壊☆死兆学園 (サバ缶みそ味)
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1. いかれた学園へようこそ

 勢いでやった…少し反省している(白目

 こちらはゆっくりと進めていこうと思います


 現実というのは非常である。

 

 高ランクの騎士を輩出する黒鉄の一族の中で、分家である私、黒鉄朱音は幼少の頃から一族の方々に執拗にいじめを受けていた。

 

 分家であるからというのもあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。分家である父は急病により逝去、母は私の才能の無さを見るやすぐに育児放棄、そのため分家の私は出来損ないと見なされ陰湿なものから暴力的ないじめを受けていた。

 

 実のところ、()()()()()()()()()()。黒鉄の本家でありながら、私よりも才能がないと見なされ『存在しない』かのように扱われた男、黒鉄一輝がいた。

 

 彼も私と同じようにいじめを受けていたから、私はその下がいるという安心感があった。彼とはそんなに言葉を交わしたことも無い。傷の舐め合いは嫌だったからというのもあるし、私は彼とは違う、彼よりかは強いと思っていたからだろう。それに私は彼を嫌っていた。『存在しない』とされ、周りから相手にされていないがために、周りの矛先は私に向けられるのだ。

 

 願わくば、彼は私の下であり続け、私よりも下という安心感を持たせてほしい。

 

_

 

 現実というのは本当に非常である。

 

 それは黒鉄龍馬の葬式の日であった。分家であり、いじめを受けていたあの日の私にとってはどうでもよかった。だが、黒鉄一輝は違った。

 

 彼の瞳、表情、気配から何か覚悟を決めたようなものを感じられた。たぶんこの日の前から既に抱いていたと思われるがその当時の私はこの時に気付いたのだった。

 

 葬儀が終わったその日から、彼は完全に変わった。誰もが気づかない場所で剣術やら身体づくりやら只管修行をしだしたのだ。無駄な事を…と思っていたが、彼は決して諦めなかった。雨の日も、猛暑の日も、吹雪く日も彼は絶えず続けていた。

 

 痺れを切らした私は「なぜそこまでするのか」と彼に問い詰めた。普段そんなに会話をしないので突然問い詰められた彼は少し驚いていたが、彼は少し考え「生きる目標ができたから」と答えた。

 

 どうしてそこまでできるのか、何が彼を変えたのか、私には分からない。ただ分かるとすれば彼はきっと強くなる。今の私なんかよりもずっとずっと強くなる。彼は決して諦めず、必死に抗って、地を這いつくばってでも上り詰めていく。そんな雰囲気を感じた。どんな目に遭ってもめげない彼を見て、私も負けていられないという気持ちが強くなった。私も強くなりたい、その一心で彼に負けないくらいこっそりと特訓した。

 

 そうして彼は中学になると黒鉄家を出奔していった。きっと武者修行でもしていくのだろう。嫉妬と哀れみから対抗心と憧れへと変わった私はここでは変える事ができないと感じ、彼と同じように出て行った。

 

 彼にも目標ができたように、私も目標ができたのだから。

 

 強くなりたい。彼と並ぶ、彼を追い越すような、過去の自分と決別する強さを。そして更なる高みを

 

__

 

 

「ここが最終試験の試験会場ね‥‥」

 

 あれからどれくらいの月日が過ぎただろうか。短かった鈍色の髪もさらりと長くなり、小さかった身長も伸びた。胸は‥‥伏せておこう。

 

 家を出て各地の道場で剣術や体術を学び、借金取りに追われそうになったり、樹海で餓死しかけたけども紆余曲折を経てようやく私にも入学試験を受けれるようになった。

 

 勿論、第一志望は破軍学園。魔動機士制度が導入されている学園で行われる大会、七星剣舞祭に出場できる学園であり、今年から能力値選抜を廃止し、実践選抜に切り替えたのだ。これなら低ランクでも実力さえあれば七星剣舞祭の代表生になれる。

 

 もう一つは、この学園には彼がいる。あれからずっと会う事が無かった彼に再会することができる。今の私に彼と並ぶことができるのか、挑むことができるのか、そんな不安もよぎるが今は彼に会いたいという一心だけだ。このドアを開ければ破軍学園の入学試験が始まる。

 

「失礼します!私、黒鉄朱音と申します‼ほ、本日はよろしくお願い致しましゅ‼」

 

 最後に噛んでしまった。少し顔が赤くなってしまったが、ここで切り返せば問題は無いはず。90度とバカ真面目にお辞儀をして頭を上げた。

 

 顔を上げてみると、目の前には体格はいいが白髪と白いちょび髭が目立つおじさんとそのおじさんの両サイドにはなんかやけに派手な赤い衣装を着た赤い人となんか地味そうな青い衣装の青い人がいた。あれ?最後の試験は理事長自ら試験官になると聞いたけども、確か破軍学園の理事長は女性と聞いたはずだけど…あれ?

 

「えーと、黒鉄朱音さんね‥‥」

 

 ちょび髭のおじさんは何か面倒臭そうな態度で私が書いた履歴書を確認する。真ん中のおじさんが1人で見るから両サイドの赤いのと青いのが覗き込んで見ようする様子がシュールだ。

 

「ふむふむ…各地の道場を入門して諸国行脚を…なるほどなるほど、流石はあの黒鉄家の出身だ」

「分家ですけど‥‥」

 

 嫌味なのか、「あの黒鉄の」と言われると少し癪に障る。というか、このおっさん適当に履歴書を読んでるだけではないか。いや、落ち着くのだ私。これは試験だ。ここは冷静に対処すべきだ。

 

「校長、彼女は筆記だけでなく、実技もなかなかのものです。彼女は合格では?」

「えー…こうほいほい合格させていいのものか」

「いいえ!彼女の力はわが校の即戦力になるはずです!ほら、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるっていうでしょ」

 

 おい。受験生の目の前でとんでもないこと言いやがったぞ。それにしてもこの試験官、本当にやる気あるのだろうか。ますます怪しくなってきた‥‥

 

「しかし‥‥受け入れる生徒数をもう超えちゃってるよ?うちの学校大丈夫?」

「校長!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ‼下手したら廃校ですよ!?」

「日本の国際魔導騎士連盟から今年の七星剣舞祭で出場者が出なかったり、上位に上がらないと廃校にするって言われてるんですから‼」

 

 え?初耳なんですけど?廃校とか聞いてないし…これ本当に破軍学園?私をほっといて勝手に熱い口論を繰り広げている試験官に恐る恐る尋ねた。

 

「あ、あのー。一応聞きますけど…これって破軍学園の最終面接ですよね?」

 

 

「えっ?うちは破軍学園じゃなくて‥‥死兆学園だけど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  それを聞いた途端、私はさーっと体温が下がるほどの冷や汗をかいた。もしかして‥‥試験会場間違えた!?これはまずい!このおっさんたちは廃校寸前の学園に必要な戦力を探している!急いで踵を返して出ていかなければ…‼

 

「あ、すみませーん。私ったら試験会場を間違えましたぁ。すみませーん、ちょっと破軍学園の試験会場へ急いでもどりまーす。失礼いたしまry」

 

「ごうかあああああああああく‼」

「ようこそ死兆学園へ‼」

「君は選ばれた!ありがとう‼」

 

 ちょ、おっさんたち速っ!?三人してドアの前に立って逃げないようにまわって来たし!?

 

「あ、あのー…私、破軍学園の方を希望してるんです。申し訳ありませんが、辞退させていただry」

「あ、破軍学園の入学試験なら昨日で終わったよ」

 

「ちくしょおおおおおっ‼」

 

 

 現実はマジで非常である。




 多少、足らずな所もございます。

 学生服のイメージは破軍学園とそんなに変わないです。廃校寸前の学園だし、シカタナイネ
 


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2. 時はまさに世紀末?

 何番煎じのネタかと‥‥
 破軍、武曲、貪狼…と北斗七星なら死兆星もあっていいじゃない(北斗脳


 ――死兆学園

 

 東京都にある国際魔導騎士連盟の認可を受けた学園である。

 

 開創して早々に七星剣舞祭の代表選抜で実力を重視した実戦選抜を最初に行った学園であり、破軍、武曲、貪狼、禄存の伐刀者と対等もしくはそれ以上の実力の伐刀者を輩出していた。

 

 十年前、『北家四兄弟』と呼ばれたとある4兄弟の伐刀者と5つの名門『南家五面』と呼ばれた5人の伐刀者によってこの学園は様々な武勇伝を作り上げ名を轟かせた。

 

 各々が競い、高みへと目指し、七星剣舞祭では常勝不敗。彼らがいる限り、七星剣舞祭は死兆学園のオンステージだった。しかし、死兆学園が輝いたの期間は短かった。

 

 彼らが卒業し、この学園を去った途端に死兆学園は堕落への道を辿った。それは彼らが強すぎたというのも原因であった。七星剣舞祭では毎年最下位の成績を残して最弱の学園へと堕ち、更には七星剣舞祭にも出場できなくなるという事例もあった。

 

 原因はその卒業していった彼らにあった。『北家四兄弟』と『南家五面』とは何度も衝突があり、中には勝手にルールを作ったりして学園内の派閥争いが起き学園内は大荒れ、そんな滅茶苦茶な彼らに影響され騎士としての道を外す者が出てきたりして学園内の風紀が乱れ、時はまさに世紀末と化していた。

 

 そんな死兆学園の暴動に見兼ねて魔法騎士連盟からお叱りを受け数年間の出場停止を罰せられた。そしてその罰も解かれても尚、七星剣舞祭に出場できる伐刀者を輩出することができない日々が続き、そして廃校寸前へと至る。

 

__

 

 そんな崖っぷちの学園に私は入学してしまった。今も尚、どうしてこうなったと脳内で悲しみの向こうへを歌いながら死んだ魚のような眼で遠くを見つめている。

 

 私は今この学園に入学する新入生、在校生である2,3年生の生徒達と共にこのだだっ広い学園ホールで行われている入学式に出ている。

 

 私と同じような体格をしている女子生徒や、至って普通な体格をしている男子、そしてお前絶対高校生じゃないだろとツッコミを入れたい筋肉質な体格をしているもの等々、今年の新入生は上級生達の数より多い。まあ、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると受験生の正面で爆弾発言した教員がいたから仕方ない。

 

 北斗七星の下で蒼く輝く星、死兆星をエンブレムとした大きな校旗をバックに飾っているステージの演説台では最終面接にいた紺色のスーツを着た白髪のちょび髭のおっさんが台に上がっていた。

 

「え゛ー…う゛おっほん‼えっふん‼あっふん‼」

「校長、滑ってます」

 

 マイクで喋る前にわざと咳き込んでいる校長の後ろで3m以上もありそうな体格をしている大男がボソッとツッコミを入れていた。それを聞いた校長はちょっと拗ねたのか面倒臭そうな面をしてマイクを握った。

 

「えー…新入生の皆さん入学おめでとう。この私が、死兆学園の理事長兼校長兼魔法省のお偉いさん、海野リハクである!」

 

 理事長なのか校長なのかお偉いさんなのかはっきりしない海野リハクはしてやったりと満足気な笑みを見せる。私含め学園の全生徒が白々しい目で見ているのだが、リハク校長は目が節穴なのか気にしていないまま話を続けた。

 

「今年は私の想像以上の生徒が入学してきたことには正直おっかなびっくりだけど…先に行っておこう。わが校は廃校寸前だ。多分下手したら今年で廃校になってしまうだろう‥‥」

 

 これまでずっと過去の栄光に縋り甘え続けていたツケだ。こればかりは弁解しようがない。だからこそ腑に落ちないところがある。何故今年の死兆学園にこれだけの数の生徒が入学してきたのだろうか。確かにこの学園は実戦選抜を行っていると聞くが、それならば破軍や武曲、貪狼といった名門に行けばいいはず。廃校寸前のこの学園に何のメリットも無い。

 

「魔法騎士連盟から、もし今年の七星剣舞祭に出場でき、好成績を残すことができればこの学園は存続できるとお告げがきた。だが、今のこの死兆星に他の学園と肩を並べることができるだろうか…答えは否!今も尚風紀が荒れている学園にできるはずがない‼」

 

 確かにジープだったりバイクだったりで暴走したり、いつの時代だよとツッコミを入れたいトゲトゲしい肩パッドをつけた悪党みたいなモヒカンヘッドの男達もいたりする。どんな学園だよ。

 

「だからこそ‥‥私はある事を約束して世界中にいる強者を目指す伐刀者達を呼び集めた‼」

 

 リハク校長はシーンと静寂のホール内にいる生徒達を見回し、息を大きく吸った。

 

「七星剣舞祭で見事優勝した者には願いを叶えてあげよう‼」

 

 

 

 

 

  は?

