ホウエンチャンプは世界を超える (惟神)
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世界を渡るフロンティア
大誤算、空から隕石が!?


中古で安く買ったポケモンSMやってたらふと思い浮かんだネタを晒してみる。

5/31、サブタイトルを変更しました。
6/17、誤字修正しました。
10/25、主人公の一人称で誤っていた部分があったため、修正しました。
11/26、持ち物を拘りスカーフ→拘りハチマキに修正しました。



バトルフロンティア。

それは全てのバッジを得たトレーナー達の中でもごく一部、もはや普通のバトルでは満足出来ないポケモンバトルの修羅達が行き着く最果ての地。

バトルを愛するトレーナー達の楽園。

そして、7種ある施設の中でも最難関を誇る塔――バトルタワー。

 

倒した対戦相手を見下ろして、ゆっくりと息を吐く。

次の対戦相手はタワータイクーンだ。

ここまで来れた回数はそれこそ数えられない程にあるが、勝利はその半分に満たない程に少ない。

それが僕を更なるバトルの深みにハマらせるのだが――それは今、関係ない。

 

「おめでとうございます。次の勝負はタワータイクーンとの…………」

 

自身の勝利を讃える声など、最早耳に入りすらしない。

ここまで共に勝ち上がってきた3匹のポケモンがモンスターボール越しにゆっくりと頷いたのを確認し、一呼吸。

堪えきれなくなった獰猛な笑みが顔に浮かぶ。

 

毎回繰り返すルーチンワーク。

今までの連戦の疲労で少なからず鈍った脳内が、途端に活発な活動を始め、ポケモンバトル用に最適化される。

 

ドアを潜った先に――果たして彼女はいた。

 

 

 

「………来たね――ユウキ」

 

 

「ああ――リラ。今度こそ勝たせて貰う」

 

 

 

彼女の名はリラ。

一見男にも見える中性的な顔つきに華奢な体躯。色素の薄い髪や服装がそれに拍車をかけ、吹けば飛ぶような儚さを醸し出す。

 

だが、その外見に決して油断してはならない。

何故なら彼女はバトルタワーの女主人(タワータイクーン)

この修羅地獄を統率する7つの頂点。

その中でも最強を誇る天才である。

 

 

***

 

 

 

「バトルフロンティア……ですか?」

 

 

「うん。今度作られる施設なんだけど、そこでバトルしてみないかな?

なにも無理矢理時間を作れって訳じゃない。暇な時間でいいさ。どうする?」

 

 

ポケモンリーグを制覇して早数ヶ月。

あの頃の僕はどうしようもなく退屈していた。

ホウエンという一地方の頂点(チャンピオン)。1人のトレーナーとして、最初は輝いて見えたその頂きも、至ってしまえばつまらないものでしかない。

 

 

並ぶものなき最強(・・)

敵と呼べる相手もいない無敵(・・)

意欲がなくても、執着が薄くても、戦えば勝てる(・・・・・・)勝ててしまう(・・・・・・)

心の赴くままに行き着いた最果ては、好敵手(ライバル)のいない、ひとりぼっちの空白(チャンピオン)でしかなかった。

 

 

「どうする?って言われても………」

 

 

「そこは、既存のバトルでは満足出来ない強者だけの修羅道(楽園)

そこでなら――チャンピオン、君の心の中にある、どうしようもない飢餓感さえをも埋められる」

 

 

だから、その誘いに心を動かされた。

僕がチャンピオンじゃなく、ただの1トレーナーだった頃から交友を持っていたエニシダさんがそうまで言うのならば、この飢餓感も埋められるのではないか……と。

 

 

***

 

 

バトルフロンティア――それは、バトルを愛する全トレーナーにとっての楽園。

 

エニシダさんの言に対し、正直あんまり期待はしていなかった僕だったが、バトルフロンティアはその予想を遥かに超えて、これまでのバトルを凌駕しうるものだった。

 

 

どんなポケモンを選ぶ?

ポケモンに持たせる道具は?

そのポケモンの特性は?

何を重視して鍛錬した(努力値は?)

ポケモンの才能(個体値)は?

 

 

普通のバトルとは比べ物にならない。

風変わりなルール上で、単純な力押しではなく、深い戦略、優れた育成が必要とされるこのバトルフロンティアのバトルの深みに、僕は溺れてしまった。

 

そしてここでの戦いを重ねるうちに、胸にあった飢餓感も、思えば随分と薄まった。

 

 

バトルファクトリー

バトルチューブ

バトルピラミッド

バトルアリーナ

バトルドーム

バトルパレス

 

 

僕が『挑戦者(チャレンジャー)』として立った久々の舞台。

各施設のブレーンとの戦いは正に激戦で、紙一重の攻防を繰り返し、結果的に僕が勝ったものの、1つ間違えば負けていたという、ギリギリの緊張感が漂うもので――バトルに勝って達成感を感じるのは、果たしていつ以来だっただろうか。

 

 

そして、最後の施設――バトルタワーで。

 

僕は、旅を始めてから初めての敗北を味わった。

 

 

 

***

 

 

 

バトルフロンティアの施設は、各自の課題に合わせたルールが敷かれている。

そしてここ、バトルタワーで問われるものは『才能』。

ルールは1vs1のターン制バトル。

同じポケモン、同じ道具の使用は禁止。

カロスやイッシュなどの儀礼やら騎士道やらを重視する地方を始め、このルールがリーグ戦に正式に使用されている場所は非常に多く、ある意味最も王道的なバトルと言えるだろう。

 

ちなみに、ホウエンリーグが問うのは純粋な『力』。ポケモンや道具の制限、ルールもなにもない、なんでもあり(・・・・・・)の総力戦だ。

他の地方からすれば、ここはキ〇ガイの巣窟らしい。

――――悲しいかな、だからこそより巨大な力(僕達)に圧倒されたんだが。

 

 

「――――それでは、試合開始ィっ!」

 

 

審判の宣言と共に投げ入れられたモンスターボールが光を放ち、中からポケモンが現れる。

僕の出したポケモンはネンドールで、リラのポケモンはライコウ。

ジョウト地方に伝わる伝説の三犬のうち一体なだけあって、種族としての強さは向こうの方が圧倒的に上だが――必ずしも種の強さが勝利を決定づけるわけじゃない。ただちょっと強いだけ(・・・・・・・)のポケモンなら、付け入る隙はいくらでもある。

それに、ライコウの覚える技の範囲は酷く限定的だ。過信は禁物ではあるものの、相手の攻撃技は今までの経験から10万ボルトしか覚えていない。地面・エスパーの複合タイプであるネンドールには通じない。

 

対峙するリラの表情が微妙に歪むのを確認する。バトル中はポーカーフェイスで通している彼女の変化を察せるようになったのは、果たして何時からだろうか。

思考の片隅でそんな事を考えて――忘却。そんなことよりも今はバトルだ。

 

 

「じしん!」

「リフレクター!」

 

 

ほぼ同時に発された指示。

だが素早さの差によってライコウが先に行動。リフレクターを貼られ、じしんの威力が大幅に減少しために一撃で沈められなかったが――想定の範囲内だ。

元よりリラのエースであるライコウをワンキル出来るなどとは欠片も思っちゃいない。

 

 

「戻れライコウ。

行って、カビゴン」

 

 

リフレクターを貼った以上はもう引っ込めるべきだと判断したのだろう。リラが繰り出したポケモンはカビゴンだ。

一見ふゆうを有しじめん技を無効にするラティオスが最適に見えるが、それは読まれていて、かくとうタイプのポケモンは出さないとも思ったのだろう。

単純にシャドーボールによってネンドールの弱点も付けるし。

 

薄らと笑みが浮かんだ。

――――そんな読みに付き合う義理などどこにもない。

 

 

「バシャーモ!」

 

 

ネンドールを引っ込め、繰り出したのはオダマキ博士から貰ったアチャモから進化したポケモン、バシャーモだ。共に伝説を踏破した僕の旅の相棒である。

そして、このリフレクターが邪魔くさい現状でやることは決まっている。

 

 

「リフレクターを破壊しろ!」

 

 

そして放たれたかわらわりがリフレクターを砕き、カビゴンにダメージを与える。こうかはばつぐんで、その上カビゴンの防御力自体はあまり高くはない――だが、その程度で耐久オバケ(カビゴン)を倒せるならば苦労しない。

 

案の定攻撃を耐えたカビゴンはのろいを使う。ゴーストタイプではないため、素早さが下がり、攻撃と防御が一段階上昇する。まだ何とかなる範囲だが、これ以上積まれると手が付けられなくなる。

 

故に狙うべきは速攻。

 

 

「スカイアッパーだ!」

 

 

リフレクターの消えたカビゴンの土手っ腹へとスカイアッパーが直撃し、その巨体を天高く打ち上げる。純粋な格闘能力に加えて手首より噴出した炎によるジェット加速は、彼我の質量差を鼻で笑って超越した。

 

純粋な物理ダメージに加え落下ダメージ。墜落したあたりに土煙が立ち上り、相手の姿を包みこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――やったか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口にした僕を誰が責められようか。

そんな僕を見て、リラは不敵に笑って指示を出した(・・・・・・)

 

 

 

「それはフラグだよ。

――――カビゴン、ねむる」

 

 

「ああ………失敗したな」

 

 

 

カビゴンは眠って体力を回復し、さらにカゴのみによって眠気を覚ます。

ただでさえ耐久に優れたカビゴンにねむる+カゴのみは正に鬼に金棒と言ったところか。父さんのガチパやここでのバトルで幾度となく戦ったが、毎回酷く苦戦している難敵だ。

舌打ちしたくなるのを堪え、バシャーモへと指示を出す。

 

 

「もう一度!」

 

 

メトロノームがテンポを刻む。

他の地方へ旅行しに行った時にデザインが気に入って買ったものだが、ポケモン用の道具だと気付いたのはそれから半年過ぎてからだった。

 

瞬間的に吹き荒れる炎のブーストが速度を底上げし、強化されたスカイアッパーがカビゴンを打ち上げる。

こうかはばつぐん――――だが、瀕死までは程遠い。

 

 

「カビゴン、のろい!」

 

 

また一段階積まれた。

攻防が2段階上昇している状態。デメリットである素早さの2段階下落など、元からあまり素早くはないカビゴンにとって機能していないも同然だ。

 

 

 

「これ以上は手が付けられなくなる!

ここで決めろ!スカイアッパァァァァ!!」

 

 

 

さらに炎は勢いを増す。並のポケモンでは余波だけでも瀕死に陥るだろう炎を存分に活用して威力を底上げしたスカイアッパーが直撃し――――

 

 

 

「――――おんがえし!!」

 

 

 

それをギリギリで耐えきったカビゴンが、トレーナーへの絶対的な信頼に基づいた、最大威力のおんがえしを発動する。

炎・格闘の複合タイプであるバシャーモにノーマル技は等倍だが、2段階上昇した攻撃でタイプ一致技。元々バシャーモは耐久には優れていない。結果は――――。

 

 

――――凍りついたように止まったフィールドの中、じれったくなるほどにゆっくりと2匹が倒れていく。

 

 

 

「――カビゴン、バシャーモ、戦闘不能!!」

 

 

 

静寂に包まれたフィールドの中で、審判の声が響き渡る。

ふぅ、といつの間にか止まっていた、息を吐いて、バシャーモをボールに戻した。

――これで手持ちはお互いに2匹。だが、ライコウは初っ端のじしんによるダメージがある。尤も、ねむる+ラムのみで回復される可能性は高いが、1ターンを稼げるのには充分な価値がある。………まあ、技とタイプの兼ね合い上、他にポケモンがいない状態でネンドールが対面したら、まず間違いなく倒せる。

 

そう、ネンドールに確殺される以上、リラはライコウを殿には出来ないはす。

ならば次に出るポケモンは――――。

 

 

 

「出番だ、ネンドール!」

 

 

「行って、ラティオス(・・・・・)!!」

 

 

 

堪えきれない舌打ちが表に出かけるも、素知らぬ顔で覆い隠す。

まあ、僕がアイツの雰囲気の変化を感じ取れるように、アイツも僕の変化は理解出来ちまうだろうが、癖の様なものだ。

 

……………読まれた、か。

ボールから表れたのは青い流線型のフォルムをした準伝説のポケモン、ラティオスだ。

こちらの3体目のポケモンはドラゴンタイプ。加えて素早さではラティオスに劣るため、迂闊に対面には出せない。交換したターンと次のターンのドラゴンクロー2発で確殺される。

 

………仕方ない。

 

 

 

「ラティオス、ドラゴンクロー!!」

 

 

「ひかりのかべを貼れ!」

 

 

 

ドラゴンクローには間に合わなかったものの、直撃を耐えきったネンドールはひかりのかべをはる。

………これで布石は打ち終えた。あとは次のポケモンへと託そうか。

 

 

 

「…………まさか。

 

――ラティオス、ここで倒さなきゃダメだ!ドラゴンクロー!!!」

 

 

 

気付いたかのような反応をみせ、ラティオスに指示を出すリラだが………もう遅い。

ドラゴン技は全て特攻ステータスを参照する。ひかりのかべによってダメージが軽減されたことで、ネンドールはラティオスの攻撃を耐えきった。

 

そして――――

 

 

 

 

 

「――――爆ぜろ、ネンドール」

 

 

 

 

 

だいばくはつ。

 

フィールドの全てを対象とした爆発が巻き起こった。

威力は250だが、防御力を半減してダメージを与える以上、実質的には500だ。タイプこそ一致していないものの、圧倒的な威力という名の暴力がラティオスに襲いかかる。

 

いくらひかりのこなによって命中率を下げていたとしても、周囲全てを巻き込んで破壊するだいばくはつを回避できるはずもない。

加えて、単なる衝撃だけでなく破壊されたフィールドの破片もラティオスに襲いかかる。吹き飛ばされているラティオスに回避しきる余裕などあるはずも無く、全身を強打して地へと落ちた。

 

 

 

 

「ラティオス、ネンドール、戦闘不能!!」

 

 

 

 

お互いに残っているポケモンはあと1体。だが、ライコウはじしんのダメージが残っている上、こちらのフィールドにはひかりのかべが貼られている。

有利なのは僕だが――その程度で勝利を確信できるほど、タワータイクーンは甘くない。超一流のトレーナーとポケモンなら、確率無視して全発急所攻撃くらいは簡単にやる。尤も、相手も同程度の力量の場合、結局は元の確率に落ち着くのだが。

 

 

「出番だ、ボーマンダっ!!」

 

「行けっ、ライコウ!!!」

 

 

対峙するボーマンダとライコウ。

ボーマンダの特性であるいかくによって相手の攻撃を一段階下げたものの、元々ライコウは物理技をおぼえてはいないため、一切関係ない。

 

 

「リフレクター!!」

「じしんだ!!」

 

 

やはり素早さの関係上先に動くのはライコウか。

唯一の弱点である地面技は全て物理攻撃であるため、これで威力が半減される以上、実質的に弱点はなくなった事になる。

 

そしてボーマンダの繰り出したじしんの直撃。半減されているとはいえ、ネンドールと合わせて2発目のじしんだ。それを受けて未だ現在なのは流石は準伝説だと言えるだろう。

 

 

「ライコウ、ねむる!」

 

 

ちなみに、持ち物はラムのみである。

ねむって体力を回復し、さらにラムのみによって即座に状態異常が回復。

そして、目覚めと同時に伝説の名に相応しい夥しい雷を周囲に撒き散らした。

 

今までのダメージが全て帳消しになったことで、少なからず苛立ちが募る。

加えて、リフレクターが貼られている以上、じしんは最早弱点技足りえない。

…………元々1度もリフレクター抜きでブチ当てたことないだろって言うのは禁止な。

 

 

「――怯むな!げきりんだ!!」

 

 

故に弱点技などという小細工は行わない。絶対的王者たるドラゴンが誇る最強の暴虐がライコウを襲う。

牙で爪で翼で尻尾で――――逆鱗に触れた敵対者に与える容赦のない連撃。

これにはライコウも堪らず動きを止め――――

 

 

「――――10まんボルト!!!」

 

 

それはエースの意地か、それともトレーナーとの信頼関係がなせる技か。

連続攻撃の間に生まれた一瞬の空白を狙い、ライコウが10まんボルトを放つ。

 

 

――――きゅうしょにあたった。

 

 

今度こそ誤魔化しようがないほど完璧に舌打ちが表に出る。

電撃が直撃したボーマンダは全身から黒い煙を上げて墜落。瀕死にこそならなかったものの、ダメージはデカい、か………。

なら、

 

 

((――――次で決める!!))

 

 

それが互いの共通見解。

言葉にせずともその表情が、仕草が、雰囲気が意思を疎通させる。

 

ライコウは倒れこそしなかったもののげきりんによるダメージが非常に大きいし、ボーマンダにしたって言わずもがな。

途中で技をキャンセルされたので、疲労故の混乱はしてはいないのが不幸中の幸いだろう。

 

両者、あと一撃でも攻撃が当たれば瀕死に陥る最終場面。

だがその内容はこちらが不利だ。

遠距離から雷速の攻撃を繰り出すライコウに対し、至近距離にまで接近する必要があるボーマンダ。ひかりのかべがあっても耐え切れるとは思えない。素早さだってあっちの方が上。

だが――――凶暴な笑いが抑えられない。

敗色濃厚――それがどうした。

ギリギリの緊張感に滾る感情をそのままに、ボーマンダへと指示を出す。

 

――――そして、イッシュ地方から輸入したカムラのみ(・・・・・)をボーマンダが口にするのを見た。

 

 

 

 

「――――10まんボルトォォォォ!!!」

 

「――――げきりィィィィん!!!」

 

 

 

 

全く同時に発された2つの指示。

普通はライコウが先手を取るだろうが、カムラのみによって素早さを強化されたボーマンダの方が早い。

 

前方から10万ボルトが放たれるも、それは十分に力を溜めていない不完全なものでしかない。ボーマンダは速度を一切落とさないままに紙一重でくぐり抜け、ゼロレンジへと到達。最早互いの攻撃を避けられない超至近距離。

ライコウは叫びながら雷を撒き散らし、ボーマンダは最早それを回避することさえなく、勘を頼りに特攻する。

そして互いの攻撃が直撃する刹那――――――壮絶な悪寒を感知。

 

 

「………なんだ、今のは」

 

 

………まるで、僕がチャンピオンになる前、カイオーガやグラードンが真正面から衝突した時のような、壮絶な悪寒。

気付けばボーマンダもライコウも攻撃を辞めて周囲を見渡している。

決着に水を差された事への憤りが湧き上がるが、それは後。また次の機会を待てばいい。今はこの悪寒の原因を探る事が最優先だ。

 

 

「――――ユウキ、上!!」

 

 

悲鳴のようなリラの声に促され、上を見上げるとそこには――――

 

 

「なん、だ…………?

なんだよ!アレは!!?」

 

 

空にあったのはあまりにも巨大な隕石だった。直径にして数百キロは下らないだろう。ニドキングのじしんにさえ微動だにしないこのバトルタワーが、まだ彼方にある隕石が落下する衝撃だけで軋んでいることから、直撃したときの被害を最低限察することが出来る。

 

――――まず間違いなくホウエン地方は滅亡する、か。

 

 

呆然としていた俺を我に返らせたのはポケナビの着信音だった。相手は――ダイゴだ。

 

 

『ユウキくん、今どこにいる!?』

 

「バトルタワーの最上階だ。あの隕石を確認したか?」

 

『ああ。一体どうしてあんなデカいものが急に………いや、そんなのは後だ。

幸い、ボクはトクサネに里帰りをしていたからね、これから宇宙センターへ行って情報を確認してくる』

 

「任せる。わかり次第こっちへ連絡しろ!

場合によっては、アイツ(・・・)の使用も視野に入れる――切るぞ」

 

 

ポケナビの向こう側から絶句したような気配を感じたが、それに頓着することなく通話を切断。

こちらへと駆け寄ってきたリラへと指示を出す。

 

 

「ホウエンチャンピオンの名で緊急警報を出す。お前は他の職員と共に避難誘導に勤めろ。エニシダさんには申し訳ないが、ここの放棄も視野に入れる。

それと、預けていた僕の手持ちは今どこに」

 

「受付で預かってる。すぐに取ってくるから、君はここで指示を出して」

 

「…………ああ、頼んだ」

 

 

見上げると、憎らしい程に雲一つない青空だ。

眼下の視界は良好。全体を見渡せるここならば、指示を出すこと自体はわりと楽ではある。が、障害物が存在しない以上、人々は徐々に近付いてくる隕石をダイレクトに視ることになる。結果、集団パニックに陥った民間人は指示を一切聞こうとせず、我先にとあちこちへと逃走を始めてしまった。フロンティア職員の奮闘も虚しく未曾有の大混乱に陥っている。

 

指示を出せどどうにもならない現状に苛立ちを募らせながらも諦めずに指示を出し続けて暫く。

ポケナビから響く着信音。相手は――ダイゴか。

指揮権を本来の責任者に委譲し、通話を開始する。

 

 

「状況は?」

 

『想定よりも悪い。到達まであと12時間を切っている』

 

「被害状況はどうなっている」

 

『いまの所は問題ない。せいぜいが避難で足を滑らせたり、衝撃波によって転んで軽傷を負う程度だ』

 

「いや、現状じゃない。地表に激突したときの被害だ」

 

『………………良くてこの地方が。最悪、この星が滅ぶ』

 

「――――そう、か………」

 

 

予想はしていたが、口に出されるとやはり気が滅入る。

タイムリミットはあとおよそ12時間。

それまでに、あの隕石をなんとかしなければならない。

 

 

『ソライシ博士に変わるよ。具体的な解決策はその後だ。

………ソライシ博士、お願いします』

『もしもし、ユウキくん。お久しぶりです』

 

「前置きはいりません。現状の説明と解決策の相談が最優先だ」

 

『ええ、そうですね。

――――結論から先に言いましょう。我々ではあの隕石の破壊はほぼ不可能です』

 

「――そうか」

 

 

不可能と言われたわりに、僕が受けた衝撃はそれほど大きくはなかった。

それはほぼ、というまだ可能性が残っていると受け取れる表現だったからか、はたまた他の何かだろうか。

 

 

「理由は?」

 

「真っ先に挙げられる原因としては、やはり時間です。たった12時間では、解決策を練る時間さえ満足には取れません。加えて、解決策を練ったとしても、準備には時間がかかる。

そもそも、アレは恐らく別の世界(・・・・)から転送されたものです」

 

「…………別の、世界?」

 

『ええ。唐突ですが、ユウキくんは『通信ケーブル』というものを知っていますか?』

 

「ああ。使ったことはないが」

 

 

何しろ交換する相手などせいぜいハルカくらいしかいない。

オマケに、ポケモン図鑑にはポケモン交換の機能も付いているため、専らそれでのやり取りだ。

使う機会なんてロクにない。

オマケに、この質問をよりによって『知ってますか?』と問われたのがイラッとする。なんだその遠まわしな『あなた友達いないから使ったことないだろうし、存在認識してんの?』みたいな言葉は。どうせ僕には友達いねぇよ畜生!

………どうして僕はこんな危機的状況下で精神的なダメージを負わなきゃいけないんだろうか。

 

 

『あの隕石は、通信ケーブルを経由して別の世界から送られてきたものだと思われます』

 

「異世界、か………。

――――そうか、だからあんな唐突に表れたのか!

なら、その世界へと返すことは出来ませんか?」

 

『不可能です。あんな大質量、我々が転送するには研究が足りません。

そしてここに、私が隕石をどうにかするのは不可能だと考えた根拠があります。

――――我々よりも優れた文明を有する世界が転送することでしか対処出来なかったものを、我々がどうにか出来るとは思えないのです』

 

「――――そう、か。わかりました」

 

最早人の手には余る、という事が。

ポケナビの通話を切り、腰のモンスターボールに手を伸ばす。

ならば後は神頼み(・・・)、か。

先ほどリラが届けてくれた、6つのボール。チャンピオンとしての、僕の最強の手持ち。

その6番目に装着されたマスターボール(・・・・・・・)が、カタリと動いた気がした。

 

 

***

 

 

隕石到達まで、あと9時間。

 

 

「そんな、無茶だ!!」

 

「これしか手はないんだよ!!」

 

「だからって、あんな巨大な隕石を破壊できるわけが――」

 

「壊せなければどうせ死ぬ。どの道死ぬのなら、僕は最後まで足掻いてやるさ」

 

 

残り少ない時間を時間を黙って無駄に費やすつもりはない。僕の姿は宇宙開発センターにあった。

僕のやろうとしている事を察し、静止しようとするソライシ博士やその他研究員の静止を振り切って更に上へ。

道中でかっぱらった宇宙服に着替え、動きにくいと罵りながら。

小脇に抱えたヘルメットが正直クッソ邪魔くさい。が、これがなければ内側から弾けることを考えると捨てるわけにもいかない。

 

そして、たどり着いた最上階。

果たしてそこに、彼女はいた。

 

 

「……………どうしてわかったんだ?」

 

「どれだけバトルしたと思ってるの?

君の考えてることぐらいわかるよ」

 

 

柔らかな微笑みを浮かべてリラは言う。

こんな状況には不釣り合いだが、その笑顔があまりに綺麗だったから、つい一瞬見惚れてしまう。

 

 

「…………僕は君が来ることを予想出来なかったんだが」

 

「ふふっ、読みが甘かったね。これでタワータイクーンの面目躍如かな」

 

「言っとけ」

 

 

苦笑を返し歩みを進め、彼女の隣に立つ。

 

 

「バトルの決着は、帰ってきた後だな」

 

「そうだね。……まあ、本当はボクのライコウが先に10万ボルトを当てて勝ってたけど」

 

「いーや、ボーマンダが紙一重で避けてげきりんで倒してたな」

 

「なにおぅ!!」

 

「なんだとぉ!!」

 

 

キスでもするかのような至近距離。

互いの顔を見つめあった俺達は、やがてどちらかともなく目を逸らす。

相手の頬が赤く染まっていると指摘しようと思っても、それは自分も同じこと。結果として生まれた僅かな静寂。

 

それを先に破ったのはリラだった。

 

 

「…………帰ってくる、よね………」

 

「当然。僕を誰だと思ってる?

この地方の頂点(チャンピオン)を甘くみるなよ」

 

 

 

 

 

「――――なら、待ってるよ。

キミが挑戦しにくるまで、ボクはあの塔を守り続ける」

 

 

 

「ああ。帰ってきたら、さっきの決着をつけよう」

 

 

 

 

 

 

リラの体を軽く抱きしめてから、俺はマスターボールを天高く投げる。

そして現れたのは、トクサネの夕日に照らされて神秘的な光を放つ翠玉(エメラルド)の龍。

そのポケモンの名は――――

 

 

 

 

「――――行くぞ、レックウザ」

 

 

 

 

小脇に抱えたヘルメットを被りなおし、宇宙(そら)へと飛翔した。

 

 

 

***

 

 

 

レックウザに乗って空を飛んで暫くすると、茜色だった空は次第に青みを帯び始め、心なしか空気も吸いにくくなってくる。

高速で飛翔するレックウザから振り落とされないように強く握りしめ、大気圏突破の衝撃に備える。

 

 

「ッ、クッ………ガァァァァァァァァッ!」

 

 

やはり専用に調節されないものでは無理があったか。大気圏突破のGで全身の痛覚が激痛を訴える。軽く咳き込むだけのつもりが、ヘルメットには血の紅がべっとりと付着していた。

――――すべて、すべて関係ない。

もとより無茶は覚悟の上だ。静止を振り切ってここまで来たのだから、おめおめと撤退するなんて選択肢はありえない。

 

 

「もっとだ!もっと速く――レックウザァァァァッ!!!」

 

「きりゅりりゅりしぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

叫びに反応し、レックウザがさらに速度を増す。既に周囲は色を変えた。人を受け入れぬ漆黒の宇宙。隕石との距離も残りは少ない。

 

身体中の感覚が薄れていく。血反吐を吐く程の体内の怪我、全身へと響く衝撃さえ、今や鈍い痛みを残すのみ。

――――下唇を噛みちぎって意識を無理矢理覚醒させる。舌先を駆け巡る鉄錆の味、そして匂い。思わず顔を顰めるが、それは少なくとも味覚や嗅覚は復活した証拠だ。これ以上意識が危うくなっても振り落とされないよう、命綱代わりにレックウザの巨体へと巻いた、特注サイズのこだわりハチマキ(・・・・・・・・)を強く握りしめる。

 

次第に縮まっていく彼我の距離。

地表で見てもあまりに大きい隕石の質量だが、間近で見るとそれに輪をかけて圧倒的だ。こんなもの、果たして破壊できるのだろうか――?

 

 

 

「きりゅりりゅりしぃぃぃぃっ!!!」

 

「――――そうだな」

 

 

 

僕の内心の弱気を見抜いたんだろう。レックウザが活を入れるかのように咆哮する。

 

 

――――ああ、そうだ。僕がこんな所であきらめてちゃ、誰がこれを止めるというんだ。ホウエンの、僕達の未来を守るために、アレは絶対に破壊しなければならない!

 

 

……破壊した後の具体的な未来として、レックウザはリーグ戦での使用を自粛しよう。巨大隕石を破壊できるだけのバ火力だ。いかにホウエンリーグの規定では使用ポケモンに制限を課せられていないとはいえ、常識的に考えて普通のポケモン相手には使えない。

 

 

「――――きりゅりっ!!?」

 

 

レックウザが悲しげな声を上げた。

 

 

「――――あははははははははははははっ!!」

 

 

大口を開けて笑う。まさかこんな、いかにも最終回ですみたいな場面でコントじみたやり取りをするとは思いもしなかった!ましてや、相手がレックウザだったら尚更だ!!

 

すでに隕石との距離は1kmを切った。レックウザは動きを止め、口腔内に膨大なエネルギーを貯める。

ただでさえ1種類しか使えない技を1度だけ。決死の覚悟に答え、こだわりハチマキが数多の裂け目を入れながらも、1.5倍という限界を超えてレックウザへと力を供給する。

 

 

 

 

 

 

「――――――――隕石を破壊しろ!!!レックウザァァァァァァァァァァッッ!!!!!!」

 

 

 

「――――――――きりゅりりゅりしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そして臨界点を突破して放たれた、莫大な威力のはかいこうせん。

それが隕石に直撃した光景を、薄れていく意識で見届けて――――。

 

僕は白い光に――いや、違う。

縦線と横線がまるで円柱のように絡み合った、異形の『穴』に落ちて意識を失った。

 




ダメージ計算とかは割と適当です。書いてる途中でコレ実機ならないわーとか思ってたりする。

そしてメトロノームは完全なネタ枠です。エメラルドには出てこないし、低レートでも絶対出ないけど、同じ技繰り返すと威力あがるってぶっちゃけ描写的に美味しくね?と。

それと、エメラルドやってた当時の記憶も結構薄れてるため、間違っている所とか結構あると思うので、指摘よろしくお願いします。




………まあ、どうせホウエンでのバトル描写なんてこれっきりなんだがな!!


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始まりの島メレメレ
異世界とかどうでもいいからバトルしようぜ!


今回出てくるホウエンの設定とかは割とオリジナルです。
6/17、誤字修正しました


「ッ………………ここ、は………?」

 

「……おや、気付いたのかい?」

 

 

…………知らない、天井だ。

意識が半覚醒な状態のまま起き上がろうとして――――全身に走った鋭い痛みに体を強ばらせる。

咳に血が混じった。どうやら僕の体は相当ヤバいらしい。

 

 

「あまり動かない方がいい。

君はここで発見されたときから、どうして生きてるのか不思議なほどの重症だったんだ。

…………どうしてそうなったか、思い出せるかい?」

 

「…………それは、」

 

 

上裸に白衣をひっかけ、サングラスをかけた、凡そ全ての研究者に科学舐めてんのかと言われそうな格好の男に問われ、これまでのことを思い出し――――痛みを忘れて立ち上がる。

頭にあるのはただ一つ、俺がここに来ることになった切っ掛けだ。

 

 

「隕石は!?ホウエンはどうなった!!?」

 

 

だが上裸白衣の男は僕の剣幕に戸惑ったような声を上げる。

 

 

「隕石………?ここ数年、隕石が確認されたことはないよ。ホウエンだってなにも起きちゃいない」

 

「――――はぁ!?」

 

 

どういう、ことだ…………!!?

僕は激しい混乱に見舞われる。地表から目撃できる程に巨大な隕石を、あろうことかこの人は知らないと言う。

…………いや、この人はここ数年(・・・・)と言った。ならばそれ以前はどうだ?

 

 

「それなら、ホウエンに落下してきたものが最新だね。ホウエンチャンピオン(・・・・・・・・・・)が伝説のポケモンと共に破壊したと聞いたよ。

 

名前は…………ハルカ(・・・)と言ったかな」

 

「――――え?」

 

 

今度こそ本当に完膚無きまでに、僕の思考は停止した。

いやだって、ハルカってあのハルカだろ?かもかも言ってるハルカだろ?

コンテストの実力は極めて高い上、研究者としても優れた実績を誇る反面、バトルとなるとジムリーダーの平均をやや上回るぐらいでしかない、あのハルカが!?

 

 

「彼女は凄いぜ。1度戦ったことがあるんだが、流石はホウエンという魔窟のチャンピオンなだけある。この地方でも五指に入ると自負してるぼくが、ロクな抵抗も出来ずに6タテされたよ。

………ところで君は、なんて名前なんだ?」

 

「………僕はユウキ。ホウエン地方のチャンピオンをしていたんだが………」

 

 

そしてトレーナーパスポートを懐から取り出す。そこに記された名前はチャンピオンのユウキ。明らかに彼の言葉と矛盾した僕の言葉に、だが上裸白衣の男は何か考え込むように腕を組み、何かを呟く。

 

 

「…………まさか、いや、もしかして……………」

 

「心当たりがあるのか!?」

 

「――――ああ。もしかすると君は、平行世界から来た人間なのかもしれない。

 

 

自己紹介がまだだったね。

ぼくの名前はククイ。ここアローラの地で、ポケモンの技の研究をしている」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

流石は研究者と言ったところか。ククイ博士とのお互いの世界常識の打ち合わせは想定以上に容易く進んだ。

普段博士達には敬語を使っているのにククイ博士にはタメで話すのは、やはり外見(上裸白衣)の影響だろう。

 

タイプごとではなく、技ごとに物理・特殊が決められていること。

げきりんを始め、いくつかの技の威力の違い。

がんじょうなどのとくせいの細部の変化。

天候変化による副次効果。

フェアリータイプの存在。

自爆・大爆発時に相手の防御が半減されないこと。

 

 

「――――そして、メガシンカ・Zワザの有無。これこそが、君たちの世界とぼくたちの世界をわける、最も大きな違いだと思う」

 

「…………そう、みたいだな。

ちなみに、メガ『シンカ』ってことはしんかのきせきは使えるのか?」

 

「使えない。

………てか君結構余裕あるね。いきなりバトルの質問とか」

 

「どうやら世界の法則そのものが違うらしいからな。早くバトルして確かめたいと思っていたら、思考がそっちに引っ張られた」

 

「………まあ、1トレーナーとして、君の言っていることも理解は出来る。

けど、今はこっちを優先させて欲しい。

………世界は違えど、やっぱホウエンは修羅ってるなぁ」

 

 

ククイ博士は呆れたように苦笑する。

ドン引かれたことはそれこそ星の数ほどあるが、純粋に呆れられると反応に困る。

ホウエン地方は魔境だ。普段は温厚なエニシダさんでさえ、「友達がトレーナーを辞めるかどうかの瀬戸際でも手加減せずに打ち負かす。やっぱトレーナーってのはそうじゃなきゃね」とか言い出す大事なネジが吹っ飛んだ地方だ。

だが――――僕達はポケモントレーナー(・・・・・・・・・)だ。戦いを求めて何が悪い。

腰元のボールに手を伸ばす。世界を超えても、相棒たちは変わらずそこにあった。

 

 

「そして、君がこの世界に来たのは恐らくウルトラホールを潜ったからだと思われる」

 

超越の穴(ウルトラホール)ぅ………?随分と厨二臭い名前だな」

 

「そう称するに相応しい力があるのさ。この穴は未知の空間に通っていることがわかってるんだ。もしかしたらそこは、様々な可能性世界に通じているのかもしれない。

実際この世界にも、ウルトラスペースの住人――――UB(ウルトラビースト)が表れたことがある」

 

「そして僕は、その未知の空間とやらからまたウルトラホールによってこの世界に表れた、と。

…………微妙に納得が行かないが、まあ、理屈はわかった。単独で環境を変動させるポケモンもいる以上、世界を渡るポケモンもいるのはむしろ当然、か」

 

「UBは果たして本当にポケモンなのかはわかってないけどね」

 

「伝説のポケモンだって、その辺ハッキリしていないヤツもいる。それに、シンオウの図書館には人とポケモンが元々同一だったという御伽噺も残っているらしいし、そこら辺の認識は適当でも充分。バトル出来るならポケモンだ、それで良いだろ」

 

「確かに、言い得て妙だ」

 

 

ひとしきり笑った後、コンコンコン、という控えめなノックの音が響く。

回数は3回。ってことは、それなりに博士に親しい間柄って訳か。

 

 

「はいっても大丈夫だよ」

 

「では、失礼します」

 

 

そして入ってきたのは白磁の肌とシャンパンゴールドの長髪を有し、白いサマードレスを着た少女。

 

 

「彼女は………………………娘さん、か?」

 

 

ククイ博士の浅黒い肌的にありえないとは思うが、母親からの遺伝かもしれないため、一応そう尋ねる。

いや、それにしても全く似ていない。最早誘拐を疑うレベルだ。まあ、彼女の雰囲気を見た感じだと問題はなさそうなんだが。

 

 

「いや。彼女は2ヶ月くらい前にこの周辺で倒れていたのを発見して、ぼくが保護しているんだ。才能があったのか、今や立派な助手として働いてもらっているよ」

 

「はい。ククイ博士の助手をしている、リーリエといいます。よろしくお願いしますね」

 

「ホウエン地方から来たユウキという。以後よろしく」

 

 

差し出された手を軽く握る。綺麗な手だ。ボールダコ一つ付いていないことから、少なくともトレーナーではないことがわかる。

そして、トレーナーじゃないなら正直興味はない。まあ、2ヶ月で博士の助手を努めれるほどに優れているなら面白そうだとは思うが。

 

 

「さて、ククイ博士。話を戻すが――――」

 

「ほ、ほしぐもちゃん!?いったい何を!!?」

 

 

先程の少女の慌てたような声に反応してそちらを見ると、スポーツバックが彼女の手を離れ、身近に置いてあった僕のバックの近くに着地する。

そしてスポーツバックの中から現れたのは、まるで星が輝く宇宙を宿したような、不思議なポケモンだった。

 

ああ、トレーナーじゃないからボールを持ってないのか。トレーナー免許を持っていない人間がポケモンを捕獲すると犯罪になる。だからポケモンをボールには入れられない、と。

…………そんなの適当な人からかっぱらって使っちまえばいいのに。

博士の前とはいえそれをしないあたり、彼女の生真面目な性格が伺える。

 

そのポケモン(ほしぐもちゃん、だったか?)は一目散に僕のバックへと飛翔し、触手を使ってどうにかバックを開けようとしている。

宇宙服の内側だとはいえ、大気圏突破にも耐えられるように色々補強したからな…………さほど器用ではない触手では開けるのに苦労する、か。

何を欲しがっているのかも大体検討が着いたし、大量に保存してあるものだから別に多少減ったところで問題はないだろう。

 

 

「ククイ博士、僕のバックを取ってくれないか?」

 

「あ、ああ――――って、すこし重くないか、これ?」

 

 

そりゃあ補強しまくったからな。普通のバックの3~4倍くらいは重い。

でも、容易く持ち上げている博士にだけは重いとは言われたくない。ポケモンの技を生身で受けるために鍛えてるってなんだその理不尽。

 

本来、バックにそれほどの重さはない。

常識的に考えて、各種回復薬にモンスターボール、ポケモンに持たせる道具に合計千個を超える木の実、わざマシン、他にも自転車や宿泊道具、女子ならば化粧品などをごく普通の一つのバックに纏めてぶち込むなど不可能に決まってる。

 

だからこれはポケモンボックスに用いられた技術のちょっとした応用だ。道具をデータ化し、必要な時だけ有効化(アクティベート)。結果として必要なのはデータを持ち運べる程度の大きさのバックで済む。この技術が発達したことで、それまで16歳だった旅に出られる年齢が、10歳まで大きく引き下げられた。もちろん問題点はあるが、それは別の話。

 

渡されたバックを解封し、たいせつなものを入れていた場所からポロックケースを取り出す。

どうやら予想はあっていたようで、ほしぐもちゃん(仮)が楽しげな声を上げる。

 

「ほら」

 

なんとなく直感的にしぶみの強いポロックを与える。たかが直感と侮るなよ。数百を超えるポケモンに自作ポロックを与えていたチャンピオンの慧眼だ。初見のポケモンの好みを見抜くなど造作もない。

 

 

「ぴゅい!」

 

 

どうやらそれは当たっていたようで、きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐほしぐも(仮)。

とりあえず話を邪魔されないように10個くらい与えておく。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「へぇー、ポロックとは珍しいね」

 

「ホウエンでは一般的なものなんだがな。きのみ栽培が趣味なんだ。大量にとれるから、バトルで使ったり、知り合いにわけたりしても結構余る。だからそれをポロックに加工したりしているんだ。自画自賛になるが、下手な職人よりも美味いぞ。

………ほら、食べるか?」

 

ポロックケースから甘めのポロックと激辛のポロックを一つずつ取り出す。

 

きのみ栽培が趣味なのは本当だ。初めはバトルのためとしか考えておらず、植えるきのみもラムのみやオボンのみなど、戦闘に直結したものしかなかった。だが、次第に楽しくなり始め、最終的にはわざわざチャンピオンの権力を使って他の地方から輸入し、それを自家栽培するほどには立派に趣味をしてる。

正直バトルに飽きてた時代にバトルフロンティアを紹介されてなければ、もしかするときのみ農家に転職していたんじゃないかと思うくらいには。

 

 

「おや、これは人間でも食べられるのかい?」

 

「ああ。ポケモンフーズとは違って、原材料はきのみだけだからな。オマケに、きのみの栄養価をこれ1個に凝縮してる上に量も手頃なことから、向こうではダイエット食品としても人気だった」

 

「そ、そうなんですか!!?」

 

 

おとなしいと思っていた彼女の予想外の剣幕に、思わず瞠目する。

それほどダイエットという言葉は女にとって魅力的なのか。…………そういえばハルカも研究が大詰めのときは僕に大量にポロックを強請るし、リラだってタワータイクーンの仕事が忙しいときはお願いしてくる。

それを考えると、確かにそれは言えてるのかもしれない。

 

 

「あ、ああ。ほら、これだ。味は…………とりあえず甘いのにしておくぞ。あ、博士は激辛で」

 

「わあー!ありがとうございます!とっても美味しいです!!」

 

「なんかさっきからぼくに当たりキツくないか?まあ、実際辛いものは好きだし、興味もあるからありがたくいただくんだけど。

………うん、程よい辛さだ。美味しいよ」

 

「程よい、辛さ…………?ま、まあ、口にあったようで良かった」

 

 

………結構辛辣な辛さにしたはずなんだがなぁ。具体的にはつまみ食いしたハルカの口から炎が出る幻覚を見るくらい。

やっぱ、ポケモンの技を生身で食らってるってのは伊達じゃない。てか人間じゃない。案外ただのマゾなんじゃないか?と思ったりもする。

若い頃は『やんちゃ』してそうだから辛いポロックを選んだんだが、当たっていたようでなによりだ。

 

 

「ところで博士。話を戻すが、僕は元の世界に帰れるのか?」

 

「なんとも言えないね。ぼくの妻が空間研究所で研究をしてるんだけど、肝心な所がまったく進んでいないんだ。

そもそもこちらからウルトラスペースに干渉する手段がないからね」

 

「やはり、か………」

 

 

ククイ博士の言葉を聞いて、リーリエがほしぐも(仮)を胸元に抱えてぎゅっと抱きしめる。

………その動作のせいで、ほしぐも(仮)がウルトラスペースと関わりがあることは予想がついた。おそらく彼女がククイ博士に保護されたのも、そこら辺に理由があるのだろう。

 

まあ、人のポケモンに手を出すのはあまり好きではない。それは愛すべきバカ共(アクア団とマグマ団)未満の行いだ。伝説のポケモンを止めた後は大人しくなり、ちょっと過激ではあるが普通の環境保全団体になりはしたものの、流石にアレ未満呼ばわりは心にくる。

どうしても必要にならない限り、自分で手がかりを見出そう。

 

 

「その件に関してなんだけど、来月カントーから引っ越してくる少女と、この島のしまキング………そっちで言う、ジムリーダーや、四天王みたいなものだね。その孫が島巡りに出るんだけど、君にはそれを助けて欲しいんだ」

 

 

その言葉に僕は昔を回帰する。

チャンピオンではない、1トレーナーとしての自分。周囲のトレーナーに片っ端から声をかけて全滅させ、その辺に生えていたきのみを乱獲し、家々に入って良さげな道具を強奪し、パーティーで脅して周辺のポケモンに火山灰集めを協力を約束させ、一つ一つのバトルを一生懸命に取り組み、大きく成長した自分とポケモン達。

 

だが、本来異物である僕がこの世界に深く関わるのは果たして良いのだろうか…………。

そして、帰りを待たせているヤツ(リラ)のこともある。ともすれば僕を上回るほどに頑固なアイツのことだ、今のウコン並のおばあちゃんになっても僕を待ち続ける可能性は極めて高い。

 

 

「勿論、報酬も用意する。そうだね……………このメガネックレスとキーストーンを渡そう。元々は研究用に準備していたんだけどね、こんな所で研究されるよりも、本来の目的に沿って使わせてあげたいんだ」

 

 

「マジか!?だったら答えは当然Yesに決まってるだろう!!(構わない。元より僕はこの世界にとって異物もいいところだ。手がかりを探し行く宛もなくさすらうつもりだったが、目的を用意してくれるならありがたい)

――――あ」

 

別に数年くらいなら待たせてもいいよね!メガシンカを得て強くなった僕ならもっと戦いがいがあるだろうし!!と思ったのもつかの間。

 

……………部屋に沈黙が走った。

重苦しい沈黙を、先に破ったのはククイ博士だった。

 

 

 

 

「………………………………………………………………………………決まりだね。じゃあ、その時までゆっくり怪我を直してくれ」

 

「………………………………………………………………………………ああ。

――――そうだ、博士。怪我が治ったらでいい。1度バトルをしてくれないか?この地方で五指に入るという実力を見せて欲しい」

 

「こちらこそ。平行世界のチャンピオンの実力を見せてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………え?さっきのは放置なんですか!?」

 

 

そこ、触れられたくなくて放置したのに掘り返すのはやめなさい。

 

 

 

 

 




ちなみにハルカの脳内設定ですが、エメラルドの方はアニメ風で、ORASの方がポケスペ風です。

設定には割とオリジナル入ってるけど、エニシダさんのセリフは原作でもそんな感じのこと言ってた希ガス。

…………そして旅による主人公の成長よ。何が悲しいかって火山灰以外は大体ゲームそのままなんだよなぁ。


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強者は未来の強者の香りに敏感なのさ!

6/1、主人公のSM女主人公に対する感想を少し追加しました。
やっぱSM主人公の真顔はネタになるよな!


リーリエと一緒にリリィタウンに戻っていた私を待ち受けていたのはククイ博士と、一瞬白髪なのかと勘違いしてしまいそうな白いニット帽を被り、上下をジャージで揃えた少年だった。

 

 

「ミヅキ、紹介するよ。こちら、ホウエン地方出身のユウキっていうんだ。

君とはあまり年齢が違わないけど、バトルの腕は超一流だぜ」

 

「アローラ。ポケモントレーナーのユウキだ。君らの旅の………まあ、アドバイザー的なものか。それを担当することになっている。よろしくな」

 

「ミヅキです。よろしくお願いしますね」

 

 

大きく円を描くようなアローラ流の挨拶の加え、軽い握手をする。カントーでも握手はわりと良くある風習だ。ホウエンはアローラよりも比較的近くて交流もあるので、私の出身であるカントーとアローラとの違いをわかりやすく教えてくれると良いなぁ。

 

それにしても、私とあまり年齢が変わらないのに超一流ってお墨付きされるなんて凄い!手もすっごいボールダコついてて、なんかエリート!って感じするし。

 

そんな私を見てユウキさんは困ったように笑い、私に話しかける。

 

 

「しまキングからポケモンを渡される前に、僕から1つ言いたいことがある。

ポケモンは純粋だ。だからこそ、トレーナー次第で善にも悪にも染まってしまう。ポケモンをゲットすることとはつまり、そのポケモンの一生を背負うということだ。だからこそ問おう。

 

 

――――君にとって『ポケモン』とはなんだ?」

 

 

最後の言葉と共に、私の体にかかる膨大なプレッシャー。表情は笑っていながらも、その瞳はゾッとするくらいに冷淡だ。嘘は許さないというユウキさんの思いが言葉よりも雄弁に伝わってくる。

 

だから私は正直に答える。

 

 

「まだわかりません」

 

「………………へぇ」

 

 

ユウキさんの声が低くなり、私にかかるプレッシャーも増す。全力で逃げ出したい気持ちにかられるも、それをしてしまったら私は一生ポケモンと対等に関われない。そんな気がする。

 

だから今にも逃げ出してしまいそうな体を一生懸命押さえつけ、私はユウキさんに向き合い、思いを言う。

 

 

「だから、この島巡りを通して探したいと思います。私はポケモンとどう向き合うべきなのかを」

 

「………………なるほど」

 

 

1歩ずつゆっくりとユウキさんが向かってくる。それに連れて重圧も徐々に増加し全身が震えそうになるも、必死に耐えて前を見る。

そして遂に真正面に立ったユウキさんは私へと手を伸ばし――――

 

 

「…………えっ?」

 

 

優しい手つきで私の頭を撫でた。

普段から慣れているのかな、髪型をグチャグチャにせず、的確にツボをつく動きについくすぐったさを覚える。

 

同時に私を圧迫していた重圧も消え去り、ただの少年としての自分に戻したユウキさんは、色々なものが混ざった、でも多分に優しさを含んだ眼差しで言う。

 

「忘れるな。どんなポケモンも、トレーナーによって変わる。

ポケモンに真摯に向き合おうとする君の初心を忘れない限り、君達はどこにだって行けるし、何にだってなれる」

 

「――――――はいっ!!」

 

 

***

 

 

 

 

アローラ地方における最初のポケモンは、ただトレーナーが選ぶのではなく、そのポケモンと真に向き合い、互いに認め合う事で初めてパートナーになる。緑の(キモリ)は美しくないからまだマシな青い方(ミズゴロウ)にしよう、なんて選び方は論外だ。それではポケモンに認められない。それはそれとして僕はその二択なら緑の方が恰好良いと思うんだが………。

 

トレーナーとポケモンの関係は対等で無ければならない。だからこそ明言はされていないものの、これはその関係性をトレーナーに理解させるものであり、心構えの基礎を身につけさせる、0番目の試練と言えるだろう。

 

これを見てもわかるように、アローラはホウエンよりも精神面を重視している。――――当然だ。

あんな修羅道と比べたらどっちも困る。そう思いながらミヅキが初めてのポケモンを選ぶのを見ている僕へ、ククイ博士が話しかけてきた。

 

 

「どうだった?新たな世代のタマゴは」

 

「正直言って感嘆の一言だ。僕があの年齢の頃は、ジムリーダーである父さんや、その子だと言うことでやたらと期待する周囲に反撥していただけだったからな。トレーナーとしての気概なんてあってないようなものだった。だがミヅキは心構えがある程度出来ているうえ、僕の威圧に負けなかった。

今はまだ未熟だが、経験を積めば化けるぞ。間違いない。

…………お前もそう思ったんだろ?」

 

「ああ。なんてったって博士だぜ?人を見抜く目だってあるつもりさ。

初めて聞くんだけど、父親がジムリーダーだったのかい?」

 

「ああ。そうなったのはホウエンに引っ越してからだがな。だがジョウトにいた時からも父は優秀なトレーナーで、ノーマルタイプ縛りでリーグに挑み、四天王にまで手が届いていた」

 

「それは縛りじゃなくてポリシーなんじゃないか?

それにしてもジョウトか………。カントーのジムやリーグには挑んだことはあるんだけど、ボコボコにされてね。特にあのドラゴン使いのトレーナーは凄かった」

 

「ポリシーなんて育成力不足の言い訳だ。複数のタイプのポケモンを超一流まで育てきるだけの力量がないんだよ。

だから1つのタイプに最善の環境をジムに作り、特化して育成することで高水準を実現している。

だが、ホンモノは複数のタイプを超高水準に育て上げるものだ。加えて、四天王以上は基本的に超一流な上、特化した環境で育ててるから、そこらのジムリーダーとは隔絶した差がある。

 

それとこの世界では違うかもしれないが、ワタルの強みは策略でも技術でもない、純粋な力だからな。ドラゴンという強力な反面制御が難しい種族を存分に振り回している。僕もチャンピオン時代に何回か交流戦をしたことはあるが、生半可な攻撃では傷さえ付けられない難敵だった」

 

「ちなみに、勝ったのはどっちだい?」

 

「最低限レッドくらいのレベルじゃないと、純粋な力のぶつかりあいで僕には勝てないさ」

 

「あっ(察し)。

まあ、君ほどのトレーナーが彼らの旅のサポートをしてくれるってのは心強い」

 

「ああ、そうだな」

 

 

…………果たして僕の手助けは必要なんだか。

新たにパートナーとなったモクローを抱き抱えて喜ぶミヅキを眺めながら僕はそんな考えを抱いた。

 

 

それにしても、どうしてあの娘の声や雰囲気は非常に豊かなのに、表情は真顔で固定されているんだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

翌日の夕方、僕はミヅキの家の前にいた。側にはリーリエも一緒だ。この娘は方向音痴のきらいがあるため、放っておくとあっという間に迷子になる。

博士の目が届いているうちは良いが、それ以外の時は基本的に僕が見ている必要があった。

 

ピンポーン

 

チャイムの間の抜けた音が響き、しばらくするとミヅキが顔を出した。

 

 

「アローラ。昨日ぶりですね、ミヅキさん」

 

「ゆ、ユウキさんにリーリエ!?なんでウチに!!?」

 

「ああ、リリィタウンでやるゼンリョク祭の誘いに来たんだ。あの祭りは島の守り神であるカプ・コケコに捧げるものでな、毎回新人のトレーナーがバトルをしているらしい。

だから今回はカプ・コケコ直々にかがやきのいしを渡された君と、しまキングの孫であるハウのバトルになる。注目は一入だ」

 

「わ、私とハウがですか!?」

 

「僕はカプと交信出来ないからあくまで予想になるが、カプ・コケコは君に期待している。かがやきのいしを与えたのが良い証拠だ。それに、ハラさんがいしの加工を終えたから来て欲しいとも言っていた。

それに――――ポケモントレーナーがバトルを避けるのか?」

 

「私はポケモンが傷付くバトルはあまり好きではないのですが…………でも、見届けたいのです。ミヅキさんの勝負を」

 

「うう………リーリエまで…………。

わかりました!頑張ります!!」

 

 

気合を入れてグッと手に力を込めるミヅキ。そうだ、そうでないと面白くない(・・・・・)

いずれ好敵手(ライバル)へと成長するだろう少女の冒険が始まりつつある。収穫(・・)の時を楽しみに思いつつ、僕は更に言葉を重ねる。

 

 

「君の家を東側に出て北へと登れば草むらがある。この島はは島巡り最初の島だから野生のポケモンもそこまで強い訳ではないが、モクローと共に戦う事で得られるものがあるはずだ。

 

それと、君のバトルが終わったらだが…………いや、なんでもない」

 

「な、なんですか!?そんな所で切られるとすっごい不安なんですけど!?」

 

「それはですね…………」

 

「リーリエ、ストップ。

お楽しみは言わない方が良いだろ?」

 

「ふふっ、そうですね。

ミヅキさんも頑張ってくださいね」

 

「ううー、リーリエまで………」

 

 

声をあげてひとしきり笑う。

そして時計を見ると、想定以上に時間を使っていた事に気付く。

 

ククイ博士から頼まれた仕事であるポケモンのゲット方法の指導を軽く済ませ、リリィタウンで合うことを約束し、僕達はひとまず解散した。

 

 

さて、これからゼンリョク祭りだ。

僕は1ヶ月待ったぞ――――ククイ(・・・)

戦意に答え、腰元のボールがカタリと動いた。

 

 

***

 

 

 

リリィタウンは限界集落ではない(断言)。

とはいえ普段はあまり町中で人の姿を見ないから勘違いしても仕方がないのだが。

 

ゼンリョク祭りはカプに捧げるバトルとして、田舎町のちょっとした名物である。他の島からわざわざ観光客が訪れる程ではないが、メレメレ島のトレーナーはわりと訪れる。

とはいっても、所詮は田舎町のちょっとした名物。特に大規模なこともなく、めいめいが騒ぐ程度の小規模なものだ。

 

ククイ博士の元で知った情報を頭に流しつつ、町中を適当に散策する。

 

当たりには出店が並んでいる。なんでも他の地方トレーナーがたまたま訪れた時に、祭りなんだから出店の1つや2つあるべきだろう、と力強く提唱したために生まれたものだとか。

中でも一番人気なのはハウオリシティから出張してきたマラサダショップだ。先頭にいる少年が手持ちであろうピチューとアシマリと共にマラサダを食べている姿を横目に見ながら更に奥へと進む。

 

その先に目的地はあった。

一面が木で出来た巨大なスタジアム。

儀式(バトル)のステージだ。

 

すぐ近くへと近付き、調べ始める。

ふむふむ、木造だから燃えやすいだろうと思っていたが、これはただでさえ燃えにくい素材を更に防火加工することで、火に強い耐性を持たせているんだな。

加えて、資金に頓着せず沢山の素材を使っているために強度も十分。

木造という話を聞いて不安に思っていたが、普通に使用する分には問題ないな。

とりあえず安堵する。ホウエンではあえて不安定なスタジアムを作ることで強力なポケモンが十分に力を発揮できないようにすることもあったから心配だった。

 

 

「いかがされましたかな、こんな所で」

 

「ん?ああ、ハラさんか」

 

 

調べていた僕に話しかけてきたのは、この島(メレメレ島)のしまキング、ハラさんだった。

 

ハラさんは僕の元に近付くと、周りに聞こえないよう、小さな声で囁くように言う。

 

 

「ククイ博士から聞きましたぞ。なにやら面白そうなことをやるらしいですな」

 

「ああ。とはいってもゼンリョク祭りの主役はあくまでミヅキとハウであり、それ以外の誰でもない。

加えてこれがカプの意向に反すると言うならば取りやめるが」

 

「はっはっは、ご冗談を。

あなたは言って止まるような人間ではない。ここで止めても、間違いなくいつかは実行するでしょう。それはご自分が1番理解しているのではありませんかな」

 

「まあな。だが、僕にだって時と場所を選ぶつもりはある。ダメなら普通に野良でやっていたさ」

 

「…………そこで止めると断言しないあたり、流石はホウエンのトレーナーといったところですな」

 

「…………否定のしようがないことに気付いた」

 

「はっはっは。

それはともかく、このハラ、しまキングとしてあなたの企みを認めましょうぞ。カプの許し云々ではなく

――――儂も1トレーナーとして、手に汗握る激しいバトルが見たいですからな」

 

「冗談。アンタは戦闘者(トレーナー)だ。そのアンタが本当に見るだけ(・・・・)で満足出来るのか?」

 

「ははははっ。

…………この島の大試練の時に待っていますぞ」

 

「くはっ。上等ォ」

 

 

互いに獰猛な笑みを交わす。そう、島の頂点(しまキング)と冠されるトレーナーが、まさか未知の相手を前に大人しく見ているだけで満足出来るわけがない。まだ知らぬ強敵とのバトルの予感に心を踊らせながらその場を後にする。

 

間もなく勝負の始まりだ。

まだこの場に姿を見せていないミヅキは、果たしてどれだけの成長をしているだろうか。

心底楽しみでならない。

 

 

 

 

いずれ戦う相手や、これからの成長に期待できる者。

いや……それどころかバトルの法則すら違うこの世界で。

これからの勝負に期待を抱ける、その幸せを噛み締めながら。

僕は息を荒らげて1番道路から走ってくるミヅキの姿を眺めるのだった。

 




ミヅキ視点でウチの戦闘狂(主人公)が立派に先達としてやってるなと思っていたら別にそんなことはなかった。安定の戦闘脳すばらです。

余談ですが、時系列としては
赤青緑ピカ=RSEm→金銀→DPPt→BW→BW2=XY→SM
でやってます(異世界云々は無視)。
根拠はストーリーでの発言と、(すぐに削除されましたが)Twitterでの発言です。


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主人公って大抵キ〇ガイなんだよ!

6/5、金銀主人公のオリ設定の下りを追加しました。
6/17、誤字修正しました


「すみません!!遅れました!!」

 

 

ゼンリョクで走ってきたらしきミヅキは、荒らげた息をそのままに、開口一番で謝罪する。

時計を確認すると、彼女の家の前で別れてから約3時間もの時が過ぎていた。まさか、あれから今までずっと1番道路で戦い続けていた訳じゃないよな…………。

 

 

「何があったんだ?」

 

「はぁ、はぁ………ふぅ。

ええっと、ずっと戦ってたら時間忘れちゃってて……。ポケモンを回復する時にお母さんが教えてくれなかったらすっぽかす所でした」

 

 

まさかの戦い続けてた案件が発生していた。相変わらずの真顔なのに器用に照れた雰囲気を浮かべるミヅキに戦慄を隠せない。

 

そういえば、ふと昔を思い出す。僕が最初にハルカと戦った時、その前に僕はその周辺にあるポケモンの群れをアチャモと共に何個か壊滅させていたのだ。それが生態系に大きな影響を与えたとして、ハルカにやたらと睨まれていたのを覚えている。

これは余談だが、その後ハルカと戦った時には既にアチャモはワカシャモに進化していた。もしかすると、当時の僕もこんな思いを抱かれていたのかもしれない。

 

そう考えると、人のふり見て我がふり直せ、という諺も理解出来る。これはその最たるものだろう。もっとも、直せるとは到底思えないが。

 

 

「勝負が始まるまでまだ少しの余裕がある。手持ちのポケモンと一緒に出店を回ってきたらどうだ?戦うだけがポケモンとの付き合い方じゃないんだから」

 

「それもそうですね。みんな、出て来て!!」

 

 

ミヅキが投げた2つ(・・)のモンスターボールから表れたのは、モクローとツツケラだった。モクローがフクスローへと進化していないことにひとまず安堵し、2匹の様子を確認する。

 

…………まだ少し疲労が残ってるか。そりゃそうだよな。ここまで戦い続けていたならば当然疲れるし、傷薬など、ポケモンセンターを利用しない回復には限界がある。肉体的(・・・)に回復できても、精神的(・・・)にはそうではない。集中力の途切れから、普段は問題なく出来る所で思わぬミスをすることもある。

 

 

そこら辺を掻い摘んで説明しながら、2匹のポケモンと、ついでにミヅキにもポロックを与え、その辺の出店を回る。カントー出身のミヅキも知らなかったあたり、案外ポロックはマイナーなお菓子なのかもしれない。メリットも沢山あるんだが…………ヒンバスがきれいなうろこを使用せずに進化出来たり、ポケモンの見栄えが良くなったり。

人間が食べてもその恩恵を多少は預かれるため、ホウエン出身のトレーナーには美形が多いんだとか。あくまで比較的、という程度で個人差はある。僕にはまったく影響がないし。

それを話すとミヅキの食いつきがやたらと良くなった。やっぱり女子だな、と実感する。そんなに容姿に頓着して、旅を続けられるのだろうか。不安は結構大きい。

 

いよいよ儀式が始まることもあってか、出店周辺は先程見た時よりも更に人混みを増している。ホウエンのミナモやカイナに比べると流石に人は少ないが、普段の限界集落っぷりが嘘のようだ。そんなことを考えながら適当に品目をチェックする。

時に諸君。ビール片手にツマミを齧り、野次を飛ばしながらバトルを見物するのは心が踊る。それは全国異世界共通の真理ではないだろうか?

僕はそうだと確信している。故に――――

 

 

「オヤジ、ビール1杯くれないか?」

 

「いや兄ちゃん未成年だろ。甘酒やるからそれでも飲んでな」

 

 

――――それでも、僕は未成年(16歳)である。それ故にビールは飲めないという哀しみを背負っている。

チャンピオン時代はそこら辺には目を瞑って貰えていたんだがなぁ…………。大誤算の大誤算たる所以を四天王と一緒にゲラゲラ笑って見ながらビールを飲んでたというに!

ちなみに、アイツのドヤ顔は十中八九フラグだ。アレが出た瞬間、今度はどうやってあのドヤ顔が崩れるのかトトカルチョをしている。四天王内ではプリムが最も勝率が高く、それ以外の、例えばジムリーダーや元チャンピオンを含めると途端にミクリが浮上する。そしてツツジが腐上する。曰く、私が(ダイゴ)のことを見抜けない筈がないだろう!曰く、ミク×ダイサイコー!

見事に腐ってやがる。

 

 

「そういえば、ユウキさんはポケモンを出さないんですか?さっき手本を見せてくれた時に使ったポケモンとか」

 

「ああ、アイツ(イワンコ)は博士からの借り物でね。さっき返したばかりなんだ。

僕の手持ちのポケモンはここではかなり珍しい上に大きいヤツもいるから、下手な所で出すと混乱が起きる。まあ出す機会は作っているからその時に遊ぶ(・・)さ。

それよりも、良いのか?そろそろ時間だぞ」

 

「?……あ、そうみたいですね。じゃあ、先に行ってます」

 

ポケモンをボールに戻し、人混みを縫うように走り去っていく彼女の姿を見ながら、僕はどうにかしてビールを手に入れられないものかと頭を悩ませていた。

 

 

 

***

 

「ではこれより、島の守り神――カプ・コケコに捧げるポケモン勝負を始めます」

 

 

 

そして始まった勝負の決着は極めてあっさりしたものだった。

というか、ミヅキが強くなりすぎた。

 

最初のポケモンは、ミヅキはツツケラ、ハウはピチュー。

飛行対電気ということでミヅキの方が不利ではある。だが、ミヅキのツツケラは攻撃が高い上、進化すると極めて多様な技のバリエーションを持つポケモンだ。技には4つという上限があるため流石に全部は覚えられないが、有利だと思っていた勝負で思わぬダメージを受けて負けることもありえる。

 

そして対するピチュー系列は全体的に技の範囲こそ狭いものの、素早さが高く、ヘタをするとなにも出来ないうちに負けかねない。さらに、リージョンフォームのライチュウはエスパータイプが追加され、対応出来る範囲が増えている。羨ましいな、こっちのライチュウにもエスパータイプ寄越せよ。

 

2人の将来のパーティーを想定しながらビールを口に運ぶ。キンキンに冷えたビールが喉を通り過ぎる際に生じる特徴的な苦味と刺激の暴力を楽しみながら、しょっぱめに作ったポロックをつまんだ。この世界に来てから1人で作った数を重視した粗悪品ではあるが、程よい塩味はビールとよく合う。やはり祭りの雰囲気ってのは一種の魔法のようなものだ。決して美味しくはないものがやたらと美味く感じる。

 

その間もフィールドから目は離さない。昔からの習性だ。ホウエンリーグのルールはなんでもあり。鉄火バトンを始め、ホウエンでは高速化したバトルも数多くあった。超高速で行動し、一瞬の油断はおろか、指示と行動の隙間にさえ攻撃を入れるスタイルだ。そういった連中(スピード狂)と戦う際には一切の気を抜かず、常に全体を俯瞰して見る必要がある。

 

その経験が、今は役にたった。

何故ならば、ビールを飲み、ポロックを食べるというこの二工程(ダブルアクション)の間に、決着はついていたのだから。

 

 

「ツツケラ、いわくだき」

 

 

 

 

ピチューはたおれた。

 

ピチューはたおれた。

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

え、一撃で終わり!?

それがおそらく見ていたであろうほぼ全員の感想だろう。しまキングの孫であるハウは昔からこの町に住んでおり、その実力は観客全員がよく知っている。

流石はカプに興味を持たれたもの……と勝手に戦慄を抱いている観客を尻目に、勝負は次の段階へと進む。

 

 

「強いねーミヅキ。でもー、俺も負けないよー」

 

 

次にハウが繰り出したのは水タイプの御三家、アシマリだ。最終進化するとアシレーヌになるが、このポケモンは水・フェアリーという、すべてのタイプに等倍を出せる優秀なタイプになる。そして弱点耐性も高く、耐久性という点でも優秀だ。あと綺麗だし。僕があの3匹の中から1匹を選ぶならば、それはきっとアシマリだろう。

まあ進化形がいかに優秀とはいえ、現状戦っているのはアシマリだ。ただの水単色で、ステータスも未進化のポケモン故の哀しみか、イマイチパッとしない。

これはつつくで一撃か?と思ったが、見ればツツケラの動きが妙に鈍いことに気付く。

 

…………麻痺ったか。

 

結果的に使用されず準備段階だったでんきショックの電気によって、ピチューの特性である静電気の効果がブーストされて、結果的にツツケラは麻痺になったって感じか。

運がいい――だが、運を引き込む力も一種の強さだ。

 

余談ではあるが、その強さを極めたのが向こうのジョウト地方における最強(チャンピオン)――――ヒビキである。

攻撃はどんな技でも命中する上に必ず急所にあたり、乱数までもが向こうの味方。挙句彼がタマゴから孵したポケモンは確定で6Vになるという幸運の申し子だ。

 

そしてミヅキはツツケラを引っ込め、モクローを繰り出した。

 

草・飛行タイプという弱点がかなり多く、耐性を持たれている相手も多い、他の2匹に比べると序盤がハードになるポケモンだが、進化すると草・ゴーストのジュナイパーになる。覚える技の打点は低いが、攻撃力が高めなので頼りにはなるポケモンだ。それはそれとしてダダリンが欲しい。

 

そしてアシマリは交代したタイミングに合わせてみずでっぽうを放つも、相性に加えて育成差もある。ロクにダメージを与えられない。

 

そして返しの刃で繰り出したこのはをアシマリは耐えきれず、勝負はミヅキの勝ちで終わった。

 

 

 

***

 

 

 

 

「そこまで!この勝負、ミヅキの勝ちとする!!」

 

 

ハラさんの声が辺りに響き渡る。

育成の差がハッキリ出たが、2人の良い将来を予期させる勝負だった。

だからこそ断言出来る。

あの2人はもっと強くなる。彼等の旅路の果てがどんなものになるか、未だ想像はつかない。だが、一つだけ。今よりもっと強くなるというのは確かで――――

 

――――強くさえあれば他にはなにも要らない。

 

こんなことを思っている時点で自分が

ロクデナシなことは自覚している。だが、その程度で僕がバトルを辞めるなど有り得ない。ブレーキなどミシロから出る時には既にぶち壊した。滾る戦意をそのままに、戦いのロードを疾走して駆け抜ける暴走機関。

それでいいしそれしか要らない。

 

 

 

さて、次は僕の番(・・・)だ。

 

健闘した両者を称えるハラさんと、カプの囀りを軽く聞き流し、滾る戦意を抑える努力を放棄し、垂れ流す。

するとそれに気付いたのだろう、ステージ上の3人が驚愕の眼差しでこちらを見る。

 

 

「ああ、悪い。少し昂った。

…………ハラさん」

 

「うむ、わかっておりますぞ」

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 

ミヅキが慌てた様子で聞いてくる。そういう気配に敏感なのだろうか?さっきもいの1番に反応したのはハラさんではなく彼女だったのだから。

 

ちなみにハウはなんというか…………なんというべきだろうか?これ。

単に鈍感というだけでは言いきれない。戦意に反応していないわけではないんだが、如何せんそれが薄い。認識していないというのもまた異なる。

 

なんというべきか、正しく理解しているのに認識していないというべきだろうか。滅多に見ないぞこんなメンタルしているヤツ。祖父にしまキングを持った影響か?

