翼の少年 (Rimon Nikus)
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第0話 プロローグ「悲劇の大戦」

規模の大きすぎる戦いは、命と国を滅ぼす『核爆弾』。


神飛族(しんひぞく)』。

 

背に金色に輝き、自由に飛行することができる翼を持ち、子孫繁栄と、王国および平和の安定のために戦う亜人族、または民族のことを指す。

 

 

 

かつて繁栄していた、国王「ユウキ」が治める『ユウ王国』。

科学、魔法学においてこの国で優秀な成績を収めた者は多く、なにより交流が盛んな王国である。

 

当時国は貧困手前で対策を模索している状況が続いていたなか、王ユウキは、「様々な種族がふれあい、文化を差別することなく受け入れ、皆が平和に暮らせる国」を目指すため、父の跡を継いで国王に就任する。

物流の停滞した状況を打破するため、王ユウキは、まず亜人種間での異文化交流を全面的に認め、各種族間の繋がりを深めるために、国家間の交流に全力を尽くした。

もともと異文化に寛容な神飛族の民は、様々な種族と交流し、多くのヒトビトがその文化を受け入れたとされているが、国自体がそれを認めたことで交流はさらに加速。

効果は絶大であり、多くの民族から信頼されたことで、物やヒトの移動が絶えない国になるのに時間はさほどかかることなく――

 

いつしか、神飛族だけでなく、エルフ族、人魚族、ケモノ族、妖精族、天使族…などなど、様々な種類か交流し、ヒトビトや物の移動が活発に行われている、いわゆる亜人たちの集まる混合王国へと生まれ変わった…。

 

それぞれの文化を合わせた混合文化も登場し、科学と魔法学の両方を推進したことで様々な技術革新も行われるようになり、文化は進化。

ユウキが国王となって10年の月日が経ち、種族間の結束は強固なものとなり、平穏で、娯楽と交流に満ちた日々を保っていた……。

 

 

一方、そのような状況を快く思わない国家も存在した。

 

 

「アバロ皇帝」が治める『アバロ帝国』。

特に魔法学においては他国を凌駕する水準を誇り、また体が強い者が多く、軍事力においては絶対的な自信を持つ。

 

元々は人間が暮らす平凡な国家であったが、アバロ一族が台頭したことで体制は変化し、強力な国家となる。しかし、徴兵制となり、またその際に洗脳教育を施すことで愛国心を強化していった。

当時唯一の奴隷大国でもあり、主にエルフ族や人魚族の少女を秘密裏に誘拐している。エルフ国などでたびたび失踪事件が発生しているが、大体はこの国の手先によるものである。

また人身売買により奴隷を近隣諸国に輸出する場合も多く、その関係から特にオーク族、悪魔族、キメラ族、獣人族などと深い繋がりを持つ。

『ユウ王国』およびその近隣諸国からはかなり警戒されてしまっているため、最近は人身売買による利益が減少している状況であった。

 

 

 

国自体がファシズム体制であったこと、独裁的主義であったことも影響し、周辺の国家が警戒したことで帝国は弱体化してゆくが、アバロ一家はこの状況をいつまでも黙ってみているわけはなかった。

そしてこの状況を打破するために周囲の帝国に対し連合帝国条約を締結し、連合帝国軍を結成。

この条約の締結が悲劇の引き金(トリガー)となり――

 

 

 

12月8日、アバロ一家率いる連合帝国軍はユウ王国とその近隣諸国を襲撃。

 

 

 

ユウ王国はこの事態を受け、エルフ国をはじめとした周辺諸国の関係を強化したうえで応戦するが、帝国軍の強力な攻撃にはどの国も耐えることが出来ず、次々と陥落。陥落された国の住民がユウ王国に次々と避難(疎開)する事態が相次ぐ。

4年後、戦争の終盤ではユウ王国のみが周辺諸国を占領された状態で孤立、王ユウキは「最後の手段」と称し全軍を自ら率いてアバロ帝国に突撃するが、最期はアバロ皇帝の攻撃に倒れ、ユウ王国は陥落された。

