麦わら帽子の英雄譚 (もりも)
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その男 麦わらのルフィ

今作初めての二次小説になります。
基本地文は少なくして読み易くしようと思ってます。
(追記:回を追うごとに多くなっています)
批判・批評ウェルカムなのでアドバイスお願いします。

ではでは…




突如、超常の力を持つ子供たちが生まれ始めた。

その現象は次世代にも引き継がれ、今ではその力を持たぬ人の方が珍しがられるほどに世界に浸透した。

その力は個性と呼ばれた。

しかし、力を持つと悪い人間は出てくるもので個性が発現した当初は敵(ヴィラン)の犯罪行為が絶え間なく横行した。

 

勇気ある市民たちは、悪に立ち向かうヒーロー活動を行い始めた。

これに世論は賞賛一色、たちまち彼らの行いは市民権を得て、政府は敵に対抗する存在としてヒーローを公的職務として認めることとなった。

 

そしてヒーローはたちまち憧れの職業として扱われ、今やヒーローがなくてはならない社会とまでなっている。

 

 

 

 

「カッッケーーーー!!!!」

 

「こんなすんげぇヒーロー見たことねーよ!」

 

一人の少年はテレビを見てワクワクしながら、未曾有の災害現場である一人のヒーローが数多の人々を救助している様を眺めていた。

 

「こんなヒーローが日本にいるのか!」

 

「なんじゃいこんな奴!」

「ルフィ!じいちゃんの方がずっとすごいんじゃぞ!」

 

「日本か〜 行って見たいな〜」through!!

 

少年はキラキラ目を光らせてテレビに食い入り、隣で構って欲しい祖父をシカトしていた。

 

 

「決めた!」

 

「NO.1ヒーローにおれはなる!!」

 

オールマイトのようなヒーローを目指し、ブラジル出身ブラジル育ちの少年モンキー・D・ルフィはサンパウロ中に響こうかという声で高々に宣言した。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ここが日本か〜〜〜。」

 

「じいちゃん以外で日本語初めて聞くな〜〜」

「なんか変な感じでおんもしれぇ」

 

羽田空港で周りを面白そうにキョロキョロと見渡して、サンパウロからやってきた少年は疲れを感じさせないほど元気だ。

 

「・・・なんかうまほーな匂いがあちこちからすんなぁ」

 

鼻の穴を大きく開けて空港内の飲食店から匂う料理を嗅いで大量のよだれを垂らす。誘われるように匂いの元へ足を運んで行った。

 

・・・・・

 

「あのね・・君?そんなに食べてお金はあるのかい?」

 

中華料理屋に勢いよく入った少年は信じられない勢いで料理を消化していく。少年のいる卓には器や皿が山積みになっていた。どうやらホールがこまめに下げにきても間に合わないらしい。

店長らしき人がまだ幼い彼に冷や汗をかきながら尋ねる。そこそこ単価の高いこの店は本来こんな爆食いするようなところではないからだ。

 

バクバクむしゃむしゃズズズコリッコリッズバビっズバビっ

ハフッハフばくばくゴクゴクくちゃくちゃモグモグ

 

ズルルルーーーーーー

「聞けよ!!!」gabiiiin!?

 

少年は食事に夢中すぎて視野が狭まっている。

 

「だいぼうぶ!バネはボッデルゾ!」

 

「あのね 飲み込んでから話しなさい。」

「飛び散ってるから おじさんに・・・」

 

ごくん、と頬張った料理を一気に飲み込んだ。

 

「なっはっはっはっは!わりぃわりぃ!」

「持ってるぞ ちゃんと!」

 

ごそごそと無造作に少年はカバンから札束を取り出した。いかにも親に持たされた感がある。ごそっと取り出したお金は帯に巻かれるほど分厚い札束であった。

店員はそれにギョッとするも、ちゃんとお金を持っていたかとホッと一息をついた。しかし何か違和感を感じた札束をもう一度確認した。

 

レアル紙幣

 

「・・・・・」

 

「それよりさ!さっき頼んだギョーザまだか?」

 

「・・・」

 

ここは日本。ブラジル通貨を出しても無銭飲食には違いない。

 

ーーー

 

会計の前に空港内の換金所までその店の店長に連れてもらってなんとかなった少年は、日本に到着してから3時間も経ったのにも関わらず未だに空港内をさまよっている。

 

「う〜ん いままでで一番困ったかも知んねえな。」

「迷ったし、金がねえ」goooon

 

腕を組み、なぜか堂々としている少年の旅路は前途多難である。

 

 

 

 

30分後、勤務上がりの店長に出くわし目的の場所まで送ってもらうのだった。



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孫を追って日本で事務所立てました!

日本を何もわかっておらず無意味にうろちょろするルフィにハラハラ心配した店長。ルフィは彼に事細かくメモしてもらい、なんとか目的のヒーロー事務所までたどり着いた。

 

「やっっと着いた メシーー!!」

 

「じいちゃーーん!!」

 

ダダダダダッ!重い足音を響かせながらラテン的な配色をした派手なヒーロー事務所から、大柄な老人が飛び出してくる。

 

「ルフィ!待って追ったぞい!」

 

熱い抱擁をルフィにするのは少年の祖父、モンキー・D・ガープだ。

 

「お前のことだからまず空港から出れるのも不安じゃったからのう」

 

「あんたも人のこと言えんだしょガープさん・・」

 

はぁ、とため息をこぼすのはガープのサイドキックである帽子を目深くかぶったボガード。

彼もルフィが今日来るのを把握していたため、ガープの後に事務所から出てきた。

 

「なんじゃい棘があるのぉ」

 

「ガープさんはまずブラジル出るまでに手こずったでしょうが」

「祖国の英雄たる自分を検査するなんて何事かとごねまくって・・・」sigh...

 

「だってわし偉いし!」

 

「はいはい」

 

長年サイドキックをやってきているボガードはもう慣れているのか テキトーに受け流す。

 

「じーちゃん どうでもいいからメシ食わしてくれよ!」

 

空港でしこたま料理を食べたくせに、もうすでに腹をすかせている。なんとも燃費の悪い少年だ。食欲に卑しい彼には家族に会って感傷に浸る感情は今はない。

 

「お前というやつはメシメシと・・一週間ぶりのじいちゃんじゃぞ!もっと甘えんかい!」

 

「ルフィ君の歓迎会のために豪勢な食事を用意しているよ」

 

「うわぁ ほんとか!?ありがとうボガード!」

「寿司あるか!?あれ一番楽しみなんだよな!」

 

孫に早く会いたかったガープは甘えろとごねるが、ルフィとボガードはそそくさと事務所内に入っていく。

 

 

「・・・ま、孫のくせにじいちゃん無視するんじゃなーーーい!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

大きなたんこぶを腫らしたまま、ガツガツとご飯を貪るルフィにボガードは尋ねた。

 

「雄英高校の倍率は300倍らしい ルフィ君は自信あるのかい?」

 

「自信?もちろん!」ばいりつってなんだ?

「受かる気しかしねえ」

 

「まぁルフィ君は個性を使いこなしてるから問題ないか」

 

「・・ふん!わしの孫なんじゃい」

「日本のヒーロー学校なんてチョチョイのチョイじゃい!」

 

(問題は・・・まぁよそう・・天に祈るしかないか)

 

ルフィの来日は憧れのオールマイトの母校である雄英高校の入学試験を受けるためだった。

ちょうど彼は日系のブラジル人。家庭内での会話はもっぱら日本語であったため、日本留学はとってもハードルが低かったのだ。

もっともルフィは話せなくても気にせずやってきただろうが、周りのハラハラ度はかなり軽減されただろう。

 

ガープといえば「拳骨のガープ」としてブラジル国内で古参のヒーローであり、ペレと肩を並べる英雄であった。

そんな彼であるのに、ルフィが日本に行く話を聞いた途端自分も日本に住むとワガママを暴れながら言い出して、ルフィが来日する前に急遽事務所を日本に移転させるのであった。

 

ガープの事務所AUAU(アウアウ)一同は盛大に「はぁ・・・」と息を漏らしたのだった。

 

「ルフィ君が落ちたらどうするつもりなんだろ」

 

事務所員の若い子が言った言葉に一同頭を抱えた。

 

 

もっぱらガープは後のなど考えていないが、落ちたら間違いなくせんべいを齧りながらなんでもない様に帰ると言い出すだろう。

 

(我が師匠ながらよくヒーローなんてやってこれたもんだ・・時代だな)

(ルフィ君も入れたとしても後が大変だぞ・・・)

 

この家族の能天気さと自分勝手さは常識の範囲外にある。ブラジルよりインフラも進み、規制も厳しい日本にこの二人が適応することができるだろうか。そこのところにボガードは不安でしかなかった。

そしてボガードの不安は的中するのであった。

 




閑話。解説回でした。

この世界にルフィなんて、不安でしかねえ・・・




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ぶっ飛ばしゃいいんだろ?

はい!

早速ルフィにヒーローできんの?という感想が!
that's right!

これについては原作同様周りの大人がなんとかしてくれると信じております!

頼むぜ!

と言っても周りの同級生がですけど・・

アーロン編の俺はなんもできねえ お前を倒せるを思い出します。

ではでは!プラスウル「始めます!」トラ!   ・・・えぇ


「すんげえ数・・・・サンパウロも人多いけど、なんかみんな静かだなー」

 

「あ、あの人試験前なのにすごいリラックスしてる・・・見習わないと!」

 

今ルフィは雄英高校入試試験会場にいる。

周りの皆は緊張で物静かなのだが、彼には無縁のようだ。能天気に会場内を闊歩している。

そんな様子に天然パーマの少年も少し彼をみてリラックスしていた。

 

受験生はみんな足取り淀みなく自身が受ける科の試験場へ赴いているが、ルフィはそれにちょっぴり不安げな顔をしていた。

 

「どこ行きゃいいんだ?案内書いてるけど、日本語だからあんまし自信ねえなぁ。よし!こいつの後でもついて行くか!なんとか着くだろ」

 

日本語の読み書きはあまり得意ではないルフィであった。(ポルトガル語が大丈夫だとは言ってない)

前にいたピンク頭の少女について行く。

 

その少女の後に続き受付の列に並び、ボガードから持たされた受験票を受付員に手渡す。

 

「・・・君、ここはサポート科だよ」

 

「そうか」

 

じゃあどう行けばいいんだ、とルフィは受付員に尋ね空港の店員の時と同様にメモを描いてもらってヒーロー科の会場に向かった。

 

(受かる以前のような・・・)

 

なんともテキトーそうな少年に受付の青年はそう思った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「everybody say hoooooooo] siiiiiiiiiiiiiin!!!!!!

 

 

静寂に包まれた広大な講義室は、盛り上げようとテンションが高いプレゼンターであるプレゼントマイクの心をにわかに抉る。

 

「hey hey hey!!!今年のリスナーはシャイじゃnight!」siiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiin!!!!!

 

「お前が白けさせてんだろ」

 

袖横の覗きに来た相澤が、ぼそりと呟き、さらに抉った。

 

 

「グルーヴ感出してテンション上げようとしてんのに、まぁーーったくtoo bad だぜ!!」

 

「まぁいいや!試験内容の説明をするぜ!」

 

DJヒーロープレゼントマイクはステージを下げに下げまくった。chill outでもない。

なんやかんやと試験内容説明中・・・・・・(原作未読の方へ、簡単に説明すると仮想敵のロボットを多く倒してポイントをとれって内容です。)

 

「質問よろしいでしょうか!」

 

「なんだい?姿勢いいな!」

 

挙手をした体格のいいお坊ちゃん風なメガネ男子がカクカクしながら試験の不適格なところを指摘する。細かいところを懇切丁寧にハキハキと話す彼は真面目な性格なのだろうことがわかる。

 

「そして後ろの縮れ毛の君、ボソボソとうるさいぞ!舞い上がってはしゃいでるなら、物見遊山なら帰っていただこうか」

 

「す、すいません・・」

 

メガネの彼は後ろ指を差し、先ほどからプレゼントマイクに一人テンションがあがってぶつくさしていた天パの少年を指摘した。

天パの少年は腰を低く謝罪した。

 

「そ・し・て!君だぁ!!!!!」

 

天パの少年を注意したあと、彼は怒気を込めて叫ぶ。

より彼の肘は直角になった。

 

「なぜ君は!試験会場で!この状況で!骨つき肉をかぶりついているのだぁ!」

 

 

「ん?」

 

少年はなんと堂々と漫画肉をほうばるルフィを指差した。

ありえない光景にドヨドヨと講義室がざわめく。

 

「あ、悪りぃ 匂いくさいか?」don!

 

「「「「そこじゃねえ」」」」

 

周りの受験生一同が突っ込む。

 

「どこでそんな物売っているのだ!」

 

「「「「お前もそこじゃねえよ」」」」 

 

みんなに突っ込まれるあたり、メガネの彼も少しずれたところがあるようだ。

 

「信じられない・・・こんな奴まで受験生なんて・・雄英も落ちてしまったのか・・」

 

「いやあ 腹減っちまってよ。確かに早弁しちまうと午後辛いもんな」

 

「違うぞ そこじゃない!君の横の彼女もドン引きしているじゃないか!」

 

ルフィの横の席のサイドテールの少女はイスを半個分空けている。

 

「迷惑だったか?なら我慢・・・するよ」

 

「こんな状況でなんでまだ名残惜しそうにするんだ。変わってんなぁ・・・」

 

逆に関心してしまう少女だった。

 

「ってまぁ、あんたもこいつ肉下げたわけだし、もういいか?私も注目されて恥ずいし・・・」

 

少し顔を赤くして、ハキハキとした言葉で彼女は真面目な彼に伝えた。

 

「む・・・確かに話の途中だ!長い時間申し訳ございません!お話の続きお聞かせいただきたい!」

 

真面目に非礼を詫び、彼はプレゼントマイクの話の続きを促した。

 

「ええ~・・・なに言おうか忘れちまったよ men」

 

もういいや、とプレゼントマイクがテンション低く説明を喋り試験場に移るよう指示をだした。

謎の空気に包まれながら受験生全員は試験会場へ向かった。どうにも緊張感が出ない。

 

 

「なぁ 今は肉食っていいのか?」

 

「・・・好きにすればいいんじゃない」

 

サイドテールの彼女は呆れて投げやりに答えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お?あんたもこの会場なんだ?

 

ABCDで会場を四つに分けられたが、先ほどのサイドテールの彼女が同じ会場にルフィがいたので声をかけた。

 

「あ、さっきのやつ!サンキューな!なんか迷惑かけたし」

 

「まぁいいよ。私は拳藤一佳!よろしくな!」

 

爽やかに握手を求めた拳藤の手をルフィも握り返す。サッパリとした彼女は男勝りな性格のようだ。

 

「おれはルフィ!ブラジルから来た!」

 

「ブラジル!?雄英に来るためにわざわざ・・・すごいな!なんでまた日本に?」

 

「オールマイトに憧れてさー」

 

「なるほど・・さすがオールマイト ブラジルでも人気あるんだ」

 

日本では絶大な人気を誇るオールマイトが海外でも人気があることに、なんだか彼女も嬉しくなった。

 

『everybody Are you ready OK!?』

 

「っと、もうすぐ始まるな。・・・一応聞くけどあんたこの試験のルールわかってるよね?」

 

先ほどの説明を聞いてなさそうだったルフィに拳藤は一応聞いておいた。

 

 

「ん?」

 

 

 

 

「ぶっ飛ばしゃいいんだろ?」

 

なんとも身も蓋もないシンプルな回答をルフィは答えた。



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助けるのがヒーローだろ

耳をつんざくような爆発音が響き渡る。

その音の元凶である彼の周りには仮想敵であるロボットが多数破壊されていた。

 

「はっ 歯応えのねぇ。これが最高峰?冗談だろ?」

 

C会場にいた爆豪勝己は大量の汗をかきながらこれからが本番とばかりに息巻いている。  

この様子を会場の監視カメラから観察するモニター室の教師陣は感嘆の声を漏らした。

 

「素晴らしいな彼は。単純に力があってもここまで長時間ロボを倒すことはおろか、個性を発動しつづけることは難しいのに」

 

「タフネスだね。救助ポイントがないことから彼は対敵に特化したバトルヒーロータイプってことが分かる」

 

「このテストは受験者がどういったタイプなのかハッキリわかりますね」

 

(不合理なのは変わらんがな)

 

この試験は単純にいえば、仮想敵であるロボットを数多く倒せばいいというもの。

ただ一つ生徒側には伝えていないことがある。

それは救助ポイント。

ヒーローたるもの人々の救助こそ本質。怪我している、しそうになっている他の受験者がいれば手をさしのべる。この行為をしてこそヒーローになるための資格があると言えよう。

そういった他の者のためになる行動をした者には救助ポイントが付与される。

かといって強さがヒーローの本質であるのもまた一つ。

この試験は敵を破壊した殲滅ポイントと救助ポイントの合計で合否が行われる。

 

「ところ替わってD会場なんだけど・・」

 

「これはまた凄いな」

 

隣のモニターに目を移すと、C会場以上に激しい戦闘が繰り広がれていた。

 

「ゴムゴムの~・・ピストル!!」bomb!

 

中型サイズの仮想敵が十数メートル先へ部品を散らしながら吹き飛ぶ。

 

「えーとこれで何ポイントなんだ?ま、いっか 見つけたやつぶっ飛ばしゃそれで」

「うおりゃあ!!!」

 

ルフィは腕を伸ばし仮想の街中にあるビルの上を縦横無尽に駆け回り、常に敵の上方から攻撃を仕掛ける。

既に破壊した敵数は40はあるだろうか。

 

「す、凄いな。まさかこんなにやるやつなんて」

 

自身も空手を習い身体能力には自信があった拳藤だったが、ルフィのそれには舌を巻いた。

 

(たしかにあのゴムみたいにのびる体があれば機動力があっても不思議じゃないけど、あの動きにあの反射神経は・・・)

 

(何よりこんな周りの環境も入り乱れてる中であの戦闘に慣れまくってる個性の練度の高さ・・・まさかアマゾンで鍛えられたとか・・まさかねぇ)

 

一つの会場でも数千人におよび、ごったがえしたこの環境の中で、ルフィはなんの問題もなく暴れまくった。

実は拳藤の言ったことは正しく、幼きころからルフィはガープによる悪魔のアマゾン川流域南下訓練を行っていたのだ。

数千キロにおよぶ密林を無装備でただ南に向かって歩くという、ことさら単純明解なこの修行。マジで生き残ればそれだけでAUAUに入所できるのだとか。(ボガード談)

それを7歳の時にやらされて生き残ったのだから、ルフィには事務所一同尊敬の念と、憐れみの思いを募った。

かく言うルフィはその時はガープを死ぬほど恨んだが、家で飯食ったら忘れたらしい。良くも悪くも切り替えがはやい。

 

(っと、人のこと考えてないで私もしっかりポイント稼がないと!)

 

ズズン

 

「!?」

 

コンクリートで舗装された道路がそいつに踏まれただけでひび割れる。背の高い雑草のように掻き分けられる建物はそいつが通ると、脆く崩れ去っている。

体長が50メートルはあろうか仮想敵が現れたのだ。

 

「あれが、説明の時に言ってた0ポイント」

「お邪魔虫か」

 

実はプレゼントマイクの説明の中で、倒しても得点にはならないただただ邪魔をしてくる敵がいるとあったのだ。

・・・大半が肉の事件で頭から飛んでいたが。

つまりこいつを倒しても意味がないのだ。

 

「ならここは引いといたほうがいいか。というか勝てるわけないし」

 

「うひゃあ、でっけーな!?」

 

四階建てのマンションの屋上に佇むルフィに拳藤は声を掛ける。

 

「いったん引きなよ!あれ倒しても意味ないらしいしさ!」

 

「そーなのか?おまえはどうすんだ?」

 

「他の皆と一旦逃げるよ」

 

逃亡とばかりに他の受験者は入り口へ引き返していた。

 

「逃げ遅れてる人もいないみたいだし」

 

拳藤はキョロキョロと見渡し、あの超大型敵から逃げ遅れた人がいないか確認しながらそう言った。

 

「ならおれはにげねぇ!」

 

「は?」

「あ、あんたが強いのはわかったけどあんなの無理だって!」

 

ルフィの言葉に手振りを大きくし、彼女は彼を止める意思を示す。

 

「だってお前らはあれから逃げるんだろ。じゃあおれがここであれを止めなくちゃ!」

 

「助けるのがヒーローだろ」

 

 

「あ・・」

 

迷いなく答えたルフィに拳藤はハッとさせられた。

 

「ゴムゴムの~・・・」

 

そう言いながらルフィは全速力で助走をつけながら、超大型敵にめがけて走り出す。

 

「おいおいアイツもやる気かよ!?」

 

モニター室から超大型敵に突撃をするルフィを見て教師陣は再度驚く。

「おいおい、またか!?」とだれかがつぶさに声に出した。

 

 

「バズーカぁぁぁ!!!!!!!」

 

Bakoooooooohn!!!!!!!!

 

強烈な打撃音が響き渡り超大型敵は体勢を崩し、周りの建物を崩しながらしりもちをついた。

 

『Yeah!!!!!!』

 

「ええええええええええええええええええええええ????!!!!!!」

 

教師陣は本日二回目のyeahを、受験者は驚愕の声を木霊させた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「いやぁ、まさか二度目のyeahがでるとは」

 

「二度目のyeahってなんだよ」

 

「しかし1日に2体も超大型敵が倒されるなんてな」

 

「しかも最初1台は半壊なんでしょ?予算大丈夫なん?」

 

「あの1台目を壊した緑谷って子、凄いパワーだった!腕と足ぐちゃぐちゃになってたけど・・」

 

「まさにオールマイト並み!あなたはどうでした?」

 

「オールマイト」

 

なぜか日本のNo.1ヒーローであるオールマイトが雄英教師陣の中にいた。

そう、彼はこの春から教鞭とることになったのだ。

 

(触れてほしいような、欲しくないような・・ただ、私は誇らしいぞ!緑谷少年!!)

 

「いやしかし!もう一人の彼!彼もとてつもなく素晴らしかった!」

 

オールマイトはナチュラルに話題を反らした。なにやら緑谷についてあまり聞かれたくないらしい。

 

「たしかに・・あれだけ殲滅ポイント取っていたのに無理して立ち向かったのは、救助ポイントになると知っていたからか?」

 

「いや彼にそんな打算はないよ!敵に背は見せない!じぶんの背の者たちにまで通させない!無意識に感じているんだ彼は!」

 

「ナチュラルボーンヒーロー」 

「彼はヒーローになる素質に溢れているよ!」

 

オールマイトは自身のヒーロー観にルフィが合致していることに嬉々として語った。

 

「そして殲滅ポイントと救助ポイント合わせて彼は130ポイントでブッチギリの1位さ!今年の1年生は有望株多そうで楽しみだね!」

 

艶々ふわふわの自分の毛並みを自慢げに撫でながら校長がこの場を閉めるのだった。

 

実技試験が終了し、次の試験のため教師陣はそれぞれその場を解散していった。

 

 

 

さぁ次は筆記試験だ!(ゲス笑い)

 




今回は少し多目に書きました。そんで地文も多目に書きました。
いやぁ戦闘描写を文章でやるのは難しいですね。


さぁルフィは合格できるのでしょうか!(笑)


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灰色の世界

試験から数日後の夜、ジーコよりも凄いブラジルの英雄ガープの事務所AUAUは静寂につつまれていた。そのなかでも経理を担当するロドリゴさんは沈痛な顔をしている。

 

「どうすんだコレどうすんだコレre:re」

 

なにやらぶつくさ呟いている。ヤベェ

事務所一同の中の一人にルフィの顔も見られる。

テーブルを見るに豪勢な食事とケーキが並んでいる。

 

その誰もがよだれをたらす状況のなかで、ルフィの顔はというと・・・

 

「」

 

無!圧倒的無である!!

メシを前にしては阿修羅マンをも超える喜怒哀楽を見せるルフィがこの表情である。

生きる希望もないとヒシヒシと伝わって来る。

 

・・・彼に何があったというのか。スットボケ

 

「ただいま〜 ル〜フィ〜!今日雄英からの合格通知が来たんじゃろ?」

 

「ほれお前のために牛一頭丸買いじゃい!どうじゃすごいじゃろ!!噂のコーベじゃコーベ!ワシぐらいになればポケットマネーでホホイのホイじゃ!」

 

「ワシも珍しく気を使えるじゃ、礼には及ばないぞい!」

 

こんな灰色の世界にサンバのリズムでズカズカと踏み込んで来るガープ。

あーあー、と一同がなんて空気が読めない裏目にでるジジイなんだと心の中で睨みつけた。

 

「何惚けておる ルフィ?ほれ 肉じゃぞ!」

 

「いいよ・・・悪いし。じいちゃん食っていいよ・・・」

 

ルフィが覇気なく、遠慮がちに肉をお断りする。

時間が完全に停止した。

「あの」ルフィが肉を拒否したのだ。あり得ない、どんな天変地異より起こり得ない異常事態だ。

 

ガープは瞬時に理解した。

ここが灰色の世界なのだと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おかしい!冷静に考えればなんでワシの孫が落ちにゃいかんのだ!」

 

一晩明け、灰色の世界から脱却したガープは手塩にかけた孫が落ちるなどあり得ないと雄英高校まで抗議しに出向いたのだ。普通なら入試の合否の結果になんて言われようが突っぱねるとこなんだが、世界的なヒーローであるガープをさすがに門前払いすることは学校側もできなかった。

 

「やぁやぁこれは英雄ガープ氏!お初にお目にかかれて光栄さ!私は校長の根津です!艶の秘訣は正しい生活サイクルさ」

 

ネズミが人間の力を持った純然たるげっ歯類である校長はさりげなく自慢の毛並みの話を滑り込ませながら、正門にてガープを迎え入れた。そして傍に今年のヒーロー科の担任を務める相澤が佇む。

 

会議室へと入ったボガードを加えた四人は、円卓上に置かれたコーヒーがある椅子へ腰を落とした。

 

「単刀直入じゃが、ワシの孫が落ちた理由が知りたい!ルフィのやつの戦闘力は並のヒーローよりも上じゃ!それはワシが一番わかっとる!だから信じられんのじゃ」

 

平静をなんとか取り繕おうとしているガープだったが言葉からはしっかりと怒りがこもっていた。

そんなガープに相澤が答える。

 

「・・確かにあなたのお孫さんは優秀でした。身のこなし、単純な腕っ節、そして個性の練度。実技においてはどれを切り抜いても一級品でしたよ・・・」

 

相澤はルフィの能力を淡々と答え、素直に孫を褒められたガープは少し嬉しそうにしている。

 

「ガープさん、あなたはブラジルの方でいらっしゃるからご存知ないと思いますが・・・ヒーロー科として個性の強さこそ脚光を浴びがちですが、本来雄英高校は進学校でもあるんですよ」

 

「それも偏差値75オーバーの勉学においても日本有数の学校です。倍率が300もあるのだから必然的にこちらが求めるラインも上がってしまう」

 

相澤は顔の前で手を組み、少し言葉尻が重くなる。

 

「つまり筆記試験の結果も大きく関わってしまうんですよ」

 

「筆記試験・・・?」

 

ガープは今まで頭の隅にもおいてないワードに少し戸惑い。

あっ(察し)と呟いた。

今気づいたのかよ、ボガードが内心悪態をついたのは秘密だ。

 

「ルフィ君の実技試験はぶっちぎりのトップの成績でしたが・・・・」

 

「筆記において雄英史上ぶっちぎりの最低点を叩き出したんですよ」

 

ガープはそれを聞いた瞬間、灰色の世界を通り越し漆黒へと身を沈めた。

 

(容赦ないな・・相澤君)

(わかってた事だが、この先生も冷酷だな)

 

相澤の非情な言葉に校長とボガードは冷や汗をかいた。

相澤はフリーズしているガープを見て、言葉は続けず先日のルフィの答案用紙の採点時を思い返した。

 

 

一人の教師がわっと声をあげ、

 

『なんだこの用紙なんかシットリしてる!?』

 

周りの教師もワラワラと集まってきた。

 

『油付いてるじゃねえか!手汗か!?』

 

『しっかしなんだこの答案ほぼ白紙だぞ。冷やかしか?・・なんか鉛筆グリグリして、かろうじて回答の意思は感じるが』

 

『なんかこの油・・香ばしい臭いすんだけど・・・』

 

『ってこいつ実技ぶっちぎりの奴じゃないか』

 

『う、うそ?』

 

『おいおいちょっと待て、だとしたらこのとんでもないバカ(強調)どうすんだ!?』

『不合格か!?』

 

『いやいや実技がトップなんだぞ?幾ら何でもそれは・・・』

 

『あ、右下隅にちっちゃくおまけしてくださいって書いてある・・・・』

 

 

 

その情景を思い出し、相澤は額に再び青筋を立てた。

間を置いて相澤はさらになぜルフィが合格していないかコツコツと話す。

 

「まず平均80点がボーダーラインのテストにおいて、彼の平均は1.3点」

「この時点ですでに論外ですが、さらに彼には試験中食事をしていた疑いもある」

 

「そしてさらに言うなら、仮に順位づけで実技と筆記の成績を表すと、トップの実技とドンケツの筆記を合わして2で割ったとしてもちょうど受験者の半分・・彼は上位50パーセントの位置づけになります」

「ですが合格ラインは倍率300なので上位0.3パーセントになるわけです」

 

「数字をどう持ってこようが合格ラインにはかすりも・・」

 

「相澤君!」

 

根津は相沢が話し終わるところで制止した。

 

「もう彼のライフは0だ・・やめなさい・・」

 

「ああ・・すいません・・・なんか言葉が止まらなかったです」

 

校長に止められ、いつになく饒舌になっていた自分に相澤は気づいた。

しかし不合理が嫌いな相澤がルフィの不合理さに嫌悪さえ覚えるのには無理もなかった。

 

かくいうガープはその大きな体躯をすごく縮こませている。

 

「大丈夫ですよ・・・パーセントの数字並べたって理解しちゃいませんよ。あの孫あってこの祖父ありです。」

 

さりげに一番ひどい事を言うボガードであった。

 

 

 

 

ぐうの音も出ないガープはようやく諦めたのように呟いた。

 

「ブラジルに帰るかボガード」

 

「しかし事務所どうするんです?建てたばっかりですけど、このままじゃロドリゴの頭が禿げ上がりますよ?」

 

まるで初めから分かっていたかのようにボガードは淡々と答える。

ガープはさほど気にしてなさそうに、売れとの一言。

一体いくらの赤字を叩き出すのやら・・ロドリゴはハゲるにしても、今年のボーナスはカットだなと帽子の鐔をボガードは下に向ける。

 

そこで校長は素っ頓狂な声を上げる。

 

「え!?国に帰られるので!?」

 

何を意外な顔をしているのかとガープとボガードは顔を訝しむ。

そんな反応を見て相澤は少し考え込んだ。

 

(この爺さんなら少しでも可能性があると思ったら、ズケズケ踏み込んでくると思ったが・・・、ヒーロー科に合格しないとプライドに触るのか、有名なだけに)

 

なんだか反応がおかしい教師陣にボガードは返した。

 

「ルフィ君は雄英に入るのが目標で日本にまで来ましたからね。そこに入れないなら、帰るのが自然の流れでしょうに・・・」

 

 

 

 

「・・・え・・・いや、雄英には入れますよ 彼」

 

 

 

 

はっ!? 、と突拍子もない事をいけしゃあしゃあと答えた相澤に上着を着た二人は大口を開けて固まっている。

しかしそこはさすがロマーリオより凄いガープいち早く反応した。

 

「じゃ、じゃがさっきは無理といっとったじゃろうが!!!?だ、騙したのか!!」

 

ガープは混乱し、戦闘時の癖の袖の腕まくりしだした。

この動作に教師二人は少し焦ったが、ここで相澤はこの会話のすれ違いに気づいた。

そして一つ確認する。

 

「合否発表の封筒に入ったDVD最後まで拝見されましたか?」

 

すると未だ混乱していたボガードはその時のことを思い出した。

 

(確かあの時、ルフィ君が封筒を受け取ってデッキのある部屋で一人で見ていたな・・・)

 

あの日事務所のみんなはルフィがDVDを見ている部屋の外で結果を待っていた。

ルフィは受かっていたら大騒ぎして部屋からすぐ飛び出して来ていただろうから、全員落ちたと思っていた。

それにルフィは灰色の世界を醸していたのだ。

 

 

 

「つまり最初に不合格と聞いて、落ちたと思い後の話を聞いていなかったと・・・」

 

根津がボガードから聞いた話をまとめ、ふーんと鼻息を強めた。

あの男めもったいぶるからだよ、と毛並みを触りながら一人の男を思い浮かべた。

そして状況を理解したボガードはルフィに電話をかける。

 

「ルフィ君あのDVDを最後までみろ!」

 

 

「まぁ、こちらにも非がありますね。憧れに不合格の旨を言われたら、先を聞きたくないのもわかる。」

 

正直嫌いな部類なルフィにも相澤はちょっぴり同情した。

まだ話についていけてないガープはどういうことかと説明を相澤に促した。

相澤はまた聞き返されないようにはっきりと伝えた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ルフィ君 君は不合格だ!」

 

事務所でガープとボガードを除く全員でDVDを再度見ることに。

TVに映し出されているのは今年から雄英の教師になるというオールマイトだった。

彼は続けて話をする。

ちなみにここでルフィは灰色になった。

 

「素晴らしい実技を見せたと思えば、私も思わず引いてしまうほどの筆記のbadさ・・。これでは文武両道を唱える学風にそぐわない結果だ」

 

「おおよその教師は君を躊躇なく不合格を言い渡した」

 

「しかし私がそれを拒んだ!!!」

 

オールマイトはこの一言に力を込めた。

そしてその言葉にルフィは顔を明るくさせる。

 

「実技試験における君の意思、度胸は私が思うヒーロー像そのものさ!」

「筆記ごときで君の中で燃える大炎を消すなんて私にはできない!!」

 

「私はこれでもトップヒーロー!発言力には自信がある!」

 

その言葉にルフィとともに周りの全員もまさか、と胸を弾ませた。

 

 

「そう君は合格だ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「雄英高校普通科に!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「へっ」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

えええええええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜、弾かれるような声が2丁目の工藤さん家まで届いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 




オールマイト「し、仕方なかったんだ・・ヒーローとしては実績はあっても、教師としては新米だから
       ここまでが限界だったんだ」アセアセ


この件でルフィ以外のブラジル勢から評価が下がったオールマイトであった。
なんだかんだ雄英に受かったルフィ!さて普通科で生きていけるのであろうか

ロドリゴさんの毛根は生き残った!


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興味津々!!

補足です。
ブラジルでヒーローといえば強さの象徴です。
これはブラジルが日本の数倍凶悪事件が横行しており、サンパウロなんて犯罪都市であるので、悠長なこといってるとマジでぶっ殺されるからです。
日本のように高学歴ではないし、制約もあまりありません。

なので強ければ全てオッケーだと思っていたルフィからすれば、物凄いカルチャーショックだったでしょう。


なんとか雄英高校に入ることができたルフィ。

しかし彼について入試から合格発表までの間、議論が雄英会議室で交わされていた。

 

「Hey!オレもあいつはヒーロー科合格でいいと思うぜ!強さこそヒーローの第一条件だろ?」

 

プレゼントマイクは意外にもルフィに肯定的だ。派手好きな彼はルフィの戦闘力に興味を持っていたからだろう。

しかしそんな彼に否定的な意見の者も多くいるようだ。

 

「馬鹿野郎、ヒーローに最も必要なのは自己犠牲の精神だ。自制することできる人間じゃないと務まらん。」

 

相澤は意外にもヒーローに対して熱い。彼の言葉からは武士道にも似た信念を感じる。

 

「実技見る限りじゃ、自己犠牲の面も見れたぜ!」

 

「ありゃ自己犠牲なんてもんじゃなく、自己中心なだけだ。自分がなんとかしてやるってな。」

 

「自制心といった意味じゃ確かに彼てんでダメね。試験前の説明中に早弁してたんでしょ?」

 

相澤に同調しているのは、同じくプロヒーローである18禁ヒーローのミッドナイトだ。

SMの女王様の風貌の彼女に自制心と説かれても説得力はない。

しかし試験中のルフィの行動を聞いていた教師たちはみな一様に頷く。

ただ皆がルフィの実力は認めており、そこがあるがゆえ相澤以外はあまり強く反対の言葉は出せないでいた。

 

「問題はうちが国立だということですよ」

 

少し固い口調でそう話すのは、普段はあまり表立って出てこない教頭であった。

校長がヒーロー科側に傾倒するタイプである反対に、教頭は普通科や経営科など一般生徒側の教師である。

 

「私立なら自由にこちらの裁量で生徒の合否をつけられますが、税金で成り立っている以上総合的な試験結果以外で合否はつけられません。」

 

「そういう不正は何より問題だ。しかも彼では入ってからすぐに学力面で浮いてしまうでしょう?そうなれば生徒間でも疑問が出て来てしまう。」

 

全くの正論を教頭が口にしたことにより、会議室の雰囲気は不合格の流れで立ち込めた。

数少ない肯定派のプレゼントマイクもう〜ん、と黙り込んでしまう。

他の肯定派である校長とオールマイトはただ救いの手も出してもいいんじゃないかと切り出す。

 

「では、オールマイトは彼を推薦する確固たる理由はおありかな?」

 

教頭の静かな物言いにオールマイトはたじろいでしまう。

なにか言おうと思って口をパクパクさせるが、基本脳筋の彼はこの場では役立たずであった。

そこで校長は助け舟を出す。

 

「雄英高校は普通の国立とは異なり、ヒーロー育成という現代社会における重要事項を受け持っている学校さ!いかに優秀な生徒を輩出するかを、僕は至上命題だと考えているよ!バランスよくなんでもこなす人材ももちろん大切ではあるけど、一つのことに秀でた人材を育成して役割を持たせることも大切ではないかな?」

 

「つまり戦闘が得意なのであれば、戦闘だけという役割を与えて育成するということですか?」

 

「そうさ!今のヒーロー社会は一つの事務所がサイドキックを多く抱え込むという形がほとんど。いろんなタイプのヒーローがいればどんな状況にも対応することができるからね。」

 

「つまり短所を補ってチームとして動いているんだ!ルフィ君の戦闘能力はチームの中心になれるものであるし、足りないことは周りがサポートしてあげればいいっていうのが僕の意見さ」

 

「「う〜ん」」

 

校長は持論を展開し、一同はそれに少なからずも賛同する。

その様子にオールマイトは尊敬の眼差しで校長を見ている。

しかし、教頭はその話をコクコクと頷き理解を示しながら、こう返した。

 

「彼を特別扱いすると?」

 

この発言に相澤たち一同が眉を顰める。

 

「そういうわけではないさ」

 

「しかしそういう意見でしたら、他の受験生も見直してあげないと不公平ですよ。彼同様、一芸に秀でた子達は多くいるでしょうし」

 

校長は反論するが、教頭はならばと不公平性を口に出した。

 

「私の知っている子では精神操作の個性の子もいる。その子の個性では今回の実技試験は突破できないものでした。・・・ですがその理屈で言うならば、本来ならこのような強力な個性の子はヒーロー科に入れるべきだと言う結論になる」

 

「もちろん私は反対を唱えます。彼らの人生に大きく関わることですから救済措置もとってあげたいですが、試験と言う体裁がある以上冷酷な振るいはかけなければいけないからです。」

 

教頭の毅然とした態度に皆気を引き締めるような思いになった。

しかし、とオールマイトはそれでも引き下がる。

その顔は納得できるが、どうにかならないのかと言う表情がにじみ出ていた。

 

「どうやら校長とオールマイトはどうにもこいつに肩入れしている節がありますが、どうしてです?」

 

相澤がここまで言われて、未だ粘ろうとしているオールマイトに疑問を投げかけた。

オールマイトはルフィには自分に通ずるヒーローとしての素質を感じているからだと答えた。

この答えは間違いなく本心であるが、オールマイトはその言葉の裏に何か含みのある雰囲気を感じさせる。

 

「・・・?」

 

相沢も少し腑に落ちない様子だったが、深くは追求しなかった。

 

 

「・・・NO.1ヒーローとうちの校長がここまで言っているんだ。それだけでも合格の考慮はしてもいいんじゃないか?」

 

今まで発言をしていなかったエクトプラズムはこれまでの話を聞いて客観的にそう言う。

どうやらヒーロー科の授業も受けもつが、担任ではないため発言は控えていたようだ。

 

「それを加味しても、はい合格とはならないだろ?合格ラインの争ってるならともかく」

 

ヒーロー科のもう一人の担任であるブラドキングが答える。

しかしエクトプラズムは一つの可能性を口にする。

 

「確かにヒーロー科ならかすりもしないが、普通科ならどうだ?」

 

 

「・・・ふ、普通科だと?!」

 

予想外のエクトプラズムの発言に皆驚いた。

続けて彼は発言を続ける。

 

「ヒーロー科と普通科を同時に受けるものは毎年多い。そのため普通科はヒーロー科の落ちた者の受け皿になっている。今年もそうだ。ならばこうやってヒーロー科の合否の議論に上がるこの少年を普通科に入れさせると言うのはどうだろうか?」

 

雄英はヒーロー科以外にも、ヒーローのコスチューム開発など技術職を育てるサポート科とヒーロー事務所の経営を主軸にしている経営科、そして普通科がある。

倍率300倍からわかるようにヒーロー科がダントツに人気なのはわかるだろうが、他のサポート科と経営科も一様に競争率は高い。

しかし普通科に関しては、少し違う。

他の三科は専門職の度合いが強いため、第一志望として受ける受験者が多くを占めている。

一方普通科は特にヒーロー科の滑り止めの受験者が多い。

実技試験がダメでも筆記試験は合格ラインにいる者が流れてくるからだ。

なので雄英では筆記試験はヒーロー科と普通科を合同で行って効率化している。

 

「いや・・・それはどうなんだ?普通科は単純に学力で合否が決まるんだぞ。彼ではダメだろう!」

 

ブラドキングは入試のシステム上あり得ないと反論を述べる。

 

「確かにこれでも先ほどの教頭の意見と相反することだ。しかしなぜウチのヒーロー科を落ちた者が他のヒーロー科の学校に行かずに、わざわざ普通科に行くのか知っているだろう?」

 

 

「・・・在学中の転科推薦か」

 

雄英教師なら皆が知っているだろうとエクトプラズムの言葉に、相澤が反応する。

 

「なるほど、体育祭の結果次第では転科推薦がされることはままある」

「彼にそのチャンスを与えると言うことかい?」

 

校長がそう確認するとエクトプラズムはそう頷き、補足する。

 

「普通科に入れることだけは校長とオールマイトの意見を汲んでよしとして、後のこと条件をつけるなりして判断すればいい」

「例えば学力面での向上が見られなかったり、体育祭での成績が転科推薦にふさわしくなかったら退学したりな」

 

ほぅ、と相澤はなるほどなと息を吐いた。

 

「超法規的処置であることには変わらんな」

 

それでもそれはどうなんだと投げかけた。

 

「しかし先ほどよりは話が進むのではないか?」

 

外見で言えばかなり恐怖を煽るエクトプラズムだが、幾分か建設的にはなっただろうとスマートな一面を見せた。

この打開案に周りの教師陣は特別反論もなく、ルフィの不合格の意見に最も反応を示していた教頭に同意を求める展開となった。

そこで、オールマイトは最後の嘆願として、教頭へ頭を下げる。

 

「教頭先生!どうか私のヒーローとして願いを聞いてもらえないでしょうか!」

 

「・・・・」

 

教頭は少し考えたのち、ため息をひとつついた。

 

「あなたにここまでされては断るものも断れないですよ」

 

年相応に薄い頭を掻きながら教頭はこの意見に賛成の色を出した。

 

「超法規的処置として、文部省の方に電話を入れます。校長もそれでいいですね?」

 

校長は教頭の同意にもちろんさ、明るく声を返した。

 

 

 

 

(ふぅ、なんとかなったか・・・ありがたい。彼には緑谷少年同様に次世代の平和の象徴として活躍してもらいたいからな!)