 

 

 それを聞いた私は口をあんぐりと開けて目を丸くして驚愕した。勿論、私だけじゃなくこのことを知らない生徒達の間でざわざわとざわめきだした。

 

「おいおい‥‥マジかよ‥‥!?」

「嘘…願いを叶えてくれるの!?」

「それって本当か…!?」

「ん?今願いを叶えるって言ったのか…?」

 

 生徒達は驚きと喜びを隠せないままホール中をざわざわと騒ぎ立てる。生徒達の反応を見て満足しているのかニヤリと笑っているリハク校長は一度咳払いして静かにさせる。

 

「勿論、これは釣りでもなく嘘でもない。今現在、君達が欲しいと思っている物。地位や名声、金は勿論。今各々が抱えている熱い情熱を動かす原動力となっている本当に望んでいる事さえも、全て叶えてあげよう!」

 

 本当に願いを叶えてくれるのだろうか、かなりの眉唾物だがリハク校長は絶対的な自信に満ち溢れている。私と同じようにそれでも疑いの眼差しをしている生徒もいることに気付いたリハク校長はニヤリと笑う。

 

「その証拠に今年、私は国際魔導騎士連盟日本支部の副支部長に就任し、更には倫理委員会、サザンクロスといったコネもある!」

 

 それ言っても大丈夫なのかと、明らかにアウトだろと内心ツッコミを入れた。確かにサザンクロスはこの死兆学園の卒業生である『南家五面』の一人が経営し、七星剣舞祭のスポンサーでもある超大企業。それなりの影響力もある。

 

「そしてわが校は実戦選抜で実力があるのならば誰でも学園トップへと登り詰めることができる‼そして優勝したら願いが叶う‼優勝できなくても好成績だったら学校が存続して来年にチャレンジできる!新たな挑戦を受ける新入生も、腕を磨き続けてきた在校生達も誰もがこの舞台に立つことができる‼」

 

 誰もがこの舞台に立つことができると聞いた私は、少し心打たれた。才能ばかりで全てが決まるわけじゃない。地に這いつくばってでも、血反吐を吐きながらも努力し続けいけばチャンスを掴み、登り詰めることができる。誰もがその高みへと行ける証明を欲しい。私は極めたい‥‥いつの間にか拳を強く握っていて手汗が出ていた。

 

「そう‼これは自分というものを見せることのできる最大のチャンス‼望みが欲しいのなら、戦い、極めていくのだ‼」

 

 リハク校長の熱演に影響されたのか生徒達は声を高々に上げだす。

 

「金が欲しいか‼名声が欲しいか‼」

 

「「「「「おおおおおおっ‼」」」」」」

 

「屈辱を晴らしたいか‼誰かを見返してやりたいか‼」

 

「「「「「おおおおおっ‼」」」」」」

 

 

「私はナイスバディのお姫様系の美少女とイチャコラしたい‼」

 

「「「「「‥‥…」」」」」」」

 

 先程まで盛り上がっていたホール内が急に冷めて嘘のように静まり返った。冷たい視線を集中砲火されているリハク校長は少し拗ねた様な面をしてポケットから煙草を取り出す。

 

「校長、ここは禁煙です」

 

 またしても3mほどの身長があるだろう体格のでかい大男にこっそりとツッコミを入れられ、リハク校長は咳払いをした。

 

「おっほん‥‥じょ、ジョークだ。その代り!死兆学園の代表生となるため、それなりの実力を見せてもらう。最初に学年別で試合を行い、勝ち上がった者同士で戦い、最終的に勝ち続けた6名を代表生とする!」

 

 再び熱弁しだすリハク校長は演説台をバンと叩いてドヤ顔をする。

 

「戦わなければ生き残れない‼」

「校長、一生懸命に考えたと思いますがそれ滑ってます」

「うっさいバーカ!」

 

 再び身長が3mほどあるだろう体格のでかい教員にこっそりと言われ、ついにリハク校長は拗ねてしまった。本当にこの人が校長で大丈夫なのだろうか、この学園で本当にやっていけるのだろうかと不安になってきた。

 

 

__

 

 ようやく入学式が終わり、クラス分けが行われた。私は1年3組に配属される。今日は入学式で終わり、学校は明日からだそうだ。

 

 この学園の生徒は寮に住むことになっており、二人若しくは四人で共にする。まだ肌寒くても桜が満開に咲いている通学路を大きなキャリーケースを引きながら歩き、寮へ向かった。

 

「はあ‥‥本当にここでやっていけるのかしら…」

 

 私は大きくため息をついた。本当だったら破軍学園に入学して、一輝と再会を果たすはずだったのに。そう憂いていた私はふと気づく。

 

――再会して、その後はどうするのか。

 

 勝負を挑むのか?それとも仲良くなるか?一緒に鍛えていくか?というよりも、彼は私の事を覚えているのだろうか。私なんか眼中にないかもしれない。今まで蔑ろにしてきたことから拒んでくるのかもしれない。というか、今の私に――彼と並ぶ、そんな実力があるのだろうか

 

「‥‥いいえ。今はそんなネガティブな事を考えている場合じゃないわ」

 

 今はそれどころじゃない。私は首を横に振って、不安を投げ捨てる。今はこのいかれた学園で勝ち続けなければならない。そうすればきっと叶うはずだ‥‥

 

 気が付けば目的地である学生寮へと到着していた。自分の名前が書かれた表札とカードキーを確認する。私の部屋は3階の5号室。階段を上って目的の部屋へと足を進めていく。閉まっているドアをカードキーでロック解除してドアを開ける。玄関には靴もなく、清掃員が綺麗にしてくれたのだろう、真新しい部屋の匂いがした。

 

 リビングへと進み辺りを見回す。部屋の広さと二段ベッドからして二人部屋となっているが、一緒に住むであろう同級生の姿は見当たらない。道に迷っているか、それとも明日に来るのだろうかと考えながらキャリーケースを開けて荷物の整理をした。

 

「いよいよ‥‥始まるのね」

 

 高鳴る胸と緊張して震える体。不安と希望を抱きながら肌着をしまおうと押し入れを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥いやー、どんな子が来るかなと思ったら…鈍色ロングヘヤーのミニスカガール。スッキュッボンッってのが残念だぜ。まあ下着は白ならまあ良し、か」

「」

 

 押し入れを開けたら、そこにはダークグリーンの髪をした自分より体格も大きく身長もある、機嫌の悪い野良猫の様な目つきをした男子生徒がどこぞの未来から来た青狸のように押し入れで寛いでいた。私はポカンとして動けないでいたが、その男子は私の持っている肌着と私を交互と見つめる。

 

「うーむ‥‥77、58、77‼」

 

「ぎゃあああああああっ‼」

 

 出会って数秒で私のスリーサイズを見抜いたこいつの顔面に恐怖と怒りの鉄拳を叩き込んだ。恐らく私の悲鳴は寮全体に響いただろう‥‥最悪のスタートである。




 ここで男主人公の登場…どんなキャラにしていくか、絶賛迷い中(オイ
 とりあえずフリーダムにしていこうと思います…


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3. 正気でいられない(マジで

 バトル系学園モノって意外と難しいですね…(白目
 ゴリゴリでやっていきます…


「ほんっっっとサイテー」

 

 私は今日の夕飯であるレトルトカレーを食べながら私の隣でなんも詫びもなくレトルトカレーを食べている男を睨む。

 

「ジョークだよジョーク。同じルームメイトなんだからさ、多少の無礼講は目を瞑ってくれや」

「ジョークでも程があるわよ!」

 

 本当に冗談ではない。まさかのルームメイトが男でしかも出会い頭に人のスリーサイズを言ってくる変態とは。一体何をしでかしてくるかたまったもんじゃない。

 

「大丈夫だって、この学園は不純異性交遊とかいけないからやりはしねえよ‥‥ん?ちょっと待てよ。バレなきゃいいかもしれん‼」

「せいっ‼」

 

 いきなりとんでもない事を思いついたこの変態が実行する前に目潰しで先制。情けない声を上げてのた打ち回る男を私は彼から半径3mぐらい離れてジト目で睨む。

 

「明日にでもすぐに部屋を変えてもらうよう訴えてやろうかしら…」

「だーからそんな疚しいことはしねえって!もう少し胸があったら考えてたけど…」

「うっさい‼いちいち人のコンプレックスを抉って来るな!」

 

 早く明日が来ないか、寧ろ早く来てくれ。入学早々、こんなにも早くこの学園を去りたいと願ったことは無い。自分の貞操の危機を感じている私を察したのか男はため息をついて頭を掻く。

 

「わかったわかった。悪かった。追い出されたら困るしな」

「ホントかしら…変な事したら即追い出すわよ!」

「はいはい、わかったからそう睨むなって。頭でっかちだなぁ…だからお胸がないんじゃねえの?」

「やかましいわ‼今度胸のこと言ったらただじゃおかないわよ!?」

 

 本当に人が気にしている所を容赦なく言ってくる奴だと私はヒステリックになってプンスカと怒っていると、彼は反省してないのかニシシと笑う。

 

「いやー、マジで弄り甲斐があるなあんた。名前は?」

「貴方こそマジでむかつく奴ね‥‥黒鉄朱音よ。ふつう、先に名乗ってから名前を聞くのが礼儀じゃないの?」

「真面目だなぁ。こんなん相手を挑発する手だし、テンプレだし、そんなん気にしてたら面白ないぞ?」

 

 …変わった奴だ。私はカチンと来たがすぐに怒ればこいつの思うつぼだということで怒りを抑え、ふんと鼻で笑って一蹴させる。彼はまいいやと呟いて再びニシシと笑った。

 

