『MUGEN』大の世界を (HI☆GE)
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第一話「始まりの時」
まずはその幻想を(ry
『きっと俺は、あの時の決断を、道を後悔していない』
晴天の空の下、ふと思い出した遠い
いや、年月に換算すればそれほど遠くなど無いのだが、それとは別に『永遠に』戻れなくなる選択を俺はした。
――転生、と言うものをご存知だろうか。
そう、良くライトノベルや神話で見掛ける事も多いだろう単語。
簡潔に言えば、俺はその転生の道を自ら選択したのだ。
前世では、身近に居れば居る程、殺したくなるくらいに憎かった。
その笑顔は、その心配そうな顔は、悲しそうな顔は、全てが全てそうやって心配している自分に酔っているだけの、自分勝手な奴等。
それでも残酷な事にも、世間からの周りの評価は著しく高く、全員が『良い人』として広まっていた。
家族はみんな優しくて心の支えになった、友人が話す学校の話や外の世界の話に耳を傾けるのも楽しかった、地域の人達も寄り添ってくれて、これで健康な身体さえあれば他に何も要らなかった……と言うのが世間様から見た俺の立場だった。
実際家族、友人が優しくて心の支えになるなんて事は無かった。
全てが枷でしか無かった。まやかしでしか無かった。
世間が俺の家族や友人と呼ぶ存在は、全て同情と自己満足でしか動いていなかった。
所詮はそんなものだ。
家族や友人と旅行、ましてや外に散歩に行く事すら叶わなかった悲劇の主人公。
まあ一生病院生活だったのに友人に恵まれてただけ、他人から見れば良かったのかも知れないが俺にとっては全てが全て邪魔でしか無かった。
そも家族とは、友人とは何なのであろうか。
優しいだけが、気を遣うだけが家族であり友人なのだろうか。
俺にはそれが苦痛で苦痛で堪らなかった、まるで腫れ物を扱う様な存在と化していた俺に居場所なんてあるはずが無かった。
客観的に見て恵まれていても、俺はずっとずっと孤独だった。
救いなんてあるはずが無い、そんな人生とも呼べない生きた人形だった俺の唯一の楽しみは限られた時間内でのテレビやパソコンくらいなものであった。
元より心臓や目の病気で無かった事だけが不幸中の幸い……まあ俺にとって『運命』に出逢うまでは些細な事でしかないとも言えたが、そのお陰で後の『運命』を変えるものと出逢えた。
それは『MUGEN』と呼ばれるものだった。
某大手動画投稿サイトで適当にキャラクター名を入力し漁っていた俺に飛び込んで来たのが『MUGEN』だった。
そしてその名前に惹かれ動画を開いた俺の目に映ったのは、幾百以上ものキャラクターが織り成すバトル。
知っているタイトルのものから知らないものまで、一キャラクター達が作り上げる試合は俺を魅了していった。
それが、俺の人生の中で最高の時間だった。
ちっぽけなものと笑う人もいるかも知れない。
たかがゲーム、しかも作る側には立っていないのだから言われても当然だが、俺にとってはつまらない灰色の人生に色を少しではあるが付けてくれた大切な存在。
だがやはりと言うべきか、死期が近付くにつれ動画を見る事さえも叶わない状態へと病状は悪化していた。
苦しい、痛い、辛い、死にたい――俺の人生は、そうまでして生きたい訳じゃない。
死ねるならもうさっさと死にたいだけなのに、無駄に生き長らえさせる事をする最期まで家族と呼べなかった形だけの家族。
最後の最期まで本当に有り難迷惑だった。
もう動くのさえ困難な状態になったある日の夜、俺は自殺を決断した。
こんな事をしてまで生きていたくなかった、せめて人生の
だから静かな、星空が綺麗な真夜中に俺は動かない身体に鞭を打ってまですぐ近くの窓まで這いつくばり、そして必死の思いで身を乗り出した。
ああ、漸く死ねる――そう思った時。
「迷える子羊よ」
背後から声がした。
こんな真夜中、誰も来るはずがないこのタイミングで声が聞こえたら普通は心臓が跳び跳ねるくらい驚くだろう。
だが俺は、不思議とその言葉を待っていたかの如く平然とその声に答えていた。
「……何でゲームのキャラクターが此処に居るか、それは置いておくが……こんな真夜中に次元を越えてまで……こんな醜態を晒している人間を見に来るとは……大層暇でも持て余したか――『ゲーニッツ』」
有り得るはずの無い現象、架空の存在を見もせず確定させる。
確信は無い、ただの直感だったが自然と口がそう動いていた。
振り向くと、そこには金髪で特徴的な修道服を身に纏った外人風の男がうっすらと笑みを浮かべていた。
やはりそれはMUGENで見たゲーニッツに他ならない存在であった。
そしてゲーニッツは話した、今の自分は魂だけの存在だと。
曰く神に、弱き者に新たな道を示せと言われた謂わば『神の使い』であると。
「……それで、その新たな道ってのは……なんだ」
絞り出す様に、すがる様に問う。
ゲーニッツの笑みが深いものに変わる、まるでその問いを待っていたと言わんばかりに。
「新たな世界へ、その壊れた身体、環境全てを無くし記憶を引き継いで転生を行うのです」
新たな世界への転生……つまりは今まで生きてきた世界とは全く違う場所への転生を意味している。
言い換えればこの見慣れた世界とは金輪際交わる事は無いという意味でもある。
普通の暮らしをしてきた人間であれば悩むだろう。
不自由なく住んでいた場所から、未知の場所へと記憶を引き継いで転生するなんて怖いに決まっている。
それこそ人間が暮らすには厳しい世界だったら、そう思うだけで恐怖で身震いするものだろう。
だが俺は、その言葉を聞いて得も言われぬ歓喜に心が溢れていた。
生きてきた中で一番の、いや唯一の『自分が生きていて良かった』と感じた瞬間だった。
この苦しみから解放され、且つ始めから人生をやり直せるなんて魅力的な言葉に釣られない訳がない。
これが嘘だったら――そう考えるのは無粋だろう、何せ存在し得ない二次元の住人が目の前にいるのだから。
「……やり直したい……もうこんな思いは沢山なんだ……」
壁を隔てる様な言葉使いはもう辞めた、自由に生きたいと言うただそれだけの感情を曝け出す。
「それが、私も知らぬ場所だとしても?」
「戦場の真っ只中だろうが、異界の生物に襲われてる世界だろうが行ってやるよ……健康な身体とその絶望に対抗出来る手段さえあればどんなに苦しくても生き残ってみせる」
ゲーニッツの質問に答える、最初から腹は括ってある。
例え過酷な世界でも俺は生きてみせる、寧ろその方が生きている感覚が研ぎ澄まされて心地よいかも知れない。
