ダンジョンで運命を変えるのは間違えているだろうか (サントン)
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プロローグ

 「ダメだっ、リュー、逃げろ!命懸けで逃げるんだ!」

 

 アストレアファミリアの怒号が響き渡る。団長はすでに死亡していた。控えめに言って今この場所は地獄の様相を呈していた。彼らは混乱し逃げ惑い、自分たちが今何階にいるかも理解していなかった。

 彼らアストレアファミリアはオラリオの治安維持を長年担ってきた。彼ら自身、自分たちが恨まれていることは重々承知の上だった、、、はずだった。

 

 ー馬鹿げている、これは余りにも、、、無慈悲だー

 

 彼らは悪意を軽視していた。危機意識が足りないといえるかもしれない。敵がここまでやるとは思わなかった。結果が今彼らの目の前にある。

 団員は次々と倒れており、余力もない。仲間の死体は積み重なり鮮やかな朱がいやがおうでも神経を刺激する。すでにこの場で最も力のあるものは彼女、リュー・リオンになっていた。

 

 しかしここから本来と少しだけちがう様相を呈していく。

 

 「リュー、頼む。俺をしんがりで使い潰してくれ。」

 

 「いけません、カロン。あなたを失うわけにはいかない。」

 

 「もうそんな余裕はない。どうせ逃げても捕まるのは時間の問題だ。」

 

 リューは少しだけ考える。時間はない。彼らの血は流れつづけており決断を遅らせるほど全滅は近づく。すでに最悪だ。

 

 ここでほんの少しの違いが起きた。

 

 「わかりましたカロン。あなたは最後尾で敵を押し止めてください。傷付いてる味方を見かけても捨て置きなさい。死んでも魔物を通さないでください。」

 

 カロンは今立っている冒険者唯一の2レベル。リューに次ぐレベルだった。そのため、リューはカロンが敵を押し止めて自身が逃走を助ける策をとることにした。

 命懸けで逃げ出す彼らは、誰もカロンのステイタスが白く輝いているのに気付かなかった。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 《なあ、お前は何だってそんなになって戦うんだ?あいつらにそこまでする価値があるのか?》

 

 《あんたは何でそんなことを聞くんだ?明日の飯を食うには必要だろう。当たり前のことさ。》

 

 《しかし………別にあいつらが生きることにたいした意味は無いだろう?》

 

 《命に意味だなんてあんた神様みたいなことを言うんだな。まあ確かに助けたいと思えない奴も中にゃたくさんいるけどさ、大切に思える奴らだって少しはいるんだ。》

 

 《そうか…………。私の国でも闘いは起こっているよ。私も彼らに何かができるのかもしれないな………。君のために祈らせてくれないか?》

 

 《俺は神様がいるなんて信じちゃいないぜ?少なくとも今まで助けてもらったことが無い。しょっちゅう敵がせめて来るってのに。》

 

 《それでもだよ。私がこの遠い地にいる友人の君のために祈りたいんだ。》

 

 《遠い地とはどういう意味だ?あんたどっから来たんだ?》

 

 《ずっと遠くだよ。私は君が幸せであることを願っているよ。》

 

 《そいつは無理を言ってくれるぜ。今はこんな世情だろ?あんたもさっさと他の国へ行った方がいいぜ。》

 

 《そうだな、私はもう行くよ。さよならだな。》

 

 《ああ。》

 

 神が地上に下りる前の話である。

 

 ◇◇◇

 

 私たちはたどり着いた。リヴィラの街に。仲間の屍を踏み越えて、助かる仲間を見捨てて。私は<正しい>判断をしたのだろうか?不安が私を襲う。

 今や仲間は片方の手で数えられる程だった。団長は死んだ。親友も死んだ。今よりひどいことは存在するんだろうか?

 それは街で休んだ次の日のことだった。

 

 「おい、あんた。街の入口で血まみれでぶっ倒れているでくの坊はあんたの仲間だろ?ひどい目にあったのかもしれんがさっさと回収してくれや。」

 

 まだ生きている仲間がいるのか?私は急いで確認へと向かった。

 はっきりと私は目を疑った。彼がいた。私は彼を人柱にしたはずだ。私は確かに彼に死ぬように命令を出したはずだった。

 

 ー手当てしなくてはー

 

 彼はその後一命を取り留めた。

 

 「あなたは何故生きているのですか?」

 

 私は瀕死の状態から脱出したばかりの彼に問い掛けた。

 

 「良く覚えていない。わずかな記憶が正しければ猛者に助けられた気がする。」

 

 「それにしてもあのあたりは状態異常を誘発する魔物がたくさんいるはずです。」

 

 「………とりあえず生きてる奴は何人いるんだ?帰って傷を癒さないと。」

 

 「私達を含めて五人です。うっ。」

 

 リューは口元を押さえる。仲間の死体がフラッシュバックしていた。

 

 「そうか、たった五人か。んでどうする?俺は動けるようになるまでもう少しかかるぜ?先に帰るか?」

 

 「あなたがレベル2では高いステータス誇ってるとしても置いてはいけません。」

 

 「長く滞在すりゃ金がかかるぜ?」

 

 「今の我々のファミリアはたったの五人です。これ以上人数を減らす気は無いし、あなたは貴重なレベル2です。置いていくのはありえません。」

 

 「そうか。すまねぇな。」

 

 「………私はあなたに死ぬように命令をしました。怒らないんですか?」

 

 「俺がそうしろって言ったろ?」

 

 「決断したのは私です。あなたは死に目にあったはずだ。」

 

 「他の皆は死んだだろ。生きてるだけついてるさ。」

 

 「そうですか。」



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フレイヤとの同盟

 私たちは、命からがら地上へたどり着いた。全滅だけは避けられたがそこに違いがあるとは私には思えなかった。

 私はホームに戻って主神であるアストレア様と話をしていた。

 

 「リュー、お疲れ様。私があなたの助けになれなかったのが悔しいわ。」

 

 「アストレア様、おきになさらないで下さい。私たちはあなたに助けられている。皆を助けられなかったのは私のミスだ。」

 

 「無理に強がらないで。あなたが心を痛めていないわけが無いわ。あなたに責任は無いしあなたはベストを尽くしたはずよ。」

 

 「たった五人だ。出発の時には何人いたかあなたは知っているはずだ。あなたは私を責めてくれないのか?」

 

 「…………ダンジョンはいつだって危険だわ。ダンジョンには悪意が満ちている。冒険者はそれを知っているはずよ?」

 

 「しかし………」

 

 「この話はここまでよ。ステータス更新を行いましょう。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「皆ランクアップしていたわ。例外なく。こんなことがなければお祭りだったのだけど………。」

 

 「ということはカロンも?」

 

 「彼は特別よ。レアスキルが発現していたわ。内容を見るからに護りを上昇させ状態異常を跳ね退けるタイプの。彼が生き残ったのと無関係なはずが無いわ。」

 

 「やはりそうですか。」

 

 そうでもなければ彼が生還した理由が付かない。しかしそれでもあの状況から帰還するのは相当強烈なスキルのハズだ。

 

 「リュー、これからは………そうね、あなたが団長を務めてくれる?」

 

 「いえ、わたしは………わたしはファミリアを脱退しようと考えています。」

 

 「どうして?」

 

 「それは………あなたに言いたくない。」

 

 私は俯く。できればアストレア様に知られたくない。

 

 「あなたは長年私たちの元へ在籍していたわ。離れるなら明確な理由を話す義務があるはずよ。」

 

 「わたしは………親友や仲間を殺した敵を許せない。ファミリアをぬけてでも復讐を成し遂げたい。」

 

 「あなたたちが生き残ったことは敵にもすでに伝わっているはずよ。あなた一人で何かができるの?」

 

 「それじゃあわたしはどうすればいい?わたしのこのどす黒い気持ちと死んだ友人の無念をどう晴らせというんだ?」

 

 思わず叫んでしまう。

 

 「カロンはあなたより賢明よ。彼はすでに動いているわ。」

 

 「動いているとはどのような意味ですか?」

 

 「彼はフレイヤファミリアとロキファミリアに話をしに行くといっていたわ。何をしてでも残った人間を守ると。ファミリアの財産を手土産に持って行くことを許可したわ。」

 

 「それは………。」

 

 彼には何かができるというのか………?

 

 「あなたの憎しみは少しだけ置いて待っててみなさい。やけになるのはまだ早いわ。」

 

 ◇◇◇

 

 カロンが帰還した。私は彼がフレイヤ様とロキ様の元に何をしに行ったのか予想はしていた。

 

 「フレイヤファミリアとロキファミリアに行ったと聞きました。何をしに行ったのですか?」

 

 「同盟の話をしに。結果はフレイヤの方だけ成功したよ。」

 

 これは予想外だ。まさか片方だけでも同盟を成立させて来るとは。フレイヤ様に得があるとは思えないが?

 

 「フレイヤ様の方だけですか。理由はわかりますか?」

 

 「わからん。あそこの主神は行動がよめんしな。」

 

 「それでこれから先は一体どうするつもりですか?」

 

 「リューが団長を務めるんじゃあないのか?」

 

 「何を今更。あなたはアストレア様だけに伝えて同盟交渉に行ったのでしょう。わたしを団長だというならなぜわたしに話を通さないんですか?」

 

 「………お前が復讐に向かう可能性が高いと思ったんだよ。俺達が止めても敵に対する対抗力がなければお前は俺達を守るだの何だの理由をつけて復讐に向かっただろ。急いで行動する必要があった。お前に話をしたら平行線のまま暴発しかねない。」

 

 「………否定はしません。ですが団長は受けられない。あなたが就任してください。わたしは生き残った仲間を守るより復讐を真っ先に考える人間だ。あなたは奴らを見逃すのか?」

 

 「あいつらを何とかオラリオから追い出すよ。地道に力をつけて正当なやりかたでな。」

 

 「あなたは憎く無いんですか?」

 

 私は疑問だった。彼だってあの地獄を見たハズだ!

 

 「憎くないわけはないよ。でも物事を為すには時間がかかる。リューもレベルが4まであげれたのは辛抱強く頑張ったからだろ。」

 

 「納得はできませんし我慢もしたくない。でもわたしの正義はあなたが正しいことを言っているといっています。アストレアファミリアに未練もある。わたしは納得ができなくなったら脱退します。それまではあなたを支えましょう。」

 

 「それで十分だ。」

 

 ◇◇◇

 

 バベル、最上階。

 

 「フレイヤ様、なぜあのような同盟を受けたのですか?」

 

 「ウフフ、あなたにはわからないわよね。あの子、魂の色が変わっていたわ。」

 

 「魂の色が、ですか?」

 

 「以前はどこにでもある色だったわ。今わね、不思議な色。白いのに黒いの。鋼の強さと銀の神聖さが混ざることなく矛盾せずに同居しているわ。」

 

 「………私にはわかりかねます。」

 

 ◇◇◇

 

 神会。

 

 「アストレア、ひさびさやな。お前んトコの子供達が全滅したのは残念やったな。」

 

 「久しぶりねロキ。わずかだけど帰ってきてくれたこもいるわ。」

 

 「それやそれ。こないだお前んトコの子供が来て何が何でも同盟しろっちゅうて居座って難儀したで。ウチも子供達がかわいいから気持ちはわかるんやけどあまりメイワクをかけられるのは困るっちゅうねん。」

 

 「ごめんなさい、ロキ。うちも必死だったの。これからはこんなことないようにするわ。」

 

 「まあええで。ところであんな状況でおまえらどうすんねん?」

 

 「変わらないわ。今まで通りよ。まだ私たちのファミリアは死んでないわ。」

 

 「あまりオススメできへんで。しんどいんちゃうか?」

 

 「いいのよロキ。しんどかったとしても子供達は立ち上がってくれたわ。私たちはまだ生きている。」

 

 「そか。まあお前がそういうんならウチが言えることはあらへん。ウチはもう行くで。」

 

 「ええ、ロキ。またね。」

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレア元団長室。カロンは正式に行き先の決まっていないファミリアで他の眷属の意思確認を行っていた。

 

 「お前はどうするつもりだ?」

 

 「故郷に帰ります。俺はもうたたかいたくない。殺されるのはごめんだ。」

 

 「そうか………達者でな。俺はお前のことを家族だと思っている。何かあったらまた来て欲しい。」

 

 最後の一人が出ていくと入れ替わりにリューが入ってくる。

 

 「やはり誰も残りませんか。今回のことは酷かった。あなたは脱退しないのですか?」

 

 「俺がいなくなったらお前は復讐にはしるだろ。」

 

 「まあそうなりますね。あなたがいなくなった方が都合がいい。」

 

 「主神様が悲しむぞ?」

 

 「それは………。」

 

 リューは悲しそうな顔をする。

 

 「まあ二人だけでもしょうがないだろ。レベル3とレベル4の少数精鋭だ。」

 

 カロンは無理をして笑う。

 

 「これから当てはあるんですか?」

 

 「全く何も考えてないわけじゃない。働いてもらうぞ?」



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連合構想

 「荒唐無稽だ、ありえない。馬鹿馬鹿し過ぎる。」

 

 「リュー、俺達はあの死の行軍を切り抜けたんだ。今更不可能なことがあると思うか?」

 

 「それとこれとは話がちがう。とてもじゃないが不可能だ。」

 

 彼の考えが何かと思えば、それは余りにも馬鹿げた話だった。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 アストレア本拠地応接室。ソファーにて私と彼は向き合っていた。

 

 「俺達には何ができる?リュー。」

 

 「できることはあまりありません。私とあなたの二人だけだ。かつてのような治安維持活動は不可能でしょう。」

 

 「その通りだ。じゃあ俺達は最終的にどうすればいい?」

 

 「ファミリアを大きくすることでしょう。地道に勧誘活動を行うしかない。」

 

 「可能だと思うか?」

 

 「不可でしょうね。私たちは治安維持活動を行っていた。住民の感情はプラスでしょう。しかし全滅したことは大きなマイナスだ。私たちは敵がたくさんいていつまた襲われるかわからないと考えられているでしょう。信頼を回復するのは多大な時間がかかる。」

 

 「まああまり現実的ではないな。早くても向こう十年は悪いイメージがきえんだろうな。そこからフレイヤファミリアやロキファミリアのようなところに仕上げるのは時間がたりなすぎる。」

 

 「それではどうするんですか?」

 

 「巨大な連合を組む。アストレア連合ファミリアを作り上げて敵を数の暴力でオラリオからたたき出す。」

 

 「いやいやいや、何を言ってるんですか?そんなことできるはずがない。」

 

 馬鹿げている。

 

 「なぜだ?」

 

 「そんなことができるならどこかしらの連合ファミリアがすでに出来上がっているでしょう。」

 

 「ガネーシャは冒険者連合と言えないか?」

 

 「あそこは中立でしょう。」

 

 「つまりガネーシャのところには手を出さないという暗黙の了解ができているわけだ。オラリオの全部のファミリアが手を組んでいてガネーシャに手を出さないというのが連合内の決まりごとと考えればいい。」

 

 「それは詭弁だ。ガネーシャファミリアが手を出されないわけではない。」

 

 「論点がズレてるよリュー。俺達の目的はオラリオの街中で合法的に奴らをオラリオから追い出すことだ。ダンジョンで消すことじゃあない。そのためにオラリオの住人の意思を統一させるんだ。恩恵を剥奪したら奴らはたいしたことができない。」

 

 「しかしガネーシャ様であっても恩恵剥奪のような無体は不可能では?」

 

 「そうでもないよリュー。ガネーシャはやらないだけだ。あそこは懐が深い。良し悪しだがな。民衆の主は扇動も可能だ。オラリオの大半の市民が声を上げたら神であっても無視はできない。」

 

 「百歩譲ってそうだとしましょう。しかし我々が民衆を扇動するにしろ手段がないでしょう。」

 

 「つくればいいさ。」

 

 「どうやって?」

 

 「ガネーシャがなぜ民衆の主だと思う?」

 

 「なぜですか?」

 

 「ウラノスと懇意にしているからさ。ウラノスの祈祷がなけりゃ俺達は今頃ここにはいない。」

 

 「なるほど。それでは私たちもウラノス様とのツテを作るのですか?」

 

 「それは不可能だな。リュー、ウラノスと懇意にしてるとはどういうことだい?」

 

 「ダンジョンに関して強い発言力を持つということでしょうか?」

 

 「そう、言い換えればオラリオに必要なダンジョンの所持者だとも言える。ダンジョンを生業とするファミリアはガネーシャがいなくなると困るのさ。」

 

 「しかしガネーシャ様がいなくなっても他の神が代わりをするだけでは?」

 

 「保証はないだろう。ウラノスはガネーシャとどの程度の仲なのかな?ガネーシャがいなくても別に気にしないのか?天界に帰ってしまう程のことなのか?」

 

 「結局何が言いたいんですか?」

 

 「いなくては困る立ち位置を作るということさ。」

 

 「どうやって?」

 

 「例えばポーションを作れるのがディアンケヒトだけだったらディアンケヒトファミリアは今より強い力を得ている。ロキやガネーシャに守られて、ね。」

 

 「ふむ。」

 

 「俺達も俺達がいなくては立ち行かない何かを作り出す。人々が俺達をいなくては困るという程に。」

 

 「それが何かが問題なのでは?」

 

 「その通りだよ。」

 

 「それが思いつかないなら意味がないのでは?」

 

 「一つ考えていることがあるんだけどね。」

 

 「言ってみて下さい。」

 

 「高練度なサポーター部隊。冒険者の損耗率を劇的に下げる程の。」

 

 「絵空ごとです。そもそもサポーター部隊がどうやってオラリオに必要不可欠なものになるんですか?」

 

 「ロキだよ。」

 

 「ロキ様がどうしたんですか?」

 

 「フレイヤとは同盟をすでに結んでいる。ロキと同盟を結べれば二大巨頭の両方とつながる。」

 

 「なるほど。」

 

 「ロキは子供達を可愛がっている。子供達の命が助かるかもしれないとなれば興味を持たせることができる。ロキのところで高い評価を取れば少しずつでもオラリオに浸透させられる。サポーターの重要性が上がれば練度の高いサポーターの価値も上がる。サポーターの貸しだし業務だ。まあ正直いうとそこまでは難しいと思うが。取り合えずロキが釣れれば大当りだ。」

 

 「正直穴だらけだとは思いますが私には案がないのである程度は譲ります。しかし人員はどうするのですか?」

 

 「それが差し当たっての最大の問題だ。そこは一緒に考えてくれるか?」



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ヤバいスキル及びにリリルカとの出会い

 アストレア本拠地アストレア私室。

 

 「それにしても………。」

 

 アストレアは困っていた。わずかに帰ってきた子供達の一人は見るからにヤバいとわかるスキルが表れていた。しかも2つもだ。

 

 「それだけの死線を超えてきたということかしら………。」

 

【黒い覇王の才覚】

・あらゆる汚れを飲み込み目的を達成する才能

・発言で対象の思考を誘導できる

【白い聖者の才覚】

・あらゆる汚れを禊い他者を守る才能

・状態異常無効

・耐久特大補正

 

 両方ヤバい。特に黒い方がヤバい。アルカナムを使ったといわれても納得しかないヤバさだ。

 アストレアは子供達の逝去から時間がたってある程度冷静な思考を取り戻していた。 

 

 ◇◇◇

 

 「方法は思いつきません。やはり無理なのでは?」

 

 「仕方ない。俺が考えた方法を使うか?」

 

 「すでに考えついているならなぜいわないんですか?」

 

 「俺が考えるなら自分は考えなくていいというのは怠慢だ。それにもっといい方法があるかもしれんだろう。」

 

 「そうは言っても………先に言ってみて下さい。」

 

 「ダンジョンの入口でフリーのサポーターを雇って才能ある奴を引き抜けばいい。」

 

 「そんな簡単にいくとは思えません。」

 

 「サポーターは総じて地位が低く賃金を値切られがちだ。相手にしっかり金を払って人格を尊重すればいい。」

 

 「そんな犬の躾みたいに簡単にいくとは思えません。」

 

 「シンプルイズベストだよ。犬も人間も食事をして生きているのは一緒だ。食事には金がかかる。」

 

 「しかしアストレアファミリアだということはどうするんですか?」

 

 「説得してみるさ。試すのはただだよ。特にリスクはない。」

 

 「私たちの顔は知られているのでは?そもそも一緒にダンジョンに潜ってくれるとは思えない。」

 

 「じゃあどうするかいリュー?今更目的なくただの冒険者として生きるか?試さないうちからやっぱり復讐をやるべきだと主張するか?顔は隠せばいいさ。」

 

 「相手に不誠実です。」

 

 「どっちみち復讐をしたら顔を隠した生き方しかできないぜ?一時の不誠実か一生の不誠実かあきらめて逃げるか、だ。お前はどれを望む?」

 

 「………現状を理解していなかったのは私のようですね。わかりました。」

 

 ◇◇◇

 

 「そっちは誰かいたかい?」

 

 「いえ、特にめぼしい人間はいませんでした。あなたの方はどうですか?」

 

 「一人いた。ただなぁ………。」

 

 「何か問題が?」

 

 「若いんだよ。多分パルゥムだろうがそれにしたってな。憂鬱だよ。」

 

 「あきらめますか?」

 

 「いや、ほっとけばどうせのたれ死ぬ。手前味噌な言い方すれば互いのためになる。」

 

 「ひどい男ですね。地獄に落ちますよ。」 

 

 「この間地獄から帰ってきたばかりだろう。今更この程度の汚点がどうしたんだ?」

 

 つくづく口の減らない男だ。しかし嫌に説得力がある。私としては触れたい話題では無い。私は口をつぐんだ。

 

 「………………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「端的に言おう、リリルカ。君を雇いたい。条件をすり合わせたい。」

 

 「リリをですか?冒険者様。一体どうしてですか?」

 

 「単刀直入に言おう、リリルカ。俺達には目標があり達成するにはリリルカの力が必要だと考えている。」

 

 「どのような目的ですか?」

 

 「それは順を追って説明しよう。先に最終的な雇用条件は君が2レベルに到達することだ。君が条件を達成することができたら俺達は君の脱退金を肩代わりして俺達のファミリアにきてもらう。それまで俺達は君をサポートし、君も俺達をサポートする。その際の金の振り分けは折半だ。もちろん脱退金とは別だ。」

 

 「いまいち理解できません。どういうことですか?」

 

 「俺達は優秀なサポーターを育てようとしている。君は他のサポーターの見本になりうる。君は金を必要としている。君は脱退を求めている。」

 

 「ちょっと待って下さい。どうしてリリが脱退を望んでいると………」

 

 「君はソーマファミリアだろう。下調べをさせてもらった。」

 

 「それでなぜリリを?ソーマファミリアの素行の悪さは冒険者様もご存知のはずでは?」

 

 「俺達はアストレアファミリアだ。」

 

 「っっ!」

 

 「俺達も自分の評判を知っている。でも少なくとも俺達は君を虐待したりはしない。そういう対象だとみてるなら高いかねは払わない。」

 

 「………リリが騙されていない証拠は?」

 

 「一度でも金払いが悪ければ君は来なければいい。」

 

 「………しばらく考えさせてください。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「契約前に聞かせてもらっていいですか?冒険者様はリリを使って何をなさるおつもりですか?」

 

 「最終的な目的は俺達を嵌めた奴らをオラリオから追い出すことだ。その前段階としてサポーター育成技術を独占し俺達の地位を向上させる。」

 

 「いろいろ疑問があります。サポーター育成技術を独占したとして地位は向上しますか?」

 

 「ロキ神に売り込む。成功すれば地位は向上する。」

 

 「次にサポーター育成技術をどうやって独占しますか?」

 

 「俺達のファミリアで高いサポーター育成技術を生み出せれば独占できる。リリルカには可能性を感じる。」

 

 「神ロキに売り込めるんですか?」

 

 「ロキは子供達を可愛がっている。サポーターの技術を上げれば冒険者の死亡率をおさえられる。子供達から薦められれば無碍にはしないはずだ。」

 

 「神ロキにツテはあるんですか?」

 

 「これから作り上げる。」

 

 「最後にこんな雑な計画が成功するとおおもいですか?」

 

 「一番肝心な目的は達成できる。」

 

 「一番肝心な目的?」

 

 「ここだけの話だ。リューを復讐から遠ざけるのが最大の目的だ。」




黒い~はぶっちゃけ洗脳する力です


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リリルカ魔改造計画

 「これからどうするのですか?」

 

 「俺とお前で隔日でリリルカを育成する。残りは勧誘を行う。何か質問は?」

 

 「あなたは団長でしょう。書類業務とかはいいのですか?」

 

 「たった二人のファミリアだ。たいして多くないさ。」

 

 「私たちのファミリアに入ってくれる人はいると思いますか?」

 

 そう、それが最大の問題点だ。

 

 「フレイヤとの同盟は幸運にも相手が金銭の対価を要求してこなかった。ファミリアの残りの財産をある程度撒いてしまっていい。アストレアにも話はつけている。」

 

 「そんなっっ、金銭でまともな冒険者が釣れるとでも?」

 

 「すねに傷を持つ奴でもいいさ。最低限裏切らないことは条件だが。」

 

 「そんな………私たちが作り上げたファミリアですよ!」

 

 あなたにはファミリアへの愛着はないのか?

 

 「なあリュー、お前はファミリアにどんな人材を求めているんだ?」

 

 「それはもちろん高潔な精神を持った………。」

 

 「神々でも娯楽に溺れているのにか?」

 

 「しかし、だからこそ私たちが見本になるべきです。」

 

 「じゃあお前は他の誰より高潔な人間になることを目指しているのか?」

 

 「………そうありたいと願っています。」

 

 「なら決定だ。お前は他者の見本になればいい。お前が入団者を正しい人間へ育てあげるんだ。」

 

 「そんな、無茶です。」

 

 「無理を通せ、団長命令だ。どうしても嫌なら俺を倒してでも団長になるか?今更譲らんぞ?」

 

 「外道ですね。」

 

 「上等だよ。他にいい手段を思いついたらそっちを聞くぞ。」

 

 ◇◇◇

 

 「リリルカ、前回の更新はどうだった?」

 

 「上昇幅は微々たるものでした。やはりリリには無理だったんです。」

 

 「お前は魔法は持ってたりしないのか?後衛で魔法のサポートができるかどうかで話は変わって来る。」

 

 「冒険者はステータスの詮索はご法度のはずです。」

 

 「しかしお前の育成方向の適性がわからんとなぁ。鍛練をもっと厳しくするか?」

 

 「やめて下さい。もうリリはいっぱいいっぱいです。」

 

 「サポーターとしての才能があるから見限るのにも憚れるんだよなぁ。」

 

 ◇◇◇

 

 「ひっ、カヌゥ。」

 

 「よう、リリルカ。久しぶりだ。お前最近なんか金回りがよさそうだなぁ?」

 

 「リリルカ、お前の知り合いか?」

 

 「アアン、なんだテメェ、小汚いフードなんざ被りやがって。ナメてんのか?」

 

 「ふむ、ちょうどいいな。このチンピラ感が悪くない。リューもきっと喜ぶな。」

 

 「ああ、テメェなにいってやがんだ?」

 

 「お前ちょっとついてこい。」

 

 「お、おいテメェ離しやがれ。離せっつってんだ。おいリリルカ、なにみてやがんだ。助けやがれ。」

 

 そこへカヌゥの仲間とおぼしき二人がやってくる。

 

 「おいおい、何やってんだカヌゥ?」

 

 「お前らちょうどよかった、助けろ。」

 

 「ほうほう、合計三名か。大漁だな。」

 

 いやに嬉しそうにカロンは三人を掴んで引きずりだす。

 

 「な、なんだテメェ離しやがれ。おいカヌゥ、こりゃ一体どういうことだ?」

 

 「リリはカロン様の常識を疑います。」

 

 ◇◇◇

 

 「取り合えず三名様ご到着だ。多分ソーマファミリアだな。」

 

 「彼らを私にどうしろと?何やら帰せと叫んでいますが。」

 

 「恐喝の現行犯だ。お前こういう奴ら好物だろ?」

 

 「なっっっ………。いうに事欠いて好物なんて………。」

 

 「だってお前以前から正しさを体に教え込むのが大好きだったろ?」

 

 「その言い方は許容できません。謝罪してください。」

 

 「スマンスマン。」

 

 「誠意が全く感じられないのですが?」

 

 「まあいいだろ。取り合えず可愛がってくれ。後は任せるぞ。」

 

 「………わかりました。なんとかできるかしてみましょう。」

 

 ◇◇◇

 

 「水を差されたがリリルカ、取り合えず今日の鍛練を行おう。」

 

 「お手柔らかにする気はないんですよね?」

 

 「お前がステータスを教えてくれるならそれに合わせて手抜きができるかもしれんぞ?」

 

 「悪魔の囁きですね。アストレアファミリアの正義はどこへ行ったんですか?」

 

 「正義はこの間襲われたときに魔物に殺されてしまったよ、さてどうする?」

 

 「………リリのステータスをお伝えします。」

 

 「素直なリリはいいリリだ。では教えてくれるか?」

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ。お前はもういっそのことゴライアスとかに変身して戦えばいいんじゃないか?」

 

 「いやいやいや、やめて下さい。ゴライアスに変身できるわけないし見たこともありません。」

 

 「じゃあミノタウロスとかヘルハウンドは?」

 

 「いやそりゃ見たことくらいありますが………。」

 

 「第一おかしいんだよリリルカ。お前は長期間変身することが頻繁にあるっていうのにそこまで魔力が伸びてない。もっと大幅な変身をすりゃあ魔力も伸びるんじゃないのか?」

 

 「え、ええ~。」

 

 「死ぬ気になれば以外となんでも行けるもんだ。大丈夫大丈夫。」

 

 「なんか不安しかありませんケド………。」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「ほら、なんとかなったろう。」

 

 「嘘でしょう、できてしまいました。嘘でしょう。リリの中のわずかな乙女は今日、死にました。」

 

 「そういうなよ。面影が残っててかわいかったぞ?」

 

 「やめて下さい。死体蹴りです。娼館に売られた方がマシです。」

 

 「そういうなよ、リリタウロス。」

 

 「リリタウロスっっ!?やめて下さい。冒険者に討伐されてしまいます。」

 

 「アストレアファミリアのゆるキャラで売り出す予定だ。」

 

 「リリは騙されてますよね。遊んでますよね。」

 

 「もちろん本気だ。アストレアファミリア所属、正義の超人リリトラマンだ。」

 

 「………リリは死にたいです。」

 



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ヘンな人に捕まってしまったbyリリルカ

 「当初の予定を変更する。リリルカは掘り出し物で予想以上に価値がある。さっさと引き抜いてしまおう。」

 

 「?まだランクアップは当分先の話だと思いますが?」

 

 「独自の裏技が見つかった。ホームも縮小して金銭的にも余裕があるだろう。この間の恐喝犯はどうだった?」

 

 「まさか彼らも引き抜くつもりですか?首尾良く矯正できてもソーマ様のところなら多大な脱退金がかかりますよ?」

 

 「ふむ。いっそのことファミリアを乗っとるか?神ソーマにお帰り頂いて。」

 

 「やめてください。それは許容できません。」

 

 「冗談だ。まあそれは後々考えるさ。当分は節約生活だがな。」

 

 ◇◇◇

 

 「相談とは何事ですか、リリルカさん?」

 

 「リリは困っています。カロン様のことです。」

 

 「彼が何か?」

 

 「最近のリリのステータスの上昇は、リリがカロン様とダンジョンにはいるたびに魔物に変身をして戦っているからです。効果があるのがすごく腹が立ちます。」

 

 「それでは最近冒険者の間で噂になっている浅い階層に出没する女性型ミノタウロスというのはーーー」

 

 「間違いなくリリです。リリの尊厳はカロン様がどこかへやってしまいました。」

 

 「なるほど。私は出会ったことがないからてっきり与太話だと思っていましたが、私が未遭遇だったのは正体がリリルカさんだったからなのですね?」

 

 「感心しないで下さい。カロン様はもっと深い層に進出してリリを強いモンスターや空が飛べるモンスターにしようと画策してるんですよ?」

 

 「なるほど。空が飛べたら有事の際の逃走にも非常に便利ですね。商品として非常に大きな価値になります。」

 

 「リュー様!?目を覚まして下さい!リュー様は間違いなくカロン様に毒されてます。早く目を覚まさないと手遅れになってしまいますよ!?」

 

 ◇◇◇

 

 「久しぶりね、カロン。この度はご愁傷様としかいえないわ。」

 

 「お久しぶりです、デメテル様。相変わらずお綺麗です。」

 

 「ありがとう。ところで今日は話があったみたいだけど。」

 

 「内々の話です。オフレコで。俺達はいずれアストレアファミリアを中心とした巨大な同盟連合ファミリアを作りたいと画策しています。」

 

 「………まさか私たちに加われと?」

 

 「現時点でそんなことをいうつもりはありません。俺達が力を取り戻したときにいずれまた来ます。今日はただの顔見せです。」

 

 「無理があると思うわ。あなたたちのことは嫌いじゃないけど私も子供達がかわいいの。危険に晒すつもりはないわ。」

 

 「でしょうね。あなたたちは安全を欲しがっている。」

 

 「わかったら帰って頂戴。」

 

 「最後に質問をします。あなた方のファミリアの団員は去年何人闇派閥の犠牲になりましたか?改善の見通しはありますか?」

 

 「帰りなさい!」

 

 「もちろん帰ります。俺達はいつだってあなた方が安全な生活をおくれることを祈ってますよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「何か状況は変わりましたか?」

 

 「あまり好転はしていないな。それなりの数のファミリアに顔を出してみたが………、多少なりとも好意的だったのはタケミカヅチとミアハのところくらいだ。まあ地道にやっていくさ。」

 

 「彼らはどうだったんですか?」

 

 「いますぐどうこうできるものではない。しかし両方とも金銭的に困窮していることは確かだ。そこをつけばあるいは可能性がある。主神も付け入る隙がある。」

 

 「もうそれは完全に悪人の台詞ですね。付け入るとか。それとリリルカさんからあまりおかしなものに変身させないで欲しいと苦情が来ましたが?」

 

 「失礼な奴だ。足が早い魔物とかに変身できたらいざというときに命が助かるだろ。リリルカは強くもなっている。なんも問題ない。」

 

 「女性の沽券的な問題らしいですよ?」

 

 「………正体がばれなきゃいいんじゃないか?」

 

 「刹那的過ぎます。」

 

 ◇◇◇

 

 「ふーむいいアイデアが浮かばん。」

 

 「アイデアですか?」

 

 「ああ。今日は俺とリリルカがダンジョンに潜ってるだろう。リューは勧誘をしている。なんかもっと効率的な方法はないかとな。」

 

 「考えながらとか気を抜き過ぎです。ダンジョンの危険さをもっと認識するべきです。」

 

 「まだ俺にとっては浅い階層だ。それにリリルカ、俺がミノタウロスを見てお前の変身を思いついたように意外と無関係そうなものがアイデアをひらめかせたりするもんだ。」

 

 「この人は………。もういっそのことリュー様に色仕掛けでも頼んだらどうですか?」

 

 「ふむ、こういうのはどうだろうリリルカ。まずお前が町で魔物に変身する。」

 

 「もうこの時点でふざけんなってかんじなんですけど?」

 

 「町で暴れるリリタウロス。その威様に怯える町の罪無き人々。そこを颯爽と現れる正義の味方リュー・リオンがーーー」

 

 「ふざけんな!カロン様は一体何をさせようとしてるんですか!?」

 

 「アストレアファミリアの宣伝だな。リリルカは非常に有能で助かっている。そういえば伝え忘れていたが俺達はお前の引き抜きを行うことを正式に決定した。今度ソーマファミリアに一緒に行くぞ。」

 

 「リリは本当に改宗してしまっていいんでしょうか………。ソーマファミリアのままのほうがましなんじゃあ………?」

 



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ベートが欲しい

 「ッッ………。テメェ何しやがる?邪魔するんじゃねぇ!」

 

 「こいつは俺達の仲間だ。手出しは控えてもらう。」

 

 「アァ?何いってやがる?どう見てもキモいミノタウロスじゃねぇか?」

 

 「どれだけ見た目がアレでもリリルカは俺達の大切な仲間だ!」

 

 「キモい………。そうですよね。リリはキモいんですよね。わかってました。リリはキモいですよねウヘヘヘヘ。」

 

 「アアン………?どうなってやがる?まさかあのミノタウロスはテメェか?」

 

 リリはひどく落ち込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 「チ ッ、さっきのミノはテメエの魔法だったって事か。まぎらわしいことしやがる。」

 

 「すまんな。ところでお前はあの有名なロキファミリアの凶狼だな?」

 

 「………それがどうした?」

 

 「なかなかいい蹴りだった。俺達のファミリアに是非来て欲しい。」

 

 「テメエはアストレアの残党だな?確か不死身(アンデッド)だったか?テメエもしかしてロキファミリアに喧嘩売ってんのか?」

 

 「まさか。純粋に戦力として来て欲しいと思っているだけだよ。」

 

 「ふざけんな。全滅した雑魚共の集まりに何故俺が行かないといけねェんだ。」

 

 「お前のいうところの雑魚は皆死んで今はたったの二人きりだ。残った俺達は精鋭だぜ?」

 

 「………チッ、屁理屈コネやがって。何と言おうがお断りだ。」

 

 「まあ待てよ凶狼、俺達は是非ともペットが欲しいんだ。お前俺達のペットになってくれよ?可愛がってやるぜ?」

 

 ◇◇◇

 

 ベートが激昂し戦いが始まった。ベートは相手の事を知っていた。

 

 ーー俺より一つ低いレベル3、不死身の二ツ名を持つ相手………

 

 ベートは圧倒していた。相手は手も足も出ていない。しかし

 

 ーー笑って受けていやがる。攻撃がほとんど通っていねぇ。これが不死身の由来だってことか………。厄介な奴だ。

 

 蹴る、蹴る、蹴って殴る。下腹部を蹴りこめかみを蹴り首を蹴り心臓部を殴る。相手は重厚な鎧を来ている。盾でしばしば弾かれる。それでもベートの攻撃が全くと行っていい程効いていないのは異常だ。

 

 「ッッテメエッッ!そのふざけたニヤケ面をやめやがれッッ!」

 

 「どうした凶狼?犬がじゃれているようなものだぞ?愛犬(ラブリードッグ)とかに改名した方がいいんじゃあないか?」

 

 「クソックソックソがぁぁぁ!!」

 

 ニヤケた面を止められない、ベートは自分に苛立った。しかし敵は口から血を流しながらなおわらうのをやめない。

 

 「おいおい、ポチ?まだ遊んで欲しいのか?いい加減聞き分けろよ?」

 

 「黙れッッ!!俺がテメエなんぞに負けるわけがねェ!!!」

 

 「おいお前目がついてんのか?お前が圧倒してるだろうが?お前の勝ちだよポチ。」

 

 「ッッッだったらテメエはニヤケ面をやめろってんだ!!」

 

 相手は盾を持っていて急所にはあまり入らない。それを考えてもおかしい。自分は上のレベルでその証拠に相手は自分のスピードについて来ていない。

 

 「おいおい凶狼、もうこのくらいで気はすんだだろ?もうやめようや?」

 

 ベートは少し冷静になる。ベートの目的は冒険者をたたきのめすことではない。

 

 「チッ、このくらいで勘弁してやるよ。」

 

 「凶狼、ウチのファミリア入団の件考えてくれ。」

 

 「テメエまだいってやがんのか?」

 

 ベートはいっそのこと呆れた。

 

 「剣姫の尻を追っかけるばかりじゃなくたまには引いてみると相手も意識してくれるかも知れないぜ?」

 

 ベートは絶句した。固まったベートをよそに二人は去って行った。

 

 ◇◇◇

 

 「カロン様、いい加減にしてください。こっちは冷や汗を流しましたよ。なんであんなことをしたんですか?」

 

 「シンプルな理由だ。あいつを引き抜こうと思った。悪くない相手だ。俺より強い。」

 

 「煽り過ぎですよ。攻撃されて笑ってるし。Mなんですか?」

 

 「いやあまりにあいつがいい反応するからつい、な。だんだん楽しくなってしまった。」

 

 「それにしても相手は格上ですよね?どうして攻撃を受けて笑っていられたんですか?」

 

 「スキルのおかげだな。耐久上昇のスキルだ。リューに付き合ってもらってどの程度堪えれるか検証済みだ。まあ正直結構痛かったけど。」

 

 「結構痛いで済むのは明らかに異常です。それにしても心臓に悪いからやめてください。」

 

 「なんだ、心配してくれたのか?優しいなリリルカ。」 

 

 「リリが入団してせっかく増えた団員が減るのが忍びなかっただけですよ。リュー様がかわいそうです。」

 

 「ふむそれはリューが俺に側にいて欲しいと望んでいるということか?リューは甘えん坊だな。」

 

 「だああ、あなたはもう何と言うか………。なんでリュー様じゃなくてあなたが団長なのですか?ふざけてるんですか?ふざけてるんですよね?あなたはふざけた人間です。」

 

 「ひどいなリリルカ。人の人間性をふざけているなんていうとは。俺は悲しいよ。お前がついに魂までミノタウロスになってしまったなんて………。」

 

 「までってなんですかまでって!!リリはキモいと言われたんですよ?リリはもうお嫁に行けません。」

 

 「大丈夫だよリリルカ。困ったらきっとミノタウロスがもらってくれるさ。」

 

 ◇◇◇

 

 「日に日にリリルカさんがやさぐれている気がするんですが大丈夫ですか?」

 

 「問題ないよ。多分反抗期とかだ。きっとやさぐれているのをカッコイイと思ってるんだよ。リューが溢れる母性とかでフォローしてくれるか?」

 

 「ふざけないで下さい。リリがやさぐれているのはすべてカロン様のせいです。」

 

 「と、いっていますが?」

 

 「まあそういうなよ。これから一緒のファミリアでやってくんだ。心にゆとりをもとうぜ?」

 

 「………リリの幸せはどこにあるんでしょうか………?」



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試してみるものだ

 「サポーターの教育は結局どういう風に行うのですか?」

 

 「リリルカの最初から持っていた強みはサポートにおいて効率的な動きができていることだ。まずこれに関しては専門のリリルカに理論を詰めてもらう以外にない。そしてその他の必要と思われる技能は戦闘の遠距離サポート、有事の際の指示及び逃走、初心者の教育指導等も考えている。これらに関してはリリルカと相談しながら詰めている。」

 

 「………なるほど。問題点はどのようなものが?」

 

 「山ほどだな。まず生徒がいないのが最大の問題だ。他には有事の指示を冒険者が受け付けるか?我々が育てたサポーター自体の損耗率はどの程度か?逃走手段をどのように身につけさせるかなどだ。」

 

 「なるほど。先は長いですね。」

 

 「最近はリューもだいぶ落ち着いたな。」

 

 「腹立たしい事ですがあなたのアホっぽさに影響されている自信があります。」

 

 「ひどいな。団長に対する敬意はないのか?」

 

 「どうでしょうね。あなたが最初からそのような性格だったのなら、あなたはアストレアファミリアに入団できたとは思えません。あの地獄があなたを変えたのかも知れないと思うとあまりあなたの性格に口を出す気になれない。私はあなたの救いになりたい。」

 

 「俺は前からこんな感じだったはずだぞ?」

 

 「………聞かなかったことにしてください。」

 

 ◇◇◇

 

 「それで勧誘の方はどんな感じだ?」

 

 「私の方は以前預けていただいた三名の教育が完了しました。彼らは必要なら脱退金さえ積めば呼べます。」

 

 「せんの………ごうも………教育は完了したか。ソーマの脱退金は結構な額だから取り合えず見送りだな。」

 

 「あなたの方はどんな感じですか?」

 

 「凶狼が欲しい。すでに3回ほど接触した。このまま力ずくでも奪いたい。」

 

 「過激ですね。何故彼にこだわるんですか?」

 

 「タケミカヅチとの合わせ技を考えている。後々連合ファミリアを作ることができたならタケミカヅチの道場を改装して凶狼を師範代に据えたい。タケミカヅチを呼び込む餌になる可能性も考えている。タケミカヅチが基本を、凶狼が実際に実戦で使える技術を教え込む。あいつは長物を使わないから体術が得意だ。性格的に指導に向いているのではとも考えている。単純な奴は案外面倒見がよかったりするもんだ。」

 

 「仮に理屈が通っていたとしてもうまくいっても当分先の話でしょう?それに彼は引き抜くのが難しいのでは?」

 

 「価値があるものが高価なのは当たり前だ。」

 

 「他はどうですか?」

 

 「簡単に引き抜けそうなのはイシュタルのところだが脱退金がソーマの所以上に高いしお前が気に入らんだろう。ミアハのところも高額過ぎて割に合わない。ナァーザ自体はかなり有能そうだから金に余裕があるならだな。そう考えると三馬鹿の選択肢は悪くないのかもしれない………。あいつらどの程度のものだ?」

 

 「私のいうことはしっかり聞きます。しかしリリルカさんのいうことを聞くとは思えないのでまずはリリルカさんとの上下関係をしっかり理解させることからになります。」

 

 「どうしたものかな。どこかに………。待てよ、もしかして………。」

 

 「どうしましたか?」

 

 「ふむ、いっそフレイヤに相談してみるかと思ってな。普通ならありえんがあいつは普通じゃない。なんか知恵をだしてくれるかもしれん。」

 

 「それはあまりよろしくないのでは?フレイヤ様が信用に足るとは思いづらい。」

 

 「思い立ったが吉日だ。ものは試しで行ってくる。」

 

 「普通はあってくれるとは思いませんが………。」

 

 ◇◇◇

 

 「ウフフ、良くきたわね。同盟ファミリアのあなたが私に何のようかしら?」

 

 「面倒なのはやめにしましょう。俺が今日きたのは悩みがあったからだ。フレイヤ様、あなたは木っ端と会ったりはしない。俺を通したという事は俺になんらかの興味があるってことだ。俺達は人材を探している。今現在明確な目的がない人材を俺達は欲している。あなたは俺がどうした方がいいと考えているか可能なら教えてほしい。」

 

 「あなたが私のファミリアに来ればいいんじゃないかしら?そうすればアストレアファミリアに融通を効かせてあげてもいいわよ?」

 

 「それは残念だが聞けないな。………済みませんね。俺の用はこれだけなんだ。今日はもう帰りますよ。」

 

 「あら、もう帰るの?それにしてもあなた本当に変な子ね。魅了が全く効いてない。」

 

 「あなたはそんなことをしてたのか。まあいいや。邪魔をしました。」

 

 「ほんと変な子ね。いきなり菓子折りを持ってきたかと思うと面会して30秒で帰ると言い出して魅了も一切効かない………ちょっと待ちなさい。」

 

 「どうしました?」

 

 「アレン、団員を五人程見繕ってちょうだい。人選は任せるわ。彼らには一年間の出向を命じます。帰ってきたら私から特別手当を出すと伝えて。」

 

 「フレイヤ様、感謝します。」

 

 「後でアストレアの本拠地に届けるわ。」

 

 ◇◇◇

 

 「というわけでフレイヤから五人程借りることに成功した。言ってみるもんだな。」

 

 「一年間の改宗ですか。しかし借りるだけでは意味がないのでは?」

 

 「無意味なことはないよ。リリルカの新人指導の練習台になるかもしれないし彼らをうまく育てればフレイヤが俺達により便宜を計ってくれるかもしれない。一年間でも五人増えれば入団者も現れるかもしれない。使い道は俺達で作り出すのさ。」



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主人公ハッスル!

 「リリルカ、実験をするぞ!」

 

 「はぁ、またですか?リリの事を楽しい遊び道具か何かと勘違いしてませんか?」

 

 「そんなことないさ!ただ新しいアイデアが浮かんできたんだ。」

 

 「またですか?それで今度はリリにどのようなハラスメント行為を?」

 

 「失礼な奴だな。俺はいつでもリリルカの事を考えてやってるんだ!」

 

 「全く役に立たないわけではないから質が悪いんですよね。それでリリは何すればいいんですか?」

 

 「リリルカは最大でどれくらいの大きさに変身できるか?」

 

 「試してないのでわかりませんが多分今まであった種族なら可能かと。」

 

 「15階層くらいになんとかドラゴンていたろ?あの緑いの。」

 

 「確かインファントドラゴンとかじゃなかったでしたっけ?それがどうかしたんですか?」

 

 「確かリリルカはアーデルアシストとかってあったろ?スキルの。あれは組み合わせればありえないくらいいろいろと運べるんじゃないか?裏技として上空から一方的に爆撃できるかもしれないな。」

 

 「はぁ、つまり空を飛んでたくさんの人を輸送しようって魂胆ですか?それと爆撃て………。経験値が入るとは思えませんが………。わかってますか?リリはあまり体が大きな物に化けると洋服が破けてしまうんですよ?」

 

 「服ならまた買ってやるさ。ホームまで変身したまま帰ればいいだろう。」

 

 「そういう問題じゃありません!わかってるんですか?少女が全裸で背中に鞍とかをつけてるんですよ?リリの精神的ダメージはどれほどと思ってるんですか?」

 

 「しかしダンジョンでダメだと思ったら使ってもらうことになるぞ?前もって練習は必要だ。」

 

 「………せめてリュー様との秘密の特訓にして下さい。」

 

 「残念だな。リリルカが乗り気なら男女のデートスポットとして売り出せるかと考えてたんだが?」

 

 「それは地獄の閻魔も裸足で逃げ出す外道の所業ですよ!?」

 

 「取り合えず先にアーデルアシストの積載限界を変身して調べてみよう。」

 

 「カロン様はどこまでも我が道を行きますね………。」

 

 ◇◇◇

 

 「おお、さすがリリタウロスだ。やはり人型の時と同じように手で持てるならいくらでも持てるのか。」

 

 「ヴモ、ヴモモモ。」

 

 「ブフゥッ!?」

 

 「カロン様、笑わないで下さい。」

 

 「すまんな。でもミノタウロス状態だとやっぱり言葉は喋れんのか?」

 

 「みたいですね。」

 

 「ところでリリルカは物質にはなれないのか?消しゴムとか?」

 

 「消しゴム!?ちょっと!それは嫌です。万一成功したと仮定しても戻れなくなったらどうするんですか?」

 

 「ふむ、確かに。さすがにお前を失う気はないからその実験はやめとくか。」

 

 「………つくづくなんでこのファミリアに来てしまったのでしょうか?正義を司るファミリアとは一体?」

 

 「まあ取り合えず予想通りに行きそうだとわかったのは収穫だな。これからどんどんでかい生き物をさがしにいこう!」

 

 ◇◇◇

 

 「結論から言いますと、リリファントドラゴンは実物より大きさが小さくなりました。背中に乗れるのもせいぜい四人と言ったところでしょうか?」

 

 「ふむ、そうか。時にリューは試したのか?」

 

 「はい、手綱を握る事にしたんですが鞍をつけた方が良さそうでした。鞍だったらそこそこ乗り心地がいいのではないでしょうか?」

 

 「惜しいな。リリルカが乗り気ならセレブ専用デートスポットとしてフレイヤに試させてみようかと思ったんだが………。ロキも食いついたかもしれないのにな。うまくいけば商売が可能だったのに………。」

 

 「カロン、私達の目的は金儲けではありません。」

 

 「ああそうだったな、スマン。ところでリリルカは?」

 

 「部屋で落ち込んでいます。ついにリリの人間としての尊厳までどうとか言ってました。」

 

 「ふむ、やはり精神的に来るものがあるのか。空を飛ぶのは気持ち良さそうなもんだがな?」

 

 「問題が大ありでしょう。全裸で大空を飛び快感を覚える少女、事案です。」

 

 ◇◇◇

 

 「猛者ですね、あなたにお聞きしたいことがあるのですが?」

 

 「俺に何の用だ、疾風?」

 

 「瀕死のカロンを助けたのはあなたですか?あなただったとしたら何故助けたのですか?」

 

 「………俺は6度のランクアップを果たした。俺は最低でも6度の死線を乗り越えた。あいつの姿が自身の苦難と重なった。ただそれだけだ。」

 

 「そうでしたか。カロンに代わってお礼を言わせて下さい。ありがとうございました。」

 

 「あいつはフレイヤ様のお気に入りだ。あいつを助けたことは結果的にフレイヤ様の役にたった。だから気にする必要はない。」

 

 「フレイヤ様が彼を気に入っているのは事実なんですね。」

 

 「不思議な男だ。俺もつい助けてしまった。」

 

 ◇◇◇

 

 「明日にフレイヤの所から冒険者がくると連絡があった。せっかくだし今日は俺達三人で食事にでも行くか?」

 

 「私は構いませんよ。」

 

 「カロン様のおごりでしたら。」

 

 「おいおいリリルカ、守銭奴だな。金は十分払っているつもりだが?」

 

 「リリはいつも精神的な苦痛を強いられています。正当な要求です。」

 

 「しょうがないな。」

 

 「それでしたら私も………。」

 

 「おいまてよリュー、お前に奢る理由はないだろ?」

 

 「あなたは団長です。上のものが下のものに奢るのは当然です。」

 

 「なんだお前もずいぶん図々しくなったなリュー?」

 

 「あなたの相手をするならこれくらいでないと務まりません。自業自得なのできっぱり諦めて下さい。」



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リューは寂しがりや

 「アインだ。」

 

 「イースです。」

 

 「俺はウルド。」

 

 「エルザよ。」

 

 「オーウェンだ。」

 

 今日はフレイヤファミリアからやってきた五人の面通しを行っていた。アインとウルドとオーウェンが男性でイースとエルザが女性だ。

 

 「よろしく、歓迎するよ。俺はカロン、団長を務めている。こっちはリューだ。お前らが増えたなら副団長だな。そしてこいつがリリルカ、アストレアファミリアのマスコット兼ゆるキャラだ。あっちにいる脳天気そうなのが主神のアストレアだ。」

 

 「マスコット兼ゆるキャラ!?カロン様はなんて説明をしてくれんですか!?」

 

 「脳天気!?いくらなんでもひどい説明よ!」

 

 リリルカとアストレアが何か言ってるが聞こえない。

 

 「君達はフレイヤの所から来てくれたようだな。」

 

 ざわざわしてる。めっちゃざわざわしてる。こちらを白い目で見てる。

 

 「コホン、君達はフレイヤ()の下から来てくれたようだな。早速だが君達は冒険者で成し遂げたい目的とかはあるのか?」

 

 彼らは話し合い、一人が前に出た。たしかアインだな。

 

 「俺達は猛者さんのようにフレイヤ様の役に立てる人材になりたい。」

 

 「そうか。しかしより具体的に話してくれるか?例えば前衛でアタッカーになりたいとか、魔法の専門職になりたいとか。お前達はその辺りはどう考えているんだ?」

 

 「俺達は皆フレイヤ様の眷属になって一年たったばかりだ。まだランクアップも果たしていないしどうしたいとかはまだ決まっていないんだ。俺達はいきなりフレイヤ様直々にあんた達の下へ行けって言われて…………。あんたら噂のアストレアファミリアだろ?悪い噂のある。俺達もどうすればいいのかわかんねぇんだよ。」

 

 「そうか。それならちょうどいいからこっちで育成を決めさせてもらう。それと噂に関しては気にするな。何かあったらそこのリューが多分守ってくれるさ。」

 

 「何故私なんですか?自分でやってください。」

 

 「だってお前俺より強いだろ?お前ら五人も俺より綺麗なエルフに守って欲しいんじゃないか?」

 

 「………俺達はフレイヤ様の命令でここにきた。拒否はしない。」

 

 寡黙な雰囲気の男が答える。確かウルドだ。

 

 「お前らには通常のダンジョン探索に加えてリリルカのサポーター講座も受けてもらう。ダンジョン探索については俺の指示に従ってもらう。」

 

 「サポーター講座?何のこと?」

 

 これはイースだ。

 

 「俺達は高い技能を持ったサポーターが冒険者の為にどれだけ役に立てるかの検証を行っている。お前らにはその初期被験者になってもらう。」

 

 「私らはフレイヤ様には逆らわないわ。不満や疑問があっても受けるしかないわね。」

 

 これはエルザ。

 

 「疑問は言ってくれりゃ答えるぜ。高いサポート技術を身につければきっとフレイヤ様も喜んでくれるさ。取り合えずせっかくだからオーウェン、お前も一言どうだい?」

 

 「………あんたらは少数精鋭の実力者だと聞いている。せいぜいよろしくお願いするよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「最近リリルカさんと二人で外出することが多いですね?一体何をしているのか聞いても?」

 

 「なんだリュー、寂しがってるのか?かわいいところあるじゃないか。」

 

 「ないですね。それより答えられないことなんですか?」

 

 「そういうわけじゃないよ。最近金を払ってタケミカヅチ道場に通ってるんだ。眷属とも仲良くなったよ。」

 

 「もしかしてアストレア同盟のためですか?まだ諦めてなかったんですか?」

 

 「まだあれからたいしてたってもいないだろ?何故諦める必要があるんだ?」

 

 「神々の感触が悪いと言っていたし最近のあなたは他ファミリアの訪問を減らしていましたので、てっきり………。」

 

 「予定があるのさ。明確なビジョン無しに訪れても手土産が高くつくだけだ。取り合えず今はソーマとのツテをあたっているところだ。」

 

 「まさかソーマ様の送還を?」

 

 「物騒なことを考えてたりはしないから怖い顔するなよ、リュー。」

 

 「それならばいいのですが………。ところであなたは何故タケミカヅチ様のところへ通っているんですか?」

 

 「ああ、そうだった。単純に実力の向上だよ。俺はステータス上の問題でどうしても相手の攻撃を受ける側になるからさ。タケミカヅチの地元の合気道とやらを習ってんだよ。これは人型の相手には効果があるぜ。魔物を相手にするには要改良だがな。」

 

 「リリルカさんは一体何のために通っているのですか?」

 

 「さあ?あれじゃないか?変身後の体の動かし方のイメージトレーニングとかじゃないか?」

 

 「そうですか………。次からは私も着いていきます。あなたがタケミカヅチ様に失礼な言動をしてるかもしれない。」

 

 「おいおい、それはいいががりだよ。教師には俺だって礼を尽くすさ。」

 

 「それでもです。あなたには常識が足りてるか怪しいところがありますから。」

 

 「ははぁん。さてはリュー、寂しかったんだな?かわいいところもあるじゃないか。」

 

 「………ひどい風評被害もあったものです。あなたのそれはいいがかりだ。」

 

 「別に寂しいから付いていきたいって素直に言えばいいんじゃないか?俺達はお前を邪険に扱うつもりはないぞ?」

 

 「別に寂しいなんて考えていませんよ。最近あの五人が来てから余裕ができたからと言ってホームにアストレア様と二人きりでも、アストレア様が神会とかにでかけてホームに一人きりでも。」

 

 「語るに落ちすぎだろう。お前はそれはわざとか?それとも腹芸が壊滅的に苦手なのか?まあ取り合えず次からは一緒に行くか?あの五人もいつかつれてくか。」

 

 「タケミカヅチ様は貧乏ですからね。礼金を払う人間が増えればきっと喜びますよ。」



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閑話~リューの受難~

SSそれすなわち自己満足!せっかくのチラうらですしおすし。作者は主人公と同じく我が道を、進む!


 リューは悩んでいた。ひどく悩んでいた。

 

 ------新人との距離感が掴めない。

 

 リューは以前から友人が少ないことを気にかけていた。今現在彼女にとって友人といえるのはリリルカだけだと彼女は考えていた。カロン?変人枠だ。友人枠には入れたくない。

 

 ------どうにかしないといけない。このままでは新人に示しがつかない。

 

 彼女は良くも悪くも真面目だった。彼女はリリルカに相談することにした。

 

 ◇◇◇

 

 「それでリリのところへきたというわけですか。」

 

 「その通りです、リリルカさん。私は一体どうすればいいのでしょうか?」

 

 「リリにもわかりかねます。恥ずかしながらリリも友人と思える方はリュー様以外に存在しません。アストレア様は主神様ですし。あ、でもタケミカヅチ様のところの千草様と命様とは少し仲良くなりました。相手がリリをどうお考えになっているかはわかりませんが………。」

 

 「どうしましょうか?いっそのことカロンにも聞いてみますか?」

 

 「カロン様に聞いたらいつものように明後日の方へ向かってしまうのでは?しかし顔は広いみたいですし………。」

 

 「悩み所ですね。取り合えず聞いてみてから考えることにしましょうか。」

 

 女性二人のなんだか悲しい会話だった。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで、カロンはどうすればいいと思いますか?」

 

 「別にどうもこうも、普通にすればいいだろう。俺がいつもお前達に対応してるみたいな感じだ。」

 

 「それがわからないから私たちは恥を忍んで相談をしているのですが………。」

 

 思わずジト目になるリュー。

 

 「じゃあ何が問題なのか問題点をあげてみるか。お前らどう考えているんだ?」

 

 「私は初対面の人間に距離をとってしまうことを自覚しています。」

 

 「お前は初対面でなくとも距離をとるだろう。諦めろ。次。」

 

 「リリは小さいので相手にナメられてしまうのではないでしょうか?」

 

 「リリタウロスに変身しろ。次。」

 

 「ちょっと待って下さい。問題を解決せずに放り投げてるだけじゃないですか!」

 

 「そうです!リリも変身しろだなんてどうやって相手とコミュニケーションとれというんですか?喋れないし第一あの姿は極力見せたくありません。」

 

 「贅沢な奴らだな、じゃあまずはリュー、お前は特訓するか?」

 

 「特訓ですか?」

 

 「お前俺でも触ったら殴って来るだろ。それを我慢する特訓と後は外で他人と話して来ればいい。ナンパでもしてこい。」

 

 「ちょっっ。」

 

 「次にリリルカ。お前が小さいのは仕方がない。サポーター講義でしっかり尊敬を勝ち取ればいい。体は小さくても器はでかいんだってあいつらにしめしてこい。」

 

 「なるほど。それは一理ありますね。」

 

 「待って下さい。何故私とリリルカさんの対応がこんなにも違うのか?私のこともちゃんと考えて下さい。」

 

 「それは愛を囁く言葉か?」

 

 「断じてありえません。それで何故ですか?」

 

 「それは簡単だよ。リリルカは今まで周りに恵まれずに友人がいなかっただけだ。お前はコミュ障だ。」

 

 「ひど過ぎます。あなたは私に何か恨みでもあるんですか?」

 

 「現実を正確に分析しないと的確な対応ができんだろ。それでどうするんだ?特訓するか?」

 

 「………特訓内容はどうするつもりですか?」

 

 「俺がお前に触ってお前が我慢するのと外で他人としゃべったりする。実践あるのみだと思うが?」

 

 「そんなもので大丈夫でしょうか?」

 

 「他に何かあるか?お前もそろそろ脳筋は卒業したがいいぞ?」

 

 「のうきっっ………。謝罪して下さい。」

 

 「そういうのはしっかり考えて自分で案を出してからいうようにするんだな。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 「あなたまた固くなりましたね。私の攻撃が全然通らない。」

 

 「ダメージは受けてるぞ。凶狼と遊んでいるから固くなったのは否定しないが。ところでお前はいつになったら成長するんだ?もう結構な回数攻撃を喰らっているんだが………。」

 

 「すみません。努力はしているつもりなのですが。」

 

 「やれやれ、長い目で見るしかないか。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「やっぱり会話が固いんだよな。話しかける事自体は問題なさそうだが。もうそれでいいんじゃないか?」

 

 「しかし、私は先輩として彼らに見本を見せなければ………。」

 

 「別にそんなに真面目にする必要はないだろう。あいつらだってお前のことを少し頑固で融通の効かないおばさんくらいにしかおもわんだろ。」

 

 「おばっっっ。訂正して下さい!私は若者だ!あなたは失礼過ぎる。」

 

 「でもお前長寿なエルフだろ?」

 

 「やめて下さい。そもそもあなたはアストレアファミリアでそれなりに時を共に過ごしたはずだ。あなただって今より若い私を見たことがあったでしょう。」

 

 「そうだったか?気付いたときにはうるさいおばさんがいるなとしか………。」

 

 「あなたは内心でそんなことを考えていたのですか。手酷く裏切られた気分だ。………もう一回触る訓練をしましょう。」

 

 「おいおい、いくら我慢できるといっても痛みはしばらく残るんだぞ?このくらいで勘弁してくれないのか?」

 

 「私は多大なストレスと屈辱を受けた。この程度で赦すのですからあなたには拒否権はない。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓が芳しくなかった私は珍しく独りで豊饒の女主人という店で管を巻いた。初見の店で私はヤケクソな心持ちで入店していた。

 

 「なんですか、おばさんって。なんですか、コミュ障って。私だって、私だって、好きでこんな性格をしてるわけじゃあ………。」

 

 「お客さん、どうしたんですか?そんなになるまで飲んで。綺麗な女性が無用心ですよ。」

 

 「店員さん、聞いて下さい。皆が私を馬鹿にするんです。私がババアだって、私がコミュ障だって。私が友達が少ないからって。私だって、私だってぇ……。」

 

 「涙を拭いてください。私はシルといいます。あなたは若くて綺麗ですしあなたと私は今普通におしゃべりしています。今度素面で来ていただいた時に私たちは仲良くお喋りできますよ。私たちはきっといい友人になれるはずです。」




補足として主人公のスキルは
ん?→あれ、もしかしてそうなのか?→もしかしてそうなのかも知れない。→そうだろうな。→そうにちがいない。と段階的に洗脳していくスキルです。当然長く一緒にいる人ほど危険です。本人の意思によっても効力が大きく左右されます。アストレアはこのスキルは主人公に伝えていません。


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ロキファミリアとの死闘(前編)

 ここはアストレアファミリア、アストレアの私室。アストレアはカロンを呼びだし二人は向かい合っていた。

 

 「カロン、ロキファミリアから苦情が来ているわ。何でもベートさんて方がストーカーも大概にしろと怒ってるって。」

 

 「うん?ふむ。凶狼の引き抜きを諦める気はないんだがな。わかった。俺がロキに直接苦情を聞いてくるよ。」

 

 「大丈夫なのカロン?相手は怒っているのよ?あなたはロキの怒りに余計に油を注ぐような事をしたりしない?」

 

 「俺はアストレアファミリア団長だ。どっちみちこの先ロキファミリアとなんらかの話をする時がくるかもしれんだろ。それに別に今交渉に行っても相手を怒らせたりするつもりはないさ。」

 

 「でも相手はロキよ?オラリオで最強と呼ばれているわ。万一怒らせたりしたらーーー」

 

 「まあ問題ないだろ。仮にもフレイヤファミリアと同盟を結んでいる相手に簡単に手を出すような馬鹿げたマネはせんだろ。」

 

 ------まあ大丈夫なのかしら?

 

 アストレアはクビを傾げた。彼女はこの時カロンに相手の意思を捩曲げるスキルがあることをすっかり忘れていた。アストレアも彼女の思考を誘導されていた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「結論を言います。彼が相手を怒らせる可能性は十分にあります。彼は口が悪いし少し愉快犯的なところがある。いますぐ追いかけます。」

 

 「やっぱり早まったのかしら?先にあなたに相談するべきだったわ。カロンはあまり神に対する敬意もないし………。ロキを本気で怒らせたら明日にはアストレアファミリアは無くなってるわよね………。」

 

 「リリも一緒に向かいましょうか?」

 

 「いいえ、リリルカさんはホームでまっていて下さい。あなたにはこの後サポーター講義がある。」

 

 「しかし、ファミリアの一大事じゃあーーー」

 

 「リリルカさん、申し訳ないがあなたでは私のスピードに付いてこれない。我慢して待っててほしい。」

 

 「わかりました。リュー様、お願いします。」

 

 「任せて下さい。首の根を掴んでも連れて帰ります。」

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、せめてロキ様に確認だけはしてもらえないか?」

 

 「俺達はロキファミリアの門番だ。アポイントメントのない奴を通すわけには行かないしお前はあの不死身だろう?ベートさんのストーカーの。神ロキは大手ファミリアの主神でお忙しい。お前ら零細ファミリアとはわけが違うんだ。」

 

 門番は粘っていた。何が何でも通すわけにはいかない。相手は悪名高きベートのストーカーだ。彼らの間で交渉という名の闘いが繰り広げられる。

 

 「しかし俺は零細ファミリアとは言え長年オラリオの治安を担ってきたファミリアの団長だぞ?せめて主神に確認くらいとるのが筋ではないのか?神酒の出来損ないをロキ様への捧げ物として持参もしているぞ?」

 

 「それでもだ!お前がベートさんを怒らせたせいで俺達はあの人のストレス発散に付き合わされたんだぞ?お前は通すとベートさんがキレるんだよ!」

 

 引けない闘いがここにある------

 

 「安心しろ。凶狼には俺からいっといてやるよ。」

 

 「馬鹿なのか?どこに安心できる要素があるんだ!余計怒らせるだけに決まってるだろうが!」

 

 「心配いらん。多分あいつはツンデレだ。あれはもっとやってくれと、つまりそういうことだ。」

 

 「どういうことだ!ベートさんがツンデレなのは否定しないがお前にたいしてあるのは拒絶だけだ!」

 

 「うーん、どうやっても通してくれんのか?ウチにはリューという美人エルフがいる。こっそり隠し撮りした写真があるからそれをあげてもか?」

 

 「俺達にはリヴェリアさんもレフィーヤちゃんもいるんだ!エルフの色香に騙されたりはしない!」

 

 「そこにもう一人リューを付け加えてもいいんじゃないか?なんだったらチラッと写真の確認するか?」

 

 「何やってるの?」

 

 二人の白熱(?)した闘いは唐突に終わりを告げた。

 

 「アイズさん、たいしたことじゃありません。ただの………変人です。」

 

 なんと告げようか迷った門番はあろう事かカロンを変人呼ばわりする。しかしそれがまさかの命取りだった。アイズは変人に興味を持つ。

 

 「変人………さん。たしかベートさんのストーカー?」

 

 「否定はしない。俺はしょっちゅう凶狼を追いかけている。」

 

 「何でベートさんを追いかけてるの?」

 

 「ベートのあまりの可愛さについ………な。」

 

 適当をぶっこくカロン。

 

 「ベートさんはかわいい扱いをすると怒ると思う。」

 

 「そうか、じゃあ凶狼に謝らないとな。ホームの中へ案内してくれるか?」

 

 「わかった。」

 

 「ちょ、アイズさん------」

 

 アイズは余りにも純粋だった。

 

 ◇◇◇

 

 いっぽうその頃------

 

 ーー何とか間に合って下さい。

 

 リューは必死に走っていた。それはもう必死に。まともに考えれば門番が無礼者を本拠地の中へ通すわけはない。しかしなにせ相手は変人(カロン)だ。いつものように無駄に達者な話術で超理論を展開し相手を丸め込んでいないとも限らない。リューは必死で間に合うことを祈りながら走りつづけていた。

                                                        後編へと続く



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ロキファミリアとの死闘(後編)

 「通して下さい!我々のファミリアの一大事だ!私はもう仲間を失いたくない!」

 

 「通せるわけないだろ!あんたは確かに変人のいったとおり美人だが………。これ以上許可がない奴を通してやるわけには行かない!」

 

 「美人?何の話ですか?そんなことよりアストレアファミリア存亡の危機なんです!」

 

 「待てよ、いくら変人でもまさかウチの本拠地で暴れたりはしないだろ。頭を冷やせ!」

 

 新しい闘いが繰り広げられていた。

 

 ◇◇◇

 

 「ロキはいつも自室にいる。ベートさんは多分鍛練場。」

 

 「そうか。時に剣姫はロキファミリアは好きか?」

 

 「アイズってよんで。」

 

 「そうか。アイズはどこか他のファミリアに移籍することを考えたりはしないのか?」

 

 「?考えたことない。」

 

 「自分、ウチのホームで何アイズたんの引き抜きをおこなってんねん!」

 

 後頭部を叩かれるカロン。ロキはアイズと話をするカロンを見つけていた。

 

 「神ロキか。神酒の失敗作だが手土産を持ってきた。お義母さん、お宅のベートさんをウチに下さい!」

 

 「誰が義母さんや!第一ベートは断ったはずやろ?いつまでつきまとっとんねん!前に来たときもエライしつこかったし。」

 

 「ロキ………ベートさん、他のファミリアに行くの?」

 

 小首を傾げるアイズ。

 

 「アイズたん、大丈夫や。ベートはどこかにいったりせえへんで。」

 

 「そこを何とか!ベートは俺が必ず、、、俺が必ず幸せにする!」

 

 「お前はやかましいっちゅうねん。大体お前どうやってはいったんや?門番には通すなっていったはずやで?」

 

 「あなたの大好きなアイズが入れてくれたよ。アイズの顔を潰したくなかったら話を聞くがいい!」

 

 「お前はホンマなんなんや?何でベートに付き纏うんや?」

 

 「ベートが素晴らしいからに決まってるだろう!ベートは優秀な人材だ。どうしても引き抜きたい!」

 

 「ベートが優秀なのは同意してもかまへんが………。かわいいだけによそにはやれんな。」

 

 「しかし神ロキよ、ベートの居場所はベートが決めるべきだろう。」

 

 「だからベート本人がいやがっとるっちゅうねん!」

 

 「しかし神ロキ、俺達に交渉する権利はあるはずだ。神がそれを門前払いにするのはおかしいのではないか?」

 

 「それはそうかもしらんけど、ベートはいやがっとるんやで?お前がいつもしつこく付き纏って来るって………。」

 

 「俺達はベートに最初にあったときベートが俺達の仲間にいきなり襲い掛かって来たんだぞ?話し合いの分俺達の方が平和的で理知的ではないか?」

 

 「ゥッ………。それは………ホンマみたいやな。」

 

 「ロキ、ベートさんは他の所に行くの?」

 

 「大丈夫や、アイズたん。ベートはウチがどこにもいかせんからな。」

 

 「ところで神ロキよ、あなたのファミリアは客人に茶の一つも出さないのか?俺は土産を持ってきたぞ?」

 

 「じゃかあしい!」

 

 ◇◇◇

 

 いっぽうその頃------

 

 「いい加減にしろ!いくら交渉しても無駄だ!俺達は誇り高きロキファミリアの門番だ!決して通すわけには行かない!」

 

 「お願いします!ファミリアの命運がかかってるんです!今度ドラゴンの背中に乗せてあげますから!」

 

 「何をわけのわからないことをいってるのだ!変人は部下も変人なのか!」

 

 「なっっ、訂正してください。私は変人じゃない!」

 

 「ええい、黙れ!変人でなければあんなストーカーの下で働けるものか!」

 

 終わらない闘いが繰り広げられていた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 カロン達三人はロキの私室に移動していた。三人とはもちろんカロン、ロキ、アイズである。

 

 「でその中でも抹茶小豆クリーム味が特においしいの。」

 

 「そうなのか。今度買って食べてみるかな。」

 

 「アイズたん………。」

 

 「ロキ、カロンは悪い人じゃないよ。」

 

 「その通りだ!」

 

 「やかましい!」

 

 「ところでアイズよ、俺の所にリリルカという団員がいる。お前と仲良くなれると思うし一度遊びに来るか?歳もお前より少し若いくらいだ。」

 

 「本当?でも私は強くならないといけないから時間がない………。」

 

 「一日二日で急激に強くなったりはできんさ。何ならお前もタケミカヅチ道場に一緒に通うか?」

 

 「強くなれるかな?」

 

 「対人戦では効果があると思うぞ。武器を落としたり壊された時でも闘いつづける事ができるようにもなる。」

 

 「ア、アイズたん。ソイツは変人や。あまり関わりすぎると「ロキうるさい。」アイズたぁん………。」

 

 「アイズが興味があるなら一緒にいってみるか?リリルカも通っているし。」

 

 「いいの?」

 

 「もちろんだ。俺にもじゃが丸君の屋台の案内をしてくれるか?」

 

 「うんっ。」

 

 ◇◇◇

 

 「神ロキ、お邪魔した。」

 

 「もうくんなや。ベートに関してはもう何も言わんから。」

 

 「神ロキ、感謝する。ところでアイズを手放す予定はーー。」

 

 「喧嘩うっとんのか!!!」

 

 ◇◇◇

 

 「リュー、そんなところで何を?」

 

 「カロン、帰ってきましたか。」

 

 「ほら、出てきたんならさっさと帰れ!」

 

 門番は疲れ果てていた。

 

 「カロン、ロキ様との会合はどうなりましたか?」

 

 「ロキは慈悲深く懐が深い。凶狼の勧誘も問題ないそうだ。」

 

 「そうですか。一体どんな卑怯な手を使ったんですか?」

 

 「卑怯とは人聞きの悪い。誠意を持って話せば皆わかってくれるのさ。」

 

 「誠意なんてあなたからもっとも程遠い言葉でしょう。」

 

 「何を根拠にそんなことを?」

 

 「あなたのこれまでのファミリア内での言動です。あなたはリリルカさんをやさぐれさせたり私を歳増扱いしたり………。ロキ様の今日の心労を考えると同情を禁じえません。」




第一Round カロンwinー門番lose 決まり手 アイズ
第二Round リューloseー門番win 決まり手 時間切れ 
第三Round カロンwinーロキlose 決まり手 アイズ
            ベートー不戦敗
                   アイズ最強説


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閑話~リリルカの受難~

 カロン様がまたいらん事を思いついてしまいました。曰く、毒があり空を飛べる魔物に化ければ空を飛ぶ敵が出ない階層では無敵なのではとのこと。一体何を考えているのでしょうか?この人は馬鹿なんでしょうか?馬鹿なのですね?馬鹿なのでした。

 

 「というわけで実験するぞ、リリルカ!」

 

 目をキラキラさせています。どんだけ楽しみなのでしょうか。

 

 「カロン、リリルカさんがまた引いてますよ。あなたは彼女の扱いが最近雑なのではありませんか?」

 

 この方はリュー様、リリの唯一の癒しです。稀におかしくなりますが基本的に良識人です。

 

 「しかし、リュー、リリルカの可能性を試すべきだろう。リリルカは得難い人材だ。リリルカがいろいろな可能性を試せばリリルカの生存率は上がるだろう。」

 

 これがカロン様のたちの悪いところです。反論の難しい正論を真っ向からぶつけてきます。しかしリリは騙されません。カロン様は自分の楽しみの為に実験を行っています。その証拠に当初のサポーターの生存率云々の話はどこ行った、って話です。このやり方ではリリ個人の生存率と戦闘の幅しか上がりません。もっと汎用的な技術を生み出さないといけないはずです。

 

 「ふむ。一理ありますね。」

 

 リュー様はもうダメです。完璧に洗脳されてしまっています。ここはリリがはっきり言うべきです。

 

 「カロン様、リリだけではなく他の方々のサポート能力の向上にも努めるべきではありませんか?」

 

 「俺がリリルカの能力の向上を手伝う、他の人間の生存率向上を専門のリリルカが教育する。リリルカ自身にできることの幅が増えればいろいろな事を思いつくだろ?俺はそうするべきだと思うが?」

 

 この変人は嫌に弁が立つのがたちの悪いところです。さらに悪いことになかなか団長権限を切りません。それは話し合いで事を納めたということです。話し合いで事を納めたならばリュー様やリリ等の下の人間も表だって反抗しづらいです。

 

 「それに俺達にはいつ闇派閥が襲い掛かって来るかわからんからな。リリルカには取れる限りの能力を取っておいて欲しい。」

 

 「なるほど、確かにその通りですね。リリルカさんには私も絶対に死んでほしくない。」

 

 汚い、汚すぎる。自分の興味の実験をさぞリリの心配をしてるかのように正論で包んでくる。挙げ句の果てにたちの悪いのは彼の心配が本心だということです。事実上話し合いではなく命令です。ついにはリリは蜂にされてしまいます。この間はドラゴンでした。ドラゴンは爬虫類で蜂は昆虫です。リリはどこまでおかしな生物にされてしまうのでしょうか。思えば哺乳類だったミノタウロス時代は幸せだったのかもしれません。

 

 ◇◇◇

 

 「なあ、リリルカ。スライムはどう思う?」

 

 「エヘヘヘヘカロン様、リリは次はスライムですか?今度はどんなおかしな名称をつけていただけるんですかエヘヘヘヘ。」

 

 「カロン、リリルカさんの様子がおかしくなっています。今日はもう中止にするべきです。」

 

 「ふむ、確かに調子が悪そうだな。今日はもう休ませて続きは明日にするか。」

 

 そうですよね知ってました。リリは知ってました。カロン様はそういう方です。真の悪魔は悪意なく人を食い物にするんですよね知ってました。

 

 「カロン、リリルカさんの様子が戻りません。長期休暇を与えて静養させるべきでは。」

 

 「ふむ、残念だが致し方なしか。それにしてもリリルカに何があったんだ?」

 

 いやなにがあったんだじゃないですよ!あなたです!!!あなたは普段悪知恵が回るのに何で気付かないんですか!!!わざとですよね!?

 

 「ミアハかディアンケヒトの所でも行ってみるか?リリルカに効く薬が売ってるかも知れん。」

 

 リリにお薬は必要ありません。お薬が必要なのはあなたです!馬鹿に付ける薬を調合してもらって来て下さい!

 

 「カロン、リリルカさんは大切な仲間です。私はダンジョンに潜って効きそうな薬の材料を取ってきます。」

 

 あああ待ってください。リリをカロン様と二人きりで置き去りにしないで下さい!二人きりにされたらお得意の超理論で何をされるかわかったものではありません!

 

 「リュー、頼む。済まない、お前は俺より素早いし戦闘力も高い。俺は………、自分が情けない。」

 

 「任せて下さい!リリルカさんは必ず助け出します!私の正義にかけて!」

 

 あああちょっと待って何いい雰囲気出してるんですか?しかもそれリリの死亡フラグじゃないですか!神様リリが一体何をしたって………………

 

 ◇◇◇

 

 「精神的な疲労です。少し頭が混乱しただけですね。しばらく休養して十分な睡眠をとれば治るでしょう。」

 

 ここはディアンケヒトファミリアの経営する病院のようです。リリはベッドに寝かされています。ベッドの脇にはカロン様がいます。リリは助かったのでしょうか?

 

 「リリルカ、大丈夫か?心配したぞ。」

 

 心配するなら非人道的実験を行うことを心配してください。

 

 「リリルカさん、見つけました。私達がいた場所にいなかったので心配しました。」

 

 頼むから置いていかないで下さい。

 

 「それにしてもリリルカさんは何故倒れたのですか?」

 

 「精神的な疲労だそうだ。………寝不足か?」

 

 この人はリリの精神を殺しにかかっているのでしょうか?

 

 「リリルカさん、寝不足はいけない。いざ襲われたときに遅れを取る原因となりかねません。」

 

 何故この人もここ一番でポンコツなのか?あなた以前リリの相談に乗ってくれたはずですよね?

 

 「リリルカ、俺達は閉館時間だから帰ることにする。自愛するんだぞ。帰ってきたらまた実験しないといけない。また新しいアイデアを思いついたんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは最近リュー様に教えていただいた初めて来るお店です。豊穣の女主人という名前です。リリはこのお店でミルクをがぶ飲みしながらやさぐれていました。

 

 「ヒック、神様、リリが一体何をしたっていうんですか?神様はリリの事がそんなにおきらいなのですか?リリは、リリは………………幸せになりたいぃぃぃぃぃぃ!」

 

 「お客さん、どうしたんですか?あまり泣くとかわいらしいお顔が台なしです。それに少しミルクの飲み過ぎですよ?」

 

 「店員さん、聞いて下さい。団長が外道なんです。止めるべき副団長もポンコツだし………。リリは最近はヌメヌメになりました。スライムですよスライム!ついにまさかの単細胞生物です。尊厳も人権もあったものじゃありません。苦労を聞かせられる相手もいませんし。あんなの新人には聞かせられません。リリは、リリは、うわあぁぁぁぁ!」

 

 「涙を拭いて下さいお客さん。私はシルといいます。私はあなたの相談を受けることができます。私があなたの心労を聞ける友達になりますので前を向いて下さい。」




リリルカが倒れたのは精神疲労とマインドダウンの合わせ技です。


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さようならみんな

 「リヴィラにも彼らのお墓を作るべきです。アストレアファミリアの急務は今はありません。」

 

 「しかしリヴィラではアストレアが墓参りできんだろう。オラリオに建造した墓だけで満足すべきだ。」

 

 「しかし彼らの魂はまだあそこにいるはずだ。少しでも近くに作るべきだ!」

 

 私は珍しく強固な主張をしていた。

 

 「ならばなんらかの供養のみを行おう。我等の主神が来れないのは彼女自身にとっても死者にとってもあまりに寂しいだろう。」

 

 「………わかりました。」

 

 ◇◇◇

 

 私達はリヴィラの町のあまり人の来ない丘に来ていた。新人五人も連れて来ていた。

 

 「彼らの魂は今も彷徨っているのでしょうか?それとも遠くへ行ってしまったのか?カロン、いつも屁理屈で私を納得させるその弁舌で私に何かの答を下さい。」

 

 「彼らは去っていってしまったよ。魂だけが縛られて遺るのは辛いだろう?タケミカヅチは死者の魂は巡るといっていたよ。」

 

 「彼らは次はどこで生まれるのですか?」

 

 「さあな、もう既にオラリオのどこかにいるのかもしれないし人間以外の可能性も高い。ダンジョンのモンスターでないと誰にも証明ができない。」

 

 「そんな、私に信じさせてください!いつものように!彼らがどこかで幸せに生きていると!」

 

 「リュー、強くあるべきだよ。お前は長い時間を生きるエルフだ。目をそらしごまかして自分に都合のいい事だけを信じていたら、お前はいつか掬われることのない地獄に堕ちるかも知れない、お前は冒険者としては強靭だが精神的には脆弱だ。」

 

 「そんなことは、そんなことはない!」

 

 「お前は………。とても残酷だがあの時もっと早くに決断すべきだった。」

 

 「そんな………。不可能だ!」

 

 「一回目はそれでも仕方ないよ。しかしそこで目を逸らし耳をふさいでしまったら………。次も救われない。何も変わらない結末が訪れる。お前は俺達より長く生きるから………。」

 

 「私は………。私はどうすべきだったんですか?」

 

 「生き残る人間と死にゆく人間を選別して死にゆくものを遺れる人間の贄にすることを選択するべきだった。」

 

 「私には………不可能です。私は選びたくない!あなたに死を命じたときですら身を引き裂かれる思いだったというのに!」

 

 「いつだってどこかで誰かは死ぬよ。俺だって冒険者だ。明日闇派閥に襲われて死なないとも限らない。強くあってくれ、リュー。」

 

 私がその時見た彼の目は、凪いだ海のように穏やかに見えた。しかしそれは普段とは違いとても寂しい青色をしていた。私の空色とは違い彼の色は海の色だ。私は胸を鷲掴みにされたような錯覚を覚えた。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「ッッテメエ、こんなところで何してやがる?」

 

 「野暮用だよ。もうじき帰るさ。」

 

 「アン、テメエ何でつっかかってきやがらねぇ?何考えてやがる?」

 

 「ただ遊ぶだけの元気がないだけだよ。すまん、凶狼。どうか許してくれ。」

 

 「………どういうことだ?説明しやがれ。」

 

 「ただの墓参りのようなものさ。あんまり騒ぐと彼らが怒るかもしれない。俺は前からしょっちゅう団長達には怒られてたからな。」

 

 「ッッ………おいテメエ、テメエは俺のサンドバッグだ。殴りがいがねぇから今回は見逃してやる。次に会うまでにさっさと元気を取り戻しやがれ!」

 

 「………ありがとう。」

 

 「………フン。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「リリルカ、初めてあの五人はここまで来たと思うがどう思う?」

 

 「緊張して疲れてますね。それよりカロン様はそんなへこんだ状態でも聞きますか。」

 

 「戦力は俺とリューだからな。リューも当事者だし団長の俺がしっかりしないといかんだろう。今の精神状態じゃあリューも不覚を取りかねない。」

 

 「そうですね………。それにしてもそんなに頼れるところを見せつけてどうするんですか?誰かを口説くんですか?ここには魔物もどきとぼっちの脳筋しかいませんよ。新人はフレイヤ様のものですから手を出せませんよ?」

 

 「ここぞとばかりに攻撃して来るな。そんなに普段の扱いが悪いか?」

 

 「いえ、最近は少しおもしろくなってきました。完璧にあなたの悪影響です。」

 

 「意地の悪いところはおれのせいじゃあない。自前だろう?何でもかんでも人のせいにするなよな。」

 

 「いえいえそれこそまさにカロン様の影響です。」

 

 ◇◇◇

 

 ホームに帰った俺達、俺は一人でアストレアの私室を訪れた。

 

 「お帰りなさい。」

 

 「ああ、ただいま帰ったよ。何だか新婚みたいなやり取りだな。」

 

 「大丈夫?とても疲れているように見えるわ。いつもみたいに軽口を叩いてもまるわかりよ?」

 

 「そうか………。今まで考えないようにしてきたからな。正直堪えたよ。」

 

 「そう………お夕飯全員分用意しといたわ。」

 

 「ありがとう。しかし皆疲れているからな。関係のないリリルカや新人もレベル1だし肝心の俺達があまり頼りになれなかったからな。」

 

 「リューは大丈夫だった?」

 

 「大丈夫ではあるが………。難しいな。高潔に過ぎるよ。覚えてたら復讐に悩まされるし忘れたら次の死別に堪えられるかわからない………。どっちがよかったんだろうな?」

 

 「あなたは間違っていなかったわ。今は先送りにするしかない。次のお別れが来る、その時にリューが乗り超えられる事を信じるしか私達にはできない。」

 

 「そうなんだろうな。」



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闇派閥との戦い

 ここはオラリオのとある一角、そこは闇より昏く死臭の漂うならず者達の中でも特にタチの悪い連中のたまり場だった。

 

 「おい、アストレアファミリアの生き残りはどうするんだ?あいつら何人か生き残りやがったぞ。もう同じ手が通用するとは思えねぇぞ。」

 

 「疾風が特に厄介だな。新しく五人の入団があったようだし。」

 

 「その五人はフレイヤの子飼いだという話だ。しかもどうやら奴らはフレイヤに泣きついたらしい。下手に手を出したら猛者がでてきかねん。あいつらが本腰を入れたらいささか以上に厄介だ。放っておくべきだろう。」

 

 「だが疾風って一番厄介な奴が生き残りやがったぜ?俺達にとっても邪魔じゃあないか?」

 

 「しかしあいつらは以前ほど我等の邪魔ではない。手をだせそうな雑魚に関しても常に疾風か不死身が護衛に付いていることだし見逃してもかまわんだろう。」

 

 「おいおい、お前らいつからそんなに弱腰になったんだ?お前らが何もできねぇで震えてるんだったら俺が始末をつけてやるよ?手伝ってやるぜ?」

 

 これは突然あらわれた黒髪短髪の男の台詞だ。男は目が吊り上がり大きな体も相まって凄まじい威圧感を出している。男はレベル5だった。男は時折ふらりとあらわれ金で物事の解決を請け負っていた。

 

 「<悪鬼(デーモン)>ハンニバルか。俺達は手がだせねぇ。あんたは一体どうするんだ?」

 

 「簡単だよ。ダンジョンの誰も見ていないところで魔物の餌になってもらう。疾風と不死身がバラけた状態でやりゃあ問題なく消せるぜ?」

 

 「お前がやってくれんのか。どういう風の吹き回しだ?」

 

 「なぁに簡単なことだよ。いつも通りさ。地獄の沙汰も金次第さ。お前ら俺に金払えよ。」

 

 「………いくらだ?」

 

 「合わせて二千万ヴァリスだ。まさか高いとはいわねぇよな?」

 

 「おい、二千万も払うくらいならほっといた方がいいんじゃねぇか?」

 

 「いや、これさえ払えば憂いが絶てるんなら………。」

 

 「馬鹿な、俺達ゃあ出すきはねぇぜ。」

 

 相談しあう彼ら。彼らはしばらく話し合いやがて一つの結論を出す。

 

 「………金を払おう。確実に消してくれ。」

 

 「んなら前もって準備が必要だ。前金に半分払いな?」

 

 「どうせたいした準備なんかしねえ癖に、足元見やがって。少し時間が必要だ。」

 

 「オーケー、二週間後にまた来るぜ。せっかくだからその間ついでに奴らの行動の確認をしといてくれ。」

 

 「おい、テメエ!」

 

 「ふざけたことぬかしやがって!」

 

 「なんだなんだやめとくのか?二千万は出血大サービス何だぜ?疾風にお前ら手がだせねェんだろ?」

 

 「ちっ、足元見やがって。」

 

 「受けた仕事はきっちりやるよ。お前らはガタガタ震えて待ってんだな。」

 

 悪意はうごめいていた。

 

 ◇◇◇

 

 「それはある昼下がりの事だった。」

 

 ここは麗らかな春の日差しが緩やかに差し込む町並み、カロンとリリルカはゴブニュファミリアにカロンの盾の新調に来ていた。リューはホームで新人の戦闘指導だ。

 

 「どうしたんですか、カロン様。いきなり変なことを言い出して?」

 

 「いや特にたいした事ではないよ。いつだって装備の新調は心踊るものだろ?」

 

 「まあ否定はできませんが………。あなたは相変わらず子供ですね。」

 

 「リリルカには言われたくないな。」

 

 彼らは鼻歌交じりにゴブニュファミリアへと向かっていた。珍しくリリルカも上機嫌だった。

 

 ◇◇◇

 

 「七百万ヴァリスです。」

 

 「じゃあこれで。」

 

 「はいちょうどいただきます。」

 

 金を払い外へ出る二人。

 

 「結構金かけてるんですね。」

 

 「まあ防具だからな。鎧も結構高いし。俺は武器にはあまり金かけないからな。昔から盾役だったし。スキルが発現してますます守り役になったし。」

 

 「じゃあダンジョンに向かいますか?リリもランクアップのために頑張ります。」

 

 「リリルカと出会ってもう半年にもなるのか。」

 

 悪意が迫っていることに二人は気づいていなかった。

 

 ◇◇◇

 

 「リリルカも以前に比べれば言いようのないよう強くなったな。」

 

 「まあ姿がアレなのに目をつぶれば格上の敵を倒しているわけですしね。」

 

 ここはダンジョン十四階層。リリルカは普段この階層で鍛練を行っていた。

 

 「カロン様は魔法は持ってらっしゃらないのですか?」

 

 「持ってないな。俺にそっちの才能は皆無みたいでな。リリルカの勝ちだな。」

 

 「カロン様はゴリゴリの前衛ですからね。魔法がなくても戦えるのはうらやましいです。」

 

 「良し悪しだよリリルカ。ーーーっっ。」

 

 突然ダンジョン内にガキンという鈍い音が鳴り響いた。リリルカは見ていた。カロンの後ろに唐突に巨大な男があらわれ彼を鉄柱で殴るところを。

 

 「まずは一匹目だ。後は雑魚だな。」

 

 ハンニバルはカロンを先に消すことに先に決めていた。疾風の二ツ名を持つリューは逃げられる畏れがあると考えての事だった。

 

 「リリルカ、逃げろっっ。フレイヤの下へ逃げ込め!!」

 

 「あぁん?お前何で死んでねェんだ?間違いなくクリーンヒットしたと思ったが?」

 

 頭部から大量の血液を流しながらも息のあるカロン。彼は大きなダメージを受けながらもリリルカに指示を出す。

 

 「リリルカ、切り札を使え!逃げて報告に徹するんだ!」

 

 「カロン様が死んでしまいます。二人で逃げましょう!」

 

 「団長命令だ!」

 

 敵はダンジョンの出口側に構えている。リリルカとカロンは分断されていた。ハンニバルとしては二人を逃すつもりはなかった。

 敵が動けなかったのはリリルカのおかげだった。レベルが上がりより強者になるに従い冒険者は慎重になる。得体の知れない魔物に化けたリリルカとやらの切り札を警戒したのだ。ハンニバルはリリルカの切り札とやらを見切ったうえで危険なく彼らを処分するつもりだった。しかしその判断が裏目に出る。

 

 ーーこの状態で逃げられるとでも………?おいおいマジかよ?それが切り札って………ちっ、逃げられるか。

 

 「カロン様、急いで助けを呼んできます!」

 

 小型のドラゴンに変身したリリルカ、彼女は縦穴に向かって飛翔し、ハンニバルは自分の判断ミスを悟る。実力が高いカロンではなく得体の知れないリリルカを先に消すべきだったのだ。リリルカはあっさり逃走に成功した。

 

 ーーこいつは確実に消す。こいつはレベル3、俺より格下だ。しかしどういうつもりだ?なんでこの危機的状況でこいつ笑っていやがる?

 

 ハンニバルがリリルカに気を取られている隙にカロンは立ち上がる。彼はニ、三度首を振りハイポーションを飲むと笑った。相手を馬鹿にするように。挑発するかのように。

 

 「何だかかって来ないのか?怖がりなのか?見た目だけは強そうなのに?かかってこいよ黒い臆病者(ブラックチキン)。お前は何のために喧嘩を売ってきたんだ?顔を覚えたからここで逃げても狩られるだけだぜ?」

 

 ◇◇◇

 

 カロンは内心で相手の実力を正確に算出していた。

 

 ーーリュー以上の攻撃に俺が倒されなかったことを合わせて考えればパワータイプのレベル4相当の膂力。他に特長があるならレベル5ってところか?不意打ちのダメージはでかかったが堪えられたのは幸運だった。どれだけ稼げるかわからんが援軍を待つ以外に選択肢を取れない。

 

 内心で分の悪さを理解しつつカロンはどこまでもわらう。

 一方ハンニバルは相手の真意をはかりかねていた。

 

 ーー時間稼ぎか?しかしこいつが得体が知れないのは確かだ。不意打ちの一撃を頭部に喰らったにも関わらず立ちやがった。耐久特化にしてもおかしい。まさかレベルをごまかしてやがんのか?

 

 「おいおい臆病者、どういうつもりだ?何故つったってんだ?怖いからって今更お家にでも帰るつもりか?不意打ちに失敗しましたー僕にはもう何もできませんーってか?いいか?予言してやるよ。ここで逃げても向かってきてもお前はもう助からねぇよ。さっさとかかってこいよ?いつまで突っ立ってんだ?俺だってひまじゃねェんだよ?」

 

 どこまでも挑発にかかるカロン。戦闘に於いても黒いスキルは凶暴性を発揮する。彼の不敵な性格と黒いスキルが相まって相乗効果を起こしていた。精神を揺さぶられハンニバルは混乱し打つべき手を取りあぐねていた。

 

 ーー攻撃はしてこねぇ。武器を持ってやがらねぇ。盾だけだ。何なんだ一体。カウンターのような切り札でも持ってやがるのか?俺は攻撃をするべきだ!だってのに厭な感じが拭えねぇ。逃げたチビは助けを呼ぶのにどれくらいで戻って来る?クソッ!

 

 考えれば考えるほどドツボにはまるハンニバル。レベル3相手の低難度の仕事のはずが徐々に彼には難解なものに思えていった。彼はその思考がおかしいことに気付かない。

 

 「おいおい、なんでかかって来ないんだ?わかってんだろ?俺達がフレイヤファミリアと懇意だって。ここから帰ったらお前、オラリオで手配書が出回るぜ?フレイヤ様肝いりの?わかってないのか?そういえば臆病者(チキン)だったなお前。スマンスマン。鶏頭だったのを忘れていたよ。」

 

 さらにカロンは挑発する。

 彼は挑発で敵の動きが単調になるのを目論んでいた。単調な攻撃にタケミカヅチ直伝の合気道は強大な効果を発揮する。時間を稼ぐ以外に取れる手のない彼は合気に一縷の望みをかけていた。しかし彼の挑発とは真逆に敵は警戒を強めていく。

 

 そしてカロンも己のスキルを知らないためまた困惑していた。

 

 ーーどういうことだ?時間を稼げるのは俺にとって好都合だが相手の方がレベルが上なのは確実だ。何故奴は攻撃して来ない?

 

 しかし困惑しながらも、わからないことを気にしすぎても無意味だとばかりに彼は挑発を続けていく。

 

 「なあ、なんとかいわないのか?臆病者?闇派閥は臆病者の巣窟か?時間はいつまであるんだ?じきに援軍がくるんだぜ?お前はケツに火が付いてんだよ!」

 

 ハンニバルの脳内には一時撤退まで浮かぶ。しかし彼は金をもらっていて、相手は間違いなくいままでより警戒して来るはずだ。

 

 ーーこの仕事を請けたのはまさか間違いだったのか?

 

 そう考えながらもハンニバルは覚悟を決めて突進する。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 その頃リリルカはダンジョンを逃走していた。

 

 ーーはやくはやくはやく

 

 リリルカは焦っていた。

 

 「アアン?なんでこんなところにインファントドラゴンが飛んでやがる?」

 

 「っっっベート様ッ、助けて下さい。カロン様が襲われているんです。」

 

 「オイテメエか、なんで裸なんだ?」

 

 「今はそんなことどうでもいいんです。お願いします、カロン様を助けて下さい。」

 

 「………どこにいやがるんだ?」

 

 「十四階層です。」

 

 「テメエはどうすんだ?」

 

 「今からリュー様達を呼んできます。」

 

 「チッ。」

 

 ベートはそうつぶやいて走り出した。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 「おいおいおい、こんなもんか?闇派閥てのはたいしたことないなあぁ臆病者達(チキンズ)に改名をしろよオラリオのゴキブリ共が!」

 

 カロンはどこまでもわらっていた。相手のパワーは圧倒的でスピードも上。相手が攻撃を5発入れそのうち一発を腕を掴んで合気で地面にたたき落とす。分が悪い戦いだ。一撃が重くこちらの反撃はほとんどダメージにならない。

 

 しかしハンニバルは困惑し続けていた。相手の実力はこちらが当初予想していた能力の範疇。ただし耐久のみが異常に高い。このまま続ければこちらの勝利は動かない。 

 

 ーー全力が出せていない、なぜだ?

 

 ハンニバルは知ることができない。彼の精神は不可視の黒い鎖にすでに雁字絡めにされている。カロンの言葉を聞けば聞くほどその鎖はさらにどんどん数を増す。迷いは鎖を生み鎖は迷いを生み出す。魂の枷は見えないところで加速度的に増えていく。

 

 この戦場においてカロンの黒と白のスキルは2つのレベル差がありながらなおもカロンに時間稼ぎを可能にする。

 

 ーー俺は一体何をされているんだ?こいつはレベル3のはずだ?一体何が起きてるんだ?こいつに手を出したのは間違いだったとでもいうのか?攻撃する度になんかされてんのか?

 

 そしてその思いは彼の攻撃を躊躇させることにつながる。レベル5の圧倒的強者はレベル3が出す毒と糸に絡めとられていた。蜘蛛はゴキブリの天敵だ。

 

 「おいおい、腑抜けた攻撃してくれんじゃあねえか?どうしたんだ?どんどん攻撃が弱くなってんぞ?そんなに怖いのか油虫?」

 

 しかしカロンもダメージがだいぶ蓄積されていた。もともと無理をする予定はなかったのでポーションも先ほどの一本しかなかった。

 

 ーーさてさていつまでもたせられるやら。援軍の到着まで持ちこたえられるかね?

 

 ガキッッ!!

 

 「ぐっっ………。」

 

 カロンもハンニバルも予想していなかった存在が戦場にあらわれる。

 

 「オイ、テメエ。ずいぶんいためつけられてんじゃねぇか?テメエは俺のサンドバッグだ。雑魚に手間取ってんじゃねぇよ。」

 

 「おお、助けてくれるのか。さすが凶狼だ。いいところに来てくれる。相手はおそらくレベル5、だと思ったが、、、。」

 

 すぐにハンニバルが復活して攻撃して来る。カロンが前に出て盾で受ける。ベートは魔剣の力を武器に相手の首を刈るように蹴り飛ばす。ハンニバルは壁に激突した。

 

 「何だあいつ?テメエよりかたいんじゃねぇか?パワーとスピードはレベル4くらいか?」

 

 「おそらく耐久に寄せたレベル5だ。魔法は使って来ない。なぜだか理由はわからんが戦うほど力とスピードを落としていった。」

 

 「ア゛、どういうことだ?」

 

 「さあな、ほら来るぞ。」

 

 ベートが来て余裕のできたカロンは相手の鉄棒を盾で受け止め、逆手で相手の腕を掴む。相手の困惑して後ろに引く動きを合気を上手く利用し足を刈る。ハンニバルは背中から床にたたき落とされベートが喉を踏み潰す。彼らはしばしばどつきあうこと(ベートが一方的に)によって互いのことを理解していた。なおも二人の猛攻は続く。カロンが攻撃を一手に引き受けベートがスピードの乗った連激を繰り出す。少しずつ能力を落とされたハンニバルは困惑も相まってうまく対応できない。ハンニバルは反撃を封じられカロンの挑発はどこまでもハンニバルの強さを削り落とす。

 

 ーー完璧に想定外だ。撤退する。

 

 相手の高度な連携に余力を残しながらも撤退を決めるハンニバル。しかしそれは彼にとって数多い失態の中でも最大に近いのものだった。

 

 「おいおい、まさか逃げる気か?もっと早く決めるべきだったな。今更逃がすつもりはねぇぜ?弱ったゴキブリは叩き潰さねぇとな?」

 

 黒い鎖は敵の逃走を許さなかった。それは罪人を決して逃がさない。

 止めとばかりに挑発するカロン。相手の逃げ腰や精神的不安定さも相まって鎖は最大の効果を発揮する。黒い鎖は敵の弱気に反応し、不可視の黒い鎖によりハンニバルはもはや指一本動かせないような錯覚に陥る。

 

 「オラッっ!!」

 

 ベートも逃がすつもりはない。敵の顎を蹴り抜き、ハンニバルは思わずタタラを踏む。そこをカロンが巨大な盾を相手の頭部にたたき付ける。さらにベートが相手の股間を蹴り上げる。カロンが相手の髪を掴み強制的に立たせ、ベートが正面から体重をのせた蹴りを相手の顔面目掛けて蹴り抜く。

 もはや戦いとは言えず一方的な蹂躙の様相を呈していた。

 

 ◇◇◇

 

 ーーどうか無事でいてください。

 

 リューは走っていた。走るのが大好きだなとか言ってはいけない。

 リューはリリルカに凶報を齎されていた。リューはカロンを助けるべく急いでダンジョンを踏破していた。

 

 「おお、何だどうした?リューか。助けに来てくれたのか?」

 

 「カロン、よかった無事だったんですね。」

 

 「オイ、俺はもう行くぜ。」

 

 「ああ、助かったよ凶狼。今度礼がしたい。是非ウチのファミリアに招待させてくれ。」

 

 「チッ、テメエどうせその場で俺を引き抜こうとすんだろが!礼だってんなら勧誘するのをやめやがれ!」

 

 「それは聞けん話だな。」

 

 「一体何が?」

 

 カロンは隅を指差す。ボロボロの人間が倒れていた。

 

 「闇派閥の人間だ。このまま引きずってガネーシャに引き渡す。今日のMVPはリリルカだな。凶狼を呼んできてくれたみたいで助かったよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「ねぇ、カロン何があったの?あなたステータスがめちゃめちゃ伸びてるわよ?特に耐久が馬鹿みたいな伸び方をしてるわ。」

 

 「たいしたことないよ。俺がやったのはただのゴキブリ退治さ。」

 

 「そうは言ってももうランクアップ寸前よ。まだ前回のランクアップから半年程度だわ。このままじゃ注目の的になるわよ。」

 

 「仕方ないだろ。リューの特訓もしてるんだし。」

 

 「リューに打たれて耐久が伸びてるの?それは何とも言いづらいわね。」

 

 ◇◇◇

 

 「カロン様、リリは心配しました。助かったようで何よりです。」

 

 「リリルカが助けを呼んできてくれたおかげだな。時にリリルカは町中はどうしたんだ?全裸で走り回ったのか?」

 

 「やめてください!リリは万一の為にバックパックに予備の服を入れています。断じてストリーキングなんて行いません!」

 

 「スマンスマン。それにしても変身できて助かったな。リリルカの有用さが証明された。俺の高い金を支払う価値があるという言葉を証明してくれたわけだ。」

 

 「一重にリリの努力の賜物です。」

 

 「そうだな。このまま努力を続ければいずれ目的も達成できるかもしれないな。」

 

 「はい!」




ハンニバル最大の失態の一つはリリルカを最初に消さなかったことです。白いスキルは護る対象が存在することで発動するのでリリルカが死んだ場合護ることを失敗したことになり発動しません。
それとブラックチキンは正確には烏骨鶏のことです。


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ヘスティア参戦!

 「ふむ、つまりそこのオッパイの化身を引き取っても構わんということだな。」

 

 「オッパイの化身っていうなぁぁぁぁぁ!」

 

 「ヘスティア、ゴメンけどちょっとだけ黙っててくれるかしら。話が全く進まないわ。」

 

 話は三ヶ月前に遡る。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「へファイストス様、俺たちはアストレアファミリアを立て直し以前以上に大きなファミリアにするつもりだ。」

 

 「それであなたは私にどうして欲しいのかしら?」

 

 「ある程度見込みが付いたら本格的な同盟を結んで欲しい。内容は現時点では全く考えていない。目標はより住みよいオラリオだ。」

 

 「うーん何とも判別しがたいわね。住みよいオラリオ自体には賛成するしアストレアファミリアにも好感があるけど、あなたは初見だし危険があるかもしれないし何より道筋が不明瞭だわ。その辺はどう考えてるの?」

 

 「例えばフレイヤ様とロキ様が手を組んだらオラリオは思いのままだろう。最終的なイメージはそれ以上を目標としている。道筋としては両巨頭との対等な同盟関係、中小ファミリアに対する有利な同盟関係。達成状況はフレイヤ様との同盟のみだ。筋道を進めるためにオラリオで必要なものを生み出して地位の向上に励んでいる状況だ。」

 

 「なるほどね。でも現時点では私にとってはあなたはただの知らない人よ。信頼できるわけないわ。」

 

 「今日知ってもらったし今から先もその時間がある。誰にだって初対面や初体験はあるだろう。それを認めないならあなたはただの老害になるぞ?」

 

 「待ってちょうだい!あなた初対面の神をいきなり老害扱いとか頭大丈夫?」

 

 「不審者と老害の面談だ。釣り合いがとれててちょうどいい。まあそれより俺たちが先程話したのは当分先の話だ。とりあえず今は人材を集めているところだ。」

 

 「信頼できるわけないといったことへの意趣返しね………。それでも私たちにもう少し敬意を払って欲しいのだけど………。」

 

 「話が進まんぞ?」

 

 「なら言葉の上だけでも謝罪してちょうだい。」

 

 「スマンな。」

 

 「軽すぎる!?」

 

 「まあそういうわけでなんかツテとかちょうどいい状況とかあったら人材の斡旋とかも頭の隅にでも置いててもらえるか?今日の用事はここまでだな。」

 

 「………まあいいわ。わかったわ。」

 

 

 

 

 

 (あの穀潰しを押し付けるのにちょうどいいかも知れないけど相手は零細ファミリア、敵も多いし危険もあるかもしれない。さすがに危険なところにはほうり込めないわ。それに相手が求めるのは人材、果たして役立たずの神を欲しがるかしら………?)

 

 そして現在より二日前。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけなのよ、ヘスティア。あなたの態度も腹に据えかねるしアストレアファミリアも落ち着いてきた。さらに団長は闇派閥の実力者を返り討ちにすることで高い実力を示したわ。あなたはアストレアファミリアに行ってその腐った性根を治して貰いなさい。」

 

 「くくくくさっただとぅ!ヘファイストス、ボクはやれないんじゃなくてやらないだけなんだ!」

 

 「じゃあ問題ないわね。ちょうどよかったわ。いってらっしゃい。」

 

 ◇◇◇

 

 「なるほど、そちらのオッパイお化けがヘファイストス様の言ってた神材か。」

 

 「キミは初対面でなんてこというんだ!」

 

 「あきらめなさい、ヘスティア。私は初対面で老害呼ばわりされたわ、私よりいくらかましよ。それとカロン、彼女が処女神ヘスティアよ。炉の神と言われているわ。」

 

 「なるほど、少女神か。自称少女でも俺達より年上だろう?」

 

 「少女じゃなく処女よ。それに女性に年の話はタブーよ。」

 

 「それよりキミはどういうつもりでボクをオッパイお化けなんて呼び方をしたんだい?」

 

 「どうもこうもないだろう。それだけオッパイを強調させる服を着て挙げ句に謎の紐だ。痴女神の間違いじゃないのか?」

 

 「ちちち痴女神!?いくらなんでもあんまりだよ。キミは何を考えてそんなことを言ってるんだ!!?」

 

 「ヘファイストス様が引きこもって日がな一日惰眠を貪っていると言ってたぞ?喪女神の駄女神だな。少々属性過多だ。一人四天王だな。人の役に立たない神がいてもかまわんが、敬意を払う必要はないだろう。」

 

 「ぐぬぬ………。キミは屁理屈をこねて………。」

 

 「ヘスティア、話が進まないから少し黙っててちょうだい。それに遺憾ながらカロンが正しいわ。」

 

 「ヘファイストスっ!?」

 

 「ふむ、話を進めるとそこの神を我々のファミリアに迎え入れても構わないと?」

 

 「ええ、是非お願いするわ。前もって断っておくと不良債権だと思っても返品は聞かないわ。」

 

 「待ってくれよ!?ボクの意思はどうなるんだい!?」

 

 「ヘスティア、地上では労働の義務があるの。神でも義務を果たしていない以上権利を声高に主張するのはおかしいわ。」

 

 「あきらめた方がいいな、ヘスティア様。」

 

 「だいたいカロン君はどうなんだい!?キミは人材を求めているんじゃないのかい!?ボクは穀潰しで役には立たないよっ!」

 

 「とうとうなりふり構わなくなったわね………。」

 

 「構わんよ。俺達は贅沢を言えるほど余裕があるわけじゃない。俺達に今最も必要な力は数だ。穀潰しのオッパイでも何とかやってみるさ。」

 

 「………キミはボクをオッパイ以外で呼んでくれないのかい?」

 

 「オッパイ以外で呼ばれたければ何かを立派に成し遂げることだ。あなたが俺達の役に立ってくれたらそれこそヘスティア様でもなんとでもよぶぞ。なんならオラリオに銅像を建ててもいい。」

 

 「銅像はいらないよ。というかこの話の流れはボクはやはりどうしてもいかないといけないのか?」

 

 「ふむ、もし来ないのだったら俺達が大きくなった暁には、オラリオにオッパイ以外に取り柄のない穀潰しの痴女神の銅像でも建てようか?」




ヘスティアファンの方ごめんなさい。アンチヘイトは必要でしょうか………

一人四天王・・・喪女神、駄女神、痴女神、穀潰神の4柱の特性を備えたスペシャルなヘスティアに与えられた称号。ひそかに神様から王様に格下げられている。第一のヘスティアを倒してもそれは最弱のヘスティアで、第二、第三のヘスティアが出てくる。カロンはまだ気づいていないがヘスティアには他にも貧乏神や疫病神等の特性もある。一人で魔王軍六大団長を全て兼任しているようなものである。


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閑話~ヘスティアの受難~

 「ただいま帰ったぞ。」

 

 俺はヘスティアを本拠地に連れて帰った。本拠地ではリューが出迎えをしてくれた。

 

 「お帰りなさいカロン、後ろの方が以前話していたヘスティア様ですか?」

 

 「ああ、穀潰神のヘスティアだ。」

 

 「ちょっと!初対面の人に穀潰しとかやめておくれよ!」

 

 「他のあだ名は黙っといてやるから静かにしてくれ。それで今からヘスティアの使い道を考えようと思う。」

 

 「ヘスティア様の使い道ですか?勧誘とかですか?」

 

 「ヘスティア、お前勧誘とか仕事とかできるか?」

 

 「うっ………でもボクはステータス更新ができるよ。」

 

 「鳥が空を飛べるように、乳牛が牛乳を出せるように、神がステータス更新できるのは当たり前だ。」

 

 「なんか乳牛のくだりに作為を感じるよ。それでどうなんだい?」

 

 「残念だが俺達にはすでにアストレアがいる。マスコット枠もリリルカで埋まっていてペット枠も凶狼に売約済みだ。お前にはなんかの役に立ってもらう。」

 

 「でもボクはバイトも勧誘もしたことないし………。」

 

 「リューはなんかアイデアあるか?」

 

 「アストレアファミリアにオッパイが大きくなるお化けが住み着いている噂を流すのはどうでしょうか?女性冒険者がくいつくかもしれません。」

 

 「リューもだいぶ考えてくれるようになったとは思うがそれはこいつ自身は何もしてないぞ?」

 

 「しかし他となると難しい。」

 

 「勘弁しておくれよ………。」

 

 「ではいっそのこと男連中のモチベーターにするか?人々の欲望を司るのも神の仕事だ。」

 

 「嫌だよ!何でちょっとカッコイイ風にいってんのさ!!ボクは処女神だよ!?」

 

 「そうか、残念だ。お前のやる気があるなら挟んで100ヴァリスとかも考えていたんだが。地平の彼方まで行列ができるかも知れんぞ?是非どれくらい人が並ぶか見てみたかった。」

 

 「カロン、あまり下品なのはやめてください。」

 

 「しかしこいつ聞く限りでは使い道がほとんどないぞ。いっそ面白いくらいだ。」

 

 「ヒドイ、ヒド過ぎるよ………。」

 

 「ふむ、いっそ凶狼を釣る餌にでもするか?あいつはアイズにあまり相手にしてもらってないみたいだし欲求不満だろう。」

 

 「カロン、アイズさんは貧乳です。ベートさんは貧乳が好きなのでは?」

 

 「しかし試して損はないぞ?」

 

 「大アリさ!ボクが丸損だよ!」

 

 「しかしアストレアファミリア全体で考えればたいしたことない損失ではないか?」

 

 「キミはもう何なんだ!!!ボクに恨みでもあるのか?」

 

 「カロンはだいたいいつもこんな感じです。」

 

 「ふむ、ヘスティアの使い道より凶狼の勧誘方法を考えた方がコストパフォーマンスがいいような気がするな。」

 

 「それはそれで屈辱が天元突破だよ!?入るかどうかわからないベート君の勧誘の方が今ここにいるボクの使い道よりコスパがいいってどういうことだい!?」

 

 「そのままの意味だな。神は子供の嘘がわかるんだろう?」

 

 「今はとてつもなく残酷だよ。」

 

 「人は追い詰められると必死になるといいます。その方法はどうでしょうか?」

 

 「しかしこいつは人じゃなくて神だぞ。俺には来週くらいにイシュタルのところで働いているビジョンしか見えん。どうせならマージンが完全に取れるウチで営業したがいいだろう?」

 

 「カロン!!我々は正義のアストレアファミリアです。娼館経営は断じて認められない!」

 

 「エルフくんもそっち側なんだね。少しくらいボクのことを考えてくれても………。」

 

 「ああ、すみませんでしたヘスティア様。自己紹介を失してました。私はリュー・リオンと申します。」

 

 「キミも大概マイペースなんだね。カロン君とお似合いだよ。」

 

 「ヒドイ言い掛かりだヘスティア様!」

 

 「キミも大概ひどいこと言ってるよ………。」

 

 ◇◇◇

 

 「はじめまして、ヘスティア様。リリはリリルカ・アーデと申します。」

 

 「アインだ。」

 

 「イースです。」

 

 「俺はウルド。」

 

 「エルザよ。」

 

 「オーウェンだ。五人まとめて出落ちです。」

 

 「出落ち!?まあよろしく、君達はまともそうだ。ボクはキミ達の団長にヒドイことを言われたよ。」

 

 「ヘスティア様、それは何というか………ドンマイとしかいえません。カロン様はだいたいいつもそんな感じです。何故団長なのでしょうか?」

 

 「リリルカ君、キミはボクの気持ちをわかってくれるのか?」

 

 「ヘスティア様、わかります。それとリリのことはリリとおよびください。」

 

 「リリ君。キミはこのファミリアにきて初めての温かみだ。ボクは神なのにまだこのファミリアの主神も紹介してもらってないんだよ!?」

 

 「ああ、それは多分忘れられてるだけです。カロン様は賢いようで時々頻繁に抜けてます。リュー様もしょっちゅうポンコツ化します。アストレア様はまともな主神様です。リュー様は最近以前に比べてポンコツ時間がふえています。」

 

 「そうなのかい。ところで時々頻繁にってどっちだい?」

 

 「稀に良くあると似た意味合いです。感覚でイメージしてください。ところでヘスティア様、もしここのファミリアでストレスが溜まるようでしたらオススメしたい居酒屋があります。リリのお金を少しだけお布施します。」

 

 「ほんとうかい?」

 

 ◇◇◇

 

 「そういうわけで、ボクは、ボクは、ヒドイファミリアに売られてしまったんだ。ボクだってボクなりに一生懸命なのに………。」

 

 「お顔を上げてくださいヘスティア様。私はシルといいます。これから一生懸命に頑張ればきっと皆に認めてもらえます。私も日々頑張ってお仕事していますしヘスティア様も一緒に頑張りましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 翌朝、トイレ前で唖然とするカロンとリュー。

 

 「おい、リュー。お前見えているか?」

 

 「カロン、私にも見えています。私達はおそらく寝ぼけてはいないでしょう。」

 

 「ふむ、それではなぜだかわかるか?」

 

 「私にもさっぱりわかりません。」

 

 「何故この穀潰神はファミリアに来て二日目でトイレでパンツ丸出しでゲロ吐いたまま寝てるんだ?」

 




今日の戦犯はリリルカ。
そしてヘスティア様はネタ枠あるいはヨゴレ枠。
原作開始前につきアイズはヒンヌー教です。


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ズッ友

 「俺がガネーシャだ。」

 

 「俺がカロンだ。」

 

 「俺が!ガネーシャだ。」

 

 「俺が!カロンだ。」

 

 「俺がっっ!!ガネーシャだっっ!!」

 

 「俺がっっ!!カロンだっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「………………………………。」

 

 「………………………………。」

 

 「なあ、普通にしゃべってもいいか?」

 

 「ああ、構わんよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、このたびの闇派閥討伐はご苦労だった。ステータス開錠薬で開けてみたところ相手はレベル5だったことが判明した。前々から敵幹部なのではないのかと目されていた男だ。まだ、証拠を集めているところだがおそらく時間の問題だろう。目撃情報が十分集まり次第なんらかの罰則が与えられる。オラリオ追放は確実だから安心してほしい。民衆の王(ガネーシャ)としてお礼を伝えさせていただきたい。」

 

 「ふむ、ところで報奨金的なのは出るのか?」

 

 「ハッハッハッ。謝辞より実益か。実に子供達らしい。報奨金をもちろんだそう。俺は気分がいい。」

 

 「ガネーシャ、報奨金を気分で出してはいけないぞ?ファミリアの金は子供達の努力の結晶だ。」

 

 「報奨金に関しては心配いらない。正規のものだ。しかしふむ、お前はつくづく………聞いていた通り何というか図々しい男だな。まさか初対面の神を真正面から堂々と呼び捨てるとは。」

 

 「なんかまずかったか?俺だって相手を選んでいるぞ。ガネーシャからはマブダチの波動を感じるんだ。『カロンとガネーシャはズッ友だょ。』的な。」

 

 「ふむ確かにフィーリングは大切だ。しかしだからそれがそのままお前達の同盟に加わる理由にはならん。」

 

 「知ってるよ。あんたら神は子供達の嘘がわかる。だからこそ嘘ではない心変わりが怖い。違うかガネーシャ?」

 

 「………その通りだ。お前はよく見ているのだな。今現在闇派閥で暗躍しているもの達の多くはかつては普通の冒険者だった。名を馳せたものも多い。その多くは正義を志し失望していった。お前は不思議な男だな。聞いてくれるか?」

 

 「聞いてほしければ報奨金を揃えてあとその仮面の理由も教えてくれないか?」

 

 「聞いていた通りつくづくマイペースな男だ。残念ながら仮面の理由は話すつもりはない。」

 

 「ふむ、交渉失敗か。それで話とは?」

 

 「ああ、簡単な理由だよ。時間の問題だ。神々と子供達は時間が違いすぎた。目的の達成に生き急ぐ子供達を我々が理解できなかった。子供達の生が短いことを知っていたにも関わらず。俺達は傲慢で不理解だった。俺達は物事を長いスパンで考え、子供達は自身の生で成し遂げることを望んだ。天界にも逸話があるのにな。」

 

 「逸話とは?」

 

 「何でもないような教訓の話さ。暇を持て余した神々が起こした戦争を命をかけて止めた名無しの神の逸話だよ。退屈を持て余す神々と平穏を望む神々の話だ。」

 

 「どういう内容か聞いても?」

 

 「天界に呆れた名無しの神が人々の強さと温かさに触れて、天界の争いを止める為に護りの空とぶ艦をこぎ奔走する英雄譚だ。俺達はいつだって正しい保証はないのについいつの間にか自分たちは誰より正しいと思い込み大切なものを忘れてしまう、という教訓だ。英雄は子供達に生きることの素晴らしさを教えられていたし、俺達はいつだって子供達に大切な感情を揺さぶられる。子供達を大切に思っていたのに気づいたらただの過保護になっていたり、同調するだけで正せる存在じゃあなくなっていたり。適度な距離感と自制心が必要だという教訓なのかもしれないな。ロキも愛読していたな。あいつも意外と乙女だハッハッハッ。」

 

 「ふむ、………俺の知っている国にも英雄譚があったぞ。」

 

 「ほう、教えてくれないか?ガネーシャ超気になる。」

 

 「戦いが止まない国で人々の安寧を守りつづける英雄の話だ。英雄は謎の爺に出会い強い力を手に入れる。」

 

 「ほう、それで?」

 

 「英雄は強くなりすぎて自身が人間であることを忘れてしまいそうになるが、いつだって家族の笑顔を思い浮かべて戦い最後には笑顔で帰ってくるんだ。」

 

 「………オラリオのファミリアもそうありたいものだな。」

 

 「俺の知っている国ではさ、爺が実は神様だったんじゃないかと長い間言われてたんだよ。でも実際に地上に下りた神々をみて『ああ、これはなんか違うな。』って。」

 

 「ハッハッハッ。そんな殊勝な神なぞ先に言ったお伽話の神くらいのものだぞ?俺達はお前の国を失望させてしまったのか。ハッハッハッ。」

 

 「まったくだな、案外俺達の話は繋がってたりしてな。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「スマンがそろそろ帰るぞ。俺は団長だし仕事も残ってるからな。」

 

 「今日はとても楽しかった。ガネーシャ超興奮。友人としてまた遊びに来い!」

 

 「もちろんだよ、ガネーシャ。俺達はズッ友だろ?」

 

 「ああ、そうだな。俺達はズッ友だった。ハッハッハッ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「今日のガネーシャ様との会合はいかがだったでしたか?」

 

 「実り多い素晴らしいものだったよ。具体的には金が入り終生の友を得た。今日はとてもいい日だったよ。今現在トイレ掃除をしている新生トイレの女神の粗相を赦せそうなくらいにな。」



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寂しい英雄譚

 「ふむ、なるほど。それじゃあ君は俺達にこのような関係を望んでいるということか。わかった。善処することにするよ。」

 

 「ヘルメス様、相手はものの数ではない弱小ファミリアです!まともに相手するべきではありません!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、ヘルメスよ。わざわざ時間を割いていただき面会を感謝する。」

 

 「すごいな君は。まるで唯一神みたいな喋り方をするんだな。俺は一応神だぞ?」

 

 「ヘルメス様、私たちは彼を追い出すべきです。こんな一文にもならなそうな人間に時間をかけるべきではありません。」

 

 喋り方に気分を害するアスフィ。

 

 「ふむ、俺が唯一神ならそっちは駄目男とそれにひっかかる敏腕秘書か?そろそろ下剋上をしても良さそうなものだが。」

 

 「………聞くまでのことなく駄目男とは俺のことなんだな。さすがにアスフィ以外に真正面から言われると落ち込むんだが?」

 

 「ヘルメス様、このような無礼者即座にたたき出すべきです。」

 

 「ヘルメスはお前と違って器が大きいぞ。ヒステリー女に付き合えるくらいには。」

 

 「ヒヒヒヒステリー女ですって?ヘルメス様、この不敬者をいますぐたたき出しましょう!」

 

 「いや、不敬者はお前だろ?世間知らずも大概にしたがいいぞ?」

 

 「私のどこが不敬者だと?!」

 

 「俺はお前の主神様に客人で招いてもらったんだがな?個人の客人ではなくファミリアの客人のはずだ。違ってたか?」

 

 「いやその通りだよカロン、アスフィは少々怒りっぽくてね。」

 

 「外すわけには行かなかったのか?」

 

 「ふざけないでください!!」

 

 「どうどう、アスフィ。彼女はファミリアの団長だ。重要な話を通さないとあとで怒るんだよ。」

 

 「難儀しているな。ウチのリューはいい女だったんだな。」

 

 「私はいい女でないヒステリー女ですか!?世間知らずですか!?失礼も大概にしなさい!」

 

 「話が進まんな。ヘルメスはいつもこいつをどう餌付けしてるんだ?」

 

 「いい加減血管が切れそうです。」

 

 「勘弁してくれよカロン。彼女が倒れたらファミリアが立入かなくなっちまう。」

 

 「そうか、では本題に入ってもかまわんのだな?」

 

 「ああ。」

 

 ◇◇◇

 

 「俺達が望むのは神秘持ちの人間のよりよい人材の使い方だ。あとはいずれ同盟の話を考えてほしい。これは今じゃない。」

 

 「砕いてもらえるかい?」

 

 「神秘持ちは言うまでもなくレアだ。使い幅が大きいが基本的に秘匿される。俺達は神秘持ちの人間を広く公正に使うべきだと思う。いずれオラリオが所持者の資格的な職業にするべきだと考えている。」

 

 「話になりませんね。」

 

 「アスフィ少し静かにしてくれ。続けてもらえるかい?」

 

 「例えば空を飛ぶ敵は厄介だ。リリルカで思い知った。神秘持ちは対空兵器を作れるだろう?」

 

 「作れなくはありませんが………意外と有用に思えますね。」

 

 「まあ俺程度に考えついたことでしかないんだが、上へと向かう毒などは安価に作れそうだし制空権を持つ相手は強い。対空に強い武器を作れれば冒険者の損耗減少に役立つ。」

 

 「あなたはそれを私に作れと?」

 

 「結論はそこではない。広く案を募れば神秘持ちは有用な物を作り出せるのではないか?ということだ。三人寄れば文殊様だ。」

 

 「しかし私のリスクが高すぎます。許容できません。」

 

 「いますぐどうこうは言わんぞ。いずれ俺達のファミリアがでかくなってオラリオがお前のことを守るといえるようになってからの話だ。俺はそのつもりだ。その暁にはお前には俺達の資格を広く認め支えるスタンスを取ってほしい。」

 

 「何百年後の話ですか?無理に決まってます。」

 

 「その頃は万能者は死んでるな。ヘルメスは生きてるけど。」

 

 「あなたが生きている間は不可能ですね。」

 

 「月並みな言い方ではやってみないとわからないというのは?」

 

 「馬鹿げています。本当にそんなことができると思ってるんですか?」

 

 「知らんよ。できるかどうか知りたければ試せばいい。」

 

 「試すまでもありません。」

 

 「いや、お前は俺達のファミリアを見て可能だと思えば擦り寄ればいいさ。別に俺達に不可能だってんなら問題ないだろ。人間に不可能はもちろんあるが試しもしないのはもったいない。賢者は歴史に学び…愚者は経験に学び…ではそもそもの努力すら否定するお前は一体何者なんだ?」

 

 「お話になりませんよ。現実を見てください。」

 

 「万能者の英雄譚には囚われの姫を助ける英雄は永遠に現れないんだな。寂しいことだ。」

 

 「っっ何を!?」

 

 「お前はそれこそ全知全能の唯一神なのか?神々がそういった?お前は神のおもちゃなのか?親がそういった?お前は親を超えることがぜったいにできんのか?考えるまでもない?じゃあ俺達の頭は何の為についてるんだ?」

 

 「………噂通りですね。弁がたち人を丸め込むのがうまい。しかしーーー」

 

 「わかったよ。君達がオラリオを席巻したら我々も協力したい。」

 

 「ヘルメス様っ!?」

 

 「アスフィ、彼らがオラリオを一つに纏めるのは無理なのだろう。それなら絵空事の約束は問題ないだろ?」

 

 「しかしーーー」

 

 「ふむ、やはりヒモ男と付き合う敏腕秘書だな。」

 

 「フォローした甲斐がない!?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ヘルメス様、何考えてらっしゃるんですか?相手を調子づかせるだけですよ?無理なことは無理だと言うべきです。」

 

 「何故無理なんだい?彼らはフレイヤと対等な同盟を結んでいるよ?」

 

 「それでもです。私たちは堅実に生きるべきだし彼らはただ夢に生きてるだけです。」

 

 「アスフィ、それは違うよ。夢を見るのは悪いことじゃあない。目標と夢には大差ないだろ?達成しがたければ夢と呼ぶ。」

 

 「彼らは何もできないし何者にもなれません。」

 

 「カロン君は口さがないからね。彼は実際には能力があるし俺には夢物語とは思えない。別に彼らが目標を達成したところで俺達の生活に実害も影響もそこまでないさ。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「英雄の子孫、死ぬべき運命を捩曲げた男。彼は何かの使命を背負っているのかな?あるいは使命等歯牙にもかけない性格にも思える。彼は先祖と似た道をたどるのか?あるいは全く違う道をたどるのか?いずれにしろ楽しみにさせてもらうよ。」




囚われの姫を助けた英雄、何の話でしょうか?因みに姫と英雄は別に結婚したりはしません。


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壁を越えろ

 ーー壁を越えなければならない。

 

 私は強く決心していた。今現在の私のレベルは4、あの死の行軍において私だけはレベルが高かったためランクアップを果たせていなかった。

 

 ーー私は強くならないといけない、護りたい者を護るために!もう誰にも仲間を奪われないように!

 

 そろそろランクアップに必要な経験値は足りているだろう。私はあのあと必死に鍛練をした。あとはリスクを冒して壁を乗り越えるだけだ。

 

 ーーしかし仲間を危険には晒せない。どうするか?

 

 私は取り合えずいつも通りの日課の鍛練を行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「なるほど、壁を乗り越える、か。」

 

 これはカロン。私は彼に相談を行っていた。

 

 「ええ、何かいいアイデアはないでしょうか?やはりいつものようにリスクを冒して深い階層に潜るしかないでしょうか?」

 

 「いいアイデアなんかないだろう。そんなのあったら皆使ってるぞ。」

 

 「しかし数が少ないファミリアですので仲間に無理をさせたくありません。一人で進める階層には限界がありますし私に付き合えそうなのはあなたくらいです。」

 

 「お前がぼっちじゃなかったら他のファミリアも誘えたのにな。」

 

 「私はぼっちではない!リリルカさんやシル等の友人がいます。断固訂正してください!」

 

 「でもなぁ………。お前以前に相談に乗ったときロキファミリアにまでエルフの友人を作りに行って失敗したろ。わざわざ俺がアイズと遊びに行くのに便乗してまでついて来たくせに。そんで結局は相手が高貴過ぎるとか言って。あれには相手も苦笑いだったぞ?何のために来たんだって。どうにかしろよ?」

 

 「あ、あれは当初に仲良くなろうと思った対象ではなかったからで………それに話をできる相手ならたくさんいます!」

 

 「そんとき冒険者同士のツテを作っときゃよかったのに。あのアマゾネスの姉妹とか団長とかとさ。結局アイズだってお前たいして話してなかったろ?ほんとにお前は何も得てないな。せめてアイズだけでも個人的に仲良くしてればずいぶん変わっただろうに。」

 

 「………過ぎたことを反省しても何も変わりません。」

 

 「お前は反省しないから何も変わらないんだよ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 結局話し合いでは特にいいアイデアもでなかった。結局私はいつもよりハードにカロンと訓練を行うことにした。訓練を行うため私はホームの鍛練場に彼と二人で来ていた。

 

 「実戦だと思ってください。私はあなたを本気で倒すつもりだ。」

 

 私は向かう。私は彼とは比べものにならないほどスピードがある。今日は普段とは違い私は木刀を持ち彼は防具を身につけている。

 まずは私は木刀を彼にたたき付ける。彼は防御が間に合わずまともに一撃を喰らった。

 

 「相変わらず軽いな。リュー。あまいあまい。」

 

 「上等です。」

 

 私は気合いを入れ数回木刀で打ち据える。彼は最後の一撃に対応し腕を掴み私を投げる。私は背中から地面に落ちた。

 しかしレベル差によりたいしたダメージにはならない。腕をつかんだまま追撃を加えようとする彼を私は膂力を頼みに引きはがす。

 

 「あまいっ!」

 

 私は彼の腹部に蹴りを入れて離脱を図る。彼はその足を掴み私を踏み付けようとする。私はそれらを全てかわす。捕んでいる相手の手を逆の足で蹴り私は一旦距離を取る。離れる際に木刀で相手を薙ぎ彼はそれをまともに喰らう。

 

 「さすがに木刀での一撃は普段とは比べものにならんな。」

 

 「だったらあなたは笑いながら楽しそうに言わないで下さい。私はあなたといると常識を間違いそうになる。」

 

 私たちは軽口をたたき合い再度激突する。

 私は手数を頼みに連激を放つ。さすがにレベル差があるため彼は対処できずにまともに喰らう。まだ笑っている。大概異常者だ。しかしベートさんも笑うのをやめさせられないと聞く。

 

 ーーその余裕を消して笑えなくしてあげます。

 

 私は少しずつ楽しくなりさらにギアをあげる。不思議だ。彼と軽口を叩きながら戦うのはいつも気分が高揚する。彼と戦うとステータスの伸びもよい。しかもいくら叩いても平気な顔をして立ち上がって来る。癖になりそうで怖い。

 

 ーーいや、手遅れか?

 

 そんなことを考えながら戦いを続ける。彼の喉を木刀で突く。当然まともな人間なら死ぬ可能性が高いため決して真似をしてはいけない。絶対にいけない。断じてだ。作者は暴力に反対です。

 彼は突きを首を逸らしてかわそうとするも喰らってしまう。

 

 ーーしかし、つくづくふざけたスキルですね………。

 

 普通であるなら今の一撃は決着のつく一撃だ。特に同等以下のレベルであれば。しかし彼はそれでも笑って立ち上がる。実に不死身(アンデッド)だ。私はなおも突っ掛かり彼の懐に入る。彼を木刀で4発突く。突きは肝臓付近、右肩、胃付近、さらに心臓部、そしてつかみ掛かろうとした彼に反応し去り際に頭部をないで離れる。これも普通なら死んでしかるべき強烈なる連激。しかしまだ笑っている。

 

 「本当にふざけた男ですね。あなたどうなってるんですか?まさか本当に死なないんですか?」

 

 「お前らを遺して死ぬつもりはないなぁ。」

 

 私とかれの戦いは続いていった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ハァ、ハァ、ハァ………。本当にどうなってるんですか?これだけ打ちつづけたのにまだ立ち上がるとか。」

 

 「うーんやっぱりスキルが相当強力だと言うしかないなぁ。でも俺ももうかなりきついぞ。」

 

 「最後にもう少しだけつき合って下さい。あなたを倒しきれないのは矜持に差し障る。」

 

 「ああ、かかってこい。」

 

 私は最後とばかりに全力で突進する。

 しかし、私も疲れていた。私は途中で足を縺れさせ転倒しながら彼にぶつかっていった。

 

 「おい………大丈夫そうだな。」

 

 「ええ、何ら問題ありません。」

 

 ムニュっ。

 

 

 

 

 

 ムニュっ?

 

 ………前言を撤回します。問題あります。大ありです。むしろ問題しかありません。彼も珍しく困惑して固まっています。これどうすんだみたいな目でこちらを見ています。ベタな展開ですが何か?

 

 「「………………………………。」」

 

 「………ふむ、なかなかにやわらかいものだな。お前はスレンダーで筋肉質だと思っていたんだが。」

 

 「イッ………。」

 

 「イッ………?」

 

 「イッ………。」

 

 「イッ………?」

 

 「イヤァァァァァァァ!!!!」

 

 ドゴオォォォォォォン。

 

 

 

 

 

 

 凄まじい音がしてカロンは本拠地の壁を突き破った。壁を越えろとは断じて物理的な意味ではない………。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「ねぇ何があったの?私には教えてくれないの?私だってあなたたちの話を聞いてあなたたちの気持ちを軽くするくらいはできるわ。」

 

 「落ち着いて下さいアストレア様。私たちは別に何もなかった。」

 

 「これが落ち着けるわけないじゃない。二人よ、二人ともよ。二人ともランクアップするなんてあなたたち一体どんな恐ろしい敵と戦ったの?」

 




黒いスキルはありえないほど有能。仲間の鼓舞にも使えます。さらには自身の鼓舞にさえも。実はリリルカが原作から変貌を遂げたのも主人公が傍で松岡○造風の応援(洗脳)をしていたせいです。
そしてギャグで壁を越える二人。


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フラグ

 「それでは今回の神会を行います。司会は私、フレイヤが務めさせていただくわ。」

 

 「ィェーィ!!!」

 

 「フレイヤ様サイコー!!」

 

 「prprさせてください。むしろ踏んで下さい!」

 

 「ハァ、ハァ、クンカクンカ。すんげー!いい香り。」

 

 「やべぇ、鼻血が………。」

 

 「フレイヤ様こっちみてえぇぇーー。」

 

 「チッ、相変わらず巨乳やな。もげてしまえばいいのに。」

 

 今日は神会。私ことアストレアは出席しないわけには行かなかった。私は最近ホームに住み着いたヘスティアと一緒にいた。最近神々の間ではヘスティアがアストレアファミリアのペットになったという噂がまことしやかに流れていた。

 

 「アストレア、今日はボクたちの子供達が主役だよ!ボクもとても鼻が高いよ。」

 

 ドレスを与えられて現金なヘスティア。彼女は今現在、ホームではトイレ掃除の神様として扱われていた。

 

 「それでは今回の冒険者のランクアップ報告を行います。まずは大手のガネーシャファミリア。彼らは二名がレベル2にランクアップしたわ。名前はジム・ジョーンズとサム・サンデー。まずはジムの二ツ名を考えましょう。」

 

 「赤く奔ばしる稲妻(スーパーレッドサンダー)。」

 

 「焔の体現者(アバターオブファイアー)。」

 

 「赤い殺戮者(レッドキリングマシーン)。」

 

 「「「それだ。」」」

 

 「ガネーシャ超遺憾。」

 

 「じゃあ次はサムね。」

 

 「筋肉の申し子(マンオブザパワー)。」

 

 「はじける筋肉(スーパーストレンクス)。」

 

 「ほとばしる肉と汗(ダンシングマッスル)。」

 

 「「「それだ。」」」

 

 「ガネーシャ超憂鬱。」

 

 こうやって神会は進行して行く。ヘスティアは豪華な食事に期待しそわそわしていた。

 

 「ヘスティア、これが終わったらいいもの食べられるんだから少しおとなしくなさい。」

 

 「ボクはおとなしくしてるさ。」

 

 嘘である。全然落ち着かない。

 

 「はぁ、ほんとに落ち着きがないんだから。あなたがおとなしくしないと私たちの評判を落とすのよ?」

 

 「………そうはいっても………。」

 

 こいつは駄目そうだなと思いつつ、議会は進行していく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「さて、それではトリにします。なんと本日は三名もの上級冒険者がランクアップしたという情報が来ました。ロキファミリア所属の冒険者、ベート・ローガ氏がレベル5に、アストレアファミリア所属の冒険者、リュー・リオン氏がレベル5に、同所属のカロン氏がレベル4へと到達しました。なお、カロン氏に関しては、姓が隠されており本人のたっての希望により非公開となります。ベート氏は三年の研鑽をもって、リュー氏は二年と三ヶ月の期間をもって、そしてカロン氏にいたってはなんとたったの九ヶ月でのランクアップとなります。カロン氏の記録におきましてはなんとあの剣姫、アイズ・ヴァレンシュタイン氏の記録を大きく上回っており、彼らの今後には大きな期待が持てると考えられます。」

 

 「マジかよ。あの変人だろ?」

 

 「不死身だな。ベートのストーカーの。」

 

 「ベートと同時期にランクアップしたのはなんか関係があんのか?」

 

 神会がざわつく。

 

 「ベート氏におきましては、ロキファミリアの幾度もの遠征、先に名をあげたカロン氏との闇派閥との戦闘、トドメについ先日の遠征における階層主の討伐が決め手になったと思われます。

 リュー氏におきましては、アストレアファミリアの悪夢と呼ばれる事件、日頃の鍛練がランクアップの決めてということだとのことです。

 カロン氏におきましては、日頃の鍛練に加え、ベート氏との共闘の際に先に長時間敵と相対していたのが原因だとおっしゃっていました。」

 

 「ついてない奴だな。アノ事件に加えて悪鬼と戦ったんだろう。」

 

 「奴はおそろしく用心深い男だったというからな。加えて出現がまちまちだったからなかなか捕らえるのが難しかったらしいな。」

 

 「ガネーシャ肝いりの掃討作戦でもあいつうまく逃げやがったんだろ?どうやって捕まえたんだ?」

 

 「なんでも襲われたところを返り討ちにしたらしいぜ?ベートと共闘して。」

 

 「何それ胸熱展開。」

 

 「「「キマシタワァーーーッ!」」」

 

 「ってゆーか相手はレベル5だったって聞いたぞ。確かなら相当強力なレアスキル持ちなんじゃねーか?」

 

 「また闇派閥の奴らにねらわれるんじゃあねぇか?あいつらだってまだ隠し玉がいくつかあるだろ?」

 

 思い思いにしゃべる神々。噂はオラリオを巡ることになる。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ベートは考え込んでいた。ベートは最近ランクアップを果たしていた。ベート達は階層主ウダイオスを討伐し、ベートはその戦いの中心を任せてほしいと彼らの団長のフィンに頼み込んでいた。

 

 ーーやはりか。

 

 ウダイオスとの戦いは熾烈ではあった。ひりつくような緊張感はあったし、仲間との連携もいつも通りだ。そういつも通りだった。

 

 ーーものたんねぇな。

 

 仲間との連携に不備はないし彼には何ら不満がない。しかし、あの時に感じた高揚感のことを思えば些か以上にもの足りない。ベートはカロンと共闘してる間いつにない高揚をしていた。体は思うままに動くし、しゃくな話だが共闘相手は自在に動きベートに最高のフォローをしていた。

 格上を相手にベートは護りを考えることすらせず向かい、相手もベートの思惑以上にきっちり敵の攻撃を捌いてみせた。

 

 ーーチッ、こんなことを考えるなんざやきがまわったか?

 

 ベートは自分の道先に一抹の迷いを持ちはじめていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「おう、凶狼。街中で会うのは珍しいな。」

 

 「チッテメェ、まさか俺をつけてやがったか?」

 

 「まさか。たまたまさ。ダンジョンで見つけたら追いかけてるけど。」

 

 「テメエ堂々とストーカー宣言してんじゃねぇよ!こっちは気が休まらねぇ。テメエどうやってダンジョンで俺を尾けてんだ?」

 

 「見つけたらっていったろ?たまたまだよ。」

 

 「それにしたって回数が異常だろうが。半年で十回だぞ?」

 

 「ふむ、これはもはや運命だ。アストレアファミリアに改宗する以外にないな。」

 

 「なんでだよ、ふざけんじゃねぇ!………まぁたまに一緒に戦うくらいだったらかまわんが。」

 

 「やはり凶狼はツンデレか。テンプレートにもほどがあるだろう。」

 

 「テメッ、調子のってんじゃねぇ!」

 

 「それと今度一緒にタケミカヅチ道場に行ってみないか?アイズも来る予定だぞ。」




ガネーシャは闇派閥を放っていたわけじゃありません。しかし闇は駆逐しがたくカロンもそれは理解しています。カロンの目的はリューの目線を復讐から逸らすことであり、オラリオ同盟は最初はリューを復讐を考えないようにいそがしくさせるために打ち出した方策です。半分は嘘と詭弁です。実は当時のカロンは内心で何とかごまかそうと必死でした。


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リリルカ超魔改造計画

 ここはアストレア本拠地応接間。リリは今日ここで、目をキラキラさせたカロン様に捕まっていました。リリの経験上、こういうときのカロン様はろくなことを言い出しません。

 

 「リリルカ、新しいアイデアを思いついたぞ!さっそく試してみよう!」

 

 「え、ええ~、カロン様は今度はどんなろくでもないことを思いついてしまったのでしょうか?」

 

 ホラきた。さっさと逃げとけば良かったです。

 

 「ろくでもないとは失礼な!俺はいつだってリリルカの安全を考えている!」

 

 「いやいやいや、この間実験したスライムが何の役にも立たなかったことを覚えてますよね?リリは恥ずかしいのを必死に抑えて変身したのに結局足が遅すぎて役に立たなかったじゃないですか。」

 

 そう、リリはこの間スライムに変身させられてしまいました。曰く、物理攻撃に強くなれるのではと。横からやいやい応援するカロン様にリリはついに乗せられてしまいました。結局にゅるにゅるになったリリは何かの役に立てるか必死に行動しましたが、その動きやなめくじの如し。結局リリは自分の譲れない矜持を全力で明後日に投げ捨てただけに終わりました。リリは帰って部屋で一人泣きました。

 

 「今度はそんなことない!」

 

 「………この間も同じことを言ってましたが………。どうせ引きませんよね?」

 

 「是非もない!」

 

 この人思いついちゃったらしつこいんですよね。

 

 「………どんなしょうもないアイデアでしょうか?」

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレアファミリア鍛練場所。

 

 「今まではリリルカの魔法はリリルカの体をイメージした種族に変えるものだった。違うか?」

 

 「リリもそう認識しています。」

 

 「じゃあリリルカのイメージ次第では実在しないものにも変身できるんじゃないか?」

 

 ?またわけのわからないことを言い出しましたね?どうしたものでしょうか?今度は何の超理論でしょうか?

