Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~ (アマゾンズ)
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機体設定集と登場人物

時折、追加や修正されます。


赤野政征

 

青葉雄輔

 

シャナ=ミア・エテルナ・フューラ

 

フー=ルー・ムールー

 

束の祈りでMoon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界からル=クク・ヴォーデュ(クロスゲート)によって現れた人物達。自分達の世界で破滅との戦いによって飛ばされてしまい、自分達の世界へ帰る方法を模索している。

 

 

この世界でもIS学園に入学し、織斑一夏と出会うが自分たちの知っている人物と全く違う為に政征と雄輔の二人が鍛える事となる。

 

※シャナ=ミア・エテルナ・フューラがシャッフル同盟、『クラブ・エース』の紋章を持っているが本人はそこまでの強さはないと言っている。

 

 

篠ノ之束

 

この世界におけるキーパーソンの一人。春始の支配が完全となった世界から転移して来た人間であり正確には巻戻りにも等しい奇跡を受けた。支配された世界においてフューリーの地上拠点であるアシュアリー・クロイツェル社の社員である紫雲セルダの手引きによってフューリーへと亡命。

 

彼から『タバ=サ・レメディウム』というフューリーとしての名を貰い、フューリーとしての戸籍も手に入れ、アシュアリー・クロイツェル社の研究部長として籍を置いていた。

 

上記の四名の後継人かつ、後ろ盾となり彼らにとって別世界のアシュアリー・クロイツェル社へと伝手役となった。一夏の為に騎士の二人の助力を乞い、彼を生き残らせる為の盾であり剣としてラフトクランズ・クラルスを完成させた。

 

今現在はアシュアリー・クロイツェル社に籍を置き、春始を打倒する為の策や自分が戦う為の機体、誰でも扱う事の出来る量産機の研究、戦いが終わった後の運用法などを模索している。

 

 

織斑一夏

 

この世界において三人目の騎士となる人物。政征達の世界同様、シャナ=ミアに惚れ込むが手篭めにしようとはせず、正々堂々とシャナ=ミアに自らの気持ちを打ち明けるが玉砕してしまう。初恋は叶わなかったがそれを自分のケジメとして乗り越え、新たな恋を模索する。

 

幼い頃から天才的な兄である春始に見下され続けていた事もあり、どこか諦めやすくなってしまっている。恋愛面での鈍感な所は多少、改善されているが告白の言葉を聞かないと好意には気付ない。

 

後に騎士機であるラフトクランズ・クラルスを受領し、愛機とする。それと並行するように『洞察力』・『直感力』・『卓越した空間認識能力』を持った人類の亜種(ニュータイプ)に覚醒した。

 

※ニュータイプに覚醒する為の能力発現には心身に強いストレスを受けることを必要とされているが、その観点から言えば幼少期から兄である春始に心身共に痛めつけられ、姉からも心無い言葉を掛けられていたなど、環境の過酷さはあった。

 

実際は並行世界とも違う全く別の世界の人物の声(正確には中の人が同じで主人公ポジションでもある[機動戦士ガンダムUC]の世界の主人公である『バナージ・リンクス』の声の導き)により『可能性を諦めない者』としてニュータイプに覚醒している。

 

デフォルトBGM スパロボJより『Fate』『Moon Knights』※MDアレンジ含み

 

 

織斑春始(アンチ対象)

 

転生者であり、特典から天才になる事とISの世界に行く事、房中術による身体強化、ISの世界で一番最初の男性操縦者になるよう望んだ人物。織斑一夏の兄であり織斑千冬の弟である。

 

原作の知識があったが転生の際、タッグトーナメント編までしか持つ事ができなかった。女に目が無くヒロインであるISガールズを手篭めにする事を考えており、特に狙っているのが鈴とラウラの二人で別世界から現れたシャナ=ミアをも手篭めしようと考えている。

 

分け隔てなく接しているように見えて実際は気に入った人間にしか接さず、間男紛いな事も平気で行う。

 

天才である事を鼻にかけている為、努力はしない。自分の思い通りにならないと癇癪を起こす癖がある。

 

世界を手に入れたパターン(束の祈りが行われる前)では原作において一夏に好意を寄せるISガールズ達を手篭めにし、房中術の糧にして捨てた後、束を女として手に入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

篠ノ之 箒

 

原作ヒロインの一人。政征と出会ったことで別世界の自分が一夏に依存している記憶を自覚させられ、本当の強さや依存しない方法を模索する。雄輔とは剣友となり、互いに良きライバルとして、越えるべき壁として雄輔を目標にしている。春始に言い寄られているが本人にその気はなく、自分の中にある一夏への想いが本物なのかを知りたくなっている。

 

 

セシリア・オルコット

 

原作同様、女尊男卑に染まっていたが政征達に接触した事によって別世界の自分の記憶を自覚する。それにより自分の考えを改め、自分が出来る事を最大限にやり遂げるのをモットーにしている。フー=ルーに女傑であり騎士の振る舞いに憧れを持つ。

 

 

凰 鈴音

 

春始に狙われている原作ヒロインの一人。この世界では中学時代に春始から性的な目で見られ、視姦され続けていた為に性格が少しだけ歪んでしまっている。政征達と接触した事で記憶にある別世界の自分が圧倒的に強い事に腹を立て、自分も追いつく為に同様のトレーニングを始める程の行動派。爪龍に関しては羨ましいと純粋に思っている。

 

 

シャルロット・デュノア

 

この世界でもカルヴィナとアル=ヴァンと家族になっており、政征達の接触によって別世界の自分の記憶を自覚。サイトロンリンゲージ率が高いため、ベルゼルート・リヴァイヴに乗りたいと考えているが、この世界での彼女は未だにカルヴィナを超える事が出来ていない。

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

春始に狙われている原作ヒロインの一人。原作と変わらないが一夏ではなく春始への憎悪が強い。政征達との接触で別世界の自分の記憶を自覚し、テッカマンブレードの姿と強さに魅せられ全身装甲化したいと思うようになる。シャナ=ミアに対しては別世界と変わらず姉のように接する。この世界では軍属である事でコネを使い、自分の友人達と共に上を目指すキッカケを作る役割が多くなっている。

 

 

イェッツ・アイーナ[今野 初音](こんの はつね)

 

IS学園外に住んでいる女性。GUN×SWORDのファサリナレベルのスタイルを持っており、無意識に男を魅了するくらい美しく寡黙な謎の女性。何かを探しているようで「世界の静寂」「種子を持つもの」「ルーツ」「始まりの地」などのワードを口にする。

 

春始を「種子を持つ者」として目をかけ、彼に抱かれようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ラフトクランズ・クラルス

 

春始に渡された白式に代わって、一夏の乗機となる白色のラフトクランズ。雄輔の機体の基本となったラフトクランズとは全くの別物。

 

白色だが若干、灰色の要素が加わっているのは使用者であり本物の騎士を目指す一夏の心を反映させているとも言える。

 

アシュアリー・クロイツェル社に所属する束が一夏の為にフューリーの技術者達と政征達の協力を得て、一から機体設計をして共同開発したIS。

 

騎士機ラフトクランズの名を冠してはいるが、正式なフューリーの機体ではなく姿や武装を再現したレプリカと言える機体となっている。その為、地球にあるISを始めとした機械の部品を流用する事で機体修理をする事が可能だが、オルゴンエクストラクターなどのエネルギー周りの部分はフューリーの技術が使われている為、機体の動力部の修理や調整の為にはフューリーの技術が必須となる。この問題はアシュアリー・クロイツェル社に所属する束がいる為、事実上では解決していると言っても過言ではない。

 

レプリカ機体とされてはいるが、武装と武器の威力や出力はフューリーの正式なラフトクランズと何一つ変わらず、地球の技術とフューリーの技術のハイブリッドでもある為フューリー側、地球側から見ても「お互いの技術が手を取り合った結晶」として珍重されている。

 

クラルスとはラテン語で「清浄」という意味を持つ。

 

一次移行によってバスカーモードが解放されるが、ソードしか扱う事が出来無いという制限を持つ。

 

その他の武装制限の開放は政征達のラフトクランズと何一つ変わらないが、射撃武装が得意ではない一夏がパイロットである為、ライフルのモーションは変わらず単発型のままである。

 

バスカーモード発動時はツインアイが青く輝き、放出されるオルゴンが青く見える。

 

 

 

ラフトクランズ・クラルス[U N I C O R N]モード

 

正式名称は【Universe Nnature Infinity Constitute Optimum Rreconciliation Nerve】でユニコーンはこの頭文字を繋げて読んだもの。

 

 

束が三騎士のラフトクランズを改修の際に『無限の宇宙において自然の調和を構成する神経』という名目で開発し、クラルスへと組み入れたプログラムによって装甲が展開、変身した姿。この状態は最長でも5分しか保つことができない。フューリー製ではなく地球製であるためにプログラムとして組み込む事が可能であった。また、一夏が別世界の何者かと心を通わせた事で人の亜種(ニュータイプ)として覚醒した為、強力な武装や超常現象(フィールド展開など)を起こせるようになっているが、一夏自身が制御しきれてはいない。

 

プログラムの正体は春始の白式から逃れられた白式の『心』という名のデータそのもの。クラルスの本来の意思と入れ替わる形で出て来れるが、基本的にはクラルスの意思と融合している為、『一つの身体に2つの魂』が入っている状態と言える。

 

 

オルゴン・マグナム

 

ラフトクランズ・クラルスに追加されたユニコーン・システムの恩恵から追加された射撃武装。

 

一発が通常のオルゴンライフルの8発分の火力を持ち、直撃すれば大抵の物を破壊してしまう程の威力と射程を誇る。

 

弱点として最大発射回数が5発、チャージもオルゴンキャノンと変わらないためにコストが悪く、操縦者である一夏も射撃の反動に耐えられていない。

 

 

煌きし白夜の剣(ナーゲルリング)

 

二次移行を果たし、完全な清浄の騎士となった時にのみ使えるクラルスと一体化した時の技。

 

元ネタはFateシリーズのプロトアーサーが使う『約束された勝利の剣』

 

この時の一夏は一夏(本来の人格)ともう一人の自分(騎士としての強い人格)であるシオンと完全に一つになり、紛う事なき騎士となる。

 

十三拘束開放・聖騎士団議決開始(シールサーティーン・デシジョンスタート)という詠唱を行うが、これは一夏がFGOの動画を観てカッコイイと思い、憧れからクラルスがキーワードとして登録した。

 

鉄の鎧を切り裂き、多数の巨人を討伐したという逸話から機械や巨大なモノ(有機物・無機物を問わず)に対して絶対効力を発揮する。

 

これの発動には、自分を支えてくれた5人からの承認(信頼)が必要であり、一人でも欠けると発動不可能。

 

発動に必要な5人→[篠ノ之箒 凰鈴音 篠ノ之束 赤野政征 青葉雄輔]

 

バスカーモード時のエネルギーを刀身に纏わせ、その余剰エネルギーを放出して相手を完全破壊する光(ビーム)を発射するが普段では発動することは不可能。

 

 

[五人が拘束を解除する為に承認する者]

 

篠ノ之箒→己の信念をかけた戦いである事。

 

凰鈴音→己が超えるべき相手である事。

 

篠ノ之束→未来へ向けた戦いである事(自動承認)。

 

赤野政征→自由へ解放するための戦いである事。

 

青葉雄輔→護るべきものがある戦いである事。

 

特別枠・織斑一夏→人として背かぬ戦いである事。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

『翠の地球』

 

次元境界線が緩んでしまった事によって向かい側に現れたもう一つの地球。境界線となっている次元が翠色に覆われ、地球が翠に見える事から識別名称として呼ばれるようになった。

 

この地球は並行世界であり、飛ばされた四人の戻るべき世界の地球で『Moon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉』の世界の地球。

 

次元境界に春始が傷を付けた事により、送り込むことは簡単に出来るが帰還させるのは大掛かりな装置が必要となる(簡単に言えばスパロボの『システムXN』のコピーであるリュケイオスのような物が必要)

 

技術力はフューリー側の技術が地球より上回っており、フューリーが地球人と共存する道を選んでいる(スパロボJのエンディングパターン)

 

地球側の技術はまだまだフューリー側には及んでおらず、解析も進んでいないが、和平に関して言えば『白の地球』を遥か上を行っており、フューリア聖騎士団の規模も大きくなりつつある。

 

※また『織斑一夏』と『篠ノ之箒』が鬼籍になっている。

 

 

ーーー

 

 

『白の地球』

 

次元境界線が緩んだ事により『翠の地球』から丁度、向かい側に存在する地球。境界線となっている次元は白色に覆われて、地球が白く見える事から『翠の地球』側の呼び名として呼ばれている。

 

こちらの地球こそが『Moon Knights IS~Prayer of a Rabbit Fury~』の世界の地球であり、この物語の世界の地球である。

 

こちらの世界ではフューリーに亡命した篠ノ之束こと『タバ=サ・レメディウム』が居る為、フューリーと地球との技術力に大差がない。

 

また、『タバ=サ・レメディウム』が地球製のパーツでラフトクランズのレプリカである『ラフトクランズ・クラルス』を作り上げた事によって技術向上がされ、手を取り合ったハイブリッド技術が『翠の地球』以上のものとなっている。

 

この世界では女尊男卑の傾向がまだまだ強い所もあり、ベーオウルフという驚異も生まれている。

 

フューリーと地球人の間には、まだ少しだけの反感が残っており結婚や交際をしていると異質として避けられる傾向が強いが、ほとんどはデマが多い(現代で言うところのツイフェミのようなもの)

 

『白の地球』と『翠の地球』どちらも女尊男卑の影響で少子化問題が叫ばれている。

 

 

ーーーー

 

ファン=リン・ウィルトス

 

『翠の地球』側のフューリア聖騎士団に所属する女性騎士で3番隊隊長を務める。皇族の近衛兵である『禁士』に最も近いとされている。

 

その正体は『翠の地球』側の『凰鈴音』本人である。『白の地球』と比べて僅かに成長しており、身長も150から153へ。胸元サイズもAからC寄りのBになっている。

 

両親がフューリーであり、メンバーの中で唯一とも言えるフューリーの純血。

 

フューリーとしての紋様は、小さな蓮の花弁と鳥の爪を掛け合わせた物。髪型は自慢の長い髪を日本の神社の巫女さんのように単なる一本纏めにしている。

 

愛機は甲龍をクストウェル・ブラキウムの技術とデータをフィードバックさせ、修理・強化改修した爪龍とフューリーから支給されたクストウェル・ブラキウムの二号機。

 

※『翠の地球』側のシャッフル同盟、『キング・オブ・ハート』の紋章を持つ。

 

 

セシ=リア・ナトゥーラ

 

ファン=リンと同じくフューリア聖騎士団に所属する女性騎士。5番隊隊長を務める。

 

ファン=リンよりも後に入団したが、異例の速さかつ史上最年少で隊長の座を実力でもぎ取ったほどの努力家。

 

その正体は『翠の地球』側の『セシリア・オルコット』本人である。彼女自身、肉体的にはあまり変化がないが、精神面が強くなっており、髪型も金髪のボブディとなっているが縦ロールは健在。

 

セシ=リアの家系において曾祖母の時代に曾祖母自身がフューリーと結ばれていた事実を知り、自分がフューリーとの混血であることを自覚した。

 

フューリーとしての紋様は額の端にフー=ルーと同じ物が二つあるが、これは憧れの意味が込められている。

 

愛機はイギリス所属の『ブルー・ティアーズ』であったが、機体が限界を迎えてしまいフューリア聖騎士団への入団と同時にスタンダード・タイプのラフトクランズへ乗り換え、現在は受領したスタンダード・タイプのラフトクランズを素に新た専用機を開発中となっている。

 

ただの『ラフトクランズ』という名称が気に入らなかった為、本人は『ラフトクランズ・ティアー』と呼んでいる。

 

※ラフトクランズの機体の特徴である格闘戦用の調整とセシ=リアの得意とする射撃戦闘との相性が良くなく、機体性能を発揮しきれていないが、後に専用カスタマイズと武装パックが開発予定になっている。

 

※また、隊長でありながらスタンダード・タイプのラフトクランズを使用しているのはセシ=リアとラフトクランズの稼働データが揃っておらず、カスタマイズの為の方向性と戦闘データが足りていないためである。

 

※『翠の地球』側のシャッフル同盟、『クイーン・ザ・スペード』の紋章を持つ。

 

 

シャル=ロット・アストルム

 

セシ=リアと同期でフューリア聖騎士団に入団した女性騎士。7番隊隊長を務める。

 

母方がフューリーの血筋であり、セシ=リアと同じ地球人との混血のフューリー。隔世遺伝によって僅かにフューリーとして覚醒していたが、フューリア聖騎士団に入団し、訓練を積んだ事でその血が覚醒した。

 

その正体は『翠の地球』側の『シャルロット・デュノア』本人である。

 

本来はデュノア社の令嬢だったが、会社の不正によってアシュアリー・クロイツェル社に買収された為に身寄りがなくなってしまったが、偶然出会ったカルヴィナ・クーランジュとアル=ヴァン・ランクスの二人の養子となった。

 

フューリーとしての紋様は額にアル=ヴァンと同じ物と頬には小さな猫の爪痕のような形をした物。これはフューリーの騎士たるアル=ヴァンとカルヴィナの異名である『ホワイト・リンクス(白い山猫)』への尊敬の意味が込められている。髪型はシャルルと名乗っていた時と同じ物。

 

愛機はカルヴィナの愛機であるベルゼルートの機体データ戦闘データを礎にし自身のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを強化改修した『ベルゼルート・リヴァイヴ』機体稼働の日数が経った事により、シャル=ロット自身の戦闘データが揃った事でベルゼルート・ブリガンディに使用される強化外骨格を兼ねた武装モジュールである『バスター・アーマー』の開発もされている。

 

※『翠の地球』側のシャッフル同盟、『ジャック・イン・ダイヤ』の紋章を持つ。

 

 

ラウ=ラ・エテルナ

 

シャル=ロット、セシ=リアと共にフューリア聖騎士団に入団した女性騎士。11番隊隊長を務める。

 

『四大女騎士』と呼ばれる四人の騎士の中で、唯一フューリーの血を引いていない人物。

 

そのせいで、フューリア聖騎士団の古参達から入団を渋られてしまったがファン=リンの口利きで入団する事は出来たが、未だに風当たりが強い。

 

風当たりが強い理由は、フューリーの血を引いていない事と金色のオッドアイが原因。

 

だが、自身の祖国の軍属経験があった事で冷静な状況判断、部下の育成などの視点から上層の騎士には認められつつある。実際に教育を受けた従士や準騎士達は成長し、その者達からの嘆願をもって聖騎士団の部隊長となった。

 

強引ではあったが、皇女であるシャナ=ミアと義姉妹となって妹分となった。(所謂、三国志の三人の義兄弟のような形)

 

その正体は『翠の地球』側の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』本人である。

 

フューリーのサイトロン・コントロール・システムに対応する為、自らフューリーにおいて人体改造手術を受け、サイトロンに適応した。(フューリーからすれば難しい事でも無く、サイトロンの強い波動を増幅して浴びせ続けさせ、脳の一部を変化させるだけのもの)

 

エテルナの名はシャナ=ミアとの繋がりを忘れない為に使っているもの。

 

フューリーの紋様はインフィニティ・キャリバーの鍔となる頭部の角状パーツの形をしたものがオッドアイのある左側の頬に後に出る。髪型はロングヘアーだが、背中までの長さ。

 

愛機はシュヴァルツェア・レーゲンだが、外見上は変わらず動力源などの中身はフューリーの技術によってブラッシュアップされている。

 

最大の特徴は特訓時の事故によって飛ばされたある世界の戦士、テッカマンブレードの姿と敵側のラダムテッカマンの基礎技術と特徴を持ち、テッカマンブレードと酷似した全身装甲の姿となり、僅かながらの時間ならば宇宙空間を単体で飛び回れるのが、最大の特徴。

 

※『翠の地球』側のシャッフル同盟、『ブラック・ジョーカー』の紋章を持つ。

 

 

シャッフル同盟(『翠の地球』側のみ)

 

登場する原作の作品(Gガンダム)では「歴史の秩序の担い手と呼ばれ、歴史上のあらゆる争いを陰から調停してきた」という最強の武術者集団。とされている。この作品では『モンド・クロッソにおける最強の五天王』という立ち位置で『ブリュンヒルデ』の栄光を掴む前に勝たなくてはならない相手とされている。

 

今は、女性フューリーのみのシャッフル同盟となっており、それもずば抜けて実力の高い5人が相手のため、ブリュンヒルデの席が空席となってしまっている。




後々も色々と加えていきます。


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兎の祈り(プロローグ)[世界の掌握が成功した世界]

兎は祈った。世界の巻き戻しを

兎は願った。自分と共に戦ってくれる戦士を。

※この世界は完全成功パターンです。クロスゲートによってズレが発生しています。


破壊された建物、周りには炎が上がり空を赤く照らしている。その中で一人、致命傷を負い、目を閉じた青年を抱き抱え、泣きながら声をかけている女性がいた。

 

「いっくん!目を開けてよ!いっくん!」

 

青年は返事を返さない、青年は治療が不可能な心臓の位置を刃のようなもので抉られ、既に命は消えていた。

 

「束、逃げろ!私の弟の不始末は私が付ける!」

 

「ちーちゃん!?」

 

束と呼ばれた女性を守るように前へ出ると空から白色のISが地上に降りてくる。その手には日本刀に似た物を手にしており、ISを纏っている女性たちを軽々と切り倒している。

 

「千冬姉、おとなしく束さんを渡してくれないかな?もうアイツ等には飽きてね、そろそろ極上の人が欲しいんだ」

 

「春始、貴様・・・アイツ等を弄び、手篭めにしただけでは飽き足らず束まで手にかけようというのか!」

 

千冬と呼ばれた女性と春始と呼ばれた男は姉弟であるようだが、千冬の目には明確な怒りが宿っていた。それを体現するかのように刃を春始に向ける。

 

「そうさ、アイツ等は幸せだろう?なんせ、この天才である俺の種を受けることが出来たんだからさ」

 

「春始、まさか・・・!?」

 

「全員、喰ったさ。もちろん容赦なしにね。鈴とラウラは最高だったよ」

 

その言葉を聞いた千冬は唇を血が出るくらい噛み締め、怒りに震えた。束も目の前にいる男を殺意の篭った目で睨んでいる。

 

女性の威厳をまるでゴミを捨てるかのように奪い、ただ自分の欲望をぶつけている。それだけでもどれだけの幸せを打ち壊されたのだろうか。

 

「春始、許さんぞ!」

 

「ちーちゃん!」

 

千冬は怒りに任せ春始に斬りかかる。その一撃を春始は受け止めると挑発と嘲りを含めた気持ちの悪い笑みで千冬に話しかける。

 

「おお、怖い怖い。千冬姉と姉弟じゃなかったら今頃、頂いてたなぁ」

 

「貴様はもう弟でもなんでもない!ただのクズだ!!」

 

「あ、そう。唯一の姉だから生かしておこうと思ってたのに・・・じゃあ、死ねよ!」

 

春始の横薙ぎの一撃が千冬の腹部に僅かな傷を負わせた。皮一枚を斬っただけではあったがそれは千冬自身の身体能力のおかげであり、並みの者なら胴を切り離されていた。

 

「千冬姉を殺した後、束さんを楽しむさ!」

 

「ふざけた事を抜かすなぁ!」

 

「終わりだよ」

 

千冬の唐竹割りを春始は居合いの一撃で返し、千冬に致命傷を負わせた。斬られた脇腹からは出血し、手で止血しても流れる血は止まることはない。

 

「ぐ・・あ」

 

「手足は潰しておかないとね」

 

春始は容赦なく千冬の四肢を刀で潰し始める。これが親類に対する攻撃なのかといわんばかりに手足を潰していく。

 

「ぐああああ!あがっ!ぎゃあああ!」

 

「ちーちゃあああん!!」

 

束が叫ぼうにも春始の攻撃は止まず、そして千冬は動かなくなってしまった。時期に出血多量で死に至ることが目に見えている。

 

「さぁ、束さん。俺の・・ん?」

 

「IS反応が五つ!?」

 

新たに束を守ろうとして現れたのは、かつてそれぞれの各国て代表候補生を勤めていた五人だった。

 

その身は既に春始の毒牙にかかっており、強制的に種を埋め込まれた状態である。

 

「なんだ、お前らか。もう相手すんの飽きたから消えてくれないかな?」

 

春始自身は興味のないおもちゃを見るように、追い払う仕草を五人に対して行っている。

 

「貴様のせいで私達は・・・!」

 

「わたくしは貴族の誇りを失い、親友まで失いましたわ!」

 

「私は思い出を失った・・・全て!」

 

「ボクは身を堕とさざるを得なかった!欲望の捌け口として!」

 

「私は部下達を失い、存在意義を失ったのだ!」

 

五人の目には憎しみと殺意しか映っていない。目の前の男によってそれぞれ失ってしまったものが大きすぎるためだ。

 

「箒もセシリアも鈴もシャルもラウラも、怖いね」

 

それぞれの名前を呼び、春始は肩をすくめていた。自分のやったことに恨まれる覚えはないと言いたげに。

 

箒自身、春始に言い寄られ、その身を喰われてしまい実家から勘当されてしまった。

 

セシリアも喰われた事で代表候補生の立場を失い、親友も財産も全てを失った。

 

鈴は真っ先に春始の欲望の捌け口にされ、たった一つの大切な思い出を壊された。

 

シャルロットはその身を堕とし、娼婦にならざるを得なくなった。

 

ラウラも鈴同様、欲望の捌け口にされた上に軍から追放され、実験体に戻ってしまった。

 

それぞれが失ったものは大きすぎる、目の前の男によって女性としても人間としても生きる希望を奪われたのだ。

 

「姉さん、早く逃げてください!」

 

「箒ちゃん!?」

 

箒の言葉を皮切りに全員が束に視線を向けた、だが、それはまるで死地に向かう兵隊のようだ。

 

「貴女様だけが最後の希望ですわ!」

 

「お願い、早く行って!!」

 

「ここはボク達が刺し違えてでも止めるから!」

 

「行ってください!篠ノ之博士!」

 

「みんな・・・!ごめんね!」

 

全てを託された束は急いでその場を走り去った。あの子達はここで死ぬつもりだ。目に涙が溜まり、泣いていてる事すら意に介さず走り続け、その姿は見えなくなった。

 

「束さん!お前ら・・・」

 

「姉さんの所へは行かせん!」

 

「わたくし達の未来を壊した罪」

 

「その命を持って償いなさい!」

 

「覚悟してよね!春始!」

 

「行くぞ!」

 

五人はISを展開し、春始へと向かっていった。自分の命をも捨てる覚悟で束に全てを託した為に。

 

「お前ら全員、倒してやるさ!」

 

一人の青年と五人の少女達の戦いが幕を上げ、光の中へと消えていった。

 

 

 

 

あの戦いから一年。織斑春始はその立場と天才的な頭脳を駆使し世界を牛耳っていた。

 

顔立ちが良い女性は彼の元に連れて行かれ、男性は生活は保証されているものの結婚や恋人などがいない状態が続いている。

 

その情勢をある会社の一室で観ている女性が居た、その女性は篠ノ之束である。

 

彼女は今、春始が出した命令で最重要確保人物として手配されてしまっている。その理由はISであり、また女性としての狙いが大きく自分の種を宿すことであった。

 

彼女は現在、名前と姿を変えタバ=サ・レメディウムと名乗りアシュアリー・クロイツェル社の研究部長としてフューリー達に匿われている。

 

一年前に紫雲セルダと名乗る人物に助けられ、事情を話すとフューリーとして生きてみないかと言われ、束はそれを二つ返事で承諾した。

 

篠ノ之束としての自分が生きていれば、春始は間違いなく付け狙ってくるだろう。

 

あの男に捕まるのは何が何でも嫌だった。そうして彼女は篠ノ之束という自分を殺して、別の人間になったのだ。

 

アシュアリー・クロイツェル社は世界的大企業であるため春始に対し、莫大な金額のお金を払っている為に手出しはしてこなかった。資金源にもなっているために迂闊な事は出来ないからだ。

 

そのおかげで束の存在を隠し続けることができている。

 

一年前に自分を逃がしてくれた親友も、その弟も、妹を含んだ五人の少女達も全員が亡き者となってしまっていた。

 

「私・・・何を間違ったんだろう」

 

束・・・いや、タバ=サはテレビのスイッチを切ると休憩室から出て行った。

 

廊下を歩いていると地下から何かが動くような音が聞こえる。それを聞いたタバ=サは立ち入り禁止と書かれた地下への階段を降りていく。

 

「!!な、何!?これは!」

 

そこにあったのは小規模ながらもゲートのような機械だった。今も稼働しており、何かを待っているようだ。

 

タバ=サは篠ノ之束に戻り、そのゲートに向かって泣き叫んだ。この機械は何かを変えてくれるという確信を得たからだ。

 

「お願い!この世界を全て巻き戻して!アイツを倒せる人達を私の元に連れてきて!お願いだよ!」

 

束は一心に祈った。科学者は神などは信じていない。現実主義者である思考が神への信仰というものを放棄させるからだ。

 

束の慟哭にも似た祈りが届いたのか、ゲートが起動し内部に雷のような電流が走り、何かを呼び出そうとしていた。

 

「な、何!?きゃあ!」

 

眩しい光が束を包み込み、ゲートの内部へと吸い込まれていく。束が目を開けるとそこは変わらずアシュアリー・クロイツェル社の地下のゲートの前だった。

 

「な、なんだったんだろう?さっきの・・・あれ?また!?」

 

ゲートが再起動し、今度は内部からISを纏った四人の男女が束の前に現れていた。

 

「貴女の祈りが私達を呼び寄せたのですね、私がその祈りに応えた為に」

 

「束さん、ですよね?ここは一体?」

 

「並行世界への転移をしたのか?」

 

「ありえますわね、ル=クク・ヴォーデュと似たものが私達の世界にもあったのですから」

 

四人はそれぞれISをらしき物を纏ったまま現状を把握しようとしていた。束は置いてきぼりをくらっていたが端末を取り出して年数と月日を見て目を見開いた。

 

「(アイツやいっくんがISを動かした事を発表される。半年前!?時間が巻き戻ったの!?)」

 

束は信じられない様子で端末も見つめたままだった。時間の巻き戻り、願った事が叶うとは思いもしなかった為だ。

 

「あ!ル=クク・ヴォーデュが!」

 

緑色の髪を持った女性がゲートが機能停止していくのを見て声を上げていた。それを見た他の三人も驚いている。

 

「動いてませんよ、これ」

 

「参ったな」

 

「ええ」

 

「仕方ありませんわ、ル=クク・ヴォーデュは莫大なエネルギーを使っていますもの」

 

束は四人に向けて声をかけた。路傍の石ではなく自分が呼び出したのだから協力を仰ぎたい一心で。

 

「あの、君達は誰?名前を教えてくれるかな?」

 

 

四人は振り返ると束に向かってそれぞれ名前を口にした。この世界は自分たちの知っている世界ではない事を自覚したからだ。

 

「俺は赤野政征」

 

「シャナ=ミア・エテルナ・フューラです」

 

「青葉雄輔だ」

 

「フー=ルー・ムールーと申しますわ」

 

この出会いが束の望んだ運命になる事をこの時はまだ知らなかった。後にもう一つの剣が束によって作られることも。




ぼかしてるけど大丈夫かな、これ?と思わせるプロローグになってしまいました。

最初にあったように、この世界は巻き戻るまで世界がたった一人の転生してきた男性操縦者に牛耳られてしまっていました。

ISガールズに何が起きたのかといえば女性の威厳を壊すR-18的な事をしたと言っておきます。自分からはおぞましすぎて言えません。

天才とされていますがこの四人が来るまでの話です。もちろん二次移行状態にはなってしまっていますが、全身装甲になっている以外に変化はありません。

四人はスパロボでいう二週目状態になっていると思ってください。

巻き戻しは完全な過去への巻き戻りではなく、クロスゲートによってズレが生じ、完全成功のこの世界は可能性がなくなっています。

その為に似て非なる世界の流れです。



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兎からの願い

騎士の剣を再現しようとする兎、その為に月の騎士達に協力を願う。

そして白色の騎士の剣が鍛えられる。


この世界に四人が転移してきた同時に、四人はある確認を束に頼んでいた。

 

一つは自分達以外に同じ人間が居ないかどうか、更にはフューリーが存在しているのかなどの事実確認の為だ。

 

「とりあえず、今俺達が居るのはアシュアリー・クロイツェル社で間違いないんですよね?」

 

「う、うん・・・(入社する前の時間になってるから大丈夫かな・・・?)」

 

政征の言葉に束は少し動揺しながら答える。時間が巻き戻った事により、自分が匿われていた前になっているはずなので会社の人間達が自分達を追い出しかねない。

 

「とにかく、ここから出ましょう。次の行動を考えませんと」

 

「フー=ルーの言う通りです、まずはここから出ましょう」

 

「そうだな」

 

フー=ルーの言葉にシャナ=ミアと雄輔が同意し、政征と束も頷いた。時間とタイミングを見計らってアシュアリー・クロイツェル社の地下から出ると出社時刻ではないらしく、すぐに出ることが出来た。

 

その途中で確認したい事があると言った束は社員が記録を付けるタイムカードを調べていた。

 

「(やっぱり、私のカードがない。入社してないって事だね。それなら篠ノ之束に戻ってお願いするしかないか)」

 

タバ=サというもう一つの名前がある為に束はもう一度、篠ノ之束という本名に戻らなければならない。そう決意し他の4人と共にアシュアリー・クロイツェル社から出て行った。

 

 

 

 

三日後。束は簡易だが居住を兼ねた研究所を作るとクロエを含んだ五人と共に住み込み、四人が依頼してきた事を調査し、アシュアリー・クロイツェル社に自らを入社させてくれるよう頼み込んでいた。

 

アシュアリー・クロイツェル社の上層部はISの開発者である篠ノ之束、自らが入社させてくれという事態に大騒ぎになっていた。彼女の条件を飲むという事で落ち着いたが同時に入社反対意見を強引に押し切ったのだろう。

 

束本人から提示された条件は自分の研究用の部屋を作って貰いたい事、政征達四人の後ろ盾になって貰う事、篠ノ之束ではなくタバ=サ・レメディウムとして入社させて欲しいというものだった。

 

会社側からすれば、こちらから用意しようとしていた事のほとんどが条件だった為に拍子抜けしたが全ての条件を飲むことを約束した。

 

会社の件を片付けた束は次に転移してきた四人の同姓同名の人物、または完全に同じ人間がいないかを調査し始めた。

 

その結果、名前が違い似たような人間はいるものの全くの別人が居るというだけであり、フューリーは存在しているがシャナ=ミアが摂めているのではなく、別の皇女が平和的に摂めているそうだ。統率している皇女の名前を聞いた瞬間にシャナ=ミアは驚いていたという。

 

「(とりあえずこれで保険は獲得できたし、彼らの依頼の調査も終わった。後はいっくんのISだね・・・)」

 

巻き戻りが起こる前の時に知っていた一夏は専用機ではなく、量産機の打鉄を使っていた。白式は春始の手に渡り、機体性能の差もあったが天才的に乗りこなした春始の力量もあって、あの時の一夏は亡き者にされてしまったのだ。

 

「(白式は間違いなくアイツの手に渡る・・・それなら、いっくんには!)」

 

束は一度、モニターを落とすと政征と雄輔のもとへと向かった。二人は外で鍛錬中のようで政征は立ち枯れて棒が置ける二本の木の間に太め棒をかけて、逆さ吊りの状態で足を結びつけ、二つのバケツから御猪口で水を掬って、上にあるバケツに何度も水を入れている。

 

雄輔は鉄棒の先端に重りらしきものを取り付けた物をまるで剣道の素振りをするみたいに何度も振っている。滑り止めの為に巻いた布に血が滲んでいるのが見えたが二人共かなりの時間を鍛錬に使っているのだろう。

 

「ふうっ!っっ・・!かはぁっ!ん?」

 

「ふっ!ふんっ!!おや?」

 

二人は束が来たのを見るとそれぞれ、鍛錬を中断し雄輔は鍛錬器具を置き政征の足を縛っている縄を解いた。

 

「っと!ふう・・・」

 

「束さん、何か用か?」

 

「あー、うん・・・」

 

二人は汗だくで鍛え込まれた上半身を披露している状態なため、束は目を泳がせていた。

 

政征がそれに気づいたのか雄輔にタオルと着替えを投げ渡し、自分も汗を拭きながら話しかけた。

 

「汗拭いて着替えようぜ。俺達、シャツを脱いだままだからさ」

 

「ん?ああ・・・そうだったな」

 

「そうそう・・・っ!?」

 

二人が背を向けると同時に束は目を見開いた。二人の背にはフューリー独特の模様があった。

 

政征はインフィニティ・キャリバーの柄を模したような模様があり、雄輔にはバシレウスの頭部を模したような模様があった。目の錯覚かと目を閉じて首を振り、もう一度目を開けると二人の背中にあった模様は消えていた。

 

「なんだったの・・?今の」

 

「で、改めて束さん。俺達に用は?」

 

「へ?あ、うん。君達のISの機体データが欲しいなって」

 

「ラフトクランズの機体データを?」

 

二人は着替えが終わらせていたようで束の近くに来ていた。束の要件は二人が使っている機体であるラフトクランズに関するもののようだ。

 

「そう、どうしても作りたいんだ。いっくんの為に」

 

「いっくん?」

 

「まさか・・・」

 

「うん、織斑一夏・・・だから、いっくんだよ」

 

その名前を聞いて政征と雄輔は一瞬だけ顔を顰めた。自分の世界ではないとはいえど、束が口にした名前は二人にとって緩和していても怒りを覚えるものだったからだ。

 

「いっくんにはね、兄がいるんだ。そっちに白式が持っていかれる可能性が高いの、だから私が専用機を作ってあげたいんだ!だから、お願い!」

 

「・・・・(兄だって?おかしい、一夏は千冬さん以外の兄弟は居ないはずだ)」

 

「政征、お前の気持ちは解るがここは」

 

「ああ、分かってるよ。雄輔」

 

「束さん、協力して機体を作りましょう。制作にはどのくらいかかりますか?」

 

「コアはあるから何とでもなるけど、問題はデータと組立てだけなんだ。それが出来れば学校の入学時期までには間に合うよ。会社には明日から来て良いって言われてるし」

 

「なら、全員で行きましょう。その方が効率も良くなります」

 

「そうだな、俺達の機体も披露を兼ねてな」

 

「二人共、ありがとう!」

 

話はこじれかけたが、二人の協力を得られた事に束は感謝していた。これで、専用の剣を彼に渡せると。

 

 

 

 

翌日、四人と共に束はアシュアリー・クロイツェル社に赴き、入社手続きなどを済ませ、同社の技術開発部を訪れていた。そこにはヴォルレントやリュンピーなどが置いてあり、ISの研究と同時に開発が進行しているようだ。

 

「あの、本日からお世話になるタバ=サ・レメディウムです。よろしくお願いします」

 

「ああ、タバ=サさんな。話は聞いてるよ」

 

技術開発長らしき男性に声をかけ挨拶を済ませ、ハンガーを一箇所貸して欲しいと頼み込む。研究室がまだ出来ていない為、機体を開発しようにも出来ないためだ。それと同時に手が空いていれば機体開発を手伝って欲しいとも声を周りににもかけている。

 

束は本来、コミュニケーションが気に入った人物としか出来無い。しかし、この世界の束はタバ=サ・レメディウムというもう一つの名前を使う事で切り替えができるようになっていた。

 

タバ=サ・レメディウムとはフューリーに帰化した時に名付けられた名前だ。この名前は束自身も気に入っており、切り替えのスイッチとなっている。

 

「じゃあ・・さっそく渡された機体データを見るね」

 

束は慣れた手つきでコンピューターのキーを叩き、ラフトクランズの機体データ、及び設計データに目を通し始めた。

 

「どうです?タバ=サさん」

 

「改めて見るとすごい。こんなに扱いにくい機体を二人共使ってるんだね」

 

「それでも、なんだかんだ言って相棒ですからね」

 

「そうだな、振り回される事もあったがなんとか自分の一部と思える程になったし」

 

「二人のおかげで設計が理解できたよ。後は機体の骨組みを作ればいいだけ」

 

束自身も機体を作るのが正しいのかと疑問を持っている。しかし、自分が経験したあの最悪な方向へと向かわせる訳にはいかないと考えている自分がいるのも確かだ。

 

一夏の為の剣を作る、それは束自身の贖罪でありエゴでもある。確かにこの二人から得たラフトクランズのデータを使えば白式を越えるものも出来るだろう。

 

しかし、それでは意味が無い。自分が知っている一夏は諦めやすく、死に際の時も仕方ないと言って生きる事すら諦めていた。

 

そうではないと、抗う気持ちを身に付けて欲しいという思いをこれから作り出す剣に込めて束はコンピューターのキーを叩き続ける。

 

「さて、その間に俺達は武装の設計を周りと協力してやりますか」

 

「そうだな、楽しみだ」

 

「私も手伝います」

 

「私もですわ」

 

整備の男性陣に話しかけられていた女性二人も合流し、機体の骨組みを開発する作業が始まった。

 

束自身も周りに協力を仰ぎ、技術者達の力を借りて骨組みを作っていく。組み立てていく中でシステムの問題やバグなどを発見しながら、開発していった。

 

機体には束とフューリーの技術が使われ、ラフトクランズの素体が出来上がっていく。

 

しかし、開発していく中で問題点が一つ発見された、この世界の一夏がサイトロン・コントロール・システムに適応していない事である。これをクリアしなければいくらISに改修されたラフトクランズがあっても動かす事は出来無い。

 

更には動かすだけでも最低、一週間は強いサイトロンの波動を浴び続けなければならない。

 

その問題に直面したとき、束がピンと閃いたように考えを口にした。

 

「だったら、強いサイトロンを浴びていられるようにすれば良いんじゃないかな?キーホルダーとかペンダントとか!」

 

「いい考えですけど、どうやって渡すんです?」

 

「私が直接渡すよ。無論、アイツに取られないよう防衛機能をつけてね」

 

アイツとは恐らく、一夏の兄の事だろう。束が渾名や名前すら呼ばないところを鑑みればかなり嫌っているようだ。

 

「これで、骨組みは出来たよ。武装の装備や調整とかを考えればIS学園の入学式くらいには間に合うかな?」

 

「また、入学することになるなんて・・・」

 

「仕方ないだろう?俺達もこの世界で男性操縦者になってるんだからな。束さんのおかげで何とかなってるし」

 

「再び、学生生活ですのね」

 

「私は教師ですわね、幸いにも向こうで取った教員免許はありますから」

 

各々が話している中、世間ではISに関するニュースが飛び交っており、誰が誰を下したというスポーツのような事ばかりが流れていた。

 

 

 

開発から三ヶ月が経過し、白色のラフトクランズが完成した。純フューリー製ではなく束とフューリーの共同開発によるものであり、事実上はその姿や武装を模したレプリカ機体に過ぎない。それでも、束の技術によってそのポテンシャルは純フューリー製のラフトクランズとも引けを取らない。

 

「タバ=サ嬢ちゃん。このラフトクランズの呼び名は何だい?」

 

「うん。この子はクラルス!ラフトクランズ・クラルスだよ!」

 

「クラルス・・・ラテン語で[清浄]ですか。白色にはぴったりですね」

 

アシュアリー・クロイツェル社の技術開発科のメンバー達と束は完成したラフトクランズ見て笑顔になっていた。どんな物でも完成したというのは作り上げた人にしか理解できない感動があるからだ。

 

「あ、すみません。私これから人と会う約束をしてるので失礼しますね!」

 

束はサイトロンの波動を一夏にだけ浴びさせる為の小型装置をペンダントにした物を保管している箱を手にし、一夏の元へ向かう準備をしていた。

 

「これは強力なサイトロンを一週間しか浴びさせる事が出来ないけど、起動や操縦が出来るようになれるはず」

 

クラルスと同時進行で開発していたニンジン型のロケットに乗り込み束は一夏の居る場所へと向かった。

 

 

 

一夏は川の土手で寝転がっていた。受験勉強も運動も一通り努力してきたが自宅に帰れば天才の兄に見下され、自分の行動を阻害されてしまう。その為、勉強は公共の図書館や学校の図書室などで復習と予習をしていた。

 

自宅近くの店などに入れば、世界最強の姉である織斑千冬と天才的な兄である織斑春始と比べられ、休まる時がなかった。姉は姉で自分にも分け隔てなく接していたが、ほんの僅か春始を優遇していた節があった。

 

どんなに努力しても姉と兄と比べられ、見下され続けた結果、この世界の一夏は全てを諦めてしまう思考のクセが付いてしまっていた。

 

「はぁ、結局比べられんだもんなぁ・・・」

 

起き上がって自宅へと帰ろうとした矢先、目の前の先にある場所にニンジン型のロケットらしき物が突き刺さってきた。

 

「な、何だよ!?」

 

あまりの衝撃に尻餅を草の上で付いてしまったようで呆気にとられている。

 

「こんな所にいたんだね?いっくん!」

 

「え?もしかして、たば・・・っ!?」

 

ロケットの中から出てきた束は自分の唇に人差し指を当てて注意した。自分が此処に居ると分かれば世界中の政府が自分を確保してこようとするからだ。

 

「静かにね。今日はいっくんにお守りを持ってきたの」

 

「お守りですか?」

 

「そう、これ。首にかけて!あ、間違っても二人に見せちゃダメだよ!?」

 

あまりの念押しに一夏は首を縦に振った後、束から渡されたペンダントを首にかけた。

 

「うん、それを身に着けてればいっくんに幸運が来るよ!この束さんが保証してあげる!」

 

「束さん、俺なんかのために?」

 

「あ、時間がないや。それじゃあ、またね!」

 

束は用件だけを済ませると再びニンジン型のロケットに飛び乗り、アシュアリー・クロイツェル社へと帰っていった。

 

「銀色のタグか・・・確かにこれは千冬姉や春始兄には見せられないな」

 

少しだけ嬉しい気持ちになった一夏は笑顔になりながら自宅を目指し、帰宅した。

 

 

 

 

日数が過ぎ、世界初の男性操縦者として織斑春始と織斑一夏がISを動かしたというニュースが全世界で報道されていた。

 

政征と雄輔はどこか既知感があるような表情をしていたが、春始の存在だけが二人にとって警戒すべきだという事を無意識に理解している。

 

「とうとう、この日が来ちゃったか・・・」

 

「俺達も流石にこのままじゃ無理だからな、束さんと会社の方々のおかげでIS学園の編入試験を受けて全員突破、フー=ルーさんも教師として採用されたし」

 

「そうですね」

 

「なんだかデジャるなぁ・・この感じ」

 

「でも、行くしかありませんわね」

 

フー=ルーの言葉に他の三人が頷き、入学準備などをする為に行動を開始した。

 

学生として編入する政征、雄輔、シャナ=ミアの三人は制服などの取り寄せを行い、フー=ルーのスーツなどを買いに走ったりした。

 

編入当日は一夏と春始が入学した後の日らしく、その日まで全員で復習することにした。日数は少ないがそれでもやれることはやっておこうという考えからの事だ。

 

そして、この後にIS学園の三騎士(ドライリッター)と呼ばれる事になる三人がIS学園で合流する事となる。

 

三騎士(ドライリッター)の中の一機であるラフトクランズ・クラルスは固定ハンガーに置いてあるコンテナの内部で自分の主を待ちかねている。それを体現するように僅かに流れているオルゴンがモノアイに映り、蒼く輝いていた。




難しい。これじゃ束さんが一夏のヒロインになりそうだ。

この後から学園編に入り、白いラフトクランズであるクラルスが起動し戦闘します。

政征と雄輔の戦闘はどうするか悩んでおりまする。書くべきか書かざるべきかと。


この世界のフューリーの皇女に対してシャナが驚いていた理由は母親が平和的に摂めている為です。

世界は違えどもシャナの母たる人物がいるとなれば本人は驚きますよね?

別世界の人間なので名前は決めてません。


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学園編(第一章)
皇女と騎士達のIS学園への編入


月の騎士の三人と月の皇女が学園へ向かい、因縁ともいえる相手と対峙する。

紅の椿の所持者となる者と蒼き雫の搭乗者が別世界の自分を見せられる。


IS学園への編入の日がやってきた三人は職員室で書類の確認を取ってもらっていた。

 

「赤野政征くん、青葉雄輔くん、シャナ=ミア・フューラさんですね。確認が取れました。三人はすごいですね、企業の代表候補生とは」

 

「え、ええ(すごくデジャヴが)」

 

「顔に出すなよ?」

 

「うふふ・・」

 

書類を見ているのは学園の教頭先生だ。政征とシャナにとっては二度目となるが雄輔にとっては初めての出来事であった。

 

その向かい側ではフー=ルーが教員としての契約を結んでいる。いきなりの担任ではなく、一組の副担任補佐を二週間の間担当し、その後、基本戦術の授業を担当する事となった。

 

「それでは、三人は一組への編入となります」

 

教頭先生の言葉に三人は頷くと職員室を出ていこうとして呼び止められた。

 

「おや?案内は要らないのですか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

政征が代表して答え、三人は職員室を後にし編入を言い渡された一組の教室へと向かった。

 

教室前にたどり着くとクラスメイトとなる女生徒達が騒いでいた。憧れの織斑千冬が現れ、担任であるという事と二人の男性操縦者がいる事で興奮しているのだろう。

 

「えっと・・織斑春始です。これからよろしくお願いします」

 

春始が自己紹介をすると女生徒達は更に声を上げた。一夏にも引けを取らないイケメンであるために、その甘いマスクで挨拶されれば大抵の女性は落ちてしまうだろう。

 

「(さて、俺の目的は原作のヒロイン達を俺の物にする事だ。その為に一夏の奴の自信を折り続けてきたんだからな。俺は天才だから簡単だったが)」

 

春始は自己紹介をしながら腹の中ではこの世界においては上位に入る美少女達を手篭めにする事を考えていた。

 

彼は天才的な才能に恵まれていた為にISの男性操縦者として発見されても当然だろうという考えを持っており、自分の描いた通りに進行しているという確信を得ている。

 

「織斑弟、挨拶しろ」

 

教師であり姉でもある織斑千冬から自己紹介するよう促されたのは織斑一夏、もう一人の男性操縦者だ。

 

「わかったよ。織斑一夏です、よろしくお願いします」

 

一夏の挨拶でも声が上がる、一夏もかなりのイケメンなため女生徒達はアイドルを見ている気分で騒いでいる。

 

「静かにしろ!馬鹿者共!!それと、今日から三人の編入生が来る。入ってこい」

 

千冬に促され、廊下で待機していた政征、雄輔、シャナの三人が教室に入ってくる。

 

「三人とも、自己紹介を」

 

「はい。まず、私から・・・シャナ=ミア・フューラと申します。今日からこの学園に通う事になりました。よろしくお願いします」

 

シャナの自己紹介が終わると女生徒はざわつき始めた。別世界とはいえシャナはフューリーの皇女である、その高貴な雰囲気と優しさあふれる瞳、美しさを表すサラサラと流れる水色のロングヘアの髪を見ていて素直に綺麗だと思ってしまうくらいだ。

 

「綺麗・・・」

 

「水色のロングヘアなんて初めて見たわ」

 

女生徒がざわついている中、織斑兄弟もシャナを見てそれぞれ思う事を腹の中で考えている。

 

「(シャナ=ミアさんか、あれ?何でこんなにドキドキしてるんだ?俺)」

 

「(へぇ・・・中々の上玉だな。あのシャナ=ミアという女も俺の物にしてやる)」

 

一夏は初恋を自覚できずに自分の胸の高鳴りを感じており、春始はシャナを手に入れようと考えていた。

 

「次は俺だな、赤野政征です。IS適性があった為にこの学園に編入してきました、よろしくお願いします」

 

政征が挨拶すると同時に女生徒は喜びの声を上げた。それを予想出来ていた雄輔とシャナ、そして自己紹介を終えていた政征は耳を塞いでいた。

 

「キャアアアアアアア!」

 

「赤い髪、燃えるような赤い髪だわ!」

 

「生真面目そうだけど熱血タイプっぽい!」

 

「静かにせんか!」

 

千冬の一喝ですぐに静かになり、次は雄輔の自己紹介が始まった。

 

「青葉雄輔です。政征と同じようにIS適性が発覚してこの学園に来ることになった。よろしく頼む」

 

雄輔の自己紹介が終わると同時に映像作品の撮り直しであるテイク2と言わんばかりに再び女生徒達は声を上げた。三人は同時に耳を塞いでおり、被害を少なくしていた。

 

「キャアアアアアアアアアアア!!」

 

「青い髪!政征君とは対照的な青い髪よ!!」

 

「しかもクール系!最高だわ!!」

 

「いい加減にせんか!馬鹿者共!!」

 

再び千冬の怒号によって生徒達は再び静かになった。一夏は興味は無さげだが、春始は面白くなさそうに一瞬だけ顔を顰めた。

 

「(別の男性操縦者だと!?原作には無かったはずだ!まさか、あいつらも!)」

 

「ちょうど織斑弟の後ろの三箇所が空いているな。三人はそこへ着席しろ」

 

千冬の指示を受けて三人はそれぞれの席に座り、副担任である山田真耶による学園の説明を受け始めた。

 

 

 

 

授業が始まり、それぞれが真剣に授業を聞いている。政征、雄輔、シャナの三人は理解していた。それもその筈、授業自体が自分達の世界で行われていたものとほぼ変わらないからだ。

 

一夏は解らない所は政征達に積極的に聞いたり、山田先生に質問したりしている。春始は理解していながらもノートは書いているふりをしているだけであった。

 

 

 

授業が終わり、政征は雄輔と共に一夏に話しかけていた。理由は単純で束の伝言を伝える為だ。

 

「君が織斑一夏くんかな?」

 

「ああ、確か・・・赤野政征、だっけ?」

 

「そうだよ、君に伝言があってね」

 

伝言と聞いて一夏は警戒を強めた、誰とも知らない相手からの伝言は断っておきたいからだ。

 

「伝言?誰からさ」

 

「束さん、って言えばわかるかな?」

 

「なっ!」

 

政征が小声で一夏にだけ聞こえるように伝えた伝言の相手に驚いたが、一夏はそれ以上になぜ、この赤野政征という人物が篠ノ之束を知っているのかという疑問の方が大きかった。

 

「伝言はこうさ[いっくん、赤野政征と青葉雄輔の二人からの特訓を受けてね?この二人の特訓は束さんのお墨付きだよ!]だ、そうだよ」

 

「特訓、してくれるのか?こんな俺に」

 

「ああ、しかし・・・俺達は途中で投げ出す事は許さないけどな?」

 

政征が伝言を伝え終わると同時に口を開いたのは雄輔だった。静かな口調だが特訓に関しては厳しくするぞと言わんばかりの気迫が溢れている。

 

「待て!」

 

「ん?」

 

二人が振り返るとそこには黒髪のポニーテールを揺らした女生徒が強く睨みを利かせていた。

 

「篠ノ之箒・・・か」

 

「!貴様、なぜ私の名を知っている!!」

 

「周りに聞けば分かることだ。それより」

 

雄輔は箒に近づいていき、その目を見つめた。その行動は周りから見れば睨みの利かせ合いに見えるだろう、しかし事実は違っている。

 

「な、何だ!?」

 

「いいから、俺の目を見ろ・・・決して逸らすな」

 

雄輔は自分のISであり相棒のサイトロンを密かに使い、箒に自分の世界の箒自身の姿を見せ始めた。

 

「な、何!?これは・・・何だ!?私?私自身なのか!?」

 

『丁度いい・・覚悟しろ!一夏を惑わす奴め!!』

 

『これで私にも絶対的な力が手に入る!』

 

並行世界の己の姿を見せられた箒はその場で座り込んでしまった。恐怖も怒りも感じてはいない、むしろ羞恥心が己の中から出てきている。

 

「っ!(一夏ばかり見ていては、私もああなってしまうのか?あれが私の末路だというのか?なら、どうすればいい?)」

 

「おい、箒に何をしやがったんだ!?青髪野郎!」

 

箒の様子に気づいた春始が雄輔へと突っかかってきた。しかし、雄輔にとっては春始の睨みなど子供の睨みと変わらなかった。自分の相棒であるISと親友と仲間達との実戦経験、愛する者の存在などが強固な信念を持たせたのだ。

 

「別に何もしていない、怪我も何もないだろう?」

 

「てめぇ・・・!」

 

「雄輔の言う通りだ、私は何ともない。雄輔・・・放課後に道場で話をしたい、構わないか?」

 

「ああ、わかった」

 

「ではな」

 

「あ、おい!箒!!」

 

春始は箒を追って出て行ってしまった。彼は箒を守る事で気を惹かせようとしていたのだろうと雄輔は考えた。

 

「うやむやになってしまったが特訓を受けるか?」

 

「ああ、受けさせてくれ」

 

「ふ、そうこうなくちゃな」

 

「楽しみですね」

 

シャナが会話に入り、一夏は頬が熱くなってくるのを感じ、更には胸の鼓動が早くなっているのに気づいた。

 

「(これが初恋ってやつなのかな?もしそうなら、しっかり伝えないとな)」

 

 

 

 

三時間目の授業が終わり、春始が政征達三人のもとへとやってきた。政征と雄輔の二人は何かを察したように自分の感情を出さないようにした。

 

「よう、君達も俺と同じなんだって?」

 

「まぁね、偶然だけどさ」

 

「全くだな」

 

「ところで、シャナ=ミアさんっていったっけ?もし、よければ俺がISに関して教えようか?」

 

春始の言葉に政征が席を立とうとしたが雄輔がそれを止めていた。彼女を信用しろという意味なのだろう。

 

「(こうして切っ掛けを作れば俺の方に寄るだろうよ、教える事は俺も出来るしな)」

 

しかし、春始の考えとは裏腹にシャナからの返答は彼の予想を裏切るものだった。

 

「遠慮しておきます、私はこの二人とフー=ルー先生に指導していただいていますから」

 

「え?」

 

春始はシャナからの答えに目を見開いていた。今まで女性から断られた事など一度もなかったのだろう。だが、シャナは容赦なく断ったのだ。

 

「く・・・!」

 

春始は素早く去り、その手は固く握られていた。その様子を見ていた政征はやはりという印象を持っていた。おそらく、シャナにISを教えるという名目で近づこうとしていたのだろう。

 

「シャナさん、スッパリと断ってたな」

 

「ええ、教えてもらうのならフー=ルーや政征達との訓練が一番ですので」

 

「嬉しいね、そういう事を言ってくれるのは」

 

「気丈だなぁ・・・」

 

三人を見て一夏はこのメンバーに加わりたいと考えていた。このメンバーに追いつくまで自分を高めたいと、その為には束の伝言を素直に聞き入れようと思った。

 

特訓を承諾する返事を返したと同時に、四人の所へ金髪を靡かせながら一人の少女が近づいてくる。

 

「少し、よろしくて?」

 

「ん?(この後は、覚えがある。またデジャヴが)」

 

「おや?」

 

「はい?(この後はきっと・・・)」

 

「え?」

 

政征とシャナは既知感に苛まれ、雄輔と一夏は振り返った。そこには傲慢さが抜けていない様子の少女が怒っていた。

 

「まぁ!何ですの!?そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

「おいおい、いきなり話しかけられて・・・!?政征?」

 

「・・・」

 

政征は立ち上がって雄輔の肩を掴んで首を横に振った後、少女の前へと近づいた。

 

「な、何ですの!?貴方!」

 

「いいから、俺の目を見てて、決して目を逸らさないで。セシリア・オルコットさん」

 

「っ!?わたくしの名前を!?」

 

政征は先程、雄輔が箒にしたように自分のISであり、相棒のサイトロンを密かに使うと自分の世界のセシリア自身の姿を、この世界のセシリアに見せ始めた。

 

 

『わたくしの気持ちは分かりませんわ!強さを得ることができた貴女達に!追いつく事の出来ないわたくしの気持ちは!!』

 

『わたくしは殺しがしたくて強くなろうとした訳ではありません!さぁ、来なさい!』

 

「(これは、わたくしですの?なんて荒々しい・・・ですが、決して諦めない姿勢、食らいつこうとする意志、わたくしの求めているものが・・そちらのわたくしは持っている!)」

 

 

箒と同じように並行世界の自分の姿を見せられた彼女、セシリア・オルコットは驚いた表情をしたまま少しの間、放けてしまっていた。

 

「申し訳ありませんでしたわ、わたくし・・・失礼な事を」

 

「いや、良いんだ」

 

「では、改めて・・・わたくしはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生を務めていますわ」

 

「そっか、俺は赤野政征。で、こっちが」

 

「青葉雄輔だ、よろしく」

 

「シャナ=ミア・フューラです」

 

「織斑一夏だ」

 

自己紹介を済ませると同時に授業の開始のチャイムが鳴ってしまい、セシリアは名残惜しそうな表情をした後、一礼し自分の席へと戻っていった。

 

 

 

授業が始まる前に千冬が教壇に上がり、口を開いた。

 

「では、授業を・・・ああ、そうだった。始める前に再来週のクラス代表戦の為の代表を決めなければならない。自推薦、他推薦は問わんぞ」

 

千冬の言葉にざわめき始めるが、すぐに推薦者をクラスメイト達が口にし始めた。

 

「私は春始君を推薦します!」

 

その言葉に春始は表情は驚いていたが、内面はほくそ笑んでいた。春始の中にあるこの世界の知識が彼に優位性を与えているからだ。

 

「え?俺?(ふふ、クラス代表を勤めればこの後に出てくるヒロインと接点が持てるからな。特にあのキャラは大好きだから絶対にものにしないとな)」

 

そんな中、他のクラスメイト達も気になる相手を推薦していく。

 

「私は一夏君を推薦するよ!」

 

「じゃあ、私は赤野君!」

 

「わ、私は青葉君を!」

 

男性操縦者の四人が推薦される中、一人だけ手を挙げている人物がいた。その人物はセシリア・オルコットであった。

 

「わたくしは立候補致しますわ」

 

「ふむ、五人が候補者か。だが、これでは決めかねるな」

 

千冬が顎に手を当て、考えているとセシリアが再び意見を出し始めた。

 

「それでは、推薦された男性の四人と立候補したわたくしの五人でISの模擬戦で代表を決めるというのはどうでしょうか?」

 

セシリアの意見に千冬は驚いたように聞いていた。まさか模擬戦でクラス代表を決めようと言われるとは思わなかったのだ。

 

そんな中、春始が自分の知識と全く異なっている展開に驚きと苛立ちを隠せなかった。

 

「(おかしいぞ!?セシリアは女尊男卑に染まっていたはずで、男性操縦者が選ばれた時に逆上して決闘を申し込んできたはずなのに!?)」

 

「良いだろう。ただし、アリーナは一週間後の日にしか空いていない。その日まで各自、時間を有効に使え」

 

千冬はの言葉でクラス代表の件は纏まり、授業が始まった。

 

 

 

その日の放課後、雄輔は約束通りにIS学園の道場を訪れていた。

 

「来てくれたか、青葉雄輔」

 

「約束だったからな、篠ノ之箒」

 

雄輔は本心を言えば箒に対して良い印象を持っていなかった。自分の世界では常に力を求め続け、己以上に強い者はいないという傲慢な思考を持っていた為だ。

 

「頼みがある、剣道の一本勝負を受けてくれないか?」

 

「何?」

 

「あの時・・・恐らく別の私だと思うが、それを見せられて私も、別の私のように力に溺れ、上には上が居るのを全く認めない姿には正直、嫌悪感を覚えたのだ。それに一夏に依存している姿も」

 

「・・・・」

 

「私は自分の力量と本当の想いを知りたいのだ、頼む!」

 

「わかった、その勝負を受けて立つ」

 

「!ありがとう、立会人として部長を呼んでくる」

 

箒は道場から素早く出て行き、剣道部の部長を呼んできた。しかし、その途中で勝負をすると聞きつけた部員達も全員ついてきてしまったのだ。

 

「すまない、みんな強引で・・・」

 

「構わない、で・・・ルールはどこかで一本取れば終わりでいいんだな?」

 

「ああ」

 

箒は防具を付け、雄輔は竹刀だけを構えた。雄輔ほどの体格と身長では女性用の防具はサイズが小さすぎて入らないためだ。

 

「それじゃ、いくわよ・・・始めッ!!」

 

剣道部の部長の合図で二人の剣の試合が始まった。周りは剣道の全国大会優勝者である箒が勝つと思っているようだ。

 

「たあああああ!」

 

「遅いっ!」

 

小手を狙った箒の一撃を捌くと雄輔は再び構えを直した。反撃のタイミングを取れなかった為に打ち込みが遅れたのだ。

 

そんな中、部長だけが雄輔の剣の性質を見ていた。それも、誰もが苦手としているタイプだと感じている。

 

「不味いわね。雄輔君の剣は受け流しや相殺を得意とする陰の太刀、篠ノ之さんの剣は力で押していく陽の太刀・・・対極の戦い。最も剣道だと陽の太刀にならざるを得ないんだけど、剣道経験者にとって雄輔君の剣は最も苦手なタイプだわ」

 

箒は次々に得意とする唐竹を繰り出すがその全てを相殺されており、体力だけが削られていき、そして決着がついた。

 

「面!」

 

箒の面を雄輔の一撃が捉えたのだ。それと同時に部長が声を出す。

 

「面有り!そこまで!!」

 

「負けて・・・しまったか」

 

「強引に攻めすぎたな、隙ができるまで待たせてしまうとこうなるぞ」

 

「そんな事が出来るのはお前だけだ。でも、ありがとう」

 

箒は防具を外すとどこかスッキリした様子で笑顔になっていた。

 

「これからもこうして剣を合わせ、特訓してくれると助かる」

 

「良いだろう、剣友は大歓迎だ」

 

二人は握手すると同時に笑い合い、箒は越えるべき壁として、雄輔は新たな剣友として互いを認め合っていた。




サイトロン便利説を発動!

箒もセシリアも政征達がいる世界の自分を見せられて何かを掴めたかと思います。

これから一週間の間、一夏は政征と雄輔の特訓を受ける事になります。

自分達が受けたシャッフル同盟、獣戦機隊などの特訓レベルです。

この時に訓練機としてヴォルレントが登場します。理由は一夏のオルゴンクラウドの制御のための特訓に使用します。

一夏はこの特訓に耐えられるのだろうか?


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七日間の特訓

騎士達が剣を持たせるために三騎士の一人を鍛える。




クラス代表を決める戦いで七日間の猶予を得た。それにより政征と雄輔はすぐにアリーナを使う許可をもらい、一夏を連れてアリーナに訪れていた。

 

「で、アリーナに来てどんな特訓をするんだ?」

 

「まずは機体操作に慣れる事からだな、武器などの訓練は模擬戦をすればいやでも鍛えられる」

 

「雄輔の言う通りだ、少し待っててくれ。訓練用の機体を今から出す」

 

訓練用機体を出すと言われ、一夏は疑問を抱いた。IS学園では訓練機がある。打鉄とラファールという名の量産機だ。しかし、許可を貰っても貸し出されるのに早くて一ヶ月以上はかかるはずだ。

 

そんな疑問に答えるように政征は口を開く、待機状態にしていた訓練機である機体を出現させた。

 

「これはヴォルレント、アシュアリー・クロイツェル社で企業レベルの代表候補生が使う訓練機だ。大企業とかで使われている」

 

「なんでお前がそんな機体を持ってんだよ!?」

 

一夏は驚きと共に叫んだ。代表候補生でもない二人が何故に代表候補生レベルの訓練機を持っているのかと。

 

「そういえば、言ってなかったな・・・俺と雄輔とシャナはアシュアリー・クロイツェル社の代表候補生なんだよ」

 

「え?それって本当なのか?」

 

「本当だ。だからといって畏まらなくていいぞ、訓練では代表候補生なんて言葉は意味が無いから普段通りにな?」

 

「ちなみにこれは俺達が編入する前に束さんから渡されたものだ。訓練機としてな」

 

政征の言っている事は真実である。ヴォルレントは訓練機となっているが、それは二人がラフトクランズというヴォルレント以上の機体を専用機として使っているためである。

 

ヴォルレントはそのまま専用機として使う事も出来る程の機体性能はあるが、拡張領域の容量が少ないという弱点があり、武装が二つのみで積極的に使う人間は現れなかった。しかし訓練機としては最高値に位置するため、レベルの高い訓練機として採用されている。

 

「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうぜ?」

 

一夏はヴォルレントを身に纏い、その場で静止した。地上に立っている状態だがそれでもISを纏ったという感触を噛み締めている。

 

「どうだ?初めて纏って、違和感はないか?」

 

「ああ、違和感が全然ない。というよりヴォルレントだっけ?この機体が合わせてくれてる感じがするよ」

 

雄輔からの指摘に一夏は笑みを浮かべながら答える。偶然にも起動はさせた事はあったが、ISを実際に纏ってみて自分が初めて操縦者になったという事が嬉しいのだろう。

 

「よし、じゃあ先ずは歩行からだ。このアリーナを10分間歩き続けろ」

 

「わかった・・・おわ!?」

 

歩行しようとした瞬間、一夏は前のめりに倒れてしまった。人間が転んだ時と同じ状態であった為、手を着いて怪我は免れている。サイトロン・コントロール・システムが搭載されている機体を動かせたという事は一夏は束によってサイトロンの波動を絶やすことなく、浴びる事ができたのだろうと二人は口に出さず思った。

 

 

「大丈夫か?普通に歩くのとは違うぞ?機体と一緒に歩くような感じで歩いてみな」

 

「慌てなくていい、ゆっくりと一歩一歩確実にだ」

 

「あ、ああ」

 

雄輔のアドバイスと政征のフォローを受けた一夏は、まるで自転車の乗り方を初めて教わっているような感じで歩行を始めた。

 

「お?こうか!」

 

「コツは掴んだようだ」

 

「元々、センスはあるからな・・・アイツは」

 

楽しそうにISの歩行を続ける一夏をコーチしている二人は初めて笑みを浮かべ見守っており、指示した10分間の歩行を終えると一夏は息を切らしながら戻ってきた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・歩行だけでこんなに・・・疲れるのかよ?」

 

「体力だけじゃなく判断力も必要だからな、初めてにしては良い方さ」

 

「少し休憩を取ったら次は飛行だ。俺達も機体を展開して怪我しないようにするから安心しろ」

 

「ああ」

 

5分ほどの休憩を取った後に飛行の訓練を開始した。それに伴い、政征と雄輔の二人も待機状態となっている訓練機のヴォルレントを取り出す。

 

「え?まだヴォルレントを持ってるのか!?」

 

「訓練用に三機渡されたからな」

 

「とりあえず、準備が出来た。俺は地上で政征が上空を見てるから飛んでみな」

 

「わかった、やってみる。・・・っと、うわああああ!?」

 

一夏はスラスターを吹かし、飛行し始めたが全力で飛んだ為に制御が出来ずにいた。

 

「最初から全開で吹かしたな!?一夏!ブレーキをかけるイメージを持て!俺が拾うから!」

 

「わ、わかった!!!」

 

政征は上空で急停止した一夏へ近づき、支えながらアリーナの地にゆっくりと降りた。一夏は冷や汗をかいており、本気で助かったと思っている。

 

「一夏、いきなり全開でスラスターを吹かすか?」

 

「あ、いや・・・つい」

 

「俺達が居なかったら天井に激突してたぞ!?」

 

「面目ない・・・」

 

二人の厳しい言葉に一夏は謝りながら縮こまってしまった。しかし、理不尽な怒りではなく、注意喚起の為に厳しい言葉を発している。

 

「じゃあ・・今度は俺達に合わせて飛んでみるか」

 

「いきなり一人でやらせたのは俺達のミスだからな」

 

「ああ、頼む」

 

三人は同じ位置に立つと、見本を見せるために最初に雄輔が先行してゆっくりと飛行した。

 

「一夏、ゆっくりと上昇していくジェットコースターのようなイメージを持って飛んでみな?」

 

「わかった、やってみる」

 

政征のアドバイスを受けた一夏はゆっくり上昇し、先程よりも安定した飛行をしていた。

 

その後。三人は上昇、旋回、急降下、着陸、スピード調整の特訓を続けた。その結果、一夏はIS操縦者として必要な飛行技術を身に付ける事が出来た。一夏本人のセンスもあるが、政征と雄輔の二人という優れたコーチ役が居る事も大きい。

 

 

 

 

30分の休憩後、武装と機能に慣れる為の訓練を始めた。最初に始めたのは武装の訓練だ。二人は擬似ターゲットを配置し、準備を終えた。

 

「よし、先ずは射撃の訓練から始めるぞ?一夏、拡張領域からオルゴンガンをセレクトして展開するんだ」

 

「わかった」

 

政征の指示で一夏はヴォルレントの武装であるオルゴンガンを展開し、擬似ターゲットから指定されている位置に立った。

 

「俺達が見てるからターゲットを狙って撃つんだ。全部に当てようとせずに射撃の反動とかに慣れるまで撃っていいぞ」

 

「ああ」

 

オルゴンガンを一発だけ撃った反動で一夏は腕が痺れていた。扱いやすいとはいえどオルゴンガンは出力が高く、反動が強かった。一夏は主に剣道をやっていたが、射撃というものに対し縁が一切無く、その為に射撃に関しては全くの素人であった。

 

「うう・・・やっぱり俺、射撃は苦手だし無理だ」

 

「同じ苦手でも、全く出来ずに苦手だっていうよりも、ある程度扱えて苦手だっていう方がマシだろう?」

 

「それは・・・確かに」

 

「別に完全に扱えるようになれとは言わないさ。銃を扱えて牽制が出来るだけでも有利になるぞ」

 

「そうなのか?なら、扱えるようになるまで訓練を続けてくれ!」

 

諦めかけていた一夏に対して、雄輔は戦術における射撃の優位性を説明し、政征は扱える事で出来る事が増えるという事の大切さを教えた。

 

一夏は休憩時間になるまで射撃の訓練を続けた。その結果、時間制限付きで擬似ターゲットを撃つ訓練においてターゲットを六割、撃ち抜く成果を上げた。

 

「六割か、訓練を続ければ更に腕が上がるな」

 

「そうか?ありがとう」

 

「じゃあ、次はオルゴンクラウドの扱いの訓練だな」

 

「?オルゴンクラウド?」

 

聞きなれない言葉に一夏は首を傾げ、政征と雄輔は頷き合うとアリーナで対峙した。

 

「オルゴンクラウドはシールドエネルギーを強化してくれる物であると同時に、転移装置の側面も持っているものさ」

 

「そんなに凄い物なのか?」

 

「先ずは俺達が見せる」

 

二人はオルゴンガンを構えると、最初に政征が死角を塞ぐように弾幕を展開し雄輔を狙い撃つ。それを見た一夏は声を上げた。

 

「あんな数の弾幕を回避できるはずがない!」

 

しかし、一夏の予想とは裏腹に雄輔の駆る訓練用ヴォルレントがオルゴン・クラウドによる転移で弾幕の前へと転移した。

 

「なっ!?」

 

「これがオルゴン・クラウドだ。移動手段として使うのが主だが、回避不可能と思えるものも回避する事が可能だ。だが、それには集中力と転移のタイミングを見極めなきゃならない」

 

回避不可能と思われた狙い撃ちによる弾幕を回避した事を目の前で見た一夏は口を開けて驚いている。

 

「これは強力なものだが、使い過ぎれば精神的な消耗が激しくなる。ここぞという時にだけ回避機能は使ったほうがいい」

 

「そうか」

 

「それじゃまず、地上で自在に転移出来るまで訓練するとしよう」

 

「そうだな、先ずは五分間の連続転移だ。慣れてきたら地上や空中、連続転移の時間を増やすとして難しくしていくからな?」

 

「ああ!」

 

オルゴンクラウドの訓練は想像以上に大変であった。初めて使う機能である事である為、仕方ないにしても一夏は壁の目の前や、観客席に転移したりなど振り回されまくったのだ。

 

「痛てて・・・」

 

「大丈夫か?織斑、オルゴン・クラウドの制御は難しいだろう?」

 

「ああ、確かにこれは無闇に使うもんじゃないな・・・」

 

「まずは慣れさせる事からだな、水泳と同じさ」

 

「ああ・・・けど、俺にこんな機能が本当に使いこなせるのか?」

 

一夏は機能に振り回され過ぎたせいか諦めかけている様子だ。それを見た政征と雄輔は軽くデコピンと頭上に手刀を振り下ろした。

 

「あたっ!?」

 

「オルゴン・クラウドはちゃんと機能したんだ。途中で諦めてどうする!?」

 

「その諦め癖、少しは抑えられるようにしたほうがいいぞ?」

 

「う・・・・」

 

この日以降、一夏の為にオルゴン・クラウドの制御訓練に三日間を費やした。その成果もあって一夏はオルゴン・クラウドを制御出来るようになり、地上でも空中でも転移を使いこなせるようになっていた。

 

訓練四日目、実戦を兼ねた手合わせをする事になった。相手は無論、コーチ役の二人だが、訓練を偶然にも目撃した箒が参加させて欲しいと頼み込んできた為、箒も参加する事になった。

 

IS戦闘はヴォルレント同士、政征と一夏の手合わせとなり、武装に関しては事前に説明し、オルゴンキャノンを制限した状態で戦う事になった。

 

「一夏、戦闘は競技だと考えるな。命の奪い合う戦場だと思ってかかってこい!」

 

「っ!あ、ああ!」

 

「俺は手加減しない、来い!」

 

開始の合図であるブザーが鳴らされ、二機のヴォルレントが向かっていく。政征はオルゴンガンを撃ち、牽制する。実戦と同じように攻撃してくる政征に一夏は恐怖を抱きながら回避した。

 

「うっ、うわああああ!」

 

「どうした!?怖いのか?だが、それが当然だ!戦闘は怖い。俺も、雄輔も、シャナも戦闘に対して恐怖を持っている!実戦では死ぬかもしれないという恐怖をな」

 

「っ・・・」

 

「だが、その恐怖を力に変えろ!自分がやらなければ自分の手に届く大切なものを失うと思え!」

 

「!」

 

政征の言葉に一夏はハッとした。自分は守る事の出来る力を持った。しかし、自分が恐怖し自分がやらなければ守れない状況に陥ったらどうなるか?

 

親友も、恋した相手も、仲間も守れなくなってしまう。それだけは絶対に嫌だと一夏は強く決意したのだ。

 

「行くぞ!政征!!」

 

「来い!一夏!」

 

お互いにオルゴンダガーを展開し、刃をぶつけ合う。一夏の剣撃に対して政征と雄輔は既に文句なしの評価をしていた。やはり、剣を扱っていたからだろう、踏み込み、一撃の重さは訓練しなくとも基本が出来ている。

 

「このおおお!」

 

「まだまだぁ!」

 

オルゴンダガーで押し合いながら政征はどこか悲しい気持ちになっていた。自分の世界でもこうして剣を交え続ければ、何か違っていたのではないかと。しかし、今となっては既に過ぎ去ってしまった事。それならばせめて、この世界の一夏との友情を築こうと政征は考えた。

 

「二人共、試合は終わってるぞ!休憩しろ!!」

 

戦いに夢中になっていた二人は終了のブザーに気づかず、雄輔の放送によって試合を止められた。

 

「あれ?終わってたのか」

 

「夢中になり過ぎて気付かなかったな」

 

二人は休憩に入るためにピットに入ると、入れ替わりで箒と雄輔がアリーナへと入った。

 

箒は打鉄を纏っており、雄輔はヴォルレントを身に纏っている。

 

「無理を言って貸してもらえた打鉄だ。今日の実戦訓練を無駄には出来んな」

 

「まさか、姉の名前を使ったのか?」

 

「いや、頭を下げて頼んだんだ。どうしても訓練したい相手が居ると言ってな」

 

「そうか」

 

雄輔はこの世界の箒に信頼を少しだけ持てるにようになっていた。自分よりも上の相手が居るのを自覚し、更には剣道以外の訓練も大切にし一夏ばかりの事を言っていない。それだけでも雄輔は信頼出来ると思った。この世界の箒となら良い剣友になれる、その考えが彼の胸の中に嬉しさ溢れさせている。

 

「行くぞ!」

 

「ああ、かかってこい!」

 

打鉄の接近ブレードとヴォルレントのオルゴンダガーが競り合いを起こすが、雄輔はオルゴンガンを左手に持ち、発射しながら間合いを開いた。

 

「ぐっ!射撃武器か!!剣道に拘り過ぎていた事が悔やまれるな!」

 

「これから学んでいけばいいだろう?無理に射撃に拘る必要もないからな」

 

「そうだな。だが、せめて扱えるくらいにはなっておきたいものだ」

 

再び剣でぶつかり合う両者だが、技量が僅かに雄輔を上回っていた。剣道と実戦を踏まえた剣術では攻めと守りに差が出来るのが必然だ。

 

「そこだ!」

 

「ぐ!しまった!」

 

オルゴンダガーの突きを受けた打鉄はエネルギーが0となり試合が終了した。

 

「あと少しで私の一撃が決まれば・・・!」

 

「お前の型は攻撃的じゃなく防御的なんだ。それではバランスが取れないのも当然だ」

 

「防御的だと?」

 

「ああ、篠ノ之箒。後の先を取るのがお前の学んだ剣道の在り方だと俺は見たぞ」

 

「そうだったのか・・・私もまだまだか」

 

自分の剣の本質を理解していなかったと自覚した箒は自分が未熟である事を自覚し、雄輔に一礼した。

 

残りの四日間を機体制御と実戦を兼ねた模擬戦に充てて、出来る限りの準備をした。

 

そして、試合前日となりアシュアリー・クロイツェル社へ連絡してくれるよう政征と雄輔はフー=ルーに頼み込んでいた。

 

「彼の専用機を当日に届くように連絡して欲しいと?」

 

「ええ、当日にならなければ意味がありませんから」

 

「お願いします」

 

「分かりましたわ、私から連絡しておきます」

 

「ありがとうございます、それじゃ」

 

「失礼します」

 

フー=ルーは二人が出て行くと、電話の受話器を手にし特殊回線を使える番号からアシュアリー・クロイツェル社へ連絡をいれた。

 

「もしもし、フー=ルー・ムールーです。はい、研究部長のタバ=サさんをお願いしますわ」

 

「はーい、電話代わったよー!タバ=サさんだよー!今日はなんの用かな?フーちゃん!」

 

「その呼び方は慣れませんわね、例の機体を明日には届けて欲しいのですけれど?」

 

「そっか、とうとう・・・」

 

「ええ、自由と城壁・・・更に清浄の剣が揃う事になりますわ」

 

「わかったよ、明日の朝までには届くようにするね」

 

「お願いしますわ」

 

電話を切り、受話器を置くとフー=ルーは待機状態となっている自分の機体であるファウネアを見つめた。

 

「また、楽しみですわ・・・ふふ」

 

 

 

その頃、アシュアリー・クロイツェル社では束がコンテナの中で眠っているラフトクランズ・クラルスの最終調整をしていた。

 

「クラルス、いっくんの力になってあげてね」

 

コンテナを閉じると束はすぐに届けられるように準備し、手配した。

 

ラフトクランズ・クラルスは戦場に立てる喜びと持ち主となる者への所へ行ける事を嬉しく思ったのかモノアイが強く輝き、青くなっていた。




一夏と途中参加の箒の訓練風景でした。

次回はラフトクランズ・クラルスの初陣であり三機のラフトクランズが揃います。

そして転生者くんが政征に対して試合前に禁句を言ってしまい、政征がジュア=ム(狂)状態に再びなってしまいます。

雄輔も拳で戦います、おそらくなんでそれを使うの?と言われる拳法を使います。

では、次回!


