ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース (宇宙刑事ブルーノア)
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テレビシリーズ
第1話『戦車道と歩兵道です』


読者の皆様、大変ご迷惑をお掛け致しました。

主人公の設定として使った、実在の人物の孫であるというのが規約に引っ掛かってしまい、一時的作品を削除させていただいておりました。

その後、運営様と話し合った結果、孫ではなく子孫ならば問題無いとのご回答をいただきましたので、該当部分を修正し、再投稿させていただく事にしました。

読者の皆様を混乱させ、ご迷惑をお掛けした事を、深くお詫び申し上げます。

どうかこれからも、『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』をよろしくお願いします。

なお、1~3話の後書きは、保存しておいたものを一部手直して再掲載させていただいておりますので、予めご了承下さい。

追記(8月17日)
内容を修正させていただきました。
篝 火蝋の存在が消えていますが、消滅したわけではなく、
まるで別物のキャラとして後で登場します。
ご了承ください。


『戦車道』

 

茶道、華道、香道、書道、弓道、長刀道、合気道、仙道、忍道と並ぶ、女子の嗜み。

 

礼節のある、淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸である。

 

 

 

 

 

そして………

 

男子にも、女子の戦車道に該当する武芸が存在する。

 

 

 

 

 

 

その名は………『歩兵道』

 

 

 

 

 

男性の嗜みとして受け継がれてきた伝統的な文化。

 

礼儀を弁え、信義を重んじ、男らしい教養の高い立派な紳士を育成する事を目指した武芸である。

 

また、歩兵道と戦車道は非常に親密な関係を持っている。

 

歩兵道を嗜む男性は、戦車に乗る女性を守る事が出来るのだ。

 

男性からすれば、戦車に乗っている女性を守るのは名誉な事であり、また女性にとっても歩兵の男性に守られる事は憧れなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コレは、そんな戦車道にトラウマを抱えた1人の少女と、只管に歩兵道を突き進む不器用な男の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第1話『戦車道と歩兵道です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は近未来………

 

大洗学園艦………

 

大きく世界に羽ばたく人材の育成と生徒の自主独立心を養う為に建造された、全長7キロ以上にも及ぶ空母に似たこの船は、飛行甲板に相当する部分に学校を中心として都市が広がっている。

 

学園以外にも大小の住宅、ホームセンターやコンビニ等が在り、道路には自動車も走っている他、広大な自然が形成されているなど陸上同様の環境が形成されている。

 

そんな学園艦都市の中心部からやや外れた場所に、小さな昔ながらの純日本風の平屋が在る。

 

「…………」

 

まだ日が昇り切らぬ時間のその庭に、1人の男が佇んでいた。

 

道着に身を包み、若干濃い顔つきの男は、目を閉じて、鞘に入った日本刀を居合いの姿勢で構えている。

 

男の前には、藁束が立てられている。

 

「…………」

 

男は無言で目を瞑ったまま意識を集中しており、時だけが過ぎて行く。

 

と、その時!!

 

近くに在った電柱の上に止まっていたカモメが、羽音を立てて飛翔した。

 

「!! ハアッ!!」

 

その瞬間に、男は気合の掛け声と共に神速とも言える速さで抜刀した!

 

鋭い太刀筋を喰らった藁束が、斜めに切断され、上部が地面の上に落ちる。

 

「…………」

 

男は一定に残心を保ったかと思うと、静かに刀を鞘へと戻す。

 

「………ふう~~」

 

刀が独特の音を立てて鞘に納まると、男は大きく息を吐いて姿勢を解いた。

 

「お早う、舩坂くん! 朝から精が出るね!!」

 

とそこで、垣根の向こうの道路から、自転車に乗った壮年の警察官が男に声を掛けて来る。

 

「ああ、巡査長さん。お早うございます」

 

警察官の姿を確認すると、舩坂と呼ばれた男は警察官の方に向き直り、深く頭を下げて挨拶をする。

 

「いや~、相変わらず礼儀正しいね。今時の若い子とは思えないよ」

 

「巡査長さんはコレから勤務ですか?」

 

「ああ、今日は早番でね。それじゃあ!」

 

「御気を付けて」

 

警察官はそれだけ言うと、真剣を持っていた事を問い質す様な事はせず、去って行く。

 

舩坂と呼ばれた男がそれを見送っていると、縁側の窓が開き、割烹着姿で小柄な体格のおかっぱの黒い髪が特徴的な少女が姿を現す。

 

「お早うございます、弘樹お兄様。朝食の用意が出来ました」

 

「ああ、湯江。お早う。今行く」

 

男………『舩坂 弘樹(ふなさか ひろき)』は、妹の少女………『舩坂 湯江(ふなさか ゆえ)』にそう言うと、玄関から家へと上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

朝食を終えた2人は、学校に行く為に其々の部屋で着替えを始める。

 

湯江は洋服姿になると、赤いランドセルを背負い………

 

弘樹は詰襟の黒短ランとズボンを着て、庭で振るっていた刀を腰に差すと、その上から黒い外套(マント)を羽織り、白線の入った学帽を被ると言う、まるで大正時代の旧制高校や師範学校生を思わせる格好となる。

 

そして、学生鞄を手に取ると、廊下で湯江と合流し、玄関で靴を履いて外へ出た。

 

「では、行くか」

 

「ハイ、お兄様」

 

玄関の戸締りをすると、弘樹と湯江は通学を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通学路………

 

他愛の無い会話をしながら、暫く2人で歩いていると………

 

「湯江~!」

 

「おう、弘樹ぃ!」

 

後方からそう呼ぶ声が聞こえて来て、弘樹と湯江が振り返ると、ロングの黒い髪で湯江より背が高く、まるでモデルの様な体型をしたランドセルを背負った少女と、まるで一昔前の学園漫画に出て来そうなバンカラスタイルの男が、此方に向かって歩いて来ていた。

 

「遥ちゃん。大河さん。お早うございます」

 

湯江は2人に向かって深々と頭を下げながら挨拶をする。

 

「相変わらず礼儀正しいのう~。ウチの妹にも見習わせたいくらいや」

 

「もう~、相変わらず固いんだから~」

 

バンカラ男とモデル少女は笑いながらそう言う。

 

バンカラ男の名は『黒岩 大河(くろいわ たいが)』

 

弘樹が通う学校の3年生で、義理人情で涙もろいが喧嘩は強い典型的な親分肌の不良で、学校の不良達を粗束ねている、見た目通りの番長なのである。

 

そしてモデル体型の少女は、その妹『黒岩 遥(くろいわ はるか)』

 

このバンカラな大河の妹とは思えない程の自他ともに認める美少女であり、小学生でありながら地元情報誌で、専属モデルの仕事をしている。

 

以前は大阪に住んでいたが、大河が3年に進級する直前に、両親がある事件で死亡。

 

それを機にこの学園艦へと引っ越して来ており、大河のバイト先でもある酒屋で2人揃って居候して生活している。

 

舩坂兄妹との出会いは、大河の舎弟がうっかり彼等に絡んでしまい、一触即発となっていたところで割って入って来たのが始まりである。

 

大河は、舎弟の非を認めさせて、一緒に謝罪した。

 

その際に、舩坂兄妹も両親が事故で死んでおり、この学園艦に引っ越して来た身と知り、境遇に共感を覚え、弘樹の事を気に入り、妹共々親睦を深めたのである。

 

「やあ、2人供。お早う」

 

とそこで、弘樹が2人に向かって頭を下げながら挨拶をする。

 

「お早う、湯江ちゃんのお兄さん」

 

「お早うさん、弘樹」

 

それに対し、遥と大河も挨拶を返す。

 

「それじゃあ、お兄様。私は遥ちゃんと学校へ行きますから」

 

「ああ、車に気を付けるんだぞ」

 

「ハイ。では、失礼します………遥ちゃん、行こう」

 

「OK~。それじゃあ、兄貴。湯江ちゃんのお兄さん。またね~」

 

湯江はそう言うと、遥と共に小学校へと向かう。

 

「気い付けるんやで~」

 

「…………」

 

その姿を大河と弘樹は手を振って見送ると、自分も高校へ向かうべく、再び歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く歩いた弘樹と大河は、交差点へと差し掛かる。

 

「む? 少しのんびりとし過ぎたか?」

 

「ん? そうか?」

 

大河と雑談しながら歩いていた弘樹は、携帯電話で時間を確認したところでそう呟く。

 

如何でも良いが、まるで大正時代からタイムスリップして来たとしか思えない学生が、バンカラな学生と共に携帯電話を見ている姿は、非常にミスマッチである。

 

「少し急ぐか………」

 

「しゃあないなぁ」

 

弘樹と大河がそう言った瞬間………

 

「わ~っ! 遅刻遅刻~!!」

 

そんな声を挙げながら、弘樹と大河から見て対角線上の交差点の角に、茶髪のショートボブカットヘアで県立大洗女子学園の制服を着た少女が、走りながら姿を現した。

 

「?」

 

「ありゃあ、大洗女子学園の制服やな………」

 

先程の声で、その少女の存在に気付いた弘樹と大河が視線を向ける。

 

すると、少女は焦っていたのか、歩行者用信号が変わりかけている事に気付かずに横断歩道を横断し始める。

 

「! イカン!」

 

「オイ! 危ないで!!」

 

「えっ!?」

 

声を掛ける弘樹と大河だったが、突然声を掛けられて、少女は思わず交差点の途中で立ち止まってしまう。

 

その瞬間に信号が変わり、トラックが交差点に進入して来た!!

 

パッパーッ!!

 

トラックは横断歩道の途中で立ち止まっていた少女に気づき、慌ててクラクションを鳴らす。

 

「! アカン!!」

 

大河がそう声を挙げた瞬間!

 

「!!」

 

弘樹は反射的に駆け出していた!!

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーっ!!」

 

少女はクラクションを鳴らされた事で逆に委縮してしまい、悲鳴を挙げてその場に立ち尽くしてしまう。

 

「くうっ!! ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

と、その次の瞬間!!

 

弘樹は少女へと飛び付く様にしながら、少女を抱えて、自分の身体ごと歩道へと転がった!!

 

「馬鹿野郎ぉっ!! 気を付けろぉっ!!」

 

トラックの運転手が罵声を浴びせて去って行く中、弘樹と少女は路肩に転がった状態で倒れている。

 

「弘樹! 大丈夫か!?」

 

信号が変わると、慌てて大河が駆けて来る。

 

「う、ううん………!?」

 

思わず目を閉じていた少女が恐る恐る目を開けると、視界いっぱいに弘樹の顔が広がって驚く。

 

そして、自分が今弘樹に抱えられた状態で歩道に倒れている事を確認すると、ボッと赤面する。

 

「あ、あああ、あの!!………」

 

「………怪我は無いか?」

 

テンパりながら少女が何か言おうとしたところ、弘樹がそう尋ねる。

 

「えっ!? あ、ハ、ハイ!」

 

「そうか………」

 

それを聞くと弘樹は身を起こし、少女に手を貸して立ち上がらせる。

 

「無事で良かった………」

 

「あ、あの………えっと………ありがとうございます!」

 

弘樹がそう言うと、少女は弘樹に向かって深々と頭を下げる。

 

「………! あ!? 怪我を!?」

 

「うん?」

 

するとそこで、少女がそう言ったので、弘樹が少女の視線を追うと、自分の左手の甲から血が流れている事に気づく。

 

「問題無い。かすり傷だ」

 

「で、でも! ばい菌が入ったら大変ですよ!!」

 

少女はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、弘樹の左手に巻き始める。

 

「オ、オイ、君………」

 

「うん、コレで良し!」

 

弘樹が何か言う間に、少女はハンカチを巻き終える。

 

「いや、申し訳ない………」

 

「そんな! 助けてもらったんですから、これぐらい当然です!」

 

「ええのう~。ワシャ、こういうのに弱いんや………あ、コレ嬢ちゃんの鞄やで」

 

その様子に感動していた大河が、路肩に転がっていた少女の鞄を拾って手渡す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

少女は鞄を受け取ると、改めて弘樹と大河の姿を見やる。

 

(な、何だか………凄い格好してるなぁ………)

 

若干失礼だと思いつつも、少女は心の中でそんな感想を抱いてしまう。

 

しかしまあ、無理も無い………

 

片方は完全なバンカラの番長。

 

もう片方は某デビルサマナーを思わせる様な大正時代の学生姿。

 

現代の人間である少女から見れば、十分異質と言って良いだろう。

 

「! ああ! いけない! 遅刻しそうだったんだ!! あの! 失礼します!!」

 

とそこで、遅刻しそうだった事を思い出した少女は、2人に向かって一礼すると、そのまま走り去って行った。

 

「あ! 嬢ちゃん!!………行ってもうたで」

 

「しまった………名前を聞くのを忘れていた………」

 

左手に巻かれていたハンカチを解きながらそう言う弘樹。

 

左手の傷は既に塞がっており、血は流れていない………

 

「相変わらず便利な身体しとるのう………」

 

「さ、俺達も急がんと遅刻だぞ」

 

自分の学生鞄を拾い上げると、弘樹と大河は再度学校へと向かい出す。

 

(しかし、さっきの子………何処かで見た気がするな)

 

先程の少女に見覚えを感じながら、『県立大洗国際男子高校』へ急ぐ弘樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『県立大洗国際男子高校』

 

大洗女子学園と同じく、古来の文道・武道が必須選択科目となっている男子高校である。

 

国際高校の為、留学生も多数存在しており、全校生徒数が実に1万人以上と言う超々マンモス校だ。

 

非常に自由な校風を保っており、生徒の恰好からしても、学ランを着ている者も居れば、ブレザーの者も居り、イートンジャケットを着ている者も居れば、私服姿の生徒も居る。

 

また、この学校の生徒会………と言うよりも生徒会長は非常に強い権限を持っており、学校職員やPTA、教育委員会、果ては文部科学省や総理大臣さえも彼に逆らう事が出来ないらしい。

 

ギリギリのところで学校へと辿り着いた弘樹と大河は、階段で別れ、大河は3年の教室へ、弘樹は2年の教室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

大洗男子校・2年1組教室………

 

「間に合ったか………」

 

弘樹は、窓際の後ろから2番目に位置する自分の席に辿り着くと、学生鞄と学帽を机の脇に下げ、外套を椅子の背凭れに掛けて席へと腰掛ける。

 

「よう、弘樹! 珍しいな、お前が遅刻ギリギリだなんて」

 

すると、前の席に居たメガネを掛けたブレザー姿の生徒が、弘樹にそう声を掛ける。

 

「偶にはこんな事もある………」

 

「何々? ひょっとしてパンを咥えて遅刻遅刻なんて言ってた女の子と衝突したとか? ヤッベェーよ、フラグじゃん、ソレ!」

 

そう言うと、今度は右隣の私服の生徒がそんな事を言って来る。

 

「了平………貴方って人は………」

 

そこで弘樹の後ろの席に座って居たイートンジャケット姿の生徒が、そんな私服の生徒の様子に呆れた様に呟く。

 

 

 

 

 

メガネのブレザーの生徒の名は『石上 地市(いしがみ ちいち)』

 

特撮ヒーローをこよなく愛する正義感の強い熱血漢。

 

なお、メガネは伊達で、掛けている理由は女子は知的な男に憧れる者だと思っているからである(メガネ=知的という安易な発想)

 

 

 

 

 

私服の生徒の名は『綿貫 了平(わたぬき りょうへい)』

 

エロゲーマニアで無類の女好きである。

 

しかし、ナンパしたのにも関わらずスルーされたり、痴漢呼ばわりされたりするなど、女性から良い印象をもたれる事はまず無い。

 

所謂馬鹿だが、運動神経は良い。

 

 

 

 

 

そしてイートンジャケット姿の生徒は『大空 楓(おおぞら かえで)』

 

航空会社女社長と有名なスポーツメーカー社長の夫婦の間に生まれた子息。

 

運動神経抜群で、学年成績も優秀である。

 

その文武両道ぶりから様々な部活から助っ人を頼まれている、

 

容姿も端麗な為、大洗の貴公子とも呼ばれ、女子校では下級生や上級生にファンクラブが存在する程である。

 

 

 

 

 

皆、弘樹の親友や悪友達である。

 

「まあ似た様な事には遇ったな………」

 

「えっ!? マジで! フラグ立てたのかよ!?」

 

「ば~か、コイツが女の子とフラグ立てられる程の器用モンかよ」

 

了平が驚きの声を挙げ、地市が何を馬鹿な事をと言う様に言う。

 

「静かにしろ~! 出席を取るぞ~!!」

 

とそこで、担任の先生が教室に姿を見せ、そう言った。

 

「起立! 礼! 着席!」

 

クラス委員長の号令が終わると、担任によって出席が取られる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れて昼休み………

 

弘樹達は学生食堂へ移動し、昼食を取っている。

 

「そう言やぁ、明日は必修選択科目のオリエンテーションだな………皆如何すんだ?」

 

焼肉定食を食べていた地市が、弘樹、了平、楓にそう尋ねる。

 

「俺は落語かな? やっぱ面白い話が出来る男はモテるだろうし」

 

下心を丸出しにして、ラーメンを啜っていた了平がそう答える。

 

「僕は書道をやってみようかと思っています」

 

チャーハンをれんげで掬っていた楓はそう答える。

 

「成程な~。弘樹は………」

 

「小官は歩兵道だ」

 

それを聞いた地市が、今度は弘樹に尋ねようとしたところ、それに先んじる様にそう言い、焼魚定食の焼魚を齧る。

 

「だろうな」

 

「お前もホント物好きだよなぁ。この学園艦じゃ、女子校の方は戦車道を廃止しちまってるってのに………」

 

地市が苦笑いしながら言い、了平は不思議そうにそう言う。

 

 

 

 

 

『歩兵道』………

 

男性の嗜みとして受け継がれてきた伝統的な文化。

 

礼儀を弁え、信義を重んじ、男らしい教養の高い立派な紳士を育成する事を目指した武芸である。

 

また、歩兵道と戦車道は非常に親密な関係を持っている。

 

歩兵道を嗜む男性は、戦車に乗る女性を守る事が出来るのだ。

 

男性からすれば、戦車に乗っている女性を守るのは名誉な事であり、また女性にとっても歩兵の男性に守られる事は憧れなのである。

 

しかし、それ故に男子の中には、歩兵道は戦車道をやっている女子と交流を持つ為のものと考える者も居る。

 

その為、ここ大洗の学園艦では、女子校側が20年程前に戦車道を廃止しており、男子校側の歩兵道受講者は減る一方なのである。

 

噂では近々この歩兵道も廃止されると言われている。

 

 

 

 

 

「女子学園の戦車道が存在しない事は関係無い………小官が歩兵道の道を進みたいだけだ」

 

そう言って食後の茶を啜る弘樹。

 

「相変わらずだなぁ、お前も」

 

「まるっきり昭和の男だぜ、お前」

 

「けど、舩坂さんらしいですね」

 

そんな弘樹の様子に呆れながらも笑みを零す地市、了平、楓だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた時は流れて学校が終わり………

 

弘樹は湯江を迎えて帰路に着き、途中で夕飯の買い物をして、自宅へと辿り着く。

 

「じゃあ、私は夕食の準備に取り掛かりますので、申し訳ありませんが、お兄様はお風呂の用意をお願いします」

 

買い物した品物を入れた買い物袋を持ちながら家に上がった湯江が、弘樹にそう言う。

 

「ああ、湯江すまない。先にコレを洗濯してくれないか?」

 

と、そこで弘樹は、今朝の件で少女に巻いてもらった血の付いたハンカチを取り出す。

 

「アラ? 女性のハンカチ? それに血が………お兄様。これは一体如何したんですか?」

 

「実は………」

 

怪訝な顔をする湯江に、弘樹は今朝あった事を話す。

 

「まあ、そんな事があったんですか」

 

「ああ、名前を聞くのを忘れてしまったのだが、何とか返さなければならんのでな」

 

「お兄様らしいですね。では、このハンカチは洗っておきますね」

 

「すまない。頼むぞ」

 

弘樹はそう言い、湯江にハンカチを渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、2人は夕食を取り、テレビを見ている………

 

「それにしても………やはり、あの子………何処かで見た気がするな」

 

「今朝お兄様が助けた大洗女子学園の方ですか?」

 

弘樹がふと呟くと、湯江がそう尋ねて来る。

 

「珍しいですね。お兄様が女性にそんなに熱を上げられるなんて」

 

「そんなんじゃないさ。しかし、本当に何処かで見た気が………」

 

と、弘樹が考え込む様な素振りを見せた瞬間………

 

[ではココで、昨年の戦車道の全国大会での決勝戦を振り返ってみましょう]

 

テレビからそう言う音声が聞こえて来た。

 

如何やら戦車道の特集の番組が始まった様である。

 

すると次の瞬間………

 

画面に、黒森峰女学院の制服に身を包んだ今朝弘樹が助けた少女………『西住 みほ』の姿が映し出される。

 

「! ああ! この子だ!!」

 

それを見た弘樹が、思わず声を挙げる。

 

「この方って………西住 みほさんですか?」

 

「ああ、間違いない。確かに彼女だった」

 

軽く驚いている故に、弘樹はそう言う。

 

「ですが、西住と言えば、由緒正しい戦車道の流派の家の方ですよね? それが如何して、戦車道の無い大洗女子学園に?」

 

「恐らく………この事が関係しているんだろう」

 

テレビを見ながらそう言う弘樹。

 

番組では、川に落ちた味方の戦車の乗員を助ける為に、戦車から降りて行ったみほの姿が映し出されている。

 

その直後に、彼女の乗っていた黒森峰のフラッグ車が、対戦相手に撃破されてしまう。

 

「この事の責任を感じた、若しくは取らされたのか………あるいはこの出来事自体がトラウマになってしまったのかも知れないな」

 

弘樹がそう言う中、番組では嫌味そうな顔をした評論家が、渋面でみほを批判している。

 

「酷いですわ。西住さんがした事は立派な事です。なのに責められるなんて………」

 

「…………」

 

湯江が悲しげな表情をしながらそう言うと、弘樹も不愉快そうな表情となって黙り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




いよいよ始めさせてもらいました、私のガルパン二次創作………

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

この作品を思いついた経緯は、あらすじにも書いた通り、通常、戦車にはその行動をサポートする歩兵………『随伴歩兵』が付き物。

それをガルパンの世界に当てはめて、男子の武道としたら、随伴歩兵は女性を守る騎士(ナイト)的な立場になるのではないかと考え、この作品を思いつきました。

どうも、私は登場キャラが女子だけの作品を見ると、男子を放り込んでラブコメをやってみたいという衝動に駆られる傾向がありまして………

ガルパンに男子を登場させるのは、人によっては拒否反応が大きいのは重々承知しておりますが、どうしてもやりたかったので。

あらすじにも書きましたが、オリ主を初めとして男子が多数登場し、原作キャラとの恋愛描写なんかも入りますので、申し訳ありませんが、それらが受け付けられない方にはお勧め致しません。

さて、肝心の作品内容ですが、まだ冒頭ですので、まだ登場キャラの一部紹介的な紹介となっております。

何せ、原作キャラも多いですが、その原作キャラ達が乗る戦車を守る随伴歩兵を出すので、名の無いモブも含めてかなりのキャラが登場する予定です。

また、歩兵道って危ないって思われるかも知れませんが、戦車道と同じで絶対に死人は出ないという設定になっています。

歩兵道をやってるキャラ達も、並外れた連中ばかりですので。

では、長くなりましたがこの辺で。

ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第2話『歩兵道、始めます!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第2話『歩兵道、始めます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹が、みほを助けた日の翌日の朝………

 

大洗男子校では、午前の授業と昼休みが終わり………

 

本日の午後いっぱいを使って行われる必修選択科目のオリエーテーションが開始され、全校生徒が体育館に集結していた。

 

国際校の為、様々な国の留学生を交えながら、次々に必修選択科目となる武道や文道が紹介されて行く。

 

そして、最後に歩兵道の紹介が行われようとしていた。

 

「あ~、諸君。ちょっと聞いて欲しい」

 

するとそこで、紹介が一旦中断され、マイクを持った県立大洗国際男子高校生徒会の広報を務める、ブレザーの制服を着崩して着ている生徒『司馬 俊(しば しゅん)』が、体育館のステージ袖に現れてそう言って来る。

 

突如科目紹介が中断された事に、生徒達は軽くざわめき立つ。

 

「続いては歩兵道の紹介となる予定だが………その歩兵道について、生徒会長から重要なお知らせが有る。全員心して聞いて欲しい」

 

しかし、俊がそう説明すると、ざわめき立っていた生徒達は一瞬で静まり返り、誰に言われるのでもなく立ち上がり、気を付けの体勢となる。

 

そしてその数秒後………

 

特注の白い学ランに身を包み、肩当て付きの白いマントを背に垂らしている端麗な容姿をした人物………

 

県立大洗国際男子高校生徒会の会長である『神大 迫信(じんだい さこのぶ)』が姿を現した。

 

その途端………

 

「「「「「「「「「「神大生徒会長! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

全校生徒が迫信に対し、ガミラス式敬礼をして、万歳三唱を始める!

 

「「「「「「「「「「会長閣下! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「神大生徒会長! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「会長閣下! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「神大生徒会長! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「会長閣下! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

迫信の姿が見えている間、ずっと続けられる万歳コール。

 

宛らその光景は、某ガミラス星の総統閣下を称えているかの様な光景である。

 

傍から見れば危険とも言える光景だが、それを受けている男・迫信からは、思わずそうしたくなる様な圧倒的なカリスマのオーラが溢れていた。

 

「…………」

 

やがて迫信はステージ中央に用意されていた演壇の前に立つと、スッと肘から指先までを上に挙げる答礼を行うと、生徒達は一斉に万歳コールと敬礼を止め、気を付けの体勢となる。

 

「………我が愛する母校、県立大洗国際男子高校の生徒諸君。ご機嫌如何かな?」

 

迫信は生徒達に向かってそう第一声を発する。

 

「さて、先程も司馬広報官も言っていた通り、歩兵道について諸君等に有益な話が有る」

 

有益な話と言われ、生徒達は一瞬ざわめき立つが、すぐに静かになる。

 

「実は数年後に戦車道及び歩兵道の世界大会を日本で開催することが決定し、文科省から全国の高校や大学へ戦車道及び歩兵道に力を入れる様に要請があり、県立大洗女子学園にて今年から戦車道の授業が復活する事となった」

 

続いて迫信がそう言うと、生徒達は驚きを露わにする。

 

「知っての通り、戦車道は歩兵道と密接な関係を持っている」

 

迫信は戦車道と歩兵道の歴史と関係について話し出す。

 

そもそも歩兵道の始まりは、その昔に戦車道にて、とある戦車の操縦者だった女性が、視界の悪さに苦戦して、上手く操縦出来ていなかったところ………

 

その女性の恋人が誘導員を買って出て、それを他の者達が真似し始めたのが始まりと言われる。

 

当初は、戦車同士の戦闘が始まると、誘導員は速やかに離脱していたが、その内に誘導員同士での戦闘が行われる様になり、やがて『誘導員』は『歩兵』へと武装化。

 

それに伴い対戦車戦闘も熟す様になり、何時しか戦車との共同戦闘が行われる様になったのである。

 

歩兵が戦車を守る事が誇りとなっているのはこの辺りが理由らしい。

 

「そこで、我が校も歩兵道の授業を強化する事となった。無論、諸君等にも事情は有ろうから強制はしない。だが、歩兵道を選択する生徒には様々な優遇措置を行うものとする」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

固唾を呑んで、迫信の次の言葉を待つ全校生徒達。

 

「歩兵道を選択し、大きく貢献した者には………無条件で進級及び卒業を認めよう」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

いきなりの破格の条件に生徒達はざわめき立つ。

 

「更に、卒業者には進学先及び就職先の斡旋を行う」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

またまた飛び出した破格の条件に、生徒達は更にざわめく。

 

「そして、受講した年の学費を全額免除、返金するものとする。この他に要望が有れば生徒会へと申し出てくれ給え。我々にはあらゆる条件を呑む用意が有る」

 

「「「「「「「「「「!! うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

最後の条件が申し渡された際には、最早生徒は大興奮の様子で歓声を挙げる。

 

「…………」

 

迫信は一仕切りその歓声を聞いたかと思うと、再びスッと右手を上げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その途端に、先程まで騒いでいたのが嘘の様に静まり返り、気を付けの姿勢となる生徒達。

 

「私からの話は以上だ。諸君等に期待させてもらう」

 

迫信はそう言い、壇上から離れると、退場し始める。

 

「「「「「「「「「「神大生徒会長! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「会長閣下! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「神大生徒会長! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「会長閣下! バンザ~イッ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、再びガミラス式敬礼と万歳三唱が開始される。

 

「オイオイ、スゲェー事になったな! 弘樹!」

 

地市が、若干興奮している様子で弘樹にそう言って来る。

 

「ホントホント! 女の子とお近付きになれる機会を得られるばかりか、無条件で将来を保証されるんだぜ! ウハウハじゃないか!!」

 

了平も鼻息を荒くしながらそう言って来る。

 

「会長閣下には毎回驚かされてきましたけど、今回もホントに驚きでしたね」

 

楓も、迫信の破格とも言える特別措置に対し、驚きを露わにしている。

 

「…………」

 

しかし弘樹は、何やら考え込む様な様子を見せながら、退場して行く迫信の姿を目で追っていたのだった。

 

そして程無くして必修選択科目のオリエーテーションは終了。

 

生徒達は其々の教室へと戻り、帰り支度を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後………

 

大洗男子校・生徒会室………

 

「会長~! 何を考えてるんですか~!!」

 

生徒会長の椅子に着いている迫信に向かって、机越しにそう言うのは、平凡そうな印象を受ける生徒会の新人メンバーで雑務を務める『小金井 逞巳(こがねい たくみ)』

 

「何、とは何の事かね? 小金井くん?」

 

「決まってるじゃないですか! 歩兵道受講者への特別措置ですよ!!」

 

すっ呆けた様なリアクションをする迫信に、逞巳はそう詰め寄る。

 

「ああ、その事か………」

 

「その事か、じゃないですよ! 事情が事情とは言え、あんなこと言って良いんですか!? 職員や学園長が何て言って来るか………」

 

「問題無い。既に文部科学省と日本政府の方は押さえてある。それに、彼等が私達に面と向かって文句を言って来る様な度胸を持っているワケは無いさ」

 

右手に持っていた扇子を開いて口元を隠しながら、当然の様にそう言い放つ迫信。

 

「い、いや、しかし………副会長! 副会長からも何か言って下さいよ!!」

 

すると逞巳は、副会長席に座って書類の整理をしているかなりの美形で細身な身体の生徒会副会長の『神居 十河(かむい とうが)』にそう言うが………

 

「残念だが教職員や学園長から実際に文句を言われたのなら兎も角、何も文句が出ていないこの状況では決定を覆すのは難しいな」

 

しかし、十河は淡々とした様子でそう返す。

 

「副会長まで………はあ~~、もう~~………ホント如何なってるんだよ~。この学校は~」

 

「オイオイ、何言ってんだ。こんな自由な学校、他には無いぜ」

 

頭を抱える逞巳に、ソファで寝転がっていた俊がそう言う。

 

「ちょっと自由過ぎる気がしないでもないですけどね………」

 

そんな俊の姿を見ながら、若干呆れた様子で生徒会の書記担当の小柄な1年生、『竹中 清十郎(たけなか せいじゅうろう)』がそう言う。

 

「………誰か来たぞ」

 

とそこで、壁際に立って目を瞑っていた、大日本帝国陸軍の将校軍服に身を包んで、中身の入った竹刀袋を左手に持っていたオールバックの武人を思わせる生徒………『栗林 熾龍(くりばやし しりゅう)』が、片目を開けてそう言う。

 

彼の祖先は旧日本軍の者であり、かの硫黄島の戦いで日米から称賛された名将『栗林 忠道』である。

 

そんな祖先の血か、武人としての日々の鍛練の賜物か、開かれている片目の眼光は、まるで刃物の様に鋭い。

 

「ああ、分かっている………」

 

と、熾龍の言葉に迫信がそう返すと、生徒会室の扉がノックされた。

 

「生徒会長、普通科2年1組の舩坂 弘樹です。お伺いしたい事があり、参上致しました」

 

そして扉越しに弘樹のそう言う言葉が聞こえてくる。

 

「入りたまえ」

 

「はっ! 失礼致します」

 

迫信が入室を許可すると、弘樹は生徒会室の中へと入って来る。

 

十河、逞巳、俊、熾龍、清十郎の視線を受けながら、弘樹は迫信のデスクの前まで歩を進めると、気を付けの姿勢となる。

 

「生徒会長。お目通り、感謝致します」

 

「うむ、楽にしたまえ」

 

「ハッ!」

 

迫信に言われて、弘樹は休めの態勢となる。

 

「早速ですが、お伺いしたいのですが………」

 

「分かっている。歩兵道の事についてだね」

 

弘樹の言わんとしている事を察し、先んじてそう言う迫信。

 

「仰る通りです。何故あのような措置を? 失礼ながら………些か生徒会長らしからぬ手段だと感じられましたが………」

 

「うむ………」

 

弘樹のその言葉を聞いた迫信は椅子から立ち上がり、弘樹に背を向けながら窓の外を眺める。

 

「………君になら話しても良いだろう。実は、大洗女子学園に廃校の話が持ち上がっているのだよ」

 

「! 廃校………ですか?」

 

迫信の言葉に、弘樹は僅かに驚きを示す。

 

「うむ。生徒数の減少と目立った活動実績が無い事を理由に、文部科学省が通達して来たそうだ」

 

「………理解は出来ますが、納得しかねます」

 

効率面から見ればそれは正しい事かも知れないが、学校は生徒達1人1人に大切な思い出の宿る場所である。

 

それを偉い連中が一方的に廃止を決めるなどと言うのは、実際に学園に通う生徒達からしてみれば、納得し難いものである。

 

「私もそう思うよ。大人達の勝手な都合に振り回されるのは、私が最も嫌う事だ………そこで、大洗女子学園は戦車道を復活させる事を決定した」

 

「………戦車道の大会で優勝して実績を示し、廃校を取り下げさせようと言う算段ですか?」

 

「その通りだ。私としても、この学園艦の兄妹校とも言える女子学園を失うと言うのは非常に耐えがたい事だ。だから我が校でも歩兵道受講者を募り、部隊を再編する事にした」

 

「僭越ながら、生徒会長の力を以てすれば、廃校の話そのものを無くす事も出来るのではありませんか?」

 

疑問に思った弘樹がそう尋ねる。

 

何せ彼は策謀や謀略、権謀などを得意とする策士であり、学校職員やPTA、教育委員会、果ては文部科学省や総理大臣をも手玉に取っているのだ。

 

「私も最初はそう考えたさ。しかし、他ならぬ大洗女子学園の生徒会長………『角谷 杏』くんがそれを断って来たのでね」

 

「女子学園の生徒会長自ら?」

 

「『自分の学校は自分で守りたい』………それが彼女の意見だ。私はその意思を尊重する事にした。私に出来たのは、文部科学省に約束を反故にしない様に手を回す事ぐらいだ」

 

「…………」

 

「それに、そうして廃校の件を回避したとしても、大洗女子学園の生徒数減少自体を止める事は出来ない。今後も継続して廃校の危機を免れる為には、潰すには惜しい学園だと思わせる必要がある」

 

「そう言う思惑が御有りでしたか………」

 

「真実を話さずに事を進める私を卑怯者だと思うかね?」

 

そこで迫信は、弘樹の方を振り返り、そう問う。

 

「………いえ。例えどんな思惑が有ろうと、小官は生徒会長の決定に従います」

 

だが、弘樹は当然の様にそう返した。

 

「………君も不器用だな」

 

そう言って、フッと笑う迫信。

 

「自覚しております………」

 

「では、くれぐれも今の話は内密に頼む。物で釣る様な事をしておいて言うのも何だが………生徒達には楽しんで歩兵道を行って貰いたい」

 

「了解しました。では、小官はコレで失礼致します」

 

弘樹はそう言い、再び気を付けの姿勢となると、拳を水平にし、親指から胸にあて肘を張るようなポーズ………

 

所謂、さらば以降の『ヤマト式敬礼』をした後、回れ右をして生徒会室から出て行く。

 

「…………」

 

そんな弘樹の姿を、迫信は不敵な笑みを浮かべたまま見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

必修選択科目の受講希望用紙の回収が行われ、多くの生徒が歩兵道の授業に希望を出した。

 

ある者は只その道を究めんとして………

 

ある者は友達が希望したのでその付き合いで………

 

ある者は自分を変える為………

 

ある者は女子との交流を持つ為………

 

皆其々、様々な事情を抱えつつ、歩兵道の授業へと集って行く。

 

そして更にその翌日………

 

歩兵道の授業を希望した生徒達が、大洗男子校の校庭へと集結した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校・校庭………

 

「ふむ………大分集まってくれた様だな」

 

迫信が、集まった歩兵道の授業を選択した生徒達を見てそう呟く。

 

弘樹の一派は勿論………

 

ラグビー部の部員達に、全員が長ランボンタン姿の大河が団長を務めている大洗男子校の応援団、通称『大洗連合』のメンバーの姿も在る。

 

1年生達もそれなりの人数がおり、その数は実に500人近くに上っており、軍隊ならば大隊の規模を成している。

 

 

 

 

 

「小太郎、お前も歩兵道を選択したのか」

 

「そう言う大詔殿もでござろう」

 

「ああ………俺達の特技は歩兵道でこそ活かせそうだからな」

 

「違いないでござる」

 

そう言い合っているのは、高校生とは思えない程の渋い声をした頭にバンダナを巻いている生徒『蛇野 大詔(へびの たいしょう)』と、忍者刀を背に背負い、覆面で顔を隠している、ござる口調の忍者の様な生徒『葉隠 小太郎(はがくれ こたろう)』

 

 

 

 

 

「すまない、皆。僕個人の事情の為に、部員の皆を巻き込んでしまって………」

 

ラグビー部の部員を前に、キャプテンであるこれまた高校生とは思えない野太い声と巨大なガタイを持った生徒『東郷 武志(とうごう たけし)』がそう言う。

 

「何言ってるんですか、キャプテン!」

 

「そうですよ! キャプテンの事情は僕達ラグビー部の事情ですよ!」

 

「協力します! キャプテン!!」

 

「水臭いこと言わないで下さいよ!」

 

しかし、ラグビー部のメンバーは口々に武志に向かってそう言う。

 

「皆………ありがとう!」

 

それに対し、武志は朗らかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「がはは! 陣! お前もやっぱり歩兵道か!!」

 

「…………」

 

大詔と良く似た高校生と思えぬ渋い声と2mは有る身長で、筋肉モリモリのマッチョマンの2年生(1年ダブり)の生徒『本多 明夫(ほんだ あきお)』が豪快そうに笑いながら、これまた高校生とは思えぬ190cmは有りそうな身長で矢鱈とガタイの良い生徒『浅間 陣(あさま じん)』の背中を叩きながらそう声を掛けている。

 

大分強く叩かれているが、陣はビクともしていない様子である。

 

「…………」

 

とそこで陣は、明夫に向かってビッと親指を立てた拳を突き出す。

 

所謂、サムズアップである。

 

「がはは! 確かにな! その通りだ!! 我等にこれ程相応しい道もあるまい! がはは!!」

 

それに対し明夫は豪快に笑いながらそう言う。

 

陣は先程から一言も喋っていないが、如何やら会話は成立している様である………

 

「オイ、煩いぞ、明夫。お前の笑い声は耳に響くんだよ」

 

とそこで、明夫に向かってそう声が掛けられる。

 

「うん?」

 

それを聞いた明夫が周囲を見回すが、声の主は見当たらない………

 

「此処だ、此処!!」

 

と足元から聞こえて来た声に、明夫が下を向くと、身長150cm程の高校生にしては少々小柄だが、引き締まった体格をした生徒『銅 秀人(あかがね ひでひと)』の姿が飛び込む。

 

「ああ、何だ、秀人か! スマンスマン! 小さくて気がつかなかった! がはは!!」

 

「! チビって言ったなぁ! 表に出ろぉっ!!」

 

本人に悪気は無いのだろうが、明夫がそう言うと、秀人は激昂した様子で明夫に殴り掛かる。

 

しかし、その攻撃は全て、明夫の筋肉の前に弾かれてしまうのだった………

 

 

 

 

 

「鷺澪、重音………分かってるな」

 

ロン毛の生徒『蹄 磐渡(ひづめ ばんど)』が、2人の生徒と肩を組んでトライアングルを形成しながらそう言う。

 

「勿論だ! 歩兵道をやれば女子にはモテモテ!!」

 

それを聞いた派手なモヒカンの髪型をした生徒『鶏越 鷺澪(とりこし ろみお)』がそう答える。

 

「そしてテレビでも放送される試合で俺達の歌を披露すれば、全国の人達が俺達の事を認める!」

 

続く様に、3人の中で最も背が高く、ガタイの大きいワイルドな民族衣装の仮面を付けてた生徒『狗魁 重音(いぬかい めたる)』がそう言う。

 

実は彼等は小学校からの親友の間柄であり、中学の時に3人でバンドを組んだ。

 

しかし、全く見向きもされず、結局中学2年で挫折。

 

だが、やはり武道館ライブをやるという夢を諦め切れず、この度の歩兵道で活躍し、全国的なアピールを狙っているのである。

 

「遂に俺達の名が全国に轟く日が来た!」

 

「目指せ! 武道館ライブ!!」

 

「そして女の子にモテモテ!!」

 

………若干下心も有る様だ。

 

 

 

 

 

 

「え~と………取り敢えず、自己紹介でもしようか? ああ、僕は『疾河 竜真』だ」

 

何となく固まって集まっていた1年生のメンバーの中で、『疾河 竜真』がそう言う。

 

「えっと、ジャア僕から………『ジェームズ・モンロー』デス。僕は見てのトオリ、アメリカ人ですケド。皆さんと同じ様に一生ケンメ頑張りマス」

 

すると、親友である『ジェームズ・モンロー』から自己紹介を始める。

 

「あ、しょ、小生は………そ、その………『水谷 灰史(みずたに はいじ)』です………ひぃ?! ごめんなさい!!」

 

続いて、少々小柄で線の細い体格に、おどおどして臆病そうな生徒『水谷 灰史』が、自己紹介と共に謝罪をする。

 

「あ、『炎苑 光照(ほのぞの ほたる)』です………その………すみません」

 

更に続いて、これまた気弱そうな印象を受ける生徒『炎苑 光照』がそう自己紹介をする。

 

「や、『柳沢 勇武(やなぎさわ いさむ)』です………あの………ええと………」

 

更に自己紹介をして来たのは、またも気弱そうな生徒『柳沢 勇武』

 

どうにも気弱そうな人物が多い1年生陣。

 

「いやいや。自己紹介で謝る必要は無いよ。ああ、僕は『塔ヶ崎 誠也(とうがさき せいや)』だよ。皆、宜しく」

 

とそこで、集合している1年生の中では1番体格が良く、引き締まった身体で柔和そうな笑みを浮かべている生徒『塔ヶ崎 誠也』が皆に向かってそう言う。

 

「ガッツッ!! 自分は『桑原 正義(くわばら まさよし)』です! 皆さん! よろしくお願いします!!」

 

そして如何にも熱血野郎という言葉が似合いそうな1年生の中で唯一威勢が良い生徒『桑原 正義』がそう言い放つ。

 

「あ、ど、どうも………」

 

「よろしくお願いします………」

 

その誠也と正義の姿で、他の1年生達の委縮した様子は、幾分か改善する。

 

 

 

 

 

「ええかぁ、お前等ぁっ! 本日より大洗連合は大洗歩兵部隊へと合流するで!!」

 

「「「「「「「「「「ヘイ! 親分!!」」」」」」」」」」

 

「大洗連合の力ぁ! 歩兵道でも存分に見せたれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

若干暑苦しい声を挙げているのは『黒岩 大河』と、彼の率いる大洗高校応援団、通称『大洗連合』と呼ばれる長ランボンタンがトレードマークの生徒達だ。

 

 

 

 

 

「結構な人数が集まってますね………」

 

「結構なミーハーが多いんだなぁ」

 

「同じ場所に居るワイ等が言える台詞やないで、それは」

 

ある筋では有名な男性らしからぬ長髪で中性的な顔立ちをした生徒『宮藤 飛彗(みやふじ ひすい)』を中心に、体格の良い江戸っ子口調の『江戸鮫 海音(えどざめ かのん)』と『関西弁の『日暮 豹詑(ひぐらし ひょうた)』が集まってそう言い合う。

 

 

 

 

 

「いよいよ始まるぜ! 俺のモテモテ伝説が!!」

 

「了平………如何してそう貴方は露骨なんですか?」

 

「そりゃ地球が引っ繰り返ったって有りねえぜ」

 

「フフッ………」

 

そして勿論、『舩坂 弘樹』、『石上 地市』、『綿貫 了平』、『大空 楓』のメンバーの姿も有る。

 

 

 

 

 

「これだけ集まりゃ、人数としちゃ申し分無いだろう」

 

「と言うか、集まり過ぎでは………」

 

「でも、他校では歩兵道受講者が1000人以上の所も有るって話を聞きましたよ」

 

大集結した歩兵道受講者を前にして、生徒会の『司馬 俊』、『小金井 逞巳』、『竹中 清十郎』がそう言い合う。

 

「…………」

 

生徒会用心棒の『栗林 熾龍』は、相変わらずの鋭い目付きで、集合した生徒達を眺めている。

 

(今回の件は俺の力を全校生徒に知らしめる絶好の機会だ………見ていろ、神大。必ず俺はお前を超え、新たな生徒会長となって見せる!)

 

胸中にて密かに野心を燃やしている副会長の『神居 十河』

 

「諸君! 良く集まってくれた!!」

 

そしてそんな一団に、生徒会長の『神大 迫信』が声を掛ける。

 

「では此処に………『大洗歩兵部隊』の再編成を宣言する!!」

 

一同に向かってそう宣言する迫信。

 

遂に………

 

受講者減少により、廃止を検討され………

 

廃れかけていた大洗男子校の歩兵道は………

 

女子学園の戦車道復活と合わせて………

 

再び勢いを取り戻し始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




実質のキャラ紹介的な話です。

本格的な原作キャラとの絡みは次回からとなりますので、ご了承下さい。

で、前のあとがきで書き忘れましたが………

実は戦車や歩兵以外にも、第二次世界大戦中までの様々な兵器とそれを使う武道が登場する予定です。

また、戦車道のルールも若干変わってます。

具体的に言うと、使用できる戦車に関する点がです。

どう変わっているかは追々説明いたします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第3話『戦車、探します!』

8月17日・追記
大幅な修正を加えさせてもらいました。
舩坂 弘の紹介部分がほぼウィキペディアからの引用だったのが問題だったので。
それと宮藤 飛彗が登場してますが、コレも修正の結果です。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第3話『戦車、探します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校・校庭………

 

「では、諸君。記念すべき歩兵道最初の授業だが………諸君等には女子学園の戦車道受講者の生徒と協力し、戦車を探してもらいたい」

 

集まった歩兵道受講希望者達に向かって、迫信がそう言う。

 

「? 戦車を?」

 

「そりゃ如何言う事っすか? 生徒会長?」

 

迫信の言葉の意味が分からず、了平と地市がそう問う。

 

「大洗女子学園で戦車道が廃止されたのは今から20数年前だ。当時使っていた戦車は所在が分からなくなっており、資料にも記述されていない」

 

すると、迫信に代わる様に、十河がそう説明する。

 

「戦車道を復活させるのに、肝心の戦車がなくちゃ話にならないからな」

 

俊も頭の後ろで手を組みながらそう言う。

 

「手がかりは?」

 

「残念ながらまるでありません」

 

楓の問いに、清十郎が申し訳なさそうにそう返す。

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

「この広い学園艦を手掛かり無しで探すんかいな………」

 

露骨に肩を落としながら海音と豹詑がそう呟く。

 

「明日には自衛隊から歩兵道の教官が来られる。戦車道側も明後日には教官が到着する。それまでには何としても機甲部隊を再編しなければならない。既に女子学園の生徒達は捜索に乗り出している。彼女達と協力し、戦車を探して欲しい」

 

「では、捜索開始!!」

 

迫信と十河がそう言うと、生徒達は戦車の捜索に繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦の街中………

 

「探すつったってよぉ………手がかりゼロなんだろぉ?」

 

「んなんで見つけろってのが無理だっつーの」

 

地市と了平が早くも愚痴を零し始める。

 

「如何します? 舩坂さん」

 

楓も困った顔をしながら弘樹にそう尋ねる。

 

「取り敢えず、演習場として使われていた場所を中心に探そう。見つけられないにしても、何か手がかりは掴めるかも知れん」

 

学園艦の地図を広げていた弘樹は、地図上のかつて戦車道の演習場として使われていた場所を見た後、地市達の方を見ながらそう言う。

 

「ったく………いきなりこんな前途多難で大丈夫かよぉ………」

 

「ちょっと! 止めてよぉっ!!」

 

と、了平が再び愚痴る様に呟いた瞬間………

 

女性のものと思われる声が響いて来た。

 

「ん?………」

 

「何でしょう?」

 

弘樹達がその聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

「だから、アンタ達と遊ぶ気なんて無いって言ってるじゃん!!」

 

「良いじゃんかよ~、ちょっとぐらい」

 

「そうそう。俺達と一緒に来た方が楽しいぜぇ」

 

「ですから! 先程からお断りすると申し上げているではありませんか!!」

 

3人のチンピラ風の男達が、大洗女子学園の制服を着た4人の女子達に絡んでいた。

 

良く見ると、女子学園の生徒の方は、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女と長いストレートの黒髪の少女が、怯えている様子の癖毛の少女と弘樹が助けた少女………『西住 みほ』を庇っている。

 

「彼女達は、大洗女子学園の………」

 

「フラグキターッ! コレ絶対フラグだって! ココでカッコ良く助けて、それでそれが馴れ初めになるってフラグっしょ!!」

 

楓がそう呟いた瞬間、了平が何処かのロケット頭のライダーの様に叫びを挙げる。

 

「よ~し!!………行け! 地市!!」

 

「って、俺かよ!?」

 

「だって怖いし………良いとこだけ頂くから安心して散って来い!!」

 

「ふざけんな、コラァっ!!」

 

「ちょっと! 2人共! 喧嘩している場合じゃ………」

 

コントの様な遣り取りから喧嘩に発展しそうになる地市と了平を、楓が止めようとしたところ………

 

「イデデデデデデデデッ!?」

 

「「「!?」」」

 

チンピラのモノと思われる悲鳴が聞こえて来て、再び地市達がそちらの方向を見やると………

 

「………彼女達は嫌だと言っているぞ」

 

弘樹が、チンピラの中の1人の腕を掴んで捻りながらそう言っていた。

 

「な、何だ、テメェは!?」

 

チンピラ達は、突然現れた大正時代の書生の様な弘樹の姿に驚く。

 

「えっ!? 何々っ!? 何なのっ!?」

 

「まあ、随分と古風な方ですね………」

 

「あの校章は………県立大洗国際男子高校の?」

 

「! あの人!!」

 

女子学園の生徒達も、弘樹の登場に戸惑う。

 

「ああ! アイツ、1人で抜け駆けしやがって!!」

 

「お前が馬鹿なこと言ってたからコッチが出遅れたんだろうが!」

 

「しかし、躊躇無く助けに入るとは………舩坂さんらしいですね」

 

まだ言い争う了平と地市を尻目に、楓は何の躊躇いも無く助けに入った弘樹を見て笑みを浮かべる。

 

「クッソ! 如何する? 俺達も加勢するか?」

 

「バーカ、今から行ったところで遅いっつーの」

 

「ココは舩坂さんに任せましょう」

 

そして地市達は、そのまま観戦の態勢に入るのだった。

 

「イデデデデデデデッ! お、折れる~~~~っ!!」

 

弘樹に腕を捻られているチンピラが、情けない悲鳴を挙げる。

 

「…………」

 

そこで弘樹は、突き飛ばす様に腕を捻っていたチンピラを解放する。

 

「テメェッ!」

 

「舐めた真似しやがって!!」

 

チンピラ達は、弘樹に標的を変えて睨み付けて来る。

 

「無駄な争いはしたくない………去れ」

 

しかし、弘樹はそんな視線を受けても一切物怖じせず、平然とした顔でチンピラ達にそう言い放つ。

 

「テメェが消えやがれぇっ!!」

 

当然チンピラ達が引き下がるワケが無く、1人が弘樹に殴り掛かる!!

 

「! 危ない!!」

 

「…………」

 

みほが叫ぶが、弘樹は身体を半身にして最小限の動きでチンピラの拳をかわす。

 

そのまま、チンピラの伸び切った腕を掴んだかと思うと、そのまま振り回す様にして投げ飛ばす!

 

「ぐはっ!?」

 

顔からブロック塀に突っ込んだチンピラは、そのまま顔を摩り下ろしながら地面に倒れる。

 

「野郎っ!!」

 

「…………」

 

別のチンピラが弘樹を蹴り上げようとしたが、弘樹はまたも半身になって最小限の動きでかわす。

 

そして、チンピラの上げた足を取ると、軸足に足払いを掛け、そのまま取った足を持ち上げる。

 

「がふっ!?」

 

軸足を払われた上に蹴り上げた足を更に持ち上げられ、チンピラは背中から地面に倒れ、更に後頭部を強打する。

 

「!?~~~~~~~っ!?」

 

あまりの痛さに声無き悲鳴を挙げて、後頭部を押さえながら地面の上を転がるチンピラ。

 

「す、凄い………」

 

「アッと言う間に2人を………」

 

その光景に、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女と癖毛の少女が嘆声を漏らす。

 

「コ、コイツゥッ!! 調子に乗るなよ! 集まれ! 野郎共!!」

 

そこで、最後に残っていたチンピラの1人がそう叫んで指笛を吹いたかと思うと………

 

「「「「ヒャッハーッ!!」」」」

 

世紀末的な叫びを挙げながら、違法改造バイクに乗った4人のチンピラが新たに現れた!!

 

「!? ちょっ!? 増えたよっ!?」

 

「ま、マズイですよ!!」

 

増援に現れたチンピラ達を見て、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女と癖毛の少女が狼狽する。

 

「………4人増えたところで状況は変わらんぞ。悪い事は言わん………今すぐ去れ」

 

しかし、弘樹は動じずにそう返す。

 

「おうおう、兄ちゃ~ん」

 

「随分と余裕かましてくれるじゃないの?」

 

「だがなぁ、もうちっと考えてモノを言った方が良いぜ」

 

「へっへっへっへっ」

 

しかし、チンピラ達は指の骨を鳴らしながら弘樹へ迫る。

 

「…………」

 

止むを得ず構えを取る弘樹。

 

「オイオイ、事態がややっこしくなったぜ」

 

「如何すんだ?」

 

「舩坂さんが負けるとは思えませんが………加勢しましょう」

 

そこで、成り行きを見守っていた地市達も、万が一に備えて加勢に入ろうとする。

 

「喰らえぇっ!!」

 

とそこで、増援に来た世紀末的なチンピラの1人が、腕を振り上げて弘樹を殴りつけようとする!!

 

すると!!

 

その世紀末的なチンピラの1人の腕が、何者かによって押さえられた!!

 

「もう止めましょうよ。揉め事は、めっ………ですよ」

 

世紀末的なチンピラの腕を押さえたのは、男性らしからぬ長髪で中性的な顔立ちをした大洗男子高校の生徒………『宮藤 飛彗』だった。

 

「! 君は………」

 

「何だとこの………!?」

 

飛彗の登場に軽く驚きを示す弘樹と、飛彗の手を振り払おうとする世紀末的なチンピラだったが………

 

その意に反して、世紀末的なチンピラの腕は全然動かせない。

 

良く見れば、飛彗自体も微動だにしていない。

 

まるで万力の様な凄まじい力で押さえられている様だった。

 

「こ、このっ! 離せっ!!」

 

「あ、ハイ」

 

と、世紀末的なチンピラがそう言った瞬間、飛彗は世紀末的なチンピラの腕を押さえていた手を離す。

 

「!? おうわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

すると、世紀末的なチンピラは今まで押さえられていた力が諸に自分に跳ね返って来て、派手にスッ転んで後頭部を強打して気絶した!

 

「なっ!?」

 

「このオカマ野郎っ!!」

 

それを見た別の世紀末的なチンピラが、飛彗に殴りかかったが………

 

「酷い。人が気にしている事を」

 

飛彗はそう言いながらヒョイッとチンピラの拳を避け、そのまま独特の足の動きと体捌きで世紀末的なチンピラの懐に入り込んだかと思うと………

 

「………ハアッ!!」

 

そのまま背中からぶつかる様に体当たりを食らわせた!!

 

「ゴハアッ!?」

 

「「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」

 

世紀末的なチンピラは人形の様に軽々とブッ飛び、残り2人の世紀末的なチンピラを巻き込んで地面を転がる。

 

「なっ!?」

 

(! 鉄山靠! 八極拳か………)

 

最初に居たチンピラの残り1人が驚いていると、弘樹は飛彗が見せた技が、八極拳の代表的な技・鉄山靠である事を見抜く。

 

「や、野郎ぉっ!!」

 

と、その時!!

 

最後の1人となっていた、弘樹に腕を捻られていたチンピラが、ポケットからバタフライナイフを取り出す!!

 

「!? 刃物!!」

 

「ちょっと! 卑怯じゃない!!」

 

長いストレートの黒髪の少女が驚きの声を挙げ、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女が思わずそう叫ぶ。

 

「ウルセェッ! 卑怯もらっきょうもあるか! へへへ………如何すんだ、兄ちゃん達よぉ? 土下座して謝るんなら許してやって良いぜ」

 

武器を持った事で優位を確信したのか、チンピラは弘樹と飛彗に向かってそう言う。

 

「おやおや、今度は刃物ですか………」

 

「…………」

 

だが飛彗は余裕の態度を崩さず、弘樹に至っては「何を言っているんだ、コイツは?」と言う様な視線をチンピラに向ける。

 

「テメェ等ッ! 分かってんのか!? コレが目に入………」

 

と、チンピラがバタフライナイフを見せつける様にした瞬間………

 

鋭い風切り音が鳴ったかと思うと、銀色の閃光がチンピラの持っていたバタフライナイフに命中。

 

バタフライナイフは弾かれ、余程勢いが付いたのか、ブロック塀に突き刺さった!!

 

「………へっ?」

 

何が起こったのか分からず、呆然となるチンピラ。

 

「…………」

 

そのチンピラの目の前では、弘樹が何時の間にか右腕を横へ水平に伸ばしたポーズを取っていた。

 

そして、その手にはギラリと鈍く輝く刃………

 

日本刀が握られている。

 

「………刀?」

 

「本物か試してみるか?」

 

本物かと疑うチンピラの喉元に刃を突き付け、弘樹はそう言う。

 

「!? ヒイイッ!?」

 

途端にチンピラは狼狽え、踵を返して逃げ出そうとする。

 

「待て!!」

 

「!?」

 

しかし、弘樹に呼び止められ、絶望した顔で振り返る。

 

「………そこに転がっている連中も連れて帰れ」

 

だが弘樹は、倒れているチンピラ達を見ながらそう言い放つ。

 

「ス、スンマセンでしたーっ!!」

 

チンピラは大慌てで倒れていたチンピラ達を無理矢理引っ掴むと、これまた無理矢理引き摺りながら逃げ去って行った。

 

「…………」

 

それを見た弘樹は、刀を腰に差していた鞘へと戻すと、外套(マント)で隠す。

 

「流石ですね、舩坂さん」

 

「君も中々だったぞ………宮藤 飛彗」

 

「えっ? 僕をご存知なんですか?」

 

弘樹の言葉に驚く飛彗。

 

個性派揃いの大洗男子校の中でも、取り立てて有名人な弘樹が、自分を知っていた事が意外だった様である。

 

「噂は色々とな………中学生時代に、痴漢やスリ、ナンパを数々撃退し、名誉市民賞も得た『軽犯罪ハンター』が居るとな………」

 

「『軽犯罪ハンター』だなんて、そんな………」

 

弘樹の指摘に、飛彗は何やら複雑そうな表情を見せる。

 

「………と、そうだ。無事かい? 君達?」

 

とそこで、弘樹は思い出した様にみほ達の方を振り返り、そう尋ねた。

 

「「「…………」」」

 

しかし、みほ以外の3人の少女は、突如現れてチンピラを瞬く間に倒し、日本刀を帯刀している大正時代からでもタイムスリップして来たと言われても信じられそうな弘樹と、見事な八極拳を見せた飛彗の姿に声が出ずに居る。

 

と………

 

「あ、あの!!」

 

そこでみほが、3人の前に出て弘樹と対峙する。

 

「!? ちょっと! みほ!!」

 

「西住さん!!」

 

「西住殿!!」

 

みほの身を案じる様に、3人の少女が声を挙げるが………

 

「君を助けたのは………コレで2度目だな」

 

弘樹は朗らかな笑みを浮かべてそう言う。

 

「「「…………」」」

 

その安心感さえ抱きそうになる笑みに、3人の少女は毒気を抜かれた様な表情となる。

 

「流石だな、弘樹! 宮藤も! 3人ぐらいじゃ物の数じゃねえってか!」

 

「クッソーッ! 何でお前等ばっかフラグ立ててんだよ!」

 

「日頃の行いじゃないですか?」

 

とそこで、成り行きを見守っていた地市、了平、楓の3人も、みほ達の前に姿を現す。

 

「貴方方は?」

 

「申し遅れた。小官達は、県立大洗国際男子高校の歩兵道受講者だ。生徒会長の命により、大洗女子学園戦車道受講者の戦車捜索に協力しに馳せ参じた」

 

長いストレートの黒髪の髪の少女が尋ねると、弘樹はヤマト式敬礼をしながらそう説明する。

 

「やっぱり、男子校の方だったんですね」

 

「みほ、この人のこと知ってるの?」

 

癖毛の少女がそう言うと、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女が、みほに尋ねる。

 

「うん。ホラ、前に轢かれそうになった所を助けてもらったって人、この人だよ」

 

みほは、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女にそう説明する。

 

「ああ~! あの話で言ってた、みほの王子様って、この人だったんだ!!」

 

すると、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女は納得が行った様な表情となり、両手をパンッと鳴らして合わせる。

 

「お、王子様って!? そ、そんなんじゃないよ~!!」

 

それを聞いてみほは、顔を赤くしながら両手を振って否定する。

 

「まあ、そうでしたか。ありがとうございます。みほさんを救っていただいて………私は『五十鈴 華』です」

 

とそこで、長いストレートの黒髪の少女………『五十鈴 華』が、弘樹に礼を言いながら自己紹介をする。

 

「あ、アタシは『武部 沙織』」

 

続いて、先端にウェーブが掛かったロングの茶髪の少女………『武部 沙織』が右手を挙げながら自己紹介する。

 

「私は『秋山 優花里』です。よろしくお願い致します!」

 

更に続いて、癖毛の少女………『秋山 優花里』が敬礼しながらそう自己紹介する。

 

「西住 みほです。この間は本当にありがとうございました」

 

そして最後に、『西住 みほ』が弘樹に改めてお礼を言いながら自己紹介をした。

 

「これは如何も御丁寧に。僕は大空 楓です」

 

「俺、綿貫 了平! よろしく!!」

 

それに対し、丁寧な様子で自己紹介する楓と、明らかに鼻の下が伸びた様子で張り切って自己紹介をする了平。

 

「宮藤 飛彗です。初めまして」

 

飛彗も礼儀正しく自己紹介をし、挨拶する。

 

「俺は石上 地市だ。で、コイツが………」

 

「舩坂 弘樹だ。今後は長い付き合いになるだろう。よろしく頼む」

 

地市は自己紹介をしながら弘樹の肩に手を置くと、最後の弘樹がそう自己紹介と挨拶をする。

 

「えっ!? 舩坂って………」

 

「!? 舩坂あぁっ!?」

 

と、弘樹の名を聞いたみほが何かに気づいた様子を見せ、優花里が大層驚いた様子を見せる。

 

「キャッ!? あ、秋山さん!? 如何したの!?」

 

そんな優花里の様子に、沙織が驚く。

 

「あ、あの! ひょっとして、貴方は!! 『舩坂 弘』軍曹殿と関係があったりするのですか!?」

 

しかし、優花里は興奮した様子で、弘樹にそう尋ねる。

 

「舩坂 弘は、小官の祖先だ」

 

それに対し、弘樹は冷静にそう答えを返す。

 

「ええ~っ!? そ、そうなんですかぁ!? ああ~、あの『生きている英霊』と呼ばれたお方の子孫にお会い出来るなんて………感激です!!」

 

本当に感激しているらしく、優花里は目を潤ませながらそう言う。

 

「舩坂………弘?」

 

「って、誰?」

 

しかし、華と沙織は、優花里の言う『舩坂 弘』と言う人物の事が分からず、首を傾げる。

 

「! 知らないんですか!? あの大日本帝国陸軍の伝説の兵士を!!」

 

すると優花里は、信じられないと言う様な表情で華と沙織を見やる。

 

「え、ええ………」

 

「あ、秋山さん?」

 

「良いですか! 舩坂 弘軍曹殿はですね!!」

 

2人の戸惑いを他所に、優花里は弘樹の祖先………かつて、『生きている英霊』と呼ばれた伝説の日本軍兵士『舩坂 弘』軍曹の事を熱く語り始める。

 

 

 

 

 

『舩坂 弘』………

 

旧大日本帝国陸軍の軍人であり、最終階級は軍曹。

 

数々の徽章や武道の段位を取得し、射撃の才能も合わせて持っていた生粋の武人・軍人である。

 

彼が後の世のミリタリーマニアに語り継がれる事となったのが、『マリアナ・パラオ諸島の戦い』の最後の戦い………

 

『アンガウルの戦い』での活躍である。

 

米軍はアンガウル島へ絨毯爆撃と艦砲射撃を執拗なまでに加えた後、2万1000人の大部隊を上陸させる。

 

対する旧日本軍の守備隊は1400程度………

 

連合軍お得意の圧倒的物量に任せての制圧戦となったが、この戦いの中で舩坂 弘は信じられない活躍をしてのける。

 

先ず、擲弾筒と臼砲で米兵を200人以上も殺傷。

 

あまりにも撃ち過ぎた為、擲弾筒の筒身が熱で真っ赤に染まっていたと言われている。

 

その後、水際作戦からゲリラ戦に移行し戦闘中の折、左大腿部に裂傷を負ったが、軍医が見捨てたにも関わらず、日章旗で縛って、這って自陣まで帰還。

 

そして、本人曰く、『生まれつき傷の治り易い体質だった』と言い、信じられない事に翌日には歩けるまでに回復していたと言う。

 

更に信じられない事に、その後も何度も重傷を負い、翌日には回復していると言う事を繰り返したらしい。

 

その後も、拳銃を3連射して必殺必中で3人を倒したり、鹵獲したサブマシンガンでまたも3人一度に倒し、銃剣で1人を倒した後、別の1人に投げつけて倒すなど、個人として際立った戦績を挙げる。

 

部下達は畏怖と敬意の念を込めて、『不死身の分隊長』または『鬼の分隊長』と渾名した。

 

しかし、如何せん数の優位は覆せず、補給の見込みの無い日本軍は追い詰められて行き、戦友達は次々に戦死。

 

舩坂 弘自身もとうとう這う事しか出来なくなり(普通の人間ならばとっくに死んでいる状態なので、寧ろ這ってでも動ける事が奇跡の状態)、最早コレまでと手榴弾で自決を計る。

 

だが、思いに反して手榴弾は不発。

 

舩坂 弘は深い絶望を味わったが、ならばと今度は敵陣に斬り込んでの肉弾自爆を決意。

 

手榴弾を多数身体に巻きつけて、米軍の元へ向かう。

 

またも信じられない事に、全身傷だらけで無事な所を探す方が難しい状態にも関わらず、米軍指揮所の至近距離まで潜入。

 

指揮官達が集まった瞬間を狙って突撃。

 

自爆を敢行しようとしたが、その前に頸部を撃たれ、死亡した………

 

………かに思われていたが、何と!!

 

この3日後に、舩坂 弘は蘇生を果たしたのである!!

 

その話は瞬く間にアンガウルの米軍内を駆け巡り、舩坂 弘を『勇敢なる兵士』と称えたと言われている。

 

 

 

 

 

「というくらい凄い人なんですよ!!」

 

「何その最強伝説!?」

 

「一度死んで生き返る………凄まじい執念ですね」

 

優花里が語り終えると、沙織は仰天し、華も信じられないと言う様な表情をしていた。

 

「舩坂さんが伝説的な人物の子孫だって噂は聞いてましたけど………まさかそんなに凄かったなんて………」

 

飛彗も、驚きを隠せない様子で居る。

 

「あ~、秋山くんだったかい?」

 

とそこで、弘樹が少し困った様な顔で優花里に声を掛ける。

 

「!? ハッ!? す、すみません! つい夢中になってしまって!!」

 

そんな弘樹の姿を見た優花里は、慌てて弘樹に向かって謝罪しながら頭を下げる。

 

「いやいや、気にしないでくれ。しかし、そこまで祖先の事を知っていてくれてるとは………嬉しいと言うと、何と言うか………」

 

「舩坂 弘さんは、戦後には日本でも歩兵道が始まると、その講師を務める傍ら、大会にも参加して、何度も功績を挙げてるの。日本に歩兵道が定着したのは舩坂 弘さんの存在が在ったからって言う人も居るくらいなんだ」

 

弘樹が微笑を浮かべると、みほがそう言って来た。

 

「アレ、西住さんも知ってるの?」

 

「うん。実は………私のご先祖様、つまり西住流の開祖に当たる人が乗っていた戦車の随伴歩兵を務めてくれていたのが舩坂 弘さんだって、昔聞かされた事があるの」

 

「ええっ!? ホントですか!?」

 

コレは優花里も知らなかったのか、驚きの声を挙げる。

 

「うん。ご先祖様が指揮した戦車部隊と、舩坂さんは当時の戦車道、歩兵道の大会で大活躍して、世界大会の日本代表になった程なんだ」

 

「へえ~~、凄~い」

 

「そう言えば、我が家には戦車道の家元との交流があったと聞いていたが………それが西住流だったとはなぁ」

 

みほの言葉に、弘樹も思い出した様にそう言う。

 

「それにしても、ご先祖様同士が知り合いで、2回も危ないところを助けてくれたって、何だか運命めいてるよね。ひょっとして舩坂くんって、西住さんの運命の恋人さんだったりして」

 

「ふええっ!? う、運命の恋人!?」

 

何事も恋愛事に例えたがる沙織がそんな事を言うと、みほは一瞬で顔を真っ赤にする。

 

「ハハハ、冗談は止してくれ。小官はそんな柄じゃない」

 

しかし、弘樹は笑ってそれを流すのだった。

 

「クソッ! 如何してアイツばっかりモテるんだ!!」

 

「それはやっぱり、日頃の行いじゃないか?」

 

「的を射てますね………」

 

そんな弘樹の様子を見て、了平、地市、楓がそう言い合う。

 

「ところで、戦車探しの途中だったんだろう? 何か見つかったかい?」

 

とそこで、弘樹は戦車を捜索中である事を思い出し、みほ達に尋ねる。

 

「あ、いえ、まだ何も………学校の倉庫には、Ⅳ号戦車が1両有ったんですけど」

 

「取り敢えず、ウチの学校の駐車場には無かったよ」

 

「そりゃそうだろ」

 

みほが返事を返すと、沙織がそう言い、地市がツッコミを入れる。

 

「女子学園の駐車場には無しか………なら、この山林に行ってみよう。近くが戦車道の演習場だったから、何かしら手がかりが有るかも知れない」

 

しかし、そんな沙織の言葉を真面目に受け取り、地図の大洗女子学園の駐車場の場所に×印を刻むと、地図をみほ達に見せながらそう言う弘樹。

 

「あ、ハイ。分かりました」

 

「おお~! 流石歩兵道の人! 頼りになる~」

 

「この場合、歩兵道は関係無いのでは………」

 

沙織の言葉に華がツッコミを入れながら、弘樹達とみほ達は合流して協同での戦車捜索に乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

みほ達と合流した弘樹達は………

 

演習場だった場所の近くに在る山林………

 

大洗子女学園の裏手へと来ていた。

 

「おほほ~っ! 女子学園があんな近くに見える!!」

 

木々の合間から見えている、大洗女子学園の校舎を見て、鼻息の荒い了平がそう言う。

 

「オイ! 気持ちは分かるが、今は戦車を探せ!」

 

「この辺りに有ると良いんですけど………」

 

そんな了平に地市がツッコミを入れ、楓が山林の中を見渡しながら呟く。

 

「この辺りには無いみた~い」

 

「ですね………」

 

「コッチにも見当たりません」

 

「うむ………では、次はコッチを探そう」

 

沙織と華、そして飛彗からそう報告を貰った弘樹は、捜索した地点を丸で囲み、その囲んだ範囲の隣を指差す。

 

「了解しましたっ!!」

 

優花里が元気良く敬礼と共に返事をすると、先頭を切る様に歩き出す。

 

それを見て、他の面子も後に続いて行く。

 

「ありがとうございます。お蔭で助かってます」

 

捜索の手が増えた事で1人1人の負担が減り、みほは弘樹にお礼を言う。

 

「お礼を言うのは、戦車を見つけた後で良いさ」

 

弘樹はそう返答する。

 

「それにしても不思議な縁だな………かつてご先祖様が現役の頃、大会で活躍していた時に戦車部隊を率いていたのが西住くんのご先祖様で、その子孫である小官達が、またこうして歩兵道と戦車道で一緒になるとはなぁ」

 

「あ………は、はい………」

 

と、弘樹がそう言うと、みほの表情に陰が差す………

 

「む………」

 

それを見た弘樹は、やはり彼女が戦車道に対して何らかの心の傷を抱えている事を悟る。

 

「………戦車に………乗りたくないのかい?」

 

一瞬聞くべきか如何か迷った弘樹だったが、やがて耐えかねた様に、みほにそう問う。

 

「えっ!?」

 

「去年の黒森峰での決勝戦の事は知っている………それでもし君が何らかの心の傷は抱えているのなら、無理に戦車に乗る必要は無いのではないか?」

 

驚くみほに、弘樹はそう言う。

 

(イカンな………もっと気の利いた言い方と言うモノは無いのか………)

 

しかし、内心ではストレートな問い質しをしてしまった自分の不器用さを自己嫌悪していた。

 

「………ありがとうございます。気を遣ってくれて。でも、大丈夫です」

 

だが、みほは笑みを浮かべてお礼を言う。

 

「ホントは私………戦車道が無いから、今の学校に転校して来たんです。でも、戦車道が復活する事になって、生徒会が経験者の私に履修しろって………」

 

「強制されたのかい?(生徒会としても、形振り構っていられなかったのか)」

 

「最初はそうでしたけど………でも、武部さんと五十鈴さんが私の事を庇ってくれて………2人共、本当は戦車道がやりたいって言ってたのに、履修まで私に合わせてくれて………」

 

「そうか………良い友達を持ったな」

 

「うん………私がこの学園に来て、初めての出来た友達なんです………だから………2人の為にも………私………もう1度だけ戦車道をやってみようって………」

 

「…………」

 

それを聞いた弘樹が、ふと足を止める。

 

「? 如何しました?」

 

それに気づいたみほも立ち止まり、弘樹の方を振り返る。

 

「いや、少し感動してな………君は凄いな。友達の為にやりたくなかった戦車道をやると言えるなんて」

 

「そ、そんな………別にそんな凄い事じゃ………」

 

「いや、大した事さ。君が今戦車道へどんな思いを持っているかは小官には分からないが………友達の為にそれを乗り越えようとしている君の強さは称賛に値する」

 

「あ、あうう………」

 

手放しで褒めて来る弘樹に、みほは思わず照れて縮こまる。

 

「………良し。決心した」

 

と、次の瞬間には真面目な表情を、更に真面目にして、みほの方を向きながら姿勢を正す。

 

「? えっ? あの………」

 

「………小官、舩坂 弘樹は、この全身全霊を以て西住 みほ殿を助け、その力となる事を此処に誓う」

 

戸惑うみほに向かって、弘樹はヤマト式敬礼をしながらそう宣言した。

 

「えっ?………!? えええ~~~~っ!?」

 

「!? みほ!?」

 

「西住殿!?」

 

「如何したんですか!?」

 

みほは思わず大声を挙げてしまうと、先へ進んでいた沙織、優花里、華が驚いて振り返る。

 

「何だ何だ?」

 

「オイ、弘樹。お前、何かしたんじゃないだろうなぁ? 俺を差し置いて~!」

 

「それは無いと思いますよ」

 

「貴方と一緒にしない方が良いですよ」

 

地市、了平、飛彗、楓は、弘樹の元へ歩き寄りながらそう言う。

 

「そんな積りじゃなかったのだが………迷惑だったかな?」

 

すると弘樹は、申し訳無さそうにみほにそう問う。

 

「う、ううん! そんな事無いですよ! ちょ、ちょっとビックリしただけです!」

 

みほは思わず、早口でまくし立てる様にそう返す。

 

「そうか………ならば良かった」

 

それを聞いて、弘樹は安堵した様な表情となる。

 

「さ、さあ! 行こう、皆! 早く戦車を探さないと!!」

 

と、みほが若干赤くなった顔でそう言いながら、集まっていた一同の先頭を切る様に進み出した。

 

「あ! みほ!!」

 

「待って下さい、みほさん!」

 

「西住殿!」

 

沙織、華、優花里が慌ててその後を追う。

 

「あ、オイ!」

 

「ちょっ! 待ってよ~っ!!」

 

「置いてかないで下さい!」

 

「やれやれ………」

 

地市、了平、楓、飛彗も駆け出す。

 

「…………」

 

そして、最後に、その様子を少し眺めていた弘樹が、やがてスウッと無言で歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

由緒正しき戦車道の家柄に生まれた少女、西住 みほ………

 

かつて太平洋戦争にて、伝説的な活躍をした日本兵の子孫、舩坂 弘樹………

 

この2人の出会いが、後に伝説となる大洗学園艦の活躍の始まりになろうとは………

 

この時、誰も予想だにしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

『もしⅣ号が、『あのアニメ』みたいになっていて発見されたら………』

 

 

 

 

 

みほ達と合流した弘樹達は、20年前の戦車道廃止に伴い、放棄された戦車を探し続ける。

 

しかし、碌な手がかりも無いままの捜索は困難を極め………

 

とうとう日が傾き、辺りの景色は夕焼けで真っ赤に染まっていた。

 

「もう~! 全然見つからないよ~っ!!」

 

長い捜索に飽き飽きしたかの様に、沙織が愚痴をこぼす。

 

「もうヘトヘトだぜぇ………」

 

了平も疲れ切った様に座り込んでそう言う。

 

「了平、弱音を吐くなよ」

 

そんな了平に地市がそう言うが、そんな彼も疲れている様子が表情に表れている。

 

「もうすぐ日が暮れますね………」

 

「夜になったら流石に見つけられませんよ」

 

華と楓が、既に大分傾いている夕陽を見てそう呟く。

 

「西住殿。如何しましょう?」

 

「う~ん………」

 

優花里の言葉に、みほは今日はもうコレで捜索を打ち切るべきかと考え込む。

 

「今日はもうコレまでにしますか?」

 

飛彗がそう提案するが………

 

「まだ完全に日は暮れていない。もう少しだけ捜索してみよう」

 

しかしそんな中、1人だけ疲れた様子を微塵も見せていない弘樹が、地図を手に皆にそう呼びかけ、先頭を進み始める。

 

「元気だなぁ~、アイツは………」

 

「流石は舩坂軍曹の子孫です!」

 

バイタリティ溢れる弘樹の姿に了平は溜息混じりに呟き、優花里が尊敬の眼差しを送る。

 

そして、一同はもう一頑張りと捜索を再開したが………

 

程なくして、先頭を行っていた弘樹が足を止めた。

 

「? 弘樹?」

 

「如何したの?」

 

地市達とみほ達が追い付き、立ち止まった弘樹に向かってそう尋ねる。

 

「…………」

 

しかし、弘樹はそれには答えず、目の前の風景をジッと見つめている。

 

今、彼の目の前には、赤茶けて干からびた様な不毛の大地が広がっている。

 

先程まで森林地帯であったのが嘘の様に、ある場所を境に風景が一変したのだ。

 

「此処は?………」

 

「荒野戦用の演習場ですね」

 

「何だか、SFの世界みたい………」

 

楓、優花里、そして沙織がその荒野を見て、そんな事を呟く。

 

「…………」

 

と、弘樹は無言のままその演習場に足を踏み入れ、目の前の小高い丘を登る。

 

「………!?」

 

そして、頂上にまで達したかと思うと、何かを発見したかの様に足を止めた。

 

「舩坂くん? 如何したの?」

 

みほがそう言いながら弘樹の方に駆け寄る。

 

「!? ああっ!?」

 

と、弘樹と同じ場所まで来たみほが、弘樹の視線の先を見て驚きの声を挙げる。

 

「西住さん!?」

 

「如何したの、みほ!?」

 

「西住殿!?」

 

「「「!?」」」

 

それを聞いた華達と地市達も、すぐに丘を駆け上がる。

 

「!? アレはっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

そして、今度は地市が驚きの声を挙げると、一同は一斉に驚きを露にする。

 

何故なら一同が見つめるそこには………

 

夕陽に照らされた赤茶けた大地に………

 

まるで亡骸であるかの様に斜めに擱座し、車体が殆ど大地に埋まって、装甲が赤錆びている戦車………

 

『Ⅳ号戦車D型』の姿が在ったのだ!!

 

「アレは………戦車なのか?」

 

「ボロボロじゃない」

 

「まるっきりスクラップだな………」

 

地市、沙織、了平は、その赤錆びたⅣ号を見て、そんな感想を漏らす。

 

「わび・さびでよろしいのでは?」

 

「いや、アレは鉄錆ですよ」

 

華がフォローする様にそう言うが、流石に楓は無理が有ると言う様にツッコミを入れる。

 

「とても使える物とは思えませんけど………」

 

飛彗もそう言い放つ。

 

(………この戦車が大洗女子学園の希望となるのか………それとも………)

 

弘樹は、赤錆びたⅣ号を見ながらそう思いやる。

 

「…………」

 

とそこで、みほがその赤錆びたⅣ号へと歩み寄り、その装甲に手を触れた。

 

「………装甲も転輪も大丈夫そう………コレで行けるかも」

 

そしてそう呟く。

 

誰もが赤錆びたⅣ号の姿に落胆する中、彼女だけはその可能性を感じ取っている。

 

そうだ、正しくその通りであった!

 

夕陽を浴びて、死んだ様に沈黙しているⅣ号………

 

しかしⅣ号には、大洗女子学園の明日への希望が込められているのだ。

 

果たして、Ⅳ号が恐るべき力を発揮するのは何時か?

 

Ⅳ号よ! 20年の眠りから覚めて甦れ!!

 

大洗女子学園廃校まで365日………

 

あと、365日しかないのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………正直、スミマセンでした!




新話、投稿させていただきました。

遂にガルパン原作キャラと会合です。
と言っても、まだ麻子を除いたあんこうチームとですが………
次回は戦車捜索で他のチームとの絡み、そして歩兵道側の教官が到着しての訓練初日を書く予定です。

さて、この作品の主人公、舩坂 弘樹ですが………
苗字でお察しの方も居られるかと思いますが、そう………
あの『生きている英霊』と呼ばれたリアル異能生存体『舩坂 弘』の子孫という設定です。
どんな人物かは今回の話の中でも語ったとおり、異常とまでいえる身体能力と精神力で戦い続けた正に大和魂を具現化した様な人物です。
ネットとかではリアルチートなんて言われてますね。
ガルパン主人公のみほが、戦車道流派の家元って設定ですから、それに合わせた設定とも言えますね。

さて、ココでちょっと、前回までのあとがきで書ききれなかった、この二次創作小説での予定と注意をしておこうかと思います。

先ず、登場キャラクターについてですが………
登場するオリジナルキャラクター達は、私以外に2人の友人と弟が考えてくれたキャラで構成されています。
比率としましては、私が考えたキャラが多いと思いますが、話に合わせて修正を入れていますが、友人2人と弟に考えてもらったキャラクターで何かとズレが生じるか可能性があります。

また、登場オリキャラは歩兵道の男子だけではなく、大洗女子学園側にも登場します。
サポーター的なポジションのキャラに加えて、オリジナルの戦車チームを1チーム加える予定です。
そのメンバーは友人の方が考えてくれたのですが、如何やらとあるアニメのキャラをモチーフにしている様です。
因みに、使う戦車はイギリス製のものです。
また、原作でもいた対戦高校の一部にも、オリジナルの戦車チームを入れたりする予定です

そして、更に………
この作品では歩兵が登場するという要素がある為、原作での他校との試合の様子が結構変わる予定であり、またオリジナルの戦車道、そして歩兵道がある学校が登場し、大洗と試合を繰り広げます。
その為、原作では練習試合のグロリアーナと実質カットされたアンツィオ戦を含めて、試合回数は5試合でしたが、この作品では何と!
その倍以上である10試合以上を行う予定です。
ですので、原作では登場しなかった戦車なんかも登場する予定です。
勿論、アンツィオ戦もカットせず、私なりのアンツィオ戦を書く予定です。
更に、恐らくガルパンファンなら一度は考える事………
グロリアーナとの全国大会でのリベンジ戦もやる予定です。

以上、こう言った予定でお送りする予定ですので、上記の事が受け付けられない方は、申し訳ありませんが、この小説はお勧め出来ません。

で、今回付けたオマケですが………
完全に悪乗りの産物です。
失礼致しました。
某動画サイトや絵描きサイトのシリーズが好きで、ついやりたくなってしまって………
お目汚し失礼致しました。


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第4話『最豪 嵐一郎教官です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第4話『最豪 嵐一郎教官です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園と、大洗国際男子高校の生徒達による戦車捜索が続く中………

 

再び邂逅を果たした弘樹とみほは、自分達の祖先が浅からぬ縁を持っていた事に驚きつつ、親睦を深めていた。

 

弘樹は、友達の為に自らのトラウマと向き合おうとしているみほの優しさと強さに触れ、感銘を覚え、何が有っても彼女を護る事を誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園の裏手の山林………

 

弘樹達とみほ達による戦車探しが続いている。

 

「コッチはまだだったよな?」

 

「うむ。しかし、この地形では、戦車が置いておけるとは思えないな………」

 

「西住殿。コッチは如何でしょう?」

 

「う~ん、一応調べてみようか」

 

弘樹と地市、みほと優花里が、其々に地図を見ながら、戦車が有りそうな場所に目星を付ける。

 

「………うん?」

 

するとそこで、捜索を続けていた華が、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何かしたぁ?」

 

「…………」

 

沙織が尋ねると、華は何やら匂いを嗅ぐ様に鼻をヒクヒクとさせる。

 

「アッチから匂いが………」

 

「匂い?」

 

「匂いで分かるんですか?」

 

華の言葉に、了平が首を傾げ、優花里がそう尋ねる。

 

「花の香りに混じって、ほんのりと鉄と油の臭いが………」

 

「華道やってると、そんなに敏感になるの?」

 

「私だけかも知れませんけど………」

 

沙織の驚きの声にそう返しながら、華は匂いのする方向へと歩いて行く。

 

「華道?」

 

「あ、うん。華の実家って、華道の家元なんだ」

 

「マジで! 黒髪ロングの大和撫子で華道やってるなんて、完璧じゃん!」

 

「何がですか、了平」

 

相変わらずの了平に、楓が突っ込みを入れる。

 

「彼女が歩兵だったなら偵察兵………それもスカウト兵の素質があるな」

 

「弘樹、それも如何なんだ?」

 

そして若干的外れなコメントをしている弘樹にも、地市の突っ込みが入る。

 

更に………

 

「そうか、ありがとう。じゃあね」

 

少し離れたところで、手に小鳥を止まらせていた飛彗がそう言って小鳥を放すと、弘樹達の元へやって来る。

 

「この先に大きな金属の塊が有るそうです。戦車か如何かは分かりませんけど、言ってみる価値は有ると思います」

 

「ホントか?」

 

「ええ。小鳥が教えてくれました」

 

地市が尋ねると、飛彗は笑みを浮かべてそう言う。

 

「? 小鳥?」

 

「何お前? まさか動物と会話出来るなんて言う積もり?」

 

地市が首を傾げると、了平が何を馬鹿な事をと言う様に言うが………

 

「? ええ、そうですけど?」

 

それを聞いた飛彗の方が、不思議そうに首を傾げた。

 

「「えっ?………」」

 

思わず絶句する地市と了平。

 

「と、取り敢えず、アッチですね! ではっ! パンツァー・フォーッ!!」

 

そこで優花里が空気を読んで、華が向かって行った方向を指差し、そう声を挙げる。

 

「パンツのアホーッ!?」

 

「何っ!? パンツッ!?」

 

「何処に反応してんだ、オメェーは」

 

それを聞き違いで思わず声を挙げてしまう沙織と、その沙織の言葉に反応する了平にツッコミを入れる地市。

 

「パンツァー・フォー、戦車前進って意味なの」

 

そんな沙織達に向かって、みほが苦笑いしながら説明する。

 

「へえ~、そうなんだ………歩兵道にはそう言うの無いの?」

 

すると沙織は、弘樹へそんな質問をぶつけた。

 

「うむ、歩兵道でなら………『アールハンドゥガンパレード』だな」

 

「『アールハンドゥガンパレード』?」

 

「全軍抜刀、全軍突撃と言う意味だ」

 

首を傾げる沙織に、弘樹はそう説明する。

 

「お~い! 有りましたよ~っ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

とそこで、華と共に先へ進んでいた楓からの声が響いて来て、一同は慌てる様に林の奥へと向かった。

 

やがて、鬱蒼とした林の中に、鉄とサビの塊………戦車が姿を現す。

 

「やった! 有ったよ!!」

 

「38t………」

 

「軽戦車か………」

 

沙織が声を挙げると、みほが戦車の名前、弘樹が戦車の種別を呟く。

 

「何かさっきのよりちっちゃ~い。ビスだらけで、ポツポツしてるし………」

 

戦車に関しては素人な沙織も、学園の倉庫で見つけたⅣ号戦車と比べても小さい38tに不満そうな声を漏らす。

 

「38tと言えば、ロンメル将軍の第7装甲師団でも主力を務め、初期のドイツ電撃戦を支えた重要な戦車なんですぅ」

 

しかし、対照的に優花里は嬉しそうに、赤く染めた頬を38tの車体前面装甲に擦り付けている。

 

「軽快で走破性も高くて………あ! 『t』って言うのは、チェコスロバキア製って事で、重さの単位の事じゃないんですよ!………はっ!?」

 

「今………活き活きしてたよ」

 

「すみません………」

 

嬉々とした様子で語り出した優花里がハッと我に返ると、沙織がそう突っ込みを入れた。

 

「あの子………戦車マニアか?」

 

「成程。所謂戦車萌えってやつか………上級者だな」

 

「貴方は一体何を言ってるんですか?」

 

一連の流れを見ていた地市がそう呟き、了平が痛い発言をし、楓が突っ込みを入れると言う、お約束の流れが決まる。

 

「や~、漸く見つかりましたね~」

 

(この戦車では、対戦車戦は不向きと言わざるを得ないな………まさか他の戦車も同様な戦車ばかりと言う事はあるまいな?)

 

やや暢気そうにそう呟く飛彗の横で、弘樹は大洗に残っている戦車への不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・倉庫前………

 

「見つかったかな~、戦車?」

 

折り畳み式の椅子に腰掛け、茨城名物の干し芋を齧っている大洗女子学園の生徒会長『角谷 杏』が他人事の様にそう呟く。

 

「何、我が校の歩兵部隊も捜索を手伝ってくれている。発見は時間の問題だ」

 

その隣に立って、広げた扇子で口元を隠している迫信がそう言う。

 

「流石だね~。あむ」

 

「ふふふ………」

 

それを聞いて、再び干し芋を齧る杏と不敵な笑いを零す迫信。

 

「あ、どうも。大洗国際男子校生徒会、雑務担当の小金井 逞巳です」

 

「どうも御丁寧に。大洗女子学園生徒会副会長の小山 柚子です………あの、雑務担当と言うのは?」

 

「ハハハハ………ウチの生徒会は如何にも優秀な人が多過ぎましてね………」

 

その傍では、逞巳と大洗女子学園の生徒会・副会長の『小山 柚子』が丁寧な挨拶を交わしている。

 

「むっ? 私だ………」

 

とそこで、大洗女子学園の生徒会・広報官の『河嶋 桃』の携帯が鳴り、桃は通話ボタンを押して電話に出る。

 

「うむ、そうか………御苦労。運搬は自動車部と男子校の輸送科に依頼しておくので、引き続き捜索を続行せよ」

 

そう言って電話を切ると、杏達の方へ向き直る。

 

「見つかったかね?」

 

「ええ、西住達が1両発見しました」

 

迫信が尋ねると、桃はそう返す。

 

「やれば出来るもんだねぇ。あむ」

 

杏はそう言って、また干し芋を齧る。

 

「しっかし、此処に有る戦車がコレだろう? 他のも使いモンになるのかねぇ?」

 

「祈るしかありませんね………」

 

倉庫の中に有るスクラップ寸前のⅣ号戦車を見ながら、俊と清十郎がそう言い合う。

 

(この歩兵道で迫信以上の活躍をして見せれば、俺の支持率はアップ………副会長から生徒会長への出世も夢では無い!)

 

1人、内心で密かな野心を燃やしている十河。

 

「…………」

 

そして熾龍は、無言で目を閉じ、倉庫の壁に背を預けて佇んでいた。

 

と、そこへ………

 

「杏~っ!」

 

杏の名を呼びながら、大洗女子学園の制服に身を包んだ1人の背の高い少女がやって来る。

 

「アレ? 蛍じゃん。如何したの?」

 

杏がその少女………『蛍』の姿を見て、軽く驚いた様に言う。

 

「ハアハア………杏が………戦車道を復活させるって聞いたから………私も………お手伝いしようと思って………ハアハア………あ~、寝起きで走るの辛い………」

 

若干息を切らせた様子で、杏にそう言う蛍。

 

「大丈夫ぅ? そっちは夜に学校なんだし、無理しなくても………」

 

そんな彼女の事を気遣う様に杏はそう言う。

 

実は彼女は苦学生であり、昼間はアルバイトで学費を稼ぎ、大洗女子学園の夜間定時学科に通っているのだ。

 

更に、定時校の生徒会長も務めており、その忙しさは計り知れない。

 

「ううん、そうは行かないよ………」

 

とそこで、蛍は杏に耳打ちする様な姿勢となる。

 

(戦車道で優勝しないと廃校になっちゃうんでしょ? 私にだって他人事じゃないよ)

 

(蛍………ありがとう)

 

そう耳打ちしてくる蛍に、杏は多くは語らず、ただ礼を言うのだった。

 

「やあ、蛍くん。元気そうで何よりだ」

 

するとそこで、今度は迫信が蛍へと声を掛ける。

 

「お久しぶりです、迫信様………あの時以来ですね」

 

すると蛍は、迫信に向かって畏まった挨拶をする。

 

実は彼女、入学前に陸の大洗町の駅にて通り魔事件に遭っているのだが、その際に彼女を助けたのが他ならぬ迫信なのである。

 

尚、その時のショックで彼女は記憶の一部を失っているのだが、本人は然程気には止めていない。

 

「君も戦車道に参加してくれるのか………心強いよ」

 

「友達と学校の為です。それに迫信様への恩も有りますから」

 

「感謝する」

 

迫信はそう言い、扇子をパチンと閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その間にも………

 

女子学園と男子校の生徒による、戦車探しは続けられている。

 

 

 

学園艦の山林地帯・岩肌となっている断崖絶壁の上にて………

 

「良いぞぉっ! ゆっくり下ろせやぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「オッスッ! 親分っ!!」」」」」」」」」」

 

「皆! 頼むよぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイ、キャプテンッ!!」」」」」」」」」」

 

大河が大洗連合の舎弟達に、武志がラクビー部の部員達に身体に巻き付けたロープを握ってもらい、岩肌の崖をロッククライミングか、特殊部隊の訓練の様に降りていた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「やっぱり、私達が行った方が………」

 

その様子を見ていた、大洗女子学園の戦車道受講者で、現在廃部となっているバレー部のメンバーである金髪のロングヘアで、後ろ髪を束ねカチューシャを付けている背の高い少女『佐々木 あけび』と、同じくバレー部で茶色掛かった紫色でセミロングの髪で、赤い鉢巻を巻いている背の高い少女『近藤 妙子』がそう言う。

 

「ガハハハハッ! 何を言う!!」

 

「こんな危険な事、女子にさせたとあっては男の名折れでござる!」

 

「君達はそこで見ていてくれ」

 

しかし、大洗連合とラクビー部のメンバーに混じっていた明夫と小太郎、大詔が、そう返す。

 

「武志、大丈夫かなぁ?」

 

「? キャプテン。ラクビー部のあの方とお知り合いなんですか?」

 

そこで、同じ様に男子の様子を見守っていたバレー部のキャプテンであるメンバーの中で1番小柄な少女『磯辺 典子』がそう呟き、部員の1人でショートヘアで後ろ髪を束ねている背の高い少女『河西 忍』がそう尋ねる。

 

「うん、幼馴染なんだ、武志とは」

 

「有ったでぇーっ!!」

 

と、典子がそう答えていたところ、大河の声が響いて来る。

 

「こんな所に………」

 

「一体どないしてこうなったんや?」

 

武志と大河は、岩肌の崖の途中に空いていた洞窟の中にあった戦車………『八九式中戦車甲型』を見ながらそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、湿地地帯のとある沼では………

 

「如何だ? 磐渡?」

 

沼の端に座り込み、箱メガネで沼の中を覗き込んでいる磐渡に向かって、鷺澪が尋ねる。

 

「ちょっと待ってくれ………」

 

そう言いながら、更に箱メガネを覗き込むが………

 

「駄目だ! 濁ってて全然見えないぞ!!」

 

やがてそう言って顔を上げた。

 

「オイ、ホントに此処に戦車が在るのか?」

 

「ま、間違いありません! 金属探知機に反応が有りましたから………多分」

 

重音に尋ねられて、金属探知機を持った灰史が、自信無さ気にそう返す。

 

「頼りねえなぁ………」

 

「そんなんじゃまどろっこしいぜよ」

 

するとそこで、磐渡達と一緒に捜索していた女子学園の生徒………黒系の青色で眼鏡を掛けており、紋付を羽織っている少女・『おりょう』がそう言ったかと思うと………

 

「むっ!」

 

左目を瞑っている、赤茶色のロングストレートの髪で、六文銭模様付きの赤い鉢巻を付け、弓道の胸当てをしている少女・『左衛門佐』が、口に竹を咥え、沼の中へと飛び込んだ!

 

所謂水遁の術である。

 

「!? えええっ!?」

 

「ちょっ!? 何してんの!?」

 

それを見た磐渡が驚きの声を挙げていると………

 

「いざ!」

 

「ヤヴォール!」

 

それに続く様に、赤いマフラーを首に巻いた背の高い少女・『カエサル』と、金髪のショートヘアで軍用ジャケットを着用しドイツ陸軍を模した軍帽を被った少女・『エルヴィン』が、おりょうと共に水蜘蛛の術で沼の上に立つ。

 

「ええ~~っ!?」

 

「あの人達、何者ですか?」

 

思わず灰史がそんな事を呟いてしまう。

 

彼女達は、全員が歴女であり、カサエルが古代ローマ史、エルヴィンが欧州戦史、左衛門佐が戦国時代、おりょうが幕末史に精通している。

 

尚、彼女達の名前は曰く、『ソウルネーム』らしく、本名は別にあるらしい。

 

程無くして、左衛門佐が沼の底に沈んでいた戦車………『Ⅲ号突撃砲F型』を発見するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、大洗女子学園の飼育エリアでも………

 

「鶏小屋には………無いな」

 

「ホースの小屋にもアリマセン」

 

「ヤギ小屋にも無しです!」

 

鶏小屋と馬小屋を覗いていた竜真とジェームズ、ヤギ小屋を覗いていた正義からそう声が挙がる。

 

「牛舎にも有りません………!? うわぁっ!?」

 

「鴨小屋にもです………ひゃあっ!?」

 

牛舎とカモ小屋を捜索していた光照と勇武がそう報告を挙げた瞬間、牛とカモに驚かされる。

 

「有ったよ!」

 

「コレ戦車でしょ!」

 

「間違いないよ!!」

 

するとそこで、1番奥のウサギ小屋を見に行っていたメンバーの中の、女子学園の1年生である焦茶掛かったの髪の少女・『澤 梓』、青色のロングヘアの髪の少女・『山郷 あゆみ』、黄土色のツインテールで眼鏡を掛けた少女・『大野 あや』の声が響いて来る。

 

それを聞いた光照達がウサギ小屋へと向かうと、そこにはウサギ達の家代わりに使われている『M3中戦車・リー』の姿が在った。

 

「やったーっ!!」

 

「やった見つかった~!」

 

捜しに捜し抜いて、漸く見つかった事へ歓喜の声を挙げる、茶色のショートの髪をした少女・『阪口 桂利奈』、黒色のショートボブの髪の少女・『宇津木 優季』

 

「ゴメンよ。新しいお家は必ず用意してあげるからね」

 

その女子達の中に混じって、M3中戦車の上に居たウサギ達を退かしながらそう言う誠也。

 

「…………」

 

そして1人、何を考えているのか分からない顔で、只ボーッとM3中戦車を見上げている灰色の髪をした少女・『丸山 紗希』が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男子校歩兵道受講者の生徒達と、女子学園戦車道受講者の生徒達は、大洗女子学園の倉庫前に並べられた戦車の前に集まっている。

 

「八九式中戦車甲型、38t軽戦車、M3中戦車リー、Ⅲ号突撃砲F型、それからⅣ号中戦車D型」

 

桃が集めた戦車の名前を読み上げて行く。

 

「捜しゃあ有るもんだな」

 

地市が、集められた戦車達を見ながらそう呟く。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は難しい顔で、集められた戦車を眺めている。

 

(火力として最大なのはⅢ突か………Ⅳ号も立ち回り次第では活躍出来る………しかし………総合的に見て、対戦車戦闘能力が乏しいな………)

 

内心でそんな思いを抱く弘樹。

 

(だがそこは我々歩兵がカバーするしかないな………歩兵道は戦車に乗る女性を守ってこそ意味を持つ)

 

だが、自らをそう納得させ、不安を断ち切るのだった。

 

「どう振り分けますか?」

 

「見つけたモンが見つけた戦車に乗れば良いんじゃない?」

 

「そんな事で良いんですか?」

 

「杏………相変わらず、豪快と言うか、適当と言うか………」

 

桃、杏、柚子の生徒会メンバーと蛍がそう言い合う。

 

「38tは我々が、お前達がⅣ号で」

 

すると、如何やら生徒会メンバーは38tを選んだらしく、Ⅳ号がみほ達に回って来る。

 

「えっ? あ、ハイ………」

 

突然言われて戸惑いながらも返事を返すみほ。

 

そしてそのまま、戦車の振り分けが行われた結果………

 

Ⅳ号戦車が、みほ、沙織、華、優花里のAチーム。

 

八九式中戦車が、典子、妙子、忍、あけびのバレー部達・Bチーム。

 

Ⅲ号突撃砲が、カエサル、エルヴィン、左衛門佐、おりょうの歴女達・Cチーム。

 

M3中戦車が、梓、あゆみ、紗希、桂利奈、優季、あやの1年生達・Dチーム。

 

そして38t軽戦車が、杏、桃、柚子、蛍の生徒会メンバー・Eチームとなった。

 

「明後日には教官がお見えになる。粗相の無いよう、戦車を綺麗にするんだぞ」

 

桃がみほ達を見ながらそう言う。

 

「どんな人かな~」

 

そんな中、まだ見ぬ教官に淡い思いを抱いている沙織。

 

「では、我々も戦車を綺麗にする手伝いを………おっと! すまない。少し失礼させてもらう」

 

と、迫信が男子校の生徒達に戦車の清掃を手伝う様にと言おうとしたところ、携帯電話が鳴り、皆に断わると、一旦その場から少し離れる。

 

「私だ………ふむ………ふむ………何? 到着は明日ではなかったのか?………うむ………そうか………了解した。連絡、感謝する」

 

何やらしきりに頷いていたかと思うと、そう言って電話を切ると、男子校の生徒達の元へと戻って来る迫信。

 

「? 会長? 如何かしたんですか?」

 

その様子が気になった逞巳が、迫信に尋ねる。

 

「うむ………諸君、大至急学園へと帰還してくれ。間も無く教官殿がお見えになる事になった」

 

すると迫信は、皆に向かってそう言い放つ。

 

「ええっ!? 教官が来るってのは明日の筈じゃなかったのかよ?」

 

海音が驚いた様にそう声を挙げ、他のメンバーもざわめき立つ。

 

「それが急遽予定を早めたらしい。到着次第、歩兵道の授業を行うらしい」

 

「そりゃまた急な話だな………」

 

俊が急な予定変更に呆れた様に呟く。

 

「兎に角、全員学園に戻るぞ。教官殿をお待たせするワケにはイカン」

 

そこで、弘樹が場を纏める様に言い放ち、男子校の生徒達は一斉に帰路に就き始める。

 

「すまない、杏くん」

 

「良いよ、良いよ。気にしないで。歩兵の皆には試合の時、活躍してくれる事を期待してるからさ」

 

「そう有れるよう努力するよ」

 

杏にそう言い、迫信と生徒会一行も男子校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

男子校生徒達は、男子校の敷地内にあった歩兵道授業用訓練場へと集結していた………

 

「急に予定早めるだなんてなぁ………」

 

「私達の方の教官と言うのは、一体どんな方なのでしょうか?」

 

地市と楓、急に予定を早めた教官への興味を募らせる。

 

他のメンバーも、多かれ少なかれ緊張の様子を見せている。

 

と、その時………

 

爆音が聞こえて来たかと思うと、訓練場に突風が吹き始めた!

