自分らしく生きた結果、見事ぼっちになりました! (Narvi)
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1章 幼馴染との共同生活スタート!
1話 幼馴染はお母さんでした


 どうもこんにちは! ナルヴィです!

 新作書きました! ちょっとラノベ感出ていれば僕は満足です。

 基本週一ペースで読みやすい字数にしている(つもり)なので、たまーに覗きに来て、楽しんでくれたらなーと思います!

 では、どうぞ!


『お前は好きに生きればいい。自分らしく生きなさい。そして、その道に誇りを持ちなさい』

 

 これは俺の大好きで、今はもうこの世にはいないおじいちゃんの言葉だ。

 小さい頃はよく遊びに行った。すごく厳格な人でとても周りや自分に厳しかったが、俺が周囲からの目に悩んでいた時によく相談に乗ってくれた。

 

『自分らしく……?』

 

『そうだ。自分でしっかり考えて、悩んで、苦しめ。失敗してもいい。ただ、悔いだけは残らないようにしろ』

 

 おじいちゃんは、少し強めの口調でそういった。

 小学生の頃の俺にはその言葉の全てを理解することはできなかった。でも、おじいちゃんが本気で伝えていることはわかったので、俺は素直に頷き、ひたすら悩み、考え、苦しんだ。

 

 そんな、懐かしい、夢を見た――

 

 

 

 

 ジリリリリとけたたましい音でなる目覚まし時計を足で無理やり止め、なかなか覚めない目をゴシゴシと擦る。

 

 ――ああ、今日も朝がきた。

 

 そう頭では思っているのに、なかなか体を起こせないのは、なぜだろう。

 

 うーん、うーんと布団の上で唸っていると、下からドタドタと階段を登ってくる音が聞こえた。

 

 ――やべ、今日も来た!

 

「唯斗~! 起きなさい!」

 

 その声と同時に、バタンと勢いよく開かれるドア。俺がまだ寝ていたいっていうだけで、ドアに悪気はないんだ。許してやってくれ。俺は無駄だと思いつつもバレないようにかけてある毛布を顔までかぶる。

 

「どーせ!起きてるんで……しょ!」

 

 そう言って声の主は俺の被っている毛布を剥がそうと全力で引っ張る。

 

「もうちょっと寝かしてくれって……」

 

「もうっ!今何時だと思ってるの!」

 

「うーん……六時くらい?」

 

「そんなわけ無いでしょ! もう七時半だよ!」

 

「ふーん……」

 

「――って、こら! 寝るな~!」

 

 声の主は声を張り上げて起こしにかかる。

 

 ――こうして、俺の一日が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、早く食べて……」

 

 疲れた表情でそう言うのは、紗綾――俺の幼馴染だ。俺が高校生になってひとり暮らしを始めてからはよくこの家に来て、世話を焼いてくれている。

 

「うん、やっぱり紗綾の作る朝ごはんは最高だね!」

 

 俺は箸をおいて紗綾に向かって親指を立てる。

 

「わかったから、早く食べなさいよね……」

 

 なぜ疲れているのかなんてわかりきってるから聞かない。多分聞いたらまた怒りを買うだろう。

 僕は味わいつつ急ぎで食事を済ませ、紗綾が持ってきてくれた鞄を受け取る。

 

「ほんと、紗綾がいなかったら俺、今頃死んでたと思う……」

 

 そう思うのはきっと仕方がないと思う。実際に家事のほとんどは紗綾がやってくれているし、朝も起こしてくれる。ここまでしてくれるのは、もう幼馴染というよりもお母さんだ。

 

「合鍵ももらっちゃったし、さすがに私もそう思うわ……」

 

「いっそお前も、ここに住む?」

 

 なんつって。さすがに紗綾にも家庭の事情があるだろうし、そもそも高校生で同棲とか、聞いたことない。年頃の男女が同棲とか、どう考えてもまずいからな。

 

「……」

 

「ん? どうした?」

 

「……よ」

 

「え、なんて?」

 

 声が小さくて、なんて言ってるか全然聞こえない。

 

「紗綾、もっかい言って?」

 

「そうよ!! その手があったわ!!」

 

「うわ!?」

 

 紗綾が耳元で叫ぶ。僕は驚いて反射的に後ろへ引いた。

 

「もう合鍵も持ってるんだし、わざわざ通わなくたって、別に最初から住んでしまえばよかったのよ……。なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう……」

 

「いや、いや……冗談だからね? もしかして、本気にしてる?」

 

「ただでさえ唯斗はモテるんだから……ここで幼馴染としての力を見せないで、どこで見せつけるって言うのよ……! 一緒に住むのが一番、むしろこれ以外にありえない!!」

 

「……おーい、聞こえてるー?」

 

「ここで胃袋を掴んで、唯斗を私だけのモノにして……。夜もしかしたら『一緒に寝ないか?』なんて言われちゃって……? まだ高校生なのに! まだ高校生なのに!? キャー!!」

 

「お、おーい……紗綾さーん? 聞こえてますかー?」

 

「……あ、な、なに? 唯斗?」

 

 ようやくわれに帰った紗綾が、僕の問いかけに気づく。ずっと小声でブツブツと繰り返してたからどうしたかと思った。

 

「長い時間寝てた俺が言うのもなんだけど、学校遅刻しちゃうけど?」

 

「あ……」

 

 時刻は八時十分。それが示す答えは……。

 

 

 

 

 

「「すみません! 遅刻しましたー!!」」

 

「またお前らか! 早く席に付け!」

 

 俺たちは勢いよくドアを開け、担任に向かって叫んだ。

 

 何度も言うが、ドアは何も悪くない。俺は少しだけドアに同情した。




 こんな感じで物語は進みます。

 最初のうちは幼馴染しか出てこないですが、もっとたくさんキャラ出していくので待っててね!

 次回は――ってかんじで予告でも毎回していこうかな、って思ってるんですけど、今回は次もすぐ投稿するのでなしで! 流れで次も読んでいってください!


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2話 冗談じゃ済まされなかったようです

 続けて2話投稿です!

 ハチャメチャ展開です! 書いてて楽しかった……。

 少し長くなってごめんなさい! これからはもう少し短いです!


 学校に友達はいない。

 

 いや、それは少し違うだろう。

 俺には友達はいない。多分、俺の間違いでなければ、俺に友達と呼べる者は少なくともここにはいないだろう。ここ以外でもいるか怪しいが。

 

 休み時間。周りはいつものメンバーで集まってわいわいと楽しんでいる。紗綾も紗綾で、学校では別の友達と楽しくやっているだろう。

 そして、俺の周り。

 

 ――まあ、いつもどおりだな。

 

 当然のように、がらんとしていた。

 

 俺はいつものようにスマホを眺めたり、小説を読んだりと休み時間を過ごす。スマホを眺める、といっても何かのアプリというわけではない。

 ハーメルンなどの小説サイトだ。ランキングを眺めてみたり、タグで絞っていくとたまーに超面白い作品とぶつかる。そういうのを探して、読むのが俺は好きだった。

 

 俺だって、高校生活の最初からこんなことをしていたわけじゃない。もちろん友達を作ろうと、青春な高校生活を送ろうと努力はしたさ。

 しかし、それは自己紹介の時に起こった。

 

『は、初めまして。平坂唯斗って言います! よ、よろしくお願いしましゅ!』

 

 盛大に噛んだ。クラスは、ひたすらに静寂を保っていた。

 

 そんな事件があった。ちょっと頑張りすぎて、緊張しすぎた結果、から回った。それからは、もうやらかした恥ずかしさから、自分から話しかけることなんてできず、今に至る。

 

 妙に気を張ったから悪いんだ。

 

 おじいちゃんに言われたじゃないか。『自分らしく生きろ』って。ちょっと自分らしくない行動を取ってしまった結果、こうなってしまった。

 

 それはともかく。見ての通りである。

 さも当たり前のように、俺は浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 授業中は寝るわけでもなく、だからといって真面目に受けているわけでもなく、先生の話をBGMにノートを取っていたら、おわった。

 

 ――はぁ~! 今日もおわった~!