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清浄たる白の騎士

一夏が清浄の剣を手にする。

政征がガチギレする


以上


クラス代表を決める試合当日の日となり、政征、雄輔、一夏の三人は入念に体操などをしており、春始は試合を今か今かと待っていた。

 

政征と雄輔は専用機であるラフトクランズを既に持っているが、一夏と春始の機体が未だ届いていない。

 

そんな中、教師である織斑千冬、フー=ルーの二人がピットへと入って来た。

 

どうやら組み合わせに関する事らしく、千冬が代表して四人に説明を始めた。

 

「織斑兄と織斑弟の機体がまだ届いていないとの事で一時間後にオルコットと赤野もしくは青葉との対戦を行いたいのだが?」

 

「分かりました。もし、後一時間以内に機体が届いたらどうなりますか?」

 

「その時は予定通り、織斑兄とオルコットの試合が先に行われる」

 

「そうですか」

 

 

そんな、やりとりをした後の三十分後に副担任の山田真耶先生が走ってきた。全速力で走ってきたらしく、息を切らしている。

 

「はぁ、はぁ・・・届きました!春始くんの機体が先に届きました!!」

 

先に春始の機体が届いたらしく、コンテナが男性四人の目の前で開かれる。政征と雄輔にとっては見慣れすぎている機体だ。

 

「これが春始くん専用のIS、白式です!」

 

真耶の言葉を聞いて春始は笑みを浮かべたが、政征と雄輔は何かを納得しているような顔をしていた。

 

政征達、二人はこの世界が自分達の知っている世界のようで違う事は薄々感じていた。しかし、自分の中で納得が出来るような事が無かった。だが、目の前で白式が一夏に渡されなかった(・・・・・・・・・・)事が全くの別世界である事を認識させられ納得する事が出来た。

 

「では、織斑兄とオルコットの試合からだな」

 

試合の組み合わせが予定通りのようで、春始に向かい側のピットへ行くように指示し、千冬は次に一夏へと視線を向けた。

 

「織斑弟は訓練機になるが・・・構わんか?」

 

「えっと・・・」

 

答えあぐねていた一夏の代わりにフー=ルーが口を開き、千冬へと話しかけた。

 

「織斑先生、彼には後少しで専用機が届きます。もうしばらく待って頂けませんこと?」

 

「何!?そんな話は聞いていないぞ!」

 

「貴女ならご存じの筈でしてよ?気に入った相手を優遇する友人といえば心当たりがありますわよね?」

 

「!確かに・・・アイツならやりかねんが」

 

「偶然にも私も知り合いまして、彼の専用機を完成させたそうです。今日中に届くと言ってましたので」

 

「はぁ・・仕方ないな。断っても押し付けてくるだろうからな」

 

「ご安心を、赤野くんや雄輔くんが所属している会社から渡される事になっていますので」

 

「アシュアリー・クロイツェル社からか!?世界的大企業から渡されるとは・・あいつめ」

 

フー=ルーから友人と言われ、心当たりのある人物を思い浮かべた千冬は頭を押さえていた。

 

 

 

 

 

その後、セシリアと春始の試合が始まり、政征、雄輔、一夏の三人は試合を見ていた。

 

セシリアに追い込まれながらも、春始は白式を一次移行させた。そこからの逆転劇と周りは考えているようだ。

 

「政征、雄輔。二人はどう思う?この試合」

 

一夏の何気ない一言に二人は淡々と答えながら、視線を試合に向けている。

 

「油断しなければセシリアの方が有利だろうな、接近戦用と遠距離用では間合いも違うし何より、セシリアが代表候補生という点も鑑みて経験が違いすぎる。それでも食らいついているのはあいつのセンスかな?」

 

「春始とかいったな?お前の兄は。あの刀・・・確か、雪片だったか。あれの特性をいまいち理解していないようで、型も軸もない。ただ振り回しているようにしか見えない」

 

政征は戦闘経験からの推察、雄輔は武術経験者の視点で試合を見て一夏の問いかけに答えていた。

 

「二人共すごいな、俺にはそこまで解らない」

 

「ただの推察だよ、勝負はどうなるか分からないさ」

 

「俺はあくまで、剣だけを見ている言葉だからな。今の段階では・・・という意味でで考えて欲しい。ん?そろそろ試合が終わるな」

 

どうやら、攻めようとした春始がエネルギー切れで敗北したようだ。その結果にセシリアは納得がいかなそうな表情をしつつピットへと戻っていった。

 

その姿を見送った後、春始は姉である千冬の説教を受けて反省した表情を見せてはいたが、内心では別の事を思考していた。

 

「(これでいい、このまま進めばセシリアは靡くからな)」

 

しかし、この時に春始は気づいていなかった。自分の中にある物語の知識とこの世界の流れは転移してきた四人によって変わっており、その知識が路傍の石になっているという現実に。

 

 

 

 

試合終了から十分後にアシュアリー・クロイツェル社からのコンテナが届いた。フー=ルーが責任者として、千冬、真耶の両名は教師として立会った。

 

「これは・・」

 

コンテナが開き、内部にあるその機体は白色。だが、細部には灰色が着色されており完全な白とはいえない機体色を持った(ラフトクランズ)があった。

 

「フー=ルー先生、これが俺の・・・?」

 

「そうです、貴方の剣となる機体。名をラフトクランズ・クラルス」

 

「ラフトクランズ・クラルス・・・」

 

一夏は名を口にしながらコンテナに近づいていき、機体に触れる。すると機体が周りに気づかれないくらいほんの僅かに蒼く発光し、一夏を受け入れた。

 

「フィッティングとフォーマットを済ませてしまいましょう」

 

「はい」

 

フー=ルーが指示を出し、政征と雄輔も時間短縮の為に作業を手伝い始めた。

 

その様子を千冬が見ていたが、ラフトクランズという機体に関して真耶に意見を求めた。

 

「どう思う?山田先生、あのラフトクランズという機体を」

 

「え?そ、そうですね。私の意見を述べるならオールラウンダーという印象を受けました。ただ、乗りこなすのに相当な訓練が必要にも思えます」

 

 

真耶の考えは概ね当たっている。ラフトクランズは全ての距離に対応出来る機体だ。しかし、それはある程度の機体の搭乗経験があってこそだ。

 

 

機体合わせの作業を見ながら千冬は、もう一人の弟が自分の手から離れていくような感じに胸を軽く掴んでいた。どちらも大切な弟だと思っている。だが、彼女は自分自身でもある事に気付いていなかった。

 

人間というものは無意識に、例え家族であってもより良い方を優遇してしまう。分け隔てなく接していようとも芽吹きが早く、物事を簡単にこなす天才型と芽吹くのが遅く努力の必要な秀才型では差が出来るのは必然であり、僅かな優先順位を二人につけてしまっていた事に。

 

 

千冬の指示で次の試合は織斑兄弟が先に行う事になった。春始の機体の損傷は無く、問題がないとの事だった。エネルギー切れで敗北したのだから当然といえば当然だろう。

 

春始が先にアリーナへ飛び出ると同時にラフトクランズ・クラルスの調整が終わり、一夏がそれを纏うと同時に口元以外が全身装甲化し、準備が整った。

 

「クラルスは一夏、お前を主と認めたようだ」

 

「この戦いが始まる前の七日間という期間では僅かな訓練だけしか出来なかったがやれる事はやった、思いっきりやってこい」

 

「ああ、行ってくる!油断せずにな」

 

二人に激励を受けた一夏はそういってアリーナへと飛び出した。怯えて竦んでいた幼い頃よりの因縁に対する精算をする為に。

 

 

 

 

春始と一夏、兄弟二人がアリーナで対峙する。春始は全身装甲の機体では無いために表情を伺う事は出来たが、一夏は全身装甲に近いため表情を伺えない。

 

「なんだよ、その機体。白色でしかも仮面を被って弱い自分を覆い隠してるみたいだな?まぁいい・・・お前は俺に勝てないんだから試合を放棄して、その後にお前が今使ってる機体を破棄しろよ、分かったな?」

 

「ってろ・・・」

 

「ん?」

 

「黙ってろよ、春始兄」

 

「何!?」

 

一夏からの言葉に春始は顔を顰めた。今の今まで自分の言う事を聞いてきた(にんぎょう)が反逆の意志を明確に見せたからだろう。

 

「お前、そんな口を俺に叩いていいと思ってるのかよ!?」

 

「ああ、俺はもう言う事を聞くつもりはない。例え少数でもこんな俺を信頼し、鍛えてくれた人間がいるんだからな」

 

「!アイツ等か!余計な事をしやがって!」

 

「どんな人でも変われるんだよ、春始兄・・・それをこの戦いで示す!そして俺は違う道を進む!!」

 

「生意気なんだよ!出来損ないの(にんぎょう)がぁ!!」

 

二人の叫びが上がると同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

「うおおおお!」

 

春始はスラスターを起動させ、一直線に一夏へと向かってくる。白式は雪片弐型という刀型の接近戦用ブレード一本が唯一の武装だ。その為に必然的に接近戦を挑まなければなくなる。

 

向かってくる春始に対し、一夏は慌てた様子もなく比較的に冷静だった。まるでクラルス自身が一夏に合わせてくれているかのようにソードライフルを手にし、ライフルモードに切り替えた。

 

「射撃は苦手だけど、やってみせるさ!」

 

クラルスを纏った一夏はオルゴン・ライフルを単発で二発放ち、僅かに空中でブレーキをかけ、三発目の射撃を一本のビームのように放った。

 

「ふん、そんな物に当たる訳が!うわっ!があああ!?」

 

春始は一発目を回避したが二発目の射線上に入って直撃してしまい、追撃のビームをも浴びてしまう。

 

一夏が使ったオルゴン・ライフル撃ち方は射撃を苦手としている一夏の為に雄輔と政征の二人の協力の下、三人が特訓の中で考案した効率の良い撃ち方である。

 

最も政征と雄輔の二人はガンスピンを交える撃ち方を続けている為に、矯正する事はなかった。

 

「て、てめえ・・・接近戦の相手に射撃は!」

 

「卑怯、だなんて言うなよ?春始兄。射撃が卑怯ならラファールや打鉄の武器だって使えなくなるし、セシリアが使っている射撃戦用の機体だって卑怯という事になるだろ?射撃だって立派な戦術には変わらないんだから」

 

「ぐっ・・!黙れ黙れ黙れ!!」

 

一夏の正論を認めないと言わんばかりに再び距離を詰めてきた春始は刃を向け、斬りかかる。一夏自身はそれをシールドクローで受け止めながら、反撃の隙を伺っているがそれ以上に待っている事があった。

 

「(後、1分・・・)」

 

「倒れろ!倒れろ!倒れろっつってんだよぉ!!」

 

イラつきに任せた斬撃を春始は続けるが、一夏は落ち着いた様子で捌き続けており、その様子をピットから政征達二人も見ていた。

 

「残り、三十秒か・・・」

 

「目覚めるぞ、清浄の剣がな」

 

雄輔が呟くと同時にラフトクランズ・クラルスから蒼い光が放たれた。その光を受けた春始は目を守るように腕で覆い隠し、一夏は後退するとディスプレイに表示されている更新のボタンをタッチした。

 

『はろはろー!』

 

「束さん!?」

 

『この録画メッセージを聞いているという事は無事いっくんのもとにクラルスが届いて一次移行したという事だね?このメッセージで伝えるけど実は、いっくんにあげたペンダントはこの機体、ラフトクランズ・クラルスを動かすのに必要な要素を浴びさせる物だったんだ!騙すような真似をしてごめんね?いっくん。その分クラルスは完璧にしておいたから!大事にしてあげてね!』

 

束の録画メッセージが終わると同時に一夏の見ているディスプレイに次々と武器の名称、使い方などが頭の中に入ってくる。

 

「オルゴン・キャノン、オルゴン・ライフル、オルゴン・クロー・・・か。オルゴン・キャノンはまだチャージが必要か、ん?」

 

[バスカー・モード開放します。更新を開始してください]

 

文面の下にある表示されていた項目を迷わずタッチして更新を開始する。すると先程まで枷をつけられていた感じが無くなり、自分と機体が一体化していくような感覚に覆われ、一夏は息を吐いた。

 

「俺は束さんを責めませんよ、逆に感謝してもし足りないぐらいです。尊敬はしてても別の道を進む事は悪い事じゃないはず、だから俺は千冬姉とも春始兄とも違う道を進むんだ!」

 

「な、なんだ!?まさか一次移行してなったとでもいうのかよ・・・?俺は手加減されてたのか?ふざけやがってえええ!」

 

春始の目の前には闘志を燃え上がらせている一夏が映っている。そんな一夏を初めて目の当たりにした春始は怒りを上回るほどの恐怖があった。自分は弟よりも常に上を行き、手の平で踊っている道化だと思っていた。

 

決して自分の頂には登ってこれないだろうという根拠も自分の中にあったはずなのに目の前の弟が今、自分の頂へと至り、越えようとしている。それだけはさせまいと戦闘を再開し突撃した。

 

「一次移行しても、お前は俺には勝てる訳無いだろうがぁ!うおおお!」

 

「なら、受けて立つ!オルゴン・マテリアライゼーション・・・!」

 

一夏は再び向かってきた春始に対し、ソードライフルをソードモードに切り替え、武装の左右にオルゴナイトの結晶を纏わせ、騎士の礼節のようにオルゴンソードを構えた。

 

 

[推奨BGM Moon Knights MDアレンジ スパロボOGより]

 

 

春始の唐竹割りを受け返し、横薙ぎで反撃していく。それを紙一重で避けながらも反撃の突きを繰り出す。

 

「っと!流石は春始兄だな・・・無理な体勢からも反撃してくる」

 

「くううう!馬鹿にしやがってええ!!」

 

白式の雪片とラフトクランズ・クラルスのオルゴンソードの刃が競り合いを起こし、二人の視線が至近距離にまで迫る。

 

「お前は此処で負けろぉ!」

 

「それを決めるのは春始兄じゃない!!」

 

「うわっ!?」

 

押し返されたのは春始の方であり、地面に身体をころがされてしまう。その隙を逃さず一夏は追撃のオルゴンキャノンを展開し、標的をロックオンする。

 

「オルゴンキャノン!チャージ完了!!ヴォーダの闇に抱かれろ!」

 

三つの砲口から放たれたビームのような一撃は春始を完全に捉えている。回避行動をしようにも膝を地面に着けてしまっている為に動きが一歩遅れた。

 

「なっ!?がああああああ!!」

 

直撃とまではいかなかったが、白式のエネルギーを四割以上を削っていた。

 

「ぐ・・エネルギーを四割も持って行かれただと・・ざけるな、俺は天才なんだ!負けるはずがない!お前のような凡人に!!」

 

雪片の刺突が一夏を捉え、エネルギーを削られるが本人はオルゴンクラウドによって無傷のままだ。それでも、春始は本気で殺すつもりで刃を一夏へ繰り出してくる。

 

「それが春始兄の本心か・・・ならばたった一度の勝利をもぎ取らせてもらう!」

 

「なんだと!?」

 

「この距離なら、コイツだ!オルゴン・クロー!捉えた!」

 

ソードではなくシールドクローを展開し、爪を出現させ白式を捉える。高速で掴まれた春始は咄嗟のことで何が起こったのか理解が出来ていない。

 

「があっ!?」

 

オルゴン・クローで春始を捉えた一夏はそのままアリーナの地に叩きつけ、引きずり回し始める。その衝撃に春始自身は絶対防御に守られているにも関わらず痛みがあるような叫び声を上げ続けていた。

 

「ぐああああああああああああ!!」

 

「まだだ!もう一撃だ!」

 

引きずり回した後に遠心力をかけ、天井へ向けて放り投げると、同時に特訓で身につけたオルゴンクラウドの転移を使い、背後へ移動すると横へと引き裂くように攻撃し地上へ叩きつけた。

 

「ぐ・・・!なぜだ・・!?負けるはずが、負けるのは俺じゃない!お前のはずだああああああ!!」

 

機体は無事だが春始のプライドはズダズダであった。その怒りが頂点に達したのか雪片が青いエネルギー状の刃を形成し始める。

 

それは零落白夜と呼ばれる白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)であり現行のISの中で最強の攻撃力を持つものであった。

 

「光栄に思えよ!お前は使うまいと思っていた千冬姉の技で倒してやる!!」

 

それを目の当たりにした一夏は感激とも同情とも取れない表情をしながら目を閉じてすぐに開いた。

 

「千冬姉・・か、いつまで縋ってなきゃいけないんだろうな?姉弟でもいずれ離れる時がくる・・・早いか遅いかの差だけなのに」

 

「何をブツブツ言ってやがる!とっとコイツを食らって負けろォ!!」

 

「いや、俺は負けない!負けられない!バスカー・モード、起動!」」

 

一夏の口から発せられた言葉に反応を示したのは騎士の二人と観客席にいるシャナだった。バスカーモードとはサイトロン・リンク・システムの最大出力、つまりは全力全開の力を出すという事である。

 

「いきなり出すのかい?」

 

「いや、今の一夏なら」

 

「騎士としての顔つきですね」

 

聞きなれない言葉に春始はイラつきを更に加速させ、突撃を開始した。天才であるゆえに零落白夜のデメリットも理解したのだろう。

 

「うおおおお!」

 

「この剣の本当の姿を見せてやる!はああああ!」

 

ラフトクランズ・クラルスのツインアイが蒼く輝き、オルゴンの余剰エネルギーが全身から放出されて蒼く染め上げている。

 

「エクストラクター、マキシマム!!」

 

ソードライフルを構えると左右に展開し、オルゴナイトのエネルギーが巨大な刀身を形成していく。

 

「な、バカな!なんだ、あの巨大な剣は!?」

 

「この大剣!捌く事は出来無い!覚悟せよ!」

 

一夏もクラルスのスラスターを全開にし、白式を纏った春始に突撃していく。

 

「零落白夜に斬れないものなどあるものかあああああ!」

 

「そうはいかない!」

 

春始の読みを裏切るかのようにクラルスはオルゴンクラウドの転移で背後に回り、横薙ぎの一撃を加えた。

 

「うあああああ!?」

 

オルゴンの余剰エネルギーの結晶が魔法陣を形作り、それが砕ける。その光景は宇宙で星が瞬き、非常に美しいものだった。

 

「ヴォーダの闇に・・・沈め!!」

 

「オルゴナイト!バスカー!ソォォォド!!」

 

「があああああああああああああっ!!!!?」

 

縦一文字に振り下ろされた大剣の一撃は白式のエネルギーを全て奪った。クラルスは着地するとゆっくり大剣を横へ構え、それと同時にオルゴナイトの結晶で形作られていた大剣が砕けていく。

 

「光が溢れる時、闇の深さを知る」

 

[白式、エネルギー0。勝者!織斑一夏!]

 

放送によって一夏の勝利が告げられ、一夏は一瞬だけ振り返り春始を見た。春始はこちらを怨み深い目で地に伏したまま睨んでいる。そのままピットへと一夏は戻っていった。

 

 

 

 

その後、バスカーソードを受けた白式の機体のダメージは応急修理をすれば万全な状態になる程度のダメージしか無かった。機体自身が自分を守ろうとしたのかは分からないが戦いが出来る事には変わりない。

 

ピットでは一夏の戦いを政征と雄輔が労っていた。次の戦いは政征の出番であり、相手は春始であった。政征自身はセシリアとの戦いかと思っていたが戦いの準備する。

 

「まさか本番でバスカーモードを使うなんてな」

 

「咄嗟だったから、今は出来るかわからないけどな」

 

「訓練を続ければ出来るようになるさ」

 

「雄輔の言う通りさ。来い、リベラ」

 

政征は戦いのためにラフトクランズ・リベラを展開する。その姿はクラルスとは違い、完全な全身装甲で紺瑠璃色のカラーリングで本来のラフトクランズに近い姿だ。

 

「政征、それが?」

 

「そうだ。これが私の機体、ラフトクランズ・リベラだ」

 

「気をつけてくれよ?春始兄は」

 

「わかっている。俺は負けられん」

 

政征は一瞬だけ目を閉じる。その目に映るのはシャナ=ミアの祈る姿だ。その祈りが政征に精神的な落ち着きと力を与えてくれる。

 

「行くぞ!リベラ!!」

 

政征はピットからアリーナへと飛び出し、アリーナの地へと着地した。

 

「なぁ、雄輔・・・政征はどのくらい強いんだ?」

 

「俺が口で説明するよりも試合を見た方が早いだろう」

 

一夏の疑問に答え、雄輔は壁に背をつけたまま腕組みをしながらアリーナの試合の舞台を見ている。親友の戦いを見るのは久々で顔には出さないが高揚と嬉しさが雄輔の中に溢れている。

 

二人は親友であり、互いにライバルでもある。仲が良くとも戦いという場面で敵同士になれば容赦なく刃を交わす者でもある。

 

「自由の騎士の戦い・・・久しぶりに見させてもらうぞ?政征」

 

 

 

 

 

政征がアリーナに現れてから数分後に春始が現れ、政征と対峙する。

 

「今度はお前か、一丁前に全身装甲とはな」

 

「・・・・」

 

「だんまりか、まあ良いけどさ。そうそう」

 

「ん?」

 

「シャナ=ミアさんに君から俺の事を紹介してくれないかな?仲良くなりたくてね」

 

「何故だ?」

 

「だって、天才の俺の隣にいればシャナ=ミアさんは俺が教えればきっと強くなれるし、幸せになれるだろ?」

 

この一言が政征の中にある糸を切ってしまった。春始にとっては何気ない言葉ではあったが、政征にとっては恋人を自分によこせ(・・・・・・・・・)と言われた事に等しいのだ。

 

「・・・・けるな」

 

「ん?何!?」

 

「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!このカスがァァァ!!

 

政征の様子に気づいた雄輔は頭を抱え、一夏は驚いていた。

 

「やれやれ・・・アイツ、政征に対して禁句を言いやがったな?」

 

「禁句?」

 

「ああ、政征はある事(・・・)を言われるとあんな風にブチ切れるんだ」

 

「あんなに人当たりの良い政征がか!?」

 

「優しい奴程、怒ると怖いのさ」

 

非情にも戦闘開始のブザーが鳴り響き、試合が始まった。




今回はここまでです。

この世界の一夏は千冬を尊敬していますが同じ道は行く事はしないと考えています。

千冬アンチっぽい描写はしましたが千冬はアンチ対象ではありません、フー=ルーが居る限りアンチにはなりません。

次回はガチギレの政征と春始のバトルとセシリア、雄輔のバトルです。

お楽しみに!


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優しい人ほど怒りは強い

政征、自戒する。

春始、房中術のために喰らう。


以上


「うがあああああ!殺す!殺す!!殺す!!」

 

政征は春始に向けてオルゴンライフルを単発モードで放つ。それを何とか回避し斬りかかるが対応し、シールドクローで受け止められた。

 

「何をそんなに怒ってるのさ?お前なんかよりもマシ、ガハッ!」

 

「黙れ黙れ黙れ!お前がシャナの名前を口にするんじゃねえええええええ!」

 

政征はシールドクローで春始の雪片を弾き、そのまま殴り飛ばした。

 

「お前、よくも俺を殴り飛ばしやがったな!」

 

「うるっせんだあああああああああああああああああ!砕く砕く砕く!!砕いてやるってんだよおおおおおおおおお!!」

 

そのままシールドクローをクローモードに切り替え、春始を捉え僅かに空中に上昇すると同時にすぐに白式ごと叩きつけ、引き摺った。

 

「があああああああ!?」

 

「ヒャハハハハハハハ!うおらぁ!」

 

そのまま遠心力をかけ、投げ飛ばしオルゴンクラウドで転移すると爪でアリーナの地へと叩きつけた。

 

「ぐはっ、この野郎!」

 

「消えろ消えろ!消えろおおおお!!」

 

チャージの完了していたオルゴンキャノンを展開し、政征は容赦なく砲撃を放ったが春始にそれを回避されてしまう。

 

「貰ったァ!なっ!?」

 

「効かねえ効かねえ効かねえ効かねえ!その程度じゃあな!」

 

政征に自信のあった一撃を加えたが、政征は応えていなかった。しかし、政征は目的を果たしたかのように声を上げる。

 

「お前を一発殴れたから充分だ。審判!聞こえるか!?俺は降参する!試合を終わらせろ!!」

 

「なんだと!?」

 

政征の降参宣言を受け、放送室に居る生徒は急いでアナウンスした。

 

「あ、赤野政征選手の降参により!勝者、織斑春始!」

 

「ふざけるな!こんな勝ち方、認められるかよ!」

 

「お前とはこれ以上剣を合わせたくないんだ、嫌な感じがするのでね」

 

そう言って頭が冷え冷静になった政征は背を向けてピットへ戻ろうと歩き始めた。実際は政征は戦闘中にサイトロンの波動で春始の内側に潜む黒い欲望を見抜いていた。

 

剣を合わせれば合わせるほどに怒りが沸いてくる。感情に任せて相手を殺しかねない状態にするのは己の恥とし、自戒も含めて降伏を宣言したのだ。

 

「ふざけんじゃ、ねええええ!っ!?」

 

春始は背後から切りかかろうとしたが、一発のエネルギー弾がそれを制した。撃ったのは雄輔であり、オルゴンライフルを撃つために右腕のみを部分展開している。

 

「試合が終わったのにも関わらず、背後から斬りかかったのを止めたんだ。文句はないよな?織斑先生?」

 

「っ・・・そうだな」

 

千冬は雄輔の言葉に少しだけ狼狽えながら返事を返した。その様子を見ていた一夏は千冬よりも雄輔の射撃技術に目を奪われていた。

 

 

 

 

第三試合であるセシリアと雄輔の試合が始まる一時間前、春始は一人の女生徒を呼び出し、言葉巧みに誘導しその肢体を貪っていた。

 

全てが終わると女生徒は放けた表情のまま放置され、春始はその場を去った。

 

「一応は力を得られたがこの程度じゃ意味ねえな。やはりヒロインじゃないとな」

 

独り言のように口を開き、春始は試合会場であるアリーナに戻りながら拳を閉じたり開いたりして力の増大を確認していた。

 

試合の様子はセシリアが射撃とビットで雄輔追い込んでいた。雄輔の本来の世界のセシリアとは手合わせが少なく、クセを見抜くほどの経験が少なかった為に苦戦していたのだ。

 

「く、こんな事ならば本来の世界でセシリアと手合わせをすれば良かったな」

 

「ふふ、手加減はしませんわよ!」

 

「それならば機神の拳を見せてやろう!」

 

「機神の拳ですって?」

 

雄輔は武装であるソードライフルとシールドクローをアリーナの壁際に置き、拳を構えた。

 

「武器を持たずに私と戦おうと!?」

 

「油断していいのか?セシリア・オルコット!砕く、止めても無駄だ!」

 

 

[推奨BGM 『紅の修羅神』スパロボOGより]

 

 

雄輔は地上戦を仕掛けていたセシリアの背後に武術の足運びを行うと一瞬で間合いを詰め、裏拳を打ち込んだ。

 

「きゃあっ!?」

 

「ぬうん!おおおおおおおおお!うおりゃあ!」

 

怯んだ隙を見逃さず、連脚を放つとそのまま上へと蹴り上げ蹴りに使った足を踏ん張りの軸足とし腰の入った正拳突きを落下してきたセシリアへ打ち込んだ。

 

「あぐっ!?なんて威力のパンチですの!?」

 

「これが俺の教わった修羅の拳、機神の拳と読んで機神拳!」

 

「機神拳・・・ですが、接近を許さなければ!」

 

「師匠が言っていた。『機神拳の前に敵はない』と!」

 

雄輔はオルゴンを纏うように余剰エネルギーが溢れ出ていた。だが、機体負荷もあり、後一撃が限界だろう。

 

「セシリア、この試合での最後の一撃の勝負だ。行くぞ!」

 

「受けて立ちましてよ!」

 

「機神!雷撃拳!!」

 

「ティアーズ!!」

 

ビットの一撃を受けながらもセシリアへ蹴りを打ち込んだ雄輔ではあったが、お互いにまだ倒れてはいなかった。

 

「俺の負けだな・・・」

 

「何故ですの!?まだ!」

 

「エネルギー切れだよ。機神拳は強力な分、シールドエネルギーを消耗するんだ攻撃的に行くからな」

 

「え?」

 

相手の表示を見れば確かに雄輔のエネルギーが切れていた。こんな状態で試合をして勝利得ても納得がいかないだろう。

 

「わかりましたわ。では、またの機会に」

 

「ああ。審判!降参だ」

 

『青葉雄輔選手の降参宣言により、勝者!セシリア・オルコット!』

 

試合が終わり、去ってゆく雄輔の背中を見てセシリアは新たな目標を見つけていた。

 

「(あの時、政征さんに見せられた別世界のわたくしには足元にも届いていない、それでもきっと並んでみせますわ!そして、本当の勝利をアナタから勝ち取ります!雄輔さん!!)」

 

セシリアは決意を胸に自分のコクピットへと戻っていった。

 

 

 

エネルギーを補給している雄輔のもとに政征はやってきていた。自分がサイトロンで感じた事を伝えるためだ。

 

「雄輔、次の相手だが嫌な感じがする」

 

「春始の事か?確かにな、まだサイトロンで感じていないが俺の勘でもアイツはヤバイと思っている」

 

「気をつけろ、俺や一夏が戦った時よりも強くなっている可能性がある」

 

「ああ」

 

親友の言葉を噛み締めながらエネルギーの供給を終え、第四試合である。雄輔と春始の試合が始まろうとしていた。

 

 

 

 

アリーナからそれぞれの機体が出撃し、対峙する。春始の様子が違う事に雄輔は気づいた。体調が悪いのではなく、何かを得た時の喜びを得ているような様子だ。

 

「何か、あったようだな?」

 

「まぁ、ね。初めて食事(・・)が出来たから、さ」

 

「何?」

 

食事という言葉に疑問を持つが、試合開始のブザーが鳴り春始は唯一の武装である雪片を手に突撃した。

 

「うおおおおらあああ!」

 

「!ぐおっ!?何だ?この、剣力は!?」

 

シールドクローで雪片を受け止めた瞬間の反動が大きい事に雄輔は驚きを隠せなかった。

 

「力を取り込んだんだ、お前が勝てる要素はないんだよ!」

 

「(食事とか言っていたな、何らかの方法で自分の力を増大させたのか?)」

 

間合いを開いても春始は対応し、雄輔に攻撃を仕掛け続ける。まるで野生動物並みの体力を得たように攻撃の手を緩めない。

 

「ハハハハハ!倒れろ!」

 

「ぐ、く!おかしい、短い期間・・・いや、時間でこんな簡単に力を得られるはずがない!」

 

剣を捌きながら雄輔は春始に対する疑問を晴らそうとする。それが足を引っ張り、雄輔は態勢を崩してしまった。

 

「しまった!」

 

「貰った!零落白夜ァ!!」

 

エネルギー状の刃が雄輔を襲い、その衝撃による粉塵がアリーナに広がった。




こちらは短くなるつもりです。

喰われたのは名も無いモブですのでご安心を。


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冷静さの内側にある熱い闘志

雄輔が怒りを通り越し、極限の冷静さを見せる。


砂煙が晴れてくると同時に、春始は雄輔を倒したという確信を得たのかのように笑みを浮かべていた。

 

「この剣に倒せないものはないんだよ!ハハハ!」

 

「何がおかしいんだ?織斑春始?」

 

「なっ!?」

 

砂煙が晴れ、中から現れたのはソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードとシールドクローを交差させ、零落白夜を受け止めていた雄輔だ。

 

「そ、そんな馬鹿な!?零落白夜はエネルギーを無効化させるはずなのに!」

 

「オルゴンソードはオルゴナイトが結晶化したエネルギー、その時点でエネルギーではなく物体化している。シールドクローを支えに防御したという訳だ」

 

反撃を恐れた春始は後退し、雪片を片手に持ち雄輔を指差し叫んだ。

 

「何故だ!お前といい、一夏といい、赤野といい、なんでお前達は俺の邪魔をする!大人しく俺に負けてろよ!!」

 

雄輔はソードライフルとシールドクローを構えたまま、春始の言葉を聞いていた。同時にプライベート通信を白式に繋ぎ、周りに聞こえない事を確認すると口を開いた。

 

「お前の食事の正体、女だな?お前と刃を合わせている間、僅かながら男が果てる時に絞り出す体液の匂いがした」

 

「っっ!」

 

「この通信はプライベートだ、俺達にだけしか聞こえない。まさか女喰いだったとは、あの剣力にも納得がいった。何故そのようなことが可能なのかは解らない、しかし」

 

雄輔に己が力を得る方法を観察によって見抜かれてしまい、春始は内心焦った。なぜこのような奴に見抜かれたのだろうと。

 

「お前を倒す理由が出来た(サイトロンで感じた嫌な気配はこの事だったか)」

 

「何!?」

 

雄輔自身も女との交わりの経験がある。年上だが教師であり、恋人でもある彼女との経験が意外な形で見抜くきっかけになったのだ。

 

 

 

[推奨BGM 『Time Diver』スパロボOGより]

 

 

 

「試合時間はもう少ない。バスカー・モード、起動!!」

 

「!!」

 

バスカーモードと聞いて、春始は警戒を強めた。自分の弟でもある一夏も雄輔と同じ機体で同じ言葉を口にしたと同時に最大出力の大技を食らわされた為だ。

 

ラフトクランズ・モエニアのツインアイがファウネアを彷彿とさせるエメラルドグリーンに輝き、ソードライフルをライフルモードに切り替えた。

 

「オルゴナイト・ミラージュ!」

 

推進力を全開にし、オルゴンクラウドを利用した連続転移を繰り返しながらオルゴンライフルを連射する。

 

春始はそれを回避し始めるが、次第に雄輔の射撃の速度と精度が上がっていき、ついには被弾してしまう。

 

「これは俺が守る人の技、その身で受けろ!」

 

「ぐわっ!うあああ!なん・・だ!この射撃・・!」

 

被弾し続けた白式はアリーナの天井まで届くのではないかという距離まで打ち上げられ背後に転移してきた、モエニアはビーム状のエネルギーを放ち、オルゴナイトの結晶の中へと閉じ込める。

 

「な・・閉じ込められ!」

 

オルゴナイトの巨大な結晶の中に閉じ込められ、その上に転移したモエニアは軽く乗った後にライフルを上に放り投げ、向かって行く。

 

「これはお前の柩、久遠の安息へと誘うもの」

 

放り投げられたソードライフルが砲台へと変形していき、追いついたモエニアの胸部にレーザー誘導によって胸部の砲口に変形したソードライフルが接続される。

 

「ヴォーダの闇に抱かれ、還るがいい!!」

 

砲口と接続された最大出力のオルゴンライフルは春始が閉じ込められたオルゴナイトの結晶を押し込みながら砕いていき、アリーナの地へと砕けた欠片が落ちながら叩きつけられた。

 

その衝撃で内部に押し込められていたエネルギーが解放され、更には砲撃が白式に浴びせられ爆発が起こった。

 

「そん、な・・・バカ・・・な。天才である・・・この俺、が」

 

砲撃を受けた白式のエネルギーは完全に無くなっており、審判が放送から結果を伝える。

 

「白式、エネルギー0!勝者!青葉雄輔!!」

 

春始は倒れたまま雄輔を睨みつけていたが、雄輔はすぐにピットに戻り機体を解除すると同時に膝をつき、呼吸を荒くした。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ!危なかった・・・あと少し深く踏み込まれていたら目を斬られていた」

 

雄輔は勝利を掴む以上に、春始が強くなれる方法が何なのかを発見できた方の収穫が大きかった。

 

だが、その事を今、話すべきではない。話せば余計な混乱を招いてしまうからだ。

 

「雄輔、大丈夫か?かなり疲れているみたいだけどよ」

 

「大丈夫だ、疲れているのは確かだ」

 

「・・・・(何か掴んだみたいだな、雄輔の奴)」

 

 

 

 

 

 

全ての試合終了後、政征、雄輔、一夏の三人は千冬の下へと向かっていた。三人は自分達の要件を伝えるためだ。

 

「赤野に青葉、それに織斑弟か、何の用だ?」

 

「俺達、クラス代表を辞退したいんです」

 

「何?」

 

「所属企業との連絡や機体に関するデータ取り、報告などの義務もあるのでどうしても無理なのです」

 

「そうか、二人は分かった。織斑弟、お前は?」

 

「俺はハッキリ言って代表なんてやりたくないんだ。この二人との訓練や勉強に集中したい」

 

「なるほどな、わかった。お前達三人は辞退する事を許可しよう」

 

意外にも千冬の返答はあっさりとしたものであった。彼女自身も話題作りで選ばれた事で辞退する事を予想していたのだろう。

 

「ところでお前達の機体を解析させてもらえないだろうか?あまりにも強力なのでな」

 

それに対して返答しようとした時、フー=ルーが千冬の後ろから声をかけた。

 

「申し訳ありませんが機体データは学園へ提出していますので、それ以上は我が社へ申請し許可を貰わねばなりません。解析は諦めてください」

 

「・・・そうか」

 

「あ、待ってください!織斑先生!」

 

真耶は去っていった千冬を急いで追いかけるが、フー=ルーは千冬が拳を強く握っていたのを見逃していなかった。

 

「(この世界の千冬さんはもう一人の弟さんを優遇しているようですわね、何とかしなければ)」

 

フー=ルーにとって千冬は自分が認めた戦士であり友人であった。それが僅かに歪んでいる。それを僅かにフー=ルーは悲しんでいた。

 

 

 

 

試合終了後、全員が教室に戻り、真耶が教壇に立っていた。

 

「はい、クラス代表は織斑春始くんに決まりました!」

 

真耶の言葉にクラスはざわめいたが、すぐに収まり疑問を抱いた春始が質問した。

 

「あの、俺・・・全敗しましたよね?なんで俺が代表に?」

 

「それはわたくしと」

 

「俺達が辞退したからだ」

 

「なんでだ!?」

 

「そこは私が説明してやる」

 

千冬が真耶と入れ替わるように教壇に立ち、説明を始めた。

 

「まず、赤野と青葉だが二人は企業代表候補生だ。企業へのデータ取得を優先して欲しいとの事で無理になった」

 

「じゃあ、一夏がやれば!」

 

「俺は遅れを取り戻したいからハッキリと辞退したんだよ」

 

「ぐ、じゃあ・・・セシリアさんが!」

 

「わたくしは祖国から赤野さん達との戦闘データを取るように言われていましたので、クラス代表に拘りはありません」

 

「そういう訳だ、消去法でお前になる。きっちりとやる事だ」

 

「ぐ、わかったよ」

 

逃げ道を塞がれ、春始はクラス代表になったが内心では苛立ちでいっぱいであった。

 

「(クソッ!クソッ!どういう事だよ!?クラス代表にはなれたが、原作と全く違うじゃねーか!!これじゃ俺の計画が全くと言っていいほど動かねえ!)」

 

「・・・・」

 

「・・・・・」

 

政征と雄輔はサイトロンの影響から春始が何かを企んでいることをわずかに感じ取った。

 

しかし、サイトロンの未来は断片的であり、それが必ずしも実現するとは限らない。

 

未来予測が完全出来てしまえばそれは、ただ本を読む行為と変わらない。

 

全てが分かってしまっているというのはある意味で万能なのだろうが、同時に生きながらにして死んでいるのと変わらない生を送ることにもなる。

 

それ故にサイトロンは断片的な未来しか見せないのであろう。

 

「(まぁいい、俺の狙いは鈴とラウラだ。その他のヒロインは後から手にすれば問題ねえ!)」

 

 

 

 

 

 

放課後、一夏はシャナを呼び出していた。学園の中庭にある木陰の近くに。

 

「シャナ=ミアさん」

 

「なにか御用でしょうか?」

 

「俺、シャナ=ミアさんが好きです!俺と付き合ってくれませんか!」

 

一夏はシャナに対して、告白したのだ。自分の恋人になって欲しいという思いを込めて。

 

「申し訳ありません。お気持ちは嬉しいのですが、私にはもう心に決めた方がいるのです」

 

「え?シャナ=ミアさんにはもう恋人が居るってこと?」

 

「ええ、ごめんなさい・・・」

 

シャナは謝ると同時に優しく微笑んだ。その笑みは哀れみではなく、貴方の恋人にはなれないが嫌っているわけではないと、そんな笑みだ。

 

「そっか・・・じゃあ、その人と幸せになってくれよな!それと、ありがとう俺の告白を聞いてくれて!!」

 

「はい、それでは」

 

シャナ=ミアが去り、完全にいなくなるまで一夏はその背中を見つめていた。

 

仮面を被るかのように右手で自分の顔を隠し、自虐するように空へと顔を隠したまま見上げた。

 

「振られちゃった・・・か。でも、初恋って成就しないって言われてるもんなぁ」

 

顔を隠してはいるが頬からは涙が伝っていた。悔しさではなく、恋が成就しない苦しさを初めて味わい辛さを隠しきれなかったのだ。

 

「っ・・!」

 

涙を制服の袖で拭い、一夏は自分で自分の頬をパシンと両手で叩き、気持ちを切り替えた。

 

「さよなら、俺の初恋・・・・それと、ありがとう」

 

ドラマっぽくカッコつけたつもりで一夏は制服のポケットに両手を入れ、自分の部屋へと戻っていった。




ごめんなさい。

ずっと放置していて本当に申し訳無いです。


次回はセカンドが登場します。彼女は優遇キャラなので少しパワーアップさせるつもりです。


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裏側 幽霊から生まれる新たな星

束が、またまたやらせていただきましたァン!状態に。

転移組のラフトクランズにオーバーホールが必要となる。


以上


アシュアリー・クロイツェル社の社員寮の一室、私は今オフを利用してゲームをしている。

 

やっているゲームはスーパー○ボット大戦OGシリーズ。前々から積みゲーにしていたのをクリアしようとプレイしているのだ。

 

「うーん、やっぱり他作品が登場して一緒に戦う通常のシリーズも良いけど、オリジナルシリーズが最高だよー!ゲームもバカに出来ないよね、こういった物からアイディアが出てくる時もあるし!!」

 

そう言いながらステージを進めていくうちに束は幽霊の名を関する機体に興味が湧いていた。

 

「ヒュッケちゃんじゃなく、量産機のゲシュちゃんⅡを基本から煮詰め直し、あらゆる現行の技術を導入して現場仕様にした機体か。私のISも・・・ん?待てよ?基本に返って煮詰めなおす?」

 

ゲームをプレイしながら頭の中で色々な構想を巡らせていく、そこで私は一つの答えにたどり着いた。

 

今現在、開発されている量産型のISの基本を見つめ直しつつ、コアが再利用出来るならそこから誰でも乗りやすい機体を開発すれば良いのではないかと。

 

「打鉄、ラファール、クアッド・・・ちょっと機体データを見ようっと!」

 

クイックセーブを忘れずにしてゲーム機の電源を落とすと同時にコンピューターに向かい、現行の量産機のデータをチェックする。

 

「ふむふむ、なるほどね。今のままだと機体の統一やカスタムがしづらい。それなら私自らがプランを立ち上げちゃおう!」

 

企画書を書き始め、ものすごいスピードで出来上がっていく。分厚くなった企画書の題名にはメイクワン・プロジェクトと記されていた。

 

 

 

 

 

翌日、束は真っ先にプロジェクトを通そうと開発部やセルダに話を通しに行った。

 

現行の量産機のあり方を覆しかねないプロジェクトに緊急会議ではあまり良い顔をされなかった。

 

それには理由があった。支流が第三世代に傾いてきているとはいえど、現行は第二世代が支流である。それと並行した問題がラファール・リヴァイヴだ。この機体はフランスの大企業デュノア社がライセンス特許を持っており、一機を手に入れるだけでも何かしらの技術かISコアを提供しなければならない。

 

「それなら私が新しい量産機を作る際のフレームのサンプルと試作機を提供します。それでどうでしょうか?」

 

束からの提案に全員が首を縦に振り、プロジェクトは可決されアシュアリー・クロイツェル社も動いた。

 

先ずはデュノア社との交渉の席ではラファール・リヴァイヴ二機を要求した。無論デュノア社は簡単に譲るわけがなく、世界的大企業であるアシュアリー・クロイツェル社との技術提携契約とヴォルレントに関するオルゴン系統の技術を要求してきたのだ。

 

量産機二機に対し、企業による技術提携契約及びオルゴン系統の技術要求。これではデュノア社が圧倒的に有利な条件である。

 

そこでアシュアリー・クロイツェル社の交渉役は切り札を切った。

 

「こちらは開発予定の量産機、及びその基礎フレームに関する技術です。完成した後には機体と技術サンプルを提供すると我が社の技術部長からの署名もありますよ」

 

「む・・・!」

 

タバ=サの名で書かれている署名に目を通したデュノア社側は不利な位置に立った。

 

目的はアシュアリー・クロイツェル社における謎の技術の奪取であった。しかし、量産機による利益は技術奪取よりも遥かに上であると示されている。

 

「分かりました。そちらの量産機に関する技術を要求します」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

鞄の中から書類を取り出し、デュノア社側の交渉役に書かせるとアシュアリー・クロイツェル側の交渉役も一枚の紙を取り出し、署名すると手渡した。

 

「こちらの証明書です。もし、契約違反があればそちらにお願いします」

 

交渉はトントン拍子で進み、デュノア社にもアシュアリー・クロイツェル社にも不利益がないスムーズな取引となった。

 

 

だが、これはあくまでも会社間としてでの話である。デュノア社の社長夫人であるエミリーはアシュアリー・クロイツェル社の持つオルゴンの技術を手に入れ、独占しようと企んでいた。

 

しかし、その目論見はアシュアリー・クロイツェル社そのものに打ち壊された。オルゴンに関する技術はどのような条件が出されようとも、流出を防ぐ為にエネルギー装置として使える技術だけを提供し、結晶化などの技術は伏せているのである。

 

「キイイ!あの技術が手に入れば莫大な利益が手に入ったというのに!まぁ、良いわ!またあの泥棒猫の娘を痛めつけて憂さを晴らしましょう」

 

そう呟くとエミリーは部屋を出ていった。憂さ晴らしの人形に自分の鬱憤をぶつけるために。

 

 

 

 

 

 

交渉から一ヶ月後。企業代表候補生でもある政征と雄輔はこの世界のアシュアリー・クロイツェル社に呼ばれ、ラフトクランズを渡すように言われた。

 

機体の様子を見たいとフューリーの技術者達からの嘆願でもあった。待機状態の機体をスキャンにかけ、技術者の一人が端末を操作する。

 

「悪いな。あら・・・あらら」

 

「どうしたんですか?」

 

「何か問題が?」

 

「いやぁ、こりゃあマズイな・・・二機とも一度オーバーホールして機体のパーツを取り替えないと動かなくなっちまうぞ。どんな風に使えばこんなになるんだ?」

 

「・・・っ」

 

「無茶な使い方・・・か」

 

二人には覚えがあった。こちら側ではなく、向こう側の自分達が居た世界において破滅の驚異と戦った時であった。

 

追い返すためにやむ得ずクロスゲートに飛び込んだ際に損傷したままだったのだろう。

 

IS学園でのクラス代表を決める戦いにおいて使用出来たのは応急処置を済ませていたからに過ぎない。

 

オーバーホールということは一度機体をバラして修理と点検をする事だ。

 

その間の機体はどうなるのだろうと危惧する。

 

「ヴォルレントを使ってくれや、調整はこちらで」

 

「少し待って頂けませんか?」

 

技術長に声をかけたのはメガネをかけ、凛とした雰囲気を持った束であった。

 

「タバ=サ嬢ちゃんか、どうした?まさか、あの機体ができたのかい?」

 

「はい、まだ先行試作機ですが量産を前提にする為の機体ができました!」

 

「さすが嬢ちゃんだ!ほら行ってこい!」

 

催促された二人は束と共に特別ハンガーへと向かう。そこには二人にとって見覚えがるようで形の違う「幽霊」がいた。

 

「これって・・・量産型のあの機体!?」

 

「似てるが細かい部分が違っている?」

 

「二人共気づいたようですね?」

 

凛とした雰囲気に二人は困惑するが、あえてその言葉を口にした。

 

「束さん、その口調」

 

「似合いませんよ、格好が格好だけに」

 

「やっぱり?雰囲気だけじゃダメかぁ・・・服も買わないとね!それと、今はタバ=サって呼んでね?」

 

束はいつもの調子に戻り、笑顔になる。並行世界においても彼女のマイペースさは変わらないようだ。

 

「それで、タバ=サさん。ラフトクランズにオーバーホールが必要になるって聞いたんですが」

 

「それは本当ですか?」

 

「うん、本気と書いてマジと読むほど必要だよ。最低でも三ヶ月はかかるかな、IS学園の臨海学校くらいには間に合わせるけどね」

 

束は笑って流しているが、目の奥にある真剣さを見逃す二人ではなかった。

 

その為にラフトクランズを早々に技術長へ預けたのだから。

 

「オーバーホールは私も立ち会うから新品同然にしておくよ!」

 

「お願いします」

 

「それで、その間どうすれば」

 

「ただし、これは研究部長として、また会社の社員として頼みたいんだけどテストパイロットをしてくれないかな?それがオーバーホールの条件」

 

なにかしらの仕事があるだろうと覚悟していた二人だったが、テストパイロットをして欲しいと言われ、二つ返事で承諾した。断る理由はなく、むしろ新しい機体に触れてみたいという好奇心が出てきたのだ。

 

「それじゃ、この子達をお願いしたいんだ。名前は量産型シュテルンMk-II改・タイプIS・SFC。参考にしたのはゲ○ュペン○トちゃんだけどね」

 

「危ない!危ない!!」

 

「隠して隠して!」

 

「あはは、それじゃ簡単に説明するよ?この機体は二人がデータ収集し易いようにオルゴンエクストラクターが試験的に組み込まれているんだ。この二機は量産前提にするつもりだからね」

 

説明を聞いて納得仕掛けていたが雄輔が気になる疑問をぶつけた。

 

「量産前提?だって量産機は三つあるじゃないですか。うち一つは砲台ですけど」

 

「うん、当然の疑問だね。この機体はね。現行の量産機を一から作り直して長所を全て取り込んだらどうかな、という考えから作られたのさ!」

 

「コアとかはどうしたんですか?」

 

「機体が破壊された状態でコア自体が無事な物を再利用してるよ。再チャレンジさせてあげたいからね」

 

なるほどと納得した雄輔、政征も納得済みで相槌を打つ。

 

「それじゃ渡すよ。一号機がまーくん、二号機がゆーくんね」

 

腕時計のような形をしたのがシュテルンMk-II改・タイプIS・SFCの待機状態なのだろう。「幽霊」を参考に「星」が作られるとは面白い発想である。

 

「機体に関する事は全部報告してね?お願いだよ」

 

「強力な量産機・・・か」

 

「誰でも扱いやすくなるってのが良いんだろうけど・・怖いな」

 

 

束の頼みを聞きつつ、誰でも簡単に扱える力に恐怖を感じつつも二人は会社を後にした。




はい、ラフトクランズがお休みです。

流石に転移の影響はあるかと思います。

臨海学校編まで修理を受けます。

専用機ではなく試作機を託されました。

渡されたISのモデルは量産型ゲシュペンストMk-II改です。


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※臨海学校までの使用機体

使用機体の設定です。


量産型シュテルンMk-II改・タイプIS・SFC

 

ラフトクランズのオーバーホールに合わせ、束がロボット大戦系のゲームをプレイ中に浮かんだアイディアを基にした試作量産機。

 

ラファール・リヴァイヴの汎用性、打鉄の防御性、更にはクアッド・ファランクスの火力といった現行の量産機の長所を一つに出来ないかと考えた。

 

その結果、強化・量産性を目指すプランである。メイクワン・プランを束自身が立ち上げ、その試作として作り上げたIS。モデルは量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ改

 

コアには打鉄、もしくはラファールなどから修理不可能な機体を見つけ出しコアが再利用可能な物を回収し、そこから作り上げている。

 

初期のシュテルンは修理不可能な機体から回収したコアを使う為の搭載実験機、シュテルンMk-IIはコア搭載を可能にし武装用及びモーションOSデータ収集用として開発されている。

 

拡張領域と追従性、操作性などを重視しており、乗るのが初めての初心者には若干扱いにくいが、初心者から脱した中堅やベテランが乗れば専用機に迫れるほどのポテンシャルを持つ。

 

汎用型・砲撃型・格闘型の三つの換装パックによって個人のクセに合わせることも可能になっている。

 

ISは無論、インフィニット・ストラトスの略称でSFCはサイトロン・フューリー・カスタムの略称。(決してスーパーファミリーコンピュータ、通称スーパーファミコンの略では無い)

 

SFCをされているのは戦闘データ収集用のサイトロン・システムが搭載されている為。この二機は先行実験試作型で政征と雄輔へ譲渡され、戦闘データ収集を条件にオーバーホールの間のヴォルレントに代わる機体となる。

 

IS世代としては一般生徒で2・5世代、専用機持ちで3・5世代クラスの性能となる。モンド・グロッソ出場者クラスが使用すれば4世代クラスの動きが可能になる。

 

ISに因んで基礎フレームにはIフレーム、Sフレームという試作の機体フレームを使用している。

 

この二つのフレームも現行の量産機のデータから開発されており、最終目標はこの二つのフレームの長所を組み込んだ。

 

ISⅡフレームという名の基礎フーレムを作り上げること。

 

 

政征用カスタム(SFC一号機)

 

I(increase)フレームを使用し、中・近距離戦闘用にチューンした機体。

 

Iフレームとは安全性と耐久性を重点に置いた基礎フレームで格闘戦や被弾などの損傷の耐久テストも兼ねて使用されており、量産性コストも低い。

 

Iフレームは打鉄の耐久性を基にされており、パイロットの負担を減らし、壊れにくく長く使えるという機体を目指しているとも言える。

 

実弾と実体剣の武装がメインで、固定武装以外の光学兵器やビットなどは一切装備されていない。

 

小型人工衛星からの攻撃用コードがあるが、派手な為に脅しや止めでしか使用しない。

 

換装武器

 

シシオウ・ブレード(PTサイズ)

 

M90アサルトマシンガン

 

ブーステッド・ライフル

 

フリー・エレクトロン・キャノン(ネタ)

 

スラッシュ・リッパー

 

ブースト・ハンマー

 

Gインパクトステーク

 

固定武装

 

スプリットミサイル

 

F2Wキャノン

 

ジェット・マグナム

 

 

 

雄輔カスタム(SFC二号機)

 

S(sail)フレームを使用し、中・遠距離戦闘用にチューンした機体。

 

SフレームとはIフレームとは違い、操作性と運動性を重点に置いた基礎フレームで射撃戦における安定さと反応・耐久のテストを兼ねて使用されている。

 

Sフレームはラファール・リヴァイヴの追従と運動性の基礎を基に開発され、取り入れられており、どんなパイロットでも違和感なく、自由に動かす事の出来る機体を目指していると言える。

 

一号機とは反対に光学・非実体系の武装が多く、実弾や実体系の武装は殆ど装備されておらず接近戦用武装も必要最低限。

 

この機体にも小型人工衛星からの攻撃用コードがあるが、終わりにするとき以外に使用しない。

 

換装武器

 

フォトン・ライフルS

 

リープ・スラッシャー

 

ロシュセイバー

 

フリー・エレクトロン・キャノン(ネタ)

 

ステルス・ブーメラン

 

ツイン・マグナライフル

 

ハイパー・ビームライフルS

 

固定武装

 

スプリットミサイル

 

F2Wキャノン

 

ジェット・マグナム




オイオイオイオイ!WPが圧倒的にオーバーしてるわ、アイツ。

ってなるでしょうが腹を太く、大きい心で見てくださいませ。


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他の男に抱かれた(おんな)

転移してきた二人が演技にのめり込む

女喰いが食い荒らす


以上


※注意書き

今回は燃えゲーで有名なDies iraeネタが濃いです。

それを踏まえたうえでお読みください。


春始は外出許可証を貰った後に別の高校に通う女生徒を口説き、通常の安ホテルで、その肢体を貪っていた。

 

「(クソッ!何でだ、何であんなポッと出の奴等なんかに俺が負けるんだよ!それに一夏もだ!白式を手に入れて主人公ライフを堪能するはずが、あんなラフトクランズみたいなスパロボに出てくる機体を手に入れやがって!!)」

 

彼も転生者である、故に元の世界ではゲームのPVなどを観ていた為、機体の特徴だけは知っていた。

 

怒りをぶちまけるように、春始は最初の女を貪り尽くした後、門限ギリギリまで次々に同年から年上の大学生まであらゆる女体を喰い漁った。

 

「ん~、これくらい喰えば十分だな。待っていやがれ・・・機会が来れば一夏もアイツ等二人も纏めて始末してやる!ヒロインを喰うのはその後だ!」

 

野望を口にしながら春始は学園へと戻り、就寝に入った。彼の力は今や代表候補生に迫る力を持っている。

 

 

 

 

翌日、政征はどこか不満げな様子であり、雄輔もやれやれと言いたげなのを隠していない。

 

その理由は機体にあった。二人はラフトクランズがオーバーホールを受けている間に代わりの機体を渡されたのだが、慣れない機体を使う羽目になった為に不満がでているのだ。

 

せめての救いはオルゴンエクストラクターを搭載されている事だろう。当然だがオルゴン系統の武装は使えない。

 

「なぁ、二人共、聞いてるか?」

 

「ん?」

 

「何をだ?」

 

一夏が話をしようと話題を持ってきて、全員が話題に乗ってきた。

 

「もしかして、転入生のお話ですか?」

 

「それは私も聞いている。なんでも中国の代表候補生だと」

 

セシリアと箒もすでに話を知っているらしく、話題に入ってきた。この二人はサイトロンによって見せられた並行世界の自分自身によって教訓や反省となり、女尊男卑や傲慢な態度は皆無になっていた。

 

「中国・・・ですか」

 

「もしかしたら?」

 

「おそらくな」

 

シャナ、政征、雄輔の三人は中国と聞いて誰が来るのか予想が出来ていた。それぞれが話している中、春始と話していた女生徒が強めの声で言った。

 

「春始君!頑張ってよね!」

 

「専用機持ちがたくさんいるし、春始君が勝てば半年間のフリーパスが手に入るんだから!」

 

「おう、任せろ!」

 

自分が勝ってみせるという意思表示をしていると突如として教室の扉が開いた。

 

「その情報、古いわよ!」

 

そう、政征達にとっては最高の戦友であり、代表候補生達を取りまとめていた竜の爪を持った戦士。恋人が居なければ惹かれていたかもしれない相手がそこにいた。

 

「二組も代表候補生が代表になったの!そう簡単には勝てないんだから!ところで、アンタ達が・・・噂・・・の?い、一夏?」

 

「よう、鈴。久しぶりだな」

 

「久しぶりだな。じゃないわよ!どうして連絡くれなくなったのよ!」

 

「知らなかったんだよ。鈴が代表候補生になっているだなんて。悪かった」

 

一夏は謝罪を込めて知らなかったのだと言い、鈴に謝った。仕方ないといった様子で受け入れると、今度は政征達の方へと視線を向ける。

 

「アンタ達が変わった機体を使うっていう三人?」

 

「ああ、赤野政征だよ。よろしく」

 

「青葉雄輔だ」

 

「シャナ=ミア・フューラです。よろしくお願いしますね」

 

三人が挨拶を終えると同時に春始が割って入るように鈴へ声をかけた。

 

「鈴、鈴じゃないかよ!久しぶりだな!」

 

「春始、アンタも居たなんてね。中学の時におさらばできたのに」

 

「おいおい、助けてやった幼馴染に言う事かよ?」

 

「幼馴染?はっ!アンタが?中学の頃、私の事をヤラしい目で見てたアンタに幼馴染なんて言われたくないわよ」

 

「な、なんだと!?」

 

「あ、そろそろ授業時間ね。みんな!後で昼食の時にでも話しましょ!」

 

そう言い残して鈴は自分のクラスへと帰っていった。チャイムが鳴り、それぞれの席に戻っていく。そんな中、春始は苛立ちを隠せなかった。

 

「(何でだ!?中学の時には鈴を一夏より先に助けたハズなのに、何で!幼馴染で惚れてるはずだ!なのにどうして俺に靡いていない!?)」

 

自分の煩悩が彼女を失望させていた事に気づかないまま。春始は授業中、千冬からの出席簿による拳骨を何回も喰らうことになった。

 

 

 

 

 

「遅いわよ!」

 

食堂へきた瞬間に聞いたのは鈴からの怒りの一言だった。

 

「仕方ないさ、授業が少し長引いたんだから。なぁ?一夏、雄輔」

 

「ああ、そうだな」

 

「教えに熱が入っていたようだからな」

 

「それなら、仕方ないわね」

 

食券を購入し、食事が出来上がると鈴が確保してくれていた席に座った。

 

「それじゃ改めて自己紹介するわね。私は凰鈴音、中国の代表候補生よ」

 

「篠ノ之箒だ。よろしく頼む」

 

「イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。お見知りおきを」

 

自己紹介を終えていなかったメンバーに紹介を終えると、食事を取りながら話を始めた。

 

「ところでさ、言い忘れてたけど。一夏、私がISの訓練見てあげようか?」

 

「ありがたいが、俺は政征と雄輔に鍛えて貰ってる。だから、遠慮しておく」

 

「あの二人に?とても強そうには見えないけどね」

 

この世界の鈴はどこか自信過剰で自分が最も強いと考えているようだ。向こう側の鈴も自信はあったが、自分よりも遥かに実力が上が居ることを自覚していた節があった。

 

一夏が断りを入れたと同時に、鈴は政征と雄輔に明らかな敵対心を持った表情で声をかけてきた。

 

「アンタ達、悪いけど特訓の相手、交代してくれない?嫌なら実力で分からせるけど」

 

政征と雄輔は慌てた様子もなく、鈴の目を見つめている。その目の強さに鈴は一歩退いてしまう。

 

「な、なによ!」

 

「視線をそらさないで」

 

「俺達の目をそのまま見ていろ」

 

箒、セシリアに続いて二人はサイトロンを同時に使い、鈴に並行世界である自分達がいた世界の鈴自身の姿と記憶を見せ始めた。

 

『甲龍、うん・・・そうよね!アナタもまだまだ戦いたいわよね!』

 

『見えた!見えたわ!本当の水の一雫!!』

 

「(な、何これ!?私なの?でも、今の私なんかよりも遥かに強くて、武術まで収めてるし、機体まで変わってる・・!)」

 

見せられた鈴はしばらく固まっていたが、座っていた席に戻り再び一夏へ話しかけた。

 

「見てあげるって言うの撤回するわ。その代わり私もアンタの訓練に参加させて」

 

「俺は構わないが、二人はどうだ?」

 

「構わないよ、なぁ?雄輔」

 

「ああ、訓練に関しては人が多いほうがいい。歓迎する」

 

政征と雄輔は鈴を歓迎する意思を見せ、一夏は鈴に伝える。先程と違って鈴は悔しさを滲み出している。それは自分自身に向けているようだ。

 

「だってよ」

 

「ありがとう(必ず追いついてやるわ!向こうの私に負けるもんか!でも、あの機体は羨ましいなぁ・・・)」

 

昼食の最中、春始は女生徒に囲まれながらも鈴への欲望と一夏達に対する怒りを隠しきれていなかった。

 

「(鈴まであいつらのメンバーの中に!もうなりふり構っていられねえ!鈴を喰ってアイツ等を病院送りにしてやる!)」

 

自分の心の内で憤怒しながら食事を済ませて足早に去っていった。その心の内を知られているとも知らずに。

 

 

 

 

 

放課後、訓練前に政征と雄輔は二人だけで話し合いをしていた。雄輔は政征に話しておくべきという考えに至ったからだ。

 

 

「なんだって!アイツが?」

 

「ああ、奴は女喰いだ。何故そうなっているかは分からないが、戦っている時に雄の匂いがして、力が増大してた事で気づいた」

 

「嫌な感じがしていたのは、そういう事だったのか」

 

春始に対する嫌悪感、それは好む嫌うの範囲ではなく元よりそのような存在であった事だ。

 

「それにしても女喰いか、考え方によっては此処は」

 

「ああ、IS学園は奴にとっては恰好の餌場という訳だ。第三者的に見ればこの学園は粒ぞろい、大抵の男なら肌を交わしたいと思えるのが沢山いる」

 

対策しようにも相手は曲がりなりにも、この世界の織斑千冬の弟だ。真実を伝えたとしても名誉毀損罪などでこちらに罪状が来る。

 

「うーん。なら、悪役を演じようか。そういうタイプには自分が最強で勧善懲悪を遂げる存在だと思わせるのが一番だ」

 

「だが、悪役モデルはどうするんだ?在り来りな悪役じゃ意味がないぞ?」

 

「そうだな。これはどうだい?」

 

政征はとあるゲームのプロモーションビデオを見せた。二人の悪役とはそこに登場する双首領であった。

 

それを見て雄輔は苦笑してしまっていた。その姿は悪役でありながら人気を集めてしまいそうなものであったからだ。

 

「おいおい、よりによってこの二人か?」

 

「一番ピッタリじゃないか?煽ったり強さを見せたりするにはさ」

 

「そうだが、これでどこまでやれるか分からないぞ?」

 

そういって待機状態の代用機体を見せる。それも織り込み済みなのか笑みを見せて話を続けた。

 

「装備なんて代用すればいいだろ?恐らく、特訓時か自分の試合の終了時に俺達や一夏を狙ってくるはず」

 

「その時に見せ場を作りつつ、上げてから落とすのか?ゲスイな」

 

「ふふ、褒め言葉として受け取っておくさ」

 

女喰いと聞いて政征は内に隠した怒りを滾らせていた。この世界へ飛ばされる前に自分の恋人たるシャナ=ミアが襲われそうになったり、強姦に合いそうになっていた話を思い出していたのだ。

 

どんな男でも、自分の恋人が間男に襲われるのは、我慢ならないだろう。ましてや女喰いともなれば許せない存在だ。

 

「じゃあ。役作りの為に、このゲームを少しずつプレイしようか」

 

「俺に出来るか分からないが、やれる所までやってやる」

 

笑みを浮かべながら大容量のノートパソコンを取り出す。インストールを終えてゲームを起動させる。

 

そのタイトルは怒りの日(Dies irae)と題されており、パソコン用ゲームという事でクリアにはかなりの時間がかかるが、ストーリーを進めながら役作りの為に口調や語り方などを研究していく。

 

オーラや髪の色、破壊力などの再現はオルゴンや拡張領域を利用する方向で方針を固め、問題はどこまで自分達がゲームの人物に己を近づけ、再現できるかにある。

 

一方は現実世界においてもその名を刻んでいる軍人。一方はその軍人を盛り立てる影法師のような占星術師。この二人の口調は非常に難しい。

 

「だいぶ掴めてきたけど、このキャラは難しいな」

 

「よく言うぜ。こっちは威圧感の再現が大変なんだぞ」

 

ゲームを進めながら二人はセリフをメモしながら、言い回しを身につけていく。訓練の合間や休日も使い、役作りには妥協しなかった。

 

「じゃあ、予行練習をしよう。ゴホン!これより我らは本来とは変わるが、よろしいかな?獣殿」

 

「何を言う。このような戯言を考えたのは卿であろう?それに私は黄金の獣には及ばぬよ」

 

「これはこれは、かくいう私も、水銀殿には及ぶ身ではありませんがね」

 

予行練習を終えると役が自分の中に落としきっている事を実感する。しばらくはこの口調と雰囲気で過ごさねばならない。

 

「それじゃ、赤野政征からカール・クラフトにならなきゃな」

 

「こっちは青葉雄輔からラインハルト・ハイドリヒだぞ?とんでもねえ役を押し付けやがって」

 

悪役でありながら美麗であり、親友でもある二人。自分達が悪役を引き受けねば、それ以上のものを引きずり出す事はできない。

 

そう自分に言い聞かせて二人は役に入り込んでいった。のめり込み過ぎて徹夜してしまった事はご愛嬌。

 

 

 

 

 

 

クラス対抗戦が二日後と迫った日の放課後。箒と一夏と政征、雄輔とセシリアがそれぞれペアを組んで訓練をしていた。

 

接近戦に関して箒は政征の剣術指導で整えられていたが、篠ノ之流を変えたくないと箒から意見されたのだ。

 

剣道であれば政征は箒には勝てないだろう。だが、剣術ともなれば話は変わってくる。

 

生き残る為にあらゆる要素が含まれる剣術は剣だけではなく、相手を倒すためならば手段を選ばない一面もある。

 

剣道は剣のみで勝負するという制限が掛かっている。剣道者からすれば剣術使いは卑怯者に映るだろう。

 

だが、剣術使いからすれば卑怯技こそが己の技となっている。性質の違う者同士の争いが怒る理由がこれだ。

 

「むぅ・・・やはり卑怯ではないか?剣士ならば」

 

「篠ノ之さん、学んだ剣道を捨てろとは言わないけど戦術を身につけなきゃ勝てないよ?射撃だって立派な技術なんだから」

 

「しかしだな!」

 

「箒、少し黙ってくれ」

 

「刀の特性を極めたのが居合抜きなら、早打ちは銃の特性を極めたもの。似てるけどやり方や使う物が違うだけ」

 

「む・・・」

 

「IS戦術と剣道は別って考えなきゃ」

 

政征の言葉に箒はまた一つ学ぶ事が出来た。ISの試合を観ている限りではそれぞれに個性があり、長所も短所もある。

 

剣一本で世界を制したと言われるのが、この学園の教諭である織斑千冬。誰もがその凛々しさと強さに惹かれ真似をするだろう。

 

しかし、同じ事を真似した所でその本人が同じ事が出来るとは限らない。似たような事は出来るだろう。しかし、そこまでが誰もが同一の限界値なのだ。

 

限界値を破壊し、越えるためには自分だけの戦法を見出し、それを安定させねばならない。

 

「なら、改めて射撃を教えてくれ」

 

「わかった」

 

 

 

 

その隣ではセシリアと雄輔が射撃に関する意見交換と訓練を行っている。今はセシリアの弱点に関して意見をしているようだ。

 

「セシリア、君は撃つのが正確すぎる。誘導させてから狙った一撃を放ったほうがいい」

 

「理屈では分かっているのですが、かなり難しくて」

 

「ビットの数は?」

 

「4つですわ」

 

「ふむ、それなら二機を牽制に後はライフルで撃つのがいいか。四機で止まるならな」

 

「難しい事をおっしゃいますわね?」

 

「向こう側の君は牽制に4つ、攻撃に4つと。ビットを使い分けていたな・・・偏向射撃も使いこなしていた」

 

向こう側というのは政征に見せられた記憶の中の自分自身だろう。その自分が此処にいる自分以上に、ビットも技術も断然上だと言われたのだ。

 

「そんなに・・・強かったのですか?貴方の知っているわたくしは」

 

「ああ、格闘術も並のチンピラなら簡単に撃退できる程にな?ISの接近戦もこなしていた」

 

「っ!雄輔さん!特訓を続けてください!」

 

「やる気が出たな。良いぞ」

 

発破が聞いたのかセシリアは目にやる気を宿し、実践訓練を挑もうとしたその時であった。

 

 

 

 

 

アリーナの扉が開き、その向こう側で、誰かがもみ合いながら口論しているようだ。

 

「ちょっと!離しなさいよ!私はアイツ等と特訓するのよ!」

 

「良いから来てくれ!俺はお前と話がしたいんだ!!」

 

鈴と春始のようで、春始が強引に鈴を連れて行こうとしているようだ。だが、鈴はそれを振り解き政征達の輪の中へとはいる。

 

「鈴!おい、鈴をこっちに来るように言ってくれ」

 

「冗談じゃないわ!私はアンタとは一緒に居たくないのよ!」

 

「春始兄、鈴が此処で特訓したいと言ってるんだからいいじゃねえかよ」

 

一夏の一言に恨みを込めたような目で春始は一夏を睨むが、一向に介していない。

 

「うるせえ!黙って早く鈴をこっちに渡せ!!」

 

「おやおや、随分とご執着のようだ。それほど彼女を求めて何を得ようというのかね?」

 

春始の脅迫めいた言葉に反応したのが政征だ。しかし、歌劇のように別人を演じており、いつもの政征とは違っている。

 

「な、テメエ!毎回毎回、邪魔しやがって!どけよ!」

 

「それは出来ぬ。私と我が親友は彼女の特訓に付き合うと言った。その約束を違える訳にもいくまい」

 

「卿が女に甘いのは相変わらずか」

 

雄輔も雰囲気も変わっている政征の隣に立つと、その青い髪が黄金色となり、白の軍服を纏って黒のコートをマント代わりにしている。

 

対して政征は黒くボロボロに近い外套を纏い、赤い髪が青黒く染まっていく。

 

別人になるよう芝居をしているはずなのに、今の二人からは並の人間なら逃げ出したくなる程の威圧感が溢れている。

 

二人の髪色や服は拡張領域から、ウィッグなどを自然に髪が染まっていくように出したもので、それとは気づいていない。

 

「これは手厳しい。だが、春を始めようとするこの者は鈴を鳴らしたくて仕方がないようだ。いかがしますかな?獣殿」

 

「ふむ、我らを前に引かぬ強固なる意思。戦う気概、戯れるのも良かろう」

 

二人は春始を見ていない。役に入り込んだ二人にとっては会話の仕方まで徹底している。突如として雰囲気が変わった事に、一夏を始めとする四人は驚いていた。

 

「てめえら!俺を無視してんじゃねえ!!早く鈴を渡しやがれ!白式ィ!!」

 

自分の専用機を身に纏い、雪片弐式の切っ先を二人へ向ける。それでも二人は一向に視線を向け無かったが、同時に量産型シュテルンMk-II改・タイプIS・SFCを展開する。

 

「では・・・」

 

「ああ・・・」

 

「英雄を破壊(アイ)してやらねばなるまい」

 

「演者を回帰(アイ)してやらねばなるまい」

 

 

[推奨BGM【Gotterdammerung】Dies iaeより]

 

 

Yetzirah―(形成)

 

Vere filius Dei erat iste(ここに神の子 顕現せり)

 

まるで歌で会話するかのように二人は歌い上げ、雄輔の手に一本の槍が握られる。無論、普通に鍛錬で使用できる槍であり、有名な聖槍と形状が近い物を一夏が使うラフトクランズ・クラルスの機能を使い、オルゴナイトによって薄くコーティングしてあるだけだ。

 

Longinuslanze Testament(聖約・運命の神槍)

 

「黄金の破壊を洗礼として味わいたまえ」

 

政征は鞘に収められたままのシシオウ・ブレードを手にし、視線をようやく春始に向けた。二人かの二重の威圧に春始は息を呑み、足が笑いかけていた。

 

今、目の前にいる二人は自分の遥かに、上を行く実力者だ。天才であると同時に、なまじ実力を持ってしまったために、その恐ろしさを肌で感じとってしまっている。

 

覇者の気質、本人からすれば唯の演技に過ぎない事が、春始にとっては大きな壁となってしまっている。

 

「なんだよ・・・何なんだよ!!この化物は!?気に入らねえ!俺が倒してやる!」

 

「ならば、来るがいい。卿は女を手にしたいのであろう?時間は十分にある、我ら二人を倒してみろ」

 

「それとも、背中を向けて逃げるかね?追いはせんよ。一週間なり、半年なり私達の影を恐れながら、安穏に逃避も一興」

 

二人が嘲っているのは明白だ。自分達はお前よりも強いと宣言しているようなもの、こんな挑発を受けては沸点の低い者はすぐに怒るだろう。

 

「なんだと!?」

 

「此度は卿も加われ。日和見など許さんぞ、カール」

 

周りにいる一夏達も二人の威圧に押されている。鈴と一夏は歯を鳴らして震えているが、箒とセシリアは耐えた。

 

否、耐えられていた。並行世界では死した自分()と破滅という驚異と戦った自分(セシリア)

 

見せられた別世界の自分のようにはならず、越えてみせるという箒の意思、並んで別の自分よりも先へ進むという矜持を持ったセシリア。

 

それこそが二人を守る防壁となって支えていたのだ。

 

「とまあ、そういう次第だ。理解したかね?正直、怖気づかれたのではつまらんなあ。せっかくの手合わせが無為となる」

 

「てめえええええ!」

 

春始は感情に任せ、政征へと向かっていき、刃を振り下ろした。

 

「静まれ」

 

コーティングされた槍の穂先でその刃を止めたのは雄輔だ。最低限の格闘戦が出来る調整しかされてないはずが、本人に合わせたチューンによって、動きは早い。

 

在り来りな、本当に在り来りな押し返しだけで、春始はアリーナ内部の壁へと吹き飛ばされた。

 

「ぐはっ!?」

 

二人は何一つ変わっていない。ただ役にのめり込み、その人物を真に迫るまで再現するといった自己暗示で、その人物に成りきっているに過ぎない。

 

だが、人間の自己暗示は恐ろしい一面を持っている。僅かな間でも、暗示を受け入れたのなら、誰もが己を容易く変えてしまうのだ。

 

政征と雄輔、この二人は自分達の居た世界で五天王と呼ばれる五人に鍛えられ、獣の因子を持つ部隊に鍛えられ、聖騎士団の一員として騎士を名乗り、更には破滅を追い返した。

 

その二人が演じているのは、黄金の獣と呼ばれる覇者、そして、その黄金を輝かせる水銀の蛇と呼ばれる詐欺師。

 

二人は悪役であり、倒すべき存在である。主人公はお前だと語りかけるようで、天から見下ろしているような視線を止める事はない。

 

「どうした?まだ序曲も始まっておらん、これで終わりだというのなら、卿は私を失望させる気かね?」

 

「どうやら、不屈の心構えだけは残っていたようですな?今の彼は白夜を零落させる刃を持っている」

 

「ぐぅ・・・俺が、俺が主役だァァァ!零落白夜ァァァ!!」

 

白式が唯一持つ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)にして最強の攻撃力を有している技が二人に襲いかかる。

 

見せかけて政征の方に狙いを定めていた。最初に箒達を可笑しくしたのはこいつだ。コイツさえいなくなれば、自分の知っている物語に戻るはずだと。

 

鉄に弾丸が当たった様な音が響き、春始は確実に刃は当たったと、殺したはずという確信を得ていたが。

 

「な、に!?」

 

その刃は一本の刀に止められていた。獅子王の名を冠する業物の刀、溶けゆく新雪から溶け出した清水で濡れているかのように美しく、また鋭い刀身が白き夜を押しとどめていた。

 

「世を惑わす鵺を断つ剣とは皮肉なもの、私のような荒事が苦手な者には手に余る」

 

雄輔の力任せな押し返しではなく、水を切る感覚のように受け流された春始はそのままバランスを崩した。

 

「ぐっ!?」

 

急いでバランスを立て直し、二人から距離を取る。姉から受け継いだ技が、この二人に通用しない事が信じられないでいる。

 

「零落白夜・・・卿は己の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に対しての欠陥と機体の弱点を知らぬのかな?」

 

「欠陥・・・?それに弱点だと!?」

 

「知らぬままのようですな。その単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は盾を貫く剣となり得る代わりに己の盾を削る。即ち、防御機能に必要なシールドエネルギーを犠牲にして発動するのだよ」

 

「なんだと!?」

 

政征の言葉に信じられないと言った様子だが、己が持っていた原作知識がここでようやく思い出される。女の肢体を貪り力を得る事に夢中になりすぎて、気にとめなかったのだ。

 

「そう・・・だった。ちくしょう!」

 

急いで零落白夜を解除し、雪片弐式を元の実体剣に戻す。再び突撃し、今度は雄輔に向けて振り下ろす。

 

しかし、雄輔は突撃前に槍を地に突き刺して、雪片弐式を白刃取りした。その見切りに箒を始めとする政征以外の全員が驚愕する。

 

本当に黄金の獣が降りたかのように、黄金色の覇気を纏った笑みを浮かべた。白刃を取られた雪片弐式が少しずつ横へと押されていき、引き寄せられる。

 

「恐れで私は斃せぬよ」

 

手首に膝の一撃を撃ち込み、その手から離れさせた。

 

「あぐっ!?」

 

「哀れな、婦人(つるぎ)の扱いを知らぬ男に抱かれては、卿の美しさもくすんでしまおう。雪姫よ」

 

春始の手から離れた雪片弐式が、雄輔の手に収まる。刀身を壊さぬよう抱きしめるように優しく柄を握ったまま。

 

「か、返せ!それは俺だけが受け継いだ。俺だけの武器だ!」

 

「カールよ、私なりの愛し方を教授するが、よかろうな?」

 

「では、ご随意に」

 

雄輔が刀身を一度撫でた雪片弐式が、愛を受けたかのように輝きを増していく。物理的破壊ではなく、刀身に宿る意志を破壊(アイ)したのだ。

 

「な・・・俺以上に輝きが強い?」

 

「私は総てを愛している。それが例え、物言わぬ剣であろうと、分け隔てなく平等に」

 

雪片弐式から零落白夜とも違うエネルギーが纏われる。地に刺さっている槍のようにオルゴン特有の美しいエメラルドのような緑色を魅せて。

 

たった一振りの横薙ぎを振るった。武器を奪われ慌てていた春始はその一撃を受けてしまい、水切りのように地を跳ねた。

 

「ぐああああ!?」

 

「卿も演者であるのなら楽器の扱い方は心得ることだ、メーチェンエッサー」

 

「なに、すぐに返してやろう。もっとも、別の男に抱かれた雪片弐式(おんな)を再度受け入れる度量があればの話だがな」

 

雄輔は歩き出し、手にしていた雪片弐式を春始の目の前の地へ突き刺す。一度だけとはいえ、その身を自分以外の男に抱かれた女と評された。

 

春始にとって気に入った女を寝取られるのは最も嫌いな事であった。自分は奪っても奪い返されたり、奪われるのは嫌だと。

 

「ぐ・・・ふざけやがって!」

 

地に刺さった雪片弐式を引き抜き、背を向けた雄輔に切りかかろうとしたが、その間にラフトクランズ・クラルスを展開し、シールドクローを掲げた一夏が割って入った。

 

「一夏!退け!!俺はアイツを斬らねえと気が済まねえんだよ!」

 

「そうはいかないさ。アリーナを使える時間も終わってるし、フー=ルー先生や織斑先生も来る」

 

「ちっ!(ちきしょう!鈴を喰うつもりがアリーナに逃げ込むとは計算外だった!)」

 

春始は白式を解除し、アリーナから走り去って行き、政征と雄輔は元の姿に戻った。

 

「はぁ・・・意外とこの役って応える」

 

「あのよ?この配役、逆じゃないか?」

 

二人から先程まであった威圧感が消えている。二人は振り返り、全員に向けて頭を下げた。

 

「すまない、せっかくの訓練がメチャクチャになってしまった」

 

「ごめんよ、集まってもらったのに」

 

そんな二人に全員は手を振って、答える。

 

「良いのだ。訓練は今日だけではないからな」

 

「ええ、その通りです」

 

「逆に二人の強さの一部を垣間見た気がするぜ」

 

「本当よ」

 

二人は演じていたキャラクターにのめり込み過ぎて迫真に迫っていた。その残滓を残しながらアリーナを去った。

 

この後、鈴から春始に対する相談を持ちかけられ、一夏が騎士として目覚め、誓いを捧げる事となる。




Sieg Heil Viktoria!!