 

 「いやいやいや明らかにおかしいです。どうしたらそういう理屈になるのですか?」

 

 「いやだってアレだろ?リリルカの魔法はリリルカの体をイメージした種族に変えるんだろ?架空の種族をリリルカが存在すると思い込んでしまえばリリルカは変身できるんじゃないか?UFOとか?」

 

 「ゆゆゆUFO!?よりによって天使とか悪魔とか生物ですらなく未確認飛行物体ですか!?」

 

 「UFOは男のロマンだぞ。後はロボとか。」

 

 「何なんですかその少年心は!?それにちょっと待って下さい!以前に無機物はNGを出したじゃないですか!?」

 

 「じゃあUFOやロボの中にいる人とか?」

 

 「やめてください!UFOの中にいるのは宇宙人ですよ!?そもそも想像ができないので成功しません!」

 

 リリは慌てます。断じてそんなわけのわからないものに変身させられるわけにはいきません!リリがNASAに捕まって解剖されてしまいます!

 

 「そうか。昔からの夢だったのだが仕方あるまい。上空からキャトルミューティレーションとか光線銃とかで一方的に攻撃できると思ったんだが。」

 

 この人はなんて事を考えるのでしょうか!?戦術にしても無慈悲だし経験値がはいるとも思えません。

 

 「カロン様はリリの魔法を過大評価しすぎです!」

 

 そう、第一不可能に決まっています。

 

 「しかしなぁ。試してからでもーーー。」

 

 「遅いです!嫌です!ダンジョンにUFOとかカオスにも程があります!ダンジョンにUFOがいるのは間違っています!!」 

 

 「そうか、致し方あるまい。ところでリリルカ、部分的な変身とかはできないのか?」

 

 「部分的、ですか?」

 

 「ああ。例えばミノタウロスの筋肉とインファントドラゴンの羽を組み合わせてみたりとか。イロイロな生物のいいとこ取りだ。」

 

 先程までよりはよほどマシな提案です。マシなってあたりが何とも切ないです。

 

 「………やってみないと駄目でしょうか?」

 

 「ものは試しだ。」

 

 「まあUFOでごねられるよりましですかね?リリは自分の価値観が狂ってきている気がします。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、やはり試してみるものだな。リリルカがこんなにおもしろ………有能だとは思っていなかった。」

 

 「別にもう面白いと言ってしまって構いませんよ。リリも面白いです。」

 

 やはりというか何というか普通にできてしまいました。おでこから角を生やしたり背中から羽を出したり、リリは誰かの悪意を感じます。

 

 「それで実際どうなんだ?」

 

 「実在しない生物だからでしょうか?通常の変身より集中がいりますし魔力の消費も激しいようです。」

 

 「そういえばランクアップはまだかかるのか?」

 

 良かった。まともな会話に移行してリリは一安心です。

 

 「もう少しですね。ランクアップしたらどうなさいますか?」

 

 「とりあえず勇者に話をしてみようかと思っている。」

 

 「ロキファミリアの団長様ですか。」

 

 「ああ。あいつは強いし良識もありそうだ。お前と仲の良い剣姫もいることだしな。」

 

 「アイズ様ですね。以前だったら仲良くなるのは夢物語だったはずなんですがね。」

 

 「ふむ、また唐突に閃いた。リリルカはアイズには変身できないのか?」

 

 「カロン様の頭の中はどうなってるんですか!」

 

 まともな会話に移行して安心してたら唐突にこの会話。カロン様はつくづく油断なりません。

 

 「まあ待て。リリルカの魔法の本質を見極めるいいチャンスだぞ。イロイロなことを試してみればリリルカの魔法の本質がわかる。何ができて何ができないかわかれば戦いにきわめて有利だ。それにアイズに変身できるなら戦力の大幅増だ。」

 

 「………やらないといけないんですね。」

 

 このくらいならリリはもう諦めた方が良さそうです。

 

 ◇◇◇

 

 「やはり脳のイメージに依存しているんだろうな。」

 

 「そうみたいですね。」

 

 「残念だ。凶狼を悩殺させようかとーー

 

 「そんなことを考えていたんですか!?」

 

 アイズ様の変身をリリが行った結果、なんか微妙に違うアイズ様になりました。リリっぽいアイズ様というかアイズ様っぽいリリというべきか………。とりあえず遠目であってはごまかせるかもしませんがあまり通用しないでしょう。

 

 「ところでステータスの方はどんな感じだった?」

 

 「間違いなく本物のアイズ様より下です。具体的には普段のリリ程度と思われます。」

 

 「なるほど。人間に変身するのはほとんど使い道がなさそうだな。せいぜい変装くらいか。」

 

 「そうですね。あとはせいぜいいたずら程度が関の山です。」

 

 「だいぶリリルカの魔法がわかってきたな。あまり大きさは変わらない。イメージに依存する。大幅な変身ほどマインドを多量に使う。変身後の能力は相手が同程度の大きさの種族であればその初期平均と言ったところか。そこから体を動かして練度をあげていく感じか。」

 

 「大体そんな感じですね。」

 

 「大きさが変わらないのは面白いな。ヘスティアの寝床で人間大のゴキブリにでも変身してみるか?」

 

 「やめてください。リリもヘスティア様も精神的なダメージが甚大です。」

 

 ホラまた来た。ただの嫌がらせ以外の何物でもないじゃないですか。この人好奇心で言ってるからタチが悪いんですよね。

 

 「ふむ、ところで二人に変身したりはできないのか?」

 

 「それはさすがにやらなくても無理だとわかります。リリはプラナリアではありません。」

 

 「そうか、残念だ。差し当たっては有用性の高い自在の羽の出し入れを行えるように練習するか。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 アストレアホーム、応接間のソファーにて向かい合うリリルカとリュー。

 

 「リュー様、リリはまともでしょうか?」

 

 「いかがなさったのですか?」

 

 「最近リリはカロン様の実験への抵抗が薄れてきた気がします。この間の実験はカロン様がアーデルアシストとの組み合わせを考えなかったことに安堵するリリがいました。リリはカロン様がダンジョン内でロボに化けて人を乗せろと言い出さなくてよかったと………。やはりリリはおかしくなってきているのでしょうか?」

 

 「なんとも判別に困りますね。そもそも残念ですがいろいろなものを受け入れないとこのファミリアではやっていけないような気がします。」

 

 「奇遇ですね。リリもです。一刻も早くカロン様以外の人を団長に据えないとこのファミリアはまずいのではないでしょうか?」




誰か書いてくれないかな、ダンジョンにUFOがいるのは間違っているだろうか。うんまあ無理ですね。


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アストレアの苦悩

 ここは正義のファミリア、アストレアファミリア。アストレアファミリアの主神であるアストレアは今現在自室で悩んでいた。

 

 ーースキルを伝えるべきなのかしら? 

 

 もちろんカロンの黒いスキルである。

 アストレアは当初、スキルのあまりの危険性にとりあえず様子見を行った。結果、劇的なナニカは起こっていないが些細な変化が至るところで見られていた。

 具体的にはまず第一に以前よりリューが楽観思考になった。リューの性格は以前は堅苦しいと感じていたアストレアにとって悪い変化とは思えなかった。それにこれはスキルのせいかカロン自身の性格と関わる影響か判別しづらい。

 他には、ファミリアの基本的なスタンスの変更があった。以前は正義を追い求めるファミリアであったのが、より身内を優先するスタイルとなった。しかしこれはファミリアの現在の総人数を考慮すると致し方ない。これはスキルとは無関係だろう。

 さらに、他のファミリアとの関係性も変化していた。正義を追い求めるアストレアファミリアは以前は他ファミリアとさほど数多い交流はなかった。後援的なファミリアは以前は存在したが今現在は闇を恐れ手を引いている状態。そのかわり以前とはまた違う交流関係を得ていた。しかしこれは事件のせいである可能性が高いと言われるとまた判別に困る。カロン自身社交的な性格でもある。

 

 ーーそもそも本人に聞いてみないとスキルがどういうものなのかもくわしい判断がつかないのよね。

 

 アストレアのこの判断は正しい。彼女はこのスキルが戦闘にも応用できることを夢にも考えていなかった。今までの経験に照らし合わせてカロンと話し合えばカロンはそれに気づくだろう。

 

 ーーでも………。

 

 アストレアは様々なことを危惧していた。

 まずカロンにスキルを伝えた場合、最も危険なのはスキルを自覚することによって十全な効果を発揮してしまうことだ。その場合は、彼女はカロンの人格こそオラリオに混乱をもたらすものではないとは信頼しているものの、どうなるか判別がつきづらい。他人を支配することが可能なスキルの可能性は高い。そう考えるとやはりあまりにも危険なスキルだ。

 

 ーーいや、どうなのかしら………?

 

 あるいは彼が自身のスキルを嫌い口をつぐんでしまう可能性もある。彼女はカロンの少しおかしなマイペースなお喋りが好きだった。

 

 ーーしかしもうあれからランクアップもしてしまったのよね。

 

 彼女は当初、リューを説得して復讐を思い止まらせたいという思いもあった。そしてカロンも思いを同じくしていたため生まれたスキルだと考えていた。しかしリューが落ち着きつつある今、彼女はスキルと正面から向かい合う必要があるのではないかと思いはじめていたのだった。

 

 ーー本当に難しいわね。やはり伝えないほうがいいのかしら?

 

 しかし伝えないことにもマイナスポイントがある。伝えないことで知らないうちにスキルが勝手に周りを地雷源にしないとも限らないのだ。伝えれば避けられる落とし穴が伝えないことで避けられないかもしれない。相手の思考を誘導することで気付けば周りが敵だらけになっているかもしれないのだ。

 

 ーーどちらにしても大きな落とし穴が存在しうるのよね………。

 

 アストレアは悩み果てていた。カロンやリューは気づいていなかったが彼女は慢性な寝不足に陥っていた。

 

 ーーこういうとき、どうすればいいかしら?カロンならどうするかしら?そういえばカロンは話し合うのを大切にしていたわね。

 

 彼女はそう考えた。

 

 ◇◇◇

 

 「アストレア、何の用だい?今ボクは日課のトイレ掃除で忙しいんだ。後じゃ駄目なのかい?」

 

 「もちろん後でも構わないわ。どうすればいいかわからない問題の相談者になってほしいの。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地、応接間。ソファーに座り向かい合うヘスティアとアストレア。

 

 「それでアストレア、悩みとは一体なんなんだい?」

 

 「カロンのことよ。」

 

 「カロン君か。ボクは彼が苦手だよ。」

 

 「まあ………あなたはそうでしょうね。それで相談なんだけど………彼のステータスの話なの。」

 

 「何かまずいことでもあるのかい?」

 

 「彼は………そうね。レアスキル持ちなの。本人に伝えてもそうでなくても何が起こるか判断がつかないほど危険な。」

 

 「それは………本当かい?」

 

 「ええ、少なくとも私はそう判断しているわ。それで伝えるべきかそうでないかあなたに相談をしているの。」

 

 「それは………スキル内容がわからないことにはボクには何と言ったものか判断がつかないよ。」

 

 「まあそうでしょうね。ヘスティア、あなたが他言する相手がいないと信用して話すことにするわ。」

 

 「ちょっと待っておくれよ!他言しないという信用ではなくて相手がいないという信用って、キミはカロン君に毒されてはいないかい!?だいいちボクにはへファイストスがいるよっ!?」

 

 飛び上がって抗議するヘスティア。揺れるツインテール。ついでに胸も揺れる。

 

 「ハァ、そのことなのよ。私にも彼に影響されているかどうかの判別はつかないわ。カロンのスキルは他人の思考を誘導するものなのよ。でもフォローすれば人は生きていれば多かれ少なかれ他人に影響を及ぼすわ。だから判別がつかなくて悩んでいるのよ。」

 

 「うーん、つまり要点をあげるとカロン君のスキルを伝えるべきかで悩んでいて、どちらにも問題があるということかい?」

 

 「ヘスティア、それは私が最初にまとめて伝えたことよ。あなたのオツムは大丈夫?堂々巡りになるわよ?」

 

 「ちょっとアストレア!カロン君に毒されすぎだよ!キミはだいぶ口が悪くなってるよ。」

 

 再び抗議するヘスティア。アストレアは気にも留めない。

 

 「そうなのかしら。でもどうしようかしら。あなたが相談相手にならないならどうするべきかしら?」

 

 「………キミは口の悪さだけでなくマイペースさもうつされているよ………。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア応接間、ソファーに座るアストレアとリリルカ。リリルカは背中からアストレアに抱かれている。微笑ましい光景だ。

 

 「リリちゃん、今日はリリちゃんに相談があるの。」

 

 「リリに相談ですか?アストレア様、どうなさったのですか?」

 

 「カロンのことよ。」

 

 「カロン様がまたおかしなことをしたんでしょうか?」

 

 「カロンには少しおかしなスキルがあるのよ。それを伝えるべきかどうか………。」

 

 「なるほど、言われてみると心当たりがあります。カロン様は周囲を巻き込むのがお上手です。」

 

 「それで伝えるべきなのかなって。」

 

 「リリは今のままでかまわないと思いますよ。」

 

 淀みなく答えるリリルカ。

 

 「でも伝えないことで危険があるかもしれないわ。」

 

 「冒険者はいつだって危険ですよ?」

 

 「リリちゃん達はカロンの影響を受けていると思うんだけど不満はないの?」

 

 「リリもリュー様も新人様達も今を楽しんでますよ。おかしな実験だけは勘弁していただきたいですが………。他のファミリアへの影響はほっといても大丈夫だと思いますよ。」

 

 「なんでそう思うの?」

 

 「カロン様は口が悪くて性格も悪いですし頭のネジもユルユルですが本質的にお人よしです。それにカロン様でしたらどうせわからないことでしたら考えすぎるのはかえって良い結果を出さないとおっしゃると思います。」

 

 「うーん、そうなのかしら。まだしばらくは様子見しかないのかしらね?」

 

 「リリはそう進言します。」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 柱の影から二人を覗くリュー。

 

 「なぜですか、アストレア様。なぜ私にも相談してくださらないのです。私は彼女たちより古株なのに………。あなたもまさか私を脳筋だとでも!?」



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ソーマ乗っ取り

 「………私は、どうするべきなのだろうか?」

 

 「知らんよ。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 今日は前々より実行を望んでいたソーマとの会合だった。カロンは以前から三馬鹿を通じてソーマとの面通しを望んでいた。ちなみに三馬鹿は見返りとしてリューの指導を望んでいた。どうやらおかしな扉を開いてしまったみたいだ。俺はソーマ本拠地を団長のザニスに案内されていた。

 

 「こちらがソーマ様の私室だ。粗相をするんじゃないぞ!」

 

 ザニス。ソーマファミリアの団長だ。

 

 「心配いらん。話し合いに来ただけだ。」

 

 ザニスはちまたでカロンの変人の噂を聞いていた。彼は少し不安に思っていたが、同時にアストレアの悪夢にわずかに関わっていたためほんのすこしの罪悪感も存在していた。カロンのしつこい交渉も彼が根負けした理由だった。ザニスは不安ながらもカロンをソーマの元へ案内した。

 

 「手間をかけたな。リリルカは元気にしているぞ。」

 

 「俺達には関係ないことだ。」

 

 「ものの価値を知らん奴だな。」

 

 カロンは笑ってソーマの私室にノックをした。

 

 ◇◇◇

 

 「………私に一体何の用だ。」

 

 「俺はアストレアファミリア団長カロンだ。今日はソーマファミリアを乗っ取りに来た。」

 

 ソファーで向かい合う二人。カロンのあまりにあんまりな切りだし。ソーマは一瞬固まった。

 

 「………ファミリアの運営は子供達に任せてある。団長のザニスに言ってくれ。」

 

 「じゃああなたはこのファミリアの一体何なんだ?」

 

 「………私は。」

 

 言葉につまるソーマ。主神のはずだが彼らにそう言われるほどに何かをしたのか?

 

 「………私は主神だ。ソーマファミリアの。」

 

 「そうか。そして運営は子供達に任せているわけか。ザニスが首を縦に降ればこのファミリアは解散するわけだな。」

 

 「………そうなるな。」

 

 「あなたが始めたもののはずなのにか?」

 

 「………私はもう関係ない。」

 

 「いやいやそれは通らんだろう。今ここにいるのだから。関係ないなら天界にお帰りいただけるのか?あなたがわざわざここに居座りつづける意味はないだろう?」

 

 「………何が言いたい?」

 

 「このままではろくなことにならんという勧告だな。まあいわゆる余計なお世話か?それならせっかくだからファミリアを俺達にもらえないかという交渉だ。」

 

 「………続けてくれ。」

 

 「あなたは神酒を眷属に配っているな?その眷属は神酒ほしさにそこらで犯罪紛いのことを起こしている。まあ大半がまだ恐喝程度だが。しかし俺はあなたが刺されるのは時間の問題だと考えている。眷属からか他人からかは知らんが。そうなるくらいならファミリアを俺にくれないか?」

 

 「………なぜお前にやらねばならん。」

 

 「単純に俺が欲しいからだよ。俺にくれれば今までより良い形にして見せるぜ。自信は………ないとも言いきれない。」

 

 「………肝心なところがあやふやなのだな。」

 

 「まああんたらと違って無限に時間があるわけじゃないしな。」

 

 「………時間があれば可能と言いたいのか?」

 

 「俺が確約できるのは努力しつづけることくらいだな。」

 

 「………しかし子供達の言葉は薄っぺらい。すぐに嘘をつく。」

 

 「あなたが嘘を正せばよかっただろ?全部を他人のせいにするのはおかしいぞ。あなたが主神のファミリアなんだから。あなたは具体的に何かしたのか?」

 

 「しかし………。」

 

 「あなたはまさか自分には無理だとでも言いたいのか?眷属を子供達なんぞと呼んでいる癖に。子供達は親であるはずのあなたに失望しているんじゃないか?あなたが子供達に失望しているように。」

 

 「………そんなことが………あるのか?」

 

 「最近ここから引き抜いたウチのリリルカはあなたに幻滅していたと思うぞ。リリルカ自体極めて有能な人材だ。あなたは彼女を潰していた。あなたは自身が悪なのではないかと自問自答してみたほうがいいかもな。」

 

 「………私は悪だったとしてどうしたと言うのだ。」

 

 「どうもしないよ。こちらに実害が出ない限りは放っておくさ。まあ目に余るようならその限りでなくなるかも知れんが…………。だが自覚くらいはしておいた方がいい。悪にも悪の矜持があるべきだろう。そうでなければあなたは疫病のように排除されるだけの存在になるかもしれないな。」

 

 「………お前だったらうまくできるというのか?」

 

 「さあな?いつだって俺達にできることは頑張ることくらいだ。」

 

 「しかし………子供達の言葉は薄っぺらい。お前が私の神酒を飲んでまだ同じことを言えるのであれば考えてみよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まずいな。」

 

 「まままままままずいだと?なぜだ?」

 

 ひどく狼狽するソーマ。

 

 「ふむ、実は俺は下戸なんだ。酒の味なぞさっぱりわからん!」

 

 なぜか偉そうに胸を張るカロン。

 

 「しかし、幸福感が訪れていたりはしないのか?」

 

 「ああたぶんスキルのせいだろうな。俺のスキルは状態異常を遮断するからな。」

 

 「………そうか。それでお前はどうすべきだというのか?」

 

 「ああ、俺が奨めるのはウチのファミリアのリューとリリルカをセットで貸し出してファミリアを内部から自浄させていくことだな。俺達のこともあるから毎日は貸し出せないけど。」

 

 「仮にそれでお前は私たちに何を望む………?言葉の通りファミリアを明け渡すことか?」

 

 「いいや、差し当たっての俺達が望むのは強固な同盟だ。目標があるから俺達の立場を少し上のものにしていただきたい。あなた方が納得できるのであればいずれまた形を変える可能性も高い。取り敢えずあなたが今に納得していないのであれば試してみてからの見返りでも構わんぞ。あなたが納得行くようなら見返りをくれ。」

 

 「………それでいいのだろうか?私はそうすべきなのだろうか?」

 

 「知らんよ。俺が行っているのは提案であなたには拒否権がある。あなたは自分で考えるべきだな。」

 

 迷うソーマと突き放すカロン。

 

 「………しかし、私にはわからない。」

 

 「酒蔵にばかりこもっているからじゃないか?アル中なんだろ。しっかり自分で考える癖をつけるべきだ。とりあえずたまには眷属を誘って外でバーベキューでもしてみたらどうだ?」




ザニスが関わっていたのは、実行者の話を聞いていて止めなかったという設定です。小者です。


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闇の再来

 「おいおい、どうするよ?悪鬼のヤローやられちまったぜ?」

 

 「マジかよ、どういうことだ?相手はレベル3と4だったはずだぜ?両方同時に相手しても負けるとは思ってなかったが?」

 

 「しかもレベル3の不死身の方にやられたみたいだぜ?なんでも凶狼もいたとか。今は4にあがったって話を聞いたが。」

 

 「マジかよ。どうすんだよ?あいつらに勝てる奴誰かいんのか?」

 

 「やっぱほっとくべきじゃないか?今は以前ほど目障りなわけでもないし。」

 

 「だが悪鬼のヤローにすでに払った一千万ヴァリスどうするよ?」

 

 「仕方ねぇだろ。すでに払っちまったもんは。それより相手はもうレベル4と5だぜ?前にもまして手が出せねぇよ。」

 

 「私がやってやろうか?」

 

 赤い髪の女性が声をかける。彼女はレン。レベル5だ。バトルものではインフレが起こるのは当たり前なのだ。異論は認めない。

 

 「マジかよ。アンタがでてくれるってことは相方もでてくれんのか?」

 

 「ええ、ただやるからにはこちらにもなんらかの見返りがないとね。」

 

 「何が欲しい?」

 

 「そうね、あんたら私の下僕になりなさい。私たちはオラリオで活動拠点が欲しいわ。」

 

 そう、ここはダンジョン内のリヴィラの街。彼らは悪鬼から情報が漏れる可能性を考え一時的に退避してきていた。

 

 「下僕だと、ふざけんじゃねぇぞ?」

 

 「だったらどうするのかしら?」

 

 レンはバスカルという男性と二人組の冒険者。焔の死神(デスゴッドオブフレイム)を名乗るレベル5の冒険者二人の組み合わせだ。誰か(作者)の語彙の貧弱さと、鎌及びに焔の魔法を使うのが丸わかりである。

 インフレーションにも程があるが、彼女たちはオラリオで残虐な行為を数多く行っていたためオラリオにいられなくなっていた。

 

 「チッ、わかったよ。」

 

 彼女を恐れ承諾する彼ら。

 

 「あら、わかりましたの間違いじゃないかしら?」

 

 「………アンタラが首尾良く仕留めたんならな。」

 

 彼女達は強い。ハンニバルは他者を信用していないためいつもぼっちだったが彼女たちは二人組だ。

 誰か(作者)は早くもバトル描写のことを考え憂鬱になるのだった。

 

 ◇◇◇

 

 「闇派閥が姿を消しただと?」

 

 ここはガネーシャファミリア。カロンはガネーシャと向かい合っていた。

 

 「ああ、ハンニバルを尋問して得た情報を元に奴らの拠点に向かってはみたもののもぬけの殻だった。お前達は奴らに狙われている可能性が高い。俺はお前が心配だ。是非とも気をつけてほしい。」

 

 「そうか、情報を感謝する。お前のおかげで俺達は警戒することができる。」

 

 「俺はマブダチのお前に死んでほしくない。無理するんじゃないぞ。俺達も何かの手伝いがしたいがあいにくすぐに怪物祭だ。」

 

 「無理なんてしないさ。お前の気持ちには感謝している。俺もマブダチや家族を残して死にたくないからな。」

 

 「信じているぞ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地。応接室で俺達は採るべき行動を話し合っていた。

 

 「そういうわけで方針を決めることにする。どう考える?」

 

 「闇派閥が姿を消したのでしょう。まずは奴らがどこ行ったか考えませんか?」

 

 これはリュー。

 

 「俺達は、どうするべきだろうか?」

 

 これはオーウェン。

 

 「もともとお前らは無理いって来てもらってるからな。一時的にフレイヤの元へ帰すつもりだ。闇の居場所がわかるまで。」

 

 カロンの発言。

 

 「でも私たちはサポーター講習が終わっていないわ。まだリリルカさんに習いたいことがいっぱいあるのに!」

 

 イースの発言だ。

 

 「ならフレイヤ本拠地から通って来るといい。俺達はお前らの味方だしお前らは俺達のファミリアだ。差し当たっては奴らの居場所について一緒に考えてほしい。」

 

 カロンがそう発言する。

 

 「どこでも補給は必要だ。リヴィラの近くが怪しいだろう。」

 

 いきなり核心を突くウルド。

 

 「可能性は高い。オラリオの中にいないならな。あるいは俺達の知らない居住区が存在するか………。」

 

 せっかくの正解を台なしにするカロン。しかし彼が悪いのではない。

 

 「いずれにしろ本拠地でしばらく様子見をするべきじゃないかしら。」

 

 アストレアがそう発言をする。

 

 「ううーん様子見といってもほとぼりが覚めた頃また戻って来るだけだろ?」

 

 カロン。

 

 「ではどう対策をとりますか?」

 

 エルザの発言だ。

 

 「………俺の考えではオラリオ近辺では即座にフレイヤファミリアが出てこれるから何かするなら奴らはダンジョン内でなにかをしかけて来るだろう。固まって行動するべきかも知れない。リューと俺が組めばレベル5までは問題ないだろう。とすれば………」

 

 カロンが答える。

 

 「6以上かあるいは複数人ですね。」

 

 リューだ。

 

 「まあそうなるな。しかし奴らがいつ諦めるか明確でないうえ稼ぎも必要だから俺達は固まって潜ることにしよう。お前ら五人のことはとりあえずフレイヤ様に聞いてみる。ついでになんかしゃべるか、アイン?」

 

 「俺はアンタラの無事を願っているよ。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 勢いだけで書き始めるんじゃなかった。なんだよ焔の死神って!?イメージできねぇよ!ルビも怪しいし!

 後悔していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あれから十日後。カロン達はリヴィラの街にいた。

 

 「これまではまだ奴らとの遭遇はありませんね。」

 

 「ああ、そうだな。俺達の警戒が見当違いだったのか?」

 

 「警戒しておいて損はありません。リリは数ヶ月は様子を見るべきだと思います。」

 

 「そうですね。それにここは奴らが潜伏している可能性が高い街です。」

 

 「やはりそうなるか。どうしたもんかな。」

 

 「静かにしてください!」

 

 ◇◇◇

 

 「おい、アストレアのやつらがここに来ているぞ。」

 

 「チャンスじゃねぇか。」

 

 「誰かあいつらを呼んでこい。俺は見張りをする。」

 

 ◇◇◇

 

 「静かにしてください!」

 

 「突然どうしたリュー?」

 

 「おそらく何者かが近くにいます。さっきより頻繁に不審な物音がします。」

 

 「それは確かか?どれくらい前からだ。」

 

 「おそらく30分前ほどです。確信を持てたのは今です。」

 

 「さて、そいつらはどう動くのか?とりあえず予定を変更して上へ逃げ帰るか。」

 

 カロン達は即座に闇派閥の可能性が高いと判断する。

 

 「賛成です。相手の戦力が不明です。街が戦場になる可能性も高い。まずは情報を持ち帰り他のファミリアと連携を取るべきです。」

 

 即座に方針を決めきびすを返す三人。彼らは地上へと向かって行った。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 「いきなりお熱いお出迎えだなぁ。俺以外なら消し炭だったかも知れないぜ?赤いゴキブリと茶色いゴキブリ、二名様を監獄にお出迎え、ってか?」

 

 ここはダンジョン11階層広さのある大部屋。リリルカはすでに逃走済みだ。道中で話し合った結果、リリルカがガネーシャの憲兵を呼び二人が足止めをすることにしていた。このまま逃げたらここを凌いでもまた狙われる可能性は高い。これ以上上では相手が援軍を呼ぶ可能性を考えて断念する可能性もある。苦肉の決断だった。

 

 「不死身か。俺の魔法を喰らってほとんど無傷とは二ツ名は本物と言うことか。厄介な奴だ。」

 

 茶髪の細身の男が答える。男の名前はバスカルだ。

 

 「チャバネゴキブリがほえるじゃねぇか。今日は害虫二匹の命日だよ。お前らは揃っておだぶつさ。女の尻に隠れてることしかできない貧弱ボーヤ。お前の炎はちょうどいい加減だよ。些か以上にぬるいな。」

 

 「バスカル、アンタ言われてるよ。クックック。ほら行くよ!」

 

 鎌を持った女、名前はレンだ。レンの言葉とともに戦端は開かれる。

 

 ◇◇◇

 

 「赤いゴキブリがぴょこぴょこと威勢がいいなぁ!お前鎌なんざもって格好つけているつもりか?そういやカマキリはゴキブリの近親だったなぁ!気持ちワリイ。おら、どうしたそんなもんか?お前らリヴィラに隠れてたんだろ?まさにこそこそと害虫の生態まんまじゃねぇか?笑わせて殺すつもりか?」

 

 カロンはいつものように挑発しながら考えを巡らせていく。

 

 ーーコイツはやべぇな。後ろの茶髪は魔法特化か?前線に出てきやがらねぇ。こいつを盾にして射線を消すべきかそれとも分断するべきか?リューの攻撃もたいして応える様子はねぇ。まずレベル5以上。しかしそんなにぽんぽんいるもんなのか?

 

 レンは鎌を武器に立体的な機動で襲いかかる。通常の大きさより少し大きい分銅付きの鎖鎌だ。普通の切りかかりに時折鎖を掴んでの鎌の投擲を織り交ぜて来る。カロンはリューを狙う彼女の対処に苦戦していた。後ろの茶髪の防御も考えなければいけない。反撃すると防御に間に合わない。

 

 ーーなるほど、なんらかのスキルか。発動状況はわからんが私の力を削ぐものか?わずかに動きに違和感を感じる。しかも固さが尋常じゃねぇ。レベル4にはありえんだろう。しかもなんでわらってやがる?まさかスキルの発動に必要なのか?

 

 レンは少し相対しただけでハンニバルが敗北した理由を悟る。

 

 ーー固い。しかも速さを見てもレベル5以上の可能性大。まさか6まであるのか?どうする、このまま戦いつづけていいのか?しかしカロンの指示を待つべきだ。用心の為のポーションはそこそこ数がある。カロンの様子をみるかぎりアレを相手でもしばらくもたせるだろう。

 

 リューは指示を待つことに決めカロンを盾にして戦う。

 

 ーー即詠唱の魔法は効き目が薄い。しかもうまく射線にレンを巻き込みやがる。ありえんだろう!レンは三次元の動きをしているというのに!素手での戦闘でレンをうまく引きずり込みやがって!なんて厄介なヤローだ。どうする、接近戦に参加するべきか、あるいはでかいのを打つために詠唱をするべきか?

 

 これはバスカル、四者四様の交錯する思惑。

 

 レンは空中から捻りを加えて鎌を振り落とす。カロンはそれを盾で受ける。リューは敵の一瞬の硬直に攻撃を加えようとする。しかしバスカルが炎で攻撃を加えリューは回避へと移行する。そこへレンが殺到し鎖を持ち鎌を投げる。鎌をカロンが間一髪つかみ取るがバスカルの炎がカロンに直撃する。リューは鎌を握られたレンに攻撃をしかける。レンは空いた手でリューの腕をつかみ取り投げ飛ばす。リューは投げられる際レンに置き土産とばかりに蹴りを入れる。体勢が悪くあまりダメージを与えられない。レンはステータスに頼り無理矢理鎌を手元に引き寄せる。

 敵は再度襲い掛かる。壁を蹴り横からリューを狙うレン。リューの前にカロンは立ち、レンの攻撃を盾で受ける。バスカルが横から魔法を撃とうとするがレンは腕をカロンに捕まれバスカルはカロンを狙えない。リューを狙うも軽やかにかわすリュー。レンはカロンとのステータス差で捕まれた腕を力尽くで振りほどく。去り際にレンは蹴りを放つもカロンに悠々防がれる。リューはバスカルに再度炎を放たれかわしつづける。そこへレンが詰め寄りリューは挟みうたれる。リューの危機に割り込むカロン。炎を軽々防ぐ。リューはレンと切り結び力負けしたリューははじき飛ばされる。

 

 

 ーーダメだ、敵は私たち二人よりおそらく強い。カロンはいつまでもたせられる?

 

 早くも弱気が顔を出すリュー。しかし戦場を敏感に感じ取るカロンの怒号が響き渡る。

 

 「リュー、びびんなよ。お前は誰の後ろにいるんだ?お前は俺のタフさを知らないのか?」

 

 「ああそうでした。そういえばそうでしたねカロン。あなたは固いだけが取り柄のどM騎士(ナイト)だ。あなたの背中は安心感がある。私は負けない!」

 

 「おいおい、私たちの間違いだろ?それに別に俺はマゾヒストじゃあねぇぞ?そして俺達は正義のファミリアの遺された希望だ。正義の味方が負けるはずがねぇだろ?」

 

 「あなたは性格的に正義とは言いがたい。」

 

 黒いスキルは緊張を解き放ち二人にハイパフォーマンスを約束する。

 

 一カ所に固まっているカロンとリューに襲い掛かるレンとバスカル。バスカルは炎を放ちレンは空中よりほぼ同時に襲い掛かる。バスカルの炎を盾で受けそのまま盾で空中のレンを殴りつけるカロン。レンはそれを軽々と受け止め盾を片手で掴みカロンを鎌で切り付ける。カロンは鎌を空いた手で血を流しながら受け止め、リューは横から短刀で頭部に切り付ける。紙一重でレンは直撃をさけ、頭部から微量の血を流す。追撃を行うリュー目掛けて炎が打たれカロンは盾でそれを受け止める。

 

 ーー思った以上に厄介な奴らだ。連携ができてやがる。しかし私たちの方がステータスが上。いまのままでは奴らも良くて千日手。時間稼ぎが狙いか?あるいはなんらかの手段が?どうする、バスカルを前に出して混戦にするかあるいは一対一を二つにすべきか?今のままではあまりバスカルをうまく使えてるとはいえねぇ、バスカルの炎が攻撃としてうまく成立していない。

 

 「焦ってる焦ってる。奴ら焦ってるぜ?食事を求めてこそこそと出てきたのに相手が予想以上に強大だったため逃げ出す台所の害虫みたいだな。お前らどうすんだよ?闇派閥は戦力の逐次投入が愚策だってこともしらねぇんだな。いっそ憐れだぜ。」

 

 カロンは挑発を行う。

 

 「仕方ねぇ、バスカル前に出ろ。一対一に分断する。お前がこの盾持ちの相手をしろ。」

 

 「チッ、しょうがねぇか。」

 

 ◇◇◇

 

 戦局は移行する。カロンはリュー一人にレンを任せるのは少し厳しいと考えていた。相手がレベルがいくつにしろ少なくともリューよりは格上。レンよりはおそらく後衛兼業であるバスカルの方が与しやすいはずだ。

 

 ーーしかし俺にはスピードがない。どうする奴らの作戦に乗るべきか………いや………。

 

 「リュー、混戦にする。ニ対ニで戦う。回避を優先し茶色い害虫を先に叩け!」

 

 指示を出す。一対一では耐久寄せでないリューに時間稼ぎはむかないと判断してのことだった。しかも相手は格上で敗北の恐れは大きい。

 

 レンはなお考える。

 

 ーー混戦か。疾風の奴を最初に落としたかったがそうはいかねぇか。どうする?もともと私たちの最善の連携は先ほどまでの戦いかただ。混戦になっては意味がねぇ、か?あるいは先ほどまでの戦いは、不死身に射線をうまく遮られてバスカルの実力を十全に活かせていたとはいかねぇ。戦い方が上手い。こいつ得体のしれねぇスキルといいつくづく厄介なヤローだ。

 

 リューが短刀でバスカルに突っ掛かる。バスカルはそれを剣で受ける。そこをレンが横槍を入れようとし当然カロンが盾で受け止める。盾と鎌でつばぜりあうふたり。レンはカロンを力ずくではじき飛ばす。リューは状況を認識し即座にカロンの側に回る。レンは退避したリューに追撃を加えられない。

 

 ーーここは11階層。助けを呼べたとしてもまだずいぶん時間があるはずだ。運よく近くに誰かがいない限りは。しかしこの盾ヤロー本当にかてぇ。一体どうなってやがる?しかもさっきからずっとニヤついてやがる。何なんだ一体。

 

 カロンの黒い毒は相手の精神状況に応じて効き目が変わる。精神の強いレンでもゆっくりと毒は回っていく。カロンは相手のわずかな迷いを読み取りハッタリをかますことにする。

 

 「おい、カマキリ女。お前大丈夫かね?俺達には直に援軍が来る当てがあるぜ?俺達の仲間に転移系の魔法を持っている奴がいるからな。お前らつくづく救い様がねぇ馬鹿共だな。」

 

 ーー転移系の魔法?聞いたこともねぇ。ハッタリに決まってる。しかし奴らの戦い方は時間稼ぎを想定してのもの。しかも何が楽しいのかこいつずっとわらっていやがる。何を考えてやがる、クソが!

 

 「リュー、ゴキブリ共はどう逃げるか考えてやがるようだぜ?全くうっとおしいったらねぇな。さっさと片付けてホームに帰って飯でも食うか。どぶにしか住めないゴキブリ共の相手をいつまでもするのは時間が勿体ねぇしな。飯も冷めちまう。」

 

 「その通りですね、カロン。早く帰らないとウチの穀潰神がお腹をすかせて泣いてしまいます。」

 

 「お前も言うようになったな。」

 

 戦闘は自然と互いのフォローができる距離での一対一へと移行していた。カロンがレンを抑えリューがバスカルと戦う形だ。彼らの思惑は一致した。

 

 ーー疾風をさっさと片付けてぇがこいつがそれをゆるさねぇ。それならバスカルに疾風を任せるか?

 

 しかしレンは知らない。リューにバスカルを倒す目算があることを。

 

 「これで二本目のハイポーションか。零細ファミリアには手痛い出費だなぁ。」

 

 緊張感無くぼやくカロン。相変わらず笑いつづけている。頭から血を流したままで。

 レンはカロン目掛けて攻撃を加える。鎌できりつけ回転しそのまま分銅を相手の腕に巻付ける。しかしカロンは鎖を引っ張り相手の懐に入ると襟を掴む。レンは前倒しに投げられる。

 

 「ちっ、何なんだテメエは!なんだその技は!」

 

 ダメージはない。しかし倒されつづけることになると体力の消耗も馬鹿にならない。レンは持久戦の泥沼に引きずりこまれつつあった。

 

 ◇◇◇

 

 「女の尻に隠れる臆病者が必死ですね。前に立てたんですね。カッコイイとでも思っているんですか?ゴキブリは何をしてもゴキブリですよ?」

 

 リューはもろにカロンの影響を受けていた。わらいながら挑発する。しかし実力は伯仲しながらもバスカルの方がわずかに上。具体的にはリューがスピードが少し上でバスカルはその他はだいたい上の能力を持っていた。まともに戦えばリューの敗北の可能性は高い。リューは策を練っていた。

 バスカルは剣で切り付け、それをリューは傷を負いながらもかわす。致命傷は決して喰らわない。リューは速度を頼みにバスカルの攻撃をかわしつづける。バスカルは至近から魔法を放とうとリューの腕を掴むがタケミカヅチ直伝の技でバスカルを床に投げ落とす。追撃するリュー、間一髪距離をとるバスカル。再びバスカルは火炎をリュー目掛けて放ち出す。

 カロンもリューの策略を理解していた。

 

 ーーあの程度の即詠唱魔法で専門の後衛を勤めるとは思えません。前衛の戦いができるにも関わらず後衛にいたということはでかい切り札を持ち、それが同系統の炎である確率は高い。相手は前衛も可能なおそらくレベル5、並行詠唱が使える可能性は大だ。ならば相手が並行詠唱を行ってきたならば私の風の魔法で返り討ちが可能だ。そうならない時はもう一度カロンと合流して戦いながら今一度策を練る!

 

 リューは速度を落とせない。相手は同格の実力者。速度を落とせば炎が背中を追って来る。しかし速度を出しつづければいずれはガス欠になる。

 我慢勝負だ!私にはいつも身近に我慢強い馬鹿がいる!!

 

 「たいしたことないですね。この程度でむかってくるなどゴキブリはやはり知能が足りませんね。」

 

 リューは相手の上段からの切り下ろしを短刀で逸らしながら不敵にわらうーーー。

 

 ◇◇◇

 

 ーーちっ、どうする。バスカルの奴案外とてこずってやがる。切り札を切るべきか?

 

 二人の切り札は並行詠唱。レンの重力魔法で足止めを行いバスカルの魔法で消し炭にするというものだ。

 

 ーーしかしこの盾ヤローが前面に出てきやがったらどの程度のダメージが通るか怪しい。疾風の速さを見る限り逃げに徹されればそもそもの魔法をかわされかねない。そうすりゃ魔力残量的にこちらの状況は悪くなる。このまま別れて単体で使わせるべきか?どうする?バスカルは疾風を倒しきれるか?今のままの状況ならこっちが有利………なハズ。こいつはなぜ笑ってるんだ?

 

 考えがまとまらない。カロンが考えている合間にも挑発をして来るからだ。長期戦の疲労とカロンの挑発、さらに黒白のスキルはカロンをどこまでもサポートする。

 

 「おいおい、襲い掛かって来たからには自信があったんじゃねーのか?この程度か?蚊に刺された程度にしかきかねぇぜ?」

 

 嘘つけ。血だらけじゃねぇか!内心で毒づきなおも攻撃を続ける。相手はもう三本ハイポーションを使用していた。

 しかし決め手がない。相手はあと何本回復薬を持っている?いつになったら余裕を消せる?私の攻撃がぬるいはずがないだろう!

 

 レンは焦れる。相手は持久戦をなんとも思っていない。こちらにダメージはたいして通っていないがすでに幾度となく投げられている。

 

 カロンは止めどなくわらいレンは精神を揺さぶられる。

 

 「バスカル、さっさとそっちを終わらせやがれ!」

 

 ついにレンの忍耐がきれる………。

 

 ◇◇◇

 

 バスカルはその言葉に反応し詠唱を始める。

 

 「来たれ煉獄の焔。この地に生きるもの灰塵なす紅を顕現させよ。」

 

 恥ずかしい詠唱である。作者は後々後悔しないだろうかと考えつつも状況は進む。 

 

 「今は遠き森の空。無窮にーーー」

 

 ーー同時に並行詠唱だと!?………魔力の高まりを感じる。ハッタリじゃねぇ!!

 

 バスカルは焦る。今更詠唱を止められない。暴発は確実だ。二人は切り結びながら詠唱を続ける。

 

 ーー何を考えてやがる?何故同時に並行詠唱なんだ?まさか俺の魔法を切り返す切り札か?

 

 その通りである。馬鹿である。アレだけ炎の魔法を使っておかしな二ツ名をつけられているのに何故切り札がばれないと思ったのか?

 

 「なきがらは弔いとともにーー

 

 「星火の加護をーー

 

 幾度も切り結びながらついに詠唱が完了してしまう。バスカルは考えが纏まっていない!

 

 ーーどうする、このままうっちまっていいのか?

 

 焦り、さらに精神を黒い鎖に侵されたバスカルは、苦肉の策でカロン目掛けて魔法を打ち放つ。

 

 「ギガントフレイムッッッ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「おいおい、あいつ馬鹿だぜ。こんなに近くで戦っているのに俺達目掛けて魔法を打ちやがった。オタクの相棒頭大丈夫か?」

 

 迫り来る炎の波を見ながらカロンはなおもわらう。指を頭の横でクルクル回して挑発する。

 

 「あの馬鹿何してくれやがる。」

 

 焦るレンにわらうカロン。カロンはさらに恐ろしいことを言い出した。

 

 「リューっっ、お前の風はこっちに打ち込め!勝機だ!この女を確実に片付ける。」

 

 わらうカロンにわらいかえすリュー。レンは心の底から恐怖を感じる。いつの間にかレンは腕を捕まれている!

 

 「ルミノスウィンド!!」

 

 ーーこいつらイカレてやがる。なんとか逃げっー。

 

 黒い鎖は魂へ浸透している。レンは逃げようとして足を突如絡めとられたと錯覚する。

 

 「おいおい、今更逃げられるわけねぇだろうがよ?離すわけねぇだろう?死が二人を分かつまでさ。」

 

 死を幻視しさらに固まるレン。わけがわからずもなおわらい挑発するカロン。

 カロンはなぜか突如固まったレンを平然と魔法の盾にする。

 

 「お、おい、テメエやめろ。は、離せ、離しやがれ!!」

 

 迫り来る火炎旋風、呆気にとられるバスカル。リューはこの隙にバスカルの両脚の腱を切り落とす。

 

 焦るレンをしり目に襲い掛かる熱波。レンは自身の弱気により黒い鎖のさらなる侵食を許す。レンはすでに死に捕われている。

 

 「ぬわあぁぁぁぁぁっ。」

 

 パパスをオマージュする叫びとともにレンは焼き尽くされた。

 

 ◇◇◇

 

 「ふぅ、うまく勝てましたね。」

 

 「ああ、こいつらが馬鹿じゃなかったら危なかったな。」

 

 両脚の腱を切り落とされたバスカルは二人掛かりで袋だたきにされ、燃やされたレンは作者の気分的なもので奇跡的に生きていた。しかし相変わらずカロンは口が悪い。死体蹴りを平気で行う。

 

 「よし、さっさとガネーシャに引き渡すか。懸賞をかけられてたら結構いい金になると思うぞ。」

 

 「そうですね。お金が入ったらそれでフレイヤ様に預けた五人や他の親しい方々も集めて祝杯を挙げましょう。」

 

 「悪くないアイデアだ。なんだそろそろ脳筋は卒業か?」

 

 「いつまでもそうは呼ばせませんよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「なんだリリルカ、思ったより速かったな。」

 

 「部分変化のおかげです。」

 

 「なるほど。であんたらはガネーシャの憲兵か。こいつらまかしていいかな?」

 

 「ああ、後は俺達にまかしてくれていい。ところでこの女の方はひどい火傷だが………?」

 

 「いやこいつら結構強くてな。多分二人ともレベル5か6だ。手加減する余裕がなかった。あんたらも気をつけてくれ。」

 

 「ああ、わかった。ホームに戻って面相の確認を行う。賞金がかかっているようなら後日連絡をするのでガネーシャホームまで取りに来てくれ。」

 

 「ああ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「来週は怪物祭だな。全員で見に行くか?」

 

 「フレイヤ様のところの方々は五人で行くとおっしゃられてました。」

 

 「そうか。じゃあ俺とお前とリューとアストレアとヘスティアの五人で行くか?ガネーシャは確認にもう少しかかりそうだと言ってたし。怪物祭の準備で忙しかったんだろうな。」

 

 「悪くないです。リリも今から楽しみです。」




設定的に 
レン(6間近)
バスカル(5の中堅)
リュー(5になってすぐ)
カロン(4になってすぐ)
こんな感じです。


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ソーマさらに乗っ取り

 闇派閥の二人組に勝利したカロン達は、その二日後に祝勝会を開いていた。祝勝会はカロンの交渉という名の洗脳によりソーマファミリアにて行われ、ソーマの眷属やソーマ神も強引に参加させられた。

 

 「せっかくだ。ホレいい肉買ってきたんだから楽しめ。」

 

 「………お前は図々しいのだな。昨日の今日で私の聞いてない理由で押しかけて………。」

 

 話すソーマとカロン。ソーマはどうせ自分の眷属達はたいして来ないだろうと考えていた。

 

 ーー思ったよりたくさんいる。私の眷属はこんなにたくさんいたのか………。

 

 思った以上の数の眷属達に戸惑いを隠せないソーマ。強引なカロンの手腕。ある程度の数の人間はリリルカのようにソーマ脱退を願い変化を望んでいた。

 

 「ほれ、ソーマ神。あんたの子供達だ。話してくるといい。」

 

 ソーマはどうしたらいいかわからない。

 

 「………私は彼らにどう接すればいいのかわからない。私は隅にいる………。」

 

 「あんたリューと比べても比べものにならないくらいコミュ障だな。仕方ないな。後で俺が隅で話し相手になってやるよ。」

 

 以前より馴れ馴れしいカロン。

 

 「………私は場違いだろう。私はここにいてもいいのか?」

 

 「もちろんだ。後で頼みたいこともある。」

 

 ◇◇◇

 

 ソーマの眷属は困惑していた。いきなりソーマ神にホームの広間に呼ばれて謎の祝勝会を行うことになったのだ。会計の出所も不明で知らない人物もいる。三馬鹿だけは何か嫌に嬉しそうな顔をしている。特にファミリアの団長ザニスの困惑は大きかった。

 

 ーーこれは………祝勝会?先のハンニバル討伐のものか?しかしアレから期間も経つししかも何故ウチのファミリアで行うのだ?意味がわからん。ソーマも何故許可を出したのだ?やはり変人をホームに入れたのは間違いだったのか?しかし会計によるとファミリアの金は減っていない。アストレアの奴らが金を出したのか?討伐祝勝会だからか?

 

 混乱するザニス。思考がまとまらない。

 

 「今日はソーマの皆もよく来てくれた。我々は闇派閥討伐と、アストレア・ソーマ両ファミリアの友誼を祝って懇親会を執り行う。今日の資金は我々アストレアファミリアから出ている。皆も是非楽しんで欲しい。」

 

 ーーハァ?聞いてねぇぞ。ソーマも何故なんにも言わない?どういうことだ?

 

 カロンの唐突な言葉に狼狽するザニス。ザニスは声を出す。

 

 「おい、どういうことだ?我々は聞いていないぞ?いつから我等ソーマファミリアとアストレアファミリアが友誼を通じたと言うのだ。そしてこの懇親会も俺は聞いていない。一体何の話をしているんだ!」

 

 「ふむ、おかしいな。カヌゥ達は聞いていたみたいだが?」

 

 すっとぼけるカロン。

 

 「俺は聞いてない!眷属のほとんども聞いてない!何しやがるんだ?」

 

 「そうか。しかしソーマ神には話を通したぞ。お前らを呼んできたのはソーマだろう?それに今回の資金は俺達持ちだ。あまり気にするな。」

 

 「ふざけたことを………貴様は一体何がしたいんだ!」

 

 わけが分からずに激昂するザニス。

 

 「だから祝勝会と懇親会だって。闇派閥の討伐が成功したしお前らとも懇意になれたしめでたいだろう?」

 

 いきなりわけのわからない情報をぶっこまれるザニス。彼を除く眷属は遠巻きに見て、三馬鹿はすでに食事を始めている。

 

 ーー闇派閥討伐はハンニバルのことか?それと俺達が懇意になったっていつの話だ?まさかソーマはすでに取り込まれているのか?

 

 ソーマは隅でもそもそと食事をしている。それを見た他の眷属も徐々に食事をしはじめた。

 

 「おい、待て!俺は認めてないぞ!」

 

 「なんでもお前に話を通さんといかんのか?俺はソーマに話を通せばいいのかとてっきり考えていた。今から片付けるのも面倒だしたまには別にいいだろ?皆も気にせず食ってくれ。」

 

 そうだ。その肝心のソーマがまさかの支持するスタンスである。もうすでにほとんどのものが食事を始めている。

 

 ーー強引に止めるべきか?しかし主神の援護は期待できず眷属のほとんどは食事を始めている。何なんだ?何がしたいんだ?

 

 「お前ら何故食事を始めてるんだ?」

 

 「だってソーマ様も………。」

 

 「だってもクソもねぇ、いますぐやめろ。」

 

 ザニスを見る眷属達。ザニスを支持するものとそうでないもの。場は徐々に冷えていく。

 

 そこでソーマは覚悟を決めて前に出る。

 

 「………今回の懇親会は私が子供達のために企画した。私は主神であってもその程度の権限もないと言うならば、私はここにいる意味はない………。」

 

 ーーそれは脅迫か?天界に帰還するという。クソッ!

 

 その言葉にザニスは敗北を悟る。ザニスはソーマが地上に居座る理由が無いことを理解している。

 

 ーーダメだ、ソーマは完璧に丸め込まれてやがる!

 

 ◇◇◇

 

 ソーマは眷属の子供達を見ていた。苦しみながらも変化を(こいねが)う眷属達は久々の明るい宴会に楽しそうに食事をしていた。

 

 ーー神酒を前にする表情とまるでちがう………。あの男の言った通り酒は生活の一部で趣味に過ぎないということか………。どれだけ美味だったとしても人生のすべてをかけるべきではないという意味なのだろうか?私の神酒では子供達から下卑た笑いしか引き出せなかった………。ちょうどいいとやってきたあの男の勢いだけの提案は、私に予想していなかったものを(もたら)した………。食事でもしながらもっと眷属を子供達を理解しろと………。

 それでは私が今度は頼みを聞くべきだな。

 

 ソーマは覚悟を決めて前に出るーーー

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地団長室。祝いの次の日に呼び出されたファミリア主軸の二人リリルカとリュー。

 

 「リリルカ、リュー、お前らにはソーマへの定期的な出向を命じる。」

 

 「リリは初耳ですよ!?」

 

 「カロン、私も寝耳に水です。」

 

 「スマンな。前にソーマファミリアを訪問したときにソーマ神にお前らを貸し出す提案をしてしまったんだ。闇派閥騒動ですっかり忘れていた。」

 

 「「カロン(様)………。」」

 

 呆れて冷たい目を向ける二人。

 

 「まあ連合構想の第一歩だ。お前らの働き次第でソーマが同盟を結んでくれるはずだ。リリルカはソーマファミリアに思うところがあるだろうがリューとセットの貸出をする。我慢してくれ。」

 

 「何故リリを一緒に?」

 

 「リューは真面目そうで喧嘩っ早いからな。数字にも弱いし。お前はアストレアファミリアの頭脳と良心ここにあり、とそういうことだ。」




蛇足
「ソーマ神よ。もしもあなたが祝いの席で感じるものがあるならばあなたの思うままに行動してほしい。」


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怪物祭~ベートの受難~

 ーーマジか、クソッ、勘弁してくれよ。

 

 ベートは酷く落ち込んだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 今日は俺がかねてより楽しみにしていた怪物祭だ☆なに、キャラが違うだぁ?知るかよ!まあ俺も毎年楽しみにしているわけじゃあない。なんと今年はアイズを祭に誘うことに成功したんだ。

 なに、アリエナイ?おい、今言った奴誰だ?前に出やがれ!

 そんなわけで俺は朝から楽しみにしていた。け、決して昨日の夜楽しみで寝れなかったなんてことはねーぞ?おい、誰だよ今意外とかわいいところもあるなんてふざけたこと抜かしやがった奴は?

 

 そんなわけで今日は朝からベート超興奮。思わずガネーシャにもなろうってもんだ。鏡の前で鼻歌交じりの俺はしっぽに普段とは違うピンクのリボンをつけておめかしした。今日の俺はあのストーカー野郎にさえも優しくなれる気がしたんだ………そう、この時までは。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「アアアアイズ、よくきたな。」

 

 「ベートさんお待たせ。」

 

 「凶狼、久々だな。よし、では一緒に回るか?」

 

 ?今なんかいたか?気のせいだよな?やはり寝不足が祟ってんのか?やはりデート前はきちんと睡眠を取るべきだったか?

 

 「どうしたんですかローガさん。」

 

 やっぱりいる!しかもごっそりいる!!見間違いじゃあねぇ!見たことある奴らだ。今喋ったのはアストレアファミリアのエルフだ。いち、にー、さん、よん………俺達含めて全部で七人いやがる!?どういうこった!?

 

 「オオオオオイテメエ、何故ここにいやがる?」

 

 「アイズとそこでたまたまあってな。アイズが凶狼と待ち合わせてるから、よかったら一緒に来るかって。」

 

 ーーアイズたあぁぁぁぁん(泣)。百歩譲ってファミリアの仲間ならともかく何故こいつら、というか変人(カロン)なんだよ!?俺は何のためにロキに根回ししたんだ?何のためにタケミカヅチの眷属に土下座とやらを教わったんだ?こんなもん嫌がらせ以外のなんでもねぇじゃねェか!?俺がそんなに嫌いなのか?

 

 「アイズ、久々だな。今日はダンジョンはお休みか?」

 

 「うん、ベートさんがどうしてもっていうから嫌だったけどーーー

 

 待てぇぇぇぇぇぇーーっっ。嫌だったってアイズ、それはあんまりだあぁぁぁぁっ。

 

 「ベート様、気を取り直して下さい。カロン様はどこまでも我が道を行く方です。落ち込むだけ損です。これからいくらでもチャンスはありますしリリはお手伝いをさせていただきます。元気を出しましょう!」

 

 チビィィィィィ。お前、お前、いい奴だったんだな。もうチビとはよばねぇよ。もしうまくいくんならおチビ様でもリリルカ様でもなんとでも呼んでやるよ!

 

 「アイズは綿飴でも食うか?」

 

 「綿飴?食べたことない。」

 

 「ほら、あのぐるぐる回ってるやつだ。甘くてふわふわだぞ。」

 

 「………食べる。」

 

 それはっ、それはっ、俺の役目だあぁぁ!ナチュラルにアイズの隣でエスコートしてんじゃあねぇ!!!お前には近くにファミリアの美人のエルフがいるだろうがぁぁ!!

 

 「カロン、今日は私たちファミリアの人間のエスコートをしてくれるんじゃないんですか?」

 

 そうだ、言ってやれ!もっと、もっとだ!

 

 「だがアイズもベートも近い将来俺達のファミリアに入る予定だ。今のうちから仲良くしておいて損はないだろ?」

 

 テメエはまだいってんのかぁぁぁぁぁ!しかもアイズもいれてんじゃねェぇぇぇ!

 

 「ふむ、ところで凶狼。今日のしっぽのリボンはかわいいな。着飾っているのか?」

 

 そうだよ!デートのつもりで来たんだよ!お前ら邪魔するんじゃねぇよ!!アイズに褒めてもらうんだよ!!

 

 「お、アレは。おーいフィンじゃないか。お前達も皆できてたのか。お前らも一緒にいかんか?」

 

 これ以上人間をふやすなあぁぁぁぁ!オラ、見ろよ!ティオナもティオネもリヴェリアもレフィーヤもラウルすらも俺のことをなんか可愛そうなものを見る目で見てやがるじゃねェか!こっち見んじゃねェよ(泣)あとロキ、楽しそうに笑ってんじゃねェぇぇ!!!

 

 「い、いやほら僕達はせっかくたまには別々に回ってるんだし………。」

 

 「そういうなそういうな!ほら、せっかくのお祭りなんだし!」

 

 フィンと肩組んでんじゃねぇぇ!オラ、見ろ、困った顔してんじゃあねぇか!!

 

 「あ、リュー、リリ。ヘスティア様もいる。皆でお祭りにきてたのー?」

 

 「シル、奇遇です。」

 

 「シル様!」

 

 「シル君、奇遇だね。せっかくだから一緒に見て回ろうよ。」

 

 まだ増えるのか、どこまで増やすつもりだぁぁぁ!!そして誰だテメエェェェ!!

 

 「「「「「団長!ご苦労様です。」」」」」

 

 「おお、お前ら五人か。せっかく出会ったことだし一緒に回るか?」

 

 作者は何のために別行動させたんだあぁぁ!!ただの字数稼ぎじゃねえかぁぁぁぁ!!

 

 「「「リューの姐御、ご苦労様です。」」」

 

 「あなたたち、あまり他人に迷惑をかけてはいけませんよ。」

 

 「三馬鹿もせっかくだし一緒に行くか?」

 

 姐御ってなんだあぁぁ!!誰か知らんがお前ら三馬鹿呼ばわりでいいのかああぁぁぁ!!

 

 「カロン、よく来てくれたな、ガネーシャ超歓迎。」

 

 「ガネーシャ、さすがに活気があっていい祭だな。」

 

 お前自分トコの祭だろうが!!仕事しろぉぉぉぉ!!

 

 「………カロン、祭とはいいものだな。酒と通じる楽しさがある………。」

 

 「ソーマ神、嬉しそうだな。アレからファミリアはどうだ?」

 

 引きこもりまで連れ出してんじゃねぇぇぇ!!酒と通じる楽しさってなんだあぁぁぁ!!

 

 「変人、嫌な人と会いますね。」

 

 「なんだ、失礼だな万能者。せっかくのお祭りで無粋なことをいうもんじゃないぞ?」

 

 どうせお前がおかしなことをまたなんかやったんだろうがぁぁぁぁ!!

 

 「カロンか、祭はいいな。」

 

 「ああ、タケミカヅチ。眷属の皆も。皆が楽しそうなのは見てていいな。」

 

 まだ増えるのかあぁぁぁ!!しかもギャグでサラっと初キャラ出してんじゃねぇぇぇ!!

 

 はぁ、嫌になった。どんどん人が増えて片っ端から変人が誘いやがる。もうアイズが人に溺れてどこにいるかすらわからねェ。

 女共がなんかこそこそ話をしていやがる。俺は半ば以上にやけくそでその様子を見ていた。

 

 「ベートさん、始めまして。私シルといいます。」

 

 「アン、なんだテメエ?」

 

 「リリからお話は聞きました。これだけ人がいたら二人くらいはいなくても誰も気づきません。私がアイズさんを呼んできてあげますよ。」

 

 「アア、テメエにそれが何の得があるんだ?」

 

 「私は豊穣の女主人の店員です。懇意のお客様の融通を効かせたいと思うのは別におかしくないでしょう。次に来たときにたくさんお食事をしていって下さい。」

 

 「テ、テメエ、聖女様だったのかよ………!?」

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「アイズ、今日は付き合ってくれてありがとな。楽しかった。」

 

 ロキ本拠地前、俺は驚くほど素直に今日の礼を言えた。

 

 「うん、私も今日は楽しかった。疲れたけど。」

 

 「あの馬鹿は高レベルの冒険者でもついてけねぇな。俺も少し疲れちまった。」

 

 「でも人がたくさんですごかった。」

 

 「ああ、人が多過ぎてあまり楽しむ時間が取れなかったな。リベンジに来年も付き合ってくれるか?」

 

 「うん。」




作者はベートを応援しています。


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椿大迷走

 俺はこの日、ヘファイストスファミリアに自分の装備を見に来ていた。そろそろ鎧の新調を考えていたからだ。しかし全身鎧は高い。少しでも安くしたい。ゴブニュに寄って帰りにヘファイストスの鎧を見に来ていた。

 

 ーーさすがに高いな。材質はミスリルか………。命を護る物だから高いのは当然か………。貴金属使用量も多いしな。でもこのデザインは肩の辺りがカブトムシみたいでカッコイイな。こっちの鎧は色がイイ。ピカピカで如何にも強そうに見える。こっちは手の辺りが指ぬきになっているのがとてもステキだな………。

 

 俺はそんなことを考えていた。

 

 「お主変な奴だな。目をキラキラさせて少年の様だな。」

 

 話し掛けられた。胸にサラシを巻いて眼帯をした女性だ。たしか有名人なハズ。名前はーーー

 

 「手前は椿・コルブラントと申す者だ。お主はアストレアファミリア団長のカロンだな?」

 

 「ああ、そうだな。何か用か?」

 

 それにしても彼女は何故サラシなのだろう?ヘスティアのような痴女なのだろうか?

 

 「いや、たいした用ではないよ。ショーウィンドウにかじりついて目をキラキラさせていたから気になって話し掛けただけだ。まあ………客を取れないかという下心もあったがな。」

 

 「客って娼婦なのか?」

 

 「いや何故そうなる!?ここはヘファイストスファミリアだろうが。」

 

 「いやだってそんな格好してるからついてっきりな。」

 

 「噂に違わず何というか………。まあいい。鎧を探しに来ているのか?」

 

 「まあそうだな。」

 

 その言葉に椿はこちらをじっと見つめる。

 

 「お主確か高レベル冒険者だったろう?専属鍛冶師はおらんのか?」

 

 「おらんな。」

 

 「なぜだ?」

 

 いぶかしむ椿。高身長も相まってなかなかの男前だ。

 

 「長時間話すなら喫茶店でも行くか?」

 

 「いやここでいいだろ。で、理由を話してくれんのか?」

 

 「たいした理由ではないよ。正当な価格競争の努力を信じているだけさ。専属を作ったら他の鍛冶師から購入するのも一苦労だろ?」

 

 「ふむ、なるほど。一理あるな。つまりお主は専属を作る気はないということか。」

 

 「そうなるな。」

 

 「しかしそれでは金がかかるだろう?」

 

 「命を護るものに付き合いで妥協をするのもおかしな話だろ?」

 

 「むう………。」

 

 何やら考え込む椿。腕を組んでただでさえ大きな物がさらに強調されている。確かこいつの二ツ名は巨眼の何とかだった気がする。うん?巨乳の何とかだったか?アレ、単眼の何とかだったか?

 

 「しかし手前ら鍛冶師と御主ら冒険者はこれまでそうやって持ちつ持たれつやっておっただろう。それはどう考えておるのだ?」

 

 「別にそうしたい奴はすればいいし、これまでとこれからは違うだろ?いつまでも同じとは限らんぞ。」

 

 「ぬうう、ではどうなるというのだ。」

 

 「さあ。」

 

 「さあ!?」

 

 「特に考えはないさ。必要なら自然と変わっていくだろ。変わらないままかもしれないし。ただ今の関係が俺にはしっくり来ないから専属をとらないだけだぞ。」

 

 「金には困ってないということか?」

 

 「金には困ってるよ。ただ俺は盾役しかできないから仲間の命は金には変えられんだろ?陳腐だけどさ。」

 

 「陳腐でも真理ではあるな。あるいは至言か?なるほどお主の考えはよくわかった。ふむ………。」

 

 また何やら考え込む椿。それにしても本当に大きいな。

 

 「お主が見ていたそこのショーウィンドウにある鎧は手前の製作だ。気に入ったのであれば手前の専属になるなら安く卸せるぞ?」

 

 「専属はとらんと言ったろ?第一お前は鍛冶師として既に名声があるだろ。なんで初対面でそんなことを急に言い出すんだ?美人局か?」

 

 「美人局ってお前は………。まあ………。お主が今の関係に納得いっとらんのは理解したが手前は手前で気に入っとるからその意地だ。それと最近ちとスランプ気味でな。オラリオに名高い変人からなにかインスピレーションを受けれないかとな。」

 

 「お前俺と同じくらい口が悪いな。そんなにインスピレーションが欲しけりゃいつもと違う行動でもしてみたらどうだ?」

 

 その言葉に椿は少し暝目して考える。

 

 「………例えばどんなものだ?」

 

 「お前のいつもの行動を知らんからわからん。」

 

 「何だそれは………。所詮変人もそんなものか?」

 

 その言葉に俺は呆れる。何か相手にするのがめんどくさくなってきたな。

 

 「いやいや、初見の人間からインスピレーションを得ようとしているお前が何を無茶なことを言ってるんだ?そんなに言うんだったら改宗でもしてみたらどうだ?」

 

 「改宗だと?手前に鍛冶師以外をやれと申すか?」

 

 「改宗して鍛冶師をやればいいんじゃないか?」

 

 「ゴブニュに行けと?」

 

 「別にそうは言わないぞ。ヘファイストスの所から道具一式を盗んで家出してしまえばいいんじゃないか?」

 

 「お主は手前に主神様に対して不義理を行えと申すのか?」

 

 「いや、そんくらいやんないとインスピレーションなんて湧かないんじゃないか?後は盗んだバイクで走り出してみたりさ。あんまり俺の答に期待すんなよな。」

 

 「うーむ、確かに手前の都合の良い質問ではあったな。ふむ、あいわかった。時間をとらせて済まなかったな。」

 

 そういって別れる俺と椿。俺は今日の晩飯のことを考えながらファミリアへの家路へ着いた。確か今日の夕飯当番はリリルカだったから期待が持てるはずだ。献立は俺の好きなキノコのシチューだったハズだな。俺は鼻歌交じりで帰宅していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 三日後、俺はヘファイストスにバベルに呼び出された。

 

 「ヘファイストス様、なんで俺を急に呼び出したんだ?」

 

 「なんでもへったくれもないわ!これを見てちょうだい!!」

 

 そういって机を叩くヘファイストス。ふむ、何やら怒っているな。小皺が寄らないといいが………。

 机には手紙が置いてある。

 

 『鍛冶師としてさらなる高みを目指すためヘルメスファミリアから盗んだバイクで少し旅に出てくる。 椿』

 

 ふむ、なぜ俺のアドバイスだとばれたんだ?




窃盗ダメ!絶対!


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ヴェルフとの出会い

 俺の名前はヴェルフ・クロッゾ。魔剣を鍛造して国に献上することで貴族の地位を得た一族だ。しかしそれは昔の事。俺は一族のありようが気に入らず地位を捨て姓も隠してここオラリオに流れ着いていた。今はここの鍛冶ファミリア、ヘファイストスファミリアに拾ってもらい鍛冶を生業として生計を立てていた。そんな俺にはここ最近悩み事があった。

 

 ーー納得行く剣が作れねぇ。魔剣を作る気はねぇし。やはり発展技能の鍛冶は必須なのか?クソッ、どうすりゃいいんだ?剣が売れなくて金もねぇ。八方塞がりに近いな。

 

 俺はそんな悩みを抱えながら町を歩いていた。

 

 ーーーーーードンッ!?

 

 「あ、すいません。」

 

 「ああ、すまんな。大丈夫か。」

 

 考え事をしながら歩いていたら大男にぶつかってしまった。エルフと二人組だ。………確か聞いたことがある。多分アストレアファミリアの強力ペアだ。確か不死身と疾風。大男は確か変人とも呼ばれていたハズだ。男は思わず尻餅を着いた俺に手を差し出してくれた。

 

 「怪我はないか?すまんな。」

 

 「ああ、大丈夫です。それでは。」

 

 俺はこの日そう言って彼らと別れた。

 

 ◇◇◇

 

 数日後、俺はバベルでショーウインドウに張り付く大男を見かけた。先日見かけた不死身だ。俺は仕事の途中だったが何となく気になってその様子を見ていた。彼がずっと見ているのは椿製作の重厚な鎧だ。金額もバカみたいに高い。しかし彼は飽きることなく飾ってあるいくつかの鎧を見つづけている。彼は大男だがその様子は目をキラキラさせてまるで少年の様だ。

 

 ーー鎧を探しているのか?

 

 彼は大男だ。全身を纏う鎧を着れば仲間を護る盾になれるだろうし、その様子をイメージするとなかなかサマになっているようにも思える。そんな風に考えていたら彼に誰かが話しかけた。

 

 ーー椿!?

 

 椿は俺達ヘファイストスファミリアの団長だ。レベル5でありオラリオに名を轟かせる鍛冶師。何やら不死身と話していやがる!?知り合いなのか?疑問に思うも他人を覗き見るのは本来あまりいい趣味ではない。誰かと会っているのなら尚更だ。俺は仕事の続きを行うことにした。

 

 ◇◇◇

 

 次の日、ファミリアにおかしな噂が流れた。何でも椿が家出をしたらしい。家出?意味がわからん。しかし椿は周知の鍛冶バカだ。すると家出が鍛冶に必要だと言うことだろうか?ますます意味わからん。混乱した俺に眷属の仲間がヘファイストス様が椿を探しているから心当たりのある奴は教えてほしいと言っていたと伝えに来た。心当たり?まさか変人との会合か?あの謎の会合の次の日に椿はいなくなった。関係がある可能性はある。俺はヘファイストス様に伝えるべきなのだろうか?

 俺は悩んだ。

 

 ◇◇◇

 

 その二日後の朝、なかなか帰ってこない椿に意を決した俺はヘファイストス様に椿の会合を伝えることにした。ヘファイストス様が心を痛める様子はあまり見たくない。俺はヘファイストス様の心痛と密告の罪悪感の板挟みにあっていた。せめて後で不死身に謝罪をしようと思いながらヘファイストス様に椿の事を伝えた。

 

 ◇◇◇

 

 不死身がヘファイストス様の私室に入って行った。どうやらヘファイストス様が呼び出したらしい。うん、明らかに俺のせいだな。しばらくして何か怒鳴り声みたいなのが聞こえてきた。心が痛い。っていうかヘファイストス様あんなに怒るんだ。一体あの人は何をやったんだ?これはもう椿の家出の原因だという事は確定事項と見ていいだろう。どういった事情かは想像もつかんが。まあヘファイストス様は椿を可愛がっていたからな。さて、いつまでかかることやら。

 

 ◇◇◇

 

 やっと静かになった。ヘファイストス様脳の血管とか切れてないといいけど。

 

 ーーーーーーガチャッ、

 

 不死身が出てきた。俺は彼に話しかけた。

 

 「おい、あんた。ちょっと話をいいか?」

 

 「ん?お前は確か………この間見たな。」

 

 「ああ、俺はヴェルフってんだ。あんたに謝りたいことがあってさ。よければ俺の部屋に来てくれるか?」

 

 ◇◇◇

 

 ヴェルフ私室、向き合う不死身と俺。俺は切り出した。

 

 「なあ、あんたが怒られたのは俺のせいなんだ。知ってるかもしれねぇが椿が家出してさ、直前にあんたと話しているのを見たってヘファイストス様に伝えちまったんだ。済まなかった。」

 

 「なるほど。謎は解けたか。」

 

 謎?ああ、理由がわからずヘファイストス様に呼び出されたのか。

 

 「謝っといて何だが椿が何故出て行ったのかあんた心当たりがあるのか?ヘファイストス様に怒られていたみたいだけど。」

 

 「うん、何というか………。扱いが面倒になって適当に出したアドバイスを真に受けてしまったらしくてな。なんでもインスピレーションが欲しいとか………。それでしらん奴にそんな悩みを聞かされても面倒なだけだったからつい適当なアドバイスをしてしまった。」

 

 「はぁ、つまり………。それはどっちかというと椿が悪くないか?」

 

 俺はつい呆れてしまった。見知らぬ初対面の人間のアドバイスを受けて椿は家出したのか!?

 

 「しかしヘファイストスにとっては椿が可愛いんだろう。それであまりに鬱陶しいからつい俺も煽ってしまった。するとますます怒るしますます俺も煽ってしまうしでまあヘファイストスを散々に怒らせてしまった。」

 

 マジかよ!?この人何を言ったんだ?逆に気になるぞ!?あと椿に何を言って家出させたんだ?ヘファイストス様の脳の血管は大丈夫なのか!?

 俺は不死身に興味を持ってしまった。

 

 「なぁ、アンタ。聞きたいことがあるんだ。初対面でこんな事をいうのも何なんだが………。聞いてくれないか?」

 

 「何だ?猥談か?スケベな奴だな。」

 

 「違ぇよ!何で初対面の人間に猥談なんかせにゃならんのだ!?俺がスランプだって話だ。鍛冶の発展技能が欲しいんだけど仲間がいなくてどうすればいいか迷ってんだよ!適当で構わないから俺にアイデアをくれないか?」

 

 「暇なときなら俺でよければダンジョンに一緒についていってもいいぞ。他にもあと二人団員がいるぞ?」

 

 「マジかよ?それは嬉しいけど何だってそこまで言ってくれるんだ?アンタ確か高レベルだろ?」

 

 思わず俺は食いついてしまう。

 

 「ああ、ウチは一時期ツテもクソもない酷い状態だったからな。知らんか?アストレアの悪夢?今はファミリアを大きくするための時期なんだよ。」

 

 「ああ、そうか。アンタ大変な思いをしたんだな。」

 

 「過ぎた事だよ。しかしお前もぼっちだったんだな。」

 

 「ぼっち!?お前も!?」

 

 「まあお前がよければ俺達と一緒に潜ろうか。折角の縁だしな。」




お気に入り件数がすこしずつ増えていることを作者は地味に喜んでおります。この場を借りて読んでくれた方々と合わせてお礼申し上げます。


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フラグクラッシャー

 ーーこれから先の戦いをどうすればいいのか?

 

 俺は今それを考えていた。俺は今まで三人もの闇の高レベル冒険者を討ち取った。しかしそのどれもが共闘であり、俺自身の攻撃は相手にほとんど通らない。相手を倒したのは俺達のファミリアのリューとこれも同じファミリア(予定)の凶狼だ。これから先俺に強力な攻撃手段がないと戦いが苦しくなるのではないだろうか?俺はそう考えていた。

 

 ◇◇◇

 

 「カロンの必殺技ですか?」

 

 「ああ、この間の戦いで思い知った。敵は強大で俺に切り札があれば戦術幅が広がる。」

 

 俺は応接間でまずリューに相談をしていた。脳筋ではあるが戦闘の専門家だ。古株だし信頼できるはずだ。

 

 「しかし、いきなり強くなんてことありえないでしょう。あなたもそう考えているのでは?」

 

 「うん、まあそうなんだが。しかし何もしないよりも努力の方向性だけでも決めたいとな。」

 

 「おや、キミ達は何の話をしているんだい?」

 

 彼女はヘスティア。ただの居候だ。相談ごとに頼りになるとは思いづらい。その信頼感足るや高レベル冒険者並だ。あまり割り込まないで欲しかったのだが………。

 

 「カロンが戦闘の手段を模索しているんです。」

 

 「カロン君がかい?」

 

 「ああ、その通りだ。」

 

 「魔導書を読んで魔法を覚えればいいんじゃないかい?」

 

 やはりというかさすがの金の価値を理解しない穀潰神っぷり。

 

 「あのな、ヘスティア。魔導書が一体いくらするのかわかっているのか?」

 

 「でもキミ達は高レベル冒険者だし最近懸賞金がはいったんじゃないかい?」

 

 「まあそうだがファミリアの金は人材の補強及びに育成に使うことにしたくてな、そんなにでかい無駄金は捻出できんよ。」

 

 「ボクは君達の安全のためなら多少の出費は仕方ないと思うけど………。」

 

 「ふむ、たまにはまともなことをいうではないか。」

 

 雨でも降るのか?

 

 「ええ、洗濯物を取り込んできます。」

 

 ふむ。リューと考えがシンクロしてしまったか。さすがの穀潰しっぷりだ。

 

 「まっておくれよ!君達はボクに対する敬意を少しくらい持ってもいいんじゃないかい!?」

 

 「いつも同じことを言いたくないんだがなぁ。ヘスティア、お前いつになったら俺達の役に立ってくれるんだ?」

 

 「今役に立ったはずだよ!」

 

 「………今後もっと厳しく当たることにするか。お前は普段トイレ掃除以外に何もしとらんだろう。」

 

 ◇◇◇

 

 カロンはたまにはいいかと町をノンビリ散策することにした。町を歩けばいいアイデアが浮かぶかもしれない。

 

 「あら、カロン。こんなところでどうしたの?」

 

 「それはこっちの台詞だ。フレイヤ様こそどうしたんだ?」

 

 彼女は神フレイヤ。フードで顔を隠して町を歩いていた。

 

 「もう呼び捨てでいいわ。あなたも面倒でしょう。それよりこないだ帰ってきた時の眷属の子達の評判は上々よ。」

 

 「そうか、それは何よりだ。あいつらの育成は主にリリルカに任していたが。」

 

 「ふーん、その子はどんな子なの?」

 

 リリルカに興味を持ったようだ。

 

 「リリルカはソーマのところから引き抜いた人間だ。サポーター育成を任せている。どうしても欲しいくらいに有能だったんでな。」

 

 「ウフフ、そうなの?」

 

 「ああ。なんだったら細かく聞くか?」

 

 「えぇ?」

 

 目をキラキラさせてフレイヤに詰め寄るカロン。一歩後ずさるフレイヤ。

 

 「そこまでだ。」

 

 そこに猪人が現れる。

 

 「ああ、あんたは猛者だな。以前は助けていただいたようで感謝する。」

 

 「ただの気まぐれだ。気にすることはない。」

 

 そういいながらカロンとフレイヤの間に立つ猛者。

 

 「俺が感謝すること自体は勝手だろ?よかったら今度ファミリアに来ないか?恩人として歓迎会を開かせてくれないか?」

 

 「遠慮する。」

 

 「それよりカロン、あなた何か考えている風だったけどどうしたの?」

 

 「いや、戦い方のアイデアの模索中だったんだ。なんか効果的な攻撃手段はないかってな。」

 

 「………ふーん。ねぇカロン、もしあなたが私たちのファミリアに来てくれるのだったらーーー

 

 「ないな。」

 

 「即答ね。」

 

 「残念ながらホームでは寂しがり屋のエルフが待ってるんでな。」

 

 「ウフフ、付き合ってるの?」

 

 「まさか。触るとひっぱたいて来るんだぜ?ハリネズミを飼っている気分さ。」

 

 「ふーん。」

 

 そう言ってカロンを何かを考えるように覗き見るフレイヤ。

 

 「まあいいわ。それでは私はもう行くわね。」

 

 ◇◇◇

 

 オラリオ街路。

 

 「冒険者さん。」

 

 「………………。」

 

 「あの、冒険者さん。」

 

 「………………。」

 

 「あの、冒険者さん。」

 

 「うん、もしかして俺のことか?」

 

 「はい、冒険者さんのことです。」

 

 「お前は確かウチの女性の友人のーーー

 

 「はい、シルです。冒険者さん、今魔石を落としましたよ。」

 

 そう言って彼女は魔石を渡そうとして来る。新手の詐欺師か?

 

 「いいや、勘違いだ。」

 

 「え、今でも確かに冒険者さんのポケットから………。」

 

 「勘違いだ。」

 

 「え、でもーーー

 

 「見間違いだ。」

 

 睨み合うシルとカロン。高まる緊張感。飛び散る火花。

 

 「で、でもひょっとしたら冒険者さんの間違いの可能性もーーー

 

 「お前の間違いの可能性もある。」

 

 「………………。」

 

 「………………。」

 

 なんだかよくわからんがここは引いてはいけない気がする。

 

 「はぁ、わかりました。私はこの近くの豊穣の女主人というお店の店員です。冒険者さんがお店に来ていただけないかというまあ、客引きです。」

 

 「最初からそういえばいい。」

 

 「それで来てくれるのでしょうか?」

 

 「前々から誘われていたから行くこと自体は構わん。しかしあいつらを連れていくとおごらされてしまうからな。行くならば一人だな。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 店に入るカロン。日替わり定食を注文する。頼んでもいないのになぜかエールがでてきてしまう。カロンはゲンナリする。

 ふと店内に目をやるカロン、我はここにありとばかりに主張する古い本。いかにもなフラグをカロンは華麗にスルーする。

 

 「あ、あの、カロンさん。お待ちの時間退屈でしたらよければこの本でもーーー

 

 「店の本なのか?」

 

 「いえ、お客さんの忘れたものですがーーー

 

 「なら勝手に読むわけにはいかんだろ。」

 

 「しかし私はあなたに読んでーーー

 

 「お前のじゃないだろ。」

 

 「………………。」

 

 「………………。」

 

 取り付く島のないカロン。睨み合う二人。先程までの焼き増しである。進退窮まったシルはやけくそになる。

 

 「カロンさん、あなたはフレイヤファミリアに借りがありますね。ありますよね!あるんだったら読んでください!フレイヤファミリアの意向です!借りを返せとのご神託です!」

 

 「お、おう………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレアの自室、ここにはカロン、リュー、アストレアがいた。

 

 「なるほど、そういう理由で魔法が発現したのね。」

 

 「ああ、フレイヤへの借りのでかさを考えると気が重いよ。」

 

 「それにしても発現したのがこの魔法ねぇ………。」

 

 「どのようなものですか?」  

 

 【スク〇ト】

 

 ・高速詠唱魔法

 

 ・味方全体の守備力をあげる

 

 「………あなたはつくづく一芸特化なんですね。フレイヤ様も高い金を払った甲斐があったと言いがたいでしょう。」



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一周忌

 この日は俺は、団長室で執務を行っていた。俺達は闇派閥との闘いにおいて三人の強力な敵を討伐したために、オラリオで徐々に評判を回復しつつあった。あのあとで4人の入団希望者があり、俺達はそれを受け入れた。

 

 ーーまずはリリルカのランクアップだな。

 

 俺達の闘いに憧れて入団してくれた者達には悪いが、俺達は新人にサポーターを勧めて行くつもりだ。そのためにはまずはサポーターそのものの評判をあげなければならない。そしてそれはリリルカを勇者に評価させることにより少しずつ成し遂げられていくと俺は考えていた。

 

 ーーあとはフレイヤ子飼いの五人かね?

 

 あの五人の貸しだし期間満了は目前だ。彼らがフレイヤの眼鏡に叶えば俺達の関係はより良いものとなるだろう。

 同盟構想においては、定期的にリリルカとリューを貸し出しているソーマ待ちだ。彼らを首尾よくせんの………ゲフンゲフン、説得できたならソーマとよい関係を築いて行けるだろう。

 そして次は、凶狼をタケミカヅチに引き合わせてみようと考えている。彼らが互いに得るものがあると考えたとき、うまくやれれば我々はよい関係を築けるかもしれない。タケミカヅチに関していえば、連合構想がなしえたときにファミリアの人員の鍛練を任せられる神材である。

 他のファミリアは………難しいな。取り合えずソーマと懇意にすることからだろうな。

 あとはヘスティアのうまい使い道だ。彼女には、将来的にファミリアを大きくするのが可能になった際にアストレア分流ファミリアとして眷属を預けることを考えている。あるいはなんらかの専門ファミリアを頼むのもアリか?今のサポーター育成を全面的に任せてリリルカを出向させるのもアリだな。冒険者育成とサポーター育成で分けるべきか………。

 手持ちの材料はこのくらいか?他には何かよい道が存在しないか?

 

 俺は団長室でそんな絵に書いた餅を考えていた。

 

 ーーコン、コン、コン

 

 「開いてるぞ。」

 

 「カロン、やはりまだ起きていましたか。」

 

 リューがこんな時間に起きているのは珍しい。まあ理由の想像はつくが。

 

 「もう遅い時間だぞ。他の皆はもう寝ているな。」

 

 「眠れないんです。今日が何の日か私達は永遠に忘れられないでしょう。」

 

 リューは悲しそうに微笑む。

 

 「………昼間に墓参りに行ったしな。忘れられるわけがないよ。」

 

 「少し外でお話をしてくれませんか。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレアホーム傍、比較的静かな町並み。夜更けに花壇に腰掛ける俺とリュー。

 

 「もう一年にもなりますね。知っているかはわかりませんが、あなたは前団長から目をかけられていたんですよ?マイペースだけど精神的に恐ろしくタフな男でいずれ団長を任せたい、って。大変残念な形での襲名になってしまいましたけど。」

 

 「俺はいつだって団長に怒られていた記憶しかないぞ?目を付けられていたの間違いじゃないのか?褒めるんなら生きている間に褒めてくれないと。」

 

 「まあ、そうでしょうが………。でもあなたはよく怒られていたのは自覚していたのでしょう?それは期待の裏返しですよ。多分過度の期待をかけたくなかったんでしょうね。」

 

 「そうか?俺だぞ?期待をされても好きにするつもりしかないぞ?前の団長がツンデレだっただけじゃないか?」

 

 「なんかそういうふうにいわれるとそんな気もしますね。でももう永遠にわからないことです。」

 

 「アストレアには聞いてみたか?あいつは案外知っているかも知れんぞ?」

 

 「神でも全知全能ではありませんよ。少なくとも地上にいる間は………。」

 

 「まあでも主神様にお悩み相談くらいはしてたかも知れんぞ?」

 

 「実は私はツンデレなんです。カロンがかわいくて仕方ありません。とですか?」

 

 「ないな。」

 

 「まあないですね。」

 

 「………今は復讐についてどう思っているんだ?」

 

 「以前ほどの激情はありません。しかし奴らを許すつもりはない。襲ってきたら返り討ちにしますしそうでなければあなたの下で淡々と復讐の機会を狙います。もちろんファミリアの方針に則って。」

 

 「………そうか。」

 

 「ねぇ、カロン。私は知っていましたよ。」

 

 「何をだ?」

 

 「あなたの嘘と詭弁です。」

 

 「それは………。」

 

 「知ってて乗せられてあげました。アストレアファミリアには大切な思い出がありましたし………。」

 

 「………何のことだ。」

 

 「あなたが私が闇に落ちないように必死だったってこと。嘘と詭弁とごまかしをしてでも私を昏い道から遠ざけたいと想っていたこと。道化を演じて忘れさせようとしたこと………。何をしてでも私を護りたいと願っててくれていたこと………………。」

 

 「………性格は自前だ。俺は団長から怒られていてばっかだったと言ったろう。」

 

 「それ以外はやはり思った通りなんですね。当時は私も余裕がなかった。あとから冷静に考えるとおかしなことがボロボロ出てきました。」

 

 「お前は脳筋のままの方がよかったよ。どこまでいい女になるつもりだ?」

 

 カロンは笑った。私も笑った。彼の目は青い色。私の空色に対して海の色。その青色に私は暖かみを覚えた。彼には私の目はどう映っているんだろう?

 

 「ほら、もう遅いし明日も忙しい。今日はもう寝るぞ。」

 

 「せっかくですしたまには飲みませんか?団長室で。ソーマ様のところからかっぱらってきた神酒もあります。下戸なんて言い訳は聞きませんよ?」

 

 「おま………かっぱらったって………正義はどこにいったんだ?」

 

 「今日は日曜日です。正義のヒーローも社畜なんだから日曜日くらいはお休みです。」

 

 「それ調子に乗って月曜に鬱になるやつだぞ!?」




蛇足
以前のガネーシャの話はリューの話にもつながります。かつては正義を目指し心変わりし闇派閥に落ちた冒険者達。


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二日酔い

 「ウウッ、オエッ。」

 

 「ほら言ったろう。真面目なお前がその有様でどうすんだ。ヘスティアの二の舞になるぞ!?(ヘスティアの受難参照)」

 

 「ウウッ、本当に申し訳ない。」

 

 私は今日、二日酔いだ。理由は前話を参照していただきたいオエッ。

 私はお酒は普通の強さだ。昨日はそういう気分だったため普段より少し深酒をしてしまったためこのザマだ。神酒をナメてたオエッ。

 

 「お前今日どうするんだ?アストレアにでも看病をお願いするか?」

 

 ここは彼の自室。酔っ払って深酒に付き合わせた挙げ句にこの醜態だ。彼はほとんど寝ていない。申し訳なさに顔向けできない。

 私は酔ってハイテンションになり、散々彼に悪態をついた覚えがある。やれ扱いが悪いだのやれもっとまじめにしろだの………。さらに自分から抱き着いた挙げ句ひっぱたいた気もする。確か彼は壁に頭から突っ込んでいたような………。やっぱり壁に穴が空いてる………オエッ。そして気付いたら今は彼の厚意に世話になっている。ヘスティア様を笑えない。かなりの鬱だ。

 

 「んでどうすんだ?お前の部屋に運ぶのか?でもどうせ触れたらお前叩いてくるんだろうな。」

 

 ため息をつかれてしまったオエッ。今の私に文句を言う資格はない。彼はわざわざ朝になって気分が悪い私を介抱してくれているからだ。

 

 「取り合えずリリルカでも呼んでくるか。」

 

 醜態を他人に晒したくない。しかし立って帰ろうにも頭がぐるんぐるんするオエッ。私にできることは何もなかった。やはり私は神酒をこっそり持って来たことに天罰が下ったのだろう………。

 

 ◇◇◇

 

 ここは団長室。散々に散らかる部屋、穴が開いている壁、真っ青でソファーに寝込む私リュー・リオン。

 

 「どうしてこんなことになってるんですか?酔ったリュー様を自室に連れ込んで無理矢理いたずらしようとしたのですか?」

 

 「人聞きの悪いことを言うな。リューが酒が嫌いな俺を散々付き合わせてこのザマだよ。どう見ても自爆だ。俺は被害者以外の何者でもない。」

 

 私は彼に文句を言う資格はないオエッ。今の私はどう考えてもギャグキャラだ。銀〇の主人公的なポジションである。

 

 「何をおっしゃってるんですか?真面目なリュー様が二日酔いになるほどお酒を飲むわけないじゃないですか。無理に飲ませたんですか?出頭するなら今のうちですよ?」

 

 心が痛い。ものすごく痛いオエッ。

 

 「うーんまあ一見そうなんだろうがなぁ。しかし俺にはこいつが神酒をかっぱらって俺の部屋で好き放題暴れたとしか………。」

 

 ごめんなさいぃぃぃぃ。

 

 「それこそありえないでしょう。リュー様ですよ?」

 

 信頼してもらって申し訳ないぃぃぃオエッ。

 

 「まあ昨日はほら、アレだったろう。そういうときもあるんだろ。」

 

 「ああ、そういえばそうでしたね。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレアファミリア、私の部屋。ベッドで寝込む私と看病するヘスティア様。

 

 「リュー君、大丈夫かい?」

 

 あのあと私は、結局妙案が思いつかないカロンが運んだ。こんな状況にも関わらず私の体は反応し、幾度となくカロンを張り飛ばした。そして私は張り飛ばす度に大切な何かが体から出そうになった。もちろん液体状の、矜持とか高潔さとか誇りとかいったものだ。ゲロフに種族チェンジする寸前だった。

 

 「しかし君もこんなことになるんだね。」

 

 今はもう吐き気はおさまった。ヘスティア様はいやに嬉しそうな顔をしている。

 

 「君は堅くて隙のないエルフだからたまにこういう普通の子供達みたいなところをみせてもいいと思うよ。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、リリルカはどう思う?」

 

 「リリは良案だと思います。」

 

 あのあとリリ達は話し合っていました。リュー様は息抜きがあまりお上手でいらっしゃらないのでリリの一周年と五人のお別れ会もかねてファミリアでどこかへ遊びに行くかと言う提案です。

 

 「アストレアは呼ぶとヘスティアがついてきてしまうからな。ヘスティアを調子に乗せないためにも二人きりで話すか。」

 

 「ヘスティア様は今はリュー様の介抱をしてらっしゃるのではありませんでしたか?」

 

 「ああそうか、ではアストレアのところに行ってみるか?」

 

 ホームの廊下をしゃべりながら歩くリリとカロン様。五人組はダンジョンに潜っています。新人の四人は彼らがチュートリアルとして連れていきました。五人組は近々フレイヤ様の下へおもどりになられますが新人様方にいろいろなツテができるのはいいことです。

 

 「リリは温泉旅行を提案します。女の人で嫌いな人はいません。」

 

 「近場にはないだろう。あまり本拠地を空けるわけにはいかんぞ?」

 

 「なるほど、ではカロン様はどうお考えですか?」

 

 「文化祭とかどうだろう?」

 

 文化祭!?お祭り!?

 

 「お祭りを作り上げるんですか!?」

 

 「ああ、いずれアストレアファミリアが大きくなった暁には由緒ある祭になるだろう。」

 

 目を輝かせるカロン様。

 

 「待って下さい。予算が大きくなりすぎます!それはアストレアファミリアが大きくなってからでいいはずです!?」

 

 ションボリーヌなカロン様。

 

 「うーん、内々でこじんまりと何か行うしかないか。」

 

 「普通にパーティーとかでは?」

 

 「オリジナリティがなぁ。」

 

 「いやいらないでしょう!?」

 

 「それにパーティーは他ファミリアを呼んでこそだろ?内々だからなぁ。」

 

 「お祭りも大々的なものですよ!」

 

 「ファミリア内で個人的な出し物を考えればいいんじゃないか?内輪だけにみせるための。」

 

 「それは………面白いアイデアだとは思いますが前例のない初回は大失敗する気しかしません。特に穀潰神のヘスティア様はどうすればいいのかわからないと思います。下手したら脱ぎ出したりしかねません。」

 

 「なるほどな。無理か。残念だ。」

 

 「普通にリュー様の慰労会では?」

 

 「ダメだとは思わんがリューに気を使わせるだけではないか?」

 

 「「ううーん。」」

 

 首をひねるリリとカロン様。どうしましょうか?

 

 ◇◇◇

 

 「そうね、記念に何かを育てはじめてみたらどうかしら?」

 

 アストレア様です。

 

 「ふむ、その心は?」

 

 「何かをするのでなくても命を感じることがファミリアに愛着を持たせることになると思うわ。記念にもなるし。リューに関してもホラ、さびしんぼだし。」

 

 「「ああ。」」

 

 さすがアストレア様。なかなかの良案です。

 

 「何がいいかな?」

 

 カロン様の言葉。リリもオラリオで一般的なペットを思い浮かべます。

 

 「普通に犬とか猫ではいかがですか?」

 

 「オリジナリティがなぁ………。」

 

 どこまでもオリジナリティにこだわるカロン様。またおかしなことをいいださなければいいですが………。

 

 「木とかどうかしら。」

 

 アストレア様の意見です。

 

 「木ですか?」

 

 「リューは長く生きるエルフよ。ホームに木を植えたらリューとも長く付き合って行けるんじゃないかしら?」




蛇足
パクって来たというのは実はリューの勘違いです。真実はソーマファミリアに来るリューにソーマが感謝の気持ちとして持たせた神酒の失敗作です。コミュ障ソーマにこっそり持ち物に神酒を入れられたリューが盗んでしまったのか!?とまあそういうことです。


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夢のゴライアス部隊

 今日はリリとカロン様でダンジョンに潜っていました。普段より早く上がったため今はその帰り道です。カロン様はぼーっとした顔をしています。これはいつもの思案顔でろくでもないことを言い出す時の前兆です。悲しいことにリリはこんなことまでわかってしまうようになりました。

 

 「カロン様、またろくでもないことを考えてらっしゃるんですか?」

 

 「うーん、まだ考えがまとまってないから少し待ってくれ。」

 

 困りましたね。変な考えだったら邪魔するべきなのですが………。時折よい結果を出すためそれはそれで憚られます。なんかギャンブルみたいです。カロン様は本拠地の近くの喫茶店に入っていきます。リリもそれに続きます。

 

 「なあリリルカ、ガネーシャのテイムってあるよな?」

 

 「ええ、ありますね。魔物の調教のことですね?」

 

 「あれってさ、ゴライアスをテイムしたらどうなるんだ?」

 

 「いやテイムできるわけないでしょう!」

 

 やはりわけのわからないことを言い出しました。リリは早くも止めておくべきだったと後悔します。

 

 「例えばさ、オラリオに何かの危機が迫って強力な部隊が必要となったとするだろ?それでさ、ゴライアスをテイムして嘆きの大壁から移動させたらまたゴライアスが生まれるのかな?ゴライアス部隊を作り上げられるのかな?」

 

 ーーゴライアス部隊………それは地平線の彼方まで亀型陣形を組むゴライアス。その数実に1000×1000の1000000。ゴライアスは全て盾を持ち進軍していく。ゴライアスに痛打を与えることはできずゴライアス部隊に蹴散らせないものはない!

 あるいはゴライアスの投石部隊はどうだろうか?ゴライアスであれば相当な飛距離を出せるはずだ。

 なんらかの乗り物と組み合わせるのもいい。ゴライアスを沢山載せて突っ込ませればかなりの脅威になるはずだ!

 

 リリはカロン様がなんかすごいアホくさいことを考えている気がします。

 

 「いや、作り上げてどうするんですか?」

 

 「いや、だからさ。オラリオの危機に立ち向かうのに必要だったらさ、作り上げるのが可能なのかな、って。」

 

 「無理でしょう。そもそも階層主は移動しないから階層主ですよ?」

 

 「ほら、そこはリリルカのアーデルアシストでさ?」

 

 「まさかのリリ頼みですか………。しかしそんなことはオラリオが危機に陥ってから考えればいいのではないですか?」

 

 「いや、早いうちから備えるに越したことはないだろ?アストレアファミリアでゴライアス部隊を育成したらいざという時にーーー

 

 「カロン様はつくづくアホですね。そんなこと万が一できても入団希望者が未来永劫出ませんよ。住民も怖がりアストレアファミリアの地位は地の底どころの話ではありません。ガネーシャファミリアの憲兵が寄ってきますよ?闇派閥を打ち倒せ、って。」

 

 リリはため息をつきます。今まででも1番の荒唐無稽なアイデアです。

 

 「うーんしかしどうなるんだろうな?ゴライアスは二匹存在できるのかな?もしかしたら19階層から動かしたら死ぬのかな?移動させただけでは二匹目は生まれないのかな?試してみたりはーーー

 

 「しません。ほら早く帰りますよ。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地応接間。ここには俺とリューがいる。普段より早く帰った俺はリューにも相談してみることにした。

 

 「なあ、リュー。ゴライアスを嘆きの大壁から動かしたらどうなるのかな。」

 

 「無理でしょう。」

 

 「いやリリルカに何でも持ち上げるスキルがあるだろ?あれで瀕死のゴライアスを無理矢理移動させてダンジョンから移動させたりしたら、やっぱり二匹目以降が生まれるのかな?」

 

 リューは少し思案して答える。

 

 「………わかりませんね。私は二匹目以降が生まれるんじゃないかと思いますが………。」

 

 「そうやってゴライアスを増やしてテイムしたらさ、強力な部隊を作れないかな?恩恵を与えてタケミカヅチ道場なんかに通わせてさ。」

 

 「あなたは今度はそんなアホなことを考えていたんですか?第一ゴライアスにはお金がないでしょう。道場の月謝は誰が払うのですか?」

 

 うん、大幅にツッコミ所がズレてるな。

 

 「月謝は俺が払うよ。で、どう思う?」

 

 「どうもこうもありません。そもそもゴライアスの生態がわからないのに飼えるわけがないでしょう。」

 

 「うーんちょっとガネーシャに聞いてくるよ。」

 

 ◇◇◇

 

 ガネーシャ本拠地。向かい合う俺とガネーシャ。

 

 「なぁ、ガネーシャ。ガネーシャのとこでテイムってやってるだろ?」

 

 「ああ、それがどうかしたか?」

 

 「テイムした魔物の世話ってどうやってるんだ?魔物は何を食うんだ?」

 

 「ふむ。魔物の餌は普通のペットと同じだが………。どうしてそんなことを聞くんだ?」

 

 「いや、ゴライアスをテイムできるならゴライアス部隊を作り上げられないかなって。」

 

 「それは無理だな。」

 

 「どうしてだ?」

 

 「魔物の餌は体の大きさにより量が変わる。ゴライアスを何体も養うには多大な餌が必要になる。そして階層主のテイムに成功したという前例はない。」

 

 「そうか、無理なのか。残念だ。」

 

 「せっかく来たのだしテイムに成功した魔物でも見ていくか?」

 

 「ああ、ありがとう。見せてもらっても構わないか?」

 

 「お安いご用だ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 俺はそのあとテイムした魔物を見せてもらった。大きかったり生態が狂暴な魔物も多かったが、中には物静かに佇んでいる魔物や人懐っこい魔物もいた。俺にはそれらは普通のペットとの違いが分からなかった。

 

 「ガネーシャ、今日はありがとう。俺は今日はいろいろなことに気づけたよ。魔物も生きてるんだな。」

 

 「ああそうだ。普通のペットとは違うが。ダンジョンは悪意に満ちている。つまりダンジョンの魔物は悪意に捕われた生き物だと言うことだ。」

 

 俺はそれを聞いて少し考える。

 

 「そうか。ゴライアス部隊は諦めるしかないか。仕方なし、か。」

 

 「俺達のファミリアでもテイムが必ず成功するわけではない。危険も伴う。まあ親友の俺からもオススメできない。」

 

 「ああ、諦めるよ。変なことで時間をとらせてしまって悪かったな。お前忙しいだろうに。」

 

 「なに、気にするな。また遊びに来い。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地応接間。向き合うリリルカとカロン。

 

 「というわけで夢のゴライアス部隊は失敗に終わった。」

 

 「当たり前です。おかしな夢はさっさと捨ててください。」

 

 今日は塩対応のリリルカ。

 

 「うーん残念だがまた何か新しいアイデアはないか考えるしかないか。」

 

 「やはりまだ考えるんですか。」

 

 ジト目で溜息をつくリリルカ。

 腕を組んで目をつぶり考え込むカロン。突然目を見開くカロン。

 

 「なあ、リリルカ。別にゴライアスにこだわらなくても普通に強い魔物で徒党を組めば良くないか?」

 

 ああ、ばれてしまいましたか。しかしリリは負けません。

 

 「カロン様、普通に強い魔物で徒党を組んでも問題自体はほとんど何も解決されていませんよ?食費は?住民の恐怖は?テイムする際の危険は?」

 

 しょんぼりするカロン様。この人こういうところが卑怯なんですよね。

 

 「まあそんなにしょんぼりしないで下さい。そもそもリリが魔物に変身できるではありませんか?あまりたくさん魔物をテイムできてもそんなにたくさん可愛がる時間はありませんでしょう?今回は成功する目処が存在しませんのできっぱりとあきらめて下さい。」



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エイナさあぁぁぁぁん

 「はっきり言おう、お前が欲しい。」

 

 「ええっ!?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ーーここは冒険者連合ギルド、私は受付の業務を担当するエイナ・チュールです。このお仕事はつらいことや悲しいこともあるけれど、私の努力が日々誰かの役に立っていると言う実感を得られるならば、私はいつだってがんばれます。

 

 そんな彼女を柱の影から覗く怪しい二人組………。

 

 そう、彼らはカロンとリュー。

 

 「彼女がリリルカに調査させた結果、最も適していると判断した対象だ。」

 

 「彼女がですか………。」

 

 あのあと、アストレアファミリアはさらに人数が増えて新人が五人になっていた。

 

 「彼女がリリルカ調べの新人・最も信頼できる担当者不動のNo.1だ。」

 

 そう、この自由人カロンは新人が来たことにより、アストレアファミリアに専属の信頼する担当者が欲しいと考えていた。彼はギルドから何とか引き抜けないかと画策しているのだ。

 

 「なぁ、お前エルフだろ?お前彼女と面識があったりしないか?」

 

 「残念ながら。しかし私の情報によるとリヴェリア様と懇意にしているとか………。」

 

 「よし、それならロキファミリアに乗り込むか。」

 

 この行動的なバカは神酒を手に入れるツテを得たため、ロキファミリアも追い出すことが難しくなっていた。ロキが神酒が大好きなのだ。定期的に神酒を奉納されるロキは、嬉しそうな悔しそうな微妙な表情をしていた。

 

 ◇◇◇

 

 ロキファミリア本拠地食堂。

 

 「ふむ、お前が私に用事があるとは珍しいな。いつもはだいたい用があるのはベートかアイズだろう?」

 

 彼女はエルフのリヴェリアだ。ロキの副団長。本名はリヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

 「ああ、エイナ・チュールに興味があって紹介して欲しくてな。」

 

 いつもの如くどストレートカロン。

 

 「カロン、リヴェリア様は王族でいらっしゃいます。不敬ですよ。」

 

 これはリューだ。

 

 「ああ、別にかまわんよ。ところでなぜ彼女を紹介して欲しいのだ?お前は色恋沙汰で特に浮いた話は聞かないが?」

 

 「俺達のホームに新人が入ってきてさ。信頼できるアドバイザーが欲しいんだよ。仲間は誰だってかわいいだろ?」

 

 「なるほどな。だが仲間が大切なのは理解するが、彼女の引き抜きは難しいと思うぞ?彼女はギルドの看板でもあるから下手をしなくてもギルドが怒るんじゃないか?」

 

 「うーんそうか………。話してみるのも無理かな?ホラ、エイナのツテでもいい人材がいるかもしれないしさ。」

 

 食い下がるカロン。

 

 「私は個人的に親交はあるが、お前が彼女を怒らせたら私の面目は丸つぶれだろう?」

 

 「どうしてもダメか?九魔姫の婚活手伝うからさ。」

 

 「んなっ………………。」

 

 固まるリヴェリア。マイペースなカロン。

 

 「カロン、ちょっと!」

 

 焦るリュー。

 

 「あれ、余計なお世話だったか?すまん、九魔姫赦してくれ。」

 

 素直に謝るカロン。

 

 「コホン、まあいい。わかった紹介してやろう。」

 

 

 

 

 

 カロンをこっそり隅へと呼ぶリヴェリア。

 

 「先ほどの話はゆめゆめ忘れるなよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「それで、私に一体何の御用でしょうか?」

 

 休日にリヴェリアに呼び出されたエイナ。ギルドの近くで待ち合わせ。ここにはカロン、リヴェリア、リュー、エイナの四人がいる。世の男性がみたら血の涙を流すこと請け合いな光景である。っていうか畜生!エルフ二人にハーフエルフ一人ってどういうことだよ!

 

 「ああ、俺が頼んで呼んでもらったんだ。まず自己紹介からだな。俺はカロンだ。アストレアの団長だ。」

 

 「私はリュー、同副団長です。」

 

 「私はリヴェリア、ロキの副団長だ。」

 

 全員知っているはずなのになぜかボケるリヴェリア。

 

 「私はギルドの受付職員、エイナ・チュールです。」

 

 「もう面倒だからはっきり言おう。エイナ、お前が欲しい。」

 

 公衆の面前で大々的に言うカロン。普通はプロポーズにしか思えない。通行人は興味津々で足を止める。リューとリヴェリアは固まる。

 

 「ええっ!?そんな、私達初対面じゃないですか!?」

 

 エイナは当然混乱する。黒いスキルは関係ない。

 

 「カロン、説明不足です。」

 

 帰ってきたリュー。

 

 「あまりにざっくり過ぎだ。お前はそんなんだから変人扱いされるんだ。お前それ愉快犯でやってるだろう。フラれることを楽しみにして。」

 

 リヴェリアは流石の年の功。よく見ている。

 

 「すまんなエイナ。本題はお前がギルドから移籍する可能性を探っていただけだ。」

 

 「移籍ですか?」

 

 「ああ、俺達は新人のためにファミリアに信頼できるアドバイザーが欲しくてな。評判調査を秘密裏に行ってたんだ。それでお前の名前が上がったためリヴェリアのツテで紹介してもらったわけだ。」

 

 「……。なるほど、理由はわかりました。私を高く評価してくださったことには感謝します。しかし私はギルドを離れる気はありません。」

 

 「そうか、そうだな。じゃあお前は俺達が有能なアドバイザーを得るためにどうしたらいいかアドバイスをしてくれないか?」

 

 「………ギルドの内情は秘密事項にあたるためお話できません。あなた方がアドバイザーを得るにはあなた方自身で育成なさるのがベストだと思います。」

 

 「やっぱそうなるかぁ。」

 

 「ここからは私の独り言です。私はリヴェリア様のお客さんを無碍にできません。そういえば私の友人にギルドの受付の面接を近く受けようとしていた人がいた気がします。彼女は最近頻繁に図書館で勉強していた気もしますし黒髪で160cmくらいだった気もします。ギルドに入る前なら個人的な交渉も可能でしょう。その他の特徴はーー」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あのあとしばらく話してカロンさんとリューさんは私にお礼を伝えて帰って行った。今ここにいるのは私とリヴェリア様の二人。

 

 「お前も難儀だな。」

 

 「リヴェリア様。」

 

 「私の客だなんだと嘘つきおって。お前はファミリアの仲間の安全を大切に考えるあの男に何とかして便宜をはかりたかったんだろう。仲間の命を何とも思わない輩も多いことだしな。」

 

 「リヴェリア様こそどうしてわざわざ連れて来たんですか?」

 

 「たいした理由ではないよ。ただ馬鹿は嫌いではないし見ていて面白い。同胞もいることだしな。」




個人情報を勝手にばらしたらダメ!絶対!


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二匹のマグロ

 ここはダンジョンの十五階層。ここでは今、二頭のミノタウロスが睨み合っていた。

 高まる緊張感、今にも躍動しそうな筋肉、片方は普通のミノタウロスだがもう片方は細身に翼が生えていた。

 

 ーーリリは今日、限界を超えます。

 

 そう、片方はリリルカである。リリルカは今まで、カロンかリューのサポートを受けながらこの階層で敵を倒していた。しかしランクアップが近くなってきた今、彼女は危険を冒してでも可能な限り一人で戦うことにしていた。

 

 リリルカはいきなり羽を使い空を飛ぶ。高く舞ったリリルカは急降下でミノタウロスに襲いかかる。手に持つメイスを上空から重力をかけて力いっぱいに奮うーーー。

 

 「カロン様、やりました。ついにリリはにっくきあいつを倒しました!」

 

 そう、にっくきあいつとはミノタウロス。リリルカがギャグキャラになってしまった原因である。いや、ミノタウロスのせいにするのはおかしいな。ゴメンナサイ。

 

 「ああ、流石だなリリルカ。今日は歓迎会と送別会もあるからここまでにしておくか。」

 

 そう、今日は新人歓迎会であり五人のお別れ会でありおいでませリリルカ一周年記念でもある。今日はファミリアの金庫から大量の札束を持ち出して、豊穣の女主人を貸しきっていた。

 二人はダンジョンの帰路へ着く。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。アストレア歓送迎兼記念会。

 

 「あんたらがアストレア御一行様だね。まってたよ。」

 

 店主のドワーフのミア。

 

 「「ニャー達もよろしくにゃ。」」

 

 ここぞとばかりに割り込み売り込むクロエとアーニャ。猫人だ。

 

 「皆さん、お待ちしていました。」

 

 アストレアファミリアの顧問相談役として日々女性の癒しとなっている聖女シル。

 会は始まった。

 

 ◇◇◇

 

 「バランだ。」

 

 「ビスチェよ。」

 

 「ブコルだ。」 

 

 「ベロニカよ。」

 

 「ボーンズだ。」

 

 ネーミングを面倒がる誰か。

 

 「カロンさん、お久しぶりですね。頻繁に来てくださると嬉しいのですが、、、。」

 

 ここぞとばかりに売り込むシル。カロンは魔法を覚えて以来ここに来るのは初めてだ。 

 

 「んなこと言ってもお前ら俺が下戸だと言ってるのに勝手に酒を出して来たろうが。」

 

 微妙に憤慨するカロン。食事は美味だったのだがいくら頼んでも烏龍茶が出てこずにエールばかりが出てきたのが彼の足を遠退かせた最大の原因だった。

 

 「それは………申し訳ありません。次からはきちんとしますから是非来てください。」

 

 悪びれずに言うシル。ニコリとわらう姿はまるで明るく咲くひまわりのようだ。しかし俺は騙されない。お前が今勝手に持ってきているそのジョッキは何なんだ!既に三杯目だ!本当に仕方の無い奴だ。

 

 「うーん余裕があったらな。」

 

 「またおごってくれるんですか、団長?」

 

 割り込むリュー、普段は団長とは呼ばないはず。ニヤニヤ笑っている。キャラ変わっとるがな。カロンが金が無いのは知っている。日頃の仕返しだ!

 新人は新人同士で懇親を深めている。フレイヤの所の五人が先輩風を吹かせているのが微笑ましい。しれっとヴェルフも来ている。彼にツテができるのはいいことだとカロンは笑う。

 

 「俺がたいして金ないの知ってるだろ。全身鎧は高いし。自分で出せよ。」

 

 甲斐性のないカロン、堂々たる情けない発言。むしろおごれと言い出さない分マシなのか?しかしないものはない。

 アストレアとヘスティアは遠巻きに皆を楽しそうに眺めている。

 

 「リリは自分で出しますので一緒に今度来ましょう。」

 

 「リリルカさん、カロンは雑に扱わないと調子に乗ります。」

 

 「リュー様はそろそろリリをリリと呼んでいただけないのですか?」

 

 「それより店員をファミリアに引き抜けんかなぁ、皆強そうなんだよなぁ。」

 

 ざわざわと楽しく緩やかに過ぎ行く時間。宴もたけなわで夜は更けて行くのだった………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「「「「「フレイヤ様、ただいま戻りました。」」」」」

 

 「お帰りなさい。ご苦労だったわね。」

 

 今日は五人の帰還日。カロンは付き添いとしてついて来ていた。フレイヤの両脇にはアレンとオッタルが控えている。

 

 「フレイヤ、世話になった。これはつまらんものだがもらってくれるか?」

 

 フレイヤを呼び捨てるカロンに仰天する五人とアレン。

 

 「あら、ありがとう。こういうのは気が利くわね。」

 

 開けるフレイヤ。中には神酒が入っている。

 

 「すまんな。あなたが何が好きかよくわからんでな。神に奉納するものは神酒が間違いないだろうと思ってそれにしてしまった。まずかったか?」

 

 神酒は万能。最強チート。俺tueeeである。

 

 「あら、嬉しいわ。ありがとう。」

 

 「いや、こちらも世話になった。あなたへの恩は当面返しきれないなぁ。」

 

 苦く笑うカロン。

 

 「別にいいのよ。好きでやってるからあなたと行動原理は同じよ。あなたたち五人は休んできていいわ。後で褒美を出すわ。」

 

 前に出るアイン。

 

 「フレイヤ様、最後に彼に感謝を伝えることを許してくれますか?」

 

 「あら、いいわよ。」

 

 フレイヤは優しく笑う。

 

 「アストレアファミリア団長カロン殿、一年間の短い間でしたがお世話になりました。」

 

 五人は頭を下げた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「1年前よりはずいぶん良くなりましたね。」

 

 リリルカの一言。

 俺はあのあと本拠地に戻り今はリリルカとアストレアと俺の三人で応接間のソファーに座っていた。リューはこないだの醜態(二日酔い参照)によりしばらくは自主的にトイレ掃除の罰を受けることにしていた。ヘスティアはトイレ掃除の先輩として監修係だ。必要ないと伝えたが、トイレ掃除を繰り返すうちに何やら何らかのこだわりができたようだった。なんかいやに偉そうにリューに指示出ししていた。

 

 「そうね。あの頃は解散するものだとばかり思っていたのだけれどね。」

 

 「おいおい、解散したらコミュ障のリューが路頭に迷うだろう。」

 

 地味に急所を突くカロン。二人は否定しきれない。

 

 「ま、まあリュー様のことは置いときましてカロン様、最近はいかがですか?」

 

 話題を変えるリリルカ。

 

 「そうだな、どうと言われても………いつも通りだな。急にはどうもならんな。」

 

 「まあそうね。特に急ぎの案件もないしね。」

 

 「とりあえずリリルカの頑張りを辛抱強く待ちつつ人脈を広げるかね。」

 

 「カロン様は唐突におかしなことを思いつくので油断できませんけどね。」

 

 「ソーマの件はびっくりしたわね。アポ無しにいきなり押しかけて。結局上手くは行ったけど………。」

 

 「まあ迷ったら動くことに決めてしまったからなぁ。」

 

 「リューの影響ね。」

 

 「どういうことでしょうか?」

 

 首を傾げるリリルカ。

 

 「迷ったら動かないとネガティブに考える人がいた、ってだけよ。だからカロンはこんなマグロのような生態になっちゃったの。元々の性格もあるだろうけど。」

 

 「おいおい、マグロかよ!?」

 

 「ああ、わかりました。」

 

 頷くリリルカ。甚だ遺憾だ。

 

 「リリちゃんは二人の猪達の手綱取りをしっかりお願いね。」

 

 「リリの責任は重大ですね。何かの手当はつくのでしょうか?」




蛇足
当然アストレアの残党のなんらかのアクションを闇派閥は警戒していたのですが、思っていたのとは全く違うあさっての行動に闇派閥はしばらく呆気にとられ困惑していた時期がありました。


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エイナの友人に迫る不気味な影(前編)

 日中短くなり寒々しい空。今のオラリオは冬になっていた。

 道行く人々は厚着して寒そうに鼻の頭を赤くしている。オラリオではところどころに雪がつもり物寂しい。

 そんなある日のことーーー

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはオラリオ市立図書館。

 

 ーーよしっがんばれあたし。試験はもう目前。今年こそは何としてもギルドの職員試験に合格してギルドの受付になるんだから!

 

 彼女の名前はミーシェ。ギルドの受付を夢見て勉強する努力家。黒髪のボブカットで右側の髪の毛を編み込んでおりとてもかわいらしい。彼女はオラリオ市立図書館でギルドの試験勉強を行っていた。

 

 そんな彼女を本棚の影から覗く怪しい二人組………。

 

 そう、彼らはカロンとリュー。

 

 そしてその二人をさらに見つめる影がいた!?

 すわ闇派閥!?また戦闘描写か!?

 誰かが戦慄する!

 

 

 

 ーーミーシェを紹介してもよかったのかしら?

 

 友人を心配して密かにつけてきた皆のアイドル、エイナさんだった。

 

 ◇◇◇

 

 

 

 「対象(ターゲット)を確認した。容姿からみてエイナさんから伝え聞いた人物で間違いないでしょう。」

 

 「ああ、だろうな。作戦はどうする?」

 

 「パターンBでいきましょう。」

 

 もともと変人のカロンと毒されつつあるリュー。彼らはサバゲーのようなノリでミーシェに接近する。

 

 ーーパターンB、確か俺が単体で突撃するパターンか!?

 

 カロンに交渉を丸投げするリュー。しかしカロンもそれを許さない。

 

 「上官としてパターンCを提案する!相手は女性だ。」

 

 そう、彼らは二人で行くパターンと、どちらかが行くパターンを用意していた。遊んでないでさっさと行け。

 

 「隊長、それは命令ですか?」

 

 「ああ、そうだお前には戦闘力(コミュ力)が少々足りん!」

 

 「そんな、だからこそ上官が先導すべきでは?」

 

 「あの、何やってるんですか?」

 

 茶番に焦れるエイナ。

 

 「ああなに、リューに対人経験を積ませようとしたんだが駄々をこねてな。このままでは老後は一人になりかねないからな。」

 

 どこまでも失礼なカロン節。黒い鎖に関係なくカロンの言葉はリューをえぐる。

 

 「………カロンさん、ちょっと失礼過ぎでは?」

 

 思わずエイナも突っ込む失礼さ。

 

 「しかし現実を理解しないと後からでは遅いだろう。」

 

 反撃しようとするほどえぐくなる毒舌。

 

 「カ、カロン。わかりました。私が行ってきます。」

 

 心の中で血を吐きながらもついに覚悟を決めるリュー。しかし彼女には普通に話すことができても初対面の人物の懐に入るスキルはない!

 しかしここで戦局は新たな局面へと向かう。

 

 「あの、だったら私が付いていきますよ。」

 

 まさかの援軍。たった独りのエルフに差しのべられた救いの希望(ひかり)ーー

 ハーフエルフという人とエルフを繋ぐ希望の掛橋ーー

 

 「ありがとうございます。是非お願いします。」

 

 疾風は勝機を得るーーー

 

 

 

 ◇◇◇

 

 図書館で向かい合う三人。ミーシェの対面にリューとエイナが座っている。

 

 「私はリュー・リオンと申します。アストレアファミリアの副団長を勤めております。」

 

 「あ、はい。あたしはミーシェといいます。」

 

 戸惑うミーシェ。疾風はオラリオでは結構な知名度を誇る。

 

 ーー何故私に?

 

 当然の疑問である。ミーシェはちらちらと友人のエイナに目をやる。エイナはしばらくはリューに任せて様子見を行う。

 

 リューは癪だがカロンの真似事をすることに決めた。彼女は他に方法を知らない。

 

 「我々はアストレアファミリアです。専属の冒険者のアドバイザーを探していましてあなたの適性が高いのでは?とエイナさんに紹介されました。」

 

 ーーカロンと何かが違う。

 

 悩むリュー。柱の影からリューを応援するカロン。どう介入するか迷うエイナ。目を点にするミーシェ。

 思惑が交錯する!

 

 「あ、あの専属とはどういうことですか?」

 

 これまた当然の疑問。

 

 「私達であなたを欲しくて育てあげ有能なアドバイザーに育てあげたいと考えていました。」

 

 日本語が怪しくなるリュー。

 

 「あの、あたしもうすぐ試験があるんですけど?」

 

 当然の切り返し。援軍を得たはずのリューは早くも撤退を考える。

 

 「あの、取り合えず雇用条件だけでも聞いてみたらどうかしら?」

 

 割り込みフォローを入れるエイナ。

 

 ーー有能っ!私より!私は………不甲斐ない………。

 

 味方の有能さにむしろへこむリュー。黙り込んだリューに戸惑う二人。

 

 「話は聞かせてもらった!!」

 

 出てくるカロン。当たり前である。茶番ここに極まれり。

 

 「少し場所を変えようか。」

 

 図書館で大声を出したカロンは白い目で見られていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは豊穣の女主人。

 

 「先ほどの話を続けよう。我々の雇用条件はギルドと同じく冒険者をアドバイスすること。目標ハードルはエイナの仕事と同等だ。賃金はギルドの公開された基準と君の働きをみて話し合って決めたい。君がやめるのは可能だができることならファミリアに入ってほしいとも考えている。もしアドバイサーの適性が無くとも我々のファミリアでなんらかの仕事に就くこともできる。もちろんその場合は雇用条件は再度の話し合いになる。」

 

 「は、はぁ。」

 

 考えを纏めるミーシェ。ここが勝負所とカロンは畳みかける。

 

 「君が少しでも考える余地があるというならファミリアで明日までに書類をまとめて来る。我々は一度全滅しかけたファミリアだ。もちろん無理は言わないし不安があるという言い分であれば理解できる。取り合えず今日は貴重な時間を感謝する。後日また伺っても構わないだろうか?」

                                                    後編へと続く



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エイナの友人に迫る不気味な影(後編)

 ここはアストレア本拠地団長室。カロンは先の会合について考えていた。

 

 ーーリューは交渉能力が壊滅的だ。まさに地の底と言ってもいいだろう。どうする?またリューを突撃させてみるか?しかし俺の予想では前回の二の舞っ!これからは交渉できる人材も考えて行かねば。

 

 カロンは悩む。

 

 ーーリューにできるようになってほしいんだがやはり無理か?他としたらアストレアは置いといてヘスティアにはまず無理だろう。リリルカは有能だがリリルカ一人を育てすぎても不在時のことを考えると二の足を踏む。新人には当然任せられない。やはりリリルカか?何かそんなタグをこの作品につけた方が良さそうな気もするな。

 

 悩んだ末にリューを見限り新たにリリルカを試すことを決意する。リューは本人が知らないうちにリストラされていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレアファミリア応接間。ミーシェとカロンはソファーにて向かい合う。

 

 「ミーシェ、時間を割いてくれてありがとう。彼女はリリルカ。アストレアファミリアの顧問弁護士だ。」

 

 やっぱり適当をぶっこくカロン。隣にいるのがリリルカ。リューはカロンの後ろに立って見守るスタンス。

 

 「顧問弁護士!?初耳ですよ!?」

 

 相変わらずツッコミ適性の高いリリルカ。

 

 「あ、はいあたしはミーシェです。よろしくお願いします。」

 

 常識人ミーシェ。

 

 「それでは今日の交渉はリリルカに任せてみることにする。俺は基本的に口を出さない。」

 

 話し合いが始まるーーー

 

 ◇◇◇

 

 先制はリリルカ。

 

 「先に雇用条件を提示した紙を渡させていただいたと思います。何か質問事項でもございましたでしょうか?」

 

 「あ、ハイ。アストレアファミリアは今現在少数だと聞きます。わざわざ専属アドバイザーを雇う理由は何なのでしょうか?」

 

 当然の疑問。

 

 「隣にいる団長のカロン様とファミリア自体の意向です。知ってらっしゃる通りに我々のファミリアは零細です。しかし我々は巨大なファミリアを作り上げることを目標としており、そのために損耗率を低下させるのは必須だと考えております。」

 

 堂々のリリルカ。

 

 「巨大なファミリア、ですか?」

 

 「はい、今は詳しくは理由を伝えられませんがロキ、フレイヤ両ファミリアより巨大なファミリアを作り上げることを目標として考えております。そのためのプランはこちらの紙にまとめてあります。」

 

 すでにリューは虫の息である。そしてリリルカはさらに追撃を加える。

 

 「そちらの資料でしたら対外的に秘密にしていただけるのでしたら短期の貸出が可能です。何か他に不審な点はございますでしょうか?」

 

 世間擦れしすぎである。

 

 「あ、あのそれじゃあ、この賃金関係のところなんですがギルドの公開した賃金とは一体?」

 

 「毎週オラリオで配られているガネーシャ広報に載っている情報です。具体的には四年前に月給100000ヴァリスの職員が、二年前に月給120000ヴァリスの職員と220000ヴァリスの職員が、去年は月給110000ヴァリスの職員が職務とともに公開されています。我々は100000ヴァリスを最低賃金と想定して仕事内容と照らし合わせ、条件をすり合わせていきたいと考えている次第でございます。」

 

 あまりに年齢に見合わず有能なリリルカ。一人称まで変わってしまっている。そこはリリ達はではないのか?

 

 「ええっと………それで私達の職務とは?」

 

 「前例がないので我々で作り上げて行くしかありません。最低限必須な能力はギルドの試験に受かりうる知識、具体的には魔物の知識と担当する冒険者の能力分析、及びに対外的折衝等を考えております。他には団員達のスケジュール管理、ファミリア内の金銭管理、書類の確認及び整理、団長の対外的サポートなど秘書的な多岐にわたる業務も考えており、想定される問題点及びにこちら側の期待する内容はこの資料にまとめてあります。他にはファミリア内部での生活事項におきましてはーーー

 

 「ち、ちょっと待ってください!」

 

 ついにストップがかかるリリルカ。

 

 「あ、あの私わからないんですけど?」

 

 当初の予想したギルド職務と掛け離れつつある職務に戸惑うミーシェ。リリルカの若さも困惑の一因だ。

 

 「御心配には及びません。不肖私、リリルカが全てに置きまして精通しております。当方はしばらくは零細ですのでしっかり仕事を覚えていくための時間もございます。私が時間の許す限りのサポートを確約させていただきますので是非とも前向きなお考えをしていただきたい所存でございます。」

 

 ついに喋り方に原型が無くなったリリルカ。圧倒されるミーシェ。

 

 「もし質問内容がございませんのでしたら次はファミリアの内部の説明をさせていただきます。」

 

 

 

 

 

 ミーシェはあっさり陥落した。

 

 ◇◇◇

 

 ソファーで俯きクッションで顔を隠すリュー。話しかけるカロン。

 

 「おい、リュー。リリルカはすごいぞ。やはり有能だ。」

 

 「カロン、私はそっとしておいて下さい。私は自分が情けない。」

 

 「おいおい、お前は高レベル冒険者だろ?堂々としろよ!」

 

 「もうリリルカさんが団長でいいのでは………?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。

 

 ーーあたしはミーシェ。ギルド職員を目指して日々勉強中!のはずだった………。

 

 「ようこそミーシェ。俺は団長のカロンだ。隣にいるのが副団長のリュー・リオンでその後ろがマスコット兼ゆるキャラ兼顧問弁護士のリリルカ・アーデだ。お前の右手の女性が主神のアストレアだ。アストレアの隣にいるのがファミリアのトイレ掃除担当神のヘスティアだ。俺の左後ろにいるのが向かって右からバラン、ビスチェ、ブコル、ベロニカ、ボーンズだ。これから先よろしく頼むな。」

 

 「アッ、ハイ。」

 

 「取り合えず今日は歓迎会だ。共に目標に向かってがんばろう!」



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ナァーザとの盟約

 俺はカロン、ここはアストレア団長室だ。俺はここで今日の会合の収穫と失う予定のものを天秤にかけていた。

 

 ーー失う予定の物は都合二億五千万ヴァリス。ファミリアの現時点での全財産に近い。前任が残してくれた物も含めてカラッ欠だ。対して入る予定の者は薬を司る一柱、有能な一人の眷属。

 ………割高ではある。次の交渉次第ではもう少し値切れないか?あるいはこちら側が喉から手が出るほど欲しがっているのは向こうも織り込みずみ。やはり無理か。本来ならば非売品のはずだし多少割高でも何が何でも欲しい。連合に薬学部門は必須だ。眷属の選択幅が広がるのも非常に魅力的だ。ソーマで人生の先に悩んでいる人材を回せれば薬学部門の発展の見通しも立てられる可能性がある。人材の育成もサポーターと組合わせられれば問題ない。やはりあらゆる点で必要という結論しか出ない。やむなしか。

 

 

 ◇◇◇

 

 一週間後、ここはミアハ本拠地。ソファーにて向かい合う俺とナァーザ。

 

 「………こんにちわ。」

 

 「ああ、久々だな。こちらとしては正式にお前達の以前出した条件をのもうかと考えている。」

 

 以前出した条件。ミアハファミリアを二億五千万ヴァリスで買収するというものだった。

 

 「商談成立。ミアハ様は説得してある。私達にとっては悪くない話し。すぐに向かえばいい?」

 

 俺が行ったのは悪くいえば人身売買だ。しかし正当な雇用とも言える。

 幾度かにわたる交渉の末、ナァーザはミアハファミリアが俺達のファミリアに参入する条件として前述した額を提示した。ミアハファミリアには借金があるのだ。欠けたナァーザの右腕、その義腕をディアンケヒトファミリアから大金を借りて買受けた為だ。

 俺はその額を出し、尚且つそれなりの貯蓄ができる額を呈示した。ナァーザは少しでも多い金額を引きだそうと幾度にも渡る交渉が行われた。俺は長い間リリルカと話し合い、金額と条件を折り合わせた提案をミアハファミリアに幾度も呈示した。つい先日、ようやく互いに納得できる落としどころが見つかったところだ。

 

 ファミリア内の資金流用については、俺が薬学部門の重要性と利便性を説いた。仲間達は、新規参入のミーシェを除いてすんなりと理解を示してくれた。日頃の根回しは大切だ。ミーシェだけはそのあまりの額と会計補佐として唖然としていた。

 

 「いや、来るのは少し待ってくれないか?」

 

 「どうして?」

 

 「もう少しだけソーマの様子を見たい。もうほぼ説得ができている状況だ。一気に四柱の神が所属するファミリアが出来上がったとなれば衝撃もでかいだろう。勝負処だ。」

 

 「四柱って?」

 

 「サポーターを育成するアストレアを中心として、薬のミアハ、酒のソーマ、後は通常冒険者育成兼トイレを司るヘスティアだ。欲をいえばここに武を司るタケミカヅチも欲しい。ガネーシャに頼んでオラリオ中に知らせるつもりだ。」

 

 「なるほど、それができたらそこそこな求心力。面白い。」

 

 「そのまま勢いで眷属をどんどん増やして行きたい。お前達はまず一歩目だな。」

 

 「お互いに損のない交渉。素晴らしい。」

 

 「そうだな。まあ少し割高で俺達は当分極貧生活だ。もう少しお手柔らかにしてくれてよかったのに。」

 

 その言葉にナァーザが面白そうに笑う。

 

 「お金は大切。稼げるときに稼ぐに限る。」

 

 「そうだな。差し当たっては借用書はお前らが来るまで手元に持っておくが構わんな?」

 

 「うん、それでいい。そっちにいったらちゃんと渡してね。」

 

 「ああ、もちろんだ。連合ファミリアができたらお前達も含めて大々的な祝いの席を設けねばならんな。今からまた金を貯めんといかん。」

 

 カロンも笑う。

 

 「そしたら大団長。ロキもびっくり。」

 

 「フレイヤは楽しそうに笑うだろうな。一刻も早くタケミカヅチを口説かんとな。」

 

 「勝算は?」

 

 「まあタケミカヅチは真っ当な神だからな。眷属をその気にさせる何かがあればなぁ。」

 

 「将を得んとすればまずは馬から。」

 

 「まあそうなるかなぁ。それよりナァーザ。ウチにはリリルカという超がつく有能な団員がいる。ぼうっとするとお前の価値はどんどん下がっていくことになるぞ?」

 

 「望むところ。」

 

 俺達は笑顔で握手をして別れた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 カロンが帰った後のミアハファミリア。

 

 「俺は、身売りしてしまったんじゃないか?これでよかったのか?」

 

 奥から何やら思案顔で出てくるミアハ。

 

 「売上のマージンはとられるけど借金帳消しにそこそこの蓄え。加えて連合内での人材の斡旋に材料の融通。最高の条件。これ以上は望めない。」

 

 「しかし、神が金のために身を売るなど!」

 

 「ミアハ様、霞を食べて生きているつもり?私達眷属は生きるために金がいる。私の為の借金だったのは理解するけどここが私達の分水嶺。先行きの勝算は十分にある。それに身売りじゃなくて私たちの技能を買い取る正当な交渉。」

 

 「そうか、そうだな………。」

 

 「大丈夫。情報は精査した。ディアンケヒトに売るより遥かに好条件だし将来的な展望もある。ソーマファミリアの件に関しても裏が取れている。」

 

 ナァーザは笑う。心配はいらないと。

 

 「生きていくのは世知辛いものだな。」

 

 ミアハがぼやいた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「今日の会合はいかがでしたか?」

 

 ミーシェ。アストレアファミリア団長秘書兼アドバイザー。将来は連合を顎で使う人材だ。団長室に自由な出入りを許している。

 

 「当初の予定通りだな。まあ皆には少し貧しい思いをさせることになるけど何とか許してくれ。頑張って働くよ。」

 

 「あたしは決められたお給料さえいただけるのであれば本拠地が多少苦しくても関係ありません。」

 

 笑うミーシェに笑いかえすカロン。

 

 「まあそうだな。冒険者の皆には少々貧しい思いをさせるかもしれないがな。」

 

 「連合構想がなればあたしも忙しくなってしまいますね。」

 

 「その時は給料はその分出すさ。俺はナァーザに成功したら大団長だと言われたよ。お前の役職は何とするかな?」

 

 「リューさんは大副団長でリリお姉様は超顧問弁護士ですね。」

 

 「少し語呂が悪いなぁ。何か新しい名称を考えんといかんくなるなぁ。」

 

 不意に扉がノックされる。部屋に入るリュー。

 

 「カロン、ミーシェ、夕飯が出来上がりました。一緒に食事をしましょう。」

 

 「おいおいマジか。今日の夕飯当番はリューだったか。」

 

 当初はリューを当番から無くそうと皆で画策していたが、リューは夕飯当番にしがみついた。いわくこれ以上ファミリア内での地位を落としてしまえばヘスティア様になってしまうとのこと。そのスタンスは嬉しいが勘弁して欲しい。ヘスティアは相変わらずトイレ掃除以外は何もしなかった。しかしリューの食事を食わされるくらいならヘスティアが二人いた方がマシな気もする。

 

 「さあ、早く行きましょう。今日の食事は自信作だ。」

 

 「おいおい、リュー。こないだお前がそれ言ったときヘスティアの仕事を増やしてたじゃねぇか!」




作者には時系列という概念が存在しません!




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専属鍛冶師

 ここはダンジョン十五階層。俺の名前はヴェルフ・クロッゾ。俺は今日ここにカロンとリリ助の三人で潜っていた。このあたりが俺達の鍛練にちょうどいい階層だ。しかし最初は驚いたな。まさかリリ助の奴が魔物に変身できるとは………。

 俺には最近悩みがあった。カロンは気にせずに俺と一緒にダンジョンに潜ってくれる。しかし彼にとって俺と潜るのにメリットはない、ハズだ。俺とリリ助は彼の背中に護られて鍛練している。俺にできる恩返しは鍛冶くらいだ。しかし彼は高レベル冒険者で高品質材料の防具を求めているハズだし、専属を取る気はないらしい。今日はリューがいない。俺は少し迷ったが切り出してみることにした。

 

 「なあ、カロン。アンタは何故俺と一緒に潜ってくれるんだ?」

 

 「うん、前にも言ったろう?俺達も辛い思いをしたと。それとお前には新人の鍛練をしばしば手伝ってもらっている。持ちつ持たれつだろう?」

 

 「だが俺はそもそも一緒に潜る奴らがろくにいなかったんだ。なんか俺に返せるものはないのか?」

 

 「いっぱいあるぞ?」

 

 「本当か?それは何なんだ?」

 

 思わず俺は彼に詰め寄ってしまった。

 

 「俺はファミリアをでかくする予定だからな。お前が立派な鍛冶師になれば俺達のところに入った新人を任せるに足るツテができることになる。俺は専属をとらんがそれは別にファミリアの意向というわけではない。新人担当でなくともお前が信頼できるアストレアファミリア御用達の鍛冶師になってくれればお互いにいい関係が築けるだろ?いわば先行投資だ」

 

 俺はその言葉に考えた。

 彼は信頼に足るだろうか?彼は俺の姓を聞かない。そして俺は彼の姓を聞かない。それでもいい関係が築けるというのだろうか?俺は彼に思い切って突っ込んだ事を聞くことにした。

 

 「なあ、アンタは俺の事を聞かないだろ?俺もアンタの事を聞いてない。それでも構わないんだろうか?それでも俺達は互いにいい関係を築けるのか?」

 

 「………理由は知らんが姓を隠すには相応の理由があるという事だろう。お前が過去に何を思っているのかは知らんが変えられるのは未来だけだ。別に構わんだろ。」

 

 リリ助は俺達の会話に気を使って離れて行った。壁に傷を付けて魔物が生まれないようにしてくれている。俺はその気遣いに感謝する。

 

 「構わんて………。そんなに簡単なものなのか?」

 

 「さあ。」

 

 「さあ!?」

 

 「うーんまあお前が過去を気にしとるというのは今の会話で分かったがしかしなぁ………。まあどうでもいいかな。今ここで俺と話しているお前よりも優先するものじゃあないな。」

 

 カロンはそういって笑った。俺は衝撃を受けたように感じた。

 

 「オイ、それじゃあもし俺が犯罪者だったらどうするんだ!?」

 

 「捕まえるな。」

 

 「捕まえるのかよ!?」

 

 「まあ普通そうだろ?犯罪者なのか?」

 

 「いや、違うが………。じゃあ、じゃあもしも俺が悪名高い一族の末裔とかだったらどうするんだ?」

 

 「別に。」

 

 「別に!?軽すぎるだろ!どういうことだよ!?」

 

 「どうもこうもないよ。俺達もかつてはオラリオで悪評を立てられたアストレアファミリアだ。過去に囚われたら辛い思いをしてしまうよ。今はだいぶマシだがな。いつだってできることをやるしかないだろ?お前が家名を捨てて努力するというなら俺は応援するし、それとは無関係に俺達といい関係が築けるんじゃないか?」

 

 俺はその言葉に覚悟を決めてさらに突っ込んだ話をすることにした。

 

 「俺の名前はヴェルフ・クロッゾだ。クロッゾの一族を知っているだろう?俺はアンタのファミリアのリューに探索を手伝ってもらう度に罪悪感を感じているんだ。クロッゾがエルフに蛇蝎の如く毛嫌いされていることは知っているだろう?」

 

 俺達クロッゾ一族の造った魔剣はエルフの住む森を焼いてきた。俺達はエルフに恨まれているはずだ。それこそ殺したいと思われている程に!

 

 「うーん聞いたことはあるな。だがそれが?」

 

 「だがそれが!?どういうことだよ!!」

 

 あまりの軽さに俺は突っ込んでしまう。さっきも同じツッコミをした気がする。

 

 「しかしなぁ………。そもそも魔剣を作るのがクロッゾでも魔剣を使うのは他人だろ?そんなん言ったら鍛冶師の生計がなりたたんだろ?」

 

 「そ、それは………。それは詭弁ではないのか?」

 

 「事実だろ。俺個人の意見としては作った人間だけに責任を押し付けるのはしっくり来ないな。国全体の責任だろ?まあクロッゾの魔剣がたくさんの命を吸ったのは理解するが………。そもそも第一にお前が作った魔剣が森を焼いたのか?お前がリューを傷つけると言うなら話は別だがお前はそんな一族が嫌で名を隠してるんじゃないのか?」

 

 「………その通りだ。お前は気にしないのか?」

 

 「ふーむ、というよりお前鍛冶師実は向いてないんじゃないか?」

 

 いきなりおかしな事を言われてしまった。しかし………全く心当たりがないわけではない。

 

 「アンタは他人の命を気にしては剣を作るべきじゃないとそう言うのか!?」

 

 「うーんそうは言わんがお前が辛くないか?近々連合を立ち上げるつもりだがそこには人を護るためのサポーター部隊や人を救う薬学部門などを作り上げるつもりだ。お前が興味があるなら口利きできるぞ?そっちの方が性格的にあってるんじゃないか?」

 

 俺はその言葉に考え込む。俺は何のために剣を打っているのか?俺は剣を打ちつづけるべきなのか?

 

 「俺は鍛冶師に向いてないというのか?しかし俺が他のことをできるとは思いづらい………。」

 

 「見に来るだけ来てみてはどうだ?」

 

 「………………いや、遠慮するよ。俺はこれが技能的に自分にあってると思っている。それに剣で命が救えることがあるのも知っている。俺は鍛冶の道でアンタ達の役に立てるように努力するよ。」

 

 「そうか。いずれにしろ応援するさ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ヴェルフと別れたダンジョンからの帰り道。今日はいつもより遅くなって頭上に満天の星空が煌めいている。町は明かりを燈していて皆おそらく夕食後の団欒の時間だろう。今日の夕飯当番はアストレアだ。遅くなったし怒られてしまうかもしれない。俺とリリルカは話しながら帰っていた。

 

 「やったなリリルカ。連合を作り上げた後の新人冒険者用の鍛冶師にアテがついた。」

 

 「カロン様は、うーん何というか手前味噌ですが………今回は互いに利益のありそうないい提案になり得ますね。ヴェルフ様が立派な鍛冶師になる事を期待しましょうか。でもリュー様には伝えなくていいんですか?」

 

 「必要はないよ。今伝えてもリューもヴェルフも互いに過去の事で苦しむだけで何の得もない。長い時間を共に過ごせば過去を知ってもなお互いに信じられるようになるだろ?二人が互いを信じられるようになったと感じたら………その時は俺が知ってて黙ってたことを土下座でも何でもしてやるさ。」



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リリルカの決意

 「オイオイオイオイ、死神共までやられちまったぜ。」

 

 「マジどうすんだよ?」

 

 「やっぱり放って置くべきだったんだよ。だからいったろ!」

 

 「マジかよ。やべぇじゃねぇか。」

 

 「誰かあいつら倒せる奴いねぇのかよ!?」

 

 ここはオラリオ郊外。闇派閥は、ガネーシャファミリアによるリヴィラ掃討作戦によりリヴィラにさえ入れなくなっていた。

 

 「お、俺はもう逃げるぜ!レベル5が三人もやられちまったんだ。勝ち目がねぇ!」

 

 「おい、お前どうするよ!?」

 

 「行く当てもねぇしなぁ。いっそガネーシャに出頭するか?」

 

 「もうあいつらより強い奴らは話し自体が通じねぇ奴らしかいねぇしなぁ………。」

 

 「クソッ、あの時に確殺できてれば。」

 

 

 

 「「「「「………………。逃げるか。」」」」」

 

 闇は逃げ腰だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 リリルカは自室にて今までのことを考えていた。

 

 ーーリリの当初の雇用条件はレベル2への到達。しかしカロン様は予定を変えてリリを使ってくださりました。カロン様の目標は当初考えていた以上に早く進行しつつあります。ソーマ様とはすでに昵懇。ザニス様もあきらめて傍観に徹している状況です。ソーマファミリアとのよい形での協力はいつでもなしうります。そしてミアハ様も含めた四柱の神が集えばオラリオを走る闇派閥撃退の報も併せて入団希望者は劇的に増えることとなるでしょう………。

 

 ーーではリリは?カロン様の当初の目標は、リリをある程度の能力に育て上げて練度の高いサポーターをオラリオで必要だと見せ付けることです。リリがここに来て一年半。ランクアップを考えるには短い期間です。しかしソーマ様の所にいた頃と併せて考えると?