 

 俺は椅子に座ったまま体を伸ばす。ずっと座っているとどうしても体が硬くなってしまう。この行為は、本当に開放感があって最高だと思う。

 

 ――よし、帰るか。

 

 そう思って、机の隣にかけていた鞄を持って立ち上がる。そしてそそくさと教室から出て行く。

 

 毎日毎日、なぜか俺は見られているような気がする。当然気がする、というだけであって、聞くわけにもいかない。自意識過剰とか直接言われたらさすがに心が折れる気がする。

 

 しかし、ぼっちは観察眼が鋭いのだ!

 

 ――威張るところではないか……。

 

 気になるなら話しかけてくれればいいのに、とは思う。

 そんな周りの見る目が嫌で、俺は毎回すぐに退散するのだった。

 

 

 

 

 

「ごめん、待った?」

 

「いや、気にするほどじゃないよ」

 

 待ったといっても数分程度だ。

 俺はすぐにクラスから出てしまうが、紗綾はそうではない。普通に友達はいるし、会話をして笑い合っているのを俺は何度も目撃している。

 

 だから俺もすぐには外にでず、校内をウロウロしつつ時間を潰しているのだが。

 

 ――やっぱり視線が気になるんだよな……

 

 堂々としていよう。おじいちゃんに言われてからはそう考えているのだが、それでもやっぱり周りからたくさんの視線を送られると少し萎縮してしまう。

 自己紹介はクラス内のものだし、悪い噂もそこまでないと思うのだが。

 

「まあ、いいや」

 

「え? どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

 紗綾はそれほど興味ないのか「あ、そう」と言って歩き始める。俺もそれに並ぶように歩く。

 

「友達はいいのか?」

 

「いいの! 方向合う友達もいないし!」

 

「別に俺たちももう帰る方向違うけど――」

 

「え? 何言ってるの、唯斗。方向同じだよ?」

 

「いや、それは前の話だろ? 今は俺がひとり暮らしするために引っ越したから方向違うだろ?」

 

「そうね……少し前までは……」

 

 ――少し前までは……?

 

 まあ、確かに高校入学して一ヶ月はたったが、方向が同じだったのは中学までの話だ。

 何か勘違いをしてるのかもしれない。まあ、紗綾は前から少し様子が変なところがあったし、いつもの天然が出ているんだろう。

 

「楽しみにしててよね!」

 

「まあよくわかんないけど。楽しみにしてるわ」

 

 なぜか紗綾が笑顔だったから、とりあえずそれでよしとした。俺たちは世間話をしながら、春の道をのんびりと歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、紗綾さんや」

 

「んー? どうしたの?」

 

 時刻はすでに九時を回っている。何だかんだで夜ご飯も作ってもらっているから、大体この時間までいてくれるのがほとんどなのだが。

 

「帰る準備とかしてないけど。もう九時すぎたよ」

 

「うん、そうだねー」

 

「……え?」

 

「はい?」

 

 紗綾は軽く首をかしげる。

 

 ――可愛い、けど!

 

「いや、そろそろ帰らないと――」

 

「あ、そういえばまだ言ってなかったよね! 私、今日からここに住むことになったから!」

 

 ――はい?

 

 言葉が出ず、思わず心の中で聞き返す。

 紗綾はスマホを操作しつつ「どこだっけ……あ、あったあった!」と言って、俺にその画面を見せてくる。

 

「え、っと……紗綾の母さんからか。『唯斗君とその両親に住んでもいいか聞いて、許可を得たならママは全然構わないわよ(*´∀`*)』

 いや、まてまて……そもそも俺の母さんと父さんの許可は――」

 

「大丈夫! もう得たわ!」

 

「……は? えっと、なになに。『紗綾ちゃんには唯くんがお世話になってるからね~。不束者ですが、唯くんをお願いします(  ̄ー ̄ )ゞビシッ 節度を守って、既成事実作っちゃってもいいから!』

 これが実の母の言うことかよ!? ちょっとマジで母さん! いや、割とマジでどうした!」

 

 俺はすぐにポケットからスマホを取り出して、電話をかける。かける相手はもちろん俺の母さんだ。

 

「もしもし――」

 

「もしもし母さん! 紗綾になんてこと言ってるんだよ!」

 

「あら? 嫌だった?」

 

「いや、そういう問題じゃないだろ!? 何が『節度を守って』だ! 母さんが一番節度守ってねぇよ!」

 

 さすがに既成事実を作るなんて言葉が、節度を守ってのあとに続いてはいけないと思う。

 

「でも、紗綾ちゃんには昔から唯くんがお世話になってるし~? 実際あんた、紗綾ちゃんいないともう生きてけないでしょ?」

 

「うぐっ!?」

 

「むしろ、一緒に住みたいって紗綾ちゃんの気持ちを無碍にするなんてことを、あんたができると思ってるのかい?」

 

「ぐはっ!?」

 

「ほら、とにかく! 紗綾ちゃんそこにいるんでしょ? 変わってくれる?」

 

 俺は傷心のまま、紗綾にスマホを渡す。

 

「はい……はい……え!?……は、はい! 頑張ります!!」

 

 ――いや、何をだよ……。

 

 顔を赤くして『頑張ります!』は明らかにまずい。母さんがきっと電話で何かを吹き込んでいるんだろう。

 

 紗綾から返されたスマホを受け取り、僕は耳に当てる。

 

「そういうことだから! あんたも見限られないように頑張りなさい!」

 

「あー、うん。頑張る……」

 

「じゃあ、そういうことだから!」

 

 そう言って電話は切れた。

 

 俺は理解が追いつかず、近くのソファに体を任せるように、勢いよく腰を下ろした。

 

「紗綾」

 

「な、なに……?」

 

 あくまで俺は紗綾に感謝しているし、朝は冗談で言ったが、部屋はあるし住むことに関して問題はないのだ。

 

「これから、よろしく」

 

 俺は改めて、紗綾にそう告げた。

 

「……うん! よろしく!」

 

 紗綾は頬を赤く染めたまま、綺麗な笑顔でそういった。

 

 

 

 

「ところで、き、既成事実をつく――」

 

「作らないからな!!」




 やりすぎたと反省はしている。しかし、後悔はしていない!

 などと作者は宣っており……。

 文字数に関しては3000文字を超えたら二つに分けます。なるべく2000字で書くので、ほんと今回はテンション上がって書きすぎちゃったんです許してください!


 次回は『2話 幼馴染との共同生活』でお送りします!(構想段階なのでタイトルは変更される可能性があります)

 高校生、年頃の男女が一つ屋根の下……。R-18展開はダメだって、お母さん(運営さん)、言ってた。そのタグつけてないのでそれなりに頑張ります←

 次回予告に関しては、こんな感じの話が次回書かれるんだな、っていう風に見てください。
 あと番外編の場合は次回予告に書かず、活動報告あたりに報告しますね。

 それでは次回もお楽しみに!


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3話 先が思いやられる幼馴染との同棲生活

 一週間更新だったんですが、用事があって一週間後に更新するのが厳しそうだったので先に投稿しておきます!

 今回、『幼馴染の紗綾さんがまた一つ成長します』ので注目!

