ヤミを祓うは七つ球 (ナマクラ)
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プロローグ
プロローグ ヤミの始まり


 宇宙の辺境に存在する惑星――――『地球』

 

 水と緑に溢れ、科学によって人間の文化が発展した、しかし宇宙規模で見ればまだまだ未開の惑星である。

 

 しかしそのすべてが緑に覆われているわけではない。

 

 

 その場所は切り立った岩山が乱立し、草木が生えないような荒地であった。

 

 植物が育たないため草食動物が寄り付かず、草食動物がいないため肉食動物も寄り付かない。

 

 また農業にも土の質が悪いために向いておらず、工業の拠点としても建物を建てるには乱立する岩山が邪魔になってくる。さらに資源が出てくるわけでもない。つまりは人すらも寄り付かない。

 

 

 

 生物が寄り付かない、そんな荒れた大地に一つの人影が存在した。

 

 

 否――果たしてそれを人影と表現していいのだろうか。

 

 

 身体の大きさから子供――それも幼児ほどだと推測ができるが、しかし問題はその容態であった。

 

 その頭蓋は不自然に膨れ上がり、顎は過剰な力によって歪み、その目は濁り切っていた。

 

 四肢は未だに繋がっているのが不思議なほど歪に折れ曲がり、その小さい体躯すらも支える事が困難であった。

 

 少しでも動いていなければ遺棄された変死体であると思えてしまう。

 

「ごふっ……!!」

 

 口から吐き出された血液は液体というには粘度が高く、色も赤を通り越して黒くなっており、糞のような腐臭を漂わせている。

 

 そのような状態の血液に正常な働きなどできるわけもなく、そのためか彼女の身体は、骨は酷く脆く、筋肉は蕩け、内臓は腐り果てているなど、通常考えられないほどに弱り切っていた。

 

 咳き込んだ衝撃で脆い肋骨が折れ、それが凶器となって腐った肉や内臓に突き刺さる。その痛みを堪えるために噛み締め変形した顎の骨が力に耐えきれずに罅割れ折れる。

 

 呼吸をするたびに激痛が走り、それを堪えるために込めた力で体の至る所にある骨が容易に折れる。

 

 腐った血液を運ぶための心臓が過剰稼働と停止を繰り返す事で脆すぎる血管が破裂する。

 

 

 

 生きるために必要な行為でさえ、この者にとって滅びへと繋がっていた。

 

 

 

 そもそもとしてこの者自身、何故己がこのような病状でこのような場所に居るのか、そもそも己に関する記憶自体思い出せなかった。

 

 それでもこの者がまだ終わりを迎えていない理由は誰もが抱く単純な、しかし重すぎる一つの想い、ただそれだけであった。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……私はぁ……はぁ、はぁ……生きるぅ……! ぜぇ、ぜぇ……絶対にぃ……!」

 

 

 『生きたい』 『何が何でも生きる』

 

 

 その一念だけで本来動かす事すら困難であろう肉体を動かし、蝕む病みから来る痛みを遍く全てに怨念を放って精神を保つことで、何とか死を免れている状態であった。

 

 そう、その想いだけが、彼女――――チアの全てであった。

 

 

 

 

 

 

――――これは、ヤミに侵された少女が、そのヤミから脱しようとする物語――――

 

 




どう見ても末期患者ですが、本家逆十字と比べればまだまだマシなレベルのはずだから問題ない、はずです……


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ナメック星編
第一話 いざ、ナメック星へ!


――――聖地カリン

 

 地球の西エリアに存在するその地にはカリン塔と呼ばれる塔が存在する。

 その塔は天高くまで聳え立ち、その頂上には武道の神が住んでいると言われている。

 そしてカリン塔を登り切った者は、その神より力を何倍にもしてもらえるという。

 故にこの地は武道家たちから『聖地』と呼ばれている。

 

 

「――――その噂を聞いてここまでやってきたが……仙豆とか言ったか? 素晴らしいものだなこれは」

「……お主の場合、強くなるよりも体を治す事に注力した方がいいんじゃないかの?」

 

 その聖地カリンのはるか上空、腕が千切れかけたり宙に浮けるようになる事態になったりしてまで登り切ったカリン塔の頂上で戦利品を物色していると、仙猫カリンと名乗る猫が呆れるような声で語りかけてくる。

 

「体を治すためにまず体を強くしに来たんだろうが。そんな事もわからんのか」

「体を治すために死にかけるとか、順序がおかしいじゃろうに……」

 

 当初の目的であった超聖水はただの水で激昂しかけたが、それとは別に猫が所持していた仙豆と超神水、この二つは利用価値がある。特に仙豆は失った体力と栄養と欠損部位を補填できるという事あって重宝する事になるのは目に見えていた。

 

「それに超神水も何の躊躇もなく飲んで何事もなく適合しおるし……」

 

 超神水も飲んだら死ぬと猫が散々言っていたが、いざ飲んでみると多少の激痛が身体を襲ったがそれだけだった。この程度の痛みなど日常である。その対価として肉体レベルの向上が可能であれば儲け物だろう。なお二口目以降はただまずかっただけだった。

 

 さらに仙豆の栽培方法を聞いてみたが、手間が掛かり過ぎて役立ちそうになかった。そもそも植物の世話などしている暇があれば病状回復に力を入れた方がいいに決まっている。そういう意味でも猫は役に立つ道具のようなのでこれからも利用する事にしよう。

 

「よくやった。お前は役に立つ道具だ。これからも利用してやろう」

「にゃ!? お主、また来る気か!?」

「当然だろう。仙豆はここでなければ補充ができないだろうが」

 

 その事を告げると、何やら焦ったような猫は更なる有用な意見を口にした。

 

「な、ならいっその事、ドラゴンボールでも集めて願いを叶えればよかろうが!」

「ドラゴンボール……?」

「あ……」

 

 しまったと言わんばかりの態度をとる猫に詳しく説明をさせると面白い、そして有益な話が出てきたのだ。

 

 ドラゴンボールの話自体はカリン塔について調べていた時に少し目にした覚えがあった。

 

 伝承によれば『七つ全てを集めればどんな願いも叶えられる』という……正直言えば眉唾物であるので放置したのだ。

 だが猫が言うにはここ数年、その効果は実際に発揮されているらしい。死人が蘇ったなどという話もある。それも一人や二人ではない。

 

 ……情報ソースが全て猫からという辺り信憑性に欠けるが、あの反応……特に最初の発言や西の都にドラゴンボールを探せるレーダーを持つ者がいるなどと口を滑らせたかのような様子を見るに全くの嘘ではないのだろう。

 

「役に立つ猫ではないか、褒めてやるぞ。よくやった」

 

 そうねぎらいながら壺に入っている仙豆を小袋に詰められるだけ詰めていく。残りの仙豆は壺ごと空のホイポイカプセルに詰めて持って帰る事にする。

 

「にゃ!? ちょ、待つんじゃ! 仙豆は儂の食糧だし、もうすぐ襲い来るというサイヤ人に対しての……」

「黙れ猫、死にたいのか……?」

「ぐ……うぅ……」

 

 何やら抗議の声が聞こえたが、一睨みすれば声は萎んでいった。仙豆がなくなったらまた来てやると言い残してその場を後にした。

 

 

 

 目的地は西の都、カプセルコーポレーションである。

 

 

(★)

 

 

 地球に襲来した二人のサイヤ人を何とか撃退できたものの、ヤムチャさん、餃子、天津飯、そしてピッコロがその犠牲になってしまった。

 

 あの戦いで生き残れた戦士は俺以外だと悟空とその息子の悟飯、あとは途中まで姿を見せなかったヤジロベーの四人だけだった。

 そしてピッコロが死んだことで神様も死んでしまい、ドラゴンボールが消滅してしまった。

 

 つまり、死んでしまったみんなを生き返らせることはできないのだ。

 

 救助に来てくれたブルマさんたちがその事に悲しんでいる中で、俺は襲ってきたサイヤ人たちの言葉を思い出していたんだ。

 

『アイツ、ナメック星人だぞ』

『そういえばナメック星人は何でも願いを叶えるという不思議な玉を作り出せるという噂があったが、それは本当だったのか』

『なら地球で手に入らなくともナメック星に行けばいい』

 

 そう、ピッコロと神様はナメック星と呼ばれる星の人間で、そこには地球と同じようにドラゴンボールが存在するかもしれないのだ。

 つまりナメック星まで行けば、死んだ皆を生き返らせることができて、しかも地球のドラゴンボールも復活できるかもしれない!

 俺の考えを皆に明かすと、死んだ皆が生き返らせることができるかもしれない可能性がある事に、色々な問題があったものの、俺達は希望を抱けたのだ。

 

 最初はサイヤ人が乗ってきたボールみたいな小型の宇宙船が一つ残っていたのを利用しようと考えてたんだけど、ブルマさんの不注意でその宇宙船が自爆して爆散四散の木っ端みじん。希望が絶たれたかと思われた。

 

 だけど神様の付き人であるポポさんが、神様が故郷の星から乗ってきたであろう宇宙船があると教えてくれたおかげで宇宙船の問題は何とかなった。

 

 

 問題は、誰がナメック星に向かうか、という事である。

 

 

 宇宙船というデリケートかつ命に直結するものがある以上、専門知識を持つブルマさんが行く事は確定であった。

 また、宇宙にはどんな危険があるかわからないし、もしかするとベジータのような好戦的な宇宙人がいるかもしれないという事で戦闘に長けた人も一緒に来てほしいとブルマさんの要望があった。

 

 俺達の中で一番強いのは間違いなく悟空だ。

 

 ただ、悟空はサイヤ人の一人であるベジータとの戦闘で動けないくらいの重症で、身体が治るまで普通だと半年以上かかる。仙豆があれば一発で治るんだろうけど、カリン様によると諸事情のため悟空に渡していた仙豆が今ある分全てだったらしく、新たに仙豆ができるのに一ヶ月ほどかかるらしい。

 

 そんなわけで生き残った戦士の中から、俺と本人の強い希望により悟飯の二人がブルマさんと共にナメック星に行く事に決まったのだった。

 

 

 そして宇宙船の改修作業が済んだ数日後、俺はやけにごつい服を来たブルマさんと七五三のような格好をしたおかっぱ頭になった悟飯と共に宇宙船に乗り込んでナメック星へと飛び立った。

 

 何やら不機嫌そうなブルマさんが別室に着替えに行くのを見送ってから俺達も着替えるかと悟飯と話していたのだが、俺達にそんな暇は与えられなかった。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと二人ともこっち来て!!」

「ブルマさん?」

「どうかしたんですか?」

 

 別室から聞こえるブルマさんの呼び声に俺たちは扉を開けて部屋に足を踏み入れると、先程までのごつい格好のままで立ち尽くしているブルマさんの姿が見えた。

 

 何か異常事態でもあったのかと思っていると……

 

 

 

「――――うるさいぞ、塵共」

 

 

 

――――幼さが残る高めの罵声が聞こえてきた。

 

「…………へ?」

 

 ブルマさんの声にしては少し幼すぎるし、かといって悟飯の声でもない。もちろん俺の声でもない。

 

 その声が聞こえた方に目を向けてみると、見覚えのない一人の子どもがそこにいた。

 

 年はたぶん悟飯と同じくらいで、肌は青白いくらいに白く、目付きは濁さずに言えば悪かった。さらに色が抜けたように薄い黄緑色の髪が手入れも去れずにぼさぼさなまま肩口まで波打ったように伸びているせいでか、外見から男か女か判断するのは難しそうだった。

 ただ、その子から何か不吉なものを感じた。何がと言われると説明するのが難しいのだが、ただ見てるだけで不安になっていくような、そんな不思議な雰囲気を持っている子どもであった。

 

「この子が忍び込んでたみたいで……っていうかこの子どうやって忍び込んだの……?」

「たぶん西の都じゃないですか? 亀ハウスだとさすがに忍び込めないでしょうし……」

「と、とりあえず一度戻りましょう! 危ないですし!」

「ああ、そうだな。そうしましょうブルマさん」

 

 悟飯の発言に賛同する。今なら地球からそう離れていないだろうし、戻っても時間はかからない。そう思っての発言だったのだが……そこに異を唱える声がした。

 

 

「戻る? 何故わざわざ戻る必要がある? すでにナメック星とやらに向かっているのだろう? まさか出発早々トラブルが起きたわけでもあるまい」

 

 その声の主は、その子本人であった。……って、え? この子今何て言った!?

 そんな俺が引っかかったこの子の言葉が気にならなかったのか、それ以上にこの子の尊大な態度に引っかかったのか、ブルマさんはこの謎の子どもに食って掛かった。

 

「そのトラブルよ! 現在進行形で! すぐに地球に戻って降ろしてあげるちょっと待ってなさい!」

「何故降ろされなければならんのだ。馬鹿なのか貴様?」

「誰が馬鹿よ! 状況がわかってない子どもは黙ってなさい!」

 

 改まる事をしらないその態度にさらにヒートアップしていくブルマさん。今のブルマさんに口を挟むのはちょっと気が引けるけど……でもちょっと気になる発言があったし、オロオロしてる子どもの悟飯にその役目を押し付けるのもカッコ悪いしなぁ……よし!

 

「ちょ、ちょっと待ってブルマさん!」

「何よ!?」

「今この子、ナメック星って……」

 

 俺の言葉に頭に血が昇っていたであろうブルマさんの口から「あ」という声が漏れる。

 

 そう、この子は今確かに『ナメック星』と言ったのだ。

 

 この子はもしかするとナメック星に行く事を知って敢えて忍び込んだんじゃないのか……その事に気付いた俺達の疑問の視線を察したのか、その子はそれに解答するように肯定を示した。

 

「貴様らの行先も目的も知っている。地球のドラゴンボールが使えなくなったからナメック星とやらのドラゴンボールを使いに行くのだろう?」

 

 この子、ドラゴンボールの事も知ってるのか……しかも地球のドラゴンボールが使えなくなったことも……どこでそれを知ったのかも気になるけど、それ以上に何で忍び込んだのかが気になった。

 

 見ず知らずの俺達に協力するため? そんなわけはない。というかこんな子供に手伝ってもらえること自体少ないだろう。

 

「あんた、一体何が目的なのよ?」

 

 俺が疑問に頭を悩ませていると、ブルマさんが。多分考えてもわからないなら本人に聞いた方が早いという考えなんだろうけど、こういう判断をすぐに決められるってすごいよなぁ……

 

 そんな感心も、次の一言で吹き飛んだ。

 

 

 

「単刀直入に私の要求を言おう。私にドラゴンボールを寄越せ」

 

 

 

「…………へ?」

 

 その子の要求に思わず呆けてしまった。隣の様子を窺えば悟飯も俺と同じような反応をしていた。

 

 しかし、さすがというわけじゃないが、この物言いに一度落ち着いたブルマさんの頭に再び血が昇ってしまったようだ。

 

「――――ばっかじゃない! アタシたちもドラゴンボールを使わせてもらうために行くのに、それを寄越せですって!?」

「おいおい、これでも譲歩してやっているのだぞ? 本来なら貴様ら塵がこの私と交渉できるはずもないだろうが」

「ご、ごみ!?」

「貴様らに利用する価値があるからこそわざわざ時間を割いてやっているんだろうが。その程度の事も理解できんのか低能どもが」

「なあ悟飯、これ、俺も怒っていいんじゃないか……?」

「く、クリリンさん、落ち着いてください。僕一人じゃブルマさんを落ち着かせられないですよ……」

 

 あまりの物言いに俺もブルマさんの事を言えないくらいに頭にきている。悟飯が止めるから何とかとどまっているけど、俺の中で一発げんこつを落として地球に戻って説教した方がいい気がしてきた。その方がこの子の将来のためにもなるだろう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

――――と思った瞬間、この子どもの気が急激に高まったのを感じた。

 

 

「――――っ! クリリンさん!」

「ああ、コイツ、強いぞ!」

 

 あまりの気の大きさに思わず俺も悟飯も身構えてしまう。幸いというか、気の強さ自体はサイヤ人程ではないけど、それでも相当な強さを持ってる……!

 

 しかもコイツの気、ものすごく邪悪だ! あのサイヤ人たちに勝るとも劣らないくらいに……!

 

 今のもあくまで威嚇で、この程度は出来るぞっていう意思表示なんだろう。俺と悟飯の二人掛かりなら問題なく抑えられるだろうけど、宇宙船を傷つけないようにできるかどうか……少なくとも今この場で暴れさせるような事態になるのは避けたい。

 

「私はただ、ドラゴンボールの実用性を確かめたいのだよ」

 

 そして威嚇が功を為したことを確認したその子はにやりと笑みを浮かべながらそう言葉を続けた。

 

 だけど気を感知できないブルマさんにとっては知った事ではないようで、警戒する俺達を尻目にさらにヒートアップしていた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 人の事をゴミだ何だって、あんた何様のつもりよ!」

「塵を塵といって何が悪い?」

「じゃああんたは何ができるのよ!? 優れてるって言うんなら自分で宇宙船でも作って勝手に一人でナメック星に向かえばいいじゃない!」

「何故私がわざわざ時間を割いて作らねばならないのだ」

「じゃあ何ができるのよ! 戦闘なんて言ったらこの二人に勝てるとは思えないし!」

「ぶ、ブルマさん、あんまり挑発しない方が……」

「何!? クリリン君まさかこんなちっちゃな子に勝てないって言うの!?」

「いや、さすがにそうは言いませんけど……」

 

 ……正直苦戦はしそうだけど、子供相手に苦戦するって言うのもちょっと情けないから濁してしまった……。

 

「えっらそうにして! 状況を理解してる!? あんたは無断で船に忍び込んだ密航者よ!」

「それがどうした。それとも人一人増えた程度で航行に支障が出る程設計に自信がないのか? まあ設計自体に問題が生じかねん改造を施すような阿呆のようだしな」

「な、なんですって!? どこが悪いって言うのよ!?」

「言いたい事は色々あるが……大体、無駄に設備を増やして……これでは航行速度が落ちるだろうが」

「か、快適性は大事でしょう! というか何を根拠に言ってるのよ! これでもちゃんと計算して改修してるんだから!」

「本当か? 本来ついていなかった設備を設置したせいでバランスが崩れ、重心もずれて、計算してみればこれだけの差が――――――」

「それは違うわよ! ちゃんと重心の位置と推進力の関係をこう計算して―――――」

「その推進力の計算だと――――――」

 

「……く、クリリンさん、あの二人が何を言ってるのかわかります?」

「わ、わからん……」

 

 最初は文句の言い合い罵り合いだったのがいつの間にか宇宙船の構造に関する専門知識の討論に変わっていた。

 

 専門的すぎて悟飯や俺にはもはやブルマさんたちが何を言っているのかわからない域にまで討論は進んでいた。いや、本当に進んでいるのかも俺には判断がつけられないんだけど……

 

「……とりあえずすぐに暴力を振るうようなヤツじゃないのは確かみたいだし、先に着替えるか……」

「え? い、いいんでしょうか……?」

「だって俺達がいてもこの話に入れないし……」

 

 

 そう言って俺達は激しく討論し合う二人を置いてその部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

――――なお、討論が終わった後に寝にくそうなパジャマに着替えたブルマさんに怒られたのは別の話だ。

 

 



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第二話 争奪戦のはじまり

 僕たちが地球を飛び立ってから一週間ちょっとが経った。まだナメック星までは遠いけど、僕らにちょっとした変化があった。

 

 

 

 それは謎の密航者――――チアの存在だ。

 

 

 

 宇宙船が飛び立ってすぐに見つかった彼女はやっぱり西の都で宇宙船に忍び込んでいたみたいで、元々はドラゴンボールを求めてカプセルコーポレーションにやってきたみたいだけど、紆余曲折あってドラゴンボールが使えなくなったことを知ってこの宇宙船に忍び込んだらしい。

 チアの異様なまでの専門知識を不審に思ったブルマさんが問い詰めると、あっさりカプセルコーポレーションに忍び込んで資料や本を勝手に読んで、しかも持ち出していることが判明してまたブルマさんが激怒していた。

 

 

 ちなみに性別に関しては不潔を嫌ったブルマさんによってお風呂に入らされた時に女の子だと判明した。

 

 ブルマさんが「洗ってあげる」と言って一緒に入ろうとしてたが、チアは断固拒否して一人で入ったので、お風呂から上がって一目で女の子だってわかる程にキレイになった時には三人揃って驚いた。

 

 クリリンさんは「か、かわいい子だな……」って呟いてたけど、僕もそう思った。あれだけ強い気を持ってるとは思えないほどに華奢で驚いた。正直本当に強いのかわからなくなった。

 あとブルマさんは「見た目はいいのに中身がアレなのがすごく残念ね……あと目付きはヒドイまま」とも呟いてた……僕もそう思った。

 

 そんなチアだけど、当初としては僕らも警戒していた。そりゃ無断で忍び込んだ人をそのまま信用するなんて事はできない。態度も態度だったし、何より彼女のあの一言が問題だった。

 

 

『ドラゴンボールを寄越せ』

 

 

 チアは願いの内容を教えてくれなかったが、つまりは僕たちの目的とチアの目的は一見すると協力どころかむしろ敵対しかねないものだった。

 その問題に触れた時、ブルマさんがまた怒りそうになったけど、チアはそれに一言付け加えた事でそれは解決した。

 

 

「私が使うドラゴンボールはナメック星のものでなくても構わない」

 

 

 つまりはナメック星のドラゴンボール集めに協力する代わりに、地球のドラゴンボールが復活したらそちらを使わせろという要求だった。

 

 そういう利害が一致しているのなら大丈夫だろうというのが、クリリンさんとブルマさんの結論だった。

 

 僕としては単純に信じたいんだけど、クリリンさんは「なんていうか……アイツはピッコロとかと同じで基本は同調できないヤツだと思うぜ」って言ってた。ピッコロさんはそういう人じゃないって反論したら、「あー……そうか、そうだな。確かにそうだ。悪い」って訂正してくれた。

 

 それにしてもチアも言葉足らずというかコミュニケーション能力が足りないというか……。いきなり「ドラゴンボールを寄越せ」なんて、言葉足らずにも程がある。

 だってあの場面であんなことを言ったらどう考えてもナメック星のドラゴンボールを欲しがっていると思われても仕方がない。僕たちだってそんな事を言われて「うん」だなんて言えないし……

 でもブルマさんが「コミュ障っていう奴ね。悟飯君はあんな風になっちゃだめよ!」なんて言ってたけど、さすがにそれはチアに失礼だと思う。

 

 僕としてはチアと仲良くなりたいんだけど、基本的にチアは誰かと交流しようとせずに一人で別室に籠ってる事が多い。みんなでご飯を食べる時だって一度も一緒に食べた事がない。……いつ食べてるんだろう?

 

 それでも全く交流がないわけではなく、ブルマさんに言われて嫌々ながら僕に勉強を教えてくれたりする。……理解するのが大変なんだけども。

 隣で様子を窺っていたブルマさんやクリリンさんが「教えるの下手!」と言い切るくらいにチアは人に物を教えるのが苦手なようだ。なおチア本人は「塵に何かを教えるなど必要ないだろう」と開き直っていた。

 

 そんなチアと僕らの中で一番話をしているのはブルマさんだ。

 

 クリリンさんは「女同士話が盛り上がるんだろう」って言ってたけど、そういう理由じゃないと僕は思う。僕は女の人の事を良く知らないけど、普通女の人は動力の改修案や空間収納技術に関する話で盛り上がったりはしないと思う。

 

 チアもブルマさんとの会話が有意義だと思っているのかそこまで嫌がっているようには見えない……と思ったけど、ブルマさんとの言い合いを見てみると諦めというか、面倒だからってだけでただ本気で相手をしてないだけのようにも見える。

 

 ブルマさんはたぶんチアとの距離を少しでも埋めるために話しかけているんだと思うけど……向こうにその気が見られないから効果がちゃんと出ているのかあやしい。

 

 そんなブルマさんはチアだけでなく僕にも気を遣ってくれている。僕が友だちになりたいって言ったチアに勉強を見てもらえっていったのもその一環だと思う。……効果が出ている自信はないけど。

 

 そんな風にチアや僕を気に掛けてくれているのを見ていると、ブルマさんってお母さんみたいだなぁと思ってしまう。クリリンさんにそれを伝えたら「ブルマさん本人には言ってやるなよ」と忠告された。どういう事だろう……悪い事言ったつもりはないのに……

 

 クリリンさんとはこの中では一番よく話していると思う。

 

 特に宇宙船の中でも出来るような訓練――――戦い方の議論やイメージトレーニングなどをする事が多いけれど、とても勉強になる。

 

 そういった訓練にチアを誘ってみる事もあるけど、きっぱり断られる時もあれば嫌々ながら参加してくれる時もあって、ちょっとは距離を縮められてるかなって思う…………参加してくれても嫌々なのが目に見えるのはどうにかならないかなぁ……

 

 

 

 ナメック星まであと三週間くらい、それまでにもっとクリリンさんやブルマさん、そしてチアと仲良くなれたらいいなぁ……

 

 

(★)

 

 

 地球から約30日強のナメック星へと向かう宇宙旅行、塵屑どもとの一ヶ月は苦痛以外の何物でもなかった。

 

 

 思えば猫の話を聞いて西の都に向かったのが始まりだった。

 

 カプセルコーポレーションに忍び込んだが、肝心のドラゴンボールを探すためのレーダーは持ち出されているとかでそこにはなかった。

 幸い、そこは私の知識欲を満たすのに適した場所であり、隠れて書物を貪り読みながらそのレーダーの帰還を待っていた。

 

 しかし帰ってきたかと思えば、ドラゴンボールは使用済みどころか、既に使用不可能になっていて、その復活のために別のドラゴンボールがあるというナメック星に向かうという事態になっていた。

 

 控えめに言って訳が分からない。訳が分からないが、しかしドラゴンボールのために私はその宇宙船に忍び込み、ナメック星に向かう事に決めたのだった。

 

 しかし忍び込んでいたカプセルコーポレーションから持ち出した書物類も早々に読み終わってしまった。もっと持ってきていればよかったと後悔する。

 

 そして暇を持て余していると、鬱陶しい塵に絡まれ、鬱陶しい塵に教鞭を振るわされ、鬱陶しい塵の訓練に巻き込まれる。

 

 本当に散々である。血反吐を吐くにも塵共の前で吐くわけにはいかないが故に、塵共が寝静まるのを毎日毎日どれだけ待ち焦がれていた事か。

 

 

 なお警戒されていたらしい『ドラゴンボールを寄越せ』という発言は復活した地球のドラゴンボールを使わせろという事にしておいた。

 

 まあそんなもの嘘に決まっている。

 

 確かに私の目的が叶うのならばどちらのドラゴンボールを使うのでも構わないが、それが早まるのならそれに越したことはない。

 やはり間抜けのようで、私の嘘をそのまま受け入れているようだ。せいぜい私の為に動くがいい塵共。

 ……優秀な私が病魔に侵され、間抜けな阿呆共が健康で、しかもそんな塵共に憐れまれるなど、耐えられるわけがない。やはり世界は間違っている。ああ、憎い(羨ましい)ぞ、塵共。

 

 少しでも早くこの病魔とおさらばするためならば、塵屑どもを利用するのに何のためらいがあるものか。

 

 

 

 そしてようやく念願のナメック星に到着したのだ。しかし色々な面倒事が目まぐるしく起きた。

 

 

 クリリンと悟飯(塵共)は大気成分の調査の前に宇宙船の外に出る、ナメック星には邪悪な気がうようよしている、空からサイヤ人の生き残りとやらの宇宙船が飛来、さらに続いて同型の宇宙船がもう一機飛来、そしてナメック星人ではない謎の塵二人に私の宇宙船が破壊される。

 

 波乱万丈などという問題ではない。ナメック星に到着して一時間どころか10分も経ってない内に色々と起こり過ぎだ。

 

 特に最後のはクリリンと悟飯(塵共)二人で宇宙船が破壊される前に対処が可能だったにも関わらずこの体たらくだ。文句も言いたくなる。下手人の塵二人の頭を吹き飛ばしたのも私であるし、仕事をしない塵屑に苛立ちが抑えられない。

 

 

 ちなみに塵共は私が気弾を放った時に気の大きさが変化せずに感じられなかった事に驚いているようだ。

 

 

 気を通常通りに解放していれば敵に気付かれ、気配を消すために抑えていたのでは敵に襲われた時に対応ができない。であれば、解放している気を隠すしかない。

 外敵に不意打ちを食らうと致命的であったためにどちらのリスクも選ぶことができなかった私は、そのような考えの下に気を解放したままそれを外から隠す技術を身に付けた。

 もちろん全解放した状態ではそれを完全に隠す事などできないし、そもそも全解放などすればこの脆すぎる身体が耐えられないのでしないのだが、通常時の力であれば外に出さずに解放する事も可能になった。

 

 とはいえこの程度、訓練すれば誰にだってできる事だ。…………そう思っていたのだが、塵屑の反応を見る限り、相当珍しい技術のようだ。アドバンテージになり得る以上やり方に関しては隠す事にした。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 使えない塵や鬱陶しい塵の事は一旦置いておく。今は行動するために状況がどうなっているかを理解しておく必要がある。

 

 ブルマたちの話や先程の塵たち、サイヤ人に無数の邪悪な気配、これらを加味して私は次のように結論を出した。

 

 

「この星で感じる邪悪な気配というのは塵が所属している組織の塵共とその上司の塵で、それとは別にあの塵が来ている。つまりは塵と塵は塵同士敵対しているのだろう」

 

「ちょっとゴミゴミ言い過ぎて何が何だかわかんないわよ。もっとわかりやすく言いなさい」

 

 

 これ以上ない簡潔な答えをブルマに反論された。何故これでわからんのか……理解できん。

 

 要はサイヤ人のベジータとその組織は敵対している……つまりは裏切りという事だ。

 

 もちろんベジータが組織に情報を提供して協力体制になっている可能性もゼロではないが、話に聞く印象からそれはないと判断できる。

 

 俺様気質だというベジータが上司の為にドラゴンボールの情報を渡す? 有り得ない。むしろ隠し通して不老不死を叶えた後に下剋上をしようとするだろう。そうでなければ通信で知った情報を報告や援軍要請もせずに一年近くかけてたった二人で攻め込んでは来ないだろう。

 

 あるいはそのサイヤ人が既に組織のトップの後釜に内定しているというのであれば話は変わるが……それならば無理に自らドラゴンボールを求めてやってくる必要はない。手下にドラゴンボールを献上させれば済む事だ。

 

「つまり……?」

「塵と塵の親玉がドラゴンボールを巡って内紛中だ」

 

 そこまで説明して使えない塵共はようやく理解したようだ。どれだけ理解力が乏しいのかと口に出せば、「そんなのわかるか!」とクリリン(無能な塵)に反論された。解せぬ。

 

 

 とはいえ今の結論はあくまで推論に過ぎない。一先ず正確な現状を知るために現地の人間に会いに行こうと近くにある集落だと思われる気の集まる場所へと向かう事にした。

 ちなみにドラゴンレーダーの反応を見ると、その場所に一つあるのとは別に、その近くに既に四つほど集まっているそうだ。善良な気と共に近くに邪悪な気も感じるのが気になると悟飯が口にしていたが…………どう考えても答えは『ドラゴンボールを集めている塵の親玉がその集落らしき場所にドラゴンボール目的に部下を引き連れて近付いている』という一つであるが言う義理もないので何も言わなかった。

 私としては判断材料を増やすためにその親玉を一度見ておく必要があると思っていたので渡りに船である。

 

 なおブルマは留守番である。使えない宇宙船で使えるものを纏めるのだそうだ。

 

 

 そうして星の地上げ屋の親玉を見た感想だが……

 

 

 

 

 

 アレは、ダメだ。

 

 

 

 

 

 数と力に頼り襲い掛かる侵略者の塵共、それらを跳ね除けていく若いナメック星人の塵共、それを更なる力で押し潰した親玉の側近の片割れらしき塵、虐殺されていくナメック星人の塵共……

 

 その様子から、あの侵略者の親玉と側近との力量差が理解できた。今の私では勝てない。

 

 特にあの真ん中の機械に乗ったフリーザと呼ばれている塵から感じられる気力が段違い……しかもあれでまだ氷山の一角だ。まともにやり合っては勝ち目がない。現状アレは関わってはダメな塵だ。

 

 

「――――やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 だというのに、悟飯(阿呆な塵)はナメック星人の子どもの塵を助けるべく飛び出していき、それを追いかけてクリリン(使えない塵)も飛び出し、その存在を露見させてしまった。……幸い飛び出さなかった私の存在までは露見していない。

 

 影から様子を窺っている限り、奴らには気の感知能力が備わっていないようだ。おそらくは前に聞いた気の大きさを計る機械とやらに頼り切りになっているせいだろう。

 

 だがこのままこの場にいては見つかる可能性もあるため、気配を隠したままその場を離れる事にする。飛び出した塵は……まあ運が良ければ生き残るだろう。

 

 

 そして宇宙船まで戻る途中でこれからの立ち回りについて思考する。

 

 

 状況から考えて現在、ドラゴンボールを巡る勢力は私を除いて少なくとも三つ存在する。

 

 一つはあのナメック星人を殺してドラゴンボールを収集しているフリーザとかいうあの塵を筆頭とする勢力だ。戦闘員の質・数ともに最も優れている上におそらく大部分のドラゴンボール……最低でも七つの内の五つまでがこの勢力に収集されている。

 

 二つ目はサイヤ人ベジータとかいう塵。戦闘力は高いようだからこの塵がどこまで食い下がれるかによるが、私にとってここは未知数としか言えない。

 

 そして三つ目が地球から来たあの塵屑三人組。戦力としては最低だが、おそらくレーダーを持っているというのは大きいアドバンテージだ。あとは塵が助け出したナメック星人の塵をうまく利用できるかどうかといった所か。

 

 

 勝ち馬に乗るのならば間違いなくフリーザ勢力だろう。だがここに与するのは絶対にない。

 

 奴らに与しようとすれば必ず上下関係を強いてくるだろう。塵に媚びるなど、私のプライドが許さない。

何より、急に現れた新参者など使い終わったら捨てるに決まっている。無駄に関わって僅かばかりの情報が漏れる事すら避けたい。

 だが、おそらくは先程ナメック星人に壊されていた気の大きさを計る機械がなければ奴らの探索能力は大きく落ちるだろう。その中で打たれると恐ろしかったのが人海戦術だが、たった今ナメック星人たちの奮闘によりフリーザ勢力の雑魚共はほぼ全滅したと見ていいだろう。つまりそれも実質使えない。

 

 

 ナメック星人、役に立つ道具じゃないか。よくやった、褒めてやるぞ。

 

 

 続いてはサイヤ人の塵だが……本当にここはどこまで使えるのか厄介なのかわからん。話を聞く限りであれば、手を組むには不安要素が多すぎる。そもそもとして判断材料が少なすぎる。

 

 

 となるとやはり一先ずはあの塵屑三人組を利用していくしかない。レーダーという圧倒的アドバンテージがあれば、奴らの蒐集したドラゴンボールを盗み出す事も可能。そして裏切られるなどと考えてもいない能天気さのおかげで裏切る事も容易と来ている。

 

 さらにはあの塵が助け出していたナメック星人の塵から情報を絞り出す事で更なるアドバンテージを得る事も可能……! 追い詰められる前ならば有用である。

 

 さて、ここからうまく全てのドラゴンボールを掠め取り、あの宇宙の塵に私が直接関わらないように他の塵屑どもを利用して私が願いを叶える。

 

 条件として厳しいが……何とか立ち回るしかない。

 

 

 軋む身体を気迫で維持しながら、宇宙船へと急ぐ事にした。




ちなみにチアの気を隠す技術のイメージとしてはH×Hの念能力の『隠』です。


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第三話 レッツ、コミュニケーション!