 

 ーーリリが目標を達成しない限りカロン様の夢は永遠に足踏みをすることになります。仮に数を集めることが可能だったとしても、それは長い時間をかけてようやくロキ様やフレイヤ様と同じ規模のファミリアに到達するだけです。必要なのはオラリオからの敬意です。あいつらがいるからオラリオは助かっている、あいつらがいねぇと困る、そういった大多数からの感情が必要でリリはそれを達成するための足がかりです。

 

 ーーリリが足を引っ張りたくはありません!リリは拾われて一年半、短い期間ですが犬や猫でももらった恩は忘れないと聞きます。おかしなこともありましたがこの一年半は概ねリリにとって楽しい日々でした。………ステータスはすでに足りています。リリが、リリが、覚悟を決める時です!!

 

 

 

 リリルカは覚悟を決める。

 

 ◇◇◇

 

 ここは団長室。俺はミーシェに書類仕事をやらせていたため、これからのことを考える時間があった。

 

 ーーリリルカはステータスがすでに足りてるんだが、、、やはり壁を越えさせないと新たなステージには立てないか。しかしリリルカを万一にでも失うことになったらそもそもが総崩れだ。リリルカは若いしそれなりの期間一緒にいたから感情的な面でも失いたくない。………連合構想を諦めるか?最初は嘘と詭弁で始めたものだがやってみて楽しかったのは事実だ。しかしリリルカには代えられないし、代えたくない。今のまま鍛練を続けていずれランクアップをする可能性もある。ファミリアもそこそこの規模にする目処はついている。やはり変わらずに様子見をして最悪諦めることも視野に入れるべきか?

 

 ーーリリルカのレベルを上げないとサポーターとして連れていっても深い遠征には付き合わせられない。深い遠征には危険がつきものだが?リリルカ自体は頭が回るしいつも最善手を取れる能力を持ち得ているだろう。しかし壁を越えることは真正面から危険と相対すること………。

 

 俺は考えがまとまらないでいた。自分がどうすべきなのか?リリルカを戦わせるべきなのか?珍しく考えが堂々巡りして同じ道筋を行ったり来たりしていた。

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 返事をするとリリルカが部屋に入ってきた。

 

 「カロン様、壁を越えに来ました。付き添いをお願いいたします。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン様、壁を越えに来ました。付き添いをお願いいたします。」

 

 「………リリルカ、危険が大きいぞ。今のままでお前は十分役に立ってくれている。」

 

 「珍しく弱気ですね。一体何があったんでしょうか?」

 

 リリルカは笑った。

 

 「………いや、言ったままの意味だよ。仮にここを乗り越えても、お前は危険な階層に潜ることになる。お前はリューと違って事務だけで十分な役に立てる人間だし俺達は絶対にお前を失いたくない。」

 

 「冒険者はいつだって危険ですよ?」

 

 俺も以前言った言葉だ。

 

 「お前は冒険者をやめても幸せになれるはずだ。」

 

 「おかしなことをおっしゃるのですね。リリの幸せはリリが決めますよ?」

 

 「リリルカを行かせたくないのは俺のエゴだな。しかし同時に俺はリリルカの幸せも願っている。」

 

 「リリはカロン様のお役に立つのが何よりの幸せです。いつも不敵に笑うあなたはどこへいってしまったんですか?」

 

 

 

 リリルカのその言葉で俺は決定を下した。

 

 ◇◇◇

 

 俺達はリリルカのランクアップの対象を決めた。俺とリューとリリルカ。敵はゴライアスで俺とリリルカが対峙する。リューはレベル5なので万一の際の逃走補助要員だ。俺とリューが出てしまったらリリルカの活躍の場が無くなってしまうからだ。

 

 「………やめる気はないのか?今はさほど目標にこだわってはいないぞ?」

 

 「カロン、あなたは過保護になっています。」

 

 リューが答える。カロンはうろたえる。カロンは指摘された事実に始めて気づく。

 

 「………しかし、リリルカはまだ子供だ。」

 

 リリルカは会話をリューに任せることにする。

 

 「あなたが始めたことです。」

 

 「いつもだったらお前が止める立場なんじゃないか?」

 

 「その通りです。しかし以前あなたが決めたことだ。」

 

 「………今からやめても遅くはないだろ。」

 

 「カロン、あなたは思い違いをしている。」

 

 「思い違い?」

 

 「私達はあなたの夢が楽しそうだったから私達の意志であなたに全BETをしたんです。いまさらやめたらただの詐欺師だ。賭け金を還してください。」

 

 リューは鮮やかに笑った。

 

 「………賭け金、ね。時間を返せとでも言うのか?」

 

 笑いかえすカロン。

 

 「私達はあなたに多大なる影響を受けました。賭け金はあの頃の純粋な私達だ。あなたに還せますか?」

 

 「減らず口を叩きやがって………。」

 

 カロンは自身の敗北を理解する。

 

 「それでは出発です。」

 

 リリルカが纏める。俺達はダンジョンを進んで行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ーーグオオォォォォォォォォォォン!

 

 灰褐色の巨人、迷宮の19階層の居住者。彼は敵意が向かって来るのを敏感に感じ取っていた。

 

 ◇◇◇

 

 「さすがに、でかいですね。」

 

 ダンジョン19階層、灰褐色の巨人ゴライアス。全身を分厚い筋肉の鎧に纏われた怪物。

 敵を視認するリリルカ。

 

 「しかしリュー様より弱そうだしカロン様よりひ弱そうです。」

 

 ついにリリルカまで不敵に笑う。

 

 灰褐色の巨人はときの声をあげる。戦いは始まった。

 

 ◇◇◇

 

 エンペラータイガー。ここより深い階層で出現するという設定の誰かが考えたオリ敵だ。光沢がかった白色の毛並みとしなやかな筋肉を持つ、とても美しく獰猛な魔物だ。リリルカはこの日のために牙を研いでいた。

 

 リリルカはエンペラータイガーの体、ドラゴンの羽、アルミラージの角、しっぽをポイズンスネークへと変身させた。誰かはやりたい放題である。

 カロンは真正面からゴライアスへと向かう。スク〇トを重ねがけする。

 リリルカがミノタウロスに変身しないのは真正面をカロンに全面的に任せることにしたからだった。リリルカの役割はカロンと協力してゴライアスの体力を削りきることである。そしてそれが前もって話し合った結果出した最善の戦術だった。そして様々な魔物の長所を掛け合わせたキメラはそのための手段であった。

 

 ーーカロン様は信じられないくらいに硬い。ゴライアスの前面はすべて任せます。リリは天井や壁を利用しゴライアスを縦横無尽に攻め立てます。

 

 真正面から激突するカロンとゴライアス。ゴライアスはカロンを殴りカロンはそれを平気で受け止める。掴んだ腕を引き、投げようと試みる。

 

 ーーさすがに無理があるか、人型だから投げれそうなもんだがな?

 

 ゴライアスは不動の巨人。地面に根を生やしたように動かない。

 カロンとゴライアスはガチンコで殴り合う。ゴライアスは硬いがカロンも信じられないほどに硬い。

 

 ーーどうやっても長期戦だな。さて。

 

 リリルカは壁を蹴り天井を走りゴライアスに襲いかかる。リリルカはゴライアスの頭部に噛みかかる。ゴライアスは突然の強襲に驚き、腕を振り払う。リリルカは羽を使い華麗に退避する。去り際にゴライアスに角を引っかけ傷を残す。

 

 「さすがだな、リリルカ。相手もびびってるぜ。この調子でフルボッコだ。」

 

 返事をするように吠えるリリルカ。また壁を駆けはじめる。

 

 ーーリリルカさん、頑張ってください。

 

 そんなリリルカを影から応援するリュー。

 彼女はこの戦いにおいて巨〇の星の〇子姉ちゃんのようなポジションだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ーー敵の能力はミーシェ様と検討済み。リリの能力ではよほどのリスクを冒さない限り大きなダメージは通りません。そもそもの予定が長期戦です。カロン様はいつまででももたせると言ってくれています。

 

 リリルカは壁を無尽に走りゴライアスの意識から逃げていく。

 

 ーーリリが攻撃を受けたらさほど持ちません。ゴライアスの攻撃は受けてはいけません。奴の意識がこちらからなくなる一瞬を見極めます。

 

 下ではカロンとゴライアスのタイマン。力はゴライアスが上である。カロンはその差をなんとかしようとタケミカヅチ道場直伝の技術を駆使する。ゴライアスはその巨人の腕で殴りつける。カロンはそれを盾で受け流し体勢を崩させる。そしてさらに逆の手で頭を押さえ付け巨人に地を舐めさせる。

 

 ーーここだっ!!

 

 上からリリルカが強襲する。しっぽの蛇は巨人の首に巻き付き、角で魔石をえぐろうとする。ゴライアスは軽々と体を捩り避ける。反撃の予兆を感じたリリルカは羽をうまく使い跳び壁に横向きに着地する。ヘイトを稼ぐカロンは盾で巨人を殴りつける。

 

 ーーグオオォォォォォ!!!

 

 巨人が吠える。カロンはわずかにぐらつくが表情を変えない。巨人は脚に力を込め体当たりする。

 カロンは突進する相手の方に手を置き、闘牛士さながらに華麗にかわす。ゴライアスは壁に激突する。 

 

 「リリルカ、オッケーだ。このまま敵を焦らしてやれ!いざとなればリューもいる。敵を持久戦に引きずり込んで泥沼の底に沈めてやれ。」

 

 それは当初の予定。逃げるのが問題なく可能なためリスクを低くした戦い。エンペラータイガーは持久力にはあまり優れないがもともと団長のカロンが完璧な持久戦仕様。リューとリリルカはそれに合わせて自身をカスタマイズさせていた。

 

 ーーオーケーですよカロン様。

 

 リリルカは笑う。黒いスキルによりリリルカの全身に力がみなぎる。白い虎の王の体は全身の筋肉にさらなる力を与えいっそ神々しい。

 リリルカは壁に激突した敵に突進し、その背中の一部を噛みちぎる。ゴライアスが反撃を思い立ったその時にはもう敵はその場にいない。いらつくゴライアス。

 虎は一迅の白い風となり、壁から壁へ、天井から地面へ、変幻自在に駆け回る。ゴライアスは反応しきれない。

 カロンと正面から殴り合うゴライアス。スキを見て擦れ違いざまに角を引っかけ削るリリルカ。いつ果てるともわからぬ長期戦は続く。

 

 ーーリリルカ、がんばって…。

 

 リューは壁から応援する。

 ギャグを挟まないとやる気が上がらない誰かの病気のせいで全くしまらないまま戦いは続いていく。

 

 ◇◇◇

 

 ーーやはりリリルカのスタミナの消耗が予定よりも激しいなぁ。いざという時は逃げればいいんだし焦らないでくれるといいが。

 

 ゴライアスは力強く速い。筋肉も分厚く致命の一撃は通らない。カロンはゴライアスと取っ組み合いながら考えている。

 

 ーーリリルカは一撃でも喰らうとここまでの優勢がひっくり返るからなぁ。スタミナを切らすのは危険なんだよな。

 

 ゴライアスの頭突き。カロンはまともに喰らう。カロンは頭から血を流しわらう。そう、この程度はいつものことだ。カロンはゴライアスの首を抱く。後ろからリリルカが角で片足を突き刺す。痛みにゴライアスは反応しカロンを振りほどく。リリルカはゴライアスの肩を蹴り天井に着地する。

 振り返ったゴライアスはいるはずのリリルカを見失い困惑する。その一瞬にカロンはゴライアスの頭を引っ張りリリルカは狙いやすくなった敵の首に強襲する。角を突き刺さんと真上からの落下。ゴライアスの首に突き刺さる角。顔を掻く爪。ゴライアスは痛みを感じる。リリルカはゴライアスの体を蹴ってまた逃げる。

 

 「リリルカ、いい調子だ。相手は何もできない。しょせんはウスノロのでかぶつだ。」

 

 もちろん、そんなことはない。脅威だ。一見なんともないカロンだって痛みを感じているしダメージを受けている。しかし弱みを見せない。

 精神的な無類のタフさ。それはいつだってカロンを支えつづけ仲間を勇気付ける。自分たちは決して負けないのだと仲間を鼓舞しつづける。

 

 ーーカロン、がんばって…。

 

 誰かはリューの扱いに困っていた………。

 

 ◇◇◇

 

 ーーやはり………なかなかにハードですね。最初から覚悟はしていたつもりでしたが想像以上に………。体がどんどん重たくなっていきます。しかし他に有効な攻撃手段が思いつきません。この戦い方は前もって話し合った最善の戦い方………迷うべきではありません。しかし………

 

 ーーリリルカの体力にだいぶ陰りが見えてきたか。体力の低下は士気の低下に直結する。さらに事故率も上昇するだろう。やはりゴライアスは厳しかったか?どうするべきだ?そろそろ撤退を視野に入れるべきか?

 

 考える間にもゴライアスはカロンへと迫り来る。ゴライアスはカロンの頑丈さに少し鬱憤を溜めはじめていた。

 カロンの土俵は持久戦である。というよりもむしろ同格以上との戦いでは、他の戦い方では相手にならない。他の戦い方はできない。

 

 ゴライアスはカロンに掴みかかる。盾を奪われるのを嫌ったカロンは少し下がる。そのまま体ごとゴライアスは突っ込んで来る。避けるのが不可能なカロンはゴライアスの打ち噛ましを正面から受ける。吹っ飛ぶカロン、しかし笑ってすぐさま立ち上がる。さらに突っ込んで来るゴライアス、カロンは今度は受け流す。ゴライアスはそのまま壁に激突するが今度はカロンを掴んで一緒に激突する。倒れて地面で縺れるカロンとゴライアス。

 リリルカは隙をみてゴライアスへと突っ掛かる。しかしゴライアスは気付いている。リリルカはそれを理解して攻撃を取りやめて遠巻きに距離を取る。ゴライアスとカロンは立ち上がり再び激突する。焦れるリリルカ、ゴライアスの視線からなかなか逃げきれない。しかしリリルカに気を取られるゴライアスにカロンの嫌らしい攻撃。ダメージは通らない、しかし相手の気を逸らすに十分な目つぶし。ゴライアスは咄嗟に目をつぶってしまう。怒ったゴライアスはカロンを正面から殴り返す。ゴライアスの気がそれたのを理解したリリルカは背面に角を引っ掛けてまた逃げ去る。ゴライアスは振り返るがやはりいない。カロンはその隙にゴライアスの頭部を掴み先ほどの仕返しとばかりに頭突きをする。ダメージは通らない。しかしやはりいらつくゴライアス。

 

 ーーやはりゴライアスはタフなもんだな。ほんとにどうしたもんかね?

 

 ◇◇◇

 

 ーーハァ…ハァ…ダメージは通っています。手応えはあります!しかし敵はあまりにもタフです。リリの体力を持たせられる目算がありません。

 

 予定よりもさらなる長期戦をリリルカは感じていた。

 最初からこれくらいで倒せるとは考えていない。しかし予定よりも相手のダメージが少ない!角を引っかけても手応えは薄く分厚い筋肉にリリルカの体力は削り取られていく。

 持久戦にしてもある程度のダメージを与えていないと話にならない。戦いがあまりに長引きすぎるとリリルカの事故率が上昇する。リリルカはわずかに焦る。

 

 ゴライアスは相変わらずカロンと対峙している。カロンはゴライアスの腕を取りゴライアスと縺れている。

 

 ーーここだ!

 

 リリルカは突進する。リリルカは相手の片腕に掴みかかる。ゴライアスの攻撃を感じ取り退避する………はずだった。

 

 リリルカはほんの少しだけ焦っていた。リリルカ自身が気付かないほど。焦りは少しだけリリルカを深追いさせる。ゴライアスの指はリリルカを引っ掛ける。

 

 ーーしまっ………。

 

 退避が遅れるリリルカをゴライアスは正面から殴りつける。リリルカは吹き飛ばされて壁に激突した。

 

 「リリルカァァァァッッ!!」

 

 カロンがさけぶ。リューが焦る。リリルカは変身が解けて横たわる。

 おそらく死んではいない。スク〇トの重ねがけのおかげだろう。リューは確保に走るーーー

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ーーここまでです。

 

 リューが走る。また走ってる。

 

 しかし想定外の力強い声。

 

 「大丈夫です、リュー様、カロン様。」

 

 リリルカはわらう。何でもないと。

 何でもないはずはない。敵に殴られ吹き飛ばされたはずだ。至るところの服が破れ血を流している。そう、リリルカは虎状態の時も緩やかな特注のローブを着て戦っていた。決して後付けの設定じゃない!決してだ!!

 リリルカはカロンの影響を受けている。リリルカはわらっている。

 

 「カロン様、実験です。リリはいいアイデアを思いついてしまいました。」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ーー撤退するべきだ。

 

 カロンはそう考えていた。

 

 「カロン様、リリは壁を理解しました。信じてください。今なら越えられます。」

 

 リリルカはわらっている。

 リューは一瞬固まりゴライアスのみが向かって来る。

 

 「………カロン、リリルカさんを信じましょう!一年半前に私があなたを信じたように!!」

 

 リューが提案する。敵が来るまで時間はない。

 

 「わかった。俺がゴライアスを受ける。」

 

 そしてカロンは再びゴライアスと対峙する。

 

 ◇◇◇

 

 カロンは相変わらずゴライアスと組み合っていた。

 

 ーーどうするつもりだ?

 

 リリルカは今一度虎へと変身する。ゴライアスの視線を避け、白い風は自在に周囲を駆け巡る。

 ゴライアスはリリルカの攻撃に深手を追うことがないことを理解していた。早く潰したいが素早くて面倒だ。ゴライアスはリリルカの攻撃をその身に受けてから反撃することを決めていた。

 白い虎の王はさらに速度を上げている。

 リリルカはわらう、心の中で。リリルカは、ゴライアスが今までのリリルカの攻撃を受けたことによってリリルカ自身から致命傷を与えられることはないと油断していることを理解していた。ゴライアスの視線の纏わり方が今までより弱い!

 

 ーーダンジョンで油断したものは命を落としますよ。そこに例外など存在しません。

 

 リリルカはわらいながらゴライアスの真上に移動する。

 

 ーーおいおい、マジかよ………。

 

 シンダー・エラは魂を映す鏡。虐げられたリリルカが自身の変革を願って生まれた魔法。鏡はリリルカの負けたくないという意志とカロンの黒いスキルによりリリルカの姿をより一層変貌させる。

 

 「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

 ゴライアスの真上でゴライアスに変身するリリルカ。突如頭上から落ちてきた自身と同じ怪物に驚愕するゴライアス。

 それはリリルカの覚悟。リリルカは自身が怪物になってでもカロンの役に立つことを願う。鏡は黒いスキルに補強されたリリルカの覚悟に呼応して怪物の十全の力を映しとる。

 さらに黒い鎖はここにきて、思考能力の薄い怪物の魂すら絡めとる。動揺を敏感に感じ取ったカロンは怪物を追い詰める雄叫びをあげ攻撃を加える。怪物は混乱によりうまく動けない!!

 

 「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」

 

 リリルカ・ゴライアスの背中のアーデルアシストが力を発揮する。怪物に組み付いたリリルカは地面に根をはっているはずのゴライアスを力ずくで剥がし、あらん限りの力で床にたたき付ける。

 たたき付けられたゴライアスは恐怖と痛みで動けない。リリルカはゴライアスを幾度も幾度も殴りつけ、投げ飛ばす。

 恐怖と危機を感じたゴライアスは痛みを堪えてなんとか立ち上がる。しかし後ろからカロンがゴライアスの脚を掴む。ゴライアスはカロンを見る。カロンはわらう。ゴライアスはさらに恐怖する。笑顔が威嚇なのはあまりに有名だ。カロンを力ずくで剥がそうとしたゴライアスはリリルカに殴られる。ゴライアスはリリルカを見る。リリルカもわらっている。天井知らずの恐怖にゴライアスに逃走の意志が芽生える。

 逃走、どこに?ゴライアスは階層主、決して逃げられない!!ついに黒い鎖は弱気を越えて芽生えた絶望と一体化する。

 固まるゴライアス、迫り来る恐怖。絶望に慄くゴライアス。嗤いながら止めどなく襲い来るリリルカとカロン。

 

 もうダメだ、俺は勝てない。俺はどこにも逃げられないーーーーーー

 

 勝負は決着した。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョン内の帰り道です。

 

 「カロン様、めちゃくちゃ痛いです。こんな状況でいつも笑ってられるなんてカロン様は馬鹿なんですか?馬鹿なんですね?馬鹿なのでした。」

 

 「おいおい、ひどいなリリルカ。お前だって笑ってただろう。」

 

 「リリはあなたほど四六時中は笑いません!」

 

 「五十歩百歩だな。」

 

 カロン様は笑いました。リリも笑います。リリはカロン様の背中に乗って地上に向かっています。帰りの敵はリュー様が片付けてくれています。

 

 「カロン様の背中は固くてあまり乗り心地が良くありません。リリのように変身してください。」

 

 「おいおい、無茶苦茶言うなよ。変身なんてできる変態はリリルカだけだぞ?」

 

 「あれだけ死ぬ気になれば何でもできるなんて言ってリリを変身させたくせに。」

 

 リリはカロン様を冷たい目で見ます。カロン様は知らんぷりです。

 

 「カロン、早く帰りましょう。アストレア様にリリルカさんの更新をしてもらってみましょう。」

 

 「ああ、そうだな。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「リリちゃん、ランクアップおめでとう。」

 

 優しい微笑みのアストレア様です。

 

 「リリ君、ボクは信じていたよ!」

 

 ヘスティア様です。相変わらずお調子乗りです。

 

 「リリ助、やるじゃねぇか!先を越されたな!」

 

 ヴェルフ様です。聞き付けてわざわざファミリアまで駆けつけてくれました。

 

 「「「「「リリルカさん、ランクアップおめでとうございます!」」」」」

 

 新人様達です。リリで構わないといつも言ってるのに。

 

 「リリルカさん、あなたは有能過ぎる。私の価値がどんどん下がっています。」

 

 悲しそうなリュー様。今回はあまり出番がありませんでした。

 

 「リリルカ、おめでとう。祝賀会を開かないとな。金はいくらあってもたりんなぁ。」

 

 とカロン様。

 

 「リリお姉様、とてもお素敵です。」

 

 ミーシェ様。誰かの気分で変なキャラにさせられようとしています。リリの方が年下なんですけどね?

 

 「皆様、ありがとうございます。リリはこれからも頑張ります。」




リューさんが一人で復讐可能ということは闇派閥はフツーに考えればこうなりますよねぇ………。
あと帰りにリリルカがポーションを使用していないのはわざとです。父親にいい記憶がなくまだそういう年頃でもあるということです。


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さらなる壁を越えろ

 ここはアストレア本拠地鍛練場。ここで今私は壁を越える決意をしていた。

 

 ーーカロンは連合成立のために精力的に動いています。それこそ休みなしに………。対して私はダンジョンでの鍛練専門………。私は副団長にも関わらずリリルカさんやミーシェさんに比べて交渉面で著しく劣っています。私は今、壁を越えるべきです。リリルカさんは壁を越えました!私も壁を乗り越えて私の価値を取り戻すのです。明日やるでは永遠に始まりません。今日です!今日私は壁を乗り越えるんです!

 

 私は決意するーーーーーー

 

 ◇◇◇

 

 団長室。向かい合うは私とカロン。

 

 「なるほど。つまり他人とより親しく接することでコミュニティー能力をあげて交渉能力の底上げを図りたいと。それでリベンジのためにロキファミリアに俺に連れていけというわけだな。お前その時点でダメだろ?一人で行ってこいよ?」

 

 「カロン、ダンジョンは油断が死を招きます。私も油断してはいけない。最初はきちんと誰かの助けとともに潜るべきです!」

 

 「いや、お前ロキファミリアに行くんだろ?何で急にダンジョンの話とかするんだよ!?なんでそんなに危機迫る表情をしてるんだよ!?」

 

 「カロン、私もいきなり多人数の元へ行ってしまえば何をしていいか分からなくなる可能性があります。私の壁を乗り越える付き添いをお願いします。」

 

 「なんか悲しいほど情けないことを言ってるな。保護者同伴かよ。リリルカではダメなのか?」

 

 「リリルカさんは私の数少ない友人です。友人に無様を晒したくはありません。」

 

 「じゃあ俺は?」

 

 「カロンはまあ長い付き合いですし………。」

 

 「俺だって暇じゃないんだが?」

 

 「………………。」

 

 「わかったよ。行くよ。行くからそんな涙目で睨むのはやめてくれよ。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ロキファミリア本拠地、門前。

 

 「というわけでやって参りましたロキファミリア。」

 

 「アンタらまた来たっすか?」

 

 呆れ果てる門番。

 

 「というわけで済まないな。お邪魔するぞ。」

 

 ◇◇◇

 

 「どこに行ってみるか?鍛練場か?食堂か?応接間か?リューはどこがいいと思う?」

 

 「そうですね………。とりあえずヴァレンシュタインさんの私室を訪問して尋ねてみては如何ですか?」

 

 「アイズ狙いか。悪い狙い目ではないが今いるかわからんぞ?」

 

 「あ、ヤッホー、カロンとリューじゃん。」

 

 向こうから歩いて来る褐色の肌の健康的な女性。彼女の名前はティオナ・ヒリュテ。ロキファミリアのレベル5のアマゾネスの冒険者だ。

 

 「ああ、大切断か。遊びに来たぞ。今日はリューの友達作りに付き合わされてるんだ。正直に言うと非常に面倒だ。お前リューの友達になってやってくれんか?」

 

 「んー?私はもうリューとはお友達だと思ってたよ。」

 

 「ふむ。目的達成だな。じゃあ俺はもう帰るからリューは友達の大切断と仲良く遊んで帰ればいい。」

 

 「ま、待って下さい。いきなり置いていかれても私にはどうしたらいいかーーー」

 

 「せっかくだから鍛練場で戦えばいいんじゃない?私達同じレベルだしさ。戦えば仲良くなれるんじゃない?」

 

 人懐こく笑う大切断。

 

 「一理あるな。というわけでほら、リュー行ってこい。」

 

 「あなたも残るべきだ!あなたが帰るのは断じて認められない!!」

 

 「お前はいつまでそんななんだ?大概どうにかしてくれんと面倒でかなわんのだが………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 鍛練場で向かい合うリューとティオナ。今日の晩御飯の事を考える俺。確か当番はミーシェで献立はトンカツだったな。非常に楽しみだ。

 鍛練場には他には誰もいなかった。

 

 「じゃあ行くよ!」

 

 「ええ、かかって来て下さい!」

 

 武器無しの戦い。大切断がいきなり打撃技で突っ掛かる。それを速さでいなすリュー。俺はトンカツの事を考える。

 連打を捌いたリューは下段の蹴りを出す。足を上げてすねで受けるティオナ。俺はトンカツソースがもうなかった事を思い出す。危なかった。

 ティオナはリューを掴んでひざげりをリューに入れる。リューはひざげりを腕で受けてそのまま体全体の筋肉でティオナを床にたたき付ける。一本。俺はトンカツソースを買いに行くために席を立つ。

 そんな感じで戦いは続いていく。

 

 ◇◇◇

 

 「ハァ、ハァ、疲れたぁ………。」

 

 「………ええ、疲れましたね。」

 

 床に寝転ぶ私とヒリュテさん。結局戦いは武器無しだからかタケミカヅチ道場に通う私が少しだけ優勢だった。

 

 「それにしてもカロンはいつの間にかいなくなってますね………。全く。」

 

 「まあ気にすることはないんじゃない?別に。」

 

 そうですね。私はここに友人を作りに来ました。当初の目標は達成されたと考えてもいいでしょう。

 

 「じゃあ私もそろそろ帰りますね。」

 

 「あっ、待って。せっかくだからここの食堂で夕飯食べていったら?」

 

 「いえ、さすがに突然おしかけたファミリアで食事をご馳走になるほど私は図々しくなれません。」

 

 「でもウチのファミリアの人いっぱい来るよ?せっかくの友達を作るチャンスなのに………。カロンもしょっちゅうご飯食べて帰ってるよ?」

 

 「なっ………。」

 

 私に衝撃が走った。

 私の夕食当番の時カロンはいつも外回りだと言って食事を遠慮していたハズだ。他にファミリアの食事をしなかったことはない。私は怪しみながらも彼が忙しいのは理解していた。

 

 しかしそれは理解していたつもりだけだったということなのか?まさか私はずっと裏切られつづけていたというのか?私は自分がいい女だと思い込んでいる道化だったということなのか、ロキファミリアだけに?カロンは私の晩御飯を食べずにロキファミリアの晩御飯を食べ続けていたということなのかーーー?

 

 「………ヒリュテさん。あなたの食事の誘いは嬉しいがそれは受けられない。私には急遽やることができた。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地鍛練場。俺は木刀を携えた修羅(リュー)に簀巻きにされて転がされていた。

 

 「なあ、リュー。謝ってるだろ?もう許してくれよ。今日の晩御飯俺の大好きなトンカツなんだよ。早く戻らないとみんなに食べられてなくなっちまうだろ?」

 

 「カロン、あなたは晩御飯がなくともロキファミリアにお邪魔すればいいではないですか?」

 

 うん、キレてらっしゃる。どうしよう?

 

 「リュー、待ってくれよ。確かにお前の晩御飯を食べなかったのは悪かったけど………。」

 

 「けど………?」

 

 ………何も思いつかないな。ふむ、木刀でタコ殴りにされるよりはましか。

 

 「こんなに簀巻きにされてしまったらタケミカヅチ直伝の土下座ができないだろう?」



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恋愛相談

 ここはロキ本拠地近く、とある喫茶店。ここの喫茶店はコーヒーが実においしい。非常に香り高くて苦味が程よく後を引く。俺は今日ここの店で一人でこっそり自由な時間を満喫していた。たまには一人で贅沢したっていいだろう?

 

 「カロン、久しぶりね。」

 

 知り合いが向かいに座り込んで来てしまった。見つかってしまった。ふむ、贅沢タイムは終了か。大変遺憾である。

 

 「どうかしたのか?怒蛇?」

 

 そう、彼女はティオネ・ヒリュテ。ロキの高レベル冒険者でティオナの確か姉だったな。ちょくちょくロキにお邪魔するうちに顔見知りになってしまった。彼女の特徴としては胸部の装甲はワールドクラスと言えるだろう。

 

 「いや、たまたま見かけたからね。せっかくだしちょっと相談に乗ってくれない?」

 

 相談………。まあ誰もが知ってるアレ以外はありえんよな。しかし勇者の気が向いている様子もないし有効な手立てがあるとも思いづらいんだよなぁ。どうしたもんかね?

 

 「相談?何の話だ?」

 

 俺は取り敢えずすっとぼけてみる。

 

 「わかってんでしょ?団長のことよ!」

 

 まあこれはごまかしきらんな。

 

 「なぜ俺に聞くんだ?俺はオラリオの変人だぞ?もっと恋愛に明るい人間に相談するべきだろ?」

 

 「アンタお堅いリューとしょっちゅう一緒にいるじゃない。どうやって口説き落としたの?」

 

 「そもそも口説いてないぞ?俺は凶狼のストーカー行為は思う存分に認めるがリューに関しては事実無根だな。」

 

 「ふ~ん、そうやってごまかすんだ。私悩んでるのに。」

 

 そういって何かを考える怒蛇。

 

 「ごまかしてはいないぞ?勇者とはそれなりに親交があるが恋愛相談をどうこうできるとも思えんのだが?」

 

 「じゃあアンタんところのリューに私も変人にしつこくストーカーされて勧誘されてるって言ってみたらどうなるのかな?セクハラされてる噂も加えてさ?」

 

 「おい、それは卑怯だろう?そんなん言ったら俺も勇者にあることないこと吹き込むぞ?」

 

 睨み合う俺と怒蛇。俺は一つ溜息を吐く。

 

 「わかったよ。協力するだけしてみるから。ただどうなっても責任はもてんぞ?」

 

 ◇◇◇

 

 場所は変わらず喫茶店。優雅な俺と優雅でない怒蛇。

 

 「それでどういう手を使えばいいのかな?」

 

 「今までどういう手段をとってきたんだ?」

 

 「押せ押せね。猛烈アピールをしてたわ。」

 

 なんか彼女が猪に見えてきたな。

 

 「ふむ………。特に近道があるとも思えんのだよなぁ。今までのやり方以外の。もういっそ下着とかを盗んでそれで満足してしまえばいいんじゃないか?」

 

 「ちょっと!真面目に考えてよ!」

 

 テーブルを叩く怒蛇、飛び散るコーヒー。勿体ないな。ミアハの買収金で俺は貧乏なのに。

 

 「そんなこと言われても考えれば考えるほど地道に一歩ずつ近づくという結論しかでらんぞ?しかもお前堪え性なさそうだし。せめて我慢ができるならなぁ。」

 

 「我慢ができたらどうだって言うの?」

 

 「もうすでに手遅れかもしらんが外堀を埋めていくのが一つの手段だったかもな………。具体的には偽りの清楚キャラを演じる。口が堅そうなリヴェリア辺りを味方につける。後は上手く策を練って勇者が責任をとらざるを得なくなるような状況に追い込むとかな。」

 

 「どんな方法?」

 

 「いや、もうお前はキャラがばれてしまっているから無理だな。」

 

 「でも教えなさいよ。」

 

 「一番確実なのは飲み会で勇者が泥酔したときとかに起きたら一緒に寝てればいいんじゃないか?」

 

 「団長は泥酔とかする人間でもないわよ!」

 

 「だからリヴェリア辺りを上手く味方につけるんだ。勇者もあいつは尊重しとるだろ?まあでもやはり無理だろうな。」

 

 「なんでよ!」

 

 「だってお前飲み会でアルコールを我慢できる人間か?それに勇者にキャラがばれているということは、たとえそのシチュエーションでも嵌められたと多分ばれるぞ?挙げ句の果てに今更だがこの方法は全くオススメできない。道義的にも疑問が大だ。」

 

 「そんな、じゃあ一体私はどうすればいいの!?」

 

 「うーんやはり今まで通りの方法以外にないだろう。後は他の男を見つけるか下着を盗んで満足するか………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはロキ本拠地応接室。向かい合うは俺と勇者。

 

 「で、なんで俺はいきなり呼び出されたんだ?」

 

 「最近僕の下着が減ってたんだよ。それでおかしいなと思って見張ってたんだ。そしたらさ。」

 

 ああ、これは落ちが読めたやつだな。椿の時と同じ感じだ。

 

 「ティオネが僕の下着を盗んでたんだよ。それでどうしてそんなことをしてるんだって聞いたらさ。」

 

 ふむ、雷が落ちる準備をしとこうか。

 

 「なんかカロンが僕のパンツを欲しがってたってティオネが言ってたんだよ。まあティオネの妄言だとは思うんだけど一応確認のためにさ。」

 

 予想進路を少し外れてしまったな。これはどうなるんだろう?

 

 「それでどうなんだい?まさかとは思うけどカロンが盗んだのかい?君の行動は読めないんだよね。」

 

 俺は少し考える。怒蛇に責任をなすりつけるのはどうなのか?そうしたら彼女が勇者とくっつく可能性が低くなるのか?今更ではないのか?俺は彼女を護るべきなのか?そもそも俺に責任はあるのか?怒蛇に貸しを作れたら後々なんらかの得になるのではないか?勇者の怒りを買う可能性はーーー

 

 「スマン、勇者。俺が盗ませた。」

 

 「カロン、どういうことなんだい?」

 

 勇者は呆れて俺を見る。

 

 「スマン、どうしても金がなくてな。お前のファンに売り捌いてしまった。金は必ず返す。だから今回はどうにか許してはもらえないだろうか?」

 

 「ハァー。不思議と君はなんかあまり怒る気になれないんだよね。アイズの人間的な成長は君のおかげな気がするし………。いいよ。ちゃんとお金は返してね。」

 

 「恩に着る。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ロキ本拠地近くの喫茶店。再び出会う俺と怒蛇。今日のコーヒーは彼女の奢りだ。他人の金で飲むコーヒーは普段より甘美なものだった。さらにデザートまでつけてくれた。実にシルブプレだ。シルブプレの意味わからんけど。なんか間違えて使っている気がするな。

 

 「怒蛇、今回は貸し一だな。」

 

 「うっ、悪かったわよ。」

 

 「恋愛に近道なんぞないだろ。今のままで頑張るんだな。」

 

 「そうね。私もどうかしていたわ。」

 

 「貸しはちゃんといつか返せよ。」

 

 「キチンと利息をつけて返してやるわ。ハァ、しかしどうやったらフィンと親密になれるのかしら。」

 

 「俺は持久戦専門だが恋愛も似たようなもんじゃないか?しぶとく戦って最後に勝てばいいんじゃないか?それ以外に方法はないだろう?」




ストーカー、ダメ!絶対!
下着とか盗んだらダメ!絶対!  
シルブプレはお願いします、という意味のフランス語だそうです。[知恵袋調べ]


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一番適応するアストレア

 「アイズ様、お待たせしました。」

 

 「ううん、待ってないよ。リリ。」

 

 ここはオラリオの賑やかな街中。ここでは今、アイズとリリルカが待ち合わせをしていた。彼女達は仲が良く、普段は共に忙しくしているがたまに一緒にお出かけしていた。今日も二人でお買い物。オラリオで探索に役立つものを見て回る約束をしていた。

 

 ーーそんな二人に忍び寄る怪しい二つの影………。

 

 そう、彼らはカロンとリュー。

 

 「対象はVのようです。特に問題ありませんね。」

 

 「そのようだな。安心したな。リリルカも嬉しそうだ。」

 

 彼らはリリルカの動向をひそかに追っていた。因みにVはヴァレンシュタインのVである。

 何を隠そう、彼らはたまに一人で出掛けるリリルカ(かわいい娘)に、変な()が寄ってないか心配してつけてきたのである。ちなみにリリルカとアイズは共にカロンが誘ったタケミカヅチ道場で親交を深めていた。

 

 「しかしリリルカがVと会っていたとなると急にやることが無くなるな。どうしようか?」

 

 「どうしましょうか?」

 

 カロンとリューは特にすることも無くなり迷っていた。そこへ聖女シル(おせっかい)が何かの意図のように現れる。

 

 「あれ、リューとカロンさんじゃない、二人で何してるの?」

 

 「何をしてると聞かれれば………ストーカーだ。」

 

 相変わらず頭のネジが足りないカロンは堂々とストーカー宣言をする。

 

 「えぇ!?」

 

 当然ドン引きのシル、焦るリュー。

 

 「ま、待ってください。事情があったんです!」

 

 「事情があってもストーカーはストーカーだな。」

 

 正論のカロン。たとえ相手が娘のような存在でもストーカーはストーカーである。

 

 「リュー………。」

 

 口元に手を当ててリューを何か怖いものを見るような目で見るシル、ますます焦るリュー。

 

 「ま、待ってください!ストーカーではありません。私は………そう、犯罪者を追っていたんです!」

 

 ついに出鱈目を言い出すリュー。正義の欠片も見当たらない。されど数少ない友人を失うわけにはいかない!

 

 「は、犯罪者?」

 

 訝しむシルに内心で笑うカロン。カロンはリューが何を言い出すか楽しみにして傍観することに決める。

 

 「そうです!私は正義のファミリアです。私は今危険な犯罪者を追ってるんです!」

 

 どこまでもドツボに嵌まる予感しかしないリュー。

 

 「犯罪者って相手は何をしたの?どこにいるの?」

 

 シルの疑問。

 

 「そ、そうですね………。」

 

 目が激しく泳ぐリュー、背中で冷や汗を流す。最初から正直に言えばいいのに。

 

 「それは………。」

 

 「それは………?」

 

 ーー闇派閥か?いや、大事になりすぎる。軽犯罪にするべきか?イケニエは?しかし誰かに濡れ衣を被せるわけには!どうすれば?都合のいい存在は?私は友達を失いたくない!どうやったらごまかせるーーー?

 

 「ヘ………。」

 

 「ヘ………?」

 

 「ヘスティア様が………万引きを………。」

 

 ついに正義の味方に濡れ衣を着せられるヘスティア、大笑いするカロン、戸惑うシル、正義もへったくれもないリュー。

 

 「………まあ待て、今のはリュー式の冗談だ。」

 

 一通り笑い終えてフォローするカロン、しかしマッチポンプである。

 

 「冗談?」

 

 「ああ、実は俺達のファミリアにリリルカという若い女性がいるだろ?俺達は心配性で変な男に引っ掛かったりしないかついついつけてきてしまったんだ。リリルカはしっかり者だと分かってても年が離れているからつい親のように心配してしまったんだ。まあ事実ストーカーなんだが二度としないから大目に見てくれないか?」

 

 「ああ、なるほど。」

 

 すんなり事を納めるカロン、へこむリュー。

 

 「なぜさっさとそう言ってくれないんですか?」

 

 「お前のコミュ力の底上げのためだ。」

 

 「ふーん、じゃあ二人は今から何するの?」

 

 シルの疑問。

 

 「特に決まっていませんよ。」

 

 答えるリュー、なんか嫌な予感を感じとるカロン。

 

 「いや、今からダンジョンに向かうところだ。鍛練する予定だ。」

 

 「?そうでしたっけ。」

 

 「忘れたのかリュー?このおとぼけさんが!」

 

 カロンは逃走を試みる。カロンはシルがあまり得意ではない。

 シルは勘良くカロンの嘘を見破る。突如ニヤニヤするシル、カロンは嫌な予感が実現しそうな事を理解する。

 

 「リューはカロンさんとデートしてたんだね。ゴメンね邪魔しちゃって。」

 

 そういいながらニヤつくシル、どこかヘ行きそうな気配はない。

 

 「シル、デートではありません。」

 

 意外と冷静に返すリュー。リューは友人に対する対応だけはしっかり出来る。さすがにそこまではこじらせていない。

 

 「俺は今から行くところがあるから。」

 

 やむなく単体で逃げを打とうとするカロン。

 

 「リュー、でもリューはダンジョンにカロンさんとよく二人で潜ってるでしょ?今更二人で出かけても大した抵抗はないんじゃないの?」

 

 「しかしデートと言われるのは抵抗があります。」

 

 カロンはしれっといなくなろうとする、しかしシルに腕を捕まれる。

 

 「カロンさん、帰らないで下さい。」

 

 「行くところがあるから離してくれ。」

 

 「嫌です。無理に帰ろうとしたら叫びます。」

 

 「うーんお前はなんでいつでもそんなに面倒な人間なんだ?」

 

 「カロンさんは分かってませんね。女は面倒を楽しむのが定説ですよ?リューはあまりそういうところがないからカロンさんと合ってるのかも知れませんね。」

 

 「俺が無理に付き合わされる義理はないだろう?」

 

 「いい男は女の我が儘をある程度許容する義務があります。諦めて下さい。」

 

 「別にそういうのはいらんから離してくれ。」

 

 公衆で引っ張り合うカロンとシル、リューはおいて行かれ何となく切ない。

 

 「離せ!」

 

 「諦めてください!」

 

 目的もへったくれもない意地の張り合い、何となく嫌な予感がするカロンと何となく逃がしたくないシルの謎の戦いが始まる。

 

 「はーなーせ!」

 

 「あっ、カロンさん!高レベル冒険者が一般人に力ずくですか?」

 

 大声で人聞きの悪いことを言い出すシル、脅されるカロン、なんだか切ないリュー、戦いは新たなる局面を迎える。

 

 「待て、わかったから大声を出すな!逃げないから!」

 

 しかしシルは信用しない。腕を捕まれたまま脅される。ここは大勢の人前であり、シルは彼らを味方につけにかかる。

 

 「逃げたらカロンさんに暴力を振るわれたことを言い触らしますよ!」

 

 「いや、振るっとらんだろう?」

 

 「ほら、ここ見てください!赤くなってる!」

 

 「それどう見ても虫刺されだろうが!」

 

 「あの………。」

 

 「うん、どうしたリュー?」

 

 「どうしたのリュー?」

 

 「私はどうすればいいのでしょうか?」

 

 「リュー、カロンさんと今日はデートすればいいんだよ。」

 

 「デートですか?」

 

 「脈絡がないだろう!」

 

 「リューはカロンさんと長く一緒にダンジョン探索してきたんでしょ?たまには町で二人でもいいんじゃない?」

 

 「町で………ですか?」

 

 「無理に断るもんでもないがそれより他にしたいことがある。」

 

 「「な゛っっ!!」」

 

 真正面から女の沽券を切り捨てるようなことを言うカロンに二人は絶句する。他にしたいこと?どう考えても言い訳である。

 

 「カ、カロンさん大丈夫ですか?リューですよ?男だったら誰でもデートしたくなるほど美人ですよ?男として大丈夫ですか?」

 

 心配するシル。

 

 「わ、私には女の魅力がないとでもーーー

 

 落ち込む面倒なリュー。あくまでカロンにとってはの話である。

 

 「なあ、帰してはくれんのか?」

 

 ぶれないカロン。

 

 「いやいや、カロンさん?男として大丈夫ですか?」

 

 シルの再びの質問。

 

 「大丈夫だな。もう帰してくれないか?」

 

 「なぜそんなに帰りたがるんですか?」

 

 「お前が苦手だからだよ。お前といるとろくなことにならない気がするからだ。」

 

 真正面から暴言を吐くカロン。

 

 「ひ、ひどいです。」

 

 泣きまねのシル。誰でも一目で見破るクオリティーの低さ。

 

 「私には魅力が………。」

 

 未だに衝撃を受けるリュー。

 

 「シル、何やってんだい?」

 

 なぜか突然登場するミア。

 

 「母さんか、どうしたんだ?」

 

 カロンはミアのことを母さんと呼んでいた。

 シルはみるみる縮こまる。

 

 「いやね、シルに仕事中の買い出しを頼んだんだけど帰って来ないからさ、様子を見に来たんだよ。というわけでアンタ、迷惑かけたね。」

 

 「助かったよ。連れ帰ってくれ。というかお前は仕事中に何しとるんだ?」

 

 嵐が去り一息つくカロン、首根っこをミアに捕まれ連れていかれるシル、未だに落ち込むリュー。

 

 「さて、面倒は去ったしもう帰るか?」

 

 「カロン、私には魅力がないとでも言うのですか?」

 

 「いや、そうは言わない。お前はそれはもう魅力に溢れてるよ。それよりもう帰ってもいいか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地アストレア私室。アストレアとリューがいる。アストレアお悩み相談室である。

 

 「アストレア様、私には女性としての魅力がないのでしょうか?」

 

 「どうしたのリュー、突然?」

 

 「今日カロンに雑に扱われてしまったんです。」

 

 「あなた本当に変わったわね。以前なら女性の魅力とかあまり気にする人間じゃなかったわ。」

 

 「そうでしたか?」

 

 「ええそうよ。」

 

 「私は………成長しているということでしょうか?」

 

 「私にはわからないわ。もしかしたら適応しているのかも知れない。」

 

 「適応ですか?」

 

 「環境が変わったと言うことなんじゃないかしら?生き物は適応するものよ。」

 

 「なるほど。」

 

 「でもカロンは皆に変人と呼ばれていたわね。リューは変人に適応したと言うことなのかしら?やはりリューも変人になってしまったということなのかしら?なんか思い当たる節もあるわね。」

 

 「アストレア様!あなたは最近毒を吐きすぎです!あなたが一番カロンに適応していませんか!?」




カロンがこんなに冷淡なのは普段そこそこ一緒に居るためデート等と言われても今更感があるからです。


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時系列無視ここに極まれり!

 ここはフレイヤ本拠地、見つめ合う二人の愛らしいケモノ達。

 

 「おい、オッタル。聞いたか?イシュタルんところが何やら怪しげな動きをしているようだぜ!?」

 

 彼はアレン。フレイヤファミリアの高レベル冒険者。誰か(作者)はあまり彼がどういうキャラなのか理解していなかった。

 向かい合うはオッタル。そう、みんな大好きオッタルさんである。

 

 「………聞いている。」

 

 「俺達はどうすんだ?」

 

 「関係ない。いつもの通りフレイヤ様をお守りするだけだ。」

 

 「まあそうなんだよな。ところでお前はあの不死身をどう考えてんだ?」

 

 「………どういう意味だ?」

 

 「わかってんだろ。フレイヤ様のことだ。フレイヤ様があいつを見る目がおかしいのは近くにいるお前も気づいてるんだろ?」

 

 「………フレイヤ様の愛は平等だ。」

 

 「やはりわかってんじゃねえか。俺は愛がどうこうとは言ってねぇぜ?フレイヤ様があいつを見る目には色々な感情が乗っかっている。悲しみ、怒り、切なさ………。」

 

 「………それ以上言うべきではない。」

 

 「………チッ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 今日はある夏の日。夏の真っ盛り。蝉がわんわん鳴いている。五月蝿い。さすがの俺も蝉にワクワクするお年頃ではない。ヒグラシだったらちょっと危ないが。

 ともかくあの悼ましい事件からじきに二年が経とうとしていた。

 俺達の眷属はまた少し増えそうだ。近くに面接を行うことにしている。リリルカのランクアップがいい評判を生んだのかもしれない。

 リリルカはランクアップした体を馴らすための鍛練に、リューは新人の実地指導のために出かけていてた。

 俺は今日はお休みだ。お休みはモチベーションを保つために必要なのだ。ホームですることのないアストレア、ヘスティア、ミーシェを連れてオラリオ散策を行っていた。ハーレム?聞こえない。

 

 「やはりこうやって見るとバベルは大きいものだね。」

 

 世間知らずのヘスティア。お前以前に住んでた所だろうが。

 

 「団長、せっかく三人も女性を連れ回してるんですから何か買ってください。」

 

 「おいおい、お前俺の金の無さを知っているだろう?むしろおごってくれよ。」

 

 俺はあのあとも精力的にファミリア訪問を続けていた。四柱合併はいつでもゴーサインを出せるがより強力な衝撃を出すために他にも参入者がいないか模索している状況だ。

 ミアハ買収、リリルカ祝賀会、他ファミリア訪問のために金が金庫にないことも合併を見送っている要因だ。なにせお披露目会を開ける予算がない。金がマジでない。俺にむしろおごれ。蝉でも捕まえて売れないかな?

 俺はそんな情けないことを考えながらノンビリ町を歩いていた。

 

 ◇◇◇

 

 夕方に三人と別れた俺は町の広場で考え事をしていた。

 

 ーーイシュタルをどうするか?

 

 俺は敢えてイシュタル訪問を行っていない。その理由は俺達がフレイヤと懇意にしていることだ。

 

 ーーしかし、今なら絵に書いた餅ではない。

 

 少なくとも以前であれば、零細でフレイヤの息がかかった俺達をイシュタルが真っ当に扱うとは思えなかった。

 

 ーーだが今は?あるいは合併後に訪問を行うべきか?しかし何の目処も立たない。仲間は俺が歓楽街に行ったと聞けばいい気はしないだろう。しかし今は誰もいない………。相手が襲ってきたりする可能性は?フレイヤの同盟は抑止になるのか?話しもせずに諦めるべきなのか?

 

 散々に迷った俺はイシュタルの様子見をしてみることにした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ゲゲゲゲゲッ、不死身か。あんた物騒な二ツ名の癖にずいぶんいい男じゃねぇか。」

 

 フリュネ・ジャミール。アマゾネスの大女、人間というには疑わしい容貌をしている。イシュタルのレベル5、二つ名は男殺し。俺より格上だ。俺は歓楽街でこいつに出くわした。下手をうったと言えるだろう。

 

 「ただの散歩だよ。よく俺の顔を知っていたな。」

 

 「アンタの顔を知らない奴はいないよ。アンタはこの町1番の変人で有名さ。何だい?今日は欲求不満かい?あのエルフじゃ不満なのかい?アタシが相手してやるよ。」

 

 「ただの散歩だって言っただろ。近寄んなよ。」

 

 男殺しは笑いながらよって来る。

 

 ーー面倒な奴に出くわしてしまったな………。

 

 俺はきびすを返す。しかし俺は男殺しに袖を捕まれた。

 

 「そういうなよ。フレイヤの息がかかった人間が黙って帰れるわけねぇだろ?アタシのお相手をしてくれたら黙ってやるよ。」

 

 「お断りだ。」

 

 俺は袖を払う。二人の間に緊張感が漂う。

 

 「アンタアタシより低レベルだろう?アタシとやろうってのかい?」

 

 「ただで白旗を上げる気はないなあ。俺だって全く死線をくぐり抜けていないわけじゃないぜ?」

 

 「団長、やめてください!」

 

 男殺しに近づく他のイシュタル団員達。彼女たちは必死の形相で男殺しを制止する。

 

 「………チッ。」

 

 フリュネがきびすを返す。イシュタルファミリアは近々フレイヤを襲うつもりだったため見逃すことにした。普段は主神の言うことを聞かないフリュネだがイシュタルの厳命とフレイヤ襲撃間近による団員の制止に取り敢えず矛を収める。

 戦いで負けるつもりはない。しかしカロンは実は意外と恐れられている。オラリオで顔の広いこの男は、ベートとの共闘やフィンやアイズと懇意にしていることでロキと繋がっているのではないかと疑われている。現時点でアストレアと揉めてフレイヤだけでなくロキまでもが出てくる可能性がある上に、最悪先々で気付いたらアストレアを挟んでロキとフレイヤが繋がっているなどというどうにもならない事態に陥りかねない。イシュタルが事を急いた理由だった。

 アストレアファミリア自身も4と5のペアで有名だ。さらにカロン達にはレベル5を三人も返り討ちにした噂が流れている。レベル5はフリュネと同レベルだ。

 フレイヤファミリアに関しては奇襲で討ち取る。それにしてもフレイヤファミリアだけでも勝ちきる保障はない。他を相手取る余裕はない。特に最悪ロキが相手に回るカロンなどは。それがイシュタルファミリア全体の考えであった。

 

 

 ◇◇◇

 

 俺は団長室に入って考え事をしていた。

 

 ーーやはりおかしい。どういうことだ?何故俺は見逃された?奴の方が高レベル、しつこさで有名なやつだ。イシュタルの団員にしても制止する理由があったのか?俺の後ろにロキがついているとでも考えているのか?しかしフリュネ個人で来ればファミリアではなく個人の話としてケリをつけられないか?男女の痴情の縺れだと。あそこは奴らの本拠地でもある。無理か?しっくりこねぇな。判断がつきづらい。

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 「団長、失礼します。」

 

 「ああ、ミーシェか。」

 

 「もうすぐお食事が出来上がります。」

 

 「ああ、今日の当番はお前か。ところでお前に聞いてみたいことがあるんだが?」

 

 「何でしょうか?」

 

 「お前が相手より強いとして、お前が敵を逃がす理由にどういうものを思いつく?」

 

 「あたしは戦いませんよ?」

 

 「質問を変えよう。いや、待てよ………。」

 

 質問をしようとして突如カロンの脳内に衝撃が走る。

 

 「ミーシェ、俺は考えることができた。しばらく団長室には誰も通さないでくれ。」




今更ですがミーシェさんはオリキャラです。ミィシャさんとは別人です。名前が紛らわしいので念のため。


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思うままに

 アストレア団長室。カロンは瞑目して一人で思索する。

 

 ーー行動をキャンセルする理由はいつだってシンプルだ。より上位の必要性を持つ行動を起こすとき。つまり俺に付き纏うより大切な行動がありその行動のために俺と戦うのが不都合だったということか?不自然な理由ではない。

 

 ーー他に可能性は?シンプルにロキを恐れた可能性………。低いな。フリュネは衝動的な人間だと聞いている。衝動的な人間は気にしないだろう。あいつが行動を起こさなかったのは上位の存在………イシュタルに厳命されていたからという可能性が高い。しかしイシュタルの厳命だけでは止められないとも聞いている。あらゆる要素で抑止があったということか?あらゆる要素で抑止があったなら今のイシュタルファミリアは火薬庫だという事なのか?イシュタルファミリアの内情が止める要素となった可能性は確定事項として取り扱う。次はならばイシュタルが止めていた理由………フリュネが怪我すると困るということか?あるいは敵を増やすのが不都合ということか?

 

 カロンの灰色の脳細胞は加速している。ギャグを書けない誰かは虫の息である。

 

 ーーイシュタルはいつでも敵が多い。しかし今である理由は?なんらかのアクションを?遠征前?時期をずらせばいいんじゃないか?フリュネは団長でイシュタルファミリアの遠征に関しては権限を持っている。まさか戦争遊戯か?しかしそれであっていたとして今である理由は?待て、時期の理由は置いておこう。俺が知らない情報がある可能性がある。ならば戦争遊戯だとしたらどこを相手取る?奴らの目の敵はフレイヤだ。しかしまず勝てないだろう。時期の理由もここいらにあるのか?そもそも戦争遊戯でなくて強襲か?フレイヤに聞くのが一番手っ取り早そうだな。取り敢えずその方針にするか。明日面会を行おう。

 

 「ミーシェ、いるか?」

 

 「ハイハイ、どうしました団長?」

 

 部屋に入るミーシェ。

 

 「明日フレイヤと面会を行いたい。先方へのアポイントメントを頼む。」

 

 「了解しました。」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バベル最上階。向かい合う俺とフレイヤ。

 

 「いらっしゃい。今日はどうしたの?久しぶりにあの子達の様子を見に来たの?元気にしているわ。」

 

 「スマン、今日の用事はそれじゃない。イシュタルの様子がどうにも気になってな。」

 

 目を細めるフレイヤ。

 

 「どこでそのことを聞いたの?」

 

 「当たってたのか?歓楽街でフリュネに出くわしてな。様子に違和感を感じただけだ。」

 

 「………それだけで?まあいいわ。正直にいうと私たちもイシュタルが何かの行動を起こすと考えているわ。具体的には襲撃の可能性。」

 

 「あなたらをか。この時期なのは?」

 

 「それは私にもわからないわ。」

 

 「具体的な日付は?」

 

 「そこまでは正確にはわかってないわ。次の満月辺りが怪しいと踏んでいるのだけど。」

 

 「そうか、情報を感謝する。助勢は?」

 

 フレイヤは妖艶に笑う。

 

 「いらないわ。あなた私が誰だか知っているでしょ。」

 

 「まあそうだろうな。しかしそれでも言わせてくれ。俺はあなたに感謝しているし恩を感じている。不敬な言い方になるかもしれないが死人には恩が返せないだろ?」

 

 「あなたねぇ、万一にも私が敗れると思ってるの?」

 

 フレイヤのジト目。さすがのフレイヤは何をしてもサマになる。

 

 「ダンジョンでは油断した奴から命を落としていく。」

 

 「私は油断するつもりはないしここはオラリオよ。まったく。」

 

 「まあそうだな。ところであなたは俺達にとってほしい行動とかはないのか?おかしな命令でなければだいたいは聞けるぞ?」

 

 「ならばあなたがフレイヤファミリアにーーー

 

 「ないな。それは有り得ん。」

 

 「ならなにもないわよ。」

 

 すねた表情のフレイヤ。

 

 「わかった。情報と面会に感謝する。」

 

 俺はそう伝え席を立つ。彼女はその背中に声をかける。

 

 「あなたはあなたの思うままになさい。あなたは自由なのが一番美しいわ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレア本拠地応接間。夕飯が終わって俺は全部で11人のファミリア関係者(アストレア、ヘスティア、リュー、リリルカ、俺、ミーシェ、新人5人)を呼び出していた。

 

 「個人のツテでおかしな情報が入った。イシュタルの動きがきな臭いとのことだ。十分に注意してくれ。特に満月の日は要注意だ。歓楽街からしばらくの間距離をとれ。」

 

 俺はそれを新人とミーシェに伝えて帰した。戦闘力の低い奴らは関わるべきではないという判断だ。超絶チートな脳を持つリリルカは意見を聞くためにこの場に残した。

 

 「さて、ここからが本題だ。俺達の採るべき行動を決める会議を行う。」

 

 俺が切り出す。

 

 「アストレアの正義に則り民間の被害を抑えるべきです。」

 

 リューの意見。

 

 「そうだな。その前に戦争前になんらかの手を打つかの検討をしよう。そもそも止めるべきだと思うか?」

 

 「私としては………そうね。正義を考えるならまずオラリオ住民の安全確保から確実にさせるべきではない?そのためには住民に対する警告が必要だわ。」

 

 アストレアの意見。

 

 「情報の共有か。可能な限り拡散させるべきだろうな。」

 

 「そうだね。ボク達の仲間を傷つけたくはないしね。」

 

 珍しくまともなことをいうヘスティア。

 

 「イシュタル様ということはフレイヤ様が標的ということでしょうか?」

 

 リリルカはさすがの鋭い指摘。

 

 「そのようだ。実行予想日まであと一週間。情報の拡散はガネーシャに依頼するとしてあとは付近の住民の避難か。」

 

 カロンのスキルにリリルカと神酒が続いてついにガネーシャにもチート疑惑がかかる。何でも任せ過ぎである。

 

 「止めるべきだと思いますか?」

 

 リューは全体意思の確認を行う。

 

 「まあ戦争がしょっちゅう起こるようじゃ住みよいオラリオとはいえんだろうからなぁ。」

 

 「フレイヤは何て言ってたのかしら?」

 

 アストレアの疑問。

 

 「望むままにしろと言われたよ。まったくあいついい女ぶりやがって。」

 

 笑うカロンに白い目を向ける女性陣。もうハーレムのタグつけようかな。

 

 「あなたの思うままに、ですか。そうですね。最初から私たちはずっとそうだった。どうしますか、団長?」

 

 これはリューだ。

 

 「お前は普段俺のことを団長とは呼ばん癖に。………そうだな。それだったら取り敢えず思いきってイシュタルのところに乗り込んでみるか?」



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脅迫外交

 ここは女主の神娼殿。イシュタル本拠地。イシュタルは眷属の一人より報告を受けていた。

 

 「イシュタル様、アストレアファミリアより面会の話を受けています。」

 

 「面会?どういうことだ?」

 

 「わかりません。向こうは持参品として神酒を奉納する用意があるとのことです。」

 

 イシュタルは考える。

 

 ーーどういうことだ?奴らはフレイヤの盟友だ。しかし私らに突っ掛かれるほどの力は持たない。はずだ。フレイヤの策略か?この時期ということに何か意味が?わからん。どうすべきだ?危険は?魅了を使えば問題ない、か。

 

 「わかった。時間と場所の指定を伝えろ。」

 

 イシュタルは知らない。カロンの白いチートスキルを。やはりチートタグは必要だろうか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地。会談の時間は近づいていた。

 

 「これからイシュタルと会合を行う。相手は神経を尖らせているはずだ。緊張感を持っていけ。こちらはリューとリリルカを連れていく。リリルカは最悪の時は空を飛んで逃げろ。逃走先は理解しているな?」

 

 「フレイヤ様の下ということでよろしいでしょうか?」

 

 「よし、わかってるようだな。リュー、お前はリリルカの安全確保に留意しろ。」

 

 「わかりました。アストレア様は連れていかないのですか?」

 

 「ああ。なぜだ?」

 

 「神との会合には神が必要なのでは?」

 

 今更の疑問。

 

 「俺はいつも単体で会いに行ってるぞ?」

 

 「そうでしたね。それでは参りましょうか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは女主の神娼殿、応接間。集まったのは六人。

 

 「イシュタル様、面会を感謝する。」

 

 イシュタルはこちらを物珍しそうに見ている。向こうはイシュタル、あとは俺の知らない眷属二人。男殺しは話し合いにむかんだろうしな。

 

 「私に用事とは一体何だ?」

 

 「まあ先に取り敢えずこれが持参品だ。」

 

 神酒を渡すカロン。ソーマはアストレアの社畜化しているのではないか?

 

 「ああ、いただこう。それで話とは何だ?」

 

 切り出しに少し迷うカロン。相手を揺さぶるためにいきなり懐に入り込むことを決める。

 

 「………あなたはフレイヤを超えることを目的にしているな?もし俺達にその手段があるとしたらどうする?」

 

 「おい、何を言っている?お前は奴らの狗だろうが!」

 

 いきなり理解不能なことを言い出すカロンにイシュタルは訝しむ。

 

 「しかしあなたはこのまま突っ掛かっても死ぬだけだぞ?俺にはあなたがフレイヤを超える手段を提供できるが?」

 

 「ふざけるな!!」

 

 笑うカロン。

 

 「ふざけてないよ。」

 

 「お前何がおかしいんだ!?」

 

 ここで早くも腹をくくるカロン。さらにつっこむことを決める。

 

 「フレイヤは喉から手が出るほど俺を欲しがっているぞ?それに俺はお前に勝利の確約ができる。イシュタル、お前は勝ちたければ俺達について来い。道はここにある。」

 

 フレイヤ相手の勝利の確約。出来るわけがない!神の嘘を見破る能力を使わずともそれくらいはわかる。

 しかしイシュタルは自分の気持ちが理解ができない。怒るべきだと理性が叫ぶが勝利の甘言にわずかに心を引きずられる。

 

 ーー魅了を使うか?

 

 フレイヤがカロンを望んでいるのが事実ならここで魅了するのは一つの手だ。実行するイシュタル。

 

 ーー効いてない!?馬鹿な!?

 

 効いている様子がない。

 

 「イシュタル、説明だけでも聞いてみないか?資料を用意している。」

 

 「あ、ああ。」

 

 急激に分が悪くなったのを悟る。今この場にいるのは冒険者達。最低で2レベルのリリルカだ。暴れて真っ先に死ぬのはイシュタルだ。魅了頼みのツケがまわる。

 イシュタルの眷属達は困惑するイシュタルの様子を見て自分たちの採るべき行動に迷う。

 

 ーー神威を解放するか?こんなところで?フレイヤと相対しているわけでもないのにこんなところでか?そもそも魅了のきかないこいつに効果があるのか?話し合いを聞いてからでも遅くはない、か?どうするべきだ?

 

 イシュタルが迷っている間に説明は進んでいく。

 

 「それでは説明を行う。イシュタル、お前がフレイヤを超える手段とはアストレア連合の中枢にはいりこむことだ。」

 

 ーー連合?何の話だ?

 

 「連合構想とはアストレアファミリアを中心とした複数のファミリアが強固な関係を持つことだ。参入が決定していないお前らには現時点で詳細は伝えられない。すでに四柱の神が合意しているとだけ伝えておく。お前が来れば五柱だな。俺達はいずれオラリオを支配することを目的としている。」

 

 笑うカロン。嘘は着いていない。少しだけ言い方を過激にしただけだ。

 

 「俺達がオラリオを支配したらお前らは同盟の最初期加入者だ。そうすればいずれはオラリオでフレイヤ以上の地位を得られる。みんなの敬意を得られるぜ?考える余地もないと思うが?」

 

 ここに来てカロンが取った手段、それは問題を先送りし、その間に問題の解決あるいは解消を行うことだった。

 

 ーー少し苦しいか?

 

 カロンは様子をみる。畳みかけるか時間を置くか。そしてギャグの割り込む余地は?さて反応は?

 イシュタルは黙っている。

 カロンはさらなる札をきる。カロンは笑う。

 

 「お前俺を魅了しようとしただろ。無駄だぜ?お前にできるのは連合に加入してフレイヤを超えるか集団で地獄へ向かうかだ。お前は天界には帰れなくなるかもしれないぜ?」

 

 ハッタリをかますカロン。魅了に関しては何もわからないが自分のスキルが魅了を跳ね退けることだけは知っている。カロンは先程イシュタルが動揺していたところを見ていた。

 さらに重ねるのは嘘と紙一重の妄言。帰れなくなるとは言ってない。かもだ。

 

 そしてイシュタルは精神を揺さぶられる。カロンが強力なレアスキル持ちなのは皆知っている。まさか天界に帰れなくなるものが?そんなものが存在するのか?

 イシュタル眷属達は不敬な言葉に愕然とする。

 

 カロンはさらに畳みかける。交渉という名の脅迫だ。

 

 「リリルカ、フレイヤファミリアの戦力図を出せ。」

 

 「こちらでございます。」

 

 ギルドで公表される冒険者レベル。リリルカがそれを調べてここ五年の分をデータリングしたものを渡す。イシュタルにも記憶にある名前が並んでいる。

 

 「これがフレイヤファミリア冒険者レベル分布図だ。勝てるかい?」

 

 イシュタルは現実を真っ向から突きつけられる。ここでカロンはさらなる脅迫を行う。

 

 「俺達四柱の神の所属するアストレア連合もフレイヤの同盟者だしな。お前ら俺がロキやガネーシャとも仲がいいの知ってるだろ?」

 

 カロンの恐ろしさ。だからどうするとは言わない。実際にはガネーシャもロキも動かせる目算などない。せいぜいアストレア連合くらいで、アストレア連合も現時点ではまだ成立していない。四柱いても弱小の寄せ集め。強力なのはカロンとリューくらいである。しかし仲がいいことはもちろん嘘ではない。

 

 「なぁ、イシュタル。フレイヤ悔しがるぜ。お前の立場が上になって俺とお前の仲が良くなるんだからさ。だからこいよ。勝利はここにある。手を伸ばせば掴めるんだぜ。」

 




イシュタルの眷属はアイシャとタンムズです。


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神と悪魔の契約

 結局イシュタルは話を持ち帰った。保留である。あの場で決裂して戦いになればイシュタルは高確率で天界に送還される。その場で断るには気になる点もある。承諾するにはイシュタル自身が短絡的過ぎる。イシュタルは判断が難しいと考え、時間を置くことにした。

 

 ーーしかし、どうすべきか………まずはアストレアの内情の下取りか?だがフレイヤ襲撃予定日まで時間がない。もう一度話を聞くべきか?いや。………そもそもフレイヤが欲しがっているという話は………極めて信憑性が高いと言えるだろう。なにせ同盟を許すくらいだ。しかしそれならなぜフレイヤを超えろなどと………やはり話をもう一度聞くべきか?詳しい説明を聞かないと相手の話が何なのかわからないしな。

 

 「おい、明日もアストレアの奴らと会合を行う。お前らキチンと時間に遅れないようにしろよ!」

 

 そしてカロンのさらなる恐ろしさを味わうことになる。

 

 ◇◇◇

 

 「イシュタル、再びの面会感謝する。」

 

 会合の翌日、女主の神娼殿での話である。今日も今日とて同じメンツだ。

 

 「………お前はなぜ私を呼び捨てる?」

 

 「お前が俺達の盟友になったら俺達が盟主だ。他人の顔色を伺って怯えるような奴に行き先をまかせられんだろ?」

 

 どこまでもふてぶてしく笑うカロン。

 

 「お前達は何を考えてるんだ?なぜフレイヤを売り渡す?」

 

 「売り渡しているわけじゃないぜ?んーそうだな。例えばお前の大切なものは自分の小さなプライドだろ?」

 

 「何だと!?」

 

 「違うというのか?勝ち目のない相手に玉砕しようとしてるのに?」

 

 「………っ!」

 

 「俺達にはフレイヤより少しだけ大切なものがあるんだよ。」

 

 これはカロンのごまかしである。カロンはイシュタルには伝えてないことがある。それはフレイヤに対して敵対しないという連合のスタンスだ。しかし嘘でない部分もある。神に嘘は通じない。薄氷の交渉だ。

 まず第一にフレイヤより大切なものがあること自体は事実。しかしそれはフレイヤを売り渡す理由とは関係ない。カロンはイシュタルのなぜフレイヤを売り渡すのかという質問に対して売り渡しているわけじゃないぜと答えている。そこにも嘘はない。カロンは間に相手の気を引く会話を挟むことで大切のもののためにフレイヤを売り渡したと勘違いさせているのだ。しかしカロンはそう答えたわけではない。カロンに大切なものがある話とフレイヤを売る理由はまるで別の話なのだ。

 

 「大切なものとは何だ?」

 

 「連合構想だよ。」

 

 これまた適当。フレイヤより大切なものとは言っていない。ただの大切なものだ。ただ互いの認識がズレているのだ。イシュタルはフレイヤより大切なものを聞いていると認識してカロンはただ大切なものを聞かれていると認識する。

 

 カロンの恐ろしさ、それは敵の急所をえぐるために手段を選ぶ局面とそうでない局面を自身の意志で選ぶ覇王の才覚。カロンは毒に為りうるイシュタルという存在を飲み込む選択を平気で行おうとしている。内輪に不協和音を齎しかねない汚れと為りうる相手でも上手く扱い飲み込む覇王の才能である。

 

 そしてそのための手段として一つの試みが花を開かせる。カロンはかつて他神との交渉に挑む際に有利な交渉をするために一つの手を打っていた。それは神の嘘を見抜く能力の分析である。彼はそれをアストレアに手伝ってもらっていた。

 

 神の嘘を見抜く能力は万能なのか?その答えはノーである。

 実例として、アストレアの悪夢でファミリアが全滅したときにアストレアに無事に帰る約束をしてカロン達は出かけていた。嘘を見抜く能力が真に万能ならばアストレアはとめるはずである。しかし彼らをアストレアは止めることはせず、結果彼らはほぼ全滅した。

 未来のことはわからない?それこそ万能でない証拠である。

 カロンはこの事例をもってしても、嘘を見抜く能力にはなんらかのメカニズムがあり、穴があるものであると確信していた。

 

 その結果、質問に対し本人が嘘をついたと認識をすれば神は見破る。

 先の質問に関していえば、大切なものを聞いているのであって、フレイヤより大切なものを聞いているわけではない。しかし大概の場合、人間はフレイヤより大切なものを聞かれていると話の流れで認識する。ここで大切なのは質問がただ大切なものを聞かれているだけだとそうはっきり認識することだ。そうすれば嘘でないと理屈がつく。

 

 「連合構想だと?なぜだ?」

 

 「お前らも一緒だろ?金が欲しいだけさ。」

 

 どんどん出まかせを言うカロン。金が欲しいのは事実で連合構想で金が入るのも事実。嘘ではない。ただイシュタルの望む答えではないだけで。

 

 「つまり金が欲しくてフレイヤを売り渡したということか?」

 

 「うんそうだな。その通りさ。」

 

 これまた嘘ではない嘘。誰にと言ってないし売り渡すことがどういうことかも言っていない。つい先日イシュタルにフレイヤファミリアの冒険者戦力表を売り渡している。その結果にイシュタルが奇襲をやめて連合に入れば連合の懐は潤う。内心で笑いながら舌を出すカロン。

 

 少し考えるイシュタル。金が原因というのは納得ができる。金が欲しいから将来フレイヤを売り渡す。娼館を経営するイシュタルにはあまりに納得行く理由だ。

 加えて先日見た資料、ちらつく彼我の絶望的戦力差。挙げ句の果てにカロンがここに居ることは襲撃が既にフレイヤにばれているのは確定事項といえる。

 さらにカロンの悪役敵態度。正義のファミリアを思わず忘れるほどの。

 様々に思考を巡らすイシュタルは気づいたら共犯者と話している気分になっていた。

 

 「………つまりお前は連合に入れば将来的にフレイヤを売り渡すと確約してるんだな?」

 

 「だからさっきから言ってるだろ?俺はお前達の望みを叶えると。」

 

 徹頭徹尾偽りで固めた会合、イシュタルは契約相手が悪魔と気付かない。

 確約していない!イシュタル達の望みとは?フレイヤを渡すことだけではない。金だって欲しいし地位だって欲しい。イシュタル達にはいくらでも望みがある。連合で得られるいずれかの利益がたぶんイシュタルの望みの何かと重なるはずだ!

 カロンはわらう。悪魔の契約書にはいつだって毒が塗り込まれている。契約書を隅々まで読まなければ魂を取られるのは当たり前なのだ。

 それが例え神であろうとも。

 

 イシュタルとカロンは握手をして別れる。

 

 ◇◇◇

 

 「カロン様、さすがの悪魔の交渉ですね。リリはドン引きです。」

 

 「リューもドン引きです。」

 

 必殺のダブルジト目、ゴミを見るバージョン。あとリリルカのまねするリューはかわいいと思います。

 彼女達はボロを出さないよう黙っておくことをカロンに指示されていた。

 

 「おいおい、そういうなよ。連合は大きくなるしイシュタル達は命が助かるしいいことづくめじゃないか?」

 

 カロンお得意の超理論がここぞとばかりに火を噴く。

 

 「それにしてもですねぇ………。」

 

 渋面のリリルカ。

 

 「イシュタルに他に大事なものができるかもしれないし実際に地位に満足するかもしれない。もしかしたらフレイヤとの確執がどうでもよくなるかも知れない。終わりよければすべてよしさ。時間をもらえるのならいずれきちんとイシュタルも納得行く形に落として見せるさ。」



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圧倒的御都合展開

 「教えてくれ、俺はどうすればいいんだ!!」

 

 「………俺にはできるのはあなたの道を作り出すことだけだ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 イシュタルの連合参入が決まってから、俺は頻繁に歓楽街を訪れた。イシュタルが暴発する確率を懸念しての視察だ。それとイシュタルファミリアとの相互理解を重ねる目的もある。キチンとした目的があるにも関わらず女性陣にはやっぱりゴミを見る目で見られた。甚だ遺憾である。

 

 「なあ、お前はなぜ毎日のように話に来るんだ?」

 

 「愛しのイシュタルの顔を見に来ただけさ。」

 

 相変わらず適当さがとどまるところを知らないカロン節。

 

 「お前なあ、嘘がわからんわけないの知っておろうが。」

 

 呆れるイシュタル。

 

 「しかし愛は時間をかけて育んだものの方が強いぞ?愛の神なら知ってるだろ?今はまだ互いの愛を育む時期さ。」

 

 「つくづく何なんだお前は!?何か騙されている気がして来たのだが………。」

 

 「しかしお前ら神は子供達の嘘を見抜くだろ?」

 

 いけしゃあしゃあとカロン。困惑顔のイシュタル。

 

 「大丈夫だよイシュタル。愛のない結婚でも、長く時間を共にして苦でないならどうにかなるものさ。」

 

 ◇◇◇

 

 「春姫はサンジョウノ・春姫と申します。」

 

 「ふーん、そうか。」

 

 狐人との対面。イシュタルを歓楽街を連れ回して案内させていたら見かけた。彼女の年齢の若さが気になりカロンは話しかけてみた。

 

 「なあ、イシュタル。こいつも娼婦にするのか?」

 

 「ああ、その通りだよ。」

 

 「しかしそれにしては少し若すぎないか?」

 

 「お前には関係ない。」

 

 「そうでもないぞ。俺達は連合内での改宗に融通を効かせるつもりだ。俺達のところからお前のところに行く人間が出るかも知れんし逆も有りうる。」

 

 「………初耳だぞ?」

 

 「適材適所は連合の利点だろう?こないだの説明会でリリルカが説明したはずだが?規約として書類も渡したはずだろ?」

 

 そっぽを向くイシュタル。ちょっとかわいい。

 

 「イシュタル、書類はちゃんと確認しておけよ!それにしてもふむ、サンジョウノ・春姫か。あまり聞かない名前だな。タケミカヅチのところの眷属のような名前だな。何か関係あるのか?」

 

 その言葉に衝撃を受ける春姫。

 

 「タケミカヅチ様をご存知なのですか?」

 

 「俺の武門の師だな。お前知ってるのか?」

 

 「………昔の知り合いです。」

 

 俯く春姫。

 

 「なあ、イシュタル。こいつ俺にくれたりはーーー

 

 「するか!!私たちのメシのタネだ!そうぽんぽんやれるわけがなかろう!?」

 

 「まあ、だよなぁ。代わりに渡せるものもないしなぁ。」

 

 ぼやくカロンに困惑の春姫。

 

 「まあ今日のところはもう帰るよ。来月のお披露目会のことは忘れんなよ!」

 

 「言われなくともわかっとるわ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはタケミカヅチ道場。組み合って向かい合うはカロンとタケミカヅチ。

 

 「なあ、タケミカヅチ師。」

 

 「どうした?」

 

 「この間イシュタルのところで春姫という名の眷属に出会ったんだが。」

 

 動揺するタケミカヅチ。隙をみたカロンはタケミカヅチを投げ飛ばす。カロンがタケミカヅチ道場に通いはじめてから初めて取った技有り一本だった。

 

 「ゴホッゴホッ、カロンお前その話は本当か?姓も教えてくれるか?」

 

 動揺留まらぬタケミカヅチ。

 

 「神は嘘がわかるだろ。確か名はサンショウウオ・春姫だったか?狐人だったぞ。」

 

 「そ、それは本当か!?頼む、なんとか会わせてくれないか?」

 

 「イシュタルのところにいるぞ。面会したければ正当なアポイントメントをとって土産物を持っていくべきだと思うが?」

 

 「み、土産物か………。」

 

 どこまでも貧乏神タケミカヅチ。

 

 「ああ。俺のツテで面会はどうにかなるかもしらんが………。」

 

 「ど、どうか頼んでも構わんか?」

 

 「あなたは師匠だからな。仕方あるまい。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「よう、イシュタル。」

 

 「お前、また来てしまったのか。」

 

 呆れるイシュタル。やはりここは女主の神娼殿。

 

 「今日は連合加入を検討しているタケミカヅチも見学のために連れてきたが構わんか?」

 

 「あまり他神に内情を知られるのは困る。」

 

 「そういうなよ。俺とお前の仲だろ?」

 

 「どういう仲だ!」

 

 「愛人関係?」

 

 適当カロンに展開についていけないタケミカヅチ。

 

 「いつお前は愛人になった!?」

 

 「心が繋がってればいつだって愛人さ。」

 

 「繋がっていない!!」

 

 「じゃあ体がーー

 

 「繋がっていない!!!!」

 

 軽口を叩くカロン。扱いづらさに手をやくイシュタル。

 

 「まあそういうわけで頼むよ。借りはいずれきちんと返すからさ。それにタケミカヅチ師は東の出身でろくに知り合いもいないぼっちだから内情を多少知ってもどうこうできないぜ?」

 

 「お前は………何という強引さだ。お前ベートのストーカーもそんな感じでしていたのか?」

 

 「否定はしない。」

 

 「はあ、ろくでもない奴と関係を持ってしまった。」

 

 「関係を持つってお前がいうとなんかエロいな。」

 

 「さっさとどっか行け!!」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「タケミカヅチ様!!」

 

 「春姫!!」

 

 感動の再会。イシュタル?カロンに疲れ果ててどっか行った。今だけはイシュタルの適当さに感謝を捧げるカロン。

 

 「タケミカヅチ師、さほど時間はとれんぞ。イシュタルにばれたら眷属の引き抜き目的と見抜かれる。俺の顔を潰してしまえばあなたたちはもう二度と会えなくなるぞ。」

 

 「あ、ああ。」

 

 「ほら顔見せもすんだしとりあえずもう帰るぞ。」

 

 「も、もう少しーーー

 

 「逢い引きはばれないようにやるもんだ。イシュタルに不信感を持たれるのは俺としては非常に困る。あなたらの流儀は恩を仇で返すものなのか?」

 

 「………やむなしか。」

 

 春姫も黙り込む。

 

 「まあそう暗くなるなよ。生きてるんだし。相談だけなら乗れんこともないぞ?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「俺は、どうすべきだろうか?」

 

 ここはタケミカヅチ本拠地、道場。正座をして向かい合うカロンとタケミカヅチ。

 

 「イシュタルから抜くのは大金がかかるぞ?売り物だとも限らんし。」

 

 「………そうなんだろうな。なあ、カロン。何かいい案ないか?」

 

 「辛抱強く交渉するしかないだろう。」

 

 「しかし………お前ら以前に言っていた連合に入れば交渉は可能なのか!?」

 

 「間を取り持つために奔走することはできるが………。しかしあなた眷属に言わずに勝手なことはできんだろ?」

 

 「ああ、そうだ。眷属に相談してみるよ。お前はまた相談に乗ってくれるか?」




愛のない結婚………実はカロンは、互いに利益や目的を共有していない同盟でもいずれどうにでもするとそう言っています。それの暗示です。

先ほど確認したら二名の方々が評価を付けてくださってました。一名の方は以前から付けていただいていましたがもう一名の方はおそらく昨日付けていただいています。高評価がとても嬉しいのですが、満足行くクオリティーに仕上がっているのかと恐々としております。
そう、作者は強メンタルのカロンと違ってビビりなのです!感想をいただいた方と合わせて感謝致します。ありがとうございます。


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逆襲の椿

 今はダンジョンからの帰り道。合併が成立すれば俺達は忙しくなる。

 空の色は茜色。夕暮れ時だ。今日は俺は忙しくなる前に新人達とリリルカを連れてダンジョンに潜っていた。

 

 「お前らもダンジョンにだいぶ慣れてきたな。」

 

 「はい。リリルカさんのお陰です。」

 

 ビスチェだ。明るく元気な子だ。

 

 「サポーターがこんなに奥深いとは思いませんでした。」

 

 ボーンズの返答だ。彼はサポーターに興味があるらしい。リリルカも楽しそうに教えていたのを覚えている。

 

 「そろそろ新しい階層に進んでみたいです。」

 

 お調子者ブコルの言葉だ。彼らはまだ浅い階層しか入っていない。

 

 「油断と過信はいけません!」

 

 リリルカはさすがにしっかりしている。

 

 「バランとベロニカはどこ行ったんだ?」

 

 「あいつらはバベルで安い武器を見に行くと言ってましたよ。」

 

 俺の質問にボーンズが答える。できてるのか?ちくしょう、リア充めが!

 

 「ふははははは、ついに見つけたぞ変人!」

 

 何か誰か割り込んできたな。見たことある奴だ。確か………。

 

 「お前は確かイシュタルのとこのーーー

 

 「違う!ヘファイストスファミリアの椿だ!」

 

 ああそうだ、確か椿だ。何の用だ?

 

 「お主に以前旅を進められただろう!お蔭さまでスランプを抜け出せたのでな!こうやってオラリオに舞い戻って来たのだ!」

 

 困惑するリリルカ+新人三人。

 

 「俺の所に来る前にヘファイストスに顔を見せに行ったのか?こないだヘファイストスに愚痴られたぞ?」

 

 「うむ、それが実は勝手に飛び出したてまえ主神様に顔を見せづらくてな。………ついて来てくれないか?」

 

 「小学生みたいなことを言う奴だな。どっちみち怒られるんだから一人で帰れよ。」

 

 「そういうな。他の人間より安く防具を作ってやるぞ?」

 

 「うーんでも俺が気に入って買うとは限らんだろ。」

 

 「手前はオラリオで少数のレベル5の鍛冶師ぞ!失礼な奴だな!」

 

 憤慨する椿。鍛冶師の誇りがあるらしい。

 

 「しかしレベルと鍛冶の技能に何か関係があるのか?」

 

 俺の疑問。みんなそう思わないのか?

 

 「レベルが上がれば発展技能の鍛冶を取れるようになる。他にも深い階層まで良い材料を取りに行ったりな!どうだ!」

 

 胸を張る椿。相変わらずビッグな奴だ。

 しかしどうしたものかね。別段邪険にする理由も無いが………。

 

 「しょうがない。リリルカ、変な小学生に纏われてしまったから皆を連れて先に帰っててくれるか?」

 

 「おい、待て。小学生とは手前のことか!?」

 

 「お前以外に誰がいるんだ?親が怖くて他人に付き添いを頼むのは小学生の所業だぞ?」

 

 「ぬぅ………。」

 

 言い返せない椿。お前はちゃんとヘルメスファミリアにバイクの賠償をしたのか?知り合いをガネーシャの憲兵に突き出したくはないぞ?

 

 「リリはカロン様が何をしでかすか心配ですのでリリも付き添います。」

 

 そういって三人を帰すリリルカ。

 

 「よし、じゃあバベルに向かうとするぞ。」

 

 「ま、待て。まだ心の準備ができておらんのだ。」

 

 どこまでも小学生椿。

 

 「じゃあ時間つぶしにどこかで話でもするか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。

 

 「お前いつまでこうしているつもりだ?時間をかけても余計気まずくなるだけだろ?」

 

 俺は呆れ返る。時間が経つにつれ勝手に頼んでもいないエールが出てくるんだぞ?これでもう三杯目だぞ?

 

 「ま、待て、もう少し。もう少しだけだ。」

 

 「リリはむしろ疑問です。カロン様は椿様に何をしたからこうなったのですか?」

 

 リリルカの疑問。

 

 「さっきも話したろ?スランプだって言うからいつもと違うことをしてみたらどうだとアドバイスしただけだぞ?」

 

 「しかしそれでしたらカロン様に付き添いを頼む理由にはなりませんよね?」

 

 「リリ、久しぶりー。カロンさんも良くいらっしゃいました。お待ちしてましたよ。」

 

 唐突に割り込んだシルの言葉だ。こいつ仕事しなくていいのか?何か勝手に席に座り込んで来たぞ?

 店主のミアを見ると特に問題無い様子。

 

 「シル様、お久しぶりです。」

 

 「リリ達は今日はどうしたの?新しい人もいるけどアストレアファミリアの新人さん?」

 

 「そうだ。」

 

 「おい、待て!」

 

 椿の待ったがかかる。リリルカはいつものことだと我関せず。

 

 「手前がいつアストレアファミリアに入団したというのだ!?」

 

 「うん、そういえば勧誘してなかったんだよな。入るか?」

 

 「入らん!」

 

 「何の話?」

 

 シルは首を傾げる。相変わらずぶりっ子ぶる奴だ。ついに四杯目のエールが出てきてしまった。まだ前のやつに口をつけてすらいないんだが?

 

 「椿様が理由があってファミリアに帰りづらいとおっしゃられているのですよ。」

 

 まともなリリルカ。

 

 「だからもういっそアストレアに改宗してしまえばいいんじゃないか?そしたらヘファイストスに怒られずに済むぞ。」

 

 俺のその言葉に衝撃を受けたように考え込む椿。

 

 「椿様、きちんと考えて下さい。ヘファイストス様が悲しまれますよ?」

 

 裏切り者リリルカ。

 

 「大丈夫ですよ。ヘファイストス様はきっと椿さんのことを待ってらっしゃいますよ。」

 

 根拠のない妄言を吐くシル。

 

 「いいや、きっとヘファイストスは今頃椿のことを忘れているのではないか?諦めてアストレアに来るべきだな。」

 

 揺さぶってみる俺。ヴェルフと別にしても優秀な鍛冶師はファミリアに欲しい人材だ。道具がなくて鍛冶ができなかったとしてもレベル5らしいし。

 

 「カロン様!やめてください!」

 

 「そうですよ、言っていいことと悪いことがありますよ!」

 

 ファミリアの良心と聖女に非難されてしまった。

 

 「ウグ、ヒック、主神様ぁ………。」

 

 泣き出す椿。豆腐メンタルだ。やはり小学生みたいだな。つくづく仕方の無い奴だ。

 

 「ほら、しっかりしろ。しょうがない奴だな。取り敢えずバベルに行ってみるぞ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バベル、ヘファイストス入居階層。

 

 「ほら、いつまでウジウジしてるんだ。早く行くぞ!」

 

 「だ、だってぇ………。」

 

 いつまでもウジウジして柱にしがみつく椿。ヘファイストスの部屋は目の前だ。もう俺はさっさと帰りたいんだが?今日の分の書類仕事終わってないし。ミーシェ代わりにやっててくれないかな?

 

 ーーーーーーガチャッ!

 

 突然開く扉にうろたえる椿。中から物悲しそうなヘファイストスが出てきた。柱の陰に隠れる椿。

 

 「ヘファイストス様か。久々だな。」

 

 「ヘファイストス様、初めまして。リリはアストレアファミリアのリリルカ・アーデです。」

 

 「あら、あなたたちこんな時間にどうしたの?」

 

 「野暮用だよ。それよりどうしたんだ?そんなに悲しそうな顔して。ますますシワが寄るぞ?」

 

 「あなたねぇ………。はぁ、まあいいわ。椿がまだ帰ってこないのよ。あの子いつになったら帰って来るのかしら?」

 

 遠い目をするヘファイストス。

 

 「ふむ、もしかしたら他のファミリアで幸せになっとるかもしれんぞ?例えばアストレアファミリアとか。」

 

 「カロン様、適当をおっしゃらないで下さい!」

 

 「あの子は私の子よ。今は外で遊んでるけどもうすぐきっと帰ってくるわ。」

 

 「そうですよ。すぐにでも帰ってきますよ。」

 

 そういって柱の陰を見やるリリルカ。未だ出てくる気配の無い椿。仕方の無い奴だ。

 

 「ヘファイストス様、椿が帰ってきたらどうするんだ?叱るのか?あいつはもしかしたら気まずいのかも知れないぞ?」

 

 「椿が弱メンタルなのは知っているわ。そうそう何度も勝手に出ていくとも思えないし鍛冶に真剣なだけよ。それに子供達が遊びに出かけるのは当然のことよ。たまたま一回門限に遅れたくらいで怒ったりはしないわ。」

 

 「し、主神様ぁ………。」

 

 柱の陰から涙目で出てくる椿。感動したのか怒られずに済むことにホッとしたのか判別に迷うところだな。

 

 「椿!」

 

 「主神様ぁっ!」

 

 かけより抱き着く二人。ふむ、引き抜きは失敗か。

 

 「リリ達も帰りましょうか?」

 

 「そうだな、帰ったらたまにはアストレアにも孝行を考えるか?」

 

 「皆で考えましょう。ヘスティア様はどうしますか?」

 

 「あいつ多分何かすると調子に乗るだろ?あいつはスルーでいいだろ。」



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ボヤボヤしてたら首

 アストレア本拠地団長室。俺は今ここで悩んでいた。連合お披露目まで後一ヶ月をきった。しかしぶっちゃけお披露目宴を豪華なものにするほどの金がない。お披露目宴は可能な限り大々的に執り行いたい。しかし予算が潤沢でなく、これは盟主である俺達が金を出すべきだと俺は考えていた。

 

 ーー盟友に出させてイシュタルが万一ごねでもしたら大きなケチをつけかねない。イシュタルがぬけたりでもしたらタケミカヅチも連合にいる意味がなくなってしまう。イシュタルに金を出させないのにソーマやミアハにカンパしろというのもおかしな話だ。いきなり連合に亀裂が入りかねないことを行うべきではない。どうするか?借りるか?どこから?フレイヤやガネーシャ?俺はあいつらにどこまで世話になるつもりだ?うーんしかしあと一ヶ月。無理をして仲間に怪我をさせたくもないしどうしたもんかねぇ?公的な金融機関ならギルドか?ファミリア内の資産はそこそこ、特にソーマの酒とミアハの技能には価値がある。貸してくれるかもしれんが………。しかし本拠地改装のために既にそれなりの借金もある。その辺りはリリルカに一任している………やはりリリルカにも聞いてみるとするか。

 

 「オーイ、ミーシェ。リリルカを呼んでくれるか?」

 

 「ハーイ、ちょっと待っててください。」

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地団長室、向き合う俺とリリルカ。リリルカの隣にはミーシェも座っていた。彼女は会計補佐もこなしているからだ。

 

 「リリルカ、スマンな。ちと悩み事があってな。」

 

 「悩み事はすでに解決していますよ?」

 

 悩み事の詳細を告げる前から解決宣言をされてしまった。何だかよくわからないが彼女がそういうからには解決しているのかも知れない。

 ………俺はどんだけ化け物を見出だしてしまったんだろうか?

 

 「ち、ちょっと待て!まだ相談すらしていないが?」

 

 「内容は丸わかりです。リリはこのファミリアに入団してそれなりに経ちます。脳天気なカロン様の悩みは9割がお金関係です。カロン様は披露宴の予算のことを悩んでらっしゃったのでしょう。」

 

 「マジか………ばれてたのか。」

 

 「バレバレです。大々的な物にしたいのでしょう。そのための予算はすでに集まっています。」

 

 「どうやって?どこから借りたんだ?」

 

 「どこからも借りてません。実はリリ達がひそかにカンパ活動を行いました。」

 

 「な、いつの間に?」

 

 「連合成立が決定してすぐです。」

 

 俺は今度こそ戦慄した。確かにリリルカは会計で予算には明るい。しかし様々な費用見積もりが出たのは今日の朝のことである。連合成立決定は一週間ほど前………。その時にはすでにカンパが必要だと判断して動いていたということなのか!?

 リリルカはどれだけ有能なのだ!?俺は震えがとまらなかった。ミーシェが物凄いどや顔だ。

 

 「リ、リリルカそれでカンパとは誰にしてもらったんだ?」

 

 「そうですね。後々カロン様がお礼を言いに行かなくてはならないでしょうから………まずはファミリア内は全員出してます。」

 

 「そ、そうか。ありがとう。あとで皆にお礼を言わないとな。」

 

 「次に、同盟フレイヤファミリアからフレイヤ様、アイン様、イース様、ウルド様、エルザ様、オーウェン様。連合ファミリアからソーマ様、ナァーザ様、タケミカヅチ様、桜花様、千草様、命様。カロン様の個人的なご友人としてロキファミリアのフィン様、リヴェリア様、アイズ様、ベート様、ロキ様、ティオナ様、ティオネ様、門番一同様。ガネーシャファミリアからガネーシャ様。ヘルメスファミリアからヘルメス様。ギルドからエイナ様。ヘファイストスファミリアからヘファイストス様、椿様、ヴェルフ様。他にもーーー

 

 「ちょっと待ってくれ!?」

 

 結構な名前が出てしまった。

 

 「どうなさいましたか?こちらにお名前と金額を記した紙がありますがそちらを差し上げましょうか?」

 

 「あ、ああ、それはもらうよ。それでつまりもう予算はカンパ金で賄えるということか?」

 

 「うーん何と言いますか………。それは少しリリも困っています。」

 

 「困っている?どういうことだ?」

 

 「いや、それがですね。当初の予定よりもカンパ金が大幅に増えてしまって………リリはどうしたものかと少し困っています。」

 

 「なぜそんなことに!?」

 

 「まあ主にフレイヤ様とガネーシャ様とロキ様、あとは金にさほどとんちゃくのないアイズ様とツンデレのベート様と借りを返すとおっしゃるティオネ様ですね。ガネーシャ様は親友の晴れ舞台だということです。フレイヤ様はオラリオでの地位を考えると端金でごまかすわけにはいかないと笑いながら………。ロキ様はそれに対抗しないわけにはいかなかったみたいですね。」

 

 「マジかよ!?どうすんだ?そんなに金を余らせてしまったならどうするべきなんだ?」

 

 「そうですね。多少おみやをよいものにして………あとは連合が日頃から彼らにしっかり還元できるように努力していく他はありませんね。」

 

 「しかし俺はフレイヤやガネーシャにはもう返しきれないほどいろいろな事をしてもらっているぞ?」

 

 リリルカとミーシェは笑った。

 

 「それではミーシェ様、御説明をお願いします。」

 

 「お任せ下さい、お姉様。団長、これを見てください。」

 

 「これは………?」

 

 何かの表だ。価格表やその他もろもろ。何だろう?

 

 「これは連合成立後の見通しです。例えば、ソーマ様とミアハ様が今までより密接に協力なされば未だない薬酒を作り上げる事が可能になります。他にも、アストレア様とミアハ様が協力すれば医療知識や薬師知識を持つサポーターが生み出せます。タケミカヅチ様の薫陶を受ければ冒険者やサポーターの損耗率低下にも効果が見込めます。あとこれは女性としては複雑ですが………娼館を割引で使えるようでしたら男性のモチベーションにもつながります。他にも参入者が表れたら連合はいくらでも可能性を生み出せます。」

 

 「………確かにその通りだ。」

 

 「つまり、団長が考えている以上に皆楽しみにしてるんですよ。特にカンパいただいた方々は。神の方へのお礼は楽しませることで返せばいいし、他の方々はこの先生活を豊かにして返せばいいのです。リリお姉様みたいにしっかり働かないと、ボヤボヤしてたら団長といえどもクビになりますよ?」



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灰の英雄

 英雄は言いました。[地位も名誉もいらない、家族と一緒に安らかに暮らせる日々が欲しい。停戦するべきだ。]

 王様は怒りました。[お前は国を護る騎士だろう!お前は国のために命を使って死ぬべきだ!お前は与えられた地位に喜ぶべきだ!]

 英雄は言い返します。[俺がこの国を護っているのは騎士だからではない!家族がいるからだ!]

 王様は尚も怒り狂います。[誰かこの不忠者を殺せ!]

 王様の家臣が言います。[彼がいなければ戦争に勝てません!]

 英雄の部下も言います。[彼がいなければ戦いたくありません!]

 

 英雄はいつも心の中で必死でした。英雄は王様にも口応えをします。

 しかし、いつだって英雄は怯えていたのです。

 いつ自分は殺されるだろう?いつ自分は戦争で死んで家族に会えなくなるだろう?

 今日も人を殺した。昨日も人を殺した。

 自分はいつ物言わぬ死体と成り果てるのだろう?自分はいつ地獄に堕ちるだろう?

 与えられる地位は人殺しの証だろう!与えられる名誉は返り血で濡れているだろう!

 そんなものはいらないから家族と安心できる日常をくれ!!

 

 でも英雄はいつだって笑顔です。

 英雄は知っていました。彼の部下達がいつも笑う彼に元気づけられていたことを。彼の家族が彼の笑顔に安らぎを得ていたことを。

 英雄は信じてました。彼が必死で笑いつづければいつかは明るい明日が来ることを。彼が必死で笑いつづければ彼の愛する者達が幸せになれることを。

 英雄はいつもやせ我慢しつづける英雄だったのです。

 

 ◆◆◆

 

 今日は秋の夜長のとある日。過ごしやすい気候になったが少し肌寒い。外で鳴く涼やかな秋の虫の声。穏やかなとある夜。

 俺達は久々にアストレア本拠地応接室に集まって議論を行っていた。俺達とは俺、リュー、リリルカ、ミーシェ、アストレア、ヘスティアの六人だ。

 

 「アーサー王も捨てがたいだろ?」

 

 「いや、ジークフリートだって負けてませんよ。」

 

 「ヘラクレス以外にいないでしょう。」

 

 「クー・フー・リンなんじゃないかい?」

 

 そう、古今東西最強の英雄は誰だ!議論だ。俺達だって冒険者だ。強さに憧れる気持ちはある。いつもはおすましリューにだってだ。いつかその澄まし顔にいたずら書きをしたい。ヒゲとか肉とか。それにしてもリューが大男のヘラクレスを推すのは筋肉が好きだからだろうか?やはり脳筋なのだろうか?

 

 俺達の議論はある程度白熱した。推しメンは俺がアーサー、リューがヘラクレス、ミーシェがジークフリート、ヘスティアがクー・フー・リンだ。

 

 「私のヘラクレスは神の試練をなしとげたんですよ。」

 

 「アタシのジークフリートは背中の一部以外が無敵なんです。」

 

 「ボクのクー・フー・リンはゲッシュさえなければ最強のはずだよ!」

 

 「俺のアーサー王は偉大な騎士達をまとめあげたんだ!」

 

 俺達は誰一人引く気配はなかった。誰だって自分の憧れが一番だと思いたいんだ。俺だってアーサーが最強だと思っている。他にもカルナが最強だって言う奴やイスカンダルが最強だって言う奴等いろいろいるだろう。俺も引く気はない。誰だ今、最強wwww、とか言った奴!よろしい、全面戦争だ!

 そんな喧々囂々の喧騒の中、アストレアの一言。

 

 「ギルガメッシュじゃないかしら。」

 

 俺達は考えた。

 古代ウルクの王。成し遂げられなかったことの方が少ないとまで謡われた偉大な王。神と戦い人を治め、この世の全てを手に入れたと謡われた程の偉大な王。確かに俺のイチ押しアーサーでも少し厳しいかもしれない。他の皆も考え込んでいる。もうこれは彼で決まるのではないか?そんな雰囲気に場は変わっていった。

 

 「太古の英雄王か。まあそうだろうな。」

 

 俺の言葉。

 

 「まあ、ギルガメッシュは否定できませんね。」

 

 これはリューの言葉だ。

 

 「まあ決まりになるのかな。」

 

 ヘスティアも否定できない。

 

 「あたしも特に異論はありませんよ。」

 

 ミーシェも異存はなさそうだな。

 

 場はもうこれはギルガメッシュで決まりだろうという空気になっていた。

 しかし、そんな場の空気を壊すリリルカの一言。

 

 「いえ、リリは全面的に灰色の英雄様を推します。」

 

 まさかのリリルカ。かわいい娘の反抗期か?

 

 灰の英雄とはこの地にある一つの英雄譚だ。しかし彼は確かに強い男だという描写はされているが最強というには些か以上に覚束ない。竜と戦わず神と戦わず、争いを戦い抜き家族の下へ帰るだけの英雄。戦いに苦悩し自身の為したことに怯え、それでも家族の笑顔を絶やさないためだけに戦いつづけた英雄譚。必死に内心を隠して笑顔で家族の下へと帰る英雄。俺は一体誰に説明してるんだ?

 

 「リリルカさん、言い方は悪いが灰の英雄はたいしたことを成し遂げてはいません。灰の英雄は神と戦ったり竜と戦ったりはしていない。彼は世間で最弱の英雄と呼ばれているはずです。やせ我慢の英雄とも呼ばれています。」

 

 普通のリューの否定の言葉。しかしリリルカは揺らぎもしない。

 

 「しかし彼はいつだって笑顔で帰ってきたと言いますよ?それゆえ彼は発祥の地域では他の追随を許さないほどの支持を誇っています。それに最弱と呼ばれていたとしても仲間を見捨てたことはありません。」

 

 「しかし真正面から戦えばギルガメッシュを相手にして勝ち目は無いんじゃないかい?」

 

 これはヘスティアの言葉。

 

 「しかし灰色の英雄様の真骨頂は仲間と共闘する集団戦です。個人戦ではなく複数による殲滅戦になったらわからないかもしれませんよ?」

 

 強硬なリリルカ。やはり反抗期なのか?俺は溺愛しすぎたのだろうか?

 

 「おいおい、リリルカ。無理があるんじゃないか?ギルガメッシュに勝てるとは思えんぞ。」

 

 俺が笑ってそういう。

 

 「いや、そんなことはありませんよ。灰色の英雄様は常に笑顔を絶やさないと聞きます。もしかしたらいつも余裕だったのかも知れません。」

 

 苦しくても取下げる気配の無いリリルカ。どこまで反抗すれば気が済むんだ?

 

 「あたしはお姉様のことを全面的に支持します。でもよくわからないんですよね。なぜ灰色なんでしょうか?」

 

 ミーシェの疑問。

 

 「灰色の英雄様が活躍したのは特に戦火の絶えない時代で人々に灰色の時代と呼ばれていたとも聞きます。あるいは黄昏れの時代とも。生まれた土地があまりよくなかったとも聞きます。数少ない実在が立証されている英雄様です。現在どうなっているかの話は聞きませんが………。」

 

 博識なリリルカ。頭脳チートは伊達ではない。

 

 「しかしリリルカ。なんだってそんなに灰の英雄をお前は推すんだ?」

 

 俺はリリルカにそう聞く。

 

 「英雄譚の英雄様方はだいたい何回かは負けていますよ。それで命を落とした方は多いです。多くの英雄様方の末路は悲劇的なものです。ですが灰の英雄様は無双でなくても無敗です。たとえ無敵でなかったにしても、たいしたことを成し遂げなくても、いざという時には逃げてでも、心が怪物になりかけても最終的に必ず笑顔で家族の下へ帰ってきたといいます。そしてその生を力強く全うしたと。灰の英雄様であればどのような難敵でも笑って戦い帰って来るのではないかとリリは信じています。そしてリリはこのファミリアに強い英雄様でなくともいつだって皆様が笑顔で帰ってくるのを望んでいます。」




また評価をつけてくださった方がいらっしゃいます。とてもうれしいです。高評価ありがとうございます。

果たしてこのまま最後まで書きつづけて評価を返せと言われてしまわないでしょうか?絶対に返しません!



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どこまでも魔改造リリルカ

 ここはロキファミリア応接室。今日の訪問はいつものようなアポなしではない正式なものだ。俺はここで勇者と対面していた。

 

 「久々だな勇者。そっちの調子はどうだい?」

 

 「なかなかだよ。キミのせいでベートに少し迷いが見られるけどね。」

 

 睨む勇者。カロン怖くない!

 

 「そういうなよ。最近は積極的な接触を控えてるんだからさ。」

 

 「相変わらずキミは腹芸が得意だな。控えてるんじゃなくて時間が取れないだけだろ?だいたいのことは知ってるよ。」

 

 「まあ、ようやくというべきか、光陰矢のごとしか………。最近はダンジョンに行く時間はなかなか取れないしリューは交渉が上達しないしで困ってるよ。」

 

 「だろうね。でも本格的に忙しくなるのは結成してからだよ。」

 

 「言うな………。はあぁ、今のところ対外交渉に使えそうなのリリルカとミーシェくらいなんだよな。一刻も早くミーシェをリリルカ並に育てないとな。リリルカに仕事を任せすぎてるな。リューは護衛かな。ああそうだ、本題を思い出した。」

 

 「忘れてたのかい?」

 

 「ああ、リリルカで思い出したよ。高練度サポーターの話だ。お試しでロキで使って見てくれないか?初回無料だ。」

 

 「ああ、それが本題か。前から言ってたね。」

 

 「どの程度の階層まで堪えられるのかの検証は行っている。お前らの反応とオラリオの反響次第で価格設定を行うつもりだ。」

 

 「しょうがないな。付き合いもあるしオラリオを席巻する予定の大団長に恩を売って損はないし、ね。」

 

 フィンはウィンクする。

 

 「男がやっても気持ち悪いぞ。そういうのはウチのリューやそっちのアイズとかがやらないと。」

 

 「違いないな。」

 

 俺達は笑った。 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ビスカ様、右側からの敵に注意してください。敵は膂力に優れています。受けたあとの衝撃に気をつけて下さい。ライナー様、敵をうまく引き連れてサラ様と連携して下さい。サラ様は時間稼ぎに専念して三匹を相手にして先にライナー様が一匹ずつ落として下さい。敵の尻尾には気をつけて下さい。」

 

 彼女はリリルカさん。魔改造リリルカ。アレ?今なんか変な電波が………。

 コホン。僕はフィン。僕たちはカロンに紹介されたリリルカさんの使用感レポートを行っていた。高練度サポーターのウリの項目には戦闘指示というものがあった。ダンジョン9階層で僕たちは今それを試していた。戦うのはまだ比較的時間の経っていないファミリアの仲間達。

 

 「リリルカさん、レベル2だという話を聞いたよ。戦闘に関して問題はなさそうだ。兼業サポーターをやらないのかい?」

 

 「リリとお呼び下さい勇者様。リリ達の指示出しは緊急時のみにしております。」

 

 「じゃあフィンと呼んでおくれよ。冒険者の矜持と成長を慮ってかい?」

 

 「………機密事項となっております。フィン様。」

 

 フィンは内心で感服していた。遠距離攻撃、近接戦闘サポート、状況判断、戦闘指示、冒険者の休憩補助、逃走補助、新人育成、通常のサポーター業務等カロンに渡されたレポートに記載された様々な見所の項目を試してみた結果、リリルカは全ての面に関して高評価な対応をして見せた。サポーターとして非常に魅力的で特に新人育成に関して全面的に任せられそうな有能さ。ラウルに爪の垢を煎じて飲ませるか本気で検討している。沈黙が金だと理解しているところも高ポイント。何が何でもファミリアに欲しい逸材だ。挙げ句にカロンに内密に聞き出した話だとなんらかの切り札も持っているらしい。目をキラキラさせて言ってた。口が軽い。リリルカを見習え。

 

 ーーこれなら間違いなく金が取れる。彼女が育てて責任を持つ人材であればそちらも期待が持てる。新人育成を見るからに彼女は教育者としての適性が非常に高い。おそらく彼女自身が弱者だったのだろう。あらゆる苦労した経験を糧としているのか………。あるいはそうしなければ生きていけなかったのか。しかしそれは考えても詮無いことか。確実なのはステータスとは別の、他者をサポートする能力が彼女は抜きん出ているということ。彼女自身が遠征の部隊にいなくとも、戦力が高くなおかつ彼女の薫陶を受けたサポーターが存在するのであればそれは強力なプラス材料となりうる。

 

 ーーその他にも後々は連合ファミリア内で異動を行い複数の薬師等の特別な技能を持ったスペシャルなサポーターを作り上げる計画らしい。成功したらまさしく革命だ。ロキファミリアにおいても稀有で価値の高いリーネのような薬師技能を持つサポーターが数多く居るとなれば非常な価値がある。さらにレベル2以上のサポーターを免許制度にして市場で貸しだし業務を行うとなればロキファミリアにとっても遠征の大きなプラス材料になりうる。そこからさらにレベルを上げて遠征のメインサポーターに使うとなるとまだ時間がかかるだろうが………。二軍のサポーターで使うにはすぐにでも可能だろう。

 

 ーー二軍のサポーターに使えると言うことは遠征のメインサポーターである二軍の損耗率が下がりうると言うこと。さらに二軍に彼女たちの仕事を見せれば二軍の人員のサポーター能力自体の向上にもつながりうる。レベル2以上は育てるのに時間がかかりその分価格はあげるらしいが………。しかし時間がかかっても彼女が教育するのであればいずれは………。そこまで育て上げきれなくても新人育成だけでも僕達の助けになりうる。彼女の育成の手腕を見せればロキファミリアの二軍の新人育成の底上げにも繋がる。

 

 ーーあるいはサポート能力に長けているということは自者と他者の能力の分析に長じているということか?他者の足りない点やサポートが欲しい点を理解するということは他者の長所と短所を見抜く慧眼から生みだされているということか?他者の分析が正確に可能ならばどうすればより効率よく成長させるかも理解しているということなのだろうか?ある意味で僕たちとは真逆の発想だ。使える人間を選別するのではなくどのような相手でも使える人間に育て上げる、ということか。それが彼女の真価か。いずれにしろ彼女達にはこちらから金を出してでも検証を行っていく価値は十分以上にある。

 

 フィンはカロンとリリルカの手腕に舌を巻いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 オラリオの夕暮れ。ダンジョンからの帰り道。今日はサポーター部隊に新人を任せうるのかの検証を行った帰り。

 

 「今日はありがとうリリさん。助かったよ。」

 

 「ご冗談を。いつもよりずっと浅い階層でしたよね。」

 

 「それに関しては否定しないよ。でも普段より疲労感が少なかったのは紛れのない事実だ。」

 

 「それがリリ達の仕事です。」

 

 僕は考えた。切り出すべきか。カロンは怒ったりはしないだろう。僕は喉から手が出るほど彼女が欲しかった。

 

 「………リリさん、キミは改宗を考えてみる気はないかい?」

 

 「ありませんよ。」

 

 「僕たちのファミリアに来れば僕たちはキミを重宝する。」

 

 「リリは今のファミリアでも重宝してもらってますよ?」

 

 「しかし、キミ達はことがなせれば忙しくなる。貸出のサポーターではトラブルだって起きかねない。君は若くして責任を負う立場になるはずだ!」

 

 「リリはすでに覚悟を済ませています。カロン様より対処に困る人間はいません。世界で一番疲れます。ぶっちぎりです。他に見たこと有りません。」

 

 「危険だ!」

 

 僕は思わず少し感情的になってしまう。

 

 「冒険者はいつだって危険ですよ?」

 

 「それは……それはそうだね。そうだ、僕がキミにロキファミリアに来てほしいんだ!」

 

 リリルカは笑う。切なくて、でも穏やかな笑顔。

 

 「フィン様、フィン様はオラリオで勇者と呼ばれていらっしゃいます。オラリオでたくさんの方をお守りになったのかもしれません。しかしリリは守られた人の中でいつだって虐げられてきました。リリを掬い上げたのはカロン様です。フィン様は皆様が知る英雄でいらっしゃるかも知れませんがカロン様は家族(ファミリア)です。カロン様は囚われの(リリ)を助けに来た家族を愛する英雄なんです。」

 

 リリルカはとても美しく笑った。

 

 「………そうか。」

 

 フィンは敗北を理解した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレアファミリア応接間。リリルカはミーシェに捕まっていた。リリルカはミーシェがあまり得意ではなかった。

 

 「リリお姉様、今日の探索はいかがでしたか?」

 

 「ミーシェ様、良い感触でした。それとリリのことは呼び捨てて下さい。」

 

 彼女らは互いを様付けしていた。

 

 「そんな、それではあたしのことも呼び捨てて下さい!あたしはいつだってリリお姉様をおしたいしております。」

 

 紅顔してリリルカに詰め寄るミーシェ。リリルカはそれを見てげんなりする。

 

 「ミーシェ様の相手はカロン様と同じくらい疲れます。フィン様に嘘をついてしまいました。」

 

 「嘘?何の話ですか?」

 

 「カロン様がぶっちぎりで世界で一番疲れると言ってしまいました。」

 

 「まあ、ですよね。でもなぜそんな話に?」

 

 「ロキ様のファミリアに勧誘されました。」

 

 「何ですって!!おのれ、私とお姉様の仲を引き裂く邪悪なファミリアめが!!ロキファミリアの本拠地を今から燃やしてきます!」




リリルカが教育者として適性が高いのには生まれ持ったもの以外にも実は一つの理由があります。
カロンに成長を促されつづけたリリルカに密かに黒いスキルが受け継がれているからです。黒いスキルには他者を成長させる効果もあるというあまりにもチートスキルです。


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タケミカヅチ×ベート

 ここはオラリオ、ロキファミリア食堂。俺は今日は用事があってロキファミリアを訪れていた。忙しい合間をぬっての訪問だった。

 

 「久々だな、凶狼、お前に話があってきた。」

 

 「ハァ、一体何の用だ?」

 

 凶狼との会合。

 

 ベートは追い出すのが難しくなっていたカロンの相手にすでに悟りを開いていた。

 

 「前々からの勧誘だよ。話は聞いてるだろ?直に連合が出来上がる。お前ウチに来いよ。高待遇を約束するぜ。」

 

 「何度も断ったろうが。ほんっっとにテメエはしつけぇな。」

 

 「じゃあタケミカヅチ道場だけでも見に行くぞ!」

 

 「アン?何だって俺がそんな面倒なことにつきあわねぇとならねぇんだ?お断りだ。」

 

 「そういうなよ。いいことがあるかも知れないぞ?」

 

 「テメエ何を言ってやがる。」

 

 「む、そういえば今日はアイズが道場に通う日だった気がするな………。タケミカヅチ道場では寝技の鍛練も行っていたような………。」

 

 何とも言えない卑怯さ。

 

 「………早く行くぞ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 タケミカヅチ本拠地道場。

 

 「ここがタケミカヅチ道場だ。」

 

 「チンケな道場じゃねぇか。テメエ本当にアイズがいるんだろうな?」

 

 ベートのしっぽ、メッチャ揺れてる。ピクピク動く耳。ぶっきらぼうな対応でも隠しきれないにやけづら。ダンまち最強の萌えキャラが今ここに降臨する。

 

 「おーい、タケミカヅチ師、以前話していた凶狼を連れてきたぞ。」

 

 「ああ、カロン。よろしくベート。」

 

 無駄に爽やかなタケミカヅチスマイル。

 

 「チッ、テメエがアイズの師匠か。」

 

 「ああ、雑に扱うとアイズが怒るかもしれんぞ。」

 

 笑うカロン。

 

 「中で鍛練しているハズだから見に入ろう。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 道場内。中で鍛練するのは五人。アイズ、リュー、後はタケミカヅチ眷属の三人。桜花と千草と命だ。リリルカは本拠地のお留守番中だ。

 

 「カロン殿、そちらが以前おっしゃっていた?」

 

 「ああ、ロキの所の凶狼だ。凶狼、彼女は命、横にいるのは千草だ。あそこで今アイズと戦っているのが桜花だ。リューは知っているな。」

 

 自己紹介をする三人。ぶっきらぼうな凶狼。しかししっぽの揺れで上機嫌を隠しきれない。カロンはその姿をみて凶狼をタケミカヅチの道場のマスコットにするのもありなのか?などと考える。

 

 「オイ、アイズ。テメエそんなザコに何てこずっていやがる!?何でそんなおかしな戦い方をしてるんだ?」

 

 しっぽを揺らしながらでも平常運転ベート。アイズと桜花は武器を持たずに素手で戦っていた。

 

 「凶狼、今あれは技術的な向上を行ってるんだよ。」

 

 「アア?どういうことだ?」

 

 「ステータスにおける器用の鍛練だと考えればいい。器用をあげても使い道を理解しなければ宝の持ち腐れだ。技というものは力任せに戦っていても身につかんだろ?それに素手で戦っている理由は武器を落としたり壊したりしてしまえば戦力が落ちるだろ?備えは多いほどいい。」

 

 「アン?アイズの武器は不壊属性だろ?んな鍛練意味あんのか?」

 

 「それは油断だよ。ダンジョンで油断した奴は命を落とすくらいお前ほどの熟練者なら知ってるだろ?」

 

 「………………。」

 

 「まあ確かにダンジョンに人型のモンスターがどれだけいるんだって話はあるけど、武器を持たない戦闘を詰めるのも悪くないぜ?武器の重さのない時の体の動きは重心が変わるからな。また違ったものになる。ほら、ちょうどアイズの試合が終わったぞ。」

 

 勝ったのは桜花。冒険者のステータスもへったくれもない戦い。まともにやればアイズが勝つのは当然だが、タケミカヅチ道場のルールに則って技術のみを競うのであれば長く道場にいる桜花に一日の長があるのだ。

 ベートは考える。

 

 ーーアイズの技術よりあのヤローの技術が上だって意味か?アイズはステータスを生かす戦いをしてねぇ。ただ勝つだけならアイズは苦労しねぇはずだ。ならこの戦いに一体何の意味が?戦いに何らかのルールがあるということだろう。そのルールを守って戦う意味………。

 

 「ベートさんお疲れ。来たんだ。」

 

 「………ああ。アイズ、お前はさっきの戦いは手を抜いてたのか?」

 

 「ステータスはあまり、使ってない。」

 

 「じゃあ何の意味があってあんなことを………?」

 

 「ダンジョンは深い階層に潜らないと強い敵がいない。油断できない階層に行く前の………準備運動?」

 

 「何で疑問形なんだよ!まあいい、だいたい理解した。つまりステータスを抑えて戦うことでギリギリでの戦いのイメージトレーニングを行ってたってことか。」

 

 「そうだったの?」

 

 首を傾げるアイズ。

 

 「自分のことだろうが!」

 

 突っ込むベート。

 

 「どうだ、連合にこんか?」

 

 相変わらずマイペースカロン。

 

 「いかねぇよ!それよりアイズ、俺とも戦ってみてもらえるか?」

 

 「凶狼はスケベだなぁ。そんなにアイズが触りたいのか。」

 

 「ちげぇ!!」

 

 「ベートさんスケベ?」

 

 ベートは危機である。スケベートというあだ名をロキファミリアで浸透させられかねない。

 

 「ア、アイズ、違うんだ。ただ俺はお前が何を得ているのかを確認したいだけだ。」

 

 「うん………わかった。なら勝負しよう。」

 

 「まあ待てアイズ、凶狼、ルールを説明するよ。」

 

 ◇◇◇

 

 ベートは困惑する。普段のダンジョンとは全く違う戦い。ダンジョンに於いては卑怯という言葉が存在するわけがない。

 しかしこの戦いはルールに縛られた戦いだ。たくさんのルールがある。そのルールにベートは困惑していた。

 当然危険部位への攻撃は禁止。これはいい。アイズは仲間だ。そんなことする必要はない。ステータスの封印、これもいい。殺し合いではない。しかしそれだけでなくなぜかつけられた打撃禁止のルール。カロンが笑いながらつけたこれはベートに甚だ不利を来す。ベートは普段、殴り合い以外で戦わない。殴るのを禁じられたら後は投げ技か?しかし筋力にさほど自信のないベートが積極的に使う技ではない。ベートは深く理解していない。投げ技は膂力に頼ったものだけでないということを。

 

 「行くよ、ベートさん。」

 

 開始の合図がされアイズが迫り来る。ダジャレではない。

 ベートは対応に当然迷う。なにせ初心者だ。

 

 「チッ。」

 

 つい蹴りを出してしまう。

 

 「凶狼、打撃は禁止だぞ!」

 

 カロンの野次が飛び仕切り直す。

 

 アイズが迫りベートを掴もうとする。ベートはよく理解しないながらもアイズの手を避ける動きをする。アイズが追いベートが逃げる。その繰り返しだ。

 

 ーーチッ、これになんの意味があるというんだ?打撃を禁止されたらどうするべきだ?アイズの真似をしてもそのあとどうすればいいやらわからねぇ。力ずくで投げ飛ばせるか?

 

 ベートは迷うが捕まるのも時間の問題である。意を決して強引にアイズに掴みかかる。

 アイズを掴み、力で投げ飛ばそうとしたベートは天井を仰いでいた。

 

 ーー俺が投げられたのか?どういうことだ?俺は投げようとしたハズだが?!俺が投げられたのか?

 

 タケミカヅチ道場は武の理を深く理解している。力の流れを理解し、適切な対応をすれば相手を投げ飛ばせるということをベートは理解できていなかった。

 

 「凶狼、一本だな。今回はお前の負けだ。」

 

 「ざけんなテメエ!打撃禁止になんの意味があるってんだ!?」

 

 「それ自体には意味はないよ。イロイロな体の動きを理解すれば戦闘の際に自分のできることのアイデアが広がるってだけさ。」

 

 「オイ、アイズ。それは本当か?」

 

 アイズに聞くベート。

 

 「うん、イロイロな動きをすれば、相手の筋肉の動きが理解できるようになる。相手が何をしようとしてるのか観察できるようになる。」

 

 その言葉にベートは衝撃を受ける。それは突き詰めれば相手の動きを先読みできるようになるということなのか?制限をつけて戦うことでより高みに登れるということか?ベートはプライドが高いがそれ以上に強さに対して貪欲でもある。何より自分同様強さに貪欲なアイズが負けてでも何か得るものがあると感じている。

 

 「オイ、それはお前の役に立ってンのか?」

 

 少し考えるアイズ。

 

 「前より………疲れがなくなった気がする。」

 

 ーー動きの効率化か………。継戦能力の向上ということか?仲間との鍛練の違い………。仲間と鍛練する際は大概が武器での戦いだ。ダンジョンには武器を持たない敵も多くそいつらとの戦いの模擬にはなりづらい。加えて自身の戦いの新しいアイデア………。アイズが俺にやったように俺の知らない何かがここにあるということか?そしてそれをアイズは実感してやがる。アイズは嘘をつく性格じゃねぇ。

 

 ベートは考える。今の彼はある程度以上深い階層に行かないと全くといっていいほどステータスが伸びない。潜るにも時間がかかる。

 

 ーー潜る時間の延長と新しい強さの可能性………。時間を費やしてみるだけの価値はありそうだな。

 

 「オイ、テメエ。」

 

 カロンを見るベート。

 

 「どうした?」

 

 「いいぜ、アイズも奨めているし通ってやる。」

 

 「通うなら対価が必要だなぁ。」

 

 笑うカロン。

 

 「金を払えってことか?」

 

 「いや違う、お前の蹴りは一流だ。対価としてお前の戦いの技を皆に少しでも教えてくれよ。お互いに損のないいい提案だろ?」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 向き合うカロンとタケミカヅチ。他の人間は帰ってもういない。

 

 「ずいぶんと足元見たなぁ。ベートの強さの元は多大な実戦の経験値だろう?」

 

 ベートは実戦のスペシャリストだ。ベートの戦いは多大な戦闘を経てどう戦えば強くなるかをつきとめた集大成である。そして高レベル冒険者で打撃技で戦う者は稀である。カロンとタケミカヅチは共にそれにはとてつもない価値があると考えていた。

 笑うタケミカヅチ。笑いながら答えるカロン。

 

 「あなたに損はないだろう。それにあなたの武にだって十分以上に価値がある。凶狼だって納得済みだしお互いに気にすることはないさ。」




もちろん道場は剣道も教えています。
それと理屈としてはアイズは今まで自分を高める努力をし続けていました。道場に通い相手を分析することを覚えて、いわゆる敵を知り己を知らば百戦危うからずの理屈です。


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追い詰められた闇派閥

 「お、おいどうすんだよ!?あいつらもう連合成立目前じゃねぇか!?」

 

 「やべぇよ。俺達ばれたら殺されちまうよ。」

 

 「マジかよ。変人のやることだと高をくくってたら………。」

 

 「もうヤバイ奴らに話が通じないのを覚悟でどうにかしてもらわないといけないんじゃねぇか?」

 

 「お、俺は嫌だぞ。あいつらのところに行くのは。殺されちまう。」

 

 「情けないことだな。闇が聞いてあきれるぜ。」

 

 そう、出ましたインフレーション。彼の名前はヴォルター。ハンニバルと同じくらいの大男だ。金髪に顔に大きな傷がある。大きな剣をしょっている。レベルは7くらいにしないと戦いになりません。

 彼は闇派閥でも一際恐れられていた。二ツ名は闇の王(キングオブダーク)。もう誰かはネーミングをまともに考える気が0である。いや、最初から0です。というよりいくらオリ敵でもこんなに好き放題してしまって構わないのだろうか?

 

 「テメエラ雑魚どもが死んでも俺には関係ないが連合を作られたらちと厄介だ。頭がアストレアなのもいただけねぇ。俺があいつらを闇へと葬ってやるよ。」

 

 つくづく闇派閥は馬鹿である。カロンも言っていたが戦力の逐次投入が愚策だという事を知らないのか?レベル7が聞いてあきれるものである。しかしーーー

 

 「ありがてぇ。これで俺達は助かるんだ!」

 

 「生き残れるぜ!」

 

 「よっしゃ!!」

 

 「これで勝つる!」

 

 「最高だぜ!」

 

 救い様のない馬鹿どもである。お前らも必死こいて戦え!!

 

 ーー馬鹿な奴らだ。これが終われば全員纏めて人体実験の材料にしてやる。

 

 ヴォルターは笑う。

 闇派閥は戦力の逐次投入だけではなくとらぬタヌキの皮算用も行うのだった………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 レベル7?どうすんだ?オッタルさんと同格という事だろ?ほんとにどうすんだ?ノリで戦闘回を書き出すとろくなことにならんな。いや、ほんとにどうすんだ?

 誰かはもはや恒例となった戦闘回の後悔をしていた。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョン7階層。ここで鍛練を行うアストレア一同。彼らは連合結成を目前にして多忙になる前に皆でダンジョンで鍛練を行っていた。展開的に苦しい?ギャグの利点です。

 取り敢えず彼らは連合結成したらさらに忙しくなってしまうのでその前に皆で何とか時間を作って仲良くダンジョンに来ていたということでお願いします。

 

 ーー奴らの動向を追いはじめてから初のダンジョン探索だ。オラリオでの戦いにするとフレイヤやガネーシャ、ロキまで出てくるという話だ。ここで速攻でカタをつけるのが一番いいだろう。人数が多いのは少々ウゼェがまあ問題なかろう。厄介なのは疾風と不死身の二人だけだ。さっさとカタをつけるとするか。

 

 そう考えて物陰から現れるヴォルター。リューが真っ先にそれに気付く。

 

 「何者ですか!?そこで止まりなさい!」

 

 リューは初めて見る人物に警戒する。周りも一斉に敵を見る。即座にカロンの指示が飛ぶ。

 

 「リリルカっ、仲間を連れて上へ逃げろ!!リュー、恐らく敵だ!!警戒しろ!」

 

 即座の判断を下す。

 高レベル冒険者はある程度相手の強さを理解できる。リューとカロンが警戒したのは相手の強者の雰囲気。顔の広いカロンの知らない高レベル冒険者。最大限の警戒の対象である。カロンもリューも相手が自身より強いということを敏感に感じ取っていた。

 

 リリルカは即座に判断を下す。カロンの指示に速やかに従いレベルの低い冒険者を連れて上層へと向かう。

 しかしヴォルターに相手を逃がすつもりはない。レベルに頼った速度で弱者へと襲い来る。

 

 ーーガキャッ!!

 

 割り込むカロン。しかし敵の力に負けてそのまま壁へと突っ込むことになる。それに反応してリューは敵に突っ掛かる。しかしリューも敵にはじき飛ばされる。

 

 ーーこの状況では新人様方はリリが護るほかにありません!

 

 迫り来るヴォルターにリリルカは覚悟を即座に決める。

 

 「なっっっ!!」

 

 ヴォルターは驚く。

 狭い通路でゴライアスヘと変身するリリルカ。不動の巨人は地面に根付きレベル7の膂力をもっても剥がせない!!リリルカは殴られそれでも道を明け渡さない。大剣で斬られそれでも道を明け渡さない。リリルカはわらう。

 

 「リリルカぁぁぁーーーっっ!!」

 

 カロンとリューが追い付きヴォルターを引きはがし投げ飛ばす。リューは即座に手持ちのポーションをリリルカに飲ませ与える。リリルカの変身はすでに解けていた。

 

 「リリルカ、辛いだろうがあいつらを追って逃走をフォローしろ!!俺とリューはこの狭い通路で相手をしながらの撤退戦だ。俺がしんがりを受け持つ。リューは俺を盾にしながら相手をしろ!持久戦で有利な土俵で戦う。」

 

 リリルカはまだ痛む体に必死に鞭を打って逃げ出す。大剣を持ち襲い掛かるヴォルター。カロンは即座にスク○トをかける。大剣で斜め上から薙ぐヴォルター、盾でうまく軌道をずらしてカロンは受ける。リューはカロンの背後より相手の懐へ入る。攻撃、後の退避を狙うもーーー

 

 「リュー、ダメだ!退け!!」

 

 攻撃を取りやめるリュー。ヴォルターは膂力で返しの二撃目を放つ。前列のカロンはヴォルターが一撃目の最中にそっと手首を切り返すのを見ていた。

 盾で受けて吹き飛ばされるカロン、間一髪回避するリュー。

 

 ーーうーん、剣の扱いが上手いな。大剣は体の重心が著しく変わるはずだがな。さてどう戦うかな?

 

 相手の剣は一メートル半くらいの長さ、幅は十センチメートル弱の先細りの両刃。相当な重量があることは一目でわかる。

 

 カロンは即座に相手の剣を奪う方針を決める。

 ヴォルターはカロンへと追撃を行う。

 大剣をカロンへと突き刺しにかかる。カロンは敵の大剣を避けきれないと判断。笑いながら自分から刺さりに行く。

 大剣は鎧の上からカロンの腹部へと深々と突き刺さる。

 

 ーーどういうことだ?こいつ自分から刺さりに来やがった?馬鹿なのか?

 

 「痛いなあ。ああ、痛い。」

 

 しかしカロンは笑いやまない。口から血を流し両手で大剣とヴォルターの腕を掴む。不気味に思うヴォルター。ヴォルターを掴んでいた手を離しカロンは懐に手を入れる。

 

 ーー何だ?何をするつもりだ?切り札でも隠し持っているというのか?こいつの不死身の二ツ名………。マジだとでもいうのか?まさか自爆か?

 

 爆発物を警戒し大剣を離し即座に離れるヴォルター。腹に深々と剣を突き立てられわらいつづけるカロン。

 

 「リュー、こいつ馬鹿だぜ?こんなにいいもの俺にプレゼントしてくれたぜ?」

 

 「理解しました。カロン。」

 

 長く共に戦うリューは即座にカロンの考えを理解する。カロンの馬鹿げたタフさを知るリューは一切躊躇わない。リューは大剣をカロンの体から引き抜いて速度を頼みに逃走する。

 

 ーーし、しまったっっ!!

 

 カロンの黒い思考誘導。ヴォルターの剣と手を掴んでから手だけを離すことによってヴォルターに剣は捕まれていると意識させる。まるで手を離さなければいけないかとでもいうような誘導。高レベルの力ずくで引き抜かれていたらカロンはほぼ負けが決まると思っていた。

 

 マヌケなヴォルター。ハッタリに嵌められる。即座にハイポーションを飲んで回復するカロン、やはり笑いながら挑発する。

 

 「つくづくマヌケなヤローだなあ。俺達の戦いを知らずに突っ掛かるなんてさ。リューは速度特化だぜ?ここは狭い通路で俺もいるし高レベルのお前でももうつかまえきらんよ。お前のマヌケさでずいぶんラクになった。感謝するよマヌケの王様に。」

 

 笑いながら舌を出すカロン。うろたえるヴォルター、カロンの脇をすり抜けようと試みる。

 

 「無駄だよアホンダラ!」

 

 足を引っかけ敵の手を掴み床へと投げ落とすカロン。すでに盾も手放している。

 

 「おいおい、もう追いつけねぇよ。馬鹿だねお前。脳みそ腐ってんだろ?リューが帰ってくればお前がいくら強かろうと二対一だ。お前の負けだよ?」

 

 床へとたたき付けたヴォルターをカロンは踏み抜きにかかる。ヴォルターはカロンの足を掴み壁へと体当たりをする。カロンは壁に埋まる。平然と出てくるカロン。

 

 ーーこんな馬鹿げた方法で剣を失うとは………。しかしこいつは4レベルのハズだ。俺が負けるハズはないがやたら硬いという話は聞いたことがある。もう剣は戻らないと考えるべきだ。いや、ほんとにどうしよう?普通に戦うべきか?まあ戦うべきか………。切り札はどうするか?できれば疾風と合わせて巻き込みたい。まだ温存すべきだ。

 

 ヴォルターは考えを纏める。しかし笑い止まないカロンに黒い鎖を植付けられる。

 

 黒い鎖は恐ろしいスキル。戦闘に於いて幾重にも連なる選択肢のここ1番で、結果として最も肝心なところで必ず選択を誤らせるというスキルである。ヴォルターは予想外の事態で即座に逃げ出すべきなのである。

 

 実際にかつて戦ったハンニバルもレンもバスカルも十分以上の勝ち目が存在した。しぶとく長期戦で戦っていれば勝ち得たのだ。しかし黒いスキルはハンニバルを散々に迷わせ、レンの忍耐を破り、バスカルに同士討ちの選択をとらせた。

 さらに黒いスキルはカロンの戦い方と恐ろしく相性がいい。カロンの戦い方は長期戦で相手の体力を削り行くもの。体力を削られた相手は疲労感から思考に迷いを許していく。迷う思考はさらなる疲労感へとつながる負のスパイラルを引き起こす。精神の強靭さが勝敗に直結するのである。

 

 ヴォルターは突っ掛かり殴りかかる。連続の拳打、しかしそれは彼の本来の戦い方とは程遠い。カロンは笑って受けつづける。

 カロンは拳打の一つを見極め受け流す。そのまま足をかけてヴォルターを床に転ばせる。

 

 「おいおい、強そうなツラしてドジっことはどういうことだ?何勝手に転んでんだ?マヌケさを前面に売り出してんのか?」

 

 挑発するカロンはすでにレベル7の拳を受けてボロボロである。しかし彼は挑発をやめない。

 

 ーーこんなに早く武器を奪えたのはツイてるな。さて、最低限の土俵には立てたがどうするかね?やはり武器無しでも強い。まさか7あるのか?猛者以外にも頂点近くに立てる奴が?こんなマヌケがか?意味がわからんな。生きるか死ぬかの戦いでこんなに簡単に武器を離すとはな。

 あと回復薬は二本。リューも確か二本持ってたハズだな。いやさっきリリルカに一つ使っていたか。さて、この条件でなんとかしないといかんね。

 

 カロンのスキルの最大の恐ろしさ。最も肝心なところで選択を誤らせる。そう、ヴォルターは百戦錬磨の強者である。武器を手放すなどと有り得ない。しかし黒いスキルは悪魔のように相手の心の隙間にそっと忍び寄るのである。一瞬の判断で武器を手放したヴォルターはその一瞬を黒いスキルで揺さぶられていたのだ。不死身の名を持つ相手の不気味な笑顔と言動と黒いスキルにあの瞬間のヴォルターは確かに心を揺さぶられていたのだ。

 

 カロンの黒いスキルと白いスキルはいつだって共に仲間を護りたいというカロンの強い願いに呼応して猛威を振るう。

 

 ヴォルターは尚も突っ掛かる。カロンを壁へと押し付け何度も何度も殴りつける。しかしカロンは笑いやまない。一つの拳を避けてそのままヴォルターに抱き着く。そのまま懐を再びまさぐるカロン。

 

 ーーハッタリが二回も効くと思うのか?

 

 ヴォルターは気にせずそのままカロンを引きはがす。しかし懐から目は離さない。

 

 ーーチッ。

 

 微かな物音に反応し即座にしゃがむヴォルター。後ろから短刀でリューが強襲していた。先ほどの動きは注意を逸らすためのもの。失敗したカロンは舌を出す。リューは避けられると同時にひらりと身を翻しカロンの傍に立つ。

 

 ーー戻って来やがったか。どうするか?切り札をここですぐに使うべきか?しかし疾風の奴は素早い………。避けられる可能性があるのか?

 

 ヴォルターの切り札は魔法の毒。彼の魔法は毒霧で相手を痺れさせることが可能である。しかし彼は使用に迷う。

 

 「カロン、武器は上に逃げる仲間達に渡して来ました。さあ、ゴキブリ退治の続きを行いましょうか?」

 

 「ああ、そうだな。マヌケに惚けるゴキブリにこの世からのご退場を願うことにするか。」

 

 二人はそう話ながらヴォルターと今一度向き合う。ヴォルターは対応に少し迷う。

 

 ーー戦うべきか………魔法を使用するか………。

 

 少し考えたヴォルターはカロン達へと突っ掛かる。盾を拾い攻撃を受けるカロン、カロンの後ろから短刀でフォローを行うリュー、戦いは少し形を変えていた。

 

 カロンの戦いは変幻自在。先程までは格上と一対一で相対していたため盾を手放していた。盾を手にしても亀のように縮こまることしかできないからである。そうなれば格上に押し潰される。しかしリューが帰ってきたとなれば話は別だ。カロンが亀になってもリューが攻撃を担当してくれる。

 

 ヴォルターの連続の拳打、カロンはいくつかを盾で受け流すがその一つを受けて吹き飛ばされる。ヴォルターはそのままリューに詰め寄る。しかしリューはカロンの方へと退避する。格上相手に盾役無しはあまりにも無謀だ。ヴォルターはリューを追うが即座に復帰したカロンに阻まれる。カロンを攻撃するヴォルター、力ずくで吹き飛ばすがモーションが大きくなりその隙をリューに狙い打たれる。かわし損ねて胸部を浅く斬られるヴォルター、そのままリューに攻撃を仕掛けようとするもやはりリューは逃げる。

 

 ーーカロンはさすがだ。硬い。相手は明らかに格上。仮に吹っ飛ばされてもしっかりと復帰してくれる。つくづく戦い易い。

 

 拳打を行うヴォルター、盾で受けるカロンはいくつかは耐えてもしばしば吹き飛ばされる。リューは相手の隙と硬直を見極めて二本の短刀で攻撃を加える。ヴォルターはいらついてリューを攻撃しにかかる。しかしリューとカロンの思惑は一致している。

 

 ーー敵の攻撃は全部俺(カロン)が受ける。自軍の攻撃はリュー(私)が引き受ける。

 

 逃げるリューに詰め寄るヴォルター、割り込むカロンのいたちごっこ。リューとカロンの連携は巧みでヴォルターにリューを攻撃させる隙を見せない。何よりカロンは共闘がうまかった。

 

 ヴォルターはリューに詰め寄る。リューはカロンを挟んで敵と相対する。カロンは笑いながらヴォルターを掴もうとする。ヴォルターはカロンを殴る。カロンは殴られながらヴォルターの腕を掴む。リューが短刀で切り付けそれを避けようとしたヴォルターの体の動きを利用してカロンが床へと投げ落とす。追撃のリュー、しかしヴォルターは短刀を避ける。避けたヴォルターをカロンは踏み付ける。しかしダメージは通らない。

 起き上がったヴォルターは再び攻撃にかかる。しかしヴォルターは拳での戦いなぞほとんどしたことがない!リューに突っ掛かるヴォルター、やはりリューはカロンを盾にする。ヴォルターは力ずくでカロンを押しやろうとする。カロンを殴るヴォルター、カロンは盾でヴォルターの拳をすらして受ける。体勢が崩れたヴォルターを短刀で突くリュー、ヴォルターは体を引いてかわそうとする。しかしカロンがヴォルターの視線を手の平で遮る。ヴォルターはリューの突きが見えなくなりさらに大きく後ろへ逃げようとする。その動きをカロンが大外刈で押し倒す。追撃のリューの短刀がヴォルターの腕に刺さる。

 

 ーー馬鹿げているだろ!なんでこのレベル差で俺はこいつらに対して明らかな優位に立てていないんだ!?何で俺は持久戦に巻き込まれてるんだ!?一体どうしてだ!何なんだこいつは!?

 

 ヴォルターの考えは切り札使用へと傾き始める。カロンは戦いながらやはり挑発を行う。

 

 「ああ、剣がないとたいしたことができないんです。僕はもう怖くて逃げ出したいんです。助けて下さい天におわしますゴキブリの神様よ。僕に逃げ出すための黒い羽を下さい。」

 

 そうしてまたペロリと舌を出すカロン、それに乗っかるリュー。

 

 「ああ、逃げたくてたまりません。相手が悪すぎました。もうすぐ叩き潰されてしまいます。今までの生を懺悔します。生まれてきてごめんなさい。」

 

 リューも一緒になってペロリと舌を出す。

 ヴォルターは敵の戦いづらさに手を焼き挑発にフラストレーションを溜め込む。

 

 ーークソが!!剣さえあれば!!

 

 戦いは未だ狭い通路。高さはカロンの身長より一メートル高いくらいしかなく横幅もせいぜい一メートル半と言ったところ。そこで三人は相変わらずクルクルクルクル動きつづける。

 ヴォルターがリューに殴りかかりカロンはそこに割り込み相手の腕を掴み背負いなげをしようとする。ヴォルターは力ずくでカロンの腕を引きはがす。しかしそこをカロンの後ろからリューが手を伸ばしヴォルターの腕を短刀で切り付ける。血を流すヴォルターしかし彼はカロンごとリューを吹き飛ばそうと体当たりをする。しかしカロンは体を自分から浮かせて体当たりを受け流す。リューはカロンを避けてヴォルターに斬りかかる。ヴォルターは頭から血を流して反撃をしようとする。しかし逃げるリュー、たいしたダメージを受けずに軽々復帰するカロン。ヴォルターはイライラが止まらない。

 

 ーーマジでこいつらやりづれぇっ!!こいつら何なんだホントに!!仕方ない、魔法を使用するしかねぇ!!

 

 即詠唱を唱えるヴォルター、毒の霧を口から吐き出す。しかしそれを見たカロンは笑いながらリューの前へと立つ。

 

 「リューっっ!!わかってるな!!」

 

 リューを護りながらカロンは毒の使用半径から遠ざかる。リューは即退避で毒から離れている。ヴォルターは先の人選が敗北した理由を悟る。

 

 ーーこのヤローマジかよ!?レアスキル持ちの噂は聞いていたがどういうことだよ!?俺の体の動きは鈍いし毒は効いてねぇ!馬鹿げている!!どうするか?ここで逃げて状況は好転するのか?こいつらまず警戒するだろ!?どうするんだ!?次の襲撃で確実に葬れるとも思えねぇ!?まだあと一枚札はある。切っちまっていいのか?こいつらの持久戦に付き合って勝ちきれねぇか?どうなんだ?相手に切り札は?相手の援軍は?なぜ俺は格下相手でこんなに追い詰められた思考をしてるんだ?クソっ!!なにもかもが剣を奪われたせいだ!

 

 その間にも戦いは続く。毒から逃げたリューに続くカロン、それをヴォルターは追いかける。

 カロンは受けの姿勢、リューも同じ、ヴォルターはカロンを力で殴りつける。正面から受けるカロン、壁へ吹き飛ばされる。リューはすでにカロンの近くに退避している。ヴォルターはリューへと向かっていく。リューはカロンの近く、ヴォルターはリューに殴りかかる。しかしヴォルターはカロンに足を捕まれる。横に気をとられヴォルターは拳をリューにかわされる。かわしたリューは短刀での反撃、カロンはヴォルターの避ける動きを利用して再びヴォルターの足に自身の足をかけて転ばせる。

 

 「そろそろ理解したかい?マヌケな坊ちゃん?どっちが狩られる側だってことを。」

 

 「そろそろ理解しましたか?マヌケな坊や?どっちが弱虫だってことを。」

 

 そろって笑うカロンとリュー、ここに来て二人の息は最高の合い方をしていた。

 

 ーー切り札を切るしかないな!!こいつらを地獄へ送ってやる!!

 

 ーーうーん体中が痛い、そろそろ撤退してくれんかなぁ?そろそろポーションが飲みたいんだがなぁ?

 

 ーー相手は格上。カロンはあとどのくらいもつのか!?