 

 

「なにって…………バトルだよ。僕とククイ博士との勝負だ。

曰く、アローラでも5指にはいる実力者らしいからな。ゼンリョク祭りで戦おうと頼んでいたんだ」

 

「そういうことですからな、ミヅキもハウも、観客席に回ってくだされ。

このハラは審判としてここに立ちましょうぞ」

 

「うんー」

 

「…………わかりました。私も、ユウキさんの戦いには興味がありますからね」

 

「ありがとう。審判は頼んだぞ、ハラさん」

 

「任されました。

…………ところで、ククイ博士はどちらですかな」

 

「ああ――――今来たぞ」

 

 

そして、全員がリリィタウンへの入口を見る。

果たしてそこに、彼の姿はあった。

普段かけていたサンバイザーを外し、鋭い目でこちらを見据える彼は、ポケモン博士の――――いや、違う。

 

 

ポケモントレーナー(・・・・・・・・・)のククイだ。

 

 

「合図を出したら入ってくれ、って聞いていたけど、まさかあんな膨大な戦意を合図代わりに出すとはね。以前の立場的にかなりの実力があると思ってはいたけど、まさかこれ程とは思わなかった」

 

「くはっ。それを軽く受け流しておいて何を言う。所詮は博士だと思っていたが、安心した。優秀なトレーナーでもあるようでなによりだ」

 

 

お互いに軽口を叩きあい、視線を交わす。息が詰まるようなフィールドの緊張感。ああ――これこそが勝負の醍醐味だ。

唇が歪に釣り上がっていることを自覚する。仕方がないだろう、待ちに待った勝負なのだから。

 

 

手持ちのポケモンがボール越しに軽く頷いたのを見て、一呼吸。思考のスイッチが完全に切り替わる。

一般にゾーンと呼ばれる領域へと入り込み、視界に映るは極彩色の世界。

上限など知らぬとばかりに猛る戦意に対し、思考だけは澄んだ水のように冷ややかだ。

 

 

状態は最高(ベストコンディション)。ああ――――負ける気がしないな。

 

 

「これより、第二試合を始める!」

 

 

ハラさんの声が遠く聞こえる。

 

そして、僕達は最初のポケモンを繰り出した。

 




プロローグでの主人公の鬱オーラの割に、なかなかにチャンピオン生活をエンジョイしている様子。やってる事は結構外道だけどな!そして大誤算は安定の大誤算。その点とカッコイイ所とのギャップでホウエンではファンクラブが出来てるらしいです。発足はルネジムから。
ちなみに、主人公が良い空気吸ってるのはフロンティア紹介されて飢餓感もマシになった頃だからね。ストレスを発散して周りとの付き合いを愉しむようになった、みたいな。
ツツジさん?……………………ああ、いい人だったよ。

前回の話でどうして家に訪れたのはククイ博士ではなく主人公&リーリエだったのか、ということですが、その時博士は研究所でバトル感覚を戻してました。そう、ユウキと戦うため、研究によって錆び付いた体を動かそうと必死に努力していたのです!…………なんだこの主人公臭。そして主人公のラスボス臭。
ポケモンの主人公ってそんなものか(レッドをみながら)


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貴様と俺との決定的な力の差というものを見せつけてやる!

勝負が、始まった。

 

「行け、ルガルガン!!」

 

「出番だ、バシャーモ!!」

 

僕の先鋒はバシャーモだ。

この勝負はこの世界に来て初めてのバトルである。故に、ホウエンからの相棒であるコイツ以外のポケモンを先頭で出すなどありえなかった。

 

対するククイの先鋒はルガルガン。

このポケモンは、イワンコから進化する際の時間帯(・・・)によってが外見やステータスが変わる珍しいポケモンだ。

そして、ククイのルガルガンはまひるの姿。耐久力を犠牲に素早さと攻撃力を上げた高速アタッカーだ。その速度は鈍足が多いアローラ固有ポケモンの中では非常に高く、同レベルのバシャーモを凌駕して余りある。

 

だが、一目見た瞬間にわかった。

そのポケモンは――――

 

 

「――――育成(レベル)が足りない」

 

 

――――スカイアッパー

 

 

――――種族としての差を笑い飛ばせる程に、絶対的な育成の差がある。

 

強度が高いはずの舞台が軋む程に強く地面を蹴り飛ばし、手首から瞬間的に吹き出る膨大な炎がそれをブースト。瞬く間に零距離(ゼロレンジ)へと入り込む。そして反応出来ない無防備な腹部を炎によるブーストを受けた拳が殴り飛ばし、遥か上空へと吹き飛ばす。

 

僕のポケモンはオープンレベル(Lv.100)

そう、最低限レッドくらい(6VでLv.80以上)じゃなければ純粋な力のぶつかりあいで僕には勝てない。

 

墜落して倒れ伏すルガルガンは、誰の目から見ても瀕死になっていることが伺える。

 

「お疲れさま、ルガルガン。

――――行け、ウォーグル!」

 

次いで現れたのはウォーグルだ。鳥ポケモンとしてはやや鈍足気味だが、恵まれた攻撃力と特性であるちからずくによって高打点を期待されるポケモンである。タイプ的にバシャーモには不利。とはいえやはり、見た感じLv.60あたりのポケモンだ。素早さと攻撃力によって力ずくで押し通せるし、実際にバトルタワーで敗北を知る前まではそうしてきた。

 

だが――――

 

 

彼女(ハルカ)は凄いぜ。1度戦ったことがあるんだが、流石はホウエンという魔窟のチャンピオンなだけある。この地方でも五指に入ると自負してるぼくが、ロクな抵抗も出来ずに6タテされたよ』

 

 

1ヶ月前に聞いた言葉が蘇る。

6タテしたということはすなわち、僕と同様に、ある程度の不利さえ無関係に(レベル)の差で押し通したということなんだろう。

 

そう、見ない(・・・)読まない(・・・・)理解しない(・・・・・)

全タイプに最低限等倍にはなるようにフルアタ構成で、圧倒的レベル差にって最速確殺の一撃を連打する、格の違いがないと成立しない王者の戦法――――否、戦法ですらないそれは、ただの蹂躙だ。

 

かつては僕も同じ戦い方をしていたために断言してやる。

その戦いはあまりに醜い。

そして、そんな奴がホウエンの頂点(チャンピオン)として君臨してるのが心底気に食わない。これは正しく同族嫌悪なんだろう。

 

だからこそ、ククイには申し訳なく思う。

対戦相手が自分だけではなく、自分とあまり関係ない相手を意識し、なおかつ手加減さえする。それは憤慨するほどの侮辱なのだろう。一流のトレーナーは対戦を通して相手の感情をある程度なら察すことが出来る。バトルしたらわかる、という言葉はそれが由来だ。この感情も特に隠しているわけではないから察されているだろう。

…………まあ、これから行うのは僕が手加減する時の戦い方だ。全力ではないが、本気ではある。

だから――――

 

 

 

苛立ちは僕にではなく、僕を全力全開(フルスロットル)に出来ない自分 へ向けろ。

 

 

 

 

「おいかぜからのブレイブバードだ!」

 

 

そして自ら発生させた追い風を受けて、ウォーグルが突撃(カミカゼ)を敢行する。発動段階に入り、もうキャンセル出来ない瞬間を狙い済まし――――

 

 

「戻れ、バシャーモ。

出番だ、メタグロス」

 

 

ポケモン交代を強行する。

僅かにタイミングを間違えば攻撃は自分へと当たる危険極まりない技術であり、全国有数の強者が集うバトルフロンティアにおいてもこれができるのは極一部しかいない、高度な技術だ。

 

交代したポケモンはメタグロス。かつてダイゴから貰ったダンバルの最終進化形だ。

元々の防御力が高い上に鋼タイプを持つコイツにとって、ウォーグルのブレイブバードによるダメージなどかすり傷に等しい。

 

そして攻撃を受け止めたメタグロスはウォーグルを前足(?)で逃がさないようにガッチリと挟み込み、地面に強く押さえつける。

 

 

「――――潰せ」

 

 

続いてサイコキネシスによって体を浮遊させ、残った二本の足で繰り出されるコメットパンチ。1発、2発、3、4、5、6発――――!

息つく暇もない怒涛の連続攻撃を、拘束から逃れる術のないウォーグルはただただ耐えることしか出来ない。

だが、いかに力を抑えているとはいえメタグロスの攻撃能力は非常に凶悪だ。体力は勢いよく削られていき、瀕死になるまでさほどの時間はかからなかった。

 

 

「ッ――――ガオガエン!」

 

 

次いで繰り出したのは炎・悪タイプのポケモン、ガオガエンだ。

このポケモンはミヅキ、ハウのどちらもが選ばなかった御三家であるニャビーの最終進化形だ。悪役レスラーを思わせる外見に違わず高い攻撃力を有している上、耐久性も高い。

 

 

「――――それが、お前の最初のポケモンか?」

 

「ああ。このガオガエンはぼくがしまめぐりをしていた時からのパートナーなんだ。長い時を経て増した絆の力――――見せてあげるよ!」

 

 

そしてなんか変な振り付けで妙な動きをするククイ。久々の勝負で気でも触れたかという失礼極まりない感想を抱くも、すぐにそうでないことに気付く。

 

ガオガエンの全身を光が包み込み――――そこから連想される答え。

まさか、Zワザか!?

 

ならばメタグロスもただでは済むまい。ただでさえ鋼・エスパーはガオガエンのタイプ一致技が弱点なのだ。それがZクリスタルで強化されたとなると、手加減した状態で受けきれるとは到底思えない。

……………Zワザのタイプはどれだ。

炎か悪か――――ガオガエンの覚える技と威力を考慮し、ポケモンを交代する。

 

 

「ミロカロス、耐えろ!」

 

「ダイナミックフルフレイム!!」

 

 

1個の炎の玉と化したガオガエンがミロカロスに突っ込み、激突の瞬間、爆発したかのような炎が吹き荒れる。圧倒的な破壊力だ。…………もっとも、少し前にレックウザのはかいこうせんを見た身としてはそこまでの驚きはないが、伝説のポケモンをここで連想するあたり、威力がヤバいことにかわりはない。

ひとまず悪、というか、専用技であるハイパーダーククラッシャーではないことに安堵の息を吐いた。これを等倍で食らっていたら、いかにミロカロスの耐久性が高かろうと死地を見る。

 

そして、爆風が消えた後に見えた光景。ミロカロスは――体力の3/4が吹き飛んだが、戦闘に支障はないようだ。

そして物理型ポケモンを相手にミロカロスが最初に使う技など決まっている。指示を出す必要さえなく、自然と眠りについた(・・・・・・)

 

ねむることでミロカロスは体力が全快し、加えて状態異常になったため、ふしぎなうろこによって防御力が増加する。

傷付き汚れていた体を回復させたミロカロスは、最美の称号を欲しいままにするほどの美しさを取り戻す。

 

…………それにしても、幾ら威力が高いとはいえ、炎技でミロカロスの体力がここまで吹き飛ぶとは思いもしなかった。やはり防御力を参照するせいだな、世界法則の違いには気をつける必要がある。

 

コイツはなんとなく精神を集中するために釣り糸を垂らしていたら釣り上げたヒンバスへ、余っているポロックを適当に与えていたら進化したポケモンだ。当時はミロカロスへの進化方法が周知ではなかったため、やたらとポケモン協会に感謝された事を覚えている。

 

 

「っ……………しまった!

ガオガエン、D.D.ラリアットだ!」

 

ねごとだ(ガチャれ)、ミロカロス」

 

 

ミロカロスがゆっくりとねごとを紡ぐ。大誤算なんてない、外見に相応しい美しい声で紡がれるハイドロポンプは、接近しようとするガオガエンの進路を巧みに塞ぎ、退ける。

 

だが、ガオガエンもククイの最初の手持ちなだけある。何発も放たれるハイドロポンプを紙一重で回避しながら高速で接近し、ラリアット(D.D.ラリアット)を直撃させる。

闇雲に技を繰り出しているポケモン特有の動きのムラがない、やたらと堂にいった構えだ。人間のレスラーの動きでも参考にしているのだろうか。流石は技の博士と言ったところだな。

 

加えて身体の制御もなかなかに巧みだ。膨大な出力を誇る反面命中が不安定なハイドロポンプではあるが、それでもここまで見事に躱されるのは想定外だ。

だが――――

 

D.D.ラリアットを直撃させられた痛みで目を覚ましたミロカロスは、攻撃を当てて一瞬の隙が出来たガオガエンの身体へと絡みつく。ちなみにこれは技ではなく、ただの技術だ。ダメージは入らない。

両腕を使い必死に振りほどこうとするガオガエンだが、如何せん初動が遅すぎる。拘束は既に指1本動かせない程になっており、なんとかしようともがくガオガエンを至近距離で見つめたミロカロスは、優しく微笑んだ。するとガオガエンは光明でも見えたかのような表情を見せ――――

 

 

「ハイドロポンプ」

 

 

 

 

戦闘中に何やってんだお前ら。

 

 

 

逃げ場がなく、そもそも動きようがない拘束されたゼロ距離でのハイドロポンプは、ガオガエンの表情が絶望に染まり瀕死に陥るまで続いた。

 

 

「…………………………よくやった、ガオガエン

 

反撃だジバコイル。10万ボルト!!」

 

「交代だ。ネンドール、ひかりのかべ」

 

 

タイプ一致で高威力の10まんボルトがネンドールに直撃するも、タイプ相性故にダメージは皆無だ。我関せずとばかりにひかりの壁をはる。

 

この世界に来る直前、リラとの戦いで大活躍(爆発)したネンドールだが、本来の役割は壁要因だ。壁を2つ貼って効果が切れないうちに大爆発で自主退場。一応攻撃技にはじしんがあるが、使う機会など滅多にない。

 

もっとも、この世界における大爆発の威力は実質半減のため、好んで使う気にはならないんだが。

 

 

「リフレクターもだ」

 

「ラスターカノン!」

 

 

ジバコイルの体の光を1点に集中させた光が照射される。

交代ではなく攻撃を選んだ、か。だがネンドールは元々高い耐久性がひかりのかべでより強化されている状態だ。

ジバコイルの高い特攻からのタイプ一致技であろうとも、そう簡単に破れるものではない。

 

 

「じしんで潰せ」

 

 

タイプ一致かつ、2重弱点による4倍のじしんが空に浮いているジバコイルへとなぜか直撃する。ポケモンの技の理不尽を感じる光景だ。通常は耐えきれないだろうダメージ。たが、相手のジバコイルの特性はがんじょうだ。HPが最大ならどんな一撃を食らっても残り1で堪えるという、ホウエンでは一撃必殺を受けない特性でしかなかったのに、ここにきて超強化された特性その1である。

まあ、もっとも――――

 

 

ギリギリの淵でなんとか堪えたジバコイルが、ふらつく体を動かしてラスターカノンの発射大勢に移る。

 

 

――――瀕死になるギリギリで普段通りのパフォーマンスが出来たら、だが。

 

 

明らかに先ほどまでと比べて鈍い動きで傷付いた体の光を集中させるジバコイル。だが、その反撃を許さぬとばかりに繰り出されたネンドールのじしんによって瀕死へと陥った。

 

 

「キュウコン!」

 

 

そして次に繰り出されたのはリージョンフォルムのキュウコンだ。タイプは氷・フェアリーという、ドラゴンタイプに対する殺意しか感じられない構成である。その真価は天候が霰の時に発揮され、ゆきがくれで回避率を上げ、オーロラベールを纏った上から高い特攻によるふぶきを連打する凶悪なポケモンとなる。

中には霰を降らせるという氷タイプ歓喜な特性をもつキュウコンもいるらしいが、ククイが持ってるのは普通のキュウコンのようだ。

 

 

「ふぶき!」

 

「メタグロス、交代」

 

 

ふぶきを食らっても倒れはしないだろうが流石にダメージが大きいので素直にメタグロスへと交代する。

鋼は氷・フェアリーの両方の耐性を持っている上、逆に向こうは共通の弱点であるため、鋼技1発で仕留められる。

 

 

「コメットパンチだ!」

 

 

そして足を折り畳んだ飛行形態へと変形したメタグロスは、真正面からふぶきを突破し、その巨体からは想定出来ないような機敏さでコメットパンチを叩き込む。

 

元々防御力が低いのに加え、タイプ一致4倍弱点だ。この世界で多少威力が下がったとはいえ、キュウコンを倒してあまりある。

 

 

「っ………………カビゴン、頼んだ」

 

「ここで締めろ、バシャーモ」

 

 

そしてククイは最後のポケモン、カビゴンを繰り出す。ステータスが平均的に高い上、耐性が優秀なリラも好んで使っていたポケモンだ。

 

メタグロスだとタイプ的に特に不利でもなく、むしろ向こうのタイプ一致技を半減出来る点で有利でもあるが、やはりこの世界で初めてのバトルだ。最初も最後も相棒で締めたいと思うのは当然だろう。

 

「スカイアッパー!」

 

「10まんばりき!」

 

 

10まんばりきは格闘技ではない。地面技である、何故か。

カビゴンが咆哮をあげて突撃する。巨体に込められたエネルギーを集中させることで実現させた10まんばりきに対して、バシャーモも炎でブーストさせたスカイアッパーを放ち、真正面から激突する。

 

そして築かれた完全な均衡状態。単純な威力ではこちらが勝っているが、いかんせん質量差は厳しいものがある。

2匹の激突は暫くの間続いたが決着はつかず。互いに距離を取り、隙が見えた瞬間に相手を倒せるように牙を研ぐ。

 

やがて1枚の葉がフィールドを横切り――――

 

 

「10まんばりき!!!」

 

「スカイアッパー!!」

 

 

2度目の、そして最後の激突。

先程の攻防とまったく同じように激突し、拳をぶつけ合うカビゴンとバシャーモ。あまりの衝撃に空間が軋み、ステージが悲鳴をあげる。両者の力は互角であり――――

 

 

 

 

 

――――メトロノームがテンポを加速する。

 

 

 

 

バシャーモの手首から噴出する炎が勢いを増し、途端に崩れる両者の均衡。

圧倒的な勢いに負けて腕を弾き飛ばされたカビゴンの無防備など出っ腹へ、バシャーモは最後の一撃を放つ――――!

 

 

 

 

「――――――これで、終わり(フィナーレ)だ!」

 

 

――――――スカイアッパー。

 

 

 

 

 

メトロノームの加速は止まらない。

 

爆発的に増加する炎のブースト。バシャーモは戦いの場となっているこの木のステージが衝撃に軋み罅割れるほどに強く踏み込む。

その反作用を余すことなく受け取った後に体内で循環させて増幅。全身を無駄なく活用しきって放つスカイアッパーの一撃は、質量差など関係ないとばかりにカビゴンを容易く空中へと吹き飛ばした。

 

 

 

「…………参った。完敗だぜ」

 

 

ククイが大きな息を吐き、腰に手を当てて笑うと同時に、意識を失ったカビゴンが地面に熱いキスを交わし、それが終了の合図となった。

 

 

 

「――――――そこまで!

この勝負、ユウキの勝ちとする!!」

 

 

 

***

 

 

 

…………凄かった。

 

 

試合が終わり、私はそっと息を吐いた。見ているこちらまで伝わってくる張り詰めたような緊張感に、呼吸が止まってしまっていたからだ。

胸に手を当てると、バクバクと激しくなった鼓動が帰ってくる。

 

 

本当に、凄かった。

 

 

結果を見れば手持ちが全滅したククイ博士に対してユウキさんは1体も瀕死になっていない圧勝。だけど、本当に注目するべきはそこじゃない。

 

そう、ユウキさんは手加減をしていた。

それはあのバシャーモの動きを見ていれば容易く想像が着く。勝負が始まった最初の動き。それをあのカビゴンとの攻防でもやっていれば、一瞬で勝負はついていただろう。

 

でも、間違ってもククイ博士が弱いってわけじゃない。カントー・ジョウトで年に1回開かれる、地方対抗戦で見たジムリーダーの全力に匹敵するくらいの力はある。

もし仮に私が戦ったとしても、一撃を与えることさえ出来ないという確信がある。

 

そのククイ博士を一蹴することを可能とする育成力、読みの精度、そしてポケモンとの絆。

どうしてこんな人が今まで無名で、そして私達の島巡りをアドバイザーとして手伝ってくれるんだろう。

 

ふとステージを見ると、ポケモンをボールに戻したユウキさんがゆっくりとククイ博士に近付き、手を差し出した。

 

一瞬きょとんとした顔をするククイ博士だけど、意味が伝わったんだろう、笑いながら強い握手を交わした。

そして、それを見た観客からは健闘を讃える大きな拍手が巻き起こる。

…………なんだろう、2人がとても遠い人のように思えてきてしまった。

先ほどハラさんに教えられた、アローラ伝統のしまめぐりを経験すれば、私もあの場所に立てるのかな。

 

 

「私達も、頑張ろうね」

 

 

一緒に見ていたポケモン達にそう声をかける。アシマリとツツケラの2匹は興奮冷めやらぬといった状態で、幾度となく頷きを返してくれた。

 

よしっ、ハラさんに言われた通り、まずはトレーナースクールに行ってポケモンのことを学びなおそう。

もしかするとカントーとは大きな違いがあるかもしれないし、そのせいで足元を掬われたら目も当てられない。

これから頑張らないと、ね。

 

 

 

 

 

 

「――――ククイ、やっぱあんたは博士であるのが一番だよ」

 

 

 

 

 

 

そんな私の耳に、どうしてかユウキさんの呟きが響いた気がした。

 

 




我が主人公の手持ちはオープンレベル(Lv.100)です。というか、バトルフロンティアには(システム的な事情で)Lv.100がゴロゴロいるので、むしろホウエンではLv.100になってからが本番という認識が広まってたり。今のバトルはルガルガンを倒してから加減してLv.60くらいまて抑えてました。

そして相変わらずのダメージ計算の適当さよ…………

この世界観はSMを一緒に扱っているので、イワンコから進化した時間帯でどちらのルガルガンになるかが決まります。UBも7種類出しますし、違いはほしぐもちゃんの進化先くらいですね。どっちが好きですか?俺はルナアーラ派です。

ちなみに手持ちポケモンのデータはこんな感じ。

バシャーモ♂
*メトロノーム
・かえんほうしゃ
・かわらわり
・スカイアッパー
・メガトンキック

ボーマンダ♂
*カムラのみ
・げきりん
・じしん
・すてみタックル
・ねむる

メタグロス
*オボンのみ
・コメットパンチ
・じしん
・サイコキネシス
・はかいこうせん

ネンドール
*チイラのみ
・じしん
・リフレクター
・ひかりのかべ
・だいばくはつ

ミロカロス♀
*きあいのタスキ
・ハイドロポンプ
・ねむる
・ねごと
・れいとうビーム

レックウザ
*ラムのみ
・げきりん
・かみなり
・だいもんじ
・はかいこうせん

すべてEm.使用なので、今からすれば考えられないような技の構成をしています。

なんでもありなホウエンリーグでは伝説のポケモンのリーグ使用は禁止されているわけではないのですが、ユウキはなるべく使用を自重していて実質5匹です。ポケスペのルビーの6匹目みたいな感じか?


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賢者モードになると色々虚しいよね

 

「はぁ…………………………」

 

ステージを後にして人気のない所へと立ち寄り、ポケモンを回復させた僕の口から漏れた、大きな溜息。

 

 

 

………………薄い(・・)

 

 

 

この勝負の感想を一言で纏めるとそれになる。

 

先発のルガルガンを見た時から思っていた、圧倒的な育成不足。本来バシャーモではルガルガンを相手に先手を取れないはずなのに、圧倒的大差で打ち勝ってしまった。他の分野を集中して努力したのか、とも思ったが、一撃で倒れた以上は違うに決まっている。

 

以降の勝負はある程度(Lv.60)まで抑えていたが、それでも1体も倒されることなく完勝だ。

結局、自称地方五指もこの程度か、という思いが強い。対戦相手に失礼だということは理解しているが、自分の全力も出せない(・・・・・・・・・・)ヤツに向ける敬意などない。

 

そう、あくまで予想でしかないが、ククイは全盛期に比べて動きが数段鈍い。戦っている時に感じた苛立ちは、舐めプをする僕に対してではなく、思い通りに戦えていない自分へと向かっていた。

 

おそらく彼は島巡りを終えた当時は極めて優れた実力を持っていたが、研究のために時間を使う内に鈍り錆び付いていったのだろう。多少はやっていたようだが、それもバトルロイヤルなどの変則的な条件下でのバトルだ。……………そういえば、ロイヤルマスクとククイ博士の体格って結構似通ってるよな。相棒もガオガエンだし。いや、まさか。

 

ともかく、そのせいで全体的に動きが鈍い上に変な癖がついているため、1:1ではハッキリ言って強くはない。ワタルにボコボコにされたのにも納得だ。全力のジムリーダーと互角か、少し上回るくらいの実力がせいぜいでしかない。ただしグリーンは除く。流石に元チャンピオンなだけあって格が違うのだ。毎年の対抗戦では常に1位に君臨しており、リーグからは毎年のように自重しろと言われているらしい。

 

 

「………………はぁ」

 

 

漏れ出てくるため息を隠せない。

ここまで酷評してはいるものの、先のバトルはそう極端に悪いものではなかった。普段ならまあ満足は出来るな、と思うレベルではあるはずだ。

その原因は理解している。1ヶ月も待ち続けていたために自分の中での期待が高まり過ぎたこと。そして、この世界に来る直前の勝負がよりによって好敵手(リラ)とのそれだったからだ。

 

 

………………果たして、この世界では僕の望むような全力の勝負は出来るのだろうか。ハラを始めとするしまキングの実力は、全力の僕に伍するほどか?いずれ殿堂へとたどり着く者はいないのか?

 

――――いや、違うな。芽生えた不安を否定する。

鍛え上げよう、新たな未来の種を。幸い、僕のすぐ近くにはこれからの将来が有望なトレーナー(ミヅキ)がいる。

 

彼女に僕が得た全てを教え、導こう。全ては僕に匹敵ないし凌駕するトレーナーを作り出すために、アドバイザーとして全力を尽くすことを決意する。

なに、僕はポケモンの育成なら100点満点中150点だ。人間の指導だってきっと上手くいくだろうし、前の世界でも実際に上手くいった。8割方戦闘脳になるというホウエンでは目立たない欠点もあるが。

 

そうこうしているうちに回復が終わり、ポケモン達のケア(ポケリフレ、というらしい)をしている僕の元に現れたのはミヅキだった。

 

 

「ユウキさん、お疲れ様です」

 

「ミヅキもお疲れ様。将来性を感じさせるいいバトルだったぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

相も変わらずの真顔なのに、歓喜している雰囲気がわかりやすく伝わってくる。最初はクレイジーサイコのように見えて正直不気味だったが、慣れてくると妙な愛嬌を感じる。知り合いに無口無表情の前例(レッド)がいるからだろうか。あれはあれでわかりやすいものだし、そう考えると結構似てるものがあるのかもしれない…………原点にして頂点と似てるって普通にヤバいよな。

 

 

「しいて問題点を挙げるとすれば…………そうだな、もっと技の使い方に気を付けたほうが良いかもしれない」

 

「技の使い方…………ですか?」

 

 

きょとん、と首を傾げるミヅキ。ここで放置していたら危なかっただろう。どうせ勝てるなら力押しの方が楽だなーと思うようになれば、同格との勝負でかなりの脆さを発揮する。

実際に僕がそうだった。リラとの最初の戦いはそこを付かれたせいでボロボロに崩れ、敗北を喫したのだから。

 

 

「そうだ。例えばこのはという技だが、もっと動きの精度をあげて複数方向に分け、逃げ場を封じて本命の攻撃を与えたり、あとは常に周囲に纏わせてダメージを軽減したりするなどの様々な使い道がある。他の技でメジャーな所だと…………そうだな、開幕早々のねこだましで懐に飛び込み、相手が怯んでいるところを拘束・妨害系の技で封殺し、動けないうちに剣舞積みまくって6タテとかだな」

 

「え、えげつない………………。

ともかく、闇雲に強い技を使うだけではダメなんですね」

 

「ああ。とはいえ強力な技は不利な状況で突破口を開くことにも繋がる。そこら辺はトレーナーとポケモンの腕の見せ所だな。

あと、いくら便利だからってあまり多くのパターンを作るのはオススメしない」

 

「どうしてですか?いっぱいあった方が便利だと思うんですけど」

 

「咄嗟の指示で行動出来ないからだ。トレーナーが指示を出し、ポケモンが行動するまでには僅かなラグがある。普段使っていない技なら尚更ラグは大きくなり、そこを付かれて負けることがある。マッハ3で飛ぶポケモンが素早さを最大まで積むとどうなるかは想像がつくだろう?

 

それに、技を複数のパターンに分けるということは、技が増えるのと同じ意味だ。闇雲に増やし続けた技を極めるのにどれだけの時間がかかると思う?」

 

そもそも本来、ポケモンが覚える技に上限なんてない(・・・・・・・)。にも関わらず4つしか覚えないのは単純に、それを極めるための時間が足りないからだ。

単にたいあたり一つをとるにしても、自分の脚力と一切の無駄のない走り方、そして体格を踏まえた上で、相手の重心を見抜いて的確に攻撃を当てなければならない。多くのポケモンが覚える基本の技でさえこの量だ。より強力な技となればその難易度は推して測るべきである。

 

覚えたてホヤホヤだったり、使い慣れたりしていない技は、ポケモンがどのように使うのかを理解出来ていないからこそ使い物にならないことが極めて多い。そんな技をいくら覚えていても邪魔になるだけでしかない。

 

加えて、タマゴ技と自分で覚えた技と教え技、そしてわざマシンで覚えた技にも明確な差がある。生まれる前から覚えている技や自然に覚える技、誰かに指導されて身につけた技、そして機械によって無理矢理覚えさせられた技と考えれば違いがわかりやすいのではないか?最終的な威力は同じでも、そこに到達するには著しい差がある。

 

故に4つ。

それがポケモンが技を使う上で最善と判断された数なのだ。

 

 

「なるほど…………ちなみに、オススメの技とかってありますか?」

 

「ない。そもそもポケモンは種族や才能、そして性格ごとに個性があるからな。攻撃向きや耐久向き、そして支援に妨害etc.。そのなかでもかなり細かい違いがある。最善だと思う育成をしてもメタを張られるとあっさり沈むし、そこら辺は自分で模索するしかない。

加えて、ポケモンには基礎ポイント(努力値)という、ポケモンを倒す事に溜まっていくポイントがあり、その振り方でもポケモンは多くの違いをみせる。まあ、この辺は詳しいことがわかっていないとはいえ、一応知っておく必要があるな。

具体的には、やまおとこの所持するポケモンは同じ種類のポケモンと比較して攻撃と防御が高く、それ以外が低い傾向にあるし、サイキッカーは特攻・特防が比較的高い。当然誤差はあるがな」

 

「うへぇ………。覚えることがいっぱいです」

 

「慣れれば経験で分かってくる。相手のポケモンの育成度や、どこに重心を置いているのか。

一流のトレーナーとなればある程度型を作った上でバランス良く組んでいるから逆に読みやすくなってくる」

 

「型、ですか?」

 

「わかりやすいのは天候パーティーだな。雨パとか砂パとか色々なタイプがあるが、どれも共通しているのが天候を変化させる技・特性を持ったポケモンを起点に、自分に有利なフィールドを作り出す点だ。ノーてんきや他の天候に変えられる事で妨害されることもあるが、1度型に嵌ったら相性の不利も吹き飛ばすくらいには手強いぞ。あと、こいつら同士の戦いは天候の支配権の奪い合いになるから見ていて非常に面白い」

 

「天候、か…………。ちなみに、ユウキさんはどんな型を?」

 

「僕か?僕には型なんてないぞ。単純にあらゆる状況下で最大のパフォーマンスができるように育てあげたポケモンの混合パーティーだ。これといった特徴はないが、純粋に強くて崩れにくい。育成力の高いトレーナーはこうなることが多いな」

 

「育成力が高い、ですか?」

 

「ああ。ポケモン同様に、トレーナーにも個性があり、だいたい3つの型に分けられる。戦闘型と育成型、そして研究型だな。これはあくまで僕が便宜上名付けている呼び名であって正式なものではないんだが…………まあ、説明しやすいので今はこれを採用する」

 

戦闘型はずばり、戦闘そのものに特化したタイプである。フィールド全体を見て相手の手札を判断し、最適な手札を切れる、こと戦闘に限れば最も厄介なタイプである。たとえ弱いポケモンであっても彼らの手にかかれば一流に早変わりだ。本来スペック的にそう強くはないはずのピカチュウで、ケンタロス・パルシェン・スターミー・フーディン・カビゴン・サンダースのパーティーを6タテしたレッドの(正直ちょっと引くくらいの)勇姿は、数年を経ても未だに強く記憶に残っている。

 

そして育成型。これはポケモンの育成に特化したトレーナーだ。ポケモンの個性を把握した上で最良の育成を行い、高いスペックで戦闘するのがこのタイプの特徴であり、個々の戦力が高い反面、スペックで押し切れる場面が多いためにトレーナーとしての技量はそれほど高くはない。

 

研究型は直接戦闘よりも、その環境の構築に重点を置き、天候操作を始めとする型を十全に活用して戦うタイプだ。自分の思い通りに進んでいる内は強いが、それが破綻して以降のアドリブには弱い典型的な理論型である。

 

「……………とまあ、こんな感じだな。この分類では僕は育成型になるな。こと育成という分野では、僕がホウエンのトップだと自負している」

 

「………………え、マジですか?」

 

「さて、な。今のホウエンを僕は知らない」

 

 

視線を向けると、丁度ポケリフレが終わったバシャーモがゆっくりと頷きを返す。

そう、この世界のホウエンは僕にはわからない。ジムリーダーも四天王も、そしてチャンピオン(・・・・・・)さえも。何も知らないまっさらな状態だ。

だからしまめぐりが終わり、それでも僕が元々いた世界の手掛かりがなかったら。そして、この地方での勝負に満足できなかったら……………。

真っ先に向かう場所はホウエンになるだろう。向こうで1度制覇した場所だ、この世界自体のレベルを知る良い基準になる。

 

 

「うう…………難しいです…………」

 

「まあ、ここら辺の意味が真にわかるのはある程度の経験を積んでからだからな。今はそんなことがある、という程度の理解でいい。

それよりも、ハラさん達が待っているぞ。早く行かなければ怒られる。あの人怒ると本当に怖いらしいから、その未来はなんとかして避けないと」

 

「そ、そうですね!!はやく行きましょー!」

 

 

まあ、それはとりあえずこの娘を超一流のトレーナーにしてからだな。

真顔ながらも一生懸命に走るミヅキを見て、僕はそんな思いを抱いた。

 

 

 

 

 




今回の話を一言でまとめると、この世界はゲームをベースにアニメの発展性もある世界なんだよーっていう、だけです。
主人公が(人間の)育成ガチ勢になりました


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真の育成とは何か教えてやろう!

前半はこの世界に置ける三値とか色々がどうなっているかの説明…………要するに再びの世界観説明会なので、どうでも良いなら前半はスルーしても良いかと思います。後書きに今回の要約を載せていますし。

6/10 ペンタグラム→ヘキサグラムに訂正


トレーナーズスクール。

それは、未来のポケモントレーナーに対してポケモンバトルの基礎を教える学校のような場所である。

 

ククイ博士、リーリエ、ミヅキ、ハウ、そしてユウキの5人は、島巡りよりもまず先にポケモンへの理解を深めなきゃな!というククイ博士の考えの下、そこに来ていた。

 

 

 

 

 

 

が、まあそれはそれとして。

 

先生を名乗っているのだから相当強いのだろうという戦闘狂思考(バトル脳)のユウキは先生へと勝負を挑み開幕ワンパン即殺してしまう。そして彼はその先生に請われ、臨時の教師として教壇に立っていた。

 

 

「挨拶は抜きにしよう、時間の無駄だ。授業を開始する」

 

 

………………大丈夫だ、これでも彼は育成分野で100点満点中150点という最早意味不明な育成能力を有する異世界のチャンピオンである。

開幕早々の問題発言に呆気にとられる生徒達を尻目に、ユウキはさっさと説明を開始する。

 

 

「ポケモンのステータスは6つの値で構成されている。HP、攻撃、防御、特攻、特防、素早さだな。これ以降はHABCDSの略称で話す。理解が追いつかない奴はとりあえずメモし、後で復習しろ」

 

 

そう言うが早いか、ユウキはホワイトボードに六角形(ヘキサグラム)を書き込み、それぞれの頂点にHABCDSの六つのアルファベットを記入した。

 

 

「まず各ステータスについてだが、ポケモン学の権威であるオーキド・ユキナリ氏の定義では、種族としての能力(種族値)才能(個体値)、そして基礎ポイント(努力値)の3値に基づいて定められている。

本来ポケモンの力など測れるものではないんだが、そこは流石は博士といったところか、測れないなら勝手に決めちまえとばかりに定義したんだ」

 

 

そして始めに作られた六角形の中心から順番に、赤、青、黄色の3種類の六角形を記入する。

 

 

「赤は種族値、青は才能、そして黄色が基礎ポイントだ。

このように、三つの六角形が重なって作り出されるのがポケモンの総合ステータスだ。このうち種族値、才能は生まれたときにはもう決定されているため、僕らトレーナーが関わるのはこの基礎ポイントになる」

 

「先生ー、どうしてその2つは変えられないんですかー?」

 

 

教室にはユウキだけではなく、ハウ、ミヅキなど、今回島巡りに参加するトレーナーもいる。これはククイ博士の意向で、知識のないトレーナーではもしもの場面に対応できない可能性があったり、ポケモンに無意味な負担をかけたりすることがあるからとのこと。

 

『旅に出るの?そう、行ってらっしゃい』で済まされるホウエンの環境を思い出し、やっぱアローラはその辺恵まれてるなぁとユウキは思う。

最も彼にとって知識は実践を持って身につけるものであり、こういったスクールは性にあわないのだが…………まあ、将来の好敵手(ミヅキ)を育てるためならと受け入れたのだ。

 

 

「前者はその種族のポケモンが共通して有する値なんだ。だから進化したり、変身したりすることでそもそもの種族が変わり変化することはあっても、基本的にその種族のポケモンである限りは変えられん。後者に関しては、一応手段はある。ポケモンは凄い特訓をすることで才能を伸ばすことはできるんだが…………まず育成限界(Lv.100)まで育てなければならない」

 

「育成限界…………ですか?」

 

「ああ。育成度(レベル)の概念は知っているな?生まれたばかりの時をLv.1として、上限がLv.100だ。よっぽど弱い相手だとポケモンはロクな経験値を稼げない。レベルが上がれば上がるほど対等に戦える相手は減っていき、Lv.90代ともなると相手を探すだけでも一苦労だ」

 

 

それでもホウエンには結構沢山いるのだが。特にバトルフロンティアでは持っていないトレーナーを探す方が難しい。フロンティア職員などは育成限界個体(Lv.100)を最低でも3体は所持しているという、相変わらずの魔境っぷりである。

 

 

「その上で、育成型トレーナーの中でも超一流の人間に凄い特訓を頼まなければならない。

一応凄い特訓自体は誰でも出来るんだが、下手な奴が手を出すと失敗して、逆に無才(逆V)になる。トリルやジャイボを使うポケモンなら逆にそっちの方が良い場合もあるが、基本的には専門家に任せるのが無難だな。アイツらは王冠を与えると喜んで仕事をする」

 

 

当然超一流の育成者の枠組みにはユウキも入っており、彼の所持ポケモンは全て天才(6V)である。そのため、あまり頻繁ではないが、知人に頼まれて格安で特訓を引き受けることもあったりする。

 

 

「話を戻そう。この基礎ポイントに関してだが、これはポケモンを倒した時に経験と一緒に入るポイントだ。基本的に相手ポケモンの種族の能力値の中で最も高いものが加算される。ポケモン毎の詳しい値や基礎ポイントの上限はまだわかっていない(・・・・・・・・・)が、最も有力な説として、ホウエンのテンセ・イシャ博士によるものがある。曰くHABCDSでそれぞれ252、合計で510が限界らしいとのことだが、ポケモン事に才能の違いがあるために証明できていないのが現状だ」

 

「わかっていないのに有力なんですか?」

 

「僕は育成限界まで育てたポケモンが数多くいる上に凄い特訓ができるからな。条件を揃えて比較するのは難しいことではないし、実際にやってみると正しいことが分かった。

…………最もこれは一般には公表していない情報だ。僕以外の育成型トレーナーで実践してみた連中も、たぶん黙っているんじゃないか?基礎ポイントを振り切るには同じ種類の多くのポケモンの犠牲を必要とするため、自然が乱れるんだ。比較的環境が整っているヤツは良いが、下手をすれば生態系が壊滅するくらいには。加えて奴らは大量にポケモンのタマゴを生み出し、性格・才能が不適合である全てを放逐するため、行く先のないポケモンが予め住んでいたポケモンの居場所を奪うこともある。

実際に、僕は壊れた環境を見たことがあるしな」

 

 

と言ってはいるものの、ユウキはこれを行うことに一切の躊躇いはない。だからこそ今ここで説明しているのだ。マトモな良心がある者にとっては秘匿するべき情報であり、実際そうだからこそ有力な説(・・・・)程度に留まっているのだ。

 

ユウキに躊躇いがない最大の理由はミヅキにこれを伝えるという傍迷惑なことからだが、次の理由としては旅を初めてから1番最初にミシロ周辺の野生ポケモンを片っ端から倒した挙句群れを崩壊させたことがあるからだ。

 

悪い言い方ではあるが、ユウキは生態系を壊すことに慣れがあるのだ。ミシロ周辺の生態系はあの日を境に多少の変化が生じ、今までに見ないポケモンも現れ始めたのだから。そう、ユウキが見た壊れた環境とはすなわち、彼自身が生態系を壊滅させた環境でもある。

ちなみに、生態系を壊さない方法にも一応はある。

 

現れた目的のポケモンを倒し、げんきのかけらを食べさせて復活。意識を取り戻した瞬間に再び倒して再度かけらを口に運び、即座に倒し、かけらを食べさせ、即殺し――――

 

非人道極まりないが、これならば他のポケモンへの影響は薄い。トレーナーと所持ポケモン、そして野生のポケモンの精神が保てば、ではあるが。

 

 

「そ、そんな…………。生態系の壊滅なんて、そんなことをする人なんて…………」

 

「いるから話をしているんだ、黙って聞け。あとノート取れ。

 

ここまでやる頭がおかしい奴らを総称して『廃人』という。基本的に奴等は勝負のことにしか興味がない戦闘狂(バトル脳)であり、君らが強くなっていく以上は否が応でも関わらざるを得なくなる。今から話すのはそんな廃人共への対処方法だ。

 

――――何をしている?早くノートをとれ。次の話題に進むぞ」

 

 

教室中の空気は既にお通夜のような状態になっており、メモをとる音さえも響かない。

そんな仮の生徒に向けて苛立ちの声を向けるユウキだが、生徒達はメモを取ろうとする動きを一切見せない。

舌打ちして次の話題に入ろうとしたユウキだったが、彼に対して1人の生徒がおもむろに席を立ち、荒ぶった声をあげた。

 

 

「ふざけんな!!ポケモンは戦いの道具じゃねえ!!生態系を壊すなんて「授業中に勝手に立つな。黙って座れ」ひでぶっ!!?」

 

 

そんな人1倍熱血な彼に対する教師(ユウキ)の返事はチョークの投擲だった。

猛烈な速度で投げられたチョークが激突した額を両手で抑え、粉塵に塗れるという散々な目にあう彼だが、周囲に対する火付けの役目は果たした。他の生徒が口々に廃人への批判を募る。

ユウキとしては正直意外だった。殆ど廃人しかいないバトルフロンティアに入り浸っていた彼である。バトル以外でマトモな人の感情を察するのは苦手だった。

 

まあ、でも――――

ここから上手く行きそう(・・・・・・・)な展開が思い浮かんだため、自然と釣り上がる唇。

それを務めて無表情の仮面で覆い隠し、ユウキはちょっとした威圧を放った。

 

 

「いいから黙れ。五月蝿いな、今から説明すると言っただろう。

今から話すのはそんな廃人共への対処法であり、転じてそうならない(・・・・・・)ための方法だ。だから黙って聞け。そしてメモをとり、糧としろ。いいか?1度しか言わないからな」

 

 

明確な怒気を叩き付けて威圧し、生徒が怯んだ一瞬の隙間に言葉を入れる。こうすることで言葉がより明確に頭へと入る。ブルーが嘗て話ついでに言っていた事を実践すると、生徒達は怯えながらも言われたことを実行し始めた。

結果を出したこの方法に便利だなと感心するユウキ。外道指数が急激に上昇している。

 

ちなみに、彼の闘気やら怒気やらの操作技術は父親からの遺伝である。ポケモン勝負においてもはや父親に負けるなどありえないという自負をもつユウキであるが、ことリアルファイトにおいては勝てる気がしない。ともすれば育成限界(Lv.100)のポケモンとも互角に戦えるのではないかと疑問に思う程に、センリの単体戦力は人外じみている。ポケモンよりも生身の方が強いって言うの禁止な。

 

 

「さて、メモはとったな?次の説明に入るぞ。

廃人と戦う上で最も有効的な手段は単純に育成度(レベル)で上回ることだ。極端な話、育成限界(Lv.100)の適当に振ったポケモンと、育成そこそこ(Lv.50)で神経質に育てたポケモンなら当然前者が勝つ。以前僕は孵化したばかりのポケモンで育成限界(Lv.100)のポケモンを倒したこともあるが、余程の戦略がない限りそんなミラクルはありえない」

 

「いや普通それ無理ですよね」

 

「天候が砂嵐の状態で相手の先制攻撃をタスキで耐えたココドラにがむしゃらを打たせると、タイプと特性に砂嵐への耐性がない限り相手は沈む。ついでに言えば、特性ががんじょうのポケモンにかいがらのすずを持たせると、がむしゃらで与えたダメージによって全回するため、2体目以降の敵も倒せるぞ。相手の所持ポケモンによっては3タテまでなら可能だろう。その時の相手の顔は見ていて心が踊――――

 

…………話が逸れた。この方法の問題点だが、廃人のポケモンは分野によっては2~3回りレベルが低くても凌駕しうる可能性がある。それに加えて根本的な問題点として、廃人が育成をしていないわけがない、というのは理解出来るだろう。そもそもアイツらは育成という分野で高い実力を有しているからこそ三値の概念にまで行き着いたんだ。逆説的に育成力が低い奴等は廃人にはなれないさ。廃人から(・・・・)レクチャーを(・・・・・・)受けない限り(・・・・・・)、な。

 

そして育成型のトレーナーは基本的にスペック頼りだ。だからこそ、戦闘の基礎を深く理解することだ。バトルを理解した上で相手の手を読み切り、一つ一つの技を上手く使えば勝てる可能性は高い」

 

 

おお、というどよめきがあがる。

自分達にも廃人を倒せる方法が見えてきて希望を持ったのだ。だがそんな生徒達へとユウキは告げる。

 

 

「だが、根本的にスペックが劣っている以上、勝ちの目は薄い。何回も挑み続けると仮定すると、結果は黒星の方が多くなるはずだ。

確実に立つためには、同じステージに立つ必要がある」

 

「同じステージ…………って、俺達に廃人になれとでも言うのかよ!」

 

 

生徒の1人が激昂したように立ち上がる。先ほどチョークを食らった少年だ。高い回復力に感心しながらも、ユウキは言葉を放つ。

 

 

 

 

 

「だから、授業中に立つなと言っているだろう」

 

 

 

 

 

バシュゴゥッ!!

 

 

 

放たれたのは言葉と共にチョークもだった。再びのダメージに悶絶する学習しない系男子生徒を尻目に、ユウキは言葉を重ねる。

 

 

「別にポケモンを倒さなくとも基礎ポイントは稼げる。マックスアップを初めとするドリンクがそれだな。アレを飲むと対応する基礎ポイントが少し伸びる。1本一万円と値段こそ高いが、伸ばしたいステータスに使えば役に立つぞ。

他にも、パワー系のアイテムを使えば各分野の伸びが良くなる。控えのポケモンに持たせて学習装置を使えば、普通に戦っているだけで対応する分野がより強く育つはずだ」

 

 

その後、ユウキは基礎ポイントを振る上での注意事項や、戦闘時に注意するべきこと、ポケモンとの絆の深め方、ポロックの製造方法などをひとしきり伝え、終わりの時間が訪れた。

 

 

***

 

 

バイバイと大きく手を振るスクールの皆に負けじと、私も大きく手を振る。

ユウキさんはどうしてか、手を振ることなく顔を覆っていた。よく見てみると僅かに顔が赤い。こういったことに不慣れだから照れているのかも、と思えばなんだか微笑ましい気になる。

 

トレーナーズスクールでの話は(殆どユウキさんによる講義だったけど)とてもタメになることばかりだった。

やっぱり自分はポケモンという存在への理解が足りていないことを痛感する。

ステータスの構成要素、戦闘のコツに、ポケモンともっと親しくなるための方法、そしてポロックの製造方法(ユウキさんはこれに1番熱弁を奮っていた)、何よりも――――

 

 

 

 

――――――『廃人』の存在。

 

 

 

 

話を聞いた最初は、そもそもそんな人本当にいるの?という疑惑の念しかなかった。でも、ユウキさんの話は嘘にしては真に入りすぎていて、本当に存在するんだという思いを否が応でも持たざるを得なかったんだ。

 

 

………………私は、嫌だな。

 

 

どうしてそんな酷いことをするのか――いや、そもそもどうしてそんな事が出来るのかがわからない。今はモンスターボールに入っている自分のポケモン達を見て、ボールをそっと胸に抱く。

最初にそんな思いを抱いていたとしても、この子達に触れてみるとその暖かさが伝わってくる。たとえ野生であったとしても、そこで生きているポケモンなんだ。

 

そんなポケモン達の群れを、仲間を、生活の場を、どうして壊そうなんて思えるんだろう。どうして「そんなことはダメだ」って考えに至らないんだろう。

 

ポケモントレーナーである以上、廃人とは否が応でも関わらざるを得ないとユウキさんは言った。

 

 

 

だったら私は、私がするべきことはたった一つ。ポケモンバトルを通して思い出して欲しいんだ。初めてポケモンに触れた時の暖かさを。

 

 

 

そのために、まずは力をつけないとね。たとえ廃人が他のポケモンを犠牲にしてでも強さを求めるのなら、私は自分のポケモン達との絆の力で勝ってみせる。

 

 

………………でも、廃人しか知らない基礎ポイントを、どうしてユウキさんは知ってるんだろう?そういえば、ユウキさんのトレーナーとしてのタイプって………………。

 

一瞬疑問を抱いたけど、まあユウキさんだしということで受け入れる。あの人に今更疑いを持っても仕方がないし、そもそもほんとに廃人ならあんな敵を増やすというデメリットしかない発言をしないだろうし、ね。

 

 

***

 

 

校門までわざわざ送りに来てくれた生徒と、そしてミヅキ、ハウを見て思う。

どうやら目的は達成出来たらしい、と。

 

そう、僕が指導する目的は何時だってたった1つ、より強いトレーナーを作り出すためだ。そのためならば手段を選ぶつもりはなく、そいつが最終的に最も強くなれるだろう方法をとる。

 

今回の指導対象であるこの年頃(10代前半)の少年少女は基本的に正義感が強く、純真だ。悪を許せずに自分に大義があると信じる彼等にとってすれば、生態系を壊滅させる(・・・・・・・・・)というわかりやすい悪である廃人を許せないという思いは人一倍強く、煽れば容易く火を付けてくれる。

たとえミヅキを初めとする性根の優しい子供でも、いや、性根が優しいからこそ、ポケモンの生活を壊すような真似をする廃人を許せないと思うようになる。

 

 

そもそもそんな効率の悪い(・・・・・)真似をする廃人などいないというのに、だ。

 

 

よく考えろ、生態系が壊滅するとはすなわち、そこにいたポケモンがいなくなるということだ。前までいたポケモンがいなくなってしまえば基礎ポイントの稼ぎに支障をきたす。

挙句パワー系アイテムにドーピングドリンク。何故これを廃人は使っていないと思い込む?有効的な方法があれば手段を選ばない廃人が?ありえないだろう。

 

そして、廃人を打倒するための方法として彼等へと教えたのは廃人にとっての基礎(・・・・・・・・・)である。育成型以外で廃人になるのは難しく、仮に育成型であったとしても、非常に優秀かつ、手段を選ばない意志が必要となる。

 

 

 

そう、僕を初めとする(・・・・・・・)廃人から(・・・・)レクチャーを(・・・・・・)受けない限り(・・・・・・)は。

 

 

 

漏れ出てくる笑いが抑えきれない。咄嗟に手で顔を覆い(・・・・・・)興奮のあまり高ぶった(・・・・・・・・・・)血流を元に戻そうと努める。

 

そもそも廃人(僕達)は勝負を行い、そして勝つためには手段を選ばない戦闘狂(バトル脳)だ。厨ポケ上等、ガンメタ上等、奇襲強襲なんでもござれ。

だが、そもそもの問題として、勝負とは対等に戦える相手がいないと成立しない。格下との勝負は勝負ではない、ただの作業であり、蹂躙である。

 

 

 

そんなの、つまらないだけだろう?

 

 

 

だから僕は決めたのだ。ミヅキを初めとする将来への希望が溢れるトレーナーの卵に、僕が得た全てを教え(・・・・・)導こう(・・・)と。

 

さしあたって彼等はドーピングアイテムを使用したあと、パワー系アイテムを取り扱っているロイヤルドームへと向かうだろう。初めは当然負けるだろうが、あそこのルールを理解し、パワー系アイテムをゲットするべく戦いをを重ねるうちに気付くはずだ。勝利することの喜び(・・・・・・・・・)を。

 

そうなればもう戻りは効かない。底のない沼の如く、深みへと嵌り抜け出せない。

 

ようこそ廃人(こちら側)へ、新人君。

さあ――――楽しいバトルを始めよう。

 

 

未だ姿形も見えぬ、されど希望に溢れた未来を思い浮かべながら、僕はゆっくりとトレーナーズスクールを後にした。

 

 

 




今回の話の意訳。

ユウキ「(どうにかしてミヅキ達をもっと強くできないかな~。あっ、そうだ!)この世界には廃人という悪い奴らがいるんだ」

ミヅキ「悪い奴らってなに?」

ユウキ「(僕みたいに)ポケモンを育てるために野生のポケモンを狩り続けて、結果的に生態系を壊したりするわる~い奴だ」

ミヅキ「そんな、なら倒さないと!でも、どうすれば…………」

ユウキ「ここに(廃人に1歩踏み出すことで)廃人を正面から打破出来る方法があるんだが、」

ミヅキ「教えてください!ポケモンのために、私も強くなりたいです!!」

ユウキ(計画通り( ̄∀ ̄*))


一応アンチ・ヘイトタグを追加しました。倒す→かけら→倒すループあたりで残酷な描写タグも付けた方がいいんじゃないかなーとは思いましたが、とりあえず放置で。

俺に廃人への悪意は一切ないです。ゲーム開始早々に1番道路でヤングースとヤヤコマを252匹倒すぐらいには俺もやりこんでますし。

ですが現実的に見て努力値振りは結構ヘイト集める行為だと思うので………………あえて利用して未来の廃人を大量に生み出してみました。
きっとミヅキ達も廃人に対抗するためにもっと強くなろうとするはずです。原作主人公をもっと強くしようなんて――――流石ユウキさん!オリ主の鏡だぜ!


………………こいつ本当に主人公?


ちなみに、前話で言っていた8割方戦闘脳(=廃人)になるというのは、彼自身が廃人になる前に指導した2割のトレーナーはマトモなまま、廃人になった後に指導した8割は例外なく廃人街道に片足突っ込んだ、ということです。


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たまにはのんびり出来る時間でも

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ありがとうございます!

6/12、6/17、誤字修正しました。


ハウオリシティ。それは美しい海に面し多くの客が海水浴に訪れるリゾートエリアと、多くの人並みで賑わいを見せるショッピングエリアという2つのエリアを有している、メレメレ島でもっとも発展した街である。

以上、観光案内より抜粋。

 

というわけで、僕たちはトレーナーズスクールに別れを告げてここハウオリシティへと訪れていた。

この街のことはククイ博士が持っていた資料に書かれていた。それが上記の文章だ。最初にこれを読んだ時には、メレメレにある街ってここの他にはリリィタウンしかないため、最大規模と言っても程度が知れていると思っていたが…………率直に言おう。

僕はどうやらアローラ地方を舐めていたようだ。なんだこれ、思っていたのと違いすぎる。立派に観光地として成立しているどころかミナモやカイナよりも発展していないか?これ。

 

まあそんなことはどうでもいい。どうやらこの街にはバトルバイキングという、バトルと食事を一緒くたにした施設があるとのこと。僕はまだアローラ独特の味付けに慣れていないため、バイキングで下手に盛りすぎると食べきれずに残すことが多々ある。だがどうやらその食事処はカントー由来の味付けのものが多いらしく、ゆえに一切の憂いなく向かうことが出来た。

 

で、結果は…………

 

 

 

「っつ…………食べ過ぎたか。バトルは物足りないものが多かったとはいえ、食事が美味いことは評価が出来る。ここは良い場所だ。贔屓するとしよう」

 

 

 

10分という限られた時間の中でどれだけのバトルで勝利し、食事を勝ち取ることができるのか。最短で最速で勝利して多くの料理を得るか、一戦ずつ確実に勝利して結果的に多くの料理を得るか。

個々人の思惑が混ざった面白い場所だ。惜しむべきはやはりトレーナーの層が薄いことか、勝負自体は面白みに欠ける。もっとも、すべての試合を開始早々確一で5秒以内に沈めていた僕を見る店員の目元が引きつっていたため、もしかすると次はもっとレベルの高い相手と戦える場所に行けるかも知れない。

 

結論からすれば、なんか僕の想像していたバイキングと違っていたものの、次に期待できる良いものだったと言えるだろう。

 

 

そして腹ごなしにショッピングモールを散策していると、………………なんというべきか、同類(・・)の匂いを感じてそちらをみる。

すると、向こうもこちらのことを感知していたらしく、視線が会った。

 

典型的なオヤジスタイル(仮)である赤いポロシャツを着た、40代ほどの男性だ。肌色に煌めく頭が目に眩しい。店を出しているらしく、カウンターの奥にいるものの、多くの人で賑わうこのショッピングモールにおいても閑古鳥でも鳴いているかのように人がいない。

 

 

「調子はどうだ?見た感じはサッパリだが」

 

 

ミヅキ達とはポケモンセンター周辺で別れたため、特に急ぎの用事があるわけでもない。暇を持て余していたこともあって、僕はカウンターに備え付けられていた椅子に座り、店主へと話しかける。

 

 

「…………見てわかんだろ?誰一人来やしねぇよ。ったく、この地方の トレーナーは育成力が低くて困る」

 

「それに加えて、育成限界(Lv.100)まで達したポケモンがいるトレーナーも、まさか最初の街のショッピングモールの中に凄い特訓が出来る程の育成力を有するヤツがいるとは思わないだろうしな。経営には苦労しているようで」

 

 

そう、ここは凄い特訓を課すことが出来る店だ。先ほど感じた気配は同類、すなわちトップクラスの育成家の気配だったのだろう。

 

少なくともホウエンにおいては、このような店は決して珍しくはない。ジムがある街には必ず1店舗はあるうえ、バトルフロンティアに至っては各施設にひとつずつ、計7店舗は存在する。ホウエンには育成限界のポケモンが特に珍しくもなくゴロゴロしているうえ、時々野生でも他のトレーナーが逃がしたのだろうLv.100が出現することがある。

 

だが、限界へと到達したトレーナーの全てが必ずしも高水準の育成家であるわけもなく、このような店を利用して才能の底上げをする。割合としてはそんな育成力が足りないトレーナーの方が多いため、ホウエン全体で15店舗はあるはずの店が超過密状態にあるのだ。

凄い特訓のためだけにわざわざ他の地方に行くトレーナーもいると言えば、その過密さがわかるだろうか?

 

 

「ま、金には困っていないんだがな。ホウエンで荒稼ぎした(・・・・・・・・・・)甲斐あって、一生遊んで暮らせるだけの金はある。俺がこんな商売をやっているのは一重に王冠欲しさだ。あの輝きさえあれば、ほかにはなんもいらねえな」

 

 

ホウエン、という言葉に一瞬動揺する。まさかこんなところでこの世界のホウエン地方を知る機会があるとは思いもしなかった。

予想だにしなかったこの機会、より多くのホウエンの情報を手に入れるべく、僕は言葉を紡ぐ。

 

 

「………………へぇ。今のホウエンのレベルはどうだ?あいかわらずの魔境っぷりか?」

 

「お、んな質問するってことはアンタ、同郷だったのか。アローラにはホウエン出身の奴なんてロクに居ねえし、同郷のよしみで仲良くしようや。

んで、ホウエンの現状だったか?わりぃが俺がここに越して着たのは5年ほど前でね、アンタの思いに沿えるかはわかんねえぞ?」

 

「いや、十分だ。…………そうだな、情報料にこれをやろう」

 

 

おもむろにバックから取り出したのは金の王冠だ。滅多なことでは手に入らない、彼等が大歓喜する一品である。

僕も凄い特訓を引き受けることがある関係上、王冠はそこそこ数があるが、そうだとしても金の王冠の数はそう多いわけではない。そして王冠が欲しい気持ちもそれなりにはある。

それでも、そのうち1つを渡したのには理由がある。

 

奴は言った。アローラにはホウエン出身の奴がロクに居ない、と。ならば彼はこの地方で希少なホウエンについての情報を持つ者である。加えて凄い特訓が出来るほどに優れた育成能力を持っているとあらば、繋がりを作る以外の選択肢はない。

 

 

「マジかよ、ホントに良いのか!?返せって言われたって返さねえぞ、これはもう俺のモンだ!!」

 

 

とはいえこれを見るとなんかもうそれはそれは色々大切なものがどこか遠く彼方へと消え失せる気もするんだが。

ハゲオヤジが金の王冠を胸元に抱いて隠す姿を誰が見たいと思う?僕は嫌だぞ、そんなもん。正直言って殴り飛ばしたい。

前記した通りメリットも多いからそんなことはしないが。

 

以降はホウエンについての情報を受け取った後、互いのポケナビに連先絡を登録し、僕はショッピングモールを後にした。

 

 

 

 

…………………ポケナビはダイゴとの会話に使ったのが最後だったため、起動した瞬間にあの伝説の一言が目に入り、イラっとしたのは余談だろう。

 

 

***

 

 

トレーナーズスクールでユウキ達と別れて以降、ククイの表情には影があった。理由はもちろん、彼の話によるものだ。

 

『廃人』ーーーーその存在を、ククイは聞いたことがなかった。必然的に、それはユウキの本来の世界の人間であることがわかる。

それを考慮すると、彼や、そして彼のいたホウエン地方がどうしてあれだけの魔境っぷりを誇っていたのかが理解できる気がした。

 

ーーーーーーそう、ホウエン地方の歴史とは即ち、廃人との対立の歴史なのだ。

相手が強いからこそ自分が強くなる必要があり、対応して相手も強くなる。その際限なきイタチごっこによって、ホウエン地方は彼のような最強格のトレーナーを生み出す魔境と成り果てたのだ。

 

そんな環境でチャンピオンとして君臨するのがどれだけ厳しいものか、ククイには想像さえつかない。アローラ地方にはポケモンリーグが存在しないために多くの住人は知らないが、今まさにポケモンリーグを作ろうとしているククイだけは知っている。チャンピオンとは単に地方の頂点であるだけではなく、多くの責任を背負わなければならない立場であるということを。

現にユウキは言った。廃人によって壊滅の憂き目にあった環境を自分は見たことがある、と。それこそが動かぬ証拠である。ユウキはチャンピオンとしての仕事で廃人を追いかけ、その過程で壊れた環境を見てしまったのだろう。未だ少年といっても良いような年齢でそんな光景を見てしまった苦悩は、察するに余りある。

 

そして、彼のバトルへの欲求も、最初は素だとばかり思っていたが、おそらくそれも廃人への対抗心、強くならなければならないという、脅迫感にも似た強い感情が所以だ。ホウエン地方という魔境がそうさせてしまった。でなければ異世界に来たと理解して真っ先にポケモンバトルの違いを確認するような歪んだ人格を形成するはずがない。

 

だからこその、ゼンリョク祭での自分との勝負。ハッキリとはわからなかったものの、ルガルガンを倒して以降、ユウキからは誰か(・・)に対する強い敵愾心が伝わるとともに、意図的に手加減をされたのを理解した。あの時は全力を発揮できない自分への苛立ちで周囲を見れていなかったが、冷静になるにつれ、その誰かとは一体誰なのかを疑問に思っていたがーーいまなら想像できる。

 

この世界に来て1ヶ月の間ひたすら貪欲に情報を集めていた時、ユウキはこう口にした。

「僕が今まで負けた相手は5人に満たない」と。

 

その相手のうち、少なくとも1人は廃人だ。1ヶ月と少しの付き合いではあるが、彼が凄まじく負けず嫌いなのは容易く想像がつく。1度その廃人に敗れたユウキはその負けず嫌いさを遺憾なく発揮し、トレーナーズスクールの生徒にもわかりやすい説明が出来るほどに廃人について研究したのだろう。

そしてその相手に勝つためにひたすら努力を重ね、やがてチャンピオンにまで手が届くほどになったものの、強くなろうとする姿勢は止められず、今もまだ勝負へと囚われ続けている、と。

 

 

「………………………やっぱりホウエンは魔境だな」

 

 

だから好きになれない、と愚痴を零し、ククイは電話をかけた。

 

 

***

 

 

「…………………なんか壮大な勘違いをされた気がする」

 

 

ハウオリシティの港にて海の模様を眺めていた僕は、ふと感じた嫌な予感に上を見上げる。前にこんな予感を感じたのはこの世界に来る直前か…………また隕石が落ちてくるようなことはないよな?

 

上を見上げ、空模様に変化がないことに安堵する。宇宙服がズタボロになった以上、伝手がないこの世界では宇宙に飛ぶことは出来ないため、再び隕石が降って来たらこの世界の住人に任せざるを得ない。元々僕は異世界の出身であるために協力する義務はないのだが…………だからといって見ているばかりなのも歯痒い。世界が滅んで未だ見ぬ強いトレーナーも死んでしまっては困る

 

まあ、どうせそれはもしもの話だ。今起きていないならそれで良いし、楽しい勝負ができるならそれ以外いらない。

 

 

それにしても…………………なんだ?この声。

 

 

たま(カイ)には(オー)こん(ガと)なの(バト)もい(ルし)いだ(たい)ろう(なあ)と思いながら海を見つめていると、無駄に大きく、耳障りな声が辺りに響く。

 

 

「ヨヨヨー!挨拶なしが俺たち《スカル団》の挨拶!」

 

「キャプテンのポケモン俺たちにくれないッスカ?」

 

 

……………チーマー、だろうか。

正直あんなもの着てて恥ずかしくないのかと思うほどにダサいタンクトップ姿の二人組を見てそう思う。ジャージはファッションだ、異論は認めん。

この地方のチーマーは随分と物騒なようだが、最も見た感じロクな力量をもっていない雑魚だ。そんな雑魚にポケモンを奪われるのを許すようなトレーナーならば将来的にも一切の期待を持てないため、放置するのが安牌だろう。加えて、絡まれている2人のうち1人はミヅキだ。未だ発展途上とはいえ、今の彼女でもあんな雑魚に苦戦するなどあり得ないだろう。

 

むしろ僕が下手に首を突っ込んで勝負を挑まれてしまうと、攻撃を加減しきれずに圧倒的なレベル差で相手のポケモンを殺してしまう未来が見える。そういう時のために、そしてポケモン協会からテレビ映えするポケモンを持っておけと言われていたために、一応強くはないマスコットポケモンがいるにはいるが…………この1ヶ月間この世界と向こうの世界の育成を比較しようと育てていたところ、ついうっかり育成限界(Lv.100)へと到達させた上、凄い特訓までやってしまった。おかげで上限の違いなどにも気づけたが、まあそれはそれとして。

基礎ポイントは当時からしっかり振っていたため、種族値が低くとも十分戦闘に耐えうるポケモンである。マスコットって一体………………。

 

それにしても、絡まれているミヅキではない方のもう1人、浅黒い肌でピンクブロンドの少年を見る。

 

あのチーマーの言葉が確かなら、彼はキャプテンらしい。言われてみると確かに一般トレーナーよりかは強そうではあるが、誤差の範疇だ。ベテラントレーナー程度の強さしか感じられない。年齢を考慮すると優秀な部類に入るだろうが…………才能の塊(ミヅキ)の隣にいるのが不幸だったな。

 

なかば結末が見えている勝負でも、ここで海をみてあるはずもない可能性(カイオーガ来ないかな)にかけるよりもずっと充実した時間になりそうだ。

そう思った僕は姿勢を変えてバックから先ほど購入したビールとマラサダを取り出し、野次馬根性全開で試合を見るのだった。

 

 

 

 

 




キャプテンの実力って実際問題高いんでしょうか。
正直なところ、私はキャプテンよりも各道路の全トレーナーを倒してから相手してくれるトレーナーの方が手強いと感じたのですが。道具使ってきますし、タイプ統一されてないですし。

そして加えられた勘違い要素。ざっくばらんなプロットに従いながら、それ以外は完全にノリで書き進めているので、色々が闇鍋然とした感じに…………。


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いまのはゼンリョクではない……手加減だ!

投稿が遅れて申し訳ありません


ユウキさん達と別れてから、私はハウオリシティの港へと足を運んでいた。

私としては早く次の街へと進みたかったんだけど、ケンタロスがまた道路を塞いでいて通り抜けることが出来なくて。

 

なのでそれ以降はのんびりと街を巡っている。一旦別れて各自で行動している手前、他の人を誘うのも妙に気まずい。それに加え、必要そうなものは買ったし昼食をとろうとお店に入ってみたところ、ユウキさんがポケモンバトルで他のお客さんを蹂躙していたのを見てすぐさま回れ右。あんな人と関わりを持ってるって知られて私も戦々恐々と見られたら羞恥心が天元突破する。

てかユウキさん、なにやってるんですか…………。

 

という訳で、道端でたまたま会ったハウに勧められてマラサダを購入。店内はとても混んでいたので持ち帰りにしてもらって、今潮風を浴びながら食べているのだ。勿論、ポケモンたちも一緒にね。

 

 

「どう、美味しい?」

 

 

マラサダを食べているモクロー、ケララッパ、コイルに話しかける。彼らの好みがわからなかったからとりあえず甘いマラサダを買ったんだけど、ひとまず喜んでくれているようで何よりだ。

 

面子が増えていたり、進化しているのはトレーナーズスクールでの実践練習の成果だ。あの周辺にはポケモンの出る草むらが多く存在しているので、野生のポケモンとバトルを繰り広げたり、スクール通いのトレーナーと勝負を繰り広げたりしたところ、ツツケラはケララッパへと進化を遂げ、コイルをゲットすることが出来た。モクローも進化まではあとちょっとかな。かなりのレベルアップができたと思う。

 

そんな風に時間を過ごしていると、誰かが私に話しかけてきた。

 

 

「その特徴的な真顔…………ひょっとして、キミはミヅキさんですか?」

 

「…………そうですけど、あなたは?」

 

 

真顔ってなにさ真顔って。

自覚はしてるし治す努力だってしてるのに、私の表情筋はまるで凍ってしまったかのように動かない。生まれつきのものだ。私はこれが原因で幼い時から周囲に気味悪がられてたし、お母さんがこの地方に引っ越した理由の一つにもそれがあるんじゃないかな。おおらかな人が多いアローラ地方なら、そんな気にする人もいないんじゃないかって。直接お母さんが言ってきたりはしてないけど、たぶんそういう事なんじゃないかなって思う。てかそうであって欲しい。リージョンフォルムのニャースに会いたいという理由だけで引っ越すなら、これからも頻繁に引っ越すことになりかねないし。

 

閑話休題(それはともかく)

 

話しかけてきたのは浅黒い肌にピンクブロンドの男の人。温和そうな顔つきで、危険そうな雰囲気は感じないからひとまず安心。でも、初対面で人の地雷を全力で踏み抜いてきたという底知れなさや、どうして私の名前を知っているのかという疑問はある。知り合いの旧ロケット団員だって「一見温和そうな奴でもヤバい奴はヤバい。あと無表情の奴はマジで狂ってる。赤かったらその3倍はキ〇ガイ…………真顔って無表情の仲間なのか?」って言ってたし、過信は禁物かな。

 

 

「失礼。ボクはこの島のキャプテンをしている、イリマという者です」

 

「あっ、キャプテンさんだったんですか」

 

 

だけど、その一言に疑いは一気に払拭された。

ククイ博士から聞いたことがある。キャプテンとは20歳以下でありながらも試練の管理者――つまり、最低でも地域の主とされる強力なポケモンを育て上げるだけの実力を有する優秀なトレーナーだ。

でも、そんなトレーナーがどうしてわざわざこんなところに?

私の疑問が届いたのか、イリマさんは柔らかな微笑みを浮かべて話す。

 

 

「ボクの家はこの近くにあるので、海を見たくなった時はよくここに来るんです。とはいえ頻繁って程でもないので、ここでキミに会えたのはラッキーでした」

 

「ラッキー、ですか?」

 

「ええ。カプ・コケコに会ったというだけでなく、バトルの腕もククイ博士やハラさんが絶賛していたトレーナーなので、試練の前に少し話してみたかったんです」

 

 

そんなことを言われても、困惑の方が大きい。カプ・コケコには助けてもらっただけだし、バトルにしたって直後にそれ以上のインパクトがあったから自分ではあまり理解出来てないし。

 

 

「そんなこと言われても――――」

 

「ヨヨヨー!挨拶なしが俺たち《スカル団》の挨拶!」

 

「キャプテンのポケモン俺たちにくれないッスカ?」

 

 

戸惑いの声をあげようとするも、それを掻き消す大声が響き渡る。

その方向を見てみると、黒いタンクトップ姿の男性2人組がなんか変な動きをしながらこちらへと向かってくる。

 

…………この人達、誰?