真っ直ぐな目で伝える。
ゲーニッツを見やると、俺が答えたのを聞くや否や賛辞の籠った拍手を送ってきた。
「素晴らしい、それでこそ生を渇望していると言える。分かりました、私から取って置きを差し上げましょう」
そしてようこそ、未知なる世界へ――その言葉を聞いた瞬間、俺の視界、世界は暗転した。
そして次第にその闇にノイズが掛かり始める、と同時に感じた事の無い快感に襲われる。
「これが……これが、誕生の瞬間……!! 古い殻から、淀んだ世界から解き放たれる瞬間なのか……!」
「生命の転生、この様な神聖な瞬間を、まさかこの一人間である私が見られる日が来るとは……」
声だけしか聞こえないが、ゲーニッツも少なからずこの現象に神秘を感じている様だ。
俺はそっとゲーニッツに礼を言う、何せこの転生へと導いてくれた恩人なのだから。
「礼には及びません、私とて神の気まぐれによって遣わされただけの身なのですから。私こそ、貴方程の生を渇望していた人物に出逢えて良かった……どうか、貴方に神の御加護があります様に」
その声が聞こえた瞬間、測った様にノイズが大きくなり次第に景色が移ろいで行く。
ああ、誰かに抱かれている感覚がある。
まだこの世に生を受けものの一分も経っていないのだろう、目が見えないがとても抱かれているのが心地よい。
これが『愛』なのだろうか、だとしたら俺は――
「……ん、夢か。久方振りに見たな、転生の瞬間、その時の夢は」
目を開ける、巨木の近くに寝そべっていた俺は身体を伸ばし意識を覚醒させる。
とても良い夢を見ていた、この世界へと生まれたあの瞬間の夢を。
あの生まれて最初に抱かれた時の『愛』、それを感じてからもう15年と数ヶ月。
俺は何不自由無く暮らしている――女尊男卑の世の中に影響されなければ、だが。
インフィニット・ストラトス――俺が生を受けた世界は、かつて前世でそう呼ばれ絶大な人気を誇ったライトノベルが舞台の世界だった――
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第二話『入学前日の夜』
メインヒロイン全員一夏ハーレムに組み込まなきゃ(使命感)
実に静かな夜更けである。
桜の仄かな香りがそよ風に乗り鼻孔を突き抜け、ふわりとした空間を作り出す。
こうも優しい空間にいると、つい自分の第二の人生を思い出す――たかが十五年と幾何か、ではあるが。
とは言え語れるのは五歳の誕生日からの十年程度である、何せあの微睡みの中眠り次に『俺』として目覚めた時が五歳の誕生日だったからだ。
どうやらそれまでは、平均的な子どもの精神を適当にコピーしていたらしい。
折角だ、少しその時の昔話でもしてやろう。
五歳の誕生日、俺はその日の朝に意識が『覚醒』した。
産まれた直後以来の自我、しかし俺にとってその五年はほんの少しにしか感じられなかった、否寝たと思って普通に起きる感覚で起きたら五年経っていたのだ。
この現象はある程度検討はついている上、行動が縛られている時間を飛ばせたと言っても過言でない為然程気にしてはいない。
親はと言うと、両親揃って馬鹿かと言う程溺愛してくれている。
しかし、そこに隔たり……つまりは偽りの気持ちは一切見当たらなかった。
そう、本物の愛情だ。健康な身体と愛情、たかがそれだけで俺はこの世で生きる、生きていく意味を完結させた。
俺にはそれだけで十二分、いや二十分に足り得る答えだった。
その日の夜、眠りに就いた俺は何時の間にやら知らない場所……いや、前世の俺なら知っていた場所に来ていた。
それは紛れもなく『MUGEN』の世界、無限の可能性を秘めた闘技場。
その観客席に俺はいた。
どうなっているのか、それを把握する前に観客席がどっと沸く。
思わず闘技場に目を向けると、そこには黄金のオーラを醸し出すアカツキとそのすぐ後ろにいる聖白蓮のタッグが、楓と雪のタッグと壮絶な死合を行っているのが見えた。
生での試合なんて見てるはずが無いのに、どうしてか高度且つ接戦の死闘の優劣の目星が一瞬で付いていた。
互角の削り合いに見えて、ほんの僅かに楓・雪タッグの方が削られるスピードが早い。
そのダメージレースに早めに気付きさえすればまだ手の施し様もあったのだろうが、如何せん雪が気付くのがほんのコンマ数瞬程度楓とアカツキ・白蓮より遅れてしまった。
これがアカツキ・白蓮より早く気付きさえしていれば勝てていたのだろうが、それが命取りになった。
「歯を、食い縛れええええ!!」
気付いたと同時に出来た一瞬の焦りを見逃す訳もなく、白蓮がいち早く楓を、体力を犠牲にし押し飛ばしそのまま雪諸ともフィールド脇まで押し込み、待ってましたと言わんばかりにアカツキの神風が炸裂。
二人纏めて壁に直撃、楓の意識が少しだけ残っていたもののすぐ地面に伏し、楓・雪双方気絶でアカツキ・白蓮タッグが見事激戦を制した。
「漸くお目覚めですか」
ふと隣に座ってきた男がそう質問する。
俺は突然の事に少したじろぐも、声と顔で誰が話し掛けて来たのかを察した。
「久し振り……と、言えば良いか。俺にとって空白の五年は数瞬に過ぎなかったが……大方、俺の精神年齢に今の身体が結合出来るまで眠らせておいた、と言ったところだろうが」
ご名答、そう俺の予想に答える笑みを浮かべた金髪で大柄な男は俺をこの世界へ転生させた張本人のゲーニッツだった。
「正確に答えるのならば、そこに『違う次元の魂の矯正』も加わりますがね……そうでしょう? 何たって貴方から見た今の私は、アカツキや白蓮達は『二次元』として貴方の目に映っている」
「そして俺さえも二次元としてここに居る……成る程、魂の矯正と言うのも上手い事言ったもんだ」
そう、見える光景全て、そして自分までもが二次元の存在なのだ。
五歳まで眠っていたのは、魂を二次元の世界に置ける、つまりは二次元の身体に魂を入れる為に矯正を行っていた為に眠っていたと言うところだ。
「……で、俺はこの世界に来たからにはISに乗って、んで例の『世界情勢に抗っていく為の手段』ってのは大方この『MUGENの世界』ってところか?」
「ええ、貴方にはこの世界固有の戦闘兵器……もといISの搭乗者になっていただきますが、その上で変化を持たせる為に就寝中魂を此方の世界に移して各技を当人達から伝授される為の修行と試合、そして交流を行ってもらいます。
生身でも覚えようと思えば全ての技を覚える才がある様に一応魔改造……もとい魂の矯正を行っていますが、威力や身体への負担が不安定になるのでISに乗り、その技を使おうと念じ動けば使える、つまりISの性能になると言う風になっています」
