分を守るために。

そして逃げる相手はモモも例外ではなかった………はずだった。

 

あの人たちは経過を見ようと私の好きなようにさせてくれてたけど、モモは違ったのだ。

あの子はずっと私を待っていたのだ。私に会えるのを。だからこそこのタイミングで私を逃したく無かったのだろう。

 

 

モモは逃げる私を追い続けた。そしてとうとう私は彼女に捕まってしまった。

 

『椿ちゃん!お願いだから逃げないで!』

 

『離してよ………私は一人が良いの』

 

一人の方が良いなどと、そんなことはある筈がなかった。毎日続く孤独の生活に私はボロボロになるほどだ。

一人は嫌いだった。お父さんに、お母さんに、もう一度会いたかった。

 

でも………私はモモに会いたくなかったのは本当だった。私の苦しみを理解しないでくっついて来るモモが酷く煩わしかったから。

 

どうせ会うんだったら両親が良いいのだ。暖かく優しいあの人達に会いたいのだ。

 

『ほっといてよ………私はさ、モモのことが嫌いなの。ウザいの。だからーーーーーー』

 

 

それでも彼女は私を放って置かなかった。それどころか私に思いっきり抱き付いて、押し倒してきたのだ。

 

驚く私に彼女はこう言った。

 

『そんなの関係ないわ!わたくしは……椿ちゃんのことが好きなの!大好きなの!!椿ちゃんと一緒にいたいッ……ずっと、ずっと待ってたんだもん……」

 

ギューッ!と私を抱き締めるモモの体温がはっきりと伝わってくる。

私は久しぶりに感じる誰かの体温に、感じ取れる相手の気持ちに、驚いて固まってしまった。

 

彼女の暖かさがツラかった。理解できてしまう彼女の純粋な好意が憎かった。抱き締められる心地好さがツラくて憎くて………どうしようもなく、安心してしまった。

 

簡単にこの拘束を剥がせるのに。簡単に彼女を振り払うことができるのに。

 

私は それが できない。

 

 

『ぁ………』

 

寂しかった。悲しかった。愛情をもう一度感じたかった。

彼女に抱き締められて感情が溢れ出てくる。涙が止められないのだ。

 

『ぅぅッ………』

 

『だからキライだなんて言わないで………?椿ちゃんがわたくしの事が好きじゃないって言うんだったら………わたくしは椿ちゃんが好きになってくれるまで、ずっとくっついてますわ』

 

あれだけ私の後をトコトコ付いて来るだけだった彼女が、意外と我が儘だと気付かされたのもあの時が初めてだ。

 

『勝手なことッ……言わないで、よ……!私は………貴女なんか………』

 

『ならわたくしはずっと椿ちゃんから離れません。ほら。早く好きになって?じゃないと離れてあげない』

 

『うる、さい……ぅぐっ………ふっぅぅ………なんで、こんなッ………』

 

涙を止めようと頑張っているのに、自分の意思に反して勝手に流れてしまう。

 

 

私の意見なんてまったく聞きもしないのに。ただ我が儘を言っているだけなのに。何故こんなにも満たされた気持ちになるのだろうか。

 

 

ずっとずっと両親を待っていた筈だ。

苦しい思いをした。悲しい気持ちを持ち続けた。それでも私は両親を待って待って待ち続けた。

 

私のことを一番知っているお爺ちゃんでもない。

仲の良かった友達や、同じ心月流の稽古に通って来ていた子達でもない。

同情の目を私に向けていた女中達さんでもない。

家族として扱おうとしてくれる大人達でもない。

 

ましてや何も私のことを理解していない、ただ後ろを付いて来ただけの女の子に、私は救われようとしている。

 

それが酷く嫌だった。頭では拒絶しようとした。

なのに………心が、私の言うことを聞いてくれない。

 

『ぐっぅぅぁ………んぅぅぅ………!!』

 

『聞き取れないわ。ほら、ちゃんと言って?』

 

 

何故あの時、私は彼女受け入れたのか明確な答えは無かった。

 

でも、これだけは確かだ。

きっと………私はただ単純に彼女という存在に惹かれてしまったのだろう。

だって…………こんなにも、私は彼女の側にずっといたいと、思ってしまったのだから。

 

 

____________________

 

 

ギュ~~

 

「まだ言ってくれないの?」

 

「………待って。もう少しだから」

 

「えっ………なにが?」

 



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USJ!

通信制限かかったー。


「今日のヒーロー基礎学だが、オールマイトと俺ともう一人の三人体制で見ることになった」

 

相澤先生が教壇に立ち、これからある授業のヒーロー基礎学に変更を伝えてきた。今度は何をするのだろうか。

 

「はーい!何するんですかー」

 

「災害、水難、なんでもござれの人命救助訓練だ」

 

救助と聞いてクラスの中がざわざわと喋り出す。

救助はヒーローにとっての本分。具体的にどんな訓練をするのか気になるところだろう。

 

「訓練時にコスチュームを着るのは各々に任せる。中には活動を限定する者もいると思うからな。場所は少し離れているのでバスで移動だ。では準備開始」

 

相澤先生の言葉で皆が早々に動き出す。

私はコスチュームどうしようか。いくら足の稼働率を重視した着物だからと言って、水の中はとても動きにくいだろう。袖はたすき掛けで何とかするにしても……。

まあプロになったら常に着なければいけないのだから着てくしかないか。

 

私はコスチュームを持ってモモと一緒に更衣室に向かった。

 

__________

 

という訳で、バスに乗って移動した訓練場所に着く。

 

訓練場所は巨大ドームだった。

入り口部分から見えるだけでも、激流暴れる水難ゾーン、炎が燃え上がる火災ゾーン、ビルが地面に埋まっている倒壊ゾーンなど、救助訓練のために多種多様な場所がドームの中に用意されていた。

 

「すげぇ、USJかよ」

 

いや、本当にUSJみたいだよ。

そんな感想を各々が抱いてるいると、私達の前に宇宙服みたいなコスチュームを来た人が出てきた。

ああ……あれはたしか………

 

「凄い!スペースヒーロー『13号』だ!」

 

そうそれ。ナイスだ緑谷君。

13号はあらゆる災害で救助を主体としたヒーローの一人。噂では超紳士的で女性に人気が高いとか。

 

「ようこそ皆さん。ありとあらゆる災害を想定し、私が造った演習場。その名もウソの災害や事故ルーム(USJ)へ」

 

((((まんまUSJだった!))))

 

なるほど。なかなかユーモアのある紳士だね。

彼は一つ親指を立てると、私達にこれからの注意事項について話始めた。

 

「えー、始める前にお小言を1つ2つ……3つ…………4つ……」

 

その数に合わせて、立てた指がちょっとずつ指を増えていく。どーでも良いけどあのコスチューム可愛いな。

 

「皆さんは知っていると思いますが、私の個性は『ブラックホール』。どんな物も吸い込み塵と化します」

 

「知ってますよ!それであらゆる災害の救助を行っているんですよね!」

 

「ええ………ですがこの力は簡単に人を殺せる力でもあります。皆さんの中でもそういった個性を持つ人がいると思います。だからこそ、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を持っていることを忘れないでください」

 

13号は私達に教えを説くように話す。

 

「体力テストでは自信の力の可能性を知り、対人戦闘ではそれを人に向ける危うさを知ったでしょう。

ここからは心機一転、人命のために個性をどう使うか学んでいきましょう」

 

「君達の力は人を傷付ける為にあるのではない。助ける為にあるのだと心得て今日は帰ってください」

 

なんというか13号………めっちゃかっこええやん。

他のクラスメイトからも称賛の声が上がる。とても素晴らしい演説だったよ13号。

 

皆が13号に意識が向いていた。だからこそ、一番早くその事態に気づいたのは相澤先生だった。

 

「全員ひとかたまりになって動くな!」

 

「えっ」

 

その声を漏らしたのは誰だったか。

私は相澤先生の言葉にすぐ臨戦態勢を取って、先生が視線を向ける先へと意識を延ばした。

 

………なんだあの黒いモヤは?

 

更にその黒いモヤがどんどん大きく広がり、モヤから武装をした集団が大量に出てきた。

 

「13号は避難を開始しろ。学校に通話を試せ。多分電波妨害を受けている可能性もある。上鳴、お前も個性を使って通話を試せ」

 

そう言って矢継ぎ早に指示を飛ばした先生は、あの大量のヴィランの群れへと突っ込んでいった。

 

緊急事態だ。

それを意識した私はモモの横に立ち辺りを警戒する。あの黒いモヤが行った事を見る限り、多分ワープ関係の個性なのだろう。いつ何処から襲われるかわからない。

 

相澤先生、ヒーロー名『イレイザーヘッド』は、視線を向けた相手の個性を消す個性だ。

その個性と特注の細長い布を使ってヴィランを圧倒している。

が、それは今だけだろう。

 

先生の個性は一対一向けの個性。けして多対一の戦闘を得意としてはいない。

だから私達は先生が注意を引いている間に避難しなくてはいけないのだが………。

 

「まあさせてくれないわよね」

 

「逃がしませんよ」

 

私達が出口に向かおうと振り返れば、目の前に先程のモヤが現れた。やはりワープ系の個性か………。

 

そのモヤはゆらゆらと揺れながら余裕ぶった態度で私達に語りかけてきた。しかも警戒している相手はプロである13号独りだけ。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。僭越ながら、このたびヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

それを見逃すほど私は甘くない。私は縮地を使って跳んだ。

あのモヤが13号に視線を向けている今、私は容易に相手の懐に入り込み、抜刀の構えを取る。

 

「フッ!」

 

気合いの入った息が漏れながら、抜刀して相手の胴に神速の突きを打ち込む。

 

けど………バカな。なんなんのコイツは。手応えを感じなかった。

あのタイミングで私の突きを避けた?……あり得ない。

 

私の第六感がワープ系の個性の近くにいてはヤバイと感じ、すぐさま飛び退いてモモの横に着地する。

 

「椿!?」

 

「大丈夫よモモ。ただ仕留め損なったけど」

 

モヤのヴィランに目を向ければ、爆豪君と切島君が個性を使って攻撃していた。

だが、私と同じように結果は効いていない。………あの黒いモヤが何か関係しているのだろうか?

 

「危ない危ない。そう………生徒と言えど優秀な金の卵」

 

「駄目だ、下がりなさい二人とも!」

 

13号が二人に声をかけるが遅かった。黒いモヤは二人を飲み込む。

 

「散らして」

 

モヤは更に広がり私達を囲う。逃げ場が無くなってしまった。

 

「嬲り」

 

私とモモの間を黒いモヤが分断した。

 

「ッ!モモ!!」

 

「殺す」

 

モヤに飲み込まれるモモに手を伸ばす。が、どんどん離されて私の視界が真っ黒に染まった。

 

__________

 

 

すぐに視界が暗い空間から真っ赤な場所へと変わった。

暑い。ここは………火災訓練所か。

周りをビルで囲まれ、そのビルの何棟から火の手が上がっていた。

そして………私を取り囲むヴィランの群れが眼前に広がっていた。

 

「へへへ。来たぜ来たぜぇ。ガキ共が」

 

「しかもなんだコイツ。コスチュームが着物じゃねーか」

 

武装をしたヴィラン達が下卑た視線を私に向けてくる。

まったく………舐められたものだ。

 

「なるほど。まだ未熟な私達を分散させて集団で各個撃破するのが目的なの………まあ確かに、良い手ではあるわ」

 

息を整えながら腰を落とし、抜刀の構えを取る。

 

「けどね、貴方達では力不足よ」

 

私は地面を揺らす踏み込みと同時に木刀を抜刀した。

 

「破山菊一文字 追閃」

 

一閃が衝撃波として空間を伝わり、ヴィラン達へと突っ込む。爆音と共に、私の一直線上にいたヴィラン達は吹き飛んだ。

 

「「「ギャアアアアアア!!!!」」」

 

ヴィラン達の絶叫と吹っ飛ぶ光景に他のヴィラン達は唖然とする。その隙を私が逃すはずがない。

 

横にいた一人の敵に縮地で迫り、速度を乗せた突きを放つ。そのまま左右にいた二人の敵を木刀で吹き飛ばした。

 

「グブぇッ!!」

 

「ガッ!!」

 

それにしても弱い。

呆然とした状態から意識を戻して、飛び掛かって来た一人の異形型の男を吹っ飛ばしながら思った。

 

こんな素人の寄せ集めでよく私達を殺せると思ったものだ。一人一人が入試のロボットと変わらない強さ。正直言って雑魚だ。

 

 

前後から同時に襲い掛かって来る二人を切り飛ばす。

それを見て接近していた敵が止まった隙を逃さず、縮地で距離を詰め意識を刈り獲る。

 

 

本当に弱い。どうすればこのメンバーでオールマイトを殺せると思えたのか。最初から動きが素人だとわかったから、どんな恐ろしい個性が来るかと思えば………結果は刃物や増強の個性で襲いかかってくる戦闘の素人。

 

 

何処から持ってきたのか異形型の男が大きな瓦礫を持ち上げて、私に向かって投げつけてきた。ちょうど私に襲ってきた男を木刀で弾き飛ばし、向かってくる瓦礫を真っ二つに切り裂いた。

 

