Fate/Grand Order-Veritas- (蒼天伍号)
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プロローグ

ついにやってしまった……

ぼくのかんがえたさいきょうのサーヴァントでオレTueeeな作品を投稿してしまった……!!


思えば、何の面白みもない人生だった。

 

 

 

見渡す限りの真っ白な空間を漂いながら(・・・・・)、俺はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出すのはつい先ほどのこと。もはや恒例行事となった残業を終えてくたびれた俺は、帰路についていた。

仕事先は都心ゆえに夜が更けても喧騒の中にあったが、郊外に当たる我が家周辺に差し掛かれば見事に静寂に包まれた深夜の住宅街だ。

人っ子一人居らず周囲の家々にも明かりは無く、ただ静かなだけだ。

 

皆さん健康な生活を送っておられるようで。

 

ぼそりとそんなことを呟きながらもポケットを漁りスマホを取り出す。

歩きスマホとか日中にやれば危なくて仕方ないが、幸い今は深夜なので事故ることはない。たまに車やバイクやら通るが辺りが静かすぎて近づく音は嫌でも耳に入るし避けることなんて楽だ。

 

ホームボタンを押してスリープ状態を解けばお気に入りのキャラの画像の上にデカデカと日付と現在時刻が表示されていた。

 

01:50。どうやらとっくに日付を跨いでいたらしい。我ながら遅くまでご苦労なことだ。ここから更に歩いて三十分はかかる。その頃には二時を過ぎているだろう。どう足掻いても十分以上に短縮はできそうにない。

 

明日も早いというのに。

 

ため息が漏れそうになるが、ため息ひとつで幸せが一つ逃げて行くとどこかで聞いたことがあるので我慢する。

というかこれ以上現実を見ていると寝付けなくなりそうだし早速現実逃避に走る。

逃げることに関しては俺の右に出るものなどいないからな。

 

ポチポチと画面をタッチしてロックを解除、ホーム画面をスライドさせてお目当のアイコンをタッチする。

……と同時に素早く縦持ちから両手の横持ちにスマホを持ち替える。

今からやろうとしているアプリは横画面仕様だからな。

 

真っ暗な画面の右端で必死に走り続けている四足歩行の獣にほっこりしつつ、すでにワクワクしている自分に気づく。

なんてったってこのゲームは飽きっぽいことで定評のある俺が唯一一年以上続けているものだからな。そりゃあロード画面でワクワクしてもおかしくない。

 

そうこうしていると画面はいつの間にかキャラ説明に移り変わっていた。

この仕様になったのもつい最近というか、最初期からプレイしている俺としては未だに改善と改良を続けている運営様と偉大なるシナリオライターに尊敬の念を抱いてしまう。

 

もうお気づきの方もいるかもしれないが今から俺が始めようとしているのはかの有名な『Fate/Grand Order』である。

型月厨の皆様方や古参のFateファンの方には耳にタコかもしれないが簡単に説明するとこのゲームは英霊という史実、伝承の英雄達を使い魔サーヴァントとして連れ歩き世界を救うお話だ。

サーヴァントたちは皆誰もが個性的で、善悪バラバラなくせに魅力的で見ていて飽きないし、そんな雑多すぎる集団をなんやかんやあっても率いてしまう逸般人の主人公が織りなすストーリーがとても面白くてさらに飽きさせない。

特に第一部の最終章とか涙なしでは見られなかった。

 

そんなこんなで俺は人生で初めてオンラインゲームを一年以上続けてしまっている。

幸いというかお給金はたんまりもらっているので課金などし放題だ。そのぶん、残業とか急な仕事が入るなどで自由な時間が無くなっているが。

 

考えつつ、歩きつつ、俺はタイトル画面をタッチし、早速ゲームを始めていく。早々にお知らせ画面が飛び出てくるが素早くタッチして閉じる。この動作も慣れたものだ。

左手に浮かんでいるのは我らが英雄王。半裸でほくそ笑むその姿は彼だからこそ許された所業にも思える。

 

あ、スタミナが……

 

とりあえず種火周回でもと思ってたらスタミナを表すAPが39と表示されていた。そういえば電車の中でも種火を回っていたので減っているのは当たり前だった。それにしてもここまで減ってるとは思わなかったが。

 

とりあえずあと二分ほどで一メモリ回復するそうなのでおとなしくこのまま待つことにした。

 

十秒。

 

二十秒。

 

三十秒。

 

歩きながらジッと減って行く回復までの時間数を見つめている。……しかし、なかなかにもどかしい。こうしていると二分というのも存外に長く感じられた。

 

気晴らしにと目線を画面外、即ち現実世界へと戻す。相変わらず静まり返った住宅街でしかないが……ふと、辺りを見渡す俺の耳に気になる音が聞こえてきた。

ブンブン、と品のないエンジン音が静寂の世界に響き渡る。それは段々とこちらに近づいてきていた。

 

うるさいなぁ、近所迷惑だからそういうのは国道とかでやってもらいたいものだ。

 

おそらくはハッチャケちゃってる若者あたりだろうと思いつつ、ふと、音の聞こえる前方に視線を移した。

 

すると、そこには今まさに大通りを横断しようとしている女子高生らしき少女。こんな時間に危ないなぁとか思っていると、その奥、カーブになっている道路の先からちょうど車が現れた。先ほどから聞こえるエンジン音を響かせながら。

車はその音に無駄に見合うほどに凄いスピードでこちらに迫ってきた。

このまま行けばタイミングよく横断中のJKと激突するほどの勢いだ。

 

あれ?これって、やばくね?

 

即座に思考を回転させる。この場には俺とJKと暴走車。このまま行けば数秒で事故案件。

あれ?これ物凄く既知感があるぞ?たぶんネットとかで良く目にしていた展開、俗に言うテンプレ的転生案件。

 

うわー、マジか。これマジか。俺助けないとあの娘死ぬ系?うそだろおい、さすがに目の前でうら若き少女がバラバラになるなんてシーンはゴメンだぞ。

 

ちなみにこの間実に二秒。我ながら非現実なことに対しては恐ろしい速度で頭を回転させられる人間だ。

 

とか言ってる間にも車は迫ってきている。で、お約束みたいにJKは車に気付いていない。

どうする?声をかける?いやダメだ、間に合わない。

ならば助ける?それこそ不可能だ。彼女と俺は結構距離が離れていて、『危ない!』って突き飛ばした上で俺がボカーン!みたいなこともできない。

 

ありていに手遅れ。

これもう無理だな。早々に諦めた俺はせめてスプラッタシーンからは目を逸らそうとして……不意に思い出した。

 

俺が今手に握るスマホの中に出てきた人たちは、主人公は絶望的な状況に陥っても決して諦めなかったことを。それに倣うように他のキャラたちもそれぞれに希望を見出して強大な敵に立ち向かっていた。

 

……でも所詮はフィクションだ。こんなのは作り話で現実でそんなことしても奇跡的にハッピーエンドに繋がることなんて皆無だ。それは俺が一番よく知っている。

頑張れば必ず報われるとか誰かが助けてくれるとか、そんなものはまやかしに過ぎず、出過ぎた真似をした者は無慈悲に叩きのめされて放逐される『運命』にあると。

所詮、この世は無慈悲だ。不条理なまでに秩序付いている。それは貧富の差とか関係なく、ただ単に“運が良いか悪いか”。

 

きっと、ここで俺が出て行けば最悪の結果に終わるだろう。これ以上ないほどに。

 

無駄、無価値、無慈悲。それでいい。俺はそういう人間なのだから。

 

 

 

 

……だというのに。

 

なぜこの脚は駆け出しているのだろう?なぜこの口はしきりに彼女に注意を呼びかけているのだろう?

なぜ、俺はこんなにも必死になっているのだろう?

 

パッパァー!!