 あと3話まで紗綾さんの見た目を公開してなかったので描写しました。今回は描写忘れやらなんやらで説明多めですが許してください……!

 お詫びの意味も込めて、ちゃんとサービスカットは用意したからな←

 ※お気に入り登録、感想ありがとうございます! 大感謝! 全てに返事を返すのでこれからもどしどし! お待ちしております!


 紗綾による爆弾発言と、母さんの破天荒さを受けて衝撃冷めやらぬ状態の俺だったが、まあそうなってしまったことをどうこういっても、無駄なわけで。

 

「そもそも俺にこれを断る権利すらないんだよな……」

 

 まあ言ってしまうと、これは自分で蒔いた種だったりする。冗談でもあんなことを言ってしまえば、紗綾のことだ。これくらいのことは起きてしまうことだって、考えられたはずだ。

 

 俺はため息を吐き、紗綾を見る。

 

 身長は俺よりも頭一つ分小さいくらいで少し下くらいで、細身で華奢な体つきをしている。肩くらいまである栗色の髪に、くりっとした大きな瞳。初雪のような白い頬が、今は真っ赤に染まっている。何やら「既成事実……」やらなんやら、小声でブツブツと物騒なことをつぶやいているが、本当にこいつは大丈夫なんだろうか。

 

 

 

 この幼馴染とは本当に小さい頃からずっと一緒だった。

 家がすぐ近くということもあって、たまたま中学校は別々だったがそれ以外では通っていた保育園も、小学校も一緒だった。親譲りなのか、小学生の頃から世話焼きで、小さい頃は勉強ばかりで無口、今とは少し質が違うぼっちだった俺を心配してか、よく一緒にいてくれた。

 

 そして中学生になって、おじいちゃんの言葉によって吹っ切れた俺。ずっとひとりで抱え込んでいるのを気づいて、心配してくれていた紗綾に、昔のことではっきりと覚えているわけではないが感謝の気持ちを込めて、お礼を言ったのを覚えている。

 

 そんな過去もあって、紗綾には昔からずっと感謝しっぱなしなのだ。少しくらいわがまま言われたって、俺は紗綾のことを許すし、紗綾がそうしたいなら俺は応援する。

 

「家の設備とかは大体知ってるよな?」

 

「うん! バッチリだよ!」

 

 まあ、当然か。なんなら俺よりも詳しく知っているかもしれない。

 

「ならオーケー。衣服は何だかんだここに置いていってる分があるし、数日くらい大丈夫だろ?」

 

「う、うん! 大丈夫……!!」

 

 ――そこでなぜ恥ずかしがる……。

 

 紗綾の一挙一動が何を意味しているのか。最近ちょっとわからなくなってきた。

 

「まあ、それならいいや。もし何か足りないものとかあったら遠慮なく言って」

 

「わかった! 家事は任せてっ!」

 

 そう言って小さめの胸を張る紗綾。

 

 こうして、高校生の男女による同棲生活が始まった――

 

 

 

 

 

 

「ふう……生き返る~」

 

 なんやかんやあって風呂に入るのがいつもより遅くなってしまった。

 

 ちょっとした騒動があったせいで、変に疲れていたから、俺は汗ばんだ体をシャワーで洗い流し、そのまま湯船に浸かる。

 

「既成事実、ね」

 

 既成事実と言うと、男と女の淫らな行為なわけで。当然高校生にもなってその内容を知らないわけがない。紗綾だって何をもって既成事実というのかくらいわかるだろう。多少知識に疎くてもこれくらいは知っているはずだ。

 

 ――いつからこんな感じになったんだろうな……。

 

 そんなことを考えつつ、お風呂のお湯に顔を半分ほど沈める。

 

 多分、中学生から、だと思う。結構記憶が曖昧なのは、中学校生活は割と順風満帆だったからだろう。

 おじいちゃんに言われて心を入れ替えたあとは友達も出来たし、よく遊びまわっていた。今や高校ぼっちを満喫しているが、中学ではそんなことなかった。

 

 中学校は紗綾と別々なところに行った、とは言うものの、俺はその理由をしらない。当然俺が通っていた中学校は共学だし、普通科の中学校だ。

 そして紗綾が行ったところも共学の普通科である。そのわけを、僕は全くしらないし、なぜか俺が聞いてもはぐらかされた。

 

「多分その時からなんだろうな」

 

 俺は湯船から顔をだして、ポツリとつぶやいた。

 小学生のときは俺にべったりで、いつも手をつないで歩いていた紗綾も、今ではそんなことはなく――

 

「あれ? そうでもない?」

 

 いや、そんなことなくはなかった。事あるごとに手をつなごうとしてくるし、家では結構べったりひっついてくる。

 鬱陶しいわけではないし、学校ではそんなことないから問題はないけど、俺だって男だ。

 

「もう少し自分が女子高生っていう自覚をもってくれれば――」

 

「おじゃまします……!」

 

 ――は?

 

 ガラガラ、と風呂場の扉が開く音とともに、一糸まとわぬ幼馴染――紗綾の姿がそこにあった。

 

「そんなに見ないでよ、変態……」

 

「変態呼ばわりするくらいなら入ってくんな!」

 

 自覚云々のことを言ってるそばから、これだ。ほんと、なんできたんだよこの幼馴染は……。

 

「もう体は洗った? 私が流してあげるよ!」

 

「もう勘弁してくれ……」

 

 その言葉は狭くなった浴槽で、虚しく響いた。、

 

 

 

 

「「……」」

 

 そしてお互い揃って無言である。

 まあ、ある意味当然の結果だ。年頃の男女が小さな風呂場に、タオルがあるとはいえ裸でいる。そんな状態で会話が成り立つ方が恐ろしい。俺はそこまで強い心臓をしていない。

 

「あ、えーっと……。大丈夫? 痛くないかな……?」

 

「あー、うん……。別に痛くない……」

 

 ――気まずい……。

 

 今俺の後ろには、裸の幼馴染が背中を洗ってくれている。俺はただ無心を貫くだけだった。

 

「ねぇ……」

 

「……ん?」

 

「えっと、ね。高校生活、大丈夫かなぁ、って」

 

 それは紗綾なりの気遣いだった。もしかしたらこんな突拍子のないことをしてきたのも、これが原因だったのかもしれない。

 

「唯斗は少し遅れて入学したから……友達と話してるところも見ないから――」

 

「それは紗綾が心配することじゃないよ」

 

「でも……」

 

 紗綾は優しいから、いつも自分よりも俺のこと――周りのことを優先してしまう。それは小さい頃から一緒にいる俺だから気づいてしまうことで、昔の俺もそうだった。

 

「これはおじいちゃんの受け売りなんだけどさ、『好きに生きればいい。自分らしく生きなさい。そして、その道に誇りを持ちなさい』。少しは自分を優先したって、紗綾ならバチは当たらないよ」

 

「唯斗……」

 

 振り向くわけにはいかないから、当然表情はわからない。ちゃんと伝わってくれていればいいけど――

 

「っ!?」

 

 心臓が飛び跳ねた。

 

「ちょっと紗綾さん!?」

 

「はい? なんでございましょうかー?」

 

「いきなり抱きつくのはいかがなものでしょうか!? てかなにその口調!?」

 

 前に手を回されて、背中には小さいながらもしっかりとした二つの膨らみが押し当てられている。それはわかるくらいに柔らかく、危うく理性が飛びかけた。

 

「ありがとう! 唯斗のおかげで私、気づくことができたよ!」

 

「いや何が!? てか離れて!!」

 

「本当はわかってるくせに……嫌ですー、離れませーん!」

 

 ――何か、俺は言ってはいけない人にこれを言ってしまった気がする……。

 

 俺が抵抗する度に、紗綾は更に抱きつく力を強めた。そして、最終的に抵抗することをやめ、俺はなすがままにされるのであった。

 結局紗綾が何に気づくことができたのかはわからなかった。そして、風呂場では一線を越えるような事態には至らなかった、ということだけは、ここに明記しておく。

 

「どうしてこうなったんだ……」

 

「ふふっ、どうしてだろうね?」

 

「いや、元凶はお前だからな」

 

「でも原因はあなたにあるんだよ?」

 

 やっぱり、俺には紗綾が何を言ってるのかわからない。




 紗綾が何に気づいたかは、次回のお楽しみに……。

 やりすぎたと反省はしている! しかし、後悔はしていない!(二回目)

 などと犯人は供述しており、これからも続けていく方針を示しております。

 次回更新は前書きでも書いたとおり少し遅くなります。一週間経って、それから出来上がり次第――26日~6月2日までには投稿します!