「はぁ!?あれ木刀だろ!?なんで切れーーーーーー」

 

「いちいち隙を晒すなっての」

 

「ぷギャっ!!」

 

 

投げつけた異形型の男に瞬時に近づき、突き飛ばす。

 

その時だ。私は地中から違和感を感じ取った。

感知の精度を上げるために周囲に意識を広げ集中する。

 

すると私の真下に敵を察知。その場から三歩横に移動し、地中から襲ってくる敵をやり過ごす。

そのまま飛び出てきた相手の顔面に一撃を入れた。

 

吹き飛んで遠くに離れて行く男を気配で感じ取りながら、私は最後に残った敵に視線を向ける。

視線を向けられた男は後退り、何処かへと声を張り上げて喚き散らす。

 

「く、くそっ!なんでだよ!!話が違うぞ!?俺達はただガキをぶち殺せば良いって聞いてただけなのに!」

 

「ああ………そういうこと」

 

「ぶげッ!!」

 

戦闘終了。

ハイハイ………今しがた叫んだ最後の男の話を聞いてわかったよ。

 

やはりこの人達は今回ただ集められただけのチンピラのようだ。

とすると、だ。主力は相澤先生の所だろうか………。

 

私はこの後どうすれば良いだろうか。モモを探しに行ったとしても、素人連中の相手なら多分大丈夫なはず。むしろ早くに倒したモモとすれ違いになる可能性すらある。

確かに心配はある。だけどそれと同時に信頼もあった。

 

 

最初に私が見た感じ、主力っぽいヤバイやつは三人だ。

多分その三人が、彼らが言うオールマイトを殺す作戦の鍵なんだろう。その主力と交戦してる相澤先生の手助けをした方がいいと思うけど………どっちにしても、まずは誰かと合流するのが先か。

 

「さて、私はこの後皆と合流するために動くけど………貴方はどうする?」

 

私は一緒に飛ばされてきた少年に話しかけた。

胴着を着て、お尻から尻尾が生えている、何処にでもいそうな容姿をしている少年だ。

私と彼がここに送られると彼も戦闘に参加していたのだ。地味に。

 

「…………邦枝さんは凄いな。この人数を短時間で全員倒してしまうなんて………」

 

「何言ってるのさー。君も戦闘に参加して頑張ってたじゃん、ヤメてよねー。マジ照れる」

 

「あれ?なんか雰囲気が………ま、まあそうだけどさ。俺なんて数人しか倒せなかったし、一人だけだったら凄く時間が掛かったと思うよ」

 

「そうなの?まあその話は一端置いておこうか。………とりあえず、他の人達も何処かに飛ばされて戦闘していると思うんだ。だから私達はそれの手助けに行こうと思うんだけど………えっと」

 

ヤバイな。この人の名前知らないや。

私が彼の名前を知らない事が伝わったのだろう。彼は嫌な顔をせず私に自己紹介してくれた。

 

「ああ。自己紹介がまだだったね。俺は尾白(おじろ) 猿夫(ましらお)。個性は尻尾だ」

 

「よろしくね尾白君。それでさ………これからどうする?私的には別行動に別れて他の人達の助けをしに行きたいんだけど……」

 

「そう……だね。俺もそっちの方が良いと思う。邦枝さんに付いて行っても俺はやること無さそうだし………なら、他の人の所に行って役に立つさ」

 

「いいの?この案だと尾白君が危険な目に会うかもしれないんだよ?」

 

「俺もプロ志望なんだ。リスクを気にしてヒーローなんてなれないよ」

 

か、格好いい。13号といい尾白君と言い、ヒーローの男の子は皆クサイ台詞を平然と言えるようになるのか。

 

私はここで一つ男の子の生態系を知った。

 

 




あ"あ"あ"あ"あ"あ"課題とイベントがあああああ!!!


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移動してばっかのこの頃

レッドアロー、飯能止まりとか本当ツライ。
規模から言って自殺だと思うけど………飛び込み自殺だけは止めた方が良いと思う。

電車は止まるし、そのせいで他の人は迷惑かかるし、運転士さんはトラウマ抱えるし、自殺した家族の人は損害賠償何千万って払わないといけない時もあるし。
社会がツラいのはわかるけど、そのせいで誰かも自殺する原因になるかもしれないから本当に止めた方が良い。



 私は尾白君と別れ、一人山岳地帯へと向かった。

 何となくだが、こっちにモモがいる気がするのだ。こういった私の勘は馬鹿に出来ない。何故なら感知の半分が勘だから。これに私は幾度となく助けられたことか………。

 

 

 そんな事を考えていたら山岳地帯の方から、放電のような光が見えた。

 ………あれは誰の個性だろう。最悪敵だとしてもモモなら絶縁体を作り出せるから………ハッ!!

 

 私はこの時、第六感とも言うべき閃きが頭の中を駆け抜けた。

 もしモモがあの放電を防ぐために人を覆える絶縁体の何かを創り出していたら………モモの衣服が弾け飛ぶじゃないですか!!こうしてはいられん!!

 

 私はモモがいるかどうかも定かではない場所へと、今出せる限界の速度で走り抜けた。

 そんで着いた。

 

 その場に着いてみれば、倒れ伏す人々と、俯いてる金髪の少年と、シートのような物が何かに覆い被さって小さな山が存在していた。

 

 そのシートの山の端が捲れたのを見た瞬間、私はその隙間へと突入した。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお、モモォォォオオオオオオ!!!!!」

 

「きゃっ!な、何ですか!?」

 

 可愛らしい声を聞き取りながら、私は細く滑らかな曲線を描く身体、そして顔に吸い付く肌触りの良い二つの柔らかいメロンに抱きついた。

 

「モモぉぉぉぉぉ!!!なんて格好をしているの、早く着替えなさぁぁぁぁぁいい!!!」

 

「そ、その前に椿がはなッ………ゃあっ!」

 

「くっ!なんて反発力と肌触りの良さ!!そしてこの細く引き締まった抱き付きやすいお腹!!こんなクッションが欲しい!!」

 

「椿ッ………ほ、ホントにやめぇッ!」

 

「あんたは何やってんのさ………」

 

 私がひたすらにもふもふスリスリさわさわしていると、隣から凄く呆れたような声が聞こえた。

 シートが覆い被さっているせいで中が暗く見えないが、この声と気配は響香だとわかった。

 

「あっ、響香。貴女も一緒にいたんだね。無事でいて何よりだよ」

 

「それより早く百から離れれば?なんかシートがプルプルしてるよ?」

 

 おっと。

 今にも怒り出しそうなモモに気付いた私は、シートから出て退散する。

 

 

 ふむ………しかし派手にやったものだ。

 私は周りに倒れている敵らしき者達を見てそう思った。

 皆焦げている所を見るに、やはりかの光は放電だったのだろうと当たりを付けて、その放電の犯人らしき金髪の少年に目を向ける。

 

 そこで私は思いっきり噴いた。

 

「ブハッ!」

 

「うぇ~~~いうぇい」

 

 間抜け面を晒しながらうぇいうぇいサムズアップを繰り返すこの少年。入試以来のその姿に思いっきり笑ってしまう。

 

 く、苦しい!お腹が…お腹がねじ切れる!

 倒れ伏すヴィラン達の中で、一人だけ立って変なことしているこの少年のシュールさと言ったら………というかコイツらこんなアホ面に負けたのか………!

 お、お腹が………お腹がッ!!

 

 

 そんな一人の少年と悶える私で場が更に混沌としていると、シートから着替えたモモと響香が出てきた。

 

「椿………貴女何やってるんですか……」

 

「あ、あれ………あれ、見て………ブフッ」

 

「ブハッ!なにそれ上鳴!笑っちゃうから止めて!!」

 

 どうやら、私がプルプルしながら頑張って指した方向に目を向けた響香は、私と同じお腹痛い村の住人となってしまったようだ。

 

 というか上鳴君と言うのか彼は。………ヤメテ、その顔と行為をヤメテよ!ツラい!息が出来ない!

 

 

 その時だった。

 お腹を抱えて私が蹲っていると、突如上鳴君の足下の地面から一人の男が飛び出してきたのだ。

 

「「!!?」」

 

「く、苦しい………」

 

 飛び出してきた男は、そのまま上鳴君の背後に回り彼の襟首を掴むと、その顔を手で覆った。

 

「テメーら。手ぇ上げろ。個性も禁止だ。じゃねーとこのコイツをぶっ殺す」

 

「上鳴さん………!!」

 

「しまった!完璧に油断した!」

 

「同じ電気系の個性だから殺したくはないが………仕方ないよな」

 

「うぇ、うぇ~~い………」

 

「ブハッ!!」

 

 どうやら男は、頭がイッてる上鳴君を人質に捕ったようだけど、私はそれどころじゃなかった。彼の姿を直視できないのだ。

 は、反則過ぎる………人質にされてるのに、未だサムズアップを止めないとは………も、もうダメッ!

 

「アハハハハハハ!!ヒィー、お腹痛いッ!!シュール過ぎだからその顔!」

 

「ちょっ、椿。あんた真面目にやりなよ」

 

「だ、だってぇ」

 

 私は声を大にして大笑いしてしまった。恥ずかしいが、声を抑えることが出来なかったのだ。

 何とかモモと響香の方を見れば、二人は手を上げて降参のポーズを取っていた。その顔は真剣だった。

 

「おい、そこの女!テメーもさっさと手ぇ上げて大人しくしろ!じゃねぇとこの人質ぶっ殺すぞ!」

 

「まっ………うくっ、そっちを見るとまた笑いが………い、息整えるから、少し待ってぇ………」

 

「早くしろよ!」

 

 男はそう言うと、モモと響香の方に視線を向けた。どうやら笑っている私は暫く動けないと思い、警戒を二人に絞っているようだ。

 

「ヒィヒィッ………スゥー……ハァー………」

 

 よし。大分息が整ってきた。呼吸方もバッチリOKだ。

 何時ものように深い呼吸をして身体を落ち着かせる。そして着物の袖から見えないように五本の針を手に取り、男に向かって投げつけた。

 

「ぐっ、ぃぃがぁぁぁ!!」

 

 見事私の針は男の方へと吸い込まれるように向かい、ナイフを持つ手の甲と、肘、脇を深く貫いた。

 

 その痛みでナイフを取り落とした男を見て、すぐさま男に迫り木刀でぶっ叩いた。

 

「ぶげらッ!!?」

 

 男は私の一撃を受けて吹き飛び、そのまま動かなくなった。

 フゥ………一時はどうなるかと思ったぜ。

 

「いくら相手に戦意が見えないからって視界から外しては駄目よ。演技かも知れないんだから」

 

「ナイス奇襲ですわ。さすが椿」

 

「あれは絶対演技じゃなかったと思うけど………」

 

 それはそれだ。気にしちゃいけない。

 

 とにかく最後の一人を倒した私たちは、未だうぇいうぇいやってる上鳴君の無事を確認して現状把握に努めた。

 

「さてと。こうして私たちは合流出来たわけだけど………どうする?」

 

「やはり他の方々の所へ向かった方が良いのでは?」

 

「待って。先生達の所に無事なことを伝えるのも大事だと思うよ」

 

「そうだねー………なら、二手に別れよう」

 

 まあ、こうするのが無難だろう。そちらの方が効率が良いし。

 問題はこの上鳴少年なのだが………

 

「でも上鳴はどうするのさ?コイツがいる方は凄く大変じゃない?」

 

「てか上鳴君はどういう状態なの?」

 

「電気の使いすぎでショート状態なのかな。私達もよくわかんないけど」

 

 頭がショート状態………えっ?脳が焼き切れてんの?

 私、回路の事なんて詳しく知らないけさ。よく生きてるねこの人。

 まあ、生きてるのだからたぶん大丈夫だろう。なら………

 

「とりあえず殴れば治るんじゃない?」

 

「「えっ?」」

 

 という訳で、私は硬直してしまった二人を他所に上鳴君に向き直る。

 そして、固く握り締めた拳を彼の顔面に叩き付けた。

 

「ぶぇい"!!!」

 

 クギョッと、首から鳴ってはいけない音を出した上鳴君は四、五メートルくらい吹っ飛び、顔面で地面を滑っていった。

 

 ………………

 

「………つ、椿?大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫だよ」

 

「………地面滑ってたけど」

 

「大丈夫だよ」

 

 そんな掛け合いをしながら私達は上鳴君に近付いてみる。

 ………うん。右頬が腫れてるね。真っ赤だ。虫歯かな?