 

オールマイトは胸の内に秘めた想いがまだなんとかなりそうだと安堵した。

そして彼の事情を知る校長もその様子を見て毛並みを撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

こうしてルフィは雄英高校普通科へ入学することになったのだった。

 

 

 

 

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合格発表から一週間後、ルフィは東京観光をしていた。

 

そして街で偶然出会った透明人間の女の子に

 

「うんこしてる時ってどうなってんだ?」

 

と質問していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。なんか疲れましたので軽い感じで終わらせました(笑)


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この世界の中心へと願う

今日は4月2日、雄英高校の入学式の日の明朝にルフィは珍しく電話をしている。

その様子は楽しげで相手との関係性の良さが窺い知れる。

 

「・・でルフィ、お前は日本でヒーローを目指すってわけか」

 

優しげだが、どこか力強い青年の声が聞こえる。

ルフィはその声に淀みなく答える。

 

「ああ!オールマイトを超えるヒーローになるぞおれは!」

 

「もったいねえな・・ルフィ、お前の実力考えたらわざわざ日本なんて行かなくていいのによ。堅っ苦しいだけだぜ実際、ヒーローなんてよ」

 

どうやら話し相手は日本にはいないようだ。

ルフィはすでに雄英の制服を纏い準備万端の格好だが、話に夢中で時間が迫っているのに気づいていなかった。

 

「おめえは今はどこにいるんだ?」

 

「エース」

 

「今はカリブ海だ・・・・つってお前に言っても知らねえか。そうだなアメリカ近くって思えばいいさ。そこで敵狩りに勤しんでるよ。」

 

ルフィと話しているのは3つ上の義理の兄弟であるエースであった。彼はヒーローではない。

非公認でヒーロー行為を行う者[ヴィジランテ]である。

本来ヒーローは国から認可を受けた免許を持っていなければ名乗ることはできず、またヒーロー以外は個性の公的な場で使ってはいけない法が国連加盟国ではほとんどが定められている。

つまり善意であっても一般人が個性を使って敵の捕縛等を行なってはいけないのだ。

ヒーローの本場であるアメリカはもちろん、ヒーロー先進国である日本もこの法は固く定められている。

上記のことからヴィジランテは国からは敵と同じ扱いになり、有名なものは指名手配されていることもある。

 

エースはすでにヴィジランテとして有名であり、政府からマークされている大物である。

どうやら彼はヒーローの決まりの多さを嫌い、ヴィジランテの道に進んだようだ。

 

「エースは白ひげのとこでやってんだってな」

 

「ああ!白ひげの親父との旅は毎日が充実してるぜ!お前も親父のところに来て、俺とタッグを組んだら敵なしなんだが・・俺は白ひげ、ルフィはオールマイトに憧れて今の道に進んでんだもんな」

 

エースは世界最強を目されるヴィジランテ組織「白ひげ」に所属している。

白ひげは自らを正義の組織とは名乗らず、世界中に出没し目についた犯罪組織を潰している。

非公式でありながら民衆から絶大な人気を誇っており、大きなヒーロー組織がない国連非加盟国からは度々招致されるなど太いパイプを持っている。

その頭目エドワード・D・ニューゲートは長くこの世界に君臨し、若い頃はガープとも多くやりあった。

しかし粗暴な者も多く、彼らの活動の間接的被害も多く問題視されているのも事実だった。

 

ヒーローとヴィジランテ、志は近くとも手を取り合うことはない。

それはそれぞれが違う道を歩んだルフィとエースも言えることだろう。

立場だけでいえばだが・・・・

 

「ルフィ君。もう学校行く時間だろう?」

 

時間になっても電話をしているルフィにボガードが後ろから声をかける。

ルフィがそうだったと、少し焦った顔をしている。

エースにまた電話しようと別れの言葉を言おうとした時、やかましい声が別部屋から聞こえてくる。

 

「ルフィ!その相手はエースかぁ〜〜〜!!」

 

ガープが鋭い目をしてルフィに食ってかかる。

その声を聞いて電話越しのエースは「やべえ!ジジイか!?またなルフィ!!」と足早に電話を切った。

 

ルフィは慌てて事務所から出て学校へ向かう。

ヒーローの学び舎 雄英に。

 

結局ヴィジランテなどと言っても、私的介入ができるヒーロー行為はたかが知れている。

多くの民衆を救い出せるのは本物のヒーローだけだ。

 

ゴムの反発を生かして身軽に走り出す。

 

最高のヒーローを目指して。

 

 

 

 

 

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「でっけーなー 色々と!」

 

しっしっしっ、と新鮮な気分で到着した雄英高校をルフィは見渡した。

入試に来た時に一度来ていたため、電車も間違わなく順当に到着した。

始業まで少し時間があり学内を散歩していたら入試で会った真面目な少年にバッタリと会う。

 

「き、君は!?」

 

「あ!オメーはカクカクメガネ!!」

 

「か、カクカクメガネ!?」

 

衝撃的な初対面でルフィのことをよく覚えていた少年は驚いたが、妙なあだ名をつけられていることにさらに驚き困惑した。

 

「ぼ、俺は飯田天哉だ!断じてそのような蔑称ではない!」

 

「べっしょう?おれはルフィだ!」

 

お互い挨拶をして一緒に教室へと向かう。

しかし仲良くしようと言う雰囲気はないようだ。少し飯田が前に歩いている。

 

「まさか君が合格しているとは思っていなかったぞ・・すまないが、そんな知能があるとは思っていなかった」

 

だいぶ失礼な物言いのだが、彼のルフィの印象では妥当だと頷くしかない。

しかし真面目な彼だ。過去のことは過去だと忘れ、この発言の後に一緒に勉学に勤しむだろうルフィにお互い精進しようとルフィに話しかけた。

 

「おう!」と元気に返したルフィであったが、自分が普通科だということは考えてない。

 

二人がA組の教室の前に着いたとこで、隣の教室に入ろうとしていた入試で一緒だった拳藤一佳と顔を合わせた。

拳藤は顔をパッと明るくさせ、手を焼かされたルフィに話しかけた。

 

「ルフィ!!受かってたのか!」

 

「おー拳藤じゃん!!オメーもか よかったなー!」

 

「それはお互いだろ?私はあんたが受かるかヒヤヒヤしてたんだからな」

 

どうやら拳藤はルフィの合否が気になっていた。とても筆記ができると思っていなかったからだ。

男勝りな性格の拳藤とはウマが合っていたのかルフィもかなり親しげだ。

 

「まぁ、あんな実技の結果見せられたら当然か。単純な戦いで勝てる気しないもん 私」

 

「む?そんなにルフィ君は実技がすごかったのか?」

 

仮にもヒーロー科に合格した者がここまで言うのに反応して飯田は尋ねた。

 

「すごかったよ!あの超大型敵を倒したからさ!」

 

入試を思い出し少しテンションが上がった拳藤だった。

それはすごいなと驚いた飯田だったが、あの彼以外にもいたなんてと呟いた。

その呟きを聞いたルフィは彼?と気になったが聞き直したりはしなかった。

 

「そっちの教室の前ってことはルフィはA組?クラスは別々だけど合同の訓練とかもするみたいし、その時はまた組もう!」

 

「いや〜それがよ〜 おれヒーロー科落ちちまって普通科なんだ」

 

少し言いにくそうにルフィは自分の状況を言った。

嘘だろ!?と拳藤と飯田が驚愕の顔をしている。

二人からしたらまさかである。

拳藤は目の前でルフィの実力を目の当たりにしているし、飯田は先ほどの話と普通科は受かるだけ勉強ができるのかと思ったからだ。

参った参ったと、なぜか笑いながら言うルフィ。明るいやつだ。

そんじゃまたな、と自分の教室に行くルフィの後ろ姿をまだ驚いている二人は教室の入り口で固まり、後から来る生徒に邪魔そうな顔をされた。

 

 

 

 

「え〜と、この一年D組を担任しますマキノです。私もまだ2年目なのでまだ未熟だけど一緒に頑張っていきましょう!」

 

爽やかで可愛らしい笑顔がよく似合う教師のマキノがルフィの担任であった。

入学式が終わり初めのガイダンス中、その容姿に教室の男子は彼女に釘付けであった。

女子の何人か舌打ちしている。そんな雰囲気の中ルフィは朝早く起きていたので眠気に駆られている。

 

マキノは出席番号順に生徒の名前を呼び、呼ばれた順に生徒は自己紹介していく。

ルフィが呼ばれた時には、外人なのか?と入試の時の肉のやつだ!という声が上がる。

呼ばれたルフィは立ち上がり元気よく自己紹介をする。

 

「モンキー・D・ルフィ!出身はブラジルのサンパウロ!好きなことはメシを食うこと!目標はオールマイトを超えるNO.1ヒーローになることだ!!」Don!!

 

 

そう答えたルフィに少し間が空いて周りから冷笑が聞こえる。

 

「普通科にいるのにNO.1ヒーローてまた壮大な夢見てんな」

 

「一流どころは学生時代から逸話を残してんだ、ここで挫折してるやつがなれるかよ」

 

心無い言葉にルフィは馬鹿にされた気分になった。

 

「ウルセェな!やってみないとわかんねえだろ!おまえらだってそうだぞ!」

「まだこっからなのに何諦めたようなこと言ってんだ!」Don!

 

言葉を言うにつれて少しルフィは興奮した。

何よりこれから高校生活がスタートしたと言うのに諦めたような顔をしている周りに檄を飛ばした。

だが、ここにはヒーロー科を落ちた者が多数いる。これまでにあったヒーローへの志がしぼんでしまったのだ。

ルフィはボガードから転科推薦の話を聞いているので、周りの者とのモチベーションに差が出ているのだ。

 

(へぇあいつは転科推薦狙ってるクチか?普通科はヒーロー科に転科する目的の奴も多いって聞くけど、このクラスはそういう気概を持ってるやつは少なそうだ)

 

前目の席で静かに黙り込んでる男子は自分も持っている野心があるルフィを同類かと考えている。

彼が言うように転科を希望する者は多くいるがこのD組は諦めてしまっている者が大半だった。

 

「こらこら言い合いをしないの。ルフィ君のように何にでも目標を持つことは大事よ!」

 

「次の人に行くわよ」

 

マキノはルフィらを諌め、自己紹介を進めさせる。

 

この後は滞りなく進み、軽い連絡事項を済ましたところは初日の学校は終えた。

ルフィは帰宅しようとしたところでマキノに呼び止められこの後に生徒指導室に来るように伝えられた。

 

「?・・なんでおれだけ呼び出されんだ?」

 

ブラジルでは散々教師に呼び出しをくらっていたルフィは何かしたかと不味そうな顔をしていると、後ろから丸渕のメガネをかけた男子に話しかけられた。

 

「どうかしたの?」

 

「ん?なんでもねえよ・・・えーとお前は誰だ?」

 

「え・・まぁそうだよね・・僕なんて影薄いし覚えてないか」

 

先ほどに自己紹介があったのに名前はおろか顔も覚えていないルフィは天然で少しひどいやつである。わりぃわりぃ、と謝った。

 

「僕は古美。中学ではコビーって呼ばれてたからそう呼んでくれる嬉しいな」

 

背が低く気弱そうなコビーは普段は人見知りであまり初対面で話しかけるタイプではないのだが、先ほどのルフィの自己紹介を聞いて話しかけたくなり少し勇気を出した。

 

「恥ずかしながら、僕もヒーロー科を諦められなくて・・・、ヒーローに憧れて、試験を受けたのはいいけど全くダメで・・普通科には入れたけど正直諦めてたんだ。だけど君のさっきの言葉聞いてまだやれるんじゃないかと思って・・ハハ」

 

大人数相手に物怖じせず、自分が諦めたこと言いのけたルフィに彼は感化されたらしい。

しかし言葉に力はなく、自信もなさそうだった。

 

「へ〜お前もまだヒーロー科狙ってんのか!じゃあ俺たちは仲間だな!シッシッシッシッシ!」

 

自分と同じ目的のコビーと会ってルフィは素直に喜んだ。

一緒に頑張ろうと答え、コビーは少し驚いたが、がっちりと熱い握手をしてルフィはコビーと別れた。

 

今まで友達らしい友達がいなかったコビーはルフィのまっすぐこちらを見る目に惹かれた。

彼がルフィとともに行動するのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィは現在生徒指導室にいる。数々のトロフィーが立ち並び、名門校らしい煌びやかな部屋模様だった。

対面に置かれた二つのソファの片側にルフィは落ち着かない様子で座る。

ルフィと向かい合うのはヒーロー科1年A組の担任である相澤と、彼の担任であるマキノの姿があった。

 

「まず初めましてだな、ヒーロー科の担任をしている相澤だ。一応確認はしとくが、お前はヒーロー科の転科を希望しているか?」

 

ルフィは当然と答え意思を示した。相澤はとりあえず本人の口から出た意思を確認し、話を続けた。

 

「お前が知らないとこで、お前のことでゴタゴタが起きていてな。それというのも入試の時、お前をヒーロー科にいれるべきかどうかって話し合いだ」

 

ルフィがその話し出しに反応したが、相澤はルフィの質問などには答えることはなく進めていく。

 

「結局は学力が酷すぎるとのことで不合格にした、がお前の実技試験の成績を考慮して希望を出してなかった普通科に移しチャンスを与え、今後の活躍次第で転科推薦を出すという方向に決まった」

「ここまでは家の人に聞いたよな?」

 

「頑張ったらヒーロー科行けるってのは」

 

(またザックリだな)

 

元よりルフィ側に者たちに話した流れを確認して、後日に決定した転科推薦を出す条件を説明していく。

 

「お前これから勉強はできるようになるか?」

 

ルフィに対して彼が最も恐る一言を相澤は放った。

ルフィはうっとした顔を浮かべ、めちゃくちゃ目線を流した。すごい汗である。

これを見て相沢はため息を吐きルフィに求めることを言う。

 

「これまでの学力具合はボガードさんから聞いて把握している。今更高学力をお前には求めんよ。」

「大事なのは姿勢だ」

 

「と言いますと?」

 

ルフィはなんとか話しを理解しようと頑張る。

 

「ヒーローってのは己の身を呈して人々を救助する、いわば皆の模範となるべき存在だ。自分の嫌いなことに逃げてる人間がなれる職業じゃない。勉強ができないのは目を瞑れても努力する姿勢を見せろってことだ」

 

「なるほど」

 

相澤は本当にわかってるのかコイツ、と内心思いつつルフィの普通科入りに強く意見した人たちを挙げていった。

 

「感謝しろよお前は恵まれているんだ。担任のマキノ先生も勉強に関してはより協力してくれると言ってくれている」

 

グーの手を胸の前に出してマキノは頑張ろうと朗らかに笑いかけた。

ルフィも関わった人たちに感謝してやる気を漲らせた。

 

「浮かれるな 条件はもう一つある」

 

相沢は入学自体が本来の入試結果を捻じ曲げた超法規処置だと言う旨を伝え、ルフィの実力を加味した転科条件を突き出す。

それは6月に開催される雄英体育祭で優勝すること。

ヒーロー科を含めた一学年全員が争うこの大会は毎年熾烈を極め、優勝者は輝かしい未来を約束される。

 

「結局この世界結果が全て。結果を出して黙らせるしかないのさ。ヒーロー科はこの2ヶ月間ヒーロー育成訓練をみっちり行う。実技試験では優秀だったが、そのアドバンテージなんてすぐに吹き飛ぶぜ?」

 

 

「プルスウルトラ」DODON!!

 

 

「以前の自分を超えて俺たちに見せてみろ」

 

「・・・以上だ」

 

相澤は雄英の校訓をあげルフィに実技の向上も促し、話を切り上げた後そそくさと部屋を後にした。

 

相澤の鼓舞するような言葉にルフィは身を震わせ、大きく口角を引き上げた。

 

 

 

「見せてやるさ!!」

 

 

「俺の力を!!待ってろよ体育祭ーーーーー!!」Uryaaaaaa!!

 

 

気合の入った声が学内中に響き渡った。

 

 

 

 

ルフィの雄叫びを聞き、相澤はふっと微妙に笑った。

 

(しかし校長やオールマイトはあいつに相当な期待があるようだ。この処置をあっさり許した文部省はガープの孫という色眼鏡があったのが見え透いたから意外でもなかったが・・)

 

(ま、ああいう表立って気合をみせるやつも俺は嫌いじゃないがな・・)

 

 

校長が以前語った、ルフィを雄英で囲もうとした発言の真意を相澤は後に聞いた。

なんでも近い将来ヒーロー社会は低迷期に差し掛かる可能性が高いことが一番の理由にあるからだそうだ。

 

日本国内に限ればオールマイトという存在が平和の象徴となり安定した社会になっているが、世界的に見ればそうではない。

犯罪者が幅を利かせ、内紛にまで発展する国も少なくない。

白ひげのような大物ヴィジランテの存在が対抗勢力として成っているケースもあるが、所詮荒くれ者の延長線上でしかない。責任のないものに真の信頼はないのだ。

ヒーローの数は年々増加の一途をたどっているが、巨悪に対抗できるヒーローはそうはでてこない。

圧倒的に悪の方が個性で人を傷つけるのに躊躇がないからだ。

 

このような理由がありルフィのように正義を心を持ち、巨悪に対抗できるポテンシャルを持つ若者を手放してはゆくゆく敵の後手を踏むことになると校長は言った。

その発言はルフィがこれからのヒーロー社会の中心になってもらうかのような期待を伺える内容だった。

 

相澤は願わくはそれが過大評価にならないようにと思った。

 



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優勝するのはおれだから

これまではワンピースのキャラが多くでてきましたが、ここからはヒロアカのキャラ主導でいきたいと思います。
ここ数話はオリジナル設定とこれからの話に繋がる前置きだったので、皆さん退屈してたかも?
下の彼もまだかまだかと苛立っていますので、できるだけサクサクいきたいです。


爆豪「早く俺を出せや!!このクソゴム!」BOMB!BOMB!




入学から1ヶ月が経ち、新入生にも学校生活の慣れが見られる。今は昼休み、あるものは友達とだべり、あるものは早くも異性と仲良くなりイチャコラしている。

みな和気あいあいとしている中、D組を覗くとルフィが蒸気機関車のような湯気を吹き出している。

どうやら相澤から出された条件を満たすため苦手な勉強に励んでいるようだ。コビーに勉強を教えてもらいながら悪戦苦闘しているが、この一ヶ月間なんとか頑張っている。

しかし限界に近いご様子。

 

「ぶんすう・・ルート・・えんしゅうりつ・・・」

 

特に数学に関してはかなり目を回しているようだ。

この様子にコビーもどうしたもんかと苦笑する。

 

「とりあえずこの昼休みはここまでにしようか」

 

机に突っ伏してダレるルフィはホントか!?っと飛び起きた。

彼が静かにしているのは頭が追いついていない勉強をしている時なので、クラスが一気に騒がしくなる。

毎日している昼休みの20分の勉強を終え、ルフィとコビーが談笑している。

このひと月で分かち合ったようだ。

話の途中コビーは今日学内で騒がれている話題をルフィに振った。

 

「そうそうルフィ君 あの話は聞いたかい?」

 

「なんの話だ?」

 

「昨日学校が休校になったじゃない?その理由というのがA組が災害訓練中に敵に襲われたらしいんだよ」

 

「何!?」

 

「生徒に目立ったケガもなかったらしいんだけど、相澤先生は重症だったみたいで・・」

 

コビーが心配した様子で一昨日にあった敵襲撃事件のことをルフィに話す。

 

一年A組はヒーロー科の特別訓練である災害時の救出訓練を受けている際、多数の敵に襲われた。

元はこの訓練に参加するはずのオールマイトは諸事情で欠席しており、他の二人イレイザーヘッドこと相澤とレスキューヒーロー13号が立ち向かった。

しかし敵主戦力は恐るべき力を持っており、13号は背中の裂傷と相澤は腕の破損・眼窩損傷と奮闘するも戦闘不能に追い込まれた。

絶体絶命なピンチになるも、生徒の活躍と襲撃の知らせを聞いたオールマイトの登場により辛くも敵を追い返すことに成功した。

しかし敵の個性が自由に空間を行き来できるワープ能力があるとはいえ、頑強なセキュリティを誇る雄英が敵の侵入を許した今回の事件はメディアからも問題視された。

そしてこれは秘密裏にされているが、敵の目論見がこれまで不可侵とされてきた平和の象徴オールマイトを殺害することであったことを雄英上層部・警察は重く見た。

 

「・・・で気になって俺たちのところへ話を聞きにきたというわけか?」

 

コビーの話を聞き、駆け足でルフィはA組へ訪れたルフィは真っ先に飯田へそのことを訪ねた。

 

「だってよー気になるじゃんか!ヒーローとしては活躍するチャンスだったんだろ?」

 

「何を!?そんな悠長な状況ではない!!死んでもおかしくなかったのだ!そんな嬉々として話せることではない!」

 

あたかも祭りに参加しそこなったようにルフィが聞いたのに対し、飯田は腕をシュバッと振り上げて無神経だと切り捨てた。

結果無事だったとはいえ、殺される恐怖を味わった者からすれば当然だ。

しかし犯罪都市で育ったルフィには半ば日常的にあることだったため、敵に襲われることに対し日本人と認識の違いがあった。

 

「まぁいいじゃん飯田、ヒーロー科に転科狙ってるルフィにしたら気になるとこだろ?相澤先生も無事復帰してんだしさ」

 

軽めの口調で話しに入ってきたのはA組・上鳴電気。

よくヒーロー科に顔を出し騒ぐルフィと会って数分で仲良くなり、たまに放課後にも遊ぶチャラ男だ。

彼に続けて肌が紫色の毒々しい見た目の元気っ子、芦戸三奈が加わる。

 

「別に私も気にしないよ!あの時は怖かったけど!オールマイトがすごかったよ!すごい頼もしかった!!」

 

「ほんとか!?さっすがオールマイトだなー!!」

 

「ほんと電光石火!トップヒーローの凄さをまざまざと見せつけられたね!」

 

この二人はアホさ加減がルフィとマッチングしてにわかに三馬鹿と揶揄されている。

そんな三人に飯田はもはや口を挟む気力はなく、好きにしてくれと身振りをして諦めた目をしている。

上鳴は化け物のような強さだった敵を吹き飛ばすオールマイトの動きの素振りをして、戦いの実況をする。

それに興奮するルフィと一緒にとびきりいいリアクションをする芦戸がいいぞー、とノリノリだ。

 

その後方ではオールマイトオタクである緑谷出久が輪に加わりたそうな顔をして聞き耳を立てていた。内気な彼はこういう明るげな空気にたじろいでしまうシャイボーイなのだ。

その反対にルフィたちの前方で態度悪く座っている爆豪勝己が不機嫌な顔をしており、ルフィが座っている椅子を前後に揺らしてガチャガチャと鳴らす音についにキレた。

 

「ぅるせぇんだよ!!このクソゴム!!!テメェ普通科のクソザコのくせに何人のクラスで騒いどんだ!アァン!?」

 

恐ろしく短気な彼は毎度毎度ルフィにキレている。回を重ねるごとにボルテージが上がっているようだ。

 

「またバクゴーか!なにカリカリしてんだ?肉を食え 肉を!」

 

どんなにキレても罵倒しても何も応えないルフィはわけのわからない返しをする。もはや様式美だ。

こいついつかシバき回してやると殺意に近い感情を爆豪は包み隠さず表している。

それを見事にスルーするルフィは尋ねた。

 

「上鳴たちは敵とは戦ったのか?」

 

「ああ!10人以上に囲まれたけどなんとか善戦したぜ!かなりやばかったけどな!」

 

「私は戦わなかったー!でも次にこういうことあったら皆みたいに戦いたいな!」

 

実際はもっと切迫していた状況なのだが、二人が言うとどうしても軽く聞こえてしまう。

爆豪に怒鳴られたにもかかわらず、まだまだ騒がしく話している3人の後方に小汚い黒い影が現れる。

 

「おい・・・・予鈴はすでになっている。いつまで馬鹿騒ぎしているつもりだ?」

 

先日の怪我により包帯に巻かれた相澤がドスを聞いた声で3人に睨みつける。

 

「「ヒェッ・・・」」

 

あからさまにビビる上鳴と芦戸は黙り込んだ。普段からの成果からかよく調教されている。

 

「うわ!すげえ怪我してるじゃねえか!?大丈夫なのか 相澤!」

 

「・・・先生をつけろと毎度言ってるだろうが・・」

 

二人とは違い、ルフィはなんともまぁフレンドリーな声をかける。

基本的に言葉で敬うと言うことを知らないルフィに相澤は半ば諦めかけている。頭が痛そうだ。

そんなルフィにA組一同は怖い者知らずの勇者だと思った。

 

「人の心配してないで、自分の心配したらどうだ?体育祭まであとひと月・・お前の進退はそこで決まるんだぜ?」

 

「このクラスは悪と会敵したことでさらに一段ステージを上がったぞ」

 

ノーテンキそうなルフィに相澤は少し嫌味を含めて警告した。

自分たちは成長しているぞ、お前はどうだ、と。

その口ぶりに口角を上げたルフィは自信満々に答えた。

 

「もちろんおれだって遊んでるわけではねえさ!新しい技だって考えてんだ!」

 

「・・ふん。息を吐くのはいいが、まずは勉強に励むことだな」

「遅刻は大きく評価に響くぞ」

 

威勢がよかった顔をしたルフィはやべえ、と言い急いで自分の教室に戻っていた。

チャイムが鳴る前に授業始めるぞ、と言葉に飯田が号令をかける。

 

先ほどのシャイボーイ、緑谷はルフィのことを考えている。体育祭の時は強敵だぞ、と。

飯田からルフィの実力は聞いていたようで、オールマイトオタクもといヒーローオタクの彼は少し謎の存在のルフィに注目していた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

放課後になるとコビーはいつもどおりルフィと下校をする。

ルフィの自宅、ヒーロー事務所AUAUに向かうからだ。

入学式の日にルフィに転科推薦の意志を伝えた翌日から彼は放課後と休日に事務所に通い詰めている。

ルフィに勉強を教える代わりに、コビーはガープとボガードに戦闘訓練をつけてもらっているようだ。

 

ルフィに特訓につけてもらっても教え方がド下手で全く向上する気配がなかったため、ルフィの提案で事務所にお世話になっている。ルフィも自分が幼い時二人に鍛えてもらったためそっちの方がいいと思ったからだ。

自分が死にかけていた経験があるため、あまりオススメはしなかったが。

しかしコビーの意志は固く、そんなすごい人たちに教えてもらうのならと提案にありがたく乗った。ただ特訓はかなり厳しいのか疲れた様子が傍目から見てとれた。

 

事務所についた二人は早速雄英の体操服に着替え、特訓を始める。

今日はコビーにはボガード、ルフィにはガープが師事している。

 

主にコビーは筋トレなどの基礎トレーニングと対人格闘を行ない、ルフィは完全に対人格闘に特化して新しい技の訓練を行なっている。

 

 

 

特訓を3時間ほど済まし、すっかり日も沈んで最後にボガード主導のミーティングが始まる。

 

「コビー君は無個性という最大のディスアドバンテージを抱えてくる分、どれだけ周りの環境や状況、相手の情報を把握することが必須条件になる。」

 

「今の基礎トレーニングはあくまで動ける体にしているだけで、決して他に勝る身体能力ではないことは自覚してくれ」

 

「はい!それは絶対に勘違いしません!」

 

「君は聡い、考える力を磨くようにしてくれ」

 

主にコビーを指導しているボガードは熱を入れて教え込む。

運動神経も良くなく無個性ではあるが、素直で真面目なコビーを可愛がっているようだ。

コビーも自分に足りないものを自覚して教えに従っている。

 

「ところでルフィ君もどうだい?新技は良好か?」

 

「ああ!だいぶ完成に近いぞ!ただじいちゃんにはまだ勝ててないんだよな〜」

 

「ばかたれ!わしに勝とうなんて100年早いわい!」

 

対人格闘ばかりを行なっているルフィは順調のようだ。

 

「さて、明日からは大型連休だ。予定どうり合宿を行うが親御さんの許可は取れたか?」

 

「はい 説得するのは骨が折れましたけど」

 

翌日からはゴールデンウィークが始まる。この機会を生かして合宿を行うようだ。

しかしせっかくの合宿なので、特別な訓練を行いたいがまだ具体的に何をするか決まってない。

そこでガープが昔ルフィにやらせた悪魔の訓練を提案した。

 

「「却下!!」」

 

しかしルフィとボガードが即座に切り捨てた。

 

「なぜじゃ!?あれは体力と精神力を向上させるのに一番合っておるぞ!!」

 

「あんなもんコビーにやらしたらぜってえ死ぬぞ!!」

 

「それにたかが数日の連休で行って帰って来れるわけないでしょうが!」

 

ガープの無茶ぶりにルフィでさえも猛烈に無茶だと反対したが、ガープはしつこくこれを勧めてくる。

ルフィのこんな焦った顔を初めて見たコビーは何事かと尋ね、その内容を聞き白目をむいて黙りこくった。そしてどうかその案を引っ込めてくれと願った。

 

結局日程の問題で無理だと悪魔のアマゾン縦断は却下された。

しかし考え込んでいたガープがこれだとばかりの表情をして、代替案を言い出した。

 

「日本には一度迷うと出られない樹海があるとこの前TVで行っておった!そこならすぐ行けるし、日程は問題ないはずじゃ!」

 

「そんなところがあるんですか?樹海といっても日本の広さじゃ大したことないか?」

 

「日本は水が綺麗じゃし、ブラジルに比べたら暑くもないんじゃ。歩いて戻ってくるだけコビーでも十分なんとかなるじゃろ!」

 

「んじゃ別に反対することもねえな」

 

富士の樹海がその森の深さと磁場の異常さで自殺の名スポットであることを知らない二人はガープの代替案に特に断る理由もなく、じゃあそれでと納得した。

慌ててコビーが樹海について説明したが、飲み水もなく猛獣・毒虫がいるアマゾンを経験したことのある二人の危険度の基準はおかしいほど高いため全く危険さが伝わらなかった。

コビーは死ぬかもしれないと虚ろな目で立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

そして時は早くも6月。

鍛えに鍛えたルフィたちはついに決戦の日、雄英体育祭を迎える。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

いつかのオリンピックを思い起こされるほどに熱気を纏い詰めかけた観客たちが向かうのは、雄英高校が所有する大競技場だ。

毎年この時期に開催される雄英体育祭は日本国内で凄まじい人気を誇る祭典で、個性の発達によりもはや形骸化しているオリンピックに替わるスポーツ祭という認識にまでなっている。

そして観客を惹きつけるのは、例えるならば高校野球のような完成されていない煌びやかな才能を楽しむ感覚と同じで、プロのような熟練された技に酔いしれるのではなく、未熟ゆえに何が起こるかわからないハラハラドキドキ感と、将来性というロマンを楽しめるところにある。

日本中から才能が集まった雄英はまさにうってつけな学校だ。

 

そして今回の体育祭はいつもと違った意味で注目されている。

それは一ヶ月前ヒーロー科の一年生が敵の襲撃を受けた事件があったからだ。

トップヒーローが多く在籍し、そしてまた優秀な生徒がいる雄英に襲撃をかけるなど前代未聞でメディアは大きく取り上げた。

そのこともあり話題性は瞬く間に肥大化。それに伴って1ーAには注目が集まった。

 

 

「ちょ!?いつまで食べてるの!?入場始まっちゃうよ!」

 

「ぼうどっとばってくで!だこやきだぺ!!」

 

開会式のため競技場の入場を控える一年生はみんな一様に緊張の糸を張っている。

その中には上鳴、芦戸、飯田、緑谷、拳藤とヒーロー科の面々も見られる。

それもそうで彼らもまた体育祭で活躍することで将来の進路が決まってくるのだからだ。

 

普通科の方をのぞいてみるとルフィたちの姿が見れない。

それもそのはず。

ルフィは競技場外にある出店で食い倒れているからである。

彼にとっても大切な戦いなのだが、目先の食欲には勝てない。大丈夫か?

コビーが連れ戻しているのを見て上鳴たちはブレねーな、と苦笑する。

 

すでに入場前のプレゼントマイクの実況が聞こえているのにもかかわらず、まだ食い物をほう張っているルフィに見た目そのままに相澤が怒髪天をあげている。

さすがにやべえと思ったルフィは一気に飲み込んだ。

 

「おい、ちゃんと口周り拭いて身なりしっかりしろ。TVカメラに撮られるんだからな」

 

相沢は常識的なことをルフィに注意するが、あんたに言われたくないと周りの生徒に心の中で思われていた。

そして相澤は元々ルフィに用があったのか、怒気を抑えて言葉を続けた。

 

「どうやらこの2ヶ月間できないなりに勉強もやってきたようだな、認めてやるよ。あとはこれに優勝という条件だけだな」

 

改めて転科推薦を受けられる条件をルフィに確認をする。

すると、ルフィはニカッと自信ありありとした表情を浮かべた。

 

「ここでもう一ついっておくことがある」

 

相沢はこれが本命だと言わんとばかり語気を強めてそういった。

 

「なんだ?」

 

 

「お前 優勝できなかったら退学だからな」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「「はああああああああ!!!????」

 

いきなり言われた唐突な言葉にルフィと、一緒に聞いていたコビーは一瞬間が空いた後に驚愕の言葉をはいた。

嘘だろと言わんばかり顔にする二人。

 

「い、今更そんなルールをつけるなんてひどすきますよ!!?」

 

この体育祭直前に放たれた理不尽にコビーは当然の抗議をする。

 

「これは元より決まっていたことだ。ただ俺がこのタイミングで言おうと考えていただけさ」

 

「な、なんでですか!?」

 

「退学とわかってりゃ嫌でも限界まで努力できるだろうが」

 

「うちの校訓はプルスウルトラ。より上へ・・・退路が断たれなければ己を磨けないやつはうちには不要だ」

 

あまりにも嫌らしいやり口だが、相澤のいう言葉は全くの正論であり雄英における心構えそのものである。

その言葉にコビーは黙り込んでしまう。

 

「なるほど、そりゃそうだ」

 

ルフィは驚くほど軽くあっさりと納得した。

それに相澤は素直じゃないか、と言う。

 

 

「別に関係ねぇし、おれにはそんなこと」

 

 

 

「優勝するのはおれだから」DON!!!!!!

 

 

優勝することを当然かのように言い放つルフィの言葉に、相澤は笑みを浮かべ、コビーは拳を握りこみ心震えた。

 

 

 




はい、雄英体育祭が始まりました。

ようやく入試以降の原作イベントに合流。

ルフィの立ち位置的にシガラキたちとの会敵はできなかったです。
原作キャラもここからはしっかり出ます。悪しからず。

ルフィとオールマイトの絡みがなかったので番外編としてどこかで書きます。
と言うか本編で書くべきだった!後悔!


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雄英体育祭編
みみっちいことがお得意な方と苦手な方


「だりー、、私ら完全に引き立て役じゃん」

 

「まったく・・・」

 

プレゼントマイクの実況とともに入場した普通科の面々は不機嫌そうな顔で愚痴っていた。

完全に注目は彼たちの後にある。

 

『結局オメーらのお目当はA組ダロォーーーー!?』

 

実況の煽りとともにA組が入場した途端に、数万人はゆうに詰め掛けた大競技場が大いに沸き立つ。

観客のお目当にTVカメラも生徒の顔をアップに映し出す。

襲来した数多くの敵を退けた彼らを次代のトップヒーローだと言わんばかりに皆期待しているようだ。

 

大きな歓声を浴び、ちょっぴり照れた麗日お茶子は右手で後頭部をさすっている。

 

「いやぁ・・・恥ずかしいね、なんだか」

 

隣にいる緑谷に話しかけた。しかしいつもと違って堂々とした顔の彼にお茶子は少しドキッとする。

 

「デクくん、なんだか自信マンマンって感じだね!」

 

「い、いやマンマンってわけではないよ!」

 

「・・ただ、今まで支えてきてくれた人たちに結果を出して感謝を表したいんだ」

 

お茶子の問いかけに緑谷は決して自信があるわけではないが、微笑みながら強く優しい決意を秘めた言葉を返した。

それを聞いて彼女も私も一緒だ、と可愛らしい笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

ところかわってルフィたちを見ると、コビーがこの観客の多さにたじろぎ不安に駆られている。

 

「コビー どんだけ緊張してんだ」

 

微塵の緊張も見せないルフィはアタフタしているコビーを面白そうに見ている。

おそらくルフィの心臓にはびっちり隙間なく毛が生えているに違いないとコビーは思った。

そうこうしている内に全ての科が出揃った所で、18禁ヒーローミッドナイトがこれから行う競技の説明を行う。

 

まず第一種目は障害物競走。競技場外のルートを辿って競技場にいち早く戻ってきた者が通過となる。

雄英の競技である以上かなり大掛かりなギミックが散りばめられているのだろう。

ここで多くの生徒は脱落することになるとのこと。

 

一つめからいきなり大勢落とされるのは正直厳しすぎるのではとも思ったが、時間の都合上シカタガナイと彼女が鞭を叩くので納得するコビー。

 

生徒は早い者勝ちとばかりに競技場出口スタートライン線上まで足早に集まる。

ぎゅうぎゅう詰めになりながらルフィとコビーも列とも言えない密集でスタートを待つ。

待ち時間の緊張感により浮足立つコビーにルフィは声をかける。

 

「自分を信じろコビー!!じいちゃんたちの特訓にも耐えたんだ!お前ならやれるさ!」

 

一度死に目にあったコビーにルフィは太鼓判を押す。

その言葉にコビーは特訓を思い出し少し吐きそうになったが、だいぶ落ち着いてきた。深呼吸をして色々教えてもらってきたことを思い出している。

その途中にスタートの合図が響きコビーは不意をつかれ、蠢く生徒にもみくちゃなった。

ルフィはスタートの合図にいち早く反応し、腕を伸ばしてみなの頭上へ上がった。そうすると前方組が足が固まったかのように身動きが取れていなかったのを確認した。

 

「なんだありゃ?・・・・・ってあぶねえコビー!!!!」

 

この事態に気づいたルフィは出遅れていたコビーを伸ばした腕に巻きつけて上に持ち上げる。

そうするとコビーが元にいた位置が氷漬けになった。

周りの生徒は足元を凍られて前方組同様身動きが取れていない。

 

「あ、ありがとう!」

 

コビーは礼をいい、地面に着地した。

 

「・・これは個性?」

 

「飛んだ時に一人だけ走ってるやつ見えたから、そいつっぽいな」

 

この競技場を出る前にすでに大勢の生徒が脱落した。

これをしでかしたのはA組 轟焦凍。個性は炎と氷を操る半冷半熱。ヒーロー科に推薦入学している実力者だ。

普段からA組に出入りするルフィは彼とは話したことはなかった。

誰も近寄らせない雰囲気を纏っており、ルフィはおろかクラスメイトとも最低限しか話さない。

 

そしてその彼はルフィたちよりはるか前方で入試のときに現れた超大型の仮装敵を一瞬のうちに冷却し、殲滅する。

 

「ふん、どうせならもっとマシなもん用意してもらいたいもんだ」

 

入試時受験者があれほど苦戦した超大型敵を大した労力を使わず轟は第一関門・仮装敵を突破した。

後続にルフィ同様、轟の冷却を回避したA組面々がそれに続く。

 

「スゲーーーーーな!!!一瞬でぶっ倒した!あんなやつがいたなんてワクワクしてきたなぁー!!」

 

「んじゃコビー!おれは先頭へ行ってくるぞ!お前も早く来いよ!」DASH!!

 

「う・・うん」

 

轟の実力を見て、早く行かないと追いつけないと思ったルフィは個性を使って風を切りながらトップへ目指す。

 

(・・・すごすぎる・・・次元が違・・)

(イヤイヤ!!他と比べるな!自分に力がないのは、わかってることだ!)

 

(僕は僕のできる最大限を出すんだ!!)

 

コビーは一度頭を冷静にし、仮装敵相手をうまくさばいて一つ目の障害を通過した。

事務所で鍛えた対人格闘が身についているのがよくわかる。

 

障害物競走の総距離は8キロに及ぶ、障害を早く通過することと同様に足の速さ・スタミナが問われる。

幼い頃から悪魔の体力訓練を受けてきたルフィは他の生徒とは比べものにならないスピードでグングンと猛進し、二つ目の障害物を進む上位グループまであっという間に到達した。

 

第二関門綱渡り。崖っぷちに繋がれたロープを伝い、落ちてはただではすまないので生徒は慎重に渡る。

しかし腕が伸びるルフィはこれを難なくクリアしていき、先にいた飯田たちを抜き去った。

 

「く、スピードの個性であるのに追い抜かれるとは・・!!負けんぞー!!」BROOOOOWWW!!

 

スピード系個性「エンジン」を持つ飯田は負けじと凄まじいスピードで進んでいくが、彼が綱を渡るさまはとんでもなくダサい。

 

『さぁさぁさぁ!!!!驚きのスタートからA組轟がトップを独走!それを追ってこれまたA組爆豪!爆破の個性を持つこいつは崖なんざ関係ねぇとばかり空中を爆進!!』

 

『こいつら二人がトップ争いかと思われたが、しかぁし!!雄英高校が隠し持った伏兵の登場だ!』

 

「とらえた!」DON!

 

『普通科!!モンキー・D・ルフィ!!!!』YEAHHHHHH!!!!!!

 

ルフィはとうとう2位の爆豪を捉える。一時は数百メートル以上離されていたことから異常なまでのスピードである。

先ほどまでいなかった背後に感じる存在を爆豪は確認した。

 

「てめえクソゴム!?いつの間に俺の後ろに」

 

「悪りぃけどバクゴー先行かせてもらうぞ!イッシッシ!」

 

「アアン!!舐めた事言ってんじゃねぇぞ雑魚が!!」

 

ルフィに追いつかれた爆豪はさらに火力を上げ速度を増したが、ルフィとの差は開かない。

邪魔くさそうな顔した爆豪は最後の崖を渡りきる時に体を反転して、崖を飛び越えるため腕を伸ばし崖の端を掴んでいたルフィの手の周辺を爆破させた。

 

「アチィ!!??」

 

ルフィは爆発の熱と崖の一部が破損したことで、飛んでいる途中で止まってしまった。

なんとかロープを掴み落ちずに済んだが、爆豪にその間随分と距離が空けられてしまう。

 

「ザマァ!!」

 

とてもヒーロー候補生とは思えない笑みを見せて爆豪は再び爆進した。

 

『なんと爆豪がルフィを妨害!!しかも渡りきる直前の嫌らしいタイミングだ!!ミッドナイト!!これはアリかよ!?』

 

「テクニカルなのでアリ!!!」

 

ピシャリと淫猥な鞭を振ったミッドナイトは妨害行為をした爆豪を技術的に評価できるとし、判定はノープログレム。

爆豪は爆破を最小限にとどめ、ギリギリ熱がルフィの手に届くよう調整したことで、禁止されている直接的な攻撃を避けたのだ。

あんな性格なくせにこんなみみっちいことができるのも爆豪の特徴だ。

 

「くっそー やるなアイツ!!」

 

「追いついたぞルフィ君!!」

 

そうこうしている隙に飯田や他の上位グループがルフィに追いついてきた。

先ほど同様、轟と爆豪のトップ争いに戻ってしまったが、こんなことではルフィが起こす波乱は止められない。

ライバルとの戦いに笑みを浮かばせ、彼はトップを再び目指す。

 

 

コビーは上位集団から遅れて綱渡りに挑戦していた。

彼も悪魔の訓練を受けて比較的体力がついたので中位グループに食いついていけている。

 

(これは体力勝負のとこがあるからなんとかなってるけど、最後の障害がどうなってるかわからない以上それまでにもっと順位を上げてないと)

 

コビーと同じことを考えていたのは、少し前にいる緑谷だった。

彼もこれまで個性を使っている様子はない。

しかし入試の逸話やヒーロー科の授業の映像を見る限り凄まじいパワーを持っているはずだが、腕が折れてしまうリスキーなため温存しているのだろうか。

個性を使わず上位に食い込むことに頭を働せていた。

 

控え室でモニターでその様を見つめるオールマイトはハラハラしていた。

手を口に当てて緑谷を心配をしている。これが女の子だったらすごく可愛いのだが、残念!気味悪い。

というのも普段の筋骨隆々な姿ではなく、骸骨のようなやつれた姿だったから余計だ。

どうにも彼は緑谷に対して特別な感情があるに見える。まさかとは思うがアッチではないだろうな・・・。

 

「頼むぞぅ・・第一競技で落ちないでくれよ。君がキタってとこを見せてくれ!」

 

 

モニターの画面が変わると、トップ争いは激しいせめぎ合いに発展していた。

強力な衝撃を生む地雷に注意、第三関門・地雷地獄。

ここにいち早く進んだ轟であったが、地雷を避けるために時間をロスしていた。そこに飛行能力がある爆豪がまたもや関係ないとばかりに戦況をひっくり返しにきた。

しかしこうして二人が前に行かせまいとしている間に、後続グループが追いついてきた。

その先頭のルフィが面白いこと思いついたとルート脇の木へ向かう。

 

「何をするつもりだ?」

 

飯田は疑問に思うが、自分は正規ルートの地雷原を慎重かつ素早く進んでいく。

それとともにB組の面々も続く。

その中の一人、ルフィとは仲がいい拳藤一佳は地雷以上にルフィに注意している。

 

(な〜んかあいつってやらかしてくる感じするんだよな〜)

 

地雷原で皆足取りが重くなってしまい、距離的には先頭から中位グループにあまり差がない状態になった。

 

 

コビーと緑谷も地雷原へ到着した。

コビーは迷わず前に進んだが、トップを目指す緑谷はこのままではダメだと作戦を考えた。

すると、背に抱えていた仮装敵の板のようなパーツを使って埋まった地雷をかき集める。

 

これで一発逆転を狙う気だ。

 

 

 

「はっ・・はっ・・この半分やろう!しつけえな!」

 

少し息を切らす爆豪であったが、彼の爆破の元は彼が出す汗が揮発材となっているため体を動かすほど真価を発揮してくる。そんな彼に轟も手を焼いていた。

 

(ちっ、スロースターターか・・・攻撃できりゃ楽なんだが・・・)

 

もはやトップはこの二人に絞られたかと観客は思ったが、後方から高速の飛行物が飛んでくる。

 

「「!?」」

 

 

 

飯田たちと別れルフィは脇にある2本の木の幹に手をかける。

何かを企んでいるルフィがやることに、碌なことは起きない。

 

「しっしっし!!これやるのもサンパウロにいたとき以来か!」

 

大きくバックステップを踏み込み、10メートルは伸びた腕はさながら弓の弦のようにしなる。

 

「ゴムゴムの〜〜・・・」

 

「ロケットーーーーーー!!!!」BAN!!!

 

サンパウロでは海に飛び込む時によく使った飛行方法だ。

伸びた腕の反発を利用してルフィは超高速の弾丸となって先頭の二人を強襲した。

・・・そう強襲したのだ。

 

目測を誤り、追い越すつもりがルフィは轟・爆豪に突っ込んでいった。

 

「「は!?」」

 

ドゴゥと吹っ飛ばされた二人とルフィはめちゃくちゃ地面を抉り、その際彼らの下敷きになった数十個の地雷は・・・

 

 

 

・・・・・・大爆発した。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

「「「ぬああああああああああ!!!?????」」」

 

 

 

『『「「「「えええええええええええええええええええ!!!!!???????」」」」』』

 

 

思わず耳をつんざく大爆発の轟音と3人の絶叫。そして他の競技者と観客全員が驚愕の声を響かした。

 



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ルフィ君は単純すぎる

ザワザワと歓声とは違う喧騒が競技場内に立ち込める。

こんな雰囲気になったのは初めてだと雄英教師陣も困惑した。

 

『誰がこんな展開を予想した!?』

 

『全くのノーマーク!!』

 

『障害物競争の勝者は・・・ヒーロー科A組 緑谷出久ぅううう!!』

 

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 

なんと一番に姿を現し、障害物競争を制したのは中位グループにいたはずの緑谷だった。

このまさかの予想外の結果に観客達は歓声をあげる。

しかし緑谷自身は棚からぼたもちといわんばかりに、一位を勝ち取ったことに苦笑していて嬉しさ半分の様子だ。

 

そして彼に続き、これも意外B組の拳藤一佳がゴールラインを踏んだ。

一連の騒動にある程度予測がついていたのか他の者を出し抜いたのだった。もっとも彼女も緑谷と同様な表情を浮かべている。

しかし気になるのはあの3人。続々と競技者が帰ってきているというのに今だに現れない。

ゴール通過者は30を超え、そろそろ制限人数が埋まってしまう。

 

緑谷と拳藤以降の順当に上位に入ったA組の生徒らはお互い話すこともせず、心配した面持ちで彼らを待つ。

通過枠があと6つとなったところで、明らかな殺意がこもる罵倒の声が競技場入り口から聞こえて来る。

 

「テメェはいつか殺すと決めてたが、今ぶっ殺す!!この後の競技楽しみにしてろクソが!!」BOMB!!

 

「それには俺も同意見だ・・・・」COO・・

 

「だから悪りぃって何回も謝ってるだろ!ジコだジコ!!」DON!

 

怒りのボルテージがとっくに振り切れている爆豪・轟と一緒に若干開き直ってるルフィがようやく競技場内に姿を現した。

トップを争っていたはずが一気に通過者最低のフィニッシュに終わったことにA組両名はこんな事態に巻き込んだルフィにブチギレている。

爆豪はともかく、クールな印象の轟が全身から冷気を漂わせていることから、待っていた生徒らもこの雰囲気を瞬時に理解した。

 

『せっかくトップ寸前だったのに何やってんだこの大馬鹿はーーーー!!!俺の隣にいる相澤ティーチャーもぶちギレてるぞ!!俺は大爆笑だったがNAーーー!!』HAHAHAHAHAHA!!!

