フレームアームズ・ガール エブリ・デイズ (羽羊紅葉)
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轟雷との日

大半の方には初めまして
他の作品から作者名で目を通してくださってる方にはありがとうございます
問題作品だらけの作者、黒霞桜火です
どうぞよろしくお願いします

他の作品でも書かれていますが、初めての方に向けて、
●『面白くない』『つまらない』等のアンチ発言は書き込まないでください。代わりに評価零でお願いします
●『ここはこうした方がいい』等の意見は是非ともお願いします。次の話からその点を直していくつもりです

この二点を守って見ていただければ嬉しいです


4月、それは始まりの季節と言うものが多いだろう。

入学や就職等、3月末から4月にかけてのものが大半だろう。

それはこの僕、紅狼(くろう)も例外ではないだろう。

この度、僕は大学生となった。

実家から少々離れた場所になるため、先日荷物をまとめて一人暮らしとなるのだ。

近くに知り合いや幼なじみ等はいるし、同じ学科なのでよく顔を会わせるが、この部屋は一人っきりである。

あくまで『人間』は、だが。

その月末、少々学校に慣れてきたつもりになってくる頃、

「ただいま~」

「お帰りなさい、マスター」

部屋の扉を閉めると、小さき同居人、轟雷が返事をしてくれた。

 

轟雷とは、『フレームアームズ・ガール』略して『FAガール』と呼ばれるプラモデルである。

無論、普通は話さないし動かない。

が、この『FAガール』の轟雷は何故かそれができる。

恐らく、何かあるのだろう。

彼女との出会いは少々遡る事となる。

僕が入学してすぐ、当然だがサークルの勧誘と言うものがある。

僕は幼なじみ達と共に、全員が興味のあるプラモデルのサークルに入れてもらえることになった。

具体的にやることとは、プラモデルの改造等を行い、ビジュアル点を競う大会に参加することである。

その参加する為の身分証明書を作り、登録する為に『FAファクトリー』なる場所に投函した。

それから一週間ほどで段ボール箱と手紙がアパートに届いた。

全て書くと長くなるので、要点だけ書くが、

『当選したため、FAガールのテスト兼情報収集に協力お願いします』

と言う内容と共に、この轟雷が入っていた。

これが僕たちの出会いである。

 

まあ、過去のことはいいか。

そう考え、晩御飯を食べ始める。

「マスター、少々よろしいでしょうか?」

突然、轟雷がそう切り出してきた。

「いいけどどうかしたの、轟雷?」

「マスターは平日の日中、どこへ行かれているのですか?」

あ~、と思う。

手紙には『可能な限り、外に知らせないでほしい』と言う内容もあったこともあり、いつもは部屋の中で大人しくしてもらっているのだ。

どっちにしろ、嘘を吐く必要もないので、

「学校だよ」

と答える。

轟雷は「学校……」と口の中で転がしてから、

「それはどういうところなのでしょうか」

どうやら興味が出てきたらしい。

これも人格形成に役立つのならと、説明をした。

これも長ったらしくなるので、詳細は省くが、

「なるほど、学校とはそのような場所なのですか……。行ってみたいですね」

そう言い出した。

「なあ、一緒に行ってみるか?学校に」

「いいのですか?」

意外そうな顔をする轟雷。

無論、無計画に提案したわけではない。

人格形成を促す為には、知識もいるだろう。

聞けば全てとまでは行かなくとも、十分な知識は身に付くだろう(それが必要、使えるかは度外視しても)

それに正直な話、部屋の中にいても退屈だろう。

「でも動かない、と言うかバックから出ないことが条件。できる?」

「はいもちろんです、マスター」

嬉しそうに返事をする轟雷。

早速、バックの改造に手を着けた。

 

「轟雷、大丈夫かい?」

「はい問題ありません」

バックの中から小さな声が聞こえた。

因みに彼女の身長は約十五センチ程。

その為、特に幅も取らず、かつプラモデルである。

たいした重量にもならない。

後は、僕がうっかり話しかけて、変人のレッテルを貼られなければいいだけの話である。

準備は整った。

アパートの扉から外へ出ると、

「おはよう、紅狼(くろう)

「うん、おはよう」

二人の幼なじみに挨拶する。

背の高い奴は戦勝(せんしょう)、ガタイがいい奴は右烏(ゆう)

二人ともサークル仲間だ。

「今日はなんだっけ?」

「集まって、いつも通りのフルスクラッチ」

僕の問いに、右烏(ゆう)が簡潔に答える。

「どうかしたのか、紅狼(くろう)

そんな事も忘れたのか、と不信に思う戦勝(せんしょう)に、

「いや、別に?」

なるべく平穏に努めつつ、そう返した。

鷲翔(しょうが)は?」

僕の問いに、

「アイツは先に行った」

「何でも呼び出されたってさ」

果たして、手伝いか注意かどちらだろうか。

鷲翔(しょうが)は彼らのと同じ幼なじみの一人である。

元々鷲翔(しょうが)は勝手な行動などの問題行動が多々ある。

その一方で手伝いなどもすると言う矛盾だらけの人間でもある。

「……どっちかな?」

「注意じゃね?昨日授業中寝てたし」

じゃあ注意だ、という事で満場一致したところで雑談しながら学校へ向けて歩き始めた。

 

(なるほど、学校とはこういうところなのですか……)

バッグの中で、轟雷はそう思った。

時間はもう夕方、ほぼ一日が終わったといってもいいだろう。

色々と興味がある事が多かった。

また連れていって貰おう、等と考えていた。

「轟雷、大丈夫だったか」

「はい、問題ありませんでした」

バッグの外から紅狼(くろう)が声をかけてきた。

「今からサークルに行くから、もう少しかかるけど」

「分かりました」

どうあっても一人ではどうにもできないし、サークル活動にも興味があるのだ。

いかない理由はない。

大人しくしていれば、マスターも心配しないので一石二鳥である。

そう考えている轟雷をバッグに入れ、紅狼(くろう)は集合場所に向かった。

 

「おう、紅狼(くろう)。さっきぶりか」

部屋に入るなり、戦勝(せんしょう)がそう声をかけてきた。

紅狼(くろう)もおう、と短く答える。

どうやら戦勝(せんしょう)は先に来て、作業をしていたようだ。

「あの二人は?」

右烏(ゆう)はともかく、鷲翔(しょうが)の方はまだ見てないので、戦勝(せんしょう)に尋ねる。

右烏(ゆう)はパーツを買いに行った。で、鷲翔(しょうが)の方は図書館に……」

「アイツはよくそれで間に合わせられるよな、本気でそう思う」

俺もだよ、と言う戦勝(せんしょう)と共に笑ってしまう。

その時、

「ただいま」

と言いながら、右烏(ゆう)が帰ってきたらしい。

「何を買いにいってたの?」

「昨日割ったパーツを……」

「それで間に合うの?」

どうやらまたパーツを割ったらしい。

彼は少々がさつな一面があり、それが原因かパーツを破損させてしまう事が多々ある。

無論修理できるならそれに越したことはないが、

「何、またパーツを割ったの?俺が直そうか?」

「いやいい。君に直してもらうと、他のパーツまでしてもらわないとおかしくなる」

修理を申し出た鷲翔(しょうが)をあっさり断る。

と言うか、

「……なあアイツ」

「いつの間に部屋に入った?」

その言葉にえっ、と右烏(ゆう)が顔を向けた。

今まで気付かずに返事をしていたようだ。

じゃあいいや、と鷲翔(しょうが)は自分の作品に手を着けた。

もう光沢が出る位にピカピカに磨きあげておいて、これ以上何をする事があろうか、と言う意見は言わないでおくとして。

 

とりあえずキリがいいところで切り上げて、全員が帰路につく。

そんな調子でいいのか、と思われるかもしれないが、締め切りはまだ当分先だ。

それに計画していた以上のものが、予定より早いペースで出来上がっているので、それを焦って壊す必要もない。

そして、アパートの前で、別れて自分達の部屋に入る。

紅狼(くろう)、学校と言う場所はとても興味深いところなんですね」

それと同時に轟雷が楽しそうにそう言い出した。

目がキラキラしているので、本当に楽しかったようだ。

「それならよかった。明日からも一緒に行くかい」

「もちろんです、マスター」

やや喰い気味にそう言ってくる。

明日からも連れていこうと心に決めた紅狼(くろう)だった。




さて、前書きでも挨拶しましたが、黒霞桜火です。
問題作品(低評価の為、そう判断しているので「そうじゃないよ」と思っていてほしいですが)だらけなので、楽しんで頂ければ光栄です。

本作品はアニメ『フレームアームズ・ガール』を見て作った為、キャラクターが似通っている部分があります。
そして、『フレームアームズ・ガール』を見て、同士が増えて欲しいと切実に思っています。

最後に作者は自分の作品に『絶対的な自信』を持ってはいません。
『最悪暇潰しにでもなれば』と『自分は楽しい』と言う思いで投稿しています(これも問題発言ですね)。

長々となりましたが、御視聴?ありがとうございました。


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FAガールが増えた日

第2話目です
早速予定より遅れている……


轟雷を連れていくようになってから約一週間。

これは、もうすぐゴールデンウィークが訪れると言う頃の話である。

 

今日もいつもと変わらず、フルスクラッチによる作品作り。

なので、いつも通りにサークルで借りている教室に向かう。

「誰かいるかい?」

そう言いながら紅狼(くろう)は部屋に入る。

「あっ、えっと……」

そこには机に伏せていた戦勝(せんしょう)がいた。

「どうかしたの、寝不足かい?」

そう言いながら僕は戦勝(せんしょう)に近づいていく。

戦勝(せんしょう)は、

「あっ、いや……」

と口ごもりながらちらりと自分のバックを見る。

彼にしては珍しく手持ちバックである。

やがて戦勝(せんしょう)はため息を吐いてから、

「なあ紅狼(くろう)。動くプラモデルって知ってるか?」

そう問いかけてきた。

もちろん心当たりはある。

と言うか今僕のバックの中にいる。

無論、素直に言う訳にはいかない。

「それって可動部の事?それがないプラモデル何てないだろ?」

『動く=可動部』と捉えての話なら的外れな回答ではないだろう。

そう思っての発言だった。

ところが、

「いやそうじゃない。自分で考え、自分で行動する。そんなプラモデルだよ」

「……へえ、もしそんなものが作れて、それを投稿できたら優勝間違えないだろうね」

まさか轟雷を見られたか?

いや、この手の物を好んでいることは彼らは知っている。

それに轟雷は素直で大人しい娘だ。

人前で無闇に動かないだろう。

「それを『フレームアームズ・ガール』っていうらしいんだが」

「えっ!?」

まさにそれを考えていた事が災いし、驚いた声を出してしまった。

「知ってるんだな?」

「……あ~」

これ以上知られるわけには行かない。

少し不自然になるが、教室を出ようと動き出そうとした瞬間だった。

「だったら話が早いわね、早く轟雷を出しなさい!!」

戦勝(せんしょう)のバックから何かが飛び出し、そう叫んだ。

「……スティレット」

「何よマスター。こいつらも事情を知ってるんでしょ?

なら問題ないはずよ」

戦勝(せんしょう)が頭を押さえながら、恐らくその娘の名前を呼んだが、言うことを聞いてはくれないようだ。

だが、これは轟雷を出さなければ収拾がつかないだろう。

「轟雷、出てきても大丈夫みたいだ」

「分かりました、マスター」

そう言って轟雷は出てきてくれた。

そしてじっとスティレットを観察してみた。

身長は轟雷と変わらないから約十五センチ程。

髪は水色のツインテールと、黄色で短髪の轟雷とは違う印象を与える。

「あなたはスティレットと言うのですか」

「そうよ轟雷。よろしくね」

そう言って握手を交わす。

悪い関係にはならないようだ。

「じゃあ早速バトルしましょう」

「え?」

いきなり何を言い出すのだ、この娘は。

そういう感じだった。

「スティレット、待て」

「私は犬じゃない!!」

戦勝(せんしょう)の言葉にスティレットが反論する。

「今すぐ戦わきゃいけないって訳じゃないんだろ?」

「そりゃそうだけど、戦わきゃ私達が送られた意味がないじゃない」

「ちょっと待って、ひとまず聞きたいことが二つできた」

戦勝(せんしょう)達の会話を遮る形で僕は介入した。

「まず、私達って言ったけど他にもフレームアームズ・ガールがいるのか?」

「当然じゃない。でも、工場からの審査が終わってロールアウトされたのは二機だけよ」

その片方が私達よ、とスティレットが自慢げに語る。

これでまた質問が増えてしまったが。

「フレームアームズ・ガールって戦うことが目的なのか?」

「それは少し違うわ。『戦うこと』は合ってるけど、戦う相手は轟雷、あなたよ」

そう言ってビシッと轟雷を指差した。

「轟雷との戦闘データ、研究所が欲しがっているのはまさにそれよ」

何故だろう、質問する度、謎増える。

よし俳句みたいになったぞ、と少々現実逃避をしたところで、

「この場で戦うのか?」

「そんな訳ないでしょ?バカなの?」

「おい戦勝(せんしょう)、お前のお子さん、口が悪すぎるぞ」

「こっちも人格形成中なんだ、我慢してくれ」

戦勝(せんしょう)も苦労しているようだ。

「FAファクトリーから装甲(アーマー)とセッションベースが届いてるでしょ?」

「届いてたっけ?」

「私は知りませんよ、マスター」

だよね、と会話する僕と轟雷。

「そんな訳ないでしょ?」

「落ち着けスティレット」

「落ち着ける訳ないでしょ!!」

俺の予想を言おうか、と戦勝(せんしょう)が前置きしてから、

「恐らく今日、俺たちが学校に行ってる間に届いたと思うんだが?」

「何でそう思うの?」

「まずこいつらが戦えることを知らない。それに轟雷は装甲(アーマー)を着けていない。だから、届いていない、もしくはまだだと思ったんだが?」

「「「……」」」

なるほど、それならば知らないのも無理はないだろう。

と言うかに利にかなっているだろう。

スティレットもそう判断したのか反論しないでいる。

「じゃあこの後家に来てみるとして、最後。後もう一人のフレームアームズ・ガールは?」

「バーゼラルドって娘よ。あの娘ズボラだから自分のマスターにも説明してないかもしれないわね」

「ちゃんと説明したもん~」

どうだか、と言うスティレットと見慣れない白い娘に、

「「なんかデジャヴじゃね?」」

つい先日の鷲翔(しょうが)の登場と被るのは何故だろうか。

「……アンタ、マスターは?」

「置いてきちゃった~」

「なに考えてるのよ!!」

勝手に動き回るなんて、と大喧嘩が発生した事は言うまでもない。

『必要以上に知られてはいけない』は一体どこへ行ってしまったのだろう。

「えっと、バーゼラルド。君のマスターはどんな人?」

戦勝(せんしょう)が持ち主に返すべく、持ち主を尋ねる。

「えっとね、ここのサークルの人だよ~」

「ここの?」

同じサークルにフレームアームズ・ガールを送ったのは、対戦データを取りやすくするためだろう。

これで候補はかなり絞られた。

「アンタ、装甲(アーマー)はどこ行ったのよ?」

「まだ出来上がってない」

もう持ち主は分かった。

戦勝(せんしょう)がスマホを取り出すと、

「もしもし、なにか探し物してるだろ?いつもサークルで使ってる部屋にいるから今すぐ来て」

それだけ伝えて切った。

それから数分後。

「やっと見つけた……。勝手に動き回らないで」

息も切れ切れに、到着したばかりの人間、右烏(ゆう)がそう言った。

「動いてないもん~、ずっとこの部屋にいたもん~」

バーゼラルドはぶりっ子のような話し方をする。

「スティレット、よろしいですか?」

「何よ?」

「なぜバーゼラルドはあんなにイラッとする話し方をするのですか?」

「おい紅狼(くろう)。お前のところの娘も大概だぞ」

「その言葉は聞こえない」

なるほど、轟雷はああいった話し方はお気に召さないようだ。

特にあのような話し方をする予定はないが、心に止めておこう。

「そう言えば鷲翔(しょうが)は?今日は見てないけど……」

言われてみれば確かに、と全員が思った。

と言うか、今この場を見られるのは非常に不味い。

何故ならフレームアームズ・ガールが三機も外に出ているのだ。

いくら小さいとはいえ、見つかるのは必然だろう。

そう考えていたとき、三人のスマホが鳴った。

見てみると、その鷲翔(しょうが)から、

『今日からしばらくサークルを休む。作品を見るのはいいけど、壊さないように』

と言う旨の内容だった。

「……今から僕の家に来てみる?」

二人と二機の同意も得たところで、僕たちは帰宅することになった。




FAガールを作りたいな、と思ってしまいますね、アニメを見ていると。
前書きの遅れていると言うのは内容の事です。
予定では轟雷とスティレットの戦闘シーン(アニメ一話のBパート)に到達しきれなかったと言うことです。
今回前後書きがいつもと違うと思いますが、正直に書きます。

書くことが思い浮かびませんでした。

とりあえず月1ペースで投稿していこうと思います。
御愛読お願いします(楽しみであれば、ですが。また問題発言ですね、気を付けます)


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スティレットが飛ぶ日

やっと戦闘に突入しました。


「お邪魔します」

「はいどうぞ」

戦勝(せんしょう)を自分の部屋に上げながら、

戦勝(せんしょう)の言うとおりだったね」

そう言いながら机に段ボールを置く。

送り先は『FA(エフエー)ファクトリー』、轟雷を送ってきたところだ。

早速開けてみると、中には手紙と六角形の板、そしてまたも箱。

その箱の中には茶色いランナーが複数入っていた。

「これに間違えないわね」

スティレットが覗き込みながらそう言った。

「なるほど、これを組み立てて私に装着、戦うのですね?」

「そうよ、物分かりがいいわね」

「轟雷は賢いね」

そう言って頭を撫でると、嬉しそうな顔になる。

その表情を見ていたスティレットが、

「アンタ、本当にいい人に巡り会えたわね」

「はい」

轟雷は力強く頷いた。

スティレットを含み、その様子を見ていた全員が笑顔になった。

その時、チャイムが鳴る。

「おっ、右烏(ゆう)が来たか?」

そう言って立ち上がると、玄関に向かっていった。

ドアを開けると、予想通り右烏(ゆう)が立っていた。

片手にさっきのランナーが入った箱を抱えてだ。

「ごめん、遅くなった」

「いいよ、気にしてない」

そう言って中に招き入れる。

右烏(ゆう)だったか?」

「ああ、そうだったよ」

「遅れた」

それぞれが各々が挨拶をすると、テーブルに着く。

「まず二人は装甲(アーマー)の組み立てだな。そっちは一人で大丈夫だろ?」

後半は僕に向けて戦勝(せんしょう)はそう言う。

もちろん、とばかりに頷くと、

「じゃあオレは右烏(ゆう)の手伝いをするよ、パーツを破損させないようにな」

それぞれが納得したところで、作業に取りかかる。

が、ずっと黙々と作業しても集中力が続かない。

それは全員が知っており、

「なあ、スティレット……であってたよね?」

スティレットがええ、と答えたのを確認してから、

「パーツを無くしたらどうすればいいんだ?」

「もうやったの?」

「いややってないよ、万が一っていうのに備えようと思ってさ」

そう、とスティレットが呟いてから、こちらに来て、取扱説明書を見ながら、

「確かこの辺に……、あああったわ。ここにランナーの番号を送れば数日後に届くわ」

でも日にちがかかるからオススメはしないわ、と付け足したので、

「だってさ、右烏(ゆう)

「分かってるよ!!」

強い口調でそう言い返された。

(そっちがその気なら、対戦では手加減しないぞ)

そう心に決めた。

そして会話、給水や食事休憩を挟みながら轟雷とバーゼラルドの装甲(アーマー)が完成した。

時間はなんと、十一時半。

全員が道理で眠たいわけだ、と理解したところで、

「もう寝ようか、今日は泊まるかい?」

寝ることを決めた。

無論、疲れていたこともあって二人とも同意、早速布団を敷こうとするが、

「ちょ、ちょっと待ってよ。装甲(アーマー)が完成したなら戦わせてよ」

スティレットが異論を唱えた。

「でも、もう日を跨ぐし……」

「だからこそよ」

「スティレット、何をそんなに急いでいるんだ?