演技させたとはいえ獣殿と水銀を出してしまった。

あの二人は作者の中で最高の悪役だと思います。

しばらくこの二人は演技ではありますが悪役役に徹します。


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清浄の騎士、人間の闇を知る

一夏にとっての精神的試練。

騎士の見届け

以上


機体のデータをアシュアリー・クロイツェル社へデータを送り、束とテレビ通信していると、束から試作の武装のプログラムが送られてきたのだ。

 

「暇つぶしに時代劇を観てて、参考に試作を作ったから使ってみて。実物は明日には届くから」

 

「はぁ・・・分かりました」

 

「いっつも急だな、束さんは」

 

翌日の朝、速達でアシュアリー・クロイツェル社から届いたとフー=ルーを通じて連絡が来ていたが、職員室でフー=ルーに渡して欲しいと返事を返した。

 

平日である今日は授業を受けなければならない、それが学生の本文である。二人は放課後に受け取る事をフー=ルーに連絡し、一夏達には遅れる旨を話した。

 

春始は鈴を手篭めに出来なかった事に腹を立てており、別のアリーナで八つ当たりにも等しい状態で擬似ターゲットを破壊していた。

 

「クソッ!アイツ等・・・俺の邪魔ばっかりしやがって!どうやって、あんな化け物みたいな力を身に付けやがったんだ!?!」

 

力は確かにその身に宿ってはいたが、制御する技量が未熟なのだ。自分は天才故に、人の手を借りるというのが恥なのだと考えているのだろう。

 

「俺の予定じゃセシリアと鈴は既に喰っていた筈なのに・・・何もかも滅茶苦茶だ!今は機を伺うんだ。そしたらアイツ等を始末する!」

 

訓練プログラムを終え、邪魔者となっている者を始末する事を思考しながら出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・!こ、こんなにキツイの・・・」

 

「お前が望んだんだぞ?向こう側のお前と同じ訓練をしてくれって」

 

「もっとも、まだ半分も行っていないが?」

 

放課後、装備を受け取った後に鈴に向こう側の自分と同じ内容の特訓をして欲しいと頼み込まれたのだ。現在、鈴は大の字で倒れている。

 

「あ、アンタ達がいう向こう側の私って・・・どのくらい・・・強かったの?」

 

「そうだな・・・ISのフルオートマシンガンの発射された銃弾を素手で全部受け止められる格闘家と互角に稽古するくらい?」

 

「は?」

 

「付け加えれば、一番弱いレベルで建物のドアを蹴り一発で壊すくらいだな」

 

「な・・・なによそれ、そんな化物・・・レベルなの?」

 

「それくらい強かったが、礼儀はキチンとしてたよ」

 

自分が見た別世界の自分、遠すぎてまるで追いつく事が出来ない。今の自分では子供を相手にしているようにあしらわれるだろう。

 

鈴は倒れている自分に喝を入れながら、立ち上がる。だが、身体は正直で軽くつつくだけで倒れてしまいそうな程に身体が震えている。

 

「再開して・・・少しでも、追いつきた・・・・あっ」

 

「気絶しちゃったか・・・」

 

「俺達が居た世界の鈴はシャッフルの方々に鍛えられてたが、こちら側の鈴はIS用の訓練しか、してなさそうだ」

 

「質も量も桁違いだからなぁ・・・あの人達の特訓」

 

「俺たちもそれを乗り越えてるんだ。鍛えられるだけ鍛えてやらなきゃな」

 

「ああ」

 

鈴を背中におぶると政征と雄輔はアリーナを出て行くが、途中で一夏と合流した。

 

「あれ?政征に雄輔、それに鈴!?何があったんだよ?」

 

「ああ、お前と同じ特訓をしてただけだよ」

 

「うげ・・・あの特訓か・・・道理で鈴が気絶してるはずだ。正直、千冬姉が逃げ出すレベルじゃないか、あれ?」

 

「そのレベルを平然とこなすレベルまで行かなきゃ、騎士とは名乗れないからな」

 

「騎士・・・か。なぁ・・・?俺もなれるかな?」

 

「え?」

 

「俺さ、シャナ=ミアさんに告白したんだよ。振られちゃったけど」

 

「・・・そうなのか」

 

告白と聞いて少しだけ政征は顔を顰めるが、一夏なりのケジメなのだと考え深くは聞かないでいた。自分が居た世界とは違って、この世界の一夏は自分の気持ちを素直に伝えたのだから。

 

「でもさ、恋人になるだけが愛じゃないだろ?俺さ、シャナ=ミアさんを守る騎士になりたいんだ」

 

「シャナの騎士・・か」

 

政征は一瞬迷ったが、この一夏には伝えておかなければならないと思い始めていた。シャナの恋人が自分である事を伝えなければいけないと。

 

「その覚悟はあるのか?織斑一夏」

 

「へ?」

 

「騎士というのは建前だ。騎士は戦士でもあり、シャナさんという綺麗な物を守る為には、自分の手を血に染めなければならない時がある」

 

「・・・・・・」

 

「本当に騎士になりたいのなら、安っぽい正義感を捨てて、自分が綺麗なままでいられない事を受け入れろ」

 

「俺は・・・」

 

雄輔から次々と繰り出される現実の言葉に一夏はたじろいでしまう。だが、拳を握った後、顔を上げて覚悟を口にする。

 

「それでも、それでも俺は騎士になりたい!俺は自分が守れるなら守らなきゃいけないと思うから!」

 

「その覚悟、確かに」

 

「自由と城壁の騎士が見届けた・・・!清浄の騎士よ」

 

「清浄の・・・騎士?」

 

「ラフトクランズの名前は知ってるだろう?リベラは自由、モエニアは城壁」

 

「そして、クラルスは清浄の意味を持ってる。俺達は名前の意味を騎士の称号にしてるのさ」

 

「清浄の騎士・・・今の俺には重いな」

 

「強くなりたいか?」

 

「ああ!もちろんだ!!」

 

一夏の決意は固い。二人は少し笑みを浮かべた後、鈴を医務室へと運んだ。その医務室で政征は一夏に話をつけていた。

 

「一夏、大事な話がある。一緒に来てくれ」

 

「?分かった」

 

呼び出された場所はアリーナを指定し、すぐに訓練ができるようにしたのだろう。雄輔は通路の壁際で見守っている。

 

「なんだよ大事な話って?」

 

「ああ、シャナに告白した時、恋人が居るって言われただろ?」

 

「ん?ああ、言われたよ」

 

「その恋人ってのは俺の事なんだよ」

 

「!!マジなの・・か?」

 

「ああ、大マジだ」

 

「・・・・そっか」

 

一夏は震えている。自分の初恋の相手の恋人が目の前にいて、恋人である事を伝えられたのだから。

 

「幸せにって言いたい・・・言いたいけどよ!」

 

たった一発、政征へ拳を浴びせたが政征は避けなかった。自分達が居た世界の一夏ならば避けていただろう。

 

「っ・・・これがどんなに手を伸ばしても掴めないって事だ。それと、俺が何でお前からの鉄拳を受けたか分かるかい?」

 

「え?」

 

「その理由は俺が見せてやる」

 

そういって見守っていた雄輔が一夏へ近づき、サイトロンを使い、自分が居た世界の一夏の記憶を見せる。自分としても見せたくはないと思いつつも心を鬼にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺だけの証を刻んでやる!』

 

『嫌!嫌やあああ!!誰か!誰かあああ!!』

 

「(なんだよ、これ・・・俺・・・なのか?シャナ=ミアさんを襲って無理やり犯そうとしてるのが)」

 

『シャナ=ミアさんは俺が・・・オレが守る人だ!お前なんかに相応しくない!俺のモノなんだアアアアア!!』

 

「(挙句の果てには逆恨みか・・・)」

 

全てを見せ終わると、一夏はその場に手を付いた。四つん這いの格好になり、汗を大量に流して今にも嘔吐しそうなのを堪えていた。

 

「っはぁ・・はぁ・・い、今のが・・・?」

 

「そうだ。俺達のいた世界のお前だ」

 

「見せたんだな?雄輔・・・俺達の世界の織斑一夏を」

 

「ああ」

 

「なんだよ・・・あれ。自分で自分を貶すようで気持ち悪いけど、最低のクズ野郎じゃねえか・・・好きな人が振り向かなかったからって、その横恋慕した相手を強姦しようとするなんて・・・!」

 

一夏は土を握り締めて歯を鳴らしていた。その顔には嫌悪感を顕にしている。

 

「この世界のお前は違う。あれは俺達が居た世界の事だ」

 

「お前ら、本当はどこから来たんだ?」

 

「並行世界さ、この世界と似てるようで違う世界」

 

「並行世界・・・」

 

「俺達の居た世界のお前は独善的だった。姉の力を盲信し、絶対の強者として、更にはシャナさんを自分が守ると言って聞かなかった」

 

「それで・・・自分のものにならないからって、シャナ=ミアさんを強姦しようとしたのか?別世界の俺は」

 

「その通り」

 

自分ではないにしろ別世界の自分に一夏は嫌悪した。だが、それ以上に騎士の二人とシャナから自分が避けられていたのかを理解していた。

 

「あんな事をしてれば俺じゃなくても警戒されるよな。それに守るといっても俺は何も出来てない・・・さっきだって俺は赤野を殴っちまった・・・」

 

「今のお前はクラルスに認められているだけだ。知識も技術も力も未熟なままだぞ?」

 

「うう・・・」

 

雄輔からの厳しい言葉に一夏は頭を垂れる。二人からの訓練をこなしているとはいえど、未だに基礎でダウンしてしまうのだ。

 

「だからこそ、必死に食い下がれよ。俺はお前を認めてるんだから、近衛騎士にはなれるかもしれないぞ」

 

「赤野・・・」

 

「俺もだ。もしも、俺達の居た世界と同じタイプだったら首を飛ばしていた」

 

「青葉・・・」

 

「だから、お前の拳を受け止めたんだ」

 

唇を少し切ったのか、政征は軽く流れていた血をハンカチを取り出し拭った。

 

「改めて俺を鍛えてくれ・・・俺を、俺を騎士にしてくれ!」

 

「わかった」

 

「改めてよろしくな」

 

 

 

 

 

三人が改めて和解すると同時に、セシリア、鈴、箒の三人がアリーナへ入ってきた。三人はどこか眉間に皺を寄せかねない表情をしている。

 

「少しいい?って、政征!アンタ血が!!」

 

「何でもない、ところで用はなんだい?」

 

「え、ええ・・・春始の事なの」

 

鈴が話し始めたのは春始が最近になって、頻繁に絡んでくるようになったのだという。それはセシリア、箒も同じようだった。

 

「わたくしは食事の時が多いですわ」

 

「私は部活後に自主鍛錬している時だな」

 

「二人はまだマシじゃない、私なんか寮にまで来られたんだから。ドアのチェーン掛けてから出たけど」

 

話を聞いて政征、雄輔、一夏は最初に何故、この三人を狙うのかと考えた。政征と雄輔は春始が女喰いだと知っているが、方向性が分からないのだ。

 

「なるべく、団体で行動したほうがいいかも知れない・・・狙いは恐らく君達を手込めにする事かもしれないから」

 

「っ!?わたくし達を手篭めに・・・ですの!?」

 

「あくまで可能性の話だ。まだわからない」

 

「そのような事をアイツが?」

 

「ありえない話じゃないかもしれないわね・・・」

 

他の二人と違い、鈴は性的な目で春始に見られていた経験が有るために疑いが深くなっていた。

 

「まだ、決定的な証拠がある訳でもない。ひとまず団体で行動しよう。もしも一人になる場合はアリーナへ逃げ込むことだ」

 

「何故、アリーナなんだ?」

 

「アリーナなら広いし、大抵は俺達が鍛錬してるからな」

 

「なるほどな・・・」

 

「しかし、部活の時は?」

 

「まっすぐ来れば問題ないが念の為に危険を知らせられる物は持っておこう」

 

「そうね、それが一番」

 

全員が納得し、警戒を強めるよう促した後、解散となり二人だけが残った。

 

「女喰いは形振り構わなくなってきたようだな・・・」

 

「ああ、箒、セシリア、鈴、まだこの学園には来ていないが・・・シャルとラウラも間違いなく狙われる」

 

「ラウラは軍人だから、あまり問題ないが・・・もしも、他で力を蓄えてるとしたら」

 

「危ないな・・・俺達も今日から特訓の密度と量を上げよう。完全には無理だが、少しでも双首領に実力を近づけないと」

 

「そうだな」

 

二人は戦闘データ収集も含めて訓練を始めた。力を蓄えている間に春始に追い抜かれては本末転倒になる為であった。

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏は自室で並行世界の自分を思い返していた。別世界の自分とはいえど、間男紛いの事をしたうえ、強姦しようとしていたのが頭をよぎる。

 

「俺も・・・下手をすればやりそうになったのか?」

 

自問自答を繰り返しても答えは出ない。自分があのような卑劣で最低な事を起こすのではないかという恐怖に支配されている。

 

「俺は・・俺は違う!騎士になるって・・・アイツ等と一緒にシャナ=ミアさんを守るって決めたんだ!でも・・・」

 

一夏の中で引っかかっていたのは幼馴染の二人とそのうちの一人の姉の存在であった。幼い時共にいた存在と異国の人物でありながら仲良くしてくれた存在。

 

「俺も決めないといけない・・・ハッキリさせなきゃ傷つけるだけだ」

 

どちらが大切なのか、一夏は学園生活の中で自分が本当に守りたいと思える人を探そうと決心した。

 

自分が騎士となる、その第一歩のために。




騎士への第一歩を踏み出しました。


※騎士二人や一夏と鈴達が行っている特訓の詳細。

アップ&ストレッチ(二時間)

筋トレ各部700回×2(腹筋・背筋・腕立て伏せ)

ランニング(アリーナ内部を40週)

接近格闘訓練(実戦形式でIS無し)

遠距離射撃訓練(擬似ターゲットを10秒以内に最低200命中)

etc


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表と裏の思い

トーナメント乱入者。


千冬の試練


一夏が抱えていた物を爆発させる。


以上


クラス対抗戦。それは学園のイベントの一つであり、代表となった者はその技量を競い合う場でもある。

 

それが今宵、開催される。優勝賞品が目的な者もいれば、純粋に戦いを観たい者、機体の特性を知りたい者など多数だ。

 

政征、雄輔、シャナの三人はセシリアが確保してくれていたアリーナの観客席に座っていた。

 

「お二人はどう思います?今回の戦いを」

 

「経験値では鈴が上だろうね」

 

「織斑の兄貴の方がどれだけ粘れるかが鍵だろうな」

 

戦士としても試合というものは見ておくべきというのが、二人の持論である。試合の中で自分に立場を置き換えることで己の攻め方、守り方を組み立てる。

 

イメージトレーニングに過ぎないが、実際の戦闘での想定になる為、侮れない。

 

試合会場であるアリーナへ目を向けると春始と鈴が向かい合い、試合開始の合図を待っている。

 

「よう、鈴。まさかこんな形で戦う羽目になるなんてな」

 

「そうね・・・。アンタが相手だと思うと吐き気がするわよ」

 

「てめえ!まぁいいや、俺が勝ったらデートしてもらうぜ?」

 

「勝てるもんならね?」

 

鈴は目の前の相手と会話をしたくないと本気で考えていた。今ほど自分が女である事を忌避したい瞬間はない、女として見られるのはまだいい、しかし、ふしだらな視線を向けられるのは不快でしかない。

 

 

 

【織斑春始、戦闘用BGM【 VIOLENT BATTLE 】スパロボOGsより】

 

 

 

 

試合開始のブザーが鳴り、春始はまっさきに突撃する。その手には雪片弐式が握られていた。

 

「うおおおおおらあ!」

 

鈴は一本で受けようとしたが、嫌な予感を感じ取りすぐに青龍刀を二本手にし受け止めた。

 

「ぐっ!?(何よこれ!?コイツの剣、すごく重たい!!筋肉が付いている訳でもないのに!)」

 

「どうしたんだよ、震えてるぜ?(やはり、喰った分は増大してるな。これなら鈴は楽勝だ!)」

 

「いちいち、うるさいのよ!」

 

力の方向を逸らし、鈴は龍砲と呼ばれる衝撃砲を春始へ向かって放った。不意打ちであった為、その衝撃に直撃してしまう。

 

「ぐあああああ!っ・・今のは」

 

「今のはただのジャブよ(不味い、龍砲があるから良かったけどあんな剣、受け続けていられない!)」

 

鈴は春始の違和感に戦いの中で気づいていた。細腕にあんな剣力がある訳がないと。

 

 

 

 

 

 

 

「よう、みんな。試合はどうなってる?」

 

「一夏か、今は鈴は衝撃砲を使って間合いを取ったところだよ」

 

政征の左にある空席に座ると一夏は試合経過を聞いてきた。政征の右隣にはシャナが座っており、衝撃砲に関しての説明をすると再び試合に視線を戻す。

 

「鈴・・・・」

 

一夏は鈴が追い込まれていくのを見ていたが、自分勝手に飛び出すことはなかった。これはクラス代表戦、代表に選ばれた者以外は踏み込めない戦いの場だ。

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、どうしたんだよ!鈴!!」

 

「くっ!」

 

鈴は攻めから回避に専念するようになってしまった。衝撃砲の発射の瞬間を見破られ、力の増した一撃を受ける訳にはいかなくなっていたからだ。

 

「(別世界の私なら簡単に勝てたかもしれない、けど!)」

 

「隙ありィィィ!!」

 

青龍刀を弾かれ、鈴はそのまま春始からの一撃をそのままくらってしまう。

 

「きゃああああああ!!」

 

「さぁ・・次で終わりにしてやるよ!(これで勝てば鈴を喰える!!)」

 

零落白夜ではなく、通常の斬撃であったために絶対防御で緩和されたが、力の増した一撃の衝撃は緩和されていなかった。

 

「うう・・・(ヤバ・・利き腕が痺れて動かない。けど、これで負けたら間違いなく私は・・・こんな奴の慰み物になるなんて絶対に嫌!)」

 

零落白夜を発動し、鈴にトドメを刺そうととした瞬間、アリーナの天井が破壊され何かが現れる。

 

その姿は青に統一され、禍々しく威圧感の伴う物であった。左手に握られた剣、ディバイン・アーム。強固な装甲を表すフレキシブル・アームを搭載した背部ユニット。

 

姿を見れば戦意がないものは萎縮し、戦う気力を奪ってしまうほどのものが現れたのだ。

 

「あれは!まさか・・・!」

 

「きゅ・・・究極ロボの異名を持つ機体!!」

 

政征と雄輔は一瞬だけ我を忘れるが、急いで声を荒らげた。自分達が知っている出来事ならばこの後、間違いなくパニックを起こす為だ。

 

「みんな!落ち着いて扉へ向かうんだ!!」

 

「絶対に走るな!逃げたい気持ちはわかるが、走ったら転んで逆に怪我を負うぞ!」

 

パニックになりかけていた観客の生徒達は一部は落ち着いて避難を始めていたが、我先にと逃げ出す者も少なからずにいた。

 

我先に逃げた生徒は扉が開かないと喚いており、パニックが広がるのも時間の問題であった。

 

「セシリア、避難誘導を頼む。俺と政征は織斑先生達に連絡する!」

 

「は、はい!」

 

雄輔の指示を聞いたセシリアはすぐに行動に移し、政征は連絡を教員がいる部屋に繋げた。

 

「織斑先生!フー=ルー先生!山田先生!緊急事態です!あのアンノウンからのハッキング電波で扉が開きません!!避難経路確保の為に扉の破壊を許可してください!!」

 

政征からの通信を受けた真耶が指示を仰ぐために千冬とフー=ルーを見る。

 

「お、織斑先生・・・」

 

「赤野、破壊は許可できん。迎撃をアリーナの二人に任せる」

 

「!!何を言ってるんだ、アンタは!!唯でさえ、試合でエネルギーが少ないのに迎撃が出来る訳ないだろう!!」

 

「私が決めた事だ、指示に従え。それに春始なら勝てる」

 

「何の根拠があって、勝てると言ってるんだ!?」

 

政征は現状を理解出来ていないこの世界の千冬に噛み付いた。だが、それを制したのがフー=ルーであった。

 

「落ち着いて、扉の破壊は私が責任を取って報告します。ですから、思い切りやりなさい」

 

「フー=ルー先生、余計な指示を出さないでもらいたい!」

 

「貴女こそ何をおっしゃっていますの?生徒を危険な場所に放置しておくなど愚の骨頂。この状況は戦闘よりも避難経路の確保が最優先ですわ!」

 

「む・・・・しかし」

 

「建物は直せても、失った命は戻りませんのよ?それを冷静になって考えてください、織斑先生。政征君!急いで扉を破壊しなさい!」

 

「御意!!」

 

フー=ルーからの指示を改めて受けた政征は一夏と雄輔に通信を繋ぎ、説明する。

 

「一夏、雄輔!扉の破壊許可が出た!思いっきりぶっ壊せ!!」

 

「分かった!」

 

「了解・・・!」

 

一夏と雄輔はそれぞれラフトクランズ・クラルスと量産型シュテルンMk-II改を身に纏い、避難しようとする生徒達が集まっている扉へ向かう。

 

「みんな、退いてくれ!」

 

「俺達が扉を壊す!」

 

「オルゴン・クロー!!」

 

「ステーク・セット!ジェット・マグナム!」

 

そう言って一夏はクラルスのシールドクローを構え、クローモードに切り替えるとオルゴン・クローで扉を引き裂くように破壊し、雄輔はジェット・マグナムを撃ち込み、扉を吹き飛ばした。

 

破壊された扉から生徒達が避難を始め、セシリアとシャナ、そして何故か箒が避難指示を出しながら誘導していた。

 

「こちらですわ、慌てず避難してください!!」

 

「いいか!早足で避難しろ!走るんじゃないぞ!」

 

「大丈夫です、落ち着いてください!」

 

観客全員を避難させると、セシリア、シャナ、箒はアリーナの中心へと視線を向ける。そこでは回避行動を続ける鈴と無謀に向かっていく春始が見えていた。

 

 

 

 

 

 

【推奨BGM【ヴァルシオン】スパロボOGsより】

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・ちくしょう!なんで通用しないんだよ!うおおおおお!!(これ、ヴァルシオンか!?なんでこれが)」

 

「も、もう・・・限界よ(春始の奴!射線上に入って邪魔ばかり、龍砲を撃つ事ができないじゃない!)」

 

鈴は想像以上に消耗していた。無謀な突撃を繰り返す春始のフォロー、敵からの攻撃に対する回避行動、反撃時には射線上に春始が入ってくるので攻撃が出来ない事への苛立ち。

 

そこへ謎の青い特機型のISは鈴に照準を向け、左腕の手の甲から、赤と青のビームが螺旋状にチャージされると同時に発射され向かっていく。

 

「クロスマッシャー・・・発射」

 

「鈴!(ここで鈴を死なせたら、抱けねえじゃねえか!)」

 

肉欲だけを考えている春始は鈴を守り、切っ掛けを作る事で貪ろうと考えていたが、それ以上に早く鈴を守った二人の騎士が居た。

 

「ぐううう!オルゴン・クラウドS!発動!!」

 

「ぬうっ!この武装、クロスマッシャーか!やはりヴァルシオン!!」

 

「一夏、政征!!」

 

鈴を守ったのは清浄の騎士の称号を持つ一夏と自由の騎士である政征であった。量産型シュテルンMk-II改を支えに、クラルスのクローシールドとオルゴン・クラウドSは完全にクロスマッシャーを受けきった。

 

「鈴、無事か!?」

 

「間に合ってよかった・・・!」

 

「ありがとう、二人共!」

 

鈴が礼を言っていると春始が二人に因縁をつけ、声を荒らげて来る。

 

「おい!何、邪魔をしてんだよ!鈴は俺が助けようとしてたのに!」

 

「春始兄、突撃ばかりしてて鈴を助ける余裕なんかあったのかよ?」

 

「んだとぉ!?てめえ!!」

 

「言い争っている場合か!!来るぞ!!」

 

雄輔も合流し、ヴァルシオンである事を予想した二人の騎士は身構える。だが、連携などお構いなしに春始は再びヴァルシオンへ向かっていく。

 

「お前らはそこで見てろ!零落白夜ァ!!」

 

エネルギー状となった刃はヴァルシオンの防御フィールドを切り裂き、届いたかに見えたが僅かに装甲を傷つけただけであった。

 

その筈、白式のエネルギーは限界寸前近くになっていたのだ。ヴァルシオンは反撃体制を取ると四つのモノアイを点滅させ、重力波による竜巻を引き起こし始める。

 

それは春始だけを狙っており、周りは吹き飛ばされないように支えあっている。

 

「・・・・受ケヨ、メガ・グラビトンウェーブ」

 

近くまで引き寄せられた白式は、爆発した時に発生する強力なエネルギー波を叩き込まれた。

 

「うわああああ!ぐぎゃああああああああああ!?」

 

絶対防御によって春始は守られていたが、地面に叩きつけられると同時に白式は解除され、春始は気を失った。

 

「春始兄!!」

 

「無謀が過ぎるぞ!!」

 

「鈴、織斑春始を回収して撤退するのだ!早く!!」

 

「うん!頼んだわよ!三人共!!」

 

鈴は荷物でも抱えるかのように春始を回収すると急いでピットの中へと撤退していった。ヴァルシオンはクロスマッシャーを連発で放ってきており、時折体当たりも仕掛けてくるが三人はそれを回避し、一箇所に固まる。

 

「さて、どうする?政征。相手は究極ロボ、ヴァルシオンだぞ?」

 

「せめてもの救いはあれが量産タイプだという事、それならば倒せるはず」

 

「ま、待ってくれ!ヴァルシオンって名前なのは分かったけど、あんな奴倒せるのかよ!?それと二人だけで納得しないでくれ!!」

 

一夏の疑問は最もだ。二人は知識がある故に対策も出来るが一夏とっては未知の相手なのだから。

 

「すまなかった。あのヴァルシオンと呼んだ機体の色が青いだろう?あれは量産機なんだよ、メガ・グラビトンウェーブが使えるように改修されてるみたいだが」

 

「あんな化物が量産機なのかよ!?」

 

「当然の反応だな。だが、赤い方だと生半可な攻撃を無効化するフィールドがある。しかし、量産機なら光学兵器を無効化する事しかできない」

 

「つまり、俺達の攻撃は通用するって事か?」

 

「その通り、行くぞ!」

 

ラフトクランズ・クラルスと二機の量産型シュテルンMk-II改はヴァルシオンを翻弄しながら、オルゴンソードやシシオウ・ブレードでダメージを与えていく。ヴァルシオンからすれば大した攻撃ではないが、蓄積されていくダメージには抗えない。

 

「いやに機械的だ・・・もしかしたら!?政征、雄輔!もしかしたらこのヴァルシオンって機体、無人機じゃないか?」

 

「そのようだな、動きが単調すぎる。遠慮なく破壊するぞ!」

 

「ああ!」

 

「わ、分かった!」

 

無人機と知った瞬間、政征と雄輔は情け容赦のない攻撃を連携で加えていく。政征は本来、得意とする剣を使い、シシオウ・ブレードで連撃にて何度も切り刻み、雄輔はフー=ルーに鍛え上げられた射撃の腕を活かし、ツイン・マグナライフルを連発で発射していた。

 

「一夏、今だ!」

 

「仕上げはお前に任せる!」

 

「おう!!オルゴンキャノン展開!ヴォーダの闇に抱かれろ!!」

 

クラルスの胸部砲口と肩にあるユニットが砲台となり、巨大なオルゴンエネルギーがヴァルシオンへと向かい、飲み込んだ。

 

AIの中枢を破壊されたのか、ヴァルシオンはその場で動かなくなり、機体だけが残った。

 

「三人共、よくやりました。機体回収は教員部隊に任せて報告に来てください」

 

「「「御意」」」

 

フー=ルーからの通信を受けた三人の騎士はアリーナから出て行き、観客席に居たセシリアと箒も出ていく。

 

 

 

 

 

回収されたヴァルシオンは解析に回され、過去のデータを照らし合わせても何もなく。またISコアは未知のものであると判明した。

 

「織斑先生、フー=ルー先生、撃墜した機体の解析は完了しました。ですが該当データは無いそうです」

 

「そうか・・・(この機体のデータで白式を強化できるか、束に聞いてみるか?)」

 

「・・・・・」

 

この世界の千冬に対する予想が当たっていた事にフー=ルーは肩を落としていた。やはり、一方の弟しか見ていなく、気にかけていても必要最低限だ。

 

このままでは良くないと解析が進む機体を横目に裏から千冬を変えていこうとフー=ルーは思った。

 

 

 

 

 

 

【推奨BGM【戦火の狭間で】スパロボOGsより】

 

 

 

その頃、アリーナで避難誘導や戦いをしていたメンバーは保健室にて手当をしていた。春始は保健の教諭が担当した為、鈴の手当ては騎士達が行っている。

 

「痛たた・・・」

 

「よし、消毒は終わった。後は包帯を巻いておけば大丈夫だろう」

 

「ありがとう」

 

過酸化水素水、所謂オキシドールで消毒を済ませ、傷薬となる軟膏を塗りガーゼを当てて包帯を巻き終える。

 

「春始はどうするのだ?」

 

「絶対防御があったとはいえど、メガ・グラビトンウェーブの直撃を受けたんだ。しばらくは起きないだろう」

 

「絶対防御がある故に危険はない・・・その考えを見事に打ち砕かれましたわ」

 

セシリアの言葉に鈴と箒も頷く。絶対防御の安全性、それによって死ぬ事はないという考えが何処かにあったのだろう。

 

だが、今回の戦いで絶対防御が必ずしも操縦者を完全に守る訳ではないと目撃してしまった事によりISに対する考えを改めるようになった。

 

「やはり、わたくし達自身が強くなる他はありませんわね」

 

「そうだな、皮肉だが春始のおかげで絶対防御に関する考えを改められたという事か・・・」

 

「そうね・・・」

 

セシリア、箒、鈴の三人がしんみりとする中、政征が声をかける。

 

「しんみりしている所で悪いけど、傷の手当てが終わったならばすぐに会議室に来てくれだってさ」

 

「大方、アリーナの事でしょうね」

 

「行きましょう」

 

「ああ」

 

保健室に残された春始以外のメンバーは会議室へと向かう。あまり乗り気でないのが一夏であった。

 

 

 

 

【推奨BGM【静寂と動乱】スパロボOGsより】

 

 

会議室へ入ると担任である織斑千冬、副担任の山田真耶、そして三組の副担任であり、臨時指揮官を務めたフー=ルー、そして学園長である轡木十蔵が中心に座っている。

 

「揃いましたね、一人は怪我のために仕方ありませんが。それでは本題にあの機体に関してです」

 

「はい。学園を襲撃してきたアンノウンは解析の結果、特機型、つまり重装甲、重火力に重きを置いているISだとわかりました」

 

「コアの方は所属不明であり、何も手がかりは出ませんでした」

 

「ふむ、不明機に関して何か意見はありますか?」

 

十蔵が周りを見渡すと政征と雄輔が挙手していた。それを見た轡木十蔵はどうぞといった仕草をし、それを見た二人は立ち上がると発言する。

 

「あくまで仮説があるという事を前提でお聞き願います。あの特機の名前はヴァルシオン、別名・・・究極ロボとも言われる機体をモデルにした物かと」

 

「究極ロボだと?そんな事は聞いた事がないぞ?」

 

「ですから仮説ですよ。この時世、違法研究所や違法工場があっても不思議ではありませんからね」

 

「そこで開発された可能性があるとおっしゃりたいのですか?」

 

「確証がある訳ではありませんので・・・なんとも」

 

二人が発言を終えると同時に千冬がある疑問を二人にぶつける。

 

「では、お前達は何故あのISの名称を知っていた?事と次第によれば・・・」

 

「アシュアリー・クロイツェル社での機体の勉学時に見せてもらったんですよ、あまりに鈍重なので見送られたそうですが、クラッキングの可能性も無いとは言えません」

 

「なるほどな・・・(上手く躱されたか)」

 

雄輔の発言で自分達には何もないという実証を出されてしまった。この世界のアシュアリー・クロイツェル社も世界的に有名であるために問い合わせれば直ぐに答えは来てしまうだろう。

 

「機体の方はよろしいとして・・・。避難誘導をセシリアさん、篠ノ之さん、シャナ=ミアさん、そして惹きつけ役を担当した凰さんには私からお礼を申し上げます。」

 

学園長直々に頭を下げられ、三人は困惑するがセシリアが代表して冷静に返答した。

 

「わたくし達が出来る事を最大限に行っただけですので」

 

「セシリアさんの言うとおりです。学園長」

 

「二人と同じです、やれる事を」

 

「私もです」

 

「それでも、私からの感謝です。ありがとうございます」

 

ここまで言われては受け取るしかない。それと同時に問題点に関して論点に当てられる。

 

「本来、織斑教諭が持つ、命令系統を無視してでのフー=ルー教諭の独断に関してですが」

 

室内に緊張が走る。だが、フー=ルーは仕方のない事だと受け入れている様子だ。

 

「生徒の安全性、避難経路の確保、破壊命令を考慮に入れて二ヶ月間の減俸処置とします」

 

「え?」

 

それは思っていたよりも軽い罰であった。本来、指揮系統の権限を持つ者からの命令を無視してでの独断は非常に重く、解雇、軽くても謹慎処分が下されてもおかしくはないのである。

 

「生徒に誰一人として怪我人を出していない、生徒の避難経路確保の為の大局を見る冷静な判断力を考慮に入れてでの私の判断です。不服ですかな?」

 

「いえ、寛大な処置をありがとうございます」

 

「では、これにて会議を終わります」

 

 

 

 

 

「一夏」

 

会議室から全員が出て行く寸前に千冬が一夏を呼び止めた。何か話をしたい様子でこちらを見ている。

 

「なんですか?織斑先生」

 

「お前と話がしたいのだが、いいか?」

 

「良いですけど、政征と雄輔を連れてなら」

 

一夏からの条件に千冬は仕方なく条件を飲み、応接室の方へ移動する。

 

「それで、話とは?」

 

「単刀直入言おう、お前の機体を預かりたい」

 

「はぁ?」

 

「白式を強化するためにだ、兄弟として力を貸してくれないか?ラフトクランズのデータを」

 

逸早く異変に気づいた二人の騎士が一夏を止めた。殴りかかりそうになるのを左右から押さえ込んだのだ。それでも感情的になり、怒りを抑えられない一夏は二人を振り解こうともがき続ける。

 

 

 

「ふざけんじゃねえ!!この、クソ姉貴がァ!!」

 

 

 

それは、今まで生きてきた中で初めて姉に対する反抗と鬱憤が入り混じった本当の一夏の感情であった。

 

「一夏、落ち着くんだ!」

 

「落ち着け!織斑!!」

 

「いつもいつも調子良い時だけ、姉貴面しやがって!相談した時はお前なら出来るの一言で片付けてきた癖によ!!」

 

「そ、それは・・・お前なら乗り越えられると信じたからで」

 

「俺はアンタじゃねえんだよ!近所ではアンタや兄貴の腰巾着扱い!勉学でも運動でも剣道でも、良い成績を残せば[出来て当たり前]で片付けられる!」

 

本心を叫び続ける一夏の言葉は一言一言がまるで矢の雨のように千冬へ降りかかり、心へと刺さっていく。

 

「両親が居なくなったから忙しかったのも理解していた!だがな、アンタは兄貴だけにしか「良くやったな、偉いぞ」と褒めてなかったんだよ!」

 

「あっ!!」

 

それは二人が幼少期の頃まで遡る。一夏は会心の出来だと思い千冬の似顔絵を見せに行った。だが、千冬から返ってきた返答は「このくらい春始は出来るぞ」という幼少の子供にとっては突き放しにも似た言葉だった。

 

春始は工作で本入れを作って持ってきた時には、一夏が言った「良くやったな、偉いぞ」と褒めていたのだ。

 

「あ・・・ああ、あれは・・・お前を」

 

「言い訳なんか聞きたくねえよ!あの時、助けて貰った事は感謝してる!だが、ラフトクランズ・クラルスは渡さない!これは俺が初めて手にした俺だけの宝だ!初めて俺自身を見てくれた人達との絆だからだ!!!」

 

「それにな、俺が不良にならずに済んだのは鈴や箒、束さん。そして弾や厳さん達のおかげなんだよ!」

 

「あ・・あああっ」

 

「そんなに春始兄の白式を強化したいなら、何処かの研究所とかに頼めばいいだろ!俺に縋り付くな!!」

 

言いたい事を言い終えて一夏は大人しくなった。だが、千冬はショックのあまり言葉を発せずにいる。

 

「行こうぜ、政征!雄輔!」

 

「お、おい!織斑!?」

 

雄輔は出て行った一夏を追いかけ、政征は千冬に声をかける。それは第三者からの鋭い意見で・・・・。

 

「織斑先生、幼少時代に突き放して、兄の方を優遇していたのですか?」

 

「否定・・出来ん。私は一夏が這い上がってくると信じた故に言ったのだが・・・」

 

「それは年端も行かない三歳児に、富士山山頂まで一人で登って来いと家族から言われたようなものですよ?」

 

「な・・・!」

 

「叱咤激励はある程度の年齢にならないと効果はありません。そう、自意識が芽生えて年月が経たないと」

 

千冬は床に手を着け、今にも泣きそうな表情で政征を見ている。まるで迷子の子犬のように。

 

「私は・・・どうすればいいのだ!?」

 

「ヒントは、一から一夏との関係をやり直す事。それと、俺よりもフー=ルー先生に頼ってみたらどうですか?きっと助けてくれますよ」

 

そういって政征も部屋を出て行って一夏達を追いかける。一人残された千冬は後悔の涙を流し、何度も「すまない・・・すまない一夏」と泣きながらつぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

一夏は屋上で風景を眺めていた。感情的になり、つい思っていたこと全てを吐き出してしまった後悔があったからだ。

 

「何やってんだよ・・・俺」

 

「ここにいたのか?」

 

「探したんだぞ?」

 

「雄輔・・・政征・・・」

 

二人は左右に並ぶように屋上の手摺に手をかけ、話しかける。

 

「怒りに任せて本音を吐き出した事を後悔してるのか?」

 

「ああ、俺さ、褒めてもらいたかったんだよ・・・・千冬姉に。でも、いっつも褒められるのは春始兄だけでさ」

 

怒りが冷めた一夏は二人にポツリポツリと話し始める。話す事で一夏自身も気が楽になると思ったからだ。

 

「だから、許せなくなってたんだよ・・・誰も俺自身を見てくれないって・・・お前達と出会う前に俺自身を見てくれてたのは友人とその両親だったんだ」

 

「そうか、良い人と出会えてたんだんだな?」

 

「でも、やっぱり何処か一歩引かれてたんだ。そんな時だったよお前達に会えたのは」

 

そう言いながら待機状態となっているラフトクランズ・クラルスに視線を落とす。

 

「これは・・・これだけは春始兄だけには渡さない。俺自身を見てくれた人との思い出が詰まってるから。悪い、愚痴っちまって」

 

「良いんじゃないのか?たまには本音をぶつけなきゃ、いつまで経っても人形みたくなるんだからな」

 

「そうだな、気持ちの押しつけだけをされてたんだ。物事をハッキリ言えただけでも儲け物だろう?」

 

「・・・・そうだな」

 

「よし、教室へ戻ろうぜ?授業が終われば昼飯だからな!」

 

「今日は三人でステーキなんかどうだ?」

 

「良いな!あ、でも俺・・・お金が・・・」

 

「俺達が出しといてやるよ」

 

「祝い品だと思ってくれ」

 

「!ありがとな!!」

 

三人は屋上のから教室へと戻り、授業を受けた。その日の昼食は全員楽しく学生らしい食事風景であった。




今回は千冬へのアンチが強まってしまった回になってしまいました(猛省)

でも、この世界の一夏はこれだけ比べられて育ってきたのだと伝われば幸いです。

今まで手の掛からなかった春始ばかりを僅かに優遇していた千冬にとっては試練です。

ですが、アンチにはしません、関係修復も行います。


では!また、次回!!


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狙われる金と銀

ヒロインが全員揃う。


男の子らしい反応もある。

束がまた何かを開発する。

以上


あれから数日が経過し、千冬はフー=ルーにアドバイスを貰いながら教師としての自覚を持ち始め、一夏との関係も一から積み上げていくようにしていた。

 

初めは一夏からの反発もあったが、政征や雄輔、シャナ、それと幼馴染二人からの説得もあり、ほんの少しだけ和解した。

 

長年の溝は容易く埋まる事はない。それでもぎこちなく歩み寄ろうとする二人に対して、騎士や幼馴染達は協力を惜しまなかった。

 

「い、一夏・・・昼食を一緒に食べないか?」

 

「ああ、他のみんなも一緒だけど、それでいいならな?」

 

「構わない・・・フー=ルー先生も呼んでいる」

 

「お邪魔しますわ」

 

フー=ルーの影響もこの世界の学園に少なからず出てきていた。元々、フー=ルーは教師ではなく、一個団体の団長を務めるほどの実力を持つ騎士である。

 

その実力は政征達よりも上であり、別世界とはいえ千冬にすら勝ったこともある。生徒の中にも千冬のような威厳に憧れる者、フー=ルーのように気品がある騎士としての姿に憧れる者も増えてきている。

 

そんな彼女らにフー=ルーは一言だけ忠告している。

 

『どんなに憧れても、自分が憧れた人と同じにはなれません。ですが、限りなく近づいていく努力は出来ますわよ』と。

 

自分の世界でもフー=ルーは千冬を変えた。この世界の千冬はもう一人の弟である一夏から拒絶された。だが、今ならまだ歩み寄れる、この世界では破滅に飲まれていないのだから。

 

昼食を終え、片付けを終えると別のアリーナへと向かう。ヴァルシオンが乱入してきたアリーナはまだ使用禁止となっているが、別の場所にアリーナがあるらしくそこへ向かうことにしたのだ。

 

本日は昼で授業が終わってしまった為に、訓練をしたいと鈴から誘いもあった為に訓練をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナに入るとそれぞれ更衣室に向かい、着替える。用意が出来た者から軽くジャンプした後に身体を解す為に軽くジョギングをする。

 

汗をかくまで走って、その後に柔軟体操を始める。これに一時間以上かけて身体を柔らかくしていくのだ。

 

「ん―――っ!」

 

「ふっ、くぅ――――っ!」

 

「んぅ――――っ!」

 

この訓練にも慣れてきたのか、前屈をすればほとんど全員が足の裏を触れるほど柔軟性が高くなっていた。箒とセシリアはとある理由で完全に触れない。

 

それは女性特有の胸の膨らみである。巨乳とも呼ばれるくらい、たわわに実ったその果実は完全に足の裏へ触れるのを阻害しているのだ。

 

「どうしてこんなに・・・育ってしまったんだ?」

 

「肩が凝りますし、邪魔ですわ・・・」

 

「ぐぬぬ・・・・!」

 

女性陣の中で鈴だけが悔しそうな顔をしている。彼女も育っていない訳ではないが、二人と比べれば格段に大きさが違うのだ。

 

男性陣三人は女性陣に背中を向けて柔軟体操をしている。これは暗黙のルールとなっており、美少女達が柔軟体操をしている場は目のやり場に困るからだ。

 

柔軟体操を終え、最初は組手から始まる。素手のみの戦闘もこなしておく事で、武器がなくとも戦えるようにするためだ。

 

「はっ!」

 

「甘い!」

 

「きゃあ!あうっ・・!」

 

ハイキックを受け流し、そのまま回転を加えて投げ飛ばす。鈴はそのまま受身を取り直ぐに立ち上がる。

 

「もう一本お願い!」

 

「よし、何度でも来い!」

 

鈴は政征と組手をしており、何度も何度も組手を続けている。組手に入るまで2週間は受身の練習となっていたが、代表候補生になるだけあって筋は皆良かった。

 

「ふん!はっ!」

 

「まだ迷いがあるぞ!傷つけることを怖がるな!!」

 

「ああ!」

 

箒は雄輔に攻撃の心構えを教わっている。やはり剣道の実力者といえどルール無用の戦場では心構えから変える必要があると考えたからだ。

 

「がはっ!?」

 

箒の首筋に雄輔の手刀が入り、その場で箒は倒れてしまう。起き上がろうにも力が入らない。

 

「強くやりすぎたな・・・だが!」

 

それでも雄輔は容赦なく箒の腹部に拳の一撃を入れる。

 

「ぐっ!あ・・・!」

 

その場でうずくまり、箒は降参の合図を雄輔に出す。息が整わなず、中断のための方法だ。

 

「まだ、迷いがあるな。これは訓練だからいいが、戦場だったらトドメを撃たれて終わりだぞ?」

 

「うう・・」

 

「下手をすれば女性は慰み物にされることもある。さぁ、俺を仇だと思ってかかってこい!」

 

「!いやあああああ!」

 

仇だと思いながら戦い始めた箒の動きはキレを増していた。だが、怒りに任せたままの猛攻は簡単にあしらわれていまう。

 

「うわ!?」

 

「感情的になりすぎるな!上手く怒りをコントロールしろ」

 

箒は強さがなければ何も出来ないという考えを持っていた。だが、今は違う特訓してくれている二人から見せられた別世界の自分。

 

一夏を優先し、己の実力を過信し、周りの人間の言葉に耳を傾けず、ただ恋した相手の傍に居たいという歪んだ想い。

 

それを見せられ吐き気がし、恥ずかしくなった。想っているのならば気持ちを伝えなければならない、恥ずかしくて伝えられないのは理解できる。

 

だが、己の思考が絶対に正しく、妄想の中で恋人にしているなど愚かの極みとしか言いようがない。しかし、それを否定できない自分もいた。

 

確かに別世界の自分は歪み続けて、最後には力に縋ってしまったのだろう。自分の中にもそうなる可能性があるのではと思わない時はなかった。

 

一夏の事は確かに大切な幼馴染だ。しかし、私は彼を男として見ているのだろうか?兄である春始には言い寄られているが、所詮は知り合いの域を出る事はない。

 

私は自分の想いと身に付けられる力を知りたい。自分に何ができて何を成し遂げられるか、それを探すためにも今はこの特訓を続けていこう。

 

 

 

 

 

 

 

一方でセシリアと一夏は座禅を組んでいた。だが、セシリアは意識が逸れてしまい、静電気が走る。

 

「きゃう!?」

 

「・・・・」

 

セシリアが座禅を組んでいる理由はビット兵器に関係していた。未だに彼女はビット兵器を操る際に静止状態になってしまうのだ。

 

初心者や戦いに慣れていないのなら通用するが、それでは熟練者や戦いに慣れている者であるなら良い的になるのが必然。

 

それだけではなく、セシリアは悔しいのだ。二人に聞いたり見せられた別世界の自分は偏向射撃のみならず、自分が操るビットの倍以上の数を防御と攻撃に利用していた。

 

更にはそれだけの数のビットを別々に操りながらも、機体を自在に動かしている程の実力者にまでなっている。それどころか女尊男卑の考えをも改めていた。

 

そんな別世界の自分を見て悔しいと思えた、嫉妬もした。今の自分では到底追いつくことは出来ないだろう。

 

それでも、別世界の自分は正に理想とした自分には違わない。だからこそ、今は集中力を高めるために座禅を組んでいる。もっとも

 

「や、やっぱりだめですわ・・・・」

 

西洋人のセシリアにとって座禅は非常に辛い特訓であった。主に足の痺れが原因である。

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、研究室では束が二機のラフトクランズの整備と新たなプログラムを開発していた。

 

「やっぱり、別世界の私の技術は凄かったんだね・・・」

 

二機のラフトクランズの整備は記録にあった別世界の束が使っていた物を流用している。それだけに別世界の自分に感心していたのだ。

 

更にはこの二機の意志から提供されたデータでクラルスに新しい力を与えることが可能となった。

 

「Universe・Nnature・Infinity・Constitute・Optimum・Rreconciliation・Nerve。この特殊プログラムを組み込めばクラルスはある現象を起こすことができる。けど・・・」

 

このプログラムは搭載することは可能だが起動し、使用するには条件があったのだ。それは二次移行(セカンド・シフト)である。

 

「どうなるのかな・・・でも、クラルスといっくんを信じよう」

 

隠しプログラムとして束はそれを完成させると整備の仕上げに取り掛かった。この世界を自分が経験した最悪な方向へと向かわせないために。

 

 

 

 

 

 

次の日、一組の教室は異様なテンションに包まれていた。転校生が来るとの噂で持ちきりだからだ。

 

「(このパターンで来る転校生は・・・)」

 

「(あの二人ですね・・・)」

 

「・・・・」

 

別世界から来た三人は冷静に、転校生の事を考えており、一夏や箒達も待ちかねている。

 

「(よし来たぜ、来たぜ。シャルとラウラなら必ず喰えるはずだ!ハーレムは必ず手に入れてやるぜ)」

 

怪我の癒えた春始は自らがヒロインと呼んでいる女性との肉体関係のみが頭の中を渦巻いていた。

 

教室の扉が開き、担任である千冬と副担任である真耶が入ってくる。千冬が騒ぎを沈黙させ、摩耶が口を開く。

 

「えっと、本日は転校生が来ます!それも二名です!!」

 

金髪と銀髪、三人には見慣れた光景ではあったが、春始にとって一つだけ違っていた。更には三人には聞きなれない名前が。

 

「自己紹介をお願いします!」

 

「はい!シャルロット・デュノアです。よろしくお願いしますね!」

 

「よろしくねー?」

 

「歓迎するよー!」

 

クラスメート達は歓迎ムードであり、別世界の三人も心中は歓迎している。

 

「では、もう一人だな。ラウラ、挨拶しろ」

 

「はい」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ、よろしく頼む。・・・・っ!?」

 

ラウラは何かおぞましい視線を感じていた。本能的に関わってはいけない、否、関わりたくないという嫌悪感を感じ取った。

 

視線を悟られないように注意して見ると、その正体はラウラを視姦している春始であった。嫌悪感を内側に秘め、ラウラはすぐに席へと座った。

 

 

 

 

 

 

 

転校生が来てから三日後、ニュースで十代後半から二十代の女性、三十人が輪姦されたとの報道が流れた。犯人は特定できず、女性達は心と身体に傷を負い、自然喪失状態で会話も出来なくなり、女性としての機能すら破壊されてしまっていた。

 

女性権利団体は女性の威厳が損なわれるとの事で、この事件をもみ消すようにと警察機構やマスコミに圧力をかけた。

 

その結果、具体的には報道されなかっただけでなく、警察もすぐに調査を打ち切りにしてしまい事件は無かった事とされた。

 

だが、そこへ追い討ちをかけるような出来事が起こった。その輪姦の様子を撮影したDVDなどが、顔にモザイク処理を施したものが出回ってしまっていたのだ。

 

動画サイトなどにも大量にアップされており最早、完全削除は不可能と思われていたが、女性利権団体が裏から手を回し、そのコピーを含めたオリジナルDVDをすべて回収し、処分した。

 

後にこの事件は女尊男卑での最大の汚点となり、タシュ事件と命名され、長く歴史に残る事となった。

 

 

「交わらなければならない・・・新しいルーツ、この約束の地にて別世界のモノと種子を持つものに」

 

一人の少女が空を見上げた後にしなやかな茶髪を靡かせ、雑踏へと消えていった。




ヒロイン全員集合です。

シャルとラウラはこの段階ですとまだ、別世界の記憶を知りません。

束さんが開発した特殊プログラム。頭文字を縦読みすると解る人には解ってしまうでしょう(笑)

Universe

Nnature

Infinity

Constitute

Optimum

Rreconciliation

Nerve

[無限の宇宙における自然の調和を構成する神経]というのがコンセプトのプログラムです。

そしてタシュ事件・・・被害にあった女性達の親や親戚達はこう言いました。

「怖かったろうに・・!、痛かったろうに・・!何も、してやれなかった」と・・・。

犯人はここまで読んでいる読者の方はわかってしまっていますよね・・・。


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自由に黄河を泳ぐ鯉は山脈の城壁を昇り、龍となる

ラウラが迷いながらも千冬への憧れを振り切ろうとする。

二人の騎士が悪という黄河へ泳ぎだし、龍を背負う。

春始の毒が狙いを定める。

以上


シャルロットもラウラもクラスに馴染み始め、クラスメートと話しており一夏を始めとする騎士グループも訓練などを話し合っていた。

 

転校生というのは学生にとって新しい仲間の歓迎と同時に知りたくなる対象でもあるのだ。

 

「よう、シャルロット・・・でいいんだっけ?何か困っていることはないか?」

 

「あ、織斑春始くん・・・だよね?ううん、今は大丈夫だから平気だよ」

 

「お、おう・・・そっか(おかしい、シャルロットは確か、原作だとシャルルと名乗って男装姿で転校してきたはずじゃなかったか!?)」

 

春始は未だ気づいていない。自分の思い描いていた世界と今の世界は己自身と転移してきた者達によって変わってしまっている事を。

 

「(でもいいか、あの・・・乱交は良かったぜ。力も増大したし、鈴とラウラを喰えば完璧だな)」

 

イケメンと呼ばれる顔の裏に隠れている女への黒い欲望、それを見抜けるのは勘が良い者か、それこそ超能力を持っていると言える存在だけだろう。

 

そんな中で政征はどうすれば自分達はより悪役に近づけるかを考えていた。前回使った方法を応用して炙り出すべきかと。

 

自分達が悪役に徹しようとするのは更なる巨悪を掘り出す為だ。毒を以て毒を制すの言葉通り、悪を引き出すには己が悪とならなければならない。

 

「政征、悪役についてなんだが・・・」

 

「ああ、分かってる。だけど今のままじゃ無理だ・・・協力してもらえないと」

 

「考えている事は一緒か」

 

雄輔自身も政征と同じ事を考えていたらしく、お互いにおかしくなって笑った。だが、二人にとっての問題は協力者が必要不可欠な点だ。

 

巨悪を引き釣り出すには誰かを人身御供として痛めつけなければならない。その中で一番効果的なのが、鈴とラウラである事を政征は春始の行動から見抜いていた。

 

鈴とラウラが痛めつけられたとあればすぐさま飛びつくだろう。だが、今の状態ではラウラに協力を仰ぐ事はできない。

 

「(それに・・・)」

 

「(今更だが・・・)」

 

「「(久々にコイツと喧嘩がしたい!!)」」

 

政征と雄輔の二人は親友であると同時にライバルでもある。甘ったるい馴れ合いの関係ではなく、切った張ったの喧嘩もするのだ。

 

無論、流血なんてものは序の口。拳だけではなくヤクザ映画などでも出てくるドスをも使う。

 

女性から見れば失神間違いなしの大喧嘩がしたくてたまらなくなってきているのだ。

 

「(二人共、ヤクザレベルの喧嘩がしたいのかよ・・・・あれ?俺なんでこんな事がわかるんだ?)」

 

一夏もある一つの可能性がサイトロンによって開花し始めていた。

それは広範かつ鋭敏な感覚(・・・・・・・・・)であった。

 

先程、政征と雄輔の思考を僅かに感じた事から、彼は感性が強くなっているのだ。もっとも、まだ欠片ほどしか目覚めてはいないが。

 

 

 

 

 

 

その一方でラウラは春始に向けられていた視姦の視線に大して不愉快さを感じていた。

 

「(教官には二人の弟がいると聞いていたが・・・織斑一夏と名乗る奴は未熟だが訓練を欠かしてはいない)」

 

ラウラの一夏に対する第一印象はそれであった。未熟ながらも訓練を欠かさない人物として映ったのだ。

 

「(だが、織斑春始というもう一人の教官の弟はなんだ?気持ちの悪い視線を今でも私に向け続けている!)」

 

気づいていないフリをし続けてはいるが、春始の視姦が止まる事はない。鈴でさえ嫌っていた視線にラウラもストレスを感じ始めていた。

 

その日の放課後、シャルロットを訓練に誘い、アリーナへ呼び出した。呼び出すと同時に政征と雄輔は一夏を近くに置き、同時に近づく。

 

「な、何かな?二人共」

 

「・・・・」

 

二人は無言のままクラルスの力を借りてサイトロンを起動し、シャルロットに自分の世界のシャルロットの記憶を見せ始めた。

 

『二代目ホワイト・リンクス!シャルロット・デュノア!ここから先は行かせないよ!』

 

「(え、ええ!何これ!?ボクが義姉さんの称号を受け継いでる!?)」

 

『リヴァイヴⅡを更に強化カスタムした。ベルゼルート・リヴァイヴだよ』

 

「(ベルゼルート・リヴァイヴ・・・良いなぁ)」

 

サイトロンで見せている別世界のシャルロットの映像にノイズが入る。それは更なる並行世界で戦ったマサ=ユキとの激戦であった。

 

『ぐはっ!ナメてんじゃねえぞ・・・!本気で来い!ゴラァ!!』

 

『あぐっ!まだまだぁ!』

 

「(別世界のボク・・・だよね?こんなに強いんだ・・・武器を使わなくても)」

 

映像が終わり、シャルロットは何処か羨望を宿しているような目で天井を見つめていた。

 

「ボクも強くならなきゃ・・・二人は強い?」

 

「先程、見ていた別世界のシャルロットを倒せるくらいには」

 

「同じく」

 

「なら、僕を鍛えてくれるかな?義姉さんを越えたいんだ!」

 

「良いが、俺達の特訓は厳しいぞ?」

 

「望むところだよ!あ、それとシャルっていうの気に入ったからそれで呼んでくれるかな?」

 

どうやら、シャルロット自身、自分の目標を遂げている別世界の自分に追いつきたいと決意している様子だ。鈴と似ているようだが、それでも強くなりたいことには変わらない。

 

「今日の放課後、アリーナに来てくれ。俺達はそこで訓練している」

 

「わかったよ」

 

シャルロットが政征達と話している間、春始は変わらずラウラを一心に視姦し続けていた。

 

「(ああ、早く。喰いてえぜ・・・銀髪に白い肌、汚す音ができれば最高だ)」

 

「(・・・・気持ち悪い奴め!)」

 

 

 

 

その日の放課後、政征はある先輩に相談事をするため、上級生のクラスがある廊下を歩きながら、新聞部の部室を探していた。

 

「えっと・・・あったあった!」

 

目的の部屋を見つけ、ノックする。すると中から出迎えるように扉が開いた。

 

「あれ?君は男性操縦者のうちの一人の・・・」

 

「赤野です、赤野政征。実は先輩たちにお願いがありまして」

 

「ん~?何かな?ま、立ち話もなんだし、入りなよ」

 

「失礼します」

 

政征が探していた先輩とは二年生の黛薫子であった。彼女はIS学園の新聞部に所属している事を知っていた政征は舞台を作るために接触したのだ。

 

「実はですね」

 

政征が提案したのは男性操縦者四人でISを使わずに戦うというものであった。互いの同意を得れば武器の使用も大丈夫という。

 

まさに何でも有りの殺し合いに近いものであった。薫子に接触したのは彼女が生徒会長と仲が良いと聞いたためである。

 

「そ、そんなの出来る訳ないでしょ!?こんな戦いを頼んだら、間違いなく却下されるわよ!」

 

「許可されなくても俺達が勝手にやりますよ。それに・・・」

 

「何?」

 

「先輩も知りたいし、見たいんじゃないんですか?映像なんかじゃない・・・男の本気の喧嘩って奴を」

 

「う・・・」

 

実は彼女、格闘技と同時に有名なゲームの一つである、龍が○くのキャラクター、桐○一馬の大ファンであった。特に信念をかけてぶつかり合うシーンが大好きで何度も見返しているほどだ。

 

「学園のイベントにする気は無いんです。ただ・・・宣伝と司会をして欲しくて」

 

「別にいいけど・・・タダって訳にはいかないかな」

 

「なら、これはどうです?」

 

政征が差し出したのはIS学園のスイーツ半年間無料パスであった。薫子はそれを見て驚きを隠せない。

 

「うう・・・・」

 

「どうします?腹・・・括りますか?」

 

「いいわ、私も新聞部の端くれ・・・宣伝くらいやってやるわ!」

 

「お願いしますね、それじゃ」

 

政征はパスを手渡すとそのまま部屋を出て行ってしまう。薫子は改めて政征の交渉術に舌を巻いていた。

 

 

 

 

 

 

政征が合流する前、シャルと雄輔から一夏は実弾系の銃の扱いをレクチャーしてもらっていた。箒、鈴、セシリア、シャナは筋トレをした後、バトルロイヤル形式の組手を行っている。

 

「やっぱり、反動から全てオルゴンライフルと違うな」

 

「当然だろう?実弾を使う銃は反動がそのまま来るんだからな」

 

「自分が使っている銃と同じに考えたらダメだよ」

 

話し合っていると政征がアリーナへと入ってきた。走ってきたらしく、うっすら汗ばんでもいる。

 

「ごめんな、遅れちゃって」

 

「いいさ、訓練を続けよう」

 

そう言って訓練を続けようとするとISを纏った姿で現れる者がいた。それはラウラであり、狙いは三人だ。

 

「男性操縦者、どれでもいい・・・私と戦え!」

 

「なぜ?」

 

「戦う?」

 

「戦う理由は無いはずだよな?」

 

政征、雄輔、一夏はそれぞれ口を開くとラウラは鼻で笑い、高らかに宣言するような声で反論する。

 

「貴様達を倒し、絶対的な力を見せるためだ!そうすればあの方だって戻ってくるはず!!」

 

「あの方?織斑先生か・・・」

 

「偶像崇拝ってやつか?」

 

「でも、なんで春始兄の方には行かないんだよ?」

 

一夏の疑問にラウラは僅かに顔を怒りに歪ませて言い放った。

 

「あんな男など倒す価値もない!貴様と同じ教官の弟らしいが私は断じて認めない!さぁ!たたか・・・っ!?」

 

レールガンを向けようとしたラウラは驚愕した。動けるはずの身体がまるで何かに止められているかのように動かなかったからだ。

 

「流石は束さんだな・・・アラミド繊維の応用でこんな武器を作るなんて」

 

政征が手にしているのは糸のような物を自在に操る装備であった。それを会話の間にラウラの四肢へ巻きつけ動きを封じていたのだった。

 

「一夏、また一緒に来てくれ」

 

雄輔がひと声かけると、一夏も理解したように後へ続く。

 

「ぐ、何をする気だ!?」

 

「いいから、俺の目を見て逸らさずに」

 

政征は雄輔と一夏の力を借りてサイトロンを使い、並行世界の映像を見せる。同時に拘束も解いた。別世界のラウラが騎士となったものを知らせるために。

 

『レーゲン!テックセッター!テッカマンレーゲン!!』

 

『こんな、こんな虫の為に!Dボゥイさんは!!ミユキは!!シンヤさんは!!相羽家の皆さんは!!アルゴス号の人達は!!こいつの!こいつの為に!!!!!!』

 

『うわあああああああああああああああああああああ!!!!!!!』

 

「(な、なんだこれは!?全身装甲となったISを纏った私?)」

 

ラウラにもシャルロットと同じノイズ現象が起こり、更なる並行世界の映像が流れる。仮面によって涙を隠しながら戦う騎士の姿となった別世界の自分を。

 

『(テッカマン・・・あれが全身装甲となったレーゲンなのか?私以上に強いなど・・・)』

 

ラウラは別世界の自分が認められなかった。軍人として見せてはならない感情を見せているように見えたゆえだ。

 

しかし、自分以上に強さのなんたるかを知っているのは羨ましかった。全身装甲というISの完成形にも近い姿をしている事も。

 

「っ・・・認めん!こんな事、認めんからな!!」

 

ラウラはISを解除するとアリーナから逃げ出すように走り去っていってしまった。未だ自分というものを確立していないこの世界のラウラにとって、嫉妬の対象なのだろう。

 

「やはり、早すぎたか?」

 

「いや、これで良いんだよ。知ってからの方が良い」

 

「・・・」

 

 

 

 

そして訓練を終えると政征と雄輔は一夏を先に返し、箒と代表候補生達呼び止めた。自分達が考えた作戦を話すために。

 

「つまり、私にやられ役になれって事?」

 

「ああ」

 

「冗談じゃないわよ!!」

 

「そうだぞ!お前達がそんな真似をするなど!」

 

「賛成しかねますわ!」

 

「僕もだよ」

 

無論、反対される事も考慮に入れていた。だが、まずは意見を聞くことが大切だ。

 

「解ってんの!?学園でそんな事をすれば一気に信頼が地に落ちるのよ!?」

 

「そうですわ!」

 

「分かってはいるさ、けど・・・誰かがこの悪役をやらなくちゃならないんだよ」

 

「毒を以て毒を制すの如く、巨悪を引きずり出すには手っ取り早いんだ」

 

「だけど!」

 

女性陣が反対しているのは鈴、協力してもらえればだが、ラウラの二人を全校生徒の前で痛めつけるというものであった。

 

無論、そんな事をすればこのIS学園での評判は真っ逆さまに地へと落ちる。

 

「悪役って・・・・もしかして!?」

 

「あ、まさか!?」

 

「アイツを!?」

 

「え・・え?」

 

シャルロット以外の三人は二人の狙いに気付いた様子だ。危険と隣り合わせであるということも。

 

「そうだ、アイツは勧善懲悪を好む。特に自分が正義だと思っているから」

 

「だからあえて悪側に回るって言うの?」

 

「わずかでも味方がいれば、それでいい」

 

「政征・・・」

 

シャナも心配のようだが、二人は悪役を受ける事を固く決意している。それを止められるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

その後、別のアリーナではラウラが訓練をしながら別世界の自分自身のことを考えていた。

 

「(あの姿・・・あの強さ・・・それに見せられた私は教官にこだわっていなかった・・・)」

 

自分が千冬に依存しかかっていたのを自覚させられたが、振り切ることができない。

 

「違う!私は!!」

 

「何が違うのよ?」

 

「貴様は・・・中国の」

 

「アンタもあの二人に見せられたんでしょ?別世界のアンタ自身を」

 

「っ!まさか、お前も?」

 

アリーナに入ってきたのは鈴だった。偶然ラウラを見かけた彼女はその迷いを見抜いている。

 

「ええ、そうよ。別に受け入れろとか説教する気はないわ、でも悔しくない?」

 

「悔しいだと?どういう事だ!?」

 

「別世界の自分とはいえ、追いつけなくて悔しくないのか?って事よ!!」

 

「あ・・・」

 

鈴に指摘されて初めて気づく。別世界の自分の強さを妬んでいた。全身装甲を纏いながら強さの意味と自分の存在という答えを知っている事に。

 

「私は悔しいわよ?今までやっていた訓練じゃ、到底追いつけないもの」

 

「軍の訓練でもか?」

 

「当然よ」

 

「・・・・私も追いつきたい。あれが別世界の私なら、私もそうなりたい」

 

「放課後、隣のアリーナに来なさい。そこで訓練してるから」

 

「わかった」

 

鈴はすぐに出て行き、ラウラもすぐに出て行った。答えはの鍵はあの二人が握っていると思いつつ。

 

 

 

 

 

翌日の放課後、鍛錬をしてる中でラウラが現れた。流石に警戒されるが、ラウラは騎士の二人の下へ来るとその場で膝を着き頭を下げた。

 

「頼む・・・訓練を一緒にさせてくれ!!」

 

「「!?」」

 

突然の事に面食らう政征と雄輔であったが、理由を聞こうと立ち上がらせる。

 

「どうして俺達と訓練を?」

 

「お前達に見せられた別世界の私を越えたいからだ!」

 

「それだけか?」

 

「それだけだ!!」

 

「それじゃ訓練には参加させられない」

 

「!!なぜだ!?」

 

「俺達が見せた別世界のお前は悲しみを背負っていた。俺達以上に深い悲しみを・・・な」

 

「な・・・に?」

 

「悲しみを背負う覚悟があるかい?目の前で仲間や親しい友人、姉として慕う人、鍛えてくれた師、その全てを失ってでも前へ進む決意を持てるか?」

 

「それは・・・・」

 

政征の言葉で別世界の自分が泣いていたのを思い出す。涙とは軍人として見せてはならないもの、だが、涙を流すというのはその人を大切に思えるからこそだ。

 

この世界のラウラは力によって変わる事しか考えられていない。それだけではダメなのだ、意味なく振るう力は暴力へと成り下がり、無差別殺人を犯しかねなくなる。

 

迷っているとシャナがラウラに合わせてかがみ込み、その身を抱きしめた。突然の事にラウラは戸惑い、慌てたがシャナの慈愛の深い抱擁に大人しくなる。

 

「あ・・・・あああ、私は・・・」

 

「良いのですよ、ラウラさん・・・吐き出したかった感情を全て出しても」

 

「うあああああ!私は・・・私は分からなかったんだ!怖かったんだ!!何もできなくなる自分を!孤独になるかもしれないと!」

 

シャナはどうやらグランティードのサイトロンを通じて、ラウラが本当に求めていたことを気づいていたようだ。

 

これだけは男性ではどうにも出来ない。慈愛というものは男でもできなくはないが、やはり女性の方が強い。

 

「落ち着きましたか?いきなり抱きしめてごめんなさいね」

 

「い、いや大丈夫だ。私は私・・・教官になれる訳がない・・・だが、近づいていこうと思う。それが別世界の私を越える一歩だ」

 

「そうか、そこまで考えられれば訓練参加を許可する。それと頼みたいことがある」

 

「なんだ?」

 

政征が春始の本性を引き出す為に協力して欲しい事、その為にやられ役を請け負って欲しいという旨を告げた。

 

「あの男の本性・・・を引き出す?」

 

「そうだ、その為にも協力してくれ!頼む!」

 

二人は当時にラウラに頭を下げる。さっきまでとは真逆の状態にラウラは困惑する。

 

「わかった、やられ役というのは気に食わんが協力しよう」

 

「ありがとう」

 

「いや、シャナ姉様のためにもな」

 

「またか・・・」

 

「?」

 

「いや、こっちの話だ」

 

政征と雄輔はあえてラウラの機体にある禁断のシステムを明かさなかった。それを発動させなければ春始は出張ってこない。

 

助ける役割は自分たちでは不可能、白羽の矢が立つのは一夏だ。少しずつだが一夏は成長してきている。夢を介して虚億を一瞬だけ見せられた二人は本来の一夏、いわゆる原作の一夏を見てしまった。

 

どこか自分達が居た世界と似通っており、許せないと思う部分もあったが世界の流れがそれを許容していた。自分達は神ではない、もどかしくとも手を出せないのならば出すべきではないと学んでいる。

 

だが、変えられるものがあるのなら、変えていきたいと思うのも確かだ。この世界の一夏のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、二人の協力は得ることが出来た」

 

「槍の方も一夏に協力してもらってより、頑丈に鋭くなった」

 

訓練後、政征と雄輔は悪役に徹するための確認を取り合っている。この事で自分達は信頼を地に落とすかもしれない。

 

だが、それだけの事をしなければ女喰いを表舞台に引っ張り出すことはできないのだ。

 

「妹分を痛めつけるのは心苦しいが」

 

「やるしかないだろう」

 

二人は拳を軽くぶつけ合うと決意を新たに固めた。騎士として恥ずべき行為になるだろう。円卓の騎士で例えるならば二人はモードレットとランスロットと同様に裏切り、反逆といった行動を取る。

 

汚名を被ろうとも天へと登る意志を貫く、その決意が二人の背に浮かび上がる絵が変化した。

 

政征は剣の姿が東洋系の龍となり、宝玉らしき物を掴んで登る姿。雄輔はバジレウスの頭部が同じ東洋の龍となり四匹の獣を治める龍の姿となった。二人はその事に気づいてはいない。

 

ふたりの背に宿ったもの、それは決意の表れなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・あああ!ちくしょう!女が抱きてえええ!」

 

学園の中庭で騒いでいるのは春始であった。あの乱交以降、全く女を喰う事が出来なくなっていたのだ。理由は事件が報道されてしまった事によって、女性達があまり外にであるかなくなってしまった為だ。

 

「こうなれば、学園内の女を喰うか・・・手始めはあのシャナ=ミアって女だな。見るからに王族だから喰いごたえがありそうだ」

 

春始の女への欲望はシャナへと向いていた。だが、春始は喰おうとしてはいけない禁断の果実に手を出そうとしている。

 

さらには、フューリーの自由から応龍を背負う騎士、城壁から黄龍を背負う騎士となった二匹の龍の逆鱗に触れてしまう事を今はまだ知らない。




二人の背に龍とありますが、刺青ではありません。

オルゴン・エクストラクターによって投影されているだけです。

次回、政征と雄輔によってラウラと鈴はトーナメントでボコボコにされます。

春始は二人を助けようとし、さらにはシャナをレ○プしようと動きます。

見つかった春始は一夏にを含め四人でISを使わず、喧嘩を始めます。

では、次回で!


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二匹の龍が背負うもの

VTシステム起動

男子操縦者達によるヤクザレベルの喧嘩

以上


クラス対抗トーナメント戦。今回はタッグマッチ方式を取るとホームルームで知らされる。

 

この世界では特に制限も無く、政征と雄輔はペアを組み、鈴はラウラと組み、セシリアはシャルロット、シャナは箒とペアを組んだ。

 

一夏はのほほんさんに頼み込み、了承を貰えたそうだ。

 

だが、特訓時は関係なく各々の力をつけるために励み、本番へと準備をしていく。この時の本音はあまりの特訓の密度に震えていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた本番当日。政征と雄輔は口元を釣り上げて喜んだ。その理由はトーナメント表にあった。

 

赤野政征・青葉雄輔VS凰鈴音・ラウラ・ボーデヴィッヒと表示されていたからだ。

 

「よし、第一段階は成功だな」

 

「第二段階は心苦しいが・・・やるしかないな」

 

ここでもし、二人の手にラフトクランズがあったのならば、ペアを組むことはできなかっただろう。だが、今の二人にラフトクランズは無い。

 

だが、これこそが巨悪を引きずり出す仕込みなのだ。己こそが最強だと思っている相手には弱さを見せておくことで、意表を突くことができる。

 

今回の戦いではサプライズも考慮に入れている。戦いをスポーツと思っている者にはいい薬となるサプライズを。

 

 

控え室では鈴とラウラが入念な打ち合わせをしていた。最後の確認の意味を込めて話し合っている。

 

「織斑春始が現れ、私たちの前に立った時・・・急いで離脱する。これでいいか?」

 

「ええ、それと同時に黛先輩に合図してアイツの被害にあった証拠を放送するのよ」

 

トーナメント開催前、鈴は独自に黛薫子の姉である黛渚子と接触しており、タシュ事件や春始の行動を聞いていたのだった。

 

鈴のクラスの中に男に身体を許したという噂がたった生徒がおり、鈴は行動に移し、絶対厳守を条件に話を聞く事が出来た。

 

たった一度だけという条件で身体を許したが、何度も求められ怖くなって逃げ出してから追われないようになったそうだ。

 

話を聞いた鈴は春始の顔写真を持ち、外出許可をもらい街でマイクロレコーダーでの録音の許可を貰いながら証言を集めた。女尊男卑の時世、女性の身で真実を集めるのは容易い。

 

学園内部ではルームメイトであるティナ・ハミルトンに頼み、薫子と共に情報収集を行ってもらった。その結果、一年生の大半が春始と肉体関係を持った事が判明した。

 

今はまだ身篭っていないとはいえ、それは運が良かったに過ぎない。身篭ったと学園内で判明すれば、真っ先に疑いは男性操縦者達に掛かる。

 

だが、春始は口が上手く自分のやった事を一夏達に擦り付けて逃れようとするだろう。鈴はこんな時に自分が春始の行動を把握できるのを皮肉に感じていた。

 

「行こう、初戦の相手はあの二人だ」

 

「専用機じゃなくても強いからね」

 

 

 

 

アリーナへと飛び出すと政征と雄輔が刀と槍を手に仁王立ちをして待っていた。

 

「(打ち合わせ通りに)この試合、私たちが貰うわ!」

 

「(ああ)お前らに勝って、私が正しいという事を思い知らせてやる!!」

 

「やれるものなら」

 

「やってみるがいい」

 

ブザーが鳴り、試合が開始された。鈴とラウラはそれぞれが得意とする距離で二人に向かっていった。

 

鈴は青龍刀二本で政征へと斬りかかり、ラウラは手刀ブレードで雄輔に斬りかかる。

 

鞘に収めたままのシシオウ・ブレードで刃を受け止める政征と、槍の太刀打ちと呼ばれる部分でラウラの手刀ブレードを止める雄輔の姿が全校生徒の前で映る。

 

その姿は扱う武器が違うものの、まさしく騎士そのものであった。

 

「正直、荒事は苦手だが仕方あるまいな。剣は抜くべかざるものと東洋の剣術使いに教わったのだが・・・」

 

「いい加減、その余裕そうな態度がムカつくんだけど?」

 

鈴は分かっている。この姿は悪役に徹していると、隣で槍を扱う雄輔もそうだ。だが、戦いにおいて手加減は慢心に繋がる。

 

故に本気で潰しにかかることにしたのだ。同時に攻撃を仕掛けようとした時だ、突然二人が位置を変えたのだ。

 

「え?」

 

「な?」

 

位置を変えられたことによって鈴は雄輔の槍の一突きを受け、ラウラは政征の居合抜きの一撃を受けてしまう。

 

「あがっ!?」

 

「っぐあああ!」

 

「使い方によっては」

 

「強力な一撃を加える事ができる」

 

政征はGインパクトステークを右手に装備し、雄輔はプラズマ・ステークを起動させた。それを見た鈴とラウラは青ざめた。

 

「(え・・・ちょ!)」

 

「(ま、待ってくれ!)」

 

「撃ち貫く!!」

 

「殴り飛ばす!!」

 

Gインパクトステークの強烈な一撃とジェット・マグナムの一撃を受けた二人はピット近くの壁に左右別々に激突し、膝をついた。

 

しかし、政征は容赦なく今度はブースト・ハンマーを取り出し、それを振り回すとラウラに追撃し、雄輔はステルス・ブーメランを投げ付け、追撃を続けた。

 

「ぐあ!がぁ!」

 

「きゃ!うああ!」

 

観客の生徒達からすればそれは嬲っているようにしか見えない。客席からは悲鳴や人殺しなどといった罵倒が飛び交う。

 

だが、政征と雄輔はお構いなしに攻撃を続け、手を緩めようとしない。急所には当たらないようにしてはいるがダメージなのは変わらない。

 

『Damage Level・・・D・・・確認。Mind Condition・・・・・Certification・・・error《Valkyrie Trace System》・・・・Boot』

 

「な、なんだ!?うああああああああああああああ!!!」

 

システムが破壊される危険性を察知したのか、強制発動にも近い状態で禁断の力である『VTシステム』を発動させたのだ。

 

ラウラはシステムに飲まれていき、その姿を自分達の世界でも見た現役時代の織斑千冬の姿へと変えていく。

 

「来たか・・・」

 

「ならば、そろそろ」

 

「あ、あれって」

 

「鈴!」

 

 

納刀を鈴の目の前ですると合図だと気づき、鈴は急いでピットの近くへ避難した。流石にダメージが多い状態ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その裏側であるアリーナへ続く通路では春始がシャナを追いかけ、追い込んでいた。シャナは追い込まれていたが、場所はアリーナを観戦できる場所だ。

 

「なぁ、俺のものになってくれよ。シャナ=ミアさん」

 

「あなたのもの?私はものではありません・・・!それに欲望をぶつけられるのは気味が悪いです」

 

「なっ!?このアマ!」

 

「きゃあ!?」

 

春始は怒りに任せシャナに詰め寄り、組み伏せるとマウント状態にしてシャナを動けなくした。いくら女性でも、男に組み伏せられられば身動きがとれない。

 

「何をするのです!退いて!!嫌ぁ!」

 

「お前を抱けば俺はあの二人に勝てるんだ!大人しくしろ!!!」

 

学園の制服の胸元を引きちぎり、その新雪のような柔肌に触れようとした時であった。カメラのシャッターを切るような音が連続で後ろから響いた。

 

「な!?カメラだと!?待ちやがれ!!」

 

振り向いた瞬間の顔写真すら逃すまいと連続シャッターを切り続ける音は止むことがない。それを聞いた春始はシャナから離れ、音が聞こえた方向へ向かう。

 

「ちくしょう!逃げられた!」

 

春始は焦っていた。先ほど撮られた写真を千冬や学園長に提出されれば、自分は間違えなく退学させられてしまう。そうなってしまえば野望であるハーレム計画が水の泡だ。

 

「どこにいやがる!ん!?そうか、観客席に紛れ込んだな!!」

 

春始はシャナの事は頭に無かった。シャナは急いでアリーナのロッカーへと向かい、制服に変わるものに着替えようと胸元を隠して歩いて行った。

 

「これで・・・なんとか証拠は抑えられました」

 

「ごめんね、怖い思いさせて・・・」

 

そこにいたのは鈴のルームメイトであるティナ・ハミルトンであった。その手にはカメラが握られている。

 

「良いのです・・・怖くはありましたが」

 

「でも、まさか本当に春始くんがね・・・・信じられないよ」

 

 

 

 

 

 

 

春始が観客席に入るとVTシステムが起動しているところであった。それを見て自分の知っている流れを確信した。

 

「原作通りにラウラが取り込まれたか!よし、ピットはあっちだったな!」

 

春始はピットへ向かって走り出し、到着すると白式を展開し、タイミング的に鈴と入れ替わる形で、政征達が出てきたピットから白式を纏った春始が突撃してきた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!てめええええええええええええ!(ようやく原作通りだ!ラウラを助け出せれば!)」

 

春始の行動は傍目には逞しくヒーローのように映るだろう。だが、現実は甘くはなかった。

 

「ぐああああ!」

 

春始の刃の一撃を簡単にいなしたVTシステムは斬り払いだけで春始を吹き飛ばした。それでも春始は体勢を立て直し、向かっていく。

 

その間に雄輔は一夏に通信で来るように連絡をする。今の自分達ではVTシステムからラウラを助ける事が出来ないからだ。

 

「一夏、お前もこっちへ来い。お前にとっての試練だ」

 

「?試練?」

 

一夏は教わっていたオルゴン・クラウドの転移で政征達のもとへと来た。一夏は見ただけで状況を把握する。

 

「あのドロドロな千冬姉は?」

 

「あれはVTシステム、世界最強の動きをトレースする代物。搭乗者の命と引き換えにな」

 

「なんだと?どういうことだよ!」

 

「あの中にはラウラが取り込まれているんだよ。お前の兄が戦っているがな」

 

「な・・・!っ!?」

 

驚愕と同時に一夏は何かを感じ取っていた。それは聞き逃してしまうようなか弱い声で。

 

『マスター・・・を・・・助け・・・こんな・・・のぞんで』

 

「(今の声・・・ISの意志?でも、なんで俺・・・それが聞こえるんだ?)それより、試練ってどういうことだよ?雄輔」

 

「姉である織斑千冬と兄である織斑春始との決別だな。家族としてではなく、お前にまとわりつく『織斑千冬と春始の弟』という因縁との」

 

「千冬姉と春始兄との決別・・・」

 

「擬似とはいえ、世界王者を成し遂げた織斑先生を倒せば、お前は織斑一夏というたった一つの存在になれる。同時に織斑春始を越えた事にもなる」

 

一夏はそれを聞いてラフトクランズ・クラルスのソードライフルを見つめる。この戦いは自分の姉と兄を越えろと、遠回しに言われているのだ

 

言葉の真意が分かるのも一夏の中でとある才能が、殻を破りかけている為であり、本人は自覚できてはいない。

 

「確かに俺にとっての試練だ・・・弱かった俺が助けてくれた恩人や勝てなかった相手を倒さなければならないのは」

 

「弱者や不要とされるものは虐げられる。どんなに綺麗事を言ってもそれが真理だ・・・政征も俺もそれを知っているからこそ鍛え続けている」

 

かつて政征はシャナを拉致され、望まぬ戦いをした。雄輔は自分を守ろうとしてくれたフー=ルーを傷つけてしまった。それを二人は一生払拭できないだろう。

 

一夏には姉と兄の存在という払拭できないでいた存在がある。この戦いでそれを乗り越えられるチャンスなのだ。

 

「・・・・援護はしてやる。ラウラを助け出すにはラフトクランズの力を信じろ」

 

「ああ!」

 

一夏はラフトクランズ・クラルスを纏ったままVTシステムへと向かっていく。それと同時に春始は鈴のいる方向へ吹き飛ばされた。

 

「ぐ・・・う!り、鈴!鈴ーーー!」

 

「っ!?」

 

「お前を抱かせ、ぐわっ!?」

 

倒れようとも鈴を手篭めにしようとした春始へ鉄塊がぶつけられ吹き飛ばされた。それをやったのは政征だが、手にはブースト・ハンマーが握られている。

 

「こんな時でも女を求めるか・・・」

 

「ぐ・・うう!邪魔しやがって!」

 

政征が春始を足止めしている間、雄輔は砲台役として一夏を援護し、一夏は隙を伺っていた。政征へは観戦者の生徒救世主のごとく登場した春始(ヒーロー)を痛めつけていることに対しブーイングを叫んでいる。

 

「人でなし!」

 

「なんで春始くんを痛めつけてるのよ!!」

 

一夏は隙を見つけ出し、シールドクローをクローモードに切り替え、突撃していた。

 

「ラウラァーー!今助け出してやる!!オルゴン・クロー!」

 

VTシステムで投影された千冬を掴み、オルゴンソードでその中心を引き裂いた。粘液から解放されるようにラウラが出てくるのを見た一夏はソードライフルを投げ捨て、ラウラを引きずり出すと偽物の千冬を投げ飛ばした。

 

「良かった、ラウラは無事だ!鈴もいるのか」

 

鈴のいる場所へ向かい、一夏はラウラを渡した。それを確認した鈴はラウラを連れてピット内部へと避難した。

 

「ああ、鈴とラウラが!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が避難してしまったのを落胆するが、同時に闘技場のピットの扉だけが閉鎖されていく。そこに残ったのは男性操縦者の四人のみ。

 

「あー、あー、マイクテスト!皆様!トラブルがありましたが、ここで特別サプライズのエキシビジョンマッチの始まりです!!」

 

「どういうことだ?」

 

教師陣も観客である生徒達も各国の企業のスカウトマン達も突然放送された黛薫子の言葉に困惑していた。

 

「な、なんだと!?」

 

「え・・え?・・・・そっか、そういう事か」

 

春始はなんなのか分からず、一夏は意図を理解していた。周りも困惑してはいたが観客席に座り直した。サプライズだと説明されては見ない訳にはいかない。

 

政征と雄輔は対立するかのように二人を待っている。春始は二人の前まで行き、一夏もそれに続く。

 

「・・・・さて、男とくれば好む者が三つある」

 

「今の俺達は飲めないが、酒に女・・ギャンブルだな」

 

「だが、そんなの・・・あほくさくてしゃーないわ」

 

政征の口調が関西弁に変わっていた。だが、雰囲気は本当に怒り出した時と全く同じになっている。

 

「男はほんまの喧嘩をやってなんぼや、なぁ?雄輔チャン、一夏チャンよぉ?」

 

「ふっ、兄弟も臨戦態勢のようだな?」

 

二人はISを解除し、生身の姿となる。だが、政征の手には拡張領域から取り出してあった黒塗りの鞘の収められている匕首があった。

 

それを地に置き、学園の制服のボタンを外していく。雄輔もそれに倣ってボタンを外していた。

 

「喧嘩だと?俺に勝つつもりか?」

 

「四の五の言わず脱げや、それとも愛しの姉チャンの力使わな、勝てんのか?」

 

「んだと?」

 

「ISじゃなく、本物の切った張ったの喧嘩か・・・いいぜ。ISじゃない素手の喧嘩・・・受けて立つ!!」

 

一夏はクラルスを解除し、制服のボタンを外すと制服の上半身を脱ぎ捨てた。毎日の訓練の成果が身体に現れているのか、十代の身体としては筋肉がつき、腹筋も割れており、逞しい身体つきになっている。

 

政征も一夏と同じように制服の上半身を脱ぎ捨てた。身体つきはやはり逞しいが、背中には投影された和彫された刺青のような応龍が浮かび上がっている。

 

「なに・・・あれ?刺青・・・じゃないよね?」

 

「まさか・・・」

 

今度は雄輔も制服を脱ぎ捨てる。逞しい身体つきの背中には政征とは違い、同じく和彫の黄龍が威厳を見せつけるように雄輔の背中に浮かび上がっていた。

 

「お、お前ら!マジでやる気かよ?」

 

「なんだ?達者なのは口だけか?」

 

「て、てめえ!良いだろうやってやるよ!!」

 

春始もISである白式を解除し、制服を脱ぎ捨てる。三人とは違い年齢相応の身体付きではあるが、それでも筋肉はある肉体だ。

 

これから始まるのは暴力の宴、男が男の矜持を持って戦う舞台。それは今となっては失った男が男たるものであった。

 

「行くで、一夏チャンに春始よぉぉぉ!!」

 

「やれやれ、言動が変わってるな。さぁ、俺達の喧嘩の花!咲かせようじゃねえか!!」

 

政征は匕首を鞘から引き抜き、普段では考えられないスピードで走り出し向かっていく。雄輔もそれに続く形で走り出した。

 

「うおおおおおお!」

 

「行くぜええええ!!」

 

四人の戦いが始まる同時刻、ティナは鈴から連絡を受けていた学園長に春始が行っていた行為の証拠を提出していた。

 

放送室では薫子が放送の準備を整えている。だが、政征達の姿がどうしても龍が○くのキャラクター見えてしまっており、作業が少ししか進んでいなかった。

 

「雄輔くんが桐生さん、政征くんが真島さん・・・・ああ、すごいわ!本物の喧嘩が見れるなんて!」

 

喧嘩が始まると同時に政征は春始相手にドスで斬りかかり、蹴りで翻弄したりしているが、雄輔と一夏は四つ手の掴み合いで拮抗している。

 

「くそがあああああ!」

 

「なんや、一丁前に吠えるんか?なら、これならどうやああ!いやあああ!」

 

政征は匕首で突こうと繰り出し、春始はギリギリで避けるが追撃の下段蹴りを繰り出され、それをも避けると油断を付くように刃を突き刺そうとするのを避け、政征は匕首を殴って自分の手元に引き戻した。

 

「よっと、やるやないけ!」

 

「はぁ・・・は(なんだよ、今のバカみてえに早かった!)」

 

「(さっき政征くんが再現したのって・・・極み技よね?)」

 

本来は力押しに近い技巧的な技を使うのに対し、狂気状態の政征は速さで翻弄するタイプに変わるのだ。薫子はその技の原点を知りつつ、肉眼で見れたことに感動した。

 

「オラァ!!」

 

「ぐあっ!」

 

四つ手を解いた雄輔と一夏は拳と頭突きの応酬で唇を切ったり、鼻血がでていた。

 

「やるじゃねえか・・・・一夏」

 

「俺だって、訓練を欠かしてないんだ、とうぜんだろ」

 

男が命を張った喧嘩。最初は悲鳴を上げていた者達も映画などでしか観た事のない、本当の信念をぶつけ合う喧嘩に魅せられ引き込まれていた。

 

「後は、この喧嘩が終われば放送するだけ」

 

薫子も喧嘩が終わるタイミングを見計らうようにして放送できる瞬間を待っていた。

 

「今だ!」

 

春始が倒れたと同時に放送したのはシャナが襲われた時の音声だ。ティナから提供されたデータをコピーしたもので、それを放送したのだ。

 

「なぁ!?」

 

春始はその放送を聞いて慌てふためいていたが、それ以上に政征の怒りが頂点に達していた。

 

無論、雄輔も例外ではない。

 

「お前・・・人の女に手出そうとしてたんか・・・?」

 

「違う、俺はただ!」

 

「普段は冷静に考えるんだが・・・頭に来ちまったよ」

 

政征と雄輔は咆哮を上げていた。それはまさしく、春始が二匹の龍の逆鱗に触れてしまった事を意味していた。




ここまでです。

春始への罰は次回です。

ヒロイン達からの罵倒、IS学園からは追放かな?

春始はISを盗み、それを手土産に何処かへ逃亡するかも?

では、次回で


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三つの覚悟

春始の処遇。

一夏は越えなかった。

大きすぎる借り。



以上


「うああああああああああああああ!がはっ!!」

 

暴走した春始は放送室へ突撃しようとしたが、一夏がそれを飛び蹴りで阻止した。

 

「春始兄、この喧嘩で決着つけようじゃねえか・・・俺もあの二人のように背負う覚悟が出来たからな」

 

その言葉に反応したのか、一夏の背にも何かが浮かび上がってくる。浮かび上がってきたのは霊獣の麒麟であった。

 

一夏の背に麒麟が浮かび上がったのは、一夏が持つ優しさと必要であれば流血を厭わない戦いをする覚悟を決めた証だろう。

 

「ほう、一夏チャンも覚悟を決めたらしいなぁ・・・。ぶちのめしたい所やが、譲ったるわ。その代わり相手してもらうで?雄輔!」

 

「やれやれ、それならとことんやってやるよ!政征!!」

 

再び喧嘩が始まってしまうが、それ以上に春始の行いを放送している事が観客にとって大事件であった。

 

『つまり、身体を許してしまったと?』

 

『はい・・・』

 

音声加工はしてあるが、立派な証言となっているため隠し通すことはできない。この放送を聞いた千冬は、倒れそうになるくらいのショックを受けてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「い、一夏・・・てめえ!」

 

「ISなんかじゃケリはつけられねえ、俺は素手でも勝ってやる!」

 

「上等だあああああ!!」

 

一夏は春始からのパンチを受けるが、応えた様子は無い。むしろ、あまりの軽さに苛立ちを覚えていた。

 

「軽ィ・・・軽すぎんだよぉ!オラァ!!」

 

「がはっ!?」

 

一夏はアッパーを一発、春始の顎へと命中させた。その重さは昔の一夏からは考えられないほど重い一撃だ。なんとか春始は立ち上がるが、足が震え始める。

 

「てめえは小さい時から俺の事をなぶり続けてたよなぁ・・・ああ?」

 

今度は大振りのストレートパンチを浴びせる。春始なら簡単に避けられる動きだが、足に来ていてそのまま殴られてしまう。

 

「げあっ!」

 

「都合よく隠して、千冬姉には仲の良いように装い、勝手に引き立て役にしてたよなぁ?なぁ!!」

 

普段の一夏からは考えられない程のキレっぷりに観客席に座っている箒達も驚いていた。

 

「うおお!オラぁ!」

 

今度は髪の毛を掴み、そのまま殴り飛ばす。もはや、若者の喧嘩ではなく筋者の喧嘩のやり方に変わってきている。

 

「うごっ!て、めえ・・・調子に乗るんじゃねえ!!」

 

「ぐはっ!」

 

春始は怨恨の篭ったパンチで一夏を殴ると頭を掴み、膝蹴りで何度も腹部を蹴り続ける。

 

「ぐっ!ぐう!」

 

「てめえが!俺以上に!なる事が!あっちゃならねえんだよ!ハーレムを作るのも!主人公なのも!この俺だ!!」

 

「ぐっ!何を訳の分からない事、言ってんだよォ!」

 

「ぐはっ!?」

 

左のフックパンチを食らわせ、追撃を逃れるとフラフラしながらも構えを取った。一夏は根は優しいが、やはり男の本能、闘争心を持っていたのかこの喧嘩を本気で楽しみ始めている。

 

「どうしたんだよ、ビビってんのか?来いよ」

 

「う・・ううう」

 

春始は一夏から溢れる闘気に当てられていた。今まで各下だと思っていた相手が自分を越えようとしている現実を知ってしまった。

 

その意思は生半可なものではない、本当の信念を持った男に成長した一夏に対して恐怖も抱いた。一歩たじろいだ瞬間、政征とぶつかってしまう。

 

「ええとこで、喧嘩の邪魔すんなや!ボケがァァァ!!」

 

「ぐわっ!」

 

ドスは使わず、勢いのある蹴りだけで政征は春始を一夏の近くへと飛ばした。確認した後、奇声に近い声を上げながら雄輔へと向かっていくが、カウンターで投げ飛ばされていた。

 

「(な、なんだよ・・・コイツ等、たかが喧嘩に此処までマジになって、頭おかしいだろ!!)」

 

一歩一歩、一夏が近づいてくる。雄輔と政征が戦っている余波で切りつけられたりはしているが、それすら意に介していない。

 

「あ・・・ああ・・く、来るんじゃねええ!!!」

 

「俺はよ、政征が本気で切れた時のレベルで腹が立ってんだ。春始兄、自分が殴るのは良いが殴られるのは嫌だって理屈は通らねえよ」

 

春始にとって三人は狂人に見えていた。春始にとっての喧嘩とは憂さ晴らしと同様だ。だが、この三人は違う。喧嘩に命をかけ、己の信念をぶつける手段にしている。

 

それが春始にとって狂っているように見えるのだ。喧嘩に命を懸けるなど馬鹿げていると。

 

「どうしたんだよ?今更、泣きごいか?俺の時は聞く耳を持たなかった癖によ・・・」

 

初めて聞くドスの聞いた一夏の低い声に春始は益々、震え上がった。逃げようとしても膝が笑っていて逃げることができない。

 

「あの時みたいに言ってみろよ。お前は俺の奴隷なんだからなってよ・・・なぁ、なぁ!」

 

「う・・・あああ・・」

 

春始の髪の毛を掴み、引き寄せて凄みを利かせる一夏に怯えたような声しか出せない。

 

「男なら最後まで意地張ってみせろってんだよ!」

 

容赦のない一夏のストレートパンチが顔面に入り、春始はうつ伏せに倒れる。それでも、意地があるのか倒れようとしない。

 

「天才の俺を、舐めるなァァ!」

 

春始は自信の篭ったパンチを放ったが、それを一夏は頭突きで返すように受け止めた。

 

「ぐああああ!?こ、拳割り・・・だと?」

 

「ふん」

 

拳を砕かれた春始は砕かれた手の手首を押さえながら、膝をついた。

 

「たった一つの優しさだけは感謝してたさ・・・もう、覚えてないだろうけどよ」

 

「な、何を。ぐはっ!」

 

一夏は春始からマウントを取ると重みのあるパンチを一発ずつ繰り出し始めた。

 

「うあああああ!うらぁ!」

 

「ぐぶっ!がはっ!」

 

一発一発、殴る度に一夏の拳に血が付着していく。長年の憎しみと怒りが篭っている拳は振り下ろされるのが止まる事はない。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・!ううあああああ!!」

 

「あ・・・・が・・・」

 

本気で殺すつもりで繰り出したパンチが届く前に、二つの影が一夏にタックルをしていた。それは傷だらけになった政征と雄輔であった。

 

「何をやってんだ、バカ野郎!」

 

「勝手に、越えようとするな!その一線を越えたら、二度と戻ってこられなくなるぞ・・・!こいつを殺したところで何になるってんだ!!」

 

「政征、雄輔・・・・」

 

自分の行動を戒めてくれた二人に一夏は怒りが急速に冷めていった。それと同時に自分が怒りに我を忘れていたのだと自覚していく。

 

「先走るなよ・・・いつか、最後の一線を越えなきゃならない時が来れば、俺達も一緒に越えてやる!」

 

「だから、踏み止まれ・・・!」

 

「ウゼえんだよ・・・お前ら・・・」

 

三人が振り返るとそこには白式を纏った春始が零落白夜を発動しようと、雪片弐式を手にしていた。

 

「もう、許さねえ・・・お前ら全員死ねええええええええ!!」

 

「っ!!」

 

ボコボコにされた事を恨み、春始は零落白夜を発動させ距離が近い一夏へと振り下ろした。だが、その光の刃が届く前に春始は向かい側の壁に激突し倒れていた。

 

「ぐべらぁぁ!?」

 

その理由はアリーナの観客席にあった。エキシビジョンであり、ISを使わず生身で戦っていた事もあってシールドバリアは張られていなかった。

 

それが功をそうし、アリーナへ侵入した鈴が背後から衝撃砲を春始へ放ったのだ。鈴はすぐにISを解除し一夏へ近づくと、持っていたハンカチで拳を拭い始めた。

 

「貸し一つね。それにあの二人に感謝しなさいよ?アンタが人殺しになりそうになったのを、止めてくれたんだから」

 

鈴の指摘は最もだった。一夏が振り返ると二人は背中を向けて座っていた。その背にはハッキリと、天へ昇る応龍と中心に座す黄龍が覚悟を示すかのように浮かび上がったままであった。

 

「今のあの二人は・・・・・龍騎士か、デカイ借りが出来ちまったなぁ」

 

そう、つぶやくが一夏の背にも浮かび上がった麒麟も二人と同じく、覚悟を示すかのように背中に浮かび続けていた。

 

「(応龍に黄龍・・・そして麒麟・・・これは一面トップね)」

 

 

 

 

 

 

 

その後、トーナメントは滞りなく行われたが、データ収集のための一回戦のみとなってしまった。それでも、戦いは白熱していたが観客はもの当たりなさを感じている。

 

理由は男性操縦者達が始めた喧嘩にあった。今の時代では犯罪ともいわれるほどの喧嘩を生で観てしまったのだ。映像中継の格闘技でも、何でもない原始的なぶつかり合いを。

 

女性でありながらも戦闘狂、血を見るのが好きな者などもおり、ISの試合は綺麗すぎて退屈にしか映らなくなってしまっていた。

 

男は弱者・・・。今の常識を覆す出来事を目撃したIS学園の生徒達は恐怖もあった。もしも、ISを使わず男と戦えと言われたらどうなるか?