 

『恥をかかせやがって・・』

 

こんなことになったのはもちろん第3関門で起きた大爆発が原因だ。

爆発が爆発を呼び、凄まじい衝撃に見舞われた3人はそれぞれ三方向に吹き飛び、短い時間であったが気絶してしまったのだ。

この隙に後続が彼らを抜き去った。しかも粗方の地雷は起爆していたので悠々と快走させるアシストまでしてしまう始末。

しかし気絶したのにかかわらず枠内に間に合わせた彼らのタフネスぶりは賞賛に値する。

 

ゴールラインを3人が切るころに、コビーの姿も見えた。

どうやらルフィが引き起こした爆発で生じた混乱に乗じて前方の何人かを躱してなんとかラスト一人の枠に間に合ったようだ。

周りの状況に的確に対応するボガードとの特訓がここでも生きたようだ。

 

「な、なんとか間に合った・・・はぁはぁ・・・それにしても」

(彼はすごかったな・・)

 

息を切らせながらコビーは一位を獲得した緑谷に目をやった。

同じ中位グループにいたはずの緑谷がいきなりトップへジャンプアップした様をコビーは見ていたからだ。

 

大爆発が起こる直前、実はもう一つそれよりも少し小規模の爆発が起こっていた。

これは地雷原に着くなり、地雷をかき集め山積みにした緑谷が意図的に起こしたものだ。

まず一位は現状不可能と悟った彼は手に持つ仮装敵の板状のパーツを爆風の受け皿にして、爆豪の個性のように一気に最前線まで吹っ飛ぶ作戦にでた。

大きな賭けであったがそれは見事に成功。先にいた3人は自爆していたことであまりにうまくいったことに、緑谷は逆に驚いている。

本来なら前方へ飛べたとしても爆豪と轟を抜ける保証もなかった上に、到達するはずだった地点で起きた大爆発がうまいこと上昇気流を生み想像以上の飛距離が出たからだ。

機転を利かせてトップに立った緑谷だが、運に恵まれすぎたと苦笑してしまうのは無理ないだろう。

しかしコビーは同じく個性に頼らずトップに立った緑谷に賞賛の眼差しを向けた。

 

トップを獲得した緑谷に嬉しそうな反応を見せるオールマイトだったが、ルフィのトラブルメーカーぶりに困惑の顔を見せている。

 

(能力はピカイチなんだがなぁ、ムラっ気というか茶目っ気というか・・)Uuum

 

(しかし彼は自分の個性の特徴をよく理解している。ゴムの反発をよく生かしてるな!結局は下位でフィニッシュはしたが、これからも彼が台風の目になりそうだ!!)

「といっても私は緑谷少年推しだがな!」

 

オールマイトのお墨付きを頂いたルフィは、普通科でありながら早くも今大会の注目を浴びる。決していい意味ではない。

この一件でダークホースまたは、おもしろ要員として一発で観客たちに認識されたからだ。

そんな奇異な眼差しを浴びるもなんのそのルフィはケロリとしている。後ろで爆豪が殺す、とも囁いている。

 

さてさて波乱の第一種目が終わり、時間もほどよい頃合いに進行役のミッドナイトは第二種目の説明を始める。

 

第二種目・騎馬戦!

これは残った競技者が各々好きなメンバーで騎馬を作り、騎手がつけたハチマキを奪い合う通常の騎馬戦と基本のルールは一緒だ。

違うのはハチマキが取られても終わりではなく制限時間以内であれば奪い返すことができることと、そのハチマキがポイントを持っているということ。

第一種目の順位がポイントに反映され、騎馬メンバーそれぞれが持つポイントが騎手の持つハチマキとして合計される。

通過条件は制限時間終了時点で所持しているハチマキの合計ポイントを多く持つ上位4組だ。

そしてミッドナイトの最後の一言に緑谷は固まる。

 

「2位のポイントは205ポイント!!そして1位は!!」

 

「1000万ポイント!!!!」

 

はらたいらかよ!と緑谷は突っ込む他なかった。

 

よく知ってるな若いのに・・・

 

 

 

 

 

 

「コビー組もう!!」

 

ルフィは騎馬戦のメンバーにコビーを真っ先に声をかけた。

チームを組む以上、慣れた相手と協力するのは定石だ。それにコビーも快く応える。

 

「狙うぞ1000万!!」

 

意気揚々とルフィは緑谷のハチマキを狙いにくご様子で視線を彼へ向ける。

それと同じ視線を多く背中に感じたのか、ぶるっと緑谷は体を震わせた。

 

「じゃあ私もそれに参加させてよ」

 

フランクな口調でルフィ達に話しかけるのは、サイドテールの女子 拳藤だ。

メンバー選びでB組より先にこちらに声を掛けにきた。

 

「いいのかい?B組の人と組まなくても・・」

 

ルフィを通じて面識のあるコビーは彼女に尋ねる。

 

「別にクラス対抗でやってるわけでもないし、構わないでしょ。それよりも私はルフィの騎手がこの中で一番いいと思っているから!」

 

性格通りさっぱりした返答をした拳藤。彼女はかなりルフィの実力を買っているうちの一人だ。

ルフィのはちゃめちゃぶりには彼女も若干不安はある。第一種目で同じ順位で終了した轟、爆豪は争奪戦が行われているのに誰もルフィには近づいてこないのがいい証拠だ。

だが、彼女はその不安を吹き飛ばす実力がルフィにはあるとしっかり値踏みした上で判断したのだ。

 

「それとも2位の私を断る理由そっちにある?最下位コンビ?」

 

そう言ってまっすぐな笑みを零す彼女の姿はコビーには眩しすぎたようで、まごまご言いながら思わず彼は目を覆う。

 

「ないさ!ポイントなくても拳藤はつえーから大歓迎だ!!」

 

ルフィは拳藤の問いかけに、信頼を寄せてにかっと答える。

いつもの二人に紅一点が加わり、あと一人を誰にするか相談が始まった。

 

「正直身体能力が高い騎馬が欲しいね。せっかくの騎手がいても騎馬がダメじゃ意味ないし」

 

「確かにそうだね、こう言っちゃなんだけど拳藤さんは女の子だし僕も無個性だってのもある」

 

二人は冷静に自分たちの戦力を計算し、足らない点を挙げる。当然この話し合いにルフィは無力なので、拳藤はルフィに一切目線をあげることはなかった。

 

「ん~・・・さっき言った手前ではあるけど、クラスでオススメできるやつはいるんだ。少し脳筋だけど、丈夫さは保証するよ!」

 

彼女が足早に推薦した男子を連れてくる。

少しパンチの効いた風貌の彼は鉄哲 徹鐵(てつてつてつてつ)。ルフィに変な名前と言われた彼の個性は「スティール」、鋼鉄のように体を効果させる強力な個性だ。

熱い性格で喧嘩っ早い完全なバトルヒーロー型だ。

 

「鉄哲を先頭において、私とコビーが左右から指示をだせば、かなりバランスいい強い組になるよ!」

 

急造メンバーの特徴を発揮させながら戦略をすぐに出せる辺り、彼女は司令塔向きのようだ。

しかし鉄哲はこの誘いを断った。

 

「悪りぃ拳藤、俺はB組でチーム組もうと思ってんだ」

 

「え、そうなのか?」

 

「ああ、信頼してるクラスの奴らの方が結果がどうなろうが納得できるしな」

 

「それに言っちゃ悪いが、お前以外の二人が片や無個性で、片やさっきの騒動の原因。俺がこのチーム選ぶ理由がねぇな」

 

少し棘がある物言いをする鉄哲に拳藤はムッと反応した。普段の彼はそんな風なことは言わないから余計に。

その顔を見て鉄哲も取り繕うように言う。

 

「いや・・この二人を悪く言うつもりはねえんだ!ただ、お前が同じクラスの俺らより先に声をかけに行くもんだからよ、ついよ。俺たち頼りにされてないのかよって思って」

 

「・・鉄哲」

 

どうやらクラスの姉御的存在の拳藤がルフィ達を誘ったことに少し嫉妬したらしい。

鉄哲も気分悪くさせてしまったと思い、ルフィ達に悪いと言い手を合わせた。

そのことに別にルフィとコビーも気分を悪くしているわけでもなく、いいよと返す。

 

「テツテツは拳藤に離れて欲しくなかっただけだろ?」

 

「「そういう言い方はやめろ、なんか!!」」

 

ルフィの言葉に彼と彼女は少し顔を赤くしてツッコむ。

 

ただ当てにした鉄哲を逃して、どうしようかと3人は考えた。先ほどの合間に周りはすでに固まっているようで、早く決まったところは作戦会議をしている。

コビーは誰かいない周りを見渡すとよく知った顔がいることに気づいた。

 

「心操君!」

 

紫色の髪をかきあげた男子はルフィやコビーと同じクラスで普通科の生徒だ。

まだ普通科の生徒がいることに拳藤は意外だと思ったが、彼がヒーロー科に転科希望しているのをコビーは知っているため嬉しそうに声をかける。

ただ彼にも組んでいる相手がいるようだったので誘うのをコビーは引っ込めた。

しかし心操はコビー達、いやルフィを見て、元の相手を断ってからコビーに組もうと言い出してきた。

 

「僕はいいけど、元の人たちに悪くないかな」

 

「そうだけど、古美も誘いたそうだっただろ?俺もやっぱ同じクラスのがいいし。勝つためだと思ったら、こいつと組んだ方が可能性高そうだし」

 

心操はルフィを親指で指した。先ほどの種目を見てそう判断したそうだ。

彼とルフィ達は親しいわけではない。しかし同じ目的同士であるため拳藤も反対は全くなく、これで四人が揃うことになった。

他の組に遅れて作戦会議が始まる。それをまとめる拳藤は心操の個性が何か尋ねた。

しかし心操は自分の個性は騎馬戦では役に立たないといい、無個性だと思って扱ってくれと言った。

普通科にいる彼なので汎用性に乏しい個性だと納得した彼女はそれを了承するが、同じクラスのルフィとコビーも全く知らないのに少し気がかりに思った。

 

騎馬の組み方は騎手にルフィ、先頭にルフィの動きに慣れているコビー、後方に拳藤・心操が構える形だ。

他の組みで有力そうなのは数組。

轟チームは推薦入学者が二人(轟・八百万)と電気を操る上鳴、フィジカルに長けスピードは随一の飯田とA組の中でも上位クラスの生徒で構成され、役割が明確化しているようで通過は手堅たい。

次に爆豪チーム。「硬化」の個性を持ち体力がある切島、「酸」とザックリとしてるが汎用性の高い個性の芦戸と補助能力の高い「テープ」の個性の瀬呂の3人が高い身体能力と攻撃力のある爆豪を支える。

そしてもちろん注目すべきは1000万ポイントを持つ緑谷チームだが、麗日・常闇・発目で構成されたチームはなかなかに予想できない組である。

「無重力」の麗日と「影」を操る常闇は汎用性ある個性だ。しかし緑谷の個性はクラスメイトでさえ把握できていない上に、唯一のサポート科の発目はヒーローコスチュームなどに使用する器具を用いるので謎と言える。

 

B組にも優秀な者は多いはずだが、A組に比べ目立つ活躍を見せていないので評価は様子見だ。

 

 

15分のチーム決め・作戦会議が終わり、ミッドナイトがスタートの合図をかけた。

 

『スタート!!』

 

総勢11組が猛然と声を上げる。そして多くの組が一方向に駆け出していく。目標はもちろん緑谷チームだ。

 

『あ〜と狙われるは当然がごとく緑谷、これが一位の宿命かー!!』

 

「いきなり襲来か・・まず二組。追われる者のさだめ・・・選択しろ緑谷!」

 

「もちろん逃げの一手!」

 

常闇のクサイ口調の言葉に緑谷は逃げ回る選択を選ぶ。

1000万ポイントとぶっちぎりの得点なので一位通過するためにはこのハチマキを所持することが条件になる。彼らは最後までコレを保持する作戦のようだ。

B組の騎馬とA組葉隠チームの接近を発目のサポートアイテムのジェット機能で空中に飛び、追撃の攻撃を常闇の影・人格を持つダークシャドウがアイヨッ、と打ち払う。

この一連の動きを見るだけで、サポートアイテムの性能性と常闇の個性の防御力が伺える。

そしてさらに麗日が全員の体重を減少させ、騎馬であるのに軽やかな動きを体現させる。このように機動と防御で逃げ果せるようだ。

しかし、爆豪と轟が後続に攻撃を仕掛ける。これを捌ききるのは相当に困難だ。どう捌くのか観客の注目が集まる。

 

オールマイトはまたもやハラハラしながら緑谷を見ていたが、おかしいと思い目線を別に移す。

 

(彼の性格なら迷わず一位を狙いに行くと思ったが・・・)

 

移した目線の先は、この大会のおもしろ枠として注目されているルフィだった。

ルフィの方を見ると騎馬が一切動き出していない。

 

(何をやっているんだ・・・)

 

一位を狙うと明言していたルフィを含む騎馬が動かない。明らかに挙動がおかしい。

拳藤のポイントがある分狙われやすいはずだが、騎手がアンタッチャブルな存在であるルフィであることと不自然なほどに動かないことで、周りの組は迂闊に近づけないでいた。

 

爆豪は鼻息を荒くしていた。先ほどはルフィに対してイラついていたが、幼馴染であり完全に格下に見ていた緑谷が現時点でトップにいることが許せないでいた。

彼のこの体育祭への意気込みは並々ならぬものだ。開会式で彼が言った「俺が一位になる」という周りを舐めきった一言の選手宣誓も自分を追い込むため。

A組の訓練で今までにない苦渋や辛酸を味わってから彼のトップを取りに行く決意は硬かった。

 

「調子に乗りやがってクソナードが!俺の前に立ってんじゃねえよ!!!」

 

『なんと爆豪が飛んでいるーー!?騎馬から離れてるけどいいのかこれはーー!?』

 

淫猥な鞭が『アリ』と答える。

 

「くッ!?発目さん!!ターボ!!」

 

緑谷が空中に回避した先に爆豪が飛びかかった。爆豪は完全に騎馬から離れ、個性の爆破で追いかけにきたのだ。

これに緑谷は発目にターボをするように促し、攻撃を回避した。

爆豪は瀬呂が出したテープで騎馬へと引き戻された。

 

「ちっ・・・ムカつくぜ・・どいつもこいつ!!てめえもあのクソゴムも邪魔ばっかよぉ!!」

 

「まずはてめえをぶち殺す!デク!!」

 

「かっちゃん・・」

 

「いや、こいつを奪るのは俺だ」

 

二組が睨み合うところに、轟が介入してくる。彼も爆豪同様トップへの執着が表情に強く色づいている。

この二人は第一種目を落としているため、何があっても緑谷から一位を取りに来るつもりだ。

 

(・・・この二人に目をつけられて逃げ切れるとは思えない)

 

優秀な騎馬もある二組に落ち着く暇はない。緑谷はなんとか回避策を瞬時に考え、活路を後方に見出した。

しかし空中から狙える爆豪と飯田を騎馬にしている轟に背を向けるのは愚策、そう思った轟は飯田に指示しフルスピードで追いかけるが捕まえる寸前に緑谷を逃してしまう。

 

「ち・・なるほど、密集地帯をうまく使いやがった」

 

緑谷は後方で争う3組の中にあえて突っ込んでいき、それらを盾にすることで轟・爆豪からの一方的な追い討ちを防ぐ。

前種目3位である飯田を含める轟組はポイント数は全体で二番目に多い。周りに囲まれれば自分たちも当然標的の対象だ。他の組からも狙われる可能性はあるにしろ、能力的には他を圧倒している轟チームと爆豪チームをサシで相手しないことを最優先に彼は考えた。

 

「逃す・・・っ!!??」

 

爆豪が緑谷を逃すまいと足を向けた瞬間、彼のすぐ後方を横切る騎馬が現れた。

その姿を確認すると、見知らない顔がしたり顔をしながらハチマキをくるくると回す。

 

「一つのことに視野が狭くなってるやつはカンタンカンタン」

 

挑発的に言う彼はB組の物間寧人。彼の手元にあるハチマキは爆豪が先ほどまでつけていたものだ。

 

「てめえ!!!」

 

「単純なんだよね、君らはさ。子供みたいにはしゃいじゃって、バンバン個性を出し放題。僕らはよく観察させてもらったよ、第一種目の頃からね」

 

「そもそも第一種目ってことと、例年の傾向からいって最初から少人数まで切り捨てることは考えにくい。特に目玉のヒーロー科をそこで落とすわけにはいかないだろうから最低2クラス40人分の枠は残してるだろうと仮定してそこまでの順位には入って流していたのさ」

「無駄に一位取りに行くのはバカってもんさ」

 

「こ、こいつ!!!」BOMB

 

「冷静になれって爆豪ムカつくけど!」

 

物間はベラベラと嫌味ったらしく今まで目立つ動きをしていなかったことを説明しだした。

この講釈に爆豪チームだけでなく物間の騎馬のB組諸君もイラっとしたが、物間の饒舌は止まらない。これに爆豪は元々ルフィや緑谷で擦り切らせていた堪忍袋の緒がさらに極然状態になる。そして・・・

 

「まぁ、勝手に転げ落ちて僕たちより下だったけどね!あーはっはっはっは!」

 

この言葉に完全にぶちギレた。

 

騎馬の切島・芦戸・瀬呂は恐ろしくて上を向けなかった。坂本九に諭されても無理だ。

爆豪に怒りのオーラはない。すこぶる静まった様子だ。これに3人はあ、人間こうなった時が一番やべえやつだと最も恐ろしい人間の振り切れ方だと感じた。

 

「俺はすこぶる冷静だぜ?切島」

 

「デクより前にこいつぶっ殺すぞ?」

 

「へ、へい!」

 

今まで一番穏やかな爆豪の声に切島は声を上ずらせた。

 

『ここまで大人しかったB組が形成逆転!!緑谷・轟以外のA組チームがことごとく0ポイントにされているぞー!?』WHY!!??

 

 

 

なんとか轟たちから一時的に脱出した緑谷チームは一息をついた。

彼らを追う者同士が潰しあっている状況に仕向けたのが功を奏した。

 

「デクくん右見て!!」

 

麗日がそんな中声を張り上げる。

唐突に伸びてくる手がこちらに伸びてくる。とっさにこれを避けるも緑谷は体勢を崩してしまう。

何もないところから手が現れるのは彼の仕業だろうと緑谷は警戒心を再び最高にまであげた。緑谷もまた第一種目でその手の人物に注目したからだ。それは奇異な者をみる目ではない、強者を見据える目だ。

あの爆豪と轟とすんでのところまで優勝を争い、そして騎馬戦では有利になるだろうゴムの個性の驚異的な相手だ。

その相手が自分たちから10メートルほど前方に佇んでいる。しかしその雰囲気にかなり違和感を感じる。

いつもクラスにやってきては馬鹿騒ぎを起こしている彼が何か虚ろな顔をしている。この違和感に騎馬の発目以外の二人も気づいた。

 

「ふん、目の前に1000万ポイントをぶら下げた敵がやってきたぞ」

 

「ハチマキをブン取れ!」

 

ルフィチームの心操がそう指示をした瞬間に、騎手のルフィが大きく息を吸い雄叫びをあげるように声を張り上げる。

 

「ゴムゴムのガトリング!!!!!!」DoDoDoDoDoDoDoDoDoDoDoDoD!!

 

「イィ!!??」

 

緑谷チームは先ほどの静かさからいきなりのテンションに思わず気圧されてしまう。

無数に繰り出されるパンチにダークシャドウが防ぎに出るが、全てを落とすことはできず緑谷と常闇に攻撃はかすってしまう。

一度崩れた騎馬の体勢では分が悪すぎると感じ緑谷はここでも脱出を図る。

 

「逃がすな」

 

しかし爆豪同様、空中へ飛び出したルフィは追撃を繰り出す。

 

「ゴムゴムのピストル!!」BOW!

 

繰り出された突きはとっさに避けた緑谷たちには当たらず地面を叩き、ヒビを入れた。

さらに緑谷の額のハチマキに手が伸びてくる。

とっさにダークシャドウがこれを弾き、ルフィは一旦騎馬へ戻っていった。

 

「あ、あんなモノ食らったら一撃KOだ!?」

 

「で、でもあんなんあかんのちゃうん!?確か悪質な攻撃はダメって!!」

 

「確かにあれは騎馬をも狙った悪鬼の所業・・」

 

ルフィの攻撃は騎手だけでなく、騎馬をも打ち倒さんばかりだ。個性での攻撃は認められてはいるが、悪質、つまりは騎馬を崩すために怪我をさせる行為は禁止されている。

緑谷はちらっとミッドナイトの方に目を向けるが、判定はセーフと出している。

 

(確かに当たれば危険・・当たればね。攻撃が外れた後に間髪入れずハチマキを取りに行ってることから、あれはあくまで牽制ね)

 

ミッドナイトはルフィの一連の動きを見て、わざと攻撃を外させていると判断した。

 

ルフィの厄介さに緑谷は常闇に徹底的な防御と後ろの二人には相手から一定の距離を保つように指示をする。

これでルフィからの攻撃はなんとか防ごうとするが、完璧な動きで猛進するルフィチームの勢いを止めることはできなかった。

 

「く、くそっ!!!」

「なんて連携だ!?とても急造チームとは思えない」

 

ルフィの攻撃はなんとダークシャドウを突き破り、緑谷のハチマキを奪い取ったのだ。

取られたショックに堪えることなく、緑谷たちは奪い返しにいこうとするもルフィの圧倒的な攻撃力に二の足を踏んでしまう。これを取り返すよりも他の組を狙った方がいいのではないかと。

 

しかし緑谷にはその選択肢は選ばない。彼は約束に応えなければいけなかったからだ。オールマイトと約束したトップを取る。自分こそが次代の象徴になるために。

 

「みんな取り返そう!!」

 

「うん!!」「当然!」「まだまだ私のベイビー達も暴れ足りてませんよ!!」

 

緑谷の意志は皆にも伝播する。

(ルフィ君の攻撃は確かに強力だ、でも隙も多い。伸びた手を引っ張り倒して騎馬から落とす!)

 

(いざというときは使うぞ ワンフォーオールを!)DON!

 

この試合初めて緑谷チームが攻勢に出た。

しかしそれは左からくる氷の軍勢に阻まれる。

 

「なんだ緑谷・・取られちまったのか」

 

かろうじて避けた不意の攻撃に大きく緑谷達はバランスを崩す。

 

「轟くん!?」

 

「ならてめえに用はねえ」

 

「カッちゃん!?」

 

先ほども狙ってきた二組が近づいてくる。しかし向かう先は緑谷ではなくルフィたちだ。

そして緑谷は彼らが手に持つハチマキの数に驚愕する。

 

『さすがは入試一位と推薦入試の最強の男と言うべきかーーーーーッ!?こいつら他の組のハチマキを全部取っているぜーー!!しかもご丁寧にそいつらの動きも封じてる徹底さだぜ!!』

 

なんと轟・爆豪はここにいる以外の組のハチマキをこの短い時間で全て剥ぎ取ったのだ。

そして彼らは奪い返しにこないよう瀬呂のテープ、轟の氷結それぞれを用いて取り終えた相手を縛り上げた。

メンバーの総合力をフルに生かした轟とキレすぎてかえってすこぶる冷静になった爆豪の実力はこの中でも飛び抜けた力を発揮した。

 

「さっきの借りを返すぜ」

 

轟はルフィに対して攻撃体勢に入り、飯田のふくらはぎにあるエンジンの鼓動が速まる。

今動けるのは4組、しかも既に通過は決定的になっているにもかかわらず、轟・爆豪もトップを取るためにルフィに迫る。

 

ルフィの騎馬である心操はこの状況にめんどくささを感じていた。

 

(もう勝負が決まってるってのに変に対抗して掠め取られるするのもうざいな・・・。せっかくこいつらを操って大成功したってのによ)

 

心操人使ーー彼の個性は「洗脳」

自分の問いかけに答えた者を洗脳し操ることができる。

なぜルフィの雰囲気が変わっていたのか、それは彼の洗脳下にいたからだ。そして拳藤・コビーもそれは同様だった。

ものすごい個性ではあるが、タネがわかれば脆いピーキーな能力のため隠すことを徹底している。

だから騎馬戦が始まる前に拳藤に個性を聞かれた時もうまいこと誤魔化したのだった。

 

(こいつらを選んだのは、かなり都合が良かった。古美は役に立たねえが、女は2位の205ポイントを所持していて、ルフィの能力はさっきのでわかった。転科推薦を狙うには目立つ必要がある。うまいこと利用させてもらった)

 

彼の個性は本当に有用性が高く、特にこのチームで動く騎馬戦においても有利な点があった。それは洗脳によって自分の意思を他3人と統一することができるからだ。一人の思うタイミングで駒を動かせる、これほど優位な点はないだろう。

 

(何よりこいつの洗脳のしやすさが最大の利点)

 

このチームの中でもルフィはとてつもなく洗脳にかかりやすかった。

洗脳といっても普通ならかけられた者にもボンヤリと意識は残ってあり、解いた後にはかなりの違和感が残ってしまう。

しかしルフィはそれが全くない。

心操は以前あまりにルフィが教室で騒ぐので一度洗脳を試みたことがあった。その時あまりのかかり具合とその後の鈍さに彼は驚き、こう思った。なんて頭の中がスッカラカンなんだと。

ここまで深くかかると彼の個性の「弱点」も消すことができる。

 

(よく働いてくれたよ、だけどここまでだ)

 

「あとは逃げて時間を潰せ」

 

心操はメンバーの3人にそう声をかけ制限時間が過ぎるまで逃げ果せるつもりだ。

しかし、それに従事する騎馬の二人とは違いルフィだけ一人身を乗り出して前に行こうとする。

再び心操が指示を出すが、ルフィはそれに従うそぶりはない。

 

(何で俺の言うことを聞かない!?)

 

心操が解けたのかと少し焦るが、ルフィのブツブツ言うつぶやきに驚愕の顔をする。

 

「ハチマキをぶんどる・・・ハチマキをぶんどる・・・ハチマキをぶんどる)

 

(こ、こいつ!!まさか最初に命じたことにしか通じないのか!!??)Gaaan!!

 

そう、ここまですんなり洗脳にかかる残念なルフィの頭は何度も命令するとキャパオーバーを起こすのだ。

なので既に言うことは聞かなくなっており、初めに命じたハチマキをとることにしか頭にないのだった。

 

「何なんだ・・こいつは」

 

半分呆れが混じった言葉を吐き出した心操をよそにルフィの体に異変が起きる。

 

 

「「行くぜ!!」」

 

爆豪・轟チームが一斉にルフィ達に飛びかかろうとするが、両チームとも目標の異変を目にして足を止めてしまう。

 

『な、なんだー!!ルフィの体から煙のようなのが噴き出しているゾーーー!!??』

 

(な、なんだこれは!?まさか暴走して!?)

 

意識がないはずのルフィの体から蒸気のような煙が立ち込め、もはや心操の洗脳の範疇を超え出した。

なんだとばかりにそれを見る選手、観客の動きが止まる。すると、一瞬でルフィの姿が消える。

 

「「!?」」

 

操っている心操でさえ騎馬上にいたルフィを見失う。

皆があっけにとられている中、爆豪だけがその動きに反応した。

 

「上だ!!!」

 

「ゴムゴムの〜〜・・・・・」

 

 

 

「JETガトリング!!!!!!!!!!!!」DON!!!

 

 

目に止まらない拳大の弾丸の嵐が頭上から放たれる。あまりの威力、あまりの速さに当たった地面は所々めくり上がりその衝撃で凄まじい衝撃が生まれる。

轟はこの弾幕に氷結を試みるが、ルフィの手を捉えることができない。

とっさに左手の炎を試みるが・・・・

この凄まじい攻撃に爆豪組の芦戸と轟組の八百万の女子はきゃあ、と声をだし倒れこんだ。それに釣られ両騎馬は為す術なく一斉に倒れ込んでしまった。

 

 

実況のプレゼントマイクは驚愕のWHAT!!を連発し、相沢は目を見開く。

攻撃の範囲外にいた緑谷達も衝撃に揺れる。

 

「なんって・・・攻撃だ!?まるでオールマイトみたいだ・・・!!」

 

「あんなもの喰らえばダークシャドウとて消し飛ばされるぞ・・!!」

 

ようやく攻撃が終わると同時にタイムアップのベルが鳴り響く。

ルフィの体から煙が消え、数十メートルの空中から落ちて地面を跳ね上がった。

 

『だ、第二種目 騎馬戦はここまで!!!』

『判定に入ります!』

 

静寂に包まれた中、ミッドナイトが毅然と自分の仕事を進行する。

未だに爆豪轟達は動くことができなかった。・・・しかしあれだけの弾幕を浴びたにもかかわらずよく見ても大きなけがは見当たらない。

爆豪は屈辱で表情を歪ませる。

 

「あの野郎・・・俺たちが動けないのをわかってわざと外しやがった!!」

 

一人だけわずかに反応できた爆豪の手には持っていたはずのハチマキが全てなくなっていた。

 

 

控え室にいたオールマイトは先ほどの攻撃が見せた所業に身を震わせ、Oh My God と両手で後頭部を押さえていた。

 

「彼のポテンシャルがここまでとは・・・もはや学生の域をはるかに超えている!」

 

会場が静寂に包まれる中、マイクの音声が響き渡る。

 

 

『発表します!』

 

『選手すべてのポイントを獲得!!』

 

 

『第一位 ルフィチーム!!』DON!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえず物間が生きていることを願う。



関係ないですが、昔に描いた絵がありましたので掲載します。
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約束だ!

(なんだこれ)

 

何が起こっているのか、理解できるはずなのに頭が追いついてこない。

私は今まで、何をやっていたのだろう。

 

(思い出せない・・)

 

騎馬戦の終了とともに心操の洗脳が解けた拳藤は会場が静まり返ったこの現状にただただ戸惑うだけだった。

横にいるコビーを見ても自分と同じ反応をしており、前にいる心操は口を開けて呆けている。

そして騎手のルフィが自分たちから離れたところに寝転んでいる。なんであんなところに、と疑問に思っていると彼の元にミッドナイトが近寄ってきた。

女教師はルフィが持っているハチマキを数えだす。

 

『選手すべてのポイントを獲得!!』

『第一位 ルフィチーム!!』

 

このアナウンスに会場は静寂から一転、弾かれるような大歓声が巻き起こる。

まさに次世代の英雄、極大のロマンの出現を目の前に一般客だけでなく、スカウト目的のため詰め掛けたヒーロー達も同じくして興奮していた。

 

「は・・・これ、どういう」

 

「ぼ、ぼくも何がなんだか・・・」

 

拳藤とコビーはいつのまにかに自分達が一位になっていたことに困惑する。しかも自分たちの一人勝ちだ。

状況が掴めないまま、時間が経過していく。

 

ミッドナイトが今回のケースの場合、どういう判断を下すのか委員会に判断を煽る。

少々時間がかかりそうだ。

この時間のうちに選手は全員会場の中へとはけていく。轟は自分が氷結して動きを封じていた組を左手を使い解凍していた。その時の轟の表情に、氷を受けていた葉隠たちは少し体を硬直させた。

 

一同控え室に戻った後、A組控え室は暗い空気が立ち込める。

ヒーロー科としてのプライドがへし折られ、すでに敗退が決まっているかの様子だった。

 

(全く見えなかった・・・甘かった・・何が手を掴めればだ!?)

 

(最後のあの時、彼の攻撃は僕たちの方に向いていなかった!ならその瞬間を狙ってハチマキを取りに行くこともできたはずだ!だけどできなかった・・・怖じ気ついたんだ)

 

(オールマイトからこの力を、この世界を託されたのに・・・!!)

 

わずかにあった勝機を逃してしまった緑谷は自分に託されたものに責任を感じ、深く落ち込んでいた。

その様子に麗日たちは声をかけるのができなかった。自分たちは彼ほど悔しがれていない気持ちに気づいたから。自分達が彼ほどの覚悟がなかったから。

 

 

瀬呂も自チームの爆豪に話しかけることができないでいた。

普段なら周りに当たり散らす性格の爆豪が椅子に座りずっと下を見ているからだ。

 

「無理もねえよ・・俺だって話す気すら起きねえ。ここまでやられるなんてな。」

 

切島はそういってポツリとこぼした。

その中で上鳴は口調は相変わらず軽い。

 

「しかしあいつがここまでやるとはなぁ〜・・。なんとなく喧嘩させたら強いんだろうなっての思ってたけどさ。遊ぶ時はただおもろいバカって感じなんだけど。」

 

仲のいい彼は悔しさもあるが、納得いかない様子ではなかった。

 

「でもなんかおかしかったよね!なんていうからしくないっていうか」

 

確かに、と芦戸がいう違和感に切島と上鳴は頷いた。

普段のルフィならあんな淡々と作業を行うかの攻撃を仕掛けてくるだろうか。いやあいつならもっと楽しみながら勝負を挑んでくるはずだ。

仲のいいA組の面々はん〜、と考え出した。

 

「相手の心配より我が身の心配ですわ!わたくし達はこの騎馬戦で落ちてしまうかもしれないのですよ!」

 

副委員長の八百万は落ち込んだ様子で先ほどの面々に投げかける。

プライドの高い彼女はことさら気を重くしている。まさか自分がこんなところで早々と脱落してしまうとは思っていなかったからだ。

この言葉にまたもや部屋中は暗くなってしまった。

 

 

「じゃあ一切覚えてないだね?」

 

「ま〜ったく覚えてねぇ。気づいたらこの部屋移されてたしよ??どうなってんだ??」

 

A組とは別の部屋ではB組と普通科の3人が休息をとっていた。

拳藤は後から聞いた状況をクラスメートから聞き、暴れまくったルフィを問い詰めていた。

部屋の隅で悔しさのあまり鉄哲が絶叫している。

 

コビーとルフィはよくわからない状況にただ困惑しているが、拳藤は少し黙り込み心操の方を見つめる。

 

「・・・あんたの仕業か?」

 

彼女は明らかに怒っている様子で肩を揺らしながら静かに座っている心操の方に近づき、腕を組みながら彼から一歩までの距離で問い出した。

 

「・・・そうだと言ったら?何か問題あるか?おかげで結果は他を全滅させての一位だぜ?」

 

もう隠す必要ないとばかりに開き直る心操は不敵に笑みを浮かべる。

 

「それはどうもありがとう」

 

「だけど私はそのことに聞きたいんじゃない!あんたが試合前に嘘をついて、なんの許可もなしに私らを使ったからだ!!」

 

拳藤がいつになく荒げた声にクラスの注目が彼女の方に集まった。騒いでいた鉄哲も思わず黙る。

ピンと張りつめた空気感に皆が緊張した。コビーはチームメイト同士の対立に慌て、普段空気を読まないルフィも冷や汗をかいている。

 

「明らかに私らを利用する行為だ!あんたの個性がもし!人を操るっていう類ならこんな非人道的で屈辱的なことなんてない!!」

 

トップヒーローになるため今までたゆまぬ努力を続け、夢見たこの体育祭を後ろ足で土をかけられた彼女のプライドは大きく傷ついた。

当然だ。自分の力で勝つ。目的意識の強い彼女は人一倍この思いが強かったからだ。

 

「・・・非人道的ね・・」

 

ボソッとつぶやいた心操は憤る彼女を横切り部屋から出ていった。

彼が去った部屋にもまた、沈黙が流れた。

 

 

『YEAH!!長らくおまたせしたぜリスナーの諸君!やぁ〜っと審査の方が決まったぜ!!』Uryyyyy!!!

 

審査に入ってから10分の時間が流れたが、ようやく判断が下ったようだ。

普通に考えれば全ポイントを獲得したルフィチームだけ通過し、チームの四人でこの先争うことになる。

しかし、あくまで通過できるのは4チーム。残りの3チームをどうするのか、ここを論点に審査が行われていた。

ミッドナイトは審査を発表する前に、その様相を思い出した。

 

 

「う〜ん・・・やってくれたね彼!まさか、普通科の生徒がヒーロー科の全員を出し抜くなんて誰も予想してなかっただろうさ!」

 

「・・・・・でどうするんです?この先は」

 

審議室にて校長は悩ましくも嬉しそうだ。観客のあっけにとられた顔を思い出している。

とっとと進行させたい相澤は横槍を入れる。つまらなそうにする校長だが、彼に一度話させたら止まらないので次の種目の補助役を務める教師・セメントスもそれに便乗する。

 

「実際問題予定していた決勝トーナメントをこのまま4人だけで争っても盛り上がりますかね?」

 

「まぁ4人だから成立はするがな」

 

「・・・でも4人中3人が普通科ていうのがぁ」

 

このまま4人だけ通過という形にしてしまうと盛り上がりに欠ける上に、予定時間も大幅に早まってしまう。

エンターテイメントとしてTVカメラや番組がなされている雄英体育祭はスポンサーも多く抱えている。このままでは苦情待った無し。大人の事情がどうしてもチラついてしまうのだった。

 

「そんなこと生徒には関係ない。0ポイントなんだから他は全部最下位横一線、失格でいいだろ」

 

「お前は生徒に厳しいな」

 

相澤の意見はこのまま4人で決勝トーナメントを続行。担任するA組は全員失格でいいという判断だ。私情を挟まないあたり彼らしく、無情な決断を強いることこそが教育理念であるからだ。

確かにヒーロー校の最高峰たる雄英がスポンサーの圧力に屈する姿勢を取るのは好ましくない。

う〜ん、と全員の首が捻る。

そこに一人、雄英とは関係ないものが踏み入れて来た。

 

「社会に出ればヒーローとて社会人の一人、今更そんな綺麗事言わんでいいだろう」

 

体に炎を携え威圧的な雰囲気を持つ彼は遠慮なく発言する。

 

「障害物競争と騎馬戦だけの個人の力の評価は定まらん、弱いものに引っ張られてな」

 

「何をいきなり現れてズカズカと、OBだというのに滅多に顔も出さないくせに」

「エンデヴァー」

 

この横柄な態度をとってくる男はフレイムヒーロー「エンデヴァー」。日本ヒーローランク不動の2位の男だ。

その体躯は大きく、オールマイトにも劣らない。

 

「君はただ息子を落とされたくないだけではないのかい?エンデヴァー・・・いや、ここでは轟君といった方がいいかね?」

 

そう彼はA組轟焦凍の父親。息子の観戦に訪れたのだが、この状況に非常に気分を害しているようだ。

雄英教師陣を前にして態度を取り繕う様子は一切ない。

 

「・・否定はしない。しかしこのままでは納得できん。俺も、観客も、生徒もだ!確かに騎馬戦ではヒーロー科の敗北だった。しかし、あれが果たして納得いく敗北だったかだ!」

 

「・・・どういうことです?敗北は敗北でしょう?」

 

「モンキー・D・ルフィ・・・モンキー・D・ガープの孫。サラブレット中のサラブレットだ、俺の焦凍を比較してもな」

 

「その飛び抜けたのが一人がいたからこそあの騎馬は勝利したに過ぎん。他に女子を除けば普通科の男子が二人・・・このザマでチームの力で勝ったなど言えるか?あまつさえこの後が個人のトーナメント戦だ。結果が見えた戦いほど笑えんものはない」

 

ガタッ、という物音をたて数人の教師が立ち上がり、エンデヴァーを睨みつけた。その中には相澤・・・そしてオールマイトの姿もあった。

オールマイトの顔は激情に駆られている。

 

「生徒をあまり侮辱してくれるなよ・・・普通科がどうした!彼らもトップを目指しもがいている!だからこそここまで生き残っているじゃないか!昔からの馴染みの君でも今の発言は許せんぞ!」

 

エリート気質のエンデヴァーの差別的な発言にオールマイトは威圧的になる。

しかし、さすがNo.2ヒーローのエンデヴァーは彼の放つオーラにも萎縮する様子はない。

 

「そうだな、彼らもまた挫折があったからこそここまで上がってこれたのだろう。敗北は人を変え!強く!さらなる高みへ誘うスパイスだ!」

 

「うちの焦凍含め、ヒーロー科の面々は優秀ゆえ今までその機会は恵まれなかったはず!plus ultra・・・敗北を糧にさらなる高みへ。今まさにそれを体現させるための絶好の機会ではないのか!」

 

経験者は語る。圧倒的なNo.1に屈しても踠き続けるNo.2の言葉は誰よりも重く力がある。

この言葉にオールマイトも反論することがなかった。

 

「相変わらず自分の都合のためには言葉も行動も素直な男だよ」

 

校長はエンデヴァーの性格を皮肉り、フムと手を顔の前に組む。あくまでエンデヴァーの言葉は私情の上での詭弁に近い。ただ一理ある。

今年のヒーロー科は苦難をも跳ね返す逞しさがある。彼らにもう一度チャンスを与えることは決してマイナスにはならないだろう。

 

「わかった、君の口車に乗ろう。通過者を本来の4チーム、16名とし決勝トーナメントを行おう」

 

 

演台へ戻ったミッドナイトは生徒だけではなく、教員内にも面倒事を起こした張本人を見た。

 

(まったく何でこう問題を持ってくるんだか・・・生まれ持ったものなのかしらね)

 

フゥ・・と一息吐いて審査結果を並んだ生徒に知らせる。

 

 

 

爆豪は拳を握り、一人体を震わせた。

 

(ありがてぇ・・あいつを吹っ飛ばす機会がまだあるたぁな!!)

 

決勝トーナメントに進む4チームをミッドナイトは電光掲示板をなぞりながら発表する。

その4チームはルフィ・轟・爆豪・緑谷の組に決定した。

轟・爆豪チームは結果0ポイントながら騎馬戦で圧倒的活躍があったこと。緑谷チームは1000万ポイントをルフィ以外には巧みにチームとして死守しているところを評価されてだ。

そしてこの4チーム以外は行動不能に陥っていたため妥当な判断だった。

 

選ばれた3チームの生徒たちはそれぞれ巡ってきたチャンスに再び沈んだ心に熱を灯す。そして一つの目標に皆が視線を向けた。

彼らの目標はただ一つ、打倒ルフィ。敗北が彼らの闘争本能をかき立てた。

 

『それでは〜第三種目・バトルトーナメント!!組み合わせを発表するぜ!!』

 

『まずは一回せ「その前にいいですか?」っておい!俺のライブの横槍はタブーだぞォ!?』

 

プレゼントマイクの進行を遮る声が生徒の方から聞こえてくる。皆が振り返ると、サイドテールの彼女 拳藤が手を挙げていた。

 

「私このトーナメント棄権します。」

 

何と彼女は棄権を申し入れてきたのだ。その発言に皆が驚く。

彼女は耐えられなかったのだ。騎馬戦において自分は何もしていない。ただ操られ、知らずのうち通過した現状に。

悔しさで心のなかは満ちているはずなのに、表情は無理に平静を装っていた。

 

「それを言うなら私もいっしょですわ!私だって次に進めるほどの活躍をしていないですもの!」

 

「私もだよ!」

 

あまり話したこともない八百万と芦戸が拳藤に説得の声をあげる。彼女らも気持ちでは似たようなものだったからだ。

 

「これは勝手な私のプライドさ。チャンスをもらっといてそれを捨てるなんてバカみたいだけど・・」

 

拳藤は頑として意見は変えない。彼女の芯の強さはB組の全員が知るところだ。一度口にしたことは曲げないだろう。

そして彼女はコビーに謝った。自分の考えは気にしないでくれ、頑張って推薦を目指してくれ、と言い残して会場を後にした。

コビーは彼女の後ろ姿を見て責任が重くのしかかった心境だった。自分にはあんな決断はできない、自分にはあれほどの心の強さがなかったからだ。

隣にいたルフィの顔はいつもより固くまっすぐな表情だった。

 

張りつめた空気の中、彼女が抜けた空席を誰が埋めるかが教師が決めるのではなく、納得ができるように生徒間で決めたのだった。

結果決まったのは拳藤と同じクラスでその中でも信頼の厚い鉄哲が選ばれた。

 

『では気を取り直して発表するぜ!!』

 

『第1試合 緑谷VS心操!!!』

 

『第2試合 轟VS瀬呂!!!』

 

『第3試合 鉄哲VS切島!!!』

 

『第4試合 常闇VSルフィ!!!』

 

『第5試合 麗日VS上鳴!!!』

 

『第6試合 八百万VS芦戸!!!』

 

『第7試合 飯田VS発目!!!』

 

『第8試合 爆豪VSコビー!!!』

 

プレゼントマイクの発表に皆顔を引き締める。泣いても笑ってもこれが最後のチャンス。一度敗北を味わった者達は再度頂きを目指す。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

第三種目が始める前に昼休憩、その後クラス対抗のレクリエーションが間に挟まれる。

ルフィとコビーは昼ごはんを食べに食堂に赴いていた。

 

「いやぁ〜腹減った〜!!!飯だ飯!!」

 

もちろんルフィが競技者の誰よりも早くランチの券売機に並ぶ。そして何にしようかこれでもかと迷い、長蛇の列を生み出すいつもの光景が見える。

それでも最低10品それも爆盛を選ぶので、クックヒーロー・ランチラッシュは今日は何を選ぶのかソワソワしている。

 

山積みにされた器に囲まれたルフィは満足げだった。彼が何より雄英でよかった点は今のところこの料理だろう。体育祭もあって彼はいつもの4倍の量を平らげた。厨房の奥ではランチラッシュが死にかけている。

腹が尋常ではないほど膨れたルフィの横でコビーはまだ細々と食べていた。

 

「いつまで気にしてもしょーがないぞ!あいつはあいつの思ったことをやっただけだ、コビーが気にすることじゃねぇよ」

 

「・・・」

 

「お前一回戦ばくごーなんだろ?あいつはツエーから強気でいねぇと勝てないぞ!」

 

「ごめん・・・ちょっと歩いてくる」

 

食べかけの丼を厨房に返してコビーは一人で外を出て行った。それにルフィは引き止めはせず、コビーの問題は自分自身で決着をつけさせようと思い、追加の券を買った。

 

コビーが一人で中庭のベンチで座っていると、普通科のクラスメイトが数人が彼を遠巻きに指差しながら芳しくない様子が伺われた。

ヒソヒソと話してるかと思えば時には聞こえるように、嫌味なことを言ってくる。

だいたい内容は予想できる。運がいい。場違い。調子に乗るな。幼稚な妬み嫉みだ。

しかしそれを自覚しているコビーにはそれが一番刺さる。

 

コビーは逃げるようにその場を離れた。

 

 

ところかわって緑谷はまっすぐ食堂には向かわず、競技場入り口通路に来ていた。轟に連れ出されたからだ。

そこで轟は少しの間身の上話をした。

 

その話は自身の出生から始まった。自分の父親は長らくNo.1になれずNo.2と揶揄され続け、ついには頂上を登ることを諦めた。そして個性を掛け合わせる個性婚を画策したと。

少し昔、個性が子供にも遺伝することを利用して意図的に強力な個性を持つ相手と婚姻関係を結ぶ個性婚が流行っていた。

この風潮は非人道的だと非難されたが、轟の父親エンデヴァーは自分と対極にある母親の「氷結」の個性を手にいれるため無理矢理婚姻を結んだのだった。

こうすることで自身の弱点を消し、より強力な個性の子供を産ませること、そしてその子供を鍛え上げNo.1へ育て上げることが頂上を執着した彼の目的だった。

その結果成功作の轟焦凍が誕生するまで幾度も子供を産ませたことで母親は精神的に不安定になり、轟が小さい頃に壊れてしまったのだ。

 

この話をした時、轟の顔はとても苦しく復讐に満ちた顔をしていた。それに緑谷はただ恐ろしく思えた。

 

「俺はあいつの言う通りにはならねぇ。俺はお母さんの力だけでトップになる。そう思ったから以前からNo.1のオールマイトに目をかけられてるお前にこの大会前挑戦じみたことを言ったんだ。」

 

「そうなのか・・・」

 

これまでオールマイトが緑谷に個人的に話しかけていたのを目にしていた轟は緑谷を意識していた。

そのこともあり大会開始直前の控え室で自分が勝つと宣言していた。

 

「・・・でもこれまで結果を見れば俺はとんだピエロだな」

 

「だけどトップを取りに行くことには変わりはねえ。勝つぞ・・お前にも、そんであいつにも。決してブレねえ・・・それだけを言いたかった」

 

轟はこのままでは父親を見返すことはできない、絶対に勝つと言うことを改めて宣言しに来たのだった。

 

「・・・・いや、悪い。お前には関係ないことまでベラベラと喋っちまって。時間とらしちまってすまない」

 

言いたいことだけ言って冷静になった轟は踵を返して外に出た。誰かに吐き出しかったのだろう。

その轟に緑谷は後ろから声をかける。

 

「僕には君みたいなすごい生い立ちも覚悟も足りないのかもしれない・・・でも僕もいろんな人に救けられてここにいる」

 

「だから僕はトップを目指す。僕の存在を証明することが恩返しだから。だから僕は君にも勝つ!」

 

緑谷は今までの想いを改めて再確認し、轟に勝つと宣言し返した。

それに轟もああ、と返し二人は別れるのだった。

 

 

 

 

拳藤は見られたくなかった。赤く腫れた目を。くっきりと残った涙のあとを。

 

競技場を後にした彼女は校舎の方に戻っていた。

昼休憩中しばらくは影を潜めて、ひっそりと泣いていたようだ。

普段勝気でサバサバとしている彼女は皆にそんな姿は見せたくなかった。こんな意地っ張りな性格だからこそ辞退しようと思ったのだろう。

逆に弱い所をさらけ出せる相手いないことが彼女を苦しめる。捌け口がないのは辛いものだ。

 

しかししばらくして校舎から出た彼女は最も見られたくなかった相手に出くわしてしまう。

 

「心配してたぞコビーも鉄哲もお前のクラスもよ!それにメシ食え!元気でるぞ!」

 

「誰も彼もがあんたとは違うんだよ、食う気分じゃないし」

 

その相手とはルフィだった。

腹を満たしてトイレに行きたかったところにルフィは拳藤とばったり会った。

ルフィはここでちょっと待ってろ、と言いトイレに少しこもったのは割愛する。

 

二人で校舎のどこかベンチで座り、拳藤は顔を見られないように顔を伏せがちに答えた。

 

「早く競技場に向かいなよ、一年のレクリエーション始まってるでしょ」

 

早くどっか行ってほしい拳藤は理由をつけてルフィを引き払おうとした。しかし、そんなこと何処吹く風か奴にそんな遠回しは通用しない。

 

「お前バカだなー!一年ならお前もそうじゃねえか」

 

(は、腹たつ!!)