 

「!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「何だっ!?」

 

突然の突風と爆音に一同はたじろぐ。

 

「!? 上や!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

とそこで大河がそう声を挙げ、全員が空を見上げる。

 

そこには、ゆっくりと降下してくる迷彩色のタンデムローターの大型ヘリの姿が在った。

 

「CH-47チヌーク………陸上自衛隊仕様のJA型か」

 

学帽を押さえながら、降下して来るヘリ………陸上自衛隊のCH-47JA、大型輸送用ヘリコプターを見上げていた弘樹がそう言う。

 

やがてCH-47JAは、弘樹達の前に横になる様に着陸。

 

機械音を立てて後部ハッチが空いたかと思うと、迷彩服3型に身を包み、作服装業帽を被った如何にも叩き上げと言う様なガタイの良い自衛官が姿を現した。

 

「…………」

 

自衛官は気難しそうな顔をしながら、無言で弘樹達の前まで歩み寄って来る。

 

「貴方が歩兵道の教官をして下さる自衛官の方ですか?」

 

「………貴様は?」

 

迫信が代表して尋ねると、自衛官は鋭い視線を向けながらそう尋ね返す。

 

(うわっ!?)

 

(す、凄い迫力だ………)

 

「コレは失礼致しました。私は当学園の生徒会長を務めています、神大 迫信です。本日はお忙しい中お越し頂き、誠にありがとうございます」

 

その迫力に、逞巳と俊が思わず怯むが、迫信と平然と挨拶をする。

 

「うむ………」

 

自衛官の教官はそれを聞くと、並び立っている弘樹達を見据える。

 

「………整列っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の教官の言葉に、一同はその迫力に押される様に整列する。

 

「俺が貴様等の歩兵道の授業で教官をする『最豪 嵐一郎(さいごう らんいちろう)』だ!! 話し掛けられた時以外は口を開くな!!」

 

そんな一同に向かって、教官………『最豪 嵐一郎』は、怒鳴る様にそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「ハイッ! 教官っ!!」」」」」」」」」」

 

それに対し、多くの者が恐れを抱きながら脊髄反射的にそう返事をする。

 

「ハイではない! 私への返事は、『ラジャーッ!』若しくは『了解!』だ!! 分かったか、屑共!!」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!」」」」」」」」」」

 

嵐一郎が罵倒を浴びせると、一同は訂正して返事をする。

 

「ふざけるな! 大声を出せっ! 貴様等全員オカマ野郎か!?」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

再び嵐一郎の罵倒が飛ぶと、一同は大声を出して返事をする。

 

「貴様等屑共が俺の訓練を生き残れた時! 各人が立派な歩兵となり、活躍出来るだろう!! 歩兵こそが試合の花形だ!!」

 

整列している一同の前を行ったり来たりしながらそう言い放つ嵐一郎。

 

「その日まで、お前達はゴミ屑だ! この世で最も劣った生き物だ! 貴様等は人間では無い!! 道端に転がっている石ころ程度の値打ちも無い!!」

 

容赦無い罵詈雑言が一同へと浴びせられる。

 

既に一部のメンバーは心が折れそうになっている。

 

「貴様等は厳しい俺を嫌う! だが、憎めばそれだけ学ぶ! 俺は厳しいが公平だ!! 差別は許さん!! 優等生、劣等生、模範生、不良を俺は見下さん!! 全て………平等に価値が無いっ!!」

 

嵐一郎の罵詈雑言は更に続く。

 

「俺の使命は役立たずを刈り取る事だ! 愛する歩兵道の害虫を! 分かったか、屑共!!」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

「ふざけるな! 大声を出せっ!!」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!!」」」」」」」」」」

 

正に恐怖政治と言っても良い空気が、一同を支配する。

 

「全員良く覚えておけ! この歩兵道の時間は俺が全てだ! 全て俺が考え、俺が決める! 貴様等には何1つとして権利は無い!! 分かったな!!」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

嵐一郎の言葉に、全員が脊髄反射的に返事を返す。

 

「トンでもねえ教官が来ちまったな、オイ………」

 

「俺………明日まで生きてられるかな?………」

 

鬼教官と言う言葉が生易しく聞こえる嵐一郎の姿に、地市と了平は早くも不安を露わにしている。

 

(見事だ………ああでなければ国防を担う自衛官を育てる事など出来ん………如何やら、小官は素晴らしい教官に巡り合えた様だ)

 

だが、弘樹は皆とは対照的に、嵐一郎の事を高く評価していたのだった。

 

「良し! 先ずは貴様等の実力を見てやる!! 全員! 運動が出来る服装に着替えたら、俺が良いと言うまでグランドを走れぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

そして、嵐一郎の怒声と共に、波乱に満ちた歩兵道の授業が開始される………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ………

 

日が傾き、辺りが夕焼けに染まり始めた頃………

 

大洗女子学園の倉庫前では、漸く戦車の清掃を終えたみほ達が整列している。

 

ボロボロだった戦車が、嘘の様に綺麗になって整列している。

 

「よし、良いだろう。後の整備は、自動車部の部員にやらせる。それでは、本日は解散!」

 

磨き上げられた戦車を見た後、みほ達の方を振り返り、桃がそう言う。

 

「「「「「「「「は~~い………」」」」」」」」

 

戦車道受講者達は、すっかり疲れた様子で返事を返す。

 

「早くシャワー浴びた~い」

 

清掃作業ですっかり汚れた沙織が、愚痴る様にそう呟く。

 

「早く乗りたいですね」

 

そんな中、優花里がみほにそう言う。

 

「あ………う、うん………」

 

しかし、みほはその言葉に目を背けながら元気なさげに返事を返す。

 

「?」

 

それを見た優花里は、首を傾げるしかなかった。

 

「あ、ねえ! 男子校の様子見に行ってみない!?」

 

するとそこで、沙織がそう声を挙げた。

 

「えっ?」

 

「だって、歩兵道の方はもう教官さんが来てるんでしょう? ちょっと興味有るし~」

 

「沙織さんったら、また………」

 

頬を染めながらそう言う沙織に、華が呆れた様に呟く。

 

「でも、確かにちょっと気になりますね。態々予定を早めて来て下さった教官さんですし」

 

「………うん、そうだね。ちょっと見に行ってみようか」

 

しかし、優花里が賛成したのを聞いて、みほも賛成する。

 

「それじゃあ! いざ男子校へレッツゴーッ!!」

 

沙織はそう言い、拳を握って右手を突き上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

シャワーを浴び、着替えを終えたみほ達は、県立大洗国際男子校へと辿り着く。

 

「わあ~、ココが男子校か~」

 

男子校の看板を見た沙織がそう呟く。

 

「同じ艦ですけど、来るのは私も初めてです」

 

「そうなんだ」

 

「歩兵道の授業は何処で行われているのでしょうか?」

 

と、華、みほ、優花里がそう言い合っていると………

 

「この屑共! トロトロするんじゃないっ!!」

 

学校中、いや学園艦中に響き渡りそうな怒声が聞こえて来た。

 

「キャアッ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「な、何!? 何っ!?」

 

その怒声に、みほ、優花里、沙織が慌てる。

 

「向こうの方から聞こえましたけど………」

 

華が、怒声の聞こえて来たのはグラウンドの方だと気づき、視線で示す。

 

「行ってみよう!」

 

沙織がそう言うと、みほ達はグラウンドの方へと向かって行く。

 

そして、そこに広がっていたのは………

 

「全く! 何たる様だ!! 貴様等は最低のゴミ屑だ!! 地球どころか宇宙で最も劣った生き物だ!!」

 

歩兵道の訓練と思われるモノを熟している男子生徒達に、容赦無く罵声を浴びせている嵐一郎の姿だった。

 

更に、男子生徒が受けている訓練も半端では無い。

 

ある者達は丸太を肩に担いだ状態でマラソンをしており、ある者達は小銃に見立てた木の棒を持って、地面が泥沼となっている鉄条網の下を潜り抜けている。

 

またある者達は敵に見立てた案山子を、模擬戦用の銃剣で只管突きまくり、ある者達は両先端を布で包んだ棍棒でガチで殴り合う接近戦訓練を行っている。

 

どれもコレも本物さながらの兵士訓練である。

 

「す、凄い………本物の軍人の訓練そのものですよ!!」

 

「や、やり過ぎじゃないの………」

 

興奮した様子を見せる優花里だが、逆に沙織は引いている様子を見せる。

 

「皆さん、苦しそうな顔をしてます」

 

「ハハハハ………」

 

華は苦しそうな顔で訓練を受けている男子生徒達を憐れみ、みほは乾いた笑い声を漏らす。

 

「よおしっ! 今日の訓練はコレまでとする!!」

 

と、嵐一郎がそう言った瞬間、男子生徒達が次々にグラウンドへ倒れ伏せる。

 

「ゼエッ! ゼエッ! ゼエッ! ゼエッ!」

 

「死、死ぬ………」

 

「これ程に………厳しい………訓練だとは………」

 

地市、了平、楓も、グラウンドに大の字になり、息を切らしながらそう言い合う。

 

「…………」

 

「副会長。大丈夫ですか?」

 

逞巳が、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かない十河に声を掛ける。

 

「…………」

 

「へんじがない。ただのしかばねのようだ」

 

「生きてますよ!!」

 

しかし、十河は返答するどころか、本当にピクリとも動かない為、俊がそう言い、清十郎がツッコミを入れる。

 

(くうっ! 体力不足がココまで響くとは!! 何たる醜態!! コレでは迫信に勝つ事など出来んではないか!!)

 

そして満身創痍の状態でも、頭の中は野心でいっぱいの十河だった。

 

「ふうう………良い訓練だった」

 

「フフフ………」

 

「…………」

 

「コレだけ身体を動かしたのは久しぶりです」

 

そんな死屍累々の中、弘樹、迫信、熾龍、飛彗だけが立った状態で居る。

 

弘樹と飛彗は多少汗を掻いているものの、特に疲労している様な様子は無く、手拭いで汗を拭っている。

 

そして迫信と熾龍は汗を掻いていないどころか涼しげな表情をしており、まるで訓練を受けていなかったと思えるぐらい優雅な姿であった。

 

「どいつもこいつも情けない連中め! 少しはあの4人を見習ったら如何だ!!」

 

嵐一郎がそんな4人を示しながら、他のメンバーにそう言い放つ。

 

「言っておくが、今日の訓練はほんの小手調べだ!! 今後の訓練は更に厳しいものになるからな!! 覚悟しておけっ!!」

 

「「「「「「「「「「!? ゲエェーッ!?」」」」」」」」」」

 

嵐一郎の言葉に、大洗男子校の歩兵道受講者達は、絶望した表情を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




ガルパン原作キャラ達に混じり、学園艦の彼方此方で戦車を見つける大洗男子校の歩兵部隊員達。

だが、漸く戦車が見つかったかと思ったら、歩兵道側の教官が予定を早めて到着。
その本物の軍隊式の訓練の前に、すっかり参ってしまう大洗歩兵部隊。
果たして、こんな調子で大洗歩兵隊は大丈夫なのであろうか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第5話『舩坂家、訪問です!』

恥ずかしながら、帰って参りました。

とある読者の方より、自分の作品の至らない点を指摘された事と、最後規約に引っかかってしまったショックで少々塞ぎ込んでおりましたが、やはりこの作品を書き上げたいと思い、帰って来ました。

読者の皆様には大変なご迷惑をお掛けしましたが、もしまだ応援していただけるというなら、
どうかこれからも、よろしくお願い致します。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第5話『舩坂家、訪問です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業初日から、教官である最豪 嵐一郎は大洗歩兵部隊に厳しい訓練を課した。

 

しかも、それでもまだ序の口だと言う。

 

弘樹や迫信以外のメンバーは、早くも先行きに不安を感じ出していた。

 

そして、漸く訓練が終わると、授業の見物に来ていたみほ達に気付いた弘樹達は、彼女達と共に帰路に就いたのだった………

 

 

 

 

 

学園艦・艦舷の公園にて………

 

「この水平線と共に眺められる夕陽の景色は、学園艦の住民ならではの特権だな………」

 

自販機で買ったお茶の缶を手に持っていた弘樹が、水平線に沈む夕陽を見ながらそう呟く。

 

「うん。とっても綺麗だね」

 

「ですね」

 

みほと優花里が、弘樹に同意する。

 

「ハア~~~、疲れた~~。これから毎日、あんな授業が続くのかよ~」

 

「大丈夫?」

 

一方、地市は歩兵道の授業での訓練が相当応えたらしく、沙織に心配されながら、ベンチに凭れ掛かる様にしながら夕焼けの天を仰ぎ見ている。

 

「あ~、俺もう駄目~~。五十鈴さ~~ん。その魅惑のおみ足で膝枕して~」

 

「ええっ!? いきなりその様な事を言われましても………」

 

「すみません。この人の言う事は聞き流して下さい」

 

ドサクサに紛れて華に膝枕をせがむ了平と、そんな了平を咎める楓。

 

「そう言や、今週末には寄港だったか?」

 

ふとそこで、地市からそんな話が出る。

 

「うむ、そう言えばそうだな………」

 

「そろそろ陸に上がりたいもんね。アウトレットで買い物もしたいし」

 

弘樹が肯定の返事を返すと、沙織もそう言う。

 

「今度は何処の港だっけ? 私港々に彼が居て、大変なんだよね~」

 

「ええ~っ!? そうなの!?」

 

「それは行きつけのカレー屋さんでしょ」

 

沙織の恋愛ごとの冗談を真に受けた了平がショックを受け、割と容赦の無いツッコミを入れる華。

 

「あ、あの!………良かったら、ちょっと寄り道して行きませんか?」

 

するとそこで、優花里が一同にそんな事を言って来た。

 

「えっ?」

 

「寄り道?」

 

「「「「「「??」」」」」」

 

みほと弘樹が返事をすると、他の一同も優花里に注目する。

 

「駄目ですかね?」

 

断わられると思っているのか、優花里の表情が曇る。

 

それを見た一同に、断ると言う選択肢は残っていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せんしゃ&ほへい倶楽部………

 

優花里が一同を連れてやって来たのは、戦車と歩兵関連の商品を取り扱っている専門店だった。

 

「こんな店が在るんだ………」

 

「知らなかったぜ」

 

全く未知の店の存在に戸惑いの声を挙げる沙織と、弘樹達の中では唯一大洗出身の地市も初めて目にする店に驚く。

 

そして優花里を先頭に店の中へと入ると………

 

目に入って来たのは当然ながら、所狭しと並べられた戦車と歩兵の関連商品である。

 

転輪にマガジン。

 

砲弾や砲身、銃弾にモデルガン。

 

パンツァージャケットに迷彩服。

 

プラモや書籍もかなりの数が置かれている。

 

「凄いですね」

 

「コレは圧倒されますね」

 

華と楓がそんな感想を漏らす。

 

「おおっ! コレは萌え萌えミリタリー大辞典!!」

 

「ブレないな、お前も………」

 

目敏く萌え要素の入ったミリタリー誌を見つける了平と、そんな友人の姿に呆れる弘樹。

 

「でも、戦車ってみんな同じに見える」

 

とそこで、沙織が素人らしい意見を挙げると………

 

「ち、違います! 全然違うんです! どの子も皆、個性と言うか特徴が有って………動かす人によっても変わりますし」

 

優花里が頬を染めてウットリとした表情でそう反論する。

 

「華道と同じですね」

 

「うんうん。女の子だって、皆其々良さが有るしねえ。目指せ、モテ道」

 

すると、華と沙織はそう言葉を返す。

 

「アレは会話が成立しているのか?」

 

「話が噛み合ってる様な、無い様な………」

 

弘樹が3人の会話にズレを感じ、みほも思わず苦笑いする。

 

 

 

 

 

その後、優花里がシミュレーターの様な戦車ゲームをプレイし始めた。

 

「ふっ! ほっ!」

 

見事な腕前で、高得点を挙げて行く優花里。

 

「へえ~、上手いモンだな」

 

「アクティブで楽しそうです」

 

そんな優花里の姿を見て、地市と華がそう言う。

 

「でも、顔は怪我したくないなぁ………」

 

「つーか、俺達歩兵は生身で戦車とも戦うんだよな? 危なくね?」

 

「今更ですか? 了平」

 

と、沙織が戦車道でのそんな懸念を口にすると、了平もそんな事を言い、楓がツッコミを入れる。

 

「大丈夫です。試合では実弾も使いますけど、十分安全に配慮されてますから」

 

「その通りだ。特に歩兵の場合は危険度の度合いが大きいから、更に2重3重の安全対策がしてある」

 

優花里がそう返すと、弘樹もそう補足する。

 

 

 

歩兵道の場合………

 

男子は生身で戦車と対峙する事もある為、安全には戦車道以上の配慮が行われている。

 

試合時には、特殊合金を繊維状にして編み込まれた『特殊制服(戦闘服)』を着込み、更に使用される武器の弾薬や火薬等は特殊な物となっている。

 

 

 

「例え敵戦車の砲弾の直撃を受けたとしても、重戦車に轢かれたとしても、死ぬ事は先ず無い。最も、かなり痛いだろうがな」

 

「止めてくんないっ!? そういうの!!」

 

普段と変わらない表情でサラリとそう言い放つ弘樹に、了平はツッコミを入れる。

 

『次は、戦車道の話題です』

 

「?」

 

とそこで、店内に設置されていたテレビからそう言う声が聞こえて来て、みほはふと画面を見やる。

 

『高校生大会で、昨年MVPに選ばれて、国際強化選手となった、『西住 まほ』選手にインタビューしてみました』

 

「あ………」

 

(西住? と言う事は………)

 

西住 まほと言う名前に、みほが思わず声を漏らし、弘樹も画面に注目する。

 

『戦車道の勝利の秘訣とは何ですか?』

 

『諦めない事、そして………どんな状況でも、逃げ出さない事ですね』

 

レポーターの質問にそう答え、カメラを見据えるまほ。

 

「!………」

 

それを聞いたみほは俯いてしまう。

 

「む………」

 

弘樹はみほに何か声を掛けようとしたが………

 

「そうだ! コレから、みほの部屋に遊びに行っても良い?」

 

それよりも早く、沙織がみほにそう問い掛けた。

 

「えっ?」

 

「私もお邪魔したいです」

 

みほが戸惑っていると、華もそう言って来る。

 

「! うん!」

 

(………良い友達だな)

 

それを聞いてみほは笑みを浮かべ、弘樹も2人の気遣いに微笑を浮かべる。

 

「あの~………」

 

「秋山さんも如何ですか?」

 

乗り遅れていた優花里がオズオズと言った様子で手を上げながら声を掛けると、華がそう言う。

 

「! ありがとうございます!」

 

「じゃあ、俺達も!!………」

 

「帰るぞ、了平」

 

優花里が感謝をしている中、便乗しようとしていた了平の言葉を遮り、弘樹がそう言う。

 

「ええ~~っ!? 何でだよ!?」

 

「女子の部屋の男が複数人上がり込むと言うのは少々マズイだろう。それに我々まで言ったら部屋が狭くなってしまう」

 

「そうですね。僕達はココで失礼しましょう」

 

露骨に不満そうにしている了平に、弘樹はそう言い放ち、楓もその意見に同意する。

 

「あ! 待って下さい! 私は大丈夫ですから!!」

 

しかし、弘樹達だけ帰らせるのは悪いと思い、みはが引き止めて来る。

 

「ほらぁ、西住ちゃんだってこう言ってくれてるぜ」

 

「いや、そうも行かんだろう」

 

ここぞとばかりにそれに乗っかる了平だが、弘樹は尚も反論する。

 

「じゃあ弘樹ん家に行けば良いじゃねえか」

 

するとそこで、地市がそう言って来た。

 

「何っ?」

 

「お前ん家平屋だろ? 広さ的にも十分だし、逆なら別に構わねえだろ」

 

思わず地市の事を見やる弘樹に、地市はそう言葉を続ける。

 

「そうなんですか?」

 

「如何する? みほ?」

 

「私は別にそれでも良いけど………」

 

「私は是非! 舩坂 弘軍曹殿にも線香をお上げしたいですし」

 

それを聞いたみほ達も同意して来る。

 

「決まりだな」

 

「………仕方ない。ちょっと待ってくれ」

 

地市が強引に決める様にそう言うと、弘樹は一瞬迷った様な表情を見せたが、やがて諦めた様にそう言うと、携帯電話を取り出しながら、一旦店の外へ出る。

 

そして、少し携帯で何やら話していたかと思うと、やがて携帯を切ってポケットに戻しながら、再び入店して来る。

 

「湯江に聞いたが、大丈夫だそうだ。君達さえ良ければ遠慮無く来てくれ」

 

「よっしゃあっ!!」

 

「了平………」

 

弘樹のその言葉を聞いた途端、了平が歓喜の声を挙げ、楓がそんな了平の姿に呆れる。

 

「湯江?」

 

と、みほは弘樹の口から出た名前に首を傾げる。

 

「ああ、小官の妹だ」

 

「コイツと兄妹だとは思えねえスッゲェー可愛い妹だからな。見て驚くなよ」

 

弘樹が答えていると、地市が弘樹の隣に立ち、顔を指差しながらみほ達にそう言う。

 

「余計なお世話だ。行くぞ」

 

仏頂面でそう言うと、弘樹は一同を自宅へと案内し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同は途中スーパーで夕飯の材料の買い物をし………

 

夕日が完全に沈んで暗くなり始めた頃に、舩坂家へと辿り着いた。

 

「此処が舩坂殿の自宅ですかぁ~」

 

「凄~い………」

 

「結構大きいね~」

 

「純和風の家とは、珍しいですね」

 

純和風で、結構な広さの家を見て、優花里、みほ、沙織、華がそう感想を漏らす。

 

「何、知り合いの不動産が安く紹介してくれただけさ。さ、遠慮無く上がってくれ」

 

弘樹はそう言うと玄関の引き戸に手を掛け、ガラッガラッと言う音と共に開け放つ。

 

「今帰ったぞ」

 

「お帰りなさい、お兄様」

 

弘樹がそう言うと、廊下の奥の方から、紬姿でおかっぱの黒髪の少女・舩坂 湯江がやって来て出迎える。

 

「すまないな。急に友人達を招く事になってしまってな」

 

湯江に一旦鞄を預けると、学生帽と外套を脱ぐ弘樹。

 

「構いませんよ。お兄様の御友人でしたら、大歓迎ですから」

 

「助かる………皆も上がってくれ」

 

「お邪魔するぜ」

 

「こんばんわ、湯江ちゃん」

 

「突然の訪問で申し訳ありません」

 

そこで弘樹が外に向かってそう呼び掛けると、先ず地市、了平、楓の3人が玄関へ入って来る。

 

「ようこそ、皆さん」

 

湯江は3人に向かって、深々と御辞儀をしながら挨拶をする。

 

「えっと、お邪魔します」

 

「失礼致します」

 

「わあ~! 貴方が舩坂くんの妹?」

 

「まるで人形の様に可愛らしい方ですね」

 

地市達が家へと上がると、続いてみほ、優花里、沙織、華が入って来る。

 

「あら? 西住 みほさん?」

 

とそこで、湯江がみほの姿を見ると、口元に手を当てて、驚いた様子を見せる。

 

「えっ?………」

 

「みほさんの事をご存じなんですか」

 

「ええ。先日、兄が話していまして………そうですか。貴方が大洗女子学園の戦車部隊に………」

 

みほが驚き、華がそう尋ねると、湯江はみほを見ながらそう言う。

 

「ああ、ゴメンなさい。私とした事が、お客様を玄関に立たせたままで………ささ、どうぞ、上がって下さい」

 

とそこで、みほ達を玄関に立たせたままだった事に気付いた湯江が、慌ててそう言い、みほ達を家の中へと招く。

 

「あ、お邪魔します」

 

「「「お邪魔しま~~す」」」

 

湯江にそう言われ、みほ達は改めて舩坂家へと上がり込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂家・居間………

 

「改めまして初めまして。舩坂 弘樹の妹、舩坂 湯江です。兄がお世話になってます」

 

一同を居間へと通すと、湯江は畳の上に座り込み、みほ達に向かって手を付いて深々と頭を下げてそう自己紹介する。

 

「は、初めまして! 西住 みほです!」

 

「あ、秋山 優花里です!」

 

「た、武部 沙織です!」

 

かなり畏まった挨拶をされ、みほ、優花里、沙織も慌てて同じ様に頭を下げて挨拶する。

 

「五十鈴 華です。御丁寧にありがとうございます」

 

華だけは、華道の家元と言う事もあり、ごく自然に同じ挨拶を返す。

 

「湯江。夕食の材料は冷蔵庫に入れておけば良いか?」

 

とそこで、台所に居る弘樹のそう言う声が聞こえて来る。

 

「あ、ちょっと待ってて下さい。すみません、お騒がせして………すぐにお夕飯に致しますから、ご自由に寛いで居て下さいね」

 

それを聞いた湯江は、壁に掛けてあった割烹着を手に取り袖を通すと、頭に三角巾を巻いて台所へと向かう。

 

「あ、アタシ手伝うよ。華もお願い」

 

「あ、ハイ」

 

それを見た沙織が、華に声を掛けながら立ち上がる。

 

「いいえ、お客様にそんな事はさせられませんよ。どうぞごゆっくりしてて下さい」

 

「良いから良いから、気にしないで」

 

湯江は客である沙織達にそんな事はさせられないと言うが、沙織は気にせず、半ば強引に華と共に台所へと入る。

 

「私! 御飯炊きま~す!」

 

するとそこで、優花里がそう言って台所へと入って来たかと思うと、背負っていた軍用を思わせるリュックサックを床の上に下ろす。

 

そして、中から野外炊飯用の食器やら飯盒やらを取り出し始めた。

 

「何で飯盒?」

 

「何時も持ち歩いているのか?」

 

その光景を見た沙織と弘樹がツッコミを入れて来る。

 

「ハイ、何時でも何処でも野営出来る様に………」

 

「うわぁっ!?」

 

と、優花里がそう答えていると、ジャガイモの皮を剥いていた華の声が挙がる。

 

見ると、ジャガイモを握っていた左手の人差し指から血が流れていた。

 

「すみません。花しか切った事無いもので………」

 

「アラ、大変。ちょっと待ってて下さいね。絆創膏が此処に………」

 

華が血が流れる指を口に吼えると、湯江が台所の棚から絆創膏を取り出す。

 

「五十鈴さ~~ん! もしよろしければ、俺が舐めてあげ………げふっ!?」

 

「座ってろ、テメェーは!」

 

了平がまたも下品な行動に走ろうとし、地市が無理矢理押さえ付ける。

 

「皆意外と使えない。ハア~~………良し!」

 

と、その光景を見て呆れていた沙織が、目からコンタクトを外し、メガネを掛けたかと思うと、気合を入れる様な声を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

全員が囲める様な大きなちゃぶ台の上に、肉じゃがや唐揚げ、刺身を初めとした色取り取りな料理が所狭しと並べられている。

 

「「「おおお~~~っ!!」」」

 

「うひょお~! 美味そう!!」

 

歓声を挙げるみほ、優花里、華と、思わず涎が零れそうになる地市。

 

「じゃあ食べよっか!」

 

「頂きます」

 

「「「「「「「「頂きま~す!」」」」」」」」」」

 

沙織と弘樹が音頭を取る様にそう言うと、全員が一斉に手を合わせて頂きますと言い、料理に手を付け始めた。

 

「はむ………むぐむぐ………う~ん! 美味しい~!!」

 

「コレは見事な肉じゃがですね。沙織さん」

 

沙織が作った肉じゃがに手を付けたみほと楓がそう感想を述べる。

 

「いや~、男を落とすには、やっぱ肉じゃがだからね~」

 

照れた様子でそう返す沙織。

 

「沙織さ~ん! 俺のとこだったら何時でもお嫁に来て………!? フゴッ!?」

 

「黙って食え。飯が不味くなる」

 

ドサクサに紛れて沙織にアプローチしようとした了平の口に、地市が唐揚げを突っ込む。

 

「落とした事、あるんです?」

 

とそこで、華が相変わらずの容赦無いツッコミを沙織に入れる。

 

「何事も練習でしょう~」

 

「と言うか、男子って本当に肉じゃが好きなんですかね?」

 

「都市伝説じゃないですか?」

 

反論する沙織だが、優花里と華はそんな事を言い合う。

 

「そんな事ないもん! ちゃんと雑誌のアンケートにも書いてあったし!!」

 

「まあ、間違ってねえとは思うぞ。俺は好きだしよ」

 

剥れた様にそっぽを向いてしまう沙織だったが、そこでその肉じゃがを頬張っている地市がそう言う。

 

「! 本当!?」

 

途端に沙織は上機嫌になり、感激した目で地市を見やるのだった。

 

「お花も素敵………」

 

とそこで、ちゃぶ台の中央に置かれた花瓶に挿された一輪の花を見やり、みほが呟く。

 

「ゴメンなさい。コレぐらいしか出来なくて………」

 

「ううん、お花が在ると、部屋が凄く明るくなる」

 

「そうですよ。一輪と言えど、花は花ですから」

 

「ありがとうございます」

 

華は申し訳無さそうにそう言うが、みほと湯江にそう言われて、笑顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

食事は終わり、湯江と弘樹達が後片付けに入っている中………

 

みほ達は仏壇に向かい合っていた。

 

仏壇には弘樹と湯江の祖先である舩坂 弘………

 

そして、弘樹と湯江が成長したかの様な男女の写真と、1人の老人の写真が置かれている。

 

「! この写真は………」

 

「舩坂さんの御両親と、お祖父様でしょうか………」

 

「仏壇に飾ってあるって事は………」

 

「舩坂殿の御両親達は既に………」

 

「ああ、湯江が生まれて間も無い頃に事故でな」

 

みほ達がそう言い合っていると、弘樹がそう言いながら姿を見せた。

 

「それ以来、小官達は祖父に育てられた………その祖父も、2年前に亡くなった」

 

そう仏壇の両親と祖父の写真を見やりながら、弘樹はそう言う。

 

「幸い、祖父はかなりの遺産を残してくれたから生活には困らなかったが、なるべく大切に使いたくてな………学費が安かったこの学園艦に引っ越して来たんだ」

 

「そうだったんだ………」

 

「すみません………私、無神経に舩坂軍曹に線香をあげたいだなんて………」

 

みほが悲しそうな顔をしてそう呟き、優花里は弘樹に謝罪する。

 

「いや、君達が気にする事では無い。小官も湯江も既に現実を受け止めている」

 

だが、弘樹は気にする事は無いと言う。

 

「「「「…………」」」」

 

それを聞いて、みほ達は互いに顔を見合わせると、やがてそれぞれ仏壇に線香をあげ、手を合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、遅くなった為、弘樹達はみほ達を寮と家まで送りに出る。

 

1人別方向だった為、みほが住んでいる寮への送りは弘樹が担当した。

 

「あ、もう此処で大丈夫だから」

 

寮の入り口へと辿り着くと、みほは弘樹にそう言う。

 

「そうか………」

 

「それじゃあ、また明日。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

みほと別れの挨拶を交わすと、弘樹は自宅への帰路に就き始める。

 

「…………」

 

と、みほはそんな弘樹の背中を見ながら、何かを言うべきか、言わざるべきか迷っている様子を見せるが………

 

「あ、あの! 舩坂くん!!」

 

やがて意を決した様に弘樹を呼び止める。

 

「?………」

 

「やっぱり私………この学園艦に転校して来て良かったよ!」

 

弘樹が振り返ると、みほは笑みを浮かべて弘樹に向かってそう言う。

 

「…………」

 

それを聞いた弘樹も微笑を浮かべると、一旦みほに向き直り、ヤマト式敬礼をした後、再び帰路へと着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗女子学園・戦車格納庫では………

 

「ホシノ~、レンチ取って」

 

「ハイ」

 

「その配線は左の方へ繋いで」

 

「ハイハ~イ」

 

繋ぎ姿の大洗女子学園自動車部のメンバー………ショートヘアの『中嶋 悟子』こと『ナカジマ』、褐色肌の『スズキ』、セミショートの『ホシノ』、そばかすの『ツチヤ』が、ボロボロの状態の戦車達を整備していた。

 

「やっぱり明後日までに直すのは厳しいんじゃないの? 資材も足りないし………」

 

ふと、ホシノがナカジマに向かってそう言う。

 

如何に彼女達が自動車部と言えど整備している物は戦車………

 

それも5両も有り、たった4人で整備するのは厳しかった。

 

「でも、会長の命令だし………出来なかったら何言われるか」

 

「ああ~、今夜と明日は徹夜かな~………」

 

ナカジマがそう返すと、スズキが愚痴る様に呟く。

 

するとそこで、戦車格納庫の出入り口がノックされた。

 

「? 誰だろう? こんな夜遅くに?」

 

「ハ~イ」

 

ホシノが夜分の訪問者に驚いていると、ツチヤが扉を開ける。

 

「ど~も、夜分遅くにスイマセ~ン」

 

「戦車整備の責任者は居るかね?」

 

そこには、作業着に身を包んだ2人の男性が居た。

 

作業着には大洗国際男子校の校章が刻まれており、1人はメガネを掛けて帽子を被っている。

 

「え? えっと………ちょっと待って下さい。ナカジマ~、ちょっと来てくれる~」

 

「? 何~?」

 

ホシノは戸惑いながらもナカジマを呼び、呼ばれたナカジマが2人の男の前に立つ。

 

「君が戦車整備の責任者か?」

 

「貴方は?」

 

「失礼、申し遅れた。私は県立大洗国際男子高校で整備部の部長をしている『真田 敏郎(さなだ としろう)』だ」

 

「同じく、副部長の『志波 藤兵衛(しば とうべえ)』ッス!」

 

ナカジマに尋ねられて、作業着姿の眉毛が薄いので若干強面に見える男………『真田 敏郎』と、同じく作業着姿でメガネを掛けて帽子を被っている男………『志波 藤兵衛』が自己紹介をする。

 

「神大生徒会長の命令で、君達の応援に来た」

 

「たった4人だけじゃ辛いでしょう? 人手なら用意して来たんで、好きな様に使って下さい!!」

 

「「「「「「「「「「オースッ!!」」」」」」」」」」

 

藤兵衛がそう言うと、2人の背後から100名程の整備員と言った姿の男子達が姿を現す。

 

「うわぁっ! 凄い!!」

 

「助かるよ! ありがとう!!」

 

その姿を見て、ツチヤとナカジマが歓声を挙げる。

 

「あ、でも、資材が………」

 

「大丈夫だ。『こんなこともあろうかと』、神大閣下に頼んでおいた」

 

と、ナカジマが思い出した様にそう呟くと、整備員の後ろに、資材を満載したトラックが現れる。

 

「資材面等については、神大コーポレーションが全面的にバックアップしてくれる。必要な物を好きなだけ言ってくれ」

 

「………至れり尽くせりだね」

 

用意周到な敏郎に、ナカジマは思わず苦笑いした。

 

「では、全員早速取り掛かってくれ」

 

「「「「「「「「「「ヘイ、部長!!」」」」」」」」」」

 

敏郎にそう言われると、整備部のメンバー達は戦車格納庫へと入って行き、ボロボロの戦車達の整備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

この日、嵐一郎は朝から歩兵道の授業を開始。

 

歩兵道受講者全員が、特大教室へと集められた。

 

「本日は歩兵道に於いて重要な要素………『兵種』についての説明を行う」

 

嵐一郎がそう言うと、教室のカーテンが閉められ、一同が向かっている黒板の方向にスクリーンが展開。

 

そして一同の背後から、映写機による投影が開始される。

 

最初に映し出されたのは、双眼鏡を目に当てて遠方を見ている軽装備の歩兵の周りに集まっている、同じく軽装備の歩兵達の姿が映し出された。

 

「先ずは『偵察兵』だ。その名の示す通り、敵の動きを偵察する斥候を主な任務とする兵種だ。また、軽装備ならではの機動力を活かせば、十分に他の兵種の兵とも渡り合える」

 

嵐一郎がそう言うと、映像が廃村と思われる場所で機動力を活かして敵を攻撃している偵察兵達の姿に切り替わる。

 

「だが、軽装備故に装甲戦闘車両等の装甲目標に対しては無力と言わざるを得ない。主な武装は散弾銃や軽機関銃などだ」

 

そこで再びスクリーンの映像が切り替わり、60mmバズーカを構えている兵士の姿が映し出される。

 

「次は『対戦車兵』だ。コレもその名の示す通り、対戦車戦闘を専門とした兵種だ。攻撃力の高さとある程度の機動力を持つので、対戦車戦闘では中心となる存在だ」

 

映像が切り替わり、パンツァーファウストで敵戦車を撃破した対戦車兵の姿が映し出される。

 

「但し、歩兵に対する迎撃能力は低い為、敵の歩兵に肉薄されると弱い。主な武装は対戦車ロケット擲弾や無反動砲だ」

 

またも映像が切り替わり、塹壕の中に設置された榴弾砲を撃っている兵士達の姿が映し出される。

 

「続いては『砲兵』だ。火砲を使用し、味方歩兵の支援や敵戦車の撃破を務める兵種だ。その火力は全兵種の中で最高を誇る」

 

映像が、対戦車砲で敵戦車を撃破した砲兵達の姿に切り替わる。

 

「しかし、武器の特性上、機動力は皆無だ。対戦車兵以上に肉薄されると何も出来なくなる。主な武装は野戦砲全般に対戦車砲だ」

 

そこで映像が切り替わり、スコップを片手に地雷を埋めようとしている兵士が映し出される。

 

「『工兵』だ。トラップの設置や、戦車の移動を補助する工事、陣地や塹壕の構成等を行う特殊な兵種だ。搦め手の戦法を得意とし、一見地味だが、戦場では縁の下の力持ちとなる存在だ」

 

映像が変わり、戦車を渡河させる為に工作車を操っている工兵の姿の写真が現れる。

 

「弱点は直接戦闘能力に乏しい事だ。主な武装は火炎放射器、対戦車用を含めた地雷や爆薬全般だ」

 

またまた映像が切り替わり、全身に草木や小枝を張り付けて森林地帯に同化し、狙撃銃を構えている兵士の写真が映し出される。

 

「『狙撃兵』。これもまたその名の通り、狙撃を専門とする兵種だ。息を潜めて敵を狙い、確実に倒す、戦場の殺し屋だ。更に対戦車ライフルを使えば戦車にもある程度打撃を与える事が出来る」

 

嵐一郎の言葉で映像が切り替わり、対戦車ライフルで戦車の転輪を破壊している狙撃兵の姿が映し出される。

 

「されど、隠密性が重視される為、一度発見されると偵察兵より脆くなってしまう為、注意が必要だ。主な武装は狙撃銃、対戦車ライフルだ」

 

そして次に映し出されたのは、銃剣を装着した突撃銃を持って、塹壕から飛び出して行こうとしている兵士だった。

 

「最後に『突撃兵』だ。コレは歩兵の主となる兵種だ。火砲を除いた他の兵種のあらゆる武器を使える為、幅広い戦術が展開出来るのが魅力だ」

 

映像が切り替わり、擲弾発射器で擲弾を敵兵の中へと撃ち込む突撃兵の姿が映し出される。

 

「が、当然の事だが、人間1人が持ち運べる武器の量は限られている。上手く立ち回らない事には器用貧乏になり易い。尚、拳銃、投擲武器、ナイフ、軍刀と言った近接戦闘用装備は、共通装備として全兵種が装備出来る」

 

そこで映写機が止まり、スクリーンが閉じると、カーテンが開いて特大教室内が明るくなる。

 

「以上が歩兵道に於ける兵種と主な役割だ。一応希望は取るが、どの兵種にするかは、本日の武器訓練の結果を見て、最終的に私が適性を見て決める」

 

嵐一郎がそう言うと、歩兵道受講者達は互いに顔を見合わせる。

 

「では、早速武器訓練に移る! 全員演習場まで駆け足ぃっ!!」

 

だが、続いて嵐一郎がそう言うと、一同は一斉に立ち上がり、我先にと演習場を目指したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、武器訓練が終わり………

 

其々の希望と、嵐一郎が適性を照らし合わせた結果………

 

偵察兵:大空 楓、銅 秀人、蛇野 大詔、葉隠 小太郎、蹄 磐渡、ジェームズ・モンロー、竹中 清十郎、小金井 逞巳。

 

対戦車兵:石上 地市、東郷 武志、狗魁 重音、炎苑 光照、江戸鮫 海音。

 

砲兵:本多 明夫、鶏越 鷺澪、塔ヶ崎 誠也。

 

工兵:神居 十河、水谷 灰史、柳沢 勇武。

 

狙撃兵:浅間 陣、宮藤 飛彗。

 

突撃兵:舩坂 弘樹、綿貫 了平、神大 迫信、栗林 熾龍、司馬 俊、黒岩 大河、疾河 竜真、桑原 正義、日暮 豹詑。

 

………と言う配置になった。

 

明日にはいよいよ戦車道側も教官が到着し、合同練習が開始される日も近づいて来ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




復帰の最初の新話投稿をさせていただきました。

今回は弘樹達とみほ達の交流と、歩兵道に置ける要素である兵種の説明をさせていただきました。

みほ達との交流は、原作での最初の御飯会に弘樹達を加えた感じです。
まあ、この作品はラブコメでもありますので、所謂フラグ要素的なイベントだと思って下さい(爆)

そして、兵種についてですが………
歩兵道での歩兵は、使う武器によって役割が分かれているって設定です。
某シミレーションRPGや某FPSなんかを参考に考えました。
一見すると突撃兵が万能に思えますが、作中の教官の言葉通り、上手く立ち回らないと器用貧乏に成り易い兵種でもあります。

それで、お知らせなんですが………
復帰早々で申し訳ないのですが、リアルの事情でまた暫く更新が出来なくなります。
パソコンに全く触れない状態になるので、感想の返信も行えなくなるかもしれません。
具体的には、8月22日から9月11日まで間です。

復帰早々の休止宣言で誠に申し訳ないのですが、コレまでで大分休んでしまっていたので、『この作品は続けますよ』と言うのと、『完結まで書き上げます』という決意表明をする意味でも、今回の話を更新させていただきました。
読書の皆様には度々ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第6話『戦車、乗ります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第6話『戦車、乗ります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校で歩兵の兵種の講義と訓練が終わった翌日………

 

遂に、女子学園側の戦車の整備が完了。

 

戦車道の教官も訪れる事となっており、いよいよ歩兵道との合同練習が開始されようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

戦車道受講者の女子達と、特殊制服・戦闘服姿の歩兵道受講男子達が集まり、先に来ていた嵐一郎と共に、戦車道側の教官の到着を待っている。

 

大洗男子校は基本、戦闘服のデザインは大日本帝国陸軍の物が学校側から支給されているが、生徒の自由で好きな国の戦闘服を選べる様になっており、男子側の恰好は非常にバラエティ豊かな物となっている。

 

「みぽりん、如何したんだろう?」

 

と、教官を待つ一同の中に、みほの姿が無いのを見た沙織がそう呟く。

 

「もうすぐ授業開始ですが………」

 

華も、校舎の時計が間も無くチャイムを鳴らす時間になろうとしているのを見てそう言う。

 

「ま、まさか!? 登校途中で何かあったんじゃ!?」

 

優花里がそんな事を想像してしまい、やや狼狽した様子を見せる。

 

「何だ? メンバーが足りんのか?」

 

すると、その会話を聞いていた嵐一郎が、沙織達の会話に割って入って来た。

 

「は、ハイッ!!」

 

先日の歩兵道側の厳しい訓練の様子を思い出し、沙織は思わず上擦った声で返事を返してしまう。

 

「ふむ………舩坂!! 来いっ!!」

 

「ハッ!!」

 

すると嵐一郎は、弘樹を呼び出す。

 

ヤケに使い込まれた感じのする大日本帝国陸軍の戦闘服姿の弘樹が、嵐一郎の元へやって来ると、目の前で気を付けの姿勢となる。

 

「舩坂、参りました!」

 

「至急足りていないメンバーを連れて来い! 始業に間に合わなかった場合は分かっているだろうな?」

 

「了解っ!!」

 

嵐一郎にそう命令されると、弘樹は回れ右をして、みほを探しに行くのだった。

 

「怖わぁ~………」

 

「凄い迫力です………」

 

「うんうん! やっぱり教官はこうでないと………」

 

嵐一郎の迫力に本気でビビっている沙織と その迫力に感心している華。

 

そして、何故か納得した様に頷いている優花里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、みほの捜索に向かった弘樹は………

 

大洗女子学園から、みほが住んでいる寮が在る場所までの道を逆走し、みほの姿を探している。

 

「………ん? アレは?」

 

すると前方に、グッタリとしている黒髪の少女に肩を貸して歩いているみほの姿を発見する。

 

「西住くん!」

 

「あ、舩坂くん! 如何したの?」

 

「最豪教官に言われて君を探しに来た。彼女は?」

 

軽く驚いた様子を見せるみほにそう言いながら、弘樹はみほが肩を貸している少女について尋ねる。

 

「えっと………『冷泉 麻子』さんって言うらしいんだけど………」

 

「………辛い………朝は辛い………」

 

みほが戸惑いながらそう言うと、肩を貸されている少女………『冷泉 麻子』が、心底辛そうな呟きを漏らす。

 

「重度の低血圧だな………」

 

そんな麻子の姿を見て、そう推測する弘樹。

 

「如何しよう? 置いて行くワケにも行かないし………」

 

みほが困った様にそう呟くと………

 

「…………」

 

弘樹は、無言のまま麻子の前にしゃがみ込んで背を向けた。

 

「ふえっ?」

 

「んあ?………」

 

「さ、乗ってくれ」

 

みほと麻子が戸惑っていると、弘樹はそう言って来る。

 

「…………」

 

麻子は一瞬考え込む様な様子を見せたが、すぐに力尽きた様に弘樹の背に負ぶさった。

 

「よっ、と」

 

そのまま麻子をおんぶする弘樹。

 

「西住くん。少し走るが、問題は有るか」

 

麻子を背負ったまま、弘樹はみほにそう尋ねる。

 

「えっ? う、ううん、大丈夫だけど………」

 

「良し! では行くぞ!」

 

みほが戸惑いながらそう返すと、弘樹は麻子を背負ったまま大洗女子学園を目指して走り出す!!

 

「うわっ!? は、速い! ま、待って~っ!!」

 

小柄の少女とは言え、人1人を背負ったままかなり速いスピードで駆け出した弘樹に驚きながら、慌ててその後を追うみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・正門前………

 

「遅刻ギリギリよ、冷泉さん。今日も遅刻してたら、連続245日の遅刻だったわよ」

 

「………如何やったらそんなに遅刻出来るんだ?」

 

如何にかギリギリのところで間に合った弘樹が、校門前に立っていた風紀委員と書かれた腕章をした少々主張が強い様に思えるおかっぱ髪をした少女………『園 みどり子』の言葉を聞いて、思わずそう呟く。

 

「朝は何故来るのだろう?………」

 

「朝は必ず来る物なの。成績が良いからって、こんなに遅刻ばかりして………留年しても知らないから」

 

「う~ん………」

 

「さ、降ろすぞ」

 

そこで弘樹は、背負っていた麻子を降ろす。

 

「おおう………」

 

「おおっと!」

 

「しっかり!」

 

しかし、降ろされた途端にフラつき、弘樹とみほは慌てて支える。

 

「えっと、西住さんと男子校歩兵道受講者の舩坂さんですよね」

 

「あ、ハイ」

 

「肯定です」

 

「西住さんはもし今度から途中で冷泉さんを見つけても、今度から先に登校する様に。舩坂さんも手助けをしないで下さい」

 

「あ、ハイ………」

 

「善処致します」

 

みどり子に言葉に、みほと弘樹はそう返事を返す。

 

「………そど子」

 

すると、麻子が恨みがましくぼそりと呟く。

 

「何か言った?」

 

「………別に」

 

目敏く聞き付けたみどり子がそう問い質すが、麻子はシラを切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・校舎への通路………

 

「………悪かった」

 

相変わらずみほと弘樹に肩を貸されて歩いている麻子が、不意にボソリとそう呟く。

 

「あ、いえ………」

 

「コレも任務の内だ」

 

気にしないでいうみほと、まるで軍人の様な返事を返す弘樹。

 

「何時か借りは返す………」

 

そんな事を言う麻子を、無事教室まで送り届けると、みほと弘樹は戦車格納庫前へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車格納庫前………

 

「遅いから心配しましたよ」

 

「寝過ごしちゃって」

 

やっと現れたみほに、華が心配していた様子でそう言うと、みほは麻子の事を伏せて、頭を掻きながらそう答える。

 

「遅刻ギリギリか………まあ、まだ戦車道の教官も到着していない事だ。今回は大目に見てやる」

 

「ハッ! 感謝致します!」

 

「列へ戻れ!」

 

「ハッ!」

 

一方弘樹の方は、嵐一郎とそう会話を交わすと、歩兵道メンバーの中へと戻る。

 

「お前も良く従えんな、あの教官に………」

 

戻って来た弘樹に、了平がそんな言葉を投げ掛ける。

 

「教官の言葉は絶対だ」

 

「さっすが、日本軍の兵士の子孫だな」

 

当然の様にそう返す弘樹に、地市は呆れた様に笑いながらそう言うのだった。

 

「それにしても教官遅~い。焦らすなんて大人のテクニックだよね~」

 

とそこで、戦車道メンバーの中に居た沙織の、そんな言葉が聞こえて来る。

 

「アイツめ………また大雑把な事をしおって………」

 

すると、嵐一郎がそう呟いた。

 

(? 最豪教官は戦車道の教官殿とは面識が?)

 

それを聞いた弘樹がそう思っていると………

 

空からジェットエンジンの甲高い音が聞こえて来た。

 

「ん?」

 

「敵襲か!?」

 

「飛行機?」

 

「何か近づいて来てないか?」

 

了平、カエサル、楓、地市がそう声を挙げる。

 

その次の瞬間には、巨大な航空機がかなり低い高度で、大洗女子学園の上空へ侵入して来た。

 

「航空自衛隊のC-2改輸送機か………」

 

弘樹がそう呟くと、その航空機………C-2改は更に高度を落とし、後部のハッチを解放する。

 

すると、解放されたハッチから、『何か』が射出される。

 

射出された『何か』は、低高度パラシュート抽出システム・通称LAPESでパラシュートを開き、学園の駐車場へと減速しながら着地。

 

それは、陸上自衛隊の最新鋭の主力戦車・『10式戦車』であった。

 

火花を散らしながら駐車場を滑って行った10式戦車は、やがて真っ赤なフェラーリF40を跳ね飛ばして停止する。

 

「学園長の車が!?」

 

「あ~、やっちったね~」

 

柚子が思わず声を挙げ、杏が他人事の様に干し芋を齧りながらそう言う。

 

「って言うか、あのフェラーリ、此処の学園長のなのか?」

 

「贅沢してんなぁ~」

 

一方で、了平と地市が跳ね飛ばされたフェラーリを見てそう言い合う。

 

と、停止した10式戦車が、LAPESから降りる為にバックしたかと思うと、駄目押しとばかりにそのフェラーリを履帯で踏み潰した。

 

「うわ~、無残………」

 

「学園長さんも可愛そうに………」

 

了平が呆れ、楓が顔も知らない女子学園の学園長に同情していると、10式が方向転換し、駐車場越しにみほ達と弘樹達の前へとやって来る。

 

そして、キューポラのハッチが開いたかと思うと、制服姿でヘルメットを被った人物が姿を現す。

 

「こんにちはー!」

 

その人物が、ヘルメットを取り、ショートの黒髪を露わにしたかと思うと、唖然としている一同に向かってそう挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて一同が落ち着きを取り戻し、男子、女子ごとに整列したかと思うと、先程の自衛官の女性が前に立つ。

 

「騙された~………」

 

「でも、素敵そうな方ですよね」

 

イケメンの教官が来ると勘違いしていた沙織が落胆した様子を見せ、華がそうフォローを入れる。

 

「自衛官のお姉さん………ああ、何かイケナイ感じが………」

 

「お前、1回医者行け。頭の」

 

戦車道教官の姿を見て鼻の下を伸ばしている了平に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「特別講師の戦車教導隊、『蝶野 亜美』一尉だ」

 

「宜しくね」

 

桃に紹介された女性自衛官………『蝶野 亜美』が、皆に向かってそう言う。

 

「戦車道は初めての方が多いと聞いてますが、一緒に頑張りましょう!」

 

そう言って主に女子の方のメンバーを確認する様に見回す亜美。

 

「アレ? 西住師範のお嬢様ではありません?」

 

すると、亜美の目がみほで止まり、そう話し掛ける。

 

「あ………」

 

「師範にはお世話になってるんです。お姉様もお元気?」

 

「ああ………ハイ………」

 

亜美の言葉に、みほは若干沈みながら返事を返す。

 

「西住師範って?」

 

「有名なの?」

 

と、亜美の言葉を聞いた他のメンバーがざわめき出す。

 

「西住流ってのはね、戦車道の流派の中でも、最も由緒ある流派なの」

 

「…………」

 

そんなメンバーに亜美はそう説明するが、それを聞くみほの顔は辛そうだった。

 

「あ、あの!………」

 

「オイ、亜美。お前は世間話をする為に此処に来たのか?」

 

それを見た沙織が話題を変えようとしたが、その言葉は嵐一郎によって遮られる。

 

「アレ? 嵐一郎じゃない。如何してこんな所に?」

 

嵐一郎の姿を見た亜美が、軽く驚いた様にそう言う。

 

「如何しても何も、俺は大洗男子校の方で歩兵道の授業を受け持っているんだ」

 

「アラ、そうだったの? じゃあ、此処の歩兵部隊は嵐一郎の愛弟子達って事なのね」

 

そう言いながら、男子の方を見やる亜美。

 

「アラ? あの子………」

 

するとその目が、弘樹で止まる。

 

「あの顔………何処かで見た様な気が………」

 

「当たり前だ。奴は舩坂 弘の子孫だ」

 

「えっ!? 本当!? うわぁっ、凄い!! あの英霊に子孫が居たなんて!!」

 

亜美はまるで芸能人に出会ったかの様なリアクションを見せる。

 

「成程ね。嵐一郎がこの学園艦の歩兵道の教官を引き受けたワケね。何たって………」

 

「オイ、それよりも早く授業を始めたら如何だ?」

 

更に何かを言おうとした亜美だが、嵐一郎自身がその言葉を遮る。

 

「あっと、そうね………それじゃあ、本格戦闘の練習試合、早速やってみましょう」

 

「「「「「「「「「「えええっ!?」」」」」」」」」」

 

イキナリ練習試合をすると言う亜美の言葉に、男子側も女子側も驚愕し、戸惑いの声が挙がる。

 

「あの、イキナリですか?」

 

「大丈夫よ、何事も実践実践。戦車なんてバッーって動かしてダッーと操作してドーンと撃てばいいんだから!」

 

柚子がそう問うと、亜美は矢鱈と擬音が混じった回答を返す。

 

「最豪教官殿………失礼ですが、あのお方は本当に戦車教導隊の方で?」

 

流石の弘樹も、そんな亜美の姿を見て、嵐一郎にそう質問をぶつける。

 

「言うな………ったく、アイツは………」

 

嵐一郎は頭を抱えて、亜美に向かって呆れる様な様子を見せた。

 

(………最豪教官殿も苦労されているのだな)

 

そんな嵐一郎の姿を見て、弘樹は心の中で同情する。

 

「それじゃ、歩兵道の皆は随伴する戦車チームを決めて分隊を編成して分隊長を決めて、戦車チームと一緒に其々のスタート地点に向かってね」

 

亜美はそんな事など露知らず、地図を広げて生徒達にそう指示を出すのだった。

 

「随伴するチーム決めて分隊を編成と言われても………」

 

「心配は要らん。分隊の編成は考えておいた。今から言うメンバーは其々に集合して分隊を編成しろ!!」

 

逞巳が戸惑いの声を挙げると、嵐一郎がそう言う。

 

そして、編成された分隊は………

 

 

 

 

 

生徒会メンバー+蛍の乗る38tのEチームに………

 

神大 迫信、栗林 熾龍、神居 十河、小金井 逞巳、銅 秀人、司馬 俊、日暮 豹詑を中心とし………

 

迫信が分隊長を務めるε分隊。

 

 

 

 

 

1年生達の乗るM3のDチームに………

 

柳沢 勇武、炎苑 光照、塔ヶ崎 誠也、疾河 竜真、ジェームズ・モンロー、竹中 清十郎、桑原 正義を中心とし………

 

勇武が分隊長を務めるδ分隊。

 

 

 

 

 

個性豊かな歴女チームの乗るⅢ突のCチームに………

 

蹄 磐渡、水谷 灰史、鶏越 鷺澪、狗魁 重音、江戸鮫 海音を中心とし………

 

磐渡が分隊長を務めるγ分隊。

 

 

 

 

 

バレー部メンバーの乗る八九式のBチームに………

 

黒岩 大河、本多 明夫、蛇野 大詔、葉隠 小太郎、東郷 武志、浅間 陣を中心とし………

 

大河が分隊長を務めるβ分隊。

 

 

 

 

 

そして、みほ達が乗るⅣ号戦車のAチームに………

 

舩坂 弘樹、石上 地市、大空 楓、綿貫 了平、宮藤 飛彗を中心とし………

 

弘樹が分隊長を務めるα分隊。

 

 

 

 

 

………と言う編成となった。

 

「オイオイ、大丈夫なのか?」

 

「イキナリ練習試合だなんて………先行き不安な事になっちまったじゃねえか………」

 

「大丈夫なんですか? 舩坂さん」

 

了平と地市がいきなりの練習試合に不安を感じ、楓が心配そうに弘樹に尋ねる。

 

「最豪教官の御判断だ。小官はそれに従うだけだ」

 

しかし、弘樹はさも当然の様子でそう返す。

 

「全く………相変わらず不器用な野郎だぜ」

 

地市が、呆れた様子で呟く。

 

「よおし! 分隊ごとに分かれたな! では武器を選べ!! 自分の相棒となり、試合の勝ち負けを決める要素ともなり得る物だ!! 昨日説明した兵種の事も踏まえて、良く考えて携帯する様に!!」

 

とそこで、嵐一郎がそう声を挙げたかと思うと、戦車格納庫前に数台の九四式六輪自動貨車と、同じく野戦砲を引く数台の九八式四屯牽引車『シケ』など、多数の非装甲車両が入って来る。

 

九四式六輪自動貨車達は、歩兵部隊の前に荷台を向けた状態で次々に停車すると、その内の1台の運転席から敏郎が降りて、迫信の前に立つ。

 

「会長。出来る限りの武器と車両を用意しました」

 

「御苦労、真田くん」

 

敏郎が迫信にそう報告すると、迫信は持っていた扇子をパチンと閉じる。

 

「さあさあ! 寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 良い物ばかりとは言えないが、十分な数を用意して来ましたよ~!!」

 

少々ハイテンション気味な藤兵衛が、1台の九四式六輪自動貨車の荷台の幌を捲ると、荷台には様々な小銃が積まれていた。

 

それに呼応する様に、他の整備部のメンバーが次々に九四式六輪自動貨車の荷台の幌を捲ると、散弾銃、機関銃、対戦車ロケット弾、狙撃銃、対戦車ライフルなど、武器が種類ごとに分かれて多数積まれているのが露わになる。

 

「おお~っ!」

 

「スゲェな、オイ!」

 

豹詑と海音が、その光景を見て、思わずそんな声を漏らす。

 

「何をボケェッとしている! さっさと武器を選ばんか!!」

 

とそこで、嵐一郎の尻を叩く声がして、一同は慌てて其々に兵種担当の武器を手に取って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして10数分後………

 

武器を選び終えた歩兵部隊は、其々の分隊ごとに分かれ、随伴する戦車チームの出発を待っている。

 

「いよいよ試合が始まるな………」

 

「ヤ、ヤバイ………緊張と恐怖で震えて来た」

 

「震え過ぎですよ、了平」

 

試製四式七糎噴進砲を持った地市がそう呟くと、ビッカーズ・ベルチェー軽機関銃Mk.1を持った了平が全身でガタガタ震え、ウィンチェスターM1887を持つ楓がツッコミを入れる様にそう言う。

 

「良し………整備はバッチリみたいですね」

 

自分が選んだモシン・ナガンM1891/30の状態をチェックしている飛彗。

 

「…………」

 

そして、無言で三八式歩兵銃を持ち、みほ達が乗るⅣ号戦車が現れるのを待っている弘樹。

 

「ヒヤッホォォォウッ! 最高だぜぇぇぇぇっ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

すると、戦車格納庫の中から優花里と思われる歓声が聞こえて来て、地市、了平、楓、飛彗の4人が思わずビクリとする。

 

「い、今の………優花里ちゃんの声だよな?」

 

「あ、ああ………そうだと思うが………」

 

「彼女………あんな人でしたっけ?」

 

「所謂、ハイになってるってやつでしょうか?」

 

困惑した様子を隠せないでいる了平、地市、楓、飛彗。

 

「…………」

 

だが、弘樹だけは相変わらず無言で仁王立ちしている。

 

それから少しして………

 

遂にみほ達が乗るⅣ号戦車が、戦車格納庫から発進して来た。

 

「おっ! 来た来た!!」

 

「おお~っ! やっぱ動いてるとこ見るとカッコイイなぁ~」

 

走って来るⅣ号を見ながら、了平と地市がそう言う。

 

しかし………

 

「………アレ? 何だか………」

 

「コッチに向かって………思いっきり突っ込んで来てません?」

 

そこで楓と飛彗が違和感を感じ、そう呟く。

 

「「へっ?」」

 

その言葉で、了平と地市がⅣ号の事を良く確認すると………

 

確かにⅣ号は、かなり速い速度で弘樹達のα分隊の方へと向かって来ている。

 

「オ、オイ! まさか!?」

 

「逃げろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

了平がほぼ絶叫する様に叫んだ瞬間、α分隊のメンバーは蜘蛛の子を散らす様に逃げ始める。

 

「…………」

 

そんな中、只1人弘樹だけが、その場で仁王立ちを続けている。

 

「!? 弘樹!? 何やってんだっ!?」

 

「轢き殺されるぞ!?」

 

「舩坂さん! 逃げて!!」

 

「…………」

 

地市、了平、楓が慌てて叫ぶが、やはり弘樹は動かない。

 

その弘樹目掛けて、Ⅳ号戦車がドンドン迫る!

 

「弘樹いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

と、地市の叫びが木霊した瞬間!!

 

Ⅳ号がブレーキを掛け、減速を始めた!!

 

履帯から土片と土煙を撒き散らすⅣ号。

 

そして、弘樹に衝突する寸前で停止する!

 

「舩坂くん!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「怪我してない!?」

 

するとそこで、Ⅳ号砲塔のハッチが全て開き、装填手席からみほ、砲手席から優花里、車長席から沙織が上半身を出して来る。

 

「ああ………」

 

「すみません。戦車の操縦って難しくて………」

 

弘樹が短く返事を返すと、今度は車体の操縦者席のハッチが開き、華が頭を出して来る。

 

「初めてなんだ。そんなものだろう」

 

平然としながらそう会話を交わす弘樹だが、Ⅳ号との距離は実に僅か10cm足らず。

 

後少しブレーキが掛かるのが遅ければ、確実に引き潰されていただろう。

 

「あ、あの………如何して逃げなかったの?」

 

と、みほもその事について問い質す。

 

「………停まると思っていた………それだけだ」

 

弘樹はそう言うと、スタート地点に向かう為に、くろがね四起の方へと向かう。

 

「カッコイイ………」

 

「正に英霊の子孫の風格です………」

 

「日本男児って、ああいう人の事を言うんでしょうね」

 

「…………」

 

沙織、優花里、華は弘樹の背を見ながらそんな事を呟き、みほも頬を染めて弘樹の背を見詰めていた。

 

「スッゲェな、アイツ………」

 

「ったく………相変わらず肝の座った奴だぜ」

 

「それが舩坂さんの舩坂さんたる所以ですよ」

 

「凄い度胸ですね」

 

了平、地市、楓、飛彗もそんな事を言いながら、弘樹と同じくろがね四起に乗り込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなありながら更に10数分後………

 

各戦車チームと随伴歩兵分隊は、演習場の其々のスタート地点へと辿り着く。

 

「皆、スタート地点に着いた様ね。ルールは簡単。全ての戦車を動けなくするだけ。つまり、ガンガン前進して、バンバン撃ってやっつければ良い訳」

 

「そして歩兵は、攻撃してくる敵の戦車、或いは歩兵から自分が随伴している戦車を守り抜け。歩兵は幾らやられても負けにはならんが、戦車がやられればそれまでだ。つまり、歩兵とは戦車を守る盾!! その役割を全うせよ!!」

 

そこで、亜美と嵐一郎から全戦車チームと随伴歩兵分隊のそう通信を送る。

 

「戦車道、歩兵道は礼に始まって、礼に終わるの」

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」」」」」

 

と続けて、亜美と嵐一郎がそう言うと、戦車チームのメンバーと、歩兵部隊は礼をしながら挨拶をする。

 

「それでは! 試合開始!!」

 

そして、亜美の合図で、練習試合が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Aチーム&α分隊のスタート地点………

 

「始まったか………」

 

「それで、如何すんだ?」

 

「スタートしたのなら、動いた方が良いのでは?」

 

Ⅳ号の周辺に展開しているα分隊の中で、地市、了平、楓がそう言う。

 

「いや、今回は自分達以外は全て敵なんだ。無策で動き回るのは得策じゃない」

 

と、弘樹がそう言ったかと思うと、Ⅳ号の車体の上に昇り、砲塔をノックした。

 

「あ、ハイ」

 

「何?」

 

すると、装填手のみほと、車長の沙織が顔を出す。

 

「武部車長。作戦を検討したいのですが、宜しいですか?」

 

弘樹は、ウェストバッグから地図を取り出し、沙織にそう尋ねる。

 

「え? 作戦って?」

 

「この分隊の分隊長は私が務めさせていただいておりますが、最上位の指揮権は戦車の車長に在ります。ですので、武部車長に部隊を如何動かし、展開させるのかを判断して頂きませんと………」

 

敬語を使い、首を傾げる沙織にそう説明する弘樹。

 

「そ、そうなの? って言うか、何でそんな畏まった口調なの?」

 

「試合中は戦車チームの皆さんが上官です。上官に対し敬語を使うのは当然であります」

 

戸惑う沙織に、弘樹はそう説明を進める。

 

「そ、そうなんだ………でも、作戦って言われても………」

 

「えっと、弘樹くん。ちょっと地図を見せてもらっても良い?」

 

「どうぞ、西住装填手」

 

何をして良いか分からないでいる沙織を見かねた様に、みほがそう言うと、弘樹は地図をみほと沙織の両名に見える位置に置く。

 

「私達が居る位置からだと………近いのは八九式のBチームとβ分隊か、Ⅲ突のCチームとγ分隊………」

 

「小官と致しましては、Ⅲ突を最初に叩くのが宜しいかと進言致します。最も火力が高く、車高の低い自走砲故に待ち伏せをされては厄介です」

 

「確かに………」

 

地図に記されている各戦車チームと随伴分隊のマークを見ながら、弘樹とみほがそう言い合う。

 

「流石、元戦車道の経験者と現役歩兵道求道者だな」

 

「頼りになりますね」

 

地市と楓がそんな2人の姿を見てそう言い合う。

 

「ねえ、真っ先に生徒会潰さない? 教官、女の人だったんだもん」

 

すると、弘樹とみほの話を無視するかの様に、沙織がそう言って来た。

 

「えっ?」

 

「Eチームとε分隊をですか?」

 

何の戦術・戦略的判断も無い、個人的な感情による判断に、みほと弘樹は戸惑いの声を挙げる。

 

「まだ言ってるんですか?」

 

「私が決めて良いんでしょう? 戦車の車長なんだから」

 

運転席に居る華からも呆れた声が挙げられるが、沙織は半ば強引にそう決めようとする。

 

「う、うん………」

 

「車長決定ですか………了解しました」

 

その言葉でみほは引き下がり、弘樹も了解してヤマト式敬礼をする。

 

「オイ、良いのかよ? そんなんで?」

 

「上官の決定は絶対だ。武部車長がEチームとε分隊を叩けと仰るなら、それに従うまでだ」

 

了平がそう言うが、弘樹はⅣ号の上に乗ったままそう返す。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

飛彗が心配そうにそう呟き、他の分隊員達も多かれ少なかれ、不安げな様子を見せている。

 

「じゃあ! 生徒会チームの居る方へ前進!………で~、どっち?」

 

自分で命令を出しておいて、そう尋ねる沙織。

 

「Eチームとε分隊ですと、此処から………!?」

 

沙織に地図を見せながら、弘樹がEチームとε分隊の位置を教えようとしたところ、不意に何かに気付いた様に、背後の林の中を振り返る。

 

「? どしたの?」

 

「静かに!」

 

首を傾げる沙織をそう言って制し、弘樹はⅣ号の上に乗ったまま背後の林を見据える。

 

すると………

 

茂みが微かに動いて、ガサガサと言う音を立てた。

 

「!!」

 

それを聞いた瞬間!!

 

弘樹は腰のベルトに下げていた九七式手榴弾を手に取り、安全ピンを外したかと思うと、茂みの中に投げつける!!

 

九七式手榴弾が、音を立てた茂みの中へと吸い込まれたかと思うと爆発する!!

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

すると、爆風で吹き飛んで露わになった茂みの中から、3人の偵察兵が現れて倒れる。

 

そして、遭難防止の為に携帯が義務付けられているビーコンから、戦死判定を喰らった事を告げるブザーが鳴る。

 

「!? うわっ!?」

 

「何だっ!?」

 

「アレは………β分隊の偵察兵の方!?」

 

地市、了平、楓が驚きの声を挙げる中、林の更に奥の方を見据える弘樹。

 

そしてそこに、コチラへ砲口を向けている戦車………八九式と、其々に武器を構えているβ分隊員達の姿が在った!!

 

「! 敵襲っ! Bチームとβ分隊の奇襲だっ!!」

 

弘樹がそう叫んだ瞬間!!

 

八九式の戦車砲が火を噴くっ!!

 

「!? 伏せろっ!!」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

弘樹の言葉で、α分隊員達は一斉に伏せ、Aチームの面々は車内へと引っ込む。

 

八九式の砲弾は、兵員輸送用として使用していた九四式六輪自動貨車に命中!

 

九四式六輪自動貨車の車体に大穴が空いたかと思うと、爆発・炎上する!!

 

「!? うおおおぉぉぉぉ~~~~~っ!? 怖えええええっ!?」

 

その光景を伏せながら見ていた了平が絶叫を挙げる。

 

「凄い音………」

 

「今………空気振るえたよ」

 

「こんなスパイク、打ってみたい」

 

一方、八九式の車内ではバレー部チームの操縦手の忍、通信手の妙子、砲手のあけびが、自分達の戦車の砲撃の音と振動に驚きを露わにしていた。

 

「先ずはⅣ号・Aチームとα分隊を叩く!」

 

そして、キャプテンの車長兼装填手の典子が、そう言いながら次弾を装填する。

 

「弘樹ぃ! 悪いなぁ!! 歩兵道経験者のお前さんは厄介や!! 最初に潰させて貰うでぇ!!」

 

更に、ドラムマガジンのMG34機関銃を持ったβ分隊・分隊長の大河もそう言い放ち、銃弾を乱射して来る!!

 

「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「くたばれえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」

 

それを皮切りに、まるで人が変わった様に過激な台詞を吐き、殺気立った顔した武志がM18 57mm無反動砲を放つと、同様の物を装備していたラクビー部員達も一斉に放ち始める。

 

「キャ、キャプテン………キャプテンの幼馴染の人………性格変わってません?」

 

と、砲塔側面の覗き窓を開けて、その光景を目撃したあけびが、典子にそう言う。

 

「ああ、武志の奴、実はハイになり易い性分なんだ。試合とかの時はいつもあんな感じだよ」

 

「そ、そうなんですか?………」

 

「大丈夫。終わったらいつもの武志に戻るから」

 

冷や汗を浮かべているあけびに、典子は笑顔でそう言うのだった。

 

「がはははっ! 勇ましいなぁ、ラクビー部! よおし! 我も負けんぞ!!」

 

そう言いながら、九一式十糎榴弾砲に次々に榴弾を装填し、発射している明夫。

 

「…………」

 

その傍では、陣が無言でラハティL-39対戦車銃の狙いを定めている。

 

Ⅳ号とα分隊の周りで、次々に爆発によって土片が舞い上がる。

 

「うわぁーっ!?」

 

「助けてくれーっ!?」

 

思ってもいなかった奇襲攻撃の前に、α分隊の歩兵達は浮き足立つ。

 

「慌てるな! 応戦しろっ!!」

 

まだⅣ号の上に乗ったままだった弘樹が、三八式歩兵銃をコッキングして、突撃して来るβ分隊の歩兵部隊に狙いを定めようとする。

 

しかし………

 

「恐ーいっ! 逃げようっ!!」

 

沙織がそう叫んだかと思うと、弘樹を乗せたままⅣ号が発進する。

 

「!? 何っ!?」

 

驚きながらも、すぐにⅣ号の車体にしがみ付き、振り落とされるのを防ぐ弘樹。

 

と、Ⅳ号が発進した直後、先程まで停車していた位置に、89式の砲弾が撃ち込まれる。

 

「た、武部車長! どうか冷静に!!」

 

「だって恐いんだもーんっ!! 皆も逃げてーっ!!」

 

砲塔を攀じ登るとキューポラから車内を覗き込み、沙織に冷静にと呼び掛ける弘樹だったが、今まで経験した事の無い恐怖に襲われている沙織は、若干涙目でそう訴えかけて来る。

 

「クッ!………全員、撤退っ!!」

 

すると弘樹は、一瞬逡巡した様子を見せたが、すぐにα分隊の面々にそう指示を出した。

 

「撤退っ!? 逃げんのか!?」

 

地市が驚きの声を挙げる。

 

「車長の決定は絶対だ!! 全員この場から撤退しろっ!!」

 

徐々に離れて行くⅣ号の上で、弘樹はそう叫ぶ。

 

「大賛成!! ナイス判断だよ~、武部ちゃ~んっ!!」

 

終始ビビっていた了平が、いの一番に無事なくろがね四起に乗り込む。

 

「チイッ! しゃーねえか!!」

 

「一旦引きましょうっ!!」

 

「あ! 待って下さいっ!!」

 

更にそのくろがね四起に地市と楓、飛彗が乗り込むと発進。

 

他の無事だったくろがね四起と九四式六輪自動貨車、そしてシケも次々に撤退を始める。

 

「………目標は予想通り、東へ向かって逃走を開始」

 

「Cチーム、γ分隊、任せたぞ」

 

と、その逃げるAチームとα分隊の様子を、木の上から小太郎と大詔が観察しており、通信機に向かってそう話す。

 

[ヤヴォール!]

 

[分かったっ!!]

 

通信機からは、Cチーム・Ⅲ号突撃砲の車長であるエルヴィンと、γ分隊の分隊長である磐渡の声が返って来る。

 

「!? ああっ!?」

 

と、着弾の音が遠ざかって、少々冷静さを取り戻して来た沙織が、キューポラから少し顔を出し、前方を見やると………

 

Ⅳ号から見て左右に分かれている道の左の方から、歴女達のCチームとγ分隊が進軍して来ていた。

 

「得物を捉えた!」

 

「南無八幡大菩薩!」

 

装填手のカエサルと、操縦手のおりょうがⅣ号を視認してそう声を挙げる。

 

「悪く思うな、Aチーム、α分隊」

 

「俺達のモテ道の為に死んでくれぇっ!」

 

「勝負と行こうか、飛彗!!」

 

SIG KE7軽機関銃を持った磐渡と、60mmバズーカを肩に構え、更に予備の物を多数背負った重音、そしてPIATを担いでいる海音がそう言って得物を向ける。

 

「如何しましょう!?」

 

「挟まれたーっ! あっちに逃げようっ!!」

 

その光景を操縦席の窓から目撃していた華が声を挙げると、車内へと引っ込んだ沙織が、Ⅲ突が来ているのと逆側の道を指差してそう言う。

 

「えっ!? 何ですか!? 聞こえません!!」

 

しかし、Ⅳ号のエンジン音と振動音により、華の耳には沙織の指示が届かない。

 

「狙えっ!!」

 

「貰ったぁっ!!」

 

その間に、Ⅲ突砲手の左衛門佐がⅢ突の砲を、一団からやや後方で九〇式野砲に狙いを定めていた鷺澪もそう声を挙げる。

 

「わあぁ~~っ!? やられる~っ!!」

 

悲鳴の様な叫びを挙げ、沙織が両手で頭を押さえて車長席に蹲った瞬間!!

 

「っ!!」

 

タンクデサントしていた弘樹が、三八式歩兵銃に二式擲弾器を装着し、30mm榴弾をⅢ突とγ分隊に向けて放った!!

 

「「!? おうわっ!?」」

 

「!? 視界が!?」

 

30mm榴弾は、向かって来るⅢ突の1メートル手前の地面に着弾し、大きく土片を巻き上げ、磐渡達を怯ませると同時に、砲手の視界を防ぐ。

 

「五十鈴くん! 右斜め前だ!!」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

その隙を付き、弘樹はⅣ号の前方へと移動すると、操縦手用のハッチを開け、華に直接指示を出す。

 

Ⅳ号はⅢ突とγ分隊の鼻先を掠める様にして、右斜め前の道へと入って行く。

 

「待ってくれ~! 弘樹~っ!!」

 

その後を、了平の情けない声と共にα分隊の車両が走り抜ける。

 

「クソッ! 逃げられたで!!」

 

「大丈夫です。逃走予想進路上には既に地雷を設置してあります。このまま追えば袋のネズミですよ」

 

追撃していた大河がそう声を挙げるが、そこでγ分隊の灰史がそう言う。

 

「よ~し! まだまだ行くよっ!!」

 

「追撃戦だぁっ!!」

 

典子とエルヴィンがそう言い合い、八九式とⅢ突がⅣ号とα分隊を追って行く。

 

「俺達も行くぞぉっ!!」

 

「続かんかいっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

更に車両に乗り込んだβ分隊とγ分隊が続く。

 

逃げ回るⅣ号とα分隊目掛けて、八九式とⅢ突の砲弾、そしてβ分隊とγ分隊の銃弾が次々と飛んで来る。

 

「うおっ!?」

 

近くに砲弾が着弾し、舞い上がって土片が降って来て、弘樹が思わず声を挙げる。

 

「舩坂くん! 危ないから中に………」

 

装填手用のハッチが開き、みほが上半身を乗り出すと、弘樹にそう呼び掛けようとしたが………

 

「!? 前方に人が居るぞ!!」

 

「!? えっ!?」

 

そこで弘樹がそう声を挙げ、みほが釣られる様に前方を見やるとそこには………

 

切り株に頭を預け、開いた本を顔に乗せて寝ている大洗女子学園の制服を着た少女の姿が在った。

 

「危ないっ!!」

 

みほがそう叫ぶが、無情にもⅣ号戦車は、全速力で少女の元へと突っ込んで行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

どうも、またもやお久しぶりです。
再び帰って参りました。

遂に戦車道と歩兵道の合同練習となります。
原作での各チーム対抗の練習試合に、歩兵部隊を加えた形になります。

で、作中でもチラりと触れられていましたが、戦車道と合同で行う場合の歩兵道は、如何に戦車を守るかが勝敗要素となります。
例え歩兵が何人やられようと、随伴している戦車が無事ならば、その歩兵分隊は負けていない事になります。
逆に、歩兵が全員残っても、随伴する戦車が撃破されてしまえば負けです。
公式戦ルールのフラッグ戦の場合は、原作同様フラッグ車が撃破されてしまえば負けですが、フラッグ車以外の戦車が撃破され、随伴歩兵分隊が生き残っている場合、他の随伴歩兵分隊に合流し、戦闘を継続する事が可能です。
戦車に乗った女性を守る為に生まれた歩兵道ですので、歩兵は戦車を守る存在であるという事に焦点を置いているルールです。
また、コレならば、原作での勝利要素を変更しないで戦闘を描写出来るというリアルな事情もありまして(爆)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第7話『初めての戦車と歩兵です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第7話『初めての戦車と歩兵です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道の訓練は、初日から練習試合となり………

 

其々の戦車チームは、分隊を組んだ大洗男子校のメンバーを連れて、演習場へと向かった。

 

みほの乗るⅣ号・Aチームの随伴歩兵部隊であるα分隊の隊長となった弘樹だったが………

 

戦車道の家者であるみほと、歩兵道求道者である弘樹を警戒したBチームとβ分隊、Cチームとγ分隊に奇襲を掛けられる。

 

初めての試合で恐怖に慣れていなかったⅣ号の車長となっていた沙織は撤退を指示し、Ⅳ号とα分隊は逃げの一手となる。

 

そんな中………

 

成り行きでタンクデサントしてしまった弘樹が、みほと共に、Ⅳ号の行く手に寝転がる女子生徒を発見した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「危ないっ!!」

 

「そこの女子生徒!! 此処は演習場だ!! すぐに退去するんだ!!」

 

みほが寝転がっている女子生徒に向かって叫ぶと、弘樹もすぐに警告を送る。

 

「…………」

 

すると、寝転がっていた女子生徒は起き上がり、向かって来るⅣ号に向き直ったかと思うと………

 

「!!」

 

何と!!

 

衝突すると思われた直前で跳躍し、Ⅳ号の上に跳び乗ろうとして来た!!

 

「!?」

 

しかし、着地の瞬間に足を滑らせ、転びそうになる。

 

「危ないっ!!」

 

だが、すぐさま弘樹が支え、何とか戦車とのキスを回避する。

 

「むう………」

 

「怪我は無いか?」

 

「ああ! 今朝の………」

 

若干不満な声を漏らす少女の身を案じる弘樹と、その少女が今朝自分が弘樹と共に助けた少女・『冷泉 麻子』である事に気づくみほ。

 

「アレ? 麻子じゃん?」

 

するとそこで、キューポラのハッチが開いて、沙織が顔を出すと、麻子を見ながらそう呟いた。

 

「沙織か………」

 

麻子も、顔を出した沙織を見てそう呟く。

 

「あ、お友達?」

 

「うん、幼馴染。何やってんの、こんなとこで? 授業中だよ」

 

「しかも今は戦車道と歩兵道の合同練習中だ」

 

「知ってる」

 

沙織と弘樹の言葉に、麻子は平然とそう返す。

 

「ハア~………!? うわぁっ!?」

 

と、溜息を吐いた沙織の背後で、またも至近弾が着弾し、土片が舞い上がる。

 

「あの! 危ないから中に入って下さい!!」

 

「分かった………」

 

みほにそう言われ、麻子は沙織と共にⅣ号の車内へと引っ込む。

 

「舩坂くんも!!」

 

「小官の事は気にしないで下さい! 戦闘服を着て居れば直撃弾を受けたとしても死にはしません!」

 

「でも!!」

 

「歩兵は戦車の盾………その戦車に守られたとあっては歩兵の名折れです」

 

「! 分かった! 気を付けて!!」

 

「了解!!」

 

弘樹のその言葉を聞き、みほは車内へと引っ込む。

 

(さて………この状況………如何打開する?)

 

それを確認すると、弘樹は後方を振り返り、Ⅳ号に追従している味方の車両越しに、追撃して来るBチームとβ分隊、Cチームとγ分隊を見やりながら、渋い顔をする。

 

一方、車内へと避難したみほ達は………

 

「うう~~………酸素が少ない………」

 

「大丈夫ですか?」

 

イマイチ調子が悪そうな麻子に、優花里が心配する様にそう言う。

 

「麻子、低血圧で………」

 

と、そこで彼女の幼馴染である沙織がそう説明する。

 

「今朝も辛そうだったもんね」

 

みほも、今朝の出来事を思い出しながらそう言う。

 

「えっ? 麻子と会ったの?」

 

「うん」

 

「だから遅刻しそうになったんだ」

 

「えへへ………」

 

沙織が、みほが遅刻しそうになった事に納得が行った様な表情を見せた瞬間………

 

またも至近弾が着弾し、戦車内に振動と轟音が走る。

 

「キャッ!?」

 

「うわっ!?」

 

「もうやだ~! 如何すれば良いのよ~~っ!!」

 

素人である沙織には、状況を打開する手段が思い浮かばず、そう悲鳴を挙げるしかない。

 

「!! 停止して下さいっ!!」

 

するとそこで、タンクデサントしたままだった弘樹が、再び操縦席のハッチを開けて、華に向かってそう叫んだ!!

 

「!? ええっ!?」

 

華は驚きながらも反射的にブレーキを踏む。

 

「おうわっ!?」

 

「何だ何だ!?」

 

Ⅳ号が減速したのを見て、後続のα分隊の車両も、次々にブレーキを掛ける。

 

と、その時………

 

Ⅳ号が停止する直前に、履帯が地面からやや大きめの石を弾き出し、前方へ飛ばした。

 

その石が地面に落ちたかと思うと………

 

石が落ちた場所の地面が爆発し、火柱が上がる!!

 

「「!?」」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「今度は何ぃっ!?」

 

「地雷だ! 地雷が埋まっているぞ!!」

 

みほと優花里が驚き、華が悲鳴を挙げ、沙織がパニックを起こしかける中、弘樹がそう声を挙げる。

 

(逃走進路を読まれていたのか? 何れにしろ、思ったよりも巧みに動いてくれる………)

 

歩兵部隊も素人揃いとは言え、基礎スペックが高い連中が集まっており、対応の良さに弘樹は自分の心に敵を侮っていたところが在った事を反省する。

 

「オイ、如何すんだ弘樹!?」

 

「このままでは追い付かれますよ!!」

 

くろがね四起に乗っていた地市と楓がそう言って来る。

 

彼等の言葉通り、Bチームとβ分隊、Cチームとγ分隊はドンドン迫って来ている。

 

と、そこで、装填手用のハッチが開き、みほが顔を出す。

 

「! 右方向に向かって下さい!!」

 

「!? 何っ!?」

 

そう言われて、弘樹は右の方向を見やる。

 

そこには、谷川に掛けられた、吊り橋が在った。

 

「あの吊り橋を渡るのですか? 追撃されている中の渡河は危険過ぎます」

 

「でも、このままじゃ、やられるのを待つだけだよ」

 

そう言って弘樹の方を見やるみほ。

 

恐らく本人は自覚していないだろうが、その顔には黙ってやられる積りは無いと言う感情が現れている。

 

「………分かりました。全員、煙幕手榴弾と発煙筒を投擲しろ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほのその顔を見た弘樹は、α分隊の面々にそう指示を下し、分隊員全員が一斉に煙幕手榴弾と発煙筒を投擲する。

 

凄まじい量の煙が、辺りに立ち込め始める。

 

「うわぁっ!? 煙っ!?」

 

「クソッ! 前が見えんっ!!」

 

煙で視界が塞がれ、八九式とⅢ突が停止する。

 

「うわっ! コラ堪らんっ!!」

 

「えほっ!! ごほっ!!」

 

β分隊とγ分隊の歩兵達も、煙で咽せ返り、動きが止まる。

 

「良し、今の内だ!! 全員右方向へ!! あの吊り橋を使ってⅣ号を渡河させる!! 我々は橋の前に防御陣地を形成! Ⅳ号が橋を渡るまで防衛するんだ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

「華さん! 右手に見える吊り橋に向かって下さい!」

 

「わ、分かりました!」

 

弘樹がそう命令しながらⅣ号の上から飛び降りると、Ⅳ号は吊り橋の方へと向かう。

 

そして、吊り橋の前で一旦停止すると、その後ろにくろがね四起と九四式六輪自動貨車、シケを防壁代わりに停止させる。

 

「蛸壺を掘れ! 此処を何としても死守するんだ!!」

 

更に、工兵を中心に分隊員達が其々に蛸壺を掘る。

 

「良し!」

 

とそこで、停車していたⅣ号から、みほが飛び降り、吊り橋へと向かった。

 

「今出たら危ないですよ!!」

 

「みほ!」

 

「みほさん!」

 

車外に出たみほを案ずる様に、優花里、沙織、華がハッチを開けて顔を出す。

 

「大丈夫! 煙幕を張ってるし、歩兵の皆が守ってくれるから!!」

 

しかしみほはそう返し、Ⅳ号が渡れるか如何か、吊り橋の状態を調べに掛かる。

 

「………聞いたな、お前達。彼女の信頼を裏切ってはならんぞ!」

 

と、その台詞を聞いていた弘樹が、防御陣地を構築している分隊員達にそう呼び掛けた!

 

「おうよ!!」

 

「此処でポイント稼いで、一気にモテモテだ!!」

 

「頑張ります!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

地市、了平、楓からそう声が挙がり、α分隊員達の雄叫びが挙がる。

 

「皆さん! 煙幕が晴れます!!」

 

とそこで、飛彗がそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこでα分隊の一同は、一斉に得物を構える。

 

何とか掘った蛸壺に籠ったり、地面に伏せて、或いは防壁代わりの車両の影に隠れて、敵を待ち受ける。

 

やがて煙幕の煙が徐々に薄くなって行き………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

雄叫びを挙げて突撃して来るβ分隊とγ分隊の歩兵達。

 

その後ろから履帯を鳴らして進んで来る八九式とⅢ突。

 

更にその背後に陣取り、野戦砲や対戦車砲を設置しているβ分隊とγ分隊の砲兵達の姿が露わになる。

 

「撃ち方始めっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の号令で、α分隊の面々は其々の獲物をぶっ放し始めた!!

 

「ぐあっ!?」

 

「ギャアッ!?」

 

α分隊の弾幕の前に、突撃して来ていたβ分隊とγ分隊の歩兵達は次々に倒れて行き、戦死判定が下される。

 

「チイッ! 伏せい、伏せい!」

 

大河がそう叫ぶと、β分隊とγ分隊の歩兵達は突撃を止め、一斉にその場に伏せる。

 

そして、そのままα分隊に応戦しつつ、匍匐前進でゆっくりと前に進み始める。

 

「………スタンバーイ………スタンバーイ………」

 

地面に伏せて、モシン・ナガンM1891/30を構えて狙いを定めている飛彗。

 

やがて、1人の敵歩兵の頭が、ピープサイトに重なる。

 

「!!」

 

その瞬間に、飛彗は迷わず引き金を引いた!!

 

「!? ぐえっ!?」

 

頭に直撃を喰らった敵歩兵は、両足が真上に上がる様な倒れ方をして、そのまま戦死と判定される。

 

「…………」

 

飛彗は倒した敵歩兵には目もくれず、薬莢を排莢すると、新たな標的を探し始める。

 

「うわあぁっ! 来るな、来るな、来るなぁっ!!」

 

蛸壺に籠り、ベルチェー軽機関銃Mk.1の弾をばら撒く様に撃っている了平。

 

兎に角弾幕を張って、敵を近寄らせない積りらしい。

 

「あそこに妙に撃ちまくっている奴が居るぞ!」

 

「厄介だな………先に片付けろ!!」

 

しかし、その行動は返って敵の注意を引いてしまい、了平が居る場所に攻撃が集中し始める。

 

「うわあぁっ!? 何でだああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!? 何で俺ばっか狙われるのおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

了平は、半泣きになりながら更に弾を乱射する。

 

その攻撃に反応して、更なる敵の攻撃が浴びせられると言う、無限ループが発生していた………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

銃火を掻い潜って、突撃して来た敵歩兵に、蛸壺からバッと姿を現した楓が、ウィンチェスターM1887の散弾を浴びせる!

 

「ゴバッ!?」

 

至近距離から散弾を諸に浴びた敵歩兵は、バタリと倒れて戦死と判定される。

 

とそこで、突撃して来ていた敵歩兵部隊の後ろからやって来ていた八九式とⅢ突が前進して来る!

 

「! 舩坂さん! 敵戦車が前進して来ます!!」

 

「!!」

 

三八式歩兵銃で、敵歩兵を1人ヘッドショットで仕留めた弘樹が、楓の声で前進して来る八九式とⅢ突を見やる。

 

「よっしゃあっ! 此処は俺に任せろぉっ!!」

 

すると、1両のシケの影に隠れていた地市が、試製四式七糎噴進砲をⅢ突へと向ける。

 

「喰らえぇっ!!」

 

そう叫んで引き金を引くと、試製四式七糎噴進砲からロケット弾が発射される。

 

しかし………

 

発射されたロケット弾は、明後日の方向へ飛んで行き、地面に着弾して爆発した。

 

「アラ~?」

 

「何やってんだよ、地市ぃっ!!」

 

思わず珍妙な声を挙げる地市に、相変わらず敵の猛攻に晒されている了平が野次を飛ばす。

 

「い、いや! 俺ちゃんと狙って撃ったぞ!?」

 

「ロタ砲は命中率が低い! 射程100mで命中率は約6割だ!!」

 

地市が慌てていると、一旦蛸壺に籠り、リロードをしていた弘樹がそう言って来た。

 

「何ぃっ!? 何で言ってくれなかったんだよ!!」

 

「自分が使う武器の性能ぐらい把握しておけっ!!」

 

喚く地市にそう言い返し、リロードを終えた弘樹が、再び蛸壺から身を乗り出して発砲を開始する。

 

と、その時………

 

Ⅳ号が渡っている吊り橋から、固い物同士が擦れ合う様な音が聞こえて来たかと思うと、続いて切断音の様な物が響いて来る。

 

「!?」

 

「落ちる~っ!」

 

「嫌だ~っ!!」

 

弘樹が振り返ると、そこには吊り橋のワイヤーに接触してしまい、ワイヤーを切断してしまったⅣ号の姿が在った。

 

ワイヤーが一部切れた事により、吊り橋が不安定となり、Ⅳ号は転落しそうになっている。

 

「イカンッ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

と、弘樹がそう声を挙げた瞬間、Ⅲ突が砲撃!!

 

放たれた砲弾が、轟音と共にⅣ号の車体後部左側に突き刺さった!!

 

「!? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

沙織の悲鳴が挙がるが、幸いと言うべきか、Ⅳ号に撃破判定は下らず、更に衝撃で落下し掛けていたのがある程度持ち直す。

 

「!? Ⅳ号が!?」

 

「やられたのか!?」

 

「クッ!!」

 

地市と了平の声が挙がる中、弘樹は周囲を見回す。

 

「良し! また1人!!」

 

そして、正確な射撃で、敵兵を1人、また1人と確実に仕留めている飛彗の姿を目撃する。

 

「宮藤くん! 援護してくれっ!!」

 

「えっ!? ! りょ、了解!?」

 

弘樹はそう言い放つと、戸惑いながらも援護を開始した飛彗の支援を受けて、Ⅳ号の方へと向かった。

 

「大丈夫かっ!?」

 

飛彗の援護を受けながら、Ⅳ号の元へ走り寄る弘樹。

 

そこでⅣ号の状態を確認する。

 

(徹甲弾だったのが幸いしたか………致命的じゃない場所を貫通したと判定されて撃破判定が下らなかったか………)

 

「舩坂くん!」

 

「華が!!」

 

「操縦者失神! 行動不能!!」

 

Ⅳ号の車体後部左側に突き刺さっているⅢ突の砲弾を見ながら弘樹がそう思っていたところ、みほ、沙織、優花里がそう声を挙げる。

 

「!?」

 

それを聞いた弘樹がⅣ号の前へと回ると、操縦席のハッチから顔を出していた華が気絶している姿が目に入る。

 

「(さっきの砲撃で頭を打ったのか!)通信手席のハッチを開けてくれ! そこに移す!!」

 

「りょ、了解!!」

 

弘樹達は、気絶している華を一旦通信手席へと移す作業に掛かる。

 

「大丈夫なんですか!?」

 

援護を続けている飛彗がそう言った瞬間………

 

「オラァーッ!!」

 

MG34を連射しながら、大河が突っ込んで来た!!

 

「!? うわっ!?」

 

慌てて突っ込んで来る大河に、モシン・ナガンM1891/30を向けようとしたが………

 

「遅いわ、ボケェッ!!」

 

何と、飛彗の目の前まで迫った大河は、MG34を投げ捨て、飛彗のモシン・ナガンM1891/30の銃身を手で掴んで、明後日の方向へ向けた。

 

「ええっ!?」

 

「そうらっ!!」

 

そして、呆気取られる飛彗を殴り飛ばした!!

 

「うわあぁっ!?」

 

「ハハハハハッ!! やっぱり最後に物を言うのは拳や!!」

 

そう言い放つと、大河は再びMG34を拾い上げ、敵陣のど真ん中で四方八方に撃ちまくる!!

 

「ギャアッ!?」

 

「だああっ!?」

 

「ふ、伏せろっ! 伏せろっ!!」

 

突然の自陣中心からの機関銃射撃に、α分隊の面々は大混乱に陥る。

 

「撃てぇーっ!!」

 

更にそこで、追い討ちを掛ける様に、敵部隊の後方に控えていた砲兵隊の中に居た明夫がそう声を挙げると、迫撃砲や榴弾砲、対戦車砲の砲弾が次々にα分隊が居る場所へと叩き込まれる!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

直撃や破片を浴びたり、破壊された車両の爆発に巻き込まれたα分隊員達が、次々に戦死判定を受ける。

 

「クソォッ! 駄目だ!! 持ち堪えられねえっ!!」

 

地市の叫びが挙がった、その時………

 

落下し掛けていたⅣ号が後退し、態勢を立て直す。

 

「! Ⅳ号が!?」

 

「誰が操縦してんだ!?」

 

「頼んだぞ! 敵は我々が食い止める!!」

 

α分隊員の驚きの声が挙がる中、Ⅳ号の陰に居て見えなかった弘樹が姿を現し、再び吊り橋前の防衛線の中へと加わる。

 

「オイ、弘樹! 今Ⅳ号は誰が動かしてるんだ!?」

 

「冷泉 麻子くんだ!」

 

Ⅳ号を動かしている人物を問い質して来る地市に対し、弘樹は再び三八式歩兵銃に二式擲弾器を装着しながらそう答える。

 

「冷泉さんって………途中で拾ったあの子ですか?」

 

「戦車の運転出来たのか!?」

 

「教本を見てその場で覚えたらしい。大洗女子学園じゃ才女と言われているらしいが、驚くべきものだな!」

 

楓と了平にそう返し、二式擲弾器から30mm榴弾を、山形の軌道を描く様に発射する弘樹。

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

後方の砲兵隊の中へと着弾した30mm榴弾が、九一式十糎榴弾砲を破壊し、その砲に付いていた砲兵達にも破片を浴びせて戦死判定を下させる。

 

「チイッ! やっぱりお前さんが厄介やな! 潰させて貰うで! 弘樹っ!!」

 

それを見た大河が、MG34を弘樹へと向けるが………

 

「そうは………させませんよ」

 

そこで、大河に殴り飛ばされていた飛彗が起き上がりながらそう言って来た。

 

「! 何や!? ワイの拳喰らって起き上がるんかい!?」

 

「生憎と、意外とタフなのが売りでしてね………」

 

驚く大河に向かって、飛彗はそう言い放つ。

 

「ほうぉ? 顔の割りには言うやんけ。なら………今度はキッチリ起き上がれない様にしたらぁっ!!」

 

そう叫ぶと、腕を振り被って、再び飛彗を殴り飛ばそうとしたが………

 

「顔の事は結構気にしてるんで………言わないでもらえますか!!」

 

飛彗はそう言い放ち、瞬きをした次の瞬間には、大河の懐に入り込んでいた!

 

「!? なっ!?」

 

「ハイイイイイィィィィィィーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのまま、驚愕した大河の身体に、カウンター気味のエルボーアタックを喰らわせた!!

 

「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

途端に大河は人形の様にブッ飛び、そのまま川の中へ水没する!!

 

「「「「「「「「「「!? 親分ーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

同分隊や、別の分隊に所属していた、舎弟の大洗連合の子分達が、それを見て悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「ス、スゲェ………」

 

「マジかよ………」

 

その光景に、地市と了平が信じられないと言う様な表情を浮かべる。

 

(今のは………八極拳の『外門頂肘』か………)

 

そして弘樹は、飛彗が放った攻撃が、八極拳の技である事を見抜く。

 

「兎に角撃ち込め!!」

 

「連続アターックッ!!」

 

「「「それそれそれーっ!!」」」

 

と、Ⅲ突が次弾装填と方向転換に戸惑っている間に、八九式がⅣ号を仕留めようと、車体前面に装備された九一式6.5mm車載機関銃を発砲する。

 

乾いた音と共に弾丸が次々に吐き出されてⅣ号に命中するが、如何に防備の薄い後部装甲と言えど、機関銃程度で抜ける筈が無く、弾丸は弾かれて明後日の方向に飛んで行く。

 

その間にどんどんと態勢を立て直すⅣ号。

 

「マズイな、逃げられるぞ………ん? アレは?」

 

ブルーノZB26軽機関銃を発砲していた大詔がそう声を挙げた瞬間、何かに気付いて、ピープサイトから目を離す。

 

それは、Ⅳ号が渡ろうとしている吊り橋の向こう側から向かって来る、生徒会メンバー+蛍の乗る38tのEチームに随伴している迫信の率いるε分隊。

 

そして、その後ろから付いて来る1年生達の乗るM3のDチームに随伴する、勇武が率いるδ分隊の姿だった。

 

「フフフ、奴等が目の前の敵に気を取られている隙に回り込んでやる………」

 

「桃ちゃん、悪い顔………」

 

「完全に悪役の顔だね~」

 

「駄目だよ、桃ちゃん。女の子がそんな顔しちゃ」

 

38tの中で、桃、柚子、杏、蛍がそんな会話を交わす。

 

「さて………上手く行くかな?」

 

「フフフ………漁夫の利を狙わせてもらうぞ」

 

「ナンマンダブ、ナンマンダブ………」

 

「…………」

 

熾龍が運転するくろがね四起の後部座席で迫信と十河がそう呟き、助手席の舘芭が祈る様に念仏を唱えている。

 

「おっ、飛彗の奴、大活躍しとるみたいやな」

 

「オイ、今のアイツは敵だぞ」

 

「気持ちは分かるが、今は目の前の敵に集中してくれ」

 

活躍している飛彗を見て、豹詑が思わずそう呟くが、秀人と俊にそう注意される。

 

「ねえ~、このままで良いの~?」

 

「まあ、取り敢えず生徒会に付いてこう」

 

「でも、今は敵なんじゃ………」

 

「向こうも撃ってこないし、良いんじゃない?」

 

「そうそう」

 

目の前に居る敵である筈のEチームとε分隊を攻撃せず、只付いて行っているDチームのM3の中で、桂利奈、梓、あゆみ、優季、あやが呑気そうにそう言い合う。

 

「…………」

 

そして紗希は1人ボーッとしていた。

 

「良いのかな? 目の前のチームは敵なんじゃ?………」

 

「ん~、でも………車長からの指示は出てないし………」

 

「良いんじゃないかなぁ?」

 

一方のδ分隊も、Dチームの車長である梓からの命令が無い為、分隊長である勇武を始め、竜真、光照も行動を起こそうとしない。

 

「何を言ってるスか皆さん! 此処は腕の見せ所ッスよ!! ガッツδ分隊ッ!!」

 

「だ、駄目デスよ、正義サン!」

 

「梓さんは付いて行くって言ってますし、取り敢えずはそれが命令だと思えば良いんじゃないですか?」

 

「まあ、初めての試合だし、胸を借りる積りで行こうよ」

 

突っ込んで行きそうになっていた正義をジェームズが止め、清十郎と誠也もそんな事を言い合う。

 

「Eチームとε分隊………それにDチームとδ分隊か」

 

「コレでまた挟み撃ちでござるな」

 

大詔がそう言うと、ウィンチェスターM1897を構えていた小太郎がそう返す。

 

「弘樹! 吊り橋の向こうからも敵が来てるぞ!!」

 

「!? Eチームとε分隊………Dチームとδ分隊もか」

 

地市の言葉に、弘樹は吊り橋の向こう側を見やる。

 

と、そこで………

 

態勢を立て直していたⅣ号が再発進!