困ることでもあるのか?」

急かすスティレットに疑問を抱いた戦勝(せんしょう)が問いかける。

「いや、困ることはないんだけど……」

スティレットが口ごもりながらそう呟いた。

チラチラと時計を見るところ、何かを今日中にしないといけないようだ。

いや、『何か』は分かっている。

フレームアームズ・ガール同士を戦わせることだ。

「なあ、スティレット。どうして今日中に戦わないといけないのか、教えてくれないか?」

スティレットは「うー」と唸るが、

「……今すぐ戦わせてくれたら、教えてあげてもいいけど」

結局は戦いたいのか、どうやら好戦的なようだ。

「轟雷……」

スティレットと戦ってもらってもいいか、と言おうとしたとき、

「マスター。今取扱説明書を読み終わりました」

さあ早く、これに装甲(アーマー)を、と武器ラックと充電君を差し出してきた。

さっきからやけに静かと思っていたら、熟読していたようだ。

まあ、轟雷がやる気ならばいいか、と戦闘準備に取りかかる。

「マスター、こっちも準備をお願い」

「まあいいか、どう戦うか見てみたいし」

戦勝(せんしょう)側もすぐに準備を始める。

「えっと、俺たちは……」

「観戦だね~」

右烏(ゆう)の言葉に、あっけらかんとバーゼラルドは答える。

 

「戦闘準備完了よ」

「こちらもです」

少々準備に時間がかかってしまった。

まさか専用アプリが必要だったとはスティレットも知らなかったのだ。

お陰で十分前になってしまったが、これで戦うことができる。

「じゃあ行くわよ轟雷」

「了解ですスティレット」

「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」

その一言で二人が乗るセッションベースから光の柱が出現、少し上で異空間を組み上げる。

スマホの画面を見ると、そこには荒野に立つ轟雷とスティレットの姿があった。

『行くわよ轟雷、負けないんだから』

『私に勝つつもりですか、スティレット』

(いや、お前さっき取扱説明書読んだばかりだろ)

全員が思った。

次の瞬間、スティレットが垂直に上昇した。

「えっ、スティレットって飛べたの?」

「バーゼも飛べるよ~」

紅狼(くろう)の言葉に、今度はバーゼラルドが反論した。

上昇したスティレットは大きく宙返りすると、前進しつつ進行方向に、それも轟雷がいるところを一直線にガトリングガンを発砲する。

『くっ……』

轟雷は真横に飛び退き、弾丸は居たところを真っ直ぐに通りすぎていった。

『逃がさない!!』

スティレットは着地しながら体を捻り、左腕を突き出すと、装甲(アーマー)に取り付けられたミサイル二発を発射、轟雷を追尾し始めた。

「轟雷っ!!」

『この程度、問題ありません!!』

轟雷はそう言うと右肩で担いでいたフリースタイル・バズーカの銃口を下に向け発砲。

当然地面に着弾、その際に砕けた石などがミサイルとぶつかり誘爆させた。

「上手い」

『まだまだぁ!!』

その爆風からスティレットが轟雷めがけて飛び出した。

なんとあの爆風を突っ切ってきたのだ。

その手には先ほどのガトリングガンではなく、日本刀が握られていた。

そして日本刀で轟雷の真っ正面から左側に切り抜ける。

「轟雷っ!!」

思いっきり金属音が響いた。

どう考えてもぶった切られたと思ったが、

『……大丈夫です、マスター』

少し危なかったですが、と言う轟雷。

よく見るとスティレット同様、手にはナイフが握られていた。

刃の部分が震えているところを見ると、そこで受けたようだ。

耐久値が少し引かれているので、恐らくかすったようだ。

だが、轟雷はすぐにスティレットに反撃を試みる。

背中から右肩にかけて展開されていた滑空砲をスティレットに向けて発砲。

だがスティレットはスラスターを使い加速、弾丸を回避する。

そしてまた轟雷めがけて突進、切り抜ける。

今度は右に飛び退きながら日本刀の一撃を回避する。

続けざまに滑空砲を発砲、今度は三発撃つ。

 

(このままじゃ、キリがない)

切り抜け、回避、滑空砲、回避、先程から同じ流ればかりだ。

現状耐久値はスティレットの方が上だが、時間切れがない以上、いたちごっこでは意味がない。

(とにかく、もう一度仕掛ける。間違っても右向きには切り抜けない)

轟雷の右側には滑空砲、もし受け止められてしまえば至近距離からの一撃をまともに喰らってしまうことになる。

そうなれば、現在の『耐久値の優位』など簡単に消し飛んでしまう。

スティレットはまたも大きく宙返りしてから、滑空する。

その様子を見ていた轟雷も、

「このままでは、キリがありません……」

スティレットと同じ事を口にした。

スティレットの突撃切り抜けを受け流すのでは滑空砲は当たらない。

少し危険だけど……。

覚悟を決めると、突撃してきたスティレットの日本刀を受けつつ左へ、つまりスティレットの進行方向へ飛び退いた。

「なっ……」

当然起こる事態は衝突事故。

だがお互い少量の耐久が消えつつも、その後起きた事態は少々異なった。

まず事故を想定していなかった上に、踏ん張りの利かない空中にいたスティレットはバレルロールのような機動を描きつつ地面に激突、さらに耐久がなくなってしまう。

一方で轟雷の方は、本来移動に使うキャタピラーを使うことで飛び退きを最小限に抑えることに成功。

即座に右足をスティレットの飛んだ方向へ向ける。

そうすれば滑空砲は最短でスティレット相手に構えることができるからだ。

起こった事態と轟雷の目的の把握したスティレットはすぐさまその場を離れようとするが、

「逃がしません」

それより先に滑空砲が着弾した。

大きく耐久を失い、さらに衝撃で地面を転げたためにさらにまたわずかに失ってしまった。

だが、転がっている中上手く体を捻り、前転運動に変える。

そしてそのままジャンプし、再び飛行に移行する。

お陰で追撃の滑空砲の回避に成功する。

スティレットは大きく旋回、轟雷も狙いをつけきれずにスティレットと見会うこととなった。

「くっ、私としたことが……」

『大丈夫か、スティレット⁉』

「マスター⁉ええ、大丈夫よ。……マスターに心配かけちゃった」

スティレットが申し訳なさそうな表情を作る。

『轟雷、すごいじゃん』

「ありがとうございますマスター」

轟雷の方は嬉しそうな表情だ。

そしてスティレットの方に向き直ると、

「スティレット。あなたはマスター達に喜んで欲しかったのではないですか?」

「そうね、喜んで欲しいわ。……でもそれだけじゃない!!」

そう叫んだスティレットは移動しながらガトリングガンで発砲していく。

先ほどのようなハイリスクハイリターンは捨て、堅実に耐久を奪う作戦に切り替えたのだ。

轟雷もキャタピラーを展開し、スケートをするような動きでガトリングガンを回避する。

「それだけじゃないわよ!!」

一度ガトリングガンを止め、再装填された左腕のミサイルを発射、またガトリングガンで追撃を始める。

誘導や速度の違う二つの射撃、これもスティレットの強みのようだ。

それでも轟雷は回避や相殺、あわよくば反撃を仕掛ける。

だが弾幕の違い過ぎて、反撃が上手くいかない。

ミサイルを狙う体でスティレットを撃っても、ガトリングガンで誘爆されられてしまう。

それ以前に轟雷には飛行能力がない。

それに轟雷には滑空砲以外の遠距離武装はフリースタイル・バズーカしかない。

そんなもの構えようものならすぐさま蜂の巣である。

「私は負けない、マスターのためにも!!」

スティレットはそう叫んだ。

 

「マスターのためって言ってるけど何の事?」

「ゴメン、俺も何がなんだか……」

スティレットの言葉の意図を掴めないようだった。

 

(何か、何か手は……)

辺りを見渡すが、遮蔽物になり得そうなものはない。

と言うか、地上同士の対決ならともかく空中相手には遮蔽物など意味を成さない。

上を飛び越えてしまえばいいだけの話だからだ。

(飛び越える……、そうか)

轟雷は近くにある手頃な大きさの遮蔽物の裏に隠れた。

が、すぐにスティレットがその遮蔽物を飛び越えると、

「甘いわよ、轟雷!!」

ほぼ真上からガトリングガンを発砲、再び轟雷の足を動かさせる。

轟雷はまたも遮蔽物の裏に隠れる。

「同じ事を何回も……」

スティレットも同じく障害物の上を飛び越え、

「捕まえました」

「えっ⁉」

唐突に眼前に現れた轟雷と激突、そのまま捕まった。

(えっ、どういう事?轟雷に飛行能力がないはず)

スティレット一人のスラスターでは轟雷まで支えきれず、落下していきながら、状況を把握しようする。

目に入ったのは遮蔽物の裏の爆発後と、垂直に何かがかけ上がった後、ついでに何かが墜落する音。

(……そうか分かったわ。遮蔽物に隠れることが目的じゃなかったんだ)

そう、轟雷は隠れたのではない。

遮蔽物の裏に回ると同時に、フリースタイル・バズーカの銃口を地面に押し付け、両足を遮蔽物と垂直にあわせて簡易的なカタパルトにしたのだ。

途中でもう一度、バズーカを撃って方向調整し、投げ捨てたのが、墜落するしただけだ。

いや、どっち道このまま行けばこっちも墜落するのだが……。

「これで、どうですか?」

絶対喰らうまいと決めていた至近距離からの滑空砲が直撃、そのまま地面に叩きつけられた。

これで一気に耐久を落とされた。

その衝撃ですぐに立ち上がれないスティレットの近くで、

「負ける準備はできていますか、スティレット?」

フリースタイル・バズーカを構えた轟雷が立っていた。

滑空砲の反動で上手く着地に成功していたらしい。

「もういいわ、私の負けよ……」

なんとも清々しい負けだ。

こういう負け方なら悪くない、スティレットはそう思った。

 

「マスター、ごめんなさい。負けました」

セッションベースから戻ってくるなり、スティレットは戦勝(せんしょう)に頭を下げた。

「それよりも負けられない、ってどういう事?もしかして負けたら戻らないといけないのか」

いや、そう言う訳じゃ……、スティレットはそう断言する。

「だったら何で戦おうとしたかの理由を聞いてもいいか?」

「それならすぐに……」

スティレットの言葉を遮るように、紅狼(くろう)戦勝(せんしょう)のスマホが同時に鳴った。

見てみると、宛先『FAファクトリー』から、また長ったらしいメールが届いていた。

が、二人の口から

「えっ⁉」

と言う言葉が飛び出るまでそんなに時間がかからなかった。

ついでにスティレットが急かしていた理由もだ。

「スティレット、これが目的だったのか?」

ええ、と胸を張ってスティレットが答える。

メールの内容は、

「戦闘データ収集の協力、ありがとうございました。

協力のお礼に以下の金額を口座に振り込ませてもらいます」

と言うもの。

「一応協力してもらうんだから、ファクトリーから謝礼金が出るの」

「……そうだったのか」

「えっと、後伝えないといけないのはっと」

そう言って説明を始める。

まずフレームアームズ・ガールの対決で謝礼金が出る。

その謝礼金は勝敗によって左右する。

そしてある程度のバッテリーがなければ戦えず、決着が着かなければ報償金が貰えないと言う事。

「こんなものね」

「なるほど……」

それに負けられないと言うのは少しでも多くの金銭を戦勝(せんしょう)に渡したかったようだ。

「スティレット、ありがとうな。でもそういうのを気にしなくてもいいぞ」

はい、とスティレットは嬉しそうに返事をした。

「ところでもう寝ないか?」

紅狼(くろう)はそう切り出した。

ついでにもう十二時を回っていた。

「じゃあ今日はもう寝よう、明日は休みだからゆっくりできるし」

「じゃあ今日は泊まらせてもらってもいいか?」

戦勝(せんしょう)達の言葉に断る理由などない。

「ちょ、ちょっと待ってよマスター。私たちは充電君がないと……」

「ここにありますよ?」

「それアンタ一人の分でしょ、私たちのがないじゃない!!」

わあわあ騒ぐフレームアームズ・ガール達を見てから、

「ちょっと部屋に取りに行ってくるよ」

「ついでに何か食べ物でも買ってくるよ」

そう言って戦勝(せんしょう)達が部屋を出ていく。

それから飲み食いをしてから、三人で同じ部屋で寝ることとなった。

結局は泊まりになったが、これからは楽しくなりそうだ。

そんな思いが全身を走り回っていた。




思いの外、戦闘シーンで文字数を使いました。
戦闘シーンを作るの、向いてないのかな?
ちなみに戦闘を行った場所は、アニメ一話の戦闘シーンと同一と考えてもらえば、分かりやすいと思います。


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バーゼラルドが落ち込む日

文字数が多いのにポンポン投稿してます。
理由は簡単です。
他の作品を全く手をつけてないからです(オイ)


「ねえ、次はバーゼも戦いたい!!」

先日の熱い戦いの次の日、と言いたいが、実際には八時間後。

目を覚ますと、バーゼラルドが騒いでいた。

どうやら轟雷とスティレットの戦いに当てられたようだ。

「マスター、どうにかならない?」

「私たちでは抑えられません」

スティレットと轟雷もなんとかしようとしてたみたいだが、全く抑えられてないのが現状だ。

正直寝起きで戦いは若干キツいものがあるが……。

さてどうしたものか、と考えていると、

「バーゼラルド、充電は終わったの?」

右烏(ゆう)がそう言った。

そう、人間が食事を取るように、フレームアームズ・ガール達は充電を取る。

「バーゼ戦ってないから、減ってないんだよ~」

人は動かなければあまり食事を取らないが、フレームアームズ・ガールも一緒のようだ。

「バーゼ、俺達飯を食ってからでいいか?ちょっと腹が減ってるから」

バーゼラルドのマスター(もちぬし)である右烏(ゆう)がそう提案してきた。

 

朝食後、バーゼラルドの要望通り、戦う事となった。

昨日の轟雷とスティレットのように、セッションベースを連結、充電君にそれぞれの武装と装甲をセットする。

「言っとくけどバーゼ、超強いからね」

「どんな相手でも負けません!!」

セッションベースに乗ったバーゼラルドと轟雷が言葉を交わす。

「スティレット、この戦いはどう見る?」

「そうね、少なからず轟雷の方が不利ね」

今回観戦になったスティレットが解説する。

「バーゼラルドは私と同じ空中戦型のフレームアームズ・ガールよ、前回の私と同じような感じになると思う」

なるほどと思いながら、バーゼラルドの充電君を見る。

充電君に着いているのは大型の装甲。

両肩から大型スラスター、さらにそこから伸びるサブアームが武装のようだ。

そのサブアームは左右で形状が異なっており、恐らくではあるが、武装が異なるのだろう。

そして大型スラスターにキャノン砲が取り付けてあり、両腕にもスラスターと同じものを持っている。

恐らく射撃武器なのだろう。

「バーゼラルドは私と同じ飛行型だけど、武装構成はどっちかと言えば轟雷に近いわね」

「もうスティレット、ばらさないでよ~」

せっかく驚かせようと思ったのに~、とバーゼラルドは文句を言う。

この『驚き』はこの後で、とんでもない方向で起こることをバーゼラルドは知るよしもなかったが……。

「何よ、アンタは昨日ので轟雷の戦い方分かってるんでしょ?」

なるほど、それも不利の一つだ。

こっちはバーゼラルドの武器についてヒントをもらったが、具体性は皆無だ。

「まあ前置きはこの辺で」

「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」

 

今回のバトルステージは草原。

立っているところには遮蔽物こそないが、少し動けば湖、ほぼ反対側には森林になっておりそれなりに充実している(フレームアームズ・ガールが湖に飛び込んだらどうなるかは検討がついてるが)。

「轟雷、いっくよ~」

既に上空に上がったバーゼラルドが両手の銃を轟雷に向けて引き金を引く。

銃口から飛び出したのは弾丸ではなく、黄色いレーザー。

それが二発同時に轟雷へ飛来する。

轟雷は左へ移動して、脚部のキャタピラーを展開、即座に移動した。

原因は簡単だ。

レーザーが唐突に曲がったからだ。

撃ち抜いた位置は轟雷の立っていたところから左、つまりキャタピラーを使わなかったら直撃していたところだ。

 

「やっぱり面倒ね、あの武器」

「スティレットから見ても厄介なんだ」

戦勝(せんしょう)の言葉にスティレットはええ、と答えると、

「あれは『セグメントライフル』。途中で軌道を変えられる曲線レーザーを撃てるの」

あの両肩に付いてるのも同一のもの、と解説してくれる。

「ってことは弾切れは無いってことか」

「あるとは思うわよ?でも一気に二十発が飛んできたときがあったわね」

その時は怖かった、とスティレットが遠い目で言う。

(そりゃ怖いだろう)

と全員が思った。

ただ現状、弾切れを待っている余裕はなさそうだ。

比較的弾速が遅いレーザーだが、それを曲げることで当てにくさを補っている。

そしてどこで曲げるのか検討もつかない以上、いつかは当たってしまうだろう。

それに次々と連射するバーゼラルドを見ていると、弾切れはしばらく起きなそうだった。

 

(なるほどこれがバーゼラルドの戦術)

次々飛来するレーザーを回避しつつ、轟雷はそう判断した。

いくら遠距離を撃ち抜けるレーザーと言っても、限界距離ぐらいはあるみたいだ。

時折左から回り込むような移動を挟みながら、攻撃を続けてくる。

その際、スラスターのものと取り替えて、弾切れの隙を減らすという小細工も仕掛けてだ。

(正直侮りましたね)

普段のぶりっ子な話し方からずぼらな戦術と鷹をくくったのが不味かったらしい。

そして轟雷自身の手の少なさも問題だった。

現状移動しながら攻撃できるのは滑空砲のみ。

その滑空砲も、レーザーで誘爆させられてしまう。

しかもレーザーは消えないので、一方的になってしまう。

森林に飛び込むように隠れながら、バーゼラルドの様子を伺う。

すると、妙な事に気付く。

バーゼラルドが森林ではなく、自分の装甲を見ていた。

(完成度の高さに惚れ込んでいるのか)

と思ったが、思い込んだような表情なので恐らく違う。

 

「バーゼラルド、やっぱりおかしいわね」

全員が、

「えっ!?」

と声をあげる。

「そもそも挙動がおかしいのよ。あの娘は最高速度とかは私を上回る。小回りは私の方が上だけど、左旋回しかしないのはおかしいわよ」

言われて見れば、バーゼラルドは移動は全て左旋回のみ。

右旋回はおろか、直線移動すらしていない。

「確かにおかしいな」

追いかけるならば、最短距離の直線移動の方が優れている。

旋回移動はせいぜい撹乱や攻撃中に前に出るとき位だろう。

ならば一体何があったのだろうか、その答えは試合の後でバーゼラルドに聞いた方が早いだろう。

そう判断して、画面に向き合った。

 

轟雷が森林に隠れてからは、バーゼラルドはその上空を左旋回でぐるぐる回る。

上空から獲物を探す鳥のように。

その様子を木の下からチラチラと覗きながら、轟雷は対策を考えていた。

まず攻撃だ。

確かに実弾のこちらは、レーザーで撃たれると誘爆させられる。

だが、近くで誘爆すればダメージは与えられるだろう。

問題はどうやって近くで誘爆させるか、だ。

前のスティレット戦で見せた簡易カタパルトをできなくはないが、枝に引っ掛かって大きく減速する。

その上、上空は向こうの領域だ。

下手にそこへ行けば、蜂の巣にされるのがオチだろう。

地上付近まで寄せさせるのが得策だろうが、まず失敗するだろう。

何せ向こうには遠距離攻撃可能なセグメントライフルがある。

それに加えて、轟雷は地上戦特化だ。

私がバーゼラルドの立場なら絶対行かない。

それに加え、そのセグメントライフルも厄介だ。

恐らくバーゼラルドの技術で曲げているのだろうが、どこで曲がるか、検討がつかない。

せめてもの救いは、九十度も曲がって追ってこない事だ。

目測ではあるが、せいぜい十五度程度であろう。

弾切れさえ起こしてくれれば楽になるが。

使うのは四丁ある内の二丁しか使わないので、消耗も少ない。

また、話し方や性格とは裏腹に慎重に戦うようだ。

その証拠に森林に隠れた轟雷を探すだけで、攻撃を仕掛けてこない。

単純な性格なら、あぶり出すために武装を乱射、弾切れで反撃というパターンに陥るが、バーゼラルドはただ探すのみ。

当然弾丸の消費はない。

それどころかエネルギーの充填され、弾切れとは真逆の結果になる。

時間も味方してくれない現状、ただ木の隙間からバーゼラルドを見上げるのみ……。

「あっ……」

何かに気付いた轟雷が、音を立てないように移動し始めた。

 

「う~ん、見つからないな~。轟雷、どこに行ったんだろ~」

上空を旋回しつつバーゼラルドは轟雷を探す。

セグメントライフルのエネルギーも満タンになったので、あぶり出しの発砲を行うのもいい。

いいけど……、

そう考えてバックパックの右側を見る。

気にしないつもりだが、一度気になると中々意識がそこから離れない。

あまり時間をかけても仕方ない、あぶり出そ~。

そう判断し、バックパックのセグメントライフルを両手に転送しつつ一時停止、射撃を始めようとした時、

「うん?」

自分の旋回していた丁度中心辺りから、何かが飛び出した。

それは轟雷のフリースタイル・バズーカとすぐに分かった。

(どこを狙ってるんだろ~)

と思ったが、まあいいやとすぐに思考を切り替える。

フリースタイル・バズーカに自動発射能力などない以上、轟雷の居場所は分かったのだ。

そこを撃つ。

無論もう移動しているだろうからその周辺も攻撃だ。

狙いを定めて引き金を引こうとしたとき、またもバズーカの弾丸が飛んできた。

しかも全く同じ場所だ。

不思議に思い、視線を動かす。

見えたのは下から上に飛ぶ弾丸と、真上から落ちてきた弾丸。

「えっ」

と言うと同時にバーゼラルドの体は爆風に包まれた。

 

「今一体何が起こった!?」

見ていた全員がそう叫んだ。

そして爆風の中からぐるぐると回転しながら飛び出すもの。

無論バーゼラルドだ。

そのまま地面に激突せず、何とか空中で体勢を整える。

が、そこを森林から滑空砲が矢継ぎ早に襲い掛かる。

即座にバーゼラルドは距離を取りつつ上昇する。

そのバーゼラルドの耐久は六割ほどが失われていた。

「そうか、轟雷も考えたわね」

「スティレット、一体どういう事?」

スティレットの言葉に、戦勝(せんしょう)が尋ねる。

「轟雷は二発のバズーカを撃ったわね」

それはなんとなく理解できた。

問題はその後の爆発だ。

「一発目は真上に撃った。けど推進力が無くなればそのまま真下に落ちてくるわ」

それも分かる。

運動エネルギー云々の細かい話は忘れたが、その辺が関係するのだろう。

「で、それを真下から同じものを撃ってるわ」

そこでようやく起きた出来事を把握できた。

バズーカ二発を誘爆させたのだ。

そうすれば爆風が空中で広がり、それがバーゼラルドのいる位置まで届いたのだ。

 

(あっぶなかった~)

けして油断していたわけではない。

が、虚を突かれた事には変わりない。

それどころか、避けたとはいえ追撃すら許したのだ。

だが不味いのはそこではない。

圧倒的不利なのは間違えなくこっちだ。

何せ轟雷には着弾していない。

つまり耐久はほとんど削れていない。

対してこっちは半分以上をごっそり持っていかれた。

元々低耐久だったのに加えて防御できなかったのが原因だ。

最も防御したところで半分に抑えられた程度なのでどっこいどっこいではあるが。

(落ち着かなきゃ、まだ逆転できるハズだもん)