 

正論だが、この空気の読まなさに思わずイラつかせる彼女は直球に言葉を吐く。

 

「だから!私は今!一人にしてって言ってんの!」

 

荒い声を出して少し息を切らす。泣いたことで少々喉を痛めてるようだ。それにその拍子に出しきれていなかった涙がポロリと出た。

これに彼女は顔を赤くして違うんだ、と慌てたつ。

少しビックリしたルフィだったがそれでも動こうとしない。

あまり自分がどうこう言おうとは思っていなかった彼だったが、そんなに我慢して突っ返してくる彼女に少しむっとした顔をした。

 

「悔しいんなら悔しいって言えばいいじゃねぇか。そんなこと我慢することでもねぇよ。」

 

「おれたち仲間なんだからよ!」

 

そう言ったルフィは最後はニカッと笑いかけた。

 

そんな素直なルフィの言葉に、さっきまで荒んでいた彼女の胸の内がスッと軽くなったように思えた。

目を見開き、彼女にとって謎の感情が彼女を支配した。

 

(何これ・・・こんな感覚・・知らないんだけど・・)

 

なんだかフワフワした感じな拳藤はルフィの目から目を離せない。

どうしてこんなに自分は見つめてるんだと頭の中は困惑しているが、原因はわからない。

 

拳藤の様子がおかしいと思ったルフィは言われた通り一人にしてあげた方がいいのかと思い、彼女の手をとって最後に二言だけ言い残して競技場へ向かって行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ルフィが去ってから少し経ってもベンチに座っていた彼女は、先ほど言われた言葉を何度も思い返していた。

 

 

「お前の想いと一緒におれは絶対優勝する!!」

 

「約束だ!」

 

 

この言葉に、心が何度も満たされる拳藤であった。

 

 

 

 

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緑谷VS心操

いよいよ体育祭最終競技が始まる。

セメントスが個性によって生み出したリングが形成され、決闘場にふさわしい環境となる。

 

「あまり気負うなよ少年!口角下げてもいいことないぞ!」

「君の精一杯を出してこい!」

 

「っはい!」

 

入場前体を固くしていた緑谷はオールマイトに一喝されリングへ向かう。

入場口から出てきた彼をA組一同が声を張り上げて応援する。皆が挑戦者としての気持ちに一致団結しているようだ。

緑谷はリングの階段を上がり、一歩一歩地に足つける気持ちでリングを踏みしめた。そして相対する謎の多い男へ視線を合わせる。

 

『さぁ初戦!トップバッターを務めるのは、第一種目では第一位!第二種目では辛くも1000万ポイントを奪われたものの判断力・機転のうまさを見せたヒーロー科!赤コーナー緑谷出久ゥ!!』

 

『向かいの青コーナーはハッキリ言って謎!THE・ミステリアス!普通科3人の1人!心操人使ィーー!!』

 

プロフィールなどを随分と長く語るプレゼントマイクをよそに両者は向かいあいながら、試合開始の合図をまつ。緑谷は少し右足をジリジリと前に広げつま先に体重をかけた。

プロから見ればスタートダッシュと同時に攻撃を仕掛ける気がマンマンなのがバレバレだ。

どうやら彼は謎の多い心操の個性を警戒して超短期決戦を仕掛けるようだ。

 

(彼はあの騎馬戦ルフィ君のチームの1人だった。あの時、あのチームは全体的に何かおかしかった。)

(そしてそれを起こしたのは彼の可能性が高い。女子の拳藤さんは記憶がないと言っていた。そんな状態で動けていたということは、つまり操られていたということ。)

(ということは同じく操れていたであろうルフィ君と、友達であるコビー君がその個性の持ち主ではないことは明確だ)

 

(流石に無条件でそんな強力な個性はないはずだ。もしそうなら勝ち目ないし。)

(何かきっかけを作らせる前に決着をつける!)

 

「まだ個性を出していないけどどうしてだ?」

 

緑谷がまだか、と開始の合図を待っていると心操から話しかけられた。このタイミングで話しかけられたことに若干の警戒を抱いた緑谷は答えない。そんな彼に心操は話を続ける。

 

「・・・・ヒーロー科に在籍してるんだ。すごい個性持ってるんだろ?ただ使い所は限定的ってとこか?にしても恵まれてるよお前らは」

 

「そこに属しているだけでチヤホヤされて、将来は安泰だもんな」

 

意図の見えない話に緑谷は訝しむ。何か探りを入れてきているか。これまで無口に近かった心操にとっては少しわざとらしく感じる。

 

「・・・だからあの女もあっさり捨てられたんだろうな。所詮はその程度の覚悟だったのさ」

 

緑谷は挑発だとわかっていても並べられた言葉に血が上っていく。

何やら心操が話しているのは観客席にいる飯田たちにもわかった。

 

「何か・・話している。トラッシュトークの類か」

 

「トラッシュトーク?」

 

「罵りや挑発のようなものだ」

 

A組の飯田たちの中にルフィも加わっていた。ああまでライバル視されているのにも関わらず、気にしない様子で馴れてくるところが掴めない性格を印象づける。

そしてもう一人、ルフィの隣には拳藤の姿もあった。第三種目が始まる頃には競技場に顔を出して一緒に観戦している。

彼女は唯一、心操の個性をおおよそだが把握している。その彼女がまずそうな顔をしている。

 

『さぁいよいよ開始だ!!』

 

「氷の奴も爆発の奴も他のやつもとんだ見かけ倒しだよ。普通科のあのバカに手も足も出せずにさ。」

「みたか?あの間抜けなツラ!傑作さ!個性だけに恵まれた間抜けだよ!」

 

『READY・・・・・・・!!!!』

 

「雄英の恥さらしさ お前ら全員さ!ハハハ!」

「お前もそうなんだろ?緑谷!!」

 

『SゥTAァーーーRT!!!!!』

 

「・・・僕はどう言われたっていい・・・」

「みんなのことは取り消せ!!!!!!」

 

激情に駆られスタートと合図とともに右足を踏み込み、駆け出そうと緑谷の動きが急に停止した。

その状態が数秒続く。ピクリともしない。

それにプレゼントマイクは絶叫する。ただでさえ地味なんだから盛り上げてくれよと。酷い。

ああ、とA組の皆が立ち上がり、観客たちはリング上を首を傾げて眺める。

その目線の先にいる少年の向かいにいる背の高い男子は小さく囁いた。

 

「俺の勝ちだ・・」

 

 

「せ、洗脳!!?」

 

飯田は心操の個性を拳藤から聞き、そんな理不尽な力があるのかと驚いた。

拳藤もそれが本当かどうかはわからないが、確証はあった。

 

「じゃ、じゃあデクくん勝ち目なしなの!?」

 

麗日が対抗策はないのかと慌てふためき彼女に聞くが、彼女もただ知らぬ間にかかって知らぬ間に解かれていただけなので詳しいところまではわからなかった。

そんな絶対的な個性なんてあればどうしようもないが、あったとしても1対1の状況でもう洗脳されてしまうともはや為す術もない。

ルフィもそういうことだったのかと当事者のくせに今更気づいた。

 

「強力な個性だけど、確かにあの入試試験なら通らないも納得だね」

「操って倒させても他の人のポイントになっちゃうんだから」

 

悔しかっただろうなぁ、とルフィたちの一段上の席でA組耳郎が心操の個性の弊害を考察した。それを聞いて拳藤はなんとも言えない気持ちになる。

 

洗脳の完了を確信した心操は深く息を吐いた。

彼の個性のトリガーとなるのは彼の問いかけに答えること。そのためにわざと挑発をかけ緑谷の返答を引き出そうとしたのだが、緑谷がそれに気づいている素振りもあってなかなか苦労した。

これが成功しなければ終わり。彼の生命線は非常にシビアであった。

 

「悪いな・・・こんな「非人道的」な個性で」

「こんな悪人みたいな個性でもヒーローに憧れちまったんだ。負けてくれ」

 

彼は幼い頃から自分の個性を悪用しているんじゃないかと疑われ続けてきた。自分でもヒーローより敵向きの個性だと自覚していた。

しかし、それでもヒーローを目指す道を選んだ。荊の道なのは重々承知だった。雄英のヒーロー科を受からなくとも普通科に一縷の望みを見出し、どんな手段をとってでものし上がる。

彼はそこまでの覚悟を持っていた。

 

心操は緑谷にリングを出るように指示を飛ばす。すると素直に緑谷は踵を返して振り向いて歩を進めた。

その方向をふと目にやるとオールマイトがトゥルーフォームのためコソッと入場口からのぞいていた。

 

(ダメだ緑谷少年!!来ちゃダメーー!!)AAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHH!!

 

緑谷の足は止まらない、彼の意識がこれを拒絶してもなお、だ。彼の脳内は止まれの大合唱を歌っていた。

 

(止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ・・・・・!!!!!!!!!)

(あんな・・・あんなことを言われて負けるなんて絶対嫌だ!)

(みんなヒーローになるために必死なんだ!現状に満足なんて誰もしちゃいないんだ!)

 

(許せない!例え挑発だったとしても僕が負ければ言い返すことも否定することもできないじゃないか!)

(麗日さんは家族を助けるために、轟くんだってかっちゃんだって強い思いがあるんだ!)

 

何より仲間を侮辱されたことに彼は憤慨していた。

皆先月の敵襲来で恐怖を味わいながらも立ち上がり、この体育祭でも一度完膚なきまでに敗北しても、目指す先へ辿り着くために努力をして来たのだ。

彼も元は恵まれなかった1人だ。挫折から立ち上がるのがどれだけ勇気がいるか知っている。

だから負けるわけにはいかなかった。

緑谷の今までに感じたことがないほどに内なる感情は沸き立った。

 

「無駄だよ、俺の個性は「お前自身」の精神を支配する」

「逆らえやしない」

 

心操は勝負が決まったと思い、目線を切って自分も踵を返そうとした。

しかしその時観客が沸き立つ。何があったのかと思い、とっさに観客の目線の先を振り返った。

 

「ば、バカな・・・・なんで」

 

そう呟いた心操は大量の汗を吹き出した。理解ができなかったからだ。

目線の先には緑谷がリング場外のラインの前に踏みとどまって、こちらを向いていた。

 

(洗脳が解けたのか・・・いや、違う。あの様子はちゃんとかかっている状態だ。何か衝撃を受けて解かれている様子もない。)

 

彼の洗脳の弱点、解除方法は体に衝撃を与えること。例えば第三者が肩を叩けば解かれてしまうというものだ。

簡易な方法で解除できてしまうが、この局面でそれはない。

何が起こっているのかわからず、彼は戦慄する。

 

「一体どうなっているんだ。緑谷くんはどうやら踏みとどまったようだが、様子がおかしいぞ」

 

このさらに奇妙さが増したこの試合は何分精神的な個性の戦いなので飯田たち見てる方からすると何が何だかだ。

緑谷の方を見ても正気があるように見えない。しかし緑谷の頭のなかは凄まじい世界が展開されていた。

 

(なっんだコレ!?)

 

精神世界の彼の目には7人の影がこちらを見つめてくる情景が浮かんだ。その姿に緑谷は困惑とそして恐怖を強く感じた。何か自分を超越する力に・・・

その中の1人が彼に近寄ってくる。しかし逃げることができない。現実世界と同じく洗脳されているからではない、逃げる足がないからだ。ただただ近づいてくる影を待つしかない。

その影が彼の手をただ握る。ただそうやっている。女性のような優しげな笑みをニッコリ浮かべて。

 

「こうなったら俺が自分で押し出してやる」

 

個性ではなく自力で押し出そうと心操は緑谷の方へ駆けた。しかしその時地鳴りが起きる。

皆何事かとざわめきたつが、やがてその地鳴りが大きくなっていき、地震へと変貌し競技場を大きく揺らす。

 

「うわぁ地震だ!!怖えぇ!!!???」

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!!すんげぇな!これが地震かぁ!」

 

「皆地に伏せて頭を守るんだ!!訓練を思い出せ、そしてそこ!楽しそうにするんじゃない!!」

 

飯田が委員長ぶりを存分に発揮し、皆の安全を誘導する。若干一名ジェットコースター気分だが。

競技場全員が揺らされ立つこともままならない状態であるのに、リング上を見ると唯一人緑谷だけが直立不動であった。

 

「こ、こいつの仕業か!なんだっていうんだ、あのゴムもそうだがなんでこんなイレギュラーが起きるんだ」

 

この現象に心操がうろたえていると、次の瞬間には弾かれたような突発的な爆風が舞い込んできた。

ブオオと音を立て圧をかけてくるこの風は対戦する少年から発生され、リングサイドの壁に打ち付けられた。

 

「今度は風か!!?」

 

腕を前に顔を隠していた心操はゆっくり元凶を見やると、その少年は息遣いを荒く肩をゆらし、さっきとは違って目に力がこもっていた。

 

(な、なんだ・・・ワンフォーオールが強制的に発動したぞ!?)

(イタタタタタタタタタタ!?・・・折れてはないけど、全身の筋が痛い!?)

 

緑谷は無自覚に爆風を起こした際に覚醒した。どうやら自らの力の痛みによって解除されたようだ。

自分でも何が起きたかわかっていない。

 

オールマイトは驚愕する。あのような現象を自分も知らなかったからだ。まさか緑谷の中の「力」が暴発したのかと警戒心を高める。

 

『なんだか自然災害が起こっているうちに状況が変わっているぜーー!?まさか神のお仕業かーー!?』

 

「とりあえず助かった」

 

緑谷は自分のことはわからなくとも、戦況はよく把握した。自分が心操の言葉に答えたことで洗脳にかかり、それが痛みによって解除されたことに。

彼は一歩前に足を踏み出す。それに心操は一歩後ずさる。

全身の痛みで早くは動けない緑谷は一歩一歩前進する。気持ちが後ろに引かれる心操は再度洗脳にかけようとまたも挑発を言い出す。

 

「羨ましいな!個性でこんな真似できるだなんて!」

「なら、なんで最初から使わないんだ!?嘲笑っていたのか周りを!」

(ああ・・僕も昔から嘲笑われた!)

 

「俺はこんな個性だからヒーローなんて目指しちゃいけないなんて思っちまって!」

(わかるよ・・・・僕もずっと思ってた!!)

 

「誂え向きの個性に恵まれてホント羨ましいよ!!」

 

(僕は恵まれた!!!)

 

心操の言葉は緑谷の心に突き刺さる。なぜなら彼は「無個性」だったから。彼は声を大にして同じだったと叫びたかった。しかし彼は黙して前進する。

 

「何か言えよ!」

 

心操は半ばやけくそに緑谷に殴りかかる。しかしテレフォンパンチ、実戦訓練をこの2ヶ月間何度も行ってきた緑谷には当たらなかった。

そして緑谷はUSJの事件より試してきた諸刃の超パワーの5パーセント調整をイメージして、心操の腹を殴りつけた。

 

「ゴフッ!!??」

 

横隔膜を殴られた心操はリング場外へ弾き出され悶絶している。吐きそうなのを我慢しながら恨めしそうに緑谷を睨みつけている。

緑谷は彼を見てわかるよ、と言い心操に対して言葉を続けた。

 

「始めの君の言葉が本心かどうかなんて僕にはわからないけど、でもこれだけは言っておきたいんだ」

 

「僕が言えた義理じゃないけど、恵まれていたとしてもみんな何かしら抱えながら生きているよ・・・」

「それにここのみんなはトップをとるために踠いてる。そのことだけわかってほしい」

 

緑谷のなんとも言えない表情に心操は何も言い返すことも気も起きず、立ち上がった後は終始上を向かずリングを去って行った。

 

 

『最後には鉄拳一発!!WINNERは緑谷ダァーーーー!!!』 YEAH!!

 

プレゼントマイクのテンション高めの声が響く中、オールマイトは帰ってくる緑谷を目を細めて見つめる。

そして何か意味深な言葉を発した。

 

「まさか緑谷少年はワンフォーオールのトリガーを引いたのか・・・」

 





短いですが、キリよくここまでです。
次回は8試合目まで生きたいです。


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敗北は成長の促進剤 

前回の投稿から思った以上に間隔が空いてしまった・・・
最近はちょっと忙しいです。

感想に生存確認の声が・・・僕は生きてます!


第1試合が終わり、興奮が冷めやらないままに第二試合目に体育祭は進行していく。次に対戦するのは轟と瀬呂だ。騎馬戦では破れてしまったもののエンデヴァーの息子たる轟の期待値は未だ高い。観客も彼の戦いに注目している。

ざわつく観客席の中、緑谷がA組の集まりの中に加わっていた。 彼が席に着くや質問の嵐だ。どうやって洗脳を解いたのか、あの地震は君の仕業なのかという内容だ。緑谷自身そのことについてよくわかってない上に、オールマイトから受けた説明を馬鹿正直に話すわけにはいかなかったので、盛大にどもり倒した。そしてルフィのオールマイトみたいな力だなという勘の鋭い言葉に彼は心臓が跳ね上がる思いだった。

 

一方、観客の注目の彼はリングに向かうために入場口付近の廊下を歩いていると前方の男に声をかけられた。

 

「情けないな焦凍・・・いつまで恥をさらす気だ?」

 

轟に声をかけたのは父親のエンデヴァーだった。憮然と腕を組み壁に背をかけているが、彼の胸中は穏やかではないだろう。それもそのはず、彼は息子をNo.1にするために生まれた時から厳しい英才教育を施して来たからだ。

 

「お前は俺の最高傑作だ。これ以上の敗北は許されんぞ!」

 

「・・・テメェのことなんざ知ったこっちゃねぇし、それに負けるつもりもねぇ」

 

エンデヴァーの方に一切顔を合わせずに轟は怒気を孕ませる。自分が父親の所有物のように扱われていることに改めて辟易した。

 

「負けるつもりはないか・・・炎も使わずにか?」

「そんなことではとてもじゃないが奴に勝つことはできないぞ?」

 

「・・・何?」

 

「モンキー・D・ルフィ、英雄ガープの孫。」

「個性自体は大したことないが、個性の練度とあの身体能力は特筆すべきものがある」

「個性にかまけて細かいコントロールも大してできないお前では到底勝てんぞ」

 

エンデヴァーはリアリストな実力者だ。親バカも多少入っている息子を比較に出してもルフィの力は圧倒的と感じている。

その言葉に轟は答えない。その言葉は少なからず納得できてしまったからだ。その様子を見たエンデヴァーは一言付け加える。

 

「炎を使え!さすればその差は埋まるどころか、確実に奴を超えることができる!」

 

半冷半熱の圧倒的な個性をフルに活用できればルフィを上回ることができるとエンデヴァーは考えている。その目測は元はオールマイトを超えるために立てており、そのために作った個性だから彼にとって当然な考えである。

 

「お前は兄さんたちと違う。俺とあいつの個性が合わさった最強の個性なんだぞ!」

 

「・・うるせえ、誰がその個性を望んだ」

「お前だけだろうが!」

 

「俺はお母さんの力だけで勝ち上がる。この大会だけじゃない・・これからもだ!」

 

エンデヴァーの全てに嫌悪感を感じる轟は目を血走らせた。怒りを露わにしながら最後までエンデヴァーには一切顔を向けないでリングへ歩を進める。

自分でも内心わかっていることでも指摘されると否定したくなるものだ。今の轟がまさにそうで、このままではルフィには勝てないことをわかっていた。それでも母の個性に拘る。それがブレてしまうと母を裏切ったように感じてしまうからだ。

 

 

 

『さぁさぁさぁ!!視聴者半ば置いてきぼりの第1試合だったが今回はわかりやすい戦いをお願いするゼ!!』

『赤コーナー!!地味、とにかく普通!ポテチでいうならうす塩!だがそれがいい!瀬呂範太!』

 

「どういう紹介だよ・・褒めてんのかわかんねぇよ・・」

 

『そして青コーナー!孤高のイケメン!実力は折り紙付き!騎馬戦の屈辱は晴らせるか!轟焦凍!』

 

轟と瀬呂がリング中央に立ち、第二試合の開始が近づく。正直実力差があるのは瀬呂もわかっていることだが、それが逆に彼を開き直させているようで勝つ気は満々のようだ。

かくゆう轟は余裕なのか若干下を向き、相手である瀬呂を一切見ていない。何やら別のことに集中しているように見える。

 

『それでは第二試合・・・・開始ぃい!!!』YEAH!!

「負ける気はねえええ!!」

 

開始の合図と同時に瀬呂は先制攻撃を繰り出し、瀬呂も意外なほどうまく決まった。

瀬呂の個性で射出したテープは轟の体を巻きつけ、リング外に放り投げようと轟を素早く引きずった。

この先制攻撃に実況・観客が盛り上がる。

しかしそれが決まるほど轟の実力は甘くない。彼を巻きつけた瀬呂のテープは一瞬で凍りついて砕け散った。

 

「ちぇっ・・こんなあっさり決まるとは思ってなかったけどよ、こんな簡単にいなされちゃあな」

 

さすがの轟に瀬呂は少し距離を開ける。それは攻撃は防がれ反撃を警戒したのだったが、少し間が空いても反撃がくる気配がない。

轟の微動だにしない姿に瀬呂含め皆が不思議に思った。

リング上ではヒュウウと風切り音が鳴る。その風は6月の風にしてはいやに冷たい。

 

「なんか寒くねぇか・・・」

 

その言葉を一番に言ったのは観客席にいたルフィだった。彼は基本的にいつも体操着の上は着ておらず、Tシャツを一枚着ているだけだ。

だからこの競技場が徐々に寒くなってきたことにいち早く感じた。

それを聞いた面々が確かにと頷く。その中の麗日は指をさする仕草が自然にでた。

そして皆の会話の中に入らない爆豪はライバルの観察に余念がない。だからその原因をいち早く気付いた。そしてその原因の彼が凄まじい殺気を放っているのも。

 

「この膠着状態が続いてもしょうがねえな」

「何狙ってっか知らんけどもういっちょかましてやるか!」

 

瀬呂がまだ動かない轟に対し時計回りに周回していく。スローペースから緩急をつけて一気に攻撃を仕掛けるためだ。

そうして轟の右斜め後ろに歩を進めた時、瀬呂の足が止まる。

 

(あ、あれ?足が動かねえ・・・。いや動くんだけど、・・・重い?)

 

瀬呂は緊張状態で気付いていないが、彼が足を止めた時には競技場中の気温は相当に低くなっていた。

よく見ると瀬呂の吐く息も少し白くなっている。

 

(ま、まさかこれはあいつの仕業か!??)

 

寒くなったのは轟の個性が原因であるのは誰しもがわかる。しかし瀬呂が気づかなかったのは、轟が微動だにしていなかったのとこれまでとは違い、氷が表面的に見えなかったからだ。

轟がおもむろに手を地面につけ、何かしようとしているのに気付いた瀬呂は間髪入れず攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃が届くことはなかった。

 

「・・・氷河時代(アイスエイジ)!」

 

轟のその一言と「同時」に観客席まで、観客席前一列に座っている緑谷の足元の寸前までの物質が氷付いた。そう、瀬呂はもちろん、同じフロアにいたミッドナイトやセメントスを巻き込んで、リングがある1フロアがまるで氷河時代のワンシーンであるかのように。

 

地獄の風景とも言わんばかりにその凄惨さに観客席は驚愕と恐怖に襲われた。

中央で静かに佇む轟の他の3人は完全に氷に覆われ、微動だにしない。死んでると言われてもおかしくないほどだ。

 

(な、なんて技だ!?こんな攻撃防ぎようがないぞ!!)

 

このままいけば次の二回戦で当たる緑谷は戦慄した。こんな反則じみた攻撃をされればどんなヒーローでも防ぎようがない。それまでに圧倒的な力だった。

 

「・・こいつは使えるな、ただある程度の下準備と加減がいるが」

 

轟は冷静に自分が繰り出した攻撃を分析し、周りをぐるりと見回した。そうしたあと、試合の判決をプレゼントマイクに促した。本来するはずのミッドナイトまで凍りついたからだ。

 

『か、勝ちに決まってんだろぉ!!早くその3人をどうにかしろ!!!つかそれ生きてんのかよソレ!?』

 

早く解凍しろとプレゼントマイクに怒鳴られた轟は淡々と左手の熱を3人にあてがう。彼の淡々とした作業を見るに生き死に関わることではないようだ。時間がかかりすぎるとどうかなるかはわかったものではないが。

 

相沢は担任であるため轟の家庭環境はある程度は把握している。焦るプレゼントマイクの隣で目を細め、轟の精神状態が悪化していると彼は感じていた。それと同時に轟が試しに使った技に強く感心した。

 

(地から氷を這わせ地表のものを凍らすというのは今までも使ってきたが、これはその規模と攻撃速度が桁違いだな。)

(おそらく・・・あいつが動きを止めていたのは実際の攻撃を放つ前に地中の温度を極限までに冷やしていたからだ。だから前兆として競技場の気温が下がり、不可避の瞬間氷結が可能となったわけか。)

 

(そして今のは試しただけ。あくまでこの先のための実験。なるほど・・・末恐ろしいやつだ)

 

氷づけられた3人は解凍されて間も無くして目を覚ました。あくまで表面だけで内部までは凍っていなかったらしい。

圧倒的なオーバーキルに瀬呂もやりすぎもいいとこだろ、と大きくぼやいた。轟も悪い、と一言謝った。

 

この衝撃的決着から第3試合に移行する。

今だざわめく観客席にすでにリングについた切島と鉄哲はやりにくそうだ。それもそうだ、1試合目が地震2試合目が氷結、災害にも似た現象が個性によって巻き起こったのだから当然である。

そんな喧騒の中、開始の合図が放たれる。

 

 

試合が終わり轟は控え室のドアを開け部屋に入ると、次の試合のため準備をしているルフィと顔を合わせた。

ルフィの顔を見るや轟は眉を顰めた。しかし対照的にルフィは轟をみて満面の笑みで彼に話しかけた。

 

「お前やっぱスンゲェんだな~!!!おれ今までブラジルでいっぱい強いやつの個性とか見てきたけど、あんなの初めてだったぞ!」

 

キラキラとした目をしたルフィに轟は顔を合わせない。ルフィのこの様子に自分だけが一方的にライバル視していることが気に食わなかったようだ。

 

「あれはお前を倒すために試した技だ。せいぜい当たった時のために対策しとくんだな」

 

ただ一言だけ言い残して部屋を出て行った。

 

 

 

あまり注目度が高いと言えなかった第3試合は全弾フルスイングの殴り合いの試合となっていた。

個性が「スティール」の鉄哲と「硬化」の切島の似通った耐久戦に、先ほどまで前の試合の余韻があった観客もこの試合の熱さに当てられ盛り上がっている。

いくら体を固くしているとはいえ、衝撃は凄まじく一瞬でも緩めてしまえば個性も綻びる。どちらかと言えば肉体的というより精神的な要因が重要な試合だと言える。

5分以上殴り合っていると徐々に切島が後退していく。

 

「どぉらぁ!!!!」

 

鉄哲の拳が綻びた切島の腹に入る。

この攻撃に限界だったのか、切島が足をよろけさして片膝をついた。

この瞬間に復活したミッドナイトが試合終了のコールを宣言。

A組はこれに落胆し、逆にB組は唯一トーナメントに出ている鉄哲の勝利に盛り上がった。

 

(拳藤からもらったこのチャンス、早々に終わらすわけにはいかねぇだろ!)

 

鉄哲は拳藤とB組の名誉のための責任感が切島の精神面を上回ったのだった。

 

 

そして第4試合・・・・・轟の時以上に熱い注目が注がれているかもしれない。

第一種目と第二種目では最も会場を沸かせた予測不可能な男モンキー・D・ルフィの登場である。

 

「な、なにをやっているんだ・・・彼は・・・」

 

非常識の塊であるルフィとは真逆の常識人飯田は手を額に当て、クラリとする。思えば彼はファーストコンタクトからルフィには困惑させられている。

 

『果たしてチャンピオンがアフロなのか?アフロがチャンピオンなのか?』

『俺のブラザーソウルも思わず触発されるファンキーなスタイルで登場だ!!』

 

『赤コ~ナ~~~~モンキー・D・ルフッブハッ!!!!』HAHAHAHAHAHAHA

 

「Aah Yeahーーーー!!!!!」

 

アフロを被ったルフィが上半身を脱いだボクシングスタイルでリングへ入場した。それに釣られ思わずプレゼントマイクもノリよくアナウンスし、吹き出した。

やっぱこいつ俺好きだ、とプレゼントマイクが言う一方、隣の相沢は呆れてものが言えないようだ。

会場から爆笑が生まれる。さっきまでの緊張感は何処へやら・・・。

 

「なぜにアフロ・・・」

「アフロて・・ブハァ!!」

「どこからあんなもんを・・・」

「そう言えば控え室にあったような」

 

「「「なんでだよ!!」」」gabin!!

 

唯一控え室に入った緑谷の言葉に周りの全員が突っ込んだ。

 

『そしてアフロマンの前に立つ挑戦者は闇より穿つ刺客、心が中2から脱却できてない男!常闇踏陰!!』

 

「くっ・・・なんたる恥辱!!」

 

普段つつかれないところを暴露され、心外だとばかりに顔を歪める常闇くん。

 

「的得てるじゃん」

 

観客席から芦戸の声が聞こえる。そしてそれに同意するA組一同。常闇くんは普段みんなから暖かい目に見守られていたのだ!

 

「・・・しかし闇は俺に味方したようだ」

 

「ん?」

 

今さっき傷をえぐられたのにまたそんなことを言っている常闇だったが、確かに今のリング上は彼の有利になっていた。

タイミングよく厚い雲が競技場の上空に流れてきており、リング上は濃い影に覆われている。そして暗くなればなるほど彼の個性「影」が本来の力を発揮させる。力と暴虐性が跳ね上がるのだ。

 

「ヒャッハー!!このふざけたゴムアフロやろう!さっきはよくもやってくれたなーー今度はこっちがボコしてやんぜ!」

 

そして口が悪くなる。自我があるダークシャドウのキャラが激変していた。

 

『第4試合始めーーー』カーン!!

『どこから持ってきた・・』

 

開始のコングが鳴った瞬間、ルフィが一気に常闇に駆ける。今のルフィはもうチャンピオン気分だ。真っ向勝負!考えなしに正面突破を試みる。まぁいつものことだが。

ルフィの速さは相当なものだが、強化されたダークシャドウはそれを捉えた。ルフィが繰り出すパンチをことごとく払いのける。

ダークシャドウの最大の特徴は影と常闇自身の二つの視点を利用した広域視覚と、自由度を生かした防御力だ。徹底的なパーリングでルフィを寄せ付けない。ルフィのガトリングも鞭も防いでしまう。

 

「くっそー近づけないなー」

 

ルフィは繰り出す攻撃を完封され、少し息切れを起こしている。自信がある対人格闘で近い年にここまで手こずるのはちょっとなかった。兄のエースぐらいか。しかしこの状況にワクワクするのが彼だ。

反対にルフィを封殺している常闇はこの状況をまずく考えていた。

まず第一に防御に追われ、攻撃に転じることができないこと。第二にこのまま攻撃を受け続ければ強化されたダークシャドウといえど破壊されかねないからだ。

 

「ヒヒ・・・俺様はまだまだやれる・・ゼ・・」

(強がってはいるが、この圧力をこれ以上与えるわけにはいかない!)

 

常闇もまた騎馬戦の敗北によりルフィに対抗するために策を練り、個性をさらに進化させた。

 

「闇に這いし者の行方!!」

 

常闇が謎の掛け声を発した瞬間、彼の腹部から繋がっていたダークシャドウがリングを覆う影の中に姿を消した。

これによりガラ空きになった常闇にルフィは間髪入れず突っ込んでいくが、足下の影から唐突にダークシャドウが現れた。不意を突かれたルフィだったが持ち前の反射神経で素早く上へ回避するが、空中から再び回避する術はない。伸縮自在の間合いを持つダークシャドウから逃れられない。

右足と左足を掴まれ雑巾のように捻られてしまう。

 

『なんと素早いルフィを常闇の影がガッチリホールド!これでは全く動けないぜ!』

『こいつは驚いたな。まさか個性の影を自分から切り離して、相手の影へ忍び込ませるとは』

 

『だがルフィの個性はゴム!絞め技は効果がないぞー!!』

 

「当然承知している!」

 

ダークシャドウはルフィを締め上げながら力強く場外へと放り投げた。

 

「うわっ!?」

 

常闇は年齢に対してクレバーだ。勝負よりも試合を選ぶ。場外空中まで放り投げれば彼の勝ちは確定したも同然。

 

「カンタンに落ちるか!!」

「ゴムゴムの風船!!」BON!!

 

ルフィは体内に多くの空気を取り込み、ギャグのような体型に膨んだ。この技で浮力と空気抵抗を生み出し空中で動きを止めた。

この奇想天外な場外を回避したルフィに観客は喝采を鳴らす。ルフィは息を吐き出しすぐさまリング内に復帰しようとしたが、常闇だけは場外回避を予期していたかのように待ち構えていた。

 

「ぶべっ!!??」

 

ルフィはダークシャドウの手に顔を弾かれ再び場外へ押し戻された。

もう一度風船のように膨らんでなんとか地に足をつけないが、万事休すだ。これまで攻撃を完璧に防がれたダークシャドウがリング端に門番のように待ち構えている。どうあがいてもリングに復帰させないように常闇は堅実な動きを魅せる。

この態勢に観客席にいるヒーローたちも関心したかのような声をあげる。ルフィと仲のいい芦戸たちも常闇の勝ちを確信してしまう。

しかし誰もが常闇の勝ちを確信しかけたところで、・・・覆してくるのが彼だ。

 

先ほどよりも息を一気に吐き出したルフィは真上に飛び上がり、上空から落下しながらリングに向かって突入してくる。

そのルフィを常闇は再びはじき出そうとダークシャドウを指揮する。これまでのようにルフィの攻撃を防ぎつつはじき出そうとした。

 

「ゴムゴムのガトリングーーーー!!!!」DDDDDDDDDDD!!!

 

ルフィは落下しながらも連打を繰り返す。全てを防がれる。だが・・・・

 

(クッ・・・・防ぐので精一杯で「落ちてくる」のを止められない!!)

 

ルフィは逆に攻撃を防がせ、リング外に弾かせる暇を与えない。こうなれば重力で自然と彼はリングへ舞い戻る寸法だ。

ルフィの恐ろしいところは、戦いに関しては恐ろしく勘が働くことだ。この作戦を直感で思いつき瞬時で行動に移せるところは頭抜けて優れている。

常闇はこのまま接近を許せば勝機はないと考え、今まで防御に徹していたのに反し、ダークシャドウに攻撃を命じた。

 

・・・しかしその攻撃は悪手。攻撃対攻撃になれば、常闇に勝機はない。

ダークシャドウの横薙ぎの拳をルフィは巧みに避け、スルスルと瞬く間にリングに着地した。瞬間、常闇の両肩はルフィの伸びた手に掴まれる。

 

「ししし!やぁ〜っと捕まえた!」

 

「ゴムゴムの・・・」

「ボーガン!!!!!」

 

伸びた手を常闇とともに引き戻し、体を縦に回転させ常闇の体を打ち飛ばした。

勢いよく吹き飛ばされた常闇はなんとか体勢を立て直し、ダークシャドウで地面を引っ掛けさせ壁への激突は免れる。・・・しかしそこはすでにリングの遥か外。決着はすでについていた。

 

『常闇くん場外のため・・・赤コーナールフィくんの勝ち!』

 

ミッドナイトが決着のコールが響く。

これにて第4試合が終了した。観客の大きく湧き上がる。その声はオオオオオオ、と感嘆の声が大きかった。それはこの試合のレベルの高さを示した証だった。

常闇もルフィの存在がなくてはここまで技と戦略を練ってはいなかっただろう。強者がいることで周りはそれに引っ張られるのだ。

 

「す、すごい!なんてレベルの戦いだ!・・・すごいすごいぞ・・・高校1年生で・・いや・・プロ合わせてもここまで格闘戦ができる人が日本にどれだけいるか・・・・常闇くんの個性の高性能さとポテンシャルの高さにルフィくんのあの身体能力と格闘センスが上回った・・」ブツブツブツブツブツ

 

「ぅるッセエンだよ!クソナードが!!」

 

第一回戦の4試合が終了し、今年の雄英1年生のレベルの高さは見ている者に衝撃を与える。視聴率は爆発的に右肩上がりを計測していた。

 

「I am Champion!!!!ナッハッハッハッハ!!!」Ah Yeah!

 

ルフィの高らかな勝利の叫びとともに雄英経営者たちも高らかに右肩を突き上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回に第8戦までやりますと言ってましたが、コビー戦までいけませんでした。すいません!!
月曜休みなんで、火曜日にはあげられると思います・・・汗


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僕はヒーローになる!!

試合後リングをぐるりと周り観客を煽りまくったルフィは満足した様子で緑谷たちの元へ戻ってきた。

 

「いや~楽しかったぞ!」

「常闇!!お前おんもしれー個性持ってんな~」

 

「騎馬戦でも戦っていたんだがな。その時は洗脳を受けていて覚えていなかったみたいだが」

 

同じく常闇も戻ってきており、先ほどの試合の健闘をお互い讃えていた。わだかまりを残していない様子が実に清々しい。

そんな中爆豪は手を顎に当てジッとルフィの方を半身で見つめていた。

 

(実際あのスピードは厄介・・・接近戦なら負けねぇ自信はあるがよ、影野郎でも捉えられねぇか・・。)

(狙うなら伸ばした手の引き際か。カウンターを合わせられれば俺の俄然有利だが難易度はそれなりに高ぇな)

 

見た感じ爆豪は短気で大雑把そうに見えるが、実のところ冷静に解決策を見出す知力型だ。本人の能力がなまじ高い分、ゴリ押しで勝ててしまうことが多いが雄英に来て自分と同格以上の者が現れたことでその才能は本格的に開花しつつあった。

ブロックの都合上、ルフィとは決勝でしか当たらないが早くも対策を立てていた。しかしこれは驕りではない。実際彼が用心深くなるほどの相手が同じブロックにはいないからだ。

 

ルフィは楽しげに周りと談笑していると名前を野太い大きな声で呼ばれた。あまりにも大きい声なので一同全員が体をビクつかせた。

何事かと一斉に声の方に振り向けると・・・

 

「ルフィ!!じいちゃんが来たぞ!!」

 

「なんだ。じいちゃんか」

 

「せっかく死ぬほどの量の仕事を終わらせて応援に来てやったというのに、なんじゃいその言い方は!!」

 

頑張ってる孫の声援を、と思い駆けつけたのにそっけないルフィにガープは拳骨を振るった。ルフィはゴムなのに痛えと頭を抑える。

ガープの隣でボガードが息を荒くしてやれやれと呟いた。

 

「終わってないのに全部部下に押し付けたんでしょうが・・」

 

側近の彼の気苦労は凄まじいだろう。後処理は毎度彼の仕事だ。

ルフィとガープが話す傍で緑谷が目をダイヤモンドまで輝かせていた。

 

「ほ、本物だ!本当に日本に来てたんだ!ルフィくんのお爺さんなのは名前からなんとなくわかってたけど、日本で本物が見られるなんて!」

 

前々からルフィに尋ねたかったが、なんだか気恥ずかしくて聞けずじまいだったようだ。

その興奮した姿に峰田はそんなかよ、とツッコんだ。

 

「何言ってるんだ峰田くん!?この人は現代ヒーローの先駆け的存在で、敵の検挙数はギネス記録に載ってるんだよ!?ペトロポリス防衛戦やリオの不滅発言はあまりに有名なのに!!ああ・・後それから・・!!」

 

緑谷のオタクマシンガンが炸裂し、A組の皆はまたかと若干引き気味だ。

しかし、ガープは自分の武勇伝を語られ、いかにもご満悦な顔をしている。

 

「ほらみろ!じいちゃんはすごいんじゃぞ!ルフィ、ワシをもっと尊敬せんかい!!」

 

孫に一番慕われたいガープからするとルフィのガープに対する興味のなさには心にくるものがある。ここぞとばかりにアピールするガープだったが、ルフィの一番は何があってもオールナイトなので何の興味も示さない。

ルフィの素っ気なさにガープは萎びていると、ボガードはルフィに声をかけた。

 

「ルフィ君。コビーはどこなんだい?姿が見当たらないが」

 

「おれも知らんねぇんだ。多分会場にはいると思うんだけどさ」

 

昼休みの頃からコビーの様子がおかしかったことをルフィは話し、心配になって来たボガードが探しに行こうかと尋ねたがルフィはそれに頭を横に振った。

 

「大丈夫さ。あいつはつえぇから心配いらないよ!」

 

「そうじゃ。あやつの2ヶ月とはいえワシらと鍛えて来たんじゃ」

 

コビーのこれまでの頑張りにルフィとガープの信頼は厚い。余計なチャチャは不要だと言い切った。

 

 

 

第5試合から第7試合まで着々と進み、いよいよ一回戦最後の試合が始まろうとしていた。

 

『さぁ~この体育祭もいい感じに盛り上がってきたぜ!!次の試合はある意味このトーナメント1注目すべき試合かもしんねぇぞ!!』

 

『爆発の攻撃的個性を持つヒーロー科爆豪勝巳バーサス、まさかの無個性普通科コ~ビ~~~!!!』

 

両雄がリングに立つ。

コビーは試合が始まる時間には余裕を持って準備していたようだ。表情は固いものの程よい緊張感を持ったいい状態を整えている。

爆豪は大して興味なさげな目をしてコビーを見ていた。彼にとって一番つまらなくどうでもいい相手だったからだ。障害物でも普通に下位フィニッシュ、騎馬戦でも洗脳にかかりルフィのおこぼれでここにいるに過ぎないコビーに若干の腹ただしさを感じることはあっても決して好意的な感情は持たないだろう。

 

『第8試合スタート!!!』

 

開始の合図がアナウンズされ、先に攻撃を仕掛けたのは爆豪だった。とっとと試合を終わらせにかかる。

 

「無駄な抵抗する前にすぐ殺してやるよ!このクソ雑魚が!!」

 

両手を爆破して一気に加速した爆豪は右腕を大きく振り下ろした。完全に舐めきった攻撃だ。

その攻撃にコビーは冷静に対処する。

右足をわずかに引き、爆豪のフックがかった拳をスウェイバックで避ける。この無駄なく避ける動作に驚いた爆豪を余所にコビーは次の動作に入っていた。

大振りのパンチを避けられた爆豪の急所はガラ空きだ。コビーは爆豪の顎を蹴り抜く。

 

「がっ・・・!!」

 

『クリーーンヒット!!!これは強烈の蹴りだ!!もろに食らって爆豪も堪らず片膝をついたぞ!』

 

うおぅ、と観客がどよめく。彼らもこれまで活躍と個性の差で爆豪の圧勝と予想していただけに思わず身を乗り出した。

思わぬ攻撃を受け視界がぶれている爆豪だったが、追撃を仕掛けるコビーの攻撃を爆炎で退け一度距離をとった。

 

「クソが!!味な真似しやがって雑魚がよ・・!!」

 

才能至上主義の彼にとって一発もらったのがプライドを傷つけたのか怒り心頭だ。反対にコビーは普段の彼とは思えないほどの落ち着きようだった。両拳を軽く握り構える。

 

「すごい!あのカッちゃんにいきなり一発当てるなんて!」

 

「あいつ反射神経すげえからな」

 

「いや、今のも少しだけ芯は外してる。じゃねぇとコビーの蹴りは耐えられねえよ」

 

他の観客と同じく爆豪圧倒的有利と思っていた緑谷・切島たちA組たち。逆にコビーの実力を知っているルフィはあの体勢から蹴りをわずかに躱した爆豪を褒めた。

 

「コビーは散々対人訓練して来たからな。舐めてくるならぜってぇ負けねえ!」

 

ルフィの隣の拳藤も確かに、と思う節はあった。騎馬戦を組んでいた時握った手は意外とゴツゴツとしていて、腕も格闘家の筋肉のそれだったからだ。

 

コビーは一つ深呼吸をした。先制攻撃を決まり、相手の慢心も消え次からは本気の攻撃が来るだろうと思い、改めて身構える。

 

(爆豪くんは僕と違って間違いなく優れた人だ・・・でも単純な接近戦なら負けないぞ!今度は僕の番だ!僕が挑戦する番なんだ!!)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

時間は第一試合が終わった直後まで遡る。

競技場の階段の踊り場でコビーは試合が終わった後の心操に話しかけていた。心操は手すりにもたれかかり、緑谷に殴られた腹の痛みを感じていた。

 

「なんだよ古美・・・俺のことでも嘲笑いに来たのかよ」

 

騎馬戦の罪悪感もあってか、自嘲気味にコビーに心操は尋ねた。コビーは首を振り、そうじゃないと否定した。

 

「違うよ・・・ただ心操君と話したくて。心操君は・・なんでヒーロー科を目指すの?」

 

「なんだそれ?そんなのお前と同じようなもんだよ」

 

「憧れた・・から?」

 

「ああ」

 

言葉が詰まりながらコビーは質問する。その彼に何が聞きたいのかと心操は訝しんだ。

 

「すごいよ・・心操君は。何を切り捨ててでも目標に向かっていく姿が。僕はわかってたよ。君がどんなに憎まれ口を使っていてもそれが全部勝つためにやって来たことだって!」

 

「・・・だからなんだよ・・・お前にそれが関係あんのか」

 

心操はその個性から他人と壁をつける癖があったため、本当の意味で友と呼べる相手に恵まれなかった。だから自分の秘めた思いを突っつかれるのは余計に面白くない。

 

「僕にはその覚悟が・・みんなを引きずり下ろしてでも勝ち上がる覚悟がなかった。君のように、みんなのように傷つくプライドすらなかった!」

 

これまでコビーは自分自身の力で勝ち上がった実感はなかった。障害物では体力だけは自信があったが最後の通過ラインを超えられたのはルフィが起こした爆発の混乱に乗じてドサクサに紛れられただけ、騎馬戦に至っては何もしていない。ほぼルフィのおかげで残っているだけだと彼は思っている。

拳藤のようにプライドが許さなくて辞退する姿を見て、自分に恥ずかしさと罪悪感を感じていた。だから嘲笑には一番堪えていた。

しかしだからこそ、心操の心の強さには胸を打たれた。同じ普通科の彼には特に。

 

「・・・・ごめん。すごく僕ごとの話で」

 

「勇気をもらったんだ!そ、それだけなんだ!・・・試合後すぐなのに・・ごめん」

 

一方的な話をして気恥ずかしさを感じ、コビーは踵を返して走り去ろうとした。心操は目を合わせずに口を開いた。

 

「なんだそれ。お前はただヒーローを目指しているだけだろ。俺みたいに悪態つく必要もないし、汚いことする必要もないぞ」

 

「勇気をもらったっていうけど、俺も同じクラスに同じ考えのやつがいて俺もだいぶ励まされたけどな」

 

うつむき気味に言葉にした心操の表情は読めなかった。

彼の性格上そこにあまり突っ込むと野暮だと思いコビーはありがとう、と晴れやかに返し止めた足をまた動かした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

再び場面は第8試合の様相に移る。

 

(なんとしてでも僕は勝つ!ルフィ君と同じく拳藤さんと、そして心操君の重みも僕には乗っているんだ!)