「成る程……」
つまり一回や二回全力全開で闘っても、戦闘スタイルを変えれば相手に攻略されると言う事が無い訳である。
ただし勿論当人達ではないのでその技はコピーの類い、100%どころか70%使いこなせるかくらいの器用貧乏に落ち着くだろう。
なので俺の戦闘スタイルは、それを幾つも生み出し組み合わせ、相手に読まれない様に立ち回っていくものになる。
「勿論、私を指名して下されば何時でもお教えしますよ」
「そうか、それなら遠慮なく教えてもらうぜ」
あの日から十年と数ヶ月、 俺は入試の時わざと入試会場を間違え、無事一夏と共に明日IS学園入学を控えている身となった。
一夏はこの世の終わりの様な顔をしていたが、俺は寧ろ大歓迎である。
何せこの世の絶世の美少女達が集まる場所なのだから、男にとっては桃源郷の他の何物でもないのだ。
因みに一夏とは小学生の時からの友人だが、一夏の事は昔から
女の子に囲まれワイワイしている事が多いが、かと言って恋人を作る事も異性的な意味合いでの好意を抱く事も無い上相手の好意に気付く事さえない。
……ほら、また一夏から電話が掛かってきた。
ここ最近どうにもこの手の愚痴を聞く電話が一夏から頻繁に来る。
まああの鈍感野郎には、女性の好意を全身に浴びながら過ごした方が荒業ではあるが治療になるだろう。
「はいはい一夏くん、もう観念しろって」
「くっ……俺は共学を諦めんぞ! 俺は共学を勝ち取る為なら世界さえも敵に――」
「姉を敵に回すとしたら?」
「それは無理がある」
一夏の姉――現在ISを纏った状態でなら人類最強の存在を出した途端にこれである。
全く、世界を敵に回せる度胸があるなら人類最強が敵に回ろうと似た様なものだろうに。
「なら諦めたまえ、そもそも女の園へ行けるなんて人生薔薇色だろうに」
「お前はほんっと生粋のイタリア人みたいな事言うよな」
「それはイタリアじゃ誉め言葉だぞ、後父親がイタリア人な時点でそれは察してもらいたいのだがな」
そう言えばいい忘れていたが、この話に出てきた様に、俺はイタリアと日本のハーフだ。父親がイタリア人、母親が日本人。
丁度良い機会でもあるから序でに俺の名前も出しておくが、俺の名前は
親父は生粋のイタリア人男性らしく女好きであり、今でもちょっとばかし冗談めかして他の女の人に口説き文句を言ってるそうな。
母さんの仏の様な、最後元鞘に帰ってくるならまあ良いだろ的性格のせいだろうが。
俺もその影響を直に受けたせいだろう、かなりの女好きと化している……因みに加筆しておけば、俺は彼女持ちだ。
そう、幾ら彼女を持っていようとも、美少女や美人にはちょっと話し掛けたくなってしまうのは父親からの遺伝子故だ。
しかしだと言って他の生粋の日本人……例を挙げるなら俺と一夏の友人である弾を筆頭とした多くの人間は一夏の境遇に羨ましいと怨念を送っているくらいには嫉妬される立場にある。
そのせいで弾からの嫉妬めいた愚痴と、箒・鈴から受けた泣き言や愚痴は最早数えきれん。
こうなれば原作開始と同時に本気で一夏に本当のハーレムを形成させてやるか……ヒロインは原作序盤で全員好感度は上限突破している様なものだ、ちょっとけしかければ直ぐにでもくっつくだろういや直ぐにでもくっ付けさせてやる。
取り敢えず狙い目は初期の時点で既にいる箒とセシリアか、まあどちらかとくっ付けば後はなし崩しだろう、一夏の無駄に鈍感な性格と狭い視野を少しでも直せれば問題ない。
彼女らの気持ちを多少無下にする様な事も言うかも知れんが、そこはハッピーエンドの代償というものだ、恨んでくれるなよ。
俺はそう思いながら、未だ泣き言を連発する友人を無視し通話を切った。
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第三話『俺の彼女は可愛くて純情乙女』
――日の光が差す、どうやら朝らしい。
ふと目覚まし時計を見るがまだ午前六時前である、余りに今日が楽しみで早く起きすぎてしまった様だ。
もう一眠りしようか……そう思考を巡らせると、俺の隣がモゾモゾと動いた。
ああ、今日も俺の布団に入ってきたのかコイツは。
言葉だけなら鬱陶しそうに、声質も含めると実に優しく愛おしい者に語りかける様に。
布団をソッと捲ると、そこに見えたのは紅い髪の毛に赤い可愛らしいパジャマを着こんだ見た目十代前半の女の子、もとい俺の彼女こと『アナザーブラッド』が可愛らしい寝息をたてて寝ていた。
まあ例の如く彼女はその呼び方を嫌っているので、以下はこの世界で使っている名前の『フィナ』で通させてもらう。
彼女は知っての通りMUGENの住人である。
デモンベインの存在とはまた違う存在に値するので、その点はご留意願いたい。
気を取り直すが、出逢いは俺が十歳の頃、近中遠と基本型と師達の大体の得意分野を覚えた俺は次に当身……つまりはカウンターアタックを磨く為当身の上手いキャラで真っ先に浮かんだ彼女に頼みに行ったのだ。
意外にもすんなり引き受けてくれた彼女は、毎日の様に気の抜けた様な猫撫声で殺しに来ていたから肝の冷える様な地獄だった。
だがそのお陰か、当身に関してはものの二ヶ月で彼女に認められるまでになりその頃には親交も他の人達より深まっていた。
それで何だかんだと過ごし、いつの間にか恋人という関係になり今に至る。
因みにだが、何故フィナが
五歳の頃から師として仰いできたゲーニッツや七夜一派や上条さん、ジャギやジョニー、HIGE、高野レンと言った人達より早く絆が深まったのは、まあ何処か不思議だとは思ったがそれが運命の出逢いと言う事だろう。
まあ、不思議ではあるが俺は彼女と出逢えて良かったと思っているし愛している、フィナも俺の事が好きで仕方ないらしいので、何時までも気にしている方が野暮と言うものである。
「ったく、滅茶苦茶に可愛い寝顔をしよってからに」
間近で見れば分かるが、やはりフィナも人間の女の子と変わりない。
きめ細やかな柔肌、ふわりと良いシャンプーの香りが漂う綺麗な髪、胸は無いがその分密着率の高い柔らかくて暖かい身体……いや、寧ろ俺は貧乳の方が好みであるから俺にとってフィナという少女はまず見た目からして完璧美少女なのだ。
そして肝心の性格はと言えば、元のエロチックな雰囲気の言動は健在なものの、意外にも純粋な乙女な部分もあり、それが上手く混ざり合った結果性格も俺が求める絶妙なポイントにフィットしている。
正しく俺の好みそのものの美少女が彼女という事だ。
まあこの十年間日々欠かさず鍛練を積んできたのだ、それくらいのご褒美があってもおかしくはないな。