滑空砲を上昇しながら回避しつつ、バーゼラルドは反撃の手を考える。

もはや一か八かの一手しかない。

そう判断し、見極めに入る。

ベストな距離は滑空砲が届かず、こっちの大技が打てる距離。

この際射角は無視、上下逆さまでも撃てる以上問題はない。

やはり左旋回しつつ上昇、その距離に到達する。

そのまま轟雷に向き直る。

轟雷も滑空砲では届かないと悟ったらしい。

もうフリースタイル・バズーカを構えている。

 

空中で両手と大型スラスター、サブアームを轟雷へ向ける様子を見ていたスティレットが、

「バーゼラルド、あれをやる気ね」

「あれ?」

「バーゼラルドの切り札よ。ド派手で威力もある、当てればもう一度戦況をひっくり返せるかも」

スティレットがそう言うと、

『フルバーストモード!!』

その一言で大型スラスターに取り付けられていたセグメントライフルが浮いた。

いや、正しくはセグメントライフルが付いたパーツが浮いたのだ。

ついでに言えば、左のサブアームも展開されていた。

『いっけぇ!!』

四丁のセグメントライフルと両サブアームからそれぞれレーザーが射出される。

それぞれが五、六発に別れて轟雷に襲い掛かる。

次々飛来するレーザーと「バキッ」と言う妙な音。

バーゼラルドを見ると、バックパックの右側がどこかへ飛んで行き、

「うわあぁ!!」

と悲鳴をあげながら滅茶苦茶な軌道を描きながら落下していく。

吹き飛んだ右側から出ていたレーザーはともかく、右側の浮遊パーツから出ていたレーザーも変な軌道で明後日の方向へ飛んでいく。

無論両手のセグメントライフルもまた別の方向へ飛んでいく。

まともに捉えていたのは左側の浮遊パーツのみだが、五本程度ならば避けることは難しくない。

轟雷はキャタピラーを使い、レーザーを避けきる。

そして「バッチャン」と言う何かが着水。

湖の一部から波紋とブクブクと言う泡、そして真っ直ぐ上に伸びた腕が沈んでいく。

その間にもバーゼラルドの耐久は削れていき、零になってしまった。

「WINNER 轟雷」

と言うウィンドウと沈んでいったバーゼラルドを代わる代わる見ながら、轟雷は複雑そうな表情を浮かべていた。

「……今のなに?」

「私が訊きたいわよ……」

今起こった事態の把握できていなかった全員から唯一声を出せた紅狼(くろう)に、唖然としていたスティレットが呟いた。

 

「きゅう~」

バトルステージから戻った轟雷とバーゼラルドだったが、バーゼラルドは完全に伸びていた。

目を回しており、しばらくは起きそうになかった。

「……轟雷、最後何が起きたか分かる?」

「すいません、私もよく分からなくて……」

とりあえず意識のある轟雷にスティレットが話しかけるが、やはり轟雷も分からないらしい。

「僕にはパーツが外れたように見えたけど……」

「奇遇だな、俺もだ」

とりあえず起きた事態を把握するべく、起きたことをそのまま口にすると、戦勝(せんしょう)が乗ってくれた。

「なあスティレット、戦闘中にパーツが折れるってことはあるのか?」

「……無いことも無いと思うわ。ただ相当消耗した部分ならともかく」

「作りたてがなる可能性は零に近い、か」

スティレットと戦勝(せんしょう)は会話しながら充電君とそれにつけられた装備に視線を向けていた。

充電君はオロオロしながら何とか外れたパーツをくっ付けようとやっていた。

「なあ充電君って修理できるのか?」

「無理だろ、どう考えても」

むしろ挙動がすごく人間臭い。

人間が小さくなって入っている、と言われても信じてしまいそうだ。

「……なあ充電君、ベットモードになって、バーゼラルドを寝かせてやってくれないか?」

修理は俺達がやるからさ、と戦勝(せんしょう)が声をかける。

充電君は前に倒れるように頷くと、バーゼラルドの元に走っていくと、指示通りベットモードになった。

右烏(ゆう)が充電君にバーゼラルドを乗せると、苦悩していた表情が少し緩んだように見えた。

「さて俺達は原因の究明に努めようか?」

戦勝(せんしょう)の言葉に紅狼(くろう)は頷くと、パーツの確認から始める。

 

それから数分後。

「はっ!!」

っと言いながらバーゼラルドが目を見開き、起き上がった。

「バーゼラルド、気がついたの?」

「うん、バーゼ変な夢を見たの」

スティレットがへぇ、どんなと尋ねると、

「うんとね、轟雷と戦って、湖に落ちる夢」

「安心しなさい、現実よそれ」

「現実……」

バーゼラルドが悲しそうな顔で呟いた。

「そっか、やっぱり現実だったんだ……。バーゼ負けちゃった……」

そう言いながら立ち上がると、右烏(ゆう)の前に歩いていく。

そして、

「ゴメンねマスター。バーゼ負けちゃった」

「うん見てたよ。でも、気にしないで」

右烏(ゆう)も優しい口調で答える。

バーゼラルドも「マスター」とキラキラした眼で右烏(ゆう)を見つめる。

「あ~、感動的なところ申し訳ないんだが……」

戦勝(せんしょう)がそれに割り込む。

「どうした?急な用事でも思い出した?」

「いや、そうじゃなくて……。バーゼラルド、今の試合、お前は悪くない。一番悪いのは右烏(ゆう)だ」

全員が「え~!!」と声をあげる。

「これを見てみろ」と差し出したのは、バーゼラルドのバックパック。

外れたところをよく見ると、パーツが浮いている。

そうちゃんとハマっていなかったのだ。

「あ~、だからフルバーストモードで飛んでいったのね……」

スティレットが納得したように呟く。

「ちゃんとハマりこんでなくて、バズーカの爆風でズレが大きくなって、フルバーストモードの負荷に耐えきれなかったのですね」

轟雷も理解したように呟いた。

「つまり今回は、右烏(ゆう)のパーツの造りが甘かっただけで、バーゼラルドに非なんてないんだよ」

もはやビルダー(※プラモデルを作る人)の責任である。

あははっ、と苦笑いしていた紅狼(くろう)だったが、ふと思い出したことで「ん?」と声を出す。

右烏(ゆう)が装甲を作っていたとき、戦勝(せんしょう)が見てたんじゃないの?」

そう、昨日の夜、戦勝(せんしょう)はずっと右烏(ゆう)に付きっきりだったはずだ。

「実はあのバックパックの右肩だけ、既に出来上がってたんだ」

まさかあんな風に稼動するって気付かなくて見落としてた、と申し訳なさそうに言う。

なるほど、それならば仕方ない。

むしろ問題はそのような作り方をした右烏(ゆう)が悪い。

二人と二機が納得したように頷いていると、

「と言う事は、ちゃんと嵌め直せば……」

「無理」

右烏(ゆう)の言葉を遮るように戦勝(せんしょう)が話す。

「変に組み上げてるし、ポリキャップが出ちゃってる以上修理は難しいな」

「無理にパーツを外せば破損する可能性もあるし……」

もうこうなればパーツの申請をするしかないだろう。

「それなんだけど……」

スティレットがいい淀みながら申告する。

「ゴールデンウィーク中は多分ファクトリーも休みだから」

もはや絶望的だろう。

「……右烏(ゆう)、バーゼラルド。申請するのはゴールデンウィークが明けてからにしとけ」

戦勝(せんしょう)が現実を突きつけた。




作品を読んでくださってありがとうございます。
タイトル及び描写から「コイツ、バーゼラルドが嫌いなのか」と思われそうですが、これだけは言わせてください。

バーゼラルドの事は嫌いではありません

それでは次の話でお会いしましょう


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バーゼラルドが立ち直る日

ガンガン更新されていきますね……。
しばらくこっちを主にしていこうかな?


ゴールデンウィーク明け

前日に出されていた課題を協力しながらやっつけて登校してきた朝、右烏(ゆう)は落ち込んでいた。

理由は、バーゼラルドの敗北の原因だ。

自分のパーツの組み方に問題があったせいで、十回以上もの戦闘で一回たりとも勝てなかったのだ。

あまりにぼろ敗けを繰り返すものだから、最初はバーゼラルドを毛嫌いしていたハズの轟雷すら、

「マスター、どうすればバーゼラルドは元気になるのでしょうか?」

等と持ち主である紅狼(くろう)に問いかけていた。

スティレットも同じ空中戦闘型のフレームアームズ・ガールだからか、自分の装甲を貸してくれた程だ。

だが、色々と勝手が違うからか、勝利に繋げることができず、ますます落ち込ませる結果となった。

つまりゴールデンウィーク中、全戦全敗というある意味最悪の結果を叩き出した訳である。

これにはさすがにショックを受けたのか、天真爛漫なバーゼラルドも膝を抱えて大人しくなっていた。

一応充電君に繋いで充電をしたが、元気までは充電できなかった。

仕方がないのでとりあえずサークルで使っている教室に来ると、

「バーゼラルド、迎えに来るまでここで自由にしてていいからね」

そう言って机の上にバーゼラルドを置く。

「この教室には誰も来ないと思うけど、万が一来たらプラモデルのふりをしてごまかして」

未だに膝を抱えたまま、バーゼラルドは頭だけを動かして頷いた。

 

「そっか、バーゼラルドは教室に置いてきたんだ」

たまたま同じ授業をとっていた紅狼(くろう)右烏(ゆう)は隣同士で小声で話をしていた。

「ちょっとどう接していいか分からなくて……。とりあえず自由にさせておいたら元気になるんじゃないかと思ってさ」

右烏(ゆう)の言葉にも一理ある。

と言うのも、あの教室は基本紅狼(くろう)達のサークル以外は使わない。

そして先輩達もあまり立ち寄らなくなった上、よく来る一人である鷲翔も来ないと言う。

つまり立ち入るのは実質三人のみ。

それにバーゼラルドははしゃいだりするが、意外なことに分別がついている。

下手に物に触らなければ、勝手に脱走しない。

イタズラこそするが、それ以上にはならない。

要するに誰もいない教室に置いておいても問題ないのだ。

「……元気になってるといいな」

「うん」

授業中であることを忘れて、どうすればいいかを考える事とした。

無論それで問題がない訳がなく、教師に怒られたのは言うまでもないだろう。

 

その日の夕方

「バーゼラルド、大丈夫かな?」

右烏(ゆう)が不安そうに口にする。

急ぎ足で彼女を置いた教室に向かう。

もう既に紅狼(くろう)達も着いていた。

「遅いよ右烏(ゆう)

「お前が来ないとどうにもならないだろう」

どうやら二人とも待ってくれていた。

そしてそっと扉を開け、中を覗き込む。

そこには落ち込んだバーゼラルド、

「皆待ってたよ~、早くバトルしようよ~」

ではなくスッキリしたバーゼラルドがいた。

「元気になってよかった、か?」

「一体何があったんだ?」

困惑した紅狼(くろう)戦勝(せんしょう)が小さい声で相談した。

「バーゼラルド、一体何があったのですか?」

バッグから出てきた轟雷がバーゼラルドに問いかけるが、

「秘密~」

笑顔でそう返した。

だが、せっかくのバーゼラルドの提案だ。

受け入れた方がいいだろう、彼女の機嫌の為にも。

(轟雷、分かってるね?)

(もちろんですマスター)

視線で紅狼(くろう)は轟雷と会話する。

内容はわざと負けるようにすること、だ。

また機嫌を損ねられては元も子もない。

ならば、わざと負けてでもバーゼラルドの機嫌の維持に勤める。

バックからセッションベースを取り出しながら、そう結論付けた。

右烏(ゆう)もセッションベースを取り出し、接続。

充電君に武装や装甲をくっ付けてから、

「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」

戦闘が始まった。

 

バトルステージは前回と同じ草原。

ゴールデンウィーク中はステージがコロコロ変わってたが、恐らくランダムだろう。

「轟雷、行っくよ~」

またも上空に上がっていたバーゼラルドが先制攻撃を仕掛けてくる。

以前と同じように、手元に転送したセグメントライフルでの射撃だ。

(とりあえず最初は避けておこう)

そう判断して、横に移動する。

前回までの情報を元に、ギリギリで回避できるように移動する。

 

そして、ビームが肩の装甲を掠めた。

 

「えっ……」

おかしい、確かに避けたハズだった。

だが、

「まだまだ~」

バーゼラルドがこっちへ突っ込んできながら、セグメントライフルを連射する。

轟雷は両腕を顔の前で交差させ、防御する。

 

バーゼラルドが轟雷の頭上を通りすぎながら、射撃していく。

その様子を見て、最初に変化に気付いたのは、スティレットだった。

「……直ってる?」

全員がえっ、と呟く。

「バーゼラルドが真っ直ぐ進んでる。それにセグメントライフルの連射速度が前より上がってる」

その一言に全員がバッと画面を見る。

言われた通り一直線に飛行している。

確かに昨日までは右側のパーツのはめ込みが甘いのが原因で左旋回が精一杯だったはずだ。

ところが今は直線、それも比較的早いので、左側のスラスターの出力を押さえてる訳でもないはずだ。

「一体どうなってる?」

「分からないわ。バーゼラルドが自力で直したとも思えないし……」

戦勝(せんしょう)とスティレットがそう言って、三人で右烏(ゆう)をみる。

右烏(ゆう)も不思議そうな表情なので、

(コイツじゃないな)

全員がそう判断した。

「轟雷聞こえる?」

『はい、聞こえていますマスター』

すぐさま轟雷に回線を接続、会話を始める。

「どうもバーゼラルドの装甲は直ってるみたいだから、全力でいっていいよ」

『了解しました』

 

(さて、マスターの許可も貰ったので、全力を出しましょう)

そう言いたいところだが、実はかなり難しい状況に、轟雷はいた。

以前も言ったが、轟雷の武装は全て実弾である。

そしてバーゼラルドの武装はビーム系統。

つまりこちらの攻撃は誘爆で回避されるのに、相手はそれがないのである。

それに加えて、バーゼラルドの機動力は轟雷のそれを上回っているため、逃げても回り込まれてしまう。

ついでに言えば、現在の立ち位置は草原。

身を隠すものは何もなく、森林は多少距離がある。

それにバーゼラルドの謎のステータスアップ。

具体的に言えば機動力の上昇、セグメントライフルの性能上昇。

初手の一撃を回避しきれなかったのは一重にそれが原因である。

(どんな小細工かは知りませんが、迎え撃つだけです)

即座に轟雷の滑空砲が火を吹く。

但しその矛先はバーゼラルドではなく、地面。

「う?」

地面に向けて連射、土煙が周りを覆う。

 

(轟雷、この手に出たか)

土煙から離れつつ、バーゼラルドはそう思った。

現状轟雷が攻撃を避ける唯一の手段だからだ。

実際ビームは相手を追尾できるわけではない。

バーゼラルド自身の技術で一定距離で曲がるようになっているのだ。

つまり目で見えなければそれを補足できない。

だがそれは轟雷も一緒。

同じ条件ならば行動範囲の広いこちらが上。

そう考えていると、またも滑空砲は放たれる。

それも同じく地面に当たり、土煙を巻き起こす。

だが、先程の周辺とは少し違う。

今回当たったところは、轟雷が隠れているところから真っ直ぐ森林に伸びている。

轟雷はこれを利用して森林に逃げ込むつもりのようだ。

(それなら……)

バーゼラルドは即座に手元とバックパックのセグメントライフルを交換、発砲し始める。

但し撃つ先は轟雷のいるところではなく、森林に続いている土煙の方だ。

そこからだんだんと轟雷の隠れているところへずらしながら撃っていく。

こうすれば、轟雷の逃げ道を減らすことができる。

一応、轟雷のいるであろう場所にも気を配っておく。

今までの戦い方から、轟雷は奇襲や奇策を取ることが多い。

つまり逃げ道を作ってそれを移動、ではなくそのままバーゼラルドを狙うと言う手も十分に考えられるからだ。

逃走も攻撃も読んだ一手。

ところが轟雷が土煙から飛び出した。

確かに森林に向かっているが、自らが作った道とは異なるルートだ。

「え、こっちも囮!?」

すぐさま標的を轟雷に変更、発砲し始める。

だが、虚を突かれたことで若干の動揺で距離を離されてしまった。

曲線ビームで狙うも、轟雷も肩の滑空砲を発砲。

無論ビームで誘爆するが、それ自体が目隠しとなってしまい、森林に逃げ込まれるのを許してしまった。

 

「危機一髪だな」

戦勝(せんしょう)が観戦しながらそう呟いた。

確かに相手を見誤った事が原因で轟雷が危機に陥ってしまった。

その点は反省しないといけない。

「でもどうやってバーゼラルドは装甲を修理したのか?」

紅狼(くろう)の発言に、スティレットは「知らないわよ」と返す。

が、すぐに「でも」と付け加えて、

「バーゼラルドに問いただせば全て分かるわよ」

と断言した。

実際その通りなので、試合の決着を待つことにした。

 

「これすご~い!!」

バーゼラルドが空中でそう叫んだ。

(ええ、本当にすごいです)

轟雷も声を出さずに同意した。

それもそうだろう。

バーゼラルドが撃った曲線ビームが、木を突き抜けて来たからだ。

つまり障害物は意味を成していない。

それどころかこっちの邪魔になってしまっている。

その上、威力は全く衰えてないときた。

つまり不利だったものが余計不利になっただけである。

(さて、どうしましょう……)

本来なら森林から発砲するのが正しいだろうが、今それをすればこちらの場所を教えるだけである。

それに障害物が意味を成していない以上、隠れていても勝機を逃すだけ。

かといって飛び出せば結局蜂の巣だ。

(……仕方ありません)

今から行う手は、十中八九マスターから怒られるだろうが……。

 

一方バーゼラルドは、

「轟雷が見つからないよ~」

森林の上から轟雷を捜索していた。

轟雷を見失った以上、奇襲は避けられないだろう。

(こうなったら『フルバーストモード』で……)

あれを使えばセグメントライフルは空に近くなってしまう。

つまり一対一では後続の手が緩んでしまう。

この点がバーゼラルドの切り札たる理由だ。

だが、時間を無駄に伸ばすよりマシだろう。

そう判断したバーゼラルドはすぐさまフルバーストモードを展開した。

標的は見えない以上攻撃範囲を最大限に広げ、引き金を引く。

その瞬間、森林から一発の弾丸が跳んできた。

間違えない、轟雷の滑空砲だ。

浮遊したパーツを付随させつつ回避、そこへフリースタイル・バズーカが跳んできた。

それを上昇で回避する。

(撃ってきたところは両方とも同じ場所、つまり轟雷は……)

即座に目標を設定、場所は発砲してきたところ周辺、つまり轟雷のいる辺り!!

「フルバースト、いっけぇ~!!」

計六発から放たれるビーム、それぞれが八つに別れて目標へ飛来、次々着弾する。

「やったぁ~、バーゼ勝った」

空中で嬉しそうに跳ねるバーゼラルド。

が、

「……あれ、表記が出ない?」

そう、投降した試合ならばともかく、耐久が零での決着の場合は「Winner ○○」とどこかにウインドウが出現する。

それが出現しない。

(……もしかして避けられた?)

バーゼラルドは先程撃ったところへ飛行する。

先程の一撃で木々がなくなった為、真上から森林に進入する。

そこで見つけたのは、木に引っ掛かっているフリースタイル・バズーカ。

「えっ、これだけ!?」

バーゼラルドは思わず声をあげてしまった。

(じゃあ轟雷はどこ!?)

慌てて辺りを見渡す。

居た、轟雷。

その轟雷はナイフを片手にバーゼラルドに飛びかかっていた。

 

(貰いました!!)

周りは木で真上にしか飛ぶことができない。

その真上から飛びかかることで上下移動はできない。

そしてバーゼラルドに接近戦で生きる武装はない。

果てに奇襲だった為に、全てのセグメントライフルは明後日の方向を向いている以上、迎撃もできない。

これ以上の手はない。

そう思っての行動だった。

バーゼラルドも防御の為か、左のサブアームを動かしていた。

その軌道でいけば轟雷の横腹に当たるだろう。

まずそのサブアームにナイフをぶつけ、それからバーゼラルドを切る。

そうすれば低いダメージで済む。

その判断でナイフを持った右手を動かしてサブアームにぶつけ、

 

ナイフが真っ二つになった

 

えっ、と驚く轟雷。

その動揺の瞬間に、左のサブアームを動かす。

先端が開き、轟雷を捕まえ近くの木に叩きつける。

「ぐっ……!!」

(痛い……、いやそれより熱い!?)