 

困惑の表情でイリマさんを見ると、彼はあの2人組を横目でチラリと伺って、

 

 

「そうですか?ボクには凄い潜在能力を持っているように見えますけど。キミはきっと、この島巡りで大きなものを手に入れることが出来ると思いますよ」

 

 

一切の躊躇いなくシカトして、そう私へと話しかけた。

これにたまったものじゃないのは例の2人組だ。先ほどまでの特徴的(ヘン)な動きをかなぐり捨てて、慌てた様子でイリマさんに駆け寄った。

 

 

「ちょ、ちょっとお前、スルーするとはどういうことだ!?」

 

「シカトっスカ!?俺らに関わるほどの価値もないとか言ってるんじゃないでスカ!?」

 

「そうそう、2番道路にはボクの試練がありまして…………」

 

「そ、その…………そちらの人たちはお知り合いですか?」

 

 

それでも平然とシカトするイリマさん。これはちょっと流石にあの2人組が哀れに思えて来たので、疑問を投げかける。スカル団、って言ったっけ?

 

「あぁん?ユー、俺達の事が知らないってのか!?」

 

「うん。だから教えて欲しいんだけど…………」

 

「それはボクから説明しますね。この地方の恥を晒してしまうようで申し訳ないのですが、彼らはスカル団というゴロツキの集まりです。この島のどこにでもいて、住民の頭を悩ませている面倒な手合いですね」

 

 

…………もしかしてイリマさんって少し黒かったりするのかな?意気揚々と自分たちの説明をしようとしたところをいい感じにジャマする彼の姿をみてふと思う。

彼らはスカル団、というらしい。うん、これからは2人組をスカル団員ABと呼ぼう。ともかくスカル団とはこの地方密着型で平均年齢が大幅に引き下がった超ダウンスケールなロケット団みたいなものらしい。イリマさんに相手してもらえてなかったり、島の恥部扱いだったりするあたり、そこまで深刻なものでもないっぽい。精々が黒歴史扱いみたいな?

そう考えると、彼らに向ける視線は自然と生暖かいものになった。

 

 

「や、やめろ!そんな目で俺らをみるな!!」

 

「何スカその『ああこいつら明日には出荷されるんだよな。かわいそうだけど、これも運命なのよね』みたいな視線は!」

 

「そ、そこまで酷いことは思ってないよ!精々が『うわ頭可哀想。近い将来黒歴史扱いされそう』くらいです!」

 

「「グフォッ!!」」

 

「えっ」

 

 

思っていたことをそのままに伝えると、スカル団ABは精神にだけでなく肉体的にもダメージを受けたかのように腹部を抑えて蹲る。私を見るイリマさんの視線も微妙に引きつっていた。何故に?

 

 

「…………こうなりゃポケモン勝負だ!俺らが勝てばお前らのポケモンいただくぜ!」

 

「やるスカやらないスカどっちっスカ!?」

 

「…………しかたないですね。ミヅキさん、マルチバトルでどうですか?」

 

「えっ、私もなんですか?…………わかりました、それでお願いします」

 

 

そして私は一旦ポケモンをボールに戻し――――

 

 

***

 

 

…………随分と面白みのないバトルだった。先ほどまで見ていた勝負にはそんな感想しか思い浮かばない。空になったビールの缶を苛立ち紛れに握り潰し、バックの中へと放り込む。バックに入った荷物はデータとして保存されるため、液漏れや混ぜるな危険などを気にしなくていいのは非常に便利だ。

 

ケララッパ&デカグースvsズバット&スリープ。

 

パッと見た瞬間にわかるだろう、この試合の行方が。

結論から言おう。スカル団したっぱのポケモンは、どちらも一撃であっさり倒れて敗北した。

…………雑魚だ雑魚だと思っていたが、まさか抵抗さえ出来ずに確一されるほどだとは思わなかった。ツツケラをケララッパへと進化させている以上、ミヅキの育成レベルはそれなりに高いレベルにあると知れたのは収穫ではあるが――――いや、正直ないわー。

僕が知りたかったのはいかに適切な指示を出せるか、ポケモンとの信頼関係はどうか、という点であり、性格的に(・・・・)どうしても(・・・・・)育成型には(・・・・・)なれない(・・・・)彼女の育成力はさほど重要視していない。

そう、ミヅキは育成型のトレーナーにはなれない。単純なレベル上げ程度なら充分だが、基礎ポイント用の虐殺には躊躇いが生まれるだろう。彼女は優しすぎる。加えて僕の講義が虐殺を過敏にさせてしまった。もはや彼女が育成型の極みへと至る可能性は皆無だろう。もう少しドライだったなら、僕ももっと突っ込んだ説明をしていたのに。

 

ともかく、開幕速攻確一で決めたためにロクなダメージを受けていなかったとはいえ、一応キャプテン君(イリマ、だったか?)はミヅキのポケモンを回復させる…………なんでそこでかいふくのくすり?おいしいみずで充分だろ。ミヅキもポカンとした顔で見てるし、これだから実家が金持ちのトレーナーは常識がなくて金蔓扱いされるんだ。

 

僕なんて序盤はおいしいみずを売っている自販機に札突っ込んでボタン連打してたぞ。親父(センリ)とのジム戦まではミックスオレを買ってたし。

まあ、チャンピオンになってからはだいぶ楽になったんだが。片っ端からバトルを挑み、社交パーティで連勝し、四天王にカツアゲを仕掛けた結果、所持金は億単位にまで登っている。幸いこの世界でも金は変わりないようで、ひとまずの行動を起こすには充分な軍資金となっている。

 

話がそれた。

ポケモンを回復させ終えたイリマはミヅキにポケモン勝負をしようと誘い、ミヅキはそれを了承したのを見て、ひとまず安堵する。将来的にはミヅキの方が圧倒的に格上になるとはいえ、現在の力量はまだイリマの方が上だ。加えて彼はどうやら手加減をするらしく、この辺りのレベルに合わせたポケモンを使うと言っている。

是非とも後に僕と全力でお手合わせ願いたい所だが――――流石に自重する。一応僕も試練を受ける身だ。管理者と関わる機会はまだあるだろうし、その時までに取っておく。今はミヅキの勝負が優先だ。

 

決して何も見落とすことのないように意識をフィールド上へと集中させ、ゾーンの1歩手前まで入り込む。

僕以外の全てが遅い世界で、僕はボールが投げられるのを見た。

 

 

***

 

 

試合形式は2vs2の勝ち抜き戦。特に珍しくもないルールなのに、イリマさんが自然体で醸し出すプレッシャーにボールを持つ腕が震える。

年齢的には大きな違いはないはずなのに、否が応でも感じてしまう圧倒的な格の違い。この周辺のレベルに合わせたポケモンを使うといっていた以上レベル的には私の方が上ではあるけど、決して油断は出来ない。迂闊に仕掛けてしまえば返しの刃に容易く倒されてしまうだろう。

 

 

――――――これが試練を任させたトレーナーの実力なんだ。

 

 

対決してみてわかるその事実を前に感情が高ぶる。ここでニヤリと笑えていればベテランのトレーナーっぽいんだろうけど、残念ながら私の硬直した表情筋は全くもって仕事をしてくれない。

そんなことを考えられる辺り、だいぶ緊張は解れてきたんだろう。それに、プレッシャーを受けるのはこれが始めてではない。それに、そもそもあの時のユウキさんの闘気と比べたらと考えるとだいぶ楽なように思える。

 

ゆっくりと息を吸い、そして吐き出す。そして胸に手を当てると先程までの激しい鼓動は最早なく、いつも通りの心音が感じ取れた。

――――うん、大丈夫。

そして私はボールを手に取り――――

 

 

「頑張れ、コイル!」

 

「ドーブル、行ってください!」

 

 

――――フィールドへと投げ入れた。

 

 

こちらのコイルに対し、イリマさんが繰り出したのはドーブル。

スケッチという技を使うことで本来覚えられない様々な技を覚えられる反面、全ステータスが極めて低いことから使い手を選ぶポケモンだ。実力が高いトレーナーが扱うと、途端に深刻な脅威と化す。

 

 

「でんきショック!!」

 

キノコのほうし(・・・・・・・)です!」

 

 

そうこのように、って…………え?

今なんか、手加減にはまったくもって相応しくない殺意溢れるガチな技の名前が聞こえたような気がするんだけど。

 

ドーブルは前方から襲いか来るでんきショックをステータスに依存しない技術によって巧みに回避し、コイルの懐へと入り込む。やはり手加減しているとはいえ年季の違いか、まともなダメージが入らない。そしてドーブルはまるで絵でも描くかのように筆を操り、コイルのすぐ近くにきのこのほうしを出現させる。

直後にドーブルは持っていた白いハーブを噛みちぎる。こころなしか動きにキレがうまれ、精度が高くなったように感じる。…………もしかして特性はムラっけだったりする?命中率が二段階上昇したとか。

 

 

「つるぎのまいです!」

 

 

コイルが眠っているうちにと、イリマさんはドーブルに積み技を指示する。技の殺意高すぎない?どうせこれからバトン使うんでしょ?薄々察しはついている。今すぐコイルを交換するべきか悩んだけれど、その決断を下すのが遅すぎた。たとえいま交換しても、そのポケモンがイリマさんの2匹目のポケモンに即座に狩られては状態異常のコイルだけが残るという意味のない結果になってしまう。

そして再びドーブルに起きる変化。…………もしかして特防が上昇して特攻が下がった?

 

 

「起きて、コイル!!」

 

「バトンタッチ!」

 

 

案の定イリマさんはバトンをし、次のポケモン――ヤングースへと入れ替える。攻撃が2段階上昇している以上、たとえレベルが上で一致攻撃に耐性をもつタイプでも確一されかねない。

 

 

「みがわりです!」

 

 

そしてヤングースの攻撃が――――来ない?ああ、眠っているうちに予備の盾を作ろうとでもしたのかな。

でも体力の1/4を削って作ったみがわりは、だけどようやく目覚めたコイルのでんきショックによって消滅する。アナライズ(・・・・・)によって強化された一撃は並大抵の防御なら打ち抜ける。そしてコイルの防御力は鋼タイプの耐性も相まって優秀だ。たとえ攻撃が2段階上昇した体当たりでも、ギリギリ耐え抜いた所を狙い撃つ!

 

………………後から振り返ってみると、この時私は事前の警戒の意味もなく、油断してしまっていたんだろう。ポケモンバトルは机上の空論では成立しない、それこそ伏せられたカードが表になるだけで結果が変わってしまうものだという意識が足りていなかった。

 

 

とっておき(・・・・・)

…………一応伝えて起きますが、ボクのヤングースの特性はてきおうりょく(・・・・・・・)ですよ」

 

「――――ちょっ!?」

 

 

その油断は、暴力的な殺意を持って牙を向けた。

そのポケモンの覚えている全ての技を使わない限り繰り出せない、ノーマルタイプ有数の威力を誇る技がコイルへと直撃する。攻撃ランク2段階上昇で、しかもてきおうりょく(一致技2倍)。たいあたりならばともかく、こんな高火力を耐え切れるはずもなく、コイルは瀕死の状態へと陥った。

だけどヤングースは、デメリットのない技を放ったのになぜかダメージを受けたように見える。もしかして、いのちのたまを持たせてる?

ならーーーー希望はある。

 

 

「ッ――――お願い、モクロー」

 

 

次に繰り出すポケモンはモクローだ。耐性を持っているわけでもないし、防御力が高いわけでもない。加えて高火力なわけでもないけれど、今必要なのはコイルに比べると優っている1つ。

 

 

「モクロー、はっぱカッター!」

 

 

若干レベルが高いです。具体的にはLv.13に対してLv.16。

素早さには積まれていない上、種族としての素早さはヤングースとモクローだと同じくらいなので、あえて後攻を取ろうとしない限りレベル差で先に攻撃できる。

 

そしてみがわりやいのちのたまで体力を削り続けたヤングースははっぱカッターを耐えきれず、最大の脅威は案外あっさりと地に伏した。

…………この光景をみると、ユウキさんは否定していたけど、やっぱりレベルをあげて物理で殴るのが一番安定するんじゃないかなーなんてことを思ってしまう。

 

 

「…………結末は見えましたか。ですがボクもトレーナーですので、最後まで足掻かせてもらいます。

――――ドーブル、頼みました」

 

 

そう言ってイリマさんはドーブルを繰り出した。

キノコのほうしは草タイプであるモクローには通じないうえ、バトンが繋がる控えのポケモンもいない。こちらに有利な状況ではあるけれど、だからといって油断は出来ない。ヤングースの一件で思い知った。だから加減なんてせず、最後までフルスロットルで行かないければならない。

 

 

「しんそくです!」

 

 

神速という名にふさわしい圧倒的な速度で接近するドーブルに、モクローはマトモな反応を返さない。防御姿勢をとることさえ出来ずに攻撃されて吹き飛ばされて――――違う、自分から後ろに飛んだんだ。ダメージをできるだけ抑えたうえ、飛行タイプという自分の強みを生かして空中で姿勢を取り戻す。

 

 

 

「はっぱカッター!!」

 

 

そして返しのはっぱカッターがドーブルへと命中し、私たちの勝利が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




SMをやっていた時、ストーリー上仕方ないとはいえ防衛戦で戦うキャプテンと街とかで戦うキャプテンのレベル差に驚いた記憶があります。イリマなんて約3倍のレベル差つけられてますし。
というわけで、チャンピオン防衛戦で戦わない系キャプテンを多少強化します。目安としてはポニの険路あたりのトレーナーくらい。

イリマの手持ち(手加減)
ドーブル/ムラっけ
*しろいハーブ
・キノコのほうし
・つるぎのまい
・バトンタッチ
・しんそく

ヤングース/てきおうりょく
*いのちのたま
・みがわり
・とっておき

ゴーストタイプに完封されそうですが、実の所イリマ君はマラサダ食べているミヅキの手持ちを見てポケモンを決めたので、もし彼女にゴーストタイプがいれば違ったパーティーを使います。
そのうえあくまで手加減なので構成も少し甘いです。え、夢特性?タマゴ技?なんのことでしょう(すっとぼけ)


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やっぱ主人公って頭おかしい

6/17、誤字修正しました


ミヅキとイリマの勝負を見届けてから気付かれないようその場を去った僕は、その後何食わぬ顔をしてミヅキと合流し、漸く行けるようになった2番道路へと足を踏み入れていた。

ククイ博士曰く、ハウはメレメレ島に慣れているから、この島では出来るだけミヅキのサポートをして欲しいとのこと。そっちの方が僕の目的にも適しているので、一切の躊躇いなく引き受けた。「君に初心を思い出させるためさ」とか言ってたが、ならばここら辺の生態系壊さなきゃいけないんだが。ククイ博士は僕に何をさせたいんだ?

 

 

「ポケモンバトルではトレーナーの一瞬の躊躇いが勝敗を分けることがある。囲碁や将棋とは異なり対戦相手は待ってくれず、ポケモン交代の時でも長考するうちに積んでくるヤツもいる。だからトレーナーは拙速を尊ばなければならない。だからといってロクに考えないなど論外だ。

勝負において必要なのは、自らにとって何が脅威になるのかという理解と、それをされた時にどういった行動をするのかという対処法。突き詰めればこの2つに落ち着く。

これはあくまで例だが、相手に初っ端状態異常にさせられて起点にされるなど論外だ。相手のパターンに嵌められたとすれば即座に打開策を練らなければならない」

 

「ぐはぁっ!

…………ユウキさん、もしかしてあれ見てました?」

 

 

さて、なんのことやら。

 

移動中の時間を無駄にするという選択肢はない。ただでさえ足止めを食らったために想定よりも時間がかかっているのだ。詰め込めるうちにできるだけ詰め込まなければならない。

 

今回説明するのはトレーナーとして必要な心得だ。今のところの予想だが、ミヅキは戦闘型のトレーナーだ。相手が強いポケモンだろうと場や技を使って勝利する巨人殺し(ジャイアントキリング)。ならばこそ、トレーナーには上手く活用するための知識が必須なのだ。ポケモンを活用出来ない戦闘型トレーナーなどコイキングにも劣る(いない方がマシだ)

 

 

「ほう、早速心当たりがあるようだな?なら話は早い。

実力の高いトレーナーの先鋒は基本的に自分の攻撃の起点にでき、かつ相手の起点を潰せるポケモンになる。こいつらをどうにか処理出来なければ敗北は確実だと言っていい。天候操作、壁貼り、トリル、バトンと例を挙げればキリがないが、打開策は明確に存在する。

最悪なのは戸惑って何も出来ずに起点にされることだ。野生ならともかく、人の所持するポケモンは自分からの攻撃が出来ない。人に飼われているうちに本能が衰えたからな。指示を出さない限り行動できない以上、トレーナーの隙はポケモンの隙になる」

 

「ぐっはぁっ!

って絶対見てたでしょ私のバトル!なんかあのため息をついて離れていく人誰かに似てるなぁと思ってたけど、あれ間違いなくユウキさんですよね!?」

 

「さあ、誰のことだろう?少なくとも僕は紙耐久ポケに眠らされて交代もせずに棒立ちしてたら積まれまくった挙句バトン繋がれて結局レベルの暴力でなんとかしたトレーナーなんて知らないな」

 

「ごふっ………………!」

 

 

へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

先程からの教育的指導(言葉の暴力)を受け続け、最後に特大のダメージを食らって瀕死へと陥ったミヅキを見下す。そもそも物理的なダメージは食らってないのだが支障はないだろう。

僕は先程のバトルを思い返す。

 

どれだけ才能があっても、やはり初心者は初心者でしかなかった。全体的に経験が足りない(・・・・・・・)。だからボサッとして1アクション(ターン)まるっと余裕を与えるんだ。ポケモン勝負におけるこの猶予はあまりにも大きすぎる。

 

とはいえ見つかったのは課題点だけではない。課題点の方が圧倒的に多くはあるものの、光るものの存在を確認出来た。

 

…………ミヅキのヤツ、ステータスランクの変化を理解している。

 

そもそもトレーナーはポケモンのステータスランク変化を厳密には把握できない。ゲームではあるまいに、明確な描写がされるはずもないからだ。だから大多数のトレーナーは変化技の効果を知らず、存在意義を認識出来ずにフルアタにする。

これを認識出来るようになるのは最低でもエリートトレーナー(・・・・・・・・・)になってからだ。その頃になると手持ちのポケモンへの理解も深まり、普段とは違うちょっとした変化に気付けるようになる。たとえ対戦相手のポケモンでも、それが見慣れた種族ならばランク変化も読み取れる。トレーナー同士のバトルなら出された指示から変化を推察することも可能だろう。だが――――

 

 

見慣れない種族の特性による、それも命中率や特防などというクッソわかりにくい箇所の変化を見破れるのは極々1部――それこそ四天王(・・・)クラスでもないかぎり不可能と言っても過言ではない。

ミヅキはなんかそんな感じがしたからと言っていたが、それはつまり、直感的にそう思って動きを見るとそれっぽかったからそうだと結論付けたという事だ。それだけではなく、能力変化から逆算して相手の特性を見破るなど最早人の領域ではなく――――ある男の姿が連想される。

 

 

曰く、最強。

曰く、伝説。

曰く、原点にして頂点。

 

その名は、リビングレジェンド(・・・・・・・・・)のレッド。

 

 

優秀で才能があると思っていたが、まさかレッドの領域が見えていると思うわけがないだろう。カントーか、カントーが突然変異個体を量産しようとしてるのか!?

判明した事実に軽く戦慄しつつ、ならばもっと詰め込んでも問題はないなと結論付けて、僕は直ぐに立ち直ってアブリーを追いかけているミヅキを見るのだった。

 

 

***

 

 

「うぅ…………頭が、頭がぁっ!!」

 

 

ユウキさんがスパルタ過ぎる。あの勝負は自分でも反省してるんだからもうそれでいいじゃないか。「素質はあるから2度と同じミスしないように詰め込むか」なんて人間の行いじゃないよ絶対。鬼畜!外道!ユウキさん!!

 

 

「中二臭いぞ。右腕がぁ!ではないぶんまだマシではあるが。そんな年齢じゃないだろう?」

 

「中二でいいもん。実年齢よりも大人っぽいし」

 

「あ、なるほどコイツ理解してないな」

 

 

?よくわからない。

私は12歳だから、中学2年生はむしろ歳上扱いされてる気分になるんだけど。

疑問の眼差しを向けると、ユウキさんは何故か狼狽するかのように1歩後ろへと下がった。

 

 

「ああ、いい。わかってなくとも問題はない。だからそんな純真無垢な瞳を僕に向けるな。頼むから」

 

 

珍しい。さっきまでは実践でしか身につかないもの以外は全部理解出来るまで叩き込まれていたのに。わからなくても問題はないなんて言われると逆に興味が湧いてくる。もしかして、これも実践を経験することで――――

「やめろ、今すぐやめろ。もし実践してみようなんて思うなら、僕は全力でお前を叩き潰さなければならない」

――――唐突な殺気に先程までの思考を無理矢理停止させる。

セルフで地雷撒き散らすとか正直勘弁して欲しいなぁって思うのですよユウキさん。

 

 

「ハッ、元はと言えばお前があんな醜態晒すのが悪い」

 

「ここにきてまさかの開き直り!?最早見てたことを隠す素振りすらないし!!」

 

 

確かに私が色々やらかしたのは事実ですけど、それ以降の展開は大体全部ユウキさんが主導権握ってたじゃないですか!それにあのバトルにしたって初心者に求めるレベル高すぎますって!

 

 

「頑張れとは言わない。出来ろ」

 

「しかも命令形!?」

 

 

理不尽だ…………。

ぐでぇっと地面に倒れ込み、ユウキさんを仰ぎみる。…………こうして見ると、案外子供っぽい顔立ちしてるんだなぁって思う。それもそうだよね、ユウキさんは私とそんなに歳の違いもない、まだ子供と言ってもいい年齢だ。それなのに、あんなにも凄い実力を持っている。積んだ努力は計り知れない。

それはイリマさんだって同じだ。あの時のバトル、if(もしも)の話は禁止と言われていたけれど、やはり考えてしまう。もしムラっけで上昇していなのが命中率でも特防でもなく、素早さだったとしたら。私は間違いなく敗北していただろう。レベルが圧倒的に劣る相手に、だ。

それがポケモンに上手な指示を出せるトレーナーの領域だってなら、私もまだまだだなって思う。

 

これから頑張らないと、と決意して自分の世界から戻って来ると、痛む頭を抑えるように手を当てたユウキさんとバッチリ目があった。ユウキさんはやっと戻ってきたとばかりに重厚な溜息を吐きながら、私へと告げた。

 

 

「スカートなら姿勢に気をつけろ。もしくは下に短パンでも履いておけ」

 

「?……………………………あっ」

 

 

絶叫が2番道路へと響き渡った。

 

 

***

 

 

一体どうしてこうなった?

たった今起きた急展開に目を瞬かせながら疑問を投じる。

 

 

「試合形式は1vs2のマルチバトル。僕のポケモンは1体で充分だ」

 

「え、ちょっ…………ユウキさん!?」

 

「そちらは2人のままで構わない。すべての道具の使用も認めよう。僕は持たせた道具以外は使わない」

 

「な、なあアンタ、本当に助けにきてくれたんだよな?そんなルールで大丈夫なのか?」

 

「これはターン制バトルではない。そしてオープンレベルだ」

 

「だ、だからって何が出来るんだ!?」

「そ、そっちから倒されに来てくれるなんて無謀ッスね!ポケモンも1匹しか出さないなんて、よよ余裕のつもりッスカ!?」

 

「それではバトルを始めよう。

誹謗と策略と智謀の限りを尽くし、どうにかまともな勝負を成立させてみせろ。できないのなら直ちに死ね。自分がなんら関わりを持っていない矮小な命を不誠実にも奪おうとした罪、その身で購ってもらう」

 

 

――――逃げて!

スカル団の人の 超逃げて!!

 

どうしてこうなった!?

辺り1面満遍なく包まれているせいで漠然としか感じられない膨大な殺意。向けられているのは私ではないはずなのに、余波だけで震える体を両腕で抱きしめて、私は過去を振り返る(現実逃避する)

 

 

***

 

 

きっかけは、私たちの傍に来た1匹のデリバードだった。

 

 

「あれ、このデリバード……なんか、私達を誘ってませんか?」

 

「…………みたいだな。近くにはきのみ農園がある。このデリバードもそこから来たみたいだし、行くだけ行ってみよう。つきかけてるきのみの補充もしたいしな」

 

「どう考えても最後の一言が本音な予感。それよりもどうしてきのみ農園から来たとわかるんですか?」

 

「言ってろ。

このデリバードからは本来自然には共存しない複数種類のきのみの匂いがするんだ。それもだいぶ古くから染み付いたもので、体臭と馴染んでる。だから人に……それもきのみ農家に飼われているポケモンだとわかる。この辺りには1件しかないから確定だ」

 

「え、どうしてそんな匂いに気付けるんですか?」

 

「トレーナーは五感が優れていないとやっていけないんだ。僕は初めからそちら側だからよくわからないが、曰く一般人と一流のトレーナーは感じている世界が違うらしい。やたら物事に敏感になって普通では(・・・・)気付けない(・・・・・)ことに(・・・)気付ける(・・・・)んだ。まあ、相手の力量によっては全くわからないこともあるがな」

 

「………………………トレーナーって、一体何なんだろう」

 

「トレーナーはトレーナーだ。ポケモンがいないとなにも出来ない木偶の坊に過ぎん」

 

「アッハイ」

 

 

あまりに常識の埒外なことをぶっちゃけ過ぎるユウキさんのトークにドン引きしながらも、最早慣れたものなので足取りは緩めずに歩き続ける。この島巡り序盤からトレーナーとしての価値観が順調に壊れてきたけれど、それも島巡りの目的の一つなんだろうなと言うことで納得する。ハウも今頃他のアドバイザーに詰め込まれているんだろうか?

 

 

「それは知らん。とまあこのように、大体の感情も察したり出来るな。特化した奴は人間の感情を完全に把握したり、ポケモンと会話したりできる。知り合いに幼い頃からポケモンと話せた電波がいるんだが、まあ置いておこう」

 

 

なるほどなるほど、と頷いてそれを頭の中で二転三転。ふと思い浮かんだのは当然の疑問。必ず聞かなければならないそれを表出させる。

 

 

「え、なら私下手な思考出来なくないですか!?」

 

「大多数は多少察せるって程度だし、それに僕は人よりもポケモンの感情の方が察しやすい。育成型(ブリーダー)だしな。極端に心配する必要はないさ。お前の感情がわかるのは単純にわかりやすいからだ。なんで真顔なのにそんな感情を出せるんだ?」

 

「そんなの私が知りたいよ!!」

 

 

つい口調が荒くなってしまうも、それを気にするつもりはない。なんで私が真顔なのに感情を出せるかって?私が知りたいよそんなこと(泣)

 

ともかくそんなこんなを繰り広げ、ついにきのみ農園へとたどり着いた私達の耳に聞こえる声。

聞き覚えがある。この周囲の迷惑も考えず辺り1面に響き渡らせた声は――――

 

 

――――声は、

 

――――――――この、声は…………

 

 

 

 

 

 

……………………………えっと、誰だっけ?

 

 

***

 

 

A.スカル団。

 

 

「あー、そういえばそんな人がいたような」

 

 

農園にいる彼等の姿を見た時に咄嗟に出たのがその言葉だった。なるほどねぇと納得し、忘れていた理由を理解する。

そりゃ忘れるよ、直後にイリマさんとバトルした挙句、ユウキさんに知識をやたらと詰め込まれたんだから。

 

なるほどなるほどと頷いているうちに、ユウキさんの引き攣った表情に気付く。疑問に思って見つめると、ユウキさんは何も言わず、こめかみに手を当ててスカル団員ABの方を指差す。

視線の先には愕然とした表情でこちらをみる彼らの姿があった。

 

あまりにも視線が強烈にすぎるので、できる限りの微笑みを浮かべて軽く手を振る。こらユウキさん、小声で「いや表情筋微動だにしてないから」とか言わないでください。後でお話(リアルファイト)しますよ。実は話しながら歩くのに慣れてなくて少し疲れているの見破ってるんですからね。悪いけどそんな状態じゃ生身の私が勝つよ?これでも戦闘民族(スーパーマサラ人)ですから。

 

 

「忘れるなよ!ハウオリの港でバトルしただろうが!!」

 

「そう、だね…………イリマさんにあんなにスルーされていたのに、私が忘れちゃったら話してくれる人いなくなっちゃいますしね」

 

「「グフォッ!!」」

 

 

何故かはわからないけど、私の言葉は彼らの弱点を巧みに抉ってしまったらしい。少し反省。ユウキさんと話した後だと少し攻撃的(・・・・・)になってしまう自分がいる。

 

そんな傍目から見たらコントみたいな事をしている私達を尻目にユウキさんは周囲を軽く確認し、蚊帳の外になっていた男性と言葉を交わす。

 

そして戻ってきたユウキさんは、あの身も凍るような莫大な殺意を持って戻ってきたんだ。

 




Q.どうして母親が年端もいかない我が子に自分の知らない地に到着して速攻旅を許可したの?
A.ぶっちゃけ子供がそこらの人間やポケモンよりも強いからだ!

カントーでミヅキが遠巻きにされていたのは真顔だからじゃなくて身体能力が誰よりもスーパーマサラ人だったからです。生身でイシツブテどころかゴローニャを持ち上げて平然としている奴はマサラでもオーキド博士やレッド、グリーン、あとミヅキくらいしかいない。


ユウキによるトレーナー=人外論ですが、そりゃ能力ランク変化を微妙な動きから正確に見破ったり、HPの割合を把握するためにはそんくらい出来ないと。ポケモン世界においてポケモンと人のルーツは元々同列視されているので、強いトレーナーは大体先祖(ポケモン)返りだから身体能力その他諸々が優れているという脳内設定。マサラは先祖返りが多い土地で、Em世界のホウエンは地方全体がゲンシカイキしかけてる土地です。メガシンカはなくてもゲンシカイキはあるんだね(白目)



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やめて!相手のHPはもうゼロよ!

ユウキは激怒した。

かならず、かの邪智暴虐なスカル団員を除かんと決意した。

ユウキには一般常識がわからぬ。

ユウキは、廃人(ポケモントレーナー)である。

きのみを育て、ポケモンと共に戦って暮らしてきた。

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

豪華にフル改行しながらの要領を得ない話が結局なにを言いたいのかというと、一言で要約出来る。

 

 

――――コイツら絶対潰す。

 

 

***

 

 

「だからってあんな殺気出して叩き潰すなんて馬鹿なんじゃないですか!?もはやバトルじゃなくて処刑でしたよね!?ただの八つ当たりじゃないですか!!」

 

「どうどう、落ち着け」

 

「これが落ち着いていられますか!?あんな、あんなバトル…………」

 

 

そういってミヅキは言葉を探すかのように黙り込む。参ったな、思ったよりも精神がやられてるのか?

 

先程のバトル、それはただの処刑だった。僕のポケモンは育成限界(Lv.100)で、かつ今のパーティーで最硬のメタグロス。相手のポケモンじゃ傷一つ付けられないし、能力ランクを下げることさえ不可能(特性:クリアボディ)

どんな攻撃でも1ダメージは与えられる、というのは幻想だ。彼我の戦力差がどうしようもなく圧倒的であれるならば擦り傷一つ負うことはない。人間だって子供の癇癪でれんぞくパンチ(偽)を362回当てられたところで瀕死にはならないだろう。それと同じことがポケモンにも言える。

 

そして、フィールド全体を包み込む殺気。出力を並のトレーナーでは感じ取れない程膨大に垂れ流したそれは、感知は出来なくとも明確に存在する。指示を出す所か呼吸をするだけでも相手の精神力を削っていく。上位廃人クラスなら誰でも出来るお遊戯だ。基本的に同格相手には通じないが、格下相手ならばこれ以上ない効果を発揮する。

 

結果あのバトルはトレーナーとポケモンの精神に攻撃しているようなものになった。ミヅキがショックを受けるのも当然といえばそうだろう。

 

 

「だって…………だって、あれじゃあまりにポケモンが可哀想じゃないですか!?」

 

 

ミヅキの強さは優しさが由来だ。だからあんなバトルは認められない。

僕による指導で詰め込まれ過ぎて許容量を超えて上手く動いていない時、さりげなくそのリミットが外れるように軽度な暗示を掛けていたが…………やはり日数が日数だ。あまり上手くいってない、か。

それどころかあんなバトルをしたんだ、多少の不信感を持たれても仕方がない。

 

…………プランの変更をするべきか。

暗示やこの先使う諸々はこちらに対する信頼が必要となる。それがなくても使えるものはどれも安定性が低く、下手をすると逆に駄目になる。それが原因で折角の原石が台無しになっては元も子もない。

 

ともかく、なんとか修正する言葉を話そうとして――――それよりも先にミヅキが告げる。

 

 

 

 

「ポケモンの精神にダメージを与えるような方法をよりも、トレーナーを直接狙うほうがいいじゃないですか!!」

 

 

 

「すまな…………えっ?」

 

 

…………どうやら上手く行き過ぎて明後日の方向へ爆走していたらしい。別の意味でプランを練り直さないと。そっちの道はトレーナーじゃなくてただの外道だ。

 

 

***

 

 

思わぬ形で判明した課題点に頭を悩ませながらも、足取りは決して緩めない。

道中のトレーナーを片っ端から蹴散らしながら、僕らは2番道路にある茂みの洞窟へとたどり着いた。

入口にはイリマが待ち受けている。普段からああやって試練を受ける者を待ち受けているのだろうかと考えると、まったく接触のないにも関わらず哀れみの念が湧いてくる。きっと彼は将来忍耐心のある傑物となるだろう。それがトレーナーとして発揮されれば嬉しい限りだ。害悪とかどうやって打ち破ろうか心が踊る。

 

 

「アローラ、ミヅキさん。そちらの方は……ユウキさん、ですね?初めまして。ようこそ、僕の試練へ」

 

「それで合っている。こちらそこ初めまして、キャプテン・イリマ。噂はかねがね」

 

「アローラ。試練挑みに来ました」

 

 

喜ばしそうな雰囲気(だが真顔だ)を浮かべながら挨拶するミヅキに合わせ、僕も軽く挨拶する。表情に好戦的な笑みが浮かぶ。実力は低くはないうえ、ククイ博士からこちらのことを聞いているのだろう。さっきから僕へと熱い闘気を向けてくる。

 

ああ、闘いたい。どうしようもなく闘いたい――――が、それはこの試練が済んでからだ。

 

僕の思いを理解したのか、イリマは闘気を一旦収め、試練についての解説を始める。

 

曰く、一度入れば主ポケモンを倒すかリタイアしない限り出られない上に、捕獲も禁止。

 

その程度なら僕は問題ない、が…………傍らのミヅキを見る。彼女は僕の視線に気付くと軽く頷いた後、ジト目を返してきた。どうやら回復道具の準備もロクにしないような奴だと思われるのは心外らしい。僕の回復薬を分ける必要はなさそうだ。今は金があっても回復薬は買えないため、有限のものをわける心配がないのは安心だ。

 

ちなみにだが、カントー、ホウエンその他の回復薬とアローラの回復薬では規格が異なる。紛らわしい事に、名前が同じでも値段や回復量が大幅に違うのだ。原因は環境による素材の違いと言われているが定かではない。僕としては平均育成度(レベル)が低いからこの程度で充分なんだろうと思っているが…………それはどうでも良い。

 

肝心なのは色々違うという点と、そもそも僕はZクリスタルがないから上位の回復薬を買えないという2点のみ。それ以外は些事に過ぎない。

 

 

「ああ、それと。試練は本来1人で行うものなので、ミヅキさんかユウキさんのどちらが先に行うか決めてもらう必要があります」

 

「ミヅキで」「…………え?」

 

「わかりました。ではミヅキさん、イリマの試練を始めます」

 

「えっ、ちょ、待っ………!?」

 

 

そして引きずられていくミヅキ。どなどな〜という効果音が聞こえてくるようだが、彼女が本気なら振り払う事など余裕な筈だ。なのにそれをしないということは、何だかんだ言いつつ受け入れているのだろう。

 

僕も16歳ということで名目上は一応島巡りでもあるのだが、任された本来の役目は島巡りのアドバイザーだ。確かに試練についての興味はある。単純に強い野生のポケモンと戦うというのは多いようで案外少ない機会だし、彼の育成力も知りたい。

だが、野生ポケモンはいくら強かろうが所詮は野生。超古代ポケモン程に突き抜けていなければ容易く処理出来る。そして彼の育成力だが、1目見ればわかる。確かに優れてはいるが上の下程度だ。そんなものよりもミヅキをより強くする方が優先に決まっているだろう。

 

故に僕は黙って待ってよう(イリマの日常を知ろう)と、そこら辺の木を背もたれにして周囲を眺める事にした。

 

 

***

 

 

「4匹目っと。これで終わりかな?」

 

 

ユウキさんに売られ、イリマさんにドナドナされた私は素直に試練を受けていた。1番最初の試練ということもあって緊張は一入だったけど、どうやら少しルールの変わった野戦らしい、と認識が成立してからはだいぶ落ち着いてきた。

 

巣穴から出てくるならそのままバトル(リンチ)、穴蔵を決め込むならばでんきショックで叩き起こしてバトル(リンチ)

 

途中で相変わらずのスカル団員ABが出てきたけれど、躊躇いなく叩き出した。トレーナーへと直接攻撃(ダイレクトアタック)はユウキさんによっぽどの場合を除き禁止されてしまったため、バトルで敗北させるという過程をふむ必要があったけど。

 

誤解しないで欲しいのは、私はポケモンが傷付くこと自体を否定するつもりはないということ。ただ精神に大きなダメージを与えて再起不能にするのがダメだと思っているだけで。トレーナーの身勝手に付き合わされたポケモン(手持ち)がそんな事になるくらいだったら、トレーナーに直接するほうが良いと思うから。

だからトレーナーとポケモン共々潰そうとしたユウキさんには反発する。あの人基本的に手加減はしても容赦はしないし。

 

何を言いたいのかというと、私はポケモンを普通に倒すこと自体には躊躇うつもりはないってこと。もちろん、ユウキさんの言う悪い廃人みたいになりたくないから限度は守るけど。だから倒していいという許可が出ている場合、容赦はしない。

 

そうやって指定されたポケモンを倒した私は奥へと進んだ。

最奥部には天井がなく、降り注ぐ直射日光の暴力が洞窟の暗闇に慣れた私を襲う。暫くするとその刺激にも慣れ辺りを軽く見渡すと、そこは剣山の如く聳え立つ巨石に包まれた空間だった。中心には台座に置かれたZクリスタルが見える。

 

 

「あれがZクリスタル…………みんな、周囲の警戒をお願いね」

 

 

手持ちのポケモンに注意を促し、私はゆっくりと台座に近づいていく。近づくにつれてZクリスタルの輝きは大きくなる。暖かくて、優しい光。

そっと手に取ろうとして――――視界の端で何かが動いた。

 

 

「みんな!!」

 

 

余計な指示はいらない。ユウキさん曰く、複数のポケモンに指示を出す時は単純である方が望ましいとのこと。あまりに複雑すぎる指示は混乱の元となり、失敗の原因にしかならないんだとか。

だから単純な指示を出すか――予めパターンを設定する必要がある。

ユウキさんはポケモン共々経験が豊富なので重要な事を除きポケモンに任せているらしいけど、私は初心者だ。経験が足りなすぎて任せるなんて芸当は出来ず、結果ある程度パターンを決めつつ、それ以外の指示は単純にという両方取りを選んだ。

 

そして、今は怪しげな気配を感じたら速攻で攻撃してと頼んでいる。私はまだまだなってないから、手段を選ぶ余裕なんてないんだ。

 

つい先程進化したフクスローのはっぱカッターに、ケララッパの確定5回(特性:スキルリンク)ロックブラスト、コイルのでんきショック、そして捕まえたばかりのアブリーのぎんいろのかぜ。この周辺のポケモン程度ならどう考えたってオーバーキルな攻撃に耐えられず落下する怪しげな存在。

見てみると、それはごく普通のヤングースだった。

 

…………なんだ、主ポケモンじゃないのか。

 

そのことに安堵とも残念つかない感情を抱き、若干緊張が弛緩した。

直後、後方で響くコイルの悲鳴。

 

弾かれたように後ろを見ると、コイルの傍には金色のオーラを纏ったポケモンがいた。

 

 

「――――一斉攻撃っ!」

 

 

間違いない、あれが主ポケモンだ。

そう結論を出すまでに空いた一瞬の隙間に、主ポケモン――――デカグースは逃走する。慌てて攻撃を指示するも最早間に合わず、岩と岩との隙間へとまんまと逃げおおせた。隙間は中で繋がっているのか、覗いても影も形もない。

 

周囲に気を配りつつ、コイルの様子を伺う。大丈夫、かなりのダメージを受けているものの瀕死にはなってない。これならキズぐすり1つ使うだけで問題なく戦えるだろう。

 

それよりも問題なのは主ポケモンだ。開幕早々仲間を囮に使い、その隙に一致技に耐性を持つポケモンを落そうとした挙句、気付かれた瞬間に逃走を選ぶなどあまりに頭脳が発達しすぎている。ホントに野生のポケモンかと疑問に思ったけど、よく考えるとイリマさんに育てられたポケモンなんだから不思議はないか。

 

そう、主ポケモンを野生のポケモンと同一視してはいけないんだ。これまでのバトルが野生でのそれと大差ないから勘違いしていたけど、そもそもこれはイリマさんの試練。決して野戦でも、そしてトレーナーとの勝負でもない。

 

 

だからこそ――――

 

 

「フクスローは辺り一面にはっぱカッター!コイルは弱めの10まんボルトでそれに火をつけて!そしてアブリーはぎんいろのかぜで煙を隙間に!ケララッパはロックブラストでアブリーの補助を!」

 

 

だからこそ、躊躇わなくてもいいよね?

 

 

フクスローが撒き散らしたはっぱにコイルが火をつけ、アブリーがそれを隙間へと入れる。ケララッパの岩はその補助だ。煙を入れやすくなるように方向を限定させる。

 

ポケモンといえども生物である以上、酸素は必須。さて、主ポケモンは一体どれだけ耐えられるかな?

 

他3匹とは異なりケララッパは一度岩を設置したら仕事が終わりなので、耐えきれずに出てきたポケモンをロックブラストで狙い撃つ役目を新規に任せる。私はぎんいろのかぜのPPが尽きたアブリーにヒメリのみを渡す役割だ。

それから5分は過ぎただろうか。ロックブラストに沈んだヤングースが山のように積み上がった時、ついにデカグースが飛び出てきた。

相も変わらず眩しい程の光具合。アレに包まれたポケモンはランクが元来から高くなるらしいけど――――もうあなたにランクの有利はない(・・・・・・・・・)よ。

 

 

「アブリー、むしのていこう!」

 

 

 

ねえ、主ポケモン(デカグース)。あなたはなんのためにようせいのかぜじゃなく、ヒメリのみを与えてまでぎんいろのかぜを使わせたと思っているの?

 

 

 

ぎんいろのかぜの追加効果によって全ランク3段階上昇したアブリーのむしのていこうは、たいあたりを繰り出したデカグースを真正面から撃退した。

 

 

 

 

 

 

 

 




真顔さん殺戮マシーン化不可避な様子。

ユウキがポケモンに任せたと言えるのはバトルパレスでの経験のおかげです。それまでは単純な指示(レベルの暴力)でなんとかしてました。


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リア充は爆発するべきだ!

遅れてしまい、申し訳ありません。
予約するのを忘れていました。

サブタイ変更しました
6/22、最後の下りを追加しました


「ネンドール、だいばくはつ」

 

 

開幕1番でネンドールにだいばくはつを指示する。場所は茂みの洞窟の丁度真ん中、足場のない空中だ。一切の自重をやめた最大威力が全方位へと撒き散らされ、洞窟内のすべてのポケモンはレベルの差も相まってすべて瀕死へと陥る。

 

すべての力を使い果たしたネンドールも瀕死となり、黒い煙を上げてゆっくりと地面へと墜落する。だが、僕がげんきのかけらをオーバースローで思いっきりぶん投げたため復活。直ちに浮上し、僕の元へと戻ってくる。

 

これでたぶん前座は倒した。この行動を試練サポーターはどう見るのか疑問に思ったが、どうやらだいばくはつの余波で気絶しているらしい。足止めされないと都合よく認識し、洞窟の奥地へと向かう。

 

奥地には天井がなく、晴れ渡る空がよく見えた。周囲を包み込むように巨大な岩が圧迫感を感じさせる。その中に多くのポケモンの存在を感知して――――指示を出す。

 

 

「じしん」

 

 

躊躇いはいらない。容赦もいらない。

生活圏(巨石)を崩壊させるに足る最大出力。野生の直感でそれを察知したポケモン達は慌てて外に出る。その中には金色の光を纏うポケモンもいて、こちらに対する明確な敵意を持って睨みつける。

――――ああ、ホント、

 

 

「これだから野生との戦いは好めない。想定通りに過ぎて退屈なんだよ。

――――だいばくはつ」

 

 

その抵抗の一切は読めていた(・・・・・)

巻き起こった大爆発がすべてのポケモンを飲み込み、纏めて一気に瀕死へと陥らせる。

無数のポケモンが一面に倒れ伏す光景をどうでもいいと歯牙にもかけず、僕は台座に置かれたZクリスタルを手に取った。

 

 

***

 

 

「イリマの試練達成おめでとうございます。ではちょっといいものを見せましょう」

 

「いいもの………………珍しいポケモンか?ポリシー的にノーマルタイプだろうから、メロエッタとか」

 

「ノリが完全にロケット団!?ユウキさんがそうなったら洒落にならないのでやめてください!!」

 

 

ノリでそう言った僕を必死に止めるミヅキ。まったく、彼女は僕をなんだと思っているんだか。そんなことになったら無闇やたらに敵が出来て…………

いいかもな、それ。強いトレーナーとの勝負が出来そうだ。この世界だとしがらみもないんだ、楽しめそうな気がする。

本気でそっちの道を進もうかと悩んだ僕は、イリマの声を受けて我に帰る。

 

 

「いえ、流石に幻のポケモンは無理かなぁ、と。

僕が見せるのはキャプテンミニゲートです。あちらをご覧下さい」

 

 

指さした先にあるのは3番道路を塞ぐように配置されていたバリケードだ。初見の時はてっきり珍しいポケモンの足跡が見つかったから侵入禁止なのかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 

話を聞くに、どうやら島巡りを行うものはZクリスタルを入手しないとあそこを超えられないらしい。1種の制約だな。専ら試練の行われる場所のすぐ近くに置かれているとの事だ。

 

それが撤去されて漸く行ける3番道路。まあでも、イリマと勝負をしようと声を掛けようとしたところで――――見知った人影が近付いて来ることに気付く。

 

 

「――――ククイ博士、何かあったのか?」

 

「おお、ミヅキにユウキか。試練を達成したようで何よりだよ」

 

 

その人物とはククイ博士だった。

彼は少し焦ったように周囲を見渡しながら、そう僕等に挨拶する。

何かあったことはすぐに読み取れた。元より彼は……というか、アローラの住民の多くはおおらか過ぎて感情をあまり隠さないから読み取りやすいんだ。

 

 

「会えてよかったよ、試練が終わったばかりの君たちに言うのもあれなんだが…………リーリエがいなくなっちまったんだ」

 

「リーリエが!?」

 

「あっ(察し)」

 

 

リーリエが迷子か…………。

いつかそうなるだろうとは思っていた。方向音痴の人間に好奇心旺盛なポケモン。どう考えたって迷子になるに決まってる。それが起こらないようにここ1ヶ月、ククイ博士がいない時は僕も注意していたのに…………。

 

 

「発信機は?」

 

「年頃の女の子にそれをつけれるとでも?

2番道路は1通り確認したから、いるとしたら3番道路だね」

 

「了解。念のため博士はもう1度2番道路を確認して欲しい。ミヅキ、僕等は3番道路に行くぞ」

 

「わかった」「はい!」

 

 

***

 

 

3番道路に着いた僕等は直後に二手に別れてリーリエの捜索をすることにした。勿論その間の指導はなしだ。リーリエはなんてめんどくさいことをしてくれたんだと思ってしまう。イリマとは結局バトル出来なかったし。

 

そもそも僕にとってのリーリエとは、ロクな興味もわかない相手である。才能自体は光るものがあるが性格的にはそれを生かすことが出来ず、所持しているポケモンは珍しいとはいえ戦闘には向かない。もしも普通に出会っていたならば、僕はきっと彼女に一切の興味も持たなかっただろう。

 

とはいえ捜索の手を休めるつもりはない。今彼女と繋がりを持っているのは単にククイ博士への恩義のためだ。借りを作ったままなのは性にあわない。

加えて、早く見つけられればそれだけ指導の時間が増える結果に繋がる。基礎はだいぶ教えたとはいえ、まだ不足している点も多い。これ以降の島では別行動をとる必要があるんだ、その時に必要なものはすべて教えなければならない。

 

暫く探していると、ククイ博士から渡された携帯端末に着信が入る。相手は…………ミヅキからか。話を聞くと、どうやらリーリエは見つかったらしい。そのタイミングで丁度博士やハウと合流したため一緒にリリィタウンまで戻るとも。

 

正直指導の時間が短くなることに苛立ちを覚えるも、予想外のことが起こるのも旅の醍醐味といえばそうである。加えて同年代との会話は精神的に重要な役目を果たす上、そもそもミヅキは引っ越したばかりで関わりのある相手も少ない。

ここは先達の余裕で見逃しておこう。そう思いつつも、僕は指導メニューの強化を決意した。

 

 

***

 

 

ぶるり、と一瞬過ぎる猛烈な寒気に身を震わせる。冷や汗が背筋を舐める感覚が妙に生々しい。この地方に来て――正確にはユウキさんと関わってから割と頻繁に起きるこの感覚に未だ慣れることはない。慣れたら終わりな気もするけれど。この感覚が起きた時はたいてい翌日の指導が厳しくなっていたため、明確に指導をサボる結果となった今回は尚更地獄をみるかもしれない。

 

いや、ありがたいんだよ?ただ厳しい上に最先端過ぎてヤバいだけで。カントーで齧った程度の知識よりも洗練されすぎてるんだ。私のトレーナー像が絶賛崩壊中です。

 

 

三値ってなに?SAN値のこと?

ポケモンに関する数学?私まだJS(=算数)だよ?

伝説って?ああ!それってハネクリボー?

 

 

まるでわけがわからない。経験を通して理解すれば良いとユウキさんは言ったけど、次の島(アーカラ島)では別行動だ。質問出来る機会も限られてるだろうから、それまでにある程度理解しないといけない。

 

ま、先のことはさておいて。

3番道路を過ぎるとリリィタウンは目前だ。今は大試練(・・・)に専念するとしよう。

 

 

…………ところでリーリエ、吊り橋恐怖症は治ったの?どうやらこの先吊り橋あるっぽいんだけど。

 

 

***

 

 

「よろしくお願いします、ハラさん」

 

「ええ。お互いにゼンリョクで戦いましょうぞ!」

 

 

大試練。それは島巡りに挑むトレーナーが、その島での経験の成果を島キング・クイーンに確認してもらうという試練である。

勿論トレーナーにとって成果を確認してもらうとは、ただ見せるだけで済むはずがない。トレーナーは口よりもなお雄弁に、瞳よりもなお純粋に、勝負(バトル)を通して自分を伝える不器用な人種だ。そんな人達が成果を確認するならば手段はただ1つ、バトルしかない。

 

舞台の逆側に立つのは島キングであるハラさんだ。最初は温厚そうな人だと思っていたけれど、こうして対等なフィールドに立つと、この島の頂点を名乗るに相応しい純粋で膨大な闘気が私を襲う。

 

それは今の私が真正面から受け入れるには余りに圧倒的過ぎて及び腰になり――――カタリ、とホルダーにつけたボールが音をたてた。

冷静さを取り戻した私は軽い深呼吸を行い、ボールを手元へと持ってくる。

…………うん、大丈夫。私は1人じゃないから。

軽く頷くと、どうしてかボールの向こう側のポケモン達も頷きを返してくれた気がした。

 

 

「それでは、大試練――――始めっ!!」

 

 

響く審判の声に我へ帰る。

あれだけプレッシャーに固まっていた体が急に解れたようだ。心音はいたってフラットで、思考は靄が晴れたように澄んでいる。

ベストコンディションだ――――負ける気がしないね。今ならきっと、私はどこまでも行ける。

 

思いをそのままに、私は先鋒のポケモンが入ったボールを勢いよく舞台へと投げ入れた。

 

 

***

 

 

「…………ついに始まったか。調整(・・)に時間をかけすぎて遅れてしまったのではないかと焦ったぞ」

 

リリィタウンのどこかの民家の上、広場のすべてを視界に移せる場所で僕は試合を見ようとしていた。

 

この大試練はミヅキがこの島で得られたものを提出し、島キングが採点する――――要するにバトルだ。大抵の事はバトルで要約できるトレーナーの単細胞っぷりよ。人のこと言えないが。

ともかく、そんな機会を僕が見逃してたまるものか。この島での経験には自ずと僕の指導の成果も含まれている。勿論大試練が終わってもアーカラ島に着くまでは継続するが、そこからは1人で旅をすることになる。だから僕にとってのこれはある意味卒業試験とも言えるだろう。

 

 

「さて…………どうなるものか」

 

 

イリマの時のような醜態は晒してくれるなよ。

視線はけしてフィールドから離さずに、僕はそう呟いた。

 

 

***

 

 

「行って、ケララッパ!」

 

「ゼンリョクですぞ、マンキー!」

 

 

試合形式は3vs3。道具はなしでポケモン交代は挑戦者()のみが認められる。加えて、あくまで大試練(・・・)であって勝負ではない(・・・・・・)ため、ハラさんの手持ちは相応に加減をしたものとなっている。正直それでゼンリョクなんて言われてもな……というのはあるけど、だからといって本気パで来られたら何もできずに倒される結末が確定しているため、決して口には出さない。正真正銘渾身全霊のゼンリョクは、この次に控えたユウキさんとのバトルで発揮されるだろうし。

 

ハラさんが格闘タイプ使いであるということはハウから聞いてわかっていた。だから先鋒を務めるのは格闘に有利な飛行タイプであるケララッパだ。ノーマルタイプも兼ねているから被ダメは等倍だけど、それは覚悟している。どんなにポケモンのレベルが低くても、強いトレーナーが指揮することで化ける(・・・)というのは実体験済みだ。レベルが低くても決して油断は出来ない。

 

 

「きあいだめですぞ!」「ついばんで!」

 

 

まったく同時に放たれた2つの指示。マンキーはその場で気合をためて、ケララッパは相手に突撃してその巨大なくちばしで啄もうとする。

 

きあいだめは格闘タイプの多くが覚える技だけれど、それを使うトレーナーは驚くほど少ない。ユウキさん曰く、レベルが低い時に覚える技であるためその頃のトレーナーは変化技の存在技をわかっておらず、逆にある程度の実力があるトレーナーは積むならもっと有効な技を覚えさせるかららしい。剣舞とか蝶舞とか竜舞とか。

 

そんな技を使うハラさんに一瞬疑問が浮かんだけれど、なんらかの目的があるんだろう。それは知識が足りない今想定しきれはしないし、そもそも私のケララッパは覚えている技の殆どが攻撃技だ。基本攻撃しかしないから相手がなにをするにせよ対処法に変化はない。突っ込んで殴る。単純(シンプル)なくらいが丁度いい。私の思考が伝わったのか、ケララッパは更なる加速をみせる。

 

 

「中々といったところですが…………まだまだたりませんなあ。

マンキー、からてチョップですぞ」

 

 

だけどそれはカウンター気味に放たれたからてチョップによって叩き落とされた。自らの攻撃の威力が加わったうえ、急所にあたったために勢いよく吹き飛ぶケララッパを見ながら、私は自分の失策を悟る。

 

――――格闘に特化したトレーナーとポケモンが、至近距離での攻防に反応できないはずがないだろう。

 

暴論と言ってしまえばそれまでだけど、それが出来るのが島キングなんだ。レベルは低くても練度が高い。闇雲に突撃するだけでは勝利はないだろう。

 

 

「距離をとりながらロックブラスト!」

 

 

なんにせよ、まずは考える時間が欲しい。幸いケララッパは戦闘の継続は可能なようなので、時間稼ぎにロックブラストを撃たせ続ける。あわよくばこれでダメージをとも思ったが、全弾からてチョップに叩き落とされてまともな直撃は一個もない。正直ないわー。

 

はあ、とため息を吐いて思考を切り替える。物理技は通じない。なら、これはどう?

 

 

「ちょうおんぱ!」

 

「ぬっ!?」

 

 

ケララッパが放ったのは大多数の人間には聞こえない、だけどポケモンには聞こえる高周波数の音波だ。脳漿をかき乱されるような不快な音。物理的な迎撃しか出来ないマンキーはそれを防ぐことができず、激しい混乱に陥る。

 

――――そんな技があるなら最初から使っていればいいんじゃないかって思う人もいるかもしれないけれど、出来れば私はこの技を使いたくはなかった。先ほど言ったように、大多数の人間にこの音は聞こえない。でも、私はその音が聞こえる少数派に属しているために、混乱するってほどではなくても少し思考が鈍るんだ。でも、これは勝利のための必要経費なんだろう。そうでなくてはやっていけない。

 

 

「この隙に…………ケララッパ、ついばむ!」

 

 

そして放たれたついばむを混乱したマンキーでは迎撃することができずに、瀕死の状態へと陥った。

それを受けてハラさんは次のポケモンを繰り出す。

 

 

「出番ですぞマクノシタ、ねこだましっ!」

 

「早っ――――ケララッパ!?」

 

 

直後に繰り出されたマクノシタによるねこだまし。体力が限界の状態にあったケララッパでは受けきること叶わず墜落する。

あっという間に2vs2。やっぱりそう楽には行かないなと思いながら、ホルダーに取り付けられたボールに手を伸ばし、そして繰り出した。

 

 

「フクスロー!」

 

 

繰り出したのはあの日ハラさんから貰った私の初めてのポケモン――――その進化系であるフクスローだ。ユウキさんに知り合いのポケモンソムリエに似ていると言わしめた顔つきには今、微笑みが浮かんでいない。真剣な表情の彼に内心頼もしさを覚えながらも、先の反省を活かして無策に突っ込むことはしない。まずは様子見に、

 

 

「はっぱカッターで牽制して!」

 

「つっぱりで撃ち落とすのですぞ」

 

 

無数のはっぱカッターが繰り出されるものの、マクノシタは直撃するものとそうでないものとを見分け、超高速で放たれたつっぱりが直撃コースにあったものだけを撃ち落とす。

その判断速度と迎撃能力といい、さすがという他にない。

 

まがりなりにも変化技を覚えていたケララッパとは異なり、フクスローは完全完璧フルアタ構成である。相手が相手である以上は下手な小細工も通じない。

だからこそ――――

 

 

「フクスロー、つついて!」

 

 

――――カミカゼ上等っ!!

つっぱりで迎撃されることも予想しているが、フクスローは草・飛行の複合タイプ。格闘に耐性をもっているから効果は薄い。他のタイプの技が来る心配はない。あれだけの技量をつけるためには非常に多くの鍛錬が必要になってくるが、それを通して経験値を獲得してしまう。極めて技量が高い代わりにレベルが低いということはつまり、レベルを低く保つために単一の技以外を鍛えることが出来ないということに繋がるんだ。

 

案の定マクノシタは接近するフクスローにつっぱりを繰り出すものの、耐性があるために瀕死には至らない。次第に距離は近づいていき、漸くつつくがマクノシタに命中し………ない。あれは自分から後方に飛ぶことでダメージを抑えたか。でも、

 

 

「着地点を狙ってはっぱカッター!!」

 

 

――――さすがに空中では抵抗できないよね!?

着地寸前にはっぱカッターを当てられたためにマクノシタの姿勢が崩れ、大きな隙を晒す。その隙を見逃す私じゃない。

 

 

「トドメっ!」

 

 

放たれたつつくが直撃し、マクノシタは倒れた。

これでハラさんは残り一体。果たしてどんなポケモンをつかうのか――――

 

 

「頼みましたぞ、マケンカニ!」

 

 

ハラさんの最後のポケモンはマケンカニだった。稀に地面に落ちているきのみを食べている姿を見かけるポケモンだ。小刻みに拳を振るいシャドーをする姿は、どことなくボクサーを彷彿させる。

 

警戒心もあらわにマケンカニを観察している私に、ハラさんが声をかける。

 

 

「ミヅキ殿、これこそが格闘の真髄――――Zワザですぞ」

 

 

そういうと、ハラさんはまるでZワザの使用に必要な振り付けをする。挙動の1つ1つから伺える力強さとポケモンへの信頼。ああ、これは確かにゼンリョクと呼ぶに相応しい。

 

 

「ぜんりょくむそうげきれつけん!!」

 

 

ついに発揮された格闘タイプの Zワザ。あまりに強力な拳の連打につっぱりを受けて傷ついたフクスローでは耐えきれず、地に伏した。

 

 

「っつ――――頑張って、アブリー!」

 

 

私の最後の手持ちはアブリーだ。素早さが高い代わりに他は並かそれ以下。格闘技なら耐性のおかげで耐えられるだろうけど、1/4にされる格闘技を使うよりだったら、練度が低い覚えさせているだけの他タイプの技を使ってくるだろう。

 

勝負は一瞬で決まる。

一瞬生まれた緊迫感。相手と、そして自分のポケモンとの呼吸を測り――――――見えた

 

 

「ドレインキッス!」

 

「おいうち!」

 

 

勢いよく近付いていく2匹の距離。先に仕掛けたのはマケンカニだ。右の拳を振り上げて攻撃を叩き込もうとするも、虫故の機敏さを生かしたアブリーには紙一重で当たらない。

 

 

「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

彼我の距離は最早皆無だ。拳であろうとも満足には震えない超至近距離で、アブリーはマケンカニに口付けをする。

 

 

――――効果は抜群だ。

 

 

――――――マケンカニは倒れた。

 

 

 

こうして、私の大試練は達成された。

 

 

***

 

 

「…………お疲れ、ミヅキ」

 

先ほど大試練を達成した、ここ数日ひたすら指導してきた少女に向けて呟く。満点には程遠いが、充分合格点だ。これなら後は経験を積むことで自分の闘い方を確立し、勝負が出来るだろう。

 

 

――――さて、次は僕の番だ。

 

 

島の頂点とはどのような頂きなのか。想像するだけで唇が釣り上がって戻らない。前々から抑えていた戦意も、そろそろ限界が来そうだ。深く、深く、すべてを呑み込む程に深く深呼吸をする。

育成度ではこちらに圧倒的な分があるために力の調節はするが、戦術面での加減は一切しない。ハラさんがどんな力を見せるか楽しみで仕方がない。

 

 

「――――行くか」

 

 

ホルダーに取り付けたボールがカタリと動いた。

 

 




個人的にはリーリエは気に入ってるキャラではあるんですけど……主人公の性格を考えてこんな扱いにしました。敵意も嫌悪もないんです。ただただ無関心なだけで。主人公sideでリーリエの話題が滅多に出ないのはそのへんが理由です。


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シリアルって美味しいよね!

 

「これより、大試練を行う。所持ポケモンは5体。道具の使用は所持しているもののみ許可。ポケモン交代はお互いに(・・・・)認められます(・・・・・・)

 

 

今回審判を務めるククイ博士が語るルールに軽く耳を傾ける。交代が認められるのはこちらからの要望だ。大試練はあくまで試練であっても勝負ではない。だからポケモン交代は挑戦者のみに認められているのだが――――先のゼンリョク祭で示したこちらの実力から、加減はいらないと理解してくれたのだろう。言葉通りのゼンリョクで闘ってくれると宣言してくれた。

 

故に、今から発揮されるのはしまキングの全力。島という小規模なものだとはいえ紛れもない一つの頂点である。立場は挑戦者(チャレンジャー)。ああほんと、楽しみが過ぎて気持ちが抑えられない。

 

ボール越しにパーティーと頷き合い、軽く深呼吸。思考速度が急速に加速してすべての動きが次第にゆっくりと見える中、ククイ博士の声が遠く響く。

 

 

「それでは、大試練――開始ッ!!」

 

 

開幕のベルは鳴った。

いざ尋常に――――

 

 

「勝負しようかぁ!」

 

「ハラハラさせますぞ!」

 

 

***

 

 

バシャーモvsハリテヤマ。

ホウエンから遠く離れたこの地でまさか初手ホウエン原産ポケモン同士の戦いになるとは……と、僅かな苦笑が浮かぶ。タイプ相性自体は互角であるものの、相手の特性は恐らくあついしぼうだ。炎技が半減される以上、メインウェポンが1つ削られることになる。

…………悲しいかな、今までの描写で炎技が使われたことはないんだが。

 

まあ、ハリテヤマの扱いは向こう(ホウエン)で慣れた。種族としての能力が大差ない以上、育成手段が違ったとしても個体差として処理出来る。

 

 

「ねこだましですぞ!」

 

 

…………まあ、わかっていても対処出来ない技はあるんだが。

 

たとえ視界に入っていても反応出来ないという歩法の極地。それによって巧みに至近距離へと入り込んだハリテヤマは、バシャーモへと猫騙しをする。

わかっていてもどうしようもない速度(優先度+3)。戦わんとする意志に反して体が硬直し、結果生じる一瞬の隙。

 

 

「インファイト!」

 

 

その隙に押し込めとばかりの高火力の連打。技自体の威力に頼るだけでなく修練を積むことで実現した打撃は、体が満足には動かないバシャーモでは致命傷を避けるだけで精一杯だ。それでも硬直は次第に解け始め、回避にも少しずつ余裕が生まれ始める。

 

 

「そのまま押し切るのですぞ!」

 

 

それに気付いたハラは更なるブーストでバシャーモを押し込もうとする。特攻(インファイト)で押し込もうなど無謀にも見えるが、それはポケモンとの信頼関係が成り立つ技か。それまで威力を重視していた打撃がコンパクトになり、確実に動きを止められるように変わっていく。

 

 

「――――――だからどうした?」

 

 

だからこそ読みやすい。

動きを妨害される所が狙われているとわかっているのだから、それまでの攻撃パターンから分析して受け止めれば(・・・・・・)良いだけ(・・・・)だろう。

 

ハリテヤマの猛攻が突如停止する。両の手首をバシャーモに抑えられて動きを静止させられているのだ。ハリテヤマの攻撃の始点は腕である以上、完全に攻撃手段を奪われた形になる。硬直するフィールドの中で驚愕するハラに見向きもしないまま、僕の指示が響く。

 

 

「――――とびひざげりだ」

 

 

命中率が低い?外れた時のデメリット?

そんなもの、外しようもない超至近距離(ゼロレンジ)で叩き込めば良いだけだろう。

距離は極々僅かで満足な助走も出来やしない。だが、各関節や筋肉といった諸要素を上手く使うことによって加速を得るの可能だ。

 

島巡りをする中で僕はミヅキに指導するのと並列して、この世界に存在する様々な技をパーティーに覚えさせていた。ミヅキの大試練前に行っていた調整とは最終確認だ。

実践に耐えうる技であるか否か――。

結論としては上手く出来たのではないかと思う。現にああやって使えているのだから。

 

避けようもない超至近距離。吹き飛んでダメージを殺すことすら許しはせず、衝撃を内部で余す所なく拡散し蹂躙する。

多少威力が下がったとはいえ元から充分な高火力だ。況して相手はインファイトで防御ランクが下がったハリテヤマ。体力を削りきって余りある。

 

瀕死になったハリテヤマをそっと投げ飛ばしたバシャーモはバックステップでこちらへと寄って来て剣舞を積む。

攻撃ランクが2段階上昇。でも悲しいかな、お前の出番は一旦終了だ。上がったランクは有効活用してやるからバトンの準備しておけ。

 

 

「ニョロボン、たきのぼりですぞ!」

 

 

続いてハラが出してきたのはニョロボンだ。つるぎのまいは攻撃特化の変化技として有名なので、速攻で潰さんとばかりに滝上りを繰り出す。

 

 

「バトンタッチ。代われボーマンダ」

 

 

そのポケモンがいつまでも居座っている訳ないだろうに。バトンを繋ぎ、ランク上昇をそのままに新たなポケモンが繰り出す。ドラゴン・飛行タイプであるボーマンダは、一致技とはいえ効果いまひとつである滝上りを顔色一つ変えずに受けきって――――

 

 

「潰せ」

 

 

――――絶対王者(ドラゴン)による蹂躙がニョロボンへと繰り出される。余計な指示はいらない。余計な思考もいらない。逆鱗(・・)に触れたものに与えられる暴虐だ。攻撃ランク上昇も相まって、生半可な防御では決して耐えられない。

 

牙が腕が爪が翼が――壮絶な打撃がニョロボンへと叩き込まれる。ニョロボンも格闘戦という自らの本領を発揮出来るフィールドで充分に戦っているものの、押されているのは傍目から見ても明らかだ。種族値(スペック)の差は如何ともし難い――――冷パン覚えていたらヤバかったが。4倍弱点は軽く死ねる。

 

やがてニョロボンは力尽き、これで5vs3。ボーマンダの興奮状態は未だ継続しており、体力には余裕がある。相手によるが、もう2体くらいは抜けるだろう。

 

 

「ケケンカニ、出番ですぞ!」

 

 

だが、ハラが出したのはミヅキの試合でZワザを使ったマケンカニの進化系であるケケンカニだ。タイプは格闘・氷。そう、見事にボーマンダの4倍弱点を突ける氷を自身のタイプに持つポケモンである。上から叩いて潰せるだろうが、技量と根性によって無理矢理氷技を当ててくる可能性もある。例えラッキーパンチであろうが当たれば間違いなく死ぬ。攻撃ランクが積まれていることを考慮しても、ここは交換がベストだろう。

 

――――だから(・・・)継続させる。誰にとっても最善(ベスト)とは即ち、誰にとっても読みやすいという事だ。加えて僕はククイ博士との闘いで頻繁に交代する戦術をとり、ボーマンダを除く全ての手持ちが公開された。例外は6体目(レックウザ)だが……まあ、あの時の戦いはそもそも5vs6だった。その時点で6体目はいないものとして考えるだろう。

 

ともかく、ここで僕が出すべき指示は――――

 

 

「げきりん!」

 

「ぜんりょくむそうげきれつけん!」

 

 

氷技ではなく、格闘のZワザ。その時点で僕は自分の読みが正解していたと確信する。相手が想定していたのは氷に耐性を持つミロカロスかメタグロス。そいつらに等倍で叩き込めるから格闘のZワザを使ったのだろうが――残念だったな、ボーマンダだよ。

 

全力無双激烈拳と逆鱗が真正面からぶつかり合う。単純な威力においては間違いなく前者の方が上だろう。だがボーマンダは格闘に耐性を持つため互角に打ち合える。互いの攻撃を攻撃によって迎撃し、時にはダメージ覚悟での特攻。激しい衝撃を撒き散らしながら闘いを繰り広げ、最後は互いの攻撃が顔へと直撃。完全に動きが静止する。

 

 

――――痛いほどの静寂の中、ゆっくりとケケンカニが崩れ落ちた。

 

 

ふう、と止まっていた息を吐く。

ボーマンダは傷ついた翼を広げてこちらへと近付き、取り出したカムラのみを口にした。耐性を持つ技でで1/4以下にまで削られたのかと驚愕の念を抱くものの、Zワザは1度しか使えない以上、2度目はない。手早く意識を切り替えてボーマンダの様子を確認する。

 

…………体力は本来の1/5。逆鱗継続中である以上、もうすぐスタミナ切れて混乱するだろう。だが、上昇したステータスランクを考えれば瀕死になるまでにあと一体は持っていけるはずだ。ルカリオ・コバルオン以外には等倍で叩き込めるのだし。

 

 

「オコリザル、頑張りますぞ!」

 

 

次のポケモンはオコリザルだ。格闘単タイプではあるものの、教え技や遺伝技の範囲が広く使い勝手の良いポケモンである――――が、そんなのどうでもいい。ボーマンダの限界が近い以上、悪いが早急に決めさせて貰うぞ。

 

 

「「げきりん!」」

 

 

そして、こちらの指示とまったく同時に重なって響く同じ言葉。まさかと思い弾かれたようにハラの方を見ると、奴は悪戯が成功した時の子供のような笑みを浮かべてこちらを見ていた。思わずこちらにも苦笑が浮かぶ。絶対狙っていただろコイツ。

 

ともあれ、ボーマンダとオコリザルの逆鱗がステージど真ん中で激突する。タイプ一致技ということもあって単純な威力ではこちらに分があるとはいえ、そろそろ体力が限界に近い。対する相手はダメージ皆無だ。やはりというべきか、ボーマンダは最初の均衡状態から次第に押され始める。そしてその勢いを抑えられぬままに疲労が上限になって混乱。島キングが育てたポケモンが敵味方自分さえも判断できないような状態のポケモンに苦労するはずもなく、ボーマンダに良いのを一撃ぶち当てて戦闘不能へと至らしめた。

 

 

「よくやったボーマンダ。メタグロス、ヤツに続け」

 

 

そして僕が出したポケモンはエスパーと鋼の複合タイプである、メタグロスだ。一応分類上はホウエン地方に生息しているものの、あまりに希少すぎる故に所持しているトレーナーが圧倒的少数のポケモンだ。僕もダイゴに会うまで存在を知らなかったといえば、一般での認知のされ具合も察しがつくのではないだろうか。なのに廃人ホイホイ(バトルフロンティア)にはわんさかいる不思議。最初だけあふれていたラスボスオーラは一体なんだったんだ。

 

ともかく、現状は4vs2とこちらが有利であるものの決して油断は出来ない。嘗てのレッドを忘れるな。特にスペックが高くないポケモンでもガチな手持ちを6タテできるのだから。

 

 

「交代ですぞ、キテルグマ!」

 

 

逆鱗の継続を嫌ってか、ハラはオコリザルとキテルグマとを交代する。これで奴の手持ちはすべて公開された。全体共通して飛行・エスパー・フェアリーに弱いのは統一パ故のものか。カバー出来る複合タイプはいなかったのだろうか。勿論闇雲に弱点を並べるだけの相手を倒すための策は用意してあるのだろうが、それでも弱点は弱点である。克服出来ないから弱点なのだ。やはりポリシーという考え方は好かない。勝負が始まってからではなく、試合前からの公開情報として自ら弱点を晒して何が楽しいんだか。

 

 

「しねんのずつき!」

 

 

4本の腕を折りたたんで浮遊したメタグロスは高速で飛翔してキテルグマへと突撃する。受け止めようとするキテルグマだが――――筋力よりも可愛いさに振ってるようなポケモンに、このスーパーコンピュータを超える頭脳(物理)を受け止められるとでも思ったのか?