「……さて、もう少し寝てるかな」
起きるまであと一時間も無い、何なら起きても良い時間でもあるが折角愛しの彼女が横で寝ているシチュエーションがあるならそれに甘えてしまっても許されるだろう。
「……実は起きてたりして。なんて、まあ起きてても良いか……もう少しだけ、お休み」
頬にキスをして、目を瞑る。
「~~ッ!」
……どうやら狸寝入りしていたらしい、俺の服をギュッと掴んでくる感触を覚えた。
きっと今のフィナの顔は、いつも来ている深紅のドレス……のスケスケを無くした改良品以上に真っ赤だろう。
本当に起きていたのは予想外だったが、いつも可愛い顔してエロチックな事を言う割にすぐ赤面するところが可愛すぎるので良しとしよう。
「……寝てる、わよねえ~?」
狸寝入りしていた本人が狸寝入りしている俺に気付かないとは、攻めるのは好きでも攻められるのは弱いサドスティックキャラの典型だろうか。
しかしここで反応するのも無粋だ、フィナが何をするか見てみるのも一興というものだ。
「えいっ」
等と面白半分に思っていたが、予想以上にフィナは乙女らしい。
そそっと俺の方に身体を寄せたかと思えば、ギュッと俺の背中を抱き締めてきたのだ。
いつもは胸を気にしてなのかあまり抱き着いてくると言う事は無かったのだが。
俺としては、貧乳の方が身体の密着率が格段に上がる上に貧乳を気にしていると言う仕草が好きなタチだから何時でも抱き着いて来てくれて構わんのだがな。
ま、兎に角今は役得ってやつを堪能しておきますかね。
☆
結局あの後、あまりに愛おしくなってしまった俺がフィナを抱き寄せてしまい狸寝入りがバレ、一悶着あったがただの痴話喧嘩染みた事だったので割愛させてもらった。
「フィナぁ、狸寝入りしてたのは悪かったから多少は気を直してくれって」
「だってえ……龍仁に私の貧相な胸の感触を知られたからあ……」
「あー……その、俺言ってなかったけど俺は胸が大きい女より、抱き着いた時身体の密着率が上がる貧乳の方が好きなんだが」
「……え?」
「やっぱり気付いてなかったか……」
実のところ、俺はフィナに自分が貧乳派だと言う事は出逢ってから今まで完全に伏せていた。
と言うのも、貧乳の女の子に『それはステイタスだ』『需要はある』『俺は好きだ』と言った感じでアピールしても逆に傷を抉るだけだとラノベやアニメを見て知り、敢えて言わなかったのだがそれがどうにも災いしてしまったらしい。
「そ、それじゃあ私が今まで気にしてた事って……」
「だからあまり抱き着いて来たり、情事をするにしても肌を積極的に見せなかった訳か……それが可愛かったから全く気にしてないけどな!」
「もう……じゃあ今度からはぁ、積極的にえっちな私を見せてあげるんだから!」
「おう楽しみだな」
とは言っているものの、情事に関しては毎度毎度この子は純情で『エロ本』と呼ばれていた彼女の姿は無かったりする。
意外にも現在彼女が激しく痴女化するのは主に戦闘時だけで、俺と恋人になって以降それ以外でのエロチックな発言はまあ普通にあるものの、痴女と言う程の事には至っていない。
「それよりも今日は入学式なんだからあ、もうそろそろ出た方が良いんじゃないかしらぁ?」
「ん、それもそうだな。何よりフィナには代表候補生としても余裕を持った態度でいさせてやりたいしな」
そしてフィナは、今言った通りISの代表候補生だ。
国籍としては、これもまた後で細かい説明はするが一応家の養子になっているからイタリアの代表候補生と言う事になっている。
この世界に来てからまだ三年も経ってないと言うのに代表候補生になるとは、やはり俺の彼女故だろうか。
代表候補生としての強さも加筆しておくと、今のイタリアの全パイロット含め四番目の強さらしい。しかもこの時点でほぼ独学な上にイタリアは日本と並び候補生が世界最高峰のレベルと謳われている。
取り敢えず三年未満でその世界最高峰の一つイタリアのNo.4と言うのがどれくらい凄いかと言うと、原作の一年代表候補生なら涼しい顔で倒せるくらいであり、代表候補生就任の時には大々的に全世界に向けてニュース報道されるくらいの凄さ。
因みに一年どころか三ヶ月足らずで代表候補生になり、半年経つ頃には代表候補生の強さとしても既に中堅だった事も追記しておこう。
兎に角だ、俺の彼女は可愛くて強くて天才、そう言う事だ。
「さて、じゃあ行きますか」
「あ、龍仁ぃハンカチ持ったぁ?」
「はいよ」
「ティッシュはぁ? それと髪の毛少し跳ねてるわよぉ? 制服の襟も少しまがってるしぃ……ほらこっち来て。んもう、私の彼氏なんだからもう少ししっかりしてよねえ?」
「わりぃわりぃ、でも献身的な彼女を持てて俺は世界一の幸福者だな」
「そ、そんな事言ったってキスくらいしか出ないんだからぁ……」
何やらフィナが俺の母親みたく見えてしまったが、献身的な彼女と言うのもまた可愛いので良しとしておく。
因みに親父と母さんはいつも朝早くから一流企業で働いてるから俺達が起きる頃にはもういなかったりする。
ただ今日は書き置きで『二人共入学おめでとう。暫く会えなくなるのにその当日にいられなくてごめんなさい、でもメールはちゃんと一日三回は送るから許してね 母と父より』と相変わらずの溺愛っぷりで安心していたりする。
「じゃあそのキスを下さいな」
「うぅ……分かったわよぉ……チュッ」
「うんうん、やはり三度の飯と睡眠よりフィナのキスに限るな」
「もうっ、本当に恥ずかしい……」
「こっちとしては入学式の朝っぱらから糖分過剰摂取でぶっ倒れそうだわ」
「んお……何だ一夏か。まあそれは良いが一夏くん、地獄へ逝く覚悟は出来たかな?」
フィナにキスをしてもらう、それにより甘い空間に俺達はいたが偶然来た一夏によって一旦お預けとなった。
何かしらの文句でも言ってやろうかとも考えたが、ブルーな雰囲気を醸し出していた為に多少からかう程度に収めておいた。
何せこれから君には原作で構成していたなんちゃってハーレムを、本物のガチハーレムにしてもらうのだからな、と心の中で黒い笑みを浮かべながら。
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第四話『桃源郷到来』
「え、ええと……担任の先生が遅れている様なので、自己紹介をやりましょうか」
つまらん入学式を終え、俺は楽園へとやってきた。
まず飛び込んできたのは見渡す限りの美少女、美少女そして美少女……しかも全員が俺とその隣の一夏に注目していると言う正に絶景、ただフィナには耳をつねられたが致し方無い事として処理しておこう。