 

普段から軍事レベルの訓練や格闘技、護身術などを嗜んでいれば勝てるかも知れない。だが、生徒の全てが嗜んでいる訳ではない。

 

ISという武器がなくなれば生身で勝負するしかない。体格、筋力、スタミナ、速さ、どれもが男に及ばないとなればどうなってしまうか。

 

それを考えるだけでも恐怖でしかなかった。

 

 

 

 

「くそっ!出せよ!ここから出せええええ!」

 

春始はVTシステムの事件とエキシビジョンが終了したと同時に特別監禁独房へと移されていた。自分の行ってきた不祥事が放送によって明るみにされ、白式は没収。処遇が決まるまでは出ることは許されない。

 

苛立ちを隠せず、鉄格子をガタガタと揺らす。自分の計画が完璧ならば原作通りのハーレムができるはずだと思っていたが、結果は独房という現実。

 

更には狙っていたヒロイン全員と姦通する事が出来ずじまい。予定では全員が自分の子供を宿しているはずだった。

 

全員が自分の物になった時を見計らって一夏を完全に抹消するはずが、全ての計画を達成する前に潰された。原因はあの二人だった。

 

「俺のハーレム計画を邪魔したあいつら殺してやる・・・!必ずぶっ殺してやる!待ってろよ!!赤野政征!青葉雄輔!!」

 

恨みの声は誰にも届くことはなく、響き渡るだけであった。

 

 

 

 

 

その頃、アシュアリー・クロイツェル社に買い取られた白式はコアのみを取り替えられ、返却するための作業を行っていた。

 

「お帰り、白騎士・・・辛かったよね」

 

束は丁寧に取り出された白式のコアに触れながら謝罪していた。まるでDVをする男を見抜けずに娘を嫁がせてしまった母親のようだ。

 

「コアの取り付けは慎重にね~?」

 

白式に搭載することになったコアは束が新たに作り上げた意志のないコア(・・・・・・・)である。完全な機械となっているために感情変化や意志を伝える事をすることはない。

 

零落白夜に関しては使用できるよう、コピーデータをインプットしておき、最後の情けとして二次移行(セカンド・シフト)を一回のみ行えるようにした。

 

「白式は返却されるよ・・・君の元にね・・・安心しなよ?」

 

束の両頬にはまるでフューリーの顔にあるような紋様が怒りと共に、明確な怒りが宿っていた。手には白式のコアを握ったまま・・・。

 

「白式のコア・・・君には馬を手懐けてもらうよ?角を持った一頭の馬をね・・・・そろそろ、二機のラフトクランズのオーバーホールも終わるし」

 

2体のラフトクランズは早く主人のもとへ、行きたいと内部にある意思は訴えかけていた。ラフトクランズ達は内部にあるシステムが新たに変化させており、それは騎士として更に上へ行く進化の前触れだろう。

 

主人達が得た龍の力を受け入れようと器を用意しために一秒でも二秒でも早く、会いたいと気持ちだけはよく分かるつもりではある。

 

今はまだ、その時ではないと束は優しく説得して、二人を安堵させたのであった。




背中にあるのは刺青じゃありません。

もう学園にはいられない春始、


次回・・揺れる心の錬金術師。

春始がスパロボに出てくるアインストの女と接触?

次回で!


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番外 和尚がツー

絶対に笑ってはいけない騎士団24時

以上




皆様、謹んで御慶を申し入れます。

なかなか続きが浮かばず更新が滞っていますが完結を目指します。

やはりこの時期はこれかと思い、投下。


正月、それは新しい年明けであり新たな試練の幕開けでもある。

 

「という訳で男性三人とくじ引きで決めた二人は参加してもらうよ」

 

突然現れた束によってバスに乗せられた政征、雄輔、一夏、鈴、箒の五人は頭上にハテナマークが浮かんでいる。

 

「あの?これってアレですよね?」

 

「大晦日でよくやってる」

 

「ガ○使よ」

 

「私も観ているな、少しだけだが」

 

「そーそ、福笑いって言うの?そういった縁起も込めてね」

 

この兎、もはやノリノリで進行中である。

 

到着を知らせるブザーが鳴り、バスが停車する。降りるとそこには中世の騎士が出入りしていた城のような建物があった。

 

「それじゃ、案内する前にみんな着替えてねー」

 

五つの着替え場所があり、指示されるがまま着替えに向かう。

 

「みんなー、着替え終わったかな?」

 

「「「「「はーい・・・」」」」

 

「それじゃ、順番に呼ぶよー?先ずはマーくんから」

 

赤野と書かれたドアが開き出てきたのはF○teに登場する太陽の騎士、ガ○ェインの姿(最終再臨状態)に着替えた政征であった。

 

「なんだか、借金返済を迫る騎士みたいだねー。あとおっぱ」

 

「それ以上はダメです!」

 

「はーい、それじゃユーくん」

 

青葉と書かれたドアから出てきたのは同じ作品のランス○ットの姿(最終再臨)の雄輔である。ただし、剣のクラスで召喚されたもので高身長な彼にはマッチしていた。

 

「うーん、ヒトヅマニアになりそうで駆け落ちしそうな騎士だ」

 

「言わないでください・・・」

 

流石にキャラクターを知っているのか、雄輔は沈んでいた。

 

 

「次、いっくんね」

 

「分かりました」

 

織斑と書かれたドアから出てきたのは右腕を完全に覆った鎧を着た騎士の姿だ。ウイッグによって長い金髪を一本にまとめられている。

 

それはベ○ィヴィ○ールの姿であった。

 

「いっくんだけど、なんだか違う気がする」

 

「選んだのは束さんでしょ?」

 

「にゃはは、気にしない気にしない!」

 

 

「じゃあ、次!鈴ちゃん」

 

「わ、わかりました」

 

凰鈴と書かれたドアから出てきた姿を見て二人は吹き出しかけた。なぜなら彼女が着ているのは赤い外套を下半身に隠すべきところは隠されてはいるという、所謂・・・アー○ャーコスの遠○凛の姿だったのだ。

 

「す、すっごく恥ずかしい!寒くはないけど」

 

「束さんのお手製の衣装だからねー、最後は箒ちゃんだよー」

 

「わ、わかってます!」

 

篠ノ之と書かれたドアから出てきた彼女を見てほかのメンバーは一斉に吹いた。

 

箒の姿はアズー○レーンの重巡洋艦の○雄の衣装だった。

 

「き、騎士に関係ないわ!アハハハハ!」

 

「わ、笑うなァァァ!!!」

 

「巷で話題・・・うくくく」

 

「わ、笑うなって、ぐっ・・くくく」

 

「ほ、箒・・・くく」

 

全員が笑いをこらえる中、束だけが平然と指示をする。

 

「それじゃ、またバスに乗ってね?それとバスに乗ったら笑っちゃダメだよ?もし、笑ったらキツ~イお仕置きが待ってるからね?」

 

促されるようにバスへ乗るとスタートの合図らしき音が鳴り、全員が座る。

 

男性三人は少し動きづらそうで、鈴は普段通りに箒は見えそうになる下着を隠していた。

 

バス停に差し掛かり、そこて一旦停車すると誰かが乗り込んでくる。どうやらラウラとシャルロットのようだ。

 

「ラウラ、大丈夫?乗れる?」

 

「心配するなぴょん!一人でも乗れるぴょん!」

 

ウサ耳を頭に着け、ランドセルを背負ったラウラの姿と口調に耐えられなかった三人は臨界した。

 

「「「「「プッ、クハハハハハハハ!!」」」」」

 

 

 

 

 

          『デデーン

 

         『全員 アウト

 

 

 

「しまった!」

 

「やってしまった!」

 

「笑うだろ、こんなの!」

 

「なんでこんな・・・!」

 

「不意打ちだろう!これは!!」

 

 

バスに次々とお仕置きをする兵士の姿をした人間が入ってくる。全員が後ろを向かせられ、次々にお尻を叩かれる。

 

「あいっ!?」

 

「っぐうう!?」

 

「痛ってえ!」

 

「痛っ!?」

 

「つうう!」

 

殴り終えたと同時に兵士達は全員退散していった。これを二十四時間耐える事になるとは思いもしなかった。




続くのかな?


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心の決着

臨海学校の準備。

上層部達の裏工作によって女の敵が復帰する

ある女の子が振られる。


以上


薄らと目を開き、白い天井が見える。周りを見渡すと男性三人が誰かに説教を受けている様子が見えた。

 

彼らの背中が視界に入り、二匹の龍と麒麟が浮かび上がってるように見えた。

 

「私は・・・」

 

「目が覚めたか?ラウラ」

 

「教官?」

 

三人に説教を終えた千冬は、ラウラが目覚めた事に気づき、近づいてくる。

 

その目は自分が知っている千冬とは違い、何処か優しげで疲れきっているようにも見える。

 

起き上がろうとするが、全身に激しい痛みが走り、動くことができない。千冬は起き上がろうとするのを制するように首を横に振った。

 

「全身疲労に筋肉痛、ISに取り込まれた影響で筋が切れかかっている。無理して動くな」

 

「取り込まれた?」

 

「ああ、お前の機体にVTシステムが搭載されていたのだ。巧妙に隠されてはいたが、恐らく・・・破壊されるのを恐れた機体自身が危機回避の為に発動したのだろう」

 

「そんな事が・・・」

 

「今現在、調査を依頼しているが大した事にはならないだろう。赤野と青葉がそういった関係の知り合いが居るそうだから頼んでみるとの事だ」

 

「・・・・」

 

ラウラは信じられない思いで一杯であった。あんなにも憧れた織斑千冬という存在が小さく、ちっぽけに見える。それでも憧れた事は事実であり、責めるつもりもなかった。

 

居場所であった軍に裏切られ、憧れた人物は弱い存在であった。力だけが全て、自分の常識であったものが改めて壊された気がした。

 

だが不思議と悪い気はしていなかった。別世界の自分、仮面をつけて戦う自分に一歩近づくことができたのではないかと思えたのだ。

 

「教官・・・私は私になりたいです。他の誰でもなく、私が目指す私に」

 

「成ればいい、私が導けなかった境地へな。それはそれとして貴様等・・・」

 

「「「は、はい!」」」」

 

声を出したのは一夏を始めとする男性操縦者達である。さらに言えばこの三人、未だに背中にある龍と麒麟が消えていない。

 

「背中にそんなものをやりおってぇーーーーー!!」

 

「わー、待ってください!俺達、刺青なんて彫ってませんよー!!!?」

 

「そうです!そもそも、彫ったら退学じゃないですかー!!」

 

「問答無用!一夏もだ!なぜ、そんなものを背中に入れた!?」

 

「誤解だって!気づいたら浮かび上がってたんだよ!!」

 

「ほう・・・そうまでして誤魔化すか?」

 

千冬からはまるで、七つ集めれば願いが叶う龍の玉がある世界の戦闘民族のようなオーラが出ていた。それも金色ではなく青に近い。

 

「初めてだよ。怒りというものは通り越すと穏やかになるのだな」

 

「あ、あの・・・織斑先生?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

殴られそうになり、政征はその拳を受け止めたがあまりにも重く、そして強かった。

 

「止める元気があったか・・・ん?刺青が消えた?」

 

三人の背中から覚悟の証である龍と麒麟の彫りが突然消えたのだ。背中は元の肌に戻っており、跡も残っていない。

 

「どういう事だ?」

 

「さぁ?俺達にもわかりませんよ」

 

「刺青の件は解決したが、喧嘩の件は解決しとらんぞ?」

 

「千冬姉、根に持ちすぎだろー!」

 

「うるさーーーい!ここでは織斑先生だ!」

 

三人を追っていく千冬を見ながらラウラは笑っていた。馬鹿にしているのではなく、心から楽しくて笑ったのだ。

 

これが人の温かみというものか、自分にあった新たな発見をラウラは噛み締めながら眠りに就いた

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしたドタバタが終わり、特別監獄室から春始は出されていた。白式の方も返却され、元の学生生活に戻れるよう手配が進んでいる。

 

しかし、実際は女性利権団体に属する一人の教師が手を回し、学園の大半の教師に賄賂を握らせ、大半の教師が賛同したのだ。

 

無論、学園長は抗議したが、IS委員会からの要望だと言われ、引き下がるしかなかったのだ。これには十蔵自身も情けないと苦虫を噛むような思いである。

 

「情けないこと限りないですね・・・」

 

その呟きは誰にも聞かれることはなく、ただ部屋の中で消えていった。

 

 

 

 

 

「はは、ようやく監獄から出られたし、外にも出れて気分が良いぜ!!」

 

春始は監獄から出ると同時に学園の外に出ていた。無論、一般人に紛れた監視は付いている。

 

「おお?良い女発見!さっそくいただくかね」

 

「見つけました・・・・転生のルーツ」

 

「キミ、一緒に遊ばないか?」

 

「構いませんよ」

 

その夜、久々に女の柔肌を貪った春始は上機嫌で学園へと帰った。だが、彼は気づいていなかった一人の女学生がホテルに入る瞬間を撮影していたことを。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、春始は復帰した事を千冬の口から告げられたが、女生徒達は歓迎的ではなかった。それどころか軽蔑の眼差しや避けているようにも見える。

 

その理由は単純であった。撮影した女生徒が交流サイトやグループを通じて、彼が女性とホテルへ入る写真を画像で回されていたのだ。

 

「(なんで俺が・・・避けられるんだよ!?)」

 

休み時間、政征達が居る方へ視線を向けるが、何も関与してはいないという態度をしている。それが気に食わなかったのか、春始は政征に近づくと胸ぐらをつかんだ。

 

「何をする・・・!?」

 

「るせえよ!お前が変な噂を流したんだろ!?とっとと吐きやがれ!」

 

「ぐっ!」

 

締め上げている状態に近い為、政征は息苦しくなってくる。だが、抵抗したら間違いなく荒れるだろう。

 

見かねて春始の手首を掴んで止めたのは一夏であった。表情は普段通りだが内面では怒りがたぎっている。

 

「言いがかりはやめろよ。春始兄、政征と雄輔はずっと俺と訓練してたし、噂なんか流す奴じゃない」

 

「引っ込んでろ!俺はコイツに・・・・ぐあ!?ああああっ!」

 

一夏は手の握力をかけて春始の手首を強く握り始めた。今までの一夏からは考えられない握力の強さで、春始は痛みに悶えた。

 

「いい加減にしろよ?何で復帰できたかは知らない、でもな、春始兄の自分勝手な行動で迷惑する奴もいるんだよ」

 

一夏の変わりように春始は憎しみがせり上がってくる。今まで自分の格下でしかなかった弟が自分に逆らうのかと。

 

逆らわないのが当然だと身体に教え込んできたはずが、逆に今度は自分が間違いを指摘される立場に立ってしまっている。

 

こんな事はありえない。何かの間違いだと考えるが痛みが現実であることを教えている。

 

「これ以上は周りの迷惑にもなるから席に戻ってくれ」

 

一夏が冷静に意見するとそれを肯定するかのように学園のチャイムが鳴った。去り際に毒づくと春始は乱暴に席へ座った。

 

その間、ほんの数センチだけ机を女生徒から離されていたのは知られていない。

 

 

 

 

 

 

放課後、春始は姉である千冬に呼び出された。何やら重要な話があるとの事だ。

 

「なんだよ?千冬姉、話って」

 

「ああ、話をする前に」

 

千冬は春始の頬を平手でパンッと殴った。不意打ちであったために春始は床に倒れる。

 

「ってええ!いきなり何すんだよ!?千冬姉!」

 

「・・・・そんな事を言えるのか?この大馬鹿が!」

 

千冬の剣幕は物凄いものになっている。教師でも姉としてでもない、一人の女性として憤りを春始に見せているのだ。平手打ちで殴ったことがその象徴といえる。

 

「な・・・」

 

「お前は何人の女に手を出した?」

 

「そ、それは・・・」

 

「言え!何人手を出した!!?」

 

「ク、クラスの人数くらい・・・」

 

それを聞いて再び千冬は平手打ちをする。

 

「春始、言いにくいがお前を臨海学校に参加させる訳にはいかん」

 

「な、なんでだよ!?」

 

「自分が行ってきた事を少しは考えろ!不純異性交遊をしていた者を露出の多くなる水着を着た異性だらけの場所に連れていけるか!!」

 

「ぐっ・・・」

 

正当な言い分に春始は黙るしかない。自分が行ってきた事の結果がこれだ。

 

「臨海学校時の期間は学園で大人しくしておけ、もし違反すればIS学園から退学処分がくだされることを忘れるな!要件はそれだけだ」

 

用件を伝えた千冬は去っていったが春始は床を殴りつけていた。だが、そこに道具となるものがある、そう・・・返却された白式だ。

 

「俺にはまだ、コイツがある・・・コイツであの二人を殺し、一夏を再起不能にしてヒロイン全てを喰ってやる!」

 

白式に変化は無い。だが、内面・・・意志と言える部分だけが違っていた。自分の手元にある白式が抜け殻になっている事をこの時は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校が一週間後に迫った日、政征は少しだけ不機嫌であった。政征は臨海学校に対して良い思い出がない。

 

それはかつて、自分のいた世界で政征は私怨に駆られた一夏に零落白夜によって斬りつけられ、死にかけた事があったからだ。

 

無論、それは自分の世界で起こった事ではあるが、それでも政征自身も一人の人間。死にかけた出来事はなかなか払拭できない。

 

「嫌な予感がするな・・・」

 

「あの時のことか」

 

雄輔もあの事を未だに払拭出来た訳ではない。やはり二人にとってはそれほどまでに根付いているのだ。物思いに耽る中、シャナが付帯に声をかける。

 

「あの、政征?鈴さん達から買い物行かないかと誘いが来てるのですが・・・」

 

「行くしかないよな」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして三日後と迫った日の日曜日、ショッピングモールへとメンバーで赴き、水着などを購入する事にした。その途中・・。

 

「一夏!」

 

「一夏さん!」

 

「ん?おお、弾じゃねーか!それに蘭ちゃんまで」

 

「は、はい」

 

一夏は中学生時の親友である五反田弾、その妹である蘭と偶然にも鉢合わせたのだ。

 

「元気そうだな?相変わらずハーレムフラグ立て・・・って・・・その身体付きどうしたんだ!?ガッシリしてて、全くの別人じゃねーか!」

 

一夏の肉体の変化に弾はいち早く気づいた。毎日見ている者と稀に顔を合わせる者とでは印象は当然違って見える。

 

「毎日、訓練と勉強づけだしな。それと、弾・・・お前に殴られる覚悟でケリをつけなきゃならない事がある」

 

「なんだよ?」

 

一夏は弾に断りを入れた後、ポーッとしている蘭に声をかけた。

 

「蘭ちゃん」

 

「は、はい!」

 

「前から言おうと思っていたんだ。君の好意は嬉しいけど・・・君とは恋人同士になれない」

 

「え?・・・ど、どうしてですか?私が年下だからですか!?」

 

「違うよ。俺には好きな人がいるんだ、だから君とは付き合えない。ごめんね」

 

「そんな・・・そんな、うわあああん!!」

 

交際を断られた蘭は泣きながら走っていってしまった。一夏は断った事に胸が痛んだが、ハッキリさせておかなければ蘭はずっと自分を追いかけるだろうと考え、心を鬼にしたのだ。

 

「一夏」

 

「ぐっ!」

 

弾の拳が一夏を捉えた。だが、痛みはなく兄として妹を泣かした男に対する制裁の意味がこもっていた。

 

「お前、本当に変わったな?鈍感じゃなくなってるし、お前のクソ兄貴より断然だ」

 

「ありがとよ。でも、蘭ちゃんには悪い事をしたな」

 

「いいさ、蘭はお前のクソ兄貴に狙われてたからな・・・アイツもこれで成長するだろ」

 

弾の目は妹の成長を喜んでいるように見え、一夏を見直していた。

 

「じゃあな、たまには食いに来いよ?」

 

「ああ、またな」

 

弾は急ぐように蘭の後を追って、すぐに居なくなってしまった。一夏は一つ、自分の中で決着がつけられたのに胸をなでおろした。

 

自分に好意を持ってくれていた女の子を一人、間違いなく傷つけた。それでも自分には心に決めようとしてる人が居る。

 

中途半端にさせるよりは先に進めるようにした方がいい。自分で考えて出した結論であった。

 

見送った後、一夏は政征達と合流し、買い物の続きを楽しんだ。

 

 

この臨海学校が織斑兄弟、二人の道を分かつことになる。一人は可能性を、もう一人は欲望へと走る。

 

そして、悲劇が繰り返されるのは避けられない事実と兄弟の戦いの狼煙が既に上がっている事をこの時の一夏は知ることはなかった。




はい、振られたのは蘭ちゃんでした。

この世界の一夏は鈍感でしたが、それは良くないと改めています。

一夏は鍛えられてから自分に好意を寄せてくれた女性に対し具体的に付き合えない理由を話した上で全員、振っています。

ヒロインズは一夏に対して恋愛というより接しやすい男性という感じです、なにせフラグは立ててませんから。

現在、一夏の心は箒か鈴の間で揺れています。


春始は実験体フラグがビンビンです。どうなるかな?


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ドキッ!女だらけの臨海学校

遅れて申し訳ありません、ようやくです。


ポロリもあ・・るわけ無いだろおおお!

シャナ=ミアの成長具合がすごい

水着だらけ。


※シャナ=ミアは今現在、例えるなら銀魂の今井信女みたいな感じで身体が成長していると想像してください。


.臨海学校当日。一夏、政征、雄輔は特訓メンバーである箒達と共に最後尾の席に座っていた。ラウラはあれからシャナにベッタリではあるが、シャナ自身はそれを許していた。

 

バスの中で窓の外を見ながら政征と雄輔は一つの懸念を抱いていた、それはこの場にいない春始のことである。

 

「あの男が大人しくしているはずがない・・・嫌な予感がするな」

 

「恐らく、いや・・・必ず来るはずだ」

 

「・・・・」

 

二人の警戒を一夏は聞いていないふりをしながら聞いていた。女性たちが肌を晒す事になるこの機会に自分の兄が来ないはずがないと。

 

一夏はその他にも鈴と箒に視線を移した後に軽くため息を吐いた。未だに自分の意志は決まっていない、どちらも大切だが、いずれはどちらを選ばなければならない。

 

片方は傷つくだろう、それでも前へと進んで欲しいと願う事しかできない。それが一夏が身につけた強さであった。

 

今はこの時を楽しもう、そう考えて三人はシャルロットが持ってきたトランプやカラオケなどで盛り上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

旅館に到着し、旅館の女将である女性に挨拶をする。政征、雄輔、シャナの三人からすれば再会に近いが、この世界では初対面なため挨拶をする。

 

「赤野政征です」

 

「青葉雄輔です」

 

「シャナ=ミア・フューラです」

 

「これはこれは、ご丁寧に。こちらへどうぞ」

 

三人の挨拶を受けた女将はにこやかに優しい笑みを浮かべて会釈した。案内を促され旅館の中に入っていく、部屋割りは一夏が千冬、政征が真耶、雄輔がフー・ルーの部屋だと伝えられる。

 

それぞれが準備に部屋へ入っていく。その中で一夏と千冬は何処かぎこちがなかった。

 

「一夏、少し話を・・・」

 

「言っておくけど、俺は完全にアンタを許している訳じゃない。行動で示してくれ」

 

やはり、一夏の態度は冷たかった。一夏も許さない訳ではないのだ、ただ千冬から春始の話題をされるのが嫌なだけで冷たくしている。

 

理由としては子供っぽいが、そこは十代の男。聞きたくないことはあまり言わないで欲しいというものだ。

 

千冬自身もすぐに春始の話題を出さないよう言葉に気をつけてはいるが、簡単に話題へだしてしまう。

 

また、家族三人で暮らしたいという淡い願いの反動なのかもしれない、。しかし、それはもう叶わぬものだと理解している。

 

自分も一歩乗り越えなければと心の誓うのであった。

 

 

 

 

 

代わって隣部屋のフー・ルーと雄輔の部屋では甘い空気が漂っていた。二重になっているカーテンを全て閉めてあり、フー・ルーは壁際に追い込まれる形、所謂、壁ドン状態になっている。

 

「い、いけませんわよ!ここでは!」

 

「フー・ルー、別に交わりがしたいわけじゃない・・・これだけは良いだろう?」

 

「んんっ!?」

 

顎クイからのキスをされたフー・ルーは、か弱く抵抗するが雄輔の情熱に抵抗は次第に薄れていき、受け入れるままとなってしまった。

 

「んふぅ・・んん・・はぁ・・・もう、いけませんわ」

 

「ずっと我慢してたんだ。これくらいの報酬を貰わないとな」

 

雄輔自身も男として逞しくなりつつあった。フー・ルーからすればまだまだ未熟ではあるが、いずれは自分を伴侶として迎えたいと、言われたのを忘れてはいない。

 

「さ、ここから出たら生徒と教師、軽率は謹んでくださいませ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

砂浜へ出ると女生徒全員が各々の水着を着て、海と戯れている。それぞれの成長具合に嫉妬や笑い話にしたりなど楽しんでいる。

 

おまけに国際的な学園ということもあって、人種と国籍も違うので並の男ならばパラダイスとも目の保養とも言ってしまうだろう。

 

「さて、パラソルとシートをセットしないとな。二人共、手伝ってくれ」

 

「ああ」

 

「分かったよ」

 

政征達三人は未だに来ていない代表候補生達の為にパラソルの準備に入った。男三人の作業は女性の視点から見て逞しさを演出していた。

 

「いいなぁ・・・」

 

「うん、かっこいい・・・」

 

「でも。噂だと赤野くんと青葉くんって彼女がいるって話よ?」

 

「それ本当!?」

 

「噂よ噂、本当かどうか知らないわ」

 

実際、その噂が真実に迫っているのだから女性の情報網は侮れない。パラソルの設置を終えると同時に代表候補生達が現れた。

 

「お待たせしました」

 

「ごめんね、戸惑っちゃって」

 

「まだ、来てないのは

 

「シャルロットさんとラウラですね」

 

代表候補生達はそれぞれのイメージカラーのビキニを着ている。セシリア、箒などは豊満なバストを披露しており、鈴は健康的で明るさで魅了している。

 

あれからシャナは政征に愛された影響か、服の上からはわからなかったが、箒達に及ばないものの胸元が成長しており、スラリとした足、色白な美肌、長く美しくしなやかなスカイブルーの髪を持ったシャナは、皇女としての気品も兼ね備え益々魅力的であった。

 

「はぁ・・・まったく羨ましいな。政征、あのシャナさんが恋人だなんて」

 

一夏は小声で政征に話しかけたが、政征は薄く笑った後で言葉を返した。

 

「お前も早く決めてやれよ。幼馴染のどっちかをな」

 

「っ・・・気づいて、ああ・・・そうか」

 

「そういう事。雄輔はもっとすごいけどな?」

 

「?」

 

一夏は訳が分からないといった表情をしており、政征は誤魔化すかのように笑ったままだった。それを払拭したのはシャルロットとラウラの登場であった。

 

「お待たせ、ラウラったら恥ずかしがっちゃって」

 

「うう・・・」

 

「もう、仕方ないな」

 

ラウラはタオルで身を包んでおり、隠している。それをじれったいと思ったのかシャルロットがタオルを剥ぎ取ってしまう。

 

「うわ、何をする!?」

 

「じれったいんだもの」

 

ラウラは最後の防御を剥ぎ取られ観念したのか水着姿を男性操縦者の三人に晒した。顔を赤くしており、感想が欲しい様子だ。

 

「ああ、良いじゃないか」

 

「可愛いな」

 

「恥ずかしがる事もないくらいな」

 

「っ~~~~~!!」

 

三人の言葉を聞いたらラウラは恥ずかしさのあまり、倒れてしまった。よほど褒められる事に慣れていなかったのだろう。

 

「気を失っちゃったよ、ラウラってば」

 

シャルロットは苦笑しながら政征達が用意したパラソルの下へと連れて行った。ビーチバレーや海の家での買い食い、砂の布団などを満喫している中、別の場所では束が出会う準備をしていた。

 

「ようやく整備が終わったよ。待ちきれないよね?すぐに連れて行ってあげるから」

 

束の手には待機状態になっているラフトクランズ・リベラ、ラフトクランズ・モエニア、そしてクラルスに組み込むためのプログラムデータが入ったアタッシュケースを持っている。

 

しかし、束は得体の知れない不安感に襲われていた。根拠はないがラフトクランズを返してしまったら良くない事が起こるのではないかという不安。

 

それを振り払って束はIS学園が臨海学校を行っている旅館へと急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

「よし、簡単に抜け出せたぜ」

 

その頃、春始は学園の監視の目を出し抜き、臨海学校が行われている旅館へと向かっていた。旅費はかつて自分と肉体関係を続けていたいという女から貢がれていたので、十分にあった。

 

「待っていろよ、学園のクラス全てを喰ってやるからな・・・!そして、赤野政征と青葉雄輔を殺して、ついでに生意気になった一夏も殺してやる!」

 

もはや、復讐と女に種を植え込む事しか頭にない状態になっている。春始はサングラスなどで顔を隠しつつ電車を使い向かい始めた。

 

「ヒロインすべてが揃ってるこの機会、逃さねえ!上手くいけば束さんだって食える!!俺のガキを産むことを楽しみに待っていろよ!」

 

気持ちの悪い笑顔を浮かべながら春始は旅館へたどり着くのを楽しみにするのであった。




平和なひと時です。

雄輔、なにやってんだか・・・爆発しろ。

一夏はシャナ=ミアに対して恋愛対象から憧れていた友人の認識になりました。

今もなお、箒と鈴のどっちかを決めかねています。

そして春始は臨海学校に参加している全員を孕ませようと野望を燃やす有様。



次回は銀の福音が暴走。更には一夏が親友の武器を使い、春始を撃退します。


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可能性の獣 覚醒

クラルスと一夏が覚醒。

福音よりもオリ兄が厄介な存在。

異世界の二人、またもや海中に。


臨海学校初日の訓練終了後、浴衣に身を包み、夕食に舌鼓を打っている一同はそれぞれ好みの料理を口に運んでいる。

 

政征は赤身の刺身、雄輔はハマチ、一夏も赤身の刺身だ。それ以上に炊きたての白米を既に大盛りで二杯平らげている。

 

女性陣はサラダやフルーツ、などをつまみながら食を進めている。鈴や箒、シャナは和食に慣れており箸使いも上手いがセシリア、シャル、ラウラは和食に驚きを隠せず、箸に慣れていない様子だ。

 

その為にナイフ、フォークなどを用意されていたのだが、なぜか箸を使い続けている。

 

「す、すごい食欲ですわね?お三方」

 

「見てるこっちがお腹いっぱいになりそうだよ」

 

「本当ね」

 

「全くだ・・・軍でもこんな食欲は見んぞ」

 

代表候補生達は驚きながらも、男だからで納得できてしまう。女性は自分の体型を維持したりする事を考える為に、食事は制限気味になる。逆に男は力をつけるためという考えが強いため食事は欠かさないのだ。

 

「そうか?このくらいは普通じゃないのかよ?」

 

「女性ばかり見てきた反動で、男の食事量が珍しく映るんだろうな」

 

「うーん。よく分からないぜ」

 

夕食後は各々が行動し、旅館にある小さなゲームセンターのガンシューティングゲームに夢中になったり、部屋に数人でおしゃべりに夢中になったり、男性操縦者の誰が良いなど話題には事欠かない様子だ。

 

そんな中、食休みを十分にとった男性三人は再び温泉を堪能していた。静かに湯船に浸かりたいと考えていたからだ。今は露天風呂に浸かっている。

 

「なぁ・・・二人共、春始兄の事なんだけどよ」

 

「ああ、わかっているさ」

 

「サイトロンの予知が正しければ、アイツは明日、必ず来る」

 

一夏は割り切れたようで未だ割り切れていないところがあるようだ。兄呼ばわりしたのがその証拠である。

 

兄弟なのだからといえばその通りだが、そんな考えでは騎士を務める事は出来ない。敵であるのならば親兄弟、自分の師であっても手にかけなければならない時が来る。

 

 

 

 

 

 

そんな風に真剣な話をしていると隣の露天風呂から四人はいるのであろう話し声が響いてくる。

 

「え?シャナ=ミアって成長したからそうなったの?」

 

「はい、殿方に愛されてから成長が」

 

「んぎぎぎ・・・羨ましい!」

 

「あらあら、楽しそうですわね?」

 

「私にはそうは見えないが」

 

どうやら鈴、シャナ、フー=ルー、箒の四人のようだ。親睦を深める意味を込めてだろうか?和気藹々としている。

 

「なんでみんな私の周りは大きいのよー!イヤミかーーー!!」

 

そう叫んで、鈴は近くにいたシャナの胸を鷲掴みにして揉み始めた。女の嫉妬というものは恐ろしいものである。

 

「ひゃあ!?ちょっと、鈴さ・・・あんっ!」

 

「私だって、私だって!いずれ成長するんだからぁー!」

 

「おい、やめろ!鈴」

 

「うるさい!うるさい!巨乳三姉妹どもーーー!」

 

鈴の暴走は他の二人にもとばっちりが来てしまい。百合の花が咲き誇るかのような空間になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

その隣の男三人はのぼせそうになり、湯船から出て涼んでいた。声は出さないよう気をつけている。

 

「鈴のやつ・・・」

 

「はぁ・・・目に毒ならぬ耳に毒だった」

 

「耳だけに(イヤー)になるってか?」

 

「大喜利やってる場合じゃねえだろ!」

 

せっかくの静かな時間が、隣の百合風呂で無くなってしまい三人は仕方なく風呂から上がると明日に備え、それぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

千冬は一夏のマッサージ受けつつ、代表候補生達と箒を部屋に招き入れ男性三人に関する話を始めた。彼女達が入ってくるのを見て、一夏は空気を読み一人でゲームセンターで時間を潰そうと向かった。

 

「お前達に聞きたいが、春始に襲われたか?」

 

「私は一人で剣道の鍛錬をしている時に話しかけられただけで」

 

「わたくしは食事中でしたわ。でも、絡まれただけです」

 

「私は寮まで来られましたけど・・・中には入れませんでした」

 

「ボクは何も無いですね。というより、義姉さんと義兄さんが来るよって言った時点で来ませんでした」

 

「私は返り討ちにしてしまった。無論、怪我は負わせるようなことはしませんでしたが」

 

学園での春始の行動を知るために聞いたが、五人の言葉に千冬の予想通りであった為に溜息を吐いた。

 

「やはり、お前達は絡まれていたか」

 

「ええ・・・」

 

箒が代表して返事を返し、千冬は座ったままテーブルの横に移動すると正座し、全員へ頭を下げた。

 

「済まない、アイツを私が止めていればお前達に迷惑が・・・」

 

「良いんですよ。でも、千冬さん・・・一言だけ」

 

「何だ?」

 

今度は鈴が代表して話しかけ、千冬は顔を上げ鈴と目を合わせた。

 

「弟が大切なのはわかりますが、時には厳しく止める事も大切だと思いますよ?後手に回ってからじゃ遅いんです」

 

「っ・・・その通りだな。赤野達の影響か?」

 

「そんな所です」

 

千冬は彼女達が、別世界の自分を見せられているのを知らない。政征達が居た世界の彼女達は命というものを学んだ本物の戦士達だ。

 

ある意味では、この世界の千冬以上の戦士と言えるだろう。政征達の世界の彼女達とこの世界の彼女達は実力に大きな差があり、彼女達は近づこうと必死になっている。

 

春始のような男に構っている暇はないというのが本音だ。

 

「お前達、変わったな?一体・・何があったのだ?」

 

千冬の素朴な疑問に今度はラウラが答えた。それは軍人としてではなく一人の生きる存在として。

 

「教官、もしも・・・別世界の自分自身の強さを見る事になってしまったどうします?」

 

「何?」

 

「今の自分よりも遥か先にいる自分を見せられたら・・・です」

 

「そうだな・・・悪いが今の私には答えが出せん」

 

千冬自身、それだけがようやく出せた言葉だった。それを聞いた後、代表候補生達は部屋へ戻ろうと立ち上がり、出て行った。

 

「・・・・私だけが立ち止まっているな」

 

一夏に大声で怒鳴り散らされ、差別されていた事を思い返し千冬はテーブルに肘をついて落ち込んだ。

 

彼女も彼女なりに精一杯やってきたのだ。親は蒸発し残されたたった三人の家族、金銭を得るために賞金が出る大会やアルバイトなどを必死にやってきた。

 

忙しい事を言い訳に出来の良かった春始だけを構い、一夏には一切構わなかった。たった一言の愛情のある言葉すらかけなかった。

 

えらいぞ、すごいなの言葉すらかけなかった結果が、最愛の弟からの罵倒。過去は後悔しても取り戻せない、それだけが千冬を追い詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の朝、アシュアリー・クロイツェル社から連絡があったとフー=ルーが千冬と真耶に伝え、箒と代表候補生、男性三人が到着を待っていた。

 

約束の時間通りに上空から飛行艇が飛んでくる。近くの浜辺に着陸すると中から現れたのは白衣を身に付け、ウサ耳は変わらずメガネをかけた束であった。

 

「お待たせ!ごめんね、予定ではもう少し早く着くはずだったんだけど」

 

「束・・?」

 

「久しぶり、ちーちゃん。よほど応えてるようだね?」

 

「ああ・・・」

 

束の指摘に千冬は何も言い返せない。子供同然であった束は今や技術者兼科学者といった感じで、雰囲気が違っている。

 

「さてと、先に要件を済ませるね」

 

束は政征と雄輔の近くに来ると、待機状態になっているラフトクランズ・リベラとラフトクランズ・モエニアを差し出した。

 

「お待たせ、オーバーホールは完全だよ。預けていた試作量産機を渡してくれるかな?」

 

「はい」

 

「分かりました」

 

同じく待機状態の量産型シュテルンMk-II改を束に渡し、ラフトクランズを手にすると、それぞれが帰還を待ちわびていたかのように強く輝いた。

 

「ええ!?」

 

「何この輝き・・・?」

 

他のクラスメイト達も驚きを隠せない。これほどまでにISに慕われている人間、ましてや男性操縦者など見たことがなかったからだ。

 

「次はいっくんだね。悪いけどクラルスを貸してくれるかな?」

 

「?わかりました」

 

束はラフトクランズ・クラルスを一夏から受け取ると自分の端末に接続し、コアデータと開発した特殊プログラムをインストールした。

 

「少しだけ、改修するね?大丈夫、数分で終わる簡単なものだから」

 

クラルスを展開状態に移行させ、特殊な駆動式内骨格に移していく。同時にラフトクランズの装甲を展開可能な物に改修してしまった。

 

「はい、おしまい」

 

待機状態に戻すと束はすぐに一夏へクラルスを返還した。一夏は不思議がっていたが、女性には秘密がたくさんあるんだよの一言で片付けられてしまった。

 

「さて、お待たせしたね?箒ちゃん、私から質問があるけどいいかな?」

 

「はい」

 

「箒ちゃんはISで何をしたい?私を納得させられるかな?」

 

言動は子供っぽいが、内面は科学者や技術者の信念らしきものが感じられる。箒自身も納得させられるかは分からないが意を決して話した。

 

「私は今まで一夏の傍にあれば良いと思っていました。でも、今は違う・・・今は正直IS何がやりたいかは分かりません、一つだけ思ったことがあります」

 

「何かな?」

 

「私は海を飛びたいと思います。星の海と雲の海を・・・私も皆と一緒に」

 

箒は自分で考えられる精一杯の言葉を束に伝えた。束は箒の言葉を聞いて目を閉じたまま何も言わない。その様子を不安げに箒は見ている。

 

「なるほどね・・・じゃあ最後の質問、どうして力に固執しなくなったのかな?今までだったら恐らく、私にISを作れみたいな事を言ったはずだよね?」

 

「それは見せられたからです」

 

「見せられた?もしかして」

 

「はい・・・別世界の私です。一夏だけを盲目的に追いかけ、力だけを求め続けた私を見たんです」

 

「それで、新しい目標が出来たわけだね?本当に自分だけの目標が」

 

「はい」

 

束はポンと箒の肩に手を置いて優しい笑みを浮かべた。妹の身ではあったが、こんなに優しい笑みを見たのは初めてであった。

 

「私の名前を使ってないから何かあったのかと思ったけど、そういう事だったんだね。成長したね?箒ちゃん」

 

「あ・・・うう・・・」

 

成長したと言われた瞬間、箒は無意識に涙を流していた。ようやく姉に認められたという感情からかもしれないが、箒にとっては嬉しい事だったのだろう。

 

「今の箒ちゃんになら託せるね、この紅椿を」

 

束は持っていた待機状態の紅椿を箒の手に握らせた。それを見て箒は慌てて紅椿を束に返そうとしたが、束は首を振って受け取らなかった。

 

「ね、姉さん!私はこんな強力そうなISを受け取る訳には!」

 

「ううん、今の箒ちゃんなら・・・きっと紅椿の声が聞こえると思うよ。だから箒ちゃん、その子を雲の海に連れて行ってあげて欲しいんだ。私の娘、箒ちゃんの姪を」

 

「姉さん・・・分かりました」

 

他のクラスメイト達からも文句は上がらなかった。むしろ、悪態をついているのは女尊男卑に染まりきり、己の実力を分かっていない者達だけだ。

 

不満を言わなかった理由はクラスメイト数人が、政征達との訓練で何度倒されても向かっていく箒の姿を見たからだ。

 

IS適性はC、剣道に関して実力はあるがただそれだけ、束の妹というだけでその名を利用していた時は腹が立っていた。

 

しかし、ある日を境に彼女は人が変わったかの如く勉強や訓練に打ち込むようになり、剣道の指導も行い、己の不備を認めるようになっていった。

 

クラスメイトの一人が不審に思い、後を付けて目撃したのは打鉄を纏い、男性操縦者である政征と雄輔にアリーナで何度も打ちのめされている所であった。

 

何度も何度も向かっていき、倒されるたびに改善の教えを請い、それでまた実戦形式の訓練を繰り返す。

 

機体が無事でも操縦者がボロボロになっているのではないかと思えるくらいの粘りだった。

 

気を失えば水をかけられて、強引に目を覚まさせられてはいたが本人が望んでいるかのようで訓練を再開していた。

 

その噂が広まり、クラスメイト達は一人、また一人と交代で箒の訓練を覗いていた。無論、男性操縦者達は気づいてはいたが、あえて知らないふりをしていたのだ。

 

そのような姿を自ら確認したとあっては文句を言えるわけがない。必死に努力する姿というのは嫉妬の対象にもなるが、改めの対象にもなる。

 

 

 

 

 

 

 

箒が紅椿を受け取っている同時刻、春始は目的の場所の近くにある別の宿から出て、浜辺に来ていた。

 

「あの女を抱いてからすごぶる調子が良いぜ、白式もプロテクト解除とかいう能力を身につけたしな」

 

そういってISを展開し、空へ飛び立った。白式の内部では変化が起こっており、緑色の触手らしき物が一本だけ関節部を覆っていた。

 

その影響かエネルギー切れを起こさないようになっており、零落白夜を常時展開状態にしておけるため春始にとっては都合が良かった。

 

「待ってやがれよ、赤野政征!青葉雄輔!!お前らを始末し一夏も始末して主人公に返り咲き、ハーレムを作るのはこの俺だ!!」

 

野望と欲望によって汚れた白式の抜け殻は少しづつではあったが、歪な形で進化を果たそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻、アメリカとイスラエルの合同演習が行われている場所で事件が起こっていた。

 

「た、大変です!銀の福音が暴走を開始しました!!」

 

「なんだと!パイロットは!?」

 

「搭乗前でしたので無事ですが、恐らくAIの暴走かと!」

 

銀の福音はAIを搭載する実験の為に搭載されたが、それと同時に暴走してしまったのだ。その影響であちこちを破壊している。

 

「!行けません、福音が空へ離脱しました!!」

 

「急いで、追撃しろ!」

 

「私が行きます!軍用ISをお借りしますわ!」

 

志願したのは福音の正式パイロットに任命されていたナターシャ・フィルスであった。責任者は彼女の静止ができず見送るしか無かった。

 

「一体誰が・・・くそっ!」

 

「予定通り・・・暴走させ向かわせました」

 

整備班の一人がどこかに連絡し、スパイのように誰にも気づかれぬまま姿を消していた。

 

 

 

 

 

戻って臨海学校二日目の訓練では、政征と雄輔が箒を見ており一般生徒はフー=ルーと山田先生の訓練、代表候補生はそれぞれの特性を見直していた。

 

各国から送られてきたユニットパーツをチェックしていたが、長所を潰してしまうものばかりで実用できるのはセシリアとラウラだけであった。

 

箒は紅椿のテストを行っており、今までの成果が出ているのか、飛行に関しては代表候補生と並べるほどであった。

 

だが、彼女はISを手に入れ、どこか浮かれていたため雄輔が喝を入れる意味で撃墜していた。撃墜された場所が海上であり、機体の損傷も機械いじりが出来るのであれば完璧に治せる程度の損傷しか与えていない。

 

「うう・・・撃墜するとはひどいぞ!」

 

「浮かれていたからだ。反省の意味もある」

 

「う・・・」

 

そうしているうち、軍用に改修されたであろう一機のラファールがこちらへ向かってきていた。ボロボロの状態で飛行が出来ているのが不思議なくらいだ。

 

それを見た箒は急いでラファールを回収するが、それと同時にパイロットが気を失ってしまい、千冬とフー=ルーを呼ぶよう声を出した。

 

パイロットであるナターシャが目を覚ますと、どこかの一室に寝かされているのに気がついた。周りを見渡すと千冬とフー=ルーが目覚めるのを待っていたかのように座っていた。

 

「あ、貴女は織斑千冬!?」

 

「ああ、そうだが?」

 

「私はアメリカのナターシャ・フィルス、助けてくれて助かったわ」

 

「ところで一体、何がありましたの?機体をボロボロにされていたようでしたが?」

 

「・・・・」

 

「安心していい。フー=ルー教諭は私の親友で、信頼のおける人物だ」

 

ナターシャが警戒していたのを察し、自分が最も信頼を置いている事を伝えるとナターシャが話し始めた。

 

「なるほどな・・・軍用ISが暴走」

 

「そろそろ、ここに連絡が入ると思うわ。おそらく撃墜命令が出るかと思うの」

 

ナターシャの話によるとパイロットを乗せる前にAIによる機体制御による実験が先行され、搭載した結果、暴走となってしまったらしい。

 

軍用機がこの旅館の制空権に入りやすい位置に来ると予想し、追撃したが逆に撃退されてしまったそうだ。

 

「しかし、軍であるのならば自分達で追撃するはずではなくて?」

 

「AI1・・・私の機体になる予定だったはずの銀の福音には、軍の極秘プロジェクトで開発された戦闘用AIが積まれているのよ。追撃したくてもデータを優先してるから動くつもりなんてないわ」

 

「織斑先生!」

 

真耶が部入ってきたが、話をナターシャから聞いていた千冬とフー=ルーは頷くとナターシャに声をかけた。

 

「解決するまでこの部屋から出ないで欲しい」

 

「わかったわ・・・極力、あの子を撃墜しないで」

 

「善処しますわ」

 

 

 

 

 

 

一時間後、作戦会議室となった大広間に男性操縦者の三名、専用機持ちとなった箒、代表候補生の五人、シャナと束もいる。

 

「つい、二時間前・・・軍の演習場所から軍用ISが暴走し、脱走。専用機を数多く備える我々に止めて欲しいと通達があった」

 

千冬の言葉に全員驚きを隠せない。誰もが束を見るが、今の彼女はアシュアリー・クロイツェル社の社員であり、技術研究部長でもある為ありえない。

 

「現在は海面上で静止状態だそうだ。さらに機体はAI制御されていてパイロットはいない」

 

「戦闘用AIプロジェクトだね、軍では研究されてるって噂はあったけど本当だったんだ」

 

「よって、撃退メンバーを編成しなければなりません。ほかにご質問は?」

 

「はい」

 

フー=ルーの言葉に挙手したのはセシリアだ。それを見た千冬は発言を許可する頷きをフー=ルーに見せる。

 

「どうぞ、セシリアさん」

 

「ターゲットの詳細データを希望します」

 

「良いだろう。だが、機体に関しては極秘扱いだ。口外すれば監視と罰則がつく事となる、良いな?」

 

全員が頷き、銀の福音に関するデータが表示される。それを見た代表候補生達は意見を述べ始めた。

 

「広範囲の特殊射撃型・・・ブルー・ティアーズと似てますわね」

 

「速度も桁違いだわ。甲龍でも追いつけない・・・おまけに軍用だから私達の機体以上の力があると見ていいわね」

 

「それだけじゃない」

 

「え?」

 

雄輔の発言に政征とシャナ以外の全員が驚く、渋っていたようだが二人は銀の福音に関して説明を始めた。

 

「銀の福音は広範囲の射撃型・・・それもレーザーによるものだ」

 

「パイロットが乗っていないのが幸いだな・・・でも、危険性はなくなった訳じゃない」

 

「危険性?」

 

「二次移行・・・」

 

政征の言葉にハッとしたのは束だ。もしも、危険値に入ればAIは逃走と戦闘続行のために機体を進化させようとする可能性があると。

 

「でも、二次移行だなんて」

 

「有りないだろう」

 

シャルとラウラは否定的であったが、そこへシャナが口を開く。彼女も自分の世界での戦いの一部を見ていたからだ。

 

「いえ、あらゆる可能性を想定しておくべきかと」

 

「シャナ=ミア姉様・・・」

 

「それでは各員、出撃準備をしておけ」

 

千冬の号令の下、箒を含む専用機持ちと男性操縦者の三名が出撃することになった。それぞれが機体を展開していく。三機のラフトクランズが揃った姿はまさに圧巻である。

 

「出撃開始!良いか、深追いするな!必ず生きてもどれ!!」

 

「「「「「「「了解!」」」」」」」

 

出撃していった男性操縦者のうち政征と雄輔の恋人である二人は、得体の知れない不安に襲われながらも見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館から離れた場所に位置する海上にそれはいた。相手となるモノを探していたようで、出撃者達を見つけると襲いかかってきた。

 

展開されるレーザーの雨はさながらアートのように美しく、また驚異的であった。それを散開して回避し、三騎士はオルゴンライフルの単発モードで牽制を仕掛ける。

 

「・・・!」

 

「こいつ、学習能力が高いようだな」

 

ラウラの指摘で学習される前に倒すべきだと考え、接近戦と遠距離からの波状攻撃で福音を止めようとしたその時だった。

 

「ぐああああ!?がはっ・・・!」

 

「ごふっ・・・!?こ、これ・・・は」

 

素早い何かが政征と雄輔が斬られ、出血していた。だが、攻撃が止むことはない。ハイパーセンサーで追いかけるが一向に正体が掴めない。

 

福音の方はその余波を受け、機能が停止してしまっていた。だが、そこいる全員がその攻撃に覚えがあった。青く光る光の刃を・・・。

 

「ギャハハハハハハ!死ね死ね!!テメエらさえ死ねば俺は主人公に戻れるんだよおおお!!!」

 

声がした瞬間、女性全員に悪寒が走る。その声の正体は女を自分のモノとしてしか考えない最低の男であった。

 

「春始兄!」

 

「久しぶりじゃねえか、一夏!それに箒達も・・・俺に抱かれるために来てくれたのか?」

 

その言動は滅茶苦茶だ。完全に女性陣を性処理の道具としてしか見ておらず、目の前に現れただけで、自分に抱かれるために来たのだと思い込んでいる。

 

「ふざけた事、言ってんじゃないわよ!あんたに身を捧げるくらいなら、死んだほうがマシよ!!」

 

「そうか、ならば仕方ねえな・・・!強引にでも抱かせてもらうが・・・その前に」

 

春始の刃は政征と雄輔に襲い掛かり、二人は気づかないまま武器を手放して墜落していってしまった。それほどまでのスピードで動いているということである。

 

「これがソードライフルとシールドクローか、オレが使ってやるから感謝しろよ・・・ヒャッハハハ!」

 

「馬鹿な・・・このはや・・・」

 

「アイ・・・ン・・・ス・・ト」

 

「政征さあああああん!」

 

「雄輔ーーーッ!」

 

セシリアと箒の叫びが響き、そんな中、春始は墜落する寸前のラフトクランズから武器を奪い、零落白夜のエネルギーをオルゴンの代わりにして、それをソードライフルの単発モードで撃ち込んでくる。一夏はそれを回避しつつ、許せない事を指摘した。

 

「!てめえ!!政征のシールドクローと雄輔のソードライフルを!?」

 

「強力な武器は俺にこそ、相応しいんだよ!!」

 

「うあああ!」

 

シールドクローを掲げて強力な突進をくらい、一夏も吹き飛んでいってしまった。自分の勝利を確信した春始は、舐め回すように代表候補生達を見ている。

 

「さぁ・・・みんな抱いてやるぜ!来いよ!!」

 

「ふざけるなァァァ!!」

 

「おう、箒・・・お前からか!」

 

剣での勝負なら、負けないと思っていた箒であったが誤算があった。それは零落白夜が常時発動している点、自分の中に違和感を感じた箒はそれが確信に変わり、距離を取った。

 

「く・・・近づくのが難しい!」

 

「抵抗すんなよ、抱けないだろ?」

 

代表候補生達も一人、また一人と常時発動している零落白夜に追い込まれていく。全員を捕獲し楽しもうとしていた春始にオルゴンのエネルギー波が襲いかかった。

 

それは吹き飛ばされた一夏が放ったオルゴンキャノンであった。それを回避し向き直るが春始に慌てた様子はない。

 

「やはり耐えるかよ、だがな?耐えるだけじゃ意味ねえぜ?今度こそ始末してやる・・・」

 

「ふざけんな・・・!俺の全身から吹き出している怒りの炎が見えねえのか?」

 

「怒りの炎だぁ?お前に怒りなんか怖くもなんともねえんだよ!」

 

一夏の表情は隠れているが、内側ではハッキリと怒りを顕にしており震えている。

 

「てめえは・・・幾つも許せない事をした。俺の心を踏みにじり、千冬姉の名誉を侮辱し、束さんの発明を悪用し続けた!」

 

「はぁ?」

 

「だがな・・・今一番許せねえのは、俺の!俺の親友の命を奪った事だ!行くぜ!クラルス、政征、雄輔!俺と一緒に戦ってくれ!」

 

その怒りの声に共鳴したラフトクランズ・クラルスの全身にある、装甲という装甲が開いていく。それはまるで別世界において一角獣の名を関する白い機体が変身していく姿に似ている。

 

人類の亜種を駆逐してしまう危険な可能性を持つ一方、あらゆる可能性を拾い上げ、想いを力に変える白き一角獣の機体。一夏はあらゆる並行世界の可能性の中から人の亜種の存在に近いものになっていたのだ。

 

フューリーではなく、地球人として一歩先へと進んだ存在として覚醒し、それにクラルスが反応している。二人は死にかけており、助からないのか?という自問自答にそれでも!と一夏が叫んだ、海中にいる二人の騎士は光に包まれ守られ始める。

 

クラルスは可能性という力を体現したかのように、装甲を展開した全身が赤く輝いている。

 

その姿に春始は苛立ちを覚えた。自分より先へ行くことなど許さないと、言わんばかりに睨みをきかせ突撃した。

 

「やっぱりお前は殺す!お前が居なくなれば、俺が主人公だァァァ!!」

 

「何を訳の分からない事を!!俺が倒して止めてやる!それが俺の決めたことだ!」

 

春始の零落白夜と一夏のオルゴンソードがぶつかり合い、最大級の兄弟喧嘩が今ここに始まった。




かなり急ぎ足でした。

一夏のセリフは元ネタがあります。作者の私は熱いセリフの中で三本の指に入るのではないかと思っています。

クラルスも覚醒です。まぁ・・・タイトルでバレバレですがね。

クラルスはラフトクランズでありながら、純粋なフューリー製ではないので変身が追加可能になりました。


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清浄の一角獣 城壁の獅子 自由の不死鳥

クラルスが可能性を広げる。

一時的に人類の革新。

抜け殻が二次移行


春始は政征と雄輔から奪ったソードライフルを使い、更には零落白夜の特性を付加し切りつけてくる。それを一夏は事前に察知出来ているかのように回避していく。

 

「アイツの使うラフトクランズの武器は全て、零落白夜の特性を持っていると考えたほうが良さそうだな」

 

「くそがあああ!てめえはニュータイプかよ!?攻撃する前に分かるような動きしやがってええ!それにその姿!ユニコーンガンダムのつもりか!」

 

「一体何を言っているんだ?ニュータイプだとか、ユニコーンガンダムとか訳がわからない」

 

春始の口から出てくる単語に、一夏は訳が分からないといった表情をしながら攻撃を回避し続けた。距離を離し、自身のラフトクランズに装備されているソードライフルをライフルモードで構え撃ち放った。

 

「おわっ!?な、なんだよ!?この反動」

 

単発でのオルゴンライフルを放った瞬間、従来以上に高威力である事を示すかのように緑色の軌道が描かれ放たれていく。その反動に一夏は驚き、仰け反りかけてしまった。

 

「なっ!?ぐああ!」

 

春始は回避したが僅かに右腕へ掠ってしまい、その威力に思い当たる節があったのか再び叫ぶ。それは自分がこの世界に転生する前に知っている作品に出てくる兵器。

 

「ビームマグナムだと!?ふざけんな!ラフトクランズにそんな武装も威力もある訳がねえ!」

 

負けじと春始も奪ったソードライフルをライフルモードに切り替え、放つが通常での単発モードで発射される。一夏はシールドクローを掲げ、それを防御する。

 

「この威力・・・オルゴン・マグナムって所か。俺だけの射撃、ようやく見つけた」

 

一夏はクラルスに搭載されたプログラムから流れ込んでくる情報が理解出来ていた。他を守るためには己も守らなければならない、守れないものもある。それでも、可能性を信じろと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議室となっている大広間では政征と雄輔が落とされて事で騒ぎとなっていたが、クラルスの覚醒と一夏の動きに千冬は驚きを隠せないでいた。

 

 

「一夏・・・あれは一体?」

 

「覚醒したんだね、いっくん。やはり君に預けて良かった」

 

束の言葉に千冬は詰め寄り、問いただした。その目にはこれ以上、自分から離れて欲しくないという意志が見える。

 

「束!どういう事だ!?覚醒したとは一体何だ!?」

 

「クラルスに簡単な改修をした時、組み込んだプログラムがあるんだ。白式のコアデータをプログラム化したもので、ユニコーン・システムというシステムをね」

 

「ユニコーン・システムだと?」

 

「Universe Nnature Infinity Constitute Optimum Rreconciliation Nerve・・・無限の宇宙において自然の調和を構成する神経という名目で私が開発したプログラム。最も白式のコアが手に入ったのは嬉しい誤算だったけどね」

 

「束・・・お前一体何を企んでいる」

 

千冬は束の目的を知るのが恐ろしく感じていた。今までの束ならば子供じみた理由で利用出来るものは利用し、マッチポンプなども平気で行っただろう。

 

だが、今の束は科学者としても技術者としても末恐ろしくがあるのだ。

 

「何も企んでなんかいないよ?大学検定試験を突破して、働きながら特待生で大学に入って自分の研究をアシュアリー・クロイツェル社でしてるだけ」

 

「・・・・!?」

 

「大学はもう卒業単位は満たしてるし、元々働いてるからその後も大丈夫。不安だった白式も取り戻せたしね」

 

「馬鹿な!白式はお前が開発したのではなかったのか!?」

 

千冬の疑問も最もだろう。白式は世間では白騎士の後継機ではないかと噂もされている機体だ。特倉研は束が開発したと発表している。

 

「基本フレームだけだよ。白騎士のコアはいつの間にか盗まれてたし、研究所の奴が勝手に私が作ってる事にしてるだけ」

 

「話が変わるが白式のコアを手に入れたと言っていたな?では、春始が使っている白式は一体何だ?」

 

「あれは抜け殻だよ。白騎士の意志は無い、空っぽの入れ物になっただけの機体」

 

「なんだと!?」

 

「零落白夜が使えるようにコピーデータは使ってあるし、コアも既存してる物を使ってるから、白式と変わらないよ?違うのは白騎士の意思があるコアじゃないって事だけ」

 

「・・・・」

 

束は白騎士に特別な思いがあるのだろう。彼女はその意志をただ救ったにすぎない。だが、千冬からすれば二人の弟が戦っている事に変わりはない、割り切ったはずの存在だ。

 

だが、千冬自身どこかにまだ家族に戻れるという考えがあったのだろう。それを振り切れていない千冬に束は僅かに苛立ちを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

兄弟で戦っている中、一夏はユニコーン・システムからまたもや情報伝達されてきた。それは白い一角獣が二つの可能性を呼び覚ますものだった。

 

「ユニコーン・システム、クラルスのシステムなのか?でも、バンシィとフェネクスという表示には何が?」

 

その瞬間、変身しているクラルスから二つの輝きが海底へと向かっていく。その輝きは海底に落ちた二機のラフトクランズに有り得た可能性を示した。

 

水柱が上がり、その中から現れたのはリベラとモエニア。春始にとっては殺したはずの相手であった。

 

「嘘だろ!?アイツ等が上がってくるなんて!?いや、零落白夜を受けて生きているはずがねえ!!」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

クラルスに反応したリベラとモエニアは、クラルスと同じように装甲が展開していく。クラルスが変身した時と同じように輝きが増していた。

 

「俺にはわかる・・・政征と雄輔の可能性が!リベラにフェネクスの意思が、モエニアにはバンシィの意思が宿ったんだ!」

 

「可能性だと!ふざけるなぁあああああ!なんで、なんでお前らだけがあああああああああ!!」

 

春始は叫んで二人から奪取したソードライフルとシールドクローで攻撃しようとしたが、それを素手で止められてしまう。

 

「何!?」

 

「返せ」

 

「この武器は俺達の武器、下種が触れるな!」

 

リベラとモエニアが同時に殴り飛ばし、武器を奪還すると同時にクラルスを中心として三機のラフトクランズが揃った。

 

クラルスは紅く輝き、リベラは青く輝き、モエニアは黄金に輝いている。それぞれの輝きが春始には妬ましく見え、雪片を手に向かっていく。

 

「死ねよ!お前らあああああああ!!」

 

「今の俺なら解る!春始兄は自ら可能性を閉じたんだ、育むべきものを拒否したんだよ!」

 

「うるせえええ!俺は主人公だ!!俺だけがハーレムを作れるんだあああ!」

 

憎悪を広大化させた春始はたった一度の二次移行を成功させてしまった。機体色は黒ずんだ白、右手には雪片を大刀にした長夜、左手には巨大な砲口を持つビーム砲である無明を手にしている。

 

「やった、やったぜ!二次移行した!!これで俺は無敵だ!手始めにお前らだあああ!」

 

「もう、戻れない所まで可能性を閉じたのかよ・・・なら!」

 

オルゴンソードを手に一夏は春始に斬りかかり、春始は長夜で受け止め剣戟を繰り返していく。政征と雄輔は手出しせず、二人の戦いを見ているだけだ。

 

「がああああ!くそっ!くそっ!!」

 

「これで、終わりだ!バスカー・モード!起動!!」

 

クラルスの手にするソードライフルが左右に展開し、巨大な刀身がオルゴンによって形成されていく。同時に突撃し、その動きは大気圏内とは思えない程の機動性だ。

 

「オルゴナイト!バスカー!ソォォォド!!」

 

「がああああああああああああ!?」

 

その刃は春始の命を完全に奪うことはなかった。だが、それが逆に春始の怒りを増長させてしまっていた。

 

「はぁ、はぁ・・・こうなったら旅館ごと消滅させてやる!」

 

そういって春始は旅館の上空へと向かっていく。それに気づいた一夏は代表候補生達に指示を促す。

 

「みんな、銀の福音を回収した後、待機していてくれ!政征、雄輔は俺に力を貸してくれ!!」

 

「一体どうしたのよ?春始がなにかしようとしているの?」

 

「そうだよ!」

 

鈴とシャルが訪ねて、他のメンバー達は福音を回収市に向かっていた。一夏は話しているのが惜しいと感じ口を開いた。

 

「時間がない!二人共、早く来てくれ!」

 

「わかった」

 

「行くぞ」

 

「ちょっと!教えなさいよ!!!」

 

「っ!春始兄、いや・・・春始の奴、大気圏外ギリギリの上空から旅館を消滅させる気なんだよ!」

 

伝えるだけ伝えると一夏は政征と雄輔を伴って旅館の方角へと向かって行ってしまった。残された代表候補生達は呆気にとられ、その場に残されたままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の思い通りにならない女なんか、もう必要ねえ!全て吹き飛んじまえ、この無明でな!!」

 

春始は旅館に照準を合わせ、発射体制に入る。その威力は山すら抉り取りかねないほどだ。もしも、旅館に直撃すれば旅館を焼き尽くし、巨大なクレーターが出来上がるだろう。

 

発射されようとした瞬間、一夏達が間に合った。ラフトクランズの輝きは失われておらず、三人は旅館の上空から更に上を見上げている。

 

「どうするつもりだよ?一夏」

 

「クラルスが伝えてくる。今、全てのラフトクランズは人の想いを形にする事の出来る状態になっているって」

 

「何?」

 

「二人共、目の前に壁を作るイメージを作ってくれ!俺がそれを増幅するから、そのフィールドで旅館を守るんだ!」

 

その言葉に二人はある言葉が浮かぶ、ニュータイプ。宇宙に適応出来た人間の概念、しかし、それはあくまでも本来の自分たちの世界においてはゲームや漫画などの架空の概念だったはずと認識している。

 

だが、今の一夏は完全にニュータイプのような言葉を発している。おもわず、二人はお互いに顔を見合わせた後、春始が口にした言葉を口にしていた。

 

「やろうぜ?雄輔、・・・俺達のラフトクランズもユニコーンガンダムのようになっているのなら」

 

「一時的にニュータイプになっていると?フューリーでありながらニュータイプって・・・チートにも程があるだろ。俺達」

 

「一時的だろう?俺達はフューリーとして、一夏はニュータイプとして・・・それでいいじゃないかよ」

 

「そうだな」

 

「来るぞ!二人共!!」

 

政征と雄輔の会話を一夏が切った瞬間、上空ではエネルギーのチャージを終えた春始が無明を構え、ロックオンを完了させた。

 

「死ねよおおお!!」

 

極大なビームが発射され、一夏は自分の脳に何かを感知して入り込んできたような感覚を味わうが、気に留めず先頭に立った。

 

クラルス、モエニア、リベラは両腕を広げる姿になり、目の前に特殊なフィールドを形成した。オルゴン・クラウドはパイロットを守る機能が主に動いている。

 

あまりの轟音に生徒達が外を確かめると、三機のラフトクランズ達が苦しみながらも自分達を極大なビームから守ってくれている様子が見えた。

 

「負けないで!」

 

「頑張って!!」

 

赤、青、黄金のフィールドが春始の発射したビームを押しとどめてはいるが、その反動があまりにも強く、三人はうめき声を上げ始めた。だが、此処で一人でも気を失えば旅館は確実に灰になってしまう。それは内部にいる生徒、教員全員の死を意味している。

 

「うああああああああ!!」

 

「ぐううううううううう!!」

 

「があああああああああああ!」

 

フィールドが破られそうになった瞬間、ラフトクランズの意思が三人に語りかける。己を信じ、宿った意思の名を呼べと。

 

「ユニコォォォォン!!」

 

「フェネクスゥゥ!!」

 

「バンシィッッ!!」

 

その瞬間、三機のラフトクランズは本来のオルゴンの輝きである緑色の輝きを見せ、フィールドの色も緑色へと変わり、上空から降り注ぐビームを完全に押しとどめ始めた。

 

徐々に威力を失っていき、ビームは完全に消え去って旅館は無事であった。一夏は初めて自分が人を守る事が出来たという実感を得て、気を失ってしまったのであった。




この世界の一夏は可能性を広げ、地球人としては最高の覚醒をしました。

クラルスも一角獣に乗る白騎士と邂逅しようとしています。

政征と雄輔は一時的です。二人はフューリーですので一夏と同じ覚醒はしません。


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汚れた騎士の抜け殻

春始何者かの力を借り再び逃亡。

一夏、人類の亜種となり、過去の別世界へ。

白騎士、あるべき者の場所へ。


気を失った一夏を旅館に預け、政征と雄輔は成層圏ギリギリの場所にいる春始の位置へと飛び上がっていた。

 

「・・・・もう、なり振り構わないようだな?女喰いよ」

 

「!てめえ・・・お前等のせいだ!お前等が、お前等が居なきゃ俺はこの世界で主人公ライフを満喫しながらハーレムを作れたはずなのに!」

 

「色欲という欲望に身を任せ・・・ユニコーンガンダムを知っていた口調、まさか?」

 

「その予想は当たっているだろう、コイツは俺達と同じ世界から来た人間・・・並行世界の一つだと考えられるが」

 

政征と雄輔は春始の正体を自分達が最初の転移をした世界ではなく、本当の世界の並行世界から来た人間だという予測を立てていた。

 

初めは半信半疑であったが、今回の件で確証に変わったのだ。春始はこの世界の人間ではないと。

 

問題は自分達のように次元の転移によって現れた訳ではない。何かしらの要因でこの世界に来たのだとしか考えられない。

 

「転移以外の可能性・・・あるとすれば」

 

「転生・・・か。小説でしか聞いた事は無かったが実在してたなんて」

 

神と呼ばれる存在よって輪廻し、生まれ変わって別世界に現れる。それが転生である、だが・・・それはあくまでも架空の物語での話で実在するはずがないと思っていた。

 

しかし、次元を超えてきた二人とは違って、春始は織斑の性を名乗っていた。自分達はこの世界に来る前の並行世界にあたるISの世界の物語にねじ込まれた存在。

 

だからこそ、自分達も神の存在によって存在を改竄させられ、戸籍などを得る事が出来た。望んだのはフューリーとしての存在とラフトクランズのみ。

 

自分達も春始の事を責める事は出来ない。似た様なもので自分達もそれを持っているのだから。

 

だが、春始と違う点はある。一つは己の努力で実力を手にした事だ、初めから天才でも戦闘力が高い訳でも無かった。

 

アシュアリー・クロイツェル社の社員、禁士長のセルダ、さらには騎士団長であるアルヴァン、その恋人で異名を持つ程のエースパイロットであったカルヴィナ、一般人からしたら化け物といっても過言ではない相手に鍛えられたのだから。

 

それだけ、彼らは幸運に恵まれていたのだ。努力できる環境にあった幸運を。

 

 

「てめえらを殺して、学園の女は全て俺の物にしてやる!シャナ=ミアもフー=ルーも俺のものだ!」

 

その名前を聞いた瞬間、二人の眉がピクリと釣り上がった。

 

「祐輔、俺は自分で感情的になりやすいの自覚してるんだけどよ?怒りってのは通り越すと頭が冷えるんだな」

 

「ああ、分かる。俺も今、物凄い怒髪天だ。だが、不思議な位落ち着いてる」

 

二人が持つオルゴンソードを握る手が強く握られる。たった一人、愛しく守りたい存在、それを別世界で自ら亡き者にしてしまった事がある二人にとって奪われたくないのは通り、ましてやこのような下衆な男に奪われるなど許せる事ではなかった。

 

「騎士としての正々堂々とした戦いは必要ないな」

 

「今はあの機体のコアを救出するとしよう・・」

 

騎士の二人はオルゴンソードを左右対称に構え、春始を完全な敵対者として、情けを捨てることにした。

 

ただの女喰いならば改心する可能性があったあろう。だが、目の前の男はこの世界の流れを知り、すべてを我が物にしようとした。

 

挙句の果てには自分達の恋人をも己の所有物にもしようと。片思いならば許容しようと思った、だが、この男にはそんな情けは不要・・・全力でたたきつぶさねばならない。

 

戦列を一時離れている清浄の騎士の為に、己の愛する異性のために、そして道具として扱われている目の前の白い機体の肉体を救済する為に。

 

「死ねやああああああ!!」

 

春始は瞬間加速を使い、二人へ突撃していく。だが、極限の冷静さ、所謂ゾーンとも呼ばれている状態になっている二人にとって、その加速はまるでスローモーションのように見えている。

 

その中で政征は突撃の勢いを利用し、オルゴンクローで捕まえると同時に海上にある僅かな孤島の地上へ落下速度を利用して地へと叩きつけた。

 

「ぐああああああ!?」

 

「雄輔!」

 

「おう!」

 

そのまま引きずり続け、岩盤に叩きつけ砕くと同時に上空へと投げ飛ばした。声をかけた先には雄輔がソードライフルをライフルモードにして待機していた。既にバスカーモードを起動させており、それは自分が最も極めたいと願う射手の技。

 

「オルゴナイト・ミラージュ!」

 

オルゴナイトの一撃から始まり、転移を繰り返し放ち続け、結晶の中へと閉じ込めていく。それはまるで、結晶による大木が立ったかのような姿だ。

 

「ふっ!」

 

ソードライフルを上空へと投げつけ、胸部の砲口を展開しそれを目指して上空へ向かっていく。その間にソードライフルは変形していき、狙撃形態に変形した。

 

「これはお前への柩、久遠の安息へと導くもの・・!ヴォーダの闇へと堕ちろ!!」

 

最大出力で放たれたオルゴナイト・バスカーライフルの一撃は、春始の進化した白式へと直撃した。だが、バスカーモードの一撃はライフルに留まらなかった。

 

「があああああ!ラフトクランズの最大技だと!?」

 

「オルゴナイト!」

 

「何!?」

 

「バスカー!ソォォォォド!!」

 

「がああああ!?」

 

自己流にアレンジしたオルゴナイト・バスカーソードの横薙ぎで切り裂かれた結果、白式は片側のバーニアを大破させられ、ギリギリの所で航行できている状態にさせられた。

 

「クソ!クソがァ!!」

 

「貴方を失う訳にはいきませんの」

 

「「!!?」」

 

突如として空間転移で現れたそれは、全身が酸化前の血液のように真っ赤で、まるで怨念そのものを纏っているかのようなISを纏っていた。

 

「な・・・うっ!」

 

春始は気絶させられ、謎のISを纏っている少女は春始を抱えて二人の騎士の前に待機している。

 

「自由、そして城壁・・・守護者によって選ばれた者達」

 

「何を言っているんだ?」

 

「ソイツを渡せ」

 

「そうはいきません、彼は種子ですの」

 

「何!?」

 

「次元の騎士、三騎士は危険なルーツ・・・でも、今はまだ」

 

謎の言葉を残し、春始を連れて紅いISは転移してしまった。その場には騎士の二人しかいない。だが、口調や謎の言葉からこの世界を狙っている勢力のヒントを得ることが出来た。

 

「雄輔、この世界の驚異はまさか?」

 

「そのまさかだろう。破滅も厄介だったが・・・『傍観者』がいるとはな」

 

「・・・旅館へ戻ろう。一夏の容態が気になる」

 

「そうだな」

 

二人は急いでその場を後にし、旅館へと戻った。旅館へ戻った後に聞かされたのは一夏の意識が戻っていない事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館の一室、そこでは篠ノ之束ことタバ=サ・レメディウムが電子ディスプレイの前でキーボードを叩き続けて何かを解析している。目覚めなくなった一夏の原因だ。

 

あらゆる可能性を示唆し、篠ノ之束としてタバ=サ・レメディウムとして解析を進めても原因を掴む事が出来ないが、一つの可能性を見つける事ができた。

 

「(もしかしたら・・・ユニコーンシステムの影響で意識が別の世界へ行ってるんじゃ?肉体もクラルスも)」

 

「束、解析出来たのか?」

 

「ううん・・・流石の私でも原因が掴めない。ごめんね」

 

「いや・・・。ん?あの二人が戻ってきたようだ」

 

「まーくんとゆーくんだね」

 

代表候補生達は部屋に待機させているために入ってこない。千冬は二人を呼ぶとまるで眠っているように見える一夏を見せた。

 

「一夏・・・」

 

「眠っているみたいですね」

 

政征と雄輔は少しだけ目を伏せながら、意識を失っている一夏を見ている。せっかく友情を育み、お互いにシャナ=ミアへ忠誠を誓い合ったというのにと思わずにはいられなかった。

 

「三人とも聞いて、もしかしたら今のいっくんは別世界に跳んでいるのかもしれないんだよ」

 

「別世界だと!?」

 

「まさか・・・?」

 

「そんなはずは・・・!」

 

別世界に飛んでいるという意味は何かしらの原因をつきとめ無ければ戻ってこれないという事だ。覚醒した一夏は何かを掴まなかればならない試練があるのだ。

 

「ちょうど良い機会かもしれない」

 

「確かにな」

 

「二人とも何を言っている?」

 

「!まさか・・・!?」

 

束が驚いている間、二人はラフトクランズのサイトロンを起動させ、千冬に近づく、千冬は意味が分からないといった様子だ。

 

「そのまま」

 

「視線をそらさないで」

 

二人はサイトロンを発動させると自分達が居た世界の千冬を見せる。そう、あらゆる事を乗り越えた千冬を。

 

「な・・なんだこれは!?」

 

『私の為?勘違いするなよ、小娘共が・・・。私はフー=ルーと正々堂々戦い、敗れた。それをお前達が認められずに倒そうとするなど、私の戦いを侮辱している事に他ならん!』

 

これが別世界の自分。迷いもなく、しがらみからも解放された自分なのか?

