勇者エリちゃん(憑依)勇者の旅へ出ます。 (小指の爪手入れ師)
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最初からクライマックス

思い付きです。過度な期待を止めゆったりとした気分で読み進めてください。


ㅤ館と言うか、お城と言うか、とにかく悪趣味な場所に私は居る。アレだ、転生だ。三次元から二次元へ、目眩く大冒険、チーレムよろしく神様転生だよ。

 

ㅤ好きでしょ?そういうの…

ㅤ私?私はね─

 

 

──クソくらえだ!!

 

 

ㅤいきなり、「Youいいネ!転生しちゃおうYo!!」って言われて返事もなくこの謎空間に叩き込まれたんだぜ?私はただ種火周回に没頭していただけなのに…

 

ㅤ極めつけはこの手に持った紙切れだ。内容は─

 

『You中々のイケ魂じゃん!?最っ高にcoolな展開期待してっから転生しちゃいなYo!大丈夫大丈夫、君が没頭してたFGOだからネ。問題ないし!あぁYouのbodyはspecialだかr(以下略』

 

ㅤ私は思わず紙切れをビリビリに破り暖炉に投げ捨てた。焦げた匂いが漂い少しスッキリした。そして、無常にも紙切れはテープを巻き戻したかのように灰から紙吹雪に、紙吹雪から元の紙切れへと戻っていく。

 

「力の無駄使いか!?」

 

ㅤ紙切れ一つに巻き戻しまで使うか?馬鹿じゃないの!?そして私の声なんか甲高いんだけど!!?

 

ㅤ情報量の多さに思わず目を回す。通常な思考は徐々に輪郭を失いツッコミのキレだけを上昇させる。思考回路はショート寸前、叩き込まれた情報の整理以外作業が出来ない。

 

ㅤ予期もしない出来事に体勢を崩した。近くのドレッサーに手を付き持ち直しつつ顔色はどうかと鏡を見る。

 

「え?」

 

ㅤ私はマヌケな声が出たなと思った。だがそれも仕方ないだろう…

 

ㅤ私の姿は以前とは異なっていた。その姿は、何度も出てきて恥ずかしくないの?でお馴染みエリザベート・バートリーだった。それもセイバークラス、所謂勇者エリちゃんである。

 

 

 

 

──「キャアァァアアアアァァァ!!!??」

 

 

 

 

 

ㅤ私は絶叫した。それだけで鏡、窓、ドア、シャンデリアが弾け飛んだ。だが、それもまた紙切れと同じく巻き戻った。

 

ㅤ此処はどうやら私専用の座らしい。なるほど特権の無駄使いだな。

 

ㅤえ、思ったよりも狼狽えない?違うよこれはただの諦めだ。喚いても時間の無駄…いやこの空間での時間の概念がどうとか知らないけどね。

 

ㅤ取り敢えず不貞寝しよう。現状から出来る限り逃れたい。現状を諦めたのであって受け入れた訳では無いからね現実逃避くらいいいでしょう。

 

ㅤ丁度此処にはこの身体に関係なく広くデカいベッドがある。つまり神は言っている不貞寝していいんだと。

 

「おやすみなさ─ムギャァ!?」

 

ㅤ寝ると思ってベッドにボディプレスを仕掛ける突如、身体が引っ張られる感覚が私を襲う。

 

「もしかして召喚!?嘘、私まだ心の準備が、と言うよりも戦闘経験のないサーヴァント何て呼び出さないでよね!」

 

ㅤベッドから引きずり下ろされ床に這いつくばるエリちゃんの図、コアなファンは喜ぶと思うが私は嬉しくない。床を削りながら後方に謎引力で引っ張られ私ピンチ!!

 

「頑張れエリザ!ファイトだエリザ!!私ならいけるこの召喚を乗り切れば勝てるんだから。あぁ、もう…ダメ──」

 

ㅤ嗚呼、勇者エリザよ吸い込まれてしまうとは情けない。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ眩い光へ変換された後、私は洋風建築並ぶ広場にて現界した。どうやら私は為す術もなく召喚されてしまった様だ。

 

「それで、私の様な不運なサーヴァントを引き当てた。これまた不運なマスターは誰かしら?」

 

ㅤ周りを見回しても居ない…まぁ当然だ。FGOにおいて足元に雪花の盾がない召喚なんて野良だと相場が決まっている。もしそれでマスターがいた場合は味方である賢王か敵キャラたちに扱き使われる事になる。

 

ㅤだが、幸か不幸かマスターとの繋がりはなく魔力だけが流れ込んできているのが分かる。

 

「ならぐだ男かぐだ子に聖杯回収を任せて私は隠れる。私ったら天才ね!そうと決まったら町を出て─」

 

「あら、似た匂いを感じたのですが、やっぱり同じサーヴァントでしたのね。…痴女?」

 

ㅤ振り返ればこの風景に溶け込めていない和服を着込んだ美少女(13歳)がいた。どう見ても清姫です本当にありがとうございます。そして帰ってください!こんなことをしているうちに主人公勢が来たら私の計画が狂うわ!

 

「痴女とは随分な言い様じゃない」

 

「…ご自身の装いをよく見たらどうですか?」

 

「ん?」

 

ㅤ私は自分の衣服を見た。いや正しくは服なんて着ていなかった。まるで八十年代に回帰したかのような鎧、俗に言うビキニアーマー。着ているのではなく着いている、しかも胸はパカパカと緩くなる始末。これで羞恥心を感じるなという方が不可能である。

 

ㅤ私は蹲り、白いマントで身体を隠そうと躍起になる。これは恥ずかしい。かなり恥ずかしい。

 

「何この格好!?デザイナーは何を考えているのよ!モラルがなってない、そもそもこんなにユルユルで一体何を守るっていうのよ!?何も守ってないじゃない!!!」

 

「えぇ……で、ではそれは貴女が進んで着てい…着いているわけでは無いとそういう事でいいんですか?」

 

「当然じゃない!?こんなもの着たが…着けたがるのは本当の痴女だけよ!」

 

「まぁ嘘はついてないと誰が見ても分かりますね」

 

ㅤ当然だ!私はこの装備に不満を漏らさない程奇抜な発想をしていない。私の霊基でさえ軽く身震いするほどだ。いやこの身震いの意味は私でもよく分からないが…

 

「まぁいいわ。霊体化すれば人の目に晒される訳では無いから。第一目標を普通の衣服の製作として今はここを離れないと…それじゃあね和服の人」

 

ㅤ私は早急にこの場を後にするべく歩き出す。この嘘絶対殺すウーマンに関わっていたら色々と手遅れになりかねない。

 

ㅤ町を出るため門を潜った辺りで背後に気配を感じた。振り返ってみれば目の前に顔があった。

 

「ホラーかッ!?」

 

「あら酷い。私はただ後ろを付いて来ただけですのに」

 

ㅤいやそれ普通にストーカーなんじゃ……

 

「いやなぜ?」

 

「自己紹介」

 

「はい?」

 

「ですから自己紹介です。ここであったのも何かの縁ですし…私は清姫と言います。貴女のお名前は?」

 

ㅤ自己紹介、自己紹介ねぇ?私は一体誰なのか最早わからない。過去の私は既に此処に存在しないし現在私が名乗る名前と言えば…

 

「エリザベート・バートリーよ。よろしくね清姫…それじゃあね」

 

「そうエリザベート(安珍)と言うのですね…嗚呼やっぱり」

 

ㅤこの意味を理解したくない悪寒から逃れるべく私は走り出す。

 

「やっぱり結ばれる運命でしたのね。嗚呼安珍様ァ!」

 

ㅤ残念エリザは回り込まれてしまった。狂った音程で声を発し乱れる清姫。押してはいけないスイッチを押すだけに留まらず貫いてしまった様だ。どう見ても狂化EXが仕事をしてしまっている。

 

「安珍様安珍様エリザベート(安珍)様安珍様ァア!」

 

「ルビが可笑しい!止めて止めなさいってば!」

 

ㅤ清姫はチロチロと舌を鳴らし時々火花を零している。そしてその白魚の様に綺麗な手を私の頬へ。

 

「ちょっ!?待て待てぇ、本当に待って。私は安珍じゃないから!!」

 

ㅤ逃げようと身を捩るが腰をガッチリホールドされてしまった。服が無い分清姫の体温が直で感じられる。熱い、とても熱い。吐き出す吐息もまた熱い。

 

「えぇ、えぇ分かっておりますとも清姫にお任せ下さい」

 

ㅤそう言って更に顔を近付けてくる。駄目だこいつ…早くなんとかしないと……

 

「落ち着いて…」

 

ㅤ悲痛な声が木霊する。だが清姫の耳には届かない。盲目的に安珍を求めたからではない、轟音に掻き消されたからだ。

 

「新しいサーヴァントが召喚されたから私直々に始末にと思って来て見れば。何?仲間割れェ?なんて愚かで無様なのかしら!」

 

ㅤ声は真上から、周りは素手に爆炎と共に瓦礫へと姿を変えていた。上に顔を向ければ竜を駆る魔女の姿があった。その名はジャンヌ・ダルク、その反転(オルタ)。青髭のダンナの欲ぼ…理想を詰め込んだ聖処女である。

 

ㅤそしてこの特異点の渦の中心と思いきや違う系ボスだ。

 

「こ………絶対に……」

 

ㅤ清姫は何やらボツボツと言葉を零している。先程から悪寒が止まらない。寒い格好なのに更に寒くなる。逆に、今も尚燃え続ける炎が今はとても尊く感じる。

 

「え?何そこの白いの。何か言いたげじゃない?死に際の恨み言くらい聞いてあげても良くてよ」

 

「ではお言葉に甘えまして…」

 

ㅤ清姫は朗らかな笑顔で、光の消失した瞳を邪ンヌへ向け、底冷えする様な声で、大胆に言い放った。

 

「私たちの秘め事を邪魔した事、万死に値します。潔くこの世から去ね、この匹婦」

 

ㅤ徐々に清姫の角が根元から黒く染まっていく。それに呼応したように服をも染まっていく。

 

「…そう、なら死になさい」

 

ㅤ邪ンヌはその手に持った旗を振り下ろす。そうすれば何処からともなくワイバーンが大群をなして召喚された。

 

「私、まだ何も言って無いんだけど!?」

 

ㅤそうよ、私まだ声の一つも挙げてないわ

 

「大丈夫ですわ。私が私たちの往く道を切り開きます」

 

ㅤあらやだ惚れそう…って言ってる場合じゃない!?

 

ㅤ私はすぐさま名剣エイティーンと名盾レトロニアを取り出し構える。この様な動作は情報の一握りにあった上、実戦が伴っていないのにも関わらずまるで身体が覚えているとでも言うように対応出来ていた。

 

ㅤ清姫は既にワイバーンへと炎弾を放っていた。ワイバーンに炎が直撃する度に墜ちていく。

 

「とぉ!!」

ㅤ剣を近寄って来たワイバーンに切りつければ熱したナイフをバターに入れた様にワイバーンの首が胴体から泣き別れした。

 

「弱ッ!?」

 

ㅤどうやら無意識のうちに魔力放出(勇気)と何故か使える魔力放出(かぼちゃ)を使用していたようだ。私器用すぎ!?

 

ㅤ斬って斬って斬って斬る。そらそら牙を落とせワイバーン共!使い道知らないけどね!!

 

「チッ、思った以上に足掻くじゃない。フフッ、なら一瞬で消し炭にしてあげるわ!行きなさいファヴニール!!」

 

ㅤ巨龍は咆哮を上げ、口に魔力の渦を閉じ込め発火する。

 

「いきなりブレス!?」

 

ㅤ開幕チャージMAXは悪い文明。逃げるっきゃないわ!

 

「清姫撤退!二人じゃ無理よ」

 

ㅤ私は清姫を引き寄せ横抱きに、そしてファヴニールの正面から逸れるように全力疾走。

 

「これが、愛の逃避行!!」

 

「まだ暴走中なの!?」

 

ㅤそもそもこの立ち位置はぐだーズの物だろうに。と思考がドツボにハマりそうになった時、途轍もない熱が真後ろを通過した。

 

「ひぃ!?何よアレ、勝てるわけないじゃない。竜特攻持ってきなさい竜特攻!!」

 

ㅤ怖すぎ。あんなのに関わりたくないから隠れようとしていたのに、物語の進行はどこまで行っているのよ!強力なサーヴァント連れて来てんでしょうね!!

 

──帰りたいよぉ……

 

「パク」

 

「ぁ…なんでこの状況で耳を甘噛みしてんのよ、馬鹿なのこのヘビ女!こっちは必死に避けてるっていうのに!!」

 

「そこに耳があったから。キリッ」

 

「私の耳は山か!?」

 

「山ならここだと」

 

「ズラすなぁ!!!」

 

ㅤ後ろから熱を感じた。くぐもった咆哮を聞いた。黒い聖女の怒りが怒髪天を衝いた。

 

「乳繰り合ってんじゃないわよ!!」

 

「間に合わ─」

 

ㅤ受けるしかない。死ぬかもしれない…アレ?死んだら座に帰れるんじゃ……

 

ㅤ傍らの清姫を見る。険しい顔で巨龍を見ていた。宝具の使用でも検討しているのかもしれない。だがファヴニールの方が格が高い。

 

ㅤ守らなきゃ!清姫だってうちのカルデアで育ててた娘なんだもの。死んだって大丈夫、座に帰るだけ。さぁエリザ、盾を構えなさい!女の子を守るのも勇者の本懐よ…知らんけど。

 

「ハアァァアア!!」

 

ㅤ名盾レトロニアはブレスを受けるには小さ過ぎる。だから魔力放出で面積を広げ強化する。私が魔力を注ぐ度にかぼちゃの妖精さんが仕事をしてくれている。かぼちゃの要素が何処にあるとかは聞いてはいけない。

 

ㅤブレスが直撃、盾に損傷は見られず。だが徐々に後方へと追いやられる。内に流れる魔力も筋力へと回し、地に足先を掛ける。

 

「エリザベート…せめて私も……筋力はからっきしですが…」

 

「清姫アンタ、早く逃げなさいよ!私が抑えてるから」

 

「想い人を置いて逃げる乙女がおりまして?」

 

ㅤ清姫が私の身体を支える。

 

「さっき会ったばかりじゃない…バカね」

 

「女は好きな方の為ならば何処までもバカに成れる生き物ですことよ…」

 

ㅤ自虐だろうか。彼女は笑っていた。なんだろうこの最初からクライマックス状態は…

 

 

ㅤそして弾けた。襲う浮遊感。そしてとても熱…くは案外無かった。言ってしまえば少し高めなお風呂程度でピリピリする感じに似てる。

 

ㅤあぁ、なんていうか─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ぐだぐだが過ぎるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった感が否めないがとてもスッキリしたので気にしない方向で……


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切実に帰りたい!

続きを望む方が少なからずいたので書きました。
私は……悪…く…………ない。


ㅤ頭に鈍い痛み。痛みによる覚醒。覚醒に次ぐ感覚の機敏化。鼻に甘い香りが流れ込み歪んだ視界を開けさせる。

 

「清…姫?一体何が、私はどうして背負われて……」

 

「起きましたか?なんと申しましょうか…ええまぁそうですね。見事に大敗しまして、その後はこの通りエリザベートの、いえこの際エリザと呼びましょうか。エリザを背負いながらなんとか逃げ延びました。貴女の体重が軽かったことは幸運でしたね…役得役得」

 

ㅤそう言って上品に笑う彼女は何とも弱々しい。背負われている状態では分かりにくいが清姫の歩みは軸がよくブレる。明らかに限界が近い事を示唆しているだろう。

 

「下ろして、もう大丈夫だから。私思ったよりも丈夫みたいだし、気絶していたのもきっと頭でも強く打ったんだろうし。取り敢えずもう大丈夫だから」

 

ㅤ支えである手が緩められた。着地をしようと足を伸ばすが、地に足はつかなかった。清姫が前へと倒れ込んだからだ。どうにか清姫を潰さないように身を捩る。清姫の横に倒れ込むように避け、直ぐに彼女を抱き抱えた。

 

「清姫!?ちょっとアンタ大丈夫!?」

 

「えぇ、ちょっと疲労が溜まっただけで…流石に長時間の変化は無理がありました。どうぞ、私なぞ此処に捨て置いてください。放っておいたらきっと起きられるでしょう」

 

ㅤきっと魔力を著しく消費したのだろう、衰弱している。直ぐに対処しなければ間も無く消滅すると理解した。どんなに強がってもこの結果は覆らない。

 

ㅤこのまま消滅しても彼女は文句の一つも漏らさないだろう。彼女がやりたいように行動した結果だから。彼女はその行いを否定する事はない。

 

ㅤけれど─

 

「勝手に無茶して勝手に助けて、そして最後にはスッキリした顔してステージから退場?ふざけないでよ!私はあの時、貴女を守ろうと思って助けたいって思って…捨て置いてなんて言わないでよ……短い付き合いしかしていないけれど、私たち友達でしょ?」

 

「私としては友達以上恋人以上妻くらいが好ましいんですが」

 

「それは勘弁して!?…もう、こういう時も茶化して。取り敢えず私はどんな手を使ったって助けるからね!なんたって私、勇者だから!!」

 

ㅤそう言って私は清姫の唇に自分の唇を重ねた。別にやましい理由があってじゃない、唾液に含まれた魔力を譲渡する為だ。私は時々呼吸のタイミングを挟んでは彼女に粘膜を摂取させた。顔を離せば顔色は大分いい、と言うよりも紅潮しているあたり色々元気みたいだった。

 

「えぇっとこういう時は…やっぱりご飯?」

 

ㅤひとまずは清姫を木を背凭れにし腰つかせた。「もっと、もっと下さいまし」などと言う戯言をよそに、私は不思議魔術でそこはかとなく緩い判定のハロウィーン系オブジェクトを召喚した。

 

ㅤかぼちゃやニンジン、鍋に適当に、そこはかとないハロウィーンっぽい調味料一式を準備しつつパンプキンシチューを作るため竈を作る。

 

ㅤこう言っては不謹慎だが、普通の冒険っぽくて少し楽しかったりした。作る際に名盾レトロニアをまな板、名剣エイティーンを包丁代わりにしたが別に気にすることではないだろう。

 

ㅤ想像以上にいい感じに仕上がった、思わず嬉しくて清姫をチラチラと数度見てしまったほどだ、彼女はそんな私を見て鼻を押さえていたが死にかねないのでやめて欲しい。

 

ㅤそして次の瞬間に私は衝撃の光景を目にする。刹那的だった。瞬き一つで色が変わった。シチューはかぼちゃをベースにしているのでそれらしい色をしていた。だが、私が目にしたのは赤だった。私は思わず声が漏れた。

 

「ふぇ…エェエエ!!?真っ赤、真っ赤なんでええええ!!!?」

 

ㅤ暴力的な見た目とは裏腹に匂いは甘い物だった。味見もしてみたが不味くはないし毒でもない。ただ、目には余りよろしくない色合いだった。

 

ㅤ一体何処に赤色の要素があったのか理解出来ない。いやそもそも瞬き一つの間で変色したところからして可笑しい。

 

「折角私の為に貴女が作ったのだから食べましょう。私も味、気になりますわ」

 

ㅤ清姫の言葉に努力が報われる感覚がした。

 

「まぁ味は保証するから存分に味わいなさい。そして寝て、起きたら移動しましょう!あの聖女に一発かましてやらなきゃ気が済まないものね!」

 

「えぇ、そうですね!今度こそ灼きます!」

 

ㅤお互いがリベンジに燃え、夜の帳が降りていった。

 

ㅤ私は霊体化して周辺警戒する事と、霊体化して睡眠を取ることを提案した。もちろん、前者は私、後者は清姫で、という事だ。だが、その提案は彼女に焼き捨てられてしまった。

 

「嫌です」

 

ㅤこの一言で…

 

「いや、なんでよ?」

 

「横に居てください。手を上に重ねるだけでもいいのです、貴女を感じたまま眠りにつきたい。…私の我儘を、どうか聞き入れて貰えませんか?」

 

ㅤ清姫は私のマントの端をちょこっと摘みながら問い掛けてくる。私は首肯することで肯定した。ぶっちゃけこんな事されて断れる人いる?

 

ㅤ私たちは巨木に背を預け、コウモリやかぼちゃ、キャンディのイラストが入ったタオルケットを膝に掛けて目を閉じる。私は寝る訳では無いので閉じるだけ。

 

ㅤ清姫の手が私の手に触れたのが分かった。そっと上から重ね、包み込んだ。見なくても彼女が嬉しがってるのが分かる…ちょっと息が荒い気がするけれど、きっと深呼吸だと割り切って周辺にだけ気を配る。

 

ㅤ気配のするエネミーは例外無くお化けかぼちゃを頭上にプレゼントしておいた。

 

ㅤ彼女の頭が私の肩に寄り掛かり寝る体勢に入った。

 

ㅤ私はその場の勢いで歌が歌いたくなった。何故かはよく分からないけど歌いたかった。子守唄でも歌おうか…

 

ㅤふと顔を上に向けた。木と木の間から覗くあまねく星を見た。

 

──そうだキラキラ星でも歌おうか!

 

ㅤ私は彼女の為に(・・・・・)歌った。自画自賛になるが上手いんじゃないんだろうか?

 

ㅤじきに、彼女の寝息が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

──アレ?音痴設定どこ逝った!!?

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

ㅤ変化は突然だった。昨晩まで星を眺めることの出来た木の狭間は今では木漏れ日が降り注ぐ。だが時々大きな羽音と共に影が落ちる。

 

「これは…」

 

ㅤ影の頻度が高い。明らかに異常だ。私は寄りかかる清姫を起こし木の上に飛び出る。

 

「なっ!?」

 

ㅤそこには大郡を成したワイバーンの軍団があった。同じ方向に脇目を振らず飛び進んでいる竜種に私は圧倒された。

 

ㅤ進んでいく先は予想できる。あの聖女の所だろう…

 

ㅤだが、それが意味する所は─

 

「もう最終決戦!?」

「どうしましょう?」

 

ㅤ清姫はそう単純な質問をしてくる。答えなど昨日の夕飯前に話しただろうに…

 

「行くわよ、オルレアンに!!」

 

「旦那様の行く所、私在りですわ」

 

ㅤ清姫は柔和な笑みを持って私に手を差し出してくる。私はソレを取り横抱きにし地面へと降り立ち、オルレアンへと走り出した。

 

 

ㅤ取り敢えずワイバーンの群れを追う形でオルレアンに向かう事になった。清姫の敏捷値に合わせて走るため早い訳では無いがその分寄ってくるワイバーンを焼いて走っている。私も火を吐けるがちょっと気持ち悪い。オェッという声が吐いた後自然と溢れる程だ。

 

ㅤちょっと清姫、その熱っぽい視線止めて!?変な扉をこじ開けようとしないで本当に!!十分濃いのよアンタ。13歳、ヤンデレ(安珍限定)、バイ(安珍限定)。そこにドSを入れるの?

 

ㅤ何それ死ねる…

 

ㅤそんな事を考えている内に巨大で強大な竜の姿が見えた。近くに黒い聖女の姿もある。一度も会ってなかったが主人公組も居る。この世界ではぐだ子か…

 

ㅤだが、私が目を奪われたのは邪ンヌでもファヴニールでも無かった。

 

ㅤカーミラだ。私では無い私。エリザベート・バートリーの未来。罪の完成系。

 

ㅤ身体の奥底から湧き立つ。これは怒りか憎悪か、それとも悲哀なのか…私は否定してはいけない(カーミラ)を、私は(エリザベート)ではないがそう感じる。私は(カーミラ)の歩んだ道を進んでいない。知っているだけだ。実感の伴わないボンヤリとした使命感は膨れ上がるだけ膨れる。

 

ㅤその後は想像に難くないだろう。膨れ続ける風船はいずれ暴発する。私は脳で考えるより先に動いていたのだ。

 

「カーミラァ!!」

 

「ッ!?死に損ないの私じゃない。聞いたわよ、ファヴニールに炭にされたって…存外元気じゃないの。あの聖女崩れはこういう所で詰めが甘い」

 

ㅤ私の奇襲はカーミラの杖で受け流された。距離を取り様子を見れば杖を振り光弾を飛ばしてくる。

 

「随分と辛気臭い顔してんじゃないカーミラ!今すぐその顔に重い一発をあげるからそこに棒立ちしてなさい」

 

「ふん、過去の私が完成系たる私に勝てるわけがないでしょう?」

 

「それを決めるのはアンタじゃない!悔しいけど(エリザベート)の未来は紛れもなくアンタなんでしょうよ。でも私は違う!!」

 

ㅤカーミラは仮面の奥の瞳を細めた。

 

「私はエリザベート・バートリー[ブレイブ]!領民を苦しめる鮮血嬢なんかじゃない!そもそも私の属性、混沌・善だから!!過去とか未来とか私は関係ないの。私は勇者(ヒーロー)!アンタは(ヴィラン)よ!」

 

ㅤ言葉が纏まらない。伝えたい事を一言で言ってしまえばいいのに無駄に伝えたい事が多くて混乱する。でもそう、私はカーミラにこう言いたい。

 

「つまり正義()が勝つ!これが当然の帰結よ!!」

 

「フッ、アハハハハハ!!何を言うのかと思えばそういう…本っ当にくだらない。何それ罪悪感を抱いてるの貴女?生前はその行為がイケナイ事だと知りもせず血を浴びていたのに……」

 

ㅤぶっちゃけそう言われても私は困る。私はイラつく神が原因でエリザベートになっただけの一般人だ。知識や身体はあっても中身が違うなら全てチグハグな事になる。今もそうだ、勢い余って最前線まで来てしまった。最初の目標は主人公に丸投げだったのにね。

 

「まぁ所詮は小娘。過去の過ちを死後清算(生産)だなんて甘い考えしか思い浮かばない!甘やかされた結果ってやっぱり無様ね。ありがとう私、改めて実感できたわ」

 

「あぁもぅうるさい黙れ年増!!」

 

「……へぇ」

 

ㅤ私は悪くない…悪くないったら悪くない!何かイラついたからやった。後悔も反省もしない。揚げ足を取り続けられれば流石に怒りを覚えるでしょう?だから私は悪くない!

 

「それを貴女が言うのね!余っ程死にたいらしい……」

 

ㅤ背後に金属音が響いた。ガコンと重い音がした頃には既に遅かった。アイアンメイデンは受け入れる体勢だ!

 

「『幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)』ッ!!」

 

「アサシンのチャージは3ターン…吸血持ち!?抜かった!最短2ターンで打ってくる事を考慮すべきだった!!!」

 

ㅤ時既に遅し、女性特攻で死ぬ!!

 

「勝手に単独行動して勝手にピンチ…見事にブーメランですネ!そう思いませんかエリザ」

 

ㅤ寒々しい声がする。身体が震える。カーミラがキレた時よりも恐ろしい。

 

「生きる時も死ぬ時も死んだ後も…ずっと一緒だと言ってくれたじゃないですか?」

 

「いや言ってな…ぃ」

 

ㅤ言葉尻が徐々に弱くなっていく。もう分かるだろうが完全にキレた清姫サンだ。目はギラギラと鈍い光を放ち、顔はどういう仕組みか目と口以外暗闇が掛かっていた。三日月の様に弧を描く口はおどろおどろしい。

 

「こんな物で私の愛おしい方を傷付けようとしましたの?」

 

ㅤ清姫はアイアンメイデンに繋がれた鎖を持っていた。だが次の瞬間消し炭にされた。そして更に踏み潰され、鉄屑となった後も焼き尽くしていく。

 

「そして、そんな事をする悪い人は誰かしら〜?」

ㅤ間延びした可愛らしい言い方とは裏腹に、眼光は鋭く、カーミラを射殺す程の凄味があった。真の英霊は目で殺す……

 

「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎──灼かなきゃ…」

ㅤ帰りたい。元の場所に帰りたい!今の清姫なら人類悪に匹敵するんじゃなかろうか?はっきり言って今の清姫は死んでも死ななそうだ。

 

「嘘ヲ、吐キマシタカ?」

 

「ヒッ、矛先がこっちに!?吐いてない吐いてない!エリザ、嘘、吐かない!」

 

「本当ニゴザルカー?」

 

ㅤ違う日本系サーヴァントが清姫に現界しかかってる。速く何とかしないと!

 

ㅤ此処で私の閃きはワームホールを通って降ってきた!!

 

「カーミラ!カーミラ!!私たち生前嘘なんて吐かずにピュアに生きていたわよね!!清純系アイドルをやってもボロが出ないくらい正直者よね!?」

 

ㅤ私は硬直したカーミラに半ば絶叫染みた問い掛けをした。生き残る為に未来の自分さえ利用する私は間違っているだろうか?いやもう知らん、私はカーミラを墓地に送りライフを回復する!!

 

「…そうじゃない?」

 

ㅤカーミラは嘘が絶望的に下手だった。此処で「Yes」と答えがちだが、清姫にとってそれはタブーだ。人間一回くらい嘘を吐く、そんな見え透いた嘘に反応しない彼女ではない。逆に此処で「NO」と答えれば問答無用に焦げ肉。ここでの正しい切り返しは「覚えていない」だ。

 

「ダウトォォォオオオオオオ!!!」

 

「クッ」

 

ㅤ清姫は変態軌道を描きながらカーミラの攻撃を避け、カーミラの頭上まで辿り着く。そして清姫は蛇にも似た竜へと姿を変える。

 

ㅤカーミラも抵抗として光弾を放つが、その攻撃は清姫の鱗を砕くに至らず、清姫の身体は自由落下する。カーミラはどうにかそれを避けるも器用に動く清姫に翻弄されていった。そして最後には蜷局の中心に閉じ込められる。

 

「『転身火生三昧』ッ!!!」

 

ㅤカーミラはこうして犠牲になった。私は黙祷しながら未来の自分に対して親指を立てた。そして私は清姫に嘘を吐く結果を心に刻んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雑ですまない…カーミラもすまない。


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我が名はエリザベート・バートリー!!

ウーム……まぁ今回も好き勝手にやりました。
キャラ崩壊はfateに於いてデフォルトだ、いいね?


ㅤあの後、私は黒聖女を殴る事は出来なかった。正直熱が冷めたのでどうでも良かったりする。道程が波乱万丈過ぎて目の辺りが湿りそうだ。

 

ㅤいや泣いてませんよ!?ただ目が潤いすぎているってだけだもん!!女の子は常に瞳がウルウルしてるって聞いたことあるもの、嘘じゃないわ!!

 

ㅤふぅ…

 

「あの黒聖女帰っちゃったし…私も帰ろっかな」

 

「図太いエリザも決して嫌いではありませんし、出来るならばこのまま私たちの愛の巣に手でも繋ぎながら帰りたいのですが…その様な空気では無さそうですよ?」

 

ㅤ周りを見れば視線が痛いのなんの。奇異的な目が突き刺さってもう…帰りたいなぁ!それはそうでしょうね。この防御0、精神(マイナス)突っ切って狂化した様な服装だものね。

 

「私帰るのぉ!視線が怖いよぉ!私好きでこんな恰好してる訳じゃないのに」

 

ㅤ私はマントを抱き寄せプルプルと震える。なんて情けない、なんて見っともないのエリザベート・バートリー!

 

ㅤ羞恥で顔が熱い。こんな鎧よく今まで着れたわね私!?もう座に返して!ドレッサーあったもの、きっとクローゼットもあるに違いない!今の恰好が解消されるならばゴスロリ、あまロリ、何でもござれ!布面積をおくれ!!

 

「えっと〜、あのぉ、そのぉ」

 

ㅤ視線を上へとスライドすれば橙の髪を揺らす主人公の姿があった。藤丸立香(女)、つまりはぐだ子。逸般人ではない本当の一般人だ。そもそも献血して何の因果か世界を救うとか運がいいのか悪いのかよく分からない。

 

ㅤそれはともかくその主人公様は私に何の用だろうか…出来れば考えたくない。

 

「何よ子ジカ!私に何か用?見ての通り傷心中だから放っといて欲しんですけど!?アイドルにも休憩は必要よ!勇者にも有給があってもいいじゃない!?」

 

「うぇ!?えっと、そうです、ね?」

 

「ちょっ、先輩。そこで挫けないでください!ファイトです!!」

 

「でも気まずいよ!?」

 

ㅤ一体なんだというのだろうか?私に用があるならさっさと言って欲しいものだ。これ以上の辱めをこの身に受けよとそういう事だろうか……くっ殺!!

 

「何?同情なの!こんな恰好を余儀なくされている私に対して同情しているって言うの!?同情するなら服をくれ!ど・う・じょ・うするなら布をくれ!!」

 

「え、いやそんなつもりは無いんだけど…」

 

「じゃあ笑いに来たの?尚タチが悪いわねこの鬼め!」

 

「えぇ……」

ㅤ速く青髭の旦那をコロコロして来てよ。私は帰りたいのよ、元々カーミラに引っ張られて召喚されたんだろうし…もう一人(清姫が)倒したんだから良いじゃない!

 

「マスター、此処は私が。大丈夫ですよ。兵を奮起させるのは専門分野です」

 

ㅤ足音が聞こえてくる。次は誰かと思えばオリジナルジャンヌだった。何故心の傷に塩を塗ろうとするのだろうか。

 

「私はジャンヌ・ダルク。貴女の名前は何と言うのですか?」

 

「…エリザベート・バートリー。職業勇者やってます」

 

「勇者ですか?なるほど、貴女もまた誰かを救う為に戦ったのですね」

 

ㅤさっきから要領を得ない。この聖女やぐだ子は私に何を求めているんだ?私のような役立たずでは兵力にはならないと思うし、何だったら置いて逃げた黒聖女を追った方が生産的だと言うのに。

 

「私は竜の魔女を打倒し、問わなければならない。その為には貴女の力も必要なのです。まだ魔女の戦力を完全に削いだ訳では有りません。ですが味方のサーヴァントが一人増えることで大きく戦況が好転すると私は考えています。勇者エリザベート・バートリー、貴女だからこそ必要なのです。どうか私の御旗のもとで戦っては貰えませんか?」

 

「…見返りは?」

 

ㅤジャンヌは胸を張って言いました。たゆんと揺れる胸を見てイマイチ集中出来なかったが、キチンと聞き取れた。

 

「─服を」と

 

ㅤ私は不敵に笑った。何としてでもまともな服を得なければならないと。私は立ち上がった。速く帰るために青髭の旦那をコロコロしなければと。私は剣を取り掲げた。返事を返すために。

 

「我が名はエリザベート・バートリー・[ブレイブ]ッ!!私が居ないとなんにも出来ない子ジカが哀れでならないから協力する者なり!!」

 

「ちょろインエリザが可愛くて辛い!…送信と」

 

『え?今までの交渉とか前口上とか関係無くないかい!?見返りに服だけあげたら落ちる軽いイベントだったよね?』

 

「ドクター、余計な事を言わないで下さい!エリザベートさんの機嫌を損ねたら面倒くさ……大変です」

 

「マシュもアウトだから!?」

 

 私は深夜テンションにも似た狂化状態のおかげで思考を放棄した。もう服が手に入れられるならば聖杯回収も吝かではない!この恥辱を耐えたら私ちゃんと服着るんだ!!

 

「急がば回れ!?そんなものは知らん、善は急げ!!全速前進だ!!」

 道中のワイバーンを消し飛ばしつつ逃げた黒聖女を追う。私たちが通った後には爪はおろか、骨さえ残らない。邪竜百年戦争だかジルジルCOOOOL!!パーリーだか知らないけれど、こんな茶番はカップラーメン数十個分で終わらせてあげるわ!!

 

「此処があの女のハウスね…」

 

「いやぁすごいダイボウケンだったネ!お土産もたくさんだよ」

 

「先輩そんな素材を抱えては動けないかと…」

 

「でもウチにはお腹を空かせてる子供達(サーヴァント)がいるのよ!?」

 

「びっくりするほどふりーだむ!緊張感はおろかシリアス展開も無いですね…バーサーカーの私が一番マトモなのでは!?」

 

『カオス過ぎて介入出来ない!?こういう時どうすれば…助けてマギ☆マリッ!!』

 

 目の前には重厚な扉があり、何者も通さんと言ってるようだった。だが我が勇者一行にはそんなもの無いにも等しい。私は剣を眼前に存在する扉に押し当てる。

 

 そして魔力放出で吹き飛ばし、声を張った。

 

「ダイナミックお邪魔しまーす!」

 

 声は超振動の如く内部空間を震わせ、所々で何かが倒れ落ちる音がした。それはワイバーンだったが、穴という穴から赤黒いドロりとしたものが滴り落ちていた。

 

 清姫を除く勇者一行は唇を突き出し「嘘やん…」と薄く呟いていたそうな。

 

 奥に行けば行くほど群がる筈だったワイバーンの遺骸があり、素材だけが増える。歩いて行けば奥が見え始める。そこは玉座の間、まさしくラスボスと相見えるのに最適なシチュエーションとなっただろう。

 

 だが、そこは既にクライマックスを迎えていた。

 

「ジャンヌゥーーーッ!?一体どうしたというのです!何故貴女は今倒れ伏しているのですか!?あぁ、ジャンヌ、ジャンヌ・ダルク!我が麗しの聖女よ。一体誰がこんな事を…あの心臓が止まり、そのまま逆流してしまいそうな程の美声が聞こえてから…………もう一度あの美声を聞かせることが出来たならばもしや!」

 

「ジル、ダメ……も…う…………それ以上は─」

 

「アンコールです。アンコールを求めます!ジャンヌはまだ倒れるべきでは無いのですから!」

 

 どうやら私の声をご所望らしかった。ファンからのアンコールには答えなければアイドル勇者としては恥ずべきものだろう。

 

──ならば聞かせよう、地獄に届くまでな!!

 

「えぇ、心臓の悪い方、気分の悪い方、妊婦、何らかの過敏症…もう面倒臭いわ。精神的健常者の方は耳栓を付け、耳を手で覆い、私から五十メートル以上離れる事を推奨いたします」

 

 さぁ準備はOK?

 

「作詞作曲私!即興だけど聴いていきなさい。曲名『触手でたこ焼きパーティー』!!ミュージックスタート!!!」

 

 私はライブ会場を召喚し、スピーカーを全開にしマイクのチェックも終了させ、そして全力全開で声を吐き出した。

 

「──────ッ!!!!!」

 

 言葉は不定形に歪み、大気は震え、叫ばれる悲鳴も覆い隠した。建物は倒壊し塵に変わる。声に魔力を載せれば眼前の風景は一変して殺風景となる。一度耳に声を入れたならば呪詛の様に永遠の時間身体を駆け巡る感覚を与え、体内を食い破らんと振動する。徐々に大気は色付き、鮮血と闇を生んでいく。産み落とされる声一つ一つに意思があるように駆け巡る。精神は侵され、自身の在り方さえ見失いそうになる。そして─

 

 

 

 

──爆ぜた

 

 

 

 

 

 何がどうなって爆発が起きたかは私も分からないが、既に曲は終わり、歌いきった余韻に浸っている。残りは締めの言葉だけだった。

 

「聴いてくれた皆ァ!ありがとーーーーーッ!!」

 

 その一声で舞っていた砂埃は晴れ、ビクンビクンと痙攣する竜の魔女(ラスボス)が居た。近くにジル・ド・レェは居なかった。だが塵が妙に膨らんだ箇所があるのできっと吹っ飛ばされたのだろう。

 

『やったぁ!やっと回線が復帰したぞ!立香ちゃん、マシュ、状況を教えてくれるかな?映像はまだ砂嵐状態なんだ。竜の魔女は?聖杯は?』

 

「え、えぇ…ドクター落ち着いて聞いてください。竜の魔女ジャンヌ・ダルク、青髭男爵ジル・ド・レェ両名はエリザベートさんの攻撃、否声撃により行動不能となりました…」

 

 その後もマシュはロマニに掻い摘んで事のあらましを伝えていた。

 

 私はそれをボーッとしながら見ていたが、ふと足元にコツンと軽い衝撃を感じた。それは煌びやかな杯だった。丁度いい、喉が乾いていた所だったんだ。

 

 私は水差しを召喚し注ごうと傾けた。だが、すかさず清姫が水差しを取り上げ、何が何でも注ぐと言わんばかりに微笑む。私はタジタジになりながらも杯を傾けた。

 

 コポコポと注がれる水。注がれる度に薄く光る杯。何とも面白い杯だなとは思いつつ満たされるのを待った。

 

「おっとっと。もういいわこれ以上は零れそう」

 

「それではグイッと一気に」

 

 お酒じゃないんだからと苦笑しつつ口に杯の淵を導く。

 

◇◆◇

 

『そうかぁ、そんな凄いことが……』

 

「流石に令呪を三画を使う事になるなんて思わなかったよ」

 

「私も宝具をあんな長時間フル稼働させることがあるだなんて思いもしませんでした。いえ、あくまでも体感時間でしたので長時間だったのかも分かりませんが…」

 

『それで聖杯は?それらしい反応はあるんだけど』

 

「聖杯は─エリザベートさん!!!?」

 

◇◆◇

 

 喉を鳴らしながら水を飲む。こういう風に飲むと身体に染み渡る感覚が味わえる、気がする。それにしても水が美味しい。こんなにこの水が味わい深い物だとは知らなかった。

 

「─エリザベートさん!!!?」

 

 私は思わず吹いた。吹きかかる先には勿論注いでくれた清姫がいる訳で、もう避ける事は叶わない訳です。

 

 清姫は顔を濡らした。前髪からピチャピチャと水滴は零れ顔を洗った後のようだ。だが勿論その水は私が吹き出してしまったもので…

 

「あら、あらあら…フフフ。エリザはそういうのがお好きなのですね?」

 

 勿論清姫は暴走するわけだ。

 

「えぇえぇ、勿論引きませんとも!私はどのような行動であれ嘘偽りの無い()が篭ってさえいれば、いついかなる時、場所でも貴女を受け入れます。さぁ、続きはこちらで……」

 

「やめ、ちょっと引っ張らないでよ。誤解、誤解だから!」

 

 杯は私の手から離れ、マシュの方へと転がる。私はマシュに助けを求めた。マシュは杯を手に取り、微妙な顔を向けた後、私を見て頭を下げた。違う!そうじゃない!私はそう言おうとしたが恐怖(清姫)がにじり寄ってくるせいか口がパクパクとしか動かない。

 

「────ッ!!!!」

 

 声にならない悲鳴が出た。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 塵の向こう側に連行されてからは散々だった。腕を異常な力で固定されてから、やれまた「水を吹きかけろ」やら、やれ「口移ししろ」やら…挙句の果てに「指の先に伝う水滴を飲め」とまで言い放ってくるのだ。

 

 清姫は私の心が分からない…と言うよりも聞きやしない。やっぱり完璧美少女なんて幻やったんよ。

 

「ヒッ!?もう止めて!聞きたくない、もう聞きたくない!あんなおぞましい声、焼かれた方が何倍も楽よ!!」

 

 地獄(清姫)から逃れてきたら怯えられてる件について。え、清姫?おねんねしてるよ。

 

「それ以上近寄らないで!来るな…来るなぁ!!」

 

「えぇ…」

 

 どうしようかと悩んでいれば邪ンヌが透け始め光に還元されていく。いや、サーヴァントは皆そうなっているようで、私も光が零れていく。

 

「やっとこ帰れる…」

 

「エリちゃん!」

 

 子ジカが話しかけてくる。退去中の為急いで声を掛けたのだろう事が声色から察せられる。

 

「今回はありがとう。色々手伝って貰って本当にありがとう!」

 

 腰を90°に曲げる彼女は主人公らしく素直で底抜けのお人好しなのだろう。思わず笑顔で返事を返してしまう。

 

「良いのよ別に、そういう気分だっただけだし」

 

「それでもだよ」

 

 光がより一層輝くと引っ張られる感覚を覚える。座で感じたものに似通っている所からきっと時間が迫っているんだろう。

 

「じゃあもう会わないことを願ってるわ。じゃあね…あと服を─」

 

「─またね!」

 

 

◇◆◇

 

 

 視界が晴れた。見覚えのある部屋が懐かしく感じる。と言ってもここの来たのは二度目なのだが…

 

「あぁ…あああぁぁ……服貰ってないじゃない!タダ働き?ボランティア?割に合わないわよぉ〜」

 

 壁に凭れ、顔を覆う。息を吸い、大きく吐いた。

 

 取り敢えず寝たかった。狙い通りクローゼットがあったので開いて中を見る。これまた予想通り少女趣味というか乙女っぽい服が大量に掛かってる。取り敢えずパジャマを取り出しておく。

 

 下着一式、上下を選びとり椅子に一緒くたに置いておく。

 

 え?ブラを着ける程大きくないだろ?補正ブラとか着けとくと大きくなったり、形が保たれるから良いんだよ!まぁサーヴァントに意味があるか知らんし、そもそも他に脂肪もないから大きくなる気はしないけれどね。まぁ未来(カーミラ)があれだからなぁ…

 

 ビキニアーマーに手をかけ外していく。元々サイズが大きいのでアッサリ外されていく。次にシャワーだが…別に問題無いだろう。どうせ汚れもリセットされてるんだろうし。下着は取り敢えずピンクの縞を選んでおいた。パジャマは血で染まった様に赤いものを着た。

 

「寝よ…もう何もかも忘れ泥のように寝ようそうしよう」

 

「ではご一緒に…」

 

 思わず肩が跳ね、尻尾もピーンと天を突いた。聞き覚えのある声だ。つい最近聞いた声だ。私は振り向いた─

 

 

──いつもの微笑みを湛えた清姫がベッドに腰掛けていた。

 

 

「ストーキング…まさかここまで……」

 

「言いませんでしたか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──逃がさない、と」

 

 

 

 




ふぅ、うちのエリちゃんは感情の起伏が激しくてキツい……
感想とかそういうの待ってます。

……何かあれば適当に続きを書くかもね、知らんけど


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転生者はモテる、はっきりわかんだね

今回その手の描写がズガッと入ります。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

それと私は反省も後悔もちょっとだけしてる。


 転生したらモテる。それが最早テンプレである。男女は問わず、とにかく人を誑し込む。だが転生者に惹かれる存在は兎に角濃い、普通に見えて濃いキャラ、濃いキャラに見えてかなり濃いキャラ。これは必定であり覆すことの出来ない現象だ。所で─

 

「お帰りなさいませ、ご飯()ですか?お風呂()ですか?そ・れ・と・も、私でしょうか?」

 

 私が自身の領域である座に帰ってきた後、扉を開けたら三つ指立てをした清姫が居た。ここ最近はずっとコレだ。今ではエスカレートして裸エプロン…清姫はどこに向かっていくんだろうか?エリちゃんはとっても心配です。

 

「ごめん清姫。どれ選んでも()になってるんだけど…それぞれ選んだらどうなるのか聞いてもいい?」

 

 清姫は「はい」と笑顔で応える。

 

「ご飯は私を食べてもらいます」

 

「Wow、いきなりハードね」

 

「お風呂は私がこう丁寧に優しく、KENZENな精神で身体中を洗うのです」

 

「身の危険しか感じないわ…」

 

「最後のはこう強引に床に押し倒して頂ければ…キャッ」

 

「知ってた……」

 

 清姫はズズイっと身体を前へ前へと押し出してくる。心做しか息が荒い、その上赤く光る火花が散っている。

 

「さぁお選びください。アナタが選びたいモノを嘘をつかず。さぁ、さぁさぁさぁ!!」

 

 清姫は私を壁際へと追いやる。縦に細く避けた瞳は私の目を逸らさず見つめ続ける。座に時間の概念が存在するか私は知らないが、この様なやり取りは多くやった。故に解決法もあるにはある。

 

 私はソレを実行するにあたり清姫の耳元に唇を近づける。

 

I LOVE YOU.(私は 貴女を 愛しています。)

 

「とぅわ!!?」

 

 清姫は直立不動となった。顔を赤く、瞳は色味が帰る。口は声にならない声を零すばかりでパクパクとさせている。

 

 後は放置するだけ。清姫は自然と回復しているはずだ。直立不動の裸エプロン少女…これは事案だな黒ひげを訴えよう。

 

 ……余談だがこの裸エプロンはメル友からの入れ知恵だとか何とか。

 

 肘掛の幅が広い椅子にドカリと座った。横に備え付けられた小さな丸テーブルにこの部屋に合わないビール缶を出す。これが無ければ英霊などやってられない。プルトップをこじ開けるとプシュッと缶内の圧迫されていた二酸化炭素が吹く。そして一つ大きく煽る。

 

「はぁ…あぁもうずっと此処で引き篭ってもいい気がしてきたわ」

 

 最初は性別変わってる上に服装に難があった。けれど性別が変わっても特に気苦労は無い上、服も今ではビキニアーマーでは無くドレスだ。唯一の難点は英霊召喚で煩いことだ。何が哀しくて応えなければならない?

 

 一つまた大きく煽る。喉の奥から温まり、全身へと広がる。

 

「もう寝ましょうか…」

 

「では私もご一緒に!!」

 

 清姫は既にyes枕を見えやすく胸に抱き完全復活を遂げていた。私は清姫の手を掴み広い面積を持つベッドに行く。謎魔術で着替えベッドに横たわる。

 

「私の上で寝るの止めてくれないかしら?息が当たって落ち着かないから」

 

「当てているんですよ」

 

 微妙に使い方が違うセリフに苦笑しつつ、私は清姫の背に手を回し、顔を自分の肩に預けさせる。小さく声を漏らす清姫を抱き枕に私は目を閉じる。

 

『─呼び声に応えよ』

 

 今更だが私は決して清姫が嫌いでは無い。家事全般をこなせるし、気立てもいい。過度なヤンデレさえなかったら完璧美少女なのである。まぁそのヤンデレもどうにか制御してるのでどうという事は無いが。

 

『─勇者よ、応えるのだ』

 

 いい感じに眠りにつけそうだ。身体の力が抜け、徐々に瞼が下がってくる。清姫が私の服の中をまさぐっている気がしないでも無いが、最早気にならない所まで意識を落としている。

 

『─勇者よ。我が声を聞き入れるのだ』

 

 先程から声がするがもうどうでもいい。セールスなぞ間に合っている。疾く失せるがいいさ。

 

『─そうか。ならばこちらにも考えがある。勇者としての使命を心に刻むといいよ』

 

 何が勇者の使命だか。混沌・善の勇者など居てたまるものですか。私は勇者に勝手に仕立てあげられた只の超絶可愛いアイドル系美少女なんですよっと。眠りの邪魔だからさっさと消えてくださいな。

 

『─three』

 

 カウントに嫌な予感がした。冷や汗が出てくる。ぁ、清姫、そこダメ…

 

『─two』

 

 直ぐにベッドから遠ざかろうと上に居る清姫に手を掛ける。だがその手は清姫に逆に掴まれ頭の上に押さえ付けられる。

 

『─one』

 

 身を捩り、身体だけでもベッドから外に投げ出そうとするが、この低身長ではベッドから出るには至らない。清姫は私の寝間着をはだけさせ下腹部を円を描くように触れる。思わず腰を浮かした。だがそれがイケナかったのだろう。清姫は腰とベッドの間に手を差し込む。その先には尻尾があり、その付け根には─

 

『──Good luck.』

 

 

 

 突如襲う浮遊感。風を背中に感じる。そう今、私は空を飛んでいる。いや─

 

 

 

 

──空を落ちている!

 

「馬鹿なぁぁあああアアアア!!!??」

 

 目の前に広がるのは、青い空、白い雲、どこまでも続く地平線の彼方、そして、嬉しそうな清姫。

 

「まぁ、なんて素敵な新婚旅行(ハネムーン)!私に対してサプライズだなんて、なんて命知らず。私、全く気付きませんでしたわ!嗚呼、でもそこがまた、ス・テ・キ」

 

 どうやら盛大な勘違いをしているようだ。そもそもの話、私達は結婚してないし、サーヴァントにそんなのあるわけないでしょうが!あ〜もう、もうこんな事考えてる場合じゃないのよ!

 

「ダーレーかー!ヘルプミー!!」

 

 迫る地面。抱きつく清姫。涙出そうな私。だが、誰も私を助けてくれる人は居ない。ワンチャンゲームオーバー!

 

「死ねるかぁこのバカァ!」

 

 エリザは魔力放出(勇気)を発動。身体能力向上、防御アップ。

 エリザは魔力放出(かぼちゃ)を発動準備。

 地面到達までカウント開始。

 

─three

 

─two

 

─one

 

「止まれーーーー!!」

 

 地面到達直前、魔力放出による衝撃波を地面に叩き付ける。叩き付けられた地面は、草が禿げ、陥没し、吹き飛んだ。だが、地面の犠牲の甲斐あって私達は緩やかに落下した。

 

 相変わらず清姫はニコニコとしていたが、私はきっと真っ青だろう。いきなり空中スタートは即アボンの危険性が高い。一体何を考えているんだ召喚主は。

 

「岩の中の方が何倍もマシだったわまったく!!」

 

 苛立ちを隠せず地面を蹴り上げる。轟音響かせながら消し飛んだがどうでもいい。こんな歓迎をしてくれた召喚主は何処だ。

 

「居ないじゃない!」

 

「前回と同じでしょうか?」

 

 野良サーヴァントだと?前回はあんな声はしなかったはずなんだが…

 

 改めて周りを見れば、隊列が組まれた兵士が衝突していた。紅と黄金の装飾からしてローマ軍だと察することが出来る。となればあの女性指揮官が第5代ローマ皇帝ネロ・クラウディウスか。アルトリア顔だ……これも全てセイバーを増やす神のせいなんだ。

 

「助けますか?助けませんか?私はどちらでも構いませんよ…嘘を吐かなければ、どちらでもなんなりと」

 

 清姫の顔に闇が広がる。目の前に居るのは嘘を嫌う竜だ。故に嘘を言ってはイケナイ。

 

「助けるわよ清姫。だって私、アイドル系勇者だから!」

 

「勿論お供しますよエリザ」

 

 ローマ軍に目掛け走り出す。そして都合よく襲い掛かってくるエネミーはかっ飛ばしていく。だが既に戦況はネロ軍に傾いていた。よくよく見ればサーヴァントがいるのに気づいた。

 

「エリちゃん!?」

 

 成程、主人公は合流していたのか…アレレ〜私いらない子?いやそんな訳無いわね。だって私勇者だし?アイドルだし?何より可愛いし?

 

「エリザベートさん!来てくれたんですね?良かった。早速ですが恐縮ですが参戦をお願いします!」

 

「あ、うん」

 

 ヒーローは遅れてやって来るものだと心に刻みながら、私は清姫を率いて敵の中心へと躍りでる。

 

 基本的にサーヴァントの相手はサーヴァントか逸般人でないと務まらない。敵ローマ軍、つまり連合軍大隊がサーヴァントを組み込んでいない現状では戦闘機に生身の人間で挑んでいるのと変わらない。よってマシュと言う一体の未熟なサーヴァントだけで手を拱いていた連合軍大隊は私と清姫と言う兵器が参入したその時に壊滅した。具体的には焼かれ、灼かれ、焚かれた。

 

「戦闘終了です。良き采配だったと思いますよ先輩」

 

「ありがとうマシュ」

 

 立香はマシュとハイタッチをし互いに褒めあっていた。横にいつの間にか居た清姫はウズウズとしたようなのモノ欲しげな顔を浮かべていた。

 

「お疲れ清姫。いい感じに焼けたわね」

 

 私が肩の上辺りまで掌を出せば、清姫はパァっと晴れたように笑い、タッチしてくる。

 

「ウム、大儀であったぞリツカにマシュ。余はそなた等に頼ってばかりだな、この戦場から脱した後で見合う役職を与えようぞ。総督などどうだ?」

 

「総督…なんかかっこいいかも!」

 

「先輩ならキチンと務まると思いますよ」

 

「えへへ、そっかなぁ〜」

 

 私が周辺を警戒をしていれば主人公勢はキャッキャしていた。戦場でそんな呑気なことで良いのかと疑問に思うが、しょうがないのだろう。皇帝もいるしね。

 

「して、リツカよ。先程から見慣れぬ者が居るが知り合いか?」

 

「うん。勇者エリザベートさんと清姫だよ」

 

「ほぉ勇者とな。ほぉほぉ、ほぉほぉほぉ」

 

 ネロは私に視線を向ければ品定めをするかのように見つめてくる。美少女に見られるのは些か恥ずかしいな…清姫?あの娘はノーカンでお願い。

 

「ほぉ、成程…好みだ」

 

「は?」

 

 思わずインテリな私に似合わないアホっぽい声が漏れる。今このローマ皇帝は何を言った?好み?いやそんな馬鹿な事ある訳が。

 

「は?では無い。好みだと言ったのだ。光栄に思うが良い。ローマ皇帝たる余がこの様な純粋な賛辞を述べるのも認めるのも珍しい事ぞ?」

 

「それはつまり…」

 

「ウム、所謂一目惚れ、というやつだな。ハッハッハッ!」

 

 デスよね〜…こんのアホ毛皇帝が!?清姫の横で何を口走っているんだ!見てみろ隣の清姫を、目に光がなくなっているじゃないか!?

 

「どうだ余のものとならんか?然すればこの世の栄佳を余の傍らで楽しむ事も出来るぞ?」

 

「お断りします!」

 

「ムゥ、謙虚よなそなたは。もっと強欲であっても罰は当たらないであろうよ。だが良いぞ!余は第5代ローマ皇帝ネロ・クラウディウス。手に入らなければ、手に入れるまで腕を伸ばすまでの事よ。見た目よし、声良し、心根も良しと来たらどれ程の財を持てば良いのやら想像もつかんな…」

 

 皇帝陛下は人の心が分からない。見てくれ横の清姫を、まるで清姫サンみたいじゃないか!