 

気付けば俺は彼女に手を伸ばしていた。あと少し、あと少しで手が届きそうな位置まで迫ったところで横から眩しいほどのライトが照らし出していた。

車もまた俺と同じくらいに迫っていたのだ。

 

くそが、何クラクション鳴らしてやがるんだ。もう手遅れだろ。あー、やっぱダメだったわ。しゅーりょー。この後俺とあの娘は仲良くスプラッタに……

 

直後、これまでの人生で間違いなく最大であろう凄まじい衝撃を感じた。すぐに左半身が潰れたのがわかった、同時に視線の先で彼女の半身が歪に捻じ曲がるのも。

 

まったく、どうしようもなくクソッタレな世界だ。

どいつもこいつも……

 

 

 

 

 

……そこで俺の意識は途絶え、気付いた時には妙な浮遊感とともに今の状況に至る。

 

おそらく俺は死んでしまったのだろう。おー死んでしまうとはなにごとか!……ほんとに何事だ。

俺は見ず知らずの女の子を半端な正義感から助けようとして諸共車に跳ねられて犬死、ご臨終だ。

 

ほら見ろ、柄にもなくしゃしゃり出た結果がこれだよ。もっと早く助けに動いていればあるいは……とも思わなくはないが結果はこれなので今更感がでかい。

 

死んでしまった影響か妙に冷静に思考を巡らすことができている。思い出していると、なんというか、深い虚脱感と喪失感と、罪悪感がこみ上げてきた。

 

あの娘は死んだ。それは確実だ。なにせ最期に見たときには首がありえない方向に曲がってしまっていたのだから。

はは、笑えねぇ。本気で笑えねぇ。

 

何やってんだよ、いきなり主人公ばりに覚醒して華麗に助けられるとでも思ったのか?それともあの娘にフラグでも建てたかったか?

……いや、違う。きっと、いや、確実に俺はあの時、『彼』のように、彼の従えた万夫不当の英雄たちのように誰かを助けられる存在になりたいと思ってしまった。否、できると誤認してしまっていた。

 

思い返すと吐き気すら催す。この歳にして遅めの厨二病発症である。

 

 

と、そういえばこの空間はなんなのかと思い始めた。かれこれ数時間ほどここを漂っている感覚だが一向に転生用の神様が現れる気配がない。多くの創作品の中ではとっくに現れて説明と、転生の提案をしてその際の特典を選んでいる最中とかじゃないのか?

……まさか、このまま。なんてことはないよな?

 

まさかまさかそんな無間地獄みたいなのは流石にないだろうと思いつつも、俺のラック値からしてあながちウソとも言い切れない。

 

………………。

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいや!!それはないでしょう!?さすがにそれは!

だって、あれよ?ここ、ほんと何もないのよ?ここに永遠に閉じ込められるとか嘘でしょ?いや、ない。人権団体が黙ってないもん。

 

ほら、あれだ!神様抜きのパターンでしょ?事故での憑依とか転生とか。あながち邪道とも言い切れないもんね。準王道だよね。

 

 

…。

 

……。

 

………。

 

 

嘘だと言ってくれぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

体裁とかそんなの御構い無しで泣き叫ぶ。いや、さっきから感覚がないからちゃんと叫べてるのか、そもそも手とか足とか見えないのだけどね。

この分だと動くとか以前に身体がない可能性が高い。

 

完全に詰んだ。

 

終わりだ終わり。あー、もー、なんだよそれ。ほんとついてねぇーな俺。今なら某トゲトゲ頭の代名詞を叫んでもいい気がしなくもない。どうせ誰にも聞こえないし、そもそも誰かいるかも分からんし。

 

もうどうでも良くなってきたので俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれだけ経ったのだろう?ふと、思考を再開してみると、遠くに小さく点のようなものが見えていた。

 

豆粒サイズのそれはだんだんと大きくなっていて、ここに来て初めての変化に少し歓喜する。

しかし、もうやる気も何もなくなってしまったので冷めた目つきでその様子を静かに眺めていた。

 

 

ん?

 

よく見たらそれは穴のようで中は螺旋状に渦巻いて奥へ奥へと吸い込まれていた。

きっと、これをくぐれば何かしらの変化があるのだろう。しかし悲しいかなこの身?はすでに自由を無くしている。行きたくても動けないのだからしょうがない。

もどかしいながらその穴を見つめていた。

 

と、いきなり凄い力で穴へと引っ張られた。

なんだなんだ?!

いきなりのことで混乱するが、抗う術もないのでなされるがままに穴へと吸い込まれて行く。

先ほどまでの浮遊感はどこへやら、今はただダイソン真っ青なほどの吸引力で穴の奥へと引っ張られながら目まぐるしく移り変わる螺旋状の内部に軽い吐き気を覚えていた。

 

もうやめて、俺のライフはとっくにゼロよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に意識を取り戻せば今度は一面が星空のようになっていた。真っ白空間からブラックホールを抜けた先は宇宙らしい。今後、使いそうにない知識を無駄に頭に詰め込む。

 

そして目の前に意識を向ければ巨大な球体?のようなものが宙に浮いていた。ガ◯ツ系じゃなくて、こう、縁がモヤモヤしているタイプの球体だ。

 

度重なる非日常と、さらにはこの身が既に死人であることから俺はもうどうにでもなれ、と半ば自暴自棄な思考をしていた。

 

しばらくして、目の前の球体から光で出来た触手のようなものが出てきた。ウネウネ動くそれは某巨大ダンゴムシから出てきた奴とよく似ていて、俺は漠然とこれから走馬灯でも見せられるのかと思っていた。

 

しかし、その予想は触手が俺に絡みつく感覚と共に消え去った。

 

 

【Q:あなたは世界を救いますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

いきなり脳内に選択肢が現れたからだ。一瞬、俺はこれからラブコメでも始まるのかと歓喜しそうになったがよくよく考えればこの場に金髪も桃髪もいないのでそれはないと理解した。

 

ならばなんだ?まさか本当に未知の異世界に飛ばされちゃうのか?

そうなったら絶対に死ねる自信がある。だって無理だもん。原作知識なしで、もし魔物とかいる世界だったら開始一分で死ぬ未来しか見えない。

 

 

【Q:それともこのままおとなしく輪廻の輪に還りますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

なかなか答えない俺に今度は設問を変えてきた。いや、輪廻の輪とかなんだよ。もし本当にそんなのがあるのなら、もしかして、そこに帰ると俺の意識とか記憶は無くなるんじゃなかろうか?

 

……怖い、怖すぎる。圧倒的にノーだろ。

 

 

【Q:それともこのままおとなしく輪廻の輪に還りますか?】

 

はい

▶︎いいえ

 

 

どうやら念じることで選択肢を選ぶらしい。ピッ、というこのファンタジー空間にあるまじき機械音と共に矢印がいいえの項目に移り変わった。

 

 

【Q:ならば世界を救いましょう。これはあなたにしかできないことです】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

なんか軽い詐欺にあってるような気もするのだが。明らかに俺に世界救済をさせようとしている質問集に軽く恐怖を覚える。

なんか分からないけどこれは答えちゃいけない類の質問な気がする。

 

 

【Q:もし、救済できれば間違いなくあなたは『英雄』として崇められることでしょう。あなたが憧れる彼らのように】

 

 

っ!?……その文面に俺は少なからず揺らいだ。というか選択肢がない問いとかなんだよ。とうとう実力行使に出たのか?詐欺師め。

 

 

解答:_

 

 

しかし下の方をよく見ると解答という文字の横で横線が点滅していた。まさかの自由回答形式か。

 

 

【世界は未曾有の危機に瀕しています。人理の焼失に加え未知の敵性概念により、最後のマスターも死ぬ運命に陥っています】

 

 

とうとうQの文字すら消して熱心に勧誘を始める詐欺師。どんなにおだてられようが俺は面倒はごめ……ん?

 

人理?最後のマスター?