 

 三人の思惑。

 カロンは表情と内心が重なることは少ない。

 リューはカロンの内情を理解していない。

 ヴォルターはぶちギレる寸前。ヴォルターは切り札を切る。

 ヴォルターの切り札はやはり詠唱。高速詠唱であり並行詠唱でもある。無数の毒虫を召喚する魔法、しかしヴォルターも毒を受ける。早い段階でこの魔法を発現させていたヴォルターは自身を耐異常に寄せてカスタマイズしていた。

 

 ーー不死身の耐異常の高さはなんかのスキルかもしれんが疾風よりは俺の方が異常に強いハズだ。一対一になれば不死身のヤローも葬れる。先に確実に疾風を葬り去る!

 

 しかしヴォルターはここに至って未だカロンの戦術眼の高さを理解していない!

 

 「地の底でうごめく数限りない蟲の群れ、それは闇より出て黄泉へと還る宿命られた旅路の案内者。」

 

 ーー詠唱か。しかも高速詠唱で並行詠唱、さてはて?うんそうだ!!いいこと思いついた。

 

 「リューっっ、お前は退避だ。安全を確認してから戻って来い!!」

 

 これに驚いたのはヴォルターである。

 カロンは先ほどの毒が通っていない!!どうするんだ!?リューに逃げられたら最悪詠唱の意味がないだろう!?むしろマイナスじゃねぇか!!まさかこんなに早く退避させることを選択するとは!?魔法がどういうものかも理解していないはずなのに!!効果も範囲も知らんはずだろう!!

 

 ヴォルターの魔法は効果範囲が広い。故にヴォルターは発動してからでは逃げられないと思い込んでしまったのだ。しかし発動してから逃げられなくても詠唱し始めからだったら悠々と逃げられる。そしてカロンはリューを退避させる選択を取るのが恐ろしく早かった。

 

 カロンは恐ろしく用心深い。常に相手の切り札を警戒している。切り札は魔法かスキルかアイテムの可能性が高い。魔法なら詠唱、アイテムなら相手の動きに注目すればいい。スキルの多くは常時発動型であり、それ以外は後出しの対応以外は不可能だ。しかもステータス頼みの戦いを行う者はハッタリの効率的な使い方も理解していない。脳筋の相手はリューで十分にしている。

 

 カロンにとってヴォルターの魔法は効果も範囲も不明。辛うじてわかるのはもう一つの魔法が毒だったことだけ。これも毒系である確率はそこそこ高い、あくまでそれだけだ。そして敵の足止めが可能なのはカロンであり、どのような魔法でも二人巻き込まれるよりは一人で喰らう方がよい。挙げ句にどのような魔法でも喰らって生き残る確率はカロンが圧倒的に高い。敵は暴発を考えるとキャンセル不可。だったらリュー一人は逃がすのはカロンにとっては当たり前の選択である。

 

 馬鹿丸出しのヴォルター、先程から攻撃を受けるのはカロンのみである。リューに逃げられる可能性を考慮していなかった。今までの戦いの相手が逃走可能という選択肢を持っていなかったのである。短時間の足止めが可能な耐久特化と逃走に適した速度特化という組み合わせ上の理由でもある。これまで絶対強者でありつづけたツケが回る。彼がランクアップしてきた強者は知能の薄い怪物である。知恵を持つ相手でここまで持たせられることはほとんどなかった。そして今彼は詠唱をやめても暴発が待つのみである。

 

 逃げ出すリュー、詠唱しながらリューを追うヴォルター、ヴォルターを引き留めるカロン、戦いはどこへ向かうのか?誰かの見切り発車バトルはどう完結するのか?わかっているのは主人公が勝つんではないかということだけである。

 

 ーークソがっっ!!絶対に逃がすわけにはいかねぇ!

 

 場面は切り替わり行く。縋るカロンを必死で振り払いリューを追いかけるヴォルターは大広間へとたどり着く。後ろからカロンがヴォルターに掴みかかる。リューは大広間の外へさらに逃げる。

 

 ーークソっ!!もう撃たざるをえないか。

 

 「オーバーランッッ!!」

 

 ヴォルターは仕方なく魔法を放つ。地面より湧き出る無数の毒蟲、カロンは今がチャンスと笑いながらハイポーションを口に含んでいる。

 

 つくづくヴォルターは選択肢を間違えている。リューを追わずにカロンを攻撃していればカロンにポーションを飲ませる隙を与えることはなかった、それで勝ちきれるかは別問題ではあるが。しかしそれでもミスがミスを呼ぶ最悪のスパイラルである。そしてその始まりにはいつも黒いスキルが存在するのである。

 カロンは内心で助かったと思いながら表情には決して出さないわらい顔。

 

 「俺には毒は効かんよ?お前は自分の首を絞めただけだなぁ。ここまで取っといたのはマインドと自身の耐毒の問題だろ?」

 

 カロンはえげつなく嗤う。カロンの戦術眼は恐ろしく高い。

 マインドに関しては先の毒霧を多用しないのはこちらの魔法がでかいマインドを食うからだと即座に推測していた。マインドをさほど使うとも思えない毒霧を連発しない理由が他にないからだ。カロンに効かなくてもリューには十分な効果がある。

 耐毒に関しては何もわからないが当たっているなら相手の精神を揺さぶれるしそうでなくとも別にマイナスはない。

 事実ヴォルターは毒蟲の魔法は必殺で、そちらを鍛えるよりは精神以外の基本ステータスの底上げを優先していた。切り札は一枚で必殺だと。しかしそれは今は詮無きこと。どちらにしろカロンは毒に完璧に対処を行う。魔法スロットの二枚はすでに明かされてしまっている。それがカロンを相手にする際にどれほどのマイナスとなるのかをヴォルターは理解していない!!カロンは魔法の有効半径と規模を見てこれは敵の本物の切り札の可能性が高いと判断する。

 部屋を数限りなく埋め尽くす毒蟲、カロンに掴みかかるヴォルター。

 

 「おいおい、無駄だよ。お前にできるのは逃げ出すことだけだよ?ほらほらほら?」

 

 カロンを殴るヴォルター、カロンは嗤ってその腕を掴む。

 ヴォルターはここでもまたミスを犯す。

 

 ーーこいつ本当に毒が効かないのか?退避する気配を見せねぇ!俺がやられ損だ。チッ、部屋から退避するか。

 

 退避するヴォルター、それを見たカロンはヴォルターにも毒が効くことを理解する。カロンに理解させてしまう!

 逃げ腰なヴォルターの精神に黒い鎖は密接に絡み、動きが鈍ったヴォルターをカロンは掴んで蟲の群れへと投げ落とす。

 

 ーーし、しまった!!

 

 無数の蟲はヴォルターの体をはいずり回る。当然蟲は体に触れる面積が多いほどにより多くの毒が体へと回ることになる。そしてさらに足掻くヴォルターに押さえ付けようとするカロン、動けば動くほどヴォルターの状況は悪化する。ヴォルターの体に回り行く毒。やはりカロンは嗤いつづけて毒が効いている様子はない。

 

 ーー完全に選択ミスだ。こいつがこんなにヤバいスキル持ちだったとは………!クソッコイツを襲撃で殺しきれなかったツケが回って来るとは!?先の襲撃に参加して確実に葬っておくべきだった!!

 

 ヴォルターはここに来て撤退を選択する。先行きの見通しは?暗いと言わざるを得ない。しかし今ここで戦い続けて勝てるのか?疾風がいなくても?それでもヴォルターの体には毒が回っている。そのうち疾風も戻って来る。毒が回って二対一では勝ち目どころではない!先程までの戦いでも怪しかったというのに!!

 しかしやはりヴォルターの意思とは裏腹にヴォルターの体は敗北の恐れに縛られてろくに動かない。

 

 やはりどう考えてもチートタグは必要なのではないか?誰かがノリで適当に考えたスキルは言い訳のしようもなく「僕の考えた最強のスキル。」になっている気がする。というかどう考えてもなっている。まさかこんなことになるとはーーー誰かは予想外の展開に戦慄する。ちなみにタグはこの前付けました。

 

 そんな思惑とは裏腹に止むことなく襲い来る蟲の群れ、嗤いながら幾度も敵を踏み付けるカロン、上手く体が動かないヴォルター、どちらが悪役かわからない絵面である。

 

 ーー命はまだあるが………。やはり予想以上に毒を喰らってしまった。撤退しようとすると体が縛られたように動かなくなる。撤退を制限するスキルなのか………?しかし他のタイミングでも体の動きが悪くなりやがる………。まさか相手の精神に呼応して相手の行動を縛るスキルか?そんなものが存在するのか?毒が効かねぇことといいなんて強力なスキルを持ってやがるんだ!?コイツに手を出したのは間違いだった!!いや、そもそもアストレアを襲撃したこと自体が間違っていたのか?もう勝ち目はねぇ。こいつは悪魔だ。俺達は寝てる悪魔を起こしちまったんだ。ダンジョンで油断した奴は命を落とすことは定説だが………殺せる奴を殺せるときに殺しておかないとこうなるということかーーー

 

 体の動きが鈍いヴォルター、無傷で戻ってきたリュー。残りの万一の切り札を警戒して戦う二人。当然紛れは起きずヴォルターは自身の敗北を理解した。

 あっさり勝負は決着したーーー。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン、大変だったな。あいつレベル7だったぞ。闇派閥でも特にタチが悪いことで知られている男だと思う。確認はまだ終わってないが。お前達はよく生きて帰って来てくれたな。」

 

 笑うガネーシャ。ここは当然のガネーシャ本拠地。カロンは瀕死のヴォルターを捕らえてガネーシャに引き渡す。いつもの結末だ。

 

 「7だったのか。しかしそいつ馬鹿だぞ?いきなり最初から武器を手放したぞ?アレがなければ俺達多分負けていたぞ。」

 

 「ええ、つくづくマヌケな男でした。戦いもその男が終始自滅した感じでしたし。」

 

 ついにリューも死体蹴りを行うようになる。

 

 「そうなのか?しかし連合成立も間近だろう?早く帰って休むといい。友の体の心配をあまりさせてくれるな。祝いの席が突然葬儀になるようなことになって欲しくない。」

 

 「ああそうだなガネーシャ。お前の言う通りだ。帰るか、リュー。夕飯が待っている。」

 

 「あなたはいつもお夕飯のことばかりですね。」

 

 「いいじゃないか。帰ってゆっくりしようか。」

 

 「ええ、そうですね。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「団長、お疲れ様でした。」

 

 これはブコル。彼らはあのあと急いでガネーシャの援軍を呼んでくれていた。

 

 「レベル7だと聞きましたよ!!よく勝てましたね!!」

 

 ミーシェだ。

 

 「相手がマヌケだっただけだよ。それより晩飯はできてるのか?」

 

 「いえ、それが………今日の当番のリリルカさんは怪我でものすごい疲労をしていて………まだできていません。先程ヘスティア様が買い出しに向かわれました。」

 

 これはベロニカだ。リリルカは部屋で寝かされていた。

 

 「ああそうか、当然致し方無しか。お前らはロキのところにたかりに行くか?俺の名前を出せば多分飯くらい出してくれると思うぞ?」

 

 俺は笑う。リリルカの看病は俺とリューとアストレアで行う。今は先にアストレアが看病を行っていた。命に別状がないのは心から安心をしていた。

 

 「いえ、さすがに団長ほど図々しくはなれません。それにリリルカさんに助けられた俺達もリリルカさんを置いていけるわけがありません。」

 

 バランのセリフ。失礼な奴だ。

 

 「じゃあリリルカが元気になったら豊穣の女主人だな。カンパ金から少しくらいの祝勝会流用はかまわんだろ?」

 

 「リリルカさんに聞いてもらわないと………。」

 

 ビスチェの言葉。

 

 「やはりリリルカか。リリルカ待ちか。ところでボーンズ、なんか一言しゃべるかい?」

 

 「俺はリリルカさんにたいしたことがなくて団長と副団長も無事に帰ってきてくれた事が何よりうれしいよ。」

 

 ボーンズはそう言う。

 

 「やはり今回もMVPはリリルカさんですね。つくづく素晴らしい人材を引き抜いたものです。」

 

 リューの金言。

 

 「違いないな。リリルカは俺達にとっての幸運の女神だな。買い出しに行くまで部屋で寝そべってお菓子を食ってたどっかの駄女神と違ってな。」




うんやはりチートですね。流れに沿って書いてみたらこうなってしまいました。
それと都合のいいようですが大火力魔法は自分も巻き込まれるため前衛の切り札にはなり得なそうだったので闇のイメージと併せて毒の切り札にしました。
ハイポーションはこれから長く共にやっていく予定のミアハファミリアからのプレゼントです。金をもらって薬を薄める必要のないナァーザは可能な限りよいものを作りプレゼントしました。リリルカが表のMVPでナァーザが影のMVPです。


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節目の夜に

 ここはアストレア本拠地団長室。俺はここで椅子に座り来るべき日を待つ。俺達はいよいよ連合ファミリア結成お披露目を目前に控えていた。

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 「どうした?」

 

 「失礼します。」

 

 入室するミーシェ。

 

 「団長、面会を希望するお客様がいらっしゃいます。本日は二名様です。」

 

 「了解した。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「デメテル様、久しいな。用件とは一体?」

 

 「呼び捨てて構わないわ。あなたほとんどの神を呼び捨てているじゃない。」

 

 「まあ、そうだな。ところで用件とは?」

 

 「それはーーー

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「万能者、どうした?俺のことが忘れられないのか?」

 

 「ふざけないで下さい!!それより今日の用件はあなた方に擦りよりに来ました。英雄を信じに来たと言い換えましょうか?」

 

 「なんだ。やっぱり忘れられないんじゃないか。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 今日はアストレア連合成立日。結成記念パーティーを行う。パーティー開催前、俺はいつものようにリリルカに怒られて正座していた。

 

 「何ですか八柱合体超絶アストレアファミリアって!!おかしな垂れ幕を承諾も無しに勝手に垂らさないで下さい!!!」

 

 アストレア、ヘスティア、ソーマ、ミアハ、イシュタル、タケミカヅチ、デメテル、ヘルメス。八柱だ。サポーター育成、冒険者育成、薬師、酒、娼館、武門、食物、もの作りの総合ファミリアだ。風紀面で問題が出そうでかつ移動に手間がかかりすぎるイシュタルファミリアを除いて本拠地を同じくしている。連合では主に酒、薬、食物等のもの作りの部門とサポーター及びに冒険者を育成するタケミカヅチ道場に別れていた。

 

 「そうはいってもリリルカ、インパクトは重要だろう?」

 

 「そうですね、確かに重要です。」

 

 「リュー様!?甘やかさないで下さい!!どこまであさってに進むかわかったものじゃありません!」

 

 「リリルカはケチだな。そうでないと財政をしきれんのだろうな。ナァーザやイシュタルとも気が合うだろうな。」

 

 「カロン様は馬鹿なんですか?馬鹿なんですね?はあ、知ってました。」

 

 ◇◇◇

 

 パーティーは始まる。原作主人公以外の主要人物はだいたい揃っていた。アポロン?何のことだ?

 

 「おお、凶狼、良く来たな。お前には前々からタケミカヅチ道場の師範代を任せられないかと考えていたんだ。考えてくれるか?ほら、ここの貧乏神もそういっているぞ。」

 

 「お前は相変わらずだな。まあ悔しいのは貧乏神を否定できないところだな。」

 

 「テメエ、どこでもそんな感じなのかよ………。」

 

 

 

 「フレイヤ、良く来てくれた。待っていたぞ。」

 

 「まああなただしね。その礼服なかなか似合っててステキよ。本当はイシュタルがいるから来るべきではなかったのだけれど………。」

 

 「おいおい、俺を恩神を蔑ろにするような人で無しにしないでくれ。」

 

 

 

 

 「カロン大団長、おめでとう。」

 

 「おお、勇者か。アイズもいるな。ロキファミリアか。元気そうだな。」

 

 「ああ。それとサポーター貸出についてーーー

 

 「カロン、せっかくの祝いの席だしあっちにいこ。」

 

 「ああ、そうするかアイズ。」

 

 

 

 「カロン大団長、おめでとう。さすが俺のズッ友だ。」

 

 「そりゃ、な。わざわざ来てくれてありがとう。ガネーシャは今の時期は忙しくないのか?」

 

 「友のためならいつでも駆けつけるさ。」

 

 

 

 「カロン、おめでとう。これで俺も路頭に迷わずに済むな。」

 

 「ヴェルフ、お前には期待しているよ。おかしなネーミングだけはいただけないが………。しっかり働かんとお前の仕事が他の人間にとられてしまうぞ?」

 

 「まかせときな!期待にゃしっかり応えてやるよ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア団長室。今日はもうすぐ明日になる時間だ。パーティーも終わり私達は一つの節目を迎えていた。

 ここで私たちは二人きり、ソファーに座って向かい合う。今日は彼も珍しく自分からお酒を飲んでいた。

 

 「今日はお疲れ様でした。だいぶ目標に近づきましたね。」

 

 「ああ、そうだな。一重にリリルカのおかげだ。リリルカが有能過ぎる。」

 

 私は苦笑する。やはりリリルカタグは絶対に必要だ。

 

 「リリルカさんは反則過ぎる。なにゆえあそこまで有能なのか。」

 

 「必要だったんだろ。生きる上で。本人にいうと落ち込むかも知れんぞ?」

 

 「なるほど。」

 

 私は苦笑した。思い至る節はある。リリルカさんはきっと大変な思いをしたのだろう。

 

 「お前はポケーッと生きてるからそんなに腹芸が下手なんだ。リリルカを見習うべきだな。」

 

 カロンは私にジト目を向ける。

 

 「相変わらずひどい言い草だ。しかしあなたのそれはベートさんのツンデレのような感じではないのですか?」

 

 思いきって私は揺さぶってみる。私にはカロンに対する一つの切り札があった。

 

 「………何だと?」

 

 「小学生が好きな子にちょっかいかけたくなるアレですよ。」

 

 「………俺は誰にでもこんな感じだろ?………それにお前はアストレア最後に残った同胞だったろう。」

 

 思ったとおり。彼は動揺しています。ここが切り札の切り所だ。私は長く彼とともにいて彼のことをある程度以上に理解していました。

 

 「あなたが言葉に詰まるのは珍しい。あなたは口が回る。少しでも言葉を詰まらせるのは急所を突かれた時くらいです。たとえお酒が入ってて油断してたとしても。」

 

 「………………。」

 

 「あなたが隙を見せるのは珍しいですからね。」

 

 私は笑う。彼はそっぽを向くが私はそれを許さない。私は立ち上がって回り込んで彼の目を見る。

 彼の目は青い色。私の空色にたいして海の色。包容力のある無限に広がる優しい海。私はその色にせつなさを覚えた。いえ間違いなく気のせいですね。

 

 「ちょろちょろと何してるんだ。」

 

 「いえ別に何も。」

 

 ニヤニヤ笑う私に膨れっつらなカロン。不機嫌そうな顔は意外とレアです。いじれそうなときにいじらないと普段の仕返しを損ねてしまいます。

 

 「お前キャラ変わっとるだろう。そんなにおかしなキャラだったか?もう俺は寝るぞ。明日からは忙しいしな。」

 

 そう言って逃げるように退出する彼。さすがの戦術眼です。三十六計なんとやらですね。

 

 「勝ち目がないから逃げるのは当然です。あなたは逃げ出すのはつまりはそういうことですね?」

 

 挑発する私。舌を出して逃げ去るカロン。今日の私は珍しく勝利の余韻とともに眠りにつけそうだった。




アストレア本拠地はリューのために以前植えた木が大樹となることになり遠い未来に【世界樹の館】と呼ばれ、エルフからも多大な敬意を集めることになります。


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閑話~カロンの受難~

 今日は暖かな春。穏やかに降り注ぐ日差しと心地好い陽気さ。悼ましい事件は時間とともに色あせつつある、そんなある日。

 俺は戦慄した。我が目を疑った。

 

 ーー馬鹿な………。これは何なんだ?クソッ、まさか闇派閥の残党の仕業か!?俺は何者かの精神攻撃でも受けてんのか?

 

 

 

 

 

 

              ~カロン饅頭 1個30ヴァリス~

 

 ◇◇◇

 

 「リリルカああぁぁぁぁッッ!!どこだああぁぁぁぁ!!!」

 

 俺はアストレア連合大団長カロン。最近までは多数ファミリアの連合参入のため目が回る忙しさだった。

 最近少しずつ暇を取れるようになって今日は初めての休みで外を歩いたらこのザマだ。

 カロン饅頭?カロン人形?カロン人参?クソッ!!

 こんなことが可能なのはリリルカだ。万能者と手を組みやがった!!デメテルも多分向こう側だクソッ!!

 

 俺は走って本拠地に戻ってきた。そして絶句して目を疑った。

 なんか本拠地の屋上に像が建てられてる。まさか俺か?目を何度もこすった。見れば見るほど俺に似てる気がする。最近書類業務で外に出ないから気付かなかった。しかもポーズがめっちゃ偉そう。左手を腰に当て右手は明後日を指している。ああいうのはガネーシャかアポロンの専売特許のはずだろ!?どういうこった??

 

 「リリルカああぁぁぁぁ!!」

 

 ◇◇◇

 

 「どうしましたカロン様。少し静かにしていただけませんか?」

 

 「どうしたもこうしたも屋上のアレは一体何なんだ!?どうしてあんなことしたんだ?」

 

 俺は連合内の廊下を書類を持って歩いているリリルカを捕まえた。

 

 「屋上のアレはヘスティア様の発案ですよ。以前の仕返しだと。リリは知りません。」

 

 うそぶくリリルカ。

 

 「じゃあ町を出回っていたカロン印とやらは一体何なんだ!!何だ、カロンシリーズって!!」

 

 「ああ、あれは連合の売れ行きをあげるためにやりました。」

 

 「やめろおぉぉ!!」

 

 「売れてますよ?お金は大切です。」

 

 取り付く島のないリリルカ。

 

 「あの屋上に立つ銅像は何だ!」

 

 「ああ、あれはゴブニュファミリアの特注品です。」

 

 「アレを外せ!!」

 

 「しかしアレは副団長から何が何でも外すなと厳命を受けています。本部の総意でもありますよ?アストレアファミリアここにあり、と。」

 

 「外すにはリューと交渉しろということか?」

 

 「ファミリア幹部の過半数の賛成が必要です。」

 

 「クソオオォォォ!!」

 

 俺は走った。

 

 ◇◇◇

 

 「リュー、アレはどういうことだ!?」

 

 「アレとは何のことですか?」

 

 俺はリューを捜し回った。平の団員に聞いたところによるとタケミカヅチ道場で見かけたものがいるらしい。タケミカヅチ道場は連合の冒険者を門下生として受け入れたことで、大幅な改築を行っていた。

 ってそうじゃない!

 

 「屋上の銅像のことだ!!なんであんなものを置いたんだ!?」

 

 「入団希望者にわかりやすくするためです。アストレアファミリアの象徴としてちょうどいいでしょう?」

 

 「なぜ俺があんなアホのアポロンみたいなことをさせられてるんだ!?」

 

 アポロンファミリア。連合に最近加入した。なんか美がどーとか言ってた。どうやらリューに惚れたらしい。面倒だからリリルカに任せてみたら10分くらいで口説き落としてた。この間見たらリューの写真がプリントされたウチワを持って鉢巻きしていた。今はファミリア丸ごとリューのファンクラブになったらしい。何なんだアイツは!?

 って今はそんな話ではない!

 

 「あら、カロンはああいうのが好きだと思っていましたが?カロンは十分にアホですよ?」

 

 「はずせええぇぇぇ!!」

 

 「幹部会の過半数の賛成が必要ですよ?」

 

 「はあぁぁ、地道に説得していくしかないか?」

 

 「実質的に不可能です。それに無意味ですよ。」

 

 「なぜだ?」

 

 「カロン銅像はゴブニュファミリアと結託してすでに大量生産のラインに乗っています。」

 

 「何だと!?誰が欲しがるんだ?」

 

 「幹部は皆だいたい持っていますよ?本部連中は特に。リリルカさんの部屋にも三体あります。何でも保存用、鑑賞用、布教用だとか。私は金の像を持っています。」

 

 薄い胸をはるリュー。いや、薄くも無いか?

 だからそうでない!俺はこんな時に何を考えているんだ!?

 

 「自慢にならんだろ!どうにかならんのか!?」

 

 「どうにもなりませんね。手遅れです。」

 

 「マジかよ………。」

 

 「何なら私の部屋に見に来ますか?カロン饅頭をお茶請けに出しますよ?」

 

 「いかん!!」

 

 

 ◇◇◇

 

 「アストレア、大変だ。俺の銅像を勝手に本拠地の屋上に建てられている!!」

 

 「あら、知ってるわよ?それに同盟ファミリアの本拠地の屋上にも置いてあるわ。」

 

 「マジかよ………。なぜだ?なぜお前はそんなに平然としてるんだ?」

 

 「私にもきちんと話が来たわよ。かわいらしくていいじゃない。」

 

 「ちくしょおぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「久々だな勇者。調子はどうだ?」

 

 「こんなところでどうしたんだい?」

 

 オラリオのとあるカフェ。たまたまみかけた勇者を相談相手にする俺。

 

 「悩みがあってな。なんか俺の銅像が勝手に作られているらしい。」

 

 「今頃知ったの?ウチのアイズの部屋にも飾ってあるみたいだよ。今は結構あちこちにあるよ?」

 

 「何だと!?」

 

 「あと確かベートもこっそり隠し持ってたらしいし、噂ではバベルの屋上にも飾ってあるみたいだよ。何でもアストレア副団長が連合と懇ろになる方法としてオラリオ中に噂を流したって………。」

 

 「リューっっ!!!」

 

 俺は席を立って走ってまた本拠地に戻った。

 

 ◇◇◇

 

 「リュー、銅像はお前が全面的に打ち出したときいたぞ?」

 

 ここはリューの部屋。俺の前にはお茶とともにだされるカロン饅頭。食ってみると案外美味しいなコレ。

 

 「ええ、私がガネーシャ様と結託して闇派閥から身を護るお守りとしてオラリオに売り出しました。」

 

 「なぜだ?なぜそんな馬鹿げたことを?」

 

 「あら、私を闇から助けてくれたのはカロン、あなただったでしょう。闇派閥のお守りでおかしなことはないでしょう?」

 

 「おかしなことだらけだよ。勘弁してくれよ?」

 

 「でも古い幹部連の意見は一致してましたよ?」

 

 「マジかよ。ってゆうかガネーシャと結託したっていつの間にそんな高度な交渉能力を得たんだ?」

 

 ぼやくカロン。

 

 「そんなのわかりきったことじゃないですか。私はいつだって側であなたを見ていましたよ。」




白と黒のスキルはカロンが強く願うことで特に大きな効果を発揮します。
具体的には敵と戦うときと最初期の復讐に囚われるリューを護りたいと思ったとき。

因みに銅像の搬入はリリルカのアーデルアシストが今がチャンスとばかりに力を発揮しました。


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時系列バラバラ編
偽最終話!~英雄はいつだって笑顔で帰ってくる~


 この日、オラリオに恐怖が訪れていた。蓋をしたはずのダンジョン、しかし魔物達がせきを切ったように4ヶ所から溢れ出したとの報がオラリオを駆け巡る。

 人々は恐怖して逃げ惑う。混乱し右往左往する人々を救うために現れる高レベル冒険者達。人々は安堵する。

 

 そして魔物本隊に対応するのは6人のオラリオが誇る英雄達。

 

 北を受け持つ【オラリオの父】アストレア連合ファミリア大団長、オラリオの守護者カロン。

 東を受け持つ【猛者】フレイヤファミリア団長、個人において最強と名高いオッタル。

 西を受け持つ【剣姫】ロキファミリア団長、指揮者としての頭角をついに顕したアイズ・ヴァレンシュタイン。

 南を受け持つ【英雄卵】アストレア連合ヘスティアファミリア団長、カロンの秘蔵っ子として名高い次代を担う英雄ベル・クラネル。

 自在の遊撃を受け持つ【聖なる風】アストレア連合ファミリア副団長、オラリオお嫁さんにしたい不動のNo.1リュー・リオン。

 戦局を見極め的確な指示を出す【王の助言者】アストレア連合ファミリア本部統括役、至高の教育者であり最高のサポーターでもあるリリルカ・アーデ。

 

 オラリオは喝采する。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン、お疲れ様です。」

 

 「ああ、遠征前にこういうのは勘弁してほしいな。」

 

 「そうですね。リリも明日の準備をしなくてはいけません。」

 

 アストレア本拠地応接間。ここにいるのはいつもの三人。

 アストレアとヘスティアは遠征前の緊張を慮ってここにはいない。ミーシェも書類業務を行っていることだろう。

 オリキャラのミーシェは今やリリルカと同等の有能さになり、連合にバリバリ指示を出していた。将来アスフィさんみたいになりそう。 

 

 「それでは明日に疲れを残さないようにせんとな。もう寝るとするか。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ぐわああぁぁぁぁっ。」

 

 「カロン!!」

 

 「「「団長っっ!!」」」

 

 ◇◇◇

 

 この日アストレア連合ファミリアは迷宮の深部にて紫の竜王と出会った。竜王は黒竜直系の眷属であった。竜王は死ぬ直前に魂を溶かすブレスを放つ。カロンはベルをかばい直撃する。それは汚れを禊うスキルを持ってしても防げない神々の呪いと同質のものであった。団長を落とされた連合は撤退を決心し、彼らは命からがら地上に戻ってきた。

 

 ブレスの直撃したカロンは魂を融かされそのステータスのほとんどを吹き飛ばされることとなった。カロンは事実上引退を余儀なくされる。

 

 黒と白のスキルは融けて混ざり合い、彼の背中には僅かに神血の残滓が遺っていた。それは誰も知らない遠い昔の幸せを願う祈りーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【灰の英雄】

 ・たとえ世界が灰色の景色でも鮮やかに色付かせることが可能な才能。

 ・英雄はいつだって笑顔で家族の所へ帰ってくる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 今日はアストレア連合ファミリア大団長、カロンさんの引退式だ。彼が引退して次代の大団長に僕が選ばれることになってしまった。アストレア連合ファミリアもヘスティア連合ファミリアに改名をする。次の時代はヘスティア様に任せるとアストレア様も笑っておっしゃっていた。まだ戦えるはずのリューさんもいるんだけどいいのかなぁ??

 

 「ベルか。ファミリアの未来はお前にかかっている。後は任せたぞ。」

 

 大団長カロンさん。僕がヘスティア様に拾われてからずっと目をかけてくれた。僕なんかに務まるのかなぁ?

 でもカロンさんはどこまでも明るく笑う。

 

 「お前は幹部会議で選ばれたんだ。心配するな!リリルカのサポートもあるし大丈夫だ。あいつはありえんくらいに有能だしミーシェもいる。ヘスティアだけはいまだにしゃきっとしないが………。」

 

 苦虫をかみつぶしたようなカロンさん。

 

 「ヘスティア様は僕のことをいつも考えてくれますっ!」

 

 僕は急いでフォローする。しゃきっとしないという言葉を否定できないのは辛いところだ。

 

 「でもそれで仕事のトイレ掃除を忘れるようじゃなぁ。あいつ他に何かしとるのか?」

 

 ヘスティア様はオラリオのトイレ掃除の神様として有名だ。確かにファミリア内では他にはステータス更新しかしていない。

 

 「まあ俺はもうステータスないし行くぞ。老兵死なずただ去るのみか。ついに護られる側になってしまったなぁ。」

 

 カロンさん、まだ老兵という歳でもないはずなんだけどなぁ。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「引退式お疲れ様です。」

 

 「ああ、ありがとう。」

 

 カロンと私の二人きり。

 この団長室に来るのが今日で最後と思うと物悲しい。ここ数年私達は忙しかった。楽しいことや悲しいこと等たくさんの思い出が詰まった部屋だ。

 

 「あなたはこれからどうするんですか?大団長ならば引退しても引く手数多でしょう。」

 

 私はカロンにそう質問をする。

 

 「アストレアのどこかの育成施設ででも働かせてもらいたいな。アストレアの経営している孤児院なんかも悪くないな。」

 

 「確かに悪くないですね。私もついていきます。」

 

 「なんでだよ。お前はまだ冒険者だろう?ステータスは健在だろ?」

 

 「以前に言ったでしょう、あなたに人生全BETしたって。」

 

 私は笑った。

 

 「おいおい、そこまでの面倒事は聞いてないぞ?お前こそ詐欺師じゃないか!」

 

 「契約書を隅々まで読まないあなたがいけません。それにあなたは今やオラリオの要人なんだから護衛の一人くらいは必要でしょう。それと詐欺師とは何事ですか?今や私はオラリオで広く導きの聖女と呼ばれてるのを知らないわけないでしょう?」

 

 「木っ端図かしいこった。それと契約書なんぞもらっとらんぞ?お前はいつの間にそんなに切り返せるようになったんだ。」

 

 彼も笑った。

 彼の目は青い色。私の空色と違い海の色。永遠を幻視させるどこまでも広がるとても優しい碧。

 

 「私はあなたに感謝していますよ。私は誰かに触れられるようになった。あなたとの特訓のおかげです。」

 

 私が誰かに触れられるようになったのは長い時間を経てきっと私が心から誰かと共にあるのを許せるようになったからなのでしょう。あるいは信頼なのかも知れませんね。

 

 「アレは痛かったなぁ。お前はなかなか成長せんで困ったものだった。冒険者としては一流なのだがな。」

 

 私は彼の手にそっと私の手を重ねる。

 

 「あなたが苦労してたとしてもその分私に触れていい思いをしたんだから我慢してください。」

 

 「いやいやいや無茶苦茶言うなよ。俺はずっとお前より低レベルだったんだぞ?第一に特訓はお前が言い出したんだろうが!」

 

 「多少のお茶目を許すのは男の度量ですよ。」

 

 「お前それシルの真似だろう!第一お前のせいで何回本拠地の壁を補修したと思ってるんだ!」           終わり?




後はしばらくおまけという形で続ける予定です。おまけが切れたら本当の完結を迎えてしまいます。
補足としてカロンの黒いスキルはカロンに成長を促されたリリルカに、白いスキルはカロンに護られたリューにひっそりと引き継がれています。二ツ名はその暗示です。
ついでの補足で主人公はいずれ灰色が発現するはずの所を必要に迫られて分離したという設定です。
読んでくれた方々、評価してくれた方々、感想を書いてくれた方々、お気に入り登録してくれた方々に感謝いたします。



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万能者達の真相

 ここはアストレア連合会議室。

 今は大々的に八柱の合併を告知したすぐの時期。俺はここで万能者と二人で話をしていた。

 

 「万能者、正直助かったよ。お前達が連合に来てくれたことは望外の幸福だ。もちろん他のファミリアもだが。お前の技能には期待しているよ。」

 

 「まあそうでしょうね。あなたは私達が加入した理由も理解してるみたいですね。」

 

 万能者達が連合参入した理由。ヘルメスファミリアは物を作る技能が高いファミリアだ。たくさんの魔導具を筆頭とした物を作り出している。しかしソーマ以上の酒を作れるわけではなくミアハ以上の薬を作れるわけではない。さらにデメテルよりも上手に農作物を作れる技術もない。それなら彼女達だけで物を売っていた方がよくないか?連合に加入する意味はないのか?

 

 しかし、ソーマが酒を作る過程にヘルメスファミリアの技術を応用するとすれば話はかわる。ヘルメスファミリアは価値の高い技術者集団なのだ。

 

 ヘルメスファミリアはソーマのよりよい酒瓶を作ることが可能で、ミアハの薬作成過程における手順短縮にアイデアを出すことが可能で、デメテルの農作物によりよい肥料を提供しうるファミリアなのだ。ヘルメスファミリアには技術があり、いくらでも可能性があり、それは様々な分野の専門家と組み合わせることで最大の効果を発揮しうると俺は考えている。連合で最も恩恵がでかくなる可能性を含んだファミリアだ。おそらく万能者も同じ意見なのだろう。

 

 「私達だけでは机上の空論で終わるアイデアがいくらでも試しうるというのは私達にとっても非常に魅力的です。」

 

 「まあそうだろうな。しかし現時点でのお前らの売上は十分だろ?やはりヒモ神様の御意向か?」

 

 「ヒモ神様て………否定できないのが腹立たしいですね。」

 

 俺達は笑った。

 

 「ヘルメスを楽しそうと思わせた時点で俺の勝ちだったんだな。」

 

 「まあそうなるんですかね。しかし私達にとってもデメテル様の加入は大きいです。私達が内情を調べていた時点では彼女達の名前は上がっていませんでした。彼女達の加入は噂のあの件ですか?」

 

 「プライベートだから黙秘を貫かせてもらうよ。」

 

 「さすがにそこまで口は軽くありませんか。」

 

 デメテル達の噂。それは俺達がデメテル達に顔見せに行った年の話だ。彼女達のファミリアはその年三人程の眷属が闇派閥の犠牲となっていた。俺は彼女が悲しんでいることを承知の上で会いに行った。

 

 俺の譲れない信念なんだ。いくら悲しかろうと傷をえぐる事になろうと、目の前で起こったことから目を逸らして対応を怠るとまた同じ事が繰り返されうる。俺の過去の経験談だ。だから俺はデメテルを悲しませることを承知の上で突っ込んだ話をした。その時点で俺達がデメテルに何も出来なくても俺達はいつでも待っている、暗にそういうメッセージを届けるために。そしてデメテルは闇派閥を幾人も撃退した俺達を自身のファミリアの防御策として選んでくれたのだろう。

 

 「俺だって話すべきじゃないことは話さんさ。口が軽いのと口が悪いのは否定せんけど。」

 

 「………正直に言うと少しだけショックでした。以前にあなたに私の英雄譚には英雄がいないと言われたことです。」

 

 俺はその言葉の裏の万能者の思惑をさぐる。万能者は続けて語る。

 

 「英雄譚は人々の夢の集大成のようなものだと思っています。」

 

 「それで?」

 

 「私はあなたたちの夢を否定しました。しかし夢を見ないのであれば人である必要があるのでしょうか?私は私の作ったものに仕事を奪われてしまうのではないでしょうか?」

 

 「なんかそんなSF映画ありそうだな。まあそれはともかく夢は夢だ。現実を生きるので精一杯の人間もたくさんいる。夢ばかり見てたら現実に足元を掬われるだろ?」

 

 「しかし………希望と言いましょうか。明日何をしたいという希望がないなら、いつかはこうしたいという希望がないなら、私達は何のために生きているのでしょうか?明日は良くなるのでしょうか?私達の技術はよりよいオラリオに貢献出来るのではないでしょうか?」

 

 「前に会ったときよりずいぶんロマンチックだな?目標ではいかんのか?お前達はいつも売上目標(ノルマ)は達成しているだろ?」

 

 「できることをできる限りしているだけです。夢のためにめくら滅法に歩き出すことは確かに褒められないでしょう。しかし夢を持つこと自体を否定するのはどうなのか、夢と目標の明確な定義の差はどこにあるのか?私は………あの時自身が高レベル冒険者だと言うことを忘れていました。なにもかもを夢で叶うはずがないと諦めていたら冒険者はやってられません。何もダンジョンに向かうだけが冒険ではないでしょう。」

 

 「ああ、そうか。」

 

 俺は納得した。高レベル冒険者は幾度も死地を乗り越えて到達する。確か彼女のレベルは4だったハズだ。最低でも3回は死線を乗り越えているハズだ。叶うはずないと堅実に生きる人間に壁を乗り越える資格は与えられない。俺達の連合構想と自身のランクアップの経験を重ねて見ているのだろう。

 

 「私がランクアップしたのは必死に戦ったからです。あなたたちも必死だったハズです。私にあなたの内心は窺い知れませんでしたが当時のアストレアが良くない状況だったのは覚えています。あなたはそれを良くするために必死だったんでしょう。出来るはずがないと諦めずに。そして必死に動いた先にあなたには道が見えていたんですね。」

 

 「お前にはそう見えたのか?買い被りだぞ。俺はいつも行き当たりばったりだぞ?」

 

 顔には出さなかったハズだがね。

 

 「あなたの変人の噂に惑わされていました。あなたがただの変人ならソーマファミリアを改革したりイシュタル様を説得したり出来なかったでしょう。フレイヤ様と同盟しているあなた方がどうやってイシュタル様を説得したのかは想像つきませんが………高をくくって相手に出来るほどイシュタル様が温いとは思えません。」

 

 ふーむまた微妙なところを突いてくるな。ソーマはリューとリリルカの手柄だし、イシュタルはまだどうするか先行きが不透明なんだがな。とりあえず口車には乗せたが。まあイシュタルはごまかしごまかし何とかするしかないんだよなぁ。相互利益についても不透明だし。リリルカと相談してやっていくしかないか。

 

 「イシュタルはどこかの高飛車と同じで俺の魅力に惚れ込んだんだ。どっちも多分意外と尽くすタイプだな。」

 

 「誰の話ですか。」

 

 ジトッとした目の万能者。なるほど。ヒモ神はこの視線に快感を覚えているわけだな。悪くない。

 

 「お前以外に誰かいるのか?」

 

 「面倒な男ですね。ヘルメス様並に。」

 

 「しかしお前はヘルメスと長くよろしくやってるだろう。オラリオ一のダメ男製造機を目指せばいいんじゃないか?俺だって飼われる準備は万端だぞ?」

 

 「この男は………。ハァ、まあいいです。以前にあなたの夢を馬鹿にしたのは詫びましょう。これからよろしくお願いしますね。」

 

 「お前には期待してるぞ、あらゆる物作りに万能なる優秀な手先よ。俺を楽にするために馬車馬の如く働くのだ!」

 

 「なんか早くも脱退したくなってきましたね。」

 

 「いやよいやよも好きのうち。ヘルメスを見限る気のないお前に連合は見限れんさ。」

 

 「………………リリルカさんと話をすればよかった。」




おまけは時系列がぐちゃぐちゃです。なんかごめんなさい。

それとカロンはどこまででもタヌキです。



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大団長の鎧

 「ふむ、やはり今回もノルマに満たないか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 連合成立してすぐ。最近カロンには一つ考えることがあった。連合冒険者の武器防具である。

 それなりに時期がたって、専属や自身のお気に入りの鍛治師を見つけたものはいい。そうでないものには連合と親しくしているヴェルフの武器防具をカロンは奨めるようにしていた。

 

 ーーしかしやはりもう少し本数がどうにかならんかな?

 

 カロンは考える。ヴェルフには自身の納得の行く出来でない武器は叩き折る癖があった。

 

 ーーしかしそれでもやはり高品質。叩き折った武器も店で買えばそれなりの金額がするはずなんだけどなぁ?しかし命を懸けるものに納得が行かない出来のものを出すわけにいかないというその言い分は理解が出来る。足りない分はやはりいつものようにへファイストスとゴブニュから買うしかないか。

 

 「おーい、リリルカ!」

 

 「何でしょうか。」

 

 よって来るリリルカ。発注書を見て用件を一目で理解するリリルカ。

 

 「その件でしたらすでにミーシェ様が向かってますよ。リュー様を連れて。」

 

 今やミーシェもオラリオの要人である。彼女も外で用事をこなす際は用心棒を連れていた。

 

 「お前のその用件を即座に理解する頭脳は相変わらずチートだな。」

 

 ◇◇◇

 

 バベルの塔へファイストス店舗フロア。カロンは何となしに足が向いていた。

 

 ーーうーん来てしまった。どうしよう。ヴェルフに久々に会いに行くかね。

 

 カロンの友人ヴェルフ・クロッゾ。今や連合お抱えとしてオラリオからそこそこの羨望の眼差しを受けていた。生活は安泰、仕事にも誇りを持って打ち込んでいる。一部の鍛治師は彼を連合の狗と呼んでいたがほとんどのものがそれをやっかみでしかないと感じていた。

 

 「変人、久々にあったな!」

 

 ーー?うーん、こいつは確か………

 

 しばし惚けるカロン。

 

 「なっっ。手前のことを忘れたと申すのか?あんなことを手前にしておいて………。」

 

 「?ああ、思い出した。でかい小学生か。元気にしてたみたいだな。」

 

 「でかい小学生だと!ぐぬぬ、お主は相変わらず失礼な奴だな!」

 

 「お前だって失礼だろ?いきなり変人呼ばわりだし。そもそも俺はお前になんかした覚えはないぞ?」

 

 彼女の名前は椿・コルブラント、へファイストスファミリアの高名な鍛治師。特に意味もなく謎のイベントを誰かが思いついてしまったためおかしなキャラになってしまった不憫枠である。

 

 「変人、お主はなぜ手前の防具を買いに来ないのだ!以前割り引くと言っただろう!」

 

 「お前の防具が高すぎるんだよ。俺には金がないんだ。」

 

 「嘘つけ!大団長とか呼ばれている癖に!!」

 

 金がないのは事実であった。タケミカヅチの為に金を貸しているのだ。連合成立からまだそこまで時間が経っていない今、カロンは立場の割には貧者であった。

 

 「いやマジだぞ。まだしばらくは遠征のことなど考えられんくらいには金がない。連合の金はまずは下のものの最低限の環境を整える為に使っている。」

 

 事実である。環境を整え入団者を増やしていくことがまずは肝要だ。そこへとヴェルフが通り掛かる。

 

 「カロン、久しぶりだな。」

 

 「おお、ヴェルフか。」

 

 「ヴェル吉か。」

 

 「何だ椿もいたのか?何してるんだ?」

 

 「この変人に手前の防具を売り付ようとしていたところだ。」

 

 「はぁ?何言ってるんだ?カロンは金を持たないぜ?お前のバカ高い防具なんか買えるわけねぇだろ?」

 

 「ぬっっ。それは真であったのか………。」

 

 考え込む椿。腕を組んでどこまでも壮大だ。

 

 「ヴェルフ、やはりノルマ達成は厳しいか。」

 

 ヴェルフと話すカロン。

 

 「以前アンタにゃ言ったろ?満足の行かないものを出す気はねぇんだ。理解してくれただろ?」

 

 「確かに立派ではあるがなぁ………。」

 

 「なぁ、ヴェル吉、お主はなぜ連合のお抱えになったのだ?」

 

 椿のふとした疑問。

 

 「以前から付き合いがあったんだよ。俺の為に先行投資だって言って一緒にダンジョンに潜ってくれた仲なんだよ。」

 

 「先行投資………。」

 

 また考え込む椿。

 

 「まあ仕方ないか。お前の武器は品質の割には安くて中級者でも十分に耐えうるものだからな。折角会ったことだし今からどこかに食事でもどうだ?」

 

 ヴェルフを誘うカロン。

 

 「ああ、いいな。行くか!」

 

 「ま、待て!手前も連れていけ!」

 

 「?まあ構わんが。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。三人で食事をするカロン達。

 

 「いつもスマンな。助かっている。」

 

 カロンの言葉。ヴェルフは下戸のカロンの為に彼に勝手に出されているエールを飲んであげていた。

 

 「いや、いつもエールの代金お前持ちだろ?俺は得してるだろ。お前が以前に言っていた互いにいい関係というやつじゃないか?」

 

 「違いないな。この店食事は非常に美味だしな。ヴェルフもわかってるな。」

 

 カロンとヴェルフは笑う。

 

 「互いにいい関係?どういうことだ?」

 

 椿の質問。

 

 「以前に俺とカロンの間でな。カロンが俺を鍛える代わりに俺が鍛治師としてカロンの役に立つ盟約だよ。」

 

 「それが互いにいい関係か。」

 

 また考え込む椿。

 

 「なあ、それは従来の専属鍛治師とは違う形なのか?」

 

 「うーん根本はかわってねぇな。ただ以前の関係より互いに融通を効かせているとは思うが。俺はカロンの命の為ではなくカロンのファミリアを護りたいという気持ちのために仕事をしてるんだよ。だからカロンの専属というわけではないかな。」

 

 「なるほど。」

 

 どこまでも考える椿。カロンは案外サマになってるなと思った。

 

 ーー先行投資か。連合はこのまま大きくなるのかも知れんな。変人は金に困っている………そして変人とヴェル吉には確かな信頼関係があり互いによい関係を築けているらしい。手前はどうするべきか………?金も名声も特に困ってはいない。しかしこの世に何も変わらないものなどあるのか?今の自分の立場に高をくくって構わないのか?手前の専属のガレスもいつかは引退する。鍛治師と冒険者の関係が変わりうるのか?先行投資、それは相手を信じれるかというのが最も大事になって来ると言っても過言ではない。変人の手腕は見事だった。こやつを信じるのも悪くないのかも知れないな。よし、決めた!

 

 「おい変人!」

 

 「何だ小学生?」

 

 「手前の鎧を格安で卸してやる!自信作だ。見に来い!」

 

 「何だ?急にどうしたんだ?」

 

 「何、大したことではないよ。大団長の金がなくて鎧が買えないではみっともないだろう!いずれお主らが大きくなったら融通を効かせてもらおうというただの下心だ!」

 

 「なんだ?小学生の癖に悪くない提案をするじゃないか?だが俺は本当に金がないぞ?」

 

 「構わんさ。何ならただでもいい。いずれ大きな貸しとして存分に絞りとってやるさ!」

 

 ほう、ただか。こいつ人間的にも案外ビッグだったんだな。



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アポロン陥落

 「だから俺達はリュー君が欲しいんだと言っているだろうが!」

 

 「話になりませんね。」

 

 ◇◇◇

 

 連合成立してからしばらく後、今日は俺とリューで仲良くオラリオ街中を歩いていた。

 今日はリューの武器の新調だ。リリルカがいらん気を効かせて俺達の休みを合わせたらしい。

 そこの諸君、デートとか勘違いをしてはいけない。例によって例のごとし、若干コミュ障のきらいのあるリューがせっかくだからついて来てくれと言い出したのだ。リリルカが俺達の休みを合わせたのは多分、一人で知らない店員と交渉するのが嫌なリューに言いくるめられたのではないかと俺は睨んでいる。

 

 「どこの店舗に行くんだ?」

 

 「バベルに行きます。」

 

 「お前いつもは武器はどうしていたんだ?専属とかはいないのか?」

 

 「あの悼ましい事件から親しい鍛治師とは疎遠になっていました。」

 

 リューはそういって目を臥せる。親しい人間に冷たく扱われたくはなかったのかも知れない。俺達はそれなりの間、タチの悪い奴らに狙われた、あまり関わるべきではない相手だと見られていた。

 

 「そうか………じゃあ新しい信頼できる鍛治師を見つけないとな。今まではどうしていたんだ?」

 

 「買い置きの短刀を複数部屋に置いていました。それなりの数を置いていたのですがさすがにもうほとんどありません。」

 

 「ああ、なるほどな。」

 

 「ちょっと、そこの君!」

 

 なんかリューに変な奴が話かけてきたな。俺の記憶が正しければこいつ確かアポロンだろ?なんかよくわからんアポロンファミリアの主神だな。隣には眷属が一人控えている。確か団長の………こいつ名前何だっけ?ヒ、何とかさんだ。出てこない。

 

 「何の用ですか?」

 

 「君はアストレアファミリアのリュー君だね?君には是非俺達のアポロンファミリアに来てほしい!」

 

 ?何だこいつ?連合からの引き抜きか?別にそれ自体は構わんが………なんというアホっぽさだろう?リューは連合の副団長だぞ?なんかそれ以上のメリットがお前に提示できるのか?

 

 「お断りします。」

 

 まあだよな。うーん、こいつはリューを引き抜くためにどう交渉していくんだろう?

 

 「君は俺達のアポロンファミリアに来るべきだ!君はとても美しい。君の美は俺に相応しい。俺は君を寵愛しよう。」

 

 何を言っとるんだこいつは?リューはそんなもの望んでもいないはずだぞ?頭にウジが湧いとるのか?せめてもっとマシな交渉はできんのか?もっと明確なメリットを提示するとか連合にない利点をあげるとか。そんな可愛がってやるからこいとか初対面の相手をいきなりペット扱いか?

 

 「お話になりません。お帰り下さい。」

 

 「なぜだ!?俺が特に目をかけてやるぞ?」

 

 ナゼもクソもないな。確かに話にならない。お前は勇者辺りに頭を下げて交渉の仕方を習って出直してこい。

 

 「しつこいですね。別にあなたに目をかけていただいても何の魅力も感じません。」

 

 「馬鹿な!そんなわけないだろう!」

 

 馬鹿はお前だ。

 

 「しつこいです。カロン、面倒ですしどうにかしていただけませんか?」

 

 面倒だな。俺もせっかくのお休みなんだが………連合本部に丸投げてしまおうか?

 

 「俺も面倒だぞ?仕方ないな。アホロンとやら、連合では改宗を行いたければ規約によって本部で話し合いがもたれることになっているぞ。取り敢えず本部に戻るとするか。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合本部、アポロンとその眷属一人を連れた俺とリューは、リリルカとミーシェの二人組と鉢合わせをする。

 

 「カロン様、今日はリュー様の武器の新調ではございませんでしたか?」

 

 「うんそうだったんだがなんかこの変な奴と鉢合わせてな。なんかこいつリューを引き抜きたいらしい。」

 

 「おい、貴様!変な奴とは何事だ!」

 

 アホロンの金魚のフンみたいな奴が激昂している。つくづく面倒だが?

 

 「落ち着け、ヒュアキントス。俺達は優雅でなければならない。」

 

 ああそうか、ヒュアキントスか。ところで優雅だと?臍が茶を沸かすな。こいつはあんなにアホな交渉を行っといて何を言っとるんだ?

 

 「カロン様、せっかくですしリリ達にこのお客様をいただけますか?ミーシェ様に交渉のやり方を教えます。」

 

 リリルカがコソッと俺の耳元でアホロンに聞こえないようにそう囁いて来る。

 

 「そうか。じゃあリリルカに任せてみようかな。俺は念のための護衛に付き添おうか?」

 

 「カロン様はお休みなのではないですか?」

 

 「でも今本部に詰めている高レベルは万能者くらいだろ?念のためだよ。」

 

 「………そうですか。ありがとうございます。それでは会議室に向かいましょうか。」

 

 ◇◇◇

 

 連合大会議室。ソファーに座って向かい合うリリルカとミーシェ組とアホロンとヒュアキントス組、俺とリューはリリルカ達の後ろで立って見守る。今ここで戦いが始まる。

 

 やはり先制はリリルカ。

 

 「アポロン様、リュー様を引き抜きたいそうですが本人の意志確認と引き抜き条件はどのようになっていますか?」

 

 「なぜそんなことをお前に話さないといけないんだ!?」

 

 うん、やはりビックリするほどアホだな。お前は初っ端からそんなに高圧的にでて引き抜ける公算があるのか?

 

 「リュー様は連合の貴重な財産で連合との仲も非常に良好です。連合では本人の意志を無視しての改宗は行いません。そして私は連合の実務最高責任者です。私には連合に携わるすべての方々の動向に責任がございます。」

 

 ………また一人称が変わっている。挙げ句になんか交渉に貫禄が出てきているぞ?

 アホロンは幼い見た目のリリルカの豹変に困惑している。

 

 「そ、それはだな………リュー君が我々のところに来れば幸せになれるはずだからだ。」

 

 「意味がわかりませんね。連合では虚言を吐いた相手は信用できない取引先だと見なします。リュー様はすぐそこにいらっしゃいますよ?もう一度だけ聞きます。我々はリュー様の意志確認と引き抜き条件を聞いております。どのようになっていますか?」

 

 リリルカのさすがの貫禄。威圧感すら醸し出している。たじたじするアホロン。

 

 「………断られた。」

 

 「でしたらあきらめて下さい。お引き取り下さい。」

 

 「しかし、俺はリュー君が欲しいんだ!」

 

 「それでしたら連合に加入してはいかがですか?」

 

 「貴様らの下につけということか!ふざけるな!」

 

 「ふざけてはいませんよ。ふざけているのはアポロン様、あなた様の方です。これを確認していただけますか?」

 

 リリルカはそういって表を提出する。

 

 「なんだこれは!?」

 

 「連合の冒険者戦力表と全体所属人数です。連合の規模を表します。あなた様はこの規模の相手と交渉してるんですよ?自身のファミリアの規模と照らし合わせてみてください。どちらが強く出れるのか一目瞭然ですよ?それにあなたが交渉なさっているリュー様はレベル5です。オラリオでレベル5がどれほどの価値を持つかわからないとは言わせませんよ?そんな温い交渉で引き抜けるわけがないでしょう。話にならないのでお帰り下さい。」

 

 「そ、それでも俺はリュー君が欲しいんだ!俺はリュー君を愛しているんだ。」

 

 「ずいぶんと安い愛だと思いますが………まあ仮にそうだとしてアポロン様、愛とは何ですか?」

 

 「愛はすべてに勝る高潔なものだ!」

 

 「アポロン様のそれは所有欲以外の何物でもありませんよ?本当に愛しているならリュー様の幸せを願ってあきらめて下さい。リュー様になんらメリットを提示できてるとは思えません。………というよりもアポロン様、やはり連合に参入してはいかがですか?」

 

 「なんだと?なぜだ!?」

 

 「愛には歩み寄りも時には必要です。連合に参入すれば少なくともリュー様の身近にいられますよ?リュー様を陰ながら思っていればもしかしたらいつかは思いが届くかも知れませんよ?それに苦労して手に入れたら思いもひとしおですよ?」

 

 リリルカも結構えげつなくなっているな。リューを餌にしだしたか。リューは隣で複雑な表情をしている。

 

 「い、いや!しかし!」

 

 「アポロン様、あなたにとれる選択肢は二つです。リュー様をきっぱりと諦めるか連合に参入していつかは振り向いてくれることを願って近くでしぶとくアプローチを続けるか。」

 

 ミーシェがものすごいウットリとした顔でリリルカを見ている。リリルカは追撃をかける。

 

 「さて、これから連合の参入規約をご確認いただきます。利点等も書いた紙を読み上げますので理解が難しいところ等は随時お聞き下さい。」

 

 ◇◇◇

 

 あのあと、アホロンはあっさりと連合に参入することを決めていた。リリルカのやり方は俺と同等以上にえげつない。

 

 アポロンはアホのくせにプライドが高い。アポロンの人となりを即座に見抜いたリリルカは説明の際にわざとわかりにくいように説明を行った。理解が難しいのだがアポロンはプライドが高くて、わかりませんなどとは言えない。特にリリルカは見た目が若く、眷属の前で口が裂けてもわからないとは言えなかったのだろう。

 

 そして一通り説明した後で、これだけあなた様に得があるのに参入しないわけはありませんよね、とこうきたもんだ。

 

 結果アポロンは全く理解していないにも関わらず、わかっているフリをするために頷いてしまったわけだ。挙げ句の果てには即座に契約書類を作り上げ、やっぱりあれは無しでは通じない状況へと仕立て上げた。アポロンはよくわからないうちに連合参入の書類にサインをしていた。ヒュアキントスは止めようとしていたがプライドの高いアポロンは問題ないの一点張り。眷属に見栄を張ってしまっていた。やはりあいつはアホロン呼ばわりで十分だな。

 

 「おいおい、リリルカ。お前の交渉俺よりえげつないな?」

 

 「カロン様がおっしゃってましたよ?時間をもらえるなら互いにいい落としどころを見つけると。連合は大きくなるしアポロン様はリュー様の近くにいれるしいいことづくめですよ?」

 

 ………リリルカに俺の超理論が移ってしまった。

 そして今までは黙っていたリューが顔をあげる。

 

 「カロン、私にも交渉の仕方を教えてください。」

 

 「おいおい、何言ってるんだ?今からヘファイストスのところに武器を買いに行くんじゃなかったのか?」

 

 「ああ、そういえばそうでした。」

 

 リューは顔をあげて頷く。忘れていたのか。しっかりしろよ?

 

 「そうですよ?せっかくリリがお休みを合わせて差し上げたのですから。」

 

 やはりリリルカの仕業だったか………

 

 「じゃあバベルに行くとするか。」

 

 そういって俺達は連合を出て二人でバベルへと向かう。そしてその道すがら。

 

 「買い物が終わったら交渉の仕方を教えてくださいね。」

 

 リューは期待に満ちた目で俺を見る。お前なぁ、交渉にもたくさんの苦労があるんだぞ?

 

 「お前に向いてるとは思えんが………」

 

 俺はジト目をリューにやる。

 

 「いいじゃないですか。私だってやればできるところを見せつけてあげます!」

 

 ………こいつは絶対に向いてない。

 

 「………人には向き不向きがあるぞ?」

 

 「それでもです。話し合いで味方を増やせるならよりスムーズに正義を為せることを私は学びました。私だって正義を目指してるんです。私もリリルカさんみたいになりたい!」

 

 「………リリルカはチートだぞ?アポロンは確かに温い相手で簡単に口説き落としていたが、普段の交渉はこんなに温くはないんだぞ?イザとなっても筋肉ではカタがつかんのだぞ?」

 

 「筋肉呼ばわりは止してください。」

 

 「お前には多分向いてないよ。取り敢えず教えるのは構わんが………まあお前は力わざで役に立ってるから別にいいだろ?」

 

 リューは俺を睨む。睨んでも現実は変わらんぞ?

 

 「お前分かってるのか?リリルカを見ただろう?連合ほどのお抱え交渉者は内心を表情に出してしまうような温い交渉では話にならんのだぞ?ムカついたら俺をすぐに睨んでいるようじゃとても無理だぞ?」

 

 俺がそういうとリューは慌てて平静を取り繕う。ふむ、こういう反応はかわいいな。こいつは腹黒い交渉者より皆のアイドルの方が向いてるんじゃないか?




連合の冒険者戦力表はイシュタルファミリアが大きく力を底上げしています。見せ札です。


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カロン式交渉術

 ここはバベルの塔、ヘファイストス本拠地。連合ができてそれなりに期間がたった今。ソファーで向かい合うカロンとヘファイストス。わらうカロンに苦い顔のヘファイストス。

 

 「なあ、ヘファイストス。連合に入ってくれよ。」

 

 カロンはついにヘファイストスまで呼び捨てていた。

 

 「………あなた今日もまたきたの?」

 

 「ああ、最初は対等な同盟でいいからさ。」

 

 「対等なら一考の余地があるけどあなたいずれ私のところを吸収するつもりでしょう。」

 

 「ああ、そうだが?」

 

 「私にも暖簾に誇りがあるの。無理な話よ。」

 

 無理とは言うものの実は今やヘファイストスファミリア内においても連合は一つの大きな議題。連合は日増しに参入者を増やし、今や巨大な勢力となりつつあった。参入するか否かで幹部連中で散々な話し合いが持たれている。しかし相手に内情を悟られる気はないヘファイストス。

 だが恐ろしいことにカロンとチートリリルカは相手の内情をだいたい察している。そして今彼らは新たに鍛冶師の技能を持ったサポーター軍団を育て上げようと画策していた。

 

 「そういうなよ。無理なんてことはない。誇りでメシは食えねぇぜ。ウチの本拠地で話だけでも聞いていってくれよ。」

 

 「………あなたの本拠地に行って連合加入せずに帰ってきた神はいないとオラリオ中の噂よ?」

 

 「いいじゃないか。損をさせるつもりはないぞ。俺達は連合の安全を何より大切にしているぜ?」

 

 「でも私達鍛治師よ。」

 

 「連合に入ればゴブニュより優遇できるのかな?冒険者もそれなりに多いしなぁ。」

 

 相変わらず嫌らしい交渉。

 

 「私達はお金には困っていないわ。」

 

 「なるほどな。つまり預金は十分。後はたんす預金で老後を暮らす算段か。」

 

 「ろろろ老後!?たんす預金!?」

 

 「違うのか?俺達は連合のファミリアをどんどん増やす予定だぞ?」

 

 相変わらず汚い。ただの脅迫だ。

 

 「それは脅しかしら?」

 

 当然怒るヘファイストス。

 

 「まさか、客を減らすなんか言ってないよ。ただ先に言っておくと連合内でいろいろな融通を効かせるのは当たり前だからな。じゃないと意味ないだろ?」

 

 汚い。実に汚い。

 

 「早い者勝ちだと言いたいのかしら?」

 

 「話だけでも聞きに来ればいいだろ?気に入らなければ帰ればいいさ。」

 

 本拠地では色々チート、リリルカが待ち構えている。あり地獄以外の何物でもない。

 カロンが蜘蛛のように糸を張り、リリルカが相手を逃げ出さないように引きずり込む悪夢のスタイルだ。

 

 「あのねぇ、私達に何の得があるの?」

 

 「だから言ったろ?仕事が取れるし連合が可能な限りの身の安全を保障するさ。安全が買えるなら同盟参入くらい割安と思うがね。」

 

 そう聞かされると悪くない。連合が地道に力をつけているのは明白だ。

 

 「………。」

 

 「なあ、あんたら鍛治師だってダンジョンに潜らないわけじゃないだろ?ウチの貸しだしサポーターの評判知ってるだろ?ロキ御用達のさ。あいつら喜んでくれてるぜ?初心者の育成のアテがついたって。遠征も楽になったって。本部に来ればどのくらい損耗率が低下したか明確な数字を書いた資料を提出できるぜ?俺達が大切な盟友に貸出の便宜を計ってる事くらい知っているだろ?お前らが来てくれりゃさらに可能性が広がるんだよ。」

 

 ここに来てヘファイストスは考える。

 デメリットは?暖簾?金銭?詐欺?誇り?暖簾に関してはまあ交渉次第では問題なく残せるだろう。金銭に関してはたんす預金発言を認めるのは癪だがあまり大きな利益減がなければさほど問題はない。詐欺に関していえば先に入ったファミリアから特に文句も出ていない。よほど連合の頭脳が上手く折り合いをつけているのだろう。誇りで飯が食えないというのは昔からの慣用句のようなものだ。真理であって否定のしようもない。

 メリットは?確かにある。サポーターの融通をしてくれるのであれば眷属のランクアップに対して非常に心強い利点だ。ヘルメスファミリアが存在することはよりよい鍛冶の炉を作り出せる可能性も示唆している。

 しかし心情的には積極的に加入したくはない。長い間彼女が誇りを持って経営していたファミリアだ。されどファミリア内部に加入の声がそこそこ以上に大きいのもまた事実。

 悩むヘファイストスにカロンは畳みかける。

 

 「なあ、ヘファイストス。お前の神友は元気にやってるぜ?お前は何が不安なんだ?やっぱり老後か?ゴブニュの動向を見てからと考えてんのか?」

 

 職人は頑固だ。カロンはヘファイストスはゴブニュよりは与しやすいとみていた。

 

 「………ええそうよ。ゴブニュがあなたのところへ行くとも思えないから。」

 

 「じゃあ誘ってみるかな。もしかしたらゴブニュも参入に条件をつけるかも知れないな。ヘスティアをもらい受けた恩もあるからあんたのところへ先にきたんだがな。」

 

 嫌らしい交渉。ゴブニュの参入の為の条件、暗にライバルであるヘファイストスへの不利益を示している。しかし今まで実際には他ファミリアの不利益になるような条件をつけた前例はない。かもしれないだ。相手の不安を煽る実に嫌らしい手口である。挙げ句の果てには恩があるではなく恩もある。嘘ではない。むしろヘファイストスに先に来た最も大きな理由は楽な方を落としてゴブニュも芋づること。相手が神であろうとどこまでも不敬に笑うカロン。

 ここでまた考えるヘファイストス。ゴブニュを誘ってないということに嘘は付いていない。ゴブニュが甘言に惑わされることは?ないと思う。

 

 「なあ、あんた俺達が詐欺師だと思ってんのか?そんなところに神友をほうり込んだのか?それとも年寄りには時代の変化に付いていけないのか?」

 

 ごりごり揺さぶりにかかるカロン。

 

 「あなたの失礼さは留まるところを知らないわね。」

 

 「なあいっとくぞ。あんたら鍛治師は自分の仕事に自信を持っているのは理解するが、デメテルのような食料ファミリアがないと生き残れないしヘルメスのようなもの作りがなければ豊かさや便利さを享受できない。魔石を取れなきゃ炉は動かないし武がなければ身を守るのも覚束ない。そもそも材料がないと何もできない。いつまでも頑固だと老害としかいえないぜ?」

 

 「あなたたちだって武器がないと戦えないわ!」

 

 思わずムキになってしまうヘファイストス。相手を怒らせてカロンは上手く引き込めると思っているのか?

 しかしやはりカロンは笑いつづける。

 

 「そうだ。その通りだ。だから今よりよい関係を互いに作りあげよう。正義の旗の下で力を合わせるんだ。手を取れよヘファイストス。オラリオを変えるさ。老害だと判断される前に時代に乗れよ。俺達がお前らの道先を必ずよいものにするからさ。」

 

 「あなたはその性格で正義の御旗を振りかざすの………?ずるくないかしら?」

 

 呆れ果てるヘファイストス。

 

 「神が頼りにならないからしょうがないだろ?言ったもん勝ちさ!気に入らないならウチを乗っ取りにくりゃいいさ。連合内でお前らが俺達に勝って新たに正義を名乗りあげればいいだろう?」




カロン式交渉術、それはソーマのような意思が薄弱なところには自分で考えさせ論議可能なところとはとことんかちあう方法。相手によって手口を変える、すなわち普通の方法です。ただしつこさは一流です。ヤ○ザの地上げ屋みたいになってきたな………。
ちなみにサポーターに関しては今や大団長と呼ばれカリスマを持つカロンが奨め超絶チートリリルカが洗脳し有能な部隊を作り上げる悪夢のコンボです。新人教導において特に高い評価を得ています。


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闇派閥撲滅!凄惨なるカロンの復讐劇

 オラリオの町並み歓楽街近く。ハラリと舞い散る落葉樹。オラリオは直に冬。木々は紅葉を過ぎて土色の葉がオラリオの町並みを物悲しく染めている、そんな秋の日。

 俺はこの日街中の視察を行っていた。

 そう、俺はこの時あることを忘れていた。忘れていたんだ。まさかこんな街中であんな死闘を繰り広げる事になるとはーーーーーー

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ゲゲゲゲゲッ、久しぶりだね不死身。アンタ相変わらずいい男だね。」

 

 会ってしまった。うん、会いたくなかった。どうしよう。

 彼女の名前はフリュネ・ジャミール。オラリオの誇る世界で最も男を捜し求めている超絶肉食系な女性だ。レベル5のアマゾネスでイシュタルファミリアに所属している。

 

 「お互いの幸せの為に会わなかったことにしないか?」

 

 「アンタ何ふざけたことを抜かしてんだ。アンタちょっと付き合いなよ。最近欲求不満なんだよ。」

 

 いや、お前いつも欲求不満だろうが。非常に面倒だ。こいつどうしたらいいんだろう?ふむ。

 

 「アンタなんか言ったらどうなんだい?アタシら連合仲間なんだろ?」

 

 また微妙に嫌なところをついて来やがる。はていったいどうしたものか。………まあ出たとこ勝負してみるか。失敗したら逃げるしかないな。

 

 「俺の知り合いにお前にお似合いの男がいるぞ?」

 

 「何の話をしてるんだい?」

 

 俺にもわからん。なんかいきなりイケニエ宣言をしてしまった。ふむ、イケニエか。誰かいい男いるかな?ベルかベートは………さすがにかわいそうだな。ヘルメスはアリ、か?アポロンとかどうだろう?カヌゥもありか?あいつらリューが苦手にしていたし。しかし自分が助かるために連合の仲間を売るのはなぁ………。まぁやはり出たとこ勝負の続きかな。

 

 「お前にお似合いの相手が今ダンジョンにいるぞ?」

 

 「ダンジョン?馬鹿にしてんのかい?」

 

 出鱈目にも程があるな。よりによって俺の口はダンジョンだと吐き出してしまったか。まあオラリオの仲間に押し付けるよりはマシなのか?

 

 「ダンジョンで男を助けたらロマンスが生まれるんじゃないか?」

 

 「そんなもん食えねぇだろうが!」

 

 食えねぇってやはり性的な意味なのかな?それよりどうしよう。ダンジョンのいい男か………いっそガネーシャとか紹介してしまえば楽なんだろうが絶交される予感しかしない。さすがにそれもないな。

 

 「待て、ちょうど今ダンジョンで強くてカッコイイ男がお前の助けを待っているんだ。」

 

 「何の話をしてるんだい?」

 

 うん。俺にもわからん。誰だそれは?俺の出任せはどこまで持つんだ?俺の口は次は一体何を吐き出すんだ?

 

 「それは………。」

 

 「それは………?」

 

 「ゴライアスだ。」

 

 「階層主じゃねぇか!」

 

 うん。階層主だな。しかし口から出てしまった。これで通すしかない。

 

 「確かにゴライアスは階層主だが逞しくてなかなかハンサムだぞ?男としての貫禄もある。何よりいつもロキファミリアとかに倒されてお前の助けを求めている。あいつは強いがさすがに数の暴力には勝てない。しかも倒しても蘇るほど生命力が強い。お前はあいつと愛を育むんだ!」

 

 いや、どうすんだこれ?本当にゴライアスと愛を育んでしまったら階層主とこいつがタッグを組んで向かって来てしまうんじゃないか?討伐可能なのか?俺はロキファミリアとかフレイヤファミリアに恨まれたりするんじゃないか?それは困るな。しかしもう後に引けない、か。

 

 「確かにゴライアスはそこそこ逞しくていい男だな………。」

 

 なんか考え込んでしまった。ゴライアスは男というか雄なんだがまあ………いいか。今のうちに帰って忘れてしまおう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「おい、一体どういうことだい!」

 

 なんか来た。どうしたと言うんだ?何が問題があったんだ?お前はゴライアスとよろしくやってるんじゃなかったのか?せっかくなかったことにできたかと安心していたのに………。

 

 「何だ?どうしたんだ?」

 

 「どうしたもこうしたもねぇ!ゴライアスが生まれてこねぇじゃねぇか!」

 

 イケニエが生まれて来ない?どういうことだ?

 

 「どういう事だ?生まれないだと?」

 

 「ああ、何とかものにしようとしたんだが後少しってところでなぜか自分で魔石をえぐりやがった。一体どういうことだ?」

 

 自分で?ふむ。ゴライアスも逃げ出したか。俺はゴライアスに強烈に恨まれてしまった可能性が高いな。あるいはもう生まれて来ないのかも知れないな。

 

 「待て、まだゴライアスより強くてカッコイイ男もいるだろ!」

 

 「誰だいそりゃ?」

 

 「もちろん………。」

 

 「もちろん………?」

 

 まあ次のイケニエはあいつ以外にいないな。

 

 「ウダイオスだ。」

 

 「ウダイオスだと?」

 

 「ああ、あいつは少し骨張っているが高身長でよく見るとハンサムな気もする。タキシードが似合いそうな伊達男かも知れない!お前のような包容力のある女性が好みのタイプなはずだ!あいつとお前はきっと相思相愛になれるハズだ!」

 

 「なるほど………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「おい、一体どういうことだい?」

 

 まあ展開的にそうなるよな。

 

 「何だ?どうしたんだ?」

 

 「どうしたもこうしたもねぇ!ウダイオスが生まれてこねぇじゃねぇか!」

 

 すごいなこいつ。もうこいつ一人で階層主すべて駆逐できるんじゃないか?ウダイオスは結構強かったハズなんだが?

 

 「そうか、しかしお前にはまだいい男がいる。」

 

 「誰だいそりゃ?」

 

 ここで俺の脳内に電流が走る!この男を求めてさ迷いつづける無敵のモンスターの有効的な使い道ーーー

 

 「ああ、確か闇派閥の奴らがお前の事を綺麗だと言ってたようなそうでもなかったような………。多分あいつらなんかすげぇ強くてイケメン揃いだという噂もあるハズだ。もうこれはあいつら以外にお前と釣り合う奴はいないかもしれない!」

 

 「何だって!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 俺は団長室でお茶を啜りながらノンビリとミーシェと話をしていた。少し肌寒いが気持ちのいい昼、オラリオで昼を告げる鐘の音が鳴り響く。そろそろストーブが必要になって来るかな?

 

 「大団長、今朝のガネーシャ広報読みましたか?」

 

 「いや、何の話だ?」

 

 「何でもオラリオ中の闇派閥がガネーシャファミリアに出頭したらしいですよ?化け物に襲われて刑務所の中の方がマシだって………。何があったんですかね?」

 

 ふむ、なんか復讐を達成してしまったな。最初からこうしてればよかったな。



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竹取物語

唐突人物紹介

 アイズ・ヴァレンシュタイン・・・原作様においては主人公であるベル君の憧れ。拙作においては、変人が仲立ちしてリリルカと親友になることによってより人間味が増している。リリルカの他人に指示を出したり他人の成長を助けたりする弱者の戦い方を理解することにより、劇的に他人を扱う術が上手くなる。副産物として指揮能力が向上している。

 

 ベート・ローガ・・・原作様においては、ロキファミリア団員で主人公の当て馬臭がする狼人。人気が結構高い。拙作においては、アイズが人間味が増しているため搦め手でデートに誘うことが可能になっていて、それによるバタフライエフェクトでベートはリリルカにより根回しの大切さを教えられる。アイズの親友であり、いつもベートに協力しようとしてくれるリリルカに頭が上がらない。

 

 ◆◆◆

 

 この日、私アイズ・ヴァレンシュタインは焦っていた。

 

 ーー皆を守らないと!!

 

 ここはオラリオ、今日は怪物祭。今年もベートさんが土下座とかいう情けない体勢で私に一緒に怪物祭に行ってほしいと詰め寄って来たから、嫌だったけど仕方なしに二人で祭を回っていた。そのさなかのことだった。

 

 ーーここに一体。おそらくこれで最後。周りに人影はなし!住民は避難済みか。

 

 そう、街中で突如同時に何カ所も巨大花(ヴィクスム)が襲い掛かってきたのだ。慌てた私たちは手分けをして敵の鎮圧にあたることにしていた。もうすでに私は三体もの敵を狩っていた。他の箇所も強力な冒険者がことにすでに当たっている。

 

 ーーテンペスト・リル・ラファーガ!!

 

 私は風の魔法を纏い敵に突進する!!これは勝利の風!これで終わりだ!

 敵の魔石を突き破る。倒れて灰になって行く敵。私は邪悪な魔物なんかに決して負けはしない!

 

 

 

 「ふぁああ。うん、よく寝た。」

 

 !?中からなんかでてきた?カロン?そんなところで何やってるの!?

 

 「カロン、何やってるの?」

 

 私の当然の疑問。

 

 「ああ、アイズか。助かったみたいだな。ここはオラリオか。」

 

 「何で中から?」

 

 首を傾げる私。

 

 「アイズは相変わらずぶりっ子だな。まあ似合ってるが。俺はアレだ。ダンジョンで何かそれに捕まって食われてしまってな。たまたま一人で助けてくれる奴もいないし脱出方法もないし敵の酸は俺にきかんしでどうにもこうにもならんで困っていたんだ。助かったよ。」

 

 そういって笑うカロン。何か鎧がドロドロになってるけど本当に大丈夫なの?盾も持ってないみたいだけど溶けちゃったんじゃないの?

 

 「カロン、どれくらい魔物の中にいたの?」

 

 「うん?今日は何日だ?」

 

 「怪物祭。」

 

 「じゃあ4日程だな。どうりで腹が減っとるわけだ。せっかくだし祭で何か食ってから帰ることにするか。美味そうな屋台も出とるだろ。」

 

 のんびりしているなぁ。どこまでも我が道を行くカロン。体は酸でベトベトみたいだけどそれはいいの?鎧もほとんど原型がなくてストリーキング一歩手前だよ?

 

 「飲み物は、どうしてたの?」

 

 4日もいたなら喉が当然渇いてるハズだけど?

 

 「ん?ああ、この植物の出す酸を飲んでたよ。酸っぱかったけど。そろそろ腹が減ってきて食えないか試そうかと考えてたところだったんだ。」

 

 ええ~??これ飲めるの!?私は絶対飲みたくない。

 

 「じゃあ屋台でなんか食べる?」

 

 「ああ。」

 

 「それだったらせっかくだし一緒に回る?ベートさんもいる。」

 

 誘う私。

 

 「おお、凶狼もいるのか。アイズ、悪くないアイデアだ。せっかくだし一緒に回ろう。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「これで、ラストだああぁぁっ!」

 

 俺、ベートは最後の一匹に正面から蹴りを放つ。いつもよりも強力な俺の蹴りは巨大花を突き破る。

 俺は今日はいつもより気合いが入っていた。

 

 ーーなんせ以前に変人に台なしにされた怪物祭のリベンジだ!せっかくアイズを誘うのに成功してこれからって時に………。しかし今日はあの変人ヤローはダンジョンに潜ってていねぇ!今日こそはアイズと近づくんだ!!そしてあわよくば………グフフフフフ。

 

 そう、今年の俺はかつての俺とは一味違う。言うなればニューベート。何か白いヒゲの海賊と似た名前になってしまったな!?まあいい。取り敢えず以前の俺は人間関係とか根回しとかの必要性を理解していなかった。俺は変人と関わるうちに、癪な話だが奴から根回しの大切さを教えられたんだ。奴から習った方法によってテメエが今日ダンジョンにいることは確認済みだ!!全てはリリルカ様のおかげとも言えるだろう。どうだ、マイッタカ!!変人敗れたり!!

 

 今年の俺はアイズと二人で出かけることになり、より一層気合いを入れていた。しっぽは入念にブラッシングしたし、紳士のマナー、のみ取り首輪も今日はきちっとつけている。ファブ〇ーズだってしっかり持参している。万一のプレイのためのブラシやリードやスコップだって持参済みだ!なんのプレイだって?いわせんじゃねぇよ恥ずかしい。まったくもう。取り敢えず今日の俺に死角はない。最強ベート、ここに爆誕!なんつってな。

 

 ーーベートさん、その首輪とてもステキ。除菌した臭いもする。しっぽもふわふわだし。そのしっぽで私を優しく包んで………なんつってなグフフフフフ。

 

 俺はそんな楽しげな想像を浮かべる。もしかしたらもうすでにもらったも同然なんじゃねェか?

 

 「ベートさん、こっちも終わった。」

 

 おお、俺の女神アイズか。敵は片付いたか。よし、これで心置きなくーーー

 

 「凶狼、久々だな。お前も一緒に祭を回るのか!」

 

 !?

 俺は二度見をする。壁に頭をぶつけてみる。頭から血が出る。壁もへこむ。三度見をする。頬っぺたを全力でつねる。痛い。やっぱりいる。

 なぜだ?なぜだ?なぜなんだ?何故お前はそこにいる!?どれだけ俺の邪魔をすれば気が済むんだ!?下心か?下心のせいか?待てよ、謝るから。下心がいけねぇってんならきちんと反省するから。頼む、頼むよ。勘弁してくれよ。せっかくのアイズと二人のお祭りなんだよ!俺がどれだけのーーー

 

 「よし、せっかくだから今年も人数をたくさん集めて楽しむか!」

 

 待てえええぇぇぇぇぇ!!!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊穣の女主人。祭の後は後の祭り。やさぐれた俺はこの店に聖女様に癒されにきていた。

 

 「ヒクッ、ウェッ、何で、何であいつがいやがるんだ!?リリルカ様、一体どうしたってんだ!せっかく数年越しに勇気を出してアイズをデートに誘ったってのに……。土下座までして必死になって頼み込んだのに………。俺は、俺は、一体どうすればいいんだああぁぁぁぁ!」

 

 「ベートさん、お久しぶりです。やさぐれてらっしゃるみたいですが今日はどうなされたんですか?」

 

 「聖女様、俺ァ、俺ァ、どうしたらいいかわからねえんだ。教えてくれよ。せっかく勇気を出して誘ったデートをまた変人に台なしにされちまった!俺はどうすればいいんだ!?俺はあいつにどうやったら勝てるんだ!?」

 

 「ベートさん、もし豊穣の女主人を頻繁に利用してくださるのでしたら不肖、このシルめがベートさんの恋路のお手伝いをいたしますよ?」

 

 「………オイ聖女様、そりゃ本当か?」

 

 「私にしっかりお任せください!」

 

 ………こうして俺の貢ぎ物ライフは始まるのだった。




実はカロンは別に嫌がらせをしているわけではありません。ベートとアイズは二人っきりではどうせうまくいかんだろうという老婆心です。
ベートさんと二人きりでつまらなかったと思わせるよりもベートさんもいて楽しかったと思わせた方がいいだろういう判断です。いわゆる余計なお世話です。


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ほだされイシュタル

 「頼む!どうにか春姫を手放すことを考えてはくれないだろうか?」

 

 ここは女主の神娼殿。やはりイシュタルだけは連合に本拠を移すのは不可能だという決定だった。

 タケミカヅチは連合内でたまたま昔の知り合いとあった風を装い、春姫の改宗をイシュタルに頼み込んでいた。

 ソファーにて向かい合うのはイシュタルとカロン・タケミカヅチ同盟。但しカロンは今まで口を出していない。

 

 「お前はまた来たのか?」

 

 連合に入って以来、タケミカヅチは春姫を改宗させるためにイシュタルの元へ足繁く通っていた。とは言ってもカロンとしてはイシュタルの機嫌を損ねるのだけは避けたかったのでイシュタルの様子を見つつではあったが。

 

 「俺が渡せるものなら大概は渡すからどうかダメだろうか?」

 

 「お前も本当にしつこいな。そこの男の影響か?」

 

 サンジョウノ・春姫。イシュタルの眷属でとあるレアな魔法を持っているためにイシュタルが手放したがらない眷属。タケミカヅチは彼女を娼館に出さないようにその分の損害の見込みを金で支払うことで先延ばしにさせていた。連合成立すぐはお披露目金カンパの残りから、その後はタケミカヅチファミリアの稼ぐ金と、カロンの個人的な稼ぎでその分を賄っていた。タケミカヅチファミリアの稼ぐ金とはタケミカヅチ道場の連合貢献に対する見返りと眷属のダンジョン探索で得る金である。

 

 イシュタルは考える。

 

 ーー春姫は本来フレイヤへの切り札としてとって置いたのだが………しかし連合情報の冒険者レベルではなぁ。そしてこの間憎いフレイヤを見たときにこちらを羨ましそうに見ていたのも確かなんだよぁ。

 

 羨ましそうに見ていた。カロンとの仲の嫉妬とイシュタルは捉えていた。しかし実はこれはカロンの根回しである。カロンはフレイヤに演技してもらうように頼み込んでいた。

 イシュタル側としては憎い相手の済まし顔を歪ませただけでも多少は溜飲が下がったのは確か。

 フレイヤ側の思惑としてはお気に入りのカロン(おとこ)の頼みであるし、戦いをその程度で避けられるなら願ってもないこと。もちろん負ける気はないが戦うのは面倒だ。カロンを間に挟むことでお気に入りの男を寝取られた女を演出できるのだ。さらに上手いことにフレイヤは実際にカロンがお気に入りだ。演技に熱を入れなくてもスンナリと演じることが可能であった。それにお気に入りの男との二人きりの秘密というのも悪くない。

 

 「頼む、春姫は大切な眷属の友人なんだ。」

 

 「………まあ金を払ってもらってるうちは別に娼館に出したりはしないが………まだ渡す気はない。」

 

 「そうか、今日はここまでということだな。また来るよ。」

 

 タケミカヅチとカロンは席を立つ。

 

 ◇◇◇

 

 タケミカヅチ道場。ここにはやはりカロンとタケミカヅチ。

 

 「俺の眷属達も会わせてくれと言ってるよ。中々上手く進まんな。」

 

 「そうだなぁ。まあ金に関してはぼられてる額ではないからイシュタルも多少は軟化しとるだろう。やはりしぶとく戦うしかないだろうな。」

 

 「まあそうだな。折角だし手合わせするか?」

 

 「師の教えを独り占め出来るのは中々に贅沢だな。」

 

 ◇◇◇

 

 「また来たのか。」

 

 一週間後のやっぱり女主の神娼殿。

 

 「なあ、頼む。俺の眷属達も会いたがってるんだよ。会うだけでも会わせてくれないか?」

 

 ーーうーん春姫に里心を出されてごねられるのも面倒ではあるのだが、なんか一回くらい会わせても構わんような気もするなぁ。何よりこいつしつこいしなぁ。どうしたものかなぁ?

 

 そこへ珍しくカロンが口を開く。

 

 「ふむ、今まで考えてなかったがイシュタル、お前の眷属達はタケミカヅチ道場に通ってみたりはしないのか?」

 

 「なぜそんなことをする必要がある?」

 

 「お前の眷属は戦闘娼婦だったりそうでなかったりだろう?タケミカヅチで護身術を習えば護衛の予算を削れたりしないか?」

 

 「うーん難しいだろうな。武を身につけるのは時間がかかるぞ?」

 

 タケミカヅチがそう話す。

 

 「正直な話し連合には助けられている点もあるんだよなぁ。」

 

 これはイシュタルの弁。

 娼婦の問題の一つに健康面の問題がある。ミアハとソーマとヘルメスの協力の産物である薬酒は医者を好まないものでも受け入れる場合が多い。その点に於いてイシュタルは非常に助かっていた。

 

 ーーうーん最初から無意味と決めずに試してみるのもアリなのか?しかし武術が娼婦の役に立つか?他のファミリアとの協力は?

 

 「取り敢えず見るだけ見てみないか?」

 

 なし崩しにイシュタルは連れられていく。この時点でカロンには一つの予感があった。

 

 ◇◇◇

 

 「お、おいカロン!来たのはいいが今は鍛練を行っていない時間だぞ?」

 

 タケミカヅチの言葉。

 

 「俺と師がいるだろ?イシュタル、俺達が立ち会うから見ててくれ。」

 

 そういって立ち会うカロンとタケミカヅチ。

 

 ーーふむ。

 

 少し感心するイシュタル。彼女はご存知美の神である。タケミカヅチはもちろん武の神だ。武に通じたタケミカヅチの佇まいは美の神から見ても美しさを感じるものであった。そしてそうなると当然の話。

 

 ーーう、美しい!

 

 イシュタルが僅かでも嫉妬するほど。タケミカヅチの洗練された武のその極みは美の神を唸らせるほどの美しさを孕む。タケミカヅチは流麗な動きで大男のカロンを簡単に投げ飛ばす。カロンはイシュタルの表情から心を少し揺らせたことを悟る。カロンの目的はタケミカヅチの美点を見せて二人の仲を近づけることだった。タケミカヅチと親交を作らせイシュタルをほだそうという作戦である。

 

 ーー揺さぶれるかな?

 

 「戦う女性は美しい。それはお前の一つの信念だろ?イシュタル。」

 

 戦闘娼婦、謎の存在である。

 娼婦をダンジョンに送れば娼館の売上は落ちるし人員が損耗する。護衛を冒険者に任せて娼婦に専念した方がいいのではないだろうか?ダンジョンはレベルが上がれば日跨ぎの探索もザラである。時間にルーズになり娼館の売上が安定しなくなるだろう。

 娼婦自身がそれを望んでいるのか?それもしっくり来ない。夜に仕事をして昼に探索を行い彼女たちはいつ休んでいるのだ?日替わりで休日?そもそもダンジョンで十分な稼ぎがあるなら娼婦を続ける意味は?趣味?ダンジョンの稼ぎでは足りない?それならそれこそダンジョンに潜る時間娼婦に専念した方が稼げないか?なぜ冒険者と娼婦を分けないのか?

 

 そもそもそれ以前に主神の雇い主であるイシュタルが許しているのである。金を生み出す彼女たちが死ぬ危険性のあるダンジョンに潜ることを。それならイシュタルが戦える女性がお気に入りだと考えるのが一番自然だろう。フレイヤへの対抗心もあるだろうが。

 

 「なあ、イシュタル。お前自身は武を習わないのか?」

 

 「………私は美の神だ。」

 

 「武を習えば美の神であり武の神にもなれるかも知れないだろ?フレイヤやっぱりドレスを噛んで悔しがるぜ?だからお前も通えばいいだろ?美容にもいいんじゃないか?お前がそれ以上美人になっちまったらフレイヤは悔しさのあまりドレスを粉々に引きちぎるかもしれないぜ?」




春姫に関しては後はタケミカヅチの仕事です。


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トイレの魔術師

 「身長は、っと。伸びてませんね。むしろ縮んでませんか?体重は………やはり大幅に増えていますね。筋肉量が増えたのが明らかとはいえこれは少しへこみますね。」

 

 リリ達は今現在アストレア本拠地の鍛練場にいます。今リリ達が何をしているかと言うと連合が新たに設けた人間ドックというものの試みです。

 人間ドックとは、別に言うのも怖じ憚れるような闇派閥による人間を犬にする計画だとか、人面犬の怪談だとかではありません。いわゆる健康診断です。今日は女性のみで行われています。

 

 リュー様もさっきまで体重計に乗っていらっしゃいました。今はミーシェ様と何か話して落ち込んでいらっしゃいます。理由は察することができますが高レベル冒険者はぶっちゃけ筋肉ダルマなので仕方ないと思いますけどね?

 リリは身長が縮んだ以外はだいたい数値が増えていました。成長していると言うことでしょう。

 

 「リリ、どうだったー?」

 

 シル様です。この人は連合に関係ないのになぜかいます。お仕事はよろしいのでしょうか?

 

 「シル様、身長が縮んだ以外はだいたい予想通りでした。」

 

 「身長って縮むものなの?」

 

 リ、リリがあまり考えたくなかったことを………。まあですよね。縮んだと考えるよりは以前からこのままだったと考えた方が自然ですよね。まあいいでしょう。

 

 「………それよりシル様は如何でしたか?」

 

 「胸回りが少し大きくなったかな。」

 

 このアマがああぁぁ!なんてうらやましいことをぉぉぉ!リリは、リリは、ええ。ほとんど変わりませんでしたよ。諦める以外になさそうですね。でもおかしいですよね?胸回りも筋肉が増えているはずなのに?

 

 「シル、リリルカさん、いかがでしたか?」

 

 リュー様もこちらにいらっしゃいました。体重計ショックから立ち直られたようです。

 

 「リュー久しぶり。えいっ。」

 

 シル様がリュー様の数値表を勝手に覗き込もうとしてらっしゃいます。リュー様は疾風の名に恥じない速度で逃げました。

 

 「な、何をするんですか、シル!?」

 

 「え~女同士なんだし別にいいじゃん。」

 

 「………申し訳ないがシルは誰かに言い触らさないとも限りません。」

 

 「リュー、ひどいよ!」

 

 残念ですがリリもリュー様と同意見です。シル様がリュー様の数字を売買している様子が目に浮かびます。アポロン様が狂喜する姿が目に浮かびます。明日にはアポロンファミリア刊行の週刊リューに詳細な数値が載せられているでしょう。でもそれが連合の貴重な財政源になると考えたらそれはそれでアリなのでしょうか?ああ、ダメでした。いずれにしろ週刊リューは毎号完売御礼でした。

 

 「リリ君、どうだったかい?」

 

 おっぱいお化け(ヘスティア様)もこちらにいらっしゃいました。この神普段ゴロゴロしてる癖にいやにスタイルがいいんですよね。胸の肉をこそぎ落としてくれましょうか?

 

 「リ、リリ君。どうしたんだい?いつもより目付きが怖くないかい?」

 

 「なんでもありませんヘスティア様。」

 

 「そ、それだったらキミはなぜ検診表をぐちゃぐちゃに握り潰しているんだい?」

 

 「………気のせいです。」

 

 「で、でも今持っているそれ………。」

 

 「闇派閥に殺された人間達の怨念です。」

 

 「え、えぇ~?」

 

 「ヘスティア様が呪われたくなければこれ以上口にしないことです。」

 

 「ハイ。」

 

 ようやくお化けが黙ってくれました。その大きいのだけでも目障りなんですよね。

 

 「リリお姉様~、いかがでしたか~?」

 

 ミーシェ様です。彼女はお化けと違って標準的なスタイルです。身長がリリにとっては少しうらやましいですが。

 

 「ミーシェ様。リリは体重が少し増えていました。」

 

 「お姉様はランクアップしましたし仕方ありませんよ。」

 

 「まあそうですよね。わかってはいるんですが複雑です。」

 

 「リリルカさん、やはりそうですよね。」

 

 リュー様です。シル様を追っ払ったようです。シル様はどちらに行かれたのでしょうか?

 

 「リュー様、シル様はどちらに行かれたのでしょうか?」

 

 「シルは仕事だと言ってました。リリルカさん、参考のためにリリルカさんの体重を教えていただけませんか?」

 

 リリも恥ずかしいんですけどね?まあリュー様なら仕方ないでしょう。

 

 「〇〇Kgです。」

 

 「………そうですか。」

 

 また落ち込んでらっしゃいます。これは相当ですね。レベル5なら仕方がないのでは?

 

 「リュー様、高レベルならあまり気にすることはないのでは?」

 

 「そ、それが………。」

 

 リュー様は辺りの人を見回します。内密な話と言うことでしょう。リリは気を利かせて隅へ行きます。

 

 「それが………同じレベルのはずのヴァレンシュタインさんやヒリュテさん姉妹よりずっと重かったんです。なぜでしょうか?」

 

 ああ、それはさすがにショックですね。でもなぜなんでしょうか?見た目は彼女たちとあまり変わらない細さなのに?もしかして種族が何か関係していたりするのでしょうか?

 

 「思い至る節はないのですか?」

 

 「………ないわけではありません。」

 

 「といいますと?」

 

 「ここ最近は食事の量が増えていた気がします。なぜかはわかりませんが。やはり減らすべきでしょうか?」

 

 食事量増加ですか。

 

 「しかしあまり気にする必要はないのでは?無理にダイエットしようとしなくてもリュー様はお綺麗ですよ?」

 

 「そうでしょうか?」

 

 「そうですよ。」

 

 ええ、あまり気にする必要はありません。

 

 「リュー君、どうだったかい?」

 

 来ました。空気が読めるとは思えないおっぱいお化けが。混ぜくらないといいんですが………。

 

 「へ、ヘスティア様。ヘスティア様の胸回りはどのくらいでしたか?」

 

 「うん?ボクは×××Cmだったよ。」

 

 「×××Cm………。体重はいかほどでしたか?」

 

 「恥ずかしいな。まあリュー君だしいいかな。△△Kgさ。」

 

 「さ、△△Kg!?私の☆分の一だ………。」

 

 リュー様が凄まじい落ち込み方をしてしまいました。やはりこのお化けは………。

 

 「リューさん、リリお姉様、どうしたんですか?」

 

 ミーシェ様まで来てしまいましたか。

 

 「リュー、リリちゃん、ミーシェちゃん、どうだった?」

 

 アストレア様です。この神一見普通ですが唐突に毒を吐くんですよね。今のリュー様にはあまりよろしくありませんね。

 

 「………今日はもうすぐお夕飯のお時間です。あとはお夕飯食べながらお話をしましょう。」

 

 カロン様のようないいわけです。しかしこれを通せれば会話に男共も混ざることになります。そうすれば何とかごまかしきれるでしょう。 

 

 「あら、確かにもうそんな時間ね。食堂に皆で向かいましょうか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは食堂です。リリ達は今お夕飯をいただいてます。リュー様の食事量が少なく見えるのは気のせいということにしておきましょう。

 

 「お前達も夕飯か?」

 

 リリは失敗したのかも知れません。ここで一番会うべきではない、デリカシーをごみ箱に捨ててしまったとしか言えない変人(カロン)様に出会ってしまいました。カロン様は言動が読めません。しばしば笑いながら地雷源に突っ込んで行くような方です。どうにかリリにできるのでしょうか?

 

 「リューは今日は食べる量少ないな。」

 

 来ました。やはりというか何というかいきなりぶっこんできました。リュー様は固まってらっしゃいます。

 

 「………………そんなことはありません。」

 

 「いやいつもの半分以下だろう?」

 

 「………………気のせいです。」

 

 「いやどう見てもーーー

 

 「気のせいです。」

 

 「いやーーー

 

 「目の錯覚です。」

 

 「でーーー

 

 「闇派閥の仕業です。」

 

 カロン様はため息をつきます。

 

 「なあ、リュー。お前は連合の主力なんだから真面目に気をつけてくれよ。それとお前の体型は非常に美しい。なぜ食事量を減らしてるのかは知らんがあまり細かいことを気にしてくれるなよ?」

 

 おお!リリは感動しました。カロン様もご成長なさっているのですね!

 

 「………………減らしてません。」

 

 今日はリュー様の方が駄々っ子ですね。しかしこれ以上言っても意固地になるだけの気もしますね。

 

 「そうか、体調管理だけには気をつけてくれよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 うう、お腹減った。無理に我慢するべきではなかったのか………?今から食堂に行っても何かあるとは思えない。私が間違っていたというのか?私が嘘をついてしまったのがいけなかったのかーーー?

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 「どうぞ。」

 

 こんな時間に私の部屋に誰が来たのでしょうか?

 

 「やあ、リュー君。」

 

 ヘスティア様です。何用でしょうか?私はほんの少しだけいらいらしています。

 

 「何ですか?」

 

 冷たい言い方になってしまいました。

 

 「ボクがこっそり隠し持っているお菓子を持ってきたよ。リュー君お腹空いてるんじゃないかと思ってさ。」

 

 私が全面的に悪かった。穀潰神とかおっぱいお化けとか言ってしまって申し訳ありませんでした。

 

 「女神様、あなたのお慈悲に感謝します。」

 

 「ボクはいつもキミ達のことを見てきたからね。これをあげるよ。」

 

 「ありがとうございます。でもヘスティア様の部屋は以前お菓子の屑を散らかしたときに隠し持たないように家捜しされたはずでは?」

 

 「こんなこともあろうとね。トイレに隠して置いたんだよ。」

 

 トイレに?お菓子を?この駄女神には常識とか衛生観念とか清潔感とかそういうものが存在しないのだろうか?



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お見合い

 「俺が、ガネーシャだ。」

 

 「私が、リヴェリアだ。」

 

 「………………。」

 

 「………………。」

 

 「俺が!ガネーシャだ。」

 

 「私が!リヴェリアだ。」

 

 

 

 「俺がっっ!!!ガネーシャだっっ!!!」

 

 「私がっっ!!!リヴェリアだっっ!!!」

 

 「おいおい話がすすまんぞ?」

 

 ◇◇◇

 

 ここはロキ本拠地側の喫茶店。今ここにいるのは俺とガネーシャとリヴェリアだ。今日こんなことをしてるのはリヴェリアに以前約束した婚活の手伝いをせっつかれたからだ。

 考えた俺はリヴェリアの立場を考慮し、手持ちの最優良物件であるところのガネーシャ(マブダチ)を紹介してみたのだがーーー

 

 

 「良く来たな、お前は確かロキのところのリヴェリアだな。俺に何の用だ。」

 

 うん。用件伝え忘れてた。なんかスマン。

 

 「あの、その、だな。」

 

 リヴェリアはこちらをちらちら見てくる。乙女だな。自分の歳を考えろ!

 

 「ふむ、カロンに来てほしいとだけしか聞いていないのだが?」

 

 俺は迷う。ここで目的をばらしたら乙女リアがテンパる可能性が高い。すでに十分に挙動不審だ。パニクったリヴェリアとかそれはそれで見てみたくもあるが本拠地に帰ったらリューが修羅になりそうな気がする。怖い。仕方ない。

 

 「ああ、実はだな。九魔姫がガネーシャの大ファンでさ。是非一緒に出かけてみたいと言ってたからさ。ほら、せっかくだから若い二人でオラリオ散策でもどうだ?」

 

 後は野となれ山となれ。逃走の一手をうつカロン。ちなみにこの三人ではカロンが圧倒的に若い。

 

 「まて、お前がガネーシャ様を呼んだのだろう。お前もついて来い。」

 

 必死なリヴェリア。乙女リアは話が通っていないとは聞いてない!お前は責任持ってちゃんとフォローしろ!

 

 「仕方なし、か。まあガネーシャ、お前いつも大変だろうしさ、たまには綺麗な女性と出かけて息抜きでもしようぜ。」

 

 あっさり諦めるカロン。面倒そうだが話を前もって通していないのが悪い。

 

 「ふむ、友に呼ばれて息抜きか。悪くないな。忙しい時期でもなし。よしどこに行くか?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 私はレフィーヤ。花も恥じらう乙女にしてロキファミリアの期待の星。アイズさんとリヴェリア様の信者です。今日もお綺麗ですアイズさん。鼻血が出そう。

 私は朝からアイズさんに出会えた幸せを噛み締めながらオラリオを散策していました。

 

 ーーリヴェリア様!!

 

 私は隠れます。リヴェリア様が男二人を連れて歩いています。ついにリヴェリア様は下僕を手に入れたのでしょうか?さすがです。リヴェリア様の高貴さと美しさを考えたらありえます。

 

 ーー変人(カロン)とガネーシャ様!?どういうこと!?

 

 謎の組み合わせです。コ〇ン君も真っ青です。あのアイズさんをたぶらかしているにっくき変人と民衆の王とエルフの王族!?立場だけを考えると巨頭会談とも言えますが人格を考慮するとわけわかりません。なぜあんなカオスなメンツで集まっているのでしょうか??

 レフィーヤイヤーはたぶん地獄耳です。是非会話を盗み聞きしてみましょう。

 

 「ガガガガネーシャ様は普段はどんなお仕事をなされているんですか?」

 

 リヴェリア様、初っ端からツッコミ満載です!!ガネーシャ様の仕事は皆知ってるし緊張し過ぎだしまるでお見合いのような会話だし。

 

 「ああ、俺はお前の知っての通り民衆の王をしている。具体的には人々の有効運用といったところか?まあわかりやすいのでいえば祭の運営や広報等だな。ところでこれどこに行くんだ?」

 

 困惑気味のガネーシャ様。私も困惑です。このまま行けばイシュタルファミリアの歓楽街です。先頭に立つリヴェリア様はこんな日が高いうちからナニをしようというのでしょうか?

 

 「そうだぞリヴェリア。会って間もないガネーシャを一体どこに連れ込もうとしてるんだ?いくらなんでも気が早い。スケベすぎるだろう。」

 

 気が早い?何の事でしょう?

 

 「かかか関係ない!!大丈夫だ!!!」

 

 意味がわかりません。リヴェリア様パニクっているようにしか見えませんが?

 

 「大丈夫なわけないだろう。お前はテンパり過ぎだ。ほら、あっちにするぞ。」

 

 普通の対応です。変人の名折れです。

 

 「かかか構わん、行くぞ!!」

 

 構わないわけないですよ!?あなたたち三人ですよ!?上級過ぎませんか!?

 

 「話が通らんな。仕方ない。」

 

 お前にはファミリアに美人エルフがいるだろうがああぁぁ!!リヴェリア様の手を引くなああぁぁぁぁ!!

 

 「そうだな、いくら俺でも仕事をサボって歓楽街に通ってたら眷属に申し訳が立たない。」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あのあとしばらく歩いていたら景色のいい高台についていました。変人はいつの間にかいなくなっていました。

 

 「お前何やってんだ?つけてたのか?人の恋路に口出すのは趣味悪いぞ?」

 

 「へへ変人!!いつの間に私の後ろに!?恋路とは何の話ですか!?」

 

 「………お前と椿くらいだぞ未だに俺を変人と呼ぶのは。高レベル冒険者がこの程度の追跡に気付かんわけないだろ?ほら、リヴェリアに見つかってしまう前に帰るぞ。」

 

 「ローブの裾を掴んで引きずるなあぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはオラリオの高台。緊張のあまり記憶がない私は気づいたらガネーシャ様と二人ここにいた。カロンもいつの間にやらいない。後は私のやるべきことだな。私は勇気を振り絞って彼に話しかける。

 

 「あなたは民衆の王として名高い。あなたが忙しいことは知っている。今日はこんなことに時間をかけさせてすまなかった。」

 

 「なに、気にするな。さっきは仕事内容をああいったが本当に一番大切な仕事は民と触れ合うことだ。俺はいつだってお前を歓迎するぞ。俺が忙しくない限りはな。」

 

 「あなたは何というかさっきまでいたあの男にも似ているな。」

 

 「そうか?自分ではわからんがお前がそういうならそうなんだろうな。」

 

 そうしてぽつぽつ話を続けていい時間になる頃に私たちは帰ることにした。

 彼と話して私にわかったことは、彼が大人の魅力と包容力を持ち合わせたカッコイイ男性だと言うことだった。道中無口で無愛想だったハズの私に和やかに対応してくれたし、人々の支持もかなりの神だ。カロンはかなりの相手を紹介してくれた。今度私も何か礼をしないといけないな。

 

 「今日は楽しかった。また会ってくれるか?」

 

 「ああ、構わんぞ!俺が忙しくないときならいつでも遊びに来い!」




ついにノリでこんなものまで書いてしまった………ガネーシャ様の無限の包容力………
果たしてガネーシャ×リヴェリアなど誰が望むというのだろうか………


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トイレでの出会い

 僕の名前はベル・クラネル。田舎からハーレムを目指してオラリオに最近やってきた冒険者志望。おじいちゃんと二人で故郷で暮らしてたんだけど最近おじいちゃんが亡くなってしまったんだ。僕はおじいちゃんの意志をついでオラリオに来ていた。僕はハーレムを作り上げるんだ!

 

 僕は今、オラリオの町でどうすればいいのか困っていた。ロキファミリアのような大手に入りたかったんだけどどこも僕を欲しがってくれるファミリアがなかったんだ。たくさんのファミリアを回った僕は、疲れ果て悲嘆にくれてオラリオの公衆トイレに入っていった。もちろん人間だったら誰でも催すでしょ?

 

 アレ?中に誰かいるな?若い綺麗な女性の人だ?何してるんだろう?ここ男性用トイレなのに?トイレ掃除の作業員には見えないけど?

 

 「あの、何をしてらっしゃるんですか?」

 

 「うん?ボクがしているのはトイレ掃除さ。」

 

 まあですよね。それ以外だったらただの痴女ですよね。

 

 「なんでそんな普通の格好でトイレ掃除してらっしゃるんですか?」

 

 普通でもないかな?でもトイレ清掃員の制服には見えないけどな?あの紐は何なんだろう?

 

 「キミはオラリオに来たのは初めてかい?」

 

 「え、ええ。」

 

 「ボクのことは皆知ってるよ。ボクはオラリオで広く知られているヘスティアという神だよ。トイレ掃除を司っているのさ!」

 

 「え、初耳ですがどういうことですか?」

 

 「ああ、じゃあキミはボクの苦労話を聞きたいのかい?特別に話しをしてあげるよ。」

 

 「いえ、別に………。」

 

 そう、僕は早く入団できるファミリアに入らないといけないんだ!

 

 「まあそういわずに聞いておくれよ。ボクはこう見えても結構地位があるよ。オラリオに初めて来るキミに何か出来るかもしれないよ?」

 

 地位がある?どこかの大手ファミリアの主神………が公衆トイレの掃除してるのはおかしいよなぁ?僕はだまされてるのかなぁ?話しを聞くだけ聞いてみるべきかなぁ?

 

 「………わかりました。」

 

 

 ◇◇◇

 

 オラリオ、どこかのカフェ。お金をろくに持っていなかった僕は初対面の女の人にお茶をおごってもらっていた。うぅ、情けない………。

 

 「だからボクはさ、元々普通の神様だったんだ。でもカロン君という子供に騙されてトイレ掃除を押し付けられてしまったんだよ。それでしばらく掃除を続けているうちにだんだんとこだわりが出てきてしまってね、今ではナメたトイレ掃除は断じて許せないのさ!ボクは今やオラリオ中でトイレ掃除の神様として有名になってしまったんだよ。」

 

 「は、はぁ………。」

 

 なんか変な神様に捕まっちゃったな。何なんだろう?トイレ掃除の神様が僕の役に立つのかな?そもそもトイレ掃除の神様とか初耳なんだけど?

 

 「ところでキミはオラリオに初めて来たといってたけどどうかしたのかい?」

 

 「僕は田舎から出てきました。ここに着いてから夢のためにいくつものファミリア入団試験を受けたんですがどこも入れてくれなくて………。」

 

 「キミはアストレア連合ファミリアには面接に行ったのかい?」

 

 「はい。」

 

 「おかしいな?あそこはそんなに入団に厳しい条件を設けていなかったはずなんだけど………。」

 

 「それが………面接の時にどうしても冒険者志望だって言ったら冒険者担当の神様が行方不明だって………なんか生活態度があまり良くない神様らしくていつ帰ってくるかもわからないって………対応してくれた人は急に大金を渡すんじゃなかったと偉い人が後悔してるってそう言ってました。」

 

 「そそそそうなのかい?キミは冒険者志望だったのかい。」

 

 「どうしたんですか?いきなり目をキョロキョロさせて?」

 

 どうしたんだろう?何かやましいことでもあるのかな?警戒しておいた方がいいかな?

 

 「い、いや何でもないよ。それよりアストレア連合ファミリアにもう一回行ってご覧よ。今度はきっと入団できるはずさ。」

 

 「なんでそんなことがわかるんですか?」

 

 怪しい………おじいちゃんも美人局には気をつけろと言ってたし………。

 

 「ま、まあともかく行ってご覧よ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「はぁ、やっぱりここも入れてくれないか………。」

 

 あのあとも僕はいろいろなファミリアの入団試験の日程や条件などを聞いて回っていた。アストレアファミリアは大手で評判もいいけどすでに一度断られているしあの女神様は挙動不審だった。僕は騙されるのが怖かった。

 僕は傷ついていたんだ。アストレアファミリアは入団条件が低いと聞いていたはずだけど担当者が不在、僕を入れる気のないファミリアが嘘をついていたのだとしたら………。僕はいろいろなファミリアに断られて傷ついて疑心暗鬼になっていたんだ。しかしもう行くアテもないし………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あのあと悩んだ僕はアストレア連合ファミリアの面接をもう一度だけ受けに行ってみた。

 今度は面接官がいたらしくてすんなり奥へと通された。僕は疑問に思いながらも奥へと進む。

 アストレア連合ファミリアは様々な専門分野を司る総合ファミリアだ。かつては零細だったらしいけど今やロキファミリアやフレイヤファミリアと同等以上の地位を持つ最大手ファミリアと言われている。大団長のカロンさんという人があっという間にまとめ上げたらしい。すごいなぁ。アレ、でもさっきのヘスティア様の話の中でもカロンさんの名前が出てきてたような?まあ気のせいかな。連合内での人材の使い方が上手だという噂も流れている。それで入団条件のハードルを下げることに成功しているらしい。適材適所ということだそうだ。

 この扉の先に面接官がいるらしい。僕は緊張して扉に手をかける。そこにいたのは先日出会ったトイレ掃除の女神様だった。

 

 「あ、アレ?あなたは?なんでここにいるんですか!?」

 

 「良く来たね。キミは冒険者志望の子だね。ボクはアストレア連合冒険者担当のヘスティアファミリア主神のヘスティアだよ。キミの名前を教えてくれるかい?」

 

 先日の胡散臭い態度と違ってとても優しい笑顔だ。よく見るととても神々しくて美しい。

 

 「どうしたんだい?ボク達はきっと上手くやって行けるよ?ファミリア内では適性があまりに薄いと異動を奨められることもあるけどある程度の期間はなるべく本人の意思を尊重するようにしているよ。名前も分からなかったら互いを知ることもできない。ボク達はキミを受け入れて育てていく意志はあるしキミもボク達のためになってくれるはずだよ。名前を教えてくれるかい?」

 

 「は、はい。ベル・クラネルです。」

 

 僕はここでならやって行ける気がした。




ヘスティアの受けとった大金は夏のボーナスです。初めて大金を得たヘスティアは舞い上がってしまいました。こ〇亀の両〇巡査長みたいな感じです。そしてなぜか公衆トイレの掃除をしています。作者にも意味がわかりません。


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スーパーベル君

 「この子はベル君っていうんだ。リリ君、後はキミに任せるよ。」

 

 「はい、お任せ下さいヘスティア様。」

 

 ◇◇◇

 

 僕の名前はベル・クラネル。アストレア連合ヘスティアファミリア所属の新米冒険者だ。

 僕は今日主神のヘスティア様に呼び出されていた。

 

 「ベル君、今日はキミの初ダンジョンだ。彼女はリリ君。キミの付添人だよ。」

 

 「ハ、ハイ。よろしくお願いします。」

 

 僕は入団してから今まで、タケミカヅチ道場で鍛練を行っていた。ある程度鍛練がすんで、今日は初めてのダンジョンだ。付き添いにリリルカさんという人がついて来てくれる。彼女は連合でNo.3の天上人のような存在だ。僕は緊張していた。

 

 「ベル様、よろしくお願いします。リリのことはリリとお呼び下さい。」

 

 リリルカ・アーデさん。連合で最も強い敬意を受けていると言われる人物だ。若いにも関わらずの辣腕と冒険者を守護するその腕前、そして他者を教え導くその凄まじい手腕に誰も頭が上がらないと言われている。

 

 「ハ、ハイ。リリ様。今日はよろしくお願いします。」

 

 「リリとお呼び捨ていただいて構いませんよ?」

 

 とんでもない!盟友ロキファミリアのアイズさんの親友だという話も聞いている。物腰柔らかく優しく笑う若い人だがその内実は連合最強の頭脳だとも言われている。誰か(作者)は何を考えてここまで魔改造をしてしまったんだ!

 

 「と、とんでもありません!」

 

 「面倒ですね。それではせめてリリさんとでもお呼び下さい。」

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョン3階層。僕は今ここでリリさんにフォローされながらウォーシャドウと戦っていた。

 

 「ベル様、悪くありません。タケミカヅチ様の教えがしっかりと浸透しているようですね。欲を言いますとやはり少しだけ緊張が見られます。適度な緊張感は必要ですが、過度の緊張は思考を縛って深追いさせたり選択を間違えさせたりします。今日はリリがベル様の戦いをしっかりとフォローしますのでご安心下さい。」

 

 ものすごい安心感だ。彼女は新人研修の初回を必ず受け持つらしい。先輩方に聞いた話ではリリさんは至高のサポーターで、団長を長く見続けていたため絶大な安定感を持つらしい。先輩方も皆心酔している。

 彼女はサポーター部門の人間であるにも関わらず冒険者の絶大な支持を受けているんだ!

 

 「ベル様、新手です。ウォーシャドウニ体ですね。両方ともベル様が戦って見てください。」

 

 壁が崩れニ体のウォーシャドウが生まれる。僕はヘスティアファミリアからもらった短刀で相手に斬りかかる。

 

 「ベル様、ベル様の戦いにおいて意識するべき重要な点は空いた手の有効活用です。ベル様のステータスは足りてますのでウォーシャドウにさほど苦戦しないようでしたらそれを意識して戦って見てください。」

 

 リリさんの指示が飛ぶ。アストレア連合ファミリアではきちんとある程度前もって鍛練してから冒険者をダンジョンへと送り込む。僕はさほど苦労せずに最初のウォーシャドウを捌けていた。最初の一体を軽く捌いた僕はニ体目と相対する。空いた手の有効活用か。

 ウォーシャドウは爪で攻撃をしてくる。僕は左手で相手の爪を掴んで自分の方へと引き寄せる。カウンターで右の短刀で相手の魔石をえぐり取る。どうだったかな?

 

 「ベル様、悪くありません。相手の動きが見極められるのであればそういう使い方もありです。しかし空いた手はいくらでも活用の仕方があります。座学で習っているはずですので他の相手でもいろいろ試してみましょう。」

 

 

 ◇◇◇

 

 そのあと僕は、いろいろな戦いを試した。例えば投げ技を試してみたり盾を使った戦い方を試してみたり二本の短刀で戦ってみたり。強烈に印象に残ったのは左手を捨てごまにする戦い方だ。

 訓練において痛みと窮地に慣れておくのは重要なことらしい。あえてウォーシャドウの爪を左手に受けて相手の懐で短刀を深く刺すという戦い方だ。

 もちろん僕は痛かったし止めどなく血を流した。でも僕だって冒険者なんだし我慢しないと!今はポーションで回復済みだ。

 

 「ベル様、お疲れ様です。今日はこれくらいにしておきましょうか。今日はチュートリアルですので。次回は春姫というサポーターを付けます。彼女とは後ほど面通しを行いましょう。」

 

 今日はここまでみたいだ。

 

 ◇◇◇

 

 「ヴモォォォォォ!!」

 

 「ミノタウロス!?」

 

 帰る直前に突然ミノタウロスが現れた。この階層で現れるはずのない強敵!隆々とした筋肉と強烈な威圧感!どうすればいいんだ!?

 リリさんは連合大幹部。彼女は生かして還さないといけない!先ほどのチュートリアルを生かすときだ!身を呈してでも僕が彼女を助けるんだ!

 

 「どうしてこんなところにミノタウロスが出るんですかね?」

 

 呑気にしゃべるリリさん。ダメだ!逃げてくれ!僕の思いと裏腹にニ体目のミノタウロスまで現れる。

 

 「ダメだ!リリさんは早く逃げて!!」

 

 僕は必死に声を上げて覚悟を決める。僕はミノタウロスの前に立ち塞がる!!

 

 「ベル様、問題ありませんよ?手抜きしても五体くらいまでならどうにでもできます。」

 

 そんな馬鹿な!彼女はサポーターだ!そんなことができるわけがない。無理をさせるわけには行かない!

 

 「ベル様、アストレアのサポーターがスペシャルなサポーターだということはご存知でしょう?リリはその取り纏め役ですよ?」

 

 リリさんはそう言ってわらう。彼女はミノタウロスに向かうとみるみるその姿を変形させていく。彼女は灰褐色の巨人に変化したかと思うと即座にミノタウロスを掴み投げ飛ばした。巻き込まれて吹っ飛ぶニ体のミノタウロス。あっという間に潰れて消え去るミノタウロス。僕は目を丸くさせるほかなにもできなかった。

 

 「リリ、ゴメン。それ私達のミス。」

 

 「アイズ様、そうだったんですか。他にはもういないんですか?」

 

 「うん、それで最後。」

 

 突然金髪の綺麗な女性が出てきた。彼女は僕でも知る有名人だ。盟友ロキファミリアのアイズ・ヴァレンシュタイン団長。リリさんの親友と噂の人だ。

 

 「仕方ありませんね。あなたもお疲れでしょうし帰ってゆっくりお休み下さい。」

 

 「うん、ありがとう。」

 

 「リ、リリルカ様、お久しぶりだ!」

 

 新しい人が出てきた。見たことがある。確かタケミカヅチ道場のベート外部師範代だ。確かアイズさんと付き合ってるって噂があったはず………。

 

 「ベート様、様付けは勘弁してくださいといったはずですよ?」

 

 す、すごい。あんなに強そうな人が様付けをしている!やはりリリさんは凄い人なんだ。

 

 「しかし俺はもう一生リリルカ様に頭があがらねぇ。リリルカ様、今回は迷惑かけたな。連合の初心者教導にケチをつけちまった。」

 

 「お気になさらないで下さい。ロキ様はリリ達の盟友です。今日はここまでですので一緒に帰りましょうか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あのあと、僕の歓迎会が豊穣の女主人というお店で行われた。たまたま店で一緒になったロキファミリアの人達も一緒にだ。

 

 「ふーん、ベルっていうんだ。兎みたいだね。」

 

 アイズさんだ。綺麗で強くて物凄い緊張する!

 

 「チビ、リリルカ様の教えを決して忘れるんじゃねェぞ!」

 

 ベートさん。何かやたら頭を撫でてくれる。

 

 「ふむ、新しい冒険者か。見た目はあまり強そうにみえんがリリルカがやっていけそうだというなら先に期待が持てるな。」

 

 大団長カロンさん。この人忙しいはずなんだけど………?

 

 「そうですね。リリルカさんがそういうのでしたら。」

 

 副団長リューさん。とても綺麗なエルフの人だ。この人も忙しいんじゃないのか?

 

 「ベル、俺が造った武器はどうだった?」

 

 アストレア専属鍛冶師のヴェルフさん。ピョンナイフというネーミングはどうにかならないんですか?

 

 「次回からしばらくベル様の専属サポーターとして担当させていただくサンジョウノ・春姫と申します。よろしくお願いします。」

 

 これまた綺麗な狐人。これからしばらく一緒かぁ。

 

 他にもロキ様とかフィンさんていう有名な方とか沢山の人と話をした。僕は緊張のあまりほとんどなにも覚えていなかった。最後に覚えていたのはヘスティア様とロキ様が喧嘩をしていたような………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ、ヘスティア。俺を呼んでどうしたんだ?」

 

 「この間ベル君の歓迎会を行ったのを覚えてるかい?そのあとに明らかにわかるレアスキルがベル君に発現しちゃってさ………。」

 

 「レアスキル?」

 

 「これだよ。」

 

 

 

 

 

 【憧憬だらけ(スーパーリアリスフレーゼ)

 

 ・周りに憧れる人がいればいるほど成長する。ある意味ハーレム。

 ・対象は以下の通り。

 ・リリルカ・アーデ、カロン、ベート・ローガ、リュー・リオン、アイズ・ヴァレンシュタイン、フィン・ディムナ以下あまりに多人数の為略




!?ベートにいったい何があったんだ!?


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恋愛相談の続き

 「ズルい!ズールーいー!私の手伝いもしろー!」

 

 「またか………。」

 

 ◇◇◇

 

 ここはオラリオロキファミリア前のカフェ。俺の名前はカロン。俺は今日もここで幹部会議をサボってコーヒーを飲んでいた。

 

 ーーふーむ、なかなか芳醇で香ばしい。やはり時代はコーヒーに限る。なんで皆はあんなにお酒をうまそうに飲めるんだ?絶対コーヒーの方がうまいと思うのだが………俺の味覚がおかしいのかな?それにしても幹部会議にもコーヒーを出してくれればいいのに………。

 

 「お久。あんた聞いたわよ。リヴェリアに男を紹介したんだってね?なんか嬉しそうに話してたわよ。だったら私の手伝いもしなさいよ!」

 

 知り合いが向かいにまた座って来てしまった。彼女は皆ご存知ティオネ・ヒリュテ。ロキファミリア所属のフィンにお熱のアマゾネスだ。

 はぁ。また例の面倒事か。

 

 「お前前回(恋愛相談参照)おかしなことになったの忘れたのか?俺が手伝えることなどないと思うぞ?九魔姫(リヴェリア)にはガネーシャ(おとこ)を紹介しただけだぞ?お前も勇者(フィン)をあきらめるから新しい男を紹介しろというのか?」

 

 「うっ………そういうわけじゃないけど………。」

 

 「じゃあ俺に何を望むんだ?」

 

 「そうね………フィンがあんたんとこのサポーターに熱を上げてるじゃない!どうにかしなさいよ!」

 

 「んなこといわれても自由恋愛だろうが。いや、恋愛ではないか。まあいずれにしろ俺にはどうにもできんぞ。」

 

 「はー。まあそうよね。わかってはいるのよ。いってみただけ。どうすればいいのかしら。」

 

 「やはり新しい男を探すか?」

 

 「探さないわよ!でも………ちなみに参考のために聞くけどあんたに頼んだ場合誰を紹介してくれるのかしら?」

 

 「カヌゥかヒュアキントス辺りかな。」

 

 「いやよ!弱いじゃない!」

 

 怒る怒蛇。叩かれるテーブル。飛び散るコーヒー。もったいない。

 

 「そんなこといってもお前より強い男なぞほとんどおらんだろーが。」

 

 「そうよね………やはりフィン以外はありえないわね。」

 

 目の前の皿に置かれたケーキを食べる怒蛇。それ俺のなんだが?楽しみにしていたのだが………。

 

 「じゃあどうする?お前は俺に何をしてほしいんだ?」

 

 「まずは敵情視察ね。相手がどんな奴なのか見せなさい!」

 

 非常に面倒だ。しかしごねられる予感しかしない………まあいいか。連れていくか。

 

 「しょうがないな。連合本部に行くか。」

 

 ◇◇◇

 

 町並みを歩き連合本部へと向かう俺達。俺はふとあることを思い出す。

 ふむ、すっかり忘れていたが今本部は会議中だった。だから俺はコーヒーを飲んでたんだった。さすがにこんな用事で会議に割り込めるわけないな。

 

 「スマン、怒蛇。本部は会議中だった。まだかかると思うがどうする?」

 

 「どれくらいかかるの?」

 

 「あと1時間以上はかかると思う。リリルカは会議に欠かすことができんからな。」

 

 その言葉に怒蛇は少し考え口を開く。

 

 「そうね………じゃあそのリリルカってのの話を聞かせなさい。フィンはどうしてあんなにも熱中してるのかしら?」

 

 「そうだな。リリルカは育成面や事務面、実務面等でこの上ない価値を持った人材だ。」

 

 「?フィンは高レベル冒険者よ?なんでそんなに強くもなさそうな奴に興味があるわけ?」

 

 「周りに強い奴ばかりだからだろう。確かにリリルカは戦闘に関してはロキファミリアの足元にも及ばないだろうが、ある一面では勇者すら夢中になるほどの価値をもっているということだ。」

 

 「それは何なの?」

 

 「無類の教育者の知見と交渉の上手さだ。例えば勇者は強いが、勇者は未だ自分より強い奴を教育して生み出せていない。」

 

 「それは………」

 

 「リリルカは違う。あいつは自身より強い奴をいくらでも生み出して、いくらでも使える人材に仕立て上げられる。まあ元々の勇者の強さの問題もあるが。」

 

 「フィンが言ってたわ。アイズが成長してるって。そいつのおかげじゃないかって言ってたけど………」

 

 「そうかもな。あいつらやたら仲がいいからな。アイズがリリルカから人心掌握の術を学んだのかも知れないな。」

 

 「それが何の役に立つの?」

 

 「そうだな………例えばお前らがフレイヤファミリアと敵対することになってしまったら、お前らは力ずくで相手を倒そうとするだろ?勇者以外に交渉で事をおさめられそうなのがあとは九魔姫しかいない。違うか?」

 

 「そうね。」

 

 「勇者と九魔姫にしてもせいぜい締結できて不干渉くらいだろ?リリルカならば平気で味方にしかねない。俺が言うのもなんだがあいつは凄まじく価値があるぞ?」

 

 その言葉に考え込む怒蛇。続けて語る俺。

 

 「人心を高度に掌握するということは人を自在に操り味方につけることだ。人心を自在に操ることは戦場で思うままに人を動かすことにもつながる。お前だって勇者以外の人間に指示されたくないだろ?勇者とそれ以外の人間の指示ではやる気が段違いのはずだ。まあつまりそういうことだ。」

 

 「………難しいのね。私はフィンにとって価値がないのかしら?」

 

 少し落ち込んだ様子の怒蛇。

 

 「なんだ?珍しくネガティブだな?そんなことはない。リリルカに価値があるようにお前にもお前の価値がある。お前と違ってリリルカは最前線には立てない。適材適所だ。」

 

 「私はどうすればいいのかしら?」

 

 「やはりしつこく戦う他にはないだろう。リリルカは知恵で相手を打ち倒すが、お前は最前線に立って力で勇者を倒すほかにないだろう?相手は強大だがお前はいつだってそうしてきただろう?」

 

 「………そうね。それしかないのよね。あーあ、でもリヴェリアいいなぁ。ガネーシャ様のあのウザさが堪らないとかのろけられたんだけど。」

 

 アンニュイな怒蛇。

 

 「他人を羨んでもしょうがないぞ?お前は勇者が手強いのは百も承知で挑んでるのだろ?そうでないなら他の人間でもよかったはずだ。俺にはお前の手伝いはできない。勇者は知恵が回るから俺が策を凝らしてもすぐにばれてしまうだろうからな。俺はお前の相談に乗って話を聞くことくらいしかできない。まあリリルカだったらまた話が変わって来るかもしれないが………でもそれはお前にとって複雑だろう?」

 

 「………わかったわ。私はもう今日は帰るわ。また今度話を聞いてちょうだい。」

 

 「構わん、いつでもこい。ところでリリルカには会っていかなくていいのか?」

 

 「いいわ。別に相手が誰だろうと同じよ。真正面から打ち倒してやるわ。」

 

 俺はその言葉にギョッとする。誰だろうが打ち倒す?

 

 「まあお前らしいが………リリルカを真正面から拳で倒そうとはしないでくれよ?」

 

 「いくら私でもそんなにアホじゃないわ!言葉のあやに決まってるじゃない!」

 



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理由

唐突人物紹介

 アスフィ・アル・アンドロメダ・・・原作様も拙作もヘルメスファミリア団長。万能者の二つ名を持つ。原作様では苦労人だったが拙作でもやはり苦労人。しかも原作様以上に苦労している気配がする。なにげに不幸の星の元に生まれたのではなかろうか?

 

 ヘルメス・・・原作様でも拙作でもアスフィのヒモ。

 

 ◆◆◆

 

 ここはアストレア連合内、もの作り部門、ヘルメスファミリア。

 今ここで、アスフィとヘルメスは向かい合っていた。

 

 「それにしてもカロン大団長は瞬く間に連合をつくりオラリオをまとめあげてしまいましたね。異例の速度だと思うんですが………。ヘルメス様はいかが思われますか?」

 

 「いかがとはどういう意味だい?」

 

 「こんなに早くオラリオをまとめることが可能だった理由です。」

 

 美しいアスフィの眉間にしわが寄り思い悩む。娯楽が好きな神々をまとめあげるのは容易ではないと彼女は以前考えていた。

 

 「ふむ、俺が思う大きな理由はいくつかの複合的な理由だな。」

 

 「複合的な理由、ですか?」

 

 「ああ、せっかくだしアスフィも考えてごらん。」

 

 それを受けてアスフィも考える。

 

 ーー複合的、大きな理由として思いつくのはまず神々を楽しませたということ。娯楽好きな彼らを楽しいと思わせたということなのか?つまりカロン大団長のその手腕が見事だったということなのか?それを見て神々が楽しませてもらったと?或いはリリルカ統括役の腕前か?彼女を見込んだカロン大団長の………やはり腕前ということになるのか。リュー副団長も大きな求心力となっている。彼女がオラリオのアイドルと化していることが連合の一枚岩の理由の一つ。ロキファミリアのフィン団長、リヴェリア副団長、ティオネさん、ベートさんといった様々な種族の有力者が表だって支援していることも強力な理由だ。しかしやはり最も大きな理由はカロン大団長の腕前か?

 

 ーーファミリアをまとめあげるというアイデアがよかったという可能性はどうだ?結果として連合はオラリオに多大な貢献をしている。人々の役に立てることを初期で示した事が連合が大きくなった理由か?

 

 「アスフィ、考えついたかい?」

 

 ヘルメスは笑ってアスフィに問い掛ける。

 

 「いくつかは考えついてます。」

 

 「じゃあ話し合ってみようか。アスフィはどう思う?」

 

 「そうですね。私はカロン大団長の腕前だと思います。彼の腕前から派生した複数の事象が連合を大きくした最大の理由だと考えています。」

 

 「なるほど。ソレは俺も非常に大きな理由だと思うよ。」

 

 「非常に大きな?それではもっと大きな理由があるとお考えになられているのですか?」

 

 「そうだね。ヒントをあげようか。俺達神々は娯楽主義者だが感情がないわけではないのさ。」

 

 「それがヒントですか?」

 

 ーー神々の感情、つまり神々は感情的にカロン大団長に好意を抱いているということなのか?あの不敬なカロン大団長に?………連合が全面に押し出しているスタンスは仲間内を護るというもの。つまり神々はファミリアを護るカロン大団長に感情的に好意を抱いているということか。………確かにそれに関しては一般の市民の方々も好意的だ。

 

 「連合のスタンスに神々が好意を抱いているということでしょうか?」

 

 「うん、俺もソレが最大の理由だと思うよ。………なぁアスフィ、俺達神々はそれなりの数がいるんだ。」

 

 「そうですね、ここオラリオでは特にその通りです。」

 

 「神々にも力関係がある。その最も大きな原因は人々の信仰にある。」

 

 「信仰、ですか?」

 

 「ああ、俺は旅の神でフレイヤやイシュタルは美の神だ。へファイストスは鍛冶の神でヘスティアはトイレ掃除の神だ。」

 

 「ええ、その通りです。」

 

 「タケミカヅチの弁では世界には八百萬(やおよろず)の神々がいるらしい。ではその八百万の神々の中でも特に強い信仰を受ける神って何だろう?」

 

 「特に強い信仰を受ける神………オラリオではウラノス様やガネーシャ様でしょうか?」

 

 「まあここではそうなるな。でも地方の土着の神々ではどうなのか?例えばタケミカヅチの出身の地方では守護霊という考え方があるらしい。」

 

 「守護霊ですか?」

 

 「ああ、言い方を変えると守護神ということかな?」

 

 その言葉にアスフィはさらに考え込む。

 

 ーー守護神、連合の仲間内を護るというスタンスを指しているのか?つまりヘルメス様はカロン大団長が守護神としてオラリオから敬意を受けているということが言いたいのか?

 

 「つまりヘルメス様はカロン大団長がオラリオの守護神と見なされているからだとおっしゃいたいのですね?」

 

 「まあ俺の結論はそうなるのかな?カロン君は特に家族(ファミリア)を守護することに特化した守護者だ。冒険者を護る優秀なサポーター部隊だってそこから派生したアイデアだと俺は考えている。アスフィ、俺達だって眷属はかわいいんだよ。」

 

 ヘルメスはそういって優しい眼差しでアスフィを見やる。

 

 「俺達だって感情があるんだ。眷属がかわいいし信頼できる守護神がいるのならすがってでも眷属を守護して欲しいと考える神々はたくさんいるさ。人々だって本当に苦しいときにその経験を乗り越えたら、旅の神や美の神ではなく見守ってくれた守護神に感謝するだろ?その感情はとても強いものだ。カロン君は仮に数多くなかったとしてもとても強い敬意を受けている。おそらくはその筆頭がリュー君とリリルカ君だ。俺はそれが彼がオラリオをまとめあげる事が可能だった最大の理由だと思うよ。」

 

 「なるほど………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ところ変わってここは連合会議室、向かい合うカロンとアスフィ。

 

 「万能者、この間合同で開発してくれた薬酒はイシュタルも大いに喜んでくれている。さすが俺の部下だ。」

 

 いやに偉そうなカロン。アスフィは頭痛がして頭を抑える。

 

 ーーこの人が守護神?この人がオラリオを護っていると?はあ、思い当たる節があるとはいえ頭が痛い。

 

 「どうした?我が万能な手先よ。頭が痛いならミアハ特製の頭痛薬を飲むか?お前も作るの手伝っていたやつだ。」

 

 「いえ、大丈夫です。薬酒が役に立ったのであれば何よりです。」

 

 「そうか。イシュタルも喜んでくれているぞ?本当なら酒ではなくキチンと医者にかかるべきなのだが……。しかしお前達のファミリアはつくづく連合に大きな利益をもたらしてくれる。何かねぎらえるものがあればいいのだが。」

 

 「いえ、結構です。私達もオラリオに貢献できているのならそれが何よりのねぎらいです。」

 

 「そうか………。」

 

 アスフィは少し考える。この男を調子にのせるべきだろうか?少しくらいなら構わないか?

 

 「………ヘルメス様が連合のスタンスが守護神のようだとおっしゃってました。感謝していると。」

 

 「おいおい、俺達は神じゃないぜ?」

 

 「それでもです。」

 

 「俺達は神じゃない、人だよ。連合は人が集まってできてるんだ。人が人を護りたいと思ってできているんだ。まあもちろん神もたくさんいるが………。万能者、お前らのヘルメスファミリアが作り上げた物だってたくさんの人々を助けてるんだぜ。」

 

 カロンがその時アスフィに向ける眼差しは、奇しくもヘルメスと同じでとても優しいものであった。




ヘスティア様が炉の神だということは忘れ去られています。
というよりヘスティア様は家族の守り神ですよね?存在意義を乗っ取られてます。


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紫の竜王

 この日、アストレア連合ファミリアは迷宮でも超深層とも言うべき階層にたどり着いていた。連合の内訳は大団長のカロン、副団長のリュー、連合ヘスティアファミリア団長ベル・クラネル、リリルカ筆頭のアストレアサポーター部隊、ヘスティアファミリアの戦闘員及び魔法後衛部隊、ロキファミリア友軍ベート・ローガである。

 これは彼らが以前より予定していた遠征、未踏領域に到達するものであった。

 彼らは疲労を溜めるものの、不屈の大団長カロンやオラリオの希望と謡われるベル・クラネルに希望を見出だし高い士気を持って迷宮の奥へと進んでいた。

 そして彼らは脅威と出会うことになるーーー

 

 ーーいやに静かだ。何なんだこの階層は!?なんだ?何かいるのか?

 

 それは誰の考えだったか?その階層は全面が心を寒くするような青色の階層、まるで何物かに塗装されたかのような。静かで生物の気配は感じない。しかしなぜだか恐ろしい。なぜ恐ろしいのか!?理由がわからない。

 ただただ広く先の薄暗い階層で、突如ベル・クラネルは必死に声を上げる。張り裂けんばかりに………。

 

 「下だぁっ!!!皆っ、逃げろぉぉぉっ!!」

 

 唐突に階層が揺れる。戦慄する仲間達。ベルの声に呼応して大団長カロンが大声で指示を出す。

 

 「総員、四方へと散開しろぉっ!!何かが地面を突き破って来るぞ!!リリルカはサポーター部隊の安全を、リューは冒険者の安全確保を行え!!ベル、何物かが現れたら速度を優先して一番槍を取れ!!決して深追いしてはならん!来るぞおぉぉ!!」

 

 ーーーーーーバリバリバリバリ、

 

 凄まじい音とともに地面がせりあがる。ボスはこういう如何にもな感じの演出とともに現れるものなのだ。意味?必要性?誰にもわかりません。

 地面から如何にも危険そうな竜が現れる。リューではない。

 竜は毒々しい紫色をしており、明らかに危険な毒を持っていることは一目瞭然だった。体長は大きく目算で20メートル前後、体高も10メートルを優に超えている。濃い紫の二本の角は悪魔のように捻れており、牙は黒々としており涎が地面に垂れて音を立てている。明らかにヤバい代物だ。

 

 ーーなるほど、地面を突き破った意味はわからんがこの広さはこいつの住みかだったからと言うことか。

 

 カロンは理解する。突然天井が高くなった理由、突然部屋が広くなった理由、そしてこの部屋が青いのは竜の体液によって毒に浸されているからだということを。

 

 「うわああぁぁぁぁっ!!」

 

 一番槍はベル・クラネル。彼は明らかに一目でヤバいとわかる相手に、速度を頼みに彼だけのナイフを持って挑みかかる。

 

 ーーーーーーガキンッッ

 

 ーーっっっ。これは!?

 

 ベルのナイフは竜の体表の鱗にはじかれる。傷一つ付いていない!!深層に到るまでのあらゆる敵を葬り続けた英雄のナイフのはずだ!?ベルは一瞬惚ける。そして竜は隙を逃さない。

 

 ーーーーーーグワォォォォッッッ!!

 

 黒い牙がベルを襲う。ベルは呆気に取られる。迫り来る牙、そこを間一髪、風と呼ばれるエルフが割り込み救い出す。

 

 「クラネルさん。しっかりして下さい。」

 

 なおも竜は襲い来る。ベルを抱えたままのリューは追いつかれるのが目前である。しかしそこで割り込む存在がある。

 

 「サポーター部隊、斉射!!」

 

 そう、リリルカである。彼女の号令により飛び交う数多の鉄の鏃。しかし竜には痛手にならない。ただ敵の追いかける速度を落とさせることに成功する。

 

 「リリルカさん、助かりました。」

 

 「カロン様より固い相手は初めて見ました。」

 

 リューとリリルカは笑いあう。最強(ベル)の一撃は通らずかすり傷一つ付かない。しかも敵が猛毒を持っているのは一目瞭然。素早く固く力強い敵。挙げ句におそらく敵の攻撃は一撃で致命となるだろう。絶体絶命の中それでもリューとリリルカは笑うのだ。どこまでも不敵に、不遜に、不敬に。

 

 ーーホラ来ますよ!

 

 「リューとベートが敵後方で速度で撹乱、俺は真正面を受け持つ!ベルは最高までチャージを行え!!魔法部隊は敵行動の阻害を意識しろ!リリルカはパターンBの指揮をとれ!戦闘員は敵の後方で控え、安全を確認し次第遠距離攻撃を開始しろ!」

 

 「オイオイ、テメエ。人使いが荒過ぎだろうよ!俺は借りモンのはずだろうが!」

 

 「強い相手と戦いたいと言ったのはお前だろ?ほら、不足はないだろ?一撃を絶対喰らうなよ!」

 

 「テメエこそ死んででも持たせやがれ!」

 

 いつもの強敵に対する戦術を駆使する。カロンが前面を持ち、周りがダメージを通す戦い。誰かは原作を間違えてなかろうか?これではソード・アート・〇ンラインである。さながらカロンはヒース〇リフか?

 向かい合う竜と連合、ベルの一撃で傷が付かない敵、カロン達にとっても未知の相手である。それでもカロンは笑い、リューは笑い、リリルカは笑うのだ。

 

 「私も前線へ出ます。」

 

 「リュー様、お気を付けてください。」

 

 冒険者はいつだって危険、カロンとリリルカの口癖だ。しかしそれでも彼らは生きて帰ることを信じつづける。彼らの大団長は闇派閥(ゴキブリ)が裸足で逃げ出すほど生命力が強い。連合に信じられている生きる伝説だ。

 

 カロンはスク〇トを重ねがけて竜の前面に立ちはだかる。噛み付く竜と牙を持ち受け流すカロン。竜は幾度となく顔を動かし噛み付く。カロンは盾と片腕を使って攻撃をうまく捌く。普通なら掠っただけで昏倒する猛毒を竜は孕む。カロン以外は前面に立てない。

 リューとベートは背後の上方から竜に襲いかかる。相手の防御の脆そうな羽に攻撃を加える。ここに妖精と狼の世にも奇妙な円舞曲を描き出す。リューとベートは空中戦を行う。二人は壁を幾度も蹴り竜の羽に幾度も幾度も飛び掛かっている。リューの攻撃は二本の短刀、ベートの攻撃は水の魔剣の力を宿した蹴撃である。しかし竜の羽はわずかな損傷しか受けない。

 前面のカロンは竜の噛み付きの動きを読んでいた。いらつく竜は角での頭突きを織り交ぜる。避けたカロンに体当たりをする。壁に激突するカロン。しかし仲間は微動だに慌てない。

 

 「ときの声をあげろおおぉぉぉ!!相手はたいしたことねぇ!今日の晩飯は豪華に竜の肉だ!豊穣の女主人を貸し切るぞ!!オラリオ中を羨ましがらせてやるぞおおぉぉぉ!!」

 

 馬鹿である。時間的に今日中に帰れるわけが無い。しかも相手はどう見ても毒を持っている。そんなん食って生き残るのはチート持ちのお前くらいだ!!

 しかし

 

 「「「「「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」

 

 それでもときの声は上がる。わらうカロンは再び竜の前に立ちはだかる。竜はリューとベートを攻撃の的にする。しかし妖精と狼はどこまでも軽やかにこの世のものではないかのように竜の攻撃をすり抜ける。竜がベートを狙えばリューが、リューを狙えばベートが背後からちょっかいをかけ竜はひたすらいらつきを募らせる。

 

 「パターンB、攻撃開始!!」

 

 リリルカが指示を出す。パターンBはベートの水の魔剣と酸の魔法、そして雷撃の魔法である。相手の神経を焼き切り酸でドロドロに溶かすというえげつない戦術である。

 

 ーーーーーーグアァッ!?

 

 竜に雷と酸が降り注ぐ。しかし竜の鱗は強靭に結合している。雷も酸も竜の鱗を滑り落ちる。

 

 「チッ、ほとんど効果無しか。ベルはあとどれくらいかかる?」

 

 カロンは再び前面に立つ。竜は酸が目に入り戸惑っている。

 

 「あと30分持たしてください!!」

 

 「了解!」

 

 竜は再び目を開ける。全くダメージが通っていないわけではない。ベートとリューが傷を付けた羽の一部から泡を出している。酸が反応している証拠だが大きなダメージは通っていない!

 竜は咆哮を上げる。振動波がカロンを襲い、カロンは一瞬固まる。竜はその隙に口から毒混じりの酸性の唾を吐く。カロンはそれをもろに受ける。

 

 「カロン!」

 

 「大丈夫だ!」

 

 竜は困惑する。体液が全く効いていない。溶けるのは鎧のみ。竜は再びカロンをかみ砕きにかかる。同時にリューとベートをしっぽで落とそうと試みる。リューとベートはしっぽをどこまでもかわしつづける。擦れ違いざまに攻撃、かすかに羽が傷付くだけ。余りにも固い。

 冒険者達も遠隔援護を行う。余りにも危険な相手に前線へ出られない。リューとベートを避けての援護射撃である。しかしやはり敵の鱗は傷つかない。

 竜は前面のカロンに噛みかかる。カロンは盾で防ぐしかし竜は顎の力で盾を奪っていく。盾はそのままかみ砕かれる。そして竜は前面のカロンに爪で掴みかかる。カロンは両腕を上手に使い爪からサラリと逃げる。竜の追撃。角での頭突き。カロンはこれまた両腕で角を掴み敢えてそのまま後ろに跳ぶ。手応えのなさに竜はまた怒りを募らせる。

 そして竜は上空に飛び上がる。連合は明らかにヤバい気配を感じとる。

 

 「総員、散開しろおおぉぉぉ!!」

 

 カロンの怒号、落とせないか苦心する妖精と狼、しかしやはり効果は無い。竜はそのあぎとから黒い液体を溢れさせる。凶悪なブレスだ!