 次回は『4話 ずっと紗綾のターン!?』でお送りします!(構想段階なのでタイトルは変更される可能性があります)

 R-17.999999……って、セーフですよね……?

 多分予告の内容を投稿する前に紗綾視点を書きます。お楽しみに✩


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3.5話 素直で純粋で、不器用な幼馴染――紗綾視点

 早めに投稿すべきと判断したので夜中に書いていたら止まらなくて、案外早くにできました。結構この作品は自分の中でも好きなのかもしれないです。

 今回は紗綾視点です。若干の過去描写もあるので説明口調が続きますが、どうかのんびりお読みください!

 内容的には、紗綾と唯斗の小さい頃から今までのことを紗綾視点で書いたものになってます。紗綾の心情に重点を置いて書きました。

 ちなみに読まなくても問題はないです。複雑なことや心理描写を特に気にしないで読みたいならむしろ読まないほうがいいかも?

 後半は二人の風呂シーンに入ります! よければ心境の変化や紗綾の性格を、楽しんで見ていってください!


 私の幼馴染はかっこいい。

 

 身長は私よりも頭一つ分くらい上で、体つきもスラっとしている。キリっとした目は、それでいて睨んでいるようには見えずそれは人の良さが伺える。黒い髪はくせっ毛で、特に何かしているわけではないらしいがかっこよく整っている。

 

 それは私が言うまでもなく、平坂唯斗はイケメンである。贔屓目ではない。客観的に見て、唯斗はイケメンなのだ。

 

 小さい頃の唯斗はあまり周りと仲良くするような性格ではなく、引っ込み思案だった。頭がよく、運動神経も悪くない。その上、顔もイケメンときたら、当然周りからはモテる。モテまくる。

 幼馴染の私は羨ましそうな目で周りから見られたし、唯斗に関するあれこれを根掘り葉掘り聞かれた。

 

 でも、唯斗は私しか知らない。唯斗の中では、私以外には何一つ存在しなく、結局私以外と必要以上に話すことは最後の最後までなかった。

 

『唯斗がずっと私のことを見てくれていたらいいのに……』

 

 何度そう思ったことか。

 

 しかし、それとは裏腹に唯斗は変わってしまった。

 

 別々の中学校に入学して、しばらくした頃。日が経つごとに元気をなくしていく唯斗に、私は寄り添うことしかできなかった。助けることはできない。ただそんな唯斗をじっと見ているだけ。

 

 小学生の頃から一緒にいた。それはもう姉弟のような関係だと思っていた私だから、いつまで経っても私を頼ってくれない唯斗に人知れずショックを受けていたのを覚えている。

 

 そして私自身も、唯斗の心に踏み入ることはできなかった。それは単純な心理で、嫌われたくなかった。本当に、それだけのことだった。

 

 結局、唯斗が私を頼ることはなかった。

 私が気づく前に、唯斗のおじいさんが解決したようだった。

 

 あくまで、私の出る幕はない。私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。私は唯斗との関係を姉と弟のようなものだと思っていたが、それは間違っていて、本当はただのよくある友達の関係でしかない。

 不思議とそれがしっくりときたし、そう思えてしまった。

 

『紗綾にもずっと心配かけちゃってごめん。そして、ありがとう。俺はずっと紗綾のこと大好きだから!』

 

 この時には私はもう、姉と弟の関係ではいられなくなっていた。別に唯斗からしたら何も意識したものではないのかもしれない。

 

 ただ、これは私の気持ちなのに、相手の口からそれを確信にした。それのなんと不甲斐ないことか。

 

 何に対して悩んでいたのかは、中学校が違う私にはわからなかった。唯斗がそう言ってくれて、嬉しかった反面、その言葉を本当に受け取っていいのか。私にはそれがわからなかった。

 

 

 

 

 

 高校生活の始まり。その頃には自分の気持ちにも完全に割り切って考えられるようになってきて、逆に自分の感情をよく理解するようになった。

 

 高校でも唯斗は人気がある。本人は『自己紹介に失敗した……』と嘆いていたが、それは大きな間違いだったりする。

 何やら噛んだ、とか裏返った、とか言っていたが誰ひとりそんなこと気にしていなかった。

 

 むしろ好印象。それはもう、近寄りづらいくらいに。

 

『かっこいい……』

 

『めっちゃイケメンじゃない!? あの人!?』

 

 ――そうなんです! 私の幼馴染は本当にかっこいいんです!

 

 何も知らないクラスメイトにそう威張ってやりたかった。当然そんなことはしないが、私が幼馴染だということに気づかれるのは、毎日一緒に登校しているためにそう遅くはなかった。

 

「ねえねえ!」

 

「どうしたの?」

 

 これで何回目になるだろう。どうせ今回も同じ内容だろうな、と私は定型文でそう返した。

 

「紗綾と唯斗君って、付き合ってるの?」

 

「いや、付き合ってないよ?」

 

「え!? そうなの? 意外!」

 

 ――意外とはなんだ、意外とは。

 

 密かに怒りを浮かべる。

 

「え、っとさ。唯斗君って、彼女とか、いるの?」

 

 ――なんでそれを私に聞くの?

 

 直接聞けば、なんて言えるわけがなかった。

 

「う~ん、いないんじゃないかな?」

 

「え!? ほんと!?」

 

「うん。まだそういうのはいいかな、って言ってたし……」

 

 ――嘘だけど。

 

「……え」

 

「あれ? どうかした?」

 

「……あ、いや! 何でもない!」

 

 唯斗のことを色々聞いてくる女には、大抵こう言えば引いていく。それはもうわかりきっている。

 

 去っていく女子生徒。その背中を見て、何となくそれを今の私に重ねる。

 

 ――ああ、私って、最低だ……

 

 そうは思っても、やめられない。やめたくはない。

 

 でもその理由に答えを出すことは、私自身が許さなかった。

 

 

 

 

 

 

 唯斗に友達がいないのは私のせいなのではないか、と思うときがある。

 

 中学の時は別々だったから聞いた話でしかないが、唯斗は活発で誰にでも優しく、明るい性格だったらしい。当たり前だが友達もたくさんいただろう。

 

 しかし高校生になって、一人も友達がいない。

 事実、女友達がいないのは私のせいである。

 

 当然自覚はあった。最低な人間だと思う。

 

 私は結局逃げているだけだった。唯斗に釣り合わないからと幼馴染という関係を利用して世話を焼き、そばにいる理由を半ば強引に作り上げている。そして、それを武器に唯斗に近づく人を脅している。

 

 だからこれは本当に気まぐれだった。私でもよくわからない。謎の感情が、私を突き動かしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「おじゃまします……!」