少し前半部分を詰め込み過ぎた気がします


 宇宙船に戻ると荷物を纏め終えただろうブルマが何かの機械を弄っていた。

 どうやらそれは通信機で、地球にいる仲間の塵に連絡をとろうとしているようだ。

 その作業の最中、ブルマに一緒にいた二人はどうしたかと聞かれたので、怒りに任せて地上げ屋一行に突っ込んでいったから見捨てたと言ったら激怒された。解せぬ。

 

「ほんっとに信じられない!! そこで見捨てるフツー!?」

「そんな事より早く手を動かせ」

「言われなくてもわかってるわよ! もう!!」

 

 そう告げると怒りながらもそちらの作業に戻っていった。使えはするのだ、ブルマ(この道具)は。ただ五月蠅いだけで。

 

 そして通信機が繋がり、互いの現状を報告し合う。それによると地球で治療中だった孫悟空とかいう塵がナメック星に向かって出発したらしい。しかもその宇宙船なら六日程でナメック星に到着するとの事だ。

 ここまで一週間弱で到着できる宇宙船があるなら先に出せよ。そう文句を言うと、完成したのが先程という事だった。何と間の悪い。

 

 ようやく通信も終わったのでさっさとこの場所から離れるぞとブルマを急かすと、予想だにしない言葉を口にしたのだ。

 

「何言ってんのよ、クリリン君と悟飯君が戻ってくるのを待つに決まってるでしょ」

「は?」

「『は?』じゃないわよ。今移動したら二人と合流できなくなるじゃない」

「奴らはもう死んだ。諦めろ」

「あんた諦めるの早過ぎるでしょ!?」

「今移動しなければまた奴らに塵を差し向けられるぞ」

「塵って……さっきのヤツみたいな? チアが倒してくれたら大丈夫よ」

「面倒だ。私は見つかる前に一人で逃げるぞ」

「ヒドイ!? な、ならせめて行先を書いたメモか何かを残しておくわ」

「敵がそれを見つけたらどうするつもりだ! 阿呆か貴様!!」

 

 私がいくら言ってもブルマは散々駄々をこねて一向に移動しようとしない。おのれ……使える道具だと思えば、手間のかかる……!

 疲れるので使いたくはないのだが、仕方なく念力で無理矢理放り投げてやろうかと考えていると、なんと悟飯とクリリンがナメック星人のガキを連れて戻ってきたのだ。

 正直あの塵から逃げ伸びてきたことに私は驚きを隠せなかった。

 

「あっ、チア! お前一人で逃げてやがって! まあお互い無事だったからよかったけどさ!」

「私は塵の自殺願望に付き合うつもりはない」

「べ、別にそんなつもりで飛び出したわけじゃ……」

「まあ……確かに相当な無茶だったけどさ、こうして一人だけでも助けられたんだ。良しとしようぜ」

「それよりもそろそろ移動しましょうよ。いつまでもここにいちゃ見つかりそうで怖いわ」

「あ、それならさっきここに戻ってくる時によさそうな所ありましたよ」

 

 今まで散々渋っておきながらのブルマのこの発言に、苛立ちのあまりに頭の血管が切れそうになるが何とか抑える。早く移動した方がいいのは確かだからだ。

 

 

 そうして悟飯とクリリンの先導の下、ブルマの出したエアカーでブルマの持つ家のカプセルが使える程大きな洞穴のある場所へと拠点を移し、そこでそれぞれ情報交換を行った。

 

 

 私としては、ベジータとかいう塵が気をスカウターなしに探知を出来るという点であった。だが塵共が一番関心を示したのは別の情報であった。

 

「お父さんが来るんだ!」

「それに途轍もない修行しながら来るだって! これで何とか希望が見えてきたぞ!」

 

 孫悟空とかいう塵が六日後にナメック星に到着すると聞いた悟飯とクリリンは小躍りしながら喜んでいるが、それが私にはいまいち何故かわからなかった。

 

「ベジータとかいう塵よりも弱い奴が来たところでどうにかなるものか?」

 

 何せ敵の親玉はそのベジータよりもはるかに強いであろう化け物だ。そんな相手と敵対する中でそれ以下の塵以下の塵が来たところで何とかなるとは思えない。ないよりもマシではあるだろうが、それでもここまで喜ぶ理由がわからない。

 

「会った事ないチアにはわかんないだろうけど、悟空ならどんな絶望的な状況でも何とかしてくれるっていう不思議な何かがあるんだよ」

「それにお父さんは宇宙船で修行をしてるって言うし、きっとベジータにだって負けないよ!」

 

 あまりに楽観的過ぎる塵共の意見を聞き流しつつも私の関心はデンデというナメック星人のガキに移っていた。

 値踏みするように見ていると、デンデはこちらを警戒するかのように悟飯の背後へと隠れる。村が滅ぼされた直後だからこそ誰を利用すべきか子供ながらに思考しているわけか。

 どうやら頭は悪くないようだ。使える道具である可能性は高そうだ。

 

 

 さて、情報の整理をしている間にも状況は刻一刻と変化していく。

 

 遠くで感じる集落らしき気の集まりが、一つ一つと消えていくのを感知した。

 当然私以外にもクリリンと悟飯が気付き、それがベジータの仕業であると判明した。

 おそらくはその集落にあるドラゴンボールを狙った虐殺だろう。収集だけならば早く済ませるには効率がいい。

 しかし今まで得た情報からすると、フリーザたちが五つ、ベジータが一つドラゴンボールを手にしたことになる。

 

「となると、残るドラゴンボールはあと一つ……ドラゴンボールが全て集落にあったとするとナメック星人も残りわずかだろうな」

「そ、そんな……!?」

「ちょっとチア! 言葉を選びなさいよ!」

 

 事実を言っただけなのに何故か怒られた。どう選べというのだ。『生き残りの方に入れてよかったな』と言った方がよかったのか? 解せぬ。

 

 何やらショックを受けたらしいデンデが沈黙し、場が途端に静かになる。何故他の連中が黙ったのかがわからん。聞きたい事があるんじゃないのか?

 

 そんな謎の沈黙を破ったのは、先程ショックを受けていたデンデであった。

 

「……あ、あなたたちは一体どうして願い玉を欲しがるんですか……?」

 

 成程、確かにこの質問はデンデにとっては重要だろう。利用しようにも目的がわからなければ利用できるかわからない以上、デンデの疑問ももっともである。

 

 そのデンデの疑問に答えるためにブルマたちはデンデに地球からわざわざここまで来た理由を話し始める。私にとっては興味のない話だ。宇宙船でも聞いたが特に何も感じない。強いて言えば何故ピッコロとかいう奴は悟飯を庇って死んだのか問い詰めたかった。ヤツが死んでいなければ地球のドラゴンボールもなくなる事なくここまで来る必要もなかったのに……役に立たん道具が……。

 

「地球にも願い玉……そして僕らと同じナメック星人の方がいたんですね……」

 

 だがデンデにとっては違っていたようで、今の話で塵共に心を許したようだ。どこにそんな要素があったのか理解できん。そんな様子を見てたブルマが「あんたは人に共感とかしなさそうよね」と呆れたように口にするが、どうでもいい。

 

 そんなデンデは意を決したようにある事を言ってきた。

 

 

「皆さんを最長老様の所に案内します!」

 

 

 デンデの言う最長老とやらは、かつてナメック星で起こった天変地異の中での唯一の生存者らしく、今のナメック星人の全てと今のドラゴンボールを生み出した存在であるらしい。さらには最後のドラゴンボールもその最長老の元にあるという。

 

 とはいえ普通に行けば徒歩で30日程かかるらしい道のりを行くのにブルマが難色を示し、その長い道のりで人数が多いと敵に見つかる可能性が高くなる事を私が示唆した事によって、クリリンだけがデンデに同行する事になった。

 

 

 そうして出て行ったクリリンとデンデを見送ってから数日が経った。

 

 

 レーダーの反応が急速に移動を始めた事によってクリリンが最長老の所から戻ってくることが判明した。

さらにはレーダーを見ていた悟飯が比較的この拠点に近い位置にドラゴンボールの反応がある事に気付き、レーダー片手に取りに行った。

 

 ドラゴンレーダーによる優位性は思っていた以上に高い。悟飯はともかくレーダーを作ったブルマは本当に使える道具だ。

 

 レーダーを利用すればこの絶望的なドラゴンボール争奪戦も挽回できる可能性は少なからずある。

なんだ、思っていた以上にコイツらは使える道具じゃないか。これなら私のヤミが晴れるのもすぐかもしれないな。

 

 

 

――――そう思っていた少し前の私を諌めたい。

 

 

 

 何とドラゴンボールを手に入れたクリリンが、敵陣営の塵二人をわざわざ拠点まで連れてきたのだ。

 

 

 ……この表現ではクリリンが自ら招いたように見えるが、実際には後を付けられただけのようだ。とはいえフルスピードで飛んでいる後ろを同等の速さで追いかけられているのに気付かない時点で自ら招いているようなものである。

 

 馬鹿か!? どうして隠れている拠点に、ドラゴンボールを持って、それを狙う塵屑共を連れてくる!? 何故警戒もせず全速力でまっすぐに向かってくるんだ!?

 

 なお私は到着間近にクリリンの気に付いてくる二つの気を感じた時点でコイツらを見捨てて避難する事にした。

 

 ブルマは使える道具で勿体ないが、自殺願望染みた前回といい今回といい、全体でマイナス面が大きすぎる。戦況にもよるが様子を見ながら場合によってはすぐに離脱できるようにしておこう。

という事でクリリンが戻ってくる前にブルマに一言外を見回ってくると伝えて気配を隠しながら身を隠し様子を窺う事にした。

 

 そうしてやってきたクリリンと、それを出迎えるブルマと、その後にやってきた宇宙の塵共と同じような戦闘服を着た生え際がM字になっている逆立った黒髪をした塵と、さらにその後にやってきた宇宙の塵の側近の塵がその場に揃ったのだった。

 

 この状況を作り出したクリリンは本当に使えない道具である。使えないどころか有害ですらある。

 

 

 

 ……その後の事を簡単にまとめると、M字の塵、ベジータが側近の塵を消したのち、ドラゴンボールを差し出す事によってブルマとクリリンは見逃され、ご機嫌なベジータは高笑いしながらその場を去っていった。

 

 

 

 

 塵を見逃す程に機嫌のいいベジータの言を信じれば、あのドラゴンボールで全てが揃ったという事だが、悟飯が取りに行った一つだけ反応のあったドラゴンボールはベジータの隠していた物のようだ…………まあ、そこはどうでもいい。

 

 

 重要なのは、どうやってかベジータはフリーザからドラゴンボールを掠め取る事に成功したという事だ。

 

 

 実際に戦っている所を見たというのもあるが、私の想定以上にベジータは優秀なようだ。が、状況的にまだフリーザよりかは与しやすいときた。これはひょっとすると私の都合のいいように状況が転がり始めているのではないか……そんなことを考えながら立ち尽くす道具二人と合流する。

 

 合流してすぐに二人から「チア! どこ行ってたんだ!?」とか「チア、アンタもしかしてクリリン君にあの二人が付いてきてるって気付いてたんじゃないの!?」とか「一人で逃げようとするとか信じられねぇ!」など色々と文句混じりな事を言われた。ブルマはともかくとしてお前に言われる筋合いはないとクリリンを睨むと、ヤツは何も言い返せなくなった。なおブルマ自身に非はないので煩いままだった。

 

 なお、どうして塵が追ってきているのに気付かなかったのかと後で詰問すれば、最長老とやらに潜在能力を引き出されたとかで調子に乗ってしまってつい周囲の警戒を怠っていたと……コイツは使えない道具から無能な塵に格下げしておこう。

 

 

 そこからはまた忙しくなった。悟飯がドラゴンボールを回収して戻ってくるとすぐに拠点を引き払い移動、新たな拠点を探索する。

 

 ただ以前のような家を出せるような洞穴は滅多にないので新たな拠点となったのは、家のカプセルも使えない、雨風も防げない、視覚を遮れるような作りの岩場の隙間である。ブルマの文句が煩い。

 

 そしてクリリンの提案により悟飯の潜在能力の解放するためにもう一度最長老とやらの居住へ向かう事になった。確かに以前と比べても無能な塵の気が強くなっている。戦力増強としては間違っていない。

 

 だがそれに対してブルマが以前と同じ理由で拒否し、私も思う所があったために同行を拒否したため、最長老の所へは悟飯とクリリンの二人で向かう事になった。先程の反省を活かしてベジータに気付かれないように気を抑えていくらしいが……無能な塵の事だ。どうせまたやらかすだろう。

 

 

 さて、同行しなかった私はというと、今後の方針を固めるためにまずは状況を整理する事にした。

 

 

 まず重要なのがナメック星のドラゴンボールもこのままではもうすぐただの石になってしまうという事だ。

 

 ドラゴンボールを作った最長老とやらが既に寿命でくたばる寸前らしい。もって一週間程度だそうだ。

 つまりそれは、ドラゴンボールが使えるのは一週間以内だという事だ。明確な期限ではないが、その程度しか猶予は存在しない。

 

 クリリン(無能な塵)は願いを諦めてでも最後の一つを死守するなどと世迷言を囀っていたが、そんな事許容できるはずがない……! 何としてでもドラゴンボールを全て揃えてやる……!!

 

 そのドラゴンボールの所在は現在、ベジータの所に六つ、ブルマの所に一つ存在している。そしてフリーザの所には一つもない。

 

 悟飯とクリリンは最長老の所に向かっている。ベジータを警戒して気配を消しながらの移動なのでしばらくかかるのは想像に難くない。

 

 そしてフリーザに現状動きはない。おそらくは援軍とスカウターを呼び寄せている最中だろう。どれだけかかるかはわからないし、楽観視するべきではないのだが、そうすぐには動けないと考えていいだろう。

 

 つまり簡単にまとめると、最難敵であるフリーザが動けず、地球組の戦力がドラゴンボールから離れている以上、ドラゴンボールを揃える障害はベジータだけという現状だ。

 

 

 

 ならば、行動を起こすなら今がベストだ。ベジータに対して何らかのアクションを起こす。

 

 

 

 ただ真っ向からの戦闘では今の私ではベジータには勝つのは厳しいだろう。

 

 そしてドラゴンボールを悟飯に騙し取られた現状、ベジータがこちらの場所を感知にするのに集中しているだろうことは予測できる。つまり単なる奇襲も通じる可能性は低い。

 

 

 であれば、取れる手は交渉くらいしかない。

 

 

 他人の心を読み、相手にも旨味を理解できるようにする。それが交渉に必要である事は塵共との経験で理解した。

 思った事をそのまま言った所で相手がそれを呑むとは限らない。ようはいかに相手を乗せるかという事だ。

 あとはブルマとの雑談が多少は役に立つかどうかだが……まあ私なら問題ないだろう。

 

「……よし」

 

 善は急げ、ということで早速足を運ぶことにした……が、ベジータも気配を消しているため探索から始める事にしよう。

 

 

(★)

 

 

 ドドリアとザーボンを倒し、フリーザを出し抜いてドラゴンボールを奪い取り、さらに何故か来ていた地球人から最後のドラゴンボールを手に入れた俺は浮かれていた。

 

 これで俺は永遠の命を手に入れ、フリーザに代わり全宇宙の支配者になるのも夢ではなくなるのだから多少浮かれるのも仕方がないだろう。

 

 だが、最初に俺が手に入れ隠していたドラゴンボールをカカロットの息子に掠め取られ、さらには奴らが気配を完全に消しやがったおかげで不老不死も先延ばしになってしまった。クソッたれ!

 

 おそらくはあの地球人はどこかに隠してもドラゴンボールを見つける事の出来る装置を持っているんだろう。故にここにドラゴンボールを置いたまま奴らを闇雲に探しに行くという選択肢を取る事ができなかった。

 

 今の俺に出来る事は、奴らが戦闘力を解放して動き出すのを見逃さないように、精神を研ぎ澄ませることだけだった。

 

 フリーザがスカウターを部下に持って来させるまでが俺が有利に動ける時間だというのに……!

 

 そう歯噛みしながらも精神を研ぎ澄ませて二日が経ったあたりの事だった。

 

 

 俺の前に一人のガキが姿を現したのだ。

 

 

 それは不気味な雰囲気を感じさせるガキだった。齢は見た限りカカロットの息子と同じくらいだろうが、色が抜けたように薄い黄緑色の髪、病的に白い肌、腐りきった目、そして何より全身から感じられる不吉な気配…………碌なヤツじゃないと不思議と本能的に理解していた。

 

 だが、その身体的特徴は地球人共と一致している以上、おそらくは奴らの仲間であろうことも予測できた。

 

 何しに来やがったのか、理由はわからんがこれは好機だ。コイツから奴らの情報を引き出せば全てのドラゴンボールを揃えることができる。

 

「お前がベジータで間違いないな」

「貴様、地球人どもの仲間か。何しに来やがった? まさか俺から奪ったドラゴンボールを返しにきたわけじゃないだろう」

「取引に来た。フリーザを倒すのを手伝ってやる。その報酬としてドラゴンボールを寄越せ」

「ふざけるなよガキ。何故俺が貴様らにドラゴンボールを渡す理由がある?」

 

 どんな話を持ってきたかと思えば、いきなり訳の分からない取引を持ち掛けられた。何だこのガキ、ふざけてるのか? そもそも俺と取引できる立場にいると思っている辺り勘違いをしてやがる。

 

 だが今は我慢してガキの話を促す。無理矢理口を割らせるのもいいが、何かの拍子で勝手に口を滑らせてくれるのならその手間も省ける。

 

「お前はフリーザに勝てないから奴に殺される事がないように永遠の命が欲しいわけだろう? ならばフリーザを倒してしまえばお前が不老不死を急ぐ理由もなくなるわけだ。こちらとしては早急に叶えなければならない願いがあるのでな。お前の願いは緊急性を低くしてやるから次の機会にしてくれ、という取引だ。悪い話ではないと思うがどうだ?」

 

 ……話の内容だけ見れば悪い話ではない。俺が永遠の命を急ぐのはフリーザという目の上のたんこぶがいるからこそであり、奴さえいなくなれば後回しにしても大きな問題にはならない。

 

 わざわざ乗ってやる理由もないが、もしも不老不死にならずともフリーザを葬り去れるのならば、仮にこの話に乗ってやったとしてもそこまでの損失は俺にはないのも確かである。

 

 

 

 だがそれは、それができればの話だ。

 

 

 

「貴様らと組んだ所でフリーザが倒せると? 馬鹿馬鹿しい」

 

 そう、底知れぬ戦闘力を持つフリーザに対して、コイツらでは荷が勝ち過ぎる。だが目の前のガキはそう思っていないようでさらに口を開いてくる。

 

「お前は勝てないと思っているのか? 例え束になったとしても、どうやってもフリーザには勝てないと」

「少なくとも貴様らと組んだ程度ではどうにもならん。ヤツの強さは尋常じゃないからな」

 

 多少ハゲのチビは強くなっていたようだが、それでもドドリアにも届かない程度。カカロットの息子が同様の成長をしていればともかく、組むに値するとは思えん。このガキも今の戦闘力が全てではないだろうが……他の連中とそこまで変わらんだろう。

 

 そう計算立てる俺を見て、目の前のガキはわざとらしく「やれやれ」と肩を竦めた。

 

「随分と弱気なものだ。サイヤ人は誇り高い戦闘民族と聞いていたが……期待外れというべきか」

「……何だと?」

「お前がやろうとしている事はつまり、フリーザにはどうやっても勝てる気がしないから死なない体になって寿命で死ぬまで必死に隠れます、という事なわけだ。見つかったらその時は痛みに耐えて何とか逃げてまた隠れて……サイヤ人の誇りとやらは意外と埃に塗れているようだな」

「ふざけたことを抜かすなよ、ガキが! 俺がフリーザに勝てないのは今であって、この先は別だ! いつかはヤツを殺し、このベジータ様が宇宙の支配者に成り代わってやる!」

「ああ、そうかそうか。つまりお前は、フリーザが加齢でボロボロになる所を叩けるようになるまで待って、加齢で死ぬ前にフリーザに勝利したと言い張れるようにするわけか! 成程成程! 私には思いもよらない斬新なプライドの満たし方だな! はは、なんだお前、お利口さんじゃないか! 戦闘民族の誇りとやらはどうやら臆病かつ狭量なもののようだ!! これは予想外だ、恐れ入ったぞ!!」

 

 腹を抱えて大笑いするその姿は、人を虚仮にするようなその物言いは、俺の苛立ちを怒りに変えるのに十分すぎた。

 このクソガキから情報を引き出そうとこの減らず口を開かせたところで、欲しい情報を喋らせるまでに怒りでそのまま殺しかねない。ならこのガキに拘る必要などなく、むしろ見せしめにした方が効果はあるだろう。それに俺の精神安定にも繋がる。

 

「どうやら死にたいらしいな……クソガキ!」

 

 そうと決めれば行動は早い。この命知らずのクソガキの頭を木っ端みじんに吹き飛ばすつもりで拳を振りぬいた。

 

 

 

 

――――しかし俺の拳はヤツの頭部を砕くことなく、何の手応えもないままにすり抜けた。

 

 

 

 

「何!? 残像!?」

「――――交渉決裂だな、塵が!」

 

 背後へ振り返ると、そこにはエメラルドのような緑の核を持った黒い巨大なエネルギー弾がガキの両手から放たれていた。

 

「くっ……!?」

 

 咄嗟に両手を前に出して受け止めるが、その勢いのまま海上まで押し出されてしまった。

 

 どう考えても奴から今感じられる戦闘力から出せる威力ではない。あのガキ、あの地球人共の持っていた技術とはまた別の技術をもってやがる……!

 

「ふざけやがってぇっ!!」

 

 怒りがさらに湧き上がると共に両手で抑えているエネルギー弾をそのまま蹴り上げて空へと弾き飛ばす。続いてガキへと視線を向けると、そこには戦闘力が集中して光が点滅するその片腕を前方に振り払おうとするヤツの姿が……マズイ!

 

 

 

 そう思い上空へと飛び上がった瞬間、ヤツのエネルギー波によって今までいた周囲一帯が爆裂した。

 

 

 

 水柱というには大きすぎる程に海水が飛び散る。まさに水の壁という程にだ。だがあの程度の攻撃ではたとえ直撃したとしても俺には目晦まし程度にしかならん…………いや、それが狙いか!!

 

 

「チィッ! 狙いはドラゴンボールかッ!」

 

 

 もしもヤツの戦闘力が俺の想像通りただ抑えるものでなく隠すものだとすれば、完全に姿を見失った時点で俺にヤツを追いかける事ができなくなる。こちらがヤツの戦闘力を感知できず、相手はこちらの戦闘力を感知できる上に普段通りの移動スピードを出せる以上、闇雲な探索をせざるを得ないこちらから逃れるのは容易だ。

 

 そうなればせっかく手に入れたドラゴンボールというフリーザに成り代わり宇宙の支配者になるための手段がなくなってしまう!

 

 視界を塞がれた現状はあのガキの思惑通り! となればヤツを視界に捉えばいいだけだ!

 

 目の前の瀑布に突っ込み、ヤツを視界に捉えようとするが、背後……上空から戦闘力を感じ、咄嗟に身を翻して後方から飛来した何かを躱してその正体を目にする。

 

「くっ……!? さっき蹴り飛ばしたエネルギー弾だと!?」

 

 蹴り飛ばしても追尾してきたエネルギー弾に、地球人どもの戦闘力のコントロール能力の高さに驚く。連中弱っちいくせにこういう小手先の技術は山ほどありやがる。鬱陶しい事この上ない。

 

 だが次に向かってきたエネルギー弾をすれ違うように避けて一気にガキの場所まで行けばいいだけだ。そう考えエネルギー弾を注視すると、翠玉色の核が収縮していくのが見えた。

 

 

 まさか……! そう思った瞬間、エネルギー弾は急激に膨張し、周囲を巻き込むように爆発を起こした。

 

 

 爆発が広がっていく一瞬の僅かな間、俺はどう動くべきか考えていた。

 

 

 今後もしフリーザと対峙する可能性を考えれば、わずかな消耗も出来る限り避けたい。そう考えれば普通は爆発の範囲から離脱して回り込んでヤツを叩くべきだ。

 

 しかしそれをするとヤツを視界から外す時間が長くなってしまう。その隙をついて完全にドラゴンボールと共に姿を消されると完全に俺の負けだ。

 

 ではこの爆発をエネルギー波で吹き飛ばすか? いや、ヤツの詳しい位置もわからない現状、万が一威力の精度を間違えてドラゴンボールに何かあればそれこそ終わりだ。敵の姿も見えない現状、遠距離攻撃は可能な限り避けるべきだ。

 

 

 

 であれば、取るべき手は決まっている。

 

 

 

 俺は全身に力を込めながら全速力でそのまま前進し、その爆発に身を投じた。

 

「ぐっ……おぉぉぉぉっ……!」

 

 ガキの放った攻撃とはいえ、無防備に突っ込むとなるとダメージは避けられない。爆発による衝撃や熱が身体を蝕んでくる。

 

 だが、誇り高きサイヤ人の王子である俺にとってこの程度、なんてことはない!

 

「――――なめるなぁっ!!」

 

 気合いで爆発を無理やり突っ切り、多少のダメージを代償にようやくヤツの姿を捉えた。

 

 俺の危惧していた通り、あのクソガキは超能力か何かで六つ全てのドラゴンボールを浮かして持ち出そうとしてやがった。

 

 手っ取り早いのはエネルギー弾での攻撃だが、この位置関係ではドラゴンボールに当たって砕ける可能性もある。

 

 

――――なら直接ぶん殴ればいいだけの話だ!

 

 

 俺は爆発を突っ切ったままのトップスピードで奴に突撃をかけて殴りかかった。

 

「っ……!? 塵の分際でしつこい……!」

 

 俺の接近に直前で気付き間一髪で跳ぶように避けやがったガキは、苦し紛れにこちらにエネルギー弾を撃ってくるが、その程度でこのベジータ様を止められると思うなよ!

 

 そのエネルギー弾を裏拳で消し飛ばし、その勢いのままに蹴りをガキの身体に叩き込む。

 

「ソイツは、俺のものだぁぁ!!」

「ぐっ、ぎぃ……!!」

 

 浅い! コイツ、蹴りが当たる直前に後方に下がるだけじゃなく、俺の蹴りに対してエネルギー波を放つことで蹴りの威力と速度を減らしやがった! だがそれでもクソガキが苦悶の表情を浮かべた事に変わりはなく、今のダメージによって不自然に宙に浮いていたドラゴンボールがあのクソガキの制御下から離れたのか地面に落ちていき、しかも位置的にドラゴンボールを巻き込む心配もなくなった。

 

 最早遠慮する必要はなくなった。早急に消し炭にしてやるぜ!

 

 

 

「――――消し飛べ! ギャリック砲!!」

 

 

 

 渾身のギャリック砲があのクソガキを消し飛ばし――――――――いや、違う!?