 

 ツンツンとブーツの爪先で突っついてみる。

 ………反応がない。ただの屍のようだ。………いや、まて。確かに今動い

 

「動いてませんから」

 

「………止めてよ。私の心の中読むの。………ハッ!これが以心伝心という奴か!」

 

「というか完全にトドメさしーーーーーー」

 

「いてて………あ?皆俺の事見下ろしてどーした?てかいつのまに邦枝来たんだ?」

 

 上鳴君が起き上がった。生きていたらしい。

 

 フッ………やはり流石私だな。あー言う機械関係は叩けば治ると相場で決まっているのだ。

 私の家電製品はポンコツだから手の施しようがないくらい壊れてしまうが、上鳴君はなかなか高性能らしい。

 

「大丈夫かしら上鳴君。頭がショートしてたらしいけど」

 

「………なんか、すげー右頬と首が痛ぇんだけど」

 

「………そっか!大丈夫そうだね!」

 

「へっ?………あ、ああ………」

 

 良かった良かった。人質に捕られた上鳴君も無傷で救出できたし。

 女子二人から責められているような目で見られてるけど、気にしない。

 

 私は視線を無視して先程の話に会話を戻した。

 

「さて。これで上鳴君も起きたことだし、二手に別れよっか」

 

「………そうですわね。なら、どのように分けますか?」

 

「そうだね………私としては一人で先生の所に報告に行きたいかな」

 

 だってその方が早く着くし。モモの個性を使えばモモも着いてこれるけど、出すのに時間がかかるしね。

 そんな事を考えていると、上鳴君が待ったをかけてきた。

 

「ちょっと待ってくれ邦枝。話がよくわからないが………この状況で女を一人にはできねーよ。その役を俺にしてくれ」

 

「あんた私達より弱いじゃん。さっきまで足手まといになってたし」

 

「まてまて!………さっき見ただろ?俺一人の方が他を巻き込まないで済むんだよ」

 

 ふむ。上鳴君も男気溢れるヒーロー気質な少年のようだ。

 だけど悪いかな。正直いらないです。

 

「うーん………上鳴君には悪いけど、この役は速く動ける人の方がいいんだよ。伝達役だからね。それにあっちの状況がわからない以上、臨機応変に動ける私が適役なんだ」

 

「あー………そうなのか。すまんな、余計なこと言って」

 

 わかってくれたようだ。まあ彼の心意気はありがたく受け取っておこう。

 

「んじゃあ悪いけど、私はすぐ行ってくるね」

 

「ええ。頼みましたわ」

 

 そんなモモのありがたい言葉を受けて、私は地面を強く蹴って跳び出した。

 

 

 




頑張れレッド!

明日は間に合わんかも


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私が来た!

二戦目のアモン・ラーがツライ………つか無理ゲー

ついでにメルトリリス欲しさに三万円で課金して回したけど、相変わらず☆4鯖すらでないか………バイト代が………
正月の確定ガチャ以外で☆5出したこと無いけど何でだろ。マジ腹立つんですけど。1%とかあるけど嘘だよあれ。絶対1厘の間違いだよ。死ね。

一年半くらいやって最初に手に入ったエミヤがずっと主力で頑張ってるレベルだけど、六章入って手持ち息してないよ。フレンドしか火力出てないよ☆5欲しいよイベント間に合わないよぉぉぉぉぉぉ!!!!

と言うかカルナの宝具弱くない?




私は山岳地帯から出るためにある程度の速度で崖から降りていた。

ある程度の速度、と言っても常人では決して出せない速度で降っているのだけど。

モモを見つけて安心したからと言うのもあるが、先生の所には強敵がいるのだ。逃げられる、もしくは戦闘するために万全な状態で到着したい。

 

最悪先生が負けて出口が抑えられたら、と言った事態は避けたいのだ。先生が劣勢の場合は手助けをしないといけない。

その時のために私は体力を温存させた上で、今出せる速度を駆けていた。

 

山岳地帯を抜け、セントラル広場に向かって駆ける。

 

そして私が土砂ゾーンと水難ゾーンの横を走っている時だ。土砂ゾーンを覆う壁側から冷気を感知したのだ。

私はその異常に対して反応できるよう立ち止まり、壁の中に向けて感知の領域を広げる。

敵か、味方か。

発生源である一人の気配を感じ取り、私は警戒を少し下げた。

 

これは…………知っている気配ーーーーーー轟君だ。

 

冷気が肌で感じ取れるほどに強まっていき、壁が氷で覆われていく。

そして壁の上から轟君が顔を出して周りを見回し、そこで私に気付いたようだ。

 

「ん?邦枝じゃねーか」

 

「やあ轟君。相変わらず規格外の個性だね」

 

彼は壁から私のいる近くの地面まで氷の滑り台を造ると、その台を器用に滑って私の前に着地した。

氷の個性………シンプルだけど範囲攻撃、拘束力だけでなく、こう言った臨機応変な対応もできるのか…………使い勝手が良いと言うか、個性の扱い方が上手いのもあるのだろう。

 

彼は私の方へ振り向くと、何事も無かったかのように私に話しかけてきた。

 

「邦枝もヴィラン達を倒して先生達の所に集まろうとしてたのか?」

 

「まあそんなところかな。そう言う轟君も無事なようだね」

 

「ああ………少し尋問をしててな。大分遅くなっちまったが、代わりに情報も取れた」

 

しれっと何か爆弾落としたよこの人。

大分遅くなったって………私はかなり早めに倒したからいいけど、3人がかりでさっき鎮圧できたモモ達が聞いたらショックだろう。

 

そしてショックで意気消沈しているモモと、一応響香を慰めるのだ。完璧だ。

上鳴君?知らない。うぇいうぇいしてれば良いと思うよ。

 

「というか尋問って………なかなか物騒だね。良い情報でも手に入った?」

 

「ああ。オールマイトを殺すための実行犯がわかった」

 

「……………」

 

やっぱり彼等はオールマイトを本気で殺せると思っているのか。

雄英に侵入を気付かせない程緻密に計画を立ててきた相手だ。相当ヤバイ個性を持っているのかもしれない。

 

相澤先生達の所に行くのは下策か?

だけど出入口を塞がれたら救助すら呼べないし、私達が一人ずつなぶり殺される可能性の方が高い。なら勝機が薄くても先生のところへ………

 

 

その時だった。

セントラル広場方向から爆発音と衝撃波が、かなり遠くにいる私達にまで伝わってきた。

そちらを見れば、本当に爆発が起こったように土煙がモクモクと天井に向かって延びていた。

 

「ッ!……不味いかも轟君」

 

「あの爆発は先生達の個性じゃ出せない………つまり相手側の攻撃ってことか」

 

「そう言うこと。急ごう」

 

先生達が戦闘しているだろう場所へと向かうために私達は行動に移した。

私は縮地で。轟君は床に氷を貼りその上を滑って、先程の爆発地点へと急ぐ。

 

そして、遠目からだが煙が晴れて、その起こっている全容が見て取れた。

爆発地点。そこには、あのオールマイトが一人の敵へとジャーマンスープレックスの技を掛けていた所だった。

 

来ていたのオールマイト………と言うか、えっ?あの人プロレス技であの爆発起こしたの?オーバーキルにも程があるわ。

 

と、そこで私は気付いた。

技をかけられた敵の上半身が地面に突き刺さっていると思ったら、その上半身がオールマイトの背にある地面から飛び出ているのだ。

しかもオールマイトの身体をガッチリ掴んで捕まえている。

オールマイトも何とか抜け出そうとしているけど、どうやら相手にかなり力があるようで、暴れても抜け出せてない。

 

「超ピンチじゃん」

 

「少し離れろ邦枝」

 

そこでふと冷気を隣から感じ、轟君の指示を聞いて離れる。

轟君は氷を地面に伝わらせてオールマイトの方へとその冷気を迸らせていく。そのまま敵まで届くと、オールマイトに被害が受けない程度まで凍らせた。

 

その現象と同時に爆発音が辺りに響いた。

そちらにちらりと目を向ければ、爆豪君と緑谷君、さらにはあの黒いモヤのヴィランがいた。どうやら爆豪君が黒いモヤを捕まえたらしい。

 

ならば私も、と思い、もう一人の身体のいたる所に手をくっ付けているいる、このヴィラン達の主犯らしき人物に目を向けた。

その人物ーーーーーー手のヴィランは、彼の死角から襲い掛かってきた切島君の攻撃を避けている所だった。

 

私は縮地を使って体制が少し崩れている手のヴィランの真横に移動する。

私が技を決める前に気付かれたがもう遅い。

 

「ッ!!」

 

「壱式!」

 

神速の抜刀で抜いた木刀を手のヴィランに一閃する。

 

「がフッ!!」

 

「死柄木弔!」

 

私が放った心月流抜刀術 壱式 破岩菊一文字を受けた手のヴィラン(黒いモヤが叫んで聞こえた名前が死柄木弔)は、水難ゾーンまで吹き飛び着水した。

 

「だぁーー!良いとこねぇ!」

 

隣で切島君が悔しがっているが、私としてはナイスアシストだ。彼のお陰で上手く技を当てられた。

殺しては不味いと手加減したけど、それでもあの一撃を受けたのだ。死柄木弔と言う男はもう動けないだろう。

 

「すまない皆!」

 

どうやらオールマイトも無事ヴィランの拘束から脱出したらしい。先程まで拘束していたヴィランを警戒しながら私達に御礼を述べる。

 

オールマイトが警戒しているヴィランを見れば、そいつ凍っていながら地面から這い出てくる。と言うか黒いモヤから出てきた。

なるほど。あの黒いモヤを通って地面からとび出していたのか。

 

そのヴィランは肌色が真っ黒の巨体に………頭から脳が露出していた。異形型なのか………

 

そのヴィランは驚くべき行動に出た。凍っている半身が割れて崩れているのも気にせず、戦闘をまだ止めようとしないのだ。

 

「身体が割れているのに………動いてる……!?」

 

「下がれ!なんだ?ショック吸収の個性じゃないのか!?」

 

オールマイトが驚きながら警戒するのも無理はないだろう。そのヴィランは割れた半身がどんどん再生しているのだから。

 

異形型の個性。オールマイトを抑えるほどの『力』と『ショック吸収』と『再生』を併せ持つ身体を作る個性なのだろうか。それにしては何をベースにした個性なのか検討もつかない。

それに………再生してから微動だにしないのだ。

再生で動けない、と言うには些か違和感がある。

 

私が最大限の集中を持ってその男を警戒していると、そこで爆豪君に抑えられていた黒いモヤが声を上げたのだ。

 

「脳無!私を助けなさい!」

 

その一言で脳無と呼ばれた異形は動いた。

 

 

そこはある種の人間の到達点だ。

何しろ、私が十余年を個性でもって鍛え上げ、感知で底上げした『目』でようやく理解できるのだから。

 

『色彩を無くし、世界が止まって見える』とはいかないが、それに似た体感を私は少しの間感じ取れる。

だからこそ凝縮された時間の中を、脳無と呼ばれた男とオールマイトの動きを正確に見て取れた。

 

脳無が圧倒的スピードで爆豪君に迫り、オールマイトが更にその脳無より速く爆豪君を黒いモヤの上から退かしたのだ。

だが、退かして体制の崩れたオールマイトに脳無が近付き、オールマイトが殴り飛ばされてしまった。

 

オールマイトは何とかガードできたけど、十数メートルは吹き飛んでしまう。

 

 

そこで限りなく停止に近い世界に色が戻る。

遅れて爆音と衝撃波による爆風が私達に届いた。

 

「かっちゃん!!!………って避けたの!?」

 

「ちげーよ。黙れカス………」

 

緑谷君が的外れな事を言って爆豪君に罵られてしまっているが、その勘違いは仕方ない事だろう。

なにせ、あの速度は人間を辞めてるとしか思えないほどに、普通の人では視認できない速度なのだから。

端から見たら、爆豪君が瞬間移動したように見えるだろう。

他の二人も、あまりの出来事に絶句して固まっていた。

 

 

そして同時にだ。私は二人の戦いに手を出すことを諦めたのは。

 

目では追える。だけど………身体があの二人に追い付けない。迎撃なら間に合うだろうけど、あの戦いに割り込むのは不可能に近い。

だからこそ二人の一挙一動に警戒している時。

 

 

その時だった。

私達が二人に注意が向いてしまっていると、脱出に成功した黒いモヤがモヤーーーーーーつまりワープゲートを広げたのだ。

 

私がゲートの出現を防げなかったことに心の中で舌打ちしていると、そこから出てきたのは、先程私が吹き飛ばした死柄木弔だった。

何故戦闘不能の彼をここに?と思ったが、私にとって驚くべき事が起こった。

 

彼がその足で、地面に立ったのだ。

 

 




FGOのせいで書く方に時間が取れないですがご了承下さい。
すべてはガチャと、キャラを選ぶ難易度が悪いのです。
単体宝具なんて持ってねーよバーカ!!


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力の差は歴然です。

この鬼!悪魔!槍トリア!大好き!天使!でももうちょっと難易度抑えて!!