 

「エリザは渡しませんよ…」

 

 清姫は私の腕を掴むとそうネロに言い放つ。ギリギリと締め付けられる腕は引き抜こうにもびくともしないのだからタチが悪い。

 

「む?ほぉ、そなたも中々……もう良い」

 

「あら、思ったより早く引きましたわね」

 

「──もう二人とも余のものとなれば良い!」

 

「─」

 

 これには清姫も絶句。バーサーカーを置いてきぼりにするローマ皇帝(生物(ナマモノ))。駄目だこいつ…早くなんとかしないと…

 

 それにしてもこの皇帝押しが強い。流石に暴君と謳われただけはあると納得してしまう。

 

「グヌヌ、何故(なにゆえ)余を受け入れないのか。そのような身形をしておるのだ。ボディタッチくらい許して然るべきだろう。ほれ、我が前へ来ることを許すぞ」

 

 原作エリちゃんとは大分扱いが違うな。私も慇懃無礼には違いないと思うんだけどね。でも好感度が高くて悪い事は無いだろうし現状維持かなぁ。それにしても、本当に執拗いなこの皇帝。酔っ払った上司の絡み酒かよ…ん?ちょっと待てよ。この皇帝さっき聞き捨てならないことを言っていたような…身形?

 

「ドゥエッセイ!!?」

 

 私は気付かなかった。いやもしかしたら気付きたくなかったのかもしれない。だってヤツは私のトラウマだから。今まで見て見ぬ振りをしていたヤツの姿を私は見る。直後、私は崩れ落ちた。何故、何故だ。何故ヤツがいる?

 

 

──ビキニアーマー(八十年代想起)がよぉ!!?

 

 

「みえ、見えそ、う」

 

「先輩最低です…」

 

「ん?急にどうしたのだエリザとやら。いきなり四つん這いになぞなって。アレか?誘っておるのか?フフフ、愛いやつめ。良しそうと決まればローマへと帰還するぞ!待っておれ、直ぐに館へと案内しよう」

 

 兵士達の気合の入った声が耳に伝わる。だが、脳にまでは届かない。私は結局マシュに背負われて、ローマへと連行されたのである。

 

 ローマに行ったら私、服を着るんだ。

 

 

 

 




評価感想が思っていたより来ていて嬉しく思います。来れば来るだけ私は書きます。この章が終わっても感想評価が来るのであれば連載に移すかもですね…知らんけど、

あと、誤字報告は良い文明。本当にありがとうございます!


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脱ぐなって言ってんだろ(血涙)

ふぅ、一話に一つ二つ過激な表現が入るな……
気を付けろ、この先は地獄だぞ?


 マシュにドナドナされていた所までは覚えている。でも、でもよ、何故私は─

 

「──なんで縛られてるわけ!?」

 

 そう現在私、勇者エリザベートは─

 

──テルマエに入っている。

 

 いや、お風呂は良い。気持ちがいいし、ローマ朝のお風呂は圧巻だ。しかし、手首を縛られているのはなんだ?私にそんな趣味は無いわよ!いや縛るのは最早本能的に得意だけれども!!

 

「むぅ、そう叫ぶでないわ。此処ではそなたの声は良く響く」

 

 湯煙の奥から来たのはネロだ。やったなお前ら!風呂回だ!!

 

 私は勿論目を背けます。そりゃそうでしょ!私は心まで女になった訳じゃ無いんだからね!

 

「ウム、思った通り美しい身体をしている。やはり美少女は良いな!実に良い!控えめに言って最高だな!」

 

 そう言いながら私の身体をペタペタと触ってくる全裸皇帝…AUOキャストオフ……う、頭が痛い。

 理由の分からない頭痛に襲われる私。念入りに身体に触れてくるネロ。もう分かんねぇなコレ……

 

 現実逃避を止め、改めて自身に置かれた現状を見る。縛られている。具体的には柱に着けられた金具に引っ掛けられており、そこから伸びるソレに拘束されている。太もも辺りまで湯に浸かっているためそれ程肌寒い訳では無いが、勿論私もZENRAである。

 

「このロリコン!離しなさいよ。手を縛ってこんな事するなんて最低よ!」

 

「ん?流石に意識が無い状態で湯に浸かるのは死ぬぞ?」

 

「あら、お気遣い痛み入るわ、ありがとう」

 

 そうかぁ、ただの親切心。気遣いだったかぁ…悪い事しちゃったわね。

 

「ウム、素直は美徳ぞ。ささ、身体をしっかり清めるとしようか!」

 

 そう言って私の拘束を取らない。何故だ!?

 

「不服か?ローマ皇帝たる余が奴隷の真似後をしていると言うのに…」

 

 ネロは目をギラギラと輝かせている。

 

「余が嫌いな事の一つは節制よ。その証明に見よこのテルマエを!贅を凝らした物だろう?薔薇を散りばめたこの湯は余のお気に入り。この場に連れてこられたこと、誇っても良いのだぞ?良いのだぞ!」

 

 裸でそう言われてもイマイチ格好付いていないが、それでいいのだろうかこの皇帝。

 

「それで、だ。この様に馳走が目の前にある状況下…余が自制するとでも?」

 

「いや、この戦時中にそれは…」

 

「なに、余にもこの様な息抜きは必要だろう?ローマは余と共にある。余はローマ皇帝ゆえな」

 

 このネロは生前、故にビーストである。さて、どうしたものかな。魔力放出を使えばこの拘束を振り切ることは可能だ。だがしかし、それをすると此処が吹き飛ぶ。それは流石にマズイ、野宿を進んでする程マゾではないから。

 

「案ずるな、直ぐに具合いも良くなる」

 

 ヌルヌルとした動きで迫ってくるネロに私は足をバタつかせる事しか出来ない。ネロはそれを愉快そうに眺め口元を歪ませる。完全に状況を愉しんでいるネロはゆっくり私の脇部分を撫で回していく。

 

「くすぐったッ!?」

 

「良い反応をするなエリザは…」

 

 少年が悪戯に成功したかのような顔を浮かべるネロはどうにもやめる気がないらしい。

 私は最期の手段に出るしかないのかと下唇を噛み締める。本当は使いたくなかった。でも貞操を奪われるくらいだったら─

 

「…けて……め」

 

「ん?何か言ったか?」

 

 私は加減はしつつも声を張る。

 

「──助けて、清姫ェーーッ!!!!」

 

 辺りの湯気が消え去る。ネロも私の声に吹き飛ばされかける、だが私の尻尾を掴んで耐えた。……尻尾ォ!?

 身体が硬直する。ピリピリとした感覚とチカチカとする視界に酔いそうだ。そして自然と涙が流れるのが分かった。

 

──┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

 何処からか聞こえる轟音。湯から来る熱気とは違う熱が何処からか来ている。そして薄く聞こえていた声は鮮明化した。

 

エリザ(安珍様)を泣かせた愚か者は何処ですかァ!!」

 

 最早、育ちの良さを感じさせる甘い声はなく、ただそこには愛おしい人を思う人間の咆哮があった。彼女もまた竜、肺活量が違った。道が開かれたように湯気が飛び去る。

 

エリザ(安珍様)大丈夫です。私が来ました!」

 

「清姫ェ!」

 

「え?余が悪者!?」

 

ㅤ清姫は私を見つけたと同時に正義のヒーローの様にセリフを言い放つ。そして急加速、清姫の影がブレたと思ったらネロと私の間に立っていた。顔には慈愛の笑があったが、それ以上に口から時折漏れる発火音が異様だった。

 

「よくも、よくもやってくれましたね…」

 

「そ、そうよ清姫。このアホ毛皇帝に一言言ってやって!!」

 

ㅤ私はネロがしようとしていた事を思い出し、羞恥に駆られながらも清姫を煽った。鏡を見たら目にグルグルがある事だろう。

 

「正妻はネロでは無く、この清姫デスッ!!」

 

「ナヌゥ!?」

 

「違うでしょ!!?」

 

ㅤ頓珍漢な発言をバーサーカーした清姫はネロにサマーソルトキックを繰り出す。ネロは咄嗟に身を仰け反らせるが、顎に決まってしまった。ネロは宙空に投げ出される。

 

「まだまだァ!」

 

ㅤ清姫サンはこのままでは終わらないと着地した後跳躍。宙に浮いたネロの腹にドロップキック。顎を蹴られスタン状態のネロは勿論避けられない。くの字に折れるネロはテルマエ中心地へと吹き飛ばされる。

 

「チェストォ!」

 

ㅤなんと清姫サンのバトルフェイズは終了しない。最早何がどうなっているのかわからないが、清姫サンは破裂音と共に宙を駆けた。そしてトドメとばかりにネロの背に踵を振り下ろし、テルマエへと叩き落としたのだ。

 

ㅤ湯はネロが落とされた所から波が発生し、私を飲み込んだ。

 

「わっプ!?」

 

ㅤ抜け出そうとしたが手元がカチャカチャするだけで抜け出せない。呼吸を忘れて清姫サンを見ていた私の意識は遠のく。

ㅤ最後に見た光景は─

 

─元気に清姫サンから逃走するZENRA皇帝の姿だった。

 

ㅤあの人本当に生身かよ…

 

ㅤ私の意識は暗転した。

 

 

◇◆◇

 

 

 

ㅤ耳鳴りがしてる、何処からか聞こえる喧騒が煩わしい。心做しか下腹部が圧迫されている気がする。ちょっとだけ心地良いと思ってしまった私は変態の素質があるのかと若干落ち込んだ。

 

ㅤゆっくり瞼を上げると─

 

「知らない天井だわ…」

 

ㅤ定番のセリフを吐いた後、圧迫されていた下腹部を覗けば掛けれていた布が丸いシルエットを映していた。布を取り去ると舌をチロチロさせる清姫(変態)が居た。

 

「きぃいいえぇえああああ!!?」

 

ㅤ何故彼女を変態と称したのか、それは至極真っ当な事だ。この清姫、ZENRAである。

 

「なんで服着てないのよこのド田舎子ジカ!!?」

 

「意味は無い!と言いたいところですが、強いて言うなら…対抗心?」

 

ㅤこんな事に対抗心を燃やさないで欲しい。これも全て赤いセイバー顔の皇帝が悪いんだ!

 

ㅤそして奥の扉が音を立てて開いた。

 

「大丈夫かエリザ!」

 

ㅤ来たのはネロ。そしてその皇帝も…もう何も言うまい。

 

「服着ないなら寄越しなさいよ!」

 

◇◆◇

 

ㅤあの後私は服を着た。そして私の聖杯探索(グランドオーダー)は終わりを告げた。皆、今までありがとう!勇者エリちゃんの次回作ご期待ください。

 

 

 

 

 

ㅤえ?ダメですか?アッハイ……

 

 

 

 

 

 

「ガリア遠征?」

 

「あぁ、いつまでも此処でふんぞり返っているわけにもいかないだろう?余が出れば兵の士気も上がる、余もこの舞台を華麗に舞いたいしな!」

 

ㅤ後者が本音だとこの短い間で察する事は出来た。いつの間に霊地へと行っていたリツカたちも若干苦笑しているように見える。

ㅤだが、私が行くとは言っていない。そもそも行く必要ははっきり言って無いだろう。もとより私という存在はイレギュラーなのだから。

 

「私は遠慮するわ。気を付けて行ってらっしゃい」

 

ㅤ本音は「服手に入れたからニートでいいや」であったりする。

 

「余はストリップショーが見たいなぁ」

 

「行きます!行かせてくださいお願いします!!」

 

「エリちゃんェ…」

 

ㅤ止めて!そんな目で見ないで!しょうがないじゃないの。私はもうビキニアーマーなんて嫌なの!お金積まれても嫌なの!!

 

ㅤこうして遠征が余儀なくされた。

 

ㅤ道中も色々あったものだ。連合軍をイライラして焼いたり、連合軍をむしゃくしゃして内部破裂させたり、服を着るって素晴らしいと再実感したりと色々だ。

 

ㅤそして清姫とネロの正妻問答を冷たい目で眺めていたらキャンプ地が見えてきた。あとネロの「余がルールだ」は流石に暴論過ぎやしないだろうか?

 

ㅤネロがキャンプ地に着いた途端歓声が上がる。流石に地元固定ファンが多い、私の勇者系アイドルの本能が注目されろと囁いているが少々分が悪いと言える。

ㅤそんなネロも笑顔で応えている、時折私の方にチラチラ視線をよこすがプイッと顔を逸らすことで突っぱねた。横目でネロの様子を覗き見れば、とってもいい笑顔をしていた。

 

「ヒエッ…」

 

ㅤアレは獲物を見る目だ。どの様に喰い殺そうかと夢想し、その時の愉悦を疑似体験しているのだ。私は彼女の暴君の片鱗を見た。味方が敵で敵も敵。逃げ場には既に(そら)に続く壁を形成してしまっていた

 

「やぁやぁ来たね」

 

ㅤ気安い口調の女性の声がした。声のした方向見れば赤毛のお姉さんと─

 

 

──筋肉(マッスル)が居た。

 

 

「うわぁ…」

ㅤ思わず声が出た。貼り付けたような不気味な笑顔を見せる金髪モリモリマッチョマン。見事にいじめ抜かれた強靭な、いや狂人な肉体は脈動する度に筋繊維の漲る音が聞こえてきそうだ。私はそれを筋肉楽団(マッスル・オーケストラ)と呼称しよう。

 

「ネロ皇帝陛下…ちょっとネロ。アンタ凄い顔してるよ」

 

「ん?そ、そうか?」

ㅤ黒い笑顔に赤毛のお姉さんこと、ブーティカもドン引き。引き攣った表情をしている。そして、ブーティカはネロの視線の先をなぞる。筋肉(マッスル)も何故か貼り付けたような不気味な笑顔のまま見る。全く、アイドルもびっくりな表情筋だぜ。

 

「な、何よ…」

 

「いや、ネロが入れ込む子が気になってね。でもそうかぁ、確かに可愛い子だね。面食いのネロが入れ込むわけだ」

 

「当然ですネ。エリザは最高ですから!」

 

「清姫、ややこしくなるからそういうの止めて」

 

ㅤ清姫は落ち込み、ブーティカは撫でてくる。髪型が崩れないように撫でてくる当たり、熟れているのか…いや子持ちだったなこの人。

 

「子供扱いしないで、よ!」

 

「うんうん、そういう事言っている間は子供かな」

 

ㅤクッ、悔しい!でも、心地良い!!

 

ㅤブーティカが私の頭から手を退ける。頭から温もりが去っていく感覚がある。私はテンプレの様に「あっ…」と声を漏らした。

 

ㅤブーティカはそれに気付いたのか片膝立ちになり、私に目線を合わせニッコリ笑う。

 

「また後で、ね?」

 

ㅤ堕ちそう……

 

ㅤポンポンと私の頭を叩けばリツカ達の方へ行ってしまった。

 

ㅤそして、筋肉(マッスル)はまだ私を見ている。ジーっと見ている。もしやファン?と思ったらズシズシと協奏曲を奏でながらやって来た。普通に不審者である。半裸だし、パンイチも変わらない恰好だし。

 

「君は圧制者か?」

 

「ふぇ?」

ㅤ疑問の声が上がるとブーティカたちもこちらを見ている。彼女の顔はギョッとしているのは仕方が無いだろう。だが、筋肉(マッスル)の質問はそれだけだと言わんばかりに黙っている。

 

「いや、圧制者じゃないけど。勇者だし、寧ろ立ち向かう側?」

「そうか!叛逆の勇者!素晴らしいな。ならば我が前に口上と証明を示すのだ」

 

「エ、エリザベート・バートリー。職業勇者兼アイドルやってます…で、証明ってなに?」

 

「見よこの身体、これぞ叛逆の証!さぁ叛逆の勇者!!」

 

筋肉(マッスル)は見せつける様にモストマスキュラー。目で私に促してくる。筋肉が盛り上がり軋む。そんなものを見せつけられた私は─

 

「いや…ちょっとそういうのはマネージャーを通して欲しいんだけど」

 

──ドン引きである!

 

ㅤだが、筋肉(マッスル)は無言の圧力を持って私に強制する。と言うかグイグイ来る。

 

ㅤ怯んだ私は見様見真似でお腹辺りで手を組む。

 

「勇者よ。肉体を晒すのだ!証を、示せ」

 

ㅤ詰まるところこの筋肉(マッスル)、脱げと言っている。筋肉モリモリマッチョマンの変態って本当に居たんだ……

 

ㅤ私が遠い目をしていると、空かさず筋肉(マッスル)はサイドチェスト。

「いや、そんな出来るわけ─」

 

ㅤ拒否をしようと声を上げれば、首にガチャりと無骨なブロードソードが添えられた。

 

「ちょちょちょ、おいおいスパルタクス!その子は味方だって!!それにそろそろ止めないと…あの二人に切り刻まれた後で灼かれるよ?」

 

ㅤブーティカは筋肉(マッスル)を諌めるが頑として私の首に添えられた凶器は動かない。彼の笑顔が私の精神を侵していく。

 

「私、脱ぎます…脱ぐから。ソレ退けて…」

 

ㅤそう言えば凶器は退かされた。ネロから着せられた露出の多いドレスを布音とともにシュルりと脱いだ。

 

ㅤ私はされるがままにヒクッとしゃくり上げながらサイドトライセプスをする事になった。

 

ㅤ終始笑顔を絶やさない筋肉(マッスル)に対する恐怖はきっと私は忘れない……

 

 

 

 




私は悪くない!自然と書けたのがコレだったんだ!!

それと素晴らしいことに清エリをテーマにした絵が届きました。最大限の感謝としてここに貼っておきます。

RAELさんが書いてくださいました!

【挿絵表示】


次回?あるといいなぁ…


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やればいいんでしょ!?

前半はおねロリがやりたかっただけ。後半はエリちゃんの流されやすさが強調されただけのお話。

今回の犠牲者はこの人だ!


ㅤ私は現在服を抱き締めながら簡易テントの端で体育座りをしている。通る人は気を使ってか近付かないし、直ぐに退出する。だから私は一人だ。詰め込もうと思えば二十人は入るテントに一人…それも端っこで体育座り。孤独だ。圧倒的な孤独。でも丁度いいのだ。私が望んだ事だもの。

 

ㅤ此処に篭っているのも全ては例の事件が原因だ。あの事件、エリちゃんボディビルデビュー事件…!アレは可愛くない。筋肉(マッスル)系アイドルなんて私は求めていないのだ。やっぱりゴリゴリの私よりもキャピキャピの私だと思うの。

 

ㅤまぁそれはいい。あの事件で辱めを受けた私ではあるが、引き篭もった理由は周りの人間の目が生暖かいとか、あれ以降、子ジカこと立香のスキンシップが激しいとかそういうのじゃない。

ㅤあの子ジカは何故あそこまで下心丸出しで言い寄れるのか…ある意味素直という事なのか、欲望に忠実とも言えるけど。

 

ㅤまた脱線したが、私の引き篭もった理由は─

 

──服を着れないからだっ!!

 

ㅤ理由は簡単。着たら筋肉(マッスル)に即攻撃される。彼曰く、「シンボル(勇者)たるもの証を掲げ、同志を煽るべし」との事だ。もうわけがわからないよ!?

 

「これも全てあの金髪アロハシャツの胡散臭い神のせいなんだ!私がエリちゃんになったのも、勇者になったのも、こうして戦場に立っているのも、清姫がヤンデレなのも、スパルタクスが筋肉(マッスル)なのも…!」

 

ㅤ私にだって家族が居たし、やり残した事もある。だが、神などという身勝手な奴によって引き離され、スマホさえ触れることが叶わない!まだ育成の終わらないサーヴァントを残した無念さが、悔しさが、今になって渦巻く。

 

ㅤ悔しい、悲しい、寂しい、恋しい…

 

ㅤ負の感情は収まらない。

 

ㅤ怒涛の日々を誰かしらと過ごした為か、その騒がしさで忘れていたんだろう。

 

─忘れていたかった─

 

ㅤキッカケが新たなトラウマで一人になった結果とは、なんとも私らしい。

 

─構ってもらいたい─

 

ㅤあぁ、情けないな私。可愛くないな私。格好悪いな私。

 

─アイドルなのに─

 

「勇者なのに…」

 

ㅤうじうじしていても何も生まないのに、何をセンチメンタルになっているんだエリザ!

ㅤ私は綺麗に畳んだドレスを強く握りしめる。シワになるだなんて気にしなかった。ただ、そうする以外にこの気持ちの捌け口が見つからない。さっきから空回りして、矛盾している。

 

ㅤ思考の海に沈んでいく中、頭の上に重みを感じた。こうムニュッとした感触。そして、女性特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐった。ビクッと私の身体が震える。このつい堕ちてしまいそうになる包容力の持ち主を私は知っていた。だが、意地になっているのか素直に甘えたくない。

 

「何?」

 

ㅤ私の声も心做しか震えている。

 

「んー?何でもないよ。私が人肌寂しいから抱きついているだけだし」

 

「何それ。空気読めないの?私、今、傷心中。放っておく空気、OK?」

 

「うんうんOKOK。だけどお姉さん我儘だから無視するね」

 

ㅤブーティカは私の頭をゆっくり撫でていく。頭頂部から暖かい何かが伝わってくる。優しくて愛おしい。

 

「ほらほら、折角の可愛いお顔が全く見えないじゃん!」

 

「放っといてよ!!」

 

ㅤ私は優しくするブーティカに苛立ってつい声を荒らげてしまった。私は後悔した。優しくしてくれた人物を傷付けたかもしれない。そう思うと申し訳なさで一杯になる。

 

「放って置かないよ。放って置けない。エリザベートは一人にして置けない」

 

ㅤブーティカは私の声がなんだと言わんばかりに強く抱き締め、意思のある声でそう囁きかけてくる。私はそこに言い知れぬ感動を覚えた。スッと私の中に溶け込んでくる。

 

「エリザベートは子供なんだから、お姉さんに甘えておきなさいって」

 

ㅤ私は何も言わず。子供じゃないと否定の言葉も言えずに、言わずにブーティカを抱き締め返した。そしてか細い声で精一杯嘆く。

 

 

「スパルタクス怖いよォォオオオ!!!」

 

 

「服が着たいよォォオオオ!!!!」

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ一通りブーティカに愚痴った私は彼女の胸に埋もれる。これが求めた温もりだと思った。色々と言ってしまった。勇者にならざるを得なくなって辛いこと。清姫が清姫サンになって怖いこと。ネロが裸族何じゃないかと不安なことetc..

 

ㅤブーティカは時折相槌をうっては撫でてくれた。それで脳が溶けてしまいそうになるくらい心地よくて、愛おしい。そしてこう言ってくれるのだ─

 

「──大丈夫だよ。皆が君を助けてくれる。だから安心していいんだよ」と。

 

ㅤあぁ、安心した……。

 

ㅤ服はまだ着れないけれど、この負の感情はあらかた払拭出来た。服は着れないけれど、どうにか進めそうだ。服は着れないけれど…服は着れないけれど……

 

「ありがとう、ブーティカ。私もう大丈夫!アイドルらしく輝ける!!元々アイドルも勇者も民衆の期待の視線を集める物だもの。自分に自信が無くっちゃやってられないわ!」

 

「ハハハ、大丈夫だよ気にしないで。思った方向とは違うけれど、助けになれたんなら私としても嬉しい限りさ」

 

ㅤ彼女は本当に優しく英霊だった。私の唯一無二の癒しだった。だから今出来る最高の笑顔で伝えるんだ。

 

「──大好きッ」

 

「…。本っ当に罪な勇者様だねエリザベートは」

 

ㅤブーティカは天幕しか見えない空を仰ぎそんなことを言うのであった。私は求めた反応が得られて満足した。

 

ㅤブーティカが言うにはそろそろ戦場に出向くらしい。サーヴァントらしき司令塔も確認出来たとかなんとか。

 

ㅤ早速ブリーフィングで詳しい話を聞いた。作戦会議モドキも並行して行った結果、「取り敢えず暴れたら良いんじゃない?」、との結論だった。本当に大丈夫なんだろうか?不安材料が増えるばかりで頭痛持ちに─いやエリちゃんは頭痛持ちだったけど─なりそうだ。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ荒野、幾度の戦、幾人の血が流れた大地。一歩一歩踏みしめると、そこからは染み込んだ流血の代わりに砂埃が乱舞する。

 

「見てみろ叛逆の勇者。これぞ圧制者に拐かされ、叛逆の機会を生涯得ることの出来なかった者の末路!」

 

「あ…うん。楽しそうでなによりよスパさん」

 

「楽しい?いやこれはそれを超える歓喜だ!全てがここにある。圧制の徒が跋扈するこの場この時、今こそ真の叛逆を示す時!さぁ勇者、凱歌の時だ!我らの未来への咆哮こそ勝利の先触れとしようではないか!ハッハッハッ!!!」

ㅤそう言ってスパルタクスは私の華奢な体を肩に乗せる。

 

「ブーティカ…助け──いやぁあああ!!?」

 

ㅤズンッと重重しい重低音が響けば景色が移り変わる。スパルタクスが疾走しているのだ。後ろからはスパルタクスを静止する声が聞こえるが、彼は絶賛叛逆モードな為一切見向きしない。

 

「戦え戦え戦え!手に、脚に、全身に力を漲らせよ!死を恐れるな。剣で圧制者の首を断て!死すその時まで盾を手放すな否、死した後にも手放すな!叛逆の誉れを戦場で行動にて雄弁に語れ!!」

 

ㅤスパルタクスは私に敵を斬り捨てながらも息を乱すことなく饒舌に語る。見えるのは敵が流す鮮血のみ。それは私にとっての鎮痛剤であり、劇薬だ。

 

ㅤスパルタクスは周りに囲んだ敵を屠った後、今まで以上の声量で私を鼓舞し、敵本陣に投げ込んだ!追い付いたブーティカはそれに吃驚する。

 

「──戦え勇者ッ!!!!」

 

ㅤビキニアーマー、角、尻尾、盾に剣を持つ私が戦場の宙に舞う。それも敵地の中心。有象無象の顔が私を見つめ、剣を掲げ剣山を作る。もう後退できない、しちゃ行けない!

 

──スパルタクスに殺されるからッ!!

 

「消し飛べ圧制者ァ!」

 

ㅤ私はエイティーンを両手で掲げる。そして、二つの魔力放出を並列起動。吹き荒れる魔力の渦。装飾の無いエイティーンは圧制者にはきっと空を覆い隠す超巨大剣に見えている事だろう。自由落下し、剣の間合いに入ったその時、私は無慈悲を振り下ろした。

 

ㅤ地面が悲鳴を上げクレーターを形成する。暴風吹き荒れ砂が舞う。聞こえる有象無象の悲鳴が嬌声に聞こえてくる。鮮血が空を舞い、クレーターに降り注いでは染み込み、死の影だけを移す。

 

ㅤ私にも鮮血は注がれる。浄化される心地だ、コレは快楽などという枠に当て嵌らない。刹那的な部分であれば似ているが本質が異なるのだ。そうコレは、安らぎだ─コレが戦場、コレが闘争、コレが叛逆!

 

ㅤこの一瞬だけは染まろう。今だけは叛逆勇者系アイドルだ!!

 

「ニューシングルでも出せそうな程のハイテンション。たまらない止まらない!冷血冷酷残忍の三拍子を持ってして豚共を絶望の快楽地獄に落としてあげるわ!」

 

「まぁ…エリザったらいつにも増して激しい!嫉妬、してしまいそうですわ」

 

「え?」

 

ㅤリアル無双ゲームを体感していたらネットリとした視線と熱い吐息を感じた。もう言わないでも分かるだろうけれどあの人だよ。

 

「一人、二人、三人」

 

ㅤ彼女は目玉焼きを調理する手軽さで妬いていく焚いていく焼いていく。例外なく炭と化す。()()も例外無く蒸発する。

 

「…」

 

ㅤ私は萎えた身体で敵を処理して行く。アレをしていたらお母さんに見つかったぐらいの萎え方だ。

 

ㅤ気付いたら周りに敵が居なくなっていた。あるのは山になった焼死体の数々、呻き声さえ聞こえない山の中心には美少女二人というスプラッターホラーもドン引きな始末。

 

「さて、次は誰を焼きますか?誰でも良いのですよ?お選びください。誰を、何処で、いつ、どのようにして焼き殺すのかを」

 

「え?うん。ごめんなさい…」

 

「私は怒っていませんし、謝る必要もありませんよ?聞いてるだけじゃあないですか?誰を燃やすんですか?」

 

ㅤ怒ってないなんて嘘だ。半清姫サン状態に突入している。怒る理由も身に覚えがありすぎて困る。具体的には私のせいでは無いが…

 

「て、敵将を倒そっか…ごめんなさいごめんなさい、何でもするから許して、もう約束破らないから!」

 

ㅤ清姫サンのプレッシャーで思わず平謝り。危うく死体の中心で日本最高の謝罪姿勢、DOGEZAを披露するところだった。

 

作戦(オーダー)、確かに承りました。…何でもするなら」

 

ㅤ清姫はDOGEZAを阻止しようと中腰を維持している私に近寄り、か細い声で囁きかけてくる。

 

「─もっと私を見てください…」

 

ㅤ私は目を見開いて清姫を目で捉えようとするが、既に走り出しており、その影は妙に小さく感じた。

ㅤ私は清姫を追う形でまた敵を斬っては千切るを繰り返した。

 

ㅤそして、デブが居た…

 

ㅤ見た目にそぐわない俊敏な剣捌き。盾のサーヴァントであるマシュは防御しか出来ないでいる。清姫も合流するが、彼女の攻撃方法ではマシュさえ焼きかねない、故に動けないでいる。マシュを失う事で戦線が崩壊する事は明白なのだ。

ㅤ英霊ではないネロは火力不足?な為攻めあぐねている。だが、私にはまだ気付いていない。要するに勝てばよかろうなので、一撃必殺はできなくとも、大部分の体力を攫ってしまおう。

 

ㅤしかし、相手はデブってもセイバー。近接戦闘ではアサシンクラスでも無い限り接近する前にでも感知されると予想できる。だから、今こそ原理不明のおもしろビックリ魔術で全力攻撃を仕掛ける。名将として有名なカエサルの事だ、意外性を持ってして攻めなければならない。

 

「私の魔術はイマジネーションで全て形作られる。イメージするのは最高にキュートな私─じゃなくて最強の自分ッ!さぁ、勝利への方程式を組み上げるのよエリザ。『召喚(サモン)/恐怖呼ぶお化けカボチャ(ジャック・オ・ランタン)!!」

 

ㅤカエサルの頭上に直径五メートル程の火が灯っていないジャック・オ・ランタンを召喚する。タイミングもマシュのカウンターをバックステップで飛んだ時、周りにも誰も居ない。

 

「離れなさいィイイイ──!!」

 

ㅤ私はカエサル目掛け目一杯叫んだ。三半規管を刺激されたカエサルは蹌踉めき動けない。マシュたちも私の警告を受け、耳を塞ぎながらも後退した。離れた場所に居たマスターである子ジカの活躍もあったのかもしれない。

 

「ぬぐぉ!?」

 

ㅤ私はカボチャを両手で支えたカエサルにゆったりとした足取りで近付く。その際もカボチャへの負荷を掛けていく。

 

「ま、まだサーヴァントの伏兵がいたとはな…だが、うん。私に対して奇襲は良いアイディアだな!」

 

「でもまだ耐えるのね?だったらダメ押しにもう一個。召喚(サモン)!!」

 

ㅤ避けられる訳もなく、カエサルのカボチャはまた増える。同じく負荷を掛けつつ声を掛ける。

 

「耐えるのね?耐えちゃうのね?」

 

「どうにかな…はぁ、そろそろカロリーが足りなくなりそうだ。ジャンク品などこう、ガツガツ食べたいものだな!」

 

「あら?終わりのつもり?」

 

「ん?終わりだろうさ、終わりだとも。ランタンならば火が灯って然るべきだろう?それにやけに重い─魔術の使用を考慮してもな。これだけ負荷を掛けられると運が良くない限り避け切れない。武器も足元だと言う事もあってな…」

 

ㅤこの後、手足がプルプルになるまで原作通り語ってもらった。ネロはポカンとしていたが…チラチラとこちらを見られてもどうしようもない。

 

「では、そろそろ限界だ。名残惜しいが御暇するとしよう。ではな第五代皇帝ネロ・クラウディウス!!」

 

ㅤタイミング良く私はカボチャに火を灯す。直後大爆発。時折甲高い音が鳴るのはカボチャの中身が花火だからだ。

 

ㅤ黄金の光が霞と消えた。

 

「ネロ、これがサーヴァントの死だよ。この世界から消滅したんだ」

 

ㅤ立香はネロにそう説明した。

 

「そ、そうか…だが、これで皇帝一人を倒したという事だな?ウム、御苦労だったな皆の者!」

 

ㅤネロは一瞬暗い顔したと思えば、直ぐにニッコリと笑った。

 

ㅤ私は胸をキュッと締め付けられる。本当に傍迷惑な皇帝だ。

 

 

 




うん、まぁこうなっちゃった訳だよ…
いつもより筆が乗らなかったのでなんとも言えませんが、評価感想の程、お願いしますね。

ぁ、水着清姫来ました…


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失念していた!

…原作に沿うのって難しくネ?ウチの娘たちが勝手に動き回り過ぎて書き手が置いてきぼりにされるんだが!?

テンポの良さがホスィ…

それと少しいつもより会話が多いと思います。


ㅤガリア遠征は私たちの活躍もあって安定した。敵司令官を落としたのでしばらく進行しては来ないだろう。ただの兵であればあの二騎で十分だ。

 

「と言うことで船に乗るぞ!操舵は余に任せよ。フフフ、久々に腕が鳴る」

 

「という事ってどういう事?」

 

「噂を確かめるためだと思いますよ先輩。確か古き神が出たとか何とかで」

 

「神?ドクターがサーヴァントとして神様は召喚は出来ないって…まさかの嘘情報!?」

 

『人聞きが悪いな立香ちゃん!?』

 

ㅤカルデア組は神霊の考察をしている。私はと言うと…

 

「神?絶対会っても碌な事に、事実どうでも良い試練をするだけなのに……寄らなくても良いんじゃない?」

 

「そうは言いますが、あの皇帝はやる気満々のようですよ?」

 

ㅤネロは既に船に兵を乗せ始め、自身はウキウキしながら舵を握る。鼻歌交じりでステップまで踏んでいる彼女に行かない旨を話せばどうなるか、想像に難くない。

 

「言いづらい…」

 

ㅤこうして乗船以外の選択肢を封印され、神が顕現されたと言う島へと向かうのだった─

 

─だがしかし!!

 

ㅤ事はそれだけで済まされ無い!!

 

─何故ならば!?

 

「見るがいい!これぞ余のドライビングテクニック!!」

 

「急上昇、急降下、急旋回!?訳が分かりません…これ船ですよ!?船ですよね!!?」

 

「ちょっ落ちる!シートベルト!!シートベルトは何処(いずこ)に?」

 

「先輩、しっかりしてください!先輩、先輩ッーーー!!」

 

ㅤ明らかのスピード違反─舟が出して良いスピードではない─に激しい動き─舟がしていい動きではない─をしている。これでは安全装置無しのジェットコースターに乗っているのと同じである。

 

ㅤそんな無茶苦茶な運転を続ける皇帝はと言うと…

 

「この先の五連続ヘアピンで決めるぞ!どおぉりゃああ!!」

「ヘアピンって、まず海上にコーナーなんて無いわよ!?バカバカバカァ!!こぅのアホ皇帝ェ!!…ウップ」

 

ㅤ完全にグロッキー状態の私。マストにロープを括りつけて身体を固定しても右へ左へ上へ下へと引っ張られ揺れに揺れる。更に容赦なく海水が降りかかる。髪が痛まないか不安だ。ぁ、私英霊だった…

 

ㅤ清姫はと言うと、コレが好機かと言わんばかりの正面から抱き着いてくる。ロープに捕まれと言っても「安心感が違います」と訳の分からない供述をしており、この先おかしな行動をしないか警戒しなければならないだろう。

 

「ほれほれ次は溝に─」

 

「海だって言ってんだろ!!」

 

◇◆◇

 

ㅤ口の中が酸っぱい。プールから上がったような脱力感に時折聞こえる呻き声が鬱陶しい。

 

ㅤズサァっと砂浜を割く音が聞こえ、ネロが声を上げる。

 

「到着ッ!ウム、良き航海だったな。機会があったらまた乗り回すとしよう」

 

─やめてくださいしんでしまいます。

 

ㅤ幽鬼のようにユラユラと立ち上がる兵士達は各々目に光が無く、恐らく忠誠心だけで立っている。私は彼等の生き様に涙を流しそうだ。いや、流さないけどネ!

 

ㅤ身体を起こし、辺りを見渡せば、まぁ十中八九島がある。

 

『わわっ、本当にサーヴァントが居るぞ!?』

 

「既に連合に取り込まれていたか…」

 

「いえ、まだそうと決まったわけではありません」

 

ㅤどうやら女神様がエンカウントしたようだ。正直私は会いたくないし、出来れば帰りたい。

 

「あら、お客さんなんて珍しいわ。ようこそ()の島へ、歓迎するわ。サーヴァントが混ざってるみたいだけれど…まぁ瑣末なことよね?」

 

「えっと、貴方が古き神、と言うことでよろしいでしょうか?」

 

「古き、なんて言って欲しくは無いのだけれど。貴方達からしたらそうでしょうね」

 

ㅤ話は途中から聞いていない。関わってもどうせ碌な事にならない。よって、私は砂浜で城を作る作業に没頭している。砂に水を混ぜて強度を上げるのだが、ボロボロにならない様にするのが難しい。時折火で炙って見るのだが、どうにも綺麗に出来ない。

 

「貴女…」

 

ㅤ何か近くに気配を感じるが、まぁ清姫だろう…いや、清姫は目の前で穴を開けてる。

 

「貴女よ貴女…」

 

「え、私?」

 

「そう貴女」

 

ㅤ振り返れば女神がいた。比喩ではなくそのままの意味で、美を集結した偶像がそこにはある。昔の男達は揃ってロリコンなのかと見紛う美幼女だが、纏う神気は本物でプレッシャーもキチンと感じる。

 

ㅤ女神ステンノは私の瞳を覗く行為を止めない。そこにどんな理由が介在しているのかは凡そ察することが出来るが、やはり碌な事にならないので視線を砂の城に移そうとする。

 

「本来女神の姿を覗き見る行為自体万死に値するのに、それに加えて私の許可無しで目を逸らすだなんて、とんだ無礼者ね貴女」

 

「はい?そっちから話し掛けといて一言も発さないのが悪いんでしょ!?」

 

(私達)は得てしてそういう者よ。それで、話し掛けた理由なのだけど…まずは、名前を教えて下さる?」

 

ㅤ本当にこの女神は良い性格をしている。サラッと全て流して自分の意見を突き通してくる。妹さんをもっとリスペクトするべきだと思う。

 

「エリザベート・バートリーよ」

 

ㅤ私が素直に答えると意味有り気に「ふぅん」と声を漏らし、立香たちに向き直って試練(御褒美)と言ってから洞窟へと進ませた。

 

ㅤ私も行こうとしたが、面倒だと思い、結局同行はしなかった。もちろん清姫は私から離れない。

 

「清姫、ここの部分をもっと…こんな感じに」

 

「んぅ…こう、でしょうか?」

 

「そう、そんな感じ。だけどもっと優しくして、壊れちゃう」

 

「楽しそうね」

 

ㅤ横目でステンノを見れば、傍らで屈んでいる。スカートに砂が付くか付かないかが気になる…

 

「さっきから何?言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ…」

 

「─貴女は誰?」

 

ㅤゾクりと背筋に怖気が走った。この女神は名前を尋ねているんじゃ無いことが私には分かる。何処までも見透かした様な視線は、私のガワを見ていないのでは?魂を覗き見ているのでは?そう、何処までも感じさせる。

 

「わ、私はエリザベート─」

 

「違うでしょ?」

 

ㅤ私はステンノの顔を見た、逸らせなかった。今、私の中で確信に変わった。この女神はエリザベート・バートリーを知っている。だから私がエリザベート・バートリー本人ではないと否定できるのだ。

 

「もうそろそろじゃないかしら…」

 

「え?」

 

ㅤ足音が聞こえる。軽い足音が二人分。誰だなんて疑問は無い。きっと身近な存在だ。きっと私は会った瞬間逃げ出したくなる存在だ。きっと…きっと─

 

 

─それは()だ。

 

 

「ん?どんな美少女が居るかと思ったら、なんだ…アタシじゃない」

 

ㅤ金属音が鳴っているんじゃ無いのかと思う程首の回り具合が悪い。瞼は閉じる事を忘れ、口の中は干上がっている。汗腺は緊張からガバガバ、止めどなく汗は噴き出し、作った砂の城に滴り落ちる。

 

ㅤ体感時間が程良く引き延びに引き延ばされた辺りで漸く声の主を突き止めた。そこにはエリザベート・バートリーが居た。

 

ㅤついでにタマモキャットも居たがニンジン投げたので既に居ない。投げたのは私で、具体的にはピ〇ミンを投げる様に投げた。恐らく彼女は途中、自分が何故ニンジンを追い掛けたのかさえ忘れて帰ってくる事だろう。

ㅤさて、シリアスに戻そうか…ニンジンのくだりで既にシリアルになった様な気がしないでも無いが、まだセーフだと信じておくこととしよう。

 

「同じサーヴァントが同じ場所に居るなんて思わなかったわ。やっぱりアレよね、人気アイドルだから引っ張りだこってことよね?いやぁ困るわぁ、売れっ子アイドルって大変だわぁ!」

 

ㅤあるぇ?もしかして、このドラ娘、私の事に気付いてない……マジで?

 

 

 

──あぁ、(エリちゃん)ってアホの子だったわ…

 

 

ㅤ最終的に何事も無く─メンタルに多大な影響を及ぼしては居るが─無事に乗り越えた。

 

「思ったよりつまんない演し物だったわね…」

 

ㅤステンノは貼り付けたような笑顔を取り払い、退屈そうに顔を伏せる。本当に残念そうだ。私の身バレを期待した様だが……

 

ㅤ残念だったわね、(エリちゃん)はアホの子なのよ!

 

ㅤアレ?目からお水が漏れそうだわ…

 

「ん?エリザが二人…」

 

ㅤ清姫は徐に立ち上がるとおかしな行動を始めた。深呼吸は良いとして、何故高速で首を動かしているのだろう。あと、手をワキワキさせるのは止めてほしい。

 

「匂い、フォルム、呼吸リズム、瞬きの間隔、肌の予想弾力までは同じ。相違点は体温と服装と安珍様の有無。偽っている?つまり嘘?嘘は…いえ、安珍様は私に嘘を吐かない!」

 

「は?何この娘…アタシの熱烈なファン?」

 

「味もみてみないと分からない?味の比較もしてみませんと、イケナイノデハ?」

 

「イケナイのはアンタの思考回路よ!!」

 

ㅤ私は目にグルグルを召喚し始めた清姫に魔術で出したハリセンを叩き付ける。こぎみの良い音が周囲を包む。そして、清姫はコレをキッカケに嵌ってはいけない歯車を噛み合わせてしまった。

 

「問おう、貴女が私の安珍か?」

 

ㅤ何聞いてんだこの狂戦士(バーサーカー)!!?

 

「は?人違いよソレ」

 

ㅤ言うに事欠いてその返答ォ!?

 

「フフフ、フフフフ…」

 

ㅤ口から火花を散らす少女は想起したのだろう。愛する男を何処までも追いかけ、漸くその(まなこ)に愛おしい人物を映し込んだその時を、その問いかけを、その答えを、その憎悪を。

 

ㅤ真ん丸だった瞳孔は縦割れ、白く美しい柔肌は音と共に剥がれ鱗を覗かせる。綺麗な桃色をした唇から漏れる声は最早声として機能せず、音と形容した方が適切だろう。(まさ)しくソレは警戒音だった。彼女の口内を激しく蠢く舌は徐々に細く、徐々に長く成っていく。

 

ㅤ思い込みだけで竜に転身した少女は今─

 

ㅤ勘違いで竜に成ろうとしている……

 

ㅤ幾ら何でもフリーダム過ぎるでしょうがァッ!?

 

ㅤだが、この場にはまだ黙っている者が居ることを失念してはならなかった。それは何処までも美しく、何処までも冷酷で、何処までも残酷で理不尽な女神。

 

「ハイハイそこまで。此処は私の島なのだから好き勝手は止めておきなさい。蛇は好きだけど嫌いよ。そも話、ソレは嘘は吐いてないわ。だって知らない事だもの」

 

「アンタ人のことソレ呼ばわりしたわね!?」

 

「そう、でしたか。確かに無知では嘘の吐きようがありませんね」

 

「スルーすんなァ!!」

 

ㅤ回り回って私の方までダメージが通るお話は早々に切り上げ、私たち(エリちゃんズ)を置いてきぼりにこの二人は勝手に話をねじ込む。

 

「アレとソレは別人よ。外見はともかく中身はそう言い切れる。醸し出す色彩が全く違うもの」

 

「つまり安珍様の有無は確かに有ると、そういう事ですね。あぁ安珍様、それ程までに私に会いたがっていただなんて!清姫照れてしまいます」

 

「まぁ概ねそんな所よ」

 

「ちょっとアタシもなんか言ってやりなさいよ!」

 

「私に振らないでよ!?清姫のクラスバーサーカーだからね?」

 

「ウッソォー」

 

ㅤ何言ってんだこの(エリちゃん)

 

ㅤ清姫が嘘何か吐く訳無いでしょう。それとさっきからスルーしてたけど…私の事モロバレじゃない?プライバシーもデリカシーもあったもんじゃないわ!?

 

「ニンジン採ったどォ!!」

ㅤまたカオス要員が参戦した。敵、狂戦士(キャット)です!

 

「ニンジンは貰った。ならば此処は既にキャットの独壇場!さぁ今こそタマモナインが一角、タマモキャットの家事スキルを披露する時だワン!!」

 

ㅤタマモキャットがピクピ〇ニンジンを持って帰って来た。その後、辺りを見渡せば気付くだろう。そう、此処には戦場(キッチン)は無いのだと!

 

「何と!?独壇場はともかく、立つ壇さえ無いと?グヌヌ、これでは…」

 

ㅤ尻尾は垂れ下がり、持っていた数本の包丁は何処かに仕舞われた。私は何とも言えない気持ちになった。よってちょっとだけ助けようと思う。いや、子ジカ帰ってくるまで暇だからネ!

 

「調理場位は出せるわよ…」

 

ㅤそう言うと再度包丁を取り出し走り寄ってくる。包丁が私の髪の毛を数本持っていった。ぁ、コイツ確かにバーサーカーだわ…

「それは本当カ!?ではシステムキッチンをだな!」

 

「竈で妥協しろ!」

 

「任せろ!此処に酒池肉林を築いて見せよう─だワン!」

 

「ニンジンだけで出来るかァ!?」

 

「ニンジンフルコースをお見せしよう─だワン!!」

 

「語尾忘れるくらいなら止めなさいよ…」

 

「だワン?」

 

「何故疑問形ィイ!!?」

 

「ハッハッハ、面白いヤツだ。殺すのはオリジナルの後にしてやろう」

 

ㅤ会話がしたい。お願いだから会話をしてくれ。何故コイツらキャッチボールしないの?何故豪速球投げてくんの?ぁ、バーサーカーだからカ!?

 

「ネロォオオーーーーッッ!!!!」

 

「会話しろって言ってんだろォ!!」

 

ㅤ野太い声がした方向へ魔力放出×2を全力開放。勢いに任せて拳を振えば数十回水を跳ねる音がし、遠い所で着水する音が聞こえた。

 

「アレ?アタシってあんなこと出来たっけ?」

 

ㅤタマモキャットはせっせと料理に勤しみ、清姫とステンノは談笑。私たち(エリちゃんズ)は仲良くお互いを見て硬直。この光景はカリギュラ再出現まで変わることは無かったという…

 

 

 

 




グダってきたナ!ヤバいヤバいヤバい!?このままではヤバい!!

─評価が!!

ぁ、礼装がまた凸りました…辛い……



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励まされたが嵌められた!

なんか徐々にエリちゃんが私の手を離れていく…

もうこの作品見る人居ないんじゃなかろうか?
匿名の投稿者は失踪するって良くあるらしいからネ!!

それと、オリジナルのエリちゃんがどう行動するかで四苦八苦した結果諦めました。


 墓穴を掘るとはこのような事なのだろう。

 

 私は『ニンジンたっぷりポトフ(キャット風)』を口に運びながら自身の失態に辟易する。現在では真エリちゃんの興味は帰ってきた子ジカに移っている為、私に噛み付いてはこない。だが、彼女の内心を察するに、いきなり自分の同位体が現れたと思ったら別人だった訳だ…ハッキリ言って何するか分からない。

 

 私もエリザベート・バートリーに違いないのだからソレをなぞれば良いと思うだろうが、ソレが絶対正しい訳では無いし、実際なぞってみても結果は分からないと出るだろう。

 

「エリザ、ほらあ〜んしてください。口移しも可ですよ。寧ろ推奨しましょう!」

 

「アンタは平常運転ね。仮にも私が好きならこう、気になってソワソワするもんじゃ無いの?」

 

 清姫は私に食べさせようとしたニンジンを自身の口に運び、咀嚼をしながら思考する。そして呑み込んだと同時に私の目を見てことも無さげに言った。

 

「気になりません」

 

 「気にならねぇのかよ!?」とは口には出さないが思わずには居られない。日頃から好き好き言っている彼女なら、秘密があった事に何かしらのアクションや感情を見せるはずと思っていたからだ。

 

 ハッキリ言って拍子抜けだった。

 

「ですが─」

 

 アレ?雲行きが怪しいような…

 

「─あとでゆっくり、ですよ?」

 

 全身の鱗が逆立つのを感じた。お蔭で尻尾が直立してしまってる。スカートを持ち上げてしまうので直ぐに戻したが、慣れてしまったものだと強ばった笑みを浮かべてしまっている事だろう。

 

「ぶっちゃけると偽物を決めるとなれば、私がそうだと思うのよ。嫌じゃない?そういう存在を好きなるのっ─ムグッ!?」

 

 この際聞けることをトコトン聞いてみようと思い、濁流の様に言い流していったが、口に『キャロットonステーキinハンバーガーパティ(キャット命名)』が差し込まれた。予備動作なく、歯にも当てず、唇が開いている状態と言う針に糸を通す精密さを見せたのはもちろん清姫なわけだが、正直心臓に悪いので一言欲しい。

 

「美味しいですか?」

 

「美味しい…」

 

 美味しい。美味しいのだが、普通に食べたい。

 

「私が愛しているのは貴女です」

 

 私は飲もうと思ったスープを取り落としそうになる。勿論無事に確保したが、話の高低差に耳鳴りがしそうだ。

 

「私にとって貴女が偽物であろうと、そうでなかろうと、さして問題では無いのです。貴女が偽物()だと言っても言われても、私の愛は偽物()ではないんですよ?私にとってその真実さえ有れば、貴女が居て頂けるならば、それ以上の幸福は有り得ませんから」

 

 彼女は最後に「旦那様の行く所、清姫ありです」と締め括った。私は言葉が見つからなかった。何と言ったら良いのか見当もつかない。

 

 ヤンデレはマトモなのでは!?と絆されかけている私。

 

「はぁ…見てるだけでも肌がツヤツヤになりそうだわ。こういう時どう言うのが正解だったかしら…ご馳走様?」

 

 ステンノはニヤニヤしながらガン見していた。いや、と言うか……全員こっち見てる!?

 

「ふぅ…尊いな」

 

 子ジカは浄化されている。

 

「べ、勉強になります!」

 

 マシュは何を学んだのかメモを取り始めている。

 

「ヌ?余のポジションは何処だ!?」

 

 無い。

 

「良妻ポジを攫って行ったナ!?ぁ、おかわりも頂いておけ!!」

 

 キャットは相も変わらずキャットだ。

 

「アワアワアワ───ッ!!?」

 

 やはり処女…私カ?気にしたら首が飛んじゃうゾ。

 

『録画班!録画班!!撮れた?撮れたのかい!?ぇ、そもそも録画班なんていない!?』

 

「黙れ!幸せにしてやろうか!!」

 

『え?ぁ…うんごめんなさい?』

 

 おっと、つい本音が出てしまった。

 

 こうして、僅かな日常は過ぎていく。いやこれは日常なのか?

 

 

◇◆◇

 

 

 私は置いて行かれた。皇帝御一行様は帰還すべく帰った。私は置いてきぼり。清姫は近くに居るが、問題はそこではない。問題は何故─

 

──私が清姫に拘束されているかだ!!?

 

 何で毎度毎度恒例のように私を縛るの?

 それと何で脱がしたんだ!?

 脱がす必要も縛る必要も無いでしょ!

 

「包み隠さず全て言ってもらう為です。それに気になっているのは私だけでは無いようですし。見応えもあります」

 

「最後のが本音でしょうアンタ!?」

 

「そうですが?」

 

「開き直んなァ!?」

 

 清姫は口元を扇子で隠し、目をギラギラさせている。蛇に睨まれた蛙の様に動けない。物理的に!

 

「アタシは自分に拷問するまでとち狂って無いから。早く言う事言いなさいよ」

 

 ここまで来て話さないでは恐らく許して貰えないだろう。

 

 言うしかないのよエリザ!どうせ死んでも座に戻るだけ!!死ぬなんて嫌だけど…本当に嫌だけど!!

 

「クッ!『かくかくしかじか』よ……」

 

「は?」

 

「なるほど『エリちゃん可愛い』でしたか…」

 

「分かっちゃうのアンタ!?」

 

 正直話すのは避けたかった。捉え方によっては清姫に嘘を吐いているのと同じだから。彼女が起こす炎は必ず私を焼くだろうから。

 

「事情はよく分かりました。ですが、私のやる事は変わりません」

 

「アタシは分かってないんだけど!?ねぇ、ねぇねぇ!!」

 

「清姫…私はアンタに嘘を吐いていたのよ?」

 

「私がソレを嘘だと思っていない。それでいいじゃないですか?それとも、焼かれたいのですか?」

 

 最早押し黙るしかない。そして、感謝するしかない。

 清姫に掛ける言葉は謝罪では無いだろう。

 

「ありがとう清姫」

 

「友人として、恋人として、妻として当然の事をしたまでです」

 

「結局アタシは何もわかんないけどね!!」

 

 そうと決まれば此処に縛られている必要も理由も無い、いや元々無いけれど。手錠程度で縛られる私では無いので、気合で引きちぎる。

 

「手錠の意味ィ!何でアンタアタシなのにそんな力強いのよ!?て言うか、何で大人しく拘束されてたのよ!!?」

 

「いつもの事だから、ねぇ?」

 

「そうですね。最早愛情表現としてはマンネリ化してない事も無いくらいですわ」

 

 その後は真エリちゃんのツッコミのツッコミによるツッコミのためツッコミがツッコミしたから割愛させていただきます。

 

 一言の感想を述べるとしたら「疲れない?」です。

 

 だがしかし、仮にも私のオリジナルに当たる存在な訳で、エリちゃん歴の先輩でもあるのだ。それに「何度も出てきて恥ずかしくないんですか」で有名なこの娘。

 

──ぶっちゃけ次会った時のフォローが面倒なことこの上ない。

 

 我ながら面倒な娘だ。

 

 まぁ、自分の事だからこそ分かるというものだから複雑だな。

 

「まぁ、アレよ真エリちゃん()。要は姉妹みたいなもの!」

 

「…姉妹、ふぅん。そうか、そう……」

 

 地団駄を踏んでいた真エリちゃんは急に大人しくなり、うんうんと何かを確かめる様に首を縦に振る。

 

「じゃあ姉妹でユニットを組めるのね!」

 

「お断りします」

 

「何でよッ!?」

 

「方向性の違いです」

 

 これは事実。紛れもない、揺るがし様もない事実なのよ!

 真エリちゃんは純正のアイドル志望、私はファンタジックな勇者系アイドル。方向性が違うし、組んでも速攻で脱退する。

 

「それに、そう言うのはマネージャーを通しなさいよ。アンタこの世界何年目?」

 

「マネージャー!?アンタ私の妹のクセに専属マネージャーなんか居るの?何処に?」

 

 アホの姉が聞くので、私は隣で微笑む清姫の肩を両手でポンッと叩く。

 

「アンタァ!!?」

 

「私ですわ」

 

 清姫は何処からか取り出した眼鏡を装着し、スケジュール帳を取り

出す。このスケジュール帳、私の机の中に入っていて、『人LOVE!』のロゴが入っていたりする。

 

 エリちゃんよくわかんなーい!

 

「そういう訳で、もう行くわ」

 

「う〜、納得いかないわ。別に今からでも改めて聴いてあげてもいいのよ?お姉ちゃん怒ってないから怒ってないから!!」

 

 いきなり姉ぶってくる英霊は放っておくとして、予定はどうなっているのか確かめないといけない。まぁ十中八九特異点修復の為に子ジカと合流か、直接聖杯回収かだろうけれど。

 

 だが、正直に言うと私は自分の強さを測りきれていない。明らかに本家ブレエリちゃんを超えるスペック、変化しているエリちゃんの設定、何処からか供給される魔力。

 その上私は正史に存在しないイレギュラー。どの様な影響があるかが分からない。

 

 結論はどうしても、敵本陣の単独突破はリスキー、子ジカと合流がベターと出る。

 

 我儘を言ったらそんな状況は「つまんない」と本能がぼやく。

 

「難しい事を考えるのね。正直意外よ…気持ち悪い」

 

「さらりと心読んだ上に罵倒なんて良い趣味ねステンノ。それにその罵倒も理不尽でいいセンスよ」

 

「私もそう思うわ、ありがとう」

 

 今まで隠れていたステンノが現れた。この女神、アサシンだけあって気配遮断A+。偶像(アイドル)とは、隠れ忍ぶことと見つけたり。

 

 清姫はアホの子(真エリちゃん)改め、アホの子()の対応に忙しいようでコチラには気付かない。

 

「それで何?」

 

「あら、私が本題を切り出すのを待てないの?つくづく不敬ねアナタ。メドゥーサでさえ待てくらい出来るのよ?」

 

 いい加減妹さんが不憫で泣きそうです。もう許したげて……

 

「さて、冗談はソコソコに本題ね。女神らしく加護でもあげようと思うのよ。ありがたく頂戴することね」

 

「其の心は…」

 

 神が優しくする時は厄介事もセットだと言うことを決して忘れてはいけない。彼女達はいつでも娯楽に飢えているのだから。

 

「そっちの方が楽しい」

 

「これだから神は嫌─チュッ─ぃ……」

 

「──ご馳走様。精々楽しませてね?」

 

 今起こった事態を説明しよう。

 ステンノがいきなり左の首筋にキスをした。恐らく加護的な儀式の簡略なのだろうが、私にその手の知識が無い為保証は出来ず、女神ステンノの気まぐれから生じたいたずらと言う線も捨てきれない。

 だが、注視して頂きたい事象はステンノの意思でも真意でもない。私にキスしたと言う、ステンノが行使した手段だ。

 

 彼女は聞き逃さない。彼女はこういう時だけは異常なまでの地獄耳を働かせる。

 

「フフ…さっそく浮気ですか?もう首輪でも繋がないと自制出来ないのでしょうか?心配なさらずとも私もお揃いの物を着けますわ。もう何処にも……」

 

 私に首輪着けて誰が喜ぶのだろうか。いや、結構居そうで怖い…これ以上この事を考えるときっと立ち直れないから止めよう。明らかに精神衛生上宜しくない。

 だが、それより怖いのが目の前の清姫サンなのだが…

 

 さて、此処でどのようにして生存するか、下手な選択肢を選ぶと即刻道場行きだから慎重にクールにだ。慌てるな、真の勇者は狼狽えない。

 候補一、死んだフリ。予想結果、喰われる。意味は各々で補完して欲しい。

 候補二、挑み倒す。予想結果、相手は最早ティアマトの如く死の概念が欠如している可能性があります。

 候補三、冷めるまで逃げ切る。予想結果、全力を出しましょう。

 

 取るべき行動は一つ、後方に全力疾走!