 

結果受け止めきれなかったキテルグマは跳ね飛ばされて倒れ付す。戦闘続行は――可能か。ふらつきながらもなんとか立ち上がり、ハラの指示を待つ。前言は取り消そう。可愛いさに振っていても充分根性あるな、お前。だが――――

 

 

「それは認めない――――メタグロス、バレットパンチ」

 

 

どう足掻いても逆らえない絶対的な速度差(優先度+1)によって、反撃の機会を得ることもなくキテルグマは瀕死へと陥った。

 

 

「っ――――オコリザル!」

 

 

最後のポケモンはオコリザル。先程も逆鱗を続けるボーマンダに見事止めを刺したポケモンである。パーティーが自分を残して壊滅したという現実を前に、猛烈な怒りを宿した瞳でこちらを睥睨し、

 

 

「クロスチョップ!」

 

 

――――きゅうしょにあてた(・・・)

 

クロスチョップをメタグロスの急所へとぶち当てた。

クロスチョップは急所へと当たりやすい技ではあるものの、一定以上の実力を有するポケモンとトレーナーにとってそれは当たればラッキーで期待はしないという程度の低確率だ。なのにここ一番で当ててくるとは…………。

 

オコリザルは怒るとこで筋力が強くなる代わりに頭の回転は遅くなる。だが、それでも血の滲むような努力を経て体に染み付くまでに至った技量は決して劣化しない。そして鈍くなった頭の回転を補うための頭脳(トレーナー)の存在が可能とした絶技だろう。

 

だか、それでも――――

 

 

「――――受け止めろ、メタグロス」

 

 

――――それがどうかしたか?

 

異世界のホウエンの環境は超高速化している。だが、僕の先々代のチャンピオン――ダイゴはその環境に真っ向から逆らって戦っていた。

 

 

動くな(・・・)

耐えろ(・・・)

そして、叩き潰せ(・・・・)

 

 

圧倒的な耐久性と育成力が実現させた、生半可な速度を小賢しいとばかりに蹴散らして蹂躙する王者の戦法。それは1トレーナーとなってもなお無視出来ない存在感を放っている。

 

それは当然ダイゴから貰ったコイツにも受け継がれている。圧倒的な耐久性と攻撃力が可能とする耐えて殴る戦術とも呼べない戦術。それが今発揮される。

 

ハラが回避を指示するも最早間に合わない。そして極限まで憤怒するオコリザルはオツムが弱く、自主的な回避など出来やしない。

彼我の距離は皆無同然だ。外さないし外れない。外れるはずがない。何故からコイツはスパコンを凌駕すると歌われるほどの頭脳から相手が離脱する機動を未来予知にも等しい速度で予測し、圧倒的な速度を有するポケモンに対しても全弾直撃させてきたのだから。

 

 

「――――しねんのずつきっ!!」

 

 

命中率が不安だろうとも当然必中させる。遂に放たれた思念の頭突きは、この戦いの終わりを告げる号砲となった。

 





ハラの口調が時々ロジカル語法になってしまう………流石に草は生やさないけれど、それっぽい言葉を見かける度に修正を繰り返し、結局会話はポケモンの名前と指示しか――――…………なんだ、いつも通りでした。

相変わらずダメージ計算は適当です。計算めんど…………もとい、リアルでのバトルは厳密な数学に依存しないだろうと思ったので。


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発展の島アーカラ
プライベートボートという響きはリッチだけど、現実はそんなに綺麗じゃない




――――待たせたな、俺だ!


…………いやホントマジで申し訳ありません。更新サボってたら遅れに遅れてここまで来ました。少し感覚が鈍っていて雰囲気が異なってるかも知れませんが、どうか御容赦ください。



 

 

「…………………………………………なんというか、歴史を感じさせる、Nice boat.だな」

 

「含みのある感想ありがとう。さんざん溜めて出したのがそれであることに結構なショックなんだが。ちなみにコレはクラシックスタイルって言うんだ。情緒があって良いもんだろ?」

 

「以前の僕の立場を知っているだろう?長距離の移動手段として、ポケモン協会からは個人用の船や飛行機を借りている。装飾一つ取っても正直引くくらいには豪華だぞ」

 

「うわ羨ましいぞそれ。こっちはこんなボロい(クラシック)ボート使うしかないってのに」

 

「遂にこの船への庇い建てすらなくなったぞコイツ。……まあ、なりたいならなってみろ。僕の世界に来て(ホウエンチャンピオン)に勝てばいいだけだぞ?」

 

「あっ(察し)」

 

 

大試練を終えて以降、細々とした用事を済ませた僕達は次の島――――アーカラ島へと移動するため、ハウオリシティの港にいた。

 

眼下に見えるのは多くの修繕の後が見える、ぶっちゃけボロいククイ博士のプライベートボートだ。響きはオサレなのに溢れ出すこの残念臭。意味的には間違っていないんだが…………期待を返してほしい。

 

傍らの3人――ミヅキ、ハウ、リーリエを見ると、微妙に顔が引き攣っていた。ただしミヅキは真顔である。なのにひしひしと伝わってくる「これ大丈夫なのかな」感。なんとも言えない気持ちを抱き、手持ちポケモンーーミロカロスに『なみのり』を頼もうかとボールを手に取った。僕の所持ポケモンは『すごくかしこ』く『どこでもいける』が、やはり安定性という点に於いては波乗りの方が遥かに上回る。

とはいえアローラではライドギアを使用しないなみのりは禁止されているため、ここで呼び出しても何ら意味はない。仕方なしにそっとため息を吐いてボールを腰元のホルダーへと戻した。

 

というのも、ポケモンに乗って移動するという行為にはそれなりの危険が伴うのだ。わかりやすい例を示すなら二人三脚が妥当だろうか。いかに優れた

短距離走のランナー(ポケモン)であっても、二人三脚という競技を行う際には相方(トレーナー)と息を合わせて進む必要がある。じゃなきゃ地面と熱いキスを交わすハメになるし。波に乗れずに底に沈んだり、空を飛べずに星にならないようにするためには相当の練習が必須なのだ。秘伝技マシンがあればその辺かなり簡略化されるものの、それにしたって完璧とは言えない。大半の地方では対応するジムバッジがなければ秘伝技の使用が禁止されているのはそれが理由だ。

 

だからアローラでは予め訓練を重ねたポケモンをライドギアで呼び出した時を除き、秘伝技を用いた移動を禁止しているのだ。『島巡り』に伴い安全性を重視したアローラらしい風習といえる。

 

何よりも手持ちに秘伝枠を作る必要がないのが素晴らしい。さらばトロピウス。君の悲しみ(技スペ全部秘伝技)は忘れない。

 

レッドはこの辺理不尽(スーパーマサラ人)スペックでどうにかしていたが。シロガネ山を肉体一つで踏破したあたり、流石としか言いようがない。最早ポケモンいらないだろアイツ。

 

とは言え問題は今この瞬間だ。いやホント大丈夫なのか。万が一が起きたとしても、沈没した時ならばなみのりは許されるよな?すてられぶねの末路を知っている身としてはどうしても慎重にならざるを得ない訳だが。

 

 

***

 

 

結論。

無事でした。

 

…………まあ、万が一を考えるのもチャンピオンの義務ではあるものの、信頼が足りなかったことは反省しよう、普通に運転上手かったし。おんぼろボートが崩壊するギリギリを見極めた運転は見事なものだと言えるだろう。振り返るとククイ博士は博士として第一線で活躍しており、トレーナーとしてもそこそこ(・・・・)優秀、挙句リア充という高スペック。ポケモンバトルに過剰特化した僕からすれば割と尊敬に値する相手だ――――第一印象が上裸白衣(HENTAI)でなければ。色々残念なんだよな、ククイ博士……。

 

 

「なんだろう、ぼくのオサレスタイルが馬鹿にされた気配を感じたんだが」

 

それ(上裸白衣)をオサレと言ってるあたり、程度が知れるぞククイ(残念)博士。ポケモンの技を受け続けてついに頭がイかれたか。混乱の状態異常にでもなったか?永続するなら教えてくれよ習得させるから」

 

「ははは何を言ってるんだユウキ(ポケモン馬鹿)。上下ジャージで白ニットとか、ファッションセンスが大気圏突破して爆散死亡してるぜ?アローラの漢ってならもっと豪快じゃなきゃあ」

 

 

やれやれ、とでも言わんばかりに両手を広げ頭を振るククイ博士だが、彼はあまりに無知すぎた。僕はその態度を鼻で笑い、嘲笑を浮かべる。

良いだろう、教えてやる。僕がジャージを着て成し遂げた偉業の数々を!

 

 

「大気圏突破とか既に経験済みだ。ジャージ舐めるなよ?

海底の洞窟に突入できたり、グラードンの『ひでり』でも快適に活動できて、カイオーガの『あめふらし』にも耐えうる素敵ファッションだ。

動きを阻害しないから空の柱(レックウザの住処)のボロボロの通路を駆け抜ける時にも、音速で逃げるポケモン(ラティオス・ラティアス)を追う時にも、隕石の行方を追う時でも重宝する対伝説用(アンチレジェンド・)最終兵装(ファイナルウェポン)だぞ」

 

「――――その認識はおかしい。というか具体例のキチり具合に狂気感じるんだけど」

 

 

伝説に挑むためには装備を整えるの(持ち物:ジャージ)が大事だったのかと頭を抱えるククイを見て、勝った…………という謎の優越感を噛みしめる。上裸白衣(変態ファッション)とは違うのだよ上裸白衣(変態ファッション)とは…………!

 

 

「――――たとえぼくが負けても第二第三の上裸白衣(ぼく)が…………!」

 

「…………お二人とも、何をやってるんですか?」

 

いい感じにノってきた所に水を差してきたのはリーリエだった。声につられてそちらを振り向くと、彼女を含む先に上陸していた三人組が呆れた目でこちらを見ているのに気付く。反論しようとはしたが、あちらとこちらの戦力(ファッションセンス)の差は控えめに言って絶望的である。仕方ないか、とため息を吐いた。

 

一応言っておくが、僕だって普段の服装はどうであれチャンピオンとしてその辺の理解はしている。伊達にハルカやリラに着せ替えさせられていた訳ではない。ただ「ぶっ飛んだトレーナーは服装もぶっ飛んでる」という(非)常識に従っているだけで。ドラゴン使い(中二病)にとっての中二ファッション(マントやスカーフとか)のように、ジャージこそが僕にとっての象徴というだけである。

 

とはいえ聞かれたからには答えなければならない。ユニークさと一般ウケを両立させた高レベルなファッションをしているリーリエに言うのは些か心苦しいものがあるが、素直に告げた。

 

 

「上裸白衣と上下ジャージはどちらが服装として優れているかを競っていたんだ」

 

「…………えっと、私はお母様に服を選んで貰ってるので言い難いのですが…………どっちも論外だと思うんです」

 

「ぶっちゃけそれはないよねー」

 

「実は第一印象ドン引きでした」

 

「「――――グッハァッ!!」」

 

 

三連続で降り掛かる言葉の暴力によってトドメを刺されたククイはアーカラの港にぶっ倒れ、僕も思わず膝を屈してしまう。完膚無きまでの敗北感を味わったのはいつ以来だろうか。少なくともリーリエは毒にも薬にもならない女だと思っていたが、コレは多少評価を改める必要があるか…………。

 

 

「………………ククイ、アンタなにやってんの?」

 

 

そんなシュールな集団の代表であるククイ博士へ掛けられた声。刹那に先程までの空気を払拭して立ち上がりそちらを伺うと、そこには褐色で露出度がやや高い服を纏った黒髪の女性と、緑髪に花の髪飾りをつけた少女の姿があった。多少とはいえ距離があるとはいえ、実力の程は雰囲気から察せる。緑髪の少女の実力はイリマと同格で、黒髪の女性の実力はハラと互角か少し下ほど。察するにしまクイーン(・・・・・・)キャプテン(・・・・・)の2人組か。随分と豪華な歓迎だ。

 

 

「少し、精神的にボコボコにされちまってさ…………。もう問題ないぜ。久しぶりだな、ライチ」

 

「そ、そう……。ま、無事ならいいわ。久しぶりね。あんたたちははじめまして。あたしはライチ。アーカラのしまクイーンよ」

 

「あたしはマオ!キャプテンしてまっす!!」

 

 

予想違わず、彼女等はこのアーカラ島のしまクイーンとキャプテンだった。軽く挨拶を交わした後、変な意味に取られない程度に軽く見つめ、探りを入れる。

 

優れたトレーナーは五感も相応に高く、そのスペックをフルに使うことで事前に相手の手持ちを察することができる。トレーナーとポケモンは共に過ごすため、互いの影響を受けやすい。服装や口調など、些細なことが実は……という展開もありがちなのだ。これは少し前に言った『ぶっ飛んだトレーナーは服装もぶっ飛んでる』法則に繋がる所もあるのだが――それは置いておこう。

 

ポリシーを持ち単一タイプ縛りをしているトレーナーならば、そのタイプをある程度絞り込むことも可能だ。経験を積んだトレーナーならば直感的に縛りを把握し、その情報からバトルの組み立てを行うことも存外多かったりする。勿論あえて利用して不意を付く輩もいるため、勝負は事前の情報のやり取りから始まっていると言えるだろう。

 

マオは花の髪飾りを見た瞬間に草タイプ使いだとわかる。実力はキャプテンとして相応しいが、ホウエンのジムリーダーには及ばないな。他の地方ならそこそこやっていけるレベルではあるだろう。

 

ライチさんの方はわりとわかりにくい。服に若干付着した泥に、香水の匂いに紛れた土――というよりは鉱物の匂い。ホウエンでのフィールドワークの成果だ。特に鉱物に関しては嗅ぎ分けるのに相当の経験が必要になるが、ダイゴに(半ば強制的に)連れられてあちこちの洞窟で石を探していた僕に死角はない。タイプに関しては凡そ絞り込めた。岩か地面――――身にまとった宝石類から見るに、岩タイプが濃厚だろう――――――っと。

 

 

「――――へぇ、なるほど」

 

 

気配を最小限に留めたつもりではあったが、どうやらライチさんには気付かれたようだ。技術が錆びたか――――いや、ここは流石はしまクイーンだと賞賛するべきだ。どうやら一筋縄ではいかないらしい。

 

いずれ勝負しよう、という言葉を残し去っていく彼女達の姿を見て、僕はその時が一刻も早く訪れることを切に願った。

 

 

 

***

 

 

4つの島で構成されたアローラ地方の中でも、アーカラ島は最大の規模を誇る。そしてここカンタイシティはアーカラの玄関口ということもあり、中々繁盛してる様子である。

 

観光案内所で入手したパンフレットを流し読みしながら街を軽く散策。待ち合わせ(・・・・・)までにはまだ暫くの時間があるため、適当に周辺をぶらつきながら、これからの予定をさらっと練り上げる。

 

メレメレ島での旅が終わり、僕はもうミヅキのしまめぐりには同行出来ないことになる。とはいえ基礎的なことは詰め込んだし、あとはこの旅を通して実践を積み、自分の血肉へと昇華する段階である。そうなったらもう自分との戦いであり、いかに優秀な経験値を積めるかにかかっている。僕に出来ることは残っていない。

 

だから問題なのは僕の方だ。

 

 

――――アドバイザーって結局何すんの?

 

 

あまりに根本的過ぎる疑問だが、過度に接触せずアドバイスはするってどーやるのさと思い続けて早数時間。有酸素運動(街の散策)でもすれば何かしら浮かぶかと思ったが、今の所期待はずれもいい所だ。

僕が旅をしていた時はアドバイザーなんて………………………ん?

 

 

「――――いただろうが、過度に接触せず、時に戦い助言を与え、挙句(道具)まで渡してくれたヤツが」

 

 

刹那僕に閃きが走る――――。

なるほど、今振り返ると確かに『彼女』の行動はライバルというよりはアドバイザーに当てはまる。そして彼等の旅に関わりながら自分もZクリスタルを集めることができるというメリット付きだ。

 

そう、ハルカの行動を参考にすればいい。基本的に同じルートを辿り、最初の方は先回りしていたのにも関わらず、後半はむしろ追いつく立場となっていた彼女の行動を。あんな感じで接触すれば良いのではないだろうか。

そうと決めたら話が早い。アーカラ島の地図は既に入手しているため、そこから理想的な場所をピックアップ。仕事であるために万全を期した思考を働かせる。

 

何も決まっていない時に較べたらすっかり肩の荷が降りた気分だ。ああ、もう何も怖くない。そんな思考(フラグ)(立て)ながら、ククイ博士との待ち合わせ場所――ホテルしおさいへと足を運んだ。

 

この時の僕は知る由もなかった。

少なからず消費したこの思考時間が、実はまったくの徒労に終わることなど。

最後の島、そして大々試練に至るまで練られた計画の一切合切が無意味と化し、更には余計な気苦労まで背負うハメになると。

 

 

 



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自分だけど自分じゃない――なるほど、中二か

 

カンタイシティには二つのホテルがある。ハルハノリゾートにあるハルハノリゾートホテルと、中心部からやや外れた所に位置するホテルしおさいだ。前者は富裕層をメインにすえ、極めて質の高いサービスを誇り、後者は誰もが使えるリーズナブルなお値段と、ほのぼのとした暖かな雰囲気が売りである。

今回僕が向かうのはホテルしおさいだ。とはいえ目的は宿泊などではなく単なる待ち合わせに過ぎないのだが。

 

ホテルしおさいの方角を見てみると、街の中心から少し離れているにも関わらず、遠くを意識するだけで容易く見える威容に些かの驚きを覚える――が、考えてみれば当然か。交通の要所にホテルが二つしかないのだから、その大きさは推して測るべきだった。

 

 

「――――ん?」

 

 

そんなホテルしおさいのすぐ手前――噴水の付近で違和感を覚える。いや、違和感というよりは既知感か。軽く周囲を見渡すと、見知った人影を発見。思わず声が漏れる。

 

 

「…………デクシオとジーナ?なんであの2人がアローラに」

 

 

そこにいたのはカロス地方でプラターヌ博士の助手をしている筈の2人組――デクシオとジーナだ。服装はこの地方に合わせた装いへと変えられているが、僕が知り合いを見過ごすワケがない。

 

先程の呟きが聞こえたのか、2人が振り返ってこちらを見る。その表情には明らかな驚きが浮かんでいた。まさかホウエンとカロスのどちらからも遠く離れたアローラの地でで会うとは思いもしなかった。苦笑を浮かべてそちらへと歩み――――僅かな違和感を覚える。

 

 

「ユウキじゃないですか!奇遇ですね、まさかこんな所で会うなんて」

 

「ああ……最初はそっくりさんか、とも思ったがな。幾ら似ていようが知人を間違える訳もないし。

お前らはどうしてここに?プラターヌ博士の研究の手伝いにしても、進化について(・・・・・・)目新しいものはないと思っているんだが」

 

 

そう、彼等はプラターヌ博士――カロス地方でポケモンの進化(・・・・・・・)について研究している博士の助手である。彼は元々ナナカマド博士の下で研究しており、シンオウ地方の()チャンピオンであるシロナとは兄妹弟子の関係にあたる。僕はホウエンチャンピオンという立場の関係でシロナと知り合う機会があり、そのツテでプラターヌ博士やこの2人組(デクシオ&ジーナ)とも知り合ったのだ。

 

そんな彼等がどうしてここに?疑問を持って聞くと、ジーナが笑みを浮かべて答える。

 

 

「ええ。ここに来たのも単純に観光目的ですわ。あたくしはどこでも良かったのですけど、デクシオがせっかくならアローラにしよう、と」

 

「はい、そうなりますね。カロス地方とは遠く離れたアローラ独特の風習に興味を引かれてしまいまして。一応要件はもう一つありますが……それは島巡りをしている(・・・・・・・・)将来有望なトレーナー(・・・・・・・・・・)に頼みましたし。ところで、ユウキはどうしてここに?」

 

「ああ、僕は――――」

 

 

と、答えようとして――――

 

 

漸く違和感の正体に気付いた(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「…………その前に1つ聞きたいんだが」

 

「別に良いんですが……どうしたんですか?様子がおかしいですけど」

 

「問題ない、直ぐに終わる。デクシオ、ジーナ。

 

――――僕が最後にお前達と(・・・・・・・・・)会ったのはいつだった(・・・・・・・・・・)?」

 

 

失礼にも程がある質問にも特に嫌な顔をすることもなく、2人はアイコンタクトを取る。あまりに突拍子もない質問の意図を探るための確認だろう。

1秒にも満たぬやり取りを終え、デクシオが当然の事実を告げるように答えた。

 

 

「プラターヌ博士による、メガシンカ(・・・・・)に関する発表会ですよ」

 

 

 

***

 

 

 

自然と吐かれるため息に、幸運が散る(運命力が下がる)と軽く神経質になる。よくよく考えてみれば僕は結構頻繁にため息を吐いており、今回の件もそれに遠縁があるのかも知れない。

…………な訳ないか。それに、考えようによってはこれは良い機会とも言えるだろう。これまで特に関心を持っていなかった世界観の違い(・・・・・・)について考える機会になったのだから。

 

あの2人は僕があの質問をして程なく去っていった。ご丁寧に、「コンテストと研究の両立は難しいだろうけど、それが原因で体調を崩さないように」というダメ押しの言葉を残して。

 

そもそも()が彼等に最後に会ったのは去年――ナナカマド博士と(・・・・・・・・)プラターヌ博士による(・・・・・・・・・・)ポケモンの進化に関する(・・・・・・・・・・・)共同研究の発表の場(・・・・・・・・・)だ。加えて、そもそもプラターヌ博士が専門とする研究分野は進化(・・)であってメガシンカ(・・・・・)ではない。

 

やはりメガシンカの有無は2つの世界を分ける重要なファクターといえるだろう。メガシンカ――それは人とポケモンの絆によって生み出された、本来の進化とは異なる想定されていない進化。創造神(アルセウス)の意思とは無関係に生み出された世界のバグであり、新たなる発展(シンカ)の系譜。それが存在するとはすなわち――――

 

――――そんなことはどうでもいい。

 

余計な方向へと進む思考を無理矢理に断ち切って途絶させる。世界規模の話などどうでもいい。一トレーナーには過ぎた話だ。そこに闘争(バトル)がない時点で僕が深く関わるはずもない。

 

そんなことよりも問題はこの世界の(ユウキ)に関してだ。この世界に転移(トリップ)(?)した最初の会話で、ホウエンチャンピオンはハルカだということがわかっている。そしてデクシオとジーナ曰く、ユウキはフィールドワークとコンテストに没頭していたらしい。

 

ここから導き出される結論は、この世界における僕とハルカの立場は逆だということである。ハルカはセンリの娘であり、ユウキはオダマキ博士の息子だと。それだけではなく、才能関係もすべて。カロス2人組とは研究発表の場で邂逅し、交友関係を持っているのだと。

 

頭の中でサラッと仮説を立てたが、我ながら言ってる事の突拍子のなさに呆れが先に来てしまう。そもそも、勝負(バトル)頂点(チャンピオン)になれないことを良しとし、研究とコンテストに打ち込む自分の姿など全く以て想像出来ない。

そこに壁があるんだぞ、どうして超えないんだ?不可能なんてほざく前に本気を出せ、覚醒しろ。戦い(バトル)の果てを目指し、全てを擲って勝利を重ねろよ。

勝利を妥協した時点で、廃人(ユウキ)存在価値(レゾンデートル)はない。

 

それこそが自分であるのだと自負するために、これ以上はただただ不毛なだけだと結論付ける。大体僕に深く考えることを求めるのが間違っているのだ。とっとと割り切る。だいぶ時間をロスしてしまったことを反省し、止まっていた足をホテルへと向けた。

 

 

 

***

 

 

 

漸くたどり着いたホテルしおさい。待ち合わせ場所であるロビーには、既に全員が揃っていた。考え事に時間を使い過ぎたと反省し、彼等に声をかける。

 

 

「すまない、少し遅れたか」

 

「いや、ぼくたちもいま来た所さ。意外にもリーリエが一番早かったんだぜ」

 

「…………この方向音痴が?」

 

「う、方向音痴じゃないですよ……。スカル団みたいな人を見かけたので、見つからないようにしてたらいつの間にか着いてたんです」

 

「いつの間にかって時点で結構ヤバいんだが…………。もし隠れてるうちに迷ったらどうするつもりだったんだか。発信機つけてないんだぞ」

 

「なんで発信機なんですか!?そこは普通携帯電話とかでしょう!?」

 

 

ぷんすか、という擬音が聞こえてくるような極めてわかりやすい感情表現に思わず頬が緩む。メレメレ島ではほとんどミヅキ(真顔人間)と一緒だったため、普通の表情変化でも随分新鮮に感じてしまう。ハウは方向性は違うとはいえ、常に笑顔を浮かべている点ではミヅキの同類だし、ククイ博士は例外である。

コロコロ変わる表情をみて、メレメレ島の大試練前に彼女に抱いた苛立ちも、トレーナーではない相手への無関心も吹き飛んでしまいそうになる。

 

 

「――っと、自己紹介が遅れました。こちらでは(・・・・・)初めましてですね、バーネット博士。トレーナーのユウキと申します」

 

「…………やっぱり一方的に知られてるってのは違和感があるわね。始めまして。わたしはバーネットよ。空間研究所でウルトラホールに関する研究をしているわ」

 

「……空間研究所?ゆめのはざま(・・・・・・)ではないんですね」

 

「ゆめのはざまって……また随分と懐かしい名前ね。

昔の話よ、今は旦那がいるアローラで研究しているの」

 

 

向こうでは接触しているものの、こちらの世界では初対面にあたるバーネット博士と挨拶を交わす。この世界で始めて名前を聞いた時に既婚者だと知った時の驚愕を思い出した。付き合いはそれなりに長いが、旦那がいたとはその時が初耳だ。――いや、結婚したからアローラで空間研究所を設立したのだと考えると、単純に向こうではまだ結婚していなかっただけか。僕はゆめのはざまでの彼女しか知らないのだから。

 

それにしても、この世界の僕はバーネット博士とは知り合っていなかったのか……。ゆめのはざまでの彼女は希少なポケモンや道具、そして夢特性についての研究をしていたため、研究者の助手の癖に接触していないなどハッキリ言って失望ものだが、そこはひとまず置いておくとしよう。

 

問題なのはそこで思わぬものを見たとばかりにフリーズしている2名だ。軽く闘気を叩きつけると、彼等は意識を取り戻して口を開いた。

 

 

「ユウキさん…………敬語、話せたんですね」

 

「?当然だろう。自分では叶わないと確信する実績のある相手には敬意を持って会話するべきだ。勿論ポケモンバトルの分野であるのならば超えるべき壁としか認識しないが、他の分野であれば話は別だ」

 

「なあ、ぼくも博士号を持っているんだけどさ」

 

「何を言っているんだククイ博士。第一印象がアレ過ぎた(上裸白衣な)せいでアンタに向ける敬意など存在しない」

 

 

何を当然なことを、と首を傾げてやると、ククイ博士は若干のショックを受けたようだ。その様子を見たバーネット博士がカラカラと笑い、自分に対しても素の口調で良いと言ったため、ここは素直に言葉に甘えることにする。

 

それからは少しばかり世間話をした後、本題に入る。この話し合いの主題は向こうの世界について現時点でわかっていることの説明と、今後についての打ち合わせである。

必然的に口火を切る役目を担ったのは唯一の手掛かり――ウルトラホールに関して専門に研究を重ねているバーネット博士だ。

彼女はいっそ冷徹にも聞こえてしまう口調で断定する

 

 

「向こうの世界についてだけど……結論から言うわね。――――コンタクトを取る手段はないわ」

 

「――そんな!?」

 

「…………やはり、か」

 

 

ガタリ、と椅子の音を響かせてリーリエが立ち上がる。本来無関係な筈なのにそんな姿を見せる彼女とは裏腹に、僕は特になんの感慨も抱かず呟きを漏らした。

 

 

「リーリエ。落ち着いて、まずは席につきなさい。そしてユウキは全く動揺していないのね。もしかして、予想が付いてたのかしら?」

 

「――当然だろう。この世界に来た最初に、ククイ博士がウルトラホールは様々な可能性世界に通じているのかもしれないと言っていたんだ。ならば限りなく無限に近い可能性世界の中から一つを特定するなんて殆ど不可能だと思っていたからな」

 

「…………それはそれで、初めから信用されていなかったみたいでプライドが傷つくわね。要するにそれって、わたしたちの苦労はあなたにとってただの確認程度の認識だったってことでしょう?」

 

「申し訳ないが否定はしない。勿論確率はゼロじゃないため、見つかればそれで良いと思っていたがな。過度な期待を抱くのは論外だってだけで。命中率90%の技だって割と頻繁に外れるのだから、絶無に等しい確率に期待する方が間違っている」

 

 

――――それに、最終手段も残っている事だし。

 

向こうの世界とこの世界にどの程度の差異があるのかはハッキリしていないが、最初の一ヶ月間に文献を漁ってみたところ、伝説のポケモンの伝承については全く同じだった。

 

伝説のポケモンは圧倒的なまでに格が違う。準伝説(ちょっと強いだけ)のポケモンとは比べ物にさえならない。ホウエン一つを取っても、すべてを海に沈めるポケモン(カイオーガ)に、海を干上がらせるポケモン(グラードン)、あらゆる異常気象を調停するポケモン(レックウザ)と化け物のオンパレードである。

 

その中で僕が求めるのはシンオウ地方の伝説――――ディアルガとパルキアである。時を司るポケモン(ディアルガ)の力で僕が飛ばされた時間軸へと移動し、空間を司るポケモン(パルキア)の力でウルトラホールを維持し、リンクすることで理論的には元の世界へ戻れる筈である。

 

アルセウスでもいいのかも知れないが、生息地不明のかのポケモンとは異なり、ディアルガとパルキアは――少なくとも向こうの世界では――シンオウチャンピオンであるコウキが所持している。わざわざ天界の笛を探してアルセウスと謁見するよりも、この世界におけるコウキに協力してもらう方がよっぽど楽だ。

 

 

「少しドライ過ぎるけれど、まあそんなものなのかも知れないわね。実際問題、10年前に別世界から表れた人間(Fall)も未だ元の世界に戻れないままなのだから」

 

「なら尚更だな。だが、ゼロに近いとゼロは酷似しているようで全くの別物だ。研究のついででも良いから調べてくれると幸いだ」

 

「ええ、勿論よ。ウルトラホールは元々わたしの研究分野なんだから」

 

 

バーネット博士はひらひらと手を振って了承の意を見せた。とりあえず依頼料として1千万円ほどを支払おうとするも、そっけなくつっ返される。再度渡しても返されたため、これは意地になってるなと結論付け、諦めて金を懐に戻す。

それを話の終わる動作だと認識したのか、ククイ博士が口を開いた。

 

 

「ところでユウキ、きみに頼みがあるんだが…………」

 

 

だが――どうしてだろうか。僕はククイ博士のその様子になんとも言いようのない不安を抱いた。

 

 



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異性への対応って色々めんどい

今回初となるリーリエ視点がありますが、こんなのリーリエじゃないと思う人もいるかもです。あまり極端な変更はしてないんですが…………正直、大天使リーリエは凄く書きにくい。


 

突然ではあるけれど、リーリエ(わたし)にはどうしても苦手な人がいる。

 

 

 

***

 

 

 

最近、わたしの朝は早い。

元々わたしは寝起きが良い方で、起きるのが決して遅い訳ではないけれど、ここ数日は今までのそれよりも遥かに早い。我ながらよく起きれるなぁと関心する。

原因は――――わざわざ探すまでもなく、とっくにわかりきってることだけど。

 

 

簡潔に言えば、大体全部『彼』が悪い。

 

 

こみ上げる欠伸を噛み殺し、ほしぐもちゃんを起こさないように注意しながら旅用の小型簡易テントの外に出る。登る太陽を見ながら深く深呼吸。朝の爽やかな空気が肺に入り込み、なんだか新鮮な気持ちになった。

軽く体を解し、あらかじめ組まれていた綺麗な水で顔を洗う。その頃にはとっくに目も覚めていて、空きっ腹にはあまりに効く(・・)いい香りが漂ってくる。

 

こんなにもいい香りを出されては、どうしても期待せざるを得ないじゃないか。

 

香りが漂う方向へ顔を向けると、案の定、先にはわたしが使っていたテントに隣り合うように設置されているもう一つのテントがある。その影に『彼』の姿はあった。

 

 

「おはようございます、ユウキさん」

 

「おはよう、リーリエ。朝食はもう出来ているが――食べるか?」

 

 

もちろんですっ!

そう答えたわたしの声は、我ながら随分と弾んでいるように聞こえた。

 

 

 

ユウキさんの料理はきのみを使ったものが多い。パッと見何も使われていない料理でも、実は下味や風味付け、隠し味などに使われている、なんてこともある。ユウキさんは元々きのみ名人の元で修行していた経験があり、料理の技術はその人から仕込まれたものらしい。多種多様なきのみの風味を損なうことなく同居させる手腕は素人目に見ても見事なもので、もはや格が違いすぎてわたしの女としての自尊心(プライド)が傷付くこともない――それはそれでどうかと思うけど。

 

今日のメニューは7種のきのみを配合した特性シチューに、キーのみとパイルのみのクッキーグラノーラ、そしてモモンのみのスムージーだ。

ほしぐもちゃんを始めとするポケモンたちには、ユウキさんが作ったオリジナルのポケモンフーズが配られる。

 

いただきます、と食前の挨拶をして、早速シチューを手に取った。温かみのあるシチューの奥で繊細に調合されたきのみの味がさりげなく光る。アローラといえどもやはり朝は寒い。冷えきった体にじんわりとシチューの熱が広がる。

その熱を冷ますようにスムージーを飲むと、人工甘味料を一切使っていないモモンのみ本来の芳醇な甘みが口いっぱいに広がった。あえてパワーの弱いミキサーを使っているために若干ドロっとしているけれど、モモンのみはとても柔らかいため、とてもあっさりと飲むことが出来た。

次いで手に取ったのはクッキーグラノーラだ。噛むとサクリという小気味の良い音が響き、スムージーとは対称的であるために強調される硬い食感を楽しみながら食事を進める。

 

夢中になって食べ進めていくうちに、ふとあることを思いついた。クッキーグラノーラを一つ手に取り、シチューの器へと投入する。キーのみとパイルのみは吸水性がそれぞれ15と35であり、どちらも吸水性が高い(ユウキさん情報)。十数秒も待てばいい感じにシチューを吸ったクッキーグラノーラが見える。少しはしたないかなと思いながらも口に運ぶと、グラノーラの硬さを多少残しながらも程よく吸ったシチューが咥内に広がった。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

一口一口を味わって無心になって食べていると、器はあっという間に空になってしまった。少しの残念さを覚えながら挨拶をする。ユウキさんの出す食事はヘルシーで健康に良い上、味も超一流と隙がない。ミヅキさんはメレメレ島ではこんな美味しい料理を毎日食べていたんだなぁと思うと、思わず嫉妬してしまいそうになる。

…………もっとも、今はわたしがユウキさんに同行してもらっているんだから人のこと言えないんですけど。

 

そう、わたしは今ユウキさんと一緒にアーカラ島を巡っている。わたしは元々の立場もあって世間知らずだったから、この機会に色々なことに触れてみたいと思ったのだ。わたしは一人だと迷ってしまうため最初はククイ博士に頼もうとしたけれど、彼はバーネット博士の研究を手伝わなければならないためどうしても手が離せなかった。代わりに、ということで名前を挙げられたのがユウキさんだ。ホテルしおさいでそれを頼まれた時の、『一生懸命練ってた計画が潰された』とでもいうかのようなユウキさんの表情は、今でも強く記憶に残っている。

 

そうして得た念願の体験に、毎日の美味しい食事。同行者(ユウキさん)はとてもバトルが強く、安全性は極めて高い。

 

だけど、それを素直に喜べないのは――――やはり、どうしても苦手な人(ユウキさん)といっしょだからだろうか。

 

食事に使ったお皿や鍋をポケモンと協力してキレイにするユウキさんの姿が目に入る。ミロカロスのハイドロポンプ(微弱)で皿を洗い、リフレッシュ(対油汚れ仕様)で徹底的に汚れを除去。洗い終わった食器はバシャーモのフレアドライブ(弱火)に当てて手早く乾かす。無駄に洗練された無駄のない無駄な連携プレーによって、食器は数分と経たずにバックへと入れられた。

 

ポケモンと共存し笑い合う姿を見て今更警戒するべきなんてことは思わない。だけど、なんとなく感じる苦手意識はどうしても払拭出来ない。

 

 

 

 

お母様(ルザミーネ)お父様(モーン)が行方不明になってからずっと独り身で、自身が代表を務めているエーテル財団としての活動や研究に没頭してきた。結果的にわたしとお兄様は保護者との関わりが限りなくゼロに近くなっていたけれど、ビッケさんを始め、優しい人たちが一緒に居てくれたから1人ではなかった。

 

だけど――そんな子供たち(わたしとお兄様)を利用しようと考えた人も確かにいた。お母さまと結婚し、財団代表の椅子に座って実権を握ろうと考える人達。

そんな彼等は、お父様がいなくなってから研究に打ち込む(おかしくなった)お母様よりも先に、まず息子(グラジオ)(リーリエ)をターゲットにして恩を売っておこうと考えたのだ。

 

お母様は突然おかしくなり、心から心配してくれる大人の中に、自分を『道具(モノ)』としか見ていない人が混じっている状態。今優しい人は本当に優しいのだろうか、わたし達をちゃんと見てくれているんだろうか――?

まだ経験の浅い子供(わたしとお兄様)では相手の心を読むことなんて出来ないから、誰のことも深く信用することができなかった。

 

だからお兄様は1人で立とうとして(中二病を発症させ)、わたしは人の内心を観る技術を高めた。

 

そして、わたしはコスモッグ(ほしぐもちゃん)と出会い――今ここにいる。

 

 

 

バーネット博士もククイ博士も、みんな優しい人だった。わたしが生来の方向音痴で迷惑をかけても笑って許してくれるし、迷いそうならあらかじめ案内してくれる。エーテルパラダイスでも一応そんな扱い自体はされていたものの、明らかに温度が違っていた。なんというか、暖かいのだ。お父様がいなくなる前のお母様のように、ほっとする暖かさ。

だけど、ユウキさんは違う。彼等とも、エーテル財団職員とも明らかに違う始めての相手。

 

 

無色透明で、わたしになんの感情も(・・・・・・)抱いていない(・・・・・・)人。

 

 

一緒に旅をして始めて知ったことだけど、根()優しい。力仕事を手伝ってくれるし、話すと言葉を返してくれるし、方向音痴であるわたしのアシストもしてくれる。今だって、食事の準備や片付けをしてくれている。

 

だけど、その対応の理由は義務感が多くを占めている。リーリエという一個人を見ているようで見ていない。

わたしが、トレーナーじゃないから。

 

あの人が興味を持っているのはポケモン勝負(バトル)というただ一点だけ。その他は優先順位こそあれど基本的には無関心なのだ。他の分野の先駆者に対する敬意にしたって、それが結果的にバトルにも関係しているからに過ぎない。

 

今まではそれでいいと思っていた。だけど、楽しそうに、そして懸命にポケモンと関わるミヅキさんの姿を見るにつれて思ってきたのだ。

このままのわたしでは、おかしくなったお母様を救えない。今身近にいる人とマトモな関わりを持てずに、どうやって心を閉ざしている(UBキチな)お母様を救えるなんて言えるだろうか。

 

だから、わたしは――――

 

 

「ユウキさん、わたしと一緒にほしぐもちゃんについて調べていただけませんか?」

 

 

――今まで苦手だったひとへ、一歩踏み出すこと(がんばリーリエ)を決めた。

 

 

 

***

 

 

 

「まあ、別に構わないが」

 

 

畏まった趣のリーリエから発された言葉に特に躊躇いもなくあっさり頷く。

無駄に深刻そうな表情でこちらを見るものだから何を複雑に考えているんだかと思ったが、想定の斜め下をぶっちぎる他愛ない相談事に逆に驚愕する。

 

彼女はこんなにもあっさり許可がおりたことに拍子抜けした様子だったが、数秒経つと途端に顔に喜色が広がった。ミヅキではありえない反応だなと結論付けて、とりあえず手段を考察する。

 

 

とりあえず、リーリエが居たと思われる何らかの機関に接触するのはアウトだ。おそらくそこがこの世界で最もコスモッグ(ほしぐも)のことを理解していると思われるのだが、リーリエの身に危険が迫る。欲しいものを求める過程で危険が迫るならそれでも構わないと僕は思うのだが、依頼内容はリーリエの安全確保と補助である。彼女が自分の意思で踏み込まない限り、僕から推奨することは出来ない。

そもそも拠点の位置知らないし。

 

後は空間研究所でバーネット博士と協力して研究するという手段がある。博士は人道的だろうし、ポケモンにとって明らかな負担になることはしないだろう。リーリエが信用できるというのも大きい。反面限界を超えて酷使する違法研究に比べると進展はゆっくりだが、リーリエなら待てるだろう。

 

最も手間がかかるのが『じくうのさけび』能力者とコンタクトを取ることだ。じくうのさけびは信頼できるパートナーと一緒にいる状態でなにかに接触した時、それに関係する現在過去未来を観ることがあるという超能力の一種である。発動する確率こそ低いが、他では得られない情報が入手できる。――最も、じくうのさけび能力者は希少な上、大半は警察や研究機関に協力しており、個人情報が漏れることは少ないのだが。

彼らは犯罪が起きれば現場に残された何の変哲もない物から犯人を特定し、研究の道に進むと未開の生態を幾つも発見する。だから(既に解散したが)ロケット団を始めとするいくつもの結社からは怨みをもたれており、所属している機関に対立する研究機関からもいい感情を持たれていない。下手をすれば殺される(・・・・)

 

僕が知っている中でじくうのさけびを持ちながらも自由に過ごしていたのはたった1人。名前はソラ――ジュプトル使い(・・・・・・・)のソラだけである。そんな彼でも僕がこの世界に渡る数年前に消息を絶っているのだが――――この話は今は良いだろう。

 

あるいは、島を回りながらルーツを探すという手段もある。普通はそれで解明するなんて不可能な話だが、僕と超古代ポケモン(カイオーガ・グラードン・レックウザ)だったり、レッドと人造の最強(ミュウツー)だったり、ヒビキと伝説の二鳥(ホウオウ・ルギア)だったり、コウキと時間の空間の神(ディアルガ・パルキア)対世界の神(ギラティナ)だったり、トウヤと真実の龍(レシラム)だったり――妙な実績がある。前例には事欠かない。

 

こういった内容を掻い摘んで説明すると、リーリエは顎に手を当てて考え込む様子を見せる。…………何を考える必要があるのだろうか。とりあえず全部試せば良いだけだろうに。

 

 

「え、それでいいんですか!?」

 

「良いも何も最初から絞ってなどいないだろうが。本当に調べたいなら手段を明確にする過程が必要だったから並べただけに過ぎないのだが」

 

 

紛らわしかったか?と問いかけると、呆れたかの様な溜息が返ってくる。まあ、今のは僕に非があるか。広い心持ちで受け止める。

 

 

「とりあえず方針としては島巡りを通して全ての島を探し、コスモッグ(ほしぐも)の伝承と、じくうのさけびを持つフリーの人間について調べ、6番道路でひとまず南下して空間研究所へ。1週間程度滞在して研究を進める。短いとはいえ、きっかけ程度にはなるはずだ。

そこからは島巡りを再開、北部をコンプしてからまた研究所へ。同程度の時間調べ、命の遺跡を散策する。本当にカプに関わるのであれば向こうから何らかのアクションを起こしてくれると思うが――曰く、カプ・テテフは特に気まぐれという話だからな。期待しないでおくべきか。それでこの島はひとまず終わり、次の島に向かう」

 

「向こうから、ですか……?」

 

「ああ。何故か僕の周囲では最短でも月に一度くらいの頻度で何らかの厄介事が起きるからな。年に一度は伝説・準伝説も混じってくる。そろそろ前のヤバイやつから1年が過ぎるし、丁度いいと言えなくもない」

 

 

…………それがコスモッグ(ほしぐも)関連だと思えなくもないが、そこはスルーしておこう。とりあえず遺跡にはミヅキも同行させておくか。リーリエのためだとでも言えば断らないだろうし、良い経験になるだろう。

 

今度こそ計画が崩れないといいなぁと思いながらも、僕は不安を感じざるを得なかった。

 

 

 




ほしぐもと呼ばせるべきかコスモッグと呼ばせるべきか……この頃ってコスモッグという名前は判明してましたっけ?とりあえずどっちも並べてみましたが、そのうち変えるかもです。


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バタフライエフェクト……つまり、蝶舞だな!

最近文字数が減りつつある件について。
5000字ちょいオーバー位をウロチョロしてます



 

カンタイシティでユウキさん達と別れてから、私は次の試練の場所――せせらぎの丘へ続く4番道路を歩いていた。

流石は熱帯ということもあって、軽く周辺を見渡してみるだけで、カントーでは見られないような、暖かい場所にしか生息しない植物が多く見られ、多大な新鮮味を感じてしまう。今更ながら、これが島巡りの醍醐味なんだ。島のあちこちを自分の足で歩き、広大な自然を感じて成長する。

メレメレ島ではそんな余裕なかったからなぁ………。

 

確かに、ユウキさんの教えはためになったし、この先自分が成長する上で欠かせない土台作りもしてくれた。感謝の気持ちはもちろんあるんだけど……私だって女の子だし、こういった風景を楽しみたいという気持ちは大きい。あのユウキさん(バトル脳)はそれがわかってない。戦闘での読みは尋常じゃなく鋭いのに、どうしてここら辺はポンコツなんですかユウキさん!せっかく五感全部人外クラスなんだから日常生活にも活かしてくださいよ!そんなんだから彼女いn――――げふんげふん。

 

そんな益体もない思考をしながら、目に付いたトレーナーに片っ端から勝負を選び、速攻で叩き潰す。余計な行動なんてしない、ワンパンだ。育成(レベル)の暴力だ。

当初ユウキさんからは『自分の戦闘方法(バトルスタイル)を確立させろ』と言われていたんだけど…………正直な話申し訳ないけれども、ここ周辺のトレーナーとは実力が離れすぎていてまるで意味をなさないんだよね……。

最初こそ様々な試みをしていたけれど、軽い牽制で瀕死になるか、もしくは瀕死寸前の状態なのに色々試されて絶望し目が死んでいく姿を見るとこちらの心がキリキリと痛む。私は鬼畜でも廃人でもサディストでもないので、そんな心理的外傷(トラウマ)扱いしなくても……。

 

慣れた手つきで敗北者から掛け金を徴収してからその場を離れると、周囲から無遠慮な、しかし明確な怖れが含まれた視線が突き刺さる。そんな怖がらなくても……と溜息を吐きたい気持ちを無理矢理に堪えた。そんなことしたらむしろ悪化しちゃうからね……。

そういえば、とオハナタウンのゲートを潜る寸前に思い出す。笑顔はコミュニケーションを潤滑にするって誰かが言ってたし、とりあえず微笑んでみることしにした。

 

 

にっこにっこにー()

 

 

 

「――――なんで引かれたんだろ」

 

「そりゃー、ミヅキがむりに笑おうとして頬を痙攣させてるからねー。

はじめて見る人や小さなこどもにとってはー、尋常じゃないくらい怖く見えるんじゃないかなー?さっきまで暴れてたってこともあるしー」

 

「――――ぐはッッ!!」

 

 

…………独り言に対して突っ込まれた言葉によって掘り起こされるカントー地方でのトラウマ。

こちらが一生懸命近寄ろうとしているのに、距離を縮めるごとに全力で逃げるスクールのクラスメイト。その理由について聞いた時に、

 

『だってミヅキさん、ずっと真顔で怖いから…………』

 

って返されて絶望した瞬間を思い出す。そのせいで私にはアローラ(ここ)に来るまで友人が極々少数しかいなかったんだよね…………軽くナイーブになる。

 

でもまあ今は友達がいるからいっかーと割り切って現実復帰。声がかかってきた方向を見ると、案の定そこにはハウの姿があった。この間延びした特徴的な話し方は彼のものだし、判断なんてよゆーですよよゆー。

 

 

「なんかー、引っ越してきた時と比べて性格ぶっ飛んでないー?」

 

「………自覚はしてる。たぶん、ユウキさんのスペシャルプログラム(時間制限につき超詰め込みver.)受けたからかな?ハウもいつか受けてみるといいよ、私の気持ちが少しわかるから」

 

 

アレはヤバかった…………と(声だけは)朗らかに笑う私を見て、ハウが常に浮かべている笑顔に微妙な亀裂が走る。ハウは常に笑顔を浮かべているため人にとってはサイコの様に映るかもしれないが、私と比べると表情変化(差分)豊かである(多い)。まだまだ甘いな、という無意味な優越感に浸る私に、ハウはポケモン勝負(バトル)を提案してきた。

 

 

「オハナタウンでのポケモンバトルってー、なんかー、西洋劇みたいな感じがするよねー!」

 

「そうだね――――じゃあ、行くよ?」

 

 

――――簡単には倒れないでね、ハウ。

 

 

 

***

 

 

 

 

「行くよ、アブリー!」

 

「ピカチュウ!」

 

 

私の先頭はアブリーで、ハウの先頭はピカチュウ。これまで彼の先発だったピチューが進化したんだろう。レベルもそんなに高くないのに進化しているあたり、ハウのポケモンに向ける愛情の程が伺える。大好きなんだね、ポケモンのこと。

 

――――ま、だからって勝ちは譲らないし、そもそも私が愛情で負けてるとは思わないけど。

 

 

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ちょうのまいをしながら回避して舞を継続!蝶舞最優先で積めるだけ積んで!」

 

 

電光石火という圧倒的な速度(優先度+1)によって先手を取ったピカチュウに対し、私は蝶舞を指示する。電光石火の命中率は100%だが、それは技を受けるポケモンが対処行動を何も取らない場合だ。かわせ!と指示すればワンチャン回避は可能である――――byユウキさん。

必中技?無理無理絶対無理。つばめがえし――平行世界の自分を呼び出して全く同時に攻撃する技なんてどうやれば躱せると?

 

アブリーは蝶舞を行いながら、自然な形で電光石火を避ける動きをとる。ピカチュウは普段地上を走っているのに対し、アブリーは元々空を飛んでいるポケモンだ。空中での動きの自由度は比ではなく、蝶舞に影響が出ない程度の微弱な回避動作でもカスる程度に抑えられる。多少のダメージはあるが、蝶舞が継続しているのならば問題はない。CDS一段階ずつアップのぶっ壊れ。本来覚えられるレベルには達していないけど、ユウキさんに頼んで覚えさせて貰った技だ。

 

 

「蝶舞継続――もっと積んで!」

 

「なら――ピカチュウ、てんしのキッスだ!!」

 

 

舞うような動きを止めないアブリーに向けて、ピカチュウはてんしのキッスを行う。ピチューの時にのみ覚えられる技だ。キスってことは接近する(・・・・)必要がある(・・・・・)のだから、電光石火と同様に蝶舞をしながら回避するのが吉か。混乱するほどのキスなのだから、最低限マウストゥマウスくらいのショックは必要だろうし――――って、

 

 

ヘイガール(はぁと)(ピカ、ピカピッカ)

 

「まさかの投げキッス!?あっ、アブリー!?」

 

 

効果に関する知識はあっても、技のモーションに関する理解が足りてなかった!?

やたらとダンディーな挙動で投げキッスを行ったピカチュウに唖然となり動きが鈍ってしまったアブリーへと投げキッス(物理)が命中し、混乱の状態異常へと陥ってしまう。

 

混乱は技が低確率で自傷技となってしまう厄介な状態異常ではあるけれど、手持ちに引っ込めると元に戻る。ただし、ただ戻すだけではせっかく積んだ蝶舞が無意味なものになる。数巡迷い、選んだ選択は――――

 

 

「アブリー、バトンをつないで!」

 

 

バトンタッチ――能力変化を受け継いでポケモン交代を行う技だ。混乱したままでもアブリーならきっと発動できると信じて――身も蓋もないことを言ってしまえば、ハウのピカチュウのレベルなら電光石火以外に物理技はないため、自傷したとしても1発は耐えられると判断したのだ。特殊技なら2ランク上昇したDで耐久余裕です。

 

果たして結果は――――成功(ヒット)!返ってきたアブリーの入ったボールを素早くホルダーに戻し、次のポケモンをフィールドへと繰り出す。ボールが破裂して中からポケモンが表れ――次の瞬間に叩き込まれるてんしのキッス。交代した直後にはどんなポケモンであろうと隙が出来る。それを狙い撃ち、状態異常で少しでもリードを稼ごうとしたハウの判断はベターではあるけれど、

 

 

「――――ベターだからこそ、読みやすいんだよね」

 

 

ボールから表れたのはエーフィ――特攻(C)特防(D)素早さ(S)に優れたエスパータイプのブイズである。4番道路で捕まえたイーブイがいつの間にかなつき進化したのがこのエーフィだ。単純に速くて火力が高いだけでなく、もう一つ重大な特徴がある。それは――――

 

 

「えっ――ピカチュウ!?」

 

 

ハウの絶句する声が聞こえる。それも当然だろう。相手を混乱させる筈が、まさか自分が(・・・)混乱する(・・・・)とは思いもしなかっただろうから。

 

そう、このエーフィは夢特性(マジックミラー)。変化技は通用しない。

 

 

「っ――でんこうせっか!」

 

 

混乱の状態異常になりながらも、ピカチュウは主の命中に従って電光石火をエーフィへと命中させる。優先度が高い以上は幾らSを積んでいようが無意味だし、エーフィの防御力は決して高くない。表情に苦悶の色を宿すものの――――これで終わり。

 

 

「エーフィ、アシストパワー!」

 

 

電光石火が命中した直後の外しようがない至近距離。2ランク×3ステ×威力20、合計威力120のタイプ一致技がピカチュウへと直撃し、HPを一瞬で削り切る。

 

 

「っ――オシャマリ、アクアジェット!!」

 

 

2体目のポケモンはハウがハラさんから頂いたアシマリが進化したポケモン、オシャマリだ。ボールから放たれたと同時にアクアジェットを放ち、優先度+1という絶対性の下突撃する。対処することは不可能――――だけど、

 

 

「これで終わり!エーフィ、アシストパワー!!」

 

 

耐えることならできる。元々優先度の高い技は威力が決して高い訳ではない。故にエーフィはやや余裕を持って攻撃を受け止め、アシストパワーでトドメを刺したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「さすがミヅキー。ポケモン、回復するねー」

 

「あ、ありがとう」

 

「それとー、いいもの(クリティカット)あげるー。主ポケモンが防御ランクをあげても、急所にあげれば関係ないからー」

 

「え、ちょっ、待っ」

 

「じゃーね、ミヅキー。先に行ってるよー!」

 

 

何か言いたそうにしていたミヅキをその場に残し、ハウはコハナタウンを後にする。ミヅキを気にする余裕なんてなかった。口調自体はそのままだったものの、普段の彼らしからぬ一方通行の会話は、単にその表れだ。

 

 

――――おれ、こんなんでいいのかなー?

 

 

ハウはメレメレ島のしまキングにして、アローラにおけるトップクラスのトレーナー、ハラの孫である。そのために幼い頃から将来を期待されており、プレッシャーは大きいものだった。幸いなのは彼が決して無才ではないことと、周囲の期待を察しながらも理解しないという行為が出来たことである。少なくともこの2つがなければ、ハウは父同様に、この地方を後にしていただろう。

 

そう、結局のところハウは父と同じ(・・)なのだ。意識的にか無意識かの違いはあれど、偉大な祖父(ハラ)には勝てないのだと思っている。今までそれは、祖父(ハラ)が人としても、トレーナーとしても強かったからだと思っていたけれど――――。

 

 

――――また勝てなかった。

 

 

カントーから来たという少女(ミヅキ)。彼女は自分よりも後にポケモンを得たにも関わらず、同時期に島巡りを始めたにも関わらず、ハウは1度も勝ったことがない。いや、単に勝てないだけならまだ良い。問題なのは今に至るまでずっと、着実に力の差を付けられているという事実だった。

今回のバトルで自分は場当たり的な対処しか出来ていなかったのに対し、ミヅキは予め役割を決めた上で、それを遵守して戦っていたのだ。ハウも力を尽くしたものの、結局崩すことが出来なかった。つまり、ミヅキにとってハウはその程度の相手に過ぎないという事だ。かろうじて一矢は報いたものの、アレはミヅキのうっかりミスと、優先度によるものに過ぎない。

…………ハウ自身で達成したものは何もない(・・・・)のだ。

 

 

――――ミヅキだったら、じっちゃんに勝てるのかなー?

 

 

頭に浮かんだ可能性を否定し切れない。彼女はあっという間に成長していき、気付いたら既に遠くへと到達している。その成長はもしかしたらハラに届き得るかもしれない。もう自分では、相手にならないのかもしれない。

 

 

自分とミヅキでは、どうしてこんなに差がついてしまったのか――?

その答えが、どうしてもハウにはわからなかった。

 

 

気が付くと、オハナタウンを出た時に比べて脚取りが遥かに重くなっていた。外は既に陽が沈みかけている。西に沈む太陽は壮大に美しく、酷く印象的で、ちっぽけな自分を笑っているかのようにも見えた。

 

夕焼けに見とれていたハウの意識を現実へと引き戻したのは、眩いプラチナブロンドを有した漆黒の少年だった。

彼はモンスターボールを手に取ってハウへと告げる。

 

 

「俺はグラジオ。相棒のヌルと共に世界の頂点に立つトレーナーだ」

 

「お前、何も言わずに俺と戦え」

 

 

 




グラジオ君の大物感ヤーバイ……!

あと、ハウが初っ端でキッス打たなかったのは、まず電光石火のダメージの通りを見てアブリーのレベルに見当を付けるためです。この世界ではHPやらレベルやらが表示されないので、レベル差を測る時にそうする事が多いです。エリートトレーナーの上位やベテラントレーナーとかなら大体レベル差を直感的に理解できますが。
ホウエンのバトルフロンティア?アイツらはLv.100前提だからそもそも察する技術が必要ない。せいぜいHP1がむしゃらを警戒する程度。


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逃げるヤツってなんか追いたくなるよね!

スイレンの試練です。
予め言っておきます。我らが主人公が割と……どころか尋常じゃなく好き勝手やっています。


「勝った!スイレンの試練完!」

 

「ゆ、ユウキさん!?」

 

「ちょっと待ってください!!」

 

「…………なんだ、不服があるのか?主ポケモンなら倒しただろう?」

 

「不服と言いますかなんと言いますか………いやでもこれはあんまりじゃないですか!」

 

「逃げる方が悪い」

 

「シンプル!そして酷い!?」

 

「も、もしいきのいい海パンやろうさんがいたらどうするつもりだったんですか!?」

 

「…………それくらい水飛沫で分かれ。明らかに人間じゃないだろう?さっきは本当にいたんだが――僕らが進む時にはいなくなっていた」

 

「え、本当にいたのですか!?

あ、いや、だからって………だからってなにも………!」

 

 

 

「「せせらぎの丘すべてを氷漬けにすることはないじゃないですか!!」」

 

 

 

せせらぎの丘。

階段状に並ぶ湖と滝が美しく、釣りスポットとしても人気の高い、アローラに来たならば1度は見るべき観光名所――――であった(・・・)

 

過去形である。

今のせせらぎの丘は熱帯に有るまじき気温0°cアンダーの寒冷地域へと早変わりしていた。幸いにして被害は水面だけであるものの、湖も滝も、ポケモンさえも凍てついた氷の世界である。ある意味壮絶な絶景ではあるものの、こんなモノ誰も望んではいない――元凶を除き。

その元凶(ユウキ)は、一つの観光名所を無許可に劇的ビフォーアフターさせた事に特に何の感慨も懐いていない口ぶりで告げる。

 

 

「…………悪いな、1度逃げられたら周囲すべてを巻き込んででも追い詰めなきゃ済まない性格(タチ)なんだ」

 

「なんて傍迷惑な……」

 

「結局ラティオスはリラに取られたし。ラティアスこそゲット出来たものの………アレは本当に悔しかった」

 

 

ユウキは心底悔しそうに言うが、その場にいる2人――――スイレンとリーリエからすれば溜まったものではない。寒い。南国風の薄手の服装をしている2人にとって、この環境は過酷に過ぎた。

 

加えてスイレンにとっては自分の試練の場がこうなり果ててしまい、管理責任が問われることになりそうで肝も冷える。

リーリエに至っては諦めの境地である。これがエーテル財団に伝われば、ユウキさんの同行者ということで自分の存在が母にバレるかもしれない。いや、かもしれない、じゃなくて絶対バレる。連鎖的にククイ博士や空間研究所のみんなのこともバレる。公的にも私的にも自分達の事を追求するだろう。背筋が寒くなる様だった――物理的にも精神的にも。

 

 

――というかどうしてこの人(ユウキさん)平然としていられるんですか!?

 

 

もちろん経験豊富(・・・・)だからである。元の世界でもユウキは日常的にこういった行為をやらかしていた――が、勿論この世界にそれを知る者はいない。元の世界でもポケモン協会が必死こいて揉み消していることで、極めて事実に近い噂程度に収まっていた。

それを事実だと確信しているのは本当に僅かであり、その僅かな人々とは即ち廃人連中である。彼らにとってその行いははやって当然の事で、どこが悪いと言わんばかりにスルーしていたのである。

 

ちなみに、最も被害を出しているのはリラだ。(規模)より()なのがリラで、()より(規模)なのがユウキなのだ。バトルフロンティアで確保している準伝説の殆どは彼女が捕獲したポケモンである。

準と付くとはいえ、数多くの伝説を捕らえ続けた彼女の偉業(被害総額)は伊達じゃない。

 

 

妙に慣れた手つきで解凍を始めるユウキに、2重3重の意味で震えが止まらない2人であった。

 

 

 

***

 

 

 

――――時は数時間前に遡る。

 

 

 

「ここがせせらぎの丘、ですか……」

 

「階段状に流れる自然の湖、ね……各湖ごとにポケモンの生息はバラけているのか?」

 

「……………そんなことより、綺麗だと思いませんか?ほら、あそこで2匹のポケモンが泳いでいますよ!競走でもしてるんでしょうか!?」

 

「コイキングLv.19とヒンバスLv.16か。一緒に泳いでいるように見えるがその実アレは戦っているな。ヒンバスは親が優秀なのかタマゴ技を多く持っててレパートリー上は有利だが、レベルが低いために速度でコイキングに追いつけずにいるな。コイキングははねる・たいあたりしか技がないからレベル差生かしてひたすら逃げているだけだ。生と死を分ける競走という訳だな。あと1レベ上がれば進化して逆に追いかける立場になるのだが」

 

「………………ほら、あれなんてどうでしょうか?ニョロモたちがじゃれあってるようにみえませんか?」

 

「群れの頂点争いをしているんだろう。特性にちょすいがあるから水技以外を使って戦うしかないんだよ。見たところLv.18前後だから往復ビンタしか攻撃技が使えず、勝負というよりは運ゲーになっているが。それが結果的にじゃれてるように見えているんだろう」

 

「…………………………あの水飛沫は?」

 

「いきのいい海パンやろうが潜っているだけだな。アイツらは海パンだけで深海まで潜っても平然としている人種だから、心配するだけ無駄だ」

 

 

いきのいい海パンやろう:

たとえ 海底だろうと そこに 海があるなら 潜ってやるのが 真の 海パンやろうだ!

主な生息地:深海

使用ポケモン:ハンテール、サクラビス、ジーランス、ランターン、ホエルオー、パールル(しんかのきせき)

ダイビングが必要な深海でも海パン1丁で潜水し活動出来る海と共に生きる漢。平均6時間は潜水を続けることが可能であり、いきのいい海パンの王ともなれば24時間潜り続けられる。深海のことについては誰よりも詳しく、ユウキが海底洞窟へ辿り着けたのも彼らの助けがあってこそ。

 

 

「本当に人間なんですかいきのいい海パンやろうって!?

そしてユウキさんには綺麗な景色を見て楽しもうという気持ちがないのですか!?」

 

「いきのいい海パンやろうは海の漢(トレーナー)だ。あと、僕が景色に感動することはない。理解してるだろう?」

 

「そうでした……この人頭おかしかったんですよね……」

 

 

あとホウエンってなんでそんなに魔境(ホウエン)なんですか……と黄昏るリーリエには目もくれず、軽く気配を確かめる。

…………奥の方にちょっと普通じゃない気配。この気配は主ポケモンのものだろう。イリマの試練における、即座に爆散した金色なオーラを纏った妙なポケモンに通じるものがあるのだから――っと。

 

 

「――――いきのいい海パンやろうについての話、もっと聞かせて頂けませんか!?」

 

 

遠くの気配を探っているあまり、周囲の気配を察せなかったようだ。声をかけられるまで気が付かないとは僕もまだまだだなと自嘲し、かかってきた声の方向への振り向く。

そこにいたのは青い髪を有する少女だった。瞳を輝かせてこちらへと話しかけてくる彼女に内心辟易としながらもさりげなく実力を測ると、だいぶ上等な部類に入っていることが理解できる。特定は容易いものだった。

 

 

「それ自体は特に構わないが…………試練はどうする?キャプテン(・・・・・)

 

 

そう、この少女はキャプテンだ。あどけないようにも、いきのいい海パンやろうキチの様にも見えるが、実力は紛れもなくホンモノである。水タイプ使い――専門を同じくするアダムやミクリ(元ホウエンチャンピオン)と比べると流石に雲泥の差があるが、傘下のジムトレーナーと比べると実力は遥かに高い。あっちは元々ミクリのファンクラブなのだし。

 

 

「あっ、そうでした…………というか、わたしがキャプテンであるということを一瞬で見抜かれてしまったのですね。はい、スイレンと申します」

 

「トレーナーのユウキだ。こっちはいきのわるいビキニだったお姉さんの」

 

「違います!!

………コホン、リーリエと申します」

 

 

サラッと自己紹介を済ませ、いきのいい海パンやろうの説明を始める。大体上記した通りの説明が終わった後に、スイレンは腕を組んで深く頷き、納得したかのように息を吐いた。

 

 

「なるほど、今までわたしがいきのいい海パンやろうを見つけられなかったのは、湖や海面を探していたからなのですね」

 

「アローラはそもそも深海へのダイビングを禁止されているからな。ホウエンと比べて遭遇する機会が少ないのだろう」

 

「ホウエンはダイビングが自由なのでしたか?深海のポケモンとも会う機会が多いのでしょうし…………全く、羨ましいことです」

 

「え、ホウエンってダイビングが自由なんですか?」

 

 

そのタイミングでリーリエが口を挟んだ。彼女のルーツがどういったものなのかはあまり興味がないが、箱入り娘だったために妙な所で世間知らずだということは理解している。まあ説明くらいはしてもいいかと思う一方で、そして果たしてこの世界とは共通しているのかという僅かな疑問を抱きながら解説する。

 

 

「ん、ああ。ポケモンがいるのなら捕まえようと考えるのが魔境(ホウエン)修羅(住民)だ。ダイビングの秘伝技マシンが開発されてから一時期は深海のポケモンが乱獲されて絶滅の危機にあった位だし。それをなんとか解決したのがいきのいい海パンの王なんだが……それはまあ別でいいだろう」

 

「良くないです聞かせてください」

 

「後でな。

そんな感じで当時のダイビングはあくまで珍しいポケモンの住む領域へと辿り着くための技だったんだが、一部の人間が『これ観光利用できるんじゃね?』と思って一般に広めてからはそんな平和な話になった。海が深い所(ダイビングポイント)におけるダイビングの禁止令がないのは、そんな事をして希少なポケモンの生息地を逃しては開発した意味がないからだ」

 

「予想以上に夢のない話でした!?」

 

 

話を終えると、リーリエは随分とショックを受けたような顔をしている。そりゃあホウエンですし、とスイレンが声をかけると膝をかかえて座り込んだ。夢だの幻想だのに憧れる少女だったのだろう。僕からは慣れろとしか言いようがない。ミヅキだって急速にスレて(・・・)いったのだから。

 

 

「ともかく、この試練の説明を要求する。何をすれば達成になるんだ?」

 

「あ、はい。あの湖を見てください」

 

 

彼女が指し示した方向を見ると、湖の1点に無数の泡が浮かんでいた。人のものではない。無数のポケモンが収束している……のだろうか。何にせよ発される気配は決して強くない。

 

 

「あの泡の原因であるポケモンを倒して欲しいのです。いいものを差し上げますので」

 

 

ライドギアにラプラスが登録された!

 

 

「なるほど、コイツに乗ることで波乗りができるのか。…………流石、専門の訓練を受けているだけあって乗り心地がいい」

 

 

さっそくラプラスを呼び出して乗ってみると、想像以上に乗り心地が良い。思ったことをそのままスイレンに伝えると、そうでしょうと自慢げに頷きを返す。曰く、だってわたしが育てたのですから、との事。

僕もブリーダーとして最高峰の実力は備えていると自負しているが、それは戦闘向け――強くするという方向に限定される。こういった器用な育成が出来るなら尊敬してもいいくらいだ。少なくともその分野では僕が追いつくことはできないだろうから。

 

まあいい、と割り切ってラプラスを走らせる。こちらの挙動から求められている行動を察して適切な動きをとるあたり、やはり素晴らしい。ホウエンの頃からの付き合いであるミロカロスでさえ、このような波乗りが出来るかは怪しいぞ。

 

とりあえず何も考えずに水飛沫の方へとラプラスを進める。決して速くはないがゆったりと近付いていき――――

 

 

――――逃げられた。

 

 

その時の僕の心境をどう話せば良いのだろう。過去の記憶が思い起こされる。音速(マッハ)で逃げるラティオスを必死こいて探し、何度もエンカウントしてその都度少しずつ追い詰めたのに、結局ゲットしたのはリラだったという赫怒が彷彿される。

野生のポケモンは普通逃げない。だからこそ今回の逃げられたという体験はダイレクトにその記憶を刺激し――

 

 

――――端的に言ってブチ切れた。

 

 

何故かその場に一匹だけ残っていたヨワシを右ストレート1発で瀕死へと陥らせ、水切りの要領で水面で幾度とバウンドさせて遠くまで弾き飛ばす。躊躇いはない、これが育成力(物理)である。ラプラスが妙に怯えた目でこちらを見るが、この程度は些細な事だ。驚かれてもこっちが困る。

 

そして気配を辿ると、本来の獲物は滝を下って下の湖へと降りた様だった――――嘲笑。その程度で僕から逃げ切れると?せめて音速は超えろ、と嘲りを向け、ラプラスの甲羅から跳躍する。空中でライドギアを操作してラプラスを戻しながら反対側の陸地へと着地。落下の勢いを殺すことなく素早く下り坂を降りて湖へと到達する。

 

解放されるモンスターボール。最も美しいとされるポケモン(ミロカロス)がアローラ有数の美麗な湖へと現れた幻想的な光景に目もくれず

 

――――殺意を告げた。

 

 

「最大出力だ――――れいとうビーム」

 

 

そして湖は氷に包まれ――――始まりに戻る。

 

 

 

***

 

 

 

「ついカッとなってやった。反省しているが後悔はしていない」

 

「後悔もしてください!本来は最後に群れた姿(ツヨシver.)で挑ませるつもりだったのに!」

 

「あとせめてポケモンにはポケモンを使ってください!右ストレートでワンパンってなんなんですか!」

 

「育成足りてないのが悪い。普通育成限界(Lv.100)まで育てるだろうが。

ちなみに群れた姿だかな、トップクラスのブリーダーが育成した場合は全能力を元々のステータス×ヨワシの数まで跳ねあげるぞ。多少高くなった種族値程度で妥協してどうするつもりだ。

大体なんだ、ヨワシという名前からして弱いだろう。せめて名前だけは強くあろうとしろよ恋の王様(コイキング)みたいに」

 

「………うう、わかりました、わかりましたからもう勘弁してください。水のZクリスタルと釣り竿あげるので」

 

 

ユウキは水のZクリスタルを手に入れた!

