【凶狼】が闇落ちしたのは間違っているだろうか。 (ほしぞら)
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始まりと今。

誤字脱字ありましたら報告お願い致します。


広く、開けた野原。

そこを駆け抜けた狼達は、遠くで雄叫びをあげ、狩りの成功を宣言した。

 

灰色の毛並みを翻し、自身の牙を際限無く磨き、強さを求める。

 

彼等は『平原の獣民』。

誇り高く、確かな平原の主で在った。

__あくまでも『これまでは』だが。

 

 

ベート・ローガ、『10歳』の誕生日を迎えてから、初めての満月の夜。

 

『それ』は現れ、すべてを奪い去った。

 

 

…彼の意識が戻ったのは、たった数瞬前。

顔に熱が断続的に走る中、入り込んでいた岩場から無理矢理脱出する。

ノロノロと顔をあげて、自分の視界を疑うように、ピタリと動きを止めた。

 

__………これは、何だ。

目の前に散らばっている肉塊に、狼人の少年__ベート・ローガは、現実から目を背けるように何度も頭を弱々しくふり、数歩後退して腰を抜かしたようにぺたりと地面に座り込んだ。

 

「おや、じ……おふくろ……るー、な、?……みん、な」

 

問い掛けに答える者は一人も居ない。

その事実から逃げるように、手を後ろへと伸ばして__そこで、柔らかな何かに触れた。

 

「__っ、?…!?れー、ね……?」

 

バッ、と振り返り、目に入ったのは、くすんだ金色の毛並みの尻尾が生える、下半身。

自分が触れたのが、幼馴染みのふくらはぎだと気づき、同時に彼女の死を否応無しに理解してしまった。

ベタついた赤色が、自分の手を染めて、鼻に付く鉄臭さを撒き散らす。

 

……単純なことだった。

単純過ぎて、理解しやす過ぎて。

 

自分の中身をみっともなく全て吐き出して、遥か遠く地平線に消える新たな『平原の主』を睨みつける。

何事もなかったかのように消えていく主に対する苛立ちと、自身に対する劣等感が心を覆う。

 

 

もう二度と、失いたくない。

 

そんな、切なる願いが彼の心に去来して、すぐに変わった。

 

もっと、強く、高みへと。

 

 

満月の夜、平原に一匹狼の声が響く。

 

たった一人、強者に成ることを亡き仲間に誓って。

 

始まりの日から、十年以上の歳月が経った。

場所は地下水路。

魔石灯の灯りが、細長く狼の影を壁に映し出す。

たった一人、歩き続ける青年は顔に刻まれた青い刺青を苛立ちに歪ませて、水から跳び跳ねたレーダーフィッシュを、蹴りで瞬殺。

琥珀色の瞳に様々な思いを虚来させながら、一つの扉の前で止まった。

 

「開けろ」

 

たった一言そう言えば、最硬精製金属__オリハルコンの扉がズズ…と鈍調な音を立てて上がっていく。

中は超硬金属のアダマンタイトで出来た人造迷宮は青年の前に口を開いた。

 

「早ぇお帰りじゃねぇかよ、【凶狼】ぉ?」

 

品のないでかい肉声に耳を伏せて、そちらを見やる。

長外套を羽織り、にやついた笑みを浮かべる女は、ベートに近付く。

あからさまに面倒事の予感を感じ、身構える彼に笑って伝言を押し付けた。

 

「【ロキ・ファミリア】」

 

ぴく、と青年の耳が立ち上がる。

瞳をあげて、続きを促すように視線を合わせた。

 

「あいつらがここに勘づいたらし~んだよ、ったく、面倒な話だよなぁ~?」

「………で、俺にどうしろってんだ」

「なんもねぇよ、かわんねぇ仕事だ。クノッソスで都市最強派閥を潰す」

「………」

 

自身の怨念も含まれているらしい、獰猛な笑みを貼り付けた女は、てめぇも殺れってよ、と黙りこくる青年に伝えた。

 

「……ヴァレッタ、テメーは【勇者】か」

「ったりめぇだろぉ?フィンは私の獲物だ。誰にもやらせねぇよ」

 

確かな殺意を瞳に宿らせて女__ヴァレッタは眉を跳ね上げた。

27階層の悪夢、あの首謀者の一人である彼女は、その瞬間を思い浮かべて凶暴に口許を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、これは本来の歴史から外れた史実。

ベート・ローガが、強さ以外の悲願を見付けた、ある世界。

部族の死、幼馴染みの死、そして彼女の死。

その分岐点、最後の一つ。

愛を注ぎ続けてくれていた彼女の死に、耐えられなかった青年の心の崩壊、その結果。

これがこの世界での【凶狼】。

ベート・ローガの歩む【悲願の先】。

【ウルフ・バージ】である。

 




ベートきゅんかっこいいです。
大好きです。
なんやかんや言いながら、ヴァレッタさんも嫌いになれません。


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呪縛の下僕と、宿の主人と。

一週間に一回は更新したいですね(他人事)


薄暗い超硬金属の通路を、魔石灯片手に歩く一つの人影。

固い音を立てる銀の長靴は、核となっている黄玉を沈黙させたまま、ただ、アダマンタイトの床を蹴る。

 

しばらく歩いた青年は、目の前に現れた扉を、手を使うのも面倒だ、と言いたげに、右足で蹴り開けた。

 

中には、たった独り、男がいるだけ。

鎚と杭だけを握りしめ、真っ白な髪と窪んだ瞳が、男の不健康さを表し、同時に日に当たらない地下で長い生活を送ってきたことが窺えた。

 

「…バルカ」

「なんだ、【凶狼】。用件なら、早く済ませろ。話している時間すら惜しいのだ。我々は、永遠を生きることなどできないのだから__」

「クノッソスを使う」

 

振り向くことなく、変わらず鎚を振るい続けていたバルカがピタリと動きを止め、同時に血走った瞳でベートを見返す。

 

「……何故だ」

「【ロキ・ファミリア】が俺らに感付いた。もし、タナトスとこの奴等が殺られれば、もうこの迷宮を作ることなど出来ない。だから、ここで潰すってことだ」

「クノッソスに、傷が入るだろう」

「直せる程度に収めるっての。バラバラになりゃ、彼の【ロキ・ファミリア】とて只の雑魚だ。群れるしか能がねーんだからよ」

 

了承したということか、もう顔を前に向け、二度と止めるものか、とでも言いたげに鬼気迫る様子で鎚を振るう。

その様子に目を一瞬細め、何かを言おうと口を開くも、そのまま閉じ直した。

その口から出るのは、感情ではなく事務連絡。

 

「……【呪武器】も用意しとけってよ。ヴァレッタが使うっつってたからな」

「…わかった」

 

今度は言葉での了承。

それを得ると同時、くるりと方向を変え、気だるげに片耳を伏せながら、退室する。

未だ、コーン、コーン、と高い金属音が、鳴り響く。

男は何かに取り憑かれたように、槌を振るい続けていた。

 

        ▼▼▼

 

__翌朝。

意識が無いまま辿り着いた毛布の中、静かに琥珀の目を開く。

地上に長く取り続けている宿は、もう慣れしたしみ、最初に寝れなかったのが嘘のようだった。

 

「おはよう、ガキンチョ」

「……いい加減、その呼び名を止めろっての、クソババァ」

「無理だね」

「…………」

 

階段を下りれば、猛々しい笑みで自身を迎えるドワーフの女主人の姿。

何時も変わらぬ会話を交わし、最後に溜め息を吐くのは狼の方だ。

 

彼女が持つ大鍋の中に、ドサドサと食材が入れられるのを、何処か懐かしむような目で見ながら、ベートは宿の出口へと向かう。

 

「ちょっと待ちなよ、あと五分で出来るんだからさ」

「それで、出来た例があったか……?」

 

向けられたあきれた視線も豪快に笑い飛ばし、まぁ待ちな、と料理を再開する。

半眼を向ける青年は、あきらめたように置かれた木製の椅子に乱暴に座った。

 

ここは、歓楽街の中でも数少ない【イシュタル・ファミリア】との関係を持たない宿。

それ故か、値段も中々張る。

たが、人はあまり来ず、長期で宿を借りる客などベート以外に殆ど居ない。

彼にとっての条件すべてをクリアしており、それが彼がここに居る理由であった。

 

そして、なんとも情けない話だが__

 

「ほら、出来たよ」

「10分、かかってんぞ」

 

この豪快さが自身が捨てた部族の一人、母親に似ている気がしてならないのだ。

弱い部族に意味はない、そう切り捨てた彼女等を思い出せる、彼にできる数少ない罪滅ぼし。

 

「………」

「いただきますはどうしたんだい?」

「…………………」

「言うまで食べさせないよ」

 

そんなことを一瞬でも思ったが、やはり撤回しよう。

俺の母親は、これ程口煩くはなかった、と。

 

目の前から取り上げられた皿を、上目に見上げながら、小さく、いただきます、と呟いた。

 

「それでよし」

 

満足げに笑って、皿が戻される。

種族故か、豪快に仕立てられた料理は美味しいと確かに言えるが、それ以上に雑味が気になって仕方がない。

もう諦めきってはいるが、それでも気になる独特の味に、二度目の溜め息を吐いた。




やっぱりベートさんは病んでても格好いいと思うんです。
可愛いベートさんも大好きです。


誤字脱字がありましたら、報告お願いいたします。


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治療師の少女と、雑魚への感情と。

ベートきゅん、アニメで人気回復出来ましたかね。

ぁ、何時もにまして(?)短いです。


豪快なドワーフ料理を雑に掻き込み、皿に盛られた分すべてを食べきる。

口の中にあと引く甘さに小さく顔をしかめながら、空になった皿を台所の流しにおいて、宿をあとにした。

 

「いってらっしゃい」

 

そう聞こえたが返すことはせずに、只、手を小さくあげた。

満足げに息を吐く音が聞こえて、間もなく、ばたん、と扉が閉まる。

 

さぁ、今日も何時ものように、強さを求めて。

迷宮が下に眠る『バベル』へと足を進める。

既に完全装備、『フロスヴィルト』に使う為の魔剣も銀靴の収納場所に十数振り入れている。

今日は使う気は無いが、ダンジョンは常に未知だ、異常事態が無いとは言えない。

備えあれば憂い無し、と何処かの神が溢した東国の諺を思いだしながら、ふと、視線を横に向けた。

強者としての力を、気配を感じたと言うか、只、ぞわりと背筋が粟立つ感覚に襲われたのだ。

 

視線の奥、大通の中心に見えたのは、美しい金の長髪を風になびかせる少女。

褐色の肌の少女__恐らくアマゾネスのLv.6【大切断】__と一緒に何事かを話している。

 

「【剣姫】だ……【ロキ・ファミリア】……」

 

何処かからか漏れた、羨望の声。

【ロキ・ファミリア】の上級冒険者、それが二人__否、後ろにも数人、それだけいれば、視線も否応無しに集まる。

彼女らの中に一人、エルフの少女が無遠慮な視線を向ける群衆を、険しい顔で見つめていたが、早朝だ、これくらいの人数しか居ないだけましだろう。

 

そんなことを思いながら、静かにその場を去る。

ダンジョンへと向かうがてら、確かに聞こえた『オリハルコン』の声。

あの扉の話だとはすぐにわかった。

そして、そこに行くために、回復薬やら精神薬を買いに来ていることも。

 