これにより、陥落された国家は侵略され、強大な支配政権の誕生が約束されたと思われた――。

 

 

 

ユウ王国の陥落から3日後のこと。

航空戦力や科学の分野が盛んであり、ユウ王国ほどではないが、サラダボウル国家として多数の種族の共存を推奨している『メルコ合衆国』が、突如中立を放棄し、ユウ王国側を支援する声明を発表したのである。

また、声明発表の夜にステルス爆撃機がアバロ帝国をはじめとした連合帝国軍の首都を爆撃したことで壊滅状態に陥り、壊滅による混乱に乗じてメルコ軍は帝国軍を急襲。

アバロ皇帝はこの急襲によって殺害されたことで政権が崩壊し、帝国軍は解体。帝国軍下に置かれていた国、帝国軍に支配されていた国もろともメルコ合衆国に占領される形で、戦争は終結した。王国側諸国の主権回復はこの3年後、帝国側諸国の主権回復には8年間の時間を費やすことになる。

 

 

この戦争による死者および行方不明者

連合王国軍被害

死者 兵士 約4,800,000人 民間(国民) 推定12,000,000人 行方不明者 推定400,000人

連合帝国軍被害

死者 兵士 約200,000人 民間(徴兵) 推定600,000人 行方不明者 推定100,000人

 

この戦争により、連合王国側は過去最悪の被害を受け、連合帝国側も強制徴兵による死者数は多大な被害を被った。

後にメルコ合衆国の調査により、行方不明者は主に15歳未満の子供達がほとんどを占めていること、おそらくそのほとんどは奴隷として売り飛ばされた可能性があることがわかり、王国側からの依頼を受けメルコ軍は奴隷市場や売春所等の摘発、そして行方不明者の捜索を行なった。

しかし王国側諸国が主権を回復するまでの3年の月日が流れても、救出された割合は全体の3割程度しか救出出来ておらず、帝国側諸国の主権を回復する8年後には、「残念ながら、残りの身元の確認が出来ないためこれ以上の救出は不可能」とされ、捜索は打ち切られた。行方不明者の家族は泣き崩れた者が多数を占め、あまりのショックに自殺する者もいたという…。

 

 

この戦争は後に、全世界の文献や教科書に記載された。

過去最悪の犠牲者を出した、「悲劇の大戦」として——




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月数回の更新を目指してみようかな?
これからよろしくお願いします。


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第1話 調査依頼

あの「悲劇の大戦」から1世紀が経過した。
もう、あの過去を直接知る者は、この世にいない。

いつまでも、永遠に。


 

 

 

 

ユウ王国。

 

かつて戦災によって荒廃したはずのこの国は、メルコ共和国の支援のもと復興作業が進められ、現在ではかつての活気…程ではないものの、自治権を回復し豊かになっていた。

 

あの時と変わらない、平穏な生活。

 

 

そんな平和な日々のなか、ユウ王国王都ではある調査依頼が届いた。

 

 

「とゆーわけで、コウキにはその辺境の地にある小さな村の実態について調査してもらいたい!!」

 

そう元気な声で頼んだのは、まだあどけない印象のある見た目だが、これでも現在ユウ王国のトップとして国を支えている【第5代ユウ王国国王】、弟の『リツキ』(広崎 立輝)である。

 

「……ちょっと待て、部屋に入ってきていきなり辺境の地の村を調べてくれって言われてもどういうことだよ、意味わからんわ」

 

リツキの発言に対し呆れた声で返したのは、1時間前に小説を買ってしばらく読みふけっていた、神聖武器【オール・ソード】の使い手である【翼の少年】、兄の『コウキ』(広崎 光輝)である。

 

「そのままの意味じゃよ! 王国連合のエリアの端っこに最近、小規模ながらも賑わってる村があるみたいでな! どんな村か気になるから見に行ってもらいたいんじゃ!」

 