うめき声を上げた轟雷が感じたもの、それは外装を焼くような熱だ。

「これで終わりだよ!!」

バーゼラルドのサブアームの銃口は、挟んだところの間にある。

丁度轟雷の腹部に押し付けられたところだ。

その銃口からビームが放たれ、耐久が全部なくなった。

 

「やったぁ、勝った勝った」

バーゼラルドが嬉しそうに跳び跳ねながら、セッションベースから飛び降りた。

「轟雷、大丈夫かい?」

「えぇ、何ともありません」

ですが負けてしまいました、と申し訳なさそうな顔で呟いた。

「仕方ないよ、バーゼラルドにあんな武装があるって知らなかったんだから」

そう、今までバーゼラルドはセグメントライフルでしか攻撃を仕掛けてこなかった。

一応(いちおー)説明するとね、こっちのサブアームは電磁ブレードになっているの」

「電磁ブレードって確か熱を発生させるのよね?」

「そだよ~」

なるほどナイフが真っ二つになった訳が分かった。

金属、というか鉄を高熱の物質に近付ければ溶けてしまう。

要するにナイフは折れたのではなく、熱で焼ききられていたのだ。

(バーゼラルドが元気になったが、今度は轟雷が落ち込むんじゃ)

そう思って轟雷を見ると、すでに立ち直ったのかバーゼラルドの元へ歩いていき、

「よかったですねバーゼラルド」

そう言って手を伸ばしていた。

バーゼラルドもその手を握り、

「うん、迷惑かけてゴメンね」

仲良くなったようだ。

「……あの、轟雷?だんだん握力が強くなってる気がするよ?」

「そうですか?」

「それと、もう放してもいいんじゃないかな~?」

「いえ、まだ握っていましょう」

「轟雷絶対負けた事怒ってるよね!?だって力が入ってきて痛い痛い痛い!!」

ニコニコしながら握手を交わす轟雷と悲鳴をあげるバーゼラルド。

そんな二人を見ながら、

「……仲良くなったんだよね?」

「知るか、俺に聞くな」

戦勝(せんしょう)がそう返した。

まあ、どうやら轟雷は負けず嫌いらしいと言う事が分かっただけでもよしとしよう。

そう結論付けた。

「ちょっとスティレット、助けてよ~」

「ねえ轟雷……」

「何ですかスティレット。一緒に握手しますか?」

その一言でスティレットは逃走。

何と装甲を纏って飛行、戦勝(せんしょう)の肩まで飛んで行ってしまった。

「スティレット逃げたぁ!!裏切り者~!!」

バーゼラルドが叫ぶが、スティレットは耳を塞いで、

「あ~あ~、何も聞こえない~」

とそっぽを向いていた。

そんな賑やかな三機を全員が笑う。

そしてようやく手を放した轟雷に、

「ところで轟雷?」

「何ですかマスター」

「最後の前にバズーカが木に引っ掛かってたのは、どうやってやったんだ?」

轟雷は「あ~」と目を逸らしながら、

「実は先に木に引っ掛けて……。滑空砲を撃った後、引き金に石を投げ付けて……」

「よくそれで発砲できたね!?」

あのバズーカ、引き金はそんなに大きくなかったはずである。

それを狙って石を投げ付けて、当てるとは……。

「轟雷って、コントロールセンスもいいんだね」

「それ以前にそんな手を取ること自体がおかしいんだけどね」

苦笑する戦勝(せんしょう)とスティレット。

「まあそういうところが、轟雷らしいよね」

「バーゼもびっくりしたんだよ」

右烏(ゆう)とニコニコ笑うバーゼラルド。

そんなバーゼラルドに、

「で、バーゼラルド。アンタパーツはどうしたの?」

「ん~、轟雷が負けたから秘密~」

はあ、とスティレットが不満そうに声をあげる。

「でも勝ったら教えてあげる~」

ケタケタと笑いながらそういうバーゼラルドだった。




結構バーゼラルドが動いていますが、アニメで知ってる人は
「バーゼラルドはこんな娘じゃない」
と思われるので、解説を。

アニメとの違いとして
セグメントライフルを手に持っている事
ですね。
アニメでは終始バックパックに取り付けて手にはなにも持っていませんが、この作品では四丁ある内の二丁を手に持って戦っています。
その他の娘の武装解説ができればいいですね……
努力してみます。


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轟雷達が反撃する日

投稿遅くなりました
そして文字数がとんでもない事になりました……


先日のバーゼラルドの衝撃のパワーアップから数日後。

紅狼(くろう)達は頭を悩ませていた。

と言うのも、バーゼラルドが完全に強すぎるのだ。

轟雷もスティレットも、ほとんど一方的に敗北させられる。

そして右烏(ゆう)が調子に乗り出してイライラしてきた。

何とかあの長くなりすぎた鼻をへし折ってやりたいが、その為にはバーゼラルドを倒さなければならない。

という訳で、紅狼(くろう)と轟雷、戦勝(せんしょう)とスティレットの四人で対策会議を練られていた。

「まず何でバーゼラルドがあんなに強くなったか、だな」

「装甲が立派になってることが原因よ」

戦勝(せんしょう)の言葉にスティレットが答えを返した。

「以前のパーツの外れがなくなったのはもちろん、ゲート処理とかをしっかりやったみたいだったから、装甲の能力自体は最大限まで引き出されてるといっていいわ」

なるほど、と三人が納得する。

「じゃあ私達の装甲もそうすればバーゼラルドに勝てると言うわけですね」

「そうしてあげたいのは山々なんだけど……」

「俺たちもこれ以上にはできないな……」

轟雷の言葉を聞きながら、人間二人はパートナーの装甲を見つめながらそう返した。

そう、自分達の技術を駆使して組み上げた装甲だ。

そう簡単に越える物などできる訳がない。

「ちなみに俺たちの組んだ装甲で、どれぐらいの実力を出せるんだ」

「七、八割ほどよ」

「で、向こうは十割か……」

「そう言うことになるわね……」

つまり出力は向こうに軍配が上がる訳だ。

「それにそもそも私たちは相性が悪いんだから……」

「そうなのか?」

スティレットに言われて戦いを振り返ってみるが、轟雷もスティレットもやけに戦い難そうだった。

「私達の武装は全てビームでかき消されるのに、バーゼラルドはそのビームを主装備にしてる。この時点で不利ね」

「なるほど」

「それに接近戦に強い私達じゃ、接近する前に蜂の巣よ」

「ねえそれなんて無理ゲー?」

もはや無理難題と化した状況だ。

言いたくもなる。

「何とかならないかな?」

「その為の集会では?」

「でも有意義かどうかでは?」

「無意味ね……」

全員が肩を落とす。

こうなれば各機体の性能を全部生かすしかないだろう。

「そう言えばスティレット。バーゼラルドと飛行能力の違いってあるの?」

「そうね……。私の方は小回りが効くし、加速速度も速いんだけど、向こうの方が出力も速度も上ね」

そうなのか、と戦勝(せんしょう)は声を返す。

「じゃあ小回りを効かせて撹乱……、はしたね」

「ええ、バーゼラルドのビームに自ら飛び込んだわね……」

そう、割りと最初の頃に撹乱を狙ったスティレットが間違ってバーゼラルドの射撃に飛び込んでしまったのだ。

「とりあえずバーゼラルド戦で気を付けないといけないのは、飛行能力と射撃の二つね」

スティレットがばつが悪そうにコホンと咳払いしながらそう言った。

スティレットを上回る空中能力と軌道の読めない射撃。

この二つをどうにかしなければ勝ち目はないだろう。

四人は頭を悩ませた。

 

結局良い手が思い付かないまま、帰路に着くこととなった。

「結局、良い手が出なかったな」

「まあ、勝てるまでやろうか」

そう声をかけてから、部屋を後にした。

途中で宅配便の運送屋さんとすれ違ったが、特別問題なく自分の部屋に着いた。

轟雷が出たのを確認してから、鞄を投げ捨てるように置くと、

「轟雷、何かないか?」

「……すいません、やっぱり思い浮かばないです」

対バーゼラルド戦のアイデアはやっぱり浮かばない。

どうしたものかと考えていると、チャイムが鳴る。

「は~い!!」

『宅配便です』

ハイハイと、玄関に向かう。

荷物を受け取ってから部屋に戻ると、

「えっと送り主は……、『FAファクトリー』?」

轟雷が送ってきたところからだった。

首を傾げていると、

「とりあえず開けてみましょう、マスター」

カッターを持った轟雷がそう言ってきた。

まあ実際、開けないことには始まらない。

そして開けてみるとそこには……。

 

それから数日後。

右烏(ゆう)からの提案で、三つ巴のバトルロワイヤルを行うことになった。

「んだけど……」

バーゼラルドが嫌そうな声をあげる。

「二機とも装備が違わない?」

接続されたセッションベースの武器ラックを見比べながらそう言ってきた。

「そうですか?」

と轟雷が返事をする。

装甲は充電くんに取り付けられているが、転送されるものは武器ラックに取り付けられる。

その武器ラックに付けられた武装が、今までと明らかに違う。

轟雷はフリースタイル・バズーカはともかく、片手で持てる大きさで形状の違う銃が二丁、轟雷並の大きさのバズーカ。

よく見れば、充電くんに付けられている装甲からも滑空砲が消え、代わりに大型バズーカと腕がすっぽり覆えるサイズのシールド。

身軽さはどこへ行ったのだろうか。

「いつもと変わらないじゃない?」

かく言うスティレットも武器ラックが充実している。

いつもの二振りの日本刀とガトリング以外に、薙刀と狙撃用ライフル、棒と鉄球が鎖で繋がったハンマー、用途不明のパーツが複数、そして明らかに要らないであろうスラスターまである。

スティレットの装甲にはいつものスラスターはついているのでなおさらだ。

彼女は爆撃機にでもなる気だろうか。

「いや明らかに増えてるよ!!昨日より多いもん」

バーゼラルドは文句を言うが、

「えっと、ルールはどうする」

「『負けた方が勝った奴の言うことを一つ聞く』はいいけど、最下位だけにするか」

「お願い聞いて、おかしいよ」

右烏(ゆう)も文句を言う。

「何か二人ともおかしいって、何その武器の量!!

装甲だって少し違うし!!」

「じゃあやろっか」

「だから聞いて!!」

とりあえず右烏(ゆう)の声は無視していると、「大丈夫だよマスター」とバーゼラルドが声を出す。

「バーゼ、負けないから」

いつもの笑顔を右烏(ゆう)に向ける。

そして、

「「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」」

セッションベースから溢れた光が、バトルフィールドを形成する。

 

バトルフィールドは荒野。

初めて轟雷とスティレットが戦ったフィールドである。

「う~ん、距離が離れちゃったかな……」

空中でポツンと滞空するバーゼラルド。

周りに轟雷やスティレットが見当たらない。

離れた場所からの開始のようだ。

「まっ、いっか。早く轟雷達を倒しちゃおっと」

武装がいつもと違うが、負ける気が全くしないバーゼラルドはそう言うと、再び辺りを見渡す。

轟雷達を見つけ次第移動するためである。

すると、何か光る物を見つけた。

そっちに顔を向けると、小さい弾丸が頬を掠めた。

「えっ、狙撃!?」

弾丸が飛んで来た方向にセグメントライフルを発砲、さらに側転しながら追加発砲する。

「今の……、スティレット?」

「正解よ!!」

スティレットが一気に距離を詰めながら、日本刀で斬りかかってきた。

弾丸が当たった様子もないので、恐らく避けられたのだろう。

それより問題なのは、スティレットの機動力だ。

前回までとは桁違いに速い。

バックパックが変わってるところを見ると、早速換装したのだろう。

斬りかかってきたスティレットをいなしつつ、バレルロールしながら回り込む。

すぐさまセグメントライフルを構えるが、それより先にガトリングの弾が飛んで来る。

この距離では有効活用できない狙撃用ライフルとガトリングを入れ換えたようだ。

「ねぇやっぱり武器が増えてるよね!!」

回避しつつバーゼラルドが叫ぶが、スティレットは知ったこっちゃないと言わんばかりにガトリングを連射、反撃の隙を与えない。

だが、攻撃手段は手に持っているセグメントライフルだけが攻撃手段ではない。

左のサブアームを動かして、ブレード部分を広げ、弾丸を発射した。

一度大きく左へ逸れるが、グイッと右へ軌道を変え、スティレットのガトリングを弾き飛ばす。

「しまっ……」

視線がそちらへ向いた一瞬の隙に両手のセグメントライフルを向け発砲、見事に直撃する。

「やった、バーゼ強い」

自画自賛するバーゼラルド。

「だから甘いって!!」

包まれていた爆風をスティレットが突っ切りながら、日本刀の切っ先をバーゼラルドに向けて突っ込んでくる。

何と無傷だ。

「えぇ!?」

その様子に驚きながらも、サブアームのブレードを閉じて電磁ブレードに切り替える。

そして後方に下がりながらサブアームを振るい、日本刀を焼き切る。

「ちっ」

舌打ちしつつ、今度はスティレットが後退した。

追撃を狙うべく突進してきたバーゼラルド目掛け、使い物にならなくなった日本刀を投げ付ける。

バーゼラルドは一旦移動を止め、電磁ブレードで完全に融かしてしまう。

そしてサブアームを振るって溶けた金属を飛ばすと、

「だったら、これで!!」

スティレットがどこからともなく取り出した大型キャノン砲で発砲してきた。

「何それ~!!」

バーゼラルドが叫びながらしゃがむ。

お陰で砲撃は頭上を通りすぎていった。

見ると青い大型のビーム砲のようだ。

着弾した所の爆風を見る限り、轟雷のフリースタイル・バズーカのビーム版といった感じか。

「ちっ、外した……」

舌打ちしたスティレットがその大型キャノン砲を背中に背負うと変形し、スラスターになった。

どうやら武器に変形できるスラスターのようだ。

そのまま地上すれすれを滑空しつつ距離を取ると、クルッと背面飛行に切り替え、左腕を突き出してミサイルを発射した。

「甘いよスティレット!!」

バーゼラルドが左手のセグメントライフルを発砲、右へ曲がるように軌道をとって二発のミサイルを射抜く。

そして右手のセグメントライフルは左への軌道で、爆風の横からスティレットを狙う。

直撃、爆発したのを確認して、

「どうスティレット?参った?」

「だから甘いんだってば!!」

爆風の中からスティレットが飛び出した。

何とスティレットの左腕から青い光が盾となって、攻撃を防いでいた。

(なるほど、さっきの攻撃で無傷だったのはそう言う訳だったんだ)

ガトリングを撃ち落とした後の一撃を無傷でやり過ごしたのはあのシールドのお陰だろう。

そして、スティレットは無意味に下へ行って距離を取った訳ではなかったようだ。

先ほどの攻防の際に落とした筈のガトリングがスティレットの手の中にあった。

どうやら攻撃を防ぐと同時に回収したらしい。

 

今の戦闘でスティレットは、自らの追加武装の性能をほぼ把握できた。

そして失ったのは日本刀一本のみ。

使いなれた物を失ったのは痛いが残りの大半はバーゼラルドが知らない武装の筈だ。

そう考えたところであることに気付く。

「「『『『轟雷はどこに行った?』』』」」

スティレットの言葉にバーゼラルドやマスター達が同時に呟いた。

 

(なるほど、あれが新しいスティレットの武装なんですね)

バーゼラルドとスティレットの激戦中、轟雷は近くの障害物に隠れて戦闘を観察していた。

新規武装はどれも厄介なものばかりだ。

それでもバーゼラルドは必死の抵抗で戦局を維持し続ける。

実力はほぼ互角、でもそれは私もです。

それにバーゼラルドの射撃の特徴も分かった。

スティレットが狙撃していたのを確認してから、轟雷はバックパックの二対のキャノン砲を稼働、両肩に担ぐようにバーゼラルドに狙いを定める。

 

「むぅ~、あれは厄介だな~」

スティレットの狙撃を回避しながらバーゼラルドはそう思っていた。

ビーム武装は攻撃では打ち消されはしない。

だが、絶対に消えないわけではない。

射程距離の限界と言うものがあり、それ以上を飛ぶことはまずない。

そしてスティレットの狙撃用ライフルは完全にその距離を越えている。

無論曲げずに真っ直ぐ撃てば射程距離は伸びる。

だがそれでもギリギリで、直球でスティレットに当たるとも思えない。

でもそれは弾がある時の話である。

唐突に弾が飛んで来なくなり、

「ちっ」

と言う舌打ちが聞こえた。

弾切れか弾詰まりか、とにかくすぐに撃てない状況になった。

その最後の一発を横に避ける。

ふと横の方で何か光った?

そう思ったバーゼラルドが顔を向ける。

そこにあったのは二つの大型の弾丸。

「へ?」

以前にも似たような事があったな、と思うと同時に辺りが爆風に包まれた。

 

「うわぁ……」

弾切れを起こしたスティレットがガトリング片手に反撃を試みようとした矢先、二発のキャノン砲がバーゼラルド目掛けて飛んで行ったのが見えた。

それらがバーゼラルドにぶつかり、今まで見たことないサイズの爆風が起きたのを見て思わず言葉が零れた。

そしてコントロールを失ったバーゼラルドが弾丸とは反対側から飛び出して、地面にヘッドスライディングするところまで見えた。

「……轟雷、アンタ漁夫の利を狙ったでしょ?」

「何の事ですか、スティレット」

キャタキャタと言う音を立て、降りてきたスティレットの隣に轟雷がやって来た。

素知らぬ顔をする轟雷に「まあいいわ」と呟くと、

「酷いよ轟雷!!不意討ちなんて卑怯だよ!!」

バーゼラルドが滑空しながらそう叫んだ。

「卑怯ではありません、作戦です」

「それ絶対作戦じゃないわよ、策略って言うの」

轟雷の言葉を訂正しつつ、スティレットが再び上昇する。

「轟雷、手を貸しなさい。バーゼラルドを倒すわよ」

「了解、臨むところです」

「やれるものならやってみろ~」

バーゼラルドが一度急停止すると側転運動の動きをしながら、セグメントライフルの引き金を引いた。

二発が下から打ち上げるような軌道でスティレットを、上から振り落とす軌道で轟雷へ向かう。

スティレットはすかさず左腕のパーツからビームシールドを展開しつつ防ぐ。

一方轟雷は、新規武装の大きな盾で弾き飛ばした。

「ふぅん、やるじゃない」

「その言葉、そっくりお返しします」

轟雷がそう叫ぶと、バーゼラルドに向かって飛び出した。

「ダメよ轟雷!!」

「バーゼに真っ向から来るなんて」

バーゼラルドがニヤリと笑いながら、右手のセグメントライフルを向け発砲する。

轟雷は両手にバズーカを転送すると同時に、左足のキャタピラーを逆回転、右側に滑りながら左手のバズーカを発砲する。

結果として、バーゼラルドの砲撃は左へ逸れ、轟雷の弾丸は真っ直ぐバーゼラルドへ向かう。

バーゼラルドは即座に電磁ブレードでバズーカの弾を切り抜ける。

発生した爆風は、バーゼラルドの背中を押し、彼女の加速に手を貸す。

「へへ~ん、当ったないよ~」

「それはこっちも同じ事です」

轟雷がそう言い返した。

確かに先程から、バーゼラルドの射撃と反対向きに回避していっている。

距離を取るどころかむしろ接近していっている。

(もしかして曲がり方が分かったのかな?)

試してみよう、とバーゼラルドが呟くと、右手のセグメントライフルを三連射。

轟雷は右側へ避け、ビームは全て左へ曲がった。

そして右から大きく回り込み轟雷へ、バーゼラルドは脇の下とサブアームの間から左手のセグメントライフルを突き出しながら発砲。

今度は左へ回り込みながら接近してきた。

そして手持ちのバズーカを連結、二発同時に発砲する。

バーゼラルドも即座に轟雷の方へ向き直ると同時に側転運動で回避。

「……轟雷、やっぱりバーゼの武器の軌道読めてるでしょ?」

「えぇ、バッチリです」

 

「轟雷、どういうこと?」

つい紅狼(くろう)は轟雷に問いかける。

『バーゼラルドのセグメントライフルは、縦横無尽に動ける訳ではなかった、と言うことです』

『そだよ~。右手の方は右から左に、左の方は逆になってるんだよ』

轟雷がバーゼラルドと共に解説してくれる。

その時にそれぞれの手を少し上に上げながら説明してくれたので、少し分かりやすい。

『でも上下にも曲がってたわよね?』

スティレットが不思議そうに問いかけた。

そう何度か交戦した時、バーゼラルドは真上真下を撃ち抜いていた。

それに先ほども上下に変化していた。

『それは恐らく、撃つ直前で銃を傾けたのではないですか?』

『少し程度なら上下にも曲げられるんだよ、でも真上真下は傾けないと無理かな~』

なるほど、と人間三人とスティレットが納得したように声を出した。

 

「でもいいの、バーゼラルド?試合中に自分の武器の性能をバラしちゃって」

「大丈夫だよ~」

スティレットの言葉にバーゼラルドがケラケラと笑いながらそう返した。

そして、「だって」と前置きしてから、

「分かっていても全てを避けきれるわけないし~」

確かにその通りだ。

どう来ると分かっていても、フェイントを一つ入れるだけで回避の成功は確実に落ちる。

完全に避けきるのは、それこそその攻撃のデータを持った無感情の機械位だ。

だが、スティレットや轟雷はそうではない。

いくら学習能力があるとはいえ、短時間でどうにかなるものでもない。

「じゃあお喋りはここまで、いっくよ~」

バーゼラルドはそう言うとクルッと回転しながら上昇、即座にセグメントライフルを片手ずつ轟雷とスティレットに向け発砲する。

(轟雷にもできるんだ、私にだって!!)

発砲の瞬間、バーゼラルドの手を見る。

見えた、右手!!

だから変化する方向は横!!

そう判断して左へ避けようとして、すぐさま左斜め上に軌道を変える。

何故ならビームは左上から右下へ変化したからだ。

(しまった、体の傾きを計算に入れてなかった……)

そう、バーゼラルドは轟雷とスティレットの両方を狙うために体を傾けていたのだ。

(いや回避はできた、今はそれだけで良い)

読み間違いを悔やむのは後、スティレットは右手にガトリングを転送すると同時にバーゼラルド目掛けて発砲。

バーゼラルドは真下へ落下するように回避する。

それに構わずスティレットは真下へ振り下ろすように射線を動かす。

バーゼラルドはそのまま地上すれすれまでいくと滑空して離れていく。

(これでいい)

今のスティレットの狙いはバーゼラルドにダメージを与える為ではない。

バーゼラルドが突然発生した煙幕に突っ込んでしまった所を見ながらスティレットはそう思った。

 

(しまった、スティレットの攻撃に気をとられて轟雷を見失ってた)

いきなり現れた煙幕の中で周りを見渡しながらバーゼラルドは後悔した。

この全面砂埃の煙幕では目は役に立たない。

すぐに飛び出した方がいいのだろうが、飛び出した先で轟雷が武器を構えていては意味はない。

居ない場所に出る可能性も高いが、轟雷の機動力とスティレットの援護があれば追いつくのも容易なはずだ。

かといって上空に出れば今度はスティレットが攻めて轟雷が援護するだけだ。

だが、この煙幕なら轟雷達からもバーゼが見えないはず。

スラスターを切って着地した矢先、弾丸が装甲を掠めた。

(えっ、何で……。いや、そう言うことか)

着地した音で場所を把握された、流石轟雷。

轟雷はバーゼラルドやスティレットと違い地上戦に特化したフレームアームズ・ガール。

つまり轟雷に地上戦を挑むのは負け戦も同然だ。

ならばすぐさま上空に逃げるべきだが、上記の通りスティレットが待ち構えているだろう。

(だったら!!)