 

 「冒険者、サポーター部隊をまもれええぇぇぇ!!リリルカは変身してベルの退避を行ええぇぇ!!」

 

 サポーターは今や戦いの生命線である。ポーションでのフォローの専門家。リリルカの教えは浸透している。冒険者はサポーターの為に体を張り、ベルは上空に避難する。カロンは笑いながらブレスを正面から受ける。相変わらず狂っている。

 

 「総員、回復優先後に戦線復帰。次回以降飛び上がる気配を感じたら先ほどの行動を繰り返す。魔法部隊はパターンA。敵を永久凍土に閉じ込めろ!」

 

 物資は豊富だ。ヘルメスとミアハの合わせ技の高品質耐毒ポーションも数多く持ってきている。戦線復帰はさほどかからないはずだ。

 パターンAは最も信頼性の高い戦術、連合の最も頼る戦い方である。シンプルに幾人にもよる氷結魔法の重ねがけだ。水を大量に放つ部隊と水を凍らせる部隊。地獄の業火に強い魔物は数多くとも永久凍土から這い出せる魔物は存在しない。連合の魔法部隊は詠唱を始める。カロンは竜に組み付く。カロンは竜をよく見ていた。

 

 ーー奴が今までブレスを吐かなかった理由はやはり蠕動運動の問題だろう。短時間でそうそう何度も連続で行うのは不可能だろうし飛び上がるためにも体力を使うはずだ!!

 

 そう、これはミアハとタケミカヅチの合わせ技だ。ミアハの医術の心得とタケミカヅチの人体の理解によりカロンもある程度筋肉と相手の状況の理解をしていた。そして胃壁を収縮させる必要があるために相手が再びブレスを吐けるようになるまで時間がかかるとみていた。

 

 ーー他に大技があるとは思えんが………飛び上がっての体当たり?魔法?体当たりが使える技ならブレスより先に使ってるだろうよ!!魔法は警戒の余地があるのか?知能はどの程度だ?俺とリューとベートで何とか注意を引くしかなさそうだな。

 

 カロンは向かいながら思索する。もう盾はとうにない。ベートは今度はリューの風を纏いリューとベートは依然攻め立てる。ダメージが通ってるか怪しい。僅かに綻びているのは羽の先のみ。しかしベートとリューは幾度も幾度もサーカスのような連激を繰り出す。

 竜は正面のカロンを見ている。竜の噛み付きからの顎でのたたき付け。カロンは噛み付きを避けるがたたき付けられる。

 

 「うおおぉぉぉぉっっ!!」

 

 地面がへこむ。頭から血を流せどカロンは倒れない、倒せない。カロンは笑いつづける。冒険者達も立ち上がる。

 魔法部隊の準備が整う。一気に冷え込む階層。何かを感じとる竜、されど遅い。

 

 「タイダルウォーター!」

 

 「レイニング!」

 

 「グランドブルー!」

 

 「アイスエイジ!」

 

 「エンドブリンガー!」

 

 「グレイスワールド!」

 

 思い思いに魔法を唱える魔法部隊。適当な名称。

 水塊は波状に幾度も幾度も落ち、終わりが見えない程だ。そして水塊は次々に凍っていく。末端より羽を凍らされ尾を凍らされ体を凍らされついに氷の棺が完成する。動くこと能わぬ連合の必殺、連合は勝利を確信する。ただ数人を除いて。

 

 ーー相手の体がデカすぎる。凍らせきることが果たして可能か?相手は酸や毒も持っている。氷に不純物が混ざって固めきれるのか?

 

 ーーこんなに簡単に片付くものか?こんなやばそうな敵が?

 

 ーー油断はダンジョンで死を招きます。確実に死亡を確認するまで油断できない。

 

 ーーリリ達は生きて帰らねばなりません。リリ達は気を抜くべきではありません。リリ達は冒険者様を生きて帰すプロフェッショナルです。

 

 「やりましたね!」

 

 ベルの声が明るく響き渡る。しかしカロンの声が上がる。

 

 「ベル、それはフラグだ!!ベル、油断した奴からダンジョンでは死んでいく!!」

 

 その言葉をあたかも証明するかの如く棺はヒビ入り行く。竜は氷塊に纏われながらも声を上げる。カロンの声が再び響き渡る。

 

 「ベル、チャージは完了しているな!!英雄の力(それ)を放て!!今なら奴の動きも鈍い!」

 

 「は、はいッッ!!」

 

 大鐘楼(グランドベル)の音色が響き渡る。その音色はあまりにも荘厳で涙が出るほど美しく気高い。鐘は連合の勝利を告げるはず。

 

 ーーーーーーゴオオォォォォン、ゴオオォォォォン

 

 ベルはその手に英雄の力を載せて駆ける。英雄(アルゴノゥト)はひたすら速度をまして竜の首を切り落としに走る。

 

 

 

 ーーーーーーガキインッッッッ

 

 嫌な音がなる。英雄の一撃は無惨にも鱗によってはじかれる。竜は傷一つ付かないまさかの事態だ。呆然とするベル、連合はうろたえる。

 

 「うろたえるなあッッ!!俺達はまだ誰も落とされてない!!俺達はまだ敗北していない!!!」

 

 カロンの怒号にベルは目を覚ます。即座に退避する。

 

 「このままでは有効な手だてがない。逃走を行う!!」

 

 カロンは撤退を決める。しかし竜はそれを許さない。リューがしっぽにはじき飛ばされる。分断される。

 

 「チッ。」

 

 ベートがリューのフォローに走る。

 竜は辺りを見渡す。あたかも状況を理解したかの如く逃げ道を塞ぎにかかる。上層の入口に突進して天井を崩し穴を塞ぐ。

 

 ーー知能があるのか!?厄介だ!!どうする?先のパターンAは凍らせきることに失敗したらたいしてダメージが通る戦術ではない。しかも天井を崩されて連合に動揺が走っている。

 

 口元を歪める竜、飛び上がり二発目のブレスを吐きにくる。しかし連合は百戦錬磨である。唖然としながらも彼らは役割を忘れない。散開し優先的にサポーターを護る。

 

 ーー死ぬか生きるか、か。生きて帰る以外の選択肢はありえんな!!もう一度士気を立て直す。何が何でも生きて帰るんだ!!!

 

 「今一度声をあげろおおぉぉぉ!!正義はここにある!!俺達は何があっても生きて帰るんだ!!絶対にだ!!」

 

 カロンは再び声を上げる。信じられないほどのタフさを誇る大団長の怒号に今一度士気が戻る。そしてそれは黒いスキルの後押しを強烈に得て全員の力が先程まで以上にみなぎる。

 

 カロンが前面から取っ組み合い、ベートと復帰したリューが背後を攻め立てる。密かに継がれた白いスキルはリューを支え汚れから護る。リューは先程の尾の一撃で体内に毒の侵入を許すも、なおも必死に戦い続ける。

 

 ーー何が何でも生きて帰ります!!私にできることは少しでも敵を傷つけることだけだ!私は絶対にもう落とされません!!

 

 周りの冒険者はリリルカの号令のもと遠隔攻撃を行う。疾風怒涛の剣撃、鈍い金属音を立てる蹴撃、数限りない矢衾を受けなおも竜は微動だにしない。カロンは竜の顎を殴りつけ、仕返しとばかりに竜はカロンの片腕に噛み付く。ゴリゴリと嫌な音を立てる。しかしリリルカの有能さ。

 

 「口内に魔法を放って下さい!!炎の即詠唱魔法部隊、連続で至急です。」

 

 さすがに体内を焼かれるのは堪える竜。カロンの腕を離す。カロンは一時退避する。

 

 「カロン様、どうしますか?」

 

 リリルカが近付きポーションを渡す。

 

 「ベルはどうしている?」

 

 「先程の一撃で体力を消耗しています。今現在は回復に努めています。」

 

 「わかった。ベルが回復し次第もう一撃だ!!」

 

 「倒す算段は?」

 

 「今から見つけるしかない。最悪ベルをあの口の中にほうり込むしかあるまい。」

 

 他に方法はない。ダメージが通ったのは口の中だけだ。魔石も見当たらない。そしてカロンはさらなる切り札を切る決意をする。

 

 「同時にパターンCだ。準備を行え。」

 

 パターンC、これも単純な戦術だ。ひたすら重力魔法を重ねがけるというもの。しかしこれらの3パターンは今まで連合を支えつづけて来た戦術だ。シンプルイズベストである。しかしAとCは魔法部隊の消耗が激しく一回こっきりだ。Aは対象の巨大さに失敗しBは竜にほとんど通用していない。もう他に切れる札は無い!

 

 「やれやれ、時間を稼いで来るぞ。」

 

 やっぱりカロンはわらう。また竜と向き合う。

 

 ーーリューとベートも限界が近い。さてはてどうするかな?

 

 またカロンは竜の前に立つ。何度撃退しても立ち塞がるカロンに竜は激昂が止まらない。冷静さをついに欠きストンピングを連続で行う。地面が崩れる階層、激しい揺れに平衡感覚をやられ倒れる者達。しかしカロンは踏まれても踏まれても立ち上がる。頭部からとめどない血を流して立ち上がる。そして不敵に笑いつづける。

 

 ーーーーーーリンリンリンリンリン

 

 響き出す鐘の音色、ベルが復活してチャージを行っていることをカロンは悟る。そして変人カロンはここで狂気の作戦を思い付く。

 

 「リリルカぁぁっ!作戦だぁぁっ!重力魔法が仕上がったらお前は竜を持ち上げろぉぉぉ!!」

 

 わらうカロン、わらいかえすリリルカ。狂気のスキル、アーデルアシストは何でも持ち上げることが可能なスキル。そう、持てるのであれば重力をかけられた竜だろうがたとえ地球だろうが。そしてリリルカはカロンの狂気のアイデアを盲信することに決める。自分に作戦はない。このままでは全滅必死だ。ならば沈むにしろ浮かぶにしろ最後まで信じたいものを信じて生きよう、リリルカは決意する。

 

 戦う竜と前衛、カロン、リュー、ベート。ベートが最初に体力不足により落ちる。ベートはサポーター部隊の中に退避する。リューも時間の問題だ。カロンは笑いつづけながら竜と向き合う。カロンへと噛み付く竜の牙。残ったカロンの鎧を砕き血を流させる。笑いやまぬカロン。噛まれながら目に腕を突っ込もうとする。しかし眼球すら固い。それでも竜は驚きカロンを離す。

 己らの余力の少なさを察知した連合は重力魔法部隊以外で矢と可能な魔法を放ち時間を稼ぎにかかる。しかしほとんど竜は堪えない。僅かに酸が羽を溶かすのみ。それでも覚悟した連合はあらん限りの力を振り絞り竜に攻撃を加え続ける。

 カロンはボロボロの状態だがポーションを煽っていつまででも前衛に立つ。降り注ぐ矢と魔法。いつまで物資が持つことやら。カロンは今回は赤字は免れないなと心の中で苦笑する。相変わらず頭のネジが外れている。

 角で突っ掛かる竜、カロンはタケミカヅチ直伝の体捌きを行いうまくいなす。しかし竜はそのまま回転しカロンをしっぽではじき飛ばす。カロンは音を立てて吹き飛ばされる。

 鐘の音色が徐々に辺りに力強く響き出す。

 

 ーーもう少しかかるな、、、

 

 余力のない連合、それでもカロンは時間を稼げる札を模索する。魔法部隊はマインドダウン続出で冒険者部隊の攻撃は時間稼ぎにならない。リューは落ちる寸前でベートの復帰には時間がかかる。このままでは連合が食い破られるのも時間の問題だ。

 

 ーーやはりやむなしか。

 

 嗤うカロンは狂気を力にする。カロンはしばしば狂ったアイデアを思い付く。それは仲間を護る聖者と手段を選ばない覇王の才能の共演。狂ったアイデアは何が何でも仲間を生きて帰す強い意思から生み出される。

 

 「リリルカぁっ!エリクサーをあるだけだせぇっ!!剣も渡せぇっ!!」

 

 「やれやれ、またおかしなことを実験するおつもりですか。」

 

 エリクサーを受けとるカロン。仲間達は理由がわからない。リリルカはただ苦笑する。

 

 「これから切り札を発動する!!お前らぁッッ!!絶対に全員で生きて帰るぞおぉっッッ!!」

 

 冒険者から剣を受けとったカロンは竜と相対する。噛み付く竜、しかしまさかの自分から喉の奥へと侵入するカロン。

 毒竜は驚く!毒竜は今まで自分の口内で長時間生き抜く存在がいたことがない!当たり前だ!!通常の剣より鋭い牙と鉄を溶かす酸と毒を含む口内だ!!!

 ここに来て初めて困惑する竜。僅かに心に鎖がひっかかる。

 

 当然竜はかみ砕こうとする。しかしカロンは避ける。口内で避ける。当たってもエリクサーで回復させる。狂気の持久戦。敗北上等の時間稼ぎ。

 竜は吐きだそうとする。飛び上がりブレスを吐こうとする。しかしここに来て執拗なリューとベートの攻めが功を為す。いつの間にか数箇所の亀裂を入れられていた羽は機能を果たさない。リューは笑いながら疲労困憊で落ちていく。

 ならばと地面上で吐きだそうとするもカロンは細かく剣で何回も舌を刺す。さらになけなしの物資をここぞとばかりに出し惜しまずに撃ちつづける連合、しかしこれが予想外の効果を発揮する。矢に時折混じるヘルメスファミリアの着火式爆弾を確認した竜は、地上でブレスを吐くために口を開けるのを躊躇う。ブレスを吐くためには口を上方へ向けて開けなければいけない。鱗は強靭でも口内まで強靭なわけではない。爆弾が体内に入りでもしたら痛手になりかねなく、ブレスで敵を吐き出せる確証もない。

 カロンはすでに酸でボロボロの剣をしかし何度も何度も竜の舌に刺しつづける。そしてカロンは牙にしぶとくしがみつく。カロンは我慢勝負に無類の強さを誇る。竜はカロンを吐きだせない!!首を振っても牙で突き刺しても出て来ない。有り得ないしぶとさ。拷問以外の何物でもない数限りない牙での刺突を幾度も受けカロンはそれでも竜の口内でなお嗤う。

 狂気の我慢比べだ。力尽きるか痛みに負けるか物資が尽きるか無理矢理吐きだされるか口内にしがみつくか。

 竜は頭を振って頭部を幾度となく壁にたたき付ける。しかしカロンは牙を掴み剣を突き刺して出て来ない。飛び散る血液は酸に触れ音を立て、幾度も牙は肉をえぐる。それでもエリクサーを含んで離れない。竜の唾液は強酸で、白いスキルに護られたカロンであっても音を立てて手足の末端から溶け出している。それでもカロンは離れない。竜は困惑する。

 

 ーーゴオオォォォォン、ゴオオォォォォン

 

 ついに鳴り出す大鐘楼、重力魔法部隊が自分たちの出番を理解して前に出る。竜は口内に夢中で気付かない。

 

 「ベル様、狙う箇所は理解していますね?」

 

 「で、でもカロンさんがまだ中に………。」

 

 「覚悟を決めてください。カロン様のことはお気になさらずに。カロン様はリリ達を愛してます。仲間達全員を心から愛してらっしゃいます。ここで倒せなければ全滅です。もう一度言います。覚悟を決めてください!わらってください!!」

 

 ここでリリルカの黒いスキルが発動する。誰にも知られず受け継がれた黒いスキルはベルに覚悟を植付ける。ベルは覚悟を決めてわらう。覚悟と二重の黒いスキルはベルの英雄の一撃をさらに爆発的に強化する。

 頷くベル、発動する重力魔法、リリルカは自分の仕事をする。

 

 リリルカはエンペラータイガーへと姿を変える。竜は突如の重みに苦しむ。幾重にも重ねられた重力、それは外傷に強い竜にも強力な効果を出す。リリルカは竜の傍に颯爽と立ちゴライアスへと変身する。

 そしてここで反則スキル、アーデルアシストがやはり力を発揮する。

 リリルカは竜を持ち上げ重力ごと地面にたたき付ける。床に亀裂を入れて竜は沈み込む。カロンは竜の口内であるだけの剣を舌に突き刺す。竜は痛みと衝撃と重力で口が半開きで痙攣する。そしてまばゆい白い輝きを放つ英雄(ベル・クラネル)

 

 「うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 「ベル、やれぇっ!」

 

 白い英雄は二重の黒いスキルに強烈なサポートを受ける。

 

 「ああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 竜は白い英雄の力を感じとる。ここに来て初めて竜は恐怖を感じる。体は痛みで動かない。自身の鱗には自信がある。しかし先程口内を刺されたばかりだ!!ここを狙うに決まってる!!

 

 感じとる強大な白い暴力、痛みで動かない体、いまだに嗤いながら口内で剣を刺しつづける狂気の(カロン)

 

 そしてそれを最大にサポートするリリルカ。

 

 「今です!!皆様声を上げて下さい!!!今しかありません!!!」

 

 「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」

 

 ここで怒声が鳴り響く。一斉射撃が乱れ飛ぶ。黒い鎖がベルを二重にサポートし、竜を二重に拘束する。

 

 そしてついに白い砲弾が発射される。それは太陽より白く眩しく輝き、竜の体内に向かって特攻する。

 

 「うわああぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 ベルは口内に特攻する。ベルは縦横無尽に竜の体内を蹂躙し、体を打ち破り出てくる。飛び散る毒々しい血肉。

 ベルは勝利を確信する。

 しかし最期に竜は自身の落命を悟り命をかき集めて呪いのブレスをベル目掛けて解き放つ。

 

 「ベルッッッ!!!」

 

 ベルは竜の体内の毒に侵されていた。高い耐異常を持つベルであっても満足に動けないほどに。近い将来連合を取り纏める次代の英雄をカロンはかばう。しかしそれは僅かに神の血を体内に含む竜の最期の毒。毒はカロンの白いスキルさえ溶かして魂の表面を消し飛ばす。

 

 「ぐわあああぁぁぁっ!!」

 

 「カロン!!」

 

 「「「大団長っ!!」」」

 

 即座に近寄ろうとするサポーター部隊、しかしそれをリリルカは押し止める。

 

 「さすがによくわかってるな、リリルカ。ダンジョンは油断した奴から死んでいく。竜の確実な死亡確認が先だ!」

 

 「「「は、はいっ。」」」

 

 

 ◇◇◇

 

 あのあと魔法部隊の遠隔からの死亡確認が確実になされ、俺達は誰もいない階層で休んでいた。落盤した天井はサポーター部隊によって復旧されていた。

 

 「リリルカ、調査の結果はどうだった?」

 

 「竜の死骸に役に立つ部位はありませんでした。魔石もありませんでした。それとこのあたりの地面には予想通り毒が溶けていて危険です。役に立つ収穫は無しですね。」

 

 「やれやれ、今回は大赤字か。ベルは無事そうだし次回以降に期待、か。」

 

 ボロボロの俺はついぼやく。貧乏時代の名残だ。今もあんまり金は持たないが。ふむ、もしかして貧乏神がファミリア内に居るのかもしれないな。ヘスティア辺りか?タケミカヅチも怪しいな。両方か?体に纏ったもはやぼろ切れとしかいえないものには多量の血液がこびりついている。鎧も盾も作り直しか?いや、もう必要ないのか………。

 

 「いえいえいえ、何であなたはもう………。あなたの戦力外がどんな大赤字より大きなマイナスですよ。………しかし生きているだけたいしたことないような気もしてきましたね………。リリはやはりおかしくなってるのでしょうか?」

 

 「いや、リリルカは正しいさ。」

 

 そう、俺は先のブレスでステータスを消し飛ばされていた。俺には状態異常を防ぐスキルがあったが先のブレスはそんなに生易しいものではないことが見るからに明らかだった。

 

 「やれやれ、撤退せざるを得ない、か。」

 

 俺はさらにぼやく。帰りがものすごい億劫だ。時間も大概かかる。そして物資が薄いための必死の逃避行だ。気が進まないこと山の如しだ。

 

 「チッ、テメエあのヤバい口の中に特攻とかつくづくどうなってやがんだ?」

 

 「凶狼、お疲れさん。俺のステータス消されちまったから今度からどつきあうの勘弁してくれよ。死んじまう。」

 

 「ハァ?まさか最後のアレか?マジかよ、結局一回もぶったおせてねぇんだぞ!?」

 

 「スマンな。というわけで帰りは俺は護られるお姫様役だ。頼んだぜ!」

 

 「ふざけんなよ!ハァ、マジかよ………。」

 

 切ない目をした凶狼。とても哀愁が漂う。シュンと垂れたしっぽ。スマンな。

 

 「これから特訓できませんね。」

 

 リューが近くに来る。

 

 「ああ、勘弁してくれ。俺はもう一般人だ。」

 

 「カロンさん、お疲れ様です。」

 

 ベルも近寄って来る。

 

 「最後の一撃は助かったぞベル。痛かったけど。」

 

 「痛かっただけってつくづくカロンさんはどうなってるんですか!?」

 

 「タケミカヅチ様様だな。ある程度うまく受け流せたよ。」

 

 「かないませんよ。本当にカロンさんさえ居れば無敵なんじゃあ………。」

 

 「ベル、俺はもう爺で戦えないから後は頼むぞ。」

 

 「ええっ、何を言ってるんですか!?」

 

 「聞いとらんのか?俺はステータスを消し飛ばされたぞ。」

 

 「えっ、まさか最後の攻撃で?」

 

 ベルはみるみる顔を青くする。自分を庇ったせいで?

 

 「気に病むことないな。生きてるし。次期大団長を庇っての名誉の負傷だ。致し方あるまい。」

 

 「ええ!?次期大団長!?」

 

 「既に内々で意思統一は完了してるぞ?いつだって次代を育てておくのは当たり前だろ?」

 

 「ぼ、僕なんかに務まるとは!?」

 

 「困ったらリリルカに丸投げればいいさ。」

 

 俺は笑う。リリルカは冷たい目。ベルは困惑する。体はまだ痛い。

 

 「さて、もうしばし休んだら帰るぞ。油断するなよ。」

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 ロキ本拠地近く、たまたまロキと出くわす俺。

 

 「なんや自分、今回エライ損したらしいな。ザマァミロや!」

 

 ニヤニヤ笑うロキ、ムカつく。

 

 「もう神酒持ってこん!!」

 

 「オ、オイ待てや!!同盟の条件やったハズやで!?」

 

 慌てるロキに俺は畳み掛ける。

 

 「もう同盟がなくとも十分な友誼を通じてるの分かってるだろ?」

 

 「うぐぐ、ふざけんな、詐欺やで!!」

 

 「人の不幸を笑うのが悪いな。全く。」

 

 「悪かったて。まあ今回はでもそこそこの人数がランクアップしたやん。ウチのベートもつよなったし。自分はもう戦えんみたいやけど。」

 

 「まあ、そうだな。後はベル任せだ。年寄りは若者を育てる生き甲斐でも探しにいきますかね。」

 

 「厭味か?神相手に自分が年寄りて………。」

 

 ロキのジト目。元々細目のロキは違いが判りづらい。しかし長く付き合って分かるようになってしまった。何の得があるというのか?

 

 「ロキ、人間は相応に年をとるのが楽しみでもあるんだよ。」

 

 「自分つくづく変なやっちゃな。まあイロイロな子供がいるのが地上のエエとこでもあるかな。」

 

 「俺はもう帰るぞ。」

 

 「神酒はちゃんとくれや?」

 

 「アル中強欲貧乳ババア。」

 

 「アン、何か言ったか?」

 

 「何も。」

 

 「まあエエか。聞かんかったことにしといたるわ。いつまでも自分を引き留めたらアイズたんが帰ってこんとも限らんしな。」

 

 「何だ?アイズの引き抜きが怖いのか?」

 

 「ふざけたことぬかすなや!!アイズたんは団長や。そう簡単に改宗はせえへんで!」

 

 「簡単じゃなかったとしても俺のしつこさを知ってるだろ?アイズはリリルカが大好きだし。」 

 

 睨み合う俺とロキ、漂う緊張感。しかし俺はそこではたと気付く。俺はロキに背を向ける。

 

 「なんや、いったいどうしたんや自分?」

 

 「いや、そういや俺昨日大団長辞任したんだった。」

 

 「ズコーーーッ。」




ベルのナイフはヘスティアがカロンに土下座して金を出してもらい後は原作と同じです。タケミカヅチの損害見込金と併せてカロンがだいたいいつも貧乏な理由です。まさしくヘスティアとタケミカヅチはカロンの貧乏神です。
カロンの神物相関図
ガネーシャ→神友
フレイヤ→恩神
ロキ→悪友
ウラノス→変なジジイ


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禁じられたパターンD

 「う、うわああぁぁぁぁ!!助けてくれぇぇぇ!!」

 

 「イヤアアァァァッッ!!」

 

 「リ、リュー副団長おおぉぉぉっっ!!」

 

 「たたた大変だああぁぁぁぁ!!」

 

 うん、地獄絵図ですね。ここはダンジョン19階層です。リリ達は今ここでかつてないほどの大慌てをしています。右へ左への大騒ぎです。普段は慌てないリヴェリア様までパニクってらっしゃいます。皆様大慌てでらっしゃいます。

 

 はて、どうしてこうなったんでしたっけ?

 

 

 

 ~~~リリルカの回想~~~

 

 「リリルカ、新しいアイデアを思いついた!」

 

 「カロン様の新しいアイデアですか?どのようなものですか?」

 

 「今まで連合には必殺の三パターンがあったろ?四つめを考えたんだ!」

 

 「四つめをですか?確かに必殺パターンは多ければ多いほどいいですけど………。」

 

 「今度は炎の必殺だ。」

 

 「炎を重ねがけるのですか?」

 

 「ロキファミリアの九魔姫が強力な炎の魔法を使えたろ?千の妖精も真似魔法が使えるし。それにヴェルフの炎の魔剣とアイズやリューや連合の風魔法を加えれば強力な必殺になるんじゃないか?」

 

 「………なるほど。必殺は多い方がいいですしね。試してみる価値はあるかもしれませんね。」

 

 「よし、そうと決まれば早速実験だ。ゴライアスで試してみよう。」

 

 ~~~回想終了~~~

 

 

 

 そうです。思い出しました。リリにも原因があります。

 結局、連合はロキファミリアの協力を得てゴライアスで試し撃ちをしたのでした。

 結果、炎系は上手く当てれたのですが、風のベクトルの統一が難しかったため19階層に火炎旋風が吹き荒れたのでした。そして、今は右も左も誰も彼もがアフロになっています。

 もちろんリリも、連合のアイドルリュー様も、ロキファミリアのアイドルアイズ様も、真面目なリヴェリア様すらもです。唯一の救いは拙作がギャグだったおかげで致命傷の人間が一人もいないことでしょうか?ギャグって偉大です。

 ちなみにゴライアスはリヴェリア様の魔法が着弾した時点で蒸発していました。オーバーキルもいいとこです。

 

 「うわああぁぁぁ!!連合の至宝リュー様があぁぁ!!」

 

 「アアアアイズさんの綺麗なお櫛があぁぁぁ!!」

 

 「カロンはなんてことしてくれるんですかああぁぁ!!」

 

 「わ、私の婚期がああぁぁぁ!!」

 

 「ふむ、地獄絵図になってしまったな。」

 

 「水をこっちにくれええぇぇぇ!!」

 

 「フィンに嫌われちゃうぅぅぅ!!」

 

 「リリ、怪我はない?」

 

 「アアアアイズぅぅぅ!!」

 

 どうしましょうか?若干名のマイペースを除いてパニックです。リリはそれなりの期間カロン様に付き従って来たのでこの程度では動じなくなってしまいましたが、どう納めたものでしょうか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで誠に申し訳ございませんでした。」

 

 リリとカロン様はオラリオの公衆で仲良く土下座してます。リリ達はやってはいけないことをしてしまいました。オラリオ中の二大アイドルリュー様とアイズ様をアフロにしてしまったのです!連合の皆様はリリとカロン様の指示で魔法を撃ったに過ぎません。原因は全て浅慮だったリリとカロン様にあります。

 

 「リリ、顔を上げて。私怒ってない。」

 

 アフロアイズ様です。なんてお優しいお言葉でしょうか。

 

 「リリルカさん、私達はいつもあなたに助けられてきた。お気になさらないで下さい。」

 

 アフロリュー様です。リリの涙腺は決壊寸前です。

 

 「リリルカ様、俺は気にしちゃいねぇ!俺はアンタに多大なる恩がある。アイズがアフロなのはちとショックだが。」

 

 アフロベート様です。最近はアイズ様とうまくいってるようです。リリはそのお手伝いをさせていただきました。

 

 「あー、お前はオラリオに多大な貢献をしている。私も気にしてはいない。」

 

 アフロリヴェリア様です。涙目になっておられます。申し訳ありません。

 

 「ま、まあリヴェリア様やアイズさんがそういうのでしたら仕方ありませんね。」

 

 アフロレフィーヤ様です。特にコメントはありません。

 

 「「「「「そうです。リリルカさんはみんな気にしてません。」」」」」

 

 連合魔法アフロ部隊の皆様です。本当に申し訳ありません。

 

 「ふむ、皆気にしてないようだし帰るとするか。」

 

 アフロカロン様です。あなたはもう少し反省してください!

 

 「カロン、リリは親友。カロンは許すとは言ってない。カロンは謝っていない。」

 

 アイズ様。初めて聞く冷たい声です。

 

 「そうだな。私の婚期をどうしてくれるんだ?」

 

 リヴェリア様。目が据わっていらっしゃいます。

 

 「そうですよね。リヴェリア様とアイズさんがそういうなら。」

 

 レフィーヤ様。なんかとても嬉しそうです。

 

 「お前には散々に借りがあったからなぁ!!アイズの綺麗な髪をこんなことしてくれるし!」

 

 ベート様。すでに魔剣を取り出してます。ガチです。

 

 「その通りです。リリルカさんを許すとは言いましたが誰もカロンを許すとは言ってない!」

 

 リュー様がカロン様の肩をあらん限りの力で掴んでいます。リュー様は人にさわれないんじゃなかったでしたっけ?

 

 「「「「「リューさんがそういうなら。」」」」」

 

 連合魔法部隊の方々。リュー様は彼らのアイドルです。

 

 「お、おい、みんな待ってくれよ!リリルカ、助けてくれ。」

 

 リリは考えます。リリはカロン様とずっと共に戦ってきました。カロン様を助けるべきでしょうか?

 

 「リリルカさん、心配いらない。私達はカロンを愛している。これは愛の鞭です。それにあなたはカロンの馬鹿みたいなしぶとさを知っているでしょう。」

 

 やめておきましょう。リュー様の額に血管が浮いてます。これは関わらぬが吉ですね。君子危うきに近寄らずです。冒険者は危険を察知しないと生きていけません。せっかく生き延びたのにまた虎の尾を自分から踏みに行くことはありません。

 

 「カロン様、リリには助けられません。どうかご無事に生き延びられて下さい。」

 

 「………まあそうなるか。」

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地鍛練場。簀巻きにされた俺を睨む五人の修羅(アフロ)達。

 

 「カロン、何か言い残すことはありますか?」

 

 「なあ、頼むよ。反省してるって。」

 

 「それが辞世の言葉でよろしいのですね?」

 

 凄まじい笑顔でニッコリ笑う愛染明王(リュー)。どうにかならないか必死で頭を働かせる俺。

 

 「………………リュー、お前アフロとても似合ってるぞ。とても綺麗だ。ほら、それに全員お揃いだし………。みんなで仲良しみたいなさ。友達たくさんでよかったじゃないか。」

 

 「やはり死にたいようですね?」

 

 リューの額の血管が倍くらいに太くなった。さっきから掴まれている肩は痛みが止まず紫色だ。これ骨が砕けてるんじゃないか?俺は耐久特化だぞ?

 

 「………ゴメンナサイ。」

 

 そのあと俺がどうなったか知るものはいない。




ちなみにヴェルフの魔剣はカロン達を護るために念のためにと矜持を曲げてでも打ってくれたものです。


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クレーマー対応

 リュー・リオン・・・原作様においてはくらい過去を背負った酒場のウェイトレス。拙作においては内心でヘスティアに強烈な対抗意識を持つボケボケのエルフ。今回の話で新たなキャラが立つ。アストレア連合のNo.2、副団長である。疾風の二ツ名を持ち、速度特化で風の魔法を得意とする。連合内ではファンクラブがあり、オラリオの天然系真面目アイドルとして広く知られている。

 

 タケミカヅチ・・・原作様においてはタケミカヅチファミリアの主神。拙作においては連合の冒険者、サポーター達の鍛練担当。主人公の友人であるが、同時に貧乏神でもある。春姫を娼婦にさせないために連合へと加入した。最近主人公の影響で若干腹黒くなりつつある。

 

 

 

 ◆◆◆ 

 

 こんにちは、皆様方。リリの名前はリリルカ・アーデです。リリは今現在、タケミカヅチ様に呼び出されてしまい、タケミカヅチ道場へと向かっています。用件に関してはだいたいの予想がついています。まあ良くあることですしちゃちゃっと片付けてしまいましょう。

 

 「なんで俺がこんなことしないといけねぇんだ!!」

 

 喚いている方がいらっしゃいます。

 やはりですね。冒険者様になろうという方は自尊心が強い方も数多くいらっしゃいます。またいつものようなクレーマーの方ですね。なぜ俺様がこんなことをしないといけないんだとおっしゃっていらっしゃいますね。このような方々への対応の仕方を周りに教えるのもリリのお仕事です。

 さて、軽く相手をしてあげましょうかね。

 

 「冒険者様、冒険者様、連合の入団規約には冒険者様になるためには一定期間のタケミカヅチ道場での鍛練義務が明記してあったはずですよ?」

 

 「アアン、なんだちびテメエ!?」

 

 ふむ、なるほど。この方はリリのことをお知りにならないのですね。リリのことをちび等と呼ぶ人間は今や誰もいません。周りのタケミカヅチ道場の方はざわついてらっしゃいます。

 

 「リリはリリルカ・アーデと申します。アストレア連合で統括役を任されています。」

 

 「テメエには関係ねぇだろ!すっこんでいやがれ!」

 

 なるほど。人の話を全く聞かないここ最近でも最高に面倒なタイプの方ですね。これはいけませんね。ダンジョンに入っても他人の足を散々に引っ張って死ぬタイプです。今のままでダンジョンに向かわせるわけにはいきません。

 それでは少し脅してあげましょうかね。

 

 「冒険者様、弱い犬ほど良く吠えるといいます。リリが少し冷や水をぶっかけて差し上げましょうか?」

 

 「なんだと!!テメエっっ!!」

 

 単純なお方です。狙い通りにリリにつかみ掛かって来ました。

 

 「話になりませんね。」

 

 リリも長くタケミカヅチ道場に通っています。レベルも2です。軽々としかし派手に投げ飛ばしてみせます。

 

 「テメエっっ!何しやがる!」

 

 畳にたたき付けられて派手な音を出した冒険者様は顔を赤くしてらっしゃいます。リリのような相手に投げられて余計に怒っていますね。仕方ありませんね。軽く遊んであげましょうか?

 

 ◇◇◇

 

 「はぁ、はぁ、クソッ!」

 

 疲れてらっしゃいます。この程度で。やはり根性がありませんね。カロン様だったらなんてことないと笑っているはずですよ?まあカロン様はあまりにもしぶと過ぎますが。

 周りの道場の方はリリ達を遠巻きに見てらっしゃいます。

 

 「冒険者様。タケミカヅチ道場の鍛練が受け入れられないのであれば他の部門へと異動することをオススメしますよ。」

 

 「ああ!?なんだと?」

 

 「冒険者様にはおそらく冒険者は務まりません。ダンジョンで油断した者の末路は周りを巻き込んでの悲惨な死です。連合には別にダンジョンに入らなくてもいくらでも稼ぐための仕事の部門がありますよ?」

 

 「テメエになんでそんなこと………待てよ、リリルカ・アーデ?まさか統括役の?」

 

 冒険者様のお顔がみるみる青くなっていきます。気付いていただけたようで何よりです。さて、仕上げですね。

 

 「アストレア連合は始まりは正義のファミリアです。自分より弱く見える相手に暴力を振るいかかるのは正義とは言えませんね。大団長や副団長も激怒するかもしれません。特にリリは目を掛けて可愛がってもらっています。今や連合を敵に回すと言うことがどういうことかはご理解いただけるでしょう?リリを敵に回すと言うことはオラリオを敵に回すと言うことです。連合では冒険者様はタケミカヅチ道場で鍛練してからダンジョンに向かうか他の部門で身を立てるか他のファミリアに行くかのどれかしかありません。今であればまだ神の奇跡を刻んでいないはずです。どうぞお好きになさって下さい。」

 

 「リリルカさん。私に何かご用でしょうか?」

 

 そこへとリュー様がいらっしゃいました。リリがリュー様に頼んで来てもらいました。

 

 「こちらの冒険者様はリリに攻撃してきました。タケミカヅチ道場をお断りになられて。リュー様、後はお願いしてよろしいでしょうか?」

 

 「お任せ下さい。」

 

 リューは笑う。とても美しく。その美しい笑顔になぜか冒険者は寒気を覚える。

 

 「タケミカヅチ道場が温い、早くダンジョンに入りたいとおっしゃるということは特別メニューを望んでいらっしゃるのですね?私はアストレアの悪夢と呼ばれる事件を生き延びたものです。ダンジョンでの危機を少なくともあなたよりはよく理解しているはずです。悪夢とは程遠いかも知れませんが、十分にしごいてどうやったら死地を乗り越えられるか体に教え込んで差し上げましょうか。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合会議室、たまたま一緒になるリューとリリルカ。

 

 「リュー様、この間お願いしていた冒険者様はどうなりましたか?」

 

 「彼ですか。彼はなぜか鍛練が終わってからアポロンファミリアに入団してしまいました。」

 

 アポロンファミリア、リューのファンクラブである。最近は連合のマスメディア部門になっている。おそらくオラリオにリューを押し出しつづける内になんらかのノウハウを得たのだろう。

 

 「やはりですか。リュー様に任せると不思議と全員アポロンファミリア行きになるんですよね。一体どういう方法をとってらっしゃるのですか?」

 

 「大したことはしていませんよ。ただ新人には少しだけきついかも知れない鍛練を課しているだけです。」

 

 少しだけ?リリルカはその笑顔に寒気を覚える。

 この方はカロン様の近くに長く居続けたせいで人間のしぶとさの基準が狂っていらっしゃるのではないだろうか?

 あるいは人に触れる訓練でカロン様を叩きつづけた末にどSに目覚めてしまったのか!?

 

 「リュー様はもしかしてどM製造機だったのでしょうか?リリはもしかしたら凄まじい怪物を生み出してしまったのかも知れません。」



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幹部会議風景

唐突人物紹介

 ミーシェ・・・アストレア連合ファミリア団長秘書兼アドバイザー兼統括役補佐。連合のNo.4。オリキャラでエイナさんの友人。アストレア連合に入団した経緯は現統括役リリルカに憧れたため。リリルカをお姉様と呼び慕っている。しかしリリルカには苦手にされている様子。あまりキャラが立っていない。

 

 アストレア・・・原作様においては正義のファミリア、アストレアファミリアの主神。原作様開始時点においてアストレアファミリアは解散しており、消息不明。拙作においては主人公にマイペースと毒舌を移されてしまった。アストレア連合の主神。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 アストレア本拠地会議室大広間、ここでは今連合の幹部が集まり幹部会議を行っていた。

 

 「カロン大団長の鎧の件はどうするか?」

 

 「やはり連合の金庫から出すしかあるまい。大団長の戦力を欠くわけにはいかんだろう。」

 

 「全くヘスティア様とタケミカヅチ様には困りますね。」

 

 「「申し訳ない………。」」

 

 連合の会議はカロンは外して行われている。カロンが出たがらないからだ。精力的に外回りを行っていることを理解している幹部連中からは、リリルカの説得もあり特に不満は出なかった。イシュタルはサボりだ。今回の議題は、自費でヘスティアナイフとタケミカヅチのイシュタルへの損害金を払い金の無い大団長の鎧をどうするか。

 

 「しかしタケミカヅチ様の方は叙情酌量の余地があるのではないか?大切なご友人を助けるための連合加入と聞いたが?日頃の働きもしっかりしているし。」

 

 「確かに一理あるな。そちらは連合の金庫から出しても構わない金だと思うが、大団長はあくまでも個人的な友情と言い張ってらっしゃる。」

 

 「しかしヘスティア様の方は如何だろうか?一人の眷属を贔屓し過ぎているのではないか?」

 

 「ごめんよ。」

 

 その言葉にますます縮こまるヘスティア大幹部。

 

 「しかしカロン大団長もベル団員を可愛がってらっしゃるぞ?いずれは連合中核を為しうる才覚を持つ可能性が高いともおっしゃっていた。」

 

 「なるほど、先行投資か。しかしそれにしては少し高すぎはしないか?割引して二億ヴァリスだろう?」

 

 「私たちのファミリアの加入時の仕度金は二億五千万ヴァリス。それなりに役に立ててる自負はある。もう少し様子見でもいいんじゃない?」

 

 「なるほど。大団長の見る目を信じるか。連合の生命線でもある薬学部長がそう言うのであれば考える余地はあるな。しかし金がなくて連合から鎧代金を出すのはやはり体裁が悪いのでは?」

 

 「リリはそれもカロン様らしいと思います。金銭面で困らない限りはある程度大目に見るのもいいのではないでしょうか?」

 

 「私もそれで構わないと思います。」

 

 「なるほど。統括役と副団長までそうおっしゃるのでしたら私たちもあまり強くは言えませんね。大団長の鎧は連合の金庫からで他のことはしばらく様子見ということで良いでしょう。ヘスティア大幹部は調子に乗らないで下さいね。」

 

 「ハイ。」

 

 ◇◇◇

 

 別の日の幹部会議。

 

 「なるほど。統括役は大団長の二ツ名をオラリオの父にしたいとおっしゃるのですね。」

 

 「はい。連合大団長には相応の威厳を保つ二ツ名が必要です。特に幹部会で不満が出ないようでしたら是非協力をお願いします。」 

 

 「ボクは構わないよ。カロン君には世話になったしリリ君との付き合いも長いし。」

 

 「俺も構わんな。」

 

 「俺も統括役には頭があがらんしな。」

 

 「私も構わないわ。」

 

 「特に不満が出るとも思いませんし統括役には日頃から皆お世話になっています。構わないでしょう。神々の方々は次の神会でのご協力をお願いします。」

 

 ◇◇◇

 

 別の日の幹部会議。

 

 「まず今回はボクから意見を出させてもらうよ。ボクはアストレア連合ファミリアの隆盛を記念してカロン君の銅像を作るべきだと思うよ。」

 

 「銅像………ですか?」

 

 「なるほど。大団長の功績を考えれば絶対に無しとは言えませんね。」

 

 「俺は賛成するぜ。大団長とは結構長い付き合いだ。それはそれで悪くない。」

 

 「私も賛成です。しかし費用の見積もりはどうなんでしょうか?」

 

 「ふーむ、その辺りはリリルカ統括役はどうお考えですか?」

 

 「オラリオにどの程度浸透するか次第ですね。数が売れれば鋳型費用は取り戻せると考えます。ゴブニュ様のファミリアにお話を聞いてからですね。」

 

 「私は絶対的に賛成です。リリルカさん、何が何でもどうにかなりませんか?」

 

 「リュー様のお気持ちは理解しますが取り敢えずカロン様がオラリオでどのくらい支持を得ているか次第ですね。先に安価なものを売り出して様子見を行ってみましょう。あまり大きな赤字を出す可能性が高いと判断されるなら見送りですね。」

 

 「カロンが忙しい間にこっそり売り出しましょう。」

 

 その言葉に会議室で笑い声が上がる。

 

 「それはいいアイデアですね。いつも大団長には振り回されていることですしたまには意趣返しもいいでしょう。統括役に一旦お任せをして他の議題を話し合いましょうか。」

 

 ◇◇◇

 

 別の日の幹部会議。

 

 「今回はリリからの議題で始めます。カロン様の御意向で次代の大団長の候補を考えておきたいとのことです。」

 

 「リュー副団長ではないのですか?」

 

 「リュー副団長以外には………ベル団長か?」

 

 「リリルカ統括役は如何ですか?」

 

 「リリは最前線に立てません。」

 

 「しかし連合内での功績を考えた場合はリリルカ統括役が最適任では?」

 

 「しかしそれでは冒険者のモチベーションを落とすのではないか?」

 

 「なるほど。それを鑑みるとリュー副団長かベル団長ですか。」

 

 「しかし大団長がそもそも御壮健だぞ?」

 

 「ダンジョンはいつだって危険です。前以った備えはあるに越したことはありません。」

 

 「ボクはベル君を推すよ。」

 

 「年月的にはリュー副団長ではないですか?」

 

 「私には向きません。私は自分に連合をカロンの様に自在に操る才能があるとは思いがたい。」

 

 「しかしそれはベル団長も同じでは?」

 

 「クラネルさんはまだ若い。リリルカさんの薫陶を受ければ成長が見込めます。」

 

 「副団長もまだお若いでしょうに。」

 

 「私は相応の歳ですよ。私はエルフですから。」

 

 「しかし副団長を年寄り扱いはしたくない。如何ですか?」

 

 「それでもです。私はずっとカロンに従ってきました。私は自分の頭が固いことを知っている。カロンは私より見る目がある。私はいつだってカロンのことを信じてきました。カロンはクラネルさんを推しています。」

 

 「大団長もベル団長よりなら致し方ありませんね。その方向で意志統一を図りましょう。あとは念のための他の候補の優先順位等も決めておきましょう。」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 豊饒の女主人。ここにいるのは大幹部の6人。ミーシェ、バラン、ビスチェ、ブコル、ベロニカ、ボーンズ。

 

 「ついに代替わりの日が来てしまいましたね。」

 

 「ああそうだな、俺達も思えば長くついてきたもんだな。」

 

 「ああ、あの頼りなかったベルがもう大団長だ。」

 

 「私達も歳を取ったということかしらね。」

 

 「あら、私はまだ若いつもりよ?」

 

 「寂しいものだな。副団長も大団長に着いていくんじゃないか?」

 

 そこへ仕事が終わったリリルカが合流する。

 

 「リリ達の仕事はたくさんあります。カロン様とリュー様が安心できるように明日からもしっかり働きますよ!」

 

 リリルカのその言葉に鼻息を荒くするミーシェ。

 

 「リリお姉様、あたしはどこまでも着いていきます!」

 

 「………今回だけはミーシェ様のその鬱陶しさが頼りになりますね。」



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廻る命と協力する力

唐突に人物紹介

 カロン・・・拙作のオリ主。誰かがなんとなく勢いだけで先行き不透明のタグをつけてこの世に送り出してしまった。書きつづけるうちになんとなく誰かは彼に愛着が湧いてしまった。連合の大団長にしてNo.1。性格はマイペースで毒舌。胸フェチ疑惑がある。しかし内心ではつねに必死になんらかの有効な手立てを考えている。最初からの全ての目的は最後に残ったただ一人の同胞、リュー・リオンに凄惨な復讐をさせないこととその命を護ること。目標はある程度リューを落ち着かせた時点でほぼ達成していたと言える。そしてそのまま勢い余ってオラリオを統一してしまう。実は連合の会議に出ないのは会議に出てしまうと自身の発言力が強すぎてそれだけで意見が決まってしまうのを理解しており、それを嫌ったため。彼がオラリオで好き放題した結果、盛大な原作崩壊を招いてしまった。

 

 ベル・クラネル・・・原作様の主人公。拙作においては最終回が近くなってようやく登場した。やはり原作様と同じヘスティアファミリアの団長。カロンとはそこそこ長い付き合いがあり、連合の次代を任せうる逸材だと見込まれている。

 

 ヘスティア・・・カロンが必死に動いている時期に何となく拾った神。原作様においては主人公ベルの主神。拙作でも原作様同様なんかダメな感じのある神様だが誰かがおかしなイベントを思いついたせいでトイレ掃除に関しては一家言のある存在となってしまった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 ここはオラリオデメテルファミリア、立入禁止区画。僕は今日大団長のカロンさんにここに呼ばれて来ていた。

 

 「ベル、お前もついに連合ヘスティアファミリアの団長だ。お前には連合内での信頼できる幹部のみが知らされる機密事項を今日は伝える。」

 

 「機密事項ですか!?」

 

 立入禁止区画に入るのは僕も初めてだ。いったい何があるんだろうか?

 

 「ああ、幹部でも温和かつ秘密を厳守できると判断したもののみに伝えられるものだ。俺はいずれお前はファミリアの柱となると考えているし連合内のファミリア団長なら資格も十分だ。」

 

 そういって彼は奥へと進んでいく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「リリリリザードマン!?なんでこんなところに?」

 

 「ベル、彼はリザードマンに似ているだけの普通の人間だ。名前はリドという。ここの取り纏め役だ。」

 

 僕はびっくりして辺りを見渡す。アルミラージやヘルハウンド、ハーピー等他にもたくさん魔物がいる。なんで??

 

 「ああ、オレッチリドっていうんだ。よろしくな。カロンさんから今日あんたが来る話は聞いてるぜ?」

 

 そういって笑うリドさん。混乱する僕。

 

 「似てるだけって………どう見てもリザードマンですよね!?」

 

 「ベル、失礼なことをいうな。」

 

 笑うカロンさん。

 

 「カロンさん、あまり意地悪なことをいうもんじゃないですぜ。ベルさんとやら、オレッチ達は魔物だが穏やかに暮らすことを望んでいるんだ。カロンさんはオレッチ達が農業作物を作る代わりに場所を提供してくれている。カロンさんは連合を仕切っていると聞いたぜ?オレッチ達は魔物だが同盟参入者として扱ってくれてるぜ?だからさ、オレッチのことはリドって呼んでくれよ。あんたのことはベルッチと呼ぶからさ。」

 

 「カロンさん?」

 

 恐る恐るカロンさんを見上げる僕。

 

 「同盟参加条件には人間に限るという項目はないなぁ。彼らはモンスターファミリアという名称の新興のファミリアだ。」

 

 すっとぼけるカロンさん。

 

 「まあそういうわけでさ、あんたも是非仲良くしてくれないか?」

 

 明るく笑うリドさん。

 

 「とまあそういうわけだ。知らされているのは本部幹部連中と一部のファミリアだな。お前の大好きなヘスティアも知っているぞ。デメテルを説得するのは難航したがまあ闇の連中の方がよほどタチが悪いしなぁ………。しばらくは護衛にリューをつけることで納得してくれたよ。今はデメテル達も仲良くやってるよ。いざって時の用心棒とも考えられるしな。」

 

 「そ、そうなんですか。」

 

 「ああ、だからさ仲良くしてやってくれよ。さっきのは冗談じゃないんだ。人間として扱ってくれよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「彼らはどういう存在なのですか?」

 

 カロンさんに聞く僕。ここはデメテルファミリア応接室。

 

 「なんか異端児と呼ばれているらしいな。ウラノス曰く前世を持っているんだと。」

 

 僕は考える。カロンさんのことは信じている。彼の事を信じて彼らのことも信じるべきだろうか?カロンさんは天井を見上げる。

 

 「今はガネーシャの気持ちがわかるよ。」

 

 「ガネーシャ様の気持ちですか?」

 

 「誰かに話を聞いてもらいたいという気持ちさ。なあ、ベル、聞いてくれないか?」

 

 「どんな話ですか?」

 

 「俺はさ、一度仲間をほぼ全員失っているんだよ。今連合に残っているのは副団長のリューだけだ。お前も聞いた事あるだろ?アストレアの悪夢さ。事件自体は辛かったしそのあともオラリオで辛い思いもしたさ。」

 

 「それは………。」

 

 聞いたことがある。

 いつも明るく笑うカロンさんが時々寂しそうに見える時があるらしい。一年の決まった時期だという話だ。僕も一度だけ見たときは驚いたんだ。明るいカロンさんがあんなに寂しそうな目をすることがあるなんて。

 

 「タケミカヅチは命は廻ると言ってたんだよ。それでさ、廻る命がダンジョンで生まれ変わるのならばいつかは死んだあいつらも俺達のところに帰ってきてくれるんじゃないか、ってさ。」

 

 寂しそうな表情のカロンさん。カロンさんは続ける。

 

 「だからさ、あいつらもきっとそういうやつなんじゃないかって。皆帰るべき家族の下へ帰れずダンジョンで寂しく死んだ行った奴ら何じゃないかって、さ。」

 

 僕はカロンさんを見上げる。彼は大男だ。しかし今日はいつもより小さく見える。

 

 「だからさ、あいつらが平穏を望んでいるなら協力したいんだよ。他にも良い形がないか模索してるしこれから数が増えるかも知れないし。どうやらあいつらみたいなヤツラを狙ってるんじゃあないかって噂のファミリアもあるし。俺達の同盟が仲間に手出しを許すつもりはないのは知ってるだろ?ベルもあいつらを護るのを是非協力してくれないか?」

 

 僕はその言葉に考える。僕なんかに何かができるんだろうか?

 

 「カロンさん、僕なんかに何かができるんでしょうか?」

 

 「馬鹿なことを言うな。今やお前は連合冒険者部門の団長だ。お前の前団長のバランは俺に長く付いてきた子飼いだ。お前の話はいろいろ聞いてるよ。俺がいなくなったらお前が冒険者を引っ張っていかなければならんのだぞ?」

 

 「そんな!カロンさんはまだ御健在です。いなくなるわけなんて………。」

 

 「ベル、俺も以前はそう思っていたよ。でも俺の周りの人間は皆いなくなった。リューだけになったんだ。ダンジョンはいつだって危険だ。お前は強くなれ。俺を超えるほどに強くなって仲間を護ってやってくれ。もちろん今日会った奴らも含めて護ってほしい。頼むよ、ベル団長。」

 

 僕にできるのだろうか?僕なんかに?

 

 「何、心配する必要はない。馬鹿みたいに有能なリリルカがいる。あいつは誰かがまるで意図して仕組んだかのように優秀だ。特に人を育てることに関してはな。お前はそこまで心配はいらんよ。」

 

 アストレア連合でカロンさんが去る日、それは連合の落日なのではないのか?たとえ日が落ちても僕にオラリオを照らす新しい光になれとカロンさんはそういうのか?

 

 カロンさんの暖かな青い目を見る僕は迷う。

 

 「大丈夫だよベル。俺だって一人じゃ何もできないさ。リューがいてリリルカがいてアストレアがいてヘスティアもミーシェもいた。お前にだってたくさん仲間がいるだろ?困ったら有能な仲間に丸投げてしまえばいいさ。」



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廻る命と協力する力の続き

 ーーうーん、どうするべきか?

 

 ここは団長室、俺はアストレア連合大団長のカロンだ。俺は今モンスターファミリアの先々の展望を考えていた。

 

 ーー使い道はいくつか思いつくんだが………。今のままの秘匿した状態となるとなぁ。オラリオ市民への安全性の保証にしてもな。どう持って行くべきかね。

 

 あのあと、リド達モンスターファミリアは未だにデメテルファミリアで農業を営んでいた。

 あれから少し変わった点は、性格のいいリド達にデメテルがどんどんほだされていることと、タケミカヅチファミリアから彼らの自衛の手段としてタケミカヅチが武術の鍛練の為にデメテルファミリアに出向していることだ。余談だがそのためにタケミカヅチの給料は上がった。

 

 ーーしかしいきなり大々的にオラリオに知らしめるわけには行かないんだよなぁ。オラリオがパニックになりかねないんだよな。でも隠していて流出したりしたら連合の不信感にも繋がるし。どうしたもんかねぇ?やはり困ったときのリリルカだな。あいつに相談してみる他はないだろう。

 

 「オーイ、ミーシェ、リリルカを呼んでくれるか?」

 

 ◇◇◇

 

 連合大団長室、ソファーにて向かい合うカロンとリリルカ。

 

 「お呼びですか?カロン様?」

 

 「ああ、今忙しかったか?」

 

 「いえ、大丈夫です。それで今日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 「おお、リリルカに用件を読まれなかったのは珍しいな!?」

 

 少し嬉しそうなカロン。

 

 「リリも暇を持て余しているわけではありません。」

 

 冷たい対応のリリルカ。

 

 「ああ、すまない。リド達のことだよ。何か上手く持って行く方法はないかとな。」

 

 「すでに上手く持って行く為の試みはなされていますよ?」

 

 ーー!?リ、リ、リ、リリルカ?こいつは………。やはり俺は最強のチートを手に入れてしまったのか!?

 

 「………リリルカ。その試みとは?」

 

 「主に三つですね。すでにご存知のウラノス様、ガネーシャ様に引き続き同盟者でありオラリオに地位を持つロキ様、フレイヤ様に認めていただく。あとアポロンファミリアのマスメディアから世論を操作しつつ少しずつ情報を流出させていく。あとはファミリア内で忠誠は高くても口は堅くない者達に知らせていく。まあつまり公然の秘密にしていく計画です。」

 

 公然の秘密、それは誰もが知っているが秘密ということにしていこうということだ。わかりやすいものならコ〇ミコマンドとかか?連合内でいえばバランとベロニカが付き合っているのも公然の秘密と言えるだろう。

 

 「リリルカ、それはうまくいきそうか?」

 

 「反対は出ますし多少の不信感は拭えないでしょうね。」

 

 その言葉に俺は考える。

 

 ーー不信感が出ると言うことは連合の地位が失墜するということ。しかし連合の何よりの目的は仲間内を護ることだ。それを考えると多少地位が失墜しても先々のことを考えればやはりリリルカの言うやり方がベストになるのか?ひた隠しにした結果、あいつらがオラリオから非難されてしまっては本末転倒だ。ある程度明かしてしまえば後々あいつらにより広い仕事を頼むことが出来るかもしれない。しかし………まあリリルカの言うとおり少しずつオラリオに浸透させていくのがベストか?

 

 「リリルカはそのやり方がベストだと考えているのか?」

 

 「実はリド様達の存在を知っている者達で内々に会議を行いました。リド様達にも通達済みです。しばらくは身の回りが騒がしくなる可能性があると。カロン様にも通達したはずですよ?今回の議題は重要事項だと?」

 

 マジか………。これは本気で申し訳ない。

 

 「それでその会議の結果が先述の通りです。オラリオで最高の地位を持つ四柱+カロン様でがっちり護っていこう作戦です。何か問題点はございますか?」

 

 「あいつらを狙っている噂のあるファミリアはどうするんだ?」

 

 「その点もすでに話し合いがもたれています。まず第一に、リド様達にはタケミカヅチ様の薫陶を受けていただいています。ある程度彼らに武術を理解していただけばこの時点で敵は戦力を見誤る確率が高いです。その次に、流出後しばらくはヘスティアファミリアの団長のベル様に有事の際の護衛をお願いしてあります。ベル様はご存知の通り今や連合ファミリア内でのほとんど最高戦力です。最後に、すでに狙って来る可能性の高いファミリアの情報をアポロン様ヅテに得ています。アポロン様の情報に間違いがなければベル様さえ置いておけば敵の戦力は問題ありません。それでも狙って来るようなら捕まえてリュー様に差し上げてしまえば問題ないでしょう。」

 

 「お、おい!そしたらまたアポロンの人員が増えるんじゃないのか!?ただでさえ膨れ上がってるのに!?」

 

 「まあ………。現時点ではその通りですがそれに関しては先にいたアポロン様の人員をまた別のところに回せばよいかと。疑問点は他にございますか?」

 

 「あいつらがオラリオに受け入れられる勝算はあるのか?」

 

 「なんとも判別つけがたいですね。なにぶん前例がありません。しかしマスメディアをおさえているのでまったく勝算がないわけではありません。連合の強みはやはりアポロン様の存在もあるでしょうね。彼らのマスメディアの力は今や脅威といえます。大して意味もなく参入を奨めましたがここまで役に立つ存在になるとはリリでも予想しませんでした。」

 

 「お前(チート)でもか。うーん、どうなのかな?」

 

 「連合が出来るまではいつもカロン様の思い付きでやってきたじゃないですか。そのカロン様の直感みたいなものはどうなんですか?」

 

 「うんまあそうだな。やってみるか。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「それでこいつらが夜中に忍び込んできた賊共か。」

 

 今は夜中。デメテル立入禁止区画。異端児をさらおうと狙ってきた賊を捕らえたところだ。

 狙ってきたのはアポロン情報のイケロスファミリア。縛り上げて俺の前に突き出される団長のディックス。確かこいつは暴蛮者とか呼ばれていたな。アポロン情報で最も注意が必要だと書かれていたレベル5だ。俺達はデメテルからの夜間の通報を受けて急いで駆けつけた。立入禁止区画ではベルとリド達の連合とこいつらが戦っていた。時間を稼いだベル達に後から駆けつけた俺達はみんなでこいつらを袋だたきにした。数の暴力ってすごい。

 

 「それで暴蛮者、お前どうするんだ?俺達を敵に回して。まあだいたいどの辺りの奴らに売りさばこうとしているのかは予想が付くがそいつらも俺達を敵に回したがらないんじゃないのか?」

 

 暴蛮者は黙りこんでいる。

 

 「リリルカ、どうするこいつら?ガネーシャに誘拐犯だって引き渡すか?」

 

 「まあそれがいいですかね?もしくはリュー様か。どうしましょうか?」

 

 考え込む俺達、なんかいい方法ないかな?

 

 「私にお任せください。」

 

 リューはすでになんかうずうずしている。お前なんかやたら楽しそうだな。

 

 「うーんやっぱりリュー行きかなぁ?でもこいつレベル5らしいぞ?大丈夫か?」

 

 「?私はもうレベル6ですよ?」

 

 「いつの間に!?」

 

 ジト目を向けるリューとリリルカ。

 

 「幹部会議に出ないから知らないんですよ。あなたまさか自分がレベル5だと言うことも知らないとか?」

 

 「………初耳だぞ?」

 

 「連合結成直前の闇派閥討伐でカロン様はレベル5に上がってましたよ?もうあれからどれだけ経ったとお思いですか?カロン様は一体どれだけ人の話を聞いてないんでしょうか?」

 

 これはいかんな。俺のミスだ。道理でなんか強くなった気がしていたわけだ。

 

 「ま、まあ待て。それよりこいつの処遇を決めねばいかん。どうするべきだろうか?」

 

 「是非私にお任せください。」

 

 ものすごいニコニコ笑顔のリュー。それを見て何やら嫌な予感を感じるディックス。

 

 「ま、待て!そいつに引き渡すのは待ってくれ!」

 

 おお、なんか初めて口を開いたが………。

 

 「なんでそんなにいやがるんだ?」

 

 「なんか嫌な予感しかしない。そいつに引き渡されることを思うと………なんか下腹部がキュッとするんだ………。」

 

 「じゃあお前達どうするんだ?」

 

 「………どうか真面目に働かせて下さい。お願いします。」

 

 「前科持ちで監視付きになるぞ?」

 

 「構いません………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 あれからイケロスファミリアも連合に吸収されることになった。結局彼らは当面の間ベルかリューの監視下での行動となった。まあいわゆる保護観察処分というやつになるのかな?イケロスも取っ捕まえて連合に強制的に加入させた。これが思わぬ副産物を連合にもたらした。蛇の道は蛇。いろいろなきな臭い噂が連合に伝わるようになったのだ。これにより連合は犯罪を前もって察知することが上手くなった。イケロスファミリアの半分はアポロンに吸収され、残り半分は独自の思うファミリアへと吸収されていった。イケロスは会議で使い道を考えるようだ。で、肝心の暴蛮者はというと………。

 

 「リュー様あぁっ!!」

 

 結局辛抱堪らないリューの調教を受けてしまったらしい。あれだけ勘弁してくれと言ってたのにかわいそうな奴だ。アポロンの下っ端に成り果ててしまった。レベル5の無駄遣いと言えるだろう。まあでも本人が幸せなら構わんのか?

 

 「久しぶりだな暴蛮者。元気そうで何よりだな。」

 

 「カロン大団長、久しぶりです!今現在リュー様はどちらにいらっしゃいますか?」

 

 「リューは嫌がって逃げたぞ?あいつもどうなんだ?他人を調教しときながら放置とか………。」

 

 「その冷たさも堪らないんです!」

 

 すごいな。リューファンはこういう奴らばかりなのか?こんな奴らがあと千人もいるのか?リューは俺以上の強メンタルを量産していないか?




そうです、リュー様は他人をどMに導いてしまう恐怖の聖女様なのです!

???
 ーーレベル5、カロンと同じレベルということは同じくらいしぶといということですね。これは楽しみです。


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新しい恋、迷探偵レフィーヤの覚醒

 「スマン、イシュタル。待たせたか?」

 

 「遅いぞ!タケミカヅチ!」

 

 「おいおい、まだ30分も前だろ?」

 

 「………フン。」

 

 ーーオラリオで一体何が起こっているというのでしょうか?

 

 私の名前はレフィーヤ・ウィリディス、花も恥じらうロキファミリア所属のエルフの乙女です。私は今日、春の麗らかな陽射しの中、オラリオの散策を行っていました。

 

 ーータケミカヅチ様とイシュタル様が仲良く手を繋いで歩いている!!?

 

 謎です。とても仲良さそうに見えます。まさかあの二人は付き合っているとでもいうのでしょうか!?

 最近のオラリオは少し不思議なことが起こっています。謎のカップルが誕生しているのです。

 ベートさんはアイズさんと付き合っているし、ガネーシャ様とリヴェリア様も付き合っています。ベートさん達はまあ納得はしがたいですが同じファミリアだからまだわかります。リヴェリア様は意味がわかりません。

 しかし私はガネーシャ様とリヴェリア様が変人を交えて三人で会っていたところを目撃しています。さらにタケミカヅチ様とイシュタル様は共に変人が頭の連合の一員です。

 

 ………まさか変人が何か事を起こしているとでもいうのでしょうか?まさか………オラリオの住民が知らないうちに着々と悪の計画を!?

 名探偵レフィーヤの出番です。連合は変人が頭を務めていることから悪の巣窟であることは容易に判別がつきます。

 

 覚悟なさい、変人!この名探偵レフィーヤが奴の悪しきたくらみを暴いて見せましょう!

 

 ◇◇◇

 

 ここが連合の本部です。連合はイシュタルファミリア以外の人員が皆詰めています。連合に勤めている人間はオラリオには今やたくさんいます。私一人くらい混じってもばれないでしょう。

 

 「?レフィーヤさん、何してらっしゃるのですか?」

 

 「いいいいいいえ、特に何もしてません。」

 

 「しかしロキファミリアのあなたが何故ここにいらっしゃるのですか?何か用でも?」

 

 すぐに見つかってしまいました。連合副団長のリューさんです。彼女はオラリオでも有数のアイドルです。まあアイズさんほどじゃありませんが。

 

 それにしてもいきなりばれてしまいました。彼女は私と同じエルフですが変人の手下のはずです。彼女は何故変人なんかに付き従っているのでしょうか?なんか弱みでも握られているのでしょうか?私はどうするべきなのでしょう?

 

 「いいいいや、ただ遊びに来ただけです。ホラ、アストレアファミリアとロキファミリアは仲いいですし………。折角だからもっと親交を深めようかな………なんて。」

 

 「そうなんですか?それでしたら私が内部の御案内をさせていただきましょうか?」

 

 「リューさんはお忙しくないのですか?」

 

 「私は………。」

 

 そういって切なさそうに俯くリューさん。一体どうしたというのでしょうか?

 

 「どうしたんですか?」

 

 「いえ、大したことではありません。皆忙しそうで羨ましいだけです。」

 

 「そ、それは………。」

 

 せ、切ない、切なさ過ぎる。副団長にも関わらずリューさんには仕事がないと?

 

 「あ、あの………もしお手すきだったら是非案内してもらいたいなぁ、なんて………。」

 

 「は、はい!是非案内します。」

 

 目をキラキラさせて嬉しそうなリューさん。くそう、これが連合のアイドルの実力か!かわいいじゃないか!しかし私にはアイズさんが………邪念退散邪念退散。私は浮気はしません!アイズさん一筋です。でもすこしだけなら………。

 

 「それでは是非連合を一緒に回りましょう。」

 

 ◇◇◇

 

 「こちらがヘルメスもの作り部門です。あっちの扉から先は機密ですので入れませんが、ここでは簡単なもの作り体験講座等も行っています。レフィーヤさんも体験してみますか?」

 

 私は今リューさんと一緒に連合の様々な部門を回っています。

 ここは今説明があった通りヘルメスもの作り部門です。難しいことはわかりませんが皆一生懸命働いています。しかしこのレフィーヤ決して騙されません!ここは悪の巣窟であるからに、きっと今作っているのはなんかホラ、アノ悪い感じの何かに決まっています!見た目はどう見てもただのテレビにしか見えませんが………きっと洗脳する毒電波を発するテレビか何かのはずです!くそう、さすがは悪の巣窟!

 

 「どうしたんですか、レフィーヤさん?テレビをそんなに睨んで?テレビを作ってみたいんですか?」

 

 「い、いえ、なんでもありません。」

 

 「別に時間はありますし構いませんよ?」

 

 「いえ、結構です。次に向かいましょう。」

 

 あのテレビに近づいて私まで洗脳されてしまったら正義が潰えてしまいます。ここは撤退あるのみです。

 

 ◇◇◇

 

 「ここが連合鍛練部門、タケミカヅチ道場です。」

 

 そういってリューさんは案内してくれました。

 ここまでいくつもの部門を説明してくれました。ここで最後です。

 

 タケミカヅチ道場、皆一生懸命鍛練に励んでいます。

 ………皆真面目です。必死に鍛練しています。彼らも生き残るために必死だということでしょうか?

 思えばここまでの他の部門の人間も皆真面目に働いているように見えました。ソーマファミリアでは皆真面目にお酒を作っていましたし、デメテルファミリアでは真面目に農作業を行っていました。もちろん他の数多い様々なファミリアも同じです。皆さん生き生きとしていました。

 もしかして連合は悪の巣窟なんかではなかったのかも知れませんね。連合は皆で助け合うための組織だったのかも知れません。

 

 ふと気になり横を見るとリューさんが切なさを込めた目で道場を眺めています。

 ………これは新しい謎の予感がします。彼女のこの視線の謎を解くことが名探偵レフィーヤの使命だったのかも知れません。

 

 「リューさん、どうかしましたか?」

 

 「いえ、なんでもありません。」

 

 「何でもないわけありませんよ!そんなに悲しそうな目をして!同族の仲間でしょう!私に悩み事とかあるんだったら是非相談してください!」

 

 ◇◇◇

 

 ここはリューさんの部屋です。悩み事を相談しようにも人目のあるところでは相談しにくいとリューさんは言ってました。それで私たちはここへと来たわけです。

 

 「それで………悩み事の話なんですが………。」

 

 「どうしたんですか?私になんでも言ってください!」

 

 「悩み事というか………実は私もタケミカヅチ道場の師範代を勤めたくて連合に申し出たんですが………断られてしまいまして………。」

 

 「リューさんは高レベルですよね?なんで断られたのでしょうか?」

 

 「それが………。」

 

 「言いにくいのですね。さてはあの悪しき変人のイジメですね!さてはエルフ差別か!!おのれ………私の同胞によくも………リューさん、一緒に変人に直談判しに行きましょう!」

 

 私はリューさんの手を引いて立ち上がります!レフィーヤハートは今義憤に燃え上がっています!同胞に苦しみを味わわせるにっくき変人!今こそ我らの怒りを思い知るときです!

 

 ◇◇◇

 

 「いや、それは無理だ。」

 

 「なぜですか!彼女は高レベルのはずです!」

 

 「確かに高レベルだが………とにかく幹部会議でそう決まっているんだ。」

 

 「なぜですか!不当です!」

 

 おのれ!ここは変人の団長室です。私たちエルフ連合は変人を打ち倒すべく向かい合っています。

 

 「そんなこといってもな………リューに道場の師範代は向かないんだよ。」

 

 「そんなはずありません!私が証明して見せます!リューさん、道場に行きましょう!」

 

 変人は話になりません!私は断固戦います!立ち上がってリューさんを引いて道場へと向かいます。

 

 「お、おい待て………行ってしまったか。もう他のものの鍛練は終わっている時間帯だが………。あいつどうするべきだろう?いうこと聞きそうにないんだよな。まだ書類仕事も残ってるし………。」

 

 ◇◇◇

 

 道場に到着すると他の方々の鍛練は終わっていました。仕方ありません。私だけでもリューさんが師範代を勤められると証明して見せましょう。

 

 「リューさん、私たちだけですが是非鍛練を行いましょう。」

 

 その言葉にリューさんが嬉しそうに微笑みます。その笑顔を見た私は寒気がして背筋がなぜか凍ります。動悸も止まりません。

 アレ?これは………???何でしょうか?新しい恋でしょうか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合団長室、向かい合う俺と勇者。

 

 「というわけで話を聞きに来たんだよ。」

 

 話を切り出す勇者。ことの発端は一週間前に道場でリューと鍛練する千の妖精(レフィーヤ)を見かけたリリルカが大急ぎで俺に通報してくれたことだ。

 明らかなやり過ぎが見て取れたため俺達は慌てて止めに入るも、千の妖精は相当な長時間かなりきつい鍛練を行っていたらしく、一週間も経ったにも関わらず未だに足腰がまともに立たないらしい。ロキファミリアの自室の布団でうなされていたらしい。当日に関しては付き合いのある九魔姫に連絡して引きずって連れて帰ってもらった。

 あいつ後衛だしな。でもそれにしても一週間は長すぎる。あいつ大丈夫なのか?

 

 「それはアレだ。うちの副団長が鍛練を行ったらしい。俺は止めたのだが千の妖精が言うことを聞かなくてな。」

 

 「リューさんがかい?そうなのか………それは何とも言いづらいね。」

 

 「俺達も困ってるんだよ。あいつは加減が苦手過ぎるんだ。恐ろしい話、リューはやる気を出せば出すほど連合にとってマイナスなんだ。何ともなあ。」

 

 俺は窓の外を見る。やる気があるのはいいのだがあいつはありすぎだ。ヘスティアと性格が逆ならちょうどいいのかもな。いや、それもそれでまずい気もするな。

 

 「うーんそうか………まあ話は分かったしもう用事は終わりかな。ところでリリルカさんの話だけど………是非ロキファミリアに来てほしいんだ。」

 

 あっという間に話が変わってしまった。同じファミリアのはずの千の妖精が哀れだ。まあ人の言うことを聞かない自業自得だしそもそもなんで連合内にいたのかも謎だしまあいいか。

 

 「リリルカが欲しいならお前が自分で口説き落とすしかないぞ?」

 

 「いいのかい?」

 

 「リリルカの人生を縛るつもりはないさ。まあ連合側の人間の必死の抵抗には会うだろうが。俺はあいつが幸せなら別にとやかくいうつもりはない。考えもしっかりしとるしな。しかしあいつがどれだけの価値を持つかお前は分かっていっとるんだろうな?」

 

 「もちろんわかってるさ。君みたいにしぶとく戦って口説き落としてやるよ。金が必要なら金庫を空にする覚悟だってできてるよ。」

 

 「ロキファミリアのか?それは剛毅だな。」

 

 俺達は笑った。

 

 ◇◇◇

 

 ところ変わってここはロキファミリア、レフィーヤの自室。

 筋肉痛で横になり布団に顔を埋め赤らめるレフィーヤ。

 

 「うーん………うーん………リュー様ぁ………エヘヘ………。」

 

 




リュー様は無双のどM製造機なのです。
リュー様の鍛練はナイトメアコースです。あまりにナイトメアすぎるため連合ではNGを出されてしまいました。


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アステリオス、お前もか!?

 ここは連合内道場、ここで俺は今、珍客と向かい合っていた。

 

 「ふむ、つまりお前はベルと再戦させろと、そういうわけだな?」

 

 「うむ。」

 

 俺も状況がよくわからない。辛うじてわかるのは目の前にいるミノタウロスの名前がアステリオスで、彼がベルとの再戦とやらを望んでいるということだけ。

 

 ーーふむ、つまりこいつは以前に報告に上がっていた浅い階層に出没したというミノタウロスなのか?しゃべっているということは異端児か?しかしナゼコイツは喋れるんだ!?リリルカが変身したリリタウロスは喋れなかったはずだが?魔物はそもそも人間と発声器官の仕組みが違うはずなんだが?なんか突っ込んではいけないところの気がするな、さておき………

 

 報告に上がっていたミノタウロス、それはベルと春姫が十階層で出くわしたという話のミノタウロスだ。ベルは、念のための春姫の階位ブースト魔法をかけて危なげなく葬っていたという報告を聞いた。その後連合で詳しく調査を行ったが結局ミノタウロスがいた理由はわからなかった。喋れるということはそいつが転生した異端児ということなのか?

 

 このミノタウロスがオラリオに現れた際、若干混乱にはなったものの連合が魔物を匿っているという噂があったため、即座に連合に通報が来た。俺は現場に向かい、こいつを道場へと連れてきた。むやみに暴れていないことから、異端児であろうことはすぐに判別が着いた。

 

 「ベルと戦いたいのか………連合は仲間の命を大事にしている組織だ。ベルに異存がないのであれば命を奪わない試合の範囲でよければ聞いてみるぞ?もしどうしてもベルの命を望むというのであれば悪いがここで連合の総力をあげて袋だたきにさせてもらう。」

 

 「………それで構わん。」

 

 「ならば少し待っていてくれ。ベルに聞いてこよう。」

 

 ◇◇◇

 

 ヘスティアファミリア団長室。

 

 「というわけだベルよ。お前はどうする?」

 

 「戦います!」

 

 「無理に薦めはせんぞ?」

 

 「いえ、奴は僕が倒すべき相手なんです!」

 

 ◇◇◇

 

 タケミカヅチ道場、ベルとアステリオスは向かい合う。俺とタケミカヅチが立ち合いを行う。

 

 戦いは始まる。力に優れたアステリオスと速度で勝るベルの戦い。火花を散らし幾合も渡り合う。

 

 ーーほう。

 

 ーーこれは………

 

 二人の立ち合いを見た俺とタケミカヅチの視線が交錯する。俺達の心は通じ合い、いまひとつになる。

 戦い?両方とも拮抗してるくらいかな。

 

 ーーベルは今や連合の最重要戦力。それと同等に渡り合うあのミノタウロス、逸材だ。是非ともタケミカヅチ道場に!

 

 こんなところでボケッとしている場合ではない。

 タケミカヅチと目配せを交わす。心の通じ合う俺達は立ち合いをタケミカヅチに任せて俺がリリルカを呼びに行く。

 

 今こそ魔改造の力が輝くときだ!

 俺は道場を出て本部の廊下をひた走る。どこだリリルカ?どこにいる?

 

 「いた、リリルカ。ついて来てくれ!」

 

 俺はリリルカを見つけて袖を引く。

 

 「カロン様、何でしょうか?リリは忙しいのですよ?」

 

 「いいから来てくれ。どうしても連合に欲しい人(?)材を見つけたんだ!」

 

 ◇◇◇

 

 俺達が道場に着いた頃には勝負は決まっていた。わずかの差でベルが勝ったらしい。ベルは息をきらせていて、アステリオスは道場で大の字になって倒れている。

 

 「これで連敗か。俺は敗者だ………好きにしろ!」

 

 どうやらこのミノタウロスは命を落とすことを覚悟してここまで来たらしい。あらかじめ命をかけない戦いだと言ってあるはずなんだが………?まあいいか。なら好きにさせてもらおう。

 

 「アステリオス、ならばお前是非連合の一員になってくれよ!」

 

 「何を言ってるんだ?」

 

 困惑しているアステリオス。畳みかける俺。

 

 「お前は強い。タケミカヅチ道場の師範代になってくれよ。俺達はお前を重宝するぜ!」

 

 「い、いや待て!確かに好きにしろとは言ったが………。」

 

 「お前ベルと戦いに来たということは強さにこだわりがあるんだろ?連合には強い奴がそこそこいるぜ?命をかけない戦いならいくらでも組めるぜ?」

 

 「ま、待て待て。確かに強さにはこだわりがあるが………俺はこんな見た目だろう?」

 

 あわてふためくアステリオス。逃がさん!

 

 「俺達の懐にはお前のお仲間の異端児もたくさんいるぜ?お前には道場の師範代がピッタリあっている!天職だ!これ以上はないくらいだ!」

 

 「待て!俺がその師範代とやらをやっても怖がられるだけだろう?」

 

 「だからだよ!ダンジョンにはこんなに強い怪物がいるんだって皆に覚悟を持たせるのにピッタリだ!覚悟がない奴は自動的にふるい落とされる!お前は好きにしろといっただろう!」

 

 「い、いや確かにそういったが………。」

 

 そこにタケミカヅチが割り込む。

 

 「お前の戦いを見せてもらった。武神の俺から見ても確かにお前の武技は素晴らしかった。是非とも我がタケミカヅチ道場の師範代になってほしい。」

 

 さらにリリルカまでもが畳みかける。

 

 「アステリオス様、強い方と戦いたいのであれば連合がベストですよ?連合はオラリオに顔が利きます。命をかけない戦いであればその気になればいくらでも強い方との戦いを組めます。それにタケミカヅチ道場の師範代になれば強いライバルを自身の手で育て上げられるかも知れませんよ?あなた様自身の強さにもつながります。道場で人を育てるということは、自身の中で強くなるための方法を理論化するということです。その理論はあなた様自身にも適用可能です。ベル様の近くにもいられますよ?負けたまま逃げ帰ってもいいのですか?」

 

 絶対に逃がさん!こいつは価値が高い牛だ!何が何でも道場の師範代にしてやる!

 俺とタケミカヅチとリリルカの三人がかりで逃がさないようにアステリオスを囲む。ベルは唖然としている。

 

 「お前が首を縦に降るまで絶対に逃がさん!お前は連合の師範代になるために生まれ変わったんだ!」

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは豊饒の女主人、俺と凶狼は食事をしている。

 

 「なあ、おい。道場にミノがいやがるんだがまたテメェがわけわかんねぇことをしたのか?」

 

 「ああ、あいつか。仲良くなったか?あいつは使えるだろう?」

 

 「まあ確かに使えるが………どうなんだ?ミノが道場の師範代とかテメェはどこまで好き放題するつもりなんだ?」

 

 「別に構わんだろ?話はきちんと通じるし門下生におかしなことはしとらんだろ?」

 

 「まあ確かにそうなんだが………まあそうだな。確かに覚悟のねぇ雑魚どもが少なくなったのは確かだ。」

 

 「そうだろ。それであの見た目だろ?知性も高いんだ!いずれ連合の交渉役を任せられるかとも考えている。」

 

 「お、おいまて!それはやめろ!それは反則だ!あいつミノタウロスにしてはありえないくらい強ぇし見た目が恐すぎるだろ!交渉相手がかわいそう過ぎるだろう!」




ベル君はスーパーベル君につき原作様より強化されてます。
そしてあっさりと優秀なサポーターにフラグをへし折られたフレイヤ様唖然。


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正義のポーズ

 リリ達は今日、カロン様に呼び出されました。リリ達とはリリとリュー様とアストレア様です。一体何の用事でしょうか?

 

 「失礼します。」

 

 リリはノックして入室します。ここはアストレア連合会議室です。

 

 「!?」

 

 「ああ、リリルカ、来たか。待ってたぞ。」

 

 「リリルカさんが来ましたか。」

 

 「あら、リリちゃん。待ってたわ。どうかしら?」

 

 この人たちは何をしているのでしょうか?

 アストレア様は構いません。アストレア様は椅子に座ってカロン様とリュー様を眺めてらっしゃいます。

 問題はカロン様とリュー様です。お二人は机の上に立って何やら奇妙なポーズをとってらっしゃいます。カロン様は両手を斜めにあげて片足をあげてらっしゃいます。まるでグ〇コのポーズです。リュー様は手を交差させて膝を折ってらっしゃいます。まるでスペ〇ウム光線のポーズです。何というかいろいろ言いたいことはありますがまず始めに言うことがあります。

 

 「カロン様、リュー様、土足で机の上に乗らないで下さい!その机の代金は連合の金庫から出ています!まずは二人とも正座してください!」

 

 「「ハイ。」」

 

 「そしてアストレア様、なぜお止めにならなかったのですか!」

 

 「ごめんなさい。いつもリリちゃんに怒られる二人がかわいくてつい。」

 

 仕方ありませんね。アストレア様はなんかダメな感じの神様になってしまいました。完璧にカロン様のマイペースを移されています!やはり以前は肩肘はって正義を目指した反動なのでしょうか?まあ置いておきましょう。それよりも。

 

 「カロン様とリュー様は何を考えているんですか?何を考えて机の上であんな変なポーズをとっていたんですか?」

 

 「なっっっ!?」

 

 リュー様がショックを受けてらっしゃいます。変ではないと思っていらっしゃったのでしょうか?

 

 「変なとは失礼だな。リリルカ、俺達は正義のファミリアだ。違うか?」

 

 「まあその通りですね。」

 

 「正義の味方には決めポーズが必要だ!」

 

 まあそんなところだろうとは思いました。一応聞いておいてあげましょうか?

 

 「机の上にいた理由は?」

 

 「正義の味方は高いところに現れるのだ!」

 

 やはりアレですか。何とかと煙は高いところが好き理論ですか。カロン様の方はわかりました。

 

 「リュー様はなぜそんなのに付き合っていたのですか?」

 

 「カロンに正義の味方には決めポーズが必要と乗せられてつい………。」

 

 ふむ、リュー様の説得は簡単そうですね。

 

 「リュー様、高いところでうっかり変なポーズをとりでもしたら下着がまる見えになりかねませんよ?リュー様はうっかりすることがありますし。普段ショートパンツだからたまにスカートを履いたりなんかするとよけいにうっかりしますよ?」

 

 「そ、それは盲点でした。」

 

 よし、リュー様の説得は完了です。面倒なのはカロン様(アホ)の方です。こっちは油断したらリュー様の説得さえ覆されかねません。

 

 「カロン様、おかしなポーズをとっている間に敵に逃げられたらどうするんですか?正義のファミリアが悪を油断で取り逃がすんですか?」

 

 「しかしリリルカ。決めポーズをとることで相手の油断を誘ったり士気を下げたり出来るんではないか?」

 

 め、面倒な相手です。元々リリの理由もそこまで強いわけではありません。

 

 「カロン様、変なポーズで相手の士気を下げられるとは思いません。それにポーズが浸透してしまったら相手に正体が即座にばれて逃げられてしまうのではないですか?」

 

 「ぐ、ぐうっ。ならば幾通りもパターンを考えればよいのではないか?」

 

 ………面倒すぎます。

 

 「先ほど正義の味方には決めポーズが必要だとおっしゃいましたよね!ポーズをとるのが正義の味方ならばやはりポーズをとったというだけで正義の味方だとばれてしまいます!」

 

 なぜリリはこんなにわけのわからない説得をしているのでしょうか?

 

 「むううっ、ならば………それならば………仕方ない。次はファミリアの決め台詞を考えるか。」

 

 まだ面倒なことを言いますか………。どうしましょうかね。

 

 「………それになんの意味があるのですか?」

 

 「俺のモチベーションが上がる!リューの下着も見えないし問題ないだろ?」

 

 このくらいは許してあげましょうかね?リリが断ったらそこらの団員を捕まえて強制しかねません。下の団員は大団長に逆らえると思えませんしわけのわからないパワハラをやらせてしまうよりは適度な落としどころを探しましょうか?

 

 「それではどのようなものをお考えですか?」

 

 「これはメラゾーマではない、ルミノスウィンドだ。」

 

 パクリですね。散々に使い古されたネタです。しかも属性の系統も違いますしルミノスウィンドをなぜメラゾーマの下位のような扱いにしてるのかも謎ですし。それだったらせめて属性だけは同じリヴェリア様の魔法でしょう。

 

 「没です。その決め台詞はそもそも使えてもリュー様だけです。」

 

 「ならばこれはどうですか?お前らはもう死んでいる!」

 

 リュー様まで乗って来てしまいました。フルスロットルリュー様はカロン様と似たノリになるんでリリの負担も増えるんですよね。困ります。

 

 「没です。作画と作風が違いすぎる作品ですしそもそもアストレアの方針は可能な限りは生け捕りです。」

 

 「ならばこれはどうだ!俺の拳が轟きさけーーー

 

 「ストップです。パクリはそもそもNGです。オリジナルで考えて下さい!」

 

 リリの言葉にカロン様は考え込んでいます。パクリにNGをだされたリュー様は気持ちしょんぼりしています。

 

 「リリルカ、やはり決め台詞はポーズと一緒の方がカッコイイのでは?」

 

 また言い出しちゃいましたよ。さっき説得したばかりなのに………。

 

 「リリルカさん、下着が見えないポーズをとればいいのでは?」

 

 リュー様までぶり返しちゃいました。面倒ですしもう勝手にさせるのもアリかも知れません。リュー様がパンチラ担当のお色気キャラになってしまってもリリの知ったことではありません。

 

 「カロン様とリュー様だけでやるのでしたら好きにしていいですよ?」

 

 「何を言ってるんだ?正義のファミリアの象徴的ポーズだぞ?」

 

 「ダメです!他の団員の方々がわけのわからないポーズをいやがって入団者が減ったりしたらどうするのですか!カロン様達だけでやってください!」

 

 「せめてリリルカさんだけでも………。」

 

 「やりません!リュー様、目を覚まして下さい!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ???

 

 「アストレア連合の決めポーズってカッコイイよな!」

 

 「ああ、そうだよな!やっぱ連合だぜ!」

 

 ◇◇◇

 

 どうしてこうなってしまったのでしょうか?あのあと好き勝手に決めポーズや決め台詞を決めるカロン様とリュー様はなぜかオラリオ中で流行らせてしまいました。この間久々にソーマ様に会いに行ったらあのソーマ様まで鏡の前で練習していました。見られたソーマ様は固まっていました。挙げ句に連合の必須技能に入ってしまう始末。そんなわけのわからないことに時間を使うくらいならいくらでも有効な時間の使い道があるはずなのに………。今ではリリもポーズをとらざるを得ません。こう片手を引いて片手を回転させて片方を引いて同時に………

 

 「ってやっぱりパクリじゃないですか!仮面ラ〇ダーの変身のポーズじゃないですか!確かに正義の味方ですけども!」




決め台詞は
「フム、別にアレを倒してしまっても構わんだろう?」
「その体はきっと無限の盾でできていた!」
やっぱり正義の味方のパクリです。


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悪夢は幾度でも繰り返す、リューの御乱心

 ここはアストレア連合ファミリア本拠地食堂。ここでは今、ある一つの壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 「リュー副団長、いけません!おい、誰か!大団長か統括役をお呼びしろ!アストレア連合ファミリアの存亡の危機だ!急げ!はやくしろおぉぉぉ!」

 

 「料理長、何も問題はありません。私も日々成長をしている。今ここです。今ここで私は昨日の私を乗り越えるのです!壁を乗り越えるのです!!」

 

 リューの人生壁だらけである。

 

 「副団長!この間も同じこと言ってましたよね?この間の惨劇をお忘れですか?あの小麦粉と洗剤を間違えた事件を!?今では連合最大の危機と呼ばれてるんですよ!?あの図々しいヘスティア様が泣きながらトイレ掃除をしていたんですよ!?」

 

 「………それは昨日までの私です。いつまでも料理を苦手にしていてはいつまたカロンに馬鹿にされないとも限りません。」

 

 アストレア連合ファミリア食堂。連合になって団員が大幅に増えて以来、食堂では専門の料理人を雇っていた。

 しかししばしば料理をしたがるリューと料理人達はその度に調理場で死闘を行っていた。

 そしてもちろん未だリューの料理の腕前は一向に上達しておらず、むしろそれは料理すればするほど明後日の方向に向かってひどくなる一方であった。

 

 「大団長の代わりにいくらでも謝りますから!副団長を調理場に入れてくれるなと連合幹部総一致で厳命されているんですよ!?私達はクビがかかってるんです!」

 

 「心配はご無用です。クビに関しては私が口添えをします。それに万が一料理に失敗したとしても耐異常の訓練になります。冒険者はいつだって危険と隣り合わせなのです!」

 

 「副団長!それ御自分の料理が危険物だと認めてらっしゃいますよね!?お願いします!どうかお止めください!」

 

 「全く失礼ですね。私もこの間反省して料理の本をキチンと読んだというのに!」

 

 「それも毎回の同じ言い訳ではないですか!?」

 

 そこへカロンが通りかかる。いつものことなので一目で状況を理解するカロン。カロンは惨劇を回避するためにしばしば食堂の視察を行っていた。

 

 「リュー、お前に急ぎの仕事がある。ちょっと手伝ってくれ。」

 

 カロンを救世主を見る目で見る料理人達。

 

 「カロン、私は忙しい。私にはやることがあります。」

 

 頑固な汚れのようなしつこさを見せるリュー。

 

 「しかし特別なお前がいないとできないんだがなぁ?リューがいつも居てくれて助かってたんだけどなぁ?」

 

 リューの扱いが上手いカロン。

 

 「仕方ありませんね。あなたがそこまでいうのであれば特別な私が仕事を引き受けましょう。」

 

 チョロリュー。

 

 「じゃあこっちに来てくれ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「何ですかこれは?」

 

 段ボールが倉庫に山と積まれている。

 誰かは相変わらず時代考証をガン無視する。

 

 オラリオに段ボールがあったっていいじゃない?

 

 「見ての通り荷物だ。これを向こうまで運んでくれ。」

 

 「これこの間私が向こうからこっちまで運んだものではありませんでしたっけ?」

 

 「ふむ、まあそうなのだが今度は向こうに運ぶ必要が出て来てな。運べるのは高レベルのお前くらいしかいない。」

 

 「わかりました。仕方ありませんね。特別な私が運びましょう!」

 

 みんな私が頼りなんですね。

 チョロリュー。リリルカ統括役(アーデルアシスト)は忙しいから仕方ない!

 

 ◇◇◇

 

 一人黙々と荷物を動かすリュー、煌めく汗。カロンはある程度見届けて安心してどこかへ去る。

 そこへ近づくリリルカ。近づいてしまったリリルカ。

 

 「ハァ、ハァ、だいぶ運べましたね。やはり労働はいい。労働は素晴らしいものです。」

 

 「リュー様、何をしておいでですか?」

 

 相変わらずかわいらしい質問の仕方のリリルカ。

 

 「リリルカさん。カロンの頼みで荷物の移動を行っていた所です。」

 

 「荷物の移動ですか?」

 

 困惑顔のリリルカ。

 

 「どうしたんですか?」

 

 「おかしいですね?あっ!」

 

 唐突に何かに気づくリリルカ。訝しむリュー。

 

 「どうしたんですか、リリルカさん?」

 

 「イ、イイエ。ナンデモゴザイマセンヨ?」

 

 普段の毅然とした態度に比べると珍しくおかしな挙動のリリルカ。リューは何か嫌な感じがする。

 

 「そういえばリリルカさんにはアーデルアシストがありますよね?お手すきならなぜカロンは何も言わなかったのでしょうか?」

 

 考え込むリュー。唐突にその筋肉色の脳細胞は光り輝き閃きをリューに齎す。急いで中身を確認するリュー。中身は重量のある廃品の山。リューは廃品の山を廃棄所傍から別の廃棄所傍に運ばされていただけだと気付く。気付いてしまう。これは私専用のトラップだ!何が私にしかできない仕事だ!馬鹿にして!

 惨劇待ったなしである!

 

 「さて、カロンには日頃のお礼を込めて丹精を篭めた特別なお夕飯をお作りしなければいけませんね。夕食後には間をおかずの鍛練ですね。カロンは私の手作りお夕飯を食べれてさぞかし喜ぶことでしょう。」

 

 コメカミに血管が浮かび出るリュー。普段からは想像できない般若の形相。リリルカは時折彼女がこの顔になるところを見ていた。

 

 ーーカロン様は正しいことをなさいました。しかし世の中は正しければ必ず上手く行くわけじゃありません。せめてリリがご冥福をお祈りいたします。カロン様どうぞ安らかに眠ってください。リリは地に落ちた大団長の威厳をしっかりと立て直して見せます。

 

 リリルカは心の中で合掌するーーー

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地鍛練場、いつも通りにやはり簀巻きにされて転がされている俺。なんか慣れてきてしまったな。

 

 「なあ、リュー。許してくれよ。お前だってお前の料理が幹部会議で禁止事項となったの分かってるんだろ?俺は大団長なんだよ。さっきからお腹が嵐の海のようにあらぶってるんだよ。お前の料理が俺の状態異常無効スキルを突き破ってガンガン来てるんだよ!漏らしでもしたら威厳もへったくれもないだろう?」

 

 「ハァ、仕方ありませんね。今回だけは私にも原因があったということでいいでしょう。次からはせめてあんなに不毛なことは勘弁してください。」

 

 そう言って拘束を解くリュー。

 

 「わかったよ。じゃあ俺はもう行くぞ。」

 

 「ええ。」

 

 ◇◇◇

 

 ???

 

 「クックックッ、これだな!これが変人が残したリュー副団長の手料理だな!?」

 

 そう、彼らはアポロンファミリア。今やファミリア総出でリューのファンクラブとなってしまったファミリアだ。しかもファンクラブにしてから入団者が増えたらしい。彼らはリューに気持ち悪がられて未だにリューの手料理を食べたことがなかった。

 

 「時は来たれり!よし!これを持ち帰って皆で少しずつ分けて今日は盛大にパーティーだ!」

 

 

 アポロンファミリア、総団員数約1000名、ファミリア内のトイレ個室数300。軒並み全員がリューのファン。リューの料理はカロンの強力な耐異常スキルさえをも突き破るクオリティー。

 これが後にアポロンの悪夢と呼ばれる事件の全容である。




彼らはリューの料理を平等に分けて食べました。ほんのわずかのはずの毒物は体内で猛威を振るいましたとさ。


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リューの苦悩

 ここは連合の廊下、私の名前はリュー・リオン。最近の私は苦悩していた。

 

 ーー連合内での私の役目がすくないっ!!私ももっとなんかの役にたちたいっ!!

 

 「どうしたんだい、リュー君。」

 

 「穀潰し(ヘスティア様)は少し静かにしてて下さい!私には考えることがある!」

 

 「リュー君!?今なんかルビに悪意を感じたよ!?」

 

 そう、今私は悩んでいた。カロンは精力的に他ファミリア訪問を行っている。書類業務もしっかり行っているし内部の監察等も頻繁に行っている。リリルカさんは言うまでもなくチートだ。ファミリア訪問にきた神を弁舌巧にあり地獄の如く連合に引きずり込んでいる。見ていて恐ろしいほどだ。リリ地獄だ。サポーターの教育もしっかり行っていてたくさんの団員に尊敬されている。ミーシェさんは連合内の事情を網羅していて的確な指示を飛ばしている。さらに冒険者の守護女神としてアドバイザーの職務を全うしている。

 

 ーーそれでは私は?私のヘスティア様との違いは!?私は何をすれば、、、

 

 ーー私の仕事は護衛などの力仕事だけだ。私が脳筋だというのは事実だったというのか!?

 

 「リュー君、考え込んでどうしたんだい?」

 

 「だから静かにしてくださいとーーー

 

 ここで私は少し考える。現状を打破するためには何かのアクションを起こすべきだ。しかし何をすれば?誰に相談すれば?目の前の特に何かしてるわけでもない駄目神以外に暇な存在は?背に腹が代えられるか?他の真面目に忙しくしている人間の時間を奪うべきなのかーーー?

 

 「ヘスティア様、相談があります。」

 

 私は決意するーーー。

 

 ◇◇◇

 

 私の私室でヘスティア様と私は向かい合う。私はお茶とお茶受けを出す。

 

 「なるほどね。つまりキミは連合内で自分の仕事を増やしたいわけだ。」

 

 「その通りです、ヘスティア様。何かいいアイデアがありますでしょうか?」

 

 「うーん難しいな。いつも通りじゃあ駄目なのかい?」

 

 「私は、自分を変えたい。連合内で必要とされる私になりたい。」

 

 「うーん、でもキミはいるだけでカロン君達の役に立てていると思うよ?カロン君もキミの抜けた性格を見ているとちょうど良く力が抜けると言ってたしさ。」

 

 「それではヘスティア様と同じです。私はヘスティア様にはなりたくない!」

 

 「キミは本神を前にしてなんて事をいうんだ!?ボクは断固抗議させてもらうよ。相談にわざわざ乗っているというのに………。」

 

 「じゃあヘスティア様も一緒に何かすることを考えましょう。」

 

 「ボクはトイレ掃除が忙しいから向こうに行くよ。」

 

 「逃がしません!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは豊穣の女主人。私はファミリアの顧問相談役、聖女シルにも相談を行っていた。

 

 「というわけでシル、何かいいアイデアはありませんか?」

 

 「簡単だよリュー。リューはアイドルになればいいんだよ。」

 

 シルはそう答える。

 

 「偶像、ですか?」

 

 私。

 

 「うんそうだよ。リューはかわいいんだからみんなのアイドルになってファミリアの人気を上げればいいんだよ。」

 

 「いいアイデアだよシル君。」

 

 ヘスティア様。この神はちゃんと考えて物事を言ってるのでしょうか?

 

 「ヘスティア様も一緒にやるんですよ。オラリオの美少女………美人ユニットで売り出せばいいんだよ。」

 

 「「なんで言い直したのですか(んだい)!」」

 

 ーーしかし私には特にアイデアがない。シルがそういうのでしたら試してみることにしましょうか。

 

 こうしてオラリオに謎のアイドルユニットが成立した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「ホラ、リュー、しっかり笑って!!あなたトークが壊滅的なんだからせめて愛想良くしないと!!」

 

 「ハ、ハイ。」

 

 

 

 「ホラ、ヘスティア様、もっとしっかり動いて。鈍臭いですよ。胸が揺れないと意味がないでしょう!」

 

 「ええ~?勘弁しておくれよ。」

 

 

 

 こうして私達のアイドル化計画(魔改造)は始まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 そうしてある程度の日数が経ち、私達はシルにだいぶ良くなってきたと伝えられた。

 

 「「シル教官、ありがとうございました!!」」

 

 「君達の検討を祈る。」

 

 「「ハイ!!」」

 

 ………シルのキャラも変わっていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン大団長、今日もお疲れ様でした!!あなたのリューただいま参上☆」

 

 カロンは仕事の帰り道。彼にそう声をかける私。目元には横向きのピースサイン。いぶかしがるカロン。

 

 「お前リリルカだろう?何故そんな悪辣な悪戯をしてるんだ!?いや、リリルカでもやらないか?誰だ?」

 

 「いえ、私はあなたのアイドルリュー・リオンです。」

 

 距離をとるカロン。警戒心を前面に押し出しているのがわかる表情。

 

 「何かの魔法か?スキルか?誰だお前は?何の目的だ?本物はどこへやった!?」

 

 そういって指示を出すカロン。私を囲む憲兵。

 

 「いえ、あなたのリューです☆」

 

 満面の笑みの私、困惑するカロン、不思議なものを見るような憲兵達。

 

 「百歩譲ってお前がリューだとしよう。お前は何故そんなおかしな真似を?まさか魅了か!?誰の仕業だ!?」

 

 慌てふためくカロン。そこへ通り掛かるヘスティア様。

 

 「カロン君、いつもご苦労様!ボク達はいつもキミに助けられてるよ。ヘスティアだニャン☆」

 

 そういいながらウィンクするヘスティア様。手の形は招き猫。ドン引くカロン。

 

 「ヘスティア、お前神だから魅了かからんはずだろう!?何やってるんだ?」

 

 「ボク達は連合のためにアイドルになることにしたんだよ。連合の人気を上げるために!」

 

 「アイドルって、、、お前はすでに神だろう。神は偶像(アイドル)だろ?」

 

 「でも今はボクはここに顕現しているから偶像ではないよ。それでどうだい?連合のアイドルとして売り出してみないかい?」

 

 「………そんなことを言われても俺にはわからん。リリルカに聞いてもらわないと………。」

 

 困惑のあまりカロンはリリルカに丸投げした。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで来ました☆リリルカさんどう思いますか?」

 

 それにため息をつくリリルカ。

 

 「リュー様はわかってらっしゃらないのですね。リュー様はすでに連合内のアイドルです。寡黙で真面目で厳しくて少し恥ずかしがりやっぽいところが堪らないと皆言っています。今更そんなことしても逆効果ですよ?」

 

 私はその言葉に衝撃を受けた。私の時間と努力は何だったのか?

 

 「それでボクはどうだい?リリ君。ボクはいけそうな感じかい?」

 

 「ヘスティア様もすでにトイレの汚れ系アイドルとしてオラリオに広く知られています。今更何しても変わりませんよ?」




作者はアイドルについて無知に等しいので現実にはありえなくても見て見ぬ振りをお願いします。


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スーパーフラグクラッシャー

気分的人物紹介

ヴェルフ・クロッゾ・・・原作様では主人公の仲間の鍛冶師。拙作では連合お抱えの鍛冶師。拙作において、主人公と深い付き合いがあるにも関わらず、数少ないほとんどキャラ崩壊を起こしていない稀有な人物。

 

 ◆◆◆

 

 「顔をあげてください。あなたは私の大切な友人です。私はあなたのことをよく知っている。」

 

 「………ありがとう。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合の団長室、ここで俺はそろそろ時が来たかと考えていた。

 今日はここに二人の客人を呼んでいる。一人は副団長のリュー、もう一人はお抱え鍛冶師のヴェルフだ。

 

 ヴェルフはクロッゾ一族であることに対してリューに負い目を感じている。魔剣で森を焼きつづけてきたクロッゾはエルフに恨まれているからだ。

 しかし共に連合で長いときを経て、そろそろ互いに信頼を十分に築けていると判断した俺は、ヴェルフと話し合いリューにヴェルフの素性を明かすことを決めた。

 

 ーーーーーコン、コン、コン

 

 ノックされる。リューかヴェルフのどちらかだろう。

 

 「入ってくれ。」

 

 その言葉にリューが部屋へと入ってくる。

 

 「カロン、何の用事ですか?何やら大切な話があるとか?」

 

 「ああ、そろそろ頃合いかと思ってな。」

 

 「そろそろ頃合い?大切な話?………まさか………。」

 

 リューが急におかしな空気を醸し出す。どうしたというんだ?

 もじもじするリューと困惑する俺。

 

 「そ、そんな。確かに私たちは長い付き合いですが………。」

 

 ?何なんだ?挙動不審だ。

 ふむ、まさかコミュ障が昂じて俺にも緊張するようになってしまったのか?

 

 「一体どうしたんだ?もじもじして?」

 

 「あ、あの………。確かにリヴェリア様ですら結婚間近だと聞きますし………。」

 

 そういえばそうだな。もちろん俺も呼ばれている。王族同士の大々的な結婚式の仲人を任されている。友人の幸せはいいものだ。

 リューは顔を赤らめ目をきょろつかせる。ふむ、トイレか?

 

 ーーーーーコン、コン、コン

 

 ヴェルフが来たか。

 ?ノックに反応して今リューがものすごいビクッとしたぞ?

 半目を俺に向けるリュー。

 

 「どういうことですか?」

 

 「どうもこうも………とりあえず客人だ。オーイ、入ってくれ!」

 

 その言葉にドアが開かれる。やはり来たのはヴェルフだ。

 

 「リューさんもう来てたのか。すまねえ、遅くなっちまった。」

 

 「さほど遅くはないさ。リューもさっき来たばかりだ。」

 

 「別にもっと遅くても構いませんでしたが………。」

 

 「何を言っとるんだ?」

 

 「別に。」

 

 ◇◇◇

 

 「それで今日は私とヴェルフさんを呼んで何を話すつもりですか?」

 

 ソファーを挟んで向かい合う。俺の隣にヴェルフが腰掛け、向かいにリューが座っている。

 俺とヴェルフは目配せをする。

 俺は切り出す。

 

 「今日はヴェルフがリューに話したいことがあってな。俺は基本付き添いだ。なるべくなら口を出さないつもりだ。」

 

 「ヴェルフさんがですか?」

 

 「ああ、俺から今日はあんたに謝りたいことがあってな。」

 

 「私は謝られる謂われはないと思いますよ。」

 

 ヴェルフは顔を俯ける。しばらく躊躇った後に重い口を開く。

 

 「俺はあんたに言ってないことがあったんだよ。俺はあんたにずっと隠し事をしていた。厚顔にも隠し事をしてあんたと長くやってきたんだ。俺はずっとそれが心苦しかったんだ。」

 

 「心苦しかった、ですか?」

 

 「ああ。」

 

 ヴェルフは一息ついてさらに言葉を続ける。

 

 「俺の名前はヴェルフ。ヴェルフ・クロッゾだ。あんたなら当然この意味がわかるだろ。」

 

 「それがどうしたんですか?」

 

 「どういうことだよ!?」

 

 以前の俺に続きリューのあまりの軽さにヴェルフはツッコミを入れる。ふむ、デジャヴュだな。

 リューは穏やかに笑う。

 

 「もちろんクロッゾの家名は知っています。彼らが私の同胞にどう思われているのかも。しかし私は連合の副団長です。そして大団長のカロンの意向で連合のスタンスは仲間内を護ることを何よりも大切にしています。」

 

 「ああ、もちろん知ってるよ。」

 

 「私はずっとカロンを見てきましたよ。そしてあなたとも長い付き合いでずっと見てきました。」

 

 「そうだな。」

 

 「私はあなたの納入する剣をずっと見てきました。あなたの納入する剣は一級品とは言えないかもしれませんが、長い間連合の初心冒険者の身を護っているんです。」

 

 「………………。」

 

 「私はあなたが考えている以上にあなたのことを知っています。私は高レベル冒険者です。武器の目利きはある程度できます。あなたの剣はとてもよいものです。あなたの納入する剣はとてもしぶとい。確かに他の鍛冶師の作った剣はあなたのものより強いものや鋭いものがたくさんあります。しかしあなたの剣は一流のそれらと比べても見劣りしないほどの抜群の信頼性を誇ります。耐久がとても高く、初心者を残して壊れることがきわめて少ないと言えます。」

 

 「……………。」

 

 「まるでカロンのようですね。とてもしぶとくて高い信頼性………あなたの剣を見ているとまるでカロンが初心者を護っているように感じるんです。」

 

 「………ありがとう。」

 

 「まあおかしなネーミングはいただけませんが。しかし私はあなたがどんな思いで連合に武器防具を納入しつづけてきたのかずっと見てきました。あなたがクロッゾ一族なのは思うところがないとは言いませんが、今ここにいるあなたがあなたの全てだと私は信じています。あなたがカロンと同じで仲間を護りたいと願っていることを。」

 

 ふむ、やはりヴェルフのネーミングはおかしいよな?俺だけじゃなかったんだな。もっとちゃんと言っとけばよかったな。

 

 しかし念のために控えとったがこれなら俺がいる必要もなかったな。俺は笑う。

 

 「ヴェルフさん、顔をあげてください。あなたは連合に欠かせない人材です。あなたと私たちがこれからもよい関係を築き続けることを私は心より願っています。」

 

 ◇◇◇

 

 相変わらずの団長室。ヴェルフは帰って今ここには俺とリューの二人だ。

 なんかリューそわそわしてないか?

 

 「ところでカロン、大切な話とはなんですか?」

 

 「おい、さっき話しただろう。ヴェルフの素性の話だよ。」

 

 「………他にはないんですか?」

 

 「いや他?何の話だ?」

 

 俺を睨むリュー。俺は恨まれる覚えはないぞ?

 

 「………私に何か話したいことは?」

 

 迷う俺。話したいこと?ふむ、リューに話したいことか。そういえば確かに以前から気になっていたことがあったな。聞きたかったが怒られると思って聞けなかったあのことかな?聞いてみろと言っとるのか?

 

 「?………最近少し太ったか?」

 

 「………………は?」

 

 ………ふむ、わかりやすい。アレは怒っとるな。殺気を感じるし凄い目つきだ。

 どうやら体重の話ではなかったようだ。

 

 

 さて、虎の尾を踏んでしまったことだし今日はどのようなお仕置きをされてしまうのだろうな?

 




作者の知る限りカロンは恋愛経験ゼロです。しかしそれにしてもこれはひどい………。


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月見酒

 季節は秋、今は夜半。頭上に昇る満月がとても美しい。

 俺は今日、凶狼に呼ばれてタケミカヅチ道場へと向かっていた。俺は涼しげな秋の夜風の中に考えを巡らせる。

 俺はなぜ呼ばれたのかね?特に何かした覚えもないがね?

 

 「よぅ………来たか。」

 

 凶狼は道場の縁側で月を眺めながら酒を飲んでいた。

 月見酒か、なかなか贅沢なものだ。

 

 「どうしたんだ?俺に何か用があるみたいだが?」

 

 俺はそう問い掛ける。

 

 「まあ取り合えず飲めや。」

 

 「俺は下戸だ。」

 

 「テメェに今まで散々な目に逢わされてきたんだ。これくらい付き合えや!」

 

 「仕方がないな。」

 

 凶狼に注がれた酒を飲む。もうこいつとも長い付き合いになってしまった。そろそろベートと呼ぶことにしようかな?

 ベートは俺を睨みながら話しかける。

 

 「いろいろフィンから聞いたぜ。テメェ最初の出会いは俺をロキファミリアとの繋がりを得るための当て馬にするためだったらしいじゃねぇか。」

 

 「やはり勇者は気付いていたか。ついにお前にまでばれてしまったか。すまんかったな。正直あの頃は余裕がなくてな。」

 

 これは俺の素直な気持ちだ。当時はアストレアが俺とリューの丸裸に近い状況だと俺は認識していた。俺は最後に残った家族(ファミリア)であるリューを護るためなら手段を選ぶつもりはなかった。フレイヤは同盟を結んでくれたが、相手のことをよく知らない状況でフレイヤがどこまで宛てになるのか俺には判別しきれないでいた。今になってフレイヤをある程度理解して始めてあれは純粋な厚意だったと断言できる。あれがなければリューを引き留めることができなかったかもしれないと考えると俺はもうフレイヤに二度と頭が上がらないだろう。

 ………今度からフレイヤ様と呼ぼうかな?

 

 「フィンのヤローはテメェのその腹黒さが嫌いじゃねぇみてェだが………。両方ともクソタヌキヤローだな。気付いたらわけわからねぇ道場の師範代にされてしまったし、なんか同僚に変な牛がいるし………。つくづく煮ても焼いても食えねェヤロー共だぜ。」

 

 「………不満か?」

 

 「今更不満もクソもねーよ。テメェの思惑が理解できてたら今頃こんなことにはなっちゃいねぇ。騙された俺がマヌケだったってだけだ。結局こんなわけのわからねぇことになっちまったが………まあそれでもこれはこれで悪くねぇ。」

 

 ベートは笑った。

 こいつは今は道場で最も面倒見のいい師範代だと門下生に人気者だ。人数が膨れ上がった道場はそれなりの数の信頼できる教導者を雇っていた。それに伴いタケミカヅチの給料も上がり、そろそろ貧乏神の汚名を返上できそうだった。貧乏神のもう片割れのヘスティアはやはり相変わらずだが………まあ次期大団長(ベル)を拾った功績を考えればさほどうるさくいう必要もないだろうな。

 

 「それにしてもわけのわからねぇ道場はヒドイな。お前の大好きなアイズの通う道場だぞ?」

 

 アイズは未だに道場に通っている。高レベル冒険者はさすがというか、もう学べることはさほど多くないと思うのだがな?

 

 「ハァー、それだよ。俺が怒れねぇのは。リリルカ様に聞いたぜ?テメェが俺を勝手に利用する代わりにこっそり俺の手伝いをリリルカ様に頼んでいたこと。知らねェうちにテメェが勝手に俺を共に利益のある関係に巻き込みやがったと。」

 

 「うーんリリルカは口が堅いと思っていたのだがな?」

 

 「いくら口が堅くても良心が咎めなさったんだろうよ。そろそろ言ってしまっても構わんだろうとお思いになられたのだろう。」

 

 こいつは変わったな。どんだけリリルカを信仰しとるんだ?なれない敬語まで使って。

 

 「お前はどれだけリリルカを持ち上げるんだ?」

 

 「今やリリルカ様を軽く扱えるのはお前とお前んところの副団長くらいだぜ?副団長もリリルカ様に頭があがらねぇようだし………。俺もな。アイズとの仲を取り持つのに散々手伝ってもらった上にアイズがリリルカ様大好きだからな。もうどうにもなんねぇよ。」

 

 「そうか。お前は尻に敷かれるタイプだったんだな。」

 

 俺も笑った。

 

 「チッ………否定できねェのがなんとも不愉快だぜ。」

 

 ベートもまた笑った。

 

 「せっかくだし道場で一つ立ち会っていくか?」

 

 「酒飲んでるだろーが!それにテメェはどうしようもなくしぶといから面倒なんだよ!本当にどうなってるんだ!?テメェの体は?それ絶対になんか変なスキルついてるだろ?」

 

 やはり当然ばれているか。強力なスキル無しにここまで実力差をひっくり返せるわけないしな。

 

 「ああ、付いてるよ。多分二つ。片方は耐久を底上げして状態異常をはねのけるやつ。」

 

 「テメェ平気で自分のスキルばらしやがるな………いいのかよ?それに二つってもう一つは何なんだよ?」

 

 「別にお前なら気にせんよ。それでもう一つは………わからん。」

 

 「わからんてどういうことだ?」

 

 「そのままの意味だ。そもそもあるかどうかも不透明だ。多分アストレアが隠している。そうでもないと説明が付かないことが以前から多々あってな。他人に何らかの影響を及ぼすスキルだと思うが………しかしアストレアが話すべきではないと考えて黙っているんだろうから聞いたりはせんな。」

 

 「そうかよ。ハァーまた明日から仕事だ。道場の師範代も面倒な仕事なんだがな。つくづく本当にわけのわからねぇタチの悪いストーカーに掴まっちまったもんだぜ………。」

 

 遠い目をするベート。しかしお前はツンデレだろ?つまりそれは道場の仕事が好きで好きでたまらんということだな。まったく素直じゃない奴だ。

 

 「お前は面倒見がいいし向いてるよ。門下生も多くがお前を慕っとるだろ。お前が道場に来てくれたおかげで俺達は助かってるよ。」

 

 「うるせぇ。」

 

 しかししっぽが揺れて耳がピクピクするベート。こいつはあれだな。リューと同じで腹芸が壊滅的に向いていないタイプだ。リューも交渉するとき、どもるわ目が泳ぐわ………自分にも交渉の仕方を教えろと言うあいつに散々に仕込むために時間を取られたのだがな?結局まったく向いてないということがわかっただけだったな。

 こいつも連合に来ても師範代以外は冒険者の選択肢しかとれんだろうな。まあそれでも十分以上に価値があるが。

 

 「お前の評判は耳に届いてるよ。たくさんの門下生がお前を慕っている。多少やんちゃな奴らでもお前のいうことだけは聞く奴も多いと聞くし。タケミカヅチも言っとったぞ。お前を師範代に引き抜けたのは何よりの僥幸だったと。」

 

 「あのヤローもなんだかんだ言ってタヌキなんだよな。気付いたら俺の担当冒険者やサポーター増えてるし。誠実そうな顔してる癖に。あれは完璧にテメェの悪影響だろーが!」

 

 「信頼できる部下の仕事が増えるのは当然だ。あきらめろ。俺だって万能者やリリルカなんかにアホみたいな量の仕事を押し付けていた自覚はある。今はだいぶリリルカの教育が浸透してリリルカが下の者を信頼できるようになったみたいだが………やはり最初期は大変だったよ。もとからいたアストレアの人員がしっかり仕事を頑張ってくれたおかげだな。」

 

 ミーシェは連合のリリルカ補佐兼アドバイザー、バランはヘスティアファミリア元団長、ビスチェは連合の会計役、ブコルはアストレアサポーター部隊の教師、ベロニカは薬学部門補佐、ボーンズはアポロンマスメディア部門の責任者だ。みんな頑張ってくれている。リリルカは言うまでもない。そもそも彼らの今があること自体がリリルカの育成の賜物なのだ。リリルカの価値はついに天元突破してしまった。

 

 「テメェは人任せがすぎねェか?テメェが始めたもんだろうが!」

 

 「………耳が痛いな。一番最初は俺がリリルカにいろいろな仕事のやり方を教えたはずなのに、あっという間に足元にも及ばなくなってしまった………。うーん………。」

 

 俺は目を眇めて遠くを見やる。本当に誰なんだ?こんなにわけのわからない魔改造をリリルカに施してしまったのは?

 リリルカは学習意欲と学習能力が高く、未だに若くて成長しつづけている。リリルカがオラリオの支配者になる日も近い。もはやすでにそれに近い状況だ。

 

 「このダメ親父が!何でもかんでも他人に丸投げしてんじゃねーよ!」

 

 「………反省しとる。」

 

 「………テメェにはこの結末が見えていたのか?」

 

 「まさか。」

 

 「テメェは狸だからな。信用できねーよ。」

 

 「ただの幸運だよ。ソーマが現状を変えてくれる気になったのもイシュタルが俺達に付き合ってくれる気になったのもヘスティアを拾えたのも。最初から当てなんかないさ。」

 

 俺達はそれからもしばらく酒を飲んでいた。

 うーんやっぱりまずいんだよな。何でみんなこんなまずいものをうまそうに飲んどるんだ?やはり俺がおかしいのか?

 

 「そろそろ明日に響くし寝るとするか。ベートはこれからアイズとお楽しみか?」

 

 「つまんねーこと言ってんじゃねーよ。それよりテメェ何で俺のことベートとよんだんだ?今まで凶狼と呼んでただろう?」

 

 「大した理由ではないよ。身内は名前で呼ぶものだろ?それより寝坊とかしてしまうとリリルカにまた怒られるんだ。あまり威厳を落としすぎないようにしないといかんしな。」

 

 「テメェはもう手遅れだよ。」

 

 「ひどいな。お前も絶対に娘に雑に扱われたら落ち込むタイプだぞ?もしいずれその時になったとしても俺は慰めんぞ?」

 

 「………想像しちまったじゃねーか。」




オラリオ、アストレア連合内人物評価額順
一位、魔改造リリルカ【断トツ。至高のマルチタレント。】
二位、アスフィ【技術者最高峰。】
三位、ナァーザ【薬物のスペシャリスト。】
四位、カロン【連合発案者兼最高責任者。】
五位、リュー【高レベル冒険者兼求心力。】
六位、ベル【冒険者最高峰。】
七位、ミーシェ【有事の際のリリルカの後釜。】

番外、ソーマ
神酒の価値が非常に高いが人で無く神である為に評価外。人であったならナァーザより少し上に位置する。


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英雄の娘

特に意味なく唐突人物紹介

 ソーマ・・・原作様においてソーマファミリア主神。拙作でも同じ。拙作では世を拗ねていたが、カロンに出会い正義の味方に憧れてしまう。こっそり鏡の前で決めポーズを決めるところをリリルカに見られて赤面してしまう。連合内に於いては対外交渉の手土産として神酒が猛威を振るっており、地味に重要神物。

 

 デメテル・・・原作様でも拙作でもデメテルファミリア主神。農作物を作ることを生業としたファミリア。おおらかな性格をしており、眷属を大切に思っている。連合に入りヘルメスファミリアと協力したことで、農作物の品質が上がった。

 

 ナァーザ・・・原作様でも拙作でもミアハファミリア眷属。拙作では連合薬学部門部長。日々薬学を研究しており、彼女達の作る薬は遠征に、売上に、多大なる貢献をもたらしている。ちなみに拙作ではミアハ様はものすごく影が薄い。

 

 アポロン・・・原作様では主人公の噛ませ犬で拙作ではリリルカの噛ませ犬。

 

 ◆◆◆

 

 「今日からは久々のお休みですね。アイズ様もダンジョンにお潜りですしどう過ごしましょうか?」

 

 オラリオの町並みを行く彼女はみんなご存知のリリルカ・アーデ。リリルカは久しぶりに連休をとってお休みを満喫しようとしていた。

 そんな彼女を柱の影から覗く怪しい人影………。

 

 そう、彼らはカロンとリュー………ではなくロキファミリアの勇者、フィン・ディムナだった。

 

 「リリさん、こんにちわ。今日はお休みだってカロン大団長から聞いたよ。」

 

 「フィン様、またいらっしゃったのですか。」

 

 フィンはたびたびリリルカに接触を行っていた。ロキファミリアの隆盛の為に彼女の力を借りたいと考えていたからだ。

 

 「何度いらっしゃってもリリは改宗しませんよ?」

 

 「リリさん。そういわずに少し時間をくれないか?」

 

 「しょうがありませんね。せっかくのお休みなんですしすこしだけですよ?」

 

 ◇◇◇

 

 ここはロキファミリア近くの喫茶店。ここは以前カロンがこっそりコーヒーを楽しみに来ていたのだが、すでにリューとリリルカにはばれてしまっていた。連合の会議をサボるときはカロンはいつもここにいるのだ。カロンが会議をサボることに対してリリルカは思うところがあったが、しかし諸々の貢献度を考えれば彼女はカロンに何も言えなかった。

 今このお店でフィンとリリルカは向かい合っていた。

 

 「フィン様、また改宗のお誘いですか?」

 

 「ああ、やはりどうしてもロキファミリアの為に君が欲しいんだ。」

 

 真剣な表情のフィン。

 

 今や連合を実務で取り仕切るリリルカにはとてつもない価値がついており、彼女が改宗するとなればとても一桁の億などではきかない金が動くとオラリオでは見なされていた。しかも年々天井知らずにさらに上がっていく狂いっぷり。フィンは間違いなく連合にとって彼女がそれだけの価値が十分にあると認識して、最悪三桁の億でも本当に金庫を空にしてでも払うつもりの不退転の覚悟で幾度も交渉に臨んでいた。

 

 「わかっていらっしゃるでしょう?リリの忠誠心はカンストしてますよ?連合を離れるなどありえません。」

 

 「君は今日はかなり久々の休みのはずだ。君はどうしてそんなに連合につくすんだい?」

 

 「………リリはカロン様に拾ってもらった恩があります。」

 

 「それだけかい?」

 

 「他に理由があるとフィン様はおっしゃるのですか?」

 

 「それも大きな理由だと思うよ。でも恩義だけなら君はもう十分にカロン大団長に返せているんじゃないかい?」

 

 見つめ合うフィンとリリルカ。リリルカはその真剣な表情に根負けする。

 

 「………あまりなんでもペラペラしゃべるのはリリは好きではないのですが………誰か(作者)もしゃべれと言ってますし仕方ありませんね。リリが連合に従うのは単純にカロン様のお役に立つのがリリの喜びだからです。」

 

 「それはカロン大団長に好意を抱いているということかい?」

 

 「まあそうなるんですかね。………フィン様、カロン様は嘘つきなんですよ。」

 

 「嘘つきなのかい?」

 

 「ええ。カロン様はイシュタル様を連合に引き抜くときにも嘘をつかれました。リリのときにもカロン様はリリをサポーターの見本とする為に引き抜くとおっしゃっていましたが、それは大きな理由ではありません。結局は物事を上手く運ぶことができてしまいましたが………。」

 

 「じゃあ他に大きな理由があるというのかい?」

 

 「ええ。………フィン様、カロン様はどうしようもなくお人よしなのですよ。」

 

 リリルカはそういってコーヒーを啜る。なかなか苦味の効いた美味だとリリルカは感じる。

 

 「それは確かに否定できないかも知れないね。」

 

 「当初はリリをサポーターの見本とする為にレベル2に上がったら引き抜くとおっしゃっていましたが、今になって考えるとアレはおそらく詭弁です。」

 

 「詭弁かい?」

 

 「ええ。本当は一刻も早く引き抜こうとしていたと思います。カロン様は状況が良くないリリと心が痛んで落ち着かないリュー様を落ち着かせる為にリリを引き抜きました。リリが今カロン様のお役に立てているのはどちらかというと結果論です。カロン様は以前に言ってたんですよ。リュー様を復讐から遠ざけるためにリリを引き抜きたいと。」

 

 「それが真実だろうね。」

 

 「ええ。その時のリリには他人のために大金を出すなんて信じられませんでしたが、その言葉がどうしようもなくリリの心に引っ掛かったのも事実でした。」

 

 「なるほどね。」

 

 「カロン様はリュー様とリリの両方にとってプラスになると判断してリリを大金を出して引き抜きました。リリの存在がリュー様を癒してリリには安寧をもたらそうという目論みで。別にレベル2に関してはどうでもよかったんですよ。ただ、リリを見たカロン様がそれらしい理由をでっちあげないとすれてるリリに疑われて引き抜きが失敗してしまうと判断したのでしょうね。それでリリが魔法を持っていることに気付いたカロン様が、これ幸いとばかりに魔法を持っている価値のある人間だからすぐにでも引き抜きたい、というそれらしい理由をでっちあげたわけです。」

 

 「なるほど。カロン大団長らしいね。」

 

 「まったくその通りです。でも仕方がありません。当時のリリは確かに初見の人間を信用できる状況ではありませんでしたから。それだったら明確にリリを引き抜く目的を話せばそれが納得できるものであればリリも多少は信用ができます。その納得できる理由は結局そこまで大きな理由ではなかったわけですが。少なくとも他人を救いたいためだけに大枚を叩くなんていう荒唐無稽な理由に比べれば信用できます。」

 

 「そうだろうね。」

 

 「それで何かの為に動いていないとリュー様とカロン様は心が痛んでやるせないから、とりあえずの目標としてサポーター育成と連合成立をでっち上げました。それは必死に動いているうちに結局上手くいきそうになってしまったわけですが、ここでカロン様に少し欲がでました。」

 

 「欲が、かい?」

 

 「ええ。当初は偽りの目的でしたが、冒険者の損耗を防ぎたいというカロン様の気持ち自体に嘘はありませんでした。それで物事が上手く行って実際にサポーター育成ができてしまったわけです。そこでカロン様とリリには欲が出てしまったのです。」

 

 「なるほど。」

 

 「リリはカロン様に見出だされたわけですが、ではカロン様に見出だされなかったリリのような方々はどうなるんでしょうか?誰にも手を差し述べられないままなのでしょうか?」

 

 「それは………君に課せられる義務じゃないだろ?」

 

 「もちろんです。リリに彼らを救う義務はありませんね。しかしリリが彼らを助けたいと願う権利はあるでしょう?例えそれが傲慢だとしても偽善者だと罵られたとしてもリリは喜んでその謗りを受けますよ?リリはリリのやりたいようにやるだけだと。リリはいつだってここにいるリリなんです。」

 

 「………………。」

 

 「欲が出てしまったんですよ。フィン様。リリにも何かたくさんのことができるんじゃないか、って。そしてたまたま誰かのせいでリリにその能力があって連合にはその力がありカロン様はリリに好きに生きることを望んでいらっしゃいます。カロン様の優しさに報えることはリリにとって何よりの喜びです。リリはカロン様の優しさがどうしようもなく好きなんですよ。………少し話しすぎてしまいましたね。」

 

 リリルカは笑いながらそういって伝票を掴んで席を立ち去る。

 後に一人残されたフィンは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。

 

 「………また負けた。つくづく敵わないな。カロン大団長は娘をどれだけタフに育てたんだい?僕が払うべき伝票まで持って行かれてしまったよ。」

 




会議に対するスタンス
カロン
「俺が顔を出してしまうとみんな俺の意見を求めるだろ?みんなで話し合うべきだ。」
リリルカ
「それでも決定した結論だけは確認しておくべきです。」
リュー
「そんなことより鍛練です!」
カロン
「………お前のその脳筋はもうどうやってもなおらんのか?」

そして前回の話の補足です。
フィンがカロンの腹黒さを気に入った理由は、カロンが擦り寄ってきた理由がリューを護るためだと気付いていたからです。
それでしばらく様子を見てみたところ、アイズがリリルカと関わって他者を扱う能力に成長を見せたため、これはアリだなと。
リリルカは無意識にアイズを他者の教育の練習台にし、アイズは自分にない能力を持つリリルカを尊敬します。
カロン達がアイズの成長を促し、ロキファミリアが暗黙にカロン達に守護を与える。
つまりここでも互いに利益のある関係が出来上がるのです。
そしてフィンはリリルカを見たときに初めてアイズの成長の理由を理解しました。


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灰の英雄の続き

 必死に戦火を生き抜いた英雄に王様は言います。[よくやった。もう一息で敵の息の根を止められる。]

 百戦錬磨の英雄は答えます。[敵は追い詰められて必死だ。警戒するべきだ。]

 王様はそれに答えます。[俺達の勝ちだ。お前にもう用はない。]

 

 英雄は王様に牢屋に閉じ込められてしまいました。

 王様は笑います。[以前俺に逆らった罰だ。お前は処刑だ!]

 英雄は笑って答えます。[俺は罰など受ける謂われはない。]

 そこへ兵士が入ってきます。[王様!我々は負けそうです!]

 王様は答えます。[どういうことだ?]

 兵士が答えます。[味方は笑う英雄がいないと言って士気が下がり、敵は嗤う怪物がいないと言って士気が上がっています!]

 

 王様は兵士のその言葉にうろたえます。王様は悩みます。

 王様は命令します。[英雄よ。敵を追い返したらお前の望むものをくれてやる。]

 英雄は笑って答えます。[ならば俺は家族と一緒に国を出ていこう。いい加減に愛想が尽きた。]

 王様は困ります。[お前の家は弱小とはいえ貴族の家系だ。出奔など許されるわけがないだろう。]

 英雄はやはり笑って答えます。[俺は戦いで死んだことにすればいい。呑めないならあなたは断頭台行きだ。]

 

 戦いは終わり、英雄は去ります。英雄の仲間もどこへ行ったかわかりません。

 しかし人々は英雄の笑顔を忘れることはありませんでした。

 王様は英雄は戦死したと発表しましたが誰一人信じませんでした。

 英雄はきっといつまでも笑顔で家族と一緒に暮らしたことでしょう。

 

 ◆◆◆

 

 ここはアストレア連合ファミリア大団長室。ここで私は今大団長のカロンと向かい合っていた。

 

 「どうしたんだ?リュー。なんか話があるとか?」

 

 「ええ、話というか聞きたいことですね。以前からずっと不思議だったのですよ。あなたが死線に際して突然強力過ぎるスキルが発現した理由です。私が思うに………あなたが前々から隠していた姓の話と何か関係があるのではないですか?」

 

 その言葉にカロンは天井を見上げる。

 

 「今の俺はここにいる俺だよ。」

 

 「またそうやってごまかしますか………。もうそろそろ私にくらい教えてくれても構わないでしょう?何年一緒のファミリアにいたと思っているんですか?」

 

 「まあそうか………。そうだな。話をするか。」

 

 カロンはそうしてぽつりぽつりと話を始める。

 

 「何から話したものかな?まず俺の姓は灰の英雄譚に出てくる灰の英雄と同じだな。」

 

 「………あなたは子孫だという事ですか?」

 

 「さあ?ウチの親父は生前一回だけそうだと俺に話していたが信憑性がある話ではないな。眉唾ものだよ。」

 

 「どのような話か聞いても?」

 

 「ああ、嘘臭いんだが何か親父の話によるとウチの家系は代々護国の騎士の家系だったらしい。どこぞの国内で結構有名だったらしいんだが………。」

 

 「それがどうして今ここに?」

 

 「親父もはっきりしたことは言わなかった。ただ親父の推測混じりの話になるがどうやら先祖が信用できない人間に使われるのが嫌になったのではないか、という話だ。」

 

 「なるほど。」

 

 私は考える。彼のスキルは強力過ぎる。何らかの関係があっても不思議ではない。

 

 「それで俺達家族はずっと流れの商売人で生計を立てていたんだが金品目当ての盗賊に襲われて、な。」

 

 「………………。」

 

 「それで俺だけが助かってしまって行く宛てがなかったから近くにあったここに流れ着いたんだ。………前の家族との繋がりはもう名前だけだな。悪目立ちするかもしれないと思ったけど捨てられなかったよ。」

 

 「………あなたは家族を奪われるのは二回目だったのか。………思い当たる節があります。あなたは神にでも不敬だったし誰にも物怖じするそぶりを見せなかった。そうするだけの理由がなかったということですか。」

 

 二回も家族を失うことになったのであれば彼にとって神が救いとは思えなかったのだろう。無理に敬えというのは横暴だろう。いつだって彼の前にある問題は彼だけが解決するしかなかった。今の俺はここにいる俺、か。誰にも助けを求められなかったのだとしたら、案外その言葉には万感の思いが込められているのかも知れませんね。

 

 ………やせ我慢の英雄はそうやってできているのでしょうか?

 

 「俺が不敬なのはあまり関係ないな。俺自身の性格だよ。まあそんなわけで強力なスキルはもしかしたら俺の家系と関係あるのかも知れないしそうでないのかも知れないし………。死んだ家族が俺を護ってくれたとかだったらロマンチックだな。」

 

 そういってカロンは薄く笑う。寂しい笑顔だ。

 

 「しかし思い当たる節があります。あなたはいつも笑顔でいつも仲間を鼓舞し続けていた。灰の英雄と同じです。仲間と共にあるのも同じです。」

 

 「それは関係ないんじゃないか?彼には彼の笑う理由があったんだろうし俺にも俺の笑う理由があるんだろ?」

 

 「灰の英雄は家族を護る為に内心の恐怖を必死に押し殺して笑いつづける英雄です。あなたもそうなのではないのですか?」

 

 「………それはうがち過ぎだよ。俺はいつだって楽観的さ。いつだって明日はいい日だと信じつづけて笑ってるんだよ。仮に俺が灰の英雄と似たような道行きを辿ったとしてもなにもかもが同じじゃないさ。俺はいつだってここにいる俺なんだ。」

 

 彼はそういって笑った。

 

 「………ふむ。確かにそうなのかも知れませんね。英雄譚に語られる灰の英雄があなたのように口が悪いとも思いづらい。彼は仮にも英雄だ。」

 

 「よりによってそこかよ………。口が悪いのは認めるがもっといっぱい違いがあるだろう?」

 

 「例えば?」

 

 「うーん例えば………何だろう?」

 

 「思いつかないんじゃないですか。」

 

 私は笑ってしまう。

 

 「………もしかしたら灰の英雄は俺と違って………。」

 

 「違って………?」

 

 「チビだったかも知れないだろ?」

 

 「いえ、リリルカさんが英雄譚に大男だったと書いてあるといってましたね。」

 

 「マジかよ………。ああそういえば以前にリリルカが灰の英雄を推していたな。」

 

 「ええ、その通りです。彼女はその時からあなたと似ていると気付いていたんでしょう。だからあんなにも強情だった。」

 

 「内心複雑だったよ。関係あるかは結局わからんけどな。」

 

 「そういえばあなたはなぜアストレアファミリア入団を決意したんですか?あなたは正義とかにこだわりがあったとは思いづらいですが?」

 

 「何だったかな?もう結構前の話しだしな。たいした理由ではなかったような………いやそうではないな。そうだ。思い出した!俺があまり金を持ってなかったんだ。盗賊に襲われて必死に逃げててさ。それでたまたま薄汚れた俺を見かけたアストレアの先輩が飯をおごってくれたんだ。俺達は正義の味方だから、って。それでお前はガタイがいいからアテがないなら入団を考えてみたらどうだ、一緒に正義を目指さないかって。それで俺は行く宛てがなかったからそのままアストレアの入団試験を受けたんだった。」

 

 「なるほど。それでその盗賊はどうなったんですか?」

 

 「もうわからないことだな。あのあとオラリオに逃げ込んだからさ。あの頃はまだ子供といって差し支えのないような年頃だったしさ。もう知る由もないな。」

 

 「………しかし私たちが全滅したときには二度目の家族を失う辛さを味合わせてしまった。」

 

 そして彼はその時真っ先に復讐ではなく残った家族を護ることを選んだ。

 

 「いや、それでも皆良くしてくれたし俺は楽しかったぞ?もちろんいなくなったときは悲しかったけど。それに悲しかったのはお前も同じだろ?」

 

 彼は事実どうしようもなく悲しかったのだろう。それでも彼は笑っていた。これがやせ我慢でなくてなんだというのか?私達はずっと彼の大きくて温かな背中に護られ続けていたのか。しかし明るく笑うその裏では彼はいつも悲しくて泣いていたというのか?

 

 「私はずっとあなたの恐るべき精神的な強靭さに助けられてきました。あなたはあんな事があっても笑いつづけていた。あなたはやはり灰の英雄なのでしょう。」

 

 彼は舌を出した。彼のよくやる癖だ。大男だし全然似合ってない。爪の先程の可愛いげもない。しかし目の色は嫌いではない。

 

 「仮に同じだったとしてもたまたまだよ。ただの偶然さ。俺はいつだって笑いたいから笑っていただけだ。」

 

 しかし私は知っている。彼が内心必死だった事を。私は先程の会話で彼が一瞬詰まったのを覚えている。

 そして必死にも関わらず彼が笑いつづけていたというのなら、英雄譚の家族の役割はきっと私だったのだろう。リリルカさんやアストレア様やミーシェさんもか。おまけでヘスティア様も入れてあげようか?

 

 「それにしてもあなたは灰の英雄の縁者だったんですか。」

 

 「わからんといってるだろ?」

 

 私は彼の真似をして舌を出す。私にそれを聞く義理はない。

 仲間を殺されて絶望に囚われ、灰色だった私の世界を必死に鮮やかに彩ってくれたのは彼だ!他の誰でもない、カロンなんだ!

 彼が私を何が何でも護るというのなら私も何が何でも彼に報いましょう。

 

 「灰の英雄は護る家族がいなくなると最終的に怪物になってしまうハズです。あなたは変人でほっとくと何をしでかすかわかりませんし、仕方がないから長い間同じファミリアのよしみで私が責任を取ってずっと付き添ってあげましょう。」




なんかティオナさんと少し似た境遇になってしまったと今頃気づいてしまいました。
お遊びバタフライエフェクト
カロンがリリルカに教育を行う→必死に一人で生きる学習意欲の高いリリルカが成長する→リリルカと関わるアイズが成長する→アイズが次期団長になる→本来の次期団長だったラウルさんが完璧な脇役になってしまう というわけでラウルさんは出て来ません。


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灰の英雄のさらに続き

あとがき

 

 皆様には信じられないような内容だったかも知れませんが、灰の英雄は実在した人物です。私たちの国では、彼に助けられて今なお絶大に彼を支持しつづける人々がたくさんいます。

 

                 ~(中略)~

 

 彼は私たちの元から去っていってしまいましたが、私たちは彼が今もなお笑顔だと信じています。灰の英雄はいつだって笑顔で私たちを助けてくれたんです。

 最後になりますが、私たち灰の英雄の支持者は彼が今もなお明るく笑いつづけていることをいつだって心より祈っています。

                                               【灰色の英雄譚、後書きより抜粋】

 

 ◆◆◆

 

 「はあ、はあ、はあ。クソッ。」

 

 ここはオラリオの路地裏。ここで今、連合()大団長のカロンは三人の敵に追われていた。

 

 「あっちに逃げたぞ!」

 

 「挟み込め!決して逃がすんじゃねぇ!」

 

 「絶対にぶっ殺してやる!」

 

 三人はカロン達によるオラリオ闇派閥掃討作戦(フリュネの逆ハーレム作戦。闇派閥撲滅!凄惨なるカロンの復讐劇参照)から辛くもひそかに逃げ延びた闇派閥の残党だった。三人の内訳はレベル2が一人とレベル1が二人。なぜ今になって襲うのか、それはカロンが大団長引退式を行っていたためカロンはもう戦えないのではという噂がオラリオでは流れていたからである。

 後のない彼ら三人は、噂を信じてなりふり構わず後先を考えずにオラリオで襲い掛かって来たのだ。

 カロンにとって敵はステータスが健在である時ならものの数にもならない相手であるが、今のカロンはステータスを持たないただの非力な一般人である。

 

 ーークソッ!やはりダメか。直に追いつかれてしまう。

 

 カロンは必死で逃げ惑う。彼は生きて家族の元へと帰るために必死であった。

 

 ーーこの先は行き止まりだったはずだ。チクショウ!

 

 カロンは行き止まりに突き当たる。それを見た闇派閥は笑いながら近寄ってくる。

 

 「どうやらてめえの命運も尽きたようだな?この薄暗い路地裏がてめえの墓場だ。」

 

 笑いながら告げる闇派閥にやはりカロンは笑いながら切り返す。

 

 「お前ら大丈夫か?俺に勝てると思ってんのか?それに俺に手を出したら連合がただじゃおかねぇぜ?今ならまだ逃げられるんじゃねぇのか?お前ら連合とロキとフレイヤを敵に回してどうするんだ?悪いことは言わねえ。今のうちに逃げ出すこった。」

 

 ステータスが消し飛ばされてスキルが消えても、カロンの培われた交渉能力は健在である。その言葉に闇派閥は心を揺さぶられる。

 

 「う、うるせぇ!テメエが逃げ出したのはもう戦えないからだろうが!俺達にはもう後がねェんだ!死ねっ!」

 

 「おいおい?後がないなんてことはねぇぜ?真っ当に罪を償って出てくりゃいいだろ?連合には更正施設もあるぜ?」

 

 「黙れっ!!」

 

 そういって闇派閥は襲い掛かってくる。真っ先にレベル2の拳を腹部に受けたカロンはくの字に体を折り曲げ、路地裏にうずくまる。

 

 「俺達にはタップリとてめえに恨みがあるからな。楽に死ねると思うんじゃねぇぞ?」

 

 そういって三人掛かりでカロンを袋だたきにする闇派閥。

 

 ーーこれは………まずいな。クソッ。

 

 カロンは幸か不幸か我慢強い。例えステータスがなかったとしても。そして我慢強いカロンは決して声を上げない。

 

 ーーリュー………リリルカ………アストレア………ヘスティア………ミーシェ………連合のみんな………

 

 カロンは生きて帰ることを強く願う。

 

 「おら、どうだ?痛いか?」

 

 カロンを殴る三人、彼らはカロンを長くいたぶるために敢えて加減をしていた。

 カロンは幾度も殴られ口から血を止めどなくはき、体の至るところを骨折していた。

 そしてカロンは決して声を上げない。声を上げていたら彼らの嗜虐心はそそられてより苛烈な攻撃を加えられていただろう。おそらくすでにカロンはやられていたはずだ。カロンはたとえステータスがなくともどこまででもしぶといのである。そしてやはりカロンは笑う。

 

 「ちっ!気持ちのワリイ奴だ。いつまでもニヤケやがって。そろそろ終わりにしてやるか。感謝しな。」

 

 そういってレベル2が剣を取り出す。トドメを刺そうとしているのが見て取れる。

 

 ーーみんな………俺は………生きて帰るんだ………

 

 カロンはボロボロになって意識を失いそうになってもなおも剣から目を離さない。

 生きて帰ることをあきらめない。

 

 誰もそれに気付かない。

 カロンの願いに呼応して、ステータスを消し飛ばされたカロンにたった一つ最後に残されたスキル【灰の英雄】が先程よりひそかに灰色に鈍く輝いていた。

 

 「じゃあな、クソ変人ヤローが!!」

 

 そういって敵は剣を振り下ろす。

 

 ーーさよならか………リュー。

 

 ーーーーーガキッッ!!

 

 「な、なにっ!?」

 

 突如振り下ろされた片手剣に割って入る短刀。予想外のことに闇派閥はうろたえる。

 

 「カロン、あなたはもう戦えないし今やあなたはオラリオの要人です。あれほど護衛をつけて出歩いてくださいと言ったでしょう?出かけるならちゃんと私に声をかけてください!」

 

 「リュー!!」

 

 颯爽と修羅場にあらわれ家族(カロン)を救う一陣の風。高レベルのリューの登場に闇派閥は酷く狼狽する。

 

 「テメエは俺のサンドバッグだといっただろーが。俺以外の雑魚にやられてんじゃねーよ。」

 

 「ベート!!」

 

 またも何者かがあらわれる。彼はベート、リューに続いて二人目の高レベル。闇派閥は絶望を感じる。

 

 「貴様はこの俺と引き分けた程の剛の者だ。簡単に死ぬことは許さん!」

 

 「アステリオス!!」

 

 ついにあいつまで来た。アステリオスのそのあまりの威容に固まる闇派閥。

 

 「カロンさん、オレッチ達も忘れんなよ!」

 

 「リド!!みんなも!!」

 

 モンスターファミリアまで堂々と姿を現してしまった。これはいいのか?