 

 あのガキ、この俺のギャリック砲に吹き飛ばされながら、肝心のダメージ自体はバリヤーのような物で受け流してやがる!! 全てを防ぎ切る事は出来てないが、ギャリック砲に完全に飲み込まれる事なくその勢いにそのまま乗る事でこの場から離脱しやがった!?

 

 追いかけられない事もないが、これ以上派手にやればいくらスカウターがないと言ってもフリーザにこの場所が気付かれる可能性もある……いや既に気付かれているかもしれない。

 

 それにドラゴンボールは一つも奪われていない以上、あのガキを今すぐに追いかけて始末する必要もない。

 

 そう考えれば今はあのガキを追いかけて殺す事よりもドラゴンボールを持って別の場所に潜伏する事の方が先決だ。

 

「く……まさかこのベジータ様が雑魚一匹逃がすとは……!! クソッたれめ……ッ!!」

 

 敗けてはいない。だが、勝利というには程遠いこの戦いに苛立ちが湧き上がる。

 

 

「あのクソガキ……次に会ったらぶっ殺してやる……!!」

 

 

 




コミュニケーション(物理)


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第四話 力を求めて

難しいのはわかっていましたが、逆十字感が上手く出せない……要精進

今回はちょっと短めです。


「――――げほっ、ごほっ……! はぁ、はぁっ……! くそ……失敗した……!!」

 

 ここまで距離を離せば大丈夫だろうと、海中から陸地へと移動する。その際に大地にボトボトと腹部から漏れる血液が黒く斑点を作り出すが、どうでもいい。

 

 そんなことよりも先程の一件が失敗に終わった事が痛い。

 

 ベジータとの交渉がうまくいかなかったのはまあいいとしよう。変に煽り過ぎた結果だ。そもそもとして塵の要望に応えるつもりがない事に気付かれて乗ってこない可能性は十分にあった。

 

 だが、その後の不意討ちからの目隠しによるドラゴンボールの奪取に失敗したのが想定外であった。

 

 まさかベジータがああも簡単に特攻染みた捨て身の行動に出るとは予想外だった。それこそが最適解であるのは確かだったが、あそこまで躊躇なく選択するとは……少しでも躊躇すれば逃げられていたというのに……

 

「――――げぼぁっ!」

 

 そこまで考えて、腹の底からせり上がってきた黒いゲル状の腐った血液を口から吐き出す。吐き出しても吐き出してもキリがない。着ている服が傷口である腹部だけでなく前半分が既に黒とも赤とも何とも言えない色に染まってしまっている。

 

 こうなるのも当然だ。腹部が肉・内臓問わず先程のベジータの蹴り一発でグチャグチャになっているのだ。さらに言えば最後のギャリック砲とかいう気功波はバリアーで大体は受け流せたものの、その余波が容赦なく身体を襲ってきたために全身所々が傷だらけである。

 

 最適のタイミングでの回避とエネルギー波による威力減衰などの最善手を打てたというにも関わらず虚しくこれほどのダメージを負ってしまった。この柔すぎる体が忌まわしい……!

 

 このままでは思考を纏めるのにもままならないので、まずは口内と食道に溜まっていく腐り切った血反吐を全て吐き出し、懐の袋から取り出した仙豆をのどの奥に無理矢理押し込み、飲み込む。

 

 するとミンチのようになっていた腹部や所々焼け焦げていた肉体が元通りに回復する。

 

「はぁ……はぁ……よし、これでマシになったな……げほっ!ごほっ!」

 

 しかし肉体が元通りになるだけである以上、軽い吐血は止まらない。当然だ。それが今の私の通常通り(、、、、)なのだから。

 

 崩れそうになる肉体を精神力だけで留め、何とか活動できる状態を維持する。激痛は身体を駆け巡り、更なる痛みを呼び起こすが、そんな物は日常茶飯事(、、、、、)だ。問題ない。

 

 それよりも次に打つべき手を考えるべきだ……が。

 

「まずは……この付近に気配はないな……」

 

 ベジータの気配は今いる場所とは別の方角に移動している。おそらくは私を追いかけるよりも先程の戦闘が切っ掛けでフリーザに居場所を感付かれる可能性を怖れたのだろう。

 

 フリーザも変わらず移動していない。悟飯、クリリンも依然として不明……敵対し得る連中は近辺には存在しないようだ。

 

 続いて周囲を見渡す。ボロボロに破壊された建物にその辺りに大量の死体()が散らばっている。どうやらここはナメック星人の集落だった場所のようだ。ここを襲撃したのがフリーザなのかベジータなのかはわからないが。

 

「まあ、雨風は防げるか……」

 

 足元に転がる死体()に躓かないように気を付けながら比較的壊れていない家の中へと足を踏み入れて、何か使える物がないか家探しを始める。

 

「飲み水は……水がめにあるな。他には……お、服か。丁度いい」

 

 血で染まり切った服を脱ぎ捨てて、そこにあったサイズの合いそうな服に着替える。デザインとしてはデンデの服装に似ていた。おそらくはここに住んでいたナメック星人の子どもの服だろう。

 

 ゆったりとした服で全身を覆い隠せて、かといって動きにくいわけではない。肉弾戦などには多少支障が出るかもしれないが、そもそも私は肉弾戦をしないから問題ない。

 

「ふむ、まあいいだろう」

 

 家具も壊れていないのでそのままそこにあった椅子に腰かけて今後の事を考える。

 

 現状ではフリーザどころかベジータを出し抜く事すらできなかった。実際にドラゴンボールを一つとして奪えずに戦場離脱するので精いっぱいだった。

 

 

 ドラゴンボールを手に入れるには最低でもベジータを何とかしなければならない。

 

 

 だが今の私ではそれすらも難しい。かといって使えそうな道具はいない以上、私だけで何とかするしかない。

 

「力がいる……」

 

 それも時間をかけてなどいられない。手っ取り早く強大な力を手に入れる必要がある。

 

 しかしそんな都合のいいものなど、ドラゴンボールくらいしか思い浮かばない。ドラゴンボールを揃えるためにドラゴンボールが必要など矛盾にも程がある。とはいえそれくらいしか思い浮かば…………いや、待てよ。

 

「そういえばあったな。そんな都合のいい話が」

 

 ニィっと自然と口角が歪に吊り上がっていくのを、わざわざ止める気にはならなかった。

 

 

(★)

 

 

「――――俺が不老不死を手に入れても貴様らには手を出さんと約束してやる!」

「で、でも他に方法も……」

「それ以外に方法はない! 急げ! 間に合わなくなっても知らんぞ!!」

「……ぐ、ぐぐ……! や、約束は、絶対に守ってもらうからな……!」

「わかったから、全力で飛ばせーーッ!!」

「チックショーーーーーッ!!」

 

 地球人の二人とサイヤ人が飛び立つ。新たに空から降ろうとする五つの邪悪で強大なパワーがこの地に降り立つ前に願い玉で願いを叶えるために。

 

 その姿を見届けた後、私はデンデとともに家の中にいる最長老様の元へと戻った。

 

「最長老様、彼らは往きました」

「そうですか……」

「さ、最長老様……彼らは、大丈夫なのでしょうか?」

「わかりません。我々に出来る事はもはや彼らの無事を祈る事のみでしょう」

 

 デンデや最長老様が彼らを心配する気持ちはわかるが、しかしこのままでは彼らの目論見が叶う事はないと私は確信していた。

 

 何故なら今の彼らには願いを叶えるために必要なものが欠けているからだ。例え空から新たに来る五つの邪悪を退けられたとしても、だ。

 

 それに御気付きになられない最長老様ではないだろう。そしてそれをそのままにしておくような御方ではない以上、何かしらの手を打つはずである。例えば……

 

「ネイル、私は大丈夫ですので、あなたも彼らとともに――――」

 

 

 

 

 

「――――貴様が最長老とやらか」

 

 

 

 

 

「――――――!!」

 

 最長老様の御言葉を遮ったのは、いつの間にかそこにいた子どもだった。

 

 背格好だけ見れば先程の地球人の子どもやデンデと同じくらいの齢だと思える。だがしかしその内面は違う。その目からは他人を見下すかのような念しか感じられず、微かにしか感じられないが邪悪な気が隠し切れずに確かに漏れ出している。

 

 まさか侵略者たちの手がここまで伸びたかと思い、警戒を強めるが……

 

「あ、あなたはチアさん……? 悟飯さんやクリリンさんといっしょにいた……」

「何!?」

 

 デンデの言葉に思わず耳を疑う。このような邪悪の塊が彼らと共にいただと……!?

 

 しかし最長老様は特に動じる様子もなく、その侵入者に対し御声を掛けられた。

 

「あなたは……先程の地球人の方々のお仲間ですか?」

「仲間? はっ、この私があんな塵屑どもと対等であるものか。奴らなど所詮道具にすぎん」

 

 その言葉に何かを隠すような意図は感じられない。つまりこの者は本心から彼らを道具程度にしか見ていないのだろう。そしてそれをこちらに隠そうともしない。

 

「だがその道具が使えん道具である以上、今は私にも力がいる。貴様は潜在能力とやらを引き出せるのだろう?」

 

 私の力を引き出せ――――そう言外に要求する。その横柄な態度にやはりこの者が先程までいた地球人たちとは全く違う、邪悪であると再認識する。

 

「貴様のような邪悪なものに力を与えると――――」

「いいでしょう」

「最長老様!?」

「今は一人でも多くの戦力が必要な時です。それにもしかすると……」

「ならさっさとしろ。時間がないのだろう」

「では、こちらへ」

 

 如何に目の前の存在が邪悪であろうと、フリーザという巨悪を何とかしないといけない今、戦力は一人でも多い方がいい。確かに理屈としては正しいのだろう。

 

 

 だが――――本当にそれでいいのだろうか?

 

 

 もしかすると、フリーザという巨悪を倒すために更なる巨悪を生み出す事になるのではないか。

 

「これは……あなたは地球人では……」

「いいから早くしろ」

 

 そのような私の懸念に関係なく、最長老様の手がヤツの頭にかざされて、潜在能力が引き出された。

 

「ほう……成程、成程成程! 素晴らしいパワーだ! よくやった! 役に立つじゃないか! 褒めてやるぞ!」

「何と、禍々しい……!」

 

 先程の地球人たちの潜在能力も凄まじかったが、この娘の潜在能力も群を抜いている。何より解放されたそれをすぐさま完全に掌握して周囲に漏らさぬように抑えている……いや、隠しているのか。

 

 目の前にいた私にもその力の大きさを感じ取れたのは一瞬だけ。あの侵略者たちが持つという機械や自身と同様の感知能力を有する地球人たちにもその力の発露を感じ取る事は出来なかっただろう。

 

 その力はおそらく、戦闘タイプであるこの私をも優に…………!

 

 内心焦りを覚えながら、警戒を強めている私を気にする事もなく、ヤツは解放された力に満足しているようだ。

 

「ところで、ドラゴンボールだがただ集めただけで願いが叶えられるのか? 何か必要な符丁でもあるんじゃないのか?」

「それを知った所で今のこの状況、既にあなたが願いを叶えられるものではないと思いますが」

「この私を貴様ら凡俗の尺度で計るな。私は願いを叶える。必ず、どんな手を使ってもだ」

 

 で、どうなのだ。そう催促するようにヤツは最長老様に視線を向ける。その視線は言外に教えなければ無理矢理にでも口を割らせるとでも言いたげなものであった。最長老様がお亡くなりになれば願い玉も消失する事は知っているだろうが、何かの拍子に危害を加えようとする可能性もある。

 

 であればここで黙っているのは悪手だ。そう判断し、最長老様に代わり私が口を開いた。

 

「それに関しては問題ない。地球にも願い玉がある以上、合言葉は地球人の彼らが知っているだろう」

「……それならいい」

 

 これに関しては方便である。呪文、というほどのものではないが簡単な合言葉があるのは確かであり、おそらくはその言葉の意味が大きく違うわけではない事も確かだろう。そういう意味では地球人の彼らも合言葉を知っているのは間違いない。

 

 しかしナメック星の願い玉はナメック語ではなければ『夢の神』が現れる事はなく、願い事が叶う事もない。つまりはナメック語が使えない彼らではどうあっても願いを叶える事はできないのだ。

 

 そのため、先程最長老様は戦力でありナメック語を話せる私を彼らの元へと遣わせることで、その障害を取り除こうとしたのだ。

 

 

 

――――だが、この者がいるのであれば話は別である。

 

 

 

 例えフリーザという侵略者から護られても、この目の前の邪悪な存在に願いを叶えさせるわけにはいかない。

 

 

 それに、目の前の邪悪とは関係なく、何か悪い予感がする。最長老様の身に何か災禍が降り注ぐのではないかという悪い予感が。

 

 地球から来た彼らには悪いが、最長老様を御守りする事が私の為すべきなのだ。

 

 そう改めて決意を固めている中で、用は済んだと言うかのようにこの場を後にしようとするヤツの背中に、最長老様が一言御言葉をかけられた。

 

「あなたは、悪に染まる必要はないのですよ」

 

 そう窘めるようにかける最長老様のお言葉に、ヤツは最後に一言口にした。

 

 

 

「――――私は、望むべくして外道となったのだ」

 

 

 

 そう言い残し、ヤツは飛び立っていった。

 

 

「……願わくば、彼の者が正しき道を歩まんことを……」

 

 あのような邪悪にも気を掛けられる最長老様を見て、私は一つの決意をした。

 

「――――最長老様、御願いがあります。私の潜在能力も引き出してはいただけませんか」

 

 

 少しでも、邪悪に対抗する力となるために―――――

 

 



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第五話 襲撃!ギニュー特戦隊!

「ふふふ……これでフリーザ様は永遠の命を手に入れられる。大層お喜びになられるだろう」

 

 フリーザ様からの命令により侵攻中だった星から一時的に引き上げてこのナメック星に到着した我々ギニュー特戦隊は、到着直後に新たな命令をフリーザ様より拝命した。

 

 

 その内容は、ドラゴンボールの回収と裏切り者のベジータの始末である。

 

 

 ドラゴンボールとは何かとも思ったが、七つ集めればどんな願いも叶う道具らしく、フリーザ様は不老不死を願われるそうだ。

 そのドラゴンボール回収任務の過程で、フリーザ様に反逆しドラゴンボールを奪っていったサイヤ人のベジータや邪魔をしてきた異星人の子供も始末しろとの事である。

 

 

 そして幸先の良い事にスカウターで捕捉したベジータを追ってみれば、そこには邪魔者だという異星人の子供とともにドラゴンボールが全て揃っていたではないか。

 

 

 つまりこれで我々がフリーザ様より仰せ付かった任務は完了というわけである。

 

 

 なのでベジータ達の相手は部下に任せて俺はフリーザ様の元へドラゴンボールを届けている最中というわけだ。

 俺自身が始末してもよかったのだが、部下たちが前の任務でもいいトコ取りだったじゃないですかと不満を募らせたために戦果を譲ったわけだ。

 

 確かにこの所俺は美味しいとこを取っていたかもしれん。適度に部下に花を持たせるのもリーダーとしての役目である以上気を付けなければ……この任務が終わった後にでもパフェでも奢ってやるか。

 

 

 

 

――――そんなことを考えていた時だった。身体に衝撃を受けたのは――――

 

 

 

 

「――――な、にぃ……っ!?」

 

 気付いた時には戦闘服を破壊してエネルギー弾が肉体に着弾していた。襲撃を受けたのだと気付いた時にはすでにその衝撃によって制御を失ったドラゴンボールごと俺は重力と慣性に従って地面へと墜落していた。

 

「ガハッ…………ば、馬鹿な……この俺が、攻撃を受けるまで襲撃に気付かなかっただと……!?」

 

 痛みを堪えながら体を起こし、襲撃者の姿を探す。周囲に遮蔽物がないこの場所において、その存在を発見するのは容易であった。

 

「――――ちょうどここに七つすべて揃っているではないか。褒めてやるぞ塵屑」

 

 そう言いながら大地へと降り立ったのは、色の抜けたような薄い黄緑の髪をした目付きの悪いガキであった。

 

 目の前にいながら、スカウターを使用してもその数値は『反応なし』という有り得ないもの。これではこの俺に一撃を加えるどころか空を飛ぶことすら覚束ない……いや、そもそもそこにいるにも関わらず反応がしない時点で明らかに異常だ。

 

「こちらとしても時間が惜しい。さっさとそのドラゴンボールを置いて消えろ」

 

 そう手から黒いエネルギー弾を浮かべながらこちらを脅してくる。その間もスカウターは起動したままだが、その数値に変化はない。おそらくは予想通り、コイツは外部への戦闘力を欺く能力を持っているのだろう。

 

 今までに出会った中に戦闘力を抑える能力を持つ者はいたが、戦闘力を欺く能力を持つ者は初めてだ。

 

 不意打ちによるダメージから考えてもその戦闘力は相当なものである。少なくとも格下などではない。その上不意討ちによるこの負傷も重なれば……成程、確かにこのままでは勝ち目は薄い。ここまでの強敵は、いつぶりだろうか。

 

 さらに言えば、その体躯からしておそらくはまだ成長段階であるのだろう。グルドのように成人になっても体躯が小さい場合もあるが、その予測される戦闘力とそれを隠す能力は脅威としか言いようがない。

 

「く……くくく……」

 

 想定外の強敵の登場に思わず笑みが浮かんでしまった。当然、いきなり笑い出した俺を見てガキは訝しむ。

 

「何が可笑しい……気でも狂ったか、塵屑?」

 

 確かに気が狂ったように見えるのかもしれん。何せヤツからみて俺が笑う要素など何もない状況だというのにいきなり前触れもなく笑い出したのだ。もし立場が逆なら俺も相手の気が触れたのかと疑うだろう。

 

 だが俺は気が狂ったわけではないし、負けを認めたわけでもない。

 

「何……、貴様は確かに強いのだろう。もしかすれば、この俺をも容易に倒せる程の実力を持った戦士なのかもしれん……」

 

 

 

 そう、このままでは、だ。

 

 

 

 顔に装着したスカウターを取り外してその辺りに放り投げながら、俺はこのガキにその答えを見せてやることにした。

 

「――――ならば、その身体、いただくぞ」

「何―――――」

 

 

 

 

「――――チェーーーーーンジ!!」

 

 

 

 

 相手が疑問を抱いた事による間隙を縫って俺の必殺技、『ボディチェンジ』が発動した。

 

 体から放たれた光線はヤツに直撃し、そして互いの精神を入れ替わる。

 

 

 そう、ボディチェンジとは自分と相手の身体を入れ替える技。より強い戦士の肉体に変わり続ける事によって俺はさらに強くなるのだ!

 

 

 

 

 そして――――――

 

 

(★)

 

 

 

 

――――――渇萎枯溺潰病殺砕沈堕干苦磔腐壊破痛傷裂切刺穿消吐燃餓呪咒恨患溢凍斬惨焼糞縊禍穢瘴痺絞毒墜爆憤燃拷狂窒爛鬱弱溶滅滅滅滅亡亡亡亡死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■              ――――――

 

 

 

 

(★)

 

 

「――――はぁっ!!はぁっ!!はぁっ!!」

 

 

 息が荒くなる。体ではなく心が空気を求める。そしてその空気の味に心が歓喜する。

 

 

 精神に引かれて心臓が早鐘を打つ。その規則正しさに精神が落ち着き始める。

 

 

 精神的な昂ぶりが治まり始めるとともに先程受けた負傷の痛みが蘇る。その痛みに心底安堵する。

 

 

 何故、あの地獄から逃れられたのかわからなかった。おそらくはあの地獄から逃れようと無意識に再度ボディチェンジを発動させたのだと予想はできるが、今はただ奇跡的にその地獄から脱する事ができた事を喜びたかった。

 

 

 上手く言い表す言葉が出てこないためにアレを地獄と評したが、アレに比べれば地獄すらも生温いのかもしれない。 

 

 あの世界に身を置き続ける事など常人には出来るはずがない。もしもあの世界を日常のように過ごせる者がいるとすればそれはきっと、紛う事なき化け物だ。

 

 

 

 そして目の前に視線を向ければ、そんな化け物の化けの皮の剥がれた姿がそこにあった。

 

 

 

 頭蓋が内側から押し上げられたのか、二倍以上に歪に膨張をしていく頭部。

 

 

 青白くも瑞々しかったその肌が黒くくすみ、ミイラのように目に見えて萎れていた。

 

 

 口から吐き出される血は、液体とは思えないほどに粘ついており、そして明らかな腐臭をまき散らしていた。

 

 

 自重にすら耐えきれずに足の骨が圧し折れて肉を突き破り、その状態で無理に立っているせいでさらに骨が折れ、ついにはその身体を支える事が出来ずに地面に倒れさらに骨が折れた。

 

 

 目に見える範囲だけでもそれだけの異常を身体中に抱えながらも、こちらを睨み付けてくるヤツはまさしく化物と称するに相応しい姿であった。

 

 

「ぎ、ざまぁ……! 何を、したぁ……!?」

 

 血反吐だけでなく怨嗟に塗れたその言葉に答える事無く、俺はただ怖れ慄いていた。

 

「何だ貴様は……その身体は!? 何故生きていられる!? 何なのだ貴様は!? 何故あの死んだ方がマシだと思える責め苦に耐えられる!?」

 

 時間にしてみればほんの一瞬の出来事なのだろうが、実際にあの地獄に身を投じた俺には信じられなかったのだ。

 

 

 

 あれほどの地獄の只中にいながら、何故こちらに意識を向けられるのだ……!?

 

 

 

 思い出したくもないが、ボディチェンジが発動して身体が入れ替わった瞬間、俺のその視界は極彩色へと弾けた。

 

 

 身体中から激痛が走り、激痛が別の激痛を呼び、複数の激痛が合わさって新たな激痛を生み、それらを処理する脳すらもその無尽とも言える激痛の波に狂い果て、遂には思考する事すら困難になる。

 少しでも楽になろうと本能的に息を吸おうとすれば腐った肺が空気すらも腐らせたかのように更なる苦痛が襲ってくる。

 

 

 その痛みはまるで、身体を灼熱で焼かれるかのような――――身体中を刃物で串刺しにされるかのような――――内側から膨張して張り裂けそうになるかのような――――酸に溶かされていくかのような――――身体をミキサーにかけられるかのような――――全身を氷漬けにされたかのような――――外部から圧し潰されるかのような――――身体の端から削り落とされていくかのような――――全身を捩じりきられるかのような――――毒が全身を侵していくような――――力尽くで引き千切られるような――――そんな全てを例える事など出来ないほどに尽きる事のない数多の痛みが途切れることなく、誤魔化す事も出来ずに襲い掛かってくる。

 

 

 それこそ余計な思考など出来ないほどに。他の事になど構う余裕など生まれる余地のないほどに。

 

 

 いや、そもそも最早死んでいてもおかしくはない……むしろ、死んでいなければおかしい程の地獄で何故意識を保っていられる……!?

 

「何故……? 決まっているだろうが……生きたいからに、決まっている……! 優秀な私が短命で……、無能な貴様ら塵共は何食わぬ顔でのうのうと長生きをする……そんな世界は間違っているだろうがぁ……! それを、正しい形に戻すのだ……! ただ……それだけの事だろうがぁっ……!」

 

 掠れる声で、しかし魂にまで届くような悍ましさを内包したその言葉を血反吐とともに吐き捨てながら、症状を精神のみで抑えつつ既に立ち上がろうとしているヤツの姿を目の当たりにして、体が恐怖に震える。

 

 この俺が恐怖に慄く事などそう多くはないが、今回はその中でも例外である。例えばフリーザ様に初めて謁見した時にもあまりの強大さに身体が震えたが、しかし今回の場合とは種類が違う。

 

 フリーザ様には恐怖だけでなく大いなる敬意を抱いたが、コイツには敬意など一片も抱く事などない。ただただ根源的な恐怖が強烈なまでの嫌悪感と共に心の奥底からあふれ出してくる。

 

 

 

――――コイツは、生きていてはいけない。

 

 

 

 敵味方関係なく、コイツだけは何としてもここで殺さなければならない。そんな使命感すら抱いていた。

 

「貴様は……貴様だけは生かしておくわけにはいかん! 今ここで消えろ!」

 

 渾身のファイティングポーズを決める事で恐怖感や嫌悪感を振り切り闘争心を奮い立たせた俺は、未だに立ち直り切れていない目の前のヤツへと一撃を食らわせる。

 

「がはっ……! この……!」

 

 その戦闘力は驚異である。その精神力は異常である。だが、しかしその身体が本来戦闘に耐えられるものではない事は実際に体感している。

 

 故にこそ相手は近接戦闘経験が圧倒的に足りていない。しかもその身体は酷く脆く、今現在まだ立ち直り切れていないヤツに俺の攻撃を防ぐ術はない。

 

 しかしこの相手に戦闘経験を少しでも与えればそこから爆発的に強くなる。ヤツの意志の強さとその推定できる戦闘力を鑑みればフリーザ様に仇なす可能性が十分にあり得る。

 

 故にこのギニュー、容赦はせん!

 

 近接戦闘でその脆すぎる体を破壊する。肉を叩いているはずなのに、その感触はまるで果実を潰したようなもので、しかも叩くたびに腐臭をまき散らすその異常さに、嫌悪感がさらに高まっていく。

 

「げふ……! このぉ……、塵屑がぁ!!」

「トドメだ! ミルキーキャノン!!」

 

 その嫌悪感から、つい最後の一撃をエネルギー弾による爆破を選択してしまった。だがすでにボロボロにされたその身体ではさすがのヤツも避ける事も出来ずにまともに食らい、爆風に吹き飛ばされた勢いで海に落ちてそのまま海底へと沈んでいった。

 

「ハァ……ハァ……恐ろしい化け物だった。もし生かしていれば今後フリーザ様に仇なす存在になっていただろう。……死体を確認したい所だが、これ以上フリーザ様を待たせるわけにもいかん。急がねば」

 

 ヤツを始末できた事に心底安堵した俺は、先程放り捨てたスカウターを装着し直し、再びドラゴンボールを浮かばせてからフリーザ様の元へと急ぐ。

 

 死体の確認については、ドラゴンボールによってフリーザ様が不老不死を手に入れられてから進言してすればいい。それからでも遅くはない。

 

 

 

 

――――そう、俺は思っていた。

 

 




次回予告

 やめて! 渾身の気功波で孫君の身体を焼き払われたら、ボディチェンジで身体が入れ替わっているギニューの精神まで燃え尽きちゃう!
 お願い、死なないでギニュー! あんたが今ここで倒れたら特戦隊員との約束はどうなっちゃうの? 戦闘力はまだ残ってる。ここを耐えれば、チアに勝てるんだから!
 次回、『ギニュー死す』。デュエル、スタンバイ!

(※次回予告は実際の内容と必ずしも一致するわけではありませんのでご了承ください。)


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第六話 ギニュー死す

「――――ごはっ!! げほっ、ごぼぇっ!」

 

 あの塵屑の気がが遠ざかっていくのを確認してから、叩き込まれた海中から腐った血反吐と体液と嗚咽を吐き出しながら海上へと浮上する。

 

 最長老に潜在能力を引き出させてからドラゴンボールを手に入れるべく悟飯・クリリン・ベジータの三馬鹿の気を頼りに追いかけて行けば、見覚えのない塵屑が全てのドラゴンボールを持って移動しているのを発見。

 これ幸いと嬉々としてその塵屑に襲撃を仕掛けてドラゴンボールを奪おうとした所であの塵屑が何か不可解な事をした瞬間、視界が変わったかと思えば一瞬で元に戻り、戻ったと思えば無理矢理抑え込んでいた病魔が噴出して身体が戦闘どころではない状態で、何度も殴られエネルギー弾で爆破された。

 

 自分でも何を言っているのかわからない。状況が把握しきれていない。最後のエネルギー弾を、バリアーを張って防いでいなければ危なかった。

 

 そもそも病魔が表面上に噴出してなければあんな塵屑から殴打を連続で喰らう事もなかったのに、その病魔が表面にでてきた理由がわからない。

 

 今この時も蠢いているのに違いはないが、私自身が動く事のできる身体の状態へと意識的に(、、、、)肉体を操作(、、)維持(、、)しているのだ。その均衡が崩れる事など外的要因としか考えられないが……。

 

 考えられる要素としては、あの時一瞬視界が変わった事と、あの塵屑の様子、そして「身体をいただく」という言葉……そこから導き出せる答えは、おそらく私とあの塵屑の身体を入れ換えられたのだろうという事だ。

 

 そして病魔に耐えきれなかったあの塵屑はすぐさま元に戻り、結果として私の身体があの様になったという事か。一瞬程度も維持できないとは、所詮塵屑は塵屑というわけか。

 

 一応の答えが出たところで、ひとまず急いで取り出した仙豆をのどへと押し込み無理矢理嚥下する事でようやく人心地を得る。

 

「ごほっ! えふっ! はぁ……はぁ…………あの塵屑は殺す……! だがそれよりも今はドラゴンボールだ……!!」

 

 あの口ぶりからするとあの塵屑はフリーザの呼び出した部下のようなのでドラゴンボールは今フリーザの手元にあるのは間違いないだろう。

 

 最長老の所でも念のために確認したが、やはり事前にブルマたちから聞いていた通りドラゴンボールを手に入れても合言葉がわからなければ使用はできないのは間違いない。

 

 故にナメック星人を虐殺してきたことにより願いの叶え方を知る術を持つ事のなかったフリーザやベジータにドラゴンボールが渡った所で願いを叶える事は出来ない。

 

 合言葉を知らなければ願いを叶えられないという点は私も同条件だが、元々その事を危惧していた私は宇宙船での移動中にブルマたちからその合言葉を聞き出していた。さらには最長老の所でドラゴンボールの合言葉は共通であるという確認も取った。

 

 

 つまり奴らからドラゴンボールを奪えさえすれば私は願いを叶える事ができるのだ。

 

 

 不幸中の幸いであるが、ドラゴンボールの場所はあの塵屑の移動先を探知すればすぐにわかった。

 

 向かっている最中にフリーザらしき気と塵屑の気がそれぞれどこかに移動したが、元の地点に目立つ大型の宇宙船があったので間違いないだろう。

 

 フリーザとかいう塵がその場にいないのは運がいい。ようやく世界が間違いに気付き私の味方をし始めたかなどと思えてくる。

 

 さらにあの塵屑もこの場から離れていったのはさらにいい事だ。最初はドラゴンボールも持って移動したのかとも疑ったが、フリーザが先に移動した方向とはまた別の方向である以上、無断で持ち出すこともないだろう。

 

 そういえばそろそろ孫悟空とかいう塵がナメック星に到着する時期ではあるが、まさか先程の空から来た強い気が孫悟空とやらか? 先程孫悟飯とクリリン(使えない道具共)、さらにはベジータのいた辺りから強い気が幾つか消えて、そこにあの塵屑の気が向かっていったが……まあどうでもいい。

 

 

 重要なのはドラゴンボールが存在するこの場所に、この私以外誰もいないという事だ。

 

 

 だが予想に反してドラゴンボールが見つからなかった。宇宙船の中も探したがどこにもない。おそらくは横取りされるのを怖れてどこかに隠したのだろう。

 

 あの塵屑が、どこまでも私の邪魔を……!