 

 魔力放出を推進力として使用。リソースを何時もより多く引っ張り出し、体内を循環。原理が分からない魔術を併用し強化、補強。

 道無き道は素手で切り拓く。林を裂き、木々を倒し、岩石は砕く。

 背中から発せられる熱量はこれだけしても消えてくれない。愛の獣は今も尚、変態機動をもって迫る。

 

 確かに目指すべき道は分からない。だが今は、首の熱いモノに導かれている。そこが敵地なのかも理解できないが、明らかに女神の企み事の上なのだろうと理解。

 

「■珍■■ァ■■ーーーッッ!!!」

 

 チョロい、チョロすぎるぞ清姫サン。スイッチがぶち壊れていたのは最初から知ってはいた。だが、だがだよ!たかだかキスだろう。それくらいは許せ!!

 

 …ヤバいな、思考が完全にクズ男だ。体は美少女だけど。

 

 狂戦士(バーサーカー)の正しい姿を晒す清姫は愛憎塗れる咆吼を止めない。時折火の渦が辺りを焦がすのだから愛も憎しみもかなりのモノだろう。

 

 墓穴を掘ったら何故か地球を貫通したみたいだ。下手人は勿論ステンノ、全くこれだから神って奴は嫌いなんだ。

 

 試しに少しだけ振り返る。

 

「安珍安珍安珍安珍安珍安珍安珍──■珍安珍安■■■■■ーーーァアアーーーーッ!!!!!」

 

「ピャー!?」

 

 手から時折火球を出して推進力を得、反り立つ岩や木々を足場に立体機動を実現。足場は清姫が踏み締め、蹴った瞬間に粉砕。だと言うのに、彼女の着物は乱れない。乱れているのは顔だけである。顔に掛かる厚く漆黒の影に、三日月に割れる口に縦割れの瞳孔はいつにも増してギラギラと光っている。

 

 防御デバフが掛かったな辛い。

 

「神なんて大ッ嫌いだァーーーッ!!!」

 

 最後に響く声は虚しく木霊する。

 

 同時に女神がクスクス笑う声が聞こえた気がした。




次回から本格的にローマを殴りに行くでしょう。
まぁ見たいだなんて言う奇特な御方は見てください。



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勇者の必須スキルはトラブル体質である。

何でこの2人は私の言う事を聞いてくれないのか…
おかげで原作に穴が開き始めたぞ!?

そして、毎回いちゃいちゃしだすのやめちくれぇ…私が持たん!

ぁ、今回のお話が一番可笑しいと思います。ご了承ください!


 私は嫌いな事が多い人生だった。また、好きな事も多い人生でもあった。まぁ言ってしまえば凡庸の感性を持っていた。

 だが、私にだって他と違う個性という物は存在した…はずだ。

 

 私の信念。と言うより理解し難い内容が周りの者にとって違和感だったらしい。らしいとはつまり、私は今でも理解できないのだ。

 

 ──悪役は何で悪役であるのか…

 

 え?何で自分語りを始めたか?

 

 勇者にバックストーリー無しはどうかなと思って。

 

「お待ちになって下さい。然もなくばどんな事をしてでも、どんな事を、してでも…フフ、フフフフ。どんな事も、どんな事でも、何をしても、何をしてでも……捕まえに行きますね?」

 

 あと、今のうちに言っておかないと一生語る機会が無さそうだから。もちろん、現在進行形で限界を超えて失踪中なのだけれど。所謂、遺書的な何かだと思って欲しい。

 

 清姫は定められたステータスを超越している。魔力放出で筋力と速力を得た私にほんの少しだけだが迫っているのだから。

 

 擬音を付けるのならば、私は『シュッシュッ』、清姫は『ズズズズズ』という具合だろう。正直、明らかに可笑しい上に正気を失いそうな音だ。

 

 本のページを高速で捲っていくように景色は移り変わり、やがて、人工的建造物が建てられた場所に移る。

 

「砦?城?良く分かんないけど鐘よりは圧倒的にマシよね!」

 

 剣を地面に突き刺し無理矢理方向転換。その際に、軽く地鳴りが起こったが、最早気にしていられる余裕など無かった。清姫は私の動きを機敏に感じ取り直線的に追って来ることによって距離を縮めて来た。

 

 地を裂き、空を裂き、時空をも裂く勢いで走る。目指すべき場所は定めた。あとは一心不乱に走り続けるだけでいい猪突猛進で何も省みるな。脇目も振らず進まなければ色々失うだろう。

 

 ──主に貞操とか尊厳とか!!

 

 私は走り、そしてぶつかった。

 

「わぷっ!?」

 

「グヌッ…」

 

 目を瞑っていても分かる。いや、分かってしまうと言った方が適当だろう。ソレはまさしく筋肉だ。

 頼りになる壁だと、私は合理的に考えてしまった。

 

「助けて!」

 

 私は全力で媚びた。上目遣いに涙を浮かべ、小さい背を活かして可愛らしく跳ねる。恥も外聞も最早関係ない。私は(じん)(るい)(あく)より逃走中であるからだ。

 

 だがしかし、私は更なる衝撃を受けることになる。

 

「落ち着け童女(ローマ)よ。そして安堵の息を漏らせ。慌てる必要は無い。(ローマ)が居る」

 

 浅黒く彫りの深い顔、男らしい顔には薄い笑みがある。持つ得物は棒にも見えるが槍、それも神秘を感じるとなれば宝具。宝具となれば英霊。

 ここまで情報が揃えば、弾き出される答えは簡単だった。

 

 ──ローマである。

 

「ローマァ!?」

 

「然り。(ローマ)はローマである。故に大海の如く広い器を持ってお前を受け入れよう。全てはローマから生じ、ローマに還るのだから」

 

 いや、敵だよね。普通は即刻討ち捕えられる所だよね?

 呉越同舟だなんて熟語があるが、本当に起こり得るかは疑問だった。だが、ローマは喜んで助けてくれる…

 

 ──ローマは素晴らしいのだわ!

 

 チョロい?どうとでも言うがいい。

 私は賢いアイドルなのだよ。と言うか、助けを求めなければヤられるのはコチラなのだから当然。

 

 勇者としてどうなのか?

 いや、勇者はプライベートまで勇者では無い筈、きっと日々修羅場から生き残るので一杯一杯だろう。

 それに私はアイドル系勇者なのか、勇者系アイドルなのかが曖昧であり、つまり何が言いたいのかと言うと…

 

 ──もう放って置いてよ!!

 

 故に私は己が本能に従い、ローマのマントに身を隠すのだ。

 

「友達が狂戦士(バーサーカー)らしくバーサーカーしてるのよ。止めたいけど私じゃあ無理で!それでそれで─」

 

「もう良い童女(ローマ)よ。狂気もまたローマ。愛もまたローマなのだ。さぁ来るがいい!──ローマ!である!」

 

 ロムルスは槍を強く地面に突き立てる。

 迫る清姫はその行動を訝しむ事なく、正面切って駆け抜けようとする。否、最早彼女には訝しむ事が出来ないのだ。今の彼女は狂戦士(バーサーカー)。目的に狂気的な愚直さを持って突き進むのみだ。

 

 だが、その歩みは強制的に止められる。

 

 清姫の眼前に森が現れた。それは紛れも無いローマだ。放たれる気は宝具による物だと激しく主張する。

 驚くべきは規模だ。こちら側からは清姫が確認出来ず、ただ其処の居るのだという気配があるのみ。槍から扇形に広がる木々は今も尚成長を続け、更に更にとうねりながら主張を止めない。

 

「…椀飯振る舞いね」

 

 正直に言う。

 

 ここまでしなくてもいいのでは!?

 目の前には最早木しか映らない惨状。これを一騎のサーヴァントが一騎のサーヴァントにしていると考えたら白目を剥いてしまいそうだ。

 

「ほぉ、突き進んで来るか!それもまた(ローマ)ゆえに!」

 

「え?」

 

 感じるのは圧倒的な熱量と焦げた臭い。覗くのは白い鱗に爆炎。巨木に囲まれていても更なる巨大を持って塗り変えるストーキングが得意な竜。

 眼には眼を歯には歯を──宝具には宝具を……

 

 彼女は躊躇いもなく少女の姿を竜に転身させ、木に含まれる水分を干上がらせ、燃やし尽くし、絡まる太い枝も硬化した身体を用いて粉砕す。

 

全ては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)!」

 

 ロムルスは号令を掛ける。木々をはソレに呼応し清姫を呑み込もうとする。

 だが、その度に砕かれ、その度に燃やし尽くされる。

 

 周りの者にとってはまさしく厄災以外の何物でもない。潜んでいた連合軍の兵たちは紙吹雪のように散っていく。

 

 場は荒れながらも膠着状態に陥っていると思われた。

 

「せ、先輩!またです。また来ます!」

 

「何でそうなるのぉ!?ヒィ!燃える燃えるッ!!」

 

「何がどうなっているのだコレは!?竜?神祖ロムルス!?派手好きな余でもここまで来ると手に負えんぞ!」

 

 悲しい事にこの世界の主人公も太刀打ちできないらしい。マシュは燃える大木を退け、自らのマスターを守っている。

 ネロも便乗して守られているが、どう見ても隠れて切れていない。

 

「アレがローマの子を率いる皇帝か、美しいな。嗚呼実に!さぁお前も来るといい!我が袂に飛び込み、ローマと共に在ろう…」

 

「バッカ!アンタそんな言ってる場合じゃないでしょ!?狂化されてんの?」

 

「おぉ、神祖よ。余は、余は如何様にすれば!」

 

 ネロはロムルスをキチンと認識した事により迷う。彼女からすればロムルスとは正しく神。彼女は神に逆らうか否かの選択を迫られている。

 でも、私としてはどうでもいい。至極どうでもいい!ただ、迷う時間等無い中でオロオロする皇帝には腹が立つ。

 

「アンタも迷ってんじゃないわよ!」

 

「エ、エリザ!?何故神祖の股座に?」

 

「安全だからよ!!」

 

 コチラには流れ弾は来ない。と言うか来ても弾かれる。私安全。まさに計画通り!!

 

 何処と無く私は胸を張る。え?張る胸は無い?逆に有ったらエリちゃんじゃあ無い気がするんだ……

 

「そんな事より何迷ってんのよ?」

 

「しかし、神祖だぞ?建国王ロムルスその人が余の前に居るのだぞ?それだけは無いと、首魁は神祖である筈はないと信じたくとも現状がそれを否定しているのだ!正直に言おう!余は直ぐにでも平伏したい!」

 

「じゃあ何で直ぐにでもそうしないの?迷ってる時間が無い事くらい分かるでしょ!もうフィナーレはまぢかなの!!アイドルが歌詞と振り付けを忘れたからって終わっていい訳ないじゃない。アドリブでも何でもして輝くのよ!アンタがアイドル(ローマ)なら魅せなさい!プロデューサー(ローマ)にアンタの皇帝(ローマ)としての在り方を!」

 

「──」

 

 ネロは俯いた。そして同時に剣を取った。

 

「余は第5代皇帝ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス!神祖よ!余は貴方に挑戦する!!」

 

 ロムルスは小刻みに震える。それすなわち股間も震えているので止めて欲しい。

 そして笑みを噛み殺し、ロムルスは言い放つ。

 

何故(なにゆえ)(ローマ)の言葉を拒むのか?」

 

「ローマが為に!」

 

「──見事(ローマ)ッ!!」

 

 それ以外の言葉は不要なようで、ローマという言葉の万能さを思い知った。

 

 だが、そのような隙を晒せばどうなるかまでは思い至っていない。

 どうなるか?彼女が動くのさ。

 

 ──嫉妬の竜が!

 

 ネロのターゲット集中はロムルスにとって圧倒的な効果を発揮した。其処で生まれる大きな隙は私にとって致命的で、清姫とっては絶好の機会である。いや正直、清姫が機会等という空気が読める状態では無いのだがソレはソレ。

 そう、結論だけ述べるなら…

 

「コッチ来たァアアーー!!」

 

 私はロムルス戦線を放棄。砦内部に後退し弾幕を張り、耐久戦を挑む。作戦はこれしか無い!

 あれだけの出力だ。恐らく魔力消費量は相当な物のハズ……

 

 覆い被さっているマントを振り払い、クラウチングスタートからの全力疾走。ロムルスをデコイにするべく音は軽微に抑える。

 

 高鳴る心音。

 

 砕かれる大地。

 

 響く警戒音─

 

 ──いやこの音は私の音ではない。

 

「居るって言うの?其処に!?」

 

 巨大な白を瞳に捉えるその瞬間、身体全体を襲う衝撃と熱気。ぶつかっているのだ、あの竜の頭部が。

 私の矮躯はその様な質量に耐えられる訳も無く持って行かれる。地面から遠のいたこの身では踏ん張りもきかず、密かにあったりする翼を展開しても無意味だろう。

 

「グググッ!!体当たりとか、そんな初期技で倒せるとでm─グハッ!?」

 

 あえなく目指した砦に激突。当たり前のようにエリちゃん型の穴が空き、追撃をする様に清姫の頭部が更なる大きな穴を空ける。

 

 受け身など取れないので無様に転がる。

 

 最終的には石の柱に強く打ち付けられ止まる。

 しかし、何時までも倒れている場合では無い。未だ清姫は乱心清姫サンモードだ。リーチ大回転は確定していない。へべれけの方が安牌とは恐れ入った。

 

「いやはや全く、何事にも例外は存在するモノだが。些かやり過ぎたな可愛らしい勇者(・・)くん」

 

 響くのはCV杉〇。とてもでは無いが、私や清姫には出せないその声。場所から鑑みるに候補は一人。

 

 モスグリーンのタキシードにシルクハットを被り、赤みが混じる髪色の青年。

 そう─

 

 

 ──節穴さん(フラウロス)だ!!

 

 

 少々派手に動き過ぎたらしい。この男が動くには速すぎる。いや、ネロとロムルスがぶつかり合うのを早めてしまったのだから節穴さんが動くのも道理かもしれない。

 

 何はともあれ魔神柱…

 

 狩らねば全国のFGOユーザーに鼻で笑われるというもの。

 

「一狩り行く─キャー!?」

 

 最近は叫ぶのが定番の私。原因は何故か味方に有り、理由は襲われたからと言う意味不明さ。

 今回も勿論味方からの強襲。

 

 私は清姫に馬乗りにされている。

 

 汗と唾液が混じり合った粘液が私の顔にポタポタと降りかかり、噎せ返る程の甘ったるい吐息が私の鼻を刺激する。

 

「…っと捕まえました。捕まえましたよぉ!煮るなり焼くなり私の自由。捕まえた褒美位、せがんでも構いませんよね?いいえ構うものですか!私の自由ですもの!!──アハァ…」

 

 恍惚の表情を浮かべる清姫。男なら喜ぶ所だが、時と場所を弁えるべきと考える私である。

 

「フンッ、所詮自滅の道を歩む愚者に過ぎないか。私が手を下す価値さえない…いや、元より人如き淘汰されるだけの存在。王も何故…これ以上は不敬か……」

 

 すると彼は徐ろに金色の杯を取り出した。

 

「どちらにしても出る杭は打たれるもの。ここで退場するといい。なに、良い経験だ。愚者は愚者らしく経験から学びたまえ──無駄な事だがな!」

 

 高まり吹き荒れる魔力、虹の光球は激しく回転、乱れる清姫、収束し形作られるエーテルの身体、ペロリスト化する清姫、轟音響かせるこの空間はまさに混沌。

 

「此処に顕現するは神の鞭。貴様らに勝てる道理もないな!ではまた会うこともないが、さらばだ。崇高な理想を実現する為に忙しいのでね」

 

 そう言って立ち去って行く。

 

 彼が立ち去った後に残る者は、軍神の剣の切っ先を私たちに向ける少女だけ。その目には感情の光が射しているのかさえ微妙で、ただ分かるのは破壊すると言う一種の使命感(殺気)だけだ。

 

「我が名はアルテラ。これより貴様らを破壊する」

 

 息つく間も与えず繰り出される変幻自在の剣。鞭の様に撓り襲い掛かるソレは恐ろしく速く、読み難い。

 だが、其処にばかり気を取られてかコチラ側の行動に思考が割けなかった。

 

 彼女は狂戦士(バーサーカー)。愛に生きる少女。清姫サンにとってはアルテラさえ意識の外にある存在。いや、正しくは邪魔者とカテゴライズされるだけか。

 

 触れた。

 

 柔らかい何かを。

 

 唇に…

 

 咥内に……

 

 生理現象から涙が漏れ、息苦しい。時折漏れる嬌声はどちらのモノか…

 

 

「スキル発動」

 

 

 

 

「──焔色の接吻」

 

 

 

 

 彼女は恐ろしく熱かった。




後少しでセプテム終了ですね…

評価が下がらぬ!?書けと、そういう事でしょうかね?
いや、きっと大丈夫でしょう!
小指の爪手入れ師さんの次回作に期待しましょう!

勿論連載にシフトする様になれば好き勝手しながら、皆さんの期待に添えるように頑張らせてもらいますよ。


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愛ドル♡ドラゴンズ

サブタイに意味は無いです。
やっぱり戦闘メインは向かないと再実感した今日この頃、いよいよセプテム最後です。

※最後は駆け足です。


 唇を嬲られ、咥内を蹂躙された。

 今までの鬱憤を全て晴らそうと必死に貪られ、軋む音が響く程抱き締められる。身体が緊張し、弛緩する。身体は疎か、腕まで垂れ下がっている。指先もピクピクと動くのみ。感覚が若干麻痺しているようだが尻尾は常にピンッと張り詰めているのが分かる。

 

 自分では分からないが、口はだらしなく開け放たれ、唾液や涙が顔を無茶苦茶にしている事だろう。アイドルらしからぬ状態は恥じ入るばかりだ。

 鼓動が内側から鼓膜を強く打つ。激しく上下する胸を見るに、私の心臓はそれなりに忙しいと見える。私の中のモノがゴッソリ持っていかれたが為にこの様な醜態を晒している訳だが元凶である清姫も現在では忙しいらしく私を抱えて抗戦中だ。

 

 相手はフンヌの王、軍神(マルス)の剣をブンブン振り回す破壊の徒アルテラ。対して清姫、炎火のオーラと言うべき纏い。触れても─私は─熱くないが、アルテラはどうやら違うようで、清姫が接近する度に後方に大きく飛び、中距離戦を維持しようとする。

 

「くぅ──ッ!!」

 

 中距離戦を挑もうともアルテラはセイバー、近距離こそ本領を発揮する。だが、清姫は純粋の武など無く、元より中距離戦が主だと言える。故に、アルテラは術中に嵌らざるを得ない状況の様だった。

 

「燃えなさい!」

 

 アルテラが中距離戦において不得手であると察した清姫は即座に炎で陣を組む。言うなれば炎の檻、逃げ場を徹底して潰し、高威力のブレスを吐き出すつもりなのだろう。

 

「『軍神の剣(フォトン・レイ)』──ッ!!」

 

 剣先を中心に螺旋を描き、炎を割いた。

 檻にもポッカリと穴が空き、晴れていく。

 

 そして、勢いをそのままアルテラは清姫に最大限の攻撃を放つ。

 

 このままでは清姫に当たり消滅するだろう。私はソレを許容出来ない。してはいけない。彼女は友達なのだから助けなければならない。

 なけなしの魔力を喉に注ごう。身体は動かずとも喉は止まらない。──さぁエリザ!心往くまで歌おう。それが彼女の力になると信じて!!

 

 「『──────、─、──────────ッッ!!!』」

 

 歌ったのはローマへ今日までの気持ちだ。今回で大きくローマへの印象は変わった。それも何度も何度もグルグルと、そして気が付いた─

 

『──アイドル(ローマ)もまたローマなのよ!』

 

 ならば曲に乗せて綴り囀らなければならない。アイドル故に。

 

 最早形も残されていない砦、火に焼かれレーザー的なモノで残骸にモデルチェンジ。劇的なビフォーアフターを遂げている。

 

 アルテラが一切合切を薙ぎ払い突き進んで来る。

 

 ──5m…

 

 サビには入らない。

 だが、紙にインクを一滴、また一滴と垂らされ滲む様に、魔力が大気に満ちていく様な不思議な感覚がある。

 

 ──4m…

 

 サビには入らない。

 私の薄く開かれた瞳には黄金に輝く粒子が見える。フワフワと浮いているソレは周りを侵食し、景色を荘厳に変えていく。

 

 ──3m…

 

 サビに入る。

 私に黄金の粒子が触れる。すると、スーッと溶けていき、満たされる。そう、満たされる。内にある容器が黄金で満たされるイメージで、容器さえも黄金に点滅する。

 溢れる。最早黄金に染まりきった器では無尽蔵に湧き出る黄金を収めきれない。

 

 ──2m…

 

 だるかった身体が軽い。溢れ出る黄金が私を後押ししているかの様だ。

 取り出したるは盾。清姫を守る為に打って付け、何時か邪竜の息吹を防いだ時の様に、気絶などしない様に全身を強く、より強く。

 

 ──1m…

 

 すかさず清姫の前で強化されたレトロニアを構える。その際も歌うことは止めず、黄金も尽きることを知らない。

 強化される効果音が否応なしに響く。妙に響く音は確かな効力を示していると確信できている。

 

「──ハァアアアアアアアアアーーーッッ!!」

 

 ──0m(衝突)…!!

 

 ガリガリと削れる。地面も盾も体力もあらゆるものが一級の宝具のぶつかり合いで摩耗していく。

 

「『古香る勇者の名盾(レトロニア)』─ッ!!」

 

 真名解放。

 ただひたすらに堅く、頑なに頑丈で、勇者補正が十二分に発揮されるだけの盾。勇者の大前提に『負けない』とある。故にこの盾は私の心が砕かれない限り破壊されない。私が勇者であり続ける限り守る事を放棄しない。

 

「何故…何故破壊されない!?」

 

 何故か、と来たか。私は明確な答えを用意してある。だが─

 

「止まれぇーーーーッ!!!!」

 

 言ってやる暇なぞ皆無である。格好付けたい、目立ちたい、ファンサービスも上等。だが待たれよ親愛なる子ブタ諸君。

 

「格好つけたわりに余裕零ですわね…」

 

「言うんじゃ、無いわ…よぉお!!」

 

 清姫は汗でダラダラの背中を撫でる。

 

 いや撫でてるよね?舐めて無いよね?そこんところは信用も信頼も無いからねアンタ。て言うか手伝ってよッ!!

 

 ついでに歌は歌い切りました。アイドルだからね、当然よね!え?アンコール?現状を見てものを言いやがれです!?

 

 既に砦は更地に成っているが、好都合だったかも知れない。この衝撃では足場から崩壊し生き埋めは確実だったはず、今でも地面陥没で危うい状態なのだから笑えない冗談だ。

 

「クッ─!?」

 

 アルテラがよろけた。当然だと言えるが…

 なんせ長時間持続して宝具を解放しているのだから。正直ここまで耐久して無理でしたは鬼畜ゲーも真っ青なレベル。私だったら運営に抗議の連絡を入れてしまうね。

 

「私の─ゼェゼェ、勝─ゼェ─ち、よ」

 

「バテバテじゃないですか…」

 

「ほっときなさいよ!」

 

 アルテラは聖杯無し(・・・・)の無茶な宝具使用で消滅寸前。勇ましく立てているのが不思議なレベルである。

 

「我が軍神(マルス)の剣でも破壊出来ない存在があるとはな。フフ、何処か──嬉しい…私は嬉しい」

「だが、やはり分からない。何故私はお前達を破壊出来なかった?」

 

 アルテラは真っ直ぐな視線を私へと向ける。真剣なソレを受けた私は文字通り温めておいた言葉を投げかける。

 

「──勇者系アイドルだからよ!!」

 

「アイ、ドル?そうか、アイドルか…それは良い、文明だな……」

 

 アルテラはそう言い残し消滅した。

 

「未来でも潰えないジャンルなんだから、当然でしょ?」

 

「そうですね、私たちの愛は永遠ですもの」

 

「ハァ…アンタ何時まで赤いのよ?」

 

「永遠です!」

 

 清姫は今なお轟々とトランザムモード続行。本人曰く『永遠』だとかなんとか。バスター強化がどの程度なのか分からないが、状態異常付与攻撃とか、与ダメージも増えていそうだ。

 

「でも不便…正直やりづらいわよソレ。どうにかなんないの?」

 

「一発大技が撃てれば収まるかと…たぶん」

 

 たぶんとか聞こえたが手掛かりもないので採用。取り敢えず的を探す。

 

「的、的はっと…ん?」

 

 肉の柱が一本立っていた。

 

「的だわ……」

 

「絶好の的ですね…」

 

 フラウロス(節穴)は身体を巨大化させた上に死角なしの筈な視界を全て主人公勢へと向けている。敵の動作を見逃さんとしているのだろうがそれ以外が御座なり。奇襲の対策を他に取ってあるのか慢心なのかは不明だが、どっちにしろ私たちは眼中に無いかのような振る舞いはカチンと来る。

 

「清姫。炭にしましょうアレ!すっごい気に障るんですけど!!」

 

「はぁい、了解致しました。火急速やかに灰燼へと変えましょう」

 

 軽いノリで全力の火炎を吐き出す清姫。私も便乗して吐き出す。距離はそれほど離れていない為難無く直撃した。

 

「ぐぅうううわぁああああああああああああああああああーーーーーーーッッッ!!!!??」

 

「ウップ……」

 

 炎を吐き出す感覚に酔いながら、節穴さんを見る。

 それは見事に炎上している。

 

「むぅ、エリザ。まだ収まらないようです…」

 

「じゃあもう一発行っとく?」

 

 まだ赤い清姫に焦げた節穴さんを勧める。

 

「貴様、また貴様か!?何度も何度も…ただの英霊風情が、魔神たる私に何をs──ぐぅぁあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!」

 

「目が焼け、水分が蒸発する感覚を常人の数倍で味わえるだなんて、凄いのね?えっと、魔神さん?」

 

 最早嫌味への返答は無かった。

 

「終わったの?」

 

「魔神柱の沈黙を確認。ドクター、そっちの反応はどうでしょう?」

 

『こっちでも確認出来ているよ!おめでとう皆!!』

 

 カルデアでは歓声が上がっているらしく騒がしい声がホログラフィーから漏れている。

 

「終わった、か」

 

「神祖!余は、余は良きローマ皇帝であったろうか?」

 

「ウム、(ローマ)が認めよう。ネロ・クラウディウスは良きローマ皇帝であると」

 

 ローマは何故か神祖がパーティに入って戦闘をしていたらしい。

 

 そして私たちはと言うと…

 

「これが聖杯?何か小さくない?」

 

「持ち運びやすい様に改良したのでは?近代では小型化が流行っていると情報があります。何でも小さくしたくなるお年頃だったのでしょう」

 

「王様自称する割にミーハーね……いや、だからこそ王様なのかしら?」

 

 死体漁りを早々に済ませた私たち勇者一行は、聖杯を片手に談笑する。綺麗な杯片手に談笑って優雅で素敵ネ!

 

 私たち手柄泥棒していた様な気もするけれど、咎められる雰囲気でも無いみたい。まぁ、小競り合いを繰り返していた様に見えたから案外助力を感謝されているかもしれない。

 

 そんな事を考えていたら子ジカが走り寄ってく─

 

「エリちゃーーーーん!!」

 

「キャアーーーーーーッッ!!???」

 

「ありがとうエリちゃーん!」

 

「分かったから降ろしなさいよぉ!!」

 

 子ジカは私の脇に手を突っ込み、持ち上げ、グルングルン回り出す。少々ワイルド過ぎる彼女は喜びをカラダいっぱいに表したいらしい。

 

「ぁ、清姫さん聖杯ありがとうございます」

 

「私は何も、エリザが見つけたのでお礼ならエリザにどうぞ」

 

「ありがとうございましたエリザベートさん」

 

「分かったからコイツ止めなさ…ウップ」

 

 炎吐いた時の酔いがぶり返し始めた。このままではアイドルに相応しくない表現がオンラインしてしまう。何としてでも耐えなければならない。てかこの子ジカ止めろ!!

 

「ァ…」

 

「ァ?」

 

 諸君、脇とは何処にある?いや、馬鹿にしているのではない、これは確認だ。脇とは粗野な言い方をすれば肩の下あたりにある訳だけれど、私の肩には某野菜人の様な肩パットがある。そして、心許ない胸当て的なビキニが吊り下げられているわけだよ。

 

 まぁ─

 

 

 

 

 ──ずり落ちるよネ!!

 

 

 

 

「こんの……馬鹿子ジカァアアッッ!!!!!」

 

「ラッキースケ─ブッフェーー!!!?」

 

 私の尖った蹴りが子ジカの鳩尾辺りを穿つ。本気出したら下半身と上半身がさよならバイバイするので抑えたが、正直良く我慢したなと思った。

 

 そして、私はビキニを元に戻す。なお、子ジカは脇から手を引かない。彼女は一体何に突き動かされているのだろう。

 

「お茶の間の皆のために…ガクリ」

 

「先輩ーーーー!?」

 

 などと訳の分からない供述をしており、余罪がないか調査中です。

 

「清姫。帰るわよ!」

 

「ハイ、今晩は何になさいます?」

 

 時間の概念がフワフワなのだから朝昼晩も何もあったものではないが、まぁ気持ちの問題だから私としては重要なことだ。

 

「赤いモノ」

 

「分かりました一緒に作りましょう!」

 

「何作っても赤くなるならいいけれど……」

 

「エリザと作ったものならば何でも愛せます。ですから子供は何人?男の子と女の子の比率は?一姫二太郎が良いとは聞きますが私としてはエリザ似の女の子が欲しい…でも男の子でものーぷろぶれむですわね!和服洋服えとせとら、色々な服を作りませんと!こうしては居られませんね早速帰らなければ!!」

 

「いや、女同士……」

 

 子供なんて出来る訳でもなく、正直興奮もあったものでは無い年齢固定。それと英霊が子供なんて産める筈も無い。出来るのは魔力供給だけなのであしからず。

 

「実はちょっとしたコネがありまして…尋ねたところ呪術なら可能との事です。何も問題はありませんね!」

 

「問題だらけというか、問題だけと言うか…取り敢えず落ち着いて清姫。目が据わっていて怖いんですけど!?」

 

「天井のシミを数えている間に終わりますよ!えっとぉ、まずは何から始めるべきなのでしょう…」

 

 懐から電子機器の様な紙を取り出す清姫。コイツメル友に尋ねる気満々である。

 

 その辺から強制退去が始まる。指先から色が抜け始めキラキラと魔力に還元され始める。清姫が早まる前に終わって欲しいものだ。

 

「むぅ、返信が来ませんね…通話に切り替えましょうか?」

 

「待って清姫!別に焦ることも無いでしょうし、子供はズッと先で、いやもう要らないまで有るんじゃない?」

 

「そんな訳にも…あ、繋がりました。─タマモさんいきなり連絡してしまいました申し訳ありませんね。この間の件で………えぇえぇ、旦那様からも許可が──」

 

 ──して無いわよ!

 

 言葉は出ない。先に座に退去してしまったからだ。

 

 そこからの行動は速い。窓を締切、扉に鍵を掛けた上に家具で塞ぐ。清姫対策は万全の耐火付与。

 

「フゥ、これで大丈夫でしょ」

 

「お疲れ様です。お茶を入れましたよ」

 

「ありがとう清姫。……清姫?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい。アナタの清姫です!」

 




まぁ評価次第とは言ったものの意思の弱い私の事ですから…気まぐれに書いてしまうかもしれないですし、書かないかもしれません。
何はともあれひとまず完走と言ったところ…

皆様とはこの作品で、将又違う作品で会うこともあるでしょう。
その際もどうかご贔屓にお願い致します。



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諦めは時に試合開始になる

続きだよ…
ちょっとバーサーカーし過ぎだよ…

サブタイにはやっぱり意味は無いです。


ㅤ私の名前は勇者エリザベート・バートリー。流麗な詩を歓喜呼ぶ歌声を持って豚共(ファン)に届けるアイドルでありながら、可憐で鮮やかに美しく世界を救う真紅の勇者。

ㅤ斯くして、その真実の姿とは──

 

 

ㅤ──ただの美少女である。

 

 

「急にキメ顔…どうなさいました?」

 

「二期だとこういうのが要るのよ!」

 

「二期?」

 

ㅤお茶を注ぎ足す清姫は困惑していた。だが思い出したかのようにビデオカメラを取り出して来る彼女は狂愛者(バーサーカー)だからなのか、それとも慣れてしまったからなのか…

 

ㅤ注がれた緑茶(ロビンフッドでは無い)を一口。

 

ㅤ「ふぅ……」

 

ㅤ前回で私は学んだ。特異点への営業は強制であり、どのような手段を講じても無駄無駄。最終的に特異点の修正を果たさなければならない。

 

ㅤ私が居なくとも子ジカが何とかしてくれるとは思わない。恐らく私が居てこそ廻る世界線なのだろう。私中心に廻る世界と考えたら悪い気はしないでも無いが、ちょっぴり怖い。

ㅤそして、私は案外強いのかも知れない。

ㅤこれが今までで一番の収穫であるだろう。と言っても、力だけならばと言う形容詞が入る。

ㅤその力を扱う技量などエリザベート(アタシ)に、ましてや私にも無い。

 

ㅤカタログだけでは読み取りきれない事柄もあるけれど、そのカタログさえあれば最大限と最低限は予想できるとも言える。

ㅤだが、カタログをも消失している私ではどうする事もできない。

ㅤそれ即ち、自分で自分が何を出来るのかが曖昧という事である。今思えば、私の生命線である二種類の魔力放出も勢いで発動していたのを思い出す。なお、カタログが消失したと発言するに至る起因はこの二種類の魔力放出によるものだ。

 

ㅤ結論を短く纏めるならば─

 

 

ㅤ─力はあるが扱う技量は拙く脆いものである(声は良いが歌は音痴)

 

ㅤそして─

 

 

ㅤ─その力もどこまでの物なのかが測りきれない(時々歌が上手い時があり結局よく分かんない)

 

 

ㅤコレに危機感を持たない程楽天家では無いつもりだ。第一特異点は歌でデストロイ、第二特異点はローマでローマした。

ㅤだが、所詮運が良かっただけだ。選択肢を一つ違えば死ぬのが型月、今までよく生き残ったものだと沁沁思う…

 

「…ねぇ清姫」

 

「夜伽のお誘いでしたら直ぐにでも用意致しますよ?」

 

ㅤセプテム終了からこの感じだ。淫乱狐は許せんよな。

 

「しないわよそんなのッ!ってそうじゃなくてね。日記とかって付けてるのかなって。いきなり可笑しな質問して悪いけど、必要だから答えて欲しいのよ」

 

ㅤ清姫は「本当にいきなりですね」と言ったが「まぁ隠す事でも無いですし」と言って懐からノートに取り出した。

 

「エリザは時々どうしようも無くだらしがないので、此処に留めて居るんですよ」

 

ㅤそう言って取り出したノートにはジャプニカと書かれていた。

 

「読み上げましょうか?」

 

「…いえ、結構です」

 

ㅤそう言うと清姫はアイアン・メイデンに入れられ俯いた私がプリントされているノートを懐に戻した。

ㅤふくしゅうと記載された下、名前の欄に清姫と丸っこい字で書かれていたので本当に彼女が所有しているのだろう。

 

ㅤ共通点が一つ有ったから聞いた。

ㅤしかし、知らなくとも良かったかもしれないと後悔の念が頭の中で高速スピンしている。

ㅤサーヴァントじゃなかったら確実に殺られていた。衛宮士郎の様な逸般人でなくて良かった。

 

 

ㅤ『─勇者よ海だ海に行くのだ。』

 

 

ㅤ頭に直接声が響く。声は善悪老若男女入り交じった声だ。

ㅤ心做しかノイズが多い気がしたが今はお仕事に集中した方がいいだろうと切り替えた。

 

「清姫。次の営業先は海らしいわよ!水着撮影とかあるかも!!」

 

「海…夏の魔物に夫婦のアレやソレ。タマモさんの言ったシチュエーションですね!」

 

ㅤ──淫乱狐ぇ!!?

 

ㅤ心の叫びが薄い胸の中を木霊する。

ㅤ実は案外純真だった清姫が、経験豊富な良妻希望の狐に色々吹き込まれている事実に辟易とする。

 

 

ㅤ『─さぁ世界をまた救─』『─デュフッ』

 

 

ㅤ声が変わった。怖気が身体を走り、強い嫌悪感を呼ぶ声だった。

 

ㅤ『─デュフフフフ…』

 

ㅤ引っ張られる。何時もとは違うねっとりした風が私の身体を舐める。気持ちが悪くて気持ちが悪くて頭が痛くなりそうだ。

ㅤこれは召喚による現象だと理解できてはいるが、受け入れ難いと脳では考えているらしい。それも仕方無し、それだけ嫌なのだから。

 

「清姫?」

 

ㅤ清姫は私の手をそっと握った。嫌悪感を慈愛で拭われていく気がした。やはり私は彼女に絆されているのかもしれないと握り返しながら思った。

 

「何処までも私は付いて行きます」

 

「本当にアンタって馬鹿…この先は地獄よ?」

 

「いずれは一人で行く所だと思っていましたのよ?貴女と行けるのならばきっと素晴らしい場所に成りますわ。えぇ、きっとそう…」

 

ㅤこの先は間違い無く地獄。だがしかし、身体は軽かった。

 

「狂ってるわ…アンタも私も」

 

「あら、お揃いですね?」

 

ㅤ彼女は嬉しそうに笑った。本当に嬉しそうだ。

 

ㅤ覚悟は決まった。

ㅤ私は引力に従って召喚されてやる事にした。と言ってもあの声を遮って召喚されようとしているので拒んでも無理だ。

ㅤただ盾は用意しておこう。

 

◇◆◇

 

 

ㅤ魔力の暴風吹き荒れ、潮の香りが鼻を衝く。

ㅤもう慣れ始めた召喚の瞬間。ネバネバネトネトと粘性が付与された視線が向いている事以外は概ね今までと同じ。

 

「デュフフ。潮風に運ばれて馨しいか・ほ・り。くぅーたまんねぇ!さぁさぁプリチーなお顔をプリーズでござる!!」

 

ㅤ思わず尻尾を強く甲板に打ち付けた。マナーの守れない豚も居るだろう。だがこれは厄介なソレと比較にならない。握手会で会ったが最期、ショック死を覚悟する程の嫌悪感を呼び覚ます。

 

ㅤまさに天災。

 

ㅤ彼が最も有名な大海賊と恐れられる所以とはソコにあるのかもしれないと本気で思う。

 

「モン娘キターーーッ!!!しかもビキニアーマーとは担当者分かってますなぁ。ア゙ア゙〜尻尾舐め回したいでござるぅ!」

 

「ヒッ!?」

 

ㅤ間違い無く変態だ。アレは変態だ!変態だァ!?

 

「変態!?変態よ!変態が居るわァ!!?助けて監禁されちゃうーーーー!!!躙り寄って来ないで謎の物体X──ッ!!」

 

黒髭(謎の物体X)は両手を広げ、四股を踏んで寄ってくる。顔は下品に歪み、これから悪い事をしますと自己表明しているようだ。

 

ㅤ火柱が立った。

ㅤ轟々と激しく燃える焔は黒髭の開かれた股を中心に展開する。

ㅤそれが数メートルの柱を立てたのだ。

 

「ぬぅわっーー!!?」

 

「無断のお触りは禁止されています。握手が精々でしょう…その握手権もCDを購入し、抽選会に参加して、当選者のみが得られるものです。それも無く触れよう等と、あまつさえ尾を舐め回したいとまで宣いましたね?─合法的に舐め回せる道理が私以外にある訳が無いでしょう!!」

 

「アンタにも無いわ───ッッッ!!!!!」

 

ㅤ火を鎮火しようと局部を手で払う黒髭。

ㅤ真面目に巫山戯た事を言い出す清姫。

ㅤツッコミを入れる私。

ㅤ黒髭の奥には船員とアンにメアリー、ヘクトールがいた。血斧王(けっふおう)は居なかった。

 

ㅤ取り敢えず黒髭と距離を置くために奥に駆け込む。

 

「やぁ不幸何て言葉じゃ抑えられないくらい災難だったね。僕はメアリー、こっちはアンだ。よろしく新人さん。アイツは見ての通り汚物だから適当な罵詈雑言を投げ付けてやってくれ」

 

「あらメアリー。あんなのどの様な罵詈雑言を浴びせたって最終的に浴びせた罵詈雑言が可哀想になるだけですわ。だからもう黒髭と言う固有名詞を罵倒の言葉にしましょ?」

 

「そうだね。じゃあ改めて、アイツにはこの世全ての嫌悪を込めて黒髭と言ってやってくれ」

 

ㅤ小柄の少女と色々大きい女性がそう言った。スマホを通して見てた分には黒髭に辛辣すぎると思っていたが、妥当を通り越して足りないと今では思う。

ㅤ『会ったら思ったよりイケメンでした』の逆バージョン、『会ったら思ったよりキモかった』というわけだ。

 

ㅤ恙無く自己紹介を終えると清姫がやって来た。後方には人型の炭があったが私は木炭だろうと見切りをつけ、清姫を紹介した。

ㅤ特に盛り上がりも無い簡素な紹介だったが、今までが濃口過ぎたと思う。

 

「それで、私たちは何すればいいの?海上ライブならセットを組み上げないといけないんだけど」

 

「私たちは聖杯を狙っているの。だけど既に他所が持って行ったみたいだから、それはそれ、海賊らしく奪っちゃいましょうって寸法よ」

 

「黒髭は女神様の方がお気に召してる様だけどね」

 

「その時は私たちだけで聖杯を使っちゃえば良いんじゃないかしら?」

 

ㅤ私は聖杯にこれといった願望を持ち合わせていない。言ってみてビキニアーマーの呪いを解き、自由気ままに服を選び着ると言った感じだ。

ㅤいや、正直それが叶ったらどれ程いいか…

 

「別にオジサンは必要無いけどねぇ〜」

 

ㅤヘクトールは槍を肩に預けてそう言ってくる。

ㅤ私はそっと後ろに回っておく。

 

「ん?なにしてんの嬢ちゃん…」

 

「黒髭が起き上がった時の盾にしようかと…」

 

「えげつないなぁ。まぁ良いけどね、守る事にゃあ一家言持ってるし」

 

ㅤヘクトールは皮肉げに笑った。

 

ㅤ木炭が跳ねるように動いた。まるで魚が陸に揚げられてしまった様に甲板を叩いた。

ㅤそして、次の瞬間には尺取虫や芋虫の様に地を這って接近してくる。真っ直ぐこちらに…

 

「死んだかと思ったァ!拙者ウェルダンよりレア派ですぞ!?」

 

「チッ」

 

ㅤ起き上がり、人語を用いた発声をしだした木炭に対して舌打ちをしたのは誰だったろうか。アンだった様な、メアリーだった様な気もするし、もしかしたら、歯を恐怖で鳴らしながら舌打ちをすると言う高等技術を天才な私がしてしまったのかもしれない。

 

ㅤただ言える事がある。

ㅤ清姫は舌打ちをしていないという事だ。

 

「フフフ…」

ㅤ清姫サンが御降臨なされているからである。

 

「デュフフ。おにゃの子の微笑み、もうそれだけで百年は生きていけるでござる。ぁ、ちょっ待って!早まらないで!じっくりねっとり話せば分かり合えるでござる──うわらばっ!!?」

 

ㅤ怒りに燃えた清姫の拳が黒髭を穿つ。

ㅤ身体のあらゆる部位に的確に拳は嵌り、空気の弾かれる破裂音と衝撃が海賊船の外まで響き渡っているだろう。

 

「アレ大丈夫なの?」

 

「無駄に耐久高いし、問題無いと思うよ…たぶん。そこん所どうなのエリザベート」

 

「補正が入るからセーフだと思う。サーヴァント以外にもやってたけど生きてたし、しばらくしたら収まる発作だと思えばいいわ」

「いい加減オジサン盾にするの止めない?」

 

ㅤ私は必死に顔を横に振る。油断は出来ない。

ㅤ黒髭が一匹居たら百匹以上は居ると思ったほうがいい。黒髭百匹とか洒落にもならない。まさに地獄絵図だ。

 

ㅤそう言えばヘクトールも苦笑しながら容認してくれた。敵だけど癒し枠かもしれないと思った。

 

ㅤその後一方的な攻撃は割と長めに続いた。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ甲板に立っているのは二人。

ㅤ巨躯の男性と非力そうな少女だ。

ㅤ片や殴られ、片や殴るだけの関係であった。だが、彼等は確かな絆を互いに感じていた。

ㅤ溢れんばかりの憎悪を向けていた少女は、倒れても立ち上がり、正面から拳を受ける男性に対して好感を持ったのだ。

 

『──彼は死ぬ気で萌えている』と

 

ㅤ熱い情熱は拳を通して伝わって来ていた。

ㅤ少女は嘘に敏感であった故に、冷静を取り戻した今では違える事無く分かった。

ㅤ彼は欲望に嘘を吐かない。どの様な後ろめたい性癖を持っていても偽らない。逸れず真っ直ぐ欲望に従う様は彼女にとってどのように映ったのかは分かりかねるが、負の感情では無いと断言出来る。

 

ㅤどちらとも無く距離を詰めた。そして強く握手を交わした。

 

「清姫です」

 

「エドワード・ティーチ。黒髭でいいでござるよ」

 

ㅤ黒髭の口調は依然ロジカルだが、表情は何時に無く真面目だった。彼の身体は焦げ、打撲痕も多く残っていた。数十発の弾丸を受けても戦い続けた彼にとってはへっちゃらなのかもしれないが、第三者から見れば痛々しい事この上ないものだ。

ㅤと言っても、彼を労る者はこの船には居ないだろうが…

 

ㅤ清姫は手を引いた。

 

ㅤ黒髭も引いたが、彼の掌には金に輝く板があった。

 

「会員証ですわ。渡すべきと思った方には渡しておりますの…」

 

ㅤ黒髭は膝をついた。そして咽び泣いた。

 

「家宝に、しゅるでごじゃるぅ──」

 

ㅤ黒髭はこうして正式なエリちゃんファンの一員となった。

 

ㅤ爛々と煌めく会員証に水滴が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「──デュフフ……」

 

 




清姫がブレないな…
黒髭もブレないな…
エリちゃんは……やっぱりブレねぇな!

続き希望の方へ
ㅤこれで満足か!私は満足だ(錯乱)


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ジョブチェンジは必要だろうか?

あぁ…ゴチャゴチャしちゃったよ。
うーん、清エリ成分は最後の方で自分達で補完して欲しいな…

頑張れ読者!


ㅤ世の中にはハロワでは紹介されない職業(ジョブ)が存在する。所謂一般的では無い職。闇的なモノも含まれる、そんなモノ達だ。斯く言う勇者もハロワでは引っかからないが─

 

「そんな事はどうでもいいのよ!私は海賊王になるわ!!」

 

「ちょっとソレ僕のカットラス、アンのマスケット銃まで…」

 

「無邪気で可愛らしいじゃないかしらメアリー。それに同じ女海賊が増えるのは喜ばしいことよ!」

 

「むぅーそれで良いのかなぁ…」

 

ㅤ帽子をコスプレグッズから引っ張り出した今の私は女海賊。

ㅤアイドルで勇者で女海賊。夢とロマンが詰まったジャンルの数々。右手にカトラスを、左手にピストルを、背中にマスケット銃を、頭に髑髏の入った帽子を。そして、それで身を包んだ私。

ㅤ時と場所に合った装いには痺れる事間違い無し。

 

「次のジャケ写はこれで決まりね!」

 

ㅤ時折ポーズを撮ってやれば焚かれるシャッター。清姫の指揮で黒髭の部下を十二分に使った撮影が行われているのだ。場所も名の知れたエドワード・ティーチ、黒髭の船。

 

ㅤ臨場感は段違い。見たものを惹き付けて離さない写真の出来上がりだ。

 

「良いですぞ良いですぞ、エリザベート氏!ヒップをもっと上げて、尻尾を突き出してッ!!顔も挑発的にッ!!──そうソレェ!!!!!!!!!」

 

「うわっ…」

 

「引くわー、ですわ」

 

ㅤシャッター音は止むことを知らず。

ㅤ踊る様に取られるポージングは私をより魅力的にしている。

 

「ハーイお疲れちゃん。後はこっちでやっちゃうからエリザベート氏は休憩入っておくでござる」

 

「ハイ、お疲れ様death!」

 

「ん?ニュアンス違うにょ!?」

 

ㅤ身体に走る悪寒が耐えられず、つい黒髭に口が滑った私は休憩に入る為、パラソルの下に入り、マットにうつむけで寝転がる。

ㅤ右に左に身体を転がす。こういう日常を特異点で味わえる事に感謝をしつつ、尻尾も右に左に傾ける。

 

「キャプテン、例の海賊船が島から出てきました!」

 

「どれどれ……あるぇ、BBAの船直ってない?」

 

ㅤ何やら騒がしい。だがマットは私を離してはくれないようで、身体は弛緩しており微睡へと誘うのだ。船上の阿鼻叫喚など私にとっては子守唄に等しいと思って欲しい。

 

「総員対ショック体勢ッ!!」

 

「あ、良いなぁ!拙者もソレ言いたかったですぞ。と言うか此処拙者の船なんだが!?」

 

ㅤはて、対ショック体勢とは何ぞや?

ㅤ意識が飛びそうな私にはどの様な言葉を言われたとて理解できない。

ㅤ私を起こしたくば清姫サンを呼んでこいと言いたい。清姫サンを呼び出した瞬間呼び出した者は葬られる運命だが、死に目を美少女に看取って貰えるのだから幸福でしょう?

 

ㅤ直後響く轟音と衝撃。

ㅤ弾かれるように甲板を飛ぶ私。フワフワとした曖昧な意識が一変して緊張状態に変わる。

ㅤそして、ハッキリした意識で認識した。

 

ㅤ──作戦開始だわ!

 

ㅤカットラスとマスケット銃をアンとメアリーに投げ渡し、被っていたコスプレグッズも仕舞い込む。変わりに出したのは何時もの勇者装備。

 

「野郎共、略奪のお時間よ。使えそうな物は一切合切奪って奪って奪い尽くしなさい!主に私の為に!!」

 

ㅤ黒髭の部下に檄を飛ばせば野太い声と掲げられた武器で返してくる。全員が一丸となっているのは元からなのか、私がいるからなのかは知らない。別に知って得はない、寧ろ黒髭の日常を垣間見る結果となりマイナスを天元突破だろう。

 

ㅤ既に敵は乗り込んで来ている。開戦の狼煙も済んだようだ。砲台から白煙が登っている。

 

ㅤ清姫にアイコンタクトを飛ばした。即座に行動を開始した所を見て理解したようだ。

ㅤ目で語るのは楽でいい。手間が省けるし、何より情報の漏れが無い。この分なら子ジカにもそれとなく伝えられるかもしれない。

 

「もう軍師エリザベートでもやっていけるんじゃないかしら… 溢れ出る才能が私を更なる高みに押し上げちゃうのね!」

 

「言ってる場合じゃないよエリザベート。こんの、執拗いなあの弓兵!」

 

ㅤ恋愛脳な月の女神様が放つ矢を、メアリーはカットラスで軌道を逸らし続けている。

 

「アン!まだアレ撃ち落とせないの!?」

 

「弾幕が濃すぎて隙が殆ど無いのよ。隙間を縫って撃ち込んでも避けられる。全くもって割に合いませんわ!」

 

「チィ、エリザベート。火薬庫をやられて移動が儘ならない中じゃ逃げられない。そうなると船上で白兵戦になる。いくらヘクトールでも苦しいだろうからそっちに回って直ぐに帰ってきて!」

 

ㅤ私は何も言わず駆け出した。目指すのは子ジカの所。黒髭やヘクトールも居るだろうから戦線の維持自体は可能だろう。

ㅤ当初の目的通りに事が進めばそれで良し、駄目ならプランB…考えて無いけどね。

 

「あ、エリザベート氏!助太刀に来てくれたんでござるね!ついでに夜の助太刀も─」

 

「──清姫に言うわよ」

 

「んん〜辛辣!? でもそれが良い。ぁ、ごめんなさいごめんなさい、清姫氏に報告は止めて!! 愛が重いのぉお〜!!」

 

ㅤ黒髭は青ざめた顔で懇願してくる。正直あれだけ念入りに燃やされたらこうなるのも頷ける。

ㅤあれをまだ愛と形容できる黒髭には呆れを通り越して尊敬してしまいそうだ。

 

「え、エリちゃん!? 何でそっちに居るのさ? ついさっきまで居なかったのに…」

 

ㅤ子ジカはこの世の終わりの様な顔をしていた。確かに現状では刻々と終わりが進んでいるが、私を見てその顔はショックだ。私可愛いのに…

 

「また会ったわね子ジカ。まぁこういう事だからよろしくね」

 

ㅤウィンクを一つ。

ㅤこれで子ジカにも伝わった筈だ。演技に徹してくれれば嬉しいが、完璧を求めるのは酷だろうと考えて私から話し掛ける。

 

「じゃあ行くわよ子ジカ。構えなさい!」

 

「うん。何処からでも来ていいよ!」

 

ㅤ子ジカは構えた。「私の胸に飛び込んでおいで!」と言わんばかりに両腕を広げて…

 

「エリザベート・バートリー、戦闘態勢です。先輩、腕を広げていないで私の後ろに下がっていてください!」

 

「いやだってエリちゃんが抱きとめてって…」

 

ㅤ駄目だこのマスター、全く別の意味でサインを受け止めてしまっている。大きな問題とはなり得ないが、グダグダになる可能性は急上昇だ。

 

ㅤ腕を広げて不動な子ジカに、その子ジカを庇おうと前に出るマシュ。完全にコントだ。

 

「なんだい、アンタら知り合いかい?」

 

「ゲェ、BBA!?」

 

「…余っ程海の藻屑に成りたいらしいね!」

 

ㅤなし崩し的に戦闘開始。銃弾が飛び交い、時に拳や蹴りが飛ぶ。ついでに罵声や煽りもセット。まさにトリガーハッピーセット。

 

「…じゃあ此方も早いとこ始めちゃおうか」

 

「遅かったじゃない!」

 

ㅤ見当たらなかったオジサンが今になって現れた。咎めるように話し掛ければ、手をヒラヒラとさせて遇ってくる。

ㅤそして、彼は槍をマシュに突き出した。

 

「ぐっ─重い」

 

「おうおう、硬いこと硬いこと。これだから盾持ちは厄介だよなぁ」

 

「ちょっとぉ、話は終わってないわよ!」

 

「状況見ろって… 戦いはもう始まっちゃってるんだよ? 細かい事抜きにして仕事はしなきゃ、さ!」

 

ㅤ軽い会話を挟みながら猛烈な槍さばきでマシュを翻弄していく。明らかに状況はこちらに傾いている。

 

ㅤ子ジカの周りにはマシュ以外のサーヴァントが居ない、ガラ空きと言っても過言じゃない。

ㅤ私はこの時に気付いた。ゲームと現実の大きな違い。それはマシュ以外のカルデア産のサーヴァントが存在しない事。次に─

 

 

ㅤ──フレンドサンが居ない事だ!

 

 

ㅤオケアノスではマシュの経験値は乏しい。彼女にとっての本領とはギャラハッドをキチンと認識し、宝具を解放できた時を言うのだと私は思う。

ㅤつまり、彼女達は初心者だ。故にフレンドサン達がいない状態でコレを撃破するのは必死である。マシュと現地サーヴァントだけで全特異点を踏破すると言う強制縛りプレイを実行させられている彼女等には涙が出そうだ。

 

閑話休題(エリちゃん可愛い)

 

ㅤ何はともあれ、彼女等を失う訳にもいかない。それとなく事態の収拾を図りつつ、それとなく頑張って働いているアピールをしなければならないのだ。

ㅤよって私は─

 

 

ㅤ──子ジカを攫います!

 

 

ㅤ魔力放出を並列解放。常人が認識する段階を超えた疾走。ヘクトールを相手取っているマシュでは追い付けない。私は難無く子ジカの前に現れることになる。

 

ㅤだが、ここで私の予想外が起こった。

 

「エリちゃん捕まえた!」

 

「ニギャア──!?」

 

ㅤこの一般人は私を抱き締めている。私が子ジカの前で一時停止したとほぼ同時に広げていた両腕でホールドを掛けてきた。正直言ってありえない。常人が認識出来ない速度で近付いたという事は、子ジカから見たら瞬間移動にも等しい現象という事であるわけだ。つまり、破裂音しか移動した証拠を確認出来ない。その破裂音も銃弾飛び交う中では紛れて認識が阻害されるだろう。

 

ㅤ─なら何故彼女は私を抱き締めている?