 

もうコビーには雑音は一切聞こえなくなった。目の前にある勝利にただただ集中している。

コビーのスタンスはカウンター型にシフトしている。

基本的な身体能力は断然爆豪が上。それに個性がかなり厄介だ。ただ攻撃力だけではなく、機動性も兼ね備える。コビーから攻撃を仕掛けても変則的な動きで回避されるのは目に見えていた。なので狙いはカウンター。

ボガードとそれこそ死ぬほどやってきた得意技だ。コビーはこの2ヶ月間回避能力と迎撃能力に特化してきた。これを活かせれば爆豪にも勝てる自信はコビーにはあった。

 

「なめんな!!」

 

爆豪は再び加速させてコビーを再び強襲する。

彼もコビーがカウンター狙いなのは当然理解している。それでも止まらない。相手の土俵で捩じ伏せることが強さの証明だからだ。

 

(このカスの自信満々の顔を歪ませてやる!こんな相手捩じ伏せれねぇで「あいつ」に勝てるかよ!)

 

真っ正面から向かってくる爆豪にコビーは隙を突くようにカウンターを合わせるが、咄嗟に放たれた爆炎に目がくらむ。

完全に視界から爆豪の姿を失うが、ここで考えられるのは死角からの攻撃。前方にはすでに爆豪はいないと瞬時に判断し、前転をして回避する。その時コビーの後頭部のすぐ後ろの空が切られる。

コビーは回避と同時に距離をとる。しかし爆豪は余裕をもたせてくれはしない。

 

「吹き飛べ!!燃焼する砲弾<バーンバズーカ>!!

 

突き出した両手から指向性の爆炎がコビーを襲う。

 

「くっ・・・!!」

 

「カウンターやれんならやってみろ!!」

 

なんとか横っ飛びで回避するも、拳を上げる暇なく爆豪の拳と爆炎の攻撃がコンビネーションを含みながら襲ってくる。

コビーは想定していた以上の速さに息を巻いた。ただでさえカウンター攻撃は対人格闘に置いて高等技術に分類される。カウンターを合わせるのは至難の技だ。

 

最初の攻防ではコビーが制したが、それ以降は爆豪の一方的な展開だ。しかしなんとか爆豪の攻撃を避け、直撃をもらわないコビーに競技場はどんどんとヒートアップしてくる。観客の目は無個性が勝ち上がる、ジャイアントキリングを期待する目に変わっていく。

しかし持久戦になればなるほど爆豪の有利になってくる。彼の爆炎は時間の経過とともに大きくなる。

 

「そろそろ終わり時だ!!」

 

爆豪は今までよりもひと回り大きい爆炎を発した。体全体を飲み込める規模の爆炎はコビーの右腕を焼いた。

 

「ぐうう・・・!!?」

 

腕を焼かれたコビーを見てオオウ、と悲鳴と驚嘆に似た声を観衆が上げる。

腕を握り悶えるコビーに爆豪は追撃の拳を振るい上げた。バギャッと骨が軋む音を鳴らしコビーの顔は弾ける。

しかし顔を弾かせながらも下半身はしっかり踏ん張って残しているコビーを見て爆豪はさらに左拳を撃ち落とす。

 

(モーションが大きい!!)

 

その瞬間、コビーは悲鳴をあげる体を引っ張り起こし拳を振り上げた。もらいながらも誘い込んだのだ。

その拳は爆豪の拳とクロスする。フック気味の爆豪のスイングに対し、ストレート気味のコビーのスイング。どちらが早く相手の顔面を捉えるか。当然・・コビーだ。

 

<ドゴォオッ!!!>

 

コビーのカウンターが爆豪の顔面に炸裂した。

 

(決まった!!改心の一撃だ!!)

(このチャンス・・・逃すかぁ!!)

 

振り上げた腕を引き戻し、ここで一気にケリをコビーは決めようとした。しかし引き戻そうとした腕が戻ってこない。

 

「バカが・・・テメェの考えなんざハナからわかってんだ」

 

「!?」

 

カウンターを食らった爆豪がギロリと睨みつけ、コビーの腕を掴みとっていた。

 

「来るとわかってたら耐えるなんざワケねぇよ!てめえのパンチなんてなぁ!!」

 

(しま・・・爆豪くんの一番の特徴はタフネ・・!!)

 

「死ね!!!」

 

爆豪はコビーの右腕を引き寄せて0距離での爆破を食らわせる。大玉の花火が破裂したような音が競技場の壁に反響した。

あまりに凶悪な音にそれを聞いた者は顔を青ざめる。

 

「テメェみたいな「無個性の奴」は諦めが悪いからな。息の根をとめるぐらいに思わねぇとな」

 

『コビーダウーーーン!!』

 

コビーは両膝をつけ前のめりにうなだれる。この姿を見てミッドナイトがまずいと判断したのか、リングに下りコビーに駆けよろうとする。しかし・・・

 

「だからこんなもんじゃ、終わらねえよなオイ!」

 

コビーは上半身を起き上がらせ、ミッドナイトに続行の手を挙げる。

 

「・・・ま、まだ続けられます!」DON!

 

よろよろとコビーは腰をあげ、続行の意思を示すファイティングポーズを構える。だが、審判のミッドナイトからしてこれは続行していいものか判断を迷わせた。

 

(すでに腕と腹を焼かれているのよ・・・これ以上続けても・・・)

 

どうするのか、という視線をミッドナイトは実況室にチラリと向ける。

 

(今年の一年はどうしてこう、執念深い奴が多いのか・・・緑谷といい普通あそこまでやられりゃ戦意を失うものだが)

(これは授業の一環だ。後に何が残るかがこの体育祭の意義の一つにある。果たしてここで止めて、この二人に何が残るか。)

 

相沢の考えは続行。しかし現場の判断に任すと最終的な判決はミッドナイトは委ねた。

子供の対処に慎重になるミッドナイトはコビーの目を覗き込む。

 

(・・僕はまだやれるぞ!まだ出し切っちゃいない!)

 

コビーの目の色は戦いの意思をはっきりと主張している。この気迫にミッドナイトは腕を振り上げ・・・

続行の宣言<コール>。

そのコールに観客はざわつく。

 

「これ以上続けるのか!?彼の肉体は限界だろう!!」

 

「限界なんかじゃねえ!コビーはまだ負けてねぇ!!」

 

飯田のように皆の意見はストップだが、ルフィはまだやれると声を荒げる。

さすがに爆豪もここからは手加減するだろうと誰かが言ったが、爆豪の幼馴染の緑谷はそれはないとキッパリと断言した。

 

「カッちゃんは向かって来る相手は完膚なく倒して来るよ」

「そういう手抜きはしないから」

 

それを聞いて皆が心配そうな顔をリングに向けた。

実際のところコビーの体は限界に近い。それでも彼の戦意が尽きることはなかった。

 

「勝ぁつ!!」

 

コビーは軋む体の痛みを歯を食いしばり耐え、愚直に爆豪に向かって行った。しかしこれまでの間にダメージを回復した爆豪にそんな突貫攻撃は通用されるわけもなく、迎撃の爆破を受ける。

二度、三度、四度・・・無情な爆発音が鳴り響く。

 

衣服は破られ、痛ましい上半身が露わとなっていた。しかしコビーの意識はかすかに残っている。しかし立っているだけで精一杯な様子が遠目に見ても分かる。

 

「おい・・・いい加減止めてやれよ。勝敗はもう決まってるじゃねえか」

「大分くそだぞ・・・」

 

「せめて手加減してやれよ!!実力差はもうわかりきってるだろ!」

 

この光景に観客はブーイングを飛ばす。

しかしこれを遮ったのはルフィだった。

 

「ウルセェーーーーーーー!!!手加減したらおれがぶっ飛ばす!!」

「外野は黙ってろ!!」

 

ルフィは髪を逆立てて怒鳴り声をあげた。

そのルフィは最前列の手すりを掴んで興奮した様子だった。なんなら彼が一番止めに入りそうな様子だが、歯を食いしばり耐えていた。

 

「コビーが根性見せてんだ!おれたちがとやかく邪魔したらダメだ!」

 

「そうだ!コビーやってやれーー!」

 

拳藤も一緒になって声援を送った。

緑谷も相手が同じクラスの手前、コビーに声援を送ることはしなかったもののコビーに「自前」の個性を持っていなかった自分を重ねていた。

個性に恵まれなかった自分が果たして爆豪にあそこまで戦えていただろうか。泣き虫な緑谷はコビーに感情移入をして涙をためていた。

 

体をふらつかせながらコビーは思う。

 

「・・・まだ返しきれていない・・ぞ。・・ヒーロー科をまた目指そうと勇気付けて・・くれたルフィ君に・・。快く・・鍛えてくれたガープさん・・とボガードさん。・・・僕に託してくれた・・拳藤さん・・・勇気を・・与えてくれた心操君に感謝を・・・そして覚悟を・・」

 

「僕はヒーローになる!!」

 

半分意識が朦朧として思っていることを口に出していた。

その言葉を聞き、爆豪は次の一撃で終わらせようと拳を握る。

 

「そういうの、とことんあいつに似てやがんな」

「認めてやるよ。テメェは「やる」奴だったぜ。コビー!!」

 

 

 

かすかに見えた爆豪がこちらに向かって来ているところでコビーの記憶は途切れた。

 

 



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本気でヒーローを目指すなら

『手加減一切なし!!強烈な一撃で試合を終わらせたーーー!』

 

爆豪の一撃が決まった瞬間にミッドナイトが試合を終わらせた。それと同時に担架を声を荒げて呼んでいる。

観客はこの試合の決着に疑問を残し、釈然としない空気が流れる。善戦はしたものの、試合の後半は一方的な展開ですぐに試合を止めるべきだったからだ。

批難の眼差しがリングから引き上げようとしている爆豪にも向かれる。試合を止められていない以上爆豪が非難されるのはお門違いだが、演者に矛先が向けられてしまうのは仕方がないだろう。

 

「!?」

 

爆豪は舌打ちしてリングを後にしよう歩を進めるが自分の足を掴む感触に後ろを振り向き、その時に足早にリングに駆け上がっていた医療班も彼と同じく驚愕の顔をあげた。

 

「・・・ヒーローに・・なる・・・みんなを助け・・られ・・るヒーローに・・」

 

爆豪の足を掴んでいたのは目が虚ろで意識がないであろうコビーだった。力なく這い蹲りながらも手だけが爆豪の足を掴んで離さない。凄まじい執念だと感じざるを得ない。その光景に競技場内の全員が絶句した。

 

(悔恨を残すよりも出し尽くさせた方がいいと思ったが・・・ここまで入れ込めるのも一種の才能だな。目的のためなら自己犠牲も全く厭わないタイプ)

(メンタル的に言えば、ヒーローの資質を十分に持っている・・・残酷なまでにな)

 

相沢はコビーが無個性であることに残念だとただただ感じていた。彼に個性さえあれば誰にも劣らない最高のヒーローになり得たと思えたからだ。

医療班とともにコビーに駆け寄ったミッドナイトはこの状態を危険と判断し、自らの個性のフェロモンでコビーを強制的に眠らせる。足を掴んでいたコビーの手は力が抜けパタリと地に落ち、完全に沈黙した彼を医療班は慎重に素早く担架に乗せ持ち運んだ。

担架の上に乗せられた彼の体の大部分を覆う火傷と爆豪の爆発により大きく抉れたリングはまさにこの試合がどれだけ凄惨だったか物語っている。そんな空気感を一掃する意味も含めてか、この試合の後は長い休息時間が設けられた。

 

(すごい試合だった。僕もヒーローになるために頑張ってきたつもりだった。でも頑張ってこれたのはオールマイトの存在とワンフォーオールの力があったことが大きかったから。)

(僕が未だに無個性だったら絶対にあそこまでやれていない。)

 

(オールマイトは僕に次世代の平和の象徴になってほしいと言ってくれた。なら彼以上の意志を、覚悟を持っていなくちゃワンフォーオールを持つ資格なんて僕にはないぞ!)

 

次戦の二回戦第一試合の準備のため席を立った緑谷は廊下を歩きながら一人ごちる。彼は誰にも言えない秘密に責任感を感じていた。

うつむき気味に歩く緑谷に、探していたとばかりに大男が彼に声をかけてくる。

 

「おお・・いたいた。緑谷くん・・・だね?」

 

緑谷は声をかけられ顔を上げた瞬間、驚き顔を引きつらせた。

 

「エ、エンデヴァー!!??なんでここに・・!?」

 

声をかけてきた男はエンデヴァーだった。相変わらず不遜な雰囲気を纏っている。その雰囲気に緑谷も思わず身構えてしまう。

 

「君の個性見せてもらった。大地を震わせるほどの力の波動と衝撃波。素晴らしい個性だ。」

「まるでオールマイトを見ているようだった。」

 

エンデヴァーの言葉に緑谷はギクリと胸を打つ。

 

「知っていると思うが、君と対戦する焦凍はうちの息子でな。あれにはオールマイトを超える義務を課している。」

「そこで君との試合は有益なテストベッドになると思ってな。」

 

「!!」

 

「くれぐれもみっともない試合をしないでもらいたい。」

 

エンデヴァーの言葉に緑谷はトーナメント前の轟の言葉がフラッシュバックする。轟の炎を使わず母の力だけで勝ち上がるという言葉を。

 

「僕はオールマイトではないです。そして彼もあなたじゃない!」

 

緑谷は轟を自分の駒かのような口ぶりを実際にエンデヴァーの口から聞いて憤りを感じ、彼らしくない荒げた声をあげた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

医務室では、「治癒」の個性を持つちよ婆ことリカバリーガールにより傷ついていたコビーは回復していた。しかし回復の引き換えに体力を失ってしまう個性のためコビーは意識が戻ったものの酷い倦怠感を感じている。

コビーが意識が戻った時にはガープとボガードの二人が彼に看取っていた。

 

「すいません・・・鍛えてもらったのに、大した活躍もできずに・・」

 

治癒の反動で重い体を無理に起き上がらせ、申し訳ない顔でコビーは謝罪する。しかしあれほどの執念を見せられて咎める人間などいるはずがない。人とは感性がズレがちなガープも当然そうだった。ガープとボガード共に労いの言葉をかける。

ルフィも先ほどまでコビーを看ていたが、試合に控えなければいけないためもうココにはいなかった。今は二回戦の第一試合が始まっている模様で、その激しい攻防戦が起こす音や衝撃が医務室まで聞こえてくる。

 

「どうじゃったか?実際戦ってみての感想は?」

 

「・・・正直終わってみると・・僕が勝てるチャンスはなかったな、と思いました。唯一勝てる可能性のあった格闘戦でも完敗でしたし」

「やっぱり個性があるとないとじゃ埋められない壁があると感じました」

 

ガープの質問にコビーは素直に答える。彼はこの体育祭で改めて無個性のハンデがどれだけ大きいか感じ取っていた。その言葉からは目指してきたヒーローへの諦めを含ませ、顔を上げていなかったため見えないが目に涙を貯めているのは容易にわかるほど声は震えていた。

この2ヶ月間短い間ではあったが極限といってもいいほどに鍛錬を重ねてきた。その鍛錬はこれまで並以下の運動能力だったコビーを大きく飛躍させるものだった。しかし何事もやり始めはノビるもの。すぐに頭打ちになることは容易に想像がくる。おそらくコビーはその予測が立ってしまったのだ。どんなに鍛えても個性を持つヒーローの域には自分が到達できないと。

 

「ヒーローへの道は諦めるか?」

 

ガープの問いにコビーは答えることができない。そう簡単に結論を出せるわけがなかった。掛けられていた毛布を握りしめて体を震わせていた。

 

「わしはそうは思わんがな」

 

「え?」

 

普段から歯に衣着せぬガープが言った言葉に思わず顔を上げた。

 

「確かに今はまだまだ未熟じゃ。とてもじゃないが大概のやつはヒーローになんて勧めん。それに聞いた話じゃ日本はどうもヒーローに対する縛りが多い。無個性というだけで資格を持たせないじゃろうな」

 

「だがワシはそうは思わん。無個性だろうが関係ないと思っとる。」

「正義と強さを持った心があれば誰だってヒーローになる資格があると思っておるからじゃ。そしてコビー、お前はそれを確かに持っとる。そうじゃないと、ワシとボガードがわざわざお前を鍛える真似なんかするわけじゃろ」

 

ガープが柄にもなく熱弁を振るう。そして話の終着点は意外なところへと着地した。

 

「今、ブラジル政府の方からワシに帰還しろとの話がきておる。なんでもワシらの事務所がいなくなったことで拠点にしていたサンパウロで再び悪の火種が大きくなっているそうじゃ」

「情けない話じゃが、あの国はそういう国じゃ。いくらヒーローがいても足らんのが現状。反対に日本は厳しい振るいを掛けられる程度にはヒーローは足りている国じゃ」

 

ガープは導くように手をコビーに差し伸ばす。

 

「コビー!お前が本気でヒーローを目指すならば!ワシとともにブラジルに来い!」

「無個性のお前がヒーローになるには他を圧倒する経験と技術を身につけるしかないわい!その点でいえばこの国は最高の環境じゃ」

 

この想像の斜めをいく言葉にコビーは圧倒される。まさか自分がガープに誘われるとは。まさしくこれはスカウトに相違ない。この唐突さにコビーの頭はついていけなかった。

ガープの後ろにいるボガードはこれに賛成とも反対ともとれない我関せずな様子で腕を組んでいた。ガープとコビー二人の意思に任せる姿勢のようだ。

 

「・・・き、急にそんなこと言われても・・」

 

「今すぐ答えろとは言わん。祖国を離れることは簡単ではない上に、親御さんのこともあるからの。ワシらもまだ日本に残っとる仕事がある。数日考えて答えは出せばええわ」

 

世界でも知られる有数の事務所に誘われるなんて本来なら夢のようなことであり、ヒーローを志す者だったら誰だって二つ返事で首を縦に振るだろう。しかし先ほど挫折を味わったコビーが簡単に返答できることではなかった。

ガープとボガードはコビーに今は体を休めろと言ったあと医務室を後にした。一人になったコビーは突飛な話に元々の倦怠感も合わせドッと疲れがきたのか、大の字になって仰向けに倒れこんだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

所変わってリング上は凄まじい光景だった。

二回戦第一試合、緑谷VS轟。

 

方や己の個性の氷が体を半分覆っていながらもほぼ無傷である轟。方や腕と指がぐちゃぐちゃに骨折している緑谷。端から見ればどちらが優勢かは言うまでもないが、この試合に限っては様子が違った。

緑谷の壊れた腕は轟の攻撃ではない。自身の個性による自損。彼のリスキー大のバキバキ個性によるものだった。

 

(制御はできつつある。大会前より自分が制御できる範囲内の力を意図的に使えている。一回戦の現象がきっかけだろうが・・・轟少年相手ではそれでは通用しないか)

 

オールマイトは一回戦同様、緑谷を心配そうに観戦していた。

 

「手加減して一番になる?ふざけるな!みんなヒーローに・・・トップになるためにやっているんだ!」

「どんなに個性に恵まれなくたって、どんなに自分の限界を理解していたってそれのために全力で懸けているだ!」

 

緑谷は心操・コビーを思い出し、潰れた手を握り叫んだ。

 

「まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!」

「全力で来い!」

 

轟は自分の境遇と目的を知ってなお左側の熱を使わせようとする緑谷に激昂する。戦闘には使わないと宣言した力、憎むべき父親の個性である力は彼自身忌んでいるものだ。

緑谷の言葉など知るかとばかりに氷結を使って轟は攻撃を仕掛ける。この試合で幾度となく見せた足元から伝う氷柱攻撃だ。緑谷は自損覚悟の攻撃を使い、またもや氷結を退けた。指を弾かせた衝撃だというのに凄まじい威力を放つ。

 

「なら・・近寄って直接凍らせてやる!」

 

手が潰れることになんら躊躇いがない緑谷に埒があかないと轟は前傾姿勢で緑谷へ詰め寄る。

しかし氷結の個性の反動か、彼の動きは鈍重だ。いつものキレがない。

 

(遅い!!)

 

緑谷は鈍い轟にカウンターを合わせ顔面を捉えた。

先ほどまでの凄まじい力ではなかったが、並以上の拳で轟の顔は弾かれ数メートル後方へ吹き飛んだ。

 

(・・ぐ・・こ、こいつ狙いやがったな)

 

顎など急所は免れたものの顔面を殴られかなりのダメージを轟は負った。それと同時に轟は普段の緑谷からは想像できないほどの意志の固さを感じ取った。

 

「僕もわかったのはさっきだけど・・優れた力を持つ人にはそれ相応の「責任」があると思っている。それがヒーローを目指す人ならなおさらだ」

「君も見たはずだ。僕は「さっきの試合」を見てその責任をすごく・・・すごく感じた」

 

「・・だからどうした!そんな責任俺の知ったことか!」

 

「君の力だろ!誰のものでもない君の力だ!」

「血とか!親とか!そんなの関係ない!」

 

「!?」

 

轟は幼き頃、ただ純粋にヒーローに憧れた。いつでも微笑み皆を笑顔にしてきたオールマイトに憧れた。しかし母の豹変と父への憎悪が彼を狂わせた。意図的に、そして母から望まれていなかった自分に流れる血が憎くて仕方がなかった。母が壊れた時、いつの間にか轟の目的は父への復讐に変わっていた。

ふと轟の頭に幼き頃母がまだ自分に愛情が注がれていた時の言葉がよぎる。

 

<血に囚われることなんかない、なりたい自分になっていいんだよ>

 

その言葉を思い出し、轟は大きく揺らぐ。

轟もコビーと爆豪の試合を見ている。方や無個性で自分と同様に血を恨んでもおかしくないコビー、そして才能は恵まれコビーに対し全力で応えた爆豪。その戦いには一切の不平や妥協がなかった。純粋にヒーローを目指す姿。まさに幼き頃の轟のようにヒーローに憧れ、目指す姿だった。

 

「僕は恵まれたと思ってる。・・・だからこそ期待に応えたい!なりたいんだかっこいいヒーローに!」

 

まっすぐ向けられた緑谷の目を轟はそらすことができなかった。

 

「・・・・・・・・ちくしょう、俺だってヒーローに・・・かっこいいヒーローに・・・くそ・・」

 

轟は俯き、小さな声で捻り出した。幼き頃に固めた決心が彼を覆う氷のように溶けていく。

左半身から炎を吹き出して。

 

「・・すごい」

 

轟が出した炎はアクセルをベタ踏みしているかのように唸りを上げる。それが発する熱は観客席まで届く。

戦闘では使わないと宣言した炎の解放にA組の数名は驚く。またこれまで意固地になっていた轟にエンデヴァーは歓喜の声をあげた。ようやく理解したかと。

 

「・・俺も責任を果たす。俺の「力」の全力を持ってな!」

 

「僕も負ける気はない!!」

 

リング上の両雄がフルパワーを捻り出す。轟は半冷半燃二つの力を同時に、緑谷は体全身をフルパワーに。

 

今までの試合とは比にならないほどの力の衝突に、ミッドナイト・セメントスが今度ばかりはと止めに入る。セメントスは両者の間に壁を。ミッドナイトはフェロモンを。

 

緑谷と轟の真っ向からのぶつかった衝撃は凄まじい破壊音を鳴らし、競技場を揺らした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「報告します!昨日テネリフェ島の密輸ルートは赤髪の一団によって潰されたことが判明しました!」

 

「・・・奴らは今どこだ?」

 

「ハ!そのまま島に残り、休息をとっているようです!」

 

この報告が行われているのは煌びやかな装飾で埋め尽くす王の間。その部屋の窓から見えるのは情熱の国、スペインの首都マドリッド。

 

「フッフッフッフッフ・・こうも堂々と島の観光をされるとは肝の座った厄介な奴らだ」

「あの島は兵隊を含み何千と戦力がいたんだがな。おいそれと戦力をつぎ込むことも憚れる強さ・・フッフッフッフ」

 

「だが、どうする?あそこはアフリカと繋ぐ重要な要地。手放すわけにはいかないぞ」

「ドフィ!」

 

3メートルを超える大柄な男が玉座に座るラテン的な派手な身なりの男に問いかける。

 

「まぁ待て、所詮はヴィジランテ。犯罪者を相手にしてるんだ。やりようは無数にある」DON!

 

玉座に座る男はドンキホーテ・ドフラミンゴ。正統な血筋を持つ現スペイン国王にして、世界の武器販売ルートを牛耳る裏の王、通称ジョーカー。

彼が持つアフリカへの密輸ルートであるアフリカ北西沖にあるテネリフェ島(スペイン国内)に据えている裏の密輸組織が世界最強の一つに数えられるヴィジランテの一団「赤髪」に潰されていた。

 

 

 

「お前ら何浜辺でTVなんかの前にたむろってんだ?」

 

件の赤髪、その頭たるシャンクスという男がせっかく観光地で有名なテネリフェ島のビーチでTVの前に釘付けになる団員たちに問いかける。ドフラミンゴが言っていたように「赤髪」の一団は堂々と寛いでいた。

 

「前にエースにたまたま会った時、ルフィが日本のヒーロー学校に行ったって言ってただろ?」

「ちょうど今その高校内の大会がTV中継されてんだよ」

 

「へー日本の高校の大会がこんなとこまで放送されてんだな」

 

「学生のイベントとしては相当でかい規模でやってるらしいぜ。実際ここの高校はかなり有名らしいしな。確かOBにオールマイトなんかもいたはずだ」

 

「ほーオールマイトか。じゃあルフィは目標に着々と進んでるってわけか」

 

赤髪もニカッと笑い皆と同じようにTVの前に腰をかけた。

団員たちは学生たちのレベルの高さに感嘆の声を上げる。特に氷と炎を使う男子と超パワーを持つ男子の試合には興奮気味だ。惜しくも敗れたそばかすの少年にあっぱれと一様に拍手と口笛を鳴らした。だいぶ酒が回っている様子だ。その中で赤髪は一人感傷に浸っていた。

 

(もうあの時から10年近く経つか。約束の時が来ることを待ってるぞ。・・・この麦わら帽子を持ってな)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第一試合は初めてフルパワーを解放した轟に軍配が上がった。緑谷との差は攻撃の射程の差だった。

派手な試合展開に観客は興奮しっぱなしだ。しかし雄英側としてはそう浮かれられない試合内容が続いている。

確かに今年の一年のモチベーションの高さとレベルの高さは感心するものがあるが、今までにないほどに重傷者も多い。学生の試合としてはどうなんだという疑問も出るのは致し方ないだろう。

だが相沢は校長だけはこの展開をほくそ笑んでいるだろうと考えていた。校長が考える巨悪に対抗できる逸材たちが凌ぎを削っているのだから。

そして次戦はその中心になりうる生徒、ルフィの出番だ。

 

「・・・・うっし!おれもみんなに負けてらんねぇ!!」

 

コビーの勇姿、緑谷・轟の熱い戦いを見て血をルフィは滾らす。

 

 

 

『二回戦、第二試合・・・開始!!!』

 

 







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吹っ切れた強さ

だいぶお久しぶりです。(汗)
仕事やらなんやらで、なかなか更新もできませんでした。
感想の方でもメッセくれていた方々にも、すごく申し訳ない気持ち。

今回の話は前後半ある形なんで、後半は早めにアップしたいと思います。


「あ!!デクくん治ったんだ!」

 

「安静にしてなくて大丈夫だったのかい?いくらリカバリーガールに治してもらったとはいえ」

 

「ちょっとしんどいけど、大丈夫。僕もこの戦いは絶対見ておきたいし」

「轟くん対ルフィくんの試合は!」

 

轟と緑谷の試合が終わった後の二回戦第二試合ルフィ対鉄哲の試合は、鉄哲の耐久力勝負となった。

ルフィの突出した回転数を誇る連打にただただ防御に徹する鉄哲は隙をみてカウンターに合わせるしかなかった。普通だったら肉弾戦では鉄哲はその個性ゆえ無類の強さを誇る。しかしゴムであるルフィの拳は彼の体を殴りつけても痛めることはなく、仮に鉄哲の拳がルフィを捉えてもダメージを与えることは難しいだろう。案の定ルフィの攻勢一方だったが、鉄哲も彼の熱に当てられたのだろうか。折れない。硬い体ではない、硬い心がだ。鉄哲の足は地に根付かせているように踏ん張り粘っていた。それに応えるかのようにルフィも鉄哲を場外に放り投げる行為はしなかった。

しかしついには鉄哲は折れることになる。何分ものルフィの攻撃の末、硬化が綻びた腹部に強烈な一撃をもらい悶絶して地に伏せた。結果的にはルフィの圧倒的勝利ではあったが、猛攻に耐えた鉄哲に賞賛の拍手が集まった。

 

続く第3試合は、八百万の完封勝ちで終わった。最強個性の一つに数えられる「電気」の個性を持つ上鳴であったが、八百万の個性「創造」が生み出した電気を通さない絶縁体生地の前に為すすべなく、なおかつ多様な攻撃を仕掛ける彼女に対応できなかったからだ。

「勝てばヤオモモが俺に惚れる展開もあったのに」上鳴の思惑は真逆の展開となってしまった。うん、これで良かったのだ。

 

二回戦最終試合、飯田対爆豪の試合は互角の展開を繰り広げた。

単純な機動力は飯田が勝るが、直線的な動きの彼に対し爆豪は爆破を使った変則的な動きで対応する。爆豪の変則的だがリズム感を感じさせる動きは一目にすぐにその戦闘センスがわかる。試合が長引くほどに徐々に爆豪が飯田を捉えていった。

しかし展開は一瞬で逆転する。飯田が爆豪から一旦距離をとったかと思えば、文字通り一瞬、目にも止まらない爆発的な加速で爆豪を蹴り上げたからだ。

初見な上に強烈なその攻撃にタフな爆豪もわずかに気を遠のり、超加速した飯田は爆豪を場外へ放り込むよう爆豪を抱え込んだ。飯田の個性を体現する脚にあるマフラーは唸りを上げたと思えば、エンストしたかのようにプスンとか細い音へと変化する。おそらくエンストする代わり無理やり自分のキャパ以上の速度を出すことができるようだ。飯田もまた個性の練度を高めていた一人。

観客席から見ても目で追うのが精一杯の速度だ。目の前で体感すれば反応することさえ難しいだろう。しかし先ほどのコビーとの格闘戦でもその反射神経とタフネスを見せた爆豪、いくら速くても直線的な攻撃を簡単にもらわなかった。自分を抱え場外へ放り投げようとしている飯田の足を爆豪は爆発で跳ね上げ転ばせ、素早くマウント状態にひっくり返した。

そこからはすぐに決着がついた。

マウントから爆豪から逃れられる術が飯田にはなかったからだ。飯田の性格上、無駄に粘ることはせず潔く降参の言葉を吐いたのだった。

 

これで轟・ルフィ・八百万・爆豪と雄英体育祭四強が揃った。そして準決勝第一試合轟対ルフィの今大会最注目のカードが始まろうとしている。

 

 

「焦凍、わかっているな?二回戦同様炎を使え!それさえすればお前は無敵だ!」

 

またもやエンデヴァーは轟を入場前に捕まえ口出ししていた。しかし轟に前ほどエンデヴァーを露骨に邪険にする様子はなかった。緑谷との試合の後、憑き物が落ちた顔をしていた彼に以前のような憎しみだけを原動力にしていた激情は感じない。ただ純粋にトップを獲る、そのことに集中している顔だ。

 

「別に・・あんたの言うことを聞くわけじゃない。俺が奴に勝つためにはコレが必要だから使うまでだ」

「俺にあんたの私怨や目的なんか関係ない。俺は俺がトップヒーローになるために戦う。いい加減俺に自分の影を重ねるのはやめてくれ」

 

「何?」

 

「俺はオールマイトを超えたいんじゃない。オールマイトのようなヒーローに成りたいんだ」

 

選手二人が入場するとこの日一番の歓声が巻き起こる。当然だ。二人の実力はこれまでで十二分に観客もわかっている。そして間違いなく次世代を象徴するトップヒーローになるだろう、と皆ロマンを胸に膨らませていた。そのうちのヒーローも彼らのチェックに余念はない。

ルフィはもうアフロは外している。先ほどのお祭り状態からマジモードへスイッチを切り替えているからだ。そのためかリング上は緊迫感に包まれる。この雰囲気を作り出したのは間違いなくコビーと緑谷だろう。この二人はトーナメント選手全員に衝撃を与えた。ルフィと轟も例外ではない。

 

『さぁ!!ついに準決勝!今年のトーナメントはなんとも衝撃的で濃密な試合だったが、ついにこの試合含め3試合となった!そしてこの試合は何と言ってもいろんな意味で注目のカードだ!』

 

プレゼントマイクはいつもより何割か増しで実況に熱が入る。

 

『方や日本が誇るトップヒーローの一人エンデヴァーの息子!轟焦凍!そして方やブラジルが誇るワールドクラスヒーロー拳骨のガープの孫!モンキー・D・ルフィ!!』

『サラブレッド同士の対決!このワクワク感は感じるのは俺だけじゃねぇだろ~!!!!』SAY YEAH!!!

 

プレゼントマイクの煽りに観客席もつられて声をあげて応援する。

リング上の轟は屈伸して準備運動しているルフィを一点に見つめている。

 

『それじゃあいい加減スタートといこうか!!』

 

『準決勝第一試合・・・・・・開始!!!!!!!!』

 

長々としていた前置きが終わり、開始の火蓋が切られる。

 

(俺はこれまで親父の個性のせいでお母さんから存在を否定されていたように感じていたが、そうじゃないかもしれない)

(まだ・・・このわだかまりが絆されたわけじゃない。・・・ただ・・)

 

「うおおりゃあああ!!」

 

これまでと同じ光景、ルフィが真っ向から攻撃を仕掛ける。これまでのルフィの性格上から予測できる動きに轟がどう対応するのかに密かに注目が集まる。果たしく「どちら」を選ぶのか。

 

轟はルフィの迎撃に背の高い氷壁を押し上げる。その氷壁は両者の視界を防ぐほどには十分な規模だ。ルフィの前進を拒む。

 

(これまで通りの氷結・・・吹っ切れたように感じたが、これは・・)

 

(失策だ!!)

 

轟を生徒に受け持つ相沢とオールマイトはこの轟の初手に苦言を呈す。スピードが己より上回る相手に死角を与えることは一対一の戦いにおいて最も危険、そして愚策だ。その基礎通りにルフィは楽々と氷壁を躱し、轟の死角から攻撃を加えようと拳を固める。ルフィの攻撃は硬化した鉄哲をも粉砕する威力、死角からもろに食らえば耐えることは至難だ。ーーーーしかし轟の真の狙いはルフィが自分の死角に呼び込むことにある。

 

ただ漠然と起こしたように思われた氷結には罠を仕掛けたであったのだ。わずかに、ほんのわずかに避けやすい様に氷壁の左側を逃れやすい様に調整し、相対する勘の鋭いルフィが気づく程度の隙を作りルフィの動きを誘導。

 

(こいつの戦闘センスの高さは群を抜いてる。癪だが、格上を相手取る戦術で搦めとる他ねぇ!!)

 

単純に相対しては分が悪いと判断した轟は冷静に慎重にこの試合の組み立てを画策する。一気に勝利を呼び込むために。

誘導するために空けた隙のある氷結を何重にも視界の端にいるルフィに無様に畳み掛ける。闇雲にも見える轟の攻撃は当たりはしないもののルフィの突撃を少し阻む。何度も連続して同じ数式問題を解かせる様に、パターンを確信させる。

 

「当たんねーよ!こんな攻撃!」

 

ルフィは何度も阻む氷壁の隙を合間を縫い確実に轟に接近する。そして氷壁に一切の怖さがないと確信する。これを突破すれば自分の土俵に持ち込み一気に勝負をつけてやると。

 

ルフィが轟が繰り出せる最後の氷壁を掻い潜った先に足を踏み込むと、死角に入られていたはずの轟が彼の胸の前に両手を構えていた。完全に捕捉。迷いなく突撃していたルフィの足は完全に止まる。

 

「うっ・・・・!!??」

 

「新しく勝つ理由ができたんでな。一気に終わらせてもらうぜ!」

「FORCE REPELLENTーフォースリペレントー(反発する熱と冷)」

 

緑谷戦で魅せた冷気と熱気で膨張した空気の爆発。轟は両手に込めた超圧縮したそれらを混じり合わせ、指向性を加えルフィへと弾かせる。

 

「ウワァアああ!!!」

 

ルフィの体を悠々と弾け飛ばし観客の耳をつんざくほどに高音を響かせ競技場を揺らすその衝撃波は、硬いセメントでできているリングを深く抉りこむほどであった。

対緑谷戦と同じく水蒸気爆発に似た原理を応用したこの技は、試合前とっさに思いついた即興の技であったがぶっつけ本番で成功させるあたりさすがと言うべきだろう。リング上の光景がそれを物語る。これまで圧倒的な強さを見せてきたルフィはなんとか運よく場外は免れてはいるものの、運動着の上着は消し飛ばされ地に伏せていた。ミッドナイトはダウンを宣告する。

 

「なんってすごいんだ・・・これが轟君の本気の強さ。炎を戦いに使うのは今日が初めてみたいなものなのに。」

 

「・・・ぶっ殺しがいがあるぜ、ちくしょうが!」

 

「血だらけになってるけど、大丈夫かな。ルフィ。」

 

元から轟の強さを知っていたA組も驚きを隠せない。2回戦では彼を追い詰めた緑谷でさえ再戦してももはや敵うことはないと思わせ、決勝で当たるやもしれない爆豪の顔には似合わない冷や汗が滴らせる。

他には拳藤や芦戸などはルフィの容態を気にかける。倒れるルフィの体には浅くはない傷が見られるからだ。教師陣も未だ立ち上がらないルフィの状態を見極める。そしてこの光景を見てエンデヴァーを体を震わせ、これ以上上がらないと言うほどに口角を釣り上げていた。

 

「やはり焦凍は最高傑作だ!ただ最強の個性を携えているだけではない!それを活用する想像力!展開力!遂行力!俺をはるかに超える天賦の才能だ!」

「まだまだ荒さはあるが、3年後だ!見ていろオールマイト・・・その玉座、奪ってみせるぞ!」

 

『イレイザーヘッド・・・マジで今年の一年どうなってんだよ。ぶっちゃけ実戦テストとかであいつに勝てる気しねえぜオレ!?』

 

『まぁ・・戦闘能力じゃ中堅ヒーローでも敵じゃないだろうな実際。ただ相手もそれは同じだ。まだ試合は終わってねえ』

 

轟は震える両手をポケットにしまう。どうやらあの技はリスクが高い技の様で、乱発は到底できそうにない。その余裕のなさを隠しながら轟は倒れているルフィに言葉を投げかける。

 

「いつまで寝てんだ?直撃はしてないだろ。立てよ。」

 

倒れていたルフィは轟の言葉にすぐ反応する様に立ち上がる。

 

「簡単に言うな〜。ちょっとは避けたけど、ものすんげえいてぇんだからなさっきの技!」

 

軽い感じで立ち上がったルフィのタフネスさに会場がどよめく。

 

「あの技はあくまで衝撃。体がゴムのお前には決定的にはならなかった様だな。」

 

「どーりで簡単に氷を避けさせてくれると思った。だけど今度はこっちの番だ!」

 

ルフィは拳を握り構える。しかしーー

 

「悪いが先手はもう打たせてもらった。」

 

轟がそう宣言すると急激な冷気が足元に漂う。瞬間、ルフィは大きく上空へ飛び上がった。

轟が仕掛けようとした技は一回戦で瀬呂に見せた瞬間冷凍攻撃「アイスエイジ」。あらかじめ地表を冷やしこむことで地表上の敵に避ける暇も与えない瞬殺技である。ルフィが倒れこんでいるうちに仕込んでいたのだが、一度見せた技であったためルフィは間一髪反応し攻撃圏外の上へ飛び退いた。

飛んだ勢いのままにルフィは轟へ攻撃を加えようと腕を伸ばすが、まだ轟のターンが終わったわけではなかった。

 

「地面の氷はあくまで仕掛け。お前の動きを制限するためのな。」

 

「いっ!!?」

 

轟は空中に飛び退いたルフィの動きを読んでいたように右腕から噴出する特大の炎をルフィへ振り抜いた。

 

「うううううああああ!!!!!!!!!」

 

その炎は情けもなくルフィの体を焦がす。あのルフィでさえもこの灼熱の炎には悶絶の声をあげた。振り伸ばした腕も勢いが止まり、轟に届くこともないまま彼の体に引き戻されていった。・・・そして重力によって強制的に地に体を落とされことで、熱さに悶えるルフィの体は急速に冷え込むことになる。

 

「悪いが、この個性。確かに反則的だな。」

 

暖かい空気は上、冷たい空気は下に漂う様に轟の個性もまた同様だ。地表は逃げ場のない氷結地獄ならば、空中は灼熱地獄。死の二択を選択せざるを得ない。

ルフィの体は冷たく、そして硬く・・・・そして固く氷ついた。

 

「すべての蟠りが消えたわけじゃない。ただ今はトップをとることに全力を尽くす。俺は絶対に勝つ。」

 

 

 

 

 




強化版轟くん。原作では間違いなく実力が頭抜けてたけど、ルフィという格上の存在があるここでは個性の成熟さと攻撃の雑さが消えています。


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度を過ぎた攻撃戦

年をまたいでしまった。

ひっそりと再会します。


「ルフィくんの体が氷漬けに・・・・!」

 

「・・こ、これはもう・・」

 

飯田と緑谷たちA組の面々は眼前の光景に轟の勝利を確信したが、その中で唯一爆豪だけはまだ決着の審判がくだされていないリング盤上を未だ食い入る様に見つめている。そして爆豪と同様に、一部のプロヒーローや審判含む教師陣はむしろこれからの展開に目を光らせていた。

 

「・・普通ならここで終わるが、お前は普通じゃないからな。」

 

そして轟もまたその一人。これまで自惚れでもなく最強だと思っていた自分が何度も苦汁を嘗めさせられた相手だ。そんな相手が自分の個性をフルに活かし壁を超えたとしても、まだまだ使い慣れていない未熟な力に早々やられるなら初めから炎は使っちゃいない。

 

「にしし。同い年ぐらいでこんなつえぇ奴がいるなんて、エースやサボ以来だ。全部出し切る前に終わっちまうところだった。」

 

未だ氷を身に纏わせ、身動きが取れないはずのルフィの声が確かに会場に響く。これに観客がどよめき、だんだんと彼の体の氷が溶け出していく。

 

「ギア・セカンド!!!」DON!

 

溶けた氷が水に、そして次第に水は水蒸気に。熱を纏い赤く変化したルフィの体の周囲は燻したかのように煙が立ち込める。これは騎馬戦の時に見せたルフィの必殺技。無意識だった先程とは違い今度は意図的に、そして凍らさせられる直前に発動させていた。

この姿に観客はどよめき、A組の面々は自分たちがやられた光景を思いだす。爆豪に至っては柵に両手をかけ身を乗り出している。興奮した時以外は意外と冷静な彼だが、周りの視線も気にならない程に食い入るようにリング上を見つめる。おそらく決勝で当たるであろうどちらかの動きを見逃さないように。

 

「出たな。そいつを出したお前に勝てなきゃ意味がねぇ。」

 

轟は炎と氷を発動し身構える。

 

(しかしこれほどの個性の練度とは・・・彼らは学生の枠を逸脱しつつある。轟少年はこの大会で壁を一つ超えてきた。そして人生で初めての格上との会敵。さらなる成長が見込まれるな!!)