詐欺師の文面に既視感のありすぎる単語を見つけ俺は一転して彼?彼女?に問いかけてしまった。

 

まさか、貴様、いや、お前は……

 

 

【抑止力の一端、俗にアラヤと呼ばれる存在です。そしてあなたに救っていただく世界は人理焼失により2016年以降の歴史を閉ざされた世界。

抑止力も、アラヤも、人理焼失も、人類悪も、最後のマスターも、その結末の一つさえあなたならよくご存知のはずです】

 

 

俺が問いかけると途端に饒舌になったアラヤ(仮)が色々とまくし立ててきた。

どうやら俺は集合無意識から守護者とした絶賛スカウトされているらしい。俺は特に英雄でも正義の味方でもないんだがなぁ。

 

というか、俺の知識が漏れている。とくに教えた覚えはないが、たぶんに、こうして思考している状態でもダダ漏れになっている可能性が高い。

 

 

【恐れながらあなたが私の元に落ちてきた際に色々と調べさせていただきました。その上であなたにお願いしたいのです】

 

 

いや、読んでるだろ、思考。しかし奴の説明に自然と納得してしまう。どうやら俺のことは丸っと筒抜けらしい。

さて、ならどうするか?まず、こいつがアラヤというのが怪しすぎる気もする。そもそも原作の描写からしてエミヤが守護者となったシーンくらいしかないので全くもって未知の存在だ。

その特性についても世界の滅亡を食い止めるために誰かを後押ししたり守護者を派遣するくらいしか知らない。

 

それとも、こいつは……

 

 

【失礼ながら文面という形であなたと交渉しているのはそれがあなたに一番適していると判断したからです。なのであなたが知り得る知識と矛盾しているということはありません】

 

 

なんか言ってるけど胡散臭い。

が、このまま問答を続けても拉致があかないのは理解できた。こいつはどうしても俺を守護者に仕立て上げたいらしい。

 

 

【あなたは少し勘違いをしています。私たちが求めるのは救世主であって守護者ではありません。役目を無事に果たし終えれば無事に解放することをお約束いたします。受けていただけるのであれば、少々、霊基を弄らせてもらうことになりますが、決して貶める真似はいたしません。

『人間』として送り出すことを約束いたします】

 

 

立て続けに語られて、しかも、その内容がどうにも魅力的に見えて俺は激しく葛藤していた。

 

まず、こいつの提案に乗ったとして俺は守護者にはならないようだ。しかし少々霊基を弄ると言っていたのが気にはなる。人間として送り出すとはいうがそれは何をもって人間と定義しているのか?その辺についてイマイチ俺には型月知識が不足していた。

 

ならばもう一つ聞きたい。もし、断った際に俺には他にどんな選択肢があるのか?輪廻に還る以外の選択肢は……

 

 

【ありません。仮に運良く逃れたとしても、それは亡霊か亡者か、はたまた魔術師の奴隷のようなものかもしれませんよ?】

 

 

いや、わかった。つまりは俺には受ける以外の選択肢はないわけだな?

 

ならもう答えは決まっていた。

もとより死した身だ。これより他に行くところなどなく、ならばより“面白い”方を選ぶのは人間として当然のことだと思う。

 

 

【本当によろしいのですね?】

 

 

なぜか確認してくるアラヤ。地味にバッドエンドフラグっぽい聞き方ゆえに妙に不安を煽られる。

しかしいまさら引き下がることもできず、そもそも他に選択肢がないのだ。

 

 

【ならば改めて問いましょう。】

 

 

【Q:あなたは世界のため、人類のためにその命を、魂を、世界に託すことを誓いますか?】

 

▶︎はい

いいえ

 

 

……なんだか、質問が変わっている気がするがどちらも同義だろう。

俺は迷わず『はい』を選択した。

 

 

【ご契約ありがとうございます。つきましてはあなたの仕事内容をご提示させていただきます。並びに、あなたの霊基を改造させていただきます】

 

 

ついに改造と言ってしまったアラヤ。しかし突っ込むほど野暮でもないのでスルーしておく。

そして、しばらくして脳内に新たな情報が送られてきた。

 

 

【依頼内容】

 

・敵性概念の排除。

 

※注意事項

 

・本来の歴史には極力干渉しないようにする。

 

・改造により与えられるステータスは相対する敵性個体の脅威によって変動する。敵性個体の脅威度によりリミッター解除が行われる。常に確実に勝利できる数値になる。

なお、アラヤからの接続も上記の条件により制限がかけられる。

 

 

改めて依頼内容を見てみると物の見事にそのまんまだった。幾ら何でも適当過ぎるだろう。まさか本当に未知の敵と戦えというのだろうか?

それにステータスが総じて脅威度頼りなのは痛い。これではザイードにも殺されかねない。抑止が確実と判断した案件で普段はリミッターが掛けられているというと、一番近い存在としては死徒の姫か?

だがまあ、慣れないことには不便に変わりない。

 

まあ、元が一般ピーポーなので仕方ない。そう考えれば改善された方だろう。決して人王と殴り合いしたり、仏に立ち向かったり、無限の剣製ができる逸般人とは一緒にしないでほしい。前世の俺は正真正銘一般人だ。

 

地味に面倒なのが歴史に干渉しないことだが、それはたぶん、俺という個体が現れた時点で既に致命的な気がする。それとも、これ以上原作ブレイクするな、という神の啓示だろうか?

いずれにしろ、もとからぐだ男の邪魔をするつもりはないので安心して欲しい。俺はただ、依頼をひっそりと完遂すればいいだけだ。

 

そういえば、今更だが、やはり俺はカルデアに召喚されるのだろうか?

 

 

【はい。もっとも、かのマスターの運次第ですが】

 

 

なんだそれ。初手から運試しかよ。

 

 

【そも、あなたの存在はこの世界には本来いないはずのもの。加えてその魂も異質であり、これ以上の干渉は不可能です】

 

 

霊基は弄れるのに召喚を左右したりはできないのか。不便だな。まあ、ガチャ制度の説明としては妥当なところか。

もし干渉できるのなら十連引いてほぼタケシだった俺の前世のガチャ運とかありえないもんね。

 

 

【では早速、霊基の改竄に移りたいと思います】

 

 

軽い前世のクレームを思い浮かべたところで律儀にもアラヤがお伝えしてきた。……まあ、これも俺と対する時限定みたいだが。集合無意識というやつに人格とか無いに等しいし。

それと、改竄というと月の聖杯戦争を思い出すなぁ。一周目からキャス狐を選んでしまってかなり苦労した。エネミーに三発で殺される紙装甲はキツイ。

 

 

なんて、浮かれたことを考えていたら、次の瞬間には恐ろしいまでの虚脱感を感じた。何か、大事なものが引っこ抜かれたような感覚。

 

深い深い、絶望。……いや、それすらも抜き去られあれよあれよと言う間に俺を構成する要素が抜かれていく。

 

喜び、焦り、嘆き、恨み。あらゆる感情がまるで作業のように一定のリズムで消滅して行く。そのことに恐怖を感じるも、その恐怖すら次の瞬間には抜き取られた。

代わりに押し込まれて行くのは、全くの未知。感じたことのない第六感のようなものまで自然と己が身に埋め込まれて行く。

 

 

 

 

 

気付いた時には俺は一切の感情を無くしていた。

ただ、思うのは俺が俺ではなくなってしまったという厳然たる事実だけ。

この身はすでに■■ ■■ではなくなっていた。

……どうやら名前すら無くしたらしい。

 

元の俺ならここで『契約と違うぞ!』とクレームの一つでもくれてやるところだが、生憎と過去の俺が俺であった記憶は『記録』としてしか俺の中には残っていなかった。故に特に文句はない。

 

 

【改竄終了。これよりあなたは『抑止の体現者』。我らが一部です】

 

 

そのようだな。

 

脳内に流れるアラヤの言葉に応えつつ、新たな自分の身体について調べてみる。

 

 

【クラス】ガーディアン

【真名】抑止の体現者

【性別】男

【身長・体重】175cm・58kg

【属性】中立・中庸

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 宝具E

【クラス別スキル】

【固有スキル】

■■■■■■:?

 

異次元からの徒:C-

自身にかけられた状態異常を無効化する。

 

【宝具】

『■■■■』

ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?