 

 だが収穫もあった。ドラゴンボールを探して大型の宇宙船の中も調べたが、奴らの戦闘服とメディカルポッドという装置を発見した。

 

 先程の塵屑との戦闘で服がボロボロになっていたのでサイズの合う戦闘服を装着する。この丈夫なのに異様に柔らかい戦闘服の素材は興味深いが…………全身タイツが正式仕様とか頭おかしいんじゃないか。

 

 それよりもメディカルポッドという医療装置だ。使い方も調べてみるとそう難しくはない。新型と書かれた方は大穴が開いて派手に壊れていたので使えないが、旧型と書かれた方は問題なさそうなので後で回収しておこう。

 

 ドラゴンボールの捜索、そして宇宙船内の探索をしていると、ベジータがこちらに向かっているのを感知した。おそらくはヤツもここに向かっているのだろう。

 

「ちっ、時間をかけ過ぎたか……」

 

 気配で見つかる事はないだろうが、鉢合わせしないようにしなければ……今ならベジータにも勝てるが、無駄に塵相手に労力を割く事もない。

 

 どうやらベジータもドラゴンボールを奪いに来たようだが、ヤツにも見つけられないようで、早々に宇宙船の中に入ってきた。何をしているのかはわからないが、どうせ奴が見つけたところで願いは叶えられない以上、何の問題もない。むしろ見つけ出してくれたなら探す手間が省けるのだが……そんなうまい話はないようだ。

 

 そしてこの場にさらなる来訪者が現れた。

 

 

 孫悟飯とクリリンだ。

 

 

 おそらくドラゴンレーダーを手にした奴らは、この場所に到着するとともに宇宙船に入る事無くその脇に移動をし始め、いきなり何もない場所の地面を掘りだした。そしてそこから全てのドラゴンボールを掘り当てたのだ。

 

「あんなところに隠していたのかあの塵屑……」

 

 予め場所を知っていなければ気付けるはずもない。やはりドラゴンレーダーがあるのとないのとでは探索効率が段違いである。

 

 

 

 

 だがこれはチャンスだ。

 

 

 

 

 ドラゴンボールは全て揃っていて、フリーザという絶対的な邪魔者はおらず、願いを叶える合言葉を知っている者が、何の警戒心もなく神龍とやらを呼び出そうとしている。

 

 

 ならば神龍とやらを呼び出した瞬間に奴ら塵共を始末して私の願いを叶える。

 

 

 ……いや、おそらくはベジータも同じような事を考えているはずだ。それならばベジータがあの悟飯とクリリンを始末した後に勝利に浸っているヤツを不意討ちで殺してから、私の願いを叶えればいい。

 

 そして願いを叶えた後はその辺りに転がっている小型の宇宙船でこの星を後にすれば完璧だ。私の存在が露見していない以上、フリーザとかいう塵とわざわざ関わる必要はない。

 

 そのためにもまずは奴らが神龍を呼び出さない事には始まらない。奴らとしても一刻も早く願いを叶えたいのは同じはずだ。

 

 クリリンがすぐさま高々と合言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえ!」

 

 

 

 

 

 ………………………………………………だが、何も起きない。

 

 

 何も起きないじゃないかと睨むように悟飯とクリリン(使えない塵共)の様子を窺うと、呪文が違うのか、あるいはナメック語じゃないとダメなのかと焦りながら話している。

 

 ……最長老の側にいたあの付き人は地球と同じ合言葉だと言っていた以上、合言葉が同じなのは疑う必要はないだろう。

 

 おそらくは原因としては後者……ナメック星人の言語でなければこの星のドラゴンボールは起動しない。だが……ナメック語でなければ起動しないなどとは聞いていない…………その事を知っていてあえて黙っていたのか、あの塵が……!

 

 そんな中でも事態はさらに混迷としていく。悟飯とクリリンがもたもたしている間に、新たな来客が近付いてきていたのだ。この気の感じからすると……フリーザの部下らしきあの塵屑共か。

 

 それに気付いた悟飯とクリリンが咄嗟に宇宙船の陰に隠れて間もなく、見覚えのない男が二人現れた。

 

 格好からして道着を着た孫悟飯に似た男が孫悟空なのだろうと予測は出来るが……それならばその隣にいる塵は誰だ? 援軍が二人とは聞いていないし、そもそもとしてあの戦闘服を着ている以上フリーザ陣営だろうにソイツと並び立っている意味がわからん。孫悟空はまた別にいるのか?

 

 そんな奇妙な状況に、クリリン(無能な塵)は何の警戒心も抱いた様子もなくその場へと出ていった。その様子を見る限り、やはりあれは孫悟空のようだが……と、思っていると、悟飯からの警告が飛ぶとともに不用意に近づいていったクリリンが殴り飛ばされた。

 

 戸惑う悟飯とクリリンに対して、道着を着た塵とそれに付き従う塵が何か奇怪な、そして見覚えのあるポーズをとって何か口上を述べた。……あのポーズ、あの塵屑のしていたものに似ているような……?

 

 そしてさらにこの場に新たな塵が登場する。負傷が増えているが、私をボロ雑巾のようにしたあの塵屑だ。

 

 姿を現した時すぐさま殺してやろうかとも思ったが、どこか様子が少しおかしい。

 

 様子を窺ってその塵屑の言葉を聞くと、何らかの技――――おそらくは私にも使ったであろうあの技によって塵屑と身体を入れ替えられたらしい。その言葉を信じれば今のあの塵の身体は元々あの塵屑のもので、あの塵屑は今あの塵になっているという事か…………ええい、ややこしい。

 

 

 そしてあの塵屑姿の塵が助言らしきものにより悟飯とクリリンが塵姿のあの塵屑と戦い、それに付き添っていた謎の塵はいつの間にか姿を現していたベジータが相手をする事になっていた。

 

 

 私としてはあの塵屑は何としても殺しておきたいが、しかしハズレを引いてその間に逃げられるなどという事は避けたい。

 

 であればどちらも殺すのが確実なのだが、逃げられる可能性を減らすためにも疑わしい方を先に殺しておきたい。そのためにはせめて当たりを付けておきたいが……と、ふと単純かつ明快な方法を思い付いた。

 

 この方法であればすぐにわかる。デメリットとしては私の存在が明るみに出るという事だが……この場においての隠密は最早無意味とも言えよう。

 

 

 故にすぐさまその方法を実行した。その方法とは至極単純な物だ。それは――――

 

 

 

 

 

 

「――――五月蠅いぞ、塵共」

 

 

 

 

 

 

――――この混迷とした戦場に私が姿を現す事である。

 

 

「え!? ち、チア!?」

「どうしてここに!? というかその格好……!?」

 

 予想通りに騒ぎ出す悟飯とクリリンを放置しつつその場にいる全員の姿を見渡す。

 

 ベジータに関しては一瞬こちらに反応したものの、一先ずは戦っている塵に集中する事にしたようで特に語るべきことはない。それはベジータの相手をしている塵に関しても同様である。

 

 

 では肝心の二人はというと、こちらはその反応に明確な違いが浮き彫りになった。

 

 

 あの塵屑の姿をしている塵はというと、私を見て多少の警戒している。しかしその視線は未知なるものへの警戒に近い。私の事は初見であると判断していいだろう。

 

 一方、道着を着ている塵は此方を見て一瞬大きく動揺し、敵意を漲らせながら警戒している。その行動は、まるで信じられないものを見たとでも言うかのように、明確に私の事を把握しているものであった。

 

 

 

 つまり――――――

 

 

 

「――――塵屑は貴様だな。塵屑」

 

 

(★)

 

 

 その姿を見た時、驚きを隠せなかった。

 

 見慣れた戦闘服を纏っているものの、間違いなくアレはあの時殺したはずの化け物であった。

 

 可能性として考えていたはずだ。ヤツのあの凄まじい意思があればあれだけの負傷からでも生き延びる事もあり得ると。

 

 いくらドラゴンボールをフリーザ様にいち早くお届けするという任務があったとはいえ、何故俺はあの時にちゃんと死体の確認をしなかったのか、強く悔やまれる……!

 

 この身体は戦闘力18万を超える凄まじいパワーを持つはずだが、何故か3万にも届かない戦闘力しか引き出せていない今、奴と戦うには心許なさすぎる。

 

 いや、そもそもヤツが生きているという事実、それ自体が俺の心に恐怖を与える。嫌悪感が湧き上がる。

 

 

 

 

「――――塵屑は貴様だな。塵屑」

 

 

 

 

 その言葉と共に吊り上がった口元に、さらなる恐怖と嫌悪感が噴出する。

 

 それ以上に人の皮を被った死に損ないの化け物に、恐怖を感じた己自身に怒りが湧く。

 

 他のガキどもなど最早どうでもいい。ヤツだけは、ヤツだけは必ず殺さなければならない……!!

 

「この……、化け物がぁーーーー!!」

 

 そう思い、ガキどもを無視してヤツへと突進をかける。この心許ない戦闘力でも近接戦闘に持ち込めればヤツの脆い防御力を砕くのに十分だ。

 

 

 

 

 だが、その想定は甘かった。

 

 

 

 

 接近している最中に突如として身体に激痛が走ったのだ。

 

「がはっ…………!?」

 

 激痛の正体はヤツの撃ち出したエネルギー弾だった。左手の五指から放たれた黒色エネルギー弾がそれぞれ独特の軌跡を描きながら俺の四肢をはじめとする全身へとへと次々と的確に炸裂していく。

 

 今の俺にそのエネルギー弾の雨を避ける余裕など身体的にも精神的にもなく、最後の一発が胸部へと命中した時には既にこの身体は空を飛ぶだけの力すらも削り取られ、死に体とも言えるほどにダメージを負っていた。

 

 さらに化け物の右手にはトドメのつもりなのか、目に見えて収束していくエネルギー弾が大気を震わす程に強大な物になっていた。

 

「さっさと死ね、この塵屑が……!!」

 

 だ、ダメだ……!! この程度の戦闘力では近接戦闘に持っていく事すらできない……!! せめて、前の身体程の戦闘力があれば……!!

 

「――――ま、待ってチア! あの身体はお父さんの身体で……!!」

「……っ! 死にたくなければ邪魔をするな……!」

 

 と、ここで先程まで戦っていたガキどもがヤツを阻んだ。それでヤツが躊躇するとは思えないし、あのガキどもごとエネルギー弾を撃ち出す事もあり得るが、それでも僅かな隙ができた!

 

 これは最後のチャンスだと、僅かに動いただけで全身に走る痛みを無視してこの身体の最後の力を振り絞り、狙いを定める。

 

「ぐっ……ぐがががぁ……!」

 

 この程度の隙ではヤツに一矢報いる事はこの身体ではできないだろう。かといってベジータの身体を奪うにしてもジースとの戦闘で狙いを定める事も困難だ。

 

 

 であれば妥協ではあるが、再びかつての身体とボディチェンジを発動させる!

 

 

 負傷によって万全とは言えないが、それでもこのボロボロの身体よりはマシだ!

 

 

 

 

「――――チェェェェェンジィ!!」

 

 

 

 

 力なく宙から落ちながらもその言葉を口にした瞬間、今の身体から放たれた光がかつての身体へと命中し、再びその精神が入れ替わる。

 

「ごほっ……!? も……もど、れた、みてぇだ……」

「え、あっ!? お、お父さん!」

「え!? じゃあまた入れ替わったのか!?」

 

 元に戻った事でガキどもが困惑するがそんなことを気にする暇はない! 元の身体の負傷による痛みが精神に訴えかけてくるが関係ない! 今やるべきことはただ一つだ!

 

 

「――――消えてしまえぇぇぇぇっ!」

 

 

 体が入れ替わったと同時にあの化け物へと向きかえり全力のエネルギー波で消し飛ばさんと手を突き出し――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――それを見越さぬ私ではない」

 

 

 

 

 

 

 

――――視界は既に、小さな掌で収束し切った黒いエネルギーで埋め尽くされていた。

 

 

 

「―――――――」

 

「塵芥すら残さず消えろ、塵屑」

 

 

 エネルギー波を撃ち出す暇すらなく、ヤツの撃ち出したエネルギー波はこの身体を呑み込んだ。

 

 

 

 黒いエネルギー波が呪詛のように身体を侵し尽くしていくのを感じながら、俺の意識も炎に呑まれていくかのように消えて――――

 

 

 

 



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第七話 ついに顕現!『夢の神』ポルンガ!

 ギニューの身体が消滅するのを傍目に見ながら、俺達はボロボロになって地面に倒れる悟空の容態を確認するためにすぐさま駆け寄った。

 

「お父さん!!」

「大丈夫か悟空!?」

「へ、へへ……ちょ、ちょっぴりまずいかもな……正直動けねぇ……せ、仙豆ももうねぇし……」

 

 すぐに死ぬことはなさそうだけど、動けないほどに重症であることは間違いない。悟空が地球から持ってきた仙豆もさっきのギニュー特戦隊との戦闘でボロボロになってた俺と悟飯とベジータが食べたので最後らしいし、このままだとまずいぞ……。

 

「チア! いくらなんでもやり過ぎだろ!!」

「知るか。私にとっては見知らぬ塵だ。そもそも敵に手心を加える意味はないだろう」

 

 そしてその当の本人はというと特に悪びれる事もなく何でもないようにそう口にした。

 

 確かにさっきまで敵のギニューとかいう奴と身体が入れ替わっていたから攻撃をするのは理解できるが、それにしても普通ここまでやるか? しかも俺達が止めに入らなかったら間違いなく悟空の身体ごとトドメをさしてただろうし…………さすがに止めに入った俺達ごとやろうと思ってないよな……?

 

「チア……そっか、おめぇが宇宙船に忍び込んだっちゅーヤツか……」

「そういう貴様が孫悟空とやらか……聞いていたほどではないな」

「そういうおめぇは……き、気を感じねぇけど……強ぇな。お、オラ、なんとなく、わかっぞ……」

 

 そういえばこの二人は初対面だったな。……というかそんなに身体をボロボロにされても怒らずに、相手の強さに心なしかワクワクしてる辺り悟空らしいというか何というか……。

 

「というかチアは何でその戦闘服着てるの?」

「どこぞの塵屑に服をボロボロにされたからな。そこの宇宙船で調達しただけだ」

「そ、そっか……ギニューのヤツが最初からボロボロだったのはおめぇと戦ってたからなんだな……」

 

 ギニューにケガ負わせたって……あのベジータだってその部下のリクーム相手に手も足も出なかったってのに、さすがにそれはないだろ……いや、でもチアのヤツ、慣れていない悟空の身体の状態とはいえあのギニューを圧倒した上で、身体が戻った後も一瞬で消し飛ばしてたからなくはないのか……? だとしたらどれだけの実力を隠してるんだ……?

 

 

 ……いやいや、今気にしないといけない事はチアの事じゃない。今一番気にしないといけないのは……

 

 

「――――無様な姿だな、カカロット。今の貴様なら簡単に殺せそうだぜ」

 

「ベジータ……」

 

 いつの間にかもう一人いた特戦隊員を倒していたベジータが悠々とこちらへと近付いてきていた。

 

 

 そうだ、今一番気にしないといけないのはベジータだ。

 

 

 悟空がボロボロの今、俺達の中でベジータに真っ向から対抗できる可能性があるのが、実力が未知数のチアくらいしかいない。しかも今の口ぶりからしたらすぐにでも悟空を殺してもおかしくない。

 

 願いの叶え方はわからないものの、ドラゴンボールも全て揃っている現状でベジータが俺達を生かしておく保障は全くないんだ。

 

「ま、まさかお前、ここで用済みとか言って俺達を始末するつもりじゃ……!?」

「ふん、安心しろ。今殺す気はない。不本意だがその傷を治療してやるからカカロットを連れて付いてこい」

「へ……?」

 

 その予想外の言葉に変な声が出た。あのベジータが悟空を治療するって聞こえたけど、聞き間違いか? そう思った俺の呆けたような顔を見たからなのか、ベジータが面倒臭そうに説明を付け加える。

 

「フリーザとの戦いが控えている今、戦力は多いに越したことはない。貴様らは微力だが、カカロットの戦闘力やカカロットのガキの底力も必要になってくるだろう。……そこのクソガキもそれまでは見逃してやる」

 

 最後にチアを一瞥しながらフリーザの乗ってきた大型宇宙船の中へと向かうベジータに、戸惑いながらも後を追うべく悟飯と一緒に悟空を運ぼうとした時、ふと疑問が過ぎった。

 

「あれ……? 何でベジータがチアの事を知ってるんだ……?」

「え……あ、そういえば……」

「お、おめぇたちと一緒に会ったんじゃねぇのか……?」

「た、多分会ってないと思うけど……チア?」

「答えるつもりはない」

 

 悟飯の問いかけを一蹴して会話を終了させたチアに、そんな言い方ないだろうと口を出そうとするが……

 

「おい、時間がないんだ、早くしろガキども!!」

 

 先を行くベジータに急かされて、俺達はチアへの追及を後回しにして悟空を連れて宇宙船の中へと足を踏み入れた。

 

 

(★)

 

 

 私は今、この星を蝕んだ巨悪と対峙していた。

 

 願い玉の使用方法を知るために最長老様の居住まで来たフリーザに対し、最長老様の死によって願い玉が消滅する事を伝え、そして戦闘時の最長老様への巻き添えを考慮して戦場を変える事を承諾させ、少しでも時間を稼ぐ事に成功した。

 

 あとは少しでも戦いを長引かせてフリーザをこの場に足止めする。それこそが私の役割だ。

 

「驚いた……戦闘力からしてギニュー隊長に匹敵していたことにもですが、実際に私相手にここまで渡り合えるとは……」

「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」

 

 遊び感覚で傷もついていないフリーザに対し、こちらは生傷が絶えず息も絶え絶えという状況ではあったが、しかし何とか戦いという形にはなっていた。

 

 最長老様に潜在能力を引き出していただいてなければここまで持ちこたえる事すらできなかった。おそらくは遊ぶように甚振られて地に臥せ、戦えない状態に陥っていた事だろう。

 

「本当にお強い……改めて私の部下になりませんか?」

「くどい!!」

「理解できませんね。この星にいたところで、最早滅びゆくだけでしょうに……」

「その滅びを齎した貴様が何を言う!!」

 

 ナメック星人の無念を抱く私の叫びに、フリーザはただ、ふふふ……と笑みを含ませるだけであった。その様子はまるで、「それがどうした?」「その程度の事に怒っているのか?」などと大した事ではないだろうと言わんばかりであった。

 

「では、ドラゴンボールの願いの叶え方を教える気もまだないと……」

「貴様のような邪悪には教えるわけにはいかない。それに…………最早、聞く意味もなくなるだろう」

「何? それはどういう――――」

 

 私の含みを持たせたその言葉に、フリーザが今までにない反応をした

 

 

 

 

――――その瞬間、空が暗くなった。

 

 

 

 

「――――!? な、何だ!? 空が、暗く……!? この星に夜はなかったはず……!? 貴様、何を知っている!?」

「さてな。だが、今頃はデンデと合流をした地球人が合言葉を聞いて願いを叶えている頃だろうさ」

「な……!? まさか……あの時擦れ違ったガキか……!!」

 

 ナメック星の気候にここまで空が暗くなるという現象は存在しない。この星で空が暗くなる要因としてはただ一つだけである。

 

 

 

 願い玉による『夢の神』ポルンガの顕現。

 

 

 

 ……どうやらデンデは無事彼らの元まで辿り着けたようだ。時間稼ぎとしての役割は最低限上手く行ったようで胸を撫で下ろす。

 

「貴様は単なる時間稼ぎに過ぎなかったと……!? く……急いで宇宙船まで戻らなければ……!!」

「行かせん! 今度はこちらに付き合ってもらうぞ!!」

 

 勝てずともヤツをこの場で足止めする程度ならば今の私であればできる!

 

 その間に、願いを叶えて早急にデンデを連れてこの星を離れてくれるのを祈るしかない。

 

 懸念があるとすればあのサイヤ人と邪悪な子供だが……私に気にする余裕がない以上、地球人たちに期待するしかない。

 

 今は命を賭してフリーザをこの場所に少しでも長く留めなければ……!

 

「……仕方ありません。本来であれば使うつもりはなかったのですが、あなたに後ろから邪魔をされるのも鬱陶しいですからね」

 

 怒りが収まったわけではない。むしろその内で轟々と燃え盛っているのだろう。先程までのお遊びとは違う、真剣さがその表情から漏れ出していた。

 

 

 

 つまり、ここからが本番である。

 

 

 

「あなたの実力を称えて、特別にその身に教えてさしあげましょう。この私の、本当の力というものを……!!」

 

 

(★)

 

 

 お父さんをメディカルポッドという医療機器の中に入れた後、ないよりはましだとベジータから着替えるように渡されたフリーザ軍の戦闘服に着替え終わった時の事だった。

 

「……おい、あのクソガキはどこにいった?」

「え? クソガキってチアの事か? どこってそこに……」

「あれ? いない?」

 

 ベジータに言われてチアがその場にいない事に気付く。お父さんをメディカルポッドに入れた時にはいたはずなのに……チアは既に戦闘服を着ていたから着替える必要がないっていうのはわかるけど、どこにいったんだろう?

 

「……まさか!?」

 

 すると何かに気付いたのかベジータが血相を変えて部屋を飛び出していった。

 

「あ、どうしたんだよベジータ!?」

「お、追いかけますか?」

 

 クリリンさんと一緒にベジータの後を追いかけると、辿り着いた場所は先程までいた宇宙船のすぐそば。お父さんがボロボロになった辺りだった。

 

 そこでベジータは焦ったように何かを探す素振りを見せている。

 

「見当たらない……! 貴様ら、ドラゴンボールをどこにやった!?」

「え? どこにってそこに……ってあれ!?」

「な、なくなってる!?」

 

 怒鳴りつけるようにこちらに問い詰めてきたベジータに答えようとするが、あったはずのドラゴンボールがなくなっているのを見て僕たちも驚きを隠せなかった。

 

 確かにここにあったはずだ。地面に隠されていたドラゴンボールを掘り出して、ここで神龍を呼び出そうとして、そのまま置いていたはずなのに、どうして……!?

 

 一体誰が……と僕たちも困惑しているけども、ベジータは誰が犯人なのかわかっているような口ぶりでこちらを責めてきたんだ。

 

「き、貴様ら、この俺を謀りやがったな!!」

「ち、違う! 俺達じゃない!」

「何が違う!! あのクソガキは貴様らの仲間だろうが!! 状況的に考えてあのクソガキ以外に持ち出せるヤツはいない!!」

「え、チア……!?」

「た、確かにそうだけど……」

 

 言われて僕はようやく気付いた。チアであればここにあったドラゴンボールを僕たちに気付かれる事なく持ち出す事が可能だって事に。

 

「ま、まさかチアは俺達のとは別の、自分自身の叶えたい願いを叶えるつもりじゃ……!?」

「何だとっ!?」

「で、でも合言葉がわからないから持って行っても願いは叶えられないはずじゃ……!?」

 

 そうだ、神龍を呼び出す合言葉がわからない以上、持ち出した所で願いを叶える事はできないはず……

 

 

「あのクソガキがぁ……今度こそぶっ殺してやるっ!!」

 

 

 そんな僕の考えを聞く事もなく、ドラゴンボールを奪っていったチアを探すべく、怒り狂ったベジータが凄まじい速さで空へと飛び出した。

 

「こ、このままじゃチアが危ないですよ! 僕たちもチアを探しましょう!」

 

 ベジータにひどい目に遭わされるかもしれないチアを身を案じてクリリンさんにそう提案したが、

 

「……いや、今はチアを探すべきじゃない」

「え……!? で、でもすごく怒ったベジータがチアを追ってるんですよ!? 放っておくわけには……」

「いくらベジータとはいえ気配を完全に消して高速移動ができるチアをそう簡単に見つけられるとは思えない。逆に言えばこれは俺達の願いを叶えるチャンスだ」

 

 チャンス? むしろベジータと敵対しかねないピンチじゃないのかと僕は思ってたんだけど、それが顔に出てたのか、「落ち着け」と僕をなだめつつクリリンさんは説明を続ける。

 

「まずはちょっと最長老さんのとこまでひとっ飛びして合言葉を聞きにいくべきだ。チアも合言葉がわからない以上、ドラゴンボールを使えない。けど俺達はレーダーでその場所がすぐにわかるんだ。そこからさらに合言葉さえわかれば、ベジータを出し抜いて俺達の願いを叶えることだってできる!」

 

 そ、そうか! ドラゴンレーダーがあればすぐにドラゴンボールの場所がわかるんだ! 混乱してたせいで頭から抜けていた……。

 

「チアに関しては……ベジータに見つからないことを祈るしかないな」

 

 

 そうして僕たちはチアの無事を祈りながら全速力で最長老様の所に戻っていたんだけど、その途中でデンデがこちらに向かって飛んできているのを偶然見つけた。

 

 最初は僕たちの格好がフリーザたちと同じ戦闘服だったせいで怖がられたけど、すぐに僕たちだってわかってくれたおかげで何とか合流できた。

 

「合言葉が違うのかドラゴンボールが使えなくて、今から最長老さんの所まで行こうかと思ってたんだ」

「僕もそのために最長老様に言われて来たんです。ナメック星の願い玉はナメック語じゃないと起動できないんですよ」

「ナメック語……そうか、やっぱりナメック星人の言葉じゃないとダメだったのか」

 

 デンデの方からこっちに向かって来てくれたことで時間がだいぶ短縮できた。まだチアがベジータに見つかっていなければいいけど……そう考えながら僕はドラゴンレーダーを起動させる。

 

「クリリンさん、ドラゴンボールはあっちの方に七つ全部固まってます!」

「よし! じゃあ急いで向かおう! チアからどうやってドラゴンボールを取り返すか問題だけど、急がなきゃな」

「え? チアさんとは仲間じゃないんですか?」

「えっと……その辺りは後で説明するね」

 

 デンデを抱えたクリリンさんと一緒にレーダーが指し示した場所へと飛び立った――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その瞬間、空が暗くなった。

 

 

 

 

「――――え!? 空が暗く……!?」

「この星に夜はないはずじゃ……?」

「この急に夜みたいに暗くなる現象…………ま、まさか!?」

 

 

 そして僕が指差していた方向に、巨大な光の柱が立ち昇るのが見えた。

 

 

(★)

 

 

 孫悟空はメディカルポッドに入れられ、ベジータは悟飯とクリリンを連れて戦闘服に着替えさせている。さらにフリーザはどこかに向かって以降未だに戻ってくる気配はない。

 

 

 

 これは、チャンスである。

 

 

 

 奴らは来たるべきフリーザとの戦いを注視しているが、私は違う。フリーザ()の事などどうでもいいのだ。

 

 私にとって何より重要なのはこの病魔を晴らすこと。そのためだけに私はこの星まで来てやったのだから。

 

 不用意にもそのまま置きっぱなしにされているドラゴンボールを手に入れた私は、その場から離れた。ドラゴンボールと私の失踪に気付かれたとしてもすぐに邪魔されないように、だ。

 

 

 そしてある程度離れた場所で、ドラゴンボールを地に下ろす。周囲に人影はなく、邪魔する者はいない。

 

 

 

 ついにドラゴンボールを手に入れた……! これで願いが叶えられる……!

 

 

 

 その願いを叶えるための最後の一欠片、肝心のナメック語なのだが……これに関してはそもそも問題ではなかった。

 

 

 

 

「――――タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロ!」

 

 

 

 

 私は聞いた事もなかったナメック語を何故か(、、、)理解していたからだ。

 

 理解できるようになったのは最長老に潜在能力を引き出させてからだが、思考すればナメック語に訳する事ができるようになっていた。

 今はまだ拙い故に翻訳に集中しなければならないが、それでもドラゴンボールで願いを叶えるだけなら問題にはならなかった。

 

 

 ブルマから教わっていた合言葉のナメック語訳を口にすると、夜の存在しないこのナメック星での空が暗くなった。そして輝きを放つ七つのドラゴンボールから光の柱が立ち昇る。

 

 

 

 その光の柱の正体は、龍のような下半身に人のような上半身を持つ巨体の魔神――――『夢の神』ポルンガだ。

 

 

 

 地球のドラゴンボールで出てくる神龍はその名の通り龍の姿をしていると聞いたが、ナメック星のドラゴンボールでは違うようだ。

 ……何故私がポルンガの名前を知っているのかはわからないが、知っていて問題になるわけでもない。一先ずおいておこう。

 

 そして現れた光の魔人ポルンガがその口を開いた。

 

 

 

 

『さあ、願いを言え。どんな願いでも三つまでなら可能な限り叶えてやろう』

 

 

 

 

 聞いていた話では叶えられる願いは一つだけだったが、問題ない。三つだろうが一つだろうが、私の願いは叶うのだから。

 

 ああ、ようやくだ。これでこの忌まわしい病魔ともおさらばできる。

 

 

 

 

 

「では……私のこの身に宿る忌々しい病魔を一つ残らず消し去れ!!」

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

 

……………………………?

 

 

 

 願いを口にしたが、待てども待てどもポルンガは一向に反応しない。

 

「……おい、早く私の願いを叶えろ。今言っただろうが」

『願いはナメック語で言うがいい』

 

 ……願い事もナメック語でないとダメなのか? くっ、普通にナメック語以外も話せるくせに、融通の利かない道具め。

 

「では――――」

 

 改めて願いを口にしようと、頭の中でナメック語に変換している最中、それに気付いた私はその場から咄嗟に飛び上がるとほぼ同時に、私が今まで立っていた場所に何かが飛来しその衝撃で土煙が爆発的に舞い上がった。もう少しでも回避が遅れていれば、上がっていたのは土煙ではなく私の血肉になっていただろう。

 

 

 

 

「――――願いを叶えるのは、このベジータ様だっ!!」

 

 

 

 

 その叫びとともに土煙を内側から裂くかのように、強力なエネルギー波が飛び上がった私に向かって放たれた。

 

 そのエネルギー波をバリアーで防ぎ切り、気弾をお返しとばかりに撃ち出す。

 

 ドラゴンボールへの被害を考慮したせいか、気弾を躱したベジータはこちらへと追撃に向かってくる。

 

 

 

「――――邪魔をするな、塵が」

 

 

 

 

 願いを叶えようにもベジータが邪魔だ。まずはこの塵を排除する……!

 

 




チアがナメック語を理解できるようになった理由に関しては、少し……そこそこ先にはなりますが今後の物語で描写していきますのでお待ちいただければと思います…………独自解釈ではありますが。


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第八話 ポルンガに願いを

 ギニュー特戦隊を始末して、対フリーザ戦に向けての準備をしている間にあのクソガキがドラゴンボールと一緒にいなくなったことで怒りが頂点に達した俺は、血眼になってあのクソガキを探していると、突如として空が暗くなり、視界の端に光の柱が立ち昇った。

 

 あの場所にドラゴンボールが存在して、今まさに願いを叶えようとしているのだと直感で理解した俺は、その光の柱目掛けてすぐさま飛んでいき、願いを叶えようとしているクソガキの姿を確認すると間髪入れずに攻撃を開始した。

 

 

 ドラゴンボールで願いを叶えるのはこのベジータ様だ!!

 

 

 だが願いを叶えるのにこのクソガキは邪魔だ。横槍を入れ返されても面倒だから願いを叶える前に先に排除するべく動く事にした。隙を狙ってこのガキが願いを叶えようとする可能性もあったからドラゴンボールがある場所から引き離すのには成功したが……そこからが誤算だった。

 

「どういう事だ……!? このガキ、前回と実力が桁違いだぞ……!?」

 

 ギニュー特戦隊との戦い、そしてサイヤ人の特性とも言える死の淵からの復活による戦闘力の増加によって、俺の戦闘力は以前と比べ物にならないほどに強化されている。

 

 にもかかわらず、前回俺から逃げる事しかできなかったクソガキに、何故こうまでこの俺様が翻弄されている!?