「……」

 

無言で振り替えれば、眼鏡にお下げの気弱そうな少女と目が合った。

自分の視線に怯えたのか、小さく肩を跳ねさせる彼女は、いくら高く見ようがLv.4。

あの人造迷宮にいけば、きっと死ぬ。

 

「……」

 

数秒視線を重ねたが、そう思った瞬間に切った。

そして、ダンジョンに向かっていた足を、別方向へと向けた。

「……【凶、狼】?」

「どうしたの、リーネ?」

 

記憶の奥底から引き摺り出した、とある冒険者の二つ名。

段々と増えていく人混みに消えた、灰色の毛並みを思い浮かべ、治療師は小さく首をかしげた。

 

         ▼▼▼

 

「おいおい、ベートォ?何書いてんだよぉ、あとでバルカにぶっ殺されんぞぉ?」

「うるせぇよ」

 

その日の夜。

ベートが自腹で買ってきた大きい筆と、銀に目立つ漆黒のインク。

 

「…………ちっ」

 

騒然と銀の輝きを放つ扉に、共通語でかかれた、たった一言。

 

『雑魚は巣穴に引っ込んでろ』

そんな粗暴な言葉を、【ロキ・ファミリア】が目にするまで、残り数時間を切った。

 

魔石灯に照らされる二つの長影は、ユラユラと揺れた。

 




どうでもいいかも知れませんが、今度ベートさんが女の子の官能しょーせつを書きたいです。
書いて良いですかね(汗)

娼婦の中ではアイシャよりサミラが好きです。
フリュネは蛙です。
単純に苦手です(くそ)


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静かな戸惑いと、僅かな郷愁と。

お久しぶりです()


「……何よ、これっ」

 

怒りを抑えた声が地下水路に響く。

ざぁざあと流れ続ける水音が、やけにうざったく金の剣士の耳朶を打った。

 

「……雑魚ってLvが低い人のことかな」

 

ぼそり、と呟いた女戦士の妹の声に、あからさまな怒気を含ませるLv.4以下が多数。

サポーターを減らす作戦か、と姉のアマゾネスが眉を顰めるのを横目に、首脳陣三人、そして、アイズ、ラウル、アナキティ__リーネの七人はお互いの顔を見あっていた。

 

「フィン、この字はあやつの__」

「ンー、そうだね。まだ、確証は持てないけれど……」

「……ちょ、待ってくださいっす!?それって、あの人が『闇派閥』に__ッ!?」

「言わないで、ラウル。他の団員にまで混乱が広がるわ」

 

大柄なドワーフの問いを肯定する小人族の団長に、黒髪のヒューマンが悲鳴染みた声をあげる。

動揺を隠しつつ青年の口を押さえる黒猫の少女は、有り得ない、と本音を確かに吐露した。

 

「………アイズ」

「うん、わかってる」

 

あまりに短い意思疎通、だがその中で交わされたのは、あまりに深刻な事態の対応策。

一年と言うあまりに短い所属時間、それでも【ロキ・ファミリア】に居た彼の強さは身に染みて知っていた。

 

「………きっと、事情があるんですよね」

「何の話ー?」

「いえっ、なんでもないんですよ、ティオナさん」

 

お下げを小さく揺らし、ティオナの心配に笑みを返す。

彼女等姉妹の来るたった数日前に去った青年のことを知るものは少数だ。

知っているのは、否、字体を覚える程に接していたのは、治療師のリーネ含め、この七人しかもう居ない。

 

だからこそ、とアイズは銀色の扉を見詰める。

 

_何が有ったかなんて自分にはわからない。

 

あの頃は、誰かに構うことなく、彼と同じようにひたすら強さを求め続けていた。

彼のことは、きっと自分にとって鍛練の相手でしかなかった。

 

_分かろうとする権利がない。

 

彼の苦しみを知ることが、出来ないまま別れはやって来た。

誰よりも、特に戦いの中では多く彼と接し何度も言葉を交わし、そして何時でもお互いを高めあっていた。

それなのに、知ることすらしようとしなかった。

 

「………行こう」

 

きっとこれは、その時の埋め合わせだ。

自分がしなければいけない、もうひとつの悲願だ。

 

そう、心の中で言い聞かせ、一歩扉に近付いた。

 

          ▼▼▼

 

「………ちっ」

 

魔法道具の水晶の中、確かに映る金色の少女に舌を大きく弾きならした。

そして、その後ろに居る小柄なお下げの少女を見て、目を細めた。

 

「……彼奴あの時の、治療師」

 

昨日は思い出せなかった、記憶の奥底。

そこに沈んでいた少女は、自分を覚えているのだろうか。

 

「……何、考えてんだ」

 

郷愁にも似た感情を振り払う。

今の自分は彼女等の敵、そんな感情を持てば只徒に傷を受けるだけ。

 

それがわかっているから、ベートは視線を水晶から外し、銀色の長靴を鳴らし、歩いていく。

 

待っている、彼女等との戦いに、僅かに心を踊らせながら。

 




アニメも無事進んでいますね。
凄く縮んでいるなぁと思いながらも見てしまいます。

そう言えば、肌の接触を嫌うって言うエルフだからこそみたいなフィルヴィスさんのを分かりやすくするためでしょうか、ベートさんの手袋?から肌色見えててちょっと萌えました。
ヤバイですね、ちょっとどころじゃなく()


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二人の怪人と躊躇の欠片と。

べーとさん………ツンデレツンデレにっこにっこで騒がれましたね。

尊いです。


青年が水晶の置かれている部屋から出ると、すぐ、嗅ぎなれた匂いが鼻に着いた。

 

カツカツと鳴らしていた足音を止ませ、相手が出てくるのを待つ。

響くのは布擦れの音と微かな呼吸音のみ、足音を出さないままに、その人物は現れた。

 

「鍵はお前か、エイン」

「……アァ」

 

短い返答と共に、仮面に覆われた顔を縦に小さく振る。

それで終了した会話を置き去りに、彼__エインは【ロキ・ファミリア】が奥にいる扉へと、足を進めた。

 

その背中を無言で見送り、自身はまた歩き出す。

 

「……狼人」

 

その背中に、声がかけられるまではそれほどもかからなかった。

「……なんだ、化物女」

「お前は『アリア』の元仲間なんだろう。下らない情で、見逃す等と言う行為をしたときには…わかっているだろうな」

 

赤髪の怪人__レヴィスがその緑眼を細め、問うてくることに一瞬だが青年は目を見開き__そして、すぐに嘲笑に頬を歪めた。

 

「ハッ、テメェもそんな心配すんだなァ」

「…当たり前だ。アリアは私が殺す。それを邪魔される可能性があるなら、排除するになんの躊躇もない」

「おー、言うじゃねぇーか。それで逃がした時のテメェの面は、抱腹モンだろーなぁ?」

 

端から見れば軽い言葉の投合、但し、意味には生温い感情は込められていない。

「殺すぞ、狼人」

「殺れるモンなら殺ってみろっての。……ま、今は無理だろうけどなぁ」

 

彼に対し、殺意を滲ませる彼女も気付いたのだろう。

仮面の人物が向かった場所__『アリア』達が居る、扉の方向へと、感情の矛先を変えた。

 

「雑魚共も、来てるみてぇだな」

「関係無い。ただ、アリアを殺すだけだ」

 

狼耳に届いた多くの足音に、呆れたような言葉を漏らす。

 

その隣でまた殺意を溢れさせる赤髪の女に、狼人の青年はちらりと琥珀の瞳を向ける。

 

その時には、彼女はヴァレッタに指定された場所へと足を進めていた。

揺れる血のような髪を見詰め、吐息をつく。

 

その溜め息を残し、青年も足を動かし出す。

__これから始まるのは元の仲間との闘争。

だと言うのに、何の感情浮かばない琥珀色は、ただ前を見据えていた。

 

          ▼▼▼

場所は代わり、人造迷宮『クノッソス』上層の一つの広間。

ダンジョンの物を準えて造られた正方形の空間。

唯一繋がっている正面の通路、上り階段の奥には暗がりだが確かに道が続いているのが見えた。

左右の最硬金属の『扉』が、酷く窮屈さをかもし出している。

 

「……広間に似てる」

 

零れた猫人の少女の呟きは、無機質な空間に反響し、溶けていく。

不気味なまでの静寂に包まれ、何か言おうとした女戦士の妹の口が、何度も開閉を繰り返す。

ついには動きを止め、静かに耳を澄ませた。

 

「………」

 

動きを止め、静かに疼き続ける親指を見詰めていた小人族の首領は、静かに視線を持ち上げた。

それと同時、アナキティの耳が鋭く立ち上がった。

他の獣人の団員達も同様の動きを見せ、視線を奥の通路へと集中させる。

 

そこからは悠然とした足音が響き、まもなく一つの影が姿を現した。

 




題名詐欺とか言わないでください()
躊躇したら闇落ちとかいえねっと思ってあわてて文章を大きく変えたバカですけど何か問題がありますか?ありません(自己完結)

閲覧ありがとうございました。


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宝玉の胎児と、過去の大笑と。

なんだかお久しぶりです、


「フィ~~~~~~~~~~ンッッ!!!」

 

女性とは思えないバカでかい肉声が聞こえてくる。

場所は【ロキ・ファミリア】がヴァレッタと対峙している人造迷宮の広間、その下の通路。

Lvは既に第一級、それに伴い五感もさらに鋭くなっているせいで、頭上の狼の耳はしっかりと音を捉えていた。

 

「…………うっせぇ……」

 

ゲンナリと言葉を漏らして、銀靴をガツガツと苛立だしげに鳴らし、自分が指定されていた場所へと向かう。

 

近付くにつれて、確かな鼓動の音が聞こえてきた。

七つ_否、一つはもう『使った』のだから、六つ。

重なり合う鼓動は酷く不快感をもたらし、ベートは眉を顰めた。

 

「……これで、引き寄せられるってマジかよ……?」

 

怪人の女からエニュオの言葉を聞いて、耳を疑った。

 

『汚れた精霊』。

 

それは、レヴィス達が『彼女』と呼ぶ存在であるとは知っていた。

だからこそ、そんなものと金の少女が関係しているとは、思えなかった。

 

部屋に顔で覗かせれば、大型のフラスコ容器にいれられた『宝玉の胎児』の姿が目に入る。

数個は既にフラスコを破って外に出ており、薄く開いた目がなんとも不気味であった。

 

「……育ちきったか」

 

『それら』を予めそこに置かれていた麻袋に、丁寧に入れていく。

あまりに雑に扱えばあいつらに半殺しにされるのはわかりきっている。

新たに破って出たもの_結局六つすべてを麻袋に入れきると肩に背負い、持っていく。

 

もし、ここにこれを置いたままにしてしまえば、アイズや他のやつに壊され、もう使えなくなる。

レヴィスが一匹を運んでいた姿を思いだし、迷わぬように歩いていく。

 

__少なくとも、アイズが来る前には戻ってこれるだろう。

 

そう考えては、銀の長靴をならして、進んでいった。

 

          ▼▼▼

 

「これで、よしっ、と」

 

背中で響く鼓動が気持ち悪かった、と溜め息をついて走り出す。

……結局道に迷ってしまい、かなりの時間を喰ってしまっていた。

下手をしたら、もうアイズが彼処に来てしまっているかも知れない。

 

そう考えて、更に速度をあげた。

得体の知れない高揚感に、無意識に笑みを象りながら。

 