 

オールマイトは未だ現役ながら、どこか感傷的に二人を見つめている。

にわかには信じられないが、ルフィは体がポンプのように血液を循環させることで身体能力を上げてる。副作用として激しい血の巡りが体温を上昇しており、体表の氷はすでに溶けきった。

 

(どの道氷だけでは奴には通じなかったな。・・・確かにこだわった先に頂点はねぇ。こいつに勝てない未来に頂点はあり得ねぇ!!)

 

轟はジリジリと前進する。先の騎馬戦での唐突のルフィの動きは捕らえられなかったため、ルフィの一挙一足を警戒しながら距離を詰める。両手を横に広げ、右には氷で、左には炎でルフィの横の動き限定させ退路を断つかのように構える。

 

「攻撃の速さこそ完全には見切れないが、『体の動き』自体は反応はできる。動き回ってもこの間合いならさっきの再現になるぜ。」

 

ルフィと轟の位置はリング両端だ。つまり後方からの攻撃はない。ならば集中するのは前方のみ。

ルフィは腰を落とし、脚に力を溜める。両者見つめあって一分は経とうか、緊迫した空気が張り詰める。そして、それを破るのはもちろん・・・ルフィだ。

 

「・・・JETピストル!!!」wBOH!!!

 

空気が切り裂かれるような音が鳴った。常人には目で追うことさえできない拳がルフィから放たれる。轟は己の顔面に迫る拳を間一髪で避けるが、体勢を崩す。が・・・

 

(正面からの攻撃、騎馬戦のように不意ならばいざ知らず、今なら避けること自体は無理ではねぇ。・・問題はこちらの反撃機会・・引き手の速さがことさら厄介だ!)

 

ルフィのギア2の一番の利点は何より伸ばした拳を体まで戻す引き手の速さだ。ボクシングの経験者と素人ではこの点が大きく違うそうだ。引き手の速さはつまり手数の多さ、攻撃の回転数が増すと言うこと。手をゴムのように伸ばすルフィはこの点が弱点になり得るからだ。この弱点がなくなり、何倍もの強化された今のルフィに死角はない。

目にも止まらない速さとはこのこと、ルフィの攻撃は数十メートル離れた観客席からも捉えられないほどに苛烈で幾度となく轟を襲いかける。しかしこの攻防で皆を感嘆させているのは、防戦一方にひたすら攻撃を避け続ける轟のディフェンス能力だ。その超人的とも言える反応は観客の目を奪わせる。爆豪とは別に反射神経と言うよりも、幼い頃の訓練からの経験からによる予測であろうか。ルフィの僅かな予備動作から逆算して彼はにわかに傷は追っているものの避け続けた。

 

「くっ・・・ギア2の攻撃がこんな当たんねぇのか!?やっぱすげぇな!」

 

(・・・なんとか躱せてはいるが、このままじゃ全く埒が明かねえ!どっかでキッカケを!)

 

『轟としてはどっかでなんとか近寄りたいだろうな。氷と炎も今のルフィの攻撃に比べ遅い。中距離以上では当たらねえ上に隙を相手に与えちまう。』

 

そう轟には個性を発動する暇さえない上に分が悪い間合いだった。まさに極限とも言える防御で意識された脳内に攻撃を思案する余裕は僅かもない。彼が己からアクションできることは何もない。ルフィの動きから受動的に動くしかなかった。

轟がそのような状態の中、なぜか焦れ始めたルフィは、出した拳が戻ってきた瞬間に地面を蹴り、少し飛び上がって攻撃に変化をつけた。

 

「ハァ・・ハ・・ゴムゴムの・・JET鞭!!」

 

まさしく鞭のようにしなる伸びた脚が高速で放たれる。これまで直線的な攻撃で膠着仕掛けた局面に横からの変化を加えた。

 

「ここか!」

 

良くも悪くもキッカケを掴みたい轟にはこの変化を好機と捉え、この攻撃をどう凌ぐかと言うよりも、攻勢に回るためにどう利用するかで頭を回転させた。

 

「ぐあっ・・・・!!」

 

ドバン!!!と重く弾けた打撃音が響く。完全に反応しきれなかった轟の脇腹にルフィの蹴りが捻じ込まれた。

 

「入った!」

 

緑谷が声をあげたと共に観客が大きく騒めく。轟は猛烈な攻撃を受け、彼の普段の澄まし顔からは想像しにくい程に顔を歪ませた。

 

『きょ~烈な一撃が入ったー!!!こんなん受けたら立っていられるのかーー!?』

 

(肋の何本かイったかもしれんな。)

 

誰もがこの攻撃が決定的だと確信した瞬間、ルフィがくぐもった声を発した。

 

「うあ”あ”・・!!??」

 

「これは・・・轟少年!攻撃を受けながらもルフィ君の足を氷結させたのか!」

 

なんと轟は右脇腹に食い込むルフィの足を抱え込み、そのまま脛から膝にかけて氷を這わせたのだ。

 

(ノーリスクでどうにかできる奴じゃねぇ。肉を切らせて骨を断つ。・・・骨を断ってんのはこっちだが。)

 

「ヤベェ!!?足凍らされたァ!!」

 

思っていなかった反撃にルフィはたじろぐ。そしてルフィに次の行動を考える時間はなかった。ゴムが伸びたら元の形に収縮されるように、彼の足は自身の体へ轟を引き連れながら舞い戻ってきたのだ。

 

(痛みに悶絶してる余裕はねぇ。ようやく能動的に動けんだからよ!!!)

 

ルフィの足が戻りきる直前、轟は左手を前に突き出す。彼にとって念願の間合いだ。

 

「少しは加減してやる・・!!」

 

ルフィは目を見開き、どうにか回避を目論んだが、接近してきた彼の名前のように轟とうねりをあげた炎はルフィの全身を覆い、そしてその延長線上の後方まで焼き焦がした。

エンデヴァーから受け継いだ炎が炸裂し、皆が勝負が決まったかと頭によぎった。が、しかし皆の想像の範疇の中にルフィは収まってやいない。ぐうぅぅぅ、と歯を食いしばる声が聞こえると共に残火の中から轟へ拳が飛来する。

 

「・・ゴムゴムのJETブレット!」DON!!

 

「ごふっ・・!!!!????」

 

メキメキ・・・、鈍く重く凶悪な打撃音がおおよそリング上の人間にしか聞こえない程度に響く。

 

『ま、マジかー!!??轟会心の炎から、さらにルフィの反撃ーー!!?』

 

ルフィは炎を受けた際、回避が無理だと判断した瞬間、本能で拳を繰り出していた。そしてその一撃は轟の意識の全くの外。その唐突の攻撃は既に数箇所ヒビが入った肋を完全に砕いた。轟はリング中央でのたうち回り、腹部を抱え込む。

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・全身ヤケドだ・・イテェ・・。」

 

そしてさすがのルフィも轟の炎で再度焼かれ、まさしく満身創痍であり、肩肘をついて倒れこむ。むしろ何度も凍らされ焼かれていながら意識を保っていること自体が驚異的であるのだが。そして体力も底を尽きかけていた。ルフィが使っていたギア2は未だ途上の必殺技であり諸刃の剣であったからだ。身体能力を爆発的にあげることを代償に、そもそも体に大きな負荷をかけるこの技は長期戦には向いていない上に、まだ15歳で体ができていないルフィには発動時間は僅かしか残されていなかった。

リング上二人は倒れており、ダブルノックダウンの状態に陥っている。しかし審判であるミッドナイトはダウンのコールをすることはなかった。いや、そのことを忘れていた。この僅か数分の攻防に呆然としているのだった。ある者は顔を青ざめ、ある者は呆然としている。とても学生の、体育祭には似つかわしくないこの戦いに言葉が出ていなかった。静寂となった会場内で聞こえるのは、ルフィと轟の疲弊しきって吐き出す呼吸音だけだ。

 

「凄まじい・・・一言に尽きる。どちらの攻撃も死を一瞬でもチラつかせるには十分なものだ。それを正面から受けきり、なお前進を止めないとは。・・最高のヒーローになるぞ、彼らは。」

 

オールマイトは自分の後継をこの二人とは違う少年に託した。しかし、しかしだ。次代の象徴は一つではなかった。ワンフォーオールという紡がれたバトンが無くとも、ここに間違いなく輝く巨星が存在しているのだ。恍惚に近い感情が今の彼を占めていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・にっしっしっし。轟、まだ立てるだろ?早く始めようぜ。まだ・・この後に・・決勝戦が残ってんだからよぉ。」

 

「か、簡単に言ってくれる・・ぜ。・・フゥ・・フゥ・・まぁ、当然立つがな。」

 

二人とも肩で息をしながらのそりと体を起こしあげる。

 

「「優勝するのは俺だ!」」

 

覇気を纏わせ二人は宣言する。

 

「・・・・・このクソ野郎どもが、どんだけ滾らせんだコラ。ざけんな!優勝は俺のもんだ。」

 

ガチリ、と歯を鳴らし体を身震いさせるのは決勝で当たるだろう爆豪であった。認めたくはなかった。しかし体は否定しきれなかった。爆豪の本能は認めざるを得なかった。この二人は自分の上にいると。

だが、それが彼を立ち止まらせる理由には決してならないだろう。むしろこの二人の存在は彼を更なる高みへ吹き上げる爆風であるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしながら、準決勝第一試合はこれ以上行われることはなかった。

 

 

 

 

 

 




ちなみにこのルフィは剃はできません。というか剃はないです。だってあれ、できたら個性なくても勝てるんだもん。


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舞台の裏で

短めです。


興奮から静寂、そしてざわめき立つ会場を他所に、教員しか立ち入らない部屋で先ほど激闘を繰り広げた少年は教員数名に抑えられながらも軽くはない傷を負った体を揺さぶり珍しくいきり立っていた。

 

「なんで止めんだよ!まだ!まだ決着はついていなかっただろーが!」

 

ルフィと轟の試合は、二人が立ち上がるも再会されることなく終了を告げられたのだった。

現場にいたミッドナイトとセメントスがその判断を下した訳ではなく、教員の中で最も冷静な立場で入られた校長である。とにかくこの二人の少年の力は良くも悪くも観戦者の目を奪わせ、魅せつけるものであった。そのためか、普段冷静な相沢でさえこの勝負の先を唆られてしまっていたのだ。その中で唯一校長のみが正しい判断を下せたといえようか。

抑え付けられたルフィの前の相沢が息を深く吐き言葉を投げかける。

 

「・・校長の判断は正しい。正直決着が気になっちまった俺が言うのはアレだが、あれ以上やっていれば事故になっていただろうな。間違いなく。」

 

「・・・事故?」

 

「お前らの力はもはや人を殺すには十分な威力を持っちまってるのさ。それを高校生が舞台の体育祭でやる試合の範疇を超えちまっていた。」

「まぁ、それでも教員側がそれを上手くコントロールできてれば問題ないところではあったんだがな。情けないことにこちらも冷静ではなかった。すまなかった。」

 

もはやルフィと轟の力、特に威力に関しては並のヒーローのそれを凌ぐ。先の試合までのテンションからいって最後には両者ともに加減を加える余裕もなかっただろう。そうなればどちらかが重症以上の手傷を負うことは後から思えば容易に想像できる。いくらリカバリーガールがいようともそれは絶対に避けなければいけなかった。

さらにいえば、今大会のレベルは雄英史上最もハイレベルな戦いと言っても差し支えはないほどであった。それがテレビ中継の視聴率も爆発的に伸びた要因でもあるのだが、それに伴って流血するほどの試合が多すぎることが最も懸念されたのだ。どれだけすごくてもこの舞台の主役はあくまで子供。安全が保障されていない試合は世間は許さないだろう。もし誰かが死にはしないまでも取り返しの重症を負ってしまうようなことがあれば、雄英の名誉は地に堕ち、最悪大会存亡問題まで話が膨らんでいたかもしれない。それにこの体育祭には多くのスポンサーが関わっているため、その影響は学校内で収まる事ではないのは明白だった。

学校やスポンサーの事情は大人の事情であって、生徒であるルフィには関わりはない事であったため口に出すことはなかったが、相沢はルフィにこの試合の顛末を納得できる様にいつになく丁寧に言葉を紡いでいく。相沢の真摯な態度にルフィは段々と落ち着いていった。

 

「じゃあ、結局試合の勝敗はどうなんだ?引き分けになるのか?」

 

「ああ、試合の形式上そうなるな。ただ・・・」

 

「決勝はないとか言うんじゃねぇぞ!!」

 

相沢の言葉の途中、ガンと音を立てて部屋に入ってきたのは爆豪であった。彼は既に八百万を下し、決勝進出を果たしていた。

 

「俺はここでトップを取るためにやってんだ。デクも半分野郎もクソゴムもやらずに終わるなんて冗談じゃねぇ!」

 

爆豪は入り口の縁に背を掛け不遜な態度を見せる。褒められた態度ではないが、彼のこの大会に懸ける熱は周りの人間には十分に伝わるものであった。

 

「・・・全く、話を遮られるのは好きじゃないんだが。まぁ聞け。形式上は引き分けだが、ルフィには決勝に出てもらう。」

 

「は!?轟はどうなるんだよ!?」

 

「轟はもう出れる体じゃないよ。」

 

「ん、誰だ?ばあちゃんは?」

 

会話な中に唐突に入ってきたのは、雄英の屋台骨リカバリーガールだ。彼女はようやくおとなしくなったルフィを治療しようとやってきた。

 

「轟の怪我は治したよ。でも胸骨と肋骨、損傷が酷くてね。治癒の反動で気絶しちまったんだ。逆にあれだけ焼かれて凍らせても元気なお前さんは反動があっても大丈夫そうさね。」

 

「・・・つまりだ。元々の規定上、時間切れ含む引き分けがあった場合は別の形での再試合が想定されていたが、事実上轟がここでリタイアしたため、お前が決勝進出ってこった。」

 

「なんか・・・納得できるような、でもないような。PK戦で試合決まったみたいな感じだなぁ。」

 

「ブラジル出身らしい例えだな。」

 

「ハッ!!どんなこじつけでも、テメェが出れんならそれで十分だっ!ぶっ殺して俺がトップを取る!それでこの大会は終いだ!」

 

「ま。轟には悪いけど、やれるんなら勝ちにいくよ。おれは。ヒーローになるために。」

 

半ば強引にルフィの決勝進出が決まり、どうにも釈然としないルフィだったが彼の性格上ゴチャゴチャ考えず頭を切り替えす。そして自分に向かって立てた親指で首を切り、それを下に向ける爆豪を左の口角を上げながら睨み返した。

 

 

 

 

 

暗がりの一室、内装をよく凝らして見ればバーである事が分かる。そしてカウンター内で佇むバーテンダーの服を着たモヤのような男

と複数の手が付いている男が唯一光を放っているTVを見つめていた。

 

「・・・驚きましたね。先日の雄英強襲の時は生徒たちの予想以上の力に手を焼いたものですが、彼ら以外にもこれほどの逸材がいたとは・・。」

 

モヤのような男、黒霧はそうポツリと言葉を落とした。彼らが見つめるモニターは現在行われている雄英体育祭が映し出されている。黒霧の言葉に、片方の男、死柄木 弔はガリガリと荒れた首筋を引っ掻きイラつきをみせるが答える事はしなかった。

 

「彼につられてか、他の生徒も以前と比べ成長しているように思えますね。正直末恐ろしい。」

 

「・・・おいおいおい黒霧。何ガキども意識してんだ。こいつらなんざ眼中にねぇんだよ。俺らの抹殺対象はオールマイトだ。奴を殺す算段だけ考えてりゃいいんだよ。」

 

つらつらと、以前邪魔をしてきた雄英生を称賛する黒霧にイラついた死柄木がその態度を隠さず噛み付く。するとTVとは別のモニターが一つ映し出された。

 

「しかし、無視できる存在ではないよ。弔。」

 

モニターに映し出された謎の男はこれまでの会話を聞いていたのか、死柄木に対して忠告の言葉を発する。

 

「・・先生。」

 

「この少年はブラジル英雄の孫、そしてあの『ドラゴン』の血を引く稀代の才能だ。敵対する可能性があるならば十分にマークしなければいけないよ。」

 

「しかし、先生。「それにだ。」・・・。」

 

「日本ではNo. 1ヒーローとしてオールマイトは持て囃されてはいるが、世界に目を向ければ奴に匹敵する輩は決していないわけじゃない。EUを取り仕切る連合軍の三大将、本場アメリカで君臨するトップヒーロー、そして白ひげら偽善者の一党。」

「この偽りの世界を潰すには、それらも視野に入れなければいけない。緑谷出久がオールマイトの後継者で日本の未来ならば・・・あの少年は外の世界の未来。殺す算段はつけておいた方がいい。来たる時期を伺ってね。」

 

「・・・・。」

 

「それはそうと弔、黒霧。あの男の居場所がわかった。今からそこに向かってくれ。」

 

押し黙った死柄木は、男の言葉に軽く頷き、促された通りに目的の場所に黒霧の個性を用いて向かっていった。

 

 

 

 

 

「む〜、あの状態のルフィとあそこまでやるとは中々日本の学校も侮れんの〜。」

 

決勝が始まる前に、観客席に戻ってきたガープは雄英のレベルにいたく感心していた。これまで一緒に仕事をした日本のヒーローは仕事の効率の良さや細やかさには目を見張るが、単純な戦闘能力では少し物足りなさを感じていたからだ。

 

「ルフィが日本に行くと聞いたときは、平和ボケで腑抜けてしまうんじゃないかと思ったが、同じ歳のライバルができるならこれ以上ない収穫じゃったわ。ワハハハハ!」

 

高笑いしているガープの傍でサインをどのタイミングで貰おうかとスタンばっていた緑谷は、せわしなくキョロキョロと辺り見渡している。それに気づいた麗日が彼に尋ねた。

 

「デク君どないしたん?不審だよ?」

 

「ふ、不審!?い、いや飯田君の姿が見えないなと思って・・。」

 

「飯田君なら電話かかってきてたから席外してるよ。・・なんか深刻そうな顔してた。」

 

「飯田君が・・。心配だね。」

 

「うん・・。」

 

この二人の会話と同じ頃にガープの後ろにボガードがスルリと現れた。

 

「ガープさん、仕事です。案件は保須市の例のアレです。被害にあったヒーローは重傷だとか。」

 

「またか。今から良いとこじゃったのに。いい加減捕まえんとのぅ。悪をのさばらせていくと、知らぬうちに大きくなりよる。」

 

警察からの直通の応援要請を受け、ガープ達は例年にない盛り上がりを見せる競技場を足早に後にした。

 

 

 

 

 

ヒーローの卵たちが放つ光が眩く放つ一方で、悪が醸す闇は着々と根を張ろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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決勝!!

お久しぶりっす!
内容忘れたわって人も読み直してくれたらありがたいっす!
うっす!!


ガープは雄英の競技場を後にし、件の保須市へと繰り出した。そして巡回途中にガープは暗く沈む行き止まりの路地裏を覗き込む。ゴミが散らかった閑散として誰もいないはずなのに、どこか人気を感じるこの場所。

 

「恐い、恐い。気配消して死角から見てたってのに、直感でこっちに来やがったよ。・・それにしても、天下のヒーロー殺し様もブラジルの英雄は怖いってか」

 

僅かに人気を感じさせたのは、つい今まで死柄木と黒霧、そしてヒーロー殺し「ステイン」がいたからであった。

ここ保須市でステインと接触した死柄木はステイン共々、例のバーへと半ば逃げるように路地裏からワープしていた。

ステインは軽くはないであろう口を開け、言葉を紡ぐ。

 

「ハァ・・・貴様らがどういう腹積もりで俺に接触して来たか知らんが、「彼」は本物だ。俺が粛清すべき者はあくまでヒーローという存在を勘違いした偽者。俺の目的と合致しない」

 

ステインの目的はこのヒーロー社会の矯正。商業と化した今の現状に、一石を投じるため彼は日夜自身が偽と判断したヒーローを斬りつける。

 

「滑稽だねぇ・・・ヒーローを正すために、ヒーローを斬るか。まわりくどいっ!!」

 

「とっとと言え。・・・・貴様らの目的を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『長い体育祭の歴史の中でもこれほどクレイジーでカオスな大会はなかったぜ!!・・だがそれもこの試合で最後!!目ん玉ひん剥いて上がって行こうぜ!』

 

『雄英体育祭!1年の部、決勝!!』

 

『爆豪勝己 VS モンキー・D・ル~~~~フィ~~~~!!』

 

怒号のように競技場内を反響する歓声はかつて類を見ないほどに熱を帯びている。それも当然か。今年の1年の競技でまともに進行したことがない。波乱に次ぐ波乱、エンタメ性で言えば抜群の展開の連続だった。そしてその中心の人物がこの決勝に並び立つのだ。

 

「大会前はデクと半分野郎を優勝ついでにぶっ殺す予定だったが、最終的にテメェを殺れるならお釣りがくらぁ」

 

言葉だけ切り取ればいつも通りの爆豪だが、口調は僅かに震えている。武者震いだろう。同世代で初めて認めた格上に対する挑戦に対して。

 

「ん・・・ん・・・んっ!引き立て役とかそんなのは知んねぇけどよ。おれは負けねぇ!初めはヒーロー科に行くためだけだったけど、今はそれ以上の価値があるんだ」

 

ストレッチをしながら、リラックスするルフィ。しかしその表情には程よく緊張感が表れていた。

 

「優勝するのはおれだ!!」

 

拳藤との約束、一緒に頑張って来たコビーの分と、そして死力を尽くした轟の為に。

 

『決勝戦開始ーーーーー!!!』DON!!

 

 

 

 

 

 

 

大きな歓声が反響して離れた個室であっても嫌でも耳に入ってくる。しかし気を取り戻し、医務室のベッドに腰掛けた轟の表情に負の感情は見られなかった。これまで彼に対してクラスメイトは喜怒哀楽といった感情をあまり読み取れていなかった。たまに見せる感情で言えば、「怒」のような負の面だろうか。彼の今の表情は何か憑き物が落ちたかのように澄んでいた。

 

(今に思えばツマンネぇ意地で勝ちにこだわってた。でもそんな意地を捨てても・・・負けちまった。結局俺が持ってたプライドなんてもんは大したもんじゃなかった。たかだかNo.2ヒーローの子供だってこった)

 

轟の心中は決して晴れやかではなかった。しかし地に足をつけたかのように客観的に自分を見つめ直し、そしてそれはこれまでになかった新鮮さがあった。

 

(上には上がいる。当然だ。・・・・だけど、このまま負けるつもりもねぇ。俺は勝つ。あいつにも・・・・親父にも。俺の「力」で)

 

憧れたヒーローにようになりたい。その子供頃のような純粋な意思が轟の中に再燃する。

そしてそんな彼の顔を医務室の外から垣間見たエンデヴァーは叱咤の言葉をしまい込み、腕を組みながらそっと背を壁にもたれさせた。

 

 

 

 

 

 

 

「正直爆豪とルフィの試合っていうからすっげえハイレベルな試合だと思ってたんだけど・・・」

 

「・・・これほどの一方的な乱打戦になるとはな」

 

予想外といった顔をしながら声に出したのは上鳴だ。そしてそれに続いたのはルフィと善戦を繰り広げた常闇であった。

 

「死ねぇ!!!!」

 

「うああっ・・!!」

 

『これは予想外な展開ダァ!!?これまでの戦いぶりからルフィが俄然優勢と思っていたが、この試合ここまで爆豪が押しに押しているゾーーーー!!ルフィ、防戦一方!!?』

 

爆豪は広げた両手を不規則ながらリズミカルに爆破しながら、ルフィの四方八方縦横無尽に死角から攻撃を加え続ける。左脇腹・右肩、左のフェイントを挟んで右側頭部。連打ながらもその一撃は・・・重い。

 

「はっ・・!!予想外だぁ!?舐めんじゃねえよ!!」

 

爆豪のアッパー気味の爆撃にルフィはガードしながらも数メートル後方に吹き飛ばされる。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

「・・・ルフィくんの動きがかなり重い。当然だ。さっきあれほどの戦いをしていたんだ。リカバリーガールの治療を受ければ、普通試合ができる体調じゃない」

 

緑谷が言うように、それこそ猿のように身軽さを見せていたルフィの体は人一倍重力がのしかかったように沈んでいた。そしてそれと同様に反応速度も著しく落ちていた。

 

「・・・ケッ!んな状態のてめえに勝ったところでなぁ、クソ程も俺の価値は上がらねぇ!」

 

「うっせえ!何勝った気でいんだバクゴー!勝つんはおれだかんな!」

 

「なら使えや!あの半分野郎に使ったあの煙状態をよ!」

「消耗激しいのは分かってんぞ。・・・だからどうした!?死ぬ気でかかってきやがれ!!」

 

爆豪の目的は完璧でかつ鮮烈なまでの優勝だ。

雄英に入るまでその才能を振りかざし脇道振らず、勝者として歩んできた彼であったが、入学して以降その道は決して整備された順調な道ではいなくなっていた。ここは日本最高峰の教育機関、当然そこに集まる人材もまた勝者として歩んできた者たちだらけだ。言うならば爆豪はお山の大将、井の中の蛙であったことを痛感したはずだ。雄英の中でも優秀の部類に入る彼であったが、これまで培った自尊心が上には上がいるという現実を簡単には受け入れなかった。それもそのはず、推薦入学の轟や八百万はまだしも、道端の石ころと思っていた緑谷にも敗北してしまったのだから。

そこから彼の心境は徐々に変化していき、お山の大将から頂きを目指す挑戦者へと視点を変え、良い方向へ向いていた。

しかし人間簡単に変わるものではない。

この体育祭で爆豪が目の当たりにした才能こそ理想そのもの。恵まれた身体能力に錬磨された個性、そして人々を魅了する存在感。自分を遥かに上回るソレらを持ったモンキー・D・ルフィはまさに自分がこれまで描いていた勝者としての姿だった。理想が他人、ましてや同級生に重なったことが徐々に治ってきた彼の自尊心が大きく揺れることになる。

この試合はただ勝った負けたではない。子供の頃から着々と肥大化していった自尊心を守ることがこの試合の勝利の意味合いの大部分を占めていた。

 

(あんなカッちゃんの顔初めて見る・・・。自信に満ちた顔でも、相手を見下した顔でもない。ましてやライバルを見る顔じゃない。・・・・どこか怯えてる顔だ)

 

「舐めプしてんじゃねぇぞっ!!」

 

(君が、そんな顔をするなんて・・っ!!)

 

幼馴染だからこそわかる程度の表情の変化か、緑谷だけが爆豪の顔に映る小動物が怯えながらも威嚇するかのような表情に気付いていた。

幼き頃からの近くにいる憧れである爆豪のそのような姿に緑谷は居た堪れなくなった。

 

「なら、やってやる!!・・・ギア2!!!」

 

ドゥルルン、と高エンジンの発動音が鳴り、ルフィの体から煙が立ち上がる。この姿に会場は大きく沸き立つ。

 

『さぁ〜〜ここでルフィのまさしくギアが1段階上がるゼーー!!』

 

「・・・来やがれ!」

 

爆豪は両足を大きく広げ、腰を落とす。

 

(単純にこのまま打ち合ってちゃあ、押し込めれるのは俺だ。だが、疲労があってか防御に徹して来やがる。これじゃあ決定打がない。どでかい隙を作るなら、無理な攻め手を出させてやる)

(・・・・それに本気のコイツを相手にしなきゃあ意味がねぇんだ!!)

 

ルフィは重い初動から爆発的な踏み込みから爆豪を中心に回り込む。

 

(爆豪の反応速度を奴も相当警戒してるな。今の状態じゃ僅かな時間でも苦痛なはず。この技は明らかに多大の体の負担を被る類いのものだ)

 

ルフィは爆豪の死角に入って、仕掛ける。

 

「JETピストル!!!」

 

眼前に迫る拳を爆豪は振り向きざま視界に捉える。

 

(は、速・・)

 

しかしその拳は彼の顔面を捉えた。

 

『ルフィのパンチで爆豪の首が弾け飛ぶ!!その威力は轟戦で実証済みだぞーーー!!!』

 

目で反応できても、体までは反応しきれない。爆豪であっても初見のギア2は厳しいものがある。だが、爆豪のタフネスだ。一撃では沈まない。

 

「ゴムゴムのーーーJETガトリング!!」

 

「・・ちぃっ!!」

 

追撃の攻撃を受けるわけにはいかない爆豪は両手を前方に翳し爆発させ後方へ距離を取るように躱すが、腕が伸びるルフィの拳が何発か受ける。

的の標準をずらしたとはいえ、弱くはない衝撃を体を駆け巡る。

 

「う・・おおおおおぉおお!!!」

 

反撃を試みる爆豪だったがルフィの怒涛の攻撃が始まった。攻撃の回転数を上げ、攻撃は最大の防御と言わんばかりに追撃をかけた。

 

「がっはぁっ・・・っ!!?」

 

あまりの猛攻に隙を伺う暇さえない。防御するにも数発に一度程度防ぐしかままならず、爆豪の口から血が飛び散っている。

 

「ゴムゴムの・・・っブレットぉ!!!!」DON!!

 

後方へ伸ばした腕が収縮する反動を利用し凄まじい衝撃を生み出すルフィの拳が、爆豪の腹を貫いた。

足を踏ん張り、場外へ飛ばされることだけは阻止した爆豪だったが、息を吐き出すことさえできぬままゆっくりと・・・・前のめりに倒れたのだった。

 

『ば、爆豪ダウーーーーン!!!!!』

 

ウワァアアアアアアアア!!!

 

あっという間の大逆転劇。

さっきまでの一方的な試合からの展開に会場は大いに盛り上がる。これで決まったかのように会場にいる記者やカメラマンは一斉にルフィの顔を捉えた。しかしそこにルフィの笑顔はない。

ルフィはえずくように口を抑え、いかにも苦しそうに顔を歪めていた。

 

「・・やっぱこの技はまだ・・じいちゃんが言ってたみたいに使うには早いみてえだ」

 

体育祭までの訓練期間に習得したギア2だったが、体の負担が相当に高いため極力ガープから使用しないようルフィは言葉を受けていた。疲れがピークに達している今使えばいかにタフなルフィであろうとも無茶以外他ならない。

 

「だけど・・使わなくちゃバクゴーには勝てねえ!」

 

 

「た、立て!爆豪!!お前だったらまだやれるだろ!!」

 

A組の集まる席で仲のいい切島が爆豪へ吠える。それと同じく他のA組一同が爆豪へと声援を送る。あまりの激痛に逆に意識が飛ぶことはなかった爆豪にはその声援も耳には届くことがなかった。1人を除いて・・。

 

(ち、ちくしょう・・・。このクソゴム野郎。体の反応が追いつけやしねえ・・。半分野郎のように遠距離じゃねえと・・近距離じゃ勝負にすらならねえ)

(クソ!クソ!!クソが!!!・・やっぱ俺じゃ勝てねえのか?俺はこの程度なのかよ!?)

 

・・・俺は敗者だったのかよ。

 

爆豪の脳裏にこれまで抱いていた劣等感が一気に吹き出した。

自分の才能から人の上に立ち続けた爆豪だが、初めて劣等感を抱いたのは幼少期。川に落ちた自分を心配そうに手を差し伸べた緑谷が相手だった。その他人にすればなんのこともないことが爆豪の頭にはずっと残っていた。

認めたくなかった。才能ある自分が助けられたかのような行為に。許せなかった。自分こそがヒーローに相応しいのだと。

爆豪のヒーロー像とは、オールマイトのように圧倒的な強さを誇り人々から尊敬を受ける勝者である。その理想を実現するためこれまで彼は才能の上に努力も重ねてきたつもりだった。

しかし蓋を開けてみれば雄英に入って彼は自分が本当に勝者であるか疑問を抱くようになった。

そう感じるようになったのは同じ年の3人の存在だった。

轟の個性は自分の個性と比べても強力なものであったし、これまで無個性で歯牙にも掛けなかった緑谷に対しては授業の訓練では敗北を喫した。

そして決定的なのはルフィの存在だった。

轟との死闘を観戦して、自分の中で負けて仕方ないという初めて味わう感情が彼に芽生えてしまった。だからこそ彼は強気な態度を振りかざして吠えていた。有利な条件であれこの試合に勝って、その感情を払拭したかったからだ。

しかしその反骨心さえ折れかけていた。抱いていた疑念が確信に変わりつつあったからだ。地に伏せた爆豪だが、意識は保っているし立ち上がれないほどでなかったが、彼の意思が手足に信号を送ることをしない。このまま審判のカウントをただ待つようにピクリとも動かなかった。

 

そんな彼の姿に1人の少年が声を上げた。

 

「立てよ!!カッちゃん!!!!」

 

一際大きな声で叫んだ緑谷。会場の喧騒に紛れてリング上からは大して聞こえるはずもない声。

しかしそれ以外全てがかき消されたかのように爆豪の耳にはその声がはっきりと届いた。

 

「・・・勝てよ。カッちゃん」

 

「・・・・デク・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪の体に信号が送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ORIGIN

短いですが


いつからだったろうか。いや、初めからだったかもしれない。

僕がカッちゃんに憧れたのは。

 

僕には無い才能。嫌なやつだったけど、ヒーローに憧れる僕にとって彼こそが身近なヒーローだったんだ。

いつも勝気で自分の本当の「個性」を持った幼馴染。

正直羨んだし、妬んだし・・・・・憧れた。

 

「君が・・・君がそんな姿をしないでくれ。」

 

 

 

どういう眼で俺を見てやがんだ。あのクソナード。

俺を憐れんでやがんのか。・・・クソが。

まぁ・・あいつには恨まれてるだろうからなぁ。

こんな・・・生まれながらの才能を胸焼けするほど見せつけられる、こんな胸糞悪いこたぁねぇよな。

テメェと同じ気分をこの俺が味わうとはよ。嫌になっちまうよな・・・。

投げ出したくなっちまうぜ。

 

 

「爆豪少年・・・。自尊心の高い子だとは重々承知だったが、気づくんだ。君の才能は一握りの者が選ばれた眩い可能性だ!誰かと比べてではない。君自身の力を示せばいいんだ!」

 

「力はあるんだ。いつまでもガキのままでいるんじゃない。超えろ。」

 

生徒だけではない。爆豪の才能は教師全員が認めている。

このヒーロー社会において誰かと自分を比較するのは愚の骨頂だ。ヒーローそれぞれが色んな役割を持ち、社会へと貢献していく。ヒーロービルボードなんてものは結果ああいう形になっているだけしかない。真のヒーローを目指すのであれば、自身の価値の証明をしなければならない。

Origin。個性を使った本当の「個性」を確立していかなければならない。

誰しもがオールマイトに憧れているが、誰しもがオールマイトになれるわけではない。ならばオールマイトが出来ない技を、役割を、地位を極めばいい。

 

「今大会、ずっと宙ぶらりんだった轟がその片鱗を見せた。爆豪次はお前だ。答えを出さなきゃ、いつまで立っても目の前の男の背中を見る羽目になるぞ。」

 

相澤はこの教師生活、数々と様々な理不尽・難題を生徒たちにぶつけてきた。その試練に除隊処分になった生徒は数知れず。しかしこれは雄英の校訓のあるが、人生というのは理不尽の塊である。妥協したとしてもそれなりの人生は送れる。しかし時には生死が関わる厳しいヒーローの道だ。その数々の理不尽を踏み越えて初めてなり得るものなのだ。

 

「お前は何者なのか見せてみろ。」

 

「カッちゃん!!!!」

 

ウルセェな。デクが。なんであいつの声だけこんなクリアに聞こえんだ。なんで・・

 

・・・ちょっと、待てや・・。デクの野郎はそれでも諦めたかよ?俺の後ろで周りの連中みたいに遜ったか?

 

違うよなぁ?いつの間にか個性身につけて、同じ高校に入って、俺に勝ちやがったはずだろ?

あのナードがこの俺の隣に並び立ちやがっただろうが!

 

・・・だったらなんで俺は今、諦めようとしてんだ?あいつにできて、なんで俺が出来ねえと思っていやがんだ!?

 

 

「ふざけんじゃねえ!!!!」

 

 

『た、立ったーーーーー!!!爆豪が立ったーーーーーーーー!!なにやら凄まじい声をshoutしてるゼーーー!!?』

 

息を荒げながら背を反るように勢いよく爆豪は立ち上がる。

 

「デクにできて俺が出来ねえことなんかあるかよ!!」

 

彼の最後に残ったものは意地。緑谷に対する意地でしかなかった。

 

「俺は俺だ!!俺様だ!他の奴なんか知ったことじゃねえ!!」

 

爆豪の突然の絶叫に不意を食らったかのように見るもの全員がギョッとする。

そして爆豪の顔は普段通り、いや普段以上に不遜な態度がありありと表れていた。

 

「全員ぶっ殺す!!俺の道を邪魔する奴は完膚なきまでだ!!」

「追ってくる奴!前に立つ奴!今じゃねぇ!!這って這って這い倒してでもその喉元掻っ切って俺が頂きにたってやらぁ!!」

 

ヒーローというより、まるで敵のような叫声にただただ観客はポカンとした顔を浮かべている。そして教師陣はというと・・・・

 

「・・・ハァ。全くなんでこう俺のクラスは癖のある奴が集まるんだか。」

 

「フ、フハハハ!爆豪少年!ここまでくれば、確かにそれは君の物になり得るだろうさ!!」

 

呆れ混じりにも、爆豪のブレなさに感嘆の声を漏らす。

 

「やっとらしくなってきたって感じだな!」

 

「ああ!あいつはああいうクソで下水を煮込んだ感じがやっぱあってんよ!唯我独尊天上天下全て俺さまが偉いぜってな!」

 

「野蛮ですけどもね。」

 

爆豪にもう僅かな負い目はない。例え相手が自分よりも優れていたとしても泥臭く何度倒れても確実な一歩前へと踏み締める。決して相手を崇めない、薙ぎ払ってやると。

屈折・増長した自尊心から、決意と誇りある自尊心へと変貌していった。

 

これが爆豪のオリジン。

 

「簡単に勝てると思うなよ!ルフィ!!!」

 

爆豪は力強く一点をルフィに向けて指指す。

 

「しっしっしっしっ!ああ、これまでの爆豪とは比べもんにならねえ!」

 

ダウン前とは目の輝きが違う。ルフィは直感で知っている。本当に手強い相手というのはその者の中にどれだけ揺るぎないものを持っているかを。ルフィの周りにもガープ、エース、それにコビー・・・そしてシャンクスは確かにそれを持ち合わせていた。

悲鳴をあげる体を奮い立たせる。相手の意気に答える。それが漢ってもんだ。

 

「ギア2!!」DON!!!!

 

仕切り直された盤上に再び熱が篭る。

 

まだ決勝戦は終わらない!!

 

 

 

「頑張れ!!カッちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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閉幕

一つ打撃音が響けば、すぐに爆発音が鼓膜を揺する。

その順番は所々入れ替わるが、鳴った回数はほぼ同じ。お互いがその回数を争うかのように隙間なく音が反響する。

 

リング中央、小細工無用と言わんばかりに踵をベタリと地面につけお互いに拳を振り上げる。

雄英体育祭決勝、決して評価の高い試合模様ではない。悪くいうならば泥仕合。しかし誰もが目を離せない。やはり闘争本能というものは人間誰しも心奥底で持っているものだ。

心の琴線に触れるものは何か?

間違いなくそれは「熱さ」。相手を叩きのめすといった攻撃的衝動だ。

小手先の技術でもない。そういった表面的な皮を剥いで素が剥き出しとなった人間の根っこに人は魅了される。

体面ばかりに抑制された現代社会においてそれは一層輝かしく見えることだろう。何より身体的特徴である個性を抑圧された社会においては。

 

「実に面白いよ。目が見えない私であっても、テレビ越しからこの試合の熱が伝わってくる。」

「人々はさぞかし胸踊る戦いだろう。しかしそれはつまり人間の暴力性の証左となる!己も暴れたいという欲求があるからこそ演者に感情移入してしまう!」

 

「先導者と扇動者が必要なのさ。弔、君がそうなるんだ。君がそれを完璧に演じることができればこの世など最も簡単にひっくり返せるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『アアーーーー!!爆豪のクロスカウンターだぁあああああ!!!』

 

ルフィの右ストレートに爆豪の大振りの左フックが上手く噛み合い結果クロスカウンターとして強烈な一打がルフィの横っ面を吹き飛ばした。

完全な死角からの一打。意識を刈り取るには十分な一打だ。

しかしルフィは踏鞴を踏みながら爆豪の脇腹に左拳を捩じ込み返す。爆豪も奥歯を噛み締め息を吐き出すことに耐えたが、ものの3秒動きが停止する。戦闘において致命的なタイムログが発生したにも関わらずルフィの動きもない。その3秒が一連の流れを区切られた。

両者は目線こそ外さないが、打ち疲れが目に見えるように肩で息をしている。そしてまたその緊迫感に観衆は息を飲んだ。

 

「なんて試合しやがる。」

 

ルフィ・爆豪共に顔は血で染めており、上半身は運動着が破け晒している状態だ。

しかしその光景に凄惨さはない。

お互いが口角を上げ、よもや楽しげでさえある。

 

「・・・日本に来てよかった。こんな楽しい試合初めてかもしんねぇ。」

 

「はっ!今の内にしっかり楽しんどけや!俺は後で!勝利の美酒を味わってるからヨォ!」

 

「飲むな。」

 

キレもなければ、力もない。しかしかつてないほどに意識は研ぎ澄まされている。俗にゾーンに入っているということだろうか。無意識下で最高の精神状態を二人は保っている。

確かに二人の間に差はあった。

ベストの状態であればルフィが完封する展開もあり得ただろう。

爆豪が立ち上がってから、再びギア2を使ったルフィであったが目に見えてその自慢の速度は落ち、工夫もなく爆豪を捉えることはできなかった。

爆豪にしてもダウンさせられたボディブローで足を殺されたことで踏ん張りが利かず、爆破での立ち回りが封じられた。その結果そこから先は逃げも避けることも不可能の超近距離戦が否応無しに始まったのだった。

 

「第3ラウンドだ・・!」

 

「ああ!!ゴムゴムのォ!!!」

 

ブチブチ・・・

未だギア2をし続けるルフィの筋繊維はもはや攻撃の前動作で切れ始めた。痛覚はまだ生きている。それでも噴出したアドレナリンでルフィの意識を割くことはなかったが、その動作の遅さが体の正直さを表している。

それでも爆豪は避けない。・・・いや避けられないのか?

どちらにせよ今の彼らは防御にカケラも注力していない。なけなしの余力は攻撃に全てを注ぐ。

 

そんな戦いが3分以上続いた。そしてその均衡がようやく崩れるときがきた。

 

「JETピストル!!!」

 

渾身のルフィの拳で爆豪は大きく背中を仰け反らした。一瞬そこで止まった爆豪だったが、不安定な体勢を維持することができず、片膝は立てながらも右手で地面についてしまった。

 

「ぐ・・・っぅ・・!!」

(や、やべぇ!!?)

 

「ゴムゴムの〜〜・・」

 

すでに予備動作に入ったルフィに対し、爆豪はこれまでと違い防御・回避に思考を瞬時に巡らす。この一撃を貰えば決定的だと感じたからだ。

判断の良さと速さこそがセンスの良し悪しだ。その点、突出したものがある爆豪は何択かある選択肢を瞬時に割り出し、その一択を選んだ。

 

ドゴン、と中火力の爆破を地面に向かって起こし、ルフィが繰り出した蹴りの寸前に上空に回避した。

 

『つ、追撃の蹴りをここにきて爆破で回避!!?』

 

『奴の戦闘センスは本物だな。局面を見極めてやがる。おそらく・・・・』

 

上空に避けた爆豪は2度3度爆破を続けて、さらに上へと上がる。

 

(さっきのは・・相当効いちまった。正直もう・・・踏ん張る脚が残ってねぇ。あいつも余力は残ってねぇだろうが、こっちが限界だ。)

「なら・・・・余力全て注ぎ込んで決着をつけてやる!」

 

自分のはるか上空の爆豪を見て、ルフィは感じ取る。

 

「バクゴー、仕掛けてくんな。上等!!おれもこの一撃に全部ぶつける!!」

 

爆豪が高く上がったのは大技を繰り出す時間を作るためだ。その時間はルフィも大技を繰り出す時間でもある。

ルフィは空気を風船の技の時のように大きく吸い出し、ゴムの特性を使って体を何回転も捻り込んだ。

 

一方、爆豪は落下の勢いに加え爆発ターボでさらに加速。そこから爆破は続けながら脇を締めて両腕を胸の前で交差させスクリューのように回転し、渦巻いた爆炎が急降下する。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!!!!」

 

 

爆豪の最大の爆炎にさらなる威力を加えた超必殺に、ルフィは真っ向からぶつかる。

大量に吸い込んだ空気を吐き出し、回転しながら爆豪へ飛び込んだ。

 

「ゴムゴムのJET暴風雨(ストーム )!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな衝撃の衝突。

 

 

 

 

 

 

特大の爆煙が観客の視界を奪う。中々晴れないそれが規模の大きさを物語る。

 

「・・・う、ど、どうなったんだ?」

 

観客席中段にいる緑谷も煙に巻かれてリング上を確認できないでいた。

 

(特大の・・・お互いの必殺技の衝突だ。これ以上この試合が続くことはないだろう。この煙が晴れた時、どっちが勝者かが決まっているはずだ。・・・僕の心情的にはカッちゃんに勝ってて欲しいけど。)

 

煙がだんだんと晴れてリング上が疎らに姿を現した。

 

観客皆が理解している。この時点で立っている者こそ今大会の優勝者であると・・・。

 

そして煙の隙間から・・・

 

爆豪の頭がかすかに見えた。

 

「カッちゃ・・・・!!!」

 

それを見て、緑谷含めA組を声をあげた。しかし、その声はB組拳藤の声にかき消される。

 

「ルフィの勝ちだ!」

 

「「「!?」」」

 

煙が薄くなり、爆豪の全身が見えてきた。

確かに爆豪が地に伏せているわけではなかった。

 

煙が完全に晴れ、リング上に堂々と佇んでいたのは・・・気を失った爆豪の肩を背負い、満面の笑みを浮かべていたルフィの姿だった。

 

その瞬間、怒号のような歓声と地鳴りが競技場を覆った。

 

『ついに!ついに!!ついに!!!死闘の決着!!!!優勝!!・・・・・』

『ンモン〜〜〜・D・ル〜〜フィーーーーーーー!!!!!』DODON!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで彼はヒーロー科に転入が決定したわけだね。・・・しかし想定した以上の実力だった。これは一年生の教育プランを練りなおさないといけない。」

 

「そして彼を中心に既存のヒーロー科生徒もこの体育祭で大きく成長したように思えます。・・・校長、まさかあなたはここまでの想定を?」

 

「いや、ここまでは想定外さ。でも彼はいい指標になってくれた。雄英に入れただけで満足してしまう生徒も少なからずいる。そんな彼らに一石を投じたはずさ。」

 

リング上を一望できるガラス張りの室内で校長と教頭が閉幕式を一瞥する。

 

 

 

閉幕式の最後、表彰式には体育祭の締め役としてオールマイトが登場した。

オールマイト自身が表彰者にメダルを授与するのだが、表彰台に1位と2位の姿と轟の姿はない。しかしそれこそが今回の体育祭が特異な事を物語った。

 

ただ一人、3位の表彰台に立っている八百万は大層恥ずかしかったのは内緒のお話。

 

 

 

「では皆さん・・・せ〜〜の・・「プル「プ「お疲れ様でした!!!!!!!」トラ」ラ!」

 

「「「「「ええ・・・・」」」」」

 

 

雄英体育祭史上最高の一年の部はブーイングで締めくくったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英体育祭編 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと終わった・・・・・ふ〜〜〜



次は番外編。A組中心の話になります。


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A組編
本編なようで番外編な話。


箸休めもちょっと兼ねようかなと、A組中心の話をやっていこうと思います。そこそこ長くなるかも?