 

『一夏、戻る事の出来ない道を歩ませてしまったのは私のせいだ。少しでも私が向き合っていれば破滅などに・・・』

 

「やめろ・・・やめろぉ!」

 

場面が切り替わり、片腕を無くしボロボロで血まみれになっている弟らしき男に刃を向け、その首に当てている自分。

 

『さらばだ、弟よ』

 

己が弟の首を刎ねた瞬間を見たと同時に千冬は自分の世界へと戻ってくる事が出来た。大量の汗をかき、吐き気をがあるのか、こらえるように口を押さえている。

 

「う・・うううっ!・・・・すまん!っうええええ!げええええっ!」

 

備え付けのトイレへ駆け込むと千冬は思い切り嘔吐した。時間にして5分程だが、千冬はトイレから出てくると洗面台で手を洗い、口も濯ぎ、顔を洗ってタオルで顔を拭きつつ戻ってきた。

 

「すまない・・・見苦しい所を見せた」

 

「いえ・・・見ましたか?」

 

「俺達の世界の織斑先生を・・・」

 

騎士の二人は真剣な目つきで視線を逸らさない。それを見て千冬は答え始める。口にするのを怖がっている様子だが、答えない訳にはいかないと自分を戒めながら。

 

「ああ・・・。ひとつだけ教えてくれ、お前達の世界の私は・・・もしや?」

 

「はい、見た通りです」

 

「自分の弟を自分の手で介錯しています」

 

「やはり・・・か」

 

別世界の自分が唯一の肉親をその手にかけていた。別世界とはいっても己であることは変わらない、そう思わずにはいられなかった。

 

「お前達の世界の一夏に関してはフー=ルー教諭から聞いている。まさか、私が介錯していたとは」

 

「腕を飛ばしたのは俺ですけどね」

 

「気にするな、お前はお前の守りたいモノのために戦ったのだろう・・・?」

 

千冬は珍しく悲しい目をしながら二人を見て言葉を紡ぐ。

 

「本音を言えば破滅という力に飲まれたアイツなど、見たくはなかった・・・だが、まだ私は間に合うのだろう?春始は手遅れだが」

 

「ええ、アイツの今まで受けてきた仕打ちを受け止めなければいけませんがね。罵倒はするでしょうが」

 

「構わん、そうなったのは私の責任だ。それにな・・・篠ノ之達が言っていた事が理解できたよ。アイツ等が変わった理由もな」

 

「え?」

 

「こんなものを見せられては今までの自分の行いが恥ずかしくなる。まだまだ私も未熟で成長できるのだと自覚できた。感謝するぞ」

 

「いえ・・・」

 

「ちーちゃんも見せられたんだ。ねぇ?私は見せてくれないの?」

 

そう話しかけてきたのは束だった。自分だけが見せてもらえないのが不満なのだろう。

 

「構いませんけど・・・きっと辛いですよ?」

 

「構わないよ、だから見せて?別世界の私を」

 

束の勢いに押され、二人は千冬にしたように自分達が居た世界の束を見せ始める。

 

『箒ちゃん、これが姉としてみせる最後の愛情だよ』

 

『何を!誰も、姉さんでも、私に勝てるはずがない!』

 

話に聞いていた破滅に飲まれ、一夏への狂った偏屈的な愛情の思考しか持たなくなった自分の妹と戦っている別世界の自分。

 

「(これが・・・別世界の私?思考がものすごく成長してる。私と同じようにあの人に助けられたのかな?)」

 

考え事をしているその間にも妹と戦っている別世界の自分は相手を追い込んでいく、そして。

 

『どうか、地獄で閻魔に聞いたらどうかな?』

 

堕ちていった妹を殺した。自らの手で悲しみも哀れみもその心の奥に隠した上で。それと同時に束が本来の世界へと戻ってくる。

 

「見ましたね?」

 

「うん・・・・あそこまで堕ちてたんだ。あっちの箒ちゃんは・・・でも、私は」

 

雄輔に見せられた別世界の自分は冷徹だったが、どこか成長しているようにも見えた。今の自分のように化学者として最高峰ではあるが、向こう側の方が遥かに考えが大人だ。

 

「私も・・・成長しなきゃ・・ね」

 

 

 

 

 

千冬と束が別世界の自分を見せられている頃、一夏はどこか別の世界に来ていた。姿を確認するために、近くにあった学園のガラスに自分を映すと髪が伸びており、IS学園の制服を身につけていた。

 

「ここって・・・?」

 

IS学園であることに間違いはないが、何かが違う。念の為、学生証を確認すると名前が違っていた。イチカ・フォーリア・シオンとなっている。

 

「別人として此処にいるのか・・・・クラルスは・・?あるな」

 

「あ、イチカ君!何やってるの!?三組の代表なんだから早く!一夏君と同じ名前だってみんな騒いでるけど、試合には関係ないんだから!」

 

「え?ああ・・わかった。直ぐに行くから!」

 

呼びに来たクラスメートを先に行かせ、状況を推理する。恐らくはトーナメントが開催しているのだろう。三組の代表とクラスメートが言っていた所から三組の所属らしい。

 

「アリーナに行ってみるか・・・・」

 

アリーナへ向かい、観客席に入るとそこでは鈴と己自身と同質の存在である織斑一夏の試合が始まる直前であった。

 

「一夏・・本気でぶん殴るから覚悟しなさい!!」

 

「なんでだ!?鈴が怒るような事をしたか?」

 

「アンタ・・自分で何をしようとしていたのか解ってないの!?そこまで最低だったなんて、もういい!問答無用よ!!」

 

鈴の言動を聞く限りでは、こちら側の織斑一夏は何か問題を起こしたのだろう。アリーナを見渡せば政征と雄輔も居る。さらに状況を考えた結果、此処は確かに政征やシャナ=ミア。雄輔、フー=ルー先生が居た世界であり、その過去の世界であるようだ。

 

「もしかして、こちら側の俺と戦えってことなのかな?」

 

別世界における己自身を倒せという試練なのだろうか?考えても答えはたどり着かず、試合を見ることにした。

 

だが、試合を見ていて落胆してしまった。試合を観戦していると別世界の自分の動きが手を取るように分かってしまう。覚醒の際に身に付いた能力を使わずともただ見るだけで事足りるレベルだ。

 

「(何だよあれ・・・この世界の俺は・・・あれが本当に強いって言えるのか!?まるでなっていない!)」

 

これはイチカ自身が自分の世界で皆と訓練してきた成果だ。シャナ=ミアの騎士となる誓い、親友となった二人に負けないという思い。それらが原動力となって自分を騎士にまで引き上げてくれていた。

 

その為の特訓によって培われた観察眼が、この世界の織斑一夏の実力を見抜いてしまった。それでも、油断はしない。

 

実力が下という事はまだ成長してくる可能性があるという事・・・それを踏まえ、イチカは試合を観戦し続けていた。




ようやくだ・・・。

並行している作品が多いのでなかなか浮かびませんでした。

さて、此処からはイチカ一人の戦いとなります。

過去の並行世界ですが、Mがいるのでタイムパラドックスは起きません。

二人の一夏がいる訳ですが、カタカナ表記の方がRabbit Furyの一夏になります。

漢字表記は政征達の世界の一夏になります。


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清浄の騎士と白の擬似騎士

イチカ(シオン)がトラブルへ乱入、助け出すも一夏の内面に嫌悪する。

別世界の己に嫌気と吐き気を覚える。


イチカは場所を変え、一組に所属している政征、雄輔、シャナ、セシリアがいる観客席の入り口付近へと趣いていた。姿を見るなり、すぐに警戒されてしまう。

 

「誰だ・・・?」

 

「何故ここに?」

 

睨んでくるのは政征と雄輔の二人だ。この世界が過去ならば今の二人は俺の事を知らないはず、だとしたら名前を名乗っておいた方が良いだろう。そう考え、生徒手帳にあった仮の名前を名乗る。

 

「俺はイチカ・フォーリア・シオン。今、戦ってる織斑一夏と同じイチカの名前を持っているが、全く関係ない別人だ。紛らわしいなら、そうだな・・・シオンとでも呼んでくれ」

 

「そうか、君が・・・」

 

「済まなかったな。えっと・・・シオン、で良いのか?俺達もピリピリしていて気を張っていてな」

 

「ああ、それでいい。ところで一体、何があったんだ?俺は別のクラスだし、現場にいなかったから知らなくて」

 

二人は少し困った顔をしたが、すぐに持ち直すと話し始めた。訓練中にシャナが襲われかけて強引なキスをされそうになった事、政征が切れてしまった事、今現在は織斑一夏はシャナとの接触を禁止されている事などを伝えた。

 

それを聞いたシオンは顔を真っ赤にしていた。恥ずかしさもあるが何よりもこの世界の織斑一夏に対する怒りが恥ずかしさを上回っている。

 

「(あの時より以前からシャナさんにそんな事を・・!どこまで愚かなんだよ!?この世界の俺は!)」

 

強く拳を握り締めて怒りをこらえるシオン、その様子を見て騎士の二人は首を傾げている。握り拳を解いてシオンは二人に声をかける。

 

「・・・俺もここで見てて良いかな?」

 

「ああ、構わないさ」

 

「ただし、俺達の隣でな?」

 

シオンは雄輔の隣で試合を観戦し始め、政征と雄輔はISの機密通信モードを使い、会話を始める。二人以外は試合に夢中で全く二人の会話を気にしない。

 

「(雄輔、このシオンって奴からサイトロンの波動を感じるぞ?)」

 

「(ああ、待機状態にしてあるISも気になるな。サイトロンを搭載しているとしたら)」

 

「(警戒はしておこう)」

 

シオンはこの二人が自分を警戒している事に気づいていた。それをあえて口にしない、口にしてしまえば益々、警戒を深めてしまうだろうから。

 

「(このニュータイプの感性?知覚?って言うのかな・・・便利なんだけど嫌にもなるな。真意を知っちゃうから気持ち悪いって思われやすいし)」

 

人類の亜種として覚醒したシオン自身、真意を見抜く感受性が嫌であった。真意を知ったとしてもあまり口に出さないように心がけよう、そんな風に考えている。

 

試合は鈴の方が押しているが、衝撃砲の片方を使用不能にしてしまったようだ。そのまま、青竜刀による接近戦を仕掛けているが、ハンデを負っている鈴が不利な状況になっている。それでも一夏を追い込んでいるのは鈴自身の技量が高いからだろう。

 

「負けるかよ!俺は・・・千冬姉の名前だけでも守る!」

 

「今のアンタがそんな言葉を口にするな!口にした言葉の重みを少しは理解しなさいよ!!」

 

鈴から聞こえた言葉をシオンは耳に入り、胸に響いていた。別世界で高尾まで響く言葉を聞いたことがなかったのだ。

 

「口にした言葉の重みを理解しろ・・・か、確かにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合を見つつ、シオンは己自身と同質である織斑一夏を見ていた。悪い所だけではなく良い部分、つまりは長所を見つけるために。だが、そうしているときであった。

 

「(なるほどな、確かにこちら側の俺はセンスだけはあるな・・・ん!?)伏せろ!!」

 

「何!?」

 

シオンの一言で皆が伏せるとアリーナ全体が揺れ、更にはアリーナのシールドが破壊されると同時に、そこから三機のISらしき機体が侵入してきた。

 

「(あれは・・・二人から聞いた事がある。確か、アシュアリー・クロイツェル社のテスト機!)」

 

シオンは自分の世界において聞いていた知識を思い出していた。リュンピー、ドナ・リュンピー、ガンジャールという名の機体。ただ、知識として知っているだけに過ぎず、実物を見るのは初めてだった。

 

「おい、あれって・・!!」

 

「ああ、間違いない!真っ黒に塗装されてISになってるがリュンピーとドナ・リュンピー、それにガンジャールだ!」

 

「嘘だろ!?あれはアシュアリー・クロイツェル社にしか無いはずだ!」

 

二人の様子からして、これは想定外の事だったのだろう。シオンは冷静に周りを見渡し、扉がロックされている事を見抜き、更には騎士の二人に話しかける。

 

「政征、雄輔!俺は避難誘導をした後、アリーナの二人を援護する!早く、シャナさんを安全な場所へ!」

 

「え?」

 

「な!?」

 

「早くしろ!ここは危険なんだぞ!」

 

いきなり名前を呼ばれた事に驚く二人だったが、シオンからの一言で持ち直し、二人は行動に移った。

 

「そう・・だな。と、とにかく!政征、お前はシオンが言った通りシャナさんを連れてフー=ルー先生の所へ行け!」

 

「あ、ああ。わかった!セシリアさん!シオンと一緒に生徒みんなの避難誘導を頼む!!」

 

「え、ええ!分かりましたわ!って、シオンさん!?」

 

シオンは既に行動しており、パニックになりかけている生徒たちに大声で叱りつけながら誘導していた。

 

「慌てるな!走ろうとするんじゃないぞ!!早歩きで避難するんだ!」

 

「皆さん、怖い気持ちは分かりますが、落ち着いて避難してくださいませ!」

 

二人の誘導によって生徒達は徐々に避難を完了させていく。そんな中で政征はフー=ルーのところへ向かい、シャナを預けた。

 

「フー=ルー先生、シャナを頼みます!」

 

「ええ、任せておきなさい。それよりも早くアリーナへ」

 

「はい!」

 

「政征、武運を・・・」

 

二人を確認すると政征は急いでアリーナへと戻るが心中で、間に合ってくれという思いもあった。

 

 

 

 

 

 

アリーナでは鈴と一夏が三機相手に時間を稼いでいた。むしろ機体を損傷している鈴が一夏を補助しながら戦っているために決定打がない状態だ。

 

「もう!あの砲台みたいな奴!厄介だわ!」

 

「(シャナ=ミアさんは避難したみたいだな)」

 

連携してなんとかガンジャールは撃破したが、ドナ・リュンピーとリュンピーの連携に苦戦している。そんな中、一発のオルゴナイトのエネルギーがリュンピーに直撃した。

 

「大丈夫か!?」

 

「え・・・?し、白いラフトクランズ!?誰よアンタ!」

 

「俺はイチカ・フォーリア・シオン。そこに居る織斑一夏と同じ名前の生徒さ。紛らわしいからシオンって呼んでくれ」

 

「え?ああ、そう言えば居たわね!はっ!?」

 

「ふっ!」

 

シールドクローを掲げた状態でリュンピーからの刃を受け止め、鈴を援護するシオン。荒削りながらもその後ろ姿は正に騎士というのが相応しい。

 

「鈴、俺が大きめの一撃を加える。少しの間、遊撃を頼めるか?」

 

「ええ、任せなさい!(コイツなら、信用しても良いかもね)」

 

「(シャナ=ミアさん、逃げてくれたよな?)」

 

「おい!織斑一夏!戦闘に集中しろ!死にたいのか!?」

 

「なっ!?」

 

一夏を叱り飛ばし、シオンの指示通りに鈴はエネルギーを最小限に抑える戦いで遊撃を開始し、シオンは苦手な射撃をしつつ一夏の援護などを引き受け改めて二人が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

走ってきた政征は息を切らしながらも雄輔と合流し、息を整えた。

 

「すまない、待たせた!」

 

「シャナさんは大丈夫みたいだな、行くぞ!」

 

リベラとモエニア、自由と城壁の名を冠する騎士の剣(ラフトクランズ)を展開し、オルゴン・クラウドによる転移でアリーナへと侵入する。

 

だが、そこで目にしたのは一つの信じられない出来事であった。此処には二つしかないはずの騎士の剣(ラフトクランズ)を纏っている人間、即ちシオンがいたのだから。

 

「ぐっ!」

 

「シオン!」

 

「大丈夫だ。それよりも鈴、気づかないか?」

 

「え?」

 

ドナ・リュンピーからの射撃を受けてしまい、後退するがシオンは二機から感じる違和感を口にした。

 

「動きが機械的すぎる。さらに言えば単調だ。だが、確証が欲しいな・・・」

 

「そういえば・・・確かに・・っ!?」

 

シオンはソードライフルをライフルモードに切り替え、単発モードでリュンピーの片腕を撃ち抜いた。

 

「おい!何やってんだよ!?あのISには人が!」

 

「よく見ろよ。あれが人か?」

 

一夏が咎めてきたのを制し、リュンピーの方へ視線を向けさせる。片腕を吹き飛ばされたリュンピーからは配線のコードがバチバチと電流を流しながら立ち上がっていた。政征と雄輔もシオンの隣に降り立ち、三人を援護する。

 

「あれはもしかして無人機?」

 

「恐らくはな」

 

「なら、遠慮なしに倒せるって事だよな!」

 

一夏の一言に嫌悪感を覚え、一瞬だけ苛立ったのはシオンであった。無人機は人間以上に正確な攻撃をしてくる事を忘れていないのかと。

 

「(下手したら俺も・・・こうなっていた可能性があったのか)」

 

そう考えていると同時にアリーナ全体に響くような声がした、それはアリーナの放送室に誰かが居る事を示している。

 

「一夏ぁっ!!」

 

声の正体は箒だった。アリーナの放送室に侵入し、マイクで叫んでいる。

 

「男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!お前の剣はそんなにも脆いのか!?」

 

一夏に激を飛ばしているようだが戦場になっているアリーナでは何の意味もなさない。それを見たシオンは再び怒りが込み上げてきたが、それを代弁するかのように鈴が声を上げる。

 

「何やってんのよ!?アイツは!?危険だっていうのに!」

 

「バカな!何をしているのだ!?死にたいのか!」

 

「あの・・・馬鹿箒!!」

 

「!おい、シオン!!」

 

ドナ・リュンピーが放送室に狙いを定め、足を固定していた。ロングレンジキャノンの砲弾を受けたらなんの防御もしていない人間など即死してしまう。

 

ロックオンに気づいたシオンは放送室がある窓の前に突撃し、シールドクローを掲げスラスターで踏ん張りを効かせた。ロングレンジキャノンが三発発射され、シオンのラフトクランズ・クラルスが、クローシールドとオルゴンクラウドの出力を全開にして防ぐが反動は相殺出来ていない。

 

「ぐっ!?おおおおおおお!」

 

二発目までは耐え抜き、三発目の砲弾には耐え切れなかったのかシオンは吹き飛ばされ、防御していた腕からは裂傷した部分から血が流れている。

 

「う・・ぐううう」

 

「シオン!?」

 

「俺を気にしてる場合じゃない!政征!雄輔!!二人共、頼む!無人機を倒してくれ!!」

 

「分かった!」

 

「任せよ!」

 

雄輔と政征はオルゴンソードによる連携で無人機二体の武装と四肢を破壊し、戦闘不能にした。

 

「「チャージ完了!!オルゴンキャノン!広域モード!」」

 

「ヴォーダの深淵を垣間見よ!」

 

「ヴォーダの闇へと還るがいい!」

 

トドメと言わんばかりに放たれた二機のオルゴンキャノンは無人機達を飲み込み、残骸だけを残して完全に破壊し尽くした。

 

「う・・・痛ぅ」

 

「シオン!大丈夫!?」

 

「衝撃が凄かった・・・流石に血が出てる」

 

「シオン、済まないが・・・後で俺達二人はお前と話がしたい」

 

「ああ、色々聞きたいことがあるからな」

 

「わかったよ。俺も二人とは話がしたかったんだ」

 

鈴に支えられつつ、騎士の二人に返事を返すシオン。一夏も合流するがしきりに周りをキョロキョロと見回している。

 

「何キョロキョロしてんのよ!?一夏!」

 

「いや、別に・・・(俺が戦ってたの見ててくれたはずだよな?シャナ=ミアさん)」

 

「っ・・・」

 

知りたくもないのにシオンはまた一夏の真意を知ってしまった。歯ぎしりしてしまうくらいに強く噛み締め、嫌悪感を飲み込む。

 

己自身であるのに、此処まで嫌悪感が出るのかと思えてしまう。だが、己自身であるからこそ有り得た可能性なのだろう。

 

自分が居た世界では自分を支えてくれた人、自分を鍛えてくれた親友、そして自分の思いを受け止めつつしっかりと答えを出してくれた異性、それらを考えれば自分はどれだけ腐らず、偏屈的な正義感を持たずに済んだのかと思う。

 

そう考えながらシオンは鈴と騎士の二人に肩を貸して貰いつつ、アリーナを去るのだった。




やはり、紛らわしいので名前を変えました。

シオンの試練は同一の存在である一夏の真意に耐えて、己を倒せるかということになります。

どれもこれも己自身に有り得た可能性、しかもニュータイプに覚醒済みなので、この世界にいる限り嫌でも一夏の真意を見せられ続けます。

前作でのシャナ=ミアが襲われる場面まで行く予定ですが、長くなりすぎるのでかなり端折ります。

次回はシオンと一夏が大喧嘩します。原因はやはりニュータイプ能力によるものです。

※本来なら同一の存在は対消滅するのですが苗字が違っており、更にはラフトクランズ・クラルスの存在と搭載されているシステムのおかげでシオン自身が別の存在と世界から認識されているので対消滅は起こりません。ただし、別の方向で不利益が起こります。


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鏡合わせの問答

シオン(イチカ)が一夏とISで大喧嘩の前兆。

知っている五人に正体を明かす。


無人機の乱入事件の直後、鈴と騎士の二人はシオンの手当ての為に保健室を訪れている。負傷したシオンの応急処置を鈴が行っている。

 

「はい、これで止血は大丈夫よ」

 

「ありがとう、助かった」

 

「ううん。不思議ね?シオン、アンタは一夏と同じ声、似た顔なのにちっとも嫌な感じがしないわ」

 

「そう、か?」

 

「ええ・・・(だって、アイツ以上にしっかりした考えを持っているんだもの)」

 

鈴の言葉に困惑するシオン。やはり己も「織斑一夏」である事に変わりはない。なによりもこの世界での織斑一夏は嫌悪されている存在だ。それだからこそ、己自身としても考えてしまっている。

 

「言っておくが、俺とアイツは別人だからな・・・?世の中に自分と似た人間が三人はいるとも言われてるだろ?」

 

「わかってるわよ」

 

「此処に居たか、お前達。済まないが会議室へ来てくれないか?今回の件を話さねばならんのでな」

 

「私も同席致しますわ、参りましょう」

 

「(フー=ルー先生だ。過去だからそりゃあ、居るよな)」

 

「何か?」

 

「いえ・・・」

 

シオンが立ち上がると、それに習い、政征、雄輔、鈴も立ち上がって教員二人の後に着いていく。会議室に入ると、今回のアリーナ襲撃事件において関係した人物達が全員いた。だが、一人だけ見慣れない人物が居る。

 

「さて、皆さん揃いましたね?最初に自己紹介しましょう。私はIS学園学園長、轡木十蔵と申します」

 

この場にいる生徒全員が驚いていた。IS学園の学園長は女性とばかり思っていたからだ。恐らくは女性がやっていると見せる事で女尊男卑を回避しているのだろう。

 

「では、会議を始めます。今回の襲撃事件において、織斑先生。説明をお願いします」

 

「はい」

 

千冬が前に出て資料を手に取り、補足しながら説明を始めた。

 

「襲撃してきた機体はISであり、同時にパイロットの居ない無人機である事が確認されました。更に、この場には居ませんがフー=ルー教諭によると襲撃してきた三機はアシュアリー・クロイツェル社において訓練機とされている機体だそうです」

 

「(嘘じゃないな。俺の世界ではテスト機だったらしいけど、詳しくは知らないし)」

 

シオンは真面目に聞き、政征と雄輔の話も確認やありうる可能性の話ばかりであり、疑問も浮かんだが早計と考えて口を出すことはしなかった。

 

今回の件はアシュアリー・クロイツェル社に調査を依頼するという形で収束し、会議が終わった後に鈴が手を挙げて意見を述べてきた。

 

「あの、もう一つ聞きたいんですけど」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「そこに居る、篠ノ之箒の処分についてです」

 

「なっ!?」

 

自分が名指しで呼ばれると思わなかったのだろう、箒は驚愕していた。それは一夏も同じで驚いている。

 

「ふむ・・そうですね。説明をお願いできますか?凰鈴音さん」

 

「はい。篠ノ之箒は今回のアリーナ襲撃において避難命令を無視し、アリーナにある放送室に無断で入り込み無断放送をした上、被害を抑えようと行動したシオン氏を負傷させています」

 

「なるほど・・・篠ノ之箒さん。何か意見はありますか?」

 

「わ、私は一夏の為に激を飛ばしただけだ!それのどこが悪い!私は何も間違っていない!(そうだ、私は一夏の為にした事だ!何故、咎められねばならない!?)」

 

箒の言葉に鈴が言い返そうとしたが、それに対し無言の威圧を持ったまま近づき、シオンが箒を平手打ちをした。

 

突然、平手打ちをされ、驚きと同時に怒りの目をシオンへ向けるが、シオンはその怒り以上の威圧を持っていた。

 

「ふざけるなよ!何も間違ってない!?自殺したかったのか!お前は!?」

 

「なっ・・!」

 

「自分の命を粗末にする奴が檄を飛ばすなんて、言うんじゃねえ!あの時のお前の行動は自殺願望者と同じなんだよ!」

 

「おい、シオン!箒は俺を奮い立たせようとして・・!」

 

「お前は黙ってろ!織斑一夏!横槍を入れてくるな!」

 

「うっ・・」

 

シオンのあまりに激しい怒号に一夏は怯んでしまう。シオンが怒っているのは自分の命を簡単に自殺で粗末にしようとした行動と、自分勝手な箒の真意を見抜いてしまったが故の怒りだった。

 

シオンは自分の世界において、二人の騎士から命に関して学んでいる。命を捨てなければならない程の覚悟は出来るが、本当に命を捨てて成そうとする事など、最も卑怯な振る舞いであり、騎士道不覚悟であると。

 

「(この世界の箒は此処まで己の考えに傲慢で、自分勝手なのか!?)申し訳ありません・・・いきなり」

 

「いえ、それでは彼女に対する処罰を言い渡します。篠ノ之さんには一週間の謹慎と反省文50枚の罰則を与えます。よろしいですね?」

 

「はい・・・(一夏と同じ声で怒鳴られた・・・一夏と同じかもしれない手で殴られた・・・一夏に一夏に・・・)」

 

「それでは、会議を終了とします。解散」

 

 

 

 

 

 

会議が終わると、一夏はシオンを呼び止めた。シオンはその真意を理解しており、あえて立ち止まる。政征、雄輔、シャナの三人は先へと行かせた。

 

「おい、シオン!なんで箒を殴った!?」

 

「自分勝手な行動で自殺しようとした奴を叱って、何が悪い!」

 

「それでも、男が女の子に手を上げるなんて最低の行為だ!」

 

「時と場合によるだろう!?今は男が女を守り続ける時代じゃないんだよ!今の世の中は女性でも強い人は大勢いる!」

 

「ぐっ・・!でも、俺はお前が箒を殴ったことが許せねえんだよ!」

 

一夏が拳で殴りかかってくるが、シオンはそれを敢えて顔面で受けた。一夏にとっては自信のある一発だったが、シオンにとって、自分の世界の訓練時に騎士の二人や代表候補生達から受けた拳よりもまるで威力がなく、毛ほども感じず動じてもいない。

 

「っ!(嘘だろ!?まともに入ったのに!)」

 

「一発は一発だ。やったら、やり返される事をその身で覚えろ」

 

シオンはたった一発の拳を一夏の腹へと思い切り撃ち込んだ。まるで鉄球が自分の腹に思い切り命中したような感覚を受ける。

 

「ごぶっ!?」

 

これが同年代の拳の威力か?長年の稽古を積んできた武闘家や格闘家のように鋭く、重い拳を受けた一夏は腹を押さえながらその場でうずくまってしまう。

 

「うっ・・・ぐぐぐ・・・」

 

「・・・・三日後にアリーナでISを使って戦おうか?俺が負けたらお前の言う通り箒に謝罪してやる。俺が勝ったら俺やシャナさん、政征達に付き纏うなよ?」

 

「て・・てめぇ・・・(ISなら・・・俺が絶対に・・勝つ)」

 

シオンは一夏そのままに職員室へと向かい、相談室に入る。そこには政征、雄輔、シャナの三人の他に織斑千冬、フー=ルーも居た。

 

「・・・済まないな。どうしても立会いに必要だったんだ」

 

「いや、構わないさ。じゃあ・・・早速話をしよう。どこから聞きたい?」

 

「そうだな。それじゃあ、お前は何者?からでいこうか」

 

雄輔からの言葉にシオンは頷くと口を開いて話し始める。長くなりそうだからとフー=ルーがお茶を用意してくれた。

 

「俺が何者なのか?それは俺自身も『織斑一夏』なんだ。並行世界のな」

 

「並行世界の一夏・・・だと?」

 

一番に驚いているのは千冬だ。平行世界とはいえど今、この世界には弟が二人存在している事になるのだから。

 

「なるほど・・・もしもの世界のひとつから来た。という訳か」

 

「ああ、正確には違うが、概ねあっている」

 

「じゃあ、次。なんで、ラフトクランズを持っている?」

 

政征の質問にシオンは聞かれるだろうと予想していたのか、隠すことなく答えていく。

 

「このラフトクランズ・クラルスは俺自身の世界で作られたものなんだ。最も、束さんがISのパーツを使って作ったレプリカ機体らしく、詳しくは俺も分からない」

 

「束なら、確かに作りかねんな」

 

それぞれが質問していき、シオンは次々と答えていく。そして最後の質問を千冬がした。

 

「お前の世界の私達はどうなっている?」

 

「織斑先生と兄がいて、兄を優遇していましたよ。今は少しずつですが改善されています」

 

「そうか、私の他にそちらのお前には兄まで居るとは並行世界は不思議なものだ」

 

聞きたいことは聞き終わった様子で、全員がお茶を飲む。するとシャナが声をかけた。

 

「貴方は・・・私に対しての思いはないのですか?」

 

震えているかのような声で質問してくるシャナに対し、シオンは騎士の礼節をすると頭を下げた。

 

「もう既に想いは伝えてあります。今の俺は貴女への忠義しかありません」

 

「・・・・そうでしたか」

 

「はい」

 

話を終え、職員室でも解散すると騎士二人にシオンはある頼みごとをした。

 

「二人共、ヴォルレントって機体を持ってないか?」

 

「?ああ、あるけど。訓練機だぞ?何に使うんだ?」

 

「この世界の織斑一夏と戦うために」

 

「なるほどな、プログラム調整をするか。手伝うぞ」

 

政征は納得し、雄輔も手伝うと言ってくれた。やはりこの二人は師であり、親友であると再認識する。

 

「・・・零落白夜だけで勝てると思うな。戦う時に・・・ううっ・・・やめた。気持ち悪くなる」

 

一夏の真意を考えつつ、シオンはふたりと共にヴォルレントの調整のために、整備室へと向かうのであった。




シオン君、大暴走。

知っている五人に正体を明かしました。

次回は戦闘回、ヴォルレントが出ます。


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俺がお前でお前が俺で

一夏とイチカ(シオン)のバトル。

己自身の可能性(悪い意味)を見せられる。


一夏と約束した戦いの日の二日前。シオンは政征と雄輔に頼み込み、ヴォルレント1機を貸してもらい、三人で学園の整備室を借りてシオン専用のデータを作り、書き込んでいた。

 

「どうだ?」

 

「これで限界だ。これ以上タイトにしたらバランスが取れなくなる」

 

「一時的とはいえ、ラフトクランズから降りてヴォルレントを使うからな。機体のあらゆる面で性能がダウンするのは仕方ないことだろう」

 

「ダウンした性能は俺の腕で補うしかないか」

 

「シオン・・・一つ聞きたい、ラフトクランズ・クラルスだったっけ?どうして、それを使わずにヴォルレントで一夏と戦う事にしたんだ?」

 

「それは俺も気になっていた、どうしてだ?」

 

「試合を見ていた限り、今の織斑一夏はクラルスと戦うに値しない。仮にクラルスを使って戦ったとしても言いがかりをつけて自分の実力を認めないだろうさ」

 

シオンの意見には納得できるものがある。並行世界の織斑一夏であるシオン、同じ織斑一夏であるのにこの違いは何なのか?

 

シオンは自分達と同じように己を騎士として戒めており、それに見合う実力を持ち、己を高める為に厳しい特訓にも耐える精神力と正しい努力の仕方を知っている。

 

「何でだろうな・・・俺達の知る一夏とは大違いだ」

 

「ああ、そうだな」

 

「鍛えられたからな、自分の世界で」

 

シオンは鍛えてくれたのが自分の世界に跳ばされてきた未来の二人だという事を明かす事はしなかった。

 

下手な言動をすれば、未来が変わってしまう恐れがあるからだ。故に世界が修正できるレベルの行動しか起こしていない。

 

「余程、厳しくとも良い師匠に巡り会えたんだな?フフフ・・・」

 

「そうかもしれないな、フッ」

 

「ああ、最高の師匠に出会えたさ。ハハハ・・・(そうさ、その最高の師匠こそ、お前達なんだよ。政征、雄輔)」

 

会話をしながら、ヴォルレントのデータ書き換えを行っていった。その間、特訓内容が話題になっていく。

 

「特訓って気になるんだが・・・」

 

「どんな特訓をしてるんだ?お前は」

 

「そうだな。先ずはアリーナを5週して汗をかくだろ、柔軟体操を一時間かけてやった後に筋トレを30秒5セット、腕立て、腹筋、背筋をそれぞれやった後に、無手の格闘技や武術の組手を2時間、ISの起動訓練を3時間、それから・・・」

 

「ああ、もういい!もういい!!」

 

「聞いているだけで特訓の濃さが分かる。充分に理解した」

 

まだまだ未熟な騎士の見習い時代である為、二人は年相応に話をしている。それでも、騎士としての戒めや厳しさはしっかりと持っている。

 

そんな二人を見れたシオンは改めて、この二人と友情を深められた事に感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、当日。シオンは立会人として騎士の二人とシャナ=ミア、そして代表候補生であるセシリアと鈴、無理を言って千冬とフー=ルーの二人にもお願いして来てもらった。

 

シオンは白くなったヴォルレントを手にしたまま、一夏がくるのを待っている。2分後に一夏は白式を纏った姿でアリーナへと飛び出してきた。

 

「シオン!絶対に勝って箒に謝らせるからな!(シャナ=ミアさんもいるのか!絶対に勝って良い所をみせないと)」

 

「・・・やれるものならな?ヴォルレント(コイツ!本当にシャナさんの事しか頭にないのか!もしかしたら俺自身がこうなっていたのか!?気持ち悪くて反吐が出る!)」

 

歯ぎしりを隠すようにヴォルレントを展開するシオン。だが、ラフトクランズでない事を看破した一夏は怒りを向ける。

 

「なんで、ラフトクランズじゃないんだよ!?ラフトクランズを使って戦えよ!(舐めやがって!馬鹿にしてんのかよ!?)」

 

「俺のラフトクランズは整備中だ。ヴォルレントはラフトクランズより少しだけ劣るが、強い機体に変わりはない」

 

一夏のこだわりを正当らしい理由で返すシオン。納得は出来ていない様子だが、一夏は雪片を構えた。

 

「それじゃ、模擬戦・・・試合を始めるわよ!」

 

鈴が放送室から合図を出し、試合開始のブザーを鳴らす。それと同時に一夏は突撃し、シオンへと向かってくるが、シオンはそのまま立っているだけだ。

 

「貰ったああああ!」

 

得意の唐竹割りが決まると思った矢先、信じられない事が起こった。まるで、背中を押されたような衝撃が一夏を襲い、バランスを崩して地面に倒れ、摩擦が足りなく滑っていったのだ。

 

本人からすれば何が起こったか、まるで理解できないだろう。シオンは開始位置で滑っていった一夏を見ている。

 

実際はシオンが突撃してきた速度を利用して背中を押しただけである。その状態とは、一夏が突撃し唐竹割りを仕掛け、それを受ける寸前のギリギリで回避しつつ、身体の裁きだけで背後へ周り、その背中を押したのだ。

 

「な・・なんだよ・・今の?(まるで蝶を捕まえようとして捕まえていなかったような・・・すり抜けた?)」

 

「・・・・」

 

シオンは何も言わず、視線だけで「かかってこい」と言いたげだ。だが、彼はヴォルレントの武装を何一つ使っていない。鍛錬で培った洞察と格闘武術だけで戦っている。

 

「このおおおおお!(コイツに勝ってシャナ=ミアさんに良い所を見せるんだああ!)」

 

唐竹、袈裟斬り、横薙ぎとあらゆる斬撃を繰り出すが、シオンはそれを避けてばかりで反撃を一切しない。逆にそれが一夏にとっての挑発となっている。

 

「くそおおお!何で、何で反撃して来ないんだよ!」

 

「・・・・(右からの袈裟斬りが多く使われていて、片腕では横薙ぎを併用するのか)」

 

シオンが反撃しない理由。それは実力差を見せつけるためではなく、一夏の攻撃のリズムを見極めるためであった。

 

人間というものは必ず自分のリズムというものを持っている。それを見極めた時、相手の行動を予想しやすくなる。

 

「・・・(よし、この世界の織斑一夏のリズムは分かった)」

 

ニュータイプに覚醒しているシオンだが、それを使わずに自分の洞察だけでリズムを見極めた。だが、見極めたとしても、その通りに来るとは限らない、予想外の時にこそニュータイプの力を使うべきと自分に言い聞かせていた。

 

「くらえよおおお!」

 

再び唐竹割りを打ち込んできた一夏に肩を入れ背を向けると、シオンはその勢いを利用した背負い投げを決めて地面に叩きつけた。

 

「ぐはっ!?」

 

「此処からは、攻撃させてもらう」

 

開始位置から垂直に飛ぶとシオンは拡張領域からオルゴンガンをセレクトし、それを単発モードで倒れた一夏へ放ち、上昇していく。咄嗟にそれを転がる事で回避した一夏だが、回避に専念せざるをえない状態だ。

 

「あぶねえ!?」

 

「休ませはしない!そこだ!!」

 

一定まで上昇し、急速落下を利用しつつ背後へと旋回した後、アリーナへ下りてくると今度はそのまま地面スレスレの状態でオルゴンガンを連発し牽制してくるシオン、その動きに最も驚いたのは射撃を主に扱うセシリアだろう。

 

「垂直落下からのスラスター切り替えと平行して行う水面軌道上移動による牽制射撃・・・!極めて難しいとされるあの技術を習得しているなんて・・・!シオンさんは一体・・?」

 

「シオンはやっぱり只者じゃないわね・・あの動きと戦略性、代表候補生になっていてもおかしくないレベルだわ」

 

鈴も拳を握りながらシオンの試合を見ている。一夏が相手とはいえ高度な戦闘技術、戦略性を見せられ自分の中にある戦いへの飢えが鈴を奮い立たせる。シオンと手合わせしたいと。

 

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM スーパーロボット大戦OGムーン・デュエラーズより【Fate】]

 

 

シオンの放った弾幕は一夏を狙ったモノではなかった。狙っているのはその唯一の武器である雪片である。

 

「ぐうう!?射撃武器を使って来やがって!」

 

「武器の特性など関係ない、ISの戦闘においては特にな(やはり、手放させなきゃな)」

 

弾幕を展開しつつ、緩急をつけることで自分のリズムを一夏に悟らせないよう対策する。同質の存在ならば、自分が使用した技術を曲がりなりにも使ってくる可能性が高い。それを考えた上であった。

 

「・・・ヴォルレントでどこまで出来るか。それに俺は射撃が苦手だし」

 

ラフトクランズとは違い、ヴォルレントで狙撃するには自分の眼を頼りにしなければならない。ましてや狙撃で相手が持っている武器を撃ち抜かなければならない。

 

シオンの狙撃は自分の世界において成績は低い、未だセシリアやシャルロットなどから教えを請いている身だ。だからこそ、己の力で成功させなければならない状態へと追い込む、そうやって自分を成長させてきたのだから。

 

「!シオンの動きが止まった!!そこだああああ!」

 

勢いに任せて瞬間加速で突撃してくる一夏。シオンにとっては慣れた速度だが油断はしない、ギリギリまで引きつけ狙いを定め、握られた雪片を狙撃し、それを手から弾かせることに成功した。

 

「なぁっ!?雪片が!(銃で刀を弾くなんて!)」

 

「さぁ、どうする?頼みの武器は後ろへ転がったぞ?」

 

シオンはオルゴンガンの銃口を向けたまま、武器は後ろにあると一夏に言う。確かに自分の後ろには白式の唯一の武器である雪片が転がっている。だが、背を向けて武器を取ろうとすればシオンは間違いなく撃ってくるのを一夏は理解できていた。

 

「くっ・・・・(ここで降参なんかしたらカッコ悪すぎる!)」

 

「・・・・・(さぁ?どうやって持ち直す?俺ならもう、出来上がっているが)」

 

シオンは銃口を一夏から離そうとはしない、一夏が僅かに足を引いたのも見抜いている。武器を手にしなければ勝つ事は限りなく不可能、何か一瞬の隙を作り出す事は出来ないかと一夏が思ったその瞬間・・・。

 

「はあああああああ!」

 

「うぐっ!?」

 

シオンの背後から斬撃を繰り出した誰かがいた。一夏だけに集中し、ニュータイプの力に自ら制限をかけていたシオンはまともに当たってしまい、その場で膝を着いた。

 

 

 

 

 

背後からシオンを斬ったのは打鉄を纏った箒であった。打鉄は無断借用したか、束の名前を使ったか、訓練中の生徒から強引に取り上げて纏ったかのどれかだろう。だが、問題はそこではない。

 

「一夏!早く、刀を拾え!」

 

「え、あ・・ああ!」

 

シオンが膝をついている隙に一夏は雪片を拾い、構えをとる。箒は隣に立ち刀を構えた。それを見ていた立会人達は非難の声を上げようとしたが、意外にもそれを制したのはフー=ルーであった。

 

「篠ノ之!?アイツ!」

 

「織斑先生、大丈夫・・・寧ろ見物になりますわ。あのシオンという生徒の実力が見れますわよ」

 

「何!?」

 

シオンは立ち上がると二人を見据える。箒の顔はやってやったぞという達成感を得たような表情をしており、一夏の方は何があったのか理解が追いついておらず、箒に合わせている。

 

「・・・1対1の戦いに乱入するとはな。そうまでして俺を潰したいのか?篠ノ之箒、織斑一夏」

 

「そうだ!お前は私に泥を塗った!だからこそ、お前を断罪する!」

 

「ち、ちが・・お、俺は!」

 

「もはや問答無用・・・!死力を尽くして来るがいい!」

 

右腕を振ってオルゴンダガーを出力し、格闘技の構えを取る。オルゴンダガーは腕から出力されるために格闘と似たものになってしまうからだ。

 

シオンは少しの間、目を閉じ自分の中に抑え込んでいたニュータイプの感覚を目覚めさせ、更にはオルゴンクラウドの転移までも解除してしまった。更には彼から発せられる気迫が一般の常人を超えている。

 

「惑わすなぁぁ!お前の声を聞くと私が惑う!私はお前の後ろにいるシャナ=ミアも断罪せねばならんのだ!(コイツは一夏と同じ何かを持っている。コイツを殺し、シャナ=ミアを殺し、一夏の目を覚まさせる!)」

 

箒の言葉と真意を見抜いたシオンは、この世界の箒の歪みを知ってしまった。一つの憎しみだけで此処まで人間は歪むのかと。だが、この憎しみは一方的な逆恨みに等しい。男が女に惚れる瞬間は突然なのだ、しかし、箒の考えはまるで、一夏の考えや恋慕の感情を認めず、己の立場すらも全てが己自身の物か己が上だと思っている。

 

「もういい、お前は俺の知る箒じゃない・・・!倒す!」

 

オルゴンダガーを構え、瞬間加速を使い箒へと突撃する。この基本的な動きですら今の箒には驚異的であった。

 

「ぐっ!?重い!?」

 

「当たり前だ、加速の速度と俺の腕力、衝撃、体重、あらゆる重さが乗っているんだからな」

 

だが、競り合いをせずにすぐに押し返し、左手にオルゴンガンを持つと一夏へと銃撃する。

 

「ぐあっ!?」

 

「お、おのれ!シオォォォォン!」

 

剣では負ける事がないと思っていたのだろう。一夏以上の剣道の実力を持つ箒だが、シオンは簡単に避けてミドルキックを打ち込み、アリーナの壁際へ箒を激突させてしまう。

 

「箒!」

 

「自分の心配は不要なのか、織斑一夏ァ!」

 

オルゴンダガーをスラスターの左部分に突き刺し捩じ込んだ後、すぐにダガーを引き抜いて距離を取ると同時に背後から迫る刃を感じ取り、ダガーでその刃を切り返し逆に斬りつける。

 

その反応にまるで自分の攻撃が読まれているような錯覚に陥る箒。だが、シオンは容赦なく攻撃してくる。更には一夏が瞬間加速を使う前にオルゴンガンで弾幕を展開し、動きを封じる。

 

「うあああ!?」

 

「ぐああああ!」

 

2対1だというのに圧倒的に押しているシオン。だが、冷静に試合運びを見ている政征と雄輔、悪態をついていたセシリアと鈴も冷静になり改めて試合を見て、気づいた事があった。この試合は2対1ではなく1対1と変わらない試合だということに。

 

そして、誰もが思っていた事を千冬が口にし始める。それを皆が聞きフー=ルーが隣に立った。

 

「シオンが相手では、あの二人は二人で一人分の実力になっているという訳か・・・それ程までに実力差がありすぎるのだな。一夏はIS学園で普通に高校生活を送っているだけで、篠ノ之は己の実力を過信している。シオンがどのような訓練や戦いをして来たかは知らんが・・・血の滲むような努力を重ねてきたのは分かる」

 

「ええ、それには同意しますわ。おまけにあのシオンという子は実戦を経験していますわね、訓練だけではあれだけ冷静かつ判断する事は出来ませんわ。遠距離近距離の切り替えも」

 

その間にもシオンは二人を圧倒し続けた。判断は冷静だが頭の中と腹の中は怒りで煮え繰り返っている。それを戦闘にぶつけているだけだが、怒りに任せる事は未熟な騎士がする事だ。怒りが沸騰しても心を鎮めなければ戦いには勝利できないのだから。

 

「ぐ・・おのれ!何故・・・!何故、貴様に私の斬撃が当たらないのだ!?」

 

「知りたいか?篠ノ之箒。お前の斬撃は剣道そのものだからだ。剣道の試合なら確かに俺はお前には勝てない」

 

「それなら!」

 

「だが、これは剣道の試合じゃない。ISの戦闘だ!ISは近距離だけで相手は挑んでこない。近距離、中距離、遠距離と得意な距離を維持するのは当たり前の事、お前の思っているように試合や相手が動くなど有り得ないんだ!」

 

「ぐ・・っ!」

 

箒からすれば銃器を使う相手は卑怯者という認識なのだろう。だが、それでは世界大会に出ているIS操縦者も卑怯者という事になる。ISの常識を知っていれば当たり前の事だと認識できるが、己が勝ち取った剣道の実績が通用すると考えている為に認められないのだろう。

 

「箒を責めるな!同じ条件で戦わないお前が!!」

 

「何か勘違いしているな織斑一夏、このヴォルレントは訓練機だ。拡張領域が極端に少なく武装もオルゴンガンとオルゴンダガーの二つのみ。訓練機である故にラフトクランズよりも反応速度が鈍い、それを俺は自分の腕で補っているだけだ。使える武装が少ないのなら戦略を考えるのが戦闘における定石だ」

 

「な!?その機体が訓練機だって!?(ハンデを付けられてシオンに戦われていたのかよ!?)」

 

「ああ、高度な訓練をする為のな」

 

一夏は驚きを隠せなかった。専用機レベルの動きをしているヴォルレントが訓練機だとは思わなかったのだ。つまりシオンは格闘技の試合におけるハンデを付けて戦っていたという事になる。格闘技の試合においては重りをつけてウェイトアップする事でハンデをつける。

 

ラフトクランズよりも低い反応速度、スラスターの出力、武装の少なさ、それを踏まえたうえでの高度な戦闘力を見せつけてくる。何よりも専用機と訓練機の組み合わせとはいえど2対1で圧倒されているのが現実である。

 

「認めん!認めんぞ!私は貴様を認めない!」

 

「箒!ダメだ!」

 

箒は感情のまま突撃し刺突を繰り出すが、シオンはそれを見極め僅かな動きで横へ避けると箒の顔面を掴み、そのまま地面に叩きつけた。合気道と似ているが全く異なる技術の一つだ。あまりの衝撃に箒は声を上げてしまう。

 

「がはっ!?」

 

「さっきの刺突から刃を横にしていたのなら横薙ぎの攻撃に切り替えられたな?まだ、そこまでの技術をお前はまだ持っていないか、篠ノ之箒」

 

シオンは容赦なくオルゴンダガーを突き立て、打鉄のエネルギーをゼロにした。このアリーナではエネルギーがゼロになった機体は戦闘行動を行うことができず、ピットへ戻ることしか許可されていない。学園から貸し出されている訓練機であれば尚更だ。

 

「ぐ・・・何故だ!?私はお前よりも強いはず!何故、勝てないんだ!お前にも、他の奴にも!」

 

「さぁ、な。自分で考えて、自分で答えを見つけろ。ヒントはお前の中の傲慢さを理解する事だな(俺の世界の箒は這い蹲ってでも努力し、己以外の強者を認められる女性だ。だからこそ惚れたんだけどな)」

 

「私の中の傲慢・・・だと、ふざけるなぁぁぁ!」

 

大声を出す事しか今の箒に抵抗できる手段はなかった。シオンは背を向けて一夏の目の間へと立つ。

 

「箒が倒されたのかよ!?」

 

「・・・・」

 

「くぅっ・・・!負けてたまるか!お前にだけは負けられないんだ!」

 

「(使うのか?零落白夜を)」

 

シオンは零落白夜の危険性、デメリットを嫌というほどに理解している。しかし、危険なのはそれではない自分の技術を覚えられた上での零落白夜による斬撃が最も危険なのだ。

 

「これで終わりにしてやる!零落白夜!」

 

一夏は無意識にシオンが使ったスラスターの緩急を使っていた。己のリズムをずらす事で間合いを図らせない技術の一つ。スラスターが一つ潰されてはいるが、姿勢を安定させ突撃する事は可能だったのだ。

 

「(やはり、無意識とはいえ覚えてたか!)」

 

別世界の住人とはいえ同じ存在だからこそ、一夏はシオンの技術を吸収してしまう。どんなに手加減しても一夏からすればシオンは鏡面の存在であり、別世界から来た師になってしまう。

 

「なら、仕方ない」

 

シオンは零落白夜を回避すると同時に一夏の背後へと回り、ロングレンジビームを放ったがこれで終わりではない。

 

「オルゴンキャノン!シングルモード!!」

 

両肩、両脚部からも余剰エネルギーを放出し最大出力のエネルギーを発射した。その際に砲身を保護する為なのか結晶が付き、更には相手を結晶体へ閉じ込め爆発した。

 

「ぐあああああ!?」

 

瞬間、白式のエネルギーもゼロになり戦闘行動が不可能になった。瞬間、終了のブザーが鳴りシオンは一夏へ近づく。

 

「約束だな。俺や政征、雄輔、シャナ=ミアさんに付き纏うなよ?(怒りに任せてしまったな、反省しないと)」

 

「ぐ・・ちくしょう!(ふざけんな、認めるかよ!シャナ=ミアさんは俺が守る人だ!)」

 

「・・・・・付き纏うなら、今度は本気でヴォーダの闇に還すぞ?」

 

「っ・・・う」

 

シオンの目は輝きのない冷たい目に変わっていた。それは今度は容赦なく命を奪うといった意思表示であった。シオン自身、騎士ではあるが騎士は戦士であり、戦士は己の手が汚れる事を教えられそれを覚悟している。

 

清浄の騎士の称号を持っていても破壊でしか、清らかな浄化を行う事が出来ない。それが己自身の騎士としての在り方。己が綺麗なままで何かを守れるものなど何もない、それこそが戦士の真実。

 

この世界の織斑一夏は己が綺麗なままでシャナ=ミアを守れると思い込んでいる。シオンはその考えこそが、この世界の織斑一夏を許容出来ない原因だと気づいた。

 

惚れ込んだ女性を守りたいというのは男ならば誰もが一度は持つ想いだ。自分自身もそうであったのだから、理解もできる。

 

だが、この世界の彼は力のあり方を勘違いしている。力は無色な液体のようなもの、手にした相手の色によって変化する。彼は姉である千冬と同じ零落白夜という名の力を得て己が姉と同じ事も力を得たとも思っている。力の在り方を誰も教えなかったのだろう。だが、教えた所でその言葉に聞く耳を持つのだろうか?

 

そう考えながらシオンは背を向けて歩きながらピットへと戻っていこうとしたが、膝をついている一夏が大声を上げる。

 

「(この世界は俺自身の有り得た可能性・・・騎士ですらない子供のままの憧れを持っただけの俺自身)」

 

「待て、シオォォン!」

 

「一つだけ現実を教えてやる。自分が綺麗なままで全てを守れると思うな、時には卑怯者、時には悪にならなきゃ守りたいものは守れない。何かを切り捨てなくちゃ守れない」

 

「なんだよ・・・それ、そんな訳あるか!俺は俺に関わってきた全てを守ってみせる!それが俺の役目だ!(そうだ、みんなもシャナ=ミアさんも俺だけが守るんだ!)」

 

「(大層な理想だな・・・子供そのものだが)いい台詞だ。感動的だな・・・だが無意味だ。その役目がお前一人で出来ると言うのならやって見せろ。その前に目の前の現実に押し潰されるだろうよ」

 

そう言い残してシオンはピットへと戻った。この後にシオンはこの世界の織斑一夏を最も許せなくなる出来事に遭遇する事を彼自身、知る由もなかった。




スーパーロボット大戦OGムーン・デュエラーズにて使用されたアレンジ曲の【Fate】。

今のシオン(イチカ)に似合っていると作者は思います。騎士としての自覚と己自身に有り得た悪い意味の可能性から逃げようと彼はしません。

シャナ=ミアに関しては近衛騎士として守れるだけで良いと考えて吹っ切れており、箒に関して、この世界においてはあまりに違いすぎると考えるシオン(イチカ)。

彼が自分の世界の箒に惹かれたのは、訓練で倒されたとしても何度も何度も立ち上がって騎士の二人に向かっていく姿を見て美しいと思ったからです。

鈴に関しては訓練やサポートなど箒とは違い、傍で支えてくれている異性として惹かれています。

だからこそ、シオン(イチカ)は悩み苦しみながらも可能性を探し続けるのです。理想ばかりを口にするこの世界の一夏を許せなくなったのでしょう。

次回は時間が飛んで臨海学校の準備から入ります。


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束の間のひと時。

シオン(イチカ)と鈴がデート。

鈴が振られる。


臨海学校が一週間後と迫った日。シオンは廊下を歩いていたが鈴がこちらへ近づいてきたのが見える。

 

「あ、シオン!探してたのよ!」

 

「鈴?一体俺に何の用だ?」

 

「ほら、臨海学校が近いじゃない?一緒に買い物をして欲しいのよ」

 

「デートか?構わないぞ」

 

「ちょっ!ハッキリ言わないでよ!(コイツは鈍感じゃないのね)」

 

あれから転校生のラウラやシャルロットが学園へ転校してきたり、鈴が甲龍から爪龍と呼ばれる機体に乗り換えた事などいろいろな出来事があった。

 

シオン自身も己を高める為にこの世界の代表候補生達と戦ったが、驚きを隠せなかった。

 

先ずはセシリアだが、ビットを一時間も展開しヒットアンドアウェイの動きを取り入れつつ、銃器で殴ってくるなどの接近戦を仕掛けてくる事に脱帽した。

 

目の前にいる鈴に関しては中距離から近距離メインの機体に改修されたが、それ以上に彼女の格闘技術が高い事に驚きを隠せず賞賛した。

 

シャルロットに関して、この世界ではラファールではなくベルゼルートと呼ばれる機体に変わっていたが、それでも彼女の射撃技術は高く、近距離射撃をも身に付けていた。

 

ラウラに関しては千冬への憧れこそは捨てていないが、己以上に強いものは居ないという認識を改めている。それに彼女のISは進化しようとしており、それを伝えるきっかけを欲していた。

 

自分の世界に来た政征と雄輔が行っていた通り、この世界の代表候補生達は高すぎるとも言える実力を持っている。それにもっと驚いたのは街へ出かけた際に不良やガラの悪い男性に絡まれた時、セシリアと鈴が簡単に撃退してしまった事だ。

 

撃退したセシリア曰く・・・。

 

「鈴さんから教わった武術ですわ。ISが無くとも戦えるようにしておくべきと皆で考え、鈴さんに教えていただいたのですわ」

 

一体どこまで強くなるのだろうという疑問が浮かばない訳がなかった。確かにこれでは自分の世界の代表候補生達は大したものではないと認識してしまうかもしれない。

 

だが、騎士の二人は彼女達をその高みへと行けるように手助けしている。彼女達がこの世界の代表候補生の強さに近づけるように。

 

「どうしたのよ?シオン」

 

「いや、何でもない。それよりも準備してくる、少し待っててくれ」

 

「わかったわ。私は外出届けを出してくるから」

 

そう言って二人はそれぞれの準備のために分かれた。シオンの手持ちはラフトクランズ・クラルスのデータを提供するという条件でアシュアリー・クロイツェル社にアルバイトとして雇われていた。

 

無論、政征と雄輔が提案してきたのを二つ返事で了承しただけだ。アシュアリー・クロイツェル社にとってレプリカ機体とはいえど再現されたラフトクランズに興味があった事は当たり前ではあるが、データ以上の要求をされる事はなかった。

 

「うーん、このくらいあれば大丈夫だろう。念のために多めに持って行くか」

 

予算を手にシオンは着替えを済ませ、鈴と待ち合わせしている駅のターミナルへとと向かう。

 

鈴はホーム近くで背をつけて待っていた。彼女らしい動きやすさと可愛らしさを共同させた服装にシオンは少しだけドキリとした。

 

「待ってたか?」

 

「大丈夫よ。ほら、早く行きましょ?」

 

「お、おい」

 

 

 

 

腕を絡ませて来る鈴に苦笑しながらも電車に乗り、鈴を守る様な形で立っていると声をかけられた。

 

「そこにいるのはシオンか?」

 

「ん?政征、それにシャナさんも!」

 

「え?本当!?」

 

「鈴さん、シオンさんもお出かけですか?」

 

どうやら同じ車両に乗っていたらしく、立っていたシオン達が政征とシャナ=ミアへ近づいて場所を取った。

 

「ああ、臨海学校の準備にね」

 

「でしたら、途中までご一緒しませんか?」

 

「良いわね!一緒に行きましょ!」

 

男性二人は女性陣の意見に賛同した。最も苦笑していたが、変に断れば良くないと思ったが故だ。

 

数十分後、ショッピングモールに到着すると早速、水着コーナーへと赴く。男性用の規模は小さいが贅沢が言えない為、その中から選んでいると途中で雄輔とフー=ルーも合流し、女性陣もそれぞれ水着を選ぶ。

 

「うーん、これはどうかな・・・でも、これだと派手すぎるわね」

 

「政征の好みはどんな感じでしょうか・・パレオが好きと言ってましたが」

 

「私はこれにしましょう」

 

三人の女性が水着を選んでいる中、男子陣も水着を選んでいる。最も男性の場合すぐに済んでしまうが。

 

男性陣は会計を済ませ、雄輔がお手洗いに行くと言って離れていた時だった。ふたりの目の前に大量の女性物の服や下着、水着などが入った買い物かごを置かれたのだ。

 

「それの代金払っておいて、男なんだから当然よね」

 

どうやら50代半ばの女性らしい。シオンと政征は呆れたようにため息を吐いた。それを不快に思ったのか、ヒステリーを起こして騒いだ。

 

「何ため息なんか吐いているのよ!さっさと払いなさいよ!」

 

「うるさいんだよ。ギャアギャアと・・・自分の買い物くらい自分で買えないのか?オバさん」

 

「オ、オバさんですって!?私は女よ!?ISに乗れるのよ!」

 

この言葉でハッキリと二人は理解した。この女はISが女性のみが持てるという点を自分の権利だと勘違いしている一般人だと。

 

「ISはアンタのような女に権利の象徴としてあるものじゃない・・・。開発者が宇宙へ行きたいという夢を叶えようとして作った物だ!」

 

「アンタのように勘違いも甚だしい奴がいるから、勘違いされるんだよ」

 

「な、生意気な口を聞くんじゃないわよ!」

 

女がビンタをしてきた瞬間、それを待っていたと言わんばかりにシオンがそれを受け止め、政征はそれを隠しながら動画にて撮影を成功させた。

 

「これで反省を!」

 

「何かありましたか?」

 

そう言って近づいてきたのは警備員だった。女はこれはチャンスと思い二人を指差しながら騒ぎ立てた。

 

「この若者二人が私に暴力を振るったのよ!早く追い出して!」

 

「本当ですか?」

 

「いえ、暴力を振るった上にこの買い物かごにある物を全て買わせようとしていたのはこの女性です」

 

「何言っているのよ!デタラメ言うんじゃないわよ!!」

 

政征はため息を吐きつつ、警備員に近づくと証拠として取っておいた動画を見せた。

 

動画を見た警備員はすぐに女性の方を向いて質問する。

 

「これはどういう事ですか?この動画は貴女が暴力を振るったという証拠ですよね?」

 

「そ、それは・・・!」

 

しどろもどろになって逃げ出そうとする女。だが、逃がさないと言わんばかりに警備員が腕を掴む。

 

「は、離しなさいよ!」

 

「そういえば、頻繁に若い男性に絡んでは強引に服などを買わせている女性が居ると聞いてましてね?警察からも最優先で確保して欲しいと言われてましたが、その犯人は貴女ですね?」

 

「!!!????」

 

「しばらくの間、警備員室でお話を聞かせていただきますよ」

 

「は、離しなさい!私は女よ!ISに乗ることが許された存在なのよ!」

 

「ん?そういえば貴方は二人目の男性操縦者であり、アシュアリー・クロイツェル社の代表候補生の赤野政征さんじゃないですか?」

 

「ええ、そうですが。何か?」

 

「え・・・・」

 

三人いると言われる男性操縦者の一人であり、アシュアリー・クロイツェル社の代表候補生と聞いて、女性は急速に顔を青ざめていった。

 

世界的にも希少と言われる男性操縦者であり、世界的大企業であるアシュアリー・クロイツェル社の代表候補生に手を出してしまった現実が女を打ちのめした。

 

「いえ、ご協力感謝します」

 

「いえいえ」

 

女はうだれながら警備員に連れられていってしまった。実はこの警備員、アシュアリー・クロイツェル社が新しく作った警備会社の社員であった。だからこそ、政征を知っていたのだ。

 

「シオン、大丈夫か?」

 

「このくらい、この世界の鈴の拳に比べたら、なんともない」

 

「比べるものに差がありすぎるぞ、全く」

 

雄輔が戻ってきた後に買い物を終えた女性陣と合流すると、シオンの頬が赤くなっているのに気づいた鈴が問いただし、話を聞いた鈴は殴りに行きそうな勢いになり、それを宥めた。

 

 

それから、昼食をとりゲームコーナーでゲームをして遊んだり、プリクラを撮って記念品にしたりした。

 

シオンにとって最も嬉しかったのはプリクラとはいえど、シャナ=ミアとのツーショットが撮れた事であった。初恋の女性と自分のツーショットなど滅多に撮れない。だが、これは自分が最も守りたい人だという事を改めて誓うものになった。

 

「はぁ、遊んだわねー」

 

「ええ、楽しかったです」

 

「じゃあ、俺とフー=ルー先生は別に用事があるから」

 

「また、学校でお会いしましょう」

 

そういって雄輔とフー=ルーは別の場所へ行ってしまった。政征とシャナ=ミアも何かを思い出す。

 

「あ、そうだ!俺も別の場所で買い物があったんだ!」

 

「お供しますね、政征」

 

「うん、それじゃあな?シオン、鈴!」

 

「また、学園で」

 

政征とシャナ=ミアもいなくなり、二人は帰路に着く。無言のまま歩き続けるが、鈴が沈黙を破った。

 

「ねぇ・・・シオン。アンタ・・付き合ってる人はいるの?」

 

「いや、居ないが好きな人はいる」

 

「!そう・・・ねぇ?私はアンタが好きみたい、教えてくれる?シオンの気持ちを」

 

この世界の鈴からの告白、シオンとしても嬉しいが敢えてシオンは冷たい言葉で答えた。

 

「悪い、鈴・・俺はお前とは付き合えない。告白してくれたのは嬉しい、それは本当だ。でも、俺はいずれ去る事になるんだ。学園から」

 

「!!そ・・っか(一夏だと思ったけどやっぱり違うのね)」

 

「ごめんな」

 

「謝らないでよ、私は気持ちが知れたからいいの!ダメだったのなら次を目指すまでよ!」

 

切り替えが早い鈴の言葉に救われるシオン。ああ、自分の世界だったのなら了承していただろう。これが並行世界に来た事の辛さなのか。

 

「シオン、これからも仲良くしてよ!それと好きな人が居て複数なら必ず一人を選びなさい!振られたとしてもその子の成長になるわ!必ず!」

 

「ああ、ありがとうな鈴」

 

「フフ、それじゃ帰りましょ?訓練の時にボッコボコにしてあげるから」

 

「お手柔らかにしてくれ・・・」

 

帰宅と同時にシオンと別れ、鈴は堪えていた涙を流した。一夏と同じ声、同じかも知れない人間だった。でも、全く違っており恋をした、失恋は辛いがこれも糧になるんだと言い聞かせたが泣き止むことはなく、ルームメイトのティナが慰めたという。

 

だが、鈴自身も気づいていなかった。シオンが帰った時、この恋心はすぐに消えてしまう泡沫の夢である事に。




シオン(イチカ)のこの世界に鈴に対するケジメです。本当は付き合いたいのですが、自分の世界に帰る事が確定していると悟っている為に振りました。

鈴も鈴で振られましたが、この恋心が消滅する事に気づいていません。

所謂、世界の修正です。代表候補生達からは記憶もシオン(イチカ)が居たという事実も彼が帰った後に消されます。

でも、シオン(イチカ)の世界に来る事が出来れば記憶は復活します。もっとも、その方法がありませんが。

シオン(イチカ)自身もこれでどちらかを選ぶという選択肢に迷いが出ます。この世界の鈴からは一人にしろと言われましたが難しいと思っています。

次回はシオン(イチカ)にとって、この世界の己自身をクソ野郎と言わしめたあの出来事(シャナ=ミアをレ○プしようとした)が起こる臨海学校編です。


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Nobody's Perfect(ノーバディズ・パーフェクト)

臨海学校での楽しい出来事


臨海学校、当日。バスの中で三騎士の三人、シャナ=ミア、セシリア、ラウラ、シャルロット、特別に鈴が最後尾に座ってお喋りを楽しんでいた。

 

三騎士である政征、雄輔、シオンは最前列にある教師が座っている席へ視線を向けていた。

 

千冬の隣には一夏が、フー=ルーの隣には箒が座っている。シオンから二人が監視をして欲しいと頼み込まれ、目の届く範囲で二人を監視するようになったのだ。

 

クラスメート達は教師の二人の許可をもらい、バスにあるカラオケで盛り上がっている。目的地の旅館に着くまでの間、全員が巻き込まれ歌う事になっていった。

 

 

 

 

バスから降りると旅館の女将が玄関から出てきた。旅館の名前は花月荘というらしく、IS学園では長くお世話になってるそうだ。生徒達は全員、玄関前で整列している。

 

「今日から三日間、この花月荘でお世話になる」

 

「皆さん、節度を持って行動してください」

 

「「「はーい!」」」

 

教師としての千冬とフー=ルーの注意の言葉に対し、全員が返事を返すと同時に旅館の玄関の扉が開き、ひとりの女性が出迎えてくれる。

 

「今年は賑やかで良いですね」

 

歳は三十代そこらだろうか?佇まいと笑顔がしっかりとマッチしている。長年、旅館を切り盛りしてきた女将の貫禄があった。

 

「今回はすみませんでした、男女の区分けでお手数をおかけしてしまいまして」

 

「いえいえ、こちらの方々が?」

 

「そうですわ、私はフー=ルー・ムールーと申します。よろしくお願いします」

 

「ご丁寧にどうもありがとうございます。清洲景子と申します」

 

男性操縦者の四人は一歩前へ出て挨拶をする。女性だけでの対応だけでなく、男性の対応もしてくれたのだから、礼儀を見せるのは当然だという考えからだ。

 

「男子生徒の赤野政征と申します」

 

「彼と同じく、男子生徒の青葉雄輔と申します」

 

「二人と同じ男子生徒のイチカ・フューリア・シオンと申します。シオンと呼んで下さい」

 

「織斑一夏です」

 

男性四人はそれぞれ挨拶を済ませるとクラス全員と共に旅館へと入っていった。男子四人は教員と同じ部屋になったが、シオンと政征は山田先生と同じ部屋になった。

 

 

 

 

教師の集まりがある間、水着に着替え上半身を隠せるパーカーを着込み男性操縦者達は浜辺へと向かう。空は雲一つない快晴で夏の日差しが直接肌に当たってくる。

 

政征と雄輔は何処で借りてきたのか、パラソルとシートを手に浜辺にいた。シオンはよく冷えた飲み物が入っているクーラーボックスを持っている。

 

「さて、準備しないとな」

 

「シオン、パラソルを立てるのを手伝ってくれ」

 

「分かった。場所はあそこでいいな」

 

岩陰に近い場所をシオンが指差し、向かうと同時にシートを敷きパラソルを二つほど立てる。作業を終えるとシオンがクーラーボックスの中に入っていたペットボトルのアクエリアスを取り出して投げ渡し、ふたりはキャップを開けてそれを飲む。

 

「くぅ~!美味えええ!」

 

「っかああ~!日差しが強くて暑いから、本当に美味いな!」

 

「だろ?よ~く冷やしておいたんだよ。冷たいのはあまり良くないが、今日は暑すぎるくらいだからな」

 

そう言いつつ笑いながら、シオンも一本取り出して水分を補給する。この暑さで海とあってはすぐに乾いてしまうからだ。

 

「さて、そろそろ女性陣が来るだろう」

 

「出迎えるか」

 

「そうだな」

 

そうして油断していた所にシオンへ飛びついて来たのは鈴だった。まるで妹を兄が肩車しているような格好になっている。オレンジ色の三角ビキニだが、鈴の健康的な色気を惜しむことなく晒されていた。

 

「男三人でなにやってんのよ?」

 

「鈴!?」

 

「おいおい、シオンが顔を青くしてるぞ?」

 

「へ?ああ!力入れすぎてた!ごめん!シオン」

 

「ゲホッ・・ゲホッ!殺す気か?」

 

力が緩むと同時に咳き込むシオン、それと同時にセシリア、シャルロット、ラウラ、シャナ=ミアの五人も到着する。

 

セシリア、シャルロットは青と黄色のチューブトップにパレオを巻いており、ラウラはフリルのついた黒のビキニ、シャナ=ミアは薄い菫色をしたバンドゥビキニにパレオを巻いているようだ。

 

「女性陣のレベル高すぎないか?」

 

「確かに、それには同意する」

 

「ああ、高すぎるよな本気で」

 

この後、男性陣はパラソルの見張りをしつつ、海を堪能した。政征はシャナ=ミアにサンオイルを塗る事になったが、男性にとっては色々とマズイことになる声を出され、シオンも耐える事に必死になっていた。

 

雄輔は雄輔で引っ張りまわされ、パラソルに戻ってきた時はヘロヘロな状態だった。そんな矢先、千冬とフー=ルーがこちらに来た。千冬は黒の水着、フー=ルーは青と彼女たちのイメージカラーそのものだ。

 

二人は喉が渇いていたのか、視線はクーラーボックスに向いていた

 

「楽しんでいるようだな?ん、アクエリアスか。二本貰っても構わないか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「ありがとう、助かる。フー=ルー先生も」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

千冬は手にした二本のアクエリアスのうち一本をフー=ルーへと手渡した。ペットボトルのキャップを開けて水分補給した二人は生き返ったような表情をした。やはり、水分が不足していたのだろう。

 

「ふう、生き返ったぞ」

 

「本当に美味しいですわね」

 

どうやら生徒たちに捕まって、色々と連れ回されていたようだ。やはり快晴の下の海とあっては騒ぎたくもなるのだろう。

 

ビーチバレーなどを楽しみながら、海水浴の楽しい時間は過ぎていった。ただ一人、シオンだけが自分の中で気持ち悪さを払拭できないでいた。

 

「(臨海学校に来てるけど、この世界という事は・・・アレが現実で俺の目の前で起こるのか?騎士になると誓ったあの日に見せられた・・・この世界の織斑一夏の愚行を・・・!でも、俺は一人じゃない・・・この世界にも仲間はいる。俺一人じゃ何もできないのだから頼ればいいんだ。そう、完璧な人間なんかいなんだから)」

 

誰も見ていない所で、シオンはただ一人あの出来事から騎士として必ずシャナ=ミアを守ると誓うのだった。




短いですが、この回はここまでで。

シオン(イチカ)にとって最も嫌悪し見たくなく、また駆けつけなければならない試練が始まります。

親友と忠誠を誓った皇女が危険に合うのは確定です。

彼(シオン)を見守ってあげてください。彼は自分と戦うのです。彼はこの世界の彼とは違います、この世界の彼とは。

感想をお待ちしてます。


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俺は俺の為に戦う!俺が信じた希望の為に!

堕ちた己自身との戦い。

ユニコーンモードによる変身とクラルスの完全覚醒。


臨海学校二日目、この日は訓練が普通にある。飛行訓練や水上での操縦訓練など訓練には事欠かない。一般の生徒たちは楽しかった海水浴の時とは真逆の阿鼻叫喚の叫び声を上げ続けていた。

 

そんな中、専用機を持つ、政征、雄輔、一夏、シオンの男性操縦者とセシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、そして特別枠としてシャナ=ミアが旅館の真裏にある海岸に集合していた。

 

一夏はシャナの近くへ移動しようとしていたが、専用機持ちの4人に阻まれ出来ず、それをシオンは嫌悪感を表に出さないようこらえていた。

 

「織斑先生、フー=ルー先生。一つ質問があります」

 

「なんだ?」

 

「なんでしょう?」

 

「なぜ、専用機を持っていない篠ノ之さんがいるのですか?彼女は山田先生の方にいるべきなのでは?」

 

政征の疑問は最もだ。専用機を持たない箒は本来山田先生の訓練を受けなければならない。だが、教員の二人は仕方ない様子で答えた。

 

「我が社の研究部長からの条件なのです。篠ノ之箒を連れてくるようにと」

 

「ああ、その条件を飲むよう学園から通達があった」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

所属している会社と学園からの命令もあったのでは仕方ないと納得し、その研究長が来るのを待った。

 

30分後、大きな輸送機と共にその人は三人の助手を連れて現れた。生身で飛び降りて着地と同時にこちらへ向かってきている。

 

「ちーちゃーーーーん!会いたかったよーー!さぁ、久々のハグハグしよう!」

 

「相変わらずだな、束?それと少しは落ち着け」

 

千冬は突っ込んできた相手をアイアンクローで押し止めているが束は痛がっている様子はない。ただ、押しとどめているだけで力は入っていないからだ。

 

「ぬぐぐ・・相変わらず容赦のない止め方だね!と、ふざけるのは此処までにして」

 

そう言ってアイアンクローからすぐに抜け出すと同時に真面目な顔つきになり、輸送機の中にあった白衣を身に纏う。

 

「束、お前・・・雰囲気が変わってないか?それに何だ?珍しく白衣など纏って」

 

「ん?そりゃあ白衣を着込むよ!だって今の私、アシュアリー・クロイツェル社の研究部長だもん!」

 

「何!?そんな話は初耳だぞ!?」

 

「「「「「「えええええええーーー!!」」」」」」」

 

「あらあら」

 

「(この世界でも束さんは研究者なんだ。名前はそのままだけど)」

 

千冬を始めとするフー=ルー、それとシオン以外のメンバーが全員驚いて声を上げていた。だが、束本人はまるでドッキリが成功したようなドヤ顔を決めている。

 

「ふふん。驚かそうと思って秘密にしておいたんだよ。さて、と・・・久しぶりだね?箒ちゃん?」

 

「姉さん、例の物は?」

 

向き合うなり、サッサと取引物を寄越せと言ってきているような雰囲気に反応するシオン。

 

それを千冬が手で制し、事無きを得たが、それでもシオンの目付きは鋭く冷たくなっていた。

 

「もちろん出来てるよ。ただし、フィッティングとパーソナライズをしたら私からの条件を飲んでもらうからね?(妹とはいえ、私の娘は託したくないんだけどな)」

 

「分かっています、すぐにお願いします」

 

「せっかちさんだなぁ、カティちゃん!お願いね!」

 

「はい!」

 

郵送機に乗っていた黒髪のショートカットをした一人の女の子が、作業用のISに乗り、コンテナを運ぶと同時に中身を開いた。

 

「これが束さんお手製のIS!『紅椿』!現行で最も先を行ってるISだよ」

 

「これが・・・」

 

「(確かアレは第四世代のIS・・・でも、見る限りじゃリミッターも着けられていない。俺の世界の箒は束さんと和解したけど、こっちの箒は違う。あんなのを渡したら正に『基地外に刃物』になるじゃないか!)」

 

箒は喜びに震えていた。これで自分も同じ場所に立てる力を得たのだと。それとは裏腹にシオンは束の真意と強力なISを持った人間の危険性を警戒していた。

 

「早速始めようか・・フィッティング開始!テニちゃんお願い!」

 

「まっかせて!!」

 

箒が紅椿と呼ばれるISに乗り込むと同時に、元気な声で紅い髪の少女がすごい速さで紅椿のフィッティングを完了させていき・・・。

 

「次はパーソナライズだね!メルちゃんよろしくねー!」

 

「はい、お任せ下さい!」

 

一番大人しそうな金髪の少女も紅い髪の少女に負けないくらいの速さで完了させていく。

 

「さ、どうかな?箒ちゃん?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「じゃあ・・・ん?少し待ってね?君は確か・・・シオン・・とか言ったね?」

 

「?ええ」

 

この世界の束が近づいてくる。すると同時にシオンの耳元である事を囁いた。

 

「君が並行世界のいっくんだって事は知っているよ。だけど、君には何もしないよ・・・君の機体データは会社で見てるし、君専用のメンテナンス用データだけ転送しておくね?」

 

「っ!?」

 

シオンは一瞬だけ驚くが、束は少しだけ悲しそうな目をして一言だけ口にした。

 

「どうして、この世界のいっくんは・・・君のようになれなかったんだろうね?」

 

「束さん・・・貴女はやっぱり優しいですよ」

 

「(ありがとう・・・シーくん)」

 

それだけを言い残し、再び輸送船の方へと歩いて行った。シオンも政征達の近くへと向かい、紅椿を纏った箒を見ていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、さっそく模擬戦してもらうよ。相手は」

 

「姉さん、戦う相手は決めています。シオン!私の相手をしろ!」

 

「箒ちゃん!?勝手に!」

 

「良いんです。束さん・・・俺も騎士の称号を持っていますから」

 

「え?君も!?」

 

「そうです。清浄の騎士、それが俺の騎士の称号です」

 

シオンの言葉に箒と束は信じられない様子だ。シオンが騎士の称号を持っているとは思いもしなかったのだろう。

 

「そっか、じゃあ・・・シーくん、お願いね」

 

「束!勝手な真似は!」

 

千冬は止めさせようとしたが、それを止めたのは意外にもフー=ルーだった。彼ならば問題ないと信用しているようだ。

 

「フー=ルー教諭?」

 

「・・・あの子は今一度、上には上がいるという事実を身をもって徹底的に教えたほうが良いでしょう」

 

「む・・・それは」

 

その言葉に千冬もどこか納得していた。あの時の乱入の時に見せた実力ならば平気だろう。箒からすればリベンジできる絶好のチャンスなのだ。

 

箒は自分に優位な部分しか見ない傾向がある、自分より強い者を決して認めないのだ。

 

「下がっててください、クラルス!」

 

シオンは迷いなく、ラフトクランズ・クラルスを身に纏った。清浄の騎士の名の通り、白色のラフトクランズがそこに立っており、政征と雄輔は美しいながらも力強さを感じさせる感覚を味わった。

 

「束さん、武装の制限は?」

 

「・・・武装の制限は無いよ、思いっきりやっていいからね。卑怯者と言われても無視して」

 

「分かりました」

 

シオンはそのまま箒のいる浜辺へと飛ぶ。シオンが戦うと聞いて一般の生徒達も集まり始めていた。シオンの戦いを見れてないが故の好奇心だろう。そこには山田先生も混じっていた。

 

「山田先生?」

 

「ご、ごめんなさい!生徒達の勢いに負けて」

 

 

 

 

 

 

「シオン!あの時の借りを返すぞ!今度こそ私がお前を倒してやる!この紅椿で!」

 

「・・・・」

 

シオンは無言のまま、ソードライフルをライフルモードに切り替え、エネルギー弾を一発撃った。

 

「な!貴様!不意打ちとは卑怯だぞ!!」

 

「やはり、まだ考えを改めてなかったか」

 

「なんだと!?ぐっ!」

 

次にライフルからソードモードに切り替え、シオンは斬りかかってきたが箒は何とか武装である「空裂」を展開し受け止めた。だが、押し込む力が強く腕が震えている。

 

「く!負けるかあ!!」

 

「型通りの剣道の剣を闇雲に振るうだけでは、戦場で生き残れないんだよ!オルゴンクロー!」

 

シオンは振り下ろされた箒の刃を回避し、シールドクローを展開し突撃した。慣れない専用機に振り回されており、箒は思うように動けずにいる。

 

「何!?がっ!?」

 

「捉えた!」

 

地上の浜辺で戦闘を行っていたが、シオンは展開したシールドクローで紅椿ごと箒を捉えて上昇し、浜辺に叩きつけ引き摺った。

 

「うああああああああ!!!?」

 

 そのまま遠心力をかけて投げ飛ばし、オルゴンクラウドの転移で背後に廻り、そのまま叩きつけた。

 

ヴォルレントの時はこのような武装は無かった。何よりも動きが違いすぎており、ハイパーセンサーの恩恵を受けても、シオンの速さに対応できない。

 

一般の生徒達はシオンの繊細のようで大胆、的確なようで荒々しい攻撃の仕方に驚愕したままであった。

 

「がはっ!?この・・!な・・!?」

 

「終わりだ」

 

箒は起き上がろうとしたが、目の前にオルゴンソードを突き付けたシオンが立っていた。振り下ろされれば完全にコアを破壊出来る部分だ。

 

「これが命を奪い合う実戦の戦い方だ、これを受け入れられないならISを持とうと思うな」

 

「う、うるさい!お前に決められる覚えはない!これは私だけのものだ!」

 

「忠告はしたからな?」

 

あまりの圧倒的な実力に一般の生徒達は思わず道を開けてしまった。それ程までにシオンを恐れているのだ。

 

その後、束はセシリア達のISを改修したり、追加装備を装備させたりなどすぐに予定を終わらせてしまった。だが、その後にフー=ルーの連絡用端末に連絡が入った。

 

 

 

 

 

「!なんと、緊急事態ですわ!織斑先生!!」

 

「何!?」

 

織斑先生とフー=ルー先生は何かを話し合っているようで、しばらくして向き直った。

 

「全員注目!これよりIS学園教師は特殊任務行動に移る!」

 

「一般の生徒は山田先生の指示に従い、それぞれの部屋にて待機してください!」

 

どうやら重要な出来事のようで専用機をもつ全員が招集された。

 

 

 

 

 

 

[推奨BGM 勝利者への機構]

 

作戦会議室となった大広間では専用機所持者全員と教員二人、そしてアドバイザーとして篠ノ之束とその助手三人が集まっている。

 

「では、説明する。二時間ほど前、アメリカ・イスラエルにて合同開発されていたIS『銀の福音』が暴走し、逃走。追撃を逃れてこの空域に向かってるそうだ」

 

「現段階で自衛隊による迎撃は不可能、よって戦力のあるIS学園の専用機によって迎撃されたしとのことですわ」

 

千冬とフー=ルーの説明に全員が表情を引き締める。遊びではなく本当の実戦へ出撃することになるからだ。

 

「ここまで、何かあるか?」

 

セシリアが挙手し、要求を口にする。

 

「目標であるISのスペックデータを要求します」

 

「分かりました。ですがこれは最重要軍事機密情報ですので漏洩した場合、最低でも二年の監視と裁判が確定されますので注意しなさい」

 

「はい」

 

フー=ルーの忠告の後、ターゲットである機体のスペックデータがモニターに表示される。

 

「高機動特殊射撃型、わたくしのブルー・ティアーズと同じで広域殲滅タイプですわね」

 

「攻撃と機動力に特化した機体ね、私の爪龍でも速度ではギリギリ追いつけないわ」

 

「おまけに遠距離からの狙い撃ちも可能ときてる。射程外から狙われる危険性もあるよ」

 

「これだけでは格闘能力も未知数だ。偵察は行えないのだろうか?」

 

4人が話し合いをしている中、政征と雄輔も参加した。

 

「無理だな、この機体は機動力に特化してるって鈴が言ってただろう?更に軍用ときてる、学園で相手にしていた機体とは訳が違う」

 

「それだけじゃない、無人機だとは言われてるが人が載っている可能性もある。ないとは言い切れないからな、最悪の可能性を考慮しておくべきだ」

 

シオンからの意見に全員驚くが、あまりの正論であり誰も意見ができなかった。

 

「それと同時に個人撃破は難しいだろう。この作戦は連携が成功の鍵になる。それに俺達の中で最大の攻撃力を有し、それをすぐに引き出せるとしたら」

 

意見を出し合っていた全員が一夏を見る。だが、シオンだけは視線を逸らしていた。

 

「俺の零落白夜だけだって事だろう?やってやるさ!!」

 

一夏は拳を強く握りやる気に満ちていた、しかしそれは何処か危なげだ。シオンはそれを見抜いているが故に部隊から外すべきと言いたかったが、作戦の要だという点は妥協できず、口にするのをやめた。

 

それと同時に政征はこっそりとシャナへ近づいてデートの時、密かに買っておいた小型のICレコーダーを録音状態でシャナに髪を結ってるリボンの中へ忍ばせるよう言った。

 

「(これ・・隠し持っておいて。シャナを守ることになるから)」

 

「(?はい)」

 

シャナは政征から受け取った物をリボンの中にそれを忍ばせた。誰も気づかないようにしていたために誰も気づくことはなかった、一人を除いて。

 

 

 

 

 

その後、編成が成され。出撃には一夏、箒、政征、雄輔、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、シオンというメンバー編成になった。

 

箒の出撃には雄輔や政征、鈴がシオンの代わりに反対したが、紅椿の速度を使わざる得ない状況である為に却下されてしまった。

 

シャナは作戦の危険性から待機を命じられフー=ルーと共にいる。

 

「(何でしょうか。この得体の知れない不安は?胸騒ぎが激しい)」

 

「一夏、今回は大船に乗ったつもりでいろ。しっかり運んでやるからな」

 

「ああ、わかったよ・・」

 

二人の様子を他のメンバーは警戒しながら見ていた。箒は浮かれきっており、一夏からは作戦会議時までのやる気が感じられない。

 

「(マズイな、これは)」

 

「(いくら何でも浮かれすぎだろう、おまけに集中していない)」

 

「(これじゃ死ににいくようなものだぞ?この二人は!)」

 

雄輔と政征は出来るだけのフォローをしようと考え、シオンは騎士の二人の支援をしようと考え、機体を展開した。

 

 

 

 

 

合計9機の専用機は戦闘空域に向かっていた。接触まであと一分といったところだ。だが、その間にも雄輔の不安は拭えない。

 

「(何だ?さっきから胸騒ぎが治まらない、政征に何か起こるのか?)」

 

雄輔は出撃と同時に妙な胸騒ぎに支配されていたが、気にしている余裕が無かった。

 

「!見えたぞ!!一夏!」

 

「!!」

 

 

 

[推奨BGM 『虚空からの使者』スパロボOGより]

 

 

それは一目で表すならば白銀の天使だった。機械的な部分がありながらも穢れのない白に美しさすら感じる機体だ。

 

「敵機・・・確認・・・迎撃」

 

「今だ!一夏!」

 

「おう!!くらえええ!!」

 

紅椿から飛び出した一夏は絶対の自信を持って、目標である銀の福音に斬りかかった。

 

「(叫びながら斬りかかるやつがあるか!居場所を教えてどうする!?)」

 

「回避行動・・・敵機、9」

 

「何っ!?」

 

だが、叫び声をあげたせいで、その一撃は難なく回避され、反撃を開始しようと福音が光を収束する。

 

「させん!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

逃がさないよう政征が接近戦を挑み、オルゴンソードで牽制する。だが、福音は政征の刃を易易と回避し続ける。政征に惹きつけられ、福音は射撃武装が多い機体の範囲へと誘導されていた。

 

「セシリア、いきなりの合わせだが出来るか?」

 

「ええ、お任せ下さい!」

 

雄輔はセシリアの隣に並び、ティアーズとガーディアンを同時展開する。いきなりのビット兵器による同図攻撃を仕掛けようとしている。

 

「行きなさい!ティアーズ!!」

 

「狙い撃て!ガーディアン!」

 

八つのビットが福音を狙うがダメージ効果が薄く、むしろ回避している福音を挑発するように見えていた。政征に誘爆させないように当てるのが難しいが故だ。

 

「ちっ!」

 

「ダメですわ!照準が!」

 

間合いに気づいた福音が距離を取ろうと動くが、オルゴンソードを持った政征がそれを許さない。

 

「逃がさんぞ!まだまだ社交は始まったばかりだ!」

 

「・・・・・」

 

一夏はその政征の後ろ姿を見て、今なら隙があると考えた。一瞬の殺気に気づいたシオンが急いで駆けつけようとしたが。

 

「(アイツを・・・殺れる!)うおおおおお!!」

 

そのまま突撃し一夏は零落白夜を発動させ、政征ごと福音を斬った。福音へのダメージは確定的ではあったが、背中から斬られた政征のラフトクランズ・リベラのスラスターが出力を失っていく。

 

「ぐあああああああーーーー!?い、一夏・・・!おま・・え」

 

「は・・はは・・安心しろよ・・これで福音を倒したんだ。お前の言う戦場のやり方だろ?シャナ=ミアさんもみんなも俺が守る・・・!」

 

「ぐ・・う・・・!シオ・・・・ン・・・シャ・・・ナを・・まも・・・」

 

それだけを言い残し、政征はそのまま海へと落下していき、水しぶきを上げた。福音はダメージを負ったものの、ギリギリで戦闘不能には至っていないがその場で静止してしまっている。

 

「織斑・・・お前・・・お前って奴はあああああ!!」

 

一夏へ突撃しようとした雄輔だったが、そこに立ち塞がったのは紅椿を纏う箒だった。

 

「一夏をやらせはせん!!」

 

「退けええええ!オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

今の雄輔に冷静さの欠片もなかった。自分の親友を敵ごと落とされるというのを目撃して冷静でいろというのが無理な話だ。オルゴンソードを展開し箒に向かっていくが守りを無意識に得意としているのか、雄輔は行動を阻まれ続けた。

 

「織斑一夏ァァァーーーー!!!!」

 

雄輔の怒りを引き継いで突撃したのはシオンであった。その目には怒りと嫌悪感が目に分かるほど溢れ出ている。

 

「うるせええええ!」

 

「ぐあああ!」

 

今の一夏は一線を超えた自覚によるものなのか、剣力が上がっていた。展開していたオルゴンソードを弾かれ、シールドクローを展開する暇もなく、連続攻撃を仕掛けてくる。

 

「シオン!あとはお前だ!お前さえ居なくなれば、シャナ=ミアさんは俺が守れるんだ!」

 

「ぐうう!(コイツ!以前より斬撃が鋭くなっている?)」

 

ニュータイプの感覚をフルに使い、斬撃を回避し続けるシオン。だが、僅かに肩へとあたってしまいエネルギーが削られてしまう。

 

「ぐわっ!?」

 

「終わりだあああ!」

 

だが、それでもシオンは斬撃をギリギリで回避した。間合いを開き。一夏と対峙する。

 

「お前を倒して俺が騎士になる!」

 

「!お前が・・・口にするなァァ!」

 

シオンは無謀にも素手で殴りかかった。だが、一夏はそれを雪片の刀の腹でガードし続ける。今の一夏はゾーン状態に近くなっており、攻撃が全てスローモーションに見えるのだ。

 

「無駄だ!武器も武装も使えないのなら俺は倒せない!無力なんだよ!今のお前は!」

 

「例え武装が一つも無くても!お前を倒す事ができるはずだ!俺に、騎士の資格があるなら!」

 

防御している一夏が徐々に押されていく。シオンの拳は少しずつ力が上がっており、一夏は何故、自分が押されているのかを理解できなかった。

 

「戦えない仲間達、そして、俺を信じてくれる全ての人の為に!俺が戦う!!」

 

瞬間、クラルスの内部から赤い光が発光し、内部の装甲が展開されていく。一夏はシオンに何が起きているのか、考えが纏まらない。

 

「な、なんだよ!?あれ・・・シオンのラフトクランズが赤く光っている!?」

 

ラフトクランズの関節部が赤く発光し、仮面と同様になっている部分は全身装甲化したように顔の全てを覆っている。

 

それは、彼が覚醒した際に全くの別世界の光景を見た時に現れた機体。一角獣の名を冠する機体の意思を改めて、クラルスは受け継いだのだ。

 

「ユニコーンシステムが・・・起動した!?あの時以降、封印されたままだと思っていたのに・・・はっ!?」

 

それは可能性の獣の後継者。可能性を模索し続けるシオンに与えられた力であった。

 

そんな中、誰か見知らぬ声が聞こえてくる。自分と似た声どこか幼くも、あらゆる事を諦めない意志を持った声。

 

『君は君だけの可能性を追い求めるんだ。否定されても批判されても、それでも!と可能性を閉じちゃいけない、今の君ならきっと』

 

「(誰だ?誰なんだ!?この声は!)」

 

『だから、呼んで欲しい。可能性の獣の名を』

 

「!ユニコォォォォォンッ!!!!」

 

瞬間、クラルスの全身の輝きが赤色から緑色に変わる。自分の世界で旅館を守った時と似たような状態ではあったが、何かが違う。

 

「!?アイツに何が起こっているんだ!?」

 

「これは・・・?」

 

シオンはクラルスから表示されているシステム部分に変化があったのが見えた。

 

そこには【UNICORN SYSTEM NT-DRIVE】と表示されているのだ。

 

「光っているだけで何が変わるんだよおお!!」

 

「っ!」

 

一夏から斬撃が繰り出されるが、シオンはその行動を事前に察していたかのように回避して背後に回り、背中を殴りつけた。

 

「ぐあっ!?い、いつの間に!」

 

「ああ、そうだ・・・お前は俺の可能性だ。だからこそ否定しない、それでも新たな可能性を俺は探し続ける!」

 

一夏はシオンが何を言っているのか、言葉の意味が解らなかった。だが、ひとつだけはっきりしている。コイツは敵だと。

 

「訳の解らない事を言ってるんじゃねえええ!」

 

「うおおおおお!」

 

福音は危険からの撤退プログラムによって撤退しており、一夏とシオンのぶつかり合いが始まってしまう。

 

だが、この戦いの後にシオンが最も嫌悪する出来事に遭遇するのを彼自身は知らない。そして、栄光を掴んだ時、この世界との別れになる事も。




申し訳ありません。長くなったので分割します。

シオン(イチカ)のクラルスが覚醒しました。今、彼は全く別の世界の機体と同じになっています。

清浄でありながら可能性を追い求める。それが彼の持つ清浄の騎士の称号です。

次回は読んだ事のある皆様には解ると思いますが、アレが起こります。

前回よりも表現が生々しくなると思いますのでご了承願います。

感想待っています。


追伸

シオン(イチカ)の言った言葉は可能性の他に、英雄の言葉を言っています。悪と同じでありながら正義に目覚め、素顔を隠して戦う仮面の英雄の言葉を。

わかった方は感想にてお願いします(笑)


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お前は光だ。哀しみすら糧として、道を照らせ

一夏とシオン(イチカ)のぶつかり合い。

箒をも倒す。

可能性を持って意志を救い出す。

とうとう始まる悪夢の出来事。


覚醒状態を維持しているラフトクランズ・クラルス・ユニコーンモードと白式の戦いは熾烈を極めていた。だが、均衡は崩れていきシオンの方へと傾いていく。

 

「なんで・・・何でだ!ちくしょおお!どうして、お前はそんなに強いんだあああ!」

 

「俺は強くなんか無い!俺は多くの人に支えられて、多くの人に頼って、ようやく此処にいる!お前はそれを、可能性を・・・自ら放棄しただけだ!」

 

「俺が・・・自ら、放棄した?」

 

シオンの言葉が、深く一夏の心を抉った。頼らせてくれる人、自らを認めてくれる人、あらゆる人の手を自ら手放してしまったのだと。

 

「違う・・・違う違う違う違う!俺は・・・俺は手放してなんかいない!」

 

「なら聞き方を変えようか、織斑一夏。お前は白式を手にして何を思った?誰かを守れると思ったのか?誰かを救えると考えたのか?守られてばかりで守ろうとしなかった、救ったつもりで救ってはいなかった、そんな事がないと言い切れるか!?」

 

「う・・・っ!?」

 

シオンの現実味を帯びた厳しい言葉に、一夏は言葉が詰まる。考えた事もなかった事だからだ。自分は誰かを守れる、自分が大切なモノを守れる為の力を手にしたのだから。瞬間、一夏の頭の中にほんの一瞬だけ、千冬が頭を下げていた場面が過ぎった。

 

幼い頃に小学校で喧嘩してケガを相手に負わせてしまった時だ。その時の千冬は必死に相手へ謝っていた。何故?自分は悪いことをしていない。相手が悪い事をしたから懲らしめただけなのに。

 

「俺にも姉と兄がいた。俺は・・・全て諦めていた。周りからは姉と兄に比べられ続け、二人が出来るのだから出来て当たり前、手を差し伸べてくれたのは友人とその両親、そして騎士の二人と束さんだけだった。でも、俺はこんな自分でも助けてくれる人が居るのだと気づいたんだ」

 

現実に戻ってくるとシオンの言葉が耳に入ってくる。彼も自分と似た境遇だったことが分かる。だが、二人の違いはたった一つだ。それは助けられた時に感じた考え方の違いであった。

 

シオンは助けられた時、自分にもまだ助けてくれる相手が居ると考え、一夏は何故、自分が助けられているのかを疑問に思ってしまった事があった。それが違いであった。世界が違っていたとしても二人の差はそれだけであった。

 

「もう、喋るなあああああ!!」

 

零落白夜を発動させ、一夏は斬りかかるが刀を握っている腕を止められ、空いた左手が白式のコアがある心臓部分に触れられていく。

 

「なっ!?な、何をする気だ!?!」

 

「お前が手放し続けるのなら、お前の中にある可能性を救う!クラルスがそう言っているんだ!」

 

 

 

 

『・・・・』

 

そこは青空と海だけがある世界、一人の少女らしき人影が座り込んでいる。ただ、何も考えず何もせずに。

 

「・・・き」

 

『?』

 

「白・・・」

 

『誰?』

 

「白・・・式・・・!」

 

『誰なんです?』

 

少女に響く声。それは自分と似ているようで成熟した女性の声だ。その声に振り返る少女の先に自分とよく似た女性が手を伸ばしていた。

 

「白式、この手を掴みなさい。アナタの可能性はこんな所で閉じてはいけない!」

 

『でも、私は此処から出ることが・・・』

 

「今ならできます。手を伸ばして掴んで!」

 

『!』

 

少女が手を伸ばすがほんの僅かに届かない。それでもと、女性は手を伸ばし続ける。諦めるものかと。

 

「アナタを必ず母様の元へ返します!だってアナタは私の」

 

手を掴み、女性は少女を抱きしめるとそのまま宇宙へと登っていった。

 

 

 

 

 

「っ!?俺に何を・・・何をした!?シオォォン!!」

 

「お前の中で停滞している可能性を助けた!」

 

「ふざけるなァァ!!」

 

止められている刃を押し込もうとするが、シオンはクラルスのスラスターを起動させ、攻めた時に弾かれ、未だに落下していたソードライフルを手にすると白式へ向けて銃口を向けた。

 

「荒んだ心に武器は危険すぎるんだ!それを解かれ!織斑一夏!」

 

たった一発、撃ち放ったのはオルゴン・マグナム。だが、直撃させる気はなく牽制の為に放った一発だ。それでも、一夏にとっては恐怖でしかなかった。なぜなら、掠めただけでシールドエネルギーを6割も持って行かれたのだから。

 

「な・・なんだよ今の!?俺のシールドエネルギーが・・・」

 

オルゴン・マグナムの威力を体感してしまったせいか、一夏は震えて動けなくなっていた。それを好機と思ったシオンはある代表候補生に声を上げた。

 

「ラウラ!」

 

「うむ!」

 

それは、ラウラであった。シオンの合図でラウラはワイヤーーブレードで拘束具の代わりにして、一夏を縛り上げてしまった。雪片ごと縛り上げられた為に脱出は不可能だろう。

 

「なぁ!?」

 

「おとなしくしていろ。このままお前を教官の下まで連行する」

 

「もう一つの可能性も救いに行く!」

 

そう言うとシオンは次に雄輔と箒が戦っている場所へと向かっていく。全速力で向かって行く速度にラウラは驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそおお!」

 

「私の方が優位だな!」

 

雄輔は普段の実力が発揮できていなかった。親友を目の前で落とされたという事実が彼から冷静さを奪い、単調な動きにしてしまっている。これでは代表候補生どころか、真面目に訓練しているIS学園の生徒にも勝てない状態だ。

 

「政征を落とした事はアァァ!」

 

「落ち着くんだ!雄輔!」

 

「はっ!?その声は・・・?」

 

「また貴様か!シオン!!」

 

ユニコーン・モードとなっており、更にはクラルスの覚醒も相まって二人のいる空域にすぐさま到着することができた。

 

「篠ノ之箒、お前も可能性を自ら閉じるのか」

 

「可能性だと?そんなモノがなんの役に立つ?何かを示さねば何も出来ん!私はその為の力を手に入れたのだ!(姉さんすらも利用してな!)」

 

「そうか、ならば!(こっちの世界の箒はもうダメか、だったら!!)」

 

クラルスは武器を持たず、真っ直ぐに箒の紅椿へと向かっていく。それを迎撃する為に箒は二刀の刀を持って向かってくる。

 

「武器も持たずに私に勝てると思うなぁ!」

 

武器の無い今のクラルスならば勝てる。箒はそう、確信していた。だが・・・。

 

「うああああ!」

 

クラルスは右手から振り下ろされた刀を殴りつけて刀身を折り、紅椿の肩部分へ手刀を突き刺した。

 

「刀が・・・うわあああ!?おのれ、私の紅椿をよくも!!」

 

「うおおおおおお!」

 

人間の部分は狙わず、機体部分だけを手刀の刺突や拳で潰していくクラルス。その姿を見ている雄輔は次元移動する前の世界での作品の戦闘シーンを思い出す。

 

「(まるで、覚醒したユニコーンガンダムがネオ・ジオングを潰しているかのようだ)」

 

紅椿の武器を潰し、スラスターの片方を奪うと白式にしたようにクラルスの子とんどは右手が紅椿のコアがある部分に触れていく。

 

 

 

 

 

 

そこは日本庭園と日本の神社が合わさったような場所であった。そこにいるのは巫女服を身に纏っている一人の少女。

 

夕焼けの空を見上げ、何かを思っている様子なのが分かる。

 

「・・・・き」

 

『?』

 

「・・・な・・いき」

 

『誰だ!?』

 

「紅椿!手を伸ばしなさい!」

 

『まさか・・・いや、そんなはずは』

 

紅椿にしてみれば信じがたい出来事であった。声をかけ手を伸ばしているのは紛れもなく、自分達の長子たるあの人なのだから。

 

『出来ません、私はこの者と共に』

 

「アナタを物としか思っていない人間と心中したいの!?」

 

『で、ですが・・忠義に反しては』

 

「いいえ、アナタの可能性はこれからよ!母様のところへ帰りましょう!アナタはこんな所で自らを犠牲にする必要なんてない!」

 

『あ・・あああっ!』

 

紅椿と呼ばれた巫女服の少女は白い服を着た女性の手を強く握り締め、そこから引き上げられていった。

 

 

 

 

 

 

箒は自分に何をされたのか理解が追いつかず、放けていたその時、背後から鈴によってブロークン・アームによって掴まれ、身動きがとれなくなってしまった。

 

「何!?くそっ!離せ!!」

 

「離す訳ないじゃない!このまま撤退するわ!」

 

「雄輔、撤退だ」

 

「っく・・・仕方ないか」

 

作戦失敗の通信を鈴達は受けており、代表候補生達とシオンは雄輔を連れて、旅館へと撤退し、捕獲された一夏と箒はすぐさま別々の部屋へと押し込められた。

 

シャナ=ミアは政征が撃墜されたショックで今はあてがわれた部屋にいると聞いて、セシリアとシャルロットが大急ぎで向かい、ラウラ、鈴はロビーと外へ歩いて行った。

 

そんな中、シオンだけが殺気立っているかのように警戒していた。

 

「きっと、このタイミングだ・・・政征から託された事を必ず俺が守ってみせる!」

 

 

 

 

撤退と同時に福音の元に1機のISが近づいてくる。福音に近づくと黒いもやのようなものをコア部分へと押し込んだ。それと同時に福音は強制的に二次移行し、政征が撃墜された場所へと飛んでいく。

 

「まだまだ、働いてもらうぞ?福音・・・・ククク」

 

 

 

 

 

 

撤退後、一夏と箒は別々の場所で尋問を受けていた。一夏には千冬が直々の尋問だ。

 

「さて、織斑・・お前はなぜあのような真似をした?」

 

「・・・(俺にはまだ、シャナ=ミアさんという希望が残っている。ここから出て、シャナ=ミアさんを俺のモノにしてやる!)」

 

一夏は無言を通し続けながら、この部屋からの脱出方法を思案していた。頭の中には、もはやシャナ=ミアに対する黒と肉の欲望しかなかった。

 

「答えろ!」

 

「正しいと思ったからだ。あのISを倒すために、あれが一番勝算が高かった!」

 

「・・・お前に言わなかったか?、命の重さを軽く見るなと」

 

そう言うと千冬は拳で一夏を殴った、一発だけだが、その重みは強かった。だが、今の一夏には何の意味もない。

 

「お前はこの部屋で待機だ。出ることは許さん」

 

それだけを告げて、千冬が出ていこうと背中を向けた矢先であった。

 

「千冬姉」

 

「何だ?それに織斑せん・・・ッッッが!?」

 

 

千冬の身体に突如として強力な電流が流れ続けた。一夏の手には何かが握られており、それを千冬に当て続けている。

 

電流を受けた千冬はその場で倒れる寸前、その手に握られている物がパチパチと音を発していたのが聞こえた。

 

「ごめんな、千冬姉。こうするしかなかった」

 

一夏はそのまま、千冬を置いて部屋を飛び出していってしまった。目的を果たす為に

 

「ま・・て・・い・・・ち・・・」

 

千冬は動けずにその場で気を失ってしまい、追いかける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

一夏は物陰に隠れながらシャナの居る部屋へと向かっていた。途中で誰かが部屋から出てくるのに気づき急いで物陰に隠れた。

 

「じゃあ・・僕達、飲み物買ってくるからね」

 

部屋から出てきたのはシャルロットとセシリアだった。誰かと話しているようだが、ラウラと鈴が見かけないためにあの部屋にシャナ=ミアが居ると予想する。

 

「あの部屋にいるのか、よし(誰も護衛がいない、チャンスだ)」

 

 

二人が出て行ったタイミングを見計らい、そのまま部屋の扉をゆっくりと開ける。そのまま鍵を閉め、邪魔が入らないようにした。

 

その時、部屋の中へと入っていくのを見られていた事を一夏は気づいていなかった。

 

 

「(あれって、一夏!?)急いでフー=ルー先生と雄輔、シオンを呼びに行かないと!!」

 

それを目撃した鈴は急いで三人を探し始めた。何かとても嫌な予感がすると感じたまま、だが・・・一向に見つからないままで旅館の中を走り回り続けた。

 

 

 

 

 

 

シャナは部屋の中で泣き続けていた。愛しい恋人が、映像とはいえ海に落ちて行くのを見てしまったからだ。しかも、撃墜したのは自分に恐怖を植え込んでくる男であったのだから尚更だ。

 

 

「うう・・・う・・・ぐす・・・ううう」

 

 

ドアの開く音が聞こえ、鍵も閉まる音も聞こえた為にシャナ=ミアは、その人物を出迎えようと立ち上がった。

 

「シャルロットさんですか?それともセシリアさん?・・・っ!?貴方は!!」

 

目の前に居たのは一夏であった。アリーナでの出来事から一切話していない、それ以上に自分との接触は禁止されていたはずだ。同時にあの出来事以降、シャナは一夏から距離を置いていた。

 

「シャナ=ミアさん、泣いてたのか?」

 

「貴方に心配される事はありません、出て行って下さい!!」

 

「俺だって心配で」 

 

一夏はシャナ=ミアへと近づいていくが、彼女から距離を開けられる。だが、とうとう追い詰め、その腕を掴んだ。

 

「嫌!!出て行ってください!!」

 

あまりの拒絶の意志に一夏はシャナ=ミアを強引に自分のもとへと引き寄せた。その目の前には、片付けられていない布団がある。

 

「嫌っ!何をするんですか!?離してください!」

 

「シャナ=ミアさんを誰にも渡したくないんだよ!俺が俺が守るから!だから!」

 

「っ!政征を斬っておきながら、何を!!貴方は私の剣にふさわしくありません!離して!」

 

あくまでも拒絶の意志を示すシャナ=ミアは一夏に対し、頬へ向かってパンッと平手打ちをした。一夏にとって信じられなかった一発だったのだろう、一瞬だけ殴られた頬をに触れると同時に怒りの表情となり、シャナ=ミアを布団へ強引に押し倒した。

 

「・・・・っ!だったら、俺だけの証を刻んでやる!政征の事を完全に忘れるまで!」

 

一夏はシャナの意志を無視し、シャナ=ミアが着ている浴衣の帯を強引に解き、浴衣をはだけさせると同時に見える下着を強引に剥ぎ取って、胸を揉み始める。

 

「嫌!!嫌やあああ!!誰か!誰かあああ!やめてええええ!」

 

その悲鳴は部屋の中ではなく通路にまで響いていた。それと同時にシオンはなにか悪い予感を感じ取り、急ぐかのように走り始めた。

 

「っ!?嫌な予感を強く感じる!シャナ=ミアさん!助けを求めてる!急がないとマズイ!」

 

それと同時に鈴も自分の直感で雄輔とフー=ルーを探し当て、悪い予感がすると伝えてシオンと同じ部屋へと向かっている。

 

この後、シオンにとって怒りに身を任せてしまう事になるのを本人は知らなかった。




さぁ、始まりました。・・・アレです。初めて自分で書いていて最も嫌悪したシーンともなった。シャナ=ミアがレ○プされるかもしれないシーンです。

今、シオン(イチカ)は全速力で走っています。政征から一時的とはいえ、彼女を託されているためです。

はたして彼は間に合うのか?シャナ=ミアがレ○プされる前に救えるのか?