          ▽▽▽

 

あの少女との出会いは、全て運命の神が仕組んだことだったのかも知れない。

もしくは、炉の神の慈悲か。

 

荒みきっていた自身が出会った、金色の少女。

 

酒場でドワーフの大戦士にブチのめされてから一年間、何度も顔を合わせ共に戦った、あの少女。

 

__年は生きてたら妹と同じくらいだろう。

 

年に似合わぬ表情で必死に剣を振り続けていた。

 

__どうしても、幼馴染みの顔が浮かんでくる。

 

綺麗な、より鮮やかな金色の髪。

 

__アイツと、同じ目だ。

 

強さを飽き足らず求め続け、強者に成り続ける、その視線。

 

いつ死ぬかもわからない、その姿に罵倒を連ねる時も少なくはなかった。

 

『バカじゃねぇのか。そんな突っ込んで行ってりゃあ、その内あっさり殺られちまうだろうが。目標だか願いだか何が有るのかは知らねぇけどよぉ……叶う前に死んじまっても知らねぇぞ』

 

齢十歳の少女に言うことではなかっただろうが、言葉を掛けずには居られなかった。

 

剣を下ろし、彼女が返したのは、笑ってしまうような、そんな言葉だった。

 

『……死なない』

『は?』

 

んな訳ねぇだろ、そう続けようとした口は、嘲笑を吐く隙を失った。

 

『私は死なない。死ねない。強くなるまでは、悲願を叶えるまでは、死ねない。死ぬことは、私が許さない』

 

絶対、あの年代の少女が吐くことはないであろう決意にまみれた本心。

悲願にしがみついた、子供の言葉。

 

ベートは、その時も笑っていた。

 

笑いは、次第に表情に浮かぶだけではなくなり、微かだが喉の奥から声を漏らした。

 

『……くっ、はははっ!』

『……?』

 

いきなり笑い出した自分を見つめる、疑問を目に浮かべ、首をかしげる少女の顔はなんだかおかしく、また笑ってしまった。

 

涙が出るほど、笑ってしまった。

 




はい!!聞いてください!!コミカライズのソード・オラトリア9巻読みましたか!?

ベル君の戦いを見てベートさんがみいった挙げ句にしかも体が疼くとかいってるんですよ萌えました(おま)

あとガルァアアアアのベートさんまじくそ好きです。
かっこいいです。

アニメでもちょくちょく萌えます。
椿さんが寄るシーンに何度変わってほしいと思ったか……!!!

いつかトリップしたいですо(νων(оスヤァ

また戦闘シーンを出せなかったですごめんなさい、次回は絶対でます。


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遠い過去の、技の駆け引きと。

文章かけなくなったまま書いたらこんなでした。
悲しい。


一頻り笑った。

久方ぶりに浮かべた嘲笑ではない笑みは、顔が疲れた。

気付けば、滑稽な無表情で己を見ていた金の少女は、呆れたように素振りを再開していた。

 

その様子は、今までに何度も見てきて、その都度精度を増し、研ぎ澄まされてきた剣技、その僅か一部。

 

ベートは、その全てが見たくなった。

 

「……組手でも、するか?」

「……!」

 

何処か、飄々とした余裕を見せたまま、そう笑いかけてくる。

今まで、彼にそんな言葉を掛けられたことはなく、思わずと言ったように目を見開き、問い返した。

 

「どうして、」

「理由なんて特にねェよ。修練の一種ってくれぇだろうが」

 

言葉を被せられる。

そう言われれば別に拒む理由もなく、幼いアイズはこくり、と頷き短剣を構えた。

 

その姿に、自身も構えた。

 

「……双剣は、使わないんですか」

 

手加減をされる、そう思っての疑問の声。

何処か不機嫌な色を出す少女に、青年が呆れた息を吐いた。

 

「同じ【ファミリア】の奴の戦闘方法位覚えろ。……俺の主武器は、こっちだ」

 

そういって、手で軽く自身の靴を叩く。

膝頭近くまで覆う、『黒』の金属靴。

硬さと速さ、その二つを求め、彼の体の長所を殺さないように作られた専用装備__否、違う。

 

「__やるぞ」

 

その違和感の正体にたどり着くより早く、彼の声がかかった。

 

ハッとして武器を正面に構える。

それと同時、ベートの体がぶれた。

同じLv.3、それなのに目で追うのが精一杯、下手をすると目すら置いていかれる。

初撃を防げたのは本能に動かされた、偶然であった。

 

「……ッ!!」

 

ギンッ、と中庭に響く金属音。

真横に迫る黒色に、アイズは小さく息を飲んだ。

 

長い足を生かした遠距離からの回し蹴り。

彼の胴体は剣の射程外にあり、ましてや剣の腹で蹴りを受け止めている状態ではどうにも出来ない。

 

それでも威力を殺しきり、反撃に移ろうとする少女の顔に見付けた微かな躊躇の色。

その隙を見逃すことはなく、さっさと距離を取り直すと、その表情を見て静かに呟いた。

 

「……対人戦は、まだまだか」

 

人を切ることに、『正気の間』はまだ抵抗がある。

そのような、意味だったのだが。

 

「…………ッッッ!!!」

 

少女はそう受け取れなかった。

弱い、その意味としか思えず、一時的に激昂した感情に押されるまま、距離を取った相手に向かって剣を突き出す。

なんの細工も無い、愚直な突き。

 

怒りで心の制御を仕切れていないまま、全力でベートの腹を貫こうとした。

 

「__ッ、甘ぇよ」

「グッッ!?」

 

身長差が有りすぎた。

まだ幼いアイズが持つ短剣など、長さが知れている。

真正面から来ると言うなら、剣より下に足を突きだし、待つだけで充分だ。

 

あとは、ただ突進の勢いで相手が苦しむ、それだけだったのだが。

 

随分、鍛えている。

力負けとまでは行かないが、確かに押され、地面には土の抉れた痕が残る。

 

……ただ、それを生み出した本人は、腹を押さえうずくまり悶えていたのだが。

 

「……おい、続けるか?」

 

さすがに齢十歳の少女には辛かっただろうか。

今更後悔が滲むも、それは杞憂に消えた。

 

「っ、いえっ、まだやれる……!」

 

そう言って立ち上がった少女は、痛みは消えてはいないようだったが、確かにその足で立ち上がった。

 

剣を構え、すぐに走り出せる姿勢を作る彼女に、静かに笑った。

 

「……もう少し、剣以外の技を磨け」

「それは、どういう」

「こういうことだ」

 

短い言葉の掛け合い、すぐに放たれた前蹴り__

 

「__っ、え」

 

__に、見せかけた足払い。

ポカンとした顔で横薙ぎに倒れたアイズが立ち上がるより早く、その顔の横に足を落とす。

 

「心理戦はモンスター共にも通用する。フェイントとかがわかりやすい例だな。あぁいや、お前みたいな奴なら懐に飛び込んで行くのもありだろう」

 

足をよけ距離を取り直しながら、古参三人が止めさせようとしていた戦闘方法を、さらりと彼女に提示する。

 

それを聞いて、少女は再びこくりと頷き、立ち上がった。

 

「……っ!」

 

青年が構えたのを見て一気に走り出す。

【風】はまだ使わない。

 

彼女が射程距離に入る直前、ベートも足を踏み出した。

たった一歩の踏み込みに籠めた力を、回転力に変える。

最初とは違った状況、放たれた同じ回し蹴り。

 

横に迫る金属靴に今度もまた、剣の腹を当てた。

だが、それはーー

 

「っ!」

 

防御ではなく、力が殆ど入っていない受け流し。

少々高さが不安だったが、金属靴はアイズの頭の上を通り抜け、青年は確かにバランスを崩した。

 

「__【目覚めよ】ッ!」

 

瞬間発動させた風の付属魔法。

吹き出した風を自身の走力に足し、一気に懐に飛び込んだ。

長身の青年の腹への頭突きは、完全に彼の感覚を崩し、背を地面につけさせた。

 

「__見事、って、言わないんですか?」

「……そんな喋り方しねぇよ」

 

起き上がるよりも早く首の横に当てがわれた剣。

それ自体に驚愕はなく、ベートは上に乗るアイズを下ろしてさっさと立ち上がる。

 

「……ありがとう、ございました。あと、ごめんなさい」

「……なんで謝る」

「だってあの蹴りは、最初と同じ、だった。わざと、」

「今日はもう止めとくか……同じ手が効かねぇのはお互い様だ」

 

また、言葉を被せられた。

それに一瞬む、とするアイズだったが、最後の言葉に目を見開き、微かに笑った。

 

それを見ると青年はすぐに歩き出す。

 

その背中を見送ることなく、少女はまた素振りを始めていた。

 




すみません戦闘苦手なんですよね(おま)

この先どうなるんでしょうかね(他人事)


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二人の妖精と、風の遠さと。

アイズたん(16?)を出したい今日この頃です。


「……五年……いや、六年前だな」

 

すぐに教えられた技能を自分の物にし、同Lvとは言えステイタスで上回るベートを地に押し倒した、金色の少女。

 

あの訓練のあと、ロキに散々からかわれたのは中々嫌な思い出だ。

 

「……そろそろか」

 

あのバカでかい声から既に十分はたっている。

行動が早いアイツなら、もうついていても不思議ではないだろう。

 

そう考えて少しスピードをあげると、同時。

 

『【アルクス・レイ】!!』

「ッ!?」

 

目の前を大閃光が走り抜けた。

光と言うよりも、エネルギーを集めた弾丸のような威力。

 

曲がろうとしていた交差地点の右から二つの少女の声が聞こえてくる。

 

二つとも、知らない声音。

 

その事実に安心した心など見ぬふりで、そのまま角から姿を現してやった。

 

「……エルフ?」

 

リヴェリアに憧れて入ったのだろうか。

見たことねぇな、と小さく呟き、コキ、と気だるげに首に手を当て、鳴らした。

 

「っ……!!」

 

黒髪の少女が、腰の短剣と短杖に手を伸ばす中、山吹色の少女はベートの出現が意外だったようで動きを止めていた。

 

「……素顔を晒すなんてな。闇派閥の連中は、身バレを一番嫌がっていたようだが」

「……アァ?……ぁ」

 

やべ、と気の抜けた声を出し、苛ついたようにガシガシと頭を掻いた。

 

すっかり忘れてしまったローブ。

ヴァレッタに押し付けられた闇派閥の連中と同じローブは、どこにやってしまったのかも覚えていない。

いや、嫌々、どうせアイズとかには、ばれる。関係ねぇ。

 

そう無理矢理納得させて、二人のエルフを見やる。

白装束の少女__フィルヴィスは、あからさまな隙にも警戒して、とびかかっては来なかった。

 

「ふぃ、フィルヴィスさん……この人って……!」

「……わかっている。お前は、私が戦い始めたら出口を探して、逃げるんだ。いいな」

 

耳に届いてしまうその作戦に、ベートは小さく笑ってしまう。

 

なんて、愚かだろう。

 

自分の身を引き換えに、守ろうとするなんて。

 

そんな夢を信じてるなんて__。

 

「__つまんねぇんだよ」

「っは、__ッ!?」

 

小さな呟きが騎士のような少女に届いた、その直後。

 

「っ、フィルヴィスさんッ!?」

 