それと『この頃移動してばっか』の人質を捕られたシーンを一部変えました。今後の内容のためモモの活躍を無くしましたがご了承下さい。


 黒いモヤから出てきた男は私達の目の前で立つと、私を睨んできた。

 

「嗚呼痛い痛い………死にそうなほど痛い。あばら骨が何本か折れちゃったじゃないか。殺す。絶対に殺す」

 

「なんで……手加減、しすぎた……?」

 

 しくじった。その一言だろう。

 まさかそこまで重症を負って立ち上がってくるとは。私の慢心が生んだ結果だ。完全に、私のミス。

 ただでさえ脳無という強敵がいるのに、更に敵が増えてしまった。

 

「まったく………なんて酷い世の中なんだ。同じ暴力なのに俺達はヴィランと罵られ、そこの女はヒーローとしてモテ囃される」

 

 だが、彼は戦闘を始めず対話を望んでいるらしい。私に目を向けていた死柄木弔は、そこで言葉を句切りオールマイトの方に向いた。

 

「俺はな、オールマイト! 怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、善し悪しが決まる、この世の中に!!」

 

 あの男の言っているが意味が私には理解できなかった。

 そもそも彼等が勝手に敷地に侵入してきた挙げ句、戦闘の意思を見せてきたのだ。

 先に暴力を用いたのは私達だけど、刃物などを所持して人の敷地に無断侵入してきた彼等の自己責任だ。正当防衛も知らないのか彼等は。

 

 そんな私の思いとは裏腹に、彼の演技かかった演説が続く。

 

「何が平和の象徴! 所詮、抑圧のための暴力装置だお前は! 暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺すことで世に知らしめるのさ!」

 

 本当に本気で言っているのだとしたら私は彼の頭が心配になるほどだ。

 どうしてそこで殺害が出てくるのか理解に苦しむ。

 だがオールマイトは敵の本質を理解したようだ。

 

「むちゃくちゃだな………そう言う思想犯の目は、静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘つきめ」

 

「バレるの……早………」

 

 オールマイトに嘘つき宣言された弔は、それを否定せず認めた。

 その顔を覆っている手の下には、ニタリと嗤っている表情を張り付けて、こちらを馬鹿にしている様に見える。

 

「………」

 

「敵が一人増えたからってこっちでは数で圧倒してるんだ。悪いが全員倒させてもらう」

 

「それにかっちゃんがモヤの弱点を暴いた………!」

 

「とんでもねえ奴等だが、俺達がオールマイトをサポートすりゃー撃退できる!」

 

 皆もどうやらヤル気充分なようだ。

 そう言えば爆豪君はあの黒いモヤを捕まえてたね。確か実態の部分をあの黒いモヤのゲートで覆っていたと、爆豪君が暴いていたな。私の突きを避けていたのもあのゲートのせいか。

 

 だけど、いくら敵の一人の弱点がわかったとは言え、私は皆の意見に反対だった。なにせあちらには脳無と言う圧倒的化物がいるのだから。

 パワー、スピード、耐久力共に劣っている私達が戦闘に参加しても、邪魔なだけだろう。残りの二人と戦うにしても、その隙に爆豪君の様に脳無に襲われては堪らない。

 

 オールマイトもそう考えたのか私達に逃げるように促した。

 

「駄目だ!逃げなさい!!」

 

「…………さっきのは俺がサポートしなきゃヤバかったでしょ」

 

「待って轟君。私はオールマイトの言葉に従った方が良いと思うわ」

 

「邦枝……」

 

「でもオールマイト血が…………それに時間だってないはずじゃ…………!」

 

 轟君は私に真意を確かめようと反応してくれたけど、緑谷君に私の忠告が無視されてしまった。

 

 …いいよ別に。オールマイトの言葉の方が大事だもんね。ただ言っておくけど、そういう女の子を無下にする男の子ほどモテないからね。そこんとこ宜しく。

 

 と言うか……時間って?

 

「それはそれだ轟少年!ありがとな!邦枝少女も説得ありがとう!そして大丈夫だ!!プロの本気を見ていなさい!!」

 

 そう私達にお礼を述べると、オールマイトは臨戦態勢を取った。

 ヴィラン側も弔以外はオールマイトを相手にするようで、弔だけが此方に向かってくる。それを見て撤退戦に移行しようと私が構えた時だ。

 

 

 オールマイトから圧倒的な、それこそ絶対的存在とも言えるオーラを感じ取った。

 普段気配を探る行いをしているから尚更その脅威を感じ取れた。

 

 あれは象徴だ。強さではなく象徴。

 人々を、平和を守らんとする在り方を体現した、君臨者であり絶対の象徴。

 その在り方に、その迫力に、その壮絶さに。

 ヴィラン側だけでなく私達でさえ気圧されてしまった。

 

 だが脳無と呼ばれる異形だけはオールマイトに襲いかかった。オールマイトもそれに呼応するように脳無へと迫り、二人の拳がぶつかった。

 

 不利なのはオールマイトだろう。何故なら相手はオールマイトの力が効いていないのだから。

 それを見た死柄木弔は、気圧された負け惜しみなのかオールマイトを煽る。

 

「ッ………さっき自分でショック吸収って言ってたじゃん」

 

「そうだな!」

 

 再び拳がぶつかる。更にもう一度。もう一度。拳がぶつかる回数がどんどん増えていく。

 

 それだけの行いで衝撃波が空間を軋ませる。それだけの余波で地面が割れていく。

 嵐のような突風に立っているのがやっとだった。

 

 

 拳のぶつかり合いだけで超常現象を起こすオールマイトの力だが、それでもダメージが蓄積されていくのはオールマイトだった。彼の身体から血飛沫が舞っている。

 

 だけど彼は退かない。むしろ先程よりも勢いが増している様に見えた。

 事実、脳無はどんどん後方へと押されていくのだ。

 

「"無効"ではなく"吸収"ならばッ!!限度があるんじゃないか!!?」

 

 オールマイトの拳がぶち当たり、脳無が地面を滑っていく。オールマイトの蹴りが炸裂し、脳無が上空へ飛ばされる。

『吸収』がオールマイトの単純な『力』に追い付いてこれなくなっているのがわかる。

 

「私対策!?私の100%を耐えられるならッ!!」

 

 オールマイトは跳躍して空中の脳無を追い抜き、拳を高く掲げ構えた。

 

「更に上からねじ伏せよう!!!」

 

 オールマイトの一撃が脳無の頭を捉えた。

 音速を越えるスピードで脳無が地面に突き刺さり、爆発が起こる。

 

 今日最大の衝撃波と爆発音が辺りに轟いた。

 

 オールマイトがその爆心地へと降りてくる間に、霧が晴れて脳無が起き上がる。が、『吸収』も『再生』も間に合わずその身体はボロボロだ。

 

 オールマイトが脳無の目の前に着地すると、異形である彼はボロボロの身体を物ともせず、オールマイトに襲い掛かった。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!!」

 

 どちらもまともに動けないほどのダメージを負っているのに倒れず拳を振るう。

 脳無はどんどんスピードが落ちていき、逆にオールマイトの拳の威力が上がっていく。

 

「ヴィランよ!!こんな言葉を知っているか!!!?」

 

 オールマイトのが固く握り締めた拳が、脳無の身体の中心へと突き刺さった。

 

Plus(更に) Ultra(向こうへ)!!!

 

 脳無が吹き飛んで、ドーム前の天井を突き破った。それどころか勢いはなお止まらず、空の彼方まで吹き飛ばしてしまった。

 まるで漫画のワンシーンのような光景だ。デタラメすぎる。

 

「…………コミックかよ。ショック吸収をないことにしちまった……究極の脳筋だぜ」

 

 究極の脳筋。物理法則を嘲笑うかのような力。それができるから彼はトップなのであり、平和の象徴であるのだ。

 

「全盛期なら5発も打てば充分だったろうに。300発も打ってしまった…………。さてと……ヴィランよ。お互い早めに決着つけたいね」

 

「………チートがぁ。まったく衰えていないじゃないかぁ………!?アイツ………俺に嘘を教えたのか!?」

 

「どうした、来ないのか!?クリアとかなんとか言っていたが………出来るものならしてみろよ!!」

 

「ぅうぉぉぉおおおおおお!!」

 

 ヴィラン側は完璧に気圧されているようだ。

 今ならオールマイトに注意が向いているから、縮地で近付けば倒せないことも無いけど………。

 

「流石だ……俺たちの出る幕じゃねぇみたいだな」

 

「ああ……緑谷。俺達はもう退いた方が良いぜ。無理に出て人質にされた方がやべぇ」

 

 その意見に私も賛成だった。

 客観的に見てオールマイトはボロボロだけど、それでも相手側は気圧されているのだ。後はオールマイトに任せた方が無難だろう。

 

 だけど、緑谷君はそう思わなかったらしい。

 その場で独り言をぶつぶつと呟くと、彼は今まさにオールマイトへと苦し紛れの攻撃を仕掛けるヴィラン達に、爆発的スピードで突っ込んでいった。

 

 ____________________

 

 その後は特に緑谷君が何か起こるわけではなく、応援に来た教師達がヴィランを追い返していった。

 本当は捕まえたかったのだろうが、あの黒いモヤのワープゲートのせいで逃げられてしまったのだ。

 

 そして今。私は先生達に集められ、モモと合流し、彼女の家の車で帰路に着いていた。

 

「いやぁ………今日は疲れたねー。まあ、良い経験にもなったけど」

 

「そう………ですわね。ただ相澤先生と13号先生の怪我が心配ですが………」

 

「まあ………ね。私も見たけど、特に相澤先生が酷かったから。それでもモモが無事で私は良かったよ」

 

 本当にだ。

 もし、ヴィラン達がオールマイト狙いではなく私達生徒狙いなら、確実に数人は死んでいただろう。

 そして脳無と呼ばれた異形相手なら、私も危なかったかもしれない。モモを庇わないといけない状況ならば、私は玉砕覚悟で死んでいたかもしれない。

 

 今日の相手はそんな奴だったのだ。

 

 強く………ならなければいけないのかもしれない。これ以上に。

 プロになれば誰かを庇いながら戦うのは当たり前だし、自分の最愛の人を守れないのであればやる価値も無いのだ。

 

 私はチラリと横目で彼女を見る。モモもまた何かに対して物思いに耽っているため、私が見ていることは気付かれてない。

 

 

 私は彼女を絶対に守るのだ。なら、これ以上の強さを求めなくては。

 そして、いつか彼女のためにーーーーーー

 




とうとうバビロニアだじぇ………アサシンだけ☆4持ってないんだけど、マジどうしようと………スカサハが欲しい………


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体育祭開幕!

最終章まで行けるかわからない………BB……欲しい……

というか、時間無くて誤字多すぎだわー


二日後。

あんな事件があったから昨日は休校となったが、流石雄英だ。今日から普通に授業である。

 

「お早う」

 

「相澤先生復帰早ぇぇぇぇ!!!!」

 

相澤先生がドアからヌルッと登場してきた。その姿は全身を包帯で巻いている姿で、凄くヨロヨロしていた。

 

先生は教壇に立つと、包帯で覆われた顔を私達に向ける。

あ、眼だけ出してるんだ。

 

委員長である飯田くんが先生に声を掛けていた。

 

「先生無事だったんですね!!?」

 

「俺の安否はどうでも良い。何より戦いまだ終わってねぇ」

 

戦い………なんだろうか。やはり逃がしたヴィラン達に関係のあることなのだろうか。

確かに彼等を逃したことで、また襲撃が行われるとは思うが………

そんな私達の不安を他所に先生は言った。

 

「体育祭が迫っている」

 

「「「クソ学校ぽいのキター!!!」」」

 

____________________

 

 

と言うわけで体育祭である。

ただし、ここ雄英高校の体育祭は普通の体育祭ではないのだ。

 

オリンピックと呼ばれる、かつてスポーツの祭典だったそれは、個性使用禁止を貫いたため、規模も人口も縮小し形骸化してしまった。

しかし、日本においてそれに代わって台頭したものが、雄英体育祭なのだ。

 

全国にヒーロー科は多くあるけど、マスメディアまで動員して一般公開している体育祭は雄英だけ。

個性を惜しみなく使って行われる、ヒーローの卵たちによる競技は、たかが体育祭を全国レベルの祭にまで押し上げたのだ。

 

それに、この祭は私達にとって重要なイベントだ。

世間に私達の実力が知られる。つまりプロヒーローもこの祭を見るのだ。しかもスカウト目的で。

 

ヒーロー資格を取った後はプロの事務所に入ってサイドキックーーーーーー助手になるのが定石だ。

つまり将来に関わってくる大事なイベント。ヴィランの襲撃ごときで中止になどならないのだろう。

 

__________

 

 

昼休み。皆の話題はやはり体育祭だった。

 

「ついにやって来ましたわね椿」

 

「まあ、そうだね~……」

 

「あら?なんだかやる気が無さそうね椿ちゃん」

 

「ああ、梅雨ちゃん。そう言うわけじゃないんだけどね………」

 

私が机にぐでーんと項垂れていると、目の前の梅雨ちゃんから声が掛かった。

 

今、私達は女子のグループで集まって学食のご飯を食べていた。メンバーは私、モモ、響香、カエルの個性の梅雨ちゃん、芦戸三奈ちゃん、透明人間の葉隠透ちゃんのA組の女子メンツだ。

麗日ちゃんは、まったく麗らかな顔とはかけ離れた気合いが入った顔で、飯田君と緑谷君と一緒に廊下に出ていった。

 

あの三人仲いいねぇ………

 

「にしても体育祭かぁ………楽しみだけど、緊張もするなー」

 

「心配性だね響香ちゃんは!私なんて今から楽しみで仕方ないよ!」

 

「アタシもアタシもー!めっちゃ楽しみ!」

 

響香はそうでも無いけど、葉隠ちゃんと芦戸ちゃんはテンションが高い。

私は正直微妙だ。別に緊張もしないが楽しみでもない。

こう言った行事には慣れてるし、私にはこの体育祭で優勝しなければいけない義務があるからだ。

 

心月流を世に知らしめる為、と言ったふざけた信念とかじゃない。

何故なら心月流は既に世に知られているから。

 