リツキは相変わらず完結に答えた。大体の依頼は突拍子なくやってくる事が多くコウキはいい加減依頼仕事に慣れたつもりだったが、新しく村が出来たからそれの実態見に行けといきなり言われても意味不明である。というかぜってー公務と関係ないだろ。国から派遣する必要性すらない気さえする。

 

「……いや、国王補佐役としてリツキをサポートするとは言うたけどさ、最近パシリ具合がひどくね? 最近も必要物資の買い出しはともかく、しょうもなく小規模なお願いを解決しまくったり、捨てられたごみを回収しに走り回ったり、挙げ句の果てには建物の補修や修理をしたり、本来は俺以外の奴でも出来そうなことを繰り返してる気が……。」

「だって困ってる人々を助けたいんじゃよー!! でも国王としての仕事も大事だから代わりにコウキに頼んじゃってるわけで〜……。」

「…………はぁ……。」

 

コウキはため息をつく。……なんていうか、考えてることというか内容には別に文句はないのだが、もう少し他の部下に適切に役割を割り振ってやれよと思う。自分の「頼り所」はもうちょっと他にあるはずなのだから。

でも買い出しくらいは自分で行ってこいよ……。日用品や食材等はともかく、私物の購入とか絶対俺必要ねぇだろ…。

しかし、先程の依頼の話の内容から察するに、恐らくここ数日はなかった遠距離出張の依頼ではないかという予想は大体ついた。久しぶりの出張となれば、調査しながら他国の文化を知る機会にもなるであろう。……とポジティブに無理やり考えることにした。そうでなければ無茶がたたりすぎてたぶんどっかで折れると思う。

 

「…とりあえず、依頼の情報提供元を教えろ、場所がわからないと動けん。」

「おお、乗り気になってくれたか!!」

「そういうわけじゃない、場所と情報を聞いてから判断する。」

 

とりあえずコウキは依頼の情報を聞き出す。場所と内容等の情報は出発前に出来るだけ聞いておかないと後で調査に難航しかねないからだ。しかし、リツキから帰ってきた言葉は——

 

「残念ながら、分からん!」

「……は?」

「だから、提供元の情報が一切ないから分からんってことじゃ!」

 

分からない、ってちょっと待て、分からない!?

予想外のリツキの発言にコウキは驚いて固まってしまう。

というかそんなこと今まで一切聞いてないんですが。どう切り返したらよいものか。

 

「……あの、なぜその提供元が分からないのか教えて欲しいんだが。」

「簡単に言えば、匿名で送られてきた、ってことじゃな。依頼の手紙に宛先としてここの住所は書かれてあったが、相手の住所及び名前は書かれていなかったんじゃ。」

 

ユウ王国では、配達や手紙等を送るための情報には、送る側と受け取る側で、それぞれの名前と住所が必須であるが、依頼書に限り宛先のみ書いた場合でも届くようになっている。リツキが王に就任する以前、ずさんな管理によって依頼書の情報が内部で漏洩したという事件があり、それの対策としてリツキが就任直後にこのような規則を制定した。

 

『依頼書、報告書等の個人情報等が含まれている書類は厳重なセキュリティ対策が可能であるコンピュータを用いて管理すること。』

『頂いた依頼書や、すでにある書類はスキャナを通して電子文書化してから、紙の書類はシュレッダーにかけること。ただし重要な書類(国家首脳会議)等の文書はスキャンせず、紙の媒体のまま指定の場所に厳重に管理すること。』

『以上の書類は国王、そして国王が直々に選出した者(幹部。最大10名)のみ閲覧できる。編集は改ざんにあたるため行ってはならない。』

〜中略〜

『依頼書は個人情報等の漏洩の危険性を考慮する場合も考え、宛先のみでも受け付け可能とし、送り主、その住所等の記述は任意とする。』

etc…

 

この規則により、厳重な管理、そして個人情報等は依頼書には任意で記すことになっているため、漏洩によるリスクは限りなく減ったとも言える。しかし裏を返せば、「依頼書の信憑性を確認する為の情報も任意ですよ」ということになる。

