異世界からの侵略者によって殺された少年は16年前の過去に転生した。 (有栖川結城)
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零 異世界からの侵略者と過去転生
それは、唐突だった。
我々はこの世界を征服する。
ある少女が宣言した。
---それが、この世界の悪夢の始まりだった。
白銀歴2036年3月の雪が降り積もる寒い日。
レイラル王国の人民は何らかしらの理由で上を向くことができない人間を除き、全て天を仰ぎ見た。
老若男女問わず、種族は人間からエルフ、魔族まで全てが。
そして、天には雲ではなく、超巨大スクリーンがあった。
目測で地上10キロ程度。
大きさは目測で10キロメートル四方。
そのスクリーンにはとある少女が映っていた。
その少女には羽が生えていた。
羽だ。天使の羽だ。
しかし、彼女はどう見ても天使じゃない。
軍服を着た三白眼で、しかも眼帯をしている。さらに頰に切れ込みがありどう見てもサイコパスにしか見えない。
だが、彼女は天使の羽を持っている。
つまり、彼女は堕天使だ。
王国民は全てそのことを察知した。
多分、他国でも同じだろう。
連邦でも、連合王国でも、共和国でも、帝国でも。
彼女が堕天使だということを。
特に、無神論者の多い王国の人民は驚いただろう。なぜなら、彼らは堕天使どころか天使の存在さえ信じていなかったから。
そしてその堕天使が宣言を始めた。
我ハ異世界ヨリ、コノ世界ヲ征服シニキタ。
我ガ軍ハ圧倒的ナリ。
故ニ貴様等ノ勝チ目ハ万ニ一ツ無シ。
ソコデ、我々ハ貴様等ニ降伏ヲ促ス。
今スグニ降伏セヨ。
サスレバ臣民権ヲ与エヨウ。
ダガ、歯向カウヨウナラ容赦セヌ。
期限ハ三週間。
其レ迄ニ回答セヨ。
そして、巨大スクリーンは跡形もなく消えていった。
要は、我々はこの世界を征服する、ということだ。
まるでラノベやアニメの設定ではないか。
異世界からの侵略者。
それに抗う地球の住民。
だが、こういうのはラノベやアニメだからこそ楽しめるのだ。
現実にそんなことが起きたら笑いものにならない。
第一、笑う暇などないだろう。
異世界からの侵略が現実に起こるなんて、誰が予想したであろうか。どこぞの中二病ならありえるかもしれないが。
それはともかく、王国はその異世界からの侵略者に対する対応に追われた。
枢密院や大統領、首相など様々な人間が議論を交わした。
その結果、王国は各国とともに異世界と戦うことになった。
つまり、地球はあの堕天使が率いる軍隊と交戦することになる。
そして、三週間後、異世界の軍隊と地球の軍隊は交戦することになった。
まず、連邦が攻撃対象となった。
理由は僕でもわかる。
連邦には地球最大の軍が存在するからだ。
連邦の政治体制について軽く説明しよう。
連邦は魔族の中の王である魔王が連邦を治める。
ちなみに世襲制ではなく、実力によって後継者が選ばれる。
そして、魔王が力のある魔将軍から四人を選ぶ。この四人が四天王、と俗に言われるやつだ。
その四天王が各地を治めるという政治体制をとっている。
なぜ、連邦を治める主が魔王に加えて四人必要なのかというと、単純に連邦は巨大だからだ。
気候も違えば、採れる作物も種族も違う。
なので政治体制も地域によって変える必要があるので、連邦には魔王に加え四人の王がいるのだ。
そして、連邦は広大であるが故、人口も多い。
そのため軍隊の大きさも五つの国の中では最大である。
それに、連邦軍の質も高い。
特に、魔王直属の軍は精鋭揃いだ。
なので、あの堕天使は量・質ともに高い厄介な連邦を最初の攻撃対象に位置付けたのだ。
その情報を素早く嗅ぎつけた各国首脳部は魔王軍を助けるため、援軍を派遣。
王国からは精鋭騎士団によって構成された二個師団と宮廷魔道士部隊大隊を援軍として連邦に送った。
なんとか異世界の軍隊を連邦で足止めしたいという思惑もあったと考えられる。