ただ、邦枝の本家として、心月流の担い手として、極めて個人的かつ絶対回避しなければならない事情として、私は優勝しなければいけない義務があるのだ。

別に心月流の看板を背負っているわけでは無いけど、名家に名を連ねた者としては、世に不様な姿を見せられない。

 

と言っても、本来ならこれくらいの重圧など慣れているから問題ないのだけど………

 

「そう言えばさ。今回は皆学校指定の体操服で出るんだよね」

 

「残念だなー。アタシはコスチューム着てやりたかったのにー」

 

「それは仕方ありませんわ。体育祭は普通科の生徒も参加するのですから、私達だけ不公平になってしまいますもの」

 

そう。それが問題なのだ。コスチュームが使えない。つまり木刀が持ち込めないのだ。

ヒーロー科は原則として持ち込み不可、または個性に支障がきたす場合のみサポートとして持ち込みOKとなる。

そして、私は支障をきたす訳ではないから木刀を持ち込めない。

 

それでもやりようはあるのだが………チートな個性相手にどこまで持っていけるか………。

 

「憂鬱だ………」

 

「そう言えば椿は木刀使えなくなるんだよね。確か『瞬発力』の個性だっけ?ちょっとキツくなる感じ?」

 

「………そうなんだよ。まあ、頑張るけどさー」

 

ふと、モモが何とも言えない顔をして私を見てくる。

 

わかっているけど、そんな顔をしないで欲しい。……まあ、モモの性格だ。真面目な彼女は私のためとは言え、私の態度に黙っていることが嫌なのだろう。

かと言って、私の事情も知っているから物申すこともしない。優しい親友である。

 

____________________

 

 

それから体育祭までの二週間はあっという間であった。

各々が各自で特訓に励み、私もまた稽古を行っていた。

たまにモモの稽古も見てあげたりなどしたけど、私も出来る限りのことはやったのだ。

 

あっという間に過ぎた今日。

体育祭の当日である。

 

 

体育祭はドデカいスタジアムの中で行われる。東京ドームより少し大きいくらいのスタジアムの中は、観客席が満杯になり、ざわつき盛り上がっていた。

 

『ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル、雄英体育祭!!!』

 

生徒達が入場ゲートで待っていると、プレゼント・マイクの声が響いてきた。どうやらそろそろ開演らしい。

 

『どうせあれだろコイツらだろ!?ヴィランの襲撃を受けたのにも拘わらず、鋼の精神で退けた奇跡の新星!!』

 

相変わらずのテンションの高さである。ついでに言うと恥ずかしいから止めて欲しいのだけど……

そう思いながら私は皆と同じようにゲートを抜けて入場する。

 

『ヒーロー科1年!A組だろぉぉぉ!!!』

 

入場すればそこは観客席で囲まれた空間だった。

満員で埋まる観客の目が私達を見ている。当然、A組の皆はその視線に慣れていないようでソワソワしだした。

 

「やべ、ウチ緊張してきた」

 

「耳郎さん。こういうのは慣れですわ。皆の事をカボチャと思えば良いのです」

 

が、流石モモだ。こういった舞台に立つのは慣れているらしい。伊達にパーティーの主催者側に立っているだけはある。

まあ、かく言う私もある程度は慣れているのだけど。

 

他の生徒達も入場し、列になって並ぶ。

私達の前にある壇上では、18禁ヒーロー『ミッドナイト』が立ち、進行役を勤めるらしい。

彼女の存在にざわつく中、彼女はテキパキと進めた。

 

『選手代表!邦枝 椿!!』

 

「あり?私?」

 

進めるのは良いのだけど………私?

え………なんも聞かされてなかったんだけど。なして?

私が困惑していると、近くにいた響香が教えてくれた。

 

「あんた入試一位でしょ?早く行きなよ」

 

「あ、そう言う………」

 

A組の皆から頑張れの応援を受ける。一人、親の仇を見るような形相で私を睨んでくる爆豪君がいたが、無視した。

応援に後押しされ、私は渋々と教壇の方へと足を進める。

 

けど、A組の列から抜けると何やら周りの他の生徒達から嫌な視線を感じた。

なんだろうかと思い、耳を済ましてみる。

 

「けっ、何が一位だよ。ヒーロー科の入試で、だろ」

 

「さっさと行けよ、かったるいなー……本当にヒーロー科一位かよ」

 

ふむ………なんだか私は嫌われているらしい。初対面の彼等に何かした覚えは無いのだが………所謂嫉妬、と言うやつだろうか。

 

わからなくもない。なにせ、私もその感情に覚えはあるのだから。

だからと言って気分が悪いか悪くないかで言えば、それはすこぶる悪いのだけど。

 

私は嫌な視線を一身に受けて、壇上のマイクの前に立つ。

………選手宣誓の台詞など、まったく覚えていなかった………どうしようか。

助けての意味を込めて前に立つミッドナイトを見るが、彼女は私の視線を受けて恍惚な顔になるだけだ。

それでいいのか教師。と言うか怖いから見ないで。

 

「早くしろよ」

 

「おっせぇーな」

 

おっと。ヘイトの感情が上がってきている。

 

けど困ったな。かなり後ろから野次が飛んでくるので、思うような台詞が思い付かない。

と言うか、良いかな?好きなこと言っちゃって。急な呼び出しなのに台詞も用意されてないし。凄くイライラするんだもん。

 

だから、私は手を挙げて宣言した。

 

 

『宣誓~~………私がトップだッ!!!!!』

 

 

周りの野次や会場の観客席から聞こえていた声が、ピタリと止まる。

 

直後、他のクラスの生徒達からブーイングの嵐が巻き起こった。

 

「「「「「「BOOOOOOOO!!!!」」」」」」

 

「調子に乗んなA組!!」

 

「これだからA組は!!」

 

「自分は美形だからって私達を馬鹿にしすぎよ!」

 

『おおう………すごい批難の声』

 

「当たり前だ!!」

 

どうやら顰蹙を買ってしまったらしい。まあ煽るような事言ったのだから、仕方のないのだけど。

でも、乙女のお茶目なジョークじゃないか。これくらい笑って流せないとか、どんだけ心が狭いのよ………。

 

と思ったら、A組の委員長からもお叱りの声が届いてきた。

 

「なぜ品位を貶めるような行いをするんだ!?」

 

?………あー………皆ごめん。一位の私だけじゃなくてA組事態が嫌われてるんだね。周りを見て察したよ。

だって、他のクラスの生徒達が私だけでなく、A組も睨んでいるのだ。なんともわかりやすい。

 

………そう言えば前の放課後に、教室の前で沢山の生徒がA組の何人かと揉めていたけど………それと関係があるのかもしれない。

と言うかとばっちりじゃん。私、悪くなくない?

 

そう釈然としない気持ちで私はA組の列の中に戻った。でも皆呆れたような目で私を見てくるけど、誰も私を恨んではいないようだ。良かったよ。

 

『悪くない宣誓だったわ!それじゃ、早速第一種目行きましょう!!』

 

「雄英って何でも早速だよね」

 

ミッドナイトが司会に戻ると、近くにいた麗日ちゃんがまったく麗らかじゃない厳しめなツッコミを入れた。

 

 



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第一種目は地獄のレース

はぁやぁくぅボス倒れろよぉぉぉぉぉぉ!!!




第一種目は障害物競争になった。

計11クラスの総当たりレースだ。スタジアムの外周である約4キロメートルのコースを走るらしい。

スタートは外に繋がっている一直線の通路の入り口から。

 

『ウフフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!さあ、位置に着きなさい!』

 

私はその通路を見て、モモの手をつかんだ。

 

「行くよモモ!」

 

「わっ!つ、椿!?そんな焦らなくても」

 

私は何か抗議するモモをさっさと引っ張って先頭に着いた。

悪いけど、このスタート位置はかなり重要なのだ。こんな狭く密閉された空間を最初のコースにするなんて……教師側も意地が悪い。もしくはコレが『ふるい』なのか。

 

私達の後ろに続々と生徒達が集まり、スタートの準備が出来たようだ。

 

前に鎮座するスタートの信号が変わった。

 

『スターーーートッ!!!!』

 

モモの手を引っ張り、素早く前に躍り出て、スタートゲートの中に入る。

後ろを振り返れば、後続の生徒達が入り口で詰まっていた。

 

「スタートゲート狭すぎだろ!!」

 

「きっつ!」

 

「どけよ!邪魔だ!!」

 

「うわぁ……」

 

やはりコレが狙いか……。

ゲートの入り口がすし詰め状態だ。あれに巻き込まれたくはないよ。マジで。

 

何人かの生徒は序盤からこれに気付いて、通路を普通に走り抜けていく。

私とモモも例に漏れず通路を走り抜けていくが、そこで冷気を感じ取った。

 

「モモ!」

 

「わかってますわ!」

 

前方の足元から忍び寄る冷気を感じ取った私達は、迫る氷の波に対処する。

私は跳躍して壁を足場に駆け抜け回避し、モモは棒状の物を創造して空中を跳んでいた。

 

私は壁を駆け抜けながら外の出口に出る。そこには、足を凍らせられて動けなくなった数人の生徒と、先頭を独走する轟君の姿があった。

どうやら彼も『ふるい』の事に気付いて、一番前に陣取っていた様だ。

 

しかも後続を凍らせて妨害すると言う更なる『ふるい』を上乗せして。

 

「つめてぇー!!」

 

「くそ!動けない!」

 

『さぁて、実況していくぜぇ!まずはA組の轟が『個性』を使って一番乗りだ!しかも後続を凍らせるっつう妨害付きまで!コイツはシビィぜぇ!!どんな教育してんだミイラマン!』

 

『うるせぇ……何で俺がこんなこと………』

 

と、ここでプレゼントマイクと相澤先生の声がマイク越しに聴こえてきた。どうやら実況・解説らしい。

相澤先生はやる気なさそうだけど………人選間違えてないかな?

 

私は氷の張っている地面に滑らないよう着地する。

後ろを振り返ればモモの他に、A組の皆や他の生徒達も各々の個性を使って回避したようだ。

 

まあ、彼等なら回避できるだろう。驚きなのは初見の他の生徒が回避できたことなのだが。

 

『だが、他の連中は轟の氷を回避していくぞ!二位はこれまたA組の邦枝だ!』

 

『"瞬発力の個性"だ。回避も余裕だろう』

 

私達が轟君を先頭にコースを走り曲がり角を曲がると、今度はコースが広くなった。

同時に巨大な物体の大群まで出現したが。

 

『さあ!いきなり障害物だ!!まずは手始めに………第一関門、ロボ・インフェルノ!!!』

 

「入試の時の敵じゃねーか!!」

 

私の後続の生徒の誰かが堪らず声を上げる。

しかもただのロボットだけじゃなく、私が倒した巨体0Pロボットまでいるのだ。しかも大量に。

 

流石の光景に私や轟君も立ち止まってしまう。

 

「何処からお金が出ているのかしら?」

 

私の隣に着いたモモがそんな言葉を漏らす。

………『創造』持ちの君が言います?いや、確かに人件費とかはあると思うけどさ………。

 

おっと。そんな馬鹿な事を考えている暇なかったよ。

見れば轟君が一体のロボットを凍らせて活動不能な状態にしていた。

彼は凍ったロボットの足元の隙間を通り抜けていく。

 

「ほらモモ!行くよ!」

 

「へっ?………ええ」

 

私はすぐにモモを呼び掛けて、轟君の後に付いていこうとそのロボットの真下を目指す。

 

が、そこまで轟君は甘くないようだった。

そのロボットの足が砕けて、体制の崩れたロボが此方に倒れてきたのだ。

 

「ちょっ!?」

 

「轟さん………!」

 

危険な妨害とかするなぁ!!なんてことするんだッ!

轟君……君も要らない。あんなやつ呼び捨てだ!焦凍(しょうと)で十分だ!マジで!!