 数にも囲まれ震える闇派閥。

 

 「元大団長、元副団長の言うことを聞いてください。」

 

 「万能者!!」

 

 もうダメだ。俺達三人にどこまで人員を動員するつもりだ!?

 

 「はい、これ私が作ったポーション。私たちの生活にハリが出たのはあなたのおかげ。」

 

 「ナァーザ!!」

 

 また来た!?目の前が真っ白になる闇派閥。

 

 「カロン、助けに来たぜ!」

 

 「変人、貸しを返させるまでは死なせんぞ!」

 

 「ヴェルフに椿!!助かったぞ!」

 

 何なんだ!?まだ増えるのか!?どれだけ増えるんだ!?

 闇派閥はこの数分で歳をいくつもとったかのように生気がない。

 

 「貴様にはタケミカヅチを紹介してもらった借りがある。借りは返さんとな。」

 

 「ゲゲゲゲゲッ、変人。あんた相変わらずいい男だね?後でタップリと相手してもらうよ?」

 

 「イシュタル!!男殺し!!残念だがお前の相手はできん!!」

 

 またあらわれた。どうすんのコレ?他の闇派閥を葬った怪物(フリュネ)まで!!闇派閥はあまりのことに吐き気を催す。

 

 「カロンさん、ご無事ですか?」

 

 「ベル、お前は現役の大団長だろう?忙しいんじゃないのか?」

 

 「僕よりアスフィ副団長やナァーザさんの方が忙しいはずです。」

 

 連合最強まであらわれる。後ろには仲間の桜花、命、千草、春姫を引き連れている。泣きそうになる闇派閥。

 

 「大団長!!大丈夫か?」

 

 「バラン、お前脇役ではなかったのか?それに大団長はもう辞任したと言っただろう?」

 

 「俺もベルもその呼び方にまだ慣れねえんだよ。それに脇役が主役を助けちゃいけないなんて決まりはないとどこかで聞いた覚えがあるぜ?」

 

 「自分で脇役と認めてしまうのか!?」

 

 連合元ヘスティア団長のバランもあらわれる。闇派閥に特に変化はない。

 

 「「「「大団長!!」」」」

 

 「ビスチェ、ブコル、ベロニカ、ボーンズ!!」

 

 おいおい、ちょっと多過ぎないか?

 

 「「「「リュー様ぁぁっ!!」」」」

 

 暴蛮者とアポロンとカヌゥだ。

 アレ?なんで千の妖精(レフィーヤ)までおるんだ!?お前らはカメラなんぞ抱えて何しとるんだ?週刊リューの取材か?

 

 「僕達の盟友に手を出すとはずいぶん肝が据わってるね。これっぽっちも手加減するつもりはないよ?」

 

 「勇者!!アイズ!!九魔姫に怒蛇、大切断、門番達も。ロキファミリアか!!」

 

 フィンはこの時期はすでにロキファミリア団長をアイズに任せて引退していたが、カロンの危機にわざわざ出向いていた。

 フィンのその怒りを湛えた黒い笑顔に闇派閥はついに泣き出してしまう。

 

 「………フレイヤ様はお怒りだ。」

 

 「猛者!!」

 

 オラリオ最強まで。後ろには殺気立つアイン、イース、ウルド、エルザ、オーウェンを引き連れている。闇派閥は泣きながら気が遠くなりそうになる。

 もうダメ。その圧迫感だけで死にそう。俺達たった三人だぞ?

 相手はもうすでに数えきれないほどに膨れ上がっている。

 

 「俺達の友に手を出そうとか、なあ、どう思う?ガネーシャ?」

 

 「俺がガネーシャだ!俺は友に手を出す奴は決して許さん!!!!」

 

 「タケミカヅチ!!ガネーシャ!!ガネーシャ、お前は中立なんじゃなかったのか?」

 

 「友の危機にそんなつまらんことを言うな!」

 

 「ああ、そうだな。済まなかった。」

 

 武神とさらには同盟を結んでいないはずの民衆の王まであらわれる。彼らはそれぞれ後ろに改名したヘスティア連合の冒険者及びサポーターとガネーシャ憲兵を引き連れている。あまりのことに闇派閥の顔は見事なまでに真っ白になっている。

 

 「リリ達の敬愛するカロン様に手を出そうとはずいぶんですね。連合は今やオラリオを掌握する巨人です。連合の怒りはオラリオの怒りです。オラリオは今心底怒り狂っています。お望みのようですし、タップリと生き地獄を味わわせて差し上げましょうか?」

 

 「リリルカ!!」

 

 リリルカまでもがあらわれる。気のせいか背後にどす黒いオーラを纏っているように見える。幻覚か?威圧感も凄まじい。

 ………フム、これはもしやアレか?ラスボスは最後に出てくる的な。

 

 三人の闇派閥はリリルカのその言葉に失禁して白目を剥いて泡を吹いて気絶している。

 

 「情けないですね。この程度で気絶するなんて。今のうちにガネーシャ様方に引き渡してしまいましょう。」

 

 この程度?むしろオラリオの冒険者の総力に近くないか?

 しかしリリルカは笑う。

 

 「この程度はリリやカロン様だったら笑っていなしますよ?」

 

 ………それは俺を買い被り過ぎだ。これなら俺だって気絶しかねんぞ。

 リリルカ、おそろしすぎるだろう。

 

 ◇◇◇

 

 ところ変わってここは連合内医務室。ベッドで寝込み手当をされる俺。側にはリューとリリルカがいる。

 

 「お前達どうやって俺が襲われているのを知ったんだ?」

 

 それにリューが答える。

 

 「元イケロスファミリアヅテに闇派閥の生き残りがひそかにカロン抹殺をたくらんでいるのではないかという情報が入りまして………それで勝手に出かけたあなたを大慌てでみんなで捜していたわけです。」

 

 「リリルカのそのイケロスファミリアまでも役に立たせる手腕は相変わらずすごいな。でもどうやって俺を見つけたんだ?」

 

 「それが………灰色の光に呼ばれているような感覚がありましてそれに従って捜していたら見つけました。」

 

 カロンは知らない。彼に最後に残されたスキル、灰の英雄を。カロンは笑う。

 

 「そうか。いずれにしろ助かったよ。悪人でも少しやり過ぎかとも思ったが。」

 

 あのあと敵は気の済まないリューがたたき起こしてボコボコにしていた。カロンがやられた分だと言っていた。かわいそうに。ガネーシャさえも腹に据えかねたのか黙認していた。

 普通の鍛練でナイトメアなリューの逆鱗だ。内容は察してほしい。

 

 「私の仲間は奴らに殺されました。その恨みを時の流れに流してあげてるんだから十分過ぎる温情です。」

 

 まあ、そうだな。まあこれくらいは黙っておくか。

 

 「しかしどうしてあなたの居場所に気づけたのでしょう?リリルカさんはわかりますか?」

 

 「灰の英雄は窮地に陥っても仲間が必ず駆けつけて逆転していたと聞きます。まああまり考えないほうがいいのでは?」

 

 リリルカには珍しい思考放棄。それはリューの特権のはずだぞ?

 

 

 

 

 灰の英雄、強力なはずの黒いスキルと白いスキルさえも足元にも及ばない至高のスキル。

 人々の敬意を束ねて心を一つにまとめる英雄(カロン)を象徴する(スキル)

 灰の英雄スキルは死ぬべき運命すら捩曲げて、いつだって保持者を笑顔で家族の元へと帰らせる。

 

 英雄はいつだって笑顔なのである。




イシュタルはタケミカヅチとの幸せな日々にフレイヤへの恨みを忘れています。そしてある日そのことに気づいて自身の恨みはその程度のものだったのかと思い、綺麗さっぱりあきらめます。
そして連合の更正施設には特別教官としてあなたのリュー様が………
それとアスフィさんをリュー様の後釜にしてみました。

カロンの敬意はオラリオに対して住みよい環境という明確なメリットを提示することで得られます。ここでもまたカロンとオラリオの間で互いに利益のある関係が出来上がるのです。

評価をつけてくださった方、高評価ありがとうございます。


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超絶駄話~フィンの受難~

唐突人物紹介

 リリルカ・アーデ(魔改造リリルカ)・・・原作様においては主人公の仲間でサポーター。拙作においてはアストレア連合ファミリアの頭脳にしてのNo.3。役職はアストレア連合統括役。原作から最も掛け離れてしまったといえる人物。上役としてカロン大団長とリュー副団長が存在するも、この二人がリリルカに怒られているところを見ることも多い。そのために実質的なオラリオの最高権力者なのではないかと噂されている。

 他者の教育において多大な知見を持ち、レベルも2のサポーターであるため今現在冒険者として名を馳せている者達の中でも彼女のお世話になったものは多く、彼女を怒らせることはもはやオラリオを怒らせることだと言われている。実は、拙作においては早い段階で主人公がソーマの改革を彼女に丸投げたことが、周りに回って彼女を大きく成長させる一因となった。それと黒いスキルの成長を促す効果と彼女自身の強い学習意欲の相乗効果である。ちなみにソーマ改革の際、一緒に着いていたリューは頭脳面では全く役に立たなかった。

 しかし彼女は小人であるために身長的には小柄であるため、実はオラリオ内では密かに巨人殺しのロキファミリアですら手も足も出ない小さな巨人というあだ名が流れている。本人はそのことを知らない。

 なんかもはや魔改造リリルカタグよりもラスボスリリルカタグの方がしっくり来る気もする。それはつまり連合には忠誠心MAXのラスボスがいるということなのか?道理で連合が異例の速さで大きくなるわけである。

 説明長いな。

 

 フィン・ディムナ・・・原作様においてはロキファミリアの団長を務める英雄。拙作においてはアイズが魔改造リリルカと深く関わってしまったために劇的に指揮能力が向上してしまったためにフィンのやることがなくなってしまう。カロンが引退する少し前にアイズに団長を譲る。以前にサポーターをアストレア連合から借り受けた際に、リリルカの腕前に感服する。それ以来事あるごとにリリルカを気にかけるようになってしまった。当然の恋の始まりである。

 

 シル(アストレア連合顧問相談役、聖女シル)・・・原作様においては酒場に務めるウェイトレス。拙作のアストレア連合においては、アストレア混迷期にアストレアの女性陣を優しく包み込んで相談に乗りつづけてくれたことからアストレアの女性陣(とベート)に勝手に聖女認定される。さらに、困ったときのシル頼みとして勝手に連合の相談役にされるも、給料は出ていない様子。本人はそのことに気づいていない。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 やあ。僕の名前はフィン。肩書はロキファミリア()団長。僕は精神的に成長して安定したアイズにロキファミリアの団長をすでに任せて退団していた。なぜなら僕にはどうしてもやり遂げなければならないことがあったからだ。

 

 ーー対象は路地裏か。気付かれないようにしないとな。

 

 そう、僕には足りないものがあった。僕の夢は一族の復興。そのために必要不可欠なのが僕のお嫁さんだ。ティオネ?ないない。フィン×ティオネの方ごめんなさい。

 

 ーー対象はカフェに入るようだな。一緒にいるのは万能者だな。

 

 そう、僕には足りないものがあった。彼に気づかされたんだ。彼は大切なもののためになりふり構わずあらゆる手段をとった。ベートの引き抜きだけは失敗していたけど、他はだいたい物事を成功に導いていたんだ。

 彼はベートの獲得に当たって、ストーカーという手段をとっていた。僕もなりふり構わずリリルカさんをものにしなくちゃね☆

 

 

 

 

 

 なぜ唯一失敗したベート獲得の手段を真似てしまったのか?誰か(作者)悪意(ギャグキャラ化)がフィンを襲うーーー

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「や、やあリリさん、奇遇だね。」

 

 緊張する四十路。追いかけるは十代。出動間近なアストレアファミリア(正義の味方)。構想もへったくれもなく書き出してしまった後悔が早くも誰か(作者)を襲う。というよりこの設定の時点ですでにフィンには受難以外の何物でもない。

 

 「フィン様、またですか。ストーカーはやめてくださいといったはずですが?」

 

 「リリさん、やっぱりどうしてもダメなのか?アストレアとロキは対等な盟友。僕たちの仲をきっと祝福してくれるはずだよ。」

 

 僕は焦っていた。あの到底モテるとは言えなかったベートすらも誰か(作者)の謎の力によってアイズと結婚していた。ヘスティア様もベル大団長と結婚したし、タケミカヅチ様もイシュタル様と結婚するという謎の超展開。挙げ句の果てにはついにはリヴェリアとガネーシャ様の謎過ぎるカップルまで成立していた。どこまでも暴走する誰か(作者)に僕はどうすればいいのかわからず、藁を縋る気持ちでカロン前大団長の真似をしていた。

 

 「………前にも言ったと思いますがリリはアストレアファミリアの役に立つことが至上目的です。」

 

 「カロン前大団長がいないのにかい?」

 

 「カロン様はリリにそれを望んでいます。」

 

 「でももう連合はキミがいなくても回るはずだろ?前大団長もキミの幸せを願っているだろうし僕が絶対に幸せにするよ。ロキファミリア団長ももうやめたし危険なダンジョンも潜ってないし。」

 

 「つまりはニートなわけですね?稼ぎがなくてどうするのですか?リリの稼ぎを宛てにしているのですか?」

 

 「貯めた資金が十分あるしイザと言うときはロキに借りればいいよ!アイズやリヴェリアもお金持ってるし!」

 

 「ヒモじゃないですか!アイズ様も浮かばれませんよ!」

 

 「ヒモなんかじゃないよ!アイズだって僕のことを信じてくれてるはずだ!」

 

 「何をどうしたらそういう発想になるのですか?リリはこの間アイズ様に相談をされましたよ!?フィン様が団長を辞任してマダオになったって。」

 

 「そ、そんな馬鹿な!じゃあベートは!?ロキは!?リヴェリアは!?」

 

 「まずベート様はアイズ様至上主義なのでありえません!リヴェリア様は泣いていらっしゃいました!ロキ様も大変悩んでアルコールの量が増えてらっしゃいます!どうするんですか!?」

 

 「そ、そんなバカな………。」

 

 「………まあリリも少し言いすぎました。ベート様はさておきリヴェリア様が泣いていたのはガネーシャ様と喧嘩していたせいの気がしますし、ロキ様は良く考えたら昔からアル中でした。でもフィン様はありえません。この間リリの写真を勝手に撮影してヘルメスファミリアに抱きまくらの作成を依頼してましたよね!?」

 

 「それについては反省してるよ!どうしてもダメなのか?僕はキミのためならオラリオを全裸で走っても構わない。むしろ僕にとっては喜びだ!あ、でも露出癖があるとかそういうわけじゃないよ?でも………悪くないかもしれないな。………そういえば全裸といえば以前ベートがダンジョンでーーー

 

 「やめてください!!もう帰ります。あまりひどいとアストレア治安維持部隊に連絡する事になります!!」

 

 「リ、リリさぁぁぁん………。」

 

 

 

 目の前が真っ暗になった僕は泣きながら家に帰った。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは豊穣の女主人

 

 「ぐすっ、なんで、なんで、リリルカさんは僕には見向きもしてくれないんだああ。」

 

 「お客様、私はシルといいます。四十路の泣き顔なんてキモいだけなので早く帰ってください。」

 

 「ヒドくない!?」

                                            フィンだけにFIN




ノリで書いた。後悔はしてない。反省はしている。次回最終回です。
蛇足
ガネーシャ回の話
空を飛ぶ護りの艦。暗示です。空がリュー、護りがカロン、艦がファミリア、アストレア様とヘスティア様は神様の役目です。艦はたくさんの人々を乗せて護り続けます。


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無題

 「元気にしていたようだな………。」

 

 「ああ………。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 この日は俺達に三人の来客があった。俺にとってもリューにとってもアストレアにとっても思い出深い来客だ。

 

 ーーーーーーコン、コン、コン

 

 「入ってくれ。」

 

 ここは大団長を引退した俺個人に与えられた私室だ。俺とリューとアストレアはソファーに座って来客を待っていた。

 ずっとずっと逢いたかった。もう逢うことはないとも思っていた。ただただ切なさと寂しさと暖かさがない交ぜになった何とも言えない気持ちだった。

 来客はおずおずと入室してきた。

 

 「良く来てくれた。座ってくれないか。」

 

 俺は着席を勧めた。しかし三人は座らない。何やら戸惑った様子だった。

 

 「是非座ってください。私もあなたたちにいつかまた逢えることをずっと心待ちにしていました。」

 

 彼らはあの悪夢の後にアストレアファミリアを去って行った同胞達だ。彼らは事件で一命を取り留めるも、恐怖してファミリアから去っていった。

 彼らもただただ寂しかったのだろうか?俺達の面会を希望するという話をミーシェヅテに聞いた。

 俺達に逢いたいと思ってくれたのか。俺は二つ返事で逢うことにした。

 

 「どうした?座ってくれないか?」

 

 俺が彼らに聞く。

 

 「………座ってもいいのか?」

 

 彼らの一人がそう応える。俺は微笑んだ。

 

 「もちろんだ。お前らは俺達の同胞だ。以前に去るときにも何かあったらまた来いと伝えたろ?」

 

 「アンタは俺達を恨んでいないのか?俺達は命惜しさにアンタらを見捨てて逃げたんだぞ!?アンタらは俺達を憎まないのか!?」

 

 彼はそういって俺達に詰め寄り涙を流す。彼らは元々アストレアファミリアに入団するほど正義感の強い人間だ。苦しかったのだろう。

 彼ら三人は確か比較的近い時期に入団した奴らだったな。彼は確かその中でもリーダー格だったハズだ。

 彼らはなおも続ける。

 

 「俺達は逃げたんだぞ?命惜しさに。たった二人残ったアンタとリューさんを見捨てて!主神のアストレア様を見捨てて!俺達はアンタらの命がどうなろうと自分達の命を優先したんだぞ!?入団の誓いを捨てて!」

 

 俺は笑った。ああ、そういえばあったな。入団の誓い。命を懸けて正義を貫く、だったかな。

 人の正義感に付け込んで命を対価に賭けさせるとはどういうことだよ!?詐欺師みたいなやり口だ。正義は人のためになってこそだ、人の役に立たない正義なんか捨てちまえ。まあ拾ってもらった恩があるから口にはせんけど。アストレアは少し気まずそうだ。

 ………イシュタルを騙した詐欺師?ああ、そうだった。どうやら俺も詐欺師だったみたいだ。

 ………旧アストレアファミリアは詐欺師の巣窟だったのか………。正義とは一体何だったんだろう?

 

 「自分の命が惜しいのは誰だって同じだよ。誰だって一生懸命生きてるんだから。そんなん別に今更さ。第一お前達は俺達よりレベルが低かったから怖がって当然だろ。むしろ良く逢いに来てくれた。俺はとても嬉しいよ。」

 

 俺はそういって笑う。

 

 「彼の言う通りです。私もあの時は確かに苦しかった。何より辛くて寂しかった。親友もいなくなってしまいました。それでも今があるのは、生きて救えた人間が存在した事は私にとって何よりの希望だったということでしょう。復讐心に打ち勝てるほどに。私もあなたたちにはただ感謝しかありません。よく逢いに来てくれました。」

 

 リューも優しく笑った。アストレアも優しく笑う。

 三人はただひたすらに泣きつづけた。リューは彼らの手を優しく握り俺はその光景をただ眺めていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「お前達はどうするんだ?望むなら連合に口を聞けるぞ?まあ職権濫用はできんから下っ端からになるが………。でもお前達レベル2だったハズだろうから他の奴らよりいくぶんか重宝してもらえると思うぞ?困った事があったら俺が何でも力になるつもりだし。」

 

 彼らは時間を置いて泣き止んだ。アストレアは気を使って退出した。

 大の大人の泣き顔とか誰得だ?俺は面白がって散々にからかった。彼らも今は笑っている。

 

 「いや、俺達には俺達の今の生活があるよ。今はオラリオの片隅でひっそりと食事処を経営してるんだ。あのあと俺達は結局オラリオから出なかったんだ。結局恩恵を捨てきれなくてさ。臆病だったんだ。いつまた襲われるかと思うとさ。三人で寄り添って悩んでた所を何とか雇ってもらえた店でさ。俺達はずっと悩んでたんだよ。俺達もアンタらに逢いたかった。アンタらが闇派閥を撃退してオラリオで大きくなっていって、今更出てきても何様だとか言われたらどうしようか?恨まれていないか?って。それでこんなに逢いに来るのが遅くなっちまった。アンタらの言葉を聞けて嬉しいよ。実はアンタはファミリア内で以前は変人とこっそりみんなに呼ばれてたんだぜ?先輩だからあんまり大きい声では言えなかったけど。」

 

 彼は笑った。俺は舌を出す。生意気な奴らだ。後輩の癖に。

 

 「カロンはあのあとオラリオ中から変人と呼ばれていましたよ。皆見る目がありますね。彼が変人と呼ばれ出したのはローガさんのストーカーになって以降の話だというのに。」

 

 リューが調子に乗る。俺は眉をひそめる。後でこの生意気なエルフになんか仕返しをせんといかんな。リューの個人的な飲み物に勝手にプロテインを混ぜてやる!気付かないうちにムキムキになるがいいさ!

 

 「ああ、それは俺達も笑ったよ。元気にしてるんだなって噂だろうから俺達にとって希望だったしさ。変人とそれを諌める小人(パルゥム)と惚けたエルフのトリオってさ。あの真面目だったリューさんはどうなっちまったんだってまた笑ったよ。小人は噂のリリルカさんの事だろ?連合の頭脳と言われている、さ?」

 

 その惚けたエルフという言葉にリューも眉をひそめる。ざまみろ。

 

 「ひどい言い草だな。俺達もお前らと一緒で頑張って生きてたのに。まあお前らが食事処を経営していると言うなら是非いかんとな。今懇意にしている店は頼んでもいないエールが次々と出てきて困っとるんだ。俺は下戸だって言っとるのに。」

 

 「ああ、是非来てくれよ。連合の前大団長通い付けとなれば店の売上も期待できるしさ。ゴブニュ謹製のカロン銅像を店の上に設置するからさ。」

 

 「それだけは勘弁してくれ。アレは俺の人生の最大の汚点だ。」

 

 「カロンの人生は汚点だらけでしょう。やれストーカーだの変人だの連合の恥だののあだ名をつけられています。」

 

 「おい、最後のは初耳だぞ!?誰がそんなことを言っとるんだ?」

 

 「リリルカさんです。彼女はカロンに散々おかしな真似に付き合わされたのでそれくらい言う権利があると言ってました。自業自得です。」

 

 リューのその言葉に俺を除く4人は笑った。俺はただ一人やり込められてしまった。ちくしょう!

 

 時は新しい年を迎える暖かな春、今年もいい年になることを俺達は願った。

                                                 FIN




こっちが本物のフィナーレです。本当に最終回です。
彼らは墓参りして帰っていきます。
このような拙作に最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。
そして詐欺、ダメ!!絶対!!

それとあともしもルートでスーパー鬱展開な番外編が残っております。鬱展開ですのでお気をつけ下さい。
本当に鬱展開です。ギャグではありません。三話あります。


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もしも編 嫌いな方が多数いらっしゃると思いますので注意して下さい
IFルート 怪物の目覚め 鬱展開なので注意してください。アンチ・ヘイト、残酷な描写も存在します。


ギャグやほのぼの系を望む方は戻ることをオススメします。


 「リューっっっっ!!!」

 

 地面に俯せで倒れて冷たくなっているリュー。俺の心はどこまでも冷えて行くのを感じた。

 

 ◇◇◇

 

 ここは少しだけ違う世界。ハンニバルがカロンではなく最初にリリルカを狙い、リューがレンに風の魔法を打ち込まなかった世界。

 

 リリルカはハンニバルの一撃で即死した。カロンは後に合流したベートと共に戦いハンニバルは討ち取った。

 レンとバスカルはそれぞれ炎と風を撃ち込まれるも何とか生き延びて退散し、ヴォルターを含む三人で襲い掛かってきた。

 彼らは手段を選ばずにオラリオで襲い掛かってきた。リューがレンとバスカルに襲われ、本拠地はヴォルターに襲われた。リューはどこかの路地裏で二人掛かりで襲われて敗北して死亡し、本拠地は無惨に壊滅させられていた。

 俺は、俺は、この時何をしていたんだ?記憶が無い。俺はどこにいたんだ?

 

 ◇◇◇

 

 オラリオに降る冷たい雨。日中にも関わらず分厚い雲に覆われたオラリオはその日は暗い一日だった。

 俺は路地裏で倒れて死亡しているリューを見つけた。リューの綺麗な顔は潰され、体はすでに冷たくなっていた。

 俺は何でここにいるんだろう?ああ、そうだ思い出した。本拠地が壊滅しているのを見て急いでリューを探しに来たんだった。ああ、じゃあもう手遅れじゃないか。

 

 「不死身、見つけたぜ!」

 

 茶髪の優男だ。見たことがあるな。確かこの間俺達に襲い掛かってきた男だ。

 

 「お前をさっさと殺して逃げないと私達もここに長く留まるのはまずいからな。」

 

 赤髪の女。こいつも見た覚えがあるな。こいつらがリューを殺したのか。

 憎いな。ただひたすらに憎い。こいつらが憎くてたまらない。

 

 「死ねっ!!」

 

 そう言って二人は襲い掛かってくる。俺には勝ち目が存在しないはずだが。

 しかし何が何でもこいつらを生かして帰すつもりはない。俺には何が残っている?リューはいない。リリルカはいない。アストレアはいない。ヘスティアはいない。なんだ。何も残っていないな。ならばこいつらを恐れる必要も何かを心配する必要も何もないな。

 

 「お前らを絶対に殺す。

 

 俺はそう言ってしまう。強く願ってしまう。そして俺は知らない。

 

 白いスキルは家族を護るためのスキル。しかし護るべき家族が存在しなくなりすでに消滅していた。そして黒いスキルのみがカロンの魂に前面に押し出されている。

 既にアストレアが天界に帰還して、本来ならば消え去るはずのステータスはなぜか一つのスキルを象取っている。それは無事を願うかつての神の祈りなのか?誰にもわからないこと。

 

 【黒い覇王】

 ・目的の為に手段を選ばない。

 ・発言で対象の思考を決定づける。

 

 目的とは何なのか?

 対象の思考、それは誰の思考なのか?

 

 ーー護りたい人間はもう誰もいない。俺がやるべきことはもうこいつらを消しつづけるだけだ。俺は絶対に何が何でもこいつらを根絶やしにしなければならない。

 

 発言で相手の思考を自在に決定づけるスキル。

 レンとバスカルは強力になった黒い鎖のスキルに即座に悪寒を感じ取り立ち止まる。

 カロンは自身のスキルにより憎い相手(お前ら)を何が何でも殺し続ける運命を決定づけられる。

 

 ーー憎い相手?闇派閥に決まってるだろう。関係した奴らも皆殺しだ。かつて家族を殺した盗賊も捜し出して血祭りに上げないといけないなぁ。

 

 そしてその思考にさらに手段を選ばない黒いスキルが密かに連鎖反応する。

 

 ーー盗賊を見つける?どうやって?そうだ!目に付いた奴片っ端から皆殺しにしてしまえばいつかはそいつらにぶちあたるだろう!

 

 「何立ち止まってるんだ?お前ら俺を消しに来たんだろ?ボヤッと突っ立ってたらお前らが死ぬハメになるぜ?」

 

 カロンの言葉。続けざまに放たれたどこまでも冷たいその声音にレンとバスカルは悪寒と震えが止まらない。そして二人は理由が分からない。しかし二人はあることに気付いてしまう。

 

 ーー誰だこいつ?

 

 見た目はカロンである。しかしなぜ?違和感?どこかが違うのか?

 

 カロンの目は青い色。光を通さない深海の昏く淋しい蒼。澱んだ濁りにひっそりと佇む怪物。

 

 ーーこ、こいつっっ!!

 

 レンは即座に理解する。

 闇派閥にもごく稀に存在するさらなるアンタッチャブル。戦闘力に無関係に関わるべきではない怪物。不興を買ったものは二度と日の目を見ることがないと言われる最悪の連中。レンやバスカル、ヴォルターでさえ怯える人ではない思考を持つ人の姿を持つ怪物と呼ばれる何者か。

 そいつらの目は決まって昏い色をしていた。そしてカロンの目はレンが今まで見てきた数少ないそんな連中の目をさらに昏くした色。以前戦った時とは決定的に違う点。

 

 「なあ、お前ら何で固まってるんだ?俺に殺されるのを望んでいるのか?」

 

 そう言ってゆっくりと歩いて来るカロンに二人は死を幻視する。二人は理性もなくひたすらに逃げ出すことを望むが体が動かない。

 二人の体は格段に強力になった黒い鎖に縦横無尽に縛られて動かない。逃げ出せない。震えが止まらない。そしてゆっくりとまた一歩怪物(カロン)が嗤いながら近寄って来る。怪物が近寄る度にレンとバスカルの悪寒はどんどん強くなって行く。

 

 「く、来るなっっ!!」

 

 「おいおい、連れねぇな。そういうなよ。俺はこんなにもお前達のことだけを思ってるのに。」

 

 レンもバスカルも恐怖が最高潮だった。

 この怪物が、悪魔が、自分たちのことだけを思っている?何の悪夢だ!?自害した方がよっぽどマシじゃねぇか!!

 

 カロンはそっとレンに近寄りそっと頬に手を添える。

 

 「綺麗な肌だな。リューと同じくらい。リューの頬は直に腐り落ちるんだろうな。」

 

 カロンの昏く青い目を見たレンは悪魔が触れた自身の頬が腐って落ちて行く幻覚を視てしまう。

 

 「うわああぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 レンは錯乱して自身の鎌で自分の喉をゴッソリと削ぎ落とす。カロンは倒れて痙攣するレンを確認してレンの後方にいたバスカルへと目を向ける。

 バスカルは恐怖で叫ぼうとするが声が出ない、出せない!!誰か助けてくれ!!

 

 「オイ、テメエらどういうことだ?」

 

 そこへヴォルターが現れる。ヴォルターは状況を理解していない。

 

 「また増えたか。処分するべきゴミが。」

 

 カロンはそう言ってヴォルターを見やる。

 ヴォルターは闇の連中の中でもレンやバスカルより顔が広い。即座に事態を理解した。

 

 ーーマジかよ!?何でこんなところに!?

 

 カロンの目は昏い青い色。ヴォルターはその昏い色は悪魔の象徴だと即座に理解する。闇の中でも一際強大な実力を誇るヴォルターをもってしてもアンタッチャブルな存在。強さとか立場とか関係なくただただ危険な怪物なのだ。絶対に手出し無用の不文律、こういう奴らの危険性を理解せずに周りを巻き込み悲惨な末路を辿った人間をヴォルターは山ほども見ている。しかもこいつは今まで見てきた奴らの中でも別格だ!誰でも見ただけでその危険性がわかるほどに!!

 怪物の怒りは今ヴォルター達に向いている。そして怪物を倒せるのは英雄だけ。ヴォルターは決して英雄などではない。

 

 「お前も、そいつらの仲間か。お前も絶対に生きて帰れないよ。」

 

 カロンのスキルの恐ろしさ。カロンのスキルはいつだってカロンの強い願いに呼応して力を発揮する。精神の強いカロンがひたすらに強く願うことで。そして今カロンの呪詛はただ敵を何が何でも消すことだけに向けられている。より強くなったスキルとともに。

 そしてカロンの呪詛は絶対に生かして帰さない。それはヴォルターとカロンの思考を決定づけるもの。

 

 「なあ、お前らを殺す前に教えてくれよ。アストレアの悪夢に関わった奴らの詳細をさ?」

 

 そう言って一歩、また一歩と怪物は嗤いながら近づいて来る。復讐のみに取り付かれたその姿は理性のない怪物以外に言い表し様がなかった。

 近づく度によりハッキリと認識できるその昏い目、歩く度に絞首台が近づくことを幻視させるその足音、しゃべる度に背筋を伝う止めどない悪寒を誘発するその声、見る度に自身が食べられることをイメージしてしまう嗤い顔を湛えたその口元。

 

 

 

 ヴォルターは百戦錬磨。ゆえに自身の終わりが今ここで悲惨なものだと理解した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 バベルの塔最上階。フレイヤは下界を覗く。

 

 「あの子の綺麗な魂はなくなってしまったわ。残ったのは光を逃がさない暗黒のような濁った黒だけ。アレはおそらく危険なものよ。」

 

 「フレイヤ様、消しますか?」

 

 「いや、やめてちょうだい。アレはあまりに危険性が高いわ。アレに手出しをするべきではないわ。人は白と黒が混ざってできているもの。それは善と悪の陰陽。どんなに非道な人間でもどんなに心優しい人間でも例外なくね。どちらか片方が欠けてしまえばそれはもう人間とは呼べないわ。黒が欠ければ聖者で白が欠ければ怪物よ。アレは怪物よ。手出しはあまりにも危険だわ。」

 

 ◇◇◇

 

 その日、オラリオに激震が走る。最後に残された正義の芽が潰えたとの話だった。カロンは変人ではあるがそのひたむきな姿勢だけは密かに好意的に解釈されていた。変人と小人とエルフ、そして彼らを優しく見守る二柱の神。彼らはオラリオから去った。彼らの本拠地には誰のものともつかない誰が建てたのかもわからないお墓だけが残されていた。

 そして代わりにオラリオに打ち捨てられた無惨な遺体が三つ。遺体は全て顔を潰されていたがおそらくは危険な闇派閥の人間なのではないかとの噂だった。

 

 ◇◇◇

 

 ダンジョンには悪意が満ちている。ダンジョンは悪意に囚われた怪物の巣窟である。

 護るべき家族の幻影と憎い相手を求めつづけて嗤いながら迷宮を彷徨う怪物。

 

 ダンジョンはこの日に生まれた新たな怪物を両手をあげて喜び迎え入れた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 アストレア本拠地跡地。そこはかつて正義の味方を目指した者達の夢の跡地。そこには傍らにかつてリューの為にひっそりと育てられていた木の芽が存在していた。

 そこにあるのは墓標。リューとリリルカとアストレアとヘスティアの為のもの。カロンの為のものは存在しないのだが今はそれを知るものはもう誰もいない。

 

 ◆◆◆

 

 通称 迷宮の悪夢

 正式名称 怪物 カロン

 公式推定レベル 測定不能(最低でも7だと推測される)

 危険度 判明している限りで最上級

 生息域 迷宮全区域 どこでも遭遇しうるため非常に危険

 

 特徴 今現在迷宮で最も恐れられている新種の人の形をとった怪物。容姿はかつて、正義のファミリア、アストレアファミリアに所属していたカロン氏に酷似している。怪物の名称の由縁である。なお、同氏は既に死亡しているとされているため関連性は不明。迷宮でどこからともなく聞こえて来るその足音を聞いてしまうと恐怖が止まらなくなる。その言葉を聞くと精神が発狂する。生命力と精神力が異常に強い。声を聞いてしまうと逃走はほぼ不可能。そのあまりの危険性と犠牲者多数の為にダンジョン封鎖の話も持ち上がっている。

 

 主な犠牲者一覧

 ロキファミリア リヴェリア・リヨス・アールヴ、アイズ・ヴァレンシュタイン、ベート・ローガ等

 フレイヤファミリア オッタル、アレン・フローメル等

 その他ファミリア多数

 

 備考 初めての遭遇はロキファミリアの深層遠征時。ロキファミリアと穢れた精霊の交戦時にどこからともなく現れる。対象が何かをぼそぼそと呟くと穢れた精霊は発狂して自害した。ロキファミリアは即時に危険性を最上級と判断、撤退を指示するも多数が犠牲となる。先のヴァレンシュタイン氏やアールヴ氏、ローガ氏等はこの際に犠牲となる。僅かに地上へと逃げ延びた者達の話によると対象は【お前は家族ではない。】と呟いていたとのこと。それを語ったロキファミリア団長フィン・ディムナ氏は青い顔をして終始震えが止まっていなかった。一般的な見解では、ディムナ氏は英雄としての適性が高かったため辛うじて逃走が可能だったのではないかとされている。なお、現在に至るも未だロキファミリア再建の見通しは立っていない。その後、たびたび浅い階層にも出没する怪物に業を煮やしたギルドの依頼を受けたフレイヤファミリアを中心とした掃討作戦が組まれるも、遭遇したフレイヤファミリアは一名を残して全滅した。その際に、当時最高レベルであったオッタル氏の全力の一撃が対象の腹部を貫くも、怪物はなおも嗤いつづけていたと唯一生き残った同所属のクラネル氏は証言している。なお、これを語るクラネル氏の様子も先述のディムナ氏と似た様子であった。この異常事態を受けて、発狂した主神であるフレイヤ様がダンジョンへと向かい神の権能を使用するも、怪物に効く素振りは一切見られなかった。この時にフレイヤ様は、怪物の手にかかり天界にご帰還なされた。神々はその様子を遠見水晶で見てらっしゃったが、彼らはフレイヤ様のご帰還に甚だ懐疑的である。彼らは怪物がフレイヤ様に向かって【地上(ここ)にお前らの居場所はないしお前は天界にも帰れないよ。】と呟くのを見たと震えながらおっしゃっていた。怪物の呪詛は神々すら捕えて離さないという事なのだろうか?

 もし対象が地上に出てくるようだとしたらこれはもはやオラリオの歴史上最高の存亡の危機だと言えるだろう。

                                           【ギルド資料より、一部抜粋】

                                                         BAD END




書いてて嫌になりました。今は後悔だけをしています。ホラーです。これではタグ詐欺です。
ちなみにカロンはフレイヤファミリアに寄った帰りです。この世界ではレンとバスカルを捕らえ損ねたために新しい入団者があらわれませんでした。フレイヤの五人の帰還日で送った帰りです。ヘスティアがいないためベルはフレイヤに拾われます。
闇派閥は怪物を恐れてどんどん迷宮の深くまで逃げていきます。深層でようやく全ての復讐を果たした怪物は盗賊を探して入口を求めてさ迷います。しかしダンジョンは怪物を愛して捕えて離しません。オラリオは怪物がダンジョンから出てくることを何より恐れています。

さらに補足しますと、作者の原作様の捉え方では通常のランクアップは魂が肉体の強さに見合わないためになかなかレベルが上がらないと理解しています。カロンの場合は逆で、既に十分に魂の強さがあるため肉体さえ強くなれば即座にランクアップするという設定です。怪物の強さの由縁です。


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IFルート 聖者の目覚め 鬱展開なので注意してください。アンチ・ヘイト、残酷な描写も存在します。

 「リュー、さようなら。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは少しだけ違う世界。闇派閥にアストレアファミリアが壊滅させられてリューの復讐を俺が止められなかった世界。

 ちくしょう、なんでなんだ。どうせ違う世界ならアストレアファミリアが壊滅したのが間違いであったならよかったのに………。

 

 「リュー、堪えろ!」

 

 「嫌です!私は皆の敵を討つ!」

 

 俺はリューを止められなかった。リューは凄惨な虐殺を行うことだろう。俺は必死になってリューを捜し回った。

 

 「リュー………」

 

 リューは血に塗れて倒れている。近くにはいくつもの血まみれの死体がある。

 遅かった………。

 

 「カロン………。」

 

 「リュー………。」

 

 倒れながらも意識のあるリュー、俺とリューの視線は交錯する。

 

 「カロン、私を捕まえますか?」

 

 「………ああ、さよならだ、リュー。」

 

 「同じファミリアの私を?」

 

 「それでもだよ。今のお前は大量殺人犯だ。お前も治安維持活動を行ってたのなら殺人鬼が街中に潜む恐怖が人々にとってはどれほどのものかわからないわけないだろ?」

 

 「………そうですね。」

 

 俺は倒れて力無いリューを縛り上げる。裁きを受けたらまず死刑は免れないだろう。それだけの数の人々を殺してしまっている。

 俺はリューを担いでガネーシャファミリアの元へと向かう。

 

 「リュー、さよならだ。」

 

 リューは俺をその空色の瞳で切なそうに見つめていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは冷たい檻の中。ここで私は今裁きの時を待っている。

 死を想うと体が震えて来る。いつ私は死刑を宣告されるのだろうか?

 

 私は牢屋の中で一人考え込む。

 もっと良い方法があったのだろうか?彼はそれを知っていたと?私は短絡的だったのか?私は私の感情を優先するべきではなかったのか?

 

 時は過ぎて行く。私は中々死刑にならない。なぜだろうか?

 

 私は最初の内は不思議に想うも変わらない日々が過ぎ行くうちに思考することをやめた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン、もうやめなさい。あなたは自分の幸せを考えるべきよ。」

 

 「アストレア、知ってるだろ?家族の幸せが俺の幸せさ。」

 

 カロンはそういって笑う。明るく笑う彼はやつれ頬はこけ、見ていて痛々しい。

 

 「あなたは………。」

 

 「済まないなアストレア。俺の我が儘に付き合ってもらって。」

 

 「いえ………構わないわ。二人とも私の子供達だもの。」

 

 ◇◇◇

 

 時は無為に過ぎていく。

 

 五年、十年、やがてさらに時は過ぎわからないほど長く。

 私は死刑にならない自身の身の上を不思議に思い幾度も刑務官に問い掛ける。しかし返される答えはいつも濁されたものだけ。

 

 「疾風、釈放だ。」

 

 釈放?どういうことだろうか?私は死刑囚ではなく長期刑期囚だったということか?

 

 「どういうことですか?」

 

 私は問い掛ける。やはり彼は黙したまま。と思いきやポツリと一言言葉が返される。

 

 「………お前に伝言がある。」

 

 それは私を捕らえたカロンからのものであった。

 

 『俺はいつでもお前の幸せを願っている。』

 

 そういえば彼はどうなったのだろうか?

 

 ◇◇◇

 

 私は刑務署を出てファミリアの本拠地へと戻る。しかしそこはすでに別の建物に変わっていた。

 私が捕まってから長い時間が経っている。それもむべなるかなといえるだろう。

 

 しかし私は何も知らないままというわけには行かないだろう。中に入って中の人間へと問い掛ける。

 

 「すみません、ここはアストレアファミリアの建物ではなかったのですか?」

 

 「ああ、あんたは………。」

 

 中にいたのは初老の男性。彼は続けてしゃべる。

 

 「あんたはアストレアさんが捜しに来ると言ってた人だね。あんたにアストレアさんから伝言があるよ。『私達はもう会わないほうが幸せだ。』ってさ。捜さないでくれとも言っていたよ。」

 

 「そうですか。それではカロンという人物は?あなたは彼については何かご存知ですか?」

 

 その言葉に男性は顔を歪める。

 

 「あんたは知らないほうがいいと思うよ。まあすぐに知ろうと思えばわかるかもしらんが。あんたはオラリオを出てどこか別の場所で暮らした方が幸せだよ。」

 

 「知ってらっしゃるのですね。教えて下さい。」

 

 「俺は言いたくないよ。」

 

 彼は寂しげな目で遠くを見る。

 

 「知りたければ自分で調べてくれ。………すぐにわかるとは思うが。」

 

 ◇◇◇

 

 あのあと私はオラリオの町を歩いた。行く宛てなどない。

 すでに時が経ちいろいろなものが変わってしまっている。ツテなど何もない。

 そんな私に声がかけられる。

 

 「お前は………。」

 

 ◇◇◇

 

 ツテがなくても知り合いがいないわけではなかった。私はオラリオをさ迷ううちにリヴェリア様と出会う。彼女はその地位で有名人だし私は悪い意味で有名人だ。互いに知っていた。

 私は彼女と話をする。

 

 「………始めまして。」

 

 「ああ。お前はさすがにやつれたな。」

 

 「………リヴェリア様は忌避なさらないのですか?私は殺人犯ですよ?」

 

 その言葉に彼女は何とも言えない表情をする。

 彼女は話をする。

 

 「………お前はこれからどうするんだ?オラリオを出ていくのか?」

 

 「宛てがありません。迷っています。」

 

 「お前はオラリオを出た方がいいよ。私のツテでどこかを紹介してやろう。」

 

 「待って下さい!カロンは、カロンはどうなったんですか?」

 

 「………知らないほうがいいよ。お前はすぐにでも出て行くべきだ。」

 

 「どうかお教え下さい!」

 

 その言葉にリヴェリア様は苦い顔をする。

 

 「カロンは………死んだよ。」

 

 「なぜですか!」

 

 「過労だよ。あいつは今ではオラリオの聖人と呼ばれている。」

 

 「聖人?なぜですか!」

 

 「………私が知っている限りではお前が捕まった後あいつは何度もガネーシャファミリアの元へと通っていたよ。何度も何度も通っていたと聞いた。」

 

 「それで!」

 

 リヴェリア様は悲しそうな顔をする。

 

 「あいつはオラリオの人々の役に立つから何が何でもリューを死刑にしないでくれと言っていたそうだ。俺が役に立っている間は殺すなと。それで必死になって働いて挙げ句若くして死んだよ。自分を蔑ろにして人々のためだけに働いて。タフな男のはずだったのにな。それで列聖されては意味があるとは思えんな。」

 

 そういって私を見る。私は衝撃を受ける。

 

 「………お前は仲間の命を食いつぶして助かったんだよ。聖人の遺言で助かったんだ。悪いがいくらお前が同胞でも私もお前にはもう会いたくない。私が今こうしているのは聖人カロンへの敬意だ。あいつがお前のことを助けたいと思っていたことへの。お前はもうここを出て行くべきだよ。」

 

 ◇◇◇

 

 あのあと私はオラリオを出た。もちろん宛てなどない。

 私の心には重たいくさびが打ち込まれている。

 

 『お前は仲間の命を食いつぶして助かった』

 

 何よりも重い、重過ぎる枷だ。

 私は大量殺人犯だけでなく仲間殺しの罪まで背負ってしまった。

 

 私はもう幸せになることも救われることも永遠にないのだろう。生きることは地獄だがカロンの命で助かったのなら生きるほかない。

 彼は他に何かいい手段があったというのか?

 

 私は永遠にその出口のない迷宮のような後悔と疑問に苛まれて生きていくことになるのだろう。

                                                BAD END




カロンはリューが乗り越える強さを持っていることを信じていましたがその思いは届きませんでした。
?なんかバーが赤いですね。評価してくださった方、ありがとうございます。


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IFルート 凡人の目覚め カロンが酒を飲めば悪夢は起きない

 「カロン!あなたまた寝坊しましたね!」

 

 ここはアストレアファミリア、俺の名前はカロン。俺は今、ファミリアの仲間のリューという名前のおばさんに怒られて正座をしていた。

 リューというおばさんは見た目は若い綺麗なエルフだ。でも口うるさいんだ。

 口うるさいのはおばさんだって相場が決まっているだろ?多分若作りしてるんだ。詳しい年は知らないけど。

 

 「以前は子供だと思って甘くしていましたが、あなたはもうそろそろ大人です。レベル3も近いですし後輩もたくさんいるでしょう?寝坊して治安維持活動をサボるなんてありえてはいけないことです!」

 

 うーん、やっぱりうるさいんだよな。俺のせいだけど。

 そこへ先輩が割って入る。

 

 「まあ待てよリュー、昨日は俺達が無理を言って酒を飲ませたんだよ。何とか許してやっちゃくれねぇか?」

 

 先輩達は俺に良くしてくれる。

 どこにだって悪い先輩はいるものだ。たとえ正義のアストレアファミリアでも。

 俺は酒は嫌いだと言ったのだが昨日は俺の誕生日だからって無理言って飲まされてしまった。まずかった。

 

 「あなたたちが飲ませたんですか!全く。」

 

 「まあいいじゃねぇか。こいつ昨日誕生日だぜ?たまには許してやんなよ。」

 

 「カロンは先月も先々月も寝坊してたでしょう!」

 

 先月も酒を飲まされたんだよな。先輩の誕生日だって。先々月は団長の誕生日だった。やっぱり飲まされた。

 ………来月はおばさんの誕生日のはずだがまさかおばさんにまで飲まされないよな?

 ファミリアにそこそこの人数もいるしそのたびに酒を飲まされたら寝坊だらけになっちまう。そのたびに怒ってたらおばさんの血管が切れちまうんじゃないか?

 

 「ところで朝ごはん食いたいんだけど?」

 

 「カロン!あなたは怒られている自覚はないのですか!!もっと反省してください!」

 

 「反省はしているぞ?でも反省しながら朝ごはん食べたっていいだろ?」

 

 「良くありません!あなたは治安維持活動の大切さを理解していない!」

 

 「そんなんよりファミリアの仲間の安全を優先した方が良くないか?」

 

 「あなたはまた口ごたえをして!」

 

 やっぱりうるさいんだよな。怒ると小皺がよると思うんだけどな。このエルフ、種族で得していないか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはアストレア団長室。この日は例の彼らの決定的な事件の起こる前日。

 彼らの団長は今、高レベルのリューに相談をしていた。

 

 「リュー、どう思う?俺達はどうするべきだろう?俺達はやはり明日は行くべきだよな?」

 

 「私達は正義のファミリアです。私達は行くべきだとは思うのですが………」

 

 「どうしたんだ?」

 

 リューは少し考え込む。

 ここは少しだけ違う世界。ほんのわずかな違いが彼らの命運を決定的に分ける。

 その違いとはカロンがこの日寝坊したかどうか。

 彼女の脳内には、先ほどのカロンの仲間の安全の優先を考えた方がよいという言葉が残っていた。

 

 「やはり仲間の安全を考えると少し危険が高いようにも思えます。今回は見送るべきなのでは?」

 

 「お前はそう思うのか………」

 

 彼らの団長は考え込む。

 リューは高レベル冒険者でファミリアの重要戦力だ。ただの勘だと切り捨てるのも躊躇われる。

 それにまず仲間の安全を優先するという考えも理解できる。というよりも本来の常道だ。

 

 自分達は正義の味方のファミリアではあるが仲間を護るのも団長の役割であり立派な正義である。

 

 「わかった。俺は動くべきだと思ったが確かにきな臭い情報であるのも事実だ。今回は動くのは見送ろう。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「カロン!また寝坊しましたね!今回は理由はないはずでしょう?治安維持活動をもっと大切にしなさい!」

 

 爽やかな朝に響く怒声。何か最近こんなんばっかだな?

 

 「まあまあ、リュー、落ち着いて。」

 

 また怒られちまった。最近は俺が寝坊するとおばさんがわざわざ俺の部屋に来てたたき起こすようになっちまった。眠い。

 となりでおばさんの親友だって人がなだめてくれている。この人はあんまりうるさくいわないんだけどな?

 昨日は先輩達と後輩も連れて皆で夜遅くまで花火をしてそのままテンションが上がってカブトムシを取りに行ってたんだ。それで寝坊しちまった。

 オオクワガタが取れたんだぜ?すごいだろ!

 

 「あなたはなんでそんなに寝坊ばかりするのですか?」

 

 「まあまあ落ち着けリュー。」

 

 「団長まで!なんでそんなにカロンに甘くするんですか?」

 

 その言葉に彼らの団長は少し困った顔をする。

 

 「………こいつはもともと正義とかにはあまりこだわりがあるわけじゃないんだ。今こいつが冒険者をやってるのも特に宛てがないからなんだ。俺は何回かこいつに普通の仕事がしたいと相談されてるんだよ。でもこいつは戦いで安定感があるから俺が頼み込んで冒険者を続けてもらってるんだよ。確かに寝坊はいただけないが、まあ複雑なんだよ。」

 

 「………それは確かに複雑ですが………そうですね。戦いで彼が役に立つのは事実です。しかし普通の仕事がしたいならそれを許さないのですか?」

 

 団長はさらに困った顔をする。

 

 「こいつはお前が思っている以上に皆に信頼されているんだよ。安定していてすごくタフなんだ。こいつがいないと下の人間がガッカリするんだよ。」

 

 「………つくづく複雑なんですね。」

 

 俺の前で彼らは話し合う。

 高い評価は嬉しいが俺はいつまで冒険者をすればいいんだ?確かに皆好きだし俺が役に立つならそれも嬉しいけどさ。

 

 ◇◇◇

 

 ここは少しだけ違う世界。アストレアファミリアに特に何事も起こらなかった世界。

 英雄も怪物も聖者も目覚めなかった世界。

 

 凡人は朝に弱く、凡人の朝の目覚めはいつだって憂鬱なもの。

 

 しかし、彼にとっては一番幸せなのだろう。




変人は意外と皆に愛されていました。
それとカロンとリューは多分同じくらいの年です。
もうこれ以上の話はありません。

ところでカロンは本当に英雄の子孫なのでしょうか?
それは作者にもわかりません。

ふむ、完結しているはずなのに伸びていくUA。評価バーの力は凄いですね。


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評価が付いた記念の投稿編
連合最大の危機


赤バーが短い期間でも付いた記念に、それっ!


 俺の名前はカロン、アストレア連合ファミリアの大団長だ。

 この拙作は、本来は完結していてもう更新する予定はなかったのだが、誰かが赤バーが短い期間だけでも付いたのが嬉しかったため、テンションが上がっておまけで投稿したらしい。もうこれ以上の話はないとか嘘付いてゴメンナサイ。

 ところで評価?赤バー?一体何の話をしているのだろう?俺は誰に謝ったんだろう?

 

 まあともかく、今日は俺達アストレア連合ファミリアの三周年記念だ。パーティーを行う。ここは連合大広間だ。

 もう、連合結成してから三年も経つのか………。

 さすがに、連合大団長ともなると忙しく、俺は以前よりもダンジョンに潜る機会が減っていた。

 ………決して誰か(作者)が戦闘描写を書くのが面倒だとか、嫌いだからとか、そういう理由ではないぞ………そういう理由では………そういう理由です。ごめんなさい。

 

 「お、おい!どうなってるんだ!?」

 

 なんか向こうがざわざわしてる。メッチャざわざわ。何だろう?

 

 「どうしたんだ?」

 

 「大団長!」

 

 彼はアストレア連合専属の料理長だ。彼の周りに複数の料理人達もいる。

 彼は不思議な顔をして語る。

 

 「それが………幹部の方に頼まれていた料理をお出しするために持ってきたのですが………すでに料理が置いてあったんです。」

 

 「すでに置いてあった?」

 

 ふむ、わからんな。今日は記念パーティーだ。

 俺達アストレア連合には敵もいる。俺達がいくら強大な組織だったとしても敵対する人間はどこにでもいるものだ。そいつらのなんらかの策略だろうか?でもそれなら、なんでもっと速い時期にしかけてこなかったんだろう?

 ………これが毒物だったらことだ。

 俺は決断する。

 

 「よし!その料理を片付けろ。俺達の敵がなんらかの攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。」

 

 「わかりました。」

 

 「待ってください!!」

 

 そこにリューが無駄に颯爽と現れる。

 

 「その料理は私が用意したものです。私は………いつも皆さんに感謝しています。私は連合の皆さんの役に立ちたいんです。私は………私は………皆のために頑張って料理を作ったんです。」

 

 リューが涙目で上目遣いで俺達を見る。

 俺はなんか嫌な予感がする。

 

 「「「「「うおおぉぉぉ!!!!」」」」」

 

 周囲で歓声が上がる。なんか人間がたくさんいるな。

 アレ?いつの間にこんなに人間が集まっとったんだ?なんか皆凄いテンションが高いぞ?

 

 「「「「「リュー副団長!!!」」」」」

 

 俺達は熱気の渦に包まれる。なんか皆テンションが上がっとる。ウム、これはいかんやつだな。落ち着かせんと全滅しかねんぞ。

 俺は落ち着いて対処を行う。

 

 「待て、皆。この料理は料理というよりはむしろ兵器だ。お前達がリューの料理を食べたいという気持ちは理解するが、これは食べたらまずいことになるやつだぞ。」

 

 「そんな………カロン、酷い。」

 

 リューは涙目のまま視線を落とす。滴り落ちる一筋の雫。ますますテンションを上げる周囲の人間、彼らは団結する。

 

 「大団長、俺達はあなたを尊敬しているが、同様にリュー副団長も尊敬している。俺達ヘスティアファミリア冒険者一同は、断固として副団長の料理を食べる!そうだろ、皆?」

 

 「「「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

 ふむ、こいつら全員冒険者部門の人間か。

 一枚岩なのはいいが、こいつらはなんでこんなにテンションを上げとるんだ?お前らそんなにリューが好きなのか?

 

 ………今こいつらを扇動したのはヘスティアファミリア団長のバランだが、確かこいつはベロニカと付き合っていたはずだ。こんなことをしているのがベロニカにばれたら怒られんのか?

 そもそもこいつは前から俺達のファミリアにいたから、リューの料理がどのようなものか知っているはずなのだが?誰か(作者)も今まで知らなかったがまさかこいつには破滅願望があるとでもいうのか?

 

 「大団長、俺はあんたの気持ちもわかるが、こいつらの気持ちもわかるんだよ。」

 

 「バラン………。」

 

 バランは遠い目をして続ける。

 なんかこいつ急に語り出したぞ?

 

 「皆リューさんが好きなんだ。でも、でも、、こいつらは名前すら出ない脇役なんだ。脇の脇の隅っこなんだ。チラシの裏のさらにノーネームなんだ!俺達がリューさんなんて高望みだってことはわかっちゃいるさ。でも、脇役にだって脇役の幸せがあったっていいじゃねぇか!俺達だって頑張って生きてるんだ!この記念のいい日に、リューさんの手作り料理を食べることが出来たっていいじゃねぇか!俺達だって必死に生きてるって、誰か(作者)に思い知らせてやるんだ!」

 

 「皆………。」

 

 チラシの裏?誰か?

 何を言っとるんだ?しかし変な説得力がある。

 リューが感動した目で冒険者達を見てる。

 しかし俺は大団長として決して認めるわけには行かない。

 

 「バラン………死ぬぞ?それにお前はベロニカと付き合ってるんじゃなかったのか?」

 

 「大団長、俺達だって冒険者だ。いつだって死を覚悟して冒険しつづけてるんだ!それに………ベロニカは………最近仕事にかまけていてあまり会う機会がないんだ。」

 

 ふむ、もしかしたらこいつは浮気するタイプなのかも知れんな。それも冒険者らしいといえるかもしれない。後でベロニカにチクっておこう。

 

 それにしてもこいつら皆死を覚悟しとるのか。なんかこいつらがレミングスの群れに見えてきたぞ。あの集団で入水するやつ。

 

 「大団長、俺達は戦って俺達なりの幸せをつかみ取るんだ!行くぞ皆!」

 

 「「「「おおぉぉぉ!!!」」」」

 

 いかん、これはもう止められん。まだパーティー開始までは時間があるがいくら俺でもこんなに大人数を相手には出来ん。リュー一人でさえ格上だというのに………。

 

 「どうしたんでしょうか?」

 

 「リリルカ!」

 

 俺に心強い援軍が来た。皆ご存知の魔王リリルカだ。もう魔王でいいだろう?

 

 「リリルカ、それが、リューの料理が記念パーティーの料理に混じっているんだ。」

 

 「!?どうしてそんなことになってしまったのですか!?」

 

 「ほら、アレを見てみろ。」

 

 その言葉にリリルカは俺の視線の先を見やる。そこには涙ぐむリュー。

 

 「ああ、わかりました。やる気を出してしまわれたのですね。」

 

 「そうなんだ。」

 

 リリルカは目をつぶり一考して後に手を叩く。

 

 「皆様、そこの料理はいけません!それを食べさせてしまうわけにはいきません!」

 

 「「「「「なんでですか、統括役!」」」」」

 

 リューは目を伏せる。

 

 「それは危険なものです。それは後で大団長が責任を持って処理をなさいます!!」

 

 俺かよ!?勘弁してくれよ!?

 バランは前へと出る。

 

 「統括役、俺達はあなたのお世話になってはいるが、これは譲れねぇんだ!俺達は冒険者だ!いくらあなたが強大な魔王だったとしても引くわけにはいかねぇんだ!俺達は勝利をつかみ取るんだ!」

 

 ふむ、やはりこいつらの認識でもリリルカは魔王だったのか。魔改造を通り越して。まあ、だよな。ラスボスだしな。

 リリルカは一歩前に出る。

 

 「あなた方は大切な連合の財産です!連合の統括役であるリリがあなた方をサポーターとして護り抜いて見せます!そこの料理は極めて危険です!」

 

 「統括役………。」

 

 バランは気勢を削がれたようだ。まあ散々リリルカには世話になっとるしな。他の皆も落ち着いて冷静になっている。

 

 「わかっていただけましたか。」

 

 安堵を着く俺とリリルカ、しかし俺達はこの時忘れていた。まだ戦いは前哨戦にしか過ぎなかったことを。

 

 「そんな………リリルカさん………」

 

 ………そういえばまだリューが残っとった。目が赤いリュー、これはまずい気がする。リリルカの顔色も悪い。

 

 「落ち着いてください、リュー様。パーティーが終わればカロン様がいくらでもリュー様の手料理を食べてくれる気がします。カロン様はリュー様が多分大好きです。カロン様はリュー様の手料理をおそらくいつでも望んでいらっしゃいます!」

 

 俺が生贄に捧げられてしまった。いつも面倒を丸投げてる仕返しか?………いくらでも食べたくないぞ?むしろ全く食べたくない。

 しかし背に腹は変えられん。俺は皆を護らなければいけない。

 

 「そうだぞ、リュー。俺はいつでもお前の手料理を望んでいる。」

 

 「それは嬉しいのですが………今日は連合の皆のために作ったので皆に食べて欲しいんです!」

 

 目を逸らし頬を赤らめるリュー、これはもう無理なのか!?こんな反応をしたら………

 

 「「「「「「「「「「「「「うおおぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

 テンションが上がる彼ら。まあそうなるよな。

 しかもなんか人数が増えてしまった。これはさてはアレだな。連合魔法部隊とサポーター部隊も合流したな。

 その熱気は天井知らずだ。

 

 「み、皆様!待ってください!」

 

 珍しく魔王(リリルカ)が大慌てしている。いくら魔王でも多勢に無勢、か。

 

 「落ち着け、リリルカ。これはもうアウトだ。それよりも速やかにミアハ薬師部隊に連絡して後のフォローを行うことに専念しよう。俺もできるだけ大量の料理を食べて被害を減らすように努力するからさ。」

 

 俺とリリルカの視線が交わる。

 切ない目をしたリリルカ。

 

 「カロン様、必ず生還してくださいね。」

 

 「もちろんだよ、リリルカ。俺がタフなのは知ってるだろ?」

 

 「カロン様、それはフラグです。」

 

 「リリルカの発言もフラグだろ?」

 

 

 ◇◇◇

 

 そこから先のことは語りたくない。とりあえず地獄だったと言っておこう。

 いくら俺に状態異常無効スキルが付いているとはいえ、洗剤の塊なんか食える訳ないだろ?

 

 皆バタバタと倒れていって、残ったリューの料理は読者様に食べ物を粗末にするなと怒られることを覚悟して処分を行った。

 リューはリリルカに説教されてたが、リューも案外懲りないからな。悪夢はまた訪れるかもしれない。というよりもリューの料理はもしかして連合最恐の兵器なのではないか?これを兵器として運用できれば連合は無敵なのではないのか?

 

 俺は薄れ行く意識の中そんなことを考えた。




作者は気が向けば平気で蛇に足を書きます。


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レヴィスの受難

赤バー記念、二話追加。


 「うおおぉぉぉ!!」

 

 「俺は友が悲しむのを見過ごすつもりはないよ。」

 

 ◇◇◇

 

 今日の俺は珍しく不機嫌だ。むしろ激昂していると言ってもいいだろう。

 俺の友のガネーシャの眷属である、ハシャーナ・ドルリアがリヴィラで殺されたという話を聞いたのだ。俺も少しだけ面識があった。

 彼は剛剣闘士という二ツ名を持つ、ガネーシャの眷属だ。話を聞いた俺がガネーシャに会いに行ったところ、眷属を殺されたガネーシャは酷く悲しんでいた。

 俺は内々にリリルカを読んで緊急会議を行う。

 

 「リリルカ、どう思う。」

 

 「リリもカロン様と同じ考えですよ。」

 

 今更考えを読まれたところで驚くに値しない。

 ガネーシャとは同盟を結んでいるわけではない。しかし同盟を結んでいなければ友誼を通じていないというわけではない。

 彼の眷属はダンジョンで悪意を持つ何者かによって殺された。ダンジョンはいつだって危険だが、それと殺人とはまるで別物だ。

 そして彼らはよき隣人であり、共に同じ地に生きる仲間だ。彼は悲しんでいて、オラリオでも力を持つファミリアのいずれかに頼んで来るのも時間の問題だろう。俺達のところに話が来る可能性は極めて高い。

 俺は友に頭を下げさせるのか?散々世話になった友に?………いやいや、あまり俺を見くびるなよ!

 

 「盟友のフレイヤ様とロキ様への渡りはすでにミーシェ様に指示してあります。目的を共有できるガネーシャ様も問題はないでしょう。とすれば話し合うのはどうするかですね。」

 

 さすがリリルカ、話が速い。

 何度も俺が言っていることだが、戦力の逐次投入は愚策、この一言に尽きる。

 俺達は相手の戦力がわかっていない。わかっているのはレベル4の拳闘士が無惨に殺されたことだけ。必要な戦力がわかっていないのに必要になる度に戦力を投入するのは貴重な人員を無駄に損耗させるだけだ。

 本気でやるなら相手に反撃の隙すら与えないように無慈悲にだ。

 示威行為の意味もある。あるいは武力による威嚇とでも言おうか。俺達の仲間に手を出すことがどれほどの危険な行為なのか相手に思い知らせることができるのであれば、次からの敵に対する牽制にもなる。少なくとも仲間を護ることが至上目的である連合にとっては金を湯水のように注ぎ込んででもやる価値はある。

 しかし気掛かりなこともある。相手の手札だ。

 

 「リリルカはどう思う?」

 

 「一番警戒が必要なのは、敵が自棄になったときの行動ですね。ダンジョンは地下です。最も危険なのはたくさんの人間を巻き込んだ生き埋めです。相手方に強力な爆薬があったときが最も危険です。」

 

 「まあ、そうだな。何か対策は?」

 

 「土砂や岩石の崩落自体はサポーター部隊でなんとでも出来ます。しかし問題は仲間が落盤に巻き込まれる事態ですね。」

 

 「なるほど。」

 

 俺は考える。

 友の悲しみを見過ごすわけには行かないが、仲間の命がかかっている。温い対応をするわけにはいかない。

 高レベルであれば落盤にも堪えられるであろうが、敵が自爆してきたときにその規模が判明していないのに多分大丈夫だろうは通らない。

 

 「なんか有効な案がないか?」

 

 「逆に考えましょう。」

 

 「逆に?」

 

 「ええ、連合の手札にはものを作るスペシャリストがいるでしょう。逆にこちらが先に敵の周りで爆破を行い、敵を本拠からあぶり出してくれましょう。」

 

 さすがにリリルカだ。かなりの無慈悲な案と言えるだろう。まさか自分達の懸念を逆手に取った案を出して来るとは。

 

 「実はすでに物作りの人員に至急大量の爆薬を作る指示を出しています。敵の本拠の周りで相手が恐れ慄くほど連続的に爆破を行い、巣穴から出てきたゴキブリ共を数の暴力で叩き潰しましょう。闇派閥に連合の怒りを買うことがどれほど恐ろしいことなのか思い知らせてやりましょう。リリは他にも有効なアイテムがないかアスフィ様と話し合いを行ってきます。今回は利益など度外視です。損害はリリとカロン様の個人資産で折半しましょうか?」

 

 俺はあんまり金がないぞ?

 しかしまあここはやせ我慢のしどころだな。

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合大広間。ここには今大勢の人数が詰めかけている。決起集会だ。

 連合の冒険者部隊、魔法部隊、サポーター部隊、ロキファミリア、フレイヤファミリア、ガネーシャファミリア。まあつまりはオラリオの総力だな。

 俺は演説を行う。

 

 「皆も知っている通り、俺の友のガネーシャの子供が殺された。ガネーシャは俺達のよき隣人だ。同盟を結んでいなくても、友誼を通じていないわけではない。俺達は隣人の悲しみを見過ごすのか!?俺が何のために連合を作り上げたか皆知っているだろう!俺は友に手出しをした人間を見過ごすつもりはない。そいつらを放っておけばお前らの今隣にいるやつが明日には殺されているかもしれない。俺はそれを決して許さない。敵にものを見せてくれよう!オラリオの怒りを今思い知らせる時だ!!俺達は総力を持ってして敵を撃滅してくれよう!!!」

 

 「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

 怒声が上がる。熱気に包まれる大広間は揺れる。頑丈に造られているハズの大広間が。

 笑うフィン。

 

 「さすがになかなかの演説だね。僕も彼らはなんとしてでも敵には回したくないよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 そして俺達はダンジョンを進んだ。ダンジョンを征くは千を優に超える精強な軍勢。

 敵の本拠の大まかな位置は前もって掴んでいた。連合内のかつてダンジョンに住んでいたモンスターファミリアからの情報だ。そして細かい探索は、連合の速度特化のリューに任せた。

 ………凄いな。人員を増やすとあらゆる面で有利に働くんだな。

 まあその分利益の分配などでリリルカに無茶な仕事をさせているのはわかってはいるが。

 

 俺達は敵の本拠の周りに爆薬を大量にしかける。さすがに無慈悲に生き埋める気はないから崩落しないように調節した量だ。前もってダンジョンがどの程度堪えられるのかの検証も行っている。

 俺達の策に穴はないように思えた。しかし予想外のことはいつだって起こるものだ。

 

 ーーーーーードゴオオオォォオォォン、ドゴオオオォォオォォン、ドゴオオオォォオォォン

 

 ふむ、予想より爆破音がでかい。しかも長い。これはやらかした予感がするな。

 

 「リリルカ、どういうことだと思う?」

 

 「これは思いつくのは一つですね。やはり敵方もいざという時に崩落させるために爆薬を仕掛けていたと言うことでしょう。おそらくリリ達の仕掛けた爆破がそれらに引火したということでしょう。」

 

 万が一にも巻き込まれないように遠巻きから見守る俺達。崩落しないようにしたはずだが予想外のことにより無慈悲に天井が崩れているな。惨状だ。ふむ、これは完璧にやらかしたかな?まあいいか。

 

 「な、何だ!?何事だ!?」

 

 大慌てで出てくる闇派閥。彼ら彼女らは落盤に巻き込まれて至るところから血を流している。

 俺達は落盤に巻き込まれて体を痛めている彼らを全力を持って無慈悲に袋だたきにした。

 敵を捕らえて地上へと帰る俺達。

 

 ◇◇◇

 

 「ガネーシャ、こいつらどうする?お前のところが連れていくか?」

 

 「いや、お前のところに更正施設があっただろう。ステータスを封印してそこに一生でもほうり込んでくれ。金が必要なら俺の個人資産で賄おう。特別コースで頼む。」

 

 無慈悲だな。やはりガネーシャも切れてるな。ステータスを封印してリュー特別教官か。

 まさかこいつらもアポロンファミリアに入団を志願したりせんだろうな?




作者はやりたい放題ですね。
これ以降、闇派閥では連合に手を出したらダンジョンで生き埋めにされるという噂がまことしやかに流れます。
戦術、無慈悲。悪党にかける情けはない。

ちなみにリリルカは火計であぶり出すというさらに恐ろしい案も考えていました。


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アステリオス×リリルカ

 「なるほど、さすがはリリルカ殿だ。」

 

 「リリは殿ではありません。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは連合会議室、アステリオスに交渉を任せるというカオスなアイデアを思いついてしまった俺は、リリルカに試しに育成を任せてみることにした。

 会議室の長机に隣り合って座るアステリオスとリリルカ。

 

 「アステリオス様、交渉の基本とは如何に相手に利点を上手く売り込んで自身の都合を通させるかにあります。」

 

 「なるほど。」

 

 なんか二人近くないか?

 

 「ぐぬぬ、リリお姉様!おのれ!牛風情めが!」

 

 あ、ミーシェだ。会議室のテーブルクロスをくしゃくしゃに掴んでいる。仕事はいいのか?

 まあそれはどうでもいいか。

 

 ふむ、これは魔王とその側近の絵図のような感じなのかな?魔王が側近に仕事を指示しているみたいな。

 

 ………そういえば俺は昔リリルカにいざとなったらミノタウロスがもらってくれると言った気がするな(ベートが欲しい参照)。まさかこれはそういうことなのか?あれは伏線だったとでもいうのか!?

 ………もしそうなのだとしたら誰か(作者)のカオスの闇は深い、深すぎる。

 いくらなんでもアステリオス×リリルカはないだろう。他にそんな組み合わせを思い付く人間などいるのか!?

 まさか、気づいたら結婚しているとかありえんよな?

 

 ………もしアステリオスが俺のことをお義父さんとか呼びはじめたら俺はどうしたらいいかわからんぞ?誰か教えてくれ!

 

 「アステリオス様、次は需要と供給の話をしましょうか。」

 

 「需要と供給?」

 

 「ええ、ものの価値とは人が決めるものです。例えば恥ずかしながらリリには高い価値が付いていますが、これは連合がリリを必要としてくれているからです。連合と交渉相手が共に欲しいと思っているからです。リリを複数の存在が欲しがって、リリは一人しかいません。相手に必要だ、どうしても欲しい、と思わせることが出来るならいくらでも足元を見ることが可能なのです。それに上手な交渉を組み合わせれば、ものの価値を人員が豊富なこちらで自在に決めることすら可能です。」

 

 「ふむ………そういうものか。」

 

 うーん、シュールだ。俺がアステリオスに交渉を任せるという案を出したのだが、アステリオスはどうやら案外真面目な人間(?)だったようだ。真面目にノートを取っている。

 ………俺の横ではミーシェが嫉妬のあまり俺の足を蹴りつづけている。

 ………俺は大団長で一番立場が上の人間だぞ?

 

 「そろそろ基本は一通り仕込みましたし、実践に行ってみましょうか?」

 

 「実践か。」

 

 「まずは交渉の初級編です。アステリオス様には同僚にベート様がいらっしゃいましたね。アステリオス様は彼と上手く交渉して彼の担当冒険者を増やすことを納得させてください。」

 

 「ふむ。」

 

 ◇◇◇

 

 ここはタケミカヅチ道場、向かい合うはリリルカ、アステリオス対するベート。

 俺とミーシェは物陰からその様子を興味しんしんに見ている。

 

 「ベートよ、お前の担当冒険者を増やしてほしい。」

 

 単刀直入なアステリオス、対するベートはなんか苦い表情。

 

 ーーこれは、あのタヌキヤローやらかしやがったな。あれだけコイツに交渉役を任せるなと言ったはずだが………俺ですら威圧感を感じるぞ?魔王と怪物のタッグとか連合は余りにも邪悪な組み合わせだろう?交渉相手を追い詰め過ぎだろう!

 

 「………俺にだってダンジョンに潜る時間が必要だ。」

 

 「ふむ、そうか。しかしお前に教えを請いたいという人間がたくさんいると聞いたぞ?どうか担当者を増やしてくれんだろうか?」

 

 その言葉にしっぽを揺らすベート。うまいな。あいつ褒め殺しに弱いからな。

 

 「………アイズと過ごす時間が………」

 

 「アイズはお前のその面倒見のいいところにほれたのではないか?お前達は仲睦まじいと聞いたぞ。」

 

 言葉に詰まるベート。考え込んでいる。

 なかなかうまいな。ベートがアイズが大好きなのは周知の事実だ。アイズの好感度が上がるという利点で釣るか。

 

 「………そうだと思うか?」

 

 「ああ。今の状況で上手く行っているということはきっと今のお前が嫌いでないということだろう。」

 

 ちょろっ。ベートはもうすでに陥落寸前だ。

 

 「そうか、アイズがそう考えてるなら………」

 

 「ふむ、それでは新たに二十人ほど担当者を増やしてくれ。」

 

 「ま、待て!二十人は多くねぇか?」

 

 「頑張って働くベートを見ればアイズはより一層深く惚れ直すのではないか?」

 

 「………やる。」

 

 ちょろっ。

 

 ◇◇◇

 

 「なかなかでした。しかしベート様はあくまでも初級編です。次は中級編を行ってみましょうか。タケミカヅチ様の給料の交渉です。」

 

 ◇◇◇

 

 やはりタケミカヅチ道場。向かい合うリリルカ、アステリオス対するタケミカヅチ。

 

 「やあ、アステリオス。」

 

 「タケミカヅチ殿。」

 

 向き合うタケミカヅチとアステリオス、間に流れる微妙に緊張感のある空気。ミーシェに蹴られる俺の足。

 

 「なあ、道場も結構大きくなったしそろそろ俺の給料をあげてくれよ。」

 

 俺はこれは知っている。

 リリルカはあらかじめタケミカヅチにアステリオスの交渉を鍛えている話の根回しをしていた。これは仕込みだ。ベートはガチだったけど。

 アステリオスの対応が見物だな。

 

 「ふむ、いくらくらいを考えておられるのだ?」

 

 「〇〇ヴァリスくらいでどうだ?」

 

 その言葉に横のリリルカの顔色を伺うアステリオス。首を横に振るリリルカ。

 

 「ふむ、あなたの仕事が立派なものだということは知っているが、それは少し高すぎる。俺の上司の許可がおりんようだ。」

 

 横でリリルカがボソッと□□ヴァリスと呟く。

 それを聞いたアステリオスが続ける。

 

 「□□ヴァリスでどうだ?」

 

 「もっともらえてもいいんじゃないか?」

 

 その言葉にうろたえるアステリオス。どうすればいいか困り顔。

 それを見て仕切り直しを決めるリリルカ。

 

 「それでは一旦交渉を中止して再講義を行いましょう。」

 

 ◇◇◇

 

 「アステリオス様、交渉とは互いの落としどころの探り合いでもあります。」

 

 「落としどころの探り合い?」

 

 やはりメモをとるアステリオス、やはりミーシェに蹴られる俺。

 

 「はい。馬鹿正直に□□ヴァリスと言ったのがマイナスでしたね。相手も少しでも多い給料を欲しがります。あそこは馬鹿正直に□□ヴァリスというのではなく、□□ヴァリスより少ない額を提示して最終的に□□ヴァリスになるように話し合いを上手に持っていくようにするべきだったのです。」

 

 「なるほど。」

 

 ふむ、これが中級編か。上級編も気になるな。

 それにしてもアステリオスは真面目で飲み込みも早い。これは予想以上の拾い物だったのか?

 

 「それを理解していただけたのでしたら、再度交渉に行ってみますか?」

 

 「しかし先ほど断られたのではないか?」

 

 「それも腕の見せ所ですよ。頭を使って上手く話し合ってください。」

 

 無茶ぶりのようにも思えるが、リリルカは一流の育成者だ。

 リリルカがこういうということは、アステリオスにはそれだけの能力があるということか。

 

 ◇◇◇

 

 再びタケミカヅチ道場で彼等は向かい合う。

 

 「俺の給料の〇〇ヴァリスの話は考えてくれたか?」

 

 先制するタケミカヅチ、対するアステリオス。

 

 「やはり〇〇ヴァリスは少し高い。連合にも出せる上限がある。□□ヴァリスまでだな。」

 

 「おいおい、もう少し出してくれてもいいんじゃないか?」

 

 「あなたの働きは知っている。いずれあなたの要求にも応えられるように努力するから、ひとまずは□□ヴァリスで納得してほしい。」

 

 「うーん、確かに俺達の付き合いはながいしなぁ。でももう一声欲しいんだよなぁ。」

 

 その言葉に横を見るアステリオス、リリルカはボソリと△△ヴァリスと呟く。

 

 「それなら△△ヴァリスでどうだろう?大幅な増額ではないが、俺達はこれが頑張って出せる額だ。」

 

 「△△ヴァリスか。なるほど。よし。増えてるしいい落としどころだな。」

 

 握手を交わすタケミカヅチとアステリオス。

 これにて交渉終了か。

 

 ◇◇◇

 

 ここはやはり会議室。

 

 「初心者にしては悪くない交渉でした。ベストは□□ヴァリスでしたが、それより少し増えてもさほど問題ではありません。それを理解するには会計の要素も必要です。並行して勉強しましょう。この調子でどんどん鍛えていきましょうか。」

 

 「ウム。」

 

 ………相変わらずやり方がうまいな。あれは多分アステリオスに会計への興味も持たせるためにあえて十分な説明をしなかったな?

 

 アステリオスはリリルカを見る。

 気のせいかその眼差しには尊敬の念が込められている気がする。これは第二のミーシェの流れか?なんかキラキラしてる気がする。というかしてる。

 これはダイ大でいうところの大魔王(バーン)を崇拝する魔王軍大幹部(ミストバーン)みたいなものか?

 やはり蹴られる俺の足。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここは豊饒の女主人。

 クダを巻くミーシェと手持ちぶさたな俺。酒に付き合わされる俺。

 

 「お姉様ああぁぁぁ。あんな牛になんか構わないであたしを見てくださいいいぃぃぃ。」

 

 めんどくさい。実にめんどくさい。今日に限ってシルはおらんのか?おったら押し付けて帰っているところだが?

 

 「ホラ、大団長も飲んでください!」

 

 めんどくさい。しかしコイツも長く付き合ってもらってるし仕方ないか。

 

 だがこのままではヘスティアの二の舞(ヘスティアの受難参照)になるんじゃないか?

 そこへ現れるリリルカ。

 

 「カロン様、面倒(ミーシェ様)を押し付けて済みませんでした。」

 

 「お姉様っっ!」

 

 急にシャキッとするミーシェ。

 

 「ホラ、いつまでも大団長に面倒をかけてないで帰りますよ!」

 

 「お姉様ああぁぁぁ。」

 

 二人して帰る彼女達。ミーシェはリリルカにべったり。

 リリルカも案外面倒見がいいな。姐御肌だ。

 

 やはり大魔王ともなるとそれ相応の器量が必要なのだろうな。




リリルカの講義は初級、中級、準上級、上級、超級の五種類あります。リリルカは当然超級者です。


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過保護な父親

 ここはアストレア連合本拠地の屋上、俺は連合元大団長カロン。屋上では暖かな風が緩やかに流れて行く。

 俺は今ここで腰掛け、オラリオの町並みを見つづけていた。

 

 俺はそれなりの期間、連合の大団長を勤めてきたが何かを変えることが出来たのだろうか?

 何かは良くなったのだろうか?

 俺は飽きることなく町並みを見やる。せわしく動く人々。

 

 俺の隣には大団長の銅像が飾ってある。相変わらず何度見ても解せない。何と言うアホっぽさだ。

 誰だ!こんなの作ると言い出したやつは!全く。

 

 「ここにいたのですね。」

 

 「ああ、何となくな。」

 

 リューがやってきた。リューは俺の隣に腰かける。

 

 「大丈夫ですよ。」

 

 「何がだ?」

 

 リューは笑う。俺は内心を見抜かれたことを悟る。

 はぁ、コイツにまでわかるほど俺は単純だったのか。これは結構ショックだな。

 

 「あなたもわかっているでしょう。もうあなたが心配しなくても何も問題ありませんよ。連合の人間は皆強い人間ばかりです。皆あなたの馬鹿げたタフさを見習って強くなりましたよ。もちろんリリルカさんも、私も。」

 

 うーん、これではもう俺はタヌキとは言えないだろうな。コイツにまでこうも内心を見抜かれるようでは。

 

 俺だってわかってはいるんだ。もう俺は戦えないし、出来ることは限られている。俺はもう仲間を護ることは出来ない。

 ………それでも、、、はぁ、やはり俺は過保護だったか。

 薄々予感はしていたんだ。リリルカのランクアップの時も言われたしな。

 

 ニヤつくリュー、俺をやり込めたのがそんなに嬉しいのか………。

 リューは言葉をさらに紡ぐ。

 

 「大丈夫です。あなたがいなくてもあなたのファミリアの人間は助け合い強く生きていけます。あなたが心配なのはわかりますが、もうあなたが必死にならなくともあなたの家族がいなくなることはありませんよ。あなたはもうすぐリリルカさんの監修の孤児院の院長に就くのでしょう。私とアストレア様も付いていきます。また以前のファミリアのように私達でやっていきましょう。」

 

 「………寂しくもあるな。」

 

 「物事の終わりはいつも寂しいものです。割りきって前を向きましょう。新しい職につけば、また新しい家族が出来ますよ。前の家族との縁も決して切れたりしません。」

 

 ………確かにリューは強くなったな。それに比べて俺は弱くなったのかもしれない。

 以前の俺は決してこんなに弱くなかったはずだ。

 

 しかしリューは俺に告げる。

 

 「あなたは以前から決して強くはありませんでしたよ。確かに弱くはありませんでしたが。私もずっと勘違いをしてきました。あなたは強いと。しかしあなたは強いフリをしていただけです。自分を含めた周囲を強いと騙していただけです。やせ我慢とはそういうものですよ。あなたは見事に周りを騙しきりました。詐欺師の面目躍如ですね。………ノッポの痩せこけて何も持たない子供は、辛さを騙して痛みを堪えて英雄に成り上がったんです。その姿を見た神が、ほんの少しだけの加護を与えるんです。私も灰色の英雄譚を読みました。」

 

 俺も少しだけ読んだ。連合の図書館においてある。リリルカの推薦図書になっている。

 灰色の英雄譚も、始まりは仲間を無くした主人公が必死に強くなっていく話だったな。

 胸を張るリュー。俺は昔のことを想う。

 

 「そうか、俺は弱者だったのか………。」

 

 俺は弱者であってももう赦されるのか………。

 

 「どうでしょうね。少なくともあなたが家族を護るために必死で我慢しつづけている間は誰もあなたには敵わないでしょう。そう考えれば強者です。しかし我慢する意味がないならその限りではない。そして今のあなたに我慢する意味は以前ほどではない。周りが強くなればますます意味がなくなるでしょうね。それでも別にあなたが弱者だろうとどうでもいいことです。強くなった私が護りますよ?あなたの弱さを聖女リオンの御名において赦します。」

 

 リューの笑顔。

 コイツは以前に比べてずいぶんと男前になったものだな。プロテインの力か?

 ………脳筋系男前ヒロインとか需要はどれほどあるのだろうか?

 今度リリルカに市場調査でも頼んでみるか?まあ、少なくとも連合では需要があるか。

 

 「俺も頭ではわかってはいるんだよ。いつまででも年寄りが心配してても何にもならないってことくらい。でもそれと気持ちは別物なんだよ。」

 

 「【オラリオの父】は子供に過保護ですね。」

 

 俺は以前ロキには見栄を張った。年寄りなりの幸せを探しに行くと。

 しかし実際は未練タラタラだな。情けない。

 俺は苦笑う。リューは笑う。

 眼下に広がる賑やかな町並みを俺は飽きることなく眺めつづけていた。

 

 

 

 「さて、と。」

 

 俺は立ち上がり移動しようとする。

 そしてそれに反応して突然何か急にそわつきだすリュー。以前も感じたおかしな空気。

 これはあれだな。やはりデジャヴュだな。

 以前にもこの態度は見た覚えがある。確か俺が以前シバかれたやつだ。なんか嫌な予感がするぞ?またシバかれる予感が。

 ………逃げるか?

 俺の直感的なサムシングは警報を鳴らしつづけている。

 

 俺は屋上を後にしようとする、しかしリューに捕まれる。

 ………捕まってしまった。

 

 「………ところで連合は大きくなりましたね。始めは連合は私を護るために作り上げたものでしょう。私のためにここまでのものを作り上げるなんて、よほど私のことが………その………」

 

 俺はステータスを持たない一般人、対してリューはもはやレベル7の超絶強者。

 リューは紫の毒竜戦でさらにランクアップしていた。

 リューより強いと予想されるのは猛者、アイズ、ベルの三人しかいないと言われている。

 どうやら俺を逃がすつもりはないらしい。捕まれた腕は微動だにしない。

 何が言いたいのかはわからないが、これは少し大人げなくないか?

 

 「………リュー、何が言いたいんだ?」

 

 「つまり、連合の人と人を繋ぐ輪は私への結婚指輪ということでよろしいのですね?」

 

 「なんでそうなるんだ!?」

 

 よろしくない!何なんだその超理論は!散々超理論を駆使しつづけた俺でも真っ青だぞ!?論理の飛躍というレベルではない!

 しかし俺を掴む腕の力は一向に衰えない。

 リューは開き直ったのかあまりにも堂々とした態度。男前にもほどがあるだろう?

 

 「よろしいのですね!!!」

 

 ………コイツマジだ。だんだん俺を掴む力が強くなって来ている。何度でも言うが俺は非力な一般人だ!おれの腕を握り潰すつもりか!?

 

 ………俺はどうすればいいんだ?頷くほかないのか?先の超理論を認めてしまうほかに道はないのか!?助けてくれ、リリルカ!

 

 「よ・ろ・し・い・の・で・す・ね・!・!・!リリルカさんは助けに来ませんよ!あなたの居場所を私に教えたのはリリルカさんです!!」

 

 マジか………。

 ああ、これはもう無理なのかも知れない。

 俺の我慢力はどれほど残っているのか?俺はリューを強くしすぎたのか?強くなったリューには勝てないのか?

 ………勝てないのだろうな。

 

 ◇◇◇

 

 英雄は無双でなくとも、無敵でなくとも、無敗。

 

 のはずなのだが、この日彼には人生初の敗北が刻まれたのだろうか?




                                     今度こそ終わり
そして補足しておきます。カロンは子供のうちから親を無くしているので恋愛よりも親愛です。
恋愛面に関しては子供のまま大きくなってしまったのです。
裏話として、なぜ話の冒頭でカロンはベートがアイズに好意を持っていることに気づいたのかは、最初にロキに同盟をお願いしにいったときに、何か有効な手立てはないかロキファミリアで周囲を必死に観察していたためです。


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誰かの受難?

なんか思いついちゃったので、こっそり更新。


 「そっちに行ったぞー!!」

 

 「つかまえろー!!」

 

 ???

 ーーはぁ、はぁ、はぁ、もうダメだ、捕まってしまう。まさか奴らがここまで強大になっていようとは!?クソッ!!

 

 オラリオの路地、ダイダロス通りをひた走りに逃げる一人の人間とそれを追いかける大勢。今ここ、オラリオでは大捕物が行われていた。

 

 「やっと追い詰めたぞ!覚悟しろ!」

 

 行き止まりに追い詰められる一人の人間、それを大勢が囲む。

 そこへと一人の人間がやってくる。

 

 カロン

 「コイツが例の奴か。」

 

 「大団長!ええ。コイツがリリルカさんが言っていた奴です。」

 

 旧アストレアファミリアで起きた悲惨な事件、頭脳チートであるリリルカはカロン達の為に事件の詳細な分析を行っていた。

 その結果、事件に関わった人物達にある一人の有力な首謀者と思われる人物が走査線上に上がってきたのだ。

 

 カロン

 「お前が悪夢の首謀者か?」

 

 ???

 「違う!」

 

 カロン

 「しかしリリルカはお前が事件に密接に関わっていた可能性が高いと判断していたぞ?お前はそれをどう説明するんだ?」

 

 カロンは考える。

 

 ーーこんなチンケで貧相な奴があの悪夢の首謀者だと!?こんなミノタウロスにすら泣いて逃げ惑いそうな奴がか?しかしリリルカが間違いを犯すとは………。どういうことだ?

 

 カロン

 「………俺達の仲間にはリリルカという超絶チートがいる。嘘を付いてもすぐにばれることだ。悪いことにはしないから正直に言ってくれ。お前が首謀者なのか?」

 

 ???

 「………私は首謀者ではない。しかし事件にお前を巻き混んだのは確かに私だ。私はお前の仇かも知れないが、リューの仇ではない。」

 

 カロン

 「どういうことだ?首謀者でないのに俺の仇だと?そしてリューの仇ではないと?詳しく説明してもらおうか?」

 

 誰か

 「それは不可能だ。」

 

 カロン

 「なぜだ?」

 

 誰か

 「事件の首謀者はお前が想像もつかないような巨大な存在だ。強大な存在(原作者様)強大な組織(ハーメルン様)が敵に回ることになる。その方々は、指先一つで世界を崩壊させたりすることすらも可能だ。私は末端の末端の下っ端が萌える日に出したゴミ屑に過ぎない。悪いことは言わない、やめてくれ!」

 

 カロン

 「………そいつらが闇派閥のボスだと言うことか?」

 

 誰か

 「いいや、違う。お前はそれ以上知るべきではないよ。」

 

 そこへリリルカがやってくる。

 

 リリルカ

 「その人のいうとおりです、カロン様。リリ達はこれ以上は知るべきではありません。その人は馬鹿だからこの世界に遊び気分で侵入したところを取っ捕まえることが可能でしたが、真の首謀者達は余りにも強大な存在です。その人の言っていることはおそらく正しいと思われます。」

 

 カロン

 「大魔王のお前ですらか………。じゃあコイツはどうする?リューにでも引き渡すか?」

 

 誰か

 「リュー様………望むところだ!」

 

 カロン

 ーー望むところだと!?リューの調教を望んでいるということなのか?馬鹿な、変態ではないか!確かになんかいやに嬉しそうだし。

 

 そこへリューもやって来る。

 

 リュー

 「嫌ですよ。なんか気持ち悪いです。」

 

 誰か

 「なんだと!?そんな………。」

 

 カロン

 ーーふむ、なんか本気でガッカリしとるな。確かに気持ち悪い。これはリューに引き渡すのもなぁ。アポロンファミリアの人員がまた増えることになりそうだし。それよりコイツから首謀者のことをなんとかする方法を聞き出せんのか?

 

 カロン

 「………俺達には首謀者を捕まえることはできんということか?なんとか方法はないのか?」

 

 誰か

 「不可能だ………といいたいところだが一つだけ可能性がある。」

 

 カロン

 「それはどういう方法だ?」

 

 誰か

 「次元昇華魔法だ。」

 

 リリルカ

 「やはりそれしかありませんか。」

 

 カロン

 「リリルカ、どういうことだ?」

 

 リリルカ

 「カロン様、リリ達の生きるこの世界は二次元と呼ばれる世界です。真の首謀者達は三次元と呼ばれる世界に生きています。リリ達は三次元には干渉できません。次元の壁が干渉を拒むからです。しかし、その壁を乗り越えることができれば、あるいは………。しかし危険も大きいです。前代未聞です。」

 

 カロン

 「………リリルカ、俺達はどうするべきだと思う?」

 

 リリルカ

 「リリ達が仲間を大切に思うなら、ここは諦めるべきです。そこの馬鹿みたいになんかの間違いで彼等がこの世界に入り込んで来ることを虎視眈々と待ちつづけるしかありません。」

 

 カロン

 「そうか………。ところでそこの馬鹿はどうするんだ?アポロンはもう満員だし、リューは気持ち悪がっているぞ?」

 

 リリルカ

 「まあ………なんとか使えないか試してみましょうか………。」

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン。

 

 あれから俺達は一つの選択肢としてなんとか次元の壁を越える方法がないか試している。

 俺達は仲間を護る為の組織だ。こちらから危険な相手に攻め込んでいくつもりはないが、また悪夢が繰り返されないとも限らない。その時に何の有効的な反撃手段を持ち合わせていないのでは対策もできないからだ。先の取っ捕まえた相手の意見も聞きつつ、なんとかならないか模索している状況だ。しかし、今のところ全く見通しが立っていない。

 ………あの馬鹿はどうやってこの世界に侵入したんだ?

 

 そして肝心のその馬鹿は今どうしているのかというと………。

 

 ヘスティア

 「新人君、甘いよ!もっとしっかり磨かないとダメさ!」

 

 誰か

 「わかりました!」

 

 使い道があまりに思いつかなかったため、ヘスティア(トイレ掃除担当者)の部下になってしまった。

 冒険者にしてはあまりに弱く、他の専門的なファミリアに入れるにもアホ過ぎる。他に使い道が思いつかなかった。リリルカさえもだ。

 

 俺はトイレ掃除をする誰かを見やる。

 それにしてもコイツが俺の仇か。そしてリューの仇ではないらしい。何度考えても意味がわからない。しかしリリルカがそういうからには間違いはないのだろう。

 憎くないわけではないが、見る限りあまりにもしょぼい。もっと凶悪な相手を想像していたのだが………やめよう、悪は正当に罪を償っている。

 

 ヘスティア

 「新人君、思ったよりも筋がいいじゃないか!」

 

 誰か

 「ありがとうございます!」

 

 ………筋がいいらしい。トイレ掃除神のヘスティアがそういうからにはそうなのだろう。

 ふむ、誰にでも一つくらいはなんかの取り柄があるものなのだな。



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エピローグ風

なんかまた書きたくなりました(開き直り)


 物事の終わりはいつだって寂しいものだ。

 私は以前にそう言った記憶がある。

 

 時間は止めどなく流れて行き、いくつもの別れを繰り返す。

 以前に本拠地に植えた木の芽は大樹となり、私が大切に想っていた人との別れも来る。

 悲しいが、しかし彼は満たされていたのではないのだろうか?別れの際、私の心は考えていたよりも穏やかであった。

 

 私たちが作り上げたものも、時間と共に変容を遂げていき、今は面影も残らない。しかしそういうものなのだろう。

 彼等は去り、私は一人残された時を悠然と過ごしていた、しかし私にも終わりは来る。

 

 命は廻るのだろうか?生まれ変わればまた彼等に逢えるだろうか?

 

 もし命が廻るのであれば、次の生もよきものであることを私はただ願おう。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 という、夢を見た。私は焦って飛び起きた。

 

 いやいやいや、ふざけないでください。

 なにいい話っぽく終わらせようとしてるんですか?私はまだ結婚もしてませんよ?

 誰かは本当にふざけています。喧嘩を売っていますね?私はレベル7ですよ?

 仕事(トイレ掃除)量を百倍に増やしてやりましょう。

 

 私はベッドから起き上がり、鏡の前に立って髪の毛を整える。色でも変えてみましょうか?

 最近、リヴェリア様もご結婚なさいました。彼女はとても幸せそうで私は羨んだ覚えがあります。

 

 それを見た私は退路を断って彼に詰め寄りましたが、彼はまさかの逃げ切りやがりました。本当にまさかです。

 ありえないでしょう?私はレベル7ですよ?どんだけ我慢強いんですか?弱くても構わないと言ったばかりだというのに!?リリルカさんにまで協力してもらったというのに!?

 ああもう、思い出したらまた腹が立ってきた。こういうときは私の得意なお料理でストレスを発散するに限りますね。料理が上手な女性は重宝されると聞きますし。

 

 ◇◇◇

 

 ここは俺の部屋、俺の名はカロン。ただの一般人だ。

 俺は今ここでリリルカと対面していた。リリルカは今日はお休みらしい。

 

 「リリルカ、お前リューになんか変な協力しただろ?この間大変だったんだぞ?勘弁してくれよ。」

 

 「リリはむしろあの状況からカロン様が逃げきったことにびっくりです。どうやったんですか?」

 

 「リューは案外と単純でぬけてるところがあるからな。口から出まかせを言って離してもらったよ。時間はかかったけど。んで逃げた。後は人が少ないところに行かないようにしてた。」

 

 「うーん、それは………それにしてもどうしてそんなにカロン様は頑なに拒むのですか?」

 

 「いやほらあれだろ。想像してみろよ。毎日リューの料理とかさ。あいつ絶対に料理したがるぞ?」

 

 「ああ。うーん、確かにリュー様は嫁力が低いんですよね。なぜかそれでもオラリオお嫁さんにしたいNo.1に輝いているのですが。」

 

 「それはあれだよ。どMのアポロン達の固定票だろ?」

 

 「まあ、そうですよね。」

 

 溜息をつく俺とリリルカ。

 

 「とにかくもう勘弁してくれよ。一般人の俺がレベル7のリューの相手をさせられてるんだぞ?」

 

 「うーんそれでもここまで好き放題したからには最後まで責任をとるべきなのでは?」

 

 「別にリューはまだ時間的にだいぶ余裕があるだろ?」

 

 「うーん、まあリリは中立でいることにします。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 私は連合の厨房へと入る。私は自室にキッチンを申請したのだがなぜか会議で通らなかった。

 私にはキッチンを持つ権利もないらしい。………私は以前は副団長だったはずなのだが?

 

 厨房には当然料理人がいます。彼等は頑なに私の調理を拒みます。

 しかし甘いです。レベル7で速度に自信がある私であれば、なんと彼等の目に留まらぬ速度で動きながら料理することが可能なのです!うるさく言われたくありませんしね。

 しかしうっかり音速(マッハ)を超えてしまったら衝撃波を撒き散らしてしまいます。衝撃波を撒き散らしたら本部が崩壊してしまいます。

 さて、衝撃波を撒き散らさないように速度を調整して、っと。

 今日はなにを作りましょうか?グラタンとかどうでしょうか?

 

 ◇◇◇

 

 「カ、カ、カ、カロンさん、大変です!」

 

 俺の部屋に大慌てで料理人が入ってくる。

 俺とリリルカは顔を見合せる。どうしたと言うんだ?せわしないことだ。

 

 「一体なにがあったんだ?」

 

 「そ、それが、厨房の材料が気付かないうちに減ってるんです!」

 

 「なんだと!?」

 

 俺とリリルカは真っ青になる。

 俺達は知っていた。厨房から締め出されたリューが、その高いステータスを無駄に使って料理人の目に留まらぬようにたびたび料理を行っていることを。

 そして俺達はその対策として、材料の残量を確実に量ることで見極めていた。

 

 ………本当にステータスの無駄遣いだな。果たしてかつてこれほど馬鹿げたステータスの使い方をした人間は他にいただろうか?

 

 「どうなさいますか!?」

 

 「………そうだな………逃げるか?」

 

 いまさら厨房に行ってもステータスのない俺には手のうちようがない。なにしろリューは速すぎて見えないのだ。

 万一轢かれでもしたらステータスのない俺は挽き肉になってしまう。

 ベルだったら見えるだろうが、ベルはあまり強く言えんしな。

 

 「そ、そんな………見捨てないでください。」

 

 悲壮な表情をした料理人。

 しかしなあ、ステータス持ちの時でさえひどい目にあったというのに今の俺にはなんにもないぞ?………間違いなく第一標的は俺だぞ?

 

 「………リリルカ、なにかいいアイデアはないか?」

 

 「………リュー様はご自身の料理の味見をなさらないのでしょうか?」

 

 「………考えたことなかったな。自分の料理の出来が分かれば料理する気が失せるかもしれんが………。」

 

 俺とリリルカは再び顔を見合せる。

 

 「試してみるか?」

 

 ◇◇◇

 

 ここは厨房。傍目には複数人の料理人が調理を行っている。

 ………そこに混じる目にも留まらぬ速さで料理するリューか………。非情にシュールだ………。

 

 「リュー、そこにいるのか?」

 

 「なんですか?」

 

 俺の前に瞬時に現れるリュー。

 やはりいた。怖いよ。

 

 「やはり料理していたか。もう料理は出来上がるのか?」

 

 「後は焼き上げるだけです。」

 

 「………味見はしたのか?」

 

 「愛を込めているので大丈夫です!」

 

 胸を張るリュー。うん間違いなくアウトだ。

 なんだよ愛って?具体的に何を入れてるのか名称をあげろよ。

 

 「………味見をしてみてくれ。」

 

 「でも大丈夫のはずです!」

 

 「味見しなさい。」

 

 「でも………」

 

 「しろ!」

 

 その言葉に渋々味見をするリュー、口に含んだ瞬間、みるみる顔が真っ青になる。まあそうだよな。

 間違いなく食えないものを混ぜている。………壁を越える前にキチンと料理の常識を理解してくれ。

 

 そのまま泡を吹いてバッタリと仰向けに倒れるリュー。

 俺とリリルカは三度顔を見合せる。

 

 「リューには悪いが今回は被害を最小限に抑えられたな。」

 

 「これに懲りてくれるとリリ達も助かりますけどね。」

 

 ◇◇◇

 

 ここはリューの部屋。リューはベッドに横になり上半身を起こす。

 あのあと倒れたリューを医務室に俺は運ぼうとした。

 途中でリューが目覚めたため、行き先がリューの部屋に変更になった。

 

 それにしてもレベル7を気絶させる料理って一体何なんだ?猛者でも倒せるんじゃないか?

 一応材料を調べてみたらわかっているだけでもダンジョンに生える毒キノコとか漂白剤とか入ってたらしい。

 ………殺す気か?

 

 「リュー、懲りたか?俺達はいつもそれを食わされてたんだ。もう本当に勘弁してくれ。」

 

 その言葉にリューは俯く。少し言い過ぎたかな?でも被害を考えるとなぁ。

 

 「………料理が作れないと。作れないと………。」

 

 悲しそうな顔をするリュー、そんなにコンプレックスなのか?

 

 「別にかまわんだろう?人には向き不向きがあるよ。」

 

 「………私は不向きばっかりです。」

 

 「そんなことないよ。お前は強いし、みんな一生懸命なお前に癒されてるよ。」

 

 その言葉に俺を見るリュー。縋るような目つき。

 

 「私は今のままで構わないのでしょうか?」

 

 「ああ。」

 

 「ということは今のままでも結婚できるということでしょうか?」

 

 「………それはしらん。」

 

 さすがに嘘はつけない。まあアポロン達はいるが………。 

 その言葉に真剣な顔をするリュー。

 

 「………やはり私は料理が出来るようにならなくては!」 

 

 俺はその言葉にめまいを覚える。また厨房に無断侵入する気か?無駄にかつての俺以上にしぶとい。

 自滅したのに懲りてない。つくづくリューを強くしたのは間違いだったのだろうか?

 

 「………なあ、頼むよ、お願いだよ。お前は一体どうやったら懲りてくれるんだ?」




わかりきってたことですがやはりリューさんもキャラ崩壊を起こしていますね………。


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次元移動魔法

 俺の名前はカロン、ただの一般人だ。ここは少し前に設立された連合魔法研究部門。

 この作品は完結しているはずなのだが、誰かが何となく書きたいというパッションに導かれてまた書いてしまったらしい。

 ………開き直り過ぎではないのだろうか?

 

 俺達は以前に俺達を陥れた奴らの黒幕に対する対抗策として次元昇華魔法を研究していた。俺が大団長を務めていた頃に始めた研究だ。

 俺達の研究はなかなか進まなかった………のだが。

 

 「うーん、なんとも案外いろいろなことが出来るものですね………。」

 

 彼女は大魔王リリルカ。研究の責任者も兼ねていた。そろそろ過労で倒れないか俺は心配している。

 俺は今日ここで彼女から研究の成果の報告をされていた。

 

 「面白いものだな。」

 

 俺達は次元昇華魔法は使えるようになっていない。しかし代わりといえるのだろうか?

 次元移動魔法という謎の魔法が使えるようになってしまったのだ。

 

 「軽々と使ってしまっては何が起こるかわかりませんね。誰かの意見も聞いてみましょうか。」

 

 魔法が使えるようになったのはベルだ。

 次元移動魔法、一体何が出来るのだろうか?

 

 ◇◇◇

 

 「次元移動魔法か。おそらくそれは他の次元に移動出来る魔法だな。」

 

 「どういうことでしょうか?」

 

 俺達は誰かを呼んできた。誰かはリリルカによると案外変な知識を持っているらしい。

 

 「この世界(二次元)にはいくつもの世界(作品)がある。それはおそらく他の世界に渡り歩くことが可能な魔法だな。」

 

 「具体的には?」

 

 「具体的に言うわけにはいかない。まあ実際に使ってみればわかるとしか。他の国に移動する魔法とでもイメージすればわかりやすいかな。」

 

 ふむ、ということは以前に俺がハッタリで言っていた転移魔法のようなものか。

 俺達には一体何が出来るのだろうか?

 

 「俺達には何が出来るのだろうか?」

 

 「うーん、お前の役に立つ使い道となると………私の知る限りではステータスの復元なんかに使えるかも知れないな。」

 

 「なんだと!?どういうことだ!?」

 

 「お前は最近リュー様から逃げる為にステータスを欲しがっていたな?私の知っている奴でそれが可能かも知れない相手が一人だけいる。異世界であらゆる問題を解決し続けてきた英雄だ。」

 

 「教えてくれ!」

 

 「うんいいよ。」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 俺はあのあと誰かに魔法の使い方について詳しく聞き出した。

 そしてステータスの復元が可能な相手の座標位置を詳しく聞いて移動して来たところだ。

 

 今ここには俺とベルと誰かの三人がいる。

 今は薄暗い夕暮れ時、黄昏れる逢魔が時。不気味に伸びる三人の影。

 舗装された道に俺達はいる。

 

 「変なところですね。僕たちの知っている世界とはまるで違うみたいです。」

 

 ベルがそう話す。ベルの言う通りだ。

 緊張する俺とベルは辺りを注意深く観察する。誰かだけはゆるい雰囲気を醸している。

 

 「何が起きるかわからんな。」

 

 「ええ。」

 

 「そこまで警戒する必要はないよ?」

 

 ゆるい誰か。

 

 「俺達の世界に何の用だ?」

 

 「「何者だ!?」」

 

 突然俺達の後ろに何物かが現れる。くそ、逆光で顔が見えない。ただその目だけが不気味に黒ずんでいる。

 馬鹿な!?高レベルのベルがここまで近づかれるまで気付かなかっただと!?

 俺達は相手の戦力を見誤ったのか!?誰かだけは相変わらずぼんやりしている。

 続けて語る突如現れた何者か。

 

 「俺はこの世界の人間だ。今感じた次元の断層のズレからあんたらが異なる世界から来たということはわかっている。あんたらはこの世界に何しに来た?」

 

 その言葉に誰かが一歩前に出る。

 

 「私達は連合という組織の人間だ。私は誰かでこちらがカロンでこっちはベルだ。私達はお前に用があって会いに来たんだよ。暴れたりはしないから警戒しないでほしい。」

 

 俺達は相手を油断なく見る。ベルは俺の横で万一のための臨戦体制をとっている。

 相手は移動してその容貌があらわとなる。

 腐った目に頭に立つ一本のアホ毛、見た目は強そうに見えないが油断するわけにはいかない。

 

 「何の用だ?」

 

 彼は俺達にそう聞く。俺は彼に答える。

 

 「その前に一つ教えてほしい。お前はどうやって俺達の後ろをとったんだ?ベルは強者のはずだ。」

 

 「あれは忍法、ステルスヒッキーだ。」

 

 「忍法、ステルスヒッキー?」

 

 忍法、俺の記憶が正しければタケミカヅチの地元の秘技だったはずだ………。確か忍者と呼ばれる特殊な職種の人間のみが使える技のはずだ。

 

 「ああ。」

 

 「お前はすると忍者なのか?」

 

 「いや?違うでござるよ?ニンニン。」

 

 「何!?どういうことだ?なぜお前は忍者でないのに忍法を使えるのだ!?そしてその喋り方は一体何なんだ!?」

 

 その言葉に不敵にニヤリと笑う相手。

 

 「忍法くらい朝飯前だ。なにしろ俺のレベルは15。ソードスキルのユニークスキルもすべて使えるし英霊の座にも登録されている。ブラックトリガーも百個所持しているしなんならあと8回変身を残しているまである。」

 

 「なんだと!?」

 

 本当なのか?レベル15!?リューの倍以上ではないか?インフレにもほどがあるだろう!ユニークスキルとか英霊の座とかブラックトリガーとか変身とかは意味わからんが。

 隣を見るとベルが震えている。くそ!どうすればいいんだ!?

 俺は思考する。レベル15が真実ならば俺達に勝ち目は存在しない。交渉は可能なのか?

 

 「まあそれはいいとして何の用だ?」

 

 やはり彼は聞いてくる。交渉してみるしかないか。

 

 「俺達の用は消された俺のステータスの復元が可能なのかどうかということだ。お前はあらゆる問題を解決してきた英雄だと聞いている。」

 

 俺は油断なく相手を見る。

 

 「お安いご用だ。その程度の問題ならばぱっと思い付くだけで解決する方法は250通りほどある。」

 

 「なんだと!?」

 

 250通りだと!?奴は化け物か?レベル15は伊達ではないということか!?

 

 「まあそのうち249通りは外道の業だから実質は一通りだな。」

 

 「どうやるんだ?」

 

 「なに、簡単だ。地球の自転を逆回転させて時間を巻き戻せばいい。」

 

 「馬鹿な!?」

 

 自転を逆回転させるだと!?そんなことをしたら環境が激変して世界が滅んでしまうではないか!?

 それに自転を逆回転させるのはどこかのアメコミヒーローの技ではなかったのか?あれ?違ったか?ちょっとよくわからないな。

 挙げ句の果てに簡単なことだとか言っている。どれだけ化け物なのだ!?

 

 「俺に不可能はない。あんたの懸念事項もなんら問題ない。」

 

 本当なのか?

 俺は誰かを見やる。頷く誰か。どうやら本当らしい。

 

 「………頼めるのか?」

 

 その言葉にやはりニヤリと笑う相手。

 

 「物事を頼むには対価が必要だ。」

 

 「その通りだな。お前は何を望むのだ?」

 

 「なに、簡単だ。あんたらは連合の人間だと言っていたな?俺もその連合とやらに入れてほしい。」

 

 「………何の目的だ!?」

 

 意味がわからない。レベル15の強者が他者に属する意味があるとは思えない。

 ………というよりレベル15って本当にどういうことだ?強すぎないか?

 

 「なに、簡単なことだよ。亢龍に悔いありとな。あるいは過ぎたるはなお及ばざるがごとしか?俺は強くなりすぎたんだ。」

 

 相手は遠い目をして続けて語る。

 やはり目は腐っている。しかし少し寂しそうにも見える。

 

 「俺は強くなりすぎてなにもかもを一人で出来るようになってしまった。結果として俺の世界は一人で完結してしまったんだ。みんな俺を恐れてるんだ。どれだけ強くても意味がないんだよ。俺にとって強さとは手段であって目的ではない。俺は目的を見失ってしまったんだ。絶対的な力と引き換えに努力することも成長することもなくなってしまった。どうでもいいんだ。そんなことより本当は俺も仲間が欲しいんだ。あんたらは仲間を護る組織なんだってな。うらやましいよ。俺だっていつまでもぼっちは寂しいんだ。」

 

 ◇◇◇

 

 俺達はあのあと再びベルの次元移動魔法を使用して俺達の世界に戻ってきた。

 今回は彼も一緒だ。名はHACHIMANというらしい。名前はローマ字なのがみそだそうだ。

 

 ………クロスオーバータグが必要なのではないか?しかしここまでやってしまうともはや名前を借りただけの別キャラのような気もする。

 どうなのだろう?イマイチ判別が着かない。

 

 帰り道俺達は話す。

 彼は落ち着いた話の通じる人間だった。彼は俺に話しかける。

 

 「あんたは何のためにステータスを復元するんだ?戦いとか別に好きそうには見えないが?」

 

 「………最近リューというエルフから逃げる必要があってな。リューは後で紹介するよ。」

 

 「エルフのリューとは女性か?」

 

 「ああ。」

 

 その言葉にHACHIMANの腐った目はさらにドロドロと濁りを増す。怒りを湛えた漆黒のその目に俺は気圧される。

 HACHIMANは心の底から叫ぶ。

 

 「爆発しろクソリア充が!」

 

 「………リューの料理を食べると本当にお腹が爆発しそうになるんだぞ?なんだったら俺の代わりに食ってみるか?」



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魔王軍四天王

 ここは俺の部屋、俺はただの一般人カロン。

 俺は今ソファーに座って、コーヒーを飲みながら新たに仲間に加わったHACHIMANと話をしていた。

 目の前に座る彼の目のような漆黒が俺の喉を通りその苦みが俺に美味を感じさせる。

 うむ、うまい。しかしそれにしても誰かに食レポは全く向いてないな。何とひどい比喩表現だろう?

 俺は彼に話しかける。

 

 「お前は俺のステータスを復元するために地球の自転を逆回転させると言っていたがそんなことしたらなにか問題は起こらないのか?」

 

 そう、これは大切なことだ。

 いくら俺のステータスを復元出来てもそれで世界に深刻な弊害が出るようでは話にならない。

 

 「そうだな。一つだけ問題があるかもしれない。自転を逆回転させて時間を巻き戻すと太陽が西から昇るようになってしまうな。」

 

 「なんだと!?」

 

 太陽が西から昇る………これはどう考えるべきなのだろうか?

 西から太陽が昇るのは天才バ○ボンの世界観ではないのか?

 

 ………それでいいのだ?

 

 いいや、良くないだろう。

 俺一人の都合で世界観をぶち壊すのはさすがに気が乗らない。………すでに十分崩壊している気もするが。

 しかし住民は間違いなく困惑するだろう。

 

 「で、どうする?」

 

 HACHIMANは俺に問い掛ける。

 さすがに俺一人の都合で世界を改変させるわけにはいかない。他の方法は外道だと言っていたな。

 

 「うーん、俺一人の都合やらでこれ以上世界観をぶち壊すのはさすがになあ。………一応聞いておくが他の方法とはどのようなものだ?」

 

 「あんたの体をすり潰して魂を直接取り出して復元させたり、光速で直接時間を遡って摩擦で消滅したあんたの体を復元させたり、空間に穴を開けて時間を遡ったり、まあそんなんばっかだな。どれも危険性が高くあんたは非常に痛い思いをすると思うぞ?あまりオススメ出来ないが望むのか?」

 

 「いや、遠慮しよう。」

 

 「すると俺があんたの為に出来ることはなくなるが、それでも俺はあんたらの組織に入れるのか?」

 

 「ああ、それは構わん。お前は誰かに非常に有能な人間だと聞いている。この間大団長のベルとは会っていたはずだから今日は責任者のリリルカを紹介するよ。」

 

 ◇◇◇

 

 「HACHIMAN、彼女がリリルカだ。」

 

 「リリがリリルカ・アーデと申します。HACHIMAN様ですね?以後おみしりおきをお願いします。」

 

 「ああ。俺がHACHIMANだ。」

 

 ここは連合会議室。新たな人材の使い道を考えるために彼を大魔王に面通しさせたところだ。

 

 「カロン様からHACHIMAN様のお話は聞いています。あなた様はどういう仕事がしたいとかおのぞみはございますか?」

 

 「いや、特には考えていない。なんなら仕事したくない。」

 

 「それはさすがに通りませんよ?」

 

 「まあそうか。そっちで適当に考えてくれるか?」

 

 「それでしたらいくつか候補を上げさせていただきます。お強いと聞いていますしオススメは冒険者とかですかね?」

 

 「できれば外に出たくない。なんなら家から一歩も出たくないまである。」

 

 「さすがに在宅で可能な仕事はほとんどございません。連合本部内で出来る仕事でよろしいですか?」

 

 「………仕方ないか。それで頼む。」

 

 「連合本部内のみでしたら選択肢は限られてしまいますよ?適性を検査して高いようでしたら道場の師範代とか、あるいは何らかの専門のもの作り部門か。」

 

 リリルカとHACHIMANは話し合う。

 俺はもうここには用がない。俺は外へ出た。

 

 ◇◇◇

 

 今日は先週の来週。当たり前か。

 ここは連合内タケミカヅチ道場。俺は今ここで新たに入団したHACHIMANの様子を見ていた。

 彼はあのあと結局、タケミカヅチ道場の師範代になった。結構指導者としての適性が高かったらしい。

 

 「この程度でへばるようではダンジョンではやっていけないぞ!」

 

 「はい!」

 

 新米冒険者に指導する彼と息を切らせる冒険者。

 俺は彼の指導する姿を眺める。なかなかさまになっている。リリルカのお墨付きだし問題はないのだろう。

 

 「心配いりませんよ?」

 

 「リリルカ。」

 

 リリルカも来た。

 彼女もHACHIMANの指導する姿を見に来たのだろうか?

 

 「HACHIMAN様の能力分析を行いました。彼は理性が強い人間です。きちんと筋道だてて他人に理解させるのは得意分野です。しかし感情を理解するのが苦手な方でもあります。今はアステリオス様と一緒に師範代を務めながらリリの元に交渉を習いに来ています。」

 

 「そうなのか。」

 

 他人の感情を自在に操るリリルカに師事を受けに来ているのか。

 

 そういえば彼が所属するかの名作の大魔王も他人の感情を自在に操っていたな。

 ………もしかして他者の感情を自在に操るのは大魔王の必須技能なのだろうか?

 

 ………いや、そもそもこんなヘボSSとかの名作の共通点を捜すこと自体がおこがましいか。

 

 「リリ先生、お疲れ様っす。」

 

 「リリルカ殿、来てらっしゃったのか。」

 

 「リリルカ様、お久しぶりだ。」

 

 リリルカの姿を見かけた師範代がよって来る。

 上からHACHIMAN、アステリオス、ベートだ。三人とも尋常ではない強者だ。アステリオスは人と数えていいのだろうか?まあいいか。

 三人はリリルカに頭を下げる。

 

 ………すごいな。ウチの娘はこんな強者達が頭が上がらない存在になってしまっているのか。

 やはり大魔王以外に言いようがないだろう。すると彼ら三人が魔王軍大幹部か?あと一人いれば四天王だな。まさか俺か?さらにベルとリューを加えたら六大団長になるな。ミーシェは参謀(ザボエラ)あたりだろうか?

 しかしその理屈では連合が魔王軍になってしまうな。

 

 俺も彼らに話しかける。

 

 「三人ともしっかりやってくれているようだな。」

 

 「リア充発見、やる気がなくなった。もうお家に帰りたい。」

 

 「なんだ貴様か。何の用だ?」

 

 「クソタヌキヤローか。テメエ何しに来たんだ?邪魔しに来たのか?」

 

 やはり上からHACHIMAN、アステリオス、ベートだ。

 ………何なんだこのリリルカとの対応の差は。へこむ。俺ももうお家に帰りたい。

 

 「お三方様ともダメですよ?カロン様は前大団長です。相応の敬意を払ってください。」

 

 「ウッス。」

 

 「うむ。」

 

 「おう。」

 

 いやに素直だ。

 ………そうか。魔王軍大幹部とは大魔王以外には敬意を払わない存在なのか。なんかそう言われてみると妙に説得力があるな。それはそれで一貫していると言えるだろう。

 

 「………リリルカ、俺はもう帰るよ。」

 

 俺、しょんぼり。帰り道俺は考える。

 俺はリリルカの欠片ほども威厳がない。ステータスも無くして戦うことも出来ない。俺は娘に威厳で負けたままでいいのだろうか?

 

 「カロン様にはカロン様のいいところがあります。落ち込むカロン様はらしくありませんよ?」

 

 「リリルカ!ついて来たのか?」

 

 どうやらリリルカは俺の後をついて来たらしい。

 そしてやはり俺の心の中はしっかり読まれてしまっているようだ。

 

 「しかしリリルカ、俺が情けないとお前がガッカリしないか?」

 

 「そんなことありませんよ?」

 

 リリルカは優しく笑う。

 

 「リリが高いモチベーションで仕事をしているのは全てはカロン様が喜ぶと思っているからですよ?カロン様はリリを大魔王だと言っていじりますが、リリが大魔王なのだとしたらカロン様は大魔王が崇拝する魔神です。大魔王の心の拠り所で安寧ですよ?魔神は魔神らしく高みにありていつまでもリリ達を見守っていてください。」

 

 ふむ、どうやら俺は魔王軍四天王を飛び越えていつの間にか魔神になっていたらしい。ステータスがなく何の力も持たない俺が。

 果たして俺が魔神なのだとしたらかつてこんなに弱い魔神が存在しただろうか?



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久々にフレイヤ

思い立ったが吉日紹介

連合・・・主人公達が立ち上げた組織。現大団長はベル・クラネルで副団長はアスフィ・アル・アンドロメダ。仲間を護ることを最上の目的としている。様々な専門技能を持つ存在が密接に協力することによって、オラリオに多大な貢献をしている。初めは小さな組織だったが、眷属を護るサポーター部隊というウリによって、力を持たないが眷属を可愛がっている神々がたくさん参入したために瞬く間に巨大な存在となった。弱者でも力を合わせれば何者かになれるという教訓なのだろうか?なのだとしたらこんな拙作で教訓を伝えようとした作者はおこがましいを通り越している気がする。作者には是非、恥という言葉を辞書で引いて調べてみてほしい。

誰か・・・?一体誰なんだ!?

 

 ◆◆◆

 

 「フレイヤ様がお待ちだ。」

 

 ◇◇◇

 

 「久しぶりね。ステータスを消されたと聞いていたけれど元気そうじゃない。」

 

 「ああ、体には別状はないよ。」

 

 ここはバベルの塔最上階、テーブルでお茶を出される俺。向かい合うはフレイヤ。

 部屋の入口に立ち警護する猛者。

 俺は今日久々にフレイヤに会いに来ていた。

 彼らは俺達の同盟者で、定期的に会合を行う必要がある。

 しかしそれはリリルカやミーシェの仕事で、俺は今日は個人的に会いに来ていた。恩神にいつまでも顔を見せないのは不義理だろ?

 

 「………あなたまたさらに魂の色が美しくなっているわね。」

 

 「そうなのか?」

 

 フレイヤはいつものように俺を物欲しそうに見ている。

 別に魂の色などどうでも構わないのだが?

 

 「うちのファミリアに………」

 

 「行かないぞ?」

 

 睨み合う俺とフレイヤ、いつものやり取り。いくら恩神でも聞けない頼みはある。

 なんだか悔しそうなフレイヤ。最近はフレイヤよりイシュタルの方が落ち着いている気がするな?

 

 「………はぁ。わかってるわよ。わかってはいるのよ。あなたが来ないことくらい。」

 

 「今の俺はステータスがないから魅了がきくぞ?」

 

 どうせばれてるだろうから言うけどなぜ魅了しないんだろう?

 フレイヤはとても悔しそう。

 

 「………あなたの魂はどうしようもなく美しいわ。人の持つあらゆる感情がない交ぜになった灰色。人と関わることで醸される様々な矛盾を内包した色。あなたは神聖な人間であるにも関わらず邪悪な人間。人の持つ多面性の具現の色。どこも同じ灰色のように見えても見る方の気分次第で万華鏡のように表情を変える無類の色。他人と関わることで培われる色だから無理に私のところに置いても美しさが損なわれるだけだわ。あなたは私にとって決して手に入らない水面に写った朧月なの。」

 

 「そうなのか?」

 

 フレイヤはドレスの裾を噛んでいる。そんなに悔しいのか?

 

 「ええ。」

 

 「あげれるものだったらあげたいがさすがに魂はなぁ。」

 

 魂が抜かれたらどうなるんだ?

 

 「………はぁ。こんなに美しいんだったらさっさと引き抜いておくべきだったわ。」

 

 「俺にはその美しさとやらはわからんぞ?」

 

 「まあそうでしょうね。」

 

 フレイヤは神酒を飲んでいる。神連中はだいたい好物だ。

 ………ソーマはつくづく自分の能力の使い道を間違えていたんだな。神連中に神酒をあげればこんなに喜んでくれるのに。そうすれば他のファミリアから自分の眷属に便宜が図ってもらえたはずなのに。

 フレイヤは続けて話す。

 

 「私は美の女神よ。美の女神が嫉妬に狂いそうになるほどの美しさと言ったらわかるかしら?」

 

 「さあ?」

 

 「…………まああなただしね。」

 

 テーブルに突っ伏して俺を睨むフレイヤ。そんなことを言われてもなぁ。

 テーブルでごろごろするフレイヤ。………酔ってるのか?そんなキャラだったか?

 

 「はぁ。」

 

 俺を見て何か少し考えるフレイヤ、どうしたんだ?

 

 「まああなただしね。別にいいかしら。細かいことをいつまでも根に持つ人間でもなさそうだし。本当のことを教えとこうかしら?」

 

 「本当のこと?」

 

 何か嘘ついてたのか?

 

 「最初の同盟のことよ。あなたは以前私は木っ端と会ったりはしないと言ったわね。そのとおりよ。私は最初あなたと会う意味も同盟を結ぶ意味もなかったわ。」

 

 「確かにそうだな。」

 

 「あなたに興味はなかったわ。以前見たあなたのところの副団長の魂が少しだけ綺麗だったからあなたの面会を許したわ。あなたは死のうが生きようがどちらでも構わなかった。あなた一人なら会うこともなかった。」

 

 「………そうか。」

 

 思うところがないわけではないが納得できる理由だ。

 

 「あなたのことはどうでもよかったのよ。でも実際に面会して驚いたわ。魂の色が変わっていた。」

 

 ………魂の色とはそんなにころころ変わるものなのか?

 

 「美しかったわ。とても。あなたに興味を持って動向を追いかけた。そうしたら驚いたわ。あなたの魂は変幻自在。頻繁に変化する黒白の濃淡。私は衝撃を受けたわ。」

 

 「どういうことだ?」

 

 「あなたの魂は私にとっては初めて出会ったもの。頻繁に変化するその魂は私にはこう言っているように思えたわ。自分の魂の価値は自分で決める、と。私は私が付けたあなたの魂の価値が無意味だと真正面から言われている気がして驚いたの。そしてその気高いありようすら美しい。」

 

 「それで?」

 

 「あなたの魂は会う度により美しくなっているように私には思えたわ。私は夢中になって追いかけた。あなたの魂はあなたが思うままに行動しているときが何よりも美しかったわ。私はあなたが欲しかったけど無理矢理手元に置いてもくすんでしまうだけ。無価値だと思っていたものが価値の高いものだった上に、それそのものからお前には見る目がなくお前が決めた価値は無意味だと言われたのよ。私のプライドはボロボロよ。悔しかったわ。………ねぇ、特別に寵愛するから私のところに………」

 

 「行かない。」

 

 「………そうよね。」

 

 なおもテーブルでごろごろするフレイヤ、くしゃくしゃになるテーブルクロス。

 ………なんか入口に立つ猛者が顔を赤くしてそわそわしてる気がする。まあ確かにフレイヤ少しかわいいけどさ。猛者は自分のキャラを考えてほしい。

 

 「………リリルカ様に根回しすればもらえるのかしら?」

 

 「………まさかお前までリリルカを様付けしているのか?」

 

 「あなたがもらえるのならそれくらいはしても構わないわ。」

 

 ………まさかリリルカ俺を売ったりしないよな?確かにしょっちゅう迷惑かけているけどさ?

 

 「………ッリリルカは俺の味方だ。」

 

 「なんで少しつっかえたのかしら?」

 

 ニヤニヤするフレイヤ、少し焦る俺、顔を赤くしてソワソワする猛者。猛者はだからキャラを考えろと!

 

 「………俺を無理に手元においても美しさが損なわれるだけだと言ってなかったか?」

 

 「あら、正当な交渉ならあなたは嫌でも納得するでしょう?」

 

 これはまずい。俺に不利だ。………逃げるか?

 

 「………俺はそろそろ用事がある。」

 

 「嘘おっしゃい。どうせ今逃げてもリリルカ様のところに行くだけよ?」

 

 「………リリルカは俺を売ったりしない!」

 

 「あら?リリルカ様を魅了してしまえばいいんじゃないかしら?」

 

 リリルカの元へ行く気か?リリルカには手出しはさせない。

 俺は覚悟を決める。しかし笑うフレイヤ。

 

 「もちろん冗談よ。私がこんなことを言ったのはあなたの魂の色が見たかっただけ。あなたの美しい魂はその自在な色の中でも特に家族や仲間を護る時に一際美しい輝きを放つわ。今あなたの魂はリリルカ様を護ろうとしてとても強く美しい灰色に輝いたわ。はぁ、つくづく惜しいわ。」

 

 ため息をつくフレイヤ。あることが気になる俺、皆も気にならないか?

 

 「………フレイヤ、お前自然にリリルカを様付けしているがまさかお前まで実は普段からリリルカを様付けしていたりするのか?」



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老獪な英雄

 「俺が、ガネーシャだっ!久しぶりだなカロン。」

 

 「俺が、カロンだっ!ああ、久々だガネーシャ。」

 

 ここはガネーシャの個人的な私室。

 俺は今日、ガネーシャに用があると言われて呼ばれていた。

 ソファーに座ってコーヒーを出される俺。さすがにガネーシャは気が利くな。

 俺が呼ばれたのはなにかがあったんだろうか?

 

 「んでガネーシャ、俺に何か用があったみたいだが?」

 

 「………ああ、関わったお前には顛末を話しておこうかと思ってな。」

 

 「顛末?」

 

 何の顛末だろう?

 

 「お前は以前に幾人もの闇派閥を討ち取っただろう。そのうちの一人、レンという人間が自害を図ったよ。」

 

 「………そうなのか。」

 

 レン、確か男と二人組の赤髪の女だ。

 

 「奴は一命は取り留めたが。なあ、カロン、聞いてくれよ。」

 

 「ああ、ガネーシャ。話してくれ。」

 

 人に話すことで心が軽くなることもある。俺は最近それを知った。

 

 「お前が討ち取った闇派閥の人間のうち幾人かの背景を洗い出すことに成功した。………まずはハンニバルという男は子供の頃に親に売り飛ばされて闇でしか生きることができなかった男だ。ヴォルターという男は代々オラリオに敵対しつづけてきた一族の男だ。特に意味もなく過去の恨みに引きずられてそう教育され続けて来たらしい。」

 

 「そうか。人にはいろいろあるものだな。」

 

 「ああ、そのとおりだ。それでレンとバスカル、二人の冒険者の話なのだが………。」

 

 苦しそうに口元を歪めるガネーシャ。

 

 「………奴ら二人は実はもともとガネーシャファミリアの人間だ。今は箝口令がしかれていて、ファミリアでは新しい人間は知らないはずだ。あいつらはかつては俺の子供達だった。………お前には俺のかつての身内の罪を精算させてしまった。」

 

 「………そうなのか。」

 

 苦しそうなガネーシャの表情を見て俺の心は痛む。

 ガネーシャはなおも続ける。

 

 「あいつらはもともと三人組の冒険者だったんだ。仲がよかったよ。才能もあっていずれはファミリアの中枢を任せられるかも知れないと思っていたんだ。俺はかわいく思っていた。でも………あるときあいつらは今はいない一人の仲間を殺されたんだ。タチの悪い連中に。正義を謡うものには必ずと言っていいほど敵が存在する。正義とはその本質が力だからだ。力には対抗する力が現れる。あいつらはそれぞれ仲間を大切に思っていたんだ。復讐をすると言って飛び出したあいつらを俺は止められなかった。」

 

 悲しそうな声を出すガネーシャ。

 

 「俺は止められなかった。復讐相手は立場のある人間だったし、あいつらは復讐をするとき護衛や奉公人として雇われていた無関係な人間まで複数巻き込んでしまっていた。力を持つ俺でもかばいようがなかった。無関係を装う以外にしようがなかった。ファミリアの他の眷属を悪評から護るために。結果としてあいつらは闇で生きるしかなくなった。」

 

 「そうだったのか。」

 

 ガネーシャは酒を煽る。

 いくら立派で立場のある人間でも苦しいものは苦しいのだろう。

 ………人間ではないな。神だった。

 

 「あいつらはもともと仲間思いの真っ当な人間だったんだよ。俺も期待していた。しかし仲間を殺されておかしくなってしまった。あいつらはありえたかも知れないお前の一つの未来の姿だったんだ。俺が以前に話していたかつては正義を目指していて闇に落ちた冒険者そのものなんだ。お前達と境遇が似ているとは思わないか?お前も復讐に走っていたらあいつらのようになっていた可能性は高い。」

 

 苦しそうに呻くガネーシャ。

 

 「お前は老獪な男だよ、カロン。俺はお前達を捕まえることにならなくて心からホッとしている。お前は物事を成すときに短絡的な道にはしばしばたくさんの落とし穴が存在することを知っている男だ。落とし穴の先はどこにつながっているのか?浅い落とし穴なのか?地獄につながっているのか?それは誰にもわからない。危険を避けるためには、回り道が大変でもしぶとく物事の筋道を歩く必要があることを知っている。」

 

 「俺はいつも好きにしていただけだぞ?」

 

 「それでもだ。それでもお前は我慢強く正当な道を歩くことを選んだ。正当に地力を付けて奴らを打ち倒すことをきちんと周りに納得させるというな。不当に一人で行動を起こしていたらお前に敵ができたときお前は一人で戦わなければいけなかっただろう。正当なやり方だから今のお前に敵ができたときお前の周りは忠実な味方ばかりだ。まあたびたび邪道に寄り道していたようだが。だが本筋は正道だ。結果としてあいつらは寂しく牢獄で余生を暮らすことになっている。お前は何者も寄せ付けない強大な力を得た。人々の敬意と言う名のな。今のお前達であれば俺達ガネーシャファミリアにすらいくらでも高圧的に出ることすら可能だし本気をだせば飲み込むことすらできるはずだ。そして俺達を飲み込めばさらに大きくなりロキやフレイヤすらも飲み込める。」

 

 「おいおい、俺が友にそんなことするはずないだろ?」

 

 しかし穏やかに口元を綻ばせるガネーシャ。今日初めての笑顔だ。

 

 「お前は本当に老獪だ。お前は物事の真理を理解している。考えてのことかはわからんが。お前はいくつかの力のあるファミリアは決して取り込もうとしない。お前は理解しているからだ。競う相手がいなくなればいくら強大な組織であろうとも凋落が待つのみだということを。建物を最上階まで上ってしまったら後は下りることしかできない。ロキやフレイヤ、俺達がいなくなればお前達は日々を忙しく働く意味が薄れてしまう。そうすれば連合も必然的に力を落とすことになる。そして競う相手がいないと油断した連合は内部に競う相手を捜し一枚岩でなくなり、闇に付け入る隙を与えることになる。」

 

 「うーん老獪とか言われてもな。ライバルがいた方が面白いだろ?」

 

 「それだぞ、カロン。それが本質なんだ。ライバルがいないとつまらなくてやる気をなくす、それが本質なんだ。」

 

 「でも老獪とか言われても俺には学はないぞ?」

 

 「それでもだ。俺はお前を尊敬している。今だから言うが、俺は怖かった。仲間を失ったお前達が先に述べた二人組のようになるのを俺は危惧していたんだ。いくら俺達の気が合っていたとしてもな。しかしそれは俺の杞憂だった。お前は昏い誘惑に乗らなかった。お前は己が身を滅ぼす汚れを寄せ付けなかった。あいつらは互いを思いやる余裕もなくひたすら時間を相手を憎むことに使い、お前は老獪にも仲間の心を癒すことに使った。毒と薬は表裏一体だ。心の傷は自分一人で思い悩んでいてはなかなか癒せない。人と関わるのが1番の薬になる。あいつらは時間とともに憎しみが毒のように体をまわり、お前は時間を薬として仲間を癒すことに使った。そしてその結果は見てのとおりだ。あいつらに未来はなくなり、お前は何者も寄せ付けない強大な力を得た。復讐とは長く連なる呪いの螺旋だ。終わりの無い不毛な殺し合いだ。短絡的な行動で恨みを買うことは、いつか未来のお前の罪無き子孫を無意味に死なせることに繋がりうる。お前はつくづく本当に老獪だ。」

 

 「よくわからんがお前がそういうのならそうなのかもな。」

 

 「ああ、長い時間を生きる俺達でも尊敬する上手な時間の使い方だ。俺はお前に敬意を払うぞ。」

 

 ガネーシャは笑った。

 

 ◇◇◇

 

 やはりガネーシャの部屋、今日は俺は夕食もいただいて帰る。

 ガネーシャの嫁の九魔姫(リヴェリア)が料理を出してくれる。非常に美味だ。同じエルフでもリューとは大違いだな。

 

 「久々だな、九魔姫。ガネーシャとも仲良さそうでなりよりだ。」

 

 「ああ、久しぶりだ。今日は旦那も疲れているようだな。」

 

 「ああ、つらい話をさせてしまった。お前の料理は非常においしいよ。」

 

 「そうか、それは何よりだ。」

 

 「リューも見習ってくれないかな。」

 

 ◇◇◇

 

 空には無数に煌めく満点の星。オラリオの夜空は今日も綺麗だ。

 今日は少し遅くなってしまった。あのあと俺はガネーシャと話を続けてつい興が乗って遅くなってしまった。

 

 誰にでもいろいろ人生があるものだな。

 俺は考える。

 

 親に捨てられ闇で生きるしかなかった男、代々憎しみという呪いを受け継ぎ続けた男、そしてありえたかもしれない俺の別の未来、か。

 

 しかし俺はそいつらよりもまずは身内を考えるべきだろう。俺には大切な家族と仲間がいる。

 俺は自分の部屋へ戻る途中でリリルカに出会う。

 俺は要人だからここまでガネーシャの警備が送ってくれていた。俺は彼と別れてリリルカと一緒に帰る。

 ふむ、ここはリューが出てきて九魔姫の料理と比べてぼけ倒すところだと思ったのだが?

 

 「カロン様、今日はガネーシャ様のところへいってらっしゃったと聞きましたよ。いかがでしたか?」

 

 「………いろいろ考えさせられたよ。人にはいろいろあるんだな。」

 

 「そうですね。」

 

 俺はリリルカと並んで歩く。

 やはり空には満点の星、隣には俺が娘のようにかわいく思っているリリルカ。

 明日もなんかいいことあるかな?

 

 俺はただただ自分の今の幸せを噛み締めた。 



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長い時間を共にして

別タイトル、カロン包囲網


 ここはリリルカさんの部屋、私の名前はリュー・リオン。ちょっとだけ強いただの普通のエルフです。

 ちょっとだけではない?そんなもの誤差の範囲です。

 

 私は今日リリルカさんに何としても手伝ってもらうために訪れていました。

 具体的な内容は………恥ずかしいので秘密です。察してください。

 

 「カロンにまた逃げられました。リリルカさん、どうやったら上手くいくでしょうか?」

 

 リリルカさんの部屋で椅子に座り向かい合う私たち、私はどうすればいいのか?

 私は以前から頻繁に深謀遠慮に長ける彼女に知恵を拝借しに来ていました。

 

 「リリは中立だとカロン様に言ってしまいましたが………」

 

 「お願いです!何としても手伝って下さい!何なら今度からリリルカ様と呼んでも構いません!」

 

 私は必死にリリルカさんに頼み込む。

 矜持?誇り?高潔さ?まとめてゴミ箱に突っ込みました。それらが今まで私の役に立ってくれた試しはありません。そんなつまらないものより幸せな私の人生です!なんならついでにステータスもゴミ箱に突っ込みましょうか?

 

 「一つ取っておきの隠し玉がありますが………しかしリリは中立なのですが………。」

 

 「リリルカ様!」

 

 「………やめて下さいリュー様。リリはリリです。仕方ありませんね。カロン様にはリリの入れ知恵だと絶対に言わないでくださいよ?」

 

 リリルカさんから後光が差して見える。………これは私は自費で彼女の銅像をオラリオに建設するべきなのではないでしょうか?

 

 「なんかリュー様がおかしなことを考えているように思えますね。まあ構いませんか。ちなみにこの方法はリュー様にも多少の覚悟がいりますよ?」

 

 私は唾を飲み込む。

 しぶといカロンを倒すその方法とは一体?

 

 「どのようなものなのですか?」

 

 「覚悟はおありですか?」

 

 「もちろんです!」

 

 「ならばお話しましょう。カロン様は頻繁に手段を選ばない邪道や搦め手を行ってきました。邪道には邪道です。それは相手が邪道で向かってきても王道の切り札たるちゃぶ台返しが使えないということです。」

 

 リリルカさんは不敵に黒く嗤う。さすがの貫禄だ。

 なるほど、これが大魔王たるゆえんか。

 

 「それでどのようなものですか?」

 

 私は思わず彼女に詰め寄ってしまう。

 

 「それは………」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 暖かな春、陽気に包まれるオラリオの町並み。

 俺は魔神カロン。ふむ、無理があるな。

 俺は一般人カロン。俺は今日は上機嫌だ。鼻歌を口ずさみオラリオの町並みを歩く俺。今日はきちんとした格好をしている。

 

 オラリオは今日も賑やかだ。

 ………今日はかつての仲間の墓にも寄っていくか。報告することがある。

 花を買い墓参りをする俺、ここに来るといつも寂しくなるな。

 

 今日の俺には向かうところがある。俺は途中でHACHIMANとすれ違う。

 彼はいつものどろりとした目を俺に向ける。

 うん?気のせいかいつも以上に濁っているようにも思える。

 

 「爆発しろクソリア充が!」

 

 ふむ、なんだろう、突然?彼式の挨拶のようなものだろうか?

 

 

 

 ◇◇◇

 

 俺の足取りは軽やかだ。そう、今日は新たな職場である孤児院に初出勤する日なのだ!

 新たな職場は古ぼけた廃教会を改装して使用している。

 

 俺は墓参りでかつての仲間にも報告して職場に向かっていた。

 

 さて、新しい職場ではどのようなことが俺を待っているのだろううな?

 

 俺は教会にたどり着く。俺は教会の扉に手をかける。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「待っていました。」

 

 なにが起こってるんだ!?

 目の前の状況が理解できずに俺は固まる。

 何なんだこれは?どういうことだ?一体なにが起こってるんだ?

 おおお落ち着け、俺。まずは状況の理解だだだ。まずはしんこここきゅうだだ。

 

 まずは目の前にはリュー、花嫁衣装を着ている。リューの結婚式なのか!?初耳だぞ!?

 何故今日ここなのだ!?俺の仕事は一体どこに行ったんだ!?

 周りには椅子に腰掛けるたくさんの人々。それなりの広さの部屋にところ狭しと詰め込まれる人々。ベルにガネーシャにフレイヤにロキに………とにかく俺の知っている限りの人間がいる。モンスターファミリアの連中やHACHIMANまでもいる。あいつさっき道端で会ったばかりのはずだがいつのまに!?

 彼らはキチンと正装をしている。

 

 ………俺は今日は新たな職場に来ているはずなのだが?ということはまさか彼らが孤児ということ………はありえんな。

 

 「時間通りですね。」

 

 リューが俺に微笑む。とても綺麗だ………じゃなくて!

 ………思いつくのは一つしかない。しかしまさか………。

 

 「リュー、これは一体何事だ!?」

 

 「何を言ってるんですか?今日は私たちの結婚式ではないですか?」

 

 マジかよ………マジで言ってるのか?

 そんな俺に構わず続けるリュー。

 

 「さあ、こちらに来てください。」

 

 「ま、待てよ。どういうことなんだ!?」

 

 「どうもこうもありませんよ?今日は私たちの結婚式です。」

 

 「………俺は聞いた覚えがないぞ?」

 

 「前回の連合の会議で決まってましたよ?会議に出席しないからこういうことになるんです。」

 

 「嘘つけ!会議の決定事項が俺達の結婚式とかどういうことだよ!?」

 

 大団長を辞任しても最高幹部に俺の席は残っている。

 ………俺は外せと言ったのだがな?

 

 そしてそこへ割り込むリリルカ。

 

 「確かに会議で決まっていました。リュー様の言う通りです。リリが証人です。今日はリリが仲人を務めさせていただきます。」

 

 「リリルカ!お前リューの手伝いしたな!中立だって言ってただろう!」

 

 「はて、何のことでしょうか?リリにはわかりません。証拠を見せてください。」

 

 すっとぼけるリリルカ。

 ならばずらっと大量に座っているこの参列者は何なんだ!誰が呼んだんだ!白々しい。

 前へと出るリュー。

 

 「諦めて下さい、参列者は皆さん交渉と根回しで私の味方です。あなたにもう逃げ道はありません。」

 

 「なんでだよ!?なんでここまでするんだ!?」

 

 余裕の笑みを浮かべるリュー、見苦しい俺。

 

 「何をわかりきったことを言ってるんですか?私達は長く共にやってきたファミリアです。いまさら本当の家族になったところでたいして変わりはないでしょう?」

 

 「大ありだよ!マジかよ………。マジでいってるのか!?」

 

 目茶苦茶言ってる………。この拙作でも一、ニを争う超理論だ。

 ………指輪理論と合わせてワンツーフィニッシュなのだから結局はリューが1番の超理論の使い手だったな………。

 

 「マジです。あなたがそう望むのでしたら私はもう料理はしませんし他にもだいたいの要求は呑む覚悟があります。その代わりにこの話は通してもらいましょう。」

 

 息を呑む俺、見守る参列者。目の前には力を持たない俺相手に覚悟を決めた超絶強者。マジかよ………。

 俺はどうすればいいんだ?諦めるしかないのか?

 

 「………なあ、聞かせてくれ。お前は俺が好きだから結婚するのか?」

 

 悪足掻く俺。会話から何とか切り抜ける道を見つけられないだろうか?