ユウキはスイレンの釣り竿を手に入れた!

 

 

清々しい位にハートフル(ボッコ)だった。リーリエの視点からは最早カツアゲにしか見えない。目元を潤ませながらZワザの動きを教えるスイレンを見て尋常じゃない申し訳なさを覚える。同行者がごめんなさい。わたしは無力でした。

 

ちなみに、リーリエがこんな余裕を持って――現実逃避とも言う――考えられる理由の一つとして、ここせせらぎの丘が通常の状態へと戻ったことが挙げられる。

 

凍りついた湖を前にユウキが一つのボールを掲げただけで、氷点下だった気温がアローラ全土を基準としても煮えたぎるような灼熱となり、日輪が煌々と輝きを放つ。天候変化だとしても、ここまで強力なものは知識にも存在していなかった。それが単なるにほんばれであるとは到底思えない。

その日照り(・・・)の影響ですべての氷は融解し、せせらぎの丘は元の絶景を取り戻した。凍りつくのが一瞬だったため、多くのポケモンの生命に異常はない。

 

その辺でリーリエは、これが異世界のホウエンクオリティなのかと現実逃避した。バックに入っているコスモッグ(ほしぐも)もなんら反応を示さずフリーズしている。規模と世界観が明らかに違いすぎていた。異世界とはいえダイビングが自由に出来るという話を聞いて全てが解決した後に1度は行ってみたいと思ったこともあったけど――絶対嫌だ。巻き込まれたら死ぬ。生命が幾つあっても足りないと確信出来てしまう。

リーリエは知らないとはいえ、ダイビングの最中に他の人間のバトルに巻き飲まれて死亡する観光客も実在するのだから。

 

ここでユウキが真実――ここまで好き勝手が出来るのは100人に満たないと告げても、リーリエが知る限り、アローラにはいないのだから何のフォローにもなっていない。というか1人いるだけで許容範囲外だ。巻き込まれる立場にもなって考え――――たけどユウキさんなら嬉嬉として混ざりますよね?

 

アローラのレベルが低いのではない。ホウエン地方、引いてはバトルフロンティアのレベルが頭おかしいのだ。育成限界(Lv.100)になってからがスタート、上位トレーナーは準伝説を持ってて当たり前とする環境は、常人からするとキチガイという一言でまとめられる。

 

だからこその現実逃避。

結局彼女が帰って来たのは、あまりに頼りになりすぎる同行者が声をかけてからだった。

 

 

 

 




リーリエ
(ユウキさんのこと、これまでは接した事がないタイプだから苦手だったのですが、今は客観的に見て頭おかしい人だと思うので尚更苦手です…………)

ギャグ風味でやってますが、Lv.100のポケモンが全力を出した時の周辺への被害状況ってこんなんで良いのかなーと思いながら書いてました。設定上ユウキのパーティーはフレーバーテキストの性能を含む伝説のポケモン(グラードンとカイオーガ)を(レックウザがエアロックすれば)ボコれるレベルなので、まあこれ位ならはっちゃけても良っかーと。この辺の設定を普通のバトルにまで持っていくと泥沼にハマりそうなので辞めておきますが、トレーナーもこういった攻撃の余波を喰らうかもしれないと考えると、実はみんなスーパーマサラ人になる可能性を秘めている可能性が微レ存……?



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厨兄ちゃんという圧倒的語呂の良さ

中二病ってムズい。俺は邪気眼系じゃなかったからなー、なんかコレジャナイ感がする。
まあ、だいぶ前のリーリエの独白でグラジオくん中二強化フラグを入れてたし、許容範囲だろたぶん。

10/4
この話からSM主人公の名前を間違えていたので修正しました。

(誤)ミツキ→(正)ミヅキ

同日。
修正しきれていなかった所を修正しました。
誤字報告ありがとうございます



もうすぐ日が暮れる。近辺にはポケモンセンターがあるため、真っ暗にならない内にたどり着こうと速足で歩く私だったけれど、すぐそこで行われているバトルの音を耳が捉えた。

 

…………元気だなぁ。

 

無意識のうちに随分と年寄り臭いことを思ってしまい、即座に頭を振って思考を打ち消す。なに考えてるの私……!まだぴっちぴちのJSだよ、12歳だよ!?

 

聞こえてくる音から察するに、周辺のトレーナーと比べると実力は高いんだろう。単純な興味に加えて、先程の私の年老いた思考のこともある。時間を気にせず好きなことをやるのが子供らしさだよね、と結論付ければ後は早い。

 

ポケセンへと一直線だった進路を素早く方向転換。好奇心の赴くままに脚を進めるのであった。

 

あと……気の所為かな。このバトルしてるうちの片方の音、どうも最近聞いたことあるような気がするんだよね……。

 

 

 

***

 

 

 

「ん、やっぱりハウだったんだ」

 

 

随分聞き覚えあるなーと思っていた声だけど、近付いてみると特定出来た。ハウだ。ポケモンに指示をだしている時はいつもの間延びした口調じゃないから、気付くのがちょっと遅れてしまった。ピカチュウの声ならカントーでもよく聞いてたうえ、さっきの天使のキッスの印象がヤバかったから、それが聞こえてきたら話は早かったんだけど……どうやら既に倒れていたようで。オシャマリの声は聞き覚えがないからなぁ……。

 

という考え事をしているうちに、どうやらバトルは終わってしまったらしい。オシャマリが見慣れない4足のポケモンに体当たりを決められて瀕死となり、ゲームセット。金髪で黒い服を着た男の人の勝利に終わった。

 

後は掛け金の徴収だけだろう。そう判断した私は拍手をしながら精一杯の笑顔を浮かべ、軽快に彼らの元へ躍り出る。

 

2人からぎょっとした様子で見られた。

泣きたい。

 

 

「…………ミヅキはさー、もうちょっと学習したほうがいいんじゃないかなー?」

 

 

…………解せぬ。

私の行動のどこに非があると?

 

 

「おれー、さっき言ったよねー?『ミヅキがむりに笑おうとして頬を痙攣させてるからねー。はじめての人やこどもにとってはー、尋常じゃないくらい怖く見えるんじゃないかなー』って。

たたでさえ初対面なんだし、こんな薄暗い所で見えない所から覗かれていたんだとしたらー、ビビって当然なんじゃないかなー?」

 

「ごめんなさいっ!!」

 

 

実際おれもちょっと怖かったしー、なんて言われればもうどうしようもない。私はすぐさま2人へ向けて90°頭を下げる。許してくれるといいなー、なんて思いながらそのままの姿勢を継続すると、ハウではないもう一人の男の子が私へと声をかけた。

 

 

「ふっ……気にすることは無い。いずれは世界の頂点に立つこのグラジオの闘争(バトル)ともなれば、その輝きはあまりにも荘厳に過ぎて直人では目を焼かれてしまうであろう。闇に紛れていたのは英断と言える」

 

 

…………ん?

 

 

「だがしかし!今、お前が俺の前に立ったということは即ち、ここで俺達が闘う運命にあるということを意味する!さあ、傍らにて侍り猛る獣を封ずる紅白の球を持て。俺達の雌雄、ここで決そうではないか!」

 

 

…………え、えっと?何言ってるのこのひと。

無駄に難しく難解な言葉を連発するため、金髪少年――グラジオ、で良いのだろうか――の言いたいことがよくわからない。

 

『目が合ったからバトルしようねっ!』って事だろうか?トレーナー的に考えて。

 

……うん、なら何の問題もない。トレーナーは百の言葉よりも一度の戦闘(バトル)の方がなお雄弁に物語るものなんだ。たとえ今理解出来ていなくたって構わない。終わった後にはきっと、互いを理解して会話ができるだろうから。

 

 

「何も言う必要はない。黙って俺と闘え!――――さあ行くぞヌル!」

 

「――――それはそれとして、せめてもうちょっとわかりやすく話してくれないかな!?」

 

 

 

 

***

 

 

 

「顕現せよ、夜天に飛翔せし闇の鳥(ズバット)!」

 

「お願い、ドデカバシ(・・・・・)!」

 

 

――――今なんて文字書いてズバットって言った?もしかすると、アローラの方言なのかもしれない。あまり聞いたことないからわからないけど、こんなものなのかな?

 

グラジオの言動はある特定の年齢層の人々はいたく気に入り、それよりも少し年がいった人は背筋を震わせ、魔境(ホウエン)のチャンピオンであるユウキでさえ冷静ではいられないという強力な精神攻撃である。だが、とある病に極めて無知で穢れない(ピュアな)ミヅキには通用しない。

 

アローラへの熱い風評被害を押し付けて、レベルの暴力(ドデカバシ)へと指示を出す。

 

 

「――ドデカバシ、ロックブラスト!」

 

 

特性(スキルリンク)によって強制的に攻撃回数を5回まで引き上げられたロックブラストがズバットを襲う。岩の一つ一つの威力は決して高くはないが、ドデカバシの優れた攻撃力で放たれた技だ。圧倒的なレベルの差に、ズバットの弱点(岩タイプ)であることも加わるとなれば、一撃だけで瀕死となるのは確実だった。

 

 

「甘いな――この程度の攻撃さえも回避出来ないほど、俺の一番槍は容易くはないぞ!」

 

 

そう、だった(・・・)――――過去形である。狙いが甘い(命中率90%)という弱点を付かれ、ロックブラストの全弾を回避しきるズバット。その姿に唖然とする気持ちを抑えきれなかったため、一瞬の隙がミヅキに生まれる。

――――それを狙わないグラジオではなかった。

 

 

懐疑を付与する幻惑光(あやしいひかり)!」

 

 

相手を惑わし混乱状態にする光がドデカバシへと命中した。ふらついて動きが鈍くなった姿を見たミヅキは小さく舌打ちをし、素早くドデカバシを引っ込めて混乱の状態異常をリセット。次のポケモンを繰り出す。

 

 

「お願い――フクスロー!」

 

 

そしてフクスローがフィールドに現れ――一瞬の硬直。グラジオが嗤う。

 

 

「千里を超え、アカシックレコードに記されし森羅万象を見通す俺の『瞳』より逃れられるものなどありはしない!

その交代は読めていた――再度惑わせ、闇の鳥よ(ズバット)!」

 

 

逃れられない一瞬に放たれる怪しい光。元より命中率は100%なのだ、外れる道理などありはしない。不遜な笑みを浮かべるグラジオに対し、ミヅキはどこまでも真顔だった。

真顔で、平然と(・・・)指示を出した。

 

 

「――――ついばんで」

 

 

直後動き出すフクスロー。その動きには混乱状態特有の迷いが一切見られない極めて鋭敏な挙動だった。面食らったグラジオだが、それでも指示の遅れは僅か数瞬だった。

 

 

不浄を払いし双つの翼(つばさでうつ)!」

 

 

だが、その数瞬が命取りだった。もとより同じタイミングで指示を出された場合でも素早さの差によってフクスローが先手を取るのだ、遅れてしまったのならば言わずもがな。後手に回ってしまったズバットはあまりに容易く翼を折られて地へと堕ちた。

 

 

「くっ、よもや俺に解読出来なんだ記述が下僕の命取りとなるとはな。禁断の果実(ラムのみ)、か……まったく、未知とは忌々しいものだ」

 

「…………確かにラムのみであってるんだけど……なんか違うというか、心情的に否定したいというか」

 

 

そう、ミヅキがフクスローに持たせていたものはラムのみだった。先程ハウにも交代と同時に状態異常を狙われたので警戒していたのだが――保険が効いていたようで何よりだ。ミヅキは僅かに安堵すると同時に、なんか妙なつっかえを抱く。

 

 

「だが――構わん!たとえ世界が俺に仇なすとしても、アカシックレコードが偽りの記述を伝えようとも、『瞳』に映りし総てが夢幻に過ぎなかったとしても――俺は相棒(ヌル)と共に世界の頂点に立つ!神よ、ただ刮目せよ!行くぞ相棒――叡智を宿す超越世界への牙(タイプ:ヌル)!反撃の時は訪れた!」

 

「うわー、絶対人の話聞いてないよこの人。なんか勝手に盛り上がってるし。本当にバトルするとトレーナーは分かり合えるんですかユウキさん。次第に温度差が広がっていくような気がするんですけど」

 

 

グラジオが出したのはタイプ:ヌル。Sを除いた種族値がオール95と安定しているポケモンである。それは器用貧乏とも取れるが、このレベル帯では未進化なために充分な種族値を持たないポケモンが多いため、相対的には極めて優秀なステータスを誇っている。

 

ミヅキはこの情報を知らないが、準伝説級(タイプ:ヌル)から溢れ出るプレッシャーから、生半可な気持ちで戦うと敗北すると本能的に理解する。元より加減するつもりなどなかったため、特に意識を変える必要はないのだが。

 

先程のやり取りによって僅かながらも途切れていた集中力を再度研ぎ直し、心を落ち着けてフィールドを俯瞰する。手持ちは2vs1。数の上ではミヅキが有利だが、だからといってヌルはそう簡単には破れない。何をするべきか考えて、ミヅキはフクスローへと指示を出す。

 

 

「ついばむ!」

 

原初にして最強の戈(たいあたり)!」

 

 

なにをどう考えようとも、結局フクスローはフルアタに過ぎないのだ。よく考えるまでもなく攻撃特化なのだから、不慣れな領分に手を出すよりも、ひたすら削っていく方が性に合う。

 

ヌルとフクスローの攻撃はフクスローに軍配が上がったようだ。それは素の技の威力か、それともレベルの差なのか。どちらにせよやることは変わらない――敵を討て。その思いのままに両者が指示を出す。

 

 

「もう一度!」

 

「行け、ヌル!」

 

 

触れ合うほどの超近接距離(ゼロレンジ)で、真正面からぶつかり合う2匹のポケモン。高速で複雑に行われる戦闘に、トレーナーの介入する余地はない。下手な指示は自分のポケモンの行動を遅らせ、命取りとなるだけだろう。超一流(トップクラス)ともなれば話は別だが、少なくとも2人は未だその領域にたどり着いてはいないのだから。

 

フクスローが穿ち、ヌルがはね飛ばす。無限に続くかと錯覚させる攻防の果てに、両者はこれまでの比較してあまりにも遠く距離を取った。体を地に強く押し付けたヌルに対し、フクスローは高高度で姿勢を安定させ――

 

ヌルが繰り出したのは、四肢をめり込む程に強く地に押し付けて、これまでよりも遥かに強い勢いでの体当たり。

そしてフクスローは、飛行タイプというアドバンテージを活かし、高高度からの位置エネルギーを一点に集約させたついばむを放つ。

 

周囲一帯に肉と肉が衝突した鈍い音が響き渡る。空中で激突した両者はそれっきり動きを停止し、共に地面へと墜落した。

僅かな沈黙を挟んだ後、立ち上がったのは一匹のみ。

 

そして、グラジオは呟いた。

 

 

「ふっ――憎い奴だ…………」

 

 

立ち上がったのは――――フクスロー。

泥に塗れながらも胸を張るフクスローに、ミヅキは服が汚れるのも構わずに勢い良く抱きついた。

 

 

***

 

 

グラジオはその光景を見ていたが、やがて興味を失ったかのように顔を逸らし、もう一人――傍観者でしかなかった少年へと語りかける。

 

 

「どうだ、これこそがお前が渇望せし心の強さだ。お前は確かに強いだろうさ。それはアカシックレコードにも記された事実だ」

 

 

えー、おれって強いのー?とハウは照れたように笑いながら言葉を返す。

そんな彼へ、グラジオは決して視線を向けない。ハウの言葉を聞いているのかさえ定かではない。ただ言葉を先へと進めた。

 

 

「――――だが、俺の『瞳』に見えないものなど存在しない。お前はただ強いだけ(・・)だ。心構えには常に『諦め』が存在する。無様だな。故に壁を破ることが能わないのだ。自分を、そして同胞(パートナー)に全幅の信頼を抱け。自分を信じられぬ者が、どうして世界と向き合うといえよう。偉大なる祖父(しまキング)だからどうした(・・・・・・・)。我も(トレーナー)、彼も(トレーナー)、故に対等だ基本だろう?

 

俺に勝てぬ相手などいない。たとえ今勝てぬとしても、不断の意志を以て己を鍛え、いつか(・・・)必ず勝利をこの手に収めてみせる。

俺は独りではない――ヌルがいるのだからな。

 

 

――――ハウ、お前はどうなんだ?」

 

 

グラジオの言葉に、ハウが常に被っていた笑顔の仮面に罅が入った。彼は漸く自覚したのだ。自分の中にあった無意識の諦め――祖父には勝てないという諦念を。

 

ハウは今、漸くトレーナーとしての第一歩を踏み出した。ハラにも、そしてミヅキにも勝てないのではないかという幻想を断ち切った。勝てないのではない、勝つのだと。今は無理でも、いつかは必ず――と。

 

そして――――なんか無性に苛立ってきた。何人の事情を知った気になって好き勝手言ってくれてんだろうこの人は。

無様?強いだけ?そんな気取ったよう(中二スタイル)な言動をしている相手に言われたくはない。遠慮なんてしてやるもんか。そっちがそうだってなら、こっちだって好きに言わせてもらおうか――。

 

ハウはグラジオの言葉に答えようとして――――邪魔が入った。

 

 

「プーゲーラッwwwグラジオくん負けてやんのwww用心棒のクセに島巡り途中のガキに負けてやんのwww」

 

「悔しいでちゅかー?悔しいでちゅよねー。だってグラジオくんAIBOと一緒に世界の頂点(爆笑)に立つんでちゅもんねー」

 

「そのクセド素人に負けるとかマジウケるーwwwねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?俺は相棒と共に世界の頂点に立つ(キリッ)とか言っといて通りすがりのJS(ロリ)に負けるとかマジ無様wwwねぇ今どんな気持ち?」

 

「悔しくて悔しくて泣いちゃいそうでちゅー!良いもんボクちゃんにはAIBOのヌルがいるんだもんねー!」

 

「プギャーwwwお坊っちゃんはいいねぇ泣きつく相手がいてwwwそうだね君は1人じゃないもんねヌルがいるからねwwwスカル団内では絶賛ぼっちなうですけどwww」

 

 

煽りと共に表れたのはスカル団のしたっぱだった。

 

グラジオとはさほど接点がなく、かつ先程までブチ切れてたハウからしても、やりすぎなんじゃ……と思ってしまうほどに無意味に高すぎる煽り。

こっそりとグラジオの方を伺ってみると――

 

 

(うわー、なんか視線で人殺せそうなくらい睨んでるよー!おでこなんて血管めっちゃ浮き出てるしー!)

 

 

「……………………ハウ」

 

「う、うん……」

 

 

背筋が凍るような声だった。心なしか周囲の空気も冷えきっており、まるで湖一つが(・・・・)まるっと(・・・・)凍りついた(・・・・・)ような冷気が体を襲う。

グラジオが抱く凍てつく憤怒に、ハウは一言を返すことしか出来なかった。

 

そんなハウへと意識を向けることなく、グラジオは一片の躊躇いもなしに懐から取り出した元気の塊をヌルの口元へと放り投げる。

HPが全回復して途端に元気を取り戻したヌルは、ゆっくりと立ち上がってグラジオの傍らへと歩み寄る。

 

 

「お前は決して手を出すな。奴は俺の逆鱗に触れた。俺はともかく、相棒(ヌル)を侮辱するならば――潰す。

完膚なきまでに潰す。地獄の業火に焼かれながら、このグラジオの憤怒を理解しろ。

 

――いや、理解しなくていい。疾く死ね。拒否など認めない」

 

 

ハウは内心で決意する。

グラジオへの苛立ちは残っているし、わざわざ遠慮をするつもりはない。だけど――程度は弁えたものにしよう、と。

 

 

 

 




前々話での闇堕ちフラグが速攻断ち切られるハウ君。個人的にはもうちょっと引き伸ばしたかったんですが……原作でイベントがこうも連続してるのが悪い。あと厨兄ちゃんが意味深なセリフを連発してたのが悪い。

……俺は悪くねぇ!


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デュエリストではない、リアリストだ!

無言の腹パン(意味深)

10/4
SM主人公の名前を修正しました。
(誤)ミツキ→(正)ミヅキ

同日。
修正しきれていなかった所を修正しました。
誤字報告ありがとうございます


「…………正直に言うわね。あなたは研究職にはまったく以て、これっぽっちも向いてない。才能自体はあるのだけれど、適性が微塵も感じられないのよ。

だから――この娘(リーリエ)の頼みを聞く一週間は好きになさい」

 

 

その言葉に、僕は――――

 

 

 

***

 

 

 

「ファイアロー、ブレイブバードだ!」

 

 

特性(はやてのつばさ)によって圧倒的な速度(優先度+1)を得たファイアローがブレイブバードを放つ。与えたダメージの1/3の反動ダメージを受けるというデメリットを有するが、それを帳消しにするほどに威力(メリット)がある高火力な技だ。

 

ターゲットは――僕の手持ちポケモン(バシャーモ)。炎・格闘の複合タイプであるバシャーモには効果バツグン確定一発である。勝負は終盤に入り、目立った活躍をしている僕の手持ちを削ろうと思ったのだろう。だが――――考えが浅い。

 

 

「――――潰せ」

 

 

指示はそんな具体性の欠片も持っていない一言。それだけで事足りた。

 

高速で一直線に突っ込むファイアローに、バシャーモは何ら反応を示さない。示す必要がないのだ、この程度(・・・・)の危機には。

ブレイブバードが直撃する――刹那、バシャーモは重心を体の中心へと完全に移動。回転扉の要領で衝撃(ダメージ)を循環させ、そっくりそのままファイアローへと叩き返す。限界集落(ムロタウン)ジムリーダー、トウキが得意とする柔の技だ。全くの無傷とは言わないが、それでも本来想定されるダメージと比較して皆無同然のダメージしか受けなかったバシャーモとは異なり、ファイアローは自分の技による衝撃を受けて吹き飛んだ――

 

 

「――――壱」

 

 

――――ファイアローと同様に、バシャーモを倒そうとたきのぼりを放っていたギャラドスの元へ(・・・・・・・・)

 

こうかはばつぐんだ!

 

質量差に弱点(みず)タイプ、何よりもあくまで吹き飛ばされていただけであるということもあって、ファイアローは容易く弾き飛ばされて瀕死へと陥り、ギャラドスを所持するトレーナーにポイントが1つ加算される。

 

だがギャラドスのたきのぼりも、その攻防によってかなりの勢いが削がれる結果へと繋がった。加えてバシャーモは攻撃のダメージを受け流すことでさらに減らす。そしてギャラドスが通り過ぎる瞬間に尻尾をむんずと掴み、たきのぼりの威力はそのままに方向だけを調節してぶん回した(・・・・・)

 

 

「――――弐」

 

「ワールズエンドフォール――ッ!?」

 

 

振り回した先にあったのは巨大な岩だ。最後の一匹、ドサイドンが放った岩タイプのZワザ(ワールズエンドフォール)である。それをギャラドスの巨体を使ってぶっ飛ばして粉砕する(ホームラン)

 

元々ドサイドンはファイアローを狙っていたのだが、早々に撃墜されたのをみて無理に方向を変えてギャラドスをターゲットに変えたのだ。一見簡単そうに見えるものの、そこにはポケモンとの信頼関係や、このバトル形式の経験、そして技の熟練度が必要となる。僕にはまだ不可能と言ってもいいだろう――もっとも、読みと基本スペック、そして技量で大体全部なんとかなる僕には必要ないのだが。

そう、今現在このように。

 

ギャラドスは体がなんかヤバい方向にへし折れて瀕死となり、巨石の破片が中を舞う。

その破片を落下しないうちに蹴り飛ばし、反動によって遥か空中へと連続で跳躍するバシャーモ。ご丁寧にも蹴られた破片はドサイドンへの直撃コースである。

ただの嫌がらせだ。素早さを犠牲にして得た防御力によってドサイドンのダメージは皆無同然である。

 

その跳躍の果てに、バシャーモは破片さえ存在しない超高度へと到達する。だが、飛ぶための翼をもたないバシャーモではそれ以降の自由は効かない。

地上へと落下するまでは体のいい的に過ぎないと思われた。

 

 

「おし、行けるぞ!がんせきほうだ!」

 

 

ドサイドンのトレーナーはこれで決めるつもりなのだろう。次のターンは行動が出来ない代わりに圧倒的な威力を誇る岩石砲を放つ指示を出す。バシャーモが何をしたいのかはわからないが、これで倒れるのだと疑問を持っていない。

 

まったく――

 

 

「想像力が、足りないな」

 

 

――にどげり(・・・・)

 

 

一蹴目――バシャーモが虚空を蹴り飛ばす。だが所詮は虚空に過ぎない。何ら起きることはなく、衝撃は周囲へと拡散する。

そして、二蹴。バシャーモは先程の一撃によって拡散した衝撃波そのものを蹴り飛ばし、反作用によって空中で跳躍する。要するに二段ジャンプだ。物理法則に中指をブッ立てて蹴り飛ばす狼藉だが、技を極める(・・・・・)とはこういうことである。

 

空中での行動を可能としたバシャーモに、もはや岩石砲は必中足りえない。余裕を持った回避に成功する。

 

そして、再度にどげり――こんどは地表へと向けて突撃する。

尋常ではない速度で墜落するバシャーモを見て、漸くドサイドンのトレーナーはこの高高度へと跳躍した狙いを理解した。そう、落下のエネルギーを用いた攻撃の威力の増幅だ。彼は恐慌状態へと陥って冷静な判断を下すことができない。……もっとも、そもそも彼に出来ることは何もないのだが。なにしろドサイドンは、技の反動で動けないのだから。

 

世の中には無反動の破壊光線やギガインパクトを連打するキチガイもいるにはいるが、彼は未だその領域には達していない。というか、普通に無理である。

 

 

「――――参」

 

 

そして落下によるエネルギーを一点に集約した飛び膝蹴りがドサイドンへと直撃する。特性(ハードロック)による耐性も、高い種族値による圧倒的な防御も凌駕してあまりある超威力。

一撃必殺。

それを体現した攻撃は、瞬く間にドサイドンのHPを削りきった。

 

 

『――――決まったぁぁ!

今回のバトルロイヤルの勝者"も"ホウエン地方ミシロタウン出身のユウキ選手だぁぁっ!!

なんと、今回の勝利でマスターランク20連勝!圧倒的な力の差を見せつけた!コイツの連勝を止められるトレーナーはいないのか――!?』

 

 

 

***

 

 

 

――――僕はバーネット博士の言葉(「好きにしなさい」)に素直に従うことにした。

 

元々自分の研究職に関する適性がいっそ清々しい程に皆無である事を理解しているのだ。空間研究所でコスモッグ(ほしぐも)の調査に協力しようとしても、不慣れなあまり逆に効率を悪くしてしまう未来が見え透いていた。

それを察し、下手に擁護することもなくばっさりと切り捨てたバーネット博士には好感が持てる。

 

そんな僕が今どこにいるのか。答えは簡単だ。アーカラ島、カンタイシティ周辺、そして戦闘狂(バトルジャンキー)が集う場所――そう、ロイヤルドームだ。

 

ここで行われているバトルロイヤルは、他の地方にはない珍しい形式のバトルである。誰かの手持ちが全滅するまで競い合い、倒した数と生き残った数を比べて最も有利だったものが勝者となる。言ってしまえばゲテモノバトルだ、バトルフロンティアにも共通するものがある。

 

だが、バトルフロンティアでは1vs1が主で、多くても2vs2のマルチバトルが精々だ。それに対しバトルロイヤルでは1vs1vs1vs1の4人でのバトルとなる。下手な行動をとって集中攻撃されてはもたない(・・・・)し、無難な行動ばかりを取っていれば勝つことが出来ない。故に、極めて高い読みの精度が必要となる――――のだが。

 

なんというか、お行儀が良すぎるというべきか、単純な指示しか出してこないのだ。相手の技術やスペック、育成力を見定めることさえなく、表面上のものだけを頼りに戦っている。

 

加えて――これは個人的趣向なのだが――レベル制限の存在が気に食わない。

 

特殊な機械を使って、基礎ポイントや才能はそのままにレベルだけを50にまで落とす技術自体は確かに優れていると思う。

ポケモンの三値に関する概念は一般的に認知されておらず、能力値(ステータス)がどのように構成されているのかを理解しているトレーナーなど極めて稀だ。そんな状態でポケモンの三値を理解しLv.50の時のステータスを再現する――その難易度は専門家ではない僕には計り知れない。

ちなみに、主導者はテンセ・イシャ博士だ。ジャッジさんと頑張ったねお姉さんの協力の下完成させたらしい。

 

確かに凄いのだが――――そのお題目は生理的に受け付けない。育成力が足りない者への救済措置らしいが、そんなの育てられるだけの力量がないヤツが悪いだろう。それが元で平均レベルが下がっては御笑い種でしかないだろうに。

 

そして、制限したバトルでは熱量(エネルギー)が感じられないのだ。全体的に妥協してしまっていて、力の限りを尽くせない。登場しているポケモンは少なくともLv.50は超えているのだろうが……だからこそ、本来自分はもっと大きな力を持っているのだと歯痒そうにしている彼らの姿を見ると、人・ポケモン共になんの制限もなく全力を振るえる開放された(オープンな)戦いに比べると、どうしようもなく劣るように感じてしまうのだ。

 

対するバトルフロンティアは、職員の末端に至るまでがすべてエニシダさんが口説き落とした世界レベルで活躍できる超一流のトレーナーだった。彼等は職員としての防衛戦(バトル)が終わった後、休みもそこそこに今度は1トレーナーとなって挑戦(バトル)する。結果として凄まじい速度で平均のレベルが引き上げられていき、歴史の浅い孤島であるにも関わらず、育成限界(Lv.100)が当たり前で総戦力が1地方を圧倒する修羅地獄となるまでに至ったのだ。

 

そんな修羅地獄(バトルフロンティア)に慣れ親しんだ僕としては、ここでの勝負はあまりに薄味に過ぎた。面白そうな景品があったからとりあえず20連勝はしたが、ずっと――それこそこの世界に来た時から感じている僕の渇きを潤すには、些か以上に物足りない。つーか逆に疼く。もっと上質な経験値(エサ)が欲しい。

 

しいて例外を挙げるとすれば――――

 

 

「よう、ユウキ。相変わらずの蹂躙っぷりだな。いっそ清々しくなってくるぜ」

 

「ロイヤルマスクか。……いや、僕は蹂躙なんかよりも、もっと熱くなれるような戦いを望んでいるんだが……要望のレベルが高すぎたんだろうな。どうやらここには存在しないらしい」

 

 

もっとも、僕の求める領域(廃人クラス)のトレーナーが沢山いるのならばこんな程度の低い戦いにはならないだろう。そう独りごちて、話しかけてきた人物(トレーナー)と向き合う。

 

彼こそが僕が先程挙げていた、このバトルロイヤルに於ける例外――バトルロイヤルの伝道師、ロイヤルマスクだ。伝道師と名乗るだけあって、相棒のガオガエンと共に戦う姿は思わず関心してしまう程に洗練されていた。自分だけを見て充分な結果を出すのではなく、他人がどう動くのかも計算した上ですべてを利用し、十二分の結果を手に入れる。ことバトルロイヤルに於いて、彼は僕以上に経験を積み、高い力量を持っていた。

 

それも当然だろう。バトルロイヤルはアローラに伝わる伝統的なバトルスタイルで――(ククイ)にとってこの場こそが本領発揮できるフィールドなのだから。

 

 

「…………いつ見てもバレバレの変装だな。よくもまあ、そんなモノで誤魔化せる」

 

「なんのことかな?ぼくはククイとかいうイカした格好のイケメンとは特に交流はないぜ」

 

 

仮面の下を知っている者からするとあまりに白々しいセリフを吐くロイヤルマスク。確かに言っていることは嘘ではない。だが、それは当然だ。同一人物なのだから交流できる方がおかしい。

 

そこを追求することも出来るとはいえ、別にロイヤルマスクの正体がククイ博士だとバラしても僕には何のメリットもないのだ。放っとこう。

 

彼がここにいる理由は至って簡単、研究に一段落着いたことを僕に伝えるメッセンジャー兼ただの息抜きだ。ポケナビのカレンダー機能を使うと、当初予定していた一週間という期限はとっくに過ぎていた。たとえ空虚なものでも、とりあえず打ち込んでいれば時間は普通に過ぎていくらしい。あっという間ではないあたりがミソだ。普通に長い。とはいえその間に博士やリーリエと連絡を取らなかったのは――――

結局の所、僕は廃人でしかないのだろう。

 

 

「ま、そこはどうでもいいな。とりあえず闘おう。悩みだのなんだのは闘っている間にだいたい全部解決する」

 

「恐るべき脳筋の発想…………でも、今から闘うのはぼくと君じゃない」

 

「何を言って………ああ、そういうこと(・・・・・・)か。確かに、アイツにとってはこれも良い経験になるかもな」

 

 

僕達の視線は、今この施設へと入ってきたばかりの少女――ミヅキへと向けられていた。

 

 

 

***

 

 

 

ミヅキは控えめに言って激おこだった。相変わらず表情は真顔である。一瞥しただけでは伝わらないだろうが、周囲のトレーナーにはその怒気が伝わるのだろう。彼女を中心とした半径数メートルに人影はみえなかった。

 

原因はわかっている。だいたい全部ユウキが悪い。

 

彼女がユウキと別れてから――つまり、アーカラ地方での初めての試練。その場のキャプテンはスイレンという、ちょっと悪戯っぽくも可愛らしい少女だった。一人旅では存在せず、ユウキとの旅では戦闘狂(コッチ)側においでよと塗り潰されそうな癒し枠に、ミヅキは内心ほっこりしていたものだ――僅か12歳の少女が歳上のはずの少女を癒しと思うあたりミヅキのアレ具合が伺えるが。

 

なのに、ユウキが自分の師匠だと言った瞬間、彼女の対応は様変わりした。それはもう、手首にモーターでも仕込んでいるのではないかと思うぐらいの手のひらクルーだった。

 

こちらの一挙手一投足に敏感に反応し、一定以上の距離には決して近付かず、扱いが尋常じゃなく慎重になり、笑顔を浮かべることもなくなった。

ならばとこちらから踏み込んでみれば、涙を浮かべて悲鳴と共に後ずさる始末だ。

癒しだった少女にカントー時代を彷彿させるそんな対応をされては、流石にミヅキの強化ガラスのハートも傷ついた。

 

この苛立ちはどこへ向かう?――当然、元凶(ユウキ)だ。

こんど会ったらとりあえず殴ると固く決意して特に問題を起こさずに試練をクリアし――

 

 

「――――久しぶりだな、ミヅキ」

 

「ユウキさんのぉ………バカァァァァッ!!!」

 

 

なんとなく入ってみたロイヤルドーム。その入口付近で堂々と「よく来たな!」をやっていた彼に、全力での腹パンを実行した。

 

 

「ゴフッ…………!?

そこは……物理、に頼らず……普通……ポケモン勝負(バトル)、だろう、が………」

 

「相手に圧倒的有利なフィールドで正々堂々と怨みを果たせと?絶対無理だって即死します。バトルキチ(ユウキさん)が想定してないから効果があるんじゃないですか」

 

「一理ある、が…………それを今使うか」

 

 

スーパーマサラ人の超スペックを余す所なく発揮し、鎧通しの応用で腹パンの衝撃を内部に余す所なく拡散。衝撃を軽減しようと後方へ吹き飛ぶという逃げ道も潰されたユウキはただ苦痛を正面から受け止める他にない。

 

無振り無補正クレセリアLv.50(耐久指数:27,300)確1な位(火力指数:71,754)には強力な一撃を正面から受け止めたユウキは控えめに言っても死に体だった。リバースしないのは根性によるものである。倒れそうだったが気力で堪えた。生身の方が強いよなこの少女(ゴリラ)なんてまったく思ってはいない。

 

そんな2人の様子を見て引き攣った笑みを浮かべながら、ロイヤルマスクが2階から降りてくる。

 

 

「よくぞ来た!!われこそはバトルロイヤルの伝道師!その名もロイヤルマスク!!」

 

「…………なにやってるんですか博士」

 

「ロイヤルマスク!」

 

 

ミヅキがガチレスを返すと、ロイヤルマスクは普段よりも強い口ぶりで年押しをする。彼女にはイマイチ理解出来なかったが、まあ博士のやってる事だしと別にいっかとスルーすることにした。

 

その間にもロイヤルマスクの話は続く。

 

 

「アローラに伝わる伝統的なポケモン勝負のスタイル…………バトルロイヤルを教えるぜ!」

 

「バトルロイヤル…………?」

 

「ああ!ルールは簡単、習うより慣れろ!

まずはお試しだ!一匹ずつポケモンを出してやってみよう!」

 

「ちょっと待ってそれが説明なの!?」

 

「わー、ロイヤルマスクー。おれも試合したいー!」

 

 

ロイヤルマスクが一言で説明を終えると、2階から声がかけられる。ハウだ。ロイヤルマスクは快く頷き、もう1人のトレーナーを探そうと周囲を見渡す。

 

 

「よーし!じゃあそこのきみ。

そしてぼくも交えての4人で勝負するぜ!」

 

「ふっ……これが愚かなる神の采配だとしても、あえて乗ってやらんこともない。この栄光ありし騒乱の戦場(ロイヤルドーム)に俺とヌルの威光を示すのもまた一興だ。いいだろう」

 

「げげーっ!」

 

 

誘われた1人――グラジオの姿を見て、ハウが露骨に嫌そうな表情を見せる。彼のお陰で救われた所もあるが、それでも遠慮はしない。スカル団員へのガチ切れっぷりを見てちょっとした不安はあったとはいえ、ハウはその辺の見極めは上手いほうだと自分では思っている。

 

 

「待て、ロイヤルマスク……。僕も勝負(バトル)を…………」

 

「いや枠もう全部埋まってるし。そもそもきみ今半死半生だろ。マトモに闘える訳ないじゃないか。あと、きみが戦っても蹂躙にしかならないからさ、若い芽を早々に摘んじまうつもりか?」

 

若い芽を積む、という言葉にユウキはハッとした表情を浮かべる。ミヅキの身体能力が想定よりも高すぎたからちょっと忘れていたが、まだトレーナーとしては未熟もいい所なのだ。ここで圧倒的な実力差で叩き潰すと悪影響が生まれかねない。

諦めて、言葉を吐き捨てた。

 

 

「ちっ…………貸しにするぞ」

 

「構わないぜ。

――――さあ、なんでも発見体験大冒険!

ポケモンバトルロイヤル――レディファイト!!」

 

 

 




最初は戦闘描写でゲーム:アニメ=8:2のつもりだったんだけどなぁ……最近は全体としてゲーム:アニメ=8:2(ゲーム要素の8割=ストーリー、アニメ要素の2割=戦闘シーン)になりつつある。個人的には別にこれでもいっかなーと思ってはいるのだけれども……でも今話はバトルロイヤルだからと自由にやりすぎたなぁと少し反省。後悔?いえまったく。

ミヅキの攻撃によるダメージですが、これの具体例を出すと、Lv.50でスカーフor鉢巻持ちガブリアスの逆鱗の約2倍のダメージ量になります。要するに人外です。スーパーマサラ人マジパネェっすわ。ちなレッドやセンリはこれ以上の模様


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戦いは数だよ兄貴……

二日連続更新だぜ!
ストックはもうないけれども!

10/4
SM主人公の名前を修正しました。
(誤)ミツキ→(正)ミヅキ


バトルロイヤルが始まった。

緑コーナーはミヅキ()とスイレンの試練を経て進化したジュナイパー、黄コーナーはハウとオシャマリ、赤コーナーはロイヤルマスク(ククイ博士)とイワンコ、青コーナーはグラジオとタイプ:ヌルだ。

 

でも……ここでのルールには不慣れとはいえ、勝つだけならたぶん余裕なんだ。

バトルロイヤルにはLv.50という制限があるけど、ここにいる全員は全員Lv.50アンダーという、制限に届いてさえいない低レベルである。だから制限をかけずに勝負が出来るんだけど…………それは、元々のレベル差が露骨に表れるという事態へと陥ってしまった。端的に言ってヤバい。ハウもグラジオも以前戦った時と大差ないから、1人成長した私とは著しい差が開いてしまった。

 

ジュナイパーのレベル(Lv.35)2倍近い差(Lv.19)って………ホントに育ててたの、と聞きたくなる。トレーナーだけじゃなくて野生のポケモンと。30匹くらい連続で倒すことで、群れのボスや幹部――確定4Vだったり、夢特性持ちや色違いのポケモンと戦えていい経験になるんだよ?

 

ククイ博士のイワンコも、レベルは彼等と同程度。よっぽど気を抜かない限りは負けるワケがない。慢心ではなくただの事実――そう思っていた。

 

 

「一撃で蹴散らすよ、はっぱカッt――」

 

「ハウ、合わせろ――――イワンコ、ジュナイパーにふいうちだ!」

 

「うん!オシャマリー、アクアジェットでイワンコを援護してー!」

 

 

――っ、集団リンチ!?

いかに素早さに差があったとしても、優先度は覆せない。イワンコ、オシャマリの攻撃がジュナイパーへと直撃する。決してダメージは大きくないが、はっぱカッターを放つための姿勢が崩れ、行動が遅れてしまった。

その隙を、グラジオが付く。

 

 

怨念に染まりし暗影の鉤爪(シャドークロー)!」

 

「っ――ジュナイパー!」

 

 

こうかはばつぐんだ!

 

前言撤回――余裕なんて一切ない!

レベル差が酷いから油断してしまっていた。バトルロイヤルは1vs1vs1vs1の勝負だけど、野生のポケモンとは違って相手は思考するトレーナーなんだ。私が突出して強いのなら、一時的に手を組んででも追い込んでくる――――!

 

 

「はっぱカッターで牽制――急いで体制を整えて!」

 

「いばってくれ、イワンコ」

 

 

はっぱカッターを全体へとばらまいたものの、ロイヤル――もうククイ博士でいいや。ククイ博士はそれが直撃コースにないことを一瞬で見切り、威張るを繰り出した。

これで攻撃ランクは上がったものの、混乱状態に…………また混乱!?私は悲しいことに慣れているため、対策はしてあった。ジュナイパーは持っていたラムのみを口へ運び――

 

 

「オシャマリ、あまえる!」

 

雷の縛鎖(でんじは)だ!」

 

「ッ――こっちが本命!?」

 

 

電磁波の命中率は90%で必中じゃない――けど、どんな生物であれ、食事のときは気が弛むんだ。回避なんて望めない。

ハウのオシャマリによって上げられた攻撃ランクが元に戻り、加えて麻痺ったことで素早さが半減する。

 

……また失敗した!本命は混乱じゃない、麻痺による行動妨害だったんだ。そのためにククイ博士は攻撃ランクが2つも上がってしまうデメリットを持つ威張るを使ったんだ――あたかも混乱が本命であると錯覚させるかのように。

 

これで足は半ば封じられた。

元々のステータスがステータスだから差は決して大きなものじゃないけど、それでもこの数を前に上を取られたのは大きな不利になる。

 

――ああもう、手数が足りない!!

 

私は間違っていた。変化技にレベル差は関係ないから、人数の不利はそのまま形成の不利に直結する。

ユウキさんはLv.1でもLv.100は倒せるのだと言っていた。それと比べたら約2倍の差なんて誤差に過ぎないし、数にしたって向こうの方が多いのに!

 

 

「だったら、まずは厄介な博士から仕留める!――ジュナイパー、かげぬい!」

 

「ロイヤルマスクだっ!!イワンコ、まもってくれ!」

 

 

つまり、この場を仕切っているのは間違いなくククイ博士だ。だから多かれ少なかれダメージを与えようとするも、それは相手にもわかっている事なんだろう。容易く防がれてしまう。

そして――うん、わかってるんだけど………

 

 

「オシャマリ、あまえてー!」

 

怨念に染まりし暗影の鉤爪(シャドークロー)!」

 

 

攻撃ランクが下げられた上、弱点技を食らってしまう。ここで厄介なのは効果抜群を放ってくるグラジオ――ではなく、ハウだ。彼をこのまま放置していると攻撃ランクがあっという間に最低まで下げられてしまう。ジュナイパーは特殊技なんて覚えてないから、そうなったらマトモにダメージを与えられなくなる。

 

 

「はっぱカッター!」「ふいうちだ!」

 

 

だけど、特にオシャマリを狙って放った攻撃はイワンコの不意打ちによって逸らされ、擦るだけの結果に終わった。元々フィールド全体に拡散していて威力が低くなった上、攻撃ランクが二段階も下がっている以上、ダメージはないと言ってもいい。

そして――――

 

 

「もう一度、俺達の憎悪を知れ――怨念に染まりし暗影の鉤爪(シャドークロー)!」

 

 

――――ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

何度も攻撃が放たれたことで、遂にジュナイパーのダメージが許容範囲(イエローゾーン)を超えた。もはや飛ぶことすら辛そうな姿を見て、私は咄嗟に回復技を指示する。

 

 

「――ジュナイパー、はねやすめ!」

 

 

――そしてこの瞬間、敗者の1人が(・・・・・・)決まった(・・・・)

 

 

 

「オシャマリ、アンコール(・・・・・)!」

 

 

「――――ウソっ!?」

 

 

これがハウの狙いだった(・・・・・・・・・・・)

気付いたときにはもう遅い。最大HPの半分と引き換えに、ジュナイパーは3ターンの間は攻撃行動を封殺された。

勝負における3ターンは極めて長い。その間回復(はねやすめ)し続ける以上ジュナイパーが倒れることはないだろうけど、それは同時に相手を倒せないことを意味している。

 

 

 

…………私の敗北は確定したんだ。

 

 

 

でもまあ、これで自分が驕っていたことを理解出来た。得たものが大きいから、ここは素直に受け入れよう。

……まさか、ハウに負けるなんてね。私と勝負してからこっち、何があったのかはわからないけど、随分強くなったんだ。

 

これが始めての敗北――悔しいだろうと思っていたけど、案外清々しいものだ。

改まった気持ちで、私は得意気なハウのことを――――否、ヌルの放ったおんがえしによってオシャマリが一撃必殺されて慌てる彼の姿を見ていた。

 

 

『試合終了――――!!』

 

 

 

***

 

 

 

「…………負けたのか、ミヅキ」

 

 

その勝負の結末を、僕は意外な――だが、有難いものだと思った。

彼女は島巡りを始めてからこれまで、勝利しか知らなかった。油断していても、見下していても、結局最後は勝ててしまっていた。

それは優秀であることの表れであるが――勝利だけで人は成長しない。僕がリラに負けたことで廃人への1歩を踏み出した――こう書くとちっともいい事のように聞こえないだろうが――様に、彼女には負ける経験が必要だったのだ。

 

 

「それが1vs1のシングル戦でないのには些か不満があるが……まあ良いさ。今はミヅキが成長の切っ掛けを手に入れられたことを喜ぼう。

 

――――ところで、お前は誰だ?」

 

 

独りごちて振り返った方向――そこには1着のローブが浮かんでいた。中には誰も入っていない。軽いホラーな映像ではあるが、僕はこれ以上のホラーを知っているし、そもそもサイコキネシスを使って再現できる程度の現象に過ぎない。

特になんの反応も見せず、だが警戒心だけは持ったままに疑問を発する。

 

するとローブは一切の音を出さないまま、懐から1枚の手紙(メール)を取り出した。

スペースメール――主にシンオウ地方で使われている、銀河(スペース)がプリントされたメールだ。これだけで断言は到底出来ないが、このローブの主はシンオウ地方と関係があるのだろうか。

 

警戒心を解かぬままに手紙を受け取ると、ローブは空間に(・・・)溶けるように(・・・・・・)消え去った。あの消え方には心当たりがあるが――アイツならこの程度で済ませるはずもないし。

とりあえず、ボール越しにメタグロスに周囲の検知を頼んだが、案の定なんの反応も見られない。

 

些か呆気に取られた心持ちでメールを閲覧する。さてさて、そこに書かれた内容は――――

 

 

「………………へぇ」

 

 

少し、興味が湧いたかな。

 

 

 

***

 

 

 

そこは遺跡だった。

長い年月を経たことで半ばから折れ、砕け散った柱に、磨り減ってボロボロとなった床。辺りを見渡しても何もなく、ただ身も凍る程の寒さが襲う。

 

シンオウ地方を左右に別つ長大な山――テンガンざん。その山頂にある遺跡に少女の姿はあった。

 

 

「…………うん、メールは届いたんだね。ありがと、■■■■」

 

 

真紅のコートを纏い、短い白のマフラーと、同色の帽子を被った少女。

彼女はそう話しかけるものの、周囲に人の気配はない。だが、それでも彼女はそこに何かが存在することを確信しているかのように言葉を紡ぐ。

 

 

「それで、どうだった?異世界の(・・・・)トレーナー(・・・・・)は。

 

――――うぇぇ、なんか………凄そうな人だね。あなたが気付かれたかもしれないって間違いなく普通のトレーナーじゃないでしょ。以前からこの世界に来てた()といい彼女(・・)といい、あっちの世界のトレーナーってみんなヤバくない?」

 

 

だいじょばなーい(・・・・・・・・)!という端的な感想を叫んだ彼女は、帰ってくる様子も見せない山彦にがくりと肩を下ろす。

ため息を一つ吐いて即座に切り替えると、今度は別の――だが、やはりこの場には影も形も見えない存在へと問いかける。

 

 

「なら、■■■■■。もう一人の方はどう?確か異世界のあなたが借りを作ったって言ってたけど――

 

…………うわぁ、あっちのあなたも■■■■■もサービス悪いなぁ。幾ら他の世界に行っちゃったからって放置する普通?これだから()は人を理解出来ないって言われるんだよ。よりによってなんであたしに押し付けるのー!?

 

…………知ってた。分かってたけど。

うん、大丈夫大丈夫。問題ないよー」

 

 

大丈夫というには明らかに無理がある表情で彼女は嘆息する。まったく、とんだ気苦労を背負ってしまったと。

それでもなんだかんだでやり遂げるあたり、彼女の生真面目さが伺える。

 

すると突然、少女の近くに空間の亀裂が走った。まるでその場だけ正負が反転しているかのような裂け目から、巨大な瞳がこちらを見る。

 

 

「■■■■■…………異世界のあなたの苦労がわかってきた気がする。

確かに、本来こっちには関係ない傍迷惑な神様の闘争に巻き込まれるともなればキレて当然だよね……」

 

「ギゴガゴーゴーッ!!」

 

 

わかってくれたか、とばかりに目だけで返す反転した向こう側の存在。だが、他の2つの存在にとっては意に沿わないことだったようで、珍しく世界に介入してまで否定してきた。

 

 

「グギュグバァッッ!!」

 

「ガギャギャァッ!!」

 

 

片や時を操ることで現在過去未来においてその場で話された言葉を拾い集めて文句とし、片や空間を直接操作して振動させることで音を生み出す。

 

それは決して流暢なものとは言えないが、そこそこ長い交流を持つ彼女にとっては十分な意味を持つ言葉だった。

 

 

「大丈夫大丈夫、あたしはちゃんとわかってるから!

それよりも、■■■■■。観測した時間からすると、あの2人が会うまではあと2週間で良いんだよね?

 

…………うん。じゃあ少し早いけど、行ってみよっかな。よろしくね、■■■■」

 

 

――――アローラへ。

そう告げた直後、彼女の姿はこの地から消え、聞き届ける主を無くした山彦が孤独に木霊した。

 

 

 

***

 

 

 

ホウエン地方ミシロタウン。

『美しい白』というどことなくマサラタウンを思わせる街のとある民家に、彼等の姿はあった。

 

 

「うーん、トレビアン。流石ボク、ポロック作りの腕も最高に冴えてるね。

ラグラージ、サーナイト、グラエナの方は……perfect!。これは期待できるぞ……!」

 

 

彼の名はユウキ(・・・)。ホウエン地方だけでなく、世界各地のコンテストを制覇した、『魅せる者』である。

そんな彼は今、実家へと戻ってポケモン達とポロック作りなど、心安らげる時間を過ごしていた。

 

ポロック製造機が稼働を停止し、4個のポロックが完成する。それを手に取ったユウキは、協力してくれたポケモンに対応するポロックを配り、余った一つを自分の口元へと運んだ。

 

 

「delicious!上出来だ、みんなも食べてごらんよ!」

 

 

ユウキの言葉に、3匹は渡されたポロックを食べる。ユウキの技量は端的に言って一流だ。ポケモン1匹1匹に合わせて微妙に味付けを変化させており、そのポケモンが最も好みとする味に調整する。今回のポロックは機械によるもので、ハンドメイドと比較すると自由度は低いのだが、それでも一流は十分な能力を発揮した。

ポロックを口へ運び幸せそうな表情を見せる彼らに嫉妬するかのように、腰元のボールがカタカタと揺れる。

 

ユウキはそんな様子に苦笑し、次は彼らとポロックを作ろうと考えて――――ポケナビの通知音が響く。

それを聞いたユウキは懐からポケナビを取り出し――部屋の隅へと放り投げた。

今はポケモンとの触れ合いの方が遥かに重要である。放り投げたっきり音がならなくなったポケナビを満足そうに見つめたユウキはポロック作りを再開し――

 

 

「なんばしよっとね!」

 

「痛いっ!?」

 

 

お隣オダマキ家からユウキの部屋の窓へと侵入してきた野生児に頭を叩かれた。その姿を見ていた彼のポケモンは心なしか呆れた様子だった。

 

 

「っ〜!!どうしたんだハルカ!?」

 

「これ!見て!」

 

「what?何が起きた?」

 

 

そう言って彼女――ハルカが出したの は1枚の新聞だ。こんなに難しい文字も読めるようになるとは、最初期と比べると別物だなぁと感動しつつも、そこに記された内容に目を通す。

 

 

「こ、これは…………」

 

 

その新聞はユウキも見たことがある。ポケモン協会主導の元、様々な地方の有力なトレーナーや、バトルにおける有力な戦術、そして大会・コンテストの結果を主に取り扱うトレーナー御用達の新聞だ。

 

中でもハルカが持ってきたのは今話題のトレーナーについて記載されたページだ。そこには本来あるはずのない名前が載せられており、いるはずのない人物が写っていた。

 

『絶対王者誕生!?ホウエン地方ミシロタウンのユウキ、バトルロイヤルで20連勝達成!』

 

 

 

「…………美しくない」

 

「…………はぁ?」

 

 

この記事を読んだ最初の感想がそれなのかと、どこまでもマイペースなユウキにああコイツはそういう奴だったと呆れの声を漏らすハルカ。

そんな彼女の様子を知ってか知らずか、ユウキは熱弁を振るう。

 

 

「何よりも!この上下ジャージというファッションセンスが認められない!

外見がボクだから何を着ても似合うのは当然だけど、それにしたってこれはあんまりじゃないか!

彼はボクに喧嘩を売ってるんだ!間違いないね!」

 

 

確かにハルカも、服装に関しては疑問を持っていた。これでも幼少期と、そして()は服装にかなりの気を使う立派な女の子である。自然とユウキが好みそうな服装についても理解していたし、これはないとも思っていた。

とはいえ、ここまでの反応を示すのは予想外ではあったが。

 

 

「その一貫性、一周回って尊敬できそうかも。外見が自分ってことにまず反応して欲しいったい……。

さっき向こうにいるジーナに話を聞いてみたけん、ユウキに会ったって言うんよ。口調は不自然やったけど、雰囲気は同じやって」

 

「え、ジーナが?

……そっか。なら1度、出向いてみるのも良いかも知れないね」

 

 

――偽物の所へ。

そう呟いたユウキの様子があまりにも過去に――自分が巻き込まれないように全てを解決しようとした嘗ての姿に似ていたから、ハルカは彼の袖口をそっと摘む。

 

 

「置いてかないで欲しいったい。前みたいな――あたしだけ蚊帳の外にされるのはもう嫌や……あたしも力になれるけん、連れて行って欲しいんよ」

 

「…………そうだね。

そういえばキミ、結構有給溜まってなかったっけ?」

 

 

突然のユウキの質問に驚きながら、ハルカはこくりと頷きを返す。何しろ彼女は一地方の頂点(チャンピオン)だ。スケジュールは過密なもので、行こうにも期間が空いていないという事が充分考えられたからだ。

第一関門はクリア――ユウキはひとまず安堵し、あくまで何気ない風を装って、内心では勇気を振り絞って告げた。

 

 

「偽物を突き止めに行くってだけじゃ味気ないから、いっそこの機会に旅行なんてどうだい?もちろん2人っきりでさ」

 

「えっ――――!?」

 

 

数拍置いて、ユウキの言葉の意味を理解したハルカの頬が真紅に染まる。

 

――このヘタレが、あたしを旅行に誘ったと!?旅行ってことはつまり、あんなことやそんなこともする訳で……!

 

ハルカの返事は…………言う必要もないだろう。

 

一つ言えることは、ユウキはその日のうちに2人分のアローラ行きの便の予約をコネをフル活用して取り押さえ、ハルカはポケモンリーグに有給申請を叩きつけたということだけだ。

 

 

 

 




というわけで、ミヅキちゃんフルボッコ&新キャラ(意味深)登場回でした。
ミヅキを負けさせたのは作中でユウキが言ってた様に、負けない限り劇的な成長は望めないからです。その結果がこれ。戦いは数なんだよアニキ……!

ユウキ、ハルカ(メガシンカ世界)の口調ですが、ポケスペをベースにしています。ただしハルカに関しては、チャンピオンとなってから公の場では標準語(アニメハルカ)を使い、親しい人と会話する時には地(ポケスペハルカ)になるという設定。
ギャップ萌えだよ!さすがハルカちゃんあざといなー(棒)
ちなみに、ユウキ(主人公)世界のハルカは普通にアニメの口調です。

そして表れた謎の人物。シンオウが活動拠点で、神様と関わりを持ち、大丈夫大丈夫!を口癖とする少女とは一体誰なんだ……(棒)


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立つ鳥跡を証拠隠滅出来なかったからネタバレだよ!

今回はちょっと短いです。

SM主人公の名前が2章の中盤でデフォルトネーム(名無しじゃない方)から変わっていたので編集しました。
(誤)ミツキ→(正)ミヅキ



 

ミヅキ達のバトルロイヤルを観た後、僕達は共に空間研究所へと向かうことになった。勿論ククイ博士は正体(ロイヤルマスク)を隠し、関わりはしなかったけど観戦はしていたと言い訳をして。

 

そしてたどり着いた空間研究所では、バーネット博士の口から調査の現実を説明された。とはいえ結局大したことはわからなかったらしいが。そりゃあ1週間と少しでは厳しいよなと思いつつ、僕の方で手掛かりを見つけたことを報告する。

 

 

「手掛かり、ですって?私たちでさえ何も発見出来なかったのに……」

 

「アプローチの違いだな。あんた達は自分で研究しようとして、僕は知ってそうな人を探すことに努めたのだから」

 

「知ってそうな人を探す、ね。

なるほど、あなたがロイヤルドームに出入りしていたのは単に戦うためだけじゃなくて、アローラ全土から人が集まるあの場所で尋ねごとをするのも目的としていたのね」

 

 

関心した様子で話すバーネット博士に対し、僕は曖昧で意味深な笑みを見せることしか出来ない。正直なところ僕が尋ねた相手は誰もコスモッグ(ほしぐも)のことを知らなかったし、他の手掛かりもなかった。あのコートからメールが届かなければ完全に手詰まりだったと言っても良いだろう。言わないが。

 

 

「…………そうかも、な。

とはいえ、又聞きだから信憑性に欠ける上、アイツ(・・・)は定住してもいないのだから常にいる訳でもなく、その他条件をクリアしても、本当に見えるのか、役に立つ情報なのかはわからない訳だが」

 

「想定以上に不確定ね……。普通なら駄目だって言う所だけれど、でも、これまでにわかったことだってないも同然なのだから、とりあえずやってみる価値はあるかしら。

ところで、その手掛かりになりそうな人ってどんな方なの?」

 

 

バーネット博士は疑問の声を上げる。それはそうだろう。ここまで不安になる言葉を吐かれれば当然だ。立場が逆であれば僕もそう思う。

だが、これは研究者が好む理論的な話ではなく――むしろ超能力(オカルト)の分野へと分類される。それも、超能力の中でも飛びっきり(・・・・・)のものだ。

 

 

「――――じくうのさけび(・・・・・・・)って聞いたことがあるか?」

 

 

モノに触れることで、それに関係のある現在過去未来を見通す超能力。

それが、僕に伝えられた手掛かりだった。

 

 

 

***

 

 

 

あのメールにはこう書かれていた。

 

 

『時空を歪める"空"の探検家は密林にあり』

 

 

時空を歪める空の探検家――それが誰を指し示すのか、僕には心当たりがある。というか、これまで例として散々挙げていた。

 

探検家にして、じくうのさけびを持つ人間――ジュプトル使いのソラだ。

 

もちろん他の人物である可能性も否定はしない。だが、それだと特にこの世界で何かを成した訳でもない僕に態々あんな方法(・・・・・)でメールを送ったという点で疑問を抱いてしまうのだ。今になって思えば、あの空間と空間を接続するという移動方法はスケールが大きすぎて気付いてくれと言わんばかりのものだったのだし。

 

加えて、もし彼が僕の世界の彼と同一存在であるならば、数年前に消息を絶った理由はウルトラホールに巻き込まれたからだと結論付けられるし、知らない仲でもないから色々便利なんだが……それはそれとして。

 

 

「うぐ………なんで考え事してるのにそんな強いんですかユウキさん……」

 

「お前は指示が単調過ぎる。複雑な指示を出してもポケモンがついていけないと判断して単純な指示を出す所までは良いが、それがワンパターン過ぎて読まれやすいんだよ。ハウが羽休めを読んでアンコールしたようにな」

 

 

島巡りを再開するまでの数時間、僕はミヅキへと軽い指導を行っていた。

バトルロイヤルでの敗北を経て彼女はより貪欲に強さを求めた。油断しないし過信しない。それは確かに成長と言えるのだろうが、それは弱者に対して強くなっただけである。自分以上の相手と戦うにはまだ地力が心許ない。

 

というか、今現在の彼女のスタイルは育成型トレーナーのそれである。強いポケモンを育て、スペックでゴリ押しする。育成力で負ければほぼ敗北確定。決して否定はしないんだが――ぶっちゃけ彼女にそれは向いていないのだ。

自分で望んでそうなったなら多少考慮はするが、ミヅキは多くのバトルを経験していたらいつの間にかレベルが上がってて、結果的に育成型モドキになってしまっただけだ。ただでさえ向いていないのに、その理由はあまりにもあんまりだろう。

 

だから格上の相手と戦うことで、判断力や指揮力、そして戦術眼を向上させようとしているわけだ。

流石に本来のパーティーだと蹂躙にしかならないから、島巡りの途中で捕獲して育成したポケモンを使って。

 

 

「やっぱり指示力かー。……もっと知識とか増やしておかないとなぁ」

 

「僕の場合は論文に片っ端から目を通して実践して確かめていたし、ある好敵手(ライバル)は幼少期からポケモン漬けだったな。テンセ・イシャ博士に至っては生まれる前からどんな博士でも知りえない異端の知識を持っていたと聞く。

最低限の知識――どのポケモンに何が向いているのかを知るのは必要なんだよ」

 

 

知識ばかりで経験が追いつかない者が一流となるのは不可能だ。だが、知識を学ぶことさえなく直感で戦うのならば、それは運ゲーと大差ない。

本当に強いトレーナーとなるならば、経験と理論のどちらも収める必要があるのだ。

それを聞いたミヅキは地面に倒れ伏し、疲れたような声を漏らす。

 

 

「うへぇ、頑張らないと。

…………うん、なら私は少しここで論文でも漁ることにします。専門ではないかもですけど、私が個人の力で調べるよりかは建設的ですし。何よりも、ハウ達にリベンジ果たさなきゃなので。

ユウキさんはもうすぐリーリエと一緒に島巡りを再開するんですよね?いつか必ず追いつくので、覚悟しててください」

 

 

そんな言葉を最後に残し、ミヅキはモンスターボールから出したジュナイパーに自分を引き摺らせて去っていく。

些か絞りすぎたためだろう、自分で立つ気力もないようだ。故にポケモンに任せるという合理的な――同時に極めてシュールな光景を見ながら、僕は小声で呟いた。

 

 

「…………当然期待しているさ。そのために育てているのだから」

 

 

 

***

 

 

 

「というわけで、次の目的地は密林――シェードジャングルだ。一応島巡りを続けながら一通り調べてみるが、最優先はそこになる。手掛かりが人である以上、そいつがいつまでも居続ける保証はないのだから」

 

「何が『というわけで』なのかはサッパリわからないですけど、類友だってことは察しが着きました。理解は出来ませんが受け入れます。なんだかんだでわたしたちのことを考えてくれてますし」

 

「ぴゅーい!」

 

 

リーリエの言葉と、それに呼応するようにバックから表れて話すコスモッグ。2人――正確には1人と1匹だが――のある意味での信頼の厚さを実感する。

特にリーリエは最初に比べてすっかり図太くなったものだ。あの時はこういった踏み込んだ会話を避けて一定以上の距離に踏み込まないようにしていた印象がある。だから僕は交流が浅い上、どうでも良い人物として見ていたのだが。それと比べると随分と成長したものだと実感する。今現在も、バックから顔を出したコスモッグ(ほしぐも)を完全に表れる前に再びバックの中へと突っ込んでいたのだし。

 

それにしても、類友……ねぇ。

 

 

「…………互いに引き寄せられているのは確かなんだろう。それは別に良いが、問題はそれを画策している奴がいるということだ。そいつの目的が見えない。心当たりこそあるものの、それも確実とは言えないし」

 

「心当たりはあるんですね……。

もしかするとこれってサポート役が厄介事を引っ張ってくるという通常とは異なった新しいパターンなのではないでしょうか」

 

「――――ふっ」

 

 

肯定こそしなかったものの、明確な否定もしない。それが僕の内心を何よりも物語っていた。

 

しいて何か言うことがあるとすれば、むしろ僕は巻き込まれた立場だという事だ。とはいえそれはリーリエに直接の関係はなく、巻き込まれた僕にさらに巻き込まれた側の彼女からすると同じようなものなのだろう。自分のメリットにもなると受け入れている辺りに大物の片鱗を感じる。

 

そう、僕だって巻き込まれた側なのだ。あの壮大な移動方法を披露した正体隠す気ゼロの空間を統べる神――パルキアに。

大方僕がウルトラホール経由で異世界から転移してきたということで、自分の空間(領分)に手を出されたと思い込んで観測し始めたんだろう。そして今僕と、ソラと思われる人間が比較的近い位置にいるということで、バックにいるこの世界のコウキ的立ち位置のトレーナーが、「どうせ2人に会わなきゃいけないんだから同時に行こう!」なんて横着してこうなったんじゃないかと読んでいるのだが。

 

なお僕の世界のコウキが会いに来る可能性は皆無同然な模様。

 

 

「えっ、来ないんですか!?」

 

「神同士の領分があるんだよ。ポケモン勝負に拘らなければ僕の知る限り最強は絶対にアイツなんだが――だからこそ枷も多い。下手に動けないのさ」

 

 

そもそも会う必要があるのなら転移前にそれとなく話されている。彼は未来を見るというカンニングが出来るのだかし。所謂邪気眼系厨二病が言う所の『瞳』を、アイツは持っているのだから。

 

 

「領分、ですか。

………いえ、それよりも!あのユウキさんが、自分よりも強いと認めたんですか!?」

 

 

いやだって、

 

 

「時間逆行で幼少期の頃の自分を殺される。空間操作で世界そのものから隔離されて衰弱死する。無限に等しい反物質を叩き込まれて跡形もなく消滅する。感情を始め心そのものを叩き潰されて生き人形になる。世界そのものに自分は存在しないという記録を創造されていなかったことにされる。

 

――――なあ、どの末路が望みだ?」

 

「ごめんなさいわたしが間違えていました」

 

 

早急に前言を撤回するリーリエ。気持ちはわかる。だが、これがアイツが本当に一切の容赦を捨てて全力で殺しに来た場合の具体例だ。ぶっちゃけ勝てない。スケールが違いすぎる。僕の手持ちにしたって海を干上がらせたり、大陸を沈めたり、隕石を破壊したり、などは出来るが、概念的に殺しに来られるともうどうしようもない。

 

もしコウキを除く全図鑑所有者(主人公)がいたとしても無理だ。時を停止されて1人ずつ処理されるのがオチだろう。負けそうなら巻き戻してやり直すだろうし。絶対勝つ未来なんてものを創造されたらどう足掻いても勝てやしない。前に種の強さが必ずしも勝利に繋がることはないと言ったが、ここまで離されるともうどうしようもない。

 

だがまあ、本人があくまで戦闘者(トレーナー)である以上そんな仮定は無意味なのだが。第一やたらと力を振りかざす者を神が選ぶとは思えない。タクシー?あれは例外だ。

 

だから――きっとこのメールを届けたことにも何らかの意味があるのだろう。

僕はそっとため息を着き、カキの試練は早急にクリアしてダイジェスト風にしようと決意した。

 

 




という訳で、時空どころか次元を超えて一生懸命伏字にしていた少女達の苦労が台無しになる上、前話で証拠隠滅し切れなかったためにサプライズがネタバレするだけの話でした。なお話の進展がグダグダになった模様。
この展開が少女達の気に触ったら時間遡行(編集)する可能性が…………ねーな。
シンオウの伝説は魔境を超えて神境(文字通りの意味で)。はっきりわかんだね。



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毒が入ってなくとも不味いメシはそれだけで毒


10/11、ガブリアスに竜舞使わせていた部分を修正しました。

前書き

炎のZクリスタル、ゲットだぜ!