彼は一様、真下が崩れるように倒そうとしているようだから………後ろに回避は可能だった。

だからと言って、ここで後退はあり得ないけど。

 

今なら縮地を使って抜けられないことも無い。けど、隣にはモモもいるからそれはナンセンス。

……本当はまだ使いたくないのだけど……仕方がない。

 

私はモモを抱き寄せると、息を整えてタイミングを計り、迫るロボとの接触に備えた。

 

「スゥー………ハァッ!!」

 

私は倒れてきたロボットに拳を当て、その胴体に人が通れるほどの風穴を空けた。

 

瞬間、ロボットが倒れる轟音が辺りに響き渡った。

 

私とモモは空けたロボットの穴にすっぽりと嵌まる。そのまま穴を通って外に飛び出た。

ついでに私はモモのヤオパイを堪能することも忘れない。

 

『1-A轟!攻略と妨害を一度に!コイツはぁシヴィィィィィ!!!!!』

 

『耳元で騒ぐな』

 

『あ、すいません』

 

本当だよまったく。と言うかプレゼント・マイク弱ッ。

 

私は衝撃を殺しながら着地して、愛すべきモモの柔らかな感触から離れる。………なんか隣から抗議の目線が飛んでくるが気にしない。

 

「……椿。助かりはしました。けど、手助けは要りません」

 

「手助けじゃないよ。後々のための合理的判断さ。ほら、さっさと走る」

 

私はモモを促して走る。

 

『二番手は相変わらず邦枝!三番手が1-Aの八百万だ!つうか、あのロボットの中を抜けてきたぞ!?』

 

『死角で見えなかったが、八百万の個性で何かしたんだろう。見ろ、穴が空いているだろ。それと邦枝の瞬発力であの穴を抜けたようだ』

 

『手を組んだかのかぁ!!何でもありのデストロォイレースならではだな!』

 

どうやら先生方すら勘違いしてくれたらしい。嬉しい誤算だ。

 

私が出したのは心月流無刀 "撫子 拳突き"だ。敵の一点に力を集中させて突く、貫通力のある技。

心月流は抜刀術だけが世間で知られているため、あまり無刀の技を大っぴらにさせたくなかったのだ。バレずに済んで良かったよ。

 

まあ、今はそんな事置いておこう。プレゼント・マイクの実況では、他の皆も飛び越えたり倒したりして抜けているようなのだから。ウカウカしてられない。

 

氷の上を滑って行く、憎き焦凍クンの背中を追って走る。

妨害のことも考慮して、あのアンチキショーの前に出たいけど………私としては後ろのモモと連携を組んで、このレースを安全に攻略したいのだ。

だから彼と一定の距離を取って走り続けた。憎いけど。

 

 

だいたい二キロ程走っただろうか。再び私達の前に障害が現れた。

 

今度は底の見えない大きな崖と、その間に点々とある足場が混在したフィールドであった。

足場から足場にかけてはロープが繋がれていて、ロープの下は崖。

崖の幅は大体300メートル位だろうか。足場とロープを使えば渡れるようになっていた。

 

『さあ、先頭はもう第二関門だ!!落ちれば即アウト!それが嫌なら這いずりな!!!その名も、ザ・フォーーーーール!!!』

 

アホだね。

その一言に尽きる。何でこんなにも深く崖を掘っているのだろうか。誰かの個性で造ったのだろうが、頑張りすぎでしょ。

 

先頭の焦凍はロープを凍らせて、良い感じの足場を造って渡り始めた。

しかもちゃんと歩いた後の氷を溶かしているのだから、小まめな心掛けだと思う。

 

『轟!今度はロープ氷で覆って足場を造ったぞ!万能過ぎねぇかあの個性!?』

 

『それに、ロープの端まで凍らせて足場を完全に固定させているな』

 

「さてと焦凍クンも行ったことだし………ここは各自でクリアしよっかモモ。早く辿り着かないと、置いてっちゃうぞ☆」

 

「そもそも私は椿と組んだ覚えはないのですが………」

 

椿が釈然としない顔で私を見てくる。

そんな事言われても困る。だって組もうとすら言ってないのだから。

 

モモは判断力や発想力は良いのだけど、根が真面目なので誰かを出し抜くと言った考えが出てこない。だから彼女が足下を掬われないように、私が彼女を支えるのだ。

それが、一番だから。

 

……まあ、単純にモモと一緒に居たいだけなんだけどね。ほら、モモって押せば渋々従ってくれるし。ラッキースケベも出来るし。役得だわー。

 

「ほら、そんな文句言ってないでさっさと創造する。ジェットパックでも何でも良いから」

 

「わ、わかりましたわよ………」

 

彼女はそう言って創造し始めた。それを確認した私は、ロープの上に立ち、走り出す。

正直こんな不安定な足場など、修行でいくらでも駆け抜けたのだ。しかもお爺ちゃんの妨害付きで。今更こんな障害、在って無いようなものだ。

本当は縮地を使って跳んでも良いのだけど、それだと焦凍を追い抜いちゃうから無しだ。

 

『二位の邦枝も先頭に続いて爆走!!つーかアイツ普通に走ってんだけど!!?』

 

『そりゃあ邦枝の家系だからな。こう言った真似事の稽古は日常茶飯事なんだろ』

 

『怖ッ!!』

 

先生方がうるさいが無視して走る。と言うか素で引かないでよプレゼント・マイク。プロだろ。

 

__________

 

焦凍クンと私が一定の距離を空けて、そろそろ崖の終盤まで渡って来た時だ。

 

『おおっと!ここで1-Aの爆豪と八百万が二位の邦枝に迫ってきたぜぇ!』

 

「待てや抜け駆け野郎!」

 

実況と叫び声に反応して振り返れば、すぐ後ろを爆豪君とモモが火を吹かせて飛んでいた。

モモはわかるとしても爆豪君の爆発………ああ言った空中を飛ぶことも出来るのか。

足場とロープがジグザグに移動するよう配備されているから、空中をショートカットした二人に追い付かれてしまったのだろう。

と言うか、いつの間に爆豪君は先頭に接近したのか。

 

それはともかく。

 

「抜け駆けって何さ………というか野郎じゃないし」

 

爆豪君に悪態を吐きながら私は走る速度を上げる。

そろそろレースも終盤に差し迫っている頃合いだ。なのに皆のペースが上がってきているなら、私もそれに倣うべきだろう。

凍っている最後のロープの上を一気に駆け抜ける。

 

『他の連中がロープを渡り始める中、先頭集団はもう突破すんぞ!追い付けなくなっちまうぜ!?それが嫌なら走れ走れ!!』

 

どうやら後続はまだ崖の序盤辺りらしい。

予選越えが何人までか知らないけど、私達はほぼ確定だろう。

そんな事を考えていたら、爆豪君が私の横を駆け抜けて行った。と言うか速いな彼。

 

『ついに爆豪が邦枝を抜き去ったぁ!!なんだおい、とうとうガス欠かぁ!?』

 

『爆豪がスピードを上げてきたんだ。だが、それにしてもアイツ………』

 

私はモモと並ぶよう速度を微調整する。すると、すぐに横に来たモモと並んだ。

 

「どうしたのですか椿?貴女がこんなペースで走るなんて………」

 

「いやぁ。モモがどうしてるかな~って思って………と言うかモモ。何狙ってるのか知らないけど、せめて何か乗って走りなよ。大分先頭と離れてきたよ?」

 

「………いえ、これも訓練ですので。物ばかり頼っては私のためになりません」

 

「相変わらず真面目で向上心が高いな~モモは。そんなところが大好き!」

 

「いきなり何言ってるのですかッ!?」

 

おっ、赤面した。相変わらず可愛いなモモは。この顔を見るだけで元気100倍だね。

っと、いけない。モモの走る邪魔になってしまった。要件だけ伝えなくては。

 

「そろそろ最後の障害ぽいから、私はそこでラストスパート仕掛けるよ。多分だけど、今までの障害見るに余裕そうだし。ただ、障害次第ではモモのお世話になるかもしれないから宜しくね」

 

「………椿。貴女は……少し過保護ぎみでは?」

 

「?なんのこと?」

 

急になんの話をしているのだろう、モモは。過保護って………え?育児が?なんでここで育児?

 

『さあ早くも最終関門だ!』

 

む………どうやらそろそろ最後の障害らしい。私達の目に、それらしき開けた道が見えてきた。

 

最後は一体どんなアホな障害があるのやら。楽だと良いのだけど………。

 

 




今回は書く量多すぎた。大分ノってきた証拠。


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激闘の走行の果てに

正直間に合わん。


『最後は一面地雷原!!怒りのアフガンだぁ!!地雷の位置はよく見りゃぁ分かる仕様になってんぞ!! 目と足酷使しろ!!』

 

 地雷って………やはりアホなのか。怪我だけじゃ済まないぞ………。

 

『ちなみに威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜぇ!!?』

 

『チビったのか?』

 

『はぁ!?ち、ちげーし!チビってねーし!止めろよな、そーゆーデマ流すの~!ほんとさぁ~!』

 

『キャラ崩れてんぞ』

 

 どうやら殺傷能力は無い地雷のようだ。まあ、当たり前だけど安心した。これで私も本来の力が出せると言うものだ。

 

「んじゃあモモ。私、先行ってるね!」

 

「はぁ……行ってらっしゃい」

 

 最終関門に入った私は、モモとお別れして前に目を向ける。

 どうやら先頭の焦凍と爆豪君がお互いを引っ張り合いながら地雷を回避して進んでいるようだ。

 爆豪君は空を飛べるし、焦凍としては是が非でも邪魔をしたいのだろう。

 私としてはそのまま足を引っ張り合ってくれれば楽なので嬉しいだけなのだけど。

 

『喜べマスメディア!お前達好みの激しい先頭争いだ!』

 

 悪いけどそれは打ち止めだよプレゼント・マイク。

 私は縮地で地雷だらけの道を跳ぶ。地面を蹴った時にカチッと音がなったが関係ない。

 地雷が爆発するよりも早く私は地面から離れ、爆風すらも縮地の後押しとなった。

 

 それを数回繰り返すだけで、私は二人に追い付き抜かす。

 

『ここでペースを落としてたはずの邦枝が乱入ぅ!!つーかヘバって無かったのかよ!!』

 

『持久走でバイクのスピードと並走するような奴だぞ?油断させるために最初から手ぇ抜いてたんだよ』

 

『シヴィな!!!』

 

「やあ二人とも。そしてさようなら!」

 

「ああッ!!?」

 

「ッ!!」

 

 私は一々手間を掛けて二人の前に出ると、土の盛り上がっている場所ーーーーー地雷のスイッチを蹴って、その場から離脱する。

 瞬間、二人を妨害しながら私は爆発に乗って一気に地雷フィールドを駆け抜けた。

 

『邦枝一位に躍り出たぁぁぁ!!地雷が意味を成してねーぞオイ!』

 

『瞬発力だからな。爆発前の移動も、地雷を意図的に踏んで妨害に使うのも容易だろ』

 

『つーかお前らのクラス妨害ばっかだな!!教育どーなってんだ!!?』

 

『元からだ』

 

『こいつぁあシビィィィ!!!!!』

 

 先生達がホントにうるさいけど、私は先頭に出ることができた。

 後はこの速度を維持すればと………思っていたら、後ろから冷気と爆発音が私の肌に伝わって来る。

 

「トップは俺のモンだぁぁぁぁ!!!!」

 

「行かせねぇッ!」

 

 いがみ合っていた二人が私の妨害から持ち直して追い上げてきたのだ。

 と言うか、二人とも持ち直しもスピードも速い。ここまで私と同様、体力を温存させていたようだね。

 私ぃちょーツラいんですけど~。そー言うのー、やめて欲しいんですけど~。というかぁー、マジちょべりば。

 

「って、危な!?」

 

「ちっ!」

 

 ふざけた事を考えていると、私の美脚に驚異が迫る。

 焦凍が私の着地と同時に、地面諸とも足を凍らせようとしてきたのだ。

 私はすぐさま飛び退いてその攻撃を躱す。

 

 間一髪、と言うほどでも無いけど、今のは少し危なかった。

 個性で凍らせるスピードも上がっている。マジで彼、本気だよ。

 

『元先頭の二人!争っていた轟と爆豪が邦枝に迫る!いがみ合う余裕も無いってかぁ!?個性全開だなオイ!!』

 

「ぶっころぉぉぉす!!」

 

「てか爆豪君が凄い形相なんですけど!?殺人者の顔だよアレ!!」

 

 マジで怖い!と言うか二人とも、女の子相手に容赦なさ過ぎでしょ!?酷くない!?