隣の一夏が相も変わらずげんなりとしているのはどうにも気に食わないが。
男として美少女にイケメンだの何だのと噂される等、これ以上無い幸福の時だと言うのに、全くコイツと来たら非常に勿体無い事をしているものだ。
「織斑くん、織斑くーん!」
「あ、すいません次俺ですか?」
「そ、そうですそうです! お願いしますね?」
「分かりましたよっと……織斑一夏です、以上!」
「お前はバカか!」
「けげっ、関……千冬姉!?」
清々しいまでの名前以外の全てを省略した自己紹介だった一夏は、まあ残念ながら当然と言うべきか何時の間にやらやって来ていた一夏の最も恐れる姉こと千冬さんにチョップを食らっていた。
それだけで既にかなり痛がっている辺り流石は人類最強としか言えないが、関羽と言いかけた一夏に対して一瞬手に持っている出席簿で叩きかけていたのは流石に戦慄した。
「……まあ、言い直した事は評価するから今日はチョップで止めておいてやるが、これから先学園内で先生と呼ばなかった場合は……分かるな?」
「イ、イエッサー……」
「あ、済まなかったな山田くん、担任の私が遅れたばかりに任せてしまって」
「い、いえいえ……会議なら仕方ないですよ。そ、それじゃあ続けm」
その直後、憧れの千冬先生を目の当たりにした女子生徒達によるちょっとした騒ぎがあったが割愛させてもらう。
さて時間は少し経ち自己紹介も佳境に近付いてきた。
この間に原作通り篠ノ之箒、セシリア・オルコットの一組での存在を確認、まあどちらもこっちとしては面識もあると言う意味でも少しホッとしたが、第一に原作通りのポジションと言う事に一安心。
「ええっと、つ、次は……フィナ・アナスターシさんお願いします」
「はあい。フィナ・アナスターシ、一応イタリアのぉ、代表候補生やってまあす。趣味はファッションでぇす。ち・な・み・に、隣の席の龍仁は私の恋人だからぁ、ちょっかいかけすぎちゃうとお痛しちゃうからねえ~?」
教室がざわつく。フィナが有名人だと言う事もあるが、どうやらやはり俺を狙っていた人がいたのか、かなりショックで頭を抱えている人をチラホラと見掛ける。
が、常識はしっかり弁えてるらしく諦めた素振りを見せた。
うん、そうやって素直に引き下がれる子は俺好感持てるよ、後で話し掛けてあげよう。
フィナが席に着く。暫く経つと山田先生が此方を見てきた……どうやら次は俺らしい。
「どうも、龍仁・アナスターシです。趣味は格闘技、それと可愛い女の子と話す事、まあフィナが言ってた通りフィナとは恋人の関係なので付き合う事は出来ないけれど、話す事くらいは美少女揃いのみんななら大歓迎なんで宜しくな! ああ、後フィナと同じ名字なのはフィナが家の両親の養子だからだ、ちょっとばかし複雑な関係なんだがまあ気にしないでくれ」
「び、美少女って……」
「初めて、初めて言われた……!」
「お母様、私生きてて良かったです!」
「義兄妹で恋愛……薄い本が厚くなるわね……!」
……ふむ、どうにも揃って自分を過小評価若しくは魅力に気付けなかった男がいたが為に自分の魅力を見失っていた女の子が多いらしい。
こんなに美少女揃いなのに非常に勿体無い事だ。
「龍仁ぃ~? ナンパは控えてって私あれほど言ったわよねえ?」
「フッ、これはナンパじゃない……俺の日常だ!」
「……後でお説教」
「ヘイヘイ待ってくれよマイハニー、俺の伴侶は君だけさ。そう気を立てないでくれよ」
「むう……」
ううむ、しかしいくら美少女揃いと浮かれていても彼女の機嫌を損なってしまっては本末転倒である。
だが俺にとってこれは最早日常、可愛い女の子と話したい衝動は俺から切っても切り離せない存在……まあ独占したいとか、他の子を見ちゃ嫌とか分かるんだがね。
俺が一般的に見てクズなのは当たり前だが、それでも俺を好きでいてくれるフィナなんだ、せめて今まで以上に構ってあげる様にしようじゃあないか。
そうと決まれば手始めに今、しちゃいますかね。
「悪かったよフィナ、ほらこっち向いて」
「……何よぉ……んむっ!?」
教室がざわつくと言うよりは、一瞬の静寂に包まれた後黄色い悲鳴に変わる。
大体の想像は付くとは思うが、公然の前でフィナにキスをした……飛びきり情熱的な、イタリア式のな。
「これでみんな、俺とフィナの関係は確たる物だと分かってくれるだろ?」
「な、ななななな、にゃにぉぉ……」
「あー、その。今のはみんなを『本気にさせない為』にやった事だから、本当はフィナのこんな可愛い姿、一夏にさえ隠していたいくらい愛おしい」
「りゅ、龍仁ぃ……」
「フィナ……」
「いや何だよこの茶番」
「私に聞くな……」
「龍仁に彼女が出来たと言うのは本当だったのだな……羨ましいな、私も一夏と……」
「憧れますわね、龍仁さんの様な情熱的でグイグイと引っ張って下さる殿方は」
異性と縁の無い周りの女子は未だ小声で黄色い声を上げていたり他の女の子と盛り上がっているが、一夏と千冬さんは飽きれ果て、小学校四年生以来に顔を見た箒はどこかの幼馴染みに熱い視線を向けそう漏らし、約三年ぶりに顔を見たセシリアは憧れを抱いている様な素振りを見せていた。
一夏と千冬さんに関しては、身内の茶番と言う事で盛大に溜め息を付いている。
全く、溜め息を付かれるとは失礼な話と言うものだ。
「まあ今回ばかりは色々な諸事情と、自己紹介がお前で最後だった事、これ以上やる事が無かった事で不問にしてやるが……今度こう言った事をやらかしたら始末書二十枚とグラウンド百周、宿題十倍だ、分かったな?」
「イ、イエッサー……」
だがこんな風に脅迫染みた事……と言うか完全なる脅迫を言われては反論の一つも言う気になれない。
今回に関しては最初から反論する気は一欠片も無かったがな、何せ公然的にこうした行為をするのは風紀に良くない事くらい、俺だって分かる話だ。
さっきのキスは本当に今日だけの事だ。
もう一度言うがさっきのキスは今日だけだ。
「分かったなら良い。山田くん、生徒に連絡事項等はあるか? 無いなら解散でも大丈夫だが」
「……あ、はい! だ、大丈夫です、連絡事項はありませんので休み時間にしてください!」
休み時間になったと言う事で、さて知り合いに挨拶しに行こうとしたら一夏と共に俺も箒に呼ばれた。
あっちから挨拶してくれるとは、何とも嬉しい事である。
「一夏に龍仁、久し振りだな。元気にしていたか?」
「おう、小学校四年生以来だから六年ぶりか? まあぼちぼちやってるぜ」
「俺は何時でも絶好調だ!」