バーゼラルドは目を閉じ、セグメントライフルをバックパックに戻す。

下手な反撃は厳禁、相手に居場所を教えるようなものだから。

ならば、回避に徹する方が賢明。

そう判断しての行動だった。

実際動かなかった間、攻撃がこなかった。

そして、煙幕が晴れると同時に上空に飛び出した。

すぐさま追撃が来るが、バーゼラルドの飛行能力ならば回避は難しくない。

轟雷の攻撃が届かず、スティレットの狙撃用ライフルしか届かない位置を取ると、

「今度はバーゼの番だよ!!」

バーゼラルドがそう叫ぶと同時にフルバーストモードを展開する。

基本的に弾幕を張りつつ、大ダメージを与える大技だが、エネルギー残量がゼロになってしまう。

追撃が困難になるが、その点は電磁ブレードで補う。

だから今はダメージを与える。

両手のセグメントライフルと浮遊パーツとサブアームの右側を轟雷へ、左側をスティレットへと向ける。

「そう簡単には」

「いかないわよ!!」

そう叫ぶと轟雷は右に、スティレットは左へと動き始めた。

セグメントライフルの特徴を逆手に取った回避行動。

確かにその動きならば回避できるだろう。

そのままならば、の話だが。

バーゼラルドはニッと笑うと、発砲する直前で両手を交差させた。

轟雷達はそれに気付いたが、行動を起こす前に弾が発射された。

右から左へ曲がる曲線ビームに混じって全く逆の軌道を取る弾丸が三割ほど。

足を止めるのは不味いが、コレはどう動いても回避できない!!

そう判断した轟雷は両肩の大型シールドを前に突き出す形で防御を試みる。

数発が装甲を掠め、耐久を削っていくが、全段直撃よりはいくらかマシだろう。

横目で見れば、スティレットもどうやら同じような状況だ。

シールドは先ほどまでと比べて面積が広がっているが、数発に一発は貫通されている。

恐らく強度と引き換えに面積を広げているのだろう。

そしてビームの雨が止む。

轟雷はシールドを動かして状況を確認する。

轟雷もスティレットも、防御していたにも関わらず半分以上も耐久を持っていかれた。

やはり火力も範囲も侮れない。

だが、反撃のチャンスが巡ってきたようだ。

バーゼラルドが苦々しそうな表情を浮かべていた。

セグメントライフルの残量が無くなったようだ。

「今度はこっちの番よ!!」

スティレットはそう叫ぶと左腕を突き出し、ミサイルを発射。

すぐさまガトリングガンを連射、弾切れになったそれを放り投げスナイパーライフルで狙撃。

最後にスラスターを変形させての一撃を流れるように繋いだ。

だが、バーゼラルドも負けていない。

初撃のミサイルを電磁ブレードでぶった切ると同時に旋回、ガトリングの回避を試みる。

そこを狙った狙撃をギリギリで発砲可能になったセグメントライフルで撃ち落とし、最後の一撃は腕を交差させてガードした。

それでも大きく耐久を持っていかれたが、

「へへ~ん、バーゼはまだ戦えるよ~」

バーゼラルドはまだ笑顔を崩してはいなかった。

「でしょうね……。轟雷、後は任せたわよ!!」

「任されました、スティレット!!」

バーゼラルドがバッと後ろを向く。

そこにはシールドを横に広げ、そこにバズーカを取り付け、さらに肩にバックパックを可動させたバズーカ、両腕に形の違うライフルを持った轟雷が全ての武装を向けて立っていた。

そして、

「コレが、私の、フルバーストです!!」

そう叫ぶと同時に全ての武装がほぼ同時に火を吹いた。

「ちょ、ま……」

バーゼラルドが両手をバタバタさせるが、それでどうにかなる訳もなく直撃した。

そしてそのまま真下へ墜落すると、

[バーゼラルド LOST]

の文字が宙に浮かんだ。

 

バトルフィールドから戻ってくるなり、

「結局轟雷がおいしいところを持っていっちゃうのね」

スティレットがそう愚痴っていた。

「そんな事はありません。スティレットが頑張ってくれたから、私も攻略方を見つけられたのです」

「まっ、そう言うことにしておくわ」

轟雷とスティレットがそんな会話をしながら握手を交わす。

よく見れば、スティレットの口元が少し弛んでいた。

満更でもないようだ。

「あ~あ、二人は仲良くしてて羨ましいな~」

少し離れたところで、バーゼラルドが胡座をかいていた。

「そ、そんな事ないわよ」

「そうですよバーゼラルド」

スティレットは少し動揺し、轟雷は普通に答えていた。

「どうだか~」

と口を尖らせるバーゼラルドに轟雷が歩み寄ると、

「バーゼラルドとも仲良くしたいと思ってますよ」

バーゼラルドの右手を取る。

続いてスティレットが左手を取りながら、

「私だってそうよ。ほら、早く立ち上がりなさい」

二人でバーゼラルドを引き起こした。

「うん、ありがと」

バーゼラルドが笑顔でそう答えた。

 

その様子を少し離れたところで見守っていた右烏(ゆう)が、

「いい話だな」

そう呟いた。

そんな彼の肩に紅狼(くろう)が「そうだな」と言いながらポンッと手を置くと、

「じゃあ罰ゲームの話をしようか」

無慈悲にそう言い放った。

右烏(ゆう)は「えぇ!?」と叫びながら起き上がると、

「今そう言う流れじゃないよな」

そう言い返す。

「いや、最下位のやつが罰ゲームを受ける、って話だし……」

「それに右烏(ゆう)、最近調子に乗ってたしな~」

紅狼(くろう)戦勝(せんしょう)もそう切り返し、右烏(ゆう)が「うぅ……」と呻き声をあげると、

「せ、戦略的撤退!!」

そう叫び、玄関へ駆け出した。

「あっ、待てっ!!」

「逃がすか!!」

紅狼(くろう)達も慌てて右烏(ゆう)を追いかける。

そして、右烏(ゆう)がドアノブに手を掛け、力一杯押したとき、「ゴンッ」と言う鈍い音が響いた。

「「「ゴン?」」」

三人が顔を見合わせてから、扉をそっと開けて外を見る。

そこには顔を押さえて踞る人間が一人いた。

恐らくソイツに当たったのだろう。

と言うか、コイツ見覚えがある。

慌てて全員で扉を閉めようとするが、それより先にソイツは足を入れて閉まらないようにした。

そして扉に手を掛けると、

「待てやゴラ!!」

完全に怒った男、鷲翔(しゅうが)が低い声でそう言い放った。

 

「あのさ、別に騒ぐなとは言わないよ。でもある程度周りの迷惑を考えてから行動を取ってね」

鷲翔(しゅうが)が鼻を押さえながらそう言った。

赤くなってるところを見ると、流石に痛かったらしい。

そしてテーブルを見ると、セッションベースを残して轟雷達は消えていた。

人が入ってくるのを察して隠れてくれたらしい。

無論鷲翔(しゅうが)は疑問に思って問い掛けて、

「まあこれが何でも構わないけど、迷惑かけないでね」

こなかった。

「……えっと、何か飲む?」

「何か炭酸系がある?」

「俺も同じ奴」

「お茶か微糖のコーヒーはある?」

鷲翔(しゅうが)がそう言ってきたので、

「お前眠いの?」

「今日明日が休みだから、昨日徹夜で読書してた」

(コイツ本当に呑気だな)

全員がそう思った。

「いいじゃん、課題はちゃんと終わらせたし」

「何でそっちの方が終わってるんだよ……」

いいじゃん人の勝手でしょ、と口を尖らせてから言う。

コイツ何気に人の心読むなよ、と思っていると鷲翔(しゅうが)が思い出したように、

「そう言えば右烏(ゆう)、ゴールデンウィーク明けに教室にプラモ置いてただろう?」

えっ、と右烏(ゆう)が驚いた声をあげた。

恐らく身に覚えがないのだろうと思っていると、

「多分紅狼(くろう)が勧めたんじゃないのか?美少女もののやつ」

右烏(ゆう)が冷や汗をだらだら流していると、

「何の話だ?」

「多分バーゼラルドの事……」

ヤバい、知られたかと考えていると、

「ああいうの置くのはあんまりよくないと思うけどさ、せめてゲート処理ぐらいはちゃんとしてよ」

ため息を吐きながら、鷲翔(しゅうが)がそう言った。

「えっ、お前直したのか?」

「そうだよ、悪いか」

思わず「悪いわ!!」、と叫びそうになったがグッと堪える。

と言うのも、恐らく鷲翔(しゅうが)はフレームアームズ・ガールを知らない。

つまり悪い理由を教える為には、それを教える必要がある。

そして、バーゼラルドの装甲が直ったのも理由が分かった。

鷲翔(しゅうが)が修理したからだ。

鷲翔(しゅうが)は僕たちの中で唯一プラ板等を加工して作る、フルスクラッチと言われる作業ができる。

ソイツに言わせれば、パーツの修理ぐらい容易くできる。

そして作り込む癖があるのだが、それがバーゼラルドの実力の底上げに繋がったのだろう。

「後前にも言ったけど、先輩達はもう来ないってさ」

「聞いたような気もするが、どうしてか聞いたか?」

「プラモ作ってる暇なんてないんだってさ」

全員が「ああ……」と全員が納得したように呟いた。

「じゃあ邪魔したね」

鷲翔(しゅうが)がそう言って部屋を出ていったのを確認してから、

「バーゼラルド」

右烏(ゆう)が短く自分のフレームアームズ・ガールを呼んだ。

バーゼラルドも「何~?」と言いながらベットの下から出てきた。

轟雷やスティレットがノソノソと出てきた所を見ると、全員ベットの下に隠れていたようだ。

鷲翔(しゅうが)に直してもらったのか?」

「うん」

「動くっていう事は?」

「バレてないはずだよ」

ならいいや、と右烏(ゆう)が言った。

本来なら良くないだろう。

だが、誰も文句は言わなかった。




今回は読んでの通り、三つ巴の対戦となりました。
正直変に細かくしすぎたか、いつもみたいに分割すればよかったと少し悔いていますが、そのまま行くこととしました。

話は変わりますが、アニメを見ている方で
「バーゼラルドにこんな武装があったか?」と思われる部分があったと思われるので解説を。
電磁ブレードはアニメ(恐らくプラモの取説にも)なかったのですが、ノベル版FAガールにこれを使用した描写があります(熱を持つと言う点もこの辺が由来です)。
細かく説明があったわけではないのですが、バーゼラルドのレビュー等を見て、「恐らくこのパーツだろう」と言うことで採用しましたが、まさかここまで活用すると思いませんでした。

最後に、今さらですが、私が書いている他の作品と同様に不定期更新です。
楽しみにしていた方、本当に申し訳ありませんでした


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バーゼラルドが立ち直った時間

番外編一話です


誰もいない教室。

そこでバーゼラルドは落ち込んでいた。

理由は簡単だ。

負けが続いた、いや負けっぱなしだったからだ。

「はーあ」

どうしてもため息がこぼれてしまう。

あまりに落ち込むものなので、バーゼラルドを毛嫌いしていたはずの轟雷すら優しい声をかけるが、立ち直れなかったのだ。

もはやどうしていいか分からず、学校に連れて来られたが、やっぱりいつもの元気がない。

こうなれば少しでも自由にさせておくのが一番、そう判断した右烏(ゆう)は普段サークルで使う教室に置いてくれた。

その教室は普段は右烏(ゆう)達以外は使わないし、鍵は自分達が持っているので全く知らない人が見る心配もない。

ついでに言えば、持っているもう一人は『しばらく来ない』と言うメールを送ってきたので寄る心配すらない。

つまりは夕方まで誰も来ないので、それまでは自由にできるように配慮しての事だった。

「……私も、マスターに心配かけちゃった……」

この後に及んで、無邪気でいられる程図太くはない。

『負けたこと』、それ事態にそれほど落ち込んでいない。

元々戦いとは一人の勝者以外は敗者なのだ。

その一人になれなかっただけの話だ。

落ち込んでいるのは『マスターに勝利を貢献できなかったこと』。

いくらマスターが作ったものが問題品だったとしても、その性能を引き出しきれれば、轟雷達に負けなかった。

人のせい、それで強くなれない。

強くなるためにどうするか、答えが見つからない。

「どうすればいいんだろ……」

バーゼラルドは何度口にしたか分からない答えの帰ってこない問いが口を付いた。

装甲を着けたまま足を机から投げ出し、ブラブラさせていた。

このまま落ち込んでも仕方ない、割り切ろうとした時、

「誰も居ないね、っと」

誰かが入ってきた。

当然バレるわけにはいかないので、そのままただのプラモデルのふりをする。

「一限目はないからな、ここで読書しよっと」

嬉々とした口調で扉を閉めた人間はすぐにバーゼラルドに気付いた。

おや、っと口にしながら近付くと、

「また紅狼(くろう)が作ったのか?作るのはいいけど、こう言うところに置くなって言ってあったハズなんだけどな……」

そう言ってジロジロと眺められられる。

その時、パーツが取れた。

無論、組み立てに問題があったサブアームだ。

「おっと、壊したら申し訳ないからな。うん?これは紅狼(くろう)の作品じゃないかな?この杜撰なゲート処理、間違えなく右烏(ゆう)のものだ」

(その通りだけど、マスターや紅狼(くろう)を知ってるってことは……)

恐らくこの人が鷲翔(しゅうが)だろう。

ちゃんと見たのか今回が初めてだ。

「全く、この辺りを適当にするとパーツが脆くなるっていってるのに……。それに絶対直す気はないな」

アイツ直せないし、と文句を言いながらパーツを一旦置くと、隣の部屋に行ってしまった。

(一体何なんだろう)

そう考えてすぐに鷲翔(しゅうが)は戻ってきた。

鼻唄を歌っている彼の手にはカッターや筆、パレット等が載っていた。

そしてバーゼラルドのすぐ側に座ると、パーツ間のゲート処理をし始めた。

変なところを削らないようにしながら、丁寧に削り、パーツからパチンとはめ込む音が聞こえた。

パーツを一度置いてから、絵の具をパレットの上で混ぜる。

その色はさっきヤスリで削った部分と同じ色。

それを削った部分に塗り、その部分を上にして乾かす。

「ちょっとゴメンよ」

そう言ってバーゼラルドを持ち上げると、バックパックを外し、じっと見て確かめる。

そして他の部分を次々と手直ししていく。

それらは全て、バーゼラルドが戦闘中に気にしていたところだった。

削って、塗って、乾かす。

彼の作業はその繰り返しだった。

それから少しして、パーツを置いてから「ん~」と背伸びをする。

「これで全部かな?」

自分のやったパーツを見てからそう呟いた。

少し自分のスマホを操作し、カバンから本を取り出すと、そのまま読書を始めてしまった。

二十分後、スマホから音が鳴り始めた。

先ほどの操作はアラーム設定だったようだ。

鷲翔(しゅうが)は本に栞を挟んで閉じると、バーゼラルドの装甲を組み立てていく。

そして組み上がった装甲をバーゼラルドに取り付けると、

「うん、ちょうどいい時間だな」

そう言ってカバンを持って、扉から飛び出していった。

しかもちゃんと鍵までかけてだ。

バーゼラルドは戻ってこない事を確認してから、装甲を見てみる。

「すっごい、全部直ってる……」

気になっていた部分は完全に直ってしまっている。

早速試運転をしてみる。

「すっごいすごい!!」

思った通りに動く。

右に左に自由自在。

もう落ち込んでいた部分は心にない。

お礼を言えなかったのが残念だけど、こればかりはどうしようもない。

「マスターに伝えて……、いや待てよ」

思い浮かんだ計画の楽しさに、口が緩んでしまった。




コレは「バーゼラルドの立ち直る日」の中間辺りのバーゼラルドサイドのお話です。
本当は「轟雷が反撃する日」の前に投稿しようとしましたが、
「これじゃあ面白くない」
と言うことで同日に投稿することにしました。


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スティレットの強くなった時間

「轟雷達が反撃する日」のスティレット強化のお話です。
残念ながら轟雷のものはありません……


バーゼラルド対策で何も思い付かず、紅狼(くろう)が帰った後

「……何か良い手はないかしら」

スティレットは勝利への手段を模索していた。

その持ち主である戦勝(せんしょう)も、

「今のままじゃあ勝てないな」

一緒に考えていたが、良い意見が思い浮かばなかった。

さてどうしたものか、と考えていると、ピンポーンとチャイムがなる。

戦勝(せんしょう)

紅狼(くろう)が忘れ物でもしたのか?」

と呟きながら玄関に向かう。

一人考え込んでいたスティレットを残して。

「せめて武器が増えれば……」

そう呟くと同時に、戦勝(せんしょう)が戻ってきた。

その手には段ボールが抱えられており、

「宅配便だった」

その一言でスティレットはテーブルから降りた。

それを確認してから戦勝(せんしょう)は段ボールを置くと、

「えっと送り主は……、FAファクトリー?」

スティレットは肩に飛び乗ると、

「研究所から?一体何かしら」

そう呟いた。

 

戦勝(せんしょう)が段ボールを開けて中身を確認すると、そこにはスティレットの装甲と同じ色のランナーと一通の手紙が入っていた。

「えっと何々?『新製品のお試し兼戦力強化で送らせて貰いました』云々……」

途中で読むのが面倒になったらしく、戦勝(せんしょう)は手紙を閉じると、

「良かったなスティレット。FAファクトリーは見放してないみたいだ」

そう声をかけた。

スティレットは不思議そうな顔をしていると、

「もし見放していたら強化パーツなんて送ってこないだろ?それにカラーリングもスティレットに合わせてある。愛されてる証拠だよ」

戦勝(せんしょう)は優しく声をかける。

スティレットは「そっか……、うん」と納得したように口にすると、

「マスター、次はバーゼラルドに勝って見せるわ」

「うん、その意気その意気。じゃあ今は俺が頑張る番だな」

戦勝(せんしょう)はそう言うと、ニッパーでパーツを切り落として組み立てていく。

 

約一時間後、全ての装備を作り上げた。

「えっと、コレがエクシードバインダー。スラスター・キャノン・シザーの三つのモードに変えられるのか……。で、こっちが……」

「ねえマスター。説明を聞いてても分からないから、実際に使ってみたいんだけど……」

「ああ、『百聞は一見にしかず』……、ちょっと違うか?ちょっと待ってて、今から紅狼(くろう)に……」

「轟雷を呼ばなくても大丈夫よ。確か……」

スティレットがそう言いながらセッションベースを弄る。

そして「あった」と言うと、

「これで練習できるわ」

「何をしたんだ?」

「セッションベースのモードを戦闘(バトル)から練習(プラクティス)に変更したのよ」

「そんなことができるなら、早く言ってくれ……」

戦勝(せんしょう)はため息混じりにそう返した。




前書き通り、スティレット強化のお話でした。
そして、セッションベースのモード変更は今作オリジナル設定です。
持っている方は変ないじり方をして壊さないでくださいね、鍋敷きにもできません。
さてネタバレと言うか余談ですが、キャラクターの名前は

紅狼⇒原作フレームアームズで轟雷のコードネームの「ウェアウルフ」のウルフから

戦勝⇒スティレットが戦闘機をモデルに作られた事から(後で知りましたが剣の種類にスティレットと言うものがあったので剣関係でもよかったかなっと思いましたが)

右烏⇒アニメ等の設定で「光るものが好き」=カラスの印象から

となっています。
今鷲翔の方を明かすと本当にネタバレと化すので今は秘密です。


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フレームアームズ・ガールの危険な日

アニメは最終回になってしまいましたが、この作品はまだ続けます
今回のお話は、轟雷達のパワーアップから数日後のお話となります
そして残念ながら戦闘シーンはありません


「ねえ、今度の休み、久しぶりに遊びに行ってもいい?」

唐突に鷲翔(しゅうが)がそう訪ねてきた。

そういえば最近は鷲翔(しゅうが)とは遊んではいない。

というのも、ここ数ヵ月はフレームアームズ・ガール達のデータ取りの為に、鷲翔(しゅうが)を呼べないからだ。

なので一段落している今は特別問題ないだろう。

という訳で了解と伝えると、

「ついでに戦勝(せんしょう)右烏(ゆう)も呼んで軽いゲーム大会にしない?」

「うんいいけど、何にする?」

「え~と……」

そう言って相談し始める。

そしてチャイムが鳴って、

「それに見せたいものもあるし、じゃあ今度の休みに」

そう言って鷲翔(しゅうが)は自分の席に戻った。

(『見せたいもの』って何だろうな)

と考えながら、紅狼(くろう)は授業の準備を始めた。

 

当日、紅狼(くろう)は部屋の準備をしていた。

準備と言ってもゲーム機をテレビに繋いで、轟雷(恐らく連れてくるであろうスティレットとバーゼラルドも)隠れられる場所を作っておく程度だ。

片付けはしないと言うか、綺麗に片付いているというのが本音である。

というのも、フレームアームズ・ガールの戦いは何故か紅狼(くろう)の部屋で行うことが多いからである。

なので、毎回綺麗に片付けているので問題はない。

後は、見せるプラモデルを選んでおくだけと思っていたときにチャイムがなった。

轟雷が隠れたのを確認してから返事をする。

無論三人同時だったので、玄関を開けて招き入れる。

三人とも「お邪魔します」と言って入ると、

「ジュース買ってきたよ~」

「俺は菓子を買ってきた」

鷲翔(しゅうが)戦勝(せんしょう)はビニール袋を見せながら入ってきた。

「悪い、何もない」

右烏(ゆう)が申し訳なさそうにそう言いながら入る。

「ねえ、ゲームする前に見せたいものがあるんだけど、テレビいい?」

そう訪ねる。

三人とも詳しく聞かされてない事で興味があったので、承諾すると、鷲翔(しゅうが)はテレビからゲーム機のケーブルを抜き、代わりに持ってきたビデオカメラのケーブルを差す。