 さっき妨害した奴が何言ってんだと言う声は、私には聞こえない。

 

 

 しかし困った。氷が邪魔でこのままだとギリギリ追い抜かれる。

 何か策は無いかと考えを巡らせていると、私の感知が後方から迫る人の気配を感じ取った。

 

『A組緑谷!爆発で猛追ぃーーつか追い抜いたぁぁぁぁ!!!?』

 

 そう。何かの板に乗った緑谷君が、私と同じように爆発を利用して私達を追い抜いたのだ。しかも板のお陰で私よりも爆風を受ける面積が多い分、私よりも速い。

 

 けど、そこで終わりだ。なんと言ってもただ乗って爆発で後押しとされただけ。減速するに決まっている。

 私は空中で減速した彼を追い抜き、再びトップになる。

 

 が、またしても彼は後方で爆発を起こし、私に迫ってきた。

 ………まあ、二度目を許すほど私は甘くないけどね。

 

 縮地を使って迫ってきた緑谷君の背中に飛び乗る。

 そのまま彼を踏み台にして、目の前のスタジアムの中に繋がる通路の入り口に突っ込んだ。

 

 狙い済ましたかのようなこのタイミング。最後の地雷でのぶっ飛びと妨害。緑谷君はちゃんと計算してたんだろうね。

 ………私は、彼の事を些か甘く見ていた。実に計算高く。実にクレバーだった。

 

 だけど残念。

 

 

 

 

『予想を超えた、まさかまさかの大接戦!!!しかぁし入試一位は伊達じゃねぇ!レースを制したのは女王!!邦枝 椿だぁぁああ!!!』

 

『おおおおおおおおお!!!!』

 

 スタジアム中に観客の歓声が響き渡る。鼓膜が破れそうだった。

 

 という訳で一位である。

 ………まあ、宣誓でトップになると言ってしまったのだ。有言実行できなければ邦枝の名が廃るというか……流石に恥ずかしい結果は出せない。

 

『さあ!他の後続も続々とゴールしてんぞ!まだの奴は急げ急げぇ!』

 

 レースが終わって余裕が出来たので、私は他の人がゴールするのを眺めている。

 やはりヒーロー科は優秀なのだろう。A組の人達が次々とゴールに辿り着いてきた。

 

 おっ、あれは切島君じゃん。彼は10位なのか。やるじゃん。

 あれは麗日ちゃんと……峰田君か。というかあの男は何麗日ちゃんの麗らかボディに張り付いているんだ。ああ………あの黒い玉で張り付いてるのか。セクハラで殴るぞ。

 

 私は峰田君に近寄ると、その顔面をぶん殴って吹っ飛ばした。

 ………仮に、ソレをモモにやってたら完璧に彼の命は無かったね。断言できる。

 まあ、ifの話は置いておこう。それより、私には重要な用事が残っているのだ

 

「モモ~!私一位になったよッ!」

 

 重要な用事。それはモモに抱き付いてその気持ちいい身体を堪能することだ。

 彼女は私を優しく抱き締めると、困った表情を私に向けた。

 

「はぁ………まったく椿は……」

 

「うへへへ………」

 

 そう言いながらまったく抵抗しないで私を迎えてくれる彼女が大好きなのだ。

 ああ……この引き締まったお腹。なのにすべすべしたお肌。そして、すべてを兼ね備えたモモのモモパイ。

 

 今回はいつもの制服と違い、モモはジャージの前を開けているからダイレクトにお肌を堪能できるのだ。

 私はこの瞬間のために生きていると言っても過言ではない。

 そんな風に私がモモと戯れていると、後ろから声を掛けられた。

 

「相変わらず仲良いわね」

 

「あ、梅雨ちゃん。お疲れ~」

 

「お疲れ様ですわ梅雨さん」

 

「お疲れ様。梅雨ちゃんで良いわ。それと、二人とも凄いわね。上位入りじゃない」

 

 そうなのだ。モモも6位と大変好成績を出してゴールしたのである。幼馴染として嬉しい。

 

「ありがとー!でも梅雨ちゃんだって42人中14位なんだから十分上位じゃない。ねっモモ」

 

「………えっ?ええ…そうですわね」

 

 あれ?何かモモの反応がおかしい………。どうしたのかと思い。モモの顔を覗き込んでみると、その顔には何か思い悩んでいるような表情を張り付けていた。

 

「モモ………どうかしたの?」

 

「考え事かしら?」

 

「あ…えっと、な、なんの話ですか?」

 

 珍しい。モモが話の途中で自分世界に入るなんて。何か不味いことでもあったのだろうか。それとも体調が悪い?

 

「本当に大丈夫モモ?体調が悪いなら先生に言って休む?」

 

「………いえ。何でも無いんです。少し思うところがありまして………」

 

「そっか………ツラいことがあったら言ってね?私、何でもするから!」

 

 そう励ましのつもりで私が言うと、モモは再び思い悩んだような表情になってしまった。

 その表情を見ると、どうしても私も不安になってしまう。

 

「ねえ………本当に大丈夫なーーーーー」

 

『そろそろ第二種目を始めるわ!予選通過者は並びなさい!』

 

 どうやらもうそんな時間らしい。ミッドナイトの言葉に私の声が遮られてしまった。

 私とモモは梅雨ちゃんに促されて列に並ぶために歩き出した。

 モモの表情に私は凝りが残ったまま、第二種目へと進んでいってしまった。

 

 ____________________

 

『第二種目は………これよ!』

 

 ミッドナイトの言葉に、私達の前にある巨大なディスプレイにその種目が写し出された。

 

「騎馬……戦……?」

 

 どうやら騎馬戦らしい。まあ、体育祭ならではの競技と言えばそうなのだけど……どうやって騎馬を決めるのだろうか?

 すると、ミッドナイトがその事も説明してくれた。

 どうやら騎馬は二~四人で組、メンバーは自由なようだ。基本は普通の騎馬戦と同じだが、予選の結果に従い各自にポイントが割り当てられるらしい。

 

「入試みてえなポイント稼ぎ方式か、分かりやすいぜ」

 

「当然予選上位の方がポイント高いよね」

 

「つまりメンバーの組み合わせによって騎馬のポイントが違ってくると!」

 

「あーなるほど! じゃあ高い人と組んでずっと持ってるか、低い人と組んで獲るかだね!」

 

『あんたら私が喋ってるのにすぐ言うね!!』

 

生徒達に説明の続きを言われて仕事を盗られたミッドナイトがお怒りのご様子だ。彼女はめげずに説明を続けるが、半ばヤケクソなように見える。

 

 

『ええそうよ。そして、与えられるポイントは下から5Pずつ。42位が5P、41位が10Pといった具合にね!そして一位に与えられるポイントは――――1000万!!』

 

 私は正直思った。小学生レベルかよと。アホな数字過ぎる。

 凄くバカらしいポイントに呆れていると、周りの生徒達がグリン!と音がしそうなほど、見事に合わさった振り向きで私を見てきた。ちょっと怖かった。

 

『上位の奴ほど狙われちゃう、下剋上サバイバルよ!!』

 

 ちょっと勘弁して欲しい。そんなんなら一位にならなきゃ良かった。

 そんな事言っても今更遅い上に、できるわけないのだけど。

 

 ただ、私もさっきのモモとのモヤモヤで気分がすこぶる悪いのだ。

 

 だから私は、見てくる生徒達に向けて馬鹿にしたような表情をして、鼻で嗤ってやった。

 こう言うのはビビる方が逆効果だ。既に狙われている以上、自分が上位であることを相手に示さねばたちまち袋叩きになってしまう。

 

 案の定、私を見てぶちギレる者もいたけど、逆に私の態度に訝しむ目を向けてくる者もいた。

 

 

 て言うか、いい加減前向きなよ君達。

 

 

 



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チーム決め~

忙しい………


『"上を行く者には更なる受難を"。雄英に在籍する以上、何度でもこの言葉を聞かされるよ。これぞPlus(更に) Ultra(向こうへ)!』

 

ミッドナイトは更に説明を続けた。

制限時間は15分間。メンバーが持つポイントの合計がそのチームのポイントとなり、騎手はそのポイントが表示されたハチマキを装着。終了までに奪い合い、合計ポイントを競うようだ。

ハチマキはマジックテープ式。取ったら首から上に巻くのが原則らしく、ポケットなどに隠すのは駄目らしい。

一位から四位までの騎馬が次に進める。つまり最低でも8人は進めるのだ。

 

最後に、ハチマキを盗られても騎馬が崩れても脱落にはならないらしい。

つまり、42人からなる十数組が、常にフィールド上にいるという事。逃げるだけの私としては少しツラい。

 

『でも、あくまで騎馬戦! 悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード! 一発退場とします!

それじゃこれから15分! チーム決めの交渉タイムスタートよ!!』

 

ミッドナイトの言葉を聞いた瞬間。私はモモに飛び付いた。

 

「モモ!一緒に騎馬組もう!私とモモなら最強の騎馬が作れるよ!!」

 

付き合いの長い私達だ。当然、モモは二つ返事でOKしてくれると思っていた。だから、次のモモの言葉に、私は愕然としてしまった。

 

「…………椿。悪いのですが、今回は貴女とは組みません」

 

「………へっ?」

 

意味が…よくわからなかった。………私と、組まない?何で、モモはそんな結論に至ったのだろうか………。いや、今はそれよりもだ。

 

「ど、どうして?私………モモに何か悪いことでも…したの?………ごめん!謝るから機嫌直してモモ!私が悪かったからッ!ねっ?」

 

「いいえ。椿何も悪くありませんわ。ただこれは私なりのけじめです。貴女が気にすることではありませんわ」

 

「なんで……?そんな事言われてもわからないよモモ………私のことが嫌いになっちゃったの?」

 

「だから違うと言ってるでしょう!」

 

「ひっ!」

 

モモの少し大きな苛立ちの声を聞いて、私はガラにもなく怯えてしまった。

怖かったのだ。恐ろしかったのだ。モモに嫌われることが。最愛の人に愛されなくなってしまうことが。

 

「あ………」

 

「ご、ごめんなさいモモ…………そう、だよね。私、モモが組みたくないって言ってるのに、無理やり組もうとして………嫌な奴だよね。本当にごめんね。それにモモも、いつも私とくっついてたら気持ち悪いって思っちゃうよね。………気づいてあげられなくてごめんね」

 

「つ、椿?ちがッーーーーー」

 

「わかった。私、他の人と組むよ。邪魔しちゃ悪いからもう行くね。頑張ってねモモ!応援してるから!」

 

私はモモの話を聞くのが怖くなって、その場から逃げだしてしまった。

何処へ行こうとか、誰と組もうとか、そんな事今の私にはまったく頭に無かった。ただ、私は出来るだけモモから離れた位置に移動したかった。

 

「お。おーい椿。ウチと組もうよ………って、何かあったの?」

 

声を掛けられた方向に目を向ければ、そこには私の友達の響香がいた。

そういえば、今は体育祭の真っ最中だと彼女の存在によって気付かされた。

 

ああ………そうだよ。今は、体育祭。全国の人が見ている催し物。当然、()()()も見ている。

 

私は邦枝家としての責務があったんだ。心月流の矜持があったんだ。

モモの為に、自分の為に、優勝しなければならない誓いがあったんだ。

 

「響…香………ううん…何でもないよ。じゃあ一緒に組もうか!他に誰誘う?」

 

「うーん………やっぱ騎馬だから男が一人欲しいよね。障子とか?」

 

「後は早さも欲しいな。飯田君とか」

 

となれば早速仲間を集めるために移動しないと。私は響香を連れてそこら辺を散策してみた。

 

__________

 

……しかしアレだね。意外とこんな自殺点なのに話しかけられるね。

 

「じゃあ宜しくね!拳藤さん!」

 

「一佳でいいよ」

 

と言うわけで拳藤一佳ちゃんを私はGETした。

片一方をオレンジ色の髪でサイドテールに纏めた髪型に、凛とした姿勢がとてもカッコいい女性だ。

彼女はかなりいい人らしく、あの態度だった私にも気さくに話しかけてくれた。

 

「それにしてもあの入試一位がこんな明るい性格だと思わなかったよ」

 

「まあ……アレ見た後だとね。と言うか何で宣誓であんなことしたの?」

 

「いや、だってさ~………私、事前に何も言われなかったんだよ?しかも他の人達は凄く陰口言ってくるし。だから、口だけの奴に私は負けないぞ、って意味だったのさ」

 

「あー………ごめんな?なんか色々。皆、実戦を経験したA組が羨ましいんだよ」

 

なるほど。私達にとってはトラウマになるかもしれなかった事件だけど、他の生徒に取って見れば羨ましいのか。

隣の芝生は青いと言うことかな。

 

「まあいいさ。一佳みたいな人もいるってわかったしね!でも、いいの?私めっちゃ狙われるよ?」

 

「逃げ切ればそれで勝ちでしょ?まあ多少しんどいとは思うけど、それでもトップを目指すなら乗り越えなきゃいけない壁だと思ってるよ」

 

おお。なんて向上心の高さ。なんか、少しモモに似ている気が…するな…。

………モモは……なんで私といるのが嫌になってしまったのだろう………。単純に、私の事が嫌いになっちゃったのかな……。

 

私がモモの事を思い出して少し落ち込んでいる時だった。

唐突に私の肩に痛くないくらいの衝撃が迸った。

下を向いていた顔が思わず上がる。見れば、一佳を何を思ったのか、彼女はいきなり私の肩に手を置いてきた。

 

「そんな顔しないの。………さっきのふてぶてしい態度はどうしたのさ。トップ獲るんでしょ?なら自信持たなきゃ」

 

………さっき、いい人と言ったのは訂正しよう。

この人メチャクチャ好い人だ。モモ一筋の筈の私が思わずキュンと来ちゃうくらいには。なんと言うか………そう。彼女の事をお姉ちゃんと呼びたくなる。そんな魅力を持っている人だ。

 

「あ………不安そうな顔、してた?ごめんね。心配かけて。それと、ありがとね」

 

「いいってことよ。それじゃあ残りの一人を探しに行こっか」

 

「………なんか、ウチ空気じゃね?」

 

後ろで響香が何か言ってるのを尻目に、私は一佳に手を引っ張られながら彼女の後に付いていった。

 

__________

 

その後、私達はいろんな人に声を掛けた。

先頭を誰かガタイのいい人か足の速い人にお願いしようと思ったのだけど………障子くんは峰田君や梅雨ちゃんと。飯田君はモモや轟君と組んでしまったようだ。

 

モモ………いや………今は競技に集中しなければ。

 

そして運良く私はある人を捕まえることができた。

先程、一佳から聞いた彼女の『大拳』の個性と、響香の『イヤホンジャック』の個性と、その補助のスピーカー。

牽制と横からの奇襲に対して強くなったけど、後は正面の攻撃と防御だ。

攻撃ーーーーーつまりハチマキの奪い合いは私が勤めるとして、足りないのは焦凍や上鳴君のような攻撃に対しての防御力。

本当はモモが理想的だったのだけど、この際仕方ない。

 

「と言うわけで頼むよ常闇君!」

 

「何がと言うわけなのか理解しかねるが、任せろ」

 