フィルヴィスの後ろに回り、手刀により彼女の意識を刈り取っていた青年は、思い出したかのように吹いた風に、うざったそうに目を細めた。

 

ぐら、と崩れる彼女の体を慌てて支え、声を上げたいのを堪えたまま山吹色の少女が怯えた視線をベートに向けた。

その視線を見て、鼻をわざとらしく鳴らして口を嘲笑に歪めた。

 

「雑魚は入んなって書いてただろうが?何入って来てんだよ、自分が弱くないとでも思ったのか?」

「……っ」

 

口を開き、何かを言おうとしたレフィーヤよりも早く、また罵倒を連ねる。

 

「馬鹿じゃねぇのか?自分が足手纏いになるなんて、わかりきってただろうが?嗚呼、こんな足手纏い連れてくるなんてフィンも、」

「__違いますっ!!」

 

ただ、この少女の心を折るつもりしか無かった。

その為に名前を出した【ロキ・ファミリア】団長の小人族の勇者。

 

それを聞いた瞬間、怯えたまま黙ることしか出来なかった少女が吠えた。

 

「ふざけないでください!!団長を、団長をっ!!貴方が貶める権利なんてない!!私なら、まだ許せます。私はまだ弱い。ですが、もし貴方が!!団長やリヴェリア様、ガレスさんやアイズさん達を悪く言うと言うならっ、私は貴方を許しません!!」

 

呆然と、その叫びを聞いた。

 

今もまだ、自分の力がわからず膝をガクガクと震わせている雑魚が。

何故、こうまで強く出られるのかが、わからない。

 

「……っは、笑わせんな、『雑魚』が。そんなこといってる暇あるかっての。さっさとその女連れて、どっか行きやがれ。邪魔だ」

 

だけど、どうにも出来ない歓喜と喜悦が振り払えなくて。

その感情に身を焦がされるより先に、少女を視界から追い出すことに決めた。

 

「……『雑魚』だから、見逃すんですか」

「思い上がってんじゃねぇーぞ、ガキエルフ。てめーに懸ける情なんぞ俺は持ってねぇよ。……自分よりも弱い奴をいたぶる屑になるのが、絶対ゴメンなだけだ」

 

そんな事を溢して、目的の部屋へと向かう。

そこに残されたレフィーヤは、困惑した視線だけを彼の背中に向けた。

 

【風】はまだ、聞こえない。




すごいネタが浮かんでるんですが全く持ってこの話には関係ないです。()


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隠された傷と、枯れた期待と。

前回でへし折ったフィルヴィスフラグ、つきたてたレフィーヤフラグ。

結局回収はしないんですけどね!()


分断された【ロキ・ファミリア】、その中の一つ。

 

黒髪をお下げに結わえた人間の少女は、顔を血で汚しながらも生を掴み取ろうと戦っていた。

 

「ロイド、右っ!!」

 

「っ、ああ!!」

 

叫び声を飛ばして、それを聞いた青年は右の通路から現れた『闇派閥』の人間を切り捨てる。

 

終わりが少々遠い戦いに熱が籠る中、治療師としても、冒険者としても、リーネは仲間を救おうと声を上げ続ける。

 

__こんな時に、何時も助けてくれるのは、あの人だった。

 

負傷した仲間に暖かな治癒の魔法光を当て、そのまま慣れない左の裏拳で、相手の鼻を砕いた。

そんな緊迫した状態で、ふっ、と思考に浮かぶ狼人の青年の姿。

 

私も、あの人のように__。

 

密かに心に芽生えた恋心。

 

隠し通したまま青年は【ファミリア】を去り、今日再会出来るか、等と淡い期待はもう消えた。

 

がむしゃらにはならぬよう、理性が裏付けするまま確実に敵を減らしていく。

 

仲間と敵の飛血が髪に張り付く中、張り詰める意識に浮かんだのは、彼の弱さを見た時だった。

 

        ▽▽▽

 

「……ごめんっす、リーネ、頼むっす……」

「大丈夫ですよ」

 

力無く布団にうずくまる黒髪の青年に苦笑を返し、渡された書類をしっかりと握った。

風邪を引いたラウルが寝込んで早3日だ。

今日駄目なら【ディアンケヒト・ファミリア】、もしくは【ミアハ・ファミリア】から薬を買って来なくてはならない。

 

それよりも困ったのは__

 

「ベートさん、かぁ」

 

一度もまともに話したことのない__大抵罵倒されて終わる__青年への連絡役のラウルが倒れてしまったことで、誰かが彼にこの書類を渡さなくてはならなくなった。

 

『ごめんね、リーネ!』

 

だが生憎、本来なら請け負うはずだった猫人の友人は団長に頼まれとあるお使いだ。

 

それでリーネに、白羽の矢がたったのだ。

 

若干、否かなり緊張しながら、カツカツと床を鳴らして青年の部屋へと向かう。

 

ダンジョンから帰ってきているのは確認済み、ついでにガレスに勝負を挑み返り討ちになったのもわかっている。

だから、部屋にいる。

 

いなければいなければで、そのまま置き手紙で済むのに、なんて弱気な言葉を落として、紙の束を持つ手に力を入れた。

 

「?……ベートさん?」

 

コンコン、とノックをすれば何か反応があると思っていたが、何も返ってこない。

いないのかな、と首をかしげてキィ、と蝶番がなるドアを開けた。

 

「……寝てる」

 

視界に飛び込んできた青年の顔は何時もの粗暴さが失せ、どこか子供を思わせる。

それは当たり前、何せ彼はラウルと同じ、もしくはそれより若いのだから。

 

はっきりとした確証を持てないまま、まぁいいか、と思考を停止させて起こさないよう、雑に置かれた机に書類を置こうと部屋に踏み込んだ。

 

「……!」

 

ごろり、と寝返りをうった青年に起きたか、と体を一瞬固くするも、安らかな寝息は聞こえ続けていて、ほ、と一息つく。

 

だが、彼女はすぐに目を見開き、有り得ないと言わんばかりに顔をひきつらせた。

 

気付かない程の微かな血の臭い。

その臭いのもとは、ベートの体からだった。

 

先程ガレスさんと戦った後、風呂に向かったと聞いたけど、と書類を机に投げ、眠る青年に近付いていく。

鋭さを掻き消す静かな寝息が途絶えぬよう、出来るだけ音を立てぬよう、だが確かに強くなる血の臭いに焦るように青年の腕に手を伸ばす。

何時もの戦闘衣とは違う、薄く腕が殆ど出る肌着だけで眠っていたから、『それ』を目にするのは早かった。

 

恐る恐ると抵抗がない左腕を掴み、見えずにいた手首を覗き込むように持ち上げた。

 

「な、なんですか……このキズ……!?」

 

__手首に幾筋も引かれた赤の斜線。

血は止まっているが、深く刻んだのだろう、生々しい肉の色が奥に見え隠れを繰り返す。

 

慌てるように、リーネは魔法を唱え、温かな治癒の光を腕にぶつけた。




やっとリーネたそとベートさんの絡みをかけたのです。

なんやかんや私はリーネが好きなんです。
『原作だと』死んじゃいますが。


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刻んだ傷と、なぞる傷と。

お久しぶりです(ニッコリ)
後書きは見た方が良いですよ!!(黙れ)


真っ白な光が、夢をたゆたう青年の瞼を焼く。

腕を捕まれている、その感覚を確信すると同時、青年はこれが確かに夢であることに気付いた。

 

そこは、青々とした草木が茂り、狼人達の声が響く、平原だった。

 

放浪を重ね続けた豊かな大地。

夏になると必ず入る湖が遠くに見えた。

 

その中で自分は、幼馴染みの少女に見守られる中、修練に打ち込んでいた。

 

何時間も続けていたのに、少女はくすんだ金髪を風になびかせて、飽きる様子もなく嬉しそうに見詰めてくる。

夕日を反射する汗が、灰の髪をじとりと濡らすが、気にならない。

 

暑く、熱く、何処までも燃える熱に、衝動に、体を焦がして何度も拳を振るって。

『ベート。そろそろ、帰ろっか』

 

儚い少女は美しい笑みと一緒に、そう小さく声をかけた。

その一声で自分も微笑み、頷いた。

 

少女が細く華奢な手を差し出し、自分もそれを掴もうとしたところで__。

 

少女が、地面に吸い込まれるように消えていく。

美しい緑の平原も、全て黒の渦の中へ、中へと。

必死に手を伸ばしても、もう届くことはない。

声をあげて、少女の名を呼ぶことも出来ないまま。

 

__夢は、完全に砕けていった。

 

         ▼▼▼

 

「__レーネッ、……ぁ?」

「ベート、さん」

 

目が覚めたらしい。

誰かの名前と、不機嫌そうな疑問の声を溢した彼に、今尚治癒の光を当てながら、名前を呼んだ。

 

「……何、やってんだ」

「……直しています。ベートさんの傷を」

「……誰がテメェに頼んだよ」

「……私は、治療師です」

 

そう言って、魔力を更に籠めた。

寝起きの目には眩しかったのだろうか。

強くなった光にベートは眉を寄せ、寝転んだままの体を起こし手を振り払おうとする。

 

「もう少しっ、待ってください」

 

リーネは慌ててそれを押さえ、横になったままでいるよう言葉をかけた。

不機嫌そうに、だが何故か振り払わず、体から力を抜いた青年は、真剣な瞳で己の傷を治す少女を見やった。

確か、リーネと言う治療師だった筈だ。

Lvは人間の青年や黒猫の少女と同じ、Lv.2。

青年からすればまだまだ『雑魚』と毒を吐きたくなる、そんな弱い雛。

 

その少女の瞳に、夢に出た幼馴染みを重ねた。

 

傷などつくのが当たり前で、周りは心配と言った心配をしやしなかったが、幼馴染みの少女は、自分の傷に優しく、優しく薬を塗って、怒って、そして笑っていた。

自分の為に強さを求める彼に、嬉しさを感じていたが、それよりも無茶をしないか心配だった故の感情だったが、それを青年が知ることは、もうない。

 

「終わりました」

「……おー……」

 

気だるげに返事をし、ごろりと背中を見せるように寝転んだ。

お礼の言葉も無く、馴れ合いは終わりだ、と言うような背中に少女はその眉を軽く跳ねさせ、ようやく疑問を問うた。

 

「……どうして、そんな傷をつけたんですか」

「……関係、ねぇーだろ……」

 

ゆっくりと、何かを堪えるような声色にリーネは身体を動かし、手を伸ばした。

 

「……なんで、『傷』をつけるんですか」

 

返事は無い。

 

それをわかっていたかのように、狸寝入りをする青年の、左頬に触れた。

ぴく、と耳を小さく震わせたベートには気付いていたが、そのまま青い雷のような刺青を優しく、なぞる。

 

オラリオでも、顔に刺青を彫る人間は少ない。

それでも彫る理由は、単なる格好付けか、もしくは__

 

「……これは、何の『傷』だったんです__ッ!?」

 

認識は出来た。

だが、動けなかった。

 

「ッ、べーと、さんッ……!!」

 

苦しい。

息が、息が出来ない。

首を掴んだ手は、大きく、力強く、そして__震えていた。

 

「……てめーには、関係ねぇ」

 

同じ言葉を繰り返し、ぱっ、とベートは手を離した。

 

リーネは何度も咳き込み、涙の膜が張り滲んだ視界で青年を見上げた。

今度は背を向けずに上を向いて寝転ぶ彼は、たった一言、溢した。

 