「俺は飛騨鷹人(ひだたかと)ってんだ。3年間、よろしくな」

「…よろしく。くれぐれも気を付けてくださいね、鷹人さん?」

 

 私は警戒しながら拳を出してこつんと合わせる。こんな奴とはなれ合うつもりはない。今やる事はただ一つ、この学園で勝ち続け七星剣舞祭へ出る事だけだ。

 

「あ、風呂とかどうする?先に俺が入ると嫌そうだし、朱音が先だと俺が何かしてくるって警戒するだろうし…一緒に入るか?」

「入るか!?」

 

 私はこいつの顎に思い切りアッパーカットをお見舞いした。これだけはハッキリした。こいつには絶対に負けたくない。

 

___

 

 夜明けと共に目を覚ました私はむくりと起き上がる。昨日は本当に最悪だった。風呂は問題なかったが、いざ寝るとなると寝込みを襲ってくるんじゃないかとずっと警戒してなかなか眠れなかった。寝不足気味に欠伸をしてあいつが寝ている押し入れの方に視線を向ける。熟睡しているようで、襖越しから寝息が聞こえてくる。

 

 こっちの気も知らないで、呑気な奴だとため息をつく。だけどそんなに構う気は一切ない。私は寝間着を脱いで運動しやすい服装に着替え、冷蔵庫に入れておいたスポーツドリンクを取り出し、タオルと一緒にナップサックに入れていざ朝の鍛錬へ。

 

 走るたびに長い髪を後ろに結ったポニーテールが揺れる。毎朝、20㎞ほどの緩急をつけたランニングをし、筋トレを行う。一息ついて顔と体に流れている汗をタオルで拭いてスポーツドリンクを飲む。

 

「‥‥」

 

 この後はいつものように伐刀して特訓をするのだが、今も尚ぐっすりと熟睡しているであろう鷹人が気になって集中できない。私が出かけている間に人の下着を物色しているのではないだろうか、今の汗ばんだスポーツウェアの姿を見たら絶対いやらしい目で見てくるに違いない。

 

「…って、何を考えているのよ私は…‼」

 

 首を横に振って邪念を捨てる。これでは朝の特訓にもならない。集中するために私は再び走り込む。いちいち考えるな、黒鉄朱音。今はこの学園で戦い抜くことを考えるのだ。

 

 どれくらい走っただろうか。気が付けば寮の前、一点集中して往復して走ったのだろう。とりあえず私は集中できなかったと反省の意を込めた溜息をついて自分の部屋へと帰る。

 

 願わくばあの変態は寝たまんまであって欲しい。ただ只管願ってドアを開ける。部屋から焦げた臭いが漂っている。もしやと私は嫌な予感をしながらリビングへと足を進める。

 

「むー…うまくいかねえもんだな」

「‥‥あんた、何やってんの?」

 

 そこには可愛らしいひよこの絵が描かれたエプロンを身に着けた鷹人が苦笑いをしていた。彼の視線の先には皿にのせた焦げ焦げでベチャベチャの正方形の何かがあった。すぐ近くには荒々しく千切ったレタスをドカ盛りにしたサラダがあるので恐らく彼は朝食を作ろうとしていたのだろう。

 

「お?おかえりー。うむ…スパッツはそそりますなぁ!」

「うっさい。というかこの焦げた物体は何よ?」

「うん?フレンチトーストだけど?」

 

 お前は何を言っているんだという面で見つめてくる。どう見ても焦げた物体Xです、ありがとうございました。いかにも男のキッチンと言わんばかりの荒々しい料理だ。けれども一応人数分作ってくれたのは良しとしよう。

 

「かっこつけないで普通にトーストにしときなさいよ…朝御飯はちゃんと食べるから、シャワー浴びてくるから覗いてこないでよ?」

「はいはい、分かってるっての。あ、とりま風呂掃除と洗濯物はやっといたから」

 

 生活感あるのかないのかはっきりしない奴だ。けれども自分できますよオーラを出しているのはどういう事だろうか‥‥ん?ちょっと待て。さっきあいつは何て言った?

 

「…ねえ、さっき洗濯物はやったって言った?」

「あ?そうだけど?ちゃんと柔軟剤と洗剤を入れたし、しっかりと干して‥‥あっ」

 

 私の言っている意味を理解したのか鷹人はわざと私と目を合わさないように視線をそらした。私は笑顔でコキコキと手の骨を鳴らしながら近づく。

 

「み、見てねえし‼ぜ、ぜーんぜん見てねえし‼」

「へー…それならいいんだけど。で、正直なところの感想は?」

「いい香りがするんだから白いヒラヒラよりももっと大胆に黒のオトナチックなのがいいと思いま‥‥あっ」

「見てるし嗅いでるじゃねえかぁぁぁっ‼」

 

 私は助走をつけてドロップキックをお見舞いした。本当に此奴出て行ってくれないだろうか…

 

__

 

「なー、悪かったって。そろそろ機嫌を直してくれよぉ」

 

 絶対に反省してないような笑みを見せながらしつこく言ってくる鷹人を無視して一階の渡り廊下を歩きながら教室へ向かう。

 

「よし、じゃあこうしよう!ずっと俺ばっか見てたっていうのも不平等だし…俺の下着みる?」

「誰が見るか!?」

「えー、ヒフティ・ヒフティだと思ったんだがなぁ」

 

 どこが平等だというのか、そして誰得だというのか。全くもっていち早く追い出してやりたい。今日の放課後にでも理事長室へ行って訴えてやろうかと考えていると目的地である1年3組の教室へと着いた。教室は大学の講堂のように広く、長い机がずらりと並ぶ。清潔に見えるかと思えば教室の壁の至る所に落書きやら如何にも壊ちゃいましたと言わんばかりの修理した跡があったりした。そしてもう既にグループを作って談笑している者、ただ寡黙に椅子に座ってじっとしている者、この教室にいる生徒全員が伐刀者だ。

 

「おいおい、そんなに睨んでやるなって。友達百人できないぞ?」

 

 ボフンと鷹人は私の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でてくる。余計なお世話だと私はその手を払ってジト目で睨む。

 

「あらぁ?誰かと思えば腰抜けの朱音さんじゃなくて?」

 

 よくあるどこかの高飛車なお嬢様らしいねっとりとした声を聞いて私は更に面倒が増えたと眉間にしわを寄せて声のした方へ視線を向ける。同じ死兆学園の白と黒の制服を着た、淡い水色のドリルツインテのお嬢様系な女子生徒が取り巻きであろう女子生徒達と共に私をあざ笑う。

 

「…そちらこそお久しぶりですね、林崎美利さん」

 

 私はかつてある道場で一緒にいた門下生だった彼女に作り笑いで返す。こういうのはあまり相手にしない事に限る。適当に返して適当にあしらっておこう。

 

「‥‥驚きました。林崎さんもこの学園に入学していたのですね」

「それはそっくりそのまま返しますわ。道場で私達に惨敗してたった一週間で出て行った腰抜けの貴女がまさか入学していたことが驚きですわ」

 

「ただその道場が合わなかっただけじゃね?」

 

横やりを入れるように鷹人が割って入って尋ねるが美利さんはオホホホとほんとお嬢様系テンプレの如く笑う。

 

「ご存じなくて?黒鉄朱音さんは道場を転々としているようななのですが、どこも組手で全員に負けてすぐに道場を去っていくのですわ。黒鉄家の者のくせに腰抜けなんて恥ですわねぇ…ああ、分家だからなのかしら?」

「勝つことばかりだけではなく、敗れることにも意味があるわ‥‥それに、貴女こそこの廃校寸前の学園に来るなんて本当に腕に自信があるのですかねぇ?こういった取り巻きを作る事しかできないからここに流れ着いたのでは?」

 

 黒鉄家とかお家の事を言われてカチンときた私は目だけは笑わずににこやかに毒づく。美利さんもその周りの取り巻きの女の子達もジロリと睨んできた。私と美利さんはジリジリとお互いゆっくりと近づいてガンを飛ばし合う。いつでも伐刀できるように殺気を高めていく。

 

 

 

 

「まあまあ、折角のクラスメイトでござらんか。始まって早々、喧嘩はよくないでござるよ?」

 

 

 

 ふと水を差すような声が下から聞こえてきた。私と美利さんは声のする真下を見下ろす。

 

 

 

「いやはや、女の喧嘩というのはコワイでござるなぁー」

 

 真下には西洋騎士の兜をかぶって顔を隠している男子生徒が寝転がってこちらを見ていた。

 

 

「「きゃあああああああっ!?」」

 

 私と美利さんは悲鳴を上げて思い切ってそいつを踏みつける。兜をつけた生徒は起き上がってひらりと躱す。

 

「ほらほら、仲良くするのがいいでござるよ。あと眼福でございました」

 

「ちょっと貴方!?どういうつもりなのかしら!?」

 

 美利さんは睨みながら兜をつけた生徒へと憤慨する。どうして私が出会う男子生徒は変態しかいないのだろうか…。兜をつけた生徒は何の悪気もなくにこやかに笑う。

 

「申してあるではないか。ここでの喧嘩はよくないでござるよ?」

 

「おいおい、そいいうのは女の子にするもんじゃねえぞ?」

 

 鷹人が兜をつけた生徒にポンと肩を叩く。おい、あんたは人のこと言えないだろ。

 

「‥‥で、どうだった?」

「あそこのお嬢様系の彼女は年相応のくせにクマさんの絵が。それであちらの御仁は黒のタイツに白…そそるでゴザルなぁ」

「同志よ。でかした!」

 

 鷹人とそいつはゲスな笑い声をあげながらハイタッチをする。本当に変態しかいないのかここは。美利さんは今日のはクマさんの絵があることを看破されて顔真っ赤。クラスの全員が注目してしまっているから恥をかいたのは当然だろう。

 

「あなっ…あな…貴方という人は…‼」

「そうだ、申し遅れたでござるよ。拙者の名は宍戸梅軒と申すでござる」

 

 宍戸梅軒…それを聞いた私はジト目で睨む。かの剣豪、宮本武蔵と戦ったとされる鎖鎌の使い手と同じ名前だが、間違いなくそれは偽名だろう。もしくは彼の固有霊装は鎖鎌かもしれない。しかし名前を名乗っても美利さんは顔を真っ赤にして話を聞いている状況ではなかった。取り巻き達も必死に美利さんを宥めさせているようだが下手したら伐刀して襲い掛かってくるかもしれない。周りの生徒達も盛り上がっているし誰一人として止めようとしない。

 

「こらーっ‼もうチャイムは鳴っているぞ‼席に着けーっ!」

 

 鶴の一声か空気を読めない一声か、教室に入学式にいた青い地味そうな教員が怒鳴りながら入ってきた。場も白けたようで生徒達は渋々と席に着く。美利さんも落ち着いたようで私達を睨みつて踵を返した。

 

「ふん…まあせいぜい腰抜けらしくいなさいな」

「そちらこそ、もし試合でお会いする時はよろしくお願いしますね」

 

「いやー…お嬢様系ってどうしてこう気が短いイメージなお方が多いのかねぇ」

「プライドが高いのでござるよ。メインヒロインだったらツンデレキャラにジョブチェンジでござる」

 

 ほんとこの変態共は‥‥!私はこいつらにゲンコツを入れてやろうか拳を震わすが一応耐えた。

 

「それではお二方、ご無事でござったらまたお会いしましょう」

 

 梅軒は手を振って一番後ろの席へと向かって行った。というよりも、『ご無事でござったら』とはどういう事?