だが、王国は次に入ってきた情報に度肝を抜かれた。
魔王は殺され、四天王のうち一名は自殺、一名は降伏し、残りのニ名は行方不明になったという。
さらに、王国が派遣した二個師団と宮廷魔道士大隊は全滅。
そして連邦は異世界の軍勢によってことごとく征服された。
これはヤバいと感じた王国枢密院は勇者の使用を許可した。
枢密院はこれまでなんらかの理由で勇者の使用をためらってきたのだが、世論がそれを許さなかったのだ。
ちなみになぜ枢密院が勇者の使用をためらってきたのかという理由はわからない。
そして全ての王国人民は勇者に対して希望を持った。
勇者。
それは遠い昔の何千年も前、魔族と人間が対立していた時代に人間が最終兵器として召喚したものだ。
そして魔王と勇者は激しく戦い、その後両者は講話をした。
それから勇者が公式の戦力として使われたことはない。
勇者率いる王国最強の騎士団は異世界の軍勢と激突した。
だが、あっけなく敗退。
あれが本当に勇者なのか、と思われるほどの呆気ない敗退であった。
全ての王国人民はもはや希望を捨てた。絶望した。
そして、今に至る。
僕は寮から通っていた大学から、急いで実家へ帰った。
無論、鉄道を使った。
僕は家族が気がかりだった。
元々、僕は家族の反対を押し切って大学へ通ったのだ。
それも美術大学だ。
特に父は『美術なんぞ何の役に立つのか!』などと一喝し、完全に認めていなかった。
だが、なんとか姉と共に説得をして、美術大学の試験を受ける許可をもらった。
なお、母はこの件に関して口出しをすることはなかった。
そして、僕は王都にある美術大学に受かった。
しかし、美術大学では僕の絵があまり評価されなかった。
僕の絵は精密で細かく、綺麗だった。
だが、僕の絵は寂しかったのだ。
人があまり登場せず、寂れた雰囲気を醸し出す僕の絵は教師にあまり受けなかった。
素質はあるが、才能がないというのはこのことだろう。
建築系に転向した方がいいのではないか、と何度も言われた。
だが、諦めることはできなかった。
僕が画家になることを信じていた姉がいたからだ。
最初、僕が画家になりたいとカミングアウトした時に姉はその志を認めてくれた。
そして、僕と一緒に父を説得してくれた。
それに、影で僕への送金のほとんどが薬剤師であった姉の給料だったという話を聞いた。
この期待には、裏切ることができない。
僕は必死に勉強をした。その成果が実り、僕の絵は次第に売れるようになった。
そして、先月その額は送金なしでも普通の生活できるほどにも上った。
なので、僕は密かに帰郷計画を立てていた。
そんな中での堕天使の地球侵略宣言。
僕は家族が気がかりになり、一目家族を見たいと思った。そこで、僕は帰郷計画を前倒ししたのだ。
そして、僕は鉄道から降りた時に妙なものに気がついた。
空に規則的に並んでいる黒い点があったのだ。
その時は航空魔導士かガーゴイルや龍による偵察だろう、と思っていた。
しかし、その点がこちらへ近づいてくるにつれ、航空魔導士どころか、ガーゴイルや龍よりも大きなものだと判明した。
それよりももっと、巨大なものだ。
それは、空飛ぶ鉄で出来たモノだった。
謎に包まれた兵器である。
なぜ、鉄が空を飛ぶのか?
魔力も使わないで、なぜ飛ぶのだろうか。
我々の人知を超えた兵器だ。
数十年前実用化された複葉機という空を飛ぶ機械はあるが、あれの素材は木や布だ。鉄ではない。
そして、空を飛ぶ鉄など相手に持ってきた拳銃などなんの役にも立たなかった。
空飛ぶ相手に銃弾など通用しない。
「危ない!!」
僕はその声
この1話には大量の伏線を仕込みましたが、全部回収するまで何話かかるでしょうかね・・・
大体週一投稿を目指します。
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