最後のメンバーは常闇君。影を縦横無尽に操る事ができる個性。これによって防御力は格段に上がっただろう。

 

遠距離を響香、盾を常闇君、私のサポートを一佳、攻撃が私。実にバランスの良いチームとなった。

私達は逃げるだけで良いので、本当なら騎馬を速く移動できる個性持ちがいた方が有利なのだけど、背に腹は代えられない。

 

ちなみに持ち点は1000万と360ポイントだ。

やっぱり1000万だけ浮いてる………頭おかしいよねこの数字。

 

「改めて役割分担の確認といこうか。まずは常闇君が『黒影』を使って全体の防御に専念。響香は爆音で敵の牽制。一佳は私のサポートだね。色々やるからお願い」

 

「わかった」「アイヨッ」

 

「OK」

 

「やってやるさ」

 

「…よし。じゃあ、頑張ろー!」

 

『そろそろいくぜ!残虐バトルロワイヤル、カウントダァウン!!』

 

私達が気合いを入れ直していると、プレゼントマイクから再び実況が行われる。

騎馬と騎馬のスタート位置はかなり離れているが、個性であればその距離が仇となる可能性も出てくる。

私の意識が切り替わった。

 

『3!2!』

 

集まる視線。皆の狙いは………

 

『1!!』

 

当然、私だ。

 

『START!!!』

 

 

 

____________________

 

邦枝チーム 1000万335P

 

鉄哲チーム 670

 

轟チーム 640

 

爆豪チーム 635

 

緑谷チーム 495

 

峰田チーム 390

 

物間チーム 285

 

ーーーーー …… …

 

 



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騎馬戦 前編

(先) 常闇
(真ん中)椿
(左)響香 一佳 (右)


『START!!』

 

プレゼントマイクの声が会場内に響き渡った瞬間。

前から二組の騎馬が私達目掛けて殺到してきた。

 

「実質1000万の争奪戦だオラ!!」

 

「獲る!!」

 

『開幕からトバしてきたのは鉄哲チームと小大チームだ!どうする1000万!』

 

やはり誰かしら序盤から狙ってくるだろう。それを見越していた私はすぐに響香に合図する。

 

「響香!」

 

「はいよ!」

 

響香が私の合図に合わせて、彼女自信の心音を相手騎馬に衝撃波として放つ。狙いは上の生徒ではなく下の騎馬。

騎馬の生徒達は手が十分に使えない以上、彼女が放つ爆音と衝撃を防ぐことは出来ない。

 

「「「うるせぇぇぇぇ!!!」」」

 

騎馬の生徒達はその音に思わず止まって縮こまってしまう。

敵の進行を止め、個性の発動の邪魔、両方を成功させた。その隙を逃すほど私達は甘くないつもりだ。

 

「んじゃあ逃げるよ!右側だ!」

 

三人に呼び掛けて、私達は迫っていた敵から逃げる。当然、響香の個性で絶え間なく爆音を放ち敵を牽制してもらう。

 

「く、くそッ!!」

 

「耳がッ!」

 

『おおっと!?どうしたお前ら!急に立ち止まってもよおしたか!?』

 

『耳郎の個性だ。申請にあった足のスピーカーで超音波をアイツ等に届けてるんだろ』

 

先生達の実況を流し聞きながら、私は周りに警戒をむける。

どうやら私達を狙っている騎馬は今のところ無いようだ。

 

「よし。さっきの奴等はここまで離れたら来ないでしょ」

 

「そうだね。鉄哲達は2番目にポイントが高いから普通に狙われるしね」

 

「となると他の敵だけど………あんまり来ないね?」

 

序盤だから高いポイントを取りに来るとは思わなかったけど、もう少し来るとは予想していたのだ。何故だろうか………。

 

「臆病風に吹かれた、と言うわけでは無さそうだな」

 

「あー………多分B組のせいだね。特に物間のせい」

 

常闇君もわからないらしいけど、一佳はどうやらこの状況を察したようだ。B組のせい、と言うことは彼等に何か作戦のような物があるのか。

 

「自分達の個性を隠しつつ、序盤をA組に花持たせてから逆転してやろうって魂胆なのさ。さっきの鉄哲達は違うけど、大体皆そんな感じ」

 

「なるほど」

 

そう言えばB組は私達A組を毛嫌いしていた。つまり、逆転して盛大に負かせようとしている訳だ。何と言うか………人間性がアレだね。

 

私の気分悪い感情が伝わってしまったのだろう。一佳は慌ててフォローに回る。

 

「いや、皆が皆そうじゃないよ?ただ物間がね………」

 

何とも苦い表情で顔を背ける一佳。

察するに、その物間と言う人物の影響で皆がそう言った戦術に走ったと。

 

作戦的には悪くないのだけど、A組に花持たせてから逆転して印象付ける負かせ方をしようと言うのは……………まあ、人のこと言えないか。

そんな気持ちは無かったけど、それに似たような事やっちゃってるし。

 

………問題はA組に悪感情を抱き、それを率先して煽っている事か。

A組が何かした訳でもないのに……。理不尽を感じてイライラしてくる。

何も知らないのに。ただただ漠然とヒーローになりたいだけで、自分達は今どれほど恵まれているか知らないくせに。

 

私が()()()()()()()()()()()()()()なんて、わかろうともしないくせに。

 

「椿!横から来てるよ!!」

 

「っ!?ご、ごめん!方向転換して響香は牽制!常闇君はーーーーーー左を迎撃!!」

 

一瞬だけど私の意識が騎馬戦から逸れてしまった。今、響香の警告が無かったらヤバかったかもしれない。

彼女の警告を聞いてすぐに感知を広げ、響香が牽制しようとしている方向とは逆側から来る飛来物に警告した。

 

瞬時に常闇君のダークシャドウがその飛来物を弾き飛ばす。

 

「………これは」

 

「峯田くんのブヨブヨだね。一佳、気を付けて。あの黒い球に触れるとくっついて離れなくなるよ」

 

「わかった!」

 

私は一佳に忠告しながら、峯田くんの個性が飛んできた方向へと目を向けた。

そこには、羽のような触手で背中を覆い、前傾姿勢を取る障子君が迫って来るのが見える。

 

『なんだぁ!?A組の障子一人じゃねーか!!』

 

「いや………あれは」

 

背中を覆う触手の膨らみの中。そこに二人ほど小柄な人を私は感知した。

状況からして一人は峯田君。そしてもう一人は………。

 

「梅雨ちゃん!」

 

そう考えた瞬間、障子君の触手の隙間から長い舌が私に向かって伸びてくる。ただ、速度は中々だったけど、認識している以上避けるのは容易かった。

首を少し曲げてその舌をやり過ごし、私はその舌を掴む。

 

『障子の背中から何か出てきたぞ!?しかし邦枝、それを華麗に避けてキャッチ!』

 

『蛙吹の舌だ。障子の個性の下に隠れているようだな』

 

「いひゃい、いひゃいわフハヒひゃん。放ひて………」

 

「ごめんね!」

 

私はすぐに梅雨ちゃんの舌を、ダークシャドウに弾かれて地面にくっ付いている黒い球に投げつける。

すると見事舌が球にくっ付いて離れなくなった。

 

「とれひゃい………」

 

「おおい!蛙吹何やってんだよ!」

 

『ああーーっとぉ!!峯田チーム、自分達の個性で逆に身動きが取れなくなっちまったぞ!!』

 

よし!これで騎馬の一つが行動不能とまではいかなくても、ある程度行動に制限ができた。

考えは悪くないけど、ちょっと人選ミスだったね。

 

右側では響香が牽制してくれてるし、前後から来る敵も今のところいない。なら、

 

「常闇君!今のうちに峯田君達の獲っちゃってよ!鉢巻は峯田君!」

 

「わかった!」

 

「アイヨッ!」

 

言うが早いか、ダークシャドウは伸びて狼狽えている障子君達に素早く向かうと、触手の隙間に入り鉢巻を奪った。

うむ。鮮やかな奪い取り。手癖悪いな。

まあ、今回はその手癖の悪さで奪い取れたのだ。感謝こそすれ、悪く言うのはお門違いか。

 

「ナイスだよ常闇君」

 

「いや、今のは邦枝の類い稀なる反応のお陰だ。あの状況なら盗るのは容易い」

 

それでも、彼の個性は優秀だと思う。あのスピードに優れた防御力と攻撃力。舌を巻く他ない。

そんな風に常闇君の個性に少しだけ分析していると、また新たに背後から気配を感じとる。

 

「皆、後ろ気を付けて」

 

私の言葉に反応してすぐに向きを変えてくれる皆。

そして景色が変わった視界に写ったのは、緑谷君の騎馬だった。

 

「獲りに行かせてもらうよ邦枝さん!」

 

「へぇ………とうとう二位のお出ましだね。響香、牽制」

 

「はいよ」

 

此方に向かってくる緑谷チームの騎馬目掛けて、響香が個性を放つ。

が、それを受けても彼等は止まらなかった。

 

「なにぃ!?私の個性が効いてない!」

 

「いや………多分耳栓してるね皆。あれ、サポート科の人がいるしそのせいかも」

 

『さあ!ここで一位と二位のトップ争いだ!!見逃せねーぞ!』

 

私は緑谷君達の騎馬を一人一人観察した。

先頭が尾白くん。私から見て右側が麗日ちゃん。最後に何かの装備でガッチガチに固めた女の子。

順位を見た時にちらりとサポート科が一人いることを知ったから、多分あの子だろう。皆、ヘッドフォンしてるし。

 

「どうですか!?ワタシの可愛いベイビィー達は!?完璧なノイズキャンセリングに、他の方と通話も可能!更に片方だけ取り外しもできますし 音楽も当然聴けます!更に更にメモリ搭載付きに操作も可能な上にーーーーー」

 

うん。確実にサポート科だろう。自分の作った用具の説明してるし。商売根性が逞しい。

 

それと、緑谷君達があの騎馬で何がしたいのかも大体詠めた。

麗日ちゃんの浮力に、USJでちょっとだけ見た尾白君の機動力と武術。

 

つまりは

 

「急加速だ」

 

突如、尾白君の尻尾が地面を叩き、驚くべき速度で私達に肉薄する。

緩急の速度に不意を突かれたダークシャドウも反応するが、即座に方向転換して上手く常闇君の影を避けると、さらに近付かれる。

ただ、この速度なら私は十分対処可能なはずだった。

 

距離にして二メートル。その差が更に埋まろうとした時だ。

次の瞬間、私達の視界から彼等が消えたのだ。

 

 

 

私の意識が切り替わる。

視界から色が失い、全ての動きが緩慢となる。

 

直後、私は感知と直感に従い、頭部目掛けて上から伸びてきたアームの様な物を避けた。

 

「クソッ!避けられた!!」

 

上空から緑谷君の声が聞こえる。

 

やはり彼等は跳んだようだ。それも尾白君の尻尾の機動力と、緑谷君が背負うブーストの様な物を使って。

それらによって生じた急激な速度に、目が追い付け無かった私の視界から外れたのだろう。

 

「一佳。手を」

 

「わかった!」

 

私は一佳に呼び掛けて、手を大きくしてもらうと掌の上に乗らせてもらう。

そのまま彼女の手を土台にして、此方に背を向けている上空の緑谷君達の背後目掛けて跳ぶ。

 

「まさか、お遊びでこうなるとは思わなかったけど………」

 

緑谷君の背中に乗っかるのと同時に、首に掛けてある鉢巻を奪い取った。

 

「なっ!!?」

 

「正直、見くびっていたわ。ごめんなさいね」

 

「ぐぇっ!」

 

そう言い捨てて緑谷君の背中を蹴り上げ、一佳の大きな手まで跳んで戻る。

 

『跳んだぁ!!てかそれありなのかルール的に!?』

 

『テクニカルだからアリよ!』

 

プレゼントマイクとミッドナイトの言葉を他所に、私は一佳の大きな手に着地すると、意識を切り替えていそいそと元の騎馬の位置に戻った。

 

「……いや~、危なかったねー。ヒヤヒヤしたよ」

 

「………よく避けられたな。獲られたと思ったぞ」

 

「ホントになぁ。しかもそこから奪い取るとか、椿は凄いね」

 

「いや~照れますよ~」

 

私は盗った鉢巻を首に下げて、辺りを警戒しながら器用に照れる。

 

すると、再び緑谷君達の騎馬が私の感知に引っ掛かった。

やはり盗られたままでは不味いと思ったのだろう。緑谷君達が焦ったように私達に突っ込んで来るのがわかる。

 

自棄になったと思わなくもないけど、さっきのと言いレースの時と言い、緑谷君は慎重派であり頭脳派だ。

それが今までのやり取りでわかった今、私は警戒は緩めない。

 

私は再び意識を切り替えようとした時だった。

 

緑谷君達の更に奥から、私達に向かって来る一つの騎馬が見えた。

 

「轟君に……………モモ、か……」

 

緑谷君達には悪いけど………ようやく、本命と言った所だろう。

彼等にとっても、私にとっても。

 

 




レポートのせいでextra間に合いませんでした。マジ最悪です。

………ザビーズ出てないよね?あの二人と鯖四人は大好きだから凄く気になる。てか出てたら切腹もの。制作会社が


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