放課後に怒り狂った美利さんから逃れることかしら?そんな意味深な言葉に疑問を持っていた私に察したのか鷹人は不思議そうに私を見つめた。

 

「朱音、お前この学園の年間行事を確認しなかったのか?」

 

 …年間行事?正直私は試合に出る事だけを考えてこの学園の年間行事とか全く興味がなかった。知ったとしてもどうでもいい。私は鷹人の言葉を無視して席に着く。

 

 ようやくホームルームが始まり、青い地味そうな教員は学園の事を説明しだす。ちなみに青い地味そうな教員の名前は風間・ヒューイというそうだ。なんだか芸能人みたいだがひたすら腕に描かれている青い星のタトゥーをアピールしてくる。あと学園のルールとか、ヒューイ先生の自慢話とかあったが正直本当にどうでもいい。

 

「…と、いう訳で学園の代表選抜試合は来週の月曜日から開始する!試合の日程や相手は前日に各自の生徒手帳に送信するから要チェックするように‼」

 

 どれくらい時間が経ったか、私は明日の特訓のメニューやこの変態をどうしてやろうか考えながら教師の話には耳を傾けずにいた。ようやく終わりの雰囲気が見えているようだ。今日はこの一時間しか授業はやらないようで、終わったら直ぐにでも理事長に直談判か、自主練でもしておこう。

 

「ふむ…少し早いがこれで授業を終了する。というわけで、これから行う新入生オリエンテーションの説明をするぞ」

 

 はい?私は思わず目を見開いてしまった。そんなのがあったの?全くもって面倒だ…これも聞き流しておこうか…

 

 

「新入生オリエンテーションの内容は‥‥はいこちら‼『クラス内バトルロワイアル』!」

 

 ヒューイ先生の後ろにあるスクリーンにデカデカと『☆クラス内バトルロワイアル☆』という文字が出て、ヒューイ先生だけが盛り上がっていた。私は驚きの連続でずっと目を見開いて言葉が出なかった。

 

「これまでは無人島サバイバルだったり、24時間マラソンいたって普通だったが…今年は新入生が多いため、普通に代表選抜してたら七星剣舞祭に間に合わない!と、いう訳でクラス内でも選抜を行うことにした」

 

 どれも至って普通ではないとツッコミを入れたいがそれどころではない。要はリハク校長のトンデモ発言でこんなにも集まってしまった生徒を篩にかけ、より実力のある者だけを代表選抜に出すつもりだろう。

 

「新入生はこのオリエンテーションで勝ち抜いた者だけ代表選抜に出場できる。詳しいルールについては現地で説明する。今夜19時にヘルメット助教授の像へ集合すること!」

 

「‥‥鷹人、貴方これ知ってたの?」

「ウン知ってた」

 

 鷹人はにこやかに即答した。私はどうしてこうなったと頭を抱える。本当になんでこんな学園に入ってしまったのだろうか…




 お嬢様系のキャラって主人公の最初の敵になるイメージが多い…金髪だったりツインテールだったりドリルだったりするとより一層。


 だがそれがいい


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4. 腐敗と自由と暴力の真っただ中 ①


 欲望だだっもれ(オイ
 黒タイツ派です…ハイ…


「冗談じゃないわ…!なんでこんな変なイベントをしなきゃいけないの!」

 

 放課後、私は寮の帰り道を歩きながら憤慨する。この学園の年間行事を確認していなかった自分にも非があるが、熾烈な代表選抜の試合の合間にそんなイベントを考える学園側の考えに憤りを感じている。そしてそんな私を後ろからニヤニヤしながらおちょくる鷹人にも苛立ちを感じている。

 

「ほらほら、そんなにしわを寄せてたらしわくちゃおばちゃんになっちまうぜ?」

「うるさいわね…!いきなりこんな事をやるなんて…知ってたら即やめてたわよ」

「嫌ならやめてもいいんじゃよ?」

 

 そのニヤニヤ顔が物凄くむかついたので私は思い切ってアッパーカットをお見舞いする。バトルロワイアルが始まったら即こいつからぶちのめしてやろうかしら…

 

「話によるとクラス内バトルロワイアルはリハク校長の思い付きみたいでござるよー」

 

 いらついている私の横からぬっと出てくるように西洋騎士の兜を被った生徒、宍戸梅軒が耳元で囁いた。気配もなくいきなり現れて私の耳元で声を掛けてくるものだから物凄く情けない声を上げて驚いてしまった。

 

「ちょ、ちょっと‼急に現れてこないでよ!驚くじゃないの‼」

 

「いやはー、面目ないでござるよー」

 

 へつらいの気持ちを込めた笑い声で謝るが絶対に反省していないだろう。いくら相手にしてもキリがないので私は率直にさっき言った事を確認する。

 

「で、あの校長の思い付きってどういうことよ?」

「どうやらラノベとか漫画を読んで、『あっ、これいいかも!』的なノリで思いついてこのクラス内バトルロワイアルを決行した‥‥とツイッターで自慢してたでござる」

「子供か!?」

 

 本当にこの学園の理事長はあんなので大丈夫なのだろうか。私の精神に不安と憤りがますますのしかかってくる。嗚呼、いち早くこの学園を去りたくなってきたわ…

 

「それで?梅軒さんは、私達を狙う宣言でもしてきたのかしら?」

「滅相もござらん。拙者はお友達は大事にする主義の故、そのような下衆なことはしないでござるよ」

 

 友達…この学園にそんな友情ごっこが通じるのかしら。それに彼のいう事も疑わしい。疑いの眼差しで睨む私をよそに鷹人はにこやかに梅軒へと近づく。

 

「そんなに疑ってやるなって。こいつは俺達に手を出さない、それは俺が保証するぜ」

「どうしたらそんな保証があるのかしら?あって間もない赤の他人のくせに」

「それはすぐに分かるさ‥‥なんたって俺達は」

 

「「タイツ好きだからさ!」」

「この変態共が…」

 

 ドヤッと握手をしてこちらを見てくる鷹人と梅軒。正直うざいしそんな嗜好で仲良くするなとこの変態共に制裁を入れてやりたい。

 

「ではでは、拙者はこれにてドロンいたす。朱音殿、今夜が最後の晩餐にならぬよう願ってるでござるよー」

 

 梅軒はニンジャみたいに手で印を結んで去ろうとする。お前は何処のサラリーマンだ。鬱陶しいそうにしている私の気を知らないで梅軒は呑気に手を振って去っていった。ひとまず面倒くさいのが去ったので私は一息つく。

 

「ったく、なにが最後の晩餐よ…勝手に人を殺すなっての」

「ねえねえ!その最後の晩餐は野菜炒めでいい?」

「あんたはすぐにのるな!」

 

 ノリノリで悪乗りする鷹人に私はうんざりする。決めた、こいつがまた私に変な事をしようとしたらバトルロワイアル開始直後にまっさきにこいつから狙おう。

 

___

 

 死兆学園というのは廃校寸前の学園の癖に土地が広い。魔導騎士制度のある学園のなかで恐らく一番だろう。北家四兄弟と南家五面がそれぞれの領地と称して縄張りを取ったのが原因だが、そのおかげで鍛錬には持って来いの場所が多いという。

 

 その一つが四兄弟の三男もといヘルメット助教授の銅像があるグランドのフェンスの先の森林、通称『やさぐれの森』。長男と次男にひたすら無視された三男がやさぐれて只管森の中にこもったことが由来、らしい。この森の奥でやさぐれた三男が家を建てたとかないとか。この森の広さ故、学生にとっては良き修行場になっているようだ。

 

「うひょー、やっぱ結構の数がいるなぁ」

「ギリギリ間に合った…出掛ける3分前にトイレに駆け込まないでよ」

 

 19時のグラウンドには新入生がわんさかと集まっていた。言われてみれば確かに1年生の数は多い。これだけの人数でちまちまと代表選抜の試合をやっていると間に合わないだろう。

 

「時間通りに全員集まったか…今年の新入生はまとものようだな。遅れた者は処罰するつもりだったが杞憂であったか」

「も~、委員長は厳しすぎるんですよぉ~。まだ入りたてなんですから大目に見るべきですよぉ」

 

 私達含め新入生達は一斉に厳しい事を言ってる声とどこかふんわりとした声の方へと振り返る。そこにはどこかの軍人のような黒と白の制服を着て、眼鏡をかけているが目つきの悪い真面目そうな男子生徒とほんとうにふんわりとした雰囲気が漂う銀髪の女子生徒がいた。

 

「全員注目‼これよりクラス内バトルロワイアルについて説明をする。ルールは一度しか言わない。心して聞くように!私はこの新入生オリエンテーションの指揮を任された、3年2組、風紀委員長の敦賀宗介だ」

 

 風紀委員。それを聞いた私はその風紀委員長を警戒した。言っての通り、この学園は3つの派閥に分かれて争いが起きている。ひとつはこの学園の手腕ともいえる生徒会執行部、次に風紀委員や体育委員、保健委員などが集まってできた委員連合、そしてこの学園の風紀を乱すと言われているヒャッハーな連中こと無法者集団である。その委員連合の一人、風紀委員長である敦賀という男は死兆学園序列2位の実力を持つB級ランクの騎士だ。

 

「はーい♪そして風紀委員の副委員長を務めます、オフィーリア・エルトライトです。あと処女です」

 

 まさかの突然の処女宣言に私を含めほとんど生徒がこけそうになったり驚いて思わず吹いてしまったりした。勿論、彼女の隣にいる風紀委員長も頭を抱えて呆れているようだ。

 

「…オフィーリア。いちいちそのような発言はしなくていい」

「?そうですか?私は処女ですのでいたって普通だと思うのですが?」

 

 自分を処女だという輩のどこが普通だというのか。というかそんなのでよく風紀委員になれたな。

 

「さて、少し脱線してしまったがこのオリエンテーションのルールを説明する。時間内にこの森の奥にあるやさぐれの本堂に辿り着けば合格、ただそれだけだ」

 

 物凄く簡潔にルールを説明する風紀委員長に一年生達はざわざわと動揺する。そんな簡単でいいのか、それではバトルロワイアルの意味がないのではと次々に呟く声が聞こえてきた。

 

「‥‥だが、制限時間は3時間。そして先着は各クラスで6名のみとする。時間内に辿り着けなかった者、6人目以降の者は今年の代表選抜は出れないと知れ」

 

 冷酷に告げた風紀委員長の言葉に更にざわめきだす。今年は6クラスあるので計36名のみしか合格できない。更には本堂は森の奥地にあるとされ全速力で駆けて行かないと間に合わない。

 

「そ、そんなのって理不尽じゃないか!代表生になって七星剣舞祭に優勝すれば願いを叶えてくれるっていったくせに‼」

「そうよ‼入っていきなりこんな意味わからないことやって不合格者にはこの一年、代表選抜に出れないとか詐欺じゃないの!」

 