 

 

ふむ、こんなものか。今、この場に脅威はなく、大元たるアラヤしか存在しないためにステータスは総じて最低ランク。加えてスキルや宝具も封印状態となっていた。

 

……しかし、クラス名・ガーディアンとは。守護者と相違ない気がする。真名に関しても仰々しく『抑止の体現者』となっているが、要は小間使い。ますます守護者との違いがわからない。

おそらくはアラヤからのバックアップの大小によるものだとは理解している。

 

まあ、ここで何を考えても今は仕方ない。敵の素性すら分からず何と戦うべきなのかもわからない。とにかく呼ばれるまではどうすることもーー

 

 

不意に、俺の頭上から光が注がれた。朝日、そう形容するのが適当な温かで穏やかで、眩い光。

 

【召喚要請を確認、ついで抑止の体現者・仮称ガーディアンとの因果律の接続を確認。

召喚者・藤丸立華、人類最後のマスターと断定。……要請を容認、これより召喚準備に入ります】

 

数秒遅れてアラヤからのメッセージが脳内に浮かび上がる。どうやらタイミング良くぐだ男が引いてくれたらしい。

……いや、あながちぐだ男とも断定できないな。もしかしたらぐだ子の方かもしれない。まあ、どちらであろうとも俺にはさしたる問題はない。

元の俺なら『ぐだ子なら絆レベル次第でアレな関係になれたりして!?』とぬか喜びをかましているところだが、今の俺は特に何も思わない。

何度も言うが“今の俺”は“かつての俺”とは別人だ。この身はアラヤの一部に過ぎず俺はただ役目をこなせばいい。

他の思考は要らず、信念も、感情さえ必要ではない。部品は部品らしく決められた作業をこなすのみだ。

 

【……の固定を完了、これより召喚に移行します】

 

そんなアラヤのメッセージが脳内に浮かぶと共に、浮遊感を得る。“身体”を確認するとうっすらと透けていて代わりに光の粒子が漏れ出ていた。どうやらもう召喚されるらしい。

 

浮遊感にそのまま身を任せじっとその時を待っていると、脳内にアラヤからの最後のメッセージが届いた。

 

【良き旅を。願わくば、貴方の行いが世界をより良い未来へと導かんことを】

 

驚くほど気持ちのこもっていない言葉だが、それも今となってはドウデモイイ。

ただ、俺は呼び出された後の状況を複数想定して、どんな不足な自体にも対応できるようにいくつかのプランを立てる。召喚が必ずしもカルデアの中で行われているとは限らないから。

……まあ、本音を言えばそんなことくらいアラヤも教えてくれればいいのに。と考えていたりするが、教えてくれないことに変わりはないので早々にその思考を隅に追いやり黙々と戦闘態勢を整える。

 

やがて俺の視界は光に包まれた。応じて俺もどんな状況にも応えられるように感覚を研ぎ澄ませる。

再度、自らのステータスを確認するとそこには新たな項目が増えていた。

 

 

『人理再録・虚空再現(アーカーシャ)』

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100

 

 

……宝具の限定的開帳(・・・・・)がされている。ということはつまりこの先に『敵』がいるということか。

予想が的中していると判断した俺は素早く動けるように気を張り詰める。同時に視界を覆っていた光も晴れていく。

 

徐々に明らかになっていく光景を元に、呼び出された場面を推定する。共に鼻腔をつく焦げ臭い匂いと赤みを帯び始めた視界に、俺はすぐに“いつどこで”呼び出されたか理解した。

 

特異点Fか……随分と序盤に呼ばれてしまったな。これは長い戦いになりそうだ。

 

どこか“気怠さ”のようなものを感じながらも俺はこれから出会うだろう、俺が唯一“憧れた”人物に少しばかりの“期待”を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずオリ主くんは一部の序盤から絡んで行きます。
ごちゃごちゃなオリ設定満載ですが、


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EP-1

ぐだ男視点から


「やぁあああああ!!」

 

露出の多い甲冑姿の少女が大楯を振るう。大振りな横薙ぎをモロに受けた“怪物”は、その身体を構成する『骨』をばら撒きながら砕け散る。

 

その直後、少女の背後に先ほどの“怪物”と同種の敵が現れ手に持つ剣を振りかぶった。

 

「マシュ!後ろだ!」

 

“俺”は咄嗟に彼女に注意を促す。

 

「っ!」

 

俺の声に反応し彼女は横薙ぎにした大楯を構えつつ振り返り“怪物”の剣を受け止める。

 

「はぁああ!」

 

そのまま大楯の上に剣を滑らせ受け流し、態勢を崩した“怪物”にその鋒を叩き込む。

 

身体の中心部から四散する形で砕け散った“怪物”の破片がガシャガシャと地面に転がる。

それを見届けた彼女は「ふぅ」と一息ついて大楯をズン、と地面に立てた。

 

「全敵性個体の排除を確認、状況終了……感謝します、先輩」

 

額を拭いつつ彼女はこちらに微笑んだ。

“俺”も笑みを返しつつ手をあげる。

 

「お疲れ……と言っても俺は後方から指図してただけだけどね」

 

力量差があり過ぎるとは言え、男として自分は安全な後方にいて女の子に戦わせている今の状況にははっきり言って複雑な思いを抱かざるを得ない。

 

そんな自虐じみた俺の言葉に彼女は心外とばかりに不満げに眉を顰めた。

 

「そんなことはありません。“マスター”として自身のサーヴァントに的確な指示を出す役目は重要なことです。現に先ほどは先輩のおかげで大事にならず済みました」

 

あくまで理路整然と語る彼女に“俺”は苦笑で返す。なんと言い繕っても自分が情けないことには違いない。

 

「俺も魔術とかで援護できたら良かったんだけど……」

 

本来ならマスターは魔術で自分のサーヴァントを援護するらしい。しかしながら俺はつい最近までごく普通の一般家庭に育った『一般人』であって、魔術なんていうオカルトじみた芸当はできないし、その存在自体もついさっき知ったばかりだ。

 

そんな俺は当然、使える魔術など無く、ましてや戦闘時に援護できるような術など皆無だ。

 

「いいえ、今でも充分、助けられています。先ほども言った通りマスターからの指示は戦闘において重要なものです。戦闘の当事者では気付かないような物事を客観的な視点から俯瞰し的確な指示を出す。……そもそも、貴方があの時居てくれなかったら今の私はいないのですから」

 

そう言い小さく、本当に小さく笑みをこぼした彼女に思わずドキリとしてしまう自分がいた。

……不意打ちとはいえこんなにも可愛らしい女の子に微笑みかけられれば、誰だってドキドキしてしまうはずだ。

 

「ちょっと、終わったんならイチャイチャしてないでさっさと進むわよ!一刻も早く原因を突き止めてカルデアに帰るの!」

 

と浮かれ気味に考えていたら不機嫌そうな顔の“所長に怒鳴られてしまった。

彼女の言う通り、少し浮かれていたようだ。今回は調査だけなのでさっさと終わらせてこんな危険地帯からはおさらばしたい。

そのためには俺も気を引き締めて、しっかりとマシュをサポートしてあげなくちゃ。

 

 

 

 

……そんな風に覚悟を改めたその時だった。

 

「……っ!?」

 

ぞくり、と背筋を突き刺すような悪寒が駆け抜けた。同時に肌をピリピリと焦がすような“殺気”を感じる。

 

いずれの“気配”も背後からのもの。俺は迷わず振り返った。

 

「見ツケタ……美味シソウナ、人間」

 

煌めく刃、短剣と思しきそれを構えた“黒い何か”がすぐ目の前まで迫っていた。

 

「っ!先輩!?」

 

事態に気付いたマシュが慌ててこちらに駆けてくる、しかし間に合わない。

絶望に染まる俺の顔を見て“ソレ”は確かに笑みを浮かべた。

 

「イタダキ、マス……」

 

身体は動かない。蛇に睨まれたように硬直してビクともしない。

俺に抗う術はない。一般人だ、当たり前だ。

 

故に迫る刃を避ける術はない。……死を、流れる術は。

 

「っ!い、いやだ!オレは……まだ!!」

 

……死にたくない!!