「……始まりの『傷』だ」

「……ありがとう、ございます」

 

なんで礼を言うんだ、と言いたくなった。

こんな一言で全てが理解出来る訳がないのに。

 

「……俺は寝るから、さっさと部屋から出ろ」

「……、はい。ぁ、ここに資料、置いておきます」

 

返事は無い。

 

その事実に何故か満足して、失礼しました、と部屋から出る。

最後に見えた、胸を押さえる青年の姿を、見えないことにして。




リーネたんが首閉められましたごめんなさい(ズザァアア※スライディング土下座の音)

そしてオマケです↓

▼▼▼

次の日。

食堂でいつも通り【デメテル・ファミリア】の野菜をふんだんに使ったセットを選ぶ。
いただきます、と極東の文化に乗っとり手を合わすと、箸を掴む前に襟首を掴まれた。

「ひゃあっ!?」
「……飯、食い終わったら俺の部屋に来い。良いな」

唐突に耳元で囁かれた低い声に、擽ったさを覚えながらもコクコクと頷く。
それを確認すると狼の青年は不機嫌そうに鼻を鳴らし、そのまま食事の席に付いていた。

「ちょっ、リーネっ?何言われたの?」

黒髪の猫人が慌てたように話しかけて来るも、リーネは返事をしない。
否、出来なかった。

あの声が、昨日のような粗暴さがない声で。
そして、何より__横暴な命令のような口調だったのに、何故か不安を隠していたから。

「早く、食べなきゃ……!」
「ぇ、と?リーネぇ……?」

何かを隠すようにサラダをシャクシャクシャクッ!!と食べ進めるおさげの少女に、黒猫の少女や周りが若干引いては居たが。
そんなことに気付けない程に煩い心臓が、彼に聞こえないようにただサラダの音で掻き消そうとしていた。

△△△

続きは次回です(へらり)

本編に書く予定が無いので此方で進めていく後日談なのです。

閲覧ありがとうございましたー!


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怯えの決意と、焦る【凶狼】と。

どうしようもなく、ダンまちの腐、その漫画とかが見たいです。
ベートさんには右でいて欲しき今日ですよ。

そして気付いたら一ヶ月過ぎてましたすみません……!!

背後が忙しくて……夏に学生に襲いかかるものとかに殺されかけてて……!!


響いていた音が止む。

ずる、と重傷を負った闇派閥の人間が、その体を引きずって逃げようともがくのをリーネは何処か冷めた目で見つめた。

 

__治療師としては治すべきなのだろう。

だが周りの仲間の姿が、その意識を壊してくる。

 

「っ……ぅ」

 

聞こえた小さな呻声に振り向き、詠唱と共に治癒の光を浴びせる。

部分的に塞がらない傷__呪いの武具を使っていたらしい__も有ったが、それでもある程度は治せた。

 

後ろの荷物から精神回復薬を抜き取り、一気にあおる。

モヤがかっていた意識が鮮明になるのを感じながら、少女は前を向いた。

 

「__行きましょう」

 

恐怖が無いわけではない。

足は確かに震えて、一歩踏み出せるかさえわからない。

 

けど、進まなければ。

癒えぬ傷に何重にも包帯を巻いて、出血を遅らせた痛々しい左腕を掴む。

 

冷たさを感じる人造迷宮はまだ終わりが見えない。

 

決意の色を瞳に浮かべ、彼女は歩き出した。

 

        ▼▽▼

 

走って、駆けて、駆ける。

 

狼人の青年は若干の焦りと共に人造迷宮の冷たい通路を走り続けていた。

 

こんなんじゃ、確実に後でヴァレッタに罵倒を浴びされ、タナトスに笑われるだろう。

途中で会ったガキエルフ、ソイツの『吠えた』姿に、弱者の咆声に、相手の視界から消えたあと、興奮が収まらず時間を喰ってしまった。

 

目指すのは西の通路。

はぐれた【ロキ・ファミリア】と戦うだけ。

 

アイズと戦うことはない。

レヴィスのあの目は、逆らった時点で既に刃が首を沿っていく、そんな危険を孕んでいる。

 

フィンも同じく。

ヴァレッタがどうにかして仕留めるのだろう。

 

【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者はリヴェリア、ガレス、そして自分が退団した後すぐに入ったと言う女戦士の双子だけの筈だ。

 

ババァは入ってきていない。入ってこれない。

入り口を守る必要があるから。

 

ならば一番警戒するべきはジジイだ、とベートは心中で呟いた。

 

青年が【ロキ・ファミリア】内で最も苦手とする相手、それがガレスである。

 

一撃一撃が軽いが、圧倒的な速度で幾千万にも手数を重ねるのがベートの戦い方だ。

 

それに比べてガレスは、一撃必殺。

高い耐久と力、前衛特化のステイタス。

それらにモノを言わせ、一瞬の好機を逃さず、確実に仕留める。

 

手数が多ければ多いほど、その隙は生まれやすい。

 

まさにベートの天敵。

【ロキ・ファミリア】内__否、ランクアップにより器を昇華させたオラリオ最速のLv.6【凶狼】、その最大の敵。

 

まだ、近くにはいねぇだろう。

 

全身鎧特有のがちゃついた音が遠いことに安堵を覚える。

唯一聞こえてくるのは、『近付いてくる』しなやかな足音のみ。

 

__近くに、来る?

 

ゾワッ、と全身が粟立つ悪寒。

すぐにでも魔剣を銀靴に叩き込めるよう、臨戦態勢に入った。

 

たったったっ、と冷たい床に軽快な足音が響く。

 

ベートは琥珀色の双眼を鋭く細め、視界の奥、一つの曲がり角を睨みつけた。




続きでっせ!!

         ▼▼▼

こんこんこん、と。
控えめなノックが、三度響いた。

「……鍵なら、開けてるぞ」
「し、失礼します……」

蝶番をならして、おさげの少女が姿を現す。
眼鏡の奥、何処か落ち着かない瞳が青年を捉えた。

「……そこにつったってるんじゃねぇ」
「す、すみません」

自分がついていたテーブル、その対面を顎で指して、少々呆れた溜め息をついた。

          ▼▼▼

すみません今回はこの程度で……!!


なんやかんや言って、前書きの腐の奴はネタがあったりなかったりですん。


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風との再開に、幻聴の鎮魂歌を。

すいません物凄くお久しぶりです…!!
リアルの事情によりこれからもこのペースになるかも知れません、。

申し訳ありません、。


風が、空を切る。

風が、吹き荒ぶ。

風が、近付いてくる。

 

バクバクと煩く跳ねる心臓がやけに苦しくて、青年は戦闘衣の上から胸を手で押さえた。

 

止めろ、来るな、違う、此方ではない。

 

ぎりッッ、と歯を割れんばかりに噛み締め、通路を睨んだ。

 

風は止まない。

風は途切れない。

風は近くへ来る、自分の方へと来るのだ。

 

少女に会いたくない。

あの風に当たりたくない。

少女に__今の自分を見られたくない。

 

彼女の視線は、まるで死なせてしまった少女達のようだから。

 

きっと、このような行いをしている自分を、死んでいった少女達は許してくれないから。

頭に彼女等の死に様がよぎる。

 

そして彼女等の笑顔が、脳裏を掠めて、消えていく。

 

思い出すことも忘れていた寂苦がベートの身を、心を焦がして収まりを見せない。

 

「__ッ」

 

無様に泣き崩れた小さな自分を目の前に幻視する。

 

止めろ、うざってぇ、泣くんじゃねぇ。

 

そう願っても、風の音が聞こえなくなるほどに泣き声は脳内を侵していく。

 

__気色悪ぃ精霊の場所より、此処は一つ、上だ__気にしねぇ、だろ__?

 

気付かないこと、見付けないこと、見付けても関わろうとしないこと。

また三つ願いを重ねて、ついに堪えきれなくなったように、青年は目を、耳を塞いでうずくまった。

        ▼▼▼

 

自身が鳴らす風に、金色の髪が揺れる。

 

アイズは何かに導かれるようにこの道を走っていた。

__ただ、どこか遠回りをさせられている気がする、けど。

 

離れたかと思えば近付く感覚にじれったさを感じ、少女は速度を上げる。

風も静かに煩さをまし、顔に当たる髪に擽ったそうに目を細めた。

 

三つの階段を降り、何度も曲がった事で方向感覚はほぼ麻痺しているが、異様に感じる違和感に導かれ、少女は確実に近付いていった。

 

……前の階層には感じなかった、確かな人の気配。

__焦って移動するような様子は感じられないので、【ロキ・ファミリア】ではない。

なら、無視をして仲間を探す。

 

そう結論付けては、前方に見えた下への階段へと、また足を進めて__そして気付いた。

気付いて、しまった。

 

「……ベート、さん?」

 

子供のようにうずくまり、拒絶を表したような彼の姿を。

 

極度の緊張状態に陥っているらしい、腰の尻尾も頭に生えた獣耳も、ビン、と立ち上がったままで、彼の手は、耳を無理矢理押さえつけていた。

 

聞こえて居ないようだった。

焦りと共に煩かった風を一旦消して、近付いてからもう一度、名前を呼んだ。

 

「ベートさん」

「っ」

 

顔を振り上げた青年は、今最も会いたくなかった少女を視界に収め、ぎりっっ、と歯を割れんばかりに噛み締めた。

 

そのまま何も言わず立ち上がり、剣呑な瞳で少女を射抜く。

そうして、構えた。

 

「ベート、さん……?」

「__……行くぞ」

 

再三自分を呼ぶ声は、不安げに揺れる。

それを無視するように、宣戦布告。

 

恐れていた戦いを、始めた。




閲覧ありがとう御座いました。

▼▼▼

「……で、話と言うのは……」

数分続いた静寂に耐えきれず、リーネがおずおずと口を開いた。

「わかってんだろ。昨日のことだ」

ぶす、とした不機嫌顔を向けられ、う、と言葉に詰まる少女は、言うなってことですよね?と確認の言葉を捻りだし、答えを待つ。

「……それは」
「それは?」

途切れた言葉を鸚鵡返しし、言葉の続きを待った。

▽▽▽

すみません短いですが次回も書きますので、()


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激情の【剣姫】と、我慢の【凶狼】と。

なんかしばらく書けなくなりそうなので慌てて投稿。

その分、誤字脱字があるかもですが……まぁ、是非お読みくださいな、((


「__……行くぞ」

 

その言葉が合図だった。

Lv.6の脚力にものを言わせ、僅かに残った距離を一瞬で埋めた青年に、アイズが出来たことは、防御であった。

 

長脚を生かした右上段蹴りに、愛剣のデスペレートを重ね、堪える。

耳障りな金属音が鳴る中、拮抗状態を維持し、アイズは声を上げた。

 

「……ベートさんっ」

「……」

「ベートさんっ!」

「…………」

 

無言を貫くベートに、アイズの眉が跳ね上がる。

感情の薄いその顔に、あからさまな苛立ちを映して、少女は剛脚を無理矢理跳ね返した。

僅かにたたらを踏む青年を見やり、浮かぶのはたった一つの感情であった。

 

たった四つしか年の変わらない貴方は、随分と意地を張っている。

仲間だった、家族だった自分に、何も話してはくれない。

道を間違えた貴方に__何も言わせてくれない!