「まさか…まさかまさかまさか! アンタ最初から!!」

 

「そのまさかだよ。──私は前しか見てない!!」

 

ㅤ子ジカは目の前に現れるだろう私しか認識しようとしていなかった。そこに私が一瞬で現れた。だから抱き留めた。彼女の行動に移すまでの脳内で積んだプロセスが極小だったが故に引き起こされた事態だ。

ㅤいや、それ以上かもしれない。

ㅤつまり彼女は『考えるより早く動いた』と言うのだ。

 

「あんたバカァ!?」

 

「ハッハッハッ! きよひーが居ない今が私の独壇場。此処でヤらず何処でヤる? 女藤丸立香、決める時は決めるんです!」

 

「バカだったかぁ!」

 

ㅤ頭を抱えたい気分だ。いや子ジカには抱えられて居るが…

 

ㅤあ、アンとメアリーが離脱した。

 

ㅤ戦線は崩壊。黒髭にもこれには焦る焦る。そしてヘクトールは無表情に黒髭を…打ち取れない。

 

ㅤ私は動いていない。動いたら子ジカが粉砕骨折間違い無し、即刻バッドエンドだ。だが事実黒髭は死んでいない。

ㅤ私がカボチャを召喚して槍の軌道をコンマ数センチズラしたからだ。お陰で黒髭の身体中カボチャ塗れになっている。

 

「嬢ちゃん案外腹芸が出来たんだな。オジサンちょっと関心しちゃったよ」

 

「よく言うわよ、ちゃっかり聖杯だけ掻っ攫ってる癖に!」

 

「ハハッ、そいつァ大人故の余裕だよ。嬢ちゃんもそのうち分かるさ」

 

ㅤさり気なく煽ってくる。いやさり気な過ぎて本当に煽って来てるのか分からないくらい自然だ。

 

「だがまぁ、大人だからやらなきゃいけない事もあるもんでな」

 

ㅤヘクトールは『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』目掛け跳躍。ポカーン顔で固定された一同は置いてけぼりの模様。

ㅤ寧ろ適応する者達が異常な道程を歩んだ事がハッキリ分かる場面と言える。

 

ㅤだが、私はコレを黙認しよう。私の手の平に乗っている間は余計な行動を取るべきではない。策士エリちゃんは賢い!

 

ㅤ周りはエウリュアレが攫われた事に目が行く。私は釣れたことにほくそ笑む。

ㅤ別にエウリュアレがステンノに思った以上に似てるからって仕返ししようとか思った訳では無い。無いったら無い!!

 

「子ジカ。離して、落ち着いて、私の声に耳を傾けて」

「ででででも! エウリュアレが持ってかれちゃった。早く追わないと! ドレイク、直ぐに此処を離脱して追跡しないと! エウリュアレも聖杯も持ってかれる訳にはいかない!!」

 

「分かってる! 女神様(エウリュアレ)も私の船員(クルー)だからね。キッチリ返してもらうさ」

 

ㅤ切り替えが早い。彼女の成長が浮き彫りになった一場面だと思った。狼狽えたと思ったら次の瞬間から追う算段に思考を割くなんて若干高校生に出来るわけない。いや『魔術に関係が無い』と形容詞が入るが。

 

「私は別ルートから追うから先に行って!」

 

「──分かった!」

 

ㅤ子ジカは眩しい笑顔でそう言う。馬鹿正直に私を信頼しているからそう言う顔が出来るのだと思う。二つの特異点を私たちと解決し、次は三つ目、せめてアイドル()が彼女の心を潤いで守れていればとは思うが、心配だわ。

 

ㅤ子ジカが離れた事を確認してから作戦の要であるカボチャ塗れの汚物(黒髭)に近づく。

 

「船貰うから」

 

「え?」

 

「船貰うから。清姫出てきて良いわよ」

 

「はぁい」

 

ㅤ船室から待機していた清姫が─

 

ㅤ──私目掛けて飛び出して来る

 

ㅤ予想通りだったので躱す。何度も捕まるとは思わないで欲しい。

 

「残像ですわ」

 

「なん…だと──!?」

 

ㅤ直線的に突き進んで来ていた清姫が残像だけ残し、私の後ろを捕らえていた。高速移動とか瞬間移動とかそんなチャチなもんじゃあ断じて無い。それより恐ろしい清姫のストーキング技術を見たわ。

 

「寂しかった」

 

「いやほんの数十分…」

 

「一分一秒が私にとって何度の四季を乗り越えたか…嗚呼エリザ。もう離れないで」

 

ㅤ蛇の様に私の身体中に巻きついてくる。清姫の四肢が私の身体を愛撫する。力強いようで繊細なタッチにムズムズする。

 

「エリザニウムで満たされていきそう。いえ全然足りません。もっと欲しい。もっとあげたい」

 

「ちょっと何処舐め─ヒッ!?」

 

ㅤエリザニウムなる謎元素は皮膚間の接触や、口内摂取で賄う物らしい。清姫はコレさえ有れば二十四時間三百六十五日ぶっ通しで動けるとの事だ。私が発生源なのだから私の中に永久機関でもあるのかもしれない。

 

「ちょっとメアリー! アン!」

 

「諦めてくれよエリザベート。彼女、中でもこんな状態だったんだからさ」

 

「取り押さえるのに苦労しましたわ…」

 

ㅤそう言って出てくるのはアンとメアリー。細工がキチンと機能していて安堵する。

 

「続きは中で…ね?」

 

「いや、結構、です。本当に要らな─いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

ㅤ清姫はエリザニウム欠乏症になるとゲームオーバー。この言葉は私の魂に刻まれる事だろう。

ㅤじたばたと身体を捻らせてもブレない。清姫の(ハイパー)清姫サンモードの恐ろしさが此処で極まった。

 

「助け─」

 

ㅤ無慈悲に扉はしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拙者空気じゃね?」




今回のエリちゃんは比較的大人しかった…
次回は…何であぁ言う事するかなぁ!?
失礼…

こんなまどろっこしい書き方をしたのは理由がありましてね。話数を稼ごうと思って挟んだ話です。正直、最初のボツ案だと2話話完結してしまったのでご容赦を。

待たれよ次回!!


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反英雄、半英雄、大英雄

ふぅ…清姫の嫉妬を考えてたら時間が過ぎていたぜ!
まぁ時間が経っても皆待っていてくれると信じていますよ、信じていますよ!!


ㅤ私は現在椅子に座っている。正しくは座る事を強制されている。毎度飽きもなく拘束されている訳だが、私としてはテンプレ化する前に止めたい所だ。

 

「さて、答えてくれますよね?」

 

「何を?」

 

ㅤいや、確かに彼女の性格や性質を理解している私ならば、聞かれている内容も予想できる。できるが、私は敢えて問うてみる。

ㅤ間違えたら恥ずかしいからとかそういうのではない。

 

「私たちが会えなかった空白の時間についてです。誰にあったか、何を話し、何をされて何をしたかを一語一句違えず、私に教えてください。それだけでいいのですよ。さぁ、嘘を吐かず話せたらご褒美(・・・)を差し上げましょう」

 

ㅤやけに強調されたご褒美とやらが非常に気になる。果たして誰にとってご褒美なのか分かったものでは無い。

 

「子ジカたちが来て、交戦して、ちょっとお喋りしたわ。あと、ヘクトールが離反したくらいね」

 

「…カルデアの方々と話したのは大目に見るとしても、ヘクトールさんの事を、ついでのように扱うのは無理があると思うのですが…」

 

ㅤ清姫の指摘にハッとする。予想通りだったとはいえ何気に裏切られた事実を鑑みるとついでの扱いは相応しくないかもしれない。

ㅤ慢心はいけないと金ピカを思い出しながら念じた。

 

「それで、まだ終わってないですよね?」

 

「ほえ?」

 

ㅤ清姫は私の目を見定めたまま投げ掛けてくる。蛇を連想させる瞳は私と言う獲物を離すつもりが無いようだ。

 

「さぁ、立香さんとは具体的には何をしたのです?」

 

ㅤ清姫の囁く声が私のエリちゃん(イア)を擽る。妙に艶っぽい声に居心地が悪い私は身体をよじって抵抗を試みる。

 

ご褒美(・・・)、欲しくないんですか?」

 

ㅤ──だから誰にとってのご褒美!?

 

ㅤ内心叫ばざるを得ない。

 

ㅤ勿論私は正直に話そう。清姫相手に嘘を吐くとか安珍で十分だからね。私は焼き殺されるのは嫌だ。

ㅤいや、私ならば案外耐えられる気もするけれど!

 

「うーん、ハグ?」

 

ㅤそう口にしたら清姫が凍り付いたように停止した。持っていた扇子を落としてしまう程に衝撃的だった様だ。

 

「…ハグ? それはアレですよね、所謂その、抱擁と言う事ですよね? う、浮気ですか? 妾を取ることに理解があるからと言っても悲しいものは悲しい。それが分からないのですか? あれほど私を見てと言っていたのにも関わらず…エリザは意地が悪いのですね。私が悲しむと理解した上でそのような行動をなさるのでしょう? 至らない所がお有りでしたら仰ってください、必ず直しますから、それでも考え直してくださらないと仰るのであれば腹さえ斬ります。ですから──どうかお考え直し下さい!」

 

ㅤ徐々に語調を強くしてアドリブとは思えない長台詞を読み上げていく彼女の顔は先程から強気だった少女とは思えない程弱弱しいものだった。

 

「馬鹿ね、ただのファンサービスに決まってるじゃない。そもそも私結婚何て考えられないし」

 

「本当ですか?」

 

ㅤ鷹揚に頷けば、清姫は薄く微笑んだ。

ㅤ本当に良かった。ドラゴンステーキとか冗談でも聞きたくないし、成りたくない。

 

「じゃあ証明を…」

 

ㅤそう言ったっきり彼女は俯いてしまった。

 

「ちょっ近いんですけど…」

 

ㅤ強引な感じでは無いが、無言の圧力と、じわじわ迫ってこられるのは少々怖い。

 

「誓いをする時には接吻をすると聞きます…ちゅー」

 

「海外文化の履き違え方が可笑しいわ! 離せェ!キス顔やめろォ! 」

 

ㅤ「ガオォー」と吼えてみても吹き飛ぶだけ、綺麗な着地を見せたあとでテケテケの如く迫るホラー付き。今ならキス顔と言うオプション迄付いちゃうスペシャルプライス。

 

「デュフフ。聞こえますぞォ…」

 

ㅤ扉の外から不気味な声が響いた。彼女から舌打ちが漏れる。その直後に不意をついた口付けを彼女は繰り出した。ソレは舌を絡めようとして来るのでもなく、舐め回してくるのでも無い。ただただ優しい口付けだった。

 

ㅤその後、猛々しい赤いオーラを纏った清姫は声のした扉目掛けて着物とは思えない速度で飛蹴りを放ち、ダイナミック退出をした。

 

ㅤ取り残された私は深呼吸を繰り返すのみ。

 

「結局キスして行ったじゃない…」

 

ㅤ彼女はキス以上をしてこない。知らない訳では無いだろう、寧ろ何処ぞの巫女狐のおかげで其の手の知識を溜め込んでいる節がある。

ㅤ恐らく、キスをすると言う行為に慣れ始めた。彼女とて純粋な乙女だ。愛や嘘で暴走するだけで、それだけは確かなのだ。

 

ㅤ故に、彼女が次のステップを跨ぎかけていると私は推測する。

 

ㅤつまりこれは拙い事態というのは確かだろう。

 

「わ、私はアイドルに成るって決めたのだしぃ。思い切って拒否してみるのも有り、よね?」

 

ㅤいや、正直不安しかない。別段嫌という訳でもないのに拒否するのは嘘だと判断されても可笑しくないからだ。

 

「千日手なのだわ…」

 

ㅤという事で私は考えるのをやめた。

 

 

ㅤ船室から出た私は生き残ったアンとメアリーに駆け寄った。二人とも目立った外傷も見られず、問題も無いように見える。

 

「ねぇエリザベート。結局私たちは何で生きてるの? 殺られそうになったと思ったら船内にいたのだけれど…」

 

ㅤアンが小首を傾げて問うて来た。

ㅤ私は満面の笑みを湛えてアンのマスケット銃を指差した。そこには薄い光が灯っている。

 

「あれ、さっきは無かった筈よねコレ?」

 

「僕のにも付いてたよ」

 

「借りた時に仕組んでおいたのよ! こっそり陣地を作ってショートワープさせたの、凄いでしょ?」

 

ㅤ「おぉ─」と二人は拍手を贈ってくれた。実は原理などさっぱりだったりするのだが、何となくで出来てしまったので結果オーライだと思う。

 

「でももっと凄いのはこれからよ!」

 

マイクスタンド()を取り出し、船首近くに突き刺す。更に魔力を注ぐ。マントがたゆたう程に魔力を捻出すれば、徐々に船が変状していく。

ㅤそれはまるで城のようだ。と言うか巨大船に城を置いただけに見えるのはきっと気のせいではない。

 

チェイテ号(私の船)よ!」

 

「重くて進めないんじゃ…」

 

「飛ぶから良いのよ」

 

「え?」

 

「と言うわけで、船出の歌を歌っていきましょう! カリブっぽいのね!──ミュージックスタートォ!!」

 

ㅤ海のパワーをマイクスタンド()に注ぎ続ける。するとどうだろう、船が徐々に浮遊しているではないか。

ㅤ高度を加速度的に上昇させて行き、空を掻き分けて前進する。歌が歌い終わる頃には魔力供給も安定化しており、落ちる心配はしなくともいいだろう。

 

「それでヘクトールは追えるの?」

 

「マントにマーキングしてあるから何処に居たって無駄よ。空から追跡して首魁諸共倒してやるわ」

 

ㅤアルゴー船に居るメディアならば直ぐにでもマーキングに気付き、消してしまうだろう。だが、その時には私たちは上空に待機中、勝ったも同然だ。

ㅤそもそもこのような回りくどい方法を採用したのはメディアが行使しているだろう隠蔽系統の魔術を考慮しているからだ。黒髭とドレイクの鬼ごっこ中に察知されずにひっそりスタンバッて居られるのは、目視不可や認識阻害の魔術でも無ければ説明がつかない。

ㅤ神代の魔術師である彼女なら時間を数分与えただけで現代魔術師が血反吐を吐く程の完璧な術式を構築する事だろう。

 

ㅤ現在はこれらを考慮して作戦実行中なのだ。

 

「フフフ、自分の無限の可能性が恐ろしいわぁ。軍師なんて名乗ったら過労死の未来が見えてくるから自称する事は躊躇うけれどね!」

 

「随分と御機嫌のようですねエリザ」

 

「パズルのピースが過不足なく用意出来た感じよ。後は全部嵌めれば終了! 清姫も気を引き締め…」

 

ㅤ振り向いて見たら居るのは清姫と黒髭、だった物。時折跳ねる炭は恐らくきっとたぶん黒髭。

 

「生きてるの?」

 

「表面を焦がしただけですので、きっと(・・・)大丈夫でしょう」

 

ㅤ体表面を満遍なく焦がされるのはソレなんて拷問なのだろうと私は思う。私の性質上拷問は得意なのだが、正直趣味とかそう言う範疇に収まっていいものではない。

ㅤ清姫のその後が心配でたまりません。

 

「っと、そろそろ敵上空よ!」

 

ㅤマーキングの反応はこれより真下を示した。やがてその反応さえ途切れたが、それもこの場所を示していた。

 

ㅤさて、奇襲は完全な不意打ちでなくては意味は無い。何度も同じ手は通用しないし、在り来りな作戦の結果も芳しいものでは無いだろう。

ㅤなればこそ、私の様な奇策を立案する者が必要だと考える。何事にも驚き(サプライズ)は尊重されるべき事柄なのだよ。

 

「船ごと突貫! これがベストな回答よ!!」

 

「何もベストじゃないと思うなぁ!?」

 

「もう遅いわメアリー」

 

「え?」

 

「──もう落ち始めてるもの」

 

ㅤ船首を下へと傾け、気分で取り付けた両翼から魔力を放出してブースト。自由落下以外のエネルギーを得たチェイテ号はまさにステラ。

 

「落ちろォォッ──チェイテェェ!!!」

 

「自分の城を落とすなァ!」

 

ㅤ最もな意見過ぎて私の心が軋んだ、気がした。

 

ㅤ派手な登場こそ正義の味方(ヒーロー)の特権。船ごと落ちてくる勇者が居るかって? 詳しい人にでも聞いてみたらいいんじゃない!

 

「おいおいおいおい、おいぃい!? もう既にいるって上だったのか? どんな無能が指揮官になればあんな馬鹿な真似ができるんだ」

 

ㅤそう言っているのは殴りたい英雄筆頭候補のイアソンだ。殴りたい、具体的にグーで腕を振り抜きたい。

 

「言っている場合では無いのでは? このままではイアソン様だけ(・・)が海の藻屑ですよ? 大人しくワカメにでも成るのでしょうか?」

 

「未来の旦那に対して辛辣過ぎィ。いや待て、元はと言えば逆探知をもっと手早く済ませておけばいいものを見逃したお前が悪いんだろ!」

 

「えぇそうでしょうとも。イアソン様がそう仰られるのならそれが真実なのでしょう。…それともう対処不可の様ですが?」

 

ㅤチェイテ号の船首はアルゴー船のマストをへし折って突き刺さる。重さゆえに船体も大きく揺れ、イアソンだけ(・・)がゴロゴロ転がっている。彼はメディアに助けを求めているが、完全に見て見ぬ振りをされているようだ。夫婦生活の闇が深過ぎるのが悪い。

 

ㅤそれと幼いメディアに「愛しい」だとか「私の」とか言うとロリコンのソレにしか見えないので事情を知っている者の前でしかやらない方がいいと思う。

 

「うぅ…酷い目あった。メディア、メディア!」

 

「ハイハイ此処に居ますよ」

 

ㅤ呼び戻されたメディアはイアソンに助けなかった理由や、チェイテ号の対応の不満を撒き散らしている。

ㅤあれでケイローンの教え子だと言うのだから世の中分からない。

 

ㅤぁ、言い負かされて泣いてる。

 

「うるさいうるさい、うるさーい!! 全て打ちのめせヘラクレスゥ!!」

 

ㅤイアソンの手より赤が弾けた。

 

ㅤ…え、アレって令呪よね? 令呪と言う事は、詰まるところ「やっちゃえバーサーカー」って事でいいのだろうか?

 

「──■■■■■■ーーーーッ!!!」

 

ㅤいいみたい。

 

「って夢想してる場合じゃ無いわァ!」

ㅤ呆気に取られて機能が停止していたわ。ヘラクレス何て子ジカに丸投げして、鬼ごっこして、アークにインして倒してもらう気満々だった。と言うか、その前にイアソンを退場させる気しか無かった。

 

ㅤ前に私TUEEEEと言ったわね。アレはヘラクレスには通用しないからね。攻撃に耐性を持った上に何度も倒すとか無理だから、そもそも技量で負ける予感しか無いから。

ㅤアレなの、邪眼に目覚めて邪王炎殺黒龍波でも打ち込めば良いのかしら? 個人的に次元刀の方が好きだわ!!

 

ㅤ野獣の様なけたたましい咆哮が迫る。鉛色の巨人の圧力は距離が近付くにつれて増してゆく様だ。

 

「清姫!」

 

「何時でもどうぞ」

 

ㅤヘラクレス相手に攻めは死を意味する。レトロニアで弾き、エイティーンで逸らし、危なくなったら清姫の援護でバックステップ!!

ㅤこれを繰り返して、子ジカに助けて貰うしかない。大丈夫よエリザ、アッチにはヘクトールと竜牙兵しか行ってないはずだもの。直ぐにでも子ジカが助けて、くれる…

 

ㅤ斧剣と大剣の切り結びは私の腕には重すぎた。体重や身長を比べても倍以上ある。相手がそのアドバンテージを手放す訳もなく、全身を使って私を押さえ込み、子供が蟻を踏み潰す様に地面に叩きつけようとして来る。

 

「離しなさい!」

 

ㅤ接吻の残り香でオーラを纏った清姫はニトロの匂いを撒きながら、ヘラクレスの背後より上半身を焼いた。

 

「そりゃあァ!!」

 

ㅤ意識が清姫に逸れている間に刀身を滑らせて抜け出す。これには私も安堵の息を漏らす他ない。

ㅤその束の間だ。私の眼前に足が映ったのは。

 

「おぼわァ!?」

 

ㅤスキルによる頑健さに助けられた為に死にはしない。だが、派手に甲板に転がされる。起き上がるのにはかなりの隙を生む。

ㅤつまりヘラクレスは跳躍から振り下ろしで私を一刀両断しにかかる事実は致し方ないね。

 

撃てぇ(テェー)!」

 

ㅤ着弾。

 

ㅤ顎あたりから煙が登っているあたり、アンが撃って、メアリーと黒髭が砲弾を詰めているのだろうと何となしに理解した。

ㅤそして、ヘラクレスの凄まじさも理解した。

 

「令呪込みでも頑丈過ぎるでしょ。まるでゾンビみたいなタフさ! 少しくらい怯みなさいよ!!」

ㅤ悪態を吐いたところで状況が好転するわけもない。

ㅤマジ辛い! 取り敢えず──

 

「──早く来てよォ子ジカァ!!!」

 

 

 

 

 




ヘラクレスは強いと主張したいだけの一話でした申し訳ありません。清エリ成分は入れたのでどうかご容赦頂きたく…

ァ、それとエリザニウムならぬエリザ粒子があったみたいですね。正直、フッと笑っちゃいましたよ…


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常識をかなぐり捨てて勇者になれ(レッツフリーダム)

私はいったい何を書いているんだ…
書いては消して、書いては消して、私いったい何をしたかったのか…

アビゲイル引けて舞い上がったのが悪かったのだろうか…

クリスマスイベント頑張ろ……

話の端々にシリアスを演出したかったが、最終的に耐えられずギャグに逃げた作者の心の弱さが読み取れる事と思います。広い心を持ち、自分たちで描写を補完しながら見てください。


ㅤ私はエリザベート・バートリー。今を輝く勇者でアイドルよ。そんなベリーキュートな私の最近夢中な趣味は─

 

ㅤ─命懸けのテニスよ!!

 

ㅤ唸る肉体に迸る血流の熱量は常に循環し滾り続ける。沸騰したポットの様に口から吐き出されるのは甘い蒸気か。斯くしてその頑健でありながら矮軀と言う矛盾を抱えた肉体から放たれるエネルギーはどれ程か本人でさえ図りえないだろう。

 

ㅤ筋肉が脈動し奏でる協奏曲(ハーモニー)は強烈にして熱烈な一撃を生んだ、自身の猛る咆哮と共に。

 

「どおりゃぁああああ!!」

 

ㅤ彼女の持つ愛剣(ラケット)は確かにエリちゃん玉(ボール)を捉えた。球体を大きく歪ませる程の圧倒的なパワーから繰り出されるストロークは相手選手であるヘラクレスの胸元に直進する。

ㅤ私は避けられたならば失点になると理解した上でこの戦法を取った。だがそれは、ヘラクレスが避けずに打ち返すだろうと確信した上で実行に移したのだ。

 

「■■■■■■■■ッッ────!!」

 

ㅤやはりと言うべきか、ヘラクレスは打ち返す構えを取った。

ㅤヘラクレスは半回転を加えて打つポイントをずらした。更に回転のエネルギーを逃がさずそのまま膂力に上乗せした上で私の顔面に返して来る。

 

「舐めんじゃないわよォ!!」

 

ㅤ迫るエリちゃん玉(ボール)を前に全く引かず、あまつさえ私は走り出した。

 

─一時停止─

 

ㅤさて世の豚やリスは頭にクエスチョンマークを乗せている事だろう。そんな憐れな者共に私から囁かな状況説明をしようと思う。私もまとめていなければ脳が爆発四散してしまいそうだからしょうがなくよ。

 

ㅤでは前回から現在に掛けての道程を説明しよう。

ㅤあれからもヘラクレスと死闘を繰り広げた。しかし、このままでは一歩も進めないと思い至った私は当初の予定通り海賊二人組と塵一盛りを子ジカに加勢させる事にした。

 

ㅤ勿論援護が減る分の皺寄せが此方に来る。それは身を以て理解している。だがそれも致し方ないこと、清姫も付いているのだからと無理矢理納得した。

 

ㅤだが私も自己犠牲を進んでする程愚かではない。あわよくば、倒してしまっても構わんのだろう、の精神で受けて立った。

ㅤと言っても真っ向勝負では分が悪い。そこでエリちゃん玉を作り出したのだ。

 

「説明しよう。エリちゃん玉とはエリザニウムの集合体であり、変幻自在でありながらなんやかんや素晴らしい物質である!」

 

ㅤ誰だ今の……まぁ合っているとは思うけれど。

 

ㅤ要は直接攻撃を避けながらも逃げられないようにその場に拘束するためにテニスの様な形態を取ったというわけよ。

 

ㅤあ、清姫は一人だけ置いてきぼりでアワアワとしてる。ラケット持ってないし仕方ないのよね。流石に扇子じゃあ細すぎ短すぎ脆すぎと三拍子揃っている訳だし、何より危険だから審判でも務めていて欲しい所。

 

以上

 

 

─再生─

 

 

エリちゃん玉(ボール)との距離を自ら縮める際に仕舞い込んだ愛盾を右手に召喚する。

ㅤ力強く握りしめ、感触をしっかり確かめた。

 

「吹き飛びなさいィィ──!!」

 

ㅤ限界まで引き絞った腕を一気に前へと突き出す。右腕が引き千切れないように許容限界まで魔力を通した為か激突時に押し返される事はなかった。

 

ㅤ盾から腕に伝わる痺れから未だに盾の面に光弾はあるらしい。

 

ㅤ私は気合いで腕を振り切った。

 

ㅤ空気が裂ける音と共に光弾は弾かれた。いや、弾かれるなんて陳腐な表現では収まらない。対城宝具を受け止めた時と同じ様な衝撃が私の細腕に伝わって来ている。

 

ㅤ距離は短い。私がそう仕組んだからだ。ヘラクレスは避けると言う選択肢を除外されている。私がそう仕向けたからである。

 

ㅤ頭部に着弾を確認。ヘラクレスは尚も倒れない。

 

「何の為に打ち合ってたと思ってるのよ!」

 

ㅤエリちゃん玉に蓄積されたエネルギーが外殻から漏れ出した。ヘラクレスとのラリーで加速度的に上昇していった熱量は確かにヘラクレスにダメージを与えた。

ㅤ膨張と縮小を繰り返す光弾は彼の頭部を丸々吹き飛ばし、胸に亀裂を入れる程の威力を生んだ。

 

「本当に規格外ねあの宝具…」

 

ㅤ失われた頭部が蒸気と赤い発光と共に形を取り戻していく。それは時間を巻き戻している様にも感じる。通常のサーヴァントであればこの時点で消滅するところだが、ヘラクレスは規格外(EX)、理不尽の権化である。

 

ㅤここまで来て、ただ再生されるなんて─

 

「─たまったもんじゃないわよォ!」

 

ㅤ即座に拘束系拷問器具を幾つか召喚した。

ㅤ鎖で四肢を拘束。その上から釘を打ち込み固定する。そこから大中小の様々な大きさを持つ鉄の処女(アイアン・メイデン)をマトリョーシカの様に重ねていく。一番小さな物で二メートルを超えるため、数十も重ねれば驚くほど巨大になった。

 

「処女の抱擁、漏れ出すのは嬌声か流血か。貴方を捉えて離さない血色の棺(ブラッド・コフィン)。豚の悲鳴を聞かせてちょうだい!」

 

ㅤ詩に乗せて閉じられていく鉄の処女(アイアン・メイデン)は激しい金属音と共にヘラクレスを閉じ込める。

ㅤ息も絶え絶えな私は鍵を閉めた瞬間倒れ込む。甲板とキスするのはもうこれっきり御免だわ。

 

「エリザ!」

 

ㅤ可愛らしい足音をたてて清姫がやってくる。

 

ㅤ仰向けになる為に寝返りを打つことにした。だが、途中で引っかかった。首痛い…

 

「角あったの忘れてたわ」

 

「エリザ!!」

 

「あぁ清姫。ごきげんよう」

 

「あっはい、ごきげんよう」

 

ㅤちゃんと答えるのねこの娘。しかも礼儀正しく背筋を伸ばして扇子で口元を隠すんだから律儀と言うか天然と言うか。

 

「可愛くて変な子…」

 

ㅤ思わず口から零れた本音はしっかり彼女の鼓膜を振動してしまったようだ。頬を染めているのが分かる。どうやら思った以上に私はヘラクレス戦で疲労しているみたい、清姫がこうも可憐に見える。

 

「可愛いなんて。ほ、褒めても何も出ませんからね…何か食べたいものは?」

 

「寿司」

 

「握らせて貰います!」

 

ㅤ握れるんだ…

 

「それよりお怪我はありませんか!? 痛い所は? 外傷確認、脚、腕、顔、胸…は元よりありませんでしたね。一応私自ら触診を」

 

「おい、胸だけ意味が違ってたでしょ? 目を逸らすなコラ!」

 

「触診を始めます──ッ!!」

 

ㅤそう言ってグッタリした肢体に手を伸ばす清姫の息は何処と無く荒い。褒めた傍から変態行為とは、やっぱり清姫は清姫だなぁ。

ㅤいや変態行為をするのが普通みたいに成っているけれど大丈夫だろうか? 元々こんな娘じゃなかった気がする。

 

「アンタってそんなキャラじゃ無かった気がするんだけど…」

 

「玉藻さんが言ってました。想い人を射止めるのであれば、日頃からボディタッチを増やすべきだと!」

 

ㅤと、清姫は熱弁する。

ㅤその狐巫女は本当に許さん。会ったら絶対に殴るんだと心に決めている。

 

ㅤどう殴るか思案中の間も清姫は忙しなく私の身体に指を這わせる。時々ねっとりとした視線を顔とか下腹部に感じる気がしないでもないが、至って真面目に取り組んでいる気がする(・・・・)。飽くまでも気がするだけだ。

 

ㅤだって清姫は医療知識なんて無いもの。

 

「結局無茶、しましたね?」

 

「…ごめん」

 

「でもやめる気は無いのでしょう?」

 

「それも…ごめん」

 

ㅤ顔を逸らす。ばつが悪いから。

 

「良いんですよ別に」

 

「え?」

 

ㅤ顔を戻す。清姫の顔が見えた。

 

ㅤ笑顔だった、と思う。

 

「その隣に私が居れば、ですがね」

 

ㅤ適わないって言うのかしら、言い負かせる気がしないって感じだわ。結婚したら速攻で尻に敷かれる。

 

「ごめんね清姫」

 

「…良いんですよ。ええ良いんですとも」

 

ㅤ彼女は私の謝罪の意味を理解しているんだろうか。勘のいい彼女なら気付いても不思議では無い。

ㅤ普段見せない奥ゆかしさが胸に沁みた。

 

ㅤそれでも私は顔を逸らす。やっぱりばつが悪い。

 

「■■■■■■■────ッッッ!!!!」

 

ㅤ棺が激しく震える。籠った絶叫がさっきまでの雰囲気を吹き飛ばす。

 

「もう休ませてよね!」

 

ㅤダルい身体をゆっくりと持ち上げる。

 

ㅤと言っても閉じ込めてしまった物を再び出すなんて阿呆な事は出来るわけもなく、ぶっちゃけ立ったはいいが何すればいいか手を拱いているのが現状である。

 

「海に落とす? 窒息とか水圧とかメガロドンとか…死ななそうだわ。寧ろ新たな力に目覚めて帰ってきそうで怖いわね」

 

ㅤ顎を摩りながら考える。

ㅤ拘束した後の事を全くもって考えてなかった。何をしても帰ってくる要らない安心感が私を悩ませる。

 

「では常に手元に置く他無いのでは?」

 

ㅤ取り敢えずそうしよう。棺を肩に預け、子ジカの所に急ぐ。

 

 

 

ㅤ─エリザベートはㅤ棺桶(ヘラクレス)をㅤ装備した。

 

 

 

◇◆◇

 

ㅤ場は戦場とは掛け離れた静寂に支配されていた。

 

ㅤ皆呆然と一方向に視線を集めている。

 

ㅤ地獄だ。地獄がそこに広がっている。

ㅤしかしながらそこは喧騒で溢れていた。世界でそこだけは動き続けている様な錯覚がこの場の誰もが感じているだろう。

 

「あぁ^〜メディアたーん待って〜!!」

 

「何なんですかこの男は、こっち来ないでください! 早く起きてくださいイアソン様ァ!!」

 

ㅤ地獄だ。

ㅤ誰もが目を背けたくなる血腥い現実(リアル)が今まさに繰り広げられている。

 

ㅤカルデアのマスターとそのサーヴァントは元凶に改めて畏怖の念を感じ、幾多の嵐を越えた女海賊達は頭部に激痛を訴える。牛の男は女神を奴に見せまいと屈んで壁となり、その女神は当然とばかりにただじっと護られる。

 

「ヘクトール!」

 

「それはちょっと無理な相談だァな。見ての通りオジサンは首しか動かせねぇよ、イツツ…」

 

ㅤ伸びている大将(イアソン)のおかげでフルボッコにされたヘクトールは「トホホ」と声を漏らす。一番の苦労人ポジは彼で間違い無いだろう。

 

「そんなぁ…」

 

「さぁ聖杯を渡して拙者と楽しい事をするでござる。メディアたーん」

 

「キャーッ!!」

 

ㅤパニックで上手く魔術を行使できないメディアは生娘の様に悲鳴と恐怖を抱いて逃げ回る他ない。魔術に置いてメディアほどの逸材は少ない。そんな彼女に此れ程のトラウマを植え付け始めようとしている不審者(黒髭)は稀代の変態と言えるだろう。

 

ㅤ私はそっと─ヘラクレス入りの棺を担いだまま─アステリオスの影に─ヘラクレスの棺を担いだまま─隠れる。

 

「なにそれ…」

 

「ヘラクレス」

 

「…馬鹿なの?」

 

「いいえエリザはアホです」

 

「あっそう、もうどっちでもいいわ」

 

ㅤいきなりの罵倒にステンノとの共通点を見つけた私は蟀谷に血管が浮き出そうになるのを耐えつつ状況を聞くことにした。

 

ㅤ女神エウリュアレ曰く、ヘラクレスが消えたと思ったらイアソンたちが来て、それを追うように黒髭たちがやって来た。

ㅤ自分たちでヘクトールを相手をしている間にイアソンが気絶しており、黒髭がメディアを追いかけ始めた。

 

ㅤとの事らしい。

 

ㅤいや、イアソンは何故気絶したのかが聞きたいんだけれど。

 

「知らないわよそんなの。興味も無いわ。それより貴女!」

 

「何よ…」

 

ㅤ嫌な予感を感じながら聞き返した。

 

ㅤエウリュアレは思った以上に真剣味を帯びた目で私の瞳を覗いてきた。無言で見てくるので居心地が悪い。

 

「目を逸らすな」

 

ㅤ急に高圧的になったエウリュアレは首筋と瞳を交互に見る。

 

「何だってんのよ!?」

 

ㅤ私はあまり気が長くない。

ㅤ口を閉ざしたままのエウリュアレに怒気をぶつける。アステリオスはビクりと震えたが当人は何故か悲しそうに私を見てくる。本当になんだって言うのよ。

 

「珍しいこともあると思って見てみたら、可哀想な娘ね貴女。私達(神々)からしたら面白いと世話を焼かれるでしょうけれど。事実、(ステンノ)がそうしてる様に…」

 

「…訳分かんない」

 

ㅤ彼女の言葉は独り言のように要領を得ない。

ㅤ何で偉ぶってる輩はこう毎回遠回しにしか話せないんでしょう。私の理解力が乏しい訳では無いわよね!

 

「ぐぅ!? 流石の私も頭に来ました! 聖杯からの魔力さえあればこういう事も出来るんですよ」

 

ㅤどうやらアッチも動きがあったようだ。いや常に動き回っていたとかそういうツッコミは要らないからね。

 

ㅤメディアは聖杯から魔力を汲み上げている様だ。彼女の周りには循環する魔力が有り、徐々に取り込んでいる。

 

「『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』!!」

 

「にゃにぃ!?」

 

ㅤ奇妙な形の短剣がメディアの手に握られ、にじり寄って来る黒髭の肩に刺した。

 

「あぁ〜なーんか心が澄み渡っている様なぁ……」

 

「黒髭が浄化された!?」

 

「浄化されても変わらずキモいですわぁ…」

 

ㅤ胸を広げてフワフワし出した黒髭は浄化されても変わらず不憫だという結果だけが残った。是非も無いよネ!

 

「いつまで寝てるんですかイアソン様!」

 

ㅤそう言ってメディアは聖杯を伸びたイアソンに全力投球。漏れなく彼の頭部を捉えた。そして─

 

ㅤ─聖杯はイアソンに取り込まれた。

 

ㅤいや、取り込まれたと言うよりも聖杯に侵食されたと形容したほうが正しいのかもしれない。

 

ㅤ人型はドロドロと崩れ始め膨張を始めた。どこのワカメポジション何だろう…ただ違うのは最終的に魔神柱に変わるという完成系を用意されているくらいだ。

 

ㅤ序列三十、魔神フォルネウスが勢いで顕現した瞬間である。

 

ㅤメディアもこれには「やっちゃいました…テヘ」と可愛さアピールをしてしまうくらいだ。

 

『いや、固まってる場合じゃ無いよみんな!?』

 

「はっ!? そうでした、先輩指示を!!」

 

ㅤ各自戦闘態勢を取る中、私は浄化されている黒髭の肩に刺さったままの破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)とヘラクレス入りの棺を交互に見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ私の口は弧を描いた。




次回でオケアノスは終わり、座で繰り広げられる清姫とのアレやソレや色々を書くことでしょう。戦闘よりは早くこちらを書きたいですね!


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他力本願は勇者に有るまじき行為だろうか?

遅筆過ぎると私でも笑っちゃいますね。
完結できる気が致しませんよ本当に。

恐らく今年最後の投稿ですかね…

はぁ、キヨエリを誰か書いてくれないだろうか……


ㅤ魔神フォルネウスは奇声を上げながら脈動する。イアソンなど最早居ないと言わんばかりの攻撃性を秘めた目力を私たちに向ける。

 

ㅤアイドルの私に視線が集まるのは当然だと言えるが、血走った目を幾つも向けてくるファンは正直嬉しくない。人外でも節度を守ったファン活動に従事して欲しいものよな。

 

ㅤ兎にも角にも勝手に始まった魔神柱との戦闘。

 

フラウロス(節穴さん)との戦いを鑑みると如何してもヘラクレスと比べてショボい。

ㅤ二、三発程清姫が打ち込めば終わった前例があるのだからどうしようもないが、FGOプレイヤーとしても魔神柱=素材と繋がるが為にどうしようもないだろう。哀れかな魔神柱諸君。

 

ㅤだが、今回はどうやら奴さんもやる気らしい。目線だけで起きる爆発やら広範囲に攻撃される火砕流。お前は火山かと言わんばかりの活火山ぶりで泣きたい。暑さに強いのが救いだわ。

 

ㅤただ手を拱いているだけの私ではないのだ。未だにフワフワしている黒髭に向かってダッシュ。

 

「ウボァー!?」

 

ㅤそして回転を掛けた蹴りで目を覚まさせる。

 

「ヌォ!? なんでござる、なんでござるかァ!? 拙者がルルブレされてる間に何が。この醜きバベルの塔は何ぞや? と言うかルルブレ刺さったとこ痛いんだが!!?」

 

ㅤ取り敢えず黒髭が復帰。すかさず破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を回収。付属品(黒髭)はバッチィので魔神柱にポイしておいた。

 

「なんででござるかァ──!!」

 

ㅤ断末魔と共に魔神柱に特攻した黒髭に敬礼。

 

ㅤ矢張りと言うべきか黒髭という存在は不可解極まり無い。

ㅤあろうことかあの男は魔神柱の攻撃を見事避け、目玉(イクラ)を穿った。

ㅤ可笑しな軌道を描いた彼は因果逆転でもしているのではないかと疑ってしまいそうだ。ただ後を引くのは赤い軌跡ではなく涙の痕だったが…

 

ㅤこの場合は投げた私を褒めるべきか、黒髭の溢れんばかりの変態性を指摘すればいいのか非常に迷う。

 

ㅤだが黒髭への注目が集まっている今が好機だ。

 

ㅤヘラクレスの拘束はそのまま、棺と鉄の処女(アイアン・メイデン)から上半身だけ露出させる。

 

「今だ。『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』ッ!!」

 

ㅤ私はジャンピング&ルルブレを発動。

ㅤ宝具、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)はヘラクレスの厚い胸筋の筋を確かに突き立てることの出来る軌道を得ている。加えて、私を阻むものなど既に居ない。

ㅤ唯一メディアは視線を寄越している。だが、手遅れだ。私の対魔力はAランクを誇っているのだから止める手立てなど元より存在もしない。

 

ㅤ─これが詰みというものよ!

 

ㅤ私は勝利への確信に笑みを浮かべる。間違い無く勝てると言う自信がヘラクレスには持てる。このままこの歪な短剣を突き立てるだけでイアソンとの契約は切れる。その後私は強制的に契約してしまえばいいのだ。やって出来ないことは無いネ。

ㅤそうなれば、この怪物退治のエキスパートであるヘラクレスが魔神柱をナマス切りにするだろう。目には目を怪物には怪物を、という訳よ!

 

ㅤ今まさに、短剣がヘラクレスを突き貫─かなった!

 

ㅤ金属同士が打ち付けあったような音がするだけである。

ㅤ虚しい音だった。思わず唇を尖らせて「アレ?」っと首を傾げる。ぁ、今の私可愛い。

 

ㅤ─って違う、 話が(ちーがー)う!

 

「何で刺さんないの! ねぇヘラクレス何でぇ!?」

 

「■■■…」

 

ㅤヘラクレスくんもこれにはたじたじの様だった。

ㅤまぁ彼からしたら復活して、捕まって、拉致されて、刃物を突き立てられた挙句に刺さらない事に対する反応が涙目で訳が分からない状態だ。混沌としたシチュエーションに狂戦士としての在り方を改めそうになるのも当然と言える。

 

「当然です。ヘラクレスには低ランクの宝具なんて通用しませんからね…正直すっごく焦りました」

 

「おーい本音本音」

 

「な、なんの事やらわわわ、分かりませんね」

 

ㅤこの場の誰もがメディアに対し「分かりやすい娘」と評価した瞬間である。魔神柱もこの間は攻撃していないので間違い無い。

 

ㅤ忘れていた物はどうしようもない。不幸中の幸いにもヘラクレスの使役する方法はまだある。

ㅤそれは─

 

 

ㅤ─契約者である魔神柱(イアソン)に刺すことだ。

 

 

ㅤ足を肩幅に広げ、短剣を右手に収める。

 

ㅤ魔力を身体中や体表面に循環させ続ける。

 

ㅤ高める。高める。高める!!

 

「『破戒すべき(ルール)』」─

 

ㅤ大きく振りかぶる。

 

─「『全ての符(ブレイカー)』ッ!!」

 

ㅤ高まった魔力で全力投球。

 

ㅤ深紅の軌跡を描いた短剣が音を置き去りにして魔神柱に直進する。誰も止める事は出来ない。私の突飛なアイディアに対応出来る者など居ない。

 

ㅤ何で出来ているのかさえ不明なブヨブヨとした魔神柱の皮膚を短剣は容易く貫いた。雷のような轟音を響かせたその攻撃力は目に見えて凶悪だ。ぶっちゃけフォルネウスくんは瀕死である。

 

ㅤそんなフォルネウスくんに悲報である。

ㅤ私は彼がこの私の言葉にどの様な感情を抱くのかとても興味がある。絶望か、或いは憎悪か、イアソンならば改めて畏怖と憧憬の念を覚えたかもしれない。

 

「じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー…」

 

ㅤ言いたかっただけである。

 

ㅤ私の台詞に応えるようにけたたましい咆哮が開いた棺から溢れ出す。演出めいた登場シーンの様に一つずつ拘束具がパージされる。

 

ㅤ言っておくと鉄の処女(アイアン・メイデン)の針や釘は全く刺さっていなかった。凹んでいただけと言う微妙な出来栄えだ。

 

ㅤ全ての拘束が解放された。鉛色の巨人は直立不動にそこに有るのみ。

 

ㅤだが、彼のターンは未だに終わってはいない。淡い光に包まれたのだ。

 

「おや、ヘラクレスの様子が…」

 

ㅤ携帯出来る怪物が進化する時のBGMを脳内再生している私は余裕綽々。もう何も怖くない。

 

ㅤ光が止めばそこには獅子の意匠を凝らしたアクセサリーに腰巻を纏い、私の身の丈より大きい斧を持った大英雄が巨木の様な二本足で直立しているではないか。アレ、髪伸びた?

 

ㅤ─誰がそこまでしろと言った!?

 

ㅤ霊基再臨。それが光の正体だった。

 

ㅤ走り出すモーションを見せるヘラクレス。二歩目から既にフォルネウスの眼前に迫り、叩き切っていた。その先は目にも捉えきれない乱打。魔神柱が不思議な肉塊の山と化すのはそう時間を要さない。

 

ㅤ跳ねるだけの肉の山は血液で起こる水音を出すだけの物体に成り下がった。流石の子ジカたちも口を押さえている。吐かないだけ正直可笑しいメンタルだ。私は少し吐いた。鮮血魔嬢とは何だったのか…

 

ㅤ魔神柱がミンチになった頃には黒髭は自力で脱出していた。よく生きてるなゴキブリよりしぶとい耐久力だ。あと清姫、あれで料理したら承知しないからね。もう出禁だからね!

 

「張り切って料理いたしますね!」

 

ㅤいや違う、そうじゃない…

 

ㅤカランコロンと私の足元に聖杯が転がってくる。何処と無く赤黒くてヌメっていそうだ。フォルネウス汁付き聖杯とか誰得なのだろう。私はそっと洗浄した。

 

ㅤ水気を拭き取った聖杯を子ジカに届ける。

 

「はいコレ今回の分ね」

 

「あ、いつもありがとうございますエリザベートさん」

 

「毎回エリちゃん経由な気がしないでもない。アレ、私いらない子?」

 

ㅤ何処と無く悲壮感漂う彼女にはそっとエリちゃんブロマイドを渡しておいた。エリザベートはクールに去る。

ㅤ尚、後ろから雄叫びを上げる先輩とそれを止めようと躍起になっている後輩の声が聞こえたが関わりたくないので足早にクールに去る。

 

ㅤ海賊組にも労いの言葉を言葉を掛け、黒髭には罵声を浴びせておいた。喜んでいたので立派なご褒美になったのだと思う。エリザもう気にしない。

 

ㅤ女神にも同じくお疲れ様の一言くらい言ってやろうと近付いて見ると先程まで後ろで這いつくばっていたはずの黒髭が次はアステリオスの足元で這いつくばっていた。

ㅤ後ろを向いても黒髭は居なかったので分身では無いようだ。瞬間移動とは変態性も極まったら恐ろしいものだと恐怖する。

 

「うう、えうりゅあれ、これどうする?」

 

「海に捨てなさい。自然に還る事を祈りましょう」

 

「うっ…」

 

ㅤアステリオスのジャイアントスイングがスタン中の黒髭に襲い掛かる。高い筋力は数十メートル先まで黒髭を飛ばし、音も届かない距離で水柱を生んだ。顔面から入水した様だ、南無三。

 

「あら居たの?」

 

ㅤあいも変わらず愛想が無い女神だわ。だが所詮旧き偶像(アイドル)と言ったところ。男の欲望が詰まったと言ったものの当時の男性がどれほど異常(アブノーマル)かが分かるな。つまりギリシャ男児は皆マゾという事だね分からない。

 

「今失礼極まりない事を考えていなかった?」

 

「うぇ!? んん、別に」

 

「アステリオス」

 

「すみませんでした!」

 

「あら、別に彼の名前を呼んだだけよ?」

 

ㅤ嵌められた!?

 

ㅤ本当に女神って嫌い。と言うか神が嫌い。性格が悪いと言うかただただゲスいと言うか!

 

「取り敢えずお疲れ様。もう消えそうだからそれだけ、じゃあね!」

 

「待ちなさい」

 

「何よもう!」

 

ㅤ右の首筋に柔らかい感触がある。

 

ㅤエウリュアレは「ご褒美」と言った後にはにかんだ様な笑みを浮かべる。腹黒い女神の事だ、どうせこの後の出来事でも楽しみにしているのだろう。正直既に背後から漂う熱気を感じるのだ。寒気がするのに暑い

 

「き、清姫、話せば分かるわ」

 

「何を慌てているのですか?」

 

ㅤ顔は闇で覆われていた。表情が読めないが声は慈母の様に優しい。果たして彼女は笑っているのだろうか、いやそんな訳は無い。違和感の塊と化した彼女は私の精神をゴリゴリと音を立てて削っていく。

 

「清姫、近い…」

 

「いいえ寧ろ遠く感じますわ」

 

ㅤそんな訳は無い。彼女と私の距離は肌と肌が触れ合って居ても可笑しくない程の距離だ。これを目と鼻の先と言う。

 

「あのね清姫、そろそろテンプレ化が過ぎると思うの。ファンたちが飽きる頃合いだと思うのよ私」

 

「…つまり?」

 

「お家帰ろ?」

 

ㅤ暫し沈黙。

 

「察しました。帰りましょう!」

 

ㅤ私の手を自分の胸に当てるという慣れて欲しくない動作をし出す清姫。完全に落とし掛かってるなと落ち着いた思考をしつつ、落ち着いた清姫に安心する。

 

ㅤ舌打ち聞こえてんだからな駄女神!

 

ㅤいつものように退去する際に、メディアに襲い掛かる黒髭や「出遅れた」と嘆く弓兵二騎が居たりしたが、まぁ問題無いでしょう。

 

ㅤ黒髭に関してはもう何も言うまい…

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤいつもの部屋。小市民出身の私としては落ち着かなかった広々空間もそろそろ慣れ始めてきた。正直身体は慣れているのにも関わらず心だけが追い付いていないと言うチグハグとした状態だった為、肩肘張らずに居られる空間になって来た事にホッとする私である。

 

ㅤ過労死の勢いで仕事場に強制的に送り込まれる日々に身体が悲鳴を上げない。英霊故にそれなりに丈夫らしい。賢王は過労死したが、それ程凄まじい雑事をこなしていたという事だね。彼は生身故にそこら辺がネックなのかもしれない。

 

「取り敢えず寝たい。疲れた」

 

ㅤいつも通りに寝る態勢だが、彼女は今回もそれを阻むんだろうなというある種の諦めの境地。

 

「これはあすなろ抱きと言うのだそうです。今回は趣向を変えてみました」

 

ㅤ背中越しに聞こえる清姫の声は何処と無く明るい。角がある分抱きづらくは無いだろうかと呑気心配する。

 

「清姫、寝たい」

 

「夜伽のお誘いですか!? どうしましょう私まだ心の準備など…お、女は度胸ですね!」

 

ㅤ次に彼女を唆したメル友が誰か特定出来たな。あの引き篭もりはどうしてくれようか。

ㅤ続々とブラックリストに書かれ始める日本系サーヴァントは何時か絶対に泣かしてやる。ウチの清姫を誑かす輩は一人残らず泣かすことにしている。

 

ㅤ何か私の立ち位置が友達とかパートナーから飛び越えて親視点な気がする。完全に保護者だね。

 

「えっと、ベッドが良いですか? それともマット…」

 

「おい待て。それ教えたのは誰だ?」

 

「その方から『絶対に教えないでくれワン』と仰せつかっているのでお教え出来ないのです。申し訳ございません…」

 

ㅤオーケー把握。最優先で処す事にしよう。

ㅤタマモナインは皆倒しておこう。彼女たちタマモシリーズは危険過ぎる。悪影響しか及ぼさない。故に排除(デリート)

 

「そ、それでどちらが…」

 

「寝る。そのままの意味で!!」

 

ㅤ順番通りならば次はロンドン。殴る機会は十分ある。ボッコボコのけちょんけちょんにしてくれるわ。

 

ㅤほくそ笑みながらベッドイン。今は英気を養おう。奴らを殴るまで私は絶対に諦めない!

 

「据え膳食わずは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安珍(エリザ)の恥ですよ?」

 

「何それ知らな─」

 

ㅤそこから記憶がありません。




うん、当初セプテムまでだっただけあって自分でも設定がぶれぶれしてるよ。まぁ清姫とエリちゃんさえ居れば良いみたいな感じであればもっと書きやすいんだろうけれどね…

では良いお年をキヨエリと共に!!


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胸と胸と胸と筋肉

戦闘が書きたくないがために茶番を伸ばしに伸ばす。くどいと言われるまで伸ばす。

ロンドンのストーリーを完全に忘れてしまった…


ㅤうつむけで寝ることが習慣付いた今日この頃、私の朝は早い。と言っても朝と言う概念がこの場に存在するのか未だに不明なのだが気持ちの問題だ。

ㅤつまり私が今、『朝早く起きた。』と思うのであれば現在は早朝なのである。そういう事にして置いた方が私の精神衛生上良いはずだ。

 

ㅤ私のパッチリお目目が半開きに収まっているのは決して私が悪い訳では無い。私に(くる)まった毛布が離れてくれないのだ。感情の無いはずの毛布まで魅了してしまうとは私は私が恐ろしい。

 

「朝から何に思考を割いてんのよ私は…」

 

ㅤ無性に馬鹿らしく思えてきた為身体を起こすことにした。が、右腕が全くと言っていい程動かない。左腕を立て、引っ張り出そうと試みたがどうにも動いてくれない。

 

「んぁ…」

 

ㅤ引いてダメなら押してみる。柔らかい感触が手の平に伝わり、高級なクッションを想起させる。手触りはスベスベ、シルクのカバーでも付けているんだろうか。

 

「はふぅ…あぁ、エリ、ザァア!」

 

ㅤうんいい加減くどいと思う。ここまで腕を引いても押しても離さない彼女(クッション)にはお灸を据えた方がいいだろう。

 

「えい」

 

ㅤ腕力で彼女(クッション)を天に突き上げる。この際にも可愛いアピールを忘れることが無いアイドルの鏡はここに居た。

 

「─キャン!!」

 

ㅤ犬の様な断末魔が響き、同時に腕に残った圧迫感は消え去った。

ㅤ天井には美少女型のオブジェが変わりに突き刺さっていたがこれもまた日常。破壊されても直ぐに修繕される為お金の心配をする必要が無い。幸せである。

 

「ふぅ…まぁ今の私にとってはごくごく普通の日常ね。清姫朝御飯食べたい」

 

「清姫朝御飯…清姫朝御飯食べたい、清姫は朝御飯、朝御飯食べたい。朝御飯は清姫……清姫を食べたい、私を食べたい!? あ、朝からだなんて、心の準備がまだ! ですがエリザがどうしてもと仰るのであれば女清姫喜んで御一緒致します!」

 

ㅤ天井から降ってきた清姫は満面の笑みでそう言ってのけた。どうやら頭に強い衝撃を与え過ぎたらしい脳内のリミッターが解除されている。

ㅤくっ、お願いだからお淑やかだった清姫を返して。

 

「落ち着くのよ清姫、深呼吸して」

 

「ヒッヒッフー」

 

「違う、そうじゃない。てかまたあの駄狐の仕業ね! いい加減しろよ天照大神!!」

 

ㅤ私の生活を乱すのはたいてい神だな。こちらに来てからというもの特に女神関係の出来事が悲惨過ぎる。龍と追いかけっこ(安珍伝説追体験)したり、シンプルに貞操の危機に陥ったり。

 

ㅤ神に対する怒りで拳を強く握っている際にも清姫の暴走は止まらない。と言うか脱ぎ出そうとしている。もちろん腕を掴んで止めますとも。

 

「何故止めるのですか、もしや"脱がせたい"と言う事でしょうか?」

 

「違うから。普通に朝御飯が食べたいだけだから!」

 

「さ、さささ、流石にその、"あぶのーまる"が過ぎるのでは無いかと。いえ、エリザが誠に望むのであれば受け止めますとも。ただ、困惑してしまったというか…」

 

ㅤすっかり脳内がピンク色に染まっている。ヤンデレはいいけど淫乱にはならないで下さいお願いします。寧ろほら焼きに来いよ!

 

ㅤ手を帯に導こうとするな。掴ませようとするな。引かせようとするな。そして私は悪代官ではない!