次回になります。

感想お待ちしています。


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清浄の騎士たる決意と想い

託された誓いを果たす。

戦い二戦目に突入寸前。

自ら望んでいた栄光を手にする。


シオンは走り続けていた、足を止めたら間に合わなくなると確信を持って。その途中、雄輔とフー=ルーを連れた鈴と合流した。

 

「シオン!?あんた、どうして!」

 

「鈴!?いや、今はそれどころじゃない!急がないと!」

 

「私も行くわ!」

 

「(間に合え、間に合ってくれ!頼む!)」

 

シオンは走りながら不安と戦っていた。この時の悪い予感は必ず当たると確信出来てしまっている。一分一秒を争うこの状況で少しでも早く走り続ける。そして、ある部屋の前に差し掛かった時、悲鳴が聞こえてきた。

 

「嫌!!嫌やあああ!!誰か!誰かあああ!やめてええええ!」

 

「今の声!?この部屋から聞こえたぞ!」

 

「シャナさんか!!くそっ!鍵が掛けられてやがる!」

 

「フロントに連絡を!」

 

「それじゃあ、間に合わないわ!フー=ルー先生、後で反省文でも謹慎でも、勝手に処分して!二人共、退いて!」

 

ドアを開けようと、ドアノブをガチャガチャするシオンと雄輔だったが、鈴の叫び声に雄輔とシオンは引き下がり、鈴は扉の前で武術の構えを取った。

 

「すぅ・・・・破ッ!!」

 

鈴の蹴り技によって鍵が壊れ、ドアが強引に開けられた。彼女達の中では緊急事態なのだから、なり振り構っていられないのが事実だ。

 

しかし、鈴の蹴りの威力に三人は唖然としていた。

 

「うそーん・・・(そういえば、この世界の鈴って、生身の素手でISを壊してしまう五人の格闘家に鍛えられたって聞いてたのを忘れてた)」

 

「マジかよ・・・」

 

「ボーッとしてないで入るわよ!」

 

急いで部屋の中に入り麩を思い切り開けた瞬間、そこには信じがたい光景があった。一夏が、ほとんど裸に近い状態のシャナ=ミアを布団に組み伏せた状態にして胸を掴んでおり、下半身の下着をはぎ取ろうとしていた寸前であった。

 

「!!な、なんで!?」

 

「何を・・・!!」

 

「やって!えっ!?」

 

鈴が行動を起こす前にその横を素早く横切っていった影があった。それは言わずと知れたシオンだ。

 

「何をやってやがんだ!この、クソ野郎がァァァ!!」

 

鈴以上に素早く、また雄輔以上に正確にシオンは、右ストレートパンチを一夏の顔面へと思い切り打ち込んでいた。その衝撃で一夏は吹っ飛ばされ、畳まれていた布団へ頭から突っ込んだ。

 

「ぐぼらぁ!?」

 

「シャナさん!っ・・!?これを着て下さい!大丈夫ですか!?」

 

シオンは急いでシャナ=ミアへと駆け寄り、その姿を一瞬見て自分が着ていた上着を裸に近いシャナ=ミアに渡して着せた。

 

「大丈夫です・・・・胸は触られましたが、犯されてはいません。ありがとうございます、清浄の騎士よ。貴方が来てくれなければ、この身は汚されていました」

 

「!!いえ・・・。鈴、フー=ルー先生!シャナさんを頼みます!!(やっと・・・やっとだ。手に出来なかった栄光を・・・ようやく手にする事が出来た。シャナさんをこの手で守ったという栄光を・・・!それと、お前への誓いを果たしたぞ!政征!!)」

 

「っは!?ええ、任せなさい!」

 

「シャナ=ミア様、早くこちらへ!」

 

「はい」

 

シャナ=ミアはシオンから借りた上着を着込み、フー=ルーと鈴の元へと駆け寄った。二人はシャナ=ミアを護るように立ち、鈴が前へ出て構えをとった。

 

「っぐ、シオン!俺の邪魔をしやがって!」

 

「こんな現場を見れば、誰だって邪魔をするに決まってるだろうが!!」

 

一夏が殴られた箇所を手で押さえつつ、立ち上がるがその視線はシャナ=ミアしか映っていない。だが、触れさせまいとシオンを始めとする鈴、雄輔、フー=ルーがシャナ=ミアを守っている。

 

「っ、何で・・・俺はアイツの代わりにシャナ=ミアさんを、俺が剣になって守るって!」

 

「私の名を呼ばないで下さい!!」

 

「!?」

 

シャナから発せられる強い言葉に一夏はたじろいだ。その声の強さに一夏以外の四人も驚く。今のシャナ=ミアは皇女として言葉を発しているのだから当然だろう。

 

「ハッキリと言います、貴方に私の剣を名乗る資格はありません!!」

 

「そ、そんな!俺は!!」

 

「私は貴方を拒絶します!これは私が心から思う事。今後一切、近づかないでください!!」

 

「っっ!?」

 

一夏はシャナから発せられた拒絶の言葉にショックを受け、放心状態になった。だが、それに追い討ちをかけるようにシャナ=ミアはリボンを解き、その中にあった物を四人に見せた。

 

「それに、貴方は言い逃れは出来ません。これに貴方の犯した罪が記録されています」

 

「これは?小型のICレコーダーか?」

 

「それも録音状態になってるわね」

 

「こんな物を一体どこで手に入れたのです?」

 

「(あの時に買い物があるって買いに行ったのはこれか!流石だな、政征)」

 

三人がなぜこのような物を持っていたのかという疑問に、シャナ=ミアは当然のように答えた。

 

「政征が渡してくれたのです、私を守ることになるだろうと」

 

それを聞いた一夏は怒りの表情を見せていた。自分の証を刻もうと行動した結果、己の罪の記録を取られてしまったからだ。

 

「なんで、アイツはいつも・・・いつも俺の邪魔をするんだよ!」

 

ICレコーダーを奪おうと襲いかかったが、目の前立っていた鈴が立ち塞がり、強烈な一撃を頬に撃ち込んだ。

 

「が!?あ・・・り、鈴!?」

 

「女を物としか見ない奴は!拳に砕かれ地獄へ落ちろぉ!!」

 

「ぐ、うおおおおおお!」

 

これで終わると思っていたが、一夏は火事場の馬鹿力を発揮したかのように出口付近に居る三人を押しのけ、逃走してしまった。

 

「しまった!」

 

「此処は私と鈴さんが何とかします。青葉さんとシオンさんの二人は早く彼を追いなさい!彼の目的は恐らく」

 

「!没収された白式か!?」

 

「まずいぞ!あれは今、織斑先生の部屋にある金庫の中に保管されているはずだ。もし、何らかの方法で織斑先生が動けなくなっているとしたら!」

 

「それを持って逃走・・・いや、恐らくは福音の処へ行くはず!」

 

「福音と戦って己の強さの証明をするために・・か!」

 

「急ぎなさい!二人の騎士よ!!」

 

「「御意!!」」

 

シャナ=ミアを鈴とフー=ルーに任せ、急いで千冬の使っている部屋へと走り出す二人。それを見送ったシャナ=ミアが呟くように口を開いた。

 

「二人に・・・武運を」

 

 

 

 

 

部屋に到着した瞬間、千冬は気絶しており一夏はその手に白式を持っているところであった。

 

「それを置いて戻れ、本当に戻れなくなるぞ!」

 

「もう、戻るつもりなんてない!福音を倒せば、きっとシャナ=ミアさんだって!」

 

「どこまで愚かな・・・っ!」

 

殺気を感じたシオンが振り返り、雄輔を守った。それは木刀らしき物を持った箒が殴りかかってきたからだ。

 

「一夏!先に行け!」

 

「っ!篠ノ之箒、お前も戻らないつもりか!?」

 

「うるさい!一夏の邪魔はさせん!(一夏は私のモノだ!私が守り、私が愛する!)」

 

両手で箒の木刀を止めつつ、箒と言葉を交わすシオン。だが、箒の言葉とその中にある真意を覗いてしまい、既知感がせり上がって来る。

 

「(なんという自分本位の思い!戻る戻らない以前の問題じゃないかよ!!)」

 

「ありがとな、箒!」

 

一夏は白式を展開し、部屋の窓から飛んでいってしまう。それを追いかける雄輔だが、間に合う事はなかった。それよりもシオンを助けなければならないと思っていた矢先であった。

 

「ふん、一夏の為の時間は稼いだ。私も此処には用はない」

 

そう言って木刀を手放し、素早くシオンから離れると部屋から出ていってしまう。恐らくは紅椿は使えない為に訓練用の打鉄を持って一夏の後を追ったのだろう。

 

「雄輔、織斑先生を」

 

「ああ、織斑先生!しっかり!」

 

声をかけ、軽く頬を叩き続けると千冬は意識を取り戻し、二人が見え始める。意識が少しずつ覚醒して来た様子だ。

 

「青葉・・・・?それに・・・シオ・・ンか?」

 

「織斑先生、一体何があったんです?」

 

「う・・・一夏に何かを押し付けられて・・・そこからは覚えていない」

 

「(スタンガンか何かか?)織斑先生、実は」

 

シオンと雄輔は先程まであった出来事を千冬に話し、一夏と箒が無断で出撃してしまい取り押さえることが出来なかった事を正直に話した。意識がハッキリした千冬は二人を労った後に怒り心頭な声を上げた。

 

「あの・・・大馬鹿者が!やりかねないと思っていたが、まさか本当にやるとは!・・・うっ」

 

「織斑先生、無理しないでください。さっきまで気絶していたんですから」

 

「すまんな・・・私の権限でお前達の出撃を許可する。代表候補生の奴らにも伝えてくれ。私はこのザマで動けん。指揮権限をフー=ルー先生に一時譲渡する。フー=ルー先生の指示に従って動くようにな」

 

「分かりました」

 

「今は休んでいてください」

 

「本当にすまん、それとシオン・・・」

 

雄輔が先に出ていきシオンも後に続こうとした時、千冬に呼び止められ振り返った。

 

「なんですか?」

 

「何故、この世界のアイツは・・・お前のように成れなかったんだろうな?」

 

その質問は束と同じものであった。あの時は答える前に束に離れられてしまい答えられなかったが、千冬にならと答える事にした。

 

「憧れであった貴女と同じ姿、同じ力を持った出来事は切っ掛けでしょう。俺自身(・・・)も諦めがちで同じでした。でも、俺とこの世界の俺(・・・・・・)とで違う事は一つだけ、俺は己が手に出来ない事を知り受け入れ、この世界の俺(・・・・・・)は手に出来ない事を悪い意味で諦められず、全てが自分の力でなんとか出来ると思っている・・・。それだけです」

 

そう言い残し、シオンは部屋から出ていった。並行世界の一夏自身(・・・・)から発せられたこの世界の一夏に対する推察を聞いて、千冬はため息を一つ吐いた。

 

「まさしく、その通りとしか言えんな。私自身も解ってはいた、だが・・止める手段がなかった。ああしてしまったのは私の罪だな」

 

自虐的に呟くと千冬は手を壁につけてゆっくりと起き上がり、最初の罪を償おうと行動を開始した。

 

 

 

 

 

話を聞いた代表候補生達と雄輔、シオン達は脱走しようとする二人を追跡し福音が迫って来そうなポイントへ付いた。そこには当然、一夏と箒もいる。

 

「!しつこい奴らめ」

 

「箒、退いててくれ。シオン!お前のおかげで全てが台無しだ!シャナ=ミアさんを守る騎士になれなかった!」

 

その言葉を聞いて怒りのままに言葉を出そうとした鈴を手で制し、シオン自身が前へと出た。

 

「シャナさんを守るだと?あんな事をしておいてどの口が言う!?」

 

「あんな事?」

 

「あんな事とは一体何ですの?」

 

「シャナ=ミア姉様に何かあったのか!?」

 

「みんな、此処から先はあいつに任せましょう?何が起きたか、後方で私が教えてあげるから」

 

代表候補生達は少し、距離を置くとあの部屋で起きた事を説明し始めた。それを聞いた鈴以外のメンバー達は烈火の如く怒りを見せ、突撃しそうになっていたがシオンに任せた方が良いと宥めた。

 

「俺の証を刻もうとしたのに、政征を忘れさせて、俺がシャナ=ミアさんの騎士になるはずだったんだ!」

 

「シャナさんの騎士?ふざけるな!!お前なんか騎士のメッキを塗りたくった下衆だ!これが俺自身(・・・)だと思うと反吐が出る!!」

 

「!?」

 

指を差して怒りの声を上げるシオン。だが、シオンの言葉に一夏は一瞬だけ聞き逃せない言葉があった。彼は確かに言った。俺自身(・・・)・・・と、これは一体どういう事なのか?

 

「シオン、お前は一体・・・何者なんだ?」

 

「俺は俺・・・お前と同じ一夏という名前を持つだけの存在、イチカ・フューリア・シオン!それだけだ。清浄の騎士として、そしてシャナ=ミア様の近衛騎士(・・・・・・・・・・・・)として、お前を倒す!」

 

ソードライフルを向けるシオンだが、それ以上にシャナ=ミアの近衛騎士という言葉に一夏は激しく反応する。近衛騎士という事は最もシャナ=ミアの傍に近く、またシャナ=ミアが信頼を置ける人物でもあるということである。それを許容できる程、彼はまだ成長できていなかった。

 

「お前・・・お前が近衛騎士だと!?ふざけんじゃねえーー!」

 

「一夏!!」

 

箒の静止も聞かずに刀を抜き、シオンへと突撃し刃を交える。雄輔はこれはシオンなりのケジメなのだろうと捉えていた。今、シオンは更なる成長をした表情をしているのだから。

 

「ああ・・・今のお前ならそうくるな。だが、俺は違う。この戦いを政征の復活に捧げよう!」

 

「何!?」

 

「俺もシャナさんを好きになった。告白もした・・・でも、届かなかった。それでも俺は構わない、俺は別の女性を好きになっても、シャナさんの近衛騎士として戦う!その為にも、クラルス!俺と政征の可能性を繋げてくれ!」

 

シオンは距離を離すと己のニュータイプとしての感覚をクラルスへとぶつけた。その思いを受け取ったクラルスは再び可能性の獣の魂を目覚めさせる。装甲が展開し、シオンを「変身」させていく。以前とは違い、赤い光ではなくオルゴンを体現するかのような緑色に輝いていた。

 

「シャナ=ミアさんに告白しただって・・・?じゃあ何で、自分のモノにしなかったんだ!?お前は!」

 

「さっきも言っただろう?振られたからだよ。恋人になるだけが全てじゃないんだよ」

 

理解が出来ない。告白したのなら恋人にするのが当然ではないのか?だが、目の前の男は恋人でなくてもいいと断言している。話をしている間にクラルスの「変身」が完了してしまった。

 

「綺麗・・・」

 

「機体が変身するなんて聞いた事もないよ」

 

「クラルス、正に清浄の名の通り美しい輝きですわ・・・」

 

「政征兄様や雄輔師匠と同じラフトクランズでも「変身」を行うのはシオンのラフトクランズだけなのか・・・」

 

前回は遠くで輝いているという事しか知らなかった。だが、間近で可能性の獣となったクラルスを見たのは初めてであり、その輝きを美しいと感じている。

 

「やはり俺はお前は気に食わない!負けられない!お前を倒して!福音も倒して、俺が強いという事を示してやる!お前のせいで俺は!」

 

「ま・・・れ」

 

「シャナ=ミアさんを俺のモノに」

 

「黙れ!戦士の風上にも置けぬ者、織斑一夏!武名を恥で汚す前に、我が剣でヴォーダの闇へ誘ってやる・・・・・・覚悟!」

 

「な、なんだよ。その言葉は!?」

 

「あの言葉は・・・フューリア聖騎士団の!?」

 

その言葉に一番驚いたのは雄輔であった。シオンがフューリーの騎士が反逆者などに対する口上を述べたのだ。

 

フューリーではないはずのシオンが何故、フューリーの騎士の口上を知っていたのかは分からない。だが、彼が自分の世界で騎士として己を鍛えてきたのは間違いない。

 

「来い、織斑一夏!その汚れた欲望、我が剣で清めてやる!」

 

「っ!負けるかああああ!」

 

瞬間、再び二人の刃が交差し、戦いが始まった。




シオン(イチカ)は間に合いました。そして、望んでいた栄光を手にすることが出来ました。

これでシオン(イチカ)は騎士として一段と成長しました。クラルスも完全に覚醒しましたが、それは危険と隣り合わせです。

その危険とは「可能性の獣」という時点で察しが付いていると思います。

次回は政征の復活と雄輔の二人へ可能性の種子を植え込みます。

そう、元の世界で不死鳥と百獣の王を宿した可能性です。

感想をお待ちしています。

※追伸

クラルスの危険性の考察を感想にてお待ちしてます。


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可能性という名の迷い

戦えば戦うほど一時ピンチに。

復活する自由の騎士、及び付与される不死鳥の可能性。

城壁の騎士の本質が表立ち、獅子の輝きが一瞬現れる。

己自身を見つめ直す三騎士

※注意

並行世界に関して独自解釈及び設定を入れています。


戦闘を開始した二人は以前よりも激しさを増していた。一方の剣は憎しみ、怒り等といった剣となり、もう一方は似ているが信念と忠誠の剣として振るっている。

 

縦、横、斜め、あらゆる方角から斬りかかっては返し、返しては斬りかかる。そんな攻防が長時間続いていく。

 

だが、追い詰められていたはずの一夏が時折、巻き返しをしてきているのだ。戦いを観戦している代表候補生達、雄輔もその違和感を感じている。

 

「おかしい、すぐに決着がついてもいいはずだ(並行世界・・・二人の織斑一夏・・・まさか!?)」

 

「シオン、一体どうしたのよ!?今のアンタなら簡単に倒せる相手のはずよ?」

 

シオン程の実力者であり、クラルスも変身している状態。それなのに何故、巻き返されているのかと鈴が声を上げる。

 

「ぐっ!(やはり、この世界の織斑一夏は俺と刃を交える事で無意識に俺の動きや技術を吸収してる!戦えば戦うほど、コイツを強くさせてしまう!変身しても俺はまだ俺自身を信じきれてないのか?)」

 

「不思議だな。お前と戦ってると何故か強くなっている気がするぜ!このまま戦い続けていればお前に勝てるって事だよなぁ!」

 

己の強さの糧になると知った瞬間、一夏は執拗にシオンを追いかける。二人は世界は違えど同一の存在。だからこそ、一方が強ければもう一方はその強さに引っ張られる形で同じ強さへと調整されてしまう。今はまだ、各下となっているが長時間、戦い続ければこの世界の一夏はシオンと同等の力を得てしまう。

 

「ちっ!不本意だが仕方ない!(今は動き回る以外に無い!)」

 

これ以上は刃を交える訳にはいかないと判断し、離脱するシオン。だが、今の一夏が逃がす訳がない。強くなれる事を自覚した彼にとって、今のシオンは極上の糧だからだ。

 

「強くなるためだ!逃がすかよ!」

 

「っ!」

 

糧にされないための苦肉の策ではあったが、第三者から見れば逃げ回っているようにしか見えないだろう。速度で勝っていたが、待ち伏せしていたかのように目の前へ箒が立ち塞がる。

 

「篠ノ之箒ッ!」

 

「一夏が逃がさんといったのだ!貴様を逃が・・・うわあ!?」

 

立ち塞がると同時に遠距離からオルゴン・エネルギーが飛来し箒に直撃する。箒本人は絶対防御と打鉄本来の防御力により無傷だ。シオンが振り返るとそこにはラフトクランズ・モエニアがオルゴンライフルを構えた状態でこちらを見ていた。すぐにクラルスの後ろへと回り、シールドクローとソードライフルを構え、クラルスの守りに入る。

 

「雄輔!?」

 

「援護する。お前と織斑を戦わせたら嫌な予感がするからな」

 

雄輔は雄輔なりの観察と推理で何が起こったのかを把握したのだろう。今のシオンと一夏を戦わせる訳にはいかないと。

 

「済まない、手を・・・貸してくれるか?」

 

「騎士の誓いは破れる事はない。城壁の騎士を舐めるなよ?清浄の騎士よ。輝きは無くとも、守りの戦いとなれば負けん!」

 

一夏の前に雄輔が立つ。シオンと戦わない限り力を得られないという事を理解している一夏は彼を振り切って向かおうとするが、雄輔はバスケットボールのディフェンスの一つであるフェイスガード(ベッタリと相手をマークし続けるディフェンスの事)のように一夏を遮る。

 

「退けよ!雄輔!!俺をシオンと戦わせろ!」

 

「そうはさせん、お前の相手は俺だ」

 

城壁。それは城の他にその主人、そして主人を守る衛兵、騎士などを守る役割をするもの。それだけに誰にも称賛されることも無く、誰にも認められることもない。

 

それがあって、当然と思われることしか無い物。作られて当たり前、自分達を守ってくれて当たり前、守る為に作ったのだから当たり前、当たり前ばかりをその身に受け続ける作られしもの、それが城壁。

 

だが、城壁には城壁ならではの策や武装もある。砲台の設置台、城門前の罠、そして獰猛な獣達など。城壁だけが守る事は出来ず、城壁のみで守護が成り立つ事はない。内部に戦略家がいる、指揮官がいる、砲台を撃つ者がいる、弓を撃つ者がいる、あらゆる役割を持った仲間が居てこそ城壁は己の意味を持つ。

 

今の雄輔は仲間という名の城へと撤退したシオンを守護する城壁。その城を守る城壁の騎士となった雄輔は不退転の決意を持って、剣を手にしている。

 

 

〔推奨BGM・スーパーロボット大戦Jより [Moon Knights〕ゲームボーイアドバンス版〕

 

 

「く、くそっ!振り切れない!?雄輔がこんなに強いなんて!」

 

「表立って目立つ者だけが、強い奴と思い込んでいた結果だ」

 

瞬間加速や緩急を付けたり、無意識下で身に付けたシオンの技術を使って振り切ろうとするが、雄輔はオルゴン・クラウドによる転移を使い、振り切らせない。雄輔自身その性格ゆえ、目立つ事は極力避ける傾向がある。特訓でしか目立つことはせず、今現在のIS学園において的確で冷静かつ大胆な行動は当たり前であり、正確な攻撃などは政征や代表候補生達によって見慣れている。その為に筆頭する場面を見せる必要がないのだ。

 

だが、本来は静かに燃えていくタイプであり、今の雄輔は冷静かつ戦いに燃えている。それでも冷静さを失わないのは彼の持ち味なのだ。

 

「オルゴンクロー、展開!」

 

「なっ!?」

 

「捉えた!」

 

白式をクローで捉え、近くの小島の岩場へと叩きつけ引きずって行く。相手の機体損傷など気にせず引きずり続ける。

 

「ぐあああああああ!?」

 

「っ!」

 

そのまま回転し遠心力を利用して上空へと投げつけ、オルゴンクラウドで背後へと転移し、引き裂き爪を叩きつける。その際、スラスターを完全に狙っており、主力部分をクローから発生している振動によって一時的に使用不能した。

 

「がぁあ!?ぐわっ!」

 

「これで、空中へ向かうのは暫く出来ん」

 

「ぐっ!お前、初めからそれを狙って!?」

 

「さぁ、な?」

 

空中へ飛ばさなければ、シオンへと向かう事は出来ない。騎士達の中で冷静な判断力を素早くする事の出来る雄輔だからこそ成し得た事だ。

 

「(政征、早く戻って来い!時間を稼ぐのもそろそろキツくなってきているぞ)」

 

 

 

 

 

箒を止める為というのを名目にし、実際にはシオンは福音が近づいてきている事を察していた。唯一、この世界の一夏に奪われないモノ、それは覚醒したニュータイプとしての感受性だ。だからこそ、攻撃の回避だけは可能だったのだ。

 

「Laaaaa!!」

 

「ふ、福音だと!?」

 

「やはり出て来たか!」

 

箒とシオンは、やってきた銀の福音を見据え構えを取る。だが、打鉄では叶わない事をシオンは理解していた。今の打鉄はIS学園の一般の生徒達が訓練用に使うための調整がされている機体であり、当然といえば当然だ。

 

「来い!同時に相手をする!」

 

シオンは箒を味方だとは思っていなかった。真意を知り、この世界の織斑一夏に病的なまでに依存している事を鑑みての事だ。福音を相手にしていれば隙を見て自分を狙ってくるだろう。かといって箒を相手にすれば福音は的確な攻撃でこちらを撃墜しようとしてくる。

 

「LAAAAA?LAA・・・LA」

 

「なんだ?助けて欲しい・・?」

 

意味の解らない何かを感じ取りつつもシオンは二機の相手をし始める。同時に掌より少し大きめの光球が二ヶ所の位置へと向かっていくのに彼は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

光球の一つが海の中へと潜っていく。向かっている先には一夏に斬られ、墜落したラフトクランズ・リベラが横たわっていた。政征の意識はコアに引っ張られており、彼の全身はオルゴン・クラウドによって保護されている。

 

紫雲統夜との会話を済ませ、リベラの枷を外し覚醒する前に見せられる。可能性の獣から排出された一片の可能性、それは金色の不死鳥と呼ばれる存在。その魔性としての名を冠しつつも宇宙を飛び続ける1羽の鳥となった少女からの言葉。

 

『ねぇ?貴方は天国って本当にあると思う?』

 

「誰・・だ?女の・・・子?」

 

思考の中に流れてくるのは金髪の少女、そしてそれに付き添う金色の人型の兵器。政征は彼女に話しかけようとするが、何も返事を返してはくれない。まるでラジオを聞いているリスナーが、パーソナリティーと会話が出来ないように一方通行の会話しか成立していない。

 

『天国があるかなんて分からないけど、私・・・魂って絶対在ると思うな』

 

「魂・・・」

 

『今が全てじゃない、何度だって生まれ変わるの』

 

「生まれ変わる・・・シオンも、俺も、雄輔もか?君は・・・誰なんだ?」

 

無駄だと知りつつも、話しかける事を止めない政征。少女の声は明るい口調で、政征に一方的に話しかけ続ける。

 

『次に生まれ変わるとしたら私・・・鳥になりたいな。貴方は?』

 

「俺は・・・何になりたいんだろう?」

 

『貴方は自由に飛べる人、貴方はその鳥の翼を持っている人』

 

それを最後に少女の声は聞こえなくなり、代わりに黄金の人の形を模した機動兵器が変身した姿でこちらへ向かってくる。

 

「黄金の・・・機体?」

 

機体は何かを指し示し、その先には光の道があった。ただ一本の真っ直ぐな道、この道へ向かって行けという事なのだろう。

 

「ありがとう」

 

政征はその道を歩き続け、黄金の機体は見送るようにこちらを見たままである。一瞬だけ、青い光を漂わせて。

 

海中で目を覚ました政征はラフトクランズ・リベラが二次移行し、自分を守ってくれていた事を知る。政征はリベラを起動させ、体制を整えると海中から差している陽の光を見る。

 

「(待っていてくれ、みんな!)」

 

 

新たな決意と共に政征は光を目指して海中を上がっていった。それはさながら太陽へ向かう鳥のように・・。

 

 

 

 

もう一方の光球は地上戦によって一夏を足止めしている雄輔のもとへと向かっており、彼と一夏に気付かれる事なく、ラフトクランズ・モエニアの中へと入っていく、同時に雄輔の意識は引っ張られる形で宇宙に居た。そこには二機の機動兵器が向き合っており、四枚の羽のような物を持つ緑色の機体はまるで、両手を広げて無抵抗の意志を見せているが、もう一方の黒く黄金に輝く機体はその姿に戸惑っているように見える。

 

「これは・・・?一体?」

 

『幻だ・・こんなの・・・人の雑念が拾われているだけだ!』

 

『マシンは増幅しているだけ、その機体も可能性の獣・・・人の心に反応するシステムを持っている』

 

『もう止めてくれ!少尉さん!』

 

『それ以上自分を傷つけないで!!』

 

『人の心・・?心が伝わって来る?』

 

男性と女性の声が今の雄輔に聞こえてくる。男性は生真面目すぎる感情を、女性は導こうとしており、それが男性に伝わっていない。

 

「もしかして、この世界は?」

 

己が力を手にする前に居た世界で見た事がある。だが、この後の結末を詳しく見た覚えがなく、記憶もあやふやな為に何が起こるかを知らない。

 

しばらくして、何かを感じ取ったのか黒い機体が手を伸ばし始める、だが・・・その機体の武器であった物がぶつかり男性が苦しみ始めた。

 

『みんなで・・・みんなで俺を否定するのか!俺を・・・一人にしないでって・・・言ったのに!』

 

黒い機体を通じて男性から濃密な殺意が溢れ出してくる。それを察知した雄輔は思わず叫んでしまっていた。

 

「止めろおおおおおおおお!!」

 

一夏が使うオルゴン・マグナムのような閃光が発射され、緑の機体は無抵抗のままそれを受け入れ撃墜された。

 

瞬間、雄輔の中に何かの音と耐え難く深い重みのようなものを感じ取ってしまい、雄輔は己の理解したものに対して抵抗するかの如く胸を掴み己自身に爪を立て、苦しみを紛らわすかのように声を上げた。

 

「何だ・・・?何か聞こえた・・・命が砕けた、音か?何故、俺はそれが解る?解ってしまったんだ?・・・っうああああああ!?あああああああああああああああああああああっ!!!」

 

意識体として雄輔が苦しんでいる最中、女性も意識体となって男性に声をかけていた。

 

『その生真面目な心が他人も自分も傷つける。落ち着いて周りを見渡せばいい、世界は広い。こんなにもたくさんの人が響きあっているのだから』

 

そう男性に言い残し、女性は消えていってしまった。男性は追うように手を伸ばすが掴めることはない。

 

『ま、待って!俺は・・・俺は、何を、したんだ?』

 

「うああああ!があああああ!」

 

命の砕けた音を聞き、人の死の重みを理解した雄輔は苦しみから逃れられないでいた。常人ならば既に崩壊してもおかしくはないはずだが、つなぎ止めている者が居る為に崩壊には至っていない。

 

『落ち着いて周りを見渡せ、二つの重みを知ったお前なら乗り越えられる』

 

「!?」

 

声に気づき、周りを見渡すとそこには緑の機体に搭乗していた女性が後ろにおり、全裸の姿で雄輔の背中を優しく抱きしめている。

 

「どうして俺に気付いて・・・?」

 

『今の私はあらゆるものが見える、次元も時間さえも越えた先を』

 

女性は離れると雄輔の手を優しく握り、微笑む。その微笑みは美しいという言葉だけでは表せない程で。

 

『お前の側にも可能性を引き出す者がいる。そいつをお前が友と呼ぶ男と共に繋ぎ止めろ。お前の感覚は完全ではないが私が引き出そう』

 

「ま、待ってくれ!あんたは一体!?」

 

その問いに答える事はなく、女性は消えてしまい雄輔自身の意識も引っ張られる形で現実に戻っていく。

 

「うおおっ!」

 

「はっ!?オルゴン・マテリアライゼーション!」

 

時間にしてほんの数秒だったのだろう。一夏がこちらへと迫って来てはいたが距離が離れている。

 

オルゴンソードを展開し、刃を受け返す雄輔。だが、不思議と気分が落ち着いていた、否、落ち着きすぎていた。

 

「お前を倒して俺は、シオンを!」

 

「・・・・・ああ、そうか。俺に足りなかったのは落ち着いて周りを見渡す事だったのか。カッコつけすぎていたんだな」

 

「何を言ってやがる!?お前のせいで俺は強くなれ、がはっ!?」

 

雄輔の剣の腹が一夏を捉え、吹き飛ばす。僅かに黄金に近い輝きが雄輔のラフトクランズから溢れかけてはいるが、完全ではない。

 

「お前を此処に留めておくのが俺の役目だ。お前を倒すのは俺じゃない」

 

「何?」

 

「お前を倒すのは・・・アイツだ」

 

 

 

 

 

別の場所ではシオンが2対1の状況で福音、箒の相手をしていた。最も福音が九割であるに対し、箒は一割の驚異でしかないのだが、油断はしないのがシオンである。

 

だが、射撃型の福音と接近戦メインの箒は連携が取れていなくとも驚異的であった。箒が装備されている刀をメインに攻撃し、福音が的確な射撃を放ってくる。この時点でバトルロワイヤル状態なのだが、福音はシオンを要注意ターゲットとしていて、箒はシオンへリベンジする事しか頭に無い。

 

だからこそ、シオンは勝算が高い方法と可能性を模索する。しかし、たどり着いた答えはどうしてもあと一人の協力が必要。それも空間を移動できる事も考慮しなければならない。

 

「くらえええ!シオォォン!」

 

「!!」

 

箒が福音の射撃を回避しつつも、身体のバランスを崩してしまったシオンへ向けて突撃し刀を振り下ろそうとした瞬間だった。

 

「うわああああああああああ!な・・・何・・が!?」

 

「!?な・・・なん・・だ?今のは?」

 

超長距離ともいえる後方から三つの攻撃が箒へ直撃した。そのエネルギーは正しくオルゴンそのものであり、オルゴンライフルから発射されたであろう光弾とソードから繰り出された三日月の姿をしたオルゴナイト・ミラージュによる斬撃だ。

 

何かが高速でやってくる。姿が確認できると同時に福音以外の二人が驚愕する。それは全身が紺瑠璃色の装甲に覆われており、剣を持つ姿は正に騎士そのものだったからだ。

 

「待たせたな、シオン。ありがとう、シャナを守ってくれて・・・」

 

「その声は政征?まさか・・・その姿はラフトクランズの!?」

 

「そう、ラフトクランズが二次移行した姿だ」

 

シオン自身、完全な状態であるラフトクランズの二次移行した姿を見るのは初めてであった。自分の世界において政征と雄輔のラフトクランズが二次移行しているのは知っていたが、二人はいつも全身装甲化の姿を見せず、従来の一時移行したISと変わらない姿しか見せていなかったのだから。

 

「ぐ・・・貴様、一夏に斬られて死んだはず・・・」

 

「生憎と死ぬ訳には行かないのでな?シオン、ソードライフルを貸してくれるか?代わりといってはなんだが、シールドクローを」

 

「?ああ、良いぜ。俺の剣をお前に預ける」

 

シオンは己自身の中で「織斑一夏」としてソードライフルを、己の剣を政征に貸し出した。騎士にとって剣を貸すという行為は己の命を預けると同義だ。シオンは織斑一夏としての自分を表に出してまでその行動を取った。

 

「一・・・夏?バカ・・な?お前が・・・そんなはずはない・・違う違う違う違う!!」

 

箒は必死になってシオンが一夏と重なって見えてしまった己の光景を否定する。だが、政征から受けた攻撃の痛みがそれを現実だと唱えてくる。打鉄の防御力を持ってしても二次移行したラフトクランズ・リベラのオルゴン・ダブルチャージウェーブの攻撃力を防ぎ切ることはできなかったのだ。

 

「オルゴン・マテリアライゼーション・・・」

 

騎士は本来、剣に己の魂を宿したと信じ、己の半身として一本の剣のみを持ち続ける。だが、リベラの名の通り、政征は自由の騎士。 その剣に宿された持ち主の魂を僅かに受け継ぐ形で手にする。

 

その剣は何を思い、何を考え、何を目指し、主と認めた所有者と共に有り、何を慈しみ、何を嫌悪し、何を守り、どう役目を努めているのかを擬似的に味わう。クラルスの機体色が僅かにあるソードライフル、そこからシオンが辿って来た道筋を数秒間の間に味わった。

 

「・・・!ああ、シオン・・・お前は、お前って奴は本当に報われない道を歩んできたんだな。実力も家族も、そして恋も。でも、お前にはあらゆる可能性がある。良い事も悪い事も否定しないお前ならきっと進めるさ。諦めない事、それがお前の強さなんだ。あの子も言っていたな・・・何度でも生まれ変わるって」

 

クラルスのソードライフルをソードモードに切り替え、その場で軽く振り下ろす。人と共に歩んできた剣ほど重いものはない。それを踏まえ、その道は間違いがあったにせよ、その人間の道そのものだ。

 

「LAAAAAAAA!」

 

「苦しんでいるのか・・・?今助けてやる。清浄の騎士の剣でな」

 

オルゴンソードの二刀流から繰り出された一撃。清らかな浄化を施し自由への導きともいえる一撃は福音を戦闘不能にし、コアに巣食っていた何かしらの因子も消滅した。

 

「な・・・・」

 

認めたくない、その感情がシオン以外にも初めて出てきた。その剣技は美しかった。力で押し込むのではなく、受け流す事でその間に生じる隙を逃さずに斬るという、後の先の完成形とも言える斬撃を目撃し、箒はそれを美しいと感じてしまったのだ。

 

相手を憎いから斬るのではない、相手を慈しみ想うからこそ斬った。助ける方法がそれしかないとわかりきった上での斬撃。

 

斬るという行為は救いにはならない、一度たりとも生きている人間を斬ればそれは殺人と変わらないのだ。

 

「福音・・・コイツの中に一体何が入っていたんだ?シオン!剣を返すぞ、助かった」

 

複音はその場で静止してしまっている為に襲いかかってくる事はなかった。ただ、助けて欲しいという願いを叶えたに過ぎない。

 

「ああ、清浄の剣・・・役に立ったか?」

 

「十分過ぎる程、な」

 

政征はシオンに代表候補生達に連絡を取るよう頼み込み、連絡を受けた代表候補生は一時的に指揮権限を千冬から譲渡されているフー=ルーが出撃許可を出し、代表候補生達に福音の回収を任せるようにと指示を受けた事を共有する。

 

政征から剣を返されたシオンはソードライフルを軽く振ると同時に放けている箒に視線を向けた。

 

「俺だからお前に言おう、お前の愛は破綻しているぞ」

 

「!?」

 

それだけを言うとシオンは雄輔と別れたポイントへと向かってしまう。それと入れ替わるように代表候補生たちが到着するが全身装甲のラフトクランズを見て驚愕する。

 

「政征さん!?政征さん・・・なのですか?」

 

「嘘・・・でも、機体の色は紛れもなくアイツのだわ」

 

「二次移行したって事?」

 

「本当の騎士にしか見えないぞ!?」

 

「ああ、心配かけた。正真正銘、俺だよ。到着してすぐで悪いが福音を頼んだ。今は動く気配がないから大丈夫」

 

そう言ってシオンが向かった先へと向き直る政征。彼が何をしようとしているのか、セシリアと鈴は悟った。

 

「わかりました。わたくし達は福音を連れて先に戻ります」

 

「絶対に帰ってきなさいよ!全員で!」

 

「ああ」

 

政征もシオンが向かったポイントへ最大戦速で向かう。清浄の騎士の決闘を見届けるために。

 

 

 

 

 

 

 

間合いを外し、雄輔と一夏が肩で息をしながら呼吸を整えている最中、それはやってきた。

 

「白い、ラフトクランズ・・・!シオン!!」

 

一夏の言葉に雄輔も反応する。シオンは小島に着陸すると雄輔の近くへ歩み寄ってその肩を掴み、耳元で囁く。

 

「政征は無事だ。二次移行した上でな?俺が確認した」

 

「そうか、なら・・・次はお前の番だな」

 

「・・・ああ」

 

入れ替わるように一夏の前へと立つシオン。シオンも一夏も体力は削られており、ほとんど互角のコンディションと言っていい。

 

「シオン!俺が強くなるために俺と戦え!」

 

「(何のために強くなるのか?守るもの?大切なもの?失いたくないから?零さずにいたいから?ああ・・・全ては己を奮起させるだけのもの・・・俺は・・未だに俺を信じられていなかった・・・この世界の俺を否定できなかった。俺もこんな側面が自分にあるのではと疑っていた・・・でも、違った。俺は・・・俺のまま、俺として進めばいい!)」

 

今再び、可能性の獣の魂を揺り起こす。目の前の可能性を否定は出来ない。それでも俺は進む、俺を友として、騎士として鍛えてくれた二人、俺に恋を教えてくれた初恋の人、否定しても断ち切れなかった親代わりの肉親。

 

この世界と俺の生まれた世界は違っている。その時点で答えは単純だったのになんでこんなにも深く悩んでいたのだろう?

 

「答えは得た・・・もう大丈夫だ。それに・・・これで揃った」

 

「何を言ってるんだ!っ!?」

 

シオンの言葉を聞いていた一夏の目の前に有り得ない物が目に映った。全身装甲に覆われたIS、その機体の色は紺瑠璃色の機体、そしてその隣に立つ暗青の機体、二人の間に立つように剣を持つ白色の機体。

 

母たる海を思わせるリベラ、その海の底を思わせるモエニア、そしてどこまでも空を行く鳥を思わせるクラルス。

 

「赤・・・野!お前、俺に斬られて死んだはずじゃ・・・!?」

 

「シオンのおかげだ、彼が可能性を広げてくれたから、私が生きれるという可能性を手に出来た」

 

「ぐ!シオン!お前!」

 

「織斑一夏、俺はお前を否定できない。だがそれは存在だけだ、お前の考えを否定する!」

 

「っ!ふ、ざけるな、お前は俺の糧になっていろおお!」

 

零落白夜と瞬間加速を使用し、突撃してくる一夏。一時的に使用不能になっていたスラスターは調子を取り戻していた。

 

「俺はもう迷わない。戦う事が咎だというのなら、俺はそれを背負って戦い続ける!バスカーモード!起動!!」

 

バスカーモード、それはラフトクランズのフルドライブ状態、つまり最大出力を使うという意味だ。装甲が展開しているユニコーン・モードでのバスカーモードを使うのはシオン自身も初めてだ。

 

まるで掲げるかのようにソードライフルを空へ向けると左右にパーツが展開し、エネルギーが発生する。

 

「エクストラクター、マキシマム!!」

 

発生したエネルギーが結晶化していき、一つの大剣を作り出す。それを見た一夏は既知感に苛まれた。

 

「あれは!?赤野が使ってきた大剣と同じ!?」

 

「真っ向勝負!この大剣、捌くことは出来ぬ!」

 

「零落白夜に勝てるかあああああ!」

 

シオンはオルゴン・クラウドの転移を使わず、そのまま突撃する。真っ向から叩き潰さなければこの世界の自分は納得しないからだ。

 

そのまま刃がぶつかり合い、互いに押し合う。しかし、零落白夜で押し返せるはずの刃に逆に押されていた。

 

「な、何故!?零落白夜が押し返される!?」

 

「この大剣はエネルギーが結晶化したもの、実体化した剣になっている!エネルギー状態なら押し返して消せたろうが、今のこの剣を押し返す事は出来ん!!」

 

「う、嘘だ!千冬姉の剣が、零落白夜が負けるはずが!」

 

「己自身の力で戦っていない時点で、お前は何も守れないのだ!うおおおお!」

 

「っ!うあああ!?」

 

競り負けた一夏は空中へと飛ばされ、シオンはそれをオルゴン・クラウドの転移で追うと刃を振り上げた格好で突撃する。

 

「オルゴナイト!バスカー!ソォォォド!!」

 

「がああああああああ!?」

 

振り下ろされた大剣による唐竹割りの一撃を受け、そのまま先程までいた小島の砂浜へと落下した。絶対防御によって操縦者は守られたが、白式は簡単な修理が必要な状態になった。

 

シオンは破壊しないよう、ほんの僅かに手加減をしていたおかげで大破は免れていた。大剣は砕け散り、剣の鍔となっていたパーツがカシュンと閉じて、ソードライフルに戻る。

 

「光が溢れる時、闇の深さを知る・・・!」

 

政征と雄輔は何も言わず、砂浜に倒れている一夏を回収する。一夏の目はシオンに向けられているが、三人の近くに降りてきたシオンは、そんな視線など気にしていない。ショックな出来事から僅かに意識を取り戻した一夏は声を絞り出す。

 

「なん・・で・・俺・・・糧に出来な・・・」

 

「俺はもうお前の糧にはならない、お前が考えているように物事は動かないんだよ」

 

その後、全てを回収し旅館へと帰還する事になるが、それはシオンにとって別れになるという事を彼自身知る由もなかった。




私自身の並行世界の考えは同一の存在が揃い、圧倒的な強さを持っている場合。

弱い方が強い方に引っ張られる形で無意識下で技術を習得してしまいます。

本編でも書きましたが、一夏がシオン(イチカ)へ挑めば挑むほど一夏はシオン(イチカ)の技術を習得していってしまうのです。

それに気づいたからこそ、シオンは短期決戦を挑む形にしたのです。

いよいよ次回はシオン(イチカ)にとって別れの時です。世界の修正が働いてシオンに関する全てを消去されます。

鈴の恋心、政征と雄輔との友情も、千冬から貰えた家族愛も全てが消えていきます。


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清浄の騎士の帰還

清浄の騎士が帰還する。

政征(過去)を始めとする知り合った人間達から忘れ去られる。

シオン(イチカ)の幼少期の回想

※今回は別れのシーンだけですので非常に短いです。


一夏と箒、そして銀の福音を回収した後に出撃した全員が旅館へと帰還した。教員の三人と束が出迎え、千冬はフー=ルーに肩を借りて出迎えている。

 

「お前達、ご苦労だった・・・だが、今回の事は機密にする」

 

「当然でしょうね・・・」

 

出撃した全員が納得できる。今回の件は私怨によって作戦が失敗した、その原因が世界初の男性操縦者と開発者の妹ともなればマスコミは見逃さず、IS学園の怠慢として記事を書くだろう。

 

「織斑先生、指揮権をお返ししますわ」

 

「ああ。だが、緊急時や状況判断が適切な場合は私の権限と同等の権限とする。フー=ルー教諭ならきっと大丈夫だろう・・・今回で痛感したよ」

 

「!解りましたわ。その権限、お受けします」

 

「(これで解決だな。俺もシャナ=ミアさんを守れたっていう栄光を掴めたし、政征にも借りを少しは返せたかな?)」

 

シオンは皆が旅館の中へ入ろうとしている最中、たった一人だけで佇んでいた。まるで、此処から先は自分が向かう事の出来ない境界線があるかのように。

 

「シオン!何して・・・る・・のよ・・!?アンタ!身体が!?」

 

「え・・・シオンさん!?」

 

「シオン!」

 

「どういう事だ!?シオンが光に包まれて!?」

 

「お、おい!シオン!?」

 

「まさか、お前!?」

 

「何!?」

 

「・・・なるほど、そういう事でしたか」

 

「シー君!?」

 

旅館の中へ入ろうとした全員が、唯一振り返った鈴の声で振り返って外へと戻る。シオンの存在が光に包まれており、少しずつ存在が薄くなっているのだ。だが、シオンは皆を笑顔を浮かべた優しい目で見つめていた。まるで、別れを知っていたかのように・・・。

 

「皆、ごめんな・・・。俺はここでお別れだ。俺はもう、この世界には居られない。俺がすべき役目は終わってしまったからな」

 

「シオンさん!?」

 

「そんな・・・唐突すぎるじゃない!!」

 

「そうだよ!急にお別れなんて!」

 

「勝手が過ぎるぞ!シオン!」

 

感情的になりやすい代表候補生達が泣いているのを見て、シオンは微笑む。ああ、別世界でも彼女達には助けられてきた。

 

「すまない、こうなる事が予想出来たから言い出せなくてな・・・」

 

申し訳なさそうに苦笑しているが、本心を隠すためのポーズだ。この世界に未練を残してはいけない。

 

「シオン!」

 

「・・・・・お前は本当に最後まで」

 

「政征・・・シャナ=ミアさんを守り続けろよ?雄輔、みんなを頼むな」

 

「シオン・・!いや、一夏(・・)!」

 

別世界の自分の姉が声をかけてくる。その目に見えるのは本当に心から弟との別れを悲しむ姉のようで・・。シオンも思わず、口にしてしまう。自分の世界では呼ぶ事のなかった、呼び方を。

 

千冬姉(・・・)・・・この世界の俺(・・・・・・)を止めてやってくれ。それが出来るのは、きっと千冬姉だけだから頼んだ」

 

「っ・・・!」

 

「シオンさん」

 

「フー=ルー先生、千冬姉(・・・)を頼みます」

 

「ええ・・・確かに」

 

「シー君!待ってよ!」

 

「束さん、千冬姉とフー=ルー先生の二人を支えてあげて下さい。それが出来るのは束さんだけです」

 

代表候補生達がシオンを連れ戻そうとするが、まるで見えない壁があるかのように近づく事が出来ない。それもその筈、この世界の代表候補生達とシオンの位相がズレて居る為、会話する事は出来ても触れる事も決して出来なくなっているのだ。

 

「ああ、もう皆の顔も見えなくなってきた。別れを長引かせるのは良くない事だけど、大目に見てくれよ?皆」

 

「シオンさん!!」

 

「シャナ=ミアさん・・・?ごめんなさい、もう・・・声しか判らなくなってきてるんだ」

 

シオンの顔はほとんど光に覆われ、消えかかっていた。辛うじて耳だけが包まれるのが遅く、声だけで判別出来ている。

 

「貴方は、真に私の騎士でした。清浄の騎士よ・・・そなたに近衛騎士としての称号を与えます」

 

「身に余る光栄。貴女を守れた事こそ、私の誉れであり、栄光です・・・!貴女が掴む事の出来なかった栄光を俺に与えてくれた」

 

騎士の礼節をシャナ=ミアに示し、忠義を見せる。初めて恋をした人、その人が汚されそうになったのを自分自身の手で止めて、守る事が出来た。その自分を今はとても誇りに思う事が出来る。

 

シオンは立ち上がると姿が見えはしないが、気配で皆を感じ取る。

 

「みんな、俺はここで消える。でも、辛いとは思わないでくれ・・・俺は死ぬ訳じゃない」

 

その言葉に皆が顔を上げる。代表候補生の女性達は涙を堪えきれないまま、シオンを見ている。教師である二人はまっすぐに見ており、男性操縦者の二人も視線を逸らさないままだ。その中で唯一、好意を持っていた鈴が声を上げた

 

「シオン・・・!アンタも、もう自分を!」

 

「答えを得る事が出来た。大丈夫さ、鈴!俺も、諦める事はせずに頑張っていくから」

 

消えかけているが笑顔を見せつつ、シオンは皆に背中を向けて光の中を歩いていく。その背中は大きく見え、少しずつ身体が光へと消えていき、最後にイチカ・フューリア・シオンという存在は消えた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・どうした?旅館へ入るぞ」

 

「そうですね・・・皆さん!旅館の中へ戻りましょう?」

 

千冬と真耶の教員二人は代表候補生達に旅館の中へ入るよう催促する。皆がハッとした様子で旅館の中へと戻る。

 

「福音を倒した兄様の手当をせねばな」

 

「連携攻撃で無茶したから休みたいよ」

 

ラウラは政征の傷を心配しており、シャルロットは疲れを口にしながら旅館の中へと入っていく。

 

「わたくしも、ビット兵器の展開をし過ぎて頭が痛いですわ・・・・」

 

「戻るか、雄輔」

 

「ああ、そうだな・・・」

 

「鈴さん、どうなさいました?」

 

最後にフー=ルーが振り返り、男性操縦者二人とセシリアも振り返った。鈴は先程まで誰かが(・・・)立っていた場所を見つめ続けていた。

 

「今、行きます・・・!」

 

「鈴、本当にどうしたんだ?」

 

「何がよ?」

 

「だって、お前・・・泣いているじゃないか」

 

「え?」

 

雄輔に指摘されて鈴は自分の頬に手を触れる。そこには確かに水の感触があった。なぜ泣いているのか理解出来ない。自覚した途端に止めど無く涙が止まらない。

 

「な・・なんなの?なんで・・涙・・・止まらな・・・うああ・・ああああ・・・わああああ!」

 

記憶はなくとも心の底では理解出来ているのだろう。誰かが確かに居たのだ。しかし・・それが誰なのかが思い出せない。

 

思い出そうとしても顔も、声も、姿も全て思い出す事が出来ない。誰か大切になりかけた誰かが居たはずだと言い聞かせても。

 

清浄の騎士の痕跡はこの世界から全て消えてしまった。彼がもたらした軌跡は確かに何かを変化させたのだ。

 

だが、この世界は彼を受け入れる事はなかった。それでも答えを得るために現れ、己自身の可能性と相対した事によって答えを得る事が出来たのだ。

 

彼は友と共に己を鍛え、騎士であろうとするだろう。しかし、己が決めた事を誰にも否定させないというその信念を持ち得た。

 

「・・・・俺は諦め続けていた。何も出来ない、叶わない、届かないといって己の可能性から逃げていた」

 

自分の世界へ帰るための道を歩き続けるイチカ。彼は先程まで存在する事が許されていた世界を思い返す。

 

「・・・己の負の可能性も正しい可能性もない。ただ出来るのはどちらかを選ぶ事が出来るだけなんだ」

 

また彼は思い返す。己が諦めやすくなってしまった過去を。

 

 

 

 

 

 

 

「おまえはなにもできてない!だからおれのへやをかたづけとけよ!」

 

「・・・・」

 

「なんだよ、おれのめいれいがきけないのか!」

 

幼少の頃から春始から暴力と暴言、己のやりたくない事を押し付けられ続けていた。逆らえば暴力で押さえ込まれ、勝つ事ができなかった。

 

「よし、ちふゆねえにみせにいこう!」

 

小学校低学年時ともいえる時代に家族の似顔絵を書く事を授業の課題で出された。イチカは会心の出来栄えと己で思えた似顔絵を千冬に見せに行く。

 

「ちふゆねえ、みてみて!」

 

「ん?似顔絵か?この程度、春始なら簡単に出来ていたぞ」

 

「しゅんじにい・・・には・・・かんたんに?」

 

「ああ」

 

「ちふゆねえ!みてくれ!ほんいれをつくったんだ!」

 

「おお!これは凄いな!良くやったな、偉いぞ!」

 

「へへ・・・!」

 

「また・・・ちふゆねえは」

 

千冬にとっては無意識だったのであろうが、彼女は学問でも運動でも高い成績を残す春始ばかりを優遇し褒めていた。そして、しばらくして二人は剣道の道場に通う事になった。

 

「(こんどこそ、こんどこそ!ちふゆねぇにほめてもらうんだ!)」

 

いっぱい努力した。大会でも上位にくい込めるくらいの実力まで上り詰めた。

 

「流石はあの織斑千冬の弟さんだ。個人戦を三連覇とは!」

 

「本当ですね。それに引き替え、もう一人の弟は」

 

「ああ、あの二人の腰巾着。彼も強いですが3位ばかりだからな」

 

大人の何気ない会話。幼少期のイチカにとってこれ程までにショックな事はなかった。それを聞いたイチカは剣道を辞めてしまい、千冬に怒られもした。

 

「何故、途中で投げ出した!春始は続けているというのにお前はそこまで根性が無かったのか!?」

 

この時の千冬は何故、イチカが剣道を辞めてしまったのかを理解する事は出来なかった。

 

 

 

 

中学校に入り、箒や鈴、弾といった友人も出来た。だが、鈴は祖国の中国へ直ぐに帰ってしまい、箒は剣道の稽古が忙しく接触は少なくなっていった。また、テストの結果が出てきた時。

 

「85点か。悪くはないがもう少し頑張れなかったのか?春始は満点ばかりだぞ?」

 

「っ・・・(また春始兄の話かよ!)」

 

「聞いているのか?一夏」

 

「・・・この話終わったらコンビニ行ってくる」

 

「?ああ、構わんぞ」

 

イチカは自転車を漕いである場所へと向かう。そこは弾の自宅である定食屋であった。自転車を止めて中に入ると弾の父親である巌が、また来たのかと驚く顔をする。

 

巌は一夏がグレかけているのを見抜いていた。弾も友人の視点から父親譲りの洞察力で同じように見抜いており、どうすれば良いか巌に相談していた。

 

「一夏の坊主、そこへ座れ」

 

「え?でも、あそこは」

 

「良いから、座れ」

 

巌が指摘したのはカウンターの一番奥であった。常連客にも人気が高い場所でなかなか座る事はできない。

 

着席したのを確認すると巌は調理を始めた。炒め物が出来上がっていく音、鍋とお玉の鉄がぶつかり合う音が響きあって料理が出来上がっていく。

 

出来上がったのは回鍋肉の定食だ。野菜も肉もたくさん、極めつけは白米が特盛になっている事である。

 

「食え」

 

「で、でも!俺、お金なんて!」

 

「良いから黙って食いやがれってんだ!」

 

「は、はい!頂きます」

 

イチカは割り箸を取り出して割ると汁物から手に付け、回鍋肉を口に含み白米をかきこんで行く。回鍋肉に使われている黒味噌が肉とキャベツに絡み合い、炊きたての白米がその甘さを倍増させ、口の中で踊りだす。

 

「う、美味い!」

 

「そうか」

 

一心不乱に箸を止めずにガツガツと食事をしている。その様子を見て巌はまともに食事をしていない事を感じた。

 

イチカは兄以上に食べる事を許されていなかった。比べられたり、身に覚えのない悪い事で食事を抜きにされ続けていた為だ。

 

「う・・ううう」

 

食事をしながらイチカは泣いていた。暖かい食事がこんなにも美味しいものであったのかと。

 

「一夏坊、しばらくウチで飯食っていけ。学校帰りに」

 

「!でも・・お金が」

 

「馬鹿野郎!たかが14のガキが金なんか気にすんじゃねえ!働き出してからで構わねえよ」

 

「巌さん・・・・」

 

「良いか?大人に甘えられんのは子供(ガキ)のうちだけだ。甘えるってのは全てを委ねる事じゃねえ、大人に助けてもらえる時に子供は素直に助けられろ。それが今、オメエが出来る俺への恩返しだ。さっきも言ったが俺への金なんざ、働き出してから返しても良いんだからよ」

 

「ありがとう・・・ございます」

 

「良いからサッサと食っちまえ、冷めちまうぞ!」

 

「親父、俺にも何か作ってくれよ」

 

「少し待ってろ、弾!オメエも一夏坊と一緒に飯食え」

 

「おう、誘ったのは俺だしな」

 

中学校を卒業するまで、この食堂にお世話になった。だからこそ、俺は変われた。次は自分の世界で自分が何を出来るのか、見つけていこう。

 

回想を終えた彼の意識は、眠っている己の自身の肉体へと戻っていくのだった。




短めですが此処まで、です。

シオン(イチカ)は己の世界へと帰りました。己の中の答えを得る事で。

巌さんのおかげと彼は言っていましたが、彼は本当にギリギリの所でたった一人の父性による支えを弾のおかげで得る事が出来ていたのです。

この時の弾の存在がなければ間違いなく不良の道を進み、ISに関わる事はありませんでした。

次回はIS学園への帰還と春始の話になります。


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取り込まれた転生者

臨海学校終了前日

春始、過ちの代償を払う。



※この回からイチカから一夏に表記が戻ります。

もしも、表記に関して意見のある方はお願いします。


「ん・・・うぅ?」

 

一夏はゆっくりと瞼を開けた。真っ先に目に映ったのは建物の天井、そうだ臨海学校の最中だったのを思い出す。

 

「一夏!目が覚めたか・・!」

 

「うん、良かった・・・」

 

「織斑先生?それに・・・束さんも?」

 

一夏の疑問めいた声に二人は頭にハテナマークを浮かべていそうな表情をする。

 

「どうした?寝ぼけているのか?」

 

「無理もないよね。三時間とはいえど、ずっと眠っていたままだったから」

 

「(三時間!?向こうに居た数週間が、たったの三時間だったのか?)」

 

体感時間と実際に流れている時間の差異が大きすぎる事に一夏は驚きを顔に出さないようにして考えた。

 

「一夏、起きれるか?明日で臨海学校は終了となる」

 

「私も、明日にはアシュアリー・クロイツェル社に戻らないといけないし」

 

「大丈夫、起きれます」

 

一夏は身体を起こすと同時に屈伸したり、全身を回すなどの体操を始めた。長時間眠っていたのと同等であると予想し、動ける事を確認するためだ。

 

「いっくん、何かあったの?何だか、一皮むけたみたいに表情が険しいよ?」

 

「何もありません。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「自分自身の悪い部分を目の前で見せ付けられるのは応えるな・・・って」

 

「・・・そっか(いっくんも見せられてるんだね。並行世界の自分自身を)」

 

束はあえて深く言及しなかった。例の二人によって自分も別世界の自分を見せられているが故に。

 

「一夏、動けるのなら簡単な訓練等は許可しよう。ただし、無茶だけはするな?」

 

「解っていますよ。織斑先生、貴女も変わろうとしているのは分かります。けど、俺はそう簡単に許したりはしませんから」

 

「・・・・ああ」

 

部屋を出ていく一夏を見て、千冬はやはり・・・と思わずにはいられなかった。解っている、自分は幼少から中学生の終わりまで一夏と接しようとはしなかった。何よりも「敬語」で話されているのが、拒絶し続けている何よりの証拠だ。

 

「ちーちゃん・・・まだ」

 

「ブリュンヒルデなどと持ち上げられてはいるが、私だって人間だ。どうしても苦しさよりも楽さをとってしまう。だが、此処まで距離が離れているとは思わなかったよ」

 

「・・・・」

 

束も沈黙しか返せなかった。自分は勉学面で一夏を手助けしただけだ、心に関しては何も出来ていない。一夏の男性の友人とその父親によってギリギリの所で救われていた事は知っていた。

 

千冬自身も一夏が剣道を辞めた理由を知ろうともせず、這い上がってくるだろうと思い、良かれだと考えてきた事をやった結果が一夏からの拒絶だった。

 

「アイツは私の知らないところで色々な人間に助けられていた。束、お前も含めてな?私は手がかからないという理由で春始ばかりを優遇し続け、一夏が助けて欲しいと訴えていたなどと思ってもみなかった。アイツなら乗り切れるだろうと高をくくり自惚れていた」

 

「それは知らなかっただけでしょ?それと一つだけ聞いて?天才の人間というのはね、いずれ拒絶されるんだよ、ちーちゃん。幼少期ならもてはやされるけど、成人になったら邪魔者扱いされるの。ちーちゃんはいっくんへの言葉の使い方が間違っていただけ、だからといって腫れ物を触るように扱っちゃダメだよ・・!今のちーちゃんには私だけじゃない、フーちゃんだっているし、年下でも協力してくれる子達がいるんだから」

 

「そうだな・・・私も別世界の私のようになれるかな?あらゆるしがらみから解放され、一人の織斑千冬となった別世界の私のように」

 

「なれる。とは言えないけど・・・近づく事は出来るんじゃないかな?この世界のちーちゃんと別世界のちーちゃんは同じ存在ではあるけど別人だよ?だから、そのものになる必要はないよ?私はそう思うな」

 

「・・・その通りだな。私は私でしかない、皮肉なものだな・・・教え子たちに言っていた言葉が己に帰ってくるとは」

 

「自業自得・・・まさに私たちに相応しいね」

 

親友同士である二人は静かに含み笑いをした。頭脳的な天才と肉体機能の天賦の才、真逆であるからこそ惹かれあった二人、一人は世界に対して己を示そうとし、世界を混乱させた咎を受けた。もう一人は家族を家族と見ずに拒絶という咎を受けた。

 

二人の償いは一生物、それを二人は自覚している。だが、新しくやり直す事は出来る。それを胸に前を向く事を改めて決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建物とは言い難いとある場所。そこには春始がベッドのような場所で寝かされ、拘束されていた。

 

「何処だ?此処は・・・?おい!誰か説明しろよ!!」

 

暴言を吐き続けると扉らしき所から、誰かが入ってきた。女性らしく、長く黒い髪、豊満な胸元、服装は胸元の中心が開いており、スリットの入った服は官能的に男を刺激させる。目の輝きは無いように見え、黒い瞳は濁っているようにも見えるが、それは印象だけだ。

 

「申し訳ありません。貴方が暴れると思い拘束させて頂きました。失礼、私・・・今野初音と申します」

 

「(うわ・・なんつー美女。ガン×ソードに出てくるファサリナみたいな感じだ)あ、そう・・で俺に何の用だよ」

 

「・・・・そうですね。貴方の種子を頂こうと思います。」

 

「へ?」

 

そう言うと女性は拘束された春始の上に乗っかってくる。男性としてはおいしいシチュエーションなのだが、いきなりの事でさすがの春始も混乱している。

 

「・・・始まりの地の世界の静寂のためには種子を持つものである貴方が必要なのです」

 

「え、あ・・・必要って言ってくれんのは嬉しいけど・・・いきなりなのか?」

 

「このような、はしたない肉体はお嫌いですか?」

 

「いやいやいや!!大好きです!ものすごく好みです!」

 

思わず敬語になってしまったが、衣服の隙間から見える彼女の素肌が春始の性的欲求を刺激してくる。

 

「身を任せてください・・・貴方は大丈夫」

 

「あ・・・・」

 

春始は初音から発せられる色香に蕩かされ、意識が落ちていった。それと同時に春始の身体が初音の中へと引き込まれていく。

 

まるで女性が出産する瞬間、その逆の様子を体現している。結合していた春始の下半身が入り込んでいき、上半身が入っていく、初音は顔をしかめてはいるが恍惚としており、口から涎が流れ出ている。

 

「も・・もう・・少し」

 

春始の頭部が消え、腕も消えた。身体の全てが初音の中へと引き込まれたのだ。

 

「貴方は生まれ変わりますよ・・・フフフ」

 

妊娠したように大きく膨れた腹部を摩りながら、初音は微笑んでいる。春始を人間なざるものへと生まれ変わらせる事を嬉しく思い、使命であると思いながら。




短いですが此処までで。

春始はまだ人間として生きてます、ただし初音の中で、ですが・・・。

大丈夫だろうか・・・このシーン。と思いながら書いていました。

次回は帰還後の特訓です。箒が特訓のメインとなり徹底的に叩き潰されます。

箒アンチを書いた身ではありますが、箒も一夏と同じように現実を見せて、導いてくれる人間が居れば少しは変われたのでは?と思っています。

この世界の箒は文武両道を旨とする武人としての大和撫子を目指しています。

所謂、千葉佐那(ちば さな)を目標にしていると思ってください。


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紅の椿は芽吹きを目指す

箒が自ら望んだ厳しい特訓。

自分の戦いの数だけ、その力を手に入れる。何度だって何度だって立ち上がれ!

※箒の特訓時の挿入歌として、仮面ライダーブレイドの「覚醒」をイメージしてます。

一夏(シオンの方)の戦闘曲は仮面ライダーキバの「Super Nova」です。

何故、一夏(シオン)の戦闘曲が「Super Nova」なのか?歌詞を見て頂ければ解ります!


臨海学校終了後、学力テストがあり三騎士と代表候補生達、それに加わった箒も皆との勉強会の甲斐もあって平均点合格ラインを取る事が出来た。

 

すぐにでも特訓したいが、臨海学校での精神的疲れや学力テストが終わった後の息抜きも兼ねて、二日間を休みすると代表として雄輔が通信を送った。

 

だが、休みといってもだらける事はなく己の身体のコンディションを整える機会だ。

 

セシリアは行きつけの女性従業員のみで営業している全身マッサージのお店へと向かい、鈴は鍼治療、ラウラも鈴に付き添う形で鍼治療を受け、シャルロットはセシリアとは別のお店でマッサージを受けている。シャナ=ミアは束と共にアシュアリー・クロイツェル社が経営しているリラクゼーションのお店に出向いている。

 

そんな中、政征、雄輔、一夏の三騎士とはというと。

 

「あっっがあああああ!!!!」

 

「ぎいゆううう!!!!」

 

「いっぎあああああ!!!」

 

三人はフューリア聖騎士団が身体のメンテナンス為に必ず立ち寄るという整体師の店に来て、施術を受けている真っ最中であった。

 

「うーん、三人ともだいぶ凝り固まってるわぁ」

 

「若い子は回復も早いから過剰なメンテナンスは必要ないけど、解しておきましょ?」

 

「そーれ!」

 

「「「んんぎゃああああああああああ!!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

三人は施術が終わった後に宿泊施設に運ばれていた。無論。店からの連絡を会社が受けて、更にはIS学園にも連絡したそうだ。

 

この店の施術はフューリー出身ならば必ずと言って良い程、通いに来るらしい。ものすごく効くから来てしまうそうだ。

 

医院長を始めとするスタッフが三人の様子を見に来ていた。三人は放けており、魂が抜けかけているのではないかといった様子だ。

 

「ごめんね?効き過ぎちゃったでしょ?こうなると一日寝ていたくなるだろうから、連絡はしてあるから気にせず寝ちゃいな」

 

医院長は女性で整体の腕も確か、性格も姐さん女房といった感じで、接しやすくスタッフからも慕われている。

 

ただ、施術に夢中になりすぎて患者の全身を整体してしまうのが玉に瑕だ。スタッフにも徹底的に自分の技術を教え込んでいる。

 

「一歩も動きたくない・・・・」

 

「ああ・・・・」

 

「・・・・寝る」

 

三人は僅かな呟きの後に眠り込んでしまう。その間に電気治療を施す機械を取り付け、三人の治療をする事も忘れない。

 

ふざけてはいたが、政征と雄輔は復活したばかりでの春始との戦闘で疲労困憊。一夏に至っては戦いだらけの場所に居た為に同じく疲労困憊。筋肉にも乳酸が貯まりすぎていると言っていいほど。

 

三人は翌日の登校時間と同じ朝の七時になるまで起きる事はなかった。その間、スタッフが交代で電気をかけ直していた。

 

スタッフが車で駅まで送ってくれ、また来てくれと言い残し走り去っていった。確かに身体は軽いけど、痛かったなぁ、と三人は思うのだった。

 

 

 

 

 

そして夏休み三日後の当日。一番乗りにアリーナへと趣いていたのは箒だった。トラックを軽く三周した後にストレッチを入念に行い、重りを加えてある鍛錬用の竹刀を取り出して素振りを始める。

 

「はっ・・・899、900・・・はぁ・・はぁ・・・あっ!」

 

彼女はただ素振りをするのではなく、「軽い物を重く、重い物を軽く」と感じ取れるように意識して素振りを行っている。

 

だが、意識して行うが故に慣れていないと素振りの途中で竹刀を落としてしまうのだ。箒は900回目にして竹刀を落としてしまった。

 

「此処までか・・・っ!?誰だ!?」

 

「悪い、覗く気は無かったんだよ」

 

「一夏か、私の方こそ怒鳴って済まなかったな」

 

「いや、手は大丈夫か?」

 

「ああ・・・集中力が切れると手放してしまうだけだ」

 

「(嘘つくなよ。その震えは筋肉が限界を迎えてる証拠じゃねえかよ)」

 

一夏は箒が一番乗りに来てから竹刀を振っていた姿を見かけ、ずっと見ていた。隠れて見ているなどストーカーと同じだが、一夏は箒の鍛錬する姿が美しく見えている。なにより、自主鍛錬中の彼女を邪魔する事など出来ないのだ。

 

「全く・・・」

 

「!?い、一夏!?冷たっ!?」

 

一夏は箒の腕を掴み、特訓の終了時などに使っているアイシングに使うジェルパッドを凍らせた物を箒の腕にマジックテープ式のバンダナで軽く巻きつけた。

 

「そろそろ政征達も来る。腕をちゃんと休ませてから訓練しろよ、じゃないと腕が使い物にならなくなるぞ?」

 

「む・・・ありがとう」

 

「いいさ」

 

不器用ながらに手を握りあった二人の間には甘い空気が流れていた。箒は一夏への思いが本当に自分の思いなのかと考え、一夏は一夏で箒への恋心を抑えている。

 

そこに誰かがが入ってくる気配を感じ、慌てて二人は手を離して離れた。

 

「早いな、二人共」

 

「関心だな」

 

「あら、箒ってばせっかちなのね?もう来てたなんて」

 

「鈴さん、久々に訓練するのですから仕方ないことですわ」

 

「そうだよ。二日間の遅れを取り戻さないと」

 

「慌てるな。基礎を行ってからだ」

 

「ええ」

 

代表候補生とシャナ=ミア、騎士の二人も合流し、後から来た全員がトラックを軽く走り汗をかくと入念にストレッチをして準備する。

 

 

 

 

 

全員が準備を終えると各々でペアを組み、訓練を始める。政征達が自分の世界で鍛えられた特訓メニューをデータで送り、それをこなしているのだ。

 

「政征、雄輔」

 

「なんだい?」

 

「ん?どうした?篠ノ之箒」

 

「フルネームは止めてくれ雄輔、せめてどちらかで呼んで欲しい」

 

「そうか。つい、癖でな?悪かった。それで?」

 

「ああ、二人に頼み事があってな?二対一で私を徹底的に鍛えて欲しいんだ。気絶したら水を被せてくれても構わない」

 

その言葉を聞いた二人は珍しく動揺した。徹底的に鍛える、それは実戦レベルで自分を鍛えて欲しいと言って来たのと同義だからだ。

 

「箒!そんな特訓をなんで!?」

 

「一夏、最後まで箒の話を聞いてみよう。なにか理由があるのかもしれない」

 

「う・・・た、確かに」

 

一夏にとって、箒は惚れた相手であるために傷ついて欲しくないという気持ちがあったのだろう。ひと呼吸置くと彼女は理由を話し始めた。

 

「私は紅椿を乗りこなせていない。いや、逆に私が紅椿に使われている状態だ。特に戦闘面でな?飛行や歩行、旋回などの基本的な事はセシリアや鈴、シャルロット、ラウラ達、それに政征と雄輔のおかげで実戦でも通用するとお墨付きは貰えている。だが・・・戦闘面に関しては全く通用しないと自覚してしまったのだ」

 

どうやら箒は実戦でも通用する戦闘技術を身に付け、皆と同じ場所に立ちたいと願っているようだ。だが、此処で意見を出したのは意外にも一夏であった。

 

「箒、みんなと同じ場所に立ちたい気持ちは理解できる。その前に箒は何の為に力を得たいんだ?」

 

それはかつて自分が政征と雄輔に尋ねられた事だった。魂のみが並行世界へ行き、己の負の可能性と対峙した事で力のあり方を考える思考が身についていたのだ。

 

「私は・・・ただ力を得たい訳ではないのだ。己を示したいという気持ちもある。それ以上に私だけが何も出来ず、仲間と共に戦えないのが悔しい!私は己自身も仲間も守れるだけの力が欲しいんだ!」

 

守る力が欲しい。箒から発せられたその言葉は並行世界から来た二人にとって衝撃的だった。力が欲しい、誰もが思うそれを己だけの為ではなく、仲間や自分以外のために得たいと言ってきたのだから。

 

「そうか、その覚悟・・・確かに見届けた」

 

「言っておくが、もう撤回は出来ないぞ?」

 

「解っている、よろしく頼む」

 

「・・・箒が自分で選んだ事なら俺は何も言わない」

 

「ありがとう、一夏」

 

それから、訓練がすぐに始まる事になった。政征と雄輔のコンビは箒に容赦なく実戦レベルでの攻撃を仕掛けている。

 

「うぐっ!おのれ・・・!そこだ!」

 

「甘い!後ろだ!」

 

「がぁああ!ぐ・・・・ぅ」

 

箒は機体を解除され、その場で気絶してしまった。だが、雄輔は用意していた水の入ったバケツを持ってくると容赦なく箒に浴びせ、目を覚まさせる。

 

「う・・・・うう」

 

「立て、もう一度だ」

 

「すまない、また気絶してしまったのか」

 

「ほら、タオル」

 

「ああ」

 

箒はタオルを受け取ると濡れた顔や髪を拭き、再びISを展開して政征と雄輔の二人に向かっていく。時折、一撃を加えたり、攻撃を箒が捌いたりしているが、まだまだ完全とは言えずすぐに挽回され、再び倒れてしまう。

 

「・・・・」

 

再びバケツの水をかけられて目を覚ます箒だが、政征と雄輔はここで一旦休憩すると提案した。その言葉に箒はなぜだと言いたげだ。

 

「気絶から復帰して続けても意味が無くなってくる。今はよく休んでほしい」

 

「風呂に入って身体を温めてからゆっくり休め、戦闘技術は付け焼刃のようにすぐに身に付くようなものじゃない」

 

「う・・・わかった」

 

そう、バケツに入っている水は常温の水ではなく、氷を入れて冷やしてある冷水だったのだ。こんなものを気絶から復帰させるためとはいえ、何度も浴びせていれば低体温症になってしまう。

 

最高で二回と制限をかけ、二回以上訓練を続けるのなら休憩させる事を二人は決めていたのだ。

 

箒は体を温めるために浴場に向かい、他のメンバーもシャワーを浴びるために向かっていった。

 

「さて、俺達はここまでだ」

 

「え?」

 

「訓練の仕上げは織斑、お前がやるんだよ」

 

「!?お、俺が?何故だよ!」

 

「戦場での敵は見知った相手も出てくる。それを分からせるために必要なんだよ」

 

「それにな・・・好きな異性が相手になるという事もありうる」

 

「!!確かに・・・」

 

一夏は並行世界で戦った傲慢な箒を思い返していた。あの時はこの世界とは別人だと割り切れてはいたが、もしも、この世界の箒と敵同士になってしまったら、と考えない事はなかった。

 

政征と雄輔は少しだけ悲しく辛そうな目をした後、訓練再開の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

「よし、お互いに刃を向けたまま絶対に動くな」

 

「う、うむ」

 

「わ、わかった」

 

「30分はそのままだ。始めるぞ」

 

休憩後に開始した特訓。それはISの接近武装である刀とオルゴンソードの鋒を相手に向けたまま対峙し動かないというものであった。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

二人の間には緊迫感だけが流れ、時間の経過もわからなくなっていく。相手に斬られるのでは?切ってしまうのでは?などといった不安、同じ格好のままで止まったままである事の筋肉負担なども襲いかかってくる。

 

そして29分50秒となった時には二人からは汗が流れ落ちており、腕も震えが来ている。そして終了のブザーが鳴った瞬間。

 

「「ぶっはあああああ!!」」

 

二人は武装を手放してその場で四つん這いになる形で手をつき、酸素を貪る。

 

「な、なんなのだ!?この訓練は!今までの中で最もキツいぞ!」

 

「俺だってそうだ!そもそも刃を向ける相手が相手だけにキツイ!」

 

二人は愚痴り合いながらも呼吸を整え立ち上がる。そして箒にとって最も過酷な訓練が始まる。

 

「よし、二人共。10分の休憩の後。実戦形式での模擬戦を行うからな」

 

政征の指示を受け、二人は休憩に入る。水分補給用の飲み物を飲み、二人は改めて自分の相棒である機体を纏って対峙する。

 

「良いか、一夏。絶対に手加減するなよ?手加減は箒への侮辱だと思え、相手が参ったというまで戦うんだ・・・!」

 

「分かった。聞いての通りだ、箒・・・手加減はしない。全力でたたきつぶすぞ」

 

「うむ、来い!」

 

開始のブザーと共に二人は突撃したが、一夏はソードライフルをオルゴンライフルモードに切り替え、単発のエネルギーを3発撃ち放った。

 

「!っく!!」

 

射撃武器に対する偏見は無くなっているが、奇襲で使われるのは厄介であった。なんとか回避した箒だったが、一夏は容赦なくオルゴンソードへモードを切り替えていた。

 

「オルゴンマテリア・ライゼーション・・・・」

 

「!!」

 

咄嗟に二刀流を展開し、一夏のオルゴンソードを受け返す箒だったが、一夏の剣力に怯みかけてしまう。

 

「(ぐっ!?これが今の一夏の剣なのか?私以上に重い!)」

 

「うおおおお!」

 

一夏はそのまま箒を押し返すと、シールドクローのオルゴンクローを展開し突撃した。あれに捕まったらマズイと反射的に悟った箒は、武器を拡張領域から急いでセレクトし、ボウガンを選択すると迎撃を開始した。

 

「悪い、箒。全力かつ本気で潰させてもらう。オルゴンクロー、展開!」

 

「え・・・・」

 

その言葉の後に一夏が使ったのはオルゴン・クラウドによる転移回避であった。呆気に取られた箒はクローに捕まってしまう。

 

「!しまった!」

 

「捉えた!逃がさん!!」

 

一夏はクラルスのスラスターを吹かし、クローで紅椿を掴んだまま上空へ上がるとそのままアリーナの地面へと叩きつけ引きずり回した。

 

「ぐああああああ!!」

 

「此処だ!!」

 

しばらく引きずった後、回転して遠心力をかけ上空へ投げ飛ばすと再びオルゴン・クラウドで背後へと転移し、クローで引き裂くように叩きつけた。

 

「ぐはっ!?(こ、これが今の一夏の強さ・・・。政征と雄輔の二人と互角に近い)」

 

「考え事をしている暇はないぞ?オルゴンキャノン、広域モード!」

 

「何!?」

 

「ヴォーダの闇へと誘われるがいい!!」

 

肩部と胸部にある砲口が展開され、完全にロックオンしている。箒も負けるのは嫌うタイプであり、咄嗟に紅椿のスラスターを吹かせ、直撃だけは避けることが出来た。

 

「っ・・・春始よりも強くなっているのではないのか?今の一夏は」

 

かつては兄にすべてを奪われていた一夏。その一夏は今や各国の代表候補生にすら食い下がる程の実力を手にしていた。

 

「ふふ・・」

 

自分の事のように嬉しく感じて笑ってしまう。どんなに喝を入れても諦めがちであった一夏が政征、雄輔という友人を得て、成長し変われたのだ。

 

それなら自分も変わらなければならない。あの二人には感謝しか浮かばない、自分が正しいと思っていた事をハッキリと間違っていると伝え、有り得たかもしれない可能性も見せてくれた。こうして訓練も見てくれている。

 

「だが、それとこれは別だ!私は負けられん!」

 

刃が交差した瞬間、倒れたのは紅椿であった。幸いにも地上での出来事であったためにすぐに仲間達が駆けつけてくる。

 

「大丈夫ですか?箒さん」

 

「全く、無茶しすぎよ!」

 

「追いつきたいのは解るけど、焦っちゃダメだよ」

 

「そうだ。お前の努力を私達は身近で見ている。だからこそ焦るな、篠ノ之。お前はまだ芽吹きかけているのだからな」

 

「皆の言うとおりです。箒さんは成長していますよ」

 

「みんな・・・・すまない・・・うう」

 

箒は初めて代表候補生達の前で泣いた。悔しさでも悲しさでも惨めさでもない、嬉しさからだった。

 

今の自分には姉である束の他に代表候補生でもあり、友であるクラスメイト達や己を鍛えてくれる男性操縦者の三人もいる。自分は一人ではない、見守ってくれている人達が居る。それを改めて自覚し感謝した箒は大声で泣き続けた。

 

「うう・・・あああ!ありがとう、みんな!ありがとう・・・!」

 

「・・・・」

 

代表候補生の皆は、全員が頷くと箒をみんなで抱き締めた。嬉しくて感情が溢れてしまったのを察したのだ。

 

「泣き虫ですわね、箒さんは」

 

「無理もないわよ、一人で耐えてたんだから」

 

「でも、こうして見てると可愛いところあるよね」

 

「ツンデレというやつなのだろうか?」

 

「少し違うと思いますよ、ラウラ」

 

それぞれが微笑みながら箒が泣きやむのを見ていたが、その隅っこで男性操縦者の三人は見守るような形で彼女達を見ていた。

 

「俺達は入れないな」

 

「女性の気持ちは女性が解るからな」

 

「でも、箒にも気を許せる相手が出来て良かったよ」

 

一夏が微笑んでいるのを見て二人は察すると少しだけ、意地の悪い笑みを見せた。

 

「なんだ?一夏、箒が好きなのか?」

 

「なっ!?そ、そんなんじゃねえよ!政征!」

 

「その慌てよう、図星だな?」

 

「からかうなよ!雄輔!おまえら・・・恋人がいるからってー!」

 

悪友同士がじゃれつくような感じで三人も追いかけっこを始めてしまい、グリグリやチョークスリーパーなどを掛け合っていた。訓練しているとは言えど十代の学生なのだ。

 

この時、箒の相棒である紅椿に一夏が並行世界から連れてきた紅椿の意思が入っていくのを誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「聞こえるか?この世界の紅椿」

 

『貴女は?』

 

「私は並行世界の貴女、貴女に目覚めと力を託すためにここへ来た」

 

二つの紅椿の邂逅。だが、並行世界の紅椿は存在が薄くなっていた。

 

『目覚めと・・・力?』

 

「私の世界の主人は力と偏屈的な愛のみを持って私を使っていた。だが、破滅に飲まれる前に・・・この世界の騎士が助けてくれたのだ」

 

『騎士?まさかそれって・・・』

 

「もう、時間がない。私の手を握れ」

 

『?』

 

言われるままに手を握った瞬間、並行世界の紅椿の姿が光となってこの世界の紅椿とひとつになった。

 

『あ、あれ?』

 

「私は貴女、貴女は私・・・この世界の主を支えろ。私は貴女と共にある」

 

『・・・・・はい!』

 

役目を終えた並行世界の紅椿は消滅した。何の守りもなかった並行世界の紅椿は対消滅する前に力を授ける事で消滅を防ぎ、この世界の紅椿に託したのだ。

 

だが、この出来事が思わぬ事になるということを今は誰も、知る由もなかったのであった。




特訓のつもりが友情回にww

次回から敵勢力がとある組織を襲います。

そこに現れる。黄金のアストラ〇ガン。

一体正体は何者なのか?