三人は鷲翔(しゅうが)が買ってきたジュースをコップに移して準備を待つ。

そして、操作をして映像を映し出した。

写っていたのは、サークルで使う教室と、

『ねえ、コレ何かな?』

デザインナイフを振り回すバーゼラルドの姿だった。

予想外の映像に三人が同時にジュースを盛大に吹き出した。

その様子を見るなり大爆笑する鷲翔(しゅうが)

『ちょ、危ないわよバーゼラルド!!』

『刃物を振り回さないで下さい!!』

バーゼラルドから轟雷とスティレットが逃げる。

(流石に刃物は危ないようだ、というかバーゼラルドは一体何をしているんだろうな)

等と現実逃避していると、

「で、何か言いたいことある?」

鷲翔(しゅうが)が笑顔でそう問いかけてきた。

「あ、ああ。よくできた動画だな、どう編集したんだ?」

戦勝(せんしょう)が悪あがきを試みた。

だが、

「さっきジュースを吹いたよね、じゃあ心当たりがあるんじゃないの?」

鷲翔(しゅうが)が正面から突破しようとしている。

「それとも右烏(ゆう)に聞いた方が早いかな?なんで俺が直したプラモデルが動いてるの?」

「あっ……」

そうだ、忘れていた。

鷲翔(しゅうが)はゴールデンウィーク明けに、バーゼラルドの装甲を修理もとい組み直している。

それから一ヶ月程しかたっておらず、右烏(ゆう)が組んだという印象が強かったらしい。

さて、どうやってこの場を切り抜けようと考えていると、

「それとももしかして、無関係な奴が知ると始末されるような話なのか?」

そう言われて気付いた。

もしそうなら鷲翔(しゅうが)は……、

「大丈夫よ、そんなルールはないわ」

そう言ってスティレットが鞄から出てきた。

「いいのか、スティレット?」

「いいも何も、ほとんどバレたようなものよ。それなら変に疑られるよりも明かした方がいいわ」

スティレットがそう断言する。

「分かってると思うけど……」

「他言無用、でしょ?分かってるよ。証拠も何もないし」

スティレットの言葉に、鷲翔(しゅうが)がそう返した。

「それに言ったところでイタい子扱いだから、気にしなくていいよ」

そう言うとスティレットに手を伸ばすと、

「初めまして、鷲翔(しゅうが)だ」

「スティレットよ」

スティレットは人差し指を握っている。

それがフレームアームズ・ガールの握手のようだ。

「そうすればいいのですか?」

いつの間にか隣に立っていた轟雷に驚きの声をあげると、

「ええ、そうよ。轟雷はしてないの?」

「バーゼもしてないよ?」

「アンタには聞いてないわよ。それにそんな事だと思ったわよ!!」

スティレットが轟雷とバーゼラルドとの口論をし始めると、

「この子達、いつもこんな調子なの?」

鷲翔(しゅうが)はこっちに問いかけてきた。

三人とも苦笑いで答えていると、

「とりあえず初めまして、鷲翔(しゅうが)。轟雷です」

「バーゼラルドだよ~、あの時はありがとね」

鷲翔(しゅうが)がそれぞれと握手をしてから、

「じゃあゲームをしようか」

「軽いな!?」

戦勝(せんしょう)鷲翔(しゅうが)にツッコミを入れる。

いや、知りたいことは知ったからいいし、と返す。

「じゃあそれでいいが、一つ聞かせろ。なんでこんな動画を撮った?」

「ああ、コレ?これは……」

そう言って説明し始める。

要点をまとめると、

『授業内容を録画していたが、サークルの教室に置いたときにスイッチが入って録画していた』

と言うことだった。

「お前、言いたくないが下手すると盗撮になるぞ?」

「そんな下らない事に使わないよ。もし授業中に寝てもコレで撮った内容を見返してノートに取り直すんだ」

(※授業内容を録画することは推奨しません。絶対にしないようにしてください。

また、授業中に居眠りをしないようにしましょう)

そんな感じで騒ぎ始める人間四人を見ながら、

「人間って大変ですね」

「ホントにね」

轟雷とスティレットはそう呟いた。

「でもバーゼはお礼を言えたから良かったよ?」

バーゼラルドの言葉に、轟雷とスティレットは顔を見合わせてから、三機で微笑みあった。

そしていつの間にかゲームを始めた四人を見ると、それぞれの持ち主の膝や肩、頭に飛び乗ってその様子を眺めていった。

 

結局ゲームは鷲翔(しゅうが)のボロ勝ち、それに紅狼(くろう)戦勝(せんしょう)右烏(ゆう)と言う順番となった。

「くそ、コイツは……」

戦勝(せんしょう)は悪態付きながらコントローラーをテーブルに置く。

一旦休憩とばかりに全員が置くと、

「そう言えば轟雷たちを使って、何をしてるの?」

言われてみれば、説明するのを忘れていた。

「戦わせるんだよ、見るかい?」

「支障がなければ是非に」

そんなやり取りをしている間に、轟雷達はセッションベースを持ってきた。

それをテーブルの上で連結して武器ラックに武器を、充電くんに装甲を装着させる。

準備が整ったところで、

「「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」」

戦闘を開始した。

 

「ふ~ん、こうやって戦うのか……」

「そうだよ」

「お前がバーゼラルドの装甲を直した時は大変だったんだぞ」

「そうなの?」

鷲翔(しゅうが)の問いに、戦勝(せんしょう)は「ああ」と前置きし、

右烏(ゆう)が調子に乗って、好き勝手やってたんだぞ」

戦勝(せんしょう)が「なあ、スティレット」と問いかけると、「ええ」と返事をする。

「あの時はどうやってバーゼラルドを倒すか考えてたわよ」

「実質俺のせいか、済まなかったな」

申し訳なさそうに言う鷲翔(しゅうが)に、全員が「気にするな」と返す。

「あれは調子に乗った右烏(ゆう)が悪い」

「お前は直しただけだから、悪いところなんてないよ」

「マスターの言うとおりです」

「まっ、あのままじゃ張り合いがなかったし」

「お陰でバーゼは自由に飛べるようになったんだよ」

右烏(ゆう)以外の全員がそう言う。

そしてバーゼラルドは鷲翔(しゅうが)の前まで歩いていくと、

「本当にありがとうね」

またお礼を言った。

鷲翔(しゅうが)は微笑みながら人差し指でバーゼラルドの頭を撫でる。

こうしてまた一人、フレームアームズ・ガールの存在を知る人間が現れた。




さて、今回は秘密を共有する人間が増えてしまった訳ですが、あっさりいきましょう
また、前書きでも言った通りアニメは終わってしまいましたので?、この作品とアニメのキャラクターの違いの説明でも

轟雷
アニメでは強化形態で轟雷・改となりましたが、この作品では「+ウェポンセット1」となっています
コレは出来上がったのが改より前だっただけですが、どうにかして改を出したいです(しばらくあてはありません)

スティレット
解説役と強化形態に「+ウェポンセット2」が追加されています
アニメとはバーゼラルドと立場を入れ換えてますね
そう言えばまだスティレットの単独勝利の話がありませんね、努力します……

バーゼラルド
解説役と言う立場がなくなってますね、個性を減らしただけ、というのもどうかと思いましたが、後は前回までの後書きに書いている通りですね

余談ですが、装甲等の配色はアニメのものと違うプラモデルベースです
こちらの方が、プラモデルを持っている方はイメージしやすく、持ってない方はコトブキヤの公式サイトやレビューでどうなってるか確認しやすくするためです
最後にアニメ主人公のあおと友達の武器子ですが、現在出す予定ですが、まだ当分先となっています
また、オリジナルのフレームアームズ・ガールを出す予定はありません
長文になりましたが、ありがとうございました


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姉達が来る日

ここからアニメ・小説と設定が異なってきます


「なあ、今日はどうしようか?」

サークルで使う部屋で、紅狼(くろう)は三人に問いかけた。

いや、厳密には三人と三機だ。

「また紅狼(くろう)の部屋で」

「バトルんじゃないの?」

戦勝(せんしょう)右烏(ゆう)がそう言った。

「たまにはどっちかの部屋でしようよ……。鷲翔(しゅうが)はどうする?」

少し離れたところに座ってプラ板を加工する鷲翔(しゅうが)に声をかける。

鷲翔(しゅうが)は「ん~」とぼやくと、

「今日は本屋とゲーセンに寄るからいいかな」

そう返してきた。

どうやら『しばらく来ない』と言った件は、片が付いたらしくここ数日は毎日来てはプラ板を弄っている。

それでいて何も作ってないが、そもそもコンクールに出す作品は既に完成している以上、完全に手を空けている。

ついでに言えば紅狼(くろう)達も既に終わっている。

だが、なんとなくここに集まって、話をしてから帰っている。

机の方を見れば、轟雷達も話をしている。

終わり次第リュックに入れて帰ろうか、と考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

轟雷達も慌ててリュックに潜り込んでいくのを確認して、鷲翔(しゅうが)が「どうぞ~」と言いながら扉を開ける。

「邪魔するで~」

「邪魔するなら帰って~」

「はいよ~」

まるでコントをするように男子が一人入ると同時に出ていった。

直後に鷲翔(しゅうが)は扉を閉めると同時に鍵をかける。

「……ってなんでや、じゃなくて開けろ!!うわ、アイツマジで鍵かけおった!!」

必至で扉を開けようと、ガチャガチャさせる人間を余所目に、鷲翔(しゅうが)はスプレーガンを持って水道に行くと、塗料を入れる部分に水を入れて蓋をする。

引き金を引いて、ちゃんと水が出るのを確認してから、タオルを持って、再び扉の前に立つ。

そして、鍵を開けると、

「おいコラ、なに考えと……わっぷ!!」

怒り任せに入ってきた生徒の顔をめがけて引き金を引いた。

「うるさい、迷惑、頭を冷やせ」

鷲翔(しゅうが)はそう言いながら水をかけ続ける。

「止めんか!!」

水をかけられていた男子がそう叫ぶと同時に引き金から手を離した。

そしてタオルをかけられた男子の手に握らせる。

受け取った男子は顔を拭いて、

「ったく、ろくな事せぇへんな、わっぷ!!」

タオルを顔から離した途端、またも鷲翔(しゅうが)がスプレーガンで再び水をかける。

「いい加減にせえ!!」

先ほど顔を拭いたタオルをおもいっきり振りかぶり、見事鷲翔(しゅうが)の頭を捉えた。

「何しやがる!!」

「それはこっちの台詞や!!」

(確かにお前の台詞ではないな)

鷲翔(しゅうが)の行いを黙って見ていた三人は心の中でそう呟いた。

「……ここって、入ろうとすると水をかけられるの?」

男子から少し離れたところから女子がそう尋ねてきた。

「そうなの部長?」

「「「「部長お前じゃねぇの!?」」」」

こっちを見ながら尋ねる鷲翔(しゅうが)にその場にいた男子全員でツッコミを入れた。

鷲翔(しゅうが)は「ん~」と呟いてから、

「じゃあお二方、どうぞ」

招き入れるような動きで二人を教室に入れた。

「で、君たちは誰?どういった理由で?」

「ワイは東馬(とうま)や、よう覚えとき!!」

「私は双葉(ふたば)よ」

二人が自己紹介をする。

「っと、その前に一つ聞きたいけど、ここはプラモ研究サークルで合っとるんか?」

「合ってるよ」

「そうか、じゃあもう一個」

東馬(とうま)がそう切り出すと、

「フレームアームズ・ガールって知っとるか?」

と言いながらプラモデルを出した。

それは轟雷の素体みたいな外見のものだった。

銀色の髪が、肘まで届いている。

「いや知らない」

何それ、と鷲翔(しゅうが)がしらばっくれた。

「そないか、じゃあここにいる理由がなくなったわ」

東馬(とうま)はそう言いながら、そのプラモデルを仕舞いつつ立ち上がる。

「そうね、私も理由がないわ。どっちかと言うと、あなたに聞くことができたわね」

双葉(ふたば)はそう言いながら、東馬(とうま)を睨んだ。

その間に鷲翔(しゅうが)は準備室に入っていく。

「アーキテクト姉ちゃん~」

バーゼラルドが飛び出して仕舞われた鞄に飛び付いた。

すると鞄の口から先ほどのフレームアームズ・ガールが上半身だけを出すと、

「確認、バーゼラルドは元気みたいですね」

そう言いながらバーゼラルドの頭を撫でる。

バーゼラルドも嬉しそうに「うん」と言う。

右烏(ゆう)が頭を押さえていると、

「アーキテクト姉様、出てたんですね?」

いつの間にかスティレットも鞄に着地していた。

その隣には轟雷もだ。

「確認、あなた達も元気のようですね」

アーキテクトと呼ばれたフレームアームズ・ガールは、今度は轟雷とスティレットの頭も撫でる。

「なんや、お前が長女なんかい?」

東馬(とうま)はそう尋ねると、

「回答、そうではありません。私は最初に作られたプログラムです」

「……つまりどう言うことだ?」

「簡単に言うと、人格データはアーキテクト姉様が一番最初に作られたの」

「じゃあ長女じゃ?」

「それは正解で間違いです。プログラムはアーキテクトお姉さんですが、身体はマテリアが最初です」

「それを両方合わせて起動したら、両方とも動いたから誰が長女になるか分からないんだ~」

フレームアームズ・ガール達の説明を聞く限り、最初のプログラムはこのアーキテクト、身体はマテリアと呼ばれる機体のようだ。

「……あの、アーキテクト姉様。マテリア姉様達は……」

「あらスティレットちゃん?」

「そんなに他人行儀にしなくてもいいわよ」

スティレットが「ひっ」という声をあげ、どこからともなく声が聞こえた。

見ると双葉(ふたば)の頭の上にフレームアームズ・ガールがいた。

それも二機だ。

ショートカットの髪型は一緒だが、ピンクの髪と白いボディースーツのものと、青色の髪に黒いボディースーツとカラーリングに違いがある。

「皆さま初めまして」

「マテリアと言います」

「「どうぞよろしくね」」

二機が交代交代に会話をしてくる。

「えっと、どっちがマテリア?」

「「どっちもマテリアよ」」

紅狼(くろう)の問いに、二機は同時に答えた。

「えっ、二機ともマテリアなの?なんかややこしいな」

「そうね、だから私は……」

双葉(ふたば)は両手にマテリア達を乗せて、

「こっちは『シロ』」

ピンクの髪のマテリアを持ち上げ、

「こっちは『クロ』って呼んでるわ」

今度は青色の髪のマテリアを持ち上げながら、そう言った。

そして、マテリア達を東馬(とうま)の鞄に載せ、

「いや載せんなや」

東馬(とうま)は鞄を机に置き、フレームアームズ・ガール達は降りた。

ついでにアーキテクトも鞄から出てきた。

「久し振りね、スティレットちゃん」

「さぁ、再開のハグをしましょう」

マテリア達は両手を拡げて待ち構えるが、当のスティレットはジリジリと後ろへ後ずさっていく。

そして中々来ないスティレットめがけて、シロが飛びかかっていく。

「ちょ、まっ……、きゃあ!!」

押し倒したスティレットをシロは撫で回し、スティレットは女の子みたいな悲鳴をあげる。

ジタバタともがくが、シロの拘束から脱出はできないようだ。

「大丈夫なのか、アレ?」

「うん、大丈夫だよ~」

戦勝(せんしょう)の問いにバーゼラルドが答える。

そのバーゼラルドは、正座したクロの膝の上に座って可愛がられていたが。

「マテリアお姉ちゃん、じゃなくてシロお姉ちゃんはスティレットの事が大好きなんだよ~」

「ただ、愛情表現が強すぎて、スティレットちゃんに避けられてるのよ」

バーゼラルドとクロが「ね~」等と指し示したように言い合う。

その様子を見る限り、バーゼラルドとクロの仲は悪くない。

逆にシロとスティレットはよろしくないと言っていいだろう。

そう言えば轟雷とアーキテクトは、と見てみると、

「皆さん、仲がいいみたいです」

「肯定、私もそう思います」

(……う~ん?)

分からない。

だが、悪い感じはしなかった。

しかし、双葉(ふたば)が轟雷を持ち上げると、

「きゃあ、何この子可愛い!!」

そう言ってジロジロいろんな角度から眺めていた。

アーキテクトはアワアワしながら手をばたつかせて、どう止めればいいか分からない様子だ。

当の轟雷はされるがままに硬直している。

「ねえ、この子貰っていい?いいわよね?」

「駄目に決まってるだろ!!」

コイツは唐突に何を言い出すのか、と思っていると、

「じゃあマテリアが勝ったら、貰っていくね!!」

もはや勝手が過ぎるだろう。

双葉(ふたば)ちゃん、落ち着いて」

「私たちは興味ないわ」

マテリア達はそう言ってくる。

「え~、だって可愛いじゃん~」

「確かに可愛いけど……」

そう言っているシロの右手はしっかりスティレットを捕まえており、グイッとからだの前に持ってくると、

「私はスティレットちゃんの方が可愛いと思うわ」

「だ、だから放して……」

いまだに脱出できていなかった。

「あら、シロお姉さま。私はバーゼちゃんの方が可愛いと思うわ」

「にゃはは~」

こっちはこっちで未だに頭を撫でられていた。

「だから、私たちは……」

「スティレットちゃん、バーゼちゃんと戦いたいの」

うふふと笑うマテリア達を見ていた双葉(ふたば)は、「仕方ないな~」と呟きながらセッションベースを取り出すと、

「じゃあどっちがする?私たちはどっちでもいいけど」

そう言ってきた。

だが、鷲翔(しゅうが)が戻ってくると、

「悪いけど、今日はもう帰るんだわ。やるなら別のところでしてくれ」

「何、あなたに関係……」

双葉(ふたば)が文句を言おうとしたが、途中で止めた。

全員がそちらを見ると、何か大きめのタンクを背負い、そこからケーブルが伸びて、手に持った水鉄砲に繋がっている。

「……ちょっと待て、お前どこから持ってきた」

「準備室。先輩が置いていった」

「それプラモデル作るのに必要か!?」

明らかに必要ではないだろう。

その場にいた誰もが同時にそう思った。

「で、どうする?ここで水をかけられるのと、紅狼(くろう)の部屋で戦うか」

「じゃあ、後者」

「何で人の家を戦場にしたがるんだ、お前らは!!」

紅狼(くろう)がそう叫ぶが、彼以外は荷物を手に教室を後にした。

 

紅狼(くろう)の部屋に六人と六機のフレームアームズ・ガールが来た。

鷲翔(しゅうが)のみが一度自分の部屋に戻ってから、ジュースと菓子を鞄に積めて、戻ってきた。

「じゃあ始めましょう」

そう言ってセッションベースを置く。

だが、一つだけだ。

「あれ、一個だけでいいの?」

「ええ」

「構わないわ」

マテリア達は一つのセッションベースに乗る。

そして武器ラックには、剣と盾がつけられたものと、大きな丸ノコのようなものがつけられたものとの二つがつけられている。

しかし、装甲がない。

「装甲はいいのか?」

「いいのよ」

「だって当たらないから」

自信満々で答える。

「だからスティレットちゃん、バーゼちゃん」

「遠慮しなくていいからね」

連結しているセッションベースに載っているスティレットとバーゼラルドに、マテリア達はそう言う。

「分かった~」

「そして私たちが勝ったら、スティレットちゃんを一晩借りるわ」

「ぜ、全力で挑むわ」

そして、全員の準備が整い、

「スティレット」

「バーゼラルド」

「「マテリア」」

「「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」」

 

バトルステージは工場。

黄色いガラス状の円柱が、等間隔に置いてある。

そして天井がある。

コレが何を意味するか、それはスティレット達飛行型の移動に制限がかかると言うことだ。

「バーゼラルド、後ろを任せるわよ」

「オッケー」

既に上昇していたスティレットとバーゼラルドが行動し始めた。

スティレットは右手にガトリングガン、左手にミサイルと日本刀を持って前に飛び出す。

一方バーゼラルドは、セグメントライフルを手元に転送しつつ後ろへ下がっていく。

「喰らいなさい!!」

スティレットがミサイルを発射、まっすぐマテリアめがけて飛んでいく。

「甘いわよ、スティレットちゃん」

シロがそう言って剣を振る。

それ自体は普通だ。

だが、おかしいのは剣の方だ。

いきなり伸びて、まるで蛇の腹のような形状となった。

コレでは剣というより鞭である。

それをそのままにミサイルを横叩きに誘爆させた。

普段なら爆風を突っ切って行くスティレットだが、範囲の広い蛇腹剣が相手ならばそうは行かない様子で、ガトリングガンで距離を取りつつ攻撃を始める。

だが、それは獣の頭部を模した盾に防がれてしまう。

 

「ふ~ん、『ビーストマスターソード』と『ビーストヘッド』を使ったシールドね」

「何それ」

「FAファクトリーから発売されている武器の一つだよ」

鷲翔(しゅうが)が簡単に説明する。

「ええ、よく知ってるわね」

「今、俺の部屋にある」

「ゴメン貸して、今すぐ!!」

右烏(ゆう)がそう叫ぶが、モニターから『やめた方がいいわよ』と声が届いた。

『コレの扱い、意外と難しいから変に使うと自滅するわよ』

「だろうね」

シロの言葉に、鷲翔(しゅうが)が頷く。

どういう事だ、と尋ねた全員に、

「そもそもリーチの長く、攻撃範囲が広い武装はタッグマッチには向かないんだよ」

特に鞭とかはその筆頭だよ、と呟いた。

 