 

「死ネ……」

 

生きたい、そんな願いさえ無慈悲にも振り下ろされる短剣の前には無力なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、直後、命を狩られる痛みの代わりに甲高い金属音が耳に届いた。

 

「やれやれ、まさかライダーに殺されそうになるとはな」

 

次いで耳に響くのは無機質で無気力、この世の全てを諦め受け入れているかのような、人間性を欠いた男の声。

 

ゆっくりと、ゆっくりと衝撃に備えて閉じた瞼を開く。

 

「……あ、貴方は?」

 

開かれた視界、そこに写るのは“薄汚れたローブを纏い、現代的な拳銃を持って短剣を押し留める白髪の男の姿”。

 

男はギリギリと黒い何かの攻撃を防ぎながら、こちらに振り返る。その顔は真っ白な仮面に覆われていて鋭く光る眼光のみが二つの穴から覗いていた。

 

「何を惚けている“マスター”?早急に指示を出せ」

 

マスター、その言葉で俺はスイッチが入ったように思考を急回転させる。

 

「っ……一度、押し退け後退する!できるな!?」

 

急な指示を飛ばすも、男は小さく頷き、即座に実行に移す。

 

ガィン!と重い音と共に“ソレ”を退けた男は、すぐさま俺を“抱き抱えて”後方に飛び退る。

 

「って、えぇ!?」

 

「喚くな、舌を噛むぞ」

 

風を切る音に掻き消されながらも抗議する俺に男はあくまで冷静に返答する。

そうこうする間に再び地上に降り立った彼は優しく俺を降ろした。

 

「先輩!」

 

お姫様抱っこから解放された俺の元にマシュが駆け寄ってきた。

しかしお姫様抱っこされていた弊害から今は少し顔を合わせづらい。

 

「お怪我はありませんか!?ドクターからサーヴァント反応があったと……!」

 

「あ、ああ……彼が、助けてくれたから」

 

そう言い指をさせば、彼はすでに“黒い何か”と交戦していた。

 

飛び交う銃弾、それを弾く短剣。両者共に人間離れした動きで駆け回りながらそれぞれの獲物を交わしている。

 

「あの、彼は一体?」

 

その光景を見ながらマシュは困惑したように問いかけて来た。

 

「それが、俺にもよく分からない。……アレに殺されそうになった時、彼が咄嗟に現れて助けてくれたんだ。それに……どうやら彼は俺のサーヴァントらしい」

 

らしい、というのも彼が俺をマスターと呼んでいたことだけが根拠だからだ。そもそも俺は彼を召喚した覚えはない。

 

そう答えればマシュの方からも違う面からの疑問が返ってきた。

 

「現代兵器を使う英霊……全く記憶にありませんが、しかし、先輩を助けたということは今の所は敵ではないと判断します」

 

「ああ、とにかく今はアレを倒すのが先決だ。……マシュ」

 

「はい、正体不明の彼の援護に回ります」

 

呼びかけるだけで彼女はすぐに意図を汲んで動いてくれた。……こんな短期間のうちに彼女と俺はなんだか妙に息のあったやり取りができている気がする。

 

「……いや、考えるのは後だ。今は!」

 

しかしすぐに余計な思考を省いて、目の前の戦闘に集中する。

今は何としてもアレを倒さなければ!!

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

呼ばれて飛び出てみれば、そこはすでに絶体絶命だった。

 

目の前に写るのは、シャドウサーヴァントと化したライダーに短剣を向けられているぐだ男。今にも振り下ろさんとしている状況からして明らかに絶体絶命。

 

俺はすぐさま手頃な銃を“再現”して両者の間に割って入った。

それから彼の指示に従い、彼を後方に下がらせた後、すぐにライダーの元へと突貫する。

 

 

 

そこからは自分でも驚くほどにいい勝負を行なっていた。

 

格落ちとはいえメドゥーサを素体としたシャドウサーヴァントを相手に一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。元一般人の身体能力からは考えられないほどの超強化だ。

……あいにくと戦闘の合間にステータスを確認できる余裕などなく推測でしかないが、これがリミッター解除というやつなのだろう。

 

「クッ……貴様、何者ダ!?」

 

苦渋の表情を浮かべて問いかけるライダーに、俺は鉛玉をお見舞いしつつ答える。

 

「さてな、俺自身、名前も覚えていない」

 

ライダーは首を逸らして難なく避けながらも、少しばかりの焦りが見て取れた。

 

戦いは拮抗してはいるが、若干、俺が押していた(・・・・・)

 

「世迷言ヲ……!」

 

痺れを切らしたライダーは一際強力な一撃で俺を後方へと弾き飛ばす。恐らくは仕切り直すつもりなのだろう。

俺は飛ばされながらも冷静に狙いを定めてライダーを銃撃する。

安定性を誇る黒塗りの自動拳銃が二、三回振動し銃弾を吐き出す。しかしながらその速度は通常の弾速を遥かに超えていた。

 

「ガッ!?」

 

二発まで短剣で落としたものの、腹部に一発被弾するライダー。“魔力で強化した”とはいえ銃弾程度ではサーヴァントに致命傷を与えることは出来ない。

だがそんなのは分かりきっていたこと。

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

「何ッ!?」

 

本命は、怯んだライダーの死角から突撃してくる盾子だ。

 

「ッ!!」

 

迷いなく一直線に突っ込んだマシュはその手に持つ盾を大振りで横に薙ぐ。その一撃はライダーの無防備な肢体を強かに打ち払った。

 

攻撃力に欠けるとはいえ無防備な状態でモロにアレを喰らえばそれなりのダメージを受けるはずである。現に彼女の身体は宙を舞っている。

 

その落下点も、ちょうど俺のいる場所だ。

 

俺はボロボロになった拳銃を捨てて、新たに“再現”したアンチマテリアルライフルを構えながら小さく呟いた。

 

「これでチェックメイトだ」

 

ズガン!と大気を震わせる轟音と共に音速の弾丸はライダーの霊核を弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?貴方は何者なわけ?」

 

警戒心を丸出しにした“所長”が俺を睨みつけながら問いかけてきた。

 

ライダーを無事に撃破した俺たちは瓦礫の影に隠れていた所長と合流した。同時にドクターからの通信も俺に入るようになった。

そして合流と共に所長からの尋問が開始されたのだ。

 

『反応は通常のサーヴァントで間違いはないんだけど……どういうわけか藤丸君とパスが繋がっているようなんだよね』

 

Dr.ロマンもうんうん言いつつ困ったように説明している。

 

「しかし、先輩はまだ召喚システムを使用していません。それにレイシフト先での召喚など……」

 

『ああ、これは明らかにイレギュラーだ。だが、カルデアからの魔力供給も正常に作動しているし、彼自身も特に敵対的な行動は取っていないのだろう?』

 

「はい、あのシャドウサーヴァント?とかいうのに殺されそうになったのを助けてくれました。俺には彼が敵だなんて……」

 

 

 

「……」

 

どうやら俺の処遇で揉めているらしい。確かに、レイシフト先で突然現れて主人公の危機を救うなんて登場の仕方をして、あまつさえマスターなどと呼べば怪しいことこの上ない。

ここはあくまでゲームの中でなく、現実の世界なのだ。彼は本当に命を懸けてこの特異点を駆け回っているのだ。些細なイレギュラーであろうと周りが心配するのは当然だろう。

なんたって人類最後のマスターなのたから。

 

……どうにも人の感性というものが無くなった今の俺では上手く立ち回るというのは不得手なようだ。

 

 

 

「しかしアレが誰なのか、そもそもなんのクラスなのか把握できないのでは始まりません」

 

『ああ、そうか。藤丸君、彼のステータスの確認を……と、言っても分からないか。とにかく彼を凝視して念じるんだ』

 

「え?あ、ああ、はい」

 

と、個人反省会を開いているうちにドクターのざっくばらんな説明を受けたぐだ男がこちらに近寄ってきて……

 

「……」

 

物凄い目力でこちらを凝視してきた。ともすれば焼却されそうな勢いだ。

 

「せ、先輩。そんなに凝視しなくても軽く念じれば出てきますから」

 

後輩系盾子がおずおずとぐだ男に進言する。

 

「え、そうなの?」

 

それを受けてぐだ男も心底驚いたように答えた。

 

『いやぁ、凝視した方が確実かなぁと思って』

 

「……やっぱり、貴方がいると変に場が緩むのよね」

 

あっけらかんと言い放つドクターに、所長は心底疲れたように頭を抑えていた。

 

「それで?何が見えたの?」

 

「え、あの……なんか“ガーディアン”?て出たんですけど……」

 

所長に急かされたぐだ男は少し考えた後に、困惑気味に答える。

その言葉にこの場の誰もが首をかしげた。

 

『ガーディアン?……エクストラクラスなのは分かるけど、そんなのあったかなぁ?』

 

「私も聞いたことがありません」

 

「本当にそう書いてあったの?」

 

ドクター、マシュに続いて所長も知らないとばかりに首を振ったあとに訝しむようにぐだ男を見つめた。

 

「ほ、本当ですって……あと、“抑止の体現者”って」

 

『抑止の体現者…?』

 

「抑止力関連ってこと?」

 

「確か、過去の聖杯戦争で抑止の守護者が召喚された例がありましたが……」

 

続いて俺の真名を呟いたところでますます議論が混迷を極めはじめた。

このままでは拉致があかないので、俺の方からネタバレをした方がいいだろう。

 

「抑止の体現者で相違ない。クラスに関してもガーディアンで合っている。そもそもそのクラスは俺専用だ」

 

「っ!い、いきなり話し始めないでよ!」

 

良かれと思って声をかけたら所長はビクッとした後に猛烈に怒り始めた。なぜだ?