 

「あぁ…これは盲点でした。ベッドではお代官ごっこは出来ませんよね! やはり敷布団でなければ!」

 

ㅤと言っては布団を何処からか取り出した。ダミ声で取り出す必要性がよくわからない。なぜベストを尽くしたのか。

 

「ご心配なさらず、丁度良い塩梅に仕立てました。密着せざるを得ないと言うよりも、触れるか触れないかの瀬戸際を再現した大きさ。ありとあらゆる態勢を想定した生地の伸縮性や強度は信頼に値すると自負しております。さぁ何処からでも来てください求めてください頂いてしまってください。もちろん私からでも、その…構いませんよ?」

 

ㅤ駄目だこの娘。完全に毒されてやがります。何が『構いませんよ?』、何ですかね。私は先程から朝御飯食べたいとしか言っていない。何をどう間違えたらyes枕を抱き締める事態に発展するのか理解不能出来ませんしたくもありません。

ㅤそれに作る物の質が向上して行くことに連れて断っていくのが心苦しくなっていくのです。どう見ても手間暇掛けていらっしゃる。

 

「この程度の手間、貴方様の為ならば惜しくはありません」

 

ㅤ知ってる。

 

ㅤよっぽど頑張ったのか彼女は発育の良い胸を張って答えた。歳の近い英霊たちと比べたら悲惨、圧倒的よね。これが胸囲の格差社会。現実って残酷だわ。極東では一体何を食べればこうなるのかしら…

ㅤ私? 私はこれが完成形だから、均整の取れた美ボディとはこのこと言うのよ。つまり貧乳はステータス。

 

「どうしました?」

「…なんでもない」

 

ㅤ拙いな、つい視線が胸元に向いてしまう。微妙に着崩れた着物は艶かしいと言うかフェチズムを刺激される。

ㅤいや私にとってはその手の欲は微妙な範囲か。視線の先を胸に固定してしまった私の心中は果たして姿貌への憧れか妬みか…

 

「何処を見ていらっしゃるんですか?」

 

ㅤ女の視線対する察知能力の異常さを垣間見た。

 

「いや何処って、アンタをよ…」

 

「いえ、そうではなく…質問を変えましょう。私の何処を凝視(・・)していらっしゃったんですか?」

 

ㅤ何故だ。何故私が責め立てられている。条件反射だろう? 誰が私を責められると言うんだろうか。いやこれはこれで変質者の言い訳に聞こえる。そうだ正直に言おう、謝ろう。不躾な視線をすみませんで終わりだ。さぁ心は決まったなエリザ、胸を見ていたと言う告白を羞恥を隠しつつも言い切るんだ。

 

「…胸を、見てました。なんかごめん」

 

「私は一向に構いません!」

 

ㅤ私は良くない。想像以上の恥ずかしさだ。

ㅤ同性の友人に「胸を凝視していた」やら「股間に凝視していた」なんて話があってみろ。何処と無く微妙な羞恥心がずっと胸を燻るよ。

 

「寧ろどうぞ顔を埋めてしまっても構いません。そう言うのもあると聞き及んでおります」

 

「アブノーマル過ぎんだろうが!」

 

ㅤいや弁明しておくが、私は決して清姫にバブみを感じる様な特殊性癖など持ち合わせて居ないからね。相手はほぼ同年代鯖だもん。

ㅤおっと"清姫に"と言う部分に反応した優秀者は後で生歌披露をしてあげるわ。喜んで、私の為だから!

 

「理性などかなぐり捨てる覚悟は宜しいですか? 私の敏捷からは逃げおおせても既成事実からは逃げられ無いと心得て下さい。私、逃がしませんので…」

 

「いやいやいや、英霊にそういうの無いから! 私たち反英霊にも無いから! ちょっと手を引っ張るの止めなさ─ヒィ!」

 

ㅤ清姫の瞳には最早私しか映っていない。本気と書いてマジと読む、そんなヤバい目をしている。ギリギリ保たれていたボーダーラインを踏み越えようと躍起だよこの娘。ちょっと必死過ぎないだろうか、正直ドン引きです。

 

ㅤ─勇者よ…

 

ㅤ蛇は獲物を締め殺さんと巻き付く。清姫は私を逃がさんと組み付いてくる。

ㅤだが、脱出法はあちらからやって来た。地方営業だろうが、人類悪を殴り倒す簡単な作業だろうが何でもいい。一時だけでもこの場から逃げ遂せるならばおつかい感覚で救っちゃいます。エリちゃん世界救っちゃいます!

 

ㅤ貞操の危機を乗り越える為に強く念じる。─速く飛ばせぇ!!

 

ㅤ─言質取ったり!

 

ㅤやけに嬉しそうな声と後、いつもの浮遊感が訪れる。

 

ㅤ清姫は舌打ちのあとで「焼いておくか…」と謎の言葉を零した。彼女は一体何と戦っておられるのか、エリザは頭が痛いです。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ竜の感覚器官を大きく刺激する過多な魔素を感じた。視界はほぼ白く塗り潰す濃霧。身体を撫でる水気は異常を存分に意識させる。

 

ㅤ場所はロンドン、この地は霧が出ることで有名であったがそれにしても異常だ。一般人が外に出ては死んでいく魔霧が常時発生している様が普通なのであれば観光には向かないし行きたくはないでしょう。

 

「取り敢えず拠点を置く事にしましょう。闇雲に突っ込むにしても危険だし、突っ込むのにも準備が必要でしょうしね」

 

「では六畳一間の物件を探しましょうか」

 

「あるわけ無いでしょうが。ここロンドンよ?」

 

ㅤ本気なのか冗談なのか真顔なので全く分からないが何処と無く楽しそうだ。

 

「みこーん、みこーん。みこっと感じます。類稀に見ないイケ魂反応です!」

 

ㅤ周りには何も居ない。と言うか視認できないだけだろう。居るのか、そこに!

ㅤ私はそっと、だが力強く拳を握った。

 

「おい待てフォックス。てかなんだよその魂…」

 

「ちょっと付いて来ないで下さい金時さん。毛がビッリビリバッチバチするんですよぅ。それに男連れなんて心象最悪です!」

 

ㅤ─既に最悪だよ!

 

ㅤ奴から見ても私は─魂的に─イケてるらしい。不意打ちに期待出来そうだ。全力全開を持って攻撃しても避けられては無意味である。確実に当てて行きたい。これまで私が味わった恥辱を単純なエネルギーに変えて黄金の右腕でもってけちょんけちょんにしてくれるわ。

 

ㅤ「みこーん、みこーん」と言う謎のサーチ音が徐々に大きくなって来ているのが分かる。緊張しきった私の尻尾(マイテール)が警鐘を轟かせている。─近いっ!

 

「それでイケ魂とやらは味方なのかよ?」

 

「イケモンだったら私は全力で逃げます。金時さんを置いて!」

 

「そいつァゴールデンじゃねぇな…」

 

ㅤくだらない問答している今がチャンスだ。私は音もなく駆け、右腕にキャスターでも死なない"めっちゃ痛い"くらいの魔力を込める。

 

ㅤ濃霧の先に標的を確認した。

 

ㅤ必殺技を叫びたい所だが出来ることならギリギリまでバレたくはない。心で叫ぼう。

 

(我が怒りによって磨かれた憎悪の鉄拳。鮮血を撒き散らしながら果てるがいい!)

 

 

ㅤ──鮮血(バートリー)鉄拳(・アイアンフィスト・)魔嬢(エルジェーベト)ッ!!

 

 

ㅤ標的もコチラを視認したようだが既に遅い。─勝った!

 

ㅤ─と思った…

 

ㅤ突如浮遊感に襲われる。小学生の時にハイテンションになっては同じ経験をした事がある。親にもよく注意をされる事だったのにも関わらず。親には決まってこう言われていた─

 

ㅤ─はしゃぎ過ぎると転んじゃうゾ、と。

 

ㅤ道には窪みがあった。私は棘のついた靴を履いている。つまり引っかかる。注意していればどうってことのない窪みであった。

 

ㅤ無駄に脚力が有るだけに勢いは止まらない。ベタなポーズで浮遊する私は何とヒロインをしているのだろう。エリザベート・バートリーはドジっ娘ヒロインであったか!?

 

ㅤ結果、私は標的の胸部装甲にダイブする事となった。

 

「おぅ!?」

 

ㅤふんわり柔らかである。

 

「ちょっとストップ、動かないで下さい! 刺さります。角が顔を突き刺さりますからァ!?」

 

ㅤそう言われてもこのままと言うのは私の体裁を考えてどうだろう。いきなり胸に飛び付いた美少女は果たしてどのように見えるだろう? 簡単だ、美少女である。

 

ㅤ閑話休題。

 

ㅤ出オチと言う悲しい結果となったタマモシリーズ殲滅計画。登場シーンとしては最低最悪であり、涙目は不可避だ。事実目頭がじんわり熱を帯びている気がする。

 

ㅤ清姫が駆けつけた後で一悶着有ったりしたが、些細な事だろう。結果、道が焦げ付くだけなのだから、タマモを倒せなかった事に比べれば本当に瑣末な出来事であると私は思う。

 

「こんなにも焦燥した姿は初めて見ました。清姫の胸であれば何時でもお貸しいたしますよ」

 

「下心しか出てきてないですよ清姫さん」

 

「む、元とは言えばタマモさんが原因らしいじゃないですか? どう責任取って下さるんですか!? 胸に飛び込まれたからって調子に乗らないで下さい!」

 

「最後の方が本音ですよねぇ? いえまぁ確か役得と言いますか、ご馳走様と言いますか…とにかく楽しんでいないと言えば嘘になりますが、私としても不可抗力ですしぃ! 正直アレだけアドバイスしといて何ですけれど、まだ落とせていないなんて脈無しなんじゃありません? フリーなら私が貰って行っていいですよね?」

 

「…言ってはならない事を言いましたね?」

 

ㅤキャットファイトとはこう言う様を表すんだったか、いやファイティングしているのは猫ではなく狐と蛇だけれど。

ㅤ正直バーサーカーの中でも筋力の低い清姫とキャスターと言う直接戦闘に向かない玉藻の前が争っても目に見えて泥試合なのだが…

 

ㅤこの後互いに燃え尽きるまで戦いは続いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず俺っちの上着着とけよ。寒いだろそのカッコ」

 

ㅤアンタが一番イケ魂に見えるよゴールデン。

 

 

 

 

 

 




タマモを待っていたという方のリクエストにやっとこさ応えられた。
反響が良ければレギュラーでも良いよね!
後ゴールデンの口調が掴めない。

ワンパターン化を解消したいけれど、どうすればいいかわからないじぇ。

次回も気長に待っていてくれたら嬉しいです。


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不遇な少女達を保護せよ!

私は言いようのない達成感を覚えた。
やっちまった感とやってやったぜ感が合わさって最強に見えるぜ。

正直深夜に書くと思考力が落ちて丁度いいと気付いてしまった。こういう物は何も考えずに書いた方が良いよね。本能的に出来るものがきっと良い作品だよ(暴論)

ですからお願いします。ここはどうなってこうなるって言う理由は後付けで許してくだしあ。


ㅤ前回のお話。ゴールデン本当(マジ)ゴールデン、以上。

ㅤ他のエピソードなんて何一つとして記憶しちゃいないね。と言うか思い出して良い記憶じゃないと本能で分かる。

 

ㅤジメジメとした空気も彼の様なゴールデンなゴールデンと居れば苦じゃない。寧ろ楽しい。流石は世のちびっ子たちの登竜門である金太郎だ。だが私は金太郎を読んだことはない。

 

「ねぇねぇゴールデン!」

 

「ん、なんだよドラゴンガール」

 

ㅤ何そのアメコミヒーローみたいな名前…

 

「この服本当に借りていいの?」

 

「なんだそんな事か。男が貸してやるって差し出したもんを押し返されちゃカッコつかねぇだろうが。要らねぇならその限りじゃねぇがよ」

 

ㅤなんだよこのゴールデン、イケメンかよ…

 

ㅤ大好きだと抱き着けば何も言わずに頭を撫でてくる。これはもう癒し枠決定ですね。頼れる兄貴分としては最高にゴールデンだ。

 

「ああ、うん。これが見た目相応の反応だよなぁ」

 

ㅤ誰のことを言ってるのか直ぐに分かるな。

 

「あんたはん、女の頭を不用意に撫でるんはアカンよ? ウチが鬼やったら食べてしまいそやわ…」

 

「YA・ME・RO!!」

 

ㅤ揶揄いがいのあるゴールデンだ。嫌いじゃない。

 

「エ、エリザがあんなに楽しそうに…」

 

「いや、反応的に仲良しなクラスメイトな気がしますが」

 

「野性味溢れた方が好みなのでしょうか?」

 

「聞いちゃいねぇ!」

 

ㅤ次の夜這いが一気に怖くなってきたわ。

 

 

ㅤ閑話休題

 

 

ㅤそんなこんなで私は拠点探しの旅にゴールデン一行を連れて行くことになった。

 

ㅤ広いのでいい感じの場所を虱潰しで行く他無さそうだ。と言っても所によっては生存者も居るため生存確認が優先になるだろうが。

 

ㅤしばらく歩いて来たが、ふと既視感を覚える古本屋まで来ていた。正確な場所が分からないのでまだなんとも言えないが。取り敢えずみんなに了解を取って入ってみる。勿論こっそり。

 

ㅤ紙の匂いが鼻を刺激する。いや埃臭いと言った方が適当かもしれない。なかなかお目に掛かれない蔵書量に目を瞬かせれば、ウチのはどうだろうかと思い返してみる。我が座はエリちゃんの心象風景と言うか、とにかくチェイテを基点に広がる世界だったのでそれらしい場所が存在する。数だけならばこちらが多いかもしれない。魔改造チェイテに不可能はない。誇らしいネ。

 

ㅤ改めて見渡せば皮肉屋の童話作家が黙々と本を読み耽っていた。時々苦々しい表情になったり、鼻を鳴らしては丁寧に次のページを捲って行く様子を見てこちらの存在には気付いていないように見える。

 

ㅤ既に確信出来ているが彼に確認をしてみよう。私は少年に問い掛ける。─が、返事は無い。

ㅤと言うか一瞥もくれない。

 

ㅤ少し大きめ、司書さんに目を付けられるくらいの声で問い掛けてみる。彼の読んでいた本のページがパラパラと飛ばされる。そこでやっとこさ少年はこちらを見た。

 

「やっとこっち見─」

 

「─本も黙って読めんのかヴァカめ」

 

ㅤ若干眉間に皺を寄せ、少年ハンス・クリスチャン・アンデルセンは皮肉十割の声色で返して来た。

 

「アレだけ声を張り上げておいて聞こえていないとでも思ったか? 聞こえているに決まっているだろう」

 

「じゃあ返事くらい…」

 

「貴様本を読まんのか? キリがいい所まで読みたくなるのが読者として習性だろう」

 

「読むわよ本くらい。でもキリがいい所までって言っておいて最後まで読んじゃうのも読者としての習性よね!」

 

ㅤドヤ顔で「分かっているじゃないか」と言ってくるアンデルセンにイラつきながらも本題を聞くべくもう何度目かの問いを投げ掛ける。

 

「隣に魔本とやらは居るぞ。今さっき助けを呼んだ訳だが…察するにジキル氏からの救援では無さそうだな。彼の言ったサーヴァントの特徴に合致せず、何より速すぎるからな」

 

ㅤ童話作家なのに探偵の真似事とは…

 

ㅤ兎にも角にも彼の証言からしてここに誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)が居ることは分かった。

ㅤふむ、よく考えてみたら彼女は倒される存在にしては悪を成していない気がする。マスターになれない者を眠らせただけだ。それを悪と断ずるには些か早計が過ぎるだろう。

 

「助かったわミスター。その子に用があるから失礼するわね?」

 

「言っておくが攻撃は奴に通らんぞ?」

 

「誰が戦うって言ったの? 私は根っからの平和主義者よ!」

 

ㅤまぁキレたら暴走列車はおろか宇宙戦艦とまで言われた私ではあるが、元日本人としては平和主義者を言い張る私である。

 

「アポ取れたわよ」

 

ㅤ一応警戒されない様に外に待たせたゴールデンたちを呼ぶ。戦う気はないけれど念には念を、だ。

 

「なんか外までソニックブームが来てたんだが…」

 

「ですからエリザは既に私の料理に─」

 

「─胃袋掴めてもハートは掴めていないんじゃありませんか? 一歩は踏み出せている様ですが、二歩目で躓いているようじゃ片思いと変わりありませんよ? 何かと世話をしてくれる幼馴染程度で甘んじてんじゃねぇですよ」

 

ㅤゴールデンのサングラスが「お前が行ってからずっとこんな感じだ」と言っているのが分かる。すまないゴールデン、本当にすまない。

 

ㅤ取り敢えずバチバチ始めた二人には鉄拳を落としておいた。二人ともこれはDVでは無いのだよ。

 

ㅤ魔本の元まで向かう中途にアンデルセンに眉をひそめられ、鬱陶しそうな視線を向けられもしたがガン無視決めて少女確保に掛かることにした。

 

ㅤ閂代わりになっていたモップを取り払いいざ入室。

 

ㅤ中にはさ迷うように、何処と無く寂しそうな本がふよふよと浮いていた。大きさは私が丁度抱え込める程だろうか、思ったより大きい。

 

ㅤ第一印象は大事。と言う事でアイドルスマイルで話し掛けてみる。

 

「ハイ、アリス。貴方がみんなを困らせているって聞いて来たんだけど…お茶でもしながらお話しない?」

 

ㅤ自画自賛になるが完璧である。みんなを困らせていると聞いた云々は嘘であるが、ゴールデンもタマモも魔本も私が嘘を付いている事実を知らないので一切問題ない。清姫は言わずもがなである。

ㅤそれと思わずアリスと言ったが、これもまた無駄な争いを避けるためだ。それにナーサリー・ライムってアンデルセンが付けたわけだし…

 

ㅤ魔本は眩い光に包まれた。B連打はない。

 

ㅤ光の中から現れるのは勿論想像通りの少女であるが、予想外なのはその表情である。─少女は涙目であった。

 

ㅤ私は心の中で血を吹いた。よく分からないが小さい娘を泣かせてしまった。自分の何がいけなかったのか、本当に分からないのだが、意味が分からないが故にわたわたしているわけだ。

 

「アナタはあたし(アリス)と遊んでくれるの?」

 

ㅤそれが第一声だ。

ㅤこれ以上泣かれるのも嫌だと思い、勢い良く応える。勿論アイドルスマイル付きだ。贅沢なのだわ。

 

「喜んで!」

 

ㅤ彼女の双眸から涙の雫が零れた。

 

ㅤ─何故だァ!!

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤソーサーに乗せられたカップからは馨しい茶葉の香りと共に湯気が昇っている。中には透き通った紅の液体が湛えられており、色は濁っている様で鮮やかと言う矛盾を抱えているものの、味を舌に覚えさせる事があるならば間違い無く美味の二文字で完結されるだろう。

 

ㅤ尚ここまで紅茶を持ち上げてみたが、私はブレる事ない緑茶派である。だが、身体が違うので紅茶でも一向に構わない。そんな事よりマカロン食べましょう。

 

「すごいのだわすごいのだわ。エリザベートったら本当にすごいのだわ! あっと言う間にティーパーティーが開けるなんて、きっと帽子屋もびっくりよ」

 

「私は帽子屋よりもチェシャ猫の方が好きなんだけれどね。ほら口元にクリーム付いてるからじっとしていて」

 

ㅤ諸君、これが癒しという者だ。隣で恋愛とは何かと言う血腥い問答が繰り広げられようが、圧倒的な癒し力を持ってすれば造作も無く中和する。最早侵食していると言っても過言ではない。

 

「でよォ、いつまでここに居るんだ?」

 

ㅤまぁ至極真っ当な問いだろう。私たちはアリスを宥めてお茶会を開き、そのまま古本屋に留まって居るのだから。

ㅤ正直落ち着かせたアリスが不意に店主に掛けた催眠を解くんじゃ無いかと心配であった。結果として助けたのに不法侵入者として通報されたんじゃ堪ったものでは無い。

 

「そろそろ出て行きたいところね…」

 

ㅤ思いもしない仲間が出来た以上ここでのイベントは消化した。あとは腰をゆっくり落ち着かせる場所を探さなければならない。今回はメインクエストを進めがてらサブクエストを終えたに過ぎないのだから。

 

ㅤ私はアリスにお茶会中断を打診した。可愛らしい返事で了承された為、道具諸々を回収、撤収準備はものの数秒もかからず終えた。

 

ㅤ扉を開け、玄関へと真っ直ぐ向かう最中、アンデルセンは口を開けっ放しで見てきた。ドヤ顔をしながら出てやった。予想外の展開だっただろうちっちゃな童話作家。

 

「ですからあのアリスと言う少女はきっとエリザと私の間で出来た─」

 

「話が飛躍し過ぎて最早ギャラクシーですよ。そんなお伽噺は刑部姫さんに描いてもらえばいいじゃありません? 現実見ましょうよ。げ・ん・じ・つ!」

 

ㅤ私のドヤ顔が一瞬で顰めっ面になった瞬間である。無言で頭を撫でてくるゴールデンや、そのゴールデンを真似るように撫でてくるアリスの優しさが心に染み渡る。

 

 

◇◆◇

 

 

ㅤ道中のホムンクルスやヘルタースケルターを薙ぎ払いながら進んでいくと、ふと裏路地が目に入った。特に意識しなければ極々普通の裏路地だ。

 

ㅤだが違う。普通ではない。路地の元々の暗さと霧の濃さで近付かなければ分からない程に抑えられた違和感があった。見れば見る程に強まる違和感、背筋に薄ら寒いものを感じた。

 

ㅤ後ろの二人(バカ共)でさえ黙るほどの強烈な違和感がやってきた辺りだろう。私は咄嗟に回避行動を取る。結果として私の腹に薄皮が切れる程度の過擦り傷が出来た。

 

「あれ、上手くいったと思ったのに」

 

ㅤ幼い声が響いた。姿は未だに見えないが既に正体は分かった。路地の違和感の正体もこの者の仕業だろう。魔霧に紛れた不思議な霧や丁寧に解体されたホムンクルスに溶けたヘルタースケルターもまた彼女を証明する鍵だった。

 

ㅤ──夜霧の幻影殺人鬼(ジャック・ザ・リッパー)

 

ㅤそれが彼女の、いや彼女たちの正体である。なお、私の言い回しが可笑しいことにツッコミを入れることは御法度である。情けない部分だけだとファンが減ると心配をしている訳では無いのである。勇者系アイドルはCOOLでなくては。

 

「アサシン──ッ!」

 

ㅤ身構えるもあちらが攻撃してくる気配は無かった。ジャックはこちらを観察するように目を細めるばかりである。特に私が凝視されている。もっと私を見て良いのよ。

 

「どなたか私たちのおかあさんは居ませんか?」

 

ㅤ極めつけはこのセリフである。完全に戦意が萎えて行くのが分かる。ゴールデンもこれにはサングラスを八の字に曲げるのみよ。

 

「私が貴女のお母さんです! そしてこの方がお父さんです!!」

 

ㅤ極めつけはこのセリフである。清姫は嬉嬉としてジャックに返答した。タマモからの支援が受けられないと察して養子縁組で家族を構成するつもりなのかもしれない。殺人鬼の娘がいきなり出来るのは色々と複雑だよお父さんは。

 

「そうなの? じゃあおかあさんは解体。おとうさんは、おとうさんは…おとうさんも解体でいい?」

 

「良いわけないでしょうが!」

 

「初めてのスキンシップですねお父さん(エリザ)!」

 

「今煽んのはデンジャーだろ」

 

「清姫さんがアップをすっ飛ばして走り出してますよ。これぞバーサーカーの鏡ですね」

 

ㅤ─言ってる場合かぁ!?

 

ㅤ私は思わず(あたま)を押さえる。いつも通り混沌としだした。オケアノスでもそうだ、私が頭を捻って考えた戦略でスマートに特異点を解決する筈がいつの間にか180度可笑しな方向へと向きが変わってしまう。私の起源が『混沌』とでも言うのか!?

ㅤちょっとカッコイイと思ったのは内緒だ。

 

ㅤやがて隣で大人しくしていたアリスが私のマントを引く。

 

あたし(アリス)も、エリザベートみたいな家族が欲しいな」

 

ㅤ目線が合っては離し、目線が合っては離しと、チラチラ見てくるアリスの愛らしさとその言葉が合わさって私の心の奥底に眠る父性を大いに刺激した。

 

「私お父さんになるわ!」

 

「しっかりしろォ! 飲まれんなァ!」

 

「金時さん、残念ですが手遅れです。彼女は犠牲になったんですよ、ギャグ時空と言う名のブラックホールの犠牲の犠牲に、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤ拝啓ㅤお父さんお母さん、私は様々な過程を吹っ飛ばしてお父さんになります。

 

 

 




気付いたら出来ていたカオスをそのまま文字に起こしてみました。私の脳内がカオスに包まれる前に表に出さねば!

次回は─予定無いです!


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これは確実にポジションを間違えている。

お久しぶりですね皆さん。
まぁこんなに期間が空いたのは初めてですから失踪の疑いを掛けられていて当然だと思いますが、どうにか帰ってきましたよ。

次いでにそこまで清エリ成分は無いので、希薄している成分を分け合って下さますようお願い致します。


 壮絶な親子喧嘩、と言うよりもただの殺し愛。顔に浮かぶのは鬼の形相では無く、慈母の顔とそれに甘える子供の顔。全てが奇妙であり狂気的。

 

「たァ!」

 

 ジャックの逆手に構えられたナイフが清姫の下腹部に突き立てられる。それは清姫の閉じられた扇子によって弾かれるもジャックはめげずに身体を捻らせてラッシュする。

 

「解体するよ!」

 

 顔に喜色の笑みを貼り付けながら家の外壁を蹴り立体機動に入るジャック。変則的な切り結びは紅い軌跡を描きながら飛び回る。霧で視界が優れないのにも関わらず全て扇子で流していく清姫の技量に顎が外れそうな私。

 

 誰かいい加減にこの非常識な状況を解消すべきだろと私は思うの。けれど私はコレをどうにかしろと言われても手が出せない。助けてゴールデン、いやそんなに全力で首振らないでも…

 

 清姫の内に高魔力反応、明らかに宝具の前兆である。これにはジャックも距離を取って構え直した。互いに緊張状態が保たれ、次の一手で勝負が決まる事を示唆した。

 

「─って、それはマズい!!」

 

 こんな細っこい道で清姫の宝具何て使ったならばみんな仲良く焼け本、焼け狐、焼け金時(ゴールデン)になってしまう。なお私は大丈夫だと思われる。オルレアンでの実績がある。

 

「この、バッカモンがァ─!!」

 

 私の身体に纏われた魔力渦で霧は晴れていき、清姫へのルートを引いた。後はそれになぞってドリルキックを叩き込む。

 

「はッ、これが新たな愛のかた─」

 

 寸分狂い無く清姫の脇腹をゴリゴリと削り取るドリルキック。ピンと伸ばされた両足を屈む形で収めた後清姫を蹴って反動を得る。そして着地した後ガッツポーズ。アイドルとして恥ずかしくない一連の動作だわ。

 

「まずアイドルはそんな事しないと思うわ…」

 

「俺はいかしてたと思うけどな」

 

「金時さん、タバコ逆さですよ?」

 

 誰になんと言われようとアイドルっぽい行動です。文句があるなら生ライブに来ることを推奨するわ。死んじゃうくらいの感動をアナタにプレゼント出来る自信があるもの。

 

 清姫の顔を踏み付けながら何故宝具を使おうとしたのか問いただす。苦しむと言うよりか何処と無く恍惚な顔を浮かべながら答えてくれた。この娘はもう末期だわ、知っていたけれど。

 

「そう言う愛の形もあると──あぁもっと足蹴にして下さいませぇ」

 

 取り敢えず角を鷲掴み無理矢理立たせ、首に腕を回して意識を刈る。最後まで「エリザの控えめな乳房が背中に─」などと幸せそうな悲鳴を上げていた。

 

「何か私の知っている清姫さん以上にアブノーマルに染まっちゃってるんですがソレはどういう」

 

「色々あったのよ…」

 

「いやいや安珍厨の清姫さんが他の英霊にここまでの影響を─」

 

「─色々あったのよ…」

 

 それを最後にタマモは小さく声を漏らし、察したように哀れみの視線を向けてくる。

 私は好きで清姫をこんなピンク色に染めたわけでは断じてない。何か勝手に染まって、勝手に言い寄って来ただけです。初対面でいきなり胸をまさぐってくるぐらいに最初からピンクしてたもん。私悪くない。

 

 手に持ったピンクをそこらに投げ捨て、呆然としているジャックに向き直る。ナイフは構えたままだが話は出来そうだ。

 

「おかあさん寝ちゃったの?」

 

「そうなのよ、困っちゃうわよねぇ」

 

 何処と無く不満顔なジャックは遊びはおしまいと思ったのかナイフをクルリと回して腰のホルスターに収納した。そしていつの間にか脱ぎ捨てた襤褸の外套を羽織って路地に戻っていこうとする。

 

 ここで逃すのはマズいと考えた私は呼び止める。あどけない表情を浮かべながら振り向いてくれたジャックに一緒に来ないかと勧誘を掛けてみた。結果は─

 

「ダメだよ」

 

 拒絶だった。

 ジャックの目的は母親を見つけ、中に帰る事だ。目的は既に半分達成されている筈、清姫と言う母親を得たジャックはここから離れる必要はない。だから一緒に居ていいと言ってやれば嬉々としてパーティに加わると予想していた。

 

 だが、結果は拒絶だった。

 母親を探しに行く必要など何処にも無いと言うのに細い路地に帰ろうとする。それがたまらなく違和感だった。そんな違和感を払拭する為に理由を聞いてみたが。

 

「…よくわかんない、何でダメなんだろう…ねぇ何でおかあさん? どうしてわたしたちは一緒に居ちゃダメなの?」

 

 寧ろ聞いてくる始末。

 無垢な瞳に疑問の霧を被せた状態。とぼけた様子も無く、本当に分からないと言った雰囲気であった。唸りながら考え込んでも結果は変わらないらしい。

 

「ふむどうやら簡単な思考誘導の魔術を掛けられている様ですね」

 

「分かるのタマモ?」

 

「いやぁ何処と無く呪術っぽいですしぃ。となれば専門分野って寸法なんですよ」

 

 いやジャックに操られていた的な描写は無かったはずだけれど、その魔術を行使していそうな人くらいは分かる。と言うか(パラケルスス)でしょ間違いない。

 

 となれば術者をしょっぴいてジャック仲間入りイベントを消化するしかない。数は多ければ多い程いいのです。質が良ければなお良し。

 

「じゃあ魔力を追跡したりして直接叩くわよ!」

 

「いえ、霧的な理由でインポッシブルです」

 

「アリスでも?」

 

 胸の前で腕をクロスさせ、申し訳なさそうに顔を歪ませるアリス。正直心がジクジクするわ。

 

 しかしどうしたものか、これでは手も足も出ないままジャックを逃す事になる。

 

「ではいっそこちらがジャックに同行してみるのはどうでしょう?」

 

 いつの間にか復活を遂げていた清姫はツヤツヤした顔でそう言ってきた。脱皮でもしたのかしら…

 

「いやでも一緒に居ることには変わりないし流石に─」

 

「─それなら、うんいいよ」

 

「何でよ!?」

 

 ゆるい、ゆるすぎるぞ思考誘導。それでいいのか本当に、清姫の理性くらいゆるいわ。

 

 でもまぁ、(トラップ)だとしても踏み抜くだけ踏み抜いて行くのが勇者としての王道。正面からお邪魔しましょうそうしましょう。

 

 

◇◆◇

 

 

 何処に行っても霧ばかり、見える景色も一辺倒、清姫は今日も狂愛士(バーサーカー)。ひたすらに小さい女の子の後ろを追い掛けるのって勇者の前に人としてアウトと思うのは私だけかしら。

 半分飽き始めていた私はゴールデンの肩にアリスと一緒に乗車してダラダラと過ごしている。

 

「視線が痛てぇ」

 

 恋する乙女の眼光は質量を持っているからね。特攻でダメージソースがすごいのなんの、きっと奴らは真の英雄なんだね。

 

「真の英雄は目で殺す…」

 

「なんだ、ビームでも出んのか?」

 

「あら鋭いじゃない」

 

 そう言えば私の系譜にビームやらミサイルやら撃ちまくる娘が居たような気がする。もしかしてうちのチェイテにも居たりするのかしら、対軍宝具を個人に集中的に運用する鬼畜技を持っているのだし有用よね。コクピットに乗れば空中の高速移動とか出来るし、何より燃料って私だからエコで幸せいっぱい、地球に優しいからガイアもこれにはニッコリね。

 二体で合体メカも展開的に美味しいわ!

 

「英霊でメカニック候補は大勢居るのだし、今後のメンテナンスや装備改修の為にスカウトとかした方が…」

 

「とっても楽しそうねエリザベート、アリスも混ぜて」

 

「男にしか分からない世界なのよ!」

 

「エリザベートは女の子なのだわ…」

 

「心に少年を飼っているの」

 

 頬を膨らますアリスを横目にジャックを覗く。

 会話には入って来ない。黙々と迷い無く進んでいるという事は目的地がしっかりあると言うことだろうか。

 

「ねぇジャック、何処を目指して居るのか聞いて良い?」

 

ロンドン警視庁(スコットランドヤード)だよ。たくさん殺すんだって」

 

「へ、へぇその口振りじゃあ他にも来るみたいだけど…」

 

 だがそこでジャックは首を傾げた。

 いよいよ(トラップ)の線が濃厚になってきた。相手に同行者がいるのにも関わらずに同行を許可させるなんて分かりやすい真似を魔術師の様な秘密主義な奴らがするわけが無い。まるで私が付いてくる前提で仕掛けられたみたいな気持ち悪さだわ。

 

 兎に角、第一目標は術者を倒してジャックの仲間入りイベントを消化する事ね。

 それまでロンドン警察の人たちは警視庁内に隔離して安全を確保しないと。魔術の秘匿云々言っている場合じゃないし、彼等じゃあサーヴァント戦は不可能だし、持っても一分持つか分からない。漏れなく何も分からぬままに殺される。

 まぁその辺はキャスター組に任せよう。

 

「そろそろね」

 

 霧でシルエットしか拝めないし魔力の反応も鈍いが、近付いてみたらサーヴァントの反応をビンビン感じる。自分の索敵能力の高さに感謝ね。

 

 門の前に人影を捕らえたと同時にゴールデンの上から下車する。一人を除いて臨戦態勢を取るが徐々に明らかになっていく人影に私は思考を停止せざるを得なかった。

 

「何でアンタがここに居るのよ?」

 

 私が捉えた人物は白衣を着た錬金術師などでは無かった。私が見たのはモスグリーンのタキシードにシルクハットの魔術師だ。

 温和そうな笑顔をこちらに向けている。だがその目の奥に秘める憎悪の炎は確かに私に向けられている。

 

「ポジションミスよ。何でそこにいるのフラウロス!」

 

「蜥蜴風情が私の名を気安く呼ぶな。全く吐き気がする。何故貴様なんぞの始末を請け負わなければならないんだろうなァ」

 

 そう言って前回私たちに焼け魔神にされたフラウロスは手に持った聖杯を掲げた。濃密な魔力が周囲を輝きで満たしていく。私は何が来てもいいように構えを取ったままだ。取ったままだった。その筈なのに…

 

 ─私の胸に槍が生えているのは何故だろう?

 

 背後の者はサーヴァントで間違いなかった。アサシンならば納得も出来る。結果はランサーだが、果たして気取られずに私だけを奇襲出来る槍兵が居ただろうか? 李書文ならば出来そうな気もするが、槍の形状からして除外される。

 

 いや、良く考えれば振り返れば一発で分かるじゃない。

 

 馬だ。馬の顔がアップで見える。

 いや違う、問題なのはその馬の騎乗者、私を突き刺してきた槍の持ち主のはずだ。馬何かに目を奪われている場合じゃない。

 

 正体は闇色と言っていいほど黒々とした鎧を装着した騎士だった。やけに胸部装甲だけ盛り上がっているので間違いなく女だろう。と言うか普通に知っている英霊だったわね。

 アルトリア・ペンドラゴンのオルタなランサーで相違ないでしょう。つまり現在進行形で私の骨をゴリゴリしているのはロンの槍という事ね。

 

「じゃあ何でいきなり背後なんかに…」

 

「聖杯をただの目眩しだけに使ったとでも?」

 

 なるほど令呪で出来るような転移やブーストが聖杯に出来ないはずも無かったわね。クソゥ、呪い効果で傷口がジクジク痛む。こんな時に型月っぽさなんて要らなかったわ。と言うか選択肢なんて何処に…ジャックに付いていくことが選択か。

 

「好感度、足りてなかったかな?」

 

「んな、呑気な事言ってる場合じゃないぜオイ!」

 

 横に立っていたゴールデンがアルトリアに向かって斧を振るう。アルトリアは槍に刺さった私を盾にそれを防ぐ。

 

「いけませんわ金時さん、エリザが」

 

「チィ…」

 

「ちょっとあんまり揺らさないでよ傷口抉れちゃうじゃない」

 

 何処と無く意識がふわふわしてきた様な気がする。口内は血液で噎せ返るようなのに不思議ね。

 

「エリザ!?」

 

 清姫が呼びながら向かって来てくれているけれど、能面の様な顔になっているジャックに邪魔されている。どうやら来れそうに無いらしい。アリスやタマモではサポート位しか出来なそうだし、助けようにも当の本人は盾にされちゃってるわけで…あらやだ囚われのお姫様ポジションに抜擢なのかしら。

 

 いや囚われのお姫様ならもっと丁重に扱って欲しいわね、切実に。何処に槍でプランプランさせられちゃうお姫様が居るって言うのよマジありえない。

 全くこんな無様をプレゼントしてくれた人畜無害を装ったサディストはどんな顔をしているのやら、って居ないじゃない!?

 

「殺り逃げとか…サイテー」

 

「言ってる場合ですか!? てかエリザベートさん結構元気でいらっしゃいます?」

 

「何かお花畑が見えてきた。胡散臭い笑顔の爽やかお兄さん付きとは何とも豪華なオプションよ…」

 

「手遅れっぽいじゃないですかヤダー」

 

「縁起の悪いことを言わないでください! エリザは私を置いて逝ったり致しません…」

 

 案外喋れんじゃない。

 戦闘中に会話とかこれだからギャグ時空は困るわ。いやゴールデンは苦い顔しながら対峙してるし、アリスは泣いてるから、あの馬鹿二人だけギャグに生きてるのね。

 ぁ、私はきっとギャグとシリアスハイブリッドです。それって所謂シリアル?

 

「あぁ、何か道場と花畑がミックスしてきた…」

 

「エリザァ───!!」

 

 そう言えばフラウロスって噛ませで、何回か出てきて、その度に情報を残して帰るわよね…アレこれって─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─つまりアイツってそういうポジションなの!?

 

 




次回投稿は未定です。
どうにも最近は忙しさに喘ぐ日々でして、朝早く夜遅いの生活です。ちまちま書いて行こうとは思っています。
待ってくださる方々には申し訳ないのですがどうかご容赦を、そして今後ともよしなに…


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私は勇者であって主人公では無い──である筈なのだ。

え、投稿が遅い?
こっそりひっそり皆様の記憶からフェードアウトする為さ!

そんなことよりも今回の話は脱線したまま道草を食う様なお話です。テキトーに考えた設定を一部公開したりする回なのでシリアスからシリアルへの高低差で耳をキーンしてください。


 気付いたら何とも不可思議な空間にて棒立ちになっていた。酷く老朽化が目立つ武道場に花々が咲き誇り、外を見れば曇の無い群青色の空と錆びと苔で覆われたビル群が見える。

 

 退廃的だ。

 長い年月、人の手が入らなければこのような惨状を目の当たりにしても納得ではある。事実、人の気配も無ければ動物の気配すら感じ取れはしない。ここに居る存在が自分だけなのではないかと若干の恐怖感を覚えたが深呼吸をして要らぬ感情を押し止めさせた。

 

 さて、私はどこに来たのか。

 まさか今更未来の世界に飛ばされたなどとは考えない。私たちが救う未来がこの世界だとは思えないし思いたくは無い。

 

 ここに来る前後の記憶は特に苦もなく取り出せた。そう確か私は戦闘中に背後に転移されたランサーに反応しきれずにロンの槍にぶっ刺された後に肉壁要因としてリサイクルされていたはずだ。

 それから先は記憶に無い。座に帰還されない所を考えると─

 

「サーヴァントで夢…」

 

 通常サーヴァントは夢を見ない。マスターが居るのならば魔力が通るレイラインを伝ってきた記憶を閲覧するという事象が起こり得る事を知っているが、生憎と私はマスターと言われる都合の良い存在は持ち合わせてはいない。

 

「貴様がそれだけ特殊だと言う証左だ」

 

 誰も居ないと思われた世界に私以外の声が発せられた。

 それは背後から、先程相対していた、忌々しい声だ。

 

「フラウロス……夢にまで来たの? 追っかけもそこまで来るとストーカーね」

 

 いつも不機嫌そうに歪めていた表情は形を潜め、一貫性を見せる無表情で私を見つめる魔神がいた。

 謎の光が床に見える。円形で、綺麗に区切られていると感じた。そして魔神はその円のその中心に居り、出る気は無いのか何処からか出した装飾もない木製の椅子に座ってしまった。

 

 いやそんなことよりも─

 

「何時もなら間髪入れずに暴言を吐く私がやけに大人しい…か?」

 

 思っていた言葉の羅列を赤裸々にされ自分の表情が強ばるのが分かった。反応がいつもと違う、と言うよりも最早真逆の位置に達している。どうしようもないやりにくさを感じてしまう。

 

「まず状況の説明をしよう。現在貴様は夢の世界に囚われている状態となっている。この夢の外では未だに戦闘が継続中だ──ついでに私を倒した所で夢から脱出する事は出来ない」

「次にこの状況を生み出したのは分かっているとは思うが私だ。魔神としての力に聖杯の力を乗算させることで可能とした」

「最後に目的と脱出方法…これについては簡単だな猿でも分かる単純明快な方法」

 

 

「私の質問に答えるだけでいい…」

 

 

 個人的な質問は他のファンの反感を買って争いの種に成りかねないのでやんわりお断りするのがいいんだろうけど、夢の世界に来てまで聞きたい質問となるとファン第一主義の私が答えないわけにもいかない。

 まさかこの答えざるを得ない状況を態と作ったというのかしら、なんて恐ろしい子!?

 

 くっ、答えるしかない!?

 

「いいわ特別に答えてあげる。スリーサイズでも聞きたいのかしら?」

 

「フッ」

 

「な、何に対して笑った貴様ァ!」

 

「勿論、貴様の貧相な(・・・)身体に対してだが?」

 

 貧相…私の身体が貧相ですって!?

 多くのブタとリスたちの羨望の眼差しを独り占めしてきたこのエリザボディが貧相だと宣いやがりましたかこの[自主規制](エリちゃん可愛い)野郎は!?

 

 

◇◆◇

 

 ふぅ、落ち着いた。

 

「じゃあ何が知りたいって言うのよ、一応トップシークレットの情報はノーコメントだからね!」

 

「では一つ目、貴様にとって一番優先するべきは何か?」

 

「無視しないでよォ!」

 

 可愛くあざとく両腕をオーバーに動かしつつ批難の声を上げるものの、この魔神は相も変わらず無表情を突き通して行く。眉のひとつも動かさず、じっと視線を私から逸らさない。そこまで見つめられると照れちゃうわ。

 

 しかし一番優先するべきは何か、と言う質問の意図はさっぱりである。まず範囲は何処にあるのか、アイドルや勇者とか人生とまで来ると色々答えが出てきてしまう。

 

「それは勇者として? それともアイドル?」

 

「質問の通りだ。貴様にとっての最優先事項を問うている」

 

 私にとっての最優先事項。

 つまり、勇者やアイドルも含んだ私を意味する。であるならば私の答えは──

 

「─平和ね」

 

「その心は?」

 

「勇者が平和を求めるのは当たり前で、アイドルは笑顔を振りまいて幸せを押し売りするのが仕事。じゃあどちらも意味するのは平和というわけね!」

 

 満足そうに首肯する私とは対照的に魔神は何処か苦々しい。無表情なのに苦々しいとは随分と器用なことを……

 

「では二つ目、一番幸福だった記憶は?」

 

「……はぁ?」

 

 質問の意図がさっぱりなんだが。私の内心は「なんだこいつ」の一言で埋まっちゃってるんだけれど。

 当人の魔神さんは自分の瞼の裏を見つめて返答待ちなスタイルだし、いや本当に人の夢ん中来てまで聞きたい事ってそれでいいの?

 

「ねぇもっとマシな質問考えて来たら? 次の特異点潰す前後まで待つから、○○診断みたいな本に影響された女子みたいよこの質問」

 

「貴様は黙って質問に答えていればいい。速くしないと眠りこけている間に戦闘が終わるぞ」

 

「そういや清姫たちがまだ…」

 

 うん忘れた。

 いや本当ごめん、思ってたより現状に動揺してたみたい。制限時間がきっちり設けられてる当たり計画的犯行らしい。良く考えたらこれ誘拐よねハイ○ースなんて乗った覚え無いんだけれど。というかハイ○ースして来る候補に一番最初で上がるのが身内に居る時点でやばいのでは──

 

 

閑話休題(めっちゃ軌道修正)

 

 

 そんなことよりも質問に答えない事には始まらないし終わらない。今すぐ起きて解決特異点をぶっ壊さなきゃ。

 

 一番幸福だった記憶。

 まぁこれは今になって思えば単純明快にしてシンプルな答えだわ。と言うかもう私にはこれしか考えられないまであるわ。

 

「─きちんとした衣服が着れてる私ッ!!」

 

 それはもう胸を張って言えるわ。痴女みたいな服装を強制され、動く度にチラリチラリとチラリズム、全世界のブタ共が股間を押さえて前屈みになること必至の私の毎日。

 まさに普通の服を着衣出来ている時間こそ私のオアシスであり、救いであり、無償の愛である。あぁなんと良き文明かな衣服。

 

「では最後だ─」

 

「無関心過ぎか!?」

 

 自分から聞いておいて反応が何一つ返ってこないなんて、そんな雑な進行が許される訳ないじゃない。エンターテインメントって知ってるのこの魔神!

 なんなのこの魔神、TVとか見ないの? 若者のTV離れが原因なの?

 

 ──この魔神は若者じゃないんじゃね?

 

 察してしまった。

 これ気付かん方がよかったよね。魔神なんだから精神年齢人外とか良く考えたら当たり前だし…見た目は若者、頭脳は○○(自主規制音)って言う事だし。若作りしてる人に向かって実年齢をネタにするのとか論外。いやこれは寧ろ──

 

「お若いですね!」

 

「……大丈夫か、ロマニを呼ぼうか?」

 

「おまいう!?」

 

 人の世を垣間見て絶望したから世界を作りかえ隊に精神の心配されたんだが、私ってそんな酷い?

 脱線ばっかりするけど仕様だからしょうがないもん。文句言うなら毎日狂愛士(バーサーカー)に囲まれて過ごせ。君のステータスに狂化スキルと精神汚染スキルが付与される。

 

「改めて最後の質問だ」

 

「バッチコーイ!」

 

「……貴様の名は?」

 

 うん、もう突っ込まないわ。

 

「私はエリザベート・バートリー。職業は勇者とアイドル。趣味は世界を救うこと。願い事が叶うなら毎日マトモな服が着たい超絶可愛い美少女ッ!」

 

 もうただの自己紹介である。

 

「質問で得た情報から考察も終了、既に情報局が管理するに値する事実がここで立証出来た。感謝するよ勇者エリザベート・バートリー」

 

 魔神は立ち上がった。

 

「貴様の記憶をそのまま閲覧出来ればそれが一番手っ取り早く事が終えられた筈だったんだがな、異常なまでのプロテクトに私も手が出せなかった」

 

 魔神はここに来て初めて笑った。いや嗤った。

 嗜虐的な嘲笑を浮かべ、可笑しくて仕方が無いと言った表情だ。私の困惑で濡れた精神を薄ら寒い風が否応なしに吹き抜けていく。

 

「良かったよ貴様が馬鹿で、いや馬鹿と言うより純粋過ぎたおかげだ。その身体が仇になったな!」

 

 腹を抱え、仰け反り、歯を剥き出し、大口を開け、彼は呵呵大笑と言わんばかりに笑い転げている。一見無邪気にも見える笑い方が私にはどうにも不気味に見えた。

 

「まぁ結果は変わらん。貴様にはここでご退場願うよ」

 

「いやアンタ最初にここから出してくれるって─」

 

 一文字に固く結ばれた唇からはそんな馬鹿な言葉しか出せなかった。どう考えても出してくれる可能性なんて無いのにも関わらず何処までも楽天家は変わらないのだと分かった。

 

「あぁ出してやるとも─」

 

 

 ─廃人になってからな

 

 

「どう言う…」

 

 どういう事なのとは最後まで言えなかった。

 不可解な言葉が先程あったから、確かに聞こえたのだ聞いたのだ『その身体が仇になった』と、つまりあちらは既に私が憑依者だと気付いた上で今までのやり取りをしてきた事になる。

 英霊に憑依だとかそんな突飛な発想なんてそうそうしないだろうと高を括って居たけれど……

 

「説明する義務は無いな!」

 

「いつも垂れ流しでしょうが。こういう時だけケチるんじゃないわよ!」

 

「聞こえんなぁ」

 

 都合の良い節穴しやがって。

 

 先程からレトロニアもエイティーンも手元に出せない。攻撃して来た場合は逃げの一手しかない。更に逃げ場は無い上に時間を稼いだ所で事態が好転する可能性も低い。

 いや茶番に付き合うくらい時間に関心を見せなかった所を考えれば幾ら時間を掛けようと構わないのかもしれない。

 

「教えてよぉ!」

 

「ちっ、煩い奴だ。要は比較だ─」

 

 ウガウガ、ガオガオと駄々を捏ねてみればため息を吐きながらも今回の質問の真意を零した。やっぱり残念な魔神筆頭は一味違った。

 

 長々と語られてしまったが要約するとこうだ。

 私の初登場時、つまり第一特異点オルレアンから現在に掛けて徐々に変化をしているらしい。それが今回で確信できたとか何か。

 

「それと廃人がどう関係するのよ?」

 

「関係ないな」

 

 いや無いんかい……

 

「結果は変わらんと言っただろう。単純に貴様の現界の仕組みを解き明かした上での効率的な貴様の排除方法が精神崩壊を引き起こす事だったと言うだけだ」

 

 出るわ出るわ情報の数々、いや本当に味方なのでは?

 

「そろそろお開きにしよう。さてどれだけ惨たらしく殺され、何度繰り返せば勇者が堕ちるのか楽しませて貰おうか」

 

「急にゲームの対象年齢が跳ね上がったわね……」

 

 そうかこれが本当の『私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいにエロ同人みたいに!』って奴なのか。

 

「私、初めてなので…そのぉ……ね?」

 

「大丈夫だ痛いと感じるのも最初だけだ」

 

 これは事案ですよ。

 と言う事で逃げます。

 

「魔力を全開だ!」

 

「対策済みだ」

 

 魔力の流れが淀んでる。

 ダムの放水の如く力強く吹き出した魔力が今では見る影もなく整備不良の蛇口の様にか弱い。かと思えばそんな微量な魔力も吸われて消えていく。

 

「随分情熱的なお誘いじゃない」

 

「溜まってるんだよ」

 

「ストレスの事よね? 発言が全て怪しく聞こえ出したんだけど!? 変態…変態よぅ。助けて私の貞操のピンチィ──!!?」

 

 今まで見せたことの無い爽やかな顔をして近付いてくる変質者(ロリコン)がそこには居た。紛うことなき犯罪者(ぺドフィリア)です。黒髭より執念深い分恐ろしさが身体中をくすぐってくる。

 

 カタカタと身体中震えてる。人はよく分からない、理解出来ない物に恐怖心を抱く。私も又何をして来るのか分からない魔神に恐怖している。

 

「た、助けて……」

 

「命乞いのつもりか? まさか自分の夢の中に助けを求めているのか? 明晰夢のような都合の良い夢じゃないこれは悪夢だ」

 

「助けて清姫ェ───!!」

 

 目から涙が頬を伝い、乾いた木の床濡らした時に声が響いた。

 

『エリザの初めては──』

 

 

 

 ─私のものですッ!!

 

 

 

 朽ちた天井を吸魔の結界(仮)と共にぶち破り、何処ぞのヒーロー宜しく三点着地を決め、ゆっくりと立ち上がってガイナ立ち。

 ばさりと勢い良く開いたエリザLOVEとプリントされた扇子で口元を隠し、射殺さんとばかりに眼前の敵を睨み付けている。

 ひらり半身を私の方に覗かせれば花のような雅さを感じさせる微笑みを浮かべた。

 

「大丈夫ですよ、私が来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレ、主人公って清姫だっけ?




たぶん訳わかんねぇと思う設定がチラホラしたと思いますが私が分かっていれば問題無いものばかりなので流して下さい。考察とかはくれぐれもしない様にお願いします。
ガバガバ具合がバレますのでね…

次回は清エリ成分を多めに提供出来る予定です。
待たれよ次回!!


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ギャグ時空が世界の理を見敵必殺(さーちあんどですとろい)

前半部分と後半部分で書いた時期が開いてるのでちょっと違和感あるかもしれないけれど、是非もないよね!

少しは清姫たちをイチャコラ出来たかな…


 場所は私の夢の中、相対するはロリコン疑惑が日に日に深まっている魔神フラウロス(ふしあなさん)。対するはエリちゃんファンクラブ筆頭狂愛戦士清姫。

 

 二人の狭間には今確かに陽炎の如く揺らめくものがあった。強者同士の死合い、譲れぬ者同士の問答の際に生じる威圧感のせめぎ合いこそこの現象の真実である所だが、故にこそ不可解な点がある。

 

「なして二人とも笑顔?」

 

「笑顔は乙女の最終兵器ですから!」

 

「表情筋が固まった…」

 

「そうですか……」

 

 流石に数多な修羅場を掻い潜ってきた私でも困惑が隠せない。と言うか清姫はともかく魔神(笑)の方…表情筋が笑顔固定されたって明日は顔面筋肉痛間違いなしよ。笑顔の練習しても本気の笑顔なんて数十分持てばいい方なんだからね。

 

「顔にサ○ンパス処方しておきますねぇ…」

 

 一週間分のサ○ンパスを吸魔の結界(仮)が破壊されたおかげで使える原理謎魔術で召喚して処方せん袋に入れて、名前もふらうろすとでも書いておく。

 

「毎日顔面をよく揉みほぐして、大体三分一日朝昼晩で三セットずつね。指先を使ったり掌全体を使って筋繊維を傷付けないように気を付けつつ乳酸を外へ外へと出すように意識してください。肌を傷付くようなら保湿ローションを使ったり、アフターに乳液とか肌を労る事が大事よ!」

 

 小道具の銀縁の若干釣り上がり気味なフレームを持った眼鏡をクイッと上げながら説明してから処方せん袋を浮かせて送ってやる。

 きちんと手元にに送った所で眼鏡を外し、ナースキャップを被る。尚この切り替えの速さは常人では追えない。

 

「お値段の方500万QP頂きます!!」

 

「あらお安い!」

 

 今ならあの天パもサラサラストレートヘアへと大変身出来る毛髪剤も付いてくる特別プライス。コストパフォーマンスに見合った(エリザ)謹製の美容品の大容量パックまで付いてくる。

 

「この紳士用香水まで付いてきてきっかり500万QPよ!」

 

「そのガラス容器はエリザのデザインを参考に私が手作り致しました一点物で、火力調節や彫刻が難しかった分美術品としての価値も高くなっています」

 

「…カードで」

 

 

閑話休題(お買い上げありがとうございました!)

 

 

 ここからが本番。

 

「それで? 助けは来たがこの後はどうする?」

 

「貴方を灼き次第脱出ですが何か?」

 

 そういって業火を纏いバスターバフを掛ける清姫。焔色の接吻によって底上げされた火力でいつものごとく焼き尽くす算段らしい。

 

「アレ、それってセルフ発動出来たの? 接吻は?」

 

「…してますよずっと」

 

 え、いやした覚えないんだけど! てかずっとってなんですかね、まるで現在進行形で致してるみたいな言い様だけれど。キスしてる所か手と手さえ触れ合って無いんだけど!?

 

「夢の外では今もなおエリザの……ふへへ──じゅるり」

 

「ぴゃー──────!!?」

 

 耳をすませば今も尚バフの効果音が高速で鳴り響いている。えぇと焔色の接吻のバスターアップはLv10で30%くらいだったかなぁ(遠い目)

 

「もうエリザったらそういうのは同衾の際にでもしてくだされば!」

 

 と今更感が途轍もないいやんいやんタイムに入っているが、外の私は一体何をしているんだろうネ。アレかな、ハーレム王並の寝相の悪さを発揮してるのかナ?

 その様に私が何処か遠い世界を覗いている間も業火の勢いは増すばかりでまるで宇宙怪獣のラスボスが繰り出す熱線の様な有様だ。見ろよ奴さん、白目向いてるぜ? 南無三!

 

 ──こうして悪は去ったのだった。

 

「前回強キャラ感を醸し出していた敵が僅か一ページでワンパン退場とは……世の中世知辛いわねぇ」

 

「愛は勝つんですよ」

 

 まだバフが盛られ続けている清姫は誇らしげに有る胸を張る。あんたマジかと本気でツッコミたい。

 

「構いませんやってください!」

 

「うん取り敢えずいつも通りで安心したわ!」

 

 何故だろう安心したのに涙が出ちゃう。私女の子だもん。

 

 しかしあのロリコンの話だと自分が倒された所で私はこの空間から出ることが出来ないらしいけどどうやって帰ればいいんだろうか。そういえば清姫はどうやってここまで来たんだ?

 

「タマモさん曰く夢枕に近い現象をアリスさんの協力を得て起こしているらしいです。それと接吻は成功率を高める為の列記とした魔術行為です。つまり合法(・・)!!」

 

「合法の時だけ圧が強い…」

 

 まず前提として誰が違法としてキスを罰するのかと問いたいんだが、ここでハッキリ言っておくけれど私は拒絶はしないから。ただそういうのは時と場所を弁えた上で行うべきだと思うわけで、そう所謂ムードが大事だと思う。

 目と目が自然と合って、ゆっくりと顔が近付いていく、周りは静かで二人っきり、お互いの姿が丁度見えるくらい小さな光源を頼りに寄り添っていく──

 

「─みたいな感じで!」

 

「今度から部屋の方を常にその様にすればいいのですね!」

 

 いやそれはそれで私のチェイテがラブなホテルに改装リフォームされてしまう。この娘本当にやり出してしまうから困る。既にチェイテには茶室とか枯山水が眺望出来る縁側が入っている。このままではピラミッドやら姫路城やらが超融合されるのも近いかもしれない。

 

「それでどうやってここから出るの? 王子様のキスでも必要……清姫サンその顔は修正が掛かるから」

 

「浮気を仄めかす発言は……メッですよ?」

 

「分かった、分かったから! 取り敢えずここ出るわよ!」

 

 うちの娘本当に狂愛士(バーサーカー)。でもここまで分かりやすく嫉妬されるのが当たり前に思って来てる私が居るわ。寧ろ物足りないまである?