 生徒の一人が文句を言うと連鎖するように生徒達が次々に文句を言い出す。喧しく響く罵声や苦情に敦賀宗介は一切動揺せず、寧ろゴミを見るような目つきで睨み返す。

 

「確かにアホの校長はそんな事を言った。だが、それを実現するためにはそれ相応実力を持たなければならん。だからこそゴミとできる者を餞別するのだ。ここで敗れるのならただ実力がなかっただけ、次の機会に向けて磨けばいい。それができなければただのゴミだ」

 

「ふ‥‥ふざけるなぁぁぁっ‼」

 

 一人の男子生徒が刀型の固有霊装を伐刀したことを皮切りに何人かの生徒が伐刀して敦賀宗介へと駆けだしていった。

 

「委員長の悪い癖ですねー。人の機嫌を逆撫でするのは。ですが処女の私は一切動じません」

「悪い癖だとは自負している…だが、この程度で憤慨するとは、実力が知れるな」

 

 敦賀宗介はため息をついて襲い掛かってくる生徒達を養豚場の豚を見るような眼差しで見つめる。挑発に動かなかった生徒も私もあの静かに放っている殺気を見れば嫌でもわかる。あの男は半端なく強い。

 

「私に挑んで勝つというのなら、認めよう。ここで私が敗れのなら私に実力がなかった、ただそれだけだ‥‥だができればの話だがな」

 

 敦賀宗介はそう告げると静かに手をかざす。

 

「——裁け、断罪の冥槍(ロンギヌス・カース)

 

 敦賀宗介の片手には十字架に貼り付けにされた白い翼の天使を模した柄の短い斧槍が握られていた。ふらりと前倒れの態勢なった瞬間、一気に駆けだし襲いかかる生徒達を縫うように通り過ぎた。斧槍をぶんと振り下ろしたと同時にバタバタと敦賀宗介に襲い掛かっていた生徒達が次々に倒れていった。

 

「ふん、何事も実力があれば認められると思うな。認められたければ己が手で勝ち取るがいい」

 

 肉体的損傷をあたえる『実態形態者』とは違って、肉体的損傷を与えず精神にのみダメージを与える『幻想形態』とはいえ、敦賀宗介の剣捌きは速すぎる。圧倒的な実力差を見せられ文句を言っていた生徒達は冷や汗をかいて沈黙した。

 

「さて確認するが3時間以内に36名の生徒がたどり着かなければ意味がないのだが、この大人数では辿り着くもままないだろう…意味が分かるな?」

 

 鋭く冷たい視線に私もごくりと生唾を飲む。この人数ではごった返してどこぞのマラソン大会みたいにただだらだらと走るようなことになるだろう。選ばれた者のみだけがたどり着くにはやはり‥‥

 

「察しの通り、戦って潰し合わなければたどり着かん。使用する霊装は幻想形態のみ。だが個人で戦うのもよし、集団で狩るのもよし、その辺りは各自で考えてやるがいい」

 

 たった一人でひたすら走っても、誰かと組んでライバルを倒しても、グループを作って集団で戦ってもよしの細かいルールは一切無用の正真正銘のバトルロワイアルだ。もうすでに代表選抜は始まっているということである。

 

「以上で説明は終わりだ。合図は出さん、さっさと目的地へと駆けろ。それが嫌なら私達に挑み勝てばいい」

 

 ぶっきらぼうに説明が終わり、新入生オリエンテーションが開始される。そんな雑でいいのか風紀委員。と、私が内心ツッコミを入れている間にフェンスを乗り越えて駆け出す者もいれば、伐刀して風紀委員長と副委員長へ襲い掛かろうとする者がいた。

 

「‥‥なかなかさっさと動かない者が多いな。オフィーリア、喝を入れてやれ」

「はーい♪処女的には初めからこれをした方がいいと思ってました——捧げよ、機械仕掛けの天罰(ウルスラ)

 

 光と天使の羽根が舞い上がり、オフィーリアの片手に大きな天使の翼を模した機械仕掛けの弓が発現される。オフィーリアはにこにこしながらその弓を空の方へと向けた。

 

「おい、朱音。そんなとこで突っ立ってないで急ぐぞ」

「ちょ、あんた‼まだいたの!?」

 

 オフィーリアの固有霊装をじっと見ていた私の横で鷹人がいきなり声を掛けてきた。此奴の事だから私をほっといて先に行ったかと思っていたので思わず驚いてしまった。だが鷹人はそんな私の文句に耳を傾けていないようだ。

 

「さっさとしねえと‥‥巻き込まれるぞ」

「ひゃあっ!?ちょ、いきなり姫抱っこしないでよ!?というか巻き込まれるって何!?」

 

 いきなり私を姫抱っこして駆け出すし、彼のいう事が気になるしもう何が何だかとてんやわんや。その一方で、オフィーリアは襲い掛かろうとする生徒達には一切気にもせずにいた。

 

「いきますよー♪『天使の裁き(ディバインジャッジメント)』~♪」

 

 機械仕掛けの弓から立った一本の光の弓矢が空高く放たれた。その光の弓矢がカッと光り出した瞬間、空から先ほどの弓矢よりも遥かに巨大な光の柱が降り注ぎだした。風紀委員の二人に襲い掛かろうとしていた生徒達も、もたもたとしている生徒達も次々に降り注いでくる光の柱に巻き込まれていった。案の定、阿鼻叫喚になり、生徒達は必死になって巻き込まれないように駆けだしていった。

 

「皆さん、元気に頑張ってくださいねー!処女の加護がありますよーにっ‥‥ところで、委員長。こんなに派手にやらかしていいんですか?」

「構わん。アホの校長の思い付きを鵜吞みにして風紀委員に押し付けた生徒会執行部に文句を言え」

 

___

 

「ふー、危なかったな。下手したらみんなお陀仏になっちまってたな」

「風紀委員もやること滅茶苦茶よ‥‥って、いつまで私の胸を触ってんの‼」

「ぶべらっ!?」

 

 鷹人は私を姫抱っこして駆け、どさくさに紛れてさり気なく私の胸を鷲掴みしていた。私は思い切りこの変態の顔面を殴る。

 

「まずはやっぱりあんたから仕留めておこうかしら‥‥」

「待て待て待て‼俺だって必死だったんだから仕方ないだろ!仮に俺を倒したとしてもこの森を切り抜けていけるか?」

 

 ふと私は気づいて辺りを見回す。辺りは木に囲まれた森の中、気を緩めてしまったら目的地にたどり着くことなくこの森をさまよう事になるだろう。

 

「…一つ聞くけど、あんたはこの先どこへ進めばいいかわかるの?」

「もちもち。ちゃーんと方角を確認したし、梅軒から場所をメールで教えてもらったし」

 

 いつの間にメールを交わすほどの仲になっているんだこの変態共は。すでにクラス内バトルロワイアルは始まっているし、鷹人を相手にしてたら時間の無駄かもしれない。

 

「それに、一人よりも二人いた方がいいだろ?」

 

 ニヤニヤとする鷹人に私は眉をひそめる。なれ合うつもりは無いが、たった一人で森の中とは生まれたばかりの小鹿がたった一頭だけで猛獣のいる森の中を歩いていると同然。いつどこで誰が襲い掛かって来るか分からない。私はじっと鷹人を見つめる。

 

「…あんたは背後から私を襲うつもりはある?」

「何言ってんだ、一緒に住んでる奴を襲うバカはいねえよ。あ、覗きはするけど」

 

 最後の一言は余計だ。相手の固有霊装を見て危険を察する程の実力があるならまだ頼りになるが、彼がどれくらい強いのかまだ分からない。

 

「…愚問かもしれないけど、あんたは強いの?」

「めちゃんこ強いぜ?俺と組むなら戦艦に乗った気分でいれるぞ」

 

 何処からそんな自信が湧くのだろうか。これほど豪語するのなら多少は任せてもいいかもしれない‥‥もしもの時はすぐに切り捨てるけど。

 

「じゃあ…案内してもらうわ。鷹人、よろしくね」

「任せとけ!思った以上の触り心地だったからな、触らせて貰った分の働きはちゃーんとするぜ!」

「やっぱり故意じゃねえかぁぁぁっ‼」

 

 私は思い切りジャーマンスープレックスをお見舞いした。本当に幸先が不安である。





 ここで風紀委員登場。ヒャッハーな無法者達を徹底的に断罪していきます。委員長は真面目系ドS眼鏡
 副委員長は2年。ふんわりおしとやか天然に…できたらいいなぁ


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5. 腐敗と自由と暴力の真っただ中 ②

 刀やソードばかりじゃなくてちょっと変わったものでやってみたいと試みるけど、なかなかその扱いの描写とか難しいですね…(白目)

 戦闘の描写は‥‥ひどぅいかも(視線を逸らす


どれくらいの時間をかけて歩いたのだろうか、辺りは木、木、木‥‥どこもかしこも暗い森の中。私の体内時計では恐らく30分以上はずっと早足で歩いている。目的地はかなりの奥にあるのだが、私は先頭でいつまでも鼻歌を歌って呑気にしている鷹人を疑いの眼差しで見つめる。

 

「ねえ…本当に道案内はできているのでしょうね?」

「そう心配すんなって。梅軒に教えてもらった通り、ちゃーんと進んでいるぜ」

 

 果たして本当だろうか‥‥。心なしか同じところをグルグルと回っているような気がしてきた。鷹人が次はあっちだ、今度はこっちだと左へ右へと方向を変えて進んでいるので不安が疑いへと変わり信じられなくなってきている。そもそも、梅軒がどうやってそんなルートを知っているのかというのも胡散臭い。

 

「その梅軒のメールの通りで大丈夫なの?」

「お前は心配性だなー。此奴の言うとおりに進んで行けば‥‥あ、やべっ」

 

 ん!?今「やべっ」って言わなかった!?思わずこいつがこぼした言葉に目を見開いてしまう。そして当の本人は、にっこりと私に満面の笑みを見せてタブレット型の生徒手帳を見せる。確かに彼の言う通り、梅軒のメールとその内容と地図らしきものが映っているが、彼が口をこぼした意味が引っかかる。

 

「今、やべって言ってたけど…」

「ははは。よく見たら、地図が反対でしたー。いやー、やっちまったな」

「おおおおおいっ!?」

 

 反省の色を全く見せないこのバカに私は全力のドロップキックをお見舞いした。こいつは地図を逆さまで見て案内をしていた。つまり、正真正銘の迷子になった。

 

「やっぱりあんたに頼った私がバカだった…!」

「そ、そう怒るな。まだ終わっちゃいねえって。道を引き返していけば…あれ?ここどこ?」

 

 なんということでしょう。今自分達がいる場所すらも把握できないまま森の中を彷徨う事に。このままじゃただ森の中を歩き回るだけで終わり、ゴールへと辿り着けないまま試合すらでれなくなってしまう。もうこいつを切り捨てて自分で歩いて行こうか…

 

 そんな事を考えていると、遠くで爆発音が響きだした。誰かが伐刀して他の生徒と戦っているのだろう。耳をすませば刀と刀がぶつかり合う金属音やら生徒の誰かの悲鳴や雄叫び…バトルロワイアルなのだ、誰かを蹴落とさなければ勝ち進むことができない。この辺りも激戦区になるかもしれない。と、いうことは…私は一筋の希望を掴んだように安堵する。