そしてリツキから先ほど伝えられた依頼はまさしく「信憑性の確認が不可能である依頼」第1号であった。

確かそんな規則あったよなぁ……と頭の中の深い記憶を掘り起こしつつも、コウキはリツキに進言する。

 

「あのな、依頼者のプライバシーを守りたいっていうのは賛成だけどさ、依頼を受ける側からすれば依頼者の情報がないと非常に困るんだよ。誰だって得体の知れない依頼をホイホイ受けますよなんて奴普通いないだろ? 」

「……だってその時は、情報を粗末に扱う馬鹿しかおらんかったんじゃもん……。じゃけん徹底的に漏洩を防ぐためにああいう規則を設けたのに……。」

 

リツキが落ち込んだ返事で返してきた。コウキ自身もどう答えたら良いかなと考えながらリツキにアドバイスを加える。

 

「だが、その『情報を粗末に扱う馬鹿』はもういないだろう? それに今は幹部制だ、その規則を定例会議で話し合って少しずつ手を加えていけば良いんじゃないか? 施行してから多分1度も修正してないだろ?」

「しかし、修正といってもどこを修正したら良いんじゃ……下手したら今ある規則や法律を崩しかねないぞ……。」

「それじゃ新たに問題点が新たにでるかもしれないし、というか現に出ているし、それを修正していかないと国や時代に合わせた規則や法律にはならない。

1人で丸ごと規則や法律を考えるとかいう無茶はするな。お前の他にも、俺と幹部がいる。一緒に考えてくれる奴は周りにいるだろう? 宿題と同じように、分からないことはそいつらに積極的に頼ればいい。そいつらと一緒に問題を解決していくことで、より良いものに出来るんじゃないか?

王国は1人で支えるんじゃない、みんなで支えていくんだよ、そうだろう?」

 

上手く言えたかどうか分からないが、とりあえず自分の意見をぶつけてみた。

コウキの意見を聞いていたリツキは、どこか悔しさを滲ませる声で返してくる。

 

「……かなわんなぁ、コウキには……。ワシもまだまだじゃな……。」

「何言ってんだ、あの無能な先代に比べればよほどいい法案をいくつも思いついてんだぜ?(パシリの件はともかくだけどな)

前と比べてどうみても理不尽な法律がなくなっただけでもかなりの功績だと思うぞ?」

「褒めるでない……考えるのも大変なんじゃよ」

「…素直じゃねえな、わかったよ」

 

話がひと段落したところで、誰かがドアを開けて入ってきた。

 

「失礼します。リツキ様、お客様です。今は応接室に……」

「ん? ああ、すぐ行く、ちょっと待ってな」

「んお、もうこんな時間か」

 

時計の針はもう午前10時前である。この時間帯になるとリツキはお偉いさんらの応対が増えてくる頃であった。

ユウ王国は他国と多くの関係を結んでいるため、仕事や会談等でお客が割と多いのである。

 

「……とりあえず、その依頼については申し訳ないが保留ということにしといてくれ」

「そうか、いきなり無茶な依頼出してすまんかったの」

「その代わり、もしこの件に関連する情報が入った場合はまた教えてくれ、それに応じて考える」

「わかった、さて…ワシは応対してくるとするかの…」

「おう、頑張れよ」

 

その言葉をラストに、依頼の相談は終了した。部屋にはコウキ一人が残された。

 

 

 

「……『辺境の地』ねぇ……。」

 

自分が知らない場所のはずなのに、どこか思い当たるような感じで呟いていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

3月4日 深夜3時 ユウ王国 情報管理室内

 

 

 

◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ 100%

 

速報 データ 受信

 

・「辺境ノ地」ノ 場所 ジャーメル共和国 ノ 西側 ノ 可能性 アリ

・各国 ノ 行方不明者「辺境ノ地」デ 保護 サレテイル 可能性 アリ

各国 早期確認 トトモニ 迅速 ナ 対応 ヲ 推奨

 

報告

ユウ王国

タイガ シミズ

 

 




Next 第2話 旅立ち

……グダる((


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