 

そんなの__ずるいにも程がある!と、アイズは最早睨みつけるまでのありありとした怒りを、何も語らないベートにぶつける。

 

「【目覚めよ】!!」

 

発動した【エアリアル】が箍の外れたかけた感情に巻き込まれないよう、静かに怒りを吹き荒らす。

 

一気に踏み込んで、先程空いた距離を詰め、デスペレートで切り上げる。

風を纏った神速の斬撃は、青年の体に吸い込まれる__ことなく、あっさりと宙を切った。

焦るのはアイズだ。

確かに合わせた筈の間合いにズレが生じていた事に、確かな驚きを彼に向けた。

 

その様子に、ベートは微かに唇を曲げた。

__昔と変わってない顔に、切れたり不機嫌になったりするとすぐに安直な攻撃に頼る癖。

随分女らしくなったが、まだまだ自分の知るアイズだ。

そんな安堵を覚えた青年は、本心からの笑みを少女に向けた。

 

「……変わってねぇな、アイズ。お前は、強いままだ」

 

嬉しそうに、今にも掻き消えそうな微笑みを浮かべて、青年は言った。

 

その言葉が、アイズに動揺を植え付ける。

__嘘には思えない、だけど聞き流して良いことでは、ないと思う。

困ったように眉を曲げ、揺れる視線を向けるアイズに、彼は笑う。

 

「__だがやっぱり技は甘ぇな」

「っ!?」

 

__不意打ち。

肉薄した狼は、戦闘に立ち直させることなく、少女をあっさりと地に転ばした。

少女が風を爆発させ立ち上がろうと、力を入れ手を地に突くも、その手をぐっ、と銀の長靴で踏みつける。

アイズは痛みに顔をしかめ、体を跨いで見下ろすベートを、睨み付けた。

 

「……さっきの言葉、訂正があるな。アイズ、お前は強い。だが、甘くなっちまった。ガキん頃の、他人に無頓着な、強さだけを求めてたてめぇは何処行った?」

 

それに厳しい視線を返す青年は、微かな失望を盛大な嘲笑を以て隠す。

そして、少女の上から退くと、顎で一方の道をしゃくった。

 

「__……あっちが一番【闇派閥】が少ねぇ。行くならあの道だ。行かねぇなら__此処で死ね、アイズ」

 

見逃せばレヴィスが自分を許さないだろう。

殺される可能性だって、否定は出来ない。

だから、一番良いのは彼女の元へ誘導する事だ。

 

わかっている。

わかってはいるが、この少女の瞳から、光が消えるのは嫌だった。

 

そんな我が儘に身を焦がすベートは、アイズが戦いを止め、逃げるのを待つ。

 

「早く行け」

「……………………」

 

答えぬ彼女に歯を噛み締め、数時間にも感じた静寂を、ただ過ごした。




閲覧ありがとうございました、!!
恒例の(?)おまけです↓

▼▼▼

「……それは……違うな、それも、ある」

重苦しい雰囲気をかもし出す狼の青年に、治療師の少女はごくりと唾を飲んだ。

「それも、ってことは……?」
「もうひとつ、あるに決まってんだろ」

剣呑な瞳で此方を見やるベートに、リーネは再度喉を鳴らすのであった。

▽▽▽

……続く!()


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受け入れぬ【凶狼】と、望む【剣姫】と。

お久し振りです、()

テストがおわりました(ダブルの意味)

ちょっと今回あれですがどうぞ、!





今回はリーネちゃんのはお休みです()


__……いったい、何れだけの間、無音だったのか。

 

数時間にも思える沈黙を挟み、アイズは遂に口を開いた。

 

「……ありがとう、ございます」

 

その言葉に、馬鹿みたいに安堵して、体から力を抜いた。

そして__

 

「けど、」

「ッッ!?」

 

思いきり振るわれた少女の腕に足を払われ、体がかしぐ。

あわてて建て直すも、その時にはアイズはもう立ち上がっており、ベートは犬歯をぎしぎしと鳴らし、彼女に鋭い視線を向けた。

 

「なんのつもりだ、アイズっ」

「……けど、私にとっては、ベートさんも、【ファミリア】です」

「……だから、なんだってんだ?」

 

__それがなんだと言う。良いから、早く此処から消えて、そうして生きて帰ればいい__。

 

少女の真意を理解できず、何より理解を拒んで、毒を吐いた。

胡散臭そうに睨み、本当に甘くなったなァ、と嘲笑う。

 

対して少女は、悲しげに眉を寄せ、悲壮な表情で唇をぎゅっ、と噛んだ。

 

「あの日も、貴方はそう言いました」

 

激情を、少しずつ。

ほんの少しずつ、言葉に乗せて流していく。

 

「【ファミリア】だからなんだ、そう言って、ベートさんは歩いて行きました」

 

自分が飲み込まれないように。

目の前の青年を、飲み込んでしまわないように。

 

「置いていかれた私達の気持ちを、見ないままで、行きました」

 

今にも泣きそうな、そんな目でベートを見詰めて。

本心を、溢した。

 

「私達は、ベートさんに帰ってきて欲しいです」

 

それを聞いて、ベートは一瞬硬直する。

 

そして、口端を吊り上げた。

あからさまな嘲笑、そのまま侮蔑の言葉を吐こうとした口は、数度開閉をしたが音を発しなかった。

 

「ベートさん、帰りましょう……?」

 

随分と成長した少女が、手を伸ばす。

 

淡く微笑んで、目の前の青年を見上げる。

金色の長髪を揺らして。

 

兄を待つ妹のように。

大人しく優しい幼馴染みのように。

隣に並んだ彼女のように。

 

「____!!」

 

その表情を見た瞬間、青年は彼女の手を叩き、離れた。

 

連鎖するように感情が、脳の奥からごぽごぼと沸き起こる。

 

青年は驚く少女を置き去りに、逃走した。

 

          ▼▼▼

 

「…………くそっ」

 

メタルブーツで床を蹴り、遠くへ遠くへとかけた。

固い音が響くなか、狼の悪態が口をついた。

 

「くそが……くそがっ、くそがっ!」

 

癇癪を起こした子供のように、壁を思いきり蹴る。

アダマンタイトの壁は凹みもしないが、何度も蹴りつける内に、靴を伝わり響く衝撃に、冷静さを取り戻していく。

 

額を抑えて、目を軽く閉じた。

 

__こんなときに思い出すのは、先程のアイズの表情、そして【ロキ・ファミリア】にいた頃の記憶であった。




閲覧ありがとうございました!

前書きの通りお休みです~;;


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燻る追想に、溺れた期待は。

明けましておめでとうございます。

気付いたら受験年です。二月から受験です。
投稿は次は三月かなうふふふふ、な心境です。

何はともあれ遅くてすみませんでした!!

めもりあふれーぜでフレイヤ様(十二単?)が来ましたうぇえええいっ、ベートさんは星二の普通君ですが格好いいです幸せです、()


出逢いは最悪だった。

 

赤い蜂の看板を下げた、酒場でのことだった。

【ヴィーザル・ファミリア】に所属していた頃から、何度も出入りしていた冒険者の屯場所。

 

14という年に合わないそんな酒場で、その日もルビーのような蜂蜜酒を飲んでいたベートは、見掛けない顔を中心のテーブルに見た。

 

【ロキ・ファミリア】。

 

ベートが迷宮都市に入った頃から、常に名声の途切れない第一級を走る冒険者。

 

遠征の帰りらしい、赤色の髪の女神が音頭を取ると、全員で飲み出した彼らは、互いを称え合い、今回の無事を喜んでいたようだった。

 

それを横目で見ていたベートは、やはり嗤った。

「雑魚が群がって何が冒険だ。てめぇらはただ、足の引っ張り合いをしてただけだろうが。笑わせるぜ」

 

酒を呷り、頬を嘲笑に吊り上げる。

 

その声に、睨み付けて来る団員も多くいたが、主神の手前、直ぐには殴りかかっては来ない。

 

だが、ベートが散々罵声を浴びせると堪えきれずに数人が掴みかかってきた。

 

(Lv.3__否、Lv.2)

 

初動を見てLvを判断、躊躇い無く彼等を床に叩き付けた。

 

呻き声を上げる団員達と、それを見下げるベートを見て、赤色の女神はカラコロと笑った。

 

「ハハッ、こりゃホンマに狂犬やなぁ。ボッチの癖に誰彼構わずに噛み付いて来る。面白いやーん?」

 

薄くその目を開いて笑う彼女に見向きもせず、狼人は失望の溜め息を付いた。

 

こんなものか、と何時ものようにドワーフの店主に金を投げ込もうとして、そこで背中から強い衝撃を受け、吹き飛んだ。

 

「__ッッッ!?」

 

ガチャァアンッ、と耳障りな音を立ててカウンターに突っ込み、目を白黒させる青年を殴り飛ばしたのは、ドワーフの大戦士。

 

「美味い酒が台無しじゃ。口を閉じろ、小僧」

「粋がるな。貴様もまた弱者であることを知れ」

「君のそれは純粋な驕りとは違うように聞こえるけど……自棄にも見えるのは、少し滑稽かな?」

 

見下ろすドワーフに続き、ハイエルフと小人族が口を開く。

【ロキ・ファミリア】首脳陣、オラリオの最強戦力と言っても過言ではない冒険者達。

 

決して睨まれている訳ではない__ハイエルフだけは不機嫌そうに此方を見ていた__のに、身体にのしかかる重圧に息が詰まりそうになって、ベートは笑った。

 

そして猛った。

 

突如始まった激しい乱闘に目を見張り怯える客を置き去りに、ただ純粋な殴り合いで狼が笑う。

 

それを怪訝そうに見つつ、ドワーフは何度も殴り飛ばした。

 

__何度倒れただろうか。

 

痛みと出血で遂に動けなくなった身体を怒りと屈辱で焼き焦がす。

 

屈辱の味に、ベートが感じたのは狂喜であった。

裏切らないであろう圧倒的な強さに、惹かれすがりたかったのかも知れない。

 

ベートは、口端を吊り上げ吼えた。

 

三人の驚いた顔と、胸部に迫る剛拳を見据え、自身も拳を握り締める。

 

再度、衝撃。

 

__目覚めたのは次の朝であった。

 

此方を覗き混んだ店主と目が合うと、首根っこを掴まれ外に投げ捨てられた。

 

「代金は次持ってこい」

 

そう言われて閉じた扉を茫然と眺めていると、

 

「何やっとんや、自分?」

「!!」

 

ひょうきんな声に振り向き、昨日の神だと察する。

気まずいやら悔しいやらなんやらで目線を忙しなく動かしてしまえば、それを見て神がからころと笑った。

 

「笑ってんじゃねぇよ!」

「無理やな」

 

即答されて、声を詰まらすベートに、神__ロキはその糸目を開いて此方を見据え、

 

「なぁ__うちのファミリアに入らんか?」

 

その問い掛けに、躊躇など持ち得なかった。

頷いたのを見ると、投げられたまま座りっぱなしだった狼人にロキは手をさしのべる。

 

「じゃあ宜しくなぁ、【灰狼】__いや、ベート」

 

その手を握り返す。

 

__此処なら、今回なら。

 

もう間違えないで、失わないで居られるのではないだろうか。

 

二度目の期待、確信には満たないそれで胸を満たして、彼は【ロキ・ファミリア】に入団した。




復活!リーネとベートの秘密の約束!(謎の題名)

        ▼▼▼

「もう一つ、だが__」

そう溢して、青年は口を幾度か開閉させた。

言うのを躊躇う姿を、じぃー、と見詰めていれば、ガシガシと頭を掻いた後に、吐き棄てるようにこう言った。

「……ぜってぇに死ぬなっ、それだけだ」
「へ?」

ぽかん、とした顔で青年を見やる。

「聞こえねぇなら耳元で言ってやるっ、死ぬなっつったんだよ!!」
「きっ、聞こえましたっ!!」

キーン、とした。
首根っこを捕まれ、大声の餌食になった耳を擦って、涙目を向ける。

その時には青年は既に顔を向けておらず、「話は終わりだ」と一言、ゴロリと横に転がった。

        ▽▽▽

もしかしたら続きができるかもですかも、!!