 

「この辺りから進んで行けば目的地に着くはず…!」

「まじか‼朱音、お前天才だな!」

「あんたがただバカなだけでしょ…だけど、他の生徒が戦っているように私達もその激戦に巻き込まれる可能性があるわ。覚悟して進むわよ」

「委細承知!初めからそうすればよかったんや」

 

 お前はただ迷子になりかけただけだろうが。危うく私もこのバカと道連れになりかけたが、戦いとなればこいつの実力も把握しておく必要があるだろう。いずれ戦うことになるのなら、早めに対処法も考えておく。

 

「あらあら?どこの子羊が罠にかかったかと思えば、腰抜けの朱音さんじゃなくて?」

 

 どこぞのテンプレお嬢様系なキャラみたいな台詞が聞こえイラッとした私は歩みを止めて声が掛かった先を睨む。暗い森の中から、林崎美利が高飛車風な高笑いを上げて現れた。彼女の後ろには取り巻きの生徒達がぞろぞろとついてきている。

 

「美利さん…私なんかに油を売ってる暇はないのでは?」

「本当はそうしたいのが山々なのですが…わざわざ貴女から間引き作業の中に入って来たのですから放っておくわけにはいかなくなったのですわ」

 

 間引き…なるほど、だからあちこちで戦闘している音が聞こえてきたわけか。彼女は取り巻きを使って自分の邪魔になる輩を悉く蹴落としていき、安全な道を作ろうとしていたのだ。面倒なのに巻き込んでしまったと私は内心ため息をつく。

 

「美利さん、そんなことしていると他の生徒が追い越してしまいますよ?私は今貴女と戦って時間を費やす気はありません。お互いの為にもここは見なかったことにしませんか?」

「あらぁ?やっぱり戦って負けるのが怖いのですわね?だから貴女は分家で腰抜けの恥晒しと笑われるのですわ」

 

 美利さんとその取り巻き達は一斉に私を嘲笑しだす。マジでイラッときた。本当にお嬢様系の輩は逆撫でする無知なのが多いのか。私も流石にここまで言われると我慢ができない。

 

「そうですか――残念だわ。あんたなんか相手にして時間の無駄になるというのに…」

 

「おおこわっ…俺は蚊帳の外でいいんだよな?」

「…あんたは邪魔をしないで。これは私のケジメよ」

「そこの貴方。その腰抜けを始末したら次の標的は貴方になるのだけど‥‥私の所に来るのなら、見逃してあげますわ?」

 

 この高飛車女はどこまで人を舐めているのだろうか…鷹人は腕を組んで悩んでいたが首を横に振った。

 

「無理。クマさんを穿いてる奴の下とかちょっとなぁ…やっぱタイツに白ってのが好みだな」

 

 そんな気がした。というかそんな基準で寝返る寝返らないのを決めないで欲しい。美利さんはすっかり顔を赤くして涙目で睨んだ。人のコンプレックスを弄るのはやっぱりこいつの方が長けているようだ。

 

「もう許しませんわ‼腰抜け諸共始末してあげます‼——統べよ、魔海の海賊(ドラグヴァンディル)‼」

 

 彼女の右手に水が渦を巻きだし、青いサーベル型の固有霊装が握られる。固有霊装の名前の通り、彼女は水を操る伐刀者だ。美利さんは刀を振りかざして切っ先を私の方へと向ける。

 

「さあ!やっておしまいなさい‼」

 

 彼女の合図と共に取り巻きの生徒達が一斉に伐刀して私へと迫っていく。

 

「おうおう、こりゃまた人海戦術ときたか。お前ひとりでいいんか?」

 

 鷹人は他人事のように面白そうに眺める。好戦的なのだろうか、鷹人は自分も戦いとうずうずしてる。だが、これは私のケジメだ。邪魔をされては困る。

 

「だからいいって言ってるでしょ。あんたが出しゃばる所は無いわよ」

「へいへい…お手並み拝見といきますよ」

 

 鷹人は小声で「頑張れよ」と呟いて後ろへと下がった。こいつは何を考えているのか、いや今は考えるのはやめよう。気が逸れる。私は目の前の事に集中して左手を掲げる。

 

「——(そよ)げ、翡翠(かわせみ)

 

 左手に淡い薄緑色の風が巻き上がり、私の固有霊装が発現される。私はそれを握り、構えていつでも迎撃できる姿勢に移る。私の固有霊装を見た鷹人は物珍しそうに見据えていた。

 

「盾を備えた左手用の短剣、マン・ゴーシュか…珍しいな」

 

 刀身は小太刀よりもわずかに短いが、厚めの刃に翡翠色の盾が備わった短剣、マン・ゴーシュ型の固有霊装。私は後ろで呟いている鷹人には一切気にかけず、構えた。

 

 手斧を振りかざして脳天を割ろうとしてくる生徒の攻撃を受け流し、相手の胸へ3連突き。横から刀型の固有霊装で斬りかかろうとして来る生徒の攻撃を盾で弾き返し、相手が怯んだ隙に刺突。

 

 雄たけびを上げながら挟み撃ちで仕留めようとするソード型の固有霊装を持った生徒と二刀流の生徒の攻撃を躱し、まずはソードを絡め取って物腰になった相手に容赦なく刺突。すぐに二刀流の刀で再び斬りかかろうとしてきた生徒の攻撃を見切ってVの字に斬る。

 

 ひとまず私に接近してきていた相手を片付けた。いちいち相手にしていられない。狙うは取り巻きを指揮している大将首である林崎美利。彼女さえ倒してしまえば烏合の衆、蜘蛛の子を散らすように逃げていくだろう。私は脚に魔力を集中させて駆ける。取り巻き達の剣戟を躱して一気に彼女の下へと迫った。

 

 その速さに一瞬驚いたのか美利さんは目を丸くしていたが、すぐにドラグヴァンディルを横薙ぎで斬りかかる。無駄に盾で防ぐつもりはない。私は後ろへ下がって躱し、もう一度迫る。そして彼女にむけて突きを放つ。

 

「——どうせさっさと私を始末しようと真っ先に来ると思っていました。計算通りですわ」

 

 美利さんはニヤリと笑う。その刹那、私の足下から水の柱が吹き上がる。もろに当たったらまずい――‼私はすぐに後ろへと飛び下がる。今の一撃で仕留めることができなかったことに私は舌打ちをする。さっさと仕留めないと、彼女のペースに変えられてしまう。

 

「お忘れですの?貴女は私に一撃も与えることもできずに惨敗したことを。何度やっても私には勝つことはできませんわ」

 

 そう言って美利さんはドラグヴァンディルを地面に突き刺す。彼女の足下からいっきに水が広がっていき私の足下も水で濡れていく。もっと面倒な事になった。

 

「——完全なる海賊航路(パーフェクトヴァイキング)

 

 美利さんはそのままドラグヴァンディルを横薙ぎをして空を切る。ただ素振りをしているわけではない。ここから彼女の独壇場になってしまうのだ。私はすぐに避けることに集中する。

 

 彼女がドラグヴァンディルを横へ薙ぎいたと同時に横から鉄砲水が流れてきた。木々をなぎ倒し、逃げ遅れた取り巻きごと巻き込んで私へと襲い掛かる。私は巻き込まれまいと必死に駆けて鉄砲水から逃れる。

 

 逃げる私に彼女の攻め手は緩めない。次に再びドラグヴァンディルを水に浸された地面へと突き刺すと不規則に水の柱が吹き上がっていく。私は縫うように躱していき美利さんへと迫っていくが、彼女はそうはしてくれない。

 

 ドラグヴァンディルを迫っていく私に狙いを定めて袈裟斬りで振り下ろした。彼女の前で立ちはだかる様に津波が現れ私へと迫ってきた。思わず歩みを止めて躱そうとしたがもう遅い。私は津波に巻き込まれた。水圧の塊が体に打ちかかり、呼吸ができない程の水中へと渦巻かれる。必死にもがいて水牢から抜け出す。強引に水を飲まされて苦しそうに咳き込む私に美利さんは嘲笑う。

 

「おほほほほ!何も変わっていませんわね!お飾りが付いたしょうもない短剣でただ突くことしかできない貴女は私に勝つことなぞ不可能ですわ‼」

 

 彼女の伐刀絶技『完全なる海賊航路(パーフェクトヴァイキング)』は自分の周りをドラグヴァンディルの水で浸させその水を意のままに操る広範囲型の攻撃。水柱はもちろん、鉄砲水やら津波、高水圧の水流だって放つことができる。今、この水に浸されたこの場所は彼女の独壇場でもある。だからこそ、()()()()()()手も足も出すことができずに敗れたのだ。

 

 

――けれど、これでだいたいわかった。

 

 

「——何も変わっていないのはあんたの方のようね」

「‥‥なんですって?」

 

 ぴくりと反応した美利さんはジロリと私を睨む。殺気を込めているようだが、そんなもの怖くない。

 

「私は何度も何度も立ち向かって変わっていった‥‥取り巻き作って指揮して現状にご満悦のあんたにここで負けるつもりは満更ないわ」

「腰抜けの癖に癪に障る…‼やはり貴女からいち早く始末して正解でしたわ‼」

 

 美利さんは再びドラグヴァンディルを思い切り袈裟斬りで空を切った。先ほどよりも大きな津波が発現されて襲い掛かる。軽く挑発したつもりだったのだが…テンプレお嬢様系というべきか、思った通り気が短いようだ。

 

 さて、集中しなければ今度こそ巻き込まれてここで終了となってしまう。自分で言うのも何だが、黒鉄家の中では私は2番目に能力が低い。そんなブービーな力でどうすべきか、地面に這いつくばるほどに、血反吐を吐くほどに、体を壊すほどに鍛えぬいて考えぬいた。とある師匠に出会い、術を見つけた。

 

 

――自分の全力をぶつければいい

 

 

 脚に、手に、自分の固有霊装に、ありったけ注ぎ込んで集中する。全力をもって相手の全力を打ち勝つ!