 

 

「――――喜べ、ベジータ(塵屑)。お前に役目を与えてやる」

 

「なっ!? しまっ――――」

 

 俺の戸惑いを読み取ったのか、その隙をついて至近距離から力の波動が放たれた。それは攻撃目的の物ではなく、こちらを閉じ込め拘束するためのもので、俺はそれを避ける事も出来ずに金縛りにあったかように動きを封じられ、球体のエネルギーの檻の中に閉じ込められた。

 

 このままでは無防備なまま追撃を食らってしまう! それを避けるために力尽くで破ろうと戦闘力を高めようとした時にヤツは憎たらし気にこう口にしたのだ。

 

 

「精々時間を稼いで私の役に立てよ。お前が生きている理由など、それだけだろうが」

 

「何!? どういう――――!?」

 

 

 

――――その言葉の意味を考える暇はなかった。

 

 

 

 何故ならあのクソガキはすぐさまある方向へとエネルギーの檻を俺ごとエネルギー弾のように撃ち出しやがったからだ。

 

 

「―――――――ッッッ!?」

 

 

 急激に変わる視界と、身体に急激にかかった慣性が、俺の判断能力を一瞬奪い取る。

 

 

 その一瞬の判断の差が致命的になった。

 

 

 その一瞬の間にヤツとの距離が離れ、同時に起動したドラゴンボールからも更なる距離を離されてしまった。

 

 

 さらには何かにぶつかったのか、それとも一定の距離でそうなるように仕組んでいたのか、エネルギーの檻はその内包するエネルギーを周囲に炸裂させたのだ。

 

 幸い、炸裂する瞬間に拘束が弱まった隙を縫ってエネルギーの檻から抜け出したおかげでその爆発に巻き込まれずに済んだが、それでもドラゴンボールのある場所から大分離されてしまった。

 

 何より、あんなガキに良い様にあしらわれた事、それを許した自分自身に腹が立つ。

 

「あのクソガキィ……! ナメやがってぇ……!!」

 

 再び全力であのクソガキを叩きのめすべく飛び立とうとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――まったく、何かと思えばベジータじゃないか。わざわざオレの邪魔でもしにきたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その背後から聞こえた声に、背筋が凍った。

 

 

 

 こ、この声……この戦闘力の感じは……まさか……!?

 

 

「ふ、フリーザ……ッ!?」

 

 

 瞬間、あのクソガキの呟いた『時間稼ぎ』という言葉の意味を理解する。あのクソガキは、こっちの方からフリーザが接近していると察知した上で俺を足止めの駒として使う為にここまで飛ばしやがったんだ……! 無視される可能性も加味してエネルギー弾という攻撃形式をとって……!

 

 クソガキへの怒りが募るが、今はそれどころではない。恐る恐る、そう形容するのが適切なほどに緩慢に振り返る。致命的だと理解していても、その動作が早くなる事はなかった。

 

 だが、そこにあった姿は俺の知っているフリーザとは違っていた。

 

 俺よりも小柄だったその体躯が、明らかにデカくなってやがる……! 普段のフリーザと比べたら、その大きさはまさしく子供と大人程の差があった。

 

 そしてそれは体躯のデカさだけじゃなく、戦闘力においても同様に子供と大人程の差が生じていた。

 

「何で、もう変身してやがる……!?」

「ほう、まさかお前がその事を知っているとはな、ベジータ」

「……ザーボンの野郎が口を滑らしやがったんでな」

 

 フリーザが変身して戦闘力を向上させるタイプの種族だと聞いていたが、ここまで戦闘力が変化しやがるとは……さすがに予想外だ……!

 

 だがそれを表に出してはヤツの思う壺だ。少しでも、この動揺を抑えろ。奴に悟られるな。でなきゃ一瞬で殺される……!!

 

「しかし……まさか既に変身してやがるとはな。意外と余裕がないんじゃないか、フリーザさんよ」

「なに、ちょっとばかし強いナメック星人がいてな。このフリーザの持つ三回の変身の内、最初の物を使わせてもらった」

「な……!? 三回、だと……!?」

 

 つまりはあと二回、フリーザは変身できるという事だ。一度の変身でこれほどまでに戦闘力が増加しているというのに、それをあと二回も残している……!?

 

「まあそのままでも勝てたが、無駄に時間が掛かりそうだったからな。一気に叩き潰してやっただけの事だ。お前の相手をしてやりたい所だが、オレは今急いでいるんだ。そこをどくのなら、少しの間くらいは見逃してやってもいいぞ、ベジータ」

「急ぐだと? ……まさか、ドラゴンボールか!? アレは俺のもんだ! 貴様になんぞ使わせてたまるか!!」

 

 もしもフリーザにドラゴンボールで不老不死の願いを叶えられたら、俺がヤツに成り代わり宇宙の支配者になる事ができなくなってしまう!!

 

 たとえ生き残れたとしても、一生フリーザの存在に怯え続けなければならなくなるなど、堪ったもんじゃない! そんな事、サイヤ人の王子であるこのベジータ様のプライドが許せるものか!!

 

 そう気張るように臨戦態勢をとった俺に対し、フリーザはとくに反応することなく何かを思い付いたかのように口を開いた。

 

「そういえばお前もドラゴンボールを欲しがっていたな。ならこのオレが不老不死になる瞬間を間近で見させてやろう」

「何――――!?」

 

 

 

――――その瞬間、フリーザの剛腕が俺の首元へと叩き込まれていた。

 

 

(★)

 

 

 空が暗くなってから俺達は急いで光の柱が立ち昇っている場所へと向かった。

 

 全速力で向かっているが、それよりも早くあの場所に到着する先に到着するヤツがいるのを気で察知できた。

 

「くそ、ベジータの方が早い……!!」

「そ、そんな……!?」

 

 チアか、あるいはベジータが既に願いを叶えているという最悪の展開が頭をよぎるが、それを振り払う。とにかく今は向かうしかない!

 

 向かっている最中は不安に苛まれたが、到着の時にはナメック星の神龍の大きさに圧倒された。

 

「こ、これが本場の神龍……!」

「お、大きい……!」

「僕も見たのは初めてですが、こちらではポルンガと言います。でも一体誰が……?」

「……って、それよりも今はドラゴンボールだ!」

 

 神龍……じゃなくてポルンガがまだ消えていないって事はまだ誰も願いを叶えていないって事だ。

 

 少し離れた辺りにベジータの気が感じられる。相手の気配を感じられないからおそらくはチアと戦っているのだろう。

 

 多分二人とも邪魔をしあって牽制しあっている結果が今の棚から牡丹餅みたいな状況へと繋がったんだ。

 

 ベジータ、さらにはチアも出し抜く形になったが、それでも俺達には叶えなきゃいけない願いがあるんだ。

そんな事を考えていると、顕現しているポルンガがその口を開いた。

 

 

『いつまで待たせるのだ? 早くナメック語で願いを言うがいい。三つの願いを可能な限り叶えてやろう』

 

 

「え!? 三つ!? 一つじゃないの!?」

「本場の神龍は太っ腹だな!」

 

 というか願いもナメック語で言わないといけないのか。デンデがいてくれなかったら俺達も願いを叶えられなかったじゃないか。……というかもしかしてそれでチアもベジータも願いを叶えられなかったのか……? いや、今はそれを気にしている場合じゃない!

 

「じゃあ地球でサイヤ人に殺された人たちを生き返らせてくれ!」

 

 俺達の願いをデンデがナメック語でポルンガに伝えてくれる。これで地球で殺された皆が復活する!

 

 

 

『それはできない。一つの願いで生き返らせることができる死者は一人だけだ』

 

 

 

「い!?」

「そ、そんな……!?」

 

 まさかの返答に変な声が出てしまった。

 

 というか意外とケチだな本場の神龍! 地球の神龍なら何人でも生き返らせてくれるのに! しかも普通に喋れるのに願いはナメック語じゃないと通じないって辺りも融通が利かないよな……って今はそれどころじゃない!

一つの願いで一人しか生き返らせられないんなら、誰を生き返らせてほしいって断言する必要があるけど、問題なのはその人数だ。

 

 生き返らせたいのはヤムチャさん、天津飯さん、チャオズにピッコロの四人。三つの願いを全部使ったとしても全員を生き返らせることはできない。しかも悩んでる時間もそんなにない。どうする……!?

 

 

 

――――その声が聞こえたのは、願いの使い方で頭を悩ませていた時の事だった。

 

 

 

 

 

『――――聞こえるか! 俺だ! ピッコロだ!!』

 

 

 

 

 

 地球で死んだはずのピッコロの声がどこからともなく聞こえてきたのだ!

 

「え!? ぴ、ピッコロさん!?」

「ど、どこから声が……!?」

 

 辺りを見渡してももちろん姿は見えないが、声だけ頭に響いてくる。そもそも死んでるはずなのにどうやって声が聞こえてくるんだ!?

 

『界王の所からお前たちの頭に直接話しかけている! 状況も大体だが界王から聞いてわかっている!』

 

 界王って……確か悟空が死んだ時に修行つけてもらったっていう界王様か!? そうか、ピッコロも界王様の所で修行してるのか!

 

『まずは俺を生き返らせるんだ! そうすれば神の野郎も生き返って地球のドラゴンボールも復活する!!』

「そ、そうか!」

 

 そのピッコロの助言によって俺達が叶えるべき願いが定まった。

 

 まず一つ目の願いでピッコロを生き返らせる。それによって同時に地球の神様も復活し、地球のドラゴンボールも復活する。あとの皆は地球のドラゴンボールで復活させればいい。

 

 そして二つ目の願いで本人たっての希望でピッコロをナメック星へと転移させた。故郷の星を好き勝手に踏み躙られたことが許せなかったらしい。昔のピッコロなら故郷がどうなろうと自分には関係ないと言い切っていただろうに……アイツ、本当に変わったんだな。

 

 ただ想定外にもピッコロはこの場に現れなかった。どうやら願いの際にナメック星以外に場所の指定をしなかったせいでピッコロはこのナメック星のどこかにランダムに飛ばされたらしい。

 

「ど、どうする!? 最後の願いでピッコロをここに連れてきてもらうか!?」

 

 時間をかければ合流はできるが、現状その時間があるかも怪しいから俺はそう提案したのだが、悟飯としては別の意見があるみたいでおずおずと口を開いた。

 

「あ、あの……チアの願いを叶えて上げるのはどうですか……?」

「チアの……?」

 

 ベジータの相手をしているだろうチア。確かに今のこの状況を作り出せたのはチアがいたおかげだ。悟飯の気持ちもわかる。でも……

 

「……俺としては正直、諸手を上げて賛成はできないな。だってアイツの具体的な願いの内容を俺達は知らないんだぜ?」

 

 俺はチアを信用しきれていなかった。だって人を塵扱いしたり、容赦なく見捨てたりするヤツを完全に信用なんてできる程俺は聖人なんかじゃない。

 

「で、でもチアにだってわざわざこのナメック星に来てまで叶えたい願いがあるんですよ! それを叶えるチャンスがあるのに叶えられないなんて……」

 

 悟飯の気持ちもわかる。宇宙船で一ヶ月くらい一緒に暮らしてきたんだ。俺も多少の情が湧いているのは確かだ。でもチアのあの性格からしてとんでもなくヤバい願いを抱いているかもしれないのも否定しきれないし……ああもう!

 

「……デンデ、ポルンガはまだ待ってくれそうか?」

「え? お、おそらくは……!」

「クリリンさん!」

「……まずはチアの願いの内容が悪い類じゃないってのを確認してからだ。じゃなきゃ俺は認めない。そもそもそれがわからないと神龍、じゃなくてポルンガに頼めないしな」

 

 とはいえベジータとやり合ってるだろうチアがここに戻ってこれるかどうか……ベジータが先にきた時にどう対応するべきか考えとかなきゃな……

 

 そんな事を思っていた時だった。

 

 

 

――――突如としてポルンガの姿が掻き消えて、暗くなっていた空が明るさを取り戻したんだ。

 

 

 

「な!? どうして!?」

「願いはまだ一つ残ってるはずだろ!?」

 

 突然の出来事に訳も分からずに慌てふためく俺達だが、デンデが何かを悟ったように静かな声で俺達の疑問に答えてくれた。

 

「……最長老様が、寿命を迎えられたのです。それによって願い玉もただの石に……」

「そ、そんな……」

 

 最長老さんには俺も悟飯も世話になった。そんな人が死んだという事に少なからずショックを受けるが、ショックを受けたのは俺達だけじゃなかった。

 

 

 

「――――何……だと……」

 

 

 聞こえてきたのは呟きのような声。俺達三人の誰でもない四人目の声。この一ヶ月強の間で何度も聞いた女の子の声。

 

「え……?」

「チア!?」

 

 後ろを振り返ると、いつの間にかそこにはチアがいた。

 

 ベジータの手から逃れられたのかと驚いたが、どこかチアの様子がおかしい。

 

 何というか、張りつめすぎて千切れそうな糸、もしくは決壊寸前のダムのような、ギリギリの瀬戸際のような危うさを感じた。

 

「あと少し……あと少しだったというのに……!」

 

 そのチアの言葉には途轍もない感情、念が込められているように聞こえた。気のせいか、チアから放たれる雰囲気が、周囲の空気を淀ませているようにも感じた。

 

「チ――――」

 

 そんなチアを心配して悟飯が声を掛けようとした時―――――

 

 

 

 

 

 

――――突如として飛来してきた何かが近くにあった岩山に盛大な音を立てて激突した。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 突然の事に思わず振り返ると、衝撃で砕けて崩れていく岩山の中に一つの人影を見つけた。

 

「ぐ、げほっ……!! く、くそったれ……!!」

「べ、ベジータ!?」

 

 おそらくは先程までチアと戦っていたであろうベジータが血を吐きながら崩れる岩山に埋まっていたのだ。

 

 だが先にきていたチアに後から飛んできたベジータを岩山に吹き飛ばすなんてことは出来ない。

 

 

 

 つまり――――別の誰かがベジータをあの場所に叩き付けたって事になる。

 

 

 

 そして、現状考えられる相手は一人しかいなかった。

 

 

 

 

「――――よくもやってくれたな、虫けら共……!!」

 

 

 

 その怒気に塗れた声だけで、身体中から冷や汗が噴き出てきた。この声は、確か……!?

 

「ふ、フリーザ……!?」

「何だよ、アレ……! 身体がデカくなって、気も……有り得ない……!?」

「ひっ……!?」

 

 前に見た時でも相当ヤバかったのに、今はさらに身体がデカく、ゴツくなってる。感じられる気も尋常じゃない! こんなヤツ相手に、戦おうとしてたのかよベジータは!? 俺なんかが相手になるわけがない!

 

「お前らのせいでドラゴンボールは効力を失ってしまったようだ。このフリーザが永遠の命を手に入れる前に……!」

 

 フリーザは怒りで身体が震えているが、それに対峙してる俺達は恐怖で身体が震えている。まるで蛇に睨まれた蛙みたいに身体が固まっちまって逃げようにも逃げられない。

 

「ここまで虚仮にされたのは初めてだッ!! 簡単に死ねると思うなよ下等生物共がッ!! じわじわと嬲り殺しにしてやるっ!!」

 

 この場の雰囲気は完全にフリーザへの恐怖で染まっちまってる。かくいう俺も震えが止まらずに動けそうにない。本当なら年長者として悟飯やデンデを守ってやらないといけない立場だってのに……! 今まで何とか死なずに済んでたけど、さすがにこれは無理かな……くそ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――黙れよ塵屑」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言が、絶望的な雰囲気を引き裂くように耳に入ってきた。

 

「…………何? まさかと思うが……その塵屑とはオレの事ではないだろうな」

「それ以外に誰がいるというんだ? 他に煩い塵はいないだろうが……そもそも貴様がいなければこんなことにはならなかったのだ。貴様さえいなければ、今頃私は願いを叶えられていたのだ……」

 

 それは流石に八つ当たりじゃないか……とも思ったが、そんなことを考えるくらいには俺も余裕を取り戻せていた。さっきまでこの場を支配していたフリーザへの恐怖が、まるでチアの態度によって緩和されていっているようだった。

 それでもフリーザに対してまで塵屑扱いなんて、命知らずにも程があるぞ……

 

「さっさと死んで詫びろよ、塵屑。それだけが貴様に出来る唯一の事だろうが」

「……虫けら如きが、このオレにそんな口を利くとは、どうやらよほど死にたいようだな」

「いいからさっさと頭を垂らせよ。塵屑如きがいつまで私を見下ろしているつもりだ」

「――――――――」

「――――――――」

 

 二人の威圧で空気が歪んでいくような錯覚を抱く。まさに一触即発。どちらから動いても不思議じゃない。

 

 

 

 

 

 

――――そんな中で、フリーザの姿が掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

「え――――」

「消え――――」

 

 

 

 

 フリーザが動いたんだと気付いた時にはもう既に――――――――殴りかかっていたフリーザの側頭部にカウンターのようにチアの気弾が炸裂していた。

 

 

 

「――――な……にぃ……!?」

 

「――――のろまが」

 

 

 驚愕に染まるフリーザとそれを嘲笑するチア。

 

 その様子は、まるでこの二人の力関係を顕しているようにも見えて……

 

「――――虫けら如きが、調子に乗るなっ!!」

 

 それを否定するためにフリーザがさらにスピードを上げてチア目掛けて殴りかかるが、それを悉く躱して気弾を撃ちこんでいく。的確に、確実に、フリーザにダメージを蓄積させていってる。

 

 戦場が地上から空中へと変わってもそれは変わらず、むしろ気弾が飛んでくる方向が増えた事によりフリーザはさらなる苦戦を強いられていた。

 

 

「すごい……!」

「ああ、すげぇ……!」

 

 目で追うのも厳しいくらいに速いフリーザを、チアはもっと早いスピードで翻弄していく。パワーはわからないけど、スピードじゃ完全にチアが上だ。

 

 それを悟ったフリーザも攻め方を変えてくるけど、それを瞬時に読み取ったチアには通じてなかった。

 

 

 

 完全にあのフリーザが封じ込まれてる。誰がどう見てもチアが優勢だ。

 

 

 

 というかチアのヤツ、あんな実力を隠してたんだったら言ってくれたらよかったのに。そしたらベジータやフリーザにビクビクせずにドラゴンボールを取り戻せたのに。

 

 でも、これなら俺達も生き残れる! そう思え始めた時だった。

 

 

 

 

 

――――追い込まれて息の上がったフリーザが、俺達の方を見て、笑みを浮かべたんだ。

 

 

 

 

 

 ま、まさか…………ヤバいッ!?

 

「――――悟飯! デンデ! 気を付けろ!」

「え……?」

 

 俺の警告に悟飯たちが反応するが、それよりもフリーザが動く方が早かった。

 

 

「――――庇わなければ、他の連中が死ぬぞ!!」

 

 

 

 

 

 

――――そして、俺達のいた島全域に上空から衝撃が襲ってきた。

 

 

 



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第九話 形勢逆転!怒りの悟飯!

「ここが……ナメック星」

 

 ナメック星のドラゴンボールで生き返り、さらに二つ目の願いでナメック星まで転移した俺は降り立ったその大地にどこか懐かしさを感じていた。見た事もない故郷に、己の血が懐古しているのかもしれない。

 

 だがそれに浸っている暇はなかった。尋常ではないほどに巨大な気が猛烈な速さで移動しているのを感じ取ったからだ。

 

 界王の所で修行したからこそはっきりとわかった。この気のデカさは尋常じゃない。修行により強くなった俺でも勝負になりはしない。

 

 ……だが、逃げるなどという選択肢は存在しない。

 

 ここに転移させるために言った故郷の星が蹂躙された怒りというのはただの方便ではない。

 

 故郷などどうでもいいと思っていたが、それでも心のどこかに帰属意識でもあったか、許せない気持ちが湧いてくる。

 

 それに何より、あの弱くて泣き虫だったあの悟飯がこの強大な敵と相対しているのだ。師匠としてそれをただ見過ごすわけにはいかない。

 

 

 

「……待っていろよ、悟飯!」

 

 

 

 そうして俺は、巨大な気が向かう先――――悟飯の気も感じるその場所へと向かい飛び立った。

 

 

 

 その最中に暗かった空が明るくなり、おそらくはドラゴンボールによる変化だろうと理解しつつも思わず周囲を見渡していた際に、地面に誰かが倒れているのを見つけ、思わず進行方向をそちらに変えてしまった。

 

 倒れている人物は、外傷箇所自体は少ないが、その一つ一つが重症だった。凄まじい程の力が加わったのか腕は関節部分以外にも不自然に曲がっており、脚は踏みつけられたのか圧し潰したかのように拉げていた。そして何より肋骨や筋肉ごと撃ち砕かれたのか胸部が不自然すぎる程に陥没している。

 

 圧倒的な力量差がある相手に一方的にやられたのだろうと想像できる…………おそらく、相手はフリーザだろう。

 

 だが思わず足を止めてしまったのには他に理由があったのだ。

 

 

 

「俺と同じ、ナメック星人……」

 

 

 

 もはや虫の息であったその人物は、外見が俺とそっくりであるナメック星人であったのだ。

 

 

 

(★)

 

 

 

 上空から襲ってきた衝撃、それは僕らのいた島を完膚なきまでに破壊した。

 

 砕かれて岩石と化した島の破片は周囲に飛び散り海に落ちて音と共に波を立てて、そのまま海底へと沈んでいっていた。

 

 もしも対処が遅れていたら、僕らもあの島の破片と同じように、波を立てた後に海の藻屑となっていただろう。

 

 僕たちは衝撃の余波に煽られて近くの島に不時着する程度で済んでいた。怪我という怪我をする事もなく、負傷といえば島に不時着した時に身体をぶつけたくらいのものだ。

 

 でも僕は対応できていなかった。フリーザが攻撃してくるまでその予兆に気付けなかったし、気付いた後も身体を動かす事ができなかった。それは、隣にいるデンデも同じだった。

 

 それでも僕が、僕たちがこうして無事でいられたのには理由があった。対応できた人が、僕たちを助けてくれたからだ。

 

「ぐ……が……」

 

「く、クリリンさん……!?」

 

「ぼ、僕たちを庇って……!?」

 

 僕たちの視線の先には、ボロボロになって倒れているクリリンさんの姿があった。

 

 頭からは血を流し、全身は傷だらけ、ベジータが渡してくれたあの丈夫な戦闘服も所々皹が入ってボロボロになっていた。一番ひどい左足は、おかしな方向へと折れ曲がっていた。

 

「そ、そんな……!?」

 

 僕たちを庇ってなければ、クリリンさんだけなら、きっとこんな傷を負う事はなかった。

 

「だ、大丈夫ですか!? す、すぐに――――」

 

 デンデがクリリンさんに何かを言っているみたいだったけど、僕がそれを最後まで聞く事はなかった。

 

 

 

 一瞬、ピッコロさんが僕を庇ってサイヤ人に殺された時の事を思い出した。

 

 

 

 クリリンさんもフリーザの攻撃から僕を庇ってこんな状態に……!

 

 

 

 許せない……許せない……!!

 

 

 

 

 

 僕の大切な人を傷つけたお前は、絶対に許さない……!!

 

 

 

 

 

 

 

 ――――僕の中で、何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「――――うわああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 怒りのままに力を解放して飛び上がる。僕の目にはもうフリーザしか目に入っていなかった。

 

 上空にいたフリーザへ向かって怒りに任せて拳を振るう。

 

「な――――っ!?」

 

 一撃、さらに一撃、もう一撃! 怒りのままに攻撃を食らわせる。

 

「だあああああああああ!!」

 

 力任せに地面に向けて叩き付けて、追撃にひたすらに気弾を撃ちこんでいく。

 

 一発二発じゃ済まない。何十発と、土煙でアイツの姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、ひたすらに撃ち続けた。

 

「―――! ――――!」

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 誰かが何かを言っている気がしたけど、そんなものは耳に入ってこなかった。それよりもアイツをもっと叩きのめさないと! アイツは、クリリンさんを――――!

 

 

 

 フリーザに向けて気弾を撃ち続けている最中、僕は意図しない方向から強く突き飛ばされるような衝撃を受けた。

 

 

 

「ぐ!? 何を――――!?」

 

 

 

 いきなりの横槍にその衝撃が襲ってきた方向を確認したら、そこには――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――僕を突き飛ばしたであろう左腕に大穴が穿たれたチアの姿があった――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 フリーザの放った衝撃波が島を襲う。その様子を傍目に見ながら私はさらに攻め手を強めていた。

 

「な――――」

 

 それにまるで信じられないものを見たかのように驚愕の表情を浮かべるフリーザ。まるで島への己の攻撃が何の阻害もなく徹った事や己に更なる攻撃を仕掛けられている事に驚くかのように……ああ、そうか。

 

「お前、まさか私が塵を庇うとでも思っていたのか?」

 

 どうしてそんな発想へと至るのか、理解に苦しむ。何故この私が役にも立たない塵共を庇うと思ったのか。

 

 ともかくフリーザが悟飯たち(塵共)に一手無駄にしたおかげで私はその分余裕が生まれた。

 

 左手で気弾を放って牽制かつ体力を削りながら、右手に気を集中させる。フリーザにこの一撃を食らわせてその息の根を止めてやる。

 

「ぐぅ……!?」

 

 その私の様子をみてマズイと感じたのか、フリーザはその場を離れようとするがそれを許す私ではない。左手から放つ気弾群を操作しヤツの動きを制限する事で既にヤツは私の掌の上にいるに等しい。どれだけヤツ自身がこの一撃を避けようと画策しようと、この一撃を避ける事はできない。

 

「――――さあ、消え去れ塵屑」

 

 そして宇宙の塵屑を消却しべく右手の照準を合わせる――――

 

 

 

 

 

「――――うわあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 ――――瞬間、その叫び声と共にフリーザが乱入者によって殴り飛ばされて照準から、そして私の支配下から外れた。

 

 

 

 どこの塵の仕業かと考えるまでもなく、下手人が誰かは明白だった。悟飯だ。

 

 

 

 何故激昂しているのかはわからないが、先程のフリーザの攻撃をどうやら避けていたらしい。チラリと悟飯が飛んできた方向を見てみると、そこには無傷のデンデとボロ雑巾のようになったクリリンの姿があった。デンデすらも避けているのにクリリンがボロボロになっている理由がわからん。理解に苦しむ。

 

 そんな事よりも今はフリーザだ。さっさと消し屑にしたいのだが、その後も激昂した悟飯がフリーザを無作為に殴り続けるせいで照準がつけられない。……悟飯ごと撃ち抜いても構わないが、ああも大きく物理的に揺さぶられると確実に命中させられるか難しい所だ。窮鼠猫を噛むとも言うし確実に仕留めたい所だが……

 

「だあああああああああ!!」

 

 さらに地面に叩き付けたと思えば、今度は気弾の雨を降らせる。命中しているのであれば足止めは出来ているのだろう。

 

 だが、肝心のヤツの姿が土煙で見えん。気で大体の場所はわかるが、正確な場所がわからん。これでは右手に溜めた砲撃が撃てない。

 

「おい! 無駄弾を撃つな! ヤツが視認できないだろうが!!」

 

「あああああああああああああ!!」

 

 悟飯に怒鳴りつけるが逆上しているせいか反応がない。くそっ、聞こえてないな。使えん塵め!

 

 口で言っても無駄であれば、手間ではあるが仕方あるまい。

 

「邪魔だと言っているんだ!」

 

 左手から衝撃波を悟飯に向けて放つ。さすがにこれで多少の動きが止まるだろう。さっさとフリーザを消し飛ばすとしよう。

 

 

 

 ――――そう思っていたら、衝撃波を出したために突き出していた左腕が見えない何かに穿たれた。

 

 

 

「何を――――!?」

 

 悟飯がこちらを見て驚愕しているが、そんな事を気にする余裕はなかった。

 

 この場において、不意を打って私の腕に穴をあけられそうな塵など、一人しかいない……!

 

 

 

 

 

「――――おや? ちょっとばかし強すぎましたかねぇ……」

 

 

 

 

 

 その声と共に土煙の中から現れたのは先程までのフリーザではなかった。

 

 先程よりも頭部が前後に伸びるように大きくなり、その重さのせいか背筋が曲がり、しかしその分身体全体に柔軟性が増したようにも見える。先程までの姿勢のいい形態と違って、異形に近い雰囲気を持つ形態になっていた。

 

 形態が変化したことでどう変わったかまではわからないが、それでも先程よりも強大なのは疑う余地はなかった。

 

「ち、チア……!?」

 

「こ、の……塵屑がぁっ!!」

 

 悟飯がこちらを見て何かを言おうとしていたが無視して咄嗟に右手のエネルギーを解放する。一撃で仕留められるかどうかに拘っている場合ではなく、今撃たなければ主導権を完全に握られると判断したからだ。

 

「おっと! 危ない危ない。さすがに今のは喰らうわけにはいきませんね」

 

 全てを呑み込む黒い光は、島を削り、海に大穴を空けたものの、フリーザには悠々と躱された。その口ぶりから先程まで微塵もなかった余裕すら感じられる。形態が変化した事でそれほど力が上がったというのか……!!

 

「さて、では先程までの分をお返しするとしましょう、か!!」

 

 その言葉とともにフリーザは距離が離れているにも関わらず指を二本そろえた状態でこちらに向けて突きを放ってきた。

 

 どう考えても届かない距離だが、何かがくると感じた私は咄嗟にバリアーを張る。が、目に見えない衝撃――――おそらくフリーザの指から放たれたものが障壁を撃ち砕いて私の身体へと襲う。

 

「ぐっ……がぁ……!? 塵が……舐めるなぁっ!!」

 

 今度は砲撃ではなく、数撃つ気弾の雨を降らしてやる。砲撃程でないにしろ威力がないわけではない。当たって動きが鈍った所をハチの巣にしてやる……!

 

「ほう、撃ち合いですか、いいでしょう。受けて立ちます」

 

 それに対し、フリーザは真っ向から両手で見えない衝撃――――指弾を飛ばして応戦してきた。

 

 その無数に飛んでくる指弾を少しでも躱すべく、縦横無尽に動きながらこちらも気弾の雨をヤツに目掛けて降らせ続ける。

 

 ヤツの指弾はバリアーで防げずとも逸らす事はできる。方向を逸らせば躱す事も可能になる。これで被弾を減らす事はできる。問題は此方の攻撃だ。

 

 

 

 奴に、気弾が当たらない……!!

 

 

 

 奴に向けた気弾の内、最低限だけ指弾で打ち消し、それ以外の弾は悠々と避けていく。

 

 対してこちらはヤツの指弾を全て防ぎ切れていない。逸らして躱して被弾を減らせたとしても、それはあくまでゼロにはなっていない。今この時にも被弾による負傷は増えているのだ。

 

 減らせどもなくならない被弾がある私に対して、完全に被弾を許さないフリーザ。これだけでどちらが優勢かわかるだろう。このままでは、削り負ける……!