 

まあ、どうでもいいので話を続ける。

 

「広義では守護者と変わりはないが、狭義にはアラヤのバックアップがあるか否かだ」

 

「バックアップ?」

 

ぐだ男が首をかしげる。この分だとアラヤの辺りからちんぷんかんぷんなのだろう。まあ、つい最近まで一般人だった彼には少し酷な説明の仕方だったか。

 

と思ったらすかさずマシュが抑止の説明をぐだ男に始めた。さすが出来る後輩系ヒロイン。抜け目なく優秀である。

 

「俺は守護者同様に元となった人間が存在するが、その霊基はすでに“そいつ”とはかけ離れたものになっている。今の俺はアラヤの力を受け止めるための“器”に過ぎない。そして同時にその力を投射するための装置だと考えてくれ」

 

俺はアラヤの決定次第で無限にその力を上下させる。無論、あくまでサーヴァントの範疇に収まる範囲でだが。

 

『つまり、君はアラヤそのものだと?』

 

Dr.ロマンのいつにない真剣な声色に俺も自然と真剣な表情で答える。

 

「その考えで概ね間違いない。……ただ、あくまでサーヴァントの範疇に収まる範囲の話だ。加えて普段はリミッターが掛けられているためにアラヤそのもの、とは言い辛いかもしれんが」

 

俺の言葉を最後に、各人が熟考し始めてしまった。……俺自身もかなりチートな力だとは思うが、真祖の姫並みに戦い辛い制限が付けられているためにそこまで楽には思えない。

 

「……まあ、その話はまた後で詳しく聞くとして。宝具はあるの?」

 

「もちろんだ。……しかしこちらも制限が付けられていてな、現時点ではこのようなものしか“再現”できない」

 

そう言い俺は手にベレッタM92を“再現”する。

 

「銃?」

 

「ああ、俺の現時点での(・・・・・)宝具名は『人理再録・虚空再現(アーカーシャ)』。

本来ならおよそ人の手によるモノは全て再現できるが今の所は“個人が所有できる範囲”でのモノしか“再現”できない。加えて、他の英霊の宝具はもちろん神代の代物も再現不可能だ」

 

『要するにジャパニーズKATANAや拳銃、バズーカが限界か?』

 

「そうだな。……もう少しリミッターが外れれば戦車くらいなら“再現”できそうだが」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!『人理再録』、『再現』ってつまり……」

 

説明の最中に何かに気付いたらしい所長が慌ててこちらに問いかけてきた。

さすが所長、現アニムスフィア家当主だ。なかなかに聡い。

 

「ああ、貴女の想像通り。アカシックレコードの一端を閲覧し、それを“再現”することができる、つまり限定的に“根源”と繋がっている……ということだ」

 

『それはとんでもないな……』

 

Dr.ロマンが感心したように呟いた。なにを白々しい、貴方なんか魔術そのものの……いや、今は関係ないことだな。

 

「とにかく、今の俺は平均的なサーヴァントにも押し負ける可能性があるということだ。ステータスを見れば分かると思うが俺は常にギリギリの戦いをするようにアラヤに強いられている」

 

するとぐだ男がまた俺を凝視してドクターやマシュ、所長と話し始めた。

 

『……筋力D、耐久D、俊敏C、魔力C、幸運E、宝具Cか。確かに上級サーヴァント達には少し苦戦を強いられるだろうね』

 

「まあな。……ただ、それはつまり“そのままでも勝利できる”と判断されたということ。俺が破れても君たちなら勝てると判断されたということだ」

 

「俺たちが……」

 

何の気なしに言った言葉だったが、ぐだ男は何か思うところがあったようで神妙な面持ちで考え始めた。

 

そんな姿に少しだけ呆れつつも、すぐに戦闘態勢(・・・・)を整える。

 

「考えるのは勝手だが、ここは未だ危険地帯だ。……とりあえず今は頭を下げろマスター」

 

「え?……おわっ!?」

 

突然の発言にぐだ男はあっけに取られるもすぐに銃口がこちらに向いていると気付き急いで頭を下げる。

そのすぐ後に一発の銃声が響き渡った。

 

「グワッ!?」

 

遅れて“何か”のうめき声が響く。

それと同時にドクターが慌てて報告する。

 

『っ!サーヴァント反応!?藤丸君のすぐ後ろだ!!』

 

「もう迎撃した。それと、奴はアサシンだな」

 

『なんだって!?』

 

慌てるドクターを他所に、俺は飛び退るアサシンに対してさらに銃撃を加える。

 

しかしその悉くがダークによって撃ち落とされる。

 

「ナメルナ、ソノ程度ノ狙撃デ……!」

 

アサシンは他のシャドウサーヴァント同様に真っ黒な体から黒い霧を漏れ出させつつ木の上に着地した。

 

……しかし、シャドウサーヴァント風情が気配遮断を使えるとは思わなかった。いや、アニメの方ではメドゥーサもハルペーを扱えていたし魔眼も発動できていた。あながち間違いでもない?

 

……どうにもこの辺りの知識が足りていない。アラヤからも返答はないし自分で考えるしかないということか。

 

それに、アサシンが来たということはそう遠からぬうちに“ランサーも来るか”。

 

 

「どうやら早急に奴を片付けなければいけないようだ」

 

召喚早々、忙しいことこの上ない。

 

 

 

 




まずはじめに、色々とツッコミどころがあると思います。

でも、いつもの私の自己満足作品ですので生暖かい目で見ていただけると幸いです。



一応、設定とかは見返してますがそれでもおかしな点などございましたらご報告お願いします。

あと、安定の誤字脱字もご報告お願いします。


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EP-2

……待っている人とかいるのだろうか?


剣戟、撃鉄、もう幾度となく混じり合った互いの得物の音が焦げ臭い大気を震わせる。

 

互いに正面切っての戦いを不得手とする二人は、都市に散乱する瓦礫を上手く使いつつ、死闘を演じていた。

 

「ククク……ナカナカ、ヤルデハナイカ」

 

アサシンのシャドーサーヴァント、元の名を“呪腕のハサン”。彼は暗殺者のクラスの通り闇からの奇襲を得意とする英霊である。

故に彼は瓦礫の隙間を縫うように駆けながら己の得物、短剣ダークを投擲する。

 

影を渡り歩くようにして、じわじわと相手を追い詰めていく様は対人戦闘に特化した戦法。

ただ、確実に敵を殺すためだけの戦い。それこそがアサシン。

 

「……」

 

対して、英霊には似つかわしくない現代的な銃器を操り、ただ黙々と撃っては躱し、撃っては躱しを繰り返すガーディアンは、生き残ることを優先した効率的な動きを以ってして対抗していた。継戦能力を底上げするような持久戦。

瓦礫を隠れ蓑にし、同じく瓦礫の隙間を移動するアサシンの僅かな隙をついて銃撃する。

 

側から見ればゲリラ兵のような動きだったが、その実、本場のゲリラ兵たちからすればそれはあまりにも機械的だろう。

 

其れもそのはず、彼がこうして実践している動きは全て全知から“トレース”して効率的に組み上げたものに過ぎないのだから。

 

 

以上、両者共に継戦能力が高いこと、それらが奇跡的に上手い具合に噛み合った結果、今のような膠着状態が続いているとも言える。

 

そも、元一般人のガーディアンが本場の英霊(の残り香)と五分五分の段階まで戦えるようになったのはアラヤあってこそ。

そのアラヤが“勝てる”と判断した力量を持って彼は、ただマザーコンピュータ(アラヤ)の指示に従って動いているに過ぎない。

 

 

 

「すごい……」

 

しかし、そんな事情など知らない“元”一般人のマスターの目にはとても壮絶な戦いに写っていた。

的確に相手の死角を突いて放たれる漆黒の短剣・ダークを、ガーディアンを名乗る彼はまるで見えているかのように、鉛玉によって叩き落としていく。

さらには、アサシンの移動地点を予測し銃撃を放つことまでしている。

しかし、速さに勝るアサシンを捉えることは出来ないのか寸でのところで躱される。

まさしく接戦。

 