 

 私は迫りくる津波に真正面から一気に突っ込んだ。普通ならば自殺行為だろう。でも打ち勝つにはこれしかないと私は考えている。

 

 自ら飛び込んだことに美利さんは嘲笑の目で見ていたが、津波を突き破った私の姿を見て嘲笑から驚愕へと変わる。これ以上、貴女の独壇場にはさせない。私は風の様に駆ける。足には翡翠色の風が纏い、駆けていく私のスピードを上げていく。

 

 美利さんは慌ててドラグヴァンディルを振っていく。水の柱を噴き上げさせ、水の斬撃を飛ばし、鉄砲水や高圧水流を放っていく。美利さんへと近づけさせまいと私の邪魔をする取り巻きごと巻き込んで攻撃する‥‥が、もう遅い。もう私は止めることはできない。

 

「こ、これならどうです!?貴女には私に一撃も与えることはできませんわ‼」

 

 美利さんは自分の周りに水の壁を張っていく。私の攻撃を届かせないようにするつもりだ。でも私の考えは彼女の体に一撃を与える事なんて毛頭ない――一撃を与えるんじゃない、一撃で仕留めるのだ。

 

 距離、今のステータス、申し分ない。体力、これで仕留めれなかったらバテるかも。水の壁、全力をぶつけなければ突き破ることはできないだろう。固有霊装にありったけの力を注ぐ。マン・ゴーシュの切っ先に翡翠色の風が纏い、渦を巻く。左腕を引き、狙いを定める。

 

「——風穿ち‼」

 

 全身全力の風を纏った強烈な一撃の突きを放った。螺旋の風は勢いよく駆け抜け、水の壁へとぶつかる。大きな掘削音を響かせ、突き破り、美利さんの体を撃ち貫いた。幻想形態だから精神にダメージを受けるのだから無事だが、実戦形態だったら間違いなく体に風穴が開いていただろう。美利さんは激痛を耐えるような苦悶の表情で私を睨む。

 

「貴女‥‥実力を、隠していたのね‥‥っ!?」

 

 その言葉を最後に美利さんはばたりと倒れた。私は勝利を噛みしめることなく、ただ真顔で倒れている美利さんを見つめた。

 

「隠していたんじゃない…身に着けただけよ」

 

 ほっと一息ついた途端にぐらりと立ち眩んだ。へたりと膝をついて大きく息を吐いた。正直張り切り過ぎて力を消耗しすぎた。後は大将がやられた烏合の衆が散り散りになって逃げて行ってくれると嬉しいのだが‥‥

 

「いまのあいつなら楽勝だわ‼」

「美利お嬢様の敵っ‼」

 

 うん、やっぱり現実はそうもうまくいかない。消耗しすぎた私なら勝てるだろうと高を括って襲い掛かってきた。何とか対処しなければと立ち上がろうとするが、うまくいかない‥‥‼

 

「選手交代といくか」

 

 私を守る様に鷹人が前に出て私に剣を振り下ろそうとしてきた生徒を蹴とばす。

 

「ちょ、あんた…‼」

「朱音、お前は頑張って勝ったんだ。今度は俺が頑張る番だな」

「何を勝手に…‼」

「悪いな。何もしないのは俺の性分にあわねえし。というか、みすみすダチを見捨てるわけにはいかねえしな」

 

 鷹人はニシシと私に向かって笑う。此奴と言う奴は‥‥本当にry

 

「あと、折角の黒タイツと同じルームメイトなんだ。いなくなるのはいやだしな!」

 

 本当に変態のクソ野郎だ。折角の雰囲気を台無しにした鷹人は右手を掲げた。

 

「——ぶち壊せ、(たがね)

 

 鷹人は伐刀した。彼の手に光が灯り固有霊装が握られる。彼の固有霊装は一体何なのか、どんな力があるのか私は息を飲んで見つめた‥‥のだが、全貌が明らかになると思わず口をあんぐりと開けてしまった。黒い金属の棒、先端は赤く逆Lの字で曲がっている。刀でもない、メイスでもハンマーでもない‥‥というかあれってもしかして…

 

「どうみてもバールじゃん!?」

 

 彼の固有霊装なのか、よくホームセンターとかでみかけるバールそのものだった。

 

「失礼だなー。バールじゃねえよ、バールのようなものだぞ」

「ようなものじゃなくて思い切りバールなんだけど!?」

「デッキブラシじゃないところだけ有難く思えよ」

「何が!?」

 

 そんなやり取りをしている間にも鷹人に向かって生徒が襲い掛かってきた。余所見してる場合じゃないわよ‼と叫ぶ前に、鷹人はそのバールもといバールのようなものを思い切りフルスイングしてぶっ飛ばした。

 

「うちの相方に手を出す野郎は‥‥ぶっ転がしてやるぜぇぇぇっ‼」

 

 戦闘狂のような笑みで飛び掛る様に襲い掛かっていった。思い切り振って、思い切り叩いて、思い切りぶっ飛ばして、次々に取り巻きだった生徒達を倒していく。

 

 彼の戦いを見て一目で分かった。彼は強い、強すぎる。技の技術とか、剣術とか、剣技とかそんなものは彼には関係ない。積み上げた物を容赦なく叩き壊していく様は戦場の戦闘を楽しんでいるかのよな、細かいことなぞ屁でもない戦い方だった。

 

 だからこそ、私は思わず見惚れてしまった――いや別に好きとかじゃなくて。彼の戦い方に、彼の強さに興味を持ってしまったと言っておこう。

 

 気が付けば取り巻き達は壊滅し、残った者は一目散に逃げだしていっていた。鷹人は面白味が無くなったかのようにつまんなそうにため息をついた。

 

「ったく、興が削がれたぜ。所詮は取り巻き、か‥‥朱音、大丈夫か?」

「え、ええ‥‥あんた、結構強いじゃないの」

「だろう?もっといいとこ見せたかったけど、時間がねえな」

 

 面倒くさそうに鷹人は頭を掻く。そうだった、これはバトルロワイヤルだけどもいち早く目的地に着く競争だ。こんなところでへたばっていたら遅れてしまう。私は立ち上がって急ごうとするが足下がおぼつかない。

 

「ほら、乗りな」

 

 すると鷹人は屈んで私に背を向ける。おぶってくれるようだが、変な事をするのではないかと私は疑いの視線を向ける。

 

「遠慮すんなって。ルームメイトなんだし、タッグだし、相棒だし、ダチなんだからよ。急がねえと出たがってた七星剣舞祭に出る事すらできなくなるぜ?」

「ああもう‼仕方ないわね、変な事したらすぐにヘッドロックするわよ‼」

 

 先程までタイツしか見てなかったくせにと毒づくが、ここは彼の言うとおりにしておこう。私をおぶった鷹人は一気に森の中を駆けていく。

 

「で、でもあんた道は分かるの!?」

「大丈夫だ!梅軒のルームメイトがわざわざ道を作ってくれたんだとさ!」

 

 確かに気づけば一直線に焦げた道ができている。今度こそ、この道を辿ればつくのだろうかと心配になるが、鷹人はお構いなく風の如く駆けいった。

 

 遠くで剣戟の音や生徒達の声が聞こえる。今だに先頭は続いているし、まだ間に合う。私は安堵のため息をつく。

 

 心なしか、鷹人の背中が暖かい。かつて幼い私をおぶってくれた父を思い出してしまったのがいけなかったかな…

 

__

 

「いやー、よく来てくれたね!朱音さんと鷹人くんで丁度35人目と36人目だ‼」

 

 ニヤニヤとリハク校長はなんとか目的地に辿り着いた私と鷹人を生温かく労った。息が上がっている私と鷹人はそれどころじゃなかった。というかこのイベントはうまくいったとニヤニヤしてる校長がなんかむかつく。

 

 道中、このまま一気に駆けてくれればよかったものの、鷹人が急に「お腹痛い」と言い出し、私ごと茂みの中へと飛び込んでいったのがいけなかった。疲労がたまっている私を更に苛立たせ、胃を委託してれたせいで私までもお腹が痛くなってしまったのだ。必死に耐えて薬草を探して何とかなったと思えばまた道に迷うわで大変だった。

 

「おー、お二方‼よくぞご無事でござった!」

 

 苛立っている私に更に苛立たせてくれるようで、宍戸梅軒がにこやかに手を振ってやって来た。兜で表情が見えないが絶対に愉悦な笑みをしてるに違いない。

 

「もう大変だったんだぜー。朱音の奴が急にお腹痛いーとか言ってくるもんだからさー」

「それはあんたでしょうが‥‥‼」

 

 もう色々と疲れてツッコむ気にもなれない。

 

「ご苦労でござるよ。でも、これでお二方も代表選抜に出れるでござるなー」

 

 梅軒のいう通り、これで私も鷹人も代表選抜に出場することができる。やっと始まったばかりというべきか、ここから熾烈な戦いが始まるのだろう。

 

「諸君!よくぞ辿り着いた‼ライバルに打ち勝ち、誰よりも早くここへと来た君達はかなりの実力が備わっている。今後の君達の活躍を期待している!見事代表選抜も勝ち抜き、代表生となって七星剣舞祭で優勝してくれることを願っている!」

 

 リハク校長は張り切りと期待の眼差しでここに辿り着いた新入生36名を見据える。やっとこんなめんどくさいオリエンテーションが終わった。私はほっと一安心した。

 

「これで新入生オリエンテーションを終了する‼‥‥ところで、帰り道ってどこ?」

 

 私は思い切りずっこけた。校長、あんたも迷子か…!?




 マン・ゴーシュもしくはマインゴーシュ。盾が備わった剣とか少し中二精神をそそったのでヒロインのメーン武器になりますた。

 バールのようなもの(?)。はっちゃけた主人公なら刀とかじゃなくて、違うのがいいかなと…

 ドラグヴァンディル…ブレ×ブレでは少しふとましい子だけども、だがそれがいい


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6. 再会 ①

 メイスにバールにバット…ポピュラーな剣系主人公じゃなくて鈍器系主人公がどんどん増えてくれたらいいなぁ…(遠い眼差し)


「あんたねぇ…いつまでそこでぐうたらしてるのよ」

 

 放課後の鍛錬を終えて戻ってきたら鷹人は毎度の様にリビングでテレビをつけながらごろ寝している。お前はどこの休日のおっさんだ。

 

 オリエンテーションから数日が経過した。1年生は代表選抜に出場する人数は減ったものの、来週から行われる試合に向けて各々準備をしている。また、出場できなかった者はこの学園から早速去る者、理不尽な扱いに不貞腐れる者、楽観的に納得する者、来年はこの学校が存続しているか分からないのに来年に向けて腕を磨く者と多く分かれた。

 

「んー…暇っ」

「暇なんならあんたも一緒に鍛錬に付き合いなさいよ」

 

いくら試合は来週から始まるからと言ってもここまでぐうたらしてたら流石の私でも放っておけない。

 

「虎はなんで強いと思う?もともと強いからよ。虎や狼が日々鍛錬するか?」

「その態度でそんな台詞言っても誰も納得しないわよ」

 

 というか前田慶次に謝れ。悔しいが鷹人の実力は私以外にあるのは確かだ。ふざけている割には思った以上の実力を持つっていうのは相当厄介だ。けれども、同じルームメイトなのだから少しはしゃんとしてほしい。

 

「朱音殿の言う通りでござるよー。そんなにぐうたらしてると太るでござる」

「あんたどっから入ってきた!?」

 

 どこからともなく当たり前かのように梅軒が割り込んできた。神出鬼没でいつの間にいたのか、毎度毎度驚かされるのは本当に勘弁してほしい。そんな梅軒はにこやかに笑って窓の方を指さす。

 

「ベランダでスタンバっていたござる。あ、窓はピッキングで開け申した」

「物騒すぎるわよあんた!?」

「まあまあ、梅軒よくきたな。ポテチしかねえがゆっくり寛いでくれや」

「私の部屋でもあるのだけど」

 

 梅軒まで来るともうバカ二人の収拾がつかなくなる。もうやだこいつら。そこから小一時間ほど話で盛り上がっていた。お前らは本当に日曜日のおっさんか。

 

「それで、梅軒。俺達になんか用事があってきたんだろ?」

「うむ、今週の休は暇でござるか?暇でござったら拙者達と一緒にショッピングモールへ出掛けようと思って誘いに来たでござる」

 