 

 私は意を決して風呂場へと入った。唯斗は驚いた表情で私の顔を見る。その視線は徐々に下へと向かって――

 

「そんなに見ないでよ、変態……」

 

「変態呼ばわりするくらいなら入ってくんな!」

 

 耐えかねてそう言うと、唯斗は声を張り上げ、効果音がつきそうなくらいの勢いで私に背を向けた。

 

「もう体は洗った? 私が流してあげるよ!」

 

「もう勘弁してくれ……」

 

 それはこっちのセリフでもある。私の元気もここで限界だった。

 

 

 

 

 ――気まずい……。

 

 とりあえず、何か言わないと。そう思って、私はつい、本音をこぼしてしまっていた。

 

「ねぇ……」

 

「……ん?」

 

「えっと、ね。高校生活、大丈夫かなぁ、って」

 

 もしかしたら私のしたことによって、傷ついているかもしれない。それだけは、絶対に許されない。

 

「唯斗は少し遅れて入学したから……友達と話してるところも見ないから――」

 

「それは紗綾が心配することじゃないよ」

 

「でも……」

 

 ――本当は私がいけないんです。

 

 そう言えたらどれだけ楽だったことか。しかし、唯斗は振り向かずに話を続ける。

 

「これはおじいちゃんの受け売りなんだけどさ、『好きに生きればいい。自分らしく生きなさい。そして、その道に誇りを持ちなさい』。少しは自分を優先したって、紗綾ならバチは当たらないよ」

 

 ――自分らしく……生きる……。

 

 ――唯斗はそう生きることを決めたから、変われたの?

 

 それは聞くまでもなかった。ずっとそばにいた私だからわかることだった。

 

 ――自分らしく生きる、かぁ……。

 

 もしかしたら私は、ちょっと難しく考えすぎていたのかもしれない。

 私は唯斗の気持ちをわかってあげられなかった、なんて思って悔やんできた。唯斗に友達ができないのは私のせいだと思っていた。

 でも、そんなことはちっぽけなものにしか過ぎないのかもしれない。

 

 そもそも、結局私たちの関係に血の繋がりなんてない。わからないことがあったって、それは当然のことだろう。

 

 案外、私たちは似た者同士だったのかもしれない。私の場合それに気づくのが、たまたま遅れただけ。

 

「っ!?」

 

 唯斗が声にならない音を発した。

 

「ちょっと紗綾さん!?」

 

「はい? なんでございましょうかー?」

 

「いきなり抱きつくのはいかがなものでしょうか!? てかなにその口調!?」

 

 自然と抱きついてしまっていた。しかし、なぜか今は恥ずかしさよりも嬉しさの方が断然勝っていた。

 

「ありがとう! 唯斗のおかげで私、気づくことができたよ!」

 

「いや何が!? てか離れて!!」

 

「本当はわかってるくせに……嫌ですー、離れませーん!」

 

 ――私だって、唯斗を好きでいていいんだ!

 

 そう気づかせてくれた私の幼馴染はやっぱりかっこよくて、抱きつく力をさらに強めた。




 すんなり書けたわけじゃなく、紗綾の性格は1話から3話まで書いて固まっていた割に難産でした……。

 自分なりに思い描く紗綾の性格↓
『唯斗のことが好きだけど、昔の記憶がネックになっている上に、唯斗がモテていることを幼馴染だから知っていて、無理だと諦めてしまっていた。資格がないと思っているが、それでも唯斗と離れたくなくて、嫌われたくなくてそばにいて世話を焼いている。
 ちょっと思い込みが激しくて、深く考えてしまう、素直で純粋で不器用な少女』

 って感じになりました。箇条書きが苦手で文にしてます……。
 唯斗と同じですぐに抱え込んでしまうんですが、おじいちゃんの言葉を受けて変わった唯斗と違って紗綾はそのまま高校生になってしまったんです。

 唯斗の昔の姿に似ているのかな? ただ逃げたり隠すのが長年の経験と、昔の唯斗を見て身についてしまったのがそれを長引かせる原因になってしまいました。

 当然ヤンデレでもツンデレでもないです! 普通の愛だよ! でも、愛は重いから気をつけてね! どうなっても知らないよ??←

 紗綾さんの性格がうまい具合に表現できていたら嬉しいです。要望とか、どういうの書いて欲しい、とかあれば感想である程度聞きます。アンケートではないので、自由にこういうシーンが見たい、とかあれば教えてください!

 ※次回予告は3話をご覧下さい。なお、番外編に関しましては週一更新には含まれませんので、次回投稿はいつもどおりに行います。


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4話 意趣返し

 UA2000越え、お気に入り数40越え、皆さん本当にありがとうございます! 感想くれたお二方には感謝してます! 毎回感想くれる方がいて、一人で舞い上がってます!

 というわけで、早く出来たので今回も早めに投稿! ベタな展開だけど、こういうのってやっぱりいいよね、っていうシーン書きました!

 読者に多大なる感謝を!


「疲れた……」

 

 大きな溜息とともに、その言葉が吐き出された。

 

 とりあえず、何事もなく終わった。別に特別な何かが起こったわけでもなく、ただなぜか後半から慣れてしまったのか恥ずかしがらなくなった紗綾の積極的な行動に、俺が振り回されていただけ。

 

 紗綾に体を洗ってもらって、『よし、じゃあ交代ね!』とか宣う幼馴染を鉄の意志で断り続け、今に至る。

 

 今はリビングに、俺一人でいる。紗綾にはさっき自室となる場所へ案内したので、今頃ちょっとした小物や衣類の移動をしていることだろう。その部屋は元々俺のお母さんが来た時に使っていたので、クローゼットやベッドなどの必要最低限の物は揃っている。

 

 ――テレビでも見るか……。

 

 そう思って何の気なしにテレビを付ける。

 ソファに座ってジュース片手にのんびりテレビを眺めていると、急に「唯斗~!」という声と、大きな足音が聞こえた。

 何か不満でもあるのかもしれない。

 

「どうした?」

 

「なんであの部屋にベッドがあるのっ!?」

 

「い、いや、なんでって言われても。紗綾がこれから寝る場所になる、から?」

 

「同棲するのに寝る場所バラバラなの……?」

 

「当たり前だ!!」

 

 俺はご近所さんのことも忘れて思い切り叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺は寝るけど……」

 

「うん。おやすみぃ、唯斗ぉ」

 

 俺の発言に笑顔でそう返す紗綾。紗綾の格好は可愛らしいピンク色の花柄のパジャマで、眠いのかくりっとした目は少し閉じかかっている。今日は色々あって疲れたのか、どこか発言もゆるっとした感じだ。

 いつもは元気で快活な幼馴染の、普段見られない姿。それはあまりに不意打ちで、思わずドキッとした。

 

 ――これもまた、同棲するってことだよな……。

 

 この幼馴染は可愛い。これも慣れていかないといけないな。

 

 だがその前に、俺には紗綾に言っておかないといけないことがあった。

 

「あまり言いたくないし、被害妄想みたいで恥ずかしいけどさ」

 

「うん」

 

「紗綾の部屋は、俺の部屋の向かいの部屋だからな」

 

「え――」

 

「ということだから、紗綾も早く寝ろよ?」

 

 俺はそれだけ言ってリビングから出た。

 

 ――これ言うと、むしろ俺が紗綾のことを意識してるみたいじゃねーか!