 

「逃がすかっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

「ブッ放せぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

逃がさんとばかりに、Ⅲ突と八九式の砲撃。

 

更には砲兵隊と対戦車兵達が携帯していた対戦車火器が火を噴く。

 

大半は外れて、谷川に着弾して水柱を上げたが、一部がⅣ号の付近に着弾!

 

Ⅳ号の姿が爆煙で見えなくなる。

 

「!? Ⅳ号が!?」

 

「うわぁっ!! やられたぁっ!!」

 

「…………」

 

飛彗と了平がそう声を挙げるが、弘樹は冷静に、爆煙の中を見据えていた。

 

その次の瞬間!!

 

爆煙を突っ切る様に、Ⅳ号戦車が姿を現す!!

 

「外れたっ!!」

 

「次だ次!!」

 

「ハハハハッ! やるなぁっ!!」

 

「次弾発射用意っ!!」

 

エルヴィンと典子が、次弾装填を急ぎ、明夫が仕切っている砲兵隊と、武志を中心とした対戦車兵達も再攻撃の準備に入る。

 

「! 砲兵! 敵の砲兵隊と対戦車兵達の動きを阻害しろ!!」

 

「「「「「「「「「「! 了解!!」」」」」」」」」」

 

しかしそこで、弘樹がそう指示を下し、α分隊の砲兵達が、迫撃砲と榴弾砲を、敵砲兵隊と対戦車兵達に向けって砲撃し始める。

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」

 

砲爆撃を浴びせられ、敵砲兵隊と対戦車兵達は浮足立つ。

 

「西住くん! 敵の砲兵隊と対戦車兵達の動きを止めたぞ!!」

 

「!! 秋山さん! 砲塔を回転させて!!」

 

「! 了解!!」

 

弘樹がⅣ号へそう通信を送ると、みほは砲手である優花里にそう指示を出す。

 

砲塔回転用のモーターが唸りを挙げ、後ろを向き始める。

 

最初に狙うのは火力の高いⅢ突だ。

 

「ぬうう………」

 

Ⅲ突側も狙われている事には気づいており、先んじて砲撃しようと試みているが、旋回式の砲塔を持たないⅢ突は、狙いを定める為には車体を動かすしかなく、照準が遅れる。

 

「早く回って~っ! 撃たれる前に撃っちゃってよぉっ!!」

 

「ハイ!」

 

その隙にⅣ号の砲は、旋回を完了する。

 

「発射用意っ!」

 

みほの号令で、前進していたⅣ号が停止する。

 

「…………」

 

そこで優花里は照準を微調整し、完全にⅢ突を捉える。

 

「撃てぇっ!!」

 

「!!」

 

そしてみほの号令が下った瞬間!!

 

優花里はトリガーを引いた!!

 

轟音と共に放たれた砲弾が、Ⅲ突の砲塔右側へと吸い込まれる様に命中!!

 

爆発音が響いたかと思うと、撃破されたと判定されたⅢ突から白旗が上がる!!

 

「やったっ!!」

 

「よっしゃあぁっ!!」

 

「うむ………」

 

地市と了平が歓声を挙げ、弘樹も無言で頷く。

 

「はああ………スゴッ!」

 

「ジンジンします………」

 

「何だか………気持ち良い~」

 

「…………」

 

そして、Ⅳ号の中では、初めての砲撃の衝撃に、沙織と優花里、そして目を覚ました華が感激の様な感覚を覚えていた。

 

麻子も、言葉こそ出していないが、驚きを露わにしている。

 

「…………」

 

そんな中で、みほは1人冷静に、次弾を装填している。

 

[有効! Cチーム、行動不能!!]

 

[今回は各チーム対抗の殲滅戦だ! そのルールに則り、γ分隊も共に行動停止だ!!]

 

「うええっ!?」

 

「マジかよ!?」

 

通信機から亜美と嵐一郎の声が響いて来て、磐渡と海音の信じられないと言った声が挙がる。

 

「今度は八九式!」

 

「ハイッ!!」

 

と、みほがそう指示すると、優花里は続いて、Bチームの八九式に狙いを定める。

 

「来てる来てる! フォーメーションB!!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

狙われた八九式が先んじて砲撃する。

 

しかし、砲弾はⅣ号に掠りもせず、川へと落ちて水柱を上げた。

 

そして反撃とばかりにⅣ号が砲撃!!

 

Ⅳ号から放たれた砲弾は、八九式の車体前面の中心に命中!!

 

「真面にアタック喰らったーっ!!」

 

衝撃で八九式が僅かに後退したかと思うと、撃破判定が下され、白旗が上がる。

 

「クッ! やられたかっ!?」

 

「何とっ!?」

 

大詔と小太郎から驚きの声が挙がる。

 

「よっし! コレで………」

 

「まだだ! 向こう岸からも来てるのを忘れるな!!」

 

地市が歓声を挙げようとしたが、弘樹がそう言い放ち、九七式手榴弾を手に吊り橋を渡り始める。

 

彼の言葉通り、吊り橋の先では、ε分隊が展開を終えていた。

 

「フフフフフフ………遅かったな舩坂 弘樹………既に部隊の展開は完了した………Ⅳ号は吊り橋の上で身動きが取れない………貰ったぞっ!」

 

勝利を確信している十河が、悪そうな笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

しかしその瞬間………

 

「退け退けーっ!!」

 

「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

後方に控えさせていたEチームの38tが、展開していたε分隊員達を押し退ける様に前へと出て行く!

 

「!? 何ぃっ!? 河嶋 桃! 何故前進するっ!?」

 

彼が事前に立てた作戦では、要である38tを後方に控えさせ、対戦車兵と砲兵の攻撃によって橋の上で動けないⅣ号を撃破する筈だった。

 

だが、今38tはその作戦を無視して前進して行っている。

 

「あ、あの、桃ちゃん………作戦聞いてた?」

 

蛍が桃にそう言うが………

 

「そんなまどろっこしいモノがいるかぁっ! 一気に叩き潰してやるわぁっ!!」

 

桃はまるで別人の様なテンションでそう言い返す。

 

「桃ちゃんの悪い癖が………」

 

「コレだけは治らないね~、何時までも」

 

そう言いながら、特に桃に逆らう様な真似をせず、黙々と操縦を続けている柚子と、相変わらず干し芋を齧っているだけの杏。

 

「ああ! また来るぅ!!」

 

と、その様子をⅣ号のペリスコープで確認した沙織がそう声を挙げると、Ⅳ号の砲塔が再び前を向き始める。

 

「フッフッフッ………此処がお前等の死に場所だ!!」

 

そう言いながら、桃は吊り橋の上のⅣ号に狙いを定める。

 

「させるかぁっ!!」

 

だがその瞬間、Ⅳ号の前へと飛び出した弘樹が、手に握っていた九七式手榴弾のピンを抜き、38t目掛けて投擲した!

 

弧を描いて飛んで行った九七式手榴弾は、38tの手前の地面に落ちたかと思うと、数回バウンドして爆発する!!

 

「おうわぁっ!?」

 

爆発の振動と音に驚き、桃が一瞬怯む。

 

「今だ!!」

 

その瞬間に、弘樹はその場に伏せて、砲塔の旋回を終えたⅣ号にそう言い放つ。

 

「撃てぇっ!!」

 

みほの号令で、Ⅳ号は砲撃!!

 

「!………」

 

至近距離での砲撃に、弘樹は爆風と硝煙の臭いを嫌と言うほど感じる。

 

同時に、38tも発砲したが、砲弾はⅣ号の上の方を通り過ぎて、丁度了平が籠っていた蛸壺に直撃した!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴と共にブッ飛ばされた了平は、地面に叩きつけられたかと思うと、戦死と判断される。

 

「な、何で………」

 

「やっぱり日頃の行いですね………」

 

黒焦げの了平に向かって、楓がピシャリとそう言い放つ。

 

一方、Ⅳ号が放った砲弾は、38tを完全に捉えており、砲塔の右側………丁度7.92mm MG37(t)重機関銃の辺りに直撃していた。

 

撃破されたと判定を受けた38tから白旗が上がる。

 

「あああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」

 

十河がその光景を見て、何て事だと言わんばかりに絶叫する。

 

「おやおや………」

 

対照的に迫信は、仕方がないと言う様に笑みまで浮かべている。

 

「救い様の無い馬鹿だな………」

 

熾龍は、独断先攻した桃にそう毒を吐く。

 

「えええ~~っ!?」

 

「オイオイ、俺達何もしないまま終わりかよ?」

 

「不完全燃焼も良いとこだぜ………」

 

不完全燃焼気味な豹詑、俊、秀人。

 

(ホッ………良かった………危ない目に遭わなくて………)

 

只1人、逞巳は内心で安堵している。

 

「ああ~、やられちゃったね」

 

「桃ちゃんココで外す?」

 

「桃ちゃんと呼ぶな~っ!!」

 

「イッタ~イッ! お尻打っちゃったよ~っ!!」

 

そして38tの車内では、少々煤けた杏、柚子、桃、蛍がそんな声を挙げていた。

 

一方………

 

その一連の成り行きを、ジッと観戦していたDチームとδ分隊は………

 

「み、皆やられちゃったぞ!?」

 

「つ、強い! 流石舩坂先輩だ!!」

 

「西住流も半端じゃないよ~っ!!」

 

「良し! 逃げよう!!」

 

Aチームとα分隊の奮戦の前にスッカリ戦意を無くし、逃走の態勢に入ろうとする。

 

「!!」

 

と、それに気づいた弘樹は、三八式歩兵銃に三十年式銃剣を着剣する。

 

そして、立ち上がると同時に、逃げの態勢に入っていたDチームとδ分隊目掛けて突撃した!!

 

「ちょっ!? 突っ込んで来るよっ!?」

 

「は、早く逃げてえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

着剣した三八式歩兵銃を手に、気迫を感じさせる表情で突撃して来る弘樹に、Dチームは完全にビビって砲撃する事も忘れて逃走を急ぐ。

 

「来、来るぞぉっ!!」

 

「う、撃て! 撃てぇっ!!」

 

一方、δ分隊の歩兵達は、勇敢にも弘樹を迎撃しようとし始めたが………

 

恐怖で震えた手では照準が真面に付けられず、弾丸は有らぬ方向へとばかり飛んで行く為、弘樹は構わずに突撃を続ける。

 

しかし、如何にあらぬ方向へ飛んで行っているとは言え、銃火の中を一直線に突撃するなど、並みの精神を持った人間に出来る事では無い。

 

「…………」

 

弘樹は眉一つ動かさずに突き進み、遂にδ分隊と、その背後で逃走を計っているDチームのM3リーを捉える。

 

「ふ、舩坂先輩っ!?」

 

「退けぇっ!!」

 

丁度正面に位置取る形となったδ分隊の分隊長である勇武に、銃剣で突きを繰り出す弘樹。

 

「!? ぐはあぁっ!?」

 

真面に銃剣の突きを喰らった勇武は、そのままバタリと倒れる。

 

「!? 勇武っ!?」

 

「分隊長がやられたぁっ!?」

 

分隊長である勇武がやられ、他の分隊員達は動揺する。

 

「!!」

 

その隙を付き、弘樹は三八式歩兵銃を手放すと、M3リーに向かって跳躍!

 

その車体にしがみ付いた!!

 

「うわぁっ!?」

 

「取りつかれたっ!?」

 

梓達の悲鳴にも似た声が挙がる中、弘樹はそのままM3リーの車体後部………エンジンルームの上に攀じ登る。

 

そして、ベルトに下げていた漏斗状の物………『吸着地雷』をセットし、信管を作動させ、エンジンルームの上から跳ぶ!!

 

その直後に、吸着地雷が爆発!!

 

「!? うおわっ!?」

 

爆風に煽られ、地面に転がる弘樹。

 

しかし、M3リーのエンジンルームからは炎と黒煙が上がっており、続いて撃破判定を示す白旗が上がった。

 

「やったか………」

 

地面の上を転がった為、全身埃だらけの姿で上半身だけを起こしてそれを確認した弘樹がそう呟く。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

「凄い………」

 

「まあ………」

 

「流石、あの舩坂 弘軍曹の子孫です………」

 

「無茶をする奴だな………」

 

Ⅳ号の車内でその光景を見ていたみほ、沙織、華、優花里、麻子が感嘆と呆れの声を漏らす。

 

[DチームM3、Eチーム38t、CチームⅢ号突撃砲、Bチーム八九式、何れも行動不能]

 

[よって、AチームⅣ号、並びにα分隊の勝利だ!]

 

とそこで、亜美と嵐一郎がそう告げて来て、みほ達は其々の席のハッチを開けて、車外に姿を現した。

 

「わ、私達、勝っちゃったの?」

 

「みたいです………」

 

まだ勝利した事への実感が湧かない沙織と華が、茫然とした様子でそう呟く。

 

「凄い………西住殿と舩坂殿のお蔭です!!」

 

「ふわっ!?」

 

とそこで、感極まったのか、優花里がそう言いながら、みほに抱き付いた。

 

「勝ったと言うか、他のチームが脱落したと言うのが正しいな」

 

「その通りだな。今回の勝利は、他の戦車チーム達が全員未経験者だったと言う事に助けられたのが大きいだろう」

 

と、麻子が冷静にそう言っていると、三八式歩兵銃を回収した弘樹が、Ⅳ号の元へと戻って来てそう言う。

 

試合が終わったからか、その口調は何時もと同じに戻っている。

 

「ハッ! 舩坂殿!! 先程の活躍、お見事でした!! 流石は英霊の血を継ぐ者ですね!!」

 

「行けると判断したから突撃したまでさ。そんな大層な事じゃない………それより、何時までそうして居るんだ?」

 

興奮した様子でそう言って来る優花里にそう返し、みほに抱きついたままな事を指摘する弘樹。

 

「ふえっ?………!? あああっ!? す、すみません! 西住殿!!」

 

優花里はそれでハッとして、みほから離れると、Ⅳ号の砲塔の上で土下座する。

 

「アハハハ………ありがとう、舩坂くん」

 

それを笑って済ませると、みほは弘樹の方を見やってそう礼を言う。

 

「………任務、完了致しました」

 

弘樹はそう言って、ヤマト式敬礼を返すのだった。

 

[回収班を派遣するので、行動不能の戦車や撃破された車両はその場に置いて、戻って来なさい]

 

とそこで、亜美からそう言う通信が送られてくる。

 

「フッ………やはり、彼女に戦車道を受講させたのは正しかった」

 

「それに、あの舩坂くんって子も凄かったですね」

 

「作戦通りだね」

 

「コレで廃校………阻止出来ると良いんだけど………」

 

それを聞きながら、撃破された38tの中では、桃、柚子、杏、蛍がそう言い合っていた。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うむ………α分隊! 撤収開始っ!!」

 

とそこで、みほが弘樹にそう言い、弘樹はα分隊に撤収命令を出す。

 

「お~い! ちょっと待ってくれや~!!」

 

するとそこで、何処からとも無く、そんな声が聞こえてきた。

 

「? 何だ?」

 

「誰か~! 助けてくれや~!!」

 

「川の方から聞こえますけど………」

 

「川?………」

 

「「「「「「「「「「………!? あっ!?」」」」」」」」」」

 

そこで一同は一斉に、大河が川へと落ちた事を思い出す。

 

全員が一斉に川を覗き込むと、そこには………

 

「助けてくれや~!!」

 

必死な様子で、流されない様に川中の岩にしがみ付いている大河の姿が在った。

 

「く、黒岩さんっ!!」

 

「た、大変っ!!」

 

「す、すぐに救助をっ!!」

 

試合が終わった脱力感に包まれていた一同は、一斉に蜂の巣を突いたかの様に騒ぎ出す。

 

と、その次の瞬間!!

 

「フッ!!」

 

何時の前にか、吊り橋のワイヤーと自分の身体にロープを巻き付けていた弘樹が、吊り橋の上から川へとダイブした!!

 

「!? 舩坂くんっ!?」

 

「弘樹の奴! また無茶しやがって!!」

 

みほと地市が思わず声を挙げる中、当の弘樹は結構な流れの速さをものともせず、大河の元へと泳ぎ切る。

 

「しっかりしろ、大河!」

 

「おお、スマン、弘樹! 助かったでぇ!!」

 

「引き上げてくれぇっ!!」

 

大河を救助しながら、吊り橋の上に残っていたメンバーにそう呼び掛ける弘樹。

 

そのまま引き上げられ、無事救助は完了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

大洗女子学園と大洗男子校による合同演習は………

 

みほ達のAチーム………

 

そして弘樹の率いるα分隊の勝利で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回は冒頭だけでしたが、今回は本格的な最初のチーム対抗試合の様子をお届けしました。
基本的な流れは変わっていませんが、歩兵がいる分、戦闘が激化しています。
今後も、原作でもやった試合は、それを準拠にして行きたいと思っています。

それで作中のルールの補足ですが………
今回はチーム対抗の殲滅戦だったので、戦車を撃破された分隊は共に失格となっていましたが、他校との試合の場合は護衛している戦車を撃破されてしまった分隊は、他の無事な分隊に合流すれば、戦闘を継続する事が出来るという事になってます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第8話『試合、やります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第8話『試合、やります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム&随伴分隊対抗で行われた、初めての戦車道+歩兵道の合同演習は………

 

みほ達の乗るⅣ号のAチームと、弘樹が率いるα分隊の勝利で幕を閉じた。

 

行動不能となった戦車と、撃破された車両や兵器が、自動車部と輸送科達によって運ばれ………

 

整備部達の協力の元、早速修理され始めている中………

 

みほ達と弘樹達は、女子学園の戦車格納庫の前に整列して集合していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「皆グッジョブ! ベリーナイス! 初めてでコレだけガンガン動かせれば上出来よ!!」

 

亜美が集合しているみほ達と弘樹達を前に、仕切りに褒め言葉を口にする。

 

「特に、Aチーム! 良くやったわね!!」

 

とそこで、亜美はAチームであるみほ達を見やり、そう言う。

 

教官に褒められ、沙織、華、優花里は笑みを浮かべる。

 

麻子は眠そうな表情をしていたが………

 

「…………」

 

そしてみほは、何やら複雑そうな表情を浮かべている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一方で、歩兵道受講者達は、緊張した面持ちで黙り込んでいる。

 

「…………」

 

何故なら、教官である嵐一郎が一同の前に仁王立ちし、睨み付ける様にして一同を見据えているからだ。

 

戦車道と違い、歩兵道は其々個人の評価がハッキリと分かる。

 

今回の戦いでは、弘樹の活躍が目立ったが、何も出来なかったままに終わった者も数多い。

 

また説教が飛んで来る………

 

そう思うと、歩兵道受講者達の心は重かった。

 

「………まあ、こんなものだろうな」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しかし、嵐一郎の口からは意外な言葉が発せられ、歩兵道受講者達は驚く。

 

「上手く動けなかったのは俺の教育不足だ。明日からはまた再訓練だ! 覚悟して置け!!」

 

「「「「「「「「「「! ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

続くその言葉で、歩兵道受講者達は意気消沈した様な様子を見せたが、嵐一郎が只厳しいだけの人物でない事を知ったのだった。

 

「戦車道の皆も、後は日々、走行訓練と砲撃訓練に励んでね。分からない事が有ったら、何時でもメールしてね」

 

「一同、礼!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

桃の号令で、みほ達と弘樹達は一斉に、亜美と嵐一郎に向かって礼をする。

 

「ありがとうございました!………それじゃ、嵐一郎。帰りましょうか」

 

「そうだな………」

 

と、挨拶を受けると、亜美は乗って来た10式戦車へと乗り込み、嵐一郎はウェストバッグから『何か』を取り出した。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

一同が何をする気だと注目していると………

 

「それじゃあ、またねー!」

 

「さらばだ!!」

 

と、亜美と嵐一郎がそう言った瞬間!!

 

10式の車体の角4箇所から、巨大な気球が展開!!

 

嵐一郎も、取り出した何かを膨らませて気球へと変える!!

 

そしてそのまま、気球の浮力で垂直に上昇!!

 

すると、亜美が繰る際に使った航空自衛隊のC-2改輸送機が現れ、10式と嵐一郎をワイヤーで回収して、夕焼けの空の彼方へと消えて行ったのだった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一連の流れを目撃していた一同は、言葉を失っている。

 

「………何時から自衛隊はフルトン回収システムを採用したんだ?」

 

やがて我に返った一同の中で、大詔がそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

飛び去って行ったC-2改輸送機の客室内では………

 

「お疲れ様です! 蝶野教官! 最豪教官!」

 

「お疲れーっ!」

 

「御苦労」

 

輸送機のパイロットと挨拶をかわし、機内に回収された亜美と嵐一郎は向かい合う様に座席に座る。

 

「大洗かぁ………フフフ、面白い部隊になりそうね。これからの成長が楽しみだわ」

 

「だったらもう少し真面に指導したら如何だ?」

 

大洗メンバーの素質を感じ、その成長に楽しみが生じている亜美と、そんな亜美にそうツッコミを入れる嵐一郎。

 

「そう言う嵐一郎は随分と肩入れしてるじゃない? やっぱり、自分が自衛官になろうとした切欠を作ってくれた人の子孫が居ると気合が違う?」

 

すると亜美は、意地の悪そうな笑みを浮かべて、嵐一郎にそう返す。

 

「………舩坂軍曹は俺の憧れだった………その人の子孫が大洗に居ると聞いた瞬間、他の連中を蹴散らして教官役を志願した………だが、それと指導に関する事は別だ」

 

「全く、素直じゃないわね………『ストーム1』」

 

「そのコードネームで呼ぶな」

 

そんな会話を交わしながら、2人の自衛官は風に揺られて、駐屯地へと引き上げて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「舩坂殿! 今日の試合ではありがとうございましたっ!!」

 

解散の命令が出ると、優花里が弘樹の元へ走り寄って来て、敬礼しながらそう言う。

 

「いや、小官1人の力で勝てたワケじゃない。全員が自分が成すべき事を頑張ったからこそ勝てたんだ」

 

「でも、凄かったよねぇ。最後に1年生達の戦車に突っ込んでったとこなんて、すっごくカッコ良かったよ!」

 

「正に日本男児の手本の様でした」

 

謙遜する弘樹に向かって、沙織と華もそう言って来る。

 

「2人供、持ち上げ過ぎだ。小官も他の皆と同じく、出来る事を可能な限り実行したまでだ」

 

「でも、今日は何度も舩坂くんに助けられたよ。ホントにありがとう」

 

と、そこでみほが、弘樹に向かって改まってお礼を言う。

 

「………如何致しまして」

 

弘樹はそこで微笑を浮かべたのだった。

 

「それにしてもさぁ………舩坂くんのその服って………何だか随分と古い感じがするね」

 

するとそこで、沙織が弘樹の戦闘服を見ながらそう指摘する。

 

「確かに………随分と使い込まれている感じがしますね。長く使ってるんですか?」

 

「ああ………この戦闘服はご先祖様が現役の頃に使っていた物なんだ」

 

華もそう尋ねると、弘樹はそう返す。

 

「!? 何ですとっ!? その戦闘服は舩坂軍曹殿の現役時代の物なのですか!?」

 

途端に、優花里が仰天の声を挙げる。

 

「ああ………この刀も、ご先祖様が使っていた軍刀の拵えを変えてもらったんだ」

 

左腰に差していた刀の柄に手を置きながらそう言う弘樹。

 

「おおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~っ!! まさか舩坂軍曹が使っていた戦闘服と軍刀をこの目で見る事が出来るなんて~………」

 

優花里は目を煌めかせて、戦闘服姿の弘樹と、彼が持っている刀を見ている。

 

「あ、秋山さん?」

 

「!? ハッ!? す、すみません~!!」

 

「ハハハハハッ」

 

みほに声を掛けられて、優花里は我に返り、そんな姿を見て、弘樹は笑いを零すのだった。

 

「クッソ~ッ! 何でアイツばっかりっ!!」

 

「お前何時も言ってんな、ソレ」

 

「と言うか、まだそのままだったんですね………」

 

砲弾の直撃を受け、全身黒焦げのアフロヘアになっている了平が、弘樹がみほ達と楽しそうにしている姿を見て嫉妬し、地市と楓がそんな了平の様子と姿にツッコミを入れる。

 

「そろそろお風呂入りに行こうか?」

 

と、話が一段落したところで、沙織がみほ達にそう呼び掛けた。

 

「そうですね。汚れてしまいましたし、汗も掻いてしまいましたから」

 

「! お風呂っ!!」

 

華がそう返していると、了平が鼻の下を伸ばした顔となって何かを想像する。

 

すると、了平の鼻から鼻血が垂れて来る………

 

「ぐへへへへへへ………」

 

「了平………まさか貴方………良からぬ事を考えているのではありませんよね?」

 

法律違反ギリギリの顔をしている了平を見て、楓がそう言う。

 

「イケナイのか!? 健全な男として当然だろう!!」

 

了平は反省するどころか、楓に向かってそう力説する。

 

「貴方の信念を如何こう言う積りはありませんが………後ろの人は如何ですかね?」

 

「後ろ?」

 

楓の言葉で、了平が後ろを振り返ると、そこには………

 

「…………」

 

視線だけで人も殺せそうな顔をした弘樹が、日本刀を抜き身で上段に構えていた。

 

「えっ!? ちょっ!? 弘樹!? 待てっ!! 親友に何する積りだ!!」

 

「親友だからこそ止めねばならん事もある………助兵衛成敗!!」

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

「「自業自得………」」

 

弘樹に制裁を受ける了平を見ながら、地市と楓はそう呟く。

 

「さて………小官達も学校へ戻って一風呂浴びるとするか」

 

と、弘樹がそう言った瞬間………

 

「あ! ねえねえ、舩坂くん達!………って、綿貫くん、如何したの?」

 

学校に備えられた運動部用の浴場に行こうとしていた沙織が、弘樹達に声を掛けて来て、血溜まりの中に倒れている了平を見てそう尋ねる。

 

「気にするな。コレはいつもの事だ」

 

「あ、そうなんだ」

 

弘樹がそう返すと、沙織はそれ以上は気にしなかった。

 

「ひ、酷くない………ガクッ」

 

了平はそう呟き、力尽きる………(注:死んでません)

 

「それより、何か用だったのではないか?」

 

「ああ、そうそう! 帰りに寄りたいとこ在るんだけど、舩坂くん達も付き合ってくれない」

 

弘樹が改めて問い質すと、沙織は弘樹達を見ながらそう言う。

 

「小官は構わないが………」

 

「俺も良いぜ」

 

「僕も大丈夫です」

 

「俺もーっ!!」

 

弘樹、地市、楓がそう返事を返し、光の速さで復活した了平も名乗りを挙げる。

 

「じゃあ、お風呂終わったら、ウチの正門前で待ち合わせね。宜しく~!」

 

沙織はそう伝えると、改めてみほ達と一緒に、浴場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

汗を流したみほ達と弘樹達が向かったのは………

 

学園艦の街に在る、ホームセンターだった。

 

「………ホームセンター?」

 

「何で此処なんだ?」

 

何故ホームセンターに来たのかが理解出来ないショッピングカートを押している弘樹と麻子がそう呟く。

 

「てっきり、戦車道ショップへ行くかと………」

 

それを期待していた優花里が、若干落胆している様子でそう言う。

 

「だって、もうちょっと乗り心地良くしたいじゃん」

 

と、そこで沙織がそう言いながら、クッション売り場の前に立つ。

 

「乗ってると、お尻痛くなっちゃうんだもん」

 

「ええっ!? クッション引くの!?」

 

沙織の意図を察したみほが驚きの声を挙げる。

 

「駄目なの?」

 

「駄目じゃないけど………戦車にクッション持ち込んだ選手って、見た事無いから………」

 

(素人ならではの発想だな………)

 

沙織とみほの会話を聞きながら、弘樹は内心でそう思う。

 

「あ! コレ可愛くない!?」

 

「コッチも可愛いです!」

 

とそこで、沙織がハート型のクッション、華が座布団型のクッションを手に取ってそう言う。

 

「ねえねえ、如何かな!?」

 

「ああ、えっと………」

 

「そうですね………」

 

「うんうん! 良いよ良いよ! 沙織ちゃんにピッタリだよ!!」

 

沙織に尋ねられ、地市と楓が返答に困っていると、了平がポイントを稼ごうと無責任にそう返す。

 

「ホント! ありがとう!! じゃあ、ちょっと持ってて」

 

「すみません」

 

沙織と華はそう言うと、持っていたクッションを地市と楓に預け、次の物品を見に行く。

 

「あっ!?」

 

「オ、オイッ!?」

 

有無を言わさずに荷物持ちにされた楓と地市。

 

「「…………」」

 

2人は無言で頷き合うと、了平の足を思いっきり踏んづけた!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

了平の悲鳴が挙がるが、2人は更に追い打ちを掛けるかの様に、了平の足をグリグリと磨り潰し始める。

 

「すいません! すいません! すいませーんっ!!」

 

(何をやってるんだ………)

 

必死に謝る了平を、弘樹は呆れた眼差しで見やる。

 

「あとさぁ………土足禁止にしない?」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

するとそこで、沙織からまたも驚きの提案が挙がり、みほ達は困惑の声を挙げる。

 

「だって汚れちゃうじゃない」

 

「土禁はやり過ぎだ」

 

スリッパを見ながらそう言う沙織に、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「ええ~~っ?」

 

「武部くん。少なくとも操縦手は足でペダルを操作する必要が有る。スリッパでは操縦に支障が出てしまう」

 

納得が行かない様な沙織に、弘樹が言葉を選んでそう言う。

 

「そっか~………あ! じゃあ、色とか塗り替えちゃ駄目?」

 

「色? 迷彩の柄を変えるのか?」

 

「違うよ~。もっとこう可愛く………ピンクとかさぁ」

 

「ピ、ピンクゥッ!? 駄目です! 戦車はあの迷彩色が良いんです!!」

 

それを聞いた優花里が、何を馬鹿な事を言う様に沙織に詰め寄りながら反論する。

 

「あ、芳香剤とか置きません?」

 

「ズコーッ!?」

 

するとそこで、華がそう言って来て、優花里は思わずズッコケる。

 

「鏡とかも欲しいよね。携帯の充電とか出来ないかなぁ?」

 

「…………」

 

沙織と華の遣り取りを、みほは呆然と見ていた。

 

「やれやれ………」

 

「あ、ふ、舩坂くん………如何しようか?」

 

弘樹の呆れた声に反応し、みほはそう尋ねる。

 

「………まあ………居住性を挙げる事は、性能の底上げに繋がる………のだろうか?」

 

流石の弘樹も返答に困り、思わず疑問形で返してしまう。

 

「あ、あはははは………」

 

みほは乾いた笑いを零すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

合同演習に集まった歩兵部隊と、みほ達Aチームのメンバーは、戦車格納庫前でトンでもないモノを見つける。

 

「………何だコレは?」

 

唖然としていた一同の中で、最初に口を開いたのは弘樹だった。

 

その目の前には昨日の練習試合の後、整備された戦車達が並んでいるのだが………

 

Bチームの八九式には、車体と砲塔の横に白いペンキで、デカデカと『バレー部、復活!』と言う文字が書かれ、更にはバレーボールのマークも描かれている。

 

CチームのⅢ突は、赤、黄、白、青と言ったド派手なカラーリングに塗装され、4本の旗が立っている。

 

DチームのM3リーは、ピンク一色のカラーリングに塗られている。

 

そして、Eチームの38tは、某4番目の偽名を使っている赤い彗星が乗っていた100年使えるモビルスーツの様に、金ピカに塗装されていた。

 

「コレは酷い………」

 

地市も、まるでオブジェの一種かと思いたくなる様な有り様となった戦車達を見てそう呟く。

 

「ああ~~………」

 

みほも、当然であろうが、こんな戦車を見たのは初めてで、思わず声を漏らす。

 

「カッコイイぜよ」

 

「支配者の風格だな」

 

「うむ」

 

「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが」

 

派手派手となったⅢ突の前で、Cチーム・歴女の面々がそう言い合う。

 

「コレで自分達の戦車がすぐに分かる様になった~」

 

「やっぱピンクだよね~」

 

「可愛い~」

 

悲願を刻み込んだ八九式と、オブジェの様なピンク色のM3リーの傍でも、バレー部・Bチームと、1年生・Dチームがそう言っている。

 

「良いね………」

 

「そ、そうかな?………」

 

金ピカの38tを見て満足そうに言う杏に、蛍は困惑した様子を見せる。

 

「この勢いでやっちゃおっか?」

 

「ハッ、連絡して参ります」

 

「えっ? 何ですか?」

 

しかし、杏はそれを無視して、桃にそう言うと、桃は何処かへと向かい、柚子は困惑する。

 

「むう~~~! 私達も色塗りかえれば良かったじゃ~んっ!!」

 

「いや、戦車に女の小物持ち込んだだけでも相当アレだと思うぞ………」

 

不満げに叫ぶ沙織に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「ああ~っ! 38tが! M3が! Ⅲ突が! 八九式が何か別の物に~っ!!」

 

そして戦車を心から愛する優花里は、変わり果てた戦車達を見て、悲鳴の様な声を挙げる。

 

「………ハア~~~ッ」

 

弘樹も、再び変わり果てた戦車達を見渡したかと思うと、溜息を吐いた。

 

「いやはや、彼女達の行動には驚かされるよ」

 

すると、そんな弘樹の隣に、口元を扇子で隠したドイツ軍の戦闘服に身を包んだ迫信が並び立つ。

 

「! 会長閣下っ!!」

 

迫信の姿を認めると、弘樹はすぐに姿勢を正して迫信に向き直り、ヤマト式敬礼をする。

 

「ふむ………舩坂くん。歩兵道経験者から見て、彼女達の戦車を如何思うかね?」

 

扇子を閉じ、弘樹に向かってそう問う迫信。

 

「………ハッキリ言わせて頂ければ、何を考えているんだと言いたくなります。ですが、彼女達には圧倒的に経験が不足しています。技術や練度は演習でも高められますが………心構えは、実戦を経験しなければ身に付きません」

 

弘樹は敬礼を解くと、一瞬言って良いものかと悩んだ様子を見せたが、やがてそう口を開いた。

 

「やはりそう思うかね。心配しなくとも、心構えについては問題あるまい」

 

「えっ? 会長閣下、それは如何言う………」

 

「うふふふ………ふふふふ、うふふふふふっ」

 

と、迫信の言った言葉の意味が分からなかった弘樹が、問い質そうとしたところ、みほが笑い声を漏らした。

 

「? 西住くん?」

 

「西住殿?」

 

突然笑い声を零し始めたみほを、弘樹と優花里が注目する。

 

「戦車をこんな風にしちゃうなんて、考えられないけど………何か楽しいね。戦車で楽しいなんて思ったの、初めて」

 

「そう………良かったね、みぽりん」

 

「ハイ」

 

屈託無い笑みを零すみほを見て、沙織と華も笑みを浮かべてそう言う。

 

(………小官もまだ配慮が足りんな)

 

一方弘樹は、戦う事ばかりに考えが行ってしまい、みほへの配慮を疎かにしまっていた事を反省し、戦闘帽を目深に被り直す。

 

「すまない、西住くん」

 

「!? えっ? 如何して舩坂くんが謝るの?」

 

突然謝られて、みほは困惑する。

 

「君への配慮をすっかり忘れて、実戦云々を語ってしまった………君とっては戦車は心の傷に障る物だったのを忘れてな………本当に申し訳無い」

 

そう言って弘樹は、改めてみほに向かって頭を下げる。

 

「そ、そんな! それぐらいで謝らないで! 私気にしてないから!」

 

「そうか………ありがとう」

 

みほにそう言われて、弘樹は安堵した様な表情を浮かべる。

 

「真面目だよね~、舩坂くんって」

 

「ああ………自他とも認める、『クソ真面目な男』だからな」

 

そんな2人の姿を見て、沙織と地市がそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

とある学園艦の女子校の一室にて………

 

「大洗女子学園? 戦車道を復活されたんですの? おめでとうございます」

 

電話に出ているブロンド髪で、青い目を少女………『ダージリン』は丁寧な女言葉でそう言う。

 

如何やら、電話の相手は大洗女子学園の者………恐らく桃であろう。

 

「結構ですわ………受けた勝負は逃げませんの」

 

そう言って電話を置くダージリン。

 

「試合の申し込みですか?」

 

と、室内に在ったテーブルに着き、イギリス人宜しくティータイムを楽しんでいたダージリンと同じくブロンド髪で、黒いリボンをした少女………『アッサム』がそう言う。

 

「ええ………大洗学園艦の部隊とね」

 

「話を聞いた限り、戦車道を復活させたばかりみたいですけど、それでウチに挑んで来るなんて………」

 

アッサムと同じくティータイムを楽しんでいたオレンジ髪の少女………『オレンジペコ』が、無謀な事をと言う様に呟く。

 

「確かに、普通に考えれば無謀かも知れないわね………けれど、例え相手が誰であろうと騎士道精神の名の元に正々堂々全力で戦う………それが我が『聖グロリアーナ女学院』の信条ですわ」

 

ダージリンはそう言うと、テーブルの上に乗っていたハンドベルを手に取って鳴らした。

 

「失礼致します」

 

「お呼びでしょうか? お姉様方」

 

すると、部屋のドアが開き、2人のメイドが入室して来る。

 

「今度の日曜日に試合を行う事にしました。『聖ブリティッシュ男子高校』の歩兵道の皆さんにお伝えしてくれるかしら」

 

「「畏まりました」」

 

ダージリンの言葉を聞き、メイド2人は御辞儀をすると、踵を返して部屋から出て行った。

 

「フフフ………」

 

そして、ダージリンが不敵に微笑んで自分の席に着くと、紅茶に口を付け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって………

 

聖グロリアーナ女学院からすぐの場所に在る兄妹校………

 

『聖ブリティッシュ男子高校』の歩兵道者の演習場では、歩兵道受講者達が訓練を行っていた。

 

「全員集合っ!!」

 

とそこで、教官の教師からの集合が掛かったかと思うと、訓練をしていた歩兵達は一斉に訓練を中断し、物の数秒で教官の前に整列して集合する。

 

「ん? 『アールグレイ』は如何した?」

 

「ロードワーク中です。今日はかなり走るって言ってましたけど、間も無く帰って来るかと………」

 

「そうか………では、先に話しておく。聖グロリアーナ女学院の戦車隊の隊長・ダージリンくんから連絡が在った。今度の日曜日に練習試合を行うとの事だ。相手は大洗部隊」

 

「大洗?」

 

「聞いた事無いな………」

 

大洗と言う名に聞き覚えの無い生徒達がそう呟く。

 

「20年前に女子学園側が戦車道を廃止し、男子校側も歩兵道を縮小させていたそうだが、今年から戦車道が復活し、歩兵道にも再度力を入れ始めたそうだ」

 

その呟きを聞いていた教官が、一同に説明する様にそう言う。

 

「今年から復活って………それでウチに試合を挑んで来るとは」

 

「よっぽどの大馬鹿みたいだな。自慢じゃないが、ウチは準優勝経験もある強豪校だぜ」

 

「無名校がそうそう勝てる相手じゃないっての」

 

無名も良いところの大洗部隊の挑戦に、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員の何人かは失笑する。

 

「馬鹿者っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

途端に教官から怒声が飛び、歩兵部隊員達は硬直する。

 

「どんな相手だろうと油断は禁物だ! 油断は隙を生み、取り返し難いミスへと繋がる! 如何なる者からの挑戦も受け、正々堂々と力の限り戦う! それが聖ブリティッシュ男子高校、そして聖グロリアーナ女学院の誇りだ!!」

 

無名の大洗相手に油断を見せていた歩兵部隊員を叱咤し、そう言い放つ教官。

 

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす………驕りは決して許さんぞ!!」

 

「その通りだ、皆。気を引き締めて掛かろう」

 

そこで、教官の言葉に同意する様に、メガネをかけているロン毛の男………聖ブリティッシュ男子高校歩兵隊の隊長『セージ』がそう言う。

 

「ぶわっはっはっはっはっ!! セージの言う通りじゃ!! ワシ等は兎に角戦えば良いんじゃ!! ぶわっはっはっはっはっ!!」

 

すると、歩兵部隊員の中で一番背が高く身体がデカいが、手の甲と顔が異様に大きい見るからに馬鹿そうな雰囲気が出ている巨漢………『オレガノ』が豪快に笑いながらそう言う。

 

「そうですね。僕等は全力で戦う。それだけです」

 

かなりの美形で、歩兵にしては少々華奢な体つきをしており、何故か目を閉じている生徒………『ティム』がそう言う。

 

そこで、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員達は、表情を引き締めた。

 

「………良し! では訓練に戻れっ!!」

 

「「「「「「「「「「イエッサーッ!!」」」」」」」」」」」

 

教官が最後にそう言うと、聖ブリティッシュ男子高校の歩兵部隊員達は教官に向かって敬礼し、訓練に戻って行く。

 

「うむ………うん? 帰って来たか」

 

ふと、校門の方を見やった教官は、校門から入って来てグラウンドの方へと向かって来るパーカーを着てフードを被った人物に気付く。

 

「………只今戻りました」

 

その人物は、教官の前まで来ると気を付けし、そう報告する。

 

「うむ………今度の日曜に練習試合を行う事になった」

 

「相手は?」

 

「大洗学園艦の機甲部隊だ」

 

「大洗………」

 

「今年から女子校側が戦車道を復活させたそうだ。男子校側では歩兵道は続いていたが、試合に出れる様な規模ではなかったそうだ」

 

「分かりました………万全の態勢で臨みます」

 

教官とそう会話を交わす男。

 

「まあ、お前の事だ。心配はしておらん………ところで、今日はどれぐらい走って来たんだ?」

 

「学園艦を………200周程………」

 

「200周!? このまえ100周を完遂出来たと言っていたばかりじゃないか! もう記録を塗り替えたのか!?」

 

「はい………」

 

「全く………お前の身体能力と向上心には驚かされる………今日はもうクールダウンをしたら上がって良いぞ」

 

「はっ………」

 

そう言うと男………聖ブリティッシュ男子高校歩兵道のエース『アールグレイ』はフードを脱ぎ、クールダウンに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方………

 

再び、大洗女子学園・戦車格納庫前にて………

 

「今日の訓練、御苦労であった!」

 

整列して集合している、一部を除いて疲れた様子の戦車部隊員達と歩兵部隊員達を前に、桃がそう言う。

 

「「「「「「「「「「お疲れ様でした~」」」」」」」」」」

 

「え~、急ではあるが、今度の日曜日、練習試合を行う事になった」

 

「「「「「「「「「「!? ええっ!?」」」」」」」」」」

 

とそこで桃は、練習試合を行うと宣言し、一同は寝耳に水状態となる。

 

(成程………会長閣下が言っていたのはこの事だったのか)

 

弘樹は、内心でそう納得していた。

 

「相手は………聖グロリアーナ女学院戦車部隊、そして聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊だ」

 

「「えっ!?」」

 

対戦相手の学校名を聞いて、みほと優花里が驚きの声を挙げる。

 

「如何したの?」

 

「「?」」

 

それに気づいた沙織が声を掛け、華と麻子も注目する。

 

「聖グロリアーナ女学院戦車部隊、聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊から成る機甲部隊は、全国大会で準優勝した事もある強豪です」

 

「ええっ!?」

 

「準優勝………」

 

対戦相手が全国大会の準優勝記録を持つ部隊だと知り、沙織と華も驚愕する。

 

「オイオイ、準優勝って………」

 

「イキナリそんな強豪と練習とは言え、試合なんて………」

 

「何て無謀な………」

 

それを聞いていた地市、了平、楓も思わずそう声を漏らす。

 

「相手にとって不足は無いな………」

 

「オメェのその図太い神経が時々羨ましいぜ」

 

1人戦意高揚している様子を見せている弘樹を見て、地市がそんなツッコミを入れるのだった。

 

「日曜は、我が学園に朝6時に集合だ! 遅れるなよ!!」

 

「そんなに朝早く~?」

 

「やれやれ………早起きは苦手なんだがなぁ」

 

集合時間を聞いたあやと俊からそんな声が漏れる。

 

と………

 

「止める………」

 

「ハイッ?」

 

「やっぱり戦車道止める」

 

突如麻子がそう宣言した。

 

「もうですか!?」

 

「そんな!? 何故突然!?」

 

突然の宣言に、華と楓が驚愕の声を挙げる。

 

「麻子は朝が弱いんだよ」

 

と、幼馴染の沙織がそう説明していると、麻子は早足にその場を去ろうとする。

 

「ああ! 待って下さいっ!!」

 

「ちょっ! ストップ、ストップ!!」

 

慌てて引き止めに掛かるみほ達と地市達。

 

「6時は無理だ」

 

「モーニングコールさせて頂きます」

 

「家までお迎えに行きますから!!」

 

「麻子ちゃ~ん! 気持ちは分かるけど、頼むよ~っ!!」

 

若干ムスッとしている表情でそう言う麻子に、優花里、華、了平がそう言う。

 

「6時だぞ………人間が朝の6時に………起きれるか!!」

 

「簡単だろ」

 

「弘樹………低血圧の奴にはそれが辛いんだって………」

 

麻子の言葉にアッサリとそう返す弘樹に、地市がツッコミを入れる。

 

「いえ、6時集合ですから、起きるのは5時くらいじゃないと………」

 

「………人には出来る事と出来ない事が有る。短い間だったが、世話になった」

 

と、優花里がそう言うと、麻子は完全に心が折れた様子でそう言い、踵を返した。

 

「冷泉さん! もう貴方の身は貴方1人の物では無いのですよ!!」

 

「そうだよ! 麻子が居なくなったら誰が操縦するの!?」

 

しかし、楓と沙織がそう言い、引き止めを続ける。

 

「それに良いの! 単位!!」

 

「!!」

 

そして、沙織のその一言で、麻子の足は止まる。

 

「このままじゃ進級出来ないよ! 私達の事、先輩って呼ぶ様になっちゃうから!! 私の事、沙織先輩って言ってみぃっ!!」

 

「さ、お、り、せ………」

 

沙織を先輩付けで呼ぼうとして口篭る麻子。

 

「それにさあ、ちゃんと卒業出来ないとお婆ちゃん滅茶苦茶怒るよ」

 

「! お婆!!………」

 

「ウチの祖父も厳しかったからなぁ………悪い事をすれば、容赦無く鉄拳制裁されたよ」

 

「き、厳しいお爺さんだったんですね………」

 

お婆ちゃんと言う言葉に、麻子は怯える様子を見せ、弘樹は厳しかった祖父を思い出し、優花里はその話に戦々恐々とする。

 

「うううう………分かった、やる」

 

麻子は暫し逡巡する様子を見せたが、やがて諦めた様にそう呟いた。

 

「大丈夫かよ、オイ………」

 

「今は彼女を信じるしかないな………」

 

不安な様子を見せる了平に、弘樹はそう言う。

 

「ではこれより、練習試合に向けての作戦会議を行う!!」

 

「では、我が校の作戦会議室を使ってくれたまえ」

 

「? 作戦会議室?」

 

桃がメガホンを手に皆にそう呼びかけると、迫信がそう言い、柚子が首を傾げる。

 

「歩兵道が盛んだった頃に造られたものでね。あそこなら全員で作戦会議を行う事が出来る」

 

「良いねー。じゃあ、全員大洗国際男子校の作戦会議室へ移動っ!!」

 

迫信の説明を聞くと、杏がメンバー全員にそう言い放ち、大洗国際男子校に在る作戦会議室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

大洗国際男子校・作戦会議室にて………

 

「す、凄い………」

 

「まるで映画のセットみたい………」

 

「おおお~~~っ! 男子校にこんな作戦室が在ったなんて………知りませんでした~!」

 

みほと沙織が驚きの声を漏らし、優花里が感激の声を挙げる。

 

迫信に案内されて辿り着いた作戦会議室は、まるで本当に軍隊が使用している様な、異常なまでに充実している作戦室であった。

 

向かって正面には、壁一面を埋め尽くす様な大型モニターが設置され、室内中央には巨大なテーブルがあり、既に練習試合が行われる試合場所の地図が敷かれて、自軍と敵軍を示す戦車の模型と歩兵の駒が置かれている。

 

現在、戦車道受講者達と、歩兵道受講者達は人数分用意されたパイプ椅子に腰掛け、正面の巨大モニターの方を向いている。

 

その巨大モニターの下の、一段高くなっている床の上には、杏、桃、柚子、蛍、迫信、十河、熾龍、逞巳、俊、清十郎の女子・男子両校の生徒会メンバーの姿が在る。

 

「では、これより作戦会議を開始する」

 

迫信がそう言うと、正面の巨大モニターに映像が点灯。

 

1台の戦車の静止画が映し出される。

 

それは、聖グロリアーナ女学院が使用している戦車である、イギリス製の『マチルダⅡ歩兵戦車Mk.Ⅲ/Ⅳ』だった。

 

「良いか。相手の聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の機甲部隊は、装甲の強固な歩兵戦車と共に隊列を組んだ歩兵部隊を進軍させるいう浸透強襲戦術を得意としている」

 

桃がそう説明すると、モニターが静止画から、行進間射撃をしながら進む歩兵戦車と共に、戦列歩兵宜しく、キチンと隊列を組んで進軍している歩兵部隊の動画に切り替わる。

 

「兎に角、相手の戦車は固い。主力のマチルダⅡに対して、我々の戦車の砲は100メートル以内でないと通用しないと思え」

 

「100メートルって………」

 

「と言う事は、対戦車砲も………」

 

「余程の大口径砲でない限り、同じ様に至近距離まで引き付けて撃たないと駄目ですね」

 

続いて十河がそう説明すると、地市、鷺澪、誠也がそう呟く。

 

「そこで、一分隊が囮となって、こちらが有利になるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を利用して残り全部隊がコレを叩くっ!!」

 

「キルゾーンには予め対戦車地雷を中心としたトラップを仕掛けて置く。戦場では敵より先に高みの場所を占めるが優なり………コレは兵法の常道だ」

 

そこでモニターがまたも切り替わり、先程桃と十河が言った作戦のシミュレーション映像が流れる。

 

「「「「「「「「「「おお~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

一見すれば完璧に見える桃の作戦に、集まった一同から歓声が挙がる。

 

「…………」

 

しかし、みほは何か不安な表情をしていた。

 

「「…………」」

 

みほだけでなく、壇上に居る迫信と熾龍も、何か思うところがある様な表情をしている(迫信は扇子で口元を隠しているので、少々分かり難いが)

 

「あ………」

 

そこで何かを言い出そうとしたみほだったが、引っ込み思案な性格故か、声が出ない。

 

「河嶋広報官殿、神居副会長殿。意見具申を申し上げても宜しいでしょうか?」

 

すると、そんなみほの代弁をするかの様に、弘樹が手を上げてそう発言した。

 

「舩坂 弘樹………」

 

「こ、広報官殿………な、何だ! 言ってみろ!!」

 

そんな弘樹に視線を送る十河と、広報官殿などと敬称付けで呼ばれた事に若干気を良くしたかの様な桃がそう言う。

 

「ハッ! では、僭越ながら意見具申させていただきます!」

 

弘樹はそう言って立ち上がり、他の部隊員達の視線も、弘樹に集まる。

 

「今回の敵である聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校は、長年戦車道と歩兵道を続けており、全国大会準優勝の経験もある強豪校です」

 

「ふ~ん、それで?」

 

弘樹の言葉を聴いていた杏が、不敵な顔をして尋ねる。

 

「失礼ですが、我々は戦車部隊、歩兵部隊共にほぼ素人の集まりです。この作戦も既に相手に読まれていると考えるのが当然かと」

 

「! 何だとっ!!」

 

「心配するな。相手は強豪校だ。此方の事など歯牙にも掛けていない。その油断を突く」

 

桃が弘樹の言葉に激昂した様子を見せるが、十河はどや顔でそう言い放つ。

 

「それはつまり………敵がコチラの思惑に1から10まで乗ってくれると言う事を想定していると言う事ですか?」

 

「!? そ、それは………」

 

しかし、弘樹にそう指摘されると、忽ち動揺を露にする。

 

「先程、高所を押さえるのは兵法の基本と仰られていましたが、作戦は奇を以って良しとすべし………こう言う言葉もあります」

 

「うぐぐぐっ!!………」

 

更にそう言われて、十河は完全に黙り込んでしまう。

 

「全く………頭でっかちの立てる作戦は肝心な所が抜けている」

 

とそこで、腕組みをして仁王立ちしていた熾龍がそう毒を吐く。

 

「何ぃっ!!」

 

「貴様! 何か文句が有るのか!!」

 

十河と桃は、熾龍に噛み付こうとしたが………

 

「…………(ギロリッ)」

 

「「!? ヒイイッ!?」」

 

熾龍が鋭い眼光で睨み付けた瞬間に、2人して尻餅を着いてしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その姿を見て、先程まで作戦にノリノリだった一同も、不安を見せ始める。

 

「じゃあ、舩坂よぉ。オメェには何か考えがあるのか?」

 

するとそこで、俊が弘樹にそう尋ねた。

 

「………西住くん。宜しいかな?」

 

「!? ふえっ!?」

 

突然指名され、みほは驚きの声を挙げる。

 

「この隊の中で、戦車道の経験が有るのは君だけだ。歩兵側からの戦術案だけは完全な作戦は立てられない。是非、戦車側である君の意見を伺いたい」

 

「そ、それは………」

 

「是非お願いします、西住殿! 西住殿の戦術眼なら、間違いありません!!」

 

みほが戸惑っていると、優花里もそう言って来る。

 

一同の視線もみほに集まる。

 

「あ、う………」

 

戸惑いを残したまま、みほは立ち上がって、自分が考えた作戦を述べ始める。

 

「先ず、先輩達が立てた作戦を実行します。ですが、敵はそれを逆手に取って逆包囲される可能性も有ります。それに、経験不足の私達では、長距離砲戦では勝ち目は有りません。ですので、最初の作戦で敵を何両か撃破出来たとしても、すぐにその場から移動して、市街地に向かった方が良いかと………」

 

「成程………遮蔽物の多い市街地で待ち伏せを行い、ゲリラ戦に持ち込むんですね」

 

みほの戦術に、清十郎が頷く。

 

「ハイ。ですが、どっち道、敵の戦車や歩兵が間近まで接近するまで攻撃のタイミングを誤らない事が前提となります」

 

「それは………」

 

「厳しいですね………」

 

だが、そうみほが補足すると、柚子と逞巳が渋い顔をする。

 

「そこは部隊員を信頼するしかないな………あと必要なのは、状況に合わせて臨機応変に指揮を取る有能な指揮官だ」

 

するとそこで、迫信が扇子をパチンと閉じてそう言う。

 

「じゃあ、西住ちゃんが戦車隊の総隊長ね」

 

「えっ?………!? ええぇ~~~~っ!?」

 

突然杏から総隊長任命を受け、みほがまた驚愕の声を挙げる。

 

「では、歩兵部隊の総隊長は私が引き受けよう。異議の有る者は居るかね?」

 

迫信がサラリと自分が歩兵部隊の総隊長になると宣言しながら一同に向かってそう尋ねる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一同からは特に反対する様な声は挙がらず、寧ろ賛成だと言う様に拍手が鳴り始め、大拍手となっていった。

 

「ううう………」

 

その大拍手の中で、みほは困った様子を見せている。

 

ふと、その視線が弘樹を向いた。

 

「…………」

 

他のメンバーの様に拍手はしていないが、弘樹はジッとみほの事を見つめていた。

 

まるで彼女の事を信じていると言う様に………

 

(小官、舩坂 弘樹は、この全身全霊を持って来て西住 みほ殿を助け、その力となる事を此処に誓う)

 

(舩坂くん………)

 

みほの脳裏に、自分の力になると宣言した弘樹の姿が思い起こされる。

 

「………皆さん! よろしくお願いしますっ!!」

 

やがてみほは意を決した様に、皆に向かってそう頭を下げた。

 

途端に一同から再び大拍手が巻き起こる。

 

「頑張ってよ~。勝ったら素晴らしい賞品あげるから」

 

「えっ? 何ですか?」

 

「杏の事だから、どうせ………」

 

そこで、杏から不意に賞品が出ると言う言葉が飛び出し、柚子が驚くが、蛍は何か予想が付いている様子で呟く。

 

「干し芋3日分~っ!!」

 

「やっぱり………」

 

杏がそう言い放つと、蛍が苦笑いする。

 

「あの、もし負けたら?」

 

するとそこで、典子がそう尋ねる。

 

「うん? う~ん………大納涼祭りであんこう踊りを踊ってもらおうかな~」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「何~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

あんこう踊りと言う単語に、女子側は絶望した様な表情となり、男子側は歓喜に似た声を挙げる。

 

「ふえ? な、何?」

 

しかし、只一人、大洗に来て日が浅いみほは、如何言う事なのか分からず困惑する。

 

「あんこう踊りだなんて恥ずかし過ぎるぅ~っ!! あんなの踊っちゃったらもうお嫁に行けないよ~っ!!」

 

「絶対ネットにアップされて、全国的な晒し者になってしまいます~」

 

「一生言われますよね………」

 

と、傍に居た沙織、優花里、華が絶望した表情のままそう悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「そんなにあんまりな踊りなの………」

 

そんな3人の様子を見て、まだ見ぬあんこう踊りへの恐怖を募らせるみほ。

 

「聴いたかよ! あんこう踊りだってよっ!!」

 

「って事は、女学園の皆が『あの格好』で、『あんな事になって』!!」

 

「もう~! 溜まらんですな~っ!!」

 

「おっぱいぷる~んぷる~んっ!!」

 

一方、男子は了平を中心に興奮した様子を見せている。

 

如何やら、男子にとってはあんこう踊りは歓迎すべきものらしい。

 

「…………」

 

そんな露骨な態度に、弘樹は不快感を露にする。

 

すると………

 

「ふむ………女子がそれだけ過酷な事をすると言うのに、男子が何もしないと言うのは少々不公平だな」

 

迫信がボソリとそう呟いた。

 

「「「「「「「「「「………えっ!?」」」」」」」」」」

 

途端に男子側も、先程の興奮した様子から一転して絶望した様子となる。

 

「あ、あの~、生徒会長?」

 

「では、負けた場合、男子側はふんどし一丁で大洗海岸をランニングするとしよう」

 

「「「「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

了平が何か言う前に迫信がそう宣言し、男子側も騒然となった!

 

「ちょちょちょちょっ! 待って下さいよ、会長閣下~っ!!」

 

「そりゃ厳し過ぎますって~っ!!」

 

「ならば勝ち給え………」

 

抗議の声を挙げる男子生徒に、迫信は扇子で口元を隠しながら不敵にそう言い放つ。

 

「その通りだよ!! 勝てば良いんでしょっ!!」

 

「分かりました! 負けたら私もあんこう踊りやります! 西住殿一人に、辱めは受けさせませんっ!!」

 

「私もやります!!」

 

「私も!! 皆でやれば恥ずかしくないよっ!!」

 

「皆………ありがとう」

 

沙織、優花里、華、みほがそう言い、Aチームの団結が高まる。

 

「絶対に負けられなくなっちまったなぁ………」

 

「試合に臨む以上、そういう気持ちは常に持たねばならん………」

 

頭を抱えながら溜息混じりに呟く地市の隣で、弘樹はそう言い放つ。

 

(全国大会で優勝を目指す以上、経験が少ない我等は実戦で磨かれるしかない………茨の道だな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

チーム対抗の練習試合はみほ達のAチームと弘樹達のα分隊の勝利に終わりました。
しかし、息つく間もなく、次の別の学校との練習試合が始まります。

皆大好き、格言ティータイムお姉様こと『ダージリン』が率いる聖グロリアーナ女学院戦車部隊と、それを守る聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊。
いよいよ本格的な機甲部隊VS機甲部隊の戦いになります。
原作におけるグロリアーナとの試合は、ガルパン人気の火付けともなった話ですので、気合を入れて書きたいと思っています。

今回チラリと登場しましたが、聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊の面々の活躍も楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第9話『神狩 白狼さんとアインシュタインさんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第9話『神狩 白狼さんとアインシュタインさんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道復活、そして歩兵道再興の僅か数日後に………

 

全国大会準優勝経験を持つ強豪校………

 

『聖グロリアーナ女学院』と『聖ブリティッシュ男子高校』と練習試合を行う事となってしまった大洗機甲部隊。

 

戦車・武器の性能、隊員達の錬度に於いても圧倒的に差が有る絶望的な試合に臨むに当たり………

 

みほが戦車部隊の総隊長………

 

迫信が歩兵部隊の総隊長へと就任する。

 

負ければ、女子は『あんこう踊り』

 

男子は『褌一丁で大洗海岸をランニング』と言う、何とも恥ずかしい罰ゲームが待つ中………

 

大洗機甲部隊の面々は、少しでも勝機を上げようと、練習に励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹を先頭に、α分隊の面々が叫び声と共に駆け抜けて行き、そのまま前方の塹壕の中へと飛び込む。

 

直後に、機関銃の掃射が塹壕前の地面を耕し、榴弾が塹壕の背後の方に着弾して爆発した!

 

「くうっ!………」

 

声を漏らしながら、慎重に顔を出したα分隊の偵察兵が、双眼鏡を覗き込む。

 

双眼鏡で見た先には、ゆっくりとα分隊の居る塹壕へ進軍してくるBチームとβ分隊の姿が在った。

 

背後の方では、明夫を中心として砲兵部隊が、支援砲撃を行っている。

 

「敵軍、正面から進軍して来ます! 距離300!!」

 

「Aチームは!?」

 

「現在護衛部隊と共にBチームとβ分隊の背後へ向かって進行中! もう暫く掛かるとの事です!」

 

α分隊の偵察兵からの報告を聞くと、弘樹は通信機を持った突撃兵にそう尋ね、通信機を持った突撃兵はそう報告を挙げる。

 

「各員! Aチームが背後を衝くまで、此処で敵を引き付けろ!!」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の命令を聞いたα分隊の面々が、次々に塹壕から姿を現し、MG08/15重機関銃を二脚を立てて設置する。

 

「敵歩兵部隊は重機関銃を設置したでござる」

 

「チイッ! そうはさせるか!! 全軍! 弾幕を張りつつ一気に突撃やぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

β分隊の小太郎がそう報告を挙げると、大河がそう言い放つと、大洗連合の突撃兵達が、短機関銃や軽機関銃を乱射して弾幕を張りながら突撃を開始する!

 

α分隊が設置した機関銃陣地の周辺にも銃弾が飛び交い、何発かが近くの地面に着弾して、土片を爆ぜさせる。 

 

「うわぁっ! くそぉっ!!」

 

「落ち着け! 牽制で撃ってるだけだ! そうそうは当たらん! 十分に引き付けてから撃つんだっ!!」

 

思わずMG08/15重機関銃の引き金を引こうとした突撃兵を、弘樹はそう言って戒める。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その間にも、大河を中心としたβ分隊の突撃兵達は、硝煙の臭いを撒き散らしながら接近して来る。

 

「分隊長! まだですかっ!!」

 

「…………」

 

段々と至近距離を掠めたり、着弾したりする弾丸に恐れながら、α分隊の突撃兵の1人がそう声を挙げるが、弘樹は何かを待つ様にジッと動かない。

 

「オラオラ! らしくねえなぁ! 怖気づいたのか、大将ーっ!!」

 

と、勢いに乗った1人の大洗連合の突撃兵が1人飛び出し、先んじて敵の塹壕の中へと雪崩れ込もうとする。

 

………その瞬間!!

 

パアンッ!! と言う、乾いた甲高い音が響いたかと思うと、一人飛び出していた大洗連合の突撃兵が、側頭部に衝撃を受け、ブッ飛んだ!!

 

「グアハッ!?」

 

「!? 狙撃や! 散れ! 散れいっ!!」

 

倒れた突撃兵の姿を見て、即座にそれが狙撃による攻撃である事を察した大河は、すぐに突撃していた仲間に分散する様に指示する。

 

しかし、またも銃声が2度、3度と鳴り響き、次々に突撃していたβ分隊の歩兵達が倒れて行く。

 

「右方向に一人孤立しています」

 

「了解!」

 

一方、その狙撃を行っている演習場の塹壕地帯に面している鬱蒼とした林の中では、木の上で双眼鏡を手に観測手を務めている楓が、ギリースーツの様な姿で狙撃を行っている飛彗に指示を出していた。

 

楓の指示した方向にモシン・ナガンM1891/30を向けるとスコープを覗き込み、孤立していたβ分隊の突撃兵の一人にヘッドショットを決める!

 

「ぐはぁっ!?」

 

「チイッ! 狙撃地点は林の中か!!」

 

「良し! 撃てぇーっ!!」

 

と、狙撃によって突撃して来ていた大河達の足が止まったのを確認し、弘樹は遂に射撃命令を下す!!

 

途端に、爆竹の様なけたたましい音が幾重にも鳴り響き、α分隊の機関銃による掃射が開始された!!

 

「うわぁーっ!!」

 

「ぐわーっ!?」

 

薙ぎ払う様に次々と飛んで来る機関銃弾の前に、β分隊の突撃兵達が一人、また一人と倒れ、戦死と判定されて行く。

 

「アカンッ! 先ず狙撃の方を何とかせんと………」

 

「任せてぇーっ!!」

 

と、大河がそう声を挙げると、Bチームの八九式が前進して来て、林の方に砲塔を旋回させ、榴弾を発射する!!

 

風切り音を立てて林の中へと着弾した榴弾は、爆発と共に周囲に破片を撒き散らす!!

 

「クウッ!」

 

「宮藤さん! 移動しましょうっ!!」

 

幸い飛彗達が居る場所から離れた場所に着弾した様だったが、直撃を受けるのも時間の問題だと判断した楓が、木の上から降りてきてそう呼び掛ける。

 

「! 了解!」

 

ギリースーツ状態のまま、茂みの中を移動し始める飛彗。

 

「ドンドン撃てぇっ!!」

 

「ハイ! キャプテンッ!!」

 

そんな飛彗達を追い詰める様に、八九式は次々に榴弾を発射する。

 

「オイ、弘樹! 楓達が危ないぞっ!! 西住ちゃん達はまだかよっ!!」

 

「喚くな! 安心しろ! 西住隊長達は必ず来るっ!! それより弾を込めろっ!!」 

 

弘樹が撃っているMG08/15重機関銃の給弾手を務めていた了平が悲鳴の様な声でそう言うが、弘樹は一喝して装弾を続けろと言う。

 

「そーれっ!!」

 

「「「そーれっ!!」」」

 

と、その次の瞬間!!

 

八九式が放った何発目かの榴弾が、茂みを吹き飛ばし、隠れていた楓と飛彗の姿を露呈させた!

 

「!?」

 

「しまったっ!!」

 

「居たっ! あそこだ!! あけびっ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

典子がそう叫ぶと、砲手のあけびが、2人へと狙いを定める。

 

「撃………」

 

そして典子が砲撃命令を出そうとした瞬間!!

 

風切り音と共に、八九式のすぐ傍に砲弾が着弾した!!

 

「うわぁっ!?」

 

「「「キャアアアッ!!」」」

 

車体に走った激しい振動に、思わず声を挙げるBチーム。

 

「何やっ!?」

 

「むうっ!?」

 

大河と小太郎が驚きながら、砲弾が飛んできた背後を見やると、そこには………

 

「すみません! 外れてしまいました!!」

 

「大丈夫! まだチャンスはあるよ!!」

 

「よおしっ! このまま突っ込むぞっ!!」

 

別行動を取っていたみほ達AチームのⅣ号と、それに随伴していた地市を始めとした対戦車兵が、明夫達の砲兵部隊の背後から姿を現した!!

 

「! Aチームッ!!」

 

「チイッ! 回り込まれたか!! 全部隊反転しろっ!!」

 

典子が驚きの声を挙げ、明夫が砲兵部隊に反転指示を出すが………

 

「させるかってんだよぉっ!!」

 

地市がそう言い放ち、他の対戦車兵達と共に試製四式七糎噴進砲、並びに試作九糎空挺隊用噴進砲を発射!

 

ロケット弾が白煙の尾を引いて、明夫達の砲兵部隊へ次々に着弾するっ!!

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

砲兵達が宙に舞い、野戦砲が破壊される!!

 

「一気に突破しますっ!!」

 

「了解………」

 

その直後に、みほの号令でⅣ号が突撃!!

 

破壊された野戦砲の残骸を踏み越え、一気に砲兵陣地を突破するっ!!

 

「マズイッ! 急速反転っ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

迫り来るⅣ号を見て、慌てて反転しようとする八九式。

 

「させるかっ!!」

 

しかしそこで、弘樹が塹壕を飛び出し、戦闘服のベルトの腰に結んでいたM24型柄付手榴弾の収束手榴弾のピンを抜いて投擲。

 

八九式の右側面にぶつかった瞬間に爆発した収束手榴弾は、履帯を吹き飛ばすっ!!

 

「!? し、しまったっ!?」

 

「撃てぇっ!!」

 

忍が思わず声を挙げた瞬間!

 

八九式を射程内に捉えたⅣ号が発砲!!

 

砲弾は八九式の後部へと吸い込まれる様に命中!!

 

派手に爆発したかと思うと、八九式の砲塔上に、白旗が上がる。

 

『そこまで! 勝者、Aチーム及びα分隊!!』

 

「クッソーッ! やられたぁっ!!」

 

「ええいっ! あそこで突撃を続けとればっ!!」

 

亜美からの通信で、Aチームとα分隊の勝利が告げられると、典子と大河が悔しそうな声を挙げる。

 

「やったね! みぽりんっ!!」

 

「やりましたよ! 西住殿!!」

 

そこで、Ⅳ号のハッチが開き、Aチームの面々が顔を出すと、沙織と優花里がみほにそう言う。

 

「うん。皆ありがとう。舩坂くん達も」

 

「みほちゃ~ん! 褒めてくれるんだったら、序にご褒美も………!? ぐえぇっ!?」

 

「任務完了致しました、西住隊長」

 

調子に乗る了平の首根っこを掴みつつ、弘樹はみほに向かってヤマト式敬礼をする。

 

「やりましたね」

 

「いや~、一時は如何なるかと思いましたよ」

 

そこで、狙撃を行っていた楓と飛彗の2人も帰って来た。

 

「よう! 勝った勝った! 大勝利だな!!」

 

地市もやって来て、一同に向かってそう言う。

 

「宮藤くん。君が狙撃で突撃してきたβ分隊を押さえていてくれたお陰で今回の裏取りは上手く行った。感謝するぞ」

 

そこで弘樹は、今回の功労者である飛彗に向かってそう言う。

 

「いえ、そんな………僕がした事なんて、微々たるものですよ」

 

「謙遜する必要は無い。君の狙撃を見ていて、旧友の狙撃兵を思い出したよ」

 

「ええ、素晴らしい戦いぶりでしたよ、宮藤さん」

 

謙遜する飛彗に、弘樹はそう言葉を続け、華もそう褒めた。

 

「い、いや~、ハハハ………」

 

飛彗は、照れながら笑い、頭を掻く。

 

「………ケッ!!」

 

そして、その光景に露骨に面白くない顔をして舌打ちをする了平。

 

『コラァーッ! 何をやっているぅっ!! 演習が終わったのならとっとと戻ってこんかぁーっ!!』

 

とそこで、通信回線に嵐一郎の怒声が響き渡る。

 

「うおっ!? ヤベェッ! 最豪教官がお怒りだぞ!!」

 

「良し! 全員装備を回収して撤収っ!!」

 

地市がそう声を挙げると、分隊員達に装備を回収させ、撤収に入る。

 

「私達も行こう」

 

「うん。麻子さん、お願い」

 

「ホイ………」

 

その後にAチームのⅣ号も続き、その後ろでは何時の間にかやって来ていた女子学園の自動車部と男子校の整備部が、手早く損傷した八九式の回収作業に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園………

 

「じゃあ、今日の演習はコレまで!」

 

「各員! 反省点と改善点の報告書を纏め、次回の演習までに提出する様に!! では、解散っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

亜美と嵐一郎の両教官に向かって一礼しながら挨拶をする大洗機甲部隊の一同。

 

一同が礼をしている中、亜美と嵐一郎は、またもフルトン回収システムを使って帰還して行った。

 

「さ~て皆~! 練習試合の日はもうすぐだねぇ!!」

 

「絶対に勝つぞ! 全員その積もりで居ろっ!!」

 

と、教官達が帰ったのを確認すると、女子学園の生徒会メンバーが一同の前に出て、杏と桃がそう言い放って去って行く。

 

「いよいよかぁ………」

 

「何か今から緊張して来たぜ」

 

その言葉に、大洗機甲部隊の面々は少々ざわめいた後、各々に解散して行った。

 

「欲を言えば、もう少しでも戦力が欲しいところだな………」

 

そんな中、弘樹はそんな呟きを口にする。

 

「そう心配すんなって。コッチには軽犯罪ハンター様が居るじゃないか」

 

そこで、コレまでの演習で自信が付いて来て調子に乗ったのか、了平がそんな事を言う。

 

「了平………確かに、宮藤くんの技量は素晴らしいが、それだけで勝てるほど戦いは甘くないぞ」

 

そんな了平を戒める様に、弘樹がそう言う。

 

「…………」

 

と、当の飛彗は、何やら複雑そうな表情をしている。

 

「っと、すまない、宮藤くん。気を悪くさせてしまったか?」

 

その飛彗を見て、弘樹は自分の言葉が気に障ったのかと思い、謝罪するが………

 

「あ、いえ………そうじゃありません」

 

そうではないと、飛彗は否定する。

 

「じゃあ、一体如何したのですか?」

 

弘樹に代わる様に、今度は楓がそう尋ねる。

 

「…………」

 

飛彗はやや考えた様な素振りを見せたかと思うと………

 

「僕は………軽犯罪ハンターなんかじゃないんです」

 

弘樹達に向かってそう言い放った。

 

「「「えっ?」」」

 

「………如何言う事だ?」

 

飛彗の言葉に、地市、了平、楓が驚くが、弘樹は冷静に詳しく尋ねる。

 

「僕が痴漢やスリを撃退出来たのも、名誉市民賞を得たのも、少しだけの拳法を得たのも、みんな………『彼』のお蔭なんだ」

 

「彼?………彼とは?」

 

「僕に拳法を教えてくれた人ですよ。ハッキリ言って、僕より強いです」

 

「ならば是非、歩兵道に参加して欲しい人材だね」

 

とそこで、何時の間にか弘樹達の傍に現れていた迫信が、広げた扇子で口元を隠しながらそう言って来た。

 

「!? うおわぁ!?」

 

「会長閣下!?」

 

「と、唐突に姿を現さないで下さいよ………」

 

突如会話に参加して来た迫信に、地市、了平、楓は驚きを露わにする。

 

「………会長閣下ならご存知なのではないんですか? 僕が言う『彼』と言うのが誰かぐらい」

 

「勿論承知しているよ………だから、敢えて君が言うまで待っていたのだよ」

 

「流石、生徒会長閣下ですね」

 

「フフフ………」

 

皮肉る様な飛彗の台詞を、迫信は不敵に笑って流す。

 

「『彼』に会いたいんなら………今晩、この連絡船に乗って下さい」

 

飛彗はそう言って、折り畳んだメモの様な物を迫信に差し出す。

 

「うむ………」

 

迫信はそのメモを受け取ると、広げて中身を確認する。

 

「失礼します、会長閣下」

 

気になったのか、弘樹もそのメモを、迫信の後ろから覗き込む。

 

近くに居た他のメンバーも覗き込む。

 

「オイ、飛彗」

 

「ええんかいな?」

 

と、海音と豹詑が心配そうに、飛彗の元へやって来てそう尋ねる。

 

「別に隠す様に言われているワケじゃありませんし………それに、彼ならきっと力になってくれると思います」

 

飛彗は2人にそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れて、その日の夜………

 

飛彗、海音、豹詑、迫信、弘樹のメンバーが連絡船に乗り、飛彗達の友人が居ると言う場所へと向かった。

 

なお、交渉が目的の為、人数は最小限で良いと言う事になり、交渉役の迫信に加え、護衛を務める弘樹(熾龍は別件が有り、学園艦に残留)と言う少人数編成となっている。

 

飛彗達に指定された連絡船に乗り込み、海原を進んで行く弘樹と迫信。

 

やがて、船首に立つ2人の目に、黒い水平線に浮かぶ、大洗の学園艦より巨大な艦が飛び込んで来る。

 

「アレは………」

 

「学園艦………いや、スタジアム艦か」

 

迫信が、その巨大な艦を見てそう呟く。

 

海上に浮かぶ空母型の巨大な都市船と言えば、一般的に学園艦を示すが、実はコレ以外にも様々な都市船が存在している。

 

学園艦は学校を中心に都市や施設が建造されており、その所属は文部科学省となっているが、他にも工場を中心とした工業艦。

 

農業や畜産業を専門で行っている農業艦。

 

スキー場やゴルフ場、プールを備えたリゾート艦。

 

純粋な海上住居施設として建造されたマンション艦。

 

………と言った具合に、用途も目的も異なる様々な都市船が存在しているのだ。

 

無論所属も、経済省や農林水産省など区々である。

 

また、モデルとなった空母の様に、純粋に軍事施設として用いられている都市船も存在している。

 

今、弘樹と迫信の視界に見えているのは、様々な競技用やコンサート用の施設が建造されたスタジアム艦だった。

 

(………スタジアム艦に居ると言う事は、アスリートか何かの選手と言う事か?………! そう言えば………)

 

「さ、もうすぐ着きますよ」

 

と、そのスタジアム艦を眺めていた弘樹の脳裏に、ある事が過った瞬間に、連絡船はスタジアム艦の乗り入れ口へと到着しそうになり、船尾の方に居た飛彗達がやって来て、そう声を掛ける。

 

「………ああ、分かった。会長」

 

「うむ………では、会いに行くとしようか」

 

思考を中断した弘樹が、迫信とそう言葉を交わすと、連絡船はスタジアム艦の乗り入れ口へと到着。

 

飛彗達に案内され、とあるスタジアムへと向かうと入り口へと回り、飛彗達が受付を済ませると、中へと入って行く。

 

(このスタジアムは一体何の競技を行っているんだ?………)

 

そう思いながらも、迫信を護衛してスタジアムの中へと続く通路を、飛彗達に続く様に歩いて行く弘樹。

 

やがて、スタジアムの中の方から溢れんばかりの大歓声が聞こえて来る。

 

そして遂に、スタジアム内に辿り着くと………

 

目の前に広がったのは、オートバイのロードレース会場だった。

 

何台ものバイクが、爆音を撒き散らしながらコーナーを攻め、直線をブッ千切っている。

 

「此処は………オートバイのレース会場か」

 

「その様だね………」

 

スタジアム内を見回す弘樹と、相変わらず扇子で口元を隠している迫信。

 

「お~い、何やってんだぁ~!」

 

「こっちやで~!」

 

と、先に進んでいた海音と豹詑がそう呼ぶのを聞いて、弘樹と迫信は次のレースに参加するレーサー達が居るピットの前の観客席へと向かう。

 

ピット前では、バイクレーサー達が集まっており、其々がバイクを披露したり、インタビューに答えていたりと、様々な様子を見せていた。

 

「えっと………」

 

その中で、観客席で座った飛彗は誰かを探す………

 

「オイ! 来たぞっ!!」

 

すると、一人のカメラマンが挙げたその声で、カメラマン達が一斉にとある場所へと移動し始めた。

 

そこに居たのは、カッコいいヘルメットを被っている、一人のバイクレーサーだった。

 

ヘルメットを被っているので、顔は分からないが、身長や体格からして、弘樹達と同世代に見える。

 

「あ! 居た居た!」

 

「ほう………彼か」

 

「あの選手か………」

 

飛彗がそのレーサーを見てそう声を挙げ、迫信と弘樹もレーサーの姿を見やる。

 

「今日もブッ千切るぜ! カッコいい写真、期待しといてよぉっ!!」

 

カメラのフラッシュが一斉に点滅する中、レーサーはそう宣言する。

 

「さっ! 撮影は終わりよ! もうスタートするんだからっ!!」

 

すると、突然一人の女性が現れ、カメラマンを蜘蛛の子を散らす様に追い払った。

 

レーサーはそれを気にする事もなく、そのままスタートラインまで移動。

 

更に、別のレーサー達も次々にスタートラインへと着いて行く。

 

『いよいよ最終レースの始まりです! 勝利の栄冠は誰の手に!!』

 

そしてアナウンスと共に、シグナルランプが点灯し、カウントダウンが始まる。

 

レーサー達の乗るバイクのエンジン音が高くなり、歓声に湧いていたスタジアム内が嘘の様に静まり返る。

 

『5………4………3………2………1………スタートですっ!!』

 

シグナルランプが青に変わった瞬間、レーサー達は一斉にスタートした!!

 

再びスタジアム内が歓声に包まれる中、レーサー達は其々が凄いスピードで他選手のバイクを追い越しながら、ゴールまで走り抜け始める!

 

その中でも先程注目されたバイクレーサー………飛彗達の友人らしき人物が徐々にトップまで上り詰めて行く。

 

(早い………それに素晴らしい運転技術だ)

 

バイクの事は良く分からない弘樹だが、その弘樹の目にも、飛彗達の友人らしきレーサーの凄さは、直感にて感じられていた。

 

「…………」

 

一方の迫信は、相変わらず不敵に笑って飛彗達の友人らしきレーサーを見据えている。

 

そうこうしている間にレースはどんどん進み、ファイナルラップとなる30周目のラストパートにて………

 

「良し………行くかっ!!」

 

突如として飛彗達の友人らしきレーサーは、それまでまるで手を抜いていたかの様にスピードアップ!

 

アッと言う間に他のバイクレーサー達をゴボウ抜きに追い抜けて行くっ!!

 

「凄いっ!!」

 

「独走だぜっ!!」

 

「流石や!!」

 

飛彗、海音、豹詑からも歓声が挙がる。

 

そしてそのまま、宣言通りブッ千切りでチェッカーフラッグを切り、見事に優勝したのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表彰式が始まり、優勝したバイクレーサーは台に上がり、優勝カップを貰うと高々と掲げた。

 

「キャーッ! 『神速の狼王(ルボール)』!!」

 

「『無敵の怪物狼(ベオウルフ)』!!」

 

その直後に、興奮し過ぎたのか、押し寄せる波の如く、次々とファンがスタンドから直接レーサーの元へと押し寄せ始める!!

 

「貴方達! マナーは守りなさいっ!!」

 

しかしそこで、カメラマンを散らしたあの女性がまたも現れ、たった一人でファンを次々に追い払い始める。

 

「白狼! 今の内に!!」

 

「サンキューッ!!」

 

女性に言われて、白狼と呼ばれたレーサーは、マシンと共に退散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、バイクレーサーがバイクをトレーラー型のトランスポーターに収めていたところ………

 

「優勝おめでとう! 白狼!」

 

外からそう声が掛けられて、荷台から降りると、そこには飛彗、海音、豹詑の三人と、その後ろに控えている弘樹と迫信の姿が在った。

 

「!! ああ! 飛彗! 海音に豹詑も! やっぱり来てくれたんだな!!」

 

「当たり前じゃないか。折角貰ったチケットを無駄にしちゃいけないからね」

 

そう言うと飛彗は、来る途中で買って置いたドリンクを投げ渡す。

 

「サンキュッ! んぐっんぐっ………」

 

それをキャッチすると、蓋を開けて一気飲みするレーサー。

 

「プハーッ! ウメェーッ!………ところで、そっちに居るのは誰だ?」

 

そこでレーサーは初めて、後ろに控えていた弘樹と迫信について言及する。

 

「白狼………自分の学校の生徒会長ぐらい覚えておこうよ」

 

その言葉に、飛彗が呆れる様にそう言うと、迫信と弘樹はレーサーの元へと歩み寄る。

 

「初めまして、と言うべきかな? 『神狩 白狼』くん。私は大洗国際男子校の生徒会会長を務めている神大 迫信だ」

 

不敵な笑みを浮かべた表情で、迫信がレーサー………『神狩 白狼』に向かってそう言う。

 

「へえ~、よく俺の事知ってるな。学校に何か年に数回しか行ってないってのに」

 

「生徒会長として当然の事だよ」

 

少々嘗めた態度を取る白狼だが、迫信は特に気にする様な様子も見せず、淡々とそう言う。

 

「会長閣下。彼は?」

 

とそこで、白狼の事を知らない弘樹が、迫信にそう尋ねた。

 

「『神狩 白狼』………君と同じ2年の生徒だ。幼少の頃から自転車を乗り熟し、小・中学校時代の頃から、ジュニアバイクレーサーとして活躍。デビュー当時より信じられない記録を更新し続け、本格的なバイクレーサーへと昇格。更にはロードレースだけに留まらず、モトクロス、トライアル、ダートトラック、エンデューロ、果てにはバイクスタントと言ったオートバイ競技を、史上最年少で根こそぎ全て制覇し尽した男さ」

 

「………ホント良く御存じの様で」

 

ペラペラと白狼の経歴を語る迫信に、当の白狼は若干引く。

 

「…………」

 

その経歴を聞いた弘樹は、改めて白狼を見やる。

 

「………お前さんは?」

 

そこで白狼は、今度は弘樹の名を訪ねる。

 

「………県立大洗国際男子高校歩兵部隊所属、大洗女子学園戦車隊Aチーム随伴分隊分隊長………舩坂 弘樹」

 

それに対し、まるで軍人の様に所属と共に名を名乗る弘樹。

 

「歩兵部隊? って事は歩兵道者か? 歩兵道者と生徒会長様が俺に何の用だよ?」

 

生徒会長と歩兵道者の二人が、一体自分に何の用なのか、見当がつかない白狼は、首を傾げて更にそう尋ねる。

 

「白狼、実は………僕達全員、今年の必修選択科目で歩兵道を選択したんだ」

 

すると飛彗が、白狼に向かってそう言う。

 

「歩兵道を? アレ、一番人気がねえヤツだろ? そりゃまた何で?」

 

「それがよぉ、今年から大洗女子学園が戦車道を復活させたんだよ」

 

「それで応募者が殺到してなあ。機甲部隊が再編されたんや」

 

怪訝な顔を続ける白狼に、今度は海音と豹詑がそう言う。

 

「はあ~、そりゃまた………」

 

「それで白狼………白狼も歩兵道に参加してくれないかな」

 

そこで飛彗が、遂に本題を切り出す。

 

「白狼のバイクテクニックなら、歩兵道でも活躍出来ると思うんだ」

 

「今度の日曜日には練習試合があるんだけどよぉ………その相手は大会の準優勝校なんだよ」

 

「大洗機甲部隊は再編されたばかりで戦車の数と性能、歩兵の武装と数………何より隊員全員の練度が足りてないんや」

 

「で、俺にも参加して欲しいと?」

 

「如何かな?」

 

飛彗が改めてそう尋ねると………

 

「お断りだ」

 

白狼はアッサリとそう返した。

 

「! そんな!!」

 

「………理由は何だ?」

 

飛彗は慌てるが、弘樹は冷静にそう問い質す。

 

「俺にとってバイクは飽く迄道を走る交通手段………そしてレースを盛り上げてくれる大事なパートナーだ」

 

愛車のバイクを撫でる様に触りながら、白狼はそう言う。

 

「それ以外の手段に使ってしまうなんざ………とてもじゃないが許せねえんだよ」

 

「白狼! そこを何とか!!」

 

「頼むぜ、白狼!!」

 

「この通りや!!」

 

そう説明する白狼だったが、飛彗、海音、豹詑の三人は拝み込む様にして食い下がる。

 

「そう言われてもなぁ………」

 

それでも気が乗らない様子の白狼。

 

すると………

 

「神狩くん。君がもし歩兵道に参加し、優秀な成績を納めてくれたのなら、生徒会長として君の願いを何でも叶えてあげよう」

 

迫信がいきなり、切り札とも言える歩兵道参加者への破格の条件を切り出した。

 

「………何?」

 

それを聞いた途端に、白狼の顔色が変わる。

 

「本当に『何でも』良いんだな」

 

「勿論だとも。生徒会長として約束しよう………但し、歩兵道に参加し、優秀な成績を納めてくれたと言う事が前提だがね」

 

やけに嫌な笑みを浮かべる白狼に、迫信は不敵に笑ったまま、扇子で口元を隠す。

 

「今言った言葉を忘れるなよ………交渉成立だ」

 

「本当かい、白狼!」

 

それを聞いた飛彗が、嬉しそうな声を挙げる。 

 

「但し! 条件が有る!」

 

しかしそこで、白狼はそういう台詞を言い放つ。

 

「何かね?」

 

「『バイクは使わない』………それだけだ」

 

「良いだろう………我々が欲しているのはレーサーでは無い。歩兵だ」

 

迫信をアッサリと白狼の条件を飲んだ。

 

まるで全てが予定通りだと言わんばかりであるとばかりに。

 

「………食えねえ野郎だぜ」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

「あ! 居た!! 神狩くんよぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「キャーッ!!」」」」」」」」」

 

するとそこで、白狼を探していたと思われるファンが現れ、アッと言う間に地響きを立てて走り寄って来る

 

「おっと! マズイな………細けえ話はまた後だ!!」

 

「会長閣下! 此方へ!!」

 

「うむ………」

 

「僕達も逃げましょうっ!」

 

「「アラホラサッサーッ!!」」

 

ファンを撒く様に、取り敢えず全員がその場から脱出する。

 

そしてその後………弘樹達の一同は連絡船に乗って大洗へと帰還。

 

白狼も、後に別の連絡船で帰って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

大洗女子学園の戦車格納庫前にて………

 

久方ぶりに登校した白狼は、選択科目の授業にて歩兵道の授業へと参加する。

 

「諸君。新メンバーを紹介しよう………神狩 白狼くんだ」

 

「宜しくな」

 

集まって歩兵部隊の面々の前で、白狼を紹介する迫信と、軽い感じで挨拶をする白狼。

 

(アレが噂の新メンバーか………)

 

(結構、ガタイはええやないけ)

 

(でも、僕達と一緒で、歩兵道は初心者なんですよね………)

 

白狼の姿を見た大洗歩兵部隊の面々は、内心で様々な反応を示す。

 

「オイ、新入り!」

 

とそこで、教官である嵐一郎が、白狼へと声を掛ける。

 

「本来ならば貴様には一から基礎を叩き込みたいところだが、生憎と時間が無い。他の者と同様の訓練を受けながら死ぬ気で基礎を覚えてもらう! 覚悟しておけ!!」

 

「へ~い」

 

まるで脅すかの様に言う嵐一郎だったが、白狼は軽く流す。

 

「気の抜けた返事をしおって………全員! 訓練開始だぁっ!!」

 

そんな白狼の様子に眉を顰めながらも、嵐一郎は訓練を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練中………

 

初めて歩兵道へと参加した白狼の腕は………

 

予想だにしないほど酷かった。

 

銃器の扱いがてんでなってない上に、撃ち方や装填の仕方すら碌に分からず………

 

挙句には、手榴弾を本体ではなく、ピンの方を投げると言うぽかをやらかし、嵐一郎の頭を抱えさせた。

 

期待していた歩兵部隊員の反応も、飛彗達を除いて次第に冷やかなものとなって行く。

 

「クッソーッ! 上手く行かねえなぁ………」

 

本人は悔しそうにはしているものの、深刻に気にしている様子は無かった。

 

だが………

 

その日の演習の締めに、ランニングをするという指示が出た時………

 

嵐一郎教官が行ったとある優遇措置にて………

 

白狼の評価に一石を投じる出来事が発生する。

 

 

 

 

 

「よーし! 本日の演習の締めとしてランニングを行う! しかし!! 諸君等も連日の演習にて疲労しているだろう!! そこで、特別措置を行うものとする!!」

 

「特別措置ぃ?………」

 

集まった大洗歩兵部隊の面々に、嵐一郎がそう言い放つと、地市が首を傾げながら反復し、他の面子もざわめき立つ。

 

「アレを見ろ!」

 

嵐一郎がそう言って、自分の背後を見せる様に移動して、後方を指差したかと思うと………

 

そこには何時の間にか、演習場の地面に止め具で固定された高いポールが在った。

 

その天辺には、旗が挿されている。

 

「あのポールの上に有る旗をとった者だけ、私のジープに乗せてやる! 楽がしたければ死ぬ気で取りに行けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

嵐一郎がそう言った瞬間、ポールへと殺到する大洗歩兵部隊の隊員達。

 

「俺が貰った!!」

 

「いや俺だ!!」

 

「俺のモンだぁっ!!」

 

全員が我先にと旗を奪取しようとする。

 

しかし、それまでの訓練の疲労のせいで、誰もが真面にポールを登れない………

 

「やれやれ………」

 

「お前は行かないのか?」

 

そんな光景を弘樹が呆れた目で見ていると、白狼がそう声を掛けてくる。

 

「走らなければ訓練にならんだろうが」

 

「真面目だね~、お前」

 

さも当然の様にそう返す弘樹に、今度は白狼が呆れた様な表情となる。

 

「そう言うお前は行かんのか?」

 

「ん~、もうちょっと待ってからかな?」

 

弘樹の質問に、白狼は不敵に笑ってそう言う。

 

 

 

 

 

数分後………

 

「「「「「ゼエ………ゼエ………」」」」」

 

「「「「「ハア………ハア………」」」」」

 

大洗歩兵部隊の隊員達は、全員が疲労困憊の状態でポールの周辺に蹲っていた。

 

「ご苦労さん」

 

するとそこで、今まで離れて見ていた白狼が、遂にポールへと近づく。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

最早声を出す元気も無く、ただ無言で白狼に注目する大洗歩兵部隊の隊員達。

 

そして白狼は、遂にポールの近くへと立つ。

 

登るのかと全員が注目していると………

 

何を思ったか、白狼はポールの根元にしゃがみ込んだ。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

意図が分からず、大洗歩兵部隊の隊員達が困惑していると………

 

「へへへへ………」

 

白狼は笑いながら、戦闘服から何時も持ち歩いているバイク整備用の工具を取り出す。

 

そして、ポールの止め具を外し始めた。

 

止め具を外されたポールは、呆気無く地面に倒れる。

 

「ホイッ! 取ったぜ!」

 

倒れたポールの天辺に近づくと、旗を取って嵐一郎に見せながらそう言う白狼。

 

「………うむ、良いだろう………乗れ」

 

「「「「「「「「「「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

そんなのアリかよ、と言う様な大洗歩兵部隊の隊員達の声が挙がる中、白狼は嬉々としてジープへと乗り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、程なくしてその日の演習は終了。

 

疲労困憊している大洗歩兵部隊の隊員達を尻目に、白狼は一人涼しい顔をしていた。

 

「よ~し! 訓練終わり~っ!!」

 

「今日はココまでだ!!」

 

亜美と嵐一郎が、集合した戦車道受講者と歩兵道受講者達に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」」」」」」

 

「明後日はいよいよ練習試合ね! 私も見に行くからね!!」

 

「まあ、『今』のお前達の実力で聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校に勝てるとは思えんがな………精々胸を借りる積もりで負けて来い!」

 

そう言うと、亜美と嵐一郎はまたもフルトン回収システムを使って、帰って行ったのだった。

 

「いよいよ明後日か………」

 

「そうだ! 明後日にはいよいよ練習試合となる! 明日はそれに備えて休養日とする! 全員身体をしっかりと休め、試合に備える様に!!」

 

地市が緊迫して来た様子でそう呟くと、桃が一同に向かってそう言い放つ。

 

「今日までの演習には十分に打ち込んできましたが………やはり不安ですね」

 

「相手は準優勝経験校なんだろう………ゼッテー負けるって」

 

楓が不安な表情、了平が絶望した表情でそう呟く。

 

「そこぉっ! 弱気な発言をするな! この敗北主義者めっ!!」

 

「ありがとうございますっ!!」

 

その発言を聞いていた桃がそう罵声を飛ばしたが、何故か了平はお礼を言う。

 

「けど、実際にコレまでの演習でも色々と出来ていない事が有るのは事実です」

 

「特に連携がなぁ………一番大切な要素だってのに………」

 

清十郎と俊も、そう不安を呟く。

 

「う~ん………通信兵みたいな人が居てくれたらなぁ」

 

するとそこで、蛍がふとそう呟いた。

 

「? 通信兵?」

 

「ホラ、SFのミリタリー物とかでさ、行動している兵士に逐次状況や命令を伝えてくれる通信の人が居たりするでしょ?」

 

それを聞いた柚子が呟くと、蛍はそう説明する。

 

「つまり………オペレーターか」

 

「そう! そうです、それっ!!」

 

迫信がそう言うと、蛍が『それだ!』と言う顔になる。

 

「確かに、戦場全体を常に把握し、状況を伝えるオペレーターが居れば有利になれる」

 

「けど、そんな人材や装備がそう都合良く………」

 

十河も顎に手を当ててそう呟くが、逞巳は人材と装備が無いと言う。

 

「それなら心当たりが無くもないぜ」

 

するとそこで、白狼があっけらかんとそう言い放って来た。

 

「! 何っ!?」

 

「本当かい、神狩くん!」

 

桃と逞巳が驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

それに対し、白狼は返事も碌にせず、自分のバックから一台のノートパソコンを取り出す。

 

「パソコン?」

 

沙織がそう呟くと、白狼はノートパソコンを起動させる。

 

すると、ディスプレイに『Einstein』と言う文字が浮かび上がる。

 

「よう、アインシュタイン。ご機嫌如何かな?」

 

『白狼か。久しぶりだね。元気そうで何よりだ』

 

白狼がそう言うと、そのノートパソコンから合成音声で返事が返って来る。

 

「! アインシュタインですって!?」

 

とそこで、アインシュタインと言う名を聞いた清十郎が驚きの声を挙げる。

 

「? 誰?」

 

「歴史上の人?」

 

「アインシュタインと言えば、有名な物理学者の名前だけど………」

 

しかし、事情を知らない大洗女子学園のメンバーと、男子校のメンバーの大半はワケが分からずざわめく。

 

「噂には聞いていたんだがな………4歳にして回路基盤を作り、6歳でエンジンを制作。そして15歳でMITを首席で卒業している超天才がウチの学校に居るってよぉ」

 

「全国でもトップレベルの学力を誇り、進学実績を挙げる事を条件に授業の欠席を黙認されており、全ての授業は独学で図書館で勉強していると言う話だったが………まさか神狩 白狼の友人だったとはな」

 

そこで俊と十河が、一同に説明するかの様な台詞を言う。

 

「MIT卒業って………」

 

「そんな凄い人が僕達の学校に居たんですね」

 

唖然としている了平と、感心する楓。

 

「アインシュタイン。実はお前に頼みがあってな」

 

『ほう? 何だい?』

 

そんな中、白狼はアインシュタインに、先程の件を説明する。

 

「………と言うワケでよぉ」

 

『つまり、そのオペレーターを僕に務めてもらいたいって事かい?』

 

「引き受けてくれねえか?」

 

白狼の問いに、アインシュタインは暫し沈黙する。

 

『………本来ならば野蛮な戦争ごっこに何か関わりたくないところだが、他ならぬ君からの頼みだ。引き受けよう。但し、何時も通り、僕の姿は見せないよ』

 

「それで十分だぜ」

 

「良かったぁ。コレで少しは試合が有利になりますね」

 

成り行きを見守っていた一同の中で、柚子が安堵した様にそう言う。

 

「待って下さい!」

 

するとそこで、異議を唱えるかの様に声を挙げた人物が居た。

 

西住 みほだ。

 

『………何かな? 西住 みほ戦車隊長殿』

 

皮肉る様に、アインシュタインはみほをフルネーム+役職を付けて呼ぶ。

 

「戦車道や歩兵道にとって大事な事は、チームのメンバーを信用して、お互いに信頼し合う事です」

 

『だから?………僕の事は信じられないと?』

 

「ううん、違うの。私は信じてます! アインシュタインさんが私達の期待に答えてくれる人だって………だから! アインシュタインさんも私達を信じて姿を見せて欲しいんです!!」

 

『…………』

 

みほの言葉を黙って聞き入るアインシュタイン。

 

『………考えておこう』

 

しかし、アインシュタインがそう言ったかと思うと、ノートPCの電源が切られてしまう。

 

「あ…………」

 

「ふむ………」

 

みほは落ち込んだ様子となり、弘樹も戦闘帽を目深に被り直す。

 

「ま、兎に角! 明後日は皆頑張ってね~っ!!」

 

杏が空気の悪くなった場をそう纏め、一同は済し崩し的に解散して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・艦舷の公園にて………

 

「はあ~、やれやれだぜ」

 

演習を終え、解散した一同の中で、白狼は一人真っ直ぐ家には帰らず、学園艦・艦舷の公園に来たかと思うと、ベンチへと寝転がる。

 

「はあ~………海風が気持ち良いぜ」

 

寝転がった状態で、肌に吹き付ける様な海風を感じ、そう呟く白狼。

 

「随分と気持ち良さ気だな、神狩」

 

と、そんな白狼に声を掛ける人物が居た。

 

「! その声は!?」

 

その人物の声を聞いた白狼は、すぐさま起き上がり、声を掛けてきた人物を確認する。

 

そこに居たのは、初老ぐらいの男性だったが、妙に迫力と言うか、オーラを持っている。

 

まるで三番目の改造人間か、五色の戦士の青い戦士か、改造人間戦隊の行動隊長か、日本一のさすらいの私立探偵を思わせる。

 

「おやっさん!!」

 

白狼はおやっさんと呼んだその人物の元へと走り寄ったかと思うと、拳を握りパンチを繰り出した。

 

おやっさんと呼ばれた初老の男性は片手を出し、難なくその拳を受け止める。

 

「よー、白狼! あいも変わらず元気にしてたか?」

 

「当たり前だろ! 毎日毎日、バイクだけじゃなく練習してたからな!」

 

「そうか。だったらかなりの鍛錬をしたんだろうな」

 

「もう何年も経つんだ? 独学でやったりもするけど、今一つ超えきれないところがあってよぉ………なあ、おやっさん! また色々と教えてくれよ!」

 

如何やらおやっさんは白狼の師匠でもあるらしく、大分砕けた様子で接している白狼。

 

「そうか。だったら丁度いい………俺に教えて欲しい事があるなら黒森峰に来ると良い。俺はそこでバイクの整備長も兼ねている」

 

何と!!