閲覧有り難う御座いました。


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細やかな願いは、大きな葛藤で。

お久しぶりですっ、()
受験が終わりましたのでどうにかこうにか投稿です……ちゃ、ちゃんと受かりましたよ?()

これからもがんばります、よろしくお願いしますっ


はっきり言って入団後は針のむしろ__もとい孤独が続いた。

 

好戦的で凶暴な狼人。

 

そんな評価を付けられ、影でコソコソ言われてるのを聞いた。

 

当たり前だ、と思っていた。

 

毎日のようにクソジジィに勝負を挑み、『懲りん奴じゃ』と殴り飛ばされ、体が動かなくなるまで戦い続けた。

勝負の終わりは何時もベートが気絶する時。

よく気絶したまま、中庭の練習場に転がされてた。

 

怯えた表情を向ける団員が殆どで、決して良好な関係ではなく、それがようやく変わったのは過酷な遠征、それを経験してからだった。

 

あっさりとLv.4に突入した狼人は、そのきっかけの遠征中に多くの視線を集めた。

危険な迷宮でも相変わらず罵倒を吐くベートに、そして先陣を切るその背中に、尊敬の念を向ける団員が続出したのだった。

 

きっと、彼女もその一人だった。

 

リーネ・アルシェ。

 

一人の鈍臭い治療師だった。

 

大きな眼鏡で隠れ勝ちな綺麗な黒目が、よく此方を向いているのには気付いたが無視した。

 

入って数ヵ月した時に、色々厄介事がばれたが、その事も隠すように、そして何より__失いたくないと、そんな言葉を吐いて、その約束を破らないように縛った。

 

意図的に言ったのも事実だが、それは確かに本心だった。

 

終わったあとからそう思い返すのは、昔から変わらない癖だった。

 

何はともあれ、平穏な生活を続け、何より彼には生きる意味が確かに見つかった。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。当時齢十歳の小さな少女。

 

並以上の強さは既に手にしていたが、それでも飽き足らずに自身を死地へと赴かせ、躊躇うことなくその剣を振るい続ける小さな剣。

 

そのひたむきな姿に、ベートは心配をすると同時、確かに自身を重ねた。

 

強く惹かれ、自分も同じように歩みたいと望み、次第にその成長を見届けたいと、強く願った。

 

囁かな願いだと思っていた。今まで不幸を見舞った分の、小さな、小さな願い事。重ねた言葉と零した雫の分の、些細な幸せ。

なのに。

 

「ガレスっ、多少の残りは良いつ!!押し返せェ!!」

 

この世に居る運命の神とやらは、随分と悪趣味な様だった。

 

5年前、【ロキ・ファミリア】遠征帰還時の事だった。

 

生まれでた大量のモンスターが、後続部隊の団員に喰らいつき、蹂躙していく。

 

「くそったれ……っ!!」

 

ベートもまた苦戦を強いられていた。

蹴り殺し、また蹴り飛ばし、何度繰り返してもモンスターの量は変わらない。

 

荒い息を吐き出し、ベートは強く唇を噛み、舌打ちを行った。

 

……今回のこれは戒めへの裏切りではない、救うために必要な、犠牲だ。

 

そう頭の中で囁いて。

 

「【戒められし、悪狼の王__】」

 

歌った。

 

誰も聞いたことのない狼の詠唱に、倒れた仲間に治療魔法をかけていた黒髪の少女が、はっ、として顔を振り上げた。

 

「【一傷、拘束。二傷、痛叫。三傷、打杭っ】」

 

不馴れな詠唱を、無理矢理紡いでいく。

 

ベートは、魔法について鍛えてはいない。

 

使わないものなのだから、魔力を極めることも、並行詠唱も出来やしない。

 

その証拠に、足元には何にも出てはいなかった。

 

「【飢えなる涎が唯一の希望。川を築き、血潮と混ざり、涙を洗え】」

精々、魔法を使う前衛が良いところだ。もしくはそれ以下か。

 

それでも、今はこれしかない。

 

「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】」

 

何時、魔力暴発を起こすかもわからない、無謀な戦い方に、後ろから息を飲む気配が伝わってくる。

 

「【世界を憎み、摂理を認め、涙を枯らせ】」

 

それでもベートは歌を止めない。

最後の魔剣を銀靴に叩き込み、思いきりモンスターの頭部を蹴りあげた。

 

「【傷を牙に、慟哭を猛哮に__喪いし血肉を力に】」

 

身体の中で魔力がうねる。

集中を切らせば、すぐに焼ききれそうな脳に檄を飛ばし、また怪物を一匹、灰に変えた。

 

「【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」

 

再度蹴りあげると、火の恩恵が完全に消え失せ、怯んでいたモンスターが雄叫びをあげた。

 

「【その炎牙をもって__平らげろ】」

 

モンスターの爪が、ベートの腕に刺さるより早く、魔法が完成した。

 

「【ハティ】」

 

強く言い切ると同時、炎が四柱、上がる。

 

『ガァァアアアアアアアアアアッ!?』

 

何重にも悲鳴が上がり、狼はそれに掻き消されぬように力強く声をあげた。

 

二対四本の炎牙を振るい、モンスターを無理矢理に押し返した。




閲覧ありがとうございました。


……これからあとがきに何かやりたいなぁとは思ってます、()


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歪な家族と、彼の決意は。

はいっ、すごーーーーーーくっ、お久しぶりですごめなさい、!!


受験して!寮に入って!しんでました!!(は

とりあえず夏休みが近くなり書こう!と思い立って気付いたら今ですほんとにごめんなさい!というかまだ夏休みじゃないっす

こっ、これからは少しずつ更新していけるよう善処するのでまたよんで頂けると嬉しいです……!!


モンスターの傷を受けていたせいだ、火炎は激しく熱く燃え上がり、ベートの肩をも焼いていく。焦げ落ちた戦闘衣、火傷を負いべろりと剥がれる自身の皮膚も全て無視して、獰猛に襲い掛かる怪物達を焼き殺す。

 

一瞬で灰になり砕け散ったそれらには目もくれず、ただただ拳を、脚を振るい続けた。

 

 

 

 

……数十分、だが数時間にも感じられた戦いは終わり、そこには真っ黒な灰塵だけが山を作っていた。途中から意識を朦朧とさせながら、ただ殺し続ける作業。

 

ぜぇ、ぜぇと肩で大きく呼吸し、ベートは四つの火柱を消した。肩や太股は焼けた__否、溶けた皮膚が痛々しく布の穴から覗く。

 

肉体も精神ももう限界だったのだろう。

 

「っ、ベートさん!?」

 

ふらりと力なく倒れる彼の体を、リーネは飛び付くようにして支えた。気絶し、全く動かない彼が息をしていることに安堵して、万能薬をかける。

 

「なんで、あんな無茶を……」

 

ボソリと呟いて、煤に汚れた顔を見詰めた。

 

確かに、彼のおかげで多くの人間が助かった。全員は流石に救えなかっただろうが、きっと魔法を使わなければもっと大勢が死んでいただろう。

 

それは、分かっている。

 

でも、それでも。

 

__大事な人に傷付いて欲しくないと、そう思うことは間違いですか?

 

もし彼一人だったら、長所である素早さを生かした戦闘方法で、乱暴に食い荒らし脱出出来ただろう。それこそ、魔法を使わなくったって。

 

だけど、私たちの存在が彼を傷付けてしまった。

 

泣きたい程に弱さを痛感する。視界の隅に転がる仲間の遺体も、自分の腕についた深い傷跡も、もう見なかったことにして消えてしまいたいと思う程に。

 

精神回復薬を一気に飲み干して、治癒の光を彼の深い火傷に当てた。ゆっくりと、治っていくのを見てほんの少しだけ肩から力が抜ける。

 

そのまま、涙が堰を切ったように溢れてくる。それを手で拭って、長い時間暖かい光を当て続けた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな所まで思い出して、ベートは不意に右肩を撫でた。

 

1番酷かった火傷は右肩だったはずだ。あの皮膚が溶ける感覚が今もまだ、鮮明に脳に焼き付いている。万能薬を使ってなお残るような、深い熱い火傷。

 

ガサ付いた肌が何故か嫌で、何度も風呂で擦ったのも思い出して、小さく笑った。まるで乙女のような行為も、過去になればただの思い出だ。

 

……さすがに、そろそろ頭も冷えただろう。

 

妹の笑顔も幼馴染の振り返る顔も、勝気に笑う彼女の横顔も、全部頭の隅に放り投げて。立ち上がるのを拒否する腰に叱咤し、ゆっくりと立ち上がる。

 

彼等と戦えるか。そんな問いかけ等無意味と言うように酷く滾る闘争心に、小さく小さく苦笑する。

 

きっと自分と彼女等は正しく家族だった。ひょうきんな神の元に集った、それはそれは歪な家族。ハイエルフの魔道士が厳しい母親で、ドワーフの大戦士が大胆な父親。パルゥムの指導者が慕われる長男で、きっと自分達はその弟妹。

 

その関係に戻りたくないと言ったらきっと嘘になる。だけど、今更捨てた場所に戻れるほどベートの覚悟は軽くはない。

 

あんなに嫌っていた闇派閥に入って、過去の仲間を手をかけて、表舞台から姿を消して。

 

理解出来ないと言われてしまいそうな位、今までの自分からは考えられない事をしてまで。

 

どんなことをしても。

 

もう一度会いたいと思う奴がいる。

 

忘れてしまっても、会わなくては行けない奴がいる。

 

それをもう一度頭の中で反芻して、視線を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__やっと、見つけました。お久しぶりです、ベートさん」




閲覧ありがとうございました!


アイズのお姉ちゃんのも頑張って更新します……


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包帯の治療師と、呆れる狼人で。

もうすぐ長かった夏休みも終わり学校に復帰だやっほいとか考えてたらずっと書いていないことを思い出しましたお久しぶりですすみません。

十月に二回更新できるように頑張ります……!!