 

 心の中で自分にツッコミを入れる。いや、でもそれも仕方のないこと。幼馴染と同棲を始めて、紗綾が作るご飯を食べて、(不可抗力だが)一緒に風呂に入り、並んでテレビを見て、寝る。

 むしろ意識しない方が人間じゃない。そんな人はもう男として死んでいると思う。

 

 ただし、俺はぼっちだ。

 ぼっちという人種は勘違いを起こしやすい。それ故に数少ない友達を失う、なんてことも、無きにしも非ず。

 

 ――そもそも一緒に寝るのはさすがにないだろ……。

 

 高校生の男女が一緒に寝るのはどう考えてもまずい。しかも隣に紗綾が寝るとか、風呂の件も相まってもう完全アウトなルートしか生まれないまである。

 よって、先に念を押しておく。出る杭は打たれるのだ。

 

 さて、寝るか。

 俺はベッドに入る。色々あって疲れていたのか、何か思考する暇もなく、すぐに意識を暗転させた。

 

 

 

 

 

 

 

「気づ…………い、……ね?」

 

 ――ん、なんだ……?

 

「よし……失れ…………す」

 

 何か、近くで声が聞こえるような気がする。

 目を瞑ったまま、覚醒しきらない頭でぼーっと、それを聞き流していく。

 

 掛け布団がめくられた気がした。

 

 近くで人の気配がする。

 

 布団の中でもぞもぞと動くナニカがいる気がする。

 

 それは、俺の背中に手を回して、耳元で一言呟いた。

 

「おやすみ、唯斗……」

 

 今度ははっきりと聞こえた。その主は、次第に「すぅ……すぅ……」と規則正しい寝息をたて始める。どうやら寝たみたいだった、

 

 俺も全然寝足りないし、寝直そう。そう思って、また意識を――

 

 ――あれ?

 

 そこで、気づいた。徐々に意識は鮮明になっていく。

 

 耳元で聞こえる呼吸音と、背中に回された二本の腕。完全に密着していて、小さいながらも柔らかい二つの膨らみがパジャマ越しに触れている。そのぬくもりを感じながら、思い出す。

 

 

 

 

 風呂場でみた、生まれたままの紗綾の姿を。

 

 

「ハァ!? って、あ……」

 

 思わず出てしまった声。近くで寝ている紗綾のことを思い出して、咄嗟に口を手で塞ぐ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 ――よかった……起きてない……。

 

 紗綾も相当眠たかったのか、どうやら起きる気配はないようだ。

 

 ――ちゃんと念押ししたんだけどなぁ……。

 

 どうやらうちの幼馴染は聞く耳を持たないらしい。

 俺に抱きついて、微かに笑みを浮かべる紗綾は、どこか小動物を連想させられる。いい夢でも見てるのだろうか。いつもはお姉さんぶる紗綾だが、なんか今は逆に妹みたいだ。

 そう思って体制を変えて、空いた右手で頭を撫でてやると、紗綾はまたふんわりとした優しい笑顔をみせた。

 

 ――可愛い……。

 

 紗綾は小さい頃から寝相が悪い。テレビで見るようなとんでもない動きをするわけではないが、かなり寝返りを打つし、無意識でゴロゴロと移動する。

 

 ――寝てる時くらい……いいよな?

 

 今回は、たまたま俺も寝相が悪かった。そう、疲れていたから。いつもより無意識で動いてしまったのだ。

 

 俺は頭を撫でるのをやめ、そっと紗綾を抱きしめる。

 

 ――温かい……。

 

 意識してしまって眠れなくなると思っていたが、それは幼馴染だからか、もしくは何か別の要因か。

 俺は紗綾を抱き枕に、確かな温もりを感じながら、再度意識を落としていった。




 紗綾(ゆ、唯斗が……!! 頭なでて……!! しかもだ、だ、抱きついてきた……!?)

 唯斗「すぅ……すぅ……」

 紗綾(うう~!! 可愛い……好き……!)ぎゅ……

 唯斗「う~ん……」←ちょっと苦しい

 実は起きてた幼馴染ちゃん。内心叫んでしまいたいテンションを無理やり押さえ込み、むしろ唯斗よりも眠れない紗綾さんでした!
 ちなみに寝相が悪いのには周りに言われたので知ってる紗綾さん。もちろん唯斗が寝相いい方だということも知っているので好き好きポイント加点→オーバーです。

 一応ここまでで紗綾との同棲開始編終了(のつもり)です! いかがでしょうか!?
 感想は全て返しますのでよかったらしていってね! くだらないことでも意欲につながるからお願いします!

 次回更新に関しては活動報告に詳しく書いたのでそちらを見てください。
 あと、活動報告にも書いたけど、この作品名長いので略称を考えててですね。いい案思いつかないので付け方またはいい案をください! 強制じゃないけどあったら教えて!

 次回は『5話 未定』でお送りします! ……新章に進むので内容は大体決まってますがほとんどが未定です。申し訳ない……。


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閑話 幼馴染と休日デート!?
5話 休日デート?


 どうも、お久しぶりです!

 まずは謝罪をさせていただきます。
 思い切り期限を破って、申し訳ございませんでしたぁぁ!!

 本当にごめんなさい。ちゃんと一週間投稿守るとは言ってたのにな……。忙しいからって約束破るのは頂けない。報告してなかったし……。

 本当に申し訳ございませんでした! 次回から気をつけます。せめて報告はしますので……。

―――――――――

 今回から新章入ります!

 サブタイ通り、デートやで……。紗綾さん、頑張れ……。


 柔らかな感触と温もりを感じる。

 

 朝だ。小鳥のさえずりや、少し明るくなった部屋を、冴え切らない脳で受け取りつつ、受け流していく。

 起きなければいけない。そう分かっていても起きれないのは当然で、ついつい二度寝して学校に遅刻なんてこともあるが、なんと今日は日曜日。

 

 頭が冴えきる前に、リセットしてしまおうか。

 

 抱き枕を体に引き寄せ、再度眠ることに――

 

「唯斗……!! 唯斗……!!」

 

 しかし、自分を呼ぶ声によって遮られる。

 

「……ん?」

 

 俺はゆっくりと寝ぼけ眼を開いた。

 

「……お、おはよう」

 

 語尾を窄めながら、目の前の幼馴染――紗綾が言う。

 

「お、おはよう、ございます……」

 

 驚き半分、嬉しさ半分。とりあえず、目は覚めた。

 そんな感じで、日曜の朝が始まった。

 

 

 

 

 

 

 顔を洗って着替えたあと、俺たちは紗綾が作った朝食を食べていた。

 普段から早起きな紗綾は、どうやら俺が起きる一時間くらい前からすでに起きていたらしい。本来なら朝食を作って、ちょっとしてから起こすつもりだったというが……。

 

「ごめん、俺かなり朝に弱くて」

 

「それはもういいから、それにそんなこととっくの昔から知ってるし……」

 

 俺が謝ると紗綾は顔を赤くして少し俯き気味に朝食を頬張った。苦笑いを浮かべて、紗綾の作った味噌汁をすする。

 

 まあ当然俺が起きるわけなく、一時間と少しの間、紗綾は俺の抱き枕になっていた。人の温もりを感じられる抱き枕だ。気持ち良くないわけがない。

 

 ――元はといえば勝手に入り込んだ紗綾が悪いんだけどな……。

 

 それをいうのは野暮というものだろう。

 

「無理やり起こしてもいいんだからな?」

 

「い、いや、大丈夫だよ! 別に嫌じゃ、なかったし……」

 

 あまり深くは聞くまい。俺は気にせず、再び目の前の料理に視線を戻した。

 

 

 

 

 しばらくして、紗綾は「一度家に戻って物をとってくるね」と告げ、家を出た。この家の鍵を持っている方の手で、軽く手を振りながら。

 