 

おやっさんは黒森峰の所属だと言う衝撃の事実がアッサリと飛び出す。

 

「本当かよ! あそこの学園めっちゃくちゃ有名校じゃねえか!!」

 

「ああ、俺は有名人だからな。それにお前を凌ぐかもしれない逸材も居ると聞いてな」

 

その後、二人は親しげに会話を続け、日が落ちた頃に漸く両者とも帰路に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回グロリアーナ戦を書くと言っていましたが、予定が少々狂い、グロリアーナ戦の始まりは次回以降となってしまいました。
誠に申し訳ありません。

で、今回の話ですが………
新キャラ『神狩 白狼』と『アインシュタイン』の登場です。

白狼は以前の投稿で批判を受けた篝 火蝋のリメイクキャラで、リメイク前より大分温和になっています。
物語の進行上、彼が中心となって進む場面もあります。

アインシュタインは前でもチラリと出ていたキャラで、白狼の出番がズレたので、一緒に出番がズレる形になりました。
戦闘には出ず、サポートに徹するキャラです。
やはりこういうキャラもいた方が良いかと思いまして。

で、次回から本当にグロリアーナ戦が始まります。
精一杯頑張ります。

これからも、よろしくお願いします。


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第10話『グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第10話『グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた日曜日の早朝………

 

舩坂家の玄関にて………

 

「…………」

 

戦闘服姿の弘樹が、神妙な面持ちで、足にゲートルを巻きつけている。

 

「………良し!」

 

巻き終わると、気合を入れる様にそう言って立ち上がり、戦闘帽を被り直す。

 

「お兄様………」

 

とそこで背後から声を掛けられて振り返ると、何時の間にか紬姿の湯江が立っていた。

 

「! 湯江! 早いから寝てて良いと言っただろう」

 

「いえ、大切な試合の日ですから。ちゃんとお見送りしないとと思いまして」

 

前日に湯江を気遣って見送りは入らないと言っておいた弘樹だったが、湯江はそう言い返す。

 

「全く、誰に似たんだか………」

 

「フフフ、お兄様に似たんですよ。妹ですから」

 

呆れる弘樹に、笑いながらそう言う湯江。

 

「やれやれ………じゃあ、言ってくる」

 

「御武運を、お兄様………試合の様子も、お友達と一緒に見させていただきますね」

 

「期待を裏切らないよう善処する」

 

そして、湯江に見送られて、弘樹は家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通学路………

 

「よう、舩坂くん! 早いね!!」

 

早朝のジョギングをしていた近所の中年男性が、弘樹を見てそう声を掛ける。

 

「お早うございます。今日は練習試合がありまして」

 

「おお、そうか! 是非見に行かせてもらうよ! 頑張るんだぞっ!!」

 

「ハッ! ありがとうございますっ!!」

 

そう会話を交わして、弘樹は再び大洗女子学園へと向かい始める。

 

すると………

 

背後からエンジン音と共にキャタピラの鳴る音が聞こえて、細かな振動が伝わって来る。

 

「あ! 舩坂くんっ!!」

 

と、その音と振動が弘樹の背後まで来たかと思うと止まり、そう言う声が振って来る。

 

振り返った弘樹が見たのは、Ⅳ号戦車と、そのキューポラから上半身を出しているみほの姿だった。

 

「やあ、お早う、西住くん。如何したんだ、戦車で? 女子学園の方に集合だったんじゃなかったのか?」

 

「えっと、冷泉さんを迎えに行ってて………」

 

「成程………それで彼女は起きれたのか?」

 

「一応………」

 

弘樹とそう会話を交わし、みほは車内を見やる。

 

「………眠い」

 

そこには、砲手席に座らされた、未だに寝ぼけている麻子の姿が在った。

 

「舩坂くん、良かったら乗ってかない?」

 

とそこで、通信手席から顔を出した沙織が、弘樹にそう言う。

 

「そうさせてもらうよ」

 

それを聞くと、弘樹はⅣ号の車体の上に攀じ登る。

 

「それじゃあ、改めて学校に向かって、パンツァー・フォーッ!!」

 

みほがそう言うと、Ⅳ号は再び前進し始めた。

 

「いよいよだね………」

 

「ああ………」

 

「アインシュタインさん………姿を見せてくれるかな?」

 

「分からんが………今となって信じるしかないな」

 

不安げに表情を浮かべるみほに、弘樹はそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

大洗女子学園に集合した機甲部隊の面々は、全員の集合を確認すると移動を開始。

 

現在は学園艦の昇降用ドックで、一般車と共に、学園艦が大洗の港に着くのを待っている。

 

「陸が見えてきたぞーっ!!」

 

くろがね四起の助手席に居た地市がそう声を挙げると、全員が学園艦の進路上を見やる。

 

彼の言葉通り、そこには陸の………

 

大洗町が広がっていた。

 

「久しぶりの陸だー。アウトレットで買い物したいな~」

 

「試合が終わってからですね」

 

久しぶりの上陸ではしゃぐ沙織に、華がそう言う。

 

「ええ~~っ! 昔は学校が皆陸に在ったんでしょう? 良いな~。私その時代に生まれたかったよ~」

 

「私は海の上が良いです。気持ち良いし、星も良く見えるし」

 

「…………」

 

沙織と優花里がそんな事を言い合っている中、みほは大洗の町を見つめていた。

 

「西住さんは、まだ大洗の町、歩いた事無いんですよね?」

 

そんなみほに、華がそう声を掛ける。

 

「あ、うん」

 

「後で案内するね!」

 

すると沙織も、みほに向かってそう言う。

 

「ありがとう」

 

「序にデートなんか………」

 

「試合を前に、何を浮ついた気持ちでいる?」

 

すると、ドサクサに紛れて、了平がみほをデートに誘おうとしたが、弘樹がそう言って了平を睨み付ける。

 

「ハイ、スミマセン………」

 

「何で片言なんですか?」

 

恐怖のあまり片言になる了平に、楓が突っ込みを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして小1時間後………

 

学園艦は大洗町の港に入港。

 

大洗機甲部隊の一同は、専用のタラップを使って下船を始める。

 

すると………

 

そんな一同に突如影が掛かる。

 

「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

 

何事かとみほ達と弘樹達が頭上を見上げると、そこには………

 

大洗の学園艦よりも何倍も大きな学園艦が、大洗学園艦が入港している隣の港へと入港して来ていた。

 

「デカッ!!」

 

「オイオイ、デカ過ぎだろうっ!?」

 

沙織と了平が思わずそう声を挙げる。

 

「アレが………『聖グロリアーナ女学院』と『聖ブリティッシュ男子高校』の学園艦か………」

 

「…………」

 

地市がそう呟く隣で、弘樹も無言で聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の学園艦を見上げている。

 

「! 楓! 双眼鏡を貸してくれっ!」

 

するとそこで弘樹は、何かに気づいた様に楓にそう言う。

 

「えっ? あ、ハイ」

 

一瞬戸惑いながらも、偵察兵用の双眼鏡を弘樹へ手渡す楓。

 

「…………」

 

楓から受け取った双眼鏡で、弘樹は聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の学園艦の側面部を見やる。

 

そこには、まるで軍事パレードの様に騎馬兵を混じえ、バグパイプを中心とした軍楽隊が奏でる行進曲と共に、綺麗な隊列を組んで下船準備に掛かっている聖グロリアーナ女学院戦車部隊と聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊の姿が在った。

 

「アレが聖グロリアーナ女学院戦車部隊と聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊か………」

 

「まるで本当にイギリスみたいですね」

 

「アイツ等も俺等と同じで大半日本人の筈なんだがなぁ………」

 

十河、清十郎、俊が聖グロリアーナ女学院戦車部隊と聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊を見てそんな事を呟く。

 

「…………」

 

そんな中、弘樹は注意深く、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の様子を伺っている。

 

と、その弘樹の目がとある歩兵で止まる。

 

それは、馬に跨って腰にフルーレを差した、第二次世界大戦時のイギリス陸軍の戦闘服を着た歩兵………『アールグレイ』だった。

 

(あの歩兵………)

 

双眼鏡越しの遠目でも分かる程に、アールグレイからは気迫が溢れている。

 

それと同時に、まるで騎士の様な気高さも感じさせられる。

 

(………強い)

 

それだけで、相手がかなりの手練である事が、弘樹には見て取れた。

 

「…………」

 

すると、アールグレイが双眼鏡を覗いている弘樹の方を見やる。

 

「!?」

 

「…………」

 

双眼鏡を通して、弘樹とアールグレイの視線が交差する。

 

「…………」

 

そんなアールグレイの視線を暫く真正面から見据えていたかと思うと、弘樹は双眼鏡を離した。

 

「如何したんだ? 弘樹?」

 

知らずの内に険しい表情を浮かべていた弘樹に、地市がそう声を掛ける。

 

「いや………何でも無い」

 

しかし、すぐにいつもの仏頂面に戻ると、そう言いながら双眼鏡を楓に返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の学園艦の昇降用ドッグの方でも………

 

「…………」

 

弘樹が双眼鏡を外した後も、アールグレイは弘樹の方を見やっていた。

 

「如何した? アールグレイ?」

 

そんなアールグレイの様子に気づいたセージが声を掛ける。

 

「いえ………何でもありません」

 

アールグレイはそう言うと、視線を前に戻した。

 

「珍しいですわね。試合に臨む前の貴方がボーッとするなんて………」

 

と、すぐ前を進んでいた『チャーチル歩兵戦車Mk.Ⅶ』の砲塔ハッチから上半身を出していたパンツァージャケット姿のダージリンが、アールグレイの方を振り返りながらそう言う。

 

「そう言うワケではない………」

 

「なら大丈夫ですわね。頼みますわよ………我が騎士(ナイト)さん」

 

ダージリンはそう言って、不敵に微笑む。

 

「………イエス、マイ・ロード」

 

アールグレイはそう答え、騎士が忠誠を示すポーズを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に小1時間後………

 

大洗の町で、練習試合に便乗した催しや、試合観戦の準備が整う中………

 

戦闘開始前の集合場所に先に集合した大洗機甲部隊は、戦車を横一列に整列させ、その前に其々の随伴歩兵分隊が総隊長である迫信を先頭にし、その後ろに各分隊長が整列。

 

そしてその後ろに、各随伴分隊の隊員達が整列している。

 

更に最前列には各戦車の車長達が整列し、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が来るのを待っている。

 

「………来たか」

 

と、迫信がそう呟いたかと思うと………

 

土煙を上げる1両のチャーチル歩兵戦車と4両のマチルダⅡ歩兵戦車と共に、『英国擲弾兵連隊行進曲』を奏でながら、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が姿を現した。

 

「何や………けったいな連中やなぁ」

 

「パレードやってんじゃねえんだぞ」

 

そんなグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の姿を見て、大河と秀人がそう呟く。

 

その間に、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、大洗機甲部隊の眼前までやって来て、同じ様に戦車を横一列に整列させ、其々の戦車の随伴歩兵分隊を前に整列させる。

 

そして、チャーチル歩兵戦車からダージリンが出て来て、マチルダⅡからも各車長が出て来て、歩兵達の前に整列し、大洗機甲部隊と同じ状態となる。

 

「本日は急な申し込みにも関わらず、試合を受けていただき、感謝する」

 

両校が整列したのを確認すると、大洗側の代表として、桃がダージリンに向かってそう言う。

 

「構いません事よ………」

 

ダージリンは笑みを浮かべてそう返す。

 

「それにしても………個性的な戦車と歩兵の方々ですわね」

 

しかし次の瞬間には、口元を手で隠してそう言う。

 

「なっ!?」

 

「まあ、そうですよね………」

 

『何を!』と言いたげな桃に対し、逞巳は同意する様にそう呟く。

 

戦車はピンク1色や金ピカにされ、歩兵部隊は色々な国の戦闘服を来た面子が乱雑しており、纏まりに欠けていると言われればその通りだと言わざるを得ない。

 

「ですが、私達はどんな相手にも全力を尽くしますの。サンダースやプラウダみたいに下品な戦い方は致しませんわ。騎士道精神でお互い頑張りましょう」

 

ダージリンは大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

(やっぱり如何見ても寄せ集めの急造部隊って感じだな)

 

(ああ、悪いけど、こりゃ戴きだな)

 

一方、後方に並んでいるブリティッシュ歩兵部隊の中には、大洗機甲部隊のチグハグぶりを見て、そんな事を呟く者が居た。

 

「…………」

 

そんな中、アールグレイは大洗機甲部隊を1人1人、車両や装備の1つ1つに至るまで観察し、データとして脳へとインプットして行く。

 

と、やがてその視線が、弘樹へと向けられる。

 

(! あの男………)

 

弘樹を見た途端、アールグレイは何かを感じ取り、視線に力が入る。

 

「………!」

 

すると、その視線に気づいた弘樹が、アールグレイを見返す。

 

「「…………」」

 

弘樹とアールグレイは、そのまま互いに鋭い視線で相手を見合う。

 

「それではコレより! グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊対大洗機甲部隊の試合を始める!」

 

するとそこで、今回の試合で審判を勤める『篠川 香音』、『高島 レミ』、『稲富 ひびき』の3人の内、主審である香音がそう声を挙げる。

 

「「!!」」

 

それを聞いて、両者は視線を互いの部隊全体へと移す。

 

「一同! 礼っ!!」

 

香音がそう言うと、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と大洗機甲部隊の面々は、互いに一斉に礼をしたのだった。

 

そして礼が終わると、両者は踵を返して自軍の元へと戻り、互いに戦闘開始地点へ移動を始める。

 

「………ダージリン。気をつけろ」

 

すると、愛馬へと跨り、チャーチル歩兵戦車の横へ付けて来たアールグレイが、ハッチから上半身を覗かせていたダージリンにそう言った。

 

「ええ………あの歩兵ですわね」

 

ダージリンは分かっていると言う様にそう返す。

 

「歩兵が如何かしたんですか?」

 

すると、装填手席のオレンジペコが、ダージリンの事を見上げながらそう尋ねる。

 

「大洗の歩兵部隊の中に1人………少々気になる人が居まして」

 

「高々歩兵1人がですか?」

 

歩兵1人を妙に警戒するダージリンを、砲手席のアッサムも、らしくないと言う様に見上げる。

 

「高が歩兵1人………されど歩兵1人ですわ」

 

しかし、ダージリンは真面目な顔でそう言う。

 

「彼には例えるなら、そう………炎の臭いが染み付いているわ」

 

「炎の臭い?」

 

「ええ………まるで『むせる』様な………」

 

ダージリンの脳裏に、燃え盛る炎を背に、ゆっくりと歩いてくる弘樹の姿のイメージが広がる。

 

「奴は巨大な不発弾の様なモノだ………巧まずして仕掛けられた地中の闇に眠る殺し屋………それは突然に目を覚まし、偽りの平穏を打ち破る」

 

アールグレイも、詩的な言い回しと共に、弘樹への警戒感を露にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

スタート地点へと移動した大洗機甲部隊は………

 

「いよいよ試合開始か………」

 

「アインシュタインさんは………来てくれるかな?」

 

試製四式七糎噴進砲のチェックをしている地市と、Ⅳ号のキューポラから上半身を出した状態で居たみほがそう呟く。

 

「少なくともオペレーターの件は承知してくれていた筈だ………必ず来る筈だ」

 

三八式歩兵銃に銃弾を装填しながら、弘樹がそう言う。

 

「間も無く試合開始時間だな………」

 

と、迫信がそう呟いた瞬間………

 

「………ん? オイ! アリャ何だっ!?」

 

するとそこで、磐渡が何かに気づいた様に声を挙げる。

 

見れば、大洗機甲部隊に向かって近づいて来る、1両の装甲車………『AEC 四輪駆動装甲指揮車』の姿が在った。

 

「! アレはっ!?」

 

「イギリスのAEC装甲指揮車ですぅっ! AEC マタドールを基とした四輪駆動のタイプですね!!」

 

「うむ。北アフリカ戦線で3両がドイツアフリカ軍団に鹵獲され、それ等の内の2両はマックスとモーリッツと名付けられ、作戦中ずっとエルヴィン・ロンメルと幕僚たちに使用されたな」

 

みほが驚きの声を挙げると、優花里が嬉しそうな声を挙げ、エルヴィンも笑みを浮かべる。

 

やがて、AEC 四輪駆動装甲指揮車は大洗機甲部隊の一同の前で停車。

 

そして、側面のドアが開いたかと思うと………

 

「…………」

 

そこから、痩せ形の体型で、目の下に隈が有り、髪は黒く眉が隠れる程に長くて猫背な男が姿を現した。

 

「………アインシュタインか?」

 

「そうだよ、白狼」

 

白狼がそう尋ねると、猫背の男………『アインシュタイン』こと『平賀 煌人』はそう答える。

 

「貴方が………アインシュタインさん?」

 

「ハイ、そうです………コレで満足ですか? 西住 みほさん」

 

みほの言葉に、煌人はそう返す。

 

(アレがアインシュタインの正体………)

 

(つーか、某死神ノートの探偵じゃねえ?)

 

大洗男子校の面々も、初めて目にするアインシュタインの姿に内心で様々な感想を抱く。

 

「よく来てくれた、平賀くん。早速だが………」

 

「分かっている。説明は不要だ………全員、コレに目を通してくれ」

 

迫信がそう言って今回の試合での計画について話そうとしたところ、煌人はそう言って迫信の言葉を遮り、何かの用紙を全員に回す。

 

「!? コレはっ!?」

 

用紙を受け取ったみほと一同は驚愕する。

 

何故ならそこには………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が今回使用している戦車や車両、武器の詳細スペックデータ、更にグロリアーナの戦車兵、ブリティッシュの歩兵1人1人の詳細なデータ、更にはグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の過去の戦歴や戦術分析データが事詳細に記されていた。

 

「今回の試合のルールは殲滅戦………つまり、相手の戦車を全て行動不能にした方が勝ちです………更に、この前の学内練習試合と違い、随伴する戦車がやられてしまった歩兵部隊は部隊へ合流する事で戦闘を継続する事が出来る………歩兵が上手く立ち回る事が勝利のファクターとなるワケです」

 

驚いている一同に向かって、煌人はそう言いながら、戦車道や歩兵道のルールなどを全文ペラペラと説明し始める。

 

「アインシュタイン。あんさん、何時の間にそんなに戦車道や歩兵道に詳しくなったんや?」

 

すると、そんな煌人に向かって、豹詑がそう言う。

 

「あんなモノは覚えようと思えばすぐに覚えられる」

 

「天才の言う事は違うぜ………」

 

当然の様にそう答えを返す煌人に、海音が呆れる様に呟く。

 

「でも、この情報は一体何処から?」

 

「………国家機密です」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の詳細な情報データについて問い質す優花里に、素っ気無くそう返す煌人。

 

「ま、兎に角、出来るだけその情報を頭に叩き込んでおいて下さい。作戦については、皆さんが立てたのを遵守させてもらいます。細かな指示は此方から出しますので」

 

最後にそう言うと、煌人はAEC 四輪駆動装甲指揮車の中へと引っ込んで行った。

 

「ふむ、コレは心強いね」

 

「態度には多少問題が有りますが、是ほどの情報を用意・処理出来る………非常な優秀な人物である事が窺えます」

 

迫信と弘樹がそんな事を言い合う。

 

『間も無く、試合開始となります! 両部隊とも、準備は宜しいでしょうか!?』

 

するとそこで、全体アナウンスで香音のそう言う声が響いて来た。

 

「おっと、来たか………全員、準備に掛かれっ!!」

 

それを聞いた迫信がそう号令を掛けると、大洗男子校歩兵部隊の面々は、一斉に車両や装甲車、兵員輸送車に野戦砲や対戦車砲の牽引車へと乗り込む。

 

「皆さん、乗車して下さいっ!」

 

更にみほもそう呼び掛け、大洗女子学園戦車部隊の面々も、其々の戦車へと搭乗して行く。

 

『用意は良いか? 隊長?』

 

と、みほが席へと座ると、Eチームの桃がそう通信を送って来た。

 

「あ、ハイ」

 

『全ては貴様に掛かっている。しっかり頼むぞ』

 

「ハイ………」

 

全てが自分に掛かっていると言う言葉に、みほの顔が緊張で強張る。

 

『心配しなくても良い。基本的には戦車隊の隊長である君の指揮権が優先されるが、歩兵部隊の隊長として、私も出来る限りサポートする。あまり気負い過ぎてはいけないよ』

 

とそこで、それをフォローするかの様に、迫信がそう通信を送って来た。

 

「ありがとうございます………」

 

みほは迫信へそうお礼を言うと、キューポラのペリスコープ越しに弘樹を見やる。

 

「…………」

 

すると、まるで弘樹が視線に気づいた様にⅣ号の方を振り返る。

 

「!?」

 

「…………」

 

一瞬驚いたみほだったが、弘樹は黙って力強く頷いた。

 

「…………」

 

その頷きに、みほは不思議と心が落ち着くのを感じ、緊張が大分緩和される。

 

『では! 試合開始っ!!』

 

そこで、香音が遂に試合開始のアナウンスを発した!

 

「全戦車、パンツァー・フォー!!」

 

「アールハンドゥガンパレード! 全軍突撃! 我に続け!!」

 

そして、みほと迫信の号令で、大洗機甲部隊は前進を始める。

 

遂に、大洗機甲部隊VSグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の戦いの幕が、切って落とされたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場の一部………

 

大洗町の外れ・露出している荒野にて………

 

砂埃を上げて、大洗機甲部隊の面々が前進している。

 

「いよいよ始まりましたね!」

 

「うん」

 

Ⅳ号の車内と、みほと優花里がそう言葉を交わす。

 

「罰ゲームの件も有るし、ゼッテェーに負けらんねえな」

 

「当たり前だ。勝つ積もりで行かなければ勝てるモノも勝てん」

 

くろがね四起の後部座席でそう呟く地市に、隣の弘樹がそう言う。

 

「あの~、それで如何するんでしたっけ?」

 

するとそこで、Dチーム・M3リーの通信手である優季がそう質問を飛ばす。

 

「えっ? この程説明された通り、今回は殲滅戦ルールが適用されますので、どちらかの戦車が全てやられたら負けになります」

 

「そうなんだ~」

 

「先ず我々α分隊がAチームと共に偵察へ出ます。各チームは100メートル程前進した所で待機していて下さい」

 

「但し、砲兵部隊と工兵部隊の半数は予め大洗の市街地へ向かい、市街戦を想定しての砲の配備、並びにトラップの設置を行ってくれたまえ」

 

みほと迫信が、改めて作戦を説明する。

 

「「「分かりました!」」」

 

「「「は~い!」」」

 

「「御意!」」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

各戦車チームと歩兵分隊から、多種多様な返事が返って来る。

 

「何か作戦名無いの?」

 

するとそこで、例によって干し芋を齧っている杏が、そんな事を言う。

 

「えっ? 作戦名は………え~と………『コソコソ作戦』です! コソコソ隠れて相手の出方を見て、コソコソ攻撃を仕掛けたいと思います」

 

杏の無茶振りとも言える言葉に、みほは少し悩んだ様子を見せた後、『コソコソ作戦』と言う作戦名を思いつく。

 

「姑息な作戦だな」

 

「第1の作戦を考えたのは桃ちゃんと神居副会長さんじゃない」

 

少なくとも前半部分の作戦は自分と十河が立てた筈なのに、それを忘れて作戦を批判する様な桃に、柚子がそうツッコミを入れる。

 

「α分隊・舩坂 弘樹より西住隊長へ。作戦名は『コソコソ作戦』ですね?」

 

するとそこで、弘樹がみほへそう通信を送る。

 

「あ、うん」

 

「では、略称としまして『コ号作戦』で宜しいでしょうか?」

 

「えっ? 略称?」

 

「咄嗟に言う時に、略称が有った方が宜しいかと思いまして」

 

「う、うん、そうだね………じゃあ、略称は『コ号作戦』でお願いします」

 

本当の軍隊染みた弘樹のやり方に、みほは戸惑いながらもそう返すのだった。

 

『指揮車より全軍へ。予定通りならば間も無く敵の進行予測地点に入る。注意しろ』

 

とそこで、指揮車の煌人から全員にそう通信が送られる。

 

大洗機甲部隊は、荒野が広がっている崖の上に辿り着こうとしていた。

 

「西住隊長。我々が先行して偵察します」

 

「了解しました。全軍、一旦停止して下さい」

 

弘樹がそう進言すると、みほは全軍停止の指示を出し、大洗機甲部隊は停止する。

 

そして、弘樹達の乗るくろがね四起だけが更に進み、姿を隠しながら崖のギリギリまで近づく。

 

くろがね四起を荒野から見えない様に止めると、双眼鏡を手にした弘樹と楓が、崖の傍で伏せて、荒野を見やる。

 

するとそこには………

 

砂煙を上げ、バグパイプを中心とした軍楽隊が奏でる行進曲と共に進軍しているグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の姿が在った。

 

「敵部隊を発見」

 

「スタート地点から東へ向けて進行中………予想通りですね」

 

弘樹と楓がそう言いながら、双眼鏡を覗き込む。

 

『様子は如何ですか?』

 

「敵は隊列を維持して前進しています」

 

「アレだけ綺麗な隊列を組めるなんて………それだけでウチとの錬度の違いが分かりますね」

 

みほの質問に弘樹が回答していると、楓がそんな感想を漏らす。

 

『正面からの撃ち合いは避けるんだ。此方の戦車砲、及び対戦車砲の徹甲弾ではチャーチルとマチルダの正面装甲を抜くのは不可能だ。対戦車兵も攻撃する為には至近距離まで近づかなくてはならない』

 

するとそこで、煌人がそう注意して来る。

 

『分かってる………そこは戦術と腕かな?』

 

(………戦術と腕か)

 

みほの言葉に、弘樹は内心で考え込む。

 

果たして、ほぼ素人しかいない大洗機甲部隊が、みほの期待する戦術や腕を発揮出来るのかと………

 

みほ自身もそれに気づいているのか、声色から少々困った様な様子が感じられた。

 

隊長として弱気は見せられないという責任感と、厳しい現実の前に、彼女なりに何とか出した言葉なのかも知れない。

 

(いや、考えても仕方あるまい………自分達に出来る事を可能な限り実行するまでだ)

 

しかし、そう思ってその考えを振り払う。

 

そして、楓と共にくろがね四起へと戻ると、そのまま本隊へと合流する。

 

「全車、エンジン音が響かない様に展開して下さい」

 

弘樹達が合流したのを確認すると、みほはそう指示を出し、大洗機甲部隊は再度移動を始める。

 

AチームのⅣ号と車両に乗ったα分隊を先頭に進軍する大洗機甲部隊。

 

「敵は東へ向かって進軍中です。再度作戦を確認しますが、私達とα分隊が囮となりますので、皆さんは例の峠で待機していて下さい」

 

「尚、この第1作戦が失敗した場合は、速やかに市街地を利用したゲリラ戦に移る。砲兵部隊と工兵部隊の半分は市街地へ向かってくれ」

 

「ではコレより、コソコソ作戦を決行します!」

 

「「「「「「は~いっ!」」」」」」

 

「「「「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」」」」

 

迫信とみほがそう言うと、戦車を中心にした部隊が待ち伏せ地点である峠へ。

 

砲兵部隊と工兵部隊の半分が、市街地へと向かう。

 

そして、Ⅳ号と車両に乗ったα分隊の一部が、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の誘い出しに掛かる。

 

「あの、私達は?」

 

「砲撃を仕掛けて、相手を誘い込む予定なんだけど………上手く行くかな?」

 

華の質問に、みほは若干不安そうにそう言う。

 

「西住戦車隊長。隊長がそんな弱気では困りますぞ」

 

するとそこで、弘樹がそう言って来る。

 

「あ、ゴ、ゴメン………」

 

「もし負けたら、あんこう踊りだしね」

 

「うう………」

 

沙織もそんな事を言い、みほの表情が曇る。

 

「此方は初めての試合なんですし、精一杯やるだけです。頑張りましょう」

 

「そうですよ。教官も言ってましたけど、胸を借りる積もりで行きましょう」

 

そこで華がそうフォローする様に言うと、飛彗もそう言う。

 

「だね。やるしかないじゃん」

 

「俺たちゃ西住ちゃんを信じてやるだけだ」

 

沙織と地市もそんな事を言う。

 

「………うん!」

 

「私はイギリス戦車が動いているところを生で見られるだけで幸せです」

 

そこでみほが笑みを浮かべると、優花里が実に嬉しそうな顔でそう言う。

 

「本当に幸せそうだね………」

 

「分かるな~。俺も待ち望んでたエロゲーのPVが出た時には………!? ゴヘッ!?」

 

「女性の前で何を言っているんだ、お前は」

 

沙織が呆れる様にそう呟くと、了平が余計な事を言おうとして弘樹にど突かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

Aチームとα分隊の一部は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の進行ルート上へ先回り。

 

「敵、前方より接近中。砲撃準備」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊から見て左前方側の崖の上、岩陰に隠れる様に陣取ると、Ⅳ号が戦車砲の発射態勢に入る。

 

「装填完了」

 

優花里がハッチを開けて、キューポラから上半身を出して双眼鏡でグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の様子を窺っていたみほにそう報告する。

 

「え~と、チャーチルの幅は………」

 

「3.25メートル」

 

「4シュトリヒだから………距離、810メートル」

 

華が照準器を覗きながら、微調整を行う。

 

「良いか。Ⅳ号が砲撃したら、命中の有無に関わらず撤退だ」

 

「「「「「ラジャーッ!」」」」」

 

その横で、弘樹が念を押す様にα分隊員達にそう言う。

 

「撃てっ!!」

 

と、そして遂に、みほの号令でⅣ号が発砲した!!

 

轟音と共に放たれた砲弾は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の先頭を行っていたチャーチルの隣に居たマチルダⅡの手前に着弾!

 

派手に土煙を上げる。

 

「! 敵襲っ!!」

 

セージがそう叫ぶと、ブリティッシュ歩兵部隊は全員顔を強張らせる。

 

「仕掛けて来ましたわね」

 

「此方もお相手しますか」

 

一方、チャーチル内のオレンジペコとダージリンは、さして慌てる様子も見せず、優雅に紅茶の入ったティーカップとソーサーを手に、無線機で部隊に応戦指示を出す。

 

「発見! 左前方、10時の方向!!」

 

ブリティッシュ歩兵部隊の偵察兵の1人が双眼鏡を覗きながらそう報告を挙げると、チャーチルとマチルダⅡの砲塔が旋回し、照準器内にⅣ号を捉える。

 

「すみません」

 

「大丈夫。目的は撃破じゃないから」

 

「よし、撤退! 敵を引き付けるぞっ!!」

 

華とみほがそう言い合っている間にⅣ号は反転し、α分隊も弘樹の号令で撤退行動に移る。

 

「全部隊、前方Ⅳ号と随伴歩兵部隊に攻撃開始」

 

ダージリンの指示が下ると、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は陣形を維持したままⅣ号とα分隊の追撃に入る。

 

逃げるⅣ号とα分隊に向かって、口火を切る様にチャーチルが発砲した!!

 

「敵戦車発砲っ!!」

 

くろがね四起の後部座席で身を屈めながら様子を窺っていた弘樹がそう叫ぶと、直後にチャーチルが撃った砲弾が、撤退するⅣ号とα分隊の背後に落ちる。

 

「うひぃっ!?」

 

「慌てるな! 行進間射撃はそうそう当たるモノではない!!」

 

着弾に怯みそうになった了平を、弘樹が叱咤する。

 

「なるべくジグザグに走行して下さい。コッチは装甲が薄いから、まともに喰らったら終わりです」

 

「了解………」

 

みほの指示に、麻子はⅣ号をジグザグに走行させる。

 

「此方もまともに喰らえば終わりだ。絶対に当たるなよ」

 

「無茶を言いますね………」

 

それに倣い、α分隊自動車部隊もジグザグに走行する。

 

そんなⅣ号とα分隊に、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は陣形を維持したまま、容赦無い行進間射撃を見舞いつつ、徐々に追い縋って来る。

 

「チッ! 好き勝手やりやがってっ!!」

 

と、それに我慢の限界だったのか、白狼が今回の獲物として選んだシュミット・ルビンM1889を後ろを向いて構えると、追跡して来ていたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の中に居た1両のSASジープに向かって発砲する!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「危ねえっ!?」

 

弾丸はSASジープのフロントガラスを割ったが、乗員には命中しなかった。

 

「やったなぁっ!」

 

「お返しだっ!!」

 

すると、助手席に居た歩兵が、反撃とばかりにヴィッカーズ機関銃を発砲開始する。

 

.303ブリティッシュ弾が、岩肌の地面や崖に命中し、砂煙を上げる。

 

更に、それが合図となった様に、ブリティッシュ歩兵部隊の面々も、機関銃やライフルによる攻撃。

 

そして、装甲車部隊からもオードナンス QF 2ポンド砲やボーイズ対戦車ライフルでの攻撃が開始される。

 

「うおっ!?」

 

「この馬鹿野郎! 敵の攻撃が増したじゃねえかっ!!」

 

「スマン! 辛抱堪らなくてよぉ!」

 

地市が白狼に怒声を飛ばすが、白狼はそう返す。

 

「慌てるな。向こうが撃ってる砲弾の殆どは徹甲弾だ。歩兵の様な軟目標には直撃させない限り効果は無い」

 

するとそこで弘樹がそう言って、皆を落ち着かせようとする。

 

「確か、歩兵に対しては炸裂する砲弾………榴弾を使うのが普通なんでしたっけ?」

 

「何で向こうは榴弾を撃ってこないんだ?」

 

飛彗がそう言うと、了平が首を傾げながらそう言う。

 

「オードナンス QF 2ポンド砲は榴弾が撃てない仕様になっているからだ」

 

「えっ? オイ、待てよ、弘樹。俺の記憶が確かなら、装甲車の方は兎も角、同じ砲を搭載しているマチルダ戦車ってのは、歩兵を支援する目的で作られてるんだよな?」

 

「その通りだ」

 

「じゃあ、何で歩兵に撃つべき榴弾が撃てないんだよ!?」

 

地市が『何でだよ!?』と言う様な顔で言う。

 

「イギリス軍は運用思想として、対戦車用と対軟目標用の砲を別に搭載した戦車の方が効率が良いと考えていたからだ。後は車載機銃の面制圧能力を過剰評価していたと言うのも有るな」

 

「イギリス人の考える事は良く分かりませんね」

 

弘樹の説明に、楓は呆れた様にそう言う。

 

「だが、チャーチルは別だ。奴の主砲であるオードナンス QF 75mm砲は榴弾を撃てる。注意しろ」

 

と、弘樹がそう言った瞬間………

 

当のチャーチルが、主砲を発射した!!

 

「! 西住隊長っ!!」

 

「!?」

 

放たれた砲弾がⅣ号を狙っているモノだと気づいた弘樹が声を挙げ、みほは後方を振り返る。

 

幸いにも、砲弾は外れ、Ⅳ号の左隣の地面が爆ぜただけだった。

 

「ふう~~………」

 

「みぽりん! 危ないって!!」

 

みほが安堵の息を吐いていると、通信席のハッチを少し開けて、沙織が身を隠したままみほにそう呼び掛ける。

 

「えっ? ああ、戦車の車内はカーボンでコーティングされてるから大丈夫だよ」

 

「そう言うんじゃなくて! そんなに身を乗り出して、当たったら如何するの!?」

 

沙織にそう返すみほだったが、沙織はそうじゃないと言う。

 

「まあ、滅多に当たるものじゃないし、戦闘服を着ていない人に当たりそうになった砲弾は自爆するから。それに、こうしていた方が状況が分かり易いから」

 

「でも、みぽりんにもしもの事があったら大変でしょっ! もっと中に入って!!」

 

「そうですよ、隊長。状況は逐一我々が報告します。ご自分の安全も考えて下さい」

 

そう沙織が呼び掛けると、弘樹もそう進言する。

 

「2人共、心配してくれてありがとね。じゃあ、お言葉に甘えて………」

 

しかし、そうは言ったものの、みほは10cmほど車内に引っ込んだだけだった。

 

「彼女、意外と度胸がありますね」

 

そんなみほの様子を見て、飛彗がそう呟く。

 

「ハッ! 逃げてばかりで碌に攻撃もしてこないぞ!!」

 

「やっぱり楽勝だぜ! 一気に決めてやるっ!!」

 

とその時!

 

逃げの一手のⅣ号とα分隊の姿に痺れを切らしたのか、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の中の1台のSASジープが、隊列を飛び出して加速する。

 

「! 勝手な事を!!」

 

「オイ、止めろ! 隊列を乱すな!!」

 

ダージリンが不快感を露にし、セージもすぐにそう命令する。

 

「心配しないで下さい、隊長方!!」

 

「高が弱小チームの戦車1両! すぐに仕留めてやりますよっ!!」

 

しかし、SASジープに乗っていた隊員達はそう返し、Ⅳ号とα分隊へと更に接近。

 

そして、後部座席に居た対戦車兵の隊員が立ち上がり、PIATを構えた。

 

「! 弘樹ぃっ! 敵の対戦車兵だっ!!」

 

「!!」

 

それを見た地市が叫びを挙げると、弘樹はすぐさま、三八式歩兵銃に二式擲弾器を装着して構える。

 

「了平! 手榴弾を投擲しろっ!!」

 

更に了平にそう指示を下す。

 

「!? お、おうっ!?」

 

一瞬戸惑いながらも、了平はM24型柄付手榴弾・俗称ポテトマッシャーのピンを抜き、迫って来ていたSASジープ目掛けて投げつけた!

 

「手榴弾だぞっ!」

 

「分かってるって!」

 

地面の上をバウンドしながらSASジープへと向かっていたM24型柄付手榴弾だったが、SASジープは寸前でハンドルを切って回避する。

 

「そんな物にやられるかってんだっ!!」

 

そう言って、後部座席の居た対戦車兵が、PIATの照準器にⅣ号を捉えたが………

 

「!………」

 

SASジープの回避先を読んでいた弘樹が、二式擲弾器から30mm榴弾を発射!

 

30mm榴弾はSASジープの車体前部へと直撃!

 

エンジンが爆発して車体が前転する様に回転!!

 

「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

搭乗員達は全員投げ出されて地面を転がった!!

 

「おおっ! やったじゃねえか、弘樹!!」

 

「流石です、舩坂さん!!」

 

「油断するな。我々の任務は飽く迄囮だ。目的を履き違えるな」

 

地市と楓が歓声を挙げるが、弘樹は三八式歩兵銃から二式擲弾器を外しながら、冷静にそう返すのだった。

 

「大丈夫かっ!?」

 

セージが乗っていたSASジープが、投げ出されて地面に転がった隊員達の傍で停まる。

 

「な、何とか………」

 

「すみません………自分は戦死です」

 

無事な隊員が返事を返すが、PIATを持っていた対戦車兵が戦死判定を受けた事を報告する。

 

「全く………だから油断するなと言っただろう! ダージリン隊長。隊員の回収は私が行います。隊長達は追撃を続けて下さい」

 

「ええ、その積もりですわ」

 

そんなセージの乗ったSASジープを残し、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊はⅣ号とα分隊の追撃を続ける。

 

「………アールグレイ。先程の攻撃………見ていましたの?」

 

「無論だ」

 

とそこで、ダージリンはアールグレイへそう通信を送る。

 

「あの距離………しかも悪路で揺れる車上から擲弾器で正確にSASジープのエンジンを直撃させましたわ」

 

「やはりあの男………相当の手練だな。恐らく、歩兵道の経験者だろう」

 

先程、SASジープを仕留めた弘樹に様子を思い出し、そんな事を言い合うダージリンとアールグレイ。

 

「よもやこの学園艦にアレ程の歩兵が居たとはな………」

 

「嬉しそうね、アールグレイ」

 

と、僅かにアールグレイの声色に高揚の色を感じたダージリンがそう言う。

 

「…………」

 

アールグレイはその言葉には返事を返さず、ただ無言で脇腰に挿していたフルーレの柄を握り締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊が、待ち伏せしているポイントでは………

 

崖に挟まれた1本道を見渡せる峠の上に、大洗女子戦車隊の戦車が1本道を睨む様に整列している。

 

更に砲兵達も、野戦砲や対戦車砲を向けており、築かれた塹壕や岩陰には、対戦車兵を中心にした大洗男子歩兵部隊が展開している。

 

「かっくめーいっ!」

 

「しまった、如何しよう~?」

 

「何時も心にバレーボールッ!!」

 

「そーれっ!」

 

しかし、待機と言われたにも関わらず、1年生達のDチームは全員が戦車の上でトランプに興じ、バレー部のBチームは、車外に出てバレーの練習をしている。

 

「遅い!」

 

「待つのも作戦の内だよ~」

 

「いや~、しかし………」

 

生徒会のEチームも、桃は即応出来る態勢で居るものの、柚子と杏は完全に車外に出ている。

 

特に杏など、戦車の上にサマーベッドを乗せて、その上に寝転んでいる。

 

待機の状態が守れているのは、歴女達のCチームだけと言って良い。

 

「お前達! 待機を何だと思っているんだ!! ちゃんと戦車に乗り込んで即応出来る態勢で居ろっ!!」

 

そんな光景に、十河がそう叫んだが………

 

「ええ~っ? 別に良いじゃ~ん」

 

「そうそう。ただ待ってるんじゃ退屈だし~」

 

Dチームのあやと優季が、そう暢気そうに言葉を返す。

 

「西住総隊長の命令だぞ! くだらない事をしてないで命令を遵守しろっ!!」

 

「くだらない事っ!?」

 

「私達のバレーに掛ける思いをくだらない事だなんて言わせないよ!!」

 

とイラついた十河がそう言ってしまうと、典子と忍が噛み付いてきた。

 

「な、何をする!? 止めろっ! 俺はε分隊の副隊長だぞ!? オイッ!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ふ、副会長~!?」

 

「お~い、試合中に揉め事起こさんときぃ」

 

バレー部にボコボコにされる十河を見て顔を青褪めさせる逞巳と、暢気そうにそう言う大河。

 

「会長が居てくれればビシッと纏めてくれたんだろうけどなぁ………」

 

「市街地に配置する砲兵部隊と工兵部隊の指揮を取る為に、アインシュタインさんと一緒に行っちゃいましたからね」

 

第2作戦の為に市街地に配置した砲兵部隊と工兵部隊の指揮を取る為、煌人のAEC 四輪駆動装甲指揮車で市街地の方へ行ってしまった迫信の事を思い出しながらそう言い合う俊と清十郎。

 

「ねえ、皆! 取り合えず、戦車の中には居た方が良いよぉっ!!」

 

と、38tのハッチを開けて、蛍が皆にそう呼び掛けた瞬間………

 

『此方Aチーム! 現在敵を引き付けつつ待機地点に後3分で到着します!』

 

みほからの通信が、全戦車の通信兵と随伴歩兵分隊の分隊長へ送られて来た。

 

「Aチームが戻って来たぞっ! 全員戦車に乗り込めっ!!」

 

「ええ、嘘~?」

 

「折角革命起こしたのに」

 

「ボールはチャンと持って!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

桃の言葉に、1年生チームが不満を露にM3リーの中へと戻り、他のバレー部も次々に八九式へ乗り込む。

 

「よっしゃあっ! いよいよやでぇっ!!」

 

「フフフ………ルートには既に対戦車地雷を中心にした地雷を多数設置済み。予め全ての地雷の位置を把握しているⅣ号とα分隊が通り過ぎた後に立ち往生したところを一斉砲撃だ! 第2作戦を使うまでも無い! この作戦の手柄は頂いたっ!!」

 

大河がそう声を挙げていると、何時の間にか復活した十河が自信満々に笑いながらそう言う。

 

しかし、この直後………

 

第1作戦は思わぬ形で頓挫する事になる………

 

『後600メートルで敵部隊射程内です!』

 

みほの通信を聞きながら、敵部隊の登場を待ち構える大洗機甲部隊。

 

やがて、敵を引き付けて来たⅣ号とα分隊がキルゾーン内へと入り込む。

 

と、その瞬間!!

 

「! 撃て、撃てぇっ!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

桃がそう命令を下し、十河が驚いていると、全戦車から一斉に砲撃が開始される!!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

「喰らえ喰らえ喰らえぇっ!!」

 

更に、その命令で勘違いしてしまったδ分隊の1年生達を中心に、歩兵部隊の面々も射撃と砲撃を開始した!!

 

「!? 何っ!?」

 

「あっ!? 待って下さいっ!!」

 

弘樹とみほの驚きの声が挙がる中、Ⅳ号とα分隊の車両のすぐ傍に銃弾や砲弾が着弾する!

 

「馬鹿! 止めろっ!! フレンドリーファイヤだっ!!」

 

「味方を撃って如何すんのよぉっ!?」

 

「クソッ! 冗談だろ!!」

 

地市と沙織が悲鳴の様に叫び、白狼も悪態を吐く。

 

「オ、オイッ!? 味方だぞっ!!」

 

「皆さん! ストープッ! ストープッ!!」

 

勘違いをして攻撃を始めた味方部隊に、磐渡と清十郎が慌ててそう呼び掛ける。

 

しかし、攻撃はすぐには止まず、暫しの間行われる。

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

運悪く(恐らく38tの物と思われる)砲弾の直撃を浴びたくろがね四起が爆発し、乗員は全員投げ出されて戦死判定となった。

 

更に別の九三式装甲自動車が、砲弾を回避しようとハンドルを切ったところ、対戦車地雷を踏ん付けて爆発し、車両は大破して搭乗員も全員戦死判定となる。

 

また、外れた砲弾や銃弾が、事前に仕掛けておいた地雷を爆発させてしまう。

 

「あああ~~っ!? 折角仕掛けた地雷がぁ~~~っ!?」

 

「クッ! いきなり作戦が頓挫か!?」

 

十河が絶望した様な悲鳴を挙げる中、如何にか友軍の誤射を交わして合流出来た弘樹達が、くろがね四起を止めると、同時に飛び降り、塹壕の中へと転がり込む。

 

Ⅳ号も如何にか味方と合流する。

 

その直後に、本命であるグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊がやって来る。

 

「こんな安直な囮作戦………私達には通用しないわ」

 

「しかも、先程の誤射で向こうの配置は予測済みだ」

 

チャーチルの中で優雅に紅茶を飲みながらダージリンがそう言うと、追い付いたセージもメガネをクイッと上げる。

 

そして、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、進軍速度を変えずにキルゾーンへ堂々と進入して来る。

 

「撃てぇっ!!」

 

再び桃が勝手に命令し、再び大洗機甲部隊は一斉攻撃を開始する。

 

「撃て撃て撃てぇっ!!」

 

桃がそう叫ぶ中、攻撃は続けられるが、先程の混乱の事もあり、敵に全く損害を与えられない。

 

オマケに、設置しておいた地雷を自分達で殆ど破壊してしまった為、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は優々と左右に分かれて展開し、大洗機甲部隊を包囲に掛かる。

 

「そんなバラバラに攻撃しても、履帯を狙って下さい!!」

 

「河嶋広報官殿! 落ち着いて下さいっ!!」

 

みほと弘樹がそう言うが、完全に頭が沸騰している桃の耳には入らない。

 

「も、桃ちゃん、落ち着いて………」

 

「五月蝿いっ! とっとと弾を込めろぉっ!!」

 

「ヒイッ!? わ、分かったよ!!」

 

38tの装填手をしている蛍も桃を止めようとしたが、完全に血走った目でそう言う桃に逆らえず、装填に従事させられる。

 

「あっちゃ~、またかぁ」

 

「桃ちゃんの悪い癖が………」

 

そして他人事の様にそう呟く杏と、そう言いながらも操縦で手が離せず、桃を止める事が出来ない柚子。

 

他の戦車隊も、そんな桃のトリガーハッピーに釣られる様に、バラバラのまま砲撃を続けている。

 

そうこうしている内に、遂にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、大洗機甲部隊を左右から挟み込み、包囲した。

 

「もっと撃てぇーっ! 次々撃てぇーっ! 見えるモノは全て撃てぇーっ!!」

 

「オイ………誰かあの馬鹿を黙らせろ」

 

そんな中でも勝手に命令を出し続ける桃に、熾龍が切れ気味の様子でそう言う。

 

『こちら砲兵部隊。砲の設置、完了しました』

 

そこで、ブリティッシュ歩兵部隊の砲兵隊から、砲の設置が完了したとの報告が、ダージリンに挙げられる。

 

「了解しましたわ。では、砲撃を始めて」

 

『イエス・マイ・ロードッ! 支援砲撃! 始めっ!!』

 

ダージリンが命令を下すと、砲兵隊を中心とした部隊から支援砲撃が開始された!!

 

オードナンス QF 18ポンド砲、オードナンス QF 3.7インチ山岳榴弾砲、SBML 2インチ迫撃砲の砲弾が、大洗機甲部隊へと降り注ぐ。

 

「! 敵の砲撃だぁ! 伏せろぉっ!!」

 

弘樹がそう叫んだ次の瞬間には、大洗機甲部隊が展開している陣地の彼方此方で爆発が挙がる。

 

「うわぁっ!?」

 

「うひぃっ!?」

 

「キャアァッ!?」

 

「怖いよぉっ!!」

 

敵の砲爆撃前に、大洗機甲部隊は、戦車隊、歩兵隊共に浮き足立ち始める。

 

「全車両、前進」

 

そして、その混乱を突いて、グロリアーナ戦車隊と、砲兵を除くブリティッシュ歩兵部隊が前進を開始した。

 

「………攻撃」

 

砲爆撃を浴びている大洗機甲部隊に、容赦無く戦車砲での攻撃を開始するグロリアーナ戦車隊。

 

「撃ち方始めっ!!」

 

更に、ブリティッシュ歩兵部隊も、機関銃での掃射を始める。

 

岩肌の地面が、弾丸によって耕される。

 

「うわあっ!?」

 

「チキショウッ!!」

 

やられてばかりでは居られないと思ったのか、1人の突撃兵が塹壕から身を乗り出し、MAS 36小銃で射撃を始めたが………

 

「馬鹿っ! 今出たらっ!!………」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

地市が慌てて叫ぶが時既に遅く、1人だけ身を乗り出した為に良い的となってしまった突撃兵は、集中砲火を浴びて塹壕の中に転がる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「す、すみません………やられました………」

 

転がった突撃兵に声を掛ける楓だったが、既に戦死判定が出されていた。

 

「ええいっ! まどろっこしいでぇっ!!」

 

塹壕から身を出さず、一〇〇式機関短銃だけを向けて適当に弾幕を張っていた大河が愚痴る様にそう声を挙げる。

 

「砲兵っ! 援護砲撃は如何したんだよっ!!」

 

「無茶言わないで下さいっ! コッチが援護して欲しいくらいですよっ!!」

 

磐渡が砲兵隊に向かってそう叫ぶが、砲兵隊も敵の砲兵隊からの砲爆撃を集中的に浴びており、反撃に精一杯で歩兵達を援護する暇が無かった。

 

「チキショウッ! ブリテン気触れ共めぇっ!!」

 

そう悪態を吐きながら、塹壕から身を乗り出してM1 60mmバズーカを、チャーチル目掛けて放つ重音。

 

しかし、バズーカから放たれたロケット弾は外れ、チャーチルの傍の地面を爆ぜさせただけだった。

 

重音は逆に位置を特定され、車載機銃の7.92mmベサ重機関銃の銃撃を浴びる。

 

「うわあぁっ!? バンド万歳ぃっ!!」

 

「! 重音ううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!」

 

バンドへの情熱を叫びながら戦死判定を受けた重音を見て、磐渡が叫びを挙げる。

 

徐々にグロリアーナ戦車隊が距離を詰めて来て、砲撃の激しさが増す。

 

余りの激しさの前に、砲撃を止め始める戦車や砲兵が出始める。

 

「落ち着いて下さい! 攻撃止めないで!」

 

と、みほが落ち着けと叫んだ次の瞬間!!

 

「無理ですぅっ!!」

 

「もう嫌ぁっ!!」

 

Dチームのあゆみと優季の悲鳴が通信回線に響いたかと思うと、何とDチームの全乗員が、M3リーを放棄し、車外へと脱出。

 

そのまま砲弾を銃弾が飛び交う戦場を走り抜けて、逃亡してしまった。

 

「!? コラッ! 貴様等何処へ行くっ! 戻れ! 戻らんかぁっ!!」

 

「アチャ~、敵前逃亡かよ………やっぱ士気が低過ぎたなぁ………」

 

必死に塹壕の中に伏せながら、逃亡するDチームに向かってそう喚く十河と、まるで他人事の様にそう呟く俊。

 

「ちょっ! 澤さん! 大野さん! 宇津木さん! 丸山さんまで、何処へ行くんですか!?」

 

「Wa、 wait! Getaway during the game 's risk」

 

「だからジェームズ! 日本語で喋ろうって!」

 

一方、随伴している戦車チームの戦車兵が逃亡してしまい、δ分隊の面々は浮き足立つ。

 

「戦車道の選手が逃げたら俺達如何すりゃいいんだよ!」

 

「み、皆! 慌てないでよ!」

 

「そうさ、こう言うときこそ………」

 

するとそこで、δ分隊の分隊長である勇武が徐に立ち上がる。

 

「おお! 部隊長が立ち上がった!」

 

その姿に、分隊員達は期待の眼差しを向けるが………

 

「逃げるが勝ちだ!!」

 

勇武はそう言うと、塹壕から飛び出し、Dチームの後を追いかけ始めた!!

 

「って、やってる事が変わらねーじゃねーか!!」

 

「この人でなし!」

 

分隊長の逃亡に、δ分隊員達から罵声が挙がる。

 

「!  Face down everyone!」

 

「だから日本語で………って! ええええええええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」

 

正義がジェームズにツッコミを入れていると、ブリティッシュ歩兵部隊の対戦車兵が放ったPIATの弾が、1年生の乗っていたM3リーに命中!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

真っ先に1人だけ逃げていた勇武はその爆風に巻き込まれダウン、戦死と判定される………

 

「分隊長おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

「分隊長がやられたぁっ! もうお終いだぁっ!!」

 

「逃げろぉっ!!」

 

更にそれに触発された様に、δ分隊メンバーを中心に戦意喪失したメンバーが戦線を放棄し始める!!

 

「! イカンでござる!」

 

「マズイなぁ………」

 

その光景に小太郎が冷や汗を浮かべ、大詔も苦い表情を浮かべる。

 

「敵前逃亡した奴は………後で銃殺刑だ」

 

「! 怖ぇよ! ドスが効いた低い声で物騒な事言うなっ!!」

 

額に青筋を浮かべた熾龍が呟く様にそう言い、それを近くで聞いた秀人はビビりながらツッコミを入れる。

 

とそこで、砲撃を続けていた38tに至近弾が着弾。

 

車体が一瞬浮き上がったかと思うと、左の履帯が脱落した。

 

「アレ? アレレッ!?」

 

「ど、如何したの!?」

 

「ああ~、外れちゃったね~、履帯。38tは外れ易いからなぁ」

 

突如コントロール不能になった38tに困惑する柚子と蛍と、冷静に状況を分析する杏。

 

履帯が脱落した38tは、左に流される様に、窪地へと落ち込んだ。

 

「武部さん! 各車状況を確認して下さい!」

 

「あ、う、うん!」

 

そこでみほは、各戦車チームに状況報告を求める。

 

「えっと………Bチーム、如何ですか!?」

 

「何とか大丈夫です!」

 

Bチームの妙子がそう返信する。

 

「Cチーム!」

 

「言うに及ばず!」

 

勇ましい返事を返すエルヴィン。

 

横ではカエサルも頷いている。

 

「Dチーム!」

 

全員が脱出してしまったDチームのM3リーからは、当然応答が無い。

 

「Eチーム」

 

「駄目っぽいね」

 

そして、Eチームは必死に窪地から脱出しようとしている柚子の横で、まるで他人事の様に杏がそう言う。

 

「無事な車両はトコトン撃ち返せぇっ!!」

 

「誰か桃ちゃんを止めて~っ!」

 

そして相変わらずトリガーハッピーに勝手に命令を下す桃と、戦々恐々で装弾を続ける蛍。

 

「私達、如何したら?」

 

「隊長殿! 指示を!!」

 

「撃って撃って撃ちまくれぇーっ!!」

 

総隊長であるみほに指示を求める典子とエルヴィンと対照的に、桃は頭に血が上り切っている状態で攻撃指示を勝手に出し続ける。

 

その間にも、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は包囲を完了しようとする。

 

「全滅するぞぉっ!!」

 

「このままじゃやられるっ!!」

 

「俺達も逃げようっ!!」

 

「どうやってだよぉっ!!」

 

歩兵部隊も最早瓦解寸前であり、反撃も出来ずに悲鳴を挙げて塹壕の中に蹲るばかりだった。

 

「クソォッ!………!? うおぉっ!?」

 

試製四式七糎噴進砲でマーモン・ヘリントン装甲車を1両撃破した地市だったが、ブリティッシュ歩兵部隊の機関銃射撃が目の前の地面を耕し、慌てて塹壕の中へと引っ込む。

 

「駄目だ、弘樹! もう持たねえぞっ!!」

 

新しいロケット弾を試製四式七糎噴進砲に込めながら、近くに居る弘樹へそう叫び掛ける地市。

 

「…………」

 

しかし、何故か弘樹は塹壕の中で姿勢を低くしたままで黙り込んで居る。

 

「? 弘樹?………!? うおぉっ!?」

 

地市は弘樹の顔を覗き込み、驚愕する。

 

何故なら今の弘樹は………

 

『鬼』と表現するのが相応しい、怒りの表情を浮かべかけていたのだ。

 

「ひ、弘樹さん?………」

 

「うわあぁっ!? もう駄目だぁっ!!」

 

思わずさん付けで地市が声を掛けた瞬間、歩兵の誰かがそんな悲鳴を挙げる。

 

と、その次の瞬間!!

 

「喧しいぃっ!! 全員黙れえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」

 

戦場中に響き渡る程の大声で、弘樹がそう怒鳴った!!

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

その余りの声の大きさに、大洗機甲部隊は元より、敵のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊も動きを止める。

 

「ふ、舩坂………くん?」

 

「さっきから見っとも無くギャーギャーと喚きおってっ! 貴様等それでも日本男児かっ!? 大和撫子かっ!? 情けないとはこの事だぁっ!!」

 

唖然とした一同の中で、みほが何とか通信を送ろうとしたが、それを遮って弘樹は叫びを挙げる。

 

「我々はまだ敗北したワケでは無いっ! 例え最後の1兵となろうと、決しては戦う事を止めるなぁっ!! 栄えある大洗機甲部隊の意地! 見せてやれぇっ!!」

 

「…………」

 

「あの男………」

 

味方を鼓舞する様にそう叫ぶ弘樹の姿に、ダージリンは唖然としてティーカップから紅茶がだだ零れとなっており、アールグレイはそんな弘樹の姿に見入っている。

 

「大洗の荒廃、此の一戦に在り! 各員一層奮励努力せよっ!! 大洗! バンザーイッ!!」

 

最後にそう叫んで弘樹が万歳をしたかと思うと………

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

呼応するかの様に、生き残っていた大洗男子校歩兵部隊の面々も、一斉に万歳を行った!

 

「………凄い」

 

「皆さん、元気を取り戻しています」

 

「アイツは生まれる時代を間違ったんじゃないのか?」

 

「流石英霊の子孫です! 味方の士気崩壊を持ち直させましたよっ!!」

 

沙織、華、麻子、優花里がそんな感想とツッコミを漏らす。

 

「舩坂くん………」

 

みほも、そんな弘樹の姿に見入っていた。

 

『α分隊分隊長舩坂よりAチームへっ!! 西住隊長をお願いしますっ!!』

 

「!? ふえっ!? あ、ハイッ!!」

 

とそこで、当の本人から通信が入って来て、沙織が慌ててみほへと回線を繋ぐ。

 

『西住隊長! 意見具申させて頂きます!!』

 

「! どうぞ!!」

 

『残念ながら第1作戦は失敗です! 直ちにこの場より撤退し、第2作戦の市街地を使ったゲリラ戦へと持ち込む事を提案致しますっ!!』

 

「その意見を許可します! 全部隊、この場より撤退!! 市街地へ移動しゲリラ戦を仕掛けますっ!! 作戦名は『もっとコソコソ作戦』っ!! 略称、『コ二号作戦』です!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹とそう言葉を交わすと、みほは全部隊に撤退を命令。

 

第2作戦を実行する為、市街地への移動に入る。

 

恐らくみほは気づいていないだろうが、日本兵と化した弘樹に対応するかの様に、みほの口調まで軍人調になっていた。

 

「煙幕手榴弾及び発炎筒投擲ぃっ! 砲兵! 煙幕弾を撃てっ! その後砲は放棄して構わん!! 西住総隊長に続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解ぃっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう叫ぶと、大洗男子校歩兵部隊の面々は、一斉に煙幕手榴弾と発炎筒を投擲。

 

更に砲兵部隊も、煙幕弾を撃ち始める。

 

忽ち辺り一面が、濃い煙幕に覆われ、視界がまるで効かなくなる。

 

「!? 私とした事が………戦闘中に呆然とするなど………」

 

とそこで我に返ったダージリンが、零れた紅茶を見ながら悔しそうにそう呟く。

 

「ダージリン、如何するの?」

 

「大洗機甲部隊を追撃しますか?」

 

するとそこで、同じ様に我に返ったアッサムとオレンジペコが指示を求める。

 

「いえ、一旦煙幕が晴れるまで待ちますわ。敵陣だった場所を進むのに、視界が効かない状態なのは望ましくありませんわ。敵が自陣に罠を残していないとは限りませんから」

 

先程まで紅茶をだだ零ししていたのを忘れる様に、ダージリンは飽く迄優雅に、煙幕が晴れるまで待機を命じる。

 

「確かに………ココは一旦待った方が良さそうだ」

 

セージもダージリンの意見に賛成し、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、一旦煙幕が晴れるまでの間、その場で待機するのだった。

 

大洗機甲部隊の逆転なるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよガルパン人気に火が付いた切っ掛け………
グロリアーナとの練習試合です。
歩兵が居る分、様子が変わってますが、基本的な流れは一緒です。

今回は最初の待ち伏せが失敗するシーンまでを書かせていただきました。
次回はあの名シーン………
大洗町での市街戦となります。

そして今回………
主人公の舩坂 弘樹が、大日本帝国軍人の血を引いている事を思わせる一端を見せました。
今後もこういうシーンが出てきたりしますので、ご了承ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第11話『大洗市街戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第11話『大洗市街戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合に臨んだ大洗機甲部隊だったが………

 

第1作戦の待ち伏せは、Aチームとα分隊が敵を誘導する事には成功したものの………

 

トリガーハッピーと化した桃の居るEチームの発砲で、フレンドリーファイヤが発生。

 

その発砲で、待ち伏せと大洗機機甲部隊の位置を、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は把握。

 

逆に包囲を掛け、一斉攻撃を行った。

 

圧倒的に実戦経験が不足していた大洗機甲部隊は、Dチームが戦車を放棄して逃亡………

 

Eチームは履帯が脱落して走行不能に陥る。

 

更に、歩兵部隊もδ分隊の分隊長である勇武やγ分隊の重音が戦死判定を受け、士気が低かった隊員達が逃亡し始めた。

 

全滅は時間の問題かと思われたが、そこで弘樹が先祖・舩坂 弘から受け継いだ大和魂を見せ、全員を鼓舞。

 

如何にか持ち直した大洗機甲部隊は、第2作戦である市街地を利用したゲリラ戦を仕掛ける為、待ち伏せ作戦の為の陣地から撤退を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が放棄した陣地にて………

 

「ダージリン隊長! 煙幕が晴れる!」

 

セージがそう報告を挙げると、陣地の場所を覆っていた煙幕が晴れる。

 

「工兵部隊、前進」

 

「「「「「「「「「「「イエス、マイ・ロードッ!!」」」」」」」」」」

 

ダージリンがそう命じると、セージを中心に工兵達が注意深く前進し、地雷やトラップの類が仕掛けられていないかを確認する。

 

「地雷発見!」

 

「此方にも発見!」

 

何人かの工兵達からそう報告が挙がり、大洗機甲部隊が撤退の際に仕掛けていった対戦車地雷が発見される。

 

「すぐに処理しろ」

 

「「「「「「「「「「イエッサーッ!!」」」」」」」」」」

 

セージの指示で、発見した対戦車地雷を処理に掛かる工兵達。

 

やがて、戦車の進路確保が終わる。

 

「ダージリン総隊長。進路の確保、完了しました」

 

「ご苦労様………」

 

「オーイ、ダージリン! アイツは如何するんだぁっ!?」

 

とそこで、オレガノが大声でそう言いながら、そのデカイ手でとある方向を指差した。

 

そこには、履帯が外れた状態で擱座している大洗機甲部隊、戦車隊Eチームの38tの姿が在る。

 

擱座状態から抜け出そうともがいているが、履帯が外れている為、僅かに前後するだけだった。

 

「今は逃げた本隊を追うのが先決よ。対戦車兵に処理させなさい」

 

「了解。対戦車兵は何人か残って38tを処理しろ」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

セージがそう命令すると、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、逃げた大洗機甲部隊を追って前進。

 

陣地には、数人の対戦車兵が残された。

 

「さて、悪く思うなよ」

 

「今回は殲滅戦だからな………」

 

ブリティッシュ歩兵部隊の対戦車兵達はそう言いながら、38tにPIATを向ける。

 

………と、その時!!

 

「今だ! 撃てぇっ!!」

 

岩陰に潜んでいた大洗歩兵部隊の突撃兵がそう言いながら姿を現すと、手にしていたDP28軽機関銃を掃射する!

 

更に数人の突撃兵が現れ、同じ様に手にしていた軽機関銃や短機関銃で掃射を浴びせる。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「しまったっ!? 残っていた奴が居たのか!?………!? ぐああっ!?」

 

迎撃能力に乏しいブリティッシュ歩兵部隊の対戦車兵達は、突撃兵達の軽機関銃・短機関銃の掃射に対応出来ず、瞬く間に全員が戦死判定を受けた。

 

「良し、今だ! 38tの履帯の修理に掛かれっ!!」

 

そこで更に、そう言う台詞と共に十河が姿を見せ、数名の工兵と共に、38tの外れた履帯の修理に掛かる。

 

「手伝います!」

 

「あ! 私も!」

 

そこで、38tの車内から柚子と蛍が飛び出し、修理に加わる。

 

「急げぇっ! すぐに直して奴等を殲滅に向かうのだぁっ!!」

 

今だに頭に血が上っている桃が、キューポラから姿を見せると、十河達に向かってそう喚く。

 

「五月蝿い! 誰のせいで第1作戦が失敗したと思っているっ!!」

 

「何だとぉっ!? 貴様の無能を棚に上げてぇっ!!」

 

「棚に上げているのはどっちだっ!!」

 

「け、喧嘩してる場合じゃないよ~!」

 

「早く直そうよ~!」

 

口論に発展する十河と桃を、柚子と蛍が宥める。

 

「さてさて~、如何なるかね~」

 

そしてそんな中でも、杏は1人、干し芋を齧って暢気そうにしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の外れの荒野から大洗町の市街へと続く道………

 

煙幕でグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の目を遮った大洗機甲部隊は、先ず戦車隊を撤退させ、続いて万が一の為に後方に置いておいた車両を使い、歩兵部隊が撤退。

 

現在、市街地を目指して全部隊で悪路を走行中である。

 

「西住より平賀さん! 西住より平賀さん! 応答願います!」

 

と、その撤退中の最中、みほはオペレーターである煌人へ通信を送る。

 

『こちら平賀。如何やら第1作戦は失敗したみたいですね。予測はしていましたが』

 

煌人からは、皮肉交じりのそんな返事が返って来る。

 

「ハイ、Dチームは撃破され、Eチームは戦車の故障により、待ち伏せ地点にて立ち往生しています」

 

「歩兵部隊はδ分隊の分隊長である柳沢 勇武やγ分隊の狗魁 重音が戦死! 更に脱走兵が多数出て、現在3分の2に落ち込んでいる!!」

 

みほがそう報告すると、くろがね四起の運転をしながら弘樹もそう報告を挙げる。

 

『ふむ、状況は芳しくないな………』

 

とそこで、市街地に潜伏している工兵達と砲兵達の指揮を取っていた迫信の声が通信回線に入って来る。

 

「神大歩兵隊長。市街地に潜伏させた部隊は如何ですか?」

 

『配置は完了している、何時でも作戦を決行可能だ』

 

弘樹の質問に、迫信はそう返事を返す。

 

「了解しました!」

 

「敵が追いついて来ました!」

 

弘樹が返事を返したところ、後部座席の楓がそう声を挙げる。

 

「!………」

 

一瞬振り返った弘樹の目に、コチラを追って来るグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の姿が飛び込んで来る。

 

「思ってたよりも早い………」

 

「全部隊、反撃は控えて下さい! 決戦は市街地で着けます! 今は兎に角逃げる事を考えて下さい!!」

 

みほはそう命令し、全軍の速度を上げさせる。

 

やがて、大洗機甲部隊は、荒野を抜けて舗装された道へと出る。

 

そのまま進んで行き、磯前神社へと登る道を下り、大洗ホテルの前の大鳥居を潜り、大洗の町へと入った。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊から執拗な砲撃が浴びせられるが、如何にか交わしつつ、大洗鳥居下交差点を左折。

 

そのまま県道2号線を通って、海沿いを移動。

 

やがて大洗マリンタワー前を通り越し、特設観覧席が設置されている大洗アウトレット前を通過しようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特別観覧席………

 

「あ! 湯江!! 兄貴達、此処のすぐ横を通るみたいだよっ!!」

 

「ええ! 見に行きましょうっ!!」

 

観覧席にてモニターで試合の様子を観戦して居た遥と湯江がそう言い、道路の方へと向かう。 

 

そして路肩へと辿り着くと丁度のタイミングで、市街地へと向かう大洗機甲部隊が姿を見せる。

 

「来たよっ!」

 

「お兄様達は………」

 

遥がそう言うと、湯江は大洗機甲部隊の中に、弘樹の姿を探す。

 

するとそこで、弘樹と大河が運転しているくろがね四起が姿を現した。

 

「あ! お兄様~!」

 

「兄貴~! 頑張んなさいよ~っ!!」

 

2人の姿を見つけた湯江と遥が声援と共に手を振る。

 

「!………」

 

「おう! 任しときぃっ!!」

 

それに気づいた弘樹は軽く手を振り、大河も返礼する。

 

「これより市街地に入ります! 地形を最大限に生かして下さい!」

 

『コチラは事前に立てた作戦通りに展開している。上手く敵を誘い込んでくれれば援護出来る。頑張ってくれたまえ』

 

とそこで、先頭を行っていたⅣ号のみほと、市街地に潜伏している部隊の指揮を取っていた迫信が、全員にそう通信を送る。

 

「Why not!」

 

「大洗は庭です! 任せて下さい!!」

 

エルヴィンと典子が、威勢の良い返事を返す。

 

「δ分隊は分散して各分隊へと合流! その後は各分隊長の指示に従え!」

 

「「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

分隊長である勇武がやられていたδ分隊には、弘樹がそう指示を出し、光照、竜真、ジェームズ、清十郎、正義は其々の分隊へと合流する。

 

そして、大洗機甲部隊はマリンタワー南交差点を右折し、大貫町から市街地へと入って行った。

 

「如何やら、市街戦に持ち込む積もりみたいですね」

 

と、そんな大洗機甲部隊の様子を見ていた湯江がそう予想を立てていると………

 

「湯江ちゃ~ん! 遥ちゃ~ん!」

 

そう言う声と共に、男の子用の服を着た、湯江や遥と同い年ぐらいの少女が、ゴスロリファッションをした女性と、大洗女子学園の制服を着た女性を連れて現れる。

 

「あ! レナ!!」

 

その少女………『竹中 レナ』に気づいた遥が手を振る。

 

彼女もまた湯江と遥の友達であり、δ分隊の竹中 清十郎の妹なのである。

 

「ゴメンね~! お姉ちゃん達連れてくるのに時間掛かっちゃって~」

 

「当然よ。私は見たくないもの………戦車道と歩兵道の試合なんて」

 

「私も………試合結果は占いに出てたもの」

 

レナがそう謝罪していると、彼女と清十郎の姉で、竹中家の長女である大洗女子学園の制服を着た女性『竹中 愛』と、同じく彼女と清十郎の姉で、竹中家の次女であるゴスロリファッションの女性『竹中 あかね』がそう言う。

 

「もう~! お姉ちゃん達ったらまたそんな事言って~」

 

「だってそうでしょ! 私は戦車なんて嫌いなのよ!! 何であの子は、歩兵道なんかを始めたのよ!!」

 

「相変わらず戦車が嫌いなんですね」

 

愛のあからさまなな戦車嫌い発言に、遥が苦笑いを浮かべてそう言う。

 

「当たり前よ! 戦車に轢かれもすれば誰だって嫌いになるでしょっ!!」

 

「ホント、よく生きてたね………」

 

幼少時のトラウマを語る愛に、あかねがそうツッコミを入れる。

 

とそこで、大洗機甲部隊を追っていたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が、湯江達の前を通過して行った。

 

「あ! グロリアーナとブリティッシュの部隊だよ!」

 

「愛さん。あかねさん。取り合えず、今は試合の様子を楽しみましょう」

 

レナがそう言うと、湯江はその場を纏める様にそう言い、特設モニターが設置されているアウトレットの観覧席へと戻ろうと提案する。

 

「仕方ないわね………」

 

「私の占いは当たるわ………」

 

愛とあかねはそう言うと、湯江、遥、レナと共に、観覧席へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は………

 

大洗機甲部隊を見失い、市街地の入り口に当たる交差点で全軍一時停止していた。

 

「? 消えた?………」

 

「如何やら完全に市街地に入られてしまった様だね………」

 

キューポラの覗き窓から外を見ながらそう呟くダージリンと、クイッとメガネを上げてそう言うセージ。

 

「セージ歩兵隊長、如何しますか?」

 

馬上からティムがセージにそう指示を求める。

 

「この狭い市街では大部隊を組んで移動するのは困難だな………仕方が無い。ダージリン総隊長。ここは隊を細かく分けて虱潰しに探す分散行動を提案します」

 

「確かに………それが良さそうですわね」

 

セージとダージリンがそう言い合うと、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、車両を中心として複数の分隊に分かれ、分散して大洗の市街地へと突入して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・市街地内………

 

1両のマチルダⅡが、随伴歩兵達を周りに展開し、歩兵達に移動速度に合わせてゆっくりと市街地の路地を進んでいる。

 

「こちらロイヤル分隊。敵の姿は姿は発見出来ず。引き続き捜索を続ける。オーバー」

 

と、随伴分隊の分隊長と思わしき歩兵が、通信でそう報告を終えた瞬間………

 

ひゅるるるるる~~~~、と言う風切り音と共に、垂直上方から砲弾が降って来て、マチルダⅡと随伴歩兵分隊の眼前に着弾した!!

 

「!? 敵襲っ!!」

 

「迫撃砲か!? 何処からだっ!?」

 

分隊長が大声でそう叫ぶと、攻撃が迫撃砲である事を見抜いた歩兵が、発射場所を探す。

 

「! 正面ですっ!!」

 

すると、別の歩兵がそう報告を挙げ、随伴歩兵分隊の視線が前方へと集中すると………

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

「発射発射ぁっ!!」

 

建物の上に設置した5cm leGrW 36を、マチルダⅡと随伴歩兵分隊目掛けて撃っている俊と正義に数名の歩兵の姿が在った。

 

「あそこか!」

 

「歩兵部隊は下がって下さい! 先行しますっ!!」

 

すると、迫撃砲の砲爆撃で動けない歩兵分隊に代わる様に、マチルダⅡが前進。

 

至近距離で迫撃砲の砲弾が爆発しつつも、持ち前の装甲でやや強引に突き進み、建物の上に陣取っている俊と正義を砲撃しようと試みる。

 

間も無く射程内に捉えられると、薬局の前を通り過ぎようとするマチルダⅡ。

 

しかし、その時………

 

迫撃砲の砲爆撃に晒されている事もあり、マチルダⅡの乗員達は気づかなかった………

 

通り過ぎようとしている薬局の前に置かれていた旗の中に………

 

真田の六文銭と新撰組の誠の旗がある事に………

 

「今だ! 撃てぇっ!!」

 

エルヴィンの叫びが木霊した瞬間!!

 

薬局と隣の民家の間に潜んでいたⅢ突が発砲!!

 

至近距離から砲弾が、マチルダⅡの砲塔右側面に叩き込まれた!!

 

更に、その次の瞬間!!

 

「喰らえぇっ!!」

 

薬局の反対側に位置していた店のシャッターが開いたかと思うと、そこに隠されて設置されていた7.62cm PaK 36(r)に着いていた鷺澪が発砲!

 

砲弾はマチルダⅡの左車体側面部に吸い込まれる様に命中!!

 

左右至近距離から連続攻撃を受けたマチルダⅡは撃破されたと判定され、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「しまった!? 迫撃砲に気を取られた!?」

 

至近距離に潜んでいたⅢ突や、7.62cm PaK 36(r)の鷺澪に、残されたブリティッシュ歩兵部隊が驚いていると………

 

「よっしゃあぁっ!! 残りも一気に畳んだれぇっ!!」

 

大河がそう言う台詞と共に、屋根の上から姿を現し、手にしていた一〇〇式機関短銃を掃射し始める。

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

更に、周囲の建物の影や中から、軽機関銃を装備した偵察兵や、短機関銃を装備した突撃兵達が姿を現し、ブリティッシュ歩兵部隊に銃撃を浴びせる。

 

「うおぉっ!?」

 

「ぐああっ!? やられたぁっ!?」

 

「クッ! 撤退! 撤退ぃっ!!」

 

ブリティッシュ歩兵部隊は戦死判定者を出しながらも、弾幕を張って撤退する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所でも………

 

「撃て撃てぇっ! 撃ちまくれぇっ!!」

 

路駐された車や電柱、ブロック塀に隠れて射撃を行っている歩兵隊の中に居た竜真が、別部隊が予め設置して置いた九二式重機関銃で弾幕を張っている。

 

他の歩兵達も、同じ様に九二式重機関銃で弾幕を張っている。

 

「クソッ! 重機関銃まで備えていたのか!?」

 

マチルダⅡやランチェスター装甲車、ベッドフォード OXAの影に隠れたブリティッシュ歩兵部隊の1人がそう声を挙げる。

 

「こちらデューク分隊! 我々が前に出ます!!」

 

すると、進撃を阻まれている歩兵隊を助けようと、ライノー重装甲車が前に出る。

 

「! 装甲車だぁっ!!」

 

竜真がそう叫ぶ中、ライノー重装甲車は銃弾を次々と弾きながら前進し、主砲のオードナンス QF 2ポンド砲 口径40mm マークⅡの砲口を大洗歩兵部隊に向ける。

 

そして轟音と共に砲弾が吐き出されたかと思うと、竜真が居る場所と丁度反対側の家のブロック塀が爆発と共に崩れた!!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

その場所で弾幕を張っていた歩兵3人が衝撃波で吹き飛ばされ、戦死と判定される。

 

「クッ! 撤退ぃっ!! 撤退ぃっ!!」

 

それを見た竜真が、撤退の声を挙げる。

 

しかし、それを聞く前に、弾幕を張っていた大洗歩兵部隊は、重たい九二式重機関銃を放棄して撤退を始めていた。

 

「敵軍、撤退を開始」

 

「追撃するぞ。周囲に注意しろ」

 

撤退を始めた大洗歩兵部隊を追撃しに掛かるブリティッシュ歩兵部隊とマチルダⅡ。

 

と、その先頭を行っていたライノー重装甲車が、道路に在ったマンホールを踏む。

 

その途端、大爆発が起き、ライノー重装甲車が一瞬宙に浮かんで車輪が吹き飛ばされ、炎上しながら横倒しになった!!

 

車両は撃破と判定され、乗員も全員戦死と判定される。

 

「なっ!?」

 

「な、何が起こったのっ!?」

 

突然の事態にブリティッシュ歩兵部隊とマチルダⅡは混乱し、追撃が止まる。

 

その瞬間!!

 

「今デス!」

 

「そら、喰らえっ!!」

 

建物の屋根の上から現れたジェームズと大詔が、ブリティッシュ歩兵部隊とマチルダⅡの分隊の最後尾に居たランチェスター装甲車とベッドフォード OXAに、M24型柄付手榴弾の収束手榴弾と梱包爆薬を投げつけた!!

 

収束手榴弾はベッドフォード OXAの兵員輸送用の荷台へ、梱包爆薬はランチェスター装甲車のボンネットの上に落ちる。

 

そして次の瞬間には大爆発し、両車両とも撃破され、乗員も戦死と判定される。

 

「!? 後ろもっ!?」

 

「コレでは立ち往生だぞ!?」

 

車両の残骸が道を塞ぎ、立ち往生状態となるブリティッシュ歩兵部隊とマチルダⅡ。

 

「上手い事、マンホールに偽装した対戦車地雷に引っ掛かった様ですね」

 

「後は任せたぜ! Bチームっ!!」

 

逞巳が、先程ライノー重装甲車が踏んだマンホールが偽装した地雷である事を説明し、秀人がそう声を挙げたかと思うと………

 

風切り音が聞こえてきて、榴弾がブリティッシュ歩兵部隊の中に着弾する!!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

破片を浴びたブリティッシュ歩兵部隊の歩兵達が吹き飛ばされ、戦死判定を受ける。

 

「良いぞぉっ! 撃って撃ちまくるんだっ!!」

 

「ハイ! キャプテンッ!!」

 

その榴弾を砲撃している八九式の車内で、九〇式榴弾を次々に装填している典子が、あけびにそう言う。

 

「クッ! マチルダ! この際仕方がない! ランチェスターとベッドフォードを蹴散らして強引に後退すんだ!!」

 

「りょ、了解ッ!!」

 

随伴歩兵分隊の分隊長からそう指示され、マチルダⅡは撃破されたランチェスター装甲車とベッドフォード OXAを強引に押し退け、後退する。

 

しかし、そこには………

 

「発射ぁっ!!」

 

撃破したランチェスター装甲車とベッドフォード OXAの残骸と煙に隠れて、一式機動四十七粍速射砲を設置していた誠也と数名の砲兵達の姿が在った!

 

一式機動四十七粍速射砲から発射された一式徹甲弾が、マチルダⅡの後部燃料タンクを撃ち抜く!!

 

「キャアッ!?」

 

「!? 何時の間に!? クソッ! 戻れ! 戻れぇっ!!」

 

その砲撃音で誠也達と一式機動四十七粍速射砲の存在に気づいたブリティッシュ歩兵部隊が、慌ててマチルダⅡが押し退けたランチェスター装甲車とベッドフォード OXAを抜けてマチルダⅡの元へ向かうと、誠也達と一式機動四十七粍速射砲に向かって弾幕を張る。

 

「榴弾装填っ!!」

 

「了解っ!!」

 

銃弾が防楯に弾かれる音を聞きながら、誠也は装填手に榴弾の装填を指示し、ブリティッシュ歩兵部隊に榴弾を見舞って応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、別の一角では………

 

「向こうで銃声と爆発音がするぞ」

 

「多分、他の分隊が交戦状態に入ったんだ」

 

「コチラも油断せずに行くぞ」

 

遠くから聞こえる銃声と爆発音を聞きながら、ディンゴ偵察車を中心にした歩兵分隊が、四方を警戒しながらゆっくりと市内の路地を進んでいる。

 

今のところ、大洗機甲部隊との接触は無く、遠くから銃声と爆発音が断続的に聞こえるのに対し、この分隊は不気味な静寂に包まれていた。

 

「この辺だけ妙に静かだな………」

 

「敵は居ないんじゃないのか?」

 

周囲を警戒しているブリティッシュの歩兵達は、思わずそんな言葉を漏らす。

 

やがて、一同の前方に道路に、マンホールが現れる。

 

それを特に気にせず通過しようとするブリティッシュ歩兵部隊。

 

如何やら今度は偽装した地雷ではないらしく、ブリティッシュの歩兵達が踏んでも変化は無い………

 

やがてディンゴ偵察車も、そのマンホールを跨ぐ様にして通り過ぎようとする。

 

と、ディンゴ偵察車の車体の中心が丁度真上に重なった瞬間!!

 

マンホールがズッと横にズレ、中から手が伸びて来て、九九式破甲爆雷をディンゴ偵察車の車体下に取り付けた。

 

そうとは気づかぬディンゴ偵察車が少し前進を続けた次の瞬間!!

 

九九式破甲爆雷が爆発!!

 

「「うわあぁっ!?」」

 

撃破判定を受けたディンゴ偵察車から、戦死判定を受けた歩兵2人が崩れ落ちる様に出て来て、そのまま道路に倒れる。

 

「!? 何だっ!?」

 

「敵の攻撃っ!? 何処からだ!?」

 

突如ディンゴ偵察車が撃破され、ブリティッシュ歩兵部隊は慌てて敵の姿を探す。

 

「! あっ!? アレは!?」

 

そこで、ブリティッシュ歩兵の1人が、ズラされたマンホールに気づく。

 

「野郎っ! 下水道を使ってっ!!」

 

「ドブネズミみたいな真似しやがってっ!!」

 

「手榴弾だ!!」

 

偵察車を破壊された怒りからか、口調が荒くなるブリティッシュの歩兵達が、ベルトに下げていたミルズ型手榴弾を、蓋が開いたマンホールへ次々に放り込み、離れる。

 

手榴弾が下水に落ちたと思われる水音が響いたかと思うと、続いて爆発音が次々に起こり、マンホールから黒煙が噴き出す!

 

「やったかっ!?」

 

と、ブリティッシュ歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間!!

 

「Wasshoi!」

 

そう言う掛け声と共に、ブリティッシュが手榴弾を放り込んだマンホールからやや離れた位置に在ったマンホールの蓋が宙に舞い、そこから人影が飛び出した!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

驚くブリティッシュ歩兵部隊を他所に、飛び出した人影は激しく回転しながら、電柱を蹴って更に錐揉みで回転すると着地を決め、そこからジムナスティックス選手めいた動きで側転から後転、後転からのバク転を決め、ブリティッシュ歩兵部隊の頭上を飛び越えて、その傍に着地する!

 

それは、旧日本海軍空挺部隊の戦闘服姿で、顔を目元以外覆面で隠した背中に忍刀を背負った忍者………小太郎だった。

 

「ドーモ。ブリティッシュの皆=サン。葉隠 小太郎です」

 

小太郎はブリティッシュの歩兵部隊に向かって、身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「アイエエエエ!」

 

「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「コワイ!」

 

「ゴボボーッ!」

 

サツバツ!

 

突如として奇怪な登場を果たした小太郎に、ブリティッシュ歩兵達は恐怖のあまり容易に(自主規制)し、嘔吐した。

 

何故なら、目の前に立ちはだかった大洗の歩兵・小太郎の姿があからさまにニンジャなのだ!

 

「イヤーッ!」

 

と、小太郎はNRSを起こしているブリティッシュの歩兵達に肉薄すると、その内の1人に容赦無く、ニンジャ腕力で強化されたカラテチョップを喰らわせる!

 

「グワーッ!」

 

カラテチョップを受けたブリティッシュの歩兵の1人は、衝撃のあまり、風に飛ばされた凧めいて宙に舞い、地面に叩きつけられる!

 

「!?」

 

「アイエエエエ!」

 

それで我に返った残りのブリティッシュの歩兵達は、すぐに小太郎へ襲い掛かる。

 

ある者は、銃剣で突きを繰り出し………

 

ある者は、拳銃を抜いて銃口を向け………

 

ある者は、殴り掛かる。

 

「イヤーッ!」

 

しかし!!

 

覆面に隠された小太郎の口からニンジャ・シャウトが挙がると、小太郎はバク転で飛び上がり、スクラップめいたディンゴ偵察車の残骸の上に着地する。

 

「イヤーッ!」

 

着地と同時に小太郎が腕を鞭の様に撓らせて振ると、袖から2枚のスリケンが射出される!

 

「アバーッ!」

 

「アバーッ!」

 

射出されたスリケンは、ブリティッシュの歩兵2人の眉間へと命中!

 

ワザマエ!

 

スリケンを喰らったブリティッシュの歩兵2人は、しめやかに戦死と判定を受ける。

 

「イヤーッ!」

 

小太郎はスクラップめいたディンゴ偵察車の残骸の上から更に飛ぶと、路地裏へと転がり込む様に隠れる。

 

「ザッケンナコラー!」

 

「スッゾコラー!」

 

興奮の余りヤクザめいた口調になりながら、生き残ったブリティッシュの歩兵が路地裏へと逃げ込んだ小太郎を追う。

 

だが、その歩兵達が路地裏に飛び込んで最初に見たモノは………

 

「…………」

 

刃物の様に鋭い眼光で、愛刀である軍太刀『戦獄』を、居合いの構えで構えている熾龍の姿だった。

 

「えっ?………」

 

「むうんっ!!」

 

先頭で路地裏へと飛び込んだブリティッシュの歩兵が呆けていた瞬間!!

 

熾龍は容赦無く居合い斬りを叩き込む!!

 

「!? ぐあああっ!?」

 

まともに居合い斬りを喰らったブリティッシュの歩兵は、断末魔の様に叫び、バタリと倒れると戦死判定を受ける。

 

「なっ!?」

 

「伏兵っ!?」

 

居合い斬りを受けてやられたブリティッシュの歩兵の後ろに居た2人の歩兵達が驚きながらも、前の方に居た歩兵が銃剣で突きを繰り出そうとする。

 

「遅いっ!!」

 

だが、それよりも早く、熾龍は返す刀での2撃目を喰らわせる!!

 

「ガハッ!?」

 

銃剣での突きを繰り出そうとしていたブリティッシュの歩兵は、敢えなく戦死判定となる。

 

「くうっ!!」

 

と、最後に残っていたブリティッシュの歩兵が、右手に握っていたエンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.I*を向ける。

 

「貰ったぁっ!!」

 

エンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.I*を握ったブリティッシュの歩兵がそう叫び、引き金を引く。

 

パアァンッ!と言う乾いた音が響き渡ったかと思うと………

 

エンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.I*を握ったブリティッシュの歩兵がバタリと倒れ、戦死判定を受けた。

 

「…………」

 

熾龍はそのブリティッシュの歩兵を見ながら戦獄を納刀し、背後を振り返る。

 

「当たりましたか………良かった」

 

その方向の、やや離れた高い建物の上には、銃口から硝煙の上がっているモシン・ナガンM1891/30を伏せて構えていた飛彗の姿が在ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら5号車! 申し訳ありません! やられました!!』

 

『ロイヤル分隊、被害甚大! 後退します!!』

 

『こちら3号車! 砲兵の攻撃を受けました! 現在損傷状況を確認中!!』

 

『プライム分隊、現在敵と交戦中! 我が方不利! 至急援軍請う!!』

 

「なっ!?………」

 

通信回線に次々と飛び込んで来る苦戦の報告に、ダージリンは思わず持っていたティーカップを落としてしまう。

 

ティーカップは床に落ちると割れ、紅茶が戦車の中を汚した。

 

「クッ………やってくれるな」

 

隣に居たSASジープの助手席のセージも、苦い顔をしながらメガネをクイッと上げる。

 

「セージさん、落ち着いて下さい」

 

と、そんなセージを気に掛ける様に、ティムがそう言う。

 

「………大丈夫だ、ティム。如何やら、少々彼等を侮っていた様だね」

 

するとセージは落ち着いた様子で、メガネのレンズを光らせながら、不敵な様子でそう言い放つ。

 

「おやりになるのね。でも、ココまでよ………」

 

と、ダージリンも気を取り直す様にそう呟いたかと思うと、ハッチを開けて車外へと姿を現す。

 

「…………」

 

そして、チャーチル歩兵戦車と並ぶ様に随伴していたアールグレイを見やる。

 

「アールグレイ。機甲部隊総隊長として命じます………大洗機甲部隊の歩兵達を倒しなさい」

 

そのアールグレイに向かって、ダージリンはバッと手を振る様に向け、そう命令する。

 

「………イエス・マイ・ロード」

 

アールグレイはそう返事を返すと、肩にベルトで下げていたリー・エンフィールドライフルのRifle No.4 Mk Iを手に構えた。

 

「ティム、君も頼む」

 

「ハイ、セージ隊長」

 

セージもティムへと呼び掛け、ティムはランチェスター短機関銃Mk.1*を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗の市街地の公園にて………

 

茂みと木の陰に隠れて、弘樹と楓が、公園の入り口から進入してこようとしているブリティッシュ歩兵部隊を迎え撃っている。

 

「楓! 手榴弾っ!!」

 

「! ハイッ!!」

 

弘樹に言われ、楓はベルトに下げていた九七式手榴弾を投げる。

 

「「「「「!? うわあぁーっ!?」」」」」

 

九七式手榴弾は公園に侵入しようとして来ていたブリティッシュ歩兵部隊の足元に転がり、纏めて戦死させた。

 

「クソッ! 駄目だ! コッチからは行けないっ!!」

 

「裏へ回れっ!!」

 

ブリティッシュ歩兵部隊は、公園への進入を諦め、裏から回ろうと撤退する。

 

「やりました!」

 

「ああ………」

 

短く言葉を交わし合いながら、楓と弘樹は弾丸をリロードする。

 

「地市、了平。そっちは如何だ?」

 

『今ブリティッシュのガイ装甲車を1両撃破したぜ』

 

『コッチも何人か歩兵を倒したぜ』

 

別の場所で戦っていた地市と了平に戦況を尋ねると、そう言う返事が返って来る。

 

「………神狩は如何した?」

 

弘樹は一瞬間を置き、2人の近場で戦っている筈である白狼について尋ねる。

 

『さっき江戸鮫と日暮と会ったんだが、そっちの援護に向かったぜ』

 

地市がそう返信して来る。

 

「そうか………」

 

と、その時!!

 

『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?』

 

「「!?」」

 

通信回線に大洗歩兵のモノと思われる悲鳴が響き、驚く弘樹と楓。

 

『な、何だアイツは!?』

 

『は、早いっ!?………!? ギャアッ!?』

 

『うわぁっ!? やられたぁっ!?』

 

『騎兵が!? 騎兵がぁっ!!』

 

それを皮切りにした様に、通信回線には大洗歩兵部隊の歩兵達の悲鳴が次々に挙がる。

 

「こ、コレは!?」

 

「こちらα分隊の舩坂! 如何した!? 何があったっ!?」

 

楓が狼狽していると、弘樹はすぐに状況報告を求める。

 

『こ、コチラβ分隊の東郷。すみません………やられました』

 

すると、β分隊の武志からそう報告が挙がる。

 

「一体何があったんだ?」

 

『腰にフルーレを差した騎兵が現れて………一瞬の内に、僕を含めた5人を………』

 

「腰にフルーレ?」

 

その報告を聞いた弘樹の脳裏に、試合前の挨拶の時に見たブリティッシュの騎兵………アールグレイの姿が過ぎる。

 

と………

 

『うわぁっ!?………コチラδ分隊の竹中! スミマセン! やられました!!』

 

そこで今度は、δ分隊の清十郎が戦死判定を受けたとの報告を挙げる。

 

「舩坂より竹中へ。敵は腰にフルーレを差した騎兵か?」

 

『いえ、違います………白馬に跨った騎兵でした………』

 

「白馬に跨った騎兵………」

 

「如何やら、その2人がブリティッシュ歩兵部隊のエースの様ですね………」

 

隣で同じ報告を聞いていた楓がそう推論を述べる。

 

「………舩坂より神大歩兵隊長。並びに西住総隊長。応答願います」

 

『コチラ西住です』

 

『私だ。報告を聞いていた………いよいよ敵も本気を出してきたと言う事だな』

 

弘樹はすぐにみほと迫信へと通信を送り、みほからはやや緊迫した、迫信からはいつもと変わらぬ落ち着いた声が返って来る。

 

「敵歩兵部隊の中にエースが2名居る様です。もし遭遇した場合は決して単独では戦おうとせず、他の歩兵、若しくは戦車との連携を取らせて戦うべきだと意見具申致します」

 

『確かに………未熟な大洗機甲部隊の隊員達では、単独で敵のエースと戦うのは危険だね』

 

『すぐに全員に指示を出します』

 

『平賀だ。隊員達との報告を纏めて、そのエースが何処に居るかを見当をつけた』

 

と迫信とみほが話し合っていると、煌人が通信回線に割り込んで来て、戦死判定を受けた大洗男子歩兵達の報告から、ブリティッシュ歩兵部隊のエースの予想現在位置を割り出し、全員に伝える。

 

「! 1人はこの近くに居るみたいですね」

 

ブリティッシュ歩兵部隊のエースの内、片方が今自分達が居る場所から近い場所に居ると聞いて、楓は思わずウィンチェスターM1887を握り締める。

 

「地市、了平。一旦合流するぞ」

 

『了解っ!』

 

『勘弁して欲しいよぉ、敵のエースと対決なんてさぁ~』

 

弘樹は地市と了平に合流指示を出し、2人と合流する為に、周囲を警戒しながら公園を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

「敵のエースが出て来たってよ」

 

「敵さんもいよいよ本腰入れたっちゅう事やな」

 

煌人からの全体通信でエース登場を聞いていた海音と豹詑がそう言い合い、お互いの獲物である試製五式四十五粍簡易無反動砲とGew98を点検する。

 

「ふふふ………面白くなってきたじゃないか」

 

そして白狼は1人、闘志を燃やす

 

「! そこだっ!!」

 

と、そう言う台詞と共に、白狼は正面に見えていた十字路の左の道路の出口に、シュミット・ルビンM1889の銃口を向ける。

 

その次の瞬間に、角からブリティッシュ歩兵部隊の騎兵の1人が飛び出し、白狼は容赦無く引き金を引いた!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

出掛けを狙われ、丁度心臓の位置に弾丸を喰らってしまったブリティッシュ騎兵は落馬し、戦死と判定される。

 

「よっしゃあっ! 敵1撃破!!」

 

白狼は嬉しそうな様子を見せながら、レバーを引いて排莢する。

 

「おおっ!」

 

「流石やなぁ!」

 

と、海音と豹詑が関心の声を挙げると、今度は逆側の十字路の出口の方から、また馬の蹄の音が聞こえて来る。

 

「まだ居たか!!」

 

すぐに仕留めてやるとばかりにシュミット・ルビンM1889を構えると、ドンピシャのタイミングで発砲する白狼。

 

だが、しかし!!

 

「ライトニングスター、跳べ!!」

 

そう言う声が響いたかと思うと、馬の鳴き声が聞こえ、十字路の出口から姿を現した騎兵が馬ごと大跳躍し、白狼が撃った弾丸は、ブロック塀に穴を開けた。

 

「!?」

 

「何やてっ!?」

 

「跳んだ!?」

 

敵騎兵の思わぬ回避に、白狼、海音、豹詫は驚きを露にする。

 

「そこっ!!」

 

敵騎兵………愛馬のライトニングスターに跨ったティムは、跳躍した状態の馬上からランチェスター短機関銃Mk.1*を構え発砲!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

海音に無数の銃弾を浴びせた!!

 

「! 海音っ!!」

 

「!?」

 

豹詫と白狼が驚愕する中、海音は戦死と判定される。

 

「待ち構えられていたとは………あと少し反応が遅れていたら危なかったですね」

 

と、着地したライトニングスターを翻し、ティムは豹詫と白狼に向き直る。

 

「「!!」」

 

その言葉で我に返った豹詫と白狼はすぐに、ZK-383短機関銃とシュミット・ルビンM1889を構える。

 

「自己紹介が遅れましたね。僕は聖ブリテッシュ男子高校の突撃兵、ティムです。以後お見知り置きを」

 

そんな2人に向かって、ティムは畏まった様子で挨拶をする。

 

「随分な余裕だな、オイ」

 

その様子が余裕に見えた白狼が、舐められていると思い、若干口調を荒くしてティムにそう言い放つ。

 

「戦車道、そして歩兵道は唯戦うだけのモノではありません。戦いを通して礼節を学ぶ神聖なる武道です。その精神に則って挨拶をしたまでです」

 

ティムは別段に気にした様子は見せず、そう返すが………

 

「そうかいっ!!」

 

途端に白狼は不意を衝く様に、シュミット・ルビンM1889を発砲した。

 

「っ! 粗野な人ですね………」

 

そんな白狼の様に呆れる様な様子を見せながら、ライトニングスターを走らせ、銃弾を回避するティム。

 

「逃がすかっ!!」

 

豹詫がすぐに、ティムへとZK-383短機関銃を向けたが………

 

「遅いですよっ!」

 

ティムの方が先に、ランチェスター短機関銃Mk.1*を発砲!

 

豹詫のZK-383短機関銃を弾き飛ばした!

 

「うわぁっ!? クソッ!!」

 

すぐに腰のホルスターからラハティL-35を抜いたが………

 

その瞬間には、ティムの跨ったライトニングスターが目の前にまで迫っていた。

 

「!? うおおっ!?」

 

横っ飛びする様に回避する豹詫だったが………

 

「貰いました!」

 

その回避先を読んでいた様に、ティムはランチェスター短機関銃Mk.1*を発砲する!

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

回避中で動けぬ瞬間に無数に弾丸を叩き込まれ、豹詫は地面に倒れると、戦死判定となった。

 

「! 豹詫! この野郎っ!!」

 

仲間の仇とばかりシュミット・ルビンM1889を連射する白狼。

 

「当たりませんよ」

 

しかし、照準が良く定まっていないまま発砲している為か、ライトニングスターで走るティムには掠りもしない。

 

「クソッ!!」

 

それでも次々に弾丸を発砲する白狼だったが………

 

やがてシュミット・ルビンM1889が弾切れし、引き金を引いても乾いた音を立てるだけとなる。

 

「!? ヤベッ! 弾が!?」

 

「隙有りです!」

 

その瞬間を見逃さず、ティムは白狼に突撃する。

 

「!! クソッタレッ!!」

 

すぐに腰のホルスターから、ラドムVIS wz1935を抜く白狼だったが………

 

「ハアッ!!」

 

目の前まで迫ってきていたライトングスターが不意に横腹を見せた瞬間!!

 

ティムの蹴りが繰り出され、ラドムVIS wz1935を弾き飛ばした!!

 

「!?」

 

「ライトニングスターッ!!」

 

そして、動きが止まった白狼に、ライトニングスターの後ろ蹴りが叩き込まれる!!

 

「!? ガハッ!?」

 

白狼は咄嗟にガードしたももの、弾き飛ばされてブロック塀に背中から激突。

 

そのままガクリと座り込んで動かなくなった。

 

「コレも試合です………悪くも思わないで下さい」

 

気絶したと思い込んだティムはそう言い残すと、その場から去って行く。

 

しかし、ティムが去って少しすると………

 

「アイダダダダ………あの野郎~!」

 

何と、気を失ってはいなかった白狼が、ゆっくりと起き上がり、そう呟いた。

 

「野郎! ブッ倒してやるっ!!」

 

白狼はまるで頭に来たとばかりにそう叫ぶと、弾切れした自身のシュミット・ルビンM1889の代わりに、豹詫が使っていたZK-383短機関銃を拾い上げる。

 

そして、近くの路肩に置かれていた、住民の物と思われる自転車を発見すると………

 

「借りるぞっ!!」

 

そう言うと共に鍵を壊して跨り、自転車兵よろしくティムを追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ市街戦です。
私の作品では歩兵が居る事もあり、若干激しめ………
と言うより、泥臭くなってる感じがありますね。
まあ、歩兵の戦闘と言うのは泥臭いのがデフォルトですからね。

それと、今回の話の中で一部雰囲気が違う箇所があったと御思いでしょうが………
ニンジャはいない、良いね?
作者はニュービーニンジャヘッズなので、忍殺語が上手く使えない。
実際難しい。
今後小太郎が登場する場面で、同じ様な描写をする可能性がありますが、お遊びだと思って笑って流してもらえると幸いです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第12話『ブリティッシュ騎兵隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第12話『ブリティッシュ騎兵隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1作戦の待ち伏せが失敗した大洗機甲部隊は………

 

第2作戦へと移行し、大洗の街中を使って、市街戦へ突入。

 

思惑通りに戦力を分散させ、動きを制約されたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊に………

 

大洗機甲部隊は次々に奇襲を仕掛ける。

 

だが、そんな中………

 

遂にブリティッシュ歩兵部隊のエースであるアールグレイとティムが動き始め………

 

またも戦況は分からなくなるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・市街地内………

 

「「ハッハッハッハッ!!」」

 

マチルダⅡを1両撃破したCチームは、エルヴィンとカエサルが車外へ姿を晒し、腕組みをした状態で得意そうに笑いながら、路地を進んでいる。

 

「頼もしいなぁ」

 

「実際Ⅲ突は大洗戦車部隊の中では1番の火力を持っていますからね。Cチームを守れれば勝機はあります」

 

「…………」

 

そんなCチームのⅢ突に随伴している歩兵部隊の中には磐渡と灰史、そして途中でバッタリと会って合流した陣の姿が在る。

 

「! 正面に敵戦車っ!!」

 

とそこで、随伴部隊の中に居た偵察兵がそう声を挙げる。

 

その報告通りに、Ⅲ突一行が進んでいた路地の正面のT字路に、マチルダⅡと随伴のブリティッシュ歩兵部隊が現れる。

 

「ぬうっ! アレに見えるは大洗のⅢ突!! さっきグロリアーナのマチルダを1両やった奴だなぁ!! 此処で会ったが百年目!! マチルダの弔い合戦じゃあ!!」

 

「いや、オレガノ先輩! 死んでませんから!!」

 

Ⅲ突一行の姿を見るが否や、そう言い放ってPIATを構えるオレガノに、後輩の歩兵がツッコミを入れる。

 

「Ⅲ突、逃げろ! 歩兵の相手は俺達がする!!」

 

「任せたぞ! おりょう! 路地裏に逃げ込め!!」

 

「ほい」

 

四四式騎銃を構えながら磐渡がそう言うと、エルヴィンはおりょうに指示を出し、Ⅲ突は路地裏へと退避する。

 

「良し! 敵の歩兵を食い止めろぉっ!!」

 

磐渡がそう言って発砲したのを皮切りに、Ⅲ突に随伴していた歩兵部隊はマチルダⅡと共に進軍して来たオレガノを中心としたブリティッシュ歩兵部隊に銃弾を浴びせる。

 

「ぶわっはっはっはっはっ! 素人の弾なんぞ、そうそうに当たらんぞ!! 突撃兵部隊! 着剣っ!!」

 

と、弾丸が至近距離を掠めながらもオレガノがそう言い放ったかと思うと、ブリティッシュ歩兵部隊の中の、小銃を持った突撃兵達が、一斉に銃剣を着剣した。

 

「!? 何っ!?」

 

「まさか………」

 

「そーれっ!! 突撃いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

オレガノがそう声を挙げた瞬間、着剣した突撃兵達が、一斉に突撃を開始する!