体育祭が終わって2日の休みを挟み、今日が終わってからの初登校日。未だ疲れが抜けきっていない緑谷は電車に揺られながら頭の中で体育祭の復習をしていた。

脳裏に蘇るのは圧倒的な実力者たち。実力の高さを元から知っていた爆豪・轟が更に力を上げ、そしてその二人の上をいくルフィの存在は彼の壁としてはるかに高かった。

 

(・・・ん〜〜〜・・・正直、勝てる気がしないというか。一体どれほどの鍛錬をこなせばあんな強さになるんだろうか?やっぱり小さい頃から英才教育を受けてきているのかな?轟君もそうだし、そこの部分は大きいよな。それに比べて僕は中3から鍛え始めた程度だ。ワンフォーオールだって地道に出力上がってきてはいるけど、何より差があるのは戦闘技術の差だよな。轟くんは言わずもがな、ルフィ君は独特のリズムと個性の戦闘慣れが凄いし、カッちゃんに関してはもうアレ才能というしかないし。僕がこれから模索していくべきなのは、実戦経験になる。・・・・・でも、でもな〜・・学生で実戦なんて中々・・クラスメートや先生と戦っても、それは授業の範疇というか」ButsuButsutsu……

 

((((声掛けてみたかったけど、この子・・・怖っ!!!!!!!)))

 

独り言が過ぎる緑谷に軽くドン引きする通勤途中のおじさんズであった。

 

 

緑谷はA組に着くと、スッと席へと向かい目があった者だけ挨拶する。(わかる人はいるだろうか?軽いコミュ障だと、向こうの人に自分の存在を認識してもらわないと挨拶できないのだ。自発的に元気よく挨拶する事の難易度の高さたるや!!)

 

「おはようデク君!」

 

「おはよう麗日さん」

(・・・ほんと麗日さんの顔見ると活力湧くな〜(和み))

 

「体調はどう?デク君もすっごい怪我してたし、この休みで疲れとれた?」

 

「う、うん。もう大丈夫だよ!母さんにはすごく心配されたけど、翌日からもそんなだったし。それを言ったらカッちゃんや轟君の方が重傷っぽかったけど・・・・2人ともまだだね?」

 

緑谷は目線をキョロキョロさせ、クラスを見渡す。周りでは体育祭後の周囲の反応の違いについて話が弾んでいた。

全国放送プラスCS放送ではあるが世界でも放送されたことは彼ら自身が思っていたよりも反響は大きかったらしく、外に出れば声を掛けられることが多々あったらしい。瀬呂のドンマイはドンマイとしか言いようがない。

 

「あれだけ激しい戦いをしては仮に回復していても強制的にもう数日休ませるだろうな!」

 

そして急に2人の会話に割ってきたのは委員長・飯田だ。

 

「「おはよう飯田君!」」

 

「ああ!おはよう!」

 

いつも通り何かとキッチリしている飯田だが、彼こそが二人にとって一番の心配事だった。

準々決勝後、飯田は1人競技場を後にしていた。その原因は彼の兄、プロヒーロー「インゲニウム」が危篤の重傷を負わされた事件があったからだ。彼は搬送先の病院へ直行しており、とうとう閉幕式まで戻ることはなかった。

この事件を後から知った2人だったが、なかなかこの事を飯田に聞くことを憚れた。以前彼がどれだけ兄を尊敬していたか知っている分にだ。

 

予鈴が鳴り、相澤はHRを始める。

 

「え〜〜〜・・・今日休んでいる爆豪・轟に関しては最低5日間の休養を命じてる。なぜかと言えば、ボクサーと同じように表面的には回復したように見えて脳にダメージが残ったままなことが良くあるためだ」

「それと、ヒーロー学関連の授業は2人が復帰するまで繰越になるぞ。できるだけそこらへんの授業は足並み揃えてやっていきたいという意向だ。連絡事項はこのぐらいだ。何か連絡・質問はあるか?」

 

淡々と効率よく述べた相澤に対し、上鳴は挙手し質問する。

 

「先生!それで結局ルフィはヒーロー科に転入できたんですか!?」

 

恐らくクラス全員が気になっていることであろう。

体育祭でのあの活躍。自分たちの学年のトップが同じクラスに編入してくることに興味が湧かない訳が無い。

 

「あ〜〜、そのことに関してはお前らも知っての通り、優勝という約束を果たしたので決定事項になっている」

 

「それでどっちのクラスなんですか!?」

 

「・・・まだ未定だ。クラスの成績のバランス等、どちらに振り分けるか俺とブラドキング先生が話し合っているが・・・なすりつけ合いがまだ終わってないんでな」

 

「「「「「「「「なすりつけ合い!!?」」」」」」」」」gabin!!

 

 

 

そんなこんな普通の高校生らしい勉強を今日はこなし、特に何もないまま放課後へなった。HR後、皆が帰ろうと席を立ち始めると芦戸が何人かに1つの話題を挙げる。

 

「みんな放課後暇ならさ!これ行ってみない!?」

芦戸が手に持ってババン!と掲げるのは1枚のポスターだ。

 

「なになに?本場フランスの大道芸をご覧あれ、超ド派手バギーサーカス団?」

 

「「「サーカス!?」」」

 

「そうそう!ちょうど一昨日からやってるらしくてさ〜。初日に行ってみたかったけど、流石に皆疲れてると思って今日どうかなと!!」

 

「へ〜今こんなんやってるんや」

 

「おもしろそうじゃん!」

 

「だしょ!だしょ!」

 

いかにも内容の派手さが表れているこの目がチカチカするポスターに麗日・耳郎・葉隠はよく食いついている。体育祭以前はとにかく自主練の毎日でこういうイベントを楽しむ暇がなかった分、ことさら興味が湧いていた。

 

「このポスター持ってったらチケ代もみんなの分割安みたいだし、大人数で行こうよ!梅雨ちゃんとヤオモモはどうなん?」

 

「・・悪いわね三奈ちゃん。行きたいのはやまやまなんだけど、家のことがあってしばらくはいけないの」

 

「私もすみません。せっかくのお誘いですが、今はあまりこのようなものを楽しめそうにないので・・・」

 

蛙吹は家庭の事情で幼い兄弟を面倒をみないといけないらしく、八百万は元気なくあまり遊ぶ気分になれないようだ。

 

「残念だな〜。じゃあこの4人で行こうか」

 

芦戸の言葉の後に、少し間を空けて麗日が小さく挙手をする。

 

「男子は誘わへんの?」

 

「え?誘いたいのいるの?お茶子?」

 

「え〜と、デク君と飯田くんも誘おうかなと」

 

「仲良し3人組か!・・ヘイ!緑谷!飯田ー!!」

 

芦戸は2人を呼びつけ勧誘を始める。

 

「・・悪いが、所用があるんだ。誘ってくれた事感謝するよ」

 

飯田は彼らしくキッパリと断りを入れると、教室から出て行った。

 

(・・飯田くん)

 

「ちぇ〜〜。じゃあ緑谷は?せっかく可愛いお茶子が誘ってんだからポイント高めときなよ〜!」

 

「ぽ、ポイントって!!??」

 

「な、何ゆーてん!?三奈ちゃん!?」

 

「だってお茶子は緑谷か飯田のどっちかなんでしょ?」

 

「そ、そ、そんなんちゃうし!!!」

 

「その反応・・・怪しいな〜」niyaniya

 

そんなこんな女子トークが始まって、断るつもりもなかった緑谷だったが、なんとなく行きづらくなってしまった。

しかし結局女子の「行くよね?」と半ば強引な圧力に屈し参加することになる。

 

(ど、どどどどどどどどうしよう!!???こ、こんな女子の集まりに僕が参加していいのか!?幾ら何でもハードルが高過ぎるぞ!??走り高跳びなのに棒高跳びのハードル用意されてるようなもんだ!)

 

あまりに場違いの状況に心中パニック状態の緑谷をよそに、美味しい話を聞きつけたのか峰田と上鳴がこちらに駆け寄ってっきた。

 

「ヤァヤァヤァ!なんだよ俺らも誘えよなー?男子緑谷だけじゃ居ずらいじゃん?俺らも行くぜー!」

 

実に自然に明るく場に馴染んできた2人。チャラい上鳴とエロい峰田がこんなイベント逃すはずがなかった。

2人を見て女子陣が一瞬無表情になる。

 

この妙な間に2人は傷ついた。

すると2人は緑谷だけに聞こえるように悪態をつく。

 

「あ〜あ〜良いな〜緑谷は。こういう楽しみ独り占めしちゃうわけか。そういう奴だったか〜」

 

「ハーレムしちゃおうと思ってるんですよ。チェリー捨てようとしてるんすよこの男。純朴そうに見えて虎視眈々とリビドー解放しちゃおうってか!」

 

「「さっすが緑谷!!」」

 

ネチネチ嫌味を言われた緑谷がこの2人を熱く歓迎したのは言うまでもなかった。

 

 

 

サーカスに行く男子は緑谷・峰田・上鳴、女子は芦戸・麗日・葉隠・耳郎の7人で行くことになった。

しかしこのサーカス団がただのソレではないのをまだ彼らは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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バギー一味

海沿いの工業地帯の中、昔ながらの自前の大きなテントを張り巡らせ眩しくて目がチカチカするド派手な電飾で彩られているのは、今巷で噂のサーカス団「バギーサーカス団」である。

スタンダードなサーカスをベースとしながらも個性の力をふんだんに織り交ぜたド派手な演出はエンターテイメントとしてなかなかのレベルだ。

特にその中でも普通の軽く倍以上の体躯を持つライオン、個性を使わない一輪車に乗った超人的な曲芸師、体をバラバラに動かす派手なピエロは観客の目を惹いた。その中にA組の7人の姿も含まれていた。

 

公演終了後、今だに軽く興奮している生徒らはワイワイしながら席を立つ。

 

「すっごかったねーーー!!正直予想以上!!」

 

「そやね!サーカスて初めて見たけど、こんな楽しいやなんて思わんかった!」

 

「ウチもすごい個性は雄英行ってから、いっぱい見てきたけどああいう風に演出に個性を使うって発想はなんか新鮮だわ。」

 

女子陣の感想から聞くに評価は上々のようだ。隣でそれを聞く緑谷もウンウンと頷く。しかし一方で峰田と上鳴は違った点に盛り上がっていた。

 

「確かにサーカスそのものもおもろかったけど・・・」

 

「・・何より一番衝撃だったのは!!」

 

「「MCの美女!!!」」BAAAN!!

 

だらしのない顔をした二人の脳裏には、司会をしていた絶世の美女の姿が思い浮かんでいた。完璧と言わざるを得ない端正な顔に一切無駄のない体、そして会場の末席にいる観客まで魅了する色気。リアル峰不二子と揶揄できる美女に二人は首ったけだ。

 

「うわっ!流石にもう9時回ってるよ!急いで帰ろう!制服のままだし!」

 

「確かに雄英の制服着ながら補導とかされたらシャレになんねえな!」

 

学校帰りのままでサーカスを見に来たので、あまり遅くならないように人草をかき分けてそそくさと帰ろうとするが、峰田が一人残ると言いだした。

 

「オイラあの美女に直に会いたい!!!なんとかお近づきになりたい!!」BAAN!!!!

 

欲望を一切隠さないその言葉に清々しささえ感じる一同。

 

「おいおい・・わかるけどよ。帰ろうぜもう遅いし。」

 

「そうだよ。会うったって関係者以外中には入れないよ。」

 

「裏口に張ってたらもしかしたら会えるかもしんねぇ!!オイラは何時間でも待つぞ!!」

 

「なんて執念・・。」

 

峰田の断固たる意志に一同溜息をつきながら呆れた声をあげる。中でも女子陣はほっといて帰ろうかと話し合っていた。

 

「上鳴、緑谷!!お前らそれでも男かよ!?あんな美女を前にしてお前らそれでいいのか!?よいご関係になりたいと思わねぇのかよ!!」

 

峰田のよくわからんゴリ押し意志に二人はたじろぐ。

 

「「・・お、思わなくもない。」」

 

つい緑谷までも本音が出てしまった。

 

「思うんだ・・・。デク君。」

 

ぞくりと背を震わせた緑谷に女子たちの冷たい視線が刺さる。

 

「結局そーなんだ。男子って・・。」

 

「草食っぽく見えて緑谷もねぇ〜。」

 

「しょーもな。帰ろ帰ろ。」

 

呆れ倒した女子は男子をほっといてサッサと帰っていった。そもそも女子に大した耐性の緑谷は終始向けられた視線にガチでショックを受けた。

 

「気持ちは同じだぜ。緑谷・・。」

 

こうなったら峰田の目当ての美女にあってやろうと上鳴は峰田とともに、傷心の緑谷を引きずって会場裏口に回って出待ちをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜最悪、せっかく楽しい気分だったのに、気分なんか害したわ。」

 

「まぁまぁ響香ちゃん。そんなイライラしないしない。」

 

「ほぉ!普段仲のいい上鳴が他の女に現を抜かすのが気に入らないと!!」

 

「ま〜たあんたは。無理くりそういう話に繋げてくんのやめな。そういうんと違うから。」

 

「冷めてるなぁ〜。やっぱこういう話題は麗日いじった方が面白いわ!」

 

「や、やめぇや!?」

 

芦戸の無理やり持っていこうガールズトークが口火を切ろうとしていた時、四人に声をかけて来た男が現れた。

 

「あ〜、すんません。道、聞きたいんダすけどよコしいですか?」

 

特徴的なハットを被った若い青年が片言の日本語で話しかけて来た。

この夜更けに声をかけて来た男に対し、四人は少し警戒する。

 

「・・・ん〜警戒するなっていうほーが、無理てモんが。ほんと道というが場所教へてくれたらいいだけなんヤが。」

 

「弟に・・会いに来たんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏口に回った男子三人が人気を感じたテナントを覗き込むと、そのテナントの中はどんちゃん騒ぎでかなりの喧騒な模様だ。雰囲気的には打ち上げ的なものであろう。それぞれが仕事道具を酒の勢いに任せてハッチャケている。その中に例の美女がいないか入念に観察する峰田であったが、予想もしていなかった会話を聞いてしまう。

 

「おうおうおう野郎ども!!!派手に盛り上がってやがるか!?ああぁ!!?呑めや騒げや!結構結構!公演はまだあと10日!この我らバギーサーカス団この日本で一花咲かしてやろうじゃねえか!!」

 

おそらくリーダー格、いや団長であろうピエロ役だった男が団員たちに檄を飛ばす。その声に反応して皆が手を掲げ威勢良く声を張り上げる。

 

「まさに渡りに船。バギー団長、ようやく俺らにも力が手に入るんですね?」

 

長髪に片側だけ刈り上げた細身の男、カバジがニヤリとほくそ笑みながら団長バギーへと言葉をかける。

 

「あぁ。表向きはサーカス団として裏稼業を長きに渡ってきたが、ようやく成り上がる時がきたゼェ。あの男の言うことが本当ならば、この日本で覇権を取れるかもしれねぇしな。」

 

これからの計画がうまく進めば異国の地で成功することを思い描き、バギーは高らかに笑いこけた。

このでかい赤鼻が特徴のバギーは元はフランスのギャング出身で裏社会を転々とし、現在はサーカスを隠れ蓑に着々と組織を拡大してきたのだった。

 

「しかし団長、あの男は本当に信頼できるのでしょうか?」

 

「・・なんだモージ?まだてめえ疑ってんのか?」

 

「正直言って得体の知れない男です。あの話にどこまでの信憑性があるか・・。」

 

着ぐるみの様な体毛をしている副団長であるモージが心中の不安を口にするが、バギーにはなんらその心配は必要がないようだ。

 

「ダーッハッハ!!何、心配するこたぁねぇぜモージ!俺らと取引することで奴らにもメリットがあるんだからヨォ!」

 

高らかに笑うと、バギーはポケットから一つの薬莢を取り出した。

 

「俺らが開発したこのバギー玉・・通常の弾丸と同等の体積でありながら、C4爆弾以上の破壊力を発揮するコイツを欲しがっているんだ。裏取引ってもんは、信用が何よりも優先される。下手な事はしねぇさ。何より、奴の様な男は姿は見なくとも声だけで信用できる。」

「あのオールフォーワンて男はな。」

 

 

バギーの狙いは独自開発した武器類の密輸だった。

ヨーロッパ界隈の裏ルートを生業としていたが、ヨーロッパには「ジョーカー」と言われた闇市場のボスことドンキホーテ・ドフラミンゴがいるため独自ルートを形成する事が困難であった。そこで声がかけてきたのは日本にいる「オール・フォー・ワン」だ。

バギーたちにとっても謎の存在とされるこの男だが、バギーたちが大量の武器を日本へ持ち込めたことをみると、相当な影響力があることは十分に理解できた。

 

 

 

 

 

((や、や、やべえええええええ!!!????))

 

この一幕をこっそりと覗き見ていた峰田たちは大量の冷や汗を噴き出していた。

 

(ま、まじでヤバイ現場見ちまったぁああああ!!?美女とか言ってる場合じゃねぇええ!!!一刻も早くここから逃げないとーーーー!!??)

 

いくらヒーロー候補生といっても一学生の峰田たちにはあまりに重いゴシップ。少しでも声を漏らさないよう口を手で抑え込んで腰を引かす。

 

「・・・オールフォーワン・・。オールマイトが言ってた全ての始まり。そんな奴が絡んでいるのか。」

 

緑谷は何か驚愕したようにブツクサと口に出した。

 

「緑谷!何ぼーっとしてんだ!?サッサとここからズラかるぞ!やばすぎる!」

 

上鳴が緑谷を引っ張りそーっと、そーっとこの喧騒の中多少音をたてても気づかれないだろうが三人は隠密に出口を目指した。

しかし彼らの目線の先のスラリと長い白い足が彼らの逃走を阻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「この方面を進んで行って、6駅ぐらいしたら新宿駅着くんで、そこでまた交番にでも聞いてくれたらわかると思いますよ。有名な事務所ですし。」

 

「いやぁ〜、お優しいお嬢さんたチだ。」

 

背がそこそこ高いソバカスが特徴的な外国人の青年に女子四人は親切に目的地まで行く順路を教えていた。

 

「でもこの事務所って確か・・・。」

 

「ルフィのおじちゃんの事務所じゃない?」

 

この外国人の目的地はどうやらガープの事務所のようだ。

 

「おっ!ルフィのこと知ってるカ!?」

 

「同じ学校だよ!」

 

「すげえぐんぜん!確かになんかミタことあるなと思ったんだ。キミらのこと!」

 

「じゃあお兄さんはルフィのお兄さんてこと!?」

 

「ああ!ルフィの兄貴のエースってんだ!」

 

この青年はルフィの兄のエースであった。並びに白ひげの一団2番隊隊長の肩書きを持つ彼だが、その温和さはその世界的な肩書きを思わせる威圧的な雰囲気を感じさせなかった。当然芦戸たちはそのことを知らない。

 

「・・手のかかる弟だけド、よろしくやってくレ。」

 

「おお・・・。あのルフィのお兄さんとは思えない社交性だ。」

 

「常識人だ。」

 

「兄弟って素晴らしい・・・。」

 

謎の感動を覚える芦戸、耳郎、葉隠だった。

その裏で麗日は一人緑谷に連絡を取っている。なんだかんだエースを案内してるうちにそこそこに時間が経っていたので、そっちはもう終わったのか確認の電話だ。やっぱりこの時間に残して行ったのも少し心配だった。しかし電話が繋がらない。

 

「う〜ん・・繋がらへん。」

 

「ほっときゃいいじゃん。あいつらだって雄英だよ?」

 

「まぁ〜、男子ら自身の心配というより迷惑かけてないかの方が心配だよ。」

 

「「「「・・・・」」」」

 

「もぉ〜しゃあない。引きずってでも連れて帰るか。」

 

やっぱりヒーローの卵、クラスメイトの迷惑行為を見過ごすわけにはいかないと思い返して帰路を引き返そうだ。

 

「なンだ、ツレがいたのか。この時間まで女の子でいるカラ少し心配だったんだが。」

 

「むしろあっちの方が心配っすよ!」

 

「オレもいこウか?」

 

「いいですよ!そんな!身内で解決しますんで!」

 

女子たちはエースと程々に別れをすませてサーカス場へと向かう。その姿を見てエースは微笑ましそうに口角をほんのり上げる。

 

(しかし、なんか嫌な感じがすんな・・・。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダッハッハッハ!!派手に抵抗しやがって!このクソガキャア!このチビの命惜しくなきゃ大人しくしてろ!」

 

バギーの小脇の男が恐怖のあまり泡を吹いている峰田を抱え人質に取っていた。

 

先ほど逃走を試みた3人であったが、すでに一味の者に背後を取られており峰田が捕らえられた。緑谷・上鳴の二人はその中でも一味の数人を相手取ったが、峰田を脅しに動きを封じ込められてしまっている。

二人は会場内の隅に追いやられ、数十人の軍団に囲まれている。

 

「おい、ヤベェぞ。緑谷。俺漏れそうだ。」

 

「ちょっと我慢してて・・・・。」

 

二人は大量の冷や汗をかく。緑谷からすればオールマイトから伝えられた天敵オールフォーワンに繋がる悪人たちだ。バギーたちの危険度が推し測れた。

 

「しかしまぁ、ウチの野郎どもをノシちまうとはいってぇ何モンだ?」

 

バギーの質問に緑谷たちは答えない。

 

「とりあえず団長、気絶したこいつらどうします?」

 

「こんなガキにやられるカスなんざ、ウチには必要ねぇ。海にでも捨て置け。もちろん派手に殺してからな。」

 

「了解。」

 

淡々と殺人という行為のやり取りをするバギーに緑谷は戦慄する。

 

「ぼ、僕らを一体どうしようっていうんだ!?こんな事してタダで済むわけないのに!」

 

「そうだぜ!どうせあんたらすぐに捕まっちまうぞ!」

 

「・・どうせお前らを逃したところで通報されて終わりだ。ならここで始末をつけるのが最善!この程度揉み消す手段をこっちも持っているしなぁ!」

 

奥歯を噛み身悶えする緑谷。オールフォーワンの後ろ盾であろうか、一切の迷いの無いバギーたちに幾許かの希望もないことに半歩後ずさる。

 

『おい緑谷。俺が電気ブッパするからその隙になんとかやれねぇか?』

 

小声でここを抜け出す案を出した上鳴だが、その案を緑谷は少し頭を振った。

上鳴の個性は強力だが、数十人以上いる相手に対し全員をノックアウトできるとは思えない。上鳴の個性の反動でアホになってしまうリスクを考えればそれが正解とは思えなかった。

 

(ここは僕の100%で道を作るか・・・その隙に峰田くんを救出。これも一か八かではあるけど、やるしかない!)

 

バチリ、と緑谷の腕に紫電が光る。

 

「超パワーの力を使ってここを切り抜けようって腹かい?」

 

「!?」

 

突如緑谷が今からやることを見透かしたかのようにズバリと言い当てた声がバギーの後方から聞こえた。

その声の主は、サーカスでは司会をした絶世の美女、アルビダであった。

 

「ふふ、なんで分かったって顔だねぇ。」

 

妖艶な笑みを浮かべるアルビダ。

 

「この癖毛の坊やは体を壊すほどの超パワーに、そっちの電気の坊やはただ放電するだけの個性のようね。」

 

二人の個性はなぜか筒抜けになっていた。なんでバレたのかと思案しているとアルビダが答えを教えてくれた。

 

「この小さい坊や、起こしてあたしが聞いたらなんでも教えてくれたわよ?」

 

彼女の人差し指で峰田の顎をくいっ、と持ち上げる。それに峰田は興奮のあまり鼻息がこの場の全員に聞こえるほどに荒れる。

 

「峰田!?テメェ!!裏切りやがったなぁ!?」

 

「ち、チゲェんだって!?こんなもん!不可抗力じゃないか!!」

 

絶叫する峰田であったが、その顔には恍惚の表情が見てとれ説得力は一切ない。なまじ否定できない上鳴はヌググと押し黙った。

 

「でもバギー、この子たちを始末するのは少し待った方がいいよ。」

 

「なんでだ?レディーアルビダよ?」

 

「この坊やによれば、この子らは日本では有名なヒーロー学校の生徒らしいわ。思ったよりこの後が面倒なことになるかもしれないよ?」

 

「ほう?なるほどな、さっきの立会いはヒーロー志望ゆえか。ヒーローに出しゃ張られちゃ面倒だ。なら、こいつらの処遇は揉み消してくれる奴らに決めてもらおうか。死柄木に連絡しろ。」

 

(し、死柄木弔!?)

 

オールフォーワンを師と仰ぐ死柄木は、以前雄英のUSJ事件の首謀者だ。再び奴は緑谷たちの前に姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにエースはポルトガル人設定。ポートガスとポルトガルが似てるからなんだけど、大航海時代はポルトガル出身の人が多いのでロジャーを父に持つエースは割としっくりくるね。

基本的に麦わら海賊団の国籍は原作のSBSの通りに考えてるんで、ゾロは出したいんだけど、だせるかなー?だってゾロ絶対ニートやん。単純に働く意思のないニート兼ホームレスだもんなー。

先にネタバレすると、この先アラバスタ陣営でます。わりと先長いと思うんで気を長くして待ってくれたらうれしいです。


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コンプレックス笑うの良くない。

緑谷たちが捕まっているころ、女子たちは会場内に足を踏み入れていた。人気のなさに少し戸惑うも歩を進める。

周りは多くの積荷など遮蔽物がある中で、視線は感じるが姿を現さない周囲に耳郎が個性を用いる。耳たぶのジャックを伸ばし、地面へ突き刺す。

彼女の個性は「イヤホンジャック」。対象物から伝わる振動をキャッチして音を聞いたり、逆に音を流し込むこともできる。

耳郎はその個性を使い、地面から伝わる僅かな足音から自分たちが囲まれていることに気がついた。

 

「・・前のUSJの経験からするとさ、だいぶまずい状況みたいだわ。」

 

「ど、どういうこと!?」

 

「まず、あたしら五人以上に囲まれてる。しかも、息を殺して。こんなことするの、敵以外いるとは思えない。」

 

「ヴ、敵!?」

 

4人に動揺が走る。しかし以前の経験からかその動揺はすぐに収めて思考を始動させたところを見ると入学時より大きく成長しているところであろう。

 

「なら、先にここに来てたデク君たちはもう捕まってる可能性あるってこと!?」

 

「それはありそう。というかその前提で考えた方がいいよ。」

 

「わたし、もう脱いだ方がいいかな?ヒーローか警察に通報しなきゃ!!」

 

「そうだね。あたしらがする事って言えば、自衛と通報。救出はあたしらがするべきじゃないね。」

 

素早く作戦を立てる。今携帯を取り出して警察を呼ぶ暇はない。その素振りを見せれば何をしてくるか分からないし、まず何より自分たちの安全の確保が優先だ。

透明化の個性を持つ葉隠をまずこの園内から脱出させるため、他の3人は脱出経路の確保を最優先に動く。元々透明な体である葉隠は服を脱いでしまえば全くの不可視の状態、当然の選択だ。葉隠を優先的に逃しながら他の3人もその後脱出する段取りだ。

 

1.2.3と小さく合図を合わせると一斉に4人は駆け出した。

A組女子は特殊能力、補助能力に優れている。芦戸は毒性の能力、麗日は無重力、耳郎は音、そして葉隠は透明化。単純な戦闘では男子に劣るものの、それ以外のヒーローとしての資質は彼女らの方が上回っている部分が多いため、こういったシュチュエーションには相性がいい。

耳郎が言っていた通り、監視していた敵が4人の後を追うようにワラワラと姿を現すと、

 

「そりゃ!触れないでね!それ、溶けるから!!」

 

まず酸性の溶解液を芦戸が射出し第一の足止めし、そしてそれを避け注意が逸れている敵に麗日が周りの積荷を軽くし投げつけた。

 

「そいや!」

 

その効果はかなり有効で足止めを務めた2人で6人いた敵の葉隠までの距離は十二分に取れた。遮蔽物から完全に死角を取った葉隠は一気に制服を脱ぎ出す。ヒーローコスからして全裸なので裸になることに全く抵抗がない。そう、抵抗がない!

 

「それじゃあダッシュで行ってくる!!」

 

今の葉隠の姿は誰にも見えないが、その足音と気配から3人から遠ざかるのが分かった。耳郎は葉隠の制服を回収しながらも、地に刺したイヤホンから音を拾い司令塔のように芦戸麗日に足止めを止め逃走を促した。

 

「引き上げるよ!!」

 

「オッケ!!」

 

「分かった!」

 

「逃がすな!!!」

 

3人が敵側に背を向けた時、1人の男の大声が響く。

その男は腕組みをし、麗日たちを建物から見下ろしていた。

 

「テメェらそこを動くなよ?「4人」のお友達がどうなるか分からんぜ?」

 

そう脅しをかける男はサーカス団幹部、モージである。

そのモージの珍妙な姿に麗日は思わず噴き出しそうになるがなんとか耐える。4人という言葉に引っかかったからだ。

 

「4人?・・・上鳴に緑谷に峰田、後1人は誰のこと言ってる?」

 

「動物ってのは鼻が利く。それが肉食動物ならなおのこと、我が相棒リッチーにかかれば姿が見えなくとも追跡など容易だ!」

 

「「「!?」」」

 

モージが得意げに語ると、3人はすぐに感づいた。サーカスの公演で見たあの普通の数倍はでかいあのライオン。

 

「ま、まさか!?」

 

「安心しろ。まだ殺してはいねぇ。だが、お前らがここで逃げるというなら・・・・話は別だが。」

 

ニヤリと笑みを浮かべるモージ、そして殺すという脅しに麗日たちもまた体を硬直させてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって雄英高校では、オールマイトを含めたヒーロー教師たちがこの夜分まで会議を行っていた。

 

「・・では1年のカリキュラムは従来より早いですが、これで決定させて頂きます。」

 

B組担任ブラドキングが会議を締めて解散の流れとなった。ふぅ~と皆が息を吐き、各々体をほぐす。やっと終わったとプレゼントマイクあたりは揚々と部屋から出て行った。その中でオールマイト・相澤・ブラドキング・校長は席を立たず部屋に残った。

 

「いやはや、こんなにも時間がかかるとは。」

 

「正直効率はいいとは言えませんね。」

 

「しょうがない。今年の1年は色々と問題があるからな。」

 

オールマイトが口火を切ると、相澤とブラドの不満そうな声が上がる。

今回の会議の議題は予定を組んでいたカリキュラムの変更だった。その変更が大幅に変わったことで5時間もの会議になってしまった。

今年の初め、A組が敵に襲われるという事件があったことで生徒らは実戦を味わった。そしてその経験が現れた体育祭。彼らの次のステップはすでに従来の予定よりも遥か先にあると感じた教師陣は元にあった予定を一から組み直したのだった。

 

「以前より他ヒーローが協力してくれている職場体験・林間合宿・仮免・インターンは予定通り行うにしても、普段の授業・・・主に実践授業は相応な強度でやらなければいけなくなったな。特にウチのクラスの轟・爆豪の実力は俺たちでも油断すれば足下すくわれかねん。」

 

「やれやれ・・・まさかA組にここまでの大差をつけられるとは。」

 

「何を言ってるんだい?君のクラスもそんなヤワな子らではないさ。それに彼が加わるじゃないか。力は拮抗してるさ。」

 

「そうですね。戦闘力といえばやはり彼が抜けていると言ってもいい!」

 

「まぁ・・・問題は仮免など試験なんですけどね。」

 

「「「・・・試験かぁ〜〜。」」」

 

何やら頭を抱える4人。するとオールマイトの携帯に着信がきた。

ワタシガキタッ!!ワタシガキタッ!!

 

「あぁ・・!すいません私です!」

 

((ダセェ・・))

 

「会議はマナーモードにしてくれたまえよ。終わったからいいものの。君は昔からヒーローとしては立派だが、社会人としての常識が些か覚束ないからね。」

 

「き、気をつけます。」

(うう・・ズバッとくるな。)

 

オールマイトが電話を取ると、相手は警察官の塚内からであった。

 

「どうしたんだい?何か事件でも?」

 

『事件というわけではないんだが、気になる情報が入ってね。とんだ大物が今東京にきているらしいんだ。』

 

「大物?」

 

『白ひげの一味、2番隊隊長火拳のエース』

 

「・・・それは、凄いのが来たな。目的は?」

 

『いや、わからない。白ひげは義賊で知られているが、一応は国際指名手配犯だ。とりあえず君の耳に入れておこうと思ってね。』

 

「そうか。一応意識しておくよ。電話ありがとう。」

 

プッと電話を切ったオールマイトは少し興奮したような顔をした。それは強者を眼の前にワクワクしたような顔であった。

 

(火拳のエース・・・か。私でさえ「勝てない」男がこの国に一体何用で?)

 

オールマイトは再び席に座り直すと、今度は相澤の携帯に着信が届いた。相澤の携帯は音が鳴る事なくスマートに電話に出た。すると電話の内容を聞いた相澤の顔がみるみると暗くなっていく。

 

「どうしたんだい相澤くん?」

 

校長が尋ねると、相澤は眉間に皺を寄せて内容を説明する。

 

「ウチのクラスのものが未だ帰宅しておらず、連絡が取れないという電話が生徒自宅からかかってきているようです。その生徒はわかっているだけで、緑谷・上鳴・芦戸・葉隠・耳郎の5人。」

 

「「「!?」」」

 

「・・ただ遊んでいる、ということもあるでしょうが。すぐに職員室に向かいます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷・上鳴・峰田の3人は縄に縛られ拘束されていた。

その気になれば緑谷はそれを引きちぎることはできるが、自分だけならまだしも他2人を考えればかなり限られた隙を伺うしかない。もし仮に本当に死柄木たちがここにやって来てしまえば、まず命はないだろうと緑谷は考えている。

何とか隙を作ること、そして気になっていたことを彼はバギーに投げかける。

 

「・・・どうやってオールフォーワンと繋がりを持てるようになったんだ?奴は日本でも長らく闇に姿を潜ませていたのに・・。」

 

「あぁ・・?」

 

「お、おい緑谷、何を?」

 

「一体奴の目的は何なんだ!?」

 

オールマイトが引退を考えるほどの傷を与えたオールマイトの宿敵、オールフォーワン。傷を負った代わりにオールマイトが5年前奴を撃退寸前まで追いやり、その存在は薄れていたはずだったが敵連合との繋がりがあるようで再びオールマイトの抹殺を試みている危険人物だ。

そしてなおかつ奴はオールマイト・緑谷の個性「ワンフォーオール」の対を為す個性を持っている。そんな男との繋がりを緑谷は聞かずにはいられなかった。

 

「ほぅ・・・奴の事を知ってやがるのか。その質問に答えてやる義理もないが、暇つぶしに答えてやろうか。」

「詳しいことは知らんが、目的は大方社会の破壊、それしかねぇだろうなぁ・・。奴は数十年、いやもっと前から存在していたと言われているいわば都市伝説のようなモンだ。ここ数年を境に海外のシンジケートに接触している話もある。そして俺たちがまさにそうだ。本来俺のようにユーロを拠点にしている組織に外部の組織がおいそれと接触すること自体が困難。何しろあっちにはジョーカーと言われる闇市場の大元がいるからな。だが、それに関わらずあらゆる組織とコネクションを築き出したあたり奴の存在は世界的にも恐れられているのかもしれねぇな。」

 

(オールフォーワンが、海外の犯罪組織と手を・・・・。)

 

バギーは脇に置いている小銃を手に取り、

 

「だが、奴の目の付け所は良かったぜ?この俺様が開発したバギー玉に価値を見出した所はな!こいつは小銃サイズでありながら下手な家なら軽く吹き飛ばすほどの破壊力!本来ならこいつで欧州の闇市場を独占することが可能なほどの性能のはずだった!しかしジョーカーの存在で、燻っちまっていた。歯噛みしていた俺たちをオールフォーワンの野郎はこいつの引き入れと、製造資金の提供、そしてアジア市場の流用を約束した!」

「つまり俺の時代が来たってわけだ!!」

 

愕然とした。間違いなくその武器の用途はオールマイトの殺害に使うため。着々と悪は触手を伸ばしていたのだ。

緑谷はこのことを何としてもオールマイトに伝えなくてはと思っているだろう。上鳴と峰田の2人はその突拍子もない話についていけていない様子だ。

 

「な、何だかめっちゃヤバイ話になってんじゃんかよ・・。」

 

「何でこんな奴らがサーカスなんてやってんだよぉ〜・・・変な鼻してるくせに・・ヒェ!?。」

 

峰田がバギーの鼻のことについて口にした瞬間に、その場の空気が一瞬で凍りついた。

 

「ホゥ〜〜〜・・。俺の自前の鼻が赤くてデカイことがそんなおかしいか・・?」

 

「お、お頭!?お、落ち着いてください!!」

 

バギーの特徴的な赤鼻に触れられたことに団員たちは大きく動揺する。先ほどまで饒舌に話していたバギーは一転、怒気を纏わせた。

 

「バッ・・!!?峰田お前刺激すんなよ!?アレどう見たってコンプレックスじゃねぇか!」

 

「・・テメェら今すぐ殺されたいらしいなぁ!!」

 

「ああああ!!?すんませんすんません!!」

 

「バギー落ち着きな!ガキの言うことにカッカしてみっともない!」

 

「ぐっ・・・・ああ、そうだな。」

 

バギーの鼻についてはこのサーカス団の中で最も行ってはいけないタブーである。団員なら即刻殺される案件だが、処遇が保留されている緑谷たちは何とか見逃してもらった。

ヒヤリとした場面が過ぎ去った頃、バギーや緑谷がいるテナント内に新たな者たちが連れられて来た。

 

「う、麗日さん!?それにみんなも!?」

 

入って来たのは男子と同様に縛られた女子たちであった。

その状況に男子は狼狽えていた。

 

「やっぱりデク君達も捕まってたんだね。ごめん。しくじった・・。」

 

「おーおーこれまた随分と増えちまったなぁ・・。男は殺さないにしても使い所に迷うところだが、この年頃の女は色々と捗りそうだ。」

 

バギーは女子4人を下卑た目で見て、そう口に出す。その言葉に一様に女子は顔を青ざめる。

 

「わ、私たちが何したって言うのよ〜〜〜〜!!!」

 

芦戸は涙目になりながら体を揺らしながら泣き叫ぶ。一高校生がこんな状況になれば取り乱すのも無理もない。失言を零しても誰も責めはしないだろう。

そして爆弾を彼女は投下してしまう。

 

「このデカッ鼻ぁ!!!!!!!」BAAAAN!!!

 

 

 

・・・・。

 

 

「「「あっ・・・・」」」

 

 

 

「こ、こ、このガキャア!!!!派手に死ねぇえええええ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途轍もない爆炎と轟音が鳴り響いた!

 

 

 

 

 







この話長くなるなぁ〜。

質問にもあったんですけど、言語的なものはスルーでお願いしますの。エースカタコトだったりしたけど、そうするとバギーたちも何で喋ってんだよ、となるだけど、そうしないと話が進まない系になったので。

みんな日本語喋れる設定ということで!!


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終演

リスクなんてっ・・!!考えてる場合じゃない!!

ワンフォーオール!!100パーセント!!!

 

「テキサス・・スマッシュ!!!」ZOOAH!!!

 

激昂したバギーが自分たちに向けた銃口を見て、半ば反射に近い形で手錠を引きちぎり緑谷は個性を繰り出した。

バギー玉の威力はバギーが言っていた通り凄まじい威力を誇っているが、緑谷が繰り出した爆発的な拳圧はそれを押し返す。

 

「何ぃ!!?」

 

激しい衝撃は互角・・・ではなくまさにオールマイトの力そのもの、緑谷の拳圧がバギー一味を丸ごと弾き飛ばす。

まるで弾頭ミサイルが過ぎ去ったかのような土煙を巻き起こり、サーカス団ご自慢の天幕が引き裂かれた様を上鳴たちは今だに慣れない緑谷の個性に硬直して思考が一時ストップしていた。

皆がハッとしたのは、緑谷の歯を食いしばって呻く声に気がついた時だった。

 

「デ、デクくん!?」

 

「み、緑谷!?・・無理するなよ・・って言いたいとこだけど、助かったぜ!」

 

「あれを食らったらもう大丈夫だろ!早くここからズラかろうぜ!」

 

「むしろ相手死んでないかの方が心配なぐらいだね。」

 

麗日と上鳴が両脇から緑谷を支え立ち上がらせる。自力で手錠を引きちぎった緑谷以外の人間は芦戸の酸で溶かし両腕が解放されている。緊張から解放されたように緩慢な空気が一同に流れ始めていたが、反撃した当の本人は警戒を未だ解いてはいなかった。

 

(・・・あの手応え・・見た目ほど相手に威力が伝わってない。)

 

その予感は当たり、土煙が薄くなると同時に憮然とたつ四つの人影がくっきりと見え始めたのだった。

 

「・・・とんでもねえガキだ。バギー玉を跳ね返すとはな。おかげでこの拳銃もお釈迦だ!!」

 

「「「!!??」」」

 

先ほどとは打って変わってバギーの表情には笑みが消えていた。あるのは怒りというよりもこれを仕出かした緑谷を標的と定めた顔だ。

 

「嘘だろこいつら仲間を盾にして今のを防いだってのかよ・・!?」

 

上鳴が後退りながらそうボヤいたのは、緑谷の攻撃を受けながらも立つバギー、カバジ、モージ、アルビダは味方の団員を前に突き出し爆風を防いでいたからだった。

 

「・・・お陰で俺様のサーカス団はめちゃめちゃだ。この騒ぎでじきにヒーロー共々が駆けつけてくるだろう。このクソ餓鬼どもに手を煩わしている時間はねぇ。」

 

バギーの団員に向けて吐いた言葉を聞き、雄英生は彼らが退却するのかと一瞬頭を過ぎったが・・・バギーは砕けた拳銃から腰に差したナイフに持ち替えた。

 

「とっととコイツらバラしてズラかるぞ!」

 

「「「!!??」」」

 

「逃してはくれないか・・!皆!一斉攻撃だ!!」

 

緑谷が後ずさる友に指示を飛ばす。

その掛け声に間髪入れず攻撃態勢をとった彼らはさすが雄英ヒーロー科というべきか、切り替えの早さもさすがだ。しかしそれよりも速く道化が個性を四方八方に解放する。

 

「バラバラーー!!」BONN!!

 

バギーが叫ぶや否や、体がぶつ切りサイズにばらけた。

 

「あの・・個性はサーカスで見た!?死角からの攻撃がくる!!」

 

緑谷が瞬時に警戒したのはバラけたバギーの手。ナイフを握っていた手だ。

サーカスの中で見せた男の個性は体の大部分を空中で自由に操作できること。実はB組「取陰切奈」の下位互換の個性になるが、ヒーロー側とは違い、個性の使い方が命を断つ手段として直結している。

 

スパッという鋭い音が鼓膜を震わす。

 

「「響香ちゃん!!?」」

 

「っ・・・ぅう!!??」

 

緑谷・上鳴の後ろに控えていた耳郎が呻き声にもならない声をあげ斬りつけられた腿裏を押さえてうずくまった。

 

「ギャハハハ!!仕留めるときゃあ!まずは女からって決まってんのよ!」

 

「・・・やろぉ!!!!」

 

上鳴は仲のいい耳郎がやられ激昂しバギーへ一直線に駆ける。

 

「か弱い女が傷つきゃあ男が黙ってる訳ないからな!」

 

「感電死させてやる!!!」

 

「逆上して周りが見えてねえな!モージ!!」

 

「上鳴くん!!」

 

上鳴の個性がバギーに届く前にモージが跨る百獣の王の前足が彼の眼前に現れる。

・・・が、突如リッチーの脚が止まりその攻撃は空振りに終わる。

 

「な、なんだぁ!??」

 

「ヒョーッ!!あっぶね!!!」

 

その原因は峰田の個性である黒い玉がへばりつき動きを封じていたからだ。

間一髪の上鳴は軽く峰田に感謝すると、すぐに攻撃へ切り替える。彼の個性は系統でいえば最強の個性の1つだ。相手が生き物であるならば絶対的な威力を誇る。

 

「まず・・・一人と一体だぁあああ!!!!!」

 

閃光で体が掻き消えるほどにスパークさせた電気にモージ・リッチー共に硬直し、そして白目を剥きながら倒れ伏した。

上鳴は伏したモージを跨いでバギーに指を差す。

 

「・・ウェ・・次はてめえらだ!!」

 

若干崩れかけるが事切れる事なく真っ直ぐに瞳を向けた。

その姿に芦戸らは目を見開き驚く。

 

「か、上鳴が・・かっこよく見える・・。」

 

「いや、ほんと・・。」

 

「フォローしたオイラには!?」

 

「響香ちゃんがやられたのが許せなかったんや。」

 

今までなら先ほど程度に放電すればアホになってしまうのだが、今回は違ったようだ。仲のいい耳郎のために。しかしそれがどういった心境からかはここでは割愛しておこう。

 

(・・よし、この場面で一番の懸念だったライオンを倒せたのは大きいぞ。単純な戦闘力が一番厄介だからだ。)

「麗日さん、僕を浮かして。」

 

こそりと緑谷は麗日に耳打ちする。

 

「確かに厄介。だが、その力の代償は小さくないようだ。」

 

カバジは自慢の一輪車に跨りゆるりと剣を構える。

 

「もう1発でも打てば、膝を折るのは必至。大切に扱うんだな!」

 

そう言うとカバジは右手に持つ剣を上鳴に投げつける。

 

「ひっ!?」

 

これに上鳴は避けざるを得ない。電気に質量はないので跳ね返すことはできないからだ。

上鳴は間一髪避けるも、先ほどの放電で動きは鈍い。十分な体勢を保ててはいない。

 

「隙だらけだ!!おら!バラバラー!!!」

 

「げっ!?」と声を漏らした上鳴の周りにはナイフや剣を装着したバギーの無数のパーツが囲い込んだ。

 

串刺狂宴( ブロシェットサーカス)!!」Brochette Cirque!!