 ――相変わらずだな……。

 

 長年一緒だった幼馴染を見送って、リビングのソファに座りながら、俺は幼馴染のことを考えていた。

 

 容姿は言わずもがな。贔屓目で見ても可愛いし、性格もよく、話しかけやすいというのもある。アクティブな人なので、当然友達も多いだろう。

 

 ――足枷になってなければいいけど。

 

 自分らしく、自由に生きると決めた俺だから。割と周りから反感を買いやすい生き方を掲げたと思っている。

 そばにいて尽くしてくれる紗綾にはとても感謝してる。でも、だからこそ。

 

 紗綾にも、正直に、自分らしく生きてもらいたい。

 もし、その結果、俺のそばから離れていっても、俺は構わなかった。

 

 だってそれが紗綾の幸せなのだから。そのためなら、俺は多少の苦労にも目を瞑ろう。

 

「――なんてな。まあ、俺がどうこうできる話じゃないし」

 

 まあ当然、将来どうなるかわかんないけど。

 

「んあ、そろそろか?」

 

 いろいろ考えつつソファに身をゆだね、ウトウトしてきたところで、ふと時間を見る。

 現在時刻は11時。

 

 俺はソファから身を起こし、自室に戻る。かけてあるコートを着てバックを持ち、スマホと財布を確認すると、戸締りを確認して外へ出た。

 スマホを開き最新のメールを確認する。

 

『準備できた! じゃあ、駅で待ってますヽ(*´∀`)ノ』

 

 紗綾から届いた顔文字入りメールに目を通して一言。

 

『りょーかい!』

 

 そう返すと、鍵を閉めて待ち合わせの駅に向かった。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、少し遅くなった、か……?」

 

 俺が駅に着いたときにはもう紗綾はいた。薄く化粧の施された、いつもとは違う幼馴染。

 紗綾は俺の存在に気づくと、人ごみの中手を大きく上げて手を振った。

 

「ううん、今きたとこだから!」

 

 なにかのテンプレのようにそう返される。ちょっとした感動を覚え、苦笑した。

 

「それ、持つか?」

 

「ううん! これ軽いから、大丈夫だよ!」

 

 きっと家から持ってきたものが入っているんだろう。そう聞いてみると、断られた。様子を見るに、本当に重くはないんだろう。

 俺は気にしないことにした。

 

「じゃあ、どっか行こうか。昼ご飯ってまだだよな?」

 

「うん、まだだよ!」

 

 「私行きたい店あるんだ~」と笑顔で言う紗綾に手を引かれ、俺たちは駅を出た。

 どうやらここから近いらしい。くだらない話をして、特に道中が苦になることもなく、歩いて数分で目的の場所に着いた。

 

「この店、すごく噂になってるの……! パンケーキが絶品らしいよ!」

 

「お前はそれが昼食で本当にいいのか……?」

 

 ――いや、確かにパンケーキならお腹は膨れると思うけど……。

 

 着いたのは、おしゃれな雰囲気を漂わせているカフェだった。いかにもカップル御用達! という店の風格に少し呆気に取られつつ、俺たちは中に入っていく。

 時間が良かったのか、人気店―――紗綾情報だが―――だというのに、すんなりと入る事が出来た。

 空いてる席に、紗綾と向かい合わせになるように腰掛ける。店員が現れ、メニューを渡されると、俺たちは綺麗に作られたメニュー表を眺める。

 

「結構メニューはあるんだな」

 

「そうだね~」

 

 洋風なメニュー表をめくれば、中もやはり洋風な食べものが書かれている。ガッツリとしたパスタ系だったり、軽く食べる人にはぴったりのサンドイッチやホットドック。飲み物は店内の雰囲気にぴったりなコーヒーからオレンジジュース、コーラなど一通り揃えている。

 スイーツだと小さめで食べやすく、リーズナブルなパフェやパンケーキなどなど、どれも見事に飾られていて美味しそうだ。

 こうやってみると学生の財布に優しい印象を浮かべる。人気の理由は聞いていなかったが、そういうところなのかもしれない。

 

「俺は決まったけど、紗綾はどうだ?」

 

「う~ん……これとこれで悩んでるんだけど……」

 

 そうやって指をさしたのは、おすすめのパンケーキといちごのショートケーキだった。

 

「どっちも、ってのはないんだな」

 

「そんな食べたら太っちゃうよ!」

 

 もうっ、と眉間に皺を寄せ、目を細めていう紗綾に、俺は苦笑いするほかなかった。

 

「なら、どっちの方が食べたいんだ?」

 

「え? う~ん……。おすすめされてるパンケーキも気になるけど、食べたいのならショートケーキ、かなぁ……」

 

「りょーかい」

 

 疑問を浮かべる紗綾を放っておいて俺はテーブルに置いてあるベルを鳴らす。数秒して、男の店員がやってきた。

 

「ご注文お伺いいたします」

 

「このショートケーキと……紗綾、飲み物はどうする?」

 

「え、あ……こ、コーヒーに――」

 

「お前コーヒー飲めないだろ……いいや、オレンジジュースで」

 

 店員はやりとりが面白かったのかふふっと笑うと、すぐに気を取り直して注文を打っていく。

 

「唯斗! 別に私、コーヒー飲めるからっ!」

 

「はいはい、強がらなくていいからな。それとも、オレンジジュース嫌か?」

 

「……嫌じゃないけど!」

 

 もう、「私、怒ってます!」とでも言いたげな、不満げな顔をする紗綾を見て、こらえきれず笑った。店員もプルプルと震えている。

 

 かろうじてかしこまりました、と告げた店員は今も頑張って注文を打っている。そんな様子を流し見しつつ、終えたのを確認してから、続けてメニューを伝えていく。

 

「で、このサンドイッチとアイスコーヒー、あとパンケーキをお願いします」

 

「え?」

 

 ここでミルクとガムシロップを一つずつ付けてもらうことを忘れず伝える。ご注文を確認させていただきます、とテンプレートな言葉をきれいに吐き出すと、慣れた口調で次々と注文を読み上げていく。

 それに間違いはなく、そう伝えると営業スマイルで答え、下がっていった。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「その、パンケーキって……」

 

「いや、紗綾も食べたかったんだろ? サンドイッチだけじゃ流石に足りないし、俺も食べたかったからな、頼んだけど。悪かったか?」

 

「……ううん! ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

「……失礼します」

 

 話が終わったのと同時に、先ほどの店員がお冷を持ってきてくれた。

 

「随分仲がよろしいんですね」

 

「そうですね。まあ、長い付き合いですし……」

 

 小さい頃から一緒にいた幼馴染だし、普通の友達よりは断然仲がいいと思ってる。

 

「そうなんですね! ここで働いてるといろんなカップルを見るので……。こういう人たちがうまくやっていけるんだな、って思っただけです」

 

 ――……ん?

 

 「急に話しかけてすみませんね」と笑顔で頭を下げる店員に、俺は笑いながら「いえいえ、大丈夫ですよ」と答える。

 なんか引っかかるけど……。目の前の紗綾も顔を真っ赤にしているし。

 

 そしてその疑問は、すぐに解消された。

 

「彼女さん、大切にしてくださいね?」

 

 店員はごゆっくりどうぞ、と言うとそそくさと去っていった。

 

 ――そ、そういうことかっ!!

 

 当然、気づいたときにはすでに遅かった。特大の爆弾を落とされた俺たちは、気まずい雰囲気の中、料理が来るのを待った。

 とにかく今は、鈍感な俺を思い切り殴りたい、そんな気分だった。




 甘さ控えめ。ただ確実に愛が伝わる……。

 別作品でもよく言われたこと。『シリアスとほのぼのが共存する作品』です。なぜだろうね? 相反してるとは言わないけど、書いてたらこうなってしまう……。

 この作品ではシリアス2割、ほのぼの8割を目指して頑張ります!