 珍しい。梅軒が私達にそんなお誘いをしてくるとは思いもしなかった。友好関係を築いていくつもりなのだろうか。

 

「拙者のルームメイトが美味しいパフェの店を見つけたから行こうと一点張りで…拙者だけじゃ少し心許ないと思ったのでござるよ」

「うん、見るからに心許なさすぎでしょ」

 

 兜を付けたまま外出するのはいろいろと問題があるのは当然だ。というよりもよくこの見るからに怪しい奴を誘えるなと思う。

 

「仕方ないわね、行ってあげるわよ。ちょうど休日は買い物に出かけようと思ってたところなの」

「「下着を買いに?」」

「ちゃうわ‼」

 

 どうしてそうすぐに下着につなげるのだろうかこの変態共は。

 

「まあ休日をゴロゴロ寝過ごすのもなんだかと思ってたところだし、俺も行ってやるよ」

「かたじけない!お二方のご協力に感謝いたすでござる。集合時間や場所は後程お知らせいたす。ではっ‼」

 

 梅軒は一礼すると颯爽とベランダから降りていった。毎度毎度思うのだが玄関から帰ってほしい。さて、休日に外出するということになればそれなりの支度を事前にしておかなければならない。

 

「まあまだ日にちもあるしゆっくり支度をしましょうか。で、あんたはいつまでぐうたらするつもりなの?」

「晩飯ができるまで」

「少しは動け!」

 

 再び寝転がろうとする鷹人を蹴とばして起こさせる。決めた、こいつのぐうたらを私が叩き直してやることにしよう。そしてその後めちゃくちゃ料理を手伝わした。

 

___

 

「ひとつ言っていいかしら?」

「あ?どうした?ちゃんとお前の言うように身嗜みはしっかりしてるぜ?」

「違う。なんなのよそのTシャツは」

 

 待ち合わせ場所である駅前で私は鷹人をジト目で睨む。朝早く叩き起こして身嗜みを整えさせたのはいいが、こいつが着ているTシャツに【世紀末覇者】とロゴがでかでかと書かれていた。

 

「そんなに見つめるなって、照れちまうぜー」

「まともなのはなかったの‥‥」

 

 どうしてそれをチョイスしてきたのか…もう不安でいっぱいである。

 

「お待たせでござるー‼」

 

 そしてもう一人の問題児である梅軒の声が聞こえてきた。果たしてちゃんとした格好で来ているのだろうかと心配だったが‥‥やっぱりダメだったよ。梅軒は西洋騎士の兜をつけてはいなかったが、鳩のマスクをつけて顔を隠していた。

 

「今回はお出かけ用のマスクをつけてきたでござる」

「梅軒…あんたマスクを取るという選択肢はなかったの?」

「やだなー、こういうのが拙者の個性でござるよー」

 

 そんな個性はいらん。通りかかる人の視線が痛すぎる、もう早く明日が来てくれ…

 

「ところで、お前のルームメイトは?」

「ほら拙者のすぐ隣にいるでござるよ」

 

 梅軒はすぐ隣で他人のフリをしてた桃色の長い髪に大きな赤いリボンをつけた少女を指さした。少女は明後日の方向を向いていたが梅軒の声を聞いてすぐにこちらに振り向いてにっこりと笑った。

 

「どもー♪初めましてかなー?」

 

 一瞬お淑やかかと思いきやこの子も梅軒と同じように一味違うのだろうと色々と察してしまった。私は引きつった笑顔で返す。

 

「私は梅軒とルームメイトをしてるアスカ・ガーネットっていうの。よろしくー」

「よ、よろしく…」

 

 私の周りはどうしてこうも個性があり過ぎる人ばかりなのだろうかと遠い眼差しをしてアスカと握手を交わす。あのオリエンテーションで森に焦げた道を作ったところによれば彼女は恐らく炎系の固有霊装なのだろう。そんな事を考えている私をよそに鷹人と梅軒はマジマジとアスカを見つめていた。

 

「ほほう…黒のガーターストッキングとかいいですなぁ、梅軒さん」

「同志よ、わかってらっしゃるでござるなぁ」

 

「そんなに見てたら目つぶししちゃおっかなー?」

「もうしてるがな!?」

 

 アスカはニコニコしながら鷹人と梅軒に目つぶしをお見舞いする。のたうち回る鷹人と梅軒をクスクスと笑いながら見下ろしていた。彼女もそうとうな個性を持っているようだ。うん、今日はさっさとショッピングモールへ行ってパフェ食べて買い物してさっさと帰ろう。

 

___

 

「へー、朱音さんも変わったルームメイトで大変だったんだー」

「もう大変よ…隙あらば何かしでかすんだから」

 

 アスカと私はお互いのルームメイトの話をしながら店内を進む。アスカとはすっかり馴染めて安心した。ショッピングモールでは鷹人は普通の学生の様にはしゃでいた。何かやらかすんじゃないかと心配だったが杞憂のようだった。アスカが行きたがっていたパフェの店では鷹人が注文したパフェを食べて「うますぎる‼」と何処かの傭兵みたいな声を出したのは驚いたが…

 

「梅軒なんか初めてでった時は私の足下からあいさつしてきたから驚いたわよ。勿論踏んづけてやったけど」

「アスカの所も相当ね…」

 

 私は先に歩いて談笑している鷹人と梅軒をジト目で見据える。お互い変なルームメイトを持って大変だなとため息をついていると鷹人がこちらへ振り向く。

 

「なあ朱音、次は何処へ行くんだ?」

「服を買うのよ。ほら、すぐあそこにあるあの店で」

 

 私はお手頃価格の全国展開している服屋である。鷹人と梅軒はその店を見てははーんと頷く。

 

「やっぱり下着を買うんじゃないか。黒でお願いします」

「だから買わないわよ‼」

「違うでござるよ鷹人殿、服を買うついでに勝負下着を…」

「だから買わないつってんだろ!」

「ええっ?じゃあ朱音さんははいてないの?」

「なんでそうなるの!?」

 

 もうやだこいつら、悪乗りしすぎ。私はプンスカしながら洋服を選ぶ。運動用のウインドブレーカーと春物の洋服を買いに来たというのになんでこんなに疲れなきゃいけないのかと愚痴をこぼしながら良さそうな服を取って試着室へと向かう。

 

「願わくば、あいつらと試合でぶつかりたくないわね…」

 

 鷹人の実力はかなりのものであるし梅軒とアスカの能力やらも未知数であるという事と、彼らのノリについてこれるかどうかという不安でいっぱいである。まあ代表選抜は2年や3年も混じった組み合わせになる。彼らとぶつかる確率は低いだろう。一先ず気を取り直して試着しようと上着を脱ごうとした時、アスカがクスクスと笑いながら試着室に入ってきた。

 

「ちょ、あ、アスカ!?何で入って来たの!?」

「いいじゃん、女の子同士だし♪それに第三者の意見を聞くのもいいわよー♪」

 

 アスカはそう言いながら持ってきた洋服を私に渡す。まああの変態共じゃないし、問題は無いのでそのまま進めることにした。

 

「朱音はこっちの方が可愛いと思うなー…そういえば朱音って破軍学園と間違えてついうっかりこっちに入っちゃったのよね?」

「ま、まあね…正直私のミスよ」

「うけるー♪」

 

 アスカはプギャーと笑う。わたしのうっかりで廃校寸前の学園に入る羽目になったのだから返す言葉がない。私はピキピキしながら笑顔で返す。

 

「でも、なんで破軍学園に入ろうと思ったの?」

「破軍学園にはどうしても会いたい、手合せしたい人がいたの。結局は七星剣舞祭に持ち越しになっちゃったけどね」

「なるほどー、私とちょっと似てるわね」

 

 似てる?それはどういう事なのだろうか、アスカも破軍学園に入りたかったのだろうか。先ほどまで天真爛漫だった様子が一変して落ち着いた表情になっていたアスカが気になった。

 

「私もね、本当は破軍学園に入りたかったの。でも…ぶっ潰したい人がそっちに入るって聞いて気にくわなかったから敢えてこっちに入ったわけ。それに七星剣舞祭で優勝したら校長が何でも願いを叶えるみたいだし一石二鳥でしょ」

 

 ただ気にくわないからという理由で学園を変えるなんてもったいないとは思ったが、アスカの声のトーンや表情でかなり深い理由があるに違いない。私はその理由を聞こうとして声を掛けようとした。しかし、それを遮るかのように試着室に鷹人と梅軒がどかどかと入ってきた。

 

「ちょ!?なんであんた達も入って来るのよ!?」

「ちょっと!?流石にそういうのは私も怒るわよ!?」

 

 アスカも顔を赤くして怒ってる所から常識人であったことに内心喜んだ。二人でいきなり入ってきた変態共を蹴とばそうとしたが鷹人が静かにと指で合図してきた。

 

「気配を消せ…!面倒くさい事になった」

 

 それはどういうことか文句を言おうとしたが、耳をすませば遠くで銃声や悲鳴が響いてきた。

 

「銃声…!?」

「どうやら只のドッキリではなさそうでござるな」

 

 梅軒も警戒しているようでこれはただ事ではなさそうだ。銃声と悲鳴が通りすぎるまで潜み、やっと静かになって鷹人と梅軒が先に出て安全を確認した。どうやら通り過ぎたようで、恐る恐る試着室から出て店内の様子を伺うとガラスは派手に割れ、展示している服はズタボロに、あちこちに空薬莢が落ちていたりと酷い有様になっていた。

 

「おいおい、日中からドンパチ騒ぎなんて正気の沙汰でじゃねえな」

「もー、折角のショッピングが台無しね」

「とりあえず、状況を確認するのが先だわ」

「どうやらテロリストがこのショッピングモールをジャックしたようでござる。ネットやニュースではもう大騒ぎになってるでござるよ」

 

 折角の休日だというのに、なんて面倒な事をしてくれたのだろうか。考えられるのは『解放軍』とかいう世界的有名な犯罪組織だろう。こんな所じゃなくてもっと襲撃するところがあるはずなのだが、何を考えてここを襲撃したのか…そう愚痴ながら私はデバイスでリハク校長に電話をする。

 

「もしもし、リハク校長?私です、黒鉄朱音です」

『あ、黒鉄さん!?今テレビみてますか!なんかヤバイ事が起きてるみたいですね!いやー、実は私、お買い物にそこへ出かけようと思ってたんですが寝坊してよかった‼』

「‥‥私の他に鷹人、梅軒、アスカの3名もそのショッピングモールにいます。一先ず事態を収拾するために霊装の使用の許可を」

 

『勿論ですとも!実像形態の使用も許可します。遠慮なく振る舞ってください。黒鉄さん、皆さんで力を合わせてテロリストを倒し、捕らわれた市民の救助をお願いします!』

 

 リハク校長は物凄く熱心に応援してきた。物凄く頼りない校長でも正義には熱いのだろうかと少し感心した。

 

 

『ここで活躍すれば他の学園よりも死兆学園が優れているとアピールできるのでよろしくお願いしますぞ‼』

 

 だろうと思った。




 アスカ・ガーネットのモデルはブレイブソード×ブレイズソウルよりアンティオキアちゃん。ガーターストッキングも魅力的だけども、お声と容姿が合わさりキュートでせくしー。お気に入りです、はい


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