「過程は!?略し過ぎてませんか!?」




「僕は約束を守る男だと自負している」

 

要約(ダイジェスト)し過ぎて結論だけしか言ってないじゃないですか!少なすぎます!他の地方と比べてちょっとイケメンなアローラのやまおとこさん達から全力で抗議されますよ!?」

 

「…………確かに、ホウエンを始め他の地方のやまおとこは異様に太っているが…………それは良い。仮に抗議してくるというのならば鎮圧する。数を相手にするのも経験値になるだろうさ」

 

「ダメだこの人歪みない……」

 

 

次の予定が詰まっているため、カキの試練を早々に突破した僕達は、試練の場にして例のコートから渡されたメールに記載されていた場所――シェードジャングルへと足を運んでいた。勿論リーリエもセットである。彼女を試練の場に付れてきてもいいものかと初めは疑問に思ったものの、何も言ってこないので流すことにした。

 

試練として本来入場するべきだろう場所で1人挑戦者を待ちわびているマオの姿を遠目に見ながら、僕はバックから山のようなモンスターボールを出し、一気に解放する。

それは僕がこの世界に来てから捕まえて育てたポケモンだ。総数は凡そ42。それも、すべてが育成限界(Lv.100)天才(6V)である。もっとも、個体値に関してはだいたい全部が凄い特訓によるものではあるが――戦ってみると誤差はないためスルーする。

 

 

「人探しだ。幸いここは試練の場で普通の人間がいることは滅多にないからな、存分に行動できる」

 

 

果たして例のコートから渡されたメールに記された人物とは誰なのか。そもそも本当にいるのか。

どちらにしても、人間が1組――ここでリーリエから目を離すと迷子になって行方不明になるため――で探すには限度がある。だからこその(ポケモン)海戦術。倒されでもすれば数が減ってしまうとはいえ、そもそもこの地方は平均レベルが決して高くはない。もしそんな手法を取ってくれたら万々歳だ。自分はここにいるという事を何よりも雄弁に物語っているのだから。

 

42匹という通常のトレーナー7人分のポケモンを使って捜索を開始させたものの、広大なジャングルを隅々まで探すためには時間がかかる。故に僕は暇潰しとしてマオの試練に望むのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「カンタイぶりだな、キャプテン・マオ」

 

「まいど!シェードジャングルへようこそ!さっそくだけど、試練にチャレンジしてもらいます!」

 

 

マオの試練を要約すると、主ポケモンを呼び出すための調理(マオスペシャル)に必要な材料を集めてきてほしいとのことだった。

 

必要な数は4つ。

マゴのみ、ちいさなキノコ、ふっかつそう、きせきのタネ。

この組み合わせからはロクな料理が生まれないと脳裏で経験が警報(アラート)を鳴らしているが、食べるのは僕ではないのだ。努めて無視することにし、素材を探すため、バックからメガネを取り出した。

 

 

「珍しいですね、ユウキさんが眼鏡をかけるのって。何か理由があるのですか?」

 

「ああ。これはみとおしメガネと言って、周囲にある道具やポケモンの位置がわかる超高性能な道具だ。先ほどマオが見えにくい所にあると言っていただろう?これならダウジングマシンも使わずに探すことが出来るんだ」

 

 

ぶっちゃけた話、完全にダウジングマシンの上位互換だ。ハルカには申し訳ないが、これを入手してからはダウジングマシンはバックの底に沈んでいる……データ化されているためあくまで比喩ではあるが。

 

マオはムーランド(サーチ)を使えばいいと言っていたが、ライドポケモンは好みではない。ポケモンは戦っているのが1番であり、戦闘以外の分野に特化して育てるのはなんか違うと思うのだ。勿論すべてのポケモンが戦闘だけ行うようになれば社会が崩壊するため他人に強制するつもりはないが……

 

僕だけは使わない、という我儘である――最も、必要に迫られない限りではあるが。

 

 

みとおしメガネを使って周囲の道具を確認する…………15個か。その中で比較的強いポケモンによって見張られている道具を抽出する。

 

それが求める3つの材料だ。4つでないのは開始早々普通に見つけたためである。

だが、これが試練である以上、ただ材料を集めるだけで終わる訳がない。監視をしているポケモンがいるに決まっている。

 

故にポケモンが周囲に付かず離れず存在している場所にある道具が怪しく、しかもその数は丁度3つ。疑問に思ってしまうレベルで簡単ではあるが、それは僕がみとおしメガネ(みとおしチート)を持っているからだろう。曰く、3種の神器。普通に島巡りを行っているだけのトレーナーであればこれを持っている筈もなく、ムーランドに乗りながら必死になって見えない道具を探すだろう。

 

 

「そんな道具聞いたこともないのですが……ユウキさんがいた世界では一般的だったのですか?」

 

「いや、探検家との勝負に勝った際、賞金代わりにかっぱらったものだ。それからはかなり重宝している」

 

「……探検家、ですか。もしかして、かなり貴重なものだったりします?」

 

「数千年は昔に建てられた遺跡の深層域で入手したらしい。とはいえストックはまだあると言っていたがな。奴も泥棒したと言っていたし、別にいいだろう」

 

「酷い暴君の理論を見ました……てかそれ犯罪じゃないですか?数千年前の遺跡ってことは文化遺産ですよね」

 

「何を今更。

奴は探検家ということもあって、グレーゾーンどころかブラックな領域にも踏み込んでいるからな。元から存在自体が(・・・・・)グレーゾーンな奴だ、踏み越えるのにも躊躇いはなかったんだろうさ。

――だから僕も遠慮なくブラックに行くんだが」

 

「存在がグレーゾーンって……酷くないですか!?」

 

 

そういう奴なのである。本人が望んだ(モノ)では無いとはいえ……便利だからとガンガン使っている時点で同罪だ。加えて奴は保護してほしいなんて欠片も思ってはいないため、変に遠慮する方が侮辱に値する。

 

 

そうこうしている内に材料はすべて集まった。とりあえず材料袋にぶち込んでマオの元へと持っていく。そこでは彼女が調理の準備をしており、彼女が持ってきたふといホネ、きちょうなホネ、おいしいみず、ゴツゴツメットを加えてテキパキと調理を進める。

 

その手つきは熟練者のそれだ。新しくはないが、綺麗に洗われた淀みなく、一定の流れに沿った調理はある種の美しささえ感じられる。発想も悪くない。僕も協力しているものの、こと技量に於いては彼女は僕の上を行くだろう。

 

――――レシピが、あまりに酷いことを除きさえすれば。

 

そう、レシピがあまりに酷いのだ。

なんでそこで余計なひと手間を加えるのか……そのせいでこれまでの調和が粉砕玉砕大喝采。結論から言って食べたくない。漂ってくる香り自体は極めて良好だが、それは獲物を引き寄せる食虫植物にも似たものである。元が主ポケモンを呼び寄せるためのものであるため、ある意味当然とも言えるが。

リーリエがゴクリと喉を鳴らす。ああそういえば食事がまだだったなだがその先は地獄だぞ、と忠告しようとして――

 

――――背後に気配を察知。

咄嗟にリーリエの腰を抱いて連続で側転し、回転する勢いによって空中でホルダーからこぼれ落ちる様に調節していたモンスターボールを蹴り飛ばす。着地してからリーリエを見ると顔色が真っ青だったが、気にする程の余裕はない。おいしいみずと共にマオの近辺へと放り投げて相手の様子を伺った。

 

 

相手は――ラランテス。素材の見張りを行っていたポケモン、カリキリの進化系だ。金色のオーラを纏っていることから主ポケモンなのだろうと推察する。

纏う雰囲気、そして不安定な体勢で放たれたモンスターボールが直撃した衝撃でかなり大きなダメージを受けているあたり、レベルは決して高くはない。

 

 

――なら、何も問題はない。

 

 

 

「メタグロス!」

 

 

モンスターボールは中身(ポケモン)入りだ。出てきたポケモンはメタグロス。襲われた時にパーティ最硬のポケモンを咄嗟に出せるように手を加えたホルダーは、この世界で初めての使用にも満足に答えてくれたようだ。

 

 

敵に増援(メタグロス)が表れたことに反応し、ラランテスはポワルンを呼び出した。出てきたポワルンは自分の役割を理解しているのか、即座ににほんばれを行い、天候を日差しが強い状態へと変更する。

 

そしてラランテスはソーラーブレードを展開。援護も相まって瞬時にチャージを終えて、メタグロスへ極光の剣を解き放つ――!

 

 

「ハッ――関係ないなぁ!

叩き潰せ、メタグロスっ!!」

 

 

――――コメットパンチ。

 

流星の如き一撃が光剣を貫き、粉砕する。空間が捻じ切れる程の暴力的な剛腕に、いかに技の威力が高くとも元々のスペックが不足しているラランテスでは対抗することさえできない。

そしてメタグロスの攻撃は光剣に打ち克つだけには留まらない。次の攻撃を行うまでに生まれた一瞬の空白で懐へと飛び込んだ。

 

ラランテスは咄嗟に後退しながらソーラーブレードを放つも、メタグロスは歯牙にもかけない。ただ超近接距離(ゼロレンジ)へと突っ込んで、加速の勢いを利用した追撃のコメットパンチを繰り出す。

メタグロスの頭脳はスーパーコンピュータをも凌駕しうる超高性能だ。自分と相手の動きを計算し尽くして、最大威力を急所へとぶち当てる。

ラランテスは倒れた――そして、

 

 

「次ぃっ――!」

 

 

主が敗北したことに恐れをなしたポワルンは咄嗟に逃げ出そうとするも、僕はそれを認めない。何よりもそれはメタグロスが計算していた未来のうち最も可能性の高い行動で、だから当然対処方も完了していた。

 

――――バレットパンチ。

反撃も許さぬ超速の一撃がポワルンへと放たれる。炎タイプへ変化している(特性:てんきや)ために効果は今ひとつだが、低レベルのポワルン一匹、片付けるためには過剰に過ぎる。

 

 

これで試練は終了か――。

そう思って振り向くと、戦闘開始直前に放り投げたのがアウトだったのだろう。胃の中のものを全力でリバースしていたリーリエと目が合った。その物言いたげな瞳を見て、あの時はああするのが最善だったとはいえ若干申し訳ない気持ちを覚えた。

 

 

 

***

 

 

 

さて、ここからが僕にとっての本番だ。

僕がここで野生のポケモンを捕まえていると言うと、マオは納得した様子を見せ、笑顔と共にこの場を去っていった。これを食べても良いよとご丁寧にも産業廃棄物(マオスペシャル)を置き去りにして。

 

正直言って自然に還(廃棄処分)したいが、リーリエが食べたそうにこちらを見ているため、仕方なしに食べることにした。

手始めにミロカロスを呼び出してリフレッシュを連打。その後は持っているきのみや各種調味料によって味を整え、最低限人の食べれられるレベルまで持っていく。

リーリエが食べることを望んだのだ、素のままの味で悶絶させても良いかなと思いはしたものの、先程の様なリバースを再度行われても寝覚めが悪い。

 

その過程を経て漸く料理になったモノを器へと注ぎ込み、リーリエに渡す。先程から空腹だったのだろう。出された器を即座に受け取り、一緒に渡されたスプーンを使って食べ始める。

 

 

「…………味はどうだ?」

 

「…………う〜ん、その、悪くはないんですけど、普段のユウキさんの料理に比べると数段劣りますね」

 

「なるほど。つまり、毒はもうない訳だな。ならば安心して食べられる」

 

「言われてみると少し舌がピリッとするような…………ちょっと待ってください、毒あったんですか!?まさか先程のリフレッシュは毒性を消すためのものだったんですか!?あとユウキさんが色々手を加えていたのはまさか…………」

 

「ああ…………無毒判定ではあったが、単純に、毒みたいに不味かった」

 

「………………気が緩んでたのかなぁ。お手数をお掛けしました」

 

 

その言葉に、そういえばどっかのお嬢様だったっけかと思い出す。これはあくまで仕事の付き合いの様なものであるうえ、向こうの世界にいるお嬢様(・・・)の高飛車に比べると大したことがないため忘れかけていたが。

リーリエが本当に食事に毒を混ぜられた過去を持つのか、それとも単に毒味している者がいるのかは定かではないが、食事の際は毒に注意していたらしい。

 

若干の懸念要素はあるものの、とりあえず毒性はないとのことだったので、僕も食事を開始する。忌憚のない意見を言わせてもらうのならば美味くもなく不味くもないどこまでも微妙な味なのだが、あの殺人的不味さと比較するとマシになっているのだから良しとしよう。食えないレベルではない。

 

 

食事を終えると、僕はポケナビを開いた。

ポケナビには時間表示機能がついているが、今そこに表示されている時間は時間切れ(タイムリミット)という事実を示していた。なのに僕の元にポケモンが誰一人帰ってこないということは――つまり、そういう事なのだろう。

 

そう結論付けると、僕は手っ取り早く食器の後始末を行い、みとおしメガネを装着する。すると、マップには殆どのポケモンが表示されて(・・・・・)いなかった(・・・・・)

このメガネは周囲の道具とポケモンを知ることが出来るが、例外として人が所有している道具や、モンスターボールに入ったポケモン、そして瀕死になった(・・・・・・)ポケモンは表示されない。

つまり僕の放ったLv.100で6Vのポケモン42匹を僕に気付かせずに静かに全滅させられる程の実力者がこのジャングルにいるという訳で。

 

 

「――――ははッ」

 

 

歪んだ笑みが浮かぶ。この世界に来てから、僕はずっと手加減を加えながら戦ってきた。だが、コイツにそれは間違いなく必要ない。対等な戦い――それはどんな麻薬にも勝る快感だ。満足に戦えなかったことで数ヶ月も貯め続けてきたフラストレーションが遂に解放される瞬間を夢に見ながら、僕はポケモンがいない空白地帯――その中心部へと足を運んだ。

 

 

 

***

 

 

 

「「――――やっぱり、お前か」」

 

 

異口同音。ふたつの口から同じ趣旨の言葉が同時に放たれる。

片や(ユウキ)。そして案の定というべきもう片方は――ソラ(・・)。みとおしメガネをかけている、金髪ロングのチビだった。

 

 

「その反応……やはりお前も向こう(・・・)から来たのか。いつからだ?」

 

「ハッ、知らねぇよ。ああいや、誤魔化すつもりはねぇぞ、本当に知らねぇんだ。何しろオレはここ数年ぐらい記憶がないモンでな、実は違う世界だっつーことも最近知ったくらいだ」

 

 

その言葉は、理解するのに数秒の時間が必要だった。まさか、それはあのソラに限ってありえない。なぜなら彼は――

 

 

「…………記憶がない?

何を言っている、お前ならじくうのさけびを使うことで視れる(・・・)だろう?」

 

 

そう、ソラはじくうのさけびを持つニンゲン。例え記憶を失ったとしても、自分の過去を視ることで取り戻せる稀有な存在だ。その彼が、記憶喪失?それはつまり――――

 

僕のセリフを聞いたソラは心底忌々しいとでも言うかのような表情を浮かべ、言葉を吐く。

 

 

「…………ハッ、それは今やるべきことじゃねぇぞ。トレーナーとトレーナーが出会った、ならやるべき事は2つだ。とっとと逃げるか闘うか――相手がお前なら、オレは闘うことを選びたいね」

 

「僕には逃げるという選択は浮かばないんだがな、よっぽどの雑魚以外。

お前が相手なら上等、むしろ望む所だ。ここ数ヶ月、溜まりに溜まったフラストレーションを存分に晴らさせてくれ」

 

 

そう言うと、僕はボールを手に取った。先頭のポケモンがボール越しに軽く頷いたのを見て、一呼吸。思考のスイッチが完全に切り替わる。

ゾーンと呼ばれる領域へと一瞬で辿り着き――それでは足りない(・・・・)。もっと奥、超深層へと潜り込む。

 

故に見えるは極彩色を超えた原点回帰。白と黒だけが支配するモノクロの世界。熱量を感じる所かそもそも存在しない、無色透明の戦意の昂りに合わせ、光速さえも遅く思える程の処理速度が実現する。

 

リラ相手にさえゾーンで留めていたのに、この超深層にまで入り込んだ理由。それは、こうまでしないと対等には(・・・・)闘えない(・・・・)という事実の露呈だ。何故ならソラはトレーナーのタイプにおける例外――能力タイプのトレーナーなのだから。

 

超能力者や癒す者を初め、人間の中にも通常とは異なる能力(オカルト)を有する者がいる。それは人とポケモンのルーツが一緒であるためであり、ある種の先祖返りとも言えるのだろうが――それは今は置いておく。

多くの場合その能力は人としては強いという程度に収まり、バトルに干渉出来るほどの出力を有していないため、態々区分わけをする必要はないことが殆どだ。

 

 

超能力――

たかが軽いモノを動かすだけの能力で出来ることなど程度が知れている。彼等は多くの場合エスパータイプ使いとなるのだから、結局の所手持ちポケモンの下位互換に過ぎない。手数が増える?手持ちポケモン(上位互換)が苦戦する様な相手に何をしろと。徒労に終わる。

 

じくうのさけび――

結局の所過去未来を読み解くだけの異能で、それが何日訪れるのかを知ることは出来ない。期待するだけ無駄だ。そんな運頼みの博打に期待して動きを鈍らせるよりも、順当に闘って順当に勝つ方が手っ取り早い。

 

読心――

ポケモンの声を聞く。で?だから?

伝えられないし伝わらない。音速を超えた攻撃によって伝える前に潰す。それだけでこれは意味の無いものへと成り下がる。

 

癒す者――

はははふざけんなマジぶっ潰すぞこのメアリー・スーが。

 

 

そう、じくうのさけびもこと戦闘においてはどうでも良い(・・・・・・)。それなのにソラが態々能力タイプと分けられている最大の理由は、彼が有するもうひとつ(・・・・・)の能力に由来する。

 

それが、自分のポケモン限定での法則改変(ポケダン化)。彼の手持ちポケモンは、すべてHPが999で攻撃防御特攻特防素早さが255であり、技の補助効果や特性、挙句能力変化の倍率、2つの特性の両立――何もかもが異なっている。加えて連結技――1ターンに最大4つまで連続して技を繰り出す技能が厄介さに拍車をかける。

 

具体例を出すなら、ガブリアスを出して1ターンで剣舞→逆鱗→地震のコンボが可能という巫山戯た真似が出来る。とはいえ彼が書き換えた法則には合わないため使われることはないが、これがわかりやすい例となる。

 

加えて、ソラは純粋に強い(・・)

冒険家にして、じくうのさけびを持つニンゲン。それは裏の人間を引き寄せる誘蛾灯であり、ソラは幼い頃から彼らと命のやり取りを行ってきた。僕の経験はあくまでポケモン勝負としてのもので、彼が経験して来た殺し合いとは濃度が異なる。

 

()られる前に()る――それが当然となってしまった人間に、ブレーキなど存在しない。壁があれば踏み潰す。敵がいれば叩き潰す。障害はすべて潰す。だからこそ、ソラは今まで生きてきた。

 

 

「更にフラストレーションが湧く結果になんなきゃいいな」

 

「当然だ。闘う前から負けると考えるなど阿呆の所業だろうが。勝つのは僕で負けるのがお前だ」

 

「抜かしとけ。勝つのはオレだ。

お前っつー迷宮(ダンジョン)踏破(クリア)して、オレはまた活動の記録(レコード)を残す」

 

 

ソラは確かに強い、というか理不尽だ。だがそれが、必ずしも敗北という結果に結びつくかと問われると――否である。

闘いの(フィールド)に上がっている。その時点で勝敗は不確定なものであり、勝利に対する相手の引力が大きいのなら、僕はそれ以上に強く在ればいい。

 

 

「いざ尋常に――――」

 

「「勝負しようかぁっ!!!」」

 

 

互いの言葉と共にフィールドに投げ込まれ、閃光を放つモンスターボール。

同時にソラのフィールドに走った一瞬のブレを認識する。それは世界の法則が彼自身の法則によって塗り潰されたという証拠であり――――関係ない。

思考を刹那に切り捨てて相手の先頭ポケモンを確認、直ちに指示を出す。

 

 

ポケモン勝負が始まろうとしていた。

 

 

 




ネタバレ回で散々追求したように、コートのメールに書いていたのはソラでした。外見はポケスペのエメラルド(第6章以降)っぽい感じ。オリキャラである彼なのですが、実は明確なモデルが存在します――バレバレな気もしますけれども。
そこら辺のバラシはバトルが終わってからにします。
…………他所でやってるファンタジー全開のポケモンバトルってかなり長くなりそうな気がするんだよなぁ……。ユウキに稀少扱いさせて試験的に挑戦してみてますが、かなり厄介そう。
次々回か、その次か……何れにせよ、他のルールを再現すると擦り合わせに苦労するんだなぁと確信しました。


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それってチートやんチーターやん!

まさかの普段の2倍(12万字オーバー)とか……この惟神の目を持ってしても見抜けなんだ。
話を変えるところが見つからなくて、プロローグを超える過去最長です。

――――もうファンタジー全開のポケモンバトルは懲り懲りだよ………



 

勝負(バトル)が始まった――。

 

相手の先頭はドーブルで、こちらはメタグロスだ。ドーブルは本来スケッチによって多くの技を覚えられる代わりにステータスが低い。だが、ソラの法則(ルール)においてステータスは関係ない。HP:999、ABCDS:255にまで強制的に引き上げられているからだ。

 

故に注目するべきは技と特性。すべての技を覚えられるドーブルにとって、特に前者は厄介さ極まりない。

 

そして――――

 

 

「コメットパンチッ!!」

 

食え(・・)、ドーブル」

 

 

流星を宿した一撃が土手っ腹に直撃する。ドーブルはその一撃を堪えきれずに後方へと吹っ飛び――違う。

自分から吹き飛んだ(・・・・・・・・・)のだ。それによってダメージを軽減したドーブルは、元の体力の多大さも相まって大きなダメージが見受けられない。

 

そしてドーブルが持っていたタネを食べると、途端に姿が掻き消える。ドロンのタネだ。効果は自身の透明化――不可視となって相手を一方的に攻撃することが可能となる。

 

だが、相手が悪かったな――。

 

 

「未来を計算しろメタグロス――もう1度コメットパンチだ」

 

 

メタグロスは計算する。移動したことによる地面の僅かな窪みや、風向き・風量、ペンキの香り――etc.etc.

例え不可視になったとしても、そこにいる存在自体がなくなったことにはならないのだから、あらゆる要素を検出して計算することによって、現在地を把握することが出来る。

 

そして放たれたコメットパンチが不可視となっていたドーブルへと見事に直撃する。流石に急所には当たらないものの、当てられるという事実があれば問題ない。後はHP999を削り切るだけ――で終わる訳がない。

 

ドーブルの真の恐ろしさはここからだ。

 

 

「やれ、ドーブルッ!!」

 

 

連結技によって、4つの技が同一ターンに放たれた。

しんぴのまもり――自分を状態異常から守り、

こころのめ――必中状態。決して攻撃を外さない。となれば次に放たれるのは強力な技で、

ほろびのうた――敵味方すべてを巻き込む終焉の独唱歌(アリア)が響き渡る。神秘の守りによってドーブルにデメリットはなく、ただメタグロスにのみ効果を押し付けた。

きのこのほうし――そして封殺。迫る終幕を前に黙って寝ていろとばかりに睡眠の状態異常が撒き散らされる。

 

控えめに言ってエグいが、一撃必殺でないだけまだ救いがある。滅びのカウントが迫る中、僕はメタグロスに命令を下す。

 

 

起きろ(・・・)、コメットパンチだ」

 

 

例え眠りに落とされようが、鋼鉄の意思(ただの事実)で起き上がれ。敵はそこにいるぞ――。

戦意を無理矢理に向上させてメタグロスを戦線復帰させる。滅びのターンカウントは進んでいるが、今倒れないのならば問題はない。

 

コメットパンチが不可視となっていたドーブルに直撃する。即座に復帰されるとは予想していなかったのだろう。直前の位置から移動していなかったため、急所に当てることは容易い。HPはレッドゾーンに入り、あと一歩踏み込めば削り切れるだろう。だが――

 

 

「限界だな、戻れメタグロス。

出番だ、ネンドール」

 

 

滅びのカウント0(強制瀕死)が目前に迫っていた。返しの連結技を食らってしまってはこちらが死ぬだけで無意味になる。深追いはせずに入れ替え、ネンドールを場に出す。

 

先手必勝とばかりにドーブルが連結技(神秘+心眼+滅歌+胞子)を繰り出そうとする。不可視の攻撃はメタグロスの様な特例でない限りは察知することが出来ないが、ならばすべてを(・・・・)巻き込めば(・・・・・)いいだけだろう。

 

 

「全部ぶっ潰せ――じしんだ!」

 

 

しんぴのまもり、こころのめ――そしてほろびのうたが歌われるタイミングに力尽くで割り込んで地震を放つ。

辺り一帯を巻き込む攻撃だ、接地しているドーブルに回避手段はなく、これまでのダメージも相まって歌を歌いきる前に瀕死へと陥った。

 

だが、代償としてネンドールは滅びの歌を聞いてしまった。眠りには陥っていないとはいえ、カウントダウンが開始された以上は、何らかの手段を取らない限りは瀕死へと陥るだろう。

 

 

「出番だネオラント!」

 

 

ソラが次に出したポケモンはネオラントだ。ネンドールとの相性は悪い。ならば尚更これは交換時であるものの、

 

 

「ひかりのかべ」

 

「場を構築するぜ!」

 

 

仕事(コレ)を済ませてからな。

光の壁によって特殊攻撃のダメージを軽減する。向こうにいた頃から変わらないネンドールの役割だ。本来はここからもうひとつの壁ないし大爆発に繋げるのだが、滅びのカウントが進んでいる上、この世界での大爆発の威力は少なくなっているのだから、繋げる必要はあまりない。

そもそも、このターン生きていられるとは限らないのだが。

 

対するネオラントは場の構築(あまごい)を行う。

ネオラントの特性はすいすいで、持ち物は恐らくスイスイリボンだ。この2つが合わされば、雨が降っている時に限り2倍速(・・・)で行動することができる――そう、2倍速だ。ソラの法則(ルール)では能力ランクの倍率が異なっているが、特に違いが大きいのは素早さだ。通常の速度から2倍、3倍、そして4倍速にまで上昇する。

 

ネオラントは素早さランクが上がり、現在の速度は2倍速――故に、1ターンで2回技を繰り出すことが可能となった。連結技とは別に、だ。

 

 

「追撃の連結技(水波動+ドロポン)!」

 

 

そしてみずのはどうとハイドロポンプが連結して繰り出される。効果は抜群、天候による強化も相まって光の壁で軽減してもダメージは甚大だ。次のターンで倒れると確信し、

 

 

「爆ぜろ、ネンドール」

 

 

ならば全破壊に躊躇いはない。

 

この世界で大爆発を好まないのは単に火力不足でアド損が大きいからである。後がない状態なら使うことに躊躇いはない。

与えたダメージは総HPと比べて決して大きなものではないが、あるとないでは隔絶した違いがある。

 

 

「出番だ、ボーマンダァっ!!」

 

 

ネンドールの退場により、ネオラントの攻撃は不発となった。ボールから解放されたボーマンダは、仲間を討たれるという逆鱗に触れられて赫怒する。

その頭にはこだわりハチマチが巻かれており、ボーマンダがただただ破壊力だけを追求した暴竜であることを証明していた。

 

 

「ネオラント、連結技(水波動+ドロポン)だ!」

 

 

みずのはどう+ハイドロポンプ。

雨の影響を受けて倍速となったネオラントが近付かれまいと4連射するも、元より効果はいまひとつだ。天候によるブーストがかかろうとも勢いを止めることなど出来はしない。

ボーマンダは攻撃がモロに直撃するのも関係ないとばかりに特攻する。

 

ソラの法則(ルール)における短所の1つがコレだ。体力を除いた全ステータスが255であるため、多くの場合、本来の能力値に比べて威力が欠けているのだ。加えて、計算こそしていないとはいえ、技自体の威力も明確に低い。

普段はそれを攻撃回数によって誤魔化している様だが、一撃一撃のダメージが少ないのだからと躊躇いなく神風する。

 

 

「赫怒の具現化だ――逆鱗しろ!!」

 

 

遂にボーマンダはネオラントを射程距離に入れ、王者(ドラゴン)の暴力が開始される。

息付く間もない力尽くの連続攻撃に苛まれるネオラントだが、こと速さという点ではネオラントの方が上だ。攻撃と攻撃の間に無理矢理空白を生み出し、対抗して連結技を繰り出す。

 

赫怒のままに暴力するボーマンダと、速度の利を以て抵抗し続けるネオラント。長きに渡る2者の攻防も漸く終わりを見せ、

 

 

――ネオラントは倒れた。

 

 

瀕死へと陥ったネオラントを前にして勝利の雄叫びをあげるボーマンダに、だがソラは涼し気な反応を見せ、

 

 

ヌケニン(ふしぎなまもり)

 

戻れボーマンダ(あっ)バシャーモ、頼んだ((察し))

 

 

どうあがいても無理ですわー。

 

ソラが出したのはヌケニンだ。それもただのヌケニンではない、HP:999のヌケニンである。

元より拘って(・・・)いたボーマンダは逆鱗以外の技を使えない。疲労の蓄積もそろそろ限界だと判断し、即座にポケモンを交代。バシャーモをフィールドに出す。

 

 

「焼き尽くせ――フレアドライブ!!」

 

 

先手を取ったのはバシャーモだ。炎技で上位の火力を誇るフレアドライブをヌケニンに繰り出す。効果は抜群、雨による減衰もあるとはいえ、不思議な守りを突破して多大なダメージを与えると思われたが――

 

 

――――ヌケニンはワープした。

 

 

「――――っ、ワープスカーフか!?」

 

 

ワープスカーフとは、ソラが冒険の果てに手に入れたアイテムの内、三種の神器の一つとまで称される程に高性能な道具だ。

効果は単純に、フィールドのどこかへランダムに転移(ワープ)する。この効果の発動タイミングは選べないが、今回の様に直撃寸前で転移(ワープ)される事と厄介さ極まりない。加えてこの道具に使用制限はないため、何回でも発動してしまう。

 

そしてヌケニンが転移(ワープ)して表れた場所はフィールドの反対側だ。一瞬で近付くなど到底不可能であり――

 

 

連結技(2つ目)だ――やっちまえ!」

 

 

遠距離から連結技が繰り出される。かげうちとシャドーボール。どちらもゴーストタイプで遠距離攻撃可能な技だ。転移(ワープ)直後で狙いが甘かったのか回避に成功したものの、このままでは嬲り殺しに合うと理解し、

 

 

「神風上等ォ――!」

 

 

全身に炎を纏ったバシャーモが突撃する。しかし第一歩を踏み込んだ時点で既にヌケニンは転移(ワープ)していた。

瞬間的に見えなくなる標的(ターゲット)に、だがバシャーモは炎を纏ったままにフィールドに佇み、動きを完全に停止させる。

 

――――雨が降りやんだ。

刹那、後方に空間の揺らぎを感じた。

 

 

「――そこだ!フレアドライブ!」

 

「――ヤベェ!ヌケニン、全力回避ぃ!!」

 

 

次の瞬間、バシャーモは爆発的に炎の出力を高め超加速。ヌケニンがフィールドに表れたと同時に組み伏せる。そしてヌケニンを炎で包み、地面を削りながら走り続ける。

逃げる暇など与えない。ヌケニンの攻撃は前兆がみえた瞬間爆発的に加減速することで自爆ないし中断させ、転移(ワープ)が起きても決して離さずフレアドライブを継続。それぞれ与えるダメージと反動ダメージにより勢いよく削られる両者の体力。

 

鬩ぎ合いに勝ったのは――バシャーモだ。

 

雄叫びをあげることなく、強者の風格を出して腕を組むバシャーモ――とはいえ被害は甚大である。与ダメージの1/3を反動として受ける以上、バシャーモは合計333の反動ダメージを受けた。体力は当然限界ギリギリ(レッドゾーン)で、何故平然と立っていられるかと問われると、答えは気合と根性(・・・・・)――単なる痩せ我慢(・・・・)に過ぎない。

 

他のポケモンとは異なり、自分の技の反動ダメージしか受けていない自分がどうして疲労を見せることが許されようかと、ただ意志力によって尽きる寸前の体力を維持している。

 

 

「んじゃ、ここはいっそ店長(カクレオン)に頼みますか!」

 

 

次にソラが出したポケモンはカクレオンだ。特に技のレパートリーも広くないし、特性が強力な訳でもない。

なのにどうしてソラが使っているのか――それは、何の制限もない常時倍速という、自分が敷いた法則(ルール)を自分で破る非常識(イレギュラー)だからだ。

 

 

「――――ぜんりょくむそうけきれつけん!!」

 

 

だからこそ、全力無双激烈拳(Zワザ)を以て即座に叩き潰す。飛び膝蹴りを元にしたこのZ技は威力195――効果が抜群なことも相まって、倒すことは出来ないものの、多大なダメージを与えることができる。

 

 

店長(カクレオン)、この間みとおしメガネかっぱらってった盗人にいっちょお仕置きお願いします!

――連結技(いやなおと+みだれひっかき)だ!」

 

「それはバトルに勝った正当な報酬だろうが!」

 

 

いやなおとによって防御ランクを下げた上での乱れ引っ掻きと全力無双激烈拳との真っ向勝負。通常は何をどうひっくり返そうが後者が勝つに決まっている――だが、目の前の光景はそんな想定を嘲笑うかのように、カクレオンの優勢で進んでいた。

そんな理不尽を引き起こせる道具に、僕は心当たりがある。

 

――カクレオンは攻撃を受け流した(・・・・・)

 

 

「――っ、あしらいスカーフか!?」

 

 

それは三種の神器の最後の1つ。

 

ワープスカーフが危険に際して救いを齎す勾玉であり、みとおしメガネが周囲を照らし見透す照魔鏡ならば。

あしらいスカーフはいわば剣――相手の攻撃を受け流す、攻防一体の剣に他ならない。

 

そうなればバシャーモに勝機はない。

防御ランクが下がった状態でZワザを威力そのままにカウンターされ、追撃の乱れ引っ掻きを食らってしまっては、気合と根性ではどうにもならず、

 

 

――バシャーモは倒れた。

 

 

だが、いかにあしらいスカーフといえどもZワザは受け流しきれなかったのか、カクレオンにはダメージの後がある。それは不完全性の証明であるが、だからといってZワザの超火力を連打できるはずもない。

 

故にみかわしスカーフの適応範囲――ソラの法則(ルール)における『正面の敵』を攻撃範囲とする技以外によって攻略しなければ、勝機はない。

 

故に、使えるポケモンは――

 

 

「地を揺らせ――ボーマンダァっ!!」

 

 

敵1匹に限らず、場の全てを巻き込む無差別攻撃が出来るポケモンに他ならない。

 

フィールドに放たれたボーマンダが叫びに答えて地震を放つ。こだわりハチマチによって強化された一撃は大地を揺るがし、技を逃がす場がないカクレオンに初めてマトモなダメージを与えた。

 

 

「それでカクレオンを攻略したつもりか?――甘ぇよ、道具だけに頼る訳がねぇだろ!」

 

 

それでもソラは揺るがない。

道具を攻略し、ダメージを与えた――だが、それだけだ。HPは未だグリーンゾーン、戦闘を続行するのに何の問題もない。

カクレオンが連結技を放とうと接近し――

 

 

「させるか――地震だ!」

 

 

ボーマンダが地震を巻き起こす。拘っているだけあって振動は大きい。カクレオンはバランスを崩して素早い動作ができず、そうなれば2倍の速度を持っていようと形無しだ。攻撃と妨害が両立している事もあり、再度地震を打とうとして、

 

 

だったらこっちの連結だ(ふいうち+かげうち)!」

 

 

遠距離攻撃の2連結。あしらいスカーフに対応して全体攻撃を連打する敵を倒すための技だろう。とはいえ単純な威力だけ見るとさほど脅威ではない。地震を続行する。

低威力とはいえ各ターン2×2回攻撃を何とか耐えてひたすら地震を打ち続けるだけの泥仕合(ゲーム)だ。

――冗談、そんなの不可能である。

 

だがこれ以外に打つ手がないのも確かなのだ。メタグロスも地震を覚えているものの、この2連結はどちらも効果抜群だ。下手に出すことは出来ず……

故に命運はあの2匹に託された。

 

ボーマンダが地震を巻き起こして行動を妨害すれば、カクレオンが連撃でHPを削り、

カクレオンが攻撃すれば、あえて後方に飛ぶことでダメージ軽減と距離を取ったボーマンダが再度地震を放つ。

 

無限に続くかとも思われた攻防は、やがてピタリと止んだ。ボーマンダとカクレオンの両者の動きが唐突に停止し、フィールドに空白が生まれる。

それが瀕死の現れだと、数拍置いて理解し――

 

 

「――――ミロカロスっ!!」

 

 

全く同時にモンスターボールを投げる。僕が出したミロカロスに対し、ソラが出したポケモンは――

 

――唐突な話をするが、ソラが手持ちの中で最も信用する相棒(パートナー)はジュプトルである。だがその一方、単純な強さという点でジュプトルを上回るポケモンは数多い。

そんな彼の手持ちの中で、果たして『最強』とは誰か。

 

相手を完全に封殺して滅びをカウントするドーブル?

場を構築(あまごい)して倍速で一致技を連打するネオラント?

HP:999で不思議な守りを有する鉄壁のヌケニン?

常時倍速で大半の技を受け流し、防御を下げて攻撃を連打し続けるカクレオン?

 

――どれも違う。

ソラの手持ちの最強は、それ以外の5匹と同時に闘ってなお圧勝することが出来る理不尽の具現である。

ただひたすらに強い――故に『最強』、転じて『最凶』。

 

そのポケモンの名は――

 

 

 

 

「――――フワライドォォォっ!!」

 

 

 

 

――フィールドに最凶が降臨する。

 

ききゅうポケモン、フワライド。

防御と特防こそ低いものの、HPがかなり高いため意外と耐久出来るポケモンだ。とはいえ意外と、というラインを超えておらず、ガチの耐久ポケモンと比べると打たれ脆い。覚える技の種類が豊富であり、様々な型が存在する――のは普通のバトルでの話。

 

ソラの法則(ルール)に侵されたフワライドは途端に最凶と称するに相応しい力を発揮する――!

 

 

「――ぜんぶ破壊するんだぁぁ(あやしいかぜ+ぎんいろのかぜ+ちいさくなる)!!」

 

 

フィールド一面逃げ場なく放たれる全体攻撃。怪風+銀風の2連結で敵にダメージを与え、ちいさくなるにより回避ランクを上昇させる。

そしてこれだけじゃ終わらない。

 

 

「まだだ、まだオレのバトルフェイズは(特性:)終了していねぇっ(かるわざ)!!」

 

 

もう一回遊べるドン(特性:かるわざ)

道具を持っていない時に限り素早さが上がるという特性が、ソラの法則(ルール)によって道具を持っていない時は常に2連続攻撃(・・・・・・・)するという特性に変化する。

 

故にもう1度繰り出される連結技。

二種類の風がフィールドを蹂躙し、ちいさくなるによって更に回避が上がる。

 

だがミロカロスはこれを耐えきり――これで終わりならどんなに良かったか。

 

 

フワライドのこうげきがちょっとあがった!

フワライドのぼうぎょがちょっとあがった!

フワライドのとくこうがちょっとあがった!

フワライドのとくぼうがちょっとあがった!

フワライドはにばいそくになった!

 

 

ぎんいろのかぜによる追加効果が発生し、全能力ランクが1段階上昇する。

そう、全能力ランクだ。当然素早さも例外じゃない。つまり――フワライドは最低でも(・・・・)もう2回(・・・・)連結技を(・・・・)繰り出せる(・・・・・)。ちなみにPPは1回消費するだけだ。

 

 

風よ(あやしいかぜ)吹き荒れろ(ぎんいろのかぜ)これはオマケだ(ちいさくなる)!!

もう一度だ(特性:かるわざ)止まらねぇし(あやしいかぜ)終わらせねぇ(ぎんいろのかぜ)これだけじゃねぇぞ(ちいさくなる)!!」

 

 

フワライドのこうげきがちょっとあがった!

フワライドのぼうぎょがちょっとあがった!

フワライドのとくこうがちょっとあがった!

フワライドのとくぼうがちょっとあがった!

フワライドはさんばいそくになった!

 

 

今度はあやしいかぜによる追加効果が発動し、3倍速――5・6回目の連結技が繰り出される。

 

 

まだだ(あやしいかぜ)まだ足りねぇ(ぎんいろのかぜ)オレは満足してねぇぞ(ちいさくなる)まだまだまだまだぁっ(特性:かるわざ)!!

もっと(あやしいかぜ)もっと(ぎんいろのかぜ)!!もっとぉっ(ちいさくなる)!!!」

 

 

フワライドのこうげきがちょっとあがった!

フワライドのぼうぎょがちょっとあがった!

フワライドのとくこうがちょっとあがった!

フワライドのとくぼうがちょっとあがった!

フワライドはよんばいそくになった!

 

 

攻撃の連鎖は終わらない。4倍速となった上に目視も難しい程にちいさくなったフワライドが、回数を重ねて威力を更に増した暴風を放つ。

 

 

どうだ(あやしいかぜ)これがオレの(ぎんいろのかぜ)満☆足だ(ちいさくなる)!!

そして―(特性:かるわざ)オレは(あやしいかぜ)これで(ぎんいろのかぜ)ターンエンド(ちいさくなる)

さあ、お前のターンだぜ?」

 

 

フワライドのこうげきがちょっとあがった!

フワライドのぼうぎょがちょっとあがった!

フワライドのとくこうがちょっとあがった!

フワライドのとくぼうがちょっとあがった!

フワライドのはやさはもうあがらない!

 

 

ソラの法則(ルール)下での速度の限界を迎え、遂に……遂にフワライドの放つ暴風が停止する。これまでを振り返ると1ターンで16回攻撃+回避ランクカンスト――これこそがフワライドが最凶であることの理由である。

 

道具などの小細工はいらない。連結した技と特性による圧倒的攻撃回数。例え1回の威力に乏しくとも、それが16回も放たれれば被害は甚大であり、追加効果で全ランクも上昇する。例え周囲のすべてを敵に囲まれたとしても、全体攻撃技であるが故にすべてを焼き尽くせる。加えて回避カンスト(ちいさくなる)という凶悪なオマケ付きだ。

こいつが場に解き放たれたが最後、PPが尽きるまで決して終わらない蹂躙が開始される。

 

 

「なら遠慮なく――僕のターンだ!」

 

 

 

だが、それでも――

勝てない道理はどこにもない。

 

 

HPは尽きかけ、全身に裂傷を負い、不思議な鱗も多くが引き裂かれ――それでもミロカロスは生きていた。

被害は甚大で、瀕死していないのが嘘のよう。でも死んでいないが故に、絶対的強者への逆襲(ヴェンデッタ)が行われる――!

 

 

報復の一撃(ミラーコート)――受けてみるか!!?」

 

 

特殊攻撃によって受けたダメージを倍加させて反射する復讐の牙、ミラーコートが放たれた。ちいさくなるによってこちらの命中率は皆無同然だが、ここまでダメージを溜め込んだのだから当然威力も範囲も極大で、フィールドの殆どを巻き込んでいる。

 

 

逃げ場のない全体攻撃――躱せるものなら躱してみろ!

 

 

攻撃がフワライドに直撃したと同時に、ミロカロスは全ての力を使い切って倒れ伏す。文句なしの努力賞だ、後で念入りにケア(ポケリフレ)してやろう。

 

 

そして――勝負(すべて)はコイツに託された。

 

 

 

「さあ、倒れていった者の無念を晴らしに行くぞ――メタグロォォォォスっ!!」

 

 

最後にフィールドへと放たれたポケモンはメタグロスだ。場に出た瞬間にスパコン同等の頭脳をフル活動し、ちいさくなるによって目視も難しい程にちいさくなったフワライドの位置を特定――攻撃へと移る。

 

 

「――――コメットパンチィッ!!」

 

「――――迎撃しろ、フワライド(あやしいかぜ+ぎんいろのかぜ+ちいさくなる)ッ!!」

 

 

フワライドが暴風と化した2つの風を連打する。だがメタグロスはその威力を測定し計算することで最も被害の少ないコースを見つけ出し、接近する。

突撃チョッキによる特防の増加も相まって、回数を重ねる毎に全能力ランクが上がって威力を増す2種類の風にも真っ向から立ち向かい、HPが真紅に染まる(レッドゾーン)中で遂にフワライドを射程距離に捉えた。

 

 

「――――お前はもう……墜ちろォォッ!!」

 

 

コメットパンチが直撃する。

1度だけ(一筋)流星(コメット)では済まさない。幾度となく、4つの拳で流星群の様に放つ連撃は、1ターン16回攻撃というふざけた真似を仕出かした凶悪気球への意趣返しだ。回避ランクがカンストしているだけあって幾ら計算しても外れる攻撃の方が多いが、数打ちゃ当たるの精神だ。連撃は止まらない。

 

 

 

……数十秒後、それまでの疲労が溜まっていたのか次第にメタグロスの動きが鈍くなり始め、比較的大振りの一撃(コメットパンチ)を最後に連撃は終了した。

 

フワライドはその一撃によって遥か遠くへと吹き飛ぶも、未だ瀕死には至っていない。危険域(レッドゾーン)といった所か。

メタグロスは疲労により動けない。思ったよりも外れた攻撃の数が多いことを反省し、これは負けかなとフワライドの反撃(連結技)を待つ。

 

 

…………。

 

 

……………………。

 

 

………………………………ん?

 

 

 

よくよく注視すると、フワライドは風を出そうとしてはいるものの、結局何も起きていない。何故かと考えるも、結論は極めて単純だった。

 

 

 

 

…………PP、尽きたんだな。

 

 

 

 

そりゃあれだけバカスカ撃ってればなくなるのも早いよなと納得し――――ソラの瞳が諦めていないことを察する。

 

 

「――――ま、色んな所から苦情を言われるかもしんねぇけどよ」

 

 

当然か、フワライドは今まで技を3種類しか使っていない。であればもう1つ技があると考えて当然である。

 

上げに上げた補正を6匹目にバトンタッチするか――いや、ソラの法則(ルール)ではバトンタッチにそんな効果はない。

 

ここに来ての積み技――だったらちいさくなる同様連結に組み込んでいる。

加えてフワライドに攻撃防御特攻特防素早さのバフはほぼ必要ない。

 

回復技――ならば諦めていないことの理由にはならない。一応PPが尽きる程に撃てばわるあがきが可能とはなるが、その間に積まれることを考えると現実的ではない。

 

ならばやはり攻撃技だろう。怪しいのはかるわざを活かしたアクロバットだ。飛行タイプであることも相まって大ダメージが期待出来る。

 

だが…………第六感がどれも違う(・・・・・)と訴えかける。故に再考し、見つけ出した正解は――

 

 

 

「――――大爆発(爆発オチ)なんてサイテー!ってな?」

 

 

 

「――――ちょっと待てお前!!」

 

 

 

相手の考えに気付いて静止するも、最早間に合わない。

フワライドは大爆発し――追撃に(特性:)もう1回(かるわざ)引き起こされる大爆発。そして自分が倒れたことによって更に巻き起こる爆発(特性:ゆうばく)

都合爆発3連発。それはメタグロスのHPを瞬く間に削りきり、

 

――メタグロスは倒れた。

 

倒れたメタグロスをボールに回収し、僕はソラへと話しかける。

 

 

「なんか最後の展開に納得がいかないが……6匹目(レックウザ)を封印している以上、これで僕の手持ちは尽きた。まだジュプトル(エース)が残っているお前の勝ちだよ、ソラ」

 

 

爆発オチという終わり方に納得いかないが……と2回目となる言葉を口の中で転がして、素直に自分の負けを認める。それはソラの戦略が僕を上回ったという証拠なのだから。

 

僕の賞賛を聞いたソラは、だが途端に顔を俯かせた。思わぬ反応に怪訝そうな顔を見せた僕に、彼はホルダーから1つのモンスターボールを取り出した。

 

 

「これは…………モンスターボール?」

 

 

所々が傷付き、歴史を感じさせる――だが、とても丁寧に手入れされた空の(・・)モンスターボールである。それが何を指しているのか――会話の流れからして1つしかないのにも関わらず、僕はその可能性に思い当たることがなかった。

 

当然だ、ソラをよく知る者ほどその可能性に思考が及ばない。まさかそれが――

 

 

「…………ジュプトルの、モンスターボールなんだよ」

 

 

 

アイツは、いなくなった。

だからこの勝負は引き分けだな――。

 

 

そう言ってソラは、中身のない空虚な笑みを見せた――殴り飛ばす。

背後でリーリエが悲鳴をあげるも、気にする程の余裕はない。

勢いよく地面に吹き飛んだソラの首元を服ごと掴み、近くの大樹へと叩きつけ、言葉を放つ。

 

 

「お前――自分が何と言ったのかわかっているのか!!?」

 

 

ジュプトル(アイツ)がいなくなった、だと?

 

――ありえない。

僕の思考はその一言に集約された。

バトルフロンティアやポケモンリーグなどで多くのトレーナーを見てきた僕だから断言出来る。ソラとジュプトルは最高のパートナーだ。そんな2人が片方を置いてどこかへ行くなど、どう考えてもありえない。

 

それは僕だけでなく、ソラも当然わかっていることで――――

 

 

「わかってる――わかってるけど(・・・・・・・)知らねぇ(・・・・)んだよ!

記憶喪失だ言っただろ!オレは!オレのことを1番知らねぇんだよ!!」

 

 

――何しろオレはここ数年ぐらい記憶がないモンでな――

 

不意にバトルを行う前にソラが言った言葉が蘇る。

記憶喪失――僕と互角に闘える男(ソラ)がそうなってしまう程に巨大な何らかのアクシデントにより、ジュプトルと離れ離れになった、のか?

 

なんでそんな状態でバトルを行うのかと舌打ちする。だから動きが鈍かったのか――明らかに不利な盤面でも交代という選択を取らない程に。

 

だがそれはもう関係ない。思考を忘却し、ジュプトルの行方を知る手段を頭の中で検索をかける。先程まで続けていた超高速思考の名残か、方法は極めてあっさりと思いついた。

 

 

「記憶喪失……記憶を司るポケモンはユクシーだが、失った記憶は担当外だ。

なら、過去を知るために時を超える――時間軸の移動、ときわたり……ディアルガとセレビィ!」

 

 

僕が挙げた2つのポケモンの名前にソラは心当たりがあったようで、何かを考え込む様子を見せた。

 

 

「ディアルガ、に…………セレビィ?

どこかで聞いたことがあるような……。

確か……時の歯車……星の停止……暗黒の未来……時の回廊…………ジュプトルに惚れてた女の子?」

 

「連想出来る記憶はあるな――最後のはなんかちょっとアレだが。

それはどっかの遺跡の記述か……それともその空白の数年間で実際に経験した(・・・・・・・)かだ!フラッシュバックを止めるなよ」

 

「ソラさん……わたしも、微力ながらお手伝いします!」

 

 

そうと決まればあとは早い。主目的が決定したら、後は肉付けだ。

どうやって出会うのか――具体的なプランを練り上げて、

 

そんなことよりももっと手っ取り早い方法がある事に気付いた。

 

 

「――――なあ、見ている(・・・・)んだろう?」

 

 

ふぇ、とリーリエが目を点にする。

いきなり知人が電波全開の発言をしたのだ、その硬直は当たり前だが――忘れてはいけない。

 

なぜ僕達がここで遭遇したのか。

そのきっかけとは何か。

 

かつてロイヤルドームにて、空間を捻じ曲げる様にして表れたコート(・・・)。その主の目的とは何か。

ただ僕等を合わせるだけが目的な筈がない。故に、何らかの手段で監視していると考えるのが当然で――

 

 

「――――うう、せっかく出るタイミングを伺ってたのに……」

 

 

――目の前の空間が木っ端微塵に粉砕され、別の次元へと接続される。

それはこの世を裏側から支えるという、正負が反転したやぶれた世界。反物質を司る神が統べる空間である。

 

そこから表れた、雰囲気こそ違うが心当たりのある少女の姿を見て――

 

僕は呟いた。

 

 

「――――そうか……こっちの世界ではお嬢様(・・・)がその立場なんだな」

 

 

シンオウ地方における伝説――その1柱がアローラに降臨した瞬間だった。

 

 




知ってる人は知ってるこの理不尽(フワライド)。敵として表れたら苦戦は必須でした……。
連結技でなんで積み技使わないの、と思う人が多いかも知れませんが、このシステムの輸入元では大抵の場合で積む必要ないから攻撃しようぜ!という考えが当たり前なので、その辺を反映させて連結させませんでした。私が連結技をあまり使ってないからという理由もあるのですが。

そして次話で遂に明かされるソラの記憶喪失の真実(白目)、コートの主とは誰なのか(バレバレ)!
次回の更新は――今話で疲れたからちょっと遅れるかも。


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今明かされる衝撃の事実ゥ!

また1万字を超えた、だと…………!?

とはいえ、今回は説明会です。お嬢様とは誰なのか、ソラの真相とは――。
その辺に焦点を当てたらやっぱり長くなりました。
苦手だと思う人はページの最下部へ移動を推奨。後書きに要約が書いてます。

『ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊』についての知識を持っていることをオススメするけれど、なくても特に問題はないです。

1/30、USUMに関連する部分を修正しました



お嬢様――フルネームはヒカリ・ベルリッツ。

向こうの世界ではシンオウ地方に200年以上続く大財閥にして学者の家系『ベルリッツ家』の令嬢で、下々に名前を明かしはならないという変な決まり事があったお嬢様。名前の由来は世界を照らす光になって欲しいという願いから。

後にその決まりは有耶無耶となったが、僕を始めとする1部は未だにお嬢様と呼び続け――今に至る。

 

そんな彼女が、この世界では神に選ばれた者(コウキの立場)なのか……。

ベルリッツさん、アンタの娘の光が強過ぎてヤバいです。

 

 

「いや違うから!向こうの世界のあたしが良家の令嬢でも、こっちのあたしは一般家庭出身だから!」

 

 

……本当にそうなのか?

 

 

「そうなんです!

ちょっと普通とは言えないけど……まだ大丈夫だよね」

 

 

いや神に選ばれている時点で普通じゃないから。

そもそも普通という言葉に自分で疑問を持っている時点で普通とは言えない。厨二病は除くが。

 

 

「ですよねー。知ってた、知ってたけど…………!」

 

 

と、何やら葛藤した様子を見せるヒカリ。僕の知るお嬢様(ヒカリ)は一般的な令嬢らしくやや高慢な態度を取っていたが、好奇心が旺盛で地味にノリが良い少女だった。

 

この世界のヒカリは普通の少女らしく活発で愛想が良く、ひと目見ただけでは似ても似つかないが……根元の所では共通した部分がみえる。もしお嬢様が一般家庭に生まれたのならばこうなったかも知れないと思う程には。

 

まあそれは良い。とりあえずソラとジュプトルのことについて協力を要請しようと考えて――こちらを怪訝そうに見つめる2人(ソラとリーリエ)の姿が視界の端に移る。

このノリについていけてないのか、と思うものの、すぐに違うことに気付く。

そう、果たしてさっきから僕は言葉を話していたか――?

 

 

「…………ああ、やはり持っていたのか。UMAの3匹を」

 

「あっ………そっか、あの3匹と話してた時から加護を切ってなかった。

その……ごめんなさい。読まれたくないこともあるだろうに」

 

 

並行世界とはいえお嬢様(ヒカリ)が謝ったという事実に僅かに驚くと同時に、やはりシンオウは準伝でも規格外だと痛感する。端的に言って頭おかしい。

 

叡智を司るユクシー、感情を司るエムリット、意志を司るアグノム。

3匹まとめてUMAトリオと呼ばれる彼らを捕まえたトレーナーは、その加護によって人やポケモンへの読心能力を得る。完全ではないものの、創造神を除く3柱の神にさえ通用する読心能力だ。ちょっと優れているだけの人間に抵抗は出来ず――そもそも気付く事さえない。そう、先程僕が気付かなかったように。

 

その事を説明すると、2人は驚くと同時に納得した様子を見せる。記憶を読まれたことに関しては葛藤こそあるものの、極端な拒否反応はないようだ。

特にソラはUMAトリオの名前に聞き覚えがあったのか、何かを考えているようだ。湖、そして時の歯車の番人という単語が唇の端から零れ落ちる。

 

その様子を確かめて、僕は改めてヒカリに話しかける。

 

 

「で、僕達を引き合わせたということは何か目的があるという事だろう?聞いてやるから説明しろ。

――知る者(ヒカリ)、お前は神の視点を得て何を知った?」

 

「……うん、まずはそこから話した方が良いよね」

 

 

そうして、ヒカリは話し始めた。

 

 

 

***

 

 

 

「まずはあたしのことから話そっか。

あたしは数年前、すべての感情がなくなった新世界を創ろうとするアカギに立ち向かい、その過程で反物質の神(ギラティナ)に選ばれた。その野望をなんとかして打ち砕いた後は、時の神(ディアルガ)空間の神(パルキア)、そして神の心(ユクシー達)にも選ばれた。

 

神が3柱もいるということで、あたしの視点は広げられた。知る者(・・・)であるあたしにとって、神の権能は相性が良すぎたんだ。

否が応でも世界の未来を知っちゃって、それをなんとかするためにがむしゃらに足掻き続けて、その過程であなたのことを知ったの。

 

やがて確実に訪れる星の停止(暗黒の未来)を食い止め、未来を変えた1人の人間――ソラのことを」

 

「オレが……未来を変えた?」

 

 

ソラは呆然として呟いた。

心当たりのない、知らない事実――つまり、喪失した記憶に関係のある出来事。その如何にもシンオウなスケールが壮大過ぎる話に、流石の彼も理解が及ばない。

 

 

「きっかけは、やっぱりウルトラホールなの。本来の世界で冒険をしていたソラは、ある日急に発生したウルトラホールに巻き込まれて、時を司る次元の塔が崩壊したことで時間が止まり、星の停止を迎えてしまった暗黒の世界へと転移してしまった。

 

そこでソラは、ウルトラホールを超えた副作用によって相棒と共に記憶を失い(・・・・・)、その世界の時が停止した影響でじくうのさけびも変質した状態で――結局元の世界と変わらず冒険を続けてたんだけど」

 

「歪みねぇなオレ!!?」

 

「世界転移の副作用が記憶喪失だと!?」

 

 

ソラとユウキが同時に叫ぶ。

片や記憶を失っても世界が変わっても自分の行動が変わらないことに衝撃を受けて、片や思わぬ副作用の存在と、自分がその影響を受けていないことに驚愕して。

そんな男共の様子にヒカリは苦笑し、話を続ける。

 

 

「ユウキの世界転移は色々例外(・・)なの。

話を戻すね。それで世界のあちこちを冒険していたソラ達だけど、あるモノに触った時、偶然じくうのさけびが起きてしまった。それは『時の歯車』――時間という概念の結晶の様なもの。その性質上、時が停止した世界でも唯一じくうのさけびを発動させるトリガーとなるモノだったんだ。

 

じくうのさけびによってソラ達は星の停止の真実――何らかの原因で世界の時を司る次元の塔が崩壊し、あらゆる時間経過が失われてしまったということを知ったの。

だからセレビィに頼んで過去へと逆行し、星の停止を食い止めようとした。

 

――未来を変えてしまえば、そこにルーツがある自分達は消えてしまうと理解した上で」

 

 

未来を変えるとは、それ以降に起きる筈だった出来事の全てを変えるということである。当然そこには生物も含まれており、自分という存在が初めからなかったとされる事になる。

 

当時ソラもジュプトルも知らなかったとはいえ、異世界からの来訪者である彼等も例外ではない。その世界に訪れたという出来事がなかったことになり、世界と世界の間を永劫彷徨う存在へと成り果てるのだ。

 

そんなソラの決意に、話を聞いていた全員が再度の驚きを見せる。ソラに至っては誰だそいつと呟いた。そうなった自分を想定出来ないのだろう。

ユウキは話が途端に信用出来なくなった。無駄にデカいスケールはシンオウクウォリティーで納得出来るものの、綺麗なソラは信じられないのだ。

日頃の厚い友情が感じられる。

 

 

「だけど、時の回廊を通って逆行している間に、何らかのアクシデントが起きてソラはポケモン(・・・・)になって(・・・・)再び記憶を失い、ジュプトルと離れ離れになってしまった。

 

そこでソラは、後にジュプトルをも越える最高のパートナーと出会い、その世界の冒険家ギルドに所属して探検を始めたの」

 

 

「ジュプトル以上のパートナー、だって?それに……オレがポケモンって……んなワケねぇだろ。人は人、ポケモンはポケモンだ。人がポケモンになるわけ――」

 

 

ソラは納得出来ないように話す。ユウキはまだ知り合いの話だから受け入れているが、彼は見知らぬ他人から一方的な説明を受けているのだ。自分が関係していると前置きされているから聞いていたが、流石に限界を迎えていた。

 

ちなみに、リーリエはスケールの違い過ぎる話に理解が及んでいない。ある意味最も自然な反応である。

 

そんなソラの疑問に、ヒカリは穏やかに答えを返した。

 

「『人と結婚したポケモンがいた。

ポケモンと結婚した人がいた。

昔は人もポケモンも

おなじだったから普通の事だった』

…………シンオウに伝わる昔話。ある日突然ポケモン(ユンゲラー)になっていた超能力者の話は知ってる?知ってるなら話は早いね。

 

ねぇ、ただの超能力者でもポケモンになるんだったら、じくうのさけびっていう超弩級の能力者だってポケモンになる可能性はあるんじゃないかな?

実際、ユウキとハルカ――あ、勿論この世界のね――は会ったことがあるって言ってたよ。じくうのさけびを持つ、元人間のゴニョニョ(シガナ)に」

 

「っ――――!?」

 

 

予期しなかった前例の存在に、ソラは目を見開いた。言葉も出ない彼の様子を見て、ヒカリは話を続ける。

 

 

「そしてソラとパートナーは、ギルドの1員として冒険を始めたの。

そして、霧の湖という地へと訪れ――また、時の歯車を見た。

その出来事を切っ掛けに、未来の存続を掛けた闘いに巻き込まれて……ううん、また参加し直したの。

 

その後はジュプトルも加えて、次元の境目に存在する幻の大地を踏破したものの――ジュプトルは次元の塔が壊れて暴走した、闇のディアルガとでも呼ぶべき存在の配下を道連れに未来へ戻り……ソラとパートナーだけで次元の塔を修復しなきゃいけなくなった。

 

次元の塔の崩壊を止めるには、時の歯車を塔の最上階にある神殿へと収める必要がある。

だから彼らは並み居る強敵を倒し、侵入者への罠を潜り抜け、そして遂には闇のディアルガをも倒して……時の歯車を収めて、星の停止を食い止めたんだ。

 

――ソラが存在していたという事実と引き換えに」

 

 

「そんな………それじゃあ、報われなさ過ぎます!頑張ったのに、世界を救ったのに、結末がそれなんて……あんまりですっ!!」

 

 

その末路に否定の声を上げたのはリーリエだ。幼い頃の経験から、彼女は同年代と比べると比較的精神年齢が高いが……それでも少女のものでしかない。故に、この結末は受け入れられなかった。

 

今まで会話に混じることもなかった第3者が真っ先に否定をしたために、ソラは自らが発言するよりも先にきょとんとしてしまう。

 

そしてユウキは、暴走しているとはいえたった2匹でディアルガを倒すという偉業を成し遂げた隣の存在にちょっと引いた。そして、あれこれ僕が全力を出せばワンチャン神3柱倒せるんじゃね?と場違いな感想を抱く。

ソラは相棒がいればLet's冒険だが、ユウキの場合は強敵の気配があれば思考が戦闘に傾いた。2人揃って歪みない。

 

ヒカリはリーリエのその言葉にコクリと頷き、アグノムに指示を出してユウキの戦闘意志を萎えさせて話を進める。

 

 

「うん、何よりも正気に戻ったディアルガがそれを許さなかった。彼は自分の力を総動員して、そしてアルセウスからの思わぬ援護を貰って、未来に生きるすべてのポケモンの存在の確立に成功した。

 

……だけど、異世界の来訪者であるソラとジュプトルは、その恩恵を完全には受け取れなかった。

配下のポケモンを道連れに未来へと帰ったジュプトルは未来で存在を確立し、ソラに至っては1度消滅したことでポケモンの部分と人間の部分に分かれ、ポケモンとしての存在は過去に、人間としての存在はこの世界に確立したの。

 

今のソラに数年分の記憶がないのはポケモンとしての自分に記憶を持っていかれたからで、ジュプトルがいないのは別の世界に存在が確立してしまったせい。

 

――これが、あたしが知る限りのすべて」

 

 

ヒカリの話が終わり、ソラは呆然と空を仰いだ。下手な小説よりも長くなるだろうこの物語が、よりによって自分のものだとはあまり現実感がなく――だが、それで辻褄が合ってしまう。

 

だが、大きな疑問が1つある。

それはユウキの口から話された。

 

 

「――何故ソラの存在が僕達が元々いた世界ではなく、何の関係もないこの世界に確立されたんだ?」

 

 

それは当然の疑問だった。

人間としてのソラはどうしてこの世界に確立したのか。アルセウスは他者の不完全さを尊ぶが、こと自分のこととなれば完璧主義となる。そんなアルセウスが後押しをしたのだから、ソラは本来の元いた世界に戻らなければならず――だが、現実として共通点が極めて多いだけのこの世界に表れた。

 

そこには何らかの意図があるのではないかとユウキは考察し、ヒカリはそれを肯定した。彼女は話しにくいオーラを出してはいたものの、諦めたのかポツリと呟いた。

 

 

「だって――向こうの世界は隕石による(・・・・・)壊滅的な被害(・・・・・・)を受けたから。

復興は始まってるけど、元通りとは程遠い」

 

「……………………は?」

 

 

その一言に、ユウキの思考はフリーズした。隕石か……そういえば、僕がこの世界へと訪れたきっかけも隕石だったな、案外隕石ってよく降ってくるよなと考えて――否定される。

 

 

「いや、隕石はそんな頻繁には落ちてこないから。

正真正銘、ユウキがこの世界に訪れる切っ掛けになった隕石なの。

 

――――あなたは……星を砕ききれなかった」

 

「っ…………だが僕には確かに破壊したという手応えがあったんだが――」

 

「隕石の本体だけなら、確かに破壊できたよ。けど、その破片(・・)は?

大気圏に突入して尚燃え尽きない大型の破片。無数にあるそれらが全国各地を襲い、凄まじい被害を巻き起こしたの。コウキを始め様々なトレーナーが対応したけど、被害をゼロにすることはできなかった。

向こうの世界は数年経ってなんとか持ち直しつつあるけど、でもまだ元通りにはなってない。

 

…………津波によって沈むという被害を被ったものの、僅か1週間で立て直すという偉業を成し遂げたホウエンのバトルフロンティアを除いて」

 

 

ユウキでは力不足だった、という事実を噛み締める。

――とはいえ、当時の僕の全力を尽くしたために今になってあの時何かできたかもと思うこともないし、自分の身は自分で守るべきだと思っているから特に申し訳なさを感じることもない。

 

 

「…………そうか。僕もまだまだ力が足りないな」

 

 

ただただ、まだ育成()が足りないなと反省するばかりだ。

 

…………バトルフロンティア?

ああ、割と頻繁にそんなことあるし、別にいいんじゃねぇの?

だいぶ前にバトルフロンティア近辺の無人島を舞台に廃人数十人が理論上最高火力を実際に使ってみて誰が最強なのか決めようぜ!とぶつけ合いした結果、小島どころか半径10km内のすべてが消滅したという大惨事に比べたら、島が再利用出来て修復可能なだけまだマシだ。

 

そっかあいつら呼べば良かったのかと思ったものの、余波によって諸共消滅してるのだからそんなこと出来やしない。己の力不足を認識している場面なのにこんなギャグみたいなことになるあたり、本当にバトルフロンティアは安定している。

 

 

「――――えっ、そんな感想でいいの?

何かこの世界来る直前に『絶対に帰ってくる』ってラブコメ繰り広げてたのに?」

 

「……チャンピオンの義務として向こうの世界の事は気にかかりはするものの、フロンティアの連中が全力で復興に乗り出せばなんとかなるだろう。

必ずしも僕がやらなければならないことはどこにもないし、何よりも今は依頼がある。お前が元の世界に戻す手段を持ち出したとしても、少なくとも今回は蹴るつもりだ。

 

それに、確かにリラとの決着は早く付けたいと思っているが、僕はメガシンカをモノにしてから帰ると決めたんだ。それが果たされていない以上、帰る訳がないだろう。

 

――で、結局お前の目的は何なんだ?」

 

 

元の世界の隣人を信用して・依頼を果たすために――と言えば聞こえはいいものの、復興の協力をするよりもこの世界で戦いたいという本音が見え隠れしているユウキ。最優先は勝負事であり、そのためにチャンピオンの椅子が邪魔ならば躊躇いなく捨てる割とロクデナシである。

 

そんな彼はいい加減面倒臭くなってきた。説明が長い。いくら自分に関わることであろうと長い説明は退屈を招くもので、彼の年齢(高校生相当)なら尚更だ。悪い意味で学生の鏡である。

 

そんなユウキにヒカリは少し呆れたようだが、実際やたらと長いのも確かなので、そこには触れない。大人である。実年齢はユウキの方が上なのに。

やはりお嬢様と根元は共通しているな、と彼は思った。

 

 

「目的は……話しても良いんだけど、その前に向こうの世界のディアルガからの頼みを済ませてからね。

ソラ、あなたとジュプトルのことだよ」

 

「オレと…………。悪いなユウキと……えっと、パツキン嬢ちゃん。ちょっとこっちを優先させてくれ」

 

 

ソラが両手を合わせて2人に頼む。ポケモンとなった自分がどうであれ、人としての彼にとってジュプトルは誰よりも大事な相棒なのだ。それに比べたら彼女の目的なんて極論どうでも良い。

そんなソラの頼みにユウキとリーリエは頷きを返す。

 

その反応を見て、ヒカリはパチリと指を鳴らし――彼女の後方で2つの空間の歪みが発生した。

 

片やその場の時間軸を操って自分の存在を介入させ、

片や空間そのものを自身の領域と接続して顕現する。

 

時の神(ディアルガ)空間の神(パルキア)――ヒカリと共に表れた反物質の神(ギラティナ)を合わせると、これでシンオウが誇る3柱の神が揃った。

 

そして、ディアルガとパルキアが連携し、ギラティナがそれを安定させることで、時空を越える『窓』が作られた。

 

 

「『人としての記憶を取り戻し、ポケモンとしての記憶を失ったお前にとって、ジュプトルがいないという事実はただ聞いただけでは受け入れられないだろうから……最後に、ジュプトルに話す機会を与えたい。時を超えた存在の確立が私の礼ならば――これは闇に呑まれて暴走してしまった、私の贖罪だ』

 

……………これが、向こうのディアルガがあなたに宛てた言伝。今作った窓がそのための装置なの。これの前に立てば、後は自動でジュプトルのいる世界へと接続され――――行動が早いなぁもう……!」

 

 

話を最後まで待つことなく、ソラは窓に向かって全力で走り出した。そんな彼の姿を見て、ヒカリは言葉だけは呆れながら、だが表情には笑みを浮かべて呟いた。

そして彼が窓の前に立つと、さほどの間も置かず、窓の向こう側には1匹のポケモンの姿が表れた。

 

――――ジュプトルだ。

 

いつも一緒にいるのが当たり前で、でも唐突に消えてしまった相棒(パートナー)の姿を久しぶりに見て、ソラはしばらく呆然としてしまう。ジュプトルはそんな彼の姿を見て苦笑し、懐から道具を取り出した。

 

 

「それは…………じくうのオーブ?」

 

 

それは運命の塔と呼ばれるソラの経験した中で最高難易度のダンジョンに安置されていた、時空を越える力を持つとされる究極のオーブだ。

 

時空のオーブはジュプトルの手から世界の壁を超えてソラへと渡され――そして発生する眩暈(・・)。暫くご無沙汰だったが、ソラはこの感覚に覚えがあった。

 

そう――信頼できる相棒(ジュプトル)が存在し、モノ(時空のオーブ)に触れたことで。

ソラの能力、『じくうのさけび』が発生する――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう、か」

 

 

長い沈黙を経て、ソラはたった一言、それだけを口にした。

じくうのさけびを通して彼は知った。あの世界で自分達が何を成したのか。未来に帰ってからのジュプトルがどんな経験をしたのかを。

 

 

『オレはオマエに会えて幸せだった。

別れは辛いが………後は頼んだぞ! 』

 

『風よ!光よ!もし届くなら……ソラたちに伝えてほしい!

オマエたちのおかげで、未来は暗黒から解放された!

そしてオレたち未来のポケモンも無事だ!オレたちは消えずに済んだんだ。

これからは力を合わせ、世界を建て直していく。

これまで支えてくれたセレビィのためにも、これからは……

オレたちはなにより……生きているのだから!

 

ソラ!聞こえるか!