 

「先程までのお返しです。嬲り殺しにして差し上げましょう……!!」

 

「誰に、向かってぇ……! ほざいているぅ……! 塵、ガ――――ッ!?」

 

 ついに指弾が障壁を貫いて額に衝撃が襲う。さらに続いて心臓を穿つかのように胸に指弾が命中した。

 

「ごぼっ!?」

 

 脳が揺れ、吐き気がこみ上げる。心臓が衝撃でまともに働かない。意識すらも朦朧として、無理やり抑えていたヤミが蠢き始める。

 

 それを抑える事に集中せざるを得ない状況で、障壁どころか舞空術にすら意識を向ける余裕がなくなっていた。星の重力に引かれるままに自由落下していく。

 

 そんな私の様子を見て勝利を確信したのか、フリーザは笑みを深める。

 

「では、一思いにトドメを刺してあげましょうか」

 

 落ちていく私に対して追撃をしようとするフリーザに、今の私は何もする事ができず、ただその様子を見ている事しか出来なかった。

 

 

 

「――――や、やめろぉーーーー!!」

 

 

 

 そんな中で悟飯がフリーザに突っ込むが、力の差は歴然。真っ向から突撃した悟飯はその攻撃を軽く躱され、そのまま無造作に蹴り飛ばされ血反吐を吐きながら地面へと叩き付けられていた。

 

 

 

「お望みなら先にあなたから始末してあげましょうか」

 

 

 

 そう言ってフリーザが悟飯に指先を向けた時の事だった。

 

 

 

 

 

 ――――下から突如として飛来した気で出来た薄い円盤が、なんとフリーザの尻尾を切り落としたのだ。

 

 

 

 

 

「――――何っ!? 私の尾が!? 一体どこから……!?」

 

 

 

 思わぬ不意打ちにフリーザは下手人を探して下を見渡すと、その姿はすぐに見つけた。

 

 

 

「――――気円斬」

 

 

 

 そこにいたのは、先程島を破壊した攻撃に巻き込まれ重傷を負ってボロ雑巾のようになっていたはずのクリリンであった。

 

 

 

「な……!? あの地球人、さっきの攻撃で虫の息になってたはず―――――」

 

 

 

 ピンピンしているクリリンに気を取られて驚愕しているフリーザだが、今度は上方から突如として現れたナメック星人に不意打ちで側頭部に蹴りを入れられて吹き飛んでいく。

 

 

 

 その様を見て、ざまぁみろと思いながら、私は――――――――ぐちゃりと音を立てて大地へと叩き付けられた。

 

 

 

 




クリリン「チアが俺達を庇うわけないから俺が二人を護らないと……!」
 ↓
悟飯「チアが身を挺して庇ってくれた……!?」
 ↓
チア「悟飯の邪魔がなければ塵屑消し飛ばせていたのに……!」


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第十話 宇宙の帝王フリーザ

 尻尾を切り落とされたフリーザを地面に向かって蹴り飛ばした俺は、フリーザの一撃でボロボロになって地面に叩き付けられた悟飯を回収して禿げ頭――――クリリンのいる場所へと向かう。

 

「ピッコロ! すげぇパワーアップしてるじゃんか! 界王様の修行の成果ってやつか!」

 

「修行だけじゃなく別の要因もあるが……それより貴様は悟飯を安全な場所まで連れて行け!」

 

「え? そんなパワーアップしたお前なら何とかなるんじゃ……?」

 

「……勝てると思うか?」

 

「ぅ…………」

 

 あの瀕死のナメック星人と同化したおかげで力が以前とは比べ物にならないほどに湧き出てきたが、それでも今のヤツに勝てるビジョンが見えてこない。

 

 直接その動きを見たわけではないが、感じ取れるヤツの気はそれほどまでに強大だった。

 

 実際にフリーザの動きを見たクリリンの沈黙もその事を物語っている。

 

「あんな不意討ちじゃすぐに戻ってきやがるぞ! 早く行け!」

 

「お、お前はどうする気だよ!?」

 

「……少しでも足止めしてやるさ」

 

「それじゃ地球のドラゴンボールがまた使えなくなっちまうじゃないか! それなら全員で挑んだ方が勝機はあるだろ!」

 

「ならボロボロの悟飯はどうする!? 放っておくわけにもいかんだろう!」

 

 この状態の悟飯をこのまま放置しておくわけにもいかん。追撃をしようとしていたフリーザがそれを見逃すとは思えんし、そうでなくとも流れ弾が当たらないとも言えない。

 

 だがクリリンもそう簡単に引くつもりはない様子で、フリーザが復帰してくるまでのこの貴重な時間を無駄になりかねんと危惧していると、思わぬ所から解決策が口に出された。

 

 それはナメック星人の子ども――――デンデであった。

 

「ご、悟飯さんなら僕が治します!」

 

「デンデ? ……おい、治すとはどういうことだ?」

 

「デンデは怪我を治す力を持ってるらしいんだ。俺もそれで助けられた……ってなんでお前デンデの名前知ってるんだ?」

 

 俺の問いかけに答える間もなくデンデがボロボロになった悟飯に両手をかざすと、変化が如実に現れた。

 

 傷だらけだった悟飯の傷が一瞬で治癒し、悟飯の意識が戻ったのだ。

 

「あ、あれ? 僕は……?」

 

「あ、あの傷が一瞬で……信じられん。俺にもこんな力があるのか……?」

 

「い、いえ、あなたは戦闘タイプのようなので……」

 

「あ! ぴ、ピッコロさん!? あ……もしかしてピッコロさんが助けてくれたんですか……!?」

 

「どうやら完治したようで何よりだが……せっかく生き返らせてもらったのに悪いな。あまり役に立てそうにない」

 

「そ、そんな事…… あっ!? そ、そういえばチアは!?」

 

 悟飯の言うチアというのが誰かわからず、そういえば界王が宇宙船に忍び込んでいたガキがいたらしいと言っていたのを思い出し、さらに悟飯がやられる前にフリーザが止めを刺そうとしていた相手がいた事を思い出した。……何故か、同化したナメック星人の最後の口にした「あの子供に気を付けろ」という言葉もふと脳裏に蘇るが、今は置いておくことにする。

 

「ぼ、僕、チアに庇ってもらったんです。そのせいでチアが……!」

 

「た、確かあっちの方に落ちていったような……」

 

「ぼ、僕、チアさんを治してきます!」

 

「あ、待ってくれデンデ!」

 

 その場を離れていこうとするデンデを呼び止めたクリリンは、言うかどうか悩んだ末に、それでも言いにくそうに口を開く。

 

「……もしベジータも見つけたら治してやってくれないか」

 

「え……!?」

 

「近くにベジータもいるのか?」

 

「はい、フリーザにやられてクリリンさんがボロボロになった攻撃にも巻き込まれてたはずなんですけど……」

 

「でもそれであのベジータが死ぬとは思えない。きっとまだ生きてるはずだ」

 

「い、嫌だ……! アイツは……、ベジータはフリーザといっしょだ! 僕の仲間を殺した!」

 

「デンデ……」

 

 ……その気持ちはわかる。故郷に思い入れのない俺でもフリーザに対して怒りを抱いているんだ。ましてやそこで生まれ育ったデンデが、フリーザと同じように同胞を殺したというベジータを早々に受け入れられるはずもないだろう。

 

「俺からも頼む。俺はベジータになら勝てるがフリーザには勝てん。今は一人でも戦力が必要だ」

 

 俺もベジータには良い感情を持っていないが、それでもこの現状を何とかするにはいけ好かない野郎でも利用しないとどうしようもない。

 

 だがそれはコイツの感情がそれを許容できるかとはまた別の問題だ。判断自体はデンデ自身に任せるしかない。

 

 とにかく今は早くここから離れさせるべきだ。ここで悠長に話をしている時間はないのだから…………?

 

「……何故フリーザは、まだ来ない?」

 

「え? あ、そういえば……」

 

「もしかしてもう起き上がれないとかだったり……しないよな?」

 

「甘い期待はするなよ」

 

 あの一撃で倒せるほど甘くはない。ダメージとしてはほとんど入っていないだろう。

 

 だが、それならば何故ヤツは来ない? ヤツならばすぐにでも復帰してきてもおかしくはないはずだ。現にヤツの気は――――

 

「――――!? な、なんだ、どういう事だこれは……!?」

 

「ど、どうしたんだよピッコロ?」

 

 暢気にも状況の変化を察知できていない二人に、お前らもヤツの気を感じ取れと口にしようとした時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「――――よくもやってくれましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――背筋が凍るような声がその場を支配した。

 

 

 

「ひっ!!」

 

「この声……ふ、フリーザ……!?」

 

「くっ……早く行けデンデ!」

 

「は……はい……!」

 

 デンデが去っていくのを足音だけで確認しつつも、視線はあの声が聞こえてきた方向から外せなかった。そこには、こちらにゆっくりと向かってくるフリーザと思わしき人影がいた。

 

「驚きました……まさか私の尾が切られて、その上頭を足蹴にされるとは……」

 

 先程までの異形とは違う。刺々しかったその身体はスッキリと丸みを帯びて、物々しさはなくなり、身体の大きさも大分縮んでしまっている。

 

 だが、その内側に渦巻く気の強さは、先程までとは比べ物にならないほどに強大な物になっていた。

 

 それこそ、ただそこにいるだけでこちらに恐怖を与えてくるほどに強すぎるものだ。

 

 

 

 

 

「貴方達はただでは殺しません。このフリーザの最終形態を以って、その魂に決して消えぬ恐怖を刻み付けてあげましょう……!!」

 

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 

「ぐ……クソッ、たれ……!!」

 

 フリーザの剛腕でのラリアットから岩山に叩き付けられ、さらに追い打ちのように島全体を襲う衝撃を避ける事も出来ずに、今の俺の身体はボロボロの死に体になっていた。サイヤ人の王子たるこのベジータ様がこの有様とは、我ながら情けない。

 

 こ、このままでは死んでしまう……だが、動こうにも動ける状態じゃない。少しでも身体を動かせば痛みが走る。もしかすると手足の骨も折れているかもしれない。

 

 ここまでなのか……そう思い掛けたその時、何かの物音が聞こえた。力は弱いが確かに気配を感じる……

 

「べ、ベジータ……!」

 

 声がした方に視線を向けるとそこにはナメック星人のガキがいた。まさかまだナメック星人の生き残りがいるとは驚いたが……状況が好転したわけじゃない。

 

 あのガキが俺を助ける術を持っているとは思えないし、そもそもとして俺を助けるとは思えない……などと思っていると今まで動かなかった身体が急に軽くなった。

 

 痛みは消え去り、動かせなかった四肢は通常通りに動き、ボロボロになった戦闘服から覗く身体には傷一つなくなっていた。

 

「何……? な、治った……だと?」

 

 謎の現象に戸惑っていると、いつの間にか距離を取っていたナメック星人のガキがこちらを睨みながら口を開く。

 

「お、お前を助けたわけじゃない……フリーザを倒すのに必要だから治しただけだ……!」

 

 それだけ言い残すとナメック星人のガキはどこかに走っていった。

 

 まさかナメック星人にこんな能力があったとは……もっと早く知っていればカカロットもメディカルポッドに叩き込む必要はなかったものを……。

 

「……まあいい。溢れんばかりのこの戦闘力(チカラ)……! 俺はついに、スーパーサイヤ人へと至ったんだ……!」

 

 そうだ。最早そんな事はどうでもいい。

 

 サイヤ人の特性とも言える死の淵からの復活によって俺の戦闘力は先程までとは比べ物にならないほどに上昇した。

 

 通常のサイヤ人では考えられないほどの戦闘力。これこそまさに伝説のスーパーサイヤ人そのものだ。

 

 一時気の迷いでカカロットがそうではないかと思ってしまったが、所詮ヤツは下級戦士。エリート中のエリートであるこのベジータ様が千年に一人生まれるという伝説になるのは当然の事だ。

 

 これならば、たとえフリーザであろうと勝てる……!

 

 

 

「スーパーサイヤ人へと至ったこの俺に、最早何も怖れるものはない!!」

 

 

 

 全身に漲る力を感じながら、俺は感じ取れるフリーザの戦闘力を目標に飛び立った。

 

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 

「な、何これ……!?」

 

 

 

 そこにあったのは何かが叩き付けられたかのような痕であった。

 

 その痕は、上から液体の入った袋のような何かを落とせばこうなるだろうというように広く四散して、まるで腐敗したかのような異臭を漂わせ、出来れば近付きたくないと思わせるほどにその場所を汚染していた。

 

 

 

 その中心……おそらく何かの落下地点であろうその場所に、彼女はいた。

 

 

 

「糞がぁ……ッ! 塵がぁ……ッ! 屑がぁ……ッ!」

 

 

 

 さっき遭遇したベジータも重傷で動けないようだったが、彼女の容態はもっと酷かった。

 

 四肢は落下の衝撃のせいか、傍目から見てはっきりわかるぐらいに折れてしまっていた。場所によっては内側から骨が突き出ている箇所もあり、特に左腕は辛うじて繋がっていると表現するのが適切なほどで、放置していれば重さのままに千切れてしまうのではないかという状態であった。

 

 身に纏っている戦闘服は皹だらけになっており、その隙間から黒い粘液のようなドロッとした液体が漏れ出していた。

 

 動くどころか、動かすことすらも躊躇われるような状態だった。

 

 

 

 そんな状態で彼女は、立ち上がっていた。

 

 

 

 折れた足で無理矢理立っているせいで骨はさらに折れて肉を突き破り内側から顔を出してくる。

 

 それを気にする事もなく、彼女の口からは黒い液体と共に呪詛のように悪意に塗れた言葉が漏れていた。

 

「死ね……! 死ね! 死ねぇっ! さっさとぉ……死ねよ塵屑がぁッ!!」

 

 一歩、また一歩と進み、そして骨がさらに折れてバランスを崩して受け身も取れずに前のめりに倒れ、ぐしゃりと再び大地を黒く染め上げた。

 

「何故、塵屑如きが……まだ生きているぅ……! ふざけるなよ、塵がぁッ!!」

 

 それでもなお悪意を口にして立ち上げろうとしているのを見て僕は思わず彼女に駆け寄っていった。

 

「な、何してるんですか!? 安静にしてないと……!」

 

「私に劣る、塵屑がぁ……! 私の邪魔を、するんじゃないぃぃッ!!」

 

 僕が声をかけてもただ罵詈雑言を口にし続ける。

 

 僕に対して言っているのかとも思ったけど、まず彼女がこっちを見ようともしていない事に気付いた。いや、そもそもこちらに気付いてないんじゃ……いや、それよりもまずは彼女を治さないと!

 

 正気に戻った僕はすぐさま彼女に手をかざし怪我を治した。

 

 流石に血の汚れや戦闘服の修復までは出来ないけど、怪我と体力は元通りになったはず……これで命に別状はない。

 

「……治った? ごぼっ……!」

 

 そう思っている目の前で彼女が黒い血を吐いた。

 

「え!? だ、大丈夫ですか!? そんな、怪我は全部治したはずなのにどうして……!?」

 

「お前が、治したのか……」

 

 ようやくこちらに気付いたのか、吐血を気にも留めずに先程までの錯乱した様子から打って変わって冷静にこちらを見つめてくる。

 

 ただ、その目はとても濁っているように見えた。でもその奥に見えるのは……

 

「そ、そうです。それなのにどうして血が……」

 

「――――よくやった。誉めてやるぞ、お前は役に立つ道具だ。だが――――ここで見た事を誰かに言えば、殺すぞ……!」

 

 お礼の言葉としては感謝も何も籠っていないそんな褒め言葉を僕に告げた後、彼女はこちらを睨むように一瞥してからすぐさま飛び立っていった。

 

 

 

 …………僕はそんな彼女をただ見送ることしかできなかった。

 

 



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第十一話 繋げ!希望の元気玉!

 メディカルポッドとかいう装置の治療が終わったのと同時に飛び出して悟飯達の元へ向かえば、何でかさっきよりも気が強くなってたベジータの渾身の気功波をヤツ――――フリーザがただの蹴りで上空へと蹴り飛ばした所だった。

 

 そこからオラもフリーザとの戦いに参戦したんだけど、戦況としちゃ良いとは言えなかった。

 

 オラが十倍界王拳を使ってる状態でベジータのサポートとピッコロたちの援護があってようやく互角……しかもヤツはまだ半分くれぇの力しか出してねえらしい。

 

 それがハッタリなら無茶やりゃ(20倍で)何とかなるけど……

 

「徒党を組んでいるとはいえ、サイヤ人如きがここまでやるとは驚きましたね」

 

「こりゃ……まじぃな……」

 

 オラたち全員を相手にしてる様子を見てる限り…………どうもハッタリじゃなさそうだ。

 

 ……本当はこれだけは使いたくなかった。下手すりゃこの星ごと消し去りかねねぇ……けど、フリーザを倒すにはもうこれしか思いつかねえ。

 

 でも他にも問題がある。こいつは使うのに時間が掛かる。フリーザと戦いながらじゃ使う為の準備もできねぇ。そのための時間を何とか作らねぇと試す事もできねぇ。

 

「なあベジータ……30秒でいい、時間稼げねぇか?」

 

「貴様……俺に死ねと言っているのか!?」

 

「無茶だってのはわかってる! けどフリーザを倒すにはもうこれしか思いつかねぇんだ……!」

 

「……その時間があればフリーザを倒せる算段が貴様にはあるというのか……?」

 

「試してみる価値はある。どっちにしろこのままじゃ、おめえもオラたちも殺されちまう……だったらこれに掛けるしかねぇ……!」

 

「クソッたれ……! 俺一人でヤツの足止めなど出来るはずもない事を、貴様も察しているだろうに……!!」

 

「おめえしかいねぇんだ。頼む……!」

 

 ベジータの言う事もわかってる。オラとベジータが二人がかりでフリーザと対峙してたからこそここまでは何とか食いついていけたってのに、そこでオラが抜けたらその均衡は間違いなく崩れる。

 

 でもこのままじりじりと削られて反撃の兆しすらなくすくらいなら、こっちから仕掛けるべきだ。それはベジータにもわかってるはずだ。

 

 もし断られたら、さっきの50%って言葉がハッタリなのを期待して20倍界王拳で一気に蹴りをつけるしかねぇけど……

 

「――――ふざけるなよ!」

 

 そのでけぇ声といっしょにベジータの拳がオラの頬を殴ってきた。

 

 まさか殴られるとは思ってなかったから、いきなりの事にオラもわけがわからなくなる。

 

 そんなこっちの心情など知った事ではないと言うかのようにベジータは大声で罵倒してくる。

 

「貴様、それでも誇り高きサイヤ人か! もういい! 貴様のような腰抜けはここから消えろ!!」

 

「べ、ベジータ……?」

 

「……万が一でも仕留め損なってみろ。ただじゃ済まさんからな……!」

 

 何のことを言ってんのかさっぱりだったけど、最後に小声でそう呟いたベジータが背を向けて単身フリーザの元へと飛んでいく段階でベジータの思惑に気が付いた。

 

 

 

「おや、仲間割れか? 命乞いかそれとも逃げる算段でも立てているのかと思ったが……」

 

「逃げるだと? 腰抜けの下級戦士ならともかく誇り高きサイヤ人の王子たるベジータ様が逃げるなどするものか! 貴様を倒すのに腰抜けの下級戦士など必要ない! このサイヤ人の王子ベジータこそが、最強でなければならないんだ!!」

 

「なるほど、二人掛かりで死ぬよりもつまらない意地で一人死ぬことを選んだわけだ。あなたらしいですね。まあどちらにしても死ぬことには変わりないですが……」

 

 

 

 ベジータはフリーザの意識からオラを外すために一芝居打って、オラがビビッて逃げようとした腰抜けだとフリーザに思い込ませようとしたんだ。

 

 それがどこまで上手くいくかはわかんねぇけど、それでもいきなりオラが後ろに下がる事で何かを企んでるといきなり思われるよりはずっといい。

 

「すまねぇ、ベジータ……!」

 

 空に両手を掲げて、技を使う為に元気を集める。

 

 

 

 元気玉――――それもこの星だけじゃねぇ。近くにある他の星や太陽も含めた、この宇宙一帯から元気を分けてもらう元気玉だ!

 

 

 

(★)

 

 

 

「――――何やってんだベジータのヤツ!? いきなり悟空を殴って!? 気でも狂ったか!?」

 

 いきなりお父さんを殴ったベジータに、まさかここで裏切るのか、あるいは正気を保てなくなったのかと驚きを隠せない僕とクリリンさんだったけど、ピッコロさんがそれを否定する。

 

「いや、おそらくだがベジータは悟空の案に乗って時間稼ぎのために演技をしたんだろう。どんなものかはわからんが時間がかかるらしい」

 

「え? ピッコロ、あの二人の会話が聞こえたのか? この場所から?」

 

「貴様らとは耳の出来が違うんだ。だがあのベジータが時間稼ぎを請け負うとは……」

 

 僕もピッコロさんの耳の良さに驚いたけど、ピッコロさんが言うようにベジータがお父さんの提案に乗って時間稼ぎのためにフリーザに向かっていったことに驚いていた。

 

 逆に言えばあのベジータがお父さんの案に乗らないといけないと思うほどに状況がまずいんだ。

 

「悟空の切り札が何なのかはわからんが、ベジータだけに任せてられん。俺達も行くぞ!」

 

「あ、ああ!」

 

 ピッコロさんとクリリンさんが飛び立ったのと一緒に僕も飛び立つ。

 

 ピッコロさんは死んでしまっていたから見てないんだろうけど、僕にはお父さんが何をしようとしてるのか理解できた。

 

 

 

 きっとお父さんは地球でベジータを瀕死に追い込んだ元気玉を作ろうとしているんだ。

 

 

 

 でも地球と違って元気を分けてくれる生き物が圧倒的に少ないナメック星でフリーザを倒せるほどの元気玉が作れるんだろうか?

 

 そんな不安を抱きながらも、きっとお父さんの事だから何か考えがあるんだと、ベジータの援護に入ると、少しして上空から凄まじい気を感じて思わず上を見上げるとそこには信じられないものが存在していた。

 

「お、大きい……!?」

 

 そこにあったのは、地球で見た物の何十倍もの大きさで空を覆い隠す程の元気玉だった。

 

 思わず見上げてしまって、しまったと思いフリーザの方を見ると、幸い僕の視線には気付いていなかったのか、じわじわとベジータを甚振っていた。

 

 ……ベジータも、僕らやギニュー特戦隊と戦った時と比べて圧倒的に強くなってる。おそらくだけど僕らの中でお父さんに次ぐ強さを持っているだろう。それなのにフリーザとはあそこまで力の差があるんだ。

 

 でも、あの元気玉だったらフリーザだってきっと倒せる……!

 

 

 

 

 

 

 

「――――どういう状況だ、これは? なんだアレは?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――――声をかけられたのは、そんな風に思っていた時だった。

 

 

 

「え? あ……! チア!」

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫だった!?」

 

「聞こえてなかったのか? あれはなんだと聴いている」

 

「え……あ、あれは元気玉だよ」

 

「元気玉?」

 

 僕はチアに元気玉についての説明をした。時間がないからそこまで詳しくは説明できなかったけど、チアは僕の拙い説明だけで十分に理解したみたいだ。

 

「自然……つまり己以外の他者から気を……」

 

 だからチアも協力してフリーザの気を引くために……と続けようとしたんだけど、その前にチアが僕を突き放すようにこう言ったんだ。

 

「……貴様らは貴様らで勝手にしろ。私は私で勝手にする」

 

「え……ま、待ってよ。それってどういう――――」

 

 僕はその言葉を最後まで言い切ることができなかった。

 

 今まで意図的に隠していたのか、一切感じ取れなかったチアの気が、爆発的に解放されたからだ。

 

「な、何だぁ!?」

 

「何だこの気は!?」

 

 その気の奔流に思わず僕だけじゃなくて少し離れた別の場所からフリーザを牽制してたクリリンさんやピッコロさん、さらにはお父さんも反応していた。

 

 解放されたチアの気は圧倒的だった。今フリーザを足止めしてるベジータどころか、さっきまでのお父さんと比べても遜色ない程の強烈な気の奔流に思わず僕らは動きを止めてしまっていた。

 

 そんな僕らの反応なんか知った事じゃないとばかりに、チアが両手を胸の前で合わせるように構えると、その手の間に強烈な光を放つ宝石のような緑の核を持つ黒い気弾が生み出される。

 

 その気弾は両掌から音を立てて放出されている黒い電気のような気を食らい纏っていくようにさらに巨大になり、チアの身体を超える大きさになっていく。

 

「す、すげぇ……チアのヤツ、どこにこんな力を隠してたんだ……?」

 

「手を休めている場合か! このままではベジータが持たんぞ!!」

 

「あっ!?」

 

 そう、僕らが手を止めてしまえばその分の負担はベジータに集まってしまう。

 

 その結果か、お父さんの代わりに身を挺してフリーザを足止めしてたベジータがついに地面に倒れ込んでしまった。

 

「げはっ……ぐが……ぁ…………」

 

「あなたで遊ぶのも飽きてきました。そろそろトドメを刺してあげましょう…………?」

 

 ま、まずい……このままじゃベジータが殺されてしまう……!

 

 でもフリーザの視線は倒れたベジータではなく、そこから少しずれた海を見ているように見えた。海は波打っていたけど、その海面には不自然に光り輝く何かが写っていて……あっ!?

 

「何だ……?」

 

 それを見ただろうフリーザは不思議に思ったのか反射しているものの正体を探るべく空を見上げた。見上げてしまった。

 

「な!? な、なんだアレは……!?」

 

 そう、海面に反射していた遥か上空にあった物はお父さんが作っている元気玉だ。空を覆いつくす程の大きさのそれを、空を見上げて見逃すはずがない。

 

「い、いつの間にあんなものを……一体誰が!? ……ヤツか!」

 

 そして次にフリーザが気にするのは当然誰があれを作り出したかという事で、思い当たる人などそう多くない現状、その視線はすぐさま空に向かって両手を掲げているお父さんへと向けられた。

 

「ば、バレた……!」

 

「ま、マズい……!」

 

「そうか、さっきのは芝居で、あれが貴方達の切り札というわけか……ならその切り札を使う前に殺してさしあげましょう……!」

 

 こちらの目論見を見破ったフリーザがお父さんを殺すために動こうとして、それに僕らの焦りが高まる。

 

「くっ……! まだか悟空!?」

 

「まだだ! もうちょっと……もうちょっとだ……!!」

 

 お父さんの様子を見る限り、きっとまだあの元気玉は完成していないんだ。だからそれまでの時間を何とか僕たちで稼がないといけない。

 

 ピッコロさんもそのためにお父さんの前でフリーザに立ちはだかるために気を高めている。

 

 けど、それでどれだけ時間を稼げるだろうか……いや、何としてでも食い止めないといけないんだ……!

 

「ふん……」

 

 そんな僕たちの焦りを気にもせずに、抱える程に巨大になっていた気弾を押し潰していくかのように凝縮、両手に収まる程の大きさまで圧縮しながら、チアはこう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「――――対策済みだ」

 

 

 

 

 

 

 

 それと同時に、元気玉を作るお父さんを何とかしようと飛び上がったフリーザを、どこからか飛来した歪な形の気弾が腕と胴を一括りに縛り上げて拘束した。

 

「――――何っ!?」

 

「え……い、一体誰が……!? チアか!?」

 

 すぐさまお父さんの前まで到達すると思われたフリーザの身動きをこうも簡単に止めるなんて、さすがチアだ。さっきは勝手にしろだなんて言ってたけど、やっぱり協力するつもりはあったんだ。

 

 これならお父さんが元気玉を完成させるまで時間が稼げるかもしれない……! 

 

 ……そう思った僕の考えをまるで甘いとでもいうかのようにフリーザが不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ふん……こんなものでこの私を拘束できるとお思いですか……!」

 

 フリーザが力を込めるとぐぐぐ……っと拘束しているエネルギー体が無理やり力任せに引き延ばされていく。このままじゃすぐにでも千切られちゃう……!

 

 その前に元気玉ができればいいけど、お父さんの様子を見る限り、まだかかりそうだ。

 

 ならフリーザが完全に拘束を解ききる前にこっちから攻撃を仕掛けて少しでも時間を稼ぐしかない……! そう考えた僕は気を高めてフリーザに向けて飛んでいこうとして――――――――チアの言葉で動きが止まった。

 

「――――これで、確実に当てられる……!!」

 

「え――――」

 

 何を言って――――と続けようとした言葉はチアの姿を見て消えてしまった。

 

 その両手の間に収まっている圧倒的なまでに気を込められた気弾にさらに気を込めていき、チアはそれを鬼気迫る表情を浮かべてフリーザに向けて突きだした。

 

 

 

 

 

「――――塵も残さず、消えてしまえ……!!」

 

 

 

 

 

 その言葉と共に黒い極光がフリーザへと放たれた――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 強烈な光と共に途轍もない気を感じたかと思えば、黒い気功波がフリーザを呑み込まんと押し寄せた。

 

 それを避ける暇は拘束を解いたばかりのフリーザに存在せず、まともに食らうのもまずいと判断したのか、選択した行動はその手で受け止めるという物だった。

 

「ギィ……!?」

 

「死ね……死ね! 死ねぇ!! 宇宙の塵屑がッ!! 疾くと死ねぇ!!」

 

 その罵詈雑言とともにさらに気が高まり、目に見えて黒の極光が力を増し、それを受け止めているフリーザをどんどんと押し込んでいき、そしてついに、フリーザを呑み込んだ。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

 

「や、やったのか……!?」

 

 

 

 黒い光が通り過ぎ、その場にいる全員が注目するその場所には―――――――腕を突き出して力の奔流に耐えきったフリーザの姿が存在した。

 

 

 

「う、嘘だろ……あ、あの砲撃も受け止めるのかよ……!?」

 

「そ、そんな……!?」

 

 信じられない。あの一撃は先程までの悟空を超える程の力だった。それを完全に受け切るなど……! 化物め……!