「一夏、そう言えばお前はまだ剣道は続けてくれているのだったな」
「ああ、朝早い時間に一時間くらいだけどな。お陰でその辺は箒程じゃないが、中々様になってると思うぜ」
「そうか、ならば後で一戦交えよう。一夏の成長も知りたいのでな」
「勿論、良いぜ」
原作では多忙を理由に剣道を辞めざるおえなかった一夏だが、俺が何とかして千冬さんに洗濯と食器洗いを覚えさせ一夏に剣道をする余裕をギリギリ持たせる事に成功。
お陰で一夏はこの時点で原作の比でないくらいの好感を箒から持たれている。
「それと龍仁、まさかお前が彼女を持つとはな……」
「ま、運命の出逢いってやつよ。フィナ程可愛い女の子もいないさ。あ、でも箒も美少女だと思うけどな、そうだよな一夏?」
「え!? あ、ああそうだな、確かに、その、可愛くなった……よな」
「一夏……」
そして俺が一夏に教え込んだ事、それは何より女の子に素直に誉める事と優しくする事だ。
可愛いと思ったら可愛いと言う、優しくする、それだけで女の子は嬉しい気持ちになって好感度が上がる。
特にツンデレだったり気が強かったりで素直になれない女の子に言うと、グンとお近づきになれたりする。
兎に角効力は絶大だった、これなら直ぐにでも箒は落ちそうだな。
「え、ええとだな……そ、そう言う事だからまた後でな!」
「やれやれ、恥ずかしがりおって……取り敢えず箒、これは脈ありとして取っておきな。焦らずにやれば直ぐにでも一夏をものに出来るぜ?」
「なっ……何をっ」
「おっと、それじゃ俺も一旦戻るぜ」
そして仕上げは上手い事アドバイスと発破を掛けておく事。
こうすれば押しの弱い一夏から動かずとも積極的に箒の方から動くだろう、取り敢えず箒の第一段階はクリアだな。
さてお次は……英国の美少女貴族ちゃんの一夏フラグ第一段階を作りますかね。
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第五話『偶然とは末恐ろしいものである』
「よっ、久し振りだなオルコット」
「そうですわね……ざっくり数えて二年と八ヶ月振り、と言ったところですわ。お久し振りです、龍仁さん」
俺が箒の次に話している如何にもなお嬢様は、ご存知セシリア・オルコット。
フィナにISの代表候補生訓練としてのイタリアへの留学中、イギリス遠征に付き合った時に図らず出逢い知り合った。
しかも何の偶然か、俺は知り合って三日も経たない内にオルコット家が辿る運命までもを図らず変えてしまった。
まずだが、原作で彼女は両親を亡くしている。
その原因と言うのが所謂列車事故だったのだが、訳あって偶々オルコットに出会った俺は本当に、感覚的にその列車に乗るのは不味いと直感し、オルコット家の三人を引き止め、何とか誤魔化し言いくるめた後適当に時間を潰したのだ。
流石に次の列車には乗らないといけないと言う事でホームに戻ったのだが、そこには『事故による遅延』の文字。
原作を知っていただけに、あの時引き止めていなかったらと思ったら……と考えただけで冷や汗が止まらなかったのを良く覚えている。
次の日の新聞にも大きく『死傷者多数の大事故』と記載されていたのを鮮明に記憶している。
まあオルコットの両親を救えたのは棚から牡丹餅レベルの出来事だったが、取り敢えず『偶然助けただけの恩人』にはなったが『ヒーロー』にならずに済んだのは良かった。
もし間一髪で助けた――何て事になっていたら一夏とのフラグは作る以前の問題になってしまっていたところだった。
だがオルコットの両親を救えた事、これは一夏のフラグを円滑に進められると言う事以外にもやはり、人の命を助けられたと言う他ならない事実、それにこの上無い幸福を抱いていた。
俺は前世で苦しみながら、生きている心地さえ無いままに生きてきた。
だからなのか、自由に生きていられる今にとても感謝している。
そして、だからこそ『生死』に敏感になり、状況にもよるが助けても自然の摂理に反しない様な命であるなら人、その他動物や虫、植物を問わず助けては治療を施している……と言うよりかは出来るのだ。
ところでなんで動植物、ましてや虫すらも出来るかは……実のところ分からない。
こればかりは先天性の能力としか言えないだろう。
閑話休題、話を戻そう。
まあ、その一件のお陰かオルコット一家は家族で色々と話す事が多くなり、セシリアが抱いていた『情けない父親』と言う誤解も解けある程度男に対して柔らかい態度になったとか。
っと、それは兎も角一夏を紹介せねばな。
「おい一夏、ちょっと来い。知り合いを紹介する」
「おう分かった……そこにいる美人がそうか?」
「そう言うこった、感謝しろよ」
「セシリア・オルコットです、宜しくお願いしますわ」
「織斑一夏だ、龍仁と同じく名前で呼んでくれて良いぜ」
「分かりましたわ、一夏さん」
それにしても一夏も成長したと、染々実感する。
自然と美人に美人と言えるまでに褒め上手になったのならば、オルコットも完全に落ちるまで既にこの時点で秒読み段階に入っていると思っても過言ではない。
「それじゃあ席に戻るぞ一夏、もう千冬さんのチョップを食らうのは御免だろう?」
「それもそうだな。そんじゃまた昼にでもな、セシリア」
「あら、誘って下さるんですの? フフ、嬉しいですわね」
「まあ折角だしな、俺の幼馴染も紹介したいし良い機会だろ?」
「……そうですわね、それではまた」
「おう!」
しかしコイツは何とも詰めが甘い、いや落としに言ってる自覚は無いのだし詰めがどうのは微妙な話だが、どうにも元の癖が抜けきっていないのかたまに女の子の前で他の女の子の話をしてしまう。
全く、これが無かったら天然色男になれたものを……まあこれが一夏らしいと言ったらどうしようも無いがな。
「み、皆さん席に着いてますか? ……あ、着いてますね、それではまた織斑先生が開始から十分程度不在になりますので、私が進行しますが……だ、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫ですよ、少なくとも俺と一夏とフィナは聞いてますので」
「まあ分かんない事の方が多いしな」
「フフフ~、当たり前じゃなぁい」
「わたくしも聞いていますわ。確かこの時間は基礎の勉強、ですわよね?」
「無論、私もだ。だから安心して下さい」
基礎の基礎、そんな簡単な勉強な為か些か話を聞いていなかったクラス中も、俺みたいなイケメンや一夏の様な爽やかボーイ、エリート達が発言した事により自分達の甘さを知ったのか、私語は無くなり全員授業する気満々になっていた。