オレたちは――生きているッ!! 』

 

 

「…………聞こえているよ、相棒(ジュプトル)

ああ、オレも……お前に会えて幸せだった」

 

 

ソラの言葉にジュプトルは笑顔を見せて――そして、『窓』は消え去った。後に残ったのは時空のオーブと、記憶だけ。それでもソラは満足そうに笑い、呟いた。

 

 

「そうだよな、時空を超えてもオレ達は繋がってるんだ。オレ達は生きている――だから、これからの事について考えなきゃいけない。

機会を作ってくれてありがとな。アイツが頑張ってるんだ、ならオレも前へ進まないと。

 

だから――教えてくれ、ヒカリ。オレ達は何を目的に集められたんだ?」

 

 

 

そして、ヒカリは瞼を閉じてそれまでの気持ちを切り替えた。再び瞳を開いた時、そこいるのただの少女としての彼女ではなく、神と接し様々な物事を経験した『知る者』(ヒカリ)だった。

 

 

「目的…………そう、あたしは知ったんだ。今年、アローラの地に訪れる災厄を。

あたしはね。伝説のポケモンが表れた時の対応とか、なんか色々電波的な組織の野望を打ち砕くとか、そういったのはその地方の人間がやるべきだと思ってるんだ。あたし達物語を終えた(・・・・・・)トレーナー(・・・・・)は、本来はバックアップに回るべきだって。

 

だけど、そうも言っていられない事が起きた。ううん、これから起こるの。

数ヶ月後……この地方の色んな所でウルトラホールが開かれて、異世界の住民――UB(ウルトラビースト)がこの世界に表れる」

 

UB(ウルトラビースト)――聞いたことがあります。昔アローラに表れて、カプと対立した凶暴な生命体だと。

それが――この世界に表れるのですか?」

 

 

リーリエが驚いた様子を見せる。アローラに住む人間にとってUBは御伽噺として伝えられてきたもので、知名度は高い。

そんな彼等が表れるとなっては驚愕も一入なのだろう。

 

 

「うん。だけど、凶暴ってことには語弊があるかな。

彼らはこの世界に来ることを望んでないんだ。だから元の住処――US(ウルトラスペース)に帰ろうとして、帰れなくて。ヤケになって当たり散らして、街に被害を巻き起こす。

 

だからあたしは、空間の神(パルキア)に選ばれたトレーナーとして、彼等を本来の住処(ウルトラスペース)へと戻さなきゃいけないの」

 

「なるほど。ってことは、お前の目的は、オレ達にそいつらを元の世界に戻すまでの時間稼ぎをしてくれと頼むってことで合ってる?」

 

 

ソラの言葉にヒカリは頷いた。

 

 

「数が多すぎてあたしだけじゃ手が足りないの。だからあたしが元の世界に戻している間、他のUBの足止めをしてくれるトレーナーが必要なの。それも、USの向こう側の世界に生息している1000を越える準伝説級のポケモンに立ち向かえるような、強力なトレーナーが」

 

「僕達はお前のお眼鏡に叶った訳だ。だが ……解せないな、そんな事態になる前にその原因となる要素X(ファクター)を潰せばいいだろうに。

どうして態々USと繋がるのを待つんだ?」

 

 

ユウキはそんな疑問を発する。

被害があるなら未然に防ぐ。彼は戦闘狂ではあるが、根元は善良だ。未来がわかって、被害が出るのが確定していて――なのにそれを未然にではなく、起きてから防ぐ理由がわからなかった。

 

 

「それは並行世界の可能性――アローラどころか世界中から光が失われるという事態を防ぐためだよ。元々この世界とあの世界は単に似ているってだけで明確な違いがあるはずなのに、なぜか少しずつ近寄りつつあるの。まるで自分の意思で世界を越えられるような人が、裏で何もかもを主導しているかのように。……まあ、そんなハイスペックな人なんているわけないんだけどね。あたしだって、世界の壁を越えるには準備が必要なんだし。

 

そんな未来を防ぐためには、ある一定の流れに沿わなきゃいけない。UBを呼び出すのはその一環。

でも必要な過程とはいえ、UBの足止めをするにはまだトレーナーの数が足りないんだ。相手は世界だから当然量も膨大で、準伝説クラスだからぶっちゃけ手強い。それを足止めしなきゃいけないんだから、トレーナーにもかなりの強さが求められる。

 

だからあたしは頼んだの――アルセウスに、あたし達物語を終えたトレーナーがアローラに集結するという未来を創造して欲しいって。

 

…………ソラはともかく、ユウキがこの世界に来たのは誤算だったけど。お眼鏡に叶うまでもなく、勝手に入り込んで思いっきり自己主張するから無視出来なかったというか」

 

 

世界には流れがある――なんてことを話すヒカリ。彼女は様々な可能性を知ったが、代償として、思い切った行動が出来なくなっていた。自分の軽率な行動がもっと悪い未来を呼び寄せてしまうのではないかと苦悩し――そんな彼女を見て、ユウキとソラは呆れたように言う。

 

 

「ま、強いポケモンと戦えるなら僕は諸手を挙げて歓迎するぞ。結論からさっさと話してくれればいいものを……話が長い。『ちょっと強いポケモンが大量発生するから手を貸して』で良いだろうに」

 

「お前にゃ借りが出来たからな。異常に湧き出るポケモンをボコしてれば良いだけなんだろ?ただのMH(モンスターハウス)じゃねぇか。悲しいことに慣れてるんでね、オレで良いなら力を貸すぜ」

 

「わたしも――トレーナーじゃないので直接的な力にはなれないのですが、手伝わせてください!」

 

「……それより、その件が解決した後は当然、物語を終えた連中とやらに勝負を挑んでも良いんだろう?そんな御褒美が待ってるんだ、千だろうと万だろうと――負ける気がしないね」

 

「ならオレは、面白そうなダンジョンについて知らないか聞いてみっか。楽しみだなぁ、ダンジョンアタック。

ジュプトルはもういない上、アイツ(・・・)とも別れたが――ポケモンとしての僕と共に歩んでいる。

僕は1人じゃないんだ」

 

「えっ、ちょっ、2人とも!?」

 

 

そんな彼らを見てヒカリは目を瞬かせ――プッと噴き出した。今まで複雑に考えていた自分がバカみたいだ。大量発生ってそんな、G(ゴキブロス)の様に扱うとか、ない。

 

 

「ふふっ、なら大丈夫(・・・)だね。

じゃあお願い――手を貸して」

 

「ああ」「オッケー」「頑張ります!」

 

 

そんな3者3様の返事を聞いたヒカリはクスリと笑い、破れた世界へ戻ろうとして――ユウキに、ある物を投げつけた。

 

 

「………これは?」

 

 

それは石だった。

炎を宿したかの様な真紅で、心なしか暖かみを感じる。状況からしてただの石ではないことが明白で――そんなユウキの疑問に、ヒカリは世界の境界を超えながら答えた。

 

 

「バシャーモナイト!

それとキーストーンが揃えば、バシャーモはメガシンカが出来るようになる。

――あたしからの報酬。先払いの方が意欲高まるでしょ?」

 

 

その言葉を残し、ヒカリと3柱の神は去っていった。後に残された彼等のうち、ユウキは取り敢えずメガシンカを試そうとして――すっかり忘れていた本来の要件を思い出した。

 

 

「なあ、ソラ。じくうのさけびは使えるか?ちょっと見て欲しいポケモンがいるんだが」

 

「問題ねぇぞ。

ジュプトルともアイツ(・・・)とも道は別れたが――時空のオーブ(コレ)に触れたことでオレは知った。

例え2度と会えないとしても、オレ達は世界を超えて繋がってる――生きている。だったら使えない方がおかしい」

 

「なら、観て欲しいポケモンがいる」

 

 

そう言って、ユウキはリーリエのバックからコスモッグ(ほしぐも)を引っこ抜いた。長話が続いたせいだろう、すやすやと眠っている。

ソラはそんなコスモッグ(ほしぐも)の頭を優しく撫でて――

 

 

――じくうのさけびが発動する。

 

 

そして数拍の間を置いて、ソラはやたらと難しそうな表情をして、リーリエへと告げた。

 

 

「――――いずれは太陽と月へと至る星の子か。リーリエっつったっけ?気を付けろ、このポケモンは『鍵』だ。………オレからはこれ以上は言っちゃダメだな。1つ助言があるとすれば

 

――日輪の祭壇に行け。ここに辿り着けばすべてが分かる」

 

 

 




という訳で、お嬢様はこの世界のヒカリ(Ptの主人公としての経験を積んだ。性格はアニメ風)で、ソラは空ダンで活躍してくれた主人公でした。バレバレだったけどな!

要約としては、
・ソラはポケダン空の主人公の人間としての部分だった。エピソードFinalで復活した際に、ポケモンと人の部分に別れて復活したため、その世界での記憶は吹っ飛んでいたが。

・ユウキは確かに隕石を破壊したが、破片は結構残っていた。それが地球に降り注いで被害は大きい(バトルフロンティアは除く)。

・ソラは神の力でジュプトルと再開し、じくうのさけびによって向こうの世界での記憶を取り戻した。その後時空を越える力を持つオーブが手元に残ったため、自分と相棒は繋がっていると確信。以降はじくうのさけびが発動出来るようになる。

・ヒカリがUBが表れる事について触れ、USに戻すために2人に協力を要請。他のトレーナーをアローラに集めることについても触れる。

・ソラがコスモッグにじくうのさけびを使い、意味深な発言をする。

って感じ。詰め込み過ぎたか。
正直に言って、ソラとジュプトルとの別れと、今後の展開への伏線(微塵も伏せてない)を入れたいだけの話だった。


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リア充は爆発するべきだ!

本来の文字数に戻った……!
サブタイ通り、ポケスペで唯一の公式公認カップルが登場します。

1/30、USUMに関連する部分を微修正



 

当初の目的を果たし、シェードジャングルを後にした僕達は、UBについて調べ直すために再び空間研究所へと戻っていた。

 

ちなみに、ソラとはシェードジャングルで別れている。じくうのさけびを通して自分について知り、吹っ切れた様子を見せたが……やはり1人で考えるべきこともあるのだろう。何も言わずにその場を去っていった。

多少の懸念はあるものの、依頼を出されたのだから、その期間までには解決する。そういう奴だから心配はない。

 

 

「…………やはり少ないな、UBに関する記述が。まだ研究段階なのだから当たり前だが――うわ、パルキアとギラティナについて記述された資料があるぞ。

こと空間関係のごった煮だな。何が必要なのかさえわからないから適当にぶっ込んどけ感がある」

 

「それは辛辣に過ぎないかしら?わかってないってことは事実ではあるけど、だからといって適当にしている訳ではないわ」

 

「…………手掛かりがない状態ならばそうなって仕方がない、か。

悪いな、確かに言い過ぎだった」

 

「構わないわ、事実だもの。

…………それより、本当なの?さっきの話は」

 

 

資料を読み漁っている僕に問いかけたのはバーネット博士だ。

空間研究所の所長としてコスモッグ(ほしぐも)の調査に協力している彼女には、ソラがじくうのさけびで観た内容を話しておくのが筋だろうと思い、その過程でUBを初め、ヒカリの話にも触れたのだ。流石にヒカリが有する神の存在は刺激が強過ぎるため、若干ぼかして伝えたのだが。

そのために信憑性が薄いものになってしまったが、元々突拍子もなさ過ぎて信じ難いものである。デメリットは僅かだと言えよう。

 

 

「証拠はないが……おそらく事実だろう。彼女に僕達を騙す必要性を感じないうえ、壮大過ぎて普通は信じられない。また、妄想を現実だと思う狂人の類にしては理性的だった。

なのに話したということは、やはりそうなる可能性が高いという事だろう」

 

「そして、もしかするとコスモッグ(ほしぐも)もそれに関わっているかもしれないと。それもかなり重要な立ち位置で。

…………情報を得て1歩進んだのはいいけれど、壮大な話にまた八方塞がりだわ。ないよりはマシと考えて調べるしかないわね」

 

 

やれやれと呟くバーネット博士だが、その表情にはやる気が満ち溢れていた。調べる事が多すぎる――研究者にとって嬉しい悲鳴だ。少なくとも、肝心の1歩が踏み出せない状態とは程遠いのだから。

 

僕は研究職のことを理解出来てはいないが、察しはつく。

トレーナーで例えるなら、新しい技や道具の存在を知り、どれを使えば良いのかわからない状態。あれと同じだろう。

 

「光を奪われる、という現象についても調べる必要があるが――曰く、これは可能性世界の話だから一旦放置で良いだろうし。

僕の世界のことは完全に後回しで……いや、いっそ研究しなくとも構わない。それよりもアローラの民として、近いうちに起こるであろう脅威に備える方が良いだろう。

……ところで、ミヅキとハウは今何をしているんだ?」

 

「…………いえ、1度依頼されたことを途中で辞めるのはプライドに反するわ。調査は続行する……まあ、優先度は下げるけれど。

それと、彼等ならマオの試練を終えたらしいから、もうすぐここに来るわね。

特にミヅキは圧巻だったって聞いたわよ。ここで少し理論を読んだだけですぐモノにして……天才ってあんな子のことを言うのね」

 

「わかった。なら、彼等がここを出る時に合わせて僕も立つとしよう。

…………それにしても、天才、ね……」

 

 

僕が最後に漏らした呟きは、バーネット博士の耳には届いていない様だった。

彼女はそう、とだけ頷いて、資料の片付けをしっかりとする様に言ってからその場を去っていく。

 

 

天才――その言葉を出されると、知っている誰よりも才能(・・)に溢れたある少女のことを思い出す。

彼女は今頃、向こうの世界で何をしているのだろうか?バトルフロンティア()無事らしいが……破片の落下時、彼女はホウエン本土――トクサネシティにいた筈なのだから。

 

まあ、どうせ無事にタワータイクーンとしての仕事をしているのだろう。深く考えないことにする。色々終えて元の世界に戻り、いざ約束を果たす時、僕だけメガシンカやZワザを使うことへの罪悪感を感じるが、それはそれだ。

 

 

周囲を見ると、没頭していて気付かなかったが、辺りには読み散らかした資料が散乱していた。その様子に僕は溜め息を吐いて、元々の振り分け通りに資料を分類し、整理するのだった。

 

 

 

***

 

 

 

ロイヤルドームにて。

 

 

「そこっ!ボスゴドラ、ガオガエンに向けてもろはのずつき!!」

 

 

少女の指示に従って、メガボスゴドラがもろはのずつきを放つ。

 

――こうかはばつぐんだ!

 

圧倒的な威力を持った頭突きが相手のポケモン――ガオガエンへと直撃し、ただの一撃を以て粉砕した。直後、対戦者の手持ちポケモンが尽きたことで試合の終了を告げるゴングが鳴り響く。

 

 

『決まったぁぁぁっ!!

今回のバトルロイヤル、勝者はミシロタウンのハルカ!堂にいった素晴らしい戦いを見せて頂きました!!』

 

 

バトルロイヤルの勝者が決まると共に、観客席が圧倒的な盛り上がりをみせる。

ハルカはバトル中にかいた汗を手の甲で拭いながら、どうしてこうなったんだろうと思いを馳せていた。

……決まってる。

 

 

――どれもこれも、あのユウキば名乗る偽物のせいったい!

 

 

 

***

 

 

 

試合が終わった後、笑顔の仮面を被り、苦労して習得した標準語でインタビューに答えるハルカではあるが、内心では怒りが渦巻いていた。

 

偽物の野郎こっちが必死こいてアピールしてんのに舞台に上がってきやしない。恐れをなして逃げたか、と思うものの、ハルカの優れた第六感がそれを否定した。

 

このドームに来て実際の試合の映像を観させて貰ったが――認めたくないことに、あの偽物は少なくともバトルロイヤルにおいて自分よりも強い(・・)。ホウエン地方のチャンピオンという肩書きはあまり好いてはいないが、それでも一地方の最強であると自負している。そんな自分を上回る実力者が、態々勝負を避けるとは思わない。

 

考えられる原因としては2つ――もう遠く離れたどこかへ行ってしまって自分の活躍を知らないか、眼中にないかのどちらかだ。

 

実際がどうであれ、仮にも『ユウキ』を名乗ってるのであれば、『ハルカ』という名前には反応して欲しいと思う。

正面から出てきたら叩き潰すが、かといって何のリアクションも示されないのはそれはそれで複雑だ。少なくとも偽物はユウキとハルカには特別な関係性を見出していないと公言しているようなものなのだから。乙女心とは極めて難解なものなのである。

 

加えてハルカの怒りを助長するものとして、ここにはユウキ(本物)がいないことが挙げられる。

彼らは当初、偽物がこの地で無双していたという事実を些か軽視していた。実際に現地に来てユウキに注がれる無遠慮な、あるいは敵意を持った眼差しに、彼は自分だけならともかく、ハルカも巻き込んでしまうことを嫌ってロイヤルドームに出なくなってしまった。

彼との旅行を内心楽しみにしていたハルカにとってその苛立ちは堪えきれるものではなく――

 

――――溜まりきった怒りをぶつけるかの様にバトルを行い、蹂躙の果てに20連勝をもぎ取った。

それは確かに偉業で、栄光で――だが、ハルカが価値を見出していない以上、意味がなく虚しいものでしかない。

 

ホウエン地方のミシロタウンは化物の巣窟かという阿鼻叫喚を聞き流し、苛立ち混じりの溜め息を吐きたくなる気持ちを抑え、ハルカはロイヤルドームを出る。

 

この地は元々アーカラの花園と呼ばれる場所を潰して作られた人口の庭園だ。見渡す限りが整備されているが、所々に自然色を強く残す場所も多く残っていた。

 

その中の1つ、エリア外れにある木が密集する小規模な林を前にして、ハルカはゆっくりと深呼吸して、

 

 

「…………うん、そこにいるかも!

ユウキー!出てきても大丈夫だよ!!」

 

「………ハルカ、そんな大声を出さなくても」

 

 

都会っ子であるユウキのちゃちな隠蔽をあっさり見破った。

その上で人の目があるかもしれないと思い、ハルカは標準語で語りかける。語尾に「〜かも」と付くのは癖らしい。

 

ユウキは苦笑を浮かべ、その場に表れた。これで何回目になるだろう。回数を重ねる毎に負けず嫌いが働いて隠蔽のグレードが高くなり、今回に至っては服が汚れると好んでいなかった多様な工作まで徹底的に行った会心だったのに、彼女はあっさり見破ってしまった。これはやはり、年季の違いなのだろうか。

 

ユウキはハルカに問うてみると、彼女は頷き、同時に否定した。

 

 

「んー、確かにそれもあるかも。自然さを演出しようとして逆に不自然だし、化学製品の臭いも鼻につく」

 

「――――ぐはぁっ!」

 

 

その言葉に全ユウキが涙した。やはり自分もあの野生児スタイルに染まらなくてはならないのか。だがそんな格好はプライドが許さない。――あれコレ勝てなくね?

右手で心臓の辺りを抑えて膝をつく彼を視界にいれ、ハルカは「だけど、」と話を続ける。

 

 

「それだけじゃないかも。

わたしがあなたを見つけられるのはただの勘――あんたのことが大好きな、女の子としての勘ったい!」

 

 

そのように、笑いながら本来の口調で話す彼女に意表を付かれたユウキ。彼は赤面しつつ苦笑するという器用な芸当を見せ、言葉を返す。

 

 

「whew――まいったな、それじゃ防ぎようがないじゃないか!

……それにしても、やっぱりキミはその口調の方がキュートだよ」

 

「へっ?」

 

「言葉遣い。標準語も良いけど、やっぱり訛ってるの方がキミらしさがあって、ボクは好きだな。

……でも、2人っきりの時の特典と考えると、それはそれでありがたいけど」

 

「なっ………!?そ、そんなことば急に言われとっても……!!」

 

 

ユウキの返しに照れを隠せないハルカ。

彼女はチャンピオンとしてテレビの前に出るという都合上、これまで全開だった訛りを少しずつ矯正していたが、慌てた時や特に親しい者と会話している時だけそれが外れる。特にユウキが相手の時はそれが顕著で、彼の唐突な言葉に思わず素が出てしまうことも多かった。

 

先ほど言ったように、ユウキはどちらかと聞かれれば素のハルカの方が好きだ。だが、だからといって苦労して標準語を習得した彼女の努力を否定するつもりもない。

――どっちもハルカだし、何よりボク専用の言葉遣いって言われると実にgoodだね!焦ってつい話してしまう時なんて実にcuteだ!と思っていたりする。

 

そして暫くのいちゃこらを挟んだ後、ユウキは本題に踏み入った。

 

 

「…………ところで、何か進展はあった?何だっていい」

 

「んっと、今日対戦したトレーナーの1人……ロイヤルマスク(・・・・・・・)とかいうけったいな仮面をつけた男が、偽物について知ってるって言うとったけん。

話ば聞いてみっと、それは島巡りをしているトレーナーだって言うったい」

 

「島巡り……確か、アローラ独自の風習だったね。子供たちがアローラの4島を巡って1人前のトレーナーへと成長するための行事だっけ。

だけど……おかしいな。あの偽物は成長過程にしては強過ぎる。実力だけならとっくに1人前じゃないか」

 

「5歳の時にポチエナとエネコとラルトスだけでボーマンダば退けたトレーナーが何言っとるったい……。

他の地方から引っ越したから島巡りばしたいって言ってたらしいとよ。バッジ8個の実力ばあるって言うとったけん、前いた場所ではどげん扱いをされてたんやろ」

 

「知りたくもないね。あんな美しさの欠片もないダサいセンスしてるヤツのことなんか」

 

 

ハルカが抱いた疑問にユウキは短く吐き捨てる。大事なのは心の美しさ――そう考える彼だが、それとこれとは話が別なのだろう。他人に外見を似せている時点で美しさもあったもんじゃないと思っているのかもしれない。

 

肝心なのはユウキが偽物の存在を疎んでいるという事実であり、

その理由として、偽物の存在によってハルカが何らかの悪影響を受けてしまうのではないかという懸念があるからだ。

 

彼女を守りたいという気持ちは掛け値なしの本物だ。だからユウキは思考を巡らし――結局は、至極単純な結論に落ち着いた。

 

 

「うん、なら……会いに行ってみようか」

 

「…………えっ?そげんことができると?」

 

 

ユウキの言葉にハルカは疑問を抱いた。自分達はまだ偽物についてロクな知識がない。闇雲に行動することの愚かさについてはホウエンでの旅の最中に散々学んだため、ユウキが行う行動には何らかの理由がある。そんな彼が態々会いに行くと言い出せるだけの根拠が分からなかったのだ。

 

そんなハルカに、ユウキは答える。

 

 

「ああ、問題ないさ。

そのロイヤルマスクって人は、島巡りの途中だって言ってたんだろ?

なら、ロイヤルドームに来たのはアーカラの試練を受けている過程でたまたま訪れたからなんじゃないかと思う。

 

……まあ、色々と疑問に思うこともあるけどね。島巡りをしているだけなら、どうしてボクと同じ外見をしてるのか、とか……それ以外には手掛かりさえ見つからないのが現実だけど。

 

まあ、それは今は置いといて。偽物の行動なんだけど……時間経過を考えると、そろそろ大試練に挑む頃なんじゃないか?だからここ――コニコシティに行けば、遭遇できるかもしれない」

 

 

ユウキがロイヤルドームで配られていた簡素な島のマップの1点を指し示した。その場所の名前はコニコシティ――商売の街にして、アーカラ島が誇るしまクイーン、ライチが住む街だった。

 

 

 



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『偶然』?違うよ――『運命』さ(キリッ)

遅れてしまって申し訳ありません。
今回はちょっと難産でした。

……ダブルorマルチバトルって苦手なんだよなぁ。




 

 

「…………ん?」

 

 

ミヅキとリーリエと共に空間研究所を出る際、どこか既知感(デジャブ)を感じる空間の裂け目が見えた。パルキアのそれとは若干異なったそれは……おそらく、ウルトラホールなのだろう。不思議な確信がある。

 

ヒカリが言う『数ヶ月後』――その予兆か垣間見えた1幕。僕は、未知の敵に対する戦意を昂らせた。

 

 

 

***

 

 

 

コニコシティはカンタイシティからディグダトンネルを超えた先にある。決して規模が大きくはないが、入ってすぐの大通りには多くの店が並んでおり、商売の街と称するに相応しい活気を感じさせた。

 

 

「…………面倒だな」

 

 

が、それは僕の心境とは相反する光景だ。理由はライチとの待ち合わせ先――ジュエリーショップで渡された手紙にある。

 

 

『命の遺跡で待っているわ』

 

 

ならここまで来させるなよ……。

ソラとの勝負を経て飢餓感はだいぶマシになったが、それでもポケモンバトルは僕のライフワークだ、強い相手とのバトルは望む所である。

ハラ(しまキング)がそれなりに楽しめる相手だったから、同格のライチ(しまクイーン)も楽しめるのではないか、という期待があった

 

……のに、なんとも言えないこの肩透かし感。ならなんでここまで呼んだと聞きたい。最初から命の遺跡に待ち合わせで良いだろうに。

まあ、どちらにせよ命の遺跡はコスモッグ(ほしぐも)関連での目的地だ。手間が省けて幸いだとでも思っておこう。

 

コニコシティを抜け、9番道路に出る。命の遺跡はここの東にあるメモリアルヒルの先にある。同行している2人に声を掛けて進もうとして――

 

 

――聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

「見ぃつけたぁぁぁっ!!」

 

「perfect!大当たりだ!」

 

 

2人の少年少女が、ディグダトンネルから大声を出して走ってきた。

そんな彼らに、物凄い見覚えを感じていた。そして、少なくともその片割れならば彼女達も見知っている。

というか、

 

 

「「…………ユウキさん?」」

 

 

片割れ――赤を基調とする無駄にセンスのある衣装を着こなし、白いニット帽を被る少年。見覚えがある所の話ではない、完全完璧僕だわ。ファッションセンスはともかく。

 

そしてもう1人にも見覚えはあった。とはいえ、主に向こうの世界でだが。

この世界では1度も接触しておらず、こちらが一方的に知っているだけの少女――ホウエンチャンピオンのハルカ。

 

何故、この2人が…………?

ドッペルゲンガーかと思うものの、即座に否定する。僕の影にしては色々違い過ぎて、これでは席を代わるも何もないだろう。

そこまで考えたところで、漸く正体まで理解が及んだ。

 

 

「ミヅキ、リーリエ。先に命の遺跡に向かってくれ。僕も後で向かうが、長くなる可能性がある。大試練はとっとと済ませておいてくれ」

 

 

「へっ……?」「は、 はいっ、わかりました!」

 

 

疑問を抱くミヅキとは別に、リーリエは思い至ったのだろう。彼女を連れてこの場を去った。

 

リーリエとミヅキの違い。それは僕が異世界出身であることを知っているか否か、というものだ。リーリエは僕が出現した場にいたために知っていたが…………僕が説明を面倒に思い、ミヅキには何も話していなかったのだ。

それを察したリーリエは、去り際に呆れたような視線を向けてきたが、今は僕には何も出来ない。

説明頼んだとアイコンタクトを送ると、今度はそれが恨めしそうなものに代わったが……まあ良いだろう。

 

そんな事よりも、こちらを優先するべきだ。

 

 

「…………態々庇うなんて、随分と悠長なんだね。よっぽど大事な人なのかい?」

 

「まさか。仕事だ」

 

 

そう、彼らはこの世界における僕とハルカだ。まさか接触するとは思わなかったが――これも(アルセウス)の導きか。ヒカリがそんな感じのことを言っていたし。

 

故に、考えるべきは今後の展開だ。具体的にどこを着地点とするべきなのか――。

僕にとっての最善は、彼等と勝負をした上で僕が異世界の人間だと伝えること、だ。このうち、優先するのは前sy……後者。

 

心情的に優先したいのは前者なのだが、彼等がヒカリがアルセウスに頼んだ運命とやらに巻き込まれているのであれば後者にするしかない。

神を有するヒカリをして、手が足りないとまで言わしめる程の災厄だ。ヒカリとは交友がある様だし、迂闊に戦力になるかもしれない人間を減らすつもりはない。依頼に支障が出る。

 

それはそれとしてこの世界のボクの実力を確かめてみたい。

 

だが――そもそも僕は彼等の目的を知らない。ただ声をかけるだけならともかく、彼等に宿っているのは明確な敵対意識だ。

さてはヒカリ(コート)話して(伝えて)ないな?お陰で面倒な状況になっている訳だが。

 

 

「仕事、ねぇ……。

それは、キミがボクとそっくりなのにも理由があるのかい?」

 

「直結はしていないが関係がない訳ではないな」

 

「ふぅん、なるほど……なら、関係はどこにあるんだい?」

 

「きっかけだ。ちょっと奇跡体験をしてな、その時に」

 

「……う、なんかわかりにくいかも」

 

 

僕とこの世界のボクとの会話に、この世界のハルカは頭から?マークを大量に湧き出させた。まったく、向こうといいこちらといい、彼女は地頭は悪くないが単純らしい。

 

ハルカの発言を受けて、張り詰めていた場が急に和んだ。これを意図的に行っていたのならば天才だが……彼女はそんな事は出来ないだろう。不思議と確信があった。

 

 

「なら、ポケモンバトルで決めよう。

勝者は敗者に1つ命令が出来る。

過激な命令はNGで、後腐れがない程度の軽いものにする。

試合形式は2&2vs4のマルチバトル。

――質問はあるか?」

 

「特にないけど……始める前に1つ。キミがボクに似ているのは、軽い理由かい?」

 

「話しても問題ない位には、な。

バトルを始めよう。場所はここで構わないな?」

 

 

その言葉に彼らが頷いたのを見て、僕は闘気を全開にする。

 

さて――この世界の僕は、そしてハルカは、どれほどの実力を持っているのだろうか?

 

 

 

***

 

 

 

僕が思う、ダブルバトルやマルチバトルなど多対多での勝負において重要なことは、どれだけ味方のことを理解出来ているか――要するに、知識である。

 

元からダブルバトル・マルチバトル専用に構想を練られて育成されたポケモンならともかく、シングル特化のポケモンであれば互いの利点を摺り合わせ、短所を潰し長所を伸ばす必要がある。

 

それに必要なのが知識だ。どんな技を覚えていて、どんな特性を持っていて、どんな特徴を持っていて、どんな動きをして、どんな相手が不得手なのか。

それを理解していない、ただ強いだけのポケモンによるバトルを行うのならば――勝利を掴むなど出来はしない。

 

だから、マルチバトルはダブルバトルよりも難易度が高い。ダブルバトルならば味方の2匹はどちらも自分のポケモンであるが、マルチバトルは他のトレーナーやポケモンを理解した上で信用しなければならない。そう言えば、難易度の程は察せるだろう。

 

勿論ダブルバトルはダブルバトルで難しい。思考力のリソースが有限である以上、シングルと比べるとどうしても1体に裂ける割合が減ってしまうからだ。加えて、2匹に同時に指示を出すことが出来ないという点もある。

 

それでも僕がマルチバトルの方が難しいと思う理由は単純で――よっぽど相手のことを理解出来ていないと互いに足を引っ張り合うだけだからである。無能な味方は万の敵に勝る。この言葉に偽りはない。

 

にも関わらず、彼等はこのルールを即決した。それは考えが足りないのではない。互いを深く信用しているが故の強さの確信があるからだ。

 

 

…………僕は、超弩級の廃人(フロンティアブレーン)とばかり組んでいたのに。特に(ヒース)(ダツラ)。それぞれ戦術と知識を司るブレーンなだけあって組みやすかったが……それとこれとは話が違う。

 

 

僕はこの世界のボクに複雑な気持ちを抱きながら、先頭の2匹の入ったボールを投げ入れた。

 

 

「任せた。ネンドール、メタグロス」

 

「行くかも――バシャーモッ!!」

 

「時の流れはうつりゆけども変わらぬその身のたくましさ。

ほとばしたるは怒りの激流。

ポケモン・ラグラージ――いでよ!!」

 

 

……………………口上なげぇよ。

 

そういえば、この世界のボクはコーディネーターなんだったか。なら、コンテストのアピールのための前口上と考えれば納得が…………いかないだろうが。いってたまるか。コーディネーターはみんな厨二病なのか――あ、ミクリ

 

 

『ホウエンで1番華麗にポケモンと踊るのは誰なのか!』

 

 

空想を一瞬で脳裏から締め出す。そう、今は関係ないのだ。この世界でホウエンについて書かれた記事を読んだ時、見開きで露出度が高くなった服を着ているミクリを見て受けた衝撃など。奴がルネジムのジムリーダーだった驚愕など。

 

話を戻そう。

相手のポケモンはラグラージとバシャーモ。ホウエンの御三家のうちの2匹だ。特にラグラージ(キモクナーイ)は弱点が草タイプしか存在しないという、優秀な耐性を持つポケモンである。

 

とはいえ、ネンドールを出した時点で僕の初手は大体決まっていた。

それを言葉にしようとして、バシャーモとラグラージが光に包まれる。Zワザとは似ているようで大差がある光だ。それを前に僕は――――

 

 

「ネンドール、リフレクターだ」

 

 

――――ポケモンを出した時点で試合は始まっている。故にこの光がなんであれ、長すぎる待機時間を黙って待つ理由はない。

 

ネンドールがリフレクターを張り、その時点で相手の放っていた光が停止した。その先にいたのは髪(?)を逆立てて手首からふた筋の火を垂れ流しにし、全身をさらに濃い赤に染めたバシャーモと、なんか色々悪化したラグラージ(キモクナーイ)だった。

 

 

「へぇ…………メガシンカか」

 

 

概要は知っている。きっかけとなる石がわかる。だが、結局の所どうすればいいのかわからなかったその進化を見て、僕は関心する。なるほど――そうすれば(・・・・・)いいのか(・・・・)

 

 

「しねんのずつきだ!」

 

「バシャーモ、守って!」

 

 

メガシンカを終えたメガバシャーモへ、メタグロスの思念の頭突きが衝突する。だが、メガバシャーモは守るによって攻撃をやりすごし、

 

 

「ラグラージ、たきのぼりだ!」

 

 

行動を終えたネンドールへ、メガラグラージが滝登りを直撃させる。

効果は抜群――だが、リフレクターで軽減したこともあって、ダメージはそう極端に大きくはない。

 

そしてターンが終了し、

――バシャーモは加速した(特性:かそく)

 

 

「加速持ち――成程、これは厄介だ」

 

 

素早さが上がる――それは単純に脅威である。何せシングルでは、理論上先手をとって一撃で倒し続ければ必勝なのだから。これがマルチバトルで幸いだった、極めて容易に対処出来る。

 

それに対し、メガラグラージは耐久性に優れ安定している、正に水タイプといったポケモンだ。倒れにくい、だから強い。逞しさという点では中々である。外見にも恵まれていれば(キモクナーイ)なぁ……。

 

 

「バシャーモ、フレアドライブ!」

 

「カウンターしろ、しねんのずつきだ!」

 

 

そして加速を得たメガバシャーモが先手をとって攻撃。フレアドライブがメタグロスへと直撃し、リフレクターの上からHPの半分以上のダメージを与える。

だがメタグロスはそれに怯まずに思念の頭突きを放つ。効果は抜群。ただでさえ反動技によってHPを削られたバシャーモに大きなダメージを与え、危険域(レッドゾーン)まで追い詰める。

 

 

「ラグラージ、たきのぼり!」

 

 

そしてラグラージはネンドールへと再び滝登りを行う。サポートを優先して叩こうという心積りだろう。ネンドールは体力が危険域(レッドゾーン)になるまで削られた。あと僅かで落ちるだろう――が、今回はいつもの退場(だいばくはつ)はさせない。

 

 

「じしんだ!」

 

「――――なにっ!?」

 

 

フィールド1面が揺れ動く。ネンドールは攻撃用に育てているわけではないが、それでも最低限の火力は持っている。弱点技な上レッドゾーンのポケモン一匹、倒せないはずもない。

 

 

――バシャーモは倒れた。

 

 

「――自分のポケモンを巻き込む技を、こうも躊躇いなく……!?」

 

「――『戦術』『知識』『絆』が足りない。

僕はこれがベストだと判断して、メタグロスなら倒れないと知っていて、耐えてくれると信じていた。現にネンドールの全力を耐えきったのだから万々歳だ」

 

 

驚愕と共に零れ落ちたこの世界のボクの言葉に、僕はそう返す。

 

耐えきったとはいえ、メタグロスのHPはレッドゾーン一歩手前だが。メガラグラージのダメージが皆無同然なこともあり、これは次のターンで両方とも倒れるなと確信し……とりあえず残しておくと厄介なポケモン(メガバシャーモ)を片付けたことに安堵しよう。

 

 

「――っ、エルレイド!」

 

 

次いでこの世界のハルカが出したのはエルレイドだ。格闘・エスパーであるエルレイドは一致技の相性補完に優れ、補助技やサブウェポンなど幅広い技を覚えるポケモンである。

とはいえ特防はともかく、防御のステータスは決して高くない。今フィールドに出ている物理型の2匹が普通に殴れば普通に死ぬだろう。

 

問題は、それを行う前に先手を取られて全滅することであるが。

 

 

「メタグロス、バレットパンチ」

 

 

せめてもの悪足掻きに先制技を放つ。

バレットパンチはエルレイドに直撃し――返しのインファイトでメタグロスは倒れた。

 

 

「たきのぼりだ!」

 

 

そしてメガラグラージのたきのぼりによってネンドールは瀕死になる。

 

 

これで状況は2vs3……まあ、多少不利ではある。マルチバトルでは複数抜きは難しい。高火力紙装甲のアタッカーは集中して叩かれやすいからだ。

それを考慮して――洒落臭い。

 

 

「出番だ――バシャーモ、ミロカロス」

 

 

――――叩き潰せば良いだけだろう?

 

そして、そのための手段はさっき知った。

確か――

 

 

「――――こう(・・)すれば、いいんだろう?」

 

 

――――メガシンカ!!

 

バシャーモの体が光に包まれ、進化を超えたシンカが開始される。

トレーナーの意向を反映してか、メガシンカの光は先の2人と比べると即座に止み――膨大な炎を纏い、メガバシャーモが表れた。

 

メガシンカが終わり、メガバシャーモはメガ進化した自分の体を確かめるように軽く動く。それを隙と取ったのか、この世界のボクが指示を出した。

 

 

「ラグラージ、たきのぼりだ!」

 

 

メガラグラージによる滝登り。だがそれは、メガバシャーモを前にあまりに遅い行動だ。新たになった体のスペックを理解した彼はゆるりと戦闘姿勢をとり、

 

 

「命中100なのに『運』がないな。

――――跳べ、バシャーモ」

 

 

――指示に従い、跳躍する。1度だけではない、にどげりを連発して行う多段ジャンプだ。室外だから天井という制限もない。

あっという間に目視不可の超高高度へと到達するというメガバシャーモの速度は想定以上で、僕を含むトレーナー全員は唖然としたものの、すぐにターンを進行する。

 

 

「エルレイド、ミロカロスにリーフブレード!」

 

「耐えてじこさいせい」

 

 

エルレイドのリーフブレードがミロカロスに直撃する。弱点技ではあるが、ミロカロスはリフレクターの影響もあって平然とそれを耐えた。

 

そして行われる自己再生。

エルレイドの出方を伺うため、様子見にリカバリーの効く技を打ってみたが……やはりフルアタが濃厚だろうか。

そうでないなら、態々リーフブレード用の枠を空ける必要がないだろうし。

 

全ての行動を終えた事でターンが経過し、ミロカロスが火傷を負う。火炎玉の効果だ。それによって不思議な鱗が発動。防御が1.5倍という、物理型相手だとかなりの耐久性を有するものになった。

そして――

 

 

上空注意(・・・・)だ、悪く思え」

 

 

とはいえ、注意のしようもないか。

 

――メガバシャーモがメガラグラージに強襲(アサルト)する。

超高高度の位置エネルギーを存分に活かした飛び膝蹴りだ。加えて、更に繊細なコントロールを可能とした腕の炎によるブーストと微調整は、威力を底上げした挙句急所に当てるという暴挙を実現する。

 

圧倒的なエネルギーはメガラグラージの化け物じみた耐久力を真正面から消し飛ばし、ただの一撃で瀕死へと叩き落とした。

 

想定外の出来事に対戦者の思考が停止したのを良いことに、僕はもう1匹へと指示を出す。

 

 

「――ミロカロス、ハイドロポンプ」

 

 

対象は当然エルレイド。

メタグロスに繰り出したインファイトによって防御・特防ランクが下がっている以上、例え特殊攻撃への耐性が優秀でもダメージは大きい。

 

それによって正気に戻った2人……というかこの世界のハルカは、慌ててエルレイドに指示を出した。

 

 

「バシャーモに向けてサイコカッター!」

 

 

命中安定で急所+1の威力70。威力は物足りないが便利な技だ。

思念の頭突きよりもこちらを選んだハルカに内心で同意しつつ――単に教え技を使っていないという可能性は外しておく――迎撃を指示する。

 

 

「――刃の側面なら安全だろう?」

 

 

Let's パリィ(・・・)、とばかりにメガバシャーモはサイコカッターを側面から叩き落とす。相性が悪いこともあってダメージはあるようだが、それは極めて軽微なものだ。戦闘には何の影響もない。

 

 

「っ――――どうして!?」

 

「――そんな……」

 

「『勇気』『闘志』が足りない。成せば成るんだよ当然の事だ」

 

 

あまりに早くに逆転された盤面を見て、この世界のボクとハルカが呆然と呟く。

僕が逆の立場になってもそう思ってしまうだろう。普通なら、メガラグラージは飛び膝蹴りを耐えきり、返しの滝登りでメガバシャーモを確1していただろうから。

 

だが、これはあくまでポケモンバトルであり、野良試合だ。ありえない事態が起きない、なんて事はありえない。

 

僕と、この世界のボク、ついでにハルカ。いったいどこで差がついたのかと問われると――やはり、バトルフロンティアの有無だろう。

この世界にはバトルタワーしか存在せず、バトルフロンティアにおけるタワーで象徴とするのは『才能』――

 

――つまり、他の施設が象徴とする、『戦術』(バトルドーム)『知識』(バトルファクトリー)『絆』(バトルパレス)『運』(バトルチューブ)『勇気』(バトルピラミッド)『闘志』(バトルアリーナ)に関しては、ロクに磨かれないまま残されているということである。

 

加えて、ホウエンのバトルフロンティアは、エニシダさんが全国の有力なトレーナーを青田買いして作られたものだ。

そこで得られる上質な経験値は、小細工の1つ(メガシンカ)2つ(Zワザ)を補って余りある。

 

 

――僕はその2つとも習得しつつあるがな!

 

 

「っ――時の流れはうつりゆけども変わらぬその身のかしこさよ、

身につけたるは共鳴の同期(シンクロ)

ポケモン・サーナイト――いでよ!」

 

 

次いでこの世界のボクが出したのはサーナイトだ。

御三家であるバシャーモとラグラージ、同じポケモン(ラルトス)の最終進化系であるエルレイドとサーナイトと、マルチバトルということで、ポケモン同士の関連性を重視したのだろう。

 

マルチバトルではそこそこある事だ。

より優れた連携をする上では、ポケモン同士の相性も馬鹿には出来ない。これは極端な例ではあるが、如何に仲のいいトレーナーであろうと、ハブネークとザングースを出せば連携なんて出来る訳がない。

そういった事態を防ぎ、比較的安定して戦えるようにと考えるトレーナーは多いのだ。

 

 

「――バシャーモ、フレアドライブ」

 

 

――だからどうということもないが。

 

素早さが2ランク上昇しているメガバシャーモこそがフィールドの最速だ。優先度がプラスされる技でなければ抜くことなど出来はしない。

 

攻撃対象はサーナイトだ。

光の粘土を持たせたネンドールのリフレクターは8ターン継続するため、まだ6ターン目である以上物理フルアタだと思われるエルレイドはどうとでも処理出来る。故にどんな型かがまだ不透明であるサーナイトを優先的に潰しておきたかったのだ。

 

フレアドライブがサーナイトへと直撃し――

 

 

「ごめん、ハルカ――――みちづれ(・・・・)だ!」

 

「…………あっ」

 

 

――サーナイトは倒れた。

 

よってみちづれが発動。

メガバシャーモは足元から表れたドス黒い影に囚われて瀕死状態へと陥った。

 

不用意に過ぎたかと反省するも、これで勝敗は決した(・・・・・・)

先程この世界のボクがした謝罪は、これで自分達の敗北を確定させてしまったことに対するものだ。

 

フィールドに残っているのはHPが警戒域(イエローゾーン)に踏み込んでいるエルレイドに、リフレクターに加えて不思議な鱗で防御力に1.5倍の補正がついたHP満タンなミロカロス。

 

結末は目に見えていた。

ミロカロスにリーフブレードを耐えられたエルレイドが、返しのハイドロポンプによって瀕死。

 

 

実際にその通りに試合は進み、勝者の特権として僕は彼らに命令を下した。

 

 

 

 

「――僕の話を黙って聞け」

 

 

 

 

話す内容は当然、僕が異世界人である事と、転移してからの略歴、そして以前ヒカリが話していたアローラの危機についてである。

 

 

 

 




という訳でこの世界の自分達と邂逅→マルチバトル。
結果はEm.ユウキが勝利しました。

2人とも――特にハルカは決して弱くはないけれども、
ORASユウキは周辺のものを利用するテクニカルなタイプですが、9番道路には利用できそうなものが極めて僅かな上、Emユウキは物理型を多く使っていたので周囲に影響は出ず、
ORASハルカは力押しを得意とするフルアタですが、Emユウキは以前自分がそうだったのもあって、弱点は熟知しています。
それにバトルフロンティアでの経験の有無が重なり、Emユウキに軍配が上がりました。



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婚期を逃す寸前の女性の妄執はヤバい

ミヅキが大試練に挑戦するお話。
大丈夫、何事もなかったかのようにあっさり終わるさ。何せロイヤルドームの時点でジュナイパーが手持ちにいるんだぜ?そっから成長してることも考えると、元々の脆さも相まって、手加減したライチさんなんて楽勝楽勝♪

――いわタイプなんて全然怖くない(露骨なフラグ)!!


11/26、キテルグマのタイプをノーマル・岩からノーマル・格闘に修正しました。


 

「ユウキさんなんですけど……元々はこの世界の出身じゃないらしいのです。

わたしも詳しくはわからないのですが、なんでも世界を救った結果こうなったのだとか。そして今またアローラを救う依頼を受けているらしくて……」

 

「そっかそっかー。空間研究所の論文片っ端から見てたのに、ユウキさんの言ってた理論が見つからなかったのはそれが理由かぁ。そりゃ異世界ならわかんないよねー。

 

……正直に言っていい?あのユウキさんが世界を救うとか、どんだけヤバいのその世界。そしてユウキさんがアローラを救う依頼を受けてるとか、どんだけヤバくなるのアローラは」

 

「あはは……やっぱりそう思いますよね。でも事実のようで、たぶん先程の方々もそれ関連だと思いますよ」

 

「アローラを救う同盟、か……。

ユウキさんでさえ一般構成員みたいなんだから、どんな化物の巣窟なのかなぁ」

 

「…………ホンモノの神様がいます」

 

「なにそれこわい」

 

 

そんな話をしながら、私達はお墓なのにバトルを仕掛けてくるたくさんのトレーナーを片っ端から蹴散らし、

なんか出てきたスカル団も片付けて(リーリエは隠れてた)、

なんかエーテル財団の関係者っぽい偉そうな人から極めて不信なお誘いを受けて(リーリエはまだ隠れてた)、

スカル団の幹部の女性も普通に倒し(リーリエは迷っていた)、

ついに私達は命の遺跡へとたどり着いた。

 

 

「あれが……アーカラの守り神、カプ・テテフさんの遺跡ですよ」

 

 

ピュイ!と相槌を打つかのように鳴くほしぐもちゃんに、リーリエは困った様な視線を向けた。

 

 

「もう……メレメレ島でも戦の遺跡に行こうとしたり……。

あなたにとって遺跡とは……島の守り神さんとはなんですか?

あの時心底困っていたのです。もしミヅキさんがいなかったら……」

 

「ピュイっ!」

 

 

そこまでリーリエが言うと、突然ほしぐもちゃんが鳴いた。

人の気配を感じて遺跡の方を向くと、丁度そこからライチさんが表れるのが見える。

 

 

「あら、たしかククイの……」

 

 

そこまで言ったはいいものの、名前が浮かばない様だったので互いに名乗ることにした。目線で先を譲り合い、話しかけられたのはリーリエなために彼女が先に話すことになる。

 

 

「わたし、リーリエです。ククイ博士の助手をしています」

 

「私はミヅキです。カントーから来て、今はアローラで島巡りをしています」

 

「ごめんごめん!わざわざ会いに行ったのに名前聞かなくて。

カプ・テテフに呼ばれて遺跡を綺麗にしていたのさ。

 

ミヅキ……アローラの人を、ポケモンを知ってくれてありがとう」

 

「いえ、私もみんなには支えて貰ってばっかりです」

 

 

私がそう言うと、ライチさんは苦笑した様子で――ユウキさんには劣るものの、それでも明確な気当たりを私へとぶつけてきた。

直接の対象じゃなくても感じ取れるその威圧を感じ取ったリーリエは、その場から数歩離れる。

構成される戦いの(フィールド)。それを中心にて支配する女性は嫣然と告げた。

 

 

「…………さてと。

アーカラ島3人のキャプテンの試練をこなし、挑むは島クイーン・ライチの試練!

アーカラで1番ハードなポケモン勝負だ――ガツンと行くよ?」

 

「よろこんで――私のゼンリョクで挑ませて貰います!」

 

 

***

 

 

アーラカ島での最後を飾る、ライチさんとの大試練。ライチさんが専門とする岩タイプは多くが物理に傾倒しており、圧倒的なパワーとタフネスを誇る。弱点多いせいで普通に脆いとか言わない。

反面特殊攻撃には脆さを見せることがままあるけれど……(きっと)20代という若さで島クイーンにまで上り詰めたライチさんが、その対策をしていないなんてありえない。

 

思考停止して弱点タイプで特殊型のポケモンで挑んだトレーナーは、きっと痛い目に合っている。そうじゃないと大試練(・・・)なんて大層な名前はつかないんだから。

 

 

「行くよ――ノズパスっ!」

 

「お願い、キテルグマっ!」

 

 

 

ライチさんが先頭で出したポケモンはノズパス――防御力が極めて高く、特防もそこそこある岩単タイプのポケモンだ。レベルは多分25前後で、特性は……ノズパスなら頑丈一択だよね……。

 

対する私のポケモンはキテルグマLv.38だ。可愛い。もふもふ(・・・・)。だけどゴツゴツ(・・・・)。以上。

 

 

「キテルグマ、ちょうはつ!」

 

 

ノズパスは特性(頑丈)によって即死技をギリギリで堪えるため、そこから設置技(ステロとか)を撒かれたり、状態異常にさせられたり、痛み分けされては厄介だ。

なので、とりあえず挑発して様子を見る。これで機能停止してくれていたなら楽なんだけど……。

 

そう思いながら経過を見ると、ノズパスが出そうとしていたのは変化技だったんだろう。挑発に乗ってしまって、技を出せずにターンを消化していた。

予測が当たったことは嬉しいけど、それ以上に結構怖さを感じたりする。

 

 

――初っ端からエゲつないですねライチさん!一体何するつもりだったんですか!?

 

 

「ええぃ、もう動かないんだから気にしないっ!

キテルグマ、行くよ――アームハンマー!!」

 

 

キテルグマは物理に特化したノーマル・格闘タイプのポケモンだ。膨大なHPと高めの防御力、そして接触技の(特性:)被ダメ半減(もふもふ)によって攻撃を耐え、圧倒的な攻撃力で殴り倒す。特殊攻撃に脆さを見せるのはご愛敬。役割が明確な分むしろありがたかったりする。

 

ちなみに、キテルグマのHPは数値にしてノズパスの2倍近い。同じレベルでさえそんなに差があるのだから、一回りレベルが離れてる状態での痛み分けはホントに洒落になんないのだ。

ライチさんのノズパスがそれを覚えているかはわからないけど、とりあえず挑発覚えさせてて良かったぁ……。

 

 

そして、キテルグマのアームハンマーがノズパスに直撃する。素早さランクを下げる代わりに高い威力を誇る格闘技だ。

 

効果は抜群だ。

どれだけ防御力が高かろうと、ノズパスはHPには恵まれていないのだから問題はない。ただの一撃によってHPを消し飛ばし――

 

 

――ノズパスは攻撃を堪えた。

 

 

「やっぱ頑丈持ちかぁ……」

 

 

――だから耐えられるならそれは特性の問題。案の定『頑丈』持ちだったため、ノズパスは攻撃をギリギリの所で堪えた。

 

 

「ノズパス、スパークっ!!」

 

 

そして反撃とばかりにノズパスがスパークを放つ。電気タイプの物理技だ。一致()技に耐性を持った相手へのサブヴェポンであると同時に、弱点となる水ポケへのカバーなのだろう。

 

電気を帯びた突進がキテルグマへと直撃する……けれど、固有特性(もふもふ)の効果でダメージは半減。元々の耐久力も合わさってダメージは極々僅かだ。

そして、

 

 

――ノズパスは倒れた。

 

 

「…………なるほど、ゴツゴツメットを持たせていたんだね」

 

「はい、私のキテルグマはもふもふ(・・・・)だけどゴツゴツ(・・・・)なんです!」

 

 

そう、キテルグマの持ち物はゴツゴツメット。マオの試練の時に材料として使われたゴツメの余りである。

ノズパスは接触技を撃ってしまったため、残り1しかなかった体力を削り取られて瀕死へと陥ったのだ。

 

 

「だけど、タネがわかった手品なんて面白くない!ライチさんがぱぱっと片付けてあげるからね!

行くよ――ルガルガンっ!!」

 

 

ライチさんがルガルガン(夜の姿)を繰り出し――次の瞬間には黄金の光に包まれる。

 

Zワザだ。思わず身構える私に、ライチさんはゾッとするほど綺麗な笑みを浮かべて、絆を結ぶ踊りを踊った。

 

 

「これが岩のゼンリョク――受けてみな!」

 

 

――ワールズエンドフォール。

 

 

見上げると、太陽さえ覆い隠し、世界を終わらせるのかとさえ思わせる程に巨大。『デカくて重い』という単純で、故に強力無比な一撃こそが岩のゼンリョクだ。

 

刻一刻と穹から堕ちてくるそれに、私はしっかりと焦点を合わせて、

 

 

「全力全開――アームハンマーぁぁ!!!」

 

 

真正面からぶち壊すことを宣言する。

 

 

相手は視界を覆い隠すほど巨大なのに対し、こちらはたった一匹。

明らかにキテルグマの方が貧弱ではあるけれど、それでも私には勝算があった。

 

ルガルガンが覚える最強の岩技がストーンエッジである以上、Zワザ(ワールズエンドフォール)の威力は190が上限だ。対するアームハンマーは威力100だけど、タイプ的にはこちらが有利。加えて攻撃力はレベル差もあってこちらの方が高い以上、ワンチャンはある。

 

 

「ガチガチな漢気(質量)が勝つか、もふもふな女子力(可愛さ)が勝つか――勝負といこうじゃないですかライチさん!!」

 

ヤ メ ロ ! !

 

 

…………ほんのちょこっとだけ、巨石の落下速度が落ちた気がした。

 

 

そして激突する岩と拳。

傍から見ている私にも伝わってくる衝撃に吹き飛ばされそうになる身体を懸命に抑え、行き着く先を見る。

 

両者は暫くの間拮抗していたけれども、やっぱり質量差はどうしようもなかったのか、やがてキテルグマが膝を付く。

お疲れ様。私はそう言って腰元のボールへと手を伸ばそうとして――

 

 

――ピシッ

 

 

――音が聞こえた。

ハッとして試合を見ると、1度膝を付きながらも再び立ち上がったキテルグマと、大小様々な亀裂が走った巨石の姿が。

 

 

「――――がんばれ、キテルグマ!!」

 

 

やがて亀裂は全体へと到達し――巨石は音を立てて崩壊した。

キテルグマは大きなダメージを受けている様だけど、まだ警戒域(イエローゾーン)。戦闘続行に支障はない。

 

そして周囲に撒き散らされる多くの破片。小さくとも拳大はある無数のそれを邪魔臭いと片っ端から素手(・・)で払い除けた私は、キテルグマへと指示を出す。

 

 

「今のうちに決めるよ――アームハンマー!!」

 

 

キテルグマがぎょっとした視線を向けてくるも、そんな事に構っている時間はない。

ライチさんは飛来する破片から身を守ろうと必死に逃げていて、指示を出す余裕がないのだ。だったら素早さランクが下がりまくってるキテルグマでも先手を取ることは十分可能!

 

 

残念でしたねライチさん!

これが女子力(物理)の差なんです!!

守ってくれる人(彼氏)がいないあなたとは違って、私は自分で身を守る力があるんだから!!!

 

 

…………どっちもどっち、なんて言わないで。

 

 

キテルグマのアームハンマーがルガルガンの土手っ腹へと直撃し、勢いよく削られていくHP。それが真紅へと染まり――

 

視界に、額に青筋を浮かべながら笑うライチさんが映った。

 

 

これで終わるほど、(好きでいない歴)島クイーンは甘くないよ(=年齢じゃない)っ!!

――――きしかいせい(まだ挽回のチャンスはある)ッッッ!!!」

 

 

――HPが尽きる寸前。あと数秒もあれば瀕死へと陥るだろう瞬間に、ルガルガンは起死回生の一撃を放つ。

女としての賞味期限(婚期)がギリギリなことに加え、ルガルガンのHPも極々僅かだ。故に放たれる一撃は200さえ超える超威力。

 

 

起死回生となる一撃を真っ向から食らったキテルグマは耐えきれずに瀕死へと陥り、それで力を使い果たしたのかルガルガンも倒れ伏す。

 

キテルグマを回収したモンスターボールに、今度こそお疲れ様、と声を掛けて、次のポケモンをフィールドへと放った。

 

 

「――レアコイルっ!!」

 

「行きな――ガチゴラス(・・・・・)!!」

 

 

私のレアコイルLv.37に対し、ライチさんが繰り出したのはガチゴラスLv.52(・・)である。

 

 

もう1度言おう。

ガチゴラスLv.52である。

 

 

「ふふふっ……人の婚期を笑う者に遠慮なんてしてやらないから。

ウチのツテで入手したアゴの化石から復元したこのガチゴラスは、全国の出逢いを求める女性の妄執の具現だと心得な」

 

「…………ヤバい、やらかした」

 

 

深く、深く反省する。

もしかしたら普通にガントルを出してくる未来があったかもしれないのに、それを明後日の方向に全力で投げ捨てたのは私である。

というか、なんで読心出来るし。だいぶ前にユウキさんが「優秀なトレーナーなら読心術とか余裕」的な事をほざいていたけど…………まさか本当だったとは。異世界云々のことも真面目に考えた方がいいのかもね。

 

 

思考を切り替える。今は目前の試練が最優先だ。

言い訳っぽいと自覚しながらあえて言っておくけど、逆境自体はむしろ望む所だ。どんな方法で乗り越えようかと心が踊る。

 

それでも、

 

 

「ガチゴラス、りゅうのまい!」

 

「レアコイル、でんじはっ!」

 

 

――ガチゴラスが竜舞を積んでくるとかちょっとマジで洒落になんないから!

 

少しでも妨害をと試みて電磁波を撃ったものの、ガチゴラスは持っていたラムのみの効果ですぐに状態異常が回復した。

相手の道具が割れたは良いが、実質的に私はこのターンで有効的な手を何一つ打てていない現状に歯噛みし――そんな余裕はまったくない。

 

 

「でんじふゆう!」

 

「じしん!――へぇ、いい判断だ」

 

 

ガチゴラスが地震のための予備動作を行った瞬間、私は絶叫するかの様に指示を出した。電磁浮遊――これで4倍弱点となる地面技は効かない。

そしてガチゴラスはこれで2つの技を晒した。だから残りは2つ。順当に考えればタイプが一致している岩技と竜技だろう。とりあえず諸刃の頭突きは確定である。竜技は……逆鱗か竜爪か。

 

 

……どうせ諸刃使ってくるし、考えるのやめよ。

 

 

「なら、この一撃に耐えられる?

――ガチゴラス、もろはのずつき!!」

 

 

案の定、安定の諸刃である。

命中率はまったくもって安定してないけど、安定である。

 

自損を覚悟したからこその圧倒的な威力を持った突進がレアコイルへと直撃し、金属に硬いものが当たる派手な音が響く。効果はいまひとつだけど、素の威力が高い上に攻撃が1ランク積まれているのだから洒落にならない。

 

レアコイルの高い防御でもダメージは抑えきれず、HPは一気に警戒域(イエローゾーン)となり、レッド手前でなんとか持ちこたえる。

そして様子を見る限り、ガチゴラスは反動を受けていない。となると特性は石頭か。なるほどつまり――諸刃を毎ターン連打出来るっぽい感じ?

 

冷や汗が背筋を流れる。いやほんと、洒落になんないから。

 

 

「だけど、解析(アナライズ)は完了した!行くよレアコイル――ラスターカノン!!」

 

 

攻撃がターンで最後であるため、特性(アナライズ)が発動。威力が1.3倍となった上にタイプが一致している弱点技(ラスターカノン)が至近距離で炸裂する。

 

その際に生じた衝撃に乗っかって一気に距離を取ったレアコイルは、遠距離からひたすらラスターカノンを連打する。威力を絞って数に特化した牽制用だ。

迫り来る無数の弱点技に、ガチゴラスは――

 

 

「ハッ、上等――叩き潰してやりなさい!」

 

 

竜舞によって1ランク上昇した素早さに、諸刃の頭突きを上乗せして突進する。

多くが外れているとはいえ、それでも何発かは直撃している。なのにまったく怯んだ様子を見せないガチゴラスに、レアコイルの攻め手が僅かに緩み、

 

 

「そこっ!もろはのずつきぃぃぃッ!!」

 

 

諸刃の頭突きが直撃する。

2発目は流石に耐えきれなかったのか、レアコイルは瀕死へと陥った。

 

 

「お願い――ジュナイパー!!」

 

 

私の最後のポケモンはジュナイパーLv.40だ。一回りレベルが離れた相手との真っ向勝負に、ジュナイパーはこくりと頷き羽根を広げる。

 

そして――その身体が黄金の光を放つ。ジュナイパーに持たせた物はクサZ。だから今放たれる技は、

 

 

「――――ブルームシャインエクストラァァァっ!!」

 

 

辺り一帯に多種多様な花が咲き誇る。攻撃技というにはあまりに美麗なそれは、喩えるならば花の楽園。

ガチゴラスはその景色に一瞬目を奪われて――爆発(・・)

 

この花の1輪1輪は高いエネルギーを有しており、任意で爆発させることができる。1輪が散れば巻き込まれた他の花が散っていき、それに巻き込まれた他の花もまた散っていき――その連続。

綺麗な薔薇には刺がある。これを体現する爆発の連鎖(チェイン)こそが草のZワザ――ブルームシャインエクストラである。

 

 

(これが、女子力の差――!?)

ガチゴラス、諸刃で蹴散らしなっ!!」

 

 

無数の爆発を受けて刻一刻とHPを減らしながらも、諸刃によるブーストも相まって、ガチゴラスは怯まずに脚を進める。

対するジュナイパーは花園の中に隠れ潜みながら、タイミングを調節した爆発によって巧みに進路を塞ぎ、着実にダメージを与えていく。

 

 

闘い方がもう完全にゲリラのそれだ。研究所にいる時に変な円盤でも観たのかな……妙に馴染んでいるあたり、ジュナイパーという種族が元々そうである可能性が高いけど。

 

 

そして暫くの時間が過ぎ、草のZワザは制限時間を迎えた。

その間ジュナイパーはひたすら逃げに回り、自分はダメージを受けないまま、ガチゴラスの体力を少しずつ削っていくという嫌らしい戦術を立てていた。

なのでガチゴラスの体力は限界寸前(レッドゾーン)だが、これまでジュナイパーの姿を隠していた花園はもう存在しない。

 

故に、諸刃のたった一撃を当てるだけでケリが付く。命中率は80%と不安が残るが、しまクイーンが育成したポケモンがそんな不確定要素を残すはずもない。確定で命中し、即死級のダメージを与えるだろう。

 

 

「これで終わりだよ――ガチゴラス、もろはのずつき」

 

 

ライチさんが止めの指示を出す。殆ど結果が決まっているために口調はそれまでと比べて静かだけど、だからこそ絶対倒すという殺意を感じさせる。

 

 

――そして私は、この機会を待っていた。

 

 

「――はい(ジュナイパー)私の勝ちです(ふいうち)

 

 

相手が攻撃に移る一瞬の隙を穿つ不意の一撃。決して威力は高くないけど、瀕死寸前のガチゴラスならこれで十分。

一度でも見せたらきっと対応されるから、どうしても油断が生まれるこの一瞬を作らなければいけなかった。

 

僅かに残っていたHPを残らず削り取られ、ゆっくりと崩れ落ちるガチゴラスの巨体。

それを見たライチさんは、苦笑と共に呟いた。

 

 

「素敵、ね…………」

 

 

 

***

 

 

 

「ゼンリョクを出し切ってこそ、さらなる輝きを得るから――あんたら、最高だね。ちょっとアレな所はあったけど、まさかガチゴラスを倒すとは思わなかったよ。

 

はい!いわタイプのZクリスタル……イワZをさずけましょう」

 

 

イワZをバッグにしまい込む。これでアーカラの大試練も達成かと考えると、なにやら感慨深いものを感じる。

具体的には最後の最後に出てきたガチゴラス。まさか倒せてしまうとは……。

 

 

「いい感じに使ってよ。

いわタイプ……かたくてごつくて、攻撃するのが得意……。

あたしとはあんまり似てないけど、かえって惹かれるんだよ」

 

「ふふっ、わかります。

私もゲリラ戦とかハメ殺しとか害悪とかが好きなんです。不思議ですね、私とはあまり似てないのに。

やっぱり人って自分じゃ手が届かないものに惹かれるのかも知れませんね」

 

「えっ(どこに不思議な要素があるの?)」

 

「えっ(あまり似てない、ですか……?)」

 

「ちょっと待ったどこに疑問を持つ要素があったのか聞こうじゃないか」

 

 

そんなこんなで私のアーカラでの島巡りも幕を閉じた。これで島巡りも折り返し地点に到達。次の島への期待を(決してないわけではない)胸に膨らませ、私はこちらへと引き摺られてくるハウと、彼を引き摺っているユウキさんの姿を見ていた

 

…………表情は、いつも通りの真顔なんだけど。

 

 




ええ、何事もなくあっさりと終わらせる予定でしたよ。
でもなんか、キテルグマvsルガルガンの所でいつもの悪癖(悪ノリ)が出てしまって、ついうっかり……

ライチのジュエリーショップは化石も売っていたので、きっと化石ポケモンも揃えてると思ってガチゴラスを登場させてみました。反省はしているけど後悔はしていない。


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正でも負でも絶対値は同じ


新年のお慶びを申し上げます(今更)。
更新が遅れに遅れて申し訳ありません……。

前話までのポケモンUSUMに関連する部分を修正しました。概ね以下の形になります。
・ネクロズマによる光の吸収
前)二年後に起きる
後)限りなく近い並行世界で起きるが、この世界でも「もしかすると……」程度の可能性はある。

不自然な所が発見されればその都度修正し、次回の投稿の前書きに変更点を記入します。
……やっぱり、発売前の予測を安易に使うもんじゃないなーと実感しました(小並感)。



 

「実はキミは違う世界でのボクなんだ――って、そんな話をいきなり出されて信用できると思う?」

 

 

そこまで言って、ユウキはかぶりを振る。

 

 

「impossible、ありえないね。本当にボクだとすれば尚更だ、信じる筈がない。そんなこと、何より自分がわかってる筈だと思うけど」

 

 

ポケモン勝負に勝ったことで獲得した『黙って話を聞け』という命令によってこれまでの経緯を話した後の、この世界のボク(ユウキ)の返しがそれだった。

 

極めて誠実にありのままを告白したのだが、やはり同一存在なのだろう。案の定警戒を解かないボクに、なんとも言えない複雑な気持ちになる。

 

今すぐ話を終わらせてミヅキの試練を見に行きたい――だが、それにはこの世界のボク達がありえない話を思考停止で受け入れる程の暗愚である必要がある。それはそれで苛立つため実に複雑だ。

 

……とはいえ、既に『勝負する』という僕にとっての最大の目的は果たしたのだ。それが不慣れなマルチバトルであっても関係ない。後はもう野となれ山となれである。

 

話し合いの結果がどう転ぼうが、後で苦労するのはヒカリなんだし。

 

 

「当然、その上で言った。こんなありえない話、お前()信じられないに決まっている」

 

 

返す言葉は肯定。勝手な決めつけに過ぎないが、それでも一目見た段階で予想が付いていたのは確かだ。

 

 

あ、コイツ僕の話信じねぇわ、と。

 

 

実際証拠を提示しろと言われても、向こうの世界にしかないものなんて、少なくともバッグの中にはなかった。

…………あいいろのたまとべにいろのたまなら、と思ったものの、メレメレ島のショッピングモールで店売りされてたし。おくりびやまに祀られていた意味……。

 

そして、ならばバトルによって力を示し(勿論こっちが本命)、言葉に無理矢理説得力を持たせることで信用させよう(副産物)とした。

だが、この世界のボクは決して脳筋ではない。薄っぺらな説得力なんて無価値なものであり、僕に『自分達二人を単独で倒せる警戒すべき相手』というレッテルが貼られる結果に終わった。

 

このレッテルは非常に厄介だ。

自分達を実力で上回るなら力尽くで行動させればいい。なのに対話を挟む以上、それは真実――なわけがない。

 

力尽くでいちいち命令するよりも、1度話を通すことで自発的に動かせるようにした方が後々には楽になる。しかも、相手がその話を信じるのが確定しているのならば、これみよがしに『悲劇的な自分』を演じれば良い。

ほんの一手間をかけるだけで勝手に信頼してくれる良い駒を作れるのだ。これを知っている側からすれば、警戒こそすれ、無防備でなんていられない。

 

だから、()()が信じるなんてありえない。だからここで気にかけるべきはボクではなく、

 

 

「…………アタシ、あんたの話、信じてもいいったい」

 

「――ハルカ!?」

 

 

――この話を聞いていたもう1人。

この世界では腹の探り合い等とは無縁の野生児らしいハルカなら、こんな意味のない話し合いを終わらせることが出来る。何故なら彼女のような人種は、時として直感だけで一息に真実へと辿り着くからだ。

 

 

「あんたの話ば確かに信じられるもんじゃなかと。けど、世界が違ってもユウキったい、アタシには伝わるけん。なんとなくだけど、あんたがホントのことば言うとるって」

 

「……だけど」

 

「あーもうっ!!

いつまでもウジウジしてて男らしくないったい!やらないで後悔するよりもやって後悔する方が良いに決まっとる!まず信じなきゃ始まんないったい!」

 

 

信じなきゃ始まらない、か……。

 

この世界のボク(ユウキ)に向けた彼女の言葉は、思いの外僕にも響いた。

なぜなら僕は、ハルカとは違って人を信じられない類の人間だから。

常に信じるのは自分の判断。一見信じているように見えても、その実相手を分析して行動を予測しているに過ぎない。

 

これに問題がある訳ではないのだが……少し羨ましい。

僕にはそんな真っ直ぐな生き方はできないから。

 

そんなハルカに対して、この世界のボクは引いた様子を見せない。

 

 

「だけど………!」

 

「どうしてそこまで警戒するん?

今のあんたはあんたらしくなかと。いつもは信じられないことでも参考ぐらいに話ば聞いとるのに。

 

……そんなにこの人が信用できないなら、この人を信じると決めたあたしを信じてほしいったい」

 

 

効果は抜群。これは決まった……か?

この二人が()()()()関係なのは大体察しがついている。

その上でこのセリフを言われてしまっては、どうしても折れざるを得ない。場合によっては二人の関係に亀裂が走る諸刃の言葉。だが、そこには確かな自信があった。

 

正直ちょっと可哀想に思いながらこの世界のボクを見ると、彼はそれでも粘っている様子だった。

何が彼をそこまで駆り立てるのだろう。原因が僕なのは理解しているが、ちょっとやり過ぎな気がしないでもない。確証はないが、敵対する組織――我らがエコテロリストにもこれほどの警戒は抱かないだろうと思う。

 

 

「…………確かに、ボクと彼は似ている。それこそ瓜二つと言っても過言ではないほどに。

ポケモンを見るとわかる。毛並みの色や艶、なつき度………きっとキミは普段からポケモンの身嗜みに気を使い、深い愛情を持って接しているんだろう。そこは素直に認めよう」

 

「…………まあ、(ポロック)を与えていたり、それなりにポケリフレもしていたら必然的にこの程度にはなるだろうさ」

 

「――――だけど」

 

 

そこでこの世界のボクは区切りを入れて、充分な溜めを作ってから告げた。

どうして僕を信じられないのか。その答えは――――!

 

 

 

 

ボクがこんなダサい服を着るワケがない――――!!!!

 

 

 

 

「……………あっ(察し)」

 

 

呆れと納得が同居した声を漏らすハルカだが、その声は僕の耳には入ってこない。

この世界のボクが口にした言葉を何度も何度も咀嚼して、一単語に至るまで深く考え、解釈に間違いがないのか確認し――そこで漸く、口から音が溢れた。

 

 

「……………………は?」

 

 

「コーディネーターが魅せるために必要なのはポケモンの美しさだけじゃない!!トップコーディネーターにもなれば専門分野のカンストは()()()()なんだ!その上で差をつけるべきは技の使い方や組み合わせ、そして――――トレーナー自身の魅力に他ならない!!コンテストの時だけなんて上っ面じゃすぐにボロが出る!上下ジャージ?論外も良いところだ!!常日頃から美しい立ち居振る舞いを――それがコーディネーターの義務だ!!

だから――たとえ異世界だろうと、コーディネーターであることを怠っているヤツがボクなわけない!!」

 

 

感情論だった。

説得力なんてカケラもない言葉だが、コーディネーターである自分に高い誇りを抱いているのがひしひしと伝わってくる。

 

イマイチ僕はコーディネーターという在り方について理解できていないが、これをトレーナーに置き換えると…………ふしぎなアメでレベルだけ上げた、戦闘を経験せず基礎ポイントを振らずすごい特訓をせず技さえ杜撰に選んだポケモン片手にポケモンリーグに挑戦されるようなものだろうか。

それは確かに――――殺意が抑えきれないな。潰したくなってくる。

 

…………困った、説得出来る気がしない。

分野の違いこそあれ、共に意識高い系である。戦闘分野における自身の融通の利かなさを省みると、彼に信用を抱かせるのは不可能と言っても良いだろう。

 

だから、僕は()()()

元より僕と関係ない世界である。僕じゃ解決できない、その上解決しなくても極論問題ないものは放置一択。きっとヒカリが解決してくれるさ。だから――

 

――言いたいことを素直にぶつけようと思う。

 

 

「ポロックを作るのはあくまで趣味だとか、戦闘者(トレーナー)であってコーディネーターじゃないとか、言いたいことは沢山あるが――1つ言わせてもらうことがあるとすれば。

 

――――ジャージは神器だ

 

「――――はぁ!?なんだってあんなものを!」

 

「運動に特化した機能性を感じられる美しい服だろう。全国を旅する上で不可欠な性能だ!」

 

「機能性()()感じられないから言っているんだ!しかも最近はデザイン性を意識しながら運動もできる服の開発が進んでる以上、もうジャージはいらないんだよ!」

 

「はっ!他を犠牲にして機能性に極振ったジャージに、デザインも意識した服が敵うわけないだろうが!緩いんだよ妥協している。そんな装備じゃ伝説級には無意味なんだよ!」

 

 

「「……………は?」」

 

 

「いいだろう、ポケモン勝負でケリをつけよう。公式戦に則ったオープンレベルの3vs3だ。異論は?」

 

「勝負はあまり好きじゃないんだけど……ボクに似ている外見でそんなことを言われるとイメージに関わる。

OK、決着をつけよう」

 

「いざ、尋常に――――」

 

 

いいかげんに――するったぁぁぁぁぁいっ!!!