 

 「いままであなたと長く時間を共にしたという事実が私にとって喜びでしかないのだから、私は心の底からあなたを愛しています。私にはその確信があります。」

 

 「そうか………。」

 

 これは無理だな。全力で詰めに来ている。これをひっくり返すには俺はいままで手段を選ばな過ぎた。手段を選ばない俺がリュー達のやり方を汚いと言っても通らないだろう。

 駄々をこねても通らないだろうし真実皆リューの味方なのだろう。形勢は甚だ不利だ。多勢に無勢すぎる。

 

 そこへリリルカのとどめの指示が飛ぶ。

 

 「今です、リュー様!あのしぶとい馬鹿(カロン様)はもはや瀕死です!確実に引導を渡してやって下さい!」

 

 「もちろんです!リリルカさん!さあカロン、この大勢の前でまさか私に恥をかかせたりしませんよね!?」

 

 慈悲はない、か。詰んでしまったか。

 上を見上げると荘厳なステンドグラス。モチーフは美しい聖母。改装されたこの教会は確かに式を挙げるには格好の場所だな。

 

 そうか、だから孤児院の場所がこの教会なのか。だからリリルカは以前俺に新しい仕事として孤児院の院長の方を奨めたのか。リリルカが万一の切り札として取っておいたのか。やられた。もう逃げ道はないな。

 

 どうせだったら墓参りの時についでに結婚報告もすればよかったな………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン、既婚者カロン。なんかころころ俺の肩書が変わるな。

 ちょうど今回で百話だ。句切がいいしおそらくこれでもう話はおしまいなのだろう。

 あれ?やっぱり百三話だった。三話もオーバーしてしまったな。まあ細かいことはいいか。

 ぶっちゃけ予定より三話増えてしまいました。

 ………もしも編の三話を除いて百話ということでダメだろうか?

 

 ………しかし誰かは案外気分屋でこれは根本的に自己満足SSだ。誰かは書いてみてとても楽しかったと言っている。まあでなければここまで続かんだろうしな。

 とりあえず一つ話を完結させることが目的だったためのチラ裏投稿らしい。評価や感想が付かなくてモチベーションを落としてエタらせることを嫌ったという理由らしい。………チラ裏は素晴らしいぞ?

 本当はもっと早く切り上げるつもりだったが、途中からどんどん楽しくなってしまったらしい。その結果の三十万字超だそうだ。

 

 

 誰かはここまで付き合っていただいた皆様にとても感謝しています、と言っているそうだ。

 

 もしかしたら勘違いさせてしまったかもしれないから念のために追記しておくと評価がついた記念編というのは実は嘘らしい。いつだって書きたいから書いていたらしい。書くための理由が欲しかったそうだ。

 嘘ついて本当にごめんなさい。誠に反省しています。

 

 さすがにもうこれ以上の話はないと思うが………思いたいが。またいつかもしかしたらパッションとか胡散臭いことを言って書きたくなるかもしれない。………新婚生活編とか書き出したらさすがの俺でも怒るぞ?

 ………それにこれ以上チラ裏を不法占拠するつもりか?まさか新世界(チラ裏)の神になるとか言い出さんだろうな!?Lに逮捕されるぞ!?

 これ以上は思い付かない可能性が極めて高いが………しかしもうこれ以上超展開を駆使するのはやめてほしい。心臓に悪い。

 

 本当に………ウキウキして新しい職場に行ったら俺の結婚式だったとかどういうことだよ!?




「やったな!リリルカ!お揃いだ。ついにオラリオにお前の銅像も立ったな!」

「やめて下さい!しかもなんでちびのリリの銅像が大男のカロン様の銅像よりも圧倒的に大きいのですか!?」

HACHIMAN
「それは」

アステリオス
「俺達も」

ベート
「金を出したからだ!」

ミーシェ
「あたしは全財産をはたきました。」
                        今度こそ終わりだといいな


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 こんにちは、皆様。リリはリリです。

 

 リリはつい先日リュー様にお手伝いをする約束をしてしまいました。

 リュー様のお手伝いをするためには、前もった十分な根回しが必要です。たくさんの方々を説得する必要があります。さて、それでは行ってみましょうか?

 

 ◇◇◇

 

 「こんにちは、ガネーシャ様。お久しぶりです。」

 

 「俺が、ガネーシャだっっ!!ああ、良く来たな。何か用か?」

 

 ここはガネーシャファミリアです。まずはカロン様と親交のある民衆の王様からいってみましょうか。

 

 「近々カロン様の結婚式を執り行います。つきましてはガネーシャ様には是非御出席していただきたく存じます。」

 

 「うん?そうなのか?しかし俺は何も聞いてないぞ?この間カロンが遊びに来たが?」

 

 「ええ。本人には話していません。」

 

 「どういうことだ?」

 

 「そのままの意味です。カロン様には内緒で式を行います。」

 

 「ええ!?それは大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫です!カロン様はマイペースな男です。このままでしたら現状に満足していつまでもこのままです。ガネーシャ様が今のご生活がお幸せなのでしたらその幸せをカロン様にも味わってもらおうということです。リリを信じてお任せください!」

 

 「む………。しかし………。」

 

 「大丈夫です。最終的に問題ないなら経過は問わないのはカロン様のこれまでの手口です。それが自分に返ってくるだけです。」

 

 「む………。」

 

 ◇◇◇

 

 「お久しぶりです、アポロン様。」

 

 「お久しぶりだ、リリルカ様。今日は何の用だ?」

 

 「本日はカロン様の結婚式を執り行う通達に参りました。」

 

 「ま、待て!カロン君の結婚式ということは相手はまさかリュー様ではないのか?」

 

 「ええ、そのとおりです。」

 

 「断じて認められない!リュー様は俺達の希望の光だ!」

 

 「………アポロン様、良くお考えください。この話が通ればどうなるかを。」

 

 「なに!どういうことだ?」

 

 「この話が通ればリュー様は人妻です。アポロン様は人妻という響きに何か思うところはございませんか?」

 

 「なに!?人妻!?人妻だと………!?」

 

 「週刊リューが週刊人妻リューになるのですよ?そのことについてどうお考えですか?」

 

 「人妻………………今から急いで来週の週刊リューのタイトルと記事の差し替えを行わなければな。」

 

 「ご理解していただけたようですね。」

 

 説得(せんのう)完了です。

 

 ◇◇◇

 

 「ベル様、お久しぶりです。」

 

 「ええ、お久しぶりです、リリさん。」

 

 「本日はカロン様の結婚式を行う通達に参りました。」

 

 「ついにですか!わかりました。是非出席します。」

 

 「つきましてはカロン様にはご内密にお願いします。」

 

 「ええ?なんでですか?」

 

 「カロン様に内密で勝手に式を行うからです。」

 

 「ええ!?大丈夫なんですか?」

 

 「ベル様、よくお考えください。ベル様はヘスティア様とご結婚なされていますね?その時はどうでしたか?」

 

 「どうって………。」

 

 「ベル様がダンジョンから帰ってきたら勝手にヘスティア様とベル様の式を挙げられてましたね?あれの発案者はカロン様です。カロン様がヘスティア様に手伝いを頼まれて行ったものです。ベル様は押しに弱いから勝手に結婚式を挙げてしまえば文句など言えないと。本人が行ったことがそのまま本人に返って行くだけです。何か問題は?」

 

 「………。」

 

 「問題ないようですね?」

 

 説得完了です。

 

 ◇◇◇

 

 さて、1番説得が面倒な相手です。

 頑張り所ですね。ここは連合のトイレです。

 

 「こんにちは、誰か様。お久しぶりです。」

 

 「お久しぶりです、リリルカ様。何かご用ですか?」

 

 「本日はカロン様の結婚式を通達に参りました。」

 

 「ええ!?待ってください!カロンの結婚式ということは相手は………。」

 

 「ええ。ご想像の通りです。」

 

 「大丈夫なのですか!?そんなことして怒られないのですか!?」

 

 「ここまで好き放題したから今更でしょう?」

 

 「た、確かにそうかもしれないがこれはやり過ぎなのでは?」

 

 「この表をご覧ください。」

 

 「それはなんだい!?」

 

 「拙作の評価です。」

 

 「評価!?」

 

 「今のところ拙作はありがたいことにそれなりの評価をいただいております。これはそれなりに拙作に共感できるところがあるということでもあります。」

 

 「ええ!?」

 

 「大丈夫ですよ、誰か様。いざとなったら謝り倒してしまえばいいんです!」

 

 「ええ!?そんな無茶苦茶な!それで解決するのかい?」

 

 「ええ!大丈夫です。リリにお任せください。御協力いただけますね?」

 

 「え、えぇ?う、うん。」

 

 根回し完了です。思ったより簡単でしたね。

 

 ◇◇◇

 

 こんにちは、皆様。リリはリリです。連合の統括役です。

 人様の上に立たせていただくのですからこの程度の交渉でしたら朝飯前です。

 ここはリリのお部屋で今現在中にはリュー様が控えてらっしゃいます。

 

 「リリルカ様、どうなりましたか?」

 

 リュー様です。様付けしてほしくないんですがね。

 

 「仕込みは上々です。後は明日を待つばかりです。それとリュー様、リリを様付けしないでください。」

 

 「リリルカさんには日頃散々にお世話になっています!」

 

 「それでもです。リリはリュー様のことを頼りになる姉のように思ってるんですよ?立場もリュー様の方が上ですし、リュー様にそう呼ばれてしまったらリリは立つ瀬がありません。」

 

 「しかし私はリリルカさんになんらかのお礼をしないと………そうだ、是非私のお料理を………」

 

 「ストップです、リュー様。そういえばそのことをウッカリ忘れていました。リュー様は今後一切お料理をしないでください!」

 

 「ええ!?なぜですか?」

 

 「なぜもなにもありません!リュー様はご自分のお料理で失神したことをお忘れなのですか!リュー様がお料理なさったらカロン様は手段を選ばずに逃げますよ!別に逃がしても構わない程度の想いなのですか!その程度の想いでリリにここまでさせたのですか!?」

 

 「い、いえ。そうです、私も幸せになるのです!」

 

 「そうです。それでしたら金輪際料理は一切しないでください!」

 

 「………少しだけなら………」

 

 「ダメです!リュー様のお料理は兵器です!絶望を具現化した何かです!不幸を招く呪いの何かです!リュー様がお料理をなさり続けたら幸せはリュー様の下に永遠に来ませんよ!」

 

 「わ、わかりました。」

 

 こんにちは、皆様。リリはリリです。この程度の交渉は朝飯前です。

 さすがに毎朝リュー様のお料理を食べさせられるのは地獄ですからね。

 

 これでうまくいくと思いますが………思いたいですが………カロン様の馬鹿げたしぶとさのことを考えると油断はできません。もう一つ決定的な何かが欲しいところです。

 

 「そうですね………リュー様、いっそのこと逆に考えましょうか。」

 

 「逆、ですか?」

 

 「ええ。カロン様はリュー様の料理を恐れています。交渉の基本、利点で釣るです。カロン様がこの話をお認めになるならば、リュー様は二度と料理をしない、そういう交渉です。」

 

 リュー様の料理を二度と食べずに済むという利点でこの話を押し通すのです。

 

 「し、しかし、それでは毎日のお料理は誰がつくるのですか?」

 

 「カロン様は普通に料理できますよ?連合ができる前は料理当番は交代制だったのをお忘れですか?」

 

 「………そういえばそうでした。私はあの男に嫁力で負けているというのか?」

 

 ガックリ落ち込みうなだれるリュー様。

 

 「別に男女どちらが料理を担当しようがそんなものは個人の自由です!それでも御納得いただけないのであれば、やはりここでも逆の発想ですよ、リュー様。カロン様の嫁に行くのではなく、カロン様を嫁にもらうと考えればいいのです!」

 

 「そんな………私は嫁ではなく婿だったというのか………。」

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン、一般人カロン。

 今日はなぜだか朝から寒気がとまらない。なぜだろう?春だというのに風邪でも引いてしまったんだろうか?

 明日から新しい仕事だ。早いが今日はもう休むことにしよう。

 仕事初日から体調不良で遅刻とかダメだろう?

 

 明日も何かいいことあるかな?

 

 俺は明日のことを楽しみにして眠りについた。



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捩曲がる運命編
新たなるプロローグ


 俺はカロン、ただの一般人だ。

 俺はつくづく思うのだが、この拙作は一体いつになったら終わるんだ!?

 

 アホな誰かはまた新しい超展開を思い付いて書き出してしまった。俺は穏やかな生活を望んでいるのだが………勘弁してくれないのだろうか?

 

 「カロン、起きてください!今日は何の日か覚えているでしょう!」

 「ううん………おぉい、勘弁してくれよ?まだ朝の4時じゃないか?休みはギリギリまで寝かせてくれるっていったろ?」

 

 外はまだ太陽がでておらず、昨日は夜遅くまで仕事をしていた。

 俺は朝は弱い。リューとの交渉で、休みはギリギリまで寝かせてくれるって言ってたのに………

 リューはこちらを見ない。集合はお昼過ぎのはずだが?

 おそらく楽しみでつい早く俺を起こしてしまったんだろう。しょうがない奴だ。眠い。

 

 まあ、とりあえず俺はこの日は新婚旅行を計画していた。

 リューを連れて、異世界への旅行をベルに頼んだ。

 誰かに安全な世界を聞いて、俺達はそこへと向かっていたのだが………。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ここはどこか違う世界。運命の交差する世界。

 その世界では今、地下で一人の少女が真剣な表情で何やら呪文を唱えていた。

 

 「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門を閉じ………

 

 彼女の名前は遠坂 凛。そう、もちろんあの国民的名作、フェイトステイナイトのヒロインである。ツインテールの黒髪にすらりとした肢体、赤い服に黒いスカートを履いている。手には赤い大粒の宝石。

 彼女は魔術師の家系であり、遠坂家は聖杯戦争という戦いに勝利して根源という神の座へと到達することを至上目的としている。

 まさかである。誰かはまさかのオリキャラとフェイトステイナイトとのクロスオーバーを書こうとしている。一体どうなってしまうのだろうか?果たして書ききれるのだろうか?どこまで拙作は明後日へと向かうのだろうか?

 

 そんな誰かの思惑とは裏腹に凛の呪文は続く。

 

 「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲行末………」

 

 !?ちょっと待って凛ちゃん!?それ呪文違いますよ?それ寿限無、落語ですよ!?うっかりにもほどがありますよ?

 

 「南無妙法蓮華経、南無阿弥陀仏、テクマク○ヤコンテクマク○ヤコン………ラミ○スラミ○スルルルルルーッ………破ぁぁぁーーッッ!!」

 

 やりたい放題の呪文を唱えた凛は腰を落として力強く両手を前へと突き出す。

 拙作はどこまで行ってもただのギャグだった………。

 

 「よしっ!手応えアリ!最高のカードを引き当てた!」

 

 よしっ!じゃないよ!!間違いなく最高のカードなんか引き当ててないよ!

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン、一般人カロン。何の力も持たない人間だ。眠い。

 今俺は、リューとの新婚旅行に向かっている。

 今俺はベルの魔法で次元の狭間を移動しているのだが………なんかさっきから体が引っ張られてないか?寝ぼけて今まで気付かなかったがもう大分引っ張られているぞ?

 

 「ベル、なんか俺さっきから引っ張られてるんだが、大丈夫かな?」

 「えッ!?」

 

 驚いて俺を見るベルとリュー。しかしそうしている間にもどんどん俺の体は引っ張られていく。

 

 「カロンさんっ!」

 「カロン!」

 

 ベルとリューが慌てて叫ぶ。

 しかし俺の体はどんどん引きずられていく。そしてあっという間に俺の体は次元の狭間に飲み込まれて行った。

 

 ◇◇◇

 

 「あれ?ちょっと!なんでなにもあらわれないのよ!」

 

 なんでもなにも無い。時間を間違えたうえにあれだけ盛大に呪文を間違えたらなにも現れないのは当たり前である。しかしーー

 

 ーーードガアアアアァァン!!!

 

 凄まじい音が辺りに鳴り響く。上の階からだ。凛は大慌てする。

 

 「ああもう、なんだってのよ!」

 

 凛は大慌てで上階へと向かっていく。

 

 ◇◇◇

 

 「で、あんたが私の使い魔ってことでいいの?」

 「いいや、違うぞ?」

 

 俺はカロン、ただのカロン。何だか気付いたらここにいた。ビックリして寝ぼけていた目が覚めた。なんでだ?どこだここは?

 なんか目の前の少女が俺のことを使い魔と言っている。俺はそんなものではないぞ?

 

 「あんたが私の使い魔でないのならなんだっていうのよ?パスも間違いなく繋がっているわ。」

 

 俺は辺りを見回す。ここは洋室だ。俺はテーブルに突っ込んでいる。目の前には一人の少女。一体なんだってんだ!?

 

 その時突如俺の頭に様々な知識が流れ込んで来る。

 聖杯戦争?七騎の殺し合い?何なんだこれは!?

 ………俺は何か変なのに巻き込まれたらしい。

 

 「待ってくれ。俺はこんなものに巻き込まれる言われはないぞ?」

 「?あんた英雄じゃないの?体も大きいし。パスも繋がっているわ。」

 

 凛は相手を見る。青い目の大男だ。英雄でいてもおかしくない風貌である。

 

 「いや、俺は英雄ではないと思うぞ。俺の頭にも聖杯戦争とやらの知識が流れ込んできたが、そもそも俺はまだ生きている。」

 「えっっ!?じゃああんたなんでここにいるの?」

 「次元の狭間を移動していたらそこから落ちてしまってな。おぼろげながら、その時に白髪の色黒の男を押し退けてしまった気がする………。」

 「じゃあそいつが私の使い魔じゃない!どうしてくれるの!あんた代わりに戦いなさいよ!」

 

 あまりのことに凛は怒り狂う。自分のうっかりを棚に上げて。というよりも恐ろしいことに呪文を間違えたことに気付いてすらいない。しかもキチンと聞けばカロンが次元の狭間とか言ってることに気づけるはず。それ、間違いなく魔法!

 

 「そんなこと言われても俺には力は………あれ?」

 「どうしたの?」

 「ステータスが復元されてるな。なぜだろう?うん、聖杯のバックアップ?」

 

 凛はその言葉にステータスの確認を行う。

 ステータスを確認した凛は慌てる。

 

 「何よこれ。あんたどうなってるの?なんで耐久だけがA++で後は全部Eなのよ!?あんたどんだけ一芸特化なの!?その偏ったステータスで一体どうやって戦うの!?そもそもあんたは役割(クラス)何よ?」

 「うん、どうやら俺のクラスはエクストラクラスの守護者(ガーディアン)らしい。」

 「エクストラクラス!?じゃあ宝具は!」

 「リューとリリルカを呼び出せるらしい。」

 「誰よ!?リューとリリルカ!」

 「俺の妻と娘だ。」

 「あんたそんなに大きな図体して妻と娘に戦わせるの!?外道じゃない!」

 「リューは俺より強いし、リリルカは頭脳チートだ。うーん、でもリューは呼び出すと怒りそうな気もするからあまり呼びたくないんだよなぁ。」

 

 そして触れてはいないが、カロンには当然彼を支えつづけた黒白のスキルも存在する。

 クラス、謎のガーディアン。ステータス、耐久特化で後はゴミ。宝具、リューとリリルカ。そして黒白のスキル。果たしてこの札で誰かは一体どのような運命を紡ぐというのだろうか!?



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家族の守護神それすなわち………

 ここは遠坂邸。

 当主は遠坂 凛。彼女は前回説明した通り魔術師であり、聖杯戦争での優勝を目指していた。しかし彼女はうっかりした人間である。そして、彼女のうっかりと拙作のギャグが謎の化学反応を起こし、彼女は盛大に呪文を間違えるといううっかりを飛び越えた事件を引き起こした。その結果、彼女には謎の英霊(?)が割り振られた。

 

 「だから俺は英霊じゃないぞ?死んでないし。」

 「うーん、いいのかしら?」

 

 そう、英霊でないのである。サーヴァント扱いされているが英霊ではない!

 ここで遠坂の目的を振り返ろう。遠坂の目的は聖杯戦争を勝ち抜いて根源に到達することである。そして根源とは英霊()()の魂を燃やして到達する地点である。

 そして、カロンは英霊の座に登録されていない普通の生者である。

 

 遠坂 凛は戦争の情報と目的を達成する方法の詳細を知らないために今は特に慌てていない。他の六騎を倒せば目的は達成されると考えているからだ。しかし同時に、自身のサーヴァントが正規ではないことを理解しているため、他の六騎は全ての敵を倒しても目的が達成されないのではないかとうっすら理解している。

 

 しかしそう、皆も知っているとおりギル様がこっそりいらっしゃるのだ!

 

 まとめてみよう。

 現実、英霊は自分を除く六騎+ギル様。全部倒さないと根源に到達できない。世界の内側の望みに関しては、凛のみ他の六騎で他の人間は自分の英霊(自害せよ)を合わせて七騎。当然カロンも倒さなければ危険だからだ。

 

 凛の考えは………英霊は自分を除く六騎。六騎を倒せばいいと考えている。自分は六騎倒せば目的を達成できて、他の人間は六騎倒しても目的を達成できないと内心理解している。しかし根源は実際は六騎では到達できず、自分のサーヴァントが英霊でないためにギル様がいらっしゃらないと根源到達は不可能。

 

 これらが通常の魔術師が情報を得た場合の考察だ。

 実際には、ヘラクレスとギルガメッシュの魂があまりに強大であるためにまた変わって来る。

 

 幸運にも、凛は戦争の仕組みを理解しておらず、さらに遠坂家の悲願たる根源到達よりもむしろ戦いでの勝利に主眼をおいている。

 もしもこれが仮に凛ではなく、先代の優雅だったならあまりのことに顎ヒゲを毟って卒倒していたかもしれない。なにしろ正規で七騎揃ってない上に、仮にギル様の存在を知っていたとしてもギル様というあまりにも凶悪な相手を打倒しなければいけないからである。

 

 ーーどうすればいいのかしら?

 

 彼女は聖杯戦争を始めた御三家という家系の人間である。

 御三家の人間の手落ちで聖杯戦争ができませんでは話にならない。彼女は心底困っていた。

 

 「ねえ、あんたどうすればいいと思う?」

 

 思わずサーヴァント(カロン)に聞く凛。

 

 「どうすればとはどういうことだ?」

 「だから戦争のことよ。あんた英霊じゃないんでしょ?」

 「逃げれば良くないか?」

 「遠坂の家訓は余裕を持って優雅たれ!よ。戦いが起こるからには勝ちに行くわ!」

 

 カロンはその言葉に呆れる。優雅な戦いなど聞いたことも無い。聖杯による知識によると、この戦いは殺し合いだ。

 そして凛はやっぱりウッカリする。彼女の質問は英霊が七騎揃ってないことに対してであり、戦いをどうするかではない。

 

 「そもそも戦い自体が優雅とは言えないぞ?他の人間が戦っている間にどこかに逃げてコーヒーでも飲んでいた方が優雅じゃないか?」 

 「ええい、うるさいわね!いいから勝ちに行くわよ!」

 「でも俺には家族がいるから死ぬわけにはいかないぞ?」

 

 その言葉が凛の胸を穿つ。

 彼女は幼い頃に両親を亡くし、妹も養子に出されていた。彼女は天涯孤独の身であった。

 

 「そう………そうだったわね。そういえばあんた生者だと言っていたわね。忘れていたわ。あんたには家族がいるのね。それなら無理させられないわ。」

 

 凛の寂しそうな目と他に人気のない洋館にカロンは事情を悟る。

 

 「俺が戦わないと言ったらどうするんだ?」

 「もちろん一人でも戦うわ。」

 「なあ、戦いはやめて逃げたがよくないか?俺にも戦争の知識が流れ込んできたけど、今まで勝者がいない上に勝っても魔術師という狭いコミュニティーでしか認められないんだろ?だったら勉強に精を出したが良くないか?」

 

 カロンにも聖杯のバックアップにより現代の知識が流れ込んでいた。

 七人に一人が願いを叶える、カロンの認識ではこんなものただの命を対価にしたギャンブルであり、挙げ句実際は願いを叶えた人間は七人の四回分で二十八分の零。話にならない。

 普通に努力して願いを叶えた方が良くないか?

 

 「それでもよ。私の父は前回の戦いで死んだわ。私は逃げたくないの。私は戦って勝つことが目的なの。」

 「うーん………」

 

 悩むカロン。彼には家族がいてむやみに危険に飛び込むつもりは無い。しかし目の前の年端の行かない少女を見捨てるのも躊躇われる。そしてどうやったら元の世界に帰れるかもわからない。

 

 「なあ、ちょっといいか?」

 「なに、どうしたの?」

 「宝具を使うから少し魔力をもらっていいか?」

 

 原作世界とのすこしの違い。原作様では凛は英霊召喚で魔力を消費していたが、拙作では凛には魔力が残されていた。それは凛が英霊を顕現させず、カロンが割り込んだためである。

 

 「宝具を使うって確か………」

 「リューに相談するんだよ。」

 「ああ………わかったわ。」

 

 そういって凛から魔力をもらうカロン。彼はリューを呼び出した。

 

 「カロン、どこに行ったかと思えばこんな小娘と二人きりで何をしているのですか!」

 

 怒るリュー、小娘呼ばわりされて憮然とする凛。

 

 「待ってくれよ。手違いがあったんだ。お前は本物のリューなのか?」

 「いえ、本体ではありません。どうやら魔力で編んだ体に意識だけを飛ばしているようですね。」

 「そうか………。」

 

 魔力で編んだ体に意識を飛ばす?それも確か………まあいいか。

 リューは辺りを見回す。人気のない洋館に思い悩んだ表情のカロン。リューはカロンの言葉と表情に話があるのだと理解する。

 

 「カロン、話してください。」

 「………お前が本体でないならお前に相談してもリューに相談したことにはならないだろ?」

 「それでもです。何か思い悩んでいますね?」

 「ああ。」

 「好きにして構いませんよ?」

 「俺にはお前達がいる。」

 「危険なことをしようか考えていますね?」

 

 リューは笑う。

 

 「構いませんよ?好きにしてください。あなたが望むままに。私の本体は怒りませんよ?」

 「………なぜだ?俺にはお前達がいる。」

 「あなたは本質的にそういう人間でしょう。悩んだ顔をしている。あなたは本質的に家族の守護神でこの屋敷には人気が無い。」

 「何を………」

 「あなたはどこまで行っても本質的に父親なんですよ。家族の守護神とはそれすなわち父親です。」

 

 その言葉に虚を突かれるカロン。

 

 「私はあなたを信じていますよ。あなたは思い悩んだ表情をしていて、そこには一人の少女がいて、他に人気は無い。あなたが望むままになさってください。私はあなたがいつだって笑顔で帰ってくるのを知っています。」

 「………なんだ?ずいぶんいい女だな?」

 「今更気付いたんですか?」

 

 笑い合うカロンとリュー。

 

 「コホン………」

 

 二人の空気を醸し出そうとしたために凛が割り込む。

 慌てるカロン。しれっと消え去るリュー。

 

 「ま、まあそういうわけでしばらく手伝いをさせてもらうよ。どこまで俺の力が通用するのかわからないが。」

 「………正直助かるわ。耐久以外は役に立たないサーヴァントでもいないよりは遥かにね。取り合えずどうしようかしら?何か意見はある?」

 「戦争の知識によると俺の能力が評価値であらわされるんだろ?まずはそれの分析を行おう。」



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戦略

 「それにしても何回見てもやはり変なステータスね。どうなっているのかしら?」

 

 凛はごちる。

 

 戦力分析でわかったこと………まず、戦闘の際に魔力で鎧と盾が生成可能。

 

 「これ面白いな。」

 「魔力を食うから無駄な出し入れはやめて頂戴。」

 「ああ、済まなかった。」

 

 次にカロンのステータス、先も述べた通り耐久を除いて幸運も含めてE。保有スキルは最低ランクのカリスマと神性、そこそこの指揮、魔力放出による耐久上昇、EXの耐異常、そして………

 

 ーーこれか。

 

 【言霊】B…発言に力を持たせる。

 

 カロンはついにアストレアが隠し続けていた謎のスキルの詳細を悟る。

 

 「これでどうにかなるのかしら?まあでもあんた英霊の座にいないと言ってたけど間違いなく英雄よ。ただの一般人に神性とかカリスマがあるわけないわ。」

 

 凛は知らない。

 カロンが来た世界にはたくさんの神々がいて、カロンは大きな組織の長だったということを。

 というよりも生者で盾とか鎧とか持っていることにツッコミを入れない辺りが凛のウッカリクオリティー。

 

 「それじゃあ札もわかったことだしどうするか話し合いをしましょうか。」

 「………少し待ってくれないか?聖杯がくれた知識をまとめてみる。」

 「わかったわ。」

 

 凛は口をつぐむ。相手はそこそこの指揮能力を持っている。戦術に明るい可能性が高い。

 カロンの考え、聖杯がくれた知識、それはこの戦争に七つのクラスが存在するということだった。

 

 ーーセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーか。エクストラクラスの俺がいるということはこのうちどれか一つは存在しない。それは判別が着かないから置いておこう。最も危険なのはアサシンとアーチャーの暗殺か?マスターを暗殺されてしまったらどうにもならない。他にも速度に優れるランサーや機動力に優れるライダーにマスターを狙われるのも非常に危険だ。キャスターによる無差別絨毯爆撃に警戒の余地は?難しいな。どれ一つとして明確に優位に立てる算段が着かない。

 

 カロンは過去に二度も無惨に家族を殺されている。故に常に起こりうる最悪の状況を常に想定する。

 そしてカロンも凛も知らないが、過去に衛宮切継という手段を選ばない男が実際に存在した。

 

 ーーリリルカに相談するのも一つの手か?どうする?どうすればこの娘を護れる?

 

 カロンと凛の目的は密かにズレている。

 凛の目的は戦いでの勝利で、カロンの目的は互いに無事に生還すること。しかしカロンは黙して語らない。

 

 単純にカロンが若い人間が死ぬのを考えたくない。相手の夢を潰してでも自身のエゴを通す。あるいはこれも密かに凛とカロンの間で勃発している一つの聖杯戦争と言えるのだろうか?

 マスターだって、己のエゴのために他人のエゴを潰すんだから、俺だって俺のエゴのためにマスターのエゴを潰しても問題ないだろ?

 もしくは、若い人間が死ぬのを見たくないという気持ちが真実正義かどうかには議論の余地があるのかもしれない。

 

 ーー相手の人格も正体も判別の着かない現時点で可能なこと………。

 

 カロンは一つのアイデアを思いつく。

 

 「マスター、マスターと呼ばせてもらうぞ。魔力の残量と消費量について話を聞きたい。」

 「どういうこと?」

 「逃げるのが一番話が早いんだが………やはり逃げる気は無いんだろ?ならば少しでも敵の優位に立っておきたい。余裕があるのであれば、リューを偵察に向かわせたい。」

 「さっきの人ね。宝具の割にはそこまで魔力を喰わなかったから構わないわ。でも偵察なら使い魔でよくない?」

 「相手も偵察を警戒しているはずだ。現時点では情報は命だ。なるべく信頼性の高いものに任せたい。」

 「わかったわ。」

 「どの程度魔力を喰うんだ?」

 「偵察程度ならおそらく一晩出しておいても問題ない程度よ。気にしないで構わないわ。」

 「そうか。それでは前もって偵察を行う箇所を話し合っておきたい。どこか目星がついてある場所は?」

 「御三家ね。間桐家とアインツベルン。でもアインツベルンの拠点は不明だし、間桐は零落していて魔術師はいないはずだわ。」

 「なるほど。他には拠点になりそうな箇所は?」

 「霊地として考えれば円蔵山と………あとはありえないけど冬木教会かしら?」

 「ありえないとは?」

 「教会は中立地帯よ。」

 

 カロンは老獪である。

 戦争とはしばしば手段を選ばない殺し合い、ありえないという話はカロンにとっては油断以外の何物でもない。

 カロンは地図で立地を確認する。

 

 ーー間桐家と教会と円蔵山か。立地を考えると籠城戦になりやすいのは円蔵山だな。ここはいるかどうか判別が容易だろう。いるのであれば間違いなく罠がはってある。籠城戦が得意なのは………キャスターが工房設置を持っているのか。

 

 「他には無いか?」

 「思いつかないわ。」

 「絶対に、間違いなくか?ここでのミスが命取りということもありうるぞ。」

 「間違いなくよ。私もこの戦いに前もって十分な準備をしてきたつもりだわ。」

 「そうか。それではリューを呼び出すぞ。」

 「構わないわ。」

 「お呼びですか?」

 

 魔力がリューの姿を形作る。

 

 「偵察を任せたい。不審な存在がいないかの確認を行ってくれ。全体をカバーしながら重点的に行うのは三点、冬木教会と間桐家と円蔵山だ。地図を確認してくれ。円蔵山の方はあまり近づきすぎるな。いるかどうかの判別さえ付けばすぐにでも離れていい。戦闘は可能な限り避け情報を持ち帰ることを最優先しろ。」

 「待ってちょうだい!冬木教会と間桐家はありえないわ!」

 「マスター、勝ったらなんでも叶うが謳い文句の戦いなのだろう?」

 

 カロンは厳しい目付きで凛を見る。

 カロンは何でも望みが叶うなどと眉唾だと考えているが、魔力に疎く判別が出来ない。

 わかっているのは、参加者が何でも叶うという謳い文句を信じて殺し合いまでしていることだけ。

 

 「なんでも叶うのであればなんでもする人間が存在しないというのはマスターの油断以外の何物でもない。死んだ後に文句が言いたくても、死人は口をきかないだろう?」

 

 ◇◇◇

 

 カロンはリューに偵察を任せて、今現在遠坂家でマスターである凛と二人きりだった。

 

 「マスター、明日からどうするんだ?」

 「学校に行くわよ。」

 「あまりオススメできない。なにしろ、俺が霊体化できない。」

 「あっ………!」

 

 またもや凛、ウッカリである。

 凛は当然カロンを霊体化させて校内を連れ回す気でいた。しかし何度も説明している通り、カロンは生者である。当然霊体化できない。

 凛は目を細めて考え込む。

 

 ーーどうしようかしら?学校には………いないわよね?校舎の近くに控えさせておけば………うーん。

 

 しかし凛はつい先ほど油断を窘められたばかりである。

 

 「あんたはどう考えているわけ?」

 「………二週間くらいなら休んでしまった方がいい。命には代えられんだろう?」

 「でもそれは負けた気分でいやなのよね………。」

 「この国の格言には負けるが勝ちという諺があるそうだが?」

 「あんた大男のくせに案外口が減らないわね。」

 「大男なのは関係なくないか?」

 

 その時凛とカロンは共にあることに気づく。

 

 「これは………。」

 

 ◇◇◇

 

 ーー円蔵山には………やはりいますね。おかしな気配を感じます。

 

 ーー間桐家には紫の髪の大女。向こうもこちらに気付いています。特にこちらに何かして来る様子はありませんね。戦う気が無いのか?

 

 ーー教会は………わかりません。確認できる限りでは特に何かが起こる様子もありませんが………。今日のところはここまでですね。間桐家と円蔵山は収穫です。あとは報告に徹しましょう。

 

 リューはここまでだと帰参を決意する。

 遠坂家に向かい踏み出そうとしたその時ーー

 

 「おいおい、もう帰んのか?多少は戦えそうだしせっかくだからちと相手してくれや。」



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クランの猛犬

 「どうするの!どうするつもり!」

 「落ち着け、マスター。リューはあれでも百戦錬磨の猛者だ。」

 

 慌てる凛と微動だにしないカロン。

 凛は魔力の減り方から、カロンは自身の宝具のためにリューが敵と遭遇したことを理解していた。

 リューは魔力で編んだ体であり、仮にやられたところで凛の魔力が減るだけで本体には痛痒が無い。そしてリューは速度に特長があり、戦いに関して言えば非常に知能が高く遂行能力が高い。

 

 ーー逃げきれるようだったら報告が来る。そうでないなら………

 

 これが本物のリューであったならカロンは何をおいてでもリューを助けに向かっていた。

 しかしあれは魔力の塊に過ぎない。

 

 ーーそうは考えても心が痛むものだな。

 

 リューとカロンの見解は共通していた。逃げきれるようなら逃げて報告に徹し、そうでないなら拠点を探らせないように消滅する。

 

 ーー俺達にはただ待つことしかできない。

 

 ◇◇◇

 

 ーー速い!私以上に!どうする!?私が得た情報はどの程度の価値がある?

 

 「オラオラオラ、チョロチョロ逃げ回ってんじゃねぇよ!諦めてとっととかかってこいや!」

 

 青タイツの男。当然ご存知のクランの猛犬、クー・フー・リンである。

 彼はランサーの名に恥じぬ速度でリューへと迫り来る。

 

 相手は紅い長い槍を持っている。長物相手の撤退戦、ならばーー

 

 ーー可能な限り狭い通路を選んで退却します。相手の獲物は長く、狭い通路では邪魔になりやすい。少しでも引き離せたらあとは隠れ潜みます。

 

 時間は夜半、人通りはなく、リューは可能な限り狭い道を選んで逃走する。

 しかし、クランの猛犬はそれこそリューを超えるほどの百戦錬磨。狭い通路であろうと軽々と獲物を動かし邪魔にならないようにして追って来る。

 槍は近接武器で最強級の獲物である。剣道三倍段、剣で槍の相手に勝るには、余程敵より技量が高くないと不可能である。近接で槍の名手に会ってしまえば、剣の使い手に勝ち目は極めて薄い。

 

 ーーダメだ。やはり追い付かれるか。戦うほかはないか?

 

 リューはいくつかの可能な選択肢を模索していた。ベストなのはこのまま速度に勝り逃走すること。次善が隠れ潜みやり過ごしきること。そして円蔵山か間桐家を巻き込み混戦のどさくさで逃げ切ること。

 しかし現状どの選択肢も不可能。

 戦いで勝つという選択肢はそもそも相手の実力がわからないために不明瞭。強者の空気を纏っており、敗北の恐れが高い。

 

 ーー振りきれる算段がつきません。こうなってしまっては仕方ありません。

 

 このまま逃げても拠点がばれるだけ。リューは決断する。

 

 ◇◇◇

 

 「どうするの?」

 

 戦闘が始まったことをカロンと凛は悟る。凛の魔力消費が大きい。

 

 「使い魔は飛ばせるか?相手の姿を確認し次第魔力を切る。」

 

 戦いは七騎の競い合いであり、速い段階から魔力が枯渇するのは避けたい。

 いくら凛の魔力が豊富でも、もちろん限りがある。

 リューはあくまで偵察であり本気で相手を倒しに行く段階で無く、相手を倒すならカロンとの共闘が得策である。

 

 「わかったわ。」

 

 ◇◇◇

 

 「オラァッ!!」

 

 ここは狭い路地裏。リューは戦場を少しでも有利にするためにここで戦っていた。

 相手の武器は長槍で自分の武器は二本の小太刀。自分の方が小回りが利くために、狭い通路が有利なのは確定的。だと思いたいが………。

 

 しかし先も述べた通りクランの猛犬は他の追随を赦さないほどに百戦錬磨であり、いかなる戦場に於いても戦いつづけてきた。当然戦場が自分に有利でありませんなどということはありえない。

 

 クー・フー・リンは獰猛に嗤い、狭い通路を自在に紅い槍が迸る。

 

 「くっ………」

 「そらよっっ!!」

 

 二本の小太刀で紅槍の突きを逸らすリュー、しかしここは薄暗く敵の槍の突きは苛烈なものである。

 

 槍の突きは点の攻撃であり、一流のそれは恐ろしく速い。そしていくら槍が紅くて目立つものであってもここは薄暗い通路である。そんなものいつまでも捌ききれるものではない。

 突きを逸らされた紅い槍は回転し、上空から柄でたたき付ける一撃をリューは小太刀を交差させて受ける。恐ろしく重い、遠心力を乗せた一撃、リューの足元のアスファルトが罅割れる。

 槍を引いた猛犬は続けて無数の突きを繰り出し、リューはいくつもの刺突をその身に受ける。

 いくつもの傷を受けて漏れ出す魔力。

 しかしこれはリューが弱いのではない。そう、これを捌ききれるエミヤがどちらかというとおかしいのである!エミヤさん絶対おかしい。マジおかしい。

 

 ーー傷自体は浅いものが多いが………しかしやはり速い。ジリ貧だ。他には打つ手は………

 

 いくら双剣が防御に優れていようとも、相手のリーチは圧倒的に長く、相手は非常に敏捷に優れている。そして相手の異常とも言えるほどに高い技量。そしてそれらの複合要素のために槍の弱点であるはずの懐に入ることも不可能、そもそもクー・フー・リン程の猛者が自分の武器の特性を理解していないはずがない。百戦錬磨の猛者に弱点など存在しない!まさしく八方塞がりである。

 

 「テメエ、その武器といいアサシンか?」

 「さあ、どうでしょうね?」

 「アン?」

 

 しかしリューは窮地にてなお笑う。

 リューは体に幾箇所もの穴を開けてそこから魔力が漏れ出している。

 リューは相手の突きを二つの小太刀でいくつか捌く。捌き損ねたいくつかはその身に受ける。徐々に移動する二人。やがてリューは目的を達成したことを悟る。

 

 ーーどうやら私の役目は終わったようですね。報告ができないのは歯痒いが。しかし少なくともこの相手の情報は伝わります。

 

 リューは時間を稼げばカロンがその時思い付く最善手を取るであろうと信頼していた。

 

 ーー何を考えてやがる?拠点に向かっていたわけじゃあねぇ。ここは最初の遭遇地点………。

 

 相手は満身創痍で勝ち目は存在しない。しかしそれでもなぜか笑う。

 だがクランの猛犬はわからないことをいつまでも考えつづける男ではない。

 

 「オラァッ!!」

 

 トドメとばかりに敵の心臓部に槍を突き立てるーー突き立てたと思った刹那。

 

 ーー消えやがった。霊体化か?

 

 相手の体が霧消する。辺りを見回すクー・フー・リン。

 気配を捉えられない猛犬は取り逃したと判断する。

 

 ーーチッ。使い魔か。探られていたか。

 

 クー・フー・リンは宝石で創った使い魔を見つけて槍の石突きで潰す。

 

 ◇◇◇

 

 「あなたはどう思う?」

 「厄介だな。」

 

 ここは遠坂邸。

 相手を観察していたカロンと凛。

 

 「あの速度を確認しただろ?リュー以上だ。マスターを狙われたら俺一人では庇いきれない。リューと協力したとしても疑問が残る。」

 「でも相手は誇り高い英雄よ?あなたを無視してマスターを倒しに………そうね。敵マスターに命じられたら来るでしょうね。」

 「英雄とは多くが大量殺人鬼の別名だよ。全部がそうだとは言わないし、確かにこだわりを持っていそうな感じはしたが………それでも油断はできない。少なくともこちらの一般人と違って殺人に忌避感は持っていないだろうから、マスターの物差しで考えるのは止した方がいい。戦いを見るに、初っ端から頭の痛い相手だ。」

 

 カロンは知らない。クー・フー・リンはプライドが高く、強者との戦いにこそ最上の喜びを見出だす相手であることを。

 クランの猛犬の人となりを知らないために、マスターを狙うというより簡単な戦い方を警戒する。

 そしてクー・フー・リン自体は誇り高い英雄だが、彼のマスターは例のアノ男である。

 

 ーー青タイツと同等が俺を除いて六騎、しかもそれだけいるなら俺達と相性が悪い相手も存在する恐れが高い。相手の人格がわからないだけに敵方の戦略も見えない。敵方の同盟は………警戒するべきか。つくづくこれは………真っ当に勝ちきるのは難しいな。戦闘になれば宝具のリューが出ずっぱりになる可能性が高い。そうなるとマスターの魔力の枯渇も問題になってくる。戦闘回数は極限まで減らすべきだ。そうなるとやはりあの方法を取るしか無いか。つくづく僥倖だったのはリリルカが俺の宝具として登録されていることだ。リリルカは交渉の鬼だ。可能な限り敵を作らない。最善は生存という目的を共有できる対象を探して同盟を結ぶこと。そして時間を稼いでシステムをひっくり返す。最善が取れないなら同盟相手を騙すことや、凛にも内密にすることを視野に入れて。




石突き・・・槍の穂先とは逆側の先端。


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タグの力

 カロンと凛はあのあと敵の正体について推測を行ったが、歴史上槍を使う英雄は数多く結局敵の正体は掴めなかった。

 時間はすでに夜遅く。

 

 「そういやあんたまだ名前も聞いてなかったわね。何て言うの?」

 「俺はカロンだ。」

 「聞いたことないわね。まあ生者だという話だしね。じゃあカロン、今日はもう遅いし寝るわよ。魔力を使って疲れたし。」

 「さっき言ってた学校とかいうのはどうするんだ?」

 「明日起きてから考えるわ。」

 「ここに敵が襲ってくる可能性は?」

 「ここは魔術師の工房よ。敵が侵入すればすぐにでもわかるわ。」

 「俺は生身だがどこで寝るんだ?」

 「居間にソファーがあるわ。」

 

 ◇◇◇

 

 原作世界との違い………そう、まさかのエミヤさんの不在。

 原作世界に於いてはエミヤさんは朝に弱い凛のために紅茶と朝食を用意していた。

 しかしこの世界はまさかのカロン!生身のオリ主。知名度補正0っっ………!いや、エミヤさんも知名度補正0か。

 まあともかくカロンは朝に弱く、昨夜は遅くまで凛と二人で敵の視察を行っていた。そうなると必然。

 

 「コラアアァァァーーッ!!」

 「うん、なんだ?どうしたんだ?」

 「なんであんたも一緒になって寝坊してんのよ!今お昼の3時よ!もうすぐ学校終わるじゃない!」

 

 凛はボサボサに寝癖のついた髪を振り乱す。

 カロンの髪ももじゃもじゃ。

 

 「マスターも寝坊してるだろ?」

 「私は昨日宝具を使って魔力を食ってんの!あんたはなんで寝坊してるのよ!?」

 「うーん、俺も実は朝弱いんだ。」

 「朝じゃないわ!もうすぐ夕方よ!」

 

 昨日は結局学校をどうするかを決めないまま寝てしまった。しかしこうなってしまってはどうするも何も無い。

 

 「で、これからどうするのよ。あんたに何か案はあるの?」

 「ああ、昨日ソファーで横になった際にいくつか思い付いたことはある。」

 「何よそれ。話して見なさいよ。」

 「まずは結局失敗した偵察をどうするかだな。円蔵山だけでも遠巻きに確認したい。」

 「そうね。」

 「次に気付いたことだが………マスターはリューにどこを偵察させていたか覚えているか?」

 「ええ。円蔵山と間桐家と冬木教会ね。」

 「リューが襲われた場所は?」

 「このあたりかしら。」

 

 凛は地図を指す。冬木の橋を挟んで向こう側。

 

 「俺はリューに円蔵山、間桐家、冬木教会の順に偵察を行うことを指示していた。円蔵山が一番簡単に判別がついて冬木教会は最も遠いからだ。そしてほら。」

 

 定規を置いて遠坂邸と冬木教会を繋ぐ線上………そこから僅かに外れた教会近く。

 

 「リューはあれでも偵察は得意だ。速度もあり、いざという時は拠点を探らせないように迂回して拠点に戻って来るようにも指示してある。しかしそれでも逃げ切れない時は遭遇地点で戦闘を行う取り決めだ。」

 「えっ、これってつまり………」

 「ああ。明らかに冬木教会を偵察した帰りに比較的教会に近い地点で敵と遭遇したということだ。どう思う?」

 「えっ、まさか………いや、でもあいつならやりかねない………。」

 

 そう、みんな大好き言峰神父である。

 言峰神父は優秀な兵ではあるが将ではなく、槍のアニキは戦えれば細かいことにはこだわらない。

 ギル様が控えていることもあり、襲撃地点など細かいことにはこだわっていなかった。

 

 「確定ではないがきな臭いのは事実だ。ここの教会は槍を携えた死神を奉っている可能性がある。」

 

 凛は手を口元に置いて思考する。

 

 ーー確かに………あいつは信用できないし、万一を考えると近づかないが賢明ね。

 

 「とりあえず警戒だな。それじゃあ明るい内に円蔵山の偵察に向かうか。」

 

 ◇◇◇

 

 「やっぱりいるわね。」

 「そうか。」

 

 ここは円蔵山、柳洞寺。

 カロンは魔術には疎い。しかし凛は当然結界の気配を感じ取り何者かの存在を感じ取る。

 

 「籠城ならキャスターの可能性が高いわ。気取られたくないからあまり近づかないで。それにしても………。」

 

 凛はカロンを見る。デカブツの外国人。昨日はウッカリ失念していたがこんなん目立たないわけがない。挙げ句に霊体不可。

 

 これどうすればいいの?私にこんなデカブツを寄越した馬鹿は誰?サイズの変更はきかないの?というか戦いで服が破れたりしたらどうするの?そんなサイズの服の替えはないわよ?

 

 凛は思わず溜息をつくのであった。

 

 ◇◇◇

 

 「念のために間桐家も確認しておくか。」

 「あいつは多分部活でまだ学校にいるわよ。」

 「あいつ?間桐の人間は知り合いなのか?」

 「ええ。言ってなかったけど私も御三家の人間なの。たまたま同級生なのよ。」

 「どういうことだ?まさか聖杯戦争は参加者の年齢制限がされているのか?」

 「いや、そうじゃないの。うちは前回の十年前の戦争で当主を失ったわ。間桐家はどうだったかしら………。」

 「ああ、そうか。済まない。」

 「気にしないで。」

 

 結局凛はカロンが目立つことについては諦めた。もう知らん。

 今からなんと言い訳するか頭が痛い。しかし凛は学校では優等生で通している。命がかかっていることも加味して、後になんとか言い訳を捻り出そうという、つまりは問題の後回しだった。多少苦しい言い訳でも優等生の発言であれば通る公算は高い。

 結局発言とは、誰の口から出たかで持つ力が変わるのである。

 

 そうこうしているうちに学校へとたどり着く。

 

 「………いるわね。」

 「そうか。」

 

 当然いるのはリューが偵察の時に見かけた紫髪の大女(メデューサ)である。

 

 ーー私はどうするべき?まさか本当にいるとは………。当然この大男を校内で連れ回すわけにはいかないし………どう見ても入校希望者にはみえない………!どこからどう見ても二十歳過ぎ!私の親戚で保護者………無理………!どこから見てもやはり外国人………!でも学校には結界が張ってある。タチの悪い感じのが。間違いなく中に何かいる。

 

 「どうしたんだ?」

 「迷っているのよ。間違いなく中にいると思うんだけど………あんたを中に入れたらどう考えても警備がよって来るわ。」

 「………中で罠を張って待っている可能性は?」

 「既に罠は目に見えて存在しているわ。中に入った人間を溶かすタチの悪い結界があるわ。」

 「大丈夫なのか?」

 「まだ発動には時間がかかるわ。でも邪魔しないと発動が時間の問題だし、あんたを連れていかないと危険だし。」

 「じゃあもう少し待って遅い時間に無断侵入するしかないだろ。」

 「そうね、それしかないわ。」

 

 ◇◇◇

 

 「勿体ねぇな。それ消しちまうのか?」

 「「誰(だ)っ………!」」

 

 カロンと凛が学校の屋上で結界の基点を消してる最中に何者かが現れる。

 慌てて確認をすると先日使い魔で確認した紅い槍の青タイツの男だった。

 

 凛は即座に決断する。

 

 「着地は任せたわ。」

 「ああ。」

 

 迫り来る紅い槍を避け屋上から飛び降り校庭へと待避する二人、カロンは即座に凛から魔力を受け取り鎧と盾を編む。

 

 「お前らで七人目か。お前クラスは何なんだ?なんで盾しか持ってねぇんだ?」

 

 七人目………クー・フー・リンは勘違いをしている。

 彼はリューと遭遇したために、佐々木小次郎をセイバーと勘違いし、リューをアサシンと勘違いしていた。

 言峰神父は当然霊基盤を持っておりセイバーが存在しないことを知っていたが、案の定[愉悦!]とかいう感じでクー・フー・リンには真相を伝えていなかった。

 

 

 そしてクー・フー・リンの推測で必然的に残るクラスはアーチャー。しかし。

 

 「テメエ、エクストラクラスか。」

 

 どう見てもアーチャーではないカロンにクー・フー・リンはエクストラクラスと推測する。

 

 ◇◇◇

 

 交錯する思惑。

 

 ーーどうする、こいつの速さではマスターを狙われたら勝ち目が存在しない。リューを護衛につけるしかないか?しかしリューは今のところ隠し札だ。なるべくなら切りたくない。しかしマスターの安全を考えるならば。

 

 ーーランサー、予定外!カロンに勝ち目はあるの?宝具のリューと協力すれば?しかし聖杯戦争は長い戦い。なるべくなら魔力を温存したい。でも………切るしかない!

 

 ーーこいつなんで武器持ってねぇんだ?クラスは?間違いなくエクストラ!戦い方は?予想がつかねぇ。まああんまり考え込むのも性にあわねぇか。

 

 猛犬は獰猛に笑う。時間はない。カロンは決断する。

 

 「凛!魔力を回せ!リューをお前の護衛につける!」

 「あんたは!?」

 「俺のことは気にするな!」

 

 戦端は開かれる。

 カロンとクー・フー・リンが戦い、隠し札にしておきたかったリューが暴かれる。

 

 「リュー、お前は凛の護衛だ。しばらくそちらで観察を行え!」

 「わかりました!」

 

 ーーあの女はこの間の………アサシンじゃなかったということか。こいつの宝具か?

 

 カロンに攻撃を加えるクー・フー・リン。

 カロンは攻撃力は皆無に等しい。しかし守備力は異常に高い。存在そのものがアイアスの盾(ロー・アイアス)

 

 クランの猛犬は槍で幾度もカロンに刺突を加える。カロンはそれを盾で斜めに受ける。

 さらに盾の側面で槍の腹を弾き、上手く相手の攻撃を受け流す。

 槍での点の攻撃である突きは刀剣による線の攻撃よりも、受け止めにくいが受け流しやすい。突きの力のベクトルが一点集中であるためである。

 カロンの持つ盾の面積は広く、カロンは長く仲間を護る盾役だったため盾で相手の攻撃を受ける技量は高い。突きの攻撃にも上手く対応する。

 カロンは猛撃を捌きながらなおも思考する。

 

 ーー敵は俺の特長を知らない。だが武器を持ってないし俺の強みを確信されるのは時間の問題………相手の攻撃をわざと受けた虚をついてリューと協力して仕留めることは?無理だ。危険が大きすぎる。相手の槍捌きを見るに百戦錬磨の手練、隙ができるとも思いづらい………そして俺は生身だ。しかし。

 

 カロンはなおも猛攻を捌く。リューがさほど持たなかった相手に。

 

 ところでしかし、何なのか?それはしかし俺は案外ついている。

 

 カロンはリューより強いのか?

 答はノーである。

 カロンは攻撃力はゴミである。同格以下であればしぶとく戦い勝てるが、格上には攻撃は通らない。格上相手では最高の結果で、しぶとく戦って引き分けが関の山である。

 

 戦いには厳然たる相性が存在する。

 カロンはこの聖杯戦争において、リューより優位に戦える相手が幾人か存在する。

 もちろん、逆にリューが優位に戦える相手も存在する。

 

 ここで分析をしてみよう。

 セイバー………敢えてここでは明言を避ける。

 ランサー………敵は素早さと技量に優れ、リューでは相手の攻撃を防ぎ切れずカロンは防御可能、ゆえにカロン優位。

 アーチャー………不在、ゆえに無意味。

 ライダー………三次元のアクロバティックな戦闘を行い、なおかつ素早いためにカロンにも防御が難しい。速度について行けるリュー優位。

 アサシン………今回のアサシンは日本刀を使用する。日本刀は鋭いが脆い。アサシンの技量は高く、日本刀の重量も考えるとリューに防ぐことは難しい。逆にカロンであれば耐久が高く、受けた際に刃が伸びて切れ味が落ちる可能性は高い。カロン優位。

 バーサーカー………一長一短。カロンはしぶといが遅くリューは素早いが脆い。ただし逃走に主眼をおけばリュー優位。

 キャスター………転移と爆撃にはカロンはなすすべがない。ゆえにリュー優位。

 

 もちろん、これがすべてではない。マスターという要素や、どう戦うかの戦術も関わって来る。

 これはあくまでも拙作の誰かが考えた相性である。

 

 カロンは相性を考えてついていると考えていた。

 相手は明らかに格上。単騎で勝利すること能わなくとも、戦いの相性がよいために時間稼ぎは可能である。時間が稼げれば良案を思い付く余地がある。

 

 ついでになぜカロンの幸運がEなのかは拙作の誰かのせいである。まあ二回身内を殺された人間が幸運なわけないよなと。

 

 鈍い金属音を立てて戦いはなおも続く。

 クランの猛犬は槍を手に幾度となく刺突を行う。時に上からの振り下ろしや下からの掬い上げを織り交ぜて。

 しかし固い。盾で上手く受け、受け流す。クー・フー・リンが鬱憤を溜めるほどに固い。

 さらに思惑は交錯する。

 

 ーーちっ、どういうことだ。攻撃してきやがらねぇ。万一のカウンターはあるのか?耐えてひっくり返す思惑が?どうするつもりだ?

 

 ーーこの男………やはり戦いに喜びを感じるタイプだという可能性は高い。どうする?いつも通り挑発するか?しかしこいつは間違いなく百戦錬磨。宝具とやらの切り札がどういうものかもわからない。難しいな………。

 

 リューは万一に備え臨戦体制、カロンは専守防衛、クー・フー・リンは疲れ知らず。

 猛犬の槍はカロンの頭部付近を薙ぎ、カロンはそれを盾ですらして受ける。

 槍を回転させて石突きでカロンの腹部を突きにかかる猛犬、しかし空いた腕で掴まれる。

 カロンに蹴りを入れ離れる猛犬。

 

 「おいおい、別にマスターを狙ったりしねぇぜ?二人がかりでかかってこいや!」

 

 しかし当然カロンは敵のいうことなど信じない。リューを離したら凛がやられるのに一秒かからない。

 

 カロンは幾ヶ所か攻撃を受け血を流すが、戦いは膠着状態に近い。

 カロンはなおも思考する。

 

 ーースキル言霊、使えるか?しかし相手の急所が見えない。揺さぶれそうな箇所が見当たらない。怒りで単調になったり単純な挑発に乗ったりする相手か?どう見ても戦いに関しては老獪な相手だ。

 

 実は弱点が全く見当たらないわけではない。あてずっぽうでいいなら、冬木教会が拠点だと揺さぶる手もある。

 しかしこれはむしろ当たっていたときの方が危険だ。格上の相手が拠点を護るためになりふり構わず攻めて来る可能性がある。軽々とは切れない札だ。

 

 なおも戦いは続く、変化のない戦い。猛犬が攻め、カロンが捌く。

 攻撃のほとんど通らないクー・フー・リンは鬱憤を溜め、フラストレーションを募らせる。

 

 「チッ!」

 

 クランの猛犬の表情が変わる。犬歯を剥きだしより獰猛なものへと!

 

 「テメエさっきからヘラヘラ笑いやがって何のつもりだ?防御だけで反撃して来ないくせに?」

 

 その言葉とともに禍つ紅い槍に凶悪な量の魔力が集まっていく。

 因果逆転の槍、それが今まさにその真価をあらわそうとしている。

 

 カロンはあたかも周りの空気が冷え込んでいくような錯覚を覚える。

 

 ーーこれは………この気配は………やばい!奴はなんらかの札を切るつもりか!?俺に防ぎきれるのか?

 

 「カロン!」

 「リュー、動くな!マスターの守護を優先しろ!」

 

 リューは焦る。カロンは生身だ。

 厭な感じは拭えず、あからさまに敵は切り札を切ろうとしている。

 

 猛犬は槍を構える。その姿形はあたかも獲物を狙う猫科の猛獣。

 

 「テメエは良く持った方だよ。たとえ防御専門だとしてもな!」

 

 猛犬の手のうちにある槍は凶々しく脈をうち、躍動するときを今かと待ち構えている。

 

 「くらいな!突き穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 ゲイ・ボルクは因果逆転の呪いの槍!正当な筋道を通らず、心臓に当たったという結果から軌道を逆算する恐ろしい呪いの槍!殺戮の呪いは今獰猛な獣の腕より放たれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボスッ………。

 

 「「「「???」」」」

 

 全員の困惑。おいてけぼり感。あれだけかっこつけて見得を切ってその結果がボスッ。

 因果逆転の槍の先っぽは逆転せずに地中に埋まっている。

 

 「何だと!?どういうことだ!?」

 

 困惑のクー・フー・リン。原因は何なのか?

 

 原因は………そう、原因はすべて誰かにある。誰かのせいなのである!

 

 誰かはこう考えた。

 アレ?ゲイボルク発動したら詰まないかコレ?

 主人公の幸運Eだし。

 

 なるほど、ならば発動させてはいけないのか。どうしよう。普通に原作様沿いでもいい気がするが、せっかくだし何か発動させないための超理論はないかな?

 カロンについてるのは………耐異常EXか。

 

 耐異常………そういえばゲームではしばしば即死攻撃は状態異常判定されるよな?即死攻撃は状態異常判定でいいのかな?即死攻撃は状態異常判定かな?即死攻撃は状態異常判定だよな?即死攻撃は状態異常判定だ!

 

 それに因果逆転の呪いというしな。呪い………なら状態異常で大丈夫だろ。一応あれだけ呪いだと連呼しておいたし。

 それにせっかく耐異常EXを付けてるんだし使わないと何かもったいなくて損した気分になるしな。他に使い道があるかわからないし。

 よし、これだけ理由があるんだし、ゲイボルクは呪いで呪いならば状態異常扱いだ!

 

 そう、拙作にはギャグのタグをつけているのである!現実的に考えれば即死攻撃が状態異常判定とか考えづらい。しかし拙作はある程度なんでもありなのである!

 そしてその結果のあれだけ格好をつけてボスッであった。

 

 「ブフッッッ………。」

 「誰だ!」

 

 何者かの思わず吹き出す声、猛犬は戦いを見ていたものがいることに気付く。

 

 「この勝負、預けるぜ。」

 

 クー・フー・リンはそういうと目撃者を始末するために去っていく。

 

 「しまった!一般人が!追うわよ!」

 「ああ。」

 

 一般人を助けるために敵を追う三人。リューを先行させてしまうとあまりにも護りが手薄になってしまうためにできない。

 彼ら三人は校舎の階段を上って行った。

 

 ◇◇◇

 

 「嘘、何だってあんたなのよ!何だってあそこで吹き出してしまったの!確かにあれはマヌケだったけど………」

 

 既に辺りにクー・フー・リンはいない。

 校舎内で胸を貫かれて廊下で俯せる犠牲者。

 犠牲になった一般人、それは衛宮 士郎だった。彼は、凛の血の繋がった妹であり今は余所の家の人間である間桐 桜の思い人である。

 

 「凛、どうするんだ?」

 「蘇生を行うわ。成功するかわからないけど。ああもう!」

 

 凛は懐から紅い宝石を出す。宝石には凛が貯めつづけた魔力が込められている。

 凛は彼女が長い間貯めた魔力を使い蘇生を行うのだった。



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カロンは必死

 「何だってあんたなのよ………」

 「マスター、知り合いなのか。」

 「………桜の思い人よ。」

 「桜?」

 「………後で説明するわ。」

 

 ここは学校で彼らは同級生。知り合いなのは当然なのだが、カロンは異世界人でそのことを知らなかった。

 誰かのSSには、オラリオにはバイクやテレビや段ボールはあっても都合よく学校は存在しない。

 

 「蘇生を行うわ。」

 「心臓が潰されているみたいだが助かるのか?」

 「まだ何とかなる可能性が高いわ。」

 

 そういって外傷の上に赤い大きな宝石を置き手を当てる凛。

 

 「んっ………くっ………」

 

 しばらくカロンは見守る。

 凛は苦しそうな表情をして蘇生を行う。

 

 「はぁ………はぁ………なんとか成功したわ。」

 「そうか。それでこれからどうする?」

 「拠点へ帰るわ。戦闘で魔力を消費して疲れたし。」

 「こいつはどうするんだ?」

 

 床に倒れ伏す衛宮 士郎をカロンは指差す。

 

 「放っておくわ。」

 「こいつの安全は大丈夫なのか?」

 「む………。」

 

 原作様では凛は士郎の安全をウッカリ忘れ、エミヤはおそらく敢えてスルーしていたのだがこの世界はカロン。普通に気になることを突っ込む。

 

 「どうしようかしら?いいアイデアある?」

 「うーん、どこか安全な場所があればなぁ………。」

 「保護場所は教会だけど………教会は………きな臭いのよねぇ………。」

 

 凛とカロンは困り果てる。

 本当なら放っておきたいが、彼にも命の危険がないとは限らない。戦争の中立のはずの教会はなんか胡散臭い。しかも教会に仮に本当に敵がいるとしたら彼を襲った青タイツ。さすがに自分達のせいで死人を出したは後味悪すぎる。助けた意味がない。

 

 「うーん、本当にどうしようかしら。とりあえず気がつくまで私の家に置こうかしら。そうね。運んでくれる?」

 「ああ、構わんぞ。」

 「うーん、でも人に見つかったらなんて言い訳すればいいのかしら?」

 

 彼らは話し合い、結局極力人の通らない道を使い遠坂邸へと帰参することが決まった。

 幸運にも誰かに見つかって職質などされることもなく彼らは帰宅する。

 

 「ハァ、疲れたわ。」

 

 ここは遠坂邸のリビング。衛宮 士郎はソファーへと寝かされる。

 

 「ああ。ところで晩飯はどうする?」

 「あっ!!」

 

 遠坂 凛はどこまでもウッカリ。彼らは今日は何も食べてない。

 カロンも生者でふつうに腹が減る。

 冷蔵庫に食材はなく、買い出しに行くにはどちらか片方だけでは凛のいる方が危険。二人で出かけては士郎が危険。こんなしょうもない理由でまさか宝具のリューとリリルカを使う気はない。

 

 「ウッカリしてたわ。食事は衛宮君が目覚めるまでどうしようもないわ。それまで今日の戦いを振り返りましょう。」

 「まあ仕方ないか。」

 「敵の正体が判明したわ。敵はクランの猛犬、クー・フー・リン。特徴は因果逆転の呪いの槍ゲイ・ボルク。ゲイ・ボルクって叫んでいたからね。」

 「そうか。そいつに何か弱点はあるのか?」

 「たしか誓約(ゲッシュ)が弱点だったはずよ。目下のものの食事の誘いを断れないのと、犬の肉を食べてはいけない。」 

 「なるほど。破ればどうなるんだ?」

 「能力に大きな誓約が課せられるはずよ。」

 

 カロンは生還するために手段を選ぶつもりはない。殺し合いに卑怯という言葉が存在すると思っていない。

 相手はこちらを殺すつもりで向かって来ており、相手の正体は幽霊だ。むしろ手心を加える方がぬるすぎる。

 

 「その情報は価値がある。奴を撃退できる算段がついたのはでかい。」

 「そうね。あいつ超有名な英霊よ。」

 「奴は俺達の食事の誘いを断れない、か。食事に誘って犬の肉を食わせればいいのか。マスター、一応犬の肉を出す店を調べておいてくれるか?他の情報も整理してみるか。」

 「………まあ死ぬよりマシか。機械を扱うのは苦手だけど何とかして調べておくわ。それと情報でわかっているのは奴はクー・フー・リンでほぼランサー。」

 「となると残りはセイバー、アーチャー、ライダー、アサシン、バーサーカー、キャスター。俺はそのどれかの代わり。奴はリューをアサシンと勘違いしてたが、奴がどれだけの情報を持っているのか不明なために断定は危険。」

 「ええ。そして円蔵山にキャスターがいる可能性が高い。」

 

 クー・フー・リンはカロンを含めて七騎の情報を持っていると言っていたが、そもそもリューをサーヴァントと勘違いしていたため実際は六騎の情報であることは明白であり、さらにハッタリや勘違いの可能性もある。

 ゆえに断定は危険だとカロンは考える。敵の情報を鵜呑みにするほど危険なことはない。

 

 「他に確定していることはあるかしら?」

 「学校になんかいるくらいだな。」

 「そうだったわね。」

 

 情報を纏めるカロンと凛。

 確定している限りで円蔵山に一騎、学校に一騎、青タイツ、自分。

 青タイツとの戦いは学校。つまり青タイツと学校の一騎がイコールの可能性は?

 ないわけではないが、青タイツの初遭遇が冬木教会近く、ゆえに可能性は低い。

 そして可能性が高いのが所在のわからないアインツベルン拠点に一騎、ただしあくまで高い確率で確定させる気はない。

 逆算すると所在不明はアインツベルン含めて三騎。

 

 そして実際は?

 

 実際にカロン達が確認できていないのはセイバーが未召還でアインツベルンは森の中。円蔵山には実は二騎。そしてこっそりギル様。

 

 カロン達は同地点に二騎いる可能性は除外していない。しかし推測もしていない。

 

 「柳洞寺の方はどうなんだ?俺には魔術はわからん。結界が張られていると聞いたがどうにもならんのか?」

 「難しいわね。あそこはおそらく超高度な魔術師の工房になっているわ。罠だらけだと考えて間違いないはずよ。」

 「そうか………。」

 

 落胆には値しない。当然の帰結。カロンの戦術眼は高い。

 円蔵山は遠坂 凛が真っ先に拠点に思い付いた地点である。

 ゆえにここに陣取る勢力が存在するのであれば狙われるのを警戒して、当然ガチガチに固めて来るのは当たり前である。むしろ温かった方が逆になんらかの必殺を疑うべきである。さらに高地は戦術的な優位を取りやすい。

 

 「なかなか難しいな。」

 

 カロンは思案する。

 籠城で潰し合うのを待つ手は?しかし籠城していては戦局が理解できない。

 

 「籠城はどうだ?」

 「どうかしらね?私は御三家だから拠点がばれてるわよ?」

 「ああそうか、そういってたな。ならば不可能か。」

 

 いくら魔術師の工房が堅固でも、敵は人知を超えた英雄。戦局が進まないことに業を煮やして結託して襲われたらひとたまりもない。

 カロンはここで先程のことを思い出す。

 

 「ところでさっき言ってた桜というのは?」

 「間桐 桜、旧姓は遠坂 桜。うちから間桐へ養子に行ったかつての妹よ。」

 

 ーーマスター、マジかよ?ふざけんなよ?サラっと言ってるけどそれ多分超重要情報じゃねぇか!温いにも程があるだろう?俺も命懸けなんだぞ?アンタの妹だったら魔術師の可能性多分高いだろ?それで間桐?あんた確か間桐も御三家だとか言ってなかったか?俺の覚え違いじゃないよな?零落した間桐にもらわれたってそれはつまり高確率で()()()()ことだろ?そんな重要情報を今まで黙ってるのはダメだろ?

 

 カロンは内心で憤慨する。

 

 カロンはいつも有意義な策を思案する。

 馬鹿の考え休むに似たり。しかしよらば文殊の知恵。人知をつくして天命を待つ。

 

 諺とはしばしば相反するものが存在する。

 そしてそのどれかが正解というわけではなく、どれもが正解なのである。たとえ矛盾していたとしても。

 

 カロンは必死に思案する。

 何かいい手は?有利に立てる手段は?勝利への道筋は?ギャグはどれだけ挟めるのか?

 

 しかし馬鹿の考え休むに似たり?考えるだけ無意味なのか?

 

 否、必死に生きる生命とは案外強いものである。必死に生きる生命は、しばしば過酷な環境下でも生き延びる。清らかさや高潔さにこだわる生命は、環境の変化に対応しきれずあっさり絶滅する。

 必死にアホな頭を振り絞るカロンは稀に凶悪な一手を思いつくのである。



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リリルカ降臨

 「リリルカ、やはり厳しいか。」

 「ええ。ここにいるリリはあくまで意識を飛ばした分体です。こちら側から情報を持ち帰ることは不可能です。」

 

 ここは遠坂邸、凛は士郎の様子を見るために部屋に残っている。

 

 カロンは凛に頼み魔力を回してもらっていた。そして顕現させたのが参謀足るリリルカ。

 カロンはリリルカと戦局の話を二人でしていた。

 

 カロンはもし仮にリリルカが情報を持ち帰ることが可能であるなら戦いが著しく有利になり、しかしカロンは宝具の彼女らは情報を持ち帰ることはほぼ不可能だろうと予想していた。

 

 もし仮に情報を持ち帰ることが可能であるなら、頭脳チートであるリリルカが謎の計算式を駆使してこちらの座標を特定できるのではないか?

 そう、リリルカは誰か(作者)の想像すら及びも付かないほど頭脳チートなのである。

 

 そして誰かが何となく生み出した謎の次元移動魔法があれば、向こう側から戦力を送ることも凛を戦局の盤外に逃がすことすらも可能である。

 しかしそれはあまりにもずるい上に、収拾が付かなくなりそうなので現状、不可能だった。

 

 「座標の特定は行ってますがまだ時間はかかります。カロン様はどうお考えですか?」

 「難しいな。ランサーを見る限り相手はかなりの手練だ。残りの奴らも厄介な可能性が高い。」

 

 カロンとリリルカは見合い知恵を絞る。

 カロンは既にリリルカに状況の説明を行っていた。

 

 「逃走は?」

 「マスターが納得しない。強制的な逃走も考えたがその場合はおそらく令呪を使用される。俺が令呪にどれだけ逆らえるかが不透明だ。」

 

 拙作最大の特徴、それはあやふやの一言に尽きる。

 

 カロンの耐異常スキルは死の槍の呪いを退けた。しかし令呪にはどれだけ逆らえるか不明瞭。原作様の令呪を退けたステータスはセイバーの耐魔力。カロンがEXで持つのは耐異常。

 令呪は文字通り呪い。しかしそれが必ず誰か(作者)によって異常と判定されるのかがあやふや。とどのつまり気分次第!

 

 令呪に逆らえるのか謎。カロンは魔力には疎い。

 そして一度独断で勝手なことをすればおそらく二度とマスターに信用されない。信用されなくなればマスターが一人で戦いに赴きかねなく、そうなれば当然高確率で彼女は死亡する。

 やるのであれば令呪が効かない確証を得てからだ!

 

 「なるほど。確かに不透明ですね。他に考えている点は?これからの戦略は?」

 「正統に生き残る手段を模索するなら同盟だ。しかしこの戦いは何らかのシステムに則ったものだ。システムにはしばしば裏技が存在する。聖杯戦争という名称が鍵になっている可能性も高い。まあつまりその合わせ技が本線だな。」

 「なるほど。時間を稼いでシステムの根本を見つけだし破壊を含めた何らかの手を加えるですか。景品のはずの聖杯を無くすのも手ですね。」

 

 リリルカはカロンと長い付き合いがあるため、当然カロンの手口を理解している。

 

 凛は戦いでの勝利を目指しており、カロンは生還を目指している。

 カロンにとってこの戦いは馬鹿げたものであるが、凛にとっても馬鹿げたものであると決め付ける権利はカロンには存在しない。

 しかしそもシステムが破綻してしまえば?景品が無くなってしまえば?

 カロンの目的は盤面をひっくり返すこと!

 将棋やチェスでも盤面を裏返してしまえば戦いもへったくれも無い。

 

 ばれなきゃ問題ないだろ?

 

 悲願?宿命?

 笑わせてくれる!悲願が遂げたきゃ自分で遂げろ!子孫に押し付けんなよ。

 それが真に正しくて後ろ暗いところのない目的だったら、わざわざ魔術師内だけで隠れ潜んで目的をこっそり共有する必要はないだろ?

 

 人生が無意味か、いいものだったか?

 目的を達成できたかそうでなかったか?

 そんなん最終的に決めるのは、結局死ぬ直前だ。

 

 なればこそ生きていればだろう!

 

 狸の本懐、カロンは内心で己のマスターにも舌を出す。

 カロンは決して誰かに(おもね)ない。彼にとって、自身の命の選択を人任せなんて有り得ない愚行。

 それは彼の目の前の問題が、今まで彼だけのものだったという経験によるところにある。長く付き合いのあるリューやリリルカならともかく、始めて出会った遠坂 凛(マスター)に自分の行動を任せきるというのは論外なのである。

 

 そしてそもそも聖杯戦争とは、参加者が景品に魅力を感じているから喜んで殺し合うのである。景品に魅力を感じない人間が参加したら必然、生還を最優先する。儀式がどうなろうと、後のことは知ったことではない。単純に殺し合いを推奨する儀式が、仲間を護る組織を立ち上げたカロンにとっては不愉快だったという理由でもある。

 せっかくの縁だし、まだ若くて先のあるマスターも何とかして生還させようか。

 

 それがカロンの戦略であり、この話し合いに凛を除いた理由である。

 

 「マスターの説得はいかがですか?」

 「逃走と近しい理由で不可能だ。若い人間ゆえに若干視野狭窄に陥っている可能性がある。あまり踏み込みすぎて話すと、意見の食い違いでマスターと決定的な決裂を迎える可能性がある。そうなればやはりマスター一人で戦地に赴くことになるだろう。」

 「システムに関する情報は?何らかの防衛機構が存在する可能性は?」

 「俺の覚えている限りではどうやら御三家というのが存在するらしい。俺のマスターの遠坂と間桐とアインツベルンというそうだ。遠坂には情報が存在するかわからない。少なくともマスターはあまり知らないみたいだ。家捜ししようにもここは魔術師の工房で、俺には専門的な知識はない。もちろん防衛機構についても謎だ。」

 「間桐とやらはいかがですか?」

 「当主が若いと聞いている。期待薄だろうな。」

 「アインツベルンは?」

 「全くの謎だ。ここが一番それらしい。」

 「なるほど………。」

 

 リリルカは現状で提案できることを考える。魔力を切ってしまえばリリルカは霧消し、本体に一切の記憶は残らない。

 

 「やはりキーとなるのは間桐でしょうね。学校にサーヴァントが存在し、間桐は御三家の一角。当主が若いなら付け入る隙もある。しかし実際にサーヴァントを所持しているとしたらどの程度の強さか見当がつきませんし………。」

 「間桐にはマスターの妹が養子に行っているらしい。マスターに掘り下げて聞いてみよう。」

 「ええ。後は教会に存在する人員ですね。」

 「ああ、それも聞くべきか。」

 

 ◇◇◇

 

 方針を決めたカロンとリリルカは凛に話を聞きに来る。

 凛の側には眠りこける士郎。

 

 「どうだ?そいつは起きそうか?」

 「わからないわね。」

 

 凛と話すはカロン、リリルカは後ろで思案する。

 

 「マスター、冬木教会にいるかも知れない敵について教えてくれるか?」

 「ああ、そうね。私の予想が当たっているなら敵の名前は言峰 綺礼。中国拳法の使い手よ。」

 「どういう奴だ?」

 「うーん、そうね。あまり信用できない人間よ。愉快犯に近い気がするわ。」

 「そうか………。他に情報は?」

 「他には特に………。」

 

 カロンは愉快犯と自身のことを言われた気になり気後れする。

 

 「じゃあ御三家の間桐についても教えてくれ。」

 「どうして?」

 

 凛は自身の妹がいる家が敵だとあまり考えたくはない。

 

 「御三家なんだろ?アインツベルンの情報はないしなるべく情報は多いがいいさ。」

 「………そうね。当主の慎二には魔術回路がないわ。だからマスターとは考えづらいわ。」

 「マスターの妹は?」

 「桜がマスターだっていうの!?」

 

 カロンは片目をつむり少し考える。

 

 ーーうーん、有り得る可能性は全て潰すべきなのだが………そもそも学校に一騎いるわけだし。しかし戦いを決意した人間にしてはマスターは温い。しかし意固地にするのは得策ではない。何かいい方法は?

 

 そこへリリルカが声をかける。

 

 「凛様の妹ということはさぞかしお綺麗で優れてらっしゃるんでしょうね。」

 

 ーーそうか!

 

 「マスターの妹ということはさぞや魔術師として優れてるんだろうな。ならばやはりマスターの可能性が高いんだろうな。」

 「確かに魔術師として優れているかもしれないけれど………まさかそんな………」

 

 凛は黙り込み考える。

 カロンは情報を得る。

 

 ーーなるほど、客観で見るとやはりマスターの可能性が高いのか。魔術師が他にいないとは限らんが………仮にマスターの妹がやはりマスターだったとしたらマスターとしての素質が高く俺と違った正規の英霊。やはり厄介だな。

 

 「うう………ん。」



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誰かの気分

 「起きたか。」

 「なんでさ!?」

 

 目を覚ました衛宮 士郎、原作様主人公。

 士郎視点でいけば、目の前には青い目の大男、あからさまに外国人が流暢な日本語を喋っている。視界の隅には学年のアイドル、遠坂 凛。寝てる場所は知らない家のベッド。

 士郎でなくともなんでさ!?といいたくなるのは当然の展開である。

 ちなみにリリルカは魔力節約のために既にいない。

 

 士郎は思考を働かせる。

 何故ここにいる?ここはどこだ?目の前の大男は何者?何故遠坂が?俺は何してたっけ?

 

 「衛宮君、起きたわね。」

 

 声をかけるは遠坂 凛。士郎は慌てる。

 なぜ学年のアイドルが?

 

 「遠坂、ここどこだ?俺はなんでここにいるんだ?」

 

 そこで士郎には先程の情景が蘇って来る。

 

 「そうだ!確か俺は槍を持った男に………。」

 

 刺された心臓部を見る士郎。しかしそこに既に傷はない。着ている服に見覚えはない。それは帰宅途中で凛がコンビニで買った紳士用インナーである。

 

 「アレ、確かに俺………。」

 「ああ、お前は確かに刺されたよ。」

 

 既にどうするかの話し合いはもたれている。

 その結果、クー・フー・リンに再び狙われる可能性の高い士郎に嘘を付くのは得策ではないとカロン達は考えていた。刺されたことをごまかせば何故ここにいるのかも説明が面倒だ。

 いざとなったら凛の魔術で暗示をかけてしまえばいい。

 

 そしてカロンのさらなる思惑、カロンの思考は蜘蛛の巣の如く放射状に伸びている。

 あらゆる可能性を模索している。

 

 それは盤面をひっくり返す一手、魔術とは秘匿するもの。すなわち魔術とは公になれば困るもの。

 つまり聖杯戦争が表沙汰になることによる中止の可能性、その模索。当然凛には決して話さない胸の内。しかし魔術師が秘匿のためにどの程度までやるのか不明なため、あまり積極的には進められない方向性。少なくとも魔術師による聖杯戦争は命のやり取りである。ゆえに魔術師は秘匿のために平然と一般人の命を奪いかねない。

 

 しかし、戦局とは状況が変わることがザラである。

 判別が付かなくとも、とりあえず布石を打っておけば後々に使える駒となる可能性が存在する。カロンの知らない情報が後々入ってくる可能性も存在する。

 

 凛はカロンに説得された形である。

 凛の思惑は魔術は秘匿するもの。しかし士郎には情があり、命の危険に晒したくない。何も伝えないままではまたいつ襲われるかわからない。凛は迷っていた。

 

 ゆえに情報を伝えて、いざとなったら魔術で暗示をかけるというカロンの案に同意した。

 

 士郎の命の危険を下げる為に情報を伝え、魔術を秘匿するためにいざとなったら記憶を消す。それはつまり完璧に凛の都合次第ということである。まさに魔女以外の何者でもない。

 

 そして実は、ここに凛が気付いていない要素が一つ介在している。凛はカロンにいろいろな情報を話している。それはカロンにとって全て意味のある情報だ。

 

 凛は迷っていた。

 凛だってわかってはいる。客観的に見れば、確かに間桐の人間である桜がマスターである可能性はそこそこ存在する。それをカロンに話す必要性があるかもしれない。しかし、血を分けた桜が敵だと考えたくない。ゆえにあまりしゃべりたくなかった。しゃべりたくないしかししゃべる必要があるのでは、と同時に考えて迷っていたのだ。

 

 今回も同じだ。

 士郎に巻き込まれたことの詳細を話すか、黙すか。

 凛は気が強く、本来は使い魔に主導権を握らせたがる人間ではない。いくら命の危険があろうとも、一般人に魔術の詳細を軽々しく語るのは本来なら憚られる。

 

 人間は迷う生き物だ。

 戦うか、逃げるか。話すか、黙すか。

 そして、その二択が今まで都合よくカロンの思惑通りに来ている。

 

 それはなぜか?

 それは発言に力を与えるスキル、言霊の恐ろしさ。言霊の恐ろしさの本質、それは悪魔の甘言と同質のもの。凛は今までの言動を全て自分の決定だと思い込んでいる。それは真実なのか?

 スキル言霊は人間の迷いに乗じて、そっと対象の心の天秤にカロンの望む方へと重りを付け足すのだ。重りを付け足された本人は、当然気付かない。さらに呑気な喋り方に気づきにくいが、カロンは最低ランクとはいえカリスマ持ちである。

 カロンのスキルは気付かれないうちに凛の口を軽くして、凛の行動の主導権を握る。

 

 「士郎と呼ばせてもらうぞ。俺はカロンだ。お前は魔術師同士の争いに巻き込まれた。」

 「魔術師!?」

 

 凛もカロンも実は士郎が魔術師であることを知らない。二人は士郎の反応を見つつ情報を伝える。

 

 「ああ。お前には信じられないかもしれないが、この世には魔術師と呼ばれる人種が存在する。」

 

 士郎は反応を示さない。怪訝に思う二人、話はなお続く。

 

 「魔術師が強力な使い魔を召還して戦う争いだ。お前を刺した青い男はその使い魔だ。」

 「じゃあアンタは魔術師なのか?遠坂も?」

 「遠坂は魔術師だが俺は使い魔のほうだ。」

 

 カロンは士郎に合わせて凛を遠坂と呼ぶ。

 

 「そうか、遠坂も魔術師だったのか。」

 「遠坂も?衛宮君は魔術を知ってるの?」

 

 会話に凛が割り込む。

 

 「ああ。親父が魔術師だった。俺も少し魔術が使える。」

 「そう………。」

 

 凛にとってはそれが事実であれば、今まで上納金を踏み倒されていたことになる。

 

 おのれ、衛宮!ゆるすまじ!末代まで祟ってやる!

 

 横道に逸れた凛の思考をカロンが引っ張り戻す。

 カロンは必要だと思うことを凛の耳元で囁く。

 

 「士郎が魔術師ということは士郎がマスターの可能性はないのか?」

 

 士郎がマスターだとしたら現在サーヴァントを連れていない。絶好機である。

 

 「まさか。衛宮君がマスターのわけ………。」

 

 凛の言葉はそこで止まる。

 士郎の手には巻かれた包帯、そこからなんか変な模様が覗いている気がする。いや、覗いている。

 

 ーーアレ?令呪?まさか?でもどう見ても?アレ?どういうこと?え?

 

 「………衛宮君、その包帯はどうしたの?」

 「ああ、なんか変な痣が出来たから巻いてるんだ。」

 「ちょっと外して見せてもらえるかしら?」

 

 スルスル外す士郎。当然、そこにあるのは令呪。

 二度見する、やはり令呪。三度見する、どう考えても令呪。

 

 ーーえぇ!?これどうするのよ?間違いなく令呪じゃない。でもサーヴァントを連れていないしパスが通っている気配もない。………どうするべきかしら?

 

 凛の思惑。

 士郎がマスターになれば命の危険はやはり跳ね上がる。

 しかし士郎が参加しなければそもそも聖杯戦争として成立していない。

 私どうすればいいの!?

 

 放っておけば、他人に令呪が宿るのかもしれないが、凛はそこまで知らない。

 

 ーーこれはうまくやれば同盟下におけるのか?そうすれば正統な筋道が少し進む。しかしそれでも本線はやはり盤面返し。あまり確定していない存在に期待を抱きすぎるべきではない。

 

 カロンの思惑。

 凛は士郎に負い目があるが、しかし必ずしも士郎が凛に高圧的に出るとは限らない。

 逆に士郎が凛に恩を感じている可能性もあり、自分たちが巻き込まれているのは命の懸かった戦い。

 立っているものは親でも使う所存。当然に士郎を利用できる可能性も模索する。

 そしてそもそも利用でなくとも互いの目的が一致する可能性もある。生存を何より望む可能性だ。そこそこ以上に高い。

 カロンはしかし仲間に巻き込んだら見捨てるつもりはない。

 

 当然カロンには優先順位が存在する。

 

 今でいえば士郎より凛の方が優先順位が高い。

 凛を死なせるくらいなら士郎を見捨てる。

 

 それは以前からそうだった。

 当然人間は何もかもを救えるわけではない。

 

 カロンは家族が一番、仲間が二番、そしてここまではなんとしてでも護ろうとする。そこから先は可能であれば。

 つまりは比較的普通の感覚である。

 

 (ねぇ、どうするの?あれ令呪よ!どうするべき!?)

 (まあ伝えるか否かだよな。うーん。)

 

 こそこそ相談するカロンと凛。不審な二人の様子に特に気づかない士郎。

 ここで可能性を模索するカロンの脳裏に一つのアイデアが浮かぶ。

 

 (なあ、マスター。確か士郎はマスターの妹の思い人だと言っていたよな?)

 (えぇ………!?うん、まあ。)

 (マスターの妹は呼び出したりできるのか?)

 (えぇ!?確か桜は衛宮君の家に通っていたはずだけど………)

 

 カロンは桜がマスターである可能性はそこそこ以上に高いと推測している。

 そう、カロンの目的は三者で互いを護り合う三者同盟。

 桜を士郎で釣り、士郎を凛が上手に扱う。

 

 しかし当然桜の心臓にはお爺様が居座っていらっしゃる。

 

 カロンはお爺様をどうやって倒すのか?あるいはどうやってごまかすのか?気付かずにそのままスルーする可能性も高いと言える。

 ひょっとしたらまさかのヘヴンズフィールルートなのか?

 凛がヒロインなのにエミヤはなぜ存在しないのか?

 イリヤスフィールの生命や如何に?

 次はどのようなわけのわからない超理論を駆使してしまうのか!?

 誰かの気分の赴くままに………続く。



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全く理解できない謎のシステムに則って

 「なるほどね………事情は分かったわ。」

 

 優しく微笑む一人の女性、その様子はあたかも女神のようである。

 果たしてその本性は………やはり正義を司る女神なのである。

 

 「そうね………すべてはあなたがいけないわ。気分で書き出すからいけないのよ。あなたの脳内はひど過ぎるわ。あまりにも混沌としている。人間としてもう少し真っ当になさい。一話当たりの平均文字数も少ないし。」

 「ぐはっっ………。」

 

 ここはアストレア毒舌相談室。吐血するは誰か。

 脳天気な誰かの悩み事。

 それはフェイトにも関わらず八話、二万五千文字くらい書いても未だにセイバーちゃん(アホ毛)が出てこない。

 

 ちょっと展開遅過ぎないか?

 

 「展開遅くても頑張りなさい。あなたが始めたものなのだから。もしも完結させることが出来たら………。」

 「出来たら………?」

 「うーん、拙作は自己満足だし特に何かしてあげる必要性も感じないわね。こんなつまらないSSだし。」

 「ぐはぁっっ………。」

 

 ◇◇◇

 

あらすじ

 凛、桜、士郎の三者同盟を結ぼう!

 

 「なるほど。つまりそういうわけか。」

 「ええ。そういうわけなのよ。」

 

 ここは未だに遠坂邸。今は凛による士郎に対する聖杯戦争の説明が終わったばかり。

 あのあと結局凛は、迷った末に士郎に戦いの詳細を説明していた。

 

 やはりカロンの入れ知恵である。

 カロンの視点で見れば、桜もこの戦いのマスターの可能性は高い。

 内々で凛にそのように説得を行い、桜のマスターか否かの確認も行う必要があると説得していた。そのためには桜と親交があり、桜が家に度々訪れる士郎も引き込んでしまった方がよい。

 

 さらに、既に士郎は関係者でもあり、令呪が存在する。

 ことここに至っては、無理に知らせないよりも知らせて士郎と桜を固めて戦った方がよいということである。さらに士郎には力が無く、潜在的に青タイツという強敵も存在する。

 彼らは今もクー・フー・リンが士郎を密かに狙っていることを知らない。しかし士郎と青タイツが出会ってしまったら士郎が青タイツに襲われることは理解している。青タイツに襲われる………なんか意味深だな。

 ならばいっそ戦う力を与えて自衛させてしまおうということである。

 

 カロンにとって嬉しい誤算、それは凛にさほど同盟に対する抵抗がないことだった。

 

 カロンは凛の戦いへのこだわりがどのようなものか判別しきれないでいた。

 いざとなったら勝手に同盟締結を視野に入れるつもりだったが、キッパリと凛に同盟を否定された後にそれをやってしまったら凛との間に決定的な亀裂が入ることは明白、ゆえにスタンスを聞き出すことは後回しにしていた。

 凛を護るための同盟相手は、相手が裏切らないという確信さえあるのなら相手を選ぶつもりはなかったためだ。ゆえに凛が受け入れられない公算を常に念頭に置いていた。

 しかし士郎と桜という、凛にとっても心情的に受け入れやすい同盟候補者が現れたことが、カロンを先へと進ませるきっかけとなった。

 

 凛の目的は戦いでの勝利であり、士郎も、そして敵であるのなら桜もいずれは倒す必要がある相手だが、それが今である必要はない。そして他の陣営が同盟を結んで来る可能性も視野に入れている。同盟に単体で抵抗するのは難しい。

 戦いにこだわるわりに一人で勝ちきることにはこだわらず、柔軟なアイデアも出すことが可能。

 

 そしてそれはつまりどういうことなのか?

 

 そう、なんと拙作の凛はリューのように分かりやすい脳筋とは違い、脳筋のような脳筋でないような………すなわち拙作と同様にあやふやな存在だったのである!

 

 話はなおも続く。

 

 「というわけで今から私とこの男で衛宮君ちを訪問したいと思っているのよ。」

 「うーん、でも藤ねぇがなぁ………。」

 

 そしてここで今まで影も形も見当たらなかった虎が出て来て邪魔をする。ガオー。

 誰かも虎のことをすっかり忘れるところでした。危なかった。ふぅ。

 

 「藤村先生は大丈夫よ。私が言いくるめるわ。」

 「どうするのさ?」

 「カロン、何かいいアイデアあるでしょ?」

 「俺に丸投げかよ!?」

 

 いきなり飛び火したカロンは頭を捻る。

 

 「うーん、そうだな。………別にこっそり上がり込んでも良くないか?」

 「使えないわね。こっそり上がり込んだら見つかったときの言い訳に困るじゃない。」

 「じゃあ嘘の用事で藤村先生とやらを退かすとか?」

 「嘘の用事って?」

 「………思い付かない。」

 「役に立たないわね。」

 「ひどいな。」

 

 いつまでもしゃべってばかりでも仕方ない。三人は衛宮邸に向かいながら話をすることに決める。

 三人は玄関へと向かう。

 道を歩く三人、士郎がはたと思い出す。

 

 「あっ、いや藤ねぇも桜もこの時間だったらもう自分の家に帰ってるぞ!」

 

 原作様を急に思い出し急転換する誰か。

 

 「なんだ、だったら問題ないわね。」

 「飯食ってないしついでに材料を買っていこう。」

 

 カロンが空腹を思い出す。

 

 「そうね。スーパー寄って行きましょ。」

 

 ◇◇◇

 

 「うーん、これからどうするべきかしら。」

 

 そう、既に九話目にも関わらず未だにセイバーちゃんすら存在しない段階なのだ。

 セイバールートの多分初日とかである。

 

 誰かの中ではもう既に、学校の結界をどうにかしないとヤバいような気配を感じるほどに頑張って書いたかのような印象を受けているが、そもそも結界を見つけたのが今日の夕方なのである。

 

 凛と士郎とカロンはちゃぶ台を囲む。料理は凛と士郎が協力して作っていた。和食と中華。

 

 カロンは考える。

 

 ーー状況は進んでいる。不足していた戦力を補う可能性も出て来た。しかしまだ何一つとして安心できない状況。まだ戦端はろくに開かれておらず誰一人として敵味方合わせて脱落が確認できない。桜にしてもマスターかどうかは確定していない。………だがそれでも早い段階で同盟の可能性が見えてきたことは僥倖。そして暗躍する青タイツ、確定している陣営と朧げに見えてきた陣営、鬼札(リリルカ)の存在。

 

 カロンは目まぐるしく思案する。

 

 ーーシステムのありか、景品の正体、俺に令呪はどの程度きくのか?俺は令呪で戦力ブーストは可能なのか?一枚切らせて確認しておくべきか………そしてこの卵焼きも………チンジャオロースも非常に美味!士郎も凛も連合の食堂で働いてくれないかな?ふむ、昨日から長時間食事をしていなかったし特にうまく感じるな。

 

 食事をする三人、穏やかな時間。

 人の気配を感じない屋敷を確認してカロンは士郎の境遇も推測する。

 

 ーー前回の戦いは十年前で凛の父はその時亡くなった。魔術師はそこまで数多いわけで無く、士郎いわく士郎の父も魔術師。凛も士郎も親がいなくて共に親が魔術師だったというこの共通点は偶然か?

 

 カロンはうっすらと、聖杯の危険性を推測する。

 凛と士郎の父親が共に聖杯に殺された可能性、七分の一のはずが二十八人挑戦して未だに叶えられない願い。

 そもそも、どう考えてもおかしいのである。カロンは過去の戦いの詳細を知らない。実際に何が起こったのかを知らない。必然的にこう考える。

 

 二十八人全員願いが叶わないのは、二十八人全員死んでいるからではないのか?四回の戦いのそのすべてが最終戦が相打ちとか、普通に考えてありえない。勝者が聖杯にとり殺されてないか?

 

 やはりこの聖杯は、求める者を死へと導く邪悪な物なのではなかろうか?

 

 何でも叶うという甘言でたぶらかして、聖杯いう耳触りのいいエサでエモノを釣り寄せて、地獄へ誘う悪鬼、詐欺師、魑魅魍魎の類。

 甘言でたぶらかすのは、まさしく悪魔の常套手段。

 

 まるで臭いで虫を寄せるハエトリグサ。

 心の弱みに付け込む霊感商法。

 飛んで火に入る夏の虫。

 

 挙げ句の果てに、御三家とやらであるはずのマスターにもそのシステムは全くの謎。マスターは土地を貸してるだけの大家さん。  

 

 言い方を少し変えると

 『何なのか全くわからない謎のシステムに則った、生死を賭けた戦いに勝ち抜けば、あなたの願いは何でも叶います。それはもう、なぁんでも。ええ、絶対に叶いますよ?絶対です。七人に一人です。

 

 システム?

 そんなん教えられるわけないじゃないですか。企業秘密ですよ。

 別にシステムがわからなくたって、願いが叶うならそんなものどうでもいいことじゃあありませんか?

 

 え、成功者が少ない?リスクが高い?

 そんなわけないじゃないですか。何しろ何でも叶う願いですよ?それが七人に一人も勝てるんですよ?ただ残りの六人を皆殺しにするだけで、何でも手に入りますよ?このチャンスを逃すんですか?魔術師だったら、誰でも喉から手が出るほどこの機会を欲しがるんですよ?

 

 え、願いを叶えた前例?今まで二十八人挑戦して、誰一人として成功者はいないんじゃないのか?実績0?七分の一なんじゃないのかって?

 やだなぁ、お客さん。そりゃたまたまですよ。たまたま。まあお客さんがそれがどうしてなのかを知る方法はありませんけど。それでも絶対の自信がございます。え、根拠?そんなの必要ないでしょう。だってほら、魔術師だったらみんなやりたがるんですよ?お客さんはこの機会を逃すんですか?お客さんは選ばれた特別な魔術師なんですよ?選ばれた!特別な!

 

 願いが叶う証拠にほら。超常現象で英霊を呼び寄せて見せましたよ。お客さんの手駒です。お客さんに、英雄をこき使う権利が与えられるんですよ?かつて名を馳せた、偉大な人間を小間使い扱いできるんですよ?

 え、何ですか?英霊と願いは関係ない?嫌だなぁ、お客さん。超常現象が起こせるんだから、願いの一つくらい、叶えられるに決まっているじゃあないですか。そんなん常識でしょう。当たり前ですよ。あ・た・り・ま・え。

 

 ええ。正真正銘の英霊です。ええ。え?英霊だっていう証拠がない?英雄なんか、実際に見たことなんてない?普通の幽霊と違うのか?英雄の証拠を見せろ?身分証明書?

 やだなぁ、そんなん気配とか雰囲気でわかるでしょう?ほら、あっちの金色の英雄とか王気(オーラ)とか出てますし。ほら、今あの青い英雄がゲイボルグって叫んで槍を投げましたよ。ゲイボルグと叫んだからにはクー・フー・リンでしょう。魔術師界では常識ですよ?クー・フー・リンだからゲイボルグを持っているのではなくて、ゲイボルグと叫んだからクー・フー・リンなんですよ?しっかりしてくださいよ、お客さ~ん。

 

 寄越された手駒が裏切ったり、死ぬ可能性があるのも、まあそれはそれで仕方ないことですよね。うん、どう考えても仕方ない。あなたの命が安いのも仕方ない。あなたの命が他人の願望のたった六分の一の重みしかないのも仕方ない。だってほら、たったの六人殺すだけであなたの願いは何だって叶うのだから。

 

 あなたなら、信じますか?

 

 冷静に考えて、これほど胡散臭いものは、そうそうない。カロンはこれほど嘘臭いものを信じる気は、全くない。考えれば考えるほど、マスターあんた多分騙されてるぞという感想しか出てこない。たとえどんな超常現象を目の前で起こされようと変わらない。もともと聖杯なんか、せいぜいそのへんのコップと同程度の興味しかない。

 魔術師でない人間が聖杯戦争のことを聞かされても、大概の人間は似たような思考になると考えられる。

 

 実際には、ロードエルメロイ二世という生還者が存在するのだが、カロンにその情報は入っていない。入っていたとしても、大して対応は変わらなかっただろうが。

 衛宮切継という唯一の勝者も黙して死んだ。彼からの情報があったとしても、余計に聖杯に対する不信感が募るだけである。

 

 カロンの本質は家族の守護神。家庭を護り、子供を慈しむ慈愛の体現。

 守護神は、その加護で子供達を危険から遠ざける。

 

 彼は二人の年若い少年少女の境遇を想像して、心を痛めるのであった。



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超超理論

 カロンと凛と士郎の三人は夕食を終え、団欒の時を迎えていた。

 士郎は案外とウッカリしているときがある。

 この時、士郎はハタとウッカリ忘れていたあることを思い出した。

 

 「おい、遠坂。お前達は桜に会いに来たんだろ?今日は桜はいないぞ?話も終わったのにいつまで俺の家に居座るつもりなんだ?」

 「うるさいわね。あんたは命を狙われてる気がするから今日は泊まっていくわ。離れの一室を使わせてもらうわね。」

 「おい、待てよ!やめろよ!帰ってくれよ!」

 「いいからさっさとお風呂沸かしなさい!きちんと浴槽も掃除してね!」

 

 脚でテレビのリモコンを近くに寄せて煎餅の屑をこぼしながらボリボリ食べてテレビのチャンネルを変える凛。

 暴君ここに極まれり。どうしてこういうことになったのか?

 

 それはシンプルに誰かが凛のキャラをど忘れしたためである。そのために凛はこのようなおかしな態度を取っていた。

 

 ーーーーピンポーン

 

 呼び鈴がなる。家主の士郎は風呂掃除で不在。

 

 「あら、こんな時間に新聞の勧誘かしら?カロン、出て来て。」

 「俺がか!?俺は外国人の大男だぞ!?俺が出たらびっくりするんじゃないか?」

 「日本語喋れるじゃない。あなた私のサーヴァントなんだから出て来てちょうだい。」

 

 凛は頭をかきながらカロンを見ることすらせずに指示を出す。

 凛のキャラってどういうのだっけ?という誰かの想いと無関係に、カロンは玄関へと向かった。

 

 ◇◇◇

 

 「こんばんわ。初めて見る方ね。」

 「こんばんわ。お嬢さんはどちら様かな?」

 「あら、レディーに名前を聞くときはまず自分から名乗るものではないのかしら?」

 「これは失礼、俺はカロンだ。」

 「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。イリヤと呼んでちょうだい。」

 「ああ、分かった。」

 

 展開はすでに原作様から離れて来ている。

 カロンが呼び出された初日に偵察を決行したせいで、冬木教会は危険だという結論に達した。教会が危険なため、素人の士郎を連れていくことはできない。そして青タイツに襲われた士郎をカロンが凛の家に運んだために、青タイツと士郎はニアミスした。青タイツは凛達が運んだ士郎を見つけることができず、麻婆の下へと帰還した。そして士郎が青タイツに二回目の襲撃をされなかったせいでセイバーは呼び出されない。士郎を教会に連れていかなかったせいで、帰り道に遭遇するはずのイリヤが士郎の家まで来てしまった。

 

 カロンは思考する。

 

 ーーアインツベルン、御三家の最後の一角か。後ろに引き連れるは巨人、聖杯戦争の参加者か。俺の勝ち目はほとんどない。リューを呼び出したとしても。

 

 カロンは思考する。敵に回して勝てる存在ではない。

 

 「私は衛宮 士郎に用があって来たの。通してくださるかしら。」

 

 なおもカロンは思考しつづける。

 

 ーー幼い。なぜこの年齢で命のやり取りたる戦争に参加しているのか?アインツベルンの拠点は同じ御三家の凛も知らない………。

 

 「士郎に何の用事かな?」

 「おじさんには多分関係ないわ。だっておじさんは凛のサーヴァントでしょう?」

 

 ーーこれは………敵に回せば全滅か。ならば鬼札を切る以外にないか?

 

 カロンは思考しつづける。

 イリヤが士郎の面会を望む理由も気になるが、今はそれを考えている場合ではない。

 

 この年齢の少女が戦う理由、全滅のビジョン、背に腹は代えられるか?何としても欲しいアインツベルンの持つ情報。 

 

 「なあ、イリヤの質問に答える前に一つ教えてくれるか?なんでイリヤは聖杯戦争に参加してるんだ?」

 

 カロンのスキル、言霊が密かに力を発揮し、イリヤに口を開かせる。

 

 「もう、質問に質問を返しちゃダメなのに………特別だよ?聖杯はアインツベルンのものだからイリヤが持って帰るのは当たり前なの!」

 「それは誰が言ってたんだ?」

 「アハトお爺様だよ。」

 「他の人はなんて言ってたんだ?」

 「他の人?知らない。」

 「なぜ知らないんだ?」

 「うん?だってアハトお爺様以外の人の言うことを聞く必要はないでしょ?」

 

 その瞬間にカロンは鬼札を切る決意を固める。

 凛から魔力を奪ってリリルカを顕現させる。イリヤは魔力が発動したことを理解する。

 

 「なに?おじさん戦うつもり?でもバーサーカーには誰も敵わないよ。」

 「いや、戦う気は全くない。彼女はリリルカ、俺の娘だ。」

 「リリはリリルカ・アーデと申します。」

 「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。」

 

 リリルカはまさしく真に鬼札。頭脳チートの極みである。

 周囲を確認してリリルカはただ待つ。

 

 ーーリリを呼び出したということはその必要があったということ。カロン様は無意味に呼び出したりはまぁ………たまにしかなさりません。リリは黙してカロン様がリリを呼び出した理由を推測します。カロン様から何か情報が来るはずです。

 

 もちろんリリルカはイリヤの背後の鉛の巨人に気付いている。しかしリリルカはこの局面において、リューより戦力の劣るリリルカを呼び出した意味が必ず存在することを理解していた。

 

 「なぁ、イリヤ、スマンがもう少しだけ話をしてくれ。イリヤは友達ってどう思う?」

 「?友達なんて必要ないでしょ?」

 

 リリルカはたったその一言でカロンが呼び出した理由を理解する。

 

 様々な複合的な情報。

 イリヤは年若く戦争に参加、友達は必要ない、カロンがリリルカを呼び出した。

 

 ーーなるほど、狂信者の類ですか。

 

 狂信者あるいは妄執者。妄念に取り付かれた人間のことを指す。個人によって度合いに差はあるが、それは狭く完結された世界でただ一つのものだけを追い求める住人。

 過去にカロンが戦い捕縛したヴォルターという男もこのカテゴリーに入る。

 その本質は、一つのことにこだわり時間の流れに置き去られた人間である。

 彼らには時間が流れていることが理解できない。

 人生が豊かなものであるということを知らない。

 

 リリルカとカロンは、アインツベルンは聖杯という妄執の対象を手に入れるためだったらイリヤのような幼い少女でも平然と死地へと向かわせる狂信者だとそう判断する。いくらバーサーカーを付けているとは言え、幼い少女が戦略や戦術を十全に理解しているとは思いがたい。彼らは真っ正面の戦いには無類の強さをほこるだろうが、搦め手にはとてもではないが強いと思いづらい。それらを踏まえて総合的に鑑みると、イリヤが命を落とす確率はそこそこ以上に高い。

 すなわちカロンとリリルカの二人は、アインツベルンとはイリヤのような少女の命を何とも考えていないか、戦術や戦略を全く知らないのにスペックに頼ればどうにでもなると考えて幼い少女を死地へと送り出すような思慮の浅い狂信者連中だとそう判断しているのである。人生経験の浅いイリヤが、籠絡される危険性や騙される危険性を一切考慮せずに。

 

 話を少し戻そう。

 狂信者と呼ばれる類の人間、彼らのような人間はしばしば親から執拗な教育を受け、価値観が周りとズレている。

 周りが存在するならまだいい。イリヤは鎖された森で周りが存在しない環境で育てられていた。

 

 現実的により分かりやすく、近い問題でいうと少年兵だろうか?

 彼らは人を殺すことを当たり前という環境で育てられていたためにやがて殺すことが当たり前となって行く。

 彼らは一般人の感覚とは掛け離れている。

 

 周りが存在しなければ、価値観を比べる相手が存在しなければ、人は価値観や常識を育めない。それがゆえに、箱入りのお嬢様は世間知らずになりやすいのだ。

 

 リリルカは即座に黒く嗤う。リリルカの理解を感じ取ったカロンも黒く嗤う。

 

 もしここにフレイヤがいたらこう言うであろう。

 今の二人の魂は、どんな高級な黒真珠よりも美しい黒を醸している、と。

 

 「イリヤ様、ほんの少しだけリリのためにお時間を下さい。」

 

 ◇◇◇

 

 カロンの思惑、それは一言でいえば児童誘拐である。

 人として最低の部類に入る大罪。もちろん絶対に絶対に絶対に真似してはいけません!

 

 カロンの最初の予定は、イリヤを仲間に引き込むことだけであった。

 なんとしてでも仲間に引き込まないと、高確率でいつかイリヤの引き連れている、真っ当に戦っては勝ち目の無い巨人との戦いを迎えることになってしまう。そしてそれが今日である確率は高い。アインツベルンはシステムに関する情報も保有していると考えられる。

 

 現状を冷静に見て、今はイリヤはおとなしい。

 しかし後ろに引き連れるのは暴力の化身、彼女が相対を望むは士郎である。

 命を懸けた戦いに巻き込まれていることは明白で、交渉を誤れば力は暴れ狂うことになる。

 その場合は間違いなくカロン達三人は死亡する。そして若い士郎に相手の要求を見抜いて上手く扱う交渉能力があるとは思い辛い。士郎任せにできるはずが無い。

 

 カロンの認識では、既に断崖絶壁にいるのである。

 

 全滅か生還か。全滅か児童略取か。

 さらに手前味噌のようだが、いつものように思考する時間が十分にあるわけではない。

 決断までにあまり時間をかけられない。

 

 そして最後の決め手としてカロンを後押しさせたのは、イリヤの環境が鎖されているのではないかという思いだった。

 リリルカであれば、彼女から完璧に事情を聞き出して上手く話を進めてくれるであろう。 

 

 

 ここでまた、話を先のものに戻そう。

 少年兵は永遠に救われないのか?

 彼らを育ての親元から引きはがしたら誘拐になるのか?

 

 その答は簡潔に言えばすなわち大勢が声を上げれば正当で、少数しか声を上げなかったら誘拐、である。あまりに当然の話だ。

 

 そしてその理屈を理解するがゆえにカロンは連合を立ち上げたのだ。

 現実的にも、辛い環境から子供を助けようとする機構は多数存在する。

 それは大勢が声を上げたからである。大勢をまとめる地位を手に入れれば、大きな声を出すことも可能になるのは道理である。それが数の力の真髄。

 

 それでは周囲が存在しない環境にいる彼女(イリヤ)は大勢に見つけられないまま朽ちて行くのか?

 いつまでも妄念は払えないのか?妄執に終わりは来ないのか?

 鎖されたアインツベルンの冬は永遠に終わらないのか?

 

 

 

 二人の手段を選ばない覇王は黒く嗤う。

 

 そう!その答にカロンとリリルカは黒く嗤うのだ。

 

 それを悪だと呼ぶならば、悪で結構、偽善者上等!

 人間は手の届く範囲の人間にしか関われない。ならばせめて手の届く範囲は気に食わない物事と戦おうか?

 それがゆえの決断。

 

 それではここで黒く嗤うカロンの正体を明かそう。

 

 カロンの正体とは?

 

 大団長?ただの役職では?

 灰の英雄?それは一体何なのだ?

 黒と白のスキル保持者?結果何が起こるのだ?

 

 カロンはかつてイシュタルを騙した。

 連合の不協和音となりうるイシュタルを取り込んだ。そしてフレイヤに対するその復讐心を取り禊った。

 

 カロンはイリヤを取り込もうとしている。

 児童誘拐という罪を取り込み、イリヤのその妄執を禊おうとしている。

 

 そう、汚れを飲み込み汚れを禊うのがカロンの天性の才能である。

 カロンの才能はあらゆる汚れを飲み込むブラックホールであると同時に、あらゆる汚れを禊うホワイトホールでもあるのだ。

 

 矛盾を平然と成立させる黒と白(灰色)

 清濁併せのむ老獪なる英雄。

 

 光と闇。善と悪。夢と現実。弱者と強者。毒と薬。ブラックホールとホワイトホール。

 対になる存在はいくらでもある。

 力には、対抗する力が現れる。

 

 カロンは今までそれらを丸ごと飲み込みつづけてきた。

 まさしく怪物。しかし聖者。

 

 そしてカロンの正体、無敗の英雄、あらゆる矛盾を掌握する灰色の巨人。

 

 その正体とは………

 

 

 

 必死に明日をいい日にしようと努力するただの普通の大男なのである!

 俺は俺だよ。俺はいつだってここにいる俺なんだ。

 

 ただし誰かが開き直ったせいで妻は美人。

 

 カロンは変幻自在に黒と白を行き来する。

 今日のカロンは少し黒。ほんのちょっぴり暗黒カロン。

 

 ◇◇◇

 

 「交渉、終了しました。」

 

 リリルカが帰って来る。

 誰かが超超理論を展開している間に既にイリヤとの交渉は終了したらしい。ずるい!

 

 そして説得にかかった時間、まさかのたったの5分!千年の妄執をたったの5分の説得で覆す。

 まさしく偽りなき大魔王リリルカ。究極の鬼札。

 ………なんかもうリリルカ、百億ヴァリスでも安い気がしてきたな。

 

 「どうなった?」

 「全面的な協力をいただくからには、こちらからも相応の対価を払う必要があります。イリヤ様はカロン様が向こうの世界に戻る際にカロン様の世界へ一緒に参られて、地位と権力を持つカロン様の養子になられることが決定致しました。もちろん誘拐ですが。彼女のお着きのメイドであるセラ様とリズ様もお連れになる予定です。」

 

 リリルカは黒く嗤う。

 

 「俺の娘か。じゃあリリルカの妹だな。」

 「うーんどちらかというと姉ですかね。リリより年上らしいです。寿命が短いらしいのですが、その点に関してもすでに解決済みです。連合の魔法研究所ですでに第三魔法という名称の魂の物質化の魔法を開発済みです。それが交渉成立の最後の一押しとなったようです。あと、士郎様に未練があるようでこちらの世界へ度々遊びに来たいとおっしゃってました。リリは情報を持ち帰れませんので、カロン様はご帰還なされた際にキチンと忘れずにリリに情報をお伝えください。」

 「そうか。分かった。ベルにも頼まんとな。」

 「それとイリヤ様からこの戦争についての値千金の情報をいくつか得ることができました。」

 「聞こう。だがまずは当のイリヤはどうしてるんだ?」

 「士郎様と向こうの部屋で親しくなさっています。」

 「そうか。その辺りはどうだったんだ?」

 「判別が難しいですね。琴線が案外疎らなために士郎様が地雷を踏む可能性もあったし、避ける可能性もあったし。士郎様とまだ話してないから何とも言えませんが、俯瞰で見ると高確率で踏んでましたね。今はすでに問題ありません。イリヤ様の地雷はすでに撤去済みです。」

 「そうか。まあいずれにせよもう行動を起こしてしまった。後は先が良くなるように努力するだけだな。」 



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誰か式ギルガメッシュ

 「全くビックリしたわよ。急に魔力を奪うんだもの。」

 「済まない。緊急だったからさ。」

 

 凛とした佇まい、凛。ただのダジャレ。今回の凛はキャラが元に戻っていた。

 ………前回の凛は何だったのか?そう、ウッカリである!

 

 凛が自分のキャラをウッカリど忘れしたためあのようなことになっていたのである!

 さらに付け加えると拙作はあやふやで、凛のキャラもあやふやなのである!

 ウッカリであやふやなのである!

 

 ………凛のせいにしてごめんなさい。

 

 ◇◇◇

 

 「それでリリルカ、イリヤから得た情報というのは?」

 「まずこの戦いのシステムは円蔵山の地下にあります。円蔵山に巨大な空洞が存在すると。ただし、真上にキャスターとアサシンが陣取っているために、敵の強襲を警戒する必要があります。」

 

 カロンの目的は盤面返し。あまりにも狸。

 大聖杯だって、二百年も稼動したら疲労で壊れるかもしれないだろ?

 

 「なるほど。先にそちらに交渉に向かってみるか。戦力はあるだけあればいい。士郎の件を先に片付けてからだな。」

 「ええ。リリもそれを進言します。次に、イリヤ様は聖杯の器らしいです。」

 「そうなのか!?となると景品を破壊するという手段はありえんな。」

 「ええ。」

 

 戦争の景品を破壊する………それはつまりイリヤを破壊するということになるからだ。

 リリルカは続ける。

 

 「今回の戦争はカロン様がどうやら相当なイレギュラーらしいです。」

 「どういうことだ?」

 「イリヤ様は聖杯の器として造られた人造人間(ホムンクルス)らしいです。どうやら七騎の英霊を取り込むことで聖杯として完成するらしいのですが………」

 「そうか!俺が英霊じゃないのか!」

 「ええ。その通りです。そしてさらに未だに一騎分召喚されていません。」

 「じゃあ新しく召喚しないほうがいいのか?」

 「うーん、しかし現有戦力はカロン様とバーサーカー。イリヤ様の聖杯問題についても解決の目処が立ちつつあります。」

 「それはどういう手段だ?」

 「英霊達の魂は小聖杯たるイリヤ様の器に納められます。しかし当のイリヤ様がこの世界にいらっしゃらなければ、英霊達の魂はそのままイリヤ様をスルーして大聖杯を通り、英霊の座へと還って行きます。」

 「大聖杯?小聖杯?」

 「カロン様はアホなのでそこまで理解する必要はございません。まあつまり、イリヤ様を連れてベル様の魔法で世界(作品)を移動してしまえば問題は解決するということです。今現在はこちらの座標の特定を急いでいます。」

 「なるほど………それで未召喚に関してはどう考える?」

 「難しいですね。結局は英霊の召喚ではなく、帰還が問題です。そしてそもそもカロン様が存在するためどうやっても七騎揃いません。しかしバーサーカーの魂は重い。イリヤ様は英霊が帰還する度に人としての機能を失って行く………。」

 

 リリルカは思案を巡らせる。

 さすがの頭脳チートでもギル様の存在は知らない。

 

 現状はランサー、ライダー、アサシン、バーサーカー、キャスターの五騎。

 そしてバーサーカーの魂は二騎分。ゆえに合計六騎分しか揃わないとリリルカは考えている。

 しかし実際は三騎分のギル様がいらっしゃるために九騎分。

 

 そしてセイバーもしくはアーチャーを士郎が召喚してしまったらリリルカは七騎分だと考える。

 つまり最後に一騎残れば六騎分、自害せよで七騎分。

 実際はギル様がいるために十騎分。

 

 「………難しいですね。皆様の万全な生還を考えれば召喚、万一の全滅を考えればスルー。イリヤ様のお身体のことも考えれば少しでも英霊の脱落の可能性を減らすために戦力の充実よりですかね。英霊が全滅すればイリヤ様は聖杯になってしまいますが、英霊の全滅とはそのままカロン様や凛様の全滅でもあります。それに凛様はおそらく結局は呼び出したがると思います。」

 「なるほど。ところで凛達にもイリヤのこと話すか?凛には大聖杯に向かう理由を何とする?」

 「理由についてはリリがなんとでもごまかします。さいわいこちらの手札には聖杯について最も詳しいイリヤ様がいらっしゃるので、彼女を言いくるめればどうにでもなります。生者のカロン様がいらっしゃることも併せて何か大聖杯に異変が起こっているとでも伝えておけばいいでしょう。イリヤ様の出生に関してはあまりたくさんの人間に知らしめたくはないでしょう………。」

 「それもそうか。………ところで話は変わるが各陣営の情報はどうなっている?」

 「ええ。それももちろんイリヤ様からいただいています。」

 

 リリルカは脳内で情報を纏めてカロンに提出する。

 

 「まず不在なのがセイバーとアーチャー。ランサーは所在不明でライダーは間桐。バーサーカーは今ここにいてアサシンとキャスターは円蔵山です。」

 「ランサーは教会じゃないかと睨んでるぞ?」

 「なるほど。根拠がおありなのですね。しかしもちろんカロン様に言うまでもありませんが、油断は禁物です。とりあえずバーサーカーという札は非常に大きいですね。ならば円蔵山にも対抗できる可能性が高い。円蔵山訪問の際に罠に嵌められてもどうにでもできるとイリヤ様はおっしゃってます。」

 「うーん、なるほど。これで方針は定まったな。士郎は召喚。そして円蔵山のサーヴァントの訪問を行い、場合によっては戦闘。その後に大聖杯の調査という名の細工を行う。リリルカも手伝いをしてくれるか?」

 「ええ。お任せ下さい。」

 「その前に桜との交渉もあるかもしれない。桜と上手く交渉するためには、士郎から桜の情報を得る必要もある。そこもお前任せだ。つくづくリリルカには馬鹿げた量の仕事を押し付けて申し訳なく思ってるよ。」

 

 桜の情報に関していえば、凛よりも士郎が身近であり、さらに凛からの情報は身内の情や願望が絡んで歪んでいる可能性が高いとカロンとリリルカは判断していた。

 リリルカは笑う。

 

 「お任せ下さい。カロン様のお役に立つのがリリの何よりの喜びです。」

 「俺は本当にいい娘を持ったよ。」

 「イリヤ様もいい娘です。是非可愛がって差し上げてください。」

 「ああ。今日はそろそろ遅い時間だし、休むことにするよ。」

 

 ◇◇◇

 

 ーーーーーードゴオオォォォンッッ!!

 

 突如大きな音が鳴り響く。

 

 「庭からだ!」

 

 カロンは声を上げ、全員で衛宮邸の庭へと向かう。

 そこには夜中にも関わらず、塀の上に尊大に腕を組み眩ゆく黄金に輝く一人の男がいる!

 

 カロンは叫ぶ。

 

 「お前は一体何者だ!そしてなぜ不法侵入にも関わらずそんなに腕を組んで偉そうにしていられる!?何の目的だ!?」

 

 黄金の男は酷薄に嗤う。

 

 「貴様、この我を知らんというか?この蒙昧めが!うん?良く考えたら貴様別の世界(作品)の男だったな。ならば知らなくて当然なのか?」

 

 そう、俺達私達のギル様である。

 ギル様は顎に手を当てて考え込む。

 

 「まあよい!一度だけ教えてやろう!仰げよ?我の名はギルガメッシュ!時の果てまで我の庭よ!」

 

 ーーギルガメッシュ!太古の英雄王!

 

 カロンは思案する。なぜカロンが知っているのかは則ち拙作のノリである。

 

 「なるほど。ここもあなたの庭だから、不法侵入ではないとそういうわけなのだな?時の果てまでとかそんなに庭が広かったとしたら、庭掃除とか庭木の剪定とかが大変なのではないか?」

 

 カロンは慎重に言葉を選ぶ。

 

 「庭掃除も庭木の剪定も我ではなく庭師の仕事よ!」

 「そんなに庭師がたくさんいるのか?大金持ちなのか。うらやましい。」

 「ふん。知性を持つ生きとし生けるものすべて我の庭師よ!世のすべての財は我のものよ!」

 「それはうらやましい。俺は地位はあるが金がまるで貯まらないんだ。是非とも金を貯める秘訣を教えてくれないか?」

 「ふむ………それは………って少し待て!我は世間話をしに来たのではない!我が話そうと目論んでいたことから大幅にズレているではないか!言霊、げに恐ろしいスキルよ。思わず貴様のペースに乗せられてしまったわ!」

 「何か話があったのか?」

 「うむ。」

 

 黄金の男は頷くと語りはじめる。

 

 「何、大したことではない。貴様は別の世界から来た英雄だな?我は千里眼で今回の戦いの顛末を見ていた。というよりもむしろ見ようとしていた。そしたらまさかの初日の夜に大詰めだ。このまま行けば明日には大団円ではないか!貴様達はどれだけ生き急いでいると言うのだ!?危なく我の知らないうちに聖杯戦争が終結するところだったではないか!挙げ句の果てには我が現世に留まっている理由であるところのセイバーの未召喚。さすがの我もビックリして慌てて飛び出して来たというわけよ。」

 

 黄金の男はさらに語る。

 

 「このまま行けば我がスルーされたまま元の世界に帰還されるのは明白!それは許さん!どれだけやりたい放題する気なのだ!セイバーもアーチャーも未召喚であるのなら、せめて我を超えて帰還するがいい!それがこのお粗末な聖杯戦争のせめてもの幕切れだ!我は円蔵山の地下にて待とう!」

 

 そう告げると黄金の男は去って行った。

 

 ◇◇◇

 

 俺とリリルカは話し合う。

 

 「カロン様、完全に予定外の敵ですね。あの強大な力、バーサーカーでも抵抗できるか。せめてやはりセイバーの助力は必要です。」

 「まあそうなるな。くそ!あいつがラスボスということか!?」

 「イリヤ様にお聞きしたところ、彼女も知らないサーヴァントとのことです。すべてのクラス

のサーヴァントは明かされていますし、どういうことでしょうか?」

 「わからん。いずれにしろ明日大聖杯の下にたどり着いてあいつを倒す必要があるということか………。」

 「別にあの男をスルーしてしまってベル様の到着を待つというのは?ベル様が到着すれば袋だたきに出来ますよ?」

 「それはあいつがあまりにも可愛そうだろう。これだけカッコつけて出て来たのに延々と待ちぼうけとか。それに大聖杯を壊してしまわないといつまでもマスター達の安全が保証されないだろ?学校の結界が発動してしまうかもしれないし。早く帰らないとリューのご機嫌取りも大変だし。」

 「そうなんですよねぇ。それに敵の宝具が大量殲滅系の可能性もありますし。」

 

 溜息をつくリリルカ。

 

 夜中に全身金ぴかの変質者が現れたと思ったらまさかの太古の英雄王(ギルガメッシュ)。しかもスルーは許されない。

 カロン達は英雄王に勝てるのか?桜の心臓にいらっしゃるお爺様はどうするのか?凛のウッカリは治るのか?セイバーちゃんの出番や如何に?様々な疑問を残して………続く




こんばんわ。変な作者です。
この度、並行して本作品の主人公の闇派閥ルートを書き上げました。
完結させられそうな目処が着きましたので、表で短編として投稿いたします。
本作品とは全く作風が違ったものになりますが、気になる方は是非よろしくお願いします。
本日23時に表で週一程度のペースで投稿いたします。毎週日曜予定です。
十万字前後になることを予定しております。
タイトルは、闇派閥が正義を貫くのは間違っているだろうか、となります。


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セイバーちゃん、顕現!

あらすじ

 いきなりなにもかもを無視して大聖杯を壊しに行こうとするカロン達に(ギル)様ビックリ。

 

 ◇◇◇

 

 「おはようございます、先輩!あれ?遠坂先輩………?」

 

 爽やかな朝。我様御来場の翌日の衛宮邸。

 彼女の名前は間桐 桜。凛の実の妹であり、間桐家に養子にだされていた。そして衛宮 士郎の通い妻でもある。

 

 「おはよう、桜。」

 

 士郎が返事をする。

 桜は困惑していた。

 

 ーー何で先輩の家に姉さんが?そしてあの外国人の大男と半裸の巨人は………サーヴァント!?この仲睦まじい二人の少女は誰?

 

 外国人の大男はカロンで、半裸の巨人はバーサーカー。仲睦まじい二人の少女はリリルカとイリヤである。

 ちなみに朝に弱い凛とカロンは主従揃って寝ぼけている。

 

 「コーヒーでも飲むか。」

 「ええ、そうね。」

 

 揃ってコーヒーを堪能する遠坂主従。彼らはすでにリリルカ任せである。

 

 リリルカは一歩前へと出る。

 

 「始めまして、リリはリリルカ・アーデと申します。間桐 桜様ですね?本日はあなた様にリリからお話がございます。」

 「お話………ですか?」

 「ええ。大切なお話です。二人きりが望ましいのであちらのお部屋へと行きましょう。」

 「え、えぇ!?」

 

 ズルズルと桜はリリルカに連れられていく。桜とリリルカは襖の向こうへと消える。

 後に残され食卓で朝食を堪能する一堂。

 

 「おっはよーっ!!おねぇちゃん来たよーー!およ!?今日何か人数多くない!?」

 

 ◇◇◇

 

 ここは座敷、正座して向かい合うは桜とリリルカ。

 

 「桜様、正直な話し合いを所望致します。」

 「正直な………話し合いですか?」

 「ええ。単刀直入に行きましょう。まず始めに桜様は魔術師でいらっしゃいますね?」

 

 リリルカは問う。桜は戸惑う。

 

 「なるほど、話しづらいのですね。ならばこちらから情報を開示致しましょう。まずは当方には凛様から情報が入っております。」

 「っっ………!」

 

 凛からの情報、それはつまり桜が魔術師であることがばれていることが確定的。

 桜は思い人である士郎には知られたくなかった。士郎にばれているのかと、桜は戸惑う。

 

 「さらに情報を開示致しましょう。士郎様は魔術師で、今現在聖杯戦争に巻き込まれています。」

 

 桜の体が震える。士郎は大丈夫なのか?桜は兄にサーヴァントを預けていて戦いの趨勢を知らない。

 

 「そしてさらなる情報の開示です。うまくやれば、今日中に戦いが終結する算段がついています。そしてそれには桜様のご協力が不可欠です。士郎様と凛様の安全のために、ご協力いただけませんでしょうか?」

 

 相変わらずリリルカの交渉はえげつない。

 情報を開示すれば利点として士郎と凛の身の安全がより確実に提供できる。それは桜が心より望むもの。則ち弱点。

 昨日士郎から桜の情報を得た際に、リリルカは士郎の話から桜の人となりを見抜いていた。そして、リリルカは桜の顔色から自身の推測が当たっていることを確信する。

 大魔王リリルカの慧眼は、さほど多くない情報からでも相手の弱点を丸裸にするのである。

 

 しかし本当にえげつないのか?

 少なくともリリルカ達は桜に確実に望むものを提供する努力を行っている。

 

 結局は、そこに誠意があるかが問題なのかも知れない。

 

 リリルカと桜の目線は交差する。

 桜は思案する。

 

 相手はどの程度信用できるのか?お爺様の干渉は?先輩は好きだけど抜けてるところがある、では目の前にいる若い女性は?兄さんはどうするのか?相手はどの程度情報を得ている?相手の戦力は………先の大男と巨人か?

 

 リリルカは優しく笑う。

 

 「大丈夫ですよ?桜様。リリ達の背後には守護神がついています。何よりも強大な守護神です。桜様も凛様も士郎様も、必ず護られます。」

 

 リリルカは視線を微動だに逸らさない。

 そのあまりにも堂々たる姿を見た桜は覚悟を決めるーー

 

 ◇◇◇

 

 「士郎!サーヴァントを召喚するわよ!今から召喚の呪文を教えるから覚えなさい!」

 「あ、ああ。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは衛宮邸の一室、向かい合うはカロンとリリルカ。

 

 「カロン様、情報が入りました。桜様のサーヴァントは、現状彼女の兄である慎二様が保有なさっています。現在学校に結界を張っているそうです。」

 「続きを。」

 「ええ。結界に関しては上手くいけばなんら問題ありません。発動に時間がかかるため、今日中に問題を片付けてしまえばいいのです。ライダーを相手取るのはただの時間の無駄でしかないので、下手に刺激せずに慎二様にはこのままお一人で学校で勝手にハッスルしていただいてライダーはスルーしてしまいましょう。」

 「そうだな。」

 

 間桐 慎二(ワカメ)、出番無し!

 

 「後は内々の話で、桜様の心臓には悪疽が宿っているとのことです。」

 「それは………。」

 

 カロンは思案する。

 カロンにとって桜は情報を開示したからには戦力でなくともすでに仲間内である。何とかして助ける道を模索する。カロンの脳裏に浮かぶは士郎の心臓を再生した凛。

 

 「………確か凛が心臓再生を行ってたはずだ。それはつまり、お前の交渉能力で、優秀な魔術師とやらに渡りをつければどうにかなる可能性が高いということだと思うが………。」

 「いくつかの手段はすでに思いついています。」

 「そうなのか?」

 「ええ。桜様の悪疽は生きているとのことです。決してこちらがどうにかする算段が付いていることを気取られてはなりません。一番確実なのは、ベル様を待って問題解決の鬼才であるHACHIMAN様にお願いしてしまうことですね。彼には連合参入の際の貸しがあります。それは後回しにしてとりあえずは戦いの終結が先です。」

 

 お爺様、知らないうちにレベル15を敵に回す。

 

 「まあそれが確実か。他に情報は?」

 「そうですねぇ。戦いに関しては特には。まあライダーが手に入りませんでしたので士郎様の召喚なさる英霊の価値が上がったなくらいにしか。ああそうです。士郎様といえば、戦いとは関係ないところですが、昨日桜様の情報を得るために少しお話をさせていただいた際に、彼の精神の歪みに気づきました。」

 「歪み?」

 「ええ。一種のトラウマや脅迫概念ですね。」

 「どうするんだ?」

 「餅は餅屋です。原因はその際に突き止めてありますし、最後まで責任の持てないリリ達が深く関わるべきではありません。さいわいにも彼には藤村様と桜様という家族がいらっしゃいます。心の傷には家族のフォローが一番です。彼女たちが医学の知識を持つ人間と連携して時間をかけて癒して行くのが最もよい方法だと考えます。彼女達には内々にアドバイスとして伝えてあります。後は彼女達がどうしていくのか決めるべきことです。」

 「なるほどな。」

 「まあこんなところですね。それではリリは凛様の魔力節約のために霧消しますね。次は、円蔵山勢力との交渉で必要になるようでしたらお呼びください。」

 「ああ。」

 

 ◇◇◇

 

 ここは衛宮邸の縁側。

 ここではついに、皆のセイバーちゃんの降臨の儀が行われようとしていた。

 

 「士郎、覚えたわね?召喚するわよ!」

 「ああ!」

 

 ?何か忘れている気が?

 

 「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ………

 

 士郎を中心に魔力が渦を巻く。

 巻き上がる砂塵。収束するは魔力。顕現する力の象徴。

 

 「寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲行末………

 「ちょ、待っ、先輩、それ、違っ、それ落語!」

 「シロウ!何言ってるの!?」

 

 アレ?ああ、そうか。士郎は呪文を勘違いしてる凛に習ったからこんなことになったのか!

 桜とイリヤは当然大慌て。

 

 「南無妙法蓮華経、南無阿弥陀仏、テクマク○ヤコンテクマク○ヤコン、ラ○パスラ○パスルルルルルーッ破ぁぁーーッッ!」

 

 士郎は腰を落とし両手を前へと突き出す。

 魔力は収束していく。唖然とする桜とイリヤ。

 

 ーードガアアァァァンッッ!!

 

 煙りが上がり砂埃が舞う。

 

 「よくやったわ、士郎!間違いなく最高のカードを引き寄せたわ!」

 

 そろそろ誰かは怒られる気がする………。

 本当に、ごめんなさい。

 

 ◇◇◇

 

 やがて煙りが晴れる。そこにいたのは金砂のーー

 

 「うん?ここどこだ?何で私はここにいるんだ?」

 「アポロン!!」

 「「「「誰!?」」」」

 

 まさかのアポロンッッ!アルトリアちゃんまでクビッッ!

 まさにやりたい放題!

 本編主人公の一人アルトリアちゃんクビッッ………!

 さらにアンリミテッドのエミヤもクビで、ヘブンズフィールのメデューサ、登場せずっっ………!!

 これが果たしてやりたい放題以外のなんだというのか!?こんなわけのわからないものを誰かはFateだと言い張るのか!?

 

 ーーなぜアポロンが?

 

 カロンはアポロンを見る。リューのTシャツにリューの鉢巻き、そして手にはリューの団扇とサイリウム………

 

 ーーまさか、サイリウムを持っていたからセイバー判定されたとでもいうのか?団扇が盾でサイリウムが剣だと?どういうつもりだ?なぜアポロンなのだ?剣士(セイバー)ならばここは普通に考えたらアイズとかが呼ばれるところだろう!どこまで好きにするつもりなのだ?

 

 「?私はさっきまでこっそりリュー様の後を追っかけていたはずなのだが?」

 

 桜ちゃんのお爺様による不法侵入及びに不法占拠問題にはものすごい雑に解決の目処が立ったのだがまさかのセイバー、アポロン。こんな神材で誰かは一体どうやってギル様を倒すと言うのか?リューはレベル7にも関わらずストーカーに気付かなかったのか?士郎の体内のアヴァロンはどうするのか?リューに再び出番はくるのか?謎が謎を呼び………続く



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飛ばして構わないあまりにも雑な繋ぎの回

 士郎は吼えた!心の底から叫んだ!

 

 「なんでさ!?何でそいつ(アポロン)がセイバーなのさ!?俺のヒロインのアルトリアはどこに行ったんだ!?俺はセイバーを救わなくちゃいけないんだ!!」

 「士郎、それは違う。お前は間違っている。」

 「間違っているのはこのクソみたいな拙作だろ!」

 「士郎、アルトリア本人がどれだけ生者だと言い張ったとしても、拙作ではアルトリアは今この時代においては未練を残した死人に過ぎない。死人が自分の執念を叶えるために戦争を起こして生者の安寧を妨げている、とどの詰まりは地縛霊。悪霊は救うものではなく、はらうものだ。」

 

 あまりにあんまりな理屈、身も蓋も無い。これは一体どれだけの避難を浴びてしまうのか?

 

 「そんな!?そんな馬鹿な!?俺の体内のアヴァロンはどうするのさ!?」

 「そんなん別に埋まったままでいいだろ。今まで何の問題も無いんだし。お前はそんなことよりもヒロインを絞った方がいいぞ?ウッカリか巨乳かに。このままではいずれ修羅場だぞ?」

 

 ◆◆◆

あらすじ

 柳洞寺にいこう。

 

 リリルカと方針を決めたカロン達は柳洞寺へと向かった。

 人員はカロン、バーサーカー、アポロン、凛、士郎、イリヤスフィールである。

 虎と桜はお留守番。

 

 「というよりも士郎、お前も残っててよかったんだぞ?てゆうか頼むから残っててほしかったんだが。」

 「いや、俺も行く!」

 

 カロンは若干困っていた。

 何しろ士郎が全く話を聞かない。

 カロンとバーサーカーは主戦力、アポロンなんでついて来たのかはよくわからないが凛とイリヤスフィールは高レベルな魔術師。

 そして戦力に劣り、自衛もままならない士郎はただの足手まといに過ぎないのである。

 カロンは本来であれば、凛達にも来てほしくなかったが、彼女たちはマスターという役割があるために仕方がない。

 

 ーーうーん、護る必要がある人間に無駄について来られても困るのだがなぁ?

 

 当然の理屈。邪魔でしかない。

 そうこうしているうちに柳洞寺の石段へと一行はたどり着く。

 石段を彼らは上り行く。

 

 「待たれよ。」

 

 そこをすらりとした美丈夫が道を妨げる。

 

 「………アサシンか!?」

 「ええ。」

 

 カロンはイリヤスフィールに確認する。

 

 「俺の名は佐々木 小次郎。ここを通りたければ俺を倒してゆくがよい。」

 「俺達は話し合いに来たんだが?」

 「フッ。女狐の許可がおりんよ。」

 

 チョイチョイと裾を引かれるカロン。

 

 「うん?どうしたんだイリヤ?」

 「別にあのチョンマゲは無理に倒す必要はないよ?私のバーサーカーなら他のところから勝手に侵入してキャスターを追い出すことができるもん。」

 「ま、待て!まさか俺の出番はこれだけではあるまい!?待ってください!お願いします!戦ってください!」

 

 佐々木 小次郎は大慌てする。何しろここを無視されたらもう出番がない。間桐慎二とほぼ同じ扱いである。

 

 「仕方ないな。バーサーカーに任せてもいいか?交渉に来たわけだし、武器(バーサーカー)を置いていけと言われてしまえば仕方あるまい。」

 「うん。」

 

 ◇◇◇

 

 「来たわね。」

 

 寺の奥から出てくる紫色の服を着た女性、もちろんキャスターである。

 

 「手土産もなく唐突で不躾な訪問で申し訳ないが、俺達は今日は話し合いに来たんだ。なあ、キャスター。俺達は戦いを避けることはできると思うか?」

 「どうかしらね?あなたは私の望みを叶えられて?」

 「望みとは?」

 「安定した魔力の供給よ。私が現界可能な程度の。それがなされるなら歩みよりの余地があるわ。」

 

 キャスターは思惑ありげに凛を見る。

 キャスターの願いは幸せな結婚生活。

 キャスターは無意味な争いを望んでいるわけではない。

 戦わずに願いが叶うのであればそれが最善である。

 

 しかし戦いの勝者でなければ願いが叶わないのであれば彼女は勝者を目指す。

 だが現有戦力を比較して彼女は勝てるのか?佐々木 小次郎を合わせたら?

 ………厳しいと言わざるを得ない。

 何しろ敵勢力にヘラクレスが存在する。かの一騎だけで彼女には絶望であり、佐々木 小次郎は基本的にその場を動けない、つまり案山子である。

 

 だが、しかし、もしも、抜け道が存在するのであれば?

 

 彼女は現界して今日まで人々の魔力を少しずつ集めて生き延びてきた。

 しかしそれは明るみに出れば敵意を招きうる行為である。

 ゆえに思案する。凛であれば彼女に安定した魔力の供給が可能。

 ベストなのは、自分の利点を売り込んで新たに凛をマスターとすること。

 そのためには彼女のサーヴァントが邪魔ではあるが、話し合いに来た相手にいきなり喧嘩を売ってしまってはどうやっても交渉が決裂する。そうなれば今は遊ばせているバーサーカーが全力で襲い掛かって来ることは明白である。

 彼女もまた、老獪なのである。

 

 ーー今であれば敵方の強力な戦力も大男一人。しかしヘラクレスはいざとなったら横紙破りが出来るほどに強力!可能な限りの譲歩案を引き出す!一番いいのは聖杯戦争終結後に大男と契約を切った後に私との再契約をさせること!

 

 「うん?というよりも俺達の世界だったらこっちの世界よりも魔力持ちいっぱいいるぞ?魔石もいっぱいあるし。そんならお前いっそ俺達の世界に来ないか?仕事をしっかりするなら対価として魔力はだいぶ回せるぞ?」

 「………あなたの組織とはどこにあるの?」

 「違う世界(作品)だな。」

 「………私の一存では決められないわ。時間を頂戴。」

 「そうか。まあ互いに歩み寄る余地があるとわかっただけで収穫だろ?また今度話し合いによる歩み寄りを行おう。俺達この下の洞窟に入りたいんだよ。攻撃は勘弁してくれないか?」

 「わかったわ。」

 

 もし仮にここでバトルを書いたとしても、バーサーカーが暴れて、弱いものイジメになるだけなのである。イジメ、カッコワルイ!

 ゆえに誰かは雑にバトルを省略する。

 

 ◇◇◇

 

 円蔵山の斜面を歩く彼ら。やがて彼らは洞窟に入る横道を見つけだす。

 ヘラクレス?まだ佐々木さんと楽しく遊んでらっしゃいます。

 

 「どうするの?ヘラクレスを待つ?」

 

 イリヤは問う。

 

 「どうするかね?とりあえず少し中の様子を見てみるか。」

 

 カロンはそう提案する。中へと彼らは侵入していく。

 

 ◇◇◇

 

 しばらく侵入していくとやがて彼らは広間へと出る。

 

 「これ、何かしら?結界宝具かしら?」

 

 彼らは透明な薄い膜の存在に気づく。

 

 「俺は通れるぞ?」

 「私達はダメね。」

 

 それは英雄王の宝具であった。

 英雄王は世界中の宝の原典を所持している。それはつまり、宝を護る防衛機構の原典も所持しているということである。

 英雄王が決められた人間しか通さない宝具を持っていたとしても、特に不思議はないのである。

 

 ………我ながらあまりに雑な説明である。

 しかし仕方がないのだ。英雄王がこんな宝具を持ってても実際不思議ではなくて、フェイトだというならせめてギル様とのバトルくらいは書くべきであり、誰かは致命的にネーミングセンスがないのである。全く思いつかない。許してください。

 

 「………ヘラクレスも通れない可能性が高いな。俺一人で先に行ってみるよ。」

 「気をつけてね。」

 

 ーー俺一人をご所望か。うーん、ヘラクレスが来れないことは大きなマイナスだが士郎が入れないことはプラス、差し引きの判定はマイナスだな。

 

 カロン一人での侵入、そして凛不在である。

 それはつまりどういうことなのか?

 それはつまりカロンは令呪を一つも使用しないままで戦争が終わるということである。

 というよりも他のサーヴァントも誰か一人くらいは令呪を使用したのか?

 やはりしていないのか?まさかの令呪無意味?

 いや、そういえば麻婆神父が青タイツの偵察命令に令呪を使用したんじゃないのか?

 

 結局、麻婆神父以外は徹頭徹尾令呪を使用しないバトルもほとんどないあまりにもお粗末であやふやな聖杯戦争は、原作様セイバールート二日目にして早くも終局へと近づく。そしてセイバーはアポロン。

 ただし、凛はリリルカに騙されているためまだ聖杯戦争が終わるとは思っていない。

 

 カロンの目前を突如青い影が現れ横切る。

 

 

 「よう!ようやく来たか!」

 「お前は!?」

 

 現れる紅い槍の青い兵士。英雄の中の英雄、クー・フー・リン。

 

 ーー今回はこいつはマスターを連れてねぇ!互いに手加減無しの戦いが出来る!