「チッ」

「スティレットちゃん、女の子が舌打ちしちゃ駄目よ~」

中々責め込めないスティレットの舌打ちに、シロがビーストマスターソードを真っ直ぐ伸ばす。

思いの外の伸びに驚きながらも、宙返りしつつ回避する。

そして地面すれすれを滑空しつつ、シロから距離を取ろうとするが、

「逃げちゃ駄目よ」

行き先を塞ぐようにクロが待ち構えていた。

上を見れば、再び伸びたビーストマスターソードが振り下ろされていた。

真っ直ぐ行けば丸ノコを構えたクロ、どうしても一撃貰うわね、と判断すると同時に日本刀を真横に構える。

それと同時にクロの左後ろからビームが飛んで来た。

最初は気付けなかったクロだったが、

「クロちゃん後ろ」

「分かったわ、シロお姉さま」

振り向くと同時に右後ろへステップするように下がりやり過ごす。

「甘いわね、バーゼラルドちゃん」

「うん、当たらなかったね」

バーゼラルドがニッと笑いながら、

「クロお姉ちゃんには、ね」

ビームはくの字を描くように曲がって軌道を変える。

その進行方向には、

「……ッ!!」

盾を構えたシロ。

盾で防いだので、ダメージこそないがお陰で振り下ろされたビーストマスターソードは逸れて、クロとスティレットの間を切り裂いた。

それに沿うようにスティレットは滑空、マテリア達から距離を取ることに成功する。

「クッ……」

迎撃に失敗したクロは、手に持っていた武器の端を持つと、体を回転させるとそれを投げる。

投げられた武器はスティレットめがけて低空で飛んでいくが、バレルロールで上空に上がりつつ回避する。

そして旋回しながらバーゼラルドの隣に行くと、

「助かったわ、バーゼラルド」

「えへへ~」

珍しくスティレットが礼を口にした。

「スゴいわね、二人とも」

「ええ、本当に。成長したわね」

マテリア達はスティレットとバーゼラルドを誉めてきた。

 

「そうなの?」

「回答、二機とも成長している。FAファクトリーにいたときよりも確実に」

「そうなんだ」

「スティレットは元々勝ち気な性格からか無謀な突撃が多く、無駄な被弾が多かった」

「確かにそう言われてみれば……」

戦勝(せんしょう)のところに来て最初の戦い、スティレットはミサイルと滑空砲で発生した爆風を突っ切って轟雷に突進していた事もあった。

だが、戦いを重ねる事に宙返りやバレルロールを使っての回避行動が多くなっている。

「バーゼラルドは遠距離主体の為、距離を取っての行動が多く、結果攻撃が遅れがちだった」

「へぇ……」

もしそうならば、今回の援護はまぐれと言うことになるが、間違えなく狙っての援護、つまり先読みで動いた事になる。

「マテリア達もそれを実感しながら戦ってる。だから嬉しそう」

「そうかしら?いつも笑ってるけど……」

「笑い方が違うんだよ、さっき見た限り嘲笑だったけど、今は笑みかな?」

そう言う鷲翔(しゅうが)の口元もつり上がっていた。

 

「ここからは」

「こっちから攻める番ね」

マテリア達はそう言うと、クロが手元に戻ってきた丸ノコを二つに分ける。

半円の形をした二振りの剣を持ったクロが、盾を構えて突っ込むシロに追従するように移動する。

「来るわよ、バーゼラルド」

「前お願いね」

先ほどと同じようにスティレットが前、バーゼラルドが後ろへ下がる。

スティレットは弾丸のように前進しつつ、ガトリングガンを発砲する。

だが、前にいるシロのビーストヘッドに阻まれて攻撃が届かない。

「ふふっ、効いてないわよ」

「シロお姉さま、前に」

そう言われてシロは加速、クロとシロの隙間をバーゼラルドのセグメントライフルの一撃が通りすぎる。

「やっぱり同じ手はそう通じないわね」

盾を顔の前に構えさせ、前方が見えなくなったときを狙って斜めからセグメントライフルで撃ち抜く作戦はあっさり見破られた。

理由は少し距離を置いて、後方を走るクロだ。

少し距離を取ったことで、前方の視界が広がり、奇襲を回避できたのだ。

やはりマテリアタッグは意志疎通ができている。

さすがは双子といったところか。

スティレットはそのままマテリア達を通りすぎると旋回、

「マスター!!」

右手を上にかざしながらそう叫ぶ。

その手に転送されたのは、スティレットの装甲色と同一のエクシードバインダー。

それと同時に真っ直ぐマテリア達に向けると、

「エクシードバインダー・フォトンキャノンモード。いっけぇ!!」

今までのビーム弾とはうってかわって、青いビームを照射を放つ。

どうやらあんな攻撃パターンも隠し持っていたらしい。

だが、マテリア達はクロが即座に横へ避け、それと同時にシロが盾を構えて飛び出す。

そしてビームを受け止める。

クロもシロを背中から支える。

「ふふっ、甘いわねスティレット」

背中をクロに支えてもらいながら、シロはそう言った。

「えぇ、私も本当に甘いわね」

スティレットが自傷気味にそう呟くと、

「バーゼラルド、全力で撃ちなさい!!」

スティレットの叫びに「ほ~い」と気の抜けた声が聞こえる。

マテリア達はバッと振り返る。

見えたのは遠くでバーゼラルドがフルバーストモードを構えで、しかも標準を定めてしまっている。

無論相手は自分達だ。

「フルバースト!!」

先ほどのスティレット同様、黄色い照射がマテリア達へ向かう。

だが、スティレットの攻撃を抑えるために二機は動くことができない。

そう判断したマテリアは笑みを浮かべ、そのまま光へ呑み込まれた。

二機を呑み込んだ光はそのままスティレットへ向かい、

「……ッ!!」

その目の前で左右に分かれて逸れていった。

「……」

呆然としているスティレットへ、

「バーゼの技術は宇宙一~」

バーゼラルドが笑いながらそう言って、スティレットも笑った。

それと同時に「winner スティレット・バーゼラルド」の文字が浮かんだ。

 

バトルフィールドから紅狼(くろう)ぼ部屋に戻ると、

「はあ、助かった……」

スティレットが尻餅をつきながらそう言った。

「ええ、今日は私たちの負けね」

「だから」

マテリア達はスティレットにすり寄っていくと、

「「一晩好きにしていいわ」」

「ちょっとそれ意味ないじゃない!!」

スティレットがそう叫びながら立ち上がりが、そのままフラッと後ろへ倒れる。

シロが手を伸ばしてスティレットを支えると引き寄せて、抱き締める。

「スティレット!?」

戦勝(せんしょう)がそう言って駆け寄るが、

「……大丈夫よ、充電切れで寝てるだけ」

そのまま座り込む。

見ればバーゼラルドも倒れ込んでいるが、クロが既に寄り添っていた。

「ねえ、充電君は?」

「ゴメン、部屋にある」

戦勝(せんしょう)右烏(ゆう)も充電君を持っていない。

紅狼(くろう)は一個しかないので、二機を充電する事ができない。

どうしようかと考えていると、「仕方ないわね」とマテリア達はそう言うと、

双葉(ふたば)ちゃん」

「私たちの充電君を」

双葉(ふたば)は「はいはい」と言いながら鞄から紫色と桃色の二つの充電君を取り出す。

マテリア達は充電君を呼ぶと、ベットモードに切り替わり、二台を並べる。

そして、ケーブルをそれぞれの端子に繋ぐとそのままベットに寝かせる。

だが、何故かマテリア達は二機の頭を持ち上げると、体を入れ、膝枕をし始めた。

マテリア達は背中を合わせて二機の頭を撫でる。

スティレットは嫌がっているが、マテリア達は優しいお姉さんのようだ。

そう思いながら見ていると、

「それでは次は私たちの番ですね」

「よろしくお願いします」

アーキテクトと轟雷が言葉を交わしあった。




アニメとの違い
アニメでは
マテリア⇒アーキテクト
の順番で誕生しているようになっていますが、この作品では
マテリア=アーキテクト⇒スティレット=バーゼラルド⇒轟雷
の順番で誕生している事になっています。
本当はもう一機入るところがありますが、それは先の話で
また作品では追求されてませんでしたが、クロの使用している武器はグラインドサークルです。
アニメで使われていたものと同一ですが、シロのみビーストマスターソード以外にビーストヘッドを装備しています。
コレはセット販売されているものをそのまま使用している為です。
興味があれば調べてみるのも面白いかもしれませんね

そして、今回登場した新キャラクターの双葉と東馬の由来ですが、
双葉⇒マテリアの双子
東馬⇒アーキテクトは全く関係ないです、というより浮かびませんでした。
なので『マスター』という言葉から連想される『マスターアジア』のアジア
となっています。
最後に鷲翔が部屋に戻った本当の理由は飲食物を取りに行くためだけだったのでしょうか。
それでは、次の話で


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姉達が来る日Ⅱ

ようやく投稿できました


轟雷(ごうらい)とアーキテクト、二機のフレームアームズ・ガール達の戦闘準備が終わった。

轟雷(ごうらい)は、いつものウェポンセットフル装備。

一方のアーキテクトは、自分の腕どころか人の指がすっぽりはまりそうな円柱とその先端に握り拳のようなものが二つある。

それとは別にスパイスと爪が一対ずつある。

「こっちは準備できました」

「回答、こちらもです」

轟雷(ごうらい)とアーキテクトがそう言い合うと、

轟雷(ごうらい)

「アーキテクト」

「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」

セッションベースから光の柱が立ち上がり、バトルフィールドを形成する。

 

バトルフィールドはコロシアム。

大きな石で作られた円柱が全て倒されていて、それが障害物となっている。

また、観客席は所々壁が壊されており、そこから入り込むことができそうだ。

「宣言。轟雷(ごうらい)、かかってきなさい。手加減はいりません」

「分かりました、アーキテクト姉様」

轟雷(ごうらい)はそう言うと同時に、フリースタイル・バズーカを構え、発砲する。

その弾丸をアーキテクトは事も無げに片腕で鷲掴みにした。

そして、そのまま握り潰して爆発させる。

見ていた誰もが、自爆したと思った。

だが、その爆風を突っ切って轟雷(ごうらい)めがけて大きな拳を振り下ろした。

しかし、轟雷(ごうらい)は重心を後ろに倒しつつ、キャタピラーを展開して後退、辛うじてその一撃を回避する。

避けられた一撃は地面に直撃し、ちょっとしたクレーターを作る。

 

「なんだあの威力」

右烏(ゆう)がそう叫ぶと、

「あれは『インパクトナックル』」

「豪快さと繊細さを併せ持つ、アーキテクトちゃんの武器よ」

マテリア達が解説し始めた。

未だにスティレットやバーゼラルドに膝枕して、頭を撫でているが。

「豪快さと」

「繊細さ?」

紅狼(くろう)東馬(とうま)がそう訪ねる。

マテリア達は「ええ」と答えると、

「あれは手を同じように指が動くから、さっきみたいに物を掴むことができる」

「その一方で、見た目通りの拳を振るう攻撃も可能」

マテリア達は代わる代わる言葉を繋げる。

 

アーキテクトの続けざまの攻撃を轟雷(ごうらい)は後退する形で回避していく。

無論真っ直ぐ下がるばかりではない。

時折右後方、左後方へ下がることで安易な読みをさせないように心がける。

だが突然ピタッとアーキテクトは止まり、轟雷(ごうらい)はそのまま後退したので、少し距離が空いた。

「確認、そう言えば轟雷(ごうらい)とは戦うのは初めてでしたね」

「そうですね、アーキテクト姉様」

そう言って言葉を掛け合う。

その間にもお互い体勢を整え直しているが。

 

その一言に紅狼(くろう)はあることを思い出した。

それはスティレットが言った言葉、

「戦う」

という言葉をすぐに理解できていなかった。

それどころか戦うための装甲すら最初は付いていなかった。

「もしかして最初は轟雷(ごうらい)は戦うことを想定せずに作られていた?」

思ったことをそのまま呟いた。

その一言にほとんどの者が不思議そうな表情を向ける。

違っていたのはマテリア達だけだ。

だが、

「まさか、その事に気づくなんて」

「少し驚いたわね……」

なんだか悪く言われている気がするが、

「その考えは正解よ。元々轟雷(ごうらい)ちゃんは愛玩用ロボットとして開発されたの」

「だから本体が完成したことで、ロールアウトが決まったわ」

「でも、私達やアーキテクトちゃんの後継機であることも踏まえれば戦うことができるのではないか」

「もし戦えればどのような情報(データ)を得られるのか」

そう言ってシロはスティレットを頭をいとおしそうに撫でると、

「だから装甲が必要ない私達や既に完成していたアーキテクトちゃんはともかく」

「この子達の装甲を作り上げ、問題なく戦えるかテストし」

「ロールアウトが決まり、あなた達の所へ送られてきた」

クロもシロに倣ってバーゼラルドを撫でながら、一緒に説明していく。

言葉こそ『後継機』と他人行儀な言い方をするが、マテリア達にとって轟雷(ごうらい)達は妹も同然なのだ。

 

「行きます‼」

轟雷(ごうらい)がそう叫んで、ナイフを片手に飛び出した。

「依頼。マスター、インパクトエッジを」

アーキテクトがそう言うと同時に大きな拳が爪に代わる。

それを開くように展開すると、轟雷(ごうらい)を真っ直ぐ見据えて腰を落とす。

そして轟雷(ごうらい)が真っ直ぐ突き出した右腕を、アーキテクトは身体を少し左に捻りつつ動いて回避、そのまま左手を振り、轟雷(ごうらい)の頭部を狙う。

だが、轟雷(ごうらい)は前転することで回避、再び距離を取る。

顔を上げ、アーキテクトを見据える。

そのアーキテクトは武装を『インパクトナックル』に換え、轟雷(ごうらい)の目の前で腕を振り上げている。

そしてそのまま振り下ろす。

今度は前転等と言っている場合ではなく、地面を転がるように避けた。

しかしアーキテクトは追いかけて矢継ぎ早に拳を振り下ろす。

轟雷(ごうらい)が起き上がる暇も与えない。

だが、轟雷(ごうらい)も負けてない。

途中で滑空砲をアーキテクトへ向け発砲、アーキテクトを後退させた。

再び距離を取り、ようやく身を起こした。

「歓喜。轟雷(ごうらい)、本当に成長しましたね」

そう言いながらアーキテクトは拳を振り上げ、轟雷(ごうらい)めがけて飛びかかっていく。

轟雷(ごうらい)もアサルトライフルと滑空砲で迎撃を試みる。

だがアーキテクトは左腕を盾のように構え、砲撃をもろともせず接近し、右の拳を轟雷(ごうらい)へ叩き込んだ。

「グッ……!!」

その衝撃で轟雷(ごうらい)は吹き飛ばされた。

だが、何故か轟雷(ごうらい)にダメージはなかった。

アーキテクトが不思議そうに思っていると、轟雷(ごうらい)の周辺に散らばった破片に気付いた。

(思考。これは先ほどの一撃で破損したもののはず、しかし……)

轟雷(ごうらい)を見るが、その装甲は見る限り破損している部分はない。

だが、破損したパーツの色は明らかに轟雷(ごうらい)のものだ。

一体どういうことかと考えていると、轟雷(ごうらい)が何かを投げ捨てた。

それは普段使っているフリースタイル・バズーカだった。

だが、この戦闘では一度しか使っていないにも関わらず側面がボッコリ凹んで、破損している。

(なるほど、そういうことでしたか)

アーキテクトは答えにたどり着いた。

 

アーキテクトが気付いたのと同時に、観戦していた他のフレームアームズ・ガールや人間も答えに気付いた。

アーキテクトの一撃を受ける瞬間、轟雷(ごうらい)は転送されたフリースタイル・バズーカを盾にしたのだ。

「気転が利くのが、轟雷(ごうらい)の強みなのね」

双葉(ふたば)が納得したようにそう呟いた。

「確かに情報(データ)を見る限り、そうなんだけど」

「現状轟雷(ごうらい)ちゃんの勝ち目はゼロに限りなく近いわよ」

マテリア姉妹がそう口にする。

双葉(ふたば)が「えっ!?」と口に出したが、事実そうなのだ。

轟雷(ごうらい)の主砲とも言えるフリースタイル・バズーカが通用しないどころか破壊されてしまった。

他にも武装があるとはいえ、轟雷(ごうらい)の武装で火力があるのは足と止めなければ狙いを定めることが困難な背部キャノン砲とバズーカのみ。

だが足を止めるということは、轟雷(ごうらい)がアーキテクトに勝ってる機動力を放棄する事と同意義。

そして至近距離において有効打を持たない轟雷(ごうらい)がアーキテクトに寄られれば、その時点で敗北が確定する。

だが、距離を取って勝てるかと言われるとそれも怪しい。

「……詰みか?」

「ハイハイ、そうかもね」

右烏(ゆう)の呟きを聞いた鷲翔(しゅうが)がそう言い返しながら、机に寄ると、

「武装ってここに置けばいいの?」

「お、おう……」

そう問いかけに答える。

鷲翔(しゅうが)は紫色の槍のような物を轟雷(ごうらい)の武器ラックに置くと、

轟雷(ごうらい)、聞こえる?」

『その声は鷲翔(しゅうが)ですか?言葉は鮮明に聞こえます』

「一つ武器を貸して上げる。壊してもいいけど、勝つことが貸して上げる条件だからね」

(また無茶な要求をしやがる)

その場にいた全員がそう思った。

打つ手がない轟雷(ごうらい)に「勝て」と言う無茶な要求をしているのだ。

武装一つ追加しただけでどうにかなるほど、甘い状況ではない。

それは誰の目にも明らかだ。

 

「……ここから私が打てる手、ですか」

轟雷(ごうらい)がそう呟いた。

そこから少し離れた所でアーキテクトが、その様子を眺めていた。

『いいんか、アーキテクト?攻めるチャンスやで』

そんなアーキテクトに、東馬(とうま)が声を掛ける。

だが決して命令するような口調ではない。

むしろ試すような感じである。

アーキテクトは口元を緩ませて、

「マスターも分かっているのでしょう?」

そう言い返した。

東馬(とうま)

『分かってるならええわ』

とだけ言うと通信を切った。

 

『とりあえず轟雷(ごうらい)、武器を送るよ』

紅狼(くろう)は気を取り直して、轟雷(ごうらい)に指示を出した。

そして転送された武器を手に取る。

それをアーキテクトへ真っ直ぐに向ける。

「行きます!!」

「返答。来なさい、轟雷(ごうらい)

アーキテクトは杭型の物へ代え、二機は真正面から得物をぶつけ合う。

ぶつかった得物は火花を散らし、

「なっ!?」

杭型インパクトナックルを木っ端微塵に破壊し、アーキテクト自身を吹き飛ばした。

起こった自体に一瞬驚きながらも、すぐさま武装を担ぎ、槍投げの要領でアーキテクトめがけて投げつけた。

だが、アーキテクトも残った左の杭型インパクトナックルをぶつける。

それも砕けてしまったが、轟雷(ごうらい)が投げた武器を逸らす事には成功した。

しかし無理な防御を行った為、体勢を崩してしまった。

そのまま着地し、轟雷(ごうらい)を見ると、既に武装を全部装備したフルバーストモードを取っていた。

「これで、終わりです!!」

そう叫ぶと同時に、全ての銃口が火を吹いた。

放たれた弾丸はアーキテクトを捉え、耐久を消し飛ばしてしまった。

 

試合が終わるなり、アーキテクトはセッションベースから降りると、

「称賛。轟雷(ごうらい)、頑張りましたね」

そう言って轟雷(ごうらい)へ手を差し伸べた。

轟雷(ごうらい)もその手を握ると、

「ありがとうございます、アーキテクト姉様」

そう言い返した。

表情が乏しいハズの二機(ふたり)のハズだが、どことなく笑顔を浮かべている気がした。

その様子を離れた場所から、マテリア姉妹が眺めていたが、

「……ん」

と膝枕されているフレームアームズ・ガール達が目を開いた。

「あら。スティレットちゃん、起きたの?」

スティレットがゆっくりと体を起こし、状況を把握する。

それと同時に顔を青ざめながら全力で駆け出す。

しかし、シロが後ろから飛び掛かり、

「ふぎゃああああ!!」

等とスティレットは悲鳴をあげるが、それでもシロは放さない。

それどころかしっかりとしがみつき、頭を撫でながらスリスリとしている。

「あらあら、スティレットちゃんたら、そんなに逃げなくても」

「本当にスティレットが好きなんだね、シロお姉ちゃんは」

その様子をクロとバーゼラルドは眺めながら、そう呟いた。

「……あれ、どうにかできないか?」

呆れたように戦勝(せんしょう)がバーゼラルドに問いかけるが、バーゼラルドはあはは、と笑ってから、無理だよ~と呟いた。

「シロお姉ちゃんはスティレットの事が大好きだし、それに……」

「それに?」

「バーゼも捕まってるんだから……」

そう言われて全員がああ、と呟いた。

よく見れば、バーゼラルドもクロに後ろから抱き付かれており、目のハイライトが消えていた。

「あらバーゼちゃんはこう言うことをされるのは嫌い?」

クロが悲しそうな声で問いかけた。

するとバーゼラルドの目にハイライトが戻り、

「そんな事ないよ。バーゼはクロお姉ちゃん、大好きだもん」

笑顔でそう言いきっていた。

その様子を見て、ほとんどの人とフレームアームズ・ガールが笑顔になった。

笑ってないのは、スティレットだけだが。

「そや、鷲翔(しゅうが)って言ったか?ちょっと聞きたいことがあるんやけど、ええか?」

そう言って全員が鷲翔(しゅうが)を見た。

当の本人はと言えば、セッションベースから貸していた武装を回収しようとしていたが、

「何?」

短くそう返した。

「あんさん、自分のフレームアームズ・ガールはどこや?」

「……何を言うておるんどす?」

(何で京都弁?)