 

「嘘だろっ!? 突っ込んで来やがったっ!?」

 

「て、手榴弾をっ!!」

 

磐渡が驚きの声を挙げると、灰史は慌てて手榴弾を投げようとし、機関銃以外の武装だった大洗歩兵達も、手榴弾に手を伸ばす。

 

「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

しかし、それよりも早く、着剣したブリティッシュの突撃兵達が、磐渡達の居る大洗歩兵部隊の中へと雪崩れ込んで来た!!

 

「テヤアァッ!!」

 

「うわああっ!?」

 

「セヤアアッ!!」

 

「ぎゃああぁっ!?」

 

路地は両軍の歩兵が入り混じり、混戦状態となる。

 

不意を突く様なブリティッシュ歩兵部隊の突撃に、一時混乱した大洗歩兵隊だったが、すぐに軍刀や銃剣を抜き、近接戦闘へと移行する。

 

「歩兵隊が攻撃を受けているぞ」

 

「慌てるな。入り組んだ道を利用して戦車共々背後を突くんだ。Ⅲ突は車高が低いからな」

 

カエサルの言葉に、エルヴィンはそう返して、Ⅲ突に入り組んだ道を進ませる。

 

このまま相手の裏を取り、一気に殲滅する作戦の様だ。

 

「皆! 持ちこたえろぉっ!! もうすぐⅢ突が援護してくれるっ!!」

 

四四式騎銃の銃剣を展開させた磐渡が、ブリティッシュの歩兵達を何とか捌きながら、大洗歩兵部隊にそう呼び掛ける。

 

と、その肩が何者かに突かれる。

 

「!?」

 

反射的に振り返りながら四四式騎銃の銃剣を振るう磐渡だったが、突っついた相手………陣は片手で磐渡の攻撃を止め、もう片方の手で自分を指差す。

 

「あ、浅間か!? 驚かすなっ!!」

 

「…………」

 

突然肩を突かれた事を非難すると、陣は謝る様にペコリと頭を下げる。

 

最も、190cmの男が少し頭を下げたぐらいでは、少々分かり難かったが………

 

「で、如何した?」

 

「…………」

 

磐渡が尋ねると、陣はⅢ突が裏取りに向かっている路地裏の方向を指差す。

 

「ん?………!? うええっ!?」

 

その方向を見やり、磐渡は思わず間抜けた声を挙げる。

 

何故ならそこには………

 

木製の塀の向こうを移動している4本の幟の姿が在ったからだ。

 

更にタイミングが悪い事に、マチルダⅡが前進して来て、幟に気づいた様に砲塔を旋回させ、木製の塀越しに狙いを定める。

 

「Cチーム! 幟を下ろせ! 敵から丸見えだぞっ!!」

 

『『『『えっ?』』』』

 

慌てて通信を送る磐渡に、Cチームから間抜けた返事が返って来た瞬間!

 

マチルダⅡが発砲!!

 

放たれた砲弾が、木製の塀を吹き飛ばし、Ⅲ突の側面に命中!!

 

幟がボロボロとなり、まるでそれに代わる様に、判定装置が白旗を上げた。

 

「やったぞ!」

 

「ハハッ! あんな事したら誰だって気づくって!!」

 

マチルダⅡの乗員達が、撃破されたⅢ突を笑う様にそう言う。

 

「おおっ!? やったな、4号車! 全然気づかなかったぞ!! ぶわっはっはっはっはっ!!」

 

しかしそこで、オレガノがそう言いながら豪快に笑う。

 

「「オレガノ先輩………」」

 

そんなオレガノを見て、マチルダⅡの乗員とブリティッシュの歩兵達は苦笑いを浮かべる。

 

「さ、Ⅲ突がやられたっ!?」

 

「クソッ! 全員撤退!! 撤退しろぉっ!!」

 

すぐにそう命令を飛ばす磐渡だったが………

 

「おおっと! 逃がさんぞぉっ!!」

 

そんな磐渡に向かって、オレガノはPIATを発砲する!!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

直撃を受けた磐渡は吹き飛ばされ、地面を転がると、戦死判定を受ける。

 

「蹄さんがやられた!」

 

「こ、後退ぃっ!!」

 

その光景を見た大洗歩兵部隊には動揺が走り、灰史の声で一斉に退却を始める。

 

「逃がすなぁっ!!」

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

しかし、ブリティッシュの歩兵達は、退却に転じた大洗歩兵部隊に容赦無く発砲する。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

次々と背中から撃たれ、戦死判定を受けていく大洗歩兵部隊。

 

「ぶわっはっはっはっはっ! 一網打尽にしてくれるわぁ! オイ! 早く弾を込めろ!!」

 

その光景を見ながらオレガノは、自分のPIATの装填をさせている歩兵の1人にそう呼び掛ける。

 

「少しは自分でも装填の仕方を覚えて下さいよ!………良し! 出来た!!」

 

愚痴る様に歩兵がそう言い返すと、装弾を終えたPIATをオレガノに渡す。

 

「よおしっ! トドメを刺してやるぅっ!!」

 

PIATを受け取ると、退却している大洗歩兵部隊へと向けるオレガノ。

 

そして引き金が引かれる………

 

かと思われた瞬間!!

 

ズガーンッ!!と言う凄まじい銃声が鳴り響いた!!

 

「!? おうわぁっ!?」

 

直後にオレガノがブッ飛ばされ、地面に倒れる!

 

「!? オレガノさん!?」

 

「!?」

 

ブリティッシュの歩兵達が驚いていると、オレガノに戦死判定が下される。

 

「おおっ!? 何じゃあっ!? 誰にやられたんじゃ!?」

 

戦死判定を受けたオレガノが首だけ起こし、誰にやられたのかを確認する。

 

すると………

 

「…………」

 

銃口から硝煙の上がっているマウザーM1918を腰溜だめで構えている陣の姿を確認する。

 

「!!………」

 

更に陣は、ボルトを引いて排莢・装填を行ったかと思うと、今度はマチルダⅡに狙いを定めて発砲!!

 

放たれた銃弾がマチルダⅡの履帯に命中!

 

命中した部分から履帯が千切れ飛んだ!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「しまったっ!? 履帯が!?」

 

履帯を切られたマチルダⅡが、横滑りする様に停止する。

 

「今の内です! 撤退ぃーっ!!」

 

その隙を見逃さず、灰史がそう叫んで、生き残った歩兵達と一緒に撤退して行く。

 

「…………」

 

陣も牽制射撃をしつつ、裏路地を使ってその場から撤退して行った。

 

「大洗の連中が逃げるぞ!」

 

「待て! マチルダの修理が先だ!!」

 

ブリティッシュの歩兵達は追撃せず、工兵を中心にマチルダⅡの壊れた履帯の修理に掛かる。

 

「さっきの狙撃兵の男は何だったんだ!?」

 

「あの反動の強いマウザーM1918を腰だめで………しかもかなり連射して撃っていたぞ」

 

マチルダⅡの壊れた履帯を修理しながら、ブリティッシュの歩兵達は陣について話し合う。

 

「大洗の歩兵は化け物かよ」

 

「クッソーッ! 今度会ったら絶対に負けんぞぉーっ!!」

 

戦慄を覚えているブリティッシュの歩兵達の横で、衛生兵に扮した歩兵道連盟の運営審判に運ばれていくオレガノが、悔しそうに叫びを挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

別の一角では………

 

「撃てぇっ!!」

 

誠也の号令で、一式機動四十七粍速射砲から榴弾が放たれる!!

 

「「「うわあぁっ!?」」」

 

直撃と爆風、破片を受けたブリティッシュの歩兵が3人、戦死と判定される。

 

「誠也! 今ので榴弾は最後だぜっ!!」

 

と、装弾を担当していた砲兵が、誠也へそう報告する。

 

直後にブリティッシュの歩兵が投げた手榴弾が、至近距離で爆発した!!

 

「うわっ!?」

 

「もう防楯が持たないぞっ!!」

 

咄嗟に誠也が伏せると、別の砲兵がそう声を挙げる。

 

彼の言う通り、一式機動四十七粍速射砲の防楯は度重なる銃撃と手榴弾の破片を浴び、ボロボロになっている。

 

「クッ! 仕方が無い! 徹甲弾でやれるだけ………」

 

と、誠也がそう言った瞬間………

 

燃料タンクを撃ち抜かれ、炎上していたマチルダⅡが動き出す!

 

「!? マチルダが!?」

 

「まだ生きてやがったのか!?」

 

誠也と砲兵のそう言う声が挙がると、燃料タンク部分の火災が治まり、マチルダⅡの砲塔が、自分達に向けられている事がハッキリとした。

 

「! 伏せろぉっ!!」

 

その叫びで、誠也と砲兵達が一斉に地面に伏せると、マチルダⅡは同軸機銃のベサ機関銃を薙ぎ払う様に発砲!

 

一式機動四十七粍速射砲の防楯は忽ち破壊され、砲自体も損傷する。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぬうあぁっ!?」

 

更に、銃弾は伏せていた砲兵の何人かにも命中し、戦死判定を下させる。

 

「! 皆さん! 逃げて下さいっ!!」

 

誠也のその言葉で、生き残った砲兵は損傷した一式機動四十七粍速射砲を放棄し、退却を始める。

 

それを追撃しようとするマチルダⅡだったが………

 

「させるかぁっ!! ブローックッ!!」

 

そこで歩兵に向けて榴弾を撃っていたBチームの八九式がマチルダⅡへと接近。

 

「撃てぇっ!!」

 

そのまま横付けする様に位置取ったかと思うと、至近距離でマチルダⅡの砲塔側面に徹甲弾を撃ち込む!!

 

だが………

 

八九式が放った徹甲弾は、ガキィンッ!!と甲高い音を立てたかと思うと、マチルダⅡの装甲に弾かれ、明後日の方向へと飛んで行った………

 

「「「「………アレェ?」」」」

 

バレー部メンバーの間抜けた声が重なる。

 

マチルダⅡの砲塔は、全周囲75mm。

 

八九式の主砲の徹甲弾が貫けるのは、精々30mm………

 

元々日本の戦車の大半は、対戦車戦闘を想定していないのである………

 

そして、至近距離から砲撃を弾かれて、唖然としていたBチームの八九式に、マチルダⅡが主砲を向ける。

 

「! ヤ、ヤバイッ!? 逃げろぉっ!!」

 

「逃がさんっ!!」

 

慌てて後退指示を出す典子だが、そうはさせないと、ブリティッシュの狙撃兵がボーイズ対戦車ライフルMKIを発砲!

 

弾丸が八九式の左の履帯と起動輪を破壊した!!

 

「!? しまったっ!?」

 

「サーブ権取られたぁっ!?」

 

動けなくなった八九式に、マチルダⅡは容赦無く砲撃を喰らわせる!!

 

八九式は横倒しになり、撃破の判定を受けて、白旗を上げる。

 

「! 八九式が!」

 

「クッ! 全員撤退だぁっ!!」

 

秀人が声を挙げると、大詔が撤退を叫び、大洗歩兵部隊はその場から撤退を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Cチーム! 走行不能!!』

 

『Bチーム、敵撃破及び走行不能! すみません!!』

 

『ぐああっ!? クソッ! β分隊の本多だ! やられた!!』

 

『δ分隊の桑原っす! やられたっす!!』

 

「ええい! 何たる事だ!!」

 

先程までとは打って変わって、再び追い込まれた大洗機甲部隊の知らせを聞いて、弘樹は思わずそう叫ぶ。

 

「現在敵戦車の残りは4両………歩兵も3分の2以上が残っています」

 

「対してコッチはAチームのⅣ号1両。加えて歩兵部隊の損耗率は70%以上と来てるぜ」

 

楓と地市が、現在の戦力比を確認し、苦い顔を浮かべる。

 

「こりゃもう駄目じゃないの?」

 

思わず了平が、そんな弱音を吐いたが………

 

「貴様ぁっ! 決まっても居ない勝負を投げ出すとは!! それでも日本男児かぁっ!? 大和魂は何処へやったぁっ!!」

 

途端に弘樹は了平の襟首を掴んで持ち上げ、そう怒声を飛ばす。

 

「ぐええっ!? 苦しいぃ~………」

 

「オ、オイ! 落ち着けって、弘樹!!」

 

完全に身体が宙に浮かび苦しむ了平を見て、地市が慌てて弘樹を止める。

 

「! スマン………」

 

それで我に返った弘樹が、すぐに了平を解放する。

 

「アダッ!?」

 

了平は諸に尻餅を着く。

 

「クッ! 頭に血が上るといつもコレだ………小官も修行が足りん」

 

(やっぱコイツ、日本兵の子孫だな………)

 

自分の未熟さを恥じる弘樹と、弘樹がやはり日本兵の血を引いている事を改めて認識する地市。

 

「兎に角、今はAチームのⅣ号を守りませんと。戦車が撃破されてしまってはコチラの負けですから」

 

その場を纏める様に楓がそう言う。

 

「そうだな」

 

「こちらα分隊の舩坂。西住総隊長。現在位置を教えて下さい」

 

それを聞いて、弘樹はすぐに無線でみほ達の現在位置を尋ねる。

 

『こちらは現在、コンビニ前を通過中………!? あっ!?』

 

「! 如何しました!?」

 

『敵の偵察兵に発見された! すぐに戦車が来るっ!!』

 

「! Aチームが狙われている! すぐに向かうぞっ!!」

 

それを聞いた弘樹は、すぐに地市達へそう呼び掛ける。

 

「よっしゃあっ! ココでポイント稼いでモテモテに!!………」

 

「オメェは黙ってろっ!!」

 

「あのジープを使いましょう!」

 

こんな時でも露骨な了平に地市が突っ込みを入れ、楓がブリティッシュ歩兵隊が何らかの事情で放棄したと思わしきSASジープを見つけてそう言う。

 

「良し!」

 

すぐにそのSASジープへと乗り込み始める弘樹達。

 

するとそこで………

 

馬の蹄が、地を蹴る音が聞こえて来た。

 

「「「「!?」」」」

 

弘樹達は驚きながら、音の聞こえてくる方向を見やると、そこには………

 

「…………」

 

馬に跨って腰にフルーレを差した、第二次世界大戦時のイギリス陸軍の戦闘服を着た騎兵、アールグレイの姿が在った。

 

「奴は………」

 

「ブリティッシュのエースだ!!」

 

「マジかよ!? うわっ! 死んだぁっ!!」

 

「まさかこんな時に出くわすなんて………」

 

弘樹達は緊迫感に包まれる。

 

「…………」

 

そんな弘樹達に対して、アールグレイは決して油断せず、ジリジリと距離を詰めてくる。

 

「………地市、了平、楓。お前達は先に行け」

 

すると、そんなアールグレイに注意を払いながら、弘樹は小声で地市達にそう言う。

 

「!? 弘樹!?」

 

地市が驚きの声を挙げる。

 

「奴は小官が食い止める………」

 

「オイ! それ典型的な死亡フラグだぜ!?」

 

続けて、アールグレイを食い止めると言う弘樹に、了平もそう言い放つ。

 

「舩坂さん! 相手はエースです! 舩坂さん1人では!!………」

 

「行けっ! コレは分隊長命令だっ!!」

 

楓も止めようとしたところ、弘樹はそれを遮ってそう叫んだ。

 

「!!………分かったっ!」

 

「弘樹………スマン!」

 

「舩坂さん………御武運を!」

 

それを聞き、弘樹の覚悟を感じ取ったのか、地市達はすぐさまSASジープに乗り込み、Aチームの援護へと向かう。

 

「!!………」

 

そんな地市達を行かさんとばかりに、アールグレイは愛馬を走らせようとしたが………

 

銃声が響いたかと思うと、その愛馬の足元に銃弾が撃ち込まれる!

 

「!!」

 

驚いた愛馬を宥めつつ、元の姿勢へと戻したアールグレイは、銃弾を撃った相手………着剣した三八式歩兵銃を構えている弘樹へと向き直る。

 

「お前の相手は………小官だ」

 

そう言いながら、銃口をアールグレイへと向ける弘樹。

 

「…………」

 

アールグレイは無言のまま、同じ様に右手だけで持っていたRifle No.4 Mk Iを向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ブリティッシュ歩兵隊の偵察兵に発見されたAチームのⅣ号は………

 

偵察兵が呼んだマチルダⅡ2両に追い回されていた。

 

Ⅳ号を照準器に捉えた先を行っているマチルダⅡが発砲したが、Ⅳ号は曲がり角を右折して回避。

 

マチルダⅡが撃った砲弾は、民家を破壊する。

 

マチルダⅡはⅣ号を追跡する様に曲がり角を右折。

 

そこでⅣ号が発砲したが、牽制だったのか、まだ砲手である華の腕が未熟だった為か、砲弾をマチルダⅡを掠める様に外れる。

 

だが、その間にⅣ号は交差点を左折し、大洗の更に街中へ進入。

 

当然追撃するマチルダⅡだが、進行先がカーブである事と、狭い路地の為に照準が付けられない。

 

ならば接近してと思ったのか、速度を上げるマチルダⅡだったが………

 

上げ過ぎたのか、続いてのカーブを曲がり切れず、道端に在った旅館の軒先へと突っ込んだ!!

 

「ウチの店がぁーっ!?………コレで新築出来る!!」

 

観客席に居たその店の主人が、絶叫の後に歓喜の声を挙げる。

 

「縁起良いなぁ~」

 

「ウチにも突っ込まねえかなぁ~?」

 

両隣に居た知り合いらしき男性達も、そんな事を言い合う。

 

戦車道・歩兵道の試合、並びにその関連行為に於いて、建築物等が破壊された場合………

 

該当の建物が新築対象となり、両連盟が費用を補填する決まりとなっている。

 

その為、中には往年の怪獣映画の様に、ウチの街で試合をやってくれと言う様な市町村も存在する。

 

そんな住人達の事など知る由も無く、街中を逃げ回るⅣ号だったが………

 

その前方には、工事中の看板とフェンス、そしてコンクリートを剥がされた道路が広がっていた。

 

「! 停止! 急速転換!!」

 

みほはすぐにそう指示を出し、Ⅳ号は工事中の道路の前で停止すると信地旋回で反転し、別の道を逃げようとする。

 

しかし、その時には既に………

 

グロリアーナの全車両が、道を塞ぐ様に立ちはだかっていた。

 

グロリアーナ戦車部隊は、Ⅳ号からある程度の距離を取って停止したかと思うと、チャーチルのハッチが開いて、ダージリンが姿を見せる。

 

「こんな格言を知ってる? イギリス人は恋愛と戦争では………手段を選ばない!」

 

ダージリンがそう言い放つと、グロリアーナ戦車部隊の全砲門が、Ⅳ号へと向けられる。

 

「…………」

 

冷や汗を流すみほだが、この状況でさえ、彼女は打開策が無いかを探っている。

 

だが、良い案は思いつかない。

 

万事休すか………

 

………と思われたその時!!

 

「参上ーっ!!」

 

と言う杏の台詞と共に、38tが路地から姿を現し、グロリアーナ戦車部隊へ向かって行った!

 

「生徒会チーム!」

 

「履帯直したんですね!」

 

それを見て歓声を挙げる華と優花里。

 

「発射ぁっ!!」

 

不意を衝いてほぼ零距離まで接近した38tが発砲する!!

 

しかし、弾丸は明後日の方向へ飛んで行った………

 

「あ………」

 

「桃ちゃんココで外す?」

 

「零距離だったよ………」

 

間抜けた声を挙げる桃に、柚子と蛍がそうツッコミを入れる。

 

そして、グロリアーナ戦車部隊は目の前に飛び込んで来た38tに、全車での砲撃を浴びせた!!

 

それに38tが耐えられる筈も無く、アッサリと判定装置が作動。

 

「やられた~っ!」

 

白旗が上がる。

 

しかしココで、グロリアーナ戦車部隊はミスを犯していた!

 

それは、突然目の前に現れた38tに驚いた為か、全車で一斉砲撃してしまった事である!

 

次弾を込めるまでの隙………

 

Ⅳ号に脱出のチャンスを与えてしまったのだ!!

 

「前進! 1撃で離脱して! 路地左折!!」

 

みほが即座にそう指示を下し、麻子がⅣ号を前進させる!!

 

そして、38tが飛び込んできた路地へと飛び込もうとする。

 

だがその前に一旦停車し、一番右端に居たマチルダⅡに砲撃を浴びせた!!

 

至近距離だった事と、砲塔と車体の隙間に命中した事で、マチルダⅡは撃破と判定され、白旗を上げる。

 

それを見届ける間も無くⅣ号は再発進。

 

路地へと飛び込む。

 

「回り込みなさい! 至急っ!!」

 

ダージリンが怒鳴る様にそう言うと、チャーチルと残りのマチルダⅡ2両が後退を始める。

 

撃破した38tと、撃破されたマチルダⅡが道を塞ぎ、Ⅳ号を追撃出来ない。

 

そこで、一旦後退して回り込む積もりだ。

 

と、そこで………

 

「居ました! グロリアーナの戦車です!!」

 

「了平! このまま突っ込め!!」

 

「マジで!?」

 

地市達が乗るSASジープが現れ、後退中のグロリアーナ戦車部隊に突撃を掛ける!!

 

「!? マズイッ!!」

 

ダージリンは初めて焦った様な声を挙げる。

 

今グロリアーナ戦車部隊は突撃して来る地市達に完全に背を向けている。

 

如何に装甲の硬いチャーチルとマチルダと言えど、戦車共通の弱点として、後部の装甲は薄い(それでも他の同級戦車と比べれば厚い方だが)

 

「後ろを狙えばっ!!」

 

助手席の地市が立ち上がり、試製四式七糎噴進砲を構える。

 

と、その時!!

 

民家と民家の隙間から、火炎が伸びて来た!!

 

「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

忽ちその火炎に包まれ、SASジープの上から転げ落ちる地市達。

 

操縦者を失ったSASジープは、路肩の家に突っ込んで止まる。

 

そして炎が消えた地市達は、全員が戦死判定を受けた。

 

「ゼエ………ゼエ………危ないところだったね………」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、イギリス軍の火炎放射器・Ack Packを背負ったセージが、息切れした様子で現れた。

 

先程地市達をやったのは彼らしい(注釈:歩兵道用の人体に無害な安全な火炎をしようしております)

 

「セージ歩兵隊長!」

 

「いや~………ゼエ………ゼエ………市街戦中に車をやられてね………ゼエ………ゼエ………代わりが見つからないまま………ゼエ………ゼエ………走り回ってたんだけど………ゼエ………ゼエ………そこで偶然此処に出てね………ゼエ………ゼエ………」

 

「セージ!!」

 

息を切らしながらもセージがダージリンに報告していると、チャーチルの中からアッサムが声を挙げた。

 

「アラ………」

 

ダージリンが何かに気づいた様に、ハッチから完全に出ると、アッサムが顔を出す。

 

「もう! 足が悪いのに、そんなに無理して!!」

 

顔を出すやいなや、アッサムはセージに向かってそう怒鳴る。

 

「いやはは、ゴメンよ………ゼエ………ゼエ………」

 

セージは苦笑いを浮かべると、その場にへたり込んだ。

 

「もう! そこで休んでなさい! もう敵の戦車は1両だけだから!!」

 

「すまない………」

 

「………無理しないでよね」

 

と、最後にそれまで怒鳴っていたのが嘘の様に、しおらしい顔となってそう言うアッサム。

 

「ありがとう、アッサム」

 

それに対し、セージも笑みを浮かべてそう言う。

 

「相変わらず仲が良ろしいですわね」

 

すると、そんな2人の様子を見ながら、ダージリンがクスクスと笑いながらそう言った。

 

「!? ダ、ダージリン隊長! も、申し訳ありません!! 勝手な事を!!」

 

アッサムはすぐにダージリンに謝罪したが………

 

「構いませんわよ。恋人同士の語らいを邪魔するほど、私は無粋じゃないわ」

 

「!!」

 

「アハハハ………」

 

そのダージリンの言葉に、アッサムは顔を真っ赤にして縮こまり、セージは苦笑いを浮かべる。

 

「セージ隊長!」

 

とそこへ、味方のハンバー装甲車マークⅢが現れる。

 

「セージ歩兵隊長を収容しなさい。大洗の残り戦車は私達で叩くわ」

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

ダージリンはハンバー装甲車マークⅢの乗員にそう命じ、再びチャーチルの中へと引っ込むと、マチルダⅡ2両と共に、再び市街の中へと消えたⅣ号を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

ブリティッシュのティムは………

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

工兵が作って積んだ土嚢を楯に、大河が中心となって数人の歩兵達が、向かってくるティムに弾幕を張っている。

 

「悪く思わないで下さい」

 

しかしティムは巧みな手綱捌きで愛馬ライトニングスターを操り、そう言いながらミルズ型手榴弾を投擲した。

 

「! アカン! 手榴弾やっ!!」

 

「爆発するぞーっ!!」

 

大河と突撃兵の1人がそう声を挙げると、大洗歩兵達は慌てて土嚢の影から飛び出す。

 

直後に手榴弾が爆発し、土嚢が吹き飛ぶ!!

 

「そこっ!!」

 

ティムは、土嚢の影から飛び出した大洗歩兵の1人にランチェスター短機関銃Mk.1*を発砲する。

 

「うあああっ!?」

 

銃弾を全身に浴びた歩兵は、そのまま倒れて戦死と判定される。

 

「おんどれぇっ! よくもワイの仲間をぉっ!!」

 

それを見た大河は、怒りに任せて一〇〇式機関短銃を乱射する。

 

「おっと!」

 

しかしティムはまるで射撃される事を呼んでいたかの様な動きで回避する。

 

「ええい、クソッ! チョロチョロとぉっ!!」

 

遮蔽物の間を移動するティムを追う様に一〇〇式機関短銃の引き金を引きっぱなしにする大河だったが………

 

やがてカシンッ! カシンッ!と乾いた音を立てて弾が出なくなる。

 

「クッ! 弾切れかいな!!」

 

すぐに予備弾装を取り出そうとした大河だったが………

 

「! アカン! もう弾が有らへんっ!!」

 

もう全ての弾装を使い切ってしまった事に気づく。

 

「黒岩分隊長! コッチも弾切れです!!」

 

「コッチももう弾が有りません!!」

 

他の歩兵達も同じ様に、次々と弾切れの報告が挙がる。

 

「ええいっ! こうなったら最後の手段や!! 全員突撃ぃーっ! 男だったら拳で語らんかいぃっ!!」

 

大河はそう言い、弾切れした一〇〇式機関短銃を捨てると、ティムに殴り掛かって行く。

 

「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

そんな大河に触発された様に、他の大洗歩兵達も軍刀や銃剣で突撃を敢行した!!

 

「勇ましいですね………その行動に敬意を払います」

 

するとティムは、そんな大河達と対等に戦おうと思ったのか、ライトニングスターから降り、地面の上に立つ。

 

「ええ度胸や! 先ずは喰らったれぇーっ!!」

 

そんなティムへ、大河は容赦無く殴り掛かる。

 

「…………」

 

しかしティムは、その大河の殴り掛かって来た腕を掴み、そのまま投げる。

 

「!? うおおっ!?」

 

「ハアッ!!」

 

そして、大河がまだ空中に居る内に、脇腹に爪先での蹴りを喰らわせた!!

 

「ゴハッ!?………」

 

回転しながら地面に叩きつけられた大河は、そのまま動けなくなる。

 

「親分っ!」

 

「テメェッ! よくも親分をぉっ!!」

 

そこで今度は、大河の舎弟である大洗連合の歩兵が、軍刀と小銃に着剣した銃剣で襲い掛かる。

 

「…………」

 

しかしティムは慌てず、先ず軍刀を振ってきた突撃兵の、軍刀を握っている両腕を脇に抱え込む様にして押さえ込む。

 

「うおっ!?」

 

「そりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そこでその隙を狙って、小銃に着剣した銃剣を握った突撃兵が突きを繰り出して来たが………

 

「フッ!」

 

ティムは、両腕を脇に抱え込んでいた突撃兵の軍刀を使って防ぐ。

 

「!? 何ぃっ!!」

 

「ハッ!!」

 

驚いた小銃に着剣した銃剣を握った突撃兵にローキックを喰らわせる。

 

「!? うおっ!?」

 

小銃に着剣した銃剣を握った突撃兵が膝から崩れる。

 

するとその瞬間に、ティムは両腕を脇で押さえていた突撃兵を投げ飛ばし、軍刀を奪う!

 

「のうわっ!?」

 

「ハアッ!!」

 

奪った軍刀を右手に逆手に握ると、横薙ぎに一閃!

 

「ぐああっ!?」

 

膝から崩れていた小銃に着剣した銃剣を握った突撃兵が斬りつけられ、戦死と判定される。

 

「このぉっ!!」

 

「ハアッ!!」

 

軍刀を取られて投げ飛ばされた突撃兵が、起き上がると同時に軍刀を奪い返そうとしたが、それよりも早く、ティムは返す刀で斬り付ける!

 

「!? おうわぁっ!?」

 

斬り付けられた突撃兵は錐揉みしながら倒れ、そのまま戦死判定を受ける。

 

「「!!」」

 

その様を見て、残る2人の突撃兵が突撃を躊躇する。

 

「…………」

 

しかし、ティムはそこで軍刀の刃を地面に突き刺し、放棄する。

 

「「!?」」

 

突撃兵2人は、そんなティムの行動に驚く。

 

「どうぞ………」

 

ティムは、ボクシングの様な構えを取ったかと思うと、突撃兵2人にそう言い放つ。

 

「「!! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

その言葉に応じたのか、ティムの底知れぬ実力に恐怖を感じた反動か、突撃兵2人は叫び声を挙げながらティムへと突っ込む。

 

「セイヤアァッ!!」

 

「!!………」

 

先行した突撃兵がストレートパンチを繰り出したが、ティムは姿勢を低くしてかわし、そのまま懐へ入り込む!

 

「フッ!!」

 

「ゴハッ!?」

 

そしてカウンターのアッパーカットを繰り出し、突撃兵の顎を打った!!

 

顎への攻撃で脳に衝撃を受けた突撃兵は、もんどりうって倒れる。

 

「せやあっ!!」

 

「!?」

 

とそこで、何時の間にか後ろへと回っていたもう1人の突撃兵が、ティムを羽交い絞めにした。

 

「………フウッ!!」

 

一瞬驚いたティムだったが、慌てずに羽交い絞めにして来た突撃兵の鳩尾に肘打ちを打ち込む!

 

「!? ぐおっ!?」

 

「せええいっ!!」

 

突撃兵が怯んだその瞬間に投げ飛ばし、そのまま顎に蹴りを入れた!!

 

「!?………」

 

またも脳に衝撃が行き、突撃兵は気絶する。

 

「…………」

 

大河を含めた全ての歩兵を倒したティムは、その場で礼をする。

 

するとそのティムの隣に、愛馬のライトニングスターが鼻を鳴らしながら並び立って来る。

 

「分かってるよ、ライトニングスター。早くダージリン隊長の援護に行かないとね」

 

そんなライトニングスターにそう言うと、再びその背へと跨るティム。

 

と、その時………

 

「見つけたぞ! 待ちやがれぇっ!!」

 

「!?」

 

突如そう言う声が聞こえてきて、ティムは驚きながら声が聞こえて来た方向を見やる。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そこには必死の形相で自転車を漕いでやって来る白狼の姿が在った。

 

「この声はさっきの………それにこの音は………まさか、自転車!?」

 

ティムは『何故か音で』、白狼が自転車に乗って来た事を察する。

 

「喰らえぇっ!!」

 

と、そこで白狼は、親友が使っていたZK-383短機関銃を発砲する!!

 

「!! クウッ!!」

 

間一髪のところで回避が間に合うティム。

 

「申し訳ありませんが………今貴方に構っている暇は有りません!」

 

だがティムは、今はダージリンの援護に向かうのが先と判断し、白狼に背を向けて、ライトニングスターを走らせた。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

しかし何と!

 

白狼は自転車で馬に乗っているティムのスピードに追い付く。

 

「!? まさかっ!?」

 

「せえやぁっ!!」

 

驚くティム目掛けて、白狼はアクション映画の様に、自転車をジャンプさせると、ハンドルを両手で握った状態で身体を浮かせ、蹴りを繰り出す!

 

その蹴りでティムは、ランチェスター短機関銃Mk.1*を蹴り飛ばされる。

 

「!? しまったっ!?」

 

「貰ったっ!!」

 

着地を決めた白狼が再び自転車ごとジャンプすると、ZK-383短機関銃を向ける。

 

「!! ハアッ!!」

 

しかしその瞬間に、今度はティムが馬上から蹴りを繰り出し、白狼のZK-383短機関銃を蹴り飛ばした!!

 

「うおっ! やるじゃねえかっ!!」

 

ZK-383短機関銃を失った白狼は、代わりとばかりにティムを殴りつける!!

 

「ぐうっ!?………ハアッ!!」

 

横っ面に白狼の拳を喰らったティムだったが、すぐにカウンターで白狼の胸を殴りつけた!

 

「ガハッ!?」

 

肺の酸素が一瞬で無くなり、思わず咽そうになった白狼。

 

「何のおぉっ!!」

 

しかし気合で耐えて、ティムに今度は延髄斬りを喰らわせる!

 

「ぐうっ!?………ハアッ!!」

 

一瞬意識が飛びかけたティムだったが、コチラも気合で耐えて、反撃のレッグラリアートを喰らわせる!!

 

「ゲホッ!? しぶとい奴だなぁっ!!」

 

と、白狼がそう言い、新たなる攻撃を繰り出そうとしたところ………

 

突如ライトニングスターが嘶き、前足を高々と振り上げた!!

 

「!?」

 

「!? ライトニングスターッ!?」

 

ライトニングスターの突然の行動に、白狼も主であるティムも驚く。

 

その次の瞬間!!

 

ライトニングスターは、振り上げていた両前足を白狼目掛けて振り下ろした!!

 

「!? チイッ!!」

 

舌打ちしながらティムとライトニングスターから一旦距離を離して回避する白狼。

 

「ハーハッハッハッ! 食らうかよぉっ!!」

 

そう言い放つ白狼だったが、そのまま路地の出口へと差し掛かった瞬間!!

 

路地からチャーチルが飛び出して来て、白狼を撥ね飛ばす!!

 

「!? おうわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」

 

何が起こったのか分からぬまま、白狼は某有名映画の様に自転車に乗ったまま飛んで行った。

 

「…………」

 

しかしティムは、白狼の身に何かが起こったのは理解したが、何が起こったのか分からぬ様子で居る。

 

「アラ? 今何か撥ねたかしら?」

 

と、白狼を撥ねたチャーチルが停止し、ダージリンが首を傾げながらハッチから顔を出す。

 

「ダージリン隊長?」

 

「アラ、ティム。こんな所に居たのね」

 

その声にティムが反応すると、ダージリンはティムの存在に気づく。

 

「え、ええ………今、敵の歩兵と戦闘していたのですが………」

 

「まあ。じゃあ、さっき撥ね飛ばしたのは………」

 

「えっ? 撥ね飛ばしたんですか?」

 

「ええ。突然進行先に出て来たものだから、ブレーキが間に合わなくて………」

 

「まあ、戦闘服を着てますから、怪我をするって事は無いでしょうが………」

 

ティムは半分呆れた様子でそう呟く。

 

「そう、まるであの有名映画みたいに………っと、ゴメンなさい。貴方に言っても分からなかったわね」

 

そう言いかけて、ハッとした様にティムに謝罪するダージリン。

 

「いえ、気にしないで下さい。今ではもう、目が見えない事に不便はしていません」

 

ティムは気にしていないと返す。

 

そう、実は閉じているかの様に見える彼の目に視力は無いのである。

 

幼少期の事故で、彼は両親と光を失っていた………

 

しかし、視力を失った代わりに、代償機能が働き、嗅覚や聴覚が凄く優れ始め、更に本人の並大抵ならぬ努力により、失った視力を補う感性や能力を体得したのだ。

 

「そう、ありがとう………では、貴方も街中に潜んでいる大洗の最後の1両の捜索に移りなさい」

 

「了解!!」

 

ダージリンの命令にイギリス式敬礼を返すと、ティムは大洗の街中へ姿を消したⅣ号の捜索に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との激しい市街戦が続く。
そんな中で、ブリティッシュ歩兵部隊のエースであるアールグレイとティムが、弘樹と白狼と対峙。
白狼とティムの戦いは済し崩しに終結したが、弘樹とアールグレイの戦いは始まったばかり。
更に、大洗戦車隊も、みほ達のⅣ号を残し全滅。
果たして試合の結末や如何に?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第13話『練習試合、終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第13話『練習試合、終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地でのゲリラ戦で、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の撹乱に成功したかに見えた大洗機甲部隊だったが………

 

ブリティッシュ歩兵部隊のエースであるアールグレイとティム。

 

そしてダージリンの冷静沈着な指揮により、再び逆に追い込まれてしまう。

 

マチルダⅡ2両とチャーチルに追われるAチームのⅣ号。

 

アールグレイと対峙する弘樹。

 

そして遂に………

 

決着の時が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・市街地内………

 

「!!………」

 

路肩に停められていた車の陰に隠れながら、三八式歩兵銃を5連射する弘樹。

 

「…………」

 

しかし、騎兵のアールグレイは難なく回避する。

 

そして反撃とばかりにRifle No.4 Mk Iを、まるで機関銃の様な連射で発砲する。

 

「ぬうっ!?」

 

慌てて弘樹が完全に車の陰に隠れると、.303ブリティッシュ弾が、車のガラスを割り、車体側面に穴を開ける。

 

「流石はリー・エンフィールドだ………同じボルトアクションとは思えぬ連射だ」

 

三八式歩兵銃をリロードしながら、弘樹はアールグレイが使っているリー・エンフィールドのRifle No.4 Mk Iの連射力に感心する。

 

(そしてそれは熟練した歩兵だから出来る行為………やはり敵は手強い)

 

それと同時に、それを操るアールグレイの技量も改めて認識する。

 

とそこで、隠れている車の上を飛び越えて、何かが弘樹の傍に落ちる。

 

「! 手榴弾っ!!」

 

すぐにそれを手榴弾だと認識した弘樹は、車の陰から飛び出す!

 

直後に手榴弾が爆発し、盾にしていた車が爆発・炎上した!!

 

「うおっ!?」

 

爆風に煽られて、地面を道路の上を転がる弘樹。

 

「………!!」

 

そこをアールグレイは、Rifle No.4 Mk Iで狙い打ったが、

 

「チイッ!!」

 

弘樹はそのまま道路の上を転がり、辛うじて回避し、そのまま勢いを利用して膝立ちになり、三八式歩兵銃をアールグレイに向ける。

 

「!!………」

 

アールグレイもRifle No.4 Mk Iを弘樹に向ける。

 

「「…………」」

 

お互いがお互いを狙う状況となり、そのまま睨み合いとなる。

 

「…………」

 

何時でもRifle No.4 Mk Iを発砲出来る状態で居るアールグレイ。

 

(クソッ! このままコイツにばかり時間を取られているワケにはイカン。一刻も早くAチームの援護に向かわねば………)

 

対する弘樹も油断はぜず、追い詰められている筈であるみほ達Aチームの援護に行かなくてはと思いやる。

 

「「…………」」

 

しかし、両者はどちらも緊張状態から抜け出せずに居た。

 

何か切欠が無ければ、この状況は動かない………

 

………と、その時!!

 

「おうわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴が両者の頭上から聞こえて来て、空を飛んでいる自転車に乗った白狼が通り過ぎて行った。

 

「!?」

 

突如頭上を横切って行った珍妙な飛行物体を、アールグレイは思わず見上げてしまい、弘樹から注意が反れる!

 

「! 隙有りっ!!」

 

その一瞬の隙を見逃さず、弘樹は三八式歩兵銃を発砲!!

 

「!?」

 

三八式実包がアールグレイに吸い込まれる様に命中。

 

アールグレイは落馬し、地面に落ちた!!

 

落馬した主に反応したかの様に、馬が嘶く。

 

「助かった。さっきのは一体?…………いや、それよりも、今はAチームの援護だ!」

 

弘樹はそのまま踵を返し、道端に落ちていた試製四式七糎噴進砲を拾うと、Aチームの援護へと向かうのだった。

 

その場に残された、地面に倒れているアールグレイの頬を、愛馬が舐める。

 

………すると!!

 

「………クッ!」

 

何と!

 

アールグレイがむくりと起き上がった!

 

判定装置は、戦死を判定していない。

 

「………紙一重だったな」

 

そう言いながら、アールグレイは使っていたRifle No.4 Mk Iを見やる。

 

丁度薬室の側面に当たる木製部分に、三八式実包が突き刺さる様に命中していた。

 

撃たれたと思われた瞬間、アールグレイは咄嗟にRifle No.4 Mk Iを盾にして、被弾を防いだのである。

 

(………敵との戦いの最中に別の事に気を取られるとは………自分の心に隙が有った証拠だ………)

 

そこでアールグレイは、険しい表情を更に険しくする。

 

(こんな甘ったれた気概では、何も掴む事は出来ん………)

 

アールグレイの目の色が変わったかと思われた瞬間………

 

彼は再び愛馬に跨り、弘樹を追ったのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

Eチームの活躍で、如何にかグロリアーナの戦車隊から逃げ果せたAチームのⅣ号は………

 

「次のところ、右折です!」

 

「ほい」

 

狭い路地から出て、大通りへ向かう。

 

(………! 居た!!)

 

とそこで、キューポラから上半身を出していたみほが、家々の隙間から、路地を進んでいるチャーチルを発見する。

 

「路地を押さえます! 急いで下さい!!」

 

みほがそう言うと、麻子はⅣ号のスピードを上げ、グロリアーナ戦車隊が出ようとしている路地の出口へと向かう。

 

「右折してください! その後は壁に沿って進んで急停止!!」

 

「ほい」

 

そして、正面に大通りが見えると、右に曲がると同時に壁側へ寄る。

 

すると、正面の交差点の右側から、先行していたマチルダⅡがヌウッと姿を現す。

 

側面の為か、Ⅳ号にはまだ気づいていない。

 

「至近距離まで接近! 秋山さん!! 成形炸薬弾を!!」

 

「了解っ!!」

 

みほの命令で、装填手の優花里が、Ⅳ号の主砲に成形炸薬弾………HEAT弾を装填する。

 

HEAT弾とは、簡単に言えば、装甲貫通能力に長けた特殊な榴弾の事である。

 

初速が遅いという弱点があるものの、Ⅳ号で使用出来る物では70mmから90mmの装甲を貫通出来る筈である。

 

「五十鈴さん!!」

 

「発射っ!!」

 

そして、Ⅳ号がマチルダⅡの側面至近距離まで着けた瞬間に発砲!!

 

マチルダⅡの側面で激しい爆発が上がり、黒煙が立ち上ったかと思うと、撃破を示す白旗が上がる。

 

Ⅳ号はすぐに移動を始め、撃破したマチルダⅡの前を横切って、路地入り口の反対側へ。

 

と、撃破したマチルダⅡの隣を抜けて、もう1両のマチルダⅡが出て来ると、Ⅳ号に主砲を向けようとしたが、それよりも早くⅣ号が反転し、再びHEAT弾で砲撃!!

 

もう1両のマチルダⅡも撃破され、白旗が上がる。

 

するとそこで、撃破されたマチルダⅡ2両を押し退け、チャーチルが大通りへと進入して来る。

 

その砲塔側面に、Ⅳ号は再びHEAT弾を撃ち込む!

 

しかし、HEAT弾は命中したものの、95mmあるチャーチルの砲塔側面を貫く事は出来なかった。

 

チャーチルの砲塔が回転を始め、Ⅳ号に向けられようとする。

 

「後退して下さい! ジグザグに!!」

 

みほは車内へと引っ込むと、後退の指示を出す。

 

チャーチルが発砲するが、撃破されたマチルダⅡが邪魔で射線が完全に取れなかった為、外れる。

 

Ⅳ号は十分に距離を離したかと思うと再度前進。

 

大通りを進み始め、チャーチルの前を抜けて行こうとする。

 

チャーチルはそんなⅣ号を追う様に砲塔を旋回させながら再び発砲するが運良く外れ、砲弾は交差点角の家を破壊した。

 

Ⅳ号はそのまま、チャーチルから大きく距離を離し始める。

 

「路地行く?」

 

「いや、ココで決着着けます! 回り込んで下さい! そのまま突撃します!!」

 

麻子の問い掛けに、みほはそう返す。

 

如何やら歩兵が居ないこの状況が、絶好の勝負所と踏んだ様だ。

 

「………と見せかけて、合図で敵の右側部に回り込みます!」

 

チャーチルから距離を離していたⅣ号が反転し、チャーチルの方に向き直る。

 

「向かって来ます」

 

「恐らく、さっきと同じ所を狙って貫通判定を取る気ね」

 

「そうはさせるものですか!」

 

その様子をチャーチルの車内で見ていたオレンジペコ、ダージリン、アッサムがそう言い合う。

 

チャーチルは突撃して来るⅣ号との距離を逆に詰めて、不意を衝こうとする。

 

と、その次の瞬間!!

 

爆発音がして、チャーチルの車体が揺れた!!

 

「キャアッ!?」

 

「!? 何事ですっ!?」

 

「!?」

 

オレンジペコとアッサムが悲鳴に似た声を挙げる中、ハッチを開けて車体後部を見やるダージリン。

 

チャーチルの車体右後部から黒煙が上がり、履帯が千切れている。

 

「! 履帯がっ!?」

 

ダージリンが淑女に似つかわしくない荒げた声を挙げながら更に後方を見やる。

 

そこには、砲口から白煙を上げている試製四式七糎噴進砲を右肩に担いでいる弘樹の姿が在った。

 

「! あの男!!」

 

「Ⅳ号! 接近して来ますっ!!」

 

オレンジペコから声が挙がる中、Ⅳ号が先程と同じ場所を狙おうと突撃して来る。

 

「動きさえ止めれば!!」

 

それと同時に、弘樹も撃ち終えた試製四式七糎噴進砲を捨て、吸着地雷を手にチャーチルへ肉弾攻撃を仕掛ける。

 

「! 砲塔右旋回っ!!」

 

ダージリンは慌てて車内に引っ込みながらそう指示を出す。

 

迫って来るⅣ号に対しては、砲塔を右旋回させて砲撃を正面装甲で防ぎつつ反撃する積もりだ。

 

しかし、後方から突撃して来る弘樹に対しては手立てが無い。

 

車長用の機関銃架が有れば話は別だが、チャーチルにはデフォルトでは機銃架は装備されていない。

 

履帯損傷状態の今では車体機銃は使えず、同軸機銃もⅣ号に対応している為、向けられない。

 

精々弘樹が取り付く前にⅣ号を撃破出来る事を祈るしかない。

 

(アールグレイッ!!)

 

ダージリンは思わず、心の中でアールグレイの名を呼んだ。

 

と、その時!!

 

馬の嘶きが聞こえて来て、民家の塀を飛び越える様にして、愛馬に跨ったアールグレイが参上する!!

 

「!? 何っ!?」

 

「トアアッ!!」

 

驚く弘樹に向かって、アールグレイは馬上から跳ぶ!!

 

そして、腰のフルーレを抜き、弘樹へと襲い掛かる。

 

「!! チイッ!!」

 

弘樹は一瞬反応が遅れながらも、吸着地雷を投げ捨てると、腰の日本刀を抜こうとする。

 

「遅いっ!!」

 

だが、それよりも早く、アールグレイはフルーレで弘樹の胸を突いた!!

 

「!! ゴフッ!?」

 

肺の空気が全部吐き出されてしまったかの様な感覚に襲われ、弘樹はそのまま仰向けに倒れ………

 

そのまま戦死判定を受ける。

 

その直後、2連続の爆発音も聞こえて来る。

 

「「!!」」

 

アールグレイと、倒れている弘樹がその爆発音のした方向を見やるとそこには………

 

砲塔の一部が炎上しているチャーチルと………

 

砲身が砕け散り、白旗を上げているⅣ号の姿が在った。

 

『大洗機甲部隊の全戦車の行動不能を確認。よって、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の勝利っ!!』

 

日本戦車道連盟の審判がそう判定と勝敗を告げるアナウンスを流す。

 

「………無念」

 

それを聞いた弘樹は、心底悔しそうな表情を浮かべる。

 

(あと少し遅れていれば………如何なっていた事か………)

 

だが、アールグレイの方も、あと少し自分が遅れていれば、勝敗は如何なっていた分からなかったと考え、表情を険しくしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特別観覧席………

 

「あちゃ~! 負けちゃったぁ………」

 

「お兄ちゃん、大丈夫かな?」

 

遥とレナが、特設モニターに映った大洗機甲部隊敗北の知らせを見てそう呟く。

 

「清十郎がぁ~! 清十郎がぁ~っ!!」

 

「姉さん、落ち着いて………」

 

ブラコン全開で清十郎を心配している愛と、そんな愛を宥めているあかね。

 

「…………」

 

そして湯江は1人、ジッと敗北を知らせているモニターを見上げていた。

 

(負けてしまいましたね………でも、お兄様、西住さん………御2人は立派に戦われました………何も恥じる事はありません)

 

湯江は心の中で、1人ひっそりとそう思いやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

撃破された大洗機甲部隊の戦車は、SLT 50 エレファント戦車運搬車によって運ばれて行く。

 

更に、その他の装甲車や兵員輸送車、軍用車両にバイクも同様に運ばれて行き、試合中に鹵獲した武器の返却も行われる。

 

そんな中………

 

Aチームのみほ達と、弘樹、地市、了平、楓の面々は、大洗の港………

 

荷揚げした荷物を運送するトラックが並んでいる駐車場に集まっていた。

 

 

 

 

 

「負けましたね………」

 

「ハイ………」

 

何処か力の無い楓の呟きに、華が悔しそうな様子でそう返事を返す。

 

「まあ、相手は準優勝経験も有る強豪校だ………私達が勝てたら奇跡だったろう」

 

「それは………そうだけど………」

 

「でも、悔しいもんは悔しいぜぇ………」

 

麻子、沙織、了平もそう言い合う。

 

「………チキショウッ!!」

 

地市も悔しさを露にしてそう声を挙げた。

 

「西住総隊長………申し訳ございません。自分の力が及ばなかったばかりに………」

 

「そ、そんな! 舩坂くんのせいじゃないよ!!」

 

そんな中、弘樹は敗北の責任を感じてみほに侘び、みほは弘樹のせいではないと言う。

 

と、そこへ………

 

「失礼致しますわ。ちょっと宜しくて?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

そう言う台詞が聞こえて来て、一同がその声が聞こえた方向を見やるとそこには………

 

聖グロリアーナ戦車隊のダージリン、アッサム、オレンジペコ。

 

通称・ノーブルシスターズと呼ばれる面々。

 

そして、ブリティッシュ歩兵部隊の隊長であるセージに、アールグレイとティムの姿が在った。

 

「! グロリアーナの!」

 

「ブリティッシュ歩兵隊………」

 

突如現れたダージリンとアールグレイ達の姿に、みほは驚き、弘樹も眉をピクリとさせる。

 

「うおおっ!? 金髪の美人が目の前に!!………!? ゴヘッ!?」

 

「オメェは黙ってろ。ウチの品位が疑われる」

 

ダージリン達を見て興奮した様子を露にする了平を、地市が物理的に黙らせる。

 

「貴方が大洗の総隊長さん?」

 

「あ、ハイ………」

 

「お名前をお伺いしても宜しいかしら?」

 

みほに向かって、ダージリンはそう尋ねる。

 

「あ………西住 みほです」

 

「! もしかして、西住流の?」

 

みほの名を聞いたダージリンが、軽く驚いた様子を見せて言う。

 

「ハイ………」

 

「そう………貴方のお姉さんのまほさんとは1度試合をした事がありますわ。けど………貴方はお姉さんとは違うのね」

 

ダージリンは微笑みながら、みほに向かってそう言うのだった。

 

一方………

 

「…………」

 

アールグレイは、弘樹の姿をジッと見やっている。

 

「…………」

 

対する弘樹も、そんなアールグレイの姿を注視している。

 

「「…………」」

 

両者の間に、独特の緊迫感が流れる。

 

(((………ゴクッ!!)))

 

傍から見ていた地市、了平、楓の3人は、その緊迫感に思わず息を呑む。

 

「「…………」」

 

更に両者の沈黙は続く。

 

「アールグレイ………喋らなきゃ会話は成立しないわよ」

 

そこで、ダージリンは呆れた様な表情で、アールグレイにそう声を掛ける。

 

「………聖ブリティッシュ男子高校歩兵部隊所属、突撃兵………アールグレイだ」

 

するとアールグレイがイギリス陸軍式敬礼をしながら、弘樹に向かってそう名乗る。

 

「………県立大洗国際男子高校歩兵部隊所属、大洗女子学園戦車隊Aチーム随伴分隊分隊長………舩坂 弘樹」

 

それに返礼するかの様に、弘樹もヤマト式敬礼をして、そう名乗りを挙げた。

 

「! 舩坂………だと?」

 

「まあっ!?」

 

「「!?」」

 

「何っ!?」

 

「何と!?」

 

と、それを聞いた途端、アールグレイやダージリンはおろか、オレンジペコ達やセージ達も驚きを露にする。

 

「そうか………あの舩坂 弘殿の………」

 

「…………」

 

何処か納得が行った様にそう呟くアールグレイに、弘樹は沈黙で肯定する。

 

「そうでしたの。道理で、勇猛果敢な方だと思いましたわ」

 

「英霊の子孫が歩兵道をしていると言う噂は聞いていたが、まさかこの大洗に居たとはね」

 

ダージリンも納得した様な表情でそう言い、セージもそう言いながらメガネをクイッと上げた。

 

「ダージリン様、そろそろ」

 

するとそこで、オレンジペコがダージリンにそう告げる。

 

「アラ、残念ね………では、コレで失礼致しますわ」

 

「御機嫌よう」

 

ダージリンとアッサムがそう言うと、グロリアーナ&ブリティッシュの面々はその場から去り始める。

 

「「…………」」

 

弘樹とアールグレイは去り際まで、互いの目を見合っていた。

 

と、そこで………

 

「すみません、宜しいですか?」

 

とそんな弘樹に声を掛ける者が居た。

 

ティムである。

 

「! 何か?………」

 

アールグレイに注目していた為、若干驚きながらティムにそう尋ねる。

 

「申し送れました。ブリティッシュ歩兵隊のティムと言います。僕と戦っていた歩兵さんの事をご存知ですか?」

 

ティムは弘樹に向かってそう尋ねる。

 

「………神狩の事か?」

 

試合の片付けを手伝っていた際に得た情報から、目の前の人物・ティムと戦っていたのは神狩であると推察する。

 

「お知り合いですか?」

 

「まあ、そんなものだ………」

 

するとそこで、ティムは弘樹に向かって、1輪のリコリスを差し出す。

 

「? コレは?」

 

「彼に会ったら渡して下さい………では、失礼致します」

 

弘樹がそれを受け取ると、ティムはペコリと頭を下げ、ダージリン達とアールグレイ達の後を追って行ったのだった。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

立ち去って行くグロリアーナ&ブリティッシュの面々の姿を、見えなくなるまで見送るみほ達と弘樹達。

 

「いや~、負けちゃったね~、ドンマイ」

 

「だが、得た物は大きい筈だ………決して無意味な敗北では無い」

 

とそこで、そんなみほ達と弘樹達の背にそう言う声が掛けられたかと思うと、杏と迫信と筆頭に、両校の生徒会メンバーが姿を見せる。

 

「約束通りやってもらおうか………あんこう踊りを」

 

「んで、俺達はふんどし姿で大洗海岸をランニングだっけ?」

 

桃がそう言うと、俊もまるで他人事の様にそう言い放つ。

 

「「「「うぅ………」」」」

 

Aチームの面々が、麻子を除いて一気に表情に影を落とす。

 

「マジかよ………」

 

「最悪だ………もう一生女の子にモテねえよ」

 

「貴方の場合、その心配は無いと思いますよ」

 

地市も絶望した様な様子となり、了平が血の涙を流さんと言わんばかりに呟くと、楓が割と容赦無いツッコミを入れる。

 

「まあまあ。こういうのは連帯責任だから」

 

するとそこで、杏が思い掛けない言葉を発した。

 

「うえっ!?」

 

「会長、まさか!?」

 

「杏! やるの!?」

 

それを聞いた桃、柚子、蛍が仰天の様子を露にする。

 

「うん!」

 

「………少なくとも何処かの広報には相当の責任があって当然と見るがな」

 

杏が満面の笑みを浮かべてそう言うと、熾龍がそう呟く。

 

「! 貴様! 何処かの広報と言うのは私の事かぁっ!!」

 

「自覚は有る様だな………そこまで分からない程の馬鹿ではなかったか」

 

「当然だ! 第1作戦の失敗の原因はお前に有る!! 成功さえしていれば試合結果も変わったかも知れないものを!!」

 

その発言に桃が噛み付くと、熾龍は更なる毒舌を浴びせ、十河も不快感を露にした顔でそう言う。

 

「五月蝿い! あんな姑息な作戦如何だって良いっ!!」

 

「元は貴様が立てた作戦だろうがぁっ!!」

 

「ちょっ! 2人供! 落ち着いて下さいっ!!」

 

「冷静に! 冷静に!!」

 

ヒートアップする桃と十河を見て、清十郎と逞巳がオロオロとし出す。

 

「…………」

 

とそこで、迫信が手にしていた扇子をもう片方の掌に打ち付け、パンッ!と鳴らした。

 

「「!?」」

 

その音で桃と十河が、迫信に注目する。

 

「2人供………敗軍の将、兵を語らず………だ」

 

そう言いながら、迫信は扇子を開いて、口元を隠しつつ、流し目で2人にそう言った。

 

何気ないその姿だが、これ以上の無駄話は要らないと言う雰囲気が伝わって来る。

 

「「…………」」

 

その雰囲気に気押しされ、2人はもう何も言えなくなる。

 

「じゃあ行こうか!」

 

そこで再び、杏が満面の笑みでそう言い、罰ゲームが開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗の街中………

 

「ふええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」

 

「もうお嫁に行けない~っ!!」

 

「仕方ありませんっ!!」

 

「恥ずかしいと思えば余計に恥ずかしくなりますっ!!」

 

妙に耳に残る盆踊り調の曲『あんこう音頭』をバックに大型輸送車の荷台の上にて、デフォルメされたあんこうの被り物を被って、鰭が所々についたピンク一色の全身タイツを来たAチームの面々が踊りを踊っている。

 

全員が羞恥を露にしているが、麻子だけはポーカーフェイスのまま踊り続けている。

 

「か、格好もキツイけど、踊りもキツイ~っ!」

 

そして同じ姿で踊っているEチームの中で、格好に加えて踊り自体の難易度の高さに根を上げかけている蛍。

 

そんな蛍とは対照的に、杏、柚子、桃の3人は、妙に慣れた様子で見事なシンクロを維持して踊りを続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗海岸でも………

 

「アハハハハハッ! 何アレェ!!」

 

「ふははははははっ!!」

 

面白半分に見物に来た大洗の住民の笑い声を浴びながら、大洗歩兵部隊の全員がふんどし一丁の姿で大洗海岸の波打ち際を走っている。

 

オマケに、先頭を行く弘樹が応援団旗の様な『あんこうで有名な大洗へようこそ』と書かれた旗を掲げているものだから目立つ事この上ない。

 

コレは、白狼が戦闘中に住民の自転車を使用した事へのペナルティである。

 

歩兵道に於いては、対戦相手の車両や武器を試合中に限り鹵獲して使用する事は出来るが、街中などが試合会場となった場合、その場所に置いてある車両などを使用する事は硬く禁じられている。

 

盗難の原因となる可能性が有るからである。

 

「うおお~~~っ! 殺せぇっ!! いっそ一思いに殺せぇっ!!」

 

「コレは………想像以上です」

 

「何も考えるな! 無心で走るんだっ!!」

 

了平、楓、地市からそう声が挙がる。

 

「はははははっ!!」

 

「ホラ、頑張れ頑張れ!」

 

「こりゃこりゃ! 見ないでやれ!!」

 

「武士の情け、武士の情け」

 

と、流石に不憫に思われたのか、通り掛った医者らしき人物とその助手らしき人物が、面白半分に見物していた住人達にそう呼び掛ける。

 

「チキショーッ! 旗さえなけりゃあ!!」

 

「大体、この目立つ原因を作った本人は何処へ行ったんだよーっ!!」

 

地市と了平が愚痴りながら叫ぶ。

 

そう………

 

目立つ原因となっている旗を持つ原因となった白狼は、この面子の中に居ない………

 

と言うよりも、試合が終わってから誰も姿を見ていないのだ。

 

「…………」

 

色々と思う様なところがありながら、弘樹は仏頂面で歩兵部隊の面々と共に、大洗海岸のランニングを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

戦車隊Aチームの面々と、弘樹達は大洗の観光市場の前に集合していた。

 

「ああ~………恥ずかしかった………」

 

「どんな拷問だよ、コリャ」

 

身も心も疲れ果てた様子で、沙織と地市がそう呟く。

 

「ゴメンね、皆………」

 

そんな姿を見て、みほが申し訳なさそうに謝るが………

 

「そんな! 西住殿のせいじゃありませんから!」

 

優花里がそうフォローを入れる。

 

「そんなに責任感じてるんなら、今ココであんこう踊りを………ゴメンナサイ、ナンデモナイデス」

 

了平はそんなみほにまたあんこう踊りをと言おうとしたが、弘樹が無言で刀を抜こうとしたのを見て片言になりながら思い止まる。

 

「この後、7時まで自由時間ですけど、如何します?」

 

とそこで、華が皆に向かってそう尋ねる。

 

「買い物行こう~!」

 

沙織が右手を挙げながらそう提案するが………

 

「…………」

 

ふと麻子が、一同の中から抜け出して歩き出す。

 

「? 麻子、何処行くの?」

 

「おばあに顔見せないと殺される」

 

沙織が尋ねると、麻子は振り返らずにそう返す。

 

「ああ、そっか~」

 

「すまねえ。俺も実家から顔出せって言われてるんだ」

 

「私も用事がありまして………」

 

沙織が納得した様子を見せると、今度は地市と楓がそう言う。

 

「俺も御一緒したいけど………積みゲーが大分出来たから攻略するんだぁ」

 

了平もそんな事を言う。

 

因みにその積みゲーが何かは………語るに及ばずだ。

 

「舩坂くんは………」

 

「すまない。小官にも用事がある」

 

そこでみほが弘樹に尋ねるが、弘樹も用事が有ると言う返事を返す。

 

「そう………」

 

「ワリィな」

 

「すみません」

 

「それじゃあね!」

 

「失礼する………」

 

みほが残念そうな顔をする中、弘樹達は其々バラバラの方向へと去って行く。

 

「まあ、用事が有るんじゃ仕方ないよね。私達だけで行こうか?」

 

残った一同の中で、沙織が気を取り直させる様にそう言うと、みほ達はアウトレットモールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウトレットモール内………

 

「可愛いお店いっぱい在るね~」

 

「後で戦車と歩兵ショップにも行きましょうねぇ」

 

「その前に、何か食べに行きません?」

 

沙織、優花里、華がそんな事を言いながら、アウトレットモールの中を歩く。

 

すると………

 

「白狼~っ!」

 

「お~い! 白狼~っ!!」

 

「何処行ったんや~っ!!」

 

「? あの声は………」

 

聞いた事のある声がして、みほが聞こえてきた方向を見やると………

 

「この辺りには居ないみたいですね」

 

「フラリと居なくなるのはいつもの事だけどよぉ………」

 

「罰ゲームもサボっとるんや。心象悪くなるで」

 

飛彗、海音、豹詑の3人の姿が在った。

 

「宮藤さん。江戸鮫さん。日暮さん」

 

みほがスラスラと名前を出す。

 

「! あっ! 西住さん達………」

 

「お、何や。あんさん等も居ったんか?」

 

飛彗と豹詑がそう言うと、3人はみほ達の下へ歩み寄って来る。

 

「如何かされたんですか?」

 

「いや、白狼の奴の事を探してたんだけどよぉ………」

 

華が尋ねると、海音がそう返す。

 

「? 神狩殿をですか?」

 

「試合が終わってからも姿が見えなくて………皆で探してるんです」

 

「フラリと居なくなるんはいつもの事なんやけどなぁ」

 

困った顔をしながら、飛彗達は頭を捻る。

 

「西住さん達は、白狼を見かけませんでしたか?」

 

「えっ? ううん、見てないけど………」

 

飛彗に尋ねられて、みほがそう答えていると………

 

「おっ!? 人力車だ。珍しいなぁ」

 

海音がアウトレットモール内に入って来た人力車を見て、そう声を挙げた。

 

「あ! 目が合っちゃった」

 

そこで、沙織が人力車を引いていた男と目が合う。

 

「!!」

 

すると、人力車を引いていた男が、みほ達と飛彗達に近づいて来る。

 

「や、やだぁ!」

 

何か勘違いをしているらしく、頬を染めて狼狽する沙織。

 

「新三郎」

 

すると、華はその男と顔見知りなのか、そう声を挙げる。

 

「知り合い?」

 

そうこうしている内に、新三郎と呼ばれた男は、華達の前までやって来て、一旦人力車を停めると、更に近づいて来る。

 

「あ! 初めまして、私華さんの………」

 

沙織が勢い付いて挨拶をしようとしたが、新三郎と呼ばれた男はその横を通り抜けて華の前に立つ。

 

「お嬢、元気そうで………」

 

「何! 聞いてないわよっ!!」

 

思わず目を潤ませながらそう言う新三郎と呼ばれた男の背後で、沙織が喚く様にそう言う。

 

「ウチに奉公に来ている新三郎」

 

「お嬢がいつも、お世話になってます」

 

華がそう紹介すると、新三郎は礼儀正しく頭を下げて一同に挨拶をする。

 

「華さん」

 

するとそこで、人力車に乗っていた和服の女性が、和傘を広げながら降りて来る。

 

「お母様」

 

如何やら、華の母親の様だ。

 

「良かったわあ、元気そう………コチラの皆さんは?」

 

娘の健在な姿を喜ぶと、みほ達や飛彗達の事について尋ねる華の母・五十鈴 百合。

 

「同じクラスの武部さんと西住さん」

 

「「こんにちはー!」」

 

華に紹介されると、沙織とみほは元気良く挨拶をする。

 

「私はクラス違いますが、戦車道の授業で………」

 

「僕達も、学校は違いますが、歩兵道の授業で………」

 

「戦車道?………歩兵道?」

 

そこで、優花里と飛彗が自己紹介しようとしたところ、百合は戦車道と歩兵道と言う言葉に目を細めた。

 

「ハイ。今日試合だったんですぅ」

 

「華さん! 如何言う事!?」

 

百合の態度が変わる。

 

「お母様………」

 

「あ!………」

 

優花里がマズイ事を言ったと思い、慌てて口を塞ぐが時既に遅し。

 

百合は華の手を取り、その匂いを嗅ぐ。

 

「鉄と油の臭い………貴方! もしや戦車道を!?」

 

「………ハイ」

 

「花を活ける繊細な手で………戦車に触れるなんて!………!? ああっ?」

 

と、余程のショックだったのか、百合は白目を剥いて気を失い、そのままバタリと倒れてしまう。

 

「! お母様!!」

 

「奥様!!」

 

「た、大変だっ!?」

 

「救急車だ! 救急車呼べぇっ!!」

 

華達と新三郎が慌てて駆け寄り、飛彗達は救急車を呼びに掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、辺りが夕焼けになり始めた頃………

 

一同は、水戸に在る華の実家に居た。

 

幸い、百合は救急車で1度は病院に運ばれたものの、具合はそれほど悪くなく、その日の内に退院。

 

医者からは家の方で落ち着いて療養した方が良いと言われている。

 

みほ達と、済し崩し的に付き添う事になった飛彗達は現在、五十鈴家の客間に居た。

 

「すみません。私が口を滑らせたばっかりに………」

 

「そんな………私が母にちゃんと話していなかったのがいけなかったんです」

 

申し訳無さそう言う優花里に、華も申し訳無さそうな様子でそう返す。

 

「何だか………俺達、凄く場違いじゃねえか?」

 

「すみません………成り行きで一緒に付いて来ちゃって………」

 

そこで、海音と飛彗も、華に向かってそう謝る。

 

「いえ、そんな………宮藤さん達が救急車を呼んでくれたから、母も大事には至らなかったんですよ」

 

華はトンでもないと、逆に飛彗達にお礼を言う。

 

「…………」

 

そんな中みほは、客間に飾られていた生け花に魅入っていた。

 

「失礼します。お嬢、奥様が目を覚まされました。お話が有るそうです」

 

とそこで客間と廊下の襖が開き、新三郎が姿を現すと、華にそう告げる。

 

「………私………もう戻らないと」

 

「! お嬢!」

 

「お母様には、申し訳無いけれど………」

 

百合と話したくない様子の華。

 

「………差し出がましい様ですが、お嬢のお気持ち! ちゃんと奥様にお伝えした方が、宜しいと思います!」

 

「新三郎………」

 

「そうですよ、五十鈴さん」

 

するとそこで、飛彗が口を挟んで来た。

 

「他人の家の事情に踏み込む様で申し訳ありませんが、このまま何も話さないで行ってしまっては………きっと後悔すると思います!」

 

「宮藤さん………」

 

飛彗の言葉を受けて、華は少し考える様な素振りを見せた後、百合の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いのかな?」

 

「だって気になるやんけ」

 

「偵察よ、偵察」

 

「諜報活動ってやつだ」

 

百合の部屋の前で、襖に耳を当てて様子を伺っている沙織達と海音達。

 

「申し訳ありません………」

 

「如何してなの? 華道が嫌になったの?」

 

「そんな事は………」

 

「じゃあ、何か不満でも?」

 

「そうじゃないんです………」

 

「だったら如何して!」

 

中々話を切り出せないで居る華に、百合の声が思わず大きくなる。

 

「私………活けても活けても、『何か』が足りない様な気がするのです」

 

「そんな事ないわ。貴方の花は可憐で清楚………五十鈴流そのものよ」

 

「………でも、私は………もっと力強い花を活けたいんです!」

 

(!!)

 

華のその言葉に、襖を隔てているみほが、何か思う所がある様に反応する。

 

「………あ………あああ」

 

一方の百合は、華の言葉を聞いて、崩れ落ちる。

 

「お母様!」

 

「素直で優しい貴方は、何処へ行ってしまったの? コレも、戦車道のせいなの? 戦車なんて、野蛮で不恰好で………五月蝿いだけじゃない!」

 

(随分な言われ方だなぁ)

 

(戦車道に対して、少し偏見が有るみたいですね)

 

百合の言葉を聞いた海音と飛彗がそう小声で言い合う。

 

「戦車なんて………皆鉄屑になってしまえば良いんだわぁ!」

 

「鉄屑!?」

 

(シ~ッ! 静かにせんかい!)

 

鉄屑と言う言葉に思わず怒りを露にする優花里を、豹詫が宥める。

 

「ゴメンなさい、お母様………でも、私………戦車道は止めません」

 

華は百合の事を正面から見据え、堂々たる態度でそう言い放った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

暫しの間、沈黙が続く………

 

「………分かりました。だったらもう、ウチの敷居は跨がないでちょうだい」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「奥様、それは!!………」

 

百合の思わぬ言葉に、みほ達と飛彗達は驚愕し、新三郎も口を挟んだが………

 

「新三郎はお黙り!」

 

「!!………」

 

一喝され、奉公人の立場上、何も言えなくなってしまう。

 

「………失礼します」

 

華はそんな百合に向かって、華は深々と頭を下げると立ち上がり、部屋から出ようとした。

 

「「わわっ!?」」

 

「「おおっ!?」」

 

襖が開け放たれ、聞き耳を立てていた沙織と優花里、海音と豹詫が慌てて襖から離れる。

 

「………帰りましょうか」

 

華はそんな沙織達の様子を特に気にする事もなくそう言う。

 

「華さん………」

 

「すみません、五十鈴さん………僕が余計な事を言ったばかりに」

 

「いえ! それを言うなら、私が!!」

 

みほが如何声を掛けて良いか分からずに居ると、飛彗が謝り、新三郎も責任を感じるが………

 

「良いんです、皆さん………何時か、お母様を納得させられる様な花を活ける事が出来れば、きっと分かってもらえます」

 

「あ………」

 

その言葉は、家元の家を飛び出したみほの胸に、深く響いた。

 

「お嬢!!」

 

「笑いなさい、新三郎………コレは、新しい門出なんだから。私、頑張るわ」

 

「! ハイィッ!!」

 

華の言葉に、新三郎は男泣きする。

 

「五十鈴さん………」

 

「はい?」

 

「私も………頑張る」

 

実家に勘当されても、自分を貫き通す華の姿に思う所があったのか、みほは華に向かってそんな事を言う。

 

「…………」

 

そんなみほに、華はその名の通り、花の様な優しげな笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、みほ達は男泣きし続けている新三郎の人力車で………

 

飛彗達はタクシーを使い、日が暮れて夜になりかけていた大洗町まで帰還。

 

学園艦の出港時間が迫っていた為、すぐに大洗港まで向かった。

 

「………遅い」

 

港に現れたみほ達を、昭和の大スターの様なポーズで係柱に片足を掛けていた麻子が迎える。

 

「夜は元気なんだから~!」

 

低血圧の為、午後以降にしか調子が上がらない麻子に沙織がそんな事を言いながら、共に学園艦へと乗り込んでいく。

 

「出港ギリギリよ」

 

「すみません」

 

「ゴメンなさい」

 

「スマンな、ソド子」

 

「その名前で呼ばないで!」

 

乗艦チェックをしていたみどり子に謝罪しつつ、甲板………街へと上がっていくみほ達。

 

すると、その前に………

 

試合にて戦車を放棄し逃亡した梓達、1年生Dチームの6人。

 

そして、柳沢 勇武と敵前逃亡をやらかした1年生のδ分隊部隊員が現れる。

 

「西住隊長………」

 

「総隊長殿………」

 

梓と勇武が、みほの名を呼ぶ。

 

「えっ?」

 

「戦車を放り出して逃げたりして………」

 

「恐怖に負けて、敵前逃亡をしてしまい………」

 

「「「「「「「「「「すみませんでしたっ!!」」」」」」」」」」」」

 

梓と勇武を筆頭に、Dチームとδ分隊の面々は、謝罪と共に一斉に頭を下げた。

 

「先輩達、カッコ良かったです」

 

「すぐ負けちゃうと思ってたのに………」

 

「あたし達も、次は頑張ります!」

 

「絶対頑張ります!」

 

あゆみ、優季、あや、桂利奈がそう言う。

 

「歩兵は戦車を守る存在………そう教えられたのに………自分達は未熟でした! 猛省します!!」

 

勇武もそう言うと、δ分隊の面々も真剣な表情を見せる。

 

「………うん!」

 

みほは、そんな梓や勇武の姿を見て、笑みを見せる。

 

すると、そこで………

 

「アラ? 皆さんお揃いで」

 

「何や? 何の集まりや?」

 

「如何したの?」

 

そう言う台詞と共に、湯江、大河、遥の3人が姿を現した。

 

「黒岩さん」

 

「湯江ちゃん? 如何したの? こんな所で?」

 

「ハイ。お兄様を迎えに行く途中でして………」

 

「ワイ等はその付き添いってワケや」

 

何故こんな時間に出歩いているのかと尋ねるみほに、湯江と大河はそう答える。

 

「えっ? 舩坂くんを?」

 

「如何言う事?」

 

「湯江のお兄ちゃん。学校で射撃訓練してるのよ」

 

「余程気を入れてらっしゃる様で、電話にも出ないので、直接迎えに行こうと思いまして」

 

如何言う事か分からず、首を傾げるみほと沙織に、そう言う遥と湯江。

 

「射撃訓練って………」

 

「何時からなさってるんですか?」

 

今日練習試合があったと言うのに、射撃訓練に撃ち込んでいる言う弘樹に、華がそう疑問を呈する。

 

「試合が終わってからすぐに学校へ向かわれた様ですよ」

 

「ええっ!? じゃあ、私達と別れてから、すぐに学校に戻って、そのまま訓練を!?」

 

湯江の言葉を聞い優花里が驚きの声を挙げる。

 

「昔からそうなんです。試合に負けたりすると、自分の力が足りなかったから負けたんだって………」

 

「湯江、早く行こうよ。じゃないともっと暗くなるよ」

 

とそこで、遥が湯江をそう急かした。

 

「あ、ハイ、そうですね………」

 

「あ、その………私達も行って良いかな?」

 

湯江が改めて弘樹の迎えにこうとすると、みほがそう言う。

 

「構いませんが………ご迷惑じゃありませんか?」

 

「ううん、そんな事ないよ」

 

「そうですか?………それじゃあ、一緒に行きましょうか」

 

「うん!」

 

「あ! 私達も!」

 

「舩坂先輩にも謝らないと………1番怒ってたし………」

 

一同はそう言葉を交わすと、湯江達に付き合って、大洗男子校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子高校・屋内射撃訓練所………

 

「…………」

 

射撃ブースに立ち、三八式歩兵銃を構えて射撃訓練をしている弘樹。

 

既に足元には、撃ち終えた薬莢が多数転がっており、どれだけ訓練を続けているのかが窺い知れた。

 

「お兄様」

 

「舩坂くん」

 

とそこで、湯江とみほを筆頭に、射撃訓練所にAチームの面々達が入って来る。

 

「! 湯江………西住くんも」

 

その声でみほ達に気づいた弘樹は、三八式歩兵銃に安全装置を掛けると、テーブルの上に置く。

 

「お兄様、そろそろ御夕飯ですよ。帰りましょう」

 

「何? もうそんな時間か?」

 

湯江にそう言われて、携帯を取り出し、着信履歴と時間を確認する弘樹。

 

「すまないな、つい熱が入ってしまって………」

 

「あ、あの!」

 

「舩坂先輩!」

 

と、そこで今度は、Dチームとδ分隊の面々が訓練所に入って来る。

 

「む………」

 

「あの! 舩坂さん! 試合では、その!」

 

「本当にすみませんでした!!」

 

梓と勇武がそう言って頭を下げると、Dチームとδ分隊の面々も頭を下げる。

 

「………その事についてはもう良い」

 

しかし弘樹は、素っ気無い様な返事を返す。

 

「! 先輩!」

 

「舩坂さん………」

 

呆れられてしまったのかと、表情に影が落ちるDチームとδ分隊の面々だったが………

 

「失態は言葉でなく、行動で取り返せ………それが歩兵道、そして戦車道だ」

 

弘樹は続けてそう言い放つのだった。

 

「! 先輩!!」

 

「舩坂さん!」

 

その姿に感激を覚えるDチームとδ分隊の面々。

 

「やあやあ、皆ぁ!」

 

「此処に居たのかね」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、蛍を除いた大洗女子学園生徒会メンバーと迫信が姿を現す。

 

「! 会長さん」

 

「会長閣下!」

 

杏を見やるみほと、迫信に向かってヤマト式敬礼をする弘樹。

 

「今日の試合、負けはしたが………やはり得た物は大きかった様だね」

 

迫信が扇子を広げ、口元を隠しながらそう言う。

 

「つーわけで、これからは作戦は西住ちゃんと迫信ちゃんに一任するから」

 

「うえっ!?」

 

「くうっ!!」

 

杏の言葉に、実質作戦考案から外された桃と十河が声を挙げる。

 

「当然だな………今日の試合を見れば、副会長は兎も角………片メガネはな」

 

そんな2人に熾龍は容赦無く毒舌を浴びせる。

 

「西住さん。コレを聖グロリアーナの隊長さんが」

 

「舩坂くん。お前にも有るぞ」

 

「聖ブリティッシュのアールグレイさんからです」

 

とそこで、柚子がみほにバスケットを、俊と清十郎が弘樹に1通に文を手渡す。

 

「………紅茶?」

 

バスケットの中身が紅茶である事を見たみほがそう呟く。

 

「手紙が付いてるよ?」

 

と、バスケットの中に、紅茶と一緒に手紙が入っている事を見つけた沙織がそう指摘する。

 

みほは手紙を手に取ると広げ、内容に目を通す。

 

それは、ダージリンからのメッセージである。

 

『今日はありがとう。貴方のお姉様との試合より、面白かったわ。また公式戦で戦いましょう』

 

ダージリンからの手紙には、そう書かれていた。

 

「凄いですぅ! 聖グロリアーナは好敵手にしか、紅茶を送らないとか!」

 

優花里が興奮気味にそう語る。

 

「そうなんだぁ」

 

「昨日の敵は今日の友! ですね!」

 

「弘樹。お前さんの方はどないなメッセージやったんや?」

 

とそこで、大河がアールグレイの文を持っていた弘樹に尋ねる。

 

「………果たし状だ」

 

「えっ?………」

 

「は、果たし状!?」

 

弘樹からの思わぬ返答に、一同は思わずアールグレイの文を除き見た。

 

『拝啓、舩坂 弘樹殿。貴殿との試合は、私の心を確かに熱くした。実に久方ぶりの感覚であった。此度の戦いは互いに五分の状態では無かった。何れ行われる全国大会にて、またあいまみえん 聖ブリティッシュ高校歩兵部隊 アールグレイ』

 

「全国大会で今一度勝負か………」

 

「随分と古風な事を致しますね」

 

弘樹が思わず笑みを浮かべていると、華がそんな事を呟く。

 

「次の試合も頑張ろうじゃないの」

 

「ハイ!………次の試合?」

 

杏の言葉に、反射的に返事を返すみほだったが、その言葉に引っ掛かりを感じる。

 

「うん! 次の練習試合は既に1週間後に組んであるから」

 

「「「「「「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

いきなり次の練習試合を組まれた事を知らされ、みほ達は驚きの声を挙げるのだった。

 

「またまたトンでもない事に………」

 

「戦いは常に突然始まるものだ………ん?」

 

勇武にそう言いながら、戦闘服の懐に手をやった弘樹が何かに気づいた様に視線をやると、胸ポケットにティムから預かったリコリスが刺したままだった事に気づく。

 

「イカン、小官とした事が………神狩の奴へと預かった物を」

 

「!? あっ!? そう言えば、白狼は!?」

 

弘樹がそう呟くと、飛彗が思い出した様に声を挙げる。

 

「んあっ!?」

 

「そうやった!!」

 

海音と豹詫も声を挙げる。

 

「神狩くんって………確か、試合中に戦車にブッ飛ばされて、それ以来見てないんだよね?」

 

そこで沙織が、試合の様子を思い出しながらそう言う。

 

「「「「「「「「「「………まさか!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・とあるペットショップ………

 

「………此処は何処だ?」

 

戦車にブッ飛ばされ、自転車ごと宙に舞った白狼は、そのまま街中に在ったペットショップに突っ込んでおり、そのまま忘れ去られていたのだった………

 

結局………

 

白狼が学園艦へと戻ったのは、翌朝の連絡船でだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

練習試合、終了です。
結果は原作通りに大洗の負けですが、劇中で迫信が言った通り、やはりこの試合で得たものは大きかったと思います。

名物罰ゲームをしつつ、原作はこの後公式戦となり、サンダースと試合でしたが、私の作品ではもう1試合、練習試合を入れさせていただきます。
そして更に、新たなるキャラも登場します。
お見逃しなく。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第14話『新教官登場です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第14話『新教官登場です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女子学園と聖ブリティッシュ男子高校との練習試合は………

 

健闘したものの、大洗の負けとなってしまった………

 

敗北の悔しさを噛み締めたみほ達と弘樹達だったが………

 

それに落ち込んでいる暇も無く、次なる練習試合が、既に決められていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園………

 

戦車格納庫前………

 

「わあ~、凄~い!」

 

「直ってるぅ~!」

 

格納庫前に並べられ、新品同様の輝きを放っている戦車達を見て、1年生チームからそう声が挙がる。

 

「いや~、真田さんの整備技術が凄くってさぁ。思いのほか捗ったよ」

 

「いやいや、君の方こそ、良い腕だ」

 

それを行った女子学園自動車部のリーダーであるナカジマと、男子校整備部の部長である敏郎がそう言い合う。

 

「コレでまた練習出来るね」

 

「次の練習試合までまた時間がありません。出来るだけ、根を詰めて練習しませんと」

 

みほがそう言うと、戦闘服姿の弘樹がそう言葉を続ける。

 

「それにしても………遅いですねぇ、教官達」

 

とそこで、優花里が未だに姿を見せない教官達にそう言葉を呟く。

 

「確かに………いつもは、蝶野教官は兎も角、最豪教官は授業の前にはもう着いていましたし………」

 

と、華がそう言った瞬間、迫信の携帯が鳴る。

 

「ハイ………コレはどうも………ハイ………何ですって?………それでは、今後は………ハイ………ハイ………そうですか………分かりました」

 

何かを真剣な様子で話し合っていたかと思うと、携帯を切る迫信。

 

「会長。誰からですか?」

 

「蝶野教官と最豪教官からだ」

 

逞巳が尋ねると、迫信はそう答える。

 

「教官達から? それで、何と?」

 

「うむ………戦車道・歩兵道の全国大会の審判に選ばれた為、我が学園艦の教官役をする事が出来なくなったそうだ」

 

「!? ええっ!?」

 

「何だとっ!?」

 

サラリとそう言う迫信に、逞巳と桃が驚きの声を挙げる。

 

「出来なくなったって………」

 

「全国大会で審判を勤める者が、何処か特定の高校の教官になっていて、審判との癒着を疑われない為の措置だそうだ」

 

「まあ、当然っちゃあ、当然だね」

 

柚子がオロオロとしていると、迫信はそう言葉を続け、杏も毎度の如く干し芋を齧りながらそう言う。

 

「何、心配は要らない。蝶野教官の同期で親友の方が代わりに教官役として赴任してくれるそうだ」

 

しかし、迫信が心配無いとそう言う。

 

「蝶野教官の同期の方が?」

 

「何でも、女だてらに歩兵道まで極めた変わり者らしい」

 

基本的に、戦車道は女子の武芸と完全に決まっているが、歩兵道は男性だけの武道と言うワケではなく、少数ながら女性の歩兵道者も存在している。

 

そう言った女性は、主に自衛官などの役職に就いている者、或いはそれを目指している者などが多い。

 

「へえ~、女の人なのに歩兵道もやってるんだぁ~」

 

「オイオイ、まさかゴリラみたいな女の教官が来るんじゃねえだろうなぁ?」

 

沙織が関心した様な声を挙げると、地市が不安そうにそう言う。

 

「筋肉モリモリ、マッチョレディの教官………そ、それはそれで良いかも………」

 

「貴方は見境無しですか? 了平」

 

やや上級者的な呟きを漏らす了平に、毎度の如く楓がツッコミを入れる。

 

とそこで………

 

「俊~~っ!!」

 

「ん?」

 

自分を呼ぶ声が聞こえて、俊が振り返ると………

 

コチラに向かって駆けて来る、1人の大洗女子学園の生徒の姿が目に入る。

 

プラチナブロンドの髪に琥珀色の瞳、白磁の人形の様な白い肌という浮世離れした美貌を持ち………

 

身長と体格は杏と同程度とさえ思われるほど小柄かつ華奢ながら、胸は驚くほど豊満である。

 

「うおおおっ!? 何というロリ巨乳!!………!? ぶべぇっ!?」

 

「何を失礼な事を言っとるんだ、貴様は」

 

思わず歓喜の声を挙げた了平の頭を、弘樹が刀の峰でブッ叩いた。

 

「おう、元姫」

 

「アレ? 橘ちゃん?」

 

と、その少女の姿を見た俊と杏がそう声を挙げる。

 

「司馬さん。知人ですか?」

 

「会長、お知り合いですか?」

 

逞巳と桃が、俊と杏にそう尋ねる。

 

「うん、クラスメートだけど………司馬ちゃんは?」

 

杏が桃にそう答えると、俊は………

 

「俺の幼馴染で………彼女だ」

 

「「「「「「「「「「!? 何いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

そうサラリと答え、男子歩兵部隊の一部から驚愕と嫉妬の混じった声が挙がった。

 

「始めましてねぇ。私は橘 元姫(たちばな げんき)。何時も俊がお世話になってます」

 

少女………『橘 元姫(たちばな げんき)』はそう言って、一同に向かって挨拶と共にウインクを飛ばす。

 

「ところで、俊。また学校に泊まり込んでたから郵便溜まってたよ」

 

そこで元姫は、大量の郵便物を俊に手渡す。

 

「ああ、すまないな。ここんとこ忙しくて帰る暇が無かったからな………苦労かけんな」

 

「気にしないで。これぐらい当然だし、もう慣れっこだから」

 

早速仲良さげな様子を見せる俊と元姫の2人。

 

((((((((((うぎぎぎぎぎ………リア充爆発しろっ!!))))))))))

 

そんな光景を見て、了平を始めとした非リア充達が血の涙を流しながら羨ましがる。

 

「な、何か………綿貫くん達が怖い………」

 

「やれやれ………」

 

みほがそんな様子の了平達に怯え、弘樹は呆れた様に肩を竦める。

 

「ねえねえ、橘ちゃん? 良かったら一緒に戦車道しない?」

 

するとそこで、杏がそう言いながら、元姫の前に立つ。

 

「えっ? 戦車道?」

 

元姫はそう言いながら杏と向き合う。

 

同じ背と体格をした両者が互いに見詰め合う形となった、両者の間に1つだけ大きく違うモノが存在する。

 

「…………」

 

と、それに気づいた元姫が、杏を見た後、彼女の友人達である桃、柚子、蛍を見やる。

 

「………大丈夫。需要は有るよ」

 

そして、哀れむ様な表情をすると、杏の肩に手を置いてそう言う。

 

「………喧嘩売ってんの?」

 

珍しく杏は、いつもの不敵に笑っている様な表情を崩し、殺気の篭った視線で元姫を睨み付ける。

 

「あ? バレた? てへぺろ☆」

 

途端に元姫は、すっ惚ける様にそう言う。

 

「ムカつくぅっ! すっごいムカつくぅっ!!」

 

「か、会長!!」

 

「杏! 落ち着いて!!」

 

「貴様ぁっ! 会長を侮辱する積もりかぁっ!!」

 

思わず元姫に掴みかかって行きそうになった杏を柚子と蛍が抑え、桃が元姫に噛み付く。

 

「ゴメンゴメンってぇ………それより、戦車道だけど、私は家が飲食店でね。放課後とか休みの日とかはそっちの手伝いしなきゃいけないし、バイトもしてるから無理だよ」

 

今度は割りと真剣に謝りながらも、元姫は戦車道への誘いを断る。

 

「まあ、差し入れを持ってくるぐらいならしてあげるから、それで勘弁してね………それにしても………」

 

とそこで、元姫の視線が、大洗女子学園の戦車達へと向けられる。

 

「………この戦車の塗装………笑いでも取りに行ってるの?」

 

(随分と切り込んで来るな………)

 

そう指摘する元姫に、弘樹は部外者ながらも遠慮無しな物言いの彼女に思わず苦笑いしそうになる。

 

「何だとぉっ!?」

 

「ええ~~っ!? そんな~っ!?」

 

「我々の魂を馬鹿にするのかっ!?」

 

「バレー部復活に懸ける情熱を!!」

 

当然、桃、あや、カエサル、典子がそう噛み付く。

 

「だってそうじゃない。あの文字のペイントは兎も角………他の3両は如何考えても目立つじゃん」

 

しかし、元姫は臆せずにそう言う。

 

「何ぃっ!!」

 

典子を中心に、一同が元姫に掴み掛かって行こうとするが………

 

「揉め事は控えてもらいたい」

 

弘樹がそう言いながら両者の間に割って入り、そう制した。

 

「それに言い方はキツイかもしれないが、彼女の言う事も最もだぞ。グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と試合をした時の事を忘れたか?」

 

「「「「! うう………」」」」

 

そう言われて言葉が出なくなる典子達。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と試合時、Ⅳ号以外の戦車はその目立つ配色とペインティング故か、攻撃が集中していた節がある。

 

特にCチームのⅢ突など、幟が有ったせいで負けたと言っても過言では無い。

 

「じゃあ~、この際だから戦車の色、皆元に戻そうか?」

 

と、漸く落ち着いた様子の杏が、皆にそう提案する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

戦車隊メンバーは、やや不満そうにしている様子を見せながらも、反対意見は挙げなかった。

 

「じゃ、決まりだね」

 

「では、新しい教官が来る前に手早く済ませた方が良いな」

 

杏がそう言うと、迫信も扇子を閉じながらそう言う。

 

「我々も手伝うぞ」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

「整備班集合だ。10分で終わらせるぞ」

 

「「「「「「「「「「オースッ!!」」」」」」」」」」

 

歩兵部隊と整備班も手伝い、大洗戦車部隊の戦車の色を元に戻す作業が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かなりの人数で行った事もあり、塗り替え作業は順調に進行。

 

「皆~! 甘い物持ってきたよ~!」

 

そんな中、作業開始前に姿を消していた元姫が、早速差し入れを持参。

 

「わあ~っ! 凄~いっ!!」

 

「美味しそ~うっ!!」

 

とても個人で作ったとは思えないスイーツが差し入れされ、大洗女子学園の面々は目を輝かせる。

 

「それから………コレはサービスね」

 

更にそこで、元姫は何やら可愛げなイラストが書かれたスケッチブックのページを数枚取り出した。

 

「? 何ですか? コレ?」

 

そう言いながら、そのスケッチブックのページを受け取るみほ。

 

丁度1番上のページには、デフォルメされたあんこうらしきマークが描かれている。

 

「各チームのマークだよ。Aチームとかα分隊じゃ味気無いじゃん。今度からそのマークのチーム名で呼び合う事にしたら?」

 

「可愛い~。良いかも」

 

サラッとそんな事を提案する元姫の言葉を聞きながら、その可愛さに満足したみほは次のページを見やる。

 

すると今度は、あんこうと同じく、デフォルメされた『とら』が、神風の文字と日の丸を描いた鉢巻を巻いて、三八式歩兵銃に結んだ旭日旗を掲げているマークが現れる。

 

「あ、それはα分隊のマークね。如何かな?」

 

「う、うん………」

 

元姫がそう言うと、みほは今度は苦笑いを浮かべた。

 

このとらのマーク………明らかに誰か1人をモチーフにしている。

 

「ほう?………」

 

と、そのモチーフにされていると思われる人物………弘樹が、スケッチブックを覗き込んで来る。

 

「あ、ふ、舩坂くん………ど、如何かな? このマーク?」

 

恐る恐ると言った様子で弘樹に尋ねるみほだったが………

 

「悪くない………いや、寧ろ気に入ったぞ」

 

当の本人は、かなりお気に召した様子であった。

 

「そ、そう………」

 

「さっすが、伝説の日本兵の子孫! そう言うと思ったよ!!」

 

みほがまた苦笑いを浮かべ、元姫が当然と言った様に笑う。

 

そのまま、他のチームのマークも公開され、戦車チームは戦車にマークを描き込み、随伴分隊は戦闘服の臂章としてマークのワッペンを縫い付けると、そしてそれに合わせて、チーム名を改変した。

 

その結果………

 

戦車隊のみほ達のAチームは、『あんこうチーム』

 

バレー部のBチームは、『アヒルさんチーム』

 

歴女達のCチームは、『カバさんチーム』

 

1年生達のDチームは、『ウサギさんチーム』

 

生徒会のEチームは、『カメさんチーム』へと改名。

 

更に随伴歩兵分隊は、弘樹が率いるα分隊が、『とらさん分隊』

 

大河が率いるβ分隊が、『ペンギンさん分隊』

 

磐渡が率いるγ分隊が、『ワニさん分隊』

 

勇武が率いるδ分隊が、『ハムスターさん分隊』

 

そして、迫信が率いるε分隊が、『ツルさん分隊』へと改名された。

 

「………幼稚園のお遊戯か」

 

更新した情報を纏めていた煌人が、改めて各チームと随伴分隊の改名した名前を確認し、ボソリとそう呟く。

 

「色戻しちゃったのは残念だけど~」

 

「でも、名前は可愛くなったよね~」

 

マークを描いたカラーリングを戻したM3リーの横で、あやと優季がそう言い合う。

 

「それにしても………新しい教官さん、まだでしょうか?」

 

とそこで飛彗が、何時まで経っても姿を見せない新しい教官の事を思い出し、そう呟く。

 

「確かに遅いな………もうすぐ授業が終わってしまうぞ」

 

弘樹が女子学園の校舎に掛かっている時計を見てそう言う。

 

………その時!

 

キュラキュラキュラと言う履帯が唸る音と、まるでスポーツカーの様なエンジンの爆音が聞こえて来た。

 

「? 何だぁ?」

 

白狼がそう声を挙げた瞬間!!

 

戦車格納庫横の方に広がっていた森の中から、木々を薙ぎ倒して、1台の戦車が飛び出す!!

 

「!?」

 

「うええっ!?」

 

「何だぁっ!?」

 

突然の事態に混乱する大洗機甲部隊の一同。

 

森の中から飛び出した戦車は、そのまま大洗女子学園の敷地を表すフェンスをも踏み潰し、大洗女子学園のグラウンドへと侵入!!

 

唖然としていた大洗機甲部隊の面々目掛けて突っ込んで来た!!

 

「ちょっ!? 突っ込んで来るぞっ!?」

 

「逃げろぉっ!!」

 

大洗歩兵部隊の面々は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し、戦車部隊のメンバーも逃げる様に其々の戦車の後ろへと隠れる。

 

「「「…………」」」

 

そんな中でも、弘樹、迫信、熾龍の3人は平然としており、その場を動かなかった。

 

「弘樹!?」

 

「会長っ!? 逃げて下さいっ!!」

 

「轢き殺されるぞっ!!」

 

地市、逞巳、海音がそう声を挙げるが、3人は微動だにしない。

 

やがて現れた戦車は、そんな3人の横をスルリと擦り抜け、そのままスピンする様に車体を回転させ、大洗戦車部隊の戦車達の前に、ピタリと停止した!!

 

「「「…………」」」

 

振り返ってその戦車の姿を見やる弘樹、迫信、熾龍。

 

その戦車は、細かな所が色々と弄られている様子があるが、亜美が乗っていたのと同じ、陸自の迷彩色をした10式戦車だった。

 

「アレって………10式ですよね?」

 

「細かい所が弄られてるっぽいが………多分、そうだな」

 

勇武と竜真が、その10式を見てそう言い合う。

 

「と言う事は………新しい教官さんのものですか?」

 

「荒っぽい事するよな~………一体どんなゴリラが乗ってるんだ?」

 

楓がそう言っていると、了平が先程の10式の運転の仕方を思い出し、愚痴る様にそう言う。

 

すると………

 

突如10式の砲塔が旋回を始め、了平にその砲口が向けられる。

 

「………へっ?」

 

了平が呆けた声を挙げた瞬間!!

 

44口径120mm滑腔砲が火を噴いた!!

 

「!? おうわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

慌ててその場に伏せる了平と、砲弾が発射された爆風で吹っ飛ばされる運悪く了平の周りに居た一同。

 

砲弾はグラウンドに隣接していた森の中へと着弾すると、派手に爆炎を上げた!

 

「!?」

 

「ちょっ!?」

 

「オイ、撃ったぞ!? 撃ったぞ、オイッ!?」

 

突然発砲した10式に、一同は騒然となる。

 

その次の瞬間!!

 

「聞こえたわよ! 誰がゴリラですってぇっ!!」

 

そう言う台詞と共に、10式のハッチが開いて、中から戦車・装甲車帽を被り、迷彩服3型に身を包んだ女性が姿を現した。

 

「あ、あああ………」

 

余りの出来事に腰を抜かして、へたり込んでいる了平。

 

「おう、コラァッ!! お前か、そんな事言ったのは! もういっぺん言ってみろ!!」

 

女性はそれにお構い無しに、10式から降りると了平に詰め寄り、胸倉を掴んでネック・ハンギング・ツリーの様に持ち上げる!