 

「ぜぇ……ぜぇ…………糞が……塵が、屑がぁ!! 何故死なんッ!! さっさと、死ねよっ!!」

 

 砲撃を放った張本人も、罵声を吐くが、明らかに疲労している。おそらく先の一撃に全てを賭けたのだろう。無理に無理を重ねた故のあの威力だったのだ。今すぐその場に倒れてもおかしくはない。

 

 ただ流石のフリーザもあのレベルの砲撃を撃ち出してくるガキを見逃すことはできなかったのか、さっきまで悟空を仕留める事に向けていた意識をあのガキに向けていた。

 

「痛かったぞ……! 今のは、痛かったぞっ!!」

 

 フリーザの激昂とともにエネルギー波が放たれ、あのガキはそれをかわす事もできずに爆発に煽られて吹き飛ばされて、そのまま海中へと消えていった。

 

「ち、チアーーーーーー!?」

 

「お、落ち着け悟飯!!」

 

 悟飯が助けに行こうと吹き飛ばされた方へと向かおうとするが、クリリンに止められている。今の状況で少しの戦力を減らすべきじゃない。

 

 それにフリーザの攻撃を受けた直前にバリアーを張っていたのは確認できたからあのガキも何とか原型は留めているだろう。だが、あれではもはや戦闘継続はできないだろう。戦力としては期待できない。

 

 ……正直、あのガキに好印象を抱く事ができない。あの気の質といい、あの言動といい、ヤツは第二のベジータやフリーザになりかねない。同化したナメック星人の言っていた言葉の意味が理解できた気がする。

 

 

 

 ――――だが今回は感謝せざるをえない。なにせヤツのおかげで時間は稼げたのだから。

 

 

 

「――――! 出来た!」

 

「――――ッ! やれぇッ!!」

 

 

 

 その言葉とともに、空に掲げられていた悟空の両手が振り下ろされ、天に座す巨大な元気玉がフリーザ目掛けて降下した。

 

「な!? しまった……!?」

 

 向かってくる元気玉を受け止めるが、さすがのフリーザも止め切る事は出来なかったようで、元気玉はナメック星を削りながらもヤツの身体を呑み込んだ。

 

 

 

(★)

 

 

 

 フリーザが放った攻撃の衝撃に身を任せて海面に叩き付けられながらも海中に逃れた私はそのまま身を潜めてその場から離れていく。

 

 潜水直後に凄まじい衝撃が周囲を襲い海が荒れ果てた――――おそらくは元気玉とやらが命中したのだろうが、それも何とか乗り越えた。

 

 あれで宇宙の塵がくたばったかは知らんが、もういい。ヤツが死んでいようが死んでいまいが関係ない。これ以上あんな奴の相手でこの私の貴重な時間を無駄に消費するなどしてられるか。一足先に私は帰らせてもらう。

 

 

 

 だがメディカルポッドは私がいただく。

 

 

 

 あれがあれば、延命行為にすぎないが時間が多く作れるようになる。己の病みを克服するための時間が作れるのだ。

 

 今回ドラゴンボールが手に入らなかったのは痛いが、せめてメディカルポッドだけは持ち帰る。

 

 空のホイポイカプセルは幾つも持っている。メディカルポッド単体か、大型宇宙船を丸ごとでもいい。それを回収してその辺りに転がっていた小型宇宙船で脱出する。

 

 最高どころか最善とも言えないレベルの戦果だが、ないよりはマシだ。

 

 塵共に関わるのも避けたいので見つからないように気配を隠して海中を移動する。

 

 その途中、幾度かの星が震えるかのような振動、崩壊していくかのような地殻変動、その合間での何度かの息継ぎの末に、大型宇宙船が見えるだろう位置で海上へと浮上する。あとは陸地に上がって宇宙船を回収すればそれで――――と、そこで周囲の様子が明らかに変わっている事に気付いた。

 

「……? 何故、空が暗い?」

 

 先程までは太陽の光に満ち満ちていた空が今ではその面影もなく黒く闇色に染まっていた。

 

 この星に夜は存在しないはず。たとえ星が崩壊する直前だとしても複数の太陽に囲まれているこの星で空が急激に暗くなる事など考えられない。この星に来てからの一週間ほどで夜のように空が暗くなったのはたったの一度、ドラゴンボールを使用した時だけ――――

 

 

 

「――――まさか!?」

 

 

 

 唯一の例外へと思い至り、すぐさまその場所がある方向へと振り返ると、そこには巨大な光の柱――――ポルンガが存在した。

 

 そしてそこへ凄まじいスピードで向かう二つの気配が……すでに私が今から全力で向かっても間に合わない場所まで近づいている……!

 

 何故、一度消えてしまったポルンガが復活しているのか、全く理解できなかった。ただ、不意に舞い降りたチャンスが既に手から零れ落ちている事だけは理解できた。

 

「……ふざけるな、ふざけるなよ……! 願いを叶えるのは、貴様ら塵ではない……この私だぁっ!!」

 

 それでも、諦めてただ座して待つなど出来るわけがない。すぐさま飛び立とうとして――――――

 

 

 

 

 

 ――――――視界が、変わった

 

 

 

 

 

 先程までの暗さから一転して光に溢れ、先程までの殺風景な自然しかなかった風景から人工物溢れる風景に変わり、誰もいなかったはずの周囲には多くのナメック星人たちを含めた塵屑どもに溢れていた。

 

 

 

 何が起こったのか、理解できなかった。ただ、零れ落ちて掬おうとしたそのチャンスが、もはやどうしようもない程に消滅した事だけ、理解した。

 

 



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第十二話 逆十字の誕生

ナメック星編のエピローグです。


 

 あの後の事を簡単に話していこう。

 

 

 

 みんなでつないで何とか作り上げた巨大な元気玉はナメック星に大穴を空けながらフリーザを呑み込んだ。

 

 その衝撃はすさまじく、距離のあった僕とクリリンさんも余波で吹き飛ばされるほどだった。

 

 より近くにいたお父さんたちは無事なのかと心配だったけど、海中から姿を現したお父さんとピッコロさんを見つけてホッとした。

 

 お父さんがボロボロになったベジータを担いできたのには僕たちも驚いたけど、お父さんがベジータも連れて帰ると言った時にはもっと驚いた。

 

 ピッコロさんやクリリンさんは反対したし、ベジータ自身も驚いていたけど、お父さんは今回フリーザとの戦いで生き残れたのはベジータのおかげだって引かなかった。

 

 ……色々と言っていたけど、たぶんお父さんはベジータともう一度戦いたいんだろうなと僕らは察して、お父さんの説得を諦めてベジータも連れて行く事にした。

 

 後はさっき吹き飛ばされたチアを探して、ブルマさんと合流して地球に帰るだけだ――――そう思っていた。

 

 

 

 ――――飛んできた光線がピッコロさんの胸を貫くまでは――――

 

 

 

「ぴ、ピッコロさーーーーんッ!?」

 

「あ……あ…………!?」

 

 光線が飛んできた方向、その先を見た僕たちは絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 フリーザは、生きていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「い、今のは死ぬかと思った……このフリーザが、死にかけたんだぞ……!!」

 

 元気玉を食らってボロボロになってたけど、戦えないほどじゃなくて、僕らを殺すのに何の支障もない様子だった。

 

 

 

 お父さんが僕らに逃げろと叫ぶけど、それを許すフリーザではなく、逃げる間もなくクリリンさんが見せしめのように宙に磔にされ、そのまま爆破された。

 

 

 

 このナメック星への旅の間、色々と教えてもらって僕を助けてくれたクリリンさんの死は、僕にとってもショックが大きかったけど、それ以上に長い付き合いだったお父さんにとっては相当大きなショックだったみたいで、見た事もないぐらいに動揺していた。

 

「く……クリリンは、もう二度と、生き返れないんだぞ……!」

 

 そんなお父さんの様子が少しおかしい事に気付いた。ただ動揺しているだけじゃない。何か、内側に押さえきれない何かが渦巻いているみたいに漏れ出して、髪がざわつき始めいつも以上に逆立っていったんだ。

 

「よ……よくも……よくもクリリンを…………!!」

 

 

 

 そしてついに決定的な変化が起こった。

 

 

 

 

 

 黒髪黒目だったお父さんがいきなり金髪碧眼へと変化したんだ。

 

 

 

 

 

「な、何だ……!? サイヤ人は大猿にしか変身しないはずだ……!?」

 

 そのお父さんの変化には僕たちだけじゃなくフリーザも狼狽えていた。

 

「悟飯……みんなを連れて地球に帰れ。宇宙船ならオレが乗ってきたヤツがある」

 

「え……!? お、お父さんは!?」

 

「オレはここでフリーザを倒す……!」

 

「で、でも……」

 

「いいから行け!! オレの理性が残っている内に!! ……大丈夫だ。オレはフリーザを倒して、必ず地球に帰る……!」

 

 言動も少し荒っぽくなっている気がしたけど、それでも僕らを気遣う所は変わっていなくて、僕はお父さんを信じて重症のピッコロさんとベジータを連れてその場を離れた。

 

 

 

 ……それからチアを探しながらブルマさんと合流してお父さんが乗ってきた宇宙船へと向かっている最中に空が急に暗くなったと思ったら、気付いたら僕らは崩壊しかけていたナメック星じゃなく別の場所に移動していた。そこには僕たちだけじゃなくて、殺されたはずのナメック星の人たちもいたんだ。

 

 後から聞けば、地球のドラゴンボールでフリーザたちに殺された人たちを生き返らせて、その願いで最長老様が生き返った事で復活したナメック星のドラゴンボールでナメック星にいるお父さんとフリーザ以外のすべての人間を地球に転移させたらしい。

 

 直接フリーザに殺されたわけじゃない最長老様がその願いで生き返るかどうかは賭けだったみたいだけど、何とかうまくいったみたいで最長老様も地球へと転移していた。

 

 同じく転移していたデンデにピッコロさんとベジータの治療をしてもらい、あの後どうなったのかを説明した。

 

 ピッコロさんは何でお父さんがわざわざ勝てない勝負のために残ったのか理解できないみたいだったけど、僕はそれを否定した。

 

 

 

 僕は確信していたんだ。お父さんはフリーザに勝って地球に帰ってくるって。

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんはきっとなれたんだから――――――――スーパーサイヤ人に。

 

 

 

 

 

 

 

 …………ただ気がかりだったのが、チアの姿が見えない事だ。

 

 フリーザに吹き飛ばされていた後、探しても見つからなくて生きているのか死んでいるのかわからない状況だったけど、どちらにしても地球とナメック星のドラゴンボールで地球に転移しているのは間違いないはずだ。

 

 

 

 なのに彼女の姿が見えなかった。

 

 

 

 ナメック星の人たちにもチアを見なかったかと確認すると、一人のナメック星人が先程誰かがどこかに飛んでいくのを見たと言っていた。気配を全く感じなかったので見間違いかと思ったらしいけど……多分それがチアだ。

 

 何故チアがすぐさま立ち去ってしまったのかはわからないけど、とりあえず無事に地球にまで戻ってこられた事には安心した。

 

 

 

「――――地球のお方、一つよろしいですか?」

 

 

 

 そんな時に、最長老様が話しかけてきたんだ。

 

「あ、はい。何でしょう?」

 

「もし、彼女――――チアという少女に会ったら伝えてほしい事があるのです」

 

 

 

 そして最長老様はチアに伝えたいという言葉、想いを口にしていった。

 

 

 

「――――……以上です。できれば今の言葉を彼女に伝えていただきたい」

 

「えっと、今のはどういう……?」

 

「ああ、無理に言葉の意味まで理解する必要はありませんよ。きっと彼女はそれを嫌がるでしょう」

 

 最長老様の意図が僕にはちゃんとわからなかったけど、ちゃんとチアに伝えることを最長老様と約束した。

 

 

 

 その後、多くのナメック星人たちに囲まれて惜しまれながら、最長老様は息を引き取られた。

 

 ピッコロさんやクリリンさんが殺された時と同じく悲しい気持ちはあったけど、今回はその最長老様の死が単純に理不尽なモノだとは思えなかった。

 

 言葉にするのは難しいけど……最長老様を慕いその死を純粋に悲しむ多くのナメック星の人たちに囲まれて亡くなった最長老様の最期の表情が、きっとただ悲しいだけのものじゃないと思えた。

 

 親しい誰かの死というのは間違いなく悲しい事だ。けど、死ぬっていうのはきっと単純に理不尽なものじゃないんだって思えたんだ。

 

 

 

 ……でも、最長老様の言っていた事は本当にどういう事なんだろう?

 

 

 

「生きようと思う事は、当たり前だと思うんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 …………その時の僕は、その『生きる』という意味を全く理解できていなかったんだ。

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 夜空を彩る星々は、厚い灰色の雲によって隠され、空から雨粒が地上に降り注ぐ。

 

 その場所は村のようだったが、そこにある建物はボロボロであり、人の気配が感じられず、長い間人の生活した形跡が見られない……所謂廃村というものであった。

 

 そんな廃村の中で他の建物と同様にボロボロになった教会、その扉が開いていた。

 

 教会の中はというと、何か珍しいものがあるわけではない。扉の先には質素な礼拝堂があり、長年人の手が入っていないが故に埃に塗れていた。

 

 そこに足を踏み入れた一人の少女――――チアは身体に滴る雨と体液でぐちょりという音を立てながら倒れ込んだ。

 

 ナメック星にて全て――――身体の維持する力も含めたあらゆる力をあの一撃に注いだ反動、それが今時間差でチアの身体を襲っていた。

 

 身体操作による常態維持が上手く機能できず、その身体は所々に病魔による歪みが生じ――――否、そもそもとしてそれらは存在していたそれらを抑える事が出来なくなっていた。

 

 息を吸えば、腐った体液が空気とともに肺へと侵入してくる。無意識呼吸など恐ろしくてできない。どこであろうと気を緩めれば溺れる危険があったからだ。

 

 心臓が動けば、圧に耐えきれずに血管が破裂する。送られる血液自体が腐っていれば、それを通る管も、送り出す臓器すらも腐っていた。

 

 胃はただ只管に腐った酸を放出し続け、腸は仕事を放棄し汚物を蓄えるだけの保管室と化している。故に早々に食事をとる事をやめた。口にしている固形物は仙豆のみである。

 

 脳すらも眠りにつけと意識を落とそうとしてくる。その行き着く先が死であるのがわかっているはずなのに。故に今まで意識を落とした事などない。睡眠とは死と同義なのだから。

 

 

 生きるためのあらゆる行為が、肉体と精神を蝕み、死へと近付けていく。

 

 

 自身の肉体すらも味方ではない。己を死へと追いやろうとする障害と化している。

 

 それが日常化しているのだ。最早生きていられる状態ではない。

 

 それでも彼女は生き続けてきた。生きたいという一念だけで病魔に抗ってきた。

 

 己に死を与えようとする世界こそが間違っているのだと断じて、それを覆すために奔走した。

 

 

 

 

 

 

 

 だが――――それもここまでだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンボールを求めた。方策を練った。致命的なミスはなかった。一度は願いを叶える目前まで至った。

 

 

 

 

 

 それでも希望は、手からすり抜けていった。

 

 

 

 

 

 激痛は変わらず襲ってくる。しかしその感覚は薄くなっている。痛みが和らいだわけではない。それに反応する意思が弱まっているのだ。

 

 命の灯火が消えていく。それに微かに抗うためか、あるいは消えていく余韻か、薄れていく意識の中でふと上を見れば、教会の礼拝堂に安置された十字架に磔にされた聖人像がこちらを見下ろしていた。

 

 その聖人像の眼差しは何を思って作られたのか……それは最早わからない。慈愛だったのかもしれない。祝福だったのかもしれない。あるいは救いだったのかもしれない。

 

 

 

 だが――――チアはそのようには受け取らなかった。

 

 

 

「……み……くだ、すな……」

 

 

 

 ――――罪科により、裏切りにより磔にされた塵にすら見下されるなど、ふざけるな。

 

 

 

「あわ、れむなッ…………!」

 

 

 

 ――――糞が、塵が、屑が……! この私を、見下すな……! 憐れむな!

 

 

 

 怒りか、はたまた怨念か、執念か。消えかけていた意思たる灯火が再び燃え上がる。

 

 それに伴い身体を襲い続けている激痛を精神が再び感知し始める。

 

 しかしその痛みはチアにとって日常であり、人生における隣人であり、潰すべき敵であり、生きている証明でもあった。

 

 

 

 終わるのか? 諦めてしまったのか?――――そんなわけがないだろう……!

 

 

 

「ふざッ、けるな……ッ! 私は、死なんッッ……!! 絶対にぃ……生きるのだッ!!」

 

 

 チアの中で生きる意思が爆発的に燃え上がり、意思とともに身体から力の波動が放たれ、その衝撃は教会を内側から吹き飛ばした。

 

 夜空に一時響く炸裂音、その後に残る雨の音、雨と瓦礫が夜の帳から降り注ぐ中、崩壊した家屋にてチアは血反吐を吐きながら一人悠然と立ち上がる。

 

 

 

「――――私が、間違っていた」

 

 

 

 何を馬鹿な事を考えていたのだろうか、そう思わざるを得なかった。

 

 

 ドラゴンボールは全てを集めた者の願いを叶える希望だ。神とやらが哀れな人間に施しとして与えた奇跡だ。世界が許容する範囲で願いを叶えるシステムだ。

 

 

 私は愚かにもそれに縋ってしまったのだ、と悔いていた。

 

 

 

 

 ――――私に不条理を押し付ける間違った世界が、その間違いを自ら正そうとするはずがないのに。

 

 

 

 

 

 その結果が今の有様だ。ドラゴンボールに拘った結果、願いを叶えられず、何の収穫も得られずにただ時間を無為にしたのだ。

 

 

 

「そうだ……私は、ドラゴンボールなどに頼るべきではなかったのだ」

 

 

 

 ――――施しなどいらない。求めるモノはこの手で奪い、手に入れる。それらは献上され、徴収すべきモノだ。

 

 

 

 ――――乞い願い、それで天がそれを施してくる。それではまるで、私が世界に屈服したようではないか。

 

 

 

 ――――私は決めたはずではないか。例え外道畜生と指差されようとも、どんな手を使ってでも快復して見せると。

 

 

 

 ――――優秀な私が短命で、愚劣な塵屑共が長く生きる世界など間違っている。

 

 

 

 ――――故に正すのだ。間違っている世界を、この私が正すのだ。

 

 

 

 

 

 ふと周囲に目を配ると、先程まで礼拝堂で祀られていた聖人像が、十字架に磔にされたまま逆さまの状態で落下していた。

 

 

 奇しくもそれは、上から見下ろしていた先程とは違って下からチアを見上げる状態になっていた。

 

 

「そうだ……これこそが、正しい形だ……!」

 

 

 

 ――――貴様ら生きているのなら私の役に立てよ。それが道具たる役割だろうが……!

 

 

 

 ――――役に立たないのなら塵なりに分を弁えろよ。地に臥せて見上げていろよ……!

 

 

 

 ――――邪魔をするなら逆さ十字に磔にして、頭を垂らさせればいいだけの事だ……!

 

 

 

 

『――――あなたは、悪に染まる必要はないのですよ』

 

 

 

 ふと、どこかの道具が口にした言葉を思い出す。それに対して、私はどう返しただろうか?――――――――決まっている。その答えは今とて何ら変わっていない。

 

 

 

 

 

「――――私は、望むべくして外道となったのだ」

 

 

 

 

 

 そしてチアは再び歩み始めた。月も星も照らす事のない闇の中へと……

 

 




これにてナメック星編が終了となり、次回から人造人間編へと移行します。

ナメック星編はプロローグ的な位置でしたのであまり原作から乖離しないようにしましたが、人造人間編からは徐々に原作から外れていくでしょう…………多分。

なので更新速度は今まで以上に遅れてしまう可能性がありますが、どうかご容赦を……


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人造人間編
第十三話 新たなる脅威


 あのナメック星での戦いが終わってから約一年が経った。お父さんはまだ帰ってこない。

 

 

 

 

 

 僕らの転移に合わせて地球にやってきたナメック星のドラゴンボールを使わせてもらい、クリリンさんとヤムチャさん、餃子さんと天津飯さんが生き返った。

 

 その時にお父さんも生き返らせてもらおうとしたんだけど、ポルンガがお父さんは生きている事を教えてくれた。

 

 戦況を見ていた界王様から、フリーザに勝利したけどナメック星の爆発に巻き込まれて死んだと聞かされていたから、僕らはお父さんの生存に驚き、そして喜んだ。

 

 さっそく僕らはポルンガに頼んでお父さんを地球に呼び出してほしいと言ったんだけど、お父さんはその内自分で帰るからとそれを拒否したんだ。

 

 だから一先ず残りの願いでヤムチャさんを、そして次の願いで天津飯さんと餃子さんを生き返らせて、最後の願いでナメック星の人たちをナメック星と似た環境の星へ転移させる事になった。

 

 

 

 ……本当はチアの願いも叶えて上げたかった。どんな願いなのかわからないけど、僕たちがチアに助けられたのは確かだし、それがチアにとっての感謝になるのならそうするべきだと思ったからだ。

 

 でも他の皆にはやめておけと反対された上に、願いの具体な内容がわからないから叶える事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 ちなみに生き返ったナメック星の人たちだけど、ナメック星のドラゴンボールで新しいナメック星へと移り住むまでの間、ブルマさんの家であるカプセルコーポレーションで生活していた。

 

 ブルマさん曰く「ドラゴンボールを使わせてもらうんだからこれくらい安いものよ!」と言っていたけど、ナメック星の住人全員を全て受け入れられる辺りスケールが違うなぁと思った。

 

 ベジータ……さんも同じくブルマさんの家に居候する事になった。ベジータさんの危険性を知っているはずなのに「行くとこないならうちに来なさいよ」と提案できるブルマさんはやっぱりスゴイ。

 

 ベジータさん本人はというと、前までのように不老不死を望んでいるようではなく、暴虐に振舞うでもなく、修行をしているぐらいで、ただ地球に居残っていた。

 

 多分だけど、お父さんがスーパーサイヤ人に至った事が衝撃的で不老不死なんかよりもお父さんに追いつく事の方が重要になったんだと思う。

 

 あと、ブルマさんとしては本当はチアも引き取りたかったらしいけど、いないものは仕方ないと溜息をついていた。「あの子、性根は腐ってるけど、頭は私レベルにいいからこき使ってやろうって思ってたのに……」なんて言ってたけど、ブルマさんなりにチアを心配してるのがよくわかった。

 

 それにしてもチアは一体どこに行ってしまったんだろう。お父さんの行方も気になるけど、チアの行方も気になる。気で探そうにもチアは自分の気を完全に隠せてしまうから察知できないし……今度はいつ会えるんだろう……

 

 

 そんなことを想いながら日々を過ごしていき、そして、ナメック星の人たちが最後の願いで地球を去ってから、さらに一年程が過ぎた。

 

 

 お父さんのいない日常にも慣れてきてしまった僕は家で勉強をしていると、ずっと遠くから巨大な気が近付いてくるのを感じたんだ。

 

 その気を感じた僕はすぐさまナメック星で着ていた戦闘服を身に纏い、お母さんの止める声も振り切って飛び立った。

 

 その胸にあるのは希望や期待なんかじゃない。かつての経験から来る恐怖だ。

 

 

 

「最悪だよ、お父さん……!!」

 

 

 

 

 

 感じ取った気の正体はフリーザのものだった。

 

 

 

 

 

 お父さんは、まだ帰ってこない。

 

 

 

(★)

 

 

 

 途中でクリリンさんと合流し、フリーザが来るであろう場所――――幸いにも人気のない所々に岩山がある荒野に到着した時には既に他の皆も到着していた。

 

 ピッコロさんにベジータさん、ヤムチャさんに天津飯さん、餃子さんと、地球で戦える人たちが集まっていたのは予想通りだったけど、さらにブルマさんとプーアルさんまで来ていて驚いた。どうせ死ぬならフリーザの顔を見たいから来たらしい。

 

 

 

 そして、僕たちが久しぶりの親交を深める間もなく、その時が来た。

 

 

 

「――――来たぞッ!」

 

 ナメック星で見たフリーザの宇宙船に似た船が空から降りてきて、僕らのいる場所から岩山を一つ挟んだ辺りへと着陸するのを確認した。

 

 フリーザの他にも、それに似た大きな気を感じる……!

 

「貴様らすぐに気を消せ! スカウターで悟られるぞ!! 奴らに気付かれないように歩いて近付くんだ……!」

 

 ベジータさんの指示に僕らは従い、気配を消して歩いていく。気付かれてフリーザに先手を取られたら僕たちは完全に終わってしまう。

 

「っ…………!」

 

「お、おい……フリーザってのは、こんなにすさまじいのか……!?」

 

「こんなもんじゃありませんよ。ここから何回も変身をしてもっと強くなっていきます」

 

「そ、そんなヤツと戦っていたのか、お前たちは……!?」

 

 天津飯さんとヤムチャさん、それに餃子さんは僕の言葉にさらに衝撃を受けている。僕もナメック星では同じようにショックだったんだから気持ちはわかる。

 

「こ、こんな化物みたいなヤツが、それももう一人いるだなんて……どうしようもないじゃないか……!?」

 

「そんなことは誰だってわかってるんだよ」

 

 

 

 ヤムチャさんが思わず口にした言葉を切っ掛けに、この場にいる誰もが思っていた事を、ベジータさんが断言した。

 

 

 

 

 

 

 

「言ってやろうか? 地球は終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 それを否定する声は、誰からも上げられなかった。

 

 

 

 

 

「くそ……せっかく生き返ったっていうのに、また死んじまうのか……」

 

「ご、悟空は!? 悟空のヤツはまだ帰ってないのか!?」

 

「か、帰って来てません……」

 

「今いないヤツなど当てにするな!」

 

 

 僕たちをどうしようもない絶望が包み込んでいた……その時だった。

 

 

 

 ――――突如として、一人の気配がフリーザたちの近くに現れたんだ。

 

 

 

「―――――!?」

 

「な、何だこの気は……!? どこから現れた……!?」

 

「こ、この気は……!?」

 

 

 

 ヤムチャさんや天津飯さんたちが戸惑う中で、その気が誰のものなのか、僕は知っていた。

 

 

 その気の持ち主は――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 地球へと着陸した宇宙船の中から多くの部下を引き連れて二人の人影が現れる。

 

 それはかつてナメック星で瀕死の重症を負い欠損箇所を機械で補った宇宙の帝王フリーザであり、その隣にいるのはその父であるコルド大王であった。

 

 彼らの目的は孫悟空への復讐である。

 

 フリーザはその身に受けた屈辱を返すため、コルド大王は最強を誇る自らの一族の名に泥を付けたスーパーサイヤ人という存在を消すために、孫悟空の故郷とも言える地球へとやってきたのだ。

 

 超サイヤ人というかつて全力のフリーザですら敵わなかった相手ではあるが、今のフリーザはたとえ超サイヤ人相手でも単独で勝てると想定できるほどにパワーアップをしている上に、万が一でもコルド大王と二人掛かりであれば間違いなく勝利できると踏んでいた。

 

「それで、ソンゴクウとやらが来るまで待っているのか?」

 

「それじゃボクの気がすまないよパパ。孫悟空が戻ってくるまでの間で地球人を皆殺しにしてやるんだ。悔しがる姿が目に浮かぶよ」

 

 途中で孫悟空が乗っているだろう宇宙船を追い越したのを確認していたフリーザたちは、今地球に孫悟空がいない事は理解していた。

 

 ならばその到着を待つがてら地球人を皆殺しにする事で悔しがる孫悟空の歓迎をしようと考えたフリーザは、連れてきた部下たちに指示を出して地球人の駆除に向かわせようとした時の事だった。

 

 

 

 

 

 ――――その背筋に、寒気が走った。

 

 

 

 

 

「―――――――!?」

 

 

 

 寒気の元を探るために咄嗟に振り向いた先にいたのは、先程までは影も形もなかったはずの一人の少女であった。

 

 

 

 体格としては華奢で、背は子供と称する程度に小さかった。

 

 僅かに覗くその肌は、地球人としては青白いと表現するほどに白かった

 

 肩下まで伸びているその髪は色素が抜け落ちたような薄い黄緑色をしていた。

 

 その特徴的な目は、まるで腐っているかのように濁っていた。

 

 

 

 その少女を、フリーザは見覚えがあった。

 

 超サイヤ人であり自身に黒星を付けた孫悟空を始めとした、あのナメック星で邪魔をしてきた連中の中で最も苛立ちを与えられた地球人だ。

 

 第二形態では甚振られ、最終形態でも痛みを感じる程の一撃を放ってきたこの少女をどうして忘れようものか。

 

 

「……ああ、憶えていますよ。ボクの事を塵呼ばわりして、そのくせボクに手も足も出なかった地球人ではないですか」

 

 

 胸の内に蘇る苛立ちを発散させるかのように放たれたそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。ただ一歩、近づいてきた。

 

 

「嬉しいですねぇ……ボクね、貴女をこの手で八つ裂きにしてやりたいと思っていたんですよ」

 

 

 何の反応もない事にさらに苛立ちながらも続けるそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。ただもう一歩、近づいてきた。

 

 

「万が一にも貴女に勝ち目はありませんよ。なんせナメック星にいた時よりもさらに強くなりましたからね」

 

 

 不思議といつも以上に饒舌なそのフリーザの言葉に対して少女は何も答えない。またさらに一歩、また近づいてきた。

 

 

「――――~~~!! 黙っていないで、何か反応してみせろ! 虫けらがっ!」

 

 

 望む反応が返ってこないどころかまるで眼中にないとでもいうかのような少女の様子に、感じた不安と先程の寒気を掻き消す程に激昂したフリーザの指先からついに光線が放たれた。

 

 

 

 指先から放たれた光線はそのまま少女へと向かっていき、少女を貫かんとする。

 

 

 

 と、その時、タイミングとしては聞こえるはずのない声が、フリーザの耳に滑り込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――邪魔だ、塵屑」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……気付けば、少女の姿は細切れ(、、、、)にされた(、、、、)フリーザの背後へと移動していた。

 

 

 

「なっ!? フリーぐぼぉッ!?」

 

 バラバラの肉片と化し、ガチャガチャベチャベチャという不快な音を立てながら地に散乱したフリーザに気を取られたコルド大王の腹を、少女の放った気功波が撃ち貫いた。

 

 

 

「ふ、フリーザ様とコルド大王が……!?」

 

「に、逃げ――――」

 

 

 

 トップ二人が瞬く間に殺されたことから恐慌状態に陥りその場から逃げ出そうとする部下たちを、少女の放った気功波が纏めて消し飛ばした。

 

 

 

「ふん……私の手を煩わせるなよ」

 

 

 

 さらに少女の身体から生み出された無数の気弾が、離陸態勢に移行しようとしている宇宙船の中へと一糸の乱れもなく飛来して侵入していき、内部を鮮血に染めながら直にその動きを止めた。

 

 

 

 

 

 少女の登場から一分も経たない間に、地球へと襲来したフリーザたちは文字通り全滅したのだった。

 

 

 

(★)

 

 

 

 突如としたフリーザたちの側に現れた気配を感じてすぐさまその場へと向かった僕らは呆然としていた。

 

 

 原型をとどめていない肉片。腹部に穴の開いたフリーザによく似た死体。吹き飛ばされた土砂に紛れた戦闘服を着た複数の死体。

 

 

 目の前に広がるこの光景が、今宇宙船に向かって歩いている僕とそう変わらない年頃の、僕よりも小さく華奢に見える一人の少女によって生み出されただろうことが信じられなかった。

 

 

「あ、あの有り得ないほどの強大な気を持ったフリーザがこうもあっさり……!?」

 

「な、何だあの女の子……!? あの子がやったのか!?」

 

 天津飯さんとヤムチャさん、餃子さんも驚いて少女の正体を気にしているけど、僕はあれが誰なのか、知っていた。

 

 少し髪や背が伸びたとは言え彼女の姿と先程感じた気を、他の誰かと間違えるはずがない。

 

「チア……」

 

「チア? 確か宇宙船に忍び込んで一緒にナメック星に行ったという……」

 

 それは、僕らがまだ現実に起きた事への衝撃から気を取り戻せていない時の事だった。

 

「――――~~~~~~ッ!!」

 

 僕らと一緒にそのチアの様子を見ていたベジータさんがいきなり三発、気功波を放ったんだ。

 

「ベジータ!?」

 

「な、なにを!?」

 

 一発目はバラバラになった死体に、二発目は腹部に穴の開いたフリーザに似た死体に、そして三発目は宇宙船へと放たれ――――三発目だけ宙で急に爆発したと同時にベジータさんの頬を掠るように一筋の気弾が通り過ぎていった。

 

「何のつもりだ、塵屑……」

 

 気弾を放っただろうチアはこちらに……ベジータさんへと視線を向ける。次は中てると言わんばかりに緊張感が高まっていく中で、ベジータさんは何か激情を抑え付けるかのように強く歯を噛み締めながらチアへと言葉をかける。