 

「あらやだ私ったら末期!?」

 

『いつまでイチャコラしてるんですかぁ?』

 

 こいつ脳内に直接。

 タマモのねっとりとした声が後頭部あたりから聞こえてきた。うん声で分かるがなんか不機嫌だ。

 

「チッ、もう迎えが来ましたか…」

 

『聞こえてますよ清姫さん。全く片道切符だけしか用意出来ていないのにも関わらず吶喊した貴方がなんでそんな態度で居られるんですか!?』

 

 清姫らしくなりふり構わず私を追ってきたらしい。

 

「相変わらずバカね…」

 

「愛ゆえです」

 

『じゃかあしいですよ!』

 

 姦しいやり取りが頭と耳とを行き来している間、清姫がぶち破って来た穴から糸が吊り下がって来た。迎えってこの糸でいいの? ちぎれそう何だけど!?

 

『さぁさぁハリーアップ!』

 

 取り敢えず急かされたので清姫を抱えて掴む。おい今舌打ちしたの聞こえてるから。もうこの良妻賢母(仮)は不機嫌さを一切隠さなくなってきたな!

 

「って蜘蛛の糸じゃない。ちょっとベタってしてて気持ち悪いんだけど……」

 

 擬音で表すならば「ヌチャア」みたいな感じな糸を掴むと逆バンジーの様に一気に空へと引っ張られる。スリングショットの弾の気持ちが体験出来て全然嬉しくない。

 

 

 そして私の意識は浮上する。

 

 

◇◆◇

 

 

 おめでとうございます。エリザの意識が回復しましたよ。

 ファンファーレと共に頭に流れるログはきっと私がまだ寝惚けているからだろう。

 だが口に今も尚伝わる柔らかさや温かさは寝惚けているからなのだろうか。優しい花の匂いが鼻腔を擽り、口内はほんのり甘く、私の頭蓋の中を溶かしていくようだ。

 

 そして閉じている目を開ければ目の前には可憐な美少女が─

 

──あ、いやコレ清姫だ。

 

 そうと分かれば引き剥がしに掛かる、が残念な事にエリちゃんアームズは上に一括りに固定されている。動かそうにもびくともしない。此奴よく見たら左手だけでエリちゃんアームズを抑えてる。

 

 そんな馬鹿な。私の筋力はEX(色々な意味で規格外)だぞ?

 いや単純に力が入ってないのか。槍ぶっ刺されたし、脳は溶けてるし、ある意味当たり前。

 

 顔を逸らそうにも目の前のキス魔によって固定されているので全くとは言わないが動きそうも無い。そして何でこの馬鹿は私の角を無我夢中に擦っていらっしゃる?

 よく考えたらコレシュールな絵面だ。特に清姫の右手部分。そうかお前の右手は忙しいか。

 

 ならば蹴り上げる。がまたまた残念。清姫は全身を使って固定して来る。オイオイオイ詰んだわコレ。ロリコン野郎に襲われそうになったと思ったら次は身内の狂愛士(バーサーカー)かよ。モテる私は罪作りなアイドルだわ。

 

 でもあれコレってスキャンダルなのだわ!?

 見出しは『エリザ・清姫伝説』。いやこれだと私が燃えないアイドルだって証明されるだけか、でも鐘の中で蒸し焼きはキツイな。あと私は萌えるアイドルだと一応明言します。

 

 しかしずっとコレは私のいつ心臓がエクスプロードするか分かったものじゃないわ。内心淡々としているけれど私自身の本当の精神パラメータは尻尾の先が如実に表現している。凄い勢いでピクピクしている。私が英霊じゃなければ尻尾の先部分だけ筋肉痛ね。

 

 かくなる上は─

 

「ガブッ!」

 

 噛み付きゃ止めるはずだ。

 

「ぁ、もっと…」

 

 私は知らなかった。清姫からは逃げられない(・・・・・・)

 

 噛まれても寧ろ喜び始める清姫は私の気持ちが1ミクロも分かっていない。と言うより拘束が日常化する今日この頃清姫が私の静止を聞いた事があっただろうか? いや無い。

 

 だがここで救いの手が私へと向けられた。

 

「チビッ子サーヴァントの教育上よろしくないのでもう打ち止めですよ清姫さん。あと私のご機嫌メーターも急降下中、金時さんの純情さにもオーバーキルです」

 

 声の先を見ればタマモのそばにジャックとアリスが顔を胸部装甲に押し当てられる形で目隠しされている。何それ羨まけしからん。

 

「エリザ…」

 

「ひぇ、ハイライトが息してない…」

 

 では金時はと言うとこちらに背を向ける形で遠くを見ながら煙草をふかしている。きっちりジャックたちから距離を空けている分エリちゃんポイントは高い。やはり金髪碧眼のイケメンはええなぁ…今ビクリとした。

 

「エリザ…」

 

「清姫大好き!」

 

「グッハァ──!?」

 

 不意打ち勝利、やり遂げたぜ。アイドルの本気の大好きを喰らえば常人は爆発する。不意打ちならクレーターが出来る。清姫が吐血と鼻血だけで済んでいるのは単純に耐性が付いてるからに他ならない。本来なら高確率で即死である。

 

 だが耐性が付いても今の清姫の状態を見ればどれ程の破壊力があったのかが伺えるだろう。

 

「永続的魅了状態、これで清姫は私に攻撃できない。この戦い私の勝利だ!」

 

「いやいや、エリザベートさん永続的魅了状態は清姫さんにとっては最早常時(パッシブ)スキルです。デバフが反転して最早バフですね。今ダウン取れているのは単に彼女のウィークポイントに刺さったからでしょう。うん我がメル友ながら謎過ぎる」

 

「オッフゥ…」

 

 もしや清姫が高ステの鯖と殴り会えたり、頭おかしい技術力を持ってるのってそういう理由があったの? 可笑しいとは思ってたし、特異点を潰して行くたびに異常性を見せてきたから否定出来ないんですけれど。

 

「おいドラゴン。寝起きで悪いんだが、どうにも雲行きが怪しいぜこりゃあ。まさに世界の危機ってヤツだ」

 

 ギャグ街道をひた走っていたらゴールデンが何やらシリアスを担いでやって来たようだ。

 

「雲行き所か霧で何も見えないけどね」

 

 しかし霧が魔霧じゃないから魔力感知にビンビン警鐘がなっている。身震いする程の濃密にして邪悪な気配だわ。

 

「今洒落言う場面じゃねぇよ。あっちみろあっち!」

 

 ゴールデンが指さす先を見るとあら不思議。魔神柱を数体従え堂々とぷかぷか浮かぶソロモンが居るじゃないですか。威圧感とか目に見える魔力とかスゴい(小並感)。

 

「ラスボスだね分かるとも」

 

「ほぉあれが元凶なんですね」

 

 清姫復活。

 あの瀕死から一気に快復とかやっぱり可笑しいよ。この時空を歪めているのは一体誰なんだろうな全く。許さんぞゲーティア!

 

 兎にも角にも、私がシエスタしている間に子ジカが全てのお使いを終えたらしい。まぁアリスとジャックのイベントは私が消化したし、私が回収されてると言うことは騎士王は倒しただろうし、色々前倒しになっているとしても可笑しくない。

 

 うんよく考えたら騎士王だけ倒してジャック回収なんてよく出来たな!?

 

「清姫さんが全て殺りました…」

 

 悔しい、でも納得しちゃった。

 

「それよりどうすんだよ」

 

「見敵必殺、悪即斬、汚物は消毒よ!」

 

「はっ、ゴールデンな返答だ。じゃあいっちょ暴れるか」

 

 ラスボスの3分クッキング。

 ではさっそく調理を始めましょう。

 

 ステップ1【よく焼きます。】

 

「清姫、無駄に重複したバスターバフで最大火力!」

 

「お任せあれ。宝具『転身火生三昧』──ッ!!」

 

 無駄なく焼いていくのがコツですね。生焼けだと食あたりになるので念入りに、真っ黒になるまで焼きましょう。

 

 ありゃりゃ、よく見たら子ジカが居る。流石に調理場と言う戦場に立たせるには心許ない。危険だから退避させなければ。

 

 ステップ2【危険だと思ったら退避します。】

 

「ジャックは子ジカたちを回収してホットゾーンをエスケープ。タマモも一緒に行ってあげて」

 

「うん分かった」

 

「わ、私の見せ場少な過ぎ!?」

 

 ジャックの持ち前の高い敏捷性とタマモの支援によって子ジカの元へ急行。アンデルセンは居ないがモードレッドは居た様なので生き残れるだろう。生きよそなたは美しい。

 

「エ、エリザベートさん!?」

 

「またこういうパターンね。もう慣れたなぁ…」

 

『今の今まで重要なシリアスシーンだったよね!? あぁもう頭がゴチャゴチャだ…』

 

 カルデア組が何やら苦情の声を漏らしているが七面倒臭いので一切聞き入れません。シリアスは私に合わないので浄化するわ。

 

 轟々と燃え上がっている火炎を裂き、冠位(グランド)に見合う光の奔流でもって私へと攻撃を加えてきた。よく見れば結構焦げてる…

 

 ステップ3【食材が噛んでくるので防ぎます。】

 

「アリス、トランプ兵とかジャバウォックとか何でも良いから壁を張って、止まんないなら私が止める!」

 

「エリザベートがあたし(アリス)を見つけてくれた。エリザベートがあたし(ありす)のカタチを思い出させてくれた。─だから、守る!」

 

 トランプ兵が40数体整列し、その一番後ろにはジャバウォックが立っていた。だが通常のサーヴァントを一瞬で葬る一撃はトランプ兵を尽く飲み込み、ジャバウォックを容易く侵食していく。

 

「私が折れない限りこの盾は砕けず、欠けず、染まらない。故に我が勝利は揺るがず、故に我は勇者。『古香る勇者の名盾(レトロニア)』──ッ!!」

 

 この攻撃は止め切ってはいけない。止めれば次をすかさず打ってくるだろう。だから今が最大の好機。

 

 ステップ4【切り分け、盛り付け、ゴールデン】

 

「決めて、ゴールデン!!」

 

「おうよ!」

 

 ゴールデンの筋力ランクは元々高い。そして可笑しい事に怪力やら天性の肉体やらと筋力ランクに上方補正を掛けるものも所有している。つまり脳筋(パワー)イズ正義(ジャスティス)

 

 ゴールデンの鉞である黄金喰い(ゴールデンイーター)は雷鳴という唸り声を上げ、放電という咆哮を起こす。15個のカードリッジを消費する最大火力。これが坂田金時の今の全力。

 

黄金衝撃(ゴールデンスパーク)

 

 ゴールデン本人の声さえ掻き消す衝撃が個人へと叩き付けられる。これを退ける存在は早々いないだろう。まぁ敵が普通に収まる存在であればだが─

 

「今回も随分引っ掻き回した様だな勇者」

 

「化けの皮くらい剥がさせなさいよ魔術王」

 

 清姫の攻撃で服が焦げる以外のダメージは見られず、ゴールデンの攻撃なんて完全無効化してる。上手く偽っているけれどやはり人類悪としての権能は発動しているみたいね。ネガ・〇〇系は通常の英霊に対しては相性が悪すぎる。

 

「霊基が罅割れるくらいの一撃だってぇのに無傷かよ…」

 

「貴様ら凡百な英霊がどんなに身を切っても私には通らんさ」

 

 清姫の攻撃は通るじゃん、とは言ってはいけない。

 

「私とエリザの愛の一撃は効いているようですけれど」

 

 言っちゃだめだって。可哀想でしょ。

 

「しかし帰ろうとしたのも束の間、帰り道に思わぬ大穴を見つけてしまったな。埋めてしまうのも良いが、自然に塞がっていくのを眺めるのもまた一興。貴様には諦めろとは言わん、慈悲もくれてやる気も無い。足掻けよ勇者」

 

 余りに一方的な言葉。会話を交わす気もない様で言いたいことは言い切ったと言わんばかりに微笑を浮かべて帰る体勢だ。

 あと清姫の発言はどこかへ吹き飛ばしたようだ。そして帰ろうとすんな。

 

「ちょっと待ちなさいアンタ」

 

 魔術王は待たない。

 

「待てって言ってるでしょうが!」

 

 手頃な瓦礫を投げつけて無理矢理止めに掛かる。どうせ障壁みたいなのに阻まれるだろうが全力で投げつける。

 

 けれど─

 

「──ヌグァ!?」

 

 私の、そして恐らく魔術王の予想に大きく反して瓦礫は物の見事に後頭部に直撃した。ギャグみたいに大量の鮮血を撒き散らしながら痛みに悶える魔術王はそのまま帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャグ時空は人理を救うかもしれない。




我ながら酷いな(自画自賛)

あと予定話数を越えたくないと言う私のわがままで色々おざなりになったことは謝罪致します。申し訳ねぇ。

そろそろお茶濁し回でも挟むべきかな…取り敢えず待たれよ次回!


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地元民に愛される勇者がはにかむ姿を見て尊死する狂愛士の構図を斜めから傍観する同士諸君の図

お久しぶりですね皆さん!
覚えていますかねこの小説。至って平々凡々とした作品なので記憶から抜け落ちている人も居るかも知れませんね…

いつも通りサブタイには深い意味はありません。フィーリングです!

あとこの話は出す機会がなかったチェイテ周辺のお話ですので人理とか関係無いです。いやこの小説って人理とか二の次だったか…
とりあえず清エリを求める方だけこの先を進んで下さい。


 第四特異点が気付けば終わり、チェイテに帰還して幾ばくかの時間が経った。私は朝昼晩の栄養バランスの整った食事とボディのメンテナンスを欠かさずこなし、ボイストレーニングで自分を酔わせる日々を送っている。

 

 清姫も同様に家事全般から私のマネージメントまで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

 最近では暴走の機会も減って来てる様に思える為、お風呂で背中を洗いあったり、交換で耳かきをしてみたり、手を繋ぎあいながら同衾したりと仲の良い姉妹の様に過ごすのが通例だ。

 

「大浴場を増設して良かったわ。色合いが(エリちゃん)故にラブなホテル感が否めないけど慣れればどうってこともないし」

 

 件の黒とピンクのチェックのタイルが並ぶ浴場で大きく吐息を吐きながら私はくつろぐ。

 

 お仕事のオファーが来るのは大抵月単位で暇が多い。よって手持ち無沙汰な分様々な事に挑戦しこの様な大浴場を作ってしまうことも多々ある。陣地作成と道具作成が職人エリザベートを作った。

 

 今に始まったことではないけれど清姫ももの作りに精を出している。何故かヘルメットに大工道具が似合う女に日々近付いている彼女を見ると正気度が減るのよね…何でこうなるまで放っておいたんだ。

 

「えぇ二人きり(・・・・)で大きな浴槽を独占出来る事は贅沢で素敵ですわ」

 

「アンタが背中のみならず前まで洗おうとしなければ私も素直に同意できるんだけどねぇ」

 

「枕であぴぃるしてどれほど経つか。反応を一切示してくださらないのならこの様にするしか…はぅう、エリザのスベスベ肌に溶けてしまいたい」

 

 撓垂れ掛かる彼女は小柄な私にとっては凶器だ。着痩せする清姫が狂愛士キャストオフしてる今、持つもの持たざるものでせめぎ合っているのだから。まぁ柔らかいことけしからん!

 

「だってアンタが言うあの枕って表に『YES』、裏に『はい』じゃない」

 

「何時でも何処でも来いと言う声明ですから」

 

「言葉だけなら無駄に男前ね」

 

 果たし状かな?

 

 尻尾でペちペちと水面を叩き目を閉じる。指先で私の頬をつついて来る清姫を思考から追い出して数分、私は閃いた。

 

「領民の生活向上に務めるべきかしら」

 

「そう言えば居ましたね領民…」

 

 私と領民の関係はあまり良くない。仲が悪い訳では無いだろうが、私が仕事して無いのがよろしくないという事。領民は私に食糧と税金を支払っているのに私は何一つ還元していない。これほっとくとメカな私が大激怒よ。

 

「溜め込んでいるだけの財力は経済にとって毒でしか無いはず。ここは何処ぞの皇帝の様に散財してやるべきかしら」

 

「しかし具体的には?」

 

「家畜はPOPするし、穀物とかも目を離せば直ぐに収穫期。洞窟にはドラゴンが居るくらい日々に刺激がある上、兵隊達が駐在してるから安全」

 

 これもう私がとやかくする必要がないのではないかと唸るばかりだ。作った魔具をバラ撒けばいいのか、コンサートや握手会でも開けばいいのか。新曲を出すにもインスピレーションが湧かないし。

 

 いや待てよ─

 

「デートしましょ清姫!」

 

「……ひゃい?」

 

「変装して行かないとね。お忍びよお忍び!」

 

「お忍びでぇと…」

 

 サングラスと帽子は必須だとして、果たして庶民服で私の溢れ出るアイドルオーラが抑え切れるかどうか。流石エリザ何着てもラブリー&キュートに仕上がってしまう。

 

「何をもたもたしてるの清姫。アンタも着替えるの!」

 

「わ、私もですか? これが一張羅何ですけれど」

 

「え、私の服あるじゃない。背丈も言う程変わらないし着れるでしょ?」

 

 バリエーションに富んだ服飾の数々は私の執念を言葉にせずとも伝えるだろう。今ではチェイテの一層がショッピングモールのファッションコーナーと化した。哀れかなチェイテ城。

 

「いやエリザの服は流石に…」

 

「私と清姫の仲じゃない。遠慮しなくてもいいわ」

 

「いえそうではなく、えっと、その、あの胸がキツいのです…」

 

 この後めちゃくちゃ採寸した。

 

 

◇◆◇

 

 

 圧倒的胸囲格差により無い胸が痛んだ気がしたが別にそんなことはなかった。そもそも私のエリザボディは完成系にして完全無敵鉄壁の極致に至っているから何の問題は無いのだ。貧乳はステータスでありその希少さと尊さは尊んで然るべきなんだよ。世のブタやリス(ファン)共は私の姿を見ては手を組んで跪くのがお似合いなの。て言うか跪け、咽び泣け、悲鳴を上げろ、私を崇め奉れ。

 

「そもそも何で巨乳がプラスで貧乳がマイナスと言う概念が確立したのかしら。美麗であればどちらもプラスじゃないの。男性の大部分が巨乳派だからだとしても現代であれば女性の地位向上によって女性が自立して生きる道も大きく開けた。なのに昨今バストアップやヒップアップに務める文化が更なる躍進を見せている。やはり大は小を兼ねると言う言葉が生まれるほど固定概念化された巨乳正義は揺るがないのね」

 

 よしアルテラ呼んでこよう。

 

「出ていけないナニカが漏れ出てます!」

 

「世界が、憎い……」

 

 

閑話休題(エリちゃん可愛いヤッター)

 

 頭には角を飾りに誤認させる為に髪と同色のカチューシャと目元を隠す為の丸いサングラスを装着。後はローズピンクのシンプルなワンピースにカーキグリーンのジャケットボレロを羽織るだけ。足元もサンダルだけでいいでしょう。これで何処にでもいる一般美少女。

 

「角が隠せない時点で正体バレバレなのはアホ可愛いので黙っていましょうか」

 

「なんか言った?」

 

「エリザ可愛いとしか言っていませんよ」

 

 何か馬鹿にされたと私のエリザセンスが感知したんだけれど、まぁ清姫さんは正直者なのできっと気の所為ね。うんそれにしても洋服の清姫も新鮮でいいわ。

 

「アンタも十分似合うじゃない。それでこそ私の相棒(パートナー)ね!」

 

「もぉ、煽てたって私しか出てきませんよ!」

 

 たぶん今夜の夕飯に一品増える。あとどさくさに紛れたボディタッチが露骨になる。そういう所なんだよ清姫。

 

「じゃあデート兼視察に行くわよ」

 

 門を開け放ち、互いに手を引き合って和気藹々とチェイテを出た。道中スポーンしたスケルトンやウェアウルフ、ワイバーンはもれなく謎魔術により出現したカボチャの錆になった。魔力放出は小枝でさえ弱者を容易く葬る凶器になる。カボチャなら投擲後に爆発炎上するので殺傷性に拍車がかかる。

 

 大きめな多頭蛇も居たようだがカボチャには勝てなかったよ。

 

 石造りの道に大広間を中心としてレンガの建物が並んでいる。人通りもそれなり、店も活気に溢れた酒場からちょっと怪しい路地裏の古書店まで様々だ。

 

「まぁ悪くないんじゃないかしら!」

 

 悪くない。

 それが私が下した第一印象から得た評価だ。強いて言うならばもう少し領主たる私の影を見せていた方が良いと思ったり思ったり、思ったりね。

 

「まずここの責任者の所ね」

 

「その後ででぇとですね!」

 

 清姫も乗り気な内に一気に店を回りたい所、とりあえずここの町長的なポジションを持つ人物に挨拶といこうか。

 

 

 特にこれといったアクションも無く役所まで辿り着いた。通り過ぎて行く人がチラチラと見てきたけど、たぶん私のオーラが隠し切れなかったんだろう。やはり美少女は罪だわ。

 

「邪魔するわ!」

 

「最早お忍びでは無いですねコレ」

 

 正体がバレなきゃ問題無いんですよ。

 あと─

 

「─目立ちたい!」

 

「特異点では嫌という程目立っているじゃないですか」

 

「それはビキニアーマーのせいでしょ!」

 

 そりゃ裸同然の恰好してたら目立つでしょうよ。でもそれは変態だとか痴女だとかそういう注目じゃない。実際初対面の清姫に痴女だと言われたし。

 

「確かに脱げばいいってもんじゃないという事は私にも理解出来ますよ。布を剥ぐ喜びを─」

 

「えっ…」

 

 私の着替えの手伝いをしてると見せかけてこのバカ蛇は自身の情欲を満たしていた? 最近大人しいと思って居たのは単に私が気付かなかっただけ!?

 ギリギリを見極めながら犯行に及ぶ知能犯にレベルアップしていたと言うの…

 

「今思えば脱衣所で清姫に脱がして貰うのが当たり前になってたわね。なんて狡猾な蛇! 貞淑な振舞いや大和撫子ムーヴは何処に置いてきたの!?」

 

「最近刑部さんに教材を送ってもらいまして、同性特有の身体的精神的な近さを研究致しましたの。結果は文句無しの大成功でしたわ」

 

 男の娘やら百合やら明らかに清姫にとって猛毒なサブカルチャーを教え込んだ奴が居るらしい。と言うかまた狐じゃないかコレ!?

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇ────っ!!」

 

 これが所謂、洗脳・催眠・調教!?

 いやいや私の対魔力はAランクだ魔術とか効かんし、呪術だったら駄目か? だとすると…

 

「やっぱり狐かァ!」

 

「全く関係のないタマモさんが火傷しましたね。ここに来て刑部さんにも"へいと"が分散されましたし上乗」

 

「やだこの娘悪どい!?」

 

「恋は戦場ですので裏切り化かし合うのは普通ですね。心配なさらずとも私は嘘は吐きませんよ嘘だけは…フフ」

 

 堂々と裏切るんですね分かります。暗黒微笑こわひ。

 

 なお、これを町長さんの眼前で行われている。しかもノックもなく、扉を開けたと同時に茶番が始まっため、一度たりとも町長とは会話をしていない。

 初対面も初対面であるのにも関わらずいきなりお偉いさんが言い争いを始めたとなれば恐らく戸惑っているだろう。

 

「お気になさらずどうぞお続け下さい」

 

 特に狼狽えることも無く町長は私たちにそう言ってのけた。その手にはカメラがある。明らかに時代にそぐわないオーパーツだけど、書斎机の上に置かれたダンボールで全てを察した。ちょっと仕事早すぎんよアマゾネス。

 

 何となく察していたけどギャグ時空その物の空間に住んでいる住民もギャグ深度が手遅れなのね。

 

「丁度此処に"ぶろまいど"が」

 

「言い値で買いましょう!」

 

「いえ、後でそれを分けて貰えればそれで」

 

 清姫と町長は堅い握手と友情を育んだ。

 

「それで勇者様はどの様な御用向きでこちらへ?」

 

「流石町長ね私のパーフェクトな変装を見破るだなんて」

 

「その設定生きてたんですね…」

 

 今回はありのままの領民の姿を見て、これからの税金の使い方を考えるんだから。勇者のエリザベートとしてアイドルのエリザベートとして行動してたら私に釘付けで平静じゃ居られないのは目に見えてる。

 

 と言うか既に町長が一人私の魅力にシャッターが止まらない。ビキニアーマーだったら即死だった──っ!?

 

「ふにゃん!?」

 

 明らかに下着の感触が消えた。その代わりに革とも金属とも取れる不思議な感触がひんやりと私の胸と股に残った。何処か慣れ親しんだ不快感だ。

 

 間違いなく私はお気に入りの下着をチョイスして着てたはずだ。断じて呪われた防具なんて装備して来ていない。そもそも帰ったら地下に秒で封印してる。

 

「遂に特異点以外でも干渉してくるかこの痴女装備が!」

 

「今の一瞬、撮れましたか?」

 

「もちろんですプロですから」

 

 遂にビキニアーマーはフラグを感知し強制換装をして来るらしい。服の下だからセーフと言う嘲笑混じりの戯言がこの呪具から聞こえるようだ。んなわけないでしょうが、着てるだけで不快だわ。

 

 だが幸いな事にここでは呪いの装備も脱げる。

 

「町長! この街にランジェリーショップは?」

 

「ございますとも。宜しければご案内致しますが?」

 

 甘かったなビッチアーマー。私は貴様を脱ぎ捨て自由になる。

 

「行くわよ清姫、間に合わなくなっても知らないから!」

 

「えぇ清姫は何処までもついて行きますわ」

 

「フィッティングルームの中までは入ってこないでね!」

 

 小さい舌打ちが聞こえた。清姫の笑顔は少しも揺らがない。こわひ。

 

 下着と言うのは個人個人で最適なサイズ存在する。ボディラインの維持はいつの世の女性にとっても最大の課題であり、使命だと言える。よってそれらの助けとなる女性下着メーカーは素材を吟味しカップを研究しデザインに頭を悩ませる。

 

 つまりそこまで研磨された下着を私も着るのだが、もちろん採寸をされる訳だ。

 

「私のエリザ私エリザ私のエリザ私の──」

 

「ひえぇ…」

 

 流石に身体との距離が近くにならざるを得ない状況だと落ち着いてきた清姫と言えどもジェラシーに身を焦がすらしい。比喩ではなく本当に身を焦がしているのが恐ろしすぎる。

 

「や、やはり私も試着室に入った方がいいと思うんです!」

 

「いやいや何がやはりなのか1ミクロンも理解出来ないんですけど?」

 

「ほ、他の女性がエリザの着替えを覗かないように私が超至近距離で護衛を!」

 

「その状況だと清姫越しでも見られるでしょ?」

 

「私でお隠し致します。私が『最終防衛らいん』です!」

 

 真面目な顔で何をアホな事言っているんだこの娘。

 

「心配はご無用です。私は熱感知が出来ますので泥に塗れるなどしない限り対象を逃がしません」

 

 何で試着するだけでそこまで大事になるのか私には理解不能だが、清姫の使命感溢れる表情を曇らせるのもアレなので業腹だが縦に頷いてやる。

 

「下着は私が受け取りますので、エリザはそこに立っていて下さいませ。脱がすのも、着せるのも、見るのも私だけで事足りますから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは私だけで事足りるわ! 護衛って目的どこ行った!?」




女性下着専門店とかはよく見ますが男性下着専門店って見ませんよねってお話でしたね。おかしい事に最初は本当にただのデートシーンを書く気だったんですよ。何処で間違えたのだろう。

カルデアについても近々書かないとなって思ってるので、暫く清エリで誤魔化しつつ設定を垂れ流してみましょうか…


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メカエリ軍団始動────

久しぶり、待った?
待っていた人はごめんなさい。待ってなかった人は正しい判断です。

執筆中に著しいIQダウンがあった気がする。誰かにデバフでも掛けられたのだろうか……

遅かった理由は簡単です。
モチベーションの維持が難しい!
これに尽きる。


 チェイテのとあるワンフロア。

 そこはどう形容すればいいのか困る場所。

 

 そう一言で言えばロボット工場だった。いやロボットと言うのは怒られるので言い直します。

 

 そう一言で言えば──メカ工場!!

 

「ふっふっふっ、清姫くん見たまえよ素晴らしい数だ。具体的な数は把握してないけど、取り敢えず凄い数だわ!」

 

「えぇ、右を見ても左を見ても何処を見てもエリザがいっぱいです。いい景色ですねぇ」

 

 日がな一日ドラゴンやらバイコーンやらの討伐に明け暮れ、驚きのスピードで貯まる金と素材。さてどの様に消費すべきかと悩んだ。それはもう悩んだ。どれくらい悩んだか。言うなれば三日くらい清姫に介護されるくらいには悩んだ。あとその時の清姫はとても満足げだった。私は楽だった。

 

 そして私は気付いたのだ。メカな私を量産すれば良いじゃない、と。統率機を2体、量産機を沢山、超弩級を1体。メイガス・エイジス・エリザベート・チャンネル略してメカエリチャンの大量生産ラインを確保。物量作戦を可能にし、人海戦術を用いて特異点の修復を図る。

 

 かがく(?)のちからってすげー!

 

 これで私は世界を救う。一切血を─メカだから─流さず世界を救ってみせる。これはクレバーでスマートな作戦だ。更に燃料は『エリザ粒子』なる私から無意識で漏れ出る謎物質。

 

 教授? いらないわそんな犯罪紳士。我がチェイテの科学力()で成したのだ。──我がチェイテ城の科学力は世界一ィィ!!!

 

「勝ちましたね」

 

「えぇ」

 

 この聖杯探索我々の勝利だ。

 

「ただ動力源がエリザである以上全力出撃は……」

 

「一度持てば良いのよ。それに現地で補給も出来るし案外どうにかなるかも」

 

 ゲリラライブで相当量のエリザ粒子を捻出する事が可能だとココ最近の実証実験で分かっている。

 

 統率機は既に本格稼働、問題は量産機が何処まで動くのか、そしてエリザ粒子の消費量。超弩級は量産機を射出・収容する母艦の役割が強いからそこまで気にしてない。あとミサイル打つ為の固定砲台としても有用。スゴいぞ、強いぞ、メカエリ軍団!

 

「税金で国力の強化と技術の発展。まさに求められていたのはテクノロジーのエボリューションによるレボリューション! ぶっちゃけ宝物庫に死蔵するばかりのQPたちを解き放てて良かったッ!!」

 

「危うく宝物庫を増設に着手する所でしたものね。いえ、いっそ作ります?」

 

「まぁ最悪空間を広げればいいし後回しで良いんじゃない?」

 

「言うことのレベルが可笑しい事にいい加減ツッコミを入れるべきですね。私たち以外が」

 

 それはないものねだりって奴でしてよ。あと私の領域で常識の方が非常識だってこのエリザ人生で大いに学んだわ。たぶんやろうと思えばなんでも出来るんじゃない?

 

 ──勇者よ……

 

「あ、プロデューサー?」

 

 ──フッ、出撃だ

 

「ぁ、うん勇者エリザベート・バートリー出撃しマース」

 

 なんか今日はプロデューサーもノリノリだな。

 

「じゃあ行くわよ清姫!」

 

「はい!」

 

 

◇◆◇

 

 

 引っ張られる感覚と白い視界という最早慣れて特別感も完全に失われた召喚。晴れた光景は荒野であった。そして黒き槍兵の王とピンクの女王。

 

 この特異点のラスボスの姿である。

 

「こういう時のラスボス戦は負けイベントって相場が決まって居るのよ!」

 

「……なんだコイツは、敵か?」

 

「さぁ、抑止力に召喚された野良でしょどうせ。クーちゃんの敵じゃないわ」

 

 クー・フーリン〔オルタ〕に女王メイヴ。後者はチーズの弾丸を打ち続ければその内勝てるとして、問題は前者の方だ。正直バサクレスといい勝負でキツい。スカサハを打倒する実力は生半可じゃあ勝てないってよく分かる。あとギャグ時空に持ってくるのに苦労しそう。

 

 なんも小細工も無しに挑むのは無謀。なので私は清姫を抱き寄せてトンズラこく準備に入る。

 

「まぁ敵かそうじゃないかなんて言うのは関係ねぇか」

 

「えぇそうね殺るなら思いっ切りがいい方が素敵。私の為に思う存分力を使って。虫の様に叩いて潰して。私たちの進む道に足を踏み入れたらそれはもう敵よ」

 

 既に清姫は抱き上げた。魔力放出の準備も問題はない。逃げる算段はついている。

 

 しかし唯一済んでいない事項を挙げるなら。

 

「飛ぶわよ清姫。舌噛まないでよね!」

 

「はぁい」

 

 清姫への確認くらいだったかしら。

 

「逃がすか」

 

「いいえ逃げるわ!」

 

 能面の様な顔からは想像だにしない威圧感と濃密な死の気配を孕んだ槍の刺突は僅かに頬を掠め、猛追をもって私の心臓を穿たんと振るわれた。

 

 けれど初撃で私を倒せない時点で私の逃走は阻止出来ない。

 

「この傷の礼は高くつくわよ」

 

 脚力に回した魔力を一気に解放し、蜘蛛の巣上に砕かれた地面を残してその場を離脱する。現在は上空に吹っ飛んでいる。

 

 このままではただの凄い跳躍になる所だが私にはそろそろ忘れたか羽がある。飛行訓練したかいがあったのが少し悲しい。逃走手段として使う事になるとは思わなかった。

 

「取り敢えず拠点と服の確保が必要ね。特に服!」

 

「私はそのままでも一向に構いません」

 

「私が構うのよ」

 

「寧ろ推奨致します」

 

 うんいつも通り人の話を聞いちゃくれない。清姫らしいのでこの際目はつむっちゃいますが、小言のひとつでも効いてくれれば良いのに。

 

「──ッ!?」

 

「……来ますね」

 

 背後に高魔力反応。ドスの効いた朱色に輝く一条の光と言えば思い浮かぶのは単純な事。

 

「宝具の真名解放!? 確殺しに来てる!!?」

 

「そういえば何処かのエリザが言ってましたね。こういう時に遭遇するらすぼすは負けいべんとだと」

 

 私が悪いの?

 いやごめんって、まさかアレが本当にフラグになるとは思わないって。というかアレはアレだよね『抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイボルク)』ってやつですよね。心臓を穿ったという結果が定められた呪槍。因果逆転の必中槍。心臓を穿てないゲイボルクじゃない実績のあるゲイボルク。

 

 いや逃げたら案外そのまま逃がすと予想していただけにこれは予想外。まさかいきなりクライマックス宝具ブッパだなんて。限凸のカレスコでも積んでるんですかね。

 

「まぁ近距離だともっとエグいの来る可能性あったしマシかな」

 

「これはこれでピンチですが」

 

「この程度をピンチに数えてたらアイドルなんてやってられないっての!」

 

 答えは得た。大丈夫だよ清姫私もこれから、というか今から頑張って行くから。

 

 虚空から取り出したるは勇者の盾。その特性は持ち主である私の心が折れない限り破壊されない。欠けることや罅が入る事さえない。物足りなくなるほどシンプルだが、盾としてはこれ以上ない程に強力な我が宝具。

 

 さぁ穿けるものなら穿いてみろ。私の心臓は此処にあるわよ。

 

 

「──『古香る勇者の名盾(レトロニア)』ッ!!」

 

 

 中空で翻り私は宝具の名を叫ぶ。金槌で鉄を叩く様な音が直後に響くと続いて耳に障る甲高い金属音が突き出したレトロニアから聞こえる。火花が散るたびに盾を握る手が震え、身体にくる衝撃が私に冷たい汗を流させにくる。

 

 そういえばこの火花って盾が削れてるのか槍が削れてるのかどっちなんだろうか。私の盾は削れないっていうのが売り文句なはずだから槍だよねたぶん。もしかしてゲイボルクって脆いんかな。案外膝でポッキリ折れるのでは。よしもしも心臓を穿たれたら腹いせに絶対に折ろうそうしよう。というか頬に掠った時にスッパリ切れて血が出てるし問答無用で折りに掛かっても良いんじゃないか。だって私はアイドルで美少女。お顔は命。これはもう心臓を穿たれたも同然ですよ。よし折ろう。絶対折ろう。──て言うか折る!

 

「折れろォ!!!!」

 

 エリザの吼える。

 

 ゲイボルクは逃走した。

 

 180度綺麗にターンして全速力で担い手の元へと帰った。ゲイボルクは賢い槍だ。後でキャットにニンジンをやろう。……まずい思考がバーサーカーに乗っ取られそうだ。

 

「バーサーカーは使用容量を守って服用しましょう……」

 

 何はともあれ逃げ切った。三点ヒーロー着地を決めきった私は片腕に収まる清姫を降ろして名剣エイティーンを地面へ突き刺す。使う機会がそこそこ多い陣地作成のお時間だオラァン。

 

「媒介は私で十分。リソースはちょっと龍脈から拝借。いくわよ、いでよ我がチェイテの技術により完成した圧倒的武力!!」

 

 剣を起点に現れた魔術陣は巨大なメカを構築する。私たちを覆うように作られていくのはコックピットと言うには些か大き過ぎる機体内部。

 

 その場所こそメカの中枢である事は間違いない訳だが本当に大きい。某宇宙戦艦か此処はと言わんばかりの全容であり、嘘か誠かそれぞれの機器は全て正常に役割を果たすと言う。理由は製作者にも不明だ。

 

 巨大さ、強さ、可愛さ。全てが世界水準を大きく超える。それこそが超弩級メイガス・エイジス・エリザベート・チャンネルである。震えるがいいこの圧倒的な力と驚愕的可愛さに。

 

「超弩級メカエリチャン。起動ッ──!!」

 

 台座に収まるエイティーンにエリザ粒子を何となくで注ぎ込む。超弩級メカエリチャンの瞳は『キュピーン』と妖しい光を放ち、滑走路になる両腕を地面と平行になる様に左右へと伸ばす。これがこの機体の基本となる状態にある。

 

 

《システム・オールグリーン》

 

《エリザ粒子のエネルギー総量85%を維持》

 

《統率機2体の起動準備完了》

 

《量産機1620万7907体の起動準備完了まで約3分》

 

起動してから3分間よ(搭乗を確認しました。おかえりなさい)、エリザベート艦長》

 

 

 お湯を入れて3分間で出来上がる即席麺の様な手軽さで猛威を振るうメカエリチャン軍団。ケルト? 機械化歩兵? 所詮奴らは『質』か『量』かの片方しか実現出来なかった敗北者よ。

 

 質で勝り、量でも勝る。冷血冷酷(オイルブラッド)を体現し、必ず対象を撃滅してみせましょう。

 

「メカエリチャン、メカエリチャンⅡ号機を起動」

 

《両機の起動を確認。モニターに出すわ》

 

 二つに並ぶモニターにはそれぞれのメカエリチャンの姿が映る。鮮やかな配色が施された『メカエリチャン』、鈍色でメカメカしさを残す『メカエリチャンⅡ号機』。

 

『予定の時間に幾らかの遅れが出てる件について勿論説明はありますね艦長?』

 

『無駄な雑談に興じる時間は無いわ。速やかに敵を排除しましょう。それで敵は何処なの?』

 

『無駄とはなんなのⅡ号機。空白の時間を知ることにオイル一滴足りとも意味は無いとでも言うのかしら?』

 

『フッ()』

 

『ムカつきました。やはり雌雄を決する必要があるようですねⅡ号機』

 

『巨大ロボの建造計画さえ話に出ないⅠ号機に勝ち目はないわ』

 

『構想から一歩も進まない建造計画でマウントなんて恥ずかしくないのかしら、人心回路がショートしてるの? 言っておくけど私たち姉妹機に性能差は無いわ』

 

 根元は同じ統率機2体、けれど絶対に相容れない。起動してたった数秒で喧嘩する程姉妹仲はよろしくない。何故私をモデルに作られたのにここまで違ってしまったのか皆目見当がつかない。いやエリちゃんはエリちゃんだったと考えたら辻褄が合ってしまうな!?

 

 まぁ何はともあれこの2体は私である事に間違いない。故に─

 

「あらあら駄目ですよ二人とも。姉妹は仲良くです。あんまり聞き分けが悪いと私としてはとても困ったことになります。言いたいこと分かって頂けますか?」

 

『『……はい』』

 

 ──清姫に滅法弱い。

 

 モニター越しの一睨みで鋼鉄の肌を青褪めさせるメカエリ姉妹。情けないメカたちだと言い捨てられたらどれ程楽か。残念ながら私もあの笑顔の裏から滲み出た黒い物を見たならば同じかそれ以上に酷い醜態を晒す自信がある。

 

《3分経過、量産機の全力出撃準備完了》

 

「じゃあ作戦準備も出来たって事でブリーフィングはササッと済ませるわよ。まず今回の勝利条件は言われるまでもなくメイヴの持つ聖杯の回収よ」

 

 今はまだメイヴが聖杯を所持している。実際私のエリザセンスで確認もしたので間違いない。初っ端会えたのはある意味では運が良かったのかも。

 

「メイヴには常にクー・フーリンのオルタが張り付いてる。更にしぶといケルト兵と英霊までも居る。だからⅠ号機は量産機を率いてケルト兵を撃滅し敵の力を削いで。削げば削ぐほど子ジカたちが動きやすい環境が作れるはずよ」

 

『了解よ』

 

「Ⅱ号機は野良サーヴァントの捜索。アタシが間違いなく居るので即刻確保してちょうだい。居るであろう野良サーヴァントのリストは既にインプット済みだから移動中に閲覧して。再三言うけどアタシは確保よ!」

 

『……』

 

 Ⅱ号機の言いたいことは分かる。でもこればかりは仕方がないのよ。私はエリザベート・バートリー、アレもエリザベート・バートリー、大体同じ存在で理論上は今作戦のキーマンになり得る存在。まぁ賭けではあるけれど。

 

「私は?」

 

「清姫は私の横に居れば良いわ。と言うか下手に動かないでお願いだから!」

 

「では遠慮なく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピッタリくっ付けとは言ってない!!?」




一応補足しますと巨大メカエリチャンと超弩級メカエリチャンは同一の機体ではありません。

Q.何故こうなった?
A.知らんがな……やっぱ眠い時に書くのはダメかもしれん。

感想は私のモチベーションに変わるので随時募集中です。評価は暇な方だけどうぞ。



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私は私らしく世界を救う

みんな無事か!?
私は無事だ。

台風にビクつきながらこの話を仕上げてたぞ。ニュース見て震え上がってた。まさにワルプルギス……

今回は、と言うか今回も謎の設定を盛り込んだ。
そして清姫の出番は少ない。けど基本はエリちゃんの後ろでニコニコしてます。尊い、いいね?


ㅤドリル、ビーム、ミサイル、火炎放射、超音波。

 今の戦場に於いて最も飛び交っている兵器はこれらだ。ドリルは鋼の肉体を貫き、ビームはあらゆるものを溶かす。ミサイルで人は飛び、火炎でステーキにされ、超音波で爆ぜる。

 

 メカエリチャンの量産機一体につきケルト兵が何人犠牲になると思う?

 たくさんだ。

 

 ならば機械化歩兵は?

 めっちゃたくさんだ。

 

 そんな機体が空一面を埋めた。

 太陽光に反射して鈍い金属の色が空色を染めた。

 

 警告も無く、威嚇も無い。無機質な視線の数々はケルト兵や機械化歩兵などの区別を一切無くして前触れの無い絨毯爆撃を始めた。

 

 超音波で敵の動きを鈍らせ、間髪入れずミサイルを発射する。驚く程にケルト兵が宙を舞った。隊列を組んだ量産機は交互にビームと火炎放射を放ちながら一帯を焼き尽くし、難を逃れた者にも平等に急所をドリルで穿ち死を送った。

 

 そんな凄惨な戦場を私はモニター越しに眺めている。

 

「えげつない……」

 

「戦場というものはいくら時代を跨ごうともこの様なものですよ」

 

『害虫駆除は徹底的にした方がいいわ。ケルトの兵は特に念入りに叩かないと死なないから』

 

 戦場の指揮を執るⅠ号機は何処か楽しそうである。お母さんはそんな子に育てた(プログラム)した覚えはありません。清姫からもなんとか言ってくださいよ!

 

「一匹見つけたら十匹はいるって聞きますものね!」

 

「駄目みたいですね!」

 

 どうやら清姫たちには目の前の地獄を黒光りしたG軍の駆除にしか見えないらしい。いやそっちはそっちで地獄だわ。大量のGって私発狂しちゃう。

 

「まぁ引き続き駆除をお願い」

 

『了解。そして遂に自分から駆除と言い出したわね艦長』

 

「火炎放射器を持ち出した時点でこの特異点は世紀末と化したわ。汚物は消毒、害虫は駆除。当然の結論ね」

 

 もう一度考えたらGにしか見えないわあんなん。無尽蔵でしぶといとかもうほぼGじゃん。家庭の黒い悪魔だよ奴ら。紅い彗星で倒さなきゃ。

 

『Ⅱ号機からセントラルへ、Ⅱ号機からセントラルへ』

 

 Ⅰ号機の連絡が終わったと思えば次は戦力増強の為に出たⅡ号機から連絡が来た。モニターも同時に出たので状況はよく分かる。

 

「こちらセントラル。Ⅱ号機、視覚情報から察するにトラブルね」

 

『えぇ見ての通りよ』

 

 モニターに映るのはライオンだった。

 

『アメリカ大統王エジソンである!!』

 

 『Gahooo』と吠えるライオンは不思議な事に人語を返し首から下が人間だった。合成獣(キメラ)種かな?

 

『機械化歩兵にライオンとの面会に応じるように言われたからホワイトハウスまでひとっ飛びした、それでコレ』

 

「知らない人について行かないように言っておいたでしょ!」

 

『そんな事はプログラムされていない。そもそも知らない人では無く、知らないロボット。そして私は目標に従っただけよ』

 

 確かにライオンヘッド(エジソン)との接触も目標として登録してある。しかしかなり優先度は低いはずだ。飽くまでも第一目標はアタシ(エリちゃん)だから。

 

「さてはアンタ……アタシ(エリちゃん)との接触を引き伸ばしてるわね!」

 

『ぷい』

 

「あら分かりやすい。エリザにそっくりですわ」

 

「私はあんなあからさまに態度に出ないわよ!」

 

「無自覚と言うのは恐ろしいですね。まぁそこがまた良いんですが……ぽんこつかわいくて」

 

「アンタねぇ……」

 

 久々に清姫に対して一発殴ってやりたいと思ったがどうにもモニターに映るライオンが凄い咳払いをしだしたのでまた後で締める事にする。このライオンなんで噎せてんだろ。

 

「はじめまして大統王トーマス・エジソン。私はエリザベート・バートリー。職業アイドル兼勇者兼超弩級メカエリチャンの艦長よ」

 

「私は清姫、エリザ(・・・)の恋人兼エリザ(・・・)の妻兼エリザ(・・・)の秘書ですわ」

 

『肩書き多くないかね!? あと恋人兼妻ってそれ矛盾してね?』

 

「誤差ですわ」

 

『なんだ誤差か』

 

「いや直流と交流くらい違うと思うけど」

 

『全ッ然誤差じゃない──ッ!!』

 

 うむこのライオン打てば響く。ガオガオ響く。

 

「さて小粋なトークも結構だけどいい加減本題に入りましょう。私と話したい事って何かしら?」

 

 まぁ心当たりしかないが。

 

『率直に言おう。我々への攻撃をやめて頂きたい。敵は同じだろう?』

 

「言い掛かりよ。私は其方に攻撃は仕掛けていない」

 

『私の目にはケルト共々倒そうとしている様に見えるが?』

 

「偶々貴方のロボットがそこに居たのよ。コラテラル・ダメージ(副次的被害)、必要な犠牲だった」

 

『必要な犠牲? そんな理由で兵力を削がれる此方の身にもなって頂きたいものですな』

 

 表面だけ見ればエジソンは笑顔だ。獣の顔は表情が読み取りにくいがにこやかなのは間違いない。しかし話してみればわかる。

 

 

 ──コイツめっちゃ怒ってる!

 

 

「結果的にこの特異点が修復できれば良いのではないかしら?」

 

『ハッハッハ、小さなお嬢さん(リトル・レディ)は面白いことを言う。飽くまでこの(・・)特異点の事だろう? 私から言わせてもらえばそれでは意味がない。アメリカは、救われないからだ!』

 

 エジソンはアメリカだけはなんとか守り通そうと足掻いていたんでしょう。彼は利口だから配られたカードでは万人を救う事は不可能だと断じてしまった。この特異点が修復されても残り二つの特異点とラスボスとの戦いで敗れてしまえばアメリカ諸共消えるのだから。

 

『聖杯があれば改造する事でアメリカだけは難を逃れる。確証の無い勝利へ手を伸ばす位であれば安心安全懇切丁寧な未来を選ぶ。私はアメリカの代表として決断する義務と責任がある』

 

「その方法でアメリカを救っても世界は救われない。後味が悪いビターエンドよ」

 

『承知の上だとも、どれほどの罵詈雑言を浴びせかけられるとしても私はアメリカを救う。──救わねばならない』

 

 言葉尻に語気を強めるエジソンは毛を逆立たせ、力一杯に握る拳を振るう。さっきまでのギャグを払拭する程の迫力だ。

 

 最初から説得は諦めてはいたけど想像以上にガチガチの脳みそになっている。一度交流電気を流し込まれない限り梃子でも動きそうにない。お互いに電気が滑らせる仲のいいライバルが彼には居ないのだろうか。

 

 しかし祈っても野生の天才が現れることは無い。彼の出番はまだ先だから。よってエジソンを救う手立て無し。

 

「ならエジソン、貴方は私の敵に他ならない。人理を救う英雄が人理の焼却を速める行為に手を染める。到底見逃す事能わず」

 

『ならばどうする!』

 

「ケルトを倒し、聖杯を先に奪わせてもらう。貴方がアメリカ大統王としてアメリカを救う義務が有ると主張するならば、私は勇者として世界を救う義務が有る!」

 

 互いの意見は衝突し議論は平行線を辿る以上話し合いには既に意味は無い。早々にⅡ号機にはアタシ(エリちゃん)探しに戻ってもらおう。

 

 幸運、いやエジソンの厚意でカルナたちは居ない。居たとしても拘束はされないだろう。実際そこに居るのはメカだし。

 

「そう言えば貴方に言うべき言葉があったわ」

 

『何かな?』

 

「負けないでいてくれてありがとう」

 

『……』

 

 私は呆気にとられたエジソンにウィンクだけして通信を切った。ウィンクはファンサービスだ。きっと画面の向こうのブタたちは感動で泣いてるわ間違いない。事実清姫は私を見てアホ面を晒している。アンタにウィンクした訳じゃ無いってのに。

 

 話し合いは残念ながら決裂した訳だが、別にやる事は変わらない。寧ろ気兼ねなく両成敗出来るので楽まである。カルナを嗾けるなどされない限り私の負けはない。

 

《どうやらお客様が足下に来ているわ》

 

「お客様?」

 

「まぁ! ではお茶を用意しますね」

 

《映像出すわね》

 

 映し出されたのは予想外の人物。

 

『ムム、これは凄いな。余の彫刻に勝るとも劣らない。大きさと派手さだけならば大敗……クゥ、だが余の至極の劇場の方が絶対すごいもん!』

 

『ちょっとスカートの下が無防備過ぎるんじゃない!?』

 

『大丈夫大丈夫誰も見ませんて、見ても面白くともなんともないから』

 

 ヤベー奴(エリザベート)ヤベー奴(嫁ネロ)常識人(ロビンフッド)が居た。

 

『面白いわよ!!』

 

『それはそれで問題があるでしょ! オタク本当にめちゃくちゃだな!?』

 

 頑張れ緑茶、諦めるな緑茶、お前だけが頼りだ常識人(ロビンフッド)

 

 まぁ幸か不幸かと言えば幸な巡り合わせ。即刻Ⅱ号機の目標リストを更新し、通信のミュートを外す。

 

「よく来たわね!」

 

『その声はアタシ!? という事は勇者()なアタシね!』

 

 いつか会った時に自分を妹と称していたがまさか覚えていたとはね。正直厄介、私じゃなくても分かる。絶対姉と言う立場に託けてマウントを取ってくる。ウザ絡みしてくる。

 

「そうよ久しぶり、と言えばいいのかしらアタシ(エリザベート)

 

『何よ水臭いわねお姉様(・・・)でいいのに!』

 

 嫌味も無く言ってくるアタシ(エリザベート)、これだから始末に負えない。純粋にそう呼んで欲しいって気持ちが全面に出てる。しかも此処でお姉様と言わなかった場合拗ねるのが目に見えるのがエリザベートクオリティ。

 

「……えぇそうだったわねお姉様」

 

『オタク妹に嫌われてない? すっごい気になる間があった気がするんだけど。あと声がビックリするほどそっくり……』

 

『そんな訳ないでしょ! なんてったってアタシ(・・・)が姉よ、不満を漏らす要素なんてないんだから』

 

 いやエリザベート属エリザベート科に分類される者からすれば割りと汚点。今ならカーミラの気持ちがよく分かる。いや、カーミラからすれば私もアタシも特に変わりないかも……

 

『はいはいオタクに聞いたオレがバカでしたよっと。所でコチラの皇帝さんは何を黙り込んでいらっしゃる?』

 

『む? いやちょっと記憶に妙な引っ掛かりがな……まぁよいか』

 

 何やら不穏な予感が、いや最早暴君の気配が嫁ネロから発せられている。違うはずだ、私に乱暴を働こうとした皇帝は英霊でもない生の皇帝だった。

 

 いやしかし同一人物であることは確かだから要注意人物であるのは変わらない。此処は慎重に清姫を盾にしよう。助けて清姫、私を救いたまえ。

 

「取り敢えずタラップを出すからここまで登って来なさい。お茶くらい出すわ」

 

 それだけ言って通信を切る。

 

「あの三人を誘導しておいて」

 

《了解よ、艦長》

 

 さて何故私があのキャンキャン泣く愚姉を必要としたか説明せねばならない。

 

 この超弩級メカエリチャンはエリザ粒子を動力源に稼働しているのはみんな周知している事でしょう。けれど予め注入しておいたエリザ粒子ではこの特異点修復を成す前にガス欠を起こす。如何に私でも特異点修復に必要なエリザ粒子を一人で捻出するのは骨が折れるどころか粉砕骨折。

 

 そこで我が愚姉が必要になる。

 

「来たわよ!」

 

 一人で駄目なら二人でエリザ粒子を生み出せばいい。二人で歌えば相乗効果で数10倍に効率が高まる筈。そうすれば私たちを止めるものはこの特異点に居なくなる。いやインド勢二人が一斉に来たら流石にまずいけど。

 

「いやそっくりって言うか、完全に一致だろ。同一人物だろ……」

 

「ほほぉ、内装も中々……むむむー」

 

 ただ大きな問題が一つだけある。この一つが致命的なのよ。寧ろこの問題の為だけに魔術的防音室を用意した。

 

「そりゃそうよなんたって実際に同一人ぶッ───!?」

 

「行くわよお姉様!!」

 

「何処に!?」

 

 

 ──この愚姉、致命的な無自覚音痴である。

 

 

「レッスンスタジオ!!」

 

「へぁ!?」

 

 アタシの負性(ネガティブ)エリザ粒子ではこの超弩級メカエリチャンの燃料にはならない。私が放つ陽性(ポジティブ)エリザ粒子でなければ稼働しないのよ。それと私が幾ら陽性(ポジティブ)エリザ粒子を放とうと、アタシが陰性(ネガティブ)エリザ粒子を放ってしまえば中和してしまう。

 

 だが幸運な事にエリザベートという存在は心構え一つで歌声が変わる。自分の為でなく、他の誰か、もっと言えば気になるあの人? の為に歌えば忽ち世界一の歌声へと昇華する。

 

「姉妹でユニットを組む時が来たわ!」

 

「えぇえぇぇ!? 遂にその気になったのね勇者なアタシィ!!」

 

 渋々よ愚姉。

 

「清姫、残った二人をお願い! 後でエリクサーを差し入れて頂戴」

 

「はぁいエリザ、では御二方はこちらへどうぞ」

 

「うむ、ところでここの主は余と何処かであった事が?」

 

「存じませんね……ふふふ」

 

「助けて」

 

 頑張れ常識人(ロビンフッド)!!

 

 

 第五特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム にて、アイドルユニット:血濡れのドラクルシスターズを結成。

 ゲリラライブ緊急決定。チケットはフリー、席はお好きにどうぞ。ルールは一つだけ守って欲しいのよね。

 

 それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──死ぬまで楽しみなさい!!




なにこれぇー?

エリちゃんの口調がブレブレなのは単にカッコつけてるだけです。清姫は優しい微笑みで見守っていました。

感想はどしどし受け付けています。

───いのちだいじに───


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ドラシスのデビュー曲は『鋼鉄の鮮血姫』

お久しぶりですね!