 

「ぐええっ!?」

 

「オラッ! 言ってみろ、コノヤロウッ! 誰がゴリラ女じゃコリャァッ!!」

 

そのまま了平を前後にガクガクと揺さぶる女性。

 

「く、苦しい~~………でも、ちょっと良いかも!」

 

既に色々と手遅れだが、更に段々と危ない方向に目覚めそうになる了平。

 

「むうっ!………」

 

流石にコレ以上はマズイのと、了平が今以上に危ない奴になるのを避ける為、弘樹が止めに入ろうとしたところ………

 

「お姉ちゃん、駄目ぇっ!!」

 

「コレ以上はマズイですよ、空さんっ!!」

 

「藤林一尉! 落ち着いて下さいっ!!」

 

10式から、新たに3人の迷彩服3型に身を包んだ女性が飛び出し、了平を締め上げていた女性を引き剥がす。

 

「ぐへっ!?」

 

「離せぇっ! みゆき! キリノ! ミカ! 止めてくれるなぁっ!!」

 

「落ち着いて、お姉ちゃん!」

 

「空さん! 向こうだって悪気があったワケじゃないんですよ!!」

 

「民間人に手を挙げたら問題ですよ!!」

 

空と呼ばれた暴れる女性を、如何にか押し止めるみゆきとキリノ、そしてミカと呼ばれた女性。

 

「………大丈夫か? 了平?」

 

それを尻目に、了平に声を掛ける弘樹。

 

「ゲホッ! ゴホッ!………もうちょっとで天国が見れたんだけどなぁ~」

 

「心配した小官がアホだった………」

 

危ない顔でそう言う了平に、弘樹は溜息と共に呆れた言葉を漏らす。

 

「………何なの? この状況?」

 

混沌とする中で、沙織の呟きが虚しく響いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「いや~、ゴメンね~。ついついカッとしちゃって………今は反省してるから」

 

漸く落ち着きを取り戻した空と呼ばれた女性が、先程の事を軽い感じで謝罪する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同は、何とコメントして良いか分からず、全員が困惑した表情を見せている。

 

「ホラ、お姉ちゃん………皆引いてるよ」

 

「いや、ホント、ゴメンね。空さん、ちょっと短気な所があって………」

 

「本当に申し訳ありません」

 

みゆきと呼ばれた女性が、呆れた様にそう言い、キリノと呼ばれた女性とミカと呼ばれた女性が改めて謝罪する。

 

「は、はあ………」

 

「あの~、ところで………貴女方が、蝶野教官と最豪教官の代わりに来られた教官方で宜しんですね?」

 

柚子がコメントに困っていると、逞巳が代わる様に女性達に向かってそう尋ねた。

 

「ああ、そうそう。自己紹介がまだだったわね。私は空、『藤林 空(ふじばやし そら)』一等陸尉よ。戦車長をやってるわ」

 

「私は妹の『藤林 みゆき』二等陸尉。砲手をやってるわ」

 

「『叶 ミカ』三等陸尉です。操縦手を担当しています」

 

「同じく、『川添 桐野(かわぞえ きりの)』二等陸尉。この10式・改の専属整備士をやってるよ。だから整備については色々とアドバイス出来ると思うよ。キリノって呼んでね!」

 

そこで、3人の女性………『藤林 空(ふじばやし そら)』、『藤林 みゆき』、『叶 ミカ』、『川添 桐野(かわぞえ きりの)』はそう自己紹介する。

 

「どもども~。アタシが大洗女子学園の生徒会長、角谷 杏です。で、コッチが総隊長の西住ちゃん」

 

杏が干し芋を齧りながらそう返し、序にとみほの事も紹介する。

 

「あ………初めまして」

 

そこでペコリと頭を下げて、空達に挨拶をする。

 

「西住?」

 

「ひょっとして、西住流の?」

 

「きっとそうですよ。西住 まほちゃんにそっくりですし」

 

すると、みほの名字を聞いたみゆきとキリノ、ミカが顔を見合わせてそう呟く。

 

「あうう………」

 

逃れられぬ西住の名に、みほの表情が一瞬曇ったが………

 

「えっ、何? ひょっとして、あの鬼ババの娘?」

 

「!? ふえええっ!?」

 

空が何とも無礼な発言をし、みほは思わず仰天してしまう。

 

「ちょっ!? お姉ちゃん!?」

 

「藤林一尉! 仮にも西住流の師範に向かって!?」

 

「だってアタシ、アイツの事嫌いなんだもん」

 

「いや、だからって、娘の前で言わなくても………」

 

「鬼ババを鬼ババと言って何が悪いのよ。ホントの事じゃない」

 

みゆきとミカ、キリノが止めるにも関わらず、空は現西住流の当主であるみほの母………『西住 しほ』への罵倒を続ける。

 

「まあ、良いわ。言っとくけど、私が指導する以上、西住流のやり方は忘れてもらうわよ。良いわね」

 

「は、ハイ………」

 

空の言葉に、みほは半分唖然としてまま、反射的に返事を返すのだった。

 

「蝶野教官に輪を掛けて豪快だな」

 

「豪快過ぎますよ」

 

俊と清十郎が、亜美以上に豪快な空の人となりに、呆れる様に呟く。

 

「あ、あの………藤林教官殿」

 

とそこで、優花里がオズオズと言った感じで、手を挙げる。

 

「何? それと、私の事は空で良いわよ。妹と紛らわしいからね」

 

「で、では、空教官殿。教官達のその戦車ですが………それ、10式ですよね?」

 

優花里は、空達が乗って来た戦車………細かな所が色々と弄られている10式を見ながらそう説明する。

 

「ああ、アレね。10式は10式だけど、私なりの改造が大分入ってるからねぇ………言うなれば、『10式・改』ってとこかしら?」

 

空は、乗って来た10式………『10式・改』の事を見ながらそう答える。

 

「改造って………良いんですか? 官給品を弄ったりして………」

 

「良いの良いの! 気にしない気にしない!!」

 

優花里が心配する様に言っても、空は呵呵大笑するだけだった。

 

「そうそう。聞いてると思うけど、私は歩兵道もやってるから、その男子の方は私が中心になってみるからね」

 

とそこで、空は今度は男子側………歩兵部隊の方を見ながらそう言う。

 

「最豪一尉の話だと、中々の逸材揃いだと聞いてるわ。容赦無くビシバシ扱いていくから、その積りで居なさい!!」

 

「うおっ! ヤベェ………今のセリフでちょっとゾクッとした」

 

「何がだよ」

 

やはり危ない方向に目覚めかけている了平に、地市が突っ込みを入れる。

 

「さあ~! 遅くなったけど早速訓練を始めるわよ! 練習試合まで時間が無いんでしょう!! 詰め込んで行くわよぉっ!!」

 

「あ! そう言えば、次の対戦相手って何処なの?」

 

とそこで、沙織がまだ次の練習試合で戦う相手校の事を聞いていないのを思い出す。

 

「あ~、ゴメンゴメン。言うのを忘れてたよ」

 

「次の対戦相手は………『天竺女学院』の戦車部隊と『ジョロキア男子校』の歩兵部隊からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』だ」

 

杏がそう言うと、迫信が次の対戦高校を発表した。

 

「『天竺女学院』?」

 

「『ジョロキア男子校』?」

 

沙織と華が首を傾げながら、対戦校の名を反復する。

 

「西住さん、秋山さん、知っていますか?」

 

楓が詳しそうなみほと優花里に尋ねる。

 

「あ、ハイ。黒森峰やグロリアーナとブリティッシュの学校と比べると、戦車道と歩兵道を始めた年数はまだ浅いですけど………」

 

「それでも全国大会では毎回上位に食い込んでくる強豪校です。戦車部隊の砲撃命中率は高く、歩兵部隊は格闘技の達人ばかりで、接近戦では無類の強さを誇るそうです」

 

みほと優花里が、知る限りの『天竺ジョロキア機甲部隊』の事を話す。

 

「格闘技の達人って………」

 

「な~んか、嫌な予感がしてきたぜ………」

 

地市が若干顔色を悪くしながら呟き、了平も背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

 

「やっぱり強いとこなんだ………」

 

「また負けちゃうかも………」

 

今度の対戦相手も強敵だと知り、ウサギさんチームの優季と桂利奈が不安を口にする。

 

それを皮切りに、ざわめき立つ大洗機甲部隊の一同。

 

「貴様等ぁっ! グロリアーナとブリティッシュとの戦いの前と同じ様な事で如何する!! あの敗北の悔しさを忘れたのか!!」

 

すると弘樹が、そんな一同に活を入れる様にそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた一同は、前回のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との戦いで敵前逃亡をやらかしてしまった1年生を中心に、敗北の悔しさを思い出し、身を震わせた。

 

「よーし! やるぞっ!!」

 

「今度こそ活躍して見せマス!」

 

「頑張るぞーっ!!」

 

ハムスターさん分隊の竜真、ジェームズ、光照がそう最初にそう声を挙げる。

 

「…………」

 

分隊長である勇武も、決意を固めた表情で拳をグッと握っていた。

 

「西住隊長。宜しければ、言葉を頂けませんか?」

 

「えっ? あ、う、うん………」

 

するとそこで、弘樹は場を纏めようと、みほにそう言い、それに答える様にみほは大洗機甲部隊の一同の前に出て立つ。

 

「皆さん! グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊では、惜しくも負けてしまいました………けど! 皆さん其々得たものが有った筈です!!」

 

みほがそう呼びかけると、一同は何か思うところが有る様な顔になる。

 

「それを次の試合に活かし、精一杯頑張りましょう! 私も隊長としての責任………務めさせてもらいます!!」

 

「今度こそ必ず勝つぞ! 勝利の栄光をこの手に!! 大洗、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、気持ちが高ぶった弘樹が万歳を行うと、呼応するかの様に、大洗機甲部隊の一同は万歳三唱を始める。

 

「す、凄い………」

 

「へえ~、やるわね………」

 

「言葉だけで皆さんの気持ちを持ち直させました」

 

「流石は伝説の日本兵の子孫だね」

 

そんな弘樹とみほ、大洗機甲部隊の一同の姿に、みゆき、空、ミカ、キリノはそう感想を呟く。

 

(実質、あの2人がこの機甲部隊の纏め役ね………どれだけ皆を引っ張れるかが課題になりそうね)

 

そして空は1人、冷静に観察し、本人達に自覚は無いだろうが、みほと弘樹が大洗機甲部隊の核である事を見抜く。

 

「よおし! アンタ達、気合十分ね! 演習場へ向かうわよっ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

空がそう言うと、女子学園の戦車チームは自分達の戦車へ乗り込んで行き、男子校の歩兵チームは其々に自分達の獲物を携え、演習場へ向かう為に兵員輸送車やくろがね四起へ乗り込んで行く。

 

「ああ、そうだ………神狩 白狼って奴は居るっ!?」

 

「? 俺だが………何だよ?」

 

そこで不意に、空が白狼の事を呼び、飛彗達が乗っているくろがね四起に乗ろうとしていた白狼が足を止め、返事を返した。

 

「ああ、アンタが神狩 白狼? アンタに最豪一尉からの贈り物があるわ」

 

「俺に?」

 

嵐一郎からの贈り物に、白狼が首を傾げる。

 

一体あの鬼教官が何を送って来たのかと………

 

そんな白狼の内心を知ってか知らずが、空は自分達が乗ってきた10式・改の方へ向かったかと思うと、後付けされていた荷台から『何か』を降ろす。

 

それは、国防色のカラーリングをした自転車だった。

 

一見すると民生品の様に見えるが、一部に民生品ではありえない仕様が見て取れる。

 

「コレは?」

 

「歩兵道用の自転車よ。アンタ、バイクレーザーなんですってね? 歩兵道でバイクは使わないって言ってたそうだけど、前回民間人の自転車を勝手に徴用して大目玉食らったそうじゃない」

 

「止めろ、思い出させんな」

 

情けない記憶が蘇り、ばつの悪そうな顔をする白狼。

 

「それで最豪一尉が態々この軍用自転車を取り寄せてくれたのよ。コレなら歩兵道で使っても問題無いってね」

 

「余計な真似を………俺はバイクを歩兵道で使う積りは無い」

 

「なら何で前回の試合で自転車を使ったの?」

 

「! それは………」

 

白狼は言葉に詰まる。

 

「神狩 白狼………勝手だけど、貴方のレーサーとしての経歴、調べさせてもらったわ。貴方は何より勝ちに拘る性分でしょう?」

 

「…………」

 

「例え貴方の本業がレーサーだったとしても、負けっぱなしなのはプライドが許さないんじゃないの?」

 

「………人を乗せるのが上手い奴だ」

 

とそこで、白狼は悪態を吐きながら、空の手から軍用自転車を引っ手繰る様に取った。

 

「やる気になった?」

 

「勘違いすんじゃねえ………飽く迄『借りる』だけだ」

 

「ま、そう言う事にしとくわ」

 

どこぞのサイヤ人の王子の様な台詞を吐く白狼に、空は不敵に笑う。

 

「ふん………」

 

白狼は自転車を押して行き、待っていた飛彗達のくろがね四起の荷台に乗せると、自身は助手席に座り込んだ。

 

直後に運転席に居た飛彗が、くろがね四起を発進させる。

 

「さっ! 私達も行くわよ!!」

 

「了解!」

 

「了解しましたっ!!」

 

「了解っ!!」

 

それを見た空は、みゆきとミカ、キリノの方を振り返ってそう言い、自分達も10式・改へ乗り込んで、大洗機甲部隊と共に演習場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

「全車、凹角陣を取って下さい!」

 

みほの指示で、大洗の全戦車が凹の形を取って前進して行く。

 

「ポジションキープッ!!」

 

「鶴翼の陣だっ!!」

 

アヒルさんチームの典子と、カバさんチームの左衛門佐からそんな声が上がる。

 

すると、戦車部隊の前方に、1台の仮想目標戦車が現れる。

 

「このまま敵戦車を囲い込みます。その後に全車で一斉攻撃です」

 

「りょ~か~い」

 

「分かりました!」

 

今度はカメさんチームの杏と、ウサギさんチームの梓から声が挙がる。

 

戦車部隊は凹角陣を維持したまま、仮想目標戦車の方へ移動。

 

そのまま仮想目標戦車を囲い込む。

 

「互いの射線が重ならない様に注意して下さい!」

 

「ええい! 早く撃たせろぉっ!!」

 

「も、桃ちゃん、落ち着いて………」

 

みほの指示中、早くもトリガーハッピーしている桃を、蛍が宥める。

 

「撃てぇっ!!」

 

そして遂に攻撃指示が出され、戦車部隊の戦車砲が一斉に火を噴く!!

 

その内、Ⅳ号が撃った砲弾が仮想目標戦車の右側面の砲塔と車体の継ぎ目に命中。

 

更に、Ⅲ突が撃った砲弾が車体左側面にめり込み、M3リーの37mm副砲の砲弾も車体後部へと命中。

 

仮想目標戦車から黒煙が上がると、撃破を示す白旗が挙がった。

 

「やりました!」

 

「的中でござるっ!!」

 

「あ! 当たったよ!!」

 

華、左衛門佐、あやから歓声が挙がる。

 

「あ~、命中したけど、弾かれました~」

 

「やっぱり正面は無理かぁ~………」

 

一方、仮想目標戦車の右前方向から攻撃したアヒルさんチームの砲弾は、仮想標的戦車の砲塔正面装甲を突き破れず、弾かれていた。

 

「私の方は外しちゃった………」

 

「大丈夫だよ。次頑張ろう」

 

M3リーの方でも、主砲である75mm砲を外しており、あゆみが落ち込んだ様な様子を見せるが、優季がフォローする。

 

「桃ちゃん………」

 

「う、煩いっ!! 桃ちゃんと呼ぶなっ!! 次は必ず当てて見せるっ!!」

 

そして、相も変わらず明後日の方向へ砲弾を飛ばした桃に、柚子の呆れた声が漏れる。

 

「まあ、味方を撃たなかっただけ良かったかな?………」

 

「そーそー! 何事もポジティブシンキングが大事だよ~、あむっ!」

 

蛍が無理矢理なフォローを入れ、そしてただ干し芋を齧るばかりの杏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

歩兵部隊の方はと言うと………

 

「ホラホラァッ! 死ぬ気で掛かってらっしゃいっ!!」

 

キューポラから上半身を乗り出している空がそう叫ぶと、10式・改が主砲を発射するっ!!

 

「「「「「おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

九〇式野砲に着いていた砲兵達が直撃を貰い、木の葉の様にブッ飛ばされる。

 

勿論、九〇式野砲も粉々である。

 

「ソラソラソラソラァッ!!」

 

更にそこで、空はキューポラの傍に装備されていた12.7mm重機関銃M2を構え、薙ぎ払う様に乱射して来たっ!!

 

更に、それに合わせるかの様に、10式・改は砲塔を旋回させながら、同軸機銃の74式車載7.62mm機関銃も発射して来るっ!!

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く薙ぎ払い射撃を食らった歩兵達が次々に倒れ、戦死の判定を受ける。

 

「弘樹ーっ! 生きてるかぁっ!?」

 

「何とかな………」

 

その機銃掃射で舞い上がった土片を頭から浴びながら、塹壕に立てこもっていた地市が、少し離れた場所に居た弘樹へと呼びかける。

 

「冗談じゃないぜ! 何で10式と戦わなきゃならいんだよぉーっ!!」

 

塹壕の中で更に這い蹲って、必死に身を隠そうとしている了平が、悲鳴の様にそう叫ぶ。

 

演習開始前に、空は………

 

「アンタ達に絶対的に不足しているモノ………それは実戦経験よ! 実戦での経験はどんな訓練にも勝るっ! 次の練習試合まで時間が無いんでしょっ!! だから今後の演習は実戦形式で行くわよっ!!」

 

と言い放ち、何と自身が乗る10式・改を撃破して見せろと言う無茶苦茶な課題を出してきたのだ。

 

「第4世代とも噂される最新鋭の主力戦車と戦うなんて………」

 

「つーか、仮にも自衛隊の主力戦車が学生に撃破されて良いのかよ?」

 

同じ塹壕に隠れていた逞巳と俊が、戦々恐々と10式・改を覗き見ながらそう言い合う。

 

「飽く迄演習と言ってましたよ。だから、対戦車火器を1発でも命中させるか、車長である空教官を無力化出来たら勝ちにしてやるとも言っていたじゃないですか」

 

それを聞いていたモシン・ナガンM1891/30に装弾を行っていた飛彗がそう返す。

 

「それを差し引いても無茶苦茶だって言ってんだよーっ!!」

 

「例えそうでもやるしかない。我々に選択の余地は無い」

 

了平が愚痴る様に叫ぶ中、弘樹はそっと塹壕から顔を出し、10式・改を見やる。

 

すると空は、近くに敵が居なくなったと判断したのか、やや遠方で7.62 ㎝ PaK 36(r)を用意している鷺澪達を見つけ、そちらの撃破に向かおうとする。

 

「地市! 来いっ!!」

 

それを確認した瞬間、弘樹は地市にそう言い、返事も聞かずに三八式歩兵銃を構えて塹壕を飛び出した!!

 

「!? オ、オイ、弘樹っ!? ええい、クソッ!!」

 

有無を言わせずに飛び出した弘樹に悪態を吐きながらも、地市も試作九糎空挺隊用噴進砲を担いで塹壕を飛び出す!

 

「援護しますっ!!」

 

「よおし、任せろっ!!」

 

飛彗と俊も、塹壕の淵に寄り掛かる様にしてモシン・ナガンM1891/30とGew98を構えて援護態勢を取る。

 

「綿貫さん! 僕達も援護しましょうっ!!」

 

「やだやだぁっ! 怖い怖いっ!!」

 

逞巳も了平に援護を呼びかけるが、完全にビビっている了平は駄々を捏ねる様に拒否するのだった。

 

「! おっとぉっ! 来たわねぇっ!!」

 

空はすぐに弘樹達の存在に気付くと、すぐに12.7mm重機関銃M2を向ける。

 

「!!」

 

弘樹は空の射撃を阻止しようと、その場で膝立ちになると、三八式歩兵銃を構えて空目掛けて発砲する。

 

「!? わたたっ!?」

 

距離が遠い為、命中こそしないが、至近距離を三八年式実包の弾が掠め、慌てる。

 

「地市! 今の内に背後へ回り込めっ!!」

 

「分かったぁっ!!」

 

射撃を続けながら、弘樹は続いてきていた地市にそう呼びかけ、地市は10式・改の背後を取ろうとする。

 

「チイッ! そうはさせるかぁっ!! 超信地旋回っ!!」

 

だが、空がそう叫ぶと、10式・改は移動せずにその場で向きを変える『超信地旋回』を行い、背後に回られるのを防ぐ。

 

そして、車体ごと旋回した10式・改は、主砲を地市へと向ける。

 

「!? ヤベェッ!!」

 

慌てて地市がその場に伏せると、10式・改の主砲が発射され、伏せた地市の上を通り過ぎて、演習場の一角へ着弾した。

 

「まだ終わりじゃないわよっ!!」

 

そこで空がそう言うと、今度は同軸機銃の74式車載7.62mm機関銃が発砲される!

 

「!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

地市は悲鳴の様な叫びを挙げながら、試作九糎空挺隊用噴進砲を放棄して地面の上を転がって弾丸をかわしつつ、そのまま再び塹壕内へ転がり込んだ!!

 

「ハハハハハッ! コレでも現役自衛官よ!! そう簡単にやられたりしないわっ!!………!? わたたっ!?」

 

空が笑いながらそう言いかけたところ、再び弘樹と援護についている飛彗達の弾丸が周りで跳ねて、一瞬慌てる。

 

「こんのぉーっ! 人が決めてる時にぃっ!!」

 

それで機嫌を悪くした様子の空は、12.7mm重機関銃M2を弘樹達へと向ける。

 

「! 伏せろぉっ!!」

 

「「!!」」

 

「ホント、歩兵道は地獄だぜぇーっ!! ヒャッハーッ!!」

 

走り出した弘樹の声で、慌てて飛彗と俊が塹壕内へ引っ込むと、空は何処ぞの映画の様な台詞と世紀末的な叫びを挙げて12.7mm重機関銃M2を発砲!!

 

辺りの地面が次々に爆ぜる様に土片を舞い上げるっ!!

 

「!!」

 

それを横目に、弘樹は走り続けて10式・改の背後に回り込もうとする。

 

「そうはさせないって言ってるでしょっ! 超信地旋回っ!!」

 

しかし、空の掛け声で10式・改は再び超信地旋回を行い、弘樹を正面に捉える。

 

「!!」

 

すると、それを見た弘樹は、即座に今度は10式・改に向かって突撃した!!

 

「敢えて突っ込んで来るか………良い度胸ねっ!!」

 

そう言って、12.7mm重機関銃M2を弘樹へと向ける空。

 

「………!!」

 

それを見た瞬間!

 

弘樹は、ベルトに下げていた九九式手榴弾(乙)を投擲する!

 

手榴弾は10式・改の近くに落ち、爆発!!

 

「!? キャアッ!?」

 

殺傷範囲外だった為、破片が飛んでくる事はなかったが、爆音と爆風に一瞬怯む空。

 

そして弘樹は、その爆煙に紛れて、10式・改の履帯と履帯の間、車体の下へとスライディングする様に潜り込んだ!!

 

「ああっ!? こんのぉ~! 猫みたいな真似してぇ!! ミカ! 超信地旋回っ!!」

 

装甲の最も薄い下部を攻撃されては堪らないと、すぐに10式・改を超信地旋回させる様に指示を出す空だったが………

 

直後に、10式・改の近くで爆発が挙がるっ!!

 

「うわっ!? 何っ!?」

 

慌てながらもすぐに状況を確認する空。

 

「…………」

 

すると、10式・改の左側面の方向に、軍用自転車に乗って、マークII手榴弾を右手だけでお手玉している白狼の姿が在った。

 

「! アイツゥッ!!」

 

すぐに12.7mm重機関銃M2を白狼に向け、発砲する空。

 

「へっ!」

 

しかし、白狼は不敵に笑うと、自転車を扱ぎ始める。

 

マルチなバイク乗りだけあって、自転車の扱いも長けており、空が撃つ12.7mm重機関銃M2の弾を、まるでアクロバティックの様な動きで回避して行く。

 

「クウッ! 流石バイクレーサー! 良い動き………って、しまったぁっ!! 下に潜り込まれてたんだったぁっ!?」

 

白狼を狙うのに夢中になっていた空だったが、ふと弘樹が10式・改の下へと潜り込んでいた事を思い出す。

 

「!!………」

 

当の弘樹は、10式・改の底面に、吸着地雷を仕掛けようとしていた。

 

「そうはさせるものですかぁっ!!」

 

しかし、空がそう叫んだかと思うと、10式・改が走り出す!!

 

「!!」

 

咄嗟に車体前面下部にあった取っ手を掴む弘樹。

 

「ミカ! スピード上げて!! 振り落してっ!!」

 

更に空の指示が飛び、10式・改が速度を上げ、スラロームやドリフトを行って、弘樹を振り払おうとする。

 

「!!………」

 

戦闘服越しに背中を思いっきり擦られる弘樹だが、それでも根性で10式・改の底へしがみ付き続ける!

 

「くう~~っ!? 何て根性なのっ!?」

 

弘樹の並外れた頑丈さと根性に、空は感心する。

 

「………!!」

 

そして遂に!!

 

弘樹は吸着地雷を10式・改の底へと設置したっ!!

 

「ふっ!………」

 

吸着地雷がくっ付いたのを確認すると、弘樹は取っ手から手を放し、10式・改の底を擦り抜けて離脱する。

 

弘樹が10式・改が離れて行くのを確認した瞬間!

 

10式・改の下部で爆発が起こった!!

 

そして、走っていた10式・改がノロノロと停止したかと思うと、撃破を示す白旗が挙がる。

 

「やったぁっ!!」

 

「流石だぜ、弘樹ぃ!」

 

10式の撃破判定を見た了平や地市達が弘樹の元へ駆け寄って来る。

 

「いや、まだだ!!」

 

「「!?」」

 

しかし、弘樹がそう叫び、地市達の足が止まった瞬間!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

女性とは思えない雄叫びを挙げて、空が10式・改の中から出て来る。

 

しかも、その手には取り外した74式車載7.62mm機関銃が握られており、ベルト式の弾倉を身体に巻きつけている。

 

「うええっ!?」

 

「空教官っ!?」

 

突然珍妙な恰好をして現れた空に、了平と飛彗が驚きの声を挙げる。

 

「やってくれたわね! 流石は英霊の子孫!! でも………まだこの私が残ってるわよ~っ!!」

 

そして空はそう叫ぶと、74式車載7.62mm機関銃を大洗歩兵部隊に向かって薙ぎ払う様に連射して来た!!

 

「!? ぎゅああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

避ける間も無く、了平が全身に銃弾を浴びて倒れ、戦死判定を受ける。

 

「オラオラオラオラァッ! 逃げる奴は敵兵だぁっ! 逃げない奴は良く訓練された敵兵だぁっ!!」

 

またも何処ぞの映画の様な台詞を言い、空は74式車載7.62mm機関銃を撃ちまくる。

 

「あの人、アマゾネスか何かの化身だったりしないかぁっ!?」

 

「怯むなぁっ! 大洗歩兵部隊の意地を見せろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

地市がそんな事を言う中、弘樹は部隊をそう鼓舞し、大洗歩兵部隊は空へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無茶苦茶ながらも頼もしい新教官、藤林 空達の指導の下………

 

大洗機甲部隊の日々は過ぎて行く………

 

そして、次の相手………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子校』………

 

『天竺ジョロキア機甲部隊』との対戦の日が訪れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

次なる相手は今作初のオリジナル学園、『天竺女学院』と『ジョロキア男子校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』です。
ガルパンに登場する学園は、使う戦車に合わせたお国柄っぽい感じになっていますが、この学園も、とある国をリスペクトしています。

また、原作での戦車部隊のチーム名決定をオリジナルを混ぜてココでやらせていただきました。
それに伴い、随伴歩兵分隊にも同じ様な名前が付きました。
とらさん分隊以外のマークは深く考えていませんので、各自ご自由にご想像して下さって結構です。

それと今回より新教官が登場します。
原作では、蝶野教官がずっと大洗の指導をしていた様ですが、全国大会で審判をしている人が特定の学校の指導をしているんじゃ、有らぬ癒着を疑われるんじゃないかなと思いまして。
古い友人より頂いたキャラなのですが、中々個性的で面白いキャラですので、如何か長い目で見てやって下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第15話『天竺女学院とジョロキア男子高校です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第15話『天竺女学院とジョロキア男子高校です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道及び歩兵道全国大会の審判となった亜美と嵐一郎に代わり………

 

新たに教官となった藤林 空達の指導の下………

 

厳しい訓練に明け暮れる大洗機甲部隊。

 

そして遂に、次なる練習試合の相手………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子高校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』との試合の日が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栃木県のとある幹線道路………

 

大洗戦車部隊の戦車が、PMC(民間軍事会社)の戦車運搬車『M25 ドラゴンワゴン』で運ばれている。

 

5台のドラゴンワゴンを先導する様に、数台の観光バスが走っている。

 

「凄いですねぇ、男子校の神大生徒会長さんは」

 

「う、うん………」

 

「まさか全車分の戦車運搬車を用意して、その上こんなバスまで用意してくれるなんて………」

 

1番先頭を行く観光バスに乗車していた大洗女子学園メンバーの内、最後部の5人掛けの席に座っていたあんこうチームの中で、華、沙織、優花里がそう言葉を漏らす。

 

バス内の内装はかなり豪華で、まるでリムジンに乗って居るかの様な快適感が有った。

 

「一体何者なの?」

 

「………お前達、気づいていなかったのか?」

 

沙織がそう呟くと、一番端の席で眠りこけていた麻子が目を覚まし、そう言ってきた。

 

「あ、麻子。気づいていなかったって、何が?」

 

「男子校の生徒会長の名前を思い出してみろ」

 

首を傾げる沙織に、麻子はそう言う。

 

「名前?」

 

「確か、神大 迫信さん………でしたっけ?」

 

「!? ちょっと待って下さい!! 神大って………まさか!?」

 

沙織と華が要領を得ない様子でいると、何かに気付いたらしい優花里が驚きの声を挙げる。

 

「そうだ………アイツは多分………神大コーポレーションの人間だ」

 

「!? ええっ!?」

 

「あの神大コーポレーションの!?」

 

そこで、沙織と華も驚きの声を挙げる。

 

「じ、神大コーポレーションって、アレだよね!? 爪楊枝から人工衛星までってキャッチコピーの!!」

 

「私達の日常生活に関する事で、神大コーポレーションが関わっていないモノは無いと言っても過言ではないでしょう………」

 

「世界のあらゆるシェアの70%を握っているからな………噂じゃ総理大臣や大統領だって操れるって話だ」

 

信じられないと言った様子の沙織と優花里に、麻子は淡々とそう説明するのだった。

 

「…………」

 

一方、そんな一同の中で、みほは麻子とは逆の窓際に座り、窓の外に流れる景色を見ている。

 

「西住さん? 如何か致しましたか?」

 

すると、何故か前の席に居た湯江が、そんなみほの様子に気づいて声を掛けてきた。

 

「あ、うん………もうすぐ、湯江ちゃんと舩坂くんの故郷なんだなぁって思って………」

 

「そうですね。私もまさか、こんな形で舩坂軍曹の生まれた地へ来れるなんて、夢にも思っていませんでした」

 

と、みほが湯江にそう答えたのを聞いていた優花里が、そう言って会話に入って来る。

 

「ええ、実は私も………久しぶりの帰郷でちょっとドキドキしています。でも、本当に宜しかったんですか? 大洗機甲部隊とは関係の無い私達まで付いて来てしまって?」

 

久方ぶりの帰郷に胸を躍らせつつも、練習試合に関係無い自分が同行させて貰っている事を申し訳なく思っていた湯江は、更に前の席で干し芋を齧っていた杏にそう尋ねる。

 

「良いの良いの。今回の遠征の費用は全部迫信の奴が持ってくれるんだから。厚意は素直に受け取りなよ」

 

干し芋を齧り続けながら、あっけらかんとそう返す杏。

 

「そうよ、湯江。男子校と女子高の生徒会長さんが良いって言ってくれてるんだから、良いじゃない」

 

「そうだよ、湯江ちゃん」

 

更に、湯江の右隣に居た遥と、通路を挟んで左隣に居たレナもそう言う。

 

「………そうですね。角谷さん、改めてありがとうございます」

 

それを聞いて湯江を笑みを浮かべると、杏に向かって深々と頭を下げたのだった。

 

「にひひひひひひひ………」

 

杏は独特な笑い方をしながら、また干し芋を齧る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな会話が繰り広げられている先頭を行く観光バスに続く、2台目の観光バス内では………

 

(栃木か………こんな形で戻って来るとは思いもしなかったな………)

 

学生服姿の弘樹が、窓の外で流れて行く景色を見ながらそう思いに耽っていた。

 

「如何だね、舩坂くん? 久しぶりの帰郷は?」

 

すると、前の席に居た迫信が、相変わらず口元を扇子で隠しながらそう聞いて来る。

 

「生徒会長………この度は思わぬ帰郷の機会を与えていただき、感謝します。それも小官だけでなく湯江達まで同行させていただいて………しかし………本当に宜しかったのですか?」

 

弘樹は迫信に感謝を表しつつそう尋ねる。

 

「構わないさ。元々戦闘を行うフィールドの決定権は此方に任されていたからね」

 

不敵に笑いながら、迫信はそう返す。

 

「…………」

 

弘樹はそれを聞くと、再び窓の外を見やり、昨日の事を思い出すのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の夕方………

 

大洗女子学園の戦車格納庫前にて………

 

「よ~し! 今日はココまでぇっ!!」

 

「ありがとうございましたぁっ!!」

 

格納庫前に止められた10式・改の砲塔の上に仁王立ちしている空が、大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い、その日の訓練が終了する。

 

「ハア~、今日もキツかったぁ~」

 

「いよいよ次の試合も迫って来ましたからねぇ」

 

あやが愚痴る様に言うと、清十郎がそんな返しを送る。

 

他のメンバーも、チーム内や親友同士で談笑しながら帰宅の準備に入っている。

 

弘樹とみほ達も、とらさん分隊の面々、あんこうチームの面々で話し込んでいる。

 

とそこで………

 

「へくちゅんっ!」

 

みほが可愛らしいくしゃみをした。

 

「西住殿?」

 

「風邪か? 大丈夫なのか?」

 

その様子を見た優花里と弘樹が、心配をする様にみほにそう言う。

 

「う、ううん、大丈夫だよ………熊本と比べると、大洗はまだちょっと冷えるね」

 

みほは何でも無いという様にそう答える。

 

「あ、そっか~。みぽりんは九州から来たんだっけ」

 

そこで沙織が、みほが転校生である事を思い出し、そう言う。

 

「そう言やぁ、大洗女子学園は茨城の子が中心だったなぁ」

 

「ウチは国際校ですからね。地方は元より、海外からの留学生も多いですね」

 

「灰汁が強い連中ばかりが居るっても言えるけどな………」

 

それを聞いて、地市、楓、了平が大洗男子校生徒の多種多様性を思い、そんな言葉を漏らす。

 

「弘樹は確か栃木の出身だったよな?」

 

「ああ………学園艦に上がるまではな」

 

そこで地市が、そう弘樹へと話を振る。

 

(舩坂くんの故郷………)

 

とそれを聞いたみほが、舩坂の故郷である栃木に興味を抱く。

 

まだ本人は自覚していないかもしれないが、その行動は正しく『あの感情』から来るものだった。

 

「あ、あの、舩坂くん………舩坂くんの故郷って、どんな所だったの?」

 

好奇心を抑えられぬ様に、みほは弘樹にそう尋ねる。

 

「ん? そうだな………小官は山間の大分田舎の村の出身なんだが、此処茨城と同じで、自然豊かで長閑な農村だったよ」

 

「そうなんだ………」

 

まだ見ぬ弘樹の故郷に想像を膨らませるみほ。

 

すると………

 

「ふむ………栃木の山間か………」

 

「それ良いんじゃない? 迫信」

 

何時の間にか弘樹達とみほ達の傍に来ていた迫信と杏が、笑みを浮かべながらそんな事を言い合っていた。

 

「あわっ!? 会長!?」

 

「会長閣下!?………」

 

突然現れた杏に驚くみほと、迫信に向かってヤマト式敬礼をする弘樹。

 

「やあ、皆。実は次の試合の場所なんだけどさぁ………」

 

「君達の話を聞いて、栃木の山間………舩坂くんの故郷にしようと思う」

 

と、杏と迫信は、そんなみほ達と弘樹達に向かってそう言い放つ。

 

「!? ええっ!?」

 

「小官の………故郷でですか?」

 

みほは当然に、弘樹も僅かに驚いた様子を見せる。

 

「し、しかし、山間の農村での戦闘は結構難易度が高いですよ!」

 

すると優花里がそんな事を口にする。

 

「森林は此方の視界を遮り、遮蔽物にもなりますし………水田も在るでしょうから、泥濘で戦車が立ち往生する可能性も………」

 

「そう言った戦闘を経験する意味でも、今回の試合会場を栃木にするのだよ」

 

「何せ、天竺ジョロキア機甲部隊の試合が終わったら、次は公式戦に出場するからねぇ」

 

懸念を口にする優花里に向かって、迫信は平然とそう言い放ち、杏もサラリと重大発言をする。

 

「公式戦?」

 

「全国大会の事だ。全国の男子校の歩兵道部隊、女子高の戦車道部隊からなる機甲部隊が日本一を競って戦い合う………」

 

首を傾げる了平に、弘樹がそう説明する。

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

「連続の練習試合の次は公式戦に出場ですか………」

 

「無謀だな、オイ」

 

地市、飛彗、白狼の3人は、経験不足もいいとこなのに、全国大会に出場すると言う迫信と杏に呆れる。

 

「まあ、挑戦する事は良い事ですよ。それにオリンピックでも言ってるじゃないですか。参加する事に意義があるって」

 

そんな迫信と杏をフォローするかの様に、楓がそう言う。

 

「参加する事に意義が有る………か」

 

と、その言葉を聞いた杏が小声でそう呟き、表情に影を落としたが、一瞬の為、誰も気づかなかった。

 

「…………」

 

迫信を除いては………

 

「まあ、と言うワケだから! 今度の試合は遠征になるよ! 皆旅支度を忘れない様にね!!」

 

と、杏はすぐに何時もの調子になってあんこうチームととらさん分隊の面々に向かってそう言うと、迫信と共に他のチームと分隊にもその旨を伝えに行く。

 

「………まさか故郷で戦う事になるとはな」

 

2人が去って行った後、夕焼けの空を見上げながら弘樹はそう呟く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、現在………

 

弘樹の故郷へと向かっている観光バスの車内にて………

 

「あの時にゃあビックリしたぜ。今度は公式戦に出るってんだからな」

 

「い、今から緊張して来ました………」

 

「自分は逆に燃えてきたッスよ! ガッツ全国大会!!」

 

地市がその時の事を思い出しながらそう言うと、勇武が早くも緊張した様子を見せ、正義が逆に闘志を燃やす。

 

「…………」

 

そして弘樹は、そんな一同の喧騒を余所に、相変わらず窓の外に流れる景色を眺めていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小一時間後………

 

大洗機甲部隊の一同は遂に………

 

栃木の山間にある田舎の農村………

 

弘樹の故郷へと辿り着いた。

 

「おお~~っ! 此処が舩坂殿。そして、あの舩坂 弘軍曹の故郷なんですね」

 

「うわあ~、ホントに農村だねぇ」

 

目の前に広がる田舎の農村の光景に、優花里は感激の声、沙織は素直な感想を漏らす。

 

曲がりくねった川を中心に、水田と畑が規則正しく碁盤目状に広がっており、周りは青々とした山に囲まれている。

 

斜面にも棚田や果樹園が広がっており、茅葺屋根で漆喰の壁の木造住宅が点在している。

 

「………変わってないな」

 

「ええ………」

 

そして、弘樹と湯江は、そんな農村の光景を見ながらそう呟く。

 

するとそこで………

 

「お~い! 弘樹く~ん!!」

 

「湯江ちゃ~ん!!」

 

男性と女性の声が響いて来て、如何にも田舎の農夫婦と思わしき2人が、大洗機甲部隊………と言うよりも、弘樹と湯江の方へ向かって来る。

 

「! 小父さん!」

 

「小母様!」

 

如何やら、弘樹と湯江はその農夫婦と顔見知りらしく、2人揃って農夫婦の方へと向かう。

 

「いや~、久しぶりだな~。大きくなったじゃないか。昔はこ~んなだったのに」

 

「何時の話をされてるんですか、小父さん」

 

矢鱈と低い位置で腕を横にしてそう言う農夫に、弘樹は呆れる様な言い方ながらも、笑みを返す。

 

「湯江ちゃんも綺麗になって………お母さんに似て来たんじゃないの?」

 

「そうですか? ありがとうございます」

 

農婦の方も、湯江と朗らかに会話を繰り広げている。

 

「舩坂くん………」

 

するとそこで今度は、結構な年齢に見える、身形の良い老人が現れ、弘樹に声を掛ける。

 

「! 村長さん!………」

 

声を掛けられた弘樹は、その人物が村長である事を確認し、軽く驚いた様子を見せる。

 

「まさか村長さんにまでお出迎えしていただけるとは………」

 

「ハハハハ、私だけじゃないさ。見給え」

 

と、村長がそう言いながら横にずれて、その背後を見る様に促したかと思うと、そこには………

 

『おかえり、舩坂 弘樹くん、湯江ちゃん』と書かれた横断幕と………

 

『歓迎! 大洗機甲部隊!!』と書かれた幟を掲げて、笑顔を浮かべている村の人々の姿が在った。

 

「まあ! 村の皆さん、総出で!!………」

 

「こんな小さな村じゃイベントに飢えていてな………舩坂くん達が帰って来て、しかも歩兵道と戦車道の試合をやると言ったら、皆して歓迎の準備をしてくれたんだよ」

 

村の住民が総出で迎えてくれて驚く湯江に、村長がそう説明する。

 

「アレが舩坂くんの学校の友達たちべか」

 

「いや~、めんこい子ばっかりだわ」

 

「ほんに、カッコいい子ばかりだね~。あ~、アタシがあと50年若かったらね~」

 

歓迎に来ていた村の人々は、大洗機甲部隊を取り囲み、そんな言葉を口にする。

 

「コレは………」

 

「凄いですね………」

 

飛彗と清十郎が、その熱烈な歓迎ぶりに少し戸惑った様子を見せる。

 

「どうも、村長さん。大洗国際男子校の生徒会長、そして歩兵部隊総隊長の神大 迫信です」

 

「副会長の神居 十河です」

 

「大洗女子学園、生徒会長の角谷 杏だよ」

 

「広報の河嶋 桃です。この度は急な滞在を受け入れていただき、誠にありがとうございます」

 

とそこで、男子校・女子高の生徒会メンバーの内、迫信と十河、杏と桃が村長に向かって形式に則った挨拶をする。

 

「いやいや、言った通り、この村は長閑なだけが取柄でね。皆暇を持て余していたから、丁度良い刺激になると思ってね。まあ、何もない村だが、ゆっくりして行くと良い」

 

「感謝します」

 

「それで、我々の宿泊施設は何処に?」

 

村長に向かって、迫信が代表する様に頭を下げて感謝を表すと、十河が自分達が滞在する場所は何処かと尋ねる。

 

「村外れに、廃校になった学校の校舎があります。そこを使って下さい」

 

「廃校になった学校の校舎………」

 

「…………」

 

滞在施設が廃校になった学校の校舎だと聞き、桃が何やら複雑そうな表情を浮かべて、杏の顔からも一瞬笑みが消えた。

 

「良し………諸君! 早速だが、滞在施設まで移動してくれ給え」

 

「明日には試合だ! ゆっくりと身体を休め、英気を養って置け」

 

それを尻目に、迫信と十河は大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

大洗機甲部隊の面々は、弘樹の故郷の村人達に案内され、滞在施設である廃校になった学校の校舎へと向かい始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

すっかり日が暮れ、人工的な明かりの少ないこの村では、本日は晴天と言う事もあり、月と星の明かりが夜にも関わらず、村の中を明るく照らし出している。

 

田んぼからはカエルの合唱が聞こえてきており、草叢からは虫の声が鳴り響いている。

 

そんな村の外れ………

 

昔、学校が陸の上にあった頃の遺物である、廃校になった学校の、木造校舎にて………

 

何人もの人々の笑い声が響いて来ていた。

 

 

 

 

 

廃校になった学校の木造校舎の大教室………

 

村人に案内されて滞在施設であるこの場所へやって来た大洗機甲部隊の面々だったが………

 

そこで村人達は、歓迎会と称し、各々が育てた作物を持ち寄りだし、何時しかちょっとした宴会が開かれていた。

 

「いや~、しかしホント立派になったなぁ~、弘樹くん!」

 

「ホント、ホント! あの無愛想な子がねぇ!!」

 

「将来どうなっちまうんだと心配したが、こんなに立派になって………くうぅっ! おじさんは嬉しいよ!!」

 

「ハハハハハ………」

 

中心となっているのはやはり弘樹で、故郷の村の人々に囲まれ、昔話を聞かされている。

 

酒が入っており、大分テンションが高い村人達の様子に、弘樹も流石に乾いた笑いを漏らす。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

そんな弘樹を助けたいみほだったが、如何して良いか分からず、オロオロとするだけだった。

 

「今の学校は如何だい、湯江ちゃん?」

 

「ハイ。先生もクラスの皆さんも良い人たちばかりです。勿論、町の人達もです」

 

「そう。それは良かった。けど、辛くなったら何時でも帰って来て良いんだからね」

 

「そうそう。此処は湯江ちゃんと弘樹くんの故郷なんだから」

 

「ハイ。ありがとうございます」

 

一方、湯江も同じ様に故郷の人々に囲まれているが、コチラは酒が入っていない面子ばかりなので、特に苦労は無く、話に丁寧に受け答えしている。

 

「貴方達、湯江ちゃんのお友達?」

 

「あ、ハイ」

 

「そうです」

 

とそこで、湯江の近くに居た遥とレナに、1人の老年の女性村人が声を掛ける。

 

「湯江ちゃんと何時までも仲良くしてあげてね。あの子、口には出さないけど、お兄さんと一緒で無理する子だから」

 

「ハイ! 分かりました!」

 

「湯江ちゃんは大切なお友達ですから」

 

老年の女性村人の言葉に、遥とレナはそう返事を返すのだった。

 

「おお~、今時珍しい、良い子達だね~」

 

「良い子の周りにはやっぱり良い子が集まるんだね~」

 

その言葉に、村人達は感動した様子を見せる。

 

「あ、あの、村長さん………」

 

と、そんな様子に戸惑い、如何して良いか分からず、只々時折話しかけてくる村人に当たり障りの無い受け答えをしながら、出される料理に手を付けていた居た大洗機甲部隊の中で、優花里が恐る恐ると言った様子で村長に声を掛けた。

 

「うん? 何だい、お嬢ちゃん?」

 

幸い村長は素面だった為、普通に返事を返す。

 

「その………舩坂殿の祖先、舩坂 弘軍曹もこの村で生まれたんですよね?」

 

「おお、舩坂くんの御先祖様に興味があるのかい?」

 

「そりゃあ、もう。舩坂 弘軍曹は戦車道や歩兵道を求道する人達にとっては神様の様なお方ですから」

 

目を輝かせてそう言う優花里。

 

「ハハハッ、神様か。まあ、当の本人は、村に帰って来て暫くは幽霊扱いされていたそうだよ」

 

「!? 幽霊っ!?」

 

幽霊と言う単語を聞いた麻子がビクリと震える。

 

「? 麻子さん? 如何しました?」

 

「あ~、麻子、朝も苦手なんだけど、オバケも苦手なんだよぉ………ホラ、大丈夫だから」

 

華がそんな麻子を見て不審がると、沙織が麻子の肩を抱き寄せながら代わりに答える。

 

「幽霊………ですか?」

 

「ああ、何せ、舩坂 弘軍曹が所属していたアンガウル島の守備隊は玉砕したって伝えられていたからね。家族にも戦死公報が渡されていたし、生存が確認されるまでの間、戸籍上では死亡していたそうだよ」

 

「まあ、実際に1度死んでるしね………」

 

沙織が以前優花里が言っていた舩坂 弘の武勇伝を思い出してそう言う。

 

「舩坂 弘軍曹がこの村に帰って来て最初にした事は………自分の墓標を抜く事だったそうだよ」

 

「凄い話ですねぇ」

 

頬の手を当てながら華がそう呟く。

 

「…………あ………あの………」

 

そんな中、みほは村長の事を見ながら、何かを言おうとして止める様な素振りを繰り返していた。

 

「? そっちのお嬢ちゃんは如何したんだい?」

 

「あ、あの、えっと………」

 

「遠慮は要らないよ。何でも聞いてくれ」

 

緊張している様子のみほに、村長は優しい笑みを浮かべながらそう言う。

 

「その………舩坂くんって、子供の頃はどんな感じだったんですか?」

 

みほはその笑みに緊張を解され、聞きたかった事………弘樹の幼少時代について尋ねる。

 

「舩坂くんの子供の頃かい? そうだね………今とあまり変わらなかったかな?」

 

「今と?………」

 

「舩坂くんって、子供の頃からあんな感じだったんですか?」

 

みほが首を傾げ、沙織が村長に更にそう尋ねる。

 

「そう、昔っから生真面目でね………あんまり子供らしくなくて、心配した程さ」

 

「何だか、今の舩坂殿を見てると、容易に想像できますね………」

 

優花里が、故郷の村人に囲まれている弘樹の事を一瞬見やり、そう呟く。

 

「しかし、不思議な魅力の有る子でね………周りには何時も人が集まっていた」

 

「そうですね………」

 

今も故郷の村人に囲まれ、歩兵としての戦友も多い弘樹の事を思い、華が肯定する。

 

「…………」

 

みほも、弘樹の方へと視線を向ける。

 

「………お嬢ちゃん。ひょっとして………舩坂くんの彼女かい?」

 

「!? ふええっ!?」

 

と、そんなみほの様子を見た村長がそんな事を言うと、みほは忽ち顔を真っ赤にする。

 

「あ~! やっぱりみぽりんって舩坂くんの事~!」

 

「ち、違うよ~! そんなのじゃ………」

 

「に、西住殿ぉ! やっぱりそうなのですか~!?」

 

「だから違うよ~!!」

 

沙織と優花里が反応し、あんこうチームは忽ち大騒ぎとなる。

 

こうして、大洗機甲部隊と弘樹の故郷の人々との夜は更けて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

天竺ジョロキア機甲部隊との会合場所に、大洗女子学園の戦車隊5両と大洗男子校の歩兵部隊員達が集合し、天竺ジョロキア機甲部隊を待っていた。

 

「! 来ました!!」

 

楓が声を挙げると、前方の方から土煙を上げて、巡航戦車Mk.VIII・チャレンジャーが3台。

 

巡航戦車・コメット(A34)が2台。

 

その後ろにジープが1台。

 

モーリス軽偵察車が1台と多数の兵員輸送車がやって来る。

 

更に………

 

「オ、オイ!? アレ何や!?」

 

その後ろから続いてくる、車両とは明らかに違う3つの影を見て、大河がそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「?………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊のメンバーも、その影に注目する。

 

やがて、天竺ジョロキア機甲部隊が近づくに連れて、その影の形がハッキリとし始める。

 

「アレは………」

 

「象だっ!!」

 

楓と地市がそう声を挙げる。

 

そう………

 

天竺ジョロキア機甲部隊の中に居た、車両とは違う影の正体は………

 

象だった!!

 

象は鳴き声を挙げ、その長い鼻を上げる。

 

「凄~いっ!」

 

「おっきい~っ!!」

 

ウサギさんチームのあやと桂利奈が、象を見て無邪気な声を挙げる。

 

「流石、インドをモチーフにした天竺女学院と、タイをモチーフにしたジョロキア男子高校だね………」

 

「まさか象まで連れて来るなんて………」

 

愉快そうに笑う迫信と、驚きを露わにしている清十郎。

 

やがて天竺ジョロキア機甲部隊は、大洗機甲部隊の前で展開し、並び立つ。

 

そして、隊長車両と思われるコメットのハッチが開き、中から良く似た顔付きをした、美しい少女2人が現れる。

 

更に、歩兵部隊の中からも、屈強な体躯をした背の高い2人の男子が前へと出て来る。

 

4人はそのまま、大洗機甲部隊代表であるみほ、杏、河嶋、迫信、十河達の前へと歩み寄る。

 

「貴方が隊長さん?」

 

「! あ、ハ、ハイ! そうです!!」

 

少女2人の内、年上の方と思われる女性の方から話しかけられ、天竺女学園の女性の美しさに見とれていたみほは、思わず上擦った声を出してしまう。

 

「あらあら~、そんなに緊張しないで。私は天竺女学院の戦車隊隊長をしている『ローリエ』よ。こっちは妹の『ルウ』」

 

「よろしくお願いします」

 

年上と思わしき少女………『ローリエ』が微笑みながらそう言うと、傍に居たもう1人少女………『ルウ』も頭を下げて挨拶をする。

 

「ジョロキア男子高校歩兵部隊の隊長、『ターメリック』だ」

 

「副隊長の『キーマ』です。よろしく」

 

続いて、ジョロキア男子校歩兵部隊の隊長と副隊長である焼けた肌色で顔中に傷の有るスキンヘッドの男子・『ターメリック』と『キーマ』も挨拶をする。

 

普通に挨拶をしただけなのだが、ガタイが良く、背も高い為、それだけで若干の威圧感が有る。

 

「た、隊長の西住 みほです」

 

「大洗女子学園生徒会、広報担当の河嶋 桃です」

 

「生徒会長の角谷 杏だよぉ。今日は宜しくねぇ」

 

「大洗国際男子校生徒会会長兼歩兵部隊隊長の神大 迫信だ」

 

「同じく、副会長兼歩兵部隊副隊長の神威 十河だ」

 

天竺ジョロキア機甲部隊代表メンバーの挨拶が終わったのを見て、大洗機甲部隊の代表メンバーも挨拶をする。

 

「今日はよろしくね………それにしても、最近になって戦車道を復活させたんですって?」

 

「しかも、この前はグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と戦ったんだってね。そんですぐに今度はウチと試合だなんて………凄いね」

 

ローリエの言葉に、ルウが感心する様にそう言う。

 

「あ、その………」

 

「まあ、そっちにも色々と事情が有るんだろうし、深くは聞かないわ」

 

「それに、そういうガッツのあるのは大好きだよ!」

 

戸惑うみほだったが、ローリエとルウは気を使った様にそう言う。

 

「お互い、良い試合をしましょうねぇ」

 

そこでローリエはそう言って、みほに向かって右手を差し出した。

 

「! ハイ! よろしくお願いします!」

 

みほはその手を取り、握手を交わしながらローリエにそう返す。

 

「よろしく頼む」

 

「ええ………胸を借りる積りで行かせてもらいますよ」

 

その横で、ターメリックと迫信も握手を交わしていた。

 

「フフフ、よく言うぜ………グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との試合、負けはしたけど良いとこまで言ったそうじゃないか」

 

するとそこで、ターメリックの背後に控えていたキーマがそんな事を言う。

 

「オイ、キーマ………」

 

「聞けば、戦車隊の隊長はあの西住流………そして歩兵部隊には、あの『舩坂 弘』軍曹の子孫がいるそうじゃないか」

 

ターメリックの言葉も聞かず、キーマは大洗歩兵部隊の中から、舩坂 弘の子孫………弘樹の姿を探す。

 

「…………」

 

そして、みほ以外のあんこうチームが乗車して待機しているⅣ号の前に整列しているとらさん分隊の前に1人立っている弘樹の姿を見つける。

 

「へえ~、アンタかい? けど、戦車道の家元が居ようが、伝説の歩兵の子孫が居ようが、今日勝つのは俺達だぜ。覚えておきな………!? イテッ!」

 

「調子に乗るな、キーマ」

 

調子に乗って居たキーマの頭を、ターメリックが小突く。

 

「すまなかったな………」

 

「いや、気にしていない」

 

ターメリックは弘樹に向かって謝罪するが、弘樹は気にしていないと返す。

 

「助かる………だが、私とて伝説の歩兵の子孫と戦えるのは楽しみにしている。期待を裏切ってくれるなよ」

 

「………小官は出来る事を可能な限り遂行するだけだ」

 

若干闘志を見せながらそう言うターメリックに、弘樹は何時も通り冷静沈着な態度を保ってそう返すのだった。

 

「それではコレより! 天竺ジョロキア機甲部隊対大洗機甲部隊の試合を始める!!」

 

とそこで、試合の審判に来ていた篠川 香音、高島 レミ、稲富 ひびきの中で、レミがそう声を挙げる。

 

それを聞くと、みほ達とローリエ達は、其々の部隊の元へと戻る。

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

そして香音の号令で一斉に互いの相手に向かって頭を下げて挨拶をする。

 

その後、自分達の試合開始地点へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹の故郷で行われる事となった、2度目の試合………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子高校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』との練習試合。

 

象までも駆り出してきた天竺ジョロキア機甲部隊を相手に………

 

大洗機甲部隊は如何戦うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させてもらいました。

遂に天竺女学院とジョロキア男子校からなる天竺ジョロキア機甲部隊との試合の日を迎えた大洗機甲部隊。
その戦いの舞台となる地は、何と舩坂兄妹の故郷だった!

久々の帰郷で村人達の歓迎を受ける舩坂兄妹と大洗機甲部隊。
だが、その余韻を味わう暇も無く、天竺ジョロキア機甲部隊との試合に入る。
象までも投入してきた天竺ジョロキア機甲部隊を相手に、大洗機甲部隊はどう戦うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第16話『故郷の大決戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第16話『故郷の大決戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふとした切っ掛けから………

 

『天竺女学院』と『ジョロキア男子高校』からなる『天竺ジョロキア機甲部隊』との試合は………

 

弘樹の故郷である、栃木県の山間にある田舎の村で行われる事となった。

 

弘樹と共に、村人達に熱烈な歓迎を受けた大洗機甲部隊は、村人達と宴会をしながら一夜を過ごし………

 

翌日、遂に………

 

天竺ジョロキア機甲部隊との会合を果たした。

 

インドとタイをモチーフとし、象まで駆り出してきた屈強な歩兵達と巡航戦車からなる機甲部隊に………

 

大洗機甲部隊は如何立ち向かうのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

大洗機甲部隊のスタート地点………

 

大洗機甲部隊のスタート地点は森林の中となっており、大洗機甲部隊は狭い森の中の道を通って進軍していた。

 

「全部隊、視界が悪いので気を付けて下さい」

 

「各方向に気を配り、連携を密にするんだ」

 

先頭を進んでいるとらさん分隊に守られているあんこうチームのⅣ号のキューポラから上半身を出しているみほが喉頭マイクを押さえながらそう言い、最後尾に居るAEC 四輪駆動装甲指揮車の車内に煌人と共に居る迫信からもそう指示が飛ぶ。

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々はそれに返事を返すと、歩兵達が各方向に視線を配る。

 

また、あんこうチーム以外の戦車からも、其々蛍、典子、エルヴィン、梓がキューポラから姿を現して、直接周囲に気を配る。

 

「…………」

 

と、そんな中………

 

あんこうチームを守るとらさん分隊の中で、弘樹が難しい顔をしていた。

 

「? 如何した、弘樹?」

 

「やはり、故郷の人達が見ていると思うと緊張するのですか?」

 

そんな弘樹の様子に気づいた地市と飛彗がそう声を掛ける。

 

現在、戦車道連盟と歩兵道連盟が特設した観客席で、弘樹の故郷の村人達は湯江達と共に観戦を行っている。

 

その為、流石の弘樹も緊張しているのかと推察した。

 

「いや、そうじゃない………ただ、如何にも妙な予感がしてな………」

 

しかし弘樹は、2人に向かってそう返した。

 

「妙な予感?」

 

「止めてくれよぉ。お前がそう言うこと言った時は大抵碌でも無い事ばかり起きたじゃないかぁ」

 

楓が首を傾げ、了平がコレまでの付き合いでの事を思い出してそう言う。

 

「そうなるかも知れないから警戒しろと言う事だ………!!」

 

と、その時!!

 

弘樹は何かに気付いた様に空を見上げる!!

 

見上げた空からは黒い点………

 

砲弾が自分達の方を目掛けて落ちて来ていた!!

 

「! 伏せろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹の言葉に、大洗機甲部隊は如何言う事かと考える前に身体が動く。

 

みほ達は慌てて車内へと引っ込むとハッチを閉めて、戦車を停止させる。

 

歩兵部隊の面々も、一斉にその場に伏せた!!

 

直後に、降って来ていた砲弾が、大洗機甲部隊が進軍していたルートに着弾!!

 

派手に土煙を舞い上げる!!

 

あのまま進んでいれば、少なくともあんこうチームととらさん分隊は直撃を受けていただろう………

 

「! 敵襲っ!!」

 

まだ土煙が漂う中、弘樹は素早く立ち上がると三八式歩兵銃を構えてそう言う。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その声に反応するかの様に、他の歩兵部隊員達も次々に立ち上がり、其々の獲物を構える。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

やがて、土煙の向こうから雄叫びが聞こえて来て、突撃兵を中心としたジョロキア歩兵部隊が突っ込んで来た。

 

「いきなり歩兵の突撃かよ!!」

 

「面白いやないけ! 迎え撃ったらぁっ!!」

 

いきなりの歩兵部隊での突撃攻撃に、地市が声を挙げると、大河がステン短機関銃・ステンMk.IIIを発砲する!!

 

「戦車隊は後退して下さい! 後方から援護砲撃を願います!!」

 

「了解! 全車、後退して下さいっ!!」

 

弘樹がそう呼び掛けると、みほが戦車隊に指示を出し、戦車隊は後退を始める。

 

と、その直後!!

 

パオーンッ!!と言う鳴き声が戦場に響いた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々が驚きを露わにした瞬間!!

 

再び鳴き声が響いて、3匹の象が大洗歩兵部隊目掛けて突っ込んで来るっ!!

 

「! 象が来たぞぉーっ!!」

 

「お! 上手いねぇ。座布団1枚」

 

磐渡が思わずそんな声を挙げると、杏がそう言う。

 

「そう言う積りで言ったんじゃないと思うよぉっ!!」

 

「って言うか、現在進行形で危機的な状況ですぅっ!!」

 

蛍がそれにツッコミを入れると、勇武の声が挙がり、象は大洗歩兵部隊の中へと突っ込んで来た!!

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

突撃兵の1人が象の突撃を真面に喰らい、跳ね飛ばされる。

 

そして地面に転がったところでジョロキアの歩兵に撃たれ、戦死判定を受ける。

 

「くうっ!!」

 

如何にか象の突進を避けた竜真が、MAS 36小銃を象へと向けるが………

 

「ガネーシャ! 右だ!!」

 

象の上に乗って居たジョロキア歩兵部隊の狙撃兵『ガラム』がそう叫んだかと思うと、象が鼻を伸ばし、竜真のMAS 36小銃を絡め取った!!

 

「あ! か、返せっ!!」

 

慌てて自分の銃を取り上げた象………ガネーシャの鼻に跳び付く竜真。

 

しかし、ガネーシャは咆哮を挙げると、そのまま鼻を振り回し、竜真を投げ飛ばしたっ!!

 

「!? うわあぁっ!?………!? がっ!?」

 

投げ飛ばされた竜真は、背中から森林の木の1本の幹に叩き付けられ、そのまま地面に落ちる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

それを見たジョロキアの突撃兵が、空かさずZK-383短機関銃を向ける。

 

「!?」

 

「竜真っ!!」

 

しかし、間一髪のところで、助けに入ったジェームズが竜真を引っ張って木の裏へと隠れる。

 

「サンキュー、ジェームズ!」

 

「ノープロブレム!」

 

竜真にそう返しながら、ブルーノZB26軽機関銃で隠れつつ応戦するジェームズだった。

 

「ギリメカラ! 敵の戦車へ向かえっ!!」

 

と、別の象・ギリメカラに乗ったジョロキアの対戦車兵『マサラ』が、パンツァーファウストを構えながら後退している大洗戦車隊へと向かう。

 

「象が突っ込んで来るよぉっ!?」

 

「上に乗って居る歩兵がパンツァーファウストを持っています!!」

 

「!!」

 

沙織と優花里の報告に、ペリスコープで突っ込んで来るギリメカラとマサラの姿を確認するみほ。

 

続いて後方を確認するが、大洗戦車隊は一本道の為、後退が遅れていた。

 

「後退中止! 木々を踏み散らして、森に入って下さいっ!!」

 

後退は無理と判断したみほは、多少の戦車の損傷は止む無しと森への突入を命じる。

 

「喰らえっ!!」

 

と、その瞬間にマサラがパンツァーファウストを発射した!!

 

「!! 麻子さん!!」

 

「ホイッ」

 

みほが叫びと、麻子が何時もと変わらぬ調子で返事を返し、バックしていたⅣ号の左の履帯を止め、車体を右へと流す!!

 

直後に、先程までⅣ号が居た場所に、パンツァーファウストの弾頭が着弾!

 

派手に土煙が上がり、土片がⅣ号の上に降り注いだ!

 

「チイッ! 外したか!! なら、もう1発!!………」

 

撃ち終えたパンツァーファウストに、新たな弾頭を装着すると、再度Ⅳ号に狙いを定めるマサラだが………

 

その瞬間に、象の足元にマークII手榴弾が転がって来て爆発!

 

象は至近距離で起こった爆発に怯み、マサラは振り落されそうになる。

 

「!? うおおっ!? な、何だっ!?」

 

しかし、マサラは象用の鞍にしがみ付いて堪え、手榴弾を投げてきた相手を探す。

 

「そらっ!」

 

すると、木の陰からマドセン軽機関銃を構えた大詔が姿を現し、象に向かって威嚇射撃をする。

 

「うおおっ!? そこかっ!!」

 

再び振り落されそうになったのを堪え、護身用のナガンM1895を抜くと、大詔に向かって発砲する。

 

「!!」

 

大詔は素早く再度木の陰に隠れ、ナガンM1895の弾丸は木の幹に穴を開ける。

 

「やるな! 全く気配を感じなかったぜ!! 貴様、名は!?」

 

「………大洗男子校歩兵部隊、アヒルさんチーム護衛部隊のペンギンさん分隊・偵察兵、蛇野 大詔」

 

名を問われ、大詔は姿を隠したまま名乗る。

 

「俺はジョロキア男子高校、対戦車兵のマサラ! 貴様とは良い勝負が出来そうだな!!」

 

「そいつは光栄だな………ところで1つ聞きたい事が有る」

 

「? 何だ?」

 

「象は美味いのか?」

 

「………はっ?」

 

大詔の質問に、マサラは思わず呆けた顔をしてしまう。

 

「味だ。美味いのか?」

 

「貴様っ!! 象を食う気か!?」

 

「そんなに褒めないでくれ」

 

「褒めとらんっ!!」

 

先程までのシリアスな遣り取りから一転し、まるで漫才の様な会話が繰り広げられる。

 

「何時もは蛇がメインなんだが………偶には動物的な肉も食わんとな」

 

「ええい、何て奴だ………」

 

悪食とも言える大詔の食欲に、マサラは若干引く。

 

とそこで!!

 

別方向から機関銃の銃弾が、大詔に襲い掛かった!!

 

「!? うおおっ!?」

 

慌ててその場から飛び退く大詔。

 

機関銃の銃弾は、大詔が隠れていた木の幹を蜂の巣にする!

 

「………象は俺達の戦友だ。それを食おうとするなど………俺が許さん」

 

機関銃を撃った主………SIG KE7軽機関銃を構えたターメリックが、大詔に向かってそう言い放つ。

 

「チイッ………」

 

大詔は別の木の陰に隠れ、マドセン軽機関銃のマガジンを交換する。

 

「!! 敵の戦車隊が来ましたっ!!」

 

とそこで、清十郎が天竺女学院の戦車隊が接近して来ている事に気づき、報告を挙げる。

 

「退避、急いで下さいっ!!」

 

「敵戦車発砲っ!!」

 

みほが思わず大声を挙げた瞬間、弘樹の声が挙がり、天竺戦車隊の先頭を進んできていたコメットが発砲!!

 

機動九〇式野砲を牽引していた九八式四屯牽引車・シケが、機動九〇式野砲と操縦者ごと吹き飛ばされる!!

 

「! 九〇式野砲が!?」

 

「まだ来るぞっ!!」

 

鷺澪が思わず声を挙げた次の瞬間、秀人がそう叫び、もう1両のコメットと3両のチャレンジャーも砲撃を開始した!!

 

2両のコメットと、3両のチャレンジャーから放たれる砲撃は、正確に野戦砲や対戦車砲を牽引車ごと、或いは固まっていた大洗歩兵達の中へと撃ち込まれる!!

 

「………正確な砲撃だ」

 

「噂通り、かなりの腕みたいだな。乱戦状態で味方も居るってのに、平気で撃ち込んで来てるぜ」

 

「貴様等、冷静に話している場合かぁ!?」

 

砲撃から逃れる様に地面に伏せていた獅龍と俊がそう言い合っていると、同じ様に地面に伏せて若干テンパっていた十河がツッコミを入れる様にそう言い放つ。

 

「ルウ! このまま前進して!!」

 

「了解! 任せといてぇっ!!」

 

コメットの砲手席に着いているローリエが、操縦席のルウにそう呼びかけると、コメットが加速する。

 

「退いた退いたぁーっ! 逃げ遅れたら容赦無く轢き潰すわよぉっ!!」

 

味方が慌てて進路を開ける中、ルウはまるで人が変わった様に過激な台詞を吐きながら、コメットを爆走させる。

 

「ひえええええっ!?」

 

「ル、ルウ副隊長ぉっ! もっと安全運転で………」

 

「何言ってんのぉっ!? そんな事じゃ勝てる試合も勝てないわよぉっ!!」

 

装填手や副操縦手の悲鳴にも似た声が挙がるが、ルウはそう一喝する。

 

「アラアラ、全く………ホントにパンツァー・ハイに成り易い子なんだからぁ」

 

「隊長………せめて止めて下さいよぉ………」

 

そんなルウの様子を、アラアラの一言で済ませるローリエに、車長は無駄だと思いつつもそう呟くのだった。

 

「1両突っ込んで来るぞ」

 

「コメットって奴だよ! 多分、ローリエさんとルウちゃんが乗ってたやつ!!」

 

操縦席と通信手席の窓から、突っ込んで来るローリエとルウの乗ったコメットを確認した麻子と沙織が、報告する。

 

「撃ちますか!?」

 

「駄目です! この距離ではコメットの正面装甲は抜けません!!」

 

華が砲撃するかと問うが、優花里がそう返す。

 

「!!」

 

みほも、ペリスコープ越しに迫り来るコメットを捉える。

 

「次弾、装填完了!」

 

一方、向かって来るコメットの内部では、装填手が次弾の装填を終える。

 

「悪いわね………貰うわよ」

 

ローリエは冷静に、Ⅳ号へと照準を合わせる。

 

と、その次の瞬間!!

 

ローリエ達が乗るコメットのすぐ傍の地面が爆ぜた!!

 

「!?」

 

「!? 何っ!?」

 

突如起こった爆発に、ローリエとルウは驚きを露わにする。

 

その爆発の正体は………

 

「撃てぇーっ! 撃て撃てぇーっ!! 撃ち捲れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

迫り来る天竺戦車部隊を見て、再びトリガーハッピーと化してしまった桃が駆る38tの37mm砲弾だった。

 

余程テンパって居るのか、砲塔及び砲身を左右上下に忙しなく動かしまくり、次々に発砲している。

 

例によって敵も味方もあったものではない。

 

「うわあああぁぁぁぁ~~~~~っ!? また河嶋さんが暴走したぁ~~~~っ!?」

 

「アイツは本当に味方か!? 敵なんじゃねえのか!?」

 

逞巳が悲鳴の様にそう叫び、秀人が痛烈な罵声を浴びせる。

 

「な、何だ、あの戦車はっ!?」

 

「敵味方お構い無しで撃ってるぞ!?」

 

「緊張のあまり精神がイカれたのか!?」

 

しかし、味方も気にせず発砲し捲る38tに、ジョロキアの歩兵達は混乱に陥る。

 

「! 西住隊長! 今です!!」

 

「! 全軍、突撃して下さい! この混戦状態から抜け出しますっ!!」

 

弘樹がそれを見て、みほへと通信を送ると、みほは即座に弘樹が言わんとしていた事を察し、全軍に指示を出す!!

 

「道はワイ等が作るでぇ! 大洗連合の野郎共ぉっ! 男を見せんかぁいっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、大河がそう声を挙げ、大洗連合の突撃兵達と共に、天竺ジョロキア機甲部隊へ切り込んで行ったっ!!

 

「! 来るぞっ!!」

 

「くそっ! 砲撃で身動きが取れないっ!!」

 

「落ち着け! 落ち着くんだ!!」

 

次々に起こる爆発で、象が怯えて動けなくなっているガラムとマサラがそう叫び、ターメリックが皆を落ち着かせようとするが、その間に大河達は強引に天竺ジョロキア機甲部隊へ突っ込む!

 

「ぐああっ!?」

 

「大洗! バンザーイッ!!」

 

何名かの犠牲者を出しながらも、敵陣の突破に成功する大洗連合の突撃兵達。

 

「今です!」

 

「全軍、突撃っ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗連合の突撃兵達が穿った敵陣の穴を、大洗機甲部隊が強行突破する!!

 

「撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

「桃ちゃん! もう良いから!!」

 

その間にも38tは忙しなく砲撃を続け、敵を(味方諸共)攪乱する。

 

「突破されたわね………」

 

大洗機甲部隊が強行突破して行った後、コメットのハッチが開いて、遠ざかる大洗機甲部隊の背を見ながら、ローリエがそう呟く。

 

「ローリエ隊長! 追撃させて下さいっ!!」

 

とそこで、キーマがコメットに近づき、ローリエに追撃命令を願う。

 

「いいえ………止めときましょう」

 

「如何してですか!? こう言っては何ですが、敵は素人に毛が生えた様な連中ばかりです! ココで一気に畳み掛けた方が!!………!? アダッ!?」

 

「敵を過小評価するな、キーマ」

 

追撃は必要無いと言うローリエに、キーマは言葉を返すが、そこでターメリックが現れて、キーマの頭に拳骨を見舞った。

 

「けど、隊長………」

 

「こちらの統制が乱れた瞬間に、敵部隊が即座に強行突破を行った………指揮官の的確な指揮に加え、それを実行に移せる連携力が大洗機甲部隊には有る。決して侮るな」

 

納得が行かない様なキーマだったが、ターメリックは先程の大洗機甲部隊の動きを見て、そう冷静な分析を下す。

 

「奴等を侮ると痛い目を見るぞ………気を引き締めて掛かれ」

 

「………了解」

 

そこで漸くキーマは納得した顔になり、ジョロキア歩兵部隊の中へと向かう。

 

「楽しそうね、ターメリック」

 

と、キーマが居なくなると、ローリエがターメリックにそんな事を言う。

 

「ああ………久々に燃えさせる奴等が相手だからな………」

 

ターメリックはローリエにそう返し、不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

弘樹の故郷の村役場では………

 

「ハア~、危ないところだったぁ~」

 

「でも、大洗の子達、大分やられちゃったみたいだけど、大丈夫なの?」

 

「な~に、今回は殲滅戦じゃ。戦車がやられなければ戦いは続けられるわい」

 

特設されたモニターで、故郷の人々が試合の様子を観戦していた。

 

「それにしても、幾らタイとインドをモチーフにしてるからって、象を持ち出してくるなんてねぇ」

 

「凄かったねぇ」

 

村人達と共に試合を観戦していた遥とレナも、そんな事を言い合う。

 

「………兄貴達、如何戦う積りかなぁ?」

 

(………お兄様)

 

屈強な歩兵部隊に守られた天竺ジョロキア機甲部隊を相手に如何戦うのかと頭を捻る遥と、只ジッとモニターを見つめる湯江だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び………

 

天竺ジョロキア機甲部隊から逃げ果せた大洗機甲部隊は………

 

狭い森の中を如何にか進み、開けた場所へと辿り着くと、偵察兵を中心に歩兵が周囲を警戒しつつ、集合する。

 

「皆! 大丈夫!?」

 

Ⅳ号のキューポラから姿を現したみほが、他の戦車チームに向かって問い質す。

 

「大丈夫です!」

 

「問題無い」

 

「ハア~、怖かった~」

 

「何とか無事だよ~」

 

すると、八九式から典子、Ⅲ突からエルヴィン、M3リーから梓、38tから杏が姿を見せ、そう言って来る。

 

「各部隊、報告してくれ」

 

AEC 四輪駆動装甲指揮車から出て来た迫信の方も、歩兵部隊に報告を命じる。

 

「とらさん分隊、3名やられました」

 

「ワイのとこは10人近くやられたで」

 

「こっちは8人もやられちまった………」

 

「ハムスターさん分隊、5名戦死判定です。車両も数台撃破されました」

 

「我々の分隊も7名がやられています。火砲の半数と装備も一部放棄してしまっています」

 

弘樹、大河、磐渡、勇武、十河が報告を挙げる。

 

「ふむ………」

 

『戦車が無事だとは言え、いきなり手酷くやられたな』

 

それを聞いて、迫信は顎に手をやり、煌人がAEC 四輪駆動装甲指揮車から出て来ず、通信でそう言って来た。

 

「クッソッ! いきなり総攻撃を仕掛けてくるなんて思わなかったぜ!!」

 

「今はコレから如何戦うかを考えろ」

 

思わず愚痴る様にそう言う地市に、弘樹は冷静沈着にそう言う。

 

「あの象が思ったより厄介ですね………」

 

楓が、ジョロキア歩兵部隊の先陣を切る様に突撃して来た象部隊の事を思い出し、そう呟く。

 

「昔使ってたというところもあったそうだが、銃声に驚いて制御不能になってしまうので、廃れたと聞いてるが………」

 

「恐らく、相当な訓練を積んでるのでしょう」

 

「先に倒しちまおうぜ。幾らデカイとは言え、只の動物だ。遠くから狙って撃っちまえば………」

 

「でも、歩兵道用の模擬弾とは言え、罪も無い動物を撃つのは………」

 

了平が先の象から倒す事を提案するが、動物好きな飛彗が難色を示す。

 

『それに、あの象はかなりの訓練を受けている………そう簡単に倒す事は叶わないだろう』

 

煌人も再び、そう通信を送って来る。

 

「如何すれば………」

 

ジョロキアの歩兵を突破するには先ずあの象を何とかしなければならない………

 

戦車戦や歩兵戦の指揮は得意なみほも頭を悩ませる。

 

すると………

 

「………あっ!?」

 

白狼が、何かに気付いた様に声を挙げた。

 

「? 如何した? 神狩?」

 

「………コレが使えるかも知れないぞ」

 

弘樹が問い質すと、白狼がそう言いながら、戦闘服の懐から『とある物』を取り出す。

 

「! ソレは!?………」

 

「成程………確かに、使えるかもしれないな」

 

白狼が取り出した『ソレ』を見て、みほは驚き、迫信はニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後………

 

3匹の象を先頭に、進軍している天竺ジョロキア機甲部隊。

 

象に乗るのは、キーマ、ガラム、マサラの3人だ。

 

背の高い象の上から、周囲を見回し警戒する3人。

 

「! ストップッ!!」

 

すると、1番先頭を行っていたキーマが、手を上げてそう呼び掛けた!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その声で、進軍を停止する天竺ジョロキア機甲部隊。

 

キーマは進軍しようとしていた先をジッと見やる。

 

そこには、大洗歩兵部隊が築いた防御陣地が在った。

 

横に長く掘られた塹壕に、突撃兵を中心とした大洗歩兵部隊が銃を構えており、土嚢を積んだ防御壁には砲兵達の火砲が備え付けられている。

 

更に、奥の方では、戦車部隊が車体部分を地面に埋め、トーチカと化して砲を連ねている。

 

「敵の防御陣地を発見!」

 

「奴等め………最初の突撃にビビって守りを固めて来たな………」

 

「そんな事したって無駄だって教えてやるぜ」

 

キーマが報告を挙げると、ガラムとマサラがそう言い合い、ガネーシャとギリメカラを敵陣に向かって突撃させた!

 

「オイ、待てっ!!………」

 

「支援砲撃、開始ぃっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

ターメリックがそれを止めようとしたが、それを遮る様にキーマがそう叫び、ジョロキア歩兵部隊の砲兵達が、突撃を支援する砲爆撃を開始する!!

 

「来るぞっ!! 撃てぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう叫ぶと、大洗歩兵部隊は一斉に攻撃を開始する。

 

小銃、短機関銃、軽機関銃と重機関銃が火を噴き、キーマ達が駆ける象部隊の突撃を防ごうとする。

 

土嚢を積んだ防御壁に配置していた砲兵部隊と、トーチカと化していた戦車部隊も砲撃を始める。

 

しかし、天竺ジョロキア機甲部隊との初戦にて、火砲の大半をやられてしまった大洗機甲部隊は、支援砲撃の半分以上を戦車隊に頼っている状態であり、徐々に押され始める。

 

「うわあっ!?」

 

「光照がやられたぁっ!?」

 

「おうわぁっ!?」

 

「キャプテンッ!!」

 

「大丈夫だ………しかし、武器が………」

 

徐々に損害が増え始める大洗歩兵部隊。

 

「弘樹! 駄目だぁっ! やられちまうよぉっ!!」

 

「まだだ! もう少し持ち堪えろ!!」

 

弱音を吐く了平に、弘樹がそう檄を飛ばす。

 

「舩坂くん!!………!? キャアッ!?」

 

みほがそんな弘樹達の身を案じた瞬間、トーチカと化していたⅣ号の近くに砲弾が着弾する。

 

「2号車は右修正1度! 3号車は上2度修正!」

 

「「了解ッ!!」」

 

ローリエの指示で、照準修正を行ったチャレンジャーとコメットが、再びトーチカと化している大洗戦車部隊に向かって発砲する。

 

「うわあっ!? また近くに着弾したよぉっ!?」

 

再びⅣ号の至近距離に砲弾が着弾し、振動で揺さ振られる車内で、沙織が悲鳴の様に声を挙げる。

 

「駄目です! コッチの砲弾は弾かれています!!」

 

果敢に砲撃を続けていた華もそう報告を挙げる。

 

支援砲撃をしながら、敵戦車を狙っていた大洗戦車部隊だが、距離が遠い為、まだ練度も低い大洗戦車隊にとって正面からの撃ち合いでは完全に不利であり、砲弾は悉く外れ(特に桃が撃った物が)、当たったとしても堅牢なコメットとチャレンジャーの装甲に弾かれる。

 

「如何するんだ?」

 

「このままでは全滅も時間の問題です!」

 

麻子と優花里が、みほにそう言う。

 

『此方アヒルさんチーム! 敵のチームの凄まじい連続アタックです!!』

 

『クソッ! 上手く左右に分かれて展開して来ている………回転砲塔が有れば!』

 

更に、アヒルさんチームの典子とカバさんチームのエルヴィンかの通信が飛び込んで来る。

 

『キャアッ! こ、怖いっ!!………でも! もう逃げないんだからっ!!』

 

『撃て撃て撃て撃てぇーっ!!』

 

至近弾に怯えながらも、今度は決して逃げないと決意を露わにする梓と、例によってトリガーハッピーと化している桃。

 

「…………全車、後退して下さい」

 

するとそこでみほは、全車に後退命令を出す。

 

トーチカと化していた大洗戦車部隊がバックし始め、後退する。

 

「戦車が後退します!」

 

「歩兵を盾に撤退する積りか………正しい判断だが、冷酷だな」

 

「そう言う事をする隊長さんだとは思えなかったですけどねぇ………」

 

後退を始めた大洗の戦車部隊を見て、ガラム、キーマ、マサラがそう言い合う。

 

「しかし、これは試合だ………容赦する積りは無い! 一気に行くぞっ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

戦車部隊が下がったのを好機と読んだキーマは、ガラム、マサラと共に、象に乗ったまま大洗歩兵部隊の防御陣地へと突撃する。

 

一気に防御陣地を押し潰す積りの様だ。

 

「象達が一斉に突っ込んで来ます!」

 

楓がウィンチェスターM1897のポンプを下げて排莢しながらそう言う。

 

「………誘いに乗って来たな」

 

その瞬間、弘樹はそう呟いた。

 

「白狼! 今だっ!!」

 

「おうっ!!」

 

飛彗が叫ぶと、大洗機甲部隊が防御陣地を形成していた道の脇に広がっていた森林から、自転車に乗った白狼が飛び出して来た!!

 

そして、そのままジョロキアの象部隊の前に横滑りする様に止まる。

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

「慌てるな! たかが自転車歩兵1人で何が出来るっ!!」

 

ガラムとマサラは驚くが、キーマは構わずに突撃を続けようとする。

 

すると………

 

「おい! ゾウ共! 餌の時間だ! コイツをくれてやる!」

 

白狼はそう言って、背中に回していた右手を象達に見せつける様に向けた。

 

その手には、落花生………ピーナッツの袋が握られている。

 

そのピーナッツの袋を見た瞬間!!

 

象達は鳴き声を挙げ、一斉に白狼に殺到した!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「オ、オイッ!? ガネーシャッ!?」

 

「ギリメカラ! 止まれっ!! 止まるんだっ!!」

 

慌てて静止させようとするキーマ達だが、象達はピーナッツに夢中になっており、指示を受け付けない。

 

「よおしっ! 付いて来いっ!!」

 

白狼はピーナッツを象達に見せたまま、自転車を扱ぎ出す!!

 

象達はピーナッツを持った白狼を追い始める。

 

「後は任せたぜぇーっ!!」

 

白狼はそう言い残し、象達を引き連れたままその場を離れて行った。

 

「クソッ!」

 

「クウッ!」

 

「まさかこんな手で来るとはっ!!」

 

キーマ、ガラム、マサラは象から飛び降り、地に降り立つ。

 

「象達が!?」

 

「モーリス軽装甲車! 代わりに突撃しろっ!!」

 

「了解っ!」

 

象達が何処かへ行ってしまったのを見て、今度はモーリス軽装甲車が代わりに敵の防御陣地へと突撃しようとするが………

 

「手榴弾! 投擲するっ!!」

 

それを見た瞬間に、弘樹がそう叫んで、手にしていたM24型柄付手榴弾の収束手榴弾を、モーリス軽装甲車目掛けて投擲した!!

 

投擲された収束手榴弾は、モーリス軽装甲車の銃座部分から車内へと飛び込む。

 

「!? うわあぁっ!? 手榴弾だっ!!」

 

「だ、脱出ぅっ!!」

 

乗員達が慌てて脱出した次の瞬間!!

 

収束手榴弾は、モーリス軽装甲車内で爆発!

 

モーリス軽装甲車のドアやハッチが吹き飛び、車体が一瞬浮かび上がった後、炎上した!!

 

「装甲車が!?」

 

「今やぁっ! 突っ込むでぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その瞬間!!

 

大河を中心にした大洗連合の小銃装備の突撃兵達が、全員銃剣を着剣し、ジョロキア歩兵部隊に向かって突撃を敢行する!!

 

「! 全軍! 接近戦用意っ!!」

 

「いてもうたれぇーっ!!」

 

ターメリックの指示が飛ぶ中、大河を中心にした大洗連合の突撃兵達は、ジョロキア歩兵部隊の中へと切り込んだっ!!

 

そのまま戦国時代宜しく乱戦へと持ち込む!

 

「このぉっ! 俺達に接近戦を挑もうってのかぁ!!」

 

「本場タイ仕込みのムエタイを見せてやるぜっ!!」

 

乱戦へと持ち込まれたジョロキア歩兵部隊の歩兵達の一部が、ムエタイの構えを取り始める。

 

「ケッ! そっちがムエタイなら、コッチは喧嘩殺法やっ!!」

 

「舐めんなコラァーッ!!」

 

それに呼応するかの様に、大河や大洗連合の突撃兵達も、武器を投げ捨ててステゴロで戦い始める。

 

「アラアラ~………コレじゃあ、支援砲撃は難しいわね~」

 

そんな中、照準器を覗き込んでいたローリエがそう言う。

 

先程よりも激しい乱戦に持ち込まれた為、戦場は両軍の兵士が入り乱れて戦っている状態となり、下手に撃てばフレンドリーファイヤとなる可能性が大きかった。

 

「お姉ちゃん! 戦車部隊を追おう! 戦車を全部倒せば私達の勝ちだよっ!!」

 

すると、操縦席のルウがそう声を挙げる。

 

「そうね………そうしましょうか」

 

「よっしゃあーっ! 行くわよぉっ!!」

 

ローリエの許可が降りると、ルウはコメットを発進させる。

 

そして、乱戦しているジョロキア歩兵部隊と大洗歩兵部隊の間を擦り抜け、防御陣地までも突破して、後退した大洗機甲部隊を追って行った。

 

他の戦車達もその後に続く。

 

「敵戦車部隊! 防御陣地を突破っ!!」

 

「よしっ! 予定通りに敵戦車部隊と歩兵部隊を分断するぞ! 各員! この場にて踏み止まれぇっ!!」

 

秀人がそう報告を挙げると、銃剣を着剣した三八式歩兵銃の突きで、ジョロキアの歩兵を1人倒した弘樹が、全員に向かってそう言い放つ。

 

「成程! そう言う魂胆か………」

 

「!?」

 

と、その瞬間!!

 

背後からそう言う声が聞こえて来て、すぐさま着剣した三八式歩兵銃を水平に構えて振り返る弘樹。

 

その瞬間に、三八式歩兵銃が銀色の刃を受け止め、火花を散らす。

 

「クウッ!」

 

しかし、凄まじい力を感じ、弘樹は飛び退く様に相手から距離を取った。

 

「………良く防いだな」

 

弘樹を斬りつけた相手………二振りの宝剣『インドラ』と『カルラ』を二刀流で構えているターメリックがそう言い放つ。

 

「ジョロキア歩兵部隊の隊長か………」

 

「今一度名乗ろう、ターメリックだ………舩坂 弘樹………イザ勝負と行こうか」

 

銃剣を着剣した三八式歩兵銃を構え直す弘樹に、ターメリックはそう言い放つ。

 

(西住隊長達が戦車部隊を撃破するまで、時間を稼がなければ………)

 

弘樹は目の前の敵へ集中しつつも、本来の任務を忘れないように心掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に開始された天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合。
象を使った歩兵達の突撃と、戦車隊の正確な砲撃により、初手から手痛い打撃を受けた大洗機甲部隊。
しかし、咄嗟のアイデアの作戦で象を無力化し、歩兵隊と戦車隊を分離させる事に成功する。
大洗は今度こそ勝利できるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第17話『大乱戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第17話『大乱戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹の故郷である、栃木の山奥にある………

 

田舎の農村で、天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合を開始した大洗機甲部隊。

 

ジョロキア歩兵部隊が駆る象部隊を相手に、一時は窮地に追い込まれたが………

 

白狼の機転を利かせたアイデアで………

 

象達をジョロキア歩兵部隊から引き剥がす事に成功した。

 

そして、弘樹達はジョロキア歩兵部隊と交戦を開始し、戦車部隊と分断。

 

歩兵部隊VS歩兵部隊と戦車部隊VS戦車部隊の対決へと持ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

起伏の緩やかな森林地帯の中………

 

「象さん此方! 手の鳴る方へってなぁっ!!」

 

ピーナッツを使い、象達をジョロキア歩兵部隊から切り離した白狼は、そのまま象に追われながら、自転車で森林の中を逃げ回っていた。

 

象達は速歩きで白狼へと何度も迫ろうとするが、白狼は上手く木々の間を擦り抜けて、象達に追い付かれない様にする。

 

と、そこで………

 

白狼の前方に、渓流が広がった。

 

「よおし! 大分引き離したな………この辺で戻るか」

 

その渓流の手前で停止すると、もう十分に引き離したと思い、ピーナッツの袋を投げ捨てようとする白狼。

 

その瞬間!!

 

突如として象の咆哮が響いたかと思うと、今度は木々を踏み散らす様な音が聞こえて来る!

 

「!?」

 

何だ!?と思って白狼が、その音がした方向を見やると………

 

何と象達が、木々を踏み散らして白狼の方へと向かって来ていた!!

 

我慢の限界だったのか、それとも単純に長いお預けを喰らってイラだったのか、象達はかなり興奮している様子である。

 

「! ヤバイッ!!」

 

コレはマズイと思い、慌ててピーナッツの入った袋を投げ捨てる白狼。

 

だが、時既に遅しっ!!

 

興奮していた象達は、白狼がピーナッツの袋を投げ捨てたのに気付かず、そのまま長い鼻で白狼を自転車ごと弾き飛ばす!!

 

「!? おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

弾き飛ばされた白狼は、そのままブッ飛ばされ、水柱を立てて渓流へと落ちた。

 

そして象達は、ピーナッツが落ちているのに気づくと、落ちた白狼には目も暮れず、ピーナッツを食べ始める。

 

「ブハッ! チキショウめっ!!」

 

と、川に沈んでいた白狼が、悪態と共に自転車を片手に浮上する。

 

「クソッ! こっからじゃ上がれそうにないか………」

 

自転車を持ったままではこの渓流は上がれないと悟った白狼は、上陸出来る場所を探して、渓流の中を泳ぎ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃………

 

ジョロキア歩兵部隊から引き剥がした、天竺戦車部隊に追われている大洗戦車部隊は………

 

あんこうチームのⅣ号を先頭に、カメさんチーム、アヒルさんチーム、カバさんチーム、ウサギさんチームの順で縦隊を取り、森の中の一本道を走っている。

 

『ウサギさんチームよりあんこうチームへ! 天竺戦車隊が追い付いて来ました!!』

 

すると、最後尾に居て後方を警戒していたウサギさんチームの梓から、あんこうチームの沙織へそう通信が送られる。

 

「! みぽりん! 来たよっ!!」

 

「!!」

 

沙織から報告を受け取ると、みほはハッチを開けてキューポラから姿を現し、後方を確認する。

 

すると、最後尾のウサギさんチームのM3リーのやや向こうの方から、土煙を挙げて大洗戦車達と同じ様に恐らくローリエとルウが乗ってると思われるコメットを先頭に、縦隊で進んで来る天竺戦車隊の姿が確認出来た。

 

「流石は巡航戦車。スピードが凄いですね」

 

と、装填手席のハッチも開き、姿を現した優花里がそう言って来る。

 

「このままでは追い付かれてしまうのでは?」

 

砲塔内から、華がみほにそう言う。

 

「大丈夫。もうすぐ『例の地点』だから、今のまま行けば振り切れると思う」

 

しかしみほは、華にそう返す。

 

「皆さん! 事前に立てた作戦通りにお願いします! 歩兵部隊の皆さんが敵の歩兵部隊を食い止めている間に決着を着けます!!」

 

『りょーかい!』

 

『分かりました!』

 

『ヤヴォール!』

 

『ハイ! 今度は逃げませんから!!』

 

みほが喉頭マイクを通じてそう呼び掛けると、カメさんチームの杏、アヒルさんチームの典子、カバさんチームのエルヴィン、ウサギさんチームの梓からそう返事が返って来る。

 

「麻子さん! 速度を上げて下さい!」

 

「ほい………」

 

それを確認すると、みほは今度は操縦席の麻子に指示を出す。

 

そして麻子が何時もの気の無い返事を返すと、Ⅳ号の速度を上げる。

 

それに続く様に、他のチームの戦車も速度を上げる。

 

「アラ? コッチに気付いたみたいね?」

 

「フフ………巡航戦車の速度から逃れられると思っているのか」

 

照準器越しに大洗戦車隊を見ていたローリエが、場違いなくらい穏やかな口調でそう言うと、操縦席のルウがそう言い放つ。

 

「油断しちゃ駄目よ、ルウ。多分、敵は何かを考えてるわ」

 

「なら、その前に潰してやるまでさ!」

 

ローリエが戒める様にそう言うが、ルウはそう返してコメットを更に加速させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ジョロキア歩兵部隊と交戦している大洗歩兵部隊は………

 

「敵軍、前進中!」

 

「俺は攻撃を行う! 援護せよぉっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「手榴弾だ! 爆発するぞーっ!!」

 

「砲兵隊向けの標的が在る!!」

 

「敵は強過ぎるっ!」

 

「俺は防衛を行う! この位置を保てぇーっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「1人倒したっ!!」

 

「おみごとぉっ!!」

 

「大和魂を見せてやるーっ!!」

 

「敵の潜水艦を発見っ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

両者が戦っている戦場では、爆発音や銃撃音に混じって、両軍の怒声や罵声が交差している。

 

「オラオラァッ! 大洗を舐めるんやないでぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「いてこますぞコラァーッ!!」」」」」」」」」」

 

そんな中で、果敢に敵軍の中へと攻め入っているのが、大河を中心とした大洗連合の歩兵達。

 

そして………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! 野郎共ぉっ! 俺達の特技は何だぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「この試合の目的は何だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「俺達は歩兵道を愛しているかぁっ!? 大洗を愛しているかぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「ガンホーッ!! ガンホーッ!! ガンホーッ!!」」」」」」」」」」

 

「ならば敵に目にもの見せろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

武志を中心とした大洗国際男子校ラクビー部員達の歩兵メンバー達だった。

 

特にラクビー部員の方は凄まじい士気を誇っている。

 

全員の目から殺る気が迸っている。

 

「な、何だアイツ等ぁっ!?」

 

「ひいいっ!? 殺されるぅっ!?」

 

「逃げろぉっ!!」

 

その気合(殺気)溢れるラクビー部員歩兵を前にしたジョロキア歩兵部隊の中には、思わず敵前逃亡をし始める者まで出る程だった。

 

「オイッ!? コラッ!! 何処へ行く!?」

 

「逃げるな! この腰抜けぇっ!!」

 

慌てて他の歩兵達が呼び止めようとするが………

 

「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

その内の1人に、武志がラクビー仕込みの殺人タックルを食らわせる!!

 

「!? ゲボゴハァッ!?」

 

タックルを食らったジョロキアの歩兵は、身体がくの時に曲がり、口から光るものを飛び散らせて気絶する。

 

無論、戦闘服を着ているので、命の保証はされ、深刻な怪我は無いが、かなりの痛みを味わっているだろう。

 

そんなジョロキアの歩兵を、武志は容赦無く、サブウェポンの十四年式拳銃でトドメを刺し、戦死判定とさせる。

 

「くたばれぇーっ!!」

 

更に、ラクビー部員の突撃兵が、ラクビーボール宜しく、M39卵型手榴弾をキックして飛ばした!!

 

「「「「「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ジョロキアの歩兵達が5人纏めて吹き飛ばされる。

 

「ヒイイッ!?」

 

そんな様子を見て、ジョロキア歩兵部隊からはまたも悲鳴が挙がるが………

 

「狼狽えるな! 俺達は誇り高きジョロキア歩兵隊だぁっ! 自慢のムエタイを見せてやれぇっ!!」

 

そこでキーマが、味方を鼓舞する様にそう叫んだ。

 

「! そうだ! 俺達はジョロキア男子高校の歩兵部隊っ!!」

 

「立ち塞がる敵は! 全て粉砕するのみっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その鼓舞に士気を持ち直したジョロキア歩兵部隊の面々は、一部の者達が乱戦状態を逆手に取り、武器を捨ててムエタイで戦い始める。

 

「ぐああっ!?」

 

「凄い肘打ちと膝打ちだっ!!」

 

「コレが立ち技最強のムエタイかっ!?」

 

立ち技世界最強と名高い格闘技、ムエタイでの攻撃に、大洗歩兵部隊にも大きな被害が出始める。

 

戦いは一進一退であった。

 

「砲兵隊! 援護砲撃は出来ないのかっ!?」

 

「無茶言うな! 敵も味方も入り乱れてるんだ! こんな状況で砲撃出来るかぁっ!!」

 

「僕達は敵の砲兵隊を叩きます! 申し訳ありませんが! 皆さんは自力で頑張って下さいっ!!」

 

海音が後方の砲兵隊に向かってそう叫ぶが、砲兵隊の中に居た明夫と誠也からそう言う返事が返って来る。

 

「よおし、良いぞぉっ! このまま押せぇっ!!」

 

更に味方を鼓舞する様に叫ぶキーマ。

 

と、その瞬間………

 

「………!!」

 

何か嫌な予感がし、キーマはその場からバッと飛び退く。

 

すると、先程までキーマが居た場所に、2発の大口径弾が着弾し、土片を舞い上げた!!

 

「!!」

 

すぐにキーマは、その弾丸を撃ってきた主を確認する。

 

「…………」

 

それは、シモノフPTRS1941を両手に握り、腰だめに構えている陣だった。

 

「オイオイ………対戦車ライフルを両手に持って腰だめ撃ちだなんて………どんな身体してんだよ」

 

その陣の姿に、キーマは呆れる様な笑みを浮かべたが、その頬には戦慄の冷や汗が流れる。

 

「………!!」

 

そんなキーマの心情を知ってか知らずか、陣は再び両手に持ち、腰だめに構えていたシモノフPTRS1941を発砲する!!

 

「!! うおおっ!?」

 

「!!」

 

間一髪で回避するキーマだが、陣は次々に14.5mm弾を放つ!

 

「チイッ! この化け物めぇっ!!」

 

「副隊長っ!! 援護しますっ!!」

 

とそこで、キーマが苦戦しているのを見た突撃兵の1人が、陣にクラッグ・ヨルゲンセン・ライフルを向ける。

 

「………!!」

 

だが陣は即座にその突撃兵の存在に気づき、左手で持っていたシモノフPTRS1941を向け、発砲した!!

 

「ぐあああっ!?」

 

真面に14.5mm弾を食らった突撃兵が、もんどり打って倒れ、戦死判定を下される。

 

「チャパティッ!! この野郎っ!!」

 

とその瞬間に、キーマはGew71に銃剣を着剣し、陣に向かって突っ込んだ。

 

「!!………」

 

陣はすぐに右手のシモノフPTRS1941を向けたが………

 

「舐めるなぁっ!!」

 

キーマは、着剣したGew71を使って、シモノフPTRS1941を弾き、明後日の方向を向けさせた!

 

「!?………」

 

陣の目が驚きで見開かれる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

そのまま銃剣を陣に突き刺そうとするキーマ。

 

「!!………」

 

すると何と!!

 

陣は、突撃兵を迎撃する為に向けていた左手のシモノフPTRS1941を腰だめのまま、身体を使ってフルスイングし、銃身でキーマの横腹を殴りつけた!!

 

「!? ゴハッ!?」

 

思わぬ反撃に、キーマは地面の上を転がる。

 

「!!………」

 

そのままトドメを刺したかった陣だが、距離が近かった為、長いシモノフPTRS1941は使えず、止むを得ず一旦後退するのだった。

 

 

 

 

 

一方、此方は………

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

「如何した如何したぁっ!!」

 

ガラムとマサラは、双子の兄弟ならではコンビネーションを繰り出し、大洗歩兵部隊を攪乱する。

 

「ぐああっ!?」

 

「クソォッ! 弾幕を張れっ!!」

 

「そうはさせん!」

 

九二式重機関銃で弾幕を張ろうとしていた大洗の突撃兵達目掛けて、パンツァーファウストを放つマサラ。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

対戦車用の武器とは言え、爆風を諸に浴び、九二式重機関銃で弾幕を張ろうとしていた大洗の突撃兵達は戦死判定を受ける。

 

「クソッ!!」

 

「そこかっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

それを見た大洗の偵察兵が、パンツァーファウストを使えない様に肉薄し、十一年式軽機関銃をマサラへ向けたが、その瞬間にガラムのRifle No.5 Mk 1『ジャングル・カービン』によって狙撃され、戦死と判定される。

 

「「俺達兄弟のコンビを破れるものかっ!!」」

 

勝ち誇るかの様に背中合わせとなり、シンクロしてそう言い放つガラムとマサラ。

 

すると………

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトが辺りを銃声と爆発音が支配する戦場に響き渡ったかと思うと、ガラムとマサラの正面の地面が爆ぜ、人影が飛び出した!!

 

「「!?」」

 

地中より飛び出した人影は、ガラムとマサラの驚きを余所に、空中で前方宙返りを決め、更に錐揉みし、最後には後方回転しながら前に飛ぶと言う、岡元次郎めいたアクションを決め、2人の目の前に着地する。

 

「ドーモ。ガラム=サン。マサラ=サン。葉隠 小太郎です」

 

その人物………小太郎は、ガラムとマサラに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ガラムです」

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。マサラです」

 

すると、ガラムとマサラも、ムエタイのワイクルーめいたポーズを取りながらアイサツを返す。

 

ワザマエ!

 

如何やらこの兄弟2人は、ニンジャとしての心得も有る様だ。

 

アイサツはニンジャのイクサにおける絶対の礼儀。

 

どんな憎しみがあろうとも絶対に欠かしてはならない、と古事記にも書いてある。

 

アイサツの最中に攻撃する事は、スゴイシツレイであり、仲間からもムラハチにされかねない。

 

「貴様等………ニンジャの心得があるか………ニンジャ殺すべし。慈悲は無い」

 

アイサツを返された事により、2人が相当の手練れだと感じ取った小太郎は、目つきを鋭くし、チャドーの呼吸法を発動。

 

ジゴクめいたアトモスフィアが、小太郎の身体から立ち上る。

 

そして次の瞬間!!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎のニンジャシャウトが響き渡ったかと思うと、小太郎の右腕が鞭の様に撓り、2枚のスリケンが、ガラムとマサラ目掛けて射出された!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

しかし!!

 

飛んで来たスリケンを、ガラムは肘打ち、マサラは膝蹴りによって、明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

ナムサン!

 

ジョロキア男子校得意のムエタイカラテだ!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎は再び右腕を鞭の様に撓らせ、2枚のスリケンを射出する!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

ガラムとマサラは、再びムエタイカラテの肘打ちと膝蹴りで明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

「如何した? 貴様のニンジャカラテはそんなものか?」

 

「所詮はサンシタのニンジャ。我等兄弟の敵では無い様だ。ユウジョウ!」

 

「ユウジョウ!」

 

小太郎を嘲笑いながら、ガラムとマサラは兄弟の友情を確かめ合う。

 

「…………」

 

小太郎は平静な態度を維持している様に見せながら、メンポの下で冷や汗を掻いていた。

 

敵はかなりの使い手………

 

しかも2人と来ている。

 

対する小太郎は1人………

 

2人と1人では、どちらが有利かは明らかだ。

 

2人が本気で一斉に小太郎に掛かって来たら、小太郎を倒す事などベイビー・サブミッションである。

 

ココは一気に勝負を急ぐ。

 

小太郎はそう決めると、再びチャドーの呼吸法によって、カラテを高める。

 

「イヤーッ!!」

 

そして三度!!

 

右腕を鞭の様に撓らせ、2枚のスリケンを射出する!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

ガラムとマサラは、ムエタイカラテの肘打ちと膝蹴りで、スリケンを明後日の方向へと弾き飛ばす!

 

しかし!!

 

それこそが小太郎の狙いだった!!

 

ムエタイカラテを繰り出したガラムとマサラの動きが一瞬止まり、一瞬だけ身動きが取れなくなる。

 

ならば、それを超える速度でスリケンを投げ続ければ良いのだ!

 

『力に力で対抗してはならぬ………速さで行くと決めたならば、飽く迄も速さを貫き通すべし。100発のスリケンで倒せぬ相手には、1000発のスリケンを投げるのだ』

 

メンターである祖父から授かったファースト・インストラクションが、小太郎の脳裏に響いた。

 

これぞ! インストラクション・ワン!!

 

「イヤーッ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎はピッチングマシーンの様に両腕を互い違いに回転させ、0コンマ5秒毎の速度でスリケンを投げつけた。

 

「イヤーッ!!」

 

「「イ、イヤーッ?!」」

 

ガラムとマサラは、ムエタイカラテを止める暇がなく、身動きが取れない事に気付いた。

 

「イヤーッ!!」

 

「「イ、イヤーッ?!」」

 

そして小太郎は、動きを止められていたガラムとマサラに接近する!!

 

「慈悲は無い!!」

 

必殺のカラテチョップが、ガラムとマサラ目掛けて繰り出される!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ターメリックと対峙していた弘樹は………

 

「せやあぁっ!!」

 

「むんっ!!」

 

弘樹の銃剣を着剣した三八式歩兵銃の袈裟懸けを、二振りの宝剣を使って、往なす様に捌くターメリック。

 

「!!」

 

だが、銃剣を着剣した三八式歩兵銃を振り終えた弘樹は、右手を素早く腰の愛刀・英霊の柄へと掛け、そのまま居合抜きの様に抜刀してターメリックに斬り付ける!