 

「……先輩、指示を」

 

目の前で行われる死闘に見惚れていると、マシュの冷静な指摘を受けた。

確かに、拮抗している今ならマシュと二人掛かりで仕留められる。

 

「ああ、ガーディアンの援護をーー」

 

と、指示を出そうとして突然、ドクターからの通信が入った。

 

『もう一体!?気をつけろ藤丸君!サーヴァントがもう一体、そちらに急接近している!』

 

「なんだって!?」

 

ジャラリ、と数珠の擦れる音のようなものが近くで鳴った。

その方へ目を向ければ、そこには威風堂々と瓦礫の上に佇む男の“ような何か”がいた。

それは本来のものとはかけ離れていると思われる真っ黒な姿で。

 

「シャドウサーヴァント……」

 

なんでも何らかの影響で本来の英霊になり損ねた失敗作、抜け殻、残り香とも称されるらしいが、ぶっちゃけよく分からない。

そもそも本来の英霊というものをガーディアンくらいしか見たことがないのだから。

 

……ただ、今、視界に納めているアレが英霊なんて高尚なものじゃないことくらいは理解できた。否、理解させられる。

数十mは離れているはずなのに、アレの放つ“嫌な気”が鋭利な刃物のように肌を突き刺し、じわじわと心にまで侵食してくるのだ。

そんなものが英霊であるはずがない。

 

「ハ、ハハハハハハハハ!!!!」

 

認めまいと強い意志を保ちながら睨め付けていると、突然、“ソレ”は高らかに笑い始めた。それはどこか狂っているような、危うさを持った声。事実、彼は狂っているのだろう。

 

「……!」

 

しかし、狂っているとはいえ元が英霊の狂声を全身に浴びては一般人代表の俺ではひとたまりもない。現に足は震えが止まらずそれでいて動くことすらままならない。

人を超えた脅威を前に俺は正しく怯んでいた。

 

 

「先輩っ!」

 

ガィィン、と重く猛々しい音が響いた。

 

「マシュ……」

 

見れば眼前まで迫った薙刀を彼女が大楯でもって必死に抑えていた。

 

しかし筋力で劣るのかギリギリと音を立てて徐々に押し込まれている。

そんな状況でも彼女はこちらを振り返り、微笑みを向けてくる。

 

「大丈夫、先輩は必ず護ります。……ですから、私が、勝てるように指示を、ください」

 

「っ!」

 

その様を見て思わず自らの唇を噛んだ。

怪物がなんだ、戦いがなんだ、英霊がなんだ。俺は何のために頑張っている?今更、問うまでもない。

あの施設で、新しい職場で初めて出会った少女に一目惚れしたからだろう!

 

 

じわり、と滲む鉄の味を噛み締めながらこの数時間で得た“戦闘用の思考”をフル回転させる。震える脚を叩き起こし力を込めて立ち上がる。一寸前の己の不甲斐なさを払拭するように、血が滲むまで拳を握り締める。

 

「スキルを使え、マシュ!」

 

「っ!はい!」

 

俺の声に、彼女は嬉しそうに反応して指示通りスキルを解き放つ。

 

「っヌゥ!?」

 

マシュの身体から淡い光が一瞬漏れると共に、“ソレ”は弾かれたように身を仰け反らせた。

 

『今は脆き雪花の壁』。彼女、マシュが保有する固有スキルの一つ。

自身、味方の防御力を上昇させるバフスキルだ。

盾を装備していることからも分かる通り、どうやら彼女は守りに適したサーヴァントらしくステータス面でもその傾向が強い。

しかし、彼女と融合した英霊の真名も分からず、未だサーヴァントと化して数時間の彼女はその真価を発揮することができない。

 

本来なら本人曰く、手慰み程度の性能。とのことだが。

 

 

 

「やぁぁあああぁぁぁぁ!!」

 

「グハッ!」

 

このように意表を突いて発動すれば相手にいっときの隙を生じさせることも出来る。

 

仰け反り無防備となった“ソレ”の胴体に大楯を正面から押し出したマシュは、たたらを踏む相手へと更に追撃を加えるべく前進する。

 

「はっ!」

 

続いて横薙ぎ、切り上げ、切り下げ、と次々に連撃を叩き込んで行く。

いくら攻撃力に劣るマシュでも、これだけのコンボを決めれば其れ相応のダメージを与えられるはずだ。

 

「グ、ヌゥ……!」

 

現に、“ヤツ”は苦悶の声を上げ防戦一方に追い込まれている。

 

いける。

そう確かに思った。

 

「クク……」

 

不意に、近くでせせら嗤うような声が響いた。

 

「苦■を■■、『妄■■音(■バー■ーヤ))」

 

生命の終わりを告げる言葉、凍えるような殺気の塊が俺の死角から轟く。

 

振り返った時には、既に“悪魔の右腕”は目の前まで迫ってーー

 

 

 

 

ドン!と、今度は重い“銃声が響き渡る。

 

「ガッ……」

 

次の瞬間には声にならない断末魔を上げながら黒い霧となって消えて行くアサシンが見えた。

遅れて、ローブを脱ぎ捨てた彼が現れた。肌にぴったりとくっつくような独特な黒いスーツ、ともすればロボットもののパイロットスーツのような。しかし胸の中央には紅く大きなひし形の宝玉が備えられそこから派生するように黄金に輝くラインが身体の四方へと駆け巡っていた。

 

ありていに異様、異装と称すべき姿の彼は無機質な表情で構えた拳銃をゆっくりと下ろした。

 

「……」

 

ふと、こちらに視線を向けた彼はしばし俺を見つめた後、未だ攻めあぐねているマシュの援護へ向かうべく駆け出した。

 

「……」

 

対して俺は、先のガーディアンの視線が妙に気になっていた。

 

これまで無感情さしか感じられなかった彼の瞳に、あの瞬間だけは『色』を見ることができた。

 

金色に輝く人間離れしたその瞳孔に僅かながらの哀愁、そして強い憧憬。

果たして、何を見てそれを感じたのか。まさか自分であるはずがないとは思いながらも、その対象に少しばかり興味を唆られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハ、ハハハハハ!!」

 

「ぐっ!」

 

笑い狂いながら薙刀を振るうランサーと、その猛攻を大楯にて必死に防ぐマシュ。

 

ちょっとした裏技(・・・・・・・・)(有り体に言えば死んだフリ)で成功した不意打ちによってアサシンを仕留め、未だ交戦中のマシュの援護に来てみれば、見事に苦戦中だった。

先ほどの小技では仕留めきれなかったらしい。

 

まあ、彼女は先ほどまでは人間だったわけだし、マスターに至っては魔術のまの字も知らない一般人だったのだ。

残滓とはいえ、いきなり百戦錬磨の英霊相手に勝利をもぎ取れなどというのは無茶だろう。

 

 

「まあ、そのための俺か」

 

呟きつつ、『再現』したリボルバーの銃弾に魔力を込める。

常に注ぐ量を超えても注ぎ続ける。やがて弾丸からバチバチと青白い稲妻が生じ始め、さらには銃身全体にまで広がっていく。

それを二丁。

込めた銃弾は6発ずつ、合わせて12発。いずれもギリギリ形を保てる限界まで魔力を蓄えている。

 

「……いくか」

 

サーヴァントの、ましてや格落ちたる『影』の霊核如き一瞬で吹き飛ばす威力を持った12発の銃弾を携え、いざマシュの援護に入ろうとしてーー

 

 

「アンサズ!!」

 

突如、明後日の方向から飛んできた火の玉によってランサーは弾き飛ばされた。

 

「まったく、健気な嬢ちゃんの心意気に免じて手助けしてやろうと思ったら、随分と妙な英霊を連れてるじゃねぇか」

 

飄々としながらもどこか威厳の篭った声と共に、ドルイド姿の御子が現れた。

 

見慣れた青タイツは何処へやら、今はドルイドとしての側面が強調されたイマイチピンとこない魔術師姿のクー・フーリン。通称キャスニキは木製の杖を振るいつつ瓦礫の上から地に降り立った。

 

「あ、貴方は……?」

 

完全に出鼻を挫かれた俺が、少しばかりの不満(・・)を込めてキャスニキを睨みつけていると、驚いた様子でマシュが問いかけていた。

なんとなく、なんとなくだが俺の時より驚いている。なぜだろう?