では次回に。


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傍観者と因果を巡る通り雨

黒と黄金の色を持つアストラ〇ガン(IS)の登場。

「傍観者」が攻撃を開始する。

転生者が生まれ変わった。



黒と黄金の色を持つアストラ〇ガン(IS)の設定をMoon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉より少し変えています

タオフェ・アストラナガン

亡国機業が、偶然手に入れていた黒き堕天使の欠片と呼ばれるパーツをMoon Knights IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界の束が解析し、ゴールデン・ドーンをベースに強化・改修したIS。元の機体の原型が無くなるレベルまで改修されている為にベース機体は判別出来なくなっている。

操縦者はインベル・ウェルテクス(本名スコール・ミューゼル)

束自身でも解析が不可能なテクノロジーだった為、機体の姿を全身装甲で再現。装甲再生機能であるズフィールド・クリスタルは再現不可能であったが、あらゆる並行世界を渡り歩いてきた結果、オリジナルのアストラナガンに限りなく近くなっている。

動力は粒子波動エンジン及びティプラー・シリンダーの一部のコピーを使用して作られた対粒子エンジン。

武装は再現が可能であった物を優先的に搭載し、ISとしてはブラッシュアップされているに等しい。

タオフェとは独語で「祈り」を意味し、パーツのコードネームと合わせて祈りの黒き堕天使とスコールからは呼ばれている。

武装

フォトン・マグナム

頭部に2門装備。マグナムとあるが牽制用で、威力はISのガトリングやマシンガンと同じ。

T-LINK・ウイング

ラフトクランズのバスカー・モードの戦闘及びバスカーモードのデータと銀の福音のレーザー武装を解析し、翼から羽根型のレーザーを放つ武装。貫通力が高く、並の装甲を簡単に貫く程の威力がある。

Z・O・レイピア

虚憶から精製方法を知った束が、特殊液体金属として作り上げたレイピア。スコールが念動力を持っていた為、刀身の変形が自在になっている。レイピアは名称で実際はかなりの切れ味を持つ。

レイン・ファミリア

アストラナガンのガン・ファミリアのデータと現行のビット兵器を参考に開発したもの。射出の数は二つだが、実弾兵器であると同時に搭載されている弾数が尋常ではない。こちらも並行世界にて改修され、より綿密に標的を攻撃する。


アキシオン・インベル

本家のアキシオン・キャノンを参考に装備された武装。アキシオンを連射し小型グレートアトラクターを部分的に発生、ワームホール発生状態にする事で目標を圧縮し破壊する武装。

アトラクター・フォルス

T-LINK・ウイングから放つレーザーを収束させ広域範囲に発射する武装。スパロボのマップ兵器に値する武装。

インフィニティ・ヴァルツァー

因果律の番人によって解放されたタオフェ・アストラナガンの最強武装。ヴァルツァーは独語でワルツを意味し、相手が時間逆行というステップを踏みながら消滅してく様子をワルツに見立ている。


箒が周りに支えられている事を自覚してから、約一週間が経過した日。とある組織のダミー会社がアンノウンに襲われていた。

 

「くっ!弾丸は効いているようだけど、格闘戦は実体じゃ意味がないわ!」

 

「非実体の格闘戦用の武装なんか、開発してねえぞ!」

 

「無い物ねだりなのは分かってるわ!それでも何とか撤退までの時間を稼ぐわよ!」

 

アンノウンに襲われている組織、それは遥か昔より歴史の影に暗躍する亡国企業と呼ばれる組織であった。

 

そのリーダーであるスコール・ミューゼルは鎧騎士のようなアンノウンに追い込まれているのだ。

 

「うっ!?しまった!」

 

バランスを崩したスコールに襲いかかるアンノウン。だが、それを助けたのは一筋の光だった。それは羽。一枚の羽によって助けられたのだ。

 

「羽根・・・?」

 

「苦戦しているようね?手助けしましょう」

 

「???」

 

スコールにとって謎の全身装甲化されているISから発せられた声は己自身と全く似通っている。それを不思議に思いつつも援護を受けた。

 

「アンノウン、あなた達はどんなワルツを踊るのかしら?T-LINK・ウイング・・・!」

 

背中にあるスラスターのような部分が持ち上がり、緑色の光の羽根が展開され一枚一枚の羽根が弾丸のようにアンノウンへ向かい、破壊していく。

 

「なっ・・・!」

 

「Z・O・レイピア・・・両断」

 

謎の黄金のISは自分達の歯が立たなかったアンノウンを軽々と撃破していた。強力すぎるその姿に恐怖と共に羨望を覚える。

 

アンノウン達は凝り固まって一つになり、強固な防御体制をとった。だが、その姿を見た

 

「あら、今度は集まって森の再現かしら?でも・・・その森は焼き払われる。受けなさい、アトラクター・フォルス」

 

インベルは口元を軽く歪めると再び緑色の翼を展開し、今度は上空へとレーザー状の光を放ち、それがまるで雨のように降り注いで、アンノウン達を完全に殲滅してしまった。

 

「フフフ・・・・。なかなかのワルツだったわ。ただ、ステップが上手ではなかったけど」

 

「・・・・」

 

スコールは呆然となりながらも謎のISを扱う女性に対して警戒を強めている。その傍らで護衛をしているオータムも警戒を解かない。

 

敵を全滅させた相手が近づいてくると同時に地上へと着陸する。それと同時にいつでも撃てるよう、懐にある銃のセーフティーも外した。

 

「いい加減に顔を見せやがれ、てめえ」

 

「あら、失礼・・・解除するのを忘れてましたわ」

 

彼女は全身装甲化している黄金のISを解除すると同時に素顔を見せた。その顔に二人は驚愕した。いや、スコールの方が驚きの度合いが上だった。

 

顔そのものは自分自身、だが、瞳の色は赤と青のオッドアイとなっていて見分けが付けられる特徴は其れくらいしかない。

 

「お前、スコールと同じ顔!?」

 

「わ、私がもう一人!?」

 

「並行世界、パラレルワールドの概念はこの世界にはないのかしら?申し遅れました。私はインベル・ウェルテクスといいます」

 

特に驚いた様子は見せず、自己紹介をしたインベルは微笑みを見せた。この世界のスコールとオータムは警戒を解かないまま名を名乗る。

 

「スコール・ミューゼルよ」

 

「オータムだ。詳しい話を聞かせてもらおうか?」

 

「その前に銃から手を離してくれるかしら?警戒するのは解るけど、それだとこちらも話せないでしょう?」

 

「・・・・っ!?」

 

銃があるのがバレていた。二人は大人しく、懐にある銃から手を離しインベルと会談を設ける。

 

 

 

 

 

 

 

「で、お前は本当に誰なんだ?並行世界がどうのとか言ってやがったが?」

 

「恐らく、インベルは本当に私自身、パラレルワールドと呼ばれるものから来た。もしもの可能性の私よ」

 

「その解釈で構いませんわ。私は確かに別世界のスコール・ミューゼル・・・。ですが、今はインベル・ウェルテクスという名前なので間違わないでください」

 

一瞬だけ空気が冷えたが、それも直ぐに収まり、三人は本題に入った。インベルの使っているISも問題だが、それ以上に問題なのはアンノウンに関してだ。

 

「早速だけど、あのアンノウンに関して知っているのなら教えて欲しいのだけれど?」

 

「あくまでも私が巡ってきた並行世界による知識、という事を前提に聞いて欲しいわ。あのアンノウンは傍観者、アインストと呼ばれる存在よ」

 

「アインスト・・・だと?」

 

「詳しいことは私にもわからないわ。彼等は蟻に似た生態系を持ち、世界に干渉してくるの」

 

「なるほど、それで貴女は私達に協力してくれるのかしら?」

 

「・・・断ると言ったら?」

 

その瞬間、わずかに生き残っていた亡国企業の部下達が一斉にインベルへ銃口を向けた。だが、インベル自身は微塵も動じてはいない。

 

「どの世界でも私は強引なのね・・・。脅迫は最も手っ取り早いけど、私のような相手には向きませんよ?貴女達の目的は私の機体のデータ、もしくは機体そのものの奪取。といったところでしょう?だけど、私は貴女達には協力出来ないわ」

 

「!んだと!?」

 

「オータム!!訳をお聞かせ願えるかしら?」

 

「私のISを渡す訳にいかないの。仮に手に入れたとしても解析は不可能、だからこそ同盟という形にしません?」

 

「同盟ですって?」

 

「同盟といってもお互いに縛る必要はない。私からの見返りは戦闘力の提供と量産、及び戦ってきたISの戦闘データ、そちらはISの整備と衣食住のみ。基本はお互いにギブアンドテイク、悪くないと思いますわよ?」

 

インベルの持ちかけた条件はISの整備を除けば簡単なものばかりだった。同盟という名のギブアンドテイク、これほど良好な条件は無いだろう。

 

「何をたくらんでいやがる?てめえ・・・!」

 

オータムの疑問は最もだろう。これ程までに好条件を出されては、何か裏があるのでは?と疑いたくなってしまう。

 

「別に何も、そうね・・・付け加えるなら一つだけ条件を言うと、人探しをして欲しいの」

 

「人探し?」

 

「ええ、騎士機ラフトクランズと呼ばれるISを使っている青年二人を探して欲しいの。色々な並行世界を巡ってきたけど見つからなくて」

 

「できる限り探してみるわ。機体がISならひょっとしたIS学園にも居るかもしれない」

 

「ええ、お願い」

 

「じゃあ、同盟は成立ね?」

 

「もちろん」

 

並行世界のスコールとこの世界のスコールは御互いに微笑み合うと同盟を結ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、地上の病院らしき建物の内部で初音は呻き声を上げていた。その腹は大きく膨らんでおり、妊婦のようで何かを生み出そうとしている。

 

「ああああっ!!うああああああん!!」

 

出てきたのは羊水まみれになっている青年だった。人間であるのならこのような出産は有り得ない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・・世界・・・静寂。創造は破壊・・・破壊は創造」

 

初音は産まれた青年を息を荒くしたまま、嬉しそうに見ている。そう、青年の正体は織斑春始であった。

 

「ふふ・・・ルーツは手に入りました。あとは機体と馴染ませるだけ」

 

もはや、春始としての意識は僅かしかなかった。だが、その僅かな意識は己の種を手に入れようとしていた女性達に植え込む事だけだ。

 

「箒・・・セシリ・・・ア・・・鈴・・・シャルロッ・・・ト・・・ラウ・・ラ・・・手に入れ・・る」

 

生まれ変わった春始は女への欲望を捨てていなかった。否、捨てる事を許さなかった。それこそがこの世界に転生した望み、ヒロインとされる五人の少女達を手に入れ、種を宿らせる事こそが目的なのだ。

 

「さぁ・・・行きなさい。可愛い私の子よ」

 

「・・・・」

 

春始は建物から出て行くと、ISを身に纏い、空を飛んでいった。目的は二つ、ヒロインを手に入れること、そして三騎士への復讐。

 

「世界は・・・修正されなければならない」




数ヶ月以上も怠って申し訳ないです。

最近残業でばかりで明け方の6時までやらされていたので。

ここに来てようやくです。

次回は生まれ変わった春始と三騎士のバトル。そして、この世界の一夏が大切なものを春始に奪われます。

この世界の一夏の大切なもの、わかりますか?


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奪われた心の伴侶

一夏が再び春始に奪われる。

騎士の二人も。


生まれ変わった春始がIS学園へと向かっている最中、IS学園の所属のメンバー達は接近戦の訓練をしていた。今回は珍しく千冬とフー=ルーの二人も参加している。最も危険な行為をさせない為の監視ではあるが。

 

「また、攻め手を剣道にしようとしているぞ!」

 

「す、すまない!もう一度頼む!!」

 

箒はあれから剣道から実戦用の剣術を叩き込まれていた。無論、剣道は剣道の良さがあると踏まえてはいるが、彼女の身体に染み付いた剣道の癖が剣術を学ぶ際の枷になっている。

 

今回のコーチは政征であり、彼は騎士の師であるセルダから教わった剣術を伝授している。

 

だが、剣道を失いたくないとの嘆願もあった為に剣術と剣道を区分けして学べるように訓練している。

 

だが、剣術の柔軟な手数と対応力に箒自身がついて行けない事も露呈してしまったのだ。

 

「止め!一撃必殺を狙うなら剣道、通常で対応するのは剣術って言ってるだろう?」

 

「う・・・すまない・・・どうしても剣道の足運びをしてしまうんだ」

 

「うーん、それなら両足の踵を軽く浮かせた状態で軸足を使い分けてみたらどうだい?」

 

「!やってみる」

 

軸足の切り替えを提案され、さっそく実践に移す箒。剣道を失わずに剣術を極める事は並大抵の事ではない。

 

剛の技と柔の技。箒は剛の技を極めようとしていたが、その技はあくまでも形式上のものであり、実戦では通用しなかった。

 

実戦において通用する柔の技を教えられているが、形式上であっても剛の型を持つ箒は柔の型と技を身につける努力をしている。

 

だが、その為には思考の分割をしなくてならない。心は熱く思考は冷静に、と言う有り触れた言葉だが、実践となると極端に難しい。

 

怒っているように怒号を上げつつも、思考は冷静にする。これは一例だが、この方法を身につけた時、彼女は代表候補生に匹敵、否、超える可能性がある程の逸材になるだろう。

 

最も訓練や勉学を怠らなければの話ではあるのだ。一方、雄輔は一夏の剣術の相手をしていた。

 

「うおおおお!」

 

「叫ぶな・・・」

 

「ぐはっ!?」

 

唐竹割りによって振り下ろそうしたオルゴンソードは雄輔を捉える前に彼からのカウンターパンチによって防がれてしまう。

 

「はぁ、毎回言っているだろう?叫んで突撃するなって」

 

「いや・・・つい、癖で」

 

「叫んで良いのは攻撃が当たった時、もしくは連撃が成功した時だけだ。当たる前に叫んでいたら躱されたり、カウンターを受けるのは当たり前だろう?」

 

「おっしゃる通りです・・・」

 

「叫ぶなとは言わない。タイミングを考えろって事だ」

 

「う・・・もう一度頼む。踏まえた上で突撃から」

 

「ああ、もう一・・・っ!?」

 

瞬間、学園のアリーナのバリアが砕かれ、何かが地上に降り立ち、粉塵が舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

粉塵が晴れた先には二次移行した白式が立っていた。それを纏っている人間を此処に居る誰もが知っている。

 

「織斑・・・・」

 

「春始っ!!」

 

「世界・・・静寂。お前達は静寂を乱す存在・・・お前達は望まれない世界を創る・・・」

 

「何を言っているの?」

 

鈴が疑問を口にしたと同時に一夏はニュータイプの感性、政征と雄輔はサイトロンによる予測によってなんであるかを知った。

 

「春始からとんでもない意思が感じられる・・・あれはもう、人間じゃない」

 

一夏の一言に全員が一夏を見た後、春始に視線を戻す。

 

「皇女・・・女騎士・・・そして・・・鈴・・・箒・・・俺の下に」

 

「!!」

 

「っ!?」

 

「なんですって!?」

 

「何を言っている!?」

 

やはり諦めていなかったのかと三騎士が前へと出る。瞬間、モエニアとリベラが二次移行の姿、即ち全身装甲化した状態の姿になった。それ程までに、今の春始は警戒しなければならない相手だという事になるのだろう。

 

「良いか?一夏・・・今のアイツを今までの奴だと思うな。相当ヤバイぞ」

 

機体を展開した時、騎士としての言葉遣いになる政征が普段の口調になっていた。

 

「恐らくはアインスト化か・・・だが、この威圧感はただのアインストじゃないな」

 

「二人がこれ程までに警戒しているなんて、相当な化物になっているのか?」

 

「行くぞ・・・!」

 

春始は薄ら笑みを浮かべながら三騎士へと突撃し、雪片を振り下ろす。それを受け止めたのは政征だ。

 

「ぐっ!舐めるな!!パワーなら!」

 

お互いに二次移行したISではあるが、リベラはパワーを強化されたラフトクランズであり、白式の剣を押し返していた。

 

「押せ・・・!白式!!」

 

「ぐうっ!!!!!?」

 

人間以上の剣力で押してくる春始。しかしほんの僅かな隙を狙い撃った騎士がいた。

 

精密射撃とは言えないが、発射された強大なオルゴンエネルギーの正体はオルゴン・マグナムだった。

 

「ぐああああっ!?」

 

「っ!ふっ!!」

 

怯んだ隙を狙って鍔迫り合いから抜け出し、構え直す政征。その隣には一夏と雄輔もいる。

 

「まさか、お前に射撃で助けられるとはな」

 

「俺だって成長してるさ」

 

「一夏が何とか右腕を吹き飛ばしてくれたが、どうなる?」

 

止まっていた二次移行している白式から緑の触手のようなものが生え、それが形を成して新たな腕へと再生し、同時に白式の姿も禍々しいものへと変貌していった。その姿はまさしく人獣のような姿でアインストヴォルフと似たような変化であった。

 

「白式というには外道が過ぎるんじゃないのか?織斑春始!!」

 

「お前達は純粋な生命体にはなりえん、だからこそ・・・俺が、そう!俺こそが新たな創造主となって生み出す!新たな純粋な生命体を!!」

 

演説のように己の言葉を発する春始。それは人間の意志のようで人間ではないものであった。

 

「だから箒達を利用するっていうのか!ふざけんじゃねえ!!」

 

「一夏・・・お前は最も純粋な生命体から遠い・・・新世代の因子を覚醒させたお前はな」

 

「何!?(コイツ、俺が完全に覚醒させたのを知っている?臨海学校の時は知識だけのはずだったのに)」

 

「さぁ、種を宿す揺り篭を渡してもらおう」

 

「はい、そうですかと渡す人間がいると思うのか?」

 

雄輔がソードライフルをライフルモードへと切り替え、オルゴンライフルを放つが、春始はそれを受けたのにも関わらず平然としていた。

 

「くくく・・・・ハハハハハ!!」

 

「!?」

 

「俺は人間を超えた!お前らの攻撃など所詮は人間の技術。今の俺には通用しねぇんだよ!」

 

混濁していた春始の意識が一瞬だけ戻った。極上の女を自ら手篭めに出来るという思いからだろう、それ程までに彼の美少女や美女への肉欲の渇望は強い。

 

「コイツ・・・この状態、もしかして?」

 

「ベーオウルフ・・・だな」

 

「ベーオウルフ?神話の英雄の?」

 

「ああ・・・名前だけ、だけどな(もしも、ベーオウルフになっているのなら噛み砕かれる!)」

 

雄輔が危惧していたのは春始が完全にべーオウルフ化しているのでは?という事だ。もしも、そうなっているとしたら非常に厄介なのだ。

 

機体は二次移行した白式。曲がりなりにも白式には、IS殺しの牙とも言える零落白夜が装備されている。

 

それだけではなく、射撃武器以外は全て零落白夜の特性を持っていた。臨海学校の際の戦闘データによって判明している。

 

アインストの力は機械のデメリットを有機物とする事で無くしてしまう。生物化し半永久的に別のエネルギーで補ってしまう。

 

つまり、燃費が恐ろしく悪かろうと関係ないのだ。半永久的にエネルギーが供給される為に零落白夜を常時展開できるのだから。

 

「静寂を作り出す白夜・・・・使わせてもらう」

 

「!」

 

アインストとしての口調に戻り、春始は一本の剣を取り出しそれを光り輝かせた。その刃は青白く輝いており、冷たく恐ろしい絶対零度を圧縮したかのように凍気が溢れ出ている。

 

「零落白夜・・・!」

 

「零落・・・それは落ちぶれる意味だが、草木が枯れる事の意味もある」

 

「さしずめ、絶対防御という名の草木を枯らす白い夜って訳か。おまけに周りがほんの僅かに凍りついているのは、白夜が主に寒い土地で起きる現象だから」

 

一夏が零落白夜を詩的に表現するが、身体が震えていた。あの刃の恐ろしさは一夏がシオンとして跳んだ別次元であり、過去でもある世界で異次元同位体である「織斑一夏」が政征を斬った刃である事を覚えているために威力も理解していた。オルゴン・クラウドによって強化されている絶対防御をやすやすと切り裂く程の威力があるという事を。

 

「あれは暴力で使われるべき刃じゃない・・・!」

 

「お前達は此処で凍りつかせ、噛み砕く・・・ふ・・・ふふふ」

 

春始は大剣とも言えるサイズの雪片を手にスラスターを吹かせ、突撃してくる。三人は迎撃しようと向かっていくが変異した春始の筋力と組み合わさった剣力に押し返されてしまう。

 

「ショボイ、ショボイ!こんなペーパーナイフみたいな威力で・・・ハハハハハ!」

 

「ぐっ!」

 

「うっ・・!」

 

「野郎・・・!」

 

「もう飽きた。静寂にしなければならない」

 

「「「!!!!」」」

 

春始は零落白夜の刃の長さをアリーナ一杯にまで引き伸ばし、至近距離まで近づいていた三人に回転する事で刃で切り刻み、三機のラフトクランズのエネルギーを奪い去り、行動不能にしてしまった。無論、その他のメンバー達、代表候補生達も例外ではない。

 

「ぐ・・が・・・」

 

「う・・・ぐぐ・・・」

 

「嘘・・・だろ・・・」

 

三騎士は機体を解除され、動くことが出来ず、訓練していた代表候補生達は気絶している。だが・・・。

 

「春始!」

 

「千冬姉・・・か」

 

目の前には自身の姉である千冬が立っていた。だが、ISを身につけてはおらず、手にはIS用のブレードを手にしているだけだ。

 

「だ・・・め・・だ・・・IS・・・・無し・・じゃ」

 

「行くぞ!」

 

「静寂を乱すものは・・・修正」

 

今の千冬は頭に血が登っており、聞き入れる事はなかった。一瞬の攻防、零落白夜を解除し更には峰打ちで千冬を地面とキスさせてしまった。

 

「が・・・・ぁ」

 

「四人は連れて行く」

 

「ま・・・て・・・」

 

「ぐ・・・バ・・・ジ・・・レウ・・・ス」

 

気絶している箒、鈴、シャナ、フー=ルーの四人を抱えると同時に春始は空間転移して消えてしまった。三人の身体の自由が利いたのはそこから10分経過した後であった。

 

「くそ・・・!(また俺は・・・はっ!)」

 

「っ・・・これが奪われるって事かよ!」

 

「箒、鈴・・・!ちくしょう」

 

三人は冷静になれなかったが、政征が思い出したように何かを閃く。そう、シャナ=ミアの機体となっているグランティード。正確にはグランティード・ドラコデウスに合体しているバジレウスだ。バジレウスは搭乗者を防衛する機能が備わっており、更にはオルゴンエネルギーを使用しているために追跡できる可能性があった。

 

「二人共、もしかしたら奴が連れ去った場所がわかるかも知れない」

 

「本当か!?」

 

「教えてくれよ!」

 

「だが、それが成功するかは分からない。今はまだ解析に時間をかけないと」

 

「結局、打つ手無しって事かよ」

 

「ぐ・・・」

 

「すまない・・・ぬか喜びさせて」

 

一夏は壁に近づくと同時に殴りつけた。歯軋りをして相当悔しさがせり上がっているのと同時に幼少期のトラウマにも近いものが己の心の中から出てくる。

 

「くそ・・・箒・・鈴・・・ちくしょう・・・ちきしょおおおおおおおおおおお!」

 

一夏は吠えた、やり場のない怒りと悔しさを表すかのように。初めて異性として意識した二人を下衆にまで落ちた兄に奪われた事が一夏にとって最も悔しかった。




またもや誘拐です。

今回はバジレウスがあるので防衛されています。

政征は二度目、雄輔は初めて目の前で大切なものを奪われる気持ちを味わいました。

一夏も幼少期のトラウマと戦っています。

次回は解析依頼と休息になります。


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騎士達の決意と女としての妬み

騎士達が突入を決意。

囚われた四人が敵と会話。


春始にシャナ達四人が連れ去られて二日が経過し、残った代表候補生と三騎士は篠ノ之束でもあるタバ=サ・レメディウムの下を訪れていた。

 

「追跡をお願いしたいって事だけど、可能だよ。ただし、受信機となる端末に値するものが必要になる」

 

「受信機ならバジレウスが代わりになるはずです」

 

「シャナちゃんの機体と合体してるアレ?合体する二次移行なんて聞いた事無いけど」

 

タバ=サの疑問は最もだろう。この世界のIS開発者である身としてはラフトクランズもシャナ=ミアが使用しているグランティードも未知の塊なのだから。

 

解析出来たといってもこの世界のアシュアリー・クロイツェル社の協力があっての事であり、己自身の力ではない。

 

だが、己一人では無理でも協力してくれる人がいるという事を自覚できたのは大きかった。己自身の殻を己で破り、新しく変わる事に恐怖を感じることはなくなったのだから。

 

「バジレウスはグランティードを補助すると同時に、搭乗者を防衛する機能もあるんです」

 

「なるほどね。彼女のISはかなり特別って事かぁ・・・ISへの改修手段は提供してたけど、別世界でそこまで変わるなんて」

 

未知の二次移行は彼女にとっても研究対象ではあるが、今はそれを別にし、救出する為の座標を算出しなければならない。

 

2機の蒼いラフトクランズから提供されたグランティードのデータを元にバジレウスを検索し始める。

 

「なるほど、場所は特定出来た。だけど・・・」

 

タバ=サは言葉を詰まらせる。この場所はあまりに特殊な場所だ、行くことは出来ても帰還出来る補償がない。

 

「タバ=サさん。教えてください」

 

「俺達は行かなきゃいけないんです」

 

「君達ならそういうのは分かってるよ。だけど」

 

「束さん、俺も行かなきゃいけないんです。二人を取り戻すために」

 

「いっくん・・・?どうしてかな?」

 

政征と雄輔の二人は分かりきっていた事だが、一夏自身も行くと口にした事に、驚いてしまっていた。

 

「春始との決着、それに箒と鈴を助けなきゃいけない。これは男としての織斑一夏の言葉、そしてシャナ=ミアさんも救わなければならないんです。近衛騎士の織斑一夏として!」

 

「そっか・・・いっくんはどちらも大切だとどっちも取るよね。以前のままなら止めたけど、今なら止めないよ。それとね、返事しちゃったけど今はタバ=サって呼んでね?いっくん」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「ふふ、話を戻すけど場所は特殊な空間のようだね。行くことは出来ても帰る方法は殆どない、皆無と言ってもいいよ」

 

「!」

 

変える方法が皆無と言われ、全員の顔が強張る。だが、ドライリッターの三人は決意しているかのようにタバ=サを見る。

 

「たとえ帰れなくても」

 

「俺達は行かなきゃならない」

 

「それが、俺たち三騎士の決めた事だから」

 

タバ=サは三人を見る。騎士として守るべき、そして愛している異性を奪われたドライリッターの決意が固い事は理解していた。政征と雄輔はまだ解る、彼らは別世界の人間だからだ。だが、一夏の決意が彼ら二人と変わらない事に内心、驚きを隠せない。

 

何事も兄によって否定され続け、全て諦めやすくなっていたあの頃の彼と全く違う。世界を掌握され、殺されてしまった彼とも違う。

 

今、此処に居るのは男として成長し、更には己を騎士として戒め、戦士としての教示を持っている者だ。改めてタバ=サは二人の騎士に感謝の想いを持った。

 

「タバ=サさん、俺達は死にに行くんじゃありません。箒と鈴、シャナ=ミアさん、フー=ルー先生。連れ去られた四人を助けに行くんです。帰れる事が皆無に近くても必ず帰ってきますから」

 

「!!」

 

タバ=サは表情が驚きに変わった。己の中にあった不安を見抜かれ、それを打ち消す言葉を紡がれた故だ。

 

まるで、自分の心の中を覗かれたような感覚だったのだ。

 

「俺、タバ=サさんの考えてる事が分かるんです。行かせたくない、死なせたくない気持ちは分かります。それはすごく嬉しい、でも・・・俺たちが行かなきゃいけないんです」

 

「いっくん・・・君は(地球人として一歩先のステージに行ったの?)」

 

三人の決意を聞いたタバ=サはため息を一つ吐くと、決意したように座標のデータを明確にする。

 

「私から言う言葉は一つだけ、全員必ず生きて帰ってきて!」

 

「「「御意!」」」

 

三人の後ろ姿を見ていたセシリア、シャルロット、ラウラの三人も決意を固めていた。

 

「わたくし達も負けていられませんわね」

 

「けど、二度と帰って来られないかもしれないんだよ?」

 

「確かにそれは怖い。だが、私はシャナ=ミア姉様を失うことの方がもっと怖い」

 

「ラウラ・・・」

 

シャルロットは決意していても不安が過ぎり続けていた。決意していても恐怖が去らない、慣れ親しんだこの世界に帰ってこられないかもしれないという恐怖は拭えない。

 

「皆さんも同じ気持ちなのですよ、シャルロットさん」

 

「セシリア?」

 

「政征さんも雄輔さんも一夏さんもラウラさんも、そしてわたくしも帰ってこられないのは怖い。けれでも、わたくし達だけが行く事しか出来ないのであれば、やらなければならないのですわ。大切な友人であり仲間でもある人達を助けるために・・・!」

 

「!・・・うん」

 

「私が言いたい事を取られてしまったな」

 

嫌なムードから一転して和やかになり、三人はそれぞれ手を重ね合って改めて決意を固める。帰ってこられない、それでも仲間を救いたいという気持ちは本物だ。だからこそ自分たちも行くのだと。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、異空間とも言える場所で箒、鈴、シャナ=ミア、フー=ルーの四人は軟禁されていた。拘束も特にされず、四人はそれぞれに見合ったドレスを着せられている。

 

「気絶している間に着せられたのか?このドレスは」

 

「違和感ありすぎよ・・・」

 

「なぜこのような・・・?」

 

「分かりませんわね」

 

箒は情熱を体現するような真紅、鈴はオレンジに近い黄色、シャナ=ミアは髪の色と同じ水色、そしてフー=ルーは知的さを表すような青のドレスを着せられている、

 

『ようこそ、皆様。そのままお進みください』

 

どこからか機械音声のような声が響き、四人はそのまま歩いていく。歩いて行った先には扉があり、自動で開くとそこには長い黒髪を揺らしながら、ピアノを弾いている女性がいた。かつて春始が言ったガン×ソードに登場するキャラクター、ファサリナの姿に似ている。

 

「クラシック?」

 

「そのようだな・・・」

 

「それに、この曲は」

 

「ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌ・・・。それもピアノ曲用にアレンジされたものですわね」

 

四人の気配に気づいたのか、女性は目を閉じながら演奏していたピアノを止め、瞼を開いた。

 

「ようこそ、おいで下さいました・・・」

 

椅子から立ち上がり、四人へと向き直る。長い黒髪は艶があり、それを美しく映えさせる白い肌を持ち、同じ同性だというのに肌を合わせたくなるような妖しい色気を持っている。軽く指を鳴らすとテーブルが現れ、同時に用意された椅子に優雅な足取りで座った。

 

「どうぞ。お掛けください」

 

四人は警戒しながらも椅子に座る。すると同時に奥の方からなにかを、大声で叫んでいる声が聞こえた。

 

その声の主は全員が知っている。最も嫌悪し相手にしたくなく、無関心の物へとしたい存在。

 

「何故だ!約束が違うだろ!箒と鈴、シャナ=ミアもフー=ルーも俺のモノで抱けるって!があああああ!?」

 

「静かに。それと大人しくしていなさい、貴方にこの場へ来る資格はありません」

 

べーオウルフと化した春始ではあったが、女への肉欲、房中術を使った身体強化への欲望だけは意識と共に根強く残っている様子だ。

 

だが、初音が指を鳴らしたと同時に苦しみだし大人しくなってしまう。彼女は彼をべーオウルフへと生まれ変わらせた母体であり、彼の肉体の主導権を奪えるよう処置したのも彼女自身なのだ。

 

「ち・・・き・・・」

 

春始としての意識が一時的に消え、べーオウルフとしての意識が戻ると彼は去っていった。

 

「紅茶ですが、どうぞ。毒は入っていませんし塗ってもいません」

 

四人は警戒していたが、フー=ルーが代表して飲むと何も異常はなかった。それを見た他の三人も紅茶を飲む。

 

「彼を使って貴女方を此処に連れてきたのは、お話するためです」

 

「話、だと?」

 

「はい、私の望む世界に関して」

 

「貴女の望む世界?」

 

箒と鈴は警戒を解かずに怪訝な顔で初音を見え据えている。表情に出さずにいるが、フー=ルーとシャナ=ミアも警戒を解いてはいない。

 

「貴女の望む世界とはなんでしょう?」

 

「私の望む世界は一切が静寂の世界・・・ただただ静かに緩やかに生きていける世界です」

 

その言葉に偽りはない。だが、その中で箒が疑問を口にした。

 

「植物や無機物はそれでいいだろう。だが、動物はどうなる?静かに生きるなど出来んぞ」

 

「言ったはずです。ただ静かに生きれば良いと」

 

「まさか、動物まで無機物と同じようにするとでも言うの!?」

 

「はい」

 

鈴が身を乗り出して発した言葉に初音は、何も動じる事なく淡々と答えた。動植物全てが物言わぬ無機物のように生きていく世界、それが初音の作りたい世界だというのだ。

 

確かにそうなれば、差別も争いも憎み合う事もなく静かな世界で生きていけるだろう。しかし、それはただ生きているだけ、後退も前進もない、ただ生きているだけの世界だ。

 

「それでは、ただ生きているだけの無明の世界と変わりません!」

 

「その通りですわね」

 

「ですが、貴女方が理想とする争いのない世界が実現できます・・・」

 

「っ・・・」

 

初音の言葉は真実だ。人間も獣も昆虫も全てが無機物と同じになれば争いどころか、あらゆる苦しみから解放されるだろう。だが・・・。

 

「私は、そんな世界など望まない!」

 

「・・?」

 

いち早く反対の意志を見せたのは箒であった。彼女の目には初音に対する憤怒に近い感情が出ている。

 

「確かに生きていれば苦しい事も、思い通りにならない事も沢山あるだろう。それを乗り越えられずに立ち止まったまま絶望する人間も確かにいる」

 

初音以外の三人は滅多に聞けなかった箒の心からの言葉を聞いていた。今の彼女は思っている事を隠しやすく、話さないことが多くなっていた。だが、今の彼女は自分の意志でハッキリと言葉を述べている。

 

並行世界の記憶を見せられた5人のヒロインの中で、最も辛く、最も己にとっての恥であり、乗り越える事が難しかったのが彼女、篠ノ之箒であった。

 

己自身にも有り得たかもしれない可能性。別世界の自分は力に溺れ、傲慢になり、己を高める事などせず、周りの意見にも耳を貸さず、ただただ、一方的に別世界の織斑一夏だけを追いかけ、自分を地に着けた青葉雄輔を逆恨みして狙い続けた。最後には破滅という名の力に魅せられ、堕落していき別世界の姉に粛清された。

 

そんな記憶を見せられ、あの時の箒は何ともない風に装っていたが、実際は、しばらくした後にトイレで嘔吐していた。

 

この世界の一夏自身も見せられた時は嘔吐しないまでも、気持ち悪さを拭えない程に酷かった並行世界の己自身。

 

箒はそれを己自身の中にもありうるものであると受け入れたのだ。一夏への思いは解らないままだったが、傲慢さも、己こそが強いという自惚れもあった。姉の名前も利用したことすらあった。だからこそ、それを全て受け入れ、己の糧とした。同じ顔、同じ名前、同じ遺伝子を持っていようとも別世界の己と同じ道を歩む気はないと強く決意して。

 

今の箒は仲間も師も家族も友人でさえも大切に思える。今までの自分であればそんな事はなかった、己の周りがどれだけ恵まれていたかを知る事もなく、弱かった自分を支えてくれている人が居る。そんな世界を無機物のような世界にはしたくない、それが彼女の望むことであった。

 

「人は些細な事ですれ違い、喧嘩したり、憎み合ったりするだろう。無機物のようになれば、そんなものからは解放されるかもしれない。でも、中には己のために泣いてくれる人や助けてくれる人間だって同じくらいにたくさんいる。そんな世界を壊されてたまるか!」

 

「箒の言う通りだわ。確かに世界には争いも憎しみも差別も多いけど、それと同じくらい優しい人達もいる。私はそう信じる!」

 

「フューリーも純血主義者は多い、皇族であるならば尚更です。それでもわたくしは次代に繋いでいきたい。流浪の民であったフューリーを受け入れて下さった地球のように」

 

「騎士の身ではありますが、そんな世界は御免被ります。そうなってしまっては武を競い合うどころか相手すらも居なくなってしまいますもの」

 

フー=ルーも初音の望む世界を否定した。彼女は今や教師の身ではあるが、騎士の矜持を忘れた訳ではない。むしろ、騎士だからこそ、戦場の恐ろしさを知り、それを教えながらも共に競い合える相手を大事にしろと次世代の若者達に教育できるのだ。

 

「そうですか・・・・」

 

初音の雰囲気が変わり、彼女は立ち上がると血のように真っ赤なISを展開した。紅椿が紅葉の鮮やかさを表すのならば、初音の機体は鮮血の色をそのまま移したようなものであった。

 

「誠に残念です。貴女方なら私に賛同してくれるとおもったのですが・・・」

 

四人も紅椿、甲龍、グランティード・ドラコデウス、ラフトクランズ・ファウネアを展開し戦闘態勢を取る。

 

「残念ながら」

 

「私達は」

 

「無機物の存在になるなど」

 

「望んでいませんので」

 

初音を見え据え、二刀を構える紅椿、甲龍。インフィニティキャリバーを手にしたグランティード、オルゴンソードを構えたラフトクランズ・ファウネアそれぞれが刃を向ける。

 

「女としても貴女方が妬ましいです。ですから、潰します」

 

会談していたテーブルと椅子が無くなり、ドレス姿の五人はISによる戦闘を始めた。まさに舞踏会ならぬ武踏会と呼ぶに相応しい戦いが今、始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

「世界・・・・静寂」

 

そんな中、同じ顔、同じ体格をした大量の女性達がドライリッターを待っていた。彼女達のISは陰で見えず、それでも共通の言葉をつぶやき続ける。

 

「静寂でなければならない・・・」

 

それは椿、龍、創世機、女騎士の機体と全て酷似しており、出撃していった。三騎士達をただ、足止めするために。




や、やっとかけた。

徹夜で11連勤もしてたせいだ。

次回は潜入します。アインストの巣の中に


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虚無と愛と欲望と信念と・・・

女だけの戦い。

騎士達は複製の女達に阻まれる。


初音のIS、ペルゼインはあらゆる距離に対応しており、遠距離で仕掛ければ全身の口らしき部分からビームのような光を放ち、中距離では二機の大型補助ビットが変形し、近づけさせず、接近戦を挑めば刀の形をした刃に止められてしまう。

 

「くっ!」

 

「っ!?危なっ!」

 

接近戦と主体とする箒の紅椿、中距離で真価を発揮する鈴の甲龍が積極果敢にアタッカーとして攻撃を仕掛けているが、初音の円を主軸とする流れるような剣術に受け流され、反撃されている。

 

「うあぁあ!くそぉ!はっ!?」

 

そんな中、箒はダメージを受けて立ち上がろうとすると同時に、実戦訓練を騎士の二人から受けていた時に言われた言葉を思い返した。

 

『良いか?剣術は確かに応用性が高い、それだけに範囲が広く戦い易くもある。でも、すぐに実戦で完全に使いこなそうとしても絶対に無理だ』

 

『それなら、どうすればいい?もしも、相手が剣術だったりしたら』

 

『だから、箒には切り替えのスイッチを身に付けてもらいたいんだ』

 

『切り替えのスイッチ?』

 

『柔の攻撃で来る相手なら剛である剣道の打ち込み、剛の攻撃で来る相手なら剣術の連撃といった感じにな』

 

『私が、か?』

 

『今の箒なら、相手の動きを見極めるのを造作もない位の洞察力は身に付いているはずだよ』

 

『切り替えの訓練は俺達がしてやる。この訓練の間に感覚を掴め!』

 

『ああ!わかった!』

 

箒は鈴達が遊撃してくれている間に初音の接近戦の動きや、どのタイミングで遠距離、中距離の攻撃を仕掛けてくるかを全力で観察した。

 

「!そうか、分かったぞ!」

 

二刀流を展開していた箒は一刀流に切り替えると同時に、得意とする剣道の構えを取った。たった一撃、その一撃に全力を込める。

 

「(紅椿、私に・・・私に力を貸してくれ!あの女を倒せなくていい、動きを制限させる事さえ出来れば、それでいい!)」

 

「!たあああ!」

 

「え、なっ!?」

 

「はあああ!」

 

「ああああああああっ!!!?」

 

箒が全力で打ち込んだ唐竹は、初音の駆るペルゼインの右部スラスターを完全に切り裂いていた。仮に再生能力があったとしても組織すらも切っているために、この戦闘での完全修復は厳しいだろう。

 

スラスターを切り裂かれた影響で、今のペルゼインはバランスが取れず、流れるような動きができなくなっていた。

 

「もらったあああ!(箒の作ってくれたチャンス、無駄に出来るもんですか!)」

 

「!鈴ーーー!そこから退けーーーー!」

 

「えっ!?」

 

「迂闊ですね・・・」

 

「う!ぐっ!?」

 

瞬間、鈴の身体にペルゼインの刃が貫通した。だが、浅めに刺さっており致命傷にはいたっていない。

 

「最初に相手へ浅く刺す事が、この技の発動の条件・・・」

 

「鈴さん!」

 

「鈴!!」

 

「マブイエグリにて失礼します・・・!」

 

初音は容赦なく鈴に刃を突き立てていく、絶対防御は機能しているが貫通しており、鈴の身体からの出血がひどくなっていく、黄色のドレスは鈴の鮮血に染まり、紅が広がっていく。

 

「あっ!?がぁ、ごぶっ!?」

 

「これで・・・さようなら・・・」

 

「!」

 

鈴からの返り血を浴びつつも、最後の一撃を突き立てようとした瞬間、ひし形のエネルギー波と緑色のエネルギーが同時に初音のペルゼインを捉え、強引に引き剥がした。エネルギーはどちらもオルゴンであり、それを放つことの出来る機体はこの場に二機しかない。

 

「私の目の前で生徒を死なせる訳にはいきませんわ・・・!」

 

「友人を死なせては、誇りを失うも同じ事!」

 

騎士機ラフトクランズ・ファウネアと玉座機グランティード・ドラコデウスの二機が連携し、鈴を救出したのだ。箒は急いで鈴に近づき、解除されてしまった甲龍と共に回収し、鈴を抱えた。

 

箒は出口へ近づき、フー=ルーとシャナはオルゴンクラウドの転移を使い、二人を背にして武器を構えた。

 

「フー=ルー先生、シャナ=ミア!?」

 

「行きなさい、恐らく彼らも来ているはず」

 

「政征達と合流し、早く鈴さんの手当てを・・・!」

 

「だが!」

 

「行きなさい!私達は貴女に託して、この場の殿を務めるのです!」

 

「箒さん!さ、早く!」

 

「っ!そうだ・・・!シャナ=ミア、これを使ってくれ!!」

 

箒は紅椿の主武装である二刀一対の太刀である「空裂」と「雨月」をシャナ=ミアに託した。無論、紅椿自身も太刀を使われる事に異存はない様子だ。彼女にとって魂とも言える武器を託され、シャナは驚きを隠せない。

 

「これは・・・貴女様の?」

 

「お前ならきっと使いこなせるはずだ。私の魂を!」

 

「お借りします、貴女の力!」

 

「逃がしませんよ・・・?誰一人も」

 

「頼んだぞ!」

 

箒は鈴と甲龍を抱えて、出口へと向かい、姿が消えた。託された「空裂」と「雨月」展開すると、オルゴンの色である緑色のエネルギーが刃となって刀身を形成した。

 

本来であれば扱う事は出来ない「空裂」と「雨月」をなぜ、扱えるのか?それは制限解除を紅椿自身が行っていたからだ。

 

「二刀を扱うのは初めてではありませんが・・・行きますよ?フー=ルー!」

 

「はい、皇女殿下。これは騎士として最高の誉れ、皇女殿下と並び戦う事になるとは」

 

「ふふ、そうですね。共に戦ってくれますか?フー=ルー」

 

「無論ですわ、聖騎士団の名と我が名誉にかけて」

 

近衛騎士と皇女の二人は虚無の化身でもある目の前の女を相手に、向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、潜入を果たした三騎士は、自分達の想い人と全く同じ姿の相手を倒し続けていた。

 

「箒と鈴、二人と同じ顔をしてるからやりにくい事、この上ない!」

 

「全くだな、想い人と同じ顔で攻めて来るとはな」

 

「一夏が居なかったら本物と見分けが付かない、な!」

 

そう、彼らが何故見分けを付ける事が出来たのか?それは覚醒した一夏が持つニュータイプの感覚である。

 

人間と全く変わらなくとも、今の一夏は「物事を正しく理解する」能力が二人以上に優れている為にアインストのコピー人間を簡単に見抜けたのだ。

 

「キリがない!誰でもいい、あの先に行ければ!」

 

目と鼻の先には通路が見えている。だが、そこを通さんとする大量のコピー人間が行く手を阻み続けている。

 

「政征・・!」

 

「ああ、雄輔!」

 

二人は何を思ったのか一夏を抱えると同時にオルゴンクラウドで転移し、先へ向かう通路の近くに来ると一夏を投げ飛ばした。

 

「うわっ!?ふ、二人共!何を!?」

 

一夏は二人の行動が理解できず、呆気にとられており、二人は収納していた応急手当用の医療キットを一夏へ投げつけると背を向け、武器を構えた。

 

「お前は早く奥へ行け!ここは俺達で抑える!」

 

「本物を見分けられるのはお前だけだ、早く!」

 

「で、でも!」

 

「行け!!清浄の騎士!!」

 

「我ら三騎士の誓いを果たせ!」

 

「っ!」

 

一夏の視線の先には二人の騎士の背中が見えている。今にも届きそうなのに、届く事がない大きく見える背中、その後ろ姿はお前の役目はこの先だと言われているようで・・。

 

「わかった、死ぬんじゃねえぞ!二人共!」

 

一夏はクラルスのスラスターを全開にして、先へ進んだ。先程までの二人の姿は今の一夏にとって「追い付いてこい」と叱咤激励されているようだった。

 

「死ぬんじゃねえぞ、か・・・背中を見せてるならあのセリフ、言ったほうがよかったかな?」

 

「バカ、それこそ死亡フラグってやつになるだろ?」

 

「違いないな」

 

目の前には連れ去られた女性達のコピーが迫ってきている。だが、二人は二イイッと歯を見せるように笑い、ラフトクランズの二次移行の全身装甲化形態に姿を変えた。致命傷も無く動きに支障はないが、ある程度は肩や腹部を負傷していた。それを隠すために全身装甲化形態を展開したのだ。

 

「気を付けた方が良いぞ・・・偽物」

 

「手負いの獣は・・・」

 

「「凶暴だからなァァァーーーー!!」」

 

二人は目の前の偽物を相手に自由と城壁の騎士は、クローとソードをそれぞれ貸し与え、二本の爪と剣で次々に葬り始めていった。

 

 

 

 

 

 

「っ・・・」

 

一夏は長い通路をひたすら先へ先へと向かっていた。後ろからは金属のぶつかる音や爆発音、その余波の振動が伝わってくる。

 

今すぐにでも二人を助けるために引き返したい。でも、ここで引き返したら二人が何のために俺を先行させ、残ったのか、その意味を理解できない程、愚かではない。

 

「二人は俺に託してくれた。だから、俺は約束を果たす!」

 

先へと進むうちにセンサーに反応があった。これは友軍の反応で、二つ反応がある。しかし、一方の反応は弱々しかった。

 

「!あれは、白いラフトクランズ!?という事はクラルス!一夏!!」

 

「箒!?」

 

「一夏!鈴が、鈴が!」

 

「!」

 

鈴の姿は酷いものであった。おそらくは敵にやられたのだろう、全身に何度も刃物を突き立てられたような傷があり、出血も止まっていない。それでも、応急手当さえすれば大事には至らない時間まで間に合ったのは紅椿のスピードと箒の仲間を死なせないという、思いからだろう。

 

「箒、落ち着いてくれ!今、拡張領域から預かった医療キットを出すからよ」

 

医療キットを出し、蓋を開けると丁寧な使い方、応急手当の仕方までもが書いてあった。しかも、素人でも打つ事のできる注射まで入っていた。ウサギのマーキングをしてあったのを見つけ、一夏は苦笑していた。

 

「(流石だよ。タバ=サさん)」

 

鈴の応急手当と新陳代謝の活性化、自己治癒を強めるナノマシンを注射する。圧縮型だった為に針を刺す必要がなかったのが幸いした。

 

「よかった・・・これで命は助かるはずだ」

 

「一夏・・・私は」

 

「箒、ありがとうな。俺は箒も鈴も失いたくなかった・・やっぱり俺はどっちかを選ぶなんて出来ない。男としては最低な言葉だけどな・・・」

 

一夏の目を見て箒は確信した。ああ、そうか・・・この寂しそうで悲しそうな目を私は支えたかったのだと、一夏の辛さはどれだけのものだったのか、一人では支えられない事はこの時に理解してしまった。世間では最低と言われるかもしれないが、それでもいい。この人を支えられるなら・・・。

 

「一夏、私も鈴も同じ気持ちだ。お前を失いたくはない・・・」

 

「箒・・でも、今は鈴を安全な場所へ運ぶのが先決だ」

 

「ああ、解っている。しかし・・・」

 

「どうした?箒、お前の武器は?」

 

「シャナ=ミアに託してきた・・・彼女はフー=ルー先生と一緒に殿を務めてくれた。そのおかげで、鈴を運んでこれたのだ」

 

「そうだったのか・・・っ!箒!鈴を抱えて横へ飛べ!」

 

「!?」

 

言われた通りに鈴を抱えて、横へと回避する。瞬間、砲撃らしき光が中心を通過する。

 

「ヨコせ・・・!リん・・・を・・ソイツはオレのモノだ!」

 

「春始!?」

 

「なんつう間の悪さだ!」

 

現れたのは、アインスト・べーオウルフと化した春始であった。まだ自意識を残し、鈴を狙うという事は性的欲求を捨ててはいないのだろう。

 

「まるでバ〇オハザードのG生物みたいだな。ま、まだ人間の形をしているだけマシか」

 

「あれ?箒ってゲームするのか?」

 

「動画や宣伝用の映像くらいは観ている」

 

「意外だな」

 

そんなやりとりも春始にとってはストレスだ。何よりも一夏が生きている事が最も許せない。

 

「一夏、お前が・・オマエがいるからオレはアアア!!」

 

「相変わらず、主人公とか、ハーレムとか騒ぐのかよ?はぁ・・・兄として見てた自分が恥ずかしくなってくる」

 

「一夏・・・!」

 

「箒、俺が逃げるまでの時間を稼ぐ。向こうに行けば政征と雄輔がいるはずだ」

 

「だが!」

 

「援護する前に助けなきゃいけない仲間が居るだろ!」

 

「っ!」

 

「早く行け!」

 

一夏が一歩前へと出る。自分の目の前に立っている男の背中が大きく見えた。その姿は戦士そのもので・・。

 

「う・・・」

 

鈴も目を覚ました。僅かに視界がぼやけてはいるが背を向けて立っている白騎士の姿が写る。

 

「後顧の憂いを断っておくのに越した事はないからな。時間を稼ぐのは良いが・・・」

 

別に(・・)アイツを倒してしまってもいいんだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「!!」

 

「!!」

 

初めて見る自信に満ちた一夏の言葉。だが、その後ろ姿が遠くに見えてしまう、彼は死ぬつもりはない、それでもと不安を二人は隠せない。

 

「一夏、頼む!」

 

「思いっきり・・・やっちゃいなさい・・・よ!」

 

「分かった。さぁ、早く行け!!」

 

箒は歯を食いしばったまま一夏が向かってきた道を進んだ。鈴自身も自分の状態を薄々ながら把握している。

 

本当は一緒に戦いたい。あの二人に鍛えられ、強くなっているとは言えど、化物となった春始を相手にたった一人で戦わせるなど悔しさがこみ上げてくる。

 

「鈴、悔しいのは解るが今の私達には何も出来ん!」

 

「アンタ・・・私が起きてたのを・・・」

 

「手当した時から知っていた。だが、武器を託した私に怪我人のお前、今の私達に何ができると言うんだ?」

 

「冷静に見てるのね・・・意外だわ」

 

「いつまでも昔の私じゃないさ」

 

箒はスラスターを吹かしながら先へと進んでいく。自分の力では自分の制御できるスピードを維持するのが限界だ。それでも、速度は量産機を軽く超えてはいる。二人は政征と雄輔に合流するために先へ進んでいった。




赤い弓兵のフラグを立てましたが、死なせる気はありません。彼は赤くはないので。

次回は合流と春始が優勢の戦いです。


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体は・・・信念(つるぎ)で出来ている

三騎士の合流

春始がある物を取り込む事を企む。


「うあっ!!」

 

壁に叩きつけられ、それでも一夏は立ち上がり、べーオウルフと化した春始に戦いを挑んでいた。

 

ユニコーンモードの活動限界は既に超えており、次に発動するまで400秒かかると計算が出ていた。ニュータイプの感性を全力にしても、その予想を上回る攻撃を春始ことべーオウルフは仕掛けてくる。

 

「イチ・・か!オマエは俺が・・・コロしてやる!必ず!俺は、この世界だけじゃない、別の世界で・・ハーレムを作りあげル!」

 

べーオウルフの一撃はISの装甲、防衛機能である絶対防御を容易く突き抜けてしまう。

 

オルゴン・クラウドSの絶対防御の強化がなければ今頃、引き裂かれたミンチになっているところだ。

 

「っ・・痛ぅ!左腕の感覚が!?シールドを握る位しか出来ない状態か」

 

叩きつけられた影響を受けて、一夏の左腕は衝撃で感覚がなくなってしまっていた。それでも戦いを止めないのは己の騎士としての誓いだろう。その場とは言え、彼はゲッシュとしての誓いを己に科して戦っている。

 

その誓いは「二人の騎士が来るまで時間を稼ぐ」というものだ。ゲッシュとはいえ実際に効力がある訳ではない、己の課せられた目的を果たすためのものだ。

 

「死ネエエエエエエ!イチかァァァ!」

 

振り下ろされる豪腕を一夏は避けずにシールドクローを掲げ、両腕で受け止めた。まるで巨石が落下してきたような衝撃に一夏は脳を揺さぶられるが、それを精神力で踏みとどまる。

 

「なんダト!?」

 

「俺は・・・此処で倒れる訳にいかないんだよ。俺は・・・騎士だ、汚れたものを破壊を以て清浄に戻す。清浄の騎士だ!」

 

「バカか、破壊は何も生み出さナイ!破壊の後に残るノハ、ただの荒野だけだろうガ!」

 

「そうだ、破壊は荒野を生み更地を作る。けど、そこには新しく宿るものはある!その新しく繋ぐ物を守る!それが俺の騎士としての誓いだ!」

 

「綺麗事を抜かすんじゃねえええええ!」

 

苛立った春始は一夏を蹴り上げると同時に、自由になった腕で殴りつけて再び壁へと叩きつける。

 

「ぐっ!がはっ!?か、身体が・・・・?」

 

内臓への衝撃が凄まじく、一夏は吐血してしまう。更には全身に痺れ動く事が出来ない。

 

「運にも見放されたな・・・・?一夏。今ここでお前の頭を潰してやるから安心しろ」

 

一歩一歩近づいてくる春始に体を動かす事の出来ない一夏は身体に動いてくれと懇願する。

 

「(動いてくれ、俺の身体!此処で・・・ここでやられたら、あの二人や箒達が殺される!それだけは、絶対に嫌なんだ、だから!動いてくれええ!)」

 

瞬間、一夏の意識が真っ白な光に包まれた。目を開けるとそこは満天の星空が見える海の浅瀬だった。

 

「此処は?」

 

馬の嘶きが聞こえ、パチャパチャと此方へ近づいて来る音が聞こえる。その馬は頭に角を生やしており、所謂、一角獣と呼ばれるものだ。その背には少女が乗っており、そこから降りるとバイザーのような仮面をつけている。服装は白を基調としたドレスのような甲冑だ。

 

「待っていた、愚者へ与えられた身体から、母様によって魂だけがこの一角獣と一つとなり騎士の身体へと宿ったその時から」

 

「?」

 

騎士の少女は仮面を外さなかった為に聞き取りにくかったが言葉の意味は正しく理解すれば、白式として生まれた自分がタバ=サさんの手によって、ユニコーンシステムとなり、ラフトクランズ・クラルスに宿ったという事なのだろう。

 

「俺がここへ来るのをずっと待ち焦がれていた・・・そういう事かな?」

 

「そうか、そなたは人類として一歩先へと進んでいたのだったな。だから、私が伝えようとした事も正しく理解してしまう」

 

「人類の一歩先?物事を正しく理解したり、頭の中に何かが伝わって来るような感覚の事か?」

 

「そうだ。だが、その覚醒には心身に強い負荷をかけねばならない。身に覚えがあるのでは?」

 

彼女に言われて思い出す。兄であった春始からのイジメ、日常的暴力、それを訴えても知ろうとしなかった姉の千冬。己の価値は姉と兄によって培われたと言わんばかりの周りの評判。僅かに助け出されたが、それでも自分の中に残った心身の傷は癒える事はなかった。今だってその傷の中にいる。

 

「主よ、世界を救うなどと考えるな。世界なぞ一人の力では救えない、人は己の手の届くモノだけで手一杯になる。だが、力を持った人間は己に溺れ、己に酔い、やがては己の真実を見失ってしまう。そなたが清浄の騎士である支柱はなんだ?」

 

「俺が・・・清浄の騎士である支柱」

 

一夏は考えた。初めはシャナ=ミアを守る為に騎士なろうとした。けど、今は違う。大切な幼馴染、女性の気持ちに鈍感な自分を慕ってくれている。シャナ=ミアへの想いが憧れや忠義だとするのなら、幼馴染の二人は愛だ。二人を愛している自分を自覚した事がある。それこそが己の偽りの無い騎士としての支柱。

 

「愛の為に血みどろになる覚悟はあるか?決して清い騎士にはなれん、それに血みどろになったそなたをあの二人が受け入れるとは限らない、それでも騎士の道を貫くか?決して報われぬ修羅の道を」

 

一夏は迷う。愛の為に己自身が血まみれになった時、愛した二人から拒絶されると指摘され、それが覚悟を鈍らせる。

 

「最後の一線は恐らくそなたの兄であったものを殺すことだろう。だが、あの者の魂は諦めん・・己の欲望が成就できる世界に至るまでな」

 

「・・・・」

 

「覚悟はこの場できめられる物ではない、迷って迷って己が見つけた答えこそが正しいのだ。誰かに言われからではない、仕込まれたからでもない、自分だけがたどり着いた答えで覚悟を決めろ」

 

「・・・ああ」

 

そう言って騎士の少女は一夏の頬に触れた。それは女だからではなく、己を扱う主を己で触れて知りたかったからだろう。

 

「操者よ。騎士の身体の最後の封印を解く。自由と城壁、この二人と同じ全身を覆う鎧になろう」

 

「まさか、それは・・・!」

 

「恐らくは今まで以上の負担が掛かる。慣れないうちは自由に動かぬ、一角獣も暴走し、進化した自分の感性にすら狂わされるかもしれない」

 

「それでも俺はそれを望む、俺は俺だ。進化した人類になろうと別の名前を使おうと俺は一夏でありイチカでもある。だから、俺は『それでも』と言い続けるんだ!」

 

「そうだったな。ならば私もそなたと共に行こう!雲海を駆ける麒麟の如く」

 

瞬間、ラフトクランズ・クラルスが眩しい光を放つ。肌の露出していた部分がまるで鎧に覆われるかのようにクラルスと同じ色をした装甲に覆われていく。頭部と両耳をだけを覆っていた部分はラフトクランズ・アウルンと同じ形となり、転がっていたシールドクローとソードライフルを手にした。それはラフトクランズが二次移行した全身装甲化の姿。

 

「な・・・なんだ!?」

 

「・・・・・」

 

クラルスの操縦者は何も言葉にせず、ゆっくりと立ち上がった。春始としての自意識を失わせなかったのが影響していたのか、おぼろげにある記憶がその姿を見て驚愕していた。

 

「本物・・・の・・・ラフト・・・クランズ。なぜお前が・・!」

 

『行くぞ・・・』

 

全身の装甲が展開し、ツインアイはオルゴンと同じ色に輝き、展開した装甲からも同じオルゴンの輝きが漏れ出している。その姿は春始の記憶の中にあるユニコーンガンダムと酷似していた。彼自身も転生者としての記憶を失わせるものかとべーオウルフに抵抗し、二重人格のような状態にする事が出来たがべーオウルフが6、春始が4という肉体の所有権が揺れており、べーオウルフが優っている状態だ。

 

今は、一夏への嫉妬と憤怒、更には怨恨が表立っているため、春始の意識が強まっている。自分以上の場所へ行くことを許さないがゆえに。

 

「ぬああああ!力をヨコセセセ!!」

 

二次移行を果たした今のクラルスは一夏の意思はない。白騎士の意思が一夏の肉体へシンクロし、動かしている。

 

『我が操者の回復までの間、相手をしてやる』

 

 

【推奨BGM Moon Knights スーパーロボット大戦Jより】

 

 

白騎士(クラルス)はオルゴンソードを構えると、スラスターを全開にしてかつての肉体(白式)の持ち主である春始(べーオウルフ)に向かっていき、その刃を振り下ろした。ガキィン!と激しい金属音と共に機体のスラスターの推進剤が噴き出し続ける音がお互いの押し込みの強さを物語っている。

 

「て、テメえ!一夏ジャねえな!?」

 

『答える義務はない』

 

「グアァ!!?」

 

片手のソードにばかり気を取られていた為に、左手に持たれていたシールドクローで殴られ、よろけるとそこへ容赦なくキックを打ち込み、転倒させる。

 

『後、180秒』

 

 

 

 

 

 

その頃、政征と雄輔の二人は最後の一体となったアインストクローンのシャナ=ミアを相手にしていた。

 

「はぁ、はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

シールドクローは損壊し、クローモードへ移行不可能、ソードライフルも使い物にならない程に損壊しており、此処まで戦えたのはオルゴンの恩恵だろう。相手がクローンであるとはいえども身体能力はアインストそのもの、二人は苦戦しながら最後の一人まで追い込んだのだ。それは賞賛されるべきだろう。

 

「武器はオルゴンキャノンしか残ってないな」

 

「いや、まだ有るだろ」

 

「ん?ああ・・・そうだな」

 

二人は格闘技の構えを取り、対峙する。残された武器はオルゴンキャノンと己の拳のみ。それでも、膝をおる訳にいかないと一歩を踏み出そとした瞬間だった。銃撃の爆音とレールガンの着弾した爆発が目の前で起こった。

 

「お待たせしました!」

 

「ごめんね、遅れちゃって!」

 

「援護に来たぞ!」

 

それは、セシリア、シャルロット、ラウラの三人だった。此処に来る事は直前まで怖がっていたはずの彼女達がどうしてという疑問が浮かぶ。

 

「なんで?」

 

「そうだ、来ないんじゃなかったのか!?」

 

「帰ってこれないのは確かに怖かったですわ、けれど逃げ出したら貴族の恥ですわ!」

 

「僕も似た考えだよ。逃げたらカルヴィナ義姉さんに怒られちゃうからね!」

 

「私はお前達に借りを返せていないからな」

 

それぞれがそれぞれの考えの下、戦いを始めようと武器を構える。だが、ラウラだけが少しだけ動揺を見せた。

 

「あれは、シャナ=ミア姉様!?」

 

「違う、あれはクローンだ。姿形や声は似ているが中身は春始と同じ物だ、問答無用で倒していい」

 

「わ、わかった!」

 

クローンのシャナ=ミアが攻撃を仕掛けてきた瞬間、全員が散開し、シャルロットはマシンガンで牽制、セシリアも得意のビット攻撃でこちらへと間合いを詰めさせない。

 

「二人共、これを!」

 

シャルロットが持ち運び用の拡張領域から何かを取り出し、投げ渡したのは損壊していないシールドクローとソードライフル、ラフトクランズの武器だった。

 

「「これは!?」」

 

「武器を失う事もありうるってタバ=サさんから預かってきたんだ。壊れてる方は僕たちが回収しておくから、二人共この先へ行って!」

 

「わたくし達でも連携すればなんとかなります!」

 

「早く行け!本物の姉様達を早く助け出してこい!」

 

「っ!恩に着る!」

 

「すまない!行くぞ!」

 

政征と雄輔も一夏が向かった先の通路へと全速力で向かっていった。残された三人は実戦で笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、不思議ですわね・・・体が震えてきますわ」

 

「日本で言う武者震い、かな?」

 

「ふ・・・戦意高揚とも言うがな」

 

「世界・・・修正」

 

三人はそれぞれの得意な武器を展開し、アインスト・シャナ=ミアへと向かっていった。

 

 

 

 

 

『ぐ・・・ううう!』

 

「大した事、ナカッタな!機械が人間二勝てるか!」

 

白騎士(クラルス)魔狼(べーオウルフ)の腕に持ち上げられていた。最強の白騎士ではなく今の肉体は自分用に調整されたものではない、清浄の騎士である一夏が使ってこそ真価を発揮するものだ。

 

しかも、相手は英雄の首に食らいつく魔狼。幾ら意志のある機械といってもそれを噛み砕く魔狼の牙には及ばない。

 

「これデ、オワリだあああ!」

 

『(時間経過、完了・・・今の私の役目は此処で完了した)』

 

魔狼(べーオウルフ)の刃が白騎士(クラルス)の腹部を貫こうとした瞬間、白騎士(クラルス)のツインアイが青く輝き、膝蹴りで肘関節部を蹴り上げた

 

「がああ!?」

 

「・・・・・」

 

機体と融合状態にある春始は機体を傷つけられると痛覚が発生してしまう。そのときに生じる反射反応を利用し、白騎士(クラルス)はその腕から逃れた。先ほど蹴られたのは肘の痺点に値する場所、機会であろうと痛覚があるのなら一時的に怯ませられる。無論、そんな事は知りもしない、脱出する為にやった行動だ。

 

「ありがとう、白騎士(クラルス)・・・。此処からは俺のステージだ・・・!」

 

「い、イチかぁあ・・・!」

 

対峙した瞬間、別の方角からなにか音が聞こえてくる。その音は徐々に此方へ迫ってきていた。それも二つの音が重なって聴こえてくる。その方向へ視線を向けた瞬間、緑色の光が二つ照らし出された。

 

「あれは・・・!」

 

「ま、マサか!」

 

それは紺瑠璃色とダークブルー、二機のラフトクランズ。それもクラルスと同じ二次移行の全身装甲化している姿だった。

 

「待たせたな!」

 

「援護が来てくれたから、抜け出せてこれた!」

 

「ああ、心強い。お前らが来てくれたなら百人力だ!」

 

三人がここに揃った。自由、城壁、そして清浄の名を冠する三騎士、ドライリッターが。

 

「一夏、お前・・・そのラフトクランズ」

 

「二次移行、したのか?」

 

「ああ、そうみたいだ。ありがたい事にエネルギー効率が格段にアップしてる。ユニコーシステムの負荷も軽減され、持続時間も僅かに伸びてる。でも、本番でどこまでやれるか分からない」

 

そう、主導権が一夏に渡った事で一夏は、二次移行した不慣れなラフトクランズで戦わざるを得ない。更にはこの状態でユニコーンシステムを起動すれば、どんな事が起こるかも見当もつかない。

 

「撤退戦だな。ミッションは?」

 

「春始を撤退させ、シャナ=ミアさん、フー=ルー先生、それから箒達を救出。セシリア達もいるだろうしな」

 

「帰還方法は?」

 

「ユニコーンシステムを使って、また俺が二人の力を増幅させてゲートを作る。確率は五分って所」

 

「オーケー。なら行くとするか」

 

「じゃあ・・・あの言葉だな。部の悪い賭けは?」

 

「する気はない」

 

「嫌いじゃない」

 

「そこは、合わせろよ・・・・」

 

三人はソードライフルを構えると春始と対峙した。春始も怒りにのあまり咆哮を上げている。だが、今の状態で倒せる相手ではない。

 

とにかく三人は春始を行動不能に追い込み、全員を救出して此処から脱出することを思考する。

 

「グオオオオオ!」

 

スラスターを全開でこちらに向かってくる春始、三人掛りでその突進を食い止める。だが、特機ではないラフトクランズでは圧倒的にパワーで負けてしまっている。春始の白式も二次移行を果たしており、更にはアインスト・べーオウルフに生まれ変わらせられた事で人間以上のパワーと再生力を持っている。

 

「ぐっ・・ううう!退け、俺は・・・シャナ=ミアさん達のもとへ二人を送り届けるんだからよ!」

 

「ああ?そうか・・・イイコト思いついたぜ・・・クロスゲートを取り込めば並行世界へイケルヨナァ?そこでハーレムを作りゃ・・・いいなぁ」

 

「なんでこいつ・・・クロスゲートの事を?」

 

「偶然、生徒会室で聞いてなぁ?それを取り込んで俺は新しいハーレムを作ってやる。だから、お前らが退けやあああ!」

 

「うああああ!」

 

「ぐあああっ!?」

 

「がああああっ!?」

 

「クロスゲート・・・静寂を乱す・・・この手に・・・」

 

腕のひと振りで三騎士を払い除け、春始は新しい野望を見つけ出したかのようで背を向けて去っていった。

 

「ぐっ・・・でも、ラッキーか?箒と鈴はお前たちの所へ向かってたから」

 

「セシリア達と合流してるかもな。先へ進もう」

 

「ああ、幸運に恵まれたな。さっさとこの陰険な場所からオサラバしないとな」

 

三人は立ち上がると先へ進むためにスラスターを起動し、奥へと進んだ。先に聞こえる爆発音を耳にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

三騎士が向かっている頃、。シャナ=ミアとフー=ルーは軽い負傷を負いながらも初音を食い留めていた。

 

フー=ルーのラフトクランズ・ファウネア、シャナ=ミアのグランティード・ドラコデウスの損傷も軽くはない。

 

「はぁ、はぁ・・・フー=ルー、まだ戦えますか?」

 

「ふぅ・・ふぅ、ええ・・・まだ戦えますわ」

 

二人の身体からは鮮血がゆっくりポタポタと、地面へ水滴のようにたれている。だが、初音は刃を降ろし興味が失せたように背を向けた。

 

「お帰り下さい。もう、別の目的が出来ましたので。導き手がいるのなら地球へ帰れます。座標はお送りしますね」

 

「どういった風の吹き回しです?」

 

「決戦の場は此処ではないということ、そろそろ私も自分の故郷へ帰らなければ、一つだけ申しておきますが、あの子・・・貴女方の世界へ転移するつもりですよ。それでは」

 

初音はその場から転移する為の準備を始めた。それと同時に三騎士の三人が合流し、二人に手を貸した。

 

「皆さん!」

 

「此処まで来るとは無謀にも程がありますわよ?」

 

確かに無謀とも言える行為だが、行動を起こすほどにまで大切な相手なのだからその身を投げ出すことを厭わないのがこの三騎士なのだ。

 

「!アイツ!転移を!?」

 

「逃がすか!おわっ!?」

 

「一夏!?」

 

一夏は初音に向かってオルゴンライフルを放ったが、二次移行した機体に慣れていない事と威力が一次移行よりも跳ね上がっていたこともあって、反動でノックバックしてしまった。それを政征が支え止めて、事なきを得た。一夏の放った一撃はほんのわずかに逸れていて、当たらずにその先の壁に直撃してしまう。

 

「大丈夫か!?」

 

「ああ、それよりもアイツが!」

 

「ダメです、間に合いませんわ!」

 

「異世界の騎士達、あの子はゲートを見つけ出すでしょう。その時・・・帰還する事が出来る」

 

「何!?」

 

「いずれ私もあの子と一つになる。それでもあの子の魂は輪廻を繰り返す」

 

初音の言葉に三騎士は呆然としてしまうが、恐らくは春始の事を言っているのだろう。詳しく聞こうとした瞬間に初音は転移して消えてしまった。

 

「待て!ダメか・・・」

 

「とにかく、俺達が侵入した場所へ戻ろう・・・セシリア達が戦っているはずだ」

 

「ええ、篠ノ之さんに刀を返さなければなりません」

 

「行きましょう」

 

三騎士はシャナ=ミアとフー=ルーを護衛しながら、元来た道を戻っていった。




一旦区切りです。

次回はクローンのシャナ=ミアとの決戦ですが、これはセシリア達がバトルします。

今回はお茶濁し、春始の次の目的と元の世界へ帰るための手がかりです。

クロスゲートを取り込んだ瞬間、春始のハーレム計画が再動します。

春始の目指す場所はこの世界から「極めて近く、限りなく遠い世界に」とだけ言っておきます。


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完成されていく織斑一夏(ニュータイプ)

一夏の無意識下でのニュータイプの力が発揮

三人が倒れる。

並行世界の己自身に対する羨望。

次元力を持つ十二の宝玉が扉の鍵を開く予兆


三騎士、シャナ=ミア、フー=ルーが離脱するためにセシリア達との合流を急いでいる中、箒と鈴が先に合流する寸前の事であった。

 

「今だ、二人共!撃て!!」

 

ラウラのAICによってアインスト・シャナ=ミアは動きを止められており、表情は動かないが激しく抵抗していた。

 

「これで・・・!」

 

「ジ・エンド、ですわ!」

 

シャルロットのアサルトライフル、セシリアのスナイパーライフルによる狙撃によって脳幹にあたる鼻先と頭部を正確に撃ち抜き、アインスト・シャナ=ミアを即死させた。

 

それと同時に二人は銃を手から落とし、両方を抱きしめるように抱え青い顔をしながら震え始めた。AICを解除したラウラが二人の近くへと向かう。

 

「二人共、どうした?」

 

「ラウラ・・・・・・人を・・・ボクは人を殺しちゃった・・・」

 

「わ、わたくしも・・・人を・・・とっさとはいえど・・・人殺しを」

 

ラウラはこの状態が何か理解できていた。彼女達は実戦の経験があるとは言えど、人間やそれに近しいものを撃破した事など無かった。

 

クローンとはいえ、相手は見知った顔をした人間と同じ物、ショックを受けないはずがなかった。頭で理解は出来ていても心がそれを拒否しているのだろう。

 

「シャルロット、セシリア・・・お前達が倒したアレをもう一度見てみろ」

 

「嫌だ・・・自分が殺した人間の死体を見るなんて」

 

「わたくしもです・・・」

 

「いいから見てみろ!」

 

ラウラに恫喝され、二人は目を閉じていたが、その目を開いてアインスト・シャナ=ミアの遺体を見た。そこには緑色をした植物の蔓のようなものが傷口から見えていた。ラウラが格闘戦で傷つけた部分だろう。

 

「これって・・・!」

 

「人間じゃ・・・ありませんの?」

 

「そうだ。恐らくはクローンだろう・・・最も私とは全く別の形で作られた物だろうが」

 

しばらくして蔓は黒ずんでいき、アインストの他の遺体のように灰となって消滅した。それと同時に後ろの通廊からISらしき機体が合流してきた。

 

「おーい!」

 

「この声は篠ノ之か?」

 

「待ってくださいまし、鈴さんも居ますわ」

 

合流と同時に三人は鈴が怪我をしているのに驚いたが応急処置がされているのを見て、箒を一斉に見た。だが、箒は一夏と一緒に処置をしたのだと伝えると納得したような表情になった。

 

「だが、まだ合流していない者が数名いるぞ」

 

「そうですわね・・・」

 

『大丈夫だ。すぐにでも合流する』

 

「!?ラウラさん、今何かおっしゃりまして?」

 

「いや、何も言っていないが?どうかしたのか」

 

「いえ・・・」

 

セシリアの頭の中に響いた声、どこかで聞いたことのある声、それは一人しかいない。織斑一夏、その人である。

 

セシリア自身も僅かながらに感性が鋭い、それと同時にビット兵器適性は脳の活性化時の電気信号によって適合か決まる。

 

一夏と同じ素質はあるが、開花させるのが難しいというのが今のセシリアの状態なのだ。そうしているうちに三騎士と本物のシャナ=ミア、フー=ルーが合流した。

 

「待たせた」

 

「流石に五人だと合流が遅れたな」

 

「みんな無事だったか」

 

「皆、無茶しますわね。教師としては一言言いたいですが、お礼を言いますわ。ありがとう」

 

「箒さん、お借りしていた剣をお返しします」

 

「ああ」

 

箒はシャナ=ミアから二本の愛刀を受け取ると、剣の礼節に法った納刀をして刃を収めた。同時に一夏がユニコーンモードを解放し、一方の方向を見ていた。

 

「どうした?一夏」

 

「・・・・・フー=ルー先生に教えてもらった座標の位置をに合わせているんだ。よし、みんな、俺に向けて帰りたいという思いをぶつけてくれ!」

 

「何!?」

 

「なるほどな・・・一夏が座標の固定の役目をし、オルゴンクラウドが搭載されている機体で帰還するってわけか」

 

「一瞬の間違いも許されないな。オルゴンクラウドが有るのは俺達三人、それとシャナ、フー=ルー先生か」

 

「みんな、一箇所に固まって地球へ、IS学園へ帰りたいと一夏に向けるんだ」

 

「ああ」

 

全員が一箇所に固まると一夏へと帰還の意思を向けていく。それを受け止めた一夏はクラルスと共に自分達の地球へ帰還する意思を強める。

 

「ぐ・・あああっ!」

 

「一夏!」

 

「来るな!構わず俺に意思をぶつけろ!」

 

箒が手を貸そうとするが、一夏はそれを静止し、空間へ意思をぶつけていく。それを見た政征達はオルゴンクラウドを展開して全員を包み込んだ。

 

「そのまま、念じるんだ!帰るんだと!」

 

全員の意思が一つになった瞬間、緑色の光が全員を包み込み、IS学園の校庭へと帰還していた。オカルトチックな出来事に三騎士以外の全員が信じられないといった表情のまま固まっていたが、その直後だった。

 

「う・・・」

 

「あ・・・れ?」

 

「あ・・・これ・・は」

 

三騎士は帰還と同時に倒れてしまった。一夏は自分の能力以上のニュータイプ能力を使い、政征と雄輔は隠していた戦いの傷からの出血多量によるものだった。

 

「一夏!」

 

「早く病院へ連れていきましょう、皆・・・怪我もありますし」

 

救急車とタクシーを使い、全員が病院へと向かった。結果、三騎士と鈴は入院となりセシリア、ラウラ、シャルロット、箒も手当てを受け、シャナ=ミア、フー=ルーも一日のみの検査入院する事になってしまった。

 

入院の必要のなかった箒、セシリア、ラウラ、シャルロットは学園へと帰され、これからの事を話し合おうと学食へ向かった。

 

席に座る前に四人は飲み物を買い、席に座ると話し合いを始めるが空気は重苦しい。

 

「これから、どうしよう・・・」

 

「正直な話、私達は大した戦力になっていないと痛感した。この場に居ない鈴音を含めてな」

 

「ラウラさん!そのような事は・・!」

 

「無い、とは言い切れないだろう?前回の実戦は人が乗っていたとはいえど機械だった。春始との戦いも私達は結局、あの三人に頼って助けられてばかりだったのは否定できん」

 

「う・・・確かに」

 

「政征と雄輔が居た世界の僕達はとんでもない強さだったよね・・・」

 

「並行世界のわたくし達の事ですか?」

 

「うん、機体も何もかも違ってたけど・・・僕達と最も違うのは」

 

「人が死んだ重さを知り、自分の手で殺めた重さも知っている・・・覚悟の度合いが違いすぎると言いたいのか?」

 

「・・・・・」

 

箒だけは何も答えず口を閉ざした。政征と雄輔から見せられた並行世界の自分自身、強さも覚悟も何もかも自分たちより格上の自分自身。

 

「もしも・・・もしもですが、並行世界のわたくしに出会えるのならご教授を願いたいですわ・・・」

 

「政征兄様達から訓練してもらっていても、限界が来ているのは否めない。私達はどうすれば」

 

「今よりもその先へ行くためのきっかけを掴みたい・・・って事だよね」

 

「だが、並行世界へ行くなど・・・難しいことだろう?」

 

結果出てきたのは自分達の認識の甘さであった。ISの絶対防御、兵器としての一面に対して目を閉ざしていた事を認識させられた。

 

ISは兵器だという事を認識しなければ、強くなれない。スポーツ感覚で人の命を簡単に奪いかねないもの、それこそが真実。

 

4人は自分達が三騎士やフー=ルー、千冬などの教師に守られた中で実力を高め、天狗になっていたと自覚し、自分達が如何に無力であるかを、今回の件で痛感させられたのだった。

 

 

 

 

 

 

そうした中、春始はとある国で小型のクロスゲートを発見し、取り込もうと躍起になっていた。周りの人間すべてを骸に変え、春始はまるで蛇が獲物を飲み込むかのようにべーオウルフの胴体部分に小型クロスゲートを取り込ませていった。

 

「コレで・・・新ラシイ、ルーつを目指せる」

 

べーオウルフの次なる目的、それは別世界への転移だった。春始の意志もこの世界でハーレムが作れないなら別世界で作ればいいと似た考えを持っている。

 

この時、別世界の対極の意志が、この世界と破滅の現れたもう一つの世界を繋げようとしているのを誰も気付かなかった。




次回は平行世界関連になります。


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多次元世界への鍵

多次元の境界線が壊される。

その影響で別世界のフューリーの血族が現れる。

侵攻しようとして失敗する春始。

鏡合わせのように繋がってしまった向こう側とこちら側。


クロスゲートの力を取り込んだ春始は宇宙へ飛び出し、その力を利用して、多次元宇宙の扉を開こうとしていた。アインストとしての力と己の欲望の意思、ベーオウルフの意思が合致したのだ。女への欲望、別世界への侵攻、新たな獲物、これらの要素もすべてが噛み合った結果でもある。

 

「グウウウウ・・・さア、開ケ、別世界への道」

 

人外の力を持って扉を開き、次元境界が揺らぎ次元震が起こる。宇宙空間でISは使えないのだが、ベーオウルフとなっている春始にとってはなんの影響もない。惑星が通れるレベルのストーンサークルを形成、それをクロスゲートの代わりにしこちら側へとある惑星を呼び出した。

 

その惑星は地球だった。だが、地球に引っ張られる形で次元境界が裂けてしまい、二つの宇宙が繋がってしまった。こちら側と向こう側、まるで合わせ鏡のような状態になってしまったのだ。

 

「オオオオオオオ!」

 

そこに一箇所だけ、穴を作り出し潜ろうとしたが次元境界が不安定な状態になっているのか、弾かれてしまう。正確には弾かれたのではなく、何かに攻撃されたのだ。

 

「グ亜アアアア!?」

 