 

「!?」

 

一瞬驚いた表情を見せたターメリックだが、ボクシングのスウェーの様に上体を反らしてかわそうとする。

 

弘樹の英霊の刃が、ターメリックの顎先を掠める。

 

すると!

 

その状態のターメリックから、弘樹の顔目掛けて蹴りが繰り出される!

 

「!? ぐっ!?」

 

咄嗟に首を捻ったものの、米神の辺りに命中し、弘樹はフラ付く。

 

「むうんっ!!」

 

その弘樹に向かって、インドラとカルラを振るうターメリック。

 

「!?」

 

弘樹は一瞬飛びかけていた意識を無理矢理引き戻し、三八式歩兵銃を投げ捨てると、英霊を両手で握ってターメリックの剣を2刀とも受け止める。

 

「ぐううっ!!」

 

「ぬううんっ!!」

 

そのまま鍔迫り合いへと発展する2人。

 

力任せに押し切ろうとするターメリックだったが………

 

「………!」

 

弘樹はそれを見越し、態と一瞬力を抜いた!

 

「!?」

 

突然力を抜かれて、ターメリックは姿勢が崩れる。

 

「ハアッ!!」

 

その瞬間を見逃さず、弘樹はターメリックの胸に正拳突きを食らわせるっ!!

 

「ぬううっ!?」

 

真面に食らったターメリックは後ろへと下がったが、すぐに踏み止まった。

 

「!!………」

 

一方の弘樹は、正拳を繰り出した手を痛そうに振っている。

 

(何て身体をしているんだ………まるで鉄板を殴った様だ)

 

手に走る鈍い痛みを感じながら、弘樹は心の中でそう思う。

 

「………流石だ、舩坂 弘樹。伝説の英霊の血を引いているだけの事はある」

 

とそこで、不意にターメリックが、弘樹に向かってそんな事を言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹はそれに返事はせず、油断無くターメリックの姿を見据える。

 

「だが、俺とて『虎殺しの蛇王』と呼ばれた男だ………貴様には負けんぞ」

 

すると、ターメリックはそう言葉を続け、ムエタイとは違う、特徴的な構えを取る。

 

(!! あの構えは………)

 

弘樹がその構えに見覚えを感じていると………

 

「舩坂分隊長っ!! 助太刀致しますっ!!」

 

弘樹が苦戦していると見た、とらさん分隊の突撃兵の1人が、銃剣を着剣した三八式歩兵銃でターメリックに突撃した!

 

「! 待てっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

止める言葉も届かず、銃剣を着剣した三八式歩兵銃を振り被る様にしてターメリックへ突きを食らわせようとすとらさん分隊の突撃兵。

 

「! むうんっ!!」

 

ターメリックはインドラとカルラを腕ごと振り回す様にして、とらさん分隊の突撃兵が構えていた銃剣を着剣した三八式歩兵銃を弾き飛ばした!

 

「なっ!?」

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

驚くとらさん分隊の突撃兵を、ターメリックはまるで踊る様な動きで連続で斬り付ける!

 

「ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

目にも止まらぬ連続攻撃を受け、とらさん分隊の突撃兵はその場に倒れると戦死と判定された。

 

「やはり………『カラリパヤット』」

 

その様子を見ていた弘樹が、ターメリックの動きがインドに伝わる武術………『カラリパヤット』である事を確信する。

 

「ムエタイだけではない。我々ジョロキア歩兵部隊はカラリパヤットも得意としている」

 

独特の構えを取りながら、ターメリックは弘樹にそう言い放つ。

 

彼の言葉通り、白兵戦を展開しているジョロキア歩兵達の中には、ムエタイの他にカラリパヤットを使っている者達が多々見受けられた。

 

「…………」

 

そんな中で、英霊を中段に構え、摺り足でジリジリと移動を始める弘樹。

 

「…………」

 

するとターメリックも、同じ様に摺り足でジリジリと移動を始める。

 

「「…………」」

 

お互いに相手の行動を注意深く窺いながら、円を描く様に移動し、ジリジリと距離を詰めて行っている。

 

両者の間には凄まじい緊迫感が漂っており、僅かな切っ掛けで激突するであろう。

 

と、その時!!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

2人の近くで戦っていたジョロキアの突撃兵が、ヘッドショットを食らって倒れ、投げようとしていた手榴弾が転がった。

 

転がった手榴弾が爆発し、土煙を上げる。

 

「「!!」」

 

それが切っ掛けとなり、両者はダッと相手に向かって駆け出す!!

 

「チェストオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

走りながら、英霊を大上段に構え直し、独特の掛け声とともにターメリック目掛けて一気に振り下ろす弘樹。

 

「!!」

 

しかし、ターメリックは身を翻す様に身体を独楽の様に回転させてかわすと、その勢いに乗せたまま、インドラとカルラの横薙ぎで斬り付けようとする。

 

「!!」

 

だが、弘樹はそれを読んでおり、振り下ろし切ったと思われた英霊が、グンッとV字を描く様に軌道を変え、ターメリックへと向かった!

 

「! 燕返しっ!!」

 

ターメリックは驚きながらも、バックステップを踏む様に距離を取り、弘樹の返す英霊をかわす。

 

「セエエイッ!!」

 

だが、弘樹の攻撃は止まず、英霊を水平にしたかと思うと、連続で突きを放ち出す。

 

「フッ! ハアッ! トアアァッ!」

 

しかし、ターメリックはそれを全て踊る様な動きの剣さばきで捌いていく。

 

「!!」

 

とそこで、弘樹は不意を衝く様に下段蹴りを繰り出し、ターメリックの足を払った!!

 

「!? ぬあっ!?」

 

突然足を払われ、ターメリックは強かに背中を打ちつける様に倒れる。

 

「セイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

倒れたターメリック目掛け、英霊を思いっきり振り下ろす弘樹。

 

「!!」

 

だが、ターメリックは倒れたまま、インドラとカルラで弘樹の英霊を受け止める。

 

「! セイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

弘樹は軽く驚きながらも、反撃する隙は与えまいとすぐに英霊を引いて、再度振り下ろしを見舞う。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、ターメリックは今度は右手のインドラだけを使って英霊を受け止めると、一旦左手のカルラを手放し、英霊を握っていた弘樹の両手の手首を左手だけで掴み、倒れたまま投げ飛ばす!

 

「!? おうわっ!?」

 

ほぼ空中で1回転してから、ターメリックと同じ様に背中から地面に打ち付けられる弘樹。

 

「!!」

 

それでも受け身を取ってダメージを軽減し、すぐに立ち上がる。

 

「!!」

 

その隙にターメリックも立ち上がると、手放していたカルラを再び握り、弘樹へと斬り掛かる。

 

「!?」

 

咄嗟に防御の構えを取る弘樹。

 

ターメリックの攻撃を受け止めると、腕にまで衝撃が走る!

 

「(ぐうっ!!)デヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

力任せにターメリックを弾き飛ばす弘樹。

 

「くうっ!」

 

弾き飛ばされたターメリックは態勢を立て直しつつ、再びカラリパヤットの独特な構えを取る。

 

「…………」

 

弘樹も英霊を中段に構え、再び両者の睨み合いが展開される………

 

………かと思われた、その時!!

 

「退け退けぇっ!!」

 

数名のジョロキア歩兵が乗ったくろがね四起が、弘樹とターメリック目掛けて走って来る。

 

「「!?」」

 

2人は咄嗟に道を譲る様に飛び退く。

 

「くろがね四起が奪われたか!………」

 

着地を決めた弘樹がそう声を挙げた瞬間………

 

「よおし! このまま戦車隊の援護に向かうぞっ!!」

 

「「「おおぉーっ!!」」

 

奪ったくろがね四起に乗って居たジョロキアの歩兵達がそんな声を挙げた。

 

「!! そうはさせんっ!!」

 

それを聞いた弘樹は、即座にくろがね四起を追う。

 

その途中、ボーイズ対戦車ライフルが落ちていたのを見つけると、握っていた英霊を納刀し、即座にそれを拾い上げる。

 

「!!」

 

そして、鹵獲されたくろがね四起に向かって腰だめで構えると、即座に発砲する!!

 

13.9mm弾が、くろがね四起の左後輪を吹き飛ばす!

 

「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」

 

左後輪を失ったくろがね四起は、横滑りした後に横転し、爆発・炎上。

 

乗って居たジョロキアの歩兵達は全員巻き込まれ、戦死と判定された。

 

「良し………」

 

「テリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

とそこで、背後からターメリックがインドラとカルラで斬り掛かって来る!!

 

「!?」

 

すぐさまボーイズ対戦車ライフルを捨てると、再び英霊を抜こうとした弘樹だったが………

 

「遅いっ!!」

 

ターメリックが振ったインドラとカルラが早く、弘樹が抜こうとしていた英霊は弾き飛ばされ、離れた場所の地面に突き刺さった。

 

「!? しまったっ!!」

 

そう言いながらも、即座にターメリックから距離を取ると、右腰に下げていたホルスターから十四年式拳銃を抜き、ターメリックに向けて牽制する。

 

「戦いの最中に他の事に気を取られるとは………迂闊だな」

 

「…………」

 

ターメリックの指摘に、弘樹は反論する様な素振りを見せず、ただ油断無く十四年式拳銃を構える。

 

「言っておくが、銃を持っているからと言って優位だと思わない事だ。この距離ならば貴様が引き金を引くよりも早く斬る事が出来る」

 

インドラとカルラを擦り合せて金属音を鳴らしながら、ターメリックはそう言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹の頬を冷たい汗が流れる。

 

彼の言っている事は本当だろう。

 

彼ほどの達人ならば、銃を撃つよりも早く斬り込む事など容易い。

 

傍から見れば弘樹が優位に立っている様に見えるが、実際は弘樹の方が追い込まれている状況なのだ。

 

(だが、このままで居るワケにもいかん………一か八かだ)

 

だが、何時までもこの状況を続けるワケには行かないと思った弘樹は、一か八か勝負を仕掛ける事にした。

 

十四年式拳銃を右手で握ったまま、左手を腰のホルスターに掛けてあった九九式手榴弾に手を伸ばす。

 

「させるかぁっ!!」

 

しかし、その瞬間にターメリックは踏み込み、高速で弘樹へと斬り掛かる!

 

(駄目だ! 早い!!)

 

バックステップを踏みながら、十四年式拳銃を発砲しようとした弘樹だが、ターメリックの踏み込みは早くて深く、引き金を引く前に斬られてしまう事は明らかだった。

 

だが、その瞬間!!

 

突如として弘樹とターメリックの間に人影が割って入り、ターメリックのインドラとカルラを刀で受け止めた!

 

「!? 何っ!?」

 

「!?」

 

ターメリックと弘樹は、驚きながらその人影を見やる。

 

「…………」

 

それは、愛刀である刃渡りが長く広い軍太刀『戦獄』を握った熾龍だった!

 

「栗林先輩!」

 

「何をしている………さっさと刀を拾え」

 

驚いている弘樹に向かって、熾龍はそう言い放つ。

 

「!!」

 

その言葉で、弘樹は即座に英霊の元へと走った。

 

「チイイッ! 邪魔をするなっ!!」

 

踊る様な動きで、熾龍に向かって次々に斬撃を繰り出すターメリック。

 

「…………」

 

しかし、熾龍は鋭い目つきの仏頂面を浮かべたまま、その斬撃を全て往なす。

 

しかもその場から動かずに。

 

(コイツ! どれだけの手練れだ!?)

 

熾龍のその強さに戦慄しつつも、斬撃を繰り出し続けるターメリック。

 

「!!」

 

だがその瞬間、弘樹が英霊を回収する。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そして、即座にターメリックへと斬り掛かって行く。

 

「フッ!………」

 

それと同時に、熾龍も防御から攻撃へと転じる

 

「! チイッ!!」

 

ターメリックは舌打ちをしながらも、インドラとカルラで熾龍の戦獄と弘樹の英霊の斬撃を捌いて行く。

 

(クッ! 2人掛かりでも往なすか………だが、今暫く時間を稼げば………)

 

2人掛かりでも攻撃を往なすターメリックに内心で戦慄しながらも、そう思いやる弘樹。

 

「例え2人掛かりでも、俺を倒す事は出来んぞ!!」

 

ターメリックは、弘樹と熾龍に向かってそう言い放つ。

 

「いや………倒す必要は無い」

 

「その通りだ………」

 

しかし、弘樹と熾龍からはそんな言葉が帰って来た。

 

「!? 何だと!?」

 

と、その言葉の意図を見抜けなかったターメリックがそう声を挙げた瞬間………

 

遠方から爆発音が聞こえて来た!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その爆発音を聞いた、大洗・ジョロキア両歩兵部隊の動きが止まる。

 

『そこまで! 試合終了っ!!』

 

そして、審判であるレミの試合終了を告げるアナウンスが響いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

天竺ジョロキア機甲部隊を分断した大洗機甲部隊。
みほが何か作戦を考えている中、敵の歩兵部隊と必死の戦いを繰り広げる弘樹達。
エース達の激しい戦闘が行われる中、敵の歩兵隊隊長であるターメリックに苦戦する弘樹。
しかし………
彼の目的は敵の歩兵に勝つ事ではなく、時間を稼ぐことにあった。
そこへ響く試合終了のアナウンス。
果たして勝ったのは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第18話『泥んこ作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第18話『泥んこ作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り………

 

大洗歩兵部隊とジョロキア歩兵部隊の乱戦が続く中………

 

大洗戦車部隊と天竺戦車部隊は………

 

「装填完了っ!」

 

「右に5度………発射ぁっ!!」

 

装填手の装填完了の報告を聞くと、即座に照準を定めて発砲するローリエ。

 

コメットから放たれた砲弾は、風切り音を立てながら飛翔し、Ⅳ号の右側の地面を爆ぜさせた。

 

「くうっ!?」

 

振動がⅣ号を揺さぶり、みほは思わず声を挙げる。

 

「みぽりん!? 大丈夫っ!?」

 

「う、うん。ちょっと振動が来ただけだから………それに、行進間射撃はそう簡単に当たるものじゃないから」

 

「だが、このままだと何れ直撃を食らうぞ………」

 

心配する沙織にみほがそう答えていると、麻子がそう言って来る。

 

天竺戦車部隊から必死の逃走を続けている大洗戦車部隊だが、徐々に両者の距離は詰まって来ていた。

 

幾ら命中率の低い行進間射撃と言えど、近距離まで近づかれれば当然当たる確率は高くなる。

 

このまま距離を詰められれば、防御力で劣る大洗の戦車達は一溜りも無い。

 

「皆さん、頑張ってください! もう少し………もう少しなんです!!」

 

しかしみほは、まるで祈る様に呟きながら、『あるポイント』を目指して前進を続けさせる。

 

『敵戦車部隊接近! 駄目です! 追い付かれますっ!!』

 

と、ウサギさんチームの梓から悲鳴にも似た声が挙がる。

 

『このぉっ! 撃て撃て撃てぇっ!!』

 

狂乱したカメさんチームの桃が、38tの砲塔を後ろに向け、次々に砲弾を発砲するが、相変わらず砲弾は明後日の方向に飛んで行っている。

 

『クソッ! 回転式の砲塔さえ有れば………』

 

カバさんチームのエルヴィンは、自走砲故に正面にしか攻撃出来ない事を恨めしく思っている。

 

「…………」

 

そんな中、アヒルさんチームの典子が、キューポラから上半身を曝け出し、後方から迫って来る天竺戦車部隊を睨む様に見ていた。

 

「………皆! やるよっ!!」

 

そして、何かを決意した様な表情になったかと思うと、車内を覗き込んで、チームメンバーに呼び掛ける。

 

「「「! ハイ! キャプテンッ!!」」」

 

妙子、忍、あけびの3人は、即座に典子が何を考えているのかを察する。

 

そして次の瞬間には、八九式が隊列から抜け出し、天竺戦車部隊へと向かって行った!!

 

『!? アヒルさんチームッ!? 何を………』

 

『西住隊長! 此処は私達が食い止めますッ!! 行って下さいっ!!』

 

驚きながら通信を送るみほに、典子がそう返事を返す。

 

『そんな!? 無茶ですっ!!』

 

『そうです! 八九式の主砲じゃ………』

 

『大丈夫! コッチには真田さんが『こんなこともあろうかと』用意してくれた『タ弾』があります!!』

 

タ弾とは、旧日本軍で使われた対戦車用成形炸薬弾の秘匿名称である。

 

ドイツで使われていた物と比べ、威力は落ちているが、それでも四一式山砲で使われた物では、130m以内ならあのマチルダⅡの正面装甲を貫通出来たと言う記録が有る。

 

『私達の根性を見せてやります!!』

 

典子がそう言い残し、八九式は天竺戦車部隊へと突っ込んで行ったのだった。

 

『うう………皆さん! 急いで下さいっ!!』

 

みほは若干苦悩しながらも、アヒルさんチームの気持ちを無駄にしない為、戦車隊を前進させる。

 

「大洗戦車部隊から1両反転。此方に向かってきます」

 

「八九式じゃない。自棄になったのかしら?」

 

自分達の方へと向かって来る八九式の姿を確認した天竺戦車部隊の隊員達が、そんな事を言い放つ。

 

「油断しちゃ駄目よ。アレは自棄っぱちの動きじゃないわ」

 

しかし、ローリエは八九式が自棄になったのでは無いと見ており、全車にそう通信を送る。

 

「さあ行くよっ! 今度こそ本当のバレー部魂を見せてやるんだっ!!」

 

「「「ハイ! キャプテンッ!!」」」

 

アヒルさんチームは再び気合を入れる様に叫び、八九式を加速させた。

 

「そんな戦車! 1発で吹き飛ばしてあげるわっ!!」

 

と、その八九式に向かって、チャレンジャーの1両が主砲を向ける。

 

「撃てぇーっ!!」

 

「アタァックッ!!」

 

そこで、典子の号令であけびが発砲!

 

放たれたタ弾が、主砲を向けていたチャレンジャーの砲塔防楯に命中するっ!

 

「キャアアッ!?」

 

「こんのぉっ! やったなぁっ!!」

 

「お返しよっ!!」

 

しかし、100mm以上の装甲を貫通する事は出来ず、チャレンジャーは反撃とばかりに徹甲弾を発射する!!

 

「右ステップッ!!」

 

「ハイッ!!」

 

だが、八九式は撃った次の瞬間には方向転換を始めており、チャレンジャーが撃った徹甲弾は、先程まで八九式が居た地面を爆ぜさせただけだった。

 

「チイッ! 外れたわっ!!」

 

「任せてっ!!」

 

すると今度は、コメットが側面に回り込みながら砲塔を向ける。

 

「キャプテンッ! コメットが来ますっ!!」

 

「! 忍! 突撃してっ!!」

 

「了解っ!!」

 

典子の指示で、忍は八九式をコメットへ突っ込ませた!!

 

「うわぁっ!? つ、突っ込んで来る!?」

 

「回避! 回避!」

 

突っ込んで来るとは思っていなかったコメットは、慌てて回避しようとする。

 

「ええと、こういう時、何て言うんだっけ………ああ、そうだ! 大洗バンザーイッ!!」

 

だが典子がそう言いながら車内へと引っ込んだ瞬間!

 

八九式はコメットの左側面へと突っ込んだ!!

 

ガシャーンッ!!と言う金属同士がぶつかりあった甲高い乾いた音が響き渡る。

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

コメットの乗員達が、車体に走った激しい振動に悲鳴を挙げる。

 

「クウッ! 砲塔旋回っ!!」

 

しかしすぐに、車長は砲塔旋回の指示を出す。

 

コメットの砲塔が回転するが、密着した八九式に引っ掛かる様にして止まる。

 

「駄目です! 距離が近過ぎます!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

砲手がそう声を挙げた瞬間、八九式は至近距離からタ弾を発射!!

 

だが、発射されたタ弾は、命中して派手に炎を発したものの、コメット砲塔正面の装甲を貫く事は出来なかった。

 

「キャプテン! 駄目です!! 正面装甲じゃタ弾でも無理です!!」

 

「だったらこのまま押せぇっ!!」

 

妙子がそう声を挙げると、典子はそう叫ぶ。

 

その次の瞬間には、八九式がコメットの側面に密着したまま再び前進を始める!

 

「ちょっ!? 引き剥がして!!」

 

「駄目です! 側面から押されて、履帯が!!」

 

離れようとするコメットだが、側面から押されている為、左側の履帯が浮き上がり、上手く脱出出来ない。

 

「行けぇーっ! 突撃アタックだぁーっ!!」

 

典子の叫びと共に、コメットをドンドン押して行く八九式。

 

やがてその先に、急に傾斜している地面が広がる。

 

「ちょっ!? まさか!?………」

 

「殺人スパアアアァァァァーーーーーイクッ!!」

 

コメットの車長が顔を青くした瞬間………

 

八九式は、コメット諸共、傾斜した地面へと突っ込み、2両纏めて急斜面を転がり落ちて行った。

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

コメットの乗員と、アヒルさんチームの悲鳴が響き渡り、やがてコメットは引っ繰り返った状態。

 

八九式は横倒しとなった状態で斜面の下で止まった。

 

その直後に、コメットは車体底面から、八九式は車体側面から白旗が上がった。

 

「大丈夫っ!?」

 

そこで、ローリエが乗ったコメットが斜面の上まで近づいて来たかと思うと、乗員の安否を気遣う。

 

「な、何とか………」

 

「くうぅ………まさか体当たりしてくるなんて………」

 

「見たか! コレがバレー部魂だっ!!」

 

脱出したコメットの乗員がそう声を挙げていると、同じく八九式から脱出したアヒルさんチームの中で、典子が勝ち誇る様にそう言い放つのだった。

 

「………ホントに予想だにしない事をしてくれるわぁ」

 

「フフフ………久しぶりに血が滾って来たよ!」

 

ローリエがマイペースにそう呟くと、操縦席のルウが不敵な笑みを浮かべてそう呟く。

 

「良い試合になって来たわぁ」

 

「でも! 勝つのは私達よ!!」

 

八九式とコメットが回収車に回収されるのを横目に見ながら、ローリエとルウは、残った戦車部隊を引き連れ、再び大洗戦車部隊を追跡し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び天竺戦車部隊から距離を離した大洗戦車部隊は………

 

「みぽりん! アヒルさんチーム、撃破されたよ! でも敵の戦車を1台道連れにしたって!」

 

「ありがとう、バレー部の皆さん………」

 

沙織の報告に、バレー部への感謝を呟くみほ。

 

「もうすぐ例の場所だぞ………」

 

そこで続けて、操縦手の麻子からそう報告が挙がる。

 

やがて大洗戦車部隊は森林地帯を抜け………

 

斜面に棚田が広がっている田園地帯へと辿り着いた。

 

『良し! 此処で天竺戦車部隊を迎え撃ちます! アヒルさんチームの分をカバーしつつ、打ち合わせ通りに展開して下さい!』

 

『ヤヴォールッ!!』

 

『分かりました!』

 

『OK~!』

 

みほが全車へとそう呼び掛け、大洗の戦車部隊は各所へ展開して行く。

 

「それではコレより………『泥んこ作戦』を開始します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

追い付いた天竺戦車部隊が、大洗戦車部隊がやって来ていた斜面に棚田が広がっている田園地帯へ突入して来る。

 

田園地帯へ入った所で、天竺戦車部隊は一斉に停止する。

 

「何か仕掛けてくるとしたら此処ね………」

 

「さあ、如何出て来るかしら?」

 

大洗戦車部隊が仕掛けてくるとすれば此処であると予測を立てるローリエと、大洗戦車部隊が如何いった手で来るかワクワクしているルウ。

 

するとそこで、ローリエ達が乗る戦車の傍に、砲弾が着弾した!

 

「!!」

 

「来たわよっ!!」

 

ルウが反応すると、ローリエが照準器を覗き込む。

 

そこには、茂みに隠れているⅢ突。

 

土手を使ってハルダウンの姿勢を取っているM3リー。

 

斜面の上の方に陣取り、天竺戦車部隊を見下ろす様に位置している38t。

 

そして、天竺戦車部隊に向かって正面から向かって来ているⅣ号の姿が在った。

 

「撃て撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

トリガーハッピーと化している桃が、37mm砲弾を天竺戦車部隊の頭上から次々に見舞う。

 

………しかし、1発も当たらない。

 

「桃ちゃん、ちゃんと狙って撃ってよぉ」

 

「桃ちゃん言うな! ちゃんと狙っているわぁっ!!」

 

「壊滅的だね~」

 

「弾を込める身にもなってよ~」

 

余りにも下手くそな桃の砲撃の腕に、柚子は愚痴る様に呟き、相変わらず喚く桃と、マイペースさを崩さない杏。

 

そして、次弾を次々に込めながら愚痴る蛍だった。

 

「あや! 良く狙って!!」

 

「分かってるよ!」

 

「おりょう! 車体を右へズラしてくれ!」

 

「了解ぜよ」

 

ハルダウンを行っているM3リーの中で梓とあやが、茂みに隠れているⅢ突の中では左衛門佐とおりょうがそんな会話を交わしている。

 

「装填完了!」

 

「撃てっ!」

 

「ハイッ!」

 

そして優花里の装填完了の報告で砲撃命令を出したみほに従い、華が発砲し、Ⅳ号の主砲が火を噴く。

 

「何ぃ? 期待させといて、只の待ち伏せによる一斉攻撃? ガッカリだわ。オマケに1人は凄く下手だし」

 

先程から他の3両と比べ、見当違いの場所ばかりに着弾している38tの砲弾を見ながら、ルウがそう呟く。

 

「ふふふ………反撃しましょうか」

 

と、ローリエがのんびりとした口調でそう言いながら、照準器を覗き込んだかと思うと、引き金を引いた。

 

コメットから放たれた砲弾が、Ⅲ突が隠れていた茂みを吹き飛ばす!

 

「マズイ! 丸見えだぞ!!」

 

「おりょう! 移動しろ!!」

 

「おうぜよ!」

 

カエサルが叫ぶと、エルヴィンがおりょうにそう言い、Ⅲ突は吹き飛んだ茂みの中から飛び出す。

 

「4号車! M3を攻撃して!!」

 

「了解っ!!」

 

更に、チャレンジャーがハルダウンしているM3リーに向かって17ポンド砲の砲弾を放つ!

 

凄まじい衝撃がM3リーに走る。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「やられたぁーっ!!」

 

あやと桂利奈が悲鳴を挙げる。

 

「ううん! まだだよ!!」

 

しかし、直後に梓がそう言い放つ。

 

如何やら狙いが逸れたらしく、M3リーの副砲である37mm砲も砲身が吹き飛ばされている。

 

「助かったぁ~………」

 

「でも如何するの!? コッチの大砲だと、乗り出さないと使えないよ!?」

 

優季が安堵の声を挙げるが、あゆみがそう言う。

 

彼女の言う通り、旋回砲塔の副砲を吹き飛ばされた今、M3リーが使える砲は車載砲塔である75mm砲しかない。

 

一応、左右にも動かせない事は無いが、砲塔に比べて遥かに範囲は狭く、更に車体に直接搭載されている為、撃つ為には姿を晒す必要があった。

 

「確か、隊長達の戦車の大砲も75mmだったよね? それでも弾かれてたけど………」

 

「でもやるしかないよ! 逃げないって決めたんだから!! 西住隊長が作戦位置まで着くまで粘らないと!!」

 

あやがみほ達のⅣ号の砲弾が、天竺戦車部隊に弾かれていたのを思い出してそう言うが、梓は決意を決めた表情でそう言う。

 

「え~い! 破れかぶれだぁ~っ!!」

 

桂利奈がそう叫んでM3リーを稜線から発進させると、天竺戦車部隊に向かって突っ込ませた!

 

「M3が突っ込んで来るわぁ~、気を付けて~」

 

ローリエのノンビリとした口調での注意が飛ぶ中、M3リーはチャレンジャーの1両に向かって突っ込んで行く。

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

紗希を除くウサギさんチームの悲鳴にも似た咆哮が挙がる中、M3リーはチャレンジャーの1両に向かって突っ込みながら、車載の75mm砲を発砲した!!

 

しかし、放たれた砲弾はチャレンジャーの防楯部分に命中し、明後日の方向へ跳ね返される。

 

そして反撃とばかりに放たれたチャレンジャーの17ポンド砲が、M3リーに真正面から命中!

 

突っ込んでいた勢いもあり、M3リーは前方宙返りを決める様に完全に引っ繰り返って、白旗を上げた。

 

「! ウサギさんチームが!?」

 

「クッ! もう少し………」

 

それを見ていたⅣ号の中の沙織が声を挙げる中、みほはⅣ号に突撃を続けさせる。

 

何かを狙っている様に見えるが………

 

「Ⅳ号、尚も接近!」

 

「アッチも破れかぶれ? まるで知波単学園の万歳突撃ね」

 

「残念だけどぉ~、撃破させてもらうわね~」

 

コメットの車長がそう報告すると、ルウがガッカリした様にそう言い、ローリエが容赦無くⅣ号に照準を合わせ、引き金を引こうとする。

 

………と、その時!!

 

コメットに至近弾が着弾する!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

Ⅳ号からの物では無い至近弾の直撃に、ローリエやルウ達が驚く。

 

それは、38tから放たれた砲弾だった。

 

「あ~! 惜しいっ!!」

 

砲手席に着いていた蛍が、照準器を覗き込みながらそう言う。

 

「でも桃ちゃんよりかなりマシだよ!!」

 

「煩い! 何をしてる! 次々撃てぇっ!!」

 

柚子がそう言うと、桃が喚きながら次弾を装填する。

 

「いや~、まさか砲手を交代しただけでこんなに近くへ当てられる様になるとはね~」

 

両手を頭の後ろに組んで席に寝るかの様な姿勢を取っていた杏が、他人事の様にそう言う。

 

そう、実は先程………

 

余りに狙いを外す桃に耐えかねたのか、蛍が自分が撃ってみようかと提案。

 

桃は断固拒否したものの、杏が「良いんじゃな~い」と言った事で、渋々ながらも砲手を交代。

 

そして先程撃ったのが、ローリエ達が乗るコメットへの至近弾となったのである。

 

「了解! よ~し………行くよぉっ!!」

 

気合を入れる様にそう言うと、38tは眼下の天竺戦車部隊へと砲撃を再開する。

 

碌に砲撃訓練を受けていない蛍が撃っている為、やはり命中弾は無いが、それでも桃と比べてかなり至近距離にまで着弾させている為、天竺戦車部隊には連続して振動が襲い掛かっている。

 

………桃の射撃の腕が如何なるものだったかが窺い知れる光景である。

 

「ちょっ!? 何よ、あの38t!? 急に砲撃が上手くなったわっ!!」

 

「あらあら~? 大変ね~」

 

「隊長! もうちょっと緊張感を感じさせる様に行って下さい!!」

 

連続して走る振動にルウがそう叫ぶと、ローリエがノンビリとした口調でそう言い放ち、装填手の子がツッコミを入れる。

 

「! 西住殿! 今ですっ!!」

 

「華さん!」

 

「撃ちますっ!! 一意専心っ!!」

 

その瞬間!!

 

結構な距離まで接近していたⅣ号が、コメット目掛けて発砲した!!

 

しかし………

 

放たれた砲弾は、コメットの正面装甲に弾かれる………

 

「クッ! やったわね! でも装甲は抜けなかったみたいね!!」

 

「コレで本当におしまいよ~」

 

車内に走った振動に耐えながらルウがそう言うと、ローリエは遂に照準器の中にⅣ号を捉える。

 

「………作戦通り!」

 

しかしⅣ号の中のみほは、そんな声を挙げた。

 

その次の瞬間!!

 

先程コメットに弾かれた砲弾が、棚田の部分へと直撃!!

 

衝撃波で土片が舞ったかと思うと………

 

決壊した棚田から、泥水が溢れ出る!!

 

溢れ出た泥水は、忽ち辺り一面に広がって行く。

 

「!? 何ですってっ!?」

 

ルウが驚きの声を挙げていた間に、広がった水によって、アッという間に戦場が泥沼状態となる。

 

「! しまったわぁ! あの子達の狙いはコレだったんだわぁ!!」

 

ローリエもノンビリとしていない口調でそう声を挙げる。

 

『こちら2号車! 泥に足が取られて上手く動けません!!』

 

『4号車、同じく!!』

 

『5号車もです!!』

 

その次の瞬間には、足元が泥沼と化してしまった為、行動に支障が出ていると各チャレンジャーが報告を挙げてきた。

 

「やりました! 『泥んこ作戦』、成功です!!」

 

「やりました! 西住殿!!」

 

「作戦通りだよ、みぽりん!」

 

みほが思わずそう声を挙げると、優花里と沙織が歓声を挙げる。

 

「喜ぶのはまだ早いですよ」

 

「まだ敵を倒したわけじゃないんだぞ」

 

しかしそこで、油断無く照準器を覗き込んだままだった華と、操縦を続けたままだった麻子がそう言って来る。

 

「その通りです………カメさん! カバさん! 一気に勝負を掛けます!! 敵は足を取られて動きが鈍っています!!」

 

『了解だっ!!』

 

『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! 皆殺しにしろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!』

 

『わぁ、桃ちゃんが壊れたぁ………』

 

みほが指示を出すと、エルヴィンの勇ましい返事、桃の狂った様な声と、柚子の呆れた声が返って来た。

 

「麻子さん! 右のチャレンジャーの後ろを取って下さいっ!!」

 

「ほいっ」

 

みほの指示で、Ⅳ号が正面の右側に居たチャレンジャーの後ろを取ろうとする。

 

「マズイ! 早く旋回してっ!!」

 

「だからそれが出来ないんだって!!」

 

チャレンジャーの車長はそう叫ぶが、操縦手は泥沼の中での操縦に苦戦し、真面に戦車を動かせずに居た。

 

しかし、Ⅳ号はその泥沼の中をスイスイと進んで行く。

 

「ヴィンターケッテが役に立ちましたね!」

 

優花里が成形炸薬弾を装填しながらそう言い放つ。

 

そう………

 

Ⅳ号は予め、この作戦の為に、工兵達によって履帯をヴィンターケッテへと換装しておいたのである。

 

そのお蔭で、泥沼の中でも通常履帯の天竺戦車部隊より動けているのだ。

 

そうこうしている間に、Ⅳ号は泥沼に足を取られて真面に動けないで居た1台のチャレンジャーの背後に回り込む。

 

「撃てっ!!」

 

チャレンジャーは砲塔を回して対応しようとしたが、それよりも早くⅣ号が発砲!

 

成形炸薬弾が、チャレンジャーの砲塔側面に命中。

 

砲塔側面から一瞬炎が上がり、黒煙が立ち上り始めたかと思うと、チャレンジャーの上部に撃破を示す白旗が上がった。

 

「やったよぉっ!!」

 

「後3両!!」

 

沙織が歓声を挙げるが、みほは冷静に指示を出し続ける。

 

「クウッ! 2号車が!?」

 

「このぉっ! 2号車の仇!!」

 

するとそこで、別のチャレンジャーが仲間の仇を討とうと砲塔を旋回させ、Ⅳ号を狙う。

 

だがそこで、背後から飛んで来た砲弾が車体後部へと着弾!

 

「「「「「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

乗員達の悲鳴が響く中、エンジン部分から黒煙が上がり、白旗が上がる。

 

「良し! 撃破したぞ!!」

 

「疾きこと風の如くだ!!」

 

その砲弾を撃った主………Ⅲ突の中で、カエサルと左衛門佐がそう歓声を上げる。

 

「コレで後2両!!」

 

と、エルヴィンがそう声を挙げた瞬間!

 

Ⅲ突の傍に砲弾が着弾する!!

 

「!?」

 

「調子に乗るんじゃないわよっ! 次弾装填急いで!!」

 

残る1両のチャレンジャーからの砲撃だ。

 

「装填完了っ!」

 

「よおしっ! 喰らえぇっ!!」

 

再度Ⅲ突に向かって砲撃するチャレンジャー。

 

「! おりょうっ!!」

 

「ぜよぉっ!!」

 

エルヴィンの声を、ギアをバックに居れて思いっきりアクセルを踏むおりょう。

 

Ⅲ突が勢い良く後退すると、先程までⅢ突が居た場所にチャレンジャーの砲弾が着弾する。

 

そのまま左へ車体を切ると、そのままバックで進むⅢ突に向かってチャレンジャーは砲撃を続ける。

 

「クウッ! 射線が取れない!!」

 

自走砲故に、正面を向かなければ攻撃が出来ないⅢ突は逃げ回るしかなく、左衛門佐は苦い表情を浮かべる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

その間に、チャレンジャーは完全に照準器内にⅢ突を捉え、砲手がトリガーを引こうとする。

 

だが、その瞬間に、車体側面へ命中!!

 

砲弾が命中した部分から煙が上がる中、白旗が上がる。

 

「カバさんチーム! 大丈夫ですか!?」

 

最後のチャレンジャーを仕留めた本人………あんこうチームのⅣ号から、Ⅲ突へそう通信が送られる。

 

「西住隊長! すまない! 助かっ………」

 

た、と言おうとした瞬間!

 

Ⅲ突の側面に砲弾が命中!!

 

派手に爆炎が見えたかと思うと、Ⅲ突から白旗が上がった。

 

「!?」

 

すぐにみほはペリスコープ越しにⅢ突を仕留めた砲弾が飛んで来た方向を確認する。

 

そこには、砲口から白煙を上げているローリエとルウが乗車しているコメットの姿が在った。

 

「やってくれるじゃない! まさか一気に3両も撃破されるなんてね!!」

 

「うふふ、ちょっと見くびっていたかもね~………でも、まだ負けたワケじゃないわよ」

 

コメットの中でルウとローリエがそう言い合ったかと思うと、コメットが再び発砲する!

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の目の前に着弾し、大きく土片を舞い上げる。

 

「キャアッ!?」

 

「やっぱり簡単には行かないか………麻子さん! 兎に角動いて如何にか後ろを取って下さい!!」

 

「分かった………」

 

沙織が悲鳴を挙げる中、みほは麻子にそう指示を出し、Ⅳ号を再び走らせる。

 

「逃がさないわよ~」

 

と、ローリエはノンビリとした口調で、装填が完了する度にⅣ号へ向かって発砲する。

 

その全てが至近弾であり、Ⅳ号は振動で車体が揺さぶられ、徐々にボディに細かな傷が着いていく。

 

「敵の砲手は凄い腕です!」

 

「負けませんっ!」

 

優花里がそう声を挙げると、華が照準器越しにコメットを見据えて引き金を引く。

 

しかし、走りながら撃った為、放たれた砲弾はコメットの頭上を飛び越え、泥沼の中へ埋没する。

 

「装填完了!」

 

「貰ったわ~!」

 

その間に、次弾装填完了の報告を聞いたローリエが、Ⅳ号に照準を合わせる。

 

ペリスコープ越しにコメットを見ていたみほは、コメットの砲身が完全な円形になっているのを目撃する。

 

「! 駄目! 直撃コース!!」

 

「「「「!?」」」」

 

みほの叫びに、あんこうチームの顔に戦慄が走る。

 

「撃………」

 

て、とローリエが言おうとした瞬間!!

 

コメットの車体の上で、何かが連続で弾かれる様な音が響く!!

 

「!? 何っ!?」

 

その音に気を取られ、砲撃を中止してしまうローリエ。

 

音の正体は、突撃して来ている38tの、砲塔に備え付けられた7.92mmMG37(t)重機関銃の銃弾だった!!

 

「良し! 機銃が当たってる!!」

 

「コレなら当てられる!」

 

蛍と柚子がそう声を挙げ、38tは速度を上げて更に突っ込んで行く!

 

「先にアッチね~………ルウ」

 

「了解!」

 

それを見たローリエは、38tを先に倒すべきだと判断し、ルウに声を掛ける。

 

ルウは泥沼の中で如何にか戦車を旋回させようとする。

 

砲塔の回転だけでは間に合わないと判断し、車体を回転させて対応する積りの様だ。

 

「敵戦車、動いてる!」

 

「大丈夫! コッチの方が早い! 桃ちゃん! 装填っ!!」

 

「任せろ!!………!? ああっ!?」

 

と、装填を行おうとしていた桃が、大声を挙げた。

 

「!? 如何したの!?」

 

「………ほ、砲弾が………もう………無い………」

 

蛍が尋ねると、桃は青い顔をしてそう報告する。

 

「「………えっ?」」

 

その報告に、蛍と柚子が思わず間の抜けた表情をしてしまった瞬間………

 

コメットが発砲し、徹甲弾が38tの車体正面に直撃!!

 

軽戦車の装甲では防ぎきれず、撃破の白旗が上がる。

 

「や~ら~れ~た~っ!」

 

杏の呑気そうな声が響き渡る。

 

「次! Ⅳ号!!」

 

「装填急いでっ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

それを碌に確認する間も無く、コメットはⅣ号への対応に移る。

 

しかし、既にⅣ号はコメットの後ろを取ろうとしていた!

 

「クッ! 後ろを取られる!!」

 

「狙いを着けられる!!」

 

ローリエとみほは、お互いに相手の方が早いと感じる。

 

「「お願い………間に合ってっ!!」」

 

2人が同時にそう叫んだ瞬間!!

 

Ⅳ号はコメットの背後を………

 

コメットはⅣ号に砲を向ける事に成功するっ!!

 

「「!! 撃てぇっ!!」」

 

ほぼ同時に射撃命令が下り、Ⅳ号とコメットが発砲!!

 

発射された砲弾が触れ合いそうになる位の至近距離を交差し、Ⅳが撃った砲弾はコメットの車体後方・エンジンルームへ………

 

コメットが撃った砲弾は、Ⅳ号の砲塔基部へと命中した!!

 

爆発と共に黒煙が上がるⅣ号とコメット。

 

そして、撃破を示す白旗が両方の車両に上がる。

 

「ど、如何なったの?」

 

「ほぼ同時に着弾した様に見えましたけど………」

 

車内に走った衝撃から立ち直った沙織と優花里がそう言い合う。

 

「…………」

 

みほはジッと審判達の判断を待つ。

 

すると………

 

『そこまで! 試合終了っ!!』

 

レミの試合終了を告げるアナウンスが戦場に響き渡る。

 

『只今の記録を確認したところ………大洗のⅣ号と天竺ジョロキアのコメットが撃破されたのは全くの同時で有る』

 

そして、Ⅳ号とコメットの撃破がまるで同時であった事を告げる。

 

「同時………」

 

「そ、その場合は如何なるの!?」

 

華が呟くと、沙織が不安そうにそう言う。

 

「確か、公式戦の場合は両チームのフラッグ車か、隊長車による一騎打ちが行われますが………今回は練習試合ですし」

 

と、優花里がそう言っていた瞬間………

 

『本来ならば両チームの代表戦車同士による一騎打ちを行うところだが、今回は練習試合の殲滅戦ルールである………よって『引き分け』とする!!』

 

レミの声で、そうアナウンスが流れた。

 

「引き分け………」

 

「やったね! みぽりんっ!!」

 

みほが呟くと、沙織が笑みを浮かべてそう言って来る。

 

「喜ぶ様な事か。勝ったワケじゃないんだぞ」

 

「でも! 負けたワケでもないじゃない!!」

 

麻子がそうツッコミを入れてくるが、沙織は反論する。

 

「確かに………勝ってもいませんが、負けてもいないですね」

 

「そうですよ! この前のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との試合を顧みれば、コレは十分過ぎる戦果ですよ!!」

 

華がそう言うと、優花里がやや興奮した様子で声を挙げる。

 

「………そうだよね。うん!」

 

そこでみほも、笑顔を浮かべてそう言った。

 

『只今より、両戦車部隊の回収を行う。無事な歩兵は自力にて試合開始地点へ集結。その際に、可能な物があれば放棄した武器・弾薬を回収する事』

 

そうレミのアナウンスが流れ、試合が終了する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊に取って2戦目となった、天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合は………

 

引き分けで幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗戦車隊VS天竺戦車隊の戦い。
一進一退の攻防の末………
引き分けに終わりました。
やはり最初の勝利はサンダース戦でと思ってますので。
次回は、天竺ジョロキア機甲部隊との交流会をお送りする予定です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第19話『学園艦訪問です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第19話『学園艦訪問です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竺ジョロキア機甲部隊との戦いは引き分けに終わった………

 

またも勝ち星を挙げる事は叶わなかったが、強豪校を相手に引き分けに持ち込めた意味は大きく………

 

大洗機甲部隊にとって、良い経験となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂の故郷・練習試合の会場………

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

開始の挨拶をした場所へ集合した大洗と天竺ジョロキアの機甲部隊の面々が、レミの声で互いにお礼を言いながら頭を下げる。

 

「両者、良い試合でした。今後も練習に励み、より戦車道、並びに歩兵道を究めんとする事を期待します………以上! 解散!!」

 

そう言って場を締めると、レミたち審判は、帰路へと就いて行った。

 

「ハアァ~~、ドッと疲れたぜぇ~」

 

本当に疲れた様子でそう言い、大きく息を吐き出す地市。

 

「西住総隊長、申し訳ありません………肝心な場に参戦出来ず、引き分けに終わってしまうとは………」

 

「ううん、そんな事無いよ。舩坂くん達がジョロキア歩兵部隊を食い止めていてくれたから、私達は戦車戦に集中する事が出来たんだよ」

 

引き分けに終わってしまった事に責任を感じ、みほに謝る弘樹だが、みほは弘樹のお蔭で引き分けに持ち込めたのだと言う。

 

「でも、引き分けは勝ちじゃねえぜ。今度こそ白星を上げられると思ったのによぉ」

 

そこで白狼が愚痴る様にそう言って来る。

 

「………白狼。何でずぶ濡れなんですか?」

 

とそこで、飛彗が白狼がずぶ濡れ状態な事を指摘する。

 

「………聞くな」

 

しかし、白狼はそう返すだけだった。

 

あの後………

 

象によって川に叩き落された白狼は、暫く流された後、下流の浅瀬から上陸し、再び戦場に戻ったのは全てが終わった後だった。

 

(チキショウ………折角自転車を使ったってのに………このざまかよ………)

 

内心で、またも碌に活躍出来なかった自分に腹を立てている白狼。

 

とそこで………

 

「こんにちはぁ~」

 

「ちょっと良いかしら?」

 

ローリエとルウを先頭に、ターメリック、キーマ、ガラム、マサラが大洗機甲部隊の元へとやって来る。

 

「あ、ローリエさん………」

 

「良い試合だったわよ~、西住ちゃん。まさかあんな作戦で来るとは思わなかったわぁ~」

 

「ホント、してやられたって感じね」

 

みほが反応すると、ローリエとルウはそんな台詞を言う。

 

「いえ、そんな………偶々運が良かっただけで………」

 

「謙遜しなくて良いわ~。貴方の作戦勝ちよ~」

 

恐縮する様なみほに向かって、ローリエは相変わらずのノンビリとした口調でそう言う。

 

「フフフ、次に戦う時は負けないわよ。再戦を楽しみにしてるからね」

 

「な、何だか、性格変わってない?」

 

屈託無く笑うルウを見て、混線時にルウの荒々しい台詞を聞いていた沙織がそう指摘する。

 

「ああ、私戦車に乗ると興奮しちゃう体質でね。ちょっと荒々しくなっちゃう癖があるの」

 

「ああ~、納得」

 

「ちょっ!? 武部殿! 何でそこで私を見るんですか!?」

 

ルウのその回答を聞いた沙織は、優花里を見ながら何処か納得が行った様な表情となる。

 

一方、歩兵部隊同士の方では………

 

「チキショー、まんまとしてやられたぜ」

 

一方、悔しそうながらも笑みを浮かべてそう言うキーマ。

 

「流石だな、舩坂 弘樹。私はお前と戦う事に固執した余り、戦車部隊の守りを疎かにしてしまった。だが、お前は飽く迄歩兵としての任務を全うした………」

 

「言った筈だ………可能な事を出来うる限り実行すると………今回の戦いは運が良かった………我々の足止めを気にせず、強行突破して戦車部隊と合流されてしまえば負けていただろう」

 

ターメリックも、弘樹に向かってそう言い放つが、弘樹へ冷静に淡々とそう返す。

 

「いや、歩兵の使命を忘れてしまった我々のミスだ………素晴らしい戦いぶりだったぞ」

 

そう言って、ターメリックは弘樹に向かって手を差し出す。

 

「…………」

 

弘樹は無言でその手を取り、握手を交わす。

 

「フッ………」

 

「フフ………」

 

そして両者とも、微かな笑みを浮かべるのだった。

 

「ところでぇ~。大洗の学園艦は今停泊中なんですかぁ~?」

 

と、そこで………

 

ローリエが不意に、そんな事を尋ねる。

 

「えっ? あ、ハイ。今は大洗に停泊中ですけど………」

 

「アラ~、そうなの~………じゃあ、良かったら交流会をやらない?」

 

みほが反射的にそう答えると、ローリエはそう提案する。

 

「交流会?」

 

「私達貴方達の事、すっかり気に入っちゃったのよ~」

 

「だから、貴方達を私達の学園艦に招待しようと思ってね」

 

首を傾げるみほに、ローリエとルウがそう説明する。

 

「おお~、良いね~。じゃあ、是非ともお呼ばれしようか」

 

即座に、杏がノリノリの様子で賛同を示す。

 

「ふむ、皆は如何思うかね?」

 

そして迫信の方は。大洗機甲部隊の方を向いてそう尋ねる。

 

突然の事に、大洗機甲部隊の面々は戸惑いを浮かべる。

 

「今なら美容に良く聞くヨガの無料体験が出来るわよ~」

 

そんな大洗機甲部隊の様子を見ると、ローリエがまるで何かのセールスの様な台詞を言う。

 

「!? 行きますっ!! 是非やりましょう!! 交流会っ!!」

 

「「「「「「さんせーいっ!!」」」」」」

 

と、その一言を聞いた途端、沙織とウサギさんチームが目の色を変え、賛成の意を挙げた。

 

「他には、そうだな………本場インド仕込みのスパイスから調合したカレーもあるぞ」

 

「!! 本場のカレーっ!?」

 

「マジかよ!!」

 

「うわぁー! 食ってみてぇっ!!」

 

そしてキーマの方も、大洗歩兵部隊のメンバーに向かってそんな事を言い、食い意地が張っている大洗歩兵部隊のメンバーも、ノリノリで賛同し始める。

 

「うふふふ………」

 

と、そんな大洗歩兵部隊の面々に混じって、良い笑顔で居る華。

 

如何やら、彼女は美容のヨガより、本場のカレーの方が楽しみなようである。

 

「決まりね! じゃあ、明日私達の学園艦を大洗に入港させるから、待っててね!」

 

「ハイ! 楽しみにしてます!!」

 

最後にルウとみほがそう言い合って、両機甲部隊は一旦解散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、大洗機甲部隊のメンバーは………

 

戦車を神大コーポレーション傘下のPMCが用意したドラゴンワゴンで先に大洗へ返すと、乗って来た観光バスで、湯江達を迎えに村役場へと向かった。

 

「お帰り、弘樹くん!」

 

「皆も頑張ったなぁ! いや~、凄い戦いだったべさ!」

 

「んだんだ! あんなすげぇ試合、久しぶりに見ただ!!」

 

村役場に着いた途端、大洗機甲部隊のメンバーは弘樹を中心に、村人達から称賛の声を浴びせられる。

 

「あ、あの、えっと、その………」

 

「いえ、折角応援していただいたのに………勝つ事が出来なくて、申し訳ありません」

 

戸惑うみほと対照的に、弘樹は冷静な態度のまま、村人に向かって頭を下げて謝罪する。

 

「な~に言ってるべぇ! 弘樹くん達は十分過ぎるほど戦ったべ!!」

 

「んだ! 何も恥じる事さねえ! 引き分けだって十分な結果だべ!!」

 

「………ありがとうございます」

 

故郷の村人達の温かい言葉に、弘樹の顔にも笑み(と言っても微笑だが)が浮かぶのだった。

 

「湯江ちゃん、また何時でも帰って来て良いからね」

 

「そうよ。此処は湯江ちゃんと弘樹くんの故郷なんだから。何も遠慮する事なんてないわ」

 

「ハイ。ありがとうございます、皆さん」

 

一方、湯江の方も、名残惜しそうにしている村人1人1人と笑顔で挨拶を交わしている。

 

「遥ちゃん、レナちゃん。湯江ちゃんの事、よろしくね」

 

「ハイ、小母さん!」

 

「色々とお世話になりました」

 

遥とレナも、村人達とにこやかに挨拶を交わす。

 

「この度は本当にありがとうございました」

 

「いえいえ。村の皆も大いに盛り上がらせてもらいましたよ。全国大会も頑張って下さい」

 

「期待しててね~」

 

迫信と杏も、村長にお礼と挨拶を行う。

 

「また何時でもいらっしゃい」

 

「ハイ。皆さんもお元気で」

 

みほ達も、村人達に別れの挨拶を告げる。

 

「それじゃあ~、帰ろうか」

 

と、やがて挨拶が一通り終わると、杏が場を纏める様にそう言ったが………

 

「あ、角谷先輩。申し訳ないのですが、帰る前に1つ寄って頂きたい場所があるのですが………」

 

弘樹がそんな事を言って来た。

 

「えっ? 寄り道?」

 

まさか弘樹がそんな事を言うとは思っていなかった杏は、少し驚いた様な様子を見せる。

 

「ふむ、成程………」

 

対照的に、迫信は弘樹の心中を察し、納得が行った様な表情となっている。

 

「角谷さん。私からもお願いします」

 

とそこで、湯江も杏に向かってそう頼み込んで来た。

 

「あ~、うん、まあ良いよ。それじゃあ、何処に寄れば良いのかな?」

 

「それは………」

 

弘樹は、杏に行先を告げる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂の故郷・墓地………

 

弘樹と湯江が寄って欲しいと頼んだ場所………

 

それは墓地だった。

 

「すみません。少し待っていて下さいね」

 

「ご迷惑をお掛けします」

 

「良いって、良いって、気にしないで~」

 

「君には何時も世話になっているからね。これぐらいの事はしてやっても罰は当たらないさ」

 

墓地の横に着けて止まったバスから降りた湯江と弘樹がそう言うと、バスに乗ったままの杏と迫信がそう返す。

 

「行くぞ、湯江」

 

「ハイ、お兄様」

 

弘樹と湯江は、そのまま墓地の中へと入って行く。

 

「………そっかぁ。舩坂くんの家族って………」

 

「…………」

 

その後ろ姿を、バスの窓越しに見ながら、沙織が以前に弘樹達の家を尋ねた時に2人の肉親が亡くなっている事を知ったのを思い出し、麻子も思うところが有る様な眼で見ている。

 

「私も舩坂軍曹のお墓参りはしたかったですが………今回ばかりは自重です」

 

「そうですね………此処は2人だけで行かせてあげた方がよろしいでしょう」

 

「…………」

 

優花里と華がそう言い合い、みほは悲しげな表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

墓地の中を少し歩いた弘樹と湯江は………

 

やがて『舩坂』と書かれた墓石の前へと辿り着く。

 

「「…………」」

 

2人して墓石の前に座り込むと、目を瞑って手を合わせる。

 

「お父様、お母様、お爺様………御無沙汰しております」

 

「御先祖様………墓参りが遅れ、申し訳ありません………」

 

目を瞑ったまま、湯江と弘樹は墓石に向かって語り掛ける。

 

「私達は元気にしています………学校の友達やご近所の皆さんも皆良い人ばかりです」

 

「どうか心配しないで下さい………」

 

そこで目を開け、近況を報告し始める。

 

「御先祖様………小官は今、大洗機甲部隊の一員として歩兵道を歩み続けています」

 

「その機甲部隊の総隊長さんが、あの西住流のお方なんです」

 

「かつてご先祖様が守った戦車部隊の指揮官を務めていたのが西住流の開祖の方………何とも奇妙な縁もあるものです」

 

話題はやはり、歩兵道、そして戦車道の事となる。

 

「コレまでに2回ほど練習試合を熟しました。結果は1敗1引き分けと芳しくありませんでしたが………ですが、次は必ず勝利して見せます。御先祖様の名に掛けて、コレ以上醜態を晒す積りはありません」

 

墓石に向かってそう決意を表明する弘樹。

 

「………お兄様、そろそろ………」

 

「おっと、そうか………早々な挨拶で申し訳ありませんが、何分忙しい身ですので………お許し下さい。コレで失礼致します」

 

そこで立ち上がった湯江に呼び掛けられ、弘樹は立ち上がると、そのまま2人揃って墓を後にする。

 

と、その時………

 

立ち去って行く弘樹と湯江の背後に………

 

大日本帝国陸軍の戦闘服を着た半透明な人物が現れた。

 

しかし、弘樹と湯江は気づかない。

 

「…………」

 

半透明の人物は、無言で弘樹と湯江を見送り、やがて敬礼をしたかと思うと、そのままスーッと消える………

 

「………?」

 

そこで弘樹が何かに気付いた様に振り返ったが、背後には誰もいない状態となっていた。

 

「?………」

 

首を傾げつつも気のせいだと思い、改めて墓地を後にする弘樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

大洗学園艦が停泊している大洗港に、天竺女学院とジョロキア男子高校の学園艦が入港した。

 

聖グロリアーナとブリティッシュの学園艦と同じくらいの大きさであったが、甲板に広がっている街並みは、インドやタイを思わせる街となっている。

 

天竺女学院とジョロキア男子高校は、丁度艦の中心部分に並んで建てられており、事実上同一敷地内に存在していた。

 

「うわあ~、凄~い」

 

「まるで本当に外国に来たみたいですね」

 

早速天竺女学院とジョロキア男子高校を訪れた大洗のメンバーの中で、沙織と華が感嘆を漏らす。

 

「ヒューッ! イカスねぇ」

 

「学園艦は世界に羽ばたく人材を養成する目的で建造されたので、他国をモチーフにする事が多いと聞いたが、此処までとはな………」

 

俊が軽口を叩き、本格的に外国を再現している風景に、十河がそんな薀蓄を呟く。

 

「私、他の学校の学園艦に来たのって初めて」

 

「自分もッス!」

 

あやがそう言うと、正義が若干テンションが上がっている様子でそう返事を返す。

 

「………少し天気が悪いな」

 

「うん………雨が降りそうだね」

 

しかし、弘樹とみほは、曇り空の空模様を見上げ、心配そうにそう呟く。

 

「………遅いですね、白狼」

 

「アイツ偶にフラリとどっかに居なくなるよなぁ」

 

「大丈夫かいなぁ? この前の試合の時、何や塞ぎ込んでたみたいやけど………」

 

そんな中、中々姿を見せない白狼を、飛彗、海音、豹詑が心配する。

 

「お待たせ~」

 

「よく来たな………」

 

とそこで、大洗機甲部隊の面々の前に、学生服姿のローリエとターメリックが現れた。

 

「やあやあ、ローリエちゃん」

 

「お招き、感謝するよ」

 

杏と迫信が代表する様に一同から抜け出て、杏がローリエと、迫信がターメリックと握手をする。

 

「いいえ~、こちらこそ~、よく来て下さいました~」

 

「今日は天竺、そしてジョロキア流のやり方で存分にもてなさせてもらう」

 

そう言って笑みを浮かべるローリエとターメリック。

 

と、その時………

 

「!? キャッ!?」

 

みほが首の後ろに何か冷たい物が当たった感覚がし、思わず声を挙げてしまう。

 

「? みぽりん?………あ!」

 

「雨………ですね」

 

沙織が声を掛けると、雨がパラつき出し、華も空を見上げてそう呟く。

 

「アラ、大変………皆! 早く校舎に入って~」

 

ローリエがそう促すと、大洗機甲部隊の面々は、急いで天竺女学園の校舎に向かって駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

天竺女学園の1室にて………

 

「は~い、コレが美容に効くヨガのポーズよ~」

 

そう言って、本当に人間に可能なのかと思える高度なポーズを取って見せるローリエ。

 

「く、苦しい~っ!」

 

「キツイよぉ~っ!」

 

余りに高難易度なポーズに、参加しているウサギさんチームの面々から悲鳴が挙がる。

 

「ホラホラ! そんな事じゃ美人なんてなれないわよ!!」

 

涼しい顔で同じポーズを取っていたルウが、そんなウサギさんチームの面々に向かってそう言い放つ。

 

「ま、負けるもんかぁ~………私のモテ道は、こんなもので途切れたりしないんだからぁ~」

 

そんな中、恋に恋する乙女、沙織は根性を見せ、顔を真っ赤にしながら同じポーズを取って見せる。

 

「あら~? 武部さん、お上手ですよ~」

 

「そ、そう?」

 

「ええ~、そこまで出来るなんて驚きですわ~」

 

「じゃあ、もっと高難易度なポーズにチャレンジしてみようか?」

 

「!?………」

 

もっと高難易度と言われ、戦慄する沙織。

 

今、彼女の脳内では、モテ道と防衛本能が激しい鬩ぎ合いを展開している。

 

「如何します~、武部さん~?」

 

「………お、お願いしますっ!!」

 

やがてやや葛藤したらしき間が有って、沙織は自ら危険へと飛び込んで行く。

 

「は~い。それじゃあ………超上級者向けのポーズで行ってみましょうかぁ~」

 

その後………

 

沙織とウサギさんチームの悲鳴が、天竺女学園中に響き渡ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

天竺女学園とジョロキア男子校の共通食堂の方では………

 

「さあ! 特製のカレーだ! 遠慮無く召し上がれっ!!」

 

「「「「「「「「「「頂きまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

キーマのそう言う台詞が響いたかと思うと、大洗歩兵部隊の面々を中心に、食堂に集まった面子が、出されたカレーに手を付け始める。

 

「! ウメェッ!!」

 

「コレは!!………美味しいです!!」

 

1口食べた瞬間に、その味に舌鼓を撃つ地市と楓。

 

「うーまーいーぞぉーっ!!」

 

「凄い!! 親分が口から光線を吐いて、巨大化していく!!………様な雰囲気!!」

 

「だが、それも当然と言うべきインパクト!」

 

大河も、余りの美味さに何処ぞのトンでもグルメアニメに出て来るキャラの様なリアクションを取る。

 

「お代わりは沢山あります!」

 

「遠慮しないで食べて下さい!」

 

そんな大洗の一同に向かって、カレーの入った小学校の給食室に有りそうな大鍋の傍に着いていたガラムとマサラがそう言い放つ。

 

「コレは………美味いな」

 

弘樹も、他のメンツの様に派手なリアクションは取っていないが、天竺・ジョロキアのカレーに満足げな様子を見せていた。

 

「気に入ってもらえた様で光栄だ」

 

と、そんな弘樹の傍に、ターメリックが姿を見せる。

 

「ターメリック歩兵隊長………」

 

立ち上がって敬礼をしようとした弘樹だったが、ターメリックがそれを制す。

 

「今回の練習試合………我々にとっても得る物が非常に多かった。こんなに熱くなった試合をしたのは久しぶりだよ」

 

「………光栄だ」

 

「全国大会には出場する積りか?」

 

「無論だ………」

 

ターメリックの事を真っ直ぐに見据えてそう返す弘樹。

 

「そうか………もし再び戦う事になったら………今度は我々が勝たせてもらう」

 

「残念だが………そうは行かないさ」

 

「フッ………」

 

「フフフ………」

 

2人は互いに、不敵に笑い合うのだった。

 

 

 

 

 

「う~ん、美味しい~っ!」

 

食堂の方へと来ていたみほも、天竺・ジョロキアのカレーに思わずほんわか笑顔になっている。

 

「本当! 美味しいですね、西住殿!」

 

「美味いな………」

 

「ホント、美味しいです」

 

傍に居た優花里、麻子、華も同意する。

 

尚、華のカレーの量が明らかに大盛り以上だが、何時もの事なので気にしてはいけない。

 

「あら~、良い笑顔ね~」

 

とそこで、ローリエが現れてそう言って来た。

 

「あ! ローリエさん。沙織さん達は?」

 

「う~ん、ちょっと無理しちゃったのかしらね~。今医務室で休んでるわぁ~」

 

「あ、アハハハハ………」

 

「美容に良いヨガをやって身体を壊していては本末転倒だな………」

 

ローリエの言葉にみほは乾いた笑いを漏らし、麻子は毒舌を吐きながら再びカレーを頬張る。

 

「ところで~、みほちゃん~」

 

「? 何ですか?」

 

「貴方………迷ってるわね」

 

「!?」

 

突然のローリエの言葉に、みほは驚いて目を見開く。

 

「去年の事は私も知ってるわ。別にそれで貴方の事を責める積りは無いけど………迷いを抱えたままで戦えるの?」

 

「それは………」

 

真剣な表情でそう言うローリエに、みほは言葉が出て来ない。

 

「あ、貴方! 西住殿に何を!!………」

 

とそこで、優花里がローリエに噛み付こうとする。

 

「あら~、ゴメンなさい。私ったら~、またやっちゃったみたいで~」

 

するとそこで、ローリエは何時ものノンビリとした口調と雰囲気に戻る。

 

「まあ、心配は無いと思うわよ~。だって貴方には素敵なお友達が沢山居てくれるからね~。1人で抱え込んじゃ駄目よ~」

 

「! ハイ! ありがとうございます!」

 

そう言われて、みほはローリエに向かって感謝する。

 

「うふふ、それに………素敵なボーイフレンドくんも居てくれるみたいだしね~。まあ、ターメリックの方が良い男だけど~」

 

とそこで、ローリエはやや離れた場所にて話し合っている弘樹とターメリックの姿を見ながらそんな事を言った。

 

「ふええっ!?」

 

ボーイフレンドと言う言葉を聞いて、忽ち頬を赤く染めるみほ。

 

「………今の台詞から察するに」

 

すると麻子が、何かに気付いた様にそう言う。

 

「ええ~、そうよ~。私とターメリックは付き合ってるの~」

 

アッサリと麻子の予想を肯定するローリエ。

 

「因みに~、妹のルウもキーマと付き合ってるのよ~」

 

沙織が居れば食いつきそうな話ではあるが、生憎本人は現在保健室である。

 

「…………」

 

とそんな中で、みほ達の近くに居た飛彗が、何やら考え込んでいる様子を見せている。

 

出されているカレーにも手を付けていない。

 

「? 宮藤さん? お身体の具合でも悪いのですか?」

 

そんな飛彗の姿に気付いた華(既にお代わり3杯目に突入)が声を掛ける。

 

「いえ………白狼の事が気になって………」

 

「神狩さん? そう言えば………お姿を見ませんね」

 

飛彗にそう返されて、華は初めて白狼の姿が無い事に気付く。

 

「………すみません。僕ちょっと探してきます」

 

と、居ても立っても居られなくなったのか、飛彗は席を立つ。

 

「あ、宮藤さん!………」

 

華が呼び掛けるが、飛彗は振り返らず、食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、飛彗は大洗の学園艦に帰還。

 

大洗国際男子校・学生寮の、白狼の部屋を訪ねた。

 

「………留守ですか」

 

しかし、何度呼び鈴を押しても反応が無く、留守であると判断する。

 

「他に行きそうな場所と言うと………」

 

白狼が行きそうな場所について考えていると………

 

飛彗の肩に1羽の小鳥が止まった。

 

「ん? 如何したんですか?」

 

その小鳥に話し掛ける飛彗。

 

小鳥はピヨピヨと飛彗に向かって鳴く。

 

「えっ!? 本当ですか!? ありがとうございます、行ってみますね」

 

と、まるで小鳥と会話していたかの様な台詞を言うと、飛彗は最初の校内練習試合で使った学園艦の山岳地帯へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・山岳地帯………

 

雨脚が強くなる中、飛彗は傘も差さずに白狼の姿を追い求める。

 

「確か、この辺の筈ですけど………」

 

土砂降りの中、辺りをキョロキョロと見回す飛彗。

 

すると………

 

「うおわぁっ!?」

 

男性の物と思われる声と、何かが滑った様な音が聞こえて来た。

 

「! 白狼!」

 

その声の主が白狼であると識別した飛彗は、声が聞こえた方へ走り出す。

 

やがて、その視界に白狼らしき人物の姿が飛び込んで来る。

 

「白………!!」

 

声を掛けようとした飛彗だったが、白狼の姿を良く見てそれを止め、木の陰へと隠れる。

 

「ハア………ハア………チキショウめ!」

 

白狼は泥と擦り傷に塗れた身体で、フレームが歪み始めている自転車を押していた。

 

周りには、自転車に乗ったまま転倒して出来たと思われる跡が、幾つも出来ている。

 

「………! フウッ!!」

 

と、自転車に跨ると同時に地面を蹴って発進する白狼。

 

そのまま土砂降りの雨の中、ジャンプを決めようとしたが………

 

「!? おうわっ!?」

 

着地に失敗し、派手に転倒する。

 

「くうっ!!」

 

しかし、すぐに起き上がるとまた自転車を扱ぎ出す。

 

その表情には鬼気迫るものがあった。

 

「白狼………」

 

そんな白狼の姿に、飛彗は声を掛けられなかった。

 

(やっぱり2度も碌な活躍が出来なかった事が相当堪えてるんだ………白狼、人一倍負けず嫌いだから………)

 

「おうわっ!?」

 

飛彗がそう思っていると、白狼が再び転倒する。

 

「負けるかぁっ!」

 

だが、またすぐ起き上がると、再び自転車を扱ぎ出す。

 

「…………」

 

その光景を暫し見ていた飛彗だったが、やがて踵を返して、その場から去って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

大洗国際男子高校・屋内射撃訓練場にて………

 

戦闘服を着込んだ飛彗が、モシン・ナガンを手に、射撃ブースに就いている。

 

(白狼が頑張っているのに………僕が頑張らないワケには行かない!)

 

そう思うとモシン・ナガンを構え、射撃の練習を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹に、みほに、白狼に、飛彗に………

 

様々な思いを残し、2回目の戦い………

 

天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合は幕を閉じた。

 

昨日の敵は今日の友………

 

天竺女学園とジョロキア男子校との交流に大いに心を躍らせた大洗機甲部隊のメンバー。

 

そして遂に………

 

戦車道・歩兵道の………

 

『全国大会』が開催されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

天竺ジョロキア機甲部隊との対戦を終え、弘樹の故郷を後にする大洗機甲部隊。
そして、天竺ジョロキア機甲部隊との交流の中、1人特訓をする白狼。
そんな白狼に触発されて、自分も特訓する飛彗。
そしていよいよ………
戦車道&歩兵道の全国大会が始まります。
ですが、少々サンダース戦までは時間が掛かるかと思います。
何せ試合開始までにオッドボール三等軍曹の活躍も含め、黒森峰の歩兵隊隊長の登場やオリジナル戦車チームの登場、更に白狼を主役にしたエピソードと書く予定の物が大分あります。
それらを全て書いてからの試合開始となる予定ですので、気長に待っていただけるとありがたいです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第20話『全国大会、出場します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第20話『全国大会、出場します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竺女学園とジョロキア男子校との交流から数日後………

 

遂に、戦車道・歩兵道の全国大会が開催される事となり………

 

戦車部隊の大洗女子学園からは、みほ達あんこうチームの面々と杏達カメさんチーム。

 

そして、歩兵部隊の大洗国際男子校からは、代表者として生徒会長であり歩兵部隊の総隊長である迫信とその護衛の熾龍。

 

更に、あんこうチームの付き添いとして、とらさん分隊から弘樹、地市、了平、楓が試合組み合わせの抽選会へ向かう運びとなった。

 

迫信がチャーターしたマイクロバスで、抽選会の会場であるさいたまスーパーアリーナへと向かったみほ達と弘樹達。

 

国際色豊かな(大半が日本人なのだが)他校の生徒が集う中、抽選会は滞りなく行われ………

 

遂に、大洗機甲部隊の番が回って来た。

 

代表であるみほが、抽選箱が置かれたステージ上に上がり、抽選札を引く。

 

高らかに上げたその札には『8』の数字が刻まれていた。

 

『大洗機甲部隊、8番!』

 

アナウンスがそう告げると、大型モニターに映し出されていた試合の組み合わせ表の8番枠に、大洗機甲部隊の名が刻まれる。

 

対戦相手の抽選は既に済まされており、大洗機甲部隊の全国大会1回戦の相手は………

 

戦車部隊女子校の『サンダース大学付属高校』と歩兵部隊男子校の『カーネル大学付属高校』からなる………

 

『サンダース&カーネル機甲部隊』だった。

 

「よっしゃーっ!!」

 

そのサンダースの戦車部隊のメンバーと思われる女子が、歓喜の声を挙げている。

 

大洗機甲部隊は無名校な為、楽勝だと考えているのだろう。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊………」

 

「それって強いの?」

 

優花里に向かって、眠りこけている麻子に肩を貸している沙織が尋ねる。

 

「優勝候補の1つです」

 

「ええ~、大丈夫?」

 

いきなり優勝候補の相手と当たった事に、沙織は不安を口にする。

 

「初戦から強豪ですね」

 

「どんな事があっても………負けられない」

 

少し離れた場所でその様子を見ていたカメさんチームの中で、柚子も不安を口にするが、桃はやや切羽詰っている様な様子でそう呟く。

 

「そうだよ。負けたら私達の学校が………」

 

「…………」

 

蛍が桃の呟きを繋げる中、杏は瞑想しているかの様に目を閉じてジッとしていた。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊か………」

 

そこで、その後ろの席に居た迫信が、広げた扇子で口元を隠してそう呟く。

 

「フン………アメリカ被れ共が最初の相手か………」

 

隣に居る熾龍は、何時にも増して毒舌な言葉を吐く。

 

大日本帝国軍人の子孫としては、アメリカ風の気風を持つサンダース&カーネル機甲部隊には色々と思う所が有る様だ。

 

一方、もう1人の大日本帝国軍人の子孫はと言うと………

 

「オイオイ………初戦から優勝候補が相手かよ………」

 

「また厳しい戦いになりそうですね………」

 

地市と楓が、いきなり優勝候補の一角であるサンダース&カーネル機甲部隊と戦う事になった事に溜息混じりで呟く。

 

「戦う前から弱音を吐いて如何する? 優勝候補ならば勝ち続けていれば何時かはぶつかる相手だ。寧ろ戦車数の少ない初戦の方で戦えるのは幸運だ」

 

そんな2人に向かって弘樹は叱咤する様にそう言う。

 

「お前、マジで勝ち抜けると思ってんのか? 俺たちゃ素人に毛が生えた様な戦力なんだぜ?」

 

しかし、了平は無謀だと言う様な様子を隠さずに言う。

 

(事情を知らないから仕方が無いが………大洗女子学園には………如何しても勝たなければならない理由があるのだ………)

 

もし全国大会で優勝できなければ、大洗女子学園が廃校となる事を知る弘樹は、内心でそう思いやるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小1時間程して………

 

漸く参加全校の抽選が終わり、みほ達と弘樹達はさいたまスーパーアリーナを後にしようとしていた。

 

「みほちゃ~ん」

 

と、背後から声を掛けられて、みほ達が振り返ると、ターメリックを連れたローリエの姿が在った。

 

「あ! ローリエさん。この間はどうもありがとうございました」

 

「い~え、気にしないで~。それより~、大分組み合わせが離れちゃったからぁ~、私達との再戦は決勝近くになるわね~」

 

みほが先日の交流会の事のお礼を言うと、ローリエは対戦表を見ながらそんな事を言う。

 

「頑張って勝ち抜いてね~。私達も決勝で待ってるから~」

 

「ハ、ハイ! 頑張ります!!」

 

優しげな笑顔を浮かべてそう言うローリエに、みほは照れた様子でそう返す。

 

「………決勝で待っているぞ」

 

「………ああ」

 

一方、ターメリックと弘樹も、言葉少なに、再戦の誓いを交わし合うのだった。

 

「じゃあ連盟への手続きがあるから~、今日はコレでね~」

 

「また会おう………」

 

そう言うと、ローリエとターメリックは事前の手続きをしに、連盟の委員達が居る場所へ向かう。

 

「西住ちゃん。私達も手続きしてくるから、どっか適当な所で時間潰してて」

 

「あ、ハイ。分かりました」

 

「私も行こうかね?」

 

杏に付き添いは居るかと尋ねる迫信。

 

「いんや、良いよ。今日は送って貰ったからね。コレ以上貸しは要らないよ」

 

「ふむ………そう言う事ならば」

 

迫信は不敵に笑ってそう返す。

 

「じゃ、宜しく~」

 

杏はそう言ってみほ達と弘樹達に手を振ると、柚子と桃、蛍を連れて、事前手続きへと向かったのだった。

 

「時間潰すって言っても………如何すんだ?」

 

「でしたら! この近くに良い喫茶店があるので、行ってみませんか!」

 

地市が如何時間を潰すのかと言うと、優花里がそう声を挙げる。

 

「喫茶店?」

 

「ハイ! 『戦車喫茶 ルクレール』ってお店なんです!」

 

「やっぱり戦車関連なんだね………」

 

楓に向かって優花里がウキウキとした表情で答えると、沙織が苦笑いしながら呟く。

 

「良いんじゃないでしょうか? そこにしましょう」

 

「代金は私が持とう。皆好きな様に注文してくれたまえ」

 

華が賛同すると、迫信は自分の奢りだと宣言する。

 

「流石会長閣下! 太っ腹! そこにシビれる! あこがれるゥ!」

 

「お前は何処のスタンド使いの吸血鬼の取り巻きだ?」

 

奢りと聞いてテンションが上がる了平に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「じゃあ、行こっか! ホラ、麻子! しっかりして!!」

 

「眠い………」

 

相変わらず半分寝ている麻子に肩を貸しながら、沙織が歩き出すと、他のメンバーもそれに続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さいたまスーパーアリーナの近く………

 

戦車喫茶 ルクレール・店内………

 

男子と女子に分かれて、隣同士のテーブルに着いたみほ達と弘樹達は、メニューを手に注文する品を選んでいる。

 

「うむ………」

 

そんな中、何やら難しい顔をしてメニューと睨めっこをしている弘樹。

 

「? 舩坂くん? 如何したの?」

 

そんな弘樹の様子に気づいたみほが声を掛ける。

 

「………実は洋菓子は如何も苦手でな」

 

弘樹はメニューに載って居るケーキやらシュークリームやらの写真を見ながらそう答える。

 

「えっ!? そうだったんですか!?」

 

「弘樹。後ろの方に和菓子も有るぜ」

 

それを聞いた優花里が申し訳無さそうな顔をしたが、地市がそうフォローを入れた。

 

「む、そうか………」

 

それを聞いた弘樹は、メニューの後ろの方に載っていた和菓子のコーナーを見やる。

 

「コッチはもう決まったから先に注文させてもらうぞ」

 

「ああ、では………」

 

と麻子がそう言うと、優花里がテーブルの上に有ったFIAT2000の形をした置物の砲塔部を押した。

 

すると、戦車砲のモノと思われる砲声が、店内に響き渡る!!

 

「!?」

 

それを聞いた弘樹が一瞬身構えた。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

とそこで、みほ達のテーブルへドイツ国防軍の戦車兵の制服風のウェイトレス服を来たウェイトレスがやって来る。

 

「何だ………敵襲かと思ったぞ」

 

「そりゃ職業病だぜ、弘樹」

 

弘樹が安堵した様子でそう言うと、地市がツッコミを入れる。

 

「ケーキセットで、チョコレートケーキ2つとイチゴタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキを1つずつお願いします」

 

「承りました。少々お待ち下さい」

 

華が代表して注文を言うと、ウェイトレスは手帳にメモを取り、敬礼して去って行った。

 

「このボタン、主砲の音になってるんだ」

 

「この音は90式ですね」

 

ウェイトレスが去った後、先程の戦車型の呼び出しボタンとその音についての話をする沙織と優花里。

 

「流石戦車喫茶ですね」

 

と、華がそう言うと、他の注文が決まった客が押したと思われるボタンから、次々に砲声が鳴り響き、忽ち店内は轟音に包まれる。

 

「う~ん。この音を聞くと、最早ちょっと快感な自分が怖い」

 

「快感って………ゲヘヘヘヘ………」

 

「了平………顔が法律違反です」

 

沙織がそんな事を言うと、それで良からぬ想像をした了平が危ない顔になり、楓がツッコミを入れる。

 

 

 

 

 

数分後………

 

弘樹達も注文を済ませて少しした頃………

 

先に注文していたみほ達のテーブルに、荷台に戦車型のケーキを乗せたドラゴンワゴンのラジコンが現れる。

 

「わっ!? コレって、この前の試合の時、私達の戦車を運んでくれてた………」

 

「ドラゴンワゴンですよ」

 

沙織が天竺ジョロキア機甲部隊との練習試合の時、大洗戦車部隊の戦車を運んでくれた神大コーポレーション傘下のPMCが使っていたドラゴンワゴンを思い出す。

 

「可愛い~」

 

「ケーキも可愛いです」

 

みほと華が、ラジコンのドラゴンワゴンと、戦車型のケーキを見てそう感想を漏らす。

 

やがて少し遅れて、弘樹達の元へも同じ様に注文の品を乗せたドラゴンワゴンが到着する。

 

「お! 来た来たっ!!」

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

 

楓のその言葉で、一同は注文した品に手を付け始めるのだった。

 

「………ゴメンね。1回戦から強いとこに当たっちゃって」

 

とそこで、1回戦からいきなり優勝候補の一角であるサンダース&カーネル機甲部隊との対戦カードを引いてしまったみほが謝る。

 

「気にするな、西住くん。例え初戦は回避出来たとしても、優勝候補ならば何れはぶつかる相手だ。戦車数の少ない初戦で当たったのは寧ろ幸運だ」

 

それを聞いた弘樹が、地市達にも言った言葉でフォローする。

 

「サンダース&カーネル機甲部隊って、そんなに強いんですか?」

 

「強いって言うか、凄いリッチな学校で、戦車の保有台数が全国1なんです。チーム数も1軍から3軍まであって」

 

「オマケに歩兵部隊は高度に機械化され、対戦車兵の数も全国1だ」

 

華がサンダース&カーネル機甲部隊について尋ねると、優花里と迫信がそう返す。

 

「公式戦の1回戦は戦車の数は10両までって限定されてるから。砲弾の総数も決まってるし」

 

「でも10両って………ウチの倍じゃん。それは勝てないんじゃ」

 

「歩兵数も少なく見積もっても、我々の3倍は有るだろうな………」

 

「戦う前から詰んでるんじゃねーかよ………」

 

サンダース&カーネル機甲部隊と物量の差の前に、沙織と了平は弱音を吐く。

 

「単位は?」

 

「負けたら貰えないんじゃない?」

 

「…………」

 

それを聞いた麻子は不機嫌そうにケーキにフォークを突き刺し、大き目な一口を頬張った。

 

「それより! 全国大会ってテレビ中継されるんでしょ? ファンレターとか来ちゃったら如何しよう~?」

 

「フッフッフッ………この了平様の大活躍に、全国の女子高生の皆さんから熱~いラブコールが………」

 

「「「それは天地がひっくり返っても無い(ありません)」」」

 

「ヒドッ!!」

 

沙織の言葉に、了平の妄想が炸裂するが、即座に弘樹、地市、楓からの容赦無いツッコミが入る。

 

「生中継は決勝だけですよ」

 

「じゃあ、決勝行ける様に頑張ろう~」

 

沙織はそう言って、ケーキに手を付け始める。

 

「ホラ、みほも食べて」

 

「うん」

 

そんな沙織に促され、みほもケーキに手を付け始めようとする。

 

すると………

 

「副隊長?」

 

何者かがみほにそう声を掛けた。

 

「!?」

 

「「「「「………?」」」」」

 

みほがその声に反応し、他の一同も声が聞こえた方向を向く。

 

「ああ、元でしたね」

 

そこには、みほを小馬鹿にする様な態度を取っている銀髪の少女と、みほと良く似た顔立ちをした少女の姿が在った。

 

(彼女は………西住 まほ………西住くんの姉か)

 

その少女………みほの実の姉であり、黒森峰機甲部隊の総隊長であり、西住流の現有力後継者である『西住 まほ』を見た弘樹は、以前せんしゃ倶楽部のテレビで見た姿を思い出す。

 

「お姉ちゃん………」

 

「「「あ………」」」

 

みほがそう言った事で、沙織達も目の前の人物がみほの姉である事を知る。

 

「えっ!? みほちゃんのお姉さん!? は、初めまして! 私、綿貫 了平で………」

 

「空気読め!」

 

と、空気が読めない事に定評の有る了平がまほに迫ろうとしたが、地市にスリーパーホールドを掛けられて強制的に黙らせられる。

 

「………まだ戦車道をやっているとは思わなかった」

 

まほは感情の無い様子で淡々とみほにそう言い放つ。

 

「!!………」

 

それを聞いたみほの表情が曇る。

 

(実の妹にあの態度………コレが西住流か………)

 

久しぶりに会うであろう妹に対して第1声がそれかと思い、弘樹は心の中で西住流への嫌悪感を感じる。

 

「お言葉ですが! あの試合のみほさんの判断は間違ってませんでした!」

 

と、表情を曇らせたみほの様子に我慢出来なかったのか、優花里が席から立ち上がって、まほ達に向かってそう言い放つ。

 

「部外者は口を出さないで欲しいわね」

 

「う………すみません」

 

しかし、銀髪の少女………黒森峰女学園の戦車部隊・現副隊長である『逸見 エリカ』がそう言い放つと、反論出来なくなる。

 

「………行くぞ」

 

と、まほはもう言う事は無いと言う様にエリカにそう言い、店の奥へ進み出す。

 

「あ、ハイ、隊長」

 

エリカはそれに従い、まほの後を追ったが、その途中でみほ達の方を振り返る。

 

「1回戦はサンダース&カーネル機甲部隊と当たるんでしょう? 無様な戦い方をして、西住流の名を汚さない事ね」

 

「!!………」

 

エリカのその言葉に、ショックを受けた様子を見せるみほ。

 

「何よその言い方!」

 

「余りにも失礼じゃ!」

 

「そうだぞ! みほちゃんに謝れ!!」

 

「幾ら何でも、許せません!」

 

と、その一言にカチンと来たのか、沙織、華、地市、そして温厚な楓も立ち上がってそう言い返す。

 

「貴方達こそ戦車道と歩兵道に対して失礼じゃないの。無名校の癖に………」

 

そこでエリカは立ち止まって振り返り、完全にみほ、引いては大洗機甲部隊を見下した様子でそう言い放つ。

 

「この大会はね、戦車道と歩兵道のイメージダウンになる様な学校は、参加しないのが暗黙のルールよ」

 

「あ!? 如何言う事だ!?」

 

「強豪校が有利になる様に示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

 

そこで、エリカの台詞に対し、麻子がそんな毒舌を返す。

 

「おお! ナイス、麻子ちゃん!」

 

そんな麻子の台詞に、了平がサムズアップする。

 

「! 貴様………」

 

と、沸点が低いのか、エリカはその言葉で怒りを露わにする。

 

「オイ、エリカ、止め………」

 

「調子に乗るんじゃないわよ! 去年のアレさえなければ! 私達は全国大会10連覇と言う偉業を達成出来ていたのよ! それを台無しにしたのよ! そこの存在自体が西住流を貶めてる元副隊長のせいでね!」

 

「!!」

 

まほが止めようとした瞬間には、エリカは敵意の籠った視線でみほを見ながらそう言い放ち、みほはその視線と言葉に思わず俯く。

 

「何? いっちょまえに責任感じてるの? だったら、あの時あんな事なんてしなければ………」

 

と、そこまで言った瞬間!

 

エリカの視線を遮る様に、黒い影がみほの前に立った。

 

「…………」

 

弘樹だ。

 

まるでエリカからみほを守る様に、自らの身体を使って、その敵意の籠った視線を遮っている。

 

その表情は学帽の鍔で隠れて窺えないが、ヒシヒシと怒りのオーラが伝わって来ている。

 

「! 何よ、アンタ!」

 

「! 舩坂くん!」

 

エリカの声で、みほは弘樹が自分の前に立ちはだかっている事に気付く。

 

「! 舩坂だと………」

 

そこでまほが、初めて驚きの感情が籠った様な声を出し、弘樹の姿を見やる。

 

「舩坂………へえ~、アンタがあの英霊と呼ばれた伝説の歩兵の子孫なの」

 

「…………」

 

尚も小馬鹿にする様な態度を続けるエリカだが、弘樹はそんな物は何処吹く風と言わんばかりに無視している。

 

「フン、アンタも元副隊長と同じ穴の狢ってワケね………伝説の歩兵の子孫が無名校で歩兵をやってるなんて、恥晒しも良いとこ………」

 

しかし、それに気付かぬエリカが調子に乗って言葉を続けたところ………

 

「!!………」

 

弘樹は学帽の鍔で隠れていた顔を半分だけ見せ、片方の目を日本刀の様に鋭くし、エリカを睨みつけた!

 

「!? ヒイッ!?」

 

忽ちエリカは尻餅を着いて、床に座り込む。

 

(クウッ! 何て気迫だ!?)

 

まほも表情にこそ出していないが、弘樹から発せられる殺気とも取れる気迫の前に、内心で驚愕していた。

 

「すまない………ちょっと良いかね?」

 

するとそこで、何時の間にか席から立ち上がった迫信が、まほとエリカの前に立ってそう声を掛ける。

 

背後には熾龍が控えている。

 

「! な、何よ!?」

 

そこでエリカは若干足を震わせながらも立ち上がり、取り繕う様にそう言い放つ。

 

「私は大洗国際男子校生徒会長であり、大洗機甲部隊副総隊長兼歩兵部隊総隊長の神大 迫信だ。今の西住 みほくんに対する暴言は見過ごせるものではない。謝罪をしていただきたい」

 

何時もの様に広げた扇子で、不敵に笑っている顔の口元を隠しながら、迫信はそう言い放つ。

 

「ハンッ! 謝罪する必要なんて無いわ! 全部本当の事じゃない!!」

 

しかし、エリカは迫信に対しそう言い放つ。

 

「そうか………」

 

すると迫信は、ポケットから自分の携帯電話を取り出した。

 

そして、何やらボタンを操作したかと思うと、先程エリカがみほへ浴びせた罵声が再生される。

 

「!?」

 

「君も戦車道を嗜む者ならば、当然戦車道の試合規則は知っているだろう?」

 

驚くエリカに、迫信はそう問う。

 

「あ、当たり前じゃない!」

 

「ならば、その第5条、ホの項目も当然知っていると看做させてもらうよ」

 

「!? エリカ!!」

 

「えっ?」

 

迫信がそう言い放つと、まほが焦った様な表情を見せエリカに向かって叫び、エリカは何が起こっていると言う様な顔となる。

 

「………戦車道試合規則第5条、禁止行為についての項目のホ………『審判員、競技者に対する非礼な言動』………」

 

と、迫信の背後に控えていた熾龍がそう言い放つ。

 

「!?」

 

そこでエリカはハッとした表情となる。

 

「もし私がコレを然るべき場所へ提出した場合………如何なるかは言うまでも無いと思うがね」

 

不敵に笑ったままそう言い放つ。

 

「クウッ!………」

 

まほは焦りを増す。

 

もし、迫信が今言った通り、エリカがみほに浴びせた罵声を戦車道の委員会へ提出すれば、エリカは何らかの処分を受ける事となるだろう。

 

恐らく出場停止とまでは行かないだろうが、問題なのは『黒森峰戦車隊の副隊長が禁止行為の違反で処罰を受けた』と言う事態が起こる事である。

 

戦車道の名門として知られている黒森峰女学園の副隊長が委員会から処分を受けたとなれば、大幅なイメージダウンは防げない。

 

そうなれば、黒森峰女学園の戦車道は死んだも同然となってしまう。

 

「………何が望み?」

 

まほは迫信に向かってそう問い質す。

 

「望みと言う程のモノではないさ。ただ、仮にも戦車道………武道を嗜む者ならば、戦う相手には常に礼節を持って接して貰いたい。それだけの事だよ」

 

迫信は穏やかな口調でそう言うが、それは遠回しにみほへの謝罪を要求する言葉であった。

 

「………エリカ」

 

「! で、ですが!!………」

 

まほは無言でエリカに謝罪を促すが、エリカは青褪めた表情のままオロオロとするばかりである。

 

プライドが高いエリカは、謝罪を行うと言う事は負けを認める事だと思っており、それは尊敬する西住流の教えに反する。

 

しかし、謝罪しなけば黒森峰の戦車道の存続自体が危なくなる可能性がある。

 

エリカの心に今までに感じた事の無い葛藤が湧き上がる。

 

「…………」

 

そんなエリカの様子を、迫信は不敵な笑みを浮かべているが、感情の無い目で見据えていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

弘樹以外のメンバーも、流石にやり過ぎではないかと感じているが、迫信の得体の知れない迫力に押され、何も言えずに居る。

 

只ならぬ緊迫感が、弘樹達とみほ達、そしてまほとエリカの間に漂う。

 

………と、その時!!

 

「我等~黒森峰戦車隊~♪ 科学力は~世界一ぃぃぃ~~~のドイツ製戦車の軍団だ~♪ 作戦よりも、戦略よりも、戦車の性能が大事だよ~♪」

 

「「「「「!? だあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」」」」」

 

突然音程など関係無しの脱力全開な、歌と呼ぶのも憚られる歌が聞こえて来て、弘樹と迫信、熾龍を除く一同は思わずズッコケそうになった。

 

「な、何だよ、この脱力系の歌は?………」

 

「って言うか、コレ歌なのか?」

 

「音程も何もあったもんじゃありませんね………」

 

最初に立ち直った地市、了平、楓の3人がそんな感想を漏らす。

 

「! この声は!?」

 

「みぽりん? 如何したの?」

 

と、続いて立ち直っていたあんこうチームの中で、みほが何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「た、隊長………コレは………」

 

「奴だな………」

 

まほとエリカが頭を抱えながらそう言った瞬間………

 

「整備は大変~♪ お金は掛かる~♪ 結局戦車道ってお金が有れば勝てるのか~♪………おろっ?」

 

脱力系の歌を続けながら、1人の黒森峰女学園の制服を着た小柄で何処となくカエルを思わせる女子生徒が、喫茶店の中に入って来た。

 

「まほ殿にエリカ殿! 此方でありましたか!」

 

そして、まほとエリカの姿を見ると、まるで友達感覚の笑顔で敬礼してそう言う。

 

「毛路山………」

 

「久美………アンタねぇ」

 

まほは頭を抱えたまま、エリカはワナワナと拳を震わせながらそう返す。

 

「久ちゃん!」

 

とそこで、みほが笑みを浮かべて席から立ち上がると、その女子生徒の前に出た。

 

「おっ? おお~っ! みほ殿ではないでありますかぁ!!」

 

「久ちゃ~ん!」

 

女子生徒が驚きと感激の混じった声を挙げ、みほも嬉しそうな声を挙げて、両者は互いに抱き合う。

 

「!? はわぁ~っ!?」

 

その光景を見たみほを敬愛する優花里が、珍妙な声を挙げる。

 

「お久しぶりでありますな~。元気でありましたか? 新しい学校では楽しくやれているでありますか?」

 

「うん! 私は大丈夫だよ。友達も出来たし」

 

やがて離れた両者の内、女子生徒がみほの身を心配していたと言い、みほは大丈夫だと答えながら沙織達を紹介する。

 

「おお、コチラはみほ殿の御学友の方達でありましたか」

 

「に、ににに、西住殿ぉっ!! 誰なんですか、その人はぁっ!!」

 

「ゆ、ゆかりん、落ち着いて………」

 

思わずその女子生徒に噛み付いて行きそうな雰囲気を見せている優花里を、沙織が落ち着かせる。

 

「皆、紹介するね。私が黒森峰に居た頃の親友の………」

 

「黒森峰女学園第58番戦車隊所属! 機動防衛特殊先行工作部隊指揮戦車、Ⅳ号突撃砲車長兼分隊長! 『毛路山 久美(けろやま ひさみ)』であります!」

 

そこでみほは女子生徒………黒森峰戦車隊の1員である『毛路山 久美(けろやま ひさみ)』の事を紹介する。

 

「みほ殿が何時もお世話になっており、誠に感謝しているであります」

 

そう言って、沙織達に向かって深々と頭を下げる久美。

 

「あ、いえ! 此方こそ!!」

 

「御丁寧にありがとうございます」

 

華以外の面子は、とても強豪校の生徒とは思えないフレンドリーながら畏まった態度の久美に戸惑いを覚える。

 

「あ、そうだ、みほ殿! 久しぶりに『アレ』をやるであります!」

 

「えっ!? ア、『アレ』? 『アレ』はちょっと………」

 

と久美が何かをやろうとみほに呼び掛けるが、みほは戸惑う。

 

「何を言うでありますか! 『アレ』は我輩とみほ殿の友情の証であります! 何も恥かしがる事など無いであります!」

 

「久ちゃん………そうだね。久しぶりにやろっか!」

 

しかし、久美に懇願され、みほは折れる。

 

「? えっ? 何?」

 

「「「??」」」

 

事情を知らない沙織達は困惑するばかりである。

 

すると………

 

「ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ………」

 

「ミホミホミホミホミホミホミホミホ………」

 

共鳴×2!!

 

「うええっ!?」

 

「に、西住殿!?」

 

「みほさん!?」

 

「何だそれは?」

 

突然珍妙な行動を取り始めた久美とみほの姿に、沙織、優花里、華から戸惑いの声が挙がり、麻子が1人冷静に突っ込む。

 

「共鳴であります! 我輩とみほ殿との友情を確かめる儀式であります!」

 

「へ、へえ~、そうなんだ………」

 

久美がそう答えると、沙織が苦笑いする。

 

「いや~、久しぶりの共鳴でありましたが、良かったでありますよ、みほ殿!」

 

「久ちゃんも変わってないね」

 

「ゲロゲロリ! 我輩は何時だってこうであります!」

 

互いに笑顔を浮かべながらそう会話を交わす久美とみほ。

 

「ユカユカユカユカユカユカユカユカ………」

 

「ゆかりん落ち着いて! 怖いから!!」

 

そんなみほと久美を羨ましそうに見ながら、2人の真似をして共鳴し始める優花里だったが、またも沙織に止められる。

 

「ちょっと、久美! アンタなに他校の戦車道の子と親しげに話してるのよ!!」

 

とそこで、エリカが久美に向かってそう怒鳴る。

 

「まあまあ、エリカ殿。固い事は言いっこ無しであります」

 

しかし、久美は何処吹く風と言った感じで、右から左へ受け流している。

 

「いや~、しかし正直みほ殿が副隊長だった頃が懐かしいであります。今はエリカ殿が副隊長なもんだから、まほ殿と合わさって厳しいのなんの………」

 

「本人の目の前で愚痴零すんじゃないわよ!!」

 

「気にするなであります! 我輩とエリカ殿の仲ではないでありますか!!」

 

「只の腐れ縁の幼馴染でしょうが!!」

 

先程までの緊迫した空気は何処へやら………

 

久美とエリカは、まるで漫才の様な遣り取りを繰り返す。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを見ている沙織達や弘樹達の中からは、最初にエリカに抱いていた、嫌味ったらしい女と言うイメージが雲散して行く。

 

「いやはや、恐れ入ったね………黒森峰は戦車道だけでなく、漫才道も1流らしいね………」

 

「…………」

 

迫信の皮肉に、まほは頭痛がするのを感じて頭を抱えた。

 

「アンタは如何してそう適当なの!! 黒森峰の戦車道が消えるか否かってこの時に!!」

 

「ゲロッ!? 如何言う事でありますか!?」

 

と、エリカが思わずそう言うと、久美は驚きを露わにする。

 

「ふむ、それはだね………」

 

そんなエリカに代わる様に、迫信自身が先程までの状況を久美に向かって説明した。

 

「な、何と!? そんな事になっていたのでありますか!?」

 

久美は驚愕を隠し切れない様子でそう言う。

 

(ひ、非常にマズイ状況であります………如何すれば………如何すれば………)

 

そしてすぐさま、この状況を打開する策を講じるべく、頭をフル回転させる。

 

「! そうでありますっ!!」

 

すると、何かを思いついた様な表情となり、迫信に向かい合う。

 

「大洗国際男子校生徒会長、そして大洗機甲部隊副総隊長兼歩兵部隊総隊長、神大 迫信殿! 機動防衛特殊先行工作部隊指揮戦車、Ⅳ号突撃砲車長兼分隊長として話があるであります!」

 

毅然とした態度で、迫信に向かってそう言い放つ久美。

 

「………聞こうか」

 

迫信は真面目な表情となり、久美と向き合う。

 

「「「「「…………」」」」」

 

再びその場に緊迫感が漂い始める。

 

「!!」

 

と、その次の瞬間!!

 

久美が勢い良く両膝を床に着き、更に両手も着けたかと思うと、最後には頭を着けた!

 

平身低頭覇!!

 

詰まるところ、『土下座』である!!