唐突に飛び出した言葉に全員が心の中でツッコんだ。

無論、鷲翔(しゅうが)が京都で過ごしたなどと言う話は聞いたことはない。

だが、東馬(とうま)の言葉を思わなかった事はないと言えば嘘になる。

明らかに集められたように、僕の所属しているサークルにフレームアームズ・ガールが配られている。

つまり、鷲翔(しゅうが)の元に送られていても不思議ではない。

そう思って口を開こうとしたとき、

「否定。マスター、それはあり得ません」

アーキテクトが先に口を挟んだ。

東馬(とうま)は「何でや?」と問いかけると、

「現在、最後にロールアウトされたのは私とマテリア姉妹です」

「それにロールアウトできるフレームアームズ・ガールは」

「私たちを含めて六機だけね」

アーキテクトに加えて、マテリア姉妹達も解説してくれた。

「と言うと何か?コイツの元にフレームアームズ・ガールが行っている可能性は……」

「限りなく低いわね」

戦勝(せんしょう)の言葉に、スティレットがそう答え、フレームアームズ・ガール達は頷いた。

しかしその視線は余所を向いていた。

まるで何か嘘をついているように……




今回の武装説明
ガンブレードランス
銃・刃・槍が示す通り、様々な武器に姿を変える武装です。
今回轟雷が使用したのは、ランスモードですが、他にもアックスやツインブレード等、名前以上に変形・分離して使用できます

アーキテクトの武装は作中である程度解説したので、今回は割愛します、ご了承下さい
と言うか、詳しく知らないだけです、すいません


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フレームアームズ・ガールのメンテの日

皆さん、お久しぶりです?


轟雷とアーキテクトが戦って数日後

それからも毎日のようにフレームアームズ・ガール同士で対戦を繰り返していた。

場所はいつもサークルで使っている教室、遅くなれば紅狼(くろう)の借りている部屋で行われた。

そして双葉(ふたば)東馬(とうま)もサークルに入ってくれた。

そんなある日、教室で談笑している面子に向かって、

「皆、今度の休日は暇?」

と鷲翔が問い掛けてきた。

全員が不思議そうな表情を浮かべていると、

「ちょっと別の町のプラモ店に行くつもりなんだけど、一緒にどうだい?」

そう言ってきた。

紅狼(くろう)戦勝(せんしょう)右烏(ゆう)を共に双葉(ふたば)東馬(とうま)を見た。

と言うのも、実は轟雷・スティレット・バーゼラルドの三機は未だにアーキテクトやマテリア姉妹を自力で倒せていないのだ。

以前は力試しの一面の方が強かったらしく、手を抜いていたらしいのだ。

実際本気になったアーキテクト・マテリア姉妹相手によくて七割を削れるようになった程度。

鷲翔から武器を借りてようやく互角と言ったところである。

「そのプラモ店には、武器は売ってるのか?」

「ウェポンユニットの事?もちろんあるよ」

それを聞き、それなら行こうかなと紅狼(くろう)が思った時、ポケットにしまっていたスマホが鳴った。

よく見れば、鷲翔以外の全員にメールが入っていた。

内容は単純で、

「フレームアームズ・ガールのメンテナンスをしたいので、下記の場所まで来て欲しい」

と言うものだ。

その日は丁度、鷲翔の言っていた日にちだった。

「……すまん、たった今用事ができた」

全員がそう言うと、鷲翔が「別に構わないよ」と返してくれた。

 

それからさらに数日後

フレームアームズ・ガールを持っている面子は、鞄やリュックに彼女たちを入れて、駅前に集まった。

戦勝(せんしょう)東馬(とうま)はバイクの免許を持っているので、それで行くのも手だったのだが、

「どうせなら全員で一緒に行こう」

と言うことで、電車で行くようになったのだ。

ちなみに鷲翔とは連絡がつかなかった。

おそらく言っていた通り一人で行ってしまったのだろう。

ともあれ行く予定だった面子は全員揃ったので切符を買い、電車に乗り込んだ。

(……よく考えれば、鷲翔にメンテナンスが終わるのを待って貰ってから、一緒に買い物に行けばよかった)

紅狼(くろう)は電車の中で揺られながら、そんな事を考えた。

最も鷲翔が気長に待つことができない人間なので、即答で断られるだろうが……。

そして目的の駅にたどり着き、電車から降りると歩いて指示された場所へ向かった。

「……場所はここでいいハズなんだけど」

その場所はあったのは5階建てほどのビルだった。

但し、その一階と二回はプラモデル販売店となっている。

確かにフレームアームズ・ガールもプラモデルの一つなのだろうが、

『本当にここで合っているのだろうか』

と疑問に思ってしまう。

「本当にここみたいだな」

戦勝(せんしょう)も自分のスマホでメールを確認して、そう言った。

「……それなら誰か案内をしてくれる人がいるハズだけど?」

双葉(ふたば)の一言で、全員が周りを見渡していると、

「あなた達がそうなの?」

と白衣を来た女性に声をかけられた。

「自己紹介がまだだったわね、私は山田よ。よろしくね」

そう言いながら手を差し出した。

その手を握って握手をすると、「私についてきて」と先導してくれた。

山田さんに着いていく形で、店内に入り、

「ここでプラモデル用の商品を売っているのよ」

そう解説しながら、一人の客とすれ違う。

全員がすれ違っていき、紅狼(くろう)達は一旦止まる。

それを見た山田さんは

「どうしたの?」

と訪ねるが、

「あの、ちょっと待ってもらっていいですか」

と訪ね返す。

職員から了承の返事をもらってから、

「「「「「なんでお前がいるんだよ!!」」」」」

すれ違った客、鷲翔に大声でツッコミを入れた。

「うお、ビックリした……。何だ、君らか」

そう言ってどこかへ行きかけ、

「なんでいるの!?」

「こっちが先に訊いたろ!!」

鷲翔の叫びに戦勝(せんしょう)が叫び返す。

「……この前言ったろ?『別の町のプラモ店に行く』って。いつもここの店で買ってるんだ」

「……なるほど」

紅狼(くろう)がそう答える。

「ここで売ってるニッパー、使いやすいから重宝してるんだ。そっちは?」

紅狼(くろう)は「あ~」と言葉を濁す。

こいつは事情を知っているが、ここには他の客もいる。

しかも、さっき叫んだことで、視線がこちらに集まっている。

その状況の中で轟雷達の名前を出すほど、愚かではない。

が、どう説明したものかと考えていると、

「もしかしてアレの事か?」

ポケットからチラッと見えたスマホの画面に「フレームアームズ・ガール?」と書かれていた。

紅狼(くろう)は頷くと、

「分かった、終わったら呼んでね。一緒に帰ろう」

そう言って離れていく。

察しがよすぎるだろう、と全員が思っていると、

「えっと……、彼は知っているの?」

山田さんからそう問いかけられた。

 

「わ~、コレが新製品ですか?」

鷲翔がショーケースにしがみつきながらそう尋ね、「えぇ」と言う返答を貰っていた。

「……どうもすいません」

「いえ、気にしなくてもいいわよ?」

まだ三階のそれも入り口とところで立ち往生してしまっているが、鷲翔も一緒に入れて貰えたのだ。

と言うのも、鷲翔も『フレームアームズ・ガールを知っている』と言う事で色々な人の話を聞くためである。

「へぇ、こんなウェポンユニット見たこと無い……。やっぱり製造元は違うな。それにこのフレームアームズもカッコいいし……」

目がキラキラして早口で喋る鷲翔は誰にも止められない。

もうコレは放っておこう、と全員が心に決めた。

「ここでもフレームアームズ・ガールが動いているんですね」

紅狼(くろう)がそう尋ねた。

そんな事を尋ねた理由は簡単だ。

パッと見て、髪が真っ白なマテリアらしきフレームアームズ・ガールがお盆を持ち上げて、お茶を持ってきたのだから。

どうやら一機では支えられなかったらしいが、六機もいれば流石に驚く。

「この機体達は新しく作られる予定のフレームアームズ・ガール達、その素体の試運転も兼ねてるの」

と山田さんは答える。

確かによく見れば、一機一機の髪型や顔が少し違う。

なるほど等と思っていると、

「じゃあこの娘もその一機?」

鷲翔の言葉に全員がそちらを見る。

そこには青色のショートカットに赤い瞳、紺色のスク水を着たフレームアームズ・ガールがいた。

そのフレームアームズ・ガールは

「あっ……」

そう呟くと、傍にあった紫色の飛行機に跨がり、垂直上昇。

そのまま凄い勢いでフロアの奥に飛んでいってしまった。

「こらっ!!待ちなさい、フレズヴェルク!!」

山田がフレズヴェルクと呼ばれたフレームアームズ・ガールが飛んでいった方向に向かって叫んだ。

ちょうどそれと同じタイミングでその方向から人が来た。

山田と同じく白衣を着ているが、眼鏡をかけていた。

「山田先輩、またですか?」

「今回も未遂よ、全く油断も隙もないんだから」

山田さんはそう言うと、ほら戸田ちゃんも挨拶して、と言う。

すると、戸田ちゃんと呼ばれた女性は頭を下げると、

「初めまして、私は戸田って言います。よろしくね」

「私と戸田ちゃんで、轟雷の担当なのよ」

山田さんがそう説明すると、

「戸田ちゃん、悪いけど……」

「スティレット班とバーゼラルド班に連絡ですよね、分かりました」

そういって受付の方に走っていった。

「ゴメンね、すぐに来ると思うから」

「ごめんなさい、マテリア達は……」

「ワイのアーキテクトもや」

双葉(ふたば)東馬(とうま)がそう声をあげる。

「その三機には担当がいない、と言うか全員が担当なの」

「担当のフレームアームズ・ガールのメンテが終わったら、そっちをしていくわ」

戻ってきた戸田がそう言う。

その傍らには更に四人の女性はいた。

「私は小島、そっちの川島と一緒にスティレットの担当よ」

「私は佐藤。こっちの藤崎と共にバーゼラルドの担当ね」

どうやらスティレットとバーゼラルドの担当だったらしい。

現にその人達を見るなり、スティレットとバーゼラルドはその人達のところへ飛んでいった。

「じゃあ少し待っててもらえる?」

「なるべく早く終わらせるから」

そう言ってそれぞれの研究室へ向かっていった。

紅狼(くろう)も轟雷を山田に預ける。

そして山田は一つのブースへ移動し、

「貴方達も見てみる?」

手招きしながらそう訪ねた。

 

メンテナンスの内容自体は特別大変なものではなかった。

素体の確認、武装の確認等僕らでもできそうな内容だ。

ついで程度に間接部等にグリスをさして貰っていたが……。

「うん、特に問題ないようね」

山田は満足そうにそう言ってくれた。

「武装の方も大丈夫みたいです、先輩」

武装の方を見ていた戸田さんもそう言うと、ケースに戻し始めた。

「何か轟雷が迷惑をかけなかった?」

「いえ、特に……」

そう、迷惑をかけられた記憶はない。

むしろ楽しかった記憶しかない。

「……楽しかったですよ」

本心からそう言うと、

「じゃあいいわね」

二人はお互いに視線を交わすと、

「これからも轟雷を宜しくね、紅狼(くろう)くん」

そう言ってきた。

 

メンテナンスが真っ先に終わって、応接室でのんびり待っていると、四人も応接室に入ってきた。

「何か問題はあった?」

入ってきた四人に僕は訪ねた。

三人は特に問題なかったと言うが、

「俺はちょっと注意された、何か弄りすぎてるって……」

ちょっと不満そうに右烏(ゆう)はそう言った。

「ん?右烏(ゆう)にそんな技術(うで)あったっけ?」

「いや、全部鷲翔」

「……あぁ」

紅狼(くろう)の問いに返された言葉で何となく分かった。

鷲翔はソレぐらい容易くできる、だがやり過ぎる傾向にある。

以前も言った気がするが、うっかり人のプラモに手を着けようものなら、見事にバランスが狂う。

具体的に言えば、古いぬいぐるみに新品のパーツをくっ付けた感じだろうか?

「ああ、皆ここにいた」

そう言いながら入ってきた鷲翔に向かって、

「来たな、諸悪の根源」

「いきなりディスられた!?」

まるで見に覚えがないとばかり鷲翔が言い返した。

だが、まあいいやと呟くと、

「もう終わったの?終わったなら、買い物行かない?」

そう言えばそんな事言われたなあ、と全員が思って視線を少し上に向けた。

「メンテナンスの結果は全員問題なかったわよ」

そのタイミングでそう言いながら山田さんが入ってきた。

が、僕たちは視線を別のところに向けていた。

二人も不思議に思って上を見ると、

「……あっ!!」

先ほど入り口にいたフレームアームズ・ガール、フレズヴェルクが浮かんでいた。

フレズヴェルクは鷲翔の頭上から移動すると、

「ねえ、誰かボクとバトルしてよ」

笑顔でそう言ってきた。




いきなり新キャラクターが増えました
と言うのは嘘で、実際はコミック版フレームアームズ・ガールのキャラクターです
作中でも解説した通り、二人一組で各フレームアームズ・ガールの担当をしています


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フレームアームズ・ガールのメンテの日2

「ねえ、誰かボクとバトルしてよ」

 

笑顔でそう言ってきた。

それに真っ先に答えたのは、紅狼(くろう)だった。

 

「いや、『バトルして』って言っても……」

「貴方のマスターはどちらへ?」

 

轟雷も続けて尋ねる。

というのも、フレームアームズ・ガール達は基本的にマスターがいる。

恐らくこのフレズヴェルクと呼ばれたフレームアームズ・ガールも轟雷達と同じくメンテナンスをしてもらうためにここに来ているはずである。

戦うのは別に構わないだろうが、マスターの許可なく戦うのはいかがなものだろうか。

そんな事を考えていると、

 

「フレズヴェルクのマスターはまだ決まってないの」

 

山田(やまだ)さんがそう言ってきた。

 

「そうなんだ、ボクだけまだ外に出られないんだ」

 

なるほど、それなら暇で暇で仕方ないだろう。

だが続いた言葉は、

 

「でもいいんだ。だってボクが一番強いんだから」

 

この爆弾発言である。

ちらりとフレームアームズ・ガールの方を見る。

もし怒っているのなら、止めなければならないからだ。

だが、誰一人として怒ってはいなかった。

どちらかと言えば『悔しいが、反論できない』といった感じだ。

 

「まあそれはそうよね」

「そうじゃないと、困るものね」

 

マテリア姉妹が話し始める。

どういう事か、と聞こうとした時、

 

「補足、フレズヴェルクは管轄が違います」

「管轄?一体どういう事や?」

「説明、我々は『人と仲良くする』事を目的とした部署で生まれたフレームアームズ・ガールです」

 

そこで一度言葉を区切ると、

 

「質問。マスター、私は目的を達成できていますか?」

「アホ抜かせ、ちゃんとできとるわ。そんな心配すんなや」

 

東馬(とうま)はアーキテクトの問いにしっかりと答える。

よく見れば他のフレームアームズ・ガール達もそれぞれのマスターを不安そうに見ている。

あの表情が乏しい轟雷ですら、そんな感じがするぐらいだ。

 

「大丈夫、轟雷と仲良く出来てるよ」

「ありがとうございます、紅狼(くろう)

 

そう言って紅狼(くろう)が周りを見渡すと、他のマスターも自分のフレームアームズ・ガールに似たような事を言っていた。

 

「再開。フレズヴェルクは『勝つ事』を目的にしています」

「目的が『勝つ事』?」

「そうよ。私達と違って戦う事、勝つ事のみを追求したフレームアームズ・ガール。それがフレズヴェルク」

「そうだよ、だから戦いたいんだ」

 

フレズヴェルクが胸を張りながらそう言った。

 

「戦って勝つ、それが全てなんだ。だからバトルしよう」

 

バトル脳、戦闘狂、言い方はそれぞれだが、マスター達は皆そんな感じの感想を思い浮かべた。

 

「じゃあ誰が相手をする?」

 

フレズヴェルグが笑顔でそう訊いてきた。

だが、誰も反応しない。

なので、

 

「逆に聞くけど、誰と戦ってみたいの?」

 

そう尋ねると、「う~ん」と唸ってから、

 

「ボク、轟雷と戦った事ないから、轟雷がいいな」

「いいでしょう、お相手します」

 

轟雷がそう答えた。

 

 

その後、山田(やまだ)さんがどこかに連絡すると、すぐさま研究員らしき人が2人ほどが入ってきた。

 

「おやおや、轟雷なんかが我々の研究成果(フレズヴェルグ)に勝てると思いですか?」

 

入ってくるなり、失礼な物言いだ。

山田(やまだ)さんも口元がひくついている。

 

「残念ながら、こちらは勝つ事(それ)が全てではありませんので」

「それは弱者の言い訳ですなぁ」

 

(うわぁ、なんだか怖い)

(笑顔で殴りあってる)

見ていた人間達は大体似たような事を思いながら、バトルの準備を進めていった。

それぞれのセッションベースに武装が取り付けられた。

轟雷はいつものウェポンセット。

それに対し、フレズヴェルクは他のフレームアームズ・ガールとは違ったモノが付けられていた。

先ほど見た時に跨がっていた物と色は一緒だが、形が違う。

スティレットのバックパックをかなり大きくし、何か色々と取り付けた、といった感じだろうか。

 

「こっちも準備できたよ」

 

フレズヴェルクが右腕をグルグルと回しながら、セッションベースに乗り込む。

 

「「フレームアームズ・ガール、セッション!!」」

 

今回のステージは初めてスティレットと戦ったものと似ている。

唯一違う点と言えば、岩や瓦礫のような遮蔽物がない事ぐらいだ。

轟雷が辺りを見渡すと同時に銃声が響いた。

音がした方を見ると、その方向から2発程弾丸が跳んできていた。

跳んできたそれらを右側の肩装甲で弾き、すぐさま左手で持っていたアサルトライフルで発砲する。

その方向の空中で火花が散る。

恐らく撃ち落とされたのだろう。

そう思った矢先、何かが突っ込んできた。

すぐさま横に移動し、それを回避する。

 

「へぇ~、突進(これ)を避けきるんだ」

 

旋回しながら、突っ込んできたソレことフレズヴェルクがそう叫んだ。

空中でピタリと浮遊すると、右手に持っていた武器で発砲してきた。

 

 

「やっぱり、今回の戦いも轟雷が不利かな」

 

鷲翔(しゅうが)がボソッと呟いた。

それには残念ながら同意せざるを得ないだろう。

実際のところ、戦闘機と戦車のような関係だ。

『ある条件下でなら』戦車が勝てると言われているが、残念ながらその条件は満たしていない。

 

「確かに不利でしょうけど、それでも轟雷は私たちに勝っているわ」

 

スティレットが真っ先に食らい付いてきた。

飛行型である彼女からすれば当然の事だろう。

横でバーゼも頷いている。

 

スティレット(きみ)達の時とは、状況が違う」

 

鷲翔(しゅうが)がそう断言する。

 

「君達の時は遮蔽物があった。盾で受けきれなくても、遮蔽物で凌げるって手段があった」

「でも、今回はそれがあらへん。つまり、盾で受けきれへん時は一方的やろうな」

 

鷲翔(しゅうが)の言葉に東馬(とうま)も混じってきた。

圧倒的に不利な状況を、ほとんどがただただ見ているしかできない。

 

 

「あははっ、避けてばっかりじゃないか!!反撃して見せてよ!!」

 

段々と笑い声を上げながら、フレズヴェルクが攻撃を続けていく。

側転、両腕を交差、その場で回転、すれ違い様、様々な軌道を描きながら攻撃していく。

 

「っく……!!」

 

あまりの猛攻に轟雷が呻き声をあげる。

一方で高笑いしているフレズヴェルクの表情も笑っているとは程遠いものだった。

理由は『どの攻撃も直撃はしていない』からだ。

確かに弾速は早い。

だがバーゼラルドのセグメントライフルと違い、銃弾の軌道が読みやすい。

つまり肩装甲で受ける、移動するで避けることはできる。

だが、轟雷からの反撃も難しい。

最高速度・速度や高度の上げ下げがスティレットやバーゼラルドよりも早い。

攻撃を当てようとしても、向こう側の方が避ける技術が上で当てようがない。

 

「……本当に『最強を目指したフレームアームズ・ガール』だけありますね」

 

アサルトライフルでの一撃を回避されたのを見て、そう小さく呟いた。

 

「う~ん、こうも拮抗しているのは面白くないな……」

 

フレズヴェルクがつまらない様子で呟くと、空中でホバリングしつつ、もう3発ベリルショットランチャーを撃つ。

それを左の肩装甲で防がれるのを確認すると、

 

「やっぱり接近戦だ」

 

すぐさまベリルショットランチャーを持ち直し、まっすぐ轟雷目掛けて突っ込んできた。

轟雷もそれに反応すると、背部キャノン砲を向け、発砲した。

フレズヴェルクは避ける素振りも見せずに直撃する。

が、何故かダメージを受けた様子もない。

そして砲撃をもろともせずに突っ込んでくる。

 

「はあああ!!」

 

突進の勢いをそのままに接近すると、勢いよく右腕を振り上げた。

 

(ここっ!!)

 

フレズヴェルクが腕を振り上げるや否や、轟雷も右の肩装甲を盾に突進する。

轟雷が狙っていたのは、フレズヴェルクの攻撃の瞬間だった。

確かに火力や機動力は高い。

だが、どんなに高性能でも攻撃の瞬間に防御はできないはずだ。

そう判断しての突進だった。

硬い肩装甲でぶつかり、よろけた所に追撃を仕掛ける。

それが今できる最善の手段だと判断した。

 

(ダメージを受けていないのは何らかの防御武装でしょうか?)

 

ふとそう脳裏を過った轟雷の目にフレズヴェルクの顔が映る。

その顔は、笑っていた。




前回からの投稿が随分遅くなってしまいました
万が一楽しみしていた方がいらっしゃったら、申し訳ありませんでした。
そして、もう更新されないと思われていた方、残念でしたと言わせてください
流石に次はここまで遅くならないようにするつもりです
それではお目汚し失礼しました


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