「……はぁッ!?」

 

目の前に現れた1人の少女。黒髪のおさげと丸い眼鏡が印象的な、治療師の彼女はいつかと同じように笑っていた。

 

「っ、ぇ、は!?!?」

 

間抜けな程に驚愕を露わにして、ドタドタと無様に後ずさる。そのままゴツンっ、と頭を派手に超硬金属の壁にぶつけて、悶える。

 

その様子を見て一瞬目を見開いたリーネは、吹き出しカラコロと可愛らしい笑い声を上げた。

 

「な、なんか子供っぽくなりましたかっ??ふ、ふふっ」

「笑ってんじゃねぇよ!?」

 

この少女に緊張感と言うものはないのだろうか?いやいや昔はもう少しまともな反応してた。何よりここは敵地だし、昔はどうであろうと今の自分は敵なのだけれど。

 

……。

 

「あっ、イカれたのか」

「えっ、なんのことですか」

 

きょとんとした顔をして、無邪気に見えるリーネに思わず灰髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。なんなんだこいつ。

 

「……ここがどこか分かってんのか」

「えと、人造迷宮__『クノッソス』ですよね。【闇派閥】の隠れ家?の」

「分かってんなら何してやがる」

「……ベートさんと話してます」

「そういう事じゃねぇーよ!?」

 

思わず怒鳴り声を上げてしまう。苛苛に引きつった顔が、痙攣しだした。

 

なんなんだろう。こいつ、まじで状況わかってないような気がする。

 

敵地に来て、敵を見つけて、『話しています』?

 

頭が痛い。思わず長い長い溜息が口から漏れ出た。それに対し、「幸せが逃げちゃいますよ」なんて人差し指をリーネが立てる。キレても怒られない気がする。そんな現実逃避気味な思考をしつつ、立ち上がって真正面から少女を見やった。

 

「……どうしてここに来た」

「え?」

「なんで俺がいるところに来たって聞いてんだっ」

「なんで、っていったら……」

 

不意にリーネが後ろを向いた。動いた体にワンテンポ遅れて、おさげが揺れる。ようやく左腕の包帯に気が付いて、彼女もまた戦っていたのだとぼんやりと思う。次の言葉までが妙に長くて、リーネの今の表情が見たくなった。

 

「__ベートさんと、私たちの家に帰るためです」

「__っっ」

 

あの頃と変わらない柔らかな声、だけど力強い宣言にベートはびくりと体を揺らし、思わず距離をとった。バクバクと心臓がうるさく跳ねる。その音に紛れて遠くから足音が聞こえた。こちらを向いた少女が自慢げな、勝気な笑みを浮かべて自分を見ている。その笑みにまた鼓動が早くなる。少女が驚いた顔をして振り返った瞬間、思わず脱兎のように逃げたくなって。少女に背を向けて走り出そうと足に力を込めた。

 

「__!!」

 

少女が後ろで何かを叫ぶ。それを無視して一歩目を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう動いたことを、次の瞬間には後悔した。

 

「ぅ、うぁあああああああああああああああああっっ!?」

 

後ろから響く若い絶叫。途端に鼻に付く鉄の臭い。自分を含め辺りの壁に飛び散る真っ赤な何か。声の主は先の少女。では、血の主は?

 

振り返った瞬間目に飛び込んできたのは必死に回復魔法を唱える黒髪の少女と、腹から内臓と真っ赤な血を零す一人の青年、そして大剣を肩に担いだ一人の女。

 

女はにやりと笑って、もう一度大剣を振り下ろそうと力を込める。今度は__治療師の彼女の上に。




閲覧ありがとうございました。

しってましたか次のダンメモのイベントベートさん主役なんですよかっこいいですよ!!!


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【凶狼】の恥も、【殺帝】の嘲笑に。

……お久しぶりです(いい笑顔)

ほんっとうにお久しぶりです。生き返りました。スランプってこういうことを言うんですね(違う)

すみませんんんん……!!



「は、」

 

思わずこぼれおちた一音、目の前で飛び散る真っ赤な血、頽れる少女の身体、驚いた表情から下卑た笑みを型どる女、間抜けなほど動こうとしない自分の脚。

 

「く、ふひっ、ひゃははははははははっ!?おいおい見たかよ【凶狼】ォ!こいつ、死んだ仲間を守ろうとして庇いやがった!?」

 

__その通り。リーネは大剣の届かない所にいた。なのに、自らその身を射線上に差し出した。ベートが、それに気付かなかっただけで。ヴァレッタにはリーネを切るつもりはなく、あくまで倒れかけていた仲間を切るつもりだった。

 

ベートが、気付かなかった。それだけ。

 

でかい肉声を放ち続けるヴァレッタと、臓物を撒き散らす少女の視線が、ベートに向いた。表情がピクリとも動かない青年に、ヴァレッタがつまらないというように目を細めてそっぽを向く。リーネが涙で濡れた瞳で、命の光が消えそうな目で、じっと見詰める。静かに、何かを待つように。

 

「……」

 

だけどベートは何も言えない。何も言わずにただ目の前の惨状を理解しようと、ただ見る。

 

「なんか言えよォ、【凶狼】?それともなんだ、この治療師の女に惚れてでもしてたのかよ?笑えねぇなぁ!迷宮で命をはって散々殺ってきたてめぇが、女1人に動揺かァ?」

「……」

「……おい、なんで黙ってんだよ?」

「……」

 

何も反応しないベートに、苛立った表情のヴァレッタが剣を倒れた男性団員にグリグリと突き立てる。死んでいるらしい、身動ぎ一つしない男の身体を蹴飛ばし、次は、というようにリーネの方を向いた。

 

「べー……さ、ん」

「ぁあ??まだ生きてたのかよォ、本っ当にしぶてぇなぁ、てめぇ等は」

 

腹から溢れ出た臓物を踏みつけ、楽しそうに嗤う。先程はつまらなかった、というように傷を抉るようにリーネの華奢な身体を蹴飛ばし、黙ったままの【凶狼】の側へ。

 

痛みに悲鳴を上げることすら出来ないらしい、命の灯火が消える寸前、そんな少女の無残な姿に、ベートの頭の中で幾つもの光景が鮮明に蘇った。

 

仲間の腕の中で、何も喋らない、真っ白な彼女と再開した瞬間。

 

竜の足に潰された無残な妹を、見つけた瞬間。

 

尊敬していた父母が、血反吐を吐いて息絶えた瞬間。

 

__幼馴染の下半身が、上半身を喰われ死に顔を見ることすら出来なかった瞬間が。

 

あまりに鮮明に。

 

「ぅ、ぁ"……!?」

 

吐き気が強く込み上げてくる。レーネの下半身から漏れ出た臓物と、目の前の少女のものが重なる。口元まで上がってくるのが手に取るように分かった。それを無理に押し込めて、ヴァレッタを睨み付ける。

 

「ぁあ?なんだよその顔は……まるで仲間が死んじまったときみてぇな顔しやがって?」

「っっ」

「こいつらはテメェの『元』お仲間だろうが。……なぁ【凶狼】ォ?お前はどうしてあたしら側についたんだったけか」

「は、」

「ま・さ・か、忘れたわけねぇよなあ!あたしは一文字も間違えないで覚えてるぜェ!?」

「おいっ」

「来世にの願いだったな、イケロスの口車に綺麗に乗っかって笑えたぜ!?」

「ヴァレッタっっ……!!」

「『来世はルーナとレーネ、そしてそばに居れなかったアイツと__』」

「やめろっっ!?」

「『戦いとは無縁な土地で、ただ生きていきたい』」

「__!?」

 

リーネの表情に微かな驚きが現れた。秘密をばらされた少年のように焦るベートは、ヴァレッタの口を止めようと手を伸ばす。

ゲラゲラと笑うヴァレッタがその手を避けて、ベートがまた追いかける。リーネを中心に円を描くように走りながら、憤怒で顔を赤くするベートにヴァレッタが嘲りの色を強くする。

 

「ぁあ、ああ、このクソよええ治療師にもあの時の様子を見せてやりてぇ!!惨めだったなぁ【凶狼】!」

 

喋んな。黙れ、黙れよ。怒りで体の制御ができていない。すれすれを逃げるヴァレッタに、ベートは顔をゆがませた。

 




ありがとうございました

次回は閑話 日常編~シリアスにギャグを混ぜられないからのんびりした日常で空気をかえよう~です(白目)


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【番外編】日常的に、殺意と喧嘩。

お久しぶりです!!!!!!!!!()
1年経ってないと気付き今更ながらにちまちま書き出しました……いやほぼ1年経ってるんですが。まぁそれはさておき覚えていらっしゃる方がいましたら嬉しい限りです。
今回は番外編もとい書いていない間のifみたいな気楽なベートさんです。これからストーリー進められるように頑張ります……(白目)


「……これでよし、と」

 

買ってきたペンキで書きなぐった文字は、所々掠れていたが読めないことはなさそうだった。バルカに殺されるぞ、と横で揶揄うヴァレッタにイラついて残りのペンキをぶちまけたい衝動に駆られた。というかぶちまけた。

 

「「………………」」

 

両者、共に見あって動きを止める。そして、共に襟に近いファーを掴んだ。ヴァレッタは猟奇的な笑みを浮かべこちらを睨んでくるが、ベートは何の悪びれもしない顔で筆についていたペンキも彼女の体に擦り付ける。

 

「いい加減やめろ【凶狼】ォ!?」

「お前怒ったらすぐ二つ名で呼ぶよな」

 

ほとんどつけ終わったところで全身の力を使って壁に投げつけられる。幸い距離はあったので空中で体勢を整え無事に着壁、軽く蹴って着地。殺すぞ……、と唸るヴァレッタにぷふぅと嘲笑を零して煽る。あからさまに感情を高ぶらせる女に、ベートはゲラゲラと久しぶりに腹を抱えて笑った。

 

「ホントふざけんなよ……着替えてる時間ねぇんだから」

「どうにかしろ。ほら、水魔法使える女居ただろ、タナトスが連れてきたやつに」

「彼奴のレベル考えて物言えよ……水浸しになった廊下見て悲鳴あげるぞ、バルカが」

「押さえつけんのは【闇派閥】の下っ端だろ」

「クズが」

「お前が言うな」

 

再び視線がぶつかる。が、真っ黒なヴァレッタを見てベートが鼻で笑う。躊躇いのない蹴りが飛んできた。後ろに下がり避ける。続けて拳が迫る。籠手で流して代わりに鳩尾に拳を沈め__ようとしたところでヴァレッタによる苦し紛れの頭突き。第一級冒険者の頭はもちろん石頭だ。脳震盪を起こしそうなまでの強い打撃に2人揃って蹲った。

 

「楽しそうだねぇ、ヴァレッタちゃん、ベートちゃん」

「「どこがだァ……!?」」

 

一回り年が離れた相手とガキのように喧嘩する様を、いつの間にかやってきたタナトスがカラカラと笑う。未だ痛みに呻く2人は苦しげな声で反論した。

 

「あれ、違った?それじゃあ仲良しだね」

「「ぶっ殺すぞ!!!!!!」」

「わぁ元気」

 

2人が本気の殺気を飛ばしてもタナトスは笑みを崩そうともしない。実際に死ぬ__もとい天界に送還されてもいいと思ってそうだ。ぐるぐると野犬のように唸る2人に近寄ってきては後ろに周り背中を押した。

 

「そろそろ中に入ってね。そろそろ聞こえるでしょ」

「……」

 

言われてベートが耳を立てれば確かに。索敵範囲のギリギリ、水路外から何人もの足音が聞こえてきた。入ってくるまでにまだ余裕はあるだろうが、ベートが任されている仕事はかなりある。入るぞ、とヴァレッタを促し扉の鍵を開けさせる。

 

中からバルカの怒りの咆哮が聞こえたが耳を倒して聞こえないことにした。




あ"り"か"と"う"ございました久々の更新に更新の仕方を忘れてました。

せめて月イチとは言わずとも半年に1回はあげたい所存です。文量も多くは無いですしね(大声)
思い出した頃に更新になるかもしれないので気長に見てもらえると嬉しいです  


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