いやぁクリスマスにあげようと思って書いたらいつの間にか過ぎ去り。
じゃあ年明け前までにと思っていたら過ぎ去り。
ならば三賀日中にと思っていたら今日まで来ました。

皆様の益々のご多幸を切に願いながら、今年もよろしくお願いします。


ㅤ私が思うエリザベートという少女は優秀である。

ㅤ頭の回転は早く、教えられた事を直ぐに記憶し実践へと移り、完璧に熟してみせる素養があるのだ。一言で言えば彼女は天才肌なのだと言えよう。

 

ㅤだが一方、エリザベートは純粋すぎるきらいがある。よく言えば純粋無垢で素直な綺麗な心の持ち主だと言えるが、悪く言えば単純で単細胞な自身の素養を生かしきれない可哀想な少女とも捉えられる。

 

ㅤ物事を冷静に俯瞰し考えられる力があるのに、悪と断定される様な行為を一度善と思い込めば他に止められるまで悪だと認識出来ない。

 

ㅤ故にエリザベート・バートリーを全肯定してはいけない。彼女は思い込みが激しいのだ。

 

ㅤつまり、私が声を大にして言いたいことは──

 

 

「──アンタの歌下手過ぎなのよ!!」

 

 

ㅤこれに尽きる。

 

「ハァ!? 何処がよ!」

 

「全部よ全部。私は一体お姉様の為に何回防音術式を補修しなきゃならないの?」

 

「アンタの魔術が貧弱なだけでしょ!」

 

「普通は歌で剥がれる様な魔術じゃないのよ。まず歌うだけでソニックブームなんて起こらない!」

 

ㅤ我が愚姉は歌が下手だ。最早下手と言う言葉さえ生温いくらいには音痴。しかも無自覚である所がより一層のたちの悪さを演出している。

 

ㅤまぁ音痴なのは私も人の事を言えたことではないけれど、自覚はあったし何より事前に対処法を心得ていたので愚姉より賢いのは確定的です。

 

「まずアイドルとは如何にしてアイドルたらしめるのか、お姉様は知ってるかしら?」

 

「アイドルの根底への問って事ね。それはキラキラしてて歌えて踊れて他を魅了するって事じゃない? つまりそれが出来ない者はアイドルじゃない。その点beauty&cute(綺麗で可愛い).アタシにはピッタリ」

 

「うんそうね」

 

ㅤ確かに何も間違えてないな。

 

「じゃあステージに上がったアイドルはファンに向けてどう言う態度で接するべき?」

 

「態度?」

 

「アイドルがステージに上がったならファンは私たちに期待をするのよ。これからどんなパフォーマンスが目の前に行われるかってね。そんなファンにアンタはどう言う感情を抱くの?」

 

「いや当然の事でしょ。ファンはそういうもの……アタシがどう思うか?」

 

ㅤ思わず頭を両手で覆った。やはりこの姉は圧倒的に足りない物がある。それは至って単純でパフォーマー全てが持って然るべき物。

 

ㅤそれはファンを大事にする心だ。

 

「私が思うアイドルはファン有りきなのよ。ファンが居るからアイドルが居るの。オーディエンスの居ない孤独なステージにアイドルは似合わない」

 

「ステージに立てば子ブタたちが居るでしょ?」

 

「満員御礼なんてものが当たり前なはずないでしょう」

 

ㅤ私はアタシの鼻先に指を突き付ける。

 

「まず来てくれた事に感謝し、期待してくれた事に感謝し、愛してくれる事に感謝する。その思いを身体に乗せてオーディエンスに返すの」

 

ㅤ誰かの為に歌い舞う事で私たちのアイドルとしての質は宇宙を跨ぐ。なんで愛され上手なのにそこだけが抜けるのか不思議でならないが、目の前の愚姉を見る限り理解不能だと脳が回答しているらしい。

 

ㅤ顔を右往左往させてあーでもないこーでもないと解答を中空に求めているのを見て小休憩でも入れるかと思案するタイミングでレッスンルームの扉が開いた。

 

「どうですか進捗の程は?」

 

「見ての通りよ」

 

ㅤあらあらと笑う清姫。

 

「先は長そうですね」

 

「他人の為に歌うって事がそんなに複雑かしら?」

 

ㅤ唇に扇子を押し付けた彼女は少しばかり困ったように笑っている。どうにも彼女たちにとってはこの問は難問らしい。精神が男性であるところの私では気付かない何かがあるのか?

 

「誰かのためになんて、そうそう出来るものじゃないですよ。いつだって人は自分の事で精一杯ですから」

 

「そういうものかしら?」

 

「そういうものです」

 

ㅤ手渡されるエリクサーで回復しつつ未だ四苦八苦する愚姉を見る。

 

「( ・᷄ὢ・᷅ )」

 

「ぶっさ」「あら可愛い」

 

「ん?」

 

ㅤこいつ最早エリザベートなら何でもいいのでは?

 

「一番は勿論貴女ですよ。安心して下さいね」

 

ㅤなんでナチュラルに心を読んで来るのか。正直問い質したら最後、精神をゴリっと削り取られる予感がするので聞かないでおくがそれとは関係なく怖いのでやめて欲しい。

 

「ところで答えは出たの?」

 

「うーん取り敢えずあれよねライブ開始時の『みんなー、今日はアタシの為に来てくれてありがとうー』みたいなものよね」

 

「当たらずとも遠からずってとこね。まぁ及第点ってとこでしょ」

 

ㅤ心構えさえしっかりとしていれば大丈夫だし。コツさえ掴んでしまえば普通に歌いきれる──と思いたい。

 

「じゃあその思いを念頭にダンスレッスンよ!」

 

ㅤそこからはトントン拍子。元よりエリザベート同士互いの息は自然と揃うし歌以外はそこそこ優秀なアタシは覚えが早かった。サーヴァントとしてのスペックで魅せる超絶ダンスは他の追随を許さないものに仕上がった筈。

 

ㅤ現にこのレッスンで発生したエリザ粒子の総量は私が一人で踊った時の10倍はあった。物理的なものに換算すれば超弩級メカエリチャンの武装であるミサイル150基(対城宝具相当)にあたる。勿論ちゃっかり回収したので150のミサイルは既に運用可能です。

 

ㅤこれでライブを成功出来たならばこの特異点は修復したも同義。

 

「ぐへへへ」

 

「あら可愛い」

 

「妹の将来が不安だわ」

 

ㅤおっと勇者らしからぬ悪どい笑いが漏れた。

 

ㅤ基礎が出来たならあとは走り抜けるだけ。まぁ歌で合格の判を押しても地獄のリハを残しているから決して平坦な道程ではなかったけれど、と言うか何リテイクしたか忘れる程にはトライアンドエラーだった。

 

ㅤ歌のキーが外れたらリテイク。パートを分けた箇所を間違えて歌ってもリテイク。歌と踊りがズレてもリテイク。互いの息が合わなくてもリテイク。笑顔が絶えたらリテイク。喧嘩してもリテイク。清姫が茶々を入れてきてもリテイク。

 

「まずなんで『リテイク』なのよ! これリハーサルよね!?」

 

「このモーションデータを加工してMV作るからに決まってんでしょうが。あとこれも映像に残ってるから、初回ライブムービーコンプリートBOXを売り出す際に封入特典として使うから」

 

「マジか!?」

 

「マジよ」

 

ㅤ編集すんの私だからこれ以上回数を重ねないで欲しい。──切実に!

 

ㅤだが虚しく響くリテイクの嵐。

ㅤ演出が気に入らなくてもリテイクだし、細かい調整を入れる度にリテイクだから終わりが見えない。

 

ㅤ仮に精根尽き果てて倒れようとも頭からエリクサーで強制的にリテイクである。つまり24時間働けますね。残念だったな愚姉よ、サーヴァントには労協やら労基はノータッチだ。

 

ㅤドツボにはまって来た微調整とリテイクの波涛の中にアラームが鳴る。これは敵が超弩級メカエリチャンの近くまで接近したという事。量産型メカエリチャンが哨戒してる中を突っ切って来たという事はただのケルト兵や改造ヘルタースケルターなんかじゃない。──つまりサーヴァント!

 

「アタシは休憩してなさい。清姫!」

 

「此処に」

 

ㅤ霊体化して直ぐに駆け付けた清姫は緊張した顔で私を見た。それ程のサーヴァントという事か。アルジュナとかカルナだったら計画が丸潰れよ【自主規制(エリちゃんカワイイ)】ッ!!

 

「『どりる』でした」

 

ㅤその言葉で思わず固まった。

 

「ドリルですって!?」

 

「量産型が最後に情報を送信して来ましたが……殆どが一突きだったと記録に残っています。一瞬だったとも」

 

ㅤ私の口から短い悲鳴が漏れる。真に恐るはアルジュナやカルナ、クー・フーリンでも無かった事に今気付いた。

 

ㅤ忘れていたのだあの男を。

ㅤ時に子どもに恐怖の声を上げさせる歯医者。

ㅤ時に監獄塔で現れた色欲の罪人。

ㅤ時に山を割り島を砕くドリルを携えた戦士。

ㅤその漢の名は──

 

「──フェルグス・マック・ロイ」

 

ㅤよりにもよって奴の存在を寸前まで忘れていただなんて艦長失格だ。フェルグスの持つ剣はランクで言えばかの聖剣エクスカリバーに勝るとも劣らない破壊力を秘めた宝具。

 

ㅤその真名を虹霓剣(カラドボルグ)。別名を螺旋剣という。つまりドリルだ。

 

「最悪だわ。まだステージ準備中だってのにゴジラが来た」

 

「ふぇるぐすという英霊はそれほどに厄介なのですか? 今までにも強大な英霊を相手取った気がしますが?」

 

「確かにアルテラやヘラクレスは強かった。でもどんなものでも相性ってものがあるのよ」

 

ㅤジークフリートと龍とか、信長に神とか、ジャックに女とか、スパルタクスに圧政者とか、黒ひげにドレイクとか。

 

「エリザとふぇるぐすの相性が悪いと?」

 

「まぁ女性を見たら直ぐに口説き出す気質は正直好かないけど、線引きした上での相性はそこそこよ。戦士としては実直だし、油断なく相手取れば辛勝ってとこでしょう」

 

「そんな軟派な方をエリザと会わせる? それはちょっと私許せませんね」

 

「あぁそこに反応しちゃうのね。でも大丈夫よあれは成人に満たない女性にまでは一定の節度を持ってるし」

 

ㅤまぁ節度を持ってるだけでその気なら部屋を予約してお持ち帰り準備をするんだけどね。私は勿論ノーです。清い体でいたいんだい!!

 

「それでもダメですよ!」

 

「いやでも──」

 

「ダメです!!」

 

「えぇ……」

 

ㅤ何故そこまで意固地になるのか分からない。今までは不本意にも前線で戦ってきたし、相応の修羅場()を潜り抜けて来たという自負もある。

 

「なんでダメなの?」

 

「……襲われたら傷になります」

 

「いや私がそう易々と辱めを受けるとかナイナイ」

 

ㅤ事に及ぼうものなら去勢拳よ去勢拳。安心させようと華麗な蹴りを見せてやっても清姫の表情は依然芳しくない。明らかに不満ですって感じ。

 

「気付いていらっしゃらないようなので、ハッキリきっちりちゃんと言わせて頂きます」

 

「あ、うん」

 

「私は知ってるんですこういう状況の事をお約束だと、そしてエリザの発言が『ふらぐ』なるものなんだと」

 

ㅤん? 雲行きが怪しいな。既に誰かがウチの清姫に入れ知恵したって勘のいいエリザベートは分かっちゃうんだよ。

 

ㅤタマモ?

 

ㅤキャット?

 

ㅤおっきー?

 

ㅤそれとも他の日本英霊?

 

ㅤ会ったらきちんと罪を精算させてやると心に決めて清姫に先を促す。笑顔を貼り付けながら。私は冷静、私ハ冷静ダ。

 

「これによるとですね」

 

ㅤそう言って取り出したブツは薄い冊子。表紙にはビキニアーマーを着た女戦士が居る。ビキニアーマーと言ってもなんかいい感じにズレていて、女戦士の表情は羞恥とそれ以外の理由で頬が赤い。そして僅かに顔には反抗の色が残っている様に見える。

 

ㅤそれは紛うことなき破廉恥な本であった。それもかなり際どい内容とみた。そしてその手の本の入手経路を持ち、清姫と親交がある存在はあいつしか居ない。

 

「またなのおっきー」

 

ㅤいや資料と称して幾つか漫画等を貸し出して居るとは聞いたけど、ここまで行き過ぎた内容とは思わなかったわ。

ㅤあと真面目な顔で同人誌を読んでるあたり本当に資料だと思っているのか、それとも慣れるほど読み込んだのか。

 

「いえいえこれはおっきーから借りたものではありませんよ」

 

「あれ、そうなの?」

 

「借りようと問い合わせてみたんですが持っていないと即答されまして」

 

ㅤ流石にメル友とはいえ性癖公開するのはまぁアレよね。それに清姫だし。現に鵜呑みにしてるし。おっきーナイスよ。減刑してあげましょう。

 

「でも、じゃあ一体誰が?」

 

「くろひーです」

 

「あんの汚物がァ!!」

 

ㅤ彼奴は超えちゃいけないラインを超えた。タマモ並の大罪人へと駆け上がりやがった。

 

ㅤ良い笑顔でサムズアップをしやがる脳内のくろひーにエイティーンをぶっ刺し、如何わしいブツを清姫から取り上げるがそんな事は関係ないとばかりにもう一冊取り出す清姫を見て目眩がする。

 

「何冊貸し出されてるのよ!?」

 

「ベッドの下に丁度収まる程度です」

 

「それは私の?」

 

「そうですが? そこに仕舞うのが習わしだと聞き及んでいます。それと私たちの(・・・)(とこ)ですよ」

 

「私アイドル何ですけど!?」

 

ㅤ清純派アイドルなのだけれど、清楚が売りの勇者系アイドルなのだけれど!

 

「とにかく! そんな物を鵜呑みにしない事よ清姫」

 

ㅤなしてそこで不満顔なの?

 

「絶対に絶っ対その手の本の知識を現実に流用しない事! いいわね!」

 

「私なりに努力してみたのですが……」

 

「ぅ……」

 

 

閑話休題(よーしよしよしよしよし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ㅤややツヤツヤした清姫が私に問いかけた。

 

「結局相性が悪いとはどう言った意味だったのでしょう?」

 

「ドリルは『メカ特攻』だからよ」

 

ㅤ自分で思ったより疲れた声が超弩級メカエリチャンの巨体に溶けるように消えた。




閑話休題が全く仕事しないな!

やっぱりノリと勢いでしか書けない我が身が恨めしいです。
でもしょうがないの、清エリが勝手に暴走するから!

次回でアメリカはおしまい……の予定です。内容は考えてない。

感想や評価はどしどし送って下さい。
評価も嬉しいですが感想の方を熱望してます。皆様とのやり取りが好きなんで。


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ドリルを回せ 歌響かせ 敵を殲滅せよ

前回で次回アメリカおしまいとか言った結果こんなに遅れました。
一見関係ないと思われますが、今話の文字数驚異の14900字なのです。

いつもはノルマ5000字なのでだいたい3話分を凝縮しちゃってます。意地張った結果がこれだよ!

なので少しずつちょびちょびと読んでいただければ幸いです。


ㅤ大剣を担ぎ、長年培ってきた戦闘勘を用いてやって来た巨漢。名をフェルグス・マック・ロイという。かのクー・フーリンの養父にして螺旋剣"カラドボルグ"の担い手。

 

ㅤそんな男が今、超弩級メカエリチャンの前へと丸太のように太い2本の脚で立っている。

 

ㅤその顔は1人敵地に来た者の顔とはかけ離れており、まるでピクニックにでも来たかのように気楽なもの。だが彼が通った道には撃墜された残骸が幾つも残っている。

 

ㅤ対する私も後ろに清姫を立たせ、すっかり手に馴染んだ名剣エイティーンと名盾レトロニアを油断なく握りこんでいる。

 

「聞く必要もないけれど一応聞いておくわ。こんな所まで1人で来て、一体どうしようって言うの?」

 

「当然敵本拠地に強襲を掛けるのさ」

 

「1人で?」

 

「人使いの荒い女王様に頼まれたからな」

 

ㅤ眉間によるシワを見るにメイヴの奔放さに呆れてるのがひしひしと伝わってくる。クー・フーリン【オルタ】と言う一番欲しかった宝石を手に入れたメイヴの心中を察せばウキウキなのは一目瞭然なので当然だけど。

 

「じゃあ鞍替えでもしない? 世界を救う為に東奔西走の大立ち回りを演じるアットホームな職場よ!」

 

「魅力的な誘いに乗りたいのはやまやまなんだがな。こちらもそうもいかない、それに中身はアレでも身体は最高なんだなコレが」

 

「最後のセリフで全て台無しよ!!」

 

「ハッハッハ!!」

 

ㅤ流石に精力絶倫の男と歴史に残るだけはある。隙あらば直ぐに脳内ピンクだ。清姫の教育上よろしくないので早めに処理しよう。ただでさえその手の知識が偏りつつあるのにこんな爆弾放っておいたらどんな化学変化が起こるか分かったものじゃない。

 

「さて死合前の語らいは十分だろう。そろそろ……」

 

ㅤ互いに構えをとる。

 

「そうねこれ以上は剣を持って語らいましょう」

 

「応よ!」

 

ㅤ初撃はこちらから、大振りの一撃を叩き込みに掛かる。勿論魔力放出をフルパワーにして筋力と敏捷爆上げのゴリラ殺法。

 

「ほほぉ、随分と重い剣だ」

 

ㅤ矮躯に似つかわしくない一撃に関心を抱きつつも受け止めたフェルグス。だが余りにも容易く受け止めてみせた。

 

ㅤ直ぐにその余裕は打ち崩されるけど。

 

「ボェ〜〜」

 

ㅤ超近距離による防御不可のスーパーソニックブレス。竜族の肺活量による威力は最早殺人兵器。つまりフェルグスの鼓膜は死んだ。予備の鼓膜はアマゾネス・ドットコムに売ってるから買うことを勧める。

 

ㅤよろめいた隙を見て後方に飛び清姫を呼ぶ。

 

「灰燼と化せ」

「竜の焔よ」

 

──【双竜双火紅蓮奏(そうりゅうそうかぐれんそう)】ッ!!

 

ㅤ清姫と私で行うコンビネーション技。必殺技っぽい名前を付けたものの同時にファイアブレスを対象にぶつけ即殺を狙うだけと言う華の無い技だ。悪ノリが過ぎるとこうなる。

 

「ぬぅん!!」

 

ㅤ轟々と燃え盛る炎はドリルの回転に絡め取られ、一振りによって掻き消える。耳から出血があるがそれ以外の目立った外傷はなし、寧ろニコニコ顔突っ込んでくる。

 

「生粋の戦士ってこれだから嫌!」

 

ㅤレトロニアでドリルを受け止め、清姫の焔で反撃。

 

「もう焔は通らん!」

 

「焔を喰らった後でドリルの回転で巻きとった!? なんてゴリ押し……」

 

ㅤ絡めとった焔はドリルを受け止めているレトロニアを越えて私に打ち返される。あの邪竜の炎をほぼ無傷で切り抜けた私にはそよかぜの様なものだが目眩しにはなった。

 

「セイァ!!」

 

ㅤならばフェルグスはその隙を逃さず私へ脳天直撃を狙うのは当然の事。苦し紛れにエイティーンを振ることで受け止めたけれど防げなければ間違いなくお陀仏。たんこぶじゃ済まなかったでしょう。良くて私の頭は地面にめり込む。

 

ㅤしかしこの攻撃を防いだのは幸運だった。フェルグスの腕は清姫の焔を受け止めた事で火傷を負っている。彼にとってこの奇策は捨て身の一撃に他ならないはず、はず!

 

ㅤだがフェルグスは笑っている。

 

ㅤこの男、余りにタフ過ぎる。

 

ㅤ脳筋っぷりに呆気に取られている間にフェルグスは大きく後ろに飛んだ。間合いを取るにも少し大きい。遠中距離の間合いならいざ知らずフェルグスは超近距離型。

 

ㅤ来るとしたら宝具。

 

「流石に盾持ちのサーヴァントは硬いな。ならそろそろ──真の虹霓をご覧に入れようか」

 

「清姫私の後ろに来て、宝具よ」

 

「はい」

 

ㅤ魔力の高まりと共に虹の波動に回転の音が響いいてくる。鳴動するドリルが一際輝きを放った時、フェルグスは思いっきり地面へと突き刺した。

 

「地を割ろうが空へ逃げれば関係ない!」

 

「敵を倒すだけが勝利じゃない。──『極・虹霓剣(カレドヴールフ・カラドボルグ)』ッ!!」

 

ㅤこの螺旋剣は丘を3つほど雑に叩き切れる。ならば担い手がその力を正しく引き出し、行使した時の結果はどうなるか──

 

 

ㅤ──島程度なら地盤ごと破砕する。

 

 

ㅤフェルグスは私の問いに『敵本拠地に強襲を掛ける』と言った。その意味が、その対象が、私たちでなく拠点にあるのだとしたら。

 

「私は致命的な思い違いを……」

 

ㅤ皮肉な事に宙に浮いてるからこそよく理解出来た。亀裂が秒読みで深く、広く、切り開かれていくのが。

 

ㅤ間に合わない。防ぎ切れない。

 

ㅤ私の頭の中では既に超弩級メカエリチャンがクレバスに呑まれている。逃れられない結末が脳裏に過ぎり続ける。量産機は自動生産が進んでいるからまだ補填を考えることが出来る。

 

ㅤしかし実は超弩級メカエリチャンは私の手ずからコツコツ作った特別な機体。アマゾネス・ドットコムから少しずつパーツを買い入れて作ったのよ。ディア〇スティーニほどお手軽でもないのよ!

 

「わ゛た゛し゛の゛メ゛カ゛が!!」

 

ㅤ私には泣きながら責めて修理可能な状態で残るように祈る他ない。ここでなりふり構わず突撃する程の阿呆じゃない。いやしたいけど!!

 

「諦めるのは少しばかり早いんじゃない?」

 

ㅤ声のした方へ顔を傾ける。丁度矢らしき物が眼前を通過した。その軌道の先はフェルグスだった。

 

「グゥァ──アーチャーのサーヴァントか!?」

 

ㅤ着弾点はフェルグスの肩、僅かに急所を外している。サーヴァントにとってそれはまだまだ活動可能な状態にある。

 

「主役は遅れて登場するものよな」

 

「ッ!?」

 

ㅤ瞬きの間にフェルグスの背後を取るセイバーが居るらしい。更に巫山戯たことに恰好がウェディングドレスに似た何かを着ているセイバーらしい。

 

ㅤ嫁ネロは宝具を発動している無防備な背中に原初の火(アエストゥス・エストゥス)を突き入れた。

 

「ゴフッ──また暗殺か。まぁ戦場で果てるのなら本望、よ」

 

ㅤ分解された光を確認した後すぐさま背後を確認した。亀裂は超弩級メカエリチャンの手前で止まっており、機体の左目付近には構えを解いたロビンフットが手を振っている。

 

「助かったぁ……」

 

ㅤマジで危なかった危うく天才軍師エリザの作戦が破綻するところだった。メカ特攻ホント怖い。

 

ㅤ安心したら身体の力抜けてきた。

 

「なんだエリザ腰が抜けたのか? しょうがないやつめ、うむしょうがないから余が背負って帰ってやろう」

 

ㅤ何がしょうがないのか分かんないです。

 

「いや別に清姫が居るから」

 

「そう遠慮するな──おりょ?」

 

ㅤ抱き上げようと手を伸ばした嫁ネロだったがすんでのところで清姫にかっ攫われる。清姫サン締め付けがきついですわよ。

ㅤ顔は角度的に見えないけど予想だと暗黒微笑なんだろう。

 

ㅤ玉藻は此処で引くけど、ネロは引かないのよなぁ。

 

「おぉ恋する乙女とはかくも美しい。なんだったら2人同時でも余は一向に構わんぞ!」

 

ㅤあれ、フェルグスの幻影が見える。

 

「旦那様の面倒を見るのは妻である私の仕事ですので。ねろさんこそ是非ご遠慮してくださいませ」

 

「余的には我慢とかしたくないのだが、まぁ良いか。コンサートもあるしな!」

 

ㅤサラッと恐ろしいこと言った?

ㅤ言葉のニュアンス的に自分がオンステージするみたいに聞こえたんですけど!?

 

「アンタはステージに上がることも歌うことも許す気は無いわよ。それに歌も踊りもアンタのパートを振り分ける余裕無いし」

 

「え?」

 

ㅤ如何にも信じられないと言った風体だ。口はポカーンとアホ丸出しだし、目も見開いている。この皇帝本当に参加する気だったようで。

 

ㅤいや絶対に出さんが?

 

ㅤ意地でも出さんが!!

 

「出たい出たい! 余も出ーたーいー!!」

 

ㅤ本当に出す気が無いのを理解したのか嫁ネロは子供のように愚図りだした。ええい鬱陶しい、出さないと言ったら出さないっての。

 

ㅤ取り敢えず適当に対応しようと無難な案を捻り出そうとしたが、どうにも超弩級メカエリチャンの方が騒がしい。

 

「えぇ!!?」

 

「……あぁやっちゃってますね、これ」

 

「凄いなアレ! 余も作っちゃおうかな」

 

ㅤ元々ライブ会場は超弩級メカエリチャンを使うつもりだった。胸部にあるラウンジの下、つまりアンダーバスト辺りから舞台ステージがせり出し、展開された魔術式に従い機材を召喚、装飾はより煌びやかで豪華絢爛となる。

ㅤそれが超弩級メカエリチャンの真の姿。

 

ㅤである筈なのだが──

 

 

ㅤ──なんで起動しちゃってるんです?

 

 

ㅤまるで目標まで貯まった貯金を勝手に使い込まれた気分なんですけど。しかも明らかに犯人が知り合いって言う最悪なパターン。顔が私と同じじゃなかったら顔をクレーターだらけにしてやったものを、可愛さは時に最強の盾になるのね。

 

「清姫!」

 

「承りましたわ」

 

「あれ、余より敏捷高くね?」

 

ㅤもう私たちのステなんて微塵も宛にもならない、最早詐欺だもの。

 

ㅤ帰還して直ぐに超弩級メカエリチャンに起動した人物を尋ねる。分かりきった答えが帰って来るだろうけど。

 

《オリジナル・エリザベートです艦長》

 

「なんで許可したのよ!?」

 

《現在オリジナル・エリザベートはゲスト扱いです。そしてゲストには現在一時的な命令権が認められます》

 

ㅤなんの為に人心回路と疑似人格を積んでると思ってるの。アイツには絶対渡しちゃ駄目でしょうよ命令権なんて、最初からロック掛けときなさいってぇ。

 

ㅤ別に同じエリザベートモデルだからってアホっぽい所は似なくて良いのに。

 

「今すぐロック。同時にアタシの所在をサーチして」

 

《オリジナル・エリザベートは現在ステージに居ます。撃ちますか(shoot)焼きますか(burn)? それとも爆破(exploration)?》

 

「笑えないジョークね。量産機に拘束させて」

 

ㅤ警備員役として配置した量産機はアタシに殺到する。自分が立つステージの豪華さに浮き足立っていたアタシ、あっという間に囲まれ一斉に掛かられたなら。

 

『キャーーーーーーーーーーーーッ!!?』

 

ㅤまぁそうなるよね、うん知ってた。

 

「逆さで運ばないでよ。頭に血が昇って……うぅぅ」

 

ㅤ雑に連行されたらしいお目目グルグルしてるし。

 

「ごきげんようお姉様」

 

「ちょっ、勇者なアタシ早く降ろし、気持ち悪ぅー」

 

「ライブ迄にはまだ時間があるんだけど、どうしてアレを起動したの? 打ち合わせの時に色々丁寧に教えたわよね? ねぇ!?」

 

ㅤ露骨に目を逸らす。

 

「いやでも、ほら所謂好奇心? 一時の気の迷いって言うか?」

 

「アタシのクセに口答えしてんじゃないわよ!」

 

すいあへんでひた(すみませんでした)

 

ㅤ頬をぐにゃぐにゃとこねくり回す。いや流石アタシ、もっちもちである。

 

「まぁまぁおしおきはその辺でいいんじゃないっすか? 別に引っ込めれない訳でもないでしょ」

 

「出来るけどね。出来るんだけど……」

 

「出来るけど、何すか?」

 

「初出しでサプライズしたかったのに、一回引っ込めてもっかい出したら終わりじゃない! 驚き半分になっちゃうじゃない!!」

 

ㅤつまり引っ込みがつかない。

 

「え、じゃあどうするの?」

 

「どうしよう!?」

 

「知らねぇよ!」

 

ㅤそりゃそうだ。

 

 しかし超弩級メカエリチャンは兵装含めコスパが超絶悪い。現状稼働しているだけの今でさえエリザベートが2騎居る状態でなおマイナス。ステージの起動をしてからまた戻してまた起動で無駄な燃料を使うのはサプライズ抜きに御免被りたい。

 

 となると取れる行動は決まってくる。予定は前倒しになるが贅沢は言えない。時間との勝負だ。

 

「清姫準備なさい!」

 

「良いんですか?」

 

「是非も無し、よ」

 

 量産機にアタシを解放させる。頭から落下して涙目の所悪いけれど自分でやらかしたツケはキッチリステージで返して貰いましょう。

 

「一度でもミスしたら鼻から紅茶を飲ませる」

 

「ひゃい」

 

 鼻の頭に指を突き付け脅しを入れておくのは忘れない。熱々のお紅茶をぶち込むわ。ポットで丁寧にね。

 

 

◇◆◇(緊急ミーティング)

 

 

 ライブの内容は変わらず予定だけをずらして、超弩級メカエリチャンをワシントンへ移動させながら踊り歌う事になった。

 

 ルートは統率機2体の情報から叩き出したから問題なくワシントンに到達出来るでしょう。定期報告から子ジカが既にエジソンの目を覚まさせたのが分かってるから上手く被れば同時に進軍するかも。前線は上げたし、野良サーヴァントは子ジカに回したのはこっちだけどアメリカ横断するの早すぎじゃない?

 

 まぁ思わぬ成長があったんだと思っときましょうか。いやまさか子ジカもこっち側(ギャグ時空)に呑まれたんじゃ……

 

「まっさかぁ……」

 

 だとしたらシャレになんないもの、人類悪顕現しちゃう。

 

『音響、照明問題無し。何時でも行けますわエリザ』

 

「カウント」

 

 3

 準備はしてもしてもし足りなかった。

 

 2

 けど……

 

 1

 後悔だけはしたくない。

 

「最高にして最強にして最凶のライブでイかせて挙げる! 泣きなさい! 鳴きなさい! 哭きなさい! 全米の子ブタたち!!」

 

 両サイドから中央に飛ぶ。私とアタシは同時に着地して背中を合わせ、マイクを口許に添える。

 

「「超弩級メカエリチャン発進!」」

 

《ピカーン!》

 

 なんだその棒読みの効果音!?

 

 超弩級メカエリチャンの飛行ユニットが無事機能した事に安堵した心に喝を入れ、同時にミュージックスタート。

 

 作詞作曲全部私の『鋼鉄の鮮血姫』。

 その内容は滾るリアクターよりも熱く。鋼鉄の研ぎ澄まされたボディよりも妖艶で、放たれるミサイルの雨よりド迫力のアメイジングソング。

 

 普通に人間じゃサビを聞くだけで心臓が止まる。いや決して物理的威力は伴わない。本当に!

 呼吸を忘れて気絶する人間は続出するでしょうけど。

 

 見事なハーモニーと共に魅せるダンスはサーヴァントという身体が活かされた人間に不可能な超絶技巧。ステータスの全力全開で身体を動かし、時に霊体化を利用したパートスイッチで見るものを惹きつける。

 

 そして何を隠そう。

 この映像は全米に散らばる子ブタに生中継している。量産型メカエリチャンに映像投射と音に拘ったスピーカーによる圧巻のLIVE配信を皆様にお届けしているのだ。

 お代はいらない、ただひたすら一心不乱に私たちに魅了されたらいい。

 

『無事エリザ粒子は予測値に届き、現在も上昇中です』

 

 イヤカフから聞こえる清姫の声によれば順調らしい。

 

「子ブタたちはどうやら生で私たちに会いたいようね」

 

「いいじゃない派手に出迎えてあげましょう勇者なアタシ」

 

 これだけアピールしていればケルト側も寄ってくるでしょう。なんせ自分たちから場所を知らせてるわけだし。幸いな事にエジソン側の機械兵は来ていないから子ジカが上手くやったって言うのは間違いないらしい。

 

 ワラワラと何処からか湧いて出たケルト兵は焼却よとばかりに爆発に巻き込まれていく。ミサイルは超弩級メカエリチャンから無尽蔵に吐き出され、轟音が聞こえない時間が無い。

 

『あららマジでボタン1つであの大軍が吹き飛んだわ』

 

『しかし敵軍の数が凄まじいな。打っても打っても湧くぞ』

 

 ロビンフッドと嫁ネロにはボタンをポチポチするだけの簡単作業をやってもらってる。装填が終わり敵軍にターゲットを絞ってボタンをポチるだけと説明してるので今もドンドンミサイルの雨が降っている。気分は地球防衛軍。

 

 ミサイルもエリザ粒子から精製されるので私たちが歌い続ける限り無限。勝ったな!

 

『前方に極大の熱源反応を検知。恐らく魔神柱です!』

 

「思った以上に速い……」

 

 メイヴの宝具、『二十八人の戦士(クラン・カラティン)』。

 ラスボス謹製の聖杯から引き出した力で28体もの魔神柱を召喚するキモイ・汚い・ケルトの3K揃ったやべー代物である。

 

 魔神柱一体につき特級のサーヴァントが1〜2体以上必要と考えたらそのヤバさも分かるだろう。必要数1体だとしてもバサクレス28体分である。全国のマスター連れて来い、ここに素材がいるぞ!

 

 だがそんな相手に対策も無いなんてありえないでしょ勇者なら。なんのための超弩級メカエリチャンだと思ってるの!

 量産型とは違うのよ量産型とは!

 

「宝具開帳!」

 

「誰の!?」

 

 超弩級メカエリチャンの。

 

《了解よ艦長》

 

 これより行われるのはただの蹂躙。ただの火力による暴力。

 全兵装の一斉砲火。つまり超弩級メカエリチャンによる『鋼鉄天空魔嬢(ブレストゼロ・エリジェーベト)』ミサイル、ビーム、ナパーム、マシンガン、騒音などを1人へと放つ狂気の対軍個人(・・)宝具。

 今回は相手が28体、対軍での使用となるがこれまた放つ存在も超弩級ゆえに破壊力は大魔王級。

 

「覚悟なさいアタシ、余波が凄いから……」

 

「じゃあ一時避難」

 

「バカなのライブは続行よ!?」

 

「!?」

 

 お忘れだろうか、超弩級メカエリチャンは燃費がすこぶる悪い!

 

「死ぬ気で踊って、死ぬ気で歌いなさい!」

 

「聞いてないわァ!?」

 

「アンタのせいよこのアホ姉!」

 

 途中でエネルギー切れになりかねない勢いでエリザ粒子は減るのよこの宝具。チェイテを長時間稼動する方が遥かに燃費が良い。

 いや今のチェイテはダメ、正確には従来の(・・・)チェイテね。今はほら、ね?

 

 まぁチェイテのことはもういいわ。

 

「問題はあの触手群がしぶといって事ね」

 

「ゼェ、ハァ……なんで息キレてないの、よぉ」

 

「勇者なら当然」

 

 これはもう一押し必要ね。『破壊神の手翳(パーシュパタ)』に届かないのはしょうがないわだってインドだもの。

 

「清姫、プランBよ!」

 

『ではろびんさんを最上階に連れていきます』

 

『へぁ!?』

 

 こんなこともあろうかと策は練ってあったのよね。天才軍師なので!

 

『オレに何をしろって言うの!? 正面切ってとか無理無理、オレそういうサーヴァントじゃねぇから!!』

 

「知ってるわ。大丈夫よただ彼処に宝具を連発してくれればいいから」

 

『正気かオタク! オレの魔力が持たないっての』

 

 在庫ならまだあるからノープロブレムね。

 

『どうぞ』

 

『何この薬……』

 

「エリクサー」

 

 ゲームで馴染みのあるエリクサー。HPとMPを全回復させるスペシャルアイテム。まぁ化粧水を作ろうとしたら出来ちゃっただけだけど。

 

「という事で、お願いね」

 

『やるよ、やればいいんでしょ!!』

 

 不憫だなぁ緑茶。でもラスボス系後輩よりマシだと思って頑張って。

 

祈りの弓(イー・バウ)

 

 速射されていく『祈りの弓(イー・バウ)』。乱立する猛毒の木。最早『すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』が如き木々の隆起に魔神柱は呑まれ、猛毒は爆発的に殺傷力を上げる。

 さらにそこにミサイルが環境破壊は気持ちいぞいとばかりに爆破爆破爆破。これは果たして特異点を修復したとして正史に戻るのだろうか、とかは一切考えてはいけない。

 

『これは酷い』

 

『いつもこんなものですが……そんなに酷いでしょうか?』

 

『正直ドン引きですわ。はいはいイー・バウイー・バウ』

 

 解せぬ。

 

 

 

 そうして抵抗も一切許さず私以外ドン引きの作戦で魔神柱はハメ殺された。最後の方は命乞いがあった気がしなくも無かったが、恐らく気の所為だろう。素材が喋る筈ない。

 

《艦長、エネルギー残量が》

 

「え、なんでってあぁ……」

 

 隣りを見たら納得の事実。

 

「燃え尽きたわ、真っ白に……」

 

 アタシ、燃え尽きる。

 最後までマイクを手放さず満足気に座り込んでいた。人間だったら即死コース。

 

「完全にノビてるわ。なんか全部出し尽くしたって感じ」

 

《このままじゃホワイトハウスに打ち込める程のエリザ粒子は捻出出来なそうね》

 

「目と鼻の先なんだけど」

 

『一応言っとくけどオレも無理。疲れた色々……』

 

 ロビンフッドも燃え尽きたと。

 

『余も無理!』

 

 嫁ネロはボタン連打で爪が逝ったと。

 

『私は余裕ですわ』

 

「生き残りは2人だけと」

 

 あれ、もしかしてボスダンジョン直前で詰んだ?

 

 何処で計算を間違えたの!?(困惑)

 

《オリジナルの起用は立派なミスなのでは?》

 

「うーんそれはそう……」

 

 

閑話休題(エリちゃん可愛いやったー)

 

 

 なんとラスボスを前にして2人にまで減った勇者一行。

 限界まで身体と喉を酷使した本家本元元祖エリザベート・バートリー。

 限界まで宝具をぶっぱなし続け、エリクサーでお腹をいっぱいにさせた苦労人常識人ロビンフッド。

 限界まで指と爪をボタンで削った連射名人ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス【ブライド】、これに関してはなんで手動にしたのか!

 

 残ったのはたったの2人。果たして勇者一行はラスボスを倒し人理を守りきれるのか。次回「ぶちかませ鉄拳(アイアンフィスト) 仲間の想いを込めて」

 

「こんな感じ行くわよ!」

 

《いや全く分からないわ》

 

「肝心の残った私たちには言及しないのですね」

 

「まぁそういう訳で超弩級メカエリチャンの最後の見せ場よ。派手にほら拳を打ち込みなさいよ!」

 

《被害総額をみればどちらが敵なのかパンチ!!》

 

 果てしなく緩く長い技名のパンチは映画なら賞を貰える迫力と威力をもって異界化したホワイトハウスに襲い掛かる。

 

 匠によってホワイトハウスが開放的にリフォームされました。

 

「行くわよ清姫」

 

「いよいよ決着ですねエリザ」

 

 突撃隣りのホワイトハウス。

 そしてそこにはキングサイズの天蓋付きベッド。その上では裸の女が半裸の男に馬乗りに──

 

「ってなんじゃこりゃー!」

 

「いやこっちのセリフなんだけど。これからクーちゃんとお楽しみタイムだったのに」

 

「いやしねぇっての」

 

「あーん、クーちゃんのいけずぅ。でもそこも好き!」

 

 片手で顔を掴み押しのけられるメイヴは嬉しそうに身体を抱きしめクネクネ。これにはオルタニキも溜め息が隠せない。なんかとても親近感が湧いた。

 

「? なにか?」

 

「いやなんでも」

 

 あんまりにもしつこかったのか何処ぞのワカメみたいに裏拳で吹き飛ばされてる。壁にめり込んだけどメイヴは元気なもよう。やっぱり親近感が湧く。

 

「で、ここに来たってことは殺りあいに来たんだろ」

 

「勿論よ、決着つk「駄目です!」て、は?」

 

「初めての相手は私がっ!?」

 

 隣りに居たピンクも無事壁にめり込む。

 

「お互い相方運がなかったみてぇだな」

 

「……うん」

 

 

閑話休題(親近感が湧いたわ)

 

 

「んじゃあまぁ、そろそろ死合うか。邪魔はするなよメイヴ」

 

「んもうクーちゃんが楽しんでるのに水なんて差さないわよ」

 

「楽しむ、ねぇ」

 

 オルタニキは無感情に魔槍を一回転させて穂先をこちらに晒す。まるで楽しそうに見えないのはきっと気の所為じゃない、その目には愉悦の色なぞ皆無だから。

 

 対して私もここでふざける事はしない。だって治癒不可の呪いとか因果逆転の秘術とかそんな屁理屈捏ねても殺しにくるのはちょっと困る。なんか理論武装されて論破されてる気分になる。

 あとイジりにくい!

 

「そうイジりにくいのよアンタ!」

 

「あぁ?」

 

「なにその顔、ムスッとしちゃってさ。目の前に誰がいると思ってんの! 勇者エリザベートよ!」

 

 普通は握手なりサインなり求めて挙句の果てに会った瞬間に泣き落ちるのが常識でしょうよ。ましてや無表情無感情ノーリアクションってなに?

 

「何言ってんだお前?」

 

「だから!」

 

 左手に持つレトロニアを前へ、右手に持つエイティーンを後ろに。重心を前へ移し魔力を内と外へと放出。爆発的な推進力。剣を振り上げ─

 

「その仏頂面の頬をふん掴んで無理矢理にでも笑わせるって言ってんのよ!」

 

「ハッ、上等だ!」

 

 力任せの一振はにべもなく打ち払われる。それを皮切りに得物同士の応酬が行われ、キンキンと高く鋭い音が場を支配する。その間隔は一合毎に短くなっていき、間を与えなくなっていった。

 

 打ち合えてはいる。

 だけど余裕が一切ない。だって穂先は勿論、槍を振るう腕も、細やかな自重移動を行う脚でさえ視認が難しいから。

 

 攻勢に出れないのは予想通り、ヘラクレスと並ぶような大英雄なんだからこうなるでしょうよ。ランサーの時でさえギルガメッシュと半日死闘を演じ消耗させるとかどっかで聞いた気がするし、ステ的にも上でスカサハ師匠を再起不能にさせたりゲイボルクが心臓に当たったりするし。

 

 ──チートでは!?

 

「こんのォ!!」

 

 力で押そうと流され、技で隙を作ろうとすればより一層堅固に守られてしまう。浮き上がる瓦礫を弾丸にして放とうと、火を吐きつけようと、フェルグスへの有効打だったスーパーソニックを放っても流される、若しくはルーンによって治癒される。

 

 継戦能力の高さとはどんな事態にも対応が出来るのと同義なのだと身を持って味わっている。

 

「なかなか悪くなかったぜ」

 

 威圧感が増す。

 脈動し紅黒いオーラが魔槍から漏れ出すのを見て私の本能がけたたましく警鐘を鳴らした。

 

 ──「放たれば待つのは死だ」と

 

 抉り穿つ(ゲイ・)

 

 即座に名盾レトロニアを正面に構え魔力を注ぎ込む。

 

「これなる盾は勇者の心の在り方、不屈の闘志の形。光の御子クー・フーリンよ貴様が破るのは盾ではないと知れ!」

 

 

鏖殺の槍(ボルク)』──ッ!!

 

 

古香る勇者の名盾(レトロニア)』──ッ!!

 

 

 初邂逅にも同じ技を受けたと思っていた。でも全然違った。あの時に放たれたゲイ・ボルクとは威力が段違いに高い。

 

「押され……グ、オオオオオオオ!!」

 

 『軍神の剣(フォトンレイ)』の様に熱量が凄まじいわけではないけれど、盾の向こう側から主張してくる殺気は気を抜けばお前を殺すとずっと囁いてくる。

 

 踏ん張りが効かない、地面を抉りながら後退させられる。魔力放出込みでこれだ、きっと素のステータスじゃ対応出来ないどころか速攻で潰される。

 

「ガハッ──!」

 

 まさか私まで壁にめり込むことになるとは。脳内ピンクになった覚えはないんだけど。

 

「けど防いだわ!」

 

 魔槍の魔力が尽きるまで耐え切った。既に盾に掛かる圧力は消えている。ならこっちもやっと攻勢に──

 

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

 余りに平坦な声だった。まるで死刑宣告を突きつけられたようなそんな背中が汗ばむ感触。

 

 まず腕が引きちぎれるまで過剰な強化をして放つ宝具を連発ってそんな非常識が許されるはずない。

 

「クーちゃんがんばえー!」

 

 そんなはずあったわ!

 あの女、聖杯を令呪代わりにしてブーストしてる。魔力供給に留めておけよ。何ちゃっかり再臨してかっこいいローブ着てるんだ。いいよね再臨して衣装替えするサーヴァントは!

 

「言ってる場合じゃないっての」

 

「エリザ!」

 

「アンタはNPでも稼いでなさい!」

 

 清姫にはあぁ言ったものの、どうしよ。

 

 受けてもあっちは何度も宝具を使用してくるし、そもそも防御間に合わなそうだし、だったらライフで受けるしかないし、でも受けたら受けたで心臓が吹き飛ぶか臓器8割以上は持っていかれる。

 

 詰みなのでは?

 

「やれやれ、私が一番槍と思っていたのだが」

 

 深紫色の影が落ちた。

 

「まぁ良しとしよう」

 

 何この人怖い。超涼しい顔で私がヒーヒー言ってた宝具止めてる。これだから原初のルーンは頭おかしい。

 

「そのような雑なルーンは教えた覚えがないぞクー・フーリン」

 

「スカサハか……」

 

「それにしても随分とイメチェンしたな。似合わんぞ」

 

「ぁ、それ私の趣味!」

 

「いつもの防具で良いだろう」

 

 さりげなく命を救われそれとなく空気にされた。

 

「あとお前の歌、私の耳にも入ったぞ勇者とやら」

 

「あ、どうだった?」

 

「うむ、不思議と力が湧いたな。具体的に攻撃力と宝具威力が20%程!」

 

 どうやら私の歌に感動してこっち側に呑まれかけている感じが、どことなくコハエ……いやなんでもない。

 

「スカサハだろうと勇者だろうと、道を阻むんなら殺すだけだ」

 

「つまらん男に成り下がりおって」

 

 吐き捨てる様に言葉を零すスカサハは眉を八の字に曲げる。その心情は弟子の現状に少々の同情や憐憫の色が見える。

 

「して、お主はまだやれるのか?」

 

「余裕よ余裕!」

 

「ならば立て。勇者の名は伊達ではないと私に見せろ」

 

 どうやら一緒に戦ってくれるらしい。正直助かるが少しばかり意外でもある、てっきり自分一人で始末を付けたいと言い出すと思っていたけど。

 

「業腹だが、私一人では手に余る」

 

「それ2本とも打ち込めばいいんじゃないの? あっち1本だし」

 

「こちら2本があちらにとっての1本と同じ計算だ。お主もあの馬鹿弟子の技を受けて威力を感じただろう?」

 

 やっぱりあの過剰強化分は大きいと。いや刺しと投げボルクをほぼ同時に放つのも十分大きいと思うけど。

 でもそれなら私の作戦は役立つかもしれない。

 

「考えがあるわ」

 

「ほう」

 

「天才策略家エリザベートに任せなさい!」

 

 少しばかり無理矢理だけど見た目は同じに見えたし、スカサハならその無理矢理も通る気がする。

 

「随分と面白い事を考える。思いついてもやらんだろうに」

 

「じゃあやらない?」

 

「いややろう。興味もある」

 

「終わったか?」

 

 完全に傷を癒し、最終再臨を迎えたオルタニキが魔槍を突き立てながら睨めつけてくる。ラスボスかな?

 

「あぁでは行くぞ!」

 

 スカサハは二槍のゲイ・ボルクを握りしめ疾走、私も後に続き翔ける。先程まで防戦一方だった戦いとは違い私は護り、スカサハが攻めと役割りを分けたことで打ち合いではこちらに分がある。

 

 ならばオルタニキが打つ手は宝具に限定される。

 

「チッ、抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)』──ッ!!

 

「それを待っていたぞ!

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』──ッ!!

 

 魔槍同士のぶつかり合いは同じ軌道の中で起こり、互いに宿る魔力を喰らい合いやがて相殺される。本来そこで終わり、再びぶつかり合うだろう。

 

 だが此処には私がいる。

 

「受け取れぇ!!」

 

 筋繊維がブチりと弾ける音を聞きながら私は気合いの雄叫びと共にソレをスカサハ目掛け投擲する。──何をって?

 

 ゲイ・ボルクを。

 

 相殺された後で拾ったのかって? 違うそれじゃ遅すぎるし、スカサハがルーンで回収した方が速い。かと言ってオルタニキの宝具を強奪した訳でもない。そんなバサロットみたいな事はしない。

 ルールブレイカー? 知らない子ですね。

 

 あるでしょこの異界化したホワイトハウスにはもう一本ゲイ・ボルクぽい(・・)のが。全国のマスターも見たことがあるはずだ。

 

 

 ホワイトハウスの前に刺さってるどデカい槍を。

 

 

 無理矢理で無茶苦茶?

 だからどうした私はエリザベートよ!(天下無敵)

 

 

「その心臓貰い受ける!刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』──ッ!!

 

 

 巨大なゲイ・ボルク似の槍を重さなど無いかのように振るうスカサハは渾身の一撃を見舞う。その顔には汗一つ無く、緊張も無く、完璧に役割りを果たした結果を見せる。

 

「ッ!? …宝具封印、全呪開放

噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)

 

 獣の咆哮をあげ、両腕の爪を胸の前で重ね防御姿勢。あの一撃を受けるようだ。傍から見れば勝負が直ぐにつくと思われるだろうがあの形態はオルタニキの切り札、スカサハも知らない(バーサーカー)の姿。容易に破れることはない。

 

 事実受け止めている。筋力パラメータEXはやっぱり凄かった。

 

「けどそれも本命じゃない!」

 

「流石の私も我慢の限界です。久しぶりにキレてしまいました! 『転身火生三昧』──!!

 

 私には一級サーヴァントを倒しきる高火力はない。いつだって何かしら自分以外の場所から力を持ってきていた。

 けど別に私が倒す必要はないのよ。火力なら相棒に頼ればいい。

 

 清姫の宝具ランクはEX(規格外)。全て燃やして勝つ、それが私の答え。

 

 何かにキレて居たらしい清姫は竜に転身し燃え盛る焔そのものとなってオルタニキを包み、噛み付き、爆ぜる。

 

「今日はより一層激しいわね」

 

 残ったのは爪を砕かれ、兜を半壊させたクー・フーリン【オルタ】の姿。その様子だとまともにルーンも使えず治癒も不可、あとは消滅を待つのみといったところ。

 

「ボロボロになっちゃったわね」

 

「……メイヴ」

 

「砕かれた霊核もここまでだと修復は無理か。どうだった楽しかった?」

 

 オルタニキはメイヴの質問に悪どいが笑顔で答えた。

 

「かもな」

 

 クー・フーリン【オルタ】は立ったまま消滅。

 

「私も楽しかった。私だけのクーちゃん……」

 

 メイヴもそれに応えるように笑う。

 

「勝負ありだと思うんだけど、聖杯渡してもらえる?」

 

「うーん、正直クーちゃんがいないんじゃこの聖杯持ってる意味も無いんだけど。それはそれだと思うのよねぇ」

 

「じゃあ戦う?」

 

「戦わないわよ。私は、だけど!」

 

 メイヴは手に持つ聖杯を胸へと宛てがう。すると姿は輪郭を失い、ドロドロとした液体へと変貌する。そして再構成される時、その姿は柱を形成した。

 

「七十二柱の魔神が一柱。序列三十八。軍魔ハルファス。

 この世から戦いが消えることはない。

 この世から武器が消えることはない。

 定命の者は螺旋の如く戦い続けることが定められている」

 

 魔神柱が現れた。けどさっき腐るほど見た。

 

「嫌がらせだけはキッチリしていったな」

 

「ここに来て魔神柱は面倒だわ」

 

 そう飽くまで気分的に乗らない。こちとらラスボス倒してスタッフロール流れてるんだけど。

 

 次の瞬間私の視界が白く染った。

 

 

W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)

 

 

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)

 

 

金星神・火炎天主(サナト・クマラ)

 

 

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)

 

 

破壊神の手翳(パーシュパタ)

 

 

仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)

 

 魔神柱は出オチって決まってるのかな。

 あとホワイトハウス消滅……危うく味方の宝具で蒸発しそうだった。ありがとうマシュ。

 

 いや本当にえげつない。最低ランクAの宝具祭りだよ。そんな酷いこと私でもしない。うわ、クレーターの表面ガラスになってるよ。

 

「おつかれ清姫。悪いんだけどマシュと一緒に聖杯探しに行ってあげて」

 

「……帰ったらお話ですよ」

 

 ひえ、まだキレてる。

 

「随分おかしな星の元で生まれたようだな」

 

「おつかれスカサハ。ってかどういう意味?」

 

「いや抑止が仕立てる勇者にしてはと思ってな。どういう人選か」

 

 そんな心底謎だと首を傾げられても困る。と言うかそれあんまり周りに聞かれたくないんだけど。

 

「大丈夫だ音を絶っている。周りには聞こえんよ」

 

「お気遣いどうも。でもわかるものなのね抑止云々とか」

 

「まぁな、特に未完の勇者となれば私の鼻が効かんわけが無い」

 

「未完って……」

 

 どういうことなのプロデューサー!

 

「まぁこれはちょっとした老婆心。ラッキー程度に受け取るといい」

 

 そう肩に手を乗せた後、何処へやら走っていった。これといった変化はない。

 

「エリちゃんー!」

 

「子ジカ!?」

 

「どうしてなのエリちゃんー!!」

 

「せ、先輩落ち着いてください。エリザベートさんの目が回ってしまいます!」

 

 もう回ってるっての。なんで此奴がいつもいつも会った途端振り回し始めるんだ。何処ぞの鬼いちゃんと蝸牛か!

 

「下ろせっての!」

 

「あいたー!?」

 

 加減しながら本気でツッコむの難しいんだぞこの。

 頭擦りながらえへへと笑う子ジカに私は苦笑する。特に外傷もなく元気みたいで一安心だ。

 

「それで、何がどうしてなの?」

 

「そ、そうだよ! なんでエリちゃんは私たちと合流してくれないの! なんで一緒に行動しないのさー!」

 

 ガオーと吠える子ジカ。

 いやこればかりは特に理由はない。一刻も早く特異点修復を行う為に最短を目指した結果だし。必要だったら必要で合流はするつもりではあった。

 

「いやでもエジソンの件とか、ハルファスの件とか二手の方が優位なこともあったし、ね?」

 

「うう、そうだけどさぁ。寂しかったんだよ?」

 

 本当に泣かなくてもいいのにとは口が裂けても言えない。あんな宝具飽和攻撃仕掛けたマスターには見えないな。

 

 あぁよしよし、ごめんねぇ。私が悪かったよー(棒)

 

《聖杯の回収確認終わったよ。直ぐに修復が行われるからレイシフトするからね》

 

 ロマニの発言の通り空間が不安定になってきた。

 

「清姫帰るわよ」

 

「はい」

 

「じゃあまたね子ジカ」

 

「エリちゃーん」

 

 泣くな泣くな。

 このマスターこんなメンタル弱かったかな。

 

 

◇◆◇

 

 

 慣れた空間へと戻った私はスカサハに言われた言葉を思い返す。

 

「未完……受け取るって何を──」

 

「……エリザ」

 

 背後の気配にゾクリと思わずつんのめる。

 

「今回は一段と危なかったですね」

 

「そ、そうね。でも最後は快勝よ!」

 

 ニコニコと微笑む清姫の顔がピシリと歪む。

 

「何が、何処がとは言えませんが嘘の香りがします」

 

「え?」

 

 そんなタブー侵した覚えはない。いや本当に!

 

「逃がしませんわ。私に対して嘘を吐いたのですから。キリキリ話して頂きます!」

 

 壁に追いやられる私。

 追いやる清姫。

 

「戦闘中にあんなに我慢したのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう我慢しなくても、良いですよね?」

 

 本当に身に覚えがない!




私もね途中分けりゃいいと思ってたんです。
でも気付いたらこうなってました。

自分なりに熱い戦闘を考えたんですがこんなんで大丈夫でしょうかね?
如何せんギャグ重視なので何とも……

次回はいよいよキャメロットですか、やっとですね。

感想、評価等はどしどしどうぞ。
こんな時期なので皆様のお声は聞きたいです。
運営さんのお世話にならない範囲でどうぞ感想をお願いします!


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神王(ファラオ)に会って一番欲するものは何? ──ただし自分がブレエリちゃんだとする!

うーんセプテムで終わる感じだったのに遂にキャメロットですか。感慨深いッスね!

あと今回は前回の様な14000字とかはありません、普通にノルマです。

あとサブタイは珍しく意味がある(?)のか……?


 砂塵舞う大地、高温低湿で水分など望めない不毛の地に私たちは立っている。今回はチェイテスタートではなく、すぐに現場入りさせて貰った。誤差ではあるが子ジカ達より速くに到着しておきたかったからだ。

 

「砂嵐がうざったいわ」

 

「視界が悪いうえにこの気温ですからね。人間では迷って飢えで死んでしまうでしょう」

 

 おまけにここにはヒト喰いの魔獣まで居るので入り込んだらほぼ確定で死ぬという。魔術の適正が無ければ魔力濃度だけでグロッキーだし。

 

 この様子では人理は既にお亡くなりかもね。まぁ太陽王も獅子王も倒せば何とかなるとは思うけど。言うは易し、やるは難しって感じ。どっちも超級宝具をバカスカ撃ってくる奴らだから。こっちは硬いだけが取り柄の剣と盾なんだけど!