 

 

――――バシィッッッッ!!!

 

 

 

 

***

 

 

 

 

……頭が痛い。あの野生児め、僕の身体能力が高いことを見越して全力でやりやがって……。

 

長きに渡る口論は、互いにハルカによって頭を叩かれるという結末に終わった。そして、それまでの会話によって最早彼が本当にこの世界におけるボクなのか自信がなくなってきた僕は、彼女の介入を良いことにとっと立ち去る事にした。

これまでの口論で何故かハルカは僕達が同一人物であると確信した様子だったが――女の勘だろうか。

 

 

「……信じられない。ジャージを崇め奉らないとか、アイツは本当にボクか――?」

 

 

先程の邂逅を通しての思いが唇の端から溢れた。たぶん、この世界のボクも同じように愚痴っているのではないのだろうか。だがこちらとは異なり、アイツには愚痴を零せるヤツがいる。あまり友人は欲しいとは思わない僕ではあるが、こういう時は羨ましく思う。

 

 

「おー、ユウキだー!こんな所で奇遇だね。なにやってんのー?」

 

「ああ、ハウか。いや、よく知っている筈だったヤツに出くわしてな。自分の友人の少なさを実感していた所だ」

 

 

自分を呼ぶ声に振り向くと、そこにはハウの姿があった。コニコシティから出てきたばかりの所だろう。ボールの外に出しているアシマリも、心体ともに万全である様子が伺えた。

 

そんなハウは、わりと本心から来た僕の言葉に対して笑って返す。

 

 

「なに今更なこと言ってるのー?」

 

 

――――反論が出来ない真理だった。

 

わずかに心に痛みが走る……だが、言われ慣れた言葉である。ここは年長者の威厳を見せて見逃してあげようと思う。

 

 

「ああ。だから正直すまないと思っているが…………八つ当たりさせてくれ」

 

 

嘘ではないのだ。

本当にさっきの発言に関して僕は何も思ったところはないのだ。

見逃しておくという言葉は本心からのものなのだ。

 

ただ単純に――不機嫌だから、誰とでもいいから戦わせて欲しいだけで。目と目があった誰かに苛立ちをぶつけたかっただけで。その上でたまたま声をかけてきたのがハウだっただけで。

彼には本当、一切の非はないのだ。

 

だからーーせめて終わった後で共にミヅキの大試練を見学できるよう、大量の回復薬と彼を引きずる縄を準備しようと決めた。

 

 

 





期間を開けてしまったせいで、書き方を思い出せず色々とアレな部分が……。

ここから前話の、ユウキがハウを引き摺ってくるというラストに繋がります。八つ当たりの対象にされた上に引き摺られた挙句結局間に合ってないハウは泣いていい。正直、彼には申し訳ないことをしたなぁと思う。



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壁は超えれないから壁と呼ぶ

…………お久しぶりです(超小声)



 

僕が戦いで手心を加えるのは、その方が面白いと思った場合のみである。単純な実力において、未だハウは僕の足元にも及ばない。

ただの蹂躙でしかないはずだった戦いーーなのに、意外な収穫があった。

 

ーーハウのやつ、もう戦い方(スタイル)を確定させたのか。

 

無意味に逆らって消耗しないようにあえて相手の流れに乗り、肝心な所で自分が主導権を握り流れを作るこの戦法は、格上殺し(ジャイアントキリング)に特化したものだ。

 

それは、今までハウが勝てないと思っていた絶対的強者に対する逆襲の戦法(スタイル)。勝利を諦めていた過去の自分との決別にほかならない。

 

島巡りで成長しているのはミヅキだけじゃない。改めてそれを実感し――

 

――ならもっと格上を見せてやろうと本気の一端を出して蹂躙した挙句、せめてひと目だけでもミヅキの大試練を観よう・観させようとハウを引き摺って命の遺跡へと走った。

……残念ながら間に合わなかったが。

 

それからはミヅキと少し話をして、ハウの大試練を見学した。

彼の闘い方(スタイル)は格上殺しだ。そのため、あえてレベルが低いポケモンを使い試練を課すというこの形式には決して向いているものではなかったが――奮闘の末に勝利を収めた。

 

そして、次は僕の番。

ではあるのだが………

 

 

「…………疲れているようだが、問題はあるか?」

 

「ははっ、まさか対戦者に心配されるなんてね。大丈夫、ライチさんはタフだからね」

 

「なら良い。疲労で全力を出せない、なんて事になれば面白くないからな」

 

 

僕の言葉に、ライチは薄く笑う。なにやら意味深だが、観察した感じ特に問題はない。意味深なだけだ。

 

なら問題ないと自己完結。腰元のボールを手に取った。戦闘用のそれへと切り替えられた意識を眼前へと向け――

 

 

「じゃあ、始めようか。ライチさんが使うのは、ハードでタフないわタイプ。

君のヤワなポケモンぐらい倒してやるから覚悟しなよ」

 

「……いわタイプのどこがハードでタフなんだ?寝言は技の命中率と自身の耐性を増やしてからほざいてみろ」

 

 

――宣誓と共にボールを投げた。

 

 

「行くよ、ジーランス!」

 

「出ろ、バシャーモ」

 

 

些か唐突であるものの、試合は開始された。こちらのバシャーモに対し、相手が繰り出したのはジーランスだ。

物理耐久力に優れ、攻撃技にも恵まれているポケモンではあるものの、経験値が少なくレベルが低い。手加減は必須だなと思いつつ、

 

 

「もっと先へ――進化を超えろ(メガシンカ)

 

 

即座にメガシンカを行う。

()の意向を受けて瞬時に終了した演出に風情など存在しないが、元よりこれは戦闘である。そんな長すぎる隙を放置する筈もない。

 

真紅の紅蓮を宿したメガバシャーモは、己の力を誇示するかのように高らかに吠えた。

 

 

「メガシンカ――まさか、島巡りをしてるトレーナーがそんなレアなモノを見せてくるなんてね。驚いたよ、さすがは異世界のトレーナーってとこかな」

 

「…………まあ、な。この力は()()習得したんだが、能力の上がり幅が非常に大きいうえ、ポケモンへの負担も尋常じゃない。だがそれでも、スペックという一点()()なら優秀だ」

 

「おや?『だけ』とは、意外とマイナスイメージなんだね」

 

「一部ポケモンは図鑑の説明文に問題がありすぎる。あと、スペックが劇的に向上したことに体が対応できず、繊細な動きに難が出るようになった。力だけのゴリ押しは、あまり好みじゃない」

 

「なるほど、メガシンカってのも一長一短なんだね」

 

「ああ――雑談はこれまでだ。行くぞ」

 

 

この雑談でメガバシャーモの素早さランクが一段階上昇(特性:加速)していた。正直ちょっとアレかなと思う気持ちもあるが、先に話してきたのはあちらである。《加速》持ちなことを知っているか否かは定かではないが、前者なら己の油断を、後者なら己の無知を、悔やみながら負けるがいい。

 

 

「――蹴り穿て、メガバシャーモ」

 

 

飛び膝蹴り。威力130に加えて、メガバシャーモの高い攻撃力(種族値:160)によって放った超火力の一撃ではあるが、物理耐久が極めて高いジーランスは大きなダメージを受けながらもそれを耐える。

削れたのは2/3くらいか?半分以上であればそれで良い。元よりジーランスは《頑丈》持ちだ。一回分の行動保証があるのは変わりない。

 

 

「――――あくびっ!!」

 

 

そしてジーランスは、反撃を繰り出した。欠伸――相手を次のターンには眠らせる、流し技の最高峰である。これを避けるためには、不眠を始め眠らない特性を持つポケモンを繰り出すか、カゴの実などの道具をあらかじめ持たせておく必要がある。

だが、メガバシャーモは持ち物が既に割れている(対応メガストーン)上、特性もこの状況には無意味だ。ライチほどの実力者なら、このターンが終了した直後メガバシャーモが速度を増したことで、加速持ちであることは特定出来ただろう。

 

である以上、継続に意味はない。

ここは交代一択――だが、タダで引き下がるつもりはない。

 

 

「バトンタッチだ。行くぞメタグロス」

 

 

バシャーモの素早さランクを引き継いで表れたのは、火力と耐久力を併せ持つ鋼鉄の城である。今回はそれに速さも加わったパーフェクトメタグロス(仮)だ。素直にメガシンカすれば良いのにとか言わない。そもそも出来ないが。

 

 

「ステルスロック!」

 

 

交代によって生まれた隙に、ライチはステルスロックを撒く。

ハチマキ・頑丈・化けの皮潰しになり、単に繰り返し利用可能なダメージソースにもなる優秀な技だ。岩技で最も厄介な技は何か、と問われたら僕はこの技を答えるだろう。

 

一回分の行動保証でステロを撒き、あくびで交代を強制・相手の手持ちの情報を得る・後続の起点作りが出来るジーランスが初手か。

 

よくもまあ、やってくれた。

だが、惜しむべきは。

 

 

「じしん――狙い打て」

 

 

ホウエン原産ポケモンなら飽きる程に相手してきたため、メタグロスの頭脳があれば急所に必中できるという事くらいか。

 

タイプ不一致のじしんは、ジーランスの耐久なら一撃は耐えただろう。だが、急所に当たったことでHPは残らず消し飛び、ジーランスは瀕死へと陥った。

 

 

「っ――やるね!だけど、次はどうかな」

 

 

表れたのはメレシー。岩・フェアリーという珍しい複合タイプ持ちで、防御・特防がレジスチル並に高い反面、他の能力は軒並み低い。岩タイプにしては多くの変化技を覚えるポケモンだ。特性はクリアボディか頑丈の二択。どちらも悪くない特性だが、僕なら後者を取る。何故ならば、

 

 

「バレットパンチ!」

 

「耐えてトリックルーム!」

 

 

一回分の行動保証があるからだ。

4倍弱点である鋼技は体力の貧弱さも相まって本来なら1発食らうだけで致命傷。ましてやタイプ一致のメタグロス(鋼ポケモン)である。クリアボディならここで終わっている。

 

だが、頑丈(夢特性)だ。故に耐えきったメレシーは時空の歪んだ世界(トリックルーム)を作り上げる。

厄介な、と軽く舌打ち。手持ちのアタッカーは基本的に素早さが高い上、岩タイプは大体鈍足だ。トリルが貼られた以上、素早さで勝るこちらが遅くなるのは確定しており、

 

 

トドメ(バレットパンチ)だ」

 

 

それでも変わらないもの(優先度+1)がある。相手も先制技を繰り出してきた場合は分からないが、それでもこの時ばかりはこちらに分があった。

 

 

「――ッ!なら、この子ならどう!?」

 

 

――ライチはゴローニャ(Rフォルム)を繰り出した。

 

攻撃防御が高く、特攻特防が低い典型的な岩タイプのポケモンである。この辺はゴローニャの原種と大差はない。

違うのはタイプと特性だ。地面を捨てて電気を得たRゴローニャは、弱点となるタイプが単純に半分になった反面、棄てられた怨みとばかりに地面が4倍弱点になっている。サブウェポンとして地震を積むポケモンは多いので、特性はそれをケアできる頑丈か、もしくは

 

 

「代われ、ネンドール!」

 

「大爆発――しまった!」

 

 

夢特性のどちらかだ。

 

そう、Rゴローニャの夢特性はエレキスキン。ノーマルタイプの技を電気タイプに変更させ、威力を1.2倍にする強力な特性だ。その上で、持ち物であるこだわりハチマキが命を賭した一撃(大爆発)の威力を底上げする。

その合計火力はキチガイ級。かつて行われた理論上最高火力打ち合いには(レベルと能力ランク的に)及ばないが、それでも比較対象に出来るという時点で異常であることは明白だろう。

 

ネンドール(電気技無効)でなければ他のどの手持ちでも確一だった……そんな一撃を防ぎきったことに僅かに安堵する。素早さの能力ランクは失ったが、些細なことだ。

 

 

「あの一撃を防ぐとはね……さすが、と言っておくわ」

 

「代名詞だろう、ゴローニャの。確かに大爆発は強力ではあるが、手持ちの全容もわかっていない前半戦で使う技ではない」

 

 

デメリットのある技――特に、電気タイプを始めひとつでも無効にされるタイプがある場合、相手の手持ちが大体公開されるのを待ってからにするべきだった。でなければ思わぬ伏兵によって無効化され、大きな代償を払う他なくなってしまう。

ライチ程のトレーナーがそれを分からない訳がない。想像される可能性として最も高いのは、

 

 

「――そんなに()()()()()()()か?」

 

「…………さて、ね。行くよダイノーズ!」

 

 

メタグロスの処理は重いのか――僕の追求を誤魔化して、ライチはダイノーズを繰り出す。だが、そのダイノーズは今まで出てきたポケモンに比べると明らかに威圧感が小さすぎて、まるで孵化したてのように感じられる。

 

Lv.2ダイノーズによる低レベル戦闘か。上手くハマれば確かに強いが、それは一手間違えると何も出来ずに敗北するリスクも抱えている。

育成型トレーナーである僕には生理的嫌悪が先に立つ戦法だ。レベル1とか2とかの育成仕切ってないポケモンを出すとか、「レベル高くて調子乗ってる奴等に現実を教えてやれ」といった依頼をされない限り嫌だ。前言ったココドラwith貝殻の鈴も、可能な限りやりたくはない。

そんな僕の思いを余所に、ライチはダイノーズに指示を出す。

 

 

「手始めに――みがわり!」

 

「大爆発」

 

 

トリルの影響で先制を取ったダイノーズが極々僅かなHPを削って生み出した身代わりは、ほんの1秒と保たずに大爆発に巻き込まれて消滅した。

代償としてネンドールは瀕死になったが――なに、いつものことだ。交代と共にダメージを与える一石二鳥。そろそろなつき度がヤバいかも知れない。

 

 

「出ろ、メガバシャーモ」

 

 

そんな考えは一瞬で忘却した。

そして、無償降臨したメガバシャーモが次に繰り出す技なんて、とっくに決まっていた。

 

 

「いたみわけ!」

 

「にどげり」

 

 

いたみわけによってメガバシャーモのHPが半分近く吹き飛び、ダイノーズのHPが全回するが、それは大した問題でもない。

にどげり――一撃目がダイノーズのHPを消し飛ばして頑丈を発動させ、2撃雀の涙のような体力を粉砕した。普通に攻撃を撃つと瀕死を通り越して死んでしまうので、あくまで加減はしたが。

 

あまりに脆弱なダイノーズを余所にメガバシャーモの様子を見ると、HPが半分を割っていた。ダイノーズの持ち物だったゴツゴツメットの影響だろう。

とはいえこれで4:1。終わりが見えてきた。ライチの最後のポケモンはなんだろうか。

 

 

「やるね!でもこれが最後の1匹――行くよ、ルガルガンッ!!」

 

 

真夜中の姿のルガルガン。それがライチの切り札だった。

それを繰り出したと同時に、トリックルームが効果を失い元の時空へと戻る。

 

ここから先は僕のターンだ。

メガバシャーモに指示を出す。

 

 

「とびひざげり――トドメを!」

 

「やらせるかっ!!これがあたし達のゼンリョク――――ラジアルエッジストォォォムッ!!」

 

 

高く、高く、高く、高く、どこまでも高く。

にどげりのPPが尽きるまでの30段ジャンプの果てに得た最大のエネルギー(ゼンリョク)と、ルガルガンの専用Zワザ(ゼンリョク)がぶつかり合う。

 

拮抗の果てに、勝利したのは――

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()メガバシャーモ。

 

 

両方の手首から溢れんばかりの炎をブースターに、音を超えた反動でダメージを受けるほど加速したメガバシャーモが突撃する。

地にて構えるはルガルガン。飛び散った岩の破片で出来た傷などなんてことないように、真正面から迎え撃つ。

 

 

「「――行けぇぇぇぇっ!!」」

 

 

――そして、

 

――――メガバシャーモの攻撃が、

 

――――――ルガルガンに直撃し――

 

 

 

…………直撃、し………

 

 

 

 

……………………なかった。

 

 

 

 

メガバシャーモの攻撃は外れた。

メガバシャーモは反動のダメージを受けた。

メガバシャーモは倒れた。

 

 

「「………………は?」」

 

 

全く同じ驚愕が重なって、一瞬皆の思考に空白が出来た。

困惑に染まった思考の片隅で、僕は戦闘開始直後の会話を思い出す。

 

 

『スペックという一点()()なら優秀だ』

 

『繊細な動きに難が出るようになった』

 

 

…………ああ、そう考えると想定は出来た筈だったのだ。スペックの違いに戸惑っている状態で慣れない全力を出せばどうなるかなんて、予想して然るべきだったのに。

 

命中率90%という壁。

嘗て克服した筈だった、10%の確率が僕の邪魔をする。

 

あまりと言ってはあまりなその情けなさで『いつも通り』を取り戻した僕は、即座にメガバシャーモをボールに戻し、最後となるポケモンを繰り出した。

 

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ」

 

「え、あっ、ちょっ――――」

 

 

不本意ではあるが、不意を突いた攻撃にライチは反応出来なかった。

ミロカロスのハイドロポンプ(命中率80%)はちゃんと命中し、ゼンリョクのぶつかり合いによって疲労していたルガルガンはそれを耐えきれなかった。

 

 

「勝った……勝って、しまった…………」

 

 

そして得たぐたぐたな勝利には。

さすがの僕も、どう勝鬨を挙げればいいか判断に困った。

 

 

 

 



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ロッククライム(物理)

新年のお慶びを申し上げます
……前々話の前書きでこのセリフ言ったような(殴

1/21
めざパの計算ミスってたので修正しました。

2/18
カプ・テテフの分類を間違えていたので修正しました。


 ……これで島巡りも折り返し、か。

 

 大試練を達成したことに大した感慨も抱かないまま、ただ漠然とそう思う。

 手に入れたイワZを掌で弄ぶように転がす。バトル自体はまあ、悪くはなかった――求めるレベルとは程遠いだけで。溜まりに溜まったフラストレーションが僕を苛んだ。

 

 ――何故全力を出せない?

 ――何故お前たちはそんなにも弱い?

 

 ため息を一つ。

 なに考えているんだ僕は。それは最初から理解していることだろうに。

 アローラは閉塞している。外部の者を拒む環境に、それを是とする大多数の住人。加えてZワザという強力な力がある以上、それ以外に頼るという発想が欠けている。だから厳密には弱いのではなく、止まっているのだろう。

 

 ……その環境を改善しようともしていない()が、我が物顔で言うセリフではないが。加えて言うなら、その状況下に不満を持つべきでもない。

 それはククイを始め、問題に真摯に取り組んだ者だけが言える言葉だ。

 

 ――ん?

 

 考えに耽っていた僕の視界に、金髪の少女が紛れ込んだ。

 リーリエだ。彼女はここで見るべきものは見終わったかのようにほしぐも(コスモッグ)を鞄のなかに入れ、帰る準備を始めている。

 

「……遺跡の探索はどうした?」

 

 聞いてみると、どうやら大試練の連続によってそのことを忘れていたらしい。

 ため息を吐きたくなる気持ちをぐっと堪え、僕はライチに遺跡の見学許可を取り付ける。すると、案外あっさり許可が下りた。そもそも、命の遺跡は一般に公開されており、わざわざ許可をとる必要などないとのこと。その時に彼女が見せた意味深な笑みが気になったが……それは置いておこう。

 

「話によると、カプ・テテフさんは()()()()で、気に入られてしまうととんでもないことが起きてしまうとのことでした。気を付けないといけませんね……」

 

「ああ。性格補正無(きまぐれ)よりも、素早さ↑・攻撃↓(おくびょう)特攻↑・攻撃↓(ひかえめ)であって欲しい」

 

「ふふ、ユウキさんでもとんでもないことは避けたい(そう思う)んですね。少し意外です」

 

「ここで失敗したら致命的なんだ。限りなく理想に近いのに、性格(その)一点だけでやり直しになるからな……」

 

 本当に、()()()()は折れそうになる。今でこそ多彩な道具*1を使って簡単に理想個体を作れるが、僕が旅を始めた頃は非常に敷居が高かった。具体的には個体値。無難に5Vor6Vにするとしてもまずそこまでが遠すぎるし、特殊型だと"めざめるパワー"を考慮する必要がある。この世界では威力が60に固定されているが、元の世界では個体値によって威力も変化する*2ため、調整がシビアだったのだ。しかも高個体値とめざパの両立ができたとしても、能力値は6Vに届かない。素早さが1違うだけで上を取られる以上、この差は非常に大きなものになる。

 いまでこそ"すごいとっくん"がメジャーなものとなっているが、当時は可能な人が極々僅かだからなぁ……。僕は探すのが面倒で自力習得したクチだ。

 

 そして、基準に満たなかったポケモンをどうするかも考えなけえればならない。そのまま逃がすと場合によっては環境が変化し、生存競争に敗れたポケモンの生息地が変わってしまう。そのポケモンや、努力値の効率的な取得場所を求める廃人連中からのフルボッコは避けられない。僕の場合は初心者用ポケモンとしてあちこちに配布したり、ポケモン大好きクラブに渡したりしていたが、それも限界はある。

 

 本当に、本当に、心が折れる作業だったんだ…………!!

 

「……どうしてでしょうか。話がかみ合っていない気がします」

 

 それは僕も思った。

 が、その辺を一々気にしてはいたら日が暮れてしまう。というか、既に傾いている。1日で3回も大試練を行った以上当然といえばそうなのだが。夜道はなるべく避けたい。僕は夜目が効くし、ポケモンの出現率が変更するため、一人であれば一切頓着せずに移動するのだが……今はリーリエがいる。危険な行為は控えるべきだ。

 リーリエの発言に曖昧な表情を浮かべつつ、僕たちは命の遺跡の中へ入っていった。

 

 


 

 

「すごく……大きいです」

「その発言は色々マズイ。だが確かに……デカいな」

 

 具体的には――岩が。

 命の遺跡に入った僕たちを待ち受けていたのは、一切のポケモンが存在せず、人工的に作られたであろう巨岩が行く手を阻む石造りの橋だった。数tはあるだろう岩が点在するのに石橋にはまったく影響がないあたり、これを作った古のアローラの住人は余程優れた技術力を有していたのだろう。

 

「見事な岩だ。色々と感じ入るものがある」

 

「はい!以前読んだ雑誌には、こんな大きい岩でも"かいりき"で移動させられるとあったので、ポケモンって本当に凄いですよね!」

 

「は?」

 

 え、マジで?

 軽く調べてみると、なるほど確かに、固定されているわけではなさそうだ。

 いや、でも、え、マジか。

 世界の違いって、こんなところにまで出てくるんだな……*3

 

「困りました。"かいりき"のライドギアを持ってない以上、私たちはここを通れないですし、諦めるしかないですね……あれ、ユウキさん?」

 

「どうした?」

 

「その…手に持っているものは何ですか?」

 

「あなぬけのヒモにねばりの鉤爪を括りつけたもの*4だな」

 

「なるほど。ちなみに、使用用途は?」

 

「ロッククライミング」

 

秘伝技(ロッククライム)ではなく?」

 

自力で登る(オリジナルの方)に決まっているだろ?」

 

 その答えを返すと、リーリエは完全にフリーズした。手を振ってみても何ら反応を示さない。主人の異常事態を察したのか、カバンのなかでコスモッグ(ほしぐも)がガタゴト動く。それで意識を取り戻した彼女は、既に鉤爪を岩にひっかけて強度を確かめている*5僕を見て、うっすらと笑みを浮かべた。

 

 その笑みを見て僕は―――覚悟が決まったんだと思い、もう一つのロープを渡す。

 

「ちがいます!わたしはユウキさんみたく特殊な訓練を受けた逸般人じゃないので、こういった肉体労働は専門外なんです!」

 

訓練を受けてない一般人(ミヅキ)でも出来たぞ?」

 

「ユウキさんに目を付けられる時点で一般人って嘘ですよね!?」

 

「まさか。(マサラタウン基準なら)一般人だ。(頂点(レッド)と比べたら)特に秀でてるわけでもない」

 

「一般人とはいったい何なんでしょうか……」

 

 隠している部分が多すぎて詐欺に近いが、まあ、あの町出身なら多少優秀レベルに収まるだろう。レッド・グリーンは当然として、オーキド博士も頭がおかしい。現役時代――つまりは黎明期、モンスターボールがないからという理由で瀕死になったポケモンを()()()()()()ポケモンセンターまで連れて行った伝説をもつ男だ。端的に言って化け物。

 

 身体能力をポケモンの強さで例えるなら、僕はケッキング――それも、特性が封印された出勤王(シュッキング)だ。伝説に匹敵する能力値の暴力*6はまさに圧巻と言っていいだろう。立ちふさがる敵を真正面から粉砕できる一般ポケモンの最高峰。それが僕だ。

 

 で、レッド・グリーン・オーキド博士はゲンシグラードンやゲンシカイオーガ、メガレックウザだ。住む世界が違う*7。まあ、この世界もそうだとは限らないが……あいつらが弱いなんて想像がつかない。

 

 見たところリーリエはコイキング*8である。雑魚だ。強くなるためには進化(がんばリーリエ)しなければならない。これはそのための経験値稼ぎだ。

 

「気張れよ。落ちても問題ないように下で待っててやる」

 

 そう告げると、彼女は途端にスカートを抑えて後ろへ下がる。表情には明確な怯えが含まれていた。

 

「あの、わたしスカートなんですけど……」

 

「で?」

 

年下の女の子の下着見たいならそう言っていただけますか?

 

僕はロリコンじゃない

 

 結局、ポケモンに乗って(リザードン:フライト)乗り越えることになった。

 

 


 

 

 最深部はやや大きな部屋になっていた。不思議な置物や模様付きの石があちこちに置かれており、神秘的なイメージを醸し出している。

 そして、一段高い場所にある高台には――

 

「カプ・テテフさんはいらっしゃらないみたいですね」

 

「ぴゅいっ!」

 

 ――不思議な石像があるだけだった。

 こちらと微妙に距離を置きつつ、リーリエは言う。嫌われたものだ。冒険へ出るにあたりスカートを履いているほうが悪いだろうに。

 

 そんな彼女の発言を聞いて何か思ったのか、コスモッグ(ほしぐも)がカバンから飛び出し、石像の方へと飛んで行く。

 

「あっ、ほしぐもちゃん!」

 

 リーリエが声をかけても止まらない。コスモッグは瞬く間に石像に到達すると、ぴゅいぴゅいと鳴き声をあげた。まるで、何かに呼びかけるように。

 

 そこではじめて気付いた。あれはただの石像じゃない。思えば、イッシュにも似たようなものがあった。古代の城周辺にあった石像――夢特性(ダルマモード)のヒヒダルマ*9だ。そういった先入観を持ってみると、確かにかすかな違和感を感じる。

 

「試してみるか。ネンドール、だいばくはつ

 

「――え?」

 

 先制攻撃だ。ネンドールが出現すると同時に大爆発を指示。ネンドールは色々諦めた雰囲気を醸し出しながらも、爆発へのカウントダウンを()()()()()始める。

 さあ、早くしないとお前の住処が滅茶苦茶になるぞ?

 

 

足元が 不思議な感じに なった!

 

 

 極光が走る

 ムーンフォースだ、と認識するのに一瞬の時間を必要とした。恐るべきはその火力。流石は守り神(準伝説)。一般ポケモンでは到底届かない、月を宿した極光。とはいえ、耐久特化のネンドールを瀕死にするには遥かに不足している。不意打ちの攻撃を受けたことで爆発のカウントは停止したが、些細なことだ。元から放つつもりはあんまりないのだし。

 

 石像があった場所を見ると、そこにはピンクのポケモンが浮かんでいた。

 とちがみポケモン、カプ・テテフ。エスパー・フェアリーで特性はサイコメーカー。素の特攻が高い上、サイコフィールド下での一致エスパー技は単純計算で威力2.25倍と高い火力を誇る。

 

 ゴクリ、と唾液を呑み込んだ音が聞こえる。人目でわかった。これをただのポケモンと侮ったら即死する。それどころか、並の準伝説と比較することすら致命傷だ。なぜなら相手は数百年前からアローラを護り続けたポケモン。築いた時間の長さは経験値に直結する。数百年もの時間があれば、育成上限(レベル100)へ到達していることに疑いの余地はないだろう。

 

 それでも、所詮は野生のポケモンでしかない。

 強いだけのポケモンに、僕が負けるなどありえない。

 

「交代、メタグロス」

 

 ポケモントレーナーとしての利点を行使する。

 カプ・テテフが天敵とするポケモンは鋼タイプだ。僕のパーティではメタグロスがその役割を担っている。一致技が唯一等倍以上で通じない上、向こうからは弱点を突かれるという相性の悪さ。こういった場面で交代が出来ないのが野生のポケモンの弱いところだ。メタを張られると打開できない。こうなると強引に力技で突破するしか手がないが――それを許す僕ではない。

 

「コメットパンチ」

 

 必敗の運命への微かな抵抗としてムーンフォースを打ってくるが、無意味。彗星(コメット)の如き(パンチ)が急所へと突き刺さり――勢いを止めることなく壁に激突する。逃げ場がない状態。それでもメタグロスには一切の容赦がない。スーパーコンピューターを凌駕する頭脳をただ戦闘のためにフル稼働させて拳を放つ。決して油断しない。一手一手確実に可能性を潰していく。

 

 カプ・テテフも反撃しようとはしているが、起点のことごとくを予測・対処されている。ゲームによくあることだが、至近距離では魔法を唱えるよりも物理で殴ったほうが速い。それと同じことだ。特殊技は遠距離から攻撃できるが、放つまでにほんのわずかなラグがある。普通なら特に気にするまでもないが、ミリ秒単位でシミュレーションを繰り返すメタグロスを相手にするには分が悪い。

 攻撃の起点を潰され、一方的に攻撃を受け続け、サイコフィールドも切れた頃、漸くカプ・テテフは倒れた。

 

 勝負は決まった。僕はボロボロになったカプ・テテフの頭をむんずと掴みあげる。想定よりも重症だ。瀕死を通り越して死亡寸前。コヒューコヒューとかすかに響く呼吸音だけが生きていることの証明する。うん、生きているのなら問題ない。

 

 かすかに空いた口元に、元気の塊を詰め込む。

 即座に蘇ったカプ・テテフは、敵意を込めたまなざしでこちらを見た。

 

 

足元が 不思議な感じに

 

 

「ストップ。僕にこれ以上攻撃するつもりはない。この島の未来について話しに来たんだ。

……とはいえ僕がトレーナーである以上、勝負するつもりなら受けて立つ。ちなみに元気の塊の在庫はまだ残っているぞ」

 

 

――ならなかった!

 

 

*1
かわらずの石で性格が固定。パワー系アイテムで対応する個体値が確定で遺伝。赤い糸で両親から5つの個体値がランダムに遺伝する

*2
30~70。一応全タイプで威力70にも出来るが、タイプ調整と威力調整を両方ともこなすのは中々心が折れる

*3
正確には第5世代のイッシュ地方から

*4
あなぬけのヒモは体に巻き付けることで洞窟から脱出できるアイテム。普通のロープとして使うこともできる。ねばりのかぎづめはバインド状態を最大まで持続させる効果。持ち物枠を圧迫してまで使う者は殆どいないが、こちらも普通の鉤爪としては使える

*5
危険な行為をするときは、安全確認をしっかりしましょう

*6
種族値合計670。一般ポケモンとしては断トツでトップ。伝説と比較すると、キュレムより高くレジギガス・グラードン・カイオーガと同じ。バケモノではあるのだが、レジギガスと同格と言われると途端にそうでもないように思えてしまう

*7
種族値合計770or780。種族値だけでなく特性も優秀で、禁止級アリのルールなら間違いなくこの三体のうち一体はパーティに入っている

*8
雑魚の代名詞。種族値は下から数えて同率9位。覚える技はわずか4種類で、タイプ一致技に至っては0。弱い。某実況者の動画に、色違いのコイキング1匹のみでホウエン地方殿堂入りを果たす「金鯱の逆鱗」という動画があるので、観てない人はぜひ(露骨な宣伝)!リアルに泣きそうになった

*9
体力が半分以下になるとフォルムチェンジする。種族値が高速物理アタッカーから特殊耐久向きに変わる面白い特性だが、面白いだけで使い勝手は悪い



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エロは世界を救う


……お久しぶりです(小声)



 

「ていっ!」

 

 おおきくふりかぶる。軸足を安定させることでタメを生み出し、高く掲げた足が力を生む。強靭な足腰は安定した土台となり、上半身が鮮やかに躍動する。強く地面を押し込むと、力を一切のラグなく伝達した。関節を経由するごとに体のバランスが崩れない僅か数ミリ動かすことで威力を増幅させ、やがては指の先端へ。

 理想的な投球フォーム。マッハ1.2という超高速で投擲された()()()()()は音の壁に真正面から衝突し、中身を飛び散らせながら蒼穹を駆ける。

 

 ここはアーカラ島のハノハノビ-チ。大試練が終わった後ザオボーさんがお礼に特別な場所に連れて行ってくれるとのことで、期待して合流場所に向かったのだ。でもまだ準備が出来ていなかったらしく、私はここで暇つぶしにナマコブシ投げのアルバイトを受けている。

 私はマサラタウンの出身だから、当然イシツブテ投げの経験がある。最後の方ではゴローンも投げていた位にはプロ級だ。そこで培った経験を活かせるうえ、給料も高い理想的なバイト。お金なくなったらまた来よっかな。

 

 それにしても、暫くやってなかったせいでブランクが酷い。全盛期はもうちょっと速度出たし、コントロールも良かった。イメージした自分通りの動きがなかなかうまくいかない。

 

「すこし肩が痛いかな……」

 

 全力でナマコブシを投げていたら、少し痛みが走った。軽く肩を回して痛みを紛らわせる。イシツブテ投げと同じ要領でやるには、1.2kgはあまりに軽すぎた。せめて20kgくらいの重さは欲しい。あまりに大きすぎる違和感を解消しようとしてどこかに無理が出たのだろう。今のところ問題はないけれど、あまり長く続けると負荷がかかり過ぎる。別に速度にロマンを追い求めているわけでもない。軽く気配を探ると残りは2匹。2~3割程度の力で流そう。それくらいでもナマコブシを遠くまで投げるには十分で、大きな負担もかからない。

 

 ……まあ、もし肩が壊れても1週間かそこらで復活するから別に良いんだけど。

 

 ユウキさんは、マサラ人が超人とされているのはこの回復力にあると言っていた。回復力が高いから傷ついてもすぐ復活するし、超回復によって強靭になる。回復力が最も高い幼少期にイシツブテ投げを行うことで、遊ぶ→体が傷つく→超回復する→強靭になる→遊ぶ、というループが完成し、マサラ人という超生命体が完成する、と。

 

 最終的にはイシツブテを軽く感じ、更なる重さを求めてゴローンを投げる()もいるくらいだ。流石に私の世代ではなかったけど、オーキド博士曰くもう少し前の世代ではゴローニャを使った人が三人もいたらしい。絶対レッドさん・グリーンさん・ブルーさんだ。もうちょっと容赦してください先輩。

 子供を強く育てたいのならイシツブテ投げをさせると良い。イシツブテ投げをしたいならマサラタウンに行くと良い。つまり、強くなりたいならマサラタウンに行けば良いのだ。これで君も立派なマサラ人!キャッチコピーにすれば人も増える……増えない?むしろ全力で距離をとられそう。

 

 そんな益体もないことを考えていると、不意に遠くから悲鳴が聞こえた。

 

 

きゃぁぁぁぁぁっ!

 

 

 さて、今の悲鳴について考えてみよう。

 ポケモンに襲われた?ナンパが強硬手段に出た?砂に足を取られて転んだ?

 それなら良い。いや別に良くはないけれど、それは私の知ったことじゃない。もしナマコブシを踏んでしまって『とびだすなかみ』が発動してしまったとしたら?それによって何らかのダメージを受けてしまったとしたら?それは駆除のバイトを受けていた私の不始末だ。

 何にせよ、現場を見ないとどうしようもない。靴が砂に入り込むのも気にせず悲鳴が聞こえた先に向かう。

 

 

 


 

 

 

「うわ、えっちぃ」

 

 向かった先で、思わずつぶやいた。

 だって、黒いビキニ姿でスタイルが抜群で超巨乳な美少女がなんかヌルヌルした液体を被っている姿をみたら誰もがそう思うに決まっている。ここが人気のない場所であるのが幸いした。周りには私以外に誰もいない。良かった、目潰しする必要はなさそう。

 

 そばには瀕死状態のナマコブシの姿がある。おそらくはナマコブシの白いブツ*1と一緒に出てきた体液*2を被ってドロドロ*3になってしまったと思われる。

 予想が当たってしまったことに舌打ちしたい気持ちを堪える。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 『とびだすなかみ』によってケガしていないかの確認をとる。見た感じ物理的なダメージは負ってなさそうだけど、万が一の可能性を考慮すると放ってはおけない。ポケモンの技や特性が人体に与える影響は未知数だ。ナマコブシの体液に未知の病原菌が入っていたら目も当てられない。

 

 私が声をかけると、彼女はすぐにこちらに気付いた。

 

「わたしは大丈夫だけど、この子が!今にも倒れちゃいそうだったのに、わたし、それに気づかずに踏んじゃって……。元気の欠片も今は持ってないし……。お願い、助けてください!」

 

 この子――とは、彼女がいま抱えているナマコブシのことだろうか。元気の欠片は大量に買い込んでいるので、1つくらい別に大した消費じゃない。お値段たった1,500円!前言撤回、ちょっと高い。

 運が良かったなこのエロポケモン。心の中で呟きながら元気の欠片を与えると、ナマコブシは即座に復活した。

 

「良かった……!ありがとうございます!」

 

 エロポケモンに欠片を与えてやっただけの私に輝かしい笑顔でお礼を言い、ナマコブシに「今度は気を付けるんだよ」と声をかけて優しく海に返す少女――なんだただの天使か。

 ユウキさんの地獄の訓練やこれまでの一人旅で荒んだ心が癒されていくのがわかる。ああ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。

 

 でも、私は彼女に現実を突きつけなければならない。バッグから手鏡を取り出す。突然の行動をきょとんとしながら見ていた少女だったが、手鏡に映った自分を見た瞬間に表情が固まった。と思ったら顔が真っ赤に染まる。数瞬フリーズしていた彼女だったが、慌てて腰元のホルダーからボールを取り出した。

 

「ダイケンキ、すっごい弱めのハイドロポンプ!」

 

 そして表れた()()()()()が、少女の白濁を洗い流す。

 

 ……ふーん。

 近くに海があるならそれを使えばいいと思うのだが、彼女にとっては自分のポケモンの方が身近な存在らしい。ポケモンとの深い信頼関係が垣間見える場面。先ほどの一件からしても、彼女のポケモンに対する愛情が感じられる。手持ちのポケモンはきっと幸せなんだろうなと思って、

 

 はじめて、彼女の姿を見た。

 

 

 

「……ぇ?」

 

 

 

 思わず声が漏れる。

 どうして気付かなかったのだろう。

 彼女はカントーにいた頃からずっと憧れていた、画面の向こう側の登場人物。すべてのトレーナーの中でもトップクラスの成功者。

 

 

 曰く、ポケモンを支配しようとした悪の組織『プラズマ団』残党を壊滅。

 曰く、街の町長となり、設立されたばかりの街で著しい経済成長を成し遂げた。

 曰く、ポケウッドにおけるトップ女優で、不動の頂点の座を勝ち取った。

 曰く、全国の超一流トレーナーが集まるPWT(ポケモン・ワールド・トーナメント)での優勝経験者。

 曰く、曰く、曰く、曰く……無数の偉業を成し遂げた少女。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 今を生きる伝説がそこにいた。

 

 

 


 

 

 

 白と黒。

 2つの光が螺旋のように絡み合い、蒼穹を駆ける姿が見えた。

 

『……メイ?どうしたの?』

「ううん、なんでもないよ!ちょっと意外なものを見つけただけ」

『意外なもの?なんだろう。今アローラにいるんだったよね。うーん、想像つかないや』

「ふふっ。わたしも、なんでここに!?って感じになったから、想像つかなくて当たり前だよ。というか、わたしも昔のことがなきゃわかんなかったし」

 

 本当に、なんでここに!?って感じ。

 わたしにチャンピオンを任せておいて、自分は好きな人と世界旅行とか。すっごい羨ましい。

 

『うーん、気になるなぁ』

「ふふっ。次会う時にいっぱい話すから、今は秘密だよ」

『楽しみにしとくよ。

 それにしても、昔のメイか。以前お母さんの方から写真を見せて貰ったけど、とっても可愛かったよ』

 

 何やってんのお母さん!?

 不意打ち気味に来た「可愛い」というセリフ。こういうセリフをナチュラルに吐くから心臓に悪い。ライブキャスターに写っている相手の顔を見るとわずかに赤くなっていた。自爆するくらいなら言わなければ良いのに。まったく。

 わたしも真っ赤になっちゃったけど、相手の顔も赤いからセーフ、なんてどうでもいい理屈を並べる。

 

()()()()!?うう…おだてたってなにも出さないからね!それに昔っていってもそんなちっちゃい頃じゃなくて、もっと最近のこと。テツくんと初めて会ってお話した頃かな」

『懐かしいな。あの時はどんな人がライブキャスターを拾ってくれたんだろうって緊張してたんだ』

「わたしもだよ。声の感じから同世代かなって思ってたけど、すっごいカッコよかったから驚いちゃった」

『えぇぇっ!?』

 

 やった!

 画面の隅でガッツポーズ。ふっふっふ、わたしをからかった仕返しだよ。わたしの顔は少し赤くなったけど、これは必要経費。テツくんの真っ赤になった顔が見えたからOK。

 昔のことといっても具体的には2~3年前。テツくんに会ったのはその一年くらい後のことだ。だからちょっとずれてるけど、黙っとこう。

 

 テツくんはテンマという名前で芸能活動をしている。

 ライモンシティの遊園地でわたしが拾ったライブキャスターの持ち主がテツくんだったのがきっかけで出会い、頻繁に話したり、一緒に遊園地に行く仲になった。最初はわたしもテツくんも自分の立場を隠してたんだけど、たまたま出席したイベントで"テンマ"くんと共演して、その時相手のことに気付いたんだ。

 

 

『と、ところで!メイって来月休みとかは――「テンマさん、そろそろお時間です!」ああもう!

 ……じゃあ、またね』

「うん、ばいばい」

 

 名残惜しい気持ちを押し殺してライブキャスターの通話を切ると、軽快な音と共にテツくんの姿が掻き消える。

 わたしはライブキャスターをデスクの上に置くと、ダブルサイズのベッドにぼふんっ!と飛び込んだ。最高級のベッドがわたしの体を包む。余波でベッド脇に置いていたモンスターボールが床に落ちると、抗議するかのようにガタガタと音を鳴らす。ごめんねダイケンキ。最高級のポケモンフード(水タイプ専用)あげるから許して。

 

 ここはアローラ地方アーカラ島。今回わたしが主演を務める映画は南国が舞台なので、ロケ地として選んだのがここアローラ地方なのだ。それに、この地方にも最近ポケモンリーグが完成するらしいから、イッシュチャンピオンとして興味があったという理由もある。撮影期間は来月の末までの2ヶ月間で、延長は出来ない。あんまり余裕がないのでほぼ缶詰だ。

 だから残念なことに、テツくんが来月誘ってくれてもわたしは遊びには行けないのだ。そのぶんライブキャスターで話すから良いんだけど。いや良くないけど、こればっかりはしかたない。

 

 窓から見える景色を除くと、そこには一面の海が広がっている。わたし達の取材の拠点はハノハノリゾートのホテルとなっており、リゾート内の風景が良く見えた。窓を開けると、潮の香りが漂ってきた。同じリゾートなのに、リゾートデザートの差が著しい。変な敗北感を感じてしまう。

 

 先程余裕がないと言っていたけど、わたしは今日撮影がないので一日中オフだ。台本は全部覚えてるから読み直す必要もない。だからのんびりと通話できたし、こうやってベッドぐだっとする余裕もある。

 とはいえ、せっかくリゾート地に来たのに丸一日をホテルで過ごすのもつまらない。ダイケンキのためにポケモンフードを買う必要もある。手早く水着に着替えると、念入りに日焼け止めを塗ってパーカーを羽織り、モンスターボールと諸々の必需品をいれた小型のポーチだけ持ってハルハノビーチへ向かう。

 

 


 

 

 ハルハノビーチは観光用に開発されているだけあって、サザナミタウンよりも綺麗な海が広がっていた。なるべく他の人から距離を取り、人気のない所を探す。海に行くから変装はできない。騒ぎになってしまうのを防ぐため、人目に付くのは防ぎたい。

 

 そして着いたのがビーチの最北端にぽっかりと空いたスペース。人気がないし、目に着きにくい理想的な場所。

 そこに遠慮なく陣取り、パーカーを脱ぐ。浜辺でゆっくりしたい気持ちもあるけど、今はひとまず泳ぎたい気分だった。

 軽く柔軟を済ませる。「撮影中に暇が出来たからってビーチに行ったら溺れた」なんて笑い話にもならない。ただでさえあんまり余裕がないスケジュールなので、他の人に迷惑をかける可能性は出来るだけ削りたい。

 

 そして。

 柔軟も終わり、さあ泳ごうと一歩踏み出して。

 

 

 

「ぶっし……(・大・)」

 

「えっ…?きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 ――――っ!?しまった!

 気付かなかった。まさか足元にナマコブシがいたなんて!

 

 踏みつけられたダメージで瀕死になったナマコブシは、口元から白い液体を吐き出して倒れてしまう。わたしそんなに重かったかな…なんて場違いな感慨が数瞬流れ、すぐに正気に戻った。

 手元にある小型ポーチを荒っぽい手つきで弄り、"元気の欠片"を探す。だけどいくら探してもみつからない。いつもは手の届くところにしまっているのに、どうして!?

 

「なんで――なんで見つからないの!?」

 

 疑問の声に応えてくれる人はいない。

 リゾート気分で最低限の必需品しかポーチに入れてなかった、という冷静に振り返ればわかることに気付くこともなく、だけど自分で打開することもできず、ただ慌てるばかり。

 しかも周囲に人がいないから助けを求めることもできない。当然だ。そういう場所を選んだのだから。

 自分の行動の悉くが悪条件に繋がっている。焦燥に駆られるわたしに、救いの声。

 

 

「――大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
拳型の内臓

*2
血とか唾液とかそういう類

*3
文字通りの意味



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空虚な少女と真顔の少女


サブタイ、『英雄になれなかった女の子』のどちらにするか悩みました。



「街の近くにプラズマ団残党を名乗る連中が「ジョインアベニューの今月の利益は先月に比べ4%増加「次に出演予定の映画なのですが調整が難航しており「ワールドトーナメントで優勝したお前を倒せば俺が世界一になれる「チャンピオンとしての責任を持って行動してください」

 

 いつからだろう。目の前の出来事に興味を抱かなくなったのは。

 いつからだろう。何もかもを事務的に熟すようになったのは。

 いつからだろう。胸の中に虚無が生まれ始めたのは。

 

 プラズマ団に出会った時?

 ポケウッドで主演を演じた時?

 観覧車イベントを無難にこなした時?

 ジョインアベニューの町長になった時?

 テツくんと会った時?

 PWTで優勝した時?

 

 違う。

 最初からだ。

 

 そもそもわたしにはやりたい事なんて特になかった。熱中してるものもない。幼馴染のシュウがタマゴからポケモンを育てる姿を見ていたにも関わらず、わたしは無関心なままだった。

 ポケモンを渡されたから旅を初めて、巻き込まれたからポケウッドに出演して、ティンと来たからってジョインアベニューの町長を任されて、周りからの突き上げが大きかったからPWTに参加しただけ。

 

 何一つ、自分の意思で動いたことがない。虚無で空虚で無価値。モノクロの世界で、流されるままに過ごしている、空っぽな人形がわたしだった。

 

 ああ、でも、そういえば。一つだけ、自分の意思で取り組もうとした事がある。

 プラズマ団の首領ゲーチス。彼は伝説のポケモンを電池にして、自分だけがポケモンを使える世界を作ろうとした。でも、そんなの間違ってる。止めなきゃいけない。

 そう思って乗り込んだジャイアントホール。なのに、わたしは何も出来なかった。

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 ジャイアントホールの奥底に辿り着いたわたしが見たのは、Nとゲーチスが語り合っている場面。いや、Nがゲーチスに必死に語りかけている場面と言った方が適切かな。

 だけどゲーチスはNの説得に耳を貸さず、伝説のポケモン『キュレム』を繰り出した。Nは理想を司る伝説のポケモン『ゼクロム』を繰り出したものの、キュレムに吸収されてしまった。

 

 わたしはキュレムに立ち向かったけど、まったく敵わなかった。元々自身が保有している伝説としての力に加え、吸収したゼクロムの力を暴力的に叩き込んでくるキュレムに、わたしのポケモン達は次々に倒れていき、遂には全滅してしまう。

 

 絶対絶命の場面。そこで表れたのは、真実を司る伝説のポケモン『レシラム』を所持している少女。当時イッシュチャンピオンの()()()()()だった。

 

 そこからはもう一方的だった。強化されたキュレムだけど、元々他者との関わりを断っていたうえゲーチスに電池として利用されたポケモンだ。全国の強いトレーナーと戦ってレベルアップしたレシラムと、イッシュ最強のトレーナーであるトウコさんのコンビには叶わない。

 キュレムもゲーチスもあまりにあっけなく倒されて、彼の野望は終わりを告げた。

 

 わたしは、そこにいただけだった。

 時間は稼げたけど、所詮その程度。キュレムに満足な抵抗が出来たわけでもない。周りの言う『イッシュ地方の救世主』なんて分不相応な。トウコさんがいなければイッシュ地方は今頃ゲーチスの手に落ちている。

 空虚。わたしの行動に価値なんてなかった。

 

 この時わたしは、自分が選ばれた人間でもなんでもないことを理解した。ゲーチスが最後に言っていたとおりだ。わたしは英雄の器じゃない。理想も真実も存在しない、ただただ虚無な人間だ。

 

 でも感情はそれに反発する。虚無なんかじゃないと否定しようとして、今まで中途半端だったいろんなことに手を出した。女優も、町長も、もちろんポケモンバトルだって全力でやった。そして。

 

 

 『イッシュチャンピオンのメイ』。

 

 

 嗤ってしまう。

 世界的に名を轟かす成功者の一人になっても、感慨なんて浮かばないし、感動も存在しない。ほんと、からっぽ。わたしにはなにもない。

 

 だから、噂に聞く自分探しの旅というものをしてみようと思ったんだ。期間は凡そ1ヶ月。イッシュ全土を巡るには少なすぎる期間だけど、それ以上空けてしまうと色んなスケジュールが悲鳴を挙げてしまう。不都合が起きないように年単位で綿密に調整し、ようやく捻出できたのがこれっぽっち。

 

 自分を見つめ直すために余計なものは持たず、ダイケンキと二人っきり。ヒオウギから旅立って、道路や街を隅々まで探索しつつ先へ進む。イッシュ図鑑のコンプリートを目標に野生ポケモンを捕まえ、トレーナーを見つけたらバトルする。ジムリーダーはみんな全力の手持ちを使ってきたので、じっくり丁寧に撃破する*1。今度こそ何かを獲得出来るよう丁寧に、かつ必至に。

 

 でも、ダメだった。なにもかわらない。空っぽの心はちっとも埋まってくれやしない。

 

 迎えた最終日。最後の場所として定めたのは、あったかもしれない可能性が潰えた場所——ジャイアントホール。ここに来たのは賭けだった。芽生きかけた何かがへし折れたあの時の様に、今度はこの探究心さえ失ってしまうのではないかと思ったから。でも、このまま虚無を抱え続けるくらいだったらいっそ全部呑まれてしまえばいい。ヤケになった気持ちで一歩を踏み出し、あの時の戦闘の余波でボロボロになった洞窟を踏破する。

 

 そして、奥地で一人佇むキュレムを見た瞬間、わたし()は共鳴した。

 

 恐怖の対象の筈だった。けど、こうして向かい合って初めて気付いた。一緒だったんだ。わたしもキュレムも、痛い程の虚無を抱えていて、空白を埋めたくて仕方なくて、でも自分ではどうにもできなくて、だんだん痛いという思いさえ薄れていって……。

 鏡を見てるみたいだった。それはキュレムにとっても同じこと。わたしを見る目には薄らとした驚愕が浮かんでいた。

 

 「いっしょにいこう」

 

 手を差し出すと、キュレムはモンスターボールに収まった。こうしてわたしは、理想も真実も抜け落ちた空虚な竜に選ばれた。

 それは傷の舐め合いと言われるかもしれない。でも、わたし達はひとりぼっちで虚無を抱える孤独を知っている。今まで自分しかいないと思っていた世界に、初めて理解者が生まれた。もう独りじゃないってことが、どうしようもなく嬉しいんだ。

 

 空虚を埋めるための旅はこれでおしまい。これからは、今までわたしに着いてきてくれるポケモン達と共に一歩ずつ進んでいく。わたしはひとりじゃない。理解者が、みんながいるから。

 

 そうやって前を向いて日々を過ごしていると、次第に空虚だった心が何かで埋まっていく。心に余裕が生まれたからなのかな。今までみえなかったものがみえてきた。

 

 一回目も二回目も、わたしの旅の中にはトレーナーとポケモンしかいなかった。闘った。戦った。たったそれだけ。でも今は違う。

 色彩に溢れた自然の景色や、そこに住む人とポケモン。時間と共に変わっていく風景。1ヶ月でイッシュ全土を巡る?過去のわたしにどれだけ余裕がなかったのかがわかる。全っ然足りない。アデクさんは昔あちこちを巡っていたと聞くけど、その気持ちが痛いほどわかる。もっと色んな所で、いろんなものを見てみたい。それはキュレムも同じだ。モンスターボールから気持ちが伝わってくる。

 

 虚無の心。ずっと憎んでいた。否定したいと思っていた。

 でも、視点を変えればそれはどんなものでも詰め込める無限大の心だ。

 いろんなものを見て、いろんなことを学んで。

 空っぽだったわたしに、少しずつ自分が生まれていく。

 

 やっと、胸を張って言えるようになったんだ。

 

 

 

 はじめまして、世界。

 わたしは、ポケモントレーナーのメイです。

 

 

 

 

 


 

 

 

「ええっと、ミヅキちゃんであってるかな?さっきは助けてくれてありがとね」

 

「いえ!ぜんっっっぜんです!ほんとに!むしろわたしの方こそありがとうございます!」

 

「そ、そんな固くならないで。わたしのことは気軽にメイって呼んで良いからね」

 

「————!!じゃ、じゃあ、め、メイさんと、呼ばせていただきますっっ!」

 

「落ち着いて?ほら、深呼吸深呼吸」

 

 

 メイさんに促されるままに、ゆっくりと息を吸って、吐いて、新鮮な空気を取り込む。よし、これで少しは落ち着く

 

 

 ————はずないでしょ!!

 

 

 心拍数がやばい。ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が体中を駆け巡り今にも爆ぜてしまいそうだ。やばい。やばいったらやばい。私のボキャブラリが飽和してぶっ壊れてわけがわからなくなってただただやばいという言葉しか出てこない。やばい。

 でも私は頑張ってる方だと思う。ほんとに。頑張れない私なら今すぐにでも音を超えて逃亡していたはずだ。だってやばいもん。さすがにもうちょっと頑張って私のボキャブラリ。

 

 だって、あこがれの人がいるんだよ!?

 カントーにいた時に雑誌をみて、そこからずっと追いかけ続けてきた燦々と輝く雲上人(スター)。グッズはコンプしてるし、出演した映画も全部みたし、対戦の時なんてずぅっとテレビに噛り付いていた。ずっと、ずっと、あこがれていた。

 

 ふと我に返る。すぐ目の前にメイさんの顔がある。

 だめだ暴走した。

 

 —————ッッッッ!?近い!!近いですから!!ないよ!5cmもないよ!ガチ恋距離!マサラ人の超視力がメイさんの顔をミリ単位で網膜に焼き付ける!やばい!すごい!かわいい!!ゴールイン!!ブザービート!!サヨナラ満塁ホームラン!!さよならばいばい!!私はあなたと旅に出る!!勝った!!!『ホウエンチャンプは世界を超える』完結!!次回作『ミヅキちゃんのらぶらぶ生活』に斯うご期待!!ご視聴ありがt————

 

 

「ていっ」

 

 

 ぺちっ。

 

 

「へうっ!?」

 

 

 まったく痛くない!けど不意にきた衝撃で暴走していた思考回路が元の落ち着きを取り戻して。

 自分が憧れの人の前ですさまじい醜態を晒していたことを理解する。

 

 

「……落ち着いた?」

 

「………………はい。もうしわけないです」

 

 

 メイさんは相変わらず、こちらの心も弾んでくるような優しい微笑みを向けてくれる。先ほどまでの汚いミヅキちゃんは浄化されたのだ。もういない。やっちゃったなぁ、と生まれ変わったnewミヅキちゃんは自分に呆れてため息をつく。

 

 ひとつの物事に執着しすぎてテンション爆アゲで周りのことが見えなくなるのは私の悪癖だ。ユウキさんからも指導の際は散々指摘されたし、何度も叩きのめされたことで痛いほど実感している。

 

 あのメイさんが目の前にいる——だからといって、暴走していい理由にはならないんだ。実現する可能性は置いておくとして、将来メイさんに匹敵する偉業を成し遂げた人と戦う場合に毎回毎回そんな状態になっては、私の指示に従ってくれるポケモンたちが可哀そうだから。後顧の憂いは断ち切る。

 いま目の前にいる相手(メイさん)はその練習相手と思おう。

 でも待って。

 

 

 練習相手がラスボスなんですけど。

 

 

 


 

 

 

 危ないところを救ってくれた、真顔なのにとても感情豊かな女の子。ミヅキちゃんはこのアローラで島巡りをしているトレーナーらしい。いまはアーカラの大試練を終えた後っていうから、イッシュで例えるならカミツレさん(4つ目のジム)を終えたあたりかな?

 エースであるフタチマルに不利なジムが続いたから、バトルトレインで技術を鍛えていたんだっけ。ぼこぼこにされたなぁ。3タテされるのが当たり前だった。

 

 

「メイさんがぼこぼこにされるくらい強い人がいたんですか!?」

 

「うん。当時のイッシュチャンピオンも頻繁に来てたから、胸を貸してもらったりしてたんだよ。それでもまったく勝てなくて、さすがに堪えたなぁ」

 

 

 トウコさんと初めて会ったのもその時だ。一瞬で()()()を見抜かれて3タテされたなぁ。凄い怖い人っていうのが第一印象。プラズマ団を追いかける最中に何回も会って、それで決して怖い人じゃないのはわかったけど。

 すべてを見透かすような冷たい眼差しを今でも覚えている*2これでもいろんな世界を見てきたけれど、トウコさん以上の眼力の持ち主は見たことがない。

 

 

「当時のチャンピオンって……たしか、トウコさんって方でしたよね。そんなに強い方なんですね。いつか会って(戦って)みたいなぁ」

 

「ふふふっ。会ったらわたしは元気に成長してるよって伝えてね。わたしの事を色々気にかけてくれてた恩人で、憧れてるひとなんだ。ちょっと問題を持ち込んでくることが多いのが玉に瑕だけどね」

 

「成ちょ、あっ、げふんげふん、ちゃんと伝えますね!ええ!」

 

 

 ?どうして一瞬返事を躊躇ったんだろ。

 

 当時はわたしの抱えていた空虚さのせいでずいぶんと心配をかけてしまったけれど、キュレムとわかりあったおかげでだいぶマトモになってきている。何を隠そう、わたしがポケウッドの女優なのは、テレビさえあればトウコさんに今のわたしを知ってもらえるから、という理由もあるのだ。

 一番大きな理由は好きなひと(テツくん)と一緒の世界にいたいからだけど、それはそれとして。

 

 空虚だった心が埋まった。ポケモンと一緒の夢を目指すことができた。今のわたしがあるのはトウコさんのお陰だ。だからお礼が言いたい。でもあのひと、チャンピオンの座をわたしに押し付けてNと世界旅行してる*3から、この気持ちを伝えるのは随分先になりそう。

 

 そして。

 こうやってトウコさんとの関係を振り返ると、今ここでミヅキちゃんに会ったのは運命なのかもしれないなって。かつてわたしを導いてくれたトウコさんみたいに、今度はわたしが胸を貸す番なんだなって。不思議な確信があって。

 

 

「——そうだ。助けてくれたお礼、っていうのは変かもしれないけど、ちょっとポケモンバトルしない?いまは手持ちがダイケンキしかいないけど、これでもわたしチャンピオンだから。胸を貸すくらいはできるよ」

 

 

 当時のトウコさんに勝てるって言えないくらい弱っちいけど。

 自分の心さえ把握できてないぽんこつだけど。

 それでもわたしはイッシュ地方最強の座を守り続けてる頂点(チャンピオン)だから。

 

 

「いくよ、ダイケンキ」

 

 

 チャンピオン の メイ が しょうぶを しかけてきた !

 

 

*1
意外にもジムリーダーとしては新任だったチェレンさんが一番強かった。トウコさんとライバルとして張り合えていたって聞くし、あの人実は四天王級の実力者なんじゃないかな

*2
BW主人公の戦闘時の表情は全作最凶だと思う。殺し屋とかじゃないの?

*3
プラズマ団との決戦を終えて、2年に渡る英雄達の物語を終えた後。歪められた教育で『理想』を抱いた少年に、彼の知らない『現実』を教えるために。英雄はもう1人の英雄に手を差し伸べた

(なお責任は全部後輩に投げ捨てるものとする)




「成長(意味深)のこと考えてたら勝負挑まれた」
 by.憧れの人をエロい目で見てたら6タテされた真顔少女

 BW2にBW主人公が出てこないのが嫌で物語をこねくり回してみたら、BW2主人公を押しのけて主人公してた。物語中盤の主人公が全クリした主人公相手に勝てる訳ないのは残当だった…。
 メイの過去は純度100%の捏造です。外見相応に可愛らしい彼女をみたいならポケマスを始めよう!作者はやってないからまったく知らないけど!


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気付いたら護衛対象が覚醒してる件

久しぶりの連続投稿。
考察回。普段の投稿よりは短いです。

次の更新は来年かな。
嘘になるよう頑張ります。


 なんだか1年ぶりに言葉を話す気がする。

 ——気のせいだろう。つい先ほどまでカプ・テテフと有意義な話し合いをしていたのだ。エスパータイプのポケモンだからと手っ取り早くテレパシーで会話していたため、そんな錯覚が生まれたのかもしれない。

 

 

「なんだか久しぶりに喋る気がします……」

 

 

 どうやらリーリエもこの感覚に悩まされているらしいが、先ほどの推測を並べて納得させる、ことは出来なかったので追加の理論武装として屁理屈を垂れ流す。

 

 

「何回も言った気がするが、人間も元々ポケモンの一種だ。テレパシーの力を持っていても不思議はない。進化の過程で失われた能力のひとつだろう。今でも超能力者がいるくらいには近い世代で喪失したのかもな。

 いずれにせよ、そんな力に触れて、遺伝子が懐かしんでいるのだろう。久しぶりに肉声を使う、という気持ちになるのに無理はないさ」

 

「……うーん、微妙に納得できないですけど、特に重要でもないですし誤魔化されてあげましょう。それより、ほしぐもちゃんのことです」

 

「ああ。……何回も言われて察していたが、やはりコスモッグ(ほしぐも)が鍵だったか。数百年前の記録を見せられると納得する。流石はアローラに伝わる守り神だ。一般ポケモンに脅されて矛を収めた過去なんてなかった

 

「ええ……」

 

 

 リーリエは寝ているコスモッグを胸にそっと抱きかかえ、目を閉じる。

 僕には戦えない彼女がいったい何を思っているのかはわからない。所詮戦えないもの(非トレーナー)だ、と嗤うのは容易いが、それでも彼女はエーテル団の手から一匹のポケモンを守りぬいた。何の力も持たないのに。代表の娘という立場を失ってでも。

 仮に同じ立場に立ったとき、それが出来る人間が如何に少ないかを僕は知っている。かつて彼女をどうでもいいと見做していた自分の目は節穴だった。前言を撤回する。彼女は戦う力を持たずとも、己の意思で抗うことが出来る人間だ。

 

 

「目的は決まった。僕たちはネクロズマの侵略を阻止する。ついでにルザミーネの野望も妨害する。未知の世界で未知のポケモン独り占めして捕まえ放題など、そんな羨ましい真似を許すわけにはいかない。」

 

「明らかに"ついで"のほうに力が入っていますが……気持ちは同じです。娘として、お母様が間違っていたら止めなきゃいけないのです!

 だから、やるべきことはひとつ!」

 

 

 声がそろった。

 

 

「一刻も早く異世界転移技術を完成させて準伝説級ポケモン取り放題」

 

「一刻も早く島巡りを終わらせて日輪の祭壇でほしぐもちゃんをちょっとまってくださいユウキさん!?

 

 

 わっつ?

 ここは世界のアローラの平和を守る決意を新たにするために2人で息を揃える場面だろう。どうして僕の宣誓を止めているんだ?

 

 

「なんですかその『どうして途中で止めるんだ?』みたいな顔は。わたし普通ですよ?隣にいる人が敵よりも危ないこと考えているなら止めるに決まってるじゃないですか!」

 

「わたしふつうですよ……?」

 

「なんでよりによってそこに疑問を持つんですか!?」

 

 

 いや、だって、数十行前。

 

 

「一匹のポケモンが可哀想だからって単身家族に喧嘩売る覚悟ガンギマリお嬢様が、普通……?」

 

わたしを見直した感満載の独白はこのためにあった…!?

 

 

 やめてくださいその覚悟ガンギマリお嬢様って言うの。

 ハイライトの消えた瞳で、かえって静かに呟く彼女に少し気圧される。

 

 ……僕が気圧される?

 さりげなく起きた異常事態に僅かながら動揺する。珍しい状況ではあるが、決して起こらない事ではない。何が異常事態なのかというと、それを引き起こしたのがトレーナーでもない、ただの少女だという事だ。

 

 やはり彼女は普通ではない。どうしてポケモントレーナーではないのかと心底残念に思ってしまう。ぶっちゃけトレーナーとしての才能はないが、彼女ならきっと何かしら奇想天外でこちらの想定を斜めにぶっちぎる事をやってくれそうな予感がする。それが斜め下なのか斜め上なのかはわからないが、いずれにせよ面白そうだ。

 

 

 というかこのままだと最初に手に入れたポケモンが伝説のポケモンとかいう意味不明な事態になるんじゃないかコイツ

 

 

 

「……防衛戦は苦手だから先に潰すという考えだったが、無限に等しい数の世界を相手にするのは無謀か。この世界くらいなら7日もあれば滅ぼせるが、物理法則が同じである保証もない。諦めるか」

 

「ほんとに反省してるんですかこのひと」

 

「だから素直に諦めている。(世界)をつついて(アルセウス)が出てきては目も当てられない。

 だが……ただの直感でしかないが、()()()()()()()()()()()()。このまま日輪の祭壇へ行った所で何も起きないだろう」

 

「ピース、ですか?」

 

「ああ。基本的に伝説のポケモンは特殊な条件を解放しない限り、そもそも出会うことさえ出来ない。なんか気付いたら捕まってた連中(キュレム・イベルタル・ゼルネアス)もいるが、コスモッグ(ほしぐも)はそうではない気がする。

 ただの直感だ。聞き流してくれて構わない」

 

 

 このままでは足りない、という漠然とした認識。僕は自分の直感というものをあまり信用していないが、今この地方にはヒカリがいる。

 ヒカリがいるということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()という事であり、奴等なら無意識に働きかける事ぐらい造作もない。

 

 だけど、何度も言うように、これはただの直感でしかないから。それでも、と言われたら掌を返すつもりでいて。

 

 

「では、これまで通り、島巡りを通してアローラを旅して、最後に日輪の祭壇へ行きましょう」

 

「……随分信じられたものだな」

 

 

 だからだろう。リーリエの言葉に対し、こんなひねくれた返答をしたのは。

 

 

「いえ、ユウキさんの言葉を全面的に信じた訳じゃありませんよ?ちゃんと自分で考えました」

 

 

 そう言って、彼女はぴんと指を立てた。

 

 

「知ってるでしょうけど、島巡りって、ちゃんと決められた順路があるんです。メレメレ島から始まって、アーカラ島、ウラウラ島、そして最後にポニ島。でも、()()()沿()()()()()()()()()()()()はずなんです。

 単純に難易度の問題かも知れません。ですが、最後の試練が行われるのは日輪の祭壇がある『ポニの大渓谷』なんです。他の試練の場所はキャプテンの都合で変わりますが、奇妙なことにポニの大渓谷での大試練だけはずっと昔から変わらずそこで行われます*1

 そして大試練を経て、ラナキラマウンテンの頂上で大々試練が行われます」

 

 

 彼女は僕と違い、アローラの人間だ。それでいて、エーテルパラダイスというアローラから離れた離島の出身である。

 つまり、伝説とされた存在の事を、伝説に影響されて作られた伝統のことを、幼い頃から知り、それでいて客観的に見ることができる。

 

 こうして彼女が語っていくのは、アローラにおける伝統行事、島巡り。確かに特殊だけれど、そんなこともあるだろう——僕が見捨てた可能性を、彼女は正しく分析できる。

 それに。彼女の来歴を知って驚いた。彼女は異世界の存在を証明した男(モーン博士)の娘だ。彼女の才能は、こと世界を識るという点において、僕なんか歯牙にかけない遥か高みにある。

 

 

「ここで大事なのは、ポニの大渓谷が最後の試練の場として決められている事です。大試練もあるのですが、これらは『人』を相手にするので考えないこととします。

 ここからわたしが立てた仮説、わかりますか?ユウキさん」

 

ぶっちゃけまったくわからない

 僕に科学者や考古学者の適性はないんだ」

 

「わたしは自分にこんな才能があるとは思わなかったです。大人達の真似事をするのは嫌なので、早く言っちゃいますね。

 

 島巡りとは、いつかウルトラホールが拓かれた時に、伝説のポケモンと共闘できる最強のトレーナーを育てるためにあります。

 

 すべての試練を踏破し、

 日輪の祭壇で伝説と出会い、

 アローラの頂上でしまキング(守り神を従えたトレーナー)を超えて、

 最強の(伝説を従えた)ポケモントレーナーを完成させる。

 

 これが島巡りの真実。穴だらけの仮説ですが、わたしにはそう思えてならないのです」

 

 

 

「…………なるほど。興味深い仮説だ。だから君は、島巡りをするべきだと言うわけか」

 

「はい。島巡りを終えていない今のわたしたちには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。行った所で無意味ではないかと思うのです」

 

 

 考えてすらいなかった。島巡りという伝統そのものが、伝説に相応しいトレーナーを育てるための存在だったなど。

 閉鎖的な土地柄、異世界からの侵略者という共通した敵、守り神(カプ)の存在、他にも(エトセトラ)他にも(エトセトラ)

 この条件のすべてを満たしていなければならなかった。

 この条件のすべてを満たし続けなければならなかった。

 

 

 アローラという地方全体の団結がなければならなかった。

 

 

 ここに来てようやく、僕は自分の体が細かく震えていることを自覚する。

 初めてだ。個人や組織ではなく、地方そのものに恐怖を覚えるなど。

 

 アローラ。この地は僕がこれまで踏破した地方よりも小さくて。

 はるかに大きな意思が存在する。

 

 

 

*1
USUMのマツリカ?知らない娘ですね。

この時リーリエの持つ情報にマツリカの試練は存在ぜず、というかそもそも肝心のマツリカがまだ試練の内容を決めていない





気付いたらリーリエが覚醒してた。まだ頑張リーリエしてないのに。
……そういえば数話前の独白で頑張リーリエしてた。ならいっか(自己完結)。

島巡りについては完全に独自解釈です。
モーン博士についても、異世界の研究ができるほどぶっ飛んだ頭脳を持ってたんだろうなと。原作ではアレですけど、昔はきっと超絶輝いてた、はず…!

どうでも良いことですが、
『異世界の存在を証明した男の娘』って
『異世界の存在を証明した男』の娘なのか
異世界の存在を証明した『男の娘』なのか
わかりにくいと思いませんか?私はそう思います。


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