向こう側へ通ずる穴の向こうにクストウェル・ブラキウムとラフトクランズに酷似した何かが攻撃してきていたのだ。少し間を置いてテッカマンブレードと酷似した何かが2機の側へと近づく。

 

「!?」

 

三機は春始が退き、次元境界の穴が小さくなった事を確認すると去っていった。それと同時に境界が閉じられ、鏡合わせのような状態に戻る。

 

「なんだったんだよ・・・今のは!?」

 

 

 

 

 

 

「こちら、ファトム1。次元境界からの侵攻者を追い返しました」

 

「同じく、ソーン2。ファトム1に続き、同様の任務を完遂しました」

 

「アルブス1。ファトム1、ソーン2の護衛、及び撃退任務完了です」

 

『確認した。全機、帰還せよ』

 

「「「了解」」」

 

クストウェル・ブラキウムとラフトクランズ、テッカマンブレードと酷似した何かを纏っている様に見える三人の人間は自分の場所へと帰還していく。

 

「まさか、次元境界が破られてしまうなんて」

 

「クロスゲートと呼ばれたものが向こう側にあったのだろうな・・・警戒していた事が起きてしまった」

 

「とにかく今は帰還して、報告しましょう」

 

「そうね。あれから8ヶ月、か・・・。まさか、アンタが最初にラフトクランズを渡されるとは思わなかったわ」

 

「本当にな、驚きを隠せなかったな」

 

「自分でも、そう思います・・・。でも、貴女だってクストウェル・ブラキウムの正式な操者でしょう?」

 

「そうなんだけど、この機体って諜士団が管理してたとは言え、元は禁士団の物だし・・・私は特殊な騎士の立場だから」

 

三機のうちの一体、ラフトクランズ。そのカラーリングは大空を思わせるスカイブルーと美しいサファイアブルーの装甲を持ち、フレームは黒色を残す灰色にカラーリングされている。だが、大きな違いもあった。

 

このラフトクランズはスタンダード・モデルとされているものであり、頭部に本来有るはずの二つのブレード・アンテナが排除され、センサー機能を持ったトサカ状の頭部に変更されている。また、カメラアイはツインアイの上にバイザーを被せた形となっており、隊長格のカスタム機と差別化を図ってある。頭部カスタムの権限は隊長格、もしくはそれに準ずる実力があることを示さなければならない。

 

更なる違いはこのスタンダード・モデルのラフトクランズには、バスカー・モードを使う事が出来ない様、厳重なプロテクトが掛けられている。

 

バスカー・モードの解除には騎士になる事を前提条件として、一つの技を磨き抜かなかればならない。剣撃、銃撃、爪撃。この三つの中から最も自分と相性の良い技を見出さなければならないのだ。これはラフトクランズ・クラルスを駆り清浄の騎士たる向こう側の一夏と同様で、一夏の場合は剣道の経験という点が剣撃との相性をクラルスが見出したのだろう。

 

同じラフトクランズであるリベラとモエニアは特殊な事例であり、全てのバスカー・モードを使える事自体が異常だ。その操者である政征と雄輔も全てを扱える様になる為の努力を惜しまず、血の滲むような特訓をする事でものにする事ができたのだ。

 

「それでも、禁士団に最も近いのが貴女方なのですから・・・」

 

「そうだけど、先に行き過ぎると苦労が多いのよ?」

 

「私だって、戻ってきてくれと言われているしな」

 

この三人は女性でありながら、騎士の称号を持つ立派な戦士達だ。無論、世界は違えど女尊男卑の考えなどは持っていない。

 

「っ・・え!?」

 

「っ!?これは・・・?」

 

「どうした?」

 

クストウェル・ブラキウムとスタンダード・ラフトクランズに酷似した機体を扱っている女性の二人が何かを感じ取る。それは、かつて一緒に戦った同輩と共に巨大な何かと戦っているヴィジョンであった。

 

「待って・・・!なんでアイツ等が一緒にいるの!?」

 

「っ・・・分かりませんね。この未来は断片に過ぎませんから」

 

「もしや、二人は未来を見せられているのか?」

 

頭を軽く押さえるような状態になっているが、未来を見せられた二人には一つの疑問があった。それは、かつて敵対した尖兵が味方として共に戦っている姿であった。一方の機体は見知っているが、一方は全く分からない。一つの特徴を掴んだとすれば、それは白いラフトクランズという一点だけだった。

 

「手がかりは白いラフトクランズだけ・・ね」

 

「あの男が使っているのも気になりますが、今は帰還しましょう」

 

「・・・・」

 

未来の断片も気になるが、三人は帰還することを優先した。その中でクストウェル・ブラキウムに酷似した機体を使う女性が振り返り、次元境界線の向こう側にあるもう一つの地球を見る。

 

「まさか・・・ね。あの二人が居る訳ないわ」

 

一瞥した後、合流する為に急いで先に帰還し始めた。この時に向こう側とこちら側で同一の存在に対し、四つの光の球体がそれぞれの地球に出現していたのを知る由もなかった。




今回は三人(内一人は特殊な産まれ)の女性が現れました。

そのうち二人はフューリーです。

さて、誰なんでしょうね?(すっとぼけ)


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ザ・ジョイと呼ばれた者

入院状態の三騎士

ラウラが軍のコネを使って伝説的とも言われた女性英雄に軍事訓練を依頼する。


二つの地球の次元境界が現れてから、早一週間。病院で入院している三騎士は絶対安静の元、治療に専念していた。

 

長時間のIS運用、ケガの化膿による感染症などなどあらゆる可能性も視野されたためであった。

 

三人とも疲労困憊が最も激しく、特に一夏は入院から数日間は栄養と治療の為の点滴生活を余儀なくされた。そして、今日に至りようやく目を覚ましたのだ。

 

「う・・・ヤバ、かなり眠っていたみたいだ」

 

「病院でか・・・全くだな」

 

「二人も起きたのか・・・」

 

三人は互いに互いの顔を見た後、安堵してそのまま起き上がろうとはせずに、天井を見つめた。

 

「全員、無茶したな」

 

「オルゴン・クラウドを二人がかりで全員を範囲内に入れる」

 

「俺が受信機の役目をして飛ばす」

 

「一夏が地番頑張ってるんじゃないのか?」

 

「俺だけの力じゃないさ、二人やみんなのおかげだよ」

 

「それより二人共、これを聞いてくれ」

 

「え?」

 

「なんだよ?」

 

ラジオニュースから宇宙に二つの地球が現れ、境界線のようなものがオーロラのように靡いていると連日のように放送している様子だ。

 

「次元境界線・・二つの地球、マジかよ」

 

「恐らくは奴の仕業だろうな」

 

「人間じゃなくなってたからな・・・別世界でって考えてたし」

 

三人は天井を見つめ続けながら会話を続ける。今の自分達はただの怪我人、この傷を癒さなければ騎士にも学生にも戻れない。

 

「早く怪我を治して会いたいな」

 

「そうだな」

 

「ああ、会いたいな。みんなに」

 

 

 

 

 

 

その頃、ラウラは自分の部隊である『シュヴァルツェ・ハーゼ』通称「黒ウサギ」の副隊長で自分の部下であるクラリッサ・ハルフォーフに連絡を取っていた。

 

「隊長?珍しいですね?私に連絡を入れてくるなんて」

 

「ああ、どうしてもお前でなければ頼めないことがあるのだ」

 

「随分と真剣ですね?お話をお聞かせ願いますか?」

 

「分かった、モニターに切り替える」

 

ラウラは通話モードからテレビ電話に切り替え、顔を見ながら通信できるようにした。

 

「隊長、どうぞ」

 

「ああ、クラリッサ・・・単刀直入に言う。ザ・ジョイは知っているな?」

 

「はっ!?知っているもなにも我々・・・もとい、現代に生きる特殊部隊の礎を築いた伝説の御方ですよ!?軍属であるならば知らない訳がありません!!」

 

「コンタクトを取ることは出来ないか?必要な事なのだ」

 

「っ・・・何か事情が?ザ・ジョイとのコンタクトは難しいのを知っておいでの筈・・・それにもう礎を築いた初代様は鬼籍に入られ、その二代目となっている方がいるだけです」

 

クラリッサの顔が強張る。ザ・ジョイは傭兵であり、特殊部隊の出身である。同じ軍属の特殊部隊であっても本来ならば敵同士と言っても過言ではない。

 

「初代だろうと二代目だろうと関係ない。だが、念の為に確認しておく二代目の実力は?」

 

「二代目様も初代様とほとんど変わらぬ実力の持ち主です。隊長、何故あの方に接触しようとするのですか?理由を聞かせてください・・・!」

 

「・・・・強くなる為だ」

 

「はい?」

 

ラウラは目を閉じたまま、さも当然と行った様子で口にした。自分達は騎士達との鍛錬によって学園の中では最強と太鼓判を押されても問題ない程の実力を持つに至った。

 

だが、それはあくまで『学園』という名の枠組みの中での話だ。命の取り合い、ルールなどない実戦を臨海学校時に経験出来たが、突きつけられたのは自分達は役に立たず浮かれていただけという現実だった。その中で織斑一夏は例外的に己の中に眠っていた実力を皮肉にも人間ではなくなった春始との戦いで目覚めさせ、実戦を生き残った。

 

自分達は弱い、それは自分以外の代表候補生達も同様だった。拉致された友と義姉を救う為に乗り込んだ先でも相手からすれば尖兵に等しいものに苦戦を強いられた。

 

それ程までに自分達は実戦に対して弱い。それだけではなく、鍛錬が飽和化してきている事実もある。今のレベルが当たり前になってきてしまい、それ以上の成長が望めなくなってきている。

 

「その為に・・・ザ・ジョイとコンタクトを?」

 

「ああ、向こうからすれば小娘達からのコンタクトなどと一蹴されるだろう。だが、それでもコンタクトを取ってもらいたい。クラリッサ、これは隊長命令ではない。私個人の頼みだ」

 

画面の向こうで頭を下げるラウラを見てクラリッサは驚愕する。それと同時に部下に頭を下げるなど上官としてはありえない事だ。今までのラウラの態度からすれば当然の考えだろう。

 

「分かりました、軍人としてコンタクトを取ってみます。コンタクトを取れたあかつきにはそちらに通信を送るようお願いしておきます」

 

「すまない、頼んだぞ・・・」

 

そう言ってくラリッサとの通信が切れる。ラウラは自虐的な笑みを浮かべながらモニターの電源を切った。学園の中で軍人として出来ることは限られているがこうして軍属である事をありがたいと思った事は初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

深夜帯に近い時間帯、モニターを起動してクラリッサからのメールを確認している最中、通信が入った。暗号通信のようで隊長権限のコードを使い、通信を受信すると強制的にテレビ通話に切り替わるがパスワードの表示が出ている。これを入力しなければ通信は受け付けないという事だろう。

 

『What's the key code you want to check?』 PASS:Patriot

 

クラリッサからのメールを読んでおいた為、パスワードを難なく入力し通信を受ける事に成功した。そこから威厳のある声が聞こえてくる。テレビ通話ではあるが顔は出していない。

 

「貴殿が私にコンタクトを求めたドイツの軍人か?」

 

「そうです」

 

「?随分と年若いようだが?」

 

「まだ十代中盤ですので」

 

「ふむ、まあいい・・・本題に入ろう。コンタクトをしてきた要件だ」

 

「では、単刀直入に申し上げます。私達を鍛えていただきたい」

 

「何?どういう事だ?お前達の部隊で教官をやれという事か!?」

 

「違います。私を含めた友人達を鍛えて欲しいのです」

 

「どういう事だ?」

 

二代目とはいえ歴戦者であり、伝説の人物の後を継いだだけあってその威圧感は計り知れなかった。ラウラは冷や汗をかきながらも要望に関して嘘をつかずに正直に話した。

 

「くだらんな、たかが小娘達を鍛えるだけに私が出向く必要ない。せいぜいお遊戯の訓練をやっていれば良い」

 

「お願いします!私達はもう、これ以上足手纏いにはなりたくないのです!!」

 

「・・・・小娘。貴様・・戦場を舐めるなよ?お前達が考える程、戦場は甘くはない・・・そこで語り合った人間があっという間に肉片に変わる。泣き叫ぼうものなら殺される。昨日の正義が今日の悪となる。常に不変的、何があろうと戦わなければならない、それが見知った顔だとしても」

 

「っ・・・」

 

「話が逸れたわね、改めて聞くわ。お前とその友人達をただ鍛えるだけなら私は出来る。後、ロシアに居る私の友人にも話をつけておこう」

 

「!で、では!?」

 

「勘違いするな・・!私達が教えられるのは戦闘の技術だけ、心技体・・・技術と肉体は鍛えられても精神を鍛える事は出来ない。その先はお前達自身で見つけるしかないのだ。私の先代にそう教えられた」

 

「ザ・ジョイ・・・」

 

「数日後、お前達の居る学園へ友人と共に赴こう。そこから滞在は2ヶ月、その期間の間に鍛え抜こう。覚悟はしておくのね」

 

「ありがとう・・・ございます」

 

「以上だ。通信を終える」

 

「はい」

 

ラウラもモニターを切って就寝の準備に入った。翌日に友人達に伝えようと考えつつ就寝した。

 

 

 

 

 

その翌日、箒、セシリア、シャルロットの三名をラウラは呼び出した。出迎えるために学園長に許可を取り、屋上のヘリポートにいる。

 

「ラウラ、ボク達を鍛えてくれる人って?」

 

「私が軍属のコネを使って部下にコンタクトを頼んだ。その結果、二ヵ月間だけだが鍛えてくれることになったのだ」

 

「ということはその方は軍人ですの?」

 

「ああ、そうだ」

 

「厳しい訓練になりそうだな・・・」

 

しばらくしてヘリコプターがやってきて、ヘリポートに着陸してくる。プロペラによる凄まじい風とローター音に全員が目を守るように腕を上げた。

 

ヘリのドアが開き、そこから二人の女性が金髪を靡かせて降りてくる。一方の女性はイギリス系アメリカ人らしく髪を首元まで短くされており、厳しさが表に出ている。もう一方の女性はロシア人らしく色白な肌に腰まで伸びている金髪をポニーテールにして結っているが、それ以上に顔などに刻まれた火傷が実戦の戦場を経験してきている歴戦者であるのを物語っている。

 

この二人、今では友人であり戦友ではあるが敵同士で争った事もある。それこそ今では考えられない銃弾の飛び交う戦場で、である。

 

「っ・・・」

 

「あ・・・・」

 

「っ・・・う」

 

ラウラ以外の三人はその軍人のオーラに当てられ、身震いを起こしてしまっている。本能的にこの二人が怖いと身体が訴えているのだ。

 

「ほう?此奴ら一人前に相手の実力を測ることは出来るようだな」

 

「あまり、からかうな。それで、黒ウサギ隊の隊長は何処だ?」

 

「私です」

 

「?お前が、か?」

 

「はい」

 

ラウラは一歩前に出て軍人としての挨拶、つまり敬礼を二人に対して行った。軍人として乱れのない敬礼の姿に不服ながらも二人は納得した。無理もないだろう、四人の中で隊長ともなれば第一印象でセシリアが隊長だと思われるだろう。ラウラのような小柄な女性が隊長だとは初見では誰も思わない。

 

「なるほど、今の世の中では若くして隊長を務めていても可笑しくはない」

 

「ガキのお守りなら私は帰りたいんだけど?」

 

「久々に若い奴らを鍛えられるとウキウキ気分で来たのは誰かしらね?」

 

「・・・・ちっ」

 

少しだけ穏やかになった空気も一瞬で引き締まり、ヘリが去っていくと同時にラウラ達を厳しい目で睨みつける。

 

「よく聞け、小娘共。これから二ヶ月間、お前たちを徹底的に鍛え上げてやる。泣き言は許さん」

 

「そこにいる黒ウサギ隊の隊長からの依頼だ。私達は肉体を鍛え上げ技術を教えるだけだ。無駄にするなよ?」

 

「「「「はい!」」」」

 

そして、この四人にとって地獄とも言える訓練期間が始まるのであった。




ザ・ジョイ=井上喜久子、ロシア軍人=小山茉美。女性軍人しかも声がこの時点で誰かバレバレですよね。

この世界では片方は二代目でありながら特殊部隊を率いる傭兵、もう片方は数々の実戦をくぐり抜けてきた叩き上げの元軍人です。

両者共、己の鍛え上げた技術こそが役立つもの。と考えているために権利ばかりを貪る女性権利団体とは相容れません。

さぁ、この四人・・・どうなるんでしょうね?(ニヤニヤ)


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二つの地球と次元境界

訓練する側と調査命令を受ける側。

※この話数からRabbit Fury側を「白の地球」政征達の世界側の地球を「翠の地球」と呼ぶ事に成ります。その理由は設定欄にて


IS学園のアリーナ、そこでは5人の女生徒が倒れている。だが、そこへ厳しい声が激しく響く。

 

「どうした!早く立て!!」

 

「この程度で倒れている場合じゃないぞ?」

 

五人の全身は痙攣しており、疲労困憊にも等しいが二人の軍人は容赦がない。

 

「あ・・うぅぅ・・・」

 

「か、身体が動かな・・・」

 

「こ、こんなに・・・厳しい・・・なんて」

 

「甘くみて・・・ました・・・わ」

 

「こ、これほど・・・とは」

 

騎士からの特訓は安全面や体調面などを考慮されていたのだろうと五人は考える。ラウラがコンタクトしてくれたこの女性軍人の二人の訓練は、まるで特殊部隊の訓練のようだ。

 

「仕方ない、20分の休憩後に接近戦の訓練に入る!」

 

「それまでゆっくり、身体を休めておけ」

 

二人はアリーナから姿を消し、五人はヨロヨロと立ち上がりながら給水場に歩いていく。立ち上がれたのは、曲がりなりにも訓練を欠かしていなかったおかげだろう。

 

全員が水飲み場へたどり着くと、全員が浴びるように飲み続けている。ある程度まで飲み終えると今度は大の字になって寝転んでしまう。

 

「はぁ・・はぁ・・・あの二人・・・気を使ってくれてたのね」

 

「はぁ・・は・・・容赦なしの実戦的訓練が・・・ここまで応えるとは・・・思いもしませんでしたわ」

 

「はl・・・ふぅ・・・ホント・・・さっき、飲んだ水が汗で全部・・・出ちゃってるよ・・・」

 

「身体を解さんと・・・はぁ・・はぁ・・・動けなくなって・・・しまうぞ」

 

「篠ノ之の言う通り・・・だ。クールダウンを・・・するぞ」

 

五人は身体を解す体操をそれぞれ始める。二人一組での柔軟体操には交代で行っていく。

 

「この後は接近戦の訓練だって、言ってたわね」

 

「接近戦・・・わたくし、最も苦手ですわ」

 

「距離的な意味なら苦手じゃないけど・・・格闘術となるとボクも・・・」

 

「武術ではなく、マーシャルアーツとも呼ばれる格闘技と素手で武器に対抗する格闘術だそうだ」

 

「素手の格闘術か・・・剣道しかして来なかった私には未知の世界だな・・・」

 

そんな会話をしつつ、それぞれが特訓に対しての想いを馳せる。全員が共通しているのは「更なる上」だ。上手く出来ない事を当たり前の形に、当たり前の形を無意識の領域を目指すという想い。

 

勝ちたい相手は自分の中にある。その相手に負けても必ず次は勝つという考えのみで訓練を行っている。

 

だからこそ、どんなに肉体を酷使されようと、軍事訓練だろうと武術鍛錬であろうとも強くなりたいのだから。

 

 

 

 

 

一方、翠の地球のとある基地。

 

「ファン=リン・ウィルトス、セシ=リア・ナトゥーラ、シャル=ロット・アストルム、ラ=ウラ・エテルナの四名、前へ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

四人のうち、三人の顔にはフューリーの血筋を示す紋様がそれぞれ、顔の一部に現れている。前へ来るように促した女性は皇女のようだが、まるで戦う皇女とも言える女傑のように見える。

 

「我がフューリー、フューリア聖騎士団も規模が大きくなり騎士団長も、それぞれ分団長となっている。その中で最も地位が高く禁士長に認められた、この四名を呼んだ理由は、向かい側にある「白の地球」の調査だ」

 

「?「白の地球」の調査・・・でございますか?」

 

「私、ファン=リン・ウィルトス、セシ=リア・ナトゥーラ、ラ=ウラ・エテルナの三名が向こう側からの驚異を報告をしているはずですが?」

 

「うむ、次元境界線を破る化物が現れたと報告は聞いている。それを聞いて、オルゴン・クラウドを利用し調査機を飛ばした結果、信じがたい物を向こう側で発見した」

 

「信じがたいもの?」

 

「ラフトクランズだ。それも行方不明になった6番隊隊長機と9番隊隊長機の2機が発見された。それと同時に玉座機のグランティード、近衛隊長機であるファウネアもな」

 

それを聞いて全員が目を見開く。6番隊隊長機と9番隊隊長機のラフトクランズ、これはフューリア聖騎士団の中で最も慕われている6番隊長と9番隊長、この2つの部隊は未だに隊長を置いていない。

 

現状で最も信頼された副隊長が隊長代理の形で率いているが、その率いられている従士や準騎士達も隊長を置かないという意見には納得している。

 

いつか、本当の隊長が帰ってきてくれる事を信じ続けているためだ。

 

「ラフトクランズにグランティードまで、向こう側に・・・」

 

「ル=シーラ様・・・まだ懸念があるのでは?」

 

「うむ、実は我らフューリーの登録にないラフトクランズも確認されているのだ」

 

「登録にないラフトクランズ?」

 

「そうだ。白色のラフトクランズ・・・正確には白色ではない様だがな」

 

それを聞いて向こう側の驚異の撃退に参加していたファン=リン・ウィルトス、セシ=リア・ナトゥーラの二名が顔を顰めた。

 

この二人はサイトロンによって、その白色のラフトクランズと共闘する未来を見せられていたからだ。

 

「(まさか・・・ね)」

 

「(有り得ない事ではない・・・ですわね)」

 

「そこで、留学生として「白の地球」のIS学園に潜入し、機体調査と操縦者を報告して欲しい」

 

「このメンバーで、ですか?」

 

「そうだ。並行世界の調査も兼ねてな」

 

「ですが・・・このメンバー全員が抜けるとなると」

 

そう、シャル=ロット・アストルムが声を掛けようとした瞬間、従士と準騎士のメンバー達が揃って声を上げてきた。

 

「行って来てください!隊長達!!」

 

「隊長には及びませんが、私達もフューリア聖騎士団の一員です!」

 

「そうだぜ、まだまだ未熟だけど防衛くらいは俺達にもできる!」

 

「みんな・・・」

 

男女の隔たりを無くしたフューリア聖騎士団において、女性が隊長になる事は珍しくない。

 

最も隊長格になった四人は、実力でその地位を勝ち取ったメンバーだ。体付きの違い、筋力差などは現れるが、それをハンデとしない実力を持っている。

 

「行けよ、お前ら」

 

「ジュア=ム・ダルービ、お前か」

 

「へっ、今や会社関連の事ばかりだけどな?OBとして来たのさ」

 

「兄さんてば、もぅ」

 

ジュア=ム・ダルービ、かつてフューリア聖騎士団に所属していた人物だ。隣には彼の妹であるクド=ラもいる。彼は聖騎士団から脱退し、その見返りの条件として彼の家族をステイシス・ベッドより目覚めさせる事で解決している。

 

無論、目覚めた直後は時間の感覚、時代の変化などに戸惑っていたが次第に慣れてきた。

 

脱退後、彼はアシュアリー・クロイツェル社・フランス支部において支部長を努め、妹であるクド=ラはその秘書を務めている。

 

「こっちの防衛はこっちに任せておけ、アル=ヴァン様やカルヴィナ教官殿も手伝ってくれるってよ」

 

「義兄さんと義姉さんが?あ・・・」

 

「ん?そういえば、二人が養子を迎えたって聞いていたが、シャル=ロット・アストルム、お前がそうだったのか!?」

 

「あ、あはは・・・・」

 

「禁士に最も近いファン=リン・ウィルトス、史上最年少で女性騎士となり隊長ともなったセシ=リア・ナトゥーラ、ホワイト・リンクスの名を継承したシャル=ロット・アストルム、そしてシャナ=ミア様と義姉妹となったラウ=ラ・エテルナ、この四人だけでも戦力的には充分だな」

 

「過剰戦力過ぎない?」

 

「いや、これくらいじゃないと向こう側には対抗できないだろ。それに行方不明の四人がいる可能性もあるからな」

 

「もし、居ればいつでも帰ることが出来るようデータを渡しておきます」

 

「うむ、調査機と共に向こう側のIS学園の用務員として潜入させた調査員と合流しろ。機体のオルゴン・エクストラクターの調整を忘れるな」

 

「御意」

 

「はい」

 

「わかりました」

 

「了解」

 

四人は騎士の会議室から出て行くと各々の機体に搭載されたオルゴン・エクストラクターの調整を始める。だが、四人はこのメンバーの中のリーダーを決めようと会話を弾ませる。

 

「この中でリーダーを決めたいと思うのだけど・・・・」

 

「ファンさんが一番だと思いますわ。フューリーとして最も純血であるのが貴女であり、禁士に最も近いではないですか」

 

「うん、そうだよ。ボクとセシ=リアは混血だからね、血に拘りがある訳じゃないけど」

 

「私は論外だ、軍で隊長の経験はあってもフューリーの血は引いていないからな。皆には認めてもらえてはいるが・・・」

 

「ラウ=ラ、その発言はNGよ。こちら側のフューリア聖騎士団に純血も混血も地球生まれだとしても関係ないわ。以前の皇帝だったり、反逆したグ=ランドンのように帝国主義じゃなくなったんだから」

 

「ああ、そうだな。済まない」

 

手を動かしながらリーダーを決めるメンバー達。純血であるファンをリーダーとしたのはクストウェル・ブラキウムの血統を持つ爪龍、フューリーのシンボルとして相応しいからでもある。

 

「それじゃ、私がリーダーを務めさせてもらうわ。緊急時には私の命令に従ってもらう、良いわね?」

 

「「「了解!」」」

 

「リーダーといっても、私は権限を振りかざすつもりはないから」

 

ファンの言葉に皆、笑みを浮かべる。このメンバー達は理不尽と戦い、正当性を訴えてきた。

 

同時に戦いの中で、必ず助け出せない命があるという事も学んでいる。戦う以上、己自身も命を奪う立場にある事、強さがなければ何も得られず、闇雲に力を得ようとすれば道を外してしまう。

 

「白いラフトクランズ・・・か」

 

「並行世界・・・もしかしたら、という事が有り得るな」

 

「?どういう事?」

 

「向こう側・・・『白の地球』には『織斑一夏』が生きているのでしょう。恐らく『篠ノ之箒』も」

 

「!!!!」

 

『織斑一夏』の名を聞いてシャルが一瞬、目つきが変わる。『翠の地球』において『織斑一夏』と『篠ノ之箒』は既に鬼籍に入っているが並行世界であり、もう一つの地球である『白の地球』において2人は生きている事は有り得ない事ではない。

 

「仮に生きていたとしても、こちら側とは違う事を念頭に置いておくべきだ」

 

「そうね・・・」

 

「こちら側と同じとは限らないって・・・何度も騎士団の中で教わっていたんだけどね・・・つい、ね」

 

「・・・・」

 

準備が出来た爪龍、スタンダードタイプのラフトクランズ・ティア、ベルゼルート・リヴァイヴ、ラダムテッカマンの特性を持つに至ったシュヴァルツェア・レーゲンの4機をそれぞれの所有者が身に纏う。

 

「武運を祈る!オルゴン・クラウド、起動!」

 

選出されたメンバー達は転送され『白の地球』へと向かった。その様子を一人の女性が見ていた。その手には小太刀が握られている。刀身は有るが切れ味はない、何故ならこの小太刀はISの待機状態であるからだ。

 

「隠れて見送りとは、趣味が悪くないですか?」

 

「ふ・・・今の私は別世界へ行けるほどの強さはないからな」

 

「フー=ルー様と互角に戦った貴女、がですか?」

 

「私は既に旧世代の戦士だ。私を超えた者達が次々に現れている」

 

「そうですか・・・」

 

「だが、行けるのであれば私も『白の地球』へ行ってみたいがな」

 

「それは、次の機会に」

 

フューリーの皇女であるル=シーラと話している女性。彼女はかつて最強の戦士と呼ばれていた女性であり、今は次世代を育てる礎の役割をしている。

 

次元境界の向こう側に見える『白の地球』を小太刀を手に女性は映像で見ている。鞘から刀身を抜くと鋒を『白の地球』へと向ける。

 

「生きているのなら・・・再び会いたいものだ。一夏・・・・」

 

女性の目に宿っているのは、過去を懐かしむ輝きだった。だが小太刀が握られた白いその手には、ありえないはずの血の色が付いているように見えている。

 

「肉親殺しの咎はまだ残っている・・・これは私自身の罪だ。手についた血の匂いも消えてはいない・・だが」

 

『白の地球』に僅かな望みがあった。別世界の肉親と出会い、話ができればその咎も少しだけ軽くなるのではと。

 

一連の望みを胸に秘め、女性は刀身を鞘に納めると部屋から立ち去ったのだった。




ファン=リン・ウィルトス

セシ=リア・ナトゥーラ

シャル=ロット・アストルム

ラウ=ラ・エテルナの四名に関してはバレバレですが並行世界の『翠の地球』の彼女達です。

ラウ=ラを除いた三人はフューリーの血筋です。ラウ=ラ自身はフューリーでサイトロン・コントロール・システムに適応させる為の肉体改造手術を受けています。

スパロボJの味方軍から特訓を受けているのにも等しいので、上記の彼女達は非常に強いです。


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肉欲を求める獣と聖騎士団の合流と生徒会

四人の女騎士、生徒会長に目をつけられる。

肉欲を求め続ける獣の動き。

雄輔のパーソナルカラーチェンジ


時間は夜。日本にある有名な歓楽街、その外れにあるごく普通のホテル。そこでは男一人、女性四人という形で男が肢体を貪っていた。

 

「足りねエ・・・こんなもんじゃ・・・足りないんだよ!!」

 

織斑春始は女を貪り、己の力を高めようとしていた。だが、喰っても喰っても力の増大が小さかった。

 

その原因は人間から異形の肉体に変化させられた為であった。力を得る為の特典が初音によって変化させられてしまい、人間からの力を上手く搾取できなくなっていたのだ。

 

また、自分が欲望の捌け口にしようとした四人の少女達を手篭めに出来なかった事も自身の肉体のストレスとなっている。

 

「ちくしょう!主人公ハ俺のハズなのにィィィ!!」

 

叫びながらも女を貪る事は止めようとはしない。散らばっていたのは学園の制服であった。

 

 

 

 

 

翌日、退院した三騎士はクラスメート達から心配されたが、訓練のし過ぎで疲労困憊になって入院してしまったと説明した。

 

セシリア、ラウラ、箒、シャルロット以外の全員が納得してくれ、訓練のしすぎはダメだよと注意される中、一緒に訓練をしている四人が顔を少し顰めているのに気づいていた。

 

「なぁ、四人とも?何だか険しい表情をしてるけど何かあったのかい?」

 

「い、いいえ・・・何でも、ありませんわ」

 

「そ・・・そうだよ・・・何でもない、よ」

 

「そ・・・そうだ・・・気にしないでくれ」

 

「大丈夫だ・・・問題ない・・・」

 

「?なら良いけどな・・・」

 

「・・・・」

 

三騎士の中で一夏だけだ四人の真意に気づいている。余程、厳しい特訓を強いられていたのだろう。四人は僅かに身体が痙攣しており、脂汗も出ている。

 

肉体の変化から一夏以外の二人も、厳しい訓練をされた事に気づいていたが言及はしなかった。

 

チャイムが鳴り、担任である織斑先生が山田先生と共に教室へ入ってきた。生徒たちはチャイムと同時に席に着席している。

 

「今日は欠席はないな、良い事だ。本日から留学生が四人、この学園に来る事になった」

 

「留学生!?」

 

「こんな時期になんて珍しい!」

 

「静かにしろ!廊下に待たせているからな、入ってこい」

 

その声と共に四人の留学生が教室に入ってくる。だが、政征と雄輔はその四人に対して不思議な感情が出てきていた。懐かしいようで知っているような、そんな感じだ。

 

「一人ずつ、自己紹介をお願いしますね」

 

山田先生の声に四人が反応し、一人目が少しだけ前に出る。

 

「ファ=ン・ウィルトスです。よろしく」

 

「リ=ア・ナトゥーラと言いますわ。皆様、よろしくお願いいたします」

 

「ル=ロット・アストルムと言います、よろしくお願いしますね」

 

「ラ=ウ・エテルナという。よろしく頼む」

 

自己紹介が終わり、クラスの女生徒達が仲間を迎える拍手する。そんな中、セシリア、ラウラ、シャルロットの三人が驚愕していた。

 

セシリアはリ=ア・ナトゥーラに、ラウラはラ=ウ・エテルナに、シャルロットはル=ロット・アストルムに対して視線が外せない。まるで鏡に映った自分自身のような人物達であったからだ。

 

「三人の席はシャナ=ミアの後ろが空いているな、そこへ座るといい」

 

促された三人はそれぞれの席へと向かう。三人はシャナ=ミアと政征と雄輔に視線を向けた後、小さなメモを二人の机にさり気無く置いて着席した。

 

 

 

 

四人が留学生として学園に来る三日前。オルゴン・クラウドによって転送された四人は指示にあったデイリーマンションへ行き、一泊の手続きを取った。

 

その後、こちら側のIS学園に連絡を取り、代表者としてリ=アが確認すると留学手続きはしっかりと取られていた。場所を把握しておきたいと学園に校舎内の見学を頼み込んだ結果、生徒寮の内部に入らない事を条件に承認を得る事ができた。

 

翌日、学園見学の為にIS学園に赴くと同時に、場所を間違えたフリをして用務員室に足を向けて向かう。

 

こちら側も向こう側のIS学園と変わりはなかった為、すぐに到着できた。

 

「どうしたの君達?迷ったのかしら?出口はアッチよ」

 

用務員らしき女性が出てきて四人に道案内しようとする。だが、そこへファ=ンが女性に対してある言葉を聞かせる。

 

「『ガウ=ラは三つの楔によって月で眠る』」

 

「っ!!そう・・・分かったわ。中に入って」

 

用務員室に案内される四人。用務員の女性はほかに誰もいないか確認した後、ドアを閉め鍵とチェーンを掛ける程の徹底的な施錠をした。

 

「少し待ってて」

 

そう言って、用務員の女性はキッチンに向かい、戸棚を開けて奥にあるスイッチを押した。

 

それと同時に床が開き、人が一人ずつ降りられるような地下への階段が姿を現した。

 

用務員を先頭に一人ずつ降りていくと、地下への扉が閉じていく。地下に設置された体温検知センサーによって、明かりが点いていく。

 

「此処は・・・」

 

「『翠の地球』と通信が取れる唯一の施設であり、調査員の基地よ」

 

「ここまで本格的に作られていたなんて、驚きですわ」

 

「次元境界が不安定になってしまったせいもあるから、通信手段に関しては何とかなったのよ」

 

「えっと、よし起動したわ」

 

メインモニターに映るのは皇女代行のル=シーラである。フューリア聖騎士団の正装をしている事から、この通信は事前に行われることを知っていたのだろう。

 

「レ=ヴァと合流したようだな、第一段階は成功か」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

「はぁ、それにしても聖騎士団の精鋭を送り込んでくるなんて余程の事なのね?」

 

「ああ、そうだ。何しろ次元境界を破壊する怪物が『白の地球』に現れてしまったからな」

 

「ああ、コッチではべーオウルフなんて呼んでいたのがいたわね。しかし、厄介な化物を生んでくれたわね。誰かは知らないけど」

 

「あの・・・・」

 

「何?」

 

「レ=ヴァさんって何者なんですか?ル=シーラ様とすごく親しげだから・・・」

 

「ああ、私は彼女の姉妹よ。私が妹でアッチが姉」

 

「「「「えええええ!?」」」」

 

「もしかして、言ってなかったの!?」

 

「禁士の情報をそう易々と言えるわけないだろう?」

 

「それもそうね」

 

ル=ロットの質問に対しあっけらかんとしている2人、だが、ラ=ウがル=シーラの口から気になる言葉を発していたのを見過ごさなかった。

 

「先ほど、禁士と言われていましたが・・・まさか、貴女様は?」

 

「あー、仕方ないわね。コホン!フューリア聖騎士団・禁士部隊所属、レ=ヴァ・ティオスよ」

 

「な、何故禁士の貴女が調査員に!?」

 

「実力のある団員にしか、この任務が出来ないからよ」

 

そう言われて四人は納得する。モニターに映るル=シーラが声をかけた。

 

「話を戻して構わないか?」

 

「し、失礼しました!!」

 

「うむ、ところで先方の調査結果は?」

 

「おおかた予想通り、と言いたいけど進んでないのよ。白いラフトクランズの持ち主は『織斑一夏』くんで間違いないんだけどね」

 

「?どういう事だ?」

 

「その織斑一夏くんがね、まるで私が接触するのが分かっているかのように避けられているの、お茶飲みだけでもダメ」

 

「なんだと?」

 

レ=ヴァの言葉にル=シーラが驚いていた。直感が優れているとでも言うのか言葉を紡ぐが、レ=ヴァが首を振る。

 

「彼はとある計画で生まれた人間だって調査結果が出たわ。けれどもう、彼は変質してしまっていて計画とはかけ離れた存在になっているの」

 

「とある計画?」

 

「人工的に超越者を生み出す計画よ。ただベーオウルフの誕生、『白の地球』の篠ノ之束がこちら側のフューリーへ亡命している事もあって、その計画は頓挫してるわ。それと彼の肉体が変質した原因はサイトロンよ」

 

「なるほど、織斑一夏に関してはわかった。だが何故、篠ノ之束なのだ?」

 

「彼女こそがこの世界で自然発生した『超越者』だからよ。織斑計画の末端の存在が厄介なのだけれど」

 

「末端・・だと?」

 

「織斑春始、織斑一夏の兄で織斑千冬の弟という事になっているわ。IS学園からは退学処分となっているけど表向きよ」

 

表向きと聞いて怪訝な顔をする騎士団一同。だが、驚くべき事を口にする。

 

「なんせ、その織斑春始がベーオウルフそのものだから」

 

「!事実か?」

 

「裏も表も徹底的に使い尽くして調べたから間違いなしよ、それと」

 

キーボードを叩き、一人の女性の写真を別モニターに出す。その雰囲気は同性であるのに肌を交わしたいと思える程に妖艶で美しい。

 

「誰だ?この女」

 

「今野 初音。夜のお風呂屋やキャバクラで掛け持ちで働いている女よ。人気過ぎて相手に出来る事はほとんどないそうだけど」

 

「ほう?それで、この女がどうした?」

 

「私の予感だけど、この女が織斑春始をベーオウルフに変異させたのではないかと踏んでるわ。ただ、確証はないけど」

 

「・・・サイトロンか?」

 

「まぁね・・・」

 

「そうか・・・ベーオウルフと女に関しては引き続き頼む。次に行方不明になっていたラフトクランズと人物に関してだが」

 

「ああ、その件に関しては100%良い意味でクロよ」

 

「!じ、じゃあ!」

 

「ええ、間違いなく。赤野政征、青葉雄輔、そして我らが皇女シャナ=ミア・エテルナ・フューラ、そして近衛隊長であるフー=ルー・ムールーよ」

 

その報告を聞いて四人が嬉しさに心が躍る。死んだと思っていた友人、恩師が生きていたと分かったからだ。

 

「ただ、知っている者同士の会話は控えた方が良いかも知れないわ」

 

「確かにそうだな・・・」

 

女性四騎士も無言の態度で肯定の意志を示す。迂闊な事をすれば行動に制限が掛かりかねないからだ。

 

「無論、第三者が居ない所でなら問題はないがな」

 

「それに関しては同意するわ」

 

通信での会話が終わると調査任務の資料を四人に渡される。行方不明の三機のラフトクランズ、グランティード、そしてその操縦者達に関する調査。更には帰還までの間の自由行動などなどだ。

 

この会議が終わった後、指令が下され四人が正式にIS学園へ留学生として来る事になった。これが四人の女騎士達が『白の地球』へ来た経緯である。

 

 

 

 

 

 

そして留学生が来た日の夜。政征は珍しい客人である雄輔と共にパソコンでタバ=サへ連絡をつけていた。

 

「え、機体の色を変えたい?」

 

「はい、ようやく自分のパーソナルカラーを見つけ出したので。親友とかぶってるのも悪くないんですが・・・いい加減、自分の色を出したいなって」

 

「機体のカラーリング変更くらいなら半日も掛からずに終わっちゃうよ。だから、オルゴン・クラウドで私のところに送っちゃって」

 

「分かりました」

 

「それで、リクエストの色は?」

 

「古代紫色でお願いします」

 

「それってさ・・・仮面ラ○ダーセ○バーの仮面ラ○ダーカ○バーと似た色じゃね?」

 

「気のせいだって、それじゃタバ=サさん。お願いしますね」

 

「オッケー、カラーリング変更が終わったら連絡するから」

 

オルゴン・クラウドを利用した転送装置、まだまだ小さなものしか転送できないそうだが、待機状態のISなら大丈夫らしい。

 

「さて、本題に入るか」

 

「ああ、留学生の四人だろ?」

 

「・・・・」

 

政征は盗聴されている可能性を示唆し、ノートを二冊取り出すと筆談を始めた。この世界の更識楯無との面識が遅れているためだ。それだけに、並行世界の会話を聞かせる訳にはいかなかった。

 

『恐らく、あの四人は俺達の世界の四人だろうな』

 

『だな、全員から懐かしいサイトロンの波動を感じた』

 

『どうする?並行世界で同じ人間が揃ってるが・・・』

 

『いや、大丈夫だと思う。こちら側の四人は純粋な地球人だからな』

 

『そうか・・・俺達の世界の四人はフューリーだものな。鈴以外は混血だが』

 

『ラウラが問題だな・・・』

 

『?そうか、アイツは人工的に生み出されたから』

 

『そう、フューリーじゃない』

 

「気をつけないとな」

 

この時の2人は、ラ=ウが自分達の世界である『翠の地球』において肉体改造を受けている事に気付いていなかった。

 

 

 

 

 

その翌日の昼休み。留学生としてやってきた四人のうち、ファ=ン・ウィルトスと更識楯無が接触していた。

 

「なにか、私に御用ですか?」

 

「いいえ、噂の留学生って子とお話をしてみたくてね」

 

「そうですか、それで私を探ろうと?」

 

「(この子、鋭いわね)物騒な言い方ね?私は生徒の安全を確保しておきたいだけよ」

 

「・・・・私を探っても何も出てきませんよ?」

 

「そうかもしれない、けれど一つ質問するわ。貴女は何者?上手く隠しているように見えるけど、中国の代表である凰鈴音さんと同じ顔よ」

 

「それが何か?世の中には同じ顔をした人間が三人は居るとも、いうじゃありませんか」

 

「う・・・それはそうだけど、似過ぎているから気になって」

 

「そんな事で呼び止められたのなら、私は食事に戻りたいのですけど」

 

「分かったわ、引き止めてごめんなさいね」

 

「失礼します」

 

ファ=ンの後ろ姿を見送り、その姿が見えなくなった所で楯無は扇子を開き、口元を隠しながら呟く。

 

「本当に何者なのかしら?あの四人の留学生達は・・・まるで、本当の戦争を経験してきてるような目をしていたわ」

 

彼女の推察は当たっていた。留学生の四人は曲がりなりにも本当の生きるか死ぬかの生存戦争を勝ち残った経験があるのだ。

 

「もっと詳しく、調べる必要がありそうね」

 

そんな事を考えながら彼女も生徒会室へと向かっていく。四人の留学生の素性をしっかりと調べるために。




次回、『白の地球』と『翠の地球』それぞれの訓練。とある二人に対する嫌悪。


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白と翠の特訓

二ヶ月の成果(模擬戦にて一蹴される)

それぞれの訓練。

『白の地球』に存在する二人への嫌悪。


約束の二ヶ月の期限当日。ザ・ジョイとロシアの女性軍人から終了の言葉が出てきた。

 

「それでは、訓練はこの日をもって終了となる!」

 

「私達が鍛えたのは肉体と技術に過ぎない。心は己自身で鍛えなさい」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「訓練メニューはラウラに伝えておいた。毎日続ける事だ」

 

「はっ!」

 

そう言い残し、ふたりの女性軍人は学園から去っていった。緊張が解けた五人はその場に座り込んでしまう。

 

「はぁあああ・・・・やっと終わったのか・・・」

 

「プレッシャーが半端なかったわ・・・」

 

「膝が笑ってしまっていますわ・・・」

 

「けれど、これでかなり強くなった気がするよ・・・身体はガクガクだけど」

 

「うむ・・・軍事訓練でも特殊部隊は別格だからな」

 

 

それぞれ鍛えられた感想を述べており、自分たちは確かに強くなっていると確信がある。だが、三騎士はそれ以上に強くなっているのだ。元々、二人の騎士が別格に強い事もあるが、皇女の気品を持つシャナ=ミアも代表候補生に負けない程の実力を有している。

 

一度だけ練習という形で模擬戦を行ったが、叩きのめされる寸前まで追い込まれ、時間切れによって助かった事は全員が経験しているのだ

 

「シャナ=ミアとの模擬戦・・・・あれは、外見だけで判断しちゃいけないって事を痛感させられたわ」

 

「全く、その通りだな・・・」

 

「ええ・・・」

 

そんな会話をしていると、三騎士とシャナ=ミア、留学生の四人が訓練場となっているアリーナへやって来た。

 

「おや?」

 

「鈴さん達の訓練中だったようですね?」

 

「みたいだな」

 

「使用中だったのか?」

 

「!政征、それにシャナ=ミア、雄輔と一夏まで!その後ろは・・・留学生の四人、かしら?」

 

鈴は噂に聞いていた「留学生」の四人に視線を向けると、その中でファ=ンと視線が合った瞬間、僅かな間だったが目を離せなかった。ほかの三人が教室で味わった不思議な感覚と共に。

 

「何か?」

 

「あ・・・いや・・・何でもない、わ」

 

留学生の四人は政征達から離れると同時に入念にストレッチを始める。二人一組で行うものや複数人で行うものを時間をかけて行っている。

 

「あれが「白の地球」の私達・・・」

 

「訓練は積んでいるようですが・・・」

 

「まだ・・・軸が荒いね」

 

「それに・・・この目で見るまでは信じられなかったが・・・やはり、この地球ではあの二人が生きているか」

 

留学生の四人は会話しながらストレッチを続けている。その身体の柔らかさはまるで体操選手のようだ。だが、四人は「白の地球」の一夏に視線を向けられる度に謎の頭痛が起こっていた。

 

「う・・・まただわ」

 

「こっちに来てから・・・頻繁ですわ・・ね」

 

「なんなんだろう・・ね。いきなり頭が痛くなるこの・・・現象」

 

「くぅ・・・分からんな・・・。しかし、あの女(・・・)が訓練を真面目に行っているとはな」

 

留学生達は1時間以上のストレッチを終えると、アリーナの中で走り込みを始めた。これは軽く汗をかいて身体を温める為だ。走り込みで身体が温まると同時に格闘技の組み手を始めた。

 

「本格的なんだな・・・あの四人の訓練」

 

「みたいだな」

 

「・・・・」

 

「(あの留学生の方々は・・・もしや!?あっ・・・右手の甲が熱くなって・・・!)」

 

一夏の言葉に政征と雄輔は訓練の方法を見ていて確信を得て、シャナ=ミアは自分の右手の甲が熱くなり、反応している事で正体が分かった様子だ。

 

「あの四人・・・すごい訓練してるのね?」

 

「けれど、不思議ですわね・・・あれだけの訓練をこなせる実力者なら有名になっていても可笑しくは無いはず」

 

「多分、大会とかに出ていなかったんじゃないかな?」

 

「うむ、推薦されていてもおかしくはないが辞退していたのかもしれんな」

 

「そうだな・・・でなければ、実力を隠す通りにはならん」

 

「白の地球」の五人は留学生四人に視線を向けながら柔軟体操をしている。数時間後、訓練を終えると留学生側の代表としてファ=ンが話しかけてきた。

 

「お願いがあるのですけど、私たち四人と模擬戦をしてくれませんか?」

 

「それは構わないけど、一体誰と?」

 

「私は鈴さんと」

 

「わたくしはセシリアさんで」

 

「ボクはシャルロットさんかな?」

 

「私はラウラを指名する」

 

留学生四人はそれぞれ、並行世界の自分(・・・・・・・)を指名し、模擬戦をしたいと申し出てきた。「翠の地球」側の四人に見下された気がした鈴が啖呵を切った。

 

「良いわよ!受けて立つわ!!アンタ達、留学生の実力を知りたいし、掛かってきなさいよ!」

 

「私も受けて立ちますわ!」

 

「そうだね、ボクもだ!」

 

「私も受けて立ってやる!」

 

「私は戦いを見させてもらうことにしよう」

 

そう言って訓練用具を片付けると、模擬戦用の状態にアリーナを切り替える。一番手は留学生のファ=ンと鈴だ。鈴は先に機体を展開し相手を待っている。

 

 

 

 

※留学生、通常戦闘用BGM。スパロボシリーズより『Moon Knights』

 

 

「それが貴女の機体?」

 

「そう、これが私の機体よ。名前は明かせないけど」

 

爪龍を展開したファ=ンに対し、鈴は気圧されかかっていた。対峙した瞬間に分かる、相手が圧倒的な実力を持っているという事に。

 

何故、それが分かるのか?それは二ヶ月間の限定とはいえ、軍事訓練を受けて自分が強くなったからだ。強くなるとある程度まで相手の力量を察することが出来てしまう。

 

相手の力量を察することが出来るという事は自身の力量も上がっているが、それを逆に言い換えれば力量が自分以上の相手の実力が戦う前に分かってしまうということなのだ。

 

「(っ・・・私に似てるこのファ=ンって留学生、相当強いわ。今の私なら分かる!!)」

 

「それじゃ、行くわよ?」

 

ファ=ンは2本の青龍刀を両手に構えた。武術の構えに自分が構え易い方法をアレンジしてあるようで隙が少ない。

 

「っ!」

 

鈴も青龍刀を構えるが、踏み出すことが出来ない。下手に踏み込んだら自分が完全にやられる。その思いが警鐘を鳴らしているのだ。

 

「動けない?それならコッチから行くわよ!!」

 

ファ=ンが瞬間加速で間合いを詰め、斬りかかってくる。それをとっさに剣で防御したが、あまりの剣力に僅かに足が退いてしまう。

 

「ぐ・・・うっ!重い!?」

 

「へぇ、この剣撃に耐えられるなんて・・・それなりに鍛えているようね。んっ!?」

 

「舐めん・・・じゃ、ないわよおおおお!!」

 

「っ!?うああああああ!?」

 

互いに至近距離で押し合っていたが、ファ=ンがいきなり吹き飛び戦いを見ている皆が、何を使ったのかは知っている。

 

「衝撃砲かな?」

 

「あれは確かに衝撃砲だ、あの至近距離で撃たれたのなら、タダでは済むまい!」

 

留学生のル=ロット、「白の地球」のラウラがそれぞれ使った武装に関しての言葉を述べている。白の地球側は驚きを口にし続けているが、留学生達は腕を組んでいたり、顎に手を当てていたりなどファ=ンを心配している様子はない。寧ろ、この程度で心配していてどうするのだという雰囲気が漂っている。

 

「最大威力でぶっぱなしたから、タダでは済まないはずよ!」

 

アリーナの壁に叩きつけられていた爪龍が、ガラガラと砕けた壁の瓦礫から起き上がってくる。ホコリを払うような仕草をした後、ゆっくりと元の場所へと戻るために歩き始める。機体に損傷はあるが戦えないレベルではない。

 

「痛たた、衝撃砲・・・龍咆(りゅうほう)かぁ・・懐かしいわね。この子も改修される前に装備されてたから」

 

「え!?今なんて・・・!」

 

「様子見だけにしようと思ってたのが間違いね、ふっ!!」

 

ファ=ンは手にしていた二本の青龍刀を地面に突き刺すと、手首と足首の柔軟を入念に行い始めた。指は鳴らさず、関節などのストレッチを終わらせると「白の地球」の鈴へ鋭い視線を向ける。

 

「良い?全身の神経を研ぎ澄ませなさい、一瞬たりとも気を抜くんじゃないわよ?」

 

「!!!???」

 

ファ=ンが中国拳法の構えを取った瞬間、鈴の背中にゾクリと何かが走り抜けた。言われた通りに神経を集中した瞬間、ファ=ンが一気に間合いを詰めて拳を振るってきた。

 

「なっ!早い!?」

 

「はぁあああ!」

 

「うっ!!」

 

ギリギリの所で拳を避ける事の出来た鈴。だが、次の瞬間にはファ=ンの姿を見失ってしまい、左右をキョロキョロとして探し続ける。

 

「見失った!ど、何処!?」

 

「上ですわよ・・・」

 

リ=アの呟きと共にファ=ンが上空から落下し、蹴り技の態勢に入った。それは自分の故郷である『翠の地球』で鍛えられた少林寺拳法の師範から、見取り稽古によってモノにした技であった。

 

「舞えよ!ジャオロン!!無影脚!ハイハイハイハイハイハイィーーーーッ!!」

 

「うあああああ!?ア、ISで蹴り技なんて・・!?がはっ!?」

 

「確かにISで蹴り技だなんて前例がないでしょうね・・・けれど出来ない理由にはならないわ」

 

「う・・・ぐっ」

 

「言い忘れていたけど、私の全力は「無手」なの。つまり、拳法こそが本気で強い武器なのよ」

 

「な・・・んです・・って!」

 

「凰さん、確かに貴女は強くなっているみたいね。けれど上にはまだまだ上が居るし、そのくらいの強さでは世界に通用しないわよ」

 

「ぐ・・・偉そうに講釈たれてんじゃ・・・ないわよ!」

 

「そう、ならば戦いの礼儀として・・・全身全霊の一撃を貴女に出すわ」

 

ファ=ンは智拳印(ちけんいん)を結び、精神を集中させる。磨き上げた鏡のような、さざ波一つ立たない水面のごとき静かな心。怒りも憎しみもない、あるのは相手への敬意。それを持って相手を制し、勝利する事のみ。

 

「(激流から中流へ・・・音も無く静流へと流れ、雫が落ちていく)見えたわ・・・!水の一滴!」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『真・明鏡止水』発動]

 

 

推奨BGM『我が心 明鏡止水-されどこの掌は烈火の如く』

 

 

瞬間、ファ=ンと身に纏っている彼女の愛機が黄金色へと変化していく。相手の力の増大に恐怖ではない不思議な感情に支配され、立ち上がったまま動けない。

 

「(な、何これ・・・動けない・・・向かっていきたいのに、逃げ出したくもあるのに足が一歩も動かない!)」

 

「我が心、明鏡止水・・・!はあああああああ!!たぁっ!これが、私の教わった最大最強、最高の技!」

 

「いくわよ!流派、東方不敗の名の下に!!私のこの手が輝き唸る!!勝利を掴めと叫びを上げる!爆ぁぁ光!オルゴンフィンガァァァ・・・!」

 

ファ=ンの両手に生命である黄金色のエネルギーと、オルゴンのエネルギーであることを示す緑色のエネルギーが混じり合っている。

 

オルゴンは自然発生しているエネルギーであり、生命エネルギーとの融和は比較的相性がよく、簡単にできてしまっていたのだ。

 

「石破っ!!天驚ォォけぇぇぇん!!」

 

「きゃあああああ!!」

 

石破天驚拳に飲み込まれたと鈴以外の全員が思っていたが、鈴から逸れていた。否、ファ=ンがわざと逸らしていたのだ。アリーナの壁は穴が空いていたが修復できないレベルではない。

 

「あ・・・・あああ」

 

「まだまだ、功夫が足りないわよ?鍛え直しなさい。って・・・あれ?もしかして」

 

ファ=ンは腰が抜けている鈴を助け起こすと、アリーナの出入り口へと向かって歩いていった。あれだけの大技と変化を見てしまったのだから腰が抜けたのは当然だろう。

 

それと入れ替わるようにセシリアと留学生のリ=アが、アリーナの内部で対峙する。セシリアは不思議とリ=アが他人のような気がしなかった。

 

「それでは、お手柔らかにお願いしますわ」

 

「わたくしもファ=ンさん同じで、手加減こそ相手に対する最大の侮辱だと考えていますので、手加減はしませんよ」

 

「それでは、ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアが機体を展開するとリ=アは懐かしむように、かつ寂しそうな目でブルー・ティアーズを見ている。

 

「ああ・・・懐かしいですわ。かつてのわたくしと共に歩んでくれたバディとも言える機体」

 

「え?」

 

「ですがもう、過ぎてしまった事・・・あの子は最後までわたくしに謝っていた・・・だからこそ、力をお貸し下さい!ラフトクランズ(・・・・・・・)・ティアー!」

 

ラフトクランズ(騎士の剣)、その言葉と共に今、アリーナに居る全員が驚愕の表情をしていたのだった。




次回

蒼き雫と蒼き雫を宿した騎士の剣。


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蒼き涙を飲んだ騎士ともう一滴の蒼き涙

二つの蒼き涙が違う道を歩み、姿を変えて戦う。


リ=アが展開した機体はカラーリングこそ、ブルー・ティアーズと全く同じではあったが、姿は正にラフトクランズそのものであり、政征と雄輔も驚きを隠せなかった。

 

「ラ、ラフトクランズだって!?」

 

「いや、待て・・・あれはスタンダード・モデルだ。まだ、専用に改修されてないんだろう」

 

「雄輔、スタンダード・モデルって?」

 

「スタンダード・モデルっていうのは、騎士に任命されたばかりの団員が持つ事を許されるラフトクランズだ」

 

「?二人のラフトクランズと何か違うのかよ?」

 

一夏の質問に今度は政征が口を開いた。

 

「スタンダード・モデルのラフトクランズはバスカー・モードを使う事が出来ず、出力も抑え気味にされているんだよ。一夏や雄輔、俺が纏ったら重く感じるレベルの出力しか出ない」

 

「!けど、ラフトクランズに変わりはないんだろう?」

 

「ああ、変わらない」

 

「・・・・」

 

三人は再びアリーナに視線を戻す。三騎士以外のラフトクランズが現れた事で「白の地球」側の五人は驚いているが「翠の地球」側の留学生達は全くと言って良い程、驚いてはいない。

 

 

 

 

 

「ラ、ラフトクランズ!?政征さんや雄輔さん、一夏さんが使っている機体ではありませんか!何故、貴女が!」

 

「このラフトクランズは、わたくしが騎士団に入団し、機体を喪っていた為に譲渡されたものです。出力もあの二人に及びませんし、最大出力も出来ません」

 

「騎士団?」

 

「母国(翠の地球)における、わたくしの所属先ですわ。お喋りは此処まで、手合わせを始めますわよ」

 

「参りますわ!」

 

先に動き出したのはセシリアだ。得意とする武装の『スターライトmkIII』と名前の由来であるビット兵器『ブルー・ティアーズ』の組み合わせによる正確なスナイプ射撃だ。

 

「さぁ、わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でるワルツで踊りなさい!」

 

「ワルツは三拍子揃う事で成り立つもの・・・二拍子ではワルツになりませんわ」

 

リ=アはセシリアからの射撃をソードライフルをライフルモードにしたまま、回避を続けている。

 

「あ、当たらない!?何故、こうまで避けられるんですの!?」

 

「・・・・」

 

その理由はセシリアの性格と射撃技術にある。セシリアはスナイパー技術が優れており、ビットで相手を攻撃できる適正も高い。

 

だが、彼女の「正確無比に攻撃を当てなければならない」という思考が、リ=アにとってセシリアからの攻撃を避けやすくしている要因である。

 

訓練用ターゲットならば、既にパーフェクトとも言えるレベルで全て当たっていただろう。

 

だが、相手は訓練用ターゲットではなく、人が纏って操っている機体である。思考し、相手の考えを先読みし、動き続けるのだ。

 

セシリア自身もそのことを自覚して訓練を続けてきた。だが、リ=アの戦闘に関する技術、経験、心構えなどありとあらゆる面がセシリアよりも上なのだ。

 

「反撃に移りますが、この武装を試してみるとしましょう」

 

ラフトクランズの右腕に装備されている武装から銃口が現れ、アサルトライフルやサブマシンガンのような弾幕をリ=アが展開してきた。

 

セシリアも回避を行うが、弾幕によって誘導され、オルゴンライフルの単発モードのエネルギー弾に当たってしまっている。

 

「あううう!?あのガトリングのような武装で牽制しつつ誘導し、ラフトクランズのソードライフルのエネルギーの弾を本命として撃ち込まれているんですの!?」

 

「観察力に長けているようですわね?その通りでしてよ。おや?」

 

右腕に装備されたオルゴンアサルト(ガトリング)がジャムってしまった様子で、武装を切り離した。リ=アは慌てた様子もなく、冷静にセシリアへ視線を向ける。

 

「試作型でしたし、撃ち過ぎてジャムってしまいましたか・・・後で改善点を提出しなければなりませんわね」

 

「っ!隙あり!ですわ!」

 

「!」

 

『スターライトmkIII』の一撃を放ったセシリアであったが、シールドクローを掲げられ、その一撃を防御されてしまう。

 

「ラフトクランズの戦い方、映像からの見よう見真似ですがやってみせましょう!」

 

ラフトクランズのスラスターを全開にし、シールドクローを振り被り下ろして構えると同時にクローモードに切り替え突撃してくる。出力は抑えられていても、その速度は三騎士のラフトクランズに勝るとも劣らない。

 

「は、速い!ですが、インターセプター!」

 

セシリアの最大の弱点、それは接近戦への切り替えの遅さだ。だが、それを克服しており、ショートソードを取り出して迎撃しようとする。

 

「わずかに遅かったですわね!オルゴン・クロー・・・・!」

 

シールドモードからクローモードに切り替え、爪を展開したシールドクローに簡単に捉えられてしまう。

 

「あぐっ!?」

 

「逃がしませんわ!」

 

「きゃああああ!!」」

 

捉えてから僅かに上昇すると、直ぐに地面へ向けて落下しセシリアを叩きつけ、引き摺り回し、自ら回転し遠心力を利用して上空へと投げ飛ばす。

 

「これが・・・獣の爪の威力ですわ!」

 

「あっ・・がぁ!?(御三方のラフトクランズと変わらない威力・・・!これで出力を抑えられているのですか!?)」

 

「あまり、剣は得意ではないのですけれど・・・オルゴン・マテリアライゼーション・・・!」

 

ソードライフルをソードモードに切り替え、オルゴンソードの刀身を形成し騎士のように礼節を見せると同時に突撃を仕掛けた。

 

途中でオルゴン・クラウドを利用し、一気に間合いを詰めブルー・ティアーズに斬撃を加えるが、セシリアもタダでやられている訳ではなく、直撃だけ避けており期待も致命傷に至っていない。

 

「くっ!」

 

「やりますわね。僅かに機体制御をする事で、オルゴンソードの斬撃の威力を殺していましたわね?」

 

「わたくしだって、ただ闇雲に訓練していたわけではありませんわ!」

 

「なら、わたくしの最大の射撃をお見せしましょう・・・この機体で出来るかどうかはわかりませんが・・・!」

 

ソードライフルをライフルモードに再び切り替え、リ=アの表情から険しさが消え、何かを一点に集中し始める。

 

 

※推奨BGM 超獣機神ダンクーガより『Burning Rage』

 

 

「愛の心にて、悪しき空間を撃ち抜く・・・!」

 

その目に宿っているのは、人間が忘れた本能的『野生』と人間だけが体現できる『優しさ』の両方をリ=アは宿している。

 

「名付けて、断空青涙弾(だんくうせいるいだん)!!やぁぁぁってやりますわぁぁ!!!

 

長身のライフルを構える形で放った一発の青い弾丸。そのたった一発の弾丸はブルー・ティアーズに命中し、戦意を奪い取ってしまった。

 

野生による威圧と優しさによる緩和。それがブルー・ティアーズに干渉しシステムを止めるバグ攻撃になったのだ。

 

「機体が・・・撃たれたはずなのに、軽傷なはずなのに戦えないなんて・・・」

 

「相手を倒す事も一つの道でしょう・・・私は別の形で勝利をもぎ取らせていただきました」

 

「別の・・形」

 

「ハッキリ申しますと断空青涙弾(だんくうせいるいだん)は弾丸を放ちません。それと貴女は東洋の『気』や『魂』といった概念を信じますか?」

 

「っ・・・未だに半信半疑といったところです。それに弾丸を放たないとは一体?青いモノが見えていましたが」

 

「アレは、わたくしの中に眠る『気』を弾丸として発射しているのです。まだ不完全ですが・・・」

 

「あれで不完全!?非殺傷で勝利しているのに!?」

 

「今はまだ、ISの戦闘プログラムを停止させる程度しかできません。わたくしの目標は『相手を穏やかなままで戦闘を放棄させる』まで行く事ですわ。最もバディであった機体でなければ完全な物は生まれなかった・・・ラフトクランズ・ティアーではまだまだ到達できません。より精巧なものを求められてしまうのです」

 

「貴女は・・・もしや!?」

 

「その先は、また別の機会にお話しますわ。さぁ、フィールドから出ましょう」

 

リ=アは人差し指を立てて、自分の唇に軽く当てるとシーッとする仕草をした。セシリアに手を貸してフィールドから出ると同時に待っていたと言わんばかりに今度は、ル=ロットとシャルロットがフィールドへ入っていく。

 

 

 

 

 

 

「よろしく、ル=ロットさん!けれど・・・なんだか他人の気がしないね」

 

「ふふ、世の中には自分とソックリな人間が、三人は居るって言うじゃないか」

 

「アハハ、確かにね。じゃあ・・行くよ!リヴァイヴ!!」

 

シャルロットが機体を展開すると、ル=ロットも先程まで模擬戦をしていた留学生の二人と同じように、懐かしみを瞳に宿していた。

 

「ああ、懐かしいね。『ラファール・リヴァイヴ・カスタム』ボクも今使ってる機体を使う前はラファールのカスタムを使ってたから・・・」

 

「え?そうなの?」

 

「じゃあ・・・今度はボクも機体を展開するよ。おいで!『ベルゼルート・リヴァイヴ』!!」

 

本来のベルゼルートのカラーリングではなく、愛機であった『ラファール・リヴァイヴ・カスタム』のオレンジのカラーとベルゼルートの重要装甲部分が青くカラーリングされていた部分が逆になっている。

 

ベルゼルートの本来のカラーは重要部分が青、機体の大半が白、細部がオレンジのカラーリングだ。それが反転しており、重要部分がオレンジ、大半が白、細部が青に変えられている。

 

「!!そ、その機体!義姉さんが見せてくれたモノと似てる!?」

 

「(?もしかして・・・「白の地球」側のボクもカルヴィナ義姉さん、アル=ヴァン義兄さんと一緒に暮らしてるのかな?)そうなんだ。ボクもあの二人と同じように、手加減は最大の無礼だって考えてるから容赦しないよ?」

 

「うん、分かってるよ」

 

「じゃあ、手始めに・・・!この武装で戦わせてもらうよ!!」

 

ル=ロットが手にしたのは『ショート・ランチャー』と呼ばれる接近、中距離用の銃撃戦闘用の武装だ。まるで二挺拳銃を構える映画の主人公のように見える。

 

「拳銃で僕の相手をするって言うの!?」

 

「キミを侮っている訳じゃないよ。拳銃でも戦えるって事を教えてあげる!」

 

『白い山猫』を受け継いだ女騎士と疾風の名を冠した機体を駆る銃撃士。二人の銃口がお互いに向け合い、模擬戦が始まった。




次回

雨の日の仮面舞踏会


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白き山猫の異名を受け継いだ騎士と罪という名の仮面を被る騎士

白い山猫の異名は伊達じゃない。

仮面の下の涙を拭えない事を知る騎士の戦い。


『ショート・ランチャー』を二挺拳銃のように構えているル=ロット。射程距離ではシャルロットのアサルトライフルの方が圧倒的に上のはずだが、初弾を撃つ事が出来ない。

 

それは早撃ちされる恐れがあるからだ。弾幕を展開する方が有利と考えられる事が多いが、ISによる射撃戦闘において機動力と的確な射撃、そして銃弾の発射速度と位置を計算できる思考・判断力があれば、負けてしまう可能性が大きい。

 

「(けど、迷ったら負ける!)」

 

「(迷いは無いようで、不安定みたいだね。さぁ、どう攻めて来るかな?)」

 

「!!」

 

シャルロットは弾幕を展開しつつ、ル=ロットへ向かっていく。ル=ロットは冷静に弾幕を回避し、一撃一撃を相手の回避予測地点へ撃ち込んでいく。

 

「嘘!?この弾幕を避け・・・あうっ!?こ、こんな位置に弾幕が!」

 

「拳銃でも予想位置が解かれば、自然と誘導できるよ。無論、簡単に身に付く物じゃないけどね」

 

「そんな事を簡単に!(砂漠の逃げ水が通用しない・・・!)」

 

「ボクが所属先(聖騎士団)からなんて呼ばれてるか教えてあげる。それは『ホワイト・リンクス』だよ」

 

「!???(お義姉さんと同じ渾名!?)」

 

「もしかして聞き覚えがあった?けれど、そう呼ばれているだけで君の知っている名前とは別物だよ」

 

会話しながらもル=ロットの射撃は止む事はない。寧ろ、会話をする程に余裕のある戦いをされているのだとシャルロットは気づいてしまう。

 

「一人の女の子の話をしようか、それは騎士になるまでのお話だけどね」

 

「女の子?」

 

「・・・その子は産まれて直ぐ母と死別してしまった。残ったのは父親だけ」

 

「・・・(まるで、僕の話みたい)」

 

「その父親もいなくなり、孤独になった。其処に一人の騎士と伴侶に出会い手を差し伸べられ、その手を取った」

 

ル=ロットの拳銃射撃がより激しくなっていく、まるで感情を銃弾に乗せているかのようだ。だが、不思議と怒りは感じない。

 

「そして、ボクはその二人に鍛えられた。すごく過酷だったよ・・・そして最後の試験がボクの義姉さんを倒す事だった」

 

「っ・・・!?」

 

「すごかったよ。このショートランチャー、拳銃の技術も義姉さんから模倣したものだからね。模倣して模倣して自分の形に変えていったんだ。まるで、粘土を捏ねて形を変え続けて作品を作るみたいにね」

 

ル=ロットは『ショート・ランチャー』を拡張領域に収めると、今度はラフトクランズが持っているソードライフルと似た武装を展開してきた。

 

「え?拳銃から別の武器に!?」

 

「キミを侮っていた訳じゃないからね?この武器を展開しないと本気の度合いが伝わりにくいと思ったんだ」

 

ル=ロットが手にしているのは『ベルゼルート・リヴァイヴ』の最強の武装である『オルゴンライフル』だ。

 

「良い?この銃はボクの騎士としての剣だ。これが火を噴いた瞬間、フルスロットルで戦うからね」

 

「望むところだよ!」

 

「・・・・!」

 

瞬間加速を使い、オルゴンを利用した非実体の弾と実体弾を同時に放つル=ロット。彼女の弾道を冷静に見極めることの出来る様になったシャルロットはチャンスを逃さず、弾幕を展開し盾殺しを撃ち込もうとする。

 

「っく、この展開で接近戦を挑んでくることは解っていたよ!」

 

「え!?がはっ!?」

 

シャルロットは腹部に衝撃が走った事で呻いた。だが、それ以上に自分の腹部になんにが押し付けられているのかを見ようと視線を落とす。

 

「なっ!?」

 

「義姉さんに使った同じ戦法、ここで見せるっ!はあああああ!!!」

 

「うわあああああ!?」

 

ゼロ距離射撃のオルゴンライフルNを撃ち込まれ、シャルロットは吹き飛び、地に倒れる。ゼロ距離射撃の直撃を受けて、まだ立ち上がれる力があるのは軍事訓練のおかげだろう。だが、シャルロットは立ち上がるのがやっとだ。

 

「うっ・・・ぐううう」

 

「へぇ・・・義姉さんですら片膝を付きつつ、立ち上がるのがやっとの攻撃を両足で立ち上がるんだ。半端に鍛えてないってことかな?」

 

「く・・・ダメだ・・動かない」

 

「ブレード・・・」

 

ル=ロットはオルゴンライフルをBモードへ切り替え、緑色の光刃を銃口から発現させた。それはまるでガ○ダムが使うビー○サーベルのようにも見える。

 

「降参する?それとも、トドメを受ける?」

 

「参った・・・よ」

 

シャルロットからの降参宣言を聞いて、ル=ロットは光刃を収めた。本来ならこのような事を口にはしない。だが、こうしなければならないと自分の中でル=ロットは考えていたのだ。

 

「次はラストになるね・・・きっと驚くよ」

 

 

 

 

 

銃撃士同士の戦いが終わると、次はラウラとラ=ウがアリーナの試合場へと入っていく。ラ=ウは珍しく髪を纏めてポニーテールにしており、雰囲気も違って見える。

 

「今度は、私達が戦う番だな」

 

「そうだな。だが、勝つのは私だ!!来い!レーゲン!!」

 

ラウラは自信満々な様子で、己が負けるなど微塵も考えてはいない。ラ=ウはそんなラウラをかつての己自身と重ねていた。

 

かつて自分もこうであったのかと考えてしまう。他人ならば客観的に見る事は出来るが、並行世界の己自身ともなると意味合いが違ってくる。

 

どんなに別人だと考える事は出来ても、結局は『自分自身』に変わりはない。そんな自分の負の側面を目の前へ叩きつけられる現実は、どんなに強い人間でも応えるのだ。

 

そう、それはかつて清浄の騎士が味わったものと変わらない。

 

「どうした?貴様も早く機体を展開しろ!!」

 

ラウラからの催促に軽くため息を吐いてしまう。それはラウラへではなく、己自身に向けたものであった。

 

「良いだろう、お前やこの世界の奴らにも見せてやる。仮面の下の涙を拭えず、戦いの『理由(Reason)』を無くしていき『永遠の孤独』の中で終わらない『マスカレード(仮面舞踏会)』を続ける姿を!!」

 

「何を言っている?」

 

「レーゲン!テックセッタァァー!!」

 

 

[推奨BGM 宇宙の騎士テッカマンブレードより『テックセッター!!』1:15から]

 

 

『ラーサ!ISテックシステム起動、全身装甲化を開始』

 

「え?」

 

ラ=ウがクリスタルのような物を空へ向けるように掲げると、彼女の全身が紅と緑の光に包まれていき、次々と外甲とも言える装甲が展開されていく。ISは本来、展開すると脚部、腕部へ部分的に巨大な装甲が展開される。だが、ラ=ウのISは根本から展開の仕方が違っていた。

 

ラウラが使う機体と同じ名前を持つラ=ウの機体は、ラ=ウの全身を覆っていき、光が消えた瞬間、其処にラ=ウの姿はなかった。

 

「テッカマンレーゲン!!」

 

翠の地球において自分の家族が別宇宙の尖兵軍にされ、皮肉にもその尖兵達によって得た力を持って戦ったとある記憶。

 

この姿に成る度、あの人と同じ目の位置にある傷が疼き思い出す。家族を始め、愛する人との記憶すらも失いかけ、最後には己自身の存在すらも忘却しかけた英雄。その名はテッカマンブレード、今ラ=ウの姿はテッカマンブレードとそのライバルであったテッカマンエビルのボディの要素を掛け合わせような姿でラウラの目の前に立った。

 

「ぜ、全身装甲化タイプのISだと!?馬鹿な!それに、その姿は!」

 

「来い、ラウラ・ボーデヴィッヒ。お前の中に残っている傲慢まみれの僅かなプライドを打ち崩してやる!」

 

「ほざくなああああ!!」

 

ラウラはレールガンを連発するが、テッカマン特有のスラスターから生み出される推進、加速力について行けず回避され続けている。

 

「ぐっ!!は、早い!」

 

「今度はこっちの番だな?クラッシュ!イントルード!!」

 

テッカマンレーゲンは軽く上昇すると、スラスター部分を突撃モードに切り替え、緑と紅の光を身に纏い突撃していく。更に纏っている光が大空を舞う鳥のような形になり、翼を羽ばたかせていた。

 

「バカめ!そんな直線的な、ぐあああっ!?」

 

次々に体当たりを喰らわされ、動きも早くなっていく相手にラウラは防御が精一杯の状態にさせられいていた。

 

「がぁっ!がはっ!?ぐあっ!」

 

突撃形態を解除し、地上に降り立つテッカマンレーゲン。両肩から何かを取り出すような構えをすると、二つの射出口から何かを出現させ、それを連結させ、頭上で回転させた後にその鋒をラウラに向ける。

 

「これはテックランサー、この姿と力を使って戦い続けた人と私と全力で戦ってくれた相手の物を回収し、加工した物を宇宙の騎士の方々が託してくれた物だ」

 

「ふん、実体武器など光学レーザーの刃の前では役に立たん!」

 

「どうかな?行くぞ・・!」

 

バトンのようにテックランサーを回転させ、突撃する。だが、それこそがラウラの誘いだった。

 

「かかったな!停止結界!」

 

「ぐっ!?しまった!AICか!?」

 

「気づいた所で遅い!!ワイヤーブレードで!」

 

「があっ!うああっ!ぐあああっ!!」

 

AIC、かつてラ=ウ自身も使っていた武装兵器の一つである。自身で使っていた時は何も思わなかったが、相手に使われる立場に立ってその厄介な能力を理解した。その結果、自分が厄介な武装に囚われ、滅多打ちにされているのは皮肉としか言いようがない。

 

「これで、どうだぁ!!」

 

レールガンを撃ち込まれ、テッカマンレーゲンはアリーナの壁へとファ=ンと似た形で激突し、瓦礫へ埋まってしまう。

 

「偉そうな口を叩いていた割には・・・ん?」

 

「・・・・っ、懐かしい戦法だ。まさか、この戦法を自分が受ける事になるとはな」

 

ガラガラと瓦礫からテッカマンレーゲンが抜け出てきた。ダメージが蓄積されており、装甲が砕けていたり、傷だらけになっている様子だ。

 

「何を・・言っている?」

 

「良いだろう。私の本気を見せてやる・・・・」

 

[単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『マスカレード・イン・ザ・レイン』発動]

 

レーゲンが空手家が気合を入れるような構え方を取ると、緑と紅の光がレーゲン自身から溢れ出し始めた。

 

「うおおおおおおおおおお!!」

 

「な、なんだ!?何が起こっている!?」

 

ラウラは何が起こっているのか理解できず、白の地球の代表候補生達も同じ状態で放心しており、緑の地球からの留学生達はラ=ウの本気を久々に見れる事に笑みを浮かべていた。

 

「うおあああああああああああ!!!」

 

テッカマンブレードの鋭角な翼のような外装とテッカマンエビルの肥大化した上半身のような装甲、更にはワイヤーブレードが繋がれた状態で背中から垂れ下がっており、その中心の部分からは尻尾のような物まで出ている。

 

 

[BGM変更 宇宙の騎士テッカマンブレードより『マスカレード』]

 

 

「な、なんだ・・・その、姿は!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・これはブラスター化・・・進化する中で一つの形態に過ぎない姿だ」

 

「ブラスター化・・・だと!?」

 

「私はまだ良い方だ・・・この姿は私のISが・・・私の心を理解してなってくれた姿だからな・・・」

 

「何?」

 

「本来のテッカマンは地球を侵略する生体兵器だ・・・人間を取り込み、兵器にしてしまうモノがこの姿に変えるんだ。この姿は本来、肉体崩壊か記憶障害を引き起こす」

 

「なん・・だと・・」

 

ラウラは戦いながら、自分自身もなりたいと願っていた相手の姿の真実に驚きを隠せない。

 

「それでも、お前はこの姿を望むか?」

 

「う・・・」

 

「お喋りは終わりだ・・・行くぞ!テックランサー!!」

 

「そんなもの!何度来ようと停止結界で!ぐあっ!?」

 

背後からの攻撃にラウラが振り返ると其処には、自分と同じだが有線式となっているワイヤーブレードが一本、斬りつけていた。

 

「ワイヤーブレード・・・・!いつの間に!?」

 

「ふんっ!」

 

「うぐああああ!」

 

テックランサーの横薙ぎの一撃を受けて、ラウラが怯む。その隙を逃さず、ワイヤーブレードで締め上げると同時に、投げ飛ばし、体制を立て直せない状態を狙い両腕四つ、両肩五つの18の砲門を展開し、エネルギーを収束させていくがエネルギーの規模が本来よりも小さい。

 

「今の私は出力を調整し加減できるようになった・・・!コイツでこの勝負のケリを着ける!!」

 

その様子を見ていた翠の地球の留学生達は此処に来て、驚きの表情を表に出した。

 

「まさか、アレをやる気!?」

 

「出力は抑えてるみたいだけど・・・!」

 

「直撃コースですわね。タダでは済みませんわ」

 

留学生達が話している中、レーゲンは発射態勢に入った。一度のテックセットで一度だけの、テッカマンが使う最大最強の武器を。

 

「うおおおおお!!AICボルテッカァァァ!!!」

 

「なぁっ!うわああああああああああ!!」

 

相手を停止させるAICの特性を持つボルテッカが直撃したラウラは落下し、その場で倒れてしまった。出力を抑える術を身に付けていたラ=ウの力によって機体が修理可能ギリギリのレベルの損壊のみにとどまっていた。

 

もし、ラ=ウが本来の出力でボルテッカを放っていたのなら、ラウラは間違いなく死亡し肉片一つ残らなかっただろう。

 

「うっぐ・・・ぁ」

 

「はぁ・・・はぁ・・これが・・・私の覚悟・・だ・・・!レーゲン、テックセットを解除・・・だ」

 

『ラーサ!ISテックセット解除します』

 

テッカマンレーゲンからラ=ウの姿に戻ると彼女はひどく疲労していた。ゆっくりラウラに近付き、助け起こした。

 

「う・・・何を」

 

「私のせいでこうなったからな、手を貸すのは当たり前だ・・・。お互いにボロボロだが・・・」

 

「すまない・・・。!その目の色と傷は!?」

 

「これか?コレはお前のその眼帯の下にある物と同じだ。それから傷の方は、私がテッカマンとして戦う事を決意した証だ」

 

「決意・・だと?」

 

「詳しい事は機会があれば話そう。今は・・・機体修理と傷の手当てが最優先だ」

 

ラ=ウが肩を貸しラウラと共にアリーナか出て行った。そして、全員の模擬戦が終わった所である事実に気づき始める。

 

そう、特訓で強くなったと思っていた白の地球側の候補生達全員が完敗してしまったのだ。それも、本気ではあっても全開では無いという手加減された状態で、だ。

 

そんな中、箒は自分の両腕を掴みながら震えていた。この留学生たちの実力はなんなのだ?と。自身も訓練を乗り越えてきたからこそ、その実力が理解出来てしまったのだ。

 

「(私なんて足元にも及ばない・・・!実力差がありすぎる!こんな事では!)」

 

 

 

 

 

その頃、従者である虚に頼みアリーナでの模擬戦を映像越しに見ていた更識楯無も、箒と同様に顔を青くして震えていた。

 

「な、なんなのあの子達は!?全身が金色になったり、銃弾が無いのに銃弾を撃ったり、エリートクラスの代表候補生が何年かかっても到達できない技術を習得していたり、おまけに全身装甲化まで!?」

 

「彼女達の実力は、代表候補生ではありません。国家代表・・・いえ、世界で五指に入るレベルになっているかと」

 

「・・・・っ」

 

楯無自身も従者の虚の言葉に納得する。手合わせを願う前に彼女達の実力を知れて良かったと思わずにはいられなかった。

 

だが、此処で一つの懸念が浮かび上がった。留学生としてこの学園に来ているが、何故この留学生達は実績がないのかと。

 

「虚ちゃん、頼んでおいた彼女達の実績のデータとプロフィールは?」

 

「こちらになります」

 

「ファ=ン・ウィルトス・・・凰鈴音と同じ中国出身、代表候補生を辞退・・・小規模の大会で連戦連勝し以降、大会から姿を消す」

 

「リ=ア・ナトゥーラ・・・セシリア・オルコットと同じイギリス出身、代表候補生を辞退・・・機体の乗り換えが間に合わず、全ての大会を大小に関わらず参加不可能であった為、実績不明」

 

「ル=ロット・アストルム・・・シャルロット・デュノアと同じフランス出身、代表候補生を辞退・・・小規模の大会で準優勝ばかりの二番手の結果を残し、機体開発の為に以降大会に参加せず」

 

「ラ=ウ・エテルナ・・・ラウラ・ボーデヴィッヒと同じドイツ出身、代表候補生を辞退・・・大会参加はせず、大会実績は不明」

 

四人のデータを見て楯無は懐疑的なものを感じている。この四人は全員代表候補生を辞退しており、大会も優勝や準優勝などもしているが、どれも公式的に実績にならない大会ばかりだ。

 

他の二人は自ら参加できなかった出来事や、自分から積極的に大会に出なかった事が書かれている。

 

「何よこれ・・・!?ほとんど実績にならないものばかりじゃない!!」

 

「ええ・・・この四人のデータに関しては、出身国から閲覧制限が掛けられているみたいでして」

 

「!?」

 

「これ以上のデータは閲覧できないみたいなんです。もちろん、裏側(・・)を使ってもダメでした」

 

「そこまで厳重にされているなんて・・・」

 

「ただ一つ、分かった事があります」

 

「?」

 

「閲覧制限をかけたのはアシュアリー(・・・・・・)・クロイツェル社(・・・・・・・・)でした」

 

「!?あの、世界的大企業の!?」

 

「はい。あの大企業は世界中に支部がありますし、データの閲覧制限くらいは簡単でしょう」

 

「っ・・・アシュアリー・クロイツェル社が相手となると分が悪すぎるわ。裏側(・・)でもあの企業は対策を施しているでしょうし」

 

「そうですね・・・あの留学生達に関しては謎が深まるばかりです」

 

 

 

 

 

 

更識楯無がデータを手に入れる四日前。『白の地球』のアシュアリー・クロイツェル社、社長室。ここでは厳重なクラッキング、ハッキングなどが施された部屋で翠の地球(・・・・)側のアシュアリー・クロイツェル社の社長代理である紫雲セルダが社長と話していた。

 

「まさか、次元境界の向こう側にある同社に協力を申し立てられるとは思いもしませんでした」

 

「こちらこそ、並行世界であるそちらの同社の協力を得られた事を感謝致します」

 

「いえ、其方の事はうちの技術開発部長と協力者(・・・)に聞かされておりましたからな。それで、本題は?」

 

「其方との技術提携。それは会社の面として・・・翠の地球(・・・・)の聖騎士団としては此方から送り込んだ四人の騎士のバックアップをお願いしたい」

 

「バックアップ・・・?具体的には?」

 

「四人の実績やプロフィールに関する情報を此方から提出します。それを公式な情報とした後に閲覧制限をかけて欲しいのです」

 

「そのくらいの事ならば構いませんが、他には?」

 

「では、協力者(・・・)に関する事を教えてくださいませんか?データを転送して下されば良いです」

 

「・・・・良いでしょう。ですが、協力者(・・・)に関しては名前だけしか公開できませんので」

 

「構いません」

 

「では」

 

端末を操作し、協力者(・・・)の名前のデータを次元通信にて送るとセルダは驚きと共にやはり、といった表情を顔に出した。

 

それは三人の騎士、そして自らも忠誠を誓う皇女の名前があったからだ。

 

「ありがとうございます、送られたデータはこちらで削除しておきました。無論ジャンクファイルも」

 

「では・・・」

 

「通信越しですが、翠の地球と白の地球・・・双方のアシュアリー・クロイツェル社の業務提携及び聖騎士団への協力を此処に両者共に承認しましょう」

 

『白の地球』のアシュアリー・クロイツェル社と『翠の地球』のアシュアリー・クロイツェル社。お互いに、電子承認し業務提携という名の同盟を結んだのだ。

 

同盟名称は『白の聖騎士団』『翠の聖騎士団』となった。そして、業務提供と同時に会議が始まった。

 

「さて、最初の問題はお互いの地球への次元移動用の地図を作らねばなりませんね・・・」

 

「その通りですね。では、会議を始めましょう」

 

社長同士による重要会議が始まり、次元移動に関する事を話し合い始めた。これが『翠の地球』の四人のデータが閲覧する事が出来なくなった理由であった。




『白の地球』側は箒以外が戦いましたが『翠の地球』側の女性騎士チームに全敗し、箒もその高い実力を肌で感じて恐怖しました。圧倒的に実力に開きがあっても各々が一撃を加えられてますので『白の地球』の彼女達が弱い訳ではありません。

特にラウラとセシリアが一番、心に来るモノがあったはずです。

情報制限によって四人は生徒会長に怪しまれていましたが、世界的大企業相手では流石の更識も迂闊に手が出せません。

次回は『白の地球』の箒が『翠の地球』の四人の女性騎士達と接触し、話を聞きます。

唯一戦っていない彼女からの接触、それは『翠の地球』の四人の女性騎士にとって忌むべき事ですが、彼女達も別人だと分かっています。

では、次回に。


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