 飲食店でバイトしていたことがあって、ぼくは結構客に絡まれました。彼女いるの? とか言われていないですねーあはは、とか返したけど「うっせぇボケェ! そんなん店員に聞くな!」とか思ってました。

 女の子みたいだな ← いや、男だって思ってるってことだよね。
 滑舌いいし、声可愛いね ←最後の余計だろ。
 君、何歳? 高校生? ← 聞いてどうする。 

 客のコミュ力は恐ろしい……。

 次回は『6話 ふたりのデート模様』でお送りします! サブタイまったく決まってないけど、次回も書きたい感じで書くだけ!
 デートで書いて欲しいシーンがあればある程度要望聞きますよー。ぜひ感想、評価の方を、お願いします!


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6話 俺はやっぱり断らない

 一週間投稿ギリギリでした……ふぅ……。

 内容自体は進みませんが、デートといえばこれでしょ! ってものを書きました!

 こんな彼女いたら、悶え死にそうになるのをなんとか耐える毎日になりそうですね……。

 


 洒落たカフェで赤面中の二人。

 

 いや、確かに傍から見ればこれはデートであり、俺たちのことはカップルに見えるだろう。

 実際にそういう認識で構わないし、俺自身も『これってデートみたいだよな』程度には思っていたので、全然間違ってはいない、と思う。

 

 ――だからって、なぁ……。

 

 俺はテーブルに両肘をついて、一つため息をつく。

 ちらっと顔を上げてみれば、目の前には幼馴染が下を向いて、チラチラと頬を赤く染めたままの顔でこちらを見てくる、そんな状況。

 

「あぁ……うぅ……」

 

 そんな奇声とも取れる唸り声をあげながら、紗綾は何度もその行動を繰り返していた。

 当然、それは俺たち二人を『カップル』の関係という、勘違いも(はなは)だしい内容を指摘されたからで。

 

 正直、こういう幼馴染の反応を見て、グサグサと心に槍でも刺されたような痛みを感じているのだが。

 

 そんなことは露知らず、未だに顔が真っ赤な紗綾だったが、空気を読んだかのように持ってこられた料理は、今の気まずい雰囲気をぶち壊すいいきっかけとなってくれた。

 

 先程までとは打って変わって、美味しそうに頬に手を当てながらショートケーキを食べる紗綾。

 

 ――とりあえず、勘違いするのだけはやめよう……。

 

 一緒の家で暮らすようになって、紗綾との関係が更に―――物理的にも―――縮まったと思っていたが、それはあくまでひとつ屋根の下で暮らす幼馴染、という関係であって、断じて恋愛感情からのものではない。

 

 ぼっちは勘違いしやすいのだ。

 毎日ごはんを作ってもらって、一緒の食卓を囲み、一緒に風呂に入り、一緒のベッドで寝て、一緒に朝を迎える。

 そんな関係が続いていたものだから、もしかしたら紗綾は俺のことが好きなのかもしれない、なんて考えがよぎるのも、確かに間違いではない。

 

 でも! でもだ!

 

 ――ヘタれと言われても結構!

 

 あくまで自分の思ったとおりに動く。自分らしく、自由に。

 

 というわけで、俺はとりあえず、目の前に置いたサンドイットを手に取り、一口。

 

「お、うまいな……」

 

 ハムとチーズとレタスのオーソドックスなサンドイッチだが、味は格別でシャキシャキと水々しい音を立てながら、これまた美味しそうに食べる紗綾の顔を見つつ、食べ進めた。

 

 

 

 

 サンドイッチを食べ終わり、砂糖とミルクを入れたコーヒーで一息ついた。

 軽食にしてはボリュームのあるサンドイッチではあったが、もちろん今はお昼どき。それだけでは食べ盛りの高校生のお腹は満たされないのだ。

 とりあえず、俺は紗綾のために頼んだパンケーキを食べてみることにする。

 

 ふわっとした食感とちょうどいい甘さが口の中で広がる。

 

 ――流石、店のおすすめなだけあるな……。

 

 そんな感想を浮かべながら、少しずつ食べ進めていくが、途中でその手を止めた。

 

「……」

 

 くりっとした大きな瞳でじーっとこちらを見つめる、幼馴染。その視線は俺の手に持っているフォークに突き刺さる、パンケーキに注がれていた。

 

「あー、えっと」

 

「……」

 

 紗綾は時々こういう瞬間があった。

 わがままではいられない性格なのか、こういうちょっとしたことをためらうことがたまにある。しかし紗綾はわかりやすく、もちろん幼馴染の俺にはバレバレで。

 

 ――食べたいなら言ってくれればいいのに。

 

 フォークを少し揺らしてみれば、目線で追う紗綾の姿はもはや犬にしかみえない。紗綾の後ろに勢いよく左右に振る尻尾を幻視して、ふつふつとこみ上げる笑いをどうにか抑える。

 

「食べる?」

 

「う、うん……」

 

 少し照れながら、紗綾は頷く。

 

「あ、あーん」

 

「……ん?」

 

 口を開けて何かを待つ紗綾。

 

「あーん……!」

 

 いや、何を待っているのかはわかる。別にそんな鈍くはないし、とぼける気もなかった。

 

 ――だからカップルに間違われるんだよ……!

 

 でも、これにちゃっかり満足している俺もいて。

 

「……はいよ」

 

「あー、んっ……」

 

 もちろん断らなかった。

 

 フォークを口元に差し出して、大きく口を開いた紗綾がそれをパクりと一口。もぐもぐとよく噛んで、そして一言。

 

「おいしぃ~!」

 

 もっと、もっとと次を強請る紗綾にため息をつきながら、俺は小さく切り分けてもう一度紗綾の口元へと運んだ。

 

 紗綾は基本的に無邪気なのだ。天然で、たまに破天荒な行動を取り出すけど、自分に正直で、ある意味で言えば俺よりも自分らしく生きているのかもしれない。

 ただ、それ故に周りを気にする。

 本人は『したくてしているし、大丈夫!』と言って、いつも家事を受け持ってくれているが、知らず知らずのうちに疲れがたまっているのは当然のこと。

 

 だから俺は紗綾の言ったことをあまり断らない。

 

 俺と一緒にいるときくらいは、こうやって羽目を外させるのも、いいかもしれない。

 

 ――日頃の感謝の意を込めて、だな……。

 

 これくらいならお安い御用だと、俺は美味しそうに食べる紗綾を見て、そう思った。

 

 この行為が関節キスだということに気づくのはパンケーキを全て平らげたあとのことで、無性に恥ずかしくなるのは当然、後のおはなし。






 デートで実際にこれをできる男はマジですごいと思う。相当相思相愛じゃないと出来ないよね、これ……。

 唯斗の思考を反映させて書きたいと思っている作品なので、すごくもどかしい関係を書き続けますが、どうかお付き合いください!

 次回は『7話 レッツ! ショッピング!』でお送りします! 構想は練ってあるのでそこまで投稿が遅くなることはないと思います。
 それに、今回あまりストーリーに進展がなかったのでちょっと申し訳なく思っていて、そういう意味でも早めに投稿します!

 では、次回もお楽しみに!

 追伸、活動報告の方では言いましたが、Twitter始めました! 小説関係のなので、活動状況を話したり、別作品のことも別サイトのことも含めて、更に前に話したPBWのシナリオのことも呟くので見ていってください!

https://twitter.com/Narvi_126

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