「あ、ありがとうございます……ええ、この時間は基礎の勉強になります。当たり前の事ばかりかも知れませんが、正しく覚えないと行けない事なのでしっかり勉強、しましょう?」
弱気ながらも生徒想いで、ちゃんとした指導を頑張っている山田先生が可愛すぎて困る。
その主張の激しい双山も魅力的だからか、フィナと付き合っていなかったらそのまま勢いで惚れていたところだった。
全く、可愛いは正義と人は良く言うが本物の可愛さはそんなチャチなものではない、本物の可愛さは罪なのだ。
可愛いが故に惑わされる、可愛いが故に人は己を失う、可愛いが故に人の、果てには自分の人生すら大きく動かしてしまう可能性すらある。
この俺ですら危うく惑わされてしまうところだった辺り、山田先生はその域にあるのだろう……やれやれ、フィナと言うフィアンセがいながらとんだ失態だ。
「あらぁ~? 龍仁、あれほど他の人にうつつを抜かさないでって言ったわよねえ?」
「フッ、バカを言え。俺の一番にして唯一のフィアンセは何より君だけだとさっきも言ったじゃないか」
「……ま、まあ良いわ……後で覚えときなさいよこんの色ボケ男ぉ……!!」
涼しい顔をしてそう返すが、何やら後で嫌な事が起きそうである……まあ無視しよう、フィナの嫉妬は可愛いもんだ。
因みにだが授業に支障が出ない様小声でやり取りしていた事を追記しておこう、こっちとしても山田先生の授業は聞いていたい訳だからな。
「えーと、それじゃあここまでで分からないところとかある人はいますか? 遠慮なく言ってください」
授業は中盤まで進行し、一旦黒板に書くのを止めた山田先生が振り返り付いてこれているか確認をとっていた。
まあいるだろうなと斜め右前に視線を向ける、約一名が手を挙げた。
「三割くらい分からないとこがあります!」
「さ、三割ですか……微妙に多いですね……」
「今まで全く興味が無かったので……一夜漬けだとどうしても分からない説明や理論、単語があるんすよ」
「ひ、一晩で覚えて来たの? 凄いですね!」
「あ、でもこの教科書全体で見ても分からないとこは三割だけなんで! 取り敢えず千冬姉に殺されたくない一心で昨日頑張りました!」
山田先生は気付いていないだろうが、一夏は墓穴を掘っている。
つまりは昨日まで全く勉強していなかった事と自白している様なものだ、全くここに千冬さんがいなくて良かったと思えよ。
しかしそれはそれとして、一晩で教科書全体の七割を覚えて来たのは地味に天才肌と言う事だろう、これに関しては良くも悪くも全ての事で大体80点から85点の俺にしてみれば、少し羨ましくも感じてしまう。
「あ、あはは……今のは織斑先生には内緒にしておきますね?」
「……あっ、すんません」
ま、根本はこんな奴だから羨ましいと感じる事なんて滅多に無いんだがな。
ただ、女子からの受けは存外良かったらしい、周りからチラホラと声が聞こえる。
『ねえ、織斑くんってさ……』
『何でもそれなり以上にこなせるって思ってたけど』
『思った以上に親しみやすいかも?』
『と言うかちょっと抜けてるとことか可愛くない?』
『分かるわー、超分かるわー』
俺としては、もっと俺に注目してもらいたいんだがな……それだけ一夏は見た目も中身も魅力的だと言う事だろう、まあ何れコイツには原作キャラによるハーレムを築いてもらうのだからここでモテ過ぎようとも関係ないんだがな。
と言うかだ、一夏を頭良く仕立てあげたのはこの俺なのだ。
朴念仁になるに当たって、頭の良し悪しはやはり関係してくる訳であり、その為に日夜スパルタ教育でしごいて来たのだからモテても当たり前である。
因みに肉体的な改造も俺が施していたりするが、その話はまた後でだ。
さあ、次はいよいよクラス代表立候補……つまりはセシリアのフラグ進行だ。
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第六話『実はの話』
「それでは、この時間はクラス代表を決めたいと思う」
唐突に紡がれるその言葉に、俺はやっぱり面倒な事に巻き込まれるのかと、分かっていながらも頭を抱えざるおえなかった。
何せ俺は
そして周りは既に標的を定めているらしい、全く素直で可愛いから責める事も出来ん。
『私は織斑くんが良いかな!』
『あ、じゃあ私もさんせーい』
『織斑くんの……織斑くんのユニフォーム姿が見たいんです……!』
「うへぇ、マジかよ……」
「仕方あるまい、イケメンたるものこう言う運命になるのは定めだったのさ……そして勿論俺も」
『私はアナスターシくんを推そうかな』
『まあ織斑くんと激しい戦いしてるところは見てみたいよね、イケメン同士の熱い戦い』
『うんうん、あのちょっとお調子者なイケメンが魅せる戦いの時の顔……!!』
『絶対良いに決まってる!!』
俺は顔に笑顔を貼り付かせたまま、人生で最大の面倒事に苦笑せざるおえなかった。
しかしこうなってくると黙っていないのがオルコットだろう、まあここはオルコットの立場とプライドを尊重して、一夏に推薦させてみるとするか。
「なあ一夏よ」
「……んだよ」
かなり不機嫌そうだ、まあ一夏は剣道を続けたせいか、少し実力主義者思考が入っていたりする。
だが、だからこそ焚き付けやすい。
「お前、自分が推薦されて不満なんだろ? だったら自分が実力者だと思ってる奴を推薦したらどうだ……例えば、英国のご令嬢とか」
「……それだ!」
本来原作ではオルコットは自推と、本来実力で選ばれる代表に対して実力者にしては少しばかり可哀想な扱いだった。
それだけならまだしも、国家代表候補であり、メインヒロインなのに展開が進むに連れ勝率は悪化の一途を辿るばかり。
あまりにもな扱いの為、ここでは少しくらい立場を良くしても、と言う俺なりの配慮だ。
原作改変については、一夏をメインヒロイン五人全員と付き合わせるのが目的だし今更だろう。
それに、他にも原作とは違う点も幾つかあるしな。
と、そうこう考えてる内に一夏の手が挙がる。
「それなら俺は、セシリアを推すぜ。このクラスの中の二人いる代表候補生だし俺もセシリアの実力は知ってるし、みんなも知ってるだろ? だから推薦されるのは自然だよな?」
「……成る程、と言ったところですわね」
「ぐっ……確かに理解できるが、何とも言えぬ悔しさが……」
クラスのみんなも納得と言った形で同意する、やはりイケメンの影響力と説得力が兼ね合わさると最強だな。
そして予想通りオルコットからの評価は上がったか。
箒は……まあ、もう少し待っていただくより他ない。
まあそれはさておき。
この流れなら俺も推薦する流れだろう?