 

「くっ・・!!ならお前も感電させてやる!!」

 

「クック・・放電して動けなくなったお前の首を俺が一瞬で掻き切ってやるが。」

 

「っ・・!!」

 

一瞬の躊躇。カバヂの一言に上鳴の動きを固まった。

 

「ダッハッハッハ!!その前に俺様が穴だらけにしてやるよ!!」

 

判断の良さこそ勝負の強さ。上鳴の経験では戦いの中でまだ最適解を瞬時に出せない。

しかし上鳴同様思考が停止している生徒らとは反面に緑谷だけは違った。

 

緑谷は麗日によって空中からバギーの頭部へと一人猛進する。

 

「なにっ!!?」

 

(体を切り離しての攻撃は厄介っ!!でもそうする事で自分を守る防御はできない!!ガラ空きだ!!)

 

緑谷の判断力は予測たってのものだ。状況のイメージを描くことに長けているのだろう。間違いなく雄英1年生でも最上位を争うほど危機的状況を察知できる能力を持っている。

 

「テキサス!!!」

 

だが、あくまで学生の中での話だ。

 

「スマ「邪魔はさせないわ!」っ・・!!??」

 

緑谷の動きを読んでいたかのようにアルビダが彼とバギーの間に割って入ってきたのだ。

出した拳を引っ込めることはもはやできず緑谷は振り切った。

本来であれば割って入ってきたところでアルビダ共々オールマイトの力で当然吹き飛ばせるはずだが、徒手空拳の緑谷にとってアルビダは相性の悪い個性を持っていたのだ。

緑谷の拳はアルビダの肌に当たる瞬間お風呂場で足を滑らすかのように拳をあられのない方向に突き出してしまう。

 

「なっ・・!!???」

 

「こ、攻撃がそれた!?」

 

逸れた衝撃波が周りの資材などを薙ぎ倒し再び土埃を巻き起こす。突飛な出来事に一瞬頭がパニックした緑谷だが、アルビダの個性と状況の把握に頭を切り替えた。

 

「攻撃を逸らす。そういう個性か!!」

 

「そうね。」

 

既に痛めた両腕で体を起き上がらせようにも動けない緑谷にアルビダは右手で彼の頸を押さえ込む。

 

「ただ少し違うのは私はこの美肌を使って物を滑らせることができること。つまり物理攻撃は無効なだけ。」

 

(・・・なら麗日さんや芦戸さんたちの個性なら!!)

 

「・・・って顔してるじゃない?その前にあんたは死ぬわ!」

 

不敵に笑むアルビダの頭上からバギーの手が持つナイフが彼に目掛けて降りかかる。なんとか横目にそれを視界に入れた緑谷はもんどりうって個性を発動させようとするがアルビダに折れた右肘を外側に折り曲げられ激痛でそれどころではない。

 

(だ、だ・・めだ。し、死ぬ・・。)

 

「デクくんっ・・!!」

 

「「「緑谷!!?」」」

今から起こる惨劇が皆の脳裏に浮かんだ。

クラスメイトが死ぬ。

まだ、自分は助かると頭の片隅であった全員が明確に死をイメージした。どうしようもなく避けられない未来を防ぐため、動けない耳郎以外が緑谷に向かって足を駆け出す。

ヒーローを目指す少年少女だ。仲間の絶対絶滅の危機に自らを顧みず救出に足を踏み出すのは当然だった。

麗日葉隠は緑谷の盾になる為にナイフに向かい、上鳴は電撃を発生させ、峰田は所構わずモギモギを投げつけ芦戸は酸をナイフに向けた。

しかしその隙こそバギーたちが虎視眈々と狙った瞬間だった。

子供とはいえ侮れない彼らをバギーたちは実に大人の駆け引きを行なっていた。

簡単に一網打尽にできるとは緑谷の初撃から思っていなかった。だからこそ上鳴が動きを止めた時も緑谷がアルビダに止められた時も一瞬で殺すことはしなかった。今から殺すと言わんばかりに「間」を作り、生徒の意識を集中させる事で死角から狩ることを実行させようと目論んでいたからだ。

後ろから崩せばあとはなし崩し的に容易くなる。まさにカバヂやバギーの本体が彼らの視界から消えた今その目論見は確実となった。

 

ニヤケたバギーの顔の横に火の粉が僅かに飛ぶ。

どこから発生した?火薬が引火したか?いや、確かにそこらに爆薬はあったが爆発した様子はないし、それらは先程の緑谷の攻撃でほぼ吹き飛ばされていたはずだ。

 

なにも火の粉に起因するものはないはずだ。

若干の違和感を感じる前にバギーは突然の右手の燃えるような熱に絶叫をあげる。

 

「ぎゃあああ!!??」

 

「「「!!??」」」

 

そしてそれと同時にカバヂとアルビダが同じく声を上げる。

何事かと視界の狭い緑谷が突然圧力がなくなったアルビダを見上げると、体から焼けたように煙が吹き出し、皮膚は火傷したように爛れていた。

 

(な、なにが!?)

 

「子供相手にオトナげねぇナ。」

 

照明のない暗闇なのに光を纏いながら現れた青年がこちらにゆっくり近づいてきた。

喜怒を表したワッペンがついたテンガロンハットを深く被った彼に皆の視線が集まる。

その姿に女生徒たちは思わずあっと声を漏らした。

 

「この国で戦うつもりハなかったが、弟のダチを助けねぇわけにもイカネェもんな。」

 

先程麗日たちが遭遇したエースが参上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえずほかの生徒に問い合わせたところ、あいつらは全員ででかけてるらしいです。」

 

蛙水に電話で確認した相澤は受話器を置いて振り向きざまに後ろのオールマイトに報告した。

 

「どこにいったのだい彼らは?」

 

「どうやらこの前オープンした港のサーカスを見に行っているようです。」

 

「サーカスか。しかし流石に23時を越えた今に連絡がつかないとなると何かに巻き込まれたか・・。」

 

「そうですね。ただ夜遊びしてるとは考えにくいですね。上鳴芦戸峰田はいざ知らず他の緑谷たちはそういうタイプではないですし。」

 

相澤は外用の身支度を済ませてとりあえずそのサーカス会場から生徒が寄り道しそうなルートを辿ろうと考えた。

流石にこれだけで学校側が警察に捜索等を頼むには体裁が悪い。仮に本当にただ夜遊びをしているだけならば雄英の名に自分の生徒が泥を塗ることになる。そうだったら間違いなく退学処分に彼は処すだろう。

 

「相澤君私も出よう。確かに少々気掛かりだ。」

 

「貴方のお手を煩わすわけにはいかないです。私の生徒ですから。貴方は休める時に休んでいて下さい。」

 

相澤は遠慮がちに答える。

 

「いや、なんだね・・・、当人も自覚はないんだろうが、緑谷少年は間が悪いとあうかなんだか厄介な場面に出くわすところが多くてね。今回もそんな気がするのだよ。」

 

「はぁ・・確かにあいつのよく分からない危なっかしさは私も感じますが、ここに入ってからこの短い期間にそう何度も危険な目に遭ってたらこの先大変なんてもんじゃないですよ。」

 

「ハハハ。気のせいならそれが一番だがね!」

 

「た、大変です!港にて大規模な爆発事故が発生した模様で騒ぎになっています。民間のヒーロー他、ウチのヒーローにも援助を求める連絡が来ています。」

 

半分冗談に会話する二人に他の教員が慌てたように声をかけた。

それを聞いた二人は場所がサーカスが行われている港だと聞いて、顔を合わせ

た後一拍置いて顔を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

突然の乱入にエースに対し目を見開く一同。エースの顔を見ていの一番に反応したのはバギーで、先程までとは違い狼狽えるような顔を浮かべている。

 

「な、なんでてめえみてぇな大物がこんなとこに・・・!!?」

 

「知っているのかいバギー!?」

 

脂汗を滲ませるバギーの顔を見て緑谷はこの男が何者か思案する。しかし大物、そして熱を使う人物を連想すれば彼のオタク知識から正体を割り出すのは簡単であった。

その答えに緑谷の顔は驚愕一色。まるで有り得ないものを見るような目の開きようだ。

 

「ま、まままままままままさか・・・白ひげ2番隊隊長・・!!火拳の・・エース!!???」

 

緑谷の発言に皆が聞き覚えがあるかのように驚愕が伝播する。

ヒーロー・敵界隈でこの名を知らないものはいない。

 

「うそっ!!?だって・・この人、ルフィのお兄さん・・!?。」

 

「「「ええっ!!??」」」

 

身近な情報が飛び出し再度驚く男子。

 

「弟がセワになってるな。挨拶はアト、今は休んでな。」

 

「ま、まじか・・。でも確かに爺さんがガープでルフィはあれだし、兄貴が有名人でも血筋としてはおかしかねぇよな。」

 

自分たちの同級生に世界的に知られる人物がいる事に驚きはあるものの、ルフィ本人のスケール感にどこか納得がいく上鳴。

 

「ま、待て!!火拳!!俺らはおめえとは争う気はねぇ!!この場はここで収める!!」

 

慌てるバギー。そして同様にアルビダとカバヂもまたそれに頷き賛同する。

これまで恐ろしく見えていた敵が急に大したことがないように思えてきた。確かに雰囲気を感じさせるエースだが、噂で聞いていたよりも実物は若く気が柔らかそうな見た目であったため生徒らはバギーたちの狼狽えように若干の意外さを感じた。

 

「白ひげの主戦場は主にヨーロッパ界隈。僕らが思うよりもずっと白ひげの看板は敵を畏怖させる存在なんだと思う。それに火拳といえばその中の中核の一人。そして・・・彼は世界でも確認されているのが10人にも満たない希少個性を持つ人物だって話だ。」

 

「それは無理だな。あんたらが敵で、俺がヴィジランテである限りな!」

 

エースが左足を前に腰を落として拳を固める。

もはやバギーたちに逃げる道はない。

 

「こなくそがぁ!!!」

 

ヤケクソに叫ぶバギーが先程上鳴に仕掛けた串刺狂宴をエースにぶちかます。

しかしエースに刺さった大量の刃物は血を噴き出させる事は無く、エースの体の中をただ通過していくだけであった。

 

「「「えっ・・???」」」

 

「無駄だ。あの人の個性は自身が「火」そのものなんだ。火に物理攻撃は通用しない。自然(ロギア)と呼ばれるこの個性は間違いなく最強だ。」

 

ニヤリと口角を上げるエースは固めた拳を灼熱の炎へと変貌させ、正拳突きのようにそれをバギーたちに向かって振り抜く。

 

「火拳!!」

 

「「「ぎゃあああああああ!!!!」」」

 

極大の火の巨塊がうねりをあげてバギーたちを吹き飛ばした。

 

 

港ともあって過剰な延焼もなく、程なく鎮火していく光景を眺め呆然とする緑谷。クラスメイトの轟を大きく超え、小さい頃からテレビで見てきたエンデヴァーにも比肩するのではないかというエースの破壊力に興奮を覚えつつも、彼がヒーローではないということに僅かながらの危険を感じていた。

そう、悪ではないにしろ自分や母校の教師たちとは違う人種でもあるからだ。

 

そんな緑谷とは違い、他の者はエースに対し友好的な態度で感謝を述べていた。

 

「そんなことより早く傷負ってるカノジョを病院に送っといたほうがいい。俺もとっととここから早く離れなキャならないし。」

 

足を刺された耳郎を背負う上鳴に催促しエースは自分の荷物を拾う。

 

「何であなたみたいな人がヴィジランテなんか・・。ヒーローをやらない理由があるんですか?」

 

緑谷はエースの去り際に疑問を投げかけた。エースの人柄、強さはヒーローとして十分すぎるほどで、なぜ非合法・・犯罪者としてこの活動をしているのか不思議でならなかった。

 

「別に深い意味なんてねぇさ。今の方が気楽ってのもあるし自由がきくからな。ヒーローって言っても社会の一部で職業だ。そのしがらみの中じゃ救えないこともある。」

 

「確かに、それは・・そうですけど。じゃあルフィ君は何でヒーローを?彼も見ている限りではエースさんと似ているように思えるのですが。」

 

「まぁルフィはオールマイトに憧れてるとこあったから単純にヒーローになりたいのもあったし、ある人との約束があったからな。」

 

「約束?」

 

「その人もこちら側で、ルフィのもう一つの憧れでもあったんだ。その人がルフィにヒーローとして背中を押した。ルフィには象徴としてなって欲しかったから。」

 

「象徴?」

 

エースの言う象徴に皆が疑問符をあげ、緑谷だけがその意味を理解した。

 

「あいつには不思議な力がある。それは表舞台でこそ掲げてこそ意味があるのさ。」

 

エースはそう言うと突然顔を空に向け警戒色を露わにした。

 

「わたしがぁ〜〜満天の夜空から!やって来た!!!」

 

ドンっと地面が震えるほどの衝撃を出しながら緑谷生徒らとエースの間に割って入って来たのは・・

 

「「「オールマイト!!!」」」

 

「君たち無事だったかい?全く予想どうり渦中に巻き込まれてるとはね!」

 

オールマイトはサムズアップして生徒を振り返る。そして「さて・・」とエースの方に顔を向けると神妙な顔つきで青年を視る。

 

「お、オールマイト!違うんです!あの人は僕たちを助けてくれたんです!」

 

オールマイトが出す雰囲気からエースの正体に気づいていることを察すると緑谷は擁護するように手を振って制止する。

 

「わかっているさ。彼が今回の原因ではないのは。白ひげの一味が子供相手に手を出すような卑劣なことをするとは思えんからね。」

 

「へぇ。親父の事知ってんノカいオールマイト?」

 

「会ったことはないさ。しかし彼が今まで行ってきた所業は職業柄嫌でも耳に入ってきているからね。声を大にして言えやしないが、彼ほど尊敬に値する人物もそうはいない。」

 

「No. 1ヒーローにそうイってくれると俺の鼻もタカぇな。なら、俺も見逃してくれるかい?」

 

「それとこれは話は別だね。」

 

オールマイトは依然として警戒は解かない。

 

「参ったね。あんたに狙われチャア。」

 

「よく言うね。私では君の個性の前では傷一つ付けることが出来ないというのに。」

 

「そっくりそのままコトバを返すぜ。それはこっちも同じだし、あんたなら俺を無力化するなんて大した難易度じゃないダロ?」

 

お互いがニヤリと口角をあげ不敵に笑う。肉弾戦を得意とするオールマイトでは確かに火が実体であるエースに攻撃を加えることは出来ない。しかしエースとて弱点はある。自然系に共通する攻略法はその実体の物質そのものを無力化することだ。エースならば水。港で海沿いのこの場所ならいくらでもやりようはあるだろう。

 

「ふっ。冗談さ!我々よりも先に生徒たちを助けてくれた君を捕まえるなんて、そんな面の皮が厚い真似しやしないよ。礼を言わしてくれ、ありがとう!」

 

オールマイトはこれまでの緊張感を翻してフランクに感謝の意を示す。

 

「そういうジョーダンはカンベンしてくれ。心臓に悪い。そうそう、オールマイト。この近辺のヒガイは全部俺がやっちまったことダ。生徒たちは捕まって多少の抵抗はしたんだろうが、この敵をノシちまったのもオレだ。全部の責任はオレにある。」

 

エースはこのほぼ全壊となったサーカス会場と近辺の港場に目を向けオールマイトにクギを刺す。その発言に緑谷は異を唱える。この現状はエースによるものもあるが大部分は緑谷のOFAによるものだ。

多少の事は誰も咎めない暗黙の了解だが、ヒーロー以外に個性を公共の場で使うことは禁止されている。今回のような犯罪に巻き込まれた場合は個性を使用しても正当防衛の対象に値するがここまで損害を出してしまえば正当防衛の範囲外になってしまう可能性も否めない。政府は線引きが難しいため個性の過剰防衛の適用の基準を引き下げざるを得ず、今回の場合における港の関連のない他の所有物の賠償責任や個性使用の断罪を生徒らに向けてしまうことが予想される。エースはそういう面倒事を弟の友人ではなく自身に向けられるように言っているのだ。

 

「被害者の彼らは確かにここまでの大事になってしまえば処罰はないにしても二次三次的な影響は受けるだろうが、君が手を出したとなれば、それはただの罪になる。自ら罪を負うと?」

 

「今更この程度の罪をカブろうが大したことはねぇさ。少年たちは自分たちの身を守るために正しい行動しただけ。それなのにヘンなイチャモンがつくなんてバカらしいダロ?」

 

エースは両手を広げて法だけでは解決しないことがあると言いたようなニュアンスでそう言った。

 

「俺たちは影さ。法に守られない奴、法によって理不尽な目にあっている奴を助けるのが俺たちの役目さ。」

 

朗らかな笑顔で語るエースだが、その顔から揺るがない信念を誰しもが感じ取った。やはり兄弟と言うべきか、ルフィとよく似ている。

そして話している内に遠方からファンファンとサイレン音が聞こえて来た。どうやら警察とヒーローがやって来たようだ。その音を聞いてエースは体を火に変化させ消えるように去っていった。

 

「か、カッケェ・・・。あれがルフィの兄貴かよ。下手なヒーローよりカッコイイぜ!」

上鳴が言ったことに一同が肯定した。

ヒーローを目指す自分たちと近いようで違う新たなヒーロー像。この出会いに緑谷達が影響を受けたどうかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




約一年ぶりの投稿。
他の作品に浮気したりと長い番外編だった!

前話で言語がどうとか言ったけど、基本外国人は話せない設定でバギー達は普通に日本語上手いと言うことにします。
なのでエースは日本語を話せるけども下手、ということで!


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職場体験編
職場体験


緑谷たちの騒動から一夜明け、朝のHRを前に雄英高校1年B組では一つの話題で持ちきりである。

 

「・・何ソワソワしてんの鉄哲?女じゃなくて男でそんな心浮つく?」

 

「ウッセーよ!柔造!!楽しみなんだよ、あいつがウチに来れば授業でリベンジできるだろうが!戦闘訓練とかでよぉ!!」

 

「熱いねぇ〜。ま、俺はあんま戦いたくねぇな。勝てるイメージ湧かん。もちろんタイマンでの話だけど。」

 

男子はライバル意識ビンビンで活気づき、女子は別の話題で盛り上がる。キャイキャイと甲高い声で拳藤を囲む女子陣はこれからくる男子をネタにその中心をいじり出していた。

 

「にへへ、よかったじゃん一佳!あいつこのクラスに転入だって!」

 

取蔭切奈の言葉を皮切りに他何名かも顔をにやつかせる。

 

「は?な、何で?」

 

「わかってる!ウチらわかってるから!!」

 

「だ・か・ら・な・ん・だ!」

 

「ときめきますヨネ!気になる男の子が約束を果たし、そして自分と同じクラスになる。少女マンガみたいなテンカイでーす!」

 

「!!??」

 

体育祭の時の約束が何で自分のクラスに筒抜けなんだよ!と拳藤はガタッと立ち上がってアングリと口を開け体を震わしてしまう。

 

「唯があんたを呼びに行った時に見たんだって!アオハルしてたって!ね?唯。」

 

「ん」

 

「ち、違うから!!てか唯もそんなどーでもイイ話吹聴すんな!!」

 

「この甘酸っぱさをみんなに伝えたかった。」

 

「「「ヒュー!!」」」

 

「あああああああぁああ!!」

まさかの初恋(自覚してるか微妙)が即バレし拳藤が身悶えていると、担任であるブラドキングがガラリと教室を入って来た。大方予想ができた教室の喧騒に眉を顰め教卓をゴンゴンと鳴らし生徒の注目を引いた。

 

「おい、入ってイイぞ。」

 

ブラドはまるで転入生が来たかのように廊下に控える男子生徒に促した。

その男子はこのクラス、いやもはやこの学校でも知らぬ者はいない先日の体育祭の優勝者であり、そしてヒーロー科の皆の目標であった。

 

「おれはモンキー・D・ルフィ!最高のヒーローになる男だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィがヒーロー科1年B組に転科することになり、B組の席は一つ増えることになった。

ルフィの席は教室の一番前の真ん中となった。明らかに授業に集中させるために配置させたこの席にルフィは愚痴を漏らすものの、念願のヒーロー科にワクワクしてその不満もすぐに吹っ飛ぶ。

授業を始める前にと、来週から始まる職場体験の説明をしたHRからそのままの流れでヒーローネームを決める時間に移行した。助手としてプレゼントマイクが審査員を務める。

 

ガヤガヤと子供の頃から漠然と考えていた自分のヒーローネームに皆が盛り上がる。

 

「Hey チャンピオンからまずいってみようか!!」

 

なぜか発表形式となったので、ルフィは教壇に立ってフリップに書いたヒーロー名を読んだ。

 

「ゴム男!!」

 

「「「ダサっっ!!!!???」」」

「センス、ピーター・パーカーかYO!!」

 

こういったセンスがある訳が無いルフィが苦戦するのは火を見るのも明らかで、このクラスで一番難航したのは言うまでもない。

 

「別に名前なんて何でもいーじゃねぇか。」Boo

 

少しいじけだしたルフィは口をとんがらせてブーたれる。本人さえ良ければ別に何にしてもイイものではあるものの、周りとしては自分たちのトップが変な名前のヒーローなんてカッコ悪くて嫌だと数々のルフィの案を却下していく。

 

「ねぇルフィ。例えばさ、あんたのアイデンティティとか憧れをヒントに何か無い?あとそれに由来するものとか?」

 

席が隣である拳藤が何かテーマがあればしっくり来るだろうとルフィに尋ねる。

 

「・・・それなら、おれは麦わら帽子かな?」

 

「麦わら?」

 

拳藤はルフィにイメージが無い麦わら帽子がいきなり出てきたことにハテナを浮かべる。

 

「ブラジルにいた時の約束なんだ。オールマイトも超えるヒーローになってシャンクスが持っている帽子を引き継ぐって。」

 

「へぇ〜・・。なら、それにしよう!『麦わら帽子』じゃアレだから、英語で直してヒーロー『ストローハット』!!」DON!!

 

 

 

 

 

 

何だかんだで時は進み・・放課後・

 

「・・・ってバクゴーもう登校してんの!?」

 

「あぁん!?だったら何だ!?お前の許可がいんのかコラ!!」

 

「いきなり喧嘩腰!?」

 

ルフィと拳藤・鉄哲・物間の4人が一緒に帰路に着いていると、復帰が長引くだろうと言われていた爆豪と駅で鉢合わせていた。

 

「んだコラ!体調の心配して悪いかオイ!!」

 

「テツテツ優しさが隠せてないぞ。」

 

「ふ〜ん。結構元気じゃないか。てっきり君のようなプライドの塊は負けてもう数日は家でいじけてるもんだと思ったけど!」

 

「ああぁ?騎馬戦で死んだカスが何だって?」

 

A組でも若干持て余す爆豪に競争相手のB組では殊更相容れなそうだ。もっとも嫌味ったらしい物間とではそもそも噛み合う訳がないが・・。

 

「しっしっし!バグゴーはタフだかんな。ダイジョーブだろ!」

 

しかし恐らく一番噛み合わないであろうはこのルフィである。

 

「・・・・。」

 

「いやいや、体育祭の翌日から動き回ってたあんたが一番おかしいからね。」

 

かたや個人主義で打算的、かたや友好的でノーテンキ。相反しているこの2人が友達になることはよっぽどのことがない限り無いと誰もが思うだろう。しかし爆豪は以前のようにルフィに対し無意味に怒鳴り散らすことはしない。体育祭を経て爆豪なりのリスペクトをルフィに向けるようになっていたからだ。それは敬うという意味ではなく好敵手としてだが。

 

「・・・テメェ・・職場体験、どこのヒーローにしやがったぁ?」

 

「ん?何でそんなこと知りてぇんだ?」

 

「イイから答えろや・・。」

 

「まだ決まってねぇぞ。」

 

「ルフィの指名数はウチのクラスでもブッチギリすぎて候補絞るのも一苦労なんだよね。しかもヒーローチャートの上位の大半から来てるから尚更。」

 

「エンデヴァーに、ホークス、ヨロイムシャ、ミルコ、ベストジーニストだもんな。純粋に羨ましいぜ。」

 

「まぁ彼は体育祭の「優勝者」であるからして!!当然ではあるよねぇ!!B組の誇りさ!!」

 

「煽るな煽るな。まだ入って1日でしょーが。」

 

恐らく次回のトップ10に入るであろうトップヒーローたちの指名を独占するかのようにルフィには指名が集中した。ある者はその将来性に自身のサイドキックとして勧誘するため、ある者はその戦闘力と手合わせしたいため、ある者はヒーローとしての矜持を説くため、ある者は自身の2世と競わせるため、と理由は様々である。

 

「ていうか、それでいったら爆豪だって指名数すごいでしょ?1年の部で史上最高って言われてる準優勝者なんだから。」

 

「けっ。2位なんざ価値ねぇんだよ。」

 

「おれはやっぱオールマイトがいいなぁ〜〜!」

 

「いや、オールマイト学校いるし。」

 

ノーテンキなルフィはそもそも日本のヒーローの知識は皆無なので希望もあるわけではない。そんな様子に呆れ気味の爆豪はルフィに宣誓布告をする。

 

「おい、ゴム野郎。確かにオレぁ体育祭でお前に負けたがよぉ!気ぃ抜いてっと、すぐに追い抜かすぞコラ!俺はお前を必ず超す!!」

 

知り合って日は浅いが爆豪がどんな人間か把握しているB組の面々は、彼自身が潔く負けを認めていることに意外そうな顔を浮かべて驚いた。その一方ルフィはその堂々とした布告に不敵な笑みを浮かべ「ああ!」と答えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

サーカス事件の夜・・・・

 

バギーがエースに吹き飛ばされる直前、緑谷達から死角となった場所に黒いモヤが出現する。

 

「はぁ?よく知らんけど、鬱陶しい展開になってんな・・。」

 

「・・・まさかアレは火拳!?これはこれは・・。」

 

この場に現れたのは、バギー達が呼び寄せていた敵連合の死柄木と黒霧であった。

2人はコネクションがあるバギー達から雄英生を生け捕ったという連絡があったため、特に死柄木は意気揚々と乗り込んできたのだが、現状の有様に呆れ気味だ。

 

「しかし、また彼らですか。」

 

黒霧が呟くように声を出したのは、雄英生とは聞いていたものの先日の襲撃事件の当事者であった緑谷たちがまたもや自分たちの前にいたことに反応したからである。そして隣の男に注意を向ける。先日の襲撃の失敗は緑谷の介入が大きく、死柄木は緑谷に対し明確な殺意を向けていたことから衝動的に動かないか少し焦りを感じている。

 

「・・・心配しなくてもいかねぇよ。どう考えても分が悪いのはわかってる。」

 

「ならここを早く離れましょう。じきにヒーローがくるでしょうから。」

 

「ああ。だけど、ブツを回収してからだ。あいつらが作った武器は先生も相当評価してた。」

 

「ええ。」

 

死柄木たちは緑谷たちやエースに気づかれることもなくバギー達が保有しているバギー玉を回収していく。

そのためオールマイトが到着した後、緑谷たちの証言から警察は武器を探すも僅かな残骸は発見したが肝心な物は回収できずにいたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ガヤガヤと賑やかな昼休みの校内の階段の下でオールマイトはムムム、とマッスルフォームのまま困った顔をしていた。

その太い眉を下がらせてプルプルしている震えている様は少し気持ち悪いが、現状無理もないかもしれない。先ほど2時間目の自身のヒーロー基礎学をB組で行って以降、常に付き纏われていてマッスルフォームを解くことができないこと、そしてどこに逃げても追ってくる奴の存在に恐怖していたからだ。

 

隠れたオールマイトの背後からヌルリと1人生徒が現れる。

 

「見つけた!!オールマイト!!!」

 

「シット!!こんな快活なストーカーにはもうウンザリだ!?」

 

「何で逃げんだよオールマイト〜?」

 

顔が綻びるほどにニヤケ顔のルフィがオールマイトの両肩に手をかける。

 

「あ、あのねルフィ少年。休み時間毎に私につきまとうのはやめてくれまいか!?私だって人間!ひっそりと休息を取りたいのだよ!」

 

「ええ〜いいじゃんかぁ〜。おれオールマイトに憧れて日本まで来たんだぜ?普通科の時もヒーロー科に移るまで会うこと我慢してたんだ。なぁ〜相手してくれよー!」

 

「くぅ!!緑谷少年とはまた違う羨望の眼差し!」

 

言うまでもなく2時間目のヒーロー基礎学はルフィの暴走したテンションに半ば授業は破綻し、オールマイトは教師生活初の挫折を味わったのであった。

ルフィにとっては彼はシャンクスと並ぶ憧れの人物であるわけで、感情に従順な性格のルフィがオールマイトにつきまとうのは自然な流れなのかもしれない。

 

(確かに授業が終われば直ぐに職員室に帰ってトゥルーフォームに戻るから、ヒーロー科以外の子と接触することがないもんな。あっちの姿だと絶対気づかれないし・・。っていうかマジでもうフォームの維持が厳しいんだが!?この後緑谷少年に職場体験の話をしなくてはならんし・・。)

 

「これまでの話も聞きてぇーし、何より戦ってみてぇな〜。No. 1の実力体感してみてぇ!!」

 

(ホントTA・SU・KE・TE!!?)

 

オールマイトが助けを求めるような目を廊下に向けると、こちらを伺うように見つめる拳藤がその視線に気づいた。

 

「あ!ルフィまたオールマイトに迷惑かけてるだろ!!散々さっきの授業で困らせてたのにいい加減にしろ!」

 

「怒鳴んなよ〜。うるさいなぁ。」

 

「うるさいとは何だ!?あんたのその素直なとこはいいけど、人の迷惑も考えな!オールマイトも忙しいんだからあんた1人構ってられないの!」

 

拳藤は現れるなりルフィを叱りつける。元々姉御肌の彼女なので自由奔放なルフィの世話を一身に買って出ていた。実はただ気になってしょうがないだけなのですがね。

彼女のその姿を見てオールマイトにとって今まさに彼女こそがヒーローに思えてしまう一方、(お母さん?)という保護者と子供のやり取りを見ている気分でもあった。

そしてオールマイトもその隙を逃すまいと「またお話ししよう少年!」とサムズアップして逃げ出した。

 

「あ!・・・行っちまった。」

 

「ったく、あの人に憧れてここに来たのは入試の頃から知ってるけど、自重しなよ。」

 

「ま、これから学校で会えるんだし、いっか!」

 

「そんなことより、ルフィ。職場体験のところ決まった?今日中に返事しないといけないってブラド先生も言ってたよ。」

 

「ああ、もう決めたぞ。」

 

「どこ?」

 

「No.1のオールマイトが無理なんだったらNo.2のところだ。」

 

「え・・ってことは・・え?マジ?」

 

「しっしっしっし!」

 

 

 

「おい爆豪!お前どこにすんだよ?まだ提出してないんだろ?相澤先生少しキレてたぞ。」

 

食堂にて列待ちする切島が前で並んでいる爆豪にそう声を掛ける。

大方皆が既に職場体験先を決めている中で、珍しくウダウダと悩んでいる様子の爆豪にどうしたのかと少し心配している切島。体育祭以降物静かになっている爆豪。クラスメイトから若干気味悪がれつつも心配され、教師陣からは自信の喪失をしてしまったのじゃないかと懸念されていた。

 

「勝手にキレてろや。」

 

「いや、あの人怒らすとマジで洒落ならんて。」

 

「・・・もう決めてはあんだ。ただ折り合いつけてねぇだけだ。」

 

「?」

 

爆豪はガシガシとイラつきを取り払うかのように頭を搔く。どうしても感情がその選択を拒否して邪魔をしてくる。根っこにあるプライドが邪魔をする。

ルフィを超えると決めた以上、妥協はしてられない。恥を忍んでも考えうる最上の訓練を受けるべきだ。

爆豪は人生で一度たりともしたことない行動をとった。

 

 

 

 

週末が明け、いよいよ職場体験の日がやってくる。

ヒーロー科全員は学校から最寄りの駅へ集合し、そこから研修先の事務所へと向かう。おおかたは都内の事務所に向かうが、A組の常闇のように福岡を拠点にしているホークスならば、遠方まで赴く事になる。

クラスとの別れ際、緑谷と麗日はいかにも心配そうな顔つきで研修先に向かう飯田の背中を見つめている。先日のヒーロー殺しに彼の兄であるインゲニウムが襲われた事で憔悴していることは本人は隠しているが仲のいい2人もそれは感づいている。しかし身内の不幸に対して気が利いた言葉をかけてやれるほど、まだ彼らは大人ではなかった。

 

そして一方、あるヒーローの事務所に向かう道に3人が同じく歩を進める。

今回でも研修先がAB組で被るところは何組かあるので重複する事自体は珍しくないのだが、豊作と言われている今年の1年のトップ3が集うというのはかなり稀有なパターンだろう。この決定には相澤にしてもブラドにしても全くの予想外と言っていい。果たして無事職場体験が終えるのか、その心配でこの期間落ち着く日はないと2人は断言できる。

 

「・・思ったよりアイツに人気がある事に驚いているんだが。」

 

「なんでテメェまでいるんじゃ・・!!」

 

「お前らもか〜。ウッシッシ!楽しくなりそうだな〜。」

 

轟・爆豪・ルフィの3人はNo.2、エンデヴァーのヒーロー事務所へと乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 




ぶつ切り感のある回・・。

あ〜早く神野編行きてぇ!


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パトロール珍道中

職場体験ではヒーローが持つ指名権は2つ。つまり第一候補と第二候補とあるわけだが度々どちらも当たりを引いて両取りすることがある。今回で言う所のフォースカインド事務所の切島と鉄哲のケースがこれに当たる。・・であるからしてエンデヴァー事務所のようなケースは今まででも類を見ない事例だった。

 

「おいおい、流石エンデヴァーのネームバリューとはいえ雄英新BIG3が一堂に会すとは・・!」

 

このエンデヴァー事務所の社員たち多数がガヤガヤとざわめき話題の3人を取り巻く。

ルフィ・轟・爆豪は今や下手なヒーローよりも高い知名度に加え、話題性に富む超有望株として認識されている。ここまで来るまでに何回声を掛けられたことか。尾白くんが1とするなら100はいくだろう。

3人の前に佇むエンデヴァーもいつもと変わらぬ面持ちに見えるが、息子の焦凍だけではなくダメ元で指名したルフィまでやって来たことに俄かに頬を緩めていた。

 

「前途有望な君たちを迎え入れられ嬉しく思う。そして爆豪君、逆指名を貰うとは少々虚を衝かれたが君であれば歓迎する。」

 

「・・・逆指名って?」

 

サイドキックの1人が隣の事務員に聞く。

 

「普通体験は2人まで。指名権がそれまでですから。ただあの子の場合、焦凍君の伝から頼み込んでエンデヴァーさんに許可を貰ったらしいですよ?」

 

「はぁ・・普通人気ヒーローにそんなんしても門前払いがいいとこだってのに。優秀なのはお得だねぇ。」

 

爆豪は正規のルートではなく、悪く言えばコネありきの縁故採用である。

自分以上の実力の2人を越すためにはよりレベルの高い環境に身を置くことがマストと考えた爆豪はベストジーニストの誘いをも蹴って轟に頭を下げたのだ。彼の性分からしてあり得ない行動である。これには頼まれた轟も驚きを隠せないでいた。

 

(利用できるもんはあんなら全部使ってやる!目先の屈辱なんざ後々100倍にして返してやる!!)

「・・ただなんでテメェまでここにいとんだ!!」

 

「いや〜まさか轟ってエンデヴァーの息子だったんだな!バクゴーもいるし楽しくなって来たなー!」

 

この体験に向けてシリアスな空気を纏ってきた2人に反してルフィのこの緩みっぷりである。残念ながらここにはツッコミ役は存在しなかった。

 

 

 

 

職場体験はあくまで生徒らはお客さんであり、仮免を持っていない彼らは同行はできても個性を使用することは禁じられている。つまり一緒にパトロールしていても意味合いとしてはただの見学である。

エンデヴァーに連れられ街へと繰り出す3人はコスチュームに着替えてもそれはある種のパフォーマンスに近い。

 

「・・・モン・・いや、ルフィ。コスチューム来たのか?」

 

更衣室で轟の目に入ったのは自分たちと同じようにコスチュームを入れたルフィのアタッシュケース。

 

「おう!これに間に合ってよかったぞ!ここ来る途中も楽しみにしてたんだ〜!初めてのヒーロースーツ!!」

 

ルフィはガバッと勢いよく開け、コスチュームを身につけていく。

そのコスはサッカーブラジル代表を彷彿とさせるカナリア配色のデザイン。ゴムの体を持つルフィの動作に対応できるようプロ顔負けの高品質の超伸縮ラバースーツ。特筆すべきは斬撃の弱点を補填する耐刃仕様になっているところだ。

手には攻撃補助の特殊手甲をハメ、足元にはローカットのスパイクシューズ。

そしてヒーロー名を体現するパーカー式の麦わら帽子。スーツに合わせたソリッドな形にメイクアップし、カラーは麦わら帽子のイメージに近い黄色とマゼンダで配色。もちろん防御の性能も十分にあるが、基本デザインを重視している。

 

「なるほど・・元々打撃系が効かない上に斬撃までカバーできるのか。かなり高性能じゃないかコレ。」

 

一介の生徒としては十二分な出来のヒーロースーツだ。コレにはガープ関連の協力とやはり体育祭を優勝してからの製造だったためサポート会社も相当なコストを支払ってくれている。質の高い雄英生の中でも特筆できる一品だ。あまりスーツに頓着がない轟も関心する。

 

(実力がありゃ待遇も変わる。個人の能力の上昇と並行してスーツの改良も必須事項だ。)

 

ルフィのスーツをめざとく観察する爆豪。汎用性の高い自身の個性を100%以上に発揮させるためにはサポート会社とチームアップすることが必須であることを改めて意識する。

 

 

 

エンデヴァーを筆頭に4人は近隣でのパトロールを手始めに行う。

 

「パトロールにおいて重要なのはヒーローとして自身の存在感をいかに出すかだ!!」

 

反抗的だった息子に良いところ見せようと距離間的にムダに大きい声で先導する父親の図である。

 

「何より重視しなければいけないのは犯罪を未然に防ぐことだ!気さくで穏やかに民衆と触れ合うヒーローもいいが、それよりも隙がなく緊張感を漂わせることでまだ見ぬ敵の脳裏に己の存在を焼きつかせプレッシャーを与えろ!!犯罪を犯す気を失せさせるほどな!!」

 

市民が周りにいる中エンデヴァーは強面を更にギラつかせる。その姿にすれ違う守るべき市民が彼に怯えてはいるが彼の言う通りならコレが正解なのだろうか。

爆豪が「同感。」とだけ呟く一方で、轟はやはりこの父親とは相容れない様に思えてしまう。

 

(変わらねぇ・・。力が全てかの様な口ぶり。・・・俺も確かにこいつの影響を受けてたことは自覚してる。力さえあれば・・母さんの力で証明してやればって・・・。でも違う。緑谷とルフィとの試合でわかった様な気がする。・・・ヒーローは力や勝ち負けじゃない。)

 

エンデヴァーの熱い指導は常時不機嫌な爆豪と寡黙で反応が薄い轟に完全に空振っている。

さすがのNo.2ヒーローもこの空気の悪さも感じている様で「うむぅ・・」と唸ってしまう。そこで比較的ノリが良さそうなルフィに目を向けるが、居たであろうところに少年の姿がなかった。

 

「おばちゃん。コロッケあと5つくれ!!」

 

「いい食いっぷりだねぇ〜。よっしゃもう2個サービスしちゃるよ!!」

 

「まじ!?サンキューおばちゃん!」

 

目を向けた先にはこの商店街の精肉店でコロッケを山ほど食っているルフィであった。

 

「な、何をやっている・・・。」

 

「ん?コロッケ食ってる。」bakubaku

 

パトロール中のルフィの行動に少し理解が及ばないエンデヴァーの質問にルフィは何の疑問もなくあるがまま答えを返す。

 

「なぜコロッケを食っているのか、を聞いているのだが・・・。」

 

「なぜって・・コロッケおいしいじゃん。好きじゃないのか?おれ好きだけどなー。まぁ確かに日本てウメーもん多いから他の店のにも目移りしちゃうもんな。」

 

父親の愕然としたこの顔を初めて見た轟であった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

警察内部では数日前エースが密航した目的が何かと上層部で俄かに騒がれた。

しかし彼関連で特に何も起きなかったことと、本来悪と呼べない人物像によって捜査が行われることはなかった。

エースの目的は一つ。白ひげの裏切り者、黒ひげの追跡だ。ルフィに会ったとはもののついでに顔を合わせただけで、本来の目的ではない。

黒ひげこと、ティーチはエース率いる2番隊の隊員で白ひげの中でも古株のメンバーだが、一戦闘員であったこと、表立った活躍がなかったことで世間の認知は薄く、ここ日本においては全くの無名と言っていいだろう。だからこそ奴がこの国に潜伏していても何の支障もなかった。

 

「ゼハハハハハハ!!全くこの国は呑気なもんだ!危機感の無い締まり無い顔が並び、足元も疎かなガキが夜道を歩き、腰の曲がったジジイが主役ヅラで吐き散らす。すぐそこに闇が這いずってることに気づいてやしねぇ!!」

 

「乱世の後に平和が訪れる様に、平和の後に乱世になるのもまた巡り合わせなり。」

 

ティーチと、その部下狙撃手のヴァン・オーガーは東京都内の雑居ビルの屋上に腰を据えていた。

 

「まぁ・・女の頭の中が空っぽなのはどこの国でも同じではあるがな!!ゼハハ!!!」

 

「ガフッ!?・・・お頭、あんたの元隊長さんがこの国に・・来てるらしいぜぇ。」

 

血を吐く病弱な男、ドクQ。街の探索の傍にキャッチした情報を土産にバージェス・ラフィットと共に戻ってきた。黒ひげの一味総員5人がここに集結する。

 

「ほぅ・・エースか!だが、今はあいつに構っている場合じゃねぇ!白ひげの様な過去の英雄に囚われちまってる奴に構ってちゃあ乗り遅れちまうぜ!!新時代はもう始まっちまうんだからよ!!!」

 

黒ひげは予期するは悪の新時代。

 

「そしてその中心はこの日本。その理由はオールマイトの衰退、そしてオールフォーワンの存在にありますね。」

 

この一味の諜報役ラフィットは日本の闇社会に潜った結果、今後の動向を予測する。

 

「今のこの社会は非常に繊細なバランスで成り立っています。まだ個性が存在しなかった前時代であれば警察など組織的な治安維持が可能なほどに、個人は皆平等に無力でした。しかしこの個性隆盛の時代、個人の中で隔絶された差が生まれ始めました。人を傷つけることすら出来ない個性もあれば数百人単位を滅ぼせる個性もある。組織が個を抑え込めなくなったからこそ個で抑え込めるヒーローが生まれたわけですが、この場合圧倒的なカリスマが必要です。際限の無い悪に正義は対応し続けられない。象徴となるべきヒーローがいるから新たなヒーローが生まれます。今でいうオールマイトがそう。しかし彼が倒れれば間違いなく正義は枯渇するでしょう。ではどうなるか?当然悪の縄張り争いが始まります。」

 

抑圧された個性が解放される日は近い。近頃紙面を賑わす敵連合の台頭、マフィア復権画策、完成されつつある異能解放軍の存在とこれから裏社会は目まぐるしい変化が起こっていくだろう。

 

「縄張りなど雑魚どもでやらしゃ良い!俺たちが狙うはオールマイトのみ!!・・・いやワンフォーオールをだ!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ひったくりよーーーー!!!」

 

人通りの多い大通りで女性の甲高い叫び声が響く。

ひったくり犯の男は体のいたるところにある穴から空気を噴出させる個性を使って人混みをかき分けて逃走している。この様に犯罪を犯す者は個性を使い事を図るが、周りの一般人は逆に個性使用は認められていないため見過ごさなければならない。つまり通報してヒーローを呼ぶか、運よく巡回しているヒーローが駆けつけるしか無い。

 

ボウッ!!と爆破音が犯人の後方から一つ鳴ったと思えば、その音が連続して鳴り響く。

 

「チンケなことしてんじゃねえや!!クソゴミが!!」

 

「!?」

 

唐突に空から現れた爆殺王(没)が犯人の前を防ぐ。

犯人はとっさに空気の噴出口を彼に向ける。

 

「おっせぇ!!!閃光弾!!!!」

 

視界が潰されるほどの光量に叫び声を犯人は上げると同時に浮遊感に襲われる。

 

「そりゃ!!ゴムゴムのーー!!」

 

群衆の中から伸びた手が犯人を上空に引き上げていたのだ。

 

「おい。その先はダメだぞ。」

 

ストローハットを手で制した少年、ショートが飛んでいる犯人を囲む様に5本の氷の支柱を地面から氷結させた。

ぐえっ、とそのまま地に落ちた犯人は氷の檻によって閉じ込められ呆然とする。そして彼を囲む様に3人のヒーロースーツを纏った少年たちが集った。

 

「おおっ!すげえ鮮やか!誰だあのヒーロー!?」

 

「・・ヒーローでは無い!!」

 

「うおっ!?エンデヴァー!!?」

 

遅れてヌッと出てきたエンデヴァー鼻息荒く現れた。

 

「テメェ!!俺が足止めしたモンを横取りしてんじゃねえよ!!」

 

「バグゴーナイス足止め!」

 

「貴様ら!何を勝手にやっている!」

 

エンデヴァーは3人に詰め寄り今3人がやったことを咎める様に声を荒げた。

 

「資格のない者が個性を使うことは違反行為だ!ヒーロー校の生徒が知らない訳ではないはずだ!」

 

「?・・何怒ってんだ?」

 

「・・知らない奴がいたな。俺らはまだヒーローの資格や仮免を持ってないからさっきみたいに個性を使ったらダメなんだ。」

 

この辺の知識がないルフィに轟が大まかに説明する。

 

「悪い奴捕まえると罪になるだって?」

 

ンエっと舌を出して「何だそりゃ?」とルフィは顔を顰めるとエンデヴァーが釘を刺す。

 

「それがこの国の決まりだ。素人の火遊びほど怖いものはない!」

 

「攻撃はしてねぇ。」

 

「屁理屈!!個性を使った時点で言い訳できん!!そして君らが出る必要性はない!」

 

堅物のエンデヴァーに何を言っても頑として聞き入れなさそうなので爆豪もこれ以上何も言わなかったが、ルフィはイマイチ納得はいかなった。

 

「面倒だなぁ〜。ってかこんな近くで犯罪起きてっけど、さっきオメェ犯罪をそもそも起こさせないとか言ってなかったか?」

 

「!?」

 

「・・・それもそうだ。」

 

「言ったそばから起きてやがんな。カッコ悪ぃ。」と爆豪。

 

3人はジッとエンデヴァーの方に目を向ける。

ヌググ、と先ほど声高々に未然防止を語っていた手前反論ができずに固めるエンデヴァー。初日から不安の残るスタートとなってしまった。

 

 




なんか今日掲載の原作似た展開になったんだけど・・・やだこれ。こんなことあんのねぇ〜。



ワンピの扉絵連載みたいな感じで、ウソップを主に前書きか後書きで話作ろうかと思ってるんですけど需要あるっすかね?


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