 

 クランの猛犬は戦いを想い、獰猛に嗤う。

 クー・フー・リンは以前の戦いの決着を付けるためにカロンを待ち構えていた。

 されどカロンは思案する。

 わざわざ戦う意味はなくないか?………俺にとってはまったく意味ないな。

 

 「………今から一緒に食事に行かないか?」

 

 カロンの先制、いきなりの誓約攻撃である。

 

 「………お前それずるすぎるぞ?」

 「殺し合いに卑怯という言葉は存在しないだろ?第一俺は亡霊のお前と違って生身だぞ?んでどうするんだ?誓約を破って俺と戦うのか?それとも守るのか?約束を破れば制約を受けるだろうが食事に着いて来れば、食後は制約のない戦いができるかもしれないな。」

 

 ◇◇◇

 

 「というわけでこいつと一緒に取り合えず食事をすることになった。スマンがイリヤ、バーサーカーを護衛につけて、俺達と一緒に食事してくれないか?」

 

 皆の集まる広間へカロンは戻る。カロンはイリヤ、バーサーカー、カロン、クー・フー・リンの四人で食事することを決める。いつまでも食事風景を書いてても、仕方ないので食事風景は割愛される。

 

 「俺はこれから用事があるから、お前は食後は腹ごなしに階段で佐々木と二人で遊んでおいてくれ。相手に不足は無いだろ?」

 「………………マジかよ!?ずるくねぇか?お前が戦えよ!」

 「犬を食わせてないだけありがたいと思ってくれ。俺は一切嘘はついてない。誰も俺が戦うと言ってない。佐々木は強敵だし戦いたいならちょうどいいじゃないか。イリヤはそいつが入ってこれないようにヘラクレスに洞窟の入口を見張らせといてくれるか?」

 

 ◇◇◇

 

 「遅い………我を一体いつまで待たせるつもりだ!?」



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誰か式ギルガメッシュその2

 「クッヒャッヒャッヒャッヒャッ!どうだ~僕のライダーの血界はあと三日もすれば完璧な形で発動する!完璧だ!そうすりゃもう僕に敵なんていないぜえぇ~!」

 「………シンジ、もう戦争終わります。

 「アン?声が小さくて聞こえないよ!ヒャッヒャッヒャッ、これで遠坂に思い知らせてやるんだ!」

 

 ◇◇◇

あらすじ

 ワカメに出番をプレゼント

 

 「………来たか。」

 

 腕を組み振り返る英雄王ギルガメッシュ、対するはカロン。

 今ここでは、最終決戦が始まろうとしていた。

 

 「行くぞ!」

 「来い!」

 

 豪華な黄金の鎧を身に纏う英雄王、対するは魔力で作られた重厚な鎧と分厚い盾を持つカロン、カロンはリューを召喚する。

 

 「守護神の眷属(ガーディアンズファミリア)!」

 

 カロンの宝具、凛の魔力を吸いリューが象どられる。

 英雄王はバビロンから剣を取り出す。シンプルな造りされど気品と美しさを併せ持つ片手剣、原罪(メロダック)

 リューは両手に持つ小太刀で連続の刺突を行う。

 

 「フン、まあまあ素早いではないか?………しかし甘いっ!」

 

 刺突を原罪で踊るように捌き、英雄王は体勢を崩したリューを蹴り飛ばす。さらにバビロンからの刀剣の追撃。

 

 「リュー!」

 「大丈夫です!」

 

 リューは刀剣を避け、背中を追う刀剣から退避する。

 カロンは刀剣の投射の合間に割り込む。リューはカロンの背中に隠れ、英雄王は大男の背中にいるはずのリューの姿を見失う。

 

 「む!?」

 

 盾を持ちカロンは英雄王に詰め寄る。カロンを追うリューは、カロンの背中を蹴り英雄王の上から攻撃を加える。二人の必殺。リューの速度は視認しづらく、上方は人間の意識外になりやすい。

 しかし英雄王は見逃さない。見逃すわけがない。我がそんなに温いわけがなかろう?

 切り付けを受け止め、力ではじき飛ばす。

 カロンは考える。

 

 ーーリリルカはどうする?敵は明らかに強大、幸運なのは敵の刀剣投射が盾持ちの俺にとってはたいして脅威にならないということ。上手く連携をとれば打倒可能か?しかし奴は空間から様々な武器を投射して来る。間違いなく切り札も隠しているだろう。凛の魔力はどれだけ持つ?リューが消されても再度の魔力での編み込みは?あの黄金の鎧を通る攻撃はどのくらいの強さが?

 

 「フッハッハッハッハ!喰らえぇぇ!」

 

 なおも射出される刀剣、リューの体をかすめ、魔力を漏出させる。

 カロンとリューは共に近づき再び重なる。

 やはり英雄王へと近付く。

 

 「くっくっくっ、どれ、少し遊んでやろうか?ハンデをやろう。こんなショボいSSで本気を出すのもつまらん。乖離剣は使わないで置いてやろう!」

 

 英雄王はバビロンから新たな剣を取り出す。

 右手にカラドボルグの原典と左手にハルペーの原典まさかの鎌と刀剣の二刀流。

 

 近づいたカロンとリュー相手に英雄王は獰猛に牙を向く。

 

 「フッハッハッハッハ。こんなものか?」

 

 まさかの技量、英雄王は右のカラドボルグでリューの二本の小太刀をはじき、カロンの鎧も盾も貫通させて左のハルペーでカロンを切り裂く。

 

 「グッ………。」

 

 ハルペーは不死殺し。かつて不死身の二つ名を持っていたカロンに絶大な痛みを与える。しかしカロンは決して表情を変えない。ここで弱点だとばれたら勝ち目がない!

 痛みを必死に堪えて、カロンは思案する。

 

 ーー馬鹿な!?両手持ちで小回りの利くリューの二刀流の小太刀を大剣で捌くだと!?仮にも英雄王か………。攻略法は………。リューに痛みを覚悟してもらうしかないか?

 

 リューはカロンを盾にする。これまではずっとそうしてきた。

 しかしそれは、今この場で本当に最も効率的な戦いなのか?

 リューがカロンを盾にすると英雄王にとっては二人が同じ方向から攻めて来ることになる。

 英雄王には対処しやすい。

 リューがカロンの背中から攻撃するのはカロンの防御に絶大な安定感があるからだ。しかし。

 リューは考える。

 

 ーー魔力の塊でしかない私は攻撃を受けても本体自体はなんら痛痒を感じません。痛みを感じるのは今ここにいる私の意識だけです。今のままでは勝ち目がない。凛は私を何回作り出せる?真に相手を撃破するならカロンの背後でなく、挟み撃ちが最も有効。カロンの負担も減らせる!それは私が捨て札として使いうるから取り得る戦術!

 

 ーーほう、

 

 戦いは形を変える。

 生物の視界は三百六十度ではなく、人間の視界は百八十度も厳しい。

 自身の安全を考慮しないリューの分身体、速度に特長を持つ。

 英雄王にとってはカロンの攻撃は一切気にする必要はない。しかし。

 カロンは共闘の才能を持つ。

 この戦いで俺がリューに出来ること?リューの攻撃を通すフォローをすることだろ?

 

 カロンの戦いは変幻自在、英雄王に肉薄し五感の一つの視線を遮る動きをする。

 カロンは大男だ。

 視線を体で遮ることも出来るし手でも遮れるし生物は思わず動くものを目で追ってしまうものだ。

 気にする必要が無くても気にせざるを得なくしてやるよ?

 

 ーーなるほど、これは面倒でもあるな。

 

 カロンは英雄王の近くで英雄王の正面から頭部を中心に素手で攻撃を行う。

 リューは英雄王の死角から英雄王の鎧の隙間を中心に小太刀で攻撃を行う。

 英雄王はカロンを極力見ずにリューの攻撃に集中する。

 しかしリューを目で追ってもリューはカロンの背中に隠れ、カロンの動きにほんの一瞬気を取られた次の瞬間にはカロンの背後にいない!

 

 そして英雄王はここまで挟撃で纏われてしまってはバビロンを展開するのが難しい。

 

 ーーさて、いつまで遊んでやるかな?

 

 英雄王は目前を煩わしく動くカロンに剣で攻撃を仕掛ける。

 カロンの防御の技量は高い!英雄王の剣は例外なく名剣であり、絶大な切れ味を誇る。

 真っ当に受けたら間違いなく斬られる。必ず斜めにすらして受ける。

 

 英雄王の攻撃の隙にリューは後ろから小太刀で鎧の隙間を突く。

 ほんのわずかな隙間。肘部で間接の稼動を可能にするために作られた本当に僅かな隙間、英雄王は僅かに傷を負う。

 

 英雄王は振り返らずに剣を逆手に返して背後のリューに攻撃を加える。

 鼻を掠める剣、あまりにも滑らかにリューの鼻が裂かれる。

 

 ーーさすがに英雄、驚くほど技量が高い。私を見なくても大体の位置を掴んで来る。そしてあの武器の切れ味。私が捨て札だとしても玉砕覚悟の攻撃程度では捌かれて首を落とされて終わりだ。しかもカロンにも無理をさせている。

 

 ーー強いな。うーん?やはり武器が狂暴過ぎるのもある。しかし敵の左手の技量は右手よりは劣る、か。それでも自在に剣を出し入れして頻繁に二刀と一刀を切り替えている。判別が付きづらいな。二刀が可能なのに一刀を混ぜる理由、撹乱か?あるいは必殺としての両手での切り下ろしか?二刀より一刀の方が必殺として警戒するべきか?いずれにせよ下手な受け方したらそれだけで詰んでしまう。相手の攻撃を警戒すると思いきった動きが出来ない。しかし俺は生身だしあまり無理できないなぁ。………凛に無理させるか。

 

 「守護神の眷属!」

 

 二人目召喚。リリルカ。

 リリルカは即座に状況の把握を済ませる。

 

 ーーお強いですね。お二人の挟み撃ちを捌ききるのは。リリには技量はなく、リリが出来ることは限られています。

 

 リリルカはそっと英雄王の意識から逃げていく。

 

 ーー新たに召喚した人間は………戦いに参入せずか。現状では我が有利といったところか。

 

 英雄王は二人を捌きながら、リリルカを決して見逃さない。

 カロンも思考する。 

 

 ーーリリルカには高い指揮能力がある。それはすなわちそのまま高い戦術眼を持つこと。指示を出さずに好きに動かした方がよい。

 

 リューはさらに速度を上げている。その場に影を残して縦横無尽、頻繁に視界に写りこむカロンの動きに視線が誘導される英雄王は追いきれない!

 英雄王は考える。

 

 ーーこの盾持ちの防御は異様とも言えるほどに固い。しかし攻撃に関していえば全くと言えるほどにダメージを負わない。この素早い女の攻撃に関していえば………僅かとはいえ傷を負う。盾持ちは相当にしぶとそうだ。一長一短、盾持ちを追えば粘られる間に女に攻撃を喰らう。女を追えば大男と上手く連携を取られ、はぐらかされる。とりあえず、流れに沿うか。

 

 戦いは続く。

 英雄王の技量は高く、リューは思いきった攻撃は出来ない。英雄王はリューの攻撃に僅かに傷付き、カロンとリューは持久戦の土俵には巻き込めていることに僅かに安堵している。しかしリューは一撃を受けたら高確率で致命で、相手はほぼ確実に凶悪な隠し玉を控えている。魔力体といっても凛の魔力に限界はある。

 

 リューは左の小太刀で英雄王を切り付ける。英雄王はリューの方を振り向き、右手に持つ片手剣で攻撃を仕掛ける。しかし英雄王の斜めの切り下ろしをリューは体勢を低くして避け、そのまま近づいて来るカロンとやはり重なる。英雄王はさらに左手の剣でカロンに縦の切り下ろし、しかしやはりカロンは盾を僅かに斜めにしただけで上手く英雄王の切り下ろしを滑らせる。

 

 ーーちっ、右か。

 

 英雄王の切り下ろしの間にリューはすでにカロンの背後にいない。英雄王は気配を頼りに右の片手剣でリューを切り付ける。しかしリューはその場で後方への宙返りをして避け、置き土産に浅い傷を英雄王の右腕に付ける。

 

 カロンの腕が英雄王の頭部目掛けて伸びる。英雄王は左手の剣をしまい、剣は今は右手の一本のみ。英雄王は魔剣グラムの原典で腕を落とそうとする。危険を感じ取り全力で受けに回るカロン。隙と見たリューは英雄王の背後から首を獲りにかかる。しかし軽々首を動かし英雄王は避ける。そのまま滑らかな動きで振り返りリューに斬りかかる英雄王。これまでで最もキレのある動き。リューは避けきれない。

 

 ーー首を落とされる。

 

 ーーリリルカ………済まない。

 

 ーーちっ!やはりそういう使い方か。

 

 ーー家族は助け合うものです。リリは痛みに恐ろしく強い、カロン様の娘ですよ?

 

 リリルカは最初から最も効果的な身を呈する使い道を模索する。

 英雄王の剣撃にリリルカは迷わずに体を割り込ませる。リューが落とされたら、どちらにしろすぐにリリルカも落とされるのは明白である。護りしか出来ないカロンもそうなれば当然時間の問題だ。カロンだけは何としても落とさせるわけにはいかない。

 しかし分身体とはいえ意識が存在するため痛みが無いわけではない!

 

 そして相手の行動を予想していたはずの英雄王は読み違える。

 まさかこのような小娘が、そんな痛みが極めて大きい受け方を覚悟していただと!?

 

 グラムの一撃にリリルカは決して目を逸らさない。人体でも硬い骨をリリルカは上手く縦に噛ませる、英雄王の剣撃はわずかに軌道を変え、速度を落とし、退避するリューは辛うじて致命を免れる。

 リューの首はリリルカの体に護られ、リューの眼前には英雄王の腕、この日最も近づいた、隙だらけの、伸び切った利き腕!なればここしかないだろう!!

 

 「ああああああああっっっ!!!」

 

 リューは雄叫びを上げある限りの力を込めて黄金の鎧の右腕の隙間に小太刀を突き立てる!さらに二本目!えぐり込む!!

 

 「グガガガアアァァァッッッッッ!!!」

 

 会心の二撃!!英雄王の右腕は使い物にならない!

 英雄王は左手にグラムを持ち替えてリューの首を落とす。

 

 「ちぃっ!遊びが過ぎたわ!」

 

 英雄王は動く左腕を上げる。

 

 「天の鎖よ!」

 

 バビロンズゲートから天の鎖(エルキドゥ)がカロンへと躍るように襲い来る。

 鎖はカロンの手に絡み、足に絡み、カロンは体を縛られる。

 カロンには最低とはいえ神性がついていて、そうでなくとも鎖を引きちぎれる程の力を持たない。

 

 「フン、まあそれなりに愉しめたわ。」

 

 英雄王はバビロンから刀剣を出してカロン目掛けて射出する。

 

 ◇◇◇

 

 「ふむ。三人か。クックックッ。それにしてもまさか一度も教会を訪れずに戦争を終結させようとするとはな。」

 「っ!あんた!」

 

 場面は変わり、ここは洞窟大広間。

 

 「言峰!」

 「凛、あの男は聖杯を壊すつもりだぞ。お前はそれを許すのか?お前には何故令呪が存在するのだ?」

 

 出ました!皆大好き麻婆神父!

 

 「何言ってるの!?」

 「事実だ。お前は悲願を捨てることになるぞ?」

 

 今ここには凛と士郎とイリヤ。

 バーサーカーは槍のアニキと仲良くお遊び中。

 

 「あいつは私のサーヴァントよ!裏切るわけないじゃない!」

 「しかし奴は生身の人間だ。そもそも生身の人間が生身の人間を一方的な契約で下僕として扱うこと自体がおかしいと思わんか?不当に令呪を振りかざすお前をあの男は不愉快に思っていたかも知れないと思わんか?」

 「黙りなさい!」

 「フム、やはり向かって来るか。久々に稽古をつけてやろう。」

 

 士郎とイリヤは叫ぶ。

 

 「遠坂!俺も手伝うよ!」

 「凛!そんな奴バーサーカーに任せてしまえば良くない?」

 「大丈夫よ。この外道神父に少しお灸を据えてやるわ!」

 「フム、ずいぶんな口を利くようになったものだな。それはそうとして、バーサーカーの相手はさすがに勘弁してくれ。」

 

 ◇◇◇

 

 「グッ!!」

 「フーム、なかなか声を上げんな。」

 

 鎖に縛られるカロンは手加減をされたバビロンから投げられた刀剣を喰らう。

 刀剣は腹部に刺さり、カロンは血を流す。

 

 「強き魂よ。この期に及んでなお笑うか。しかし面白いものだ。お前は希少な他の世界(作品)の男だ。我のコレクションにくわえてやろう。」

 

 拙作のギル様は男までコレクションしようとする。変態?

 

 「お断りだな。リューが家で待ってるんだよ。」

 「フム、少し惜しくもあるが。」

 

 英雄王は左手を上げる、その刹那。

 

 「うおおぉぉぉぉっ!!」

 「なにっ!?」

 

 利き手の使えない英雄王は相手の攻撃を受けそこねる。

 一瞬の隙に天の鎖はたわみ、カロンは鎖から必死で逃げる。

 

 「貴様、何故そこにいる!?」

 

 ◇◇◇

 

 「はああっっ!!」

 「フン、甘い!」

 

 凛の攻撃を受け流す言峰。

 誰かは中国拳法を全く知らず、どのような攻撃が存在するのか知らないために技名が全く出てこなかった。

 凛はさらに攻撃を加え、言峰は受ける。言峰は反撃し、凛は防御の上から吹き飛ばされる。

 

 「クンフーが足りん!」

 

 言峰は攻撃し、凛はやはり防御する。

 凛は考える。

 

 ーーいつまでも攻撃と防御の字しか出てこないなら、読者様が読んでてイライラするだけだわ。何かそれらしい技名とかないのかしら?言峰を一撃で吹き飛ばせるような………。

 

 ◇◇◇

 

 「アポロン!!」

 「貴様!何者だ!?なんだそれは!何故貴様の剣はこの我よりも眩しくキラキラ光っているのだ!」

 「フッ、これは俺の宝具でサイリウムというのだ!」

 

 まさかのアポロンっっ!!宝具はサイリウムっっ!!

 

 「アポロン!何故?」

 「フッ、知れたことよ!君が死んでしまえばリュー様は人妻ではなくなってしまうだろう?うん?そしたらリュー様は未亡人になるのか。未亡人………未亡人か………。未亡人………。」

 「なんにせよ助かった!」

 「貴様!何故ここに入ってこられるのだ!?異世界の生物しか入ってこられないように設定したはずなのに!?ええい!天の鎖よ!」

 「むっ!?」

 

 天の鎖はアポロンをグルグルに縛り付ける。

 

 「ウム、コレはコレで悪くない。」

 「なんだと!?気持ちの悪い奴め!ええい、天の鎖よ!あの大男も一緒に縛り付けるのだ!」

 

 しかし天の鎖は微動だにしない。アポロンにグルグル。

 

 「ええい!?なぜいうことをきかんのだ!?」

 

 やはり動かずにアポロンをグルグルにしている。

 

 突然ではあるが、物事にはメカニズムというものが存在する。

 太陽は東から上り、生き物は日々食事を欲し、夜になると子供は眠くなる。

 

 天の鎖は神を縛る鎖である。

 もともと頑丈な鎖であるのだが、特に神性を持つものに強力な効果を発揮する。

 一体そこにはどのようなメカニズムが働いているのだろうか?

 

 誰かは以前から考えていた。

 アニメの鎖の動きはまるで意思を持っているようだと。

 ふむ、どのような意思を持っているのだろう?

 

 なぜ神を縛るのが得意なのだろう?

 考えた。考えて、考えた。

 

 あるときに天啓が舞い降りてきた。

 

 天の鎖の実態とは神々の束縛の強い恋人的な存在なのではなかろうか、と。

 

 そう、拙作の天の鎖は神々を束縛するのが大好きなのである。

 故にどMのアポロンとは相思相愛!熟年カップル的な相性!

 主の命令そっちのけ!

 

 カロンの神性は最低ランクであり、アポロンは現役の神である。天の鎖の好みのタイプがどちらなのはもちろん言うまでもない。

 

 そして唖然とする英雄王、隙を見たカロンは凛から魔力を奪い今一度リューを呼び出す。

 リューは即座に自分の仕事を理解する。

 

 「「はああああっっっ!!」」

 

 二人は駆ける、途中に刺さっているバビロンより投射された英雄王の剣を取る。

 

 「クッ!!」

 

 英雄王は対応しようとするが、右手が潰されている!左右から来る剣を左手一本で対応?無理だ!

 

 ーーならばせめて脅威度の高い女の方の攻撃だけは防ぐ!

 

 「お前にもう札が無いなら負けだよ。」

 「貴様ああぁぁぁぁ!!黙れええぇぇぇ!!」

 

 カロンは言霊で英雄王を揺さぶろうとする。しかし相手は黄金の魂、どのような状況でも揺さぶることはほとんど不可能。しかし。

 

 「ええ、あなたの負けですよ?」

 

 リューまでもが揺さぶりにかかる。

 揺さぶるリューの手には二本の剣、リューは両手で武器を扱う能力に優れている。

 さて、左手一本で三本の剣の攻撃を果たして防げるのでしょうか?

 いくら精神が強くても、技量が高くとも、不可能なものは不可能である。

 

 英雄王はリューの右での一撃は弾くが、左の片手剣に鎧の上から貫かれる。英雄王の鎧は堅牢だが、リューの持つ剣はバビロンから投げられた絶世の名剣デュランダルの原典!さらに突き刺さんとするカロンの一撃!剣は名剣で両手持ちだが攻撃力がゴミのために刺さらない!

 

 リューとカロンの剣はリューの剣だけ英雄王の体を貫く。

 

 「グウウッッ!」

 

 英雄王の腹部には絶世の名剣が深々と刺さっている。

 英雄王は自身の腹部を見て、カロンを見る。

 

 「我の負けか。」

 

 ギル様あっさり敗北、やはり戦闘描写の嫌いな誰か。

 英雄王は笑う。英雄王は辺りを見る。大聖杯に視線を送る。

 

 「ふむ、貴様らは確かそれを壊しに来たんだったな?」

 

 そういうと刀剣をバビロンズゲートから大聖杯に放つ。崩れ落ちる大聖杯。

 

 「聖杯の中の汚れも我が共に黄泉へと持っていこう。行け。」

 「何故だ?というより中の汚れとは何のことだ?」

 「なあ、今の我は本当に英雄王だと思うか?」

 「どういうことだ?今度はどんな超理論だ!?というより中の汚れについて教えてくれ!」

 「我は死後、ずっと一人だ。我には寄り添う民が居なくなって久しい。民無き王が道化以外のなんだというのだ?」

 「何が言いたいんだ!?中の汚れて何なんだ?」

 「我は待っていたんだよ。ずっと。確かに我は若くして死んだ。しかし我は次の代の王の戴冠式が行われても王でいないといけないのか?我には年寄りとして新しい世代の成長を愉しむ権利は無いのか?我は全てを見通す千里眼で古今東西あらゆるSSを見てきた。」

 「SS!?それ別にわざわざ千里眼で見なくてもスマホとかで見ればよくないか!?」

 「我はどのSSでもそのほとんどが悪役か傲慢な人間かラスボスかギャグキャラだった。たとえ善人だったとしても、中の人が別人だったりな。そこは本当は我が善人だったとかではいかんのか?であるならば、チラシの裏にでも一つくらいは我がただの善良なおじいちゃんとして去るSSがあってもよかろう。我はきっとずっとそれを待ってたんだよ。教会でイケニエにされていた子供達もとっくの昔に解放して入院させてある。言峰もキチンと叱っておいた。ゆえに魔力不足で乖離剣は使わないのではなく使えなかったのだ。つい見栄を張ってしまった。」

 「善良なおじいちゃん!?イケニエ!?乖離剣!?中の人!?そもそもお前が悪役で無いなら俺達は何のために戦ったんだ!?」

 「………なればこそ我が敗れるのは必然だったか。孫は今年も遊びに来てくれるかのう?」

 

 そうして英雄王は去って行った。言いたいことだけを言って、たくさんの謎を残して。

 中の汚れて何なんだ!?

 

 ◇◇◇

 

 「オーイ、倒したぞ~。」

 

 カロンは大広間へと戻る。そこの空気は暗かった。

 

 「どうしたんだ?どうしてこの男は倒れてるんだ?」

 

 聖杯の泥によりかつて命をつなぎ止めた言峰神父、聖杯がなくなり心臓を失っていた。

 

 「………死んでいるのか。」

 「ええ。突然倒れたわ。せっかくスーパーウルトラハイパー(エクスカリバー)デラックスメガ頂肘をくらわせようと思ったのに。」

 「そうか。さすがにそのルビは無理が有りすぎないか?せめて約束された勝利の肘(エクスカリバー)とかの方がいいんじゃないか?」

 「どうでもいいじゃない。ところで戦いはどうだったの?」

 「ああ。勝ったけど敵に大聖杯を壊されちゃったよ。」

 「そう。」

 「怒らないのか?」

 「私はあんたを信じてるわ。私もウッカリ機械を壊すことはよくあるし、壊れたものは仕方ないでしょ?私も先週某大手企業に職場見学に行ったんだけど、おいてあったスーパーコンピューターとかを触ってウッカリ壊しちゃったし。」

 「スーパーコンピューター!?大層な名称だけどマスター、それ大丈夫なのか!?」

 「知らないわ。まあその時にいた責任者の人は泡ふいて倒れてたけど。たかだかコンピューターの一台くらいで大の大人が情けないわよね。」

 「………今聖杯から最後に知識が流れてきたが、それ多分大聖杯どころの話じゃ無いと思うぞ?………多分お前も、その企業の損失額を聞いたら泣いて気絶すると思うぞ?………マスター、いよいよもって魔術なんてやめて、日本経済に少しでもお詫びが出来るように必死に勉強したほうがいいぞ?」

 

 ◇◇◇

 

 「カロンさん、やっと見つけました!」

 「ベルか。待ってたよ。帰りの人員は若干増えてしまうが許してくれ。」

 「ええ!?」

 

 帰りはイリヤと彼女のメイド、葛木夫妻も一緒である。

 イリヤはギルガメッシュが消滅したことにより少し影響を受けていたが、そこまで大きな問題ではなかった。

 

 「はあ、なんかリューに怒られそうな気がするな。じゃあな、凛。」

 「ええ。気が向いたらまた遊びに来なさいよね!」

 

 カロン達はそういって出発する。

 

 ◇◇◇

 

 「シンジ、さようならです。

 「えっ!?おい、ライダー!何でお前の体どんどん透明になっているんだよ!?せっかく血界の基点を万全に仕掛けてこれから遠坂を見返そうって時にさ!」

 「さようなら、シンジ。私はあなたが大嫌いだった。

 「えっ!?おい!最後くらい綺麗にしめろよ!なんでお前普段ボソボソしゃべる癖にそこだけはっきりしゃべってんだよ!?」

 

 ◇◇◇

 

 ここは時限の狭間、俺は帰り道にあることに気づいてしまう。

 ………面倒だな。非常に面倒だ。

 

 「凛にウッカリを移されたかな?ウッカリアポロン連れて帰るの忘れてた。」




アポロン『ふっ、別にあいつを倒してしまっても構わんのだろう?』


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忍者

 「お帰りなさい、あなた。」

 「ああ、帰ったよ。」

 

 ここは連合本部の近くの最近購入した俺の家。

 木造の二階建て。

 俺はイリヤを家に連れて帰った。

 アポロン?めんどいからベル任せ。

 

 リリルカはミーシェとルームシェアしていて、新婚の俺達を気遣かってイリヤを預かる提案をしたが、子供を護るのは大人の義務だろ?二人とも日中は忙しいし。うちなら普段リューがいる。リューは護衛が必要だと言い張って俺について来たがるが、今のオラリオは治安が悪いとは思えない。俺はちょくちょく一人で外出する。

 

 セラとリズは今現在、住むところと仕事を探している。その間俺達はイリヤを預かることにした。彼女達が落ち着き次第、イリヤの住みかをどうするか話し合いを行う。俺は別にいつまででも預かって構わんが、彼女達には彼女達の意志と展望がある。

 

 ………そしてすっかり忘れていたのだが、今現在モンスターファミリアに新たな眷属としてバーサーカーが居座ることになった。本当に………すっかり忘れていた。イリヤが向こうから霊体化してこっそり連れて来てしまったのだ。さいわいにしてバーサーカーは意外にも非常におとなしい。イリヤの命令がないかぎり暴れたりはしないそうだ。主食は魔力らしい。試しに魔石を与えてみたらボリボリ食べていた。

 

 リューは寛大にも新しい知らない子供を家に置くことを喜んだ。

 なんだ。リューやっぱりいい女だったんだな。

 ずっと脳筋とか思ってたのだが、俺の間違いだったんだな。謝ろうかな?

 

 食事も終わり遅い時間、イリヤはもう寝かしつけてある。今頃二階の個室で寝てるだろ。

 リビングで俺とリューの二人。

 

 「リューがイリヤを受け入れてくれたことは助かったよ。ほんとは誘拐なんだが、お前の正義はいいのか?」

 「あなたは詐欺師ですからね。詐欺師と連れ添ったからには覚悟の上ですよ。第一、事情はすでにリリルカさんに確認済みです。」

 「向こうでもお前には散々に助けられたよ。お前はいい女だった。」

 「当たり前でしょう。」

 

 俺は笑い、リューも笑う。

 

 「しかし、まさかあなた一人で新婚旅行を堪能して来るとは………しかも小娘と二人でだったと聞きましたよ?まさかこんなに結婚してすぐに堂々と浮気するとは。」

 「浮気!?おいおい、勘弁してくれよ!俺は手違いで呼び出されたんだよ。何でもイリヤが言うには俺のマスターがウッカリ散々に呪文を間違えたせいで、聖杯とやらが誤作動を起こしたらしい。特にひどかったのが、ウッカリ呪文にお経を挟んでしまったせいで、亡者である英霊が呼び出せなかったらしい。生者のアポロンも呼ばれてただろ?」

 「………まあ仕方ありませんか。わかってます、冗談ですよ。ハァ、それにしてもまさか新婚旅行に行く前に新しい子供が出来てしまうとは………また旅行に行こうにも彼女一人家に置いていけるわけありませんし………リリルカさんにたまに預かってもらうことを視野に入れるべきか………」

 「おいおい?三人で行けばいいだろ?何ならリリルカの休みも待って四人でもいいし。二人きりは別にいいだろ?」

 「………あなたはつくづく女心を理解しませんね。私だって一回くらい二人きりでもどこかに行きたいものなんですよ。」

 「大体どうすんだ?またベルに頼もうにも、誰かの気分次第でまたなんか変なのに巻き込まれるかも知れないんだぜ?」

 「つくづくなぜ私はこんな訳の分からないSSに登場させられてしまったのか?幸せにしようとするならするで少しくらいロマンをくれても良さそうなものなのに。」

 「諦めようぜ。誰かはそういう人間なんだよ。きっと。ギャグは好きだしハッピーエンドも望んでいるけれど、きっと恋愛描写が嫌いなんだよ。お前ら勝手に二人でやってろってさ。」

 「うーん、そうなのでしょうね。でも少しくらいなら。」

 

 リューは俺に近寄りそっと俺の体によりかかる。

 

 「あれ?パパとママ何やってるの?」

 「ああ、イリヤか。」

 

 ふむ、なるほど。これはあれか。誰かは恋愛表現を書きたくないからイリヤを俺の家に置いたんだな?さては。

 

 「あれ?ママどこ行ったの?」

 

 うん。ママは恥ずかしがって窓から逃げたよ。今頃屋根の上辺りで顔を真っ赤にしてるんじゃないかな?

 

 やはり俺にはもうステータスはない。戦いでのステータスはあくまでも聖杯のバックアップに過ぎなかった。故にリューの逃げる姿は捕らえられない。

 しかしリューの行動パターンくらいはわかるようになってしまった。

 

 ………長い間一緒にいるとイロイロなものが見えてくるのだな。

 あるいはこれも一つの幸福なのだろうか?

 

 「イリヤ、今日は疲れてるだろ?もう休みなさい。」

 「イリヤはもう結構な歳です!パパでも子供扱いしたら許さないんだから!」

 「そうか。済まないな。じゃあレディーの美容の為には、早く寝るのも必要だろう?」

 「それもそうね。じゃあおやすみなさい。」

 「ああ、お休み。」

 

 彼女は明日からリリルカの教育を受けることになっている。

 リリルカの方が年下なのだが………まあ細かいことはいいか。

 

 「戻ったようですね。」

 「お前は忍者か!」

 

 リューはやはり音もなく戻って来る。全く気づけない。

 

 「それでは先ほどの続きを………」

 

 リューは俺に近寄りそっと寄りかかる。

 うん、やっぱりこいつ脳筋だな。こんなことしたら………

 

 「パパ、ママ、言うのを忘れてた今度の日曜の予定だけど………」

 

 やはり忍者。今頃おそらく屋根の上。

 つくづく俺の家族はどうなってんだ?妻は脳筋忍者で娘は大魔王と人造人間。

 ………まあ細かいことはどうでもいいか。

 

 「日曜どうしたんだ?」

 「あれ?ママ今いなかったっけ?」

 「ママは急用だよ。伝えとくから俺に話してくれるか?」

 「うん。日曜はリリが町案内をしてくれるから遅くなりそうだよ。もしかしたら泊まることになるかもしれないからまた伝えるね。」

 「ああ。わかったよ。」

 

 日曜、イリヤの帰りは遅いのか。ならばリューにはその日に埋め合わせることにするか。

 まあとは言っても俺には落ち度は無いはずだが………シルがうるさいんだよな。リューを大切にしろってさ。ほんとは俺一人の時間も欲しいんだけどさ。まあ仕方ないか。

 

 「それじゃあおやすみなさい。」

 「ああ、いい夢を。」

 「行ったようですね。」

 

 忍者、イリヤがいなくなると同時に俺の側。

 忍者は俺の体にそっと寄り………

 

 「ストップ!」

 「どうしたんですか?」

 「恋愛表現は禁止だ!こんなことしたらイリヤが起きちまう。いつまでも子供の安眠を妨げるのはいかんだろ?」

 「どういうことですか?」

 「つまり誰かは恋愛表現嫌いなんだよ。それっぽい空気を感じたらイリヤを起こして邪魔しに来るんだ。その度にイリヤはたたき起こされて可愛そうだろ?」

 「何と言うこと!ぐぬぬぬ………誰かめ!トイレ掃除量を一万倍に増やしてやりましょう。」

 

 そんなに掃除するトイレ、たくさんないぞ?第一ヘスティアもいるだろ?

 最近はヘスティアちゃんとトイレ掃除してるのか?

 

 「まあ、仕方ありませんか。それなら続きは誰かが知らないところで勝手にやりましょうか。」

 「それなら問題なさそうだな。」

 

 夜は更けて外で鳴く虫の声。

 俺の妻は料理が下手で、明日の朝飯も俺が作らなきゃならない。

 二人で過ごしているならともかく、子供がいるならキチンと俺が朝飯作らないといけない。

 俺は朝に弱く、正直しんどいが………まあ幸せの対価だと思って諦めるか。

 

 「リュー、俺はもう寝るよ。お休み。」

 「ええ、私も寝ます。よい夢を。」

 

 俺達はベッドに横になる。

 明日も何かいいことあるかな?

 

 俺は明日の楽しみを想って、目を閉じた。



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HACHIMANの日常

 「ここは!?」

 「やあ、良く来たね。僕の名前はマーリン、魔術師だよ。」

 

 ーーーーーーコチ、コチ、コチ、コチ

 どこからともなく聞こえて来る、時を刻む時計の音。

 テーブルに座るローブを着た怪しげな小柄な男。いわくマーリン。

 

 「君は誰かだね?君は一体どういうつもりなんだい?拙作はしょぼくても完結させたのだろう?なぜ完結したはずの物語が続くんだい?」

 「まずかったでしょうか?」

 「まずいまずくないじゃあないさ。蛇に足を書いてどういうつもりなのかと聞いてるんだよ。」

 「たとえ蛇に足を書いても、さらに腕と角と羽を付け足したら龍になるんじゃあないかと思いまして………。何かそんな理論をどこかで聞いたことがあるような………。それに首をさらに増やしたらヤマタノオロチにもなるのでは?」

 「えぇ!?君はどれだけ超理論が好きなんだい!?そしてまさかこの拙作を龍にするとでもいうのかい?図々しいにも程がないかい?気が触れていないかい?」

 「図々しくなければここまで続けることが出来ません。」

 「なるほどね。たとえ評価がつかなくても、誰かに文句を言われても、どんな人間でも結局は書きつづけなければ技量は上がらない。確かに一理あるかもしれないね。」

 「いえ、拙作はあくまで趣味です。」

 「趣味でこんだけ書いたのかい!?馬鹿じゃないのかい!?」

 「しかし趣味で拙作以上に書いてらっしゃる方はたくさんいらっしゃるのでは?詳しい割合は全くわかりませんが多くの方が趣味なのでは?マーリン様、そんなことをおっしゃったらハーメルン様を敵に回してしまいますよ?」

 「僕にはわからないよ。もうじきに夜も明ける。夢はもう終わりだ。君が書きつづけたしょぼい夢も終わりが来るときだろう?」

 「………わかりません。私には自分がわかりません。もうすぐ終わると思いたいですが………人は幾度も夢を見ます。明日に今日見た夢の続きを見ないとは限りません。」

 「終わると明言しないのかい!?………君は僕以上に図々しい人間なんだね。僕も君のその図々しさには頭が下がる思いだよ。」

 

 ◆◆◆

 

 「これは………ソードアート○ンラインの世界か。」

 

 俺の名前はHACHIMAN。あらゆるものを救いつづけてきた英雄だと呼ばれている。ずいぶんと大仰だとおもわねぇか?

 何?話し方が違う?俺ぁあくまでもHACHIMANだぜ?

 俺の名前はローマ字だ。そこんとこ、絶対に間違えちゃあいけねぇぜ?

 

 俺は今、ダンマチという世界の連合という組織で武門の講師を生業としている。

 

 そして、その傍らで時折人命救助活動を行っている。

 これは俺がやりたいからやってんだ。あくまでもただの趣味に過ぎねぇ。決していい人だなんておかしな勘違いすんじゃあねぇぞ?

 まあ人間なんてのは本当は一方的に助けるんじゃなくて助け合うのが理想なんだがな。俺はこんなんわけがわからないほど強くなっちまったから助けを受ける意味がねぇんだよな。仕方ねぇか。

 今日は、ソードアート○ンラインの世界から助けを呼ぶ声が聞こえた。おそらくディアベルだろう。やれやれだぜ。あいつはどの世界(SS)でもかわんねぇな。

 

 「おい、あんまり勝手なことすんなよ。命がかかってるんだぜ?キチンと考えな。」

 「キ、キミは!?」

 「名乗るほどのもんじゃねぇさ。そんなことより、お前にゃ人の上に立つ才能があるんだからもうちょっと人の輪を大切にしてうまくやんな。」

 「あ、ああ。済まない………。」

 

 救出完了だ。ヤレヤレだぜ。

 

 ◇◇◇

 

 ふああ、眠い。昨日はわざわざ過去のブリテンまで行ってアルトリアとか言う小柄な女を助けてきたからちょっと睡眠時間が足りてねェな。結構な時間がかかっちまった。本来ならば俺の信念で死人を助けたりはしないんだが、カロンのせいで運命がネジ曲がっちまったからな。今回だけは特別だ。

 

 「大変です!」

 「うん?どうしたんだ?」

 「それが………」

 「なるほどな。」

 

 どうやら今日、組織の旧最高責任者のカロンがFateの世界に巻き込まれたらしい。組織の現最高責任者のベルが俺に伝えに来た。

 ま、あいつは美人の妻をもらってることだしこんくらいの災難ならちょうどいいだろ。

 うん?助けに行かないのかって?

 

 問題ねぇよ。俺はあいつを案外買ってるんだぜ?

 

 あいつは俺には無い力を持っている。

 ある点に於いては俺が足元にも及ばない力を持ってるんだ。知らなかったのか?

 

 それはなんだって?

 ああ、思い出してみな。あいつは笑顔の英雄だぜ?あいつはいつも笑顔だ。あいつは笑顔を力に変える。

 

 それはつまりあいつはギャグの力を持っているということだ。ギャグはいつだって人を笑顔にする。

 

 Fate編を思い出してみな。

 

 何?時間的におかしい?カロンがFateに巻き込まれたばっかのはずで言ってることがおかしい?アルトリアを助けた後のはずなのにイロイロおかしい?

 

 ふ、俺はHACHIMANだぜ?俺にとっちゃあ時間軸を移動することなんざ朝飯前さ。第一誰かにゃ時系列という概念が存在しないと以前明言しただろ?

 

 まあ話を戻すが、俺が仮にFate編に行ったとしても、せいぜい力ずくで悪役のギルガメッシュを倒すことくらいしか出来ねぇ。

 

 ………だがあいつなら何とギルガメッシュをギャグキャラにすることだって出来るんだ。

 

 すげえと思わねぇか?

 あのギルガメッシュが人のよいおじいちゃんだったとしても、所詮拙作はギャグだから仕方ないで許されてしまうんだぜ?

 

 んで見ろよ。ギルガメッシュが人のよいおじいちゃんだから、結果としてFate本編で救われないはずの教会で監禁されていた子供達も結局ギルガメッシュに助けられてるんだぜ?

 俺にだって子供を生かすことくらいは出来たかも知れねぇが………でも酷い目にあった記憶は………消せるかもしんねぇが………まあしょせんは邪道だろ?王道にゃかなわねぇよ。

 

 まあつまり。ってなわけで俺はこれでもあいつにゃ結構な敬意を払ってんだぜ?俺だってギャグに巻き込まれてしまったらどうなるかちょっとわかんねぇ。あん?俺もギャグキャラだって?冗談言ってんじゃねぇよ。俺は皆のHACHIMANだぜ?

 

 まあつまり実はあいつは恐ろしい男なんだよ。リア充なのはすげぇムカつくが………。

 

 うん?また誰か俺を呼んでるな。これは………ワ○ピースの世界か。超大物じゃねぇか。この雰囲気はエースか?なら頂上な感じの戦争だな。

 ちとでかい戦いになるか。万全な用意をして行かなきゃなんねぇな。時間もかかるかもしんねぇし道場には休暇申請していくか。

 

 ◇◇◇

 

 俺はHACHIMAN、あらゆる問題を解決してきたと言われる男だ。

 

 「HACHIMAN様、今日はあなた様にお願いがあって参りました。あなた様の手助けをお願いしてもよろしいでしょうか?」

 「リリ先生か。あなたにゃ世話になってる。あなたには敵わないから何でも好きに言ってくれよ。」

 「桜様という方の心臓に悪い生き物が宿っているんです。是非あなた様のお力をお借りしたく参りました。」

 「ああ、了解だ。その桜ってのにゃ少しだけ痛い思いをさせるかもしんねぇが、やってやるよ。」

 

 ◇◇◇

 

 今日助けた桜って女は綺麗だったな。

 物腰も柔らかくて大和撫子って感じだったし。ついでに御馳走になった料理も美味かった。

 今度お礼に一緒に出かける約束もしたし。

 何でも憧れの先輩が姉と付き合っているので傷心中だって言ってたしな。

 ………もしかして俺にも春がくんのか?デュフフ。←笑い声です

 

 

 

 そう、誰かは謎のカップルを成立させるのが得意技なのである。




終わりのないのが終わり、それがゴールド・エクスペリエンス・レクイエムっっ!!

ごめんなさい。ぶっちゃけ作者にもなぜつい書いてしまったのか、自分が全くわかりません。

もうすぐ終わります。おそらく10月中には。


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火を司る気がする鳥っぽい存在

 ー私はこの星のありとあらゆる生命を見守り続けてきましたー

 

 ◇◇◇

 

 始めまして、皆様。私は今上空より新たにこの地に繁栄しつつある連合という組織の視察に来ています。

 これは私のお仕事のようなものです。

 

 お前は誰だ?ふふん、私を知らないのですか?

 

 私の名前はオオトリ、名前からどのような存在かご想像がおつきになる方も多いのではないでしょうか?

 

 そう、私はかの偉大な漫画の神様が創造なされた、生命を司るっぽい火の属性を持っているであろうお鳥様の見た目をしたナニカの親戚的な存在のような雰囲気なのです!インテリジェントデザイン論の神様のような存在だと説明すればわかりやすいでしょうか?

 私は不死にて永く生命の繁栄を見続けてきました。命は力強く巡ります。

 私にとっては生きとし生けるもの全て、私の子供のようなものです。

 

 私は今日は新たに繁栄している連合という組織の視察に来ていました。

 上空をいつまでも羽ばたくのは疲れるので、連合の屋上で羽を休めていました。

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン、ただのカロン。

 俺は今日は仕事だった。仕事が終わって帰り道、夜の空をまばゆく煌めく物体が飛んでいるのを見てしまった!ついに見てしまったんだ!

 ………まさかUFOか!?胸の高鳴りが止まらない!オラ、ワクワクすっぞ!

 俺は奴を追いかけてひたすら走る!

 未確認飛行物体は連合の屋上の方へと飛んでいくのを俺は見ていた。

 

 ………宇宙人との戦いは近い!

 

 ◇◇◇

 

 俺は連合にたどり着き、屋上へと向かう。

 俺はそっと屋上のドアを開けて様子を見る。

 屋上の一角に、眩しく光る何物かが存在する!うーん、UFOだけでなく宇宙人自体も眩しく輝いているということなのだろうか?

 俺は音を立てないように、相手に気付かれないように後ろからそっと近づく。まだ気付かれていない。まだだ、焦るな俺!まだもう少し、もう少しだ!後ちょっと………今だ!

 

 ◇◇◇

 

 ーー何事ですか!?

 

 私の後ろから何者かが組み付いて来ます!完璧に油断していました。まさか何者かに姿を見られていたとは!?私を捕まえようとしているということは、さては私の不老不死の血が目的なのでしょう。私の血を目当てに襲ってくる相手なんか今までいくらでもいました。今回もあしらってくれましょう!くらえっ!!

 

 「あちっ!!」

 

 体温を上げたら、相手は驚いて離れました。青い目の大男です。私を捕まえようなどと百年早いわ!

 ふむ、見たところステータスもないただの人間のようですね。相手はジリジリ近づいてきます。ならば少しお灸を据えてあげましょうか?

 相手は飛び掛かってきます。

 

 ーー喰らいなさい!鳳皇火焔旋風!

 

 「ぐおっ!あちちっ!!」

 

 鳳皇火焔旋風、その名の通り、羽から出した炎の風で相手を燃やす必殺技です!

 相手は顔を歪めながらもこちらへと向かってきます。

 ふむ、これを耐えるとはなかなかやりますね。ならばこれはどうですか!

 

 ーー不死超炎渦潮!

 

 「ぐ、ぐあああっっ!!くそっ、負けない!」

 

 不死超炎渦潮、やはりその名の通り、先程よりも強い炎で風の渦を作り、相手を燃やす必殺技です!

 ふむ、私としたことがただの人間に少し大人気なかったようですね。これぐらいで許してあげましょうか?

 

 「カロン、大丈夫ですか!!」

 「リュー!?どうしてここに?」

 「あなたは頻繁に一人で勝手にふらふらとどこかに行ったりしますからね。私だけ一人で置いていかれるのが寂しいというわけでは絶対にありませんが、リリルカさんに相談したら私の為に発信器というものを開発してくれたんです!あなたの靴にこっそりしこんであります。まあそれはともかく………」

 「発信器!?ちょっと待てい!!」

 「カロン!今はそんな場合ではありません!」

 

 ………発信器?それってストーカーなのでは?

 それはともかく屋上のドアを開けて新しい人間があらわれます。彼女は私をにくい敵を見る目で見ています。

 ふむ、彼女は大男より少しやりそうですね?まあ少し遊んであげましょうか?

 

 ーー喰らいなさい!フェニック………

 

 「遅いですね。」

 

 !?何が??

 ………見えなかった。気付いたら相手の姿はなく、私の首が絞められています。こ、これはまずいです。首を絞められて落とされてしまいます。

 

 「カロン、捕まえました。何か変な鳥ですね。少し熱いです。」

 

 へ、変な!?生命を司る私を変なもの扱い!?それより少し熱いって………今の私の体温は1000℃を超えているはずなのですが?普通は火だるまになってしかるべきなのですが?

 

 「鳥か。ならば鳥型宇宙人か。新しいな。」

 「いえ、確かに眩しいですが多分ただの鳥ですよ?せっかくですし私の超得意なお料理の腕の見せ所です!家で捌いてあげましょう!今日の晩御飯はから揚げです!」

 

 ………から揚げ?私は死んでも再び火の中やマグマからであれば甦れますが………油はまだ試したことがありません。………仮に甦れても体が油でギトギトでしょうし、どうせまた捕まるのが関の山です。

 

 「………いや、ならば俺がやるよ。………リュー、お前はもう料理を得意だと言い張るのはやめた方がいいと思うぞ?」

 【ま、待ってください!】

 「「しゃべった!?」」

 【わ、私は死ぬわけにはいかないのです!生き血を差し上げますので、どうか見逃してください!】

 「うーん、しかし生きるためには食べる必用があるんだが………お前だけ特別扱いするのもおかしいだろ?第一お前の生き血をもらったとして、何になるんだ?」

 

 大男がしゃべります。大男は何か考えています。

 

 【私の生き血を飲めば不老不死になれます。それを差し上げますからどうか………】

 「ふむ、つまりお前はそんな立派な見た目にも関わらずゾンビウィルス的なものを持っているということか?」

 【ゾゾゾゾンビウィルス!?超越存在の私になんてことを言うのですか!?】

 「しかし超越存在と言ってもオラリオにはそこら中に神がたくさんいるぞ?まだ野良猫の方が珍しいくらいだろ?」

 【………まあ確かにそれはその通りですが。それよりどうか見逃していただけませんでしょうか?】

 「カロン、どうしますか?」

 

 女性がしゃべります。彼女の口ぶりからすると、どうやら私の命は大男が握っているみたいです。

 

 「そうだなあ………こいつ知性が高いみたいだし確かに食べるのも憚れるんだよなぁ………ゾンビウィルス持ちらしいし。」

 

 だからゾンビウィルスではないと………それで助かるならもうゾンビでもいいような気がしてきました。

 

 「そういえば連合にはペットがいないんだよな。ベートは外部の人間だし、リリルカもあまりに有能過ぎてマスコットとは掛け離れてきたし。」

 

 ぺぺぺペット!?生命を司る私がペット!?

 

 「巨大な組織にはそれを象徴するマスコットが必用だしな。よし、それじゃあ今日からお前の名前はペスだ。」

 

 ◇◇◇

 

 「でですね、ペス。アポロン連中がまた変な問題を起こしたんですよ。それでまた私の休みが減ってしまったんです。」

 【………………】

 

 ◇◇◇

 

 ー私はこの星のありとあらゆる生命を見続けてきましたー

 

 お前は誰だ?ふふん、私の名前はペスです。

 

 「プークスクスクス。よう、ペス。元気そうだな。」

 

 ………彼の名前はHACHIMAN、私と同じように超越存在です。ちょっとした顔見知りです。

 今は夜半で、私は誰もいない時間にこっそり鳥かごを抜け出して羽を伸ばしています。

 

 【………うるさいですね。】

 「新しい家の住み心地はどうだ?」

 

 私の新しい住家は、連合内の副団長室のペスという表札の書かれた鳥かごになってしまいました。

 ………いつでも逃げられるのですが、命を見逃してもらいましたし、副団長のアスフィさんという方の苦労話を一方的に聞かされてしまって………なんか不憫で逃げる気がなくなってしまいました。彼女には私が喋れることを伝えていないはずなのですが………彼女はよほど苦労なされているのでしょう。私にしょっちゅう愚痴をおっしゃります。

 

 ………アスフィさんの話を聞いてしまった時点で私はペスとして生きることが決まりました。私の新しい仕事はアスフィさんの息抜きとして苦労話を聞いてさしあげることです。

 HACHIMANはしょっちゅう私を冷やかしにやって来ます。

 

 「それにしても不老不死で生命を司るお前をゾンビ扱いって!!」

 

 HACHIMANは笑い転げています。腹立つ。

 私の住家にはゾンビウィルスを持っているから扱い注意の警告が書かれています。腹立つ。

 

 【いいんですよ!私の仕事は生命を見続けることです!私は新しい命の偵察をしてるんです!】

 「無理wwww」

 

 ムカつく!

 

 【さっさと寝ろ!】

 「はいはい、じゃあお休みペス。」

 

 ムカつく!

 

 ◇◇◇

 

 ー私はペス。私は連合のマスコット兼ペットとして、永く副団長の苦労話をお聞きして心労を慮り続けてきましたー

 

 ………私が見守らなくとも、生命は力強く生き続けています。アスフィさんは私を大切にしてくださいますし、なんか段々と私はペットのペスでも問題ない気がしてきました。

 

 ………それはともかく、大男につけてある発信器云々は結局どうなったんでしょうか?




カロンに発信器はついたままです。
それと日本では許可なく野鳥を捕獲したりしたらダメ、絶対!


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ありのまま

 ーー面倒なことになった。非常に面倒だ………

 

 俺はカロン、例によって例のごとくただのカロンだ。

 俺は今オラリオの町並みを思い悩んで歩いている。どうしたものか………

 

 今日、俺は仕事はお休みなのだが、俺はリューに今日は仕事があると嘘をついて家を出てきてしまった。どうしよう………。

 

 それというのも、今日の朝俺が家で起きたら俺のベッドの側でリューがニコニコした笑顔で『私のどこが好きで結婚したんですか?』と聞いてきたのだ。

 ………俺は俺の意思を無視して勝手に結婚式を挙げられてしまったのだが………リューを怒らせるのが怖くて何も言えなかった。それに良く考えたら、ベルの結婚式を勝手に挙げた俺がどの口で言えようか?そしてその代わりにつっかえつっかえようやく口から出てきたのが『そういえば今日俺仕事があるんだった。』だ。まあいわゆる逃避だな。

 

 今日は一日休みだと期待していたリューはひどく落ち込んでいた。なんか悪いことしたな。

 それはともかく、真に困ったのはリューのどこが好きで結婚したのかという質問だ。

 リューには良いところがたくさんある。あるのだが、言葉にしようとするとなると………。なんか困った事態になりそうな感じなのだ。

 例えば真面目なところとか一生懸命なところとか言ってしまうと、さらに真面目で一生懸命になろうとして明後日の努力を行いそうな気がする。リューが一生懸命役に立とうとするほど、マイナスの事態を引き起こすのはもはや周知の事実だ。そして真面目な分余計にタチが悪い。被害が俺だけならまだ何とでも出来るんだが、連合にまでまた迷惑をかけてしまうかも知れないと考えると………。

 

 他に良いところ………。たくさんある。リューにはよいところがたくさんあるのだ!決して思い付かないわけではない。俺はリューの良いところをわかっている!そう!たくさんある………はずなんだ。

 

 ………とりあえず誰かに相談してみるか。

 

 ◇◇◇

 

 「と、いうわけなんだよ。九魔姫(リヴェリア)はどうなんだ?」

 

 とりあえず俺はガネーシャのところに相談に来ていた。ガネーシャは例によって例のごとく、俺の質問に『俺は、ネオガネーシャだっっ!!』としか答えなかった。もしかしてガネーシャ、照れていたのだろうか?ネオガネーシャって何なんだろう?

 代わりに妻の九魔姫に試しにネオガネーシャの好きなところを聞いてみた。参考にさせてもらおう。

 

 「ふむ、フッフッフッフ。」

 

 なんか九魔姫ニヤニヤしてるな。キャラ違うくないか?

 

 「よくぞ聞いてくれた!フッフッフッフ、この時を待っていた!私はずっとこの時を待っていたんだ!」

 

 なんか九魔姫すごい嬉しそうなのだが、大丈夫なのかな?

 

 「フッフッフッフ。最近は誰も聞いてくれなくてな。私も話す相手を探していた!ガネーシャにはよいところがたくさんある!たくさんあるのだ!ガネーシャのよいところ、1243!その一!まずは器が大きい。包容力があり、たくさんの人々に慕われている!」

 

 1243!?パッと思い付くだけでそんなにあるのか!?人間の煩悩の数ですら108個しかないというのにか!?こいつどんだけネオガネーシャが好きなんだ!?

 

 「その二、あのうっとおしさや暑苦しさが慣れて来ると癖になる!もはや今の私は一日十回はあの『俺がガネーシャだっっ!!』という発言を聞かないと禁断症状が出てしまう。まるで陽気な太陽のように明るい男神だっっ!!」

 

 さっそくおかしくなってきたな………。禁断症状?あいつ今は自分ではネオガネーシャだと言ってたぞ?

 

 「その三、さらに照れ屋でもあり、私を大切にしてくれる!人々のことを大切に考える実は真面目なところもギャップ萌えだ!さらに………

 

 そのあとも延々と九魔姫の独演会は続いていく。ネオガネーシャは早い段階で顔を赤くして逃げて行った。聞きはじめてからもう二時間は経過してるぞ?

 ………なるほど。人の惚気を延々と聞かされるとこんなにやるせない気持ちになるのか。気をつけよう。俺はさっさと帰りたかったが、急に遊びに来た俺を持て成してくれる神友夫妻の気分は害したくない。

 俺は興味のないお経を延々と聞かされる気分だったが、ひたすら我慢した。

 

 あまりに参考にならない内容だったため、俺は途中から何しに来たのか忘れ果てていた。

 ………よくよく後で考えてみれば、ネオガネーシャとリューに共通点があるとも考えづらい。

 とりあえず俺は何しに来たのかを忘れたまま、無駄な二時間以上が過ぎていった。そろそろ限界だ。眠たくなってきた。

 

 「………九魔姫、わかったよ。俺もそろそろ時間がないから、さ?」

 「ふう、まだ語りたいことの三分の一も話していないのだがな?まあ良い。また聞きたくなったらいつでも来い!」

 

 三分の一!?こいつつまり6時間以上語りつづけるつもりだったのか!?

 九魔姫は気分的になんかツヤツヤしてる気がする。さぞや楽しかったのだろう。俺には苦行の二時間だった。これはまあ誰も聞きたがらないだろうな。

 

 うん、もう二度と聞かない。

 

 ◇◇◇

 

 「と、言うわけで次はお前に聞きに来たのだ。」

 「なるほど。わかりました。」

 

 俺は次はベルに聞きに来ていた。ベルの妻はご存知ヘスティアだ。

 

 「そうですね。彼女は包容力があります。」

 

 包容力?あいつ俺の前では一切包容力を発揮してないぞ?ダメなところしか見たことないぞ?

 

 「………胸の話か?」

 「い、いえいえ!違いますよ!性格的な話です!」

 「嘘つけ!俺はあいつが包容力があるところを見たことないぞ?さてはお前、巨乳自慢か?」

 「いえ、決して!」

 「絶対か?俺は一般的な話をしてるんだぞ?ヘスティアはお前にだけ包容力があるんじゃないか?試しに他の人間にも聞いてみるか?」

 「………多分、おそらく包容力がある気がするようなしないような。」

 「ふむ、なるほど。そもそもヘスティアには良いところが存在しなかったか。これは宛てにならんな。次は誰に聞いてみようか?」

 「そんな………。」

 

 ベルはがっくりうなだれている。ふむ、少し言い過ぎたかな?

 

 「ベル、落ち込むことはない。良く考えれば確かにお前の言う通り、巨乳はヘスティアの良いところだ。」

 「巨乳だけ………。」

 

 余計に落ち込んでしまった。まあ俺は俺の危機を乗り越えねばならんからな。いつまでもベルと話す時間はない。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで、ペスはどう思う?」

 【私に聞かれましても………第一私はあの人に絞められて唐揚げにされかけたのですよ?】

 

 私はペス。私は連合の公認マスコット。私のお仕事は他人の愚痴を聞くことです。

 

 「そうか。お前は生命を見守り続けたといっていたから頼りになるかと思ったんだがな。リリルカは仕事で忙しいし。」

 【まあそうは言ってもホラ、私結局、鳥のような見た目ですし、人間の機微を聞かれても困ります。】

 「まあそうか。聞いてもらって済まないな。」

 【ふむ、しかしその考えは有りなのかも知れませんね。】

 「どういうことだ?」 

 【一番近くにいるはずの人間であるあなたが答えに窮すると言うのならば、いっそのこと人外にアドバイスを乞うという考え方です。】

 「ふむ、なるほど。確かに連合内には人外もいるしな。」

 【私はそろそろアスフィさんが帰ってくる時間ですので副団長室に帰らねばなりません。私がいないとなったら、アスフィさんの胃が持たないかも知れませんから。私はアスフィさんのご心痛を癒さねばなりません!】

 

 確かこいつ自称超越存在だったはずなのだが、何だかペットとしての自覚が出てきてしまってるな。

 

 ◇◇◇

 

 「というわけで、次はお前に聞きに来たんだ。」

 「なぜに俺ッチ!?」

 「いや、人間のアドバイザーが頼りにならないからさ。」

 

 よう、みんな。俺ッチはリドだ。連合の魔物達の取り纏め役だ。カロンさんとはそこそこ親交がある。俺ッチ達はカロンさんには恩があるため、助けになれるものならなりたいが………。

 

 「と、いうわけでリューの良いところは何だと思う?」

 

 ………そんなこと俺ッチに聞かれても………一番近くにいるカロンさんにわからないことが俺ッチにわかるわけないだろ?

 

 「………俺ッチは結婚してないからわからないですぜ。結婚してるタケミカヅチッチとかに聞いてみたらどうですかい?」

 「タケミカヅチッチは語呂が悪いな。まあともかく、あいつらは二人でいるとバカップルだから聞きに行きたくないんだよ。ただでさえ、九魔姫の惚気を聞かされてSAN値が下がってるって言うのに………。」

 「そんなこと言われましても………。」

 「グオオオオオ!!」

 「「バーサーカー(ッチ)!」」

 

 バーサーカーッチが突然俺ッチ達の話に割り込んできた。何か言いたいことがあるのか?

 

 「そうね。バーサーカーはこう言っているわ。ありのままの感情を伝えれば良いんだ、って。」

 「イリヤ!」

 「私もそう思うわ。飾らずにありのままのパパの感情をママに伝えれば良いんじゃないかしら?」

 

 義理の娘と理性のない人間に諭されてしまった。

 ふむ、しかし確かにありのままを伝えるのが一番誠意があるのかも知れない。

 目から鱗の金言を得た俺は家路へと着く。

 

 ◇◇◇

 

 「ただいま。」

 「お帰りなさい、あなた。」

 

 俺は正直な話をすることに決めた。

 

 「………リュー、済まない。俺は今日仕事だとつい嘘をついてしまった。」

 「知ってますよ。あなたの靴の裏には発信器が付いてるのを忘れたのですか?私はあなたが今日どこに行ったのかも知ってます。」

 「………そういえばそのことをすっかり忘れていた。発信器、外してくれないか?」

 「絶対に嫌です。」

 

 ふふふ。私はいい女、リュー・リオンです。

 彼にはいつも結構私のために時間を使ってもらってますからね。たまには自由にさせてあげないと鬱憤が溜まるでしょう。そう、私は男を追い詰めないいい女なのです!

 ふふふ、さあこれで皆も私の良いところがわかったでしょう!

 そうです、私は多分オラリオ一のいい女なのです!

 発信器は絶対に外しませんけど。

 

 「ところであなた、私のどこが好きで結婚したんですか。」

 「ああ、その話の続きか。」

 

 ふっふっふ。さあ、私をいい女だと言うのです!ベタ惚れるのです!のろけるのです!私しかいないとそう理解するのです!

 ………何だったら私のことを心の底から愛していると気付いてしまってもいいんですよ?うふふ。

 さあ、私たちの心が深く繋がっているということを読者様方に示して見せるのです!

 

 「ああ。今日一日考えてみてわかったよ。俺はリューにはいつも力わざが必要な局面で助けられている。脳筋は案外、イロイロな役に立つんだな。」

 「………は?」

 

 

 俺はカロン。どうやら俺は久しぶりにやらかしてしまったらしい。

 リューは久々の般若顔と共に奥からいつも俺を簀巻きにしていた荒縄を持ち出してきた。ステータスが無くなってからは簀巻きにされることはなかったんだが………よくわからんが今回はそれだけ腹が立ったのだろう。仕方ない。ならば甘んじて受けようか?

 

 俺は今日一つ世の中の真理を学んだ。大人の階段を上った。俺から皆に一つだけ言えることは、誠意を持ってありのままの感情を伝えても物事がうまくいくとは限らないことだな。少なくとも俺はありのままの感情を伝えたら簀巻きにされてしまうみたいだ。道理で世の中から嘘が無くならないわけだ。

 神々の嘘がわかるという能力も良し悪しで、もしかしてあいつらも苦労してるのかも知れないな。俺は少しだけあいつらと気持ちが通じた気がした。

 

 さて、ステータスがあった時より手加減してくれると助かるけどな?でもリューのお仕置きはいつも悪い方に期待を裏切るんだよな。俺も我慢せずに悲鳴とかをあげたが良いのかな?でもリュー、そしたら逆に喜びそうな気もするんだよな。

 

 もちろん呑気に考えているように思えるだろうけど、これはただの現実逃避だ。………これから起こることを考えたくないんだ。

 頼む!………誰か助けてくれ。



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夜泣きババアの怪

 ーーまずいことになったな。

 

 ここはオラリオの広場前、俺はカロン。俺は今ベートと顔を見合わせている。ベートは怒っているようだ。ふむ、まあ俺のせいだから仕方ないか。

 

 「………テメェに関わると本当にろくなことがねぇな。」

 「………本当にスマン。」

 

 俺は今珍しく緊張している。ベートも緊張している。そして俺は後悔している。

 俺は間違えた。間違えてしまったんだ。俺の軽はずみな一言がまさかこんな非常事態を招きつつあるなんて………。

 

 「………………。」

 「………………。」

 「ふん、小娘風情がちょっと褒められたからって調子に乗ってますね。」

 「おばさんは、歳だから綺麗だとか言われたことないんだ?」

 「アァン!?」

 「文句あんの?」

 

 そう、このあからさまにチンピラな感じの二人は何とリューとアイズなのだ。

 二人は二人ともオラリオに四人しか存在しないレベル7。しかもその中でも実力が近く、互いにアイドルでもある。つまりはライバルなのだ!

 

 いや、これほんとマジでシャレにならんぞ?広場でレベル7が二人も暴れたりしてしまったらここら一帯更地になってしまう。さらに二人とも風の魔法が使えるために、オラリオでは文字通り嵐が吹き荒れ、バベルは揺れて、フレイヤはカミナリ様を恐れておへそを隠すことになるだろう。

 ………二人に分別があると信じたい。

 ………ほんとに俺はなんて軽はずみなことを言ってしまったんだ。

 

 ~~~カロンの回想~~~

 

 「カロン、今日はどこに連れていってくれますか?」

 「今日はこの間の穴埋めだからな。リューが行きたい所とかあるか?」

 「どこでも構いませんよ。」

 「じゃあ街を見て回るか。」

 

 ◇◇◇

 

 「これがじゃが丸君だ。これはアイズの好物なんだ。」

 「ヴァレンシュタインさん?私と二人でいるのに他の女の話をするのですか!?」

 「ああ、いやスマン。」

 「まったく!」

 「うん?あれはアイズとベートだな。」

 

 「じゃが丸君、売り切れ………。」

 

 「おお、久しぶりだなアイズ、ベート。」

 「ヴァレンシュタインさん、ローガさん。」

 「カロンとリューさん。久しぶり。」

 「………久しぶりだ。」

 「売り切れか。よかったら俺の分食うか?アイズは会うのは久々だが大人びて綺麗になったな。」

 「ありがとう。」

 「ちょっとカロン、私は綺麗だとか言ってもらったことありませんが?」

 「ああ、スマン。リューはいつも見てるからついな。もう見飽きてきたくらいだよ。」

 「ちょテメェバカか!!」

 「は?」

 

 ~~~カロンの回想~~~

 

 俺には女心はわからん。しかし少なくともリューには見飽きてきたはNGだったようだ。

 そのあとリューは腹を立てたのか俺に怒り、アイズに冷たくあたった。アイズもアイズで歯に衣を着せない人間だから、気付いたときには広場からはじゃが丸君の屋台すら避難し、暴風雨が吹き荒れそうな気配を醸していた。今の広場には人間は当人達を除けば俺とベートしかいない。

 

 「カロンの良さがわからない小娘が!」

 「どちらかというとベートさんの方がまだいい男。」

 「所詮犬ころ風情です!」

 「あのでくの坊よりはマシ。」

 

 ………でくの坊か。ふむ、もともと俺のせいだし受け入れよう。

 ベートも切ない目をしている。雨に打たれる子犬みたいだ。少し庇護欲がそそられる。牛乳とかを思わず与えたくなってしまう。

 しかしそれは置いといて、これはどうやって止めればいいのか?

 

 「私より弱いくせに何をいうのですか?男に見え見えの媚びを売るクソビッチが!」

 「私の方が強いし。それにエルフじゃなかったらとっくに嫁き遅れてるくっさい脳筋よりはマシ。」

 

 いや、本当にどうするんだこれ?二人のファンがこんな所を見たら絶対に壊れた幻想(ブロークンファンタズム)だぞ?我が骨子はショックのあまり捻れ狂うぞ?俺に止められるのか?何かどんどん言葉が汚くなってないか?

 ベート、凄いガッカリしてる。俺はこいつの夢を壊してしまったんだろうか?

 

 「ピーーーーーーーーー

 「ピーーーーーーーーー

 

 ふむ、ついに二人のイメージを壊さないために規制音まで入ってしまったか。

 掴みかかる寸前だし、俺もそろそろ覚悟を決めようか。

 

 「二人ともやめてくれ。俺が悪かった。謝るから何とか怒りを納めてくれないか。」

 「「いや(です)。」」

 「なあ、頼むよ。リューはとても綺麗だし、アイズも美しくなったからさ。俺が勘違いしてたんだよ。」

 「いまさらですか?見飽きていた私に?」

 「とても綺麗だよ!なあベート。」

 「オ、オウ。」

 「ベートさん、そんな年増が私より綺麗だとでもいうの?」

 「い、いやっ、アイズの方が綺麗に決まってるだろ!」

 「リ、リュー、落ち着け!ベートはあんなこと言ってるけど俺はお前の方が綺麗だと思ってるから、さ。」

 「本当ですか?私の方が若いですか?」

 「もちろんだよ。お前の方が若くて綺麗に決まってるさ。」

 

 ふう、何とか落ち着いたか。

 

 「ふう、テメェ本当にいい加減にしろよ?」

 「ああ、スマン。今度からキチンと気を遣って嘘をつくことにするよ。」

 「おい!!バカ!!」

 「は?」

 

 ………どうやら俺は聖杯戦争でマスターにウッカリを移されたままだったらしい。つい馬鹿正直に気を遣って嘘をつくなどと言ってしまった。また喧嘩が振り返すのだろうか?

 

 「………良く考えたらそもそもカロンがおかしなことを口走ったせいで喧嘩になったんですよね?」

 「うん。私たちが喧嘩する意味、なかった。」

 「ああ、その通りだ。おかげで俺はとんだとばっちりだ。」

 

 俺はカロン、一般人だ。

 俺はウッカリ自分の失言で二人のレベル7と一人のレベル6の怒りを買ってしまったようだ。一般人の俺が。どうしよう?こいつらが少し力を出せば、闘気的なサムシングだけで俺は消し飛んでしまうだろう。

 

 「俺はそいつと関わるとろくなことがねぇからもう帰りたいんだが、アイズはどうしたい?」

 「そうだね。帰ろうか、ベートさん。」

 「うふふ、それではカロンは私の独り占めということでいいのですね?」

 

 三人が一人に減った。………果たしてこれは助かったと言えるのだろうか?

 良く考えたらストッパーが二人減って、加減を知らない人間が残っただけなのではないのか?

 

 「うふふ、カロン。今からお家に帰って二人きりでタップリと女心のお勉強です。楽しみですね。」

 

 ………言葉は一見、そこまで怒ってないように思えるが、これは本気でまずい。何しろリューの表情筋が全く動いていない。ホラーだ。口元が動いていないのに、笑っている。恐すぎる。寒気しかしない。

 俺は体を担がれ、運ばれる。恥ずかしいとか言ってる場合ではない!誰か助けてくれ!

 

 「うふふふふ、カロンと二人きり。お勉強。うふふふふ。二人きり。」

 

 た、助けてくれええぇぇぇぇ!!!

 

 ◇◇◇

 

 家に着いた俺はあっさり解放される。?今回はお仕置きは無しなのか?どうしたというのだ?

 

 「リュー、どうしたんだ?」

 

 俺はおそるおそる聞いてみる。

 

 「ハァー、良く考えたらあなたは以前からそんな性格だったと思いましてね。あなたがそんな人間だと知ってて結婚した私が、ステータスのないあなたをいたぶるのは果たして正しいのかと思ってしまいましてね。」

 「俺は強制的に結婚させられたぞ?」

 「………別れたいですか?」

 「どうしたんだ?」

 「ちょっとした自己嫌悪です。別れたければ今日のうちです。明日からは絶対に逃がしません。ただし別れたら私は次の日からずっと泣いて暮らします!それはもう、盛大に泣きわめきます!未練がましくカロンの家の近くに引っ越してきて、夜眠れなくなるほどに、近隣から騒音の苦情が来るほどに、オラリオが水没するほどに泣きわめいてやります!そして気が向いたら勝手にあなたの家に鍵を壊して力尽くで侵入して、カーテンで鼻をかんで冷蔵庫の中身をやけ食いですべて食い尽くして食いカスを散らかして冷蔵庫を開けたままにして下着を盗んで帰ります!そしてあなたの下着と再婚します!!挙げ句にリリルカさんに土下座して頼み込んで大々的な結婚式の告知を行って、私の夫は下着だとオラリオ中に知らしめてやります!!!」

 「脅迫と嫌がらせとヤケクソじゃないか!?しかも内容がひど過ぎる!!アポロンでも多分そこまで考えないぞ!?自信満々にそれを言うのかよ!?」

 「さあ、返答やいかに!?」

 「俺が悪かったよ。俺が間違ってた。リューはとても綺麗だよ。でもとても綺麗にも関わらずそれを忘れてしまうくらい俺達はずっと一緒だったんだ。それで俺が言葉を間違えたんだ。俺が悪かったよ。」

 「………本当ですか?」

 「嘘じゃないさ。今から二人で一緒に女心の勉強をするんだろ?」

 「そういえばそうでしたね。しかし果たしてあなたに女心が理解できるのでしょうか?敵は強大ですよ?」

 「余裕さ。俺にかかれば女心なんか朝飯前さ。」

 「ビックリするくらい信用できない。」

 

 俺達は顔を見合わせて笑った。

 うん、俺の思慮のない言動が俺の大好きなリューを傷付けるのなら、そんな家族を傷付ける俺を俺は倒さないといけない。

 

 うん?………こんなに長く一緒にやってきたんだ。もうどうやっても嫌いになれるわけないだろ?

 正直に言ってやれ?嫌だよ恥ずかしい。

 これは断じて恋愛ではなくて、友愛だ!絶対にだ!

 ツンデレ?まさかそんなわけないだろう!俺は大男だぞ?大男がツンデレとか誰が得するんだ?

 

 ………まあともかく女心は俺が今まで戦ったどんな敵よりも強敵かも知れないが、まあしぶとく戦うしか俺には出来ないしな。

 さて、戦うとするか!それにしても今回の話のタイトル、ちょっとひど過ぎないか?

 リューは楽しそうにニヤニヤ笑う。

 

 「この勉強がうまくいったら、ご褒美に私のお料理を食べさせて差し上げましょう。」

 「やる気がごっそりなくなるから、冗談でもそれはやめてくれ。」




不法侵入、ダメ!絶対!
騒音もいけません。
 
なんかこのSS、犯罪だらけですね。


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リリルカと彼女の天敵

 こんにちは。いえ、こんばんはですね、皆様。リリはリリです。

 ここは連合の物作り部門です。

 

 リリは今日はここで、魔石を動力原にした魔動自転車と名付けたものの開発に携わっていました。以前から開発を行い、今日完成したところです。

 

 「これが新しく作り出したものか。」

 「面白いですね。」

 

 カロン様ご夫妻です。

 彼らは今日はお休みで、連合で働くリリの下へとお遊びにやってらっしゃいました。

 イリヤ様は今の時間、カロン様が異世界から持ち帰った学校という新たなる制度に通ってらっしゃいます。子供に教育を施していこうという試みです。

 お付きのセラ様とリズ様も、学校で教職を生業となさりました。

 

 「これを漕ぐのか?」

 「ええ、それはペダルというものです。それを漕げば前へと進みます。魔石の補助で脚力の弱いお年寄りにも使いやすい仕様となっています。」

 「ふむ。」

 

 カロン様は興味深そうに自転車を眺めてらっしゃいます。リュー様は何かうずうずしてらっしゃいます。

 なんだかんだでこの二人似てるんですよね。しかしリュー様はお加減をお知りになりません。レベル7が加減を考えずに漕いだらおそらく自転車がバラバラになってしまいます。

 

 「リュー様、ダメですよ?」

 「少しだけ………。」

 「ダメです!まだ誰も試していないために安全確認ができておりません。」

 「そうですか………。」

 

 リュー様はごまかすのが一番です。

 

 「じゃあリリルカが試すのか?」

 「ええ。リリが試した後はカロン様もお乗りになって構いませんよ。」

 「じゃあ私も………。」

 「ダメです。」

 「なぜですか!」

 「これは自転車というものなのですが、実はこの自転車は一般人専用なんです。ステータスを持つ人間が乗ると木っ端みじんに爆発してしまうのです。」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 「そんな!?リリルカさんもステータスを持っているはずじゃあ?」

 「リリはステータス封印薬でステータスを封印しています。」

 「じゃあ私も!」

 「リュー様、今ここにはリリ達三人がいますね?もし今ここに敵が来たら誰が戦うのですか?」

 「それは………。」

 「お分かりいただけましたね?」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 ◇◇◇

 

 リリ達三人はあのあと、自転車を格納庫からオラリオの市街地に持ち出してきました。

 道行く周りの方々が興味深そうに見てらっしゃいます。

 

 「リリルカ様だぜ。」

 「また何かすごいものを開発なされたらしい。」

 

 見てらっしゃいます。恥ずかしいですね。

 リリは自転車を試します。自転車に跨がります。

 

 「………………。」

 「リリルカ………。」

 「リリルカさん………。」

 

 これは………想定外ですね。

 カロン様とリュー様がいたたまれないものを見る目でこちらを見てらっしゃいます。

 周りにはたくさんの興味深そうにこちらを見る人々がいらっしゃいます。

 

 「………………。」

 「リリルカ………下りようぜ。」

 「リリルカさん………。」

 

 想定外です。自転車の規格は連合の一般人男性を想定して造られたものです。

 

 ………サドルに跨がったリリにはペダルまで足が届きません。足の長さが足りません。先ほどからリリの足は虚しく空を蹴りつづけています。

 ………まさかこんな単純な落とし穴に引っ掛かってしまうとは………。

 

 「………リリルカ、ドンマイ。」

 「リリルカさん………。」

 

 いっそ笑ってくださればまだリリには救われる道があるというのに………。

 しかし自転車は連合の新しい開発物です。このままというわけにはいきません。

 

 「………カロン様、リリの代わりに使用感レポートをお願いします。」

 「………ああ。」

 

 ◇◇◇

 

 「それでは漕ぐぞ。」

 

 今から自転車の使用を行います。緊張しますね。

 カロン様が漕がれます。リュー様が後ろの荷台に乗ってらっしゃいます。

 ………リリは、前方に付いているカゴにすっぽり納まっています。カロン様のカゴに乗ればいいという提案にリリはついつい乗ってしまいました。三角座りです。三角座りですっぽり納まってしまいました。何かいやにすっぽりなフィット感です。これは、もしかしなくても情けない格好なのではないのでしょうか?………何か犬や猫とかがこんな扱いを受けている気がします。

 ………リリは開発責任者です。責任者であるからには可能な限り自転車に関わるべきです。しかしこれは………。

 

 「うぐっ!」

 「どうしたのですか?カロン様?」

 

 カロン様がいきなり悲痛な声を上げます。どうしたというのでしょうか?

 

 「リュー!痛い!もっと優しく掴んでくれ!」

 「え、あ、ああ!すみません。」

 

 ああなるほど。

 後ろに乗ってカロン様の腰に手を回しているリュー様が力加減を間違えたのですね。

 ………しかし、これはまずい気がしますね。リュー様が本気でカロン様のお腹を抱きしめでもしたら中身が間違いなく出てしまいます。間違いなく規制がかかる事態になります。汚い噴水です。そしてそれは実際に高確率で起こりそうな気がします。

 

 「リュー様、申し訳ありませんが下りてください。」

 「ええ!?何でですか?」

 「今自転車から爆発しそうな気配を感じました。ステータスを持つ人間は、どうやら荷台に座るのもまずいようです。」

 「そんな………。」

 

 リュー様は適当にごまかすのが一番です。

 

 ◇◇◇

 

 今、リリ達三人はオラリオの郊外を走っています。あのあと話し合った結果、人が多いところで運用するのは危険だという結論に落ち着きました。

 過ぎ行く景色、リリはカゴに納まり、カロン様が漕いで、リュー様は隣を走ってらっしゃいます。

 なかなか悪くありませんね。しかし。

 

 「いくぞーーーっっ!!リリルカ様をお助けするのだーーっっ!!」

 

 「リュー様ーーっっ!!」

 

 これどうしましょうか?

 リリ達の背後には、今たくさんの人間が追っかけて来ています。

 彼らはおそらく二つのグループに別れるのでしょう。

 

 一つは、カロン様が連合をやめた後に入団したため、カロン様達を知らない方々。

 連合内にはカロン様の銅像もあるのですが、いきなり本人を見せてもなかなか気付かないものなのかも知れません。

 どうやら彼らはリリが得体の知れない乗り物で誘拐されていると勘違いしていて、助けだそうとしているようです。

 

 もう一つは、アポロン配下のリュー様ファンクラブですね。

 リュー様を見かけて追っかけてらっしゃるのでしょう。

 

 「なあ、リリルカ。これどうするんだ?」

 

 カロン様です。気付いたときには後ろの人数はすでにそれなりでした。

 

 「そうですね。とりあえずリュー様と別れてついて来る人数を減らすのが得策でしょうね。」

 「そんな!?私だけ仲間外れですか!?」

 

 時々忘れそうになりますが、リュー様は基本寂しがりなんですよね。

 それにしてもレベル7はさすがですね。もう一時間くらいはそれなりの速度で走りつづけているはずなのですが、息を全く切らしてらっしゃいません。

 まあ、それはともかくとして………。止まった方が良さそうな気がしますね。このままだとまた増えそうな予感があります。

 

 「蹴散らしてきます。」

 「ストップ、リュー、ストップ!あいつらは味方だろう?」

 「しかし鬱陶しいので………。」

 「確かに鬱陶しいが、Not暴力!そんなことよりとりあえずアポロンの部下達を引き離してくれよ。」

 「………嫌です。」

 

 そうこうしているうちにも追いかけている軍勢の人間は増えつつあります。

 ………どうしましょうか?

 

 「あなたたち、ストップです!」

 「「「「「「アスフィ副団長!」」」」」」

 

 アスフィ様がおいでなさりました。アスフィ様は軍勢の前に立ちはだかります。彼らはいきなり現れたアスフィ様に戸惑ってらっしゃいます。

 

 「し、しかしアスフィ様、リリルカ様が誘拐を………。」

 「すぐそこにリュー様が………。」

 「彼らは前大団長ご夫妻です。誘拐犯ではありません。今は家族の団欒をなさっているのです。それとアポロン連中は自重なさい。今日の仕事のノルマは終わったのですか!?」

 「「「「ごめんなさい。」」」」

 

 さすがアスフィ様です。下の人間をしっかりと引き締めてらっしゃいます。

 

 ◇◇◇

 

 「万能者、助かったよ。あいつら、どうすればいいか困っていたんだ。それよりお前はどうしてここにいるんだ?」

 「至急、統括役に確認していただきたいことがありまして探していたんです。それより………。」

 

 アスフィ様はリリの方をチラリと見ます。少し頬が引き攣ってらっしゃいます。

 ………笑って下さっても構いませんよ?リリも何だかおもしろくなってきました。

 

 「………統括役、あなたがそんな格好をしてしまっては威厳を損ねてしまうのでは?」

 「………そうですね。リリが浅慮でした。レポートも終了しましたし、本部に戻るとしましょうか。」

 

 指摘されてしまいましたし、いつまでもこのままというわけにはいきません。

 リリはカゴから下りて、下りて、下りて………………………抜けません。ええ。

 ………すっぽりです。完璧なまでにすっぽり納まってしまっています。

 

 「………抜けません。」

 「ブフゥッ!!」

 

 ………ついに真面目なアスフィ様を噴き出させてしまいました。

 まあですよね。これが他人事でしたらリリも噴き出さずにいられる自信がありませんし………。

 

 「俺が引っ張ってみるよ。」

 

 カロン様が引っ張ります。しかしリリの体はびくとも動きません。

 

 「失礼、それでは私が。」

 

 アスフィ様が引っ張ります。やっぱり抜けません。

 ………アスフィ様はレベル4でいらっしゃるはずなのですが………?

 

 「リリルカさん、それでは私が引き抜きましょう!」

 「いえ、結構です。」

 

 加減を知らないリュー様にお任せしたら、リリの上半身だけが………なんてグロいことになりかねません。とりあえずこのまま本部に戻りましょう。

 

 帰りの道をカロン様が再び漕ぎます。

 リリは人の多い帰りの道を、情けない姿を晒したまま進んでいきます。

 ………鬱です。

 

 ◇◇◇

 

 「それじゃリリルカ、俺達は帰るぞ。体に気をつけるんだぞ。」

 「はい。」

 

 あのあとリリ達は本部に戻りました。

 超絶フィットしていたリリの体は、困ったときのHACHIMAN様にお願いして取り出してもらいました。

 ………なんか自転車のカゴの部分に次元の狭間を発生させて体を移動させたのですが、そこまでする必要があったのでしょうか?

 よく考えたら、カゴの中で変身すれば抜けたのではないのでしょうか?

 

 リリは自転車を睨み付けます!

 

 リリはペダルに足が届かず、カゴに体を拘束されてしまいました。

 こいつはリリに恥を掻かせたにっくい相手です!リリはこいつのせいで散々な赤っ恥です!

 しかし………憎い相手のはずなのですが………開発するのにかかった苦労を思えば不思議とそこまで腹が立ちません。よく見ると愛らしいフォルムをしているようにも感じます。

 それに、生産が正式に決定すればこの憎い自転車はオラリオの人々の役に大いに立つ可能性が高いです。

 それを思えば………。

 

 仕方ありませんね。きっとこの自転車は開発責任者のリリに対して反抗期を迎えているのでしょう。

 ならばこそリリの腕の見せ所です!リリがこの自転車を責任をもって最後まで立派に育て上げて、人々の役に立つ存在になるようにして見せましょう!

 

 今日は生意気盛りの自転車に反抗されてしまいましたが、明日は何かいいことがありますかね?

 

 リリは明日の楽しみを想って、家路に着きます。

 今日の夕食当番はミーシェ様です。連合の食堂もいいですが、ミーシェ様のお料理も非常に美味しいです。

 ………強引にミーシェ様がルームシェアをすると言い張って住み着いてしまいましたが………まあ確かにお互いに助けられている点も多いですしね。気にしないでおきましょう。

 そういえば明日からはフレイヤ様のところへ出張ですね。

 ミーシェ様もガネーシャ様の所へと出張ですし、ヘスティア様が調子に乗らないといいですけど………。

 

 リリは街の明かりを見て、昔を想います。

 何も持たずに痩せたチビのリリは、運よく守護神に出会い、加護を授かり力を与えられました。

 

 しかし、今もどこかで守護神と行き交わなかったリリは心の中で泣いているのでしょうか?

 ………自転車を作り上げれば彼らはそれに乗って過酷な運命から逃げ出すことができるのでしょうか?

 ………自転車がソーマにいた頃にあれば、それに乗ってリリはどこか幸せな所に逃げ出すことが可能だったのでしょうか?

 ………いえ、どちらにしろリリはペダルまで足が届きませんでしたね。

 それに今があるならそれはそれでいい気もします。

 

 「リリお姉様、お帰りなさい。」

 「ただいま、帰りました。」

 

 さて、明日からは出張です。

 明日も朝から早いことですし、お食事をいただいて、今日は早めに休むとしましょうか。

 

 

 

 リリルカはその日、皆で自転車に乗って楽しく遠くへとお出かけする夢を見た。



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グラン・カジノをぶっつぶせ、鼻歌交じりバージョン

 ーーおかしなことになった………

 

 やあ、みんな!俺、カロン。若干現実逃避気味。

 ………これどうするんだ?

 俺はどうしていいのかわからない。リューも隣で右往左往。リリルカとイリヤは鼻歌交じり。

 ………これは一体どういうふうに収拾がつくんだ?

 

 ◇◇◇

 

 俺は今日の仕事がお休み。イリヤも学校がお休み。リリルカさえも珍しくお休みだ。リューは俺が頼み込んで万年休んでもらっている。じゃないと、他人の仕事が増える一方なのだ。

 俺は今日は、普段忙しくしているリリルカの為にお休みを使いたいと考えていた。リューとイリヤにも話して、四人で家族みんなでお出かけすることに決めていた。

 

 「リリルカ、せっかくのお休みだしみんなで一緒にお出かけしないか?」

 「ええ、リリはもちろん構いませんよ。」

 「普段お前は忙しいだろうし、お前が行きたいところとかないのか?」

 「そうですね。リリはグラン・カジノというところへと行ってみたいです。」

 「カジノ?子供が行く場所じゃあないぞ?」

 「カロン様、お忘れですか?リリは小人だし、イリヤ様もリリも幼く見えてももうそれなりの歳です。普段忙しいリリの為に、たまには羽目を外させてくれてもいいではないですか?」

 「うーん、そうか。まあそうだな。リリルカはしっかりした人間だし、そういうのならたまにはいいか。じゃあみんなでカジノに遊びに行ってみることにするか。」

 

 ◇◇◇

 

 「その程度のブラフの上乗せ(レイズ)でリリを降ろせるとお考えですか?ぬる過ぎますね。上乗せ(リレイズ)、3000。」

 

 鼻歌交じりにポーカーを嗜むリリルカの横には、山のように積まれたチップ。しかも増える一方。始めは少量のチップがやがて丘になり、さらには高原となり、気付いたら山になっていた。

 そうか。こうやって世界は成り立っているのか。まるで大自然の雄大さに触れているようだ………て、そんなわけないだろ!どうすんだよ?カジノの人間大慌てだぞ?

 俺達はオラリオの要人で、ここはカジノのVIPルーム。

 周りの金持ちの客達もあまりのチップ量に唖然としたまま成り行きを見守っている。

 

 リリルカはテキサスホールデムというゲームをやっていた。

 テキサスホールデムとは、簡単に説明するとプレーヤーに二枚の札が配られ、場に五枚の札が出されてポーカーの役を作り競い合うゲームである。敵プレーヤーからは自分の手札は見えないため、心理的な駆け引きがものを言うゲームである。

 

 リリルカがあまりにも強すぎるために、とうの昔にカジノ側の雇われプロが出張してきてしまっている。その雇われの人間も、先程から例外なく顔色を土気色にして交代しては去っていっている。強すぎるのだ。ただただ運で勝負するのではなく、時にはブラフでおろし、時には降りて最小限に被害を抑えて、時には煽って大勝負に乗せて、自在に戦いチップを荒稼ぎしているのだ。というか荒稼ぎという言葉では足りないな。根こそぎにしているのだ。恐ろしい。人の感情を自在に操ることが可能ならば、相手を自在に操り勝負の場に立たせたり、降ろしたい時に降ろさせたりも出来るのだろう。挙げ句の果てに、『まさか賭けとして成立しない嘘が見抜ける神を持ちだしたりはしませんよね?リリはグラン・カジノ様をそんなカジノだとオラリオに知らしめたくはありません。』だ。リリルカの発言力を考えれば、カジノ側の対応は詰んでいると言えるだろう。

 

 カジノ側も、負け額が既にあまりの額に上っているために収拾が着かなくなっているのだろう。いつまでもリリルカに居座られたら客足も遠退いてしまう。

 そして、言うまでもなくリリルカはオラリオの超重要人物だ。さらにここは公衆の面前、挙げ句にすぐ近くにはオラリオ最強クラスのリューが控えている。そうでなくともリリルカにはとても手を出すなどと考えられないだろう。なにせリリルカのバックにはオラリオレベル7の四人のうち猛者を除くアイズ、リュー、ベルががちがちの親派としてついている。アイズはリリルカの親友で、リューはリリルカの姉的な存在で、ベルはリリルカを他の誰よりも尊敬していると公言して憚らない。彼らはリリルカのためだったら平気で命懸けで戦う。残りの猛者も同盟仲間だ。

 カジノは出て行けとも、武力を行使することも出来ずにただただうろたえ負けつづけている。支配人が顔色を伺いにきても、『楽しく家族と一緒に息抜きをしているお客のリリの邪魔をしに来たのですか?』とけんもほろろだ。

 

 ちなみにイリヤはさっきから順調にブラックジャックでチップを減らしている。頻繁にリリルカにチップを貰っては負け続けているのだ。しかしその量は、カジノ側からすればリリルカの勝つペースに比べれば雀の涙程度でしかない。

 リリルカは笑いながら、『しょうがありませんね。ブラックジャックはカウンティングすれば長いスパンで見れば、確実に勝てるようになりますよ?カジノ様側にばれないようにカウンティングする方法を教えて差し上げましょうか?』といっていた。カジノ側はさらに真っ青になっていた。………まあリリルカがその気になれば連合の人間をカウンティング出来るように育てることが出来るんだろうな。大量のガチ集団とかカジノとしてはあまりにも恐ろしいのだろう。いずれ連合お断りの紙が貼られることになるだろう。………いずれが存在すればだが。

 

 「で、どうするんですか?勝負するのですか?降りるのですか?」

 「降ります(フォールド)。」

 「残念でしたね。」

 

 リリルカは舌を出す。

 リリルカのカードは10ハイのブタ。対する相手のカードはツーペア。リリルカはカードで負けているにも関わらず、全賭け(オールイン)で力わざで相手を降ろさせていた。相手に自分のカードをスリーカード以上だと思いこませたのだろう。

 

 「くそっ!今度こそ!レイズ5000!」

 「リレイズ10000。」

 「チェック!」

 

 手札は開かれる。敵のカードは勝利を確信したフラッシュ、されどリリルカのカードはそれを凌駕するストレートフラッシュ。

 ………また一人、顔を土気色にして売られて行く牛のようにドナドナされていってしまった。

 

 「さて、と。まあお遊びはこのくらいでいいでしょうかね。」

 

 リリルカはそういうと支配人を呼び付ける。

 

 「さて、そろそろお話をしましょうか。」

 

 ◇◇◇

 

 チップが山と積まれたいくつもの台車と共に、俺達はカジノの支配人室に招かれた。

 支配人を前にしたリリルカは、思惑ありげに黒く嗤う。

 

 「さて、ここに大量のチップがありますけど、これは換金していただけるのでしょうかね?」

 「そ、それは、あの、その………。」

 「ふむ、ところで支配人様のお名前はなんとおっしゃるのでしたっけ?テ………なんとかでしたよね?」

 「テ、テリー・セルバンティスと申します………。」

 「ああ、そうそう。テッド様だ。思い出しました。確かテッド様でしたよね。」

 

 ただでさえしどろもどろな支配人は、偽名を使っていたらしく面白いほどにうろたえている。

 リリルカは嗤いながら言葉を続ける。

 

 「話は変わりますが、連合ではオラリオの経済の流れもつぶさに把握しています。ということはカジノ様の懐に資金がどの程度あるかも当然把握しているわけです。………仮に借金できて急場を凌げたとしても、リリがまた羽を伸ばしに遊びに来れば同じことが起こるのかも知れませんね。」

 「そ、それは………。」

 「ところで、リリの元にはグラン・カジノ様のおかしな噂が入ってきていますね。何やらグラン・カジノ様が後ろめたいことをしているのではないかという変な噂が。まさかグラン・カジノ様ほどの組織がそんなつまらないことをするわけございませんよね?」

 「ま、まさか!!」

 

 支配人は目に見えてうろたえている。うんまあこれは多分クロだろうな。俺だってわかる。

 

 「ふむ、ところでリリのチップは換金していただけるのでしょうか?」

 「ウッ!!」

 「うーん、換金していただけないのでしたら、グラン・カジノ様は()()()()カジノだとリリが判断せざるを得なくなりますね。リリがオラリオでどの程度の発言力を持つのか、もちろん支配人様はご存知ですよね?勝ち金を踏み倒すカジノに、果たしてお客様が来るのでしょうかね?」

 「ウウッ!!」

 「さて、御遊びはここまでにしてここからは互いに歩み寄る大人同士のお話をしましょうか。グラン・カジノ様は、世の中に必要とされたから、今存在なさっています。日々を真っ当に働くたくさんの方々に、たまの贅沢な息抜きを提供するために存在なさっているとリリは考えています。節度を持って遊びを楽しむ方々を、リリはガッカリさせたくはありません。」

 「………。」

 「連合側としては、オラリオの環境をよくすることを望んでいます。グラン・カジノ様はルールに則って真っ当な営業をなされば、充分な稼ぎを上げることが出来るはずですね?そして支配人様には今までカジノを取り仕切ってきた経験とノウハウがあります。」

 「………。」

 「そして今ここに大量のチップがあります。何が得かよくお考えください。あなた様方にはいくつかの選択が残されています。まずはその一、無理して換金してお店を潰す。」

 「………。」

 「その二、換金せずにオラリオを敵に回す。」

 「………。」

 「その三、武力行使しようとして、仲間を護る目的の連合を激怒させて、オラリオを敵に回す。」

 「………。」

 「その四、すべてを捨てて逃走してリリの不興を買い、やはりオラリオを敵に回す。」

 「………。」

 「その五、今までになさった後ろめたいことを連合側にこっそりとつまびらかにして、正して、償って、二度と同じことをしない。この場合は、リリの機嫌も良くなって、ついついウッカリとチップを換金し忘れて鼻歌交じりで帰ってしまうかも知れません。もしかしたら、リリのグラン・カジノ様に対する覚えも良くなって、連合と互いに利益のある関係が築ける可能性もあるのかもしれませんね。連合と懇ろになれば、イシュタル様の娼館からなんらかの便宜を受けることが出来るかもしれません。まあ、その場合は連合側から多少の口出しがあるでしょうが、それは時勢だと思ってあきらめてください。もしも自身の背後に付いてらっしゃる方々が怖いのであれば、連合の庇護下に逃げて来ることも可能ですよ?さて、カジノの支配人様が損得に疎いわけありませんよね?いかがなさいますか?」

 「………五番で。是非とも五番でお願いします。リリルカ様のお慈悲に感謝いたします。」

 

 ………一体、これのどこが互いの歩み寄りだというのだろうか?リリルカはどう考えても微動だに歩み寄っていない。実質的に、ただの脅迫でしかない。

 ………おそろしすぎる。

 

 ◇◇◇

 

 俺はつくづく思う。どうしてリリルカはこんなに恐ろしい人間になってしまったのだろうか?

 一般論でいえば、殺すのは容易く生かすのは難しい。しかしリリルカはどのような存在でも上手く生かして、片手間で鼻歌交じりに飼い馴らしている。

 

 まさしくリリルカはオラリオの支配者だ。

 ………実はこの間リリルカがレベル3にランクアップしていたのだが、二つ名が【王の助言者】から【司る大魔王(サタン)】に変更されていた。ついに俺が勝手に言ってるだけでなく、公に大魔王だと認められてしまったのだ。リリルカはガッカリしていたが、この上なくピッタリな二つ名だと俺は思う。

 

 あのあと、連合はカジノと協力してギャンブルにのめり込みすぎる人間の対策を行ったり、カジノの借金に苦しむ人間に高給な雇用先の斡旋を行ったりしているようだ。まあそれですべての人間が助かるわけではないし、高給な仕事は危険だったり大変だったりするのだが、確実に助かる人間は増えている。

 そして、いつの間にかグラン・カジノという名称のカジノはオラリオに存在しなくなり、代わりにグラン・リリルカという名称のカジノが跡地に存在していた。

 

 ………マジかよ!?

 ちなみに、名称を変更してカジノの売上が大幅に上がったらしい。

 ………やはりリリルカに名前の使用料とか入ってきているのだろうか?

 そしてその姿を見た他のカジノも続々と自分からリリルカに頭を垂れて来ているらしい。リリルカは治外法権地帯まで制覇してしまった。しかも休みの日に片手間で。………カジノ近辺はすでに治外法権じゃなくなってしまったということだ。

 

 カジノも連合もオラリオさえも、まさしくリリルカの手玉としてコロコロ転がされているのが現状だ。

 ………本当に恐ろしい。どうしてこうなってしまったんだ!?

 

 「いえ?リリは父親の背中を見て育ちました。リリのやり口はすべてカロン様から学んだものですよ?」

 

 ………俺は絶対にこんなにえげつなくないぞ?




カウンティング・・・ブラックジャックで使用したカードを覚えておいて、勝率を上げる方法。ぶっちゃけカジノにばれずにカウンティングする方法はおそらく存在しません。拙作はリリルカのブラフだと考えられます。………というか考えたいです。


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悪を打ち倒せ!

 「済まないな、アストレア。わざわざ出て来てもらって。」

 「構わないわ。あなたは大切な子供だし、あなたの作り上げたものには私だって思い入れがあるもの。」

 

 ここはロキファミリア傍の喫茶店。

 俺の目の前にいるのは俺の主神アストレア。

 彼女は今、俺と同じ職場で働いている。

 

 彼女は孤児院で子供達を慈しんでいる。慈愛を持って子供達を育てて行くことは、俺の個人的な考えでは紛れも無い正義以外の何物でもない。彼女も今の状況を気に入ってくれている。

 あるいは、彼らがいつか連合の役に立つ人材になってくれるのであれば、俺達は連合の下部組織の育成を行っているという考え方も出来るのかも知れない。

 

 俺と彼女は、今日は院を他のものに預けて外出する必要性が出て来ていた。そのための待ち合わせだ。

 

 ………今日、俺達は最悪とも呼べる邪悪を打倒せねばいけなかった。まさに暗黒そのものの敵。口に出すのも憚られるような邪悪の権化、災厄の具現。

 たとえステータスがなかったとしても、これは俺達のやるべきことだ。他の誰にも譲れないんだ!

 

 

 それは………かつての同胞、共に道を歩んだ仲間が、悲しいことに道を踏み外してしまったのだ。

 俺達はかつての仲間として、俺達の手で奴に引導を渡さなければならない!

 今、ここにいない彼女に鉄槌を下さないといけない!

 俺達は道を外した外道を打ち倒し、正義はここにありと高らかに謡わなければならない!

 正義は決して死なないのだと、広く示さなければならない!

 

 そのために俺とアストレアは今日ここに集まっていた。

 じきにもう一人の援軍が来る。援軍の到着次第俺達は最悪を倒すために動き出すことになる。

 ………戦いの時は近い!

 

 

 

 ◇◇◇

 

 「アッハッハッハッハ!いいぞ!キミはソーマの元へ行って神酒をとって来るんだ!誰かはボクの分のトイレ掃除もやっといておくれ!」

 「し、しかし………今貯蔵してある神酒は盟友であるロキ様にお渡しするもののはずでは………。」

 「アアーン、ロキ?あんな貧乳が何だって言うんだい?ボクはヘスティア連合の最高神、ヘスティア様だよ?キミはボクの言うことを聞けないと言うのかい?連合内での立場を悪くしてもいいのかい?」

 

 まさにこの世の春だ。

 ボクの名前はヘスティア、ヘスティア連合の最高神さ。

 ボクは紛れもなく今最もオラリオで高い立ち位置にいる神様といえるよ。

 ボクはかつて、カロン君という子供に騙されて誘拐された挙げ句にトイレ掃除を押し付けられてしまったけれど、今があるのなら別にそれくらい我慢してあげてもいいかな、という気持ちさ。

 あのにっくき絶壁ロキよりも立場が上で、何でも好きに振る舞えて、何よりも旦那がベル君だということを考えると、カロン君に爪の先くらいは感謝してあげても………やっぱりやめとこうかな。

 今のボクがあるのは一重にボクの努力の賜物さ。ボクが偉い人間だから、相応の位置に納まっていて、ボクが努力したからベル君はボクを好きになってくれたんだ。

 仕事のトイレ掃除?そんなものやってられないさ!

 

 「神酒はまだかい!?デメテルのところからつまみとして最高級の果物もとってきておくれよ。それとそこのキミはボクの肩を揉んで!キミはボクを扇いで!キミ達ボクを誰だと思ってるんだい!気が利かない子供達だね!」

 「し、しかしヘスティア様、今年のデメテル果樹園は冷夏で不作気味です!幹部会議で取れた果物はオラリオに相応の価格で卸すことが決まっています!」

 「それがどうしたんだい?ボクを誰だと思ってるんだい?」

 「へ、ヘスティア様です。」

 「そうだよ。ボクはオラリオで一番偉いヘスティア様さ!わかったらさっさととって来るのさ!さもないと蝋人形にしてやるさ!」

 「そ、そんな………。」

 

 ◇◇◇

 

 俺はカロン、ここは連合主神室。ここは連合の主神の部屋とあって、相応の広さがある。

 今ここには俺とアストレアと援軍の三人がいて、こっそりとヘスティアの様子を確認していた。

 聞いてはいたがこれは酷いな。凄まじく調子に乗っている。いっそ面白いくらいだ。

 ヘスティアは、会議の決議を無視して眷属に顎で無理な命令を出している。いつの間にか連合内の主神室に聖帝様とか呼ばれてそうな人間が座りそうな偉そうな椅子を持ち込んで、ふんぞりかえっている。

 

 俺達のところには、デメテルや万能者や誰か等のたくさんの人間から陳情が集まっていた。

 

 リリルカがいればまた違ったのだろうが………今はリリルカはフレイヤファミリアからの要請に応えて出向してサポーター講座を行っている時期だ。ミーシェはガネーシャとの共同のイベント立案でやはりガネーシャのところに出向している。

 ………ヘスティアは止める人間がいないだけでここまで調子に乗れるのか。

 

 「おっぱいをもいで残りはグチャグチャに潰して生ゴミの日に回収して貰いましょう。」

 

 アストレア、怖っ!キレてる………。

 ………俺は暴力沙汰を恐れてリューを置いてきたのだが?

 

 「まあ待て、アストレア。まずは話し合いから行おう。」

 「赦せないわ………私はあなたとリューがどんな思いでこの組織を立ち上げたか知ってるわ。あなたが拙作で書かれていないところで冷たい扱いを受けて辛い思いをしたことも………リューが時々誰もいないところで死んだ仲間を想って泣いていたことも………。私に残されたたった二人の最後の眷属の血と涙の結晶をよくも!!!やっぱり気が変わったわ。五寸刻みに切り刻んでそのあとに骨も残さず燃やしましょう。屋上に生きたまま縛り付けてカラスの餌にするのも悪くないわね。」

 「ストップ、アストレア、ストップ、取り合えず俺に任せてくれよ。」

 「………まあ必死に頑張ったのはあなただしね。わかったわ。」

 

 ◇◇◇

 

 「神酒はまだかい!さっさと持ってくるのさ!」

 「ヘスティア、ずいぶんと羽振りがいいようだな?」

 「ゲェッ、カロン君、これは………」

 

 目を逸らすヘスティア。さすがに罪悪感が存在しないわけではないらしい。ならば話し合いで解決出来るか?

 

 「ヘスティア、今のお前の態度は目に余る。一度だけは見なかったことにするからキチンと直せ。次に同じことがあったらお前は主神から外すことになる。」

 

 アストレアも俺の側による。

 

 「そうよ、ヘスティア。この組織は私達の亡き仲間への墓標でもあるの。墓前で馬鹿騒ぎするのはやめなさい。」

 

 ヘスティアは目をキョロキョロさせながら思案顔だ。ヘスティアは決意した顔をしている。

 

 「連合をやめた年寄りのジジイとババアが偉そうな顔をするのはやめてくれるかい?キミ達は一応功労者だから今日だけは見なかったことにしてあげるよ。一度だけは見逃してあげるのはこちらの方だから、さっさと帰ることだね!」

 「………俺よりお前の方が年寄りだろう?なあ、ヘスティア、こんなことやめようぜ?」

 「しつこいよ!さあ、衛兵、よって来るのさ!この無礼者をたたき出してやるのさ!」

 「し、しかし………。」

 

 酷い………衛兵は元大団長と元主神の俺達を前に困り果てている。

 アストレアはコメカミに筋を浮かべている。手から血を流している。多分あれは拳を強く握り込みすぎて、爪が手の平に食い込んでいるんだろう。

 キレてるな。神の権能を使いかねない。

 やむなしか。

 

 「ベル、頼む。」

 「………はい。」

 「ベベベベル君っ!?キミは今日はダンジョンに行ったはずじゃあ………?」

 

 物陰からベルが出てくる。

 ベルは真っ当な人間だ。ヘスティアの慌てようと併せて考えると、この様はベルには内緒にしていたのだろう。ベルは酷く落ち込んでいる。

 

 「ヘスティア様、僕はヘスティア様はこんな神ではないと思っていました。悪い噂や、仕事のトイレ掃除をサボっているという話があったけど、そんなの断じて嘘だと………。」

 「ベベベベル君っ、これは間違いなんだ!こんなことはボクの意思じゃあないんだ!これは………そう、これは闇派閥の奴らの陰謀なんだ!」

 

 闇派閥の陰謀?あいつらみんな俺達が捕まえて壊滅させたぞ?いくら純粋なベルでもそんな嘘を………

 

 「本当ですか!?」

 

 信じたか………どうまとまるんだ?

 

 「ああ、そうさ。ボクはついさっきまで闇派閥に操られてたんだよ!ベル君、キミのおかげで助かったよ!」

 「よかった。ヘスティア様………。僕はあなたが二回も闇に操られるような弱い神ではないことを知っています。ということは当然こんなことが起こることはもう二度と無いのですね!もちろん日課のトイレ掃除も毎日欠かさずに行うのですね?」

 

 ………………ん?

 

 「あ、ああ。ももももちろんだよ。」

 

 ベルは背中に手を回して俺達に指でサインを送っている。

 ふむ、外に出てくれということか?

 

 ◇◇◇

 

 ここは帰り道、俺達はあのあと怒りの収まらないアストレアを何とか宥めて連合を後にしていた。何でもベルが話があると言っていたからだ。

 

 「カロンさん、アストレア様、引退なさったあなた方にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」

 「うーん、ヘスティアは昔からの付き合いだしな。まああいつは御調子のりだからなぁ………。」

 「次からもし何か異変を感じたら、僕がしっかりと迅速に対応するようにします。」

 

 ふむ、さすがにあのヘスティアの嘘がわからないわけないか。なかなか上手くヘスティアを扱っていたしな。

 

 「………ベルは立派になったな。」

 「僕は大団長ですから。僕の仕事は連合を護ることです!」

 

 ベルは笑う。若いベルだがその笑顔は頼もしい。

 自覚が人を成長させる、か。俺はもう年寄り以外の何者でもないのだろうな。寂しいことだがベルの成長が嬉しいことでもある。

 

 「それに比べて………。」

 「アハハ、あれも持ち味の一つですよ。」

 

 ふむ、あれを許容するのはなかなか度量の広い器だと言えるが………まああまり甘くすると付け上がるタイプなのだがな。

 

 「アストレア様もご足労かけました。」

 「ハア、まあいつまでも怒ってても損だしね。今回だけは見逃してあげるわ。」

 「アハハ………。」

 

 ベルは苦笑い。今回で懲りてくれると助かるが。リリルカもすぐに戻って来るし、もう同じことが無いといいが。

 

 だがヘスティアは基本アホだからな………。

 

 「たまには以前のアストレアファミリアのようにヘスティアも含めて皆で集まりましょうか?そうすればヘスティアもおかしなことを考えないかも知れないわ。」

 「リリルカとミーシェが忙しいだろ?まあ何とか時間を作るか。」

 

 俺達はベルと別れて家路へと着く。

 アストレアは孤児院に寝泊まりしている。俺達の家のすぐ側だ。

 たまには俺達のところに食事でも食べに来ればいいのだが、新婚の俺達に遠慮してるのか来ない。

 

 じきに夕飯の時間だ。早く帰らないと辛抱堪らないリューが勝手に厨房に立ってしまうかもしれない。それも俺にとっては最悪だ。どうも未だに料理に未練があるらしい。諦めてくれると助かるのだが。

 ………リューには料理と無関係ないいところがいっぱいあるのだがな?

 

 今日はおかしな一日だったが、明日はいいことあるといいな。

 

 俺は茜色の空を眺めながらリューの待つ自宅への家路を急いだ。

 

 ◆◆◆

 

 カロンは気付かない。アストレアは知らない。もちろんリューにもわかるはずがない。

 あるいは、いずれカロンだけは気付くのかもしれない。そうでないかもしれない。

 

 リリルカは深謀遠慮。カロンの結婚式はあくまでもリリルカの遊び心に過ぎない。実際はリリルカがその気になれば、カロンを詰めることぐらいいくらでもできる。

 リリルカが笑いながら黙して語らない、カロンに孤児院長を奨めた真の思惑。

 高みからあらゆるものを俯瞰する、叡智を(つかさど)る巨人の真意。

 

 行き先に宛てのない孤児、その多くは必死に生きる糧を得るために盗みなどの悪事に手を染めていく。やがて悪事はエスカレートし、幾人かはいずれは闇に身を落とす。

 闇派閥は、生きるために悪事に手を染めることに抵抗の薄い使い勝手のいい彼らをしばしば手駒として拾い上げる。

 

 かつてアストレアを壊滅させた連中にも、そういう人間が数多く存在した。

 

 貧すれば鈍する、あるいは衣食足りて礼節を知る。

 目の前の悪を武力で制圧しても、それはただの一時しのぎでいくらでも新しい悪は生まれる。冒険者でなくとも、ステータスがなくとも悪と戦うことはできる。

 

 真の正義は、叡智の光の導く先にしか存在し得ない。

 真に悪を打倒するには、生活環境と教育水準を上げていく他に方法がないのだ。それは、リリルカ自身の経験でもある。リリルカも生きるために、あまり良くないことを行った経験がある。

 

 なぜ、カロンの家族がリューとリリルカなのか?

 復讐を望んだリューのみならず生きた環境の悪いリリルカも、あのままの生活を続ければ闇派閥にならなかったとは言いきれない。拙作は結局、笑顔で以って闇を禊う大男と環境を良くしようと努力することで正義を貫くアストレアファミリアの物語なのである。

 

 孤児院を運営するかつて正義を掲げた彼らは、孤児を愛し決して闇へと進ませない。

 決して子供達に、身を滅ぼす汚れを寄せ付けさせない。

 

 物事を成し遂げる時には、しばしば回り道が必要になる。

 

 かつて正義を目指した彼らは知らないうちに未来の闇派閥を打倒して、諦めたはずの正義を成し遂げているのである。




もしリリ(もしもリリルカがいたならば)
「ヒャッハー、この世の春だよ!さあ、キミ達、ボクを敬うのさ!」
「ヘスティア様、何をなさっているのですか?」
「リリ君かい。さあ、キミもボクを敬うのさ!」
「ヘスティア様、馬鹿なことはやめた方がよろしいですよ?」
「何を言ってるんだい!ボクは最高神だよ?キミでも逆らったらただじゃ済まないよ?」
「ハア、リリはこんな馬鹿げた茶番劇に付き合ってられるほど暇ではないのですが………ヘスティア様、まず第一にこの建物の権利書はミーシェ様が厳重に保管しています。第二に、お恥ずかしい話ですが、眷属の方々はヘスティア様よりもリリを慕ってくださります。第三に、連合の規約書では会議の決定が個人あるいは個神の独断より優先されることが明記してあります。デメテル様を最有力候補として、あなたの代わりはいくらでも立てられます。その気になればいつでもお飾りのヘスティア様を丸裸で放り出すことも出来るんですよ?」
「い、いやそんなことは!」
「衛兵様方、あのアホな神を捕らえてください。ヘスティア様はしばらくトイレで頭を冷やしてください。明日からヘスティア様の仕事量を10倍にします。」
「「「「「ハイッ、リリルカ様!!」」」」」
「ま、待っておくれよ!大手ファミリア主神のボクがトイレ掃除なんて………。」
「トイレ掃除なんて?トイレ掃除は立派なお仕事です!それ以上ごねるようでしたら手加減を知らないリュー様に処遇をお任せすることになりますよ?トイレ掃除量一億倍とか言われても知りませんよ?」


ヘスティアは、本能でリリルカの強大さを察知しています。


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リリルカは女性を落とす達人

 私はリリが好き。私は彼女と長い付き合いがある。

 

 ◇◇◇

 

 私はアイズ・ヴァレンシュタイン。ロキファミリアの団長です。

 私は私に大切だと思えるものを与えてくれたリリがとても好きです。

 

 私は私の目的を達成するためにずっと必死で強くなる必要があると思っていた。だから私にとってリリの言葉は衝撃だった。

 私はリリとの出会いに想いを馳せる。

 

 ◆◆◆

 

 『よろしく。私はアイズ・ヴァレンシュタイン。あなたがカロンが紹介してくれた人?』

 『よろしくお願いします。リリはリリルカ・アーデと申します。リリとお呼び下さい。これからよろしくお願いします。』

 『私は目的を達成するために一刻も早く強くならないといけない。だから私にはあまりあなたと話すための時間はない。』

 『うーん、それは、本当にそうなのですか?』

 『どういうこと?』

 『リリは物事を達成するためには、アイズ様にとって回り道や無駄だと思えることが必要だと思いますよ?』

 『なんで?』

 『アイズ様がお一人で強くなられても、アイズ様が死んだらアイズ様の人生は無意味なものになってしまいますよ?』

 『私は死なないために、強くなる。』

 『ダンジョンはいつだって危険ですよ?人間は誰だって死ぬときは死にます。特に最悪なのが、どれだけ強い人間でも背中を刺されてしまったら死にますよ?どれだけステータスを鍛えたとしても、人間の肉体より武器の方が強いのですから。その証拠に、どんなお強い冒険者様でも、何かの武器を使って戦います。カロン様は特例です。攻撃力がなさ過ぎて攻撃する意味があまりないだけです。アイズ様程の方がそれをお知りにならないわけがありませんよね。』

 『それじゃあ私はどうすればいいというの?』

 『アイズ様が必死に歩いて道を進んでも、あなた様が亡くなられては道が途絶えてしまいます。多少速度を落としたとしても、周りの人間が歩けるように道を整備すれば、あなた様の目的が真に意味のあるものであれば必ず後に続く者達が出てきます。そして人の営みとはそうやって続いていきます。』

 『先のこととかわからない。リリの言ってることもよくわからない。』

 『アイズ様がその若さで目的とおっしゃるということは、その目的はどこかから受け継いだ物ではありませんか?目的に向かって邁進しながらも同時にさらに次の代に受け継ぐ下地を作るということです。』

 『でも、子供には過酷な使命を背負わせたくない。』

 『それはアイズ様の先代も同じことを考えたはずです。ですがアイズ様は今こうしています。大丈夫ですよ。そもそも後を継ぐ人間が必ずしもあなた様の子孫だとは限りません。』

 『他の人にも背負わせたくない。』

 『それは年寄りの無用な心配です。厳しい戦いを残してしまったとしても、人は環境に適応して強くあれます。それよりも誰も彼もが生き急いで、そもそもの後を継ぐ子孫が絶滅してしまっては元も子もないでしょう?』

 『じゃあどうすればいいの?』

 『広く人と関わるのです。そうすればあなた様の目的が真に意味があるのであれば、いずれ賛同者が出てくるはずです。賛同者が複数いれば、あなた様の背中を任せるに足る人物が出てくるかもしれませんし、万一あなた様が亡くなった後も決して道が途絶えることはなくなるでしょう。』

 『人と関わるのはどうすればいいかわからない。』

 『リリには夢があります。カロン様の夢のお手伝いをすることです。リリはカロン様の賛同者で、カロン様のお役に立つことを願っています。』

 『………うん。』

 『カロン様の夢の達成には、大勢の人間の上に立つ必要があります。そのためには、人々の願いや欲求、気持ちなどといった曖昧なものを深く理解する必要があります。まあとは言いましても、現時点ではどれだけ時間がかかるのか、そもそも達成可能なのかもわからない夢なんですが。』

 『………うん。』

 『ですからアイズ様、リリと一緒に話し合ってお勉強をしていきませんか?一人よりも二人、たくさんの人間が集まればよりよい案が出てくるはずです。』

 『それで目的が達成できるのかな?』

 『嘘はつけません。それはリリにはわかりません。アイズ様の目的がどのようなものかわからなければリリには何とも言えません。』

 『………そう。』

 『しかしリリが考えてどうすればいいかの案をアイズ様に提案することはできます。そうすればアイズ様の採れる選択が増えます。よければリリとお話を続けていただけませんか?』

 『うん。』

 

 ◆◆◆

 

 あの日、文字通り私の世界は変わった。

 今だからこそわかる。私一人で目的だけを追い求めて生きていたら、私の世界は私一人で閉じてしまう。そうすれば私はどれだけ強くなっても、仮に目的を達成したとしても、皆からはいずれ何を考えているかわからない人間として忘れ去られてしまうだろう。

 

 私はあのあと、ファミリアの人達と話をたくさんした。

 ロキは『成長したんやなぁ』といっていつもの不愉快なにやけ顔からは想像着かないほど優しい顔で抱きしめてくれた。

 フィンとリヴェリアはそれぞれの目的があるから全面的な協力は出来ないけど、応援してると言ってくれた。

 ベートさんは私に全面的に協力したいと言ってくれた。すごく嬉しかった。まあ、そのあとカロンに騙されて忙しくなってたみたいだけど。

 他にも後輩達や新しく入った人達に協力者がたくさん出来てくれた。

 私を慕う人達がたくさん出来て、たくさんの選択肢が見えるようになった。

 そして気付いたら、ロキファミリアの団長を任されていた。

 

 リリはその間にあっという間に連合を立ち上げて、組織の最重要人物になっていた。

 強大な力を得て、偉大な人物と呼ばれるようになっていた。

 

 今の私は昔の私とは明らかに違う道を進んでいる。

 物事はわからない。

 もしかしたら、必死で努力していたら私は今頃当初の目標を達成していたかも知れない。あるいは誰も見ていないダンジョンで一人寂しく死んでいたかも知れない。それはわからない。

 

 でも、それでもこんな私にだってわかる絶対の事実も存在する。

 私はリリのことを考えると勇気が湧いて来る。

 本当に困ったときに、あの小さいはずなのに大きく見える背中が私の背後に控えてくれていると思うとどこまでも強くなれるのを感じる。

 私は私のことを絶対的に信じられる。

 私の友人の最高のサポーターは、たとえ今ここにいなくても、いつでも私の心のサポートをしてくれているんだ!

 

 ならば信じ続けるほかに道はない。

 私が闇雲に突っ走っていた時に、彼女が叡智の光で照らしてくれた私の新しい道を。

 人々に偉人と言わしめたその知見の力を。

 じゃないと私が廃るでしょう?

 

 「ほら、ラウル。今日はリリがロキファミリアに遊びに来るんだから早く地上に戻るよ!」

 「待ってくださいっス!」

 

 今日は私たちロキファミリアの地上への帰還日。大勢で地上へと進んでいる。

 ラウルは有事の際の私の後釜。私に賛同してくれた大勢の私の部下の一人。

 リリに比べたら耳垢程度の頼りがいしかないけれど、それでも私は信頼している。

 

 最近は、何だろう。不思議だな。前よりも地上が恋しくなった気がする。

 それが私には弱さだと思えない。以前はあんなにダンジョンに潜ることに執着していたのに。

 

 リリにも会いたいけど、ついでのベートさんにも早く会いたいな。

 

 「ま、待ってくださいっス、アイズ団長!アイズ団長が風の魔法を纏って天井を打ち破って出口に向かって直進したら団員の誰もついて行けるわけないじゃないっスか!どんだけ早く帰りたいんスか!?!」




原作様のアストレアファミリアは、物事を次代に繋げる視点が持てなかったために壊滅したと考えられます。戦いに重きを置き過ぎて、他者に自分達の正義が意味が在ることだということを理解してもらうことや、後塵の育成を怠ったのがきっと原因です。そしてアストレアファミリアは背中を刺されました。
リリルカの言葉は、アストレアの壊滅の原因をそういうふうに理解するが故です。
そして、ここで以前のガネーシャ様の話にも繋がってきます。デウス・デアであり長期的な視点を持っているはずのアストレア様は、眷属に同調するだけで正せる存在ではなかったのでしょう。


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最終話、変わり果てた運命の先に待つもの

 「お久しぶりです、フィン様、お変わりはないようで。」

 「久しぶりだね、リリルカさん。いつも僕達のところへ来てくれていて、とても助かっているよ。」

 

 ここはロキファミリアの鍛練所、フィンと見合うリリルカ。

 誰かの気分によって悪意のある歪められかたをしていたフィンのキャラは、やっぱり誰かの気分によって元に戻されていた。

 

 「それにしてもつくづくためになるよ。」

 「お恥ずかしいことです。」

 

 フィンはロキファミリアを引退した後、ファミリアの人間の育成に精力的に携わっていた。そして、彼はより効率的に下の人間を育成する方法を、リリルカに請うていた。

 

 以前はリリルカをロキファミリアに引き抜こうとしていたフィンだったが、団長をアイズに譲ったうえに天井知らずに上昇するリリルカの価格に引き抜きをすでに諦めていた。

 余談ではあるが今のリリルカの市場価格はもはや、ロキファミリアですらとても手が出せない。

 リリルカは真実、ロキファミリアですら手も足も出ない巨人となっていた。

 

 「連合の強靭さの秘訣を隠さないで教えてくれることは、僕達にとっては非常に助かるよ。」

 「連合の本質は一部の例外を除いては蟻の群れですよ。ロキ様方の獅子の群れにはかないません。」

 「キミはつくづく恐ろしいよ。蟻の群れというのは間違いじゃあ無い。ただし、キミとベル大団長が手塩にかけた、ね。先代の時は不死身の軍隊蟻の群れで、今代は獰猛な軍隊蟻だ。獅子の群れを食い破る恐ろしい群れだよ。」

 「………買い被りですよ。」

 

 フィンはつくづくリリルカの恐ろしさに感服していた。

 

 ◆◆◆

 

 リリルカの功績は多岐に渡る。

 

 スペシャルサポーターの育成。

 リリルカは、連合でも有用性が極めて高いアスフィと度々議論を交わすことにより、スペシャルサポーターを非常に価値の高いものへと仕立て上げていた。

 

 冒険者は体を張って敵と戦い、サポーターは知恵と技能を以って冒険者をサポートする。

 

 まずは薬師、鍛冶師技能等迷宮内で役に立つ技能を複数サポーターに習わせている。これらの一つの具体例には、幾度か拙作で書いている崩落したダンジョンを復旧させる技能も含まれている。地母神と協力することによって、地質学と掘削技能などを持つサポーターを作りあげる試みだった。

 

 次に、必要があるのなら冒険者の援護をするための遠隔攻撃も仕込まれている。

 リリルカがもともと遠隔でボウガンを使用する戦いかたを行っていたため、これはリリルカにとって他者に仕込むのは案外容易であった。

 他にも、空中にいる敵に有利に対応するために、火炎放射器とも呼べる武器の開発も行っていた。

 

 さらに、アスフィと話し合うことによって、逃走に非常に有利な道具を幾種類も作り上げている。

 

 特に、有用性が高いのが、鋼糸、地雷、粘着液、各種ガスの四種類だ。

 読んで字の如く、鋼糸は敵の脳を揺らす鋼鉄の糸の罠、地雷は脚部を吹き飛ばす罠、粘着液は関節の稼動をできなくするアイテムだ。

 鋼糸と地雷は外皮の柔らかい魔物に、粘着液は外皮の硬い魔物に強力な効果を発揮する。敵が強大だったり、予想外の事態に陥る可能性の高い戦闘の場合に前もってこれらは仕掛けられる。

 

 すなわちサポーターに、工作兵としての側面を持たせたのである。

 

 鋼糸と地雷はリリルカに仕込まれたサポーターによってダンジョンに仕掛けられ、冒険者は罠を避ける誘導をするサポーターの指示に従って逃走を行う。サポーターにはリリルカによる十全の教育がなされているために、味方は罠を避けて上手く敵を罠にかける誘導を指示することも可能なのである。仕込まれた鋼糸と地雷は他の冒険者が被害を受けることのないように、後々にしっかりとサポーターによって回収される。同じ育成組織のアストレアサポーターは、リリルカのしっかりとした講義を受けているためにどこに鋼糸や地雷が仕込まれうるのか完璧に理解している。ゆえに仕込まれた鋼糸や地雷はすぐに他のサポーターが回収することも多い。連合本部には連絡帳として罠の配置の記入表が置かれていて、罠を仕掛けたら回収したかの確認もしっかりと行われる。

 

 挙げ句の果てに、新人教育もリリルカが育て上げたサポーターの仕事だ。サポーターとして新人の戦いを後ろからつぶさに観察して、的確なアドバイスを行うのである。そのために、リリルカからサポーター達は新人の能力の正確な分析を行う術を与えられていた。

 

 連合の、人材斡旋もリリルカの仕事だ。リリルカは僅かに関わりを持っただけでどの人間がどのような性格で、何の適性を持っているのかを完璧に把握する。

 これは主に希望する部門で芽が出ない者や、人生の先行きに思い悩む者へのアドバイスとして行われる。あくまでアドバイスであって強要はしないが、これに感謝している者は多い。

 

 連合という巨大な艦が転覆しないように密かに舵をきっているのもリリルカだ。彼女はあらゆる部門に顔を出して、あらかじめ問題となりうる火種を知らない顔をして潰し続けている。

 

 一例として、薬学部門で持ち上がった議論を出そう。例えば、薬学部門では睡眠薬や毒薬などの危険物も作り出すことが可能である。しかし、錠剤で作れば魔物に即効性の効き目が薄く、悪意をもって人間に使われてしまう可能性が高い。医療外目的でのそれらの作成の是非、それについて利益を追求する作成派と危険視する廃案派で激しく議論が行われていて、平行線のままどんどんヒートアップしていた。

 リリルカは、いつまでも議論が続けばいずれ互いに協力するという目的を見失うことを理解していたために、ナァーザと共謀してしれっと開発された大量の毒薬を盗んで処分した。

 結果、管理をしっかりと行っていたはずの薬学部門は大慌てをした。犯罪などに使われたらことである。管理責任問題になり連合から外される可能性は大いにある。

 内部に敵がいる可能性を恐れた薬学部門は危険薬物を作ることを取りやめ、リリルカは盗難した人間に架空の人物を仕立て上げた。薬学部門は架空の人物を恐れ、結果団結した。

 

 他ファミリアとの様々な交渉を行ってきたのもリリルカである。

 ロキ、フレイヤとの同盟内容の調整、民衆の王、ガネーシャとのよい関係、その他ファミリアとの友好的で利益を共有できる関係、さらに並行してミーシェへの交渉の教育、それが終わったら将来が有望な眷属、具体例で言えばアステリオスとHACHIMAN等の育成。

 

 挙げ句の果てには現大団長のベル・クラネルの完璧なフォローと指揮の育成。アスフィも副団長としてベルのフォローを行っているが、時折抜けがありリリルカほど完璧ではない。そしてアスフィのベルへのサポートのやり方もそもそもリリルカに習ったものなのである。

 

 そしてそれらすべてを凌駕するなによりも最大の功績は、これらすべての仕事を他の人間にもこなせるように教育して下の人間に落とし込んでいることである!万一のリリルカ不在でも連合を立ち行かせるために!

 

 そして恐ろしいことにこれがリリルカのすべてではない。あくまでもこれは発想が貧困な誰かが推測したリリルカの仕事内容の氷山の一角に過ぎない。何かあったらだいたいリリルカのおかげだと考えればいいのだ!

 

 もう盛りたい放題である。

 

 リリルカよ、頼むからもう少し休んでくれ。お前はどう考えても働きすぎだ!

 誰かはお前の体が心配だ!

 

 ◆◆◆

 

 「本当にキミは恐ろしいよ。知っているかい?キミはオラリオの巨人と呼ばれているんだよ?」

 「………リリはちびですよ?」

 「キミは僕達ロキファミリアが手も足も出ない巨人だとね。真実的を射ている。カロン前大団長も大男だったけど、キミはそれにも増して巨人だ。キミが通れば、近くにいる存在はキミに頭を垂れざるを得ない。たとえそれが神であろうと関わらずね。本当に恐ろしいよ。」

 「………困りますね。リリはいつもやりたいようにやっていただけですよ?」

 「そうなんだろうね。キミはいつも楽しそうだ。仲良く並ぶキミとカロン前大団長の銅像はとても楽しそうに笑っている。」

 「やめてください!アレはリリの一生の汚点です!」

 「実は僕もこっそりお金を出したんだよ。アレを造るのに。」

 

 フィンはウィンクする。

 

 「フィ~ン~さ~ま~!」

 「ごめんよ。そう怒らないでくれよ。小さいはずの僕達の同胞が、大きな銅像を建てられるのが嬉しくてつい、さ。」

 「ハァ、全く仕方ありませんね。」

 「僕もキミほどの巨人には憧れるよ。秘訣はなんなんだい?」

 「………リリの父親は大男ですからね。遺伝です。」

 

 リリルカはそっぽを向く。

 

 「そういえばそうだったね。キミの父親は大男だった。道理でキミが巨人なわけだ。………そういえばそろそろダンジョンからアイズが帰ってくる時間だね。」

 「ええ、そうですね。団長のアイズ様と今月のサポーター貸出の話をしなければいけません。これまでですね。」

 「つくづく大変だね。今日は休みなのに、ボクの以前からの頼みを聞いてくれた上にアイズと仕事の話か。」

 「今日は以前からアイズ様と一緒にお出かけする予定でした。フィン様はついでにちょうどよかっただけです。」

 

 そう言うとリリルカはアイズを迎えに鍛練所を離れる。

 残されたフィンは一人呟く。

 

 「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、か。」

 

 フィンは以前見た連合の様子を脳裏に描く。

 屈強なる、働き蟻の群れ。

 彼らは偉大なる守護神への信仰の下、対抗する勢力をものともせずに瞬く間に数を増やし、強大な存在へと成り上がった。

 その様がフィンには凋落を迎えた彼ら小人とは対照的に思えた。

 

 フィンには彼らが羨ましい。

 

 しかし、あるいは、それでも………リリルカが彼ら連合の偉大なる頭として語りつづけられるのであれば………。きっとそれはフィンにとっても無上の喜びとなりうるのだろう。

 銅像を建設する際に、連合は盟友であるロキのフィンに気を遣って[小人(パルゥム)、リリルカ・アーデ]という一文を添えてくれていた。その気遣いがフィンには堪らなく嬉しい。

 フィンの最大の目的は、信仰を失い道に迷いつつある同胞に新たな光を掲げる事である。

 自分で目的を達成するのが一番ではあるが、そうでなくとも構わない。フィンは手段にこだわって目的を見失うほど愚かではない。

 

 オラリオで多大な敬意を集めるリリルカの銅像は小人達を大いに勇気付ける。

 彼女の存在は永く小人達に強さを与える。

 

 ーーきっと彼女は僕なんか及びもつかないほどの勇者なのだろう。

 

 フィンは眩しいものを見るように目を細めて去り行くリリルカを見る。

 

 フィンは紛れもなく勇者であるが、あくまでも一代限りの勇者である。

 リリルカの銅像は人々に勇気を与え、彼らの子孫達に憧れを根付かせる。

 

 それはごく稀に現れる時代の寵児。

 どこまでも連綿と続く敬意という名の終わらない力。

 いつまでも継承される偉人への憧憬。

 

 敬意とは、人の世で最強の力。たった一つの真実、超越存在へと至る道。

 敬意無き強者は周囲の人間に結託して足を引っ張られ、いずれ失墜する。

 そして敬意が過ぎれば、いずれはやがてそれは信仰となる。

 

 それは時間すらをも飛び越える超越者。

 

 定命の身でありながら叡智の力で超越存在と昇華したリリルカに対し、同格の神々すらも敬意を表して頭を垂れる。

 

 フィンは考える。

 人の生きる世に永遠や絶対などというものは存在しない。

 憎しみはいずれ風化するし、正義を掲げる者達もいつかは潰える。盛者は必衰で、常勝不敗などというのは美化されているはずの英雄譚の中にすら見かけることが少ない。きっと千年の先は、今現在隆盛するオラリオであっても夢物語になってしまうのだろう。

 

 だが、しかし、それでも………仮にそれを覆せるものが存在するのだとしたら………。

 

 それはきっと連綿と続いていく力強い生命の営みに深く根付いたものだけなのだろう。

 

 「リリ、お待たせ!」

 「いえ、待っていませんよ?アイズ様。」

 「嘘ばっかり。」

 

 必死に生きる生命は強い。必死に生きるリリルカは強いのである。

 リリルカはカロンより強さを授かり、きっとリリルカは偉大な小人としてオラリオに名を残すのだろう。

 

 嬉しくもあるし、うらやましくもある。僕には手に入らなかった。

 ………ううん、まだ僕には先がある!僕は僕で一族を復興させるんだ!

 

 フィンはすでに覚悟を決めている。

 

 フィンは憧憬と共に一抹の寂しさを覚える。

 小人達は信仰を失い、凋落を迎えた。果たしてそれは本当に事実なのだろうか?

 事実だったとしても、再び光を掲げさえすれば、彼らは本当に生きる強さを取り戻すのだろうか?

 

 フィンには先が見えない。未来がどうなるのかわからない。物事は結末を迎えないとわからない。出来ることはいつだって、よりよい未来を目指して必死に努力することだけである。

 それはフィンのみならず誰にもわからない。誰しもが努力することしか出来ない。

 そして神々に出来ることは、そんな必死な彼らを優しく見守ったり、少しの力を貸し与えたりすることだけ。

 未来の予想は簡単に裏切られ、叡智を掌る巨人の娘は黙したままにただ笑う。

 

 生命は力強く、そしてしばしば残酷で理不尽である。

 淘汰説、弱者は淘汰されるというのが世の定説。

 坂道を転げ落ちるボールは、坂が終わっても慣性でいつまでも転がりつづける。

 もし仮にこれでも小人達に生命の活力が戻らないなら、それは種として小人が限界を迎えたということなのかも知れない。

 あるいは小人達はあっさりと生きる強さを取り戻すかもしれない。

 どちらになるのか、それはフィンにはその時を迎えるまでわからない。すべてを見通すはずの全知の神でさえも、今はただの地上に降りた一個の存在に過ぎない。

 それどころか、弱者だから淘汰されるのか、それとも淘汰されたから弱者なのか、そもそもそこからして不明瞭ですらある。鶏と卵の議論はいつまででも決着が付かない。

 

 ただ、最後の決着を付ける賽は投げられた。

 賽は転がりいつかは止まり、やがて出目は決定付けられる。

 

 フィンは覚悟を決めている。

 小人達が生きる強さを取り戻すのであればそれでいい。もしそうでないのなら………。

 

 その時にこの先にフィンを待つ敵、それは運命、天命、あるいは大いなる時の流れと呼ばれるもの。

 

 つまりは小人達の絶滅は時間の問題。回り道をして同胞を説得する余裕などない。あらゆる存在をものともしないあまりにも強大な敵。鍛えに鍛えたステータスが何の役にも立たないほどに。それは希望や絶望、夢、現実、あらゆるものを凌駕する正しく異次元の存在。例外を一切赦さずに。

 かつてカロンが相対した運命と比べてもあまりにも強大。

 

 人の世どころか、ありとあらゆる存在を内包した世界においてもほとんど存在しない、流れ行く時間という絶対的存在。

 

 果たしてフィンは、大いなる時の流れの中で如何程かの役割を果たせるのだろうか?あるいは彼も、天命を待つばかりの(まないた)の上に乗せられた鯉に過ぎないのか?巨人の娘は暮れなずむ夕日を再び天頂へと押し戻すことができるのだろうか?

 

 未来のことは、誰にもわからない。

 巨人の娘が煌々と光を照らす先に果たして本当に道が続いているのか?

 転がるボールは障害物に当たらずにどこまででも落ちてしまうのか?

 

 ゆえにフィンには、力強く今日を生きる彼らがどうしようもなくうらやましいのだ。

 

 しかしフィンは孤立無援ではない。真に意味がある目的ならばいずれ賛同者が現れる。

 

 ………最終的に物事が決着したら、最後までしぶとく僕に付き添ってくれると言ってくれたティオネには僕も覚悟を決めて報いないといけないな。

 フィンは笑う。

 

 この先は緩やかな小人の絶滅が待っているだけなのかも知れない。

 大いなる時間を覆せる物は存在せず、フィンの努力は徒労に終わるだけなのかも知れない。

 

 しかしそれでも!たとえこの先がどうなったとしても!!!

 

 フィンは鍛練所の窓から遠くに聳え立つリリルカの銅像を見上げ、続けてカロンの銅像を見上げる。

 窓から流れて来る緩やかな風に乗り、フィンの独り言はどこへともなく消えて行く。

 

 「カロン前大団長、偉大なるオラリオの父親よ。僕はあなたに感謝しています。僕はあなたに敬意を表します。あなたが娘を立派に育て上げてくれたおかげで、オラリオには僕達小人の存在が永く刻まれつづけることになるでしょう。」




過ぎた敬意により信仰を受けた人物、現実的に言うと軍神上杉謙信や学問の神様菅原道真などでしょうか?神社に奉納されている偉大な過去の人物は、大体信仰を受けていると考えられると言えるかもしれませんね。
小人達がどうなるのか、それは作者にもわかりません。
ただ、拙作においては生きる力とはそれすなわち笑顔です。
生きることに喜びを見出だし、笑顔で日々を暮らせれば小人達はきっと強さを取り戻すでしょう。
そして小人達の問題はフィンの問題であって決してリリルカの問題ではありません。誰かのノリのせいで超越存在になってしまったリリルカはフィンを優しく見守り応援しています。なんでもかんでも問題を超越存在が解決してしまっては、人は成長しなくなってしまいます。ゆえにリリルカはフィンの明白な手伝いをする気はありません。せいぜいちょっとした手伝い程度です。


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ホラー風味のエピローグ、なぜエピローグがホラーっぽくなってしまったのだろうか?

 この間は、まったく大変な目にあった。

 マスターである凛のウッカリのおかげで、俺は変な戦争に巻き込まれた。

 結果、リューが機嫌を損ね、新婚旅行は台無しになった。まあリューは俺が生還したことを心から喜んでくれたが。しかしおかげで機嫌とりが必要になった。俺が楽しみにしていた日曜日は無くなった。

 ステータスのない俺が、レベル7とか怖くて怒らせられないだろ?夫婦げんかとかになったら土下座一択だぞ?

 

 ………ベートのことを笑えんな。

 尻に敷かれているというレベルでは無い。ヤバくなったら地に頭をこすりつけるレベルだ。

 

 今日は、ダメになった旅行の代わりだ。誰かには感謝しなくてはならないだろう。誰かはダメになった旅行の代わりに非常によいところを紹介してくれた。おかげでリューの機嫌も直りつつある。

 

 「長閑ですね。」

 「そうだな。」

 

 リューは俺の近くに来る。彼女は今日は白い鍔のある帽子を被り、白いワンピースを着ている。その様はとてもよく似合い、まるでどこかの令嬢のようだ。ふむ、しかしあの服の下は鋼のような筋肉なのだが、これも一種の詐欺なのだろうか?

 

 「私は誰かをまったく信用していませんでしたが、このようなよいところを紹介してくれるとは案外いいところもあるのかもしれませんね。」

 「ああ、そうだな。」

 

 今は初夏、見渡す限りの緑。この地では近くに地元特有のお祭りが行われるらしい。

 俺達はその後までの滞在を予定している。

 

 俺はノンビリと風景を見やる。

 このような人が少ないところでも、子供達がそれなりにいるものなのだな。彼等はとても楽しそうに仲良く遊んでいる。

 

 涼やかなる、蝉の声。

 蝉の声は大体うるさいのだが、例外もある。

 

 「捕まえに行かないでくださいよ?あなたは子供なんですから。」

 「別にいいだろ?珍しいし。」

 

 見渡す限りのたんぼに流れる川のせせらぎ、空は青く、高い。

 建物の多くは木造で、風情がある。

 

 ーーーーーーカナ、カナ、カナ、カナ、カナ

 

 ヒグラシは珍しいんたがな?

 

 今日ここに来るに当たり、誰かは俺達にオススメの二つの選択肢を用意してくれていた。

 昭和58年の田舎か、1986年の金持ち所有の島だ。

 

 それぞれ、ヒグラシの泣き声とウミネコの泣き声がとても風情があってよいものらしい。

 

 俺達は58年の田舎を選ぶことにした。まあひとつ気になることもあったが。

 なぜ年号が指定されているのだろう?何の意味があるのだろうか?

 気にはなったが、こんな田舎で何かおかしなことが起こるとも思い辛い。気にするだけきっと損だろう。

 

 地名?確か雛何とかとか言ってたな。

 誰かによると、村人達も仲が良くて、よそ者にも寛容な何の問題も無い土地だと言って………

 

 「嘘だっっ!!」

 「何だ、どうしたんだ、リュー?いきなりおかしなことを言い出して?」

 「わかりません。何か言っとかなければいけないような気がして。」

 「うーん、初夏とはいえ日差しが強いしなぁ。大丈夫か?旅行はやめて一緒に帰るか?」

 「オラリオに帰れ!!」

 「おい!?リュー、何言ってんだ!?どうしたってんだ!?俺だけ帰れって言うのか!?」

 「わかりません。何か変な電波を受けとったとしか………。」

 

 どうしたってんだ?体調不良か?

 もう明後日にはお祭りが行われて、リューはそれを楽しみにしていたのだが?確か綿何とかって名称の。

 体調不良ではお祭りどころではない。帰るべきだろうか?

 

 「リュー、やっぱり帰るか?」

 「いえ、大丈夫です。二人で楽しみましょう。」

 

 何だろうな?何か嫌な予感がするんだよな。年号指定も何か変に気になるし………。

 また変なことに巻き込まれたりせんだろうな?………まさか誰かは俺達を騙したりしてないだろうな?俺は疑心暗鬼になりそうだぞ?

 

 「みー、互いを信じ合うのです。」

 「みー!?何言ってるんだリュー!?いよいよ大丈夫か?ちょっとかわいかったけど。」

 「あれ?本当に私は何を言ってるんでしょうか?自然と口から出て来たとしか………。」

 

 ………いよいよもってきな臭い。さっきからリューが怪電波を受信しっぱなしだ。これは警戒したほうがいいかもしれない。

 それはそうとして、リューもう一回みーって言ってくれないかな?

 

 向こうを見ると、白衣を着た女性がカメラを手に持つ男を連れ回している。

 ふむ、尻に敷かれているのかな?親近感を覚えるが、カメラは仕事用だよな?まさかアポロンの同類だったりせんよな?

 ………俺の杞憂だと思いたいが………あの男もあんなに元気に年甲斐もなくはしゃいでいる。何か変なことが起こったりは………せんよな?

 

 「どうだ?リュー?もう変なことを言い出したりしないよな?」

 「ええ、大丈夫のはずです。………富○フラーッシュ!!!」

 「富○フラッシュ!?何だそれ!?」

 

 ………完全にアウトだ。

 いくらなんでもこれはないだろう?リューが富○フラッシュだぞ?富○って、誰だ!?

 

 これは完全に誰かに騙されている。

 

 「リュー、帰るぞ。俺達は絶対に騙されている。俺達は間違いなく、おかしなことに巻き込まれつつある。」

 「えっ!?せっかくの旅行ですのに………。」

 「それでもだよ。身の安全には変えられないだろう?もっと別の場所にしよう。差し当たっては帰ってから、誰かを締め上げよう。」

 「ですが迎えのクラネルさんは帰る日まで、来ませんよ?こちらから連絡をとる手段もありませんし。」

 「何だと!?」

 

 俺はミスをしたのだろうか?

 もしかしたら誰かは愉快犯なのだろうか?

 俺は身内に怖じ憚る邪悪を取り込んでしまったのか?

 あのショボい見た目は擬態で、中身はもしかして真っ黒だったのだろうか?

 

 「リュー、完全にアウトだ。さっさとこの場所から逃げよう。俺の第六感がここは完全にアウトだとけたたましく叫んでいる。」

 「えっ!?ですが、私は今から鉈を探さないと………。」

 「鉈!?そんなもの探してどうするつもりだ!?」

 「?何ででしょう?何か手に持つとしっくり来るような予感がしたので………。」

 

 ………ヤバい。ヤバすぎる。鉈とか完全にアウトを通り越してデッドだろう。何をするつもりだ?惨劇の予感しかせんぞ?

 

 「リュー、逃げるぞ!俺達は今危機に巻き込まれている!」

 「どうやってですか?ここはバスもほとんどありませんよ?」

 「走ってだよ!ここにいたら危険だ!」

 

 陽は傾き、すでに夕暮れ時。

 いつまでもいつまでも、ヒグラシの声だけが不気味に響いていた。 完




実はハッピーエンドのルートで、この後は特に何事も起こりませんでしたとさ。

今度こそきっと完結のはずです。なんだかんだで半年も連載してたみたいですね(人事)
皆様、お付き合いありがとうございました!


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