 

「さて折角の砂漠スタートだし、要領良く行きましょうか」

 

「でも本当にこんな場所に人が住める環境が?」

 

「それが有るのよね……」

 

 そりゃ信じられないだろう。こんな水も食料も無くて果てしない砂だらけの場所に居を構えるなんて。チェイテ召喚すれば私たちは住めるけど普通は無理よ。

 

 ぐるりと辺り一体を確認して見れば矢張り見えるのはどこも同じ、時折謎の骨が落ちてたりするくらい。凶骨落ちてたら垂涎ものなんだけどなぁ。

 

「取り敢えず空から俯瞰してみようかしら」

 

「エリザ」

 

「ん?」

 

 呼び掛けてきた清姫に意識を移せば此方を、と言うより私の頭上を飛び越えた所に指と視線を集めている。いや今しがた周りを確認したばかり、目立ったものも無かった。

 

 その筈──

 

「おぅふ」

 

 そこには私の身長なんて遥かに超える魔獣がThe鎮座。星空の様に光が明滅し闇色を映えせている身体はネコ科動物に似ている。黄金の装飾はエジプト感が満載で何処か馴染みがあるフォルムだ。そしてその顔は存在しなかった。

 

 無貌の神獣である。

 

「コスモスフィンクス!?」

 

 コスモスフィンクスとは正式名称『スフィンクス・ウェヘムメスウト』。通常のスフィンクスの統率個体にあたる幻獣種だ。通常のスフィンクスでサーヴァント一体とそう変わらない計算、此奴は果たしてどれ程強いのかなんて最早わかんないっス。

 

 やっぱりプロト勢って頭おかしい。

 

「エイティーン! レトロニア!」

 

 即座に武器を呼び出し臨戦態勢。

 

「出来ればやり合いたくなかったわ」

 

「前回といい今回といい召喚場所可笑しくありません?」

 

 実は最初から可笑しい!

 

「アレは運命ですので!」

 

 どう考えても作為的なんだよなぁ。

 

 何時も通りギャアギャアしながら前衛後衛に別れるもコスモスフィンクスに動きは無い。顔がないからどこを見てるのかも分からない。やがて見るものは見たとばかりに踵を返す。

 

「えぇ?」

 

 しばらく歩を進めるコスモスフィンクスだったが着いてこようとしないからか中途で停止し顔だけ此方に向けて来た。どうやら待ってくれている様だ。

 

 構えていた武器をゆっくり下ろして清姫と顔を見合わせる。

 

「どうしましょう?」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ずよ。元より会いに行く予定だったし渡りに船ってやつね!」

 

 出迎えがあるとは思わなかったけどこの劣悪な環境下で闇雲に探すより楽に着けるなら万々歳。巡回してるスフィンクスともやり合わずに済むだろうし良いこと尽くめ。

 

 清姫の手を引き後を追えばコスモスフィンクスはもう振り返ることは無かった。

 

 変化は一瞬だった。

 最初から無かったかのように砂嵐は止み、青空と白雲が挑める。正面に見える風景は混沌と調和が奇跡的に成立したエジプト神殿のオンパレード。

 

 『光輝の大複合神殿(ラムセウム・テンティリス)

 攻防どちらにおいても最強と言っても過言ではないインチキ宝具である。そしてこれから会うのはその所有者だ。あっちが殺る気なら一瞬で塵と化す可能性があったりなかったり。

 

「混沌具合でなら張り合えるのでは?」

 

「チェイテに姫路城とピラミッドが合体する世界線が存在する以上分類は同じかも」

 

「増設しますか?」

 

「するか!」

 

 然しもの私とて自分からピラミッドはぶっ刺さないし丁度いい平面だからと言って姫路城を設置したりしないしさせない。清姫が私の座に来れるから油断出来ないのよね。来んなよニート姫とくぎゅファラオ!

 

 観光気分でうろちょろしていると焦れたのかコスモスフィンクスが器用に私たちを指に挟んで連行。

 

「もうちょっと見せなさいよ!」

 

 ブンブン顔を振っている。ダメみたい。

 

「今後の参考にもう少しダメですか?」

 

 ブンブン顔を振っている。ダメですって。

 

「ところで参考って何処を?」

 

「閨」

 

「やめてもろて」

 

 まず神殿ってそういう場所あんの?

 時代を遡ったらありそうだけども、イシュタルの神殿とかそう言う場所でしょ絶対。

 

 ずんずん奥へ進んで行くと無駄に多い階段のある玉座の間へと投げ入れられた。勿論此処も神殿である。

 

 そして階段の先には2人の青年の姿がある。1人は玉座にふんぞり返る褐色の美丈夫、1人はその傍らに控える褐色の美少女。前者が太陽王オジマンディアス、この神殿の主にしてスフィンクスの召喚者だ。後者はお節介焼きポンコツンであるニトクリス、布面積は私と競ってる。

 

 敵か味方か分からない者を真っ直ぐ自身の側まで連れてこさせたファラオたちの真意は分からないが、どうにもニトクリスは不満だと言わんばかりに眉を八の字にさせている。

 

 太陽の如き瞳は未だ揺らぎを見せず、ただ私たちを見ている。手に持つ錫杖を弄びながらオジマンディアスはやがて興味深い者を見たと喉を鳴らす。その様は高貴な猫を思わせる。

 

「お前たちが5つの特異点を修復した事、まずその功績は称賛しよう。余の想定を越えて成果を上げたとあっては辛口評価に定評のある余も手放しで褒めること、やぶさかではない」

 

 褒めると言う割にその顔は笑みを浮かべることも無く、ひたすら感情のバラメータは平坦である。オジマンディアスは笑っていない。

 

「だが余りに遅かったぞ勇者とやら。既に風前の灯どころか灰の山となったこの時代の人理、如何にして救うと宣う?」

 

 予想通りこの特異点は獅子王の蹂躙にあってしまった様だ。既に十字軍は過去の彼方。となると聖抜なる選定も聖罰なる虐殺も行われた、いや進行中か。

 

 ファラオの中のファラオは遅遅として来なかった勇者()に不満があるのだろう。ヒーローは遅れてくるとは言うが、既に事が終わっている所に来たら「何こいつ?」となって当然なのだから。

 

「取り敢えず獅子王は止める。邪智暴虐の魔王と化したのなら其れを討つのは私の仕事」

 

「ならば行け、余の言いたいことは全て言った!」

 

「ただのクレームじゃない!? その為だけにスフィンクス駆り出すんじゃないわよ!」

 

 マジで会って早々に「はじめまして、じゃあ死ね」と理不尽に攻撃されると思ったわ。王様のサーヴァントは普通にそういうことしそう、偏見だろうけど。

 

 しかしはいそうですかと獅子王戦に向かうと無理ゲーが過ぎるのである。つまりまだ帰れない。

 

「そっちの要件は以上? じゃあ次はこっちよね?」

 

 ニトクリスの眉間にシワが寄る。此処で叫び出さないのはまだ彼女が冷静だから、隣にオジマンが居なかったら今頃メジェド神の冥府にぶらり途中下車の旅が始まったところ。

 

「案ずるな余とて此方が招いた客人に何も施さず砂漠には放り出さん。こういう時は無駄にケチくさく少ない路銀に木の棒を渡せば良いのだろう?」

 

「違うそうじゃない」

 

「貴様が次なる位階に達する情報もやろう」

 

「それはそれで欲しい!!」

 

 出来るのか、いやファラオは地上に在って不可能なし万物万象我が掌中にありと常日頃長ったらしいセリフを吐いているし出来るかもしれない。

 

「って違う違う。確かに物資や情報の提供は有難いけど違うのよ!」

 

 相手はギフトと呼ばれるマジモンの聖杯(ホーリーグレイル)の加護を受けた円卓の騎士。真っ向からやり合っても袋にされるのが目に見えてる。

 確実に勝つには戦力を集中させる必要がある。纏まらなきゃキャメロットを落とすのは不可能だと私は考える。

 

 だからこのカードは無理にでも確保したい。

 

「私、勇者エリザベート・バートリーはファラオ・オジマンディアスを仲間にしに来たわ」

 

「私は別にいらないと思っていますが」

 

 清姫さんは是非空気をお読みになって。私は裏拳で清姫をぶっ叩きつつオジマンに指を突き付ける。

 

「フム……」

 

「な、ななななっ──!?」

 

 池の鯉の様に口を開閉するニトクリスは遂に我慢の限界を突破したようで手に持つ杖をガツンと床で突き鳴らす。目尻を痙攣させて彼女は激昴する。

 

「不敬、余りに不敬! 貴女が口にした全てが許され難いと理解していますか!」

 

「理解した上で言っているわ。当然でしょ?」

 

「なっ!?」

 

 この身は元々貴婦人。教養は幼い頃より植え付けられ本能にまで根付くもの。私の身体の記憶は今もその記録に基づいている。まぁそういうの抜きにしてみても十分にやっちゃいけないラインは超えてるでしょうけれど。

 

 ニトクリスは泰然とした私に暫し言葉を失いやがて鋭い視線をくべる。

 

「ならば私から言うこともありません。冥府で悪霊たちとでも語らっていなさい!」

 

 魔力の迸りと共に今までとは違う雰囲気で杖を突き鳴らそうとニトクリスは腕に力を込めた。ガツンと音がなる頃には私の周りにミイラとメジェドの集団が召喚され四肢を搦めとり地に引きずり下ろそうとするだろう。

 

「杖を引けニトクリス」

 

 流麗な音でその行為は静止させられた。有無を言わさぬ圧と一緒に。

 

「し、しかしファラオ……」

 

「二度言わすな。余は引けといった」

 

「──ッ!? 差し出がましいまねを致しました。如何様にも罰を」

 

「特に赦す! 余は機嫌がいい。実に、実に!」

 

 ここまで気だるげに見えたオジマンの顔は喜色を見せている。山の天候並みに不安定な機嫌だ。

 

「寛大な御心に感謝致します」

 

「ハハッ、よもや余を仲間にと嘯くその口と肝の座りよう。なかなかに目を見張る、誇れ今貴様は余の興味を引いたぞ?」

 

「物珍しいって事ですかね?」

 

「珍獣のような扱いはごめんだわ」

 

 見世物とアイドルはなんか違うでしょ。

 

「だが余もこの地に召喚された民を護らねばならん。故に迂闊には動けん。今も獅子王との決着を図る為に大局を見ているほどだ」

 

「常であればゴリ押しするって聞こえるんだけど」

 

「そう言っているのでは?」

 

「まっさかぁ……」

 

「あっさり灼き尽くされれば良いものを、業腹なことに白亜の宮殿は容易くは灼け落ちん」

 

 うんゴリ押しだね。

 互いに護りが得意なだけあって無理やり籠城戦に持ち込むのは厳しいし、攻城戦に切り替えるしかないよね。時間は敵みたいだし。何時かの聖杯戦争みたいに都市まるごとを人質とか出来ればもっと楽だっただろう。

 

 いやだとしてもゴリ押しだな!?

 

「別に私の後ろに続けなんて言う気は無いわ。ここからでも援護可能でしょ?」

 

 スフィンクスの派遣や物資搬入、空飛ぶ舟の破壊光線にデンデラ大電球の雷撃、最終手段は大質量で直接攻撃。それらを任意に呼べるって言うのはチートだと思うの。スフィンクスと物資だけでも本来えげつない。

 

「それにその首も私ならちゃちゃっと繋げてあげるわよ。エリクサー1個で事足りるでしょ」

 

「……」

 

「その首、繋がってないでしょ? デュラハンみたいに」

 

 何処ぞの初代山の翁に断たれた首は概念的な死を刻み込んでいる。恐らく死のルーンに近しいかその上位互換。呪いとも近しい。

 どうあっても死ぬ運命にあるのに今もこうして元気でいるのはこの神殿のおかげ、チートもここまで来ると清々しい。

 

 だがどちらにしても状態異常。私のエリクサーの効能に掛かればチョイチョイっと。病気にまで効く仙豆だと考えて欲しい。

 

「今ならなんともう1本付いてくる!」

 

「この2本組本来の所2000万QP。ですが1本はさぁびすですので1000万QPでの提供です」

 

「有料ですか!?」

 

「ええい100セット買おう!」

 

「オジマンディアス様!?」

 

 目の前に積み上がるエリクサー。これでも在庫はまだ余裕という謎の生産力である。チェイテは一晩でやってくれます。

 

 オジマンは迷い無く首に吹き掛けるとあら不思議お肌に潤いとハリが生まれる。ついでに首も綺麗に跡形もなく治る。

 

「フム、余の首は何とも無かったよいな?」

 

 もう既に遅いとか言ってはいけない。

 

「じゃあ予定を詰めていきましょっか!」

 

 支援の内容やら作戦やら、これから来るであろうカルデア陣営の対応までお願いしてみた。誘導する意味はあるかどうか分からないが、予定が狂うと困るので一応。まぁ原作通りなんだけど。

 

 終始ノリノリなオジマンとは違い、渋い顔をしたニトクリスが印象的だった。スフィンクス便とかデリバリーメジェドとか聞けばそらそうなるか。逆になんでオジマンは笑っていられるのか。

 

「"獣"の1匹や2匹貸し与えたとて余にとって問題では無い。勿論相応しき者とそうでない者とで問題が生じるが。瑣末な事よ」

 

 本当にその通りだからなんにも言えない。量産型メカエリチャンをグレードアップすれば張り合えるかな?

 

「ぁ、一番大事な事忘れてたわ!」

 

「あぁ……今更別にいいのでは?」

 

「イヤ!」

 

「?」

 

 ファラオたちが首を傾げる中、私は変わらぬ第一優先事項を思い出す。最近ネタにしてなかったから忘れているでしょうけど。別に慣れたとかそういう事は有り得ないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず服ちょうだい!」




はい答えは服でしたね!
正解者はいたかな?

正直オジマンが脳内で大暴れ過ぎて御しきれない。誰かネフェルタリとモーセを呼んできて欲しい。いやそれはそれで私が尊死ぬか……

感想評価はどしどしどうぞ。
感想とかなんぼあってもいいですからねぇ。


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勇者は騎士じゃないよ!!

まず注意。
何時もは脳内エリちゃんが勝手に動くのでそれを文字に起こしているのですが、今回明らかに一部作者の私怨が入ってしまいました。申し訳ありません。

ネタバレすると円卓の騎士が出ます。


 そこは地獄の少し手前の世界。

 飢餓が蔓延し、身重の女性の頬は痩けていて腹の子が無事かも定かではない。スラムのように人が寄せ集まっているこの場は目の前の白亜の壁を越えれば幸福が待っていると藁にもすがる思いで形作られている。

 

 確かにこの荒れ果てた大地には希望など無い。緑は死滅して、獣に堕ちた亡者が徘徊しかつての隣人を貪ろうとするこの地には。

 

 だがあの白亜の城へ入城出来たとて希望はそこにあるかどうか。

 

 私は断言しよう。

 

 決してありはしない。

 

 当然だ。白亜の城の玉座に座る王は人の心が分からない。既に人ではなくなった王は人類の生命維持装置の役割しか果たさず統治はしない。あるのは管理と保管。フィギュアをガラスケースへ入れる様に人の魂を保存するだけだ。

 

 最早そこにヒトの営みは無い。かつての理想は彼方へ、ヒトを助けなければと言うカラダに染み付いた存在意義だけが居座っている。これより行われる聖抜を見た騎士王は喉を引き裂くように怒号を鳴らし民を救う為剣を振るうだろう。

 

 だがそうはならない。

 この特異点には騎士王なんて居ないから。

 

 ならば勇者たる私が成そう。

 

「はい食料の配給よ! 順番は守ってねぇ、皆の分あるから!」

 

「汁物からゆっくり嚥下してくださいませ。胃に障りますからね」

 

 まずは炊き出しから!!

 

「……あったかい」「あぁ美味い飯なんて久方振りだァ」「でも何入れたらこんな紅くなるんだ?」

 

 知らん着色料無使用でソレだ。

 

「なんで俺たちまで……」

 

「追い剥ぎなんてしようとするから」

 

「そんな展開は許しませんし許しませんし、絶対許しません」

 

「どんだけ許せないんだよ!? 分かった、分かったからその目止めてくれ! 蛇か何かかよアンタ!?」

 

 こっちの小汚い野盗は少しお話したら喜んでボランティアに参加してくれました。いやぁ小汚いですね。

 

「ヒィ、アンタもか!? 勘弁してくれぇ!」

 

 私から衣服を剥ごうなんて許しませんし許しませんし、絶対許せない。命が残っただけマシなのである。

 

「お姉ちゃん、ボクにも食べ物頂戴!」

 

「えぇどうぞ。水もあるから持って行ってね。あとこれも持って行きなさい」

 

「なにこれ?」

 

「御守りよ」

 

 少年に渡したのは道具作成で作った護石。ガラス玉に術式を刻んでデコっただけの急造品だが性能はまぁまぁでしょう。見た目はビー玉に見えるけど着色した塗料は……内緒である。

 

 衣食住全て用意してあげたかったけど直ぐにこの場から離れる事になる。身軽にするに越したことはないと納得しよう。まぁテントくらい直ぐに作れるし。

 

「マシュ見てエリちゃん居る! この列なんだろ、握手会?」

 

「炊き出しではないでしょうか? 仄かにいい香りがしますし」

 

「エリちゃんの手料理、だと?」

 

「ちょっと料理の成分が気になるなぁ。見た目が毒々しい割に香る匂いは絶対美味しいって脳に直接語りかけてくる」

 

 カルデア陣営も無事ここまで到達か。そしてちゃっかり並ぶのね。

 

「ラーメン一丁!」

 

「はいラーメン一丁入りましたぁ」

 

「あるんだ」

 

「入りませんよエリザ」

 

「ないんだ……」

 

「即席なら」

 

「あるんだ!?」

 

 お湯を入れて3分でらくらくクッキンッ!

 

「あのエリザベートさん。この特異点の事はどれくらいご存知ですか?」

 

 タイマーをガン見するマスターはさて置いてマシュと何気に初対面なダ・ヴィンチちゃんにはスープとパンを渡す。味は良いぞ、味は……

 

「誰を倒すべきかは分かってるわ。まぁ足踏みしてるのが今の現状だけど」

 

「じゃあここで何が行われるかも?」

 

「まぁね。それがなきゃ今頃此処はライブ会場よ」

 

「キミ特異点一つにつき一回はライブし出すよね」

 

「アイドルだもの」

 

 歌で世界を救える勇者って素敵やん?

 

「エリちゃんがライブを敢行しない程の理由かぁ」

 

「ん? あぁ、子ジカたちは知らないのね」

 

「差し支えなければ教えて頂きたいのですが」

 

「此処じゃ言い難いわ。このテントには遮音機能無いし」

 

 下手を打てば一歩手前だった地獄に百歩は踏み入る。パニックを起こされたらそれこそ助けられる命も限られてしまう。

 

「ちょっと冷えて来たかしら?」

 

「夜風侵入し放題だからねぇ」

 

 気温が高めとは言え流石に夜は寒い。少し風が吹けば先端や節々に堪えるだろう。ブランケットやひざ掛けくらい用意してあげた方がいいかも。

 

「おや?」

 

 急激に空が白み始めた。まだ日の出には遠いと言うのに。夜は白昼夢の様に消え去り、天には燦々と輝く太陽が辺りを照らしている。ざわざわと雑多に響く人の声はやがて1つの言葉に収束した。

 

「円卓の騎士様だ!」

 

 アイドルを差し置いて衆目を奪っている男が一人、ぞろぞろと騎士を連れて門から出てきた。

 

「今宵はお集まり頂きありがとうございます。これより聖都の門は開かれ皆さんを楽園へと誘いましょう」

 

 観衆は歓喜した。熱に浮かされたように皆一様に騎士たちへ歩み寄ろうとする。

 

「ですが残念ながら誰もがこの門を潜ることは叶いません。選ばれた者だけが通る事を許される。厳正にして公正な審査を我が王、獅子王によって執り行われる」

 

 熱は冷め始めそんなことは聞いてないと野次が飛び出す。だが騎士たちはそれに対し意も介さない。ただ自分に課された命を遂行するだけだと隊列を一切乱さず。

 

「ではこれより聖抜を開始します」

 

「うわ、人が光出したぞ!」「わぁお母さんキレイ! ピカピカだぁ!」

 

 少ないが辺りにポツポツと光の柱が建った。

 

 分かりやすい方式だ。光っている者は選ばれた者、それ以外は選ばれない者。

 

「3人ですか。喜ばしい事です。貴女方は我が主に選ばれました。そして同時に残念な事ですがそれ以外の方は─」

 

 人好きのする笑みを浮かべていた円卓の騎士は表情を消した。太陽の騎士に似合わない冷えきった貌で冷酷に判断を下したのだ。もう主を裏切る事が無いように、ガウェイン卿は己が聖剣を抜剣した。

 

「──粛清を、と。これも人の世存続のため、恨み辛みはどうかこの身だけに……」

 

 柄に宿る太陽の複写体は火を灯す。難民は今までに感じたことの無い殺意を浴びた事で腰を抜かす者や震える者も出だしている。

 

 ガウェインの後方に待機していた粛清騎士も抜剣し選ばれた者とそれ以外をより分け、無辜の民を害そうと陣を敷くだろう。

 

「だけどそんな事は私がさせないわ!」

 

 魔力放出で空を駆りガウェインの元へエイティーンを振り下ろす。

 

「何者ですか!?」

 

「その問い掛け、答える必要なし!」

 

 今のガウェインは聖杯より『不夜』のギフトが与えられた常時3倍バスターゴリラ(ターン無限、即宝具チャージ)の皆のトラウマだ。私は何処ぞの下姉様じゃないからまともに取り合わず悪即斬である。

 

「『魔力放出』機能拡張術式起動、穢れなき勇者の剣を全身で体感しなさい!

──遥か彼方へ紡ぐ勇者の名剣(エイティーン)』!!

 

 エイティーンは何処ぞの聖剣、魔剣の様にビームは出ない。ただどんなに粗雑に扱おうと壊れないと言うだけだ。故に攻撃に転じるには変わったアプローチが必要になった。

 

 それが『魔力放出』によるかさ増し。私がレトロニアを広い受けの盾へと変えた手法と同じである。

 今までレトロニアは敗れたことは無い。魔力放出で補完した部分を含めて罅さえなかった筈だ。故に私はこう推測した。

 

 

 ──これ不壊属性付与してね?

 

 

 つまり今のエイティーンは鋭さや硬さをそのままバカでかくなってる。超巨大剣、それが私の答えだ。

 

 パワーゴリラは質量パワーで捻り潰す!

 

「ぶっ潰れろォ!」

 

「ぐっ! おおおォォォ!」

 

 剣の押し合いに入った状態では逃げ場無く、真上からの強襲だから剣の重心全てと膂力を身体で支えなければならない。たとえガウェインの両足が耐えられても、その両足を支える地面は彼を押し上げることは無い。

 

「まだまだァ!」

 

 エリクサーを召喚!

 瓶を頭上に掲げ握力で砕いて盛大に自分にぶっ掛ける。体力魔力状態異常を完全回復。

 

 ──そして魔力放出ッ!!

 

 鼻血が出ても、毛細血管ブチ切れても、血涙が流れようとガウェインには一時的であっても動いてもらいたくは無い。私は今のコイツが大嫌いだから。

 

 当時のカルデアには星5アーチャーが居なかった。なんだったら孔明もジャンヌも居なかった! マーリンなんて実装もしてない時期だ!

 

 正直無理ゲーだと思った。確か星4もアタランテくらいしか居なかったし、スカスカ? 影も形もないです、と言うかあってもキツイですが何か。そして星3以下だとどうしても限界があった。聖杯転臨? だからねぇって言ってんでしょ!

 

 結果どうなったか、令呪と石を砕きました。

 

 ガチャ以外で石を使ったのはその時が初めて。

 

 この気持ちが理解出来るか……

 

「ガウェインーーーー!!!!」

 

「何故か身に覚えが無い憎悪がこの身を襲っている!!?」

 

 心を乱したことで(自爆)隙を得たガウェインはどうにか私の剣の影を不格好ながら脱する。だけど私のバトルフェイズは終了しちゃいないわ。

 

 デカくなったエイティーンを一時放棄、魔力放出でロケットタックル。浮いたガウェインを──

 

「ステラァ!」

 

 一時放棄したエイティーンを握り直してフルスイング。ガウェインは城壁の星になった。多分これでも生きてる……

 

「が、ガウェイン卿ーーーー!!?」

 

 粛清騎士共はと言うと難民をグルりと囲むように陣を組み、逃げ道を塞いでいる。難民もここまで来ると危険を察知して逃げ出そうとするも粛清騎士の凶刃によって阻まれる。

 

 だが未だに死人はおろか怪我人も出ていない。

 

「なんだこの障壁はァ!?」

 

 上手く御守りが機能したようだ。道具作成で作った物がただのアクセなわけないでしょう。ただ一回ぽっきりだからこれ以上放置はまずい。

 

「道を作って清姫!」

 

「承知しました」

 

「子ジカは難民引き連れて離脱しなさい。商人崩れも手伝いなさいよね!」

 

「うん分かった!」

 

「ゲェ……」

 

 そして私の役回りはと言えば。

 

「やってくれましたね」

 

「何であの一撃をモロに受けて立ってられるのよ?」

 

「円卓の騎士ならば当然のこと、と言いたい所ですが。我が主によって下賜された祝福(ギフト)無くして耐える事が叶わないかと」

 

「あら嫌に弱気なのね円卓の騎士って」

 

 笑ってるけど全然笑ってないガウェイン。

 

 煽りまくる私。

 

 相手は元より剣技に長け、聖剣を解放すれば辺り一帯を焦熱地獄へと変えることが出来る猛者。元パンピーが背伸びしてる私じゃ分が悪い。

 

「じゃあどうするかと言うと、こっちも手札を増やせばいいのよ!」

 

 難民の中から飛び出す影がある。清姫では無い。あの娘は今先陣を切ってる。いやなんで先陣なのあの娘!?

 では誰か。

 

「何故、貴方が……」

 

 同じ円卓の騎士にしてアーサー王の最期を看取った者、とされる英傑。実際はもっと特殊な存在だが詳しくは実際に君が見極めてくれ。

 

「ベディヴィエール卿……」

 

「何故? それを貴方が問うのですねガウェイン卿……ではこちらからも問いましょう。何故守るべきヒトに刃を振るうのか?」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるガウェインはだがしかし毅然に答える。

 

「我が主が望まれたこと。私はただ王の騎士として忠を尽くしています」

 

「これがアーサー王の望まれたことだと、そういうのですか!? あの方は誰よりも国とヒトに心砕いたお方だ!」

 

「今のアーサー王はかつてのアーサー王とは違うのです。でなければ獅子王とは名乗らない陛下自身も気付いておいでだ」

 

「そんな……」

 

 揺らぐ目はベディヴィエールの脚を重くさせた。己が罪の重さを今ここで改めて痛感している。

 

 いや私を空気にしないで欲しい。

 

「右腕を握り締めなさいベディヴィエール。元より貴方がする事は変わらないでしょう!」

 

「……彼が言った通りの方なのですねレディ」

 

 え、グランドクソ野郎がなんだって?

 

「ガウェイン卿、私はどうやらどうあっても再び王に会わなければならない様だ」

 

「それは轡を並べると言う意味では、ないのでしょうね……」

 

 騎士が戦場で会えば殺し合い。たとえ嘗ての友であろうと、仲間であろうと対立するならば切り結ぶほかない。

 

「いざ尋常に!」

 

「勝負!」

 

 ギャラハッド曰くベディヴィエールはそこまで強くないらしい。けれどそれは言葉がやや足りない。円卓の騎士の中ではそこまで強くないのであって実の所騎士の中では強いのだ。

 

 隻腕と言うハンディキャップを背負って尚その実力は一般の騎士を圧倒する。であれば剣を振るうのに申し分無い義手を持った場合はどうなのか、そら強いはず。

 

 一つ気になる点が有るとすれば、彼が槍使いに長けた騎士という点。義手の特性上仕方ないのか、史実とは異なり剣使いなのか。

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』──ッ!!

 

「やっぱり義手ってカッコイイ!」

 

 魂を燃やすベディヴィエールにエリクサーをぶっ掛けながら私は武器義手のカッコ良さを噛み締めていた。

 

「れ、レディ……」

 

 今私は不意打ちで謎の液体をぶっ掛けてしまったわけで、ついさっきまで騎士として正々堂々口上を述べたわけで。甘ったるいフレーバーを髪から醸し出しているわけである。

 

 うん台無しよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやごめんて」

 

 だってこの後適当に逃げるし。




被疑者は「ガウェインを許せなかった」と訳の分からない供述をしており、余罪がないか捜査中です。

当時の私は石を砕いた未熟者でした……

感想ください(切実)


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もしも運転は必要だけど、殺るべきだと思った時は既に轢いてるものだ!

うまぴょいしてました。

もうエリちゃんのやってることがRTAにしか見えなくなってきた。私の筆は激遅なのにね。
今回は雑に雑を重ね、登場キャラクターが雑に吹っ飛びます。あれ、いつもの事か。


 猛る紅きラインを軌道に置き去りにし、見晴らし最高の青天井を駆け抜ける鉄の処女。その様はまるでかの有名なスーパーカーの様だった。気分マシマシにユーロビートでも流して見せようか。

 

 だがそれは決してスーパーカーなどではない。最高速度音速だからね! 防護魔術がないと首がグキるから気を付けよう。

 

 そして素知らぬ顔で走るこの車、実は先程人を轢いている。

 

 被害者はガウェインと言う円卓の騎士、かつての仲間ベディヴィエールと劇的な再会のあといざ尋常に勝負しようとしたその時に事件は起こりました。

 容疑者であるエリザベートがベディヴィエールに対して謎の液体を頭から掛け、訳の分からない言葉を投げかけました。

 そして悪びれもせずエリザベートはガウェインにこう言い放ち、そして指を指します。「あ、絶世の巨乳美人が!」、と。ガウェインも思わず、最早本能的に戦場だと言うことさえ忘れ、振り向いてしまいました。結果彼の振り向いた先に美女は居らず、騙された事に気付いた時には既に横合いから突如として現れた赤い車に轢き飛ばされていたのです。

 

 あぁなんて可哀想なガウェイン。

 

「れ、レディエリザベート。それを行ったのは全て貴女なのですが……」

 

「ガウェインは勇敢で優秀な騎士でした。まさか彼にあんな事が起こるだなんて、残念です」

 

「彼は死んでません! と言うか残念ってどの口が言ってるんですか!?」

 

 可愛いこの口。

 

「さてそんなどうでもいい事は置いておくとして」

 

「聞く耳を持ちませんかそうですか……」

 

 観念して革のカバーに包まれた座席に身を任せるベディヴィエールに冷えたドリンク(エリクサー)を振る舞い機嫌を取っておく。あ、それはアメリカライブの幻の限定ドリンク。

 

 私もホルダーに刺さってるドリンクをチューチュー吸いながらカーナビを立ち上げる。清姫を指定すれば村まで辿り着くはず。ベディヴィエールはそこで下ろして、清姫を拾って──

 

「ちょっ、前、前向いて下さい!」

 

「ん?」

 

 いやこんな荒野のど真ん中で障害物なんてないでしょ。岩程度だったら粉砕、魔獣も玉砕、子ブタたちが居ても大喝采。仮に円卓の騎士が居たとしてもなんとも──

 

「な、い……いぃ!?」

 

我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラットアーサー)──ッ!!」

 

 聖剣の煌々と輝く光は邪剣に転じ赤雷の苛烈な波涛が視界を覆う。触れれば最期、只人程度なら瞬間的に消し飛ばす光が王権の象徴『燦然と輝く王剣(クラレント)』から放たれる。そしてその担い手、と言うか勝手に武器庫から簒奪されたのだが、この赤雷を放つのは円卓の騎士の中でもただ一人。

 

 叛逆の騎士モードレッド。

 

「先手必勝は私の専売特許だってのに! いいわよ受けて立つわ!」

 

「は?」

 

「口閉じてなさいよベディヴィエール。舌噛んでもエリクサーで解決だけど痛いからね!」

 

「なんで速度をあげるんですか? なんで放たれた宝具に真っ直ぐ進んでいるんですか? 避けますよね、避けてくださいレディ!!?」

 

 アクセルをベタ踏みにして突っ込む。チキンレースも真っ青なデスゲームのはじまりはじまり、なんてったって私のブレーキは既にぶっ壊れてる!

 

 一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀。いや車だから一歩も二歩もないけれど!

 

夜闇を駆ける鉄処女(テスタロッサ・メイデン) 唸れ私のドラテク!!」

 

「テクニックも何も真っ直ぐ進んで、ひゃあああ!!!?」

 

 あざとい悲鳴が隣から響くがそんなことは関係ない。魔力で編まれた鎧を鉄処女に装着させて、ダメ押しに魔力でニトロを代用し再加速。走破性ならシャドウボーダーにも負けない! 虚数潜航は無理だけど、それはそれ。力で捩じ伏せ走破すればヨシ!

 

 これでいつサマーレースが開催されても負けはない!!

 

 トップスピードで誰の目からも鉄処女が掻き消える。赤雷との衝突はそのすぐあとに起こった。

 

「幻想の鉄処女を焼き消そうとか傲慢ね! やりたきゃ最大狂化の清姫でも呼んでこいってぇの!」

 

 赤雷の中を駆ける、夜闇を駆けるはずの鉄処女は最高ランクの宝具の一撃をものともせずに食い破って行く。何処ぞの神牛が引くチャリオットのように真っ直ぐ蹂躙していく。

 

 そしてその赤雷を越えてその先へ。

 

「おわぁあああ!?」

 

 その先にいるモードレッドを悠々と轢いていく。これで円卓の騎士を轢くのはお前で2人目だ。A+とA++では大きく差があるのだ、悔しかったら次からエクスカリバー持ってこい! エクスカリバーなら私の隣で寝てる(気絶)けどねハッハッハッ!!

 

 おまけとばかりに粛清騎士を鏖殺。真っ直ぐ轢いたり、ドリフトで回転しながら轢いたり、ソニックブームで消し飛ばしたり、バックファイアでこんがりさせる。上手に焼けました!

 

「テメェふざけた事を──わぷ!?」

 

 どうにか起き上がったモードレッドにお化けかぼちゃを喰らわせ、煙巻いて逃げる。そして最高速度で射程圏内を脱出する。これ一方的見えてあと数分もすれば対応してくるから逃げるが吉よ。不意打ちだから有効だっただけ。

 

 ベディヴィエールに相手をさせるにも、互いに煽りあって時間が掛かり過ぎちゃうのはいただけないのよ。目指せ仲間集めルート世界最速レコード。

 

「どうよベディヴィエール、私自前の騎乗スキルはって伸びてらっしゃる」

 

 その後ポロロンしてた後ろ姿美人も背中から轢いた。お前で3人目だ。

 

 

◇◆◇

 

 

 山の翁たちが守護する村は山間に位置する。本来見つかりにくい山と山の間にあるその村だが鉄処女に載せたカーナビなら一発で辿り着く。ただ清姫に渡した発信機無しだとただの置物なので過信はいけなかったりする。清姫の持つストーキングスキルの応用だからねしょうがないね。

 

 発信機を渡した時の清姫の反応は、いや止めておきましょう。普通はこんなもの渡しても喜ばないし頬を赤らめない。発信機は絆にならないのよ清姫。寧ろ不信感の塊なんだからね。

 言っても聞きやしないだろうけど。

 

 明らかに山向けのフォルムから掛け離れている鉄処女でヒルクライムとダウンヒルを繰り返し、山道を開拓していく。

 

 今度から空飛べるようにしようかしら。まるでチキチキでバンバン的な感じに、いややってることはバックでトゥなフューチャーか。最終的に列車にでも手を出して電王とか銀河鉄道。

 

 私の境遇を加味すればマジで必要になるのが世知辛いわよねぇ。

 

 見えてくるのは正直言って見窄らしい住宅群。

 強度も見た目も可愛くないそれは息をひと吹きすれば飛んでいってしまいそうだ。

 

 サーヴァント反応からしてここら辺に清姫が居るはず。

 

「お、居た。子ジカー無事ィ?」

 

 まぁ見た感じ無事そうだし無事じゃなかったらロマニが騒いでるでしょうしあんまり心配はしていないんだけど、万が一の為にエリクサーパイセンを握りこんでおく。飲むタイプ、塗るタイプ、打つタイプ、吸うタイプ各種取り揃えてます。

 

「え、エリちゃーん!」

 

「え、顔ぶっさ! どうしたの?」

 

「ダ・ヴィンチちゃんが!」

 

 …

 

 ……

 

 ………あぁ、そういえばそんな事もあったわ!

 

「カルデアのサーヴァントは霊基が記録されてるから時間経過で再召喚されるわよ」

 

「え?」

 

『あ』

 

「ドクター?」

 

『ち、違う! 僕も忘れてたんだ。間違っても故意じゃない!』

 

「でも忘れてたんですよね?」

 

『いや、ホントごめん』

 

 必死に弁解するロマニにプンプンするカルデア組は暫く置いておくとして、いや反省はしなさいロマニ。女の子を泣かせた罪は重い。

 

「今日は随分と客が多いですな。清姫殿の伴侶殿でよろしいか?」

 

「呪腕のハサンね。話は疾うに済ましてるみたいだけど、勇者エリザベートよ。清姫とは、もう自分でも何なのかわかんない」

 

「紛れもなく夫婦です」

 

「はわ!」

 

 貴様いつの間に背後に!?

 気配遮断も無しにどうやってんのこの娘。圏境でも会得した?

 

「清姫殿、けが人の治療はもう終わったのですかな?」

 

「はいお薬を手渡すだけですので」

 

 エリクサーですね分かります。

 

「じゃあ呪腕、こっちからは当分の食料とけが人に使用したエリクサーを渡すわ。代わりに情報を頂戴」

 

 ついでにベディヴィエールの面倒もと付け加える。

 

「欲しい情報は2つ。静謐のハサンの場所」

 

 捕まってるのは知ってる。けれど場所は知らない。雑魚狩りなら吐息一つで済む彼女とは是非コンタクトを取りたい。毒のサンプルも欲しい。寧ろそっちが本音。

 

「静謐の場所については我々もついて行きましょう。それで、もう1つは?」

 

「初代の場所」

 

「……初代、ですかな? 申し訳ない、ピンと来ないのですが」

 

「初代ハサンの事よ」

 

「ぶぉっふぁ!!?」

 

 この特異点最大戦力と言って過言じゃないキングハサン。つまるところじょーじ、ではなくじぃじ。ガウェインの当て役なんて勿体なさすぎるけれど、実質異次元の耐久してるガウェインには必要な相手だ。

 

 あと此処で関わりを持たないと普通に次の特異点で詰むと思うの。

 

「我らの秘中の中の秘なのだが、いやそもそも初代様にお目通りが叶うかは分かりかねますが。確かに協力が取り付けられるならばこれに勝るものはないでしょう。ですが、しかし……絶対首がですね!」

 

 早口でぶつくさ言う呪腕に合掌はしても容赦はしない。でぇじょうぶだエリクサーがある。首チョンパくらい切れた瞬間エリクサればギリ生きる、ソースはオジマン。ガッツ効果もおまけだ。

 

 目の前でカタカタ震える骨仮面に肩ポンすると頭を抱えてしまった。往生際が悪いぞ呪腕の。心配するな百貌と静謐も一緒だ。

 

「何一つ安心できませんぞ!」

 

「じゃあもう廟の場所だけ教えなさいよ! 私が交渉するわ!」

 

「交渉材料がおありで?」

 

「ない!!」

 

 我欲とかじぃじにないし。狂信者だし。

 

「パンでも用意しとく?」

 

 パンが全てを救う。なおウチのカルデアには来なかった。

 

「……あい分かった。ですがまずは同胞を救出しましょう」

 

「パンは?」

 

「もうお好きになさって」

 

「じゃあチョココロネ用意しとくわ」

 

 結局あれはどっちが頭なんでしょうね。

 

「じゃあ早速だけど、誰が行く?」

 

「一先ず身体を休めて明日にでも発ちましょう。西の頭目にも文を飛ばします」

 

 私は直ぐにでも行けるけど。子ジカも同行するならそうなるのも分かる。只人なら無理はさせられない。ダ・ヴィンチの事で心身ともに疲弊しているはずだし。

 

「あ、ご飯の姉ちゃん!」

 

「おお、ルシュド。ご客人だ、迷惑を掛けてはいけないぞ」

 

「姉ちゃんは大丈夫だよ」

 

 聖抜で選ばれてしまった母親を持つ子供。本来であれば母親を失っている。今回は誰一人として粛清させることは無かった。目に見えて救った人間が目の前に居ると、なんだか尻尾が落ち着かない。

 

「お母さんは無事? お腹すいてない?」

 

「うん、大丈夫!」

 

「ならお菓子をあげましょうね。ほら飴ちゃんよ!」

 

「ありがとう!」

 

 お礼が言えるいい子で良かった。助けた甲斐もあったってものよ。追加で飴ちゃんあげよ。お母さんと分け合いなさい。

 

「子供は何人でもいいですよね」

 

「そんな話は一切してない」

 

 あと私たちもどちらかと言えば子供側よ。

 

「何か賑やかだな」

 

「お、最大戦力その3みっけ!」

 

 私が思う最強メンバーはオジマン、じぃじ、そしてアーラシュ。三蔵ちゃん? 同族っぽくて相性悪そう。

 

「初対面の筈なんだが、随分買ってくれてんだな。妙な気分だぜ」

 

「目の届く範囲全て射程にする弓の腕は勿論、とっておきもあるでしょ?」

 

「本当に初対面?」

 

「勇者なので」

 

「勇者だからかぁ」

 

 実はお前もオジマンの扱い的に勇者じゃい。

 無理やりエリクサーを押し売りしとく。食前ならぬステラ前に飲用下さい。性能は保証します。今ご連絡頂ければサンプルをプレゼント。

 

 後は大きな倉庫をドーン。

 

 中に保存食と保存水と布教用ポスターをドーン。

 

 たくあんとか食べれるかしら、ピクルスにしとこうか、いやアンチョビもいいわね。いやもう全部入れとこうと、そんなこんなあって。立派な倉庫が出来ました。

 

 巨大すぎる内装を隠すため山に風穴を開け、思った以上に環境が良かったので、余計な機器を取り払い広々空間を全て有効利用。腐蝕防止の魔術を施した角鋼やH鋼で洞穴を補強しつつちゃっかり陣地作成で異界化したので安全性も申し分無し。

 

 あとうちはプレカットなんで、顧客もにっこり。ありがとうメカな私たち!

 彼女たちなら半刻でやってくれます。我がチェイテに不可能は大体ない。

 

 満足の仕上がりに自画自賛をしている所、横槍が入った。どうやら西の村から救援要請が掛かったらしい。道中の円卓は轢いたんだけどなぁ。

 

「最終的に各村には結集して貰う必要があったわけだし。まぁ悪いけれどいいキッカケよね」

 

「行かれるんですねエリザ」

 

「勿論! それに実は少し楽しみだったのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーラシュの宴会芸!」

 

 いざ紐無し逆バンジー!!




いつかウチのエリちゃんの設定を晒せる時が来るのかな。いやまず伏線っていう伏線もないから誰も納得せんか……

次回はバンジーして、敵の砦に突撃して、じぃじにチョココロネを渡す。所まで行けばいいなぁ!

感想くれてもいいんだからね!


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大丈夫(でぇじょうぶ)だエリクサーがある!いざって時はかぼちゃ聖杯で生きけぇれる!

サブタイにはいつも通り意味などない。

ドラクエってモンスターをボコったあと仲間になるよねって話。


 安全バー無し、席なしの棒立ちに申し訳程度の手すりがあるだけのイカれたアトラクションがあるらしい。そうだね超高弾道超高速移動、アーラシュ十八番の宴会芸の逆バンジーだね。

 

「待って、待て待てどう見ても安全性に難があるよね!」

 

「当たり前だろ、命懸けだからな。これに乗った屈強な男連中はこぞって2度目は絶対に乗らないって断言してたくらいだ」

 

 マシュに子ジカをしっかり捕まえておくように念を押したあと、アーラシュは私達が乗る足場へと繋がれた矢を番えて弓を引いた。いやぁやっぱりアーチャーって頭が可笑しいですよコレ。なんでただの弓矢でこの足場を一山越えた先まで運べるんだ。

 

「ちょっ心の準備が!」

 

「大丈夫よいざって時は拾ってあげるし」

 

「安全が保証されようと怖いものは怖い!」

 

「大丈夫です先輩!」

 

「マシュ……」

 

「怖いのは私も同じですから!」

 

「聞きたくなかった!」

 

 そんな情けない人類最後のマスターの一言を最後に矢は射出された。ドゥルドゥルとロープが空に吸われるのを見て私は隣の清姫の腰を抱き寄せておく。滞空中は大丈夫でも着弾時は弾け飛ぶから一応ね。

 

「よっと、フジマルもう喋るのはやめとけ。舌噛んじまうからな」

 

 足場に乗り込んだアーラシュはそう言うと子ジカもギュッと口を噤んだ。まぁ直ぐに口は開きっぱなしになるんだけど。

 

 ロープが余さずピンと張った時、足場は翔んだ。矢の気持ちが分かる。大気を切って進んでいく感覚だ。風の抵抗もえげつない。子ジカたちは案の定絶叫、口を開けっ広げ風で波打っている。

 

 呑気に描写してる私ではあるけれど、決して余裕があるわけじゃない。絶賛恐怖に見舞われている。いやこの逆バンジーはちょっと刺激が強いアクティビティだ。

 

 だがこの強風はだいぶ問題だ。なんせ私の装束は身を覆うローブでその下はいつものビキニアーマー。これはビキニアーマーの呪いの特性上仕方ない。まぁでも何が言いたいか分かるかね。つまりそうめっちゃ風に煽られる!

 

 それこそローブが吹き飛ばんとする位には!

 

「ぬぐぉ! 清姫ちょっと押さえて。片腕じゃやばい」

 

「いえこうすれば一石二鳥です」

 

「ああ、確かにローブの中に一緒に入れば解決! でも近過ぎだし、もう自分1人で立ってくれる!?」

 

 密着し過ぎて着弾時の脱出のタイミングを見逃しそう。片腕を割いてた理由が無くなるので離れてもろて。身体さわさわするのもこしょばいのでやめてもろて。やめ、やっ、やめろってんだろ!

 

「もう着く! 脱出のタイミングは任せろ。そらカウントするぞ!」

 

 アーラシュのお陰で遅れを取ることはなさそうで一安心。だってこの娘マジで離さねぇ。一先ず横抱きにしておく。いやだからもう着くから離してって。

 

「3、2、1、今だ!」

 

 無理やり抱き上げた清姫を頭突きして黙らせ足場から飛び出す。マシュもキチンと子ジカと脱出できていたし問題ないでしょう。黙りこくってた呪腕も気絶してた訳じゃなくて安心した。

 

 勿論足場は爆発四散してた。もはや兵器。

 

「よし無事、無事だな? 流石オレ、目標にドンピシャだ」

 

「手足が震えてますけど無事です!」

 

「此方も手が震えていますが戦闘に問題ありません」

 

 うんうん、無事だね。下手すれば死ぬからねアレ。

 

「乗り心地は最悪だったけど移動手段としてはエコでいいわね」

 

「優秀な弓手が居ないと不可能なのが難点ですが」

 

「最悪私がエイティーンをぶん投げれば……」

 

「おっなんだ興味あんのか、なんだったら後でコツを教えてやるよ」

 

 なんか被害者が増える気がするんだけど。まぁ教えて貰えるなら是非ともってところね。なんせ講師はあのアーラシュ・カマンガー。この際弓も使えるようになると便利か。スーパーソニックとかブレス系くらいしか遠距離対応出来ないし。まぁチェイテをぶつけりゃ勝てるとは思うけどね。

 

 村までは此処から少し先にある。足場は相変わらず舗装のされてないから悪い。この身体になって以降足場が原因で転んだことは無いけど。

 

「大丈夫子ジカ、走れる?」

 

「大丈夫大丈夫、余裕も余裕だよ」

 

 プルップルの脚じゃ説得力に欠けるけど、まぁ大丈夫って言うなら大丈夫でしょう。子ジカの場合素直だし、ダメって言う時が本当の限界なんだろうし。我慢強いって知ってるし。

 

「じゃあ行くわよ! 呪腕案内して」

 

 狼煙に真っ直ぐ最短の道をスイスイ進んで道中の魔物をかぼちゃで吹き飛ばして進む。素材は子ジカに渡しておこう。霊基再臨、スキル上げとあって困る代物じゃないからね。

 

 そして見えてくるのはややボロい姿になったモードレッド卿だったとさ、なんでボロいんでしょうね(すっとぼけ)

 

「テメェさっきの!」

 

 被害者と加害者、ここで再開。

 此処が裁判所か。弁護人は清姫、証人はベディヴィエール、裁判官は子ジカたちにして貰うとして、検察はどうしましょうか。焦げた粛清騎士?

 

「モードレッドさん!?」

 

『ロンドンのモードレッド卿とそこに居るモードレッド卿は別人だ。複雑かもしれないけど、彼女は敵である円卓の騎士モードレッドだ!』

 

「あん? オレとどっかで会ったのかよ? やり辛ェ」

 

 ロンドンは何処ぞの節穴のおかげでいい思い出もないし、モードレッド卿とも話せなかった。起きたらラスボス居たし。

 

「それよりお前だよお前!」

 

「言われてるわよ呪腕」

 

「いえどう見てもエリザベート殿を指してますぞ!」

 

 だよね。

 

「テメェさっきはよくもコケにしてくれたな!」

 

「うん、ごめん!」

 

「ごめんで許されるかァ死ねェ!!」

 

 完全にブチ切れてますね。クラレントくんも戦慄く馬の如くバチバチの赤雷を放出してる。しかも祝福(ギフト)有りの暴走状態ですよ。普通に尋常じゃない量の魔力放出。

 

「いやごめんって言ってるじゃない!」

 

 全部レトロニアで防げるとは言えビリッビリする。スリップダメージとか聞いてない。めっちゃ痒い!

 

「痒いって言ってるでしょうがァ!」

 

「ガハッ!?」

 

「言ってた?」

 

「言ってなかったと思います」

 

『ボクも聞こえなかった』

 

 手を竜種に変化し硬質化させ、さらに魔力放出を全開でぶん殴るのはいい組み合わせだわ。余っ程硬さに定評のある鎧でも無いと防ぎきれない。ヤコブ神拳とかオンラインで教導して貰えないかしら。

 

「ゴホッ、かひゅっ……」

 

 やっぱり円卓の騎士だけあって頑丈頑丈。まぁあんなに念入りに轢いて汚れる程度だし納得だけれど。

 

「ねぇモードレッド卿。どうか教えて、なんで獅子王に使い潰されようとしてるの?」

 

「テメェにゃあ関係ねぇ!」

 

 字そのままの意味で身を焦がすように魔力を回し、絶えず打ち込んでくる。祝福(ギフト)と言うかもう呪いなのよね。あとAランクの宝具を連発されると集落が吹き飛ぶんだけど。

 

「消し飛べッ! 『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)──!!」

 

「あぁもう話くらい出来ないの!」

 

「エリザが煽るからでは?」

 

 ヒラリと避けて家屋が吹き飛ぶ。ヒラリと避けて山が削れる。この辺りが更地になるのもそう遠くない。そしてヒラリと避けるとモードレッドのフラストレーションがさらに高まる。

 

 アーラシュは粛清騎士の処理、アサシン組は正面切って戦うのには向かない。ベディヴィエールは寝てたから連れて来てない。マシュも防戦向け。となると私か清姫くらいしか攻勢に出れないのか。

 

「しょうがない。やるわよ清姫!」

 

「何時でもどうぞ」

 

 心強い相棒の返答を合図に間合いを一気に潰す。溜め時間が聖杯の力で無くなったとはいえ超近距離戦闘に於いて聖剣ビーム系統は振るい難くなる。下手すればただの自爆、いやモードレッドは自爆覚悟ではあるんだけど自爆するならもっと広範囲を巻き込む手段に出るだろうさ。

 

 鍔迫り合いに持ち込んで膂力でゴリ押して崩す。さらにスーパーソニックでスタンを付与。さらにさらにヒールを使いメルトリリスの如く鋭い脚技で、拷問技術スキルを併用しながら眉間を穿つ。

 

 如何に敵を無力化し続け一方的に殴り続けられるかなんてfgoプレイヤーならみんな知ってる。スタンとか魅了とか、無敵にも無敵貫通、回避にも必中で対応し殴って殴る。バフを山盛りで一発でゲージを飛ばすなんて事も基本だ(白目)

 

 短期決戦でエネミーも単騎なら絶やさず毎ターン行動不能状態を付与すりゃ勝てんのよ。いや宝具連射で十分だけど。

 

「そらおまけで『やけど』と『延焼』も喰らいなさい」

 

 清姫の火炎に加えて私の火炎もお見舞すればゴリッゴリ削れる。こんなの特殊な高難度クエストくらいでしか使わないんじゃない?

 

「そろそろ鼓膜がナイナイしたでしょ? 大丈夫大丈夫ちょっと点耳薬(エリクサー)を付ければ元通りでまたスーパーソニックを喰らえるわ!」

 

『鬼だ鬼がいるぞ!』

 

「勇者様の戦い方じゃねぇ!」

 

 誉はオルレアンで死にました。

 

「グォ、ォオオ!」

 

 やっと膝を着いた。いや円卓の騎士硬すぎ。

 

「そこまでの根性があるなら叛逆の騎士らしく叛逆しなさいよ! 叛逆三銃士の名が泣くわよ!」

 

「知んねぇよなんだよ叛逆三銃士って!?」

 

「まだ叫ぶ元気があるの? 私ドン引きなんだけど!」

 

「こっちはエリちゃんにドン引きなんだけど」

 

 子ジカも何れ分かると言うか……あれ? アメリカの最後私よりえげつないことしてた様な気がする。君素質あるよ。

 

「獅子王はアンタの敬愛した騎士王とは違う。こんな事くらい理解できてるでしょう」

 

「お前がアーサー王を語るな! んな事分かってんだよ!」

 

 そう叫び一層強く魔力を放つ。もう霊核がひび割れても可笑しくない出力。更に高めれば壊れた幻想もびっくりな爆弾に早変わりする。

 

「自爆するつもり? もう叛逆は終わり? ねぇモードレッド、アンタ満足したの?」

 

 このツンギレ拗らせ反抗期野郎の琴線は基本的にアーサー王に関する事柄と自身の性別と言うか出生とかにある。そこをまずちょちょいと擽る。

 

「獅子王は最後までアンタを気にも留めない。役に立ったとか立たなかったとかそういう話にもなりゃしない。報告が挙がったって『そうか』の一言で終わり」

 

 明らかにモードレッドの扱いだけ酷いから特別と言えば特別だけど。流石に距離を置いて無関心を貫かれるオチだから嬉しくない贔屓よ。

 アッくんがモードレッドを遠ざけてるっていうのも有るんだろうけど、ランスロットが通常営業な所を鑑みて獅子王の意思も織り込んだ上での扱いとみて間違いなさそう。

 

「満足できるのモードレッド! モルガンとかブリテンとか関係無しにアンタの行動意義は最初からシンプルで、執るべき行動指針は明白で、その結果が今の人理に刻まれたアンタだった筈よ!」

 

 メガホンで敵にエールを贈ってやるわ。行け行けモードレッド、やれやれモードレッド!

 

「今こそ反旗を掲げる時、打ち破るは自らの王にして父! 我永久(とこしえ)の圧政を滅ぼす者、我刹那の幸を慈しむ者! 未だ己が歴史で胸を焼く騎士よ。嘆くならば吼えよ、飽かずならば名乗れ! 高らかに!!」

 

 バシバシとピンスポを当てて、静寂も演出してやる。完璧な舞台演出。私が前説してんだからはやく立ち上がりなさいってぇの!

 膝を付けさせたの私だけどそれはそれ。

 

 過去最高潮に高まったモードレッドの魔力は霊核を破壊すること無く、邪剣クラレントに流れ込んだ。すわ一大事かと思ったけれど直ぐに否定される。

 

 宝具は天高く打ち上げられたから。

 それは反旗であると誰もが理解しただろう。

 

「我が名はモードレッド、叛逆の騎士モードレッドだッ──!!」

 

 モードレッドが なかまに くわわった。

 

 そう言って白目を剥いて倒れちゃったけど。取り敢えずエリクサーをぶっ掛けてリアカーにでも乗せとくわ。

 

「怒涛の展開が過ぎる。何時もながらに!」

 

「いや私もまさかあんなにノリノリで返ってくると思わなかったわ。若干のチョロさを感じる」

 

 ダメだったらダメでスフィンクスとメジェドでリンチにするつもりだったし。まぁ言わぬが花よね。

 

「と、取り敢えず戦闘終了、でしょうか? 粛清騎士もアーラシュさんが倒してしまったみたいですし」

 

「お疲れ様マシュ」

 

「いえ私は何も、気付いたら終わりもとい仲間が増えてました。……モードレッドさんを仲間と言っていいのか正直な所分からないのですが」

 

「そうねぇ一応縛っとく?」

 

「それはあんまりじゃない?」

 

「私実は試してみたい縛法が!」

 

「やめなさいっての!」

 

 絶対ロクな縛り方じゃない。

 

 

 取り敢えずここの住民は移住して一纏めにさせて貰おう。場所が割れた以上危険が増えるだけだし、纏めた方が管理が楽。一々アーラシュの宴会芸に付き合う必要も無くなる。

 

 百貌も呪腕からの説明でゴリ押し。静謐の件で好印象、初代の件で卒倒と喜んで協力してくれるらしい。暗殺教団なのに優しい人々だなぁ。

 

 そんなこんなで山の民と百貌とモードレッドを持ち帰ってきましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があったらそうなるのですかレディ!!?」

 

 私もオルレアンの時から気になってる。




正直モードレッドが此処で叛逆しない理由が思い至らない。職場環境も頗る悪いし。もうスパ公呼ぼうぜ!

結局じぃじまで辿り着かなかったな。となると次回も静謐でストップになるのかな。溶岩水泳部だしじぃじまで行かないかも。頼むよぉ立香について行ってくれぇ頼むぞぉ。

感想は一生待ってる。更新は早くならなくとも!


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