 

「クソガキ、貴様……それほどの力を、どうやって手に入れた……!?」

 

「塵に話す必要はない」

 

「答えろと言っているんだ!」

 

「お、落ち着けよベジータ!」

 

「それよりお前、その宇宙船をどうするつもりだ……?」

 

 そのまま飛び掛かってもおかしくないベジータさんをクリリンさんが何とか宥めて落ち着かせている間に、続いてピッコロさんがチアへと問い掛けた。

 

「これは私の戦利品だ。それをどうしようと私の勝手だろうが」

 

 そのピッコロさんの問いかけにそう答えながらチアはその宇宙船を大型用のカプセルに収納してその手に収める。けれどその事に対してヤムチャさんが異議を唱えた。

 

「待てよお嬢ちゃん。宇宙船の解析なら天下のカプセルコーポレーションでやってもらえばいいだろう?」

 

 だからそれをこっちに渡すんだ、とヤムチャさんが手を差し出して催促するが、チアはそれを鼻で嗤う。

 

「お前ら如きが私に命令するなどと……笑わせるなよ塵屑共」

 

「ご、塵!? ちょっと強くてカワイイからって人に向かって何て口の利き方をするんだこのガキ!?」

 

「塵を塵といって何が悪い? お前らがこの宇宙の塵屑共の始末もできないからこの私がわざわざ下さなければならないのだろうが……ついでだ、纏めて消し飛ばしてやろうか……?」

 

 そう言いながらチアの鋭い目付きがさらに鋭くなってくる。それに対するヤムチャさんたちもその言葉と視線を受けてすぐに構えを取っていた。

 

 このままだと本当にチアとみんなが戦うことになりかねないと思った僕は、すぐに両者の間に入った。

 

「ちょっと落ち着いてチア! みんなも喧嘩腰にならないでください! チアは地球を救ってくれたんですよ!」

 

「た、確かにそうだが……しかし宇宙船をそのまま渡してもいいのか?」

 

 確かにブルマさんに解析してもらった方がいいのかもしれないし、そのままにしておくよりは壊した方がいいのかもしれないけど……でもチアの言い分もわからなくもない。何もしてない僕たちがそれだけもらっていくというのもおかしい気もする。

 

 と、僕が悩んでいると、その解析ができるブルマさんが口を開いた。

 

「……別に宇宙船の所有権に関してはとやかく言わないわ。個人的には解析したいけどね……でも! 前にうちから持っていった資料は返しなさい! あれ一応社外秘なのよ!」

 

「……まあいい。私にはもう必要のないものだ」

 

 そのブルマさんの言葉に、チアが渋々と言った感じでカプセルをポイっと放り投げると、ボンという音とともにカプセルに入っていた資料がその場にばら撒かれた。

 

 ブルマさんがそれをかき集めるために駆け寄るけどもそれを気にすることもなくチアは宇宙船を入れたカプセルを仕舞いながら宙へと浮かび上がる。

 

「ちょっと、もっと大事に扱いなさいよ……ってどこにいくのよ!?」

 

「あ、待っ――――」

 

「ちょっと待ちなさいよー! 別の本を読みたくなったら私に一声かけたらうちに来て読んでもいいから! でも無断で持っていくのはダメよー!!」

 

 僕の呼びかけに答える事もなく、ブルマさんの言葉に何か返答する事もなく、チアはそのままその場から飛び去って行った。

 

 チアが去った事に対する反応はほっと息を吐いたり、苦渋に満ちた表情を浮かべてたり、飛んでいった方を憎々しげに睨み付けていたり…………人によって様々だったけど、チアを追いかける人は誰もおらず、沈黙が流れた。

 

 そんな沈黙を破ったのはやはりというか、ばら撒かれた資料を集め終わったブルマさんだった。

 

「もう、あの子ったら自分勝手なんだから……! 人の話くらい最後まで聞きなさいよね!」

 

「はは……まあチアですから……」

 

「しかし、あのような少女がいるとは……」

 

「お前たちよく一ヶ月以上もあんなのと一緒にいれたな」

 

「ははは……」

 

「で、でもチアにも良い所もあるんですよ」

 

「え?嘘だろ」

 

「例えば?」

 

「……頭がいい所とか」

 

「それはこの場合の良い所に含めてもいいのか?」

 

「個人的には人格面での良い所を知りたいんだが……」

 

 

 

 ……結局皆を納得させられるようなチアの良い所は上げられなかった。

 

 

 

 

 

(★)

 

 

 

 

 

 フリーザの来襲、そしてチアとの思わぬ再会の後、みんなと別れて家に帰ると待っていたのは怒りに染まったお母さんだった。

 

 勉強を放ってどこかに飛んでいった僕を叱るお母さんに僕はその理由と重要性を説くけれど、お母さんに「地球の未来よりも悟飯ちゃんの未来の方が大事だべ!」と言われてしまった。地球の未来がなくなったら僕の未来所じゃないと思うんだけど……

 

 そんなお母さんからの説教を受けていた時の事だった。

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 

 しばらく聞いていなかった、それでいてずっと聞きたかった声で、暢気な様子で家の中に響いてきたんだ。

 

「え……? この声は……!?」

 

「悟空さ!?」

 

「おう、今帰ったぞ」

 

 それは、ナメック星で別れてしまってから行方がわからなかったお父さんだった。

 

「今まで何してただ! おらたちがどんだけ心配したと……!!」

 

「わ、わりぃなチチ。脱出に使った宇宙船でいったヤードラットっていう星で面白れぇ技教えてもらっててさ……」

 

 お母さんの怒りの矛先がお父さんに向いた事で僕は解放されたけど、お母さんの剣幕を前にしてもお父さんは特に反省とかはしてないみたいだった。それがお父さんらしいと言えばらしい。

 

 なんて思っていると、お父さんが僕の頭の上にポンと手を置いた。

 

「よく頑張ったな、悟飯。フリーザの宇宙船がオラの乗ってた宇宙船より早かったからちょっとばかし間に合わなかったけど、おめぇオラがいなくてもフリーザを止めようとしたんだろ」

 

「あ……でも結局僕は何もしてなくて、チアが全部終わらせたんだ」

 

「あー、確かナメック星にいた女の子だったか? あの子がやっつけちまったみてぇだな。思ってた通りやっぱ強かったんだな。オラ一回戦ってみてぇぞ」

 

「戦い戦いって、そんな事ばっか言ってねぇで悟空さも少しは働いてけれ!! もうみんな生き返って地球の危機もなくなって万事解決したんだべ!? 」

 

「あー……その事なんだけどな、チチ……」

 

「何だべ? まさかまたどっかに行っちまうだなんて言わねぇだな?」

 

「お父さん、もしかして何かあったの?」

 

 お父さんにしては珍しく、何か言いにくそうな感じで言葉を選ぼうとして、でもうまく纏まらなかったのか結局はいつもみたいな感じであっけらかんとこう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――何かオラ、もうちょっとしたら死んじまうんだってよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………え?』

 

 

 

 

 

 それは、新しい戦いの幕開けだったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話 襲撃!恐るべき人造人間

今回から本格的に人造人間編開始です。

原作をなぞりつつもちょっとした差異の説明回のはずが、思った以上に長くなってしまいました……


 宇宙の塵屑がわざわざ地球にまでメディカルポッドを届けに来た。

 

 その他の処理に手を煩わされたが、まあ塵屑にしては役に立ったのでよしとしよう。

 

 メディカルポッドを使用する事で身体の維持に意識を向けなくて済む時間ができた。

 

 根本的な病みの根治はできず、あくまで対症療法による時間稼ぎにすぎないが、それでもその効能は大きかった。

 

 何せ眠りに落ちても死なないのだ。病みにより崩れようとする身体を、メディカルポッドの機能によって一時的に意識せずとも抑えられるようになった私は初めての睡眠を体験した。

 

 メディカルポッドの治療の終了で痛みとともに睡眠から目が覚めた時、その頭の冴えの違いに驚いたものだ。

 

 今までの思考がまるで虫食いだらけの襤褸屑のように頼りないものだったようにも感じてしまう。それだけ睡眠という物は生物にとって重要であり、それをできなかったこの身体を与えた世界は間違っているという事を再認識した。

 

 

 

 そして、思考が冴え渡るにあたり、昔の事も思い出した。

 

 

 

 睡眠時に見る夢は、記憶の整理による現象であるとも言われている。故に今まで乱雑に管理されていた年単位の記憶が整理された結果なのだろう。

 

 その記憶は私にとって不快なものであり、そしてそれ以上に有益であった。

 

 不快であっても有益であるのならば、捨て置く理由などありはしない。

 

 

 

 

 

 ――――さあ、私の役に立てよ。お前の存在価値など、それだけだろうが

 

 

 

(★)

 

 

 

 お父さんが地球に帰ってきた時に、新たな脅威の存在が発覚した。

 

 

 

 

 

 その名は、人造人間

 

 

 

 

 

 かつてのレッドリボン軍という組織にいたドクター・ゲロという科学者が生み出した生体兵器で、南の都の近くの町に突如として現れ、殺戮と破壊の限りを尽くし、世界を恐怖のどん底へと突き落とす。

 

 

 それが、三年後に(、、、、)起こる世界荒廃の始まりだと、未来から(、、、、)来た青年はお父さんに伝えたのだという。

 

 

 そんな話をお父さんから聞いた、再び集まった僕ら――居場所のわからなかったチアを除く――は、判断に困った。

 

 

 ――――その話を信じられる根拠は?

 

 ――――その青年って誰だよ?

 

 ――――そもそも未来から来たって……?

 

 ――――でも悟空がこんな嘘わざわざ吐くか?

 

 

 どう考えても与太話にしか聞こえない話だけど、お父さんがそんな嘘を言うとは思えないし、その見も知らない青年の嘘を何の根拠もなく信じるなんて、さすがのお父さんもしないだろうと思ったからだ。

 

 お父さんはどうしてその青年の事を信じたのかを聞いてみると、「え? 嘘言っているようには見えなかったしなぁ」という何とも感覚的な答えが返ってきたんだけど、その他にもこんな答えが出てきた。

 

 

 

 何とその青年はスーパーサイヤ人になれるらしい。

 

 

 

 現在、生き残っているサイヤ人はお父さんとベジータさん、それに僕しかいない。

 

 だったら未来から来るでもしないとおかしいだろうとお父さんがあたかも思い付きのように口にして、それに対してじゃあ誰の子どもなんだという話になって、「え、それは……」とお父さんは口を噤んでしまった。……結局青年の正体に関してはよくわからなかった。

 

 そのままだと話が進まないから、未来の僕たちは何をしているのかという話に変わった。スーパーサイヤ人になれる人が二人もいるはずなのに何もしていないのはおかしいだろうという当然の疑問だったが、想像以上に未来は残酷だった。

 

 どうやら最初の襲撃の後、人造人間の暴挙を止めるために立ち上がった戦士は、僕以外みんな殺されてしまったらしい。

 

 生き残った僕以外死んでしまったという事は、ピッコロさんも死んでしまったわけで、つまり神様も死んでしまってドラゴンボールは消滅。それ以降死者を生き返らせる事ができなくなってしまった。

 

 その後、未来の僕はその青年とともに破壊活動を行う人造人間に抵抗していたものの、数年前に人造人間に殺されて、地球で戦える戦士はその青年だけになってしまったそうだ。

 

 ちなみにお父さんは人造人間が現れる前にウイルス性の心臓病で死んでしまうらしい。その治療のための薬も貰ったのだという。

 

 

 

 結局ここで話していても何が正しいのかなんてわからないという事で、修行する人は各自して、一先ず人造人間襲撃予定日には集まるという結論に至った。

 

 

 

 僕は何とかお母さんを勉強もちゃんとするからと何とか説得して、お父さんとピッコロさんと三人で修行する事になった。

 

 

 

 

 ――――そして、三年の月日が流れた――――

 

 

 

(★)

 

 

 

 お父さんが帰って来て、新たな危機が訪れる事を告げてから、三年の月日が流れた。

 

 

 僕たちは南の都の近くの島にある街を一望できる場所までやってきていた。

 

 

 そこに来ていたのは、僕とお父さんを除けば、クリリンさんと天津飯さん、ピッコロさんにヤムチャさん、そしてブルマさんとその腕に抱きかかえられた赤ちゃんだった。話を聞いていないチアはともかくベジータさんは来ていなかった。ちなみに餃子さんは天津飯さんに実力的についていけないと判断されて置いてこられたらしい。

 

 ブルマさんの腕の中にいる赤ちゃんを見て、僕はブルマさんとヤムチャさんが結婚したのかと思ったけど、どうやら違ったみたいで、ヤムチャさんが面白くなさそうな顔で「俺達結構前に別れたんだよ」と口にした。

 

 なら誰との子供なんだろうと疑問に思っていれば、お父さんが父親はベジータだろと赤ちゃんの『トランクス』という名前と共に言い当てたのだ。

 

 ……僕らとしては、お父さんがそれを言い当てた事よりも、この赤ちゃんの父親がベジータさんであるというのにすごく驚いてしまった。既に知っていたヤムチャさん以外の人も僕と同様に驚きを隠せないようだった。

 

 その後、スカイカーに乗ってカリン塔から仙豆を持ってきてくれたヤジロベーさんと軽く話をして、人造人間の襲来を何とかするために頑張らないと……と、気を引き締めた――――その時にそれは起こった。

 

 

 

 

 帰っていくヤジロベーさんのスカイカーが、突如として空中で爆発したのだ。

 

 

 

 

 僕は急いでヤジロベーさんの救助に向かったんだけど、そこから事態は急激に進んでいったんだ。

 

 

 

 気を感じないのに起こり続ける人造人間による街での破壊活動が始まり、僕らが手分けして人造人間の捜索をしている所でヤムチャさんが襲撃を受けて気が小さくなっていくのを察知した僕らは急いでその場に急行して、その姿を目の当たりにしたんだ。

 

 

 太った男の姿をした人造人間19号と、年老いた男の姿をした人造人間20号、そして人造人間20号に腹を貫かれているヤムチャさんの姿を。

 

 

 何とかヤムチャさんに仙豆を食べさせて回復させた後に、街中から場所を人気のない岩山に囲まれた荒野に移して、お父さんと人造人間19号の戦いが始まった。

 

 

 スーパーサイヤ人になったお父さんは、けれどどこか様子がおかしくて、最初は19号を圧倒していたけど、徐々に息が切れて逆に19号に押されるようになっていった。

 

 

 その様子を見て、気付いたんだ。お父さんが未来で掛かったっていう心臓病が、未来よりも遅れて進行し始めたんだって。

 

 

 そのまま劣勢になったお父さんの気を吸い尽くしてトドメを刺そうとする19号を食い止めようと僕たちも飛び出そうとした時、誰かがお父さんを抑え付けていた19号を吹き飛ばしたんだ。

 

 

 

 19号を蹴り飛ばした影の正体は、ベジータさんだった。

 

 

 

 そのベジータさんが何とスーパーサイヤ人へと変身して、そして19号をあっさりと破壊してしまった。

 

 

 その様子を見ていた人造人間20号は勝ち目が薄いと思ったのか逃走したんだ。

 

 

 倒れたお父さんをヤムチャさんにお願いしたあと、それぞれ手分けして追っていったんだけど、ピッコロさんが20号に奇襲を仕掛けられて気を吸収されて、それをピッコロさんからテレパシーで知らされたんだ。

 

 僕はすぐにその場に向かってピッコロさんに絡みつく20号を叩き落して解放して、その後逆にピッコロさんは20号を圧倒して右手を切り落とす所まで追い詰めた。

 

 今度こそ逃がさないようにしながら、このまま終わらせると思っていたその時、その場に見覚えのない男の人が現れたんだ。

 

 背格好からお父さんが言っていた未来からきた人だと思ったんだけど、その人がこう呟いたんだ。

 

 

 

 

「また、オレの知らない人造人間……!?」

 

 

 

 

 その言葉に気を取られた僕らの隙をついて、人造人間20号はさらに僕たちが聞き逃せない台詞を吐いたんだ。

 

 

 

「これで勝ったと思うな! 今に17号と18号を起動させて貴様らを殺してやる!!」

 

 

 

 そんな捨て台詞を吐いて、僕らを追ってこの場に向かっていたブルマさんたちの乗った小型飛行機を爆破したんだ。

 

 

 爆破された飛行機に乗っているブルマさんとトランクス君はさきほど現れた男の人がブルマさんを救出していたんだけど、僕らは再び人造人間20号の逃走を許してしまった。

 

 

 その後、ブルマさんの心配ではなく20号を見失った事に執着していたベジータさんとその男の人とでひと悶着起こりそうだったけど、ブルマさんの発言でそれどころではなくなったんだ。

 

「というかみんな人造人間と戦ってたんじゃないの? あれ、ドクター・ゲロ本人じゃない?」

 

「え?」

 

「前に科学誌で写真見たもの。間違いないわ」

 

 まさか自分を改造しちゃったのかしら……と呟くブルマさんの言葉に僕たちは驚きで言葉も出なかった。まさか人造人間の一人である20号が黒幕だと思われてたドクター・ゲロだとは思わなかったんだ。

 

「あれが、ドクター・ゲロ……? オレの世界じゃ一度も……最初期だけ出てきていたのか……?」

 

 何かに悩むその男の人に、クリリンさんが恐る恐ると言った感じで声を掛けた。

 

「お、お前が悟空の言ってた未来からきたってヤツなのか?」

 

「え……あ、はい、そうです。もう隠す必要はないでしょうし、名乗らせてもらいます。オレの名前は――――」

 

「――――トランクス、そこにいる赤ん坊の未来の姿だ。違うか?」

 

「――――! ……ええ、その通りです」

 

 ピッコロさんの断言にも近い問いかけに、その男の人――――トランクスさんは肯定で返した。

 

「え……ええ!? マジかよ!? この赤ん坊があいつ……!?」

 

「ピッコロ、何故わかったんだ!?」

 

「少し考えればわかる。現状悟空にベジータ、悟飯以外にスーパーサイヤ人になれる可能性があるのはそこの赤ん坊だけだ。何より悟空のヤツがその赤ん坊の名前を意図も容易く言い当てていたからな。アイツにそういう機微を察する感性はない」

 

 根拠としてお父さんが酷い言われ方をされているけど、僕としても何も反論できなかった。

 

 でも確かに、未来でお父さんとベジータさんが死んでしまって、僕と共に戦える年代のサイヤ人となれば、消去法として今ブルマさんの抱える赤ちゃんのトランクス君以外にはあり得ないんだ。

 

「本当に!? よかったわねートランクス! あんた将来イケメンになるみたいよー」

 

「気になるのそこなんですかブルマさん……」

 

 まさかの事実に僕たちが驚いていると、トランクスさんは戸惑うように口を開いて、さっきも言っていた、よくわからないことを口にしたんだ。

 

 

 

「それよりも……皆さんは、一体何と戦って(、、、、、)いたんですか……?」

 

 

 

「何って……お前が言っていたという人造人間だろう?」

 

 トランクスさんから知らされた情報で僕らは集まり、そして戦った。そして相手からも人造人間だという確認は取れた以上、間違いはないはずだ。

 

 けれど、トランクスさんの反応は、やはり僕らの望む物とは違う物だった。

 

「……さきほどのドクター・ゲロと思しき人造人間も、ここに来る前に見た残骸も確認しましたが、どちらもオレの知っている人造人間じゃないんです」

 

 その言葉は、僕たちの警戒心を引き上げるのに十分すぎるものだった。

 

「何だと!?」

 

「つまり、未来を壊す敵はまだ別にいるってこと……?」

 

「……トランクス、お前の知っている敵についての情報を詳しく話せ。こちらとしても悟空に伝えられた僅かな情報だけではどうしようもない」

 

「というか場所も日時もあれだけの情報で何とかしてくれっていうのも今考えれば無茶ぶりだよな」

 

「え……?」

 

 まだ僕たちの知らない敵がいるという事実に、トランクスさんからその人造人間の詳しい情報を聞こうとしたんだけど、僕たちの言葉、特にクリリンさんの不満とも言えるその発言に、トランクスさんが思わずと言った感じの困惑の声を上げた。

 

 

 

 そして次にトランクスさんから放たれた言葉で今度は僕たちが困惑することなる。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください。オレはちゃんと詳しい場所も日時も伝えましたよ。皆さんはそれで奴らの襲撃に対応できたんじゃ……?」

 

 

 

「何……?」

 

「いやいや悟空から聞いた話じゃ、襲撃してくるっていう人造人間の数も曖昧だったし、襲撃の場所も南の都の近くの島の街ってだけだし、日時も三年後のこの時期ってだけで具体的な日にちはわかんなかったんだぜ?」

 

「場所は何とか絞りましたけど、今日集まったのもとりあえずって感じでしたしね」

 

 そう、僕たちがお父さんから聞いた人造人間の襲撃日と場所の情報は、そんなあやふやなものだった。時期は三年後という事以外には今月の半ばあたり、場所も南の都の近くにあるどこかの島の街というだけだった。

 

 場所に関してはブルマさんがお父さんのあやふやな情報から候補を絞り込んでくれたおかげで何とか割り出せたけど、日時に関してはわからなかったから、ひとまず今日この日に集まってみようと言った感じだったんだ。

 

 それはきっと、未来から来た人……トランクスさんからの情報がそれ以上なかったからだと思ったんだけど……

 

「お、オレの言った事が全然伝わってないじゃないか……」

 

「ご、悟空のヤツ……!」

 

 お父さん、これはちょっと擁護できないよ……。

 

 もしかすると、他にも僕らに伝え忘れている事があるんじゃないかと心配になるけど、僕だけじゃなくトランクスさんも不安になったみたいだった。

 

「じ、人造人間について悟空さんから聞いた事は……?」

 

「え、えっと……ドクター・ゲロっていう元レッドリボン軍の研究者が生み出した戦闘兵というのは聞いたな。人造人間の数は二体なのか三体なのかよくわからなかったが……」

 

「その人造人間が悟飯を除いた俺達が全員殺されて、そのまま殺戮と破壊を続けていき、既にまともに抵抗できる戦士はお前だけ……と聞いている」

 

「そ、そこは大体伝わっているみたいですね。よかった……」

 

 トランクスさんがほっと胸を撫で下ろしているけど、これでも大体くらいの情報量みたいだ……お父さん、興味のある事しか覚えられなかったのかなぁ……?

 

「二度手間で悪いが、未来での詳しい敵の話をしてくれ」

 

「わ、わかりました」

 

 トランクスさんは一つ咳を吐いてから、改めて未来の世界について説明を始めた。

 

「俺のいる未来では、幾つもの勢力によって人類は疲弊してしまっています」

 

「え、敵は一つの勢力じゃないのか」

 

 クリリンさんの疑問にトランクスさんは「はい」と返して続きを語り始める。

 

「まずは二体の人造人間、17号と18号です。この二体はスーパーサイヤ人になれる俺でも何とか少しやり合うのが精一杯で……。こいつらはドクター・ゲロを憎んでいて、その殺害を目論んでいるんですが、それ以上に残虐な性格で、遊び感覚で人や街を破壊しています」

 

「ソイツらがさっきヤツの言っていた、俺達を殺しに来るという奴か」

 

「そいつらの外見の特徴は?」

 

「どちらも俺と同じか年下に見えるくらいの少年少女です。17号は黒髪の少年、18号は金髪の少女でどちらも凍ったように冷たい目をしています」

 

「お、女が敵なのか……」

 

「性別は問題じゃありません。17号も18号も、人を人と思わない残虐非道な殺人マシーンです」

 

「わ、わかってるさ。女で物理的にも精神的にもヤバいヤツがいるってのはチアっていう具体例がいるし……」

 

 そこでチアを例に挙げるクリリンさんの気持ちはわからなくはないけど、残虐非道な人造人間と比べるのはどうかと思うなぁ。

 

「次に、どこからともかく現れる神出鬼没・正体不明の名もなき悪魔です」

 

「悪魔?」

 

「実際に悪魔なのかどうかはわかりません。戦闘力に関してはあまりないようですが、こちらの攻撃も通らず、その身に宿る不浄と穢れによって病を振り撒いて弱っている人から死んでいく事から『黒い放射能(チェルノボグ)』とも呼ばれています。街は壊されませんが、人を絶望へと陥れる……まさに悪魔です」

 

「そいつはどんな姿なんだ?」

 

「おそらくコイツに関してはオレが説明しなくても見たら一発でわかります。蠅や蟲が無数に寄り集まったような嫌悪感や忌避感を抱かずにはいられない、そんなヤツです」

 

「そ、ソイツの対処法は……?」

 

「オレたちの時代ではヤツが飽きて去るのを待つしか…………ヤツの振り撒く病の正体も、ヤツを撃退する方法も、そもそもヤツがどういった存在なのかすらわからないんです。その正体を探る事もオレが過去に来た理由の一つです」

 

 そんな正体も対処法もよくわからない敵がこれから出てくるなんて、人造人間だけでも脅威だっていうのに……。

 

「まだ他の勢力がいるのか?」

 

「はい。あとは、大男の人造人間とソイツが率いる継接ぎだらけの兵隊、ソイツらを従わせて略奪を繰り返し行わせている事しかわかっていない、謎の黒幕が率いる勢力もいます」

 

「うん? その大男の人造人間はさっき言ってた二人の人造人間とは違うのか?」

 

「はい。彼らとはまた別の人造人間です。むしろ敵対しているといっていいでしょう。一度彼らが同じ場所に現れてすぐさま彼ら同士の殺し合いが始まった事もあります」

 

 同じ人造人間同士で争うなんて……もしかしてドクター・ゲロに従順かどうかの違いなんだろうか? 17、18号はドクター・ゲロを憎んでいるって言っていたし、それで反抗を受けているって事……?

 

「ところでその人造人間が率いているっていう継接ぎだらけの兵隊? そいつらも人造人間なのか?」

 

「いえ、人造人間とは違う、おそらく人や生物を人為的に繋ぎ合わせて生み出した生体兵器……例えるならゾンビのような兵士です。ソイツらは通常兵器でも倒せない事はないんですが、数が多く……」

 

「そんな雑魚の情報はいらん。その大男の人造人間の力はわからないのか?」

 

「…………この人造人間の力は、正直次元が違います。スーパーサイヤ人のオレはおろか、二人の人造人間を相手取っても苦戦しないほどでしょう」

 

「そ、そこまでの力を持ってる敵がいるのかよ……!? しかもソイツを従わしている黒幕もいるんだろ!?」

 

「……その人造人間がその勢力のトップではないのか?」

 

「オレ達も最初はそう思っていたんですが、先程話した例の悪魔がそれを否定しました」

 

「黒幕は別にいる、と……その言葉、信用できるのか?」

 

「もちろん嘘の可能性も考えましたが、確かにその人造人間は何かの指示に従っているような節が見えるのも確かな以上、否定はできません。悪魔の口振りから、その黒幕と悪魔は何らかの協力関係にあるとも思われますが……具体的にはわかりません。人造人間が配下であるという辺りから、その正体はドクター・ゲロではないかとも推測していたのですが……」

 

「それにしてもドクター・ゲロが生み出した人造人間同士で争ってるって……なんかややこしいな」

 

「なので俺達もこの二つの勢力が別だというのを明確にするためにそれぞれ名称をつけているんです。17号、18号の二人を『双牙』、そしてもう一方を黒幕と纏めて――――」

 

「――――そんな呼び方などどうでもいい。ようは残る人造人間があと三体、ついでに謎の黒幕に神出鬼没の悪魔なんてのもいるわけだ。それもあの爺よりも強いヤツが、だ」

 

 トランクスさんの説明を遮ってベジータさんが要点だけ纏めた。とはいっても具体的な敵の数を明確にしただけだけど、ベジータさんにとって重要なのはそこだけなんだろう。

 

 そんなベジータさんの様子を見て、クリリンさんが何かを察したみたいで恐る恐ると言った感じで口を開いた。

 

「お、おいベジータ……お前、まさかわざと起動させるつもりじゃないだろうな……?」

 

「あの爺相手なら手応えがなさすぎるからな。カカロットとの戦いの前哨戦にちょうどいいだろう」

 

「な……!?」

 

 そのベジータさんの言葉にトランクスさんは驚きを隠せず思わず声が出てしまっていた。自分のいた世界を壊した相手をわざわざ起動させようと言うんだから当然のことだ。

 

「ま、待ってください! 奴らの強さは尋常じゃない! 起動前に破壊してしまうべきです!」

 

「お前、それでも本当にサイヤ人か?」

 

「え……」

 

 そんな愚行とも思えるベジータさんの考えを改めさせ揺と食って掛かるトランクスさんだったが、ベジータさんのその一言で動きを止めてしまった。

 

「相手が強ければ強い程に心が躍る。それこそが戦闘民族サイヤ人だ。カカロットだってそこは同じ考えだろうぜ」

 

「…………!」

 

 その言葉に絶句してしまったトランクスさんを放ってベジータさんはブルマさんへと声を掛けた。

 

「おいブルマ、ヤツの根城はわかるか?」

 

「え? ヤツってドクター・ゲロの事? 詳しい場所はわかんないけど……確か北エリアの渓谷地帯のどこかの洞窟に研究所を構えてるって聞いた事があるわ」

 

「それで十分だ。人形如き、この俺が全て纏めて叩き潰してやる!」

 

 ブルマさんのその返答を聞くとベジータさんはすぐさま北へと飛び立っていってしまった。

 

「ま、まずいぞ……ベジータのヤツ、本当に人造人間を起動させかねない……!」

 

「『双牙』の二体が目覚めてしまえば、あの絶望の未来に近づいてしまう……!! それだけは阻止しなければ……!」

 

 そしてベジータさんを追いかけるようにトランクスさんも飛び立っていった。

 

「俺達も行くぞ!」

 

 ピッコロさんたちもその後を追い、僕も一緒に向かおうと思った時、クリリンさんが僕に声を掛けてきた。

 

「悟飯、悪いけどブルマさんたちとヤジロベーを送ってやってくれないか? チチさんも心配するだろうし」

 

「え……あ、わかりました…………って、ヤジロベーさん?」

 

「さっきの飛行機、ヤジロベーも一緒に乗ってただろ。多分まだその辺りで生きてると思うんだ」

 

「「あ」」

 

 僕とブルマさんの声が重なった。どうやらブルマさんもヤジロベーさんの事を失念していたみたいだ。

 

 

 

 こうして僕は、ブルマさんとトランクス君、それにヤジロベーさんを送り届けるために、人造人間を追うみんなとここで一度別れることになった。

 

 




未来トランクスの長い説明の要約

・Z戦士は原作通り、悟飯とトランクス以外最初の方で死亡。悟飯も後に死亡。
・原作と違って、人類の敵対勢力が双子の人造人間だけじゃなく、よくわからない悪魔っぽいのとゾンビの軍勢を率いてる大男の人造人間がいる。
・敵はどれも強かったり攻撃が効かなかったりで勝てそうにない。
・なんか敵は敵で争ってるっぽいけど手を組めそうにない。
・街は双子に壊され、病気を悪魔に振り撒かれ、物資その他をゾンビの軍勢に略奪される。
・ドクター・ゲロの生死は不明

この辺りの説明を悟空も聞いていたけど、ややこしすぎて要点かつ興味のある所しか覚えてなかったという……原作みたいなピッコロさんのフォローがなかったから仕方ないですね


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