「それなら俺はフィナを推そう、二人いる代表候補生の内一人が推薦されたなら当然。それに俺の自慢の彼女だしな! 寧ろそっちがメインだ! フィナの実力をみんなに見てもらうチャンスなんだからな!」
「ま、まあそこまで言われたらやるしかないじゃなあい?」
流石は俺の彼女、チョロい、チョロ可愛い。
そしてこれで四人と言う一クラス内ではかなりの多さでの代表決定戦となる訳だが、ここで問題になるのはIS自体の性能差である。
フィナ、オルコット、一夏の三人にはそれぞれ前者二人が代表候補生上位勢だから専用機持ち、一夏にもそろそろ白式が届く手筈となっているが、実のところ俺には専用機を動かす実力は無かった。
実は俺が動かせたのは打鉄とその後束さんのところで実験してみて動かせた鉄だけ、ラファールすら起動しない謂わば俺のIS適正値は最低基準となっているのだ。
そう言う事で一度ゲーニッツにも尋ねたのだが、曰く自身はISを動かせる様に運命操作をするだけの存在であり、その後の適正値云々に関しては文字通り神頼みしか無かったらしい。
全くもって不幸だが、打鉄を打鉄の範囲内で改造、基装備をソードから自立型AI搭載カートリッジに変更した。
このカートリッジは、夢の中で修得した能力をISにインストールする役目を果たしており、打鉄に差して俺が乗り込めば勝手に記憶を覗いて使える様にしてくれるらしい。
カートリッジの性能はそのまま、修得した能力、引いては攻走守にスタミナの多さまで修得した分コピーしてくれる能力だ。
ここまで、その能力を使いまくれば問題は無い様に思えるが、それはあくまでIS内の事であり俺自身に貫通するダメージは打鉄の性能そのままである。
何が言いたいか……それは、最悪俺が死んでもISだけは機能し続けるゾンビになりかねないと言う事だ。
全くとんだ欠陥持ちになってしまったものだ……前世に比べれば、有り余るくらいの優良な身体だが。
そんな訳で国家代表候補生+主人公補整で全敗必至の俺は、今から既に三人に対抗出来る能力構成に躍起になっていた。
「ならばこの四人で一週間後、総当たり戦を行う。良いな?」
「やってやるぜ! 一度どころか三度も強敵と戦えるんだから燃えない訳がない!」
「……手加減は出来ませんわよ。
「あらあ? 嬉しい事言ってくれるじゃなあい? それなら私も、全力でイカせてあげるんだから」
「あーあ、沢山の美少女の前で恥はかきたくないんだがなあ……やれやれ、参ったね」
一夏含め三人は乗り気らしい、こっちの気は知らずに。
取り敢えずは、何とか勝負になる様に
「んで、取り敢えずは箒と一戦やってから方針を決めると。一夏にしちゃ随分と計画的な」
「ああ、まずは自分がどの程度力があるか確かめてからじゃないと、練習が無駄になりかねないからな。あと一夏にしちゃは余計だ」
「ハッ、お前はそろそろ専用機が用意されるだろうし良いさ……俺は、俺なんてなあ……」
「だから私が色々教えてあげるって言ってるのにい……」
「まあ、いくら女の人のほぼ専売特許のISの事と言えど、男の方は女の人に教えを乞うのを嫌がる傾向がありますから」
「そんなものなのだろうか……」
昼下がり、午前で授業は終わり俺、一夏、オルコット、フィナ、箒でのんびり昼食をとっている。
で、やはり五人中四人がクラス代表戦に出るとなれば話は自ずと今度の代表決定戦になる。
そこで話題になったのはやはり、俺と一夏の師匠役になった。
まあどっちも女性に教えを乞うのは嫌と言う断固たる決断に至ったのだが、そうなるとどうやって鍛えるか……待てよ、確かもうすぐ七夜死貴とあと何人か七夜一派が来れるって言うのとジョニーがこっち側に来れるとか聞いた覚えがあるな。
七夜は短剣……と言うよりナイフ主体で白式の雪片弐型とはスタイルが違うが、そこはまあナイフをサブウェポンとして持たせてしまえば良いだろう。
問題は一夏が暗殺術を好まないと言ったところだが、そこは何とか説得して修得させるか。
そしてメインのジョニー、しかもゴールドオーラ。
こっちは正に一夏の零落白夜と金ジョニーの超火力ミストファイナーで、同じ一撃必殺型の師匠としては最適だろう。
まあ、それはそうとオルコットは流石良く分かっている、男はちょっと見栄っ張りなのだ。
女の子の事は守りたい存在ではあれど、守られるのは格好が付かない、そう言うのが男である。
「全くオルコットの言う通りだ、男として少しは格好付けさせてくれって話さ」
「応ともさ、しかも今、何となく龍仁が秘策を考え出した様な気がしたし」
「秘策、ですの? まあ何はともあれ、その秘策ごと吹っ飛ばすのが私の役目ですわ」
「……私には皆目検討が付かんな」
「あらぁ、私はすーぐ思い浮かんだわよぉ?」
「だろうな……」
MUGENの住人に指導してもらう……そんな事露知らずの二人とは対照的なフィナ。
同じMUGENの住人であるならばバレるだろうとは想ったが、一瞬でとは……流石はフィナ、俺の嫁である。
「なあに、にやついちゃって」
「いや、流石は俺の嫁だなと」
「ブッ! ゴホッゴホッ……りゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅ龍仁はいきなり何を……」
「あれ? いやだっていつも言ってるだろ、『俺はフィナとしか付き合う気は無いし一生涯俺の全人生を持ってお前と添い遂げる』って」
何時の間にやら話を聞いていた外野が大歓声に包まれていた。
全学年の殆どの学生が今いるのだから当たり前だろうが、そんなに沸き立つ様な事だろうか。
「……ま、良いか」
隣であたふたしてる可愛い彼女を見つめながら、そう思った桜満開の日の昼下がり。
因みに、後で顔真っ赤にしながらフィナに説教を受けたがそれもそれで可愛かった事を追記しておく。
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