やはり本物の英霊と、俺とでは格が違うというのだろうか。

 

本当になんとなくだが、気に入らない(・・・・・・)

 

そんな俺をよそにキャスニキは待ってましたと言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた。

 

「俺はキャスター、この聖杯戦争で唯一生き残った正真正銘、本物の英霊、サーヴァントだ」

 

「サーヴァント……!」

 

マシュが感動したように目を輝かせている。いや待て、その前に俺がいるだろう。結構、かっこいい登場だったと思うのだが。

 

次々に露呈する俺と他のサーヴァントとの扱いの違いに軽くショック(・・・・)を受けながらも、俺を除くメンバーはみんなキャスニキに注目していた。

 

「貴様……!キャスター!!何故、漂流者ノ肩ヲ持ツ!?」

 

煙を上げながらヨロヨロと立ち上がったランサーが怨嗟を籠めた声でキャスターを睨みつける。

その姿を気怠げに見ながらキャスターは杖を構えた。

 

「往生際が悪いな。……ま、俺も人のことは言えんが。とりあえずテメェはここで終いだ」

 

言い終えると共にキャスターの周りに複数のルーンが浮かび上がり、収束、やがて炎の塊となって撃ち出された。

 

「グッ!?ガアアァァァア!」

 

そして、神代の炎の魔術をモロに受けたランサーはメラメラと燃え盛る炎に包まれ、怨念に満ちた断末魔をあげて塵となって消えていった。

 

 

消し炭すら残さず消え去ったランサー、その最後を見届けて、くるくると杖を回して肩に担ぎながらキャスターはこちらに振り向いた。

 

「坊主、あんたがマスターかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャドウサーヴァントとの戦闘からキャスニキとの合流。ここまでは一先ず流れとして正史と変わりなく進んだ。まあ、俺が存在することで色々と誤差は生じてはいるが。

 

唐突な闖入者たるキャスターに、所長やマスターたちは最初こそ驚いていたが、俺という前例があり、そもそもここ冬木では聖杯戦争が行われていたという事実を知っている。

寧ろ、ようやく事情が分かりそうな相手が現れたと安堵している様子だ。

 

「……だが、俺たちの聖杯戦争はいつの間にか別のものにすり替わっていた」

 

しかし、キャスターの話に耳を傾けていたぐだ男たちは続くキャスターの一言に表情を強張らせた。

混じり合った聖杯戦争(・・・・・・・・・・)、確かそんなようなニュアンスの話をしていた記憶がある。

 

メタな話をすれば、この冬木で行われた聖杯戦争は、別の並行世界の冬木で行われたものと同一の術式だと推測される。

ただ、違うのはそのメンバーと勝者。……そして回数にある。

この世界の冬木で行われた聖杯戦争は、2004年が初めてで最後だ。

さらに言えばこの世界の聖杯は汚染されていなかった(・・・・・・・・・・)

 

そのために勝者はなんの問題もなく願いを叶えてそのまま穏やかに戦争は幕を降ろす。

……はずだった。

 

その後の展開は、まあ、色々と立て込んでいるのだが問題はそこではない。

 

目先の要注意人物が今の目の前で状況説明を行なっていることだ。

 

 

 

「……奴さん、水を得た魚の様に暴れ回ってーー」

 

自分たちの聖杯戦争が別物になっていた、人が忽然と姿を消した、街が一夜にして炎に包まれた……etc。俺がゲームを始めた頃に聞いた通りの説明を順調に続けて行くキャスター。

しかし待ってほしい。俺がストーリーの後半で知り得た情報ではキャスターはクー・フーリンではなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そもそも勝者はセイバーではなくキャスターだ。

加えて聖杯戦争は一度きり。キャスターがいつかボヤいていた冬木でどうのという発言は些か矛盾が生じる。

 

……まあ、先ほどの混じったという発言や、そもそも特異点として生じていることからもこの冬木が正史でないのは確かだが。

それにしたって、人が忽然と消え去ったり街が一瞬で炎に包まれるなど常軌を逸した現象に思えるが。

 

「……悪い話じゃねぇだろ?」

 

どうやら思考する間に協力関係を築くまで話が進んでいたらしい。

まあ概ね原作通りの展開だ。ならば問題はない。

 

キャスニキと協力するにあたり今後の方針について話し始めた所長たちをよそに、キャスニキがふらりとこちらに寄って来た。

 

「で、お前さんが二人目のサーヴァントか」

 

「そうだが、何か用か?」

 

思った以上に陽気な態度に疑念を抱きつつ応える。

なんとなくだが俺の元となった霊基が危険であるとしつこく訴えかけてくるのだ、思わず塩対応になって仕方あるまい。

 

「そう警戒すんなよ。……それとも、俺について知ってるのか?」

 

「質問の意図が読めんな。俺は俺の知る限りの情報を以って貴様の語る“冬木の聖杯戦争に”疑念を感じたまでだ」

 

やはりこいつは何か別の思惑があって行動している。

それはこの特異点のみ()()()()()()()、もしくは()()()()()()()()ことと関連があるはずだ。

 

「知っていることと言えば……冬木の聖杯戦争、ある戦いでは貴様はランサーとして()()()()()()()()()()()()()()()。その戦いの結末が三つに分かれていることと、その後日談にて本来のマスターを救ったことぐらいしか知らないな」

 

こいつが俺に話し掛けてきた意図は不明だがこちらもあわよくばこいつの真意を引き摺り出してやろうと思う。

 

だが次に掛けられた言葉は予想の斜め上を行くものだった。

 

「そっちの話じゃねぇんだが、なるほどな。お前は()()()を知っているのか」

 

どこか呆れたような態度の彼に困惑する。どういうことだ? こいつは人理に敵対する存在ではないのか? 応えろ俺。

 

「あー、なんとなくだがお前さんが心配していることは分かった。つまり俺が()()()()()()()()()()()もしくは()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そしてそれが人理に反するものだと。そういうことだな?」

 

「……」

 

やはりキャスターというクラス故かランサーの時よりも冷静で頭がキレる。

しかしこちらも想定外なので情報を得るべく首肯する。

 

「安心しな、今の俺は坊主どもの味方だしお前さんが心配するような騒動は起こさねぇ。なんならルーンで約束してやってもいいが?」

 

あくまで朗らかに和やかに述べる彼に俺はそれ以上追求することが出来なかった。否、する必要が無くなった。

 

「人理を滅ぼさぬならば構わない。影響を及ぼさぬなら如何様にも動くがいい」

 

それが“抑止の体現者”たる俺の使命だ。

 

「……なにをもってそこまで警戒してんのか知らねぇが、普通逆だろ。序盤に出てくる味方っつったらお助けキャラとかそういうゆるーい認識が当たり前だと思うんだが」

 

残念だったな、俺の元の霊基はすでに型月厨。なんの気なしの脇役が実は黒幕とかそういうエグいことしてくるのが型月クオリティだ。

 

「……というか、ランサーの俺のこと知ってるとかお前の方が怪しいだろ」

 

と気を抜いていたのがいけなかったのか痛いところを突かれた。確かに本来の英霊である彼と、ポッと出に加えてガーディアンなどというエクストラクラスに並行世界のいざこざを知ってるとなれば完全に俺の方が不審者である。

 

「どうだろうな、ただ、俺はあくまでアラヤの端末でしかない。少なくとも彼らが反人理的行動に出ないなら容認するのが常だ。……レイシフトはこの緊急事態においての特例として黙認するがな」

 

結局のところそれだけなのだ。俺はアラヤの体現者、反人理的か否か。それ以外に関心などないしどうでもいい。

……本来であればこの事件においては抑止力は機能していない。そんな中で俺がこうして抑止の使者として来たのは明らかに()()()()()()()()()()()()()()だ。それにより抑止力の発動要因となった“何か”が生まれ現在進行形で人類を脅かしている。

それを消すために俺は来た。敵の正体も目的も分からないが、この旅を続ける以上、必ずどこかで接触する。

だからこそアラヤは俺を最後のマスターの元へと送ったのだから。

 

 

 

 




色々言ったけど筆者はキャスニキの今後の活躍に期待しております。


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