 

「お願いしますだ、お代官様~! 如何か!! 如何か平に御容赦を~っ!!」

 

「「「「「だあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!?」」」」」

 

何をするのかと息を呑んで見守っていた地市達と沙織達は、思いっきりズッコケてしまう。

 

「お願い~っ! お願い~っ!!」

 

そんな中、久美は必死な様子で迫信に向かって土下座を続ける。

 

「ちょっ!? 止めなさい、久美!! アンタには黒森峰戦車部隊の隊員としてのプライドは無いの!?」

 

その情けない姿を見て、エリカが止めようとするが………

 

「プライドで飯は食えないのであります! エリカ殿も頭を下げるのであります!!」

 

久美はある意味の真理を突き、更にエリカにも頭を下げさせようとする。

 

「ちょっ!? 止めてよ、この馬鹿! そんなんだからアンタは駄目なのよ!!」

 

「何をぉっ!? まほ殿と一緒で、毎週末に我輩を呼びつけては部屋の掃除と洗濯! 挙句に食事の支度をさせてるのは誰でありますか!?」

 

「それを言うなぁーっ!!」

 

久美の暴露話に、エリカが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 

「………お姉ちゃん、まだ自炊出来てないの?」

 

「…………」

 

それを聞いていたみほが、まほに問うと、彼女は無言で目を反らした。

 

「お願いであります! お願いであります!!」

 

恥も外聞も無く、只管に迫信に向かって土下座を繰り返す久美。

 

「ふむ………」

 

そんな久美の様子を見ていた迫信は、考え込む様な素振りを見せる。

 

すると………

 

「私からもお願いするよ。彼女達を許してやってはくれないか?」

 

その場に男性の良い声が響き渡り、一同はその声がした方向へと視線を向けると、そこには………

 

ドイツ国防軍の佐官用正装軍服に似た学生服を身に纏って軍帽風の学帽を被り、少々伸び気味な髪を後ろで縛ったオールバックヘアの男性の姿が在った。

 

「ゲロォッ!?」

 

「!?」

 

「貴方は!?」

 

「! 都草!」

 

その男性の姿を見た、久美、エリカ、みほ、まほが驚きの声を挙げる。

 

「君は確か………」

 

「黒森峰男子学院3年生。同校歩兵道部隊総隊長………『梶 都草(かじ とぐさ)』。宜しければ、以後お見知りおきを………」

 

そう迫信に向かって丁寧に挨拶をしながら、黒森峰女子戦車部隊を守る、歩兵道のエリート部隊、『黒森峰男子校歩兵部隊』の総隊長………

 

『梶 都草(かじ とぐさ)』は、笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ全国大会開幕です。
今回は戦車喫茶でのエリカ、まほとの会合シーンの前半を書かせていただきました。
オリジナルキャラが1人登場していますが………
如何見てもあの軍曹です!
本当にありがとうございました。
何でこんなの考えたのかと言いますと、みほとエリカの中の人が日曜の朝8時半で、軍曹の中の人と共演してたもので、思いつきました。
あと、まほとエリカを原作より(色んな意味で)人間味溢れた魅力あるキャラとして書くためでもあります。

そして最後の登場した黒森峰歩兵隊の隊長『梶 都草』
彼が主人公である弘樹の、この作品を通してのライバルとなります。
カッコイイ敵キャラに仕上げる積りですので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第21話『黒森峰男子校の歩兵隊長です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第21話『黒森峰男子校の歩兵隊長です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国大会への出場、そして試合相手の組み合わせを決める為に………

 

さいたまスーパーアリーナを訪れたみほ達と弘樹達。

 

大洗機甲部隊の1回戦の相手は、優勝候補の1つである………

 

戦車部隊女子校の『サンダース大学付属高校』と歩兵部隊男子校の『カーネル大学付属高校』からなる、『サンダース&カーネル機甲部隊』となった。

 

戦車の保有台数は全国1位のサンダース校と、高度に機械化され、対戦車兵の数は全国1を誇るカーネル校。

 

初戦から強豪と当たる事となった大洗機甲部隊。

 

そんな組み合わせが決まった帰り道………

 

試合出場への手続きをしている杏達を待つ間、優花里の勧めで『戦車喫茶 ルクレール』へと立ち寄ったみほ達と弘樹達。

 

そこへ現れたのは、黒森峰女学園の戦車道部隊の隊長であり、みほの実の姉である『西住 まほ』

 

そして、みほの後に副隊長へ着任した『逸見 エリカ』だった。

 

みほに対して僻みにも似た感情を抱えていたエリカは、みほを罵倒し、それが原因で沙織達や弘樹達と一触即発の状態となる。

 

しかし、その罵倒を録音していた迫信が、それを戦車道連盟に提出すると言い、エリカに謝罪を要求する。

 

みほが黒森峰に居た頃の親友『毛路山 久美』も現れ、混沌とした場に現れたのは………

 

黒森峰女子戦車部隊を守る、歩兵道のエリート部隊、『黒森峰男子校歩兵部隊』の総隊長………

 

『梶 都草(かじ とぐさ)』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車喫茶 ルクレール・店内………

 

「アレが黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長………」

 

「梶………都草」

 

「うう………只そこに居るだけだってのに………何だか震えて来るぜ………」

 

突如現れた都草の姿に、地市、楓、了平は戦慄にも似た感覚を感じる。

 

「…………」

 

弘樹も、無言で都草の事を見やっていた。

 

「か、梶歩兵隊長………」

 

「逸見くん。またやってしまったみたいだね………感情的になり易く、目先の出来事に囚われ、物事を大局的に見れなくなる………君の悪い癖だよ」

 

動揺しているエリカに向かって、都草はやんわりとながら厳しい言葉を浴びせる。

 

「も、申し訳ありません………」

 

「そもそも、昨年の敗北の責任が西住副隊長にあると言うこと自体が誤りだよ」

 

エリカが頭を垂れると、都草はそう言葉を続けた。

 

「アレは我々歩兵隊の責任だ。守るべき戦車を守れなかったと言う醜態を晒した我々黒森峰歩兵部隊のね」

 

「梶歩兵隊長! それは!!………」

 

「黙ってなさい、エリカ」

 

都草のその言葉に、エリカが何かを言おうとしたが、まほに阻止される。

 

「兎も角………彼女の非礼は自分が代わって謝罪する。如何か、平に御容赦願いたい………誠に申し訳無い」

 

そう言うと、都草は迫信に向かって深々と頭を下げた。

 

「か、梶歩兵隊長!!」

 

「西住副隊長も申し訳無い………我々が不甲斐なかったばかりに、この様な事態まで巻き起こしてしまい」

 

エリカが動揺する中、都草は更に、みほに向かっても深々と頭を下げ、心から謝罪する。

 

「か、梶さん! もう良いです! もう良いですから!! 私、気にしてません!!」

 

みほは見ていた自分の方が申し訳なくなってしまい、慌てて都草に向かってそう言う。

 

「じ、神大さんも、もう良いです! 私はもう良いですから!!」

 

「ふむ、西住総隊長殿がそう仰られるのなら………」

 

迫信に向かって、みほがもう十分だと言うと、迫信はアッサリと録音データを消去した。

 

「感謝する」

 

「な~に、我々は何時までも根に持ったりはしない主義でね」

 

「ぐう………」

 

遠回しに非難され、エリカは苦い顔をする。

 

「いやはや、面目次第も無い」

 

それに対し、都草は反論する様な事はせず、只管に自分達の非を認めるばかりだった。

 

「カッコイイ………」

 

「何と出来たお方なのでしょう………」

 

「流石『歩兵道を体現する男』と呼ばれた黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長です!」

 

「キザな奴だ………」

 

そんな都草の姿に、沙織、華、優花里は感銘を受け、麻子の毒舌ながら、少々思う所がある様な顔をする。

 

(この男………かなり出来るな………)

 

迫信の後ろに控えている熾龍も、都草の秘めた実力を見抜いている。

 

「…………」

 

そして、そんな都草を未だにジッと見やっている弘樹。

 

「…………」

 

と、そんな視線に気づいたのか、都草が弘樹の方を向いた。

 

「君が舩坂 弘樹くんか………噂は聞いているよ」

 

「黒森峰男子校の歩兵部隊総隊長に知っていてもらえるとは………光栄です」

 

一応先輩に当たる為、弘樹は敬語を使って話す。

 

「君の祖先、舩坂 弘軍曹は歩兵道を歩む者にとっては目指すべき存在だ。無論、私もその1人だ」

 

「そうですか…………」

 

「…………」

 

2人はそこで視線を交差させる。

 

「フフフ………実に良い目をしている。英霊の子孫の血に偽り無しだな」

 

「…………」

 

「都草。それぐらいにして、行くわよ」

 

と、そこでまほが、都草にそう呼び掛けた。

 

「了解しました。西住総隊長」

 

それを受けて、都草は弘樹達に背を向ける。

 

「………君と銃火を交わす日を楽しみにしているよ」

 

「………!」

 

だが、去り際に弘樹に向かって背を向けたまま、そんな言葉を投げかけたのだった。

 

そのまま店の奥へと向かう都草とまほ。

 

「フン………行くわよ、久美」

 

「ああ! 待ってよ~、エリカ殿~! みほ殿! またお会いしましょうっ!!」

 

それに付き従う様に、エリカも店の奥へと向かい、久美もその後を追って行く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残されたみほ達や弘樹達の間には、何とも言えない沈黙が漂っていた。

 

「………さて、仕切り直しと行こうか」

 

すると、率先する様に、迫信がそう言い、自分の席へと戻ると、コーヒーに口を付ける。

 

「! あ、ああ………」

 

「そ、そうだね」

 

「ケーキ、もう1つ食べましょうか?」

 

「もう2つ頼んでも良いか?」

 

その言葉で、地市達や沙織達は行動を再開し、改めてスイーツタイムを楽しみ始める。

 

「それにしても、黒森峰にも色んな方がいらっしゃるんですね。私、もっとこう、軍人みたいな人ばかりの学校だと思ってました」

 

そこで優花里が、先程のまほ達との事………

 

主に久美の事を示してそう言う。

 

「久ちゃんは特別だから………何て言うか………凄く『適当』なんだ」

 

「適当?」

 

みほが苦笑いしながらそう言うと、沙織が首を傾げる。

 

「うん………『行くなと言ったところに行く』『入るなと言ったところに入る』とかは日常茶飯事だし、問題を何かと先送りしたがるんだ。それで、おいしい所だけ持って行ったりして………まあ、かなりのお調子者って言えるかな?」

 

「良く黒森峰に入れたものだ………」

 

熾龍の容赦無い毒舌が炸裂する。

 

「でも、久ちゃんなりの良心とか責任感は持っててね。友達の窮地は身を呈しても助けて、皆の健康を願ったりって、優しい所もあるんだよ。だから、お姉ちゃんとは別の意味で隊の皆に慕われてたんだ」

 

「良いお方なのですね」

 

みほの言葉に、華はそう相槌を打つ。

 

「………梶 都草隊長については、如何なんだ?」

 

するとそこで、緑茶の入った湯飲みを右手に持っていた弘樹が、みほにそう尋ねて来た。

 

「あ、うん………梶さんは………お姉ちゃんと一緒で、2年生の頃から黒森峰男子校歩兵部隊の総隊長を務めていたの」

 

「去年の戦いで、黒森峰機甲部隊は優勝こそ逃したが、素晴らしい成績を残し………戦車部隊の隊長である西住 まほくんと歩兵部隊の隊長である彼は、共にMVPに選ばれているね」

 

そこで、みほの言葉を補足する様に、迫信がそう言って来る。

 

「国際大会でも活躍し、歩兵道や戦車道の世界では今最も注目されている人物と言っても過言では無いだろう」

 

「…………」

 

迫信の言葉を聞きつつ、弘樹は表情を険しくして行く。

 

(この大会………最大の敵は………彼になりそうだな………)

 

そして心の中で、そんな事を思いやっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

その都草とまほ達は………

 

店の1番奥にあるテーブルに着き、注文を済ますと、品物が届くのを待ち始める。

 

「梶歩兵隊長………先程は申し訳ありませんでした」

 

そこで、エリカは都草に向かって頭を下げた。

 

「気にしなくて良いさ。私は当然の事をしたまで」

 

「しかし………」

 

「エリカ………悔やむのなら2度とあんな事の無い様に改めなさい」

 

都草は気にしなくて良いと言うが、エリカは言葉を続けようとしたが、まほがそう言って遮る。

 

「ぐう………申し訳ありません」

 

「いやはや、エリカ殿のキレ易い性格にも困ったものでありますなぁ~」

 

「アンタにも責任があるでしょうがぁ~~っ!!」

 

と、まるで他人事の様にいう久美の首を両手で掴み、前後に揺さぶりながら怒りを露わにするエリカ。

 

「ぐええっ!? 苦しいぃっ!?」

 

「大体、アンタはいつもいつも!!」

 

日頃の鬱憤をぶつけるかの様に、エリカは久美を前後に揺さぶり続ける。

 

「エリカ………」

 

と、そこでまほが、低い声でエリカを呼ぶ。

 

「!? も、申し訳ありませんっ!!」

 

それを聞いたエリカは、慌てて久美を解放する。

 

「ゲホッ! ゲホッ!………死んだ祖父殿が川の向こうで手を振っていたであります………」

 

漸く解放された久美は、やや危ない発言をする。

 

「毛路山もいい加減にしなさい。もう少し真面目になったら如何なの?」

 

まほは更に、久美にもそんな事を言う。

 

「ゲロ? 我輩、何時だって真面目でありますよ?」

 

すると久美は、首を傾げながらそう返す。

 

ふざけているワケでは無く、如何やら本当に心の底からそう思っている様だ。

 

「………もう良いわ。ハアア~~」

 

すると、まほは諦めた様にそう言い、深い溜息を吐く。

 

とそこで、ドラゴンワゴンがまほ達が注文したスイーツを乗せて到着する。

 

「さ、来たみたいだよ。この話は一旦置いて、今は楽しもうじゃないか」

 

それを確認した都草が、まほ達に向かってそう言う。

 

「………そうね」

 

「頂きます」

 

「頂きますであります!」

 

注文したスイーツに手を付け始めるまほ、エリカ、久美。

 

「美味しいですね」

 

「………うむ」

 

笑みを見せるエリカとは対照的に、まほは無表情でスイーツを頬張り続けている。

 

「ゲロゲロリ。流石はルクレールのスイーツでありますなぁ。まあ、『ランゼン殿』が作った物と比べると、かなり見劣りするでありますが………」

 

「! オイ、毛路山くん!」

 

と、思わずそうポロリと漏らした久美に、都草が慌てた様に声を掛ける。

 

「!? あっ!?」

 

久美が『しまった!?』と言う様な顔になり、慌てて両手で口を塞いだ瞬間………

 

「「…………」」

 

先程まで笑みを浮かべていたエリカと、無表情だったまほが、露骨に落ち込んだ様な様子となり、まるで通夜の様な暗い雰囲気を醸し出し始めた。

 

「………ランゼンさん」

 

「ランゼン………何故だ………何故居なくなってしまったんだ」

 

ブツブツとそんな言葉を呟き始めるエリカとまほ。

 

「むう………コレは暫く治らないな………」

 

「ゲロ~! ゴメンであります~、エリカ殿~! まほ殿~!」

 

都草は困った顔でそう呟き、久美は申し訳無さそうに泣き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして………

 

ルクレールの入り口前にて………

 

「あ~、美味しかった~」

 

「また来たいですね」

 

ケーキを堪能したみほ達と弘樹達は、そろそろ杏達が手続きを終える時間となり、迎えに行く為に店を後にしようとしていた。

 

「………!」

 

すると不意に、最後尾に居た弘樹が足を止め、ルクレールの入り口の方を振り返る。

 

「? 弘樹? どした?」

 

それに気づいた地市が、弘樹に声を掛ける。

 

「………すまない。忘れ物をしていた様だ。先に行って居てくれ。すぐに追い掛ける」

 

やや間が有って、弘樹は地市達の方に向き直るとそう言い放つ。

 

「おう、そうか。分かった、先行ってるぜ」

 

「気を付けて追い掛けて来てね」

 

地市とみほがそう返すと、アリーナへ杏達の迎えに向かう。

 

「「…………」

 

と、迫信と熾龍だけは、何かに気付いていた様に、去り際に弘樹へ視線を送った。

 

「………出て来られても結構ですよ」

 

地市達とみほ達が離れたのを確認すると、弘樹は再びルクレールの方を振り返り、そう言い放つ。

 

「………気づいていたか。流石だな」

 

すると、そう言う台詞と共に、ルクレールの店内から都草が姿を見せた。

 

「まだ何か御用が御有りでしたか?」

 

警戒しながら、都草に向かってそう尋ねる弘樹。

 

「そう警戒しないで良い。個人的な事を聞きたいだけさ」

 

そんな弘樹の警戒心を解く様に、都草は柔和な雰囲気を出しながら笑みを浮かべて話し掛ける。

 

「………個人的な事?」

 

しかし、弘樹は警戒を解かず、都草にそう問い返す。

 

「………みほくんの大洗での生活は如何なんだい?」

 

と、都草はそれを気にする様な素振りは見せず、弘樹に改めてそう問う。

 

「………如何、とは?」

 

隊長としてのみほの事を聞き出そうとしているのかと警戒を更に強める弘樹。

 

だが………

 

「ちゃんと食事は取っているのかい? 健康状態は問題無いのか? 学校で虐められたりはしていないだろうね?」

 

「………は?」

 

質問の内容が余りにも日常的で身内的なものであった為、弘樹は一瞬呆気に取られる。

 

「………少なくとも、小官が知る限り、特に問題は無い筈です」

 

一瞬答えるべきが迷った弘樹だったが、やがてそう返した。

 

「そうか。良かった」

 

それを聞いて、都草は安堵した様な笑みを浮かべる。

 

「………随分と彼女の事を気にされるのですね。」

 

弘樹は都草の質問の意図が読めず、問い質す意味も込めてそんな台詞を言う。

 

「気にするさ。自分の未来の義妹になる子だからね」

 

「………は?」

 

と、都草の予想外の返しに、またも弘樹は呆気に取られる。

 

すると………

 

「ちょっと都草! 何言ってるのよっ!!」

 

そう言う台詞と共に、ルクレールの店内からまほが姿を現した。

 

その頬は真っ赤に染まっている。

 

「何だ、まほ。結局出て来たのかい?」

 

「貴方が変な事を言うからよ!!」

 

「フフフ………」

 

都草に向かって怒鳴るまほだが、都草は笑いを零す。

 

「何が可笑しいの!?」

 

「怒っているまほも可愛いと思ってね」

 

「!? なっ!?」

 

そう返されて、まほは今度は顔全体を真っ赤にして金魚の様に口をパクパクとさせる。

 

「本当に可愛いなぁ、まほ」

 

そんなまほを、都草はその頭に手を置き、優しく撫でる。

 

「あううう………」

 

まほは真っ赤になったまま、されるがままである。

 

「…………」

 

すっかり蚊帳の外となってしまった弘樹は、只々呆然とするばかりだった。

 

「すまない。本当は彼女が1番みほくんの事を気にしていたんだが、立場上おいそれと口を聞くワケには行かなくてね。私が代わって尋ねさせてもらったのさ」

 

そんな弘樹に向かって、都草はそう説明する。

 

「………そういう事でしたか」

 

そこで漸く納得が行った顔になる弘樹。

 

(やはり彼女も人の子か………たった1人の妹を心配しないワケがないか………)

 

そして内心で、まほも人の子であった事に安堵する。

 

「しかし、その………未来の義妹と言う事は………」

 

しかし、まだ都草の言葉の中で引っ掛かった部分があった弘樹は、それを都草に問い質す。

 

「うん? ああ、そうさ。僕とまほは将来を誓った恋人同士なのさ」

 

「と、都草!」

 

あっけらかんとそう言い放つ都草に、まほはまたも赤面する。

 

「別に隠す様な事じゃないだろう?」

 

「あ、あうう………」

 

都草に平然とそう返され、まほはまたも縮こまってしまう。

 

「は、ハア、そうでしたか………その………もう御用はお済でしょうか?」

 

若干居た堪れない気持ちになって来た弘樹は、その場を後にしようとそんな台詞を言い放つ。

 

「うむ………まほ。もう聞く事は無いかい?」

 

「あ、う、うん………もう十分よ」

 

「では………失礼します」

 

弘樹は都草とまほに向かって礼をすると、踵を返してその場から去ろうとする。

 

「! 待ってくれっ!!」

 

「…………」

 

と、その瞬間にまほから呼び止められ、弘樹は後ろを向いたまま立ち止まる。

 

「………舩坂 弘樹………こんな事を頼める立場で無い事は十分承知している………私はみほに恨まれてもしょうがない………姉としてみほを守ってやる事が出来ず………西住流次期師範としての立場を取ってしまった私には………」

 

「…………」

 

まほの言葉を、背中越しに黙って聞き入る弘樹。

 

「だが! だが、頼む! あの子を………みほを………守ってやってくれ。お願いだ」

 

「…………」

 

懇願するか様なまほの声に、弘樹は沈黙で返す。

 

「………すまない………虫のいい話だったな………忘れてくれ」

 

それを否定と受け取ったのか、まほは俯きながらそう呟く。

 

「………貴女に言われるまでもない」

 

「? えっ?」

 

しかし、弘樹からそんな台詞が返って来て、まほは思わず声を挙げる。

 

「小官は彼女を………西住 みほをこの全身全霊を掛けてあらゆる物事から守ると誓っている」

 

そしてまほに背を向けたまま、更にそう言い放つ。

 

「例えそれが………西住流からでもです」

 

「!!」

 

「………失礼します」

 

最後にそう言うと、弘樹は再び歩き出し、アリーナへと向かったのだった。

 

「…………」

 

残された都草とまほの内、まほが複雑そうな表情で俯く。

 

「まほ………」

 

都草は、そんなまほの傍に寄ると、背中から彼女を抱き締める。

 

「都草………私は本当に………酷い姉だな………」

 

自嘲するかの様にそう言うまほだが、その声は微かに震えている。

 

「…………」

 

都草は何も言わず、ただ彼女を抱き締め続けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

手続きを終えた杏達を迎え、大洗へと帰還したみほ達と弘樹達は、そのまま学園艦への連絡船に乗り込み、夕日の中、帰路に着いていた。

 

「「…………」」

 

大洗学園艦が見えて来た頃、みほと弘樹は、連絡船の甲板・左舷側に立ち、水平線に沈み行こうとしている夕日を眺めている。

 

「あ、あの………舩坂くん」

 

「何だ?」

 

「あの時は………守ってくれてありがとう」

 

不意にみほが、弘樹にルクレールでまほ達と出くわした時、エリカの敵意の視線から守ってくれた事にお礼を言う。

 

「いや、小官は大した事はしていない………」

 

「そんな事ないよ。私………すっごく嬉しかった」

 

屈託無い笑顔でそう言うみほ。

 

「…………」

 

夕日に照らされているその笑顔はとても美しく、弘樹は照れ隠しの様に学帽の鍔を下げる。

 

「西住殿。舩坂殿。此方でしたか」

 

とそこで、2人の元へ優花里が姿を見せる。

 

「あ、秋山さん」

 

「寒くないですか?」

 

「ああ………小官は問題無い」

 

そんな事を言い合いつつ、優花里は2人と一緒に水平線に沈み行こうとしている夕日を眺め始める。

 

「全国大会………出場出来るだけで、私は嬉しいです」

 

不意に優花里がそう語り出す。

 

「他の学校の試合も見られるし、大切なのはベストを尽くす事です。例え負けたとしても………」

 

「それじゃ困るんだよねぇ~」

 

と、そこで背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹達が振り返ると、そこには杏、柚子、桃の姿が在った。

 

「絶対に勝て」

 

「えっ?」

 

桃の言葉に困惑した様子を見せる優花里。

 

「我々は如何しても勝たねばならないんだ」

 

「そうなんです。だって負けたら………」

 

「し~っ!」

 

「!? あっ!?」

 

桃の言葉に、柚子が何かを言いかけたが、杏に止められる。

 

(負ければ廃校になるだなどと、言えるワケがないか………)

 

事情を知る弘樹だけは、内心でそう思いやる。

 

「兎に角! 全ては西住ちゃんの肩に掛かってるんだから。今度負けたら、何やってもらおっかな~。考えとくね」

 

杏は半ば脅す様な言葉を残し、桃と柚子を連れてその場を後にする。

 

「…………」

 

「だ、大丈夫ですよ! 頑張りましょう!!」

 

呆然となっていたみほを、優花里がそう言って励ます。

 

「………初戦だからファイアフライは出て来ないと思う。せめて、戦車チームの編成が分かれば、戦い様があるんだけど………」

 

しかし、みほは既に、サンダース&カーネル機甲部隊との戦いに向けて戦略を練り始めていた。

 

「あまり気負い過ぎるな、西住くん。小官も多少なら戦略について考案できる。会長閣下も居て下さる。如何戦うかは、皆で相談して考えれば良い」

 

そんなみほの姿を見て、弘樹は彼女が気負い過ぎる事が無い様にとそんな台詞を言う。

 

「うん………ありがとう、舩坂くん」

 

その台詞を聞いて、みほは弱々しくながらも笑みを見せる。

 

「…………」

 

そしてそんな2人の傍で、優花里は何やら決意した様な表情を見せていた。

 

「………秋山くんは何かを思いついた様だね」

 

そんなみほ、弘樹、優花里の姿を、陰から覗き見る者達が居た。

 

「多分………サンダース&カーネル機甲部隊の偵察に行く気なんじゃないかと思います」

 

迫信と蛍だ。

 

「ふむ、確かに試合前の偵察行為は連盟に承認されている。しかし、もし見つかれば試合が終わるまで勾留されてしまう危険がある」

 

「迫信様………私、優花里ちゃんの手伝いに行きます」

 

迫信が戦車道・歩兵道のルールを確認していると、蛍がそう声を挙げる。

 

「頼めるかね?」

 

「甲賀流忍術の使い手の誇りに掛けて」

 

蛍はそう言い、迫信に向かって畏まる様な体勢を取る。

 

「頼むよ………『あの2人』にも依頼しておくべきか」

 

そんな蛍の姿を見た後、迫信は水平線を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝………

 

大洗学園艦に接舷していたコンビニの定期便船の甲板にて………

 

「………良し。誰も居ない」

 

そのコンビニの制服に身を包んだ優花里が、人影を気にしながら甲板に積み上げられたコンテナの間を移動している。

 

迫信と蛍の読み通り、優花里はこのコンビニの定期便船を使い、サンダース校とカーネル校の学園艦へ潜入する積りらしい。

 

「………ふう~~」

 

やがて上手く隠れられそうなスペースを見つけると、その場に座り込み、安堵の息を吐く。

 

「………後は上手く見つからずにサンダース&カーネル機甲部隊の学園艦に潜入出来れば………」

 

息を殺しながら、小声でそう呟く優花里。

 

「………優花里ちゃん」

 

「!?」

 

と、そこで突然自分を呼ぶ声が聞こえて、優花里は慌てて周りを見回す。

 

しかし、周囲には人影は無かった。

 

「アレ?」

 

「こっちこっち」

 

優花里が首を傾げると、再び声が聞こえて来て、それが上から聞こえて来ている事に気付く。

 

「!?」

 

上を見上げた優花里が見たものは………

 

積み上げられたコンテナの上に立つ、レオタード状の忍者服の様な服を着ている蛍の姿だった。

 

「フッ………」

 

蛍はコンテナの上から飛ぶと、優花里の目の前に音も無く着地する。

 

「ほ、蛍殿!? 如何して此処に!?」

 

「し~っ! 声が大きいよ………」

 

「!!」

 

思わず大声を挙げそうになった優花里を蛍がそう言って鎮めさせる。

 

「ゴメンね、優花里ちゃん。昨日のあの場面………私も見てたんだ。優花里ちゃんが決意した様な顔してたから、もしかしたらと思ったら案の定でね。だから、私も協力するよ」

 

「蛍殿………」

 

「彼女だけじゃないぞ」

 

するとそこで、今度は別の渋い男性の声が聞こえて来た。

 

「!? この声は!!………」

 

優花里は、その声に聞き覚えを感じる。

 

そして声の主を探していると………

 

先程まで無かった筈のダンボール箱が有る事に気付く。

 

「? アレッ? このダンボールは………」

 

と、優花里がそう言った瞬間!

 

ダンボール箱が持ち上がり!

 

中から迷彩服に身を包んだ大詔が姿を現した!

 

「待たせたなっ!」

 

「! 蛇野殿も!!」

 

「まだ居るでござるよ………」

 

優花里が更に驚いていると、またも別な声が聞こえて来て、姿を現した大詔の影の中から、何かがヌーッと姿を現す。

 

「ドーモ、秋山=サン。葉隠=小太郎です」

 

現れた人物………小太郎は、優花里に向かってアイサツをする。

 

「葉隠殿まで!!」

 

「会長閣下から依頼があってな………君を護衛しに来た」

 

「サンダース校は秋山殿と蛍殿にお任せするでござる。拙者と大詔殿はカーネル校の情報を収集して来るでござる」

 

優花里に向かってそう言う大詔と小太郎。

 

「皆さん………ありがとうございます!」

 

感激した様子を見せながら、優花里は蛍、大詔、小太郎に向かって敬礼するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後………

 

優花里達は対戦校であるサンダース大学付属高校とカーネル大学付属高校の学園艦へと潜入した。

 

サンダース校とカーネル校は別の高校であるが、同一敷地内に存在しており、現在4人は、両校の正面が見える位置の物陰に隠れ、両校の様子を窺っている。

 

「アレがサンダース校………そしてカーネル校か………」

 

両校の校舎を見ながら、大詔がそう呟く。

 

「では、手筈通りに、私と蛍殿はサンダース校へ………」

 

「拙者と大詔殿はカーネル校へ潜入するでござるのでな」

 

優花里と小太郎が潜入先を確認する。

 

「それで、具体的には如何するの?」

 

「実はこんなこともあろうかと思って、サンダース校の制服を用意しておいたんです。コレで堂々と潜入出来ます」

 

蛍がそう尋ねると、優花里はバッグの中からサンダース校の制服を取り出した。

 

「大丈夫? バレたら大変だよ?」

 

「上手くやりますよ」

 

「俺達はそうだな………歩兵部隊の装備や車両の種類を確認する。序にコンピューター室にでも忍び込んで、データをハッキングさせてもらうか」

 

「紙媒体ならば、コイツで写真を取れば良いでござる」

 

とそこで、小太郎が忍び装束の懐からデジカメを取り出した。

 

「デ、デジカメ? あの………葉隠殿は忍者なのですよね?」

 

「? そうでござるが?」

 

何故今更そんな事を聞くんだと不思議そうに優花里を見やる小太郎。

 

「あ、いや………別に良いですけど………」

 

「?」

 

「お喋りはココまでだ………行くぞ」

 

と、いよいよ作戦開始だと大詔が音頭を取る。

 

「了解であります!」

 

「ハイ!」

 

「心得たでござる」

 

「良し………コレより、スニーキングミッションを開始する」

 

そして、優花里と蛍はサンダース校へ。

 

大詔と小太郎はカーネル校に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほの為に………

 

そして大洗機甲部隊の勝利の為………

 

敵校への潜入作戦を決行した優花里、蛍、大詔、小太郎。

 

果たして、有益な情報を手に入れ、無事に帰還する事が出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に登場、黒森峰の歩兵隊の隊長・『梶 都草』
主人公である弘樹の、作品を通してのライバルとなるキャラです。
キャラ的に言いますと、所謂『敵だけどカッコイイ奴』って感じですかね。
戦車道や歩兵道は武道でありスポーツなので、あまり悪役的な感じのするライバルは作品的に似合わないだろうと思いまして、紳士的で信念のあるキャラクターをイメージしました。
CVに、七色の声を持つと言われているあの人の声をイメージしていただけると更にカッコ良く見えるかと。
そして、何やらまほとラブラブな様子ですが、コレは主人公のライバルとなるのだからまほの恋人ポジションになるのは必然であり、前述の七色の声を持つ人をCVイメージにしたので、所謂中の人ネタも入っています(爆)
彼の登場に伴い、まほにも原作より人間味が出ています。

さて、皆さん。
お待たせしました。
次回はいよいよオッドボール三等軍曹もサンダース潜入作戦です。
この作品では、他に3人のキャラが同行します。
ジョロキアでもチラッとそれらしいセリフを言わせたりしてましたが、実は蛇野 大詔はあの伝説の傭兵がモデルとなっています。
彼と小太郎が、潜入作戦では大活躍します。
その分、オッドボール軍曹の活躍が目立たなくなってしまうかもしれませんが(笑)
まあ、楽しみにしていただけると幸いです。

次回は年明けですが、いつも通りに日曜朝の更新を維持します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第22話『潜入作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第22話『潜入作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道&歩兵道の全国大会で………

 

大洗機甲部隊の1回戦での相手となるサンダース大学付属高校とカーネル大学付属高校からなる………

 

『サンダース&カーネル機甲部隊』の情報を収集する為………

 

優花里を中心に、蛍、大詔、小太郎の4人は、サンダースとカーネルの学園艦へと潜入した。

 

果たして………

 

見事情報を入手し、大洗へと帰還する事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース校内………

 

「コレで何処から見てもサンダース校の生徒です」

 

予め用意していたサンダース校の制服へと着替えた優花里は、大胆にも正面からサンダース校へと侵入していた。

 

「ハーイ!」

 

「「ハーイ!」」

 

擦れ違うサンダース校の生徒と挨拶を交わす優花里。

 

サンダース校の生徒達は、優花里が他校の生徒だとは微塵も思っていない様子である。

 

「皆フレンドリーです。バレてません」

 

優花里はその様子を見ながら、記録用の小型カメラに向かって1人呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同じくサンダース校へと潜入していた蛍は………

 

「………見つけた………此処が戦車の格納庫だ」

 

ダクトの中を移動しながら、戦車格納庫へと辿り着いていた。

 

「凄い………M4中戦車があんなに………」

 

ダクトの格子越しに見える格納庫の中には、機甲師団並みの数の『M4中戦車・シャーマン』が、バリエーションごとに所狭しと並んでいた。

 

その周りを整備員や戦車道の選手らしき生徒達が忙しなく歩き回っている。

 

「え~と………M4A1で………アレが無印のM4………アレはM4A6? 珍しいもの持ってるなぁ~」

 

そんな事を言いながら、サンダースが保有している戦車の数と種類を、メモ帳に書き留めて行く蛍。

 

『学園放送。学園放送。戦車道&歩兵道の全国大会の作戦会議を行う。選手の者は直ちに合同作戦室へ集合せよ。繰り返す………』

 

とそこで、そんな艦内放送が響き渡り、選手と思わしき生徒達が格納庫を後にし出す。

 

「作戦会議するんだ………良し、行ってみよう」

 

蛍もそれを聞いて、再びダクトの中を移動し始め、作戦会議室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

カーネル男子校へと潜入した大詔と小太郎の方は………

 

「新しい武器が届きました!」

 

「よおし! 急いで搬入しろっ!!」

 

武器庫と思しき場所にトラックが横付けし、荷台にあった荷物を次々に降ろして行く。

 

「良し! このダンボールで最後だなっ!!」

 

最後に積まれていた、人が入りそうな位の大きさのダンボール箱を下ろし、搬入を終えるカーネル歩兵部隊の隊員達。

 

「お~い! 手が空いたんなら、コッチを手伝ってくれないかなぁっ!?」

 

するとそこで、車両担当の整備員の1人が、倉庫内に入って来るなり、搬入作業を行っていたカーネル歩兵達へそう声を掛ける。

 

「ああ、分かった! 今行くっ!!」

 

1人がそう答えると、搬入作業をしていたカーネル歩兵部隊の隊員達は、全員車両整備の手伝いへと向かった。

 

そして、武器庫内が静まり返ったかと思うと………

 

先程運び込まれたダンボールがガタガタと動き出し、ガバッと持ち上がったかと思うと、中から大詔が姿を現す。

 

「待たせたなっ!」

 

誰に言うのでもなくそんな台詞を言い放つ大詔。

 

「こうも簡単に潜入出来るとはな………金は持っているが、兵士の質は良くないのか。それとも只の油断か………」

 

そう呟きながらも、大詔は武器庫内に置かれているカーネル歩兵部隊の武器を調べ始める。

 

「やはり主力の小銃はM1ガーランドか。コッチはボルトアクションばかりだと言うのに………対戦車兵器はバズーカが中心か………それとコレは………ブローニングM1917重機関銃か?」

 

大詔は、武器庫内にある武器を次々にメモし、写真を撮影して行く。

 

とその時、武器庫内へと向かって来る足音が響いて来た。

 

「!!」

 

すぐさま大詔はダンボール箱を被り、息を顰める。

 

直後に武器庫の扉が開き、2人のカーネル歩兵隊の隊員が顔を出す。

 

「おかしいな? 確かに声が聞こえたと思ったんだけど?」

 

「やっぱり気のせいだろ。それよりそろそろサンダースとのブリーフィングの時間だぜ。早く行くぞ」

 

「あ! 待ってくれよぉっ!!」

 

2人のカーネル歩兵は、大詔が入っているダンボールを怪しむ事無く、サンダースとの合同ブリーフィングへと向かった。

 

「………ブリーフィングか」

 

大詔はダンボール箱の中でそう呟いたかと思うと、ダンボール箱を被ったまま移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、小太郎の方は………

 

カーネル歩兵部隊のメンバーのデータが入ったパソコンがある部屋の天井の通風孔の格子が外され、小太郎が音も無く床に降り立つ。

 

「コレでござるな………」

 

小太郎はパソコンに近づくと、指紋を付けない様に操作を始める。

 

そしてすぐさま、お目当てのカーネル歩兵部隊のメンバーのデータを発見する。

 

「良し………むっ?」

 

すぐに閲覧しようとしたが、ロックが掛けられており、パスワードを入力しなければ閲覧出来ない仕様になっていた。

 

「小癪な………その程度で拙者から逃れられると思ったか………葉隠忍術! 『パスワード見破り!』」

 

と、小太郎がそう言い放つと、その目が光り、パスワードが勝手に入力され、データの閲覧が可能となる。

 

「ふふふ、葉隠流忍術の前には近代機器もこの通りでござる」

 

自信満々なドヤ顔でそう言い放つ小太郎。

 

って言うか、それは『忍術』ではない!

 

『忍法』だ!

 

「さてさて、肝心の中身は………」

 

小太郎が再びパソコンを操作すると、凄まじい人数のデータが表示され始める。

 

「ぬう、流石に人数が多いでござるな………」

 

そう呟きながら、パソコンにUSBメモリを差し込み、データをコピーし始める。

 

「ん? 何でござるか? この『第442連隊』と言うデータは?」

 

と、コピーしているデータの中に、気になるモノを見つける小太郎。

 

(オイ、そろそろブリーフィングだぜ)

 

(ああ、サンダースと一緒に1回戦の作戦を考えるんだったな)

 

そこで、小太郎のニンジャ聴力が、カーネルの歩兵隊の隊員のものと思われる声を拾い上げる。

 

「ブリーフィング………」

 

そう呟いたのと同時に、データのコピーが終了する。

 

「…………」

 

小太郎はUSBメモリを抜くと懐にしまい、そのまま自らの影の中へと沈んで行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合同作戦室………

 

サンダース校側に設置されていた合同作戦室は、大洗男子校にあった物と遜色無い設備を誇っており、多数のサンダース校戦車部隊の隊員生徒達と、カーネル校歩兵部隊の隊員生徒達がズラッと並んでパイプ椅子に座っている。

 

「全体ブリーフィングが始まる様です」

 

その中にシレッと混じっている優花里が、他の生徒に気付かれない様に録画を続けながらそう呟く。

 

すると、集合している両校の生徒達の前方、大型モニターの前の壇上に、3人の女子生徒と3人の男子生徒が上る。

 

「では、1回戦出場車両を発表する」

 

3人の女子生徒の内、茶髪のツインテールで、そばかすの目立つ少女、サンダース校戦車部隊の2人の副隊長の片方『アリサ』が手にしているメモを見ながらそうブリーフィングを切り出し始める。

 

「ファイヤフライ1両、シャーマンA1・76mm砲搭載1両、75mm砲搭載8両」

 

アリサがそう言うと、後方の大型モニターに、使用する戦車の映像が映し出される。

 

「容赦無いようです………」

 

戦車の編成内容を聞いて、優花里はカメラに向かってそう呟く。

 

「歩兵隊の投入数は3000。対戦車兵を中心に機械化歩兵で機甲師団を形成する」

 

そこで続いて、3人の男子生徒の1人、カーネル校歩兵部隊の副隊長である『ボブ』がそう言うと、モニターが切り替わって歩兵部隊の編成図が表示される。

 

(3000………大洗歩兵部隊の6倍じゃない………)

 

と、天井にある通気口の中に潜み、ブリーフィングの様子を盗み見ていた蛍が、大洗歩兵部隊の6倍の人数を投入して来る事に冷や汗を流す。

 

「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよぉ! OK!?」

 

サンダース校戦車部隊の隊長であるウェーブがかかったロング金髪の少女『ケイ』が、皆に向かってそう言いながら、拳を握った右手を突き上げる。

 

「「「「「「「「「「イェーッ!!」」」」」」」」」」

 

それに対し、ノリノリな返事を返すサンダースとカーネルの生徒達。

 

「随分とノリが良いですね。こんなとこまでアメリカ式です」

 

その様子を小声でリポートする優花里。

 

そして、フラッグ車はアリサの乗るシャーマンA1に決まる。

 

「何か質問は?」

 

「あ! ハイ! フラッグ車の防衛は如何するんですか?」

 

するとそこで優花里は席から立ち上がり、そう尋ねる。

 

(ちょっ!? 優花里ちゃん!?)

 

通気口の中から覗いていた蛍は、スパイ活動中にも関わらず、目立った行動をする優花里の姿に焦る。

 

「お~、良い質問ね」

 

「フラッグ車には歩兵部隊2個小隊が着く。敵は少数。防御を固めるよりは一気に攻めて押し潰すまでだ」

 

ケイが反応すると、カーネル校歩兵部隊の隊長である『ジェイ』が作戦図らしき書類を見ながらそう答える。

 

「では、敵にはⅢ突が居ると思うんですけど………」

 

「大丈夫! 1両でも全滅させられるわ!!」

 

小馬鹿にしているのか、絶対の自信があるのか、ケイはそう返す。

 

「「「…………」」」

 

しかし、その左右に居るアリサと、サンダース校戦車隊のもう1人の副隊長『ナオミ』が、表情を険しくしている。

 

更に、3人居た男子生徒の残りの1人、日系アメリカ人らしき人物も、優花里に疑いの眼差しを向けている。

 

(!! マズイ!!)

 

「………見慣れない顔ね」

 

蛍がマズイと思った瞬間、ナオミが優花里に向かってそう言い放つ。

 

「へっ!?」

 

その一言で、集合していた生徒達の視線が、一斉に優花里に集まる。

 

「あわわわ………」

 

(………優花里ちゃんが危ない!)

 

慌てる優花里を見て、蛍は懐から何かを取り出す。

 

「所属と階級は?」

 

「えっ!? あの~………第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!!」

 

指名を尋ねられた優花里は、咄嗟に映画『戦略大作戦』の主人公の名前を偽名として名乗る。

 

「! アハハハハハハッ!」

 

「偽物だっ! 『ジョーイ』! 捕まえて!!」

 

「イエス、マム!」

 

それを聞いたケイが吹き出し、ナオミが優花里を指差しながらそう叫び、日系アメリカ人らしき男子生徒『ジョーイ・ミヤギ』が優花里の確保に向かう。

 

「はわわっ!?」

 

優花里が慌てて逃げ出そうとした瞬間!!

 

「忍法! 閃光玉の術っ!!」

 

蛍がそう言い放ち、格子を外した通風孔から、合同作戦室に向かって何かを投げつけた!!

 

何かは床に叩き付けられたかと思うと、激しい光を発する!!

 

「キャアッ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

「眩しい!!」

 

「目が!? 目がああああぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!?」

 

忽ち阿鼻叫喚と化す合同作戦室内。

 

「な、何がっ!?」

 

辛うじて直前に目を覆った優花里だったが、動きが止まってしまう。

 

「優花里ちゃん!」

 

とそこで誰かに名前を呼ばれ、手を引かれる。

 

「!? うわぁっ!?」

 

優花里は驚きながらも、そのまま手を引かれて合同作戦室から脱出する。

 

「! ほ、蛍殿!?」

 

「走って! 急いで脱出するよっ!!」

 

漸く目を開けると、自分の手を引いていたのが蛍である事に気付くが、蛍は話は後だとばかりに優花里の手を引いて走る。

 

だが次の瞬間、学園内に非常ベルの様なサイレンの音が鳴り響き始める。

 

『他校のスパイが侵入した! 発見次第拘束せよ! 繰り返す!! 他校のスパイが侵入した! 発見次第拘束せよ!』

 

スピーカーからそうアナウンスが流れる。

 

「! 急がないと!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

そこで優花里も全力疾走し始める。

 

「居たぞっ!」

 

「あそこだ!!」

 

と、背後から声が聞こえて来たかと思うと、武装したカーネル校の歩兵達が2人の後を追って来る。

 

「止まれぇっ! 止まらんと撃つぞぉっ!!」

 

カーネル歩兵の1人が、優花里と蛍にM1ガーランドを向けてそう叫ぶ。

 

「!?」

 

「マズイですよっ!?」

 

後ろを振り返りながら顔を青くする蛍と優花里。

 

「2人供、伏せろぉっ!!」

 

「「!?」」

 

と、その瞬間に今度は前方からそう声が響いて来て、優花里と蛍は反射的に床へと伏せる。

 

直後に、伏せている2人の頭上を、無数の銃弾が通過する!!

 

「「「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

その銃弾を浴びたカーネル歩兵達は、翻筋斗打って倒れ伏す。

 

「! 今のは!?」

 

銃声が止んだのを確認した優花里が顔を上げると、そこには………

 

「2人供、無事か?」

 

銃口から硝煙が挙がっているブローニングM1918自動小銃を持った大詔の姿が在った。

 

「! 蛇野殿!」

 

「蛇野さん! 助かりましたっ!!」

 

大詔の姿を確認すると、優花里と蛍は安心した様な顔をして立ち上がる。

 

「待てぇっ! 逃げるなぁっ!!」

 

「大人しく投降しろっ!!」

 

だがそこで、新手のカーネル歩兵達が姿を現す。

 

「!?」

 

「また来た!!」

 

「!!」

 

するとすぐさま大詔は2人を庇う様に前に出て、新たに現れたカーネル歩兵達に向かってブローニングM1918自動小銃を発砲する!

 

「うおおっ!?」

 

「隠れろぉっ!!」

 

慌てて遮蔽物に身を隠すカーネル歩兵達。

 

「撤収するぞ! 急げっ!!」

 

「「! ハイッ!」」

 

大詔は射撃を続けながらそう言い放ち、優花里と蛍は再び駆け出す。

 

「そらっ!」

 

それを確認すると、大詔はベルトに下げていたマークⅡ手榴弾を投擲する!

 

「!? グレネードだぁっ!!」

 

「Fire in the hole!」

 

カーネル歩兵達が慌てて退避した直後に手榴弾は爆発。

 

爆煙が通路を埋め尽くした。

 

それを確認すると、大詔も優花里と蛍の後を追う様に走り出す。

 

「逃がすなぁっ!」

 

「追えーっ!!」

 

すぐさま追撃するカーネル歩兵達。

 

「急ぐぞ! もうすぐコンビニの定期便船が来る! それに乗っておさらばするぞ!」

 

「うん!」

 

「それにしても、大詔殿! その武器は一体!?」

 

逃走の最中、大詔の持っている武器について尋ねる優花里。

 

「な~に、連中の武器庫からちょっと失敬したのさ。帰る時に返せば問題あるまい」

 

シレッとそう言い放ち、大詔は不敵に笑う。

 

と、その3人の行く先の通路が左右に分かれていた。

 

「あわっ!? どっちに行けば………」

 

「右へ行くぞ。定期便船が来る港へコッチから脱出するのが近道だ」

 

優花里がそう言うと、大詔がそう言って右の通路へと入ろうとしたが………

 

『待て、大詔。その先では敵が待ち伏せを行っているぞ』

 

「!? 誰だっ!?」

 

突如無線機から聞きなれない声が聞こえて来て、大詔は驚く。

 

「何者だ、一体?」

 

『ディープ・スロートとでも名乗っておこう』

 

「ディープ・スロート? ウォーターゲートの内部告発者か?」

 

大詔に対し、『ディープ・スロート』と言う名を名乗る通信の送り主。

 

『そんな事は如何でも良い』

 

「バースト通信ではないな。近くに居るのか?」

 

『いいか。右の通路では先回りしたカーネルの歩兵達が網を張っている。左の通路へ行き、迂回しろ』

 

「お前は誰だ?」

 

『ファンの1人だよ』

 

そう言って通信は切断された。

 

「オイ! オイ!」

 

「ど、如何したの?」

 

「………部外者から通信が入って来た。右の通路ではカーネルの歩兵達が待ち伏せしているらしい」

 

「その通信自体が罠と言う可能性は無いのですか?」

 

優花里がそう指摘する。

 

「いや、俺の通信周波数はごく一部の奴しか知らない筈だ………」

 

と、大詔がそう答えていると、背後の通路から複数の足音が聞こえて来る。

 

「今は考えている時間は無いよ。一か八か行ってみよう」

 

「止むを得んか………」

 

蛍がそう言い、一同は済し崩し的に左の通路へと進んだのだった。

 

「左の通路へ行ったぞ!!」

 

「クソッ! 右へ行ったのなら先回りした部隊とで挟み撃ちに出来たのに!」

 

「運の良い連中だ!」

 

背後から追って来ていたカーネルの歩兵達は、大詔達が左の通路へ逃げるのを見て、そんな事を言い放ち、自分達も左の通路へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

合同作戦室のサンダース&カーネル機甲部隊の隊長陣は………

 

『スパイは現在サンダース校のA1エリアを通過! 間も無く校舎外に出るかと!!』

 

「何をやっている! 相手はたった3人だぞ! すぐに捕まえろっ!!」

 

「あんな弱小校のスパイに情報を盗まれたなんて知られたらいい笑いものだ!!」

 

通信機に向かってジェイとボブが怒鳴り散らす。

 

「クソッ! まさか大洗の連中がスパイに来るなんて!!」

 

「ケイ。こうなった以上、編制を変更した方が良いんじゃないか?」

 

アリサも苛立ちを露わにし、ナオミがケイにそう進言する。

 

「Non、Non。折角危ない橋渡ってまで来てくれたのよ。そのBRAVEには応えてあげないとね」

 

しかし、ケイは陽気そうに笑ってそう返す。

 

「しかし………」

 

「ジョーイも良いわよね」

 

ナオミは尚も何か言おうとしたが、ケイはそこで、ジョーイに話を振る。

 

「総隊長の決断であるならば、自分は異議はありません。全力で任務を遂行するまでです」

 

ジョーイは武骨にそう返す。

 

「OK! 流石はLEGENDの『442』ね!」

 

ケイはそう言ってウインクする。

 

「それにしても………あのオッドボール軍曹を救出した子が合同作戦室から脱出する時に使った技………アレはひょっとして『ニンジャ』の技じゃ」

 

(あ………)

 

(マズイ………)

 

と、ケイの口から『ニンジャ』と言う単語が出た途端、ナオミとアリサがマズイと言う様な表情となる。

 

「ケ、ケイ総隊長」

 

「ア、アレはですね………」

 

ジェイとボブも、何か言おうとしたが………

 

「ちょっと気になるわね。見に行ってみよ~うっと!」

 

ケイはワクワクを抑えきれないと言った様子を見せ、すぐさま合同作戦室を後にした。

 

「ちょっ! 総隊長!!」

 

「またケイの悪い癖が!」

 

「止めるんだ!」

 

「只でさえ大変だってのに!」

 

アリサ、ナオミ、ジェイ、ボブが慌てて後を追う。

 

「やれやれ………」

 

ジョーイは1人落ち着いた様子で、歩いてその後に続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、逃走中の大詔、優花里、蛍の方は………

 

如何にか校舎からは脱出に成功したかに見えたが………

 

「クソッ! まさか装甲車まで出してくるとはなぁっ!!」

 

サンダースの校舎の入り口の物陰に隠れながらブローニングM1918自動小銃を連射している大詔が愚痴る様に叫ぶ。

 

現在3人が隠れているサンダース校の校舎の入り口の前には、M20装甲車2台が並んで停まり、周囲にはカーネルの歩兵達が展開していた。

 

「ど、如何しましょう!?」

 

「モタモタしてると捕まっちゃうよ!」

 

「分かっている!………!? うおっ!?」

 

慌てる優花里と蛍にそう返し、牽制射撃を続けていた大詔だったが、M20装甲車が兵員室の上部に備え付けられたブローニングM2重機関銃を発砲して来たので、一旦物陰に完全に隠れる。

 

12.7mmの弾丸が、校舎の壁を砕いて、コンクリートの破片を撒き散らす。

 

「チイッ!………!? しまった!? 弾切れか!?」

 

敵側から射撃が止んだ瞬間に射撃を再開する大詔だったが、そこでブローニングM1918自動小銃は弾切れとなってしまう。

 

「もう諦めろ! お前達は完全に包囲されている!!」

 

「武器を捨てて大人しく降伏しろ! 捕虜の待遇は戦車道・歩兵道の規約に基づいて約束する!!」

 

それに気づいたカーネルの歩兵達が、武器を構えながらM20装甲車の陰から出て来て、大詔達にそう呼び掛ける。

 

「へ、蛇野殿~」

 

「せめて情報だけでも届けないと………」

 

「クッ!………」

 

3人の顔に諦めの色が過る。

 

「さあ、両手を上げて、出て………」

 

と、カーネルの歩兵の1人がそう言いかけた瞬間!!

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトと共に、サンダース校2階の窓ガラスが割れ、煌めくガラスの破片と共に何かが飛び出した!!

 

「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚いて、上を見上げた状態で固まるカーネルの歩兵達。

 

飛び出した人影は空中で捻りを加えた回転と共に、そんなカーネルの歩兵達の前に着地する!

 

「ドーモ。カーネルの皆=サン。葉隠 小太郎です」

 

その人物………小太郎は、カーネルの歩兵達に向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「アイエエエエ!」

 

「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「コワイ!」

 

「ゴボボーッ!」

 

サツバツ!

 

NRSが起こり、カーネルの歩兵達は恐怖のあまり容易に(自主規制)し、嘔吐した。

 

「小太郎!」

 

「申し訳無い、皆の衆。探すのに手間取ったでござる」

 

と、大詔が小太郎の姿を見て声を挙げると、小太郎はそう返す。

 

「お詫びと言っては何でござるが………ココは拙者が何とかするでござる。その隙に脱出を!!」

 

「ザッケンナコラー!」

 

と、小太郎が続けてそう言った瞬間!

 

NRSから逸早く立ち直った、M20装甲車の機銃座に着いて居たカーネルの歩兵が、ブローニングM2重機関銃を小太郎に向けた。

 

だが、しかし!!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎のニンジャシャウトが再び木霊したかと思うと、その右腕は鞭の様に撓り、1枚のスリケンが射出される!

 

射出されたスリケンは、ブローニングM2重機関銃の銃口を塞ぐ様に突き刺さった!!

 

「!? アバーッ!?」

 

忽ちブローニングM2重機関銃は暴発!!

 

機銃座に着いて居たカーネルの歩兵は、ネギトロめいた死体になった様なアトモスフィアを出しながら、ダシを取られたマグロの様に車外へ転げ落ちる。

 

「イヤーッ!!」

 

更に小太郎は、そのままニンジャ跳躍し、吹き飛んだリングマウントの部分から、M20装甲車の車内へと飛び込んだ!!

 

「!? アイエエエエ!?」

 

「イヤーッ!!」

 

そして、驚愕の声を挙げたM20装甲車の操縦士に、小太郎は腰を沈めた姿勢から、ジュー・ジツの踏み込みを経て繰り出される必殺の威力を秘めたパンチ、『ポン・パンチ』を食らわせる!!

 

「グワーッ!?」

 

真面に食らった操縦士は、M20装甲車のドアを突き破って、外へと飛び出す。

 

そして、小太郎は主の居なくなったM20装甲車を操縦し、サンダース校の玄関へと横付けする。

 

「コレを使って逃げるでござる!」

 

「ありがたい!」

 

「助かったであります、葉隠殿!」

 

「ありがとう!!」

 

小太郎が降りると同時に、入れ替わる様に大詔、優花里、蛍がM20装甲車へと乗り込む。

 

「せ、狭いですぅ………」

 

「キャッ!? 優花里ちゃん! そんなとこ触らないで!」

 

「2人乗りだからな。脱出までは我慢しろ!」

 

2人乗りのところへ3人無理矢理乗って居る為、狭さに四苦八苦しながらも、運転席に着いた大詔はM20装甲車を発進させる!

 

「行かせるかぁっ!!」

 

と、もう1台のM20装甲車が、その進路を塞ぐ様に陣取るが………

 

「しっかり捕まっていろぉっ!!」

 

「「!?」」

 

大詔は自分が運転していたM20装甲車を突っ込ませ、無理矢理退かして強行突破した!!

 

「に、逃げたぞぉーっ!!」

 

「追え! 追うんだっ!!」

 

慌てて逃げるM20装甲車に、カーネルの対戦車兵がバズーカを向けたが………

 

「イヤーッ!!」

 

「「「「「アバーッ!?」」」」」

 

小太郎のニンジャシャウトと共に射出されたスリケンが、バズーカを構えていたカーネルの対戦車兵の後頭部へと命中する!!

 

「邪魔はさせん! カーネル歩兵、殺すべし………慈悲は無い!」

 

「ザッケンナコラー!」

 

「スッゾコラー!」

 

「ドグサレッガー!」

 

コワイ!

 

小太郎の台詞に、カーネルの歩兵達は怒りのあまりヤクザスラングを叫び始めるのだった。

 

 

 

 

 

丁度、その頃………

 

サンダース校の屋上にて………

 

「アラッ? コッチじゃなかったの?」

 

スパイの姿を探していたケイは、何故か見当違いな屋上へと出てしまい、不思議そうに首を傾げる。

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!?」

 

「What?」

 

しかしそこで、叫び声や爆音が聞こえて来て、ケイは屋上の端へと向かうと、音が聞こえて来た下の方を見やる。

 

そこでは、小太郎がカラテとジュージツのワザで、カーネルヤクザ、もとい歩兵達を薙ぎ倒していた。

 

「!! アレは!! 正しくニンジャだわ!! ワンダホー!! 本当のニンジャが見られるなんて!!」

 

その小太郎の姿にケイは、目を輝かせて興奮した様子を見せ、思わず転落防止用の柵を乗り越えて、屋上の縁の上に立つ。

 

「!? ケイ!?」

 

「総隊長!? 何やってるんですか!?」

 

「あ、危ないですよっ!!」

 

「すぐに戻って下さいっ!!」

 

とそこへ、遅れてナオミ、アリサ、ジェイにボブが姿を現し、屋上の縁の上に立っているケイの姿を見て、慌てて注意する。

 

「Oh! 皆来て来て! あそこに本物のニンジャが居るのよ!!」

 

しかし、ケイは興奮している為、注意が耳に入らず、逆にナオミ達を自分の方へと誘おうとする。

 

その時!!

 

「ナマルベッケロアー! ニンジャ野郎めぇっ! コレでも喰らえぇっ!!」

 

大暴れする小太郎に業を煮やしたのか、1人のカーネル歩兵が、バズーカを持ち出して小太郎へ向けて発射した!!

 

「!?」

 

咄嗟に小太郎は、持ち前のニンジャ反射神経をフル回転させ、その場でブリッジをしてバズーカから放たれたロケット弾をかわす!

 

外れたロケット弾は、そのままサンダース校の校舎を直撃した!!

 

「キャッ!?」

 

その際の振動で、屋上の縁に立っていたケイがフラつく。

 

そしてそのまま、屋上の縁から足を踏み外した!!

 

「あ………」

 

「!? ケイッ!!」

 

「「「総隊長ぉーっ!!」」」

 

ナオミとアリサ達が駆け出したが時既に遅し!!

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

ケイの身体は重力に引かれ、そのまま落下して行く!!

 

「!? イカンでござる!!」

 

当然その悲鳴は小太郎の耳にも入り、すぐに落下するケイの姿を発見する小太郎。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーー………」

 

小太郎はすぐさま、チャドーの呼吸法を発動。

 

膨れ上がった全身の筋肉をフル稼働させ、落下するケイ目掛けてニンジャ跳躍!!

 

そのまま空中でケイをお姫様抱っこの様に受け止める!!

 

「!?」

 

「Wasshoi!」

 

そしてそのまま、サンダース校の3階の窓ガラスを突き破り、廊下へと着地する!!

 

「………怪我は無いでござるか?」

 

ガラスの破片からケイを守りながらそう問う小太郎。

 

「う、うん………」

 

「そうか。何よりでござる………」

 

と、小太郎がそう言った瞬間!!

 

ガラス片の1つが、小太郎の覆面の一部を切断!!

 

覆面がハラリと剥がれ、小太郎の素顔が露わになった!!

 

「!? しまったっ!?」

 

「!?」

 

慌てて腕で顔を隠す小太郎だったが、ケイは小太郎の素顔を見た瞬間に真っ赤になって固まる。

 

「ケイ戦車隊長!!」

 

とそこへ、遅れて一同を追っていたジョーイがそんな2人の姿を発見し、腰のホルスターに入れていた『M1911A1』、通称『コルト・ガバメント』を抜き、走り寄って来る。

 

「! チイッ!!」

 

それを見た小太郎はケイを解放し、懐から煙玉を取り出して、床に叩き付ける!

 

忽ち通路に煙が充満する!!

 

「クウッ! 煙幕か!?」

 

ジョーイがそう言った瞬間に、煙に反応してスプリンクラーが作動。

 

スプリンクラーの水で煙が晴れるが、既に小太郎の姿は何処にも無い。

 

「逃がしたか………総隊長、大丈夫ですか?」

 

「…………」

 

M1911A1をホルスターに戻しながらケイにそう尋ねるジョーイだったが、ケイは小太郎が残した覆面を両手で握り締めながら、熱っぽい瞳を見せていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、小太郎は無事、先に逃げた大詔達と合流。

 

再びコンビニの定期便船へと乗り込み、如何にか大洗学園艦へと帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

優花里達と大詔達が、サンダース校&カーネル校でスパイ活動をしていたのと時を同じくして………

 

此処にも1人、大洗の学園艦を離れ、他校の学園艦を訪れていた者が居た。

 

「………此処が黒森峰の学園艦か」

 

その人物は神狩 白狼。

 

そして、彼が訪れていたのはみほの古巣………

 

『黒森峰機甲部隊』の所属する『黒森峰学園艦』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作でのオッドボール三等軍曹の活躍の場面です。
しかし、3人のオリキャラを放り込んだ結果………
混沌(カオス)です。

潜入作戦なのに派手に暴れ過ぎ!!
が、これくらいやらないと文章として映えないのも事実でして………

何気に伏線やフラグが立ってたりしています。
これが後で如何なるかはお楽しみで。

さて次回は、黒森峰を訪れた白狼の話です。
彼は何故黒森峰に?
そしてそこで出会ったのは?
黒森峰側にまたオリキャラが登場しますので、予めご了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第23話『黒森峰女学園の生徒会長です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第23話『黒森峰女学園の生徒会長です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花里達が、サンダース&カーネル機甲部隊への潜入偵察任務中に大立ち回りを演じていた頃………

 

白狼は1人、黒森峰の学園艦へと来ていた。

 

彼もまた偵察活動………

 

と言うワケではなく、以前大洗の学園艦に来ていた、黒森峰でバイクの整備長をしている『おやっさん』なる人物へと会いに来たのだ。

 

天竺ジョロキア機甲部隊との試合以来、人知れず特訓を続けて来ていた白狼だったが、若干の煮詰まりを感じ始め、おやっさんに相談しようと此処まで居たのだ。

 

無論、大洗の面々には内緒で、である。

 

「しっかし、広いなぁ………戦車道や歩兵道が強い学校は皆デカイのか?」

 

そんな事を呟きながら、黒森峰男子校の校庭を堂々と歩いている白狼。

 

校庭には黒森峰男子校の生徒達の姿も在るが、白狼が私服で、余りにも堂々としているものだから、まさか他校の生徒だとは思わず、奇跡的に全員がスルーしている。

 

「さて、おやっさんを探さないといけないんだが………」

 

と、白狼はそう呟きながら、黒森峰学園艦の艦橋部分に目をやる。

 

「………一度あそこに登ってみたいんだよなぁ~」

 

「駄目よ。あそこは生徒会のメンバーしか入る事を許されないんだから」

 

そこで、白狼の呟きにそんな言葉が返って来た。

 

「!? 誰だ?」

 

慌てて周りを見回す白狼だが、声が聞こえそうな距離に人は居ない………

 

大きな木が生えているだけである。

 

「クスッ………此処よ、コ・コ」

 

「!?」

 

上から声が降って来て、白狼が上を向くと、その木の上に、ピンク色のストレートの髪をした女の子が居た。

 

白狼と同い年くらいであろうか?

 

「ふふ………全く、有名なレーサーがこんな所で何をしているのかしら?」

 

木の上から白狼に向かってそう問い掛ける少女。

 

「………お前こそ何してるんだ?」

 

しかし白狼は、逆に少女へそう問い返した

 

「!! さ、流石は狼の名を持つ男………いきなり核心を突いてくるわね………」

 

すると少女は、動揺を露わにする。

 

「そっか………黒森峰は最近木登りが流行ってんのか」

 

「これが遊んでいる様に見えるのかしら?」

 

「落ちたら怪我じゃ済まないかもな………」

 

「そ、そんな事! アンタに言われなくても分かってるわよ!!」

少女はやけに強がりで言い訳みたいな言葉を口にする。

 

「ハア~………意地っ張りだなぁ」

 

白狼は呆れながらそう言う。

 

如何も彼女が高い所が苦手な様だ。

 

それなのに木の上に居ると言うのは謎だが………

 

「と、ところで貴方、神狩 白狼………ベオウルフの名を持つ男よね!? 物凄く速くてF1マシンですらも超えてしまうって噂の………」

 

「そういう喩えは如何かと………それにプロ資格は今試験中だ………」

 

「ならちょっと………お願いがあるんですけど………」

 

「? 何?」

 

「だから………その………えっと………う………受け止めてね………」

 

「はっ?」

 

「たあっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

女の子はいきなり木から飛び降りて、そのまま白狼に向かって落ちて来た!!

 

「!?」

 

白狼はすかさず避けると同時に、彼女の服を掴み、まるで野良猫を吊るすかの様に持った。

 

「って何やってんのよ! 受け止めてねって言ったのに!!」

 

「いちいち細かい事、言ってんじゃねーよ………助かっただけありがたいと思えよな………」

 

「これの何処がありがたいのよ!?」

 

吊り下げられた状態で喚く少女。

 

とりあえず彼女を降ろす。

 

「ハア~、もう~………」

 

「で? 何であんなとこに居たんだ?」

 

「それは………」

 

曰く、如何やら彼女は木に登って高所恐怖症の克服の練習をしていた様である。

 

「ハア~、全く………と、申し遅れたわね。私は『天河 揚羽(あまのがわ あげは)』。黒森峰女学園の生徒会長よ」

 

溜息を吐きながら白狼に自己紹介をする、少女………『天河 揚羽(あまのがわ あげは)』

 

「黒森峰の………って事は、アンタも戦車道の選手なのか?」

 

「一応ね。隊長はまほちゃんだけど。でも、戦略を練るのは得意だよ」

 

囲碁や将棋、果てはチェスなどで戦略的計画を練習していると語る揚羽。

 

するとそこへ………

 

「揚羽会長!!」

 

「?」

 

白狼が振り向くと、そこに居たのは大勢の男子生徒や女子生徒。

 

しかも全員武道着などを着ており、武道関係の者だと言う事を明らかにしている。

 

柔道部、剣道部、薙刀部、空手部、果ては相撲部まである………

 

「今日こそ! 貴方に勝ち! 我が部に入部して頂きますっ!!」

 

「宜しくお願いします!!」

 

「あ~………ハイハイ………」

 

しかし、揚羽は適当に返事をすると、白狼に向き直る。

 

「神狩白狼。貴方、相手をしてみて」

 

「? 如何いう積りだ? アイツ等のお目当てはお前だぞ」

 

「良いからやってみなさいって。皆! 今日は特別に、この男を倒せたら、その部に入部してあげるわ!!」

 

「!? オイッ!!」

 

揚羽にそう言われ、如何にも白狼は気が乗らない様子だったが、揚羽は逃げ道を塞ぐ様にそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

忽ち武道関係の部員達は、白狼に掛かって行った。

 

「チイッ!!」

 

白狼は舌打ちをしつつも戦闘態勢を取る。

 

「何処の誰は知らんが、コレも我が部の為!」

 

「倒させてもらうぞ!!」

 

そう言って最初に襲い掛かって来たのは空手部のメンバー。

 

其々に構えを取ると、一斉に白狼に襲い掛かる!

 

「ふざけんじゃねえぞぉっ!!」

 

しかし、対する白狼も、得意の八極拳で対抗。

 

空手部の正拳や蹴りを往なしながら、カウンターで肘撃や靠撃を決めて行く白狼。

 

「うおおっ!?」

 

「この型!………八極拳か!?」

 

「怯むなぁっ!! 押せ押せぇっ!!」

 

部員達は次々と倒れて行くが、数に任せて果敢に攻め立てる。

 

「クソッタレがぁっ!………!? ぐあっ!?」

 

奮戦する白狼だが、四方八方を包囲された状態で全ての攻撃を往なす事は出来ず、徐々にダメージを受け始める。

 

「………そこまで!!」

 

すると揚羽が、突如そこまでと言い、戦いを制止する。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「ゼエッ! ゼエッ!………」

 

部員達は全員その場で停止し、白狼は乱れた息を整えようとしながら揚羽を見やる。

 

「神狩 白狼………貴方の戦い方は、自分の身を削ってまでも勝利を得る戦い方ね………」

 

「………何が言いたいんだ?」

 

「男の子としてはとても立派な戦い方かもしれないけど、本当の戦いだったら確実に死んでたわね」

 

「まるで歩兵道での喩えみたいだな」

 

「分かってるじゃない。接近戦、遠距離戦でも、生存率としては100とは言い切れない………そこが貴方の悪いところね………どんなに強い歩兵も、たった1発の銃弾で戦死判定になるなんて事はざらにある話よ」

 

「…………」

 

「それでも勝利を得たいのだったら、生きる術を学ぶ事ね………何より歩兵道は銃を良く使うけど、手練れの歩兵は接近戦を好む傾向にあるわ………丁度良いわね。私が見せてあげるわ」

 

揚羽はそう言いながら、部員達に向き直り、構えた。

 

「揚羽会長!」

 

「やはり貴方を倒さねば始まりませんっ!!」

 

「全力で行かせてもらいますっ!!」

 

まず先に出たのは数人者の空手部員。

 

「押忍っ!!」

 

そう言いながら構え、一斉に攻撃に入る!

 

「…………」

 

すると、揚羽は瞬時に最初の攻撃を避け、それから次々と空手部員の攻撃を避け続ける。

 

そして、1人の空手部員に隙が生じたのを発見すると、即座に投げ飛ばした!

 

「グハッ!?」

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

空手部員が次々と倒れて行くと、今度は剣道部員達が竹刀を構え、攻撃を仕掛ける。

 

「よっ、と」

 

しかし、またも揚羽はそれを避けたと同時に手首を掴み、投げ飛ばす!

 

「ぐええっ!?」

 

「まだまだぁっ!!」

 

「ホイッ、と」

 

別の剣道部員が更に攻撃を仕掛けると、揚羽は素早い動きで接近し、腕と裾を掴み、大きく投げ飛ばした!

 

「ガハァッ!?」

 

「「「「「シエアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

すると今度は剣道部員達は、一斉に竹刀での突きを繰り出して来た!!

 

「!!」

 

だが次の瞬間には、揚羽の姿が一瞬で消え、剣道部員達の後ろに現れる!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄、無駄ぁーっ!!」

 

そして、どこぞのスタンド使いの様な台詞と共に、次々と千切っては投げ千切っては投げを繰り返す!!

 

「今度は私達の番よぉっ!!」

 

続いて襲い掛かって来たのは薙刀部。

 

部員達が次々に薙刀の技を繰り出そうとするも………

 

「流石に薙刀相手に素手はキツイかな?」

 

揚羽はそう言い、剣道部員が落とした竹刀を拾い、剣道の構えをする。

 

「………フッ!!」

 

そして一瞬で、薙刀部員達を次々と面打ちで倒す!!

 

「柔道部の御為にぃーっ!!」

 

「ああもーっ! しつこいなぁーっ!!」

 

続いて柔道部員達が掛かってくるが、揚羽は竹刀を捨て、次々と柔道部員達を投げては地面に叩き付ける!!

 

「ドスコーイッ!!」

 

そして最後は相撲部員が掛かって来たが………

 

「ファイトォーッ! 4発ーっ!!」

 

揚羽は何と!!

 

体格、体重差共に数倍はあろうかと言うその相撲部員を投げ飛ばした!!

 

そして、揚羽の周りが死屍累々な状態となる………

 

「ふう~、疲れた~………」

 

「お疲れ様でした会長」

 

「揚羽ちゃん! 今日もモテモテだね~!」

 

「正に敵無し………と言ったところか………」

 

「お疲れ様、はいこれ」

 

何時の間にやら、4人の女生徒が現れ、揚羽を取り巻く。

 

一人のメガネをかけている女子生徒が、キレイなカップに入っているコーヒーを持ってきては揚羽に差し出す。

 

「ありがと」

 

揚羽はそれを受け取ると、優雅にコーヒーを飲みながら一息を吐く。

 

「! 隙有りぃーっ!!」

 

すると、倒れていた1人の空手部員が起き上がり、揚羽に向って後ろから攻撃を仕掛ける!!

 

「!!………」

 

それに気が付いた揚羽はコーヒーカップを上方に投げ上げ、振り返った瞬間、飛び回し蹴りを放ったが………

 

「!! うおおっ!?」

 

何と空手部員はそれを避けた!

 

「! マズイッ!!」

 

白狼は揚羽がやられると思っていたが、揚羽の脚の動きが妙だった。

 

「会長! 貰いましたよぉっ!!」

 

それを知らない空手部員は避けた事でチャンスとばかりに攻撃しようとするが………

 

「!? ぶべらぁっ!?」

 

突然、その彼に、飛び膝蹴りが襲い掛かった!!

 

揚羽の避けられた蹴りの方の足とは反対の足だった!!

 

「なっ、どうはっ!?」

 

空手部員は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて気絶してしまった………

 

「よっ、と」

 

上方から落ちてくるコーヒーカップは、見事に戦いが終わった揚羽の手元へと納まり、揚羽は何もなかったかのようにコーヒーを飲む。

 

「………マジかよ」

 

白狼は驚いていた………

 

彼女は無傷だ。

 

アレだけの武道関係の部員達を無傷で、制してしまうとは………

 

只者ではないという事は確かだった。

 

「分かったかしら? 戦い方って言うのはね、相手の攻撃を受け止めるばかりじゃないの。身体を移動させて攻撃をかわす。これが体捌きよ。まあ、まだ色々と応用はあるけどね」

 

「動きからして、柔関係か?」

 

「そうよ。大東流の柔術から学んだの」

 

「だいとうりゅう?………」

 

「そうよ。正式名称は『大東流合気柔術』って言うの」

 

首を傾げる白狼に、揚羽は春風の様に笑いながらそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

その後、揚羽は白狼を誘い、艦橋の中へと入った。

 

見張り台に当たるバルコニーの先は、とても雄大な景色で、黒森峰学園艦の全ての街並みが見える。

 

「ふ~ん、いい景色じゃないか………」

 

「ふ、如何? 素晴らしいでしょ? 此処からの眺めはまさに絶景………余りの美しさに瞬きすら忘れてしまいそうになるでしょ?」

 

「お前もこっちに来れないのかよ………」

 

やや離れた場所から自慢する様にそう言って来た揚羽に、白狼は突っ込みを入れる。

 

「わ、私は良いの。心の目で見てるから」

 

「………さっきまであんな事やってたとは信じられねえなぁ」

 

「揚羽は高所恐怖症だからね………」

 

そう言ったのは、黒森峰女学園生徒会メンバーの1人で書記を務めている『東雲 瀬芹(しののめ せせり)』

 

落ち着いた性格であり、全国模試ベスト10に入るほどの勉強好きな秀才でもある。

 

「だから揚羽ちゃん、簡単にはバルコニーに出られないんだよね」

 

続いてそう言ったのは、生徒会の下っ端役員で、ニコニコ笑って無邪気な口調の『暁 紫染(あかつき しじみ)』

 

「それを楽しんで見てる奴もいるからな」

 

更にそう言うのは、同じく生徒会の下っ端役員で、背が高く、中性的な顔立ちをした黒髪赤眼で男性的な口調の『夕霧 斑(ゆうぎり まだら)』

 

「まあ、それでもちゃんとここで生徒会の仕事をやっているから、そこそこ克服していると思うわね」

 

最後にそう言ったのは、紫染、斑と同じく生徒会の下っ端役員兼副会長で、揚羽に対し妙に熱っぽい視線を送っている『逢真 竪刃(おうま たては)』

 

紫染、斑、竪刃の3人を合わせて、『生徒会3人娘』と呼ばれているらしい。

 

「そこそこね………」

 

疑う白狼に、揚羽は特に気にした様子を見せずにコーヒーを飲む。

 

「アイツ………随分強いんだな………」

 

「生徒会長は大の武道、武術マニアだからね。子供の頃から女の子が好きなモノだけじゃなく、武道に関するもの全てを独学で制覇したのよ。古武術や海外の武術もね………」

 

ふとそう呟いた白狼に、瀬芹がそう言う。

 

「さっきのもよく使っているのか?」

 

「大東流の事? まあ、大東流合気柔術は今、多くの人の間に普及している合気道の源流とも言われてるわ」

 

白狼に問いにそう答える揚羽。

 

「やっぱ、武術なのか?」

 

「詳しい事は不明でね。元は会津藩の御留め武術だったそうよ………ハッキリしているのは明治時代からで、『武田 惣角』っていう名人が現れてからね」

 

「たけだ………そうかく?」

 

聞き慣れない名前に首を傾げる白狼。

 

「そうよ。『武田 惣角』は明治の生まれで昭和の時代まで活躍した人で、数多くの真剣勝負の実話が伝えられてるのよ」

 

「でも武田惣角の知名度は限られているから、知らない人も結構多いのよ………」

 

揚羽の言葉を、瀬芹がそう補足する。

 

「様は、影の薄いヤツなんだな」

 

「………そういう喩えはちょっとね………そもそも武田 惣角っていう人は道場を持たないで各地を放浪しながら大東流を伝えたのよ。訪れた町や村で宿を取ると、その土地の武術好きの有力者に声を掛け、旅館の一室を借りて、講習会を開いたの。だけどその姿は小柄な黒髪の初老………初めて見る人達にとっては、実力も半信半疑………」

 

白狼の歯に衣着せぬ言葉に、揚羽は少々不満そうな顔をしながら語り出す。

 

「村で草相撲の大関はっている男はインチキだと大笑いしていたけど、惣角は片腕を出して捻ってみろと挑発したわ。草相撲の大関は、惣角の腕を掴み捻ろうとするけど………捻る事が出来ず、逆にその片腕で大関を投げ飛ばしたそうよ………」

 

「…………」

 

「続いて、両手を縄で縛って手も出ない状態になると、今度は大勢が一斉に襲い掛かってみろって言って、その大勢が一瞬で吹き飛ばされた………天狗の生まれ変わりだと誰もが騒然としたそうよ………そういう人なのよ………」

 

「何もせずに人を吹き飛ばせるなんて………信じられないな………」

 

「工事やダムの建設などで揉め事を起こしていた何十人もの大勢の人達すらも、惣角は問題なく翻弄していったわ………」

 

「お前はそれに憧れて大東流を習っていたんだな」

 

「大東流は他に習っている人間は結構いるわよ。でも私はそれらを合わせた総合格闘術を研究してそれを実践実証しているの。所謂『剛』と『柔』を兼ね備えた最強の武術をね………それを完成するのが私の夢なの………」

 

「でも揚羽ちゃんは無理なんだよね」

 

と、そこで紫染がそう口を挟む。

 

「女性専用の格闘技大会とか無いから不便なのだ。精々柔道だけだけど………柔道は柔道のルールがあるから、他流は門外なのだ」

 

「それでも揚羽は女子柔道大会を数連覇するほどの腕前よ」

 

斑と竪刃がそう言う。

 

「かっこいいから女の子からもモテモテよね………」

 

「う、ウルサイッ!! それは余計よっ!!」

 

しかし、瀬芹が余計な事を言って、揚羽は思わず叫びを挙げる。

 

「要は不憫か………」

 

「余計な喩えはいらないのよっ!!」

 

そんなこんなな会話を繰り広げる白狼と黒森峰生徒会メンバー。

 

しかし、白狼が目をつけているのは剛と柔を兼ね備えた最強の武術。

 

「その力さえ手に入れば誰にも負けないのか?」

 

「勿論よ」

 

と、白狼がそう聞くと、当たり前と豪語する揚羽。

 

「ほう、そうか………俺も多少武術を齧ってるからな。興味有るぜ」

 

白狼はその武術に興味を示し、やってみたいと言う。

 

「ふ~ん、そう………じゃ、その拳法って言うのは?」

 

「コレさ」

 

白狼は、揚羽の前で、八極拳の打頂の代表的な『霍打頂肘』を披露する。

 

すると揚羽は………

 

「へぇ~、それは八極拳ね、中々様な様だけど………まだ震脚が弱いわね………」

 

「何ぃ?」

 

憮然とする白狼を無視し、揚羽はコーヒーカップを置くと、白狼と同じ様に霍打頂肘を披露した。

 

最期に床を踏み締めた瞬間、白狼よりも大きな音が響いた。

 

「!?」

 

白狼は驚いた。

 

まさかこの生徒会長までもが八極拳を知っているとは………

 

「さてと………そろそろ戦車の整備に行かないと………神狩 白狼くんだったわね? 貴方の事は教職員と生徒達全員に言っておくから、好きに黒森峰を見学して行って良いわよ」

 

揚羽達はそう言うと、その場を後にする。

 

「あ! 揚羽ちゃん!」

 

「会長! 待って下さいっ!!」

 

紫染達もその後に続く。

 

「…………」

 

1人残された白狼は、先程の揚羽が震脚にて踏み締めた床をみると………ひび割れていた。

 

「…………」

 

悔しそうな顔をしながらも、仕方なく、おやっさんの元へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰男子校・車両格納庫………

 

「おやっさん!」

 

「おお、白狼か。生徒会長さんから聞いて待ってたんだぞ」

 

「ワリィワリィ。にしても、流石黒森峰男子校。良いマシンを揃えてやがるなぁ」

 

漸く出会ったおやっさんとそんな会話をしながら、目の前に並んでいる黒森峰歩兵部隊の車両を見てそう言い放つ。

 

「………ちょっと弄ってみるか?」

 

すると、その白狼に、おやっさんがそんな事を提案する。

 

「!? 良いのかよ。他校の生徒にマシンを弄らせて」

 

「お前がそう言う事をする奴じゃないのは俺が良く知っている。もし何かあったら………それは俺の目が曇っていただけの事だ」

 

驚く白狼におやっさんは平然とそう言い放つ。

 

「………サンキューッ! 実は1度こんな良いマシンを弄ってみたかったんだっ!!」

 

そう言うと白狼は、早速黒森峰歩兵部隊のバイクを整備し始めるのだった。

 

 

 

 

 

2人して黙々とバイクの整備を続けている白狼とおやっさん。

 

「…………」

 

しかし、白狼の頭には、揚羽の事が過っていた。

 

するとおやっさんが………

 

「バイクの整備はちゃんと捗っているな。流石はベオウルフと呼ばれるだけあって手付きも器用だな………だが、何か気になる事がある様だな………」

 

そんな白狼の心中を見抜いてそう言って来る。

 

「ああ………あの生徒会長の事がちょっとな………」

 

「察しはつく。大方大勢の武道関係の部員たちと手合わせているんだろ? 彼女は無傷だが、お前は怪我をし掛けた………」

 

「………」

 

「だがそれ位の怪我なら一晩冷やせばあとは自然に治る。病気や怪我は所詮自分の力で治すもんだ………とは言え自分が誰よりも強くなったからと言って、無闇にケンカを買っていると、その内取り返しのつかない酷い目に逢うぞ」

 

「……だったら………そんな酷い目みたいな事になったら如何すりゃ良いんだ?」

 

整備をしていた白狼の手が止まる。

 

「………逃げりゃいい」

 

「如何して逃げるんだ? だったら俺達は何の為に戦わなきゃいけないんだよ?」

 

「戦いというのは、相手や自分自身に打ち勝つだけじゃない。誰とでも仲良くすることが一番だ」

 

「そう簡単に出来るかよ………戦いの後に残るには恨みだけだ」

 

「それじゃあ、1つ良い話をしてやろう。俺が知ってる限りで、間違いなく世界………いや、史上で強かった侠だ」

 

「………?」

 

「その男は強い侠だった。中国は河北省・滄州は昔から武術が盛んな土地で、その侠を名を李 書文と言う………」

 

「り………しょぶん?」

 

「李書文は北方の武術家の間で『神槍・李書文』として、広く知られていたが、北京の武術家達は李書文の名を聞くにつけ反感を持ち、遂には代表者を滄州に差し向けて、その実力を試さんとした」

 

首を傾げる白狼にそう語り出すおやっさん。

 

「武術家達は相談を重ねた上、これなら大丈夫という屈強の武術家を2人選び出し、滄州に向けて出発させた………だが、結果は李 書文の強すぎる実力により、武術家達は帰らぬ人となった」

 

「…………」

 

「言っておくが、この話は『滄県志』という書物にも出ている本当の話だ」

 

「そんな奴が大昔に居たなんてな………」

 

「だが、そんな李書文のような侠でさえも、最期は哀れなものだった………」

 

「どこの誰かに負けたんだな………」

 

「そうだ」

 

「そいつは、そのり………何とかって奴よりも強かったんだな」

 

「いいや、そうじゃない。毒殺されてしまったんだ………試合で殺した相手の仇討ちによってな」

 

「!? おい! そりゃないだろっと!!」

 

思わず大声を挙げる白狼。

 

「仕方なかった………それだけしか言えない………たった1発の小さな1撃を出すだけでも相手が倒れてしまう。それが李書文の超人的な実力だ………李書文は二の打ち要らず………と、謳われたんだが、余りにも多くの人を試合で殺し過ぎた………」

 

おやっさんは相変わらず淡々と語る。

 

「殺された相手の家族や仲間の気持ちを考えてみろ………恨みを晴らそうにも李書文は余りにも強い。試合では絶対に勝てない。と、なれば………」

 

「………そんな」

 

「良いか。幾ら強くなっても力で物事を押し通しては駄目だ………力で無理を通そうとする奴は、何時か必ずその力が自分に返って来て、自らを滅ぼしてしまう事になる………」

 

「…………」

 

「お前がどんなに強くなろうと、大事なのは心だ………そして、人は仁義礼知信の五つの徳を養わけりゃいけない。これを『五常の徳』と言う。分かるか?」

 

「知らねえ………」

 

「『仁』とは施しの心、優しさだ。『義』とは人助けの心、義侠心だ。『礼』とは礼儀、礼節の心だ。『智』とは正悪を真に理解出来る知恵だ。『信』とは信頼される様な人になる事。言葉と行動が一致する事。人を欺かぬ事。嘘を吐かない事だ。しかしまだまだある。忠と孝と厳と勇と悌だ。『忠』とは主君に専心尽くそうとする真心だ。『孝』とは大切にする心、思い計る事。『厳』とは自らを厳しく戒める事。『勇』とは勇気だ。」

 

「…………」

 

「大切な事はお互いが自分を信じて全力でぶつかり合う。それで初めて真底から相手を認める様になる。そしてお互い尊重、尊敬し合う事が出来る………だが、力で自分が進む道を無理矢理壊して進んで行く。それでは真の侠にはなれない………相手はただ恐怖し逃げて行き、気付けば孤独となる………」

 

「…………」

 

おやっさんの言葉を只聞き入る白狼。

 

「大切な事を理解すれば、お前にも分かるさ」

 

「…………」

 

おやっさんはそう言いながら、倉庫から出て行き、残された白狼は立ち尽くす。

 

暫くして白狼は、碌に挨拶もせずに黒森峰学園艦を去ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後………

 

放課後になって、大洗機甲部隊は男子校にある作戦会議室に集まり、優花里、蛍、大詔、小太郎が持ち帰ったサンダース&カーネル機甲部隊の情報を全員で視聴していた。

 

「………以上が、私達が持ち帰った情報です」

 

杏達と迫信達、女子学園と男子校の生徒会メンバーと共に壇上へ上がって居た優花里、蛍、大詔、小太郎のメンバーの中で、優花里が皆の方に向き直ってそう言う。

 

「いやはや、良くここまでの情報を持ち帰って来てくれたね………正直、驚いたよ」

 

椅子に座っている大洗機甲部隊のメンバーの中で、膝に乗せたノートPCを弄っていた煌人が、早速データを入力しながらそう言う。

 

「何と言う無茶を………」

 

「頑張りました!」

 

続いて麻子が呆れる様にそう呟くと、優花里がガッツポーズをしながらそう返す。

 

「良いの? こんな事して?」

 

「大丈夫だよ。試合前の偵察行為は、連盟に承認されてるから」

 

「破壊工作をしたワケではないからな。御咎めは無いと思って良いだろう」

 

沙織がこんな事をして大丈夫なのかと不安そうに言ったが、今度は蛍と大詔がそう返す。

 

「西住総隊長殿。如何でござったか? 少しは作戦の練り様が出たでござるか?」

 

すると最後に、小太郎が自分達の得た情報が役に立ったかと、総隊長であるみほに問う。

 

「うん、とっても………秋山さん、蛍さん、蛇野さん、葉隠さん。皆ありがとう。フラッグ車も分かったから、頑張って戦術立ててみるよ!」

 

「私も微力ながら協力しよう」

 

みほがそう答えると、迫信も不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「それにしても………大した奴だぜ、お前達は」

 

「まさかサンダース&カーネル機甲部隊に潜入して来るなんて………」

 

俊と清十郎が、大詔と小太郎を見ながらそう言う。

 

「無事で良かった、ゆかりん、蛍先輩」

 

「怪我は無いのか?」

 

「ドキドキしました」

 

沙織、麻子、華の3人も、優花里と蛍にそう言う台詞を掛ける。

 

「大丈夫。私も優花里ちゃんもこの通り無事だから」

 

「心配して頂いて恐縮です」

 

そんな3人の言葉に、蛍と優花里は照れた様子を見せる。

 

「何にせよ、1回戦を突破せねば………」

 

「頑張りましょう」

 

「少しは光明が見えて来ましたし………」

 

「よっしゃあっ! こうなりゃトコトンやってやるぜっ!!」

 

勝利への希望が見えて来てテンションが上がったのか、麻子、華、楓、地市がそう口走る。

 

「1番頑張んなきゃいけないのは麻子でしょ?」

 

するとそこで、沙織が麻子へそんな言葉を投げ掛けた。

 

「何故?」

 

「明日から、朝練始まるよ」

 

「………えっ?」

 

沙織のその一言を聞いた麻子は、青褪めた表情となって固まる。

 

「何にせよ、我々が厳しいと言う状況に変わりは無いが、対策が打てる様になった意味は大きい。後は1人1人の練度を高め、万全の態勢で臨むだけだ!」

 

とそこで、弘樹が場を纏める様に立ち上がり、皆の方を向きながらそう言い放つ。

 

「当然の事だが、勝つ積りで行けっ! 負ける事を考えて勝負に臨む者など居ない! それぐらいの気概で行けっ! 大洗! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「「バンザーイッ! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

最後にはお馴染みとなった万歳三唱が始める。

 

「よしっ! では早速訓練に………」

 

と、桃が訓練を開始すると言おうとしたところ………

 

「たのもーっ!!」

 

そう言う台詞と共に、作戦会議室の扉が勢い良く開かれた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

先程まで万歳三唱していた大洗機甲部隊の面々は、何事かと一斉に作戦会議室の入り口を振り返る。

 

「あ、あうう………」

 

「聖子ちゃん!」

 

「ホラ、だから言ったじゃないですか。いきなり行っても驚かせるだけだって」

 

突然大人数に注目され、気後れを感じていた聖子と呼ばれた少女の両隣に、別の2人の少女が並び立つ。

 

3人供、大洗女子学園の制服を着ている。

 

「君達は?」

 

とそこで、一同を代表する様に、弘樹がその3人の少女に向かって尋ねた。

 

「! あ! わ、私! 大洗女子学園・普通科2年の『郷 聖子』です!」

 

「同じく2年の『西城 伊代』です」

 

「『東山 優』です」

 

そこで3人の少女………『郷 聖子』、『西城 伊代』、『東山 優』は其々に自己紹介をする。

 

「ふむ………それで、何か御用かね?」

 

迫信が口元を広げた扇子で隠したお決まりのポーズで聖子達に尋ねる。

 

「アッ、ハイ!! えっと、その………」

 

聖子は一瞬口籠った様子を見せたが、やがて意を決した様に言葉を出そうと、大きく息を吸い始める。

 

「私達にも! 戦車道をやらせて下さいっ!!」

 

その声は、作戦会議室中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如現れ、戦車道の受講を希望して来た3人の少女………

 

『郷 聖子』、『西城 伊代』、『東山 優』

 

彼女達は何者なのか?

 

何故、今になって戦車道受講を希望して来たのか?

 

そして、その目的は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回は白狼と黒森峰側の新たなオリジナルキャラ登場回です。
ちょっと複雑なキャラですが、後々活躍する………予定です。

そして今回の最後に出てきた3人………
彼女達こそ、以前言っていたオリジナルの戦車チームの面々です。
ですが、彼女達で終わりでなく、まだメンバーが登場します。
どんなメンバーでどんなチームのなるのかは、お楽しみで。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第24話『スクールアイドルです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第24話『スクールアイドルです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花里達が持ち帰ったサンダース&カーネル機甲部隊の情報を分析していた大洗機甲部隊の元に現れた………

 

3人の大洗女子学園の生徒、『郷 聖子』、『西城 伊代』、『東山 優』

 

彼女達も戦車道をやりたいと言って来た。

 

彼女達は何者なのか?

 

何故、今になって戦車道受講を希望して来たのか?

 

そして、その目的は何か?

 

全ては、まだ戦車道が復活する前の頃までに遡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道が復活する前の大洗女子学園のとある教室にて………

 

「おはよ~! 伊代ちゃん! 優ちゃん!」

 

教室に入って来ると同時に、幼馴染の友達であり、クラスメイトの伊代と優に元気良く挨拶をする聖子。

 

「おはよう、聖子ちゃん」

 

「朝から元気ですねぇ………」

 

同じ様に元気の良い挨拶を返す伊代と、朝からテンションが高い様子の聖子に呆れる優。

 

「そりゃそうだよ~! 私、元気だけが取り柄だもんっ!!」

 

そう答えながら、聖子は窓際の自分の席へと着く。

 

すると、眼下の敷地内の通路で、教職員達が慌しく走り回っている様子が目に入る。

 

「? 何だか先生達、忙しそうだね?」

 

普段なら別段に気にする様な光景ではなかったが、何故か今日に限って、聖子はその様子が妙に気になる。

 

「………やっぱり、あの噂………本当なのかな?」

 

と、その聖子の呟きを聞いた伊代が、表情に影を落としてそう言う。

 

「? あの噂? 何それ、伊代ちゃん?」

 

「………この学校が廃校になると言う噂です」

 

聖子がそう問うと、優が同じ様に表情に影を落としてそう言う。

 

「!? は、廃校っ!?」

 

廃校と言う言葉を聞いた聖子は、思わず大声を挙げてしまい、他の生徒達が何事かと注目する。

 

「!? ちょっ!? 聖子! 声が大きいですよっ!」

 

「ああ、ゴ、ゴメン………」

 

優がそう叱ると、聖子は身を縮ませる様に2人の元へと近づく。

 

「で、でも、廃校だなんて………何かの間違いだよね?」

 

「………分かりません。文部科学省が学園艦構想の見直しを行うって言うのはニュースでも流れていましたからね」

 

「ウチの学校、ここ数年目立った実績も無いし、入学生が減って廃部になった部も多いから、強ち噂とも言い切れないかも………」

 

否定して欲しいと思ってそう言った聖子だったが、優と伊代は客観的な視点から否定出来ないと返す。

 

「そ、そんなぁ~………わ、私の高校生活がぁ~………」

 

それでトドメを刺されたのか、聖子は力無く自分の机に戻って突っ伏す………

 

その後、授業にも身が入らず、戦車道復活で派手に行われた必修選択科目の事も耳に入らなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗女子学園・聖子達の教室にて………

 

「このままじゃいけない!」

 

昨日とは打って変わって威勢が良い様子の聖子が、優と伊代に向かってそう言い放つ。

 

「………何がですか?」

 

苦笑いしている伊代に代わる様に、優が聖子にそう尋ねる。

 

「この学校が廃校になるだなんて………そんなの駄目だよっ!!」

 

そう言い放つ聖子。

 

「聖子………廃校の話は飽く迄噂ですよ。仮にそれが事実だったとして、如何する積りなんですか?」

 

「廃校になるのは、新入生が減ってるから何だよね? だったら! 新入生を増やせば良いんだよっ!!」

 

呆れた様子の優に、聖子は自信満々にそう言い放つ。

 

「新入生を増やすって………如何するの?」

 

「そりゃ勿論! この学校の良い所をアピールして、生徒を集めれば良いんだよっ!!」

 

「で、具体的には?」

 

伊代にそう答える聖子に、優のツッコミが入る。

 

「えっ!? え~と………あっ! 歴史がある!!」

 

「他には?」

 

「う~んと………伝統がある!!」

 

「それは同じです」

 

「え~と、え~と………伊代ちゃ~ん!」

 

アピールすべき良い所が見つからず、伊代に泣きつく聖子。

 

「う~ん、生徒数が減少してるからか、部活動も廃部になった部が多くて、実績らしい実績も無いしね~」

 

しかし、伊代はそんな言葉を返す。

 

「駄目だ~っ!!」

 

聖子はそう言う台詞と共に机に突っ伏す。

 

「そもそも、そう言うのは教職員や生徒会の仕事です。我々がどうこう出来る問題とは思えません」

 

優も冷たいながらも現実的な意見を突き付ける。

 

「………私………この学校、好きなんだけどなぁ」

 

落ち込んだ様子の聖子の口から、そんな言葉が漏れる。

 

「………私も好きだよ」

 

「私も………」

 

それを聞いた伊代と優もそう同意する。

 

「…………」

 

聖子は落ち込んだ様子を見せながらも、授業中も必死で廃校回避の手段を考える。

 

しかし、答えは全くでなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く経ったとある日………

 

丁度その日は大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合が行われた日………

 

学園艦が大洗に寄港していた日だった。

 

聖子は1人、大洗の町に在るクレープ屋で、自棄食いの様にクレープを頬張っていた。

 

「もう~………如何すれば良いんだろう~~」

 

しかし、自棄食いしても気が晴れる様なものではなく、1人考えが頭を堂々巡りしている。

 

すると、その時………

 

「いや~、凄かったなぁ~、大洗とグロリアーナ&ブリティッシュの試合!」

 

「ホント! 戦車道と歩兵道の試合を生で見たのは久しぶりよね~!」

 

地元のカップルと思わしき男女が、そんな会話をしていたのが耳に入る。

 

如何やら、大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合の観戦を終えた後らしい。

 

「戦車道………」

 

その言葉が耳に入った聖子は、おぼろげな記憶の中で、生徒会が戦車道復活を大々的にしていた事を思い出す。

 

良く聞けば、他の客達も、殆どが戦車道や歩兵道の話をしている。

 

「そう言えば、もうすぐ全国大会だけど………今年は何処が優勝するかな?」

 

「やっぱり黒森峰だろう。去年は負けちまったけど、9連覇してるんだしよ」

 

「いやいや、プラウダやサンダースも今年強いらしいから分からねえぞ」

 

と、話題の中に、全国大会の話が出始める。

 

「けど、話題と言えば、やはり『ジュラシック』だな」

 

(? ジュラシック?)

 

何故か単語が気になり、聖子はその客の話に耳を澄ませる。

 

「そうだなぁ。何かって言うとあそこの話が出るよなぁ」

 

「聞いた話じゃ、去年の入学生の数は、大洗の10倍あったらしいぞ」

 

「!?」

 

入学生が大洗の10倍と言う話を聞いて、聖子の興味は頂点に達する。

 

すぐさま自分のスマホで、ジュラシックと言う名の学校について調べ出す。

 

「! あった! コレだ!!」

 

すぐにジュラシック学園のホームページが見つかり、公開されている情報に目を通し始める。

 

「凄い………ウチの学校より何倍も大きいし、設備も最新式のばかり………」

 

コレが格差社会なのかと思いながらも、更に情報へ目を通す聖子。

 

すると………

 

「あ! この学校、『スクールアイドル』が居るんだ………」

 

とあるページに、『スクールアイドル』に関する事が載っていて、そう呟く。

 

 

 

 

 

『スクールアイドル』とは………

 

10年程前より誕生した、学校が有するアイドルグループの総称である。

 

また、その殆どが、戦車道をやっている選手である事も特徴の1つである。

 

意外にもこの件は、戦車道連盟が自ら主導して行っているのである。

 

大和撫子の嗜みとされる戦車道だが、それ故か如何しても『お堅い』と言うイメージが付いて回り、修得者が伸び悩んでいる現状があった。

 

そこで、戦車道連盟が生み出した奇策が、『スクールアイドル』との共同路線である。

 

若者に人気のアイドルが戦車道をやっているとなれば、それを応援するファンは当然戦車道に興味を抱く。

 

そういった考えで戦車道連盟はスクールアイドルを支援。

 

結果、殆どの学校のスクールアイドルは、戦車道の選手となっている。

 

更に、公式戦にて勝利すると、ライブを行う事が出来ると言うルールまで制定された。

 

結果、戦車道の修得者は大幅に増大。

 

世間一般にも、戦車道の選手=スクールアイドルと言う図式はかなり浸透する事となる。

 

無論、好意的な意見ばかりではなく、西住流や黒森峰女学院と言った伝統を重んじる戦車道関係者の中には、このプロジェクトに対し、否定的な意見を持っている者達も居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『スクールアイドル』………『戦車道』………」

 

聖子は何やら考え込む様な表情となり、ジッとそのスクールアイドルのページを見つめていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

聖子は学校を休み、1人ジュラシック学園の学園艦へと向かった。

 

「うわぁ~~、凄~い!」

 

甲板上の街へと入った聖子が見たモノは、まるで大都会の様な作りの艦上都市だった。

 

大洗学園艦では、背の高い建物は精々マンションぐらいだが、この艦上都市では西新宿の様な高層ビルが幾つも連なり、摩天楼を形成している。

 

それに合わせて、学園艦の大きさも、大洗は愚か、黒森峰をも凌ぐ程の大きさを誇っている。

 

「はわぁ~~………」

 

何ともスケールのデカイ学園艦に圧倒される聖子。

 

すると、そんな聖子の視界の端に、学生服らしき服を着た女子生徒が目に入る。

 

「! あっ!?」

 

恐らくジュラシック学園の生徒だと思い、その後を付ける。

 

すると、聖子の前方に1つのビル………

 

ジュラシック学園の校舎が現れる。

 

「おお~~~っ!」

 

今までの学校とは違うビル式の学校や、入校する時に携帯で照合タッチするなど、未来的な光景に、聖子は興味津々な様子である。

 

「「「「「「「「「「キャーッ!!」」」」」」」」」」

 

するとそこで、すぐ近くから何10人もの歓声が聞こえて来る。

 

「!?」

 

何事かと聖子が見やると、その歓声を挙げていた人々は、ジュラシック学園の校舎の壁に備え付けられた巨大なテレビの大画面に映っている、聖子と同い年くらいの女子高生達がダンスをしながら歌っている映像に見入っていた。

 

「! この人達………」

 

聖子は、映像の人物達こそ、学園の案内にも出ていたスクールアイドル………グループ名『ダイノMIX』である事に気付く。

 

良く見れば、彼女達が歌って踊っているバックには、学園の戦車部隊の物と思われる戦車がズラリと並んでいる。

 

そして、ライブが終わると同時に、一斉に空砲が発射された!!

 

「キャアッ!?」

 

映像ではあるが、その凄まじい迫力と爆音に、思わず尻餅を着きそうになる聖子。

 

「コレが………スクールアイドルの戦車道………凄い」

 

しかし、その視線は、ジッとダイノMIXの事を捉えていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更にその翌日………

 

学校へと登校した聖子は………

 

「スクールアイドルだよっ!!」

 

何の脈絡も無しに、伊代と優に向かってそう言う。

 

「ふえ?」

 

「………は?」

 

突然の事に、伊代も優もただ呆けるしかない。

 

「だから! アイドルだよ、アイドル!! スクールアイドルが居る学校って、今すっごく増えてて、人気の子が居る学校は入学希望者も増えてるんだって!!」

 

そんな2人の様子も御構い無しに、聖子は捲し立てる様に言葉を続ける。

 

「あ~、そう言えば確かにそんな話良く聞くね~」

 

それを聞いた伊代が、思い出した様にそう呟く。

 

「でしょでしょっ! それでね! 私考えたんだっ!!」

 

「私達でスクールアイドルをやろう………ですか?」

 

優が聖子の考えを読んでそう言い放つ。

 

「!? 如何して分かったの!?」

 

「誰もでも想像つきますよ………」

 

「なら話は早いね! 一緒に………」

 

「お断りします」

 

考えを読まれた事に驚いた様子を見せる聖子だったが、すぐに優にそう言おうとして、言い切る前に遮られた。

 

「何でっ!?」

 

「そんな事で本当に生徒が集まると思ってるんですか!?」

 

「! そ、それは………」

 

「それに、今のスクールアイドルと言えば戦車道の選手………全国規模でアピールするには、公式戦に出て、勝ち抜かなきゃならないんですよ!」

 

「確かに、今年戦車道を復活させたばかりのウチが全国大会で勝ち続けられるかは、ちょっと怪しいね~」

 

優の言葉に、伊代もそんな意見を言う。

 

「そんな~、伊代ちゃんまで~!」

 

「ハッキリ言います………アイドルと戦車道は無しです!」

 

「そんな~っ!!」

 

会心のアイデアが否定され、聖子はガックリと落ち込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから更に少しの月日が流れ、現在………

 

聖子達が、大洗機甲部隊が集結している作戦会議室へと現れる小1時間前………

 

大洗女子学園・弓道部の練習場………

 

「…………」

 

弓道着姿の優が、弓矢を構えて、的に狙いを定めている。

 

意識を集中し、的を射ぬく事だけを考える優。

 

(皆のハート、打ち抜くぞぉっ! バァーンッ!!)

 

と、その瞬間に、自分がアイドルの恰好をして、ステージ上でそんな台詞を言い放つ姿が過る。

 

「!?」

 

雑念が生まれた為、放った矢は大きく外れてしまう。

 

(な、何を考えているのです!? 私は!?)

 

「外したの? 珍しい」

 

その様子を見た部活仲間の子が、そう言って来る。

 

「あ、いや………た、偶々です!」

 

優はそう言うと、新たな矢を構え、再び狙いを定める。

 

(パンツァー、フォーッ!!)

 

しかし、今度は戦車道の選手として活躍している妄想が過り、矢は外れる。

 

その後も矢を射ようとする度に妄想が過ってしまい、矢は悉く外れてしまう。

 

「ああ! いけません! 余計な事を考えては!!」

 

優は倒れ込み、そんな台詞を言い放つ。

 

「優ちゃ~ん! ちょっと来て~っ!」

 

するとそこで、伊代が弓道場へ姿を見せ、優にそう言って来る。

 

「? 優?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、伊代に連れ出された優は………

 

「聖子のせいです。全然練習に身が入りません」

 

愚痴る様にそんな事を言う優。

 

「って事は、ちょっとアイドルや戦車道に興味が有るって事?」

 

「!? いえ、それは………」

 

しかし、伊代にそう指摘されて、思わず言葉に詰まる。

 

「………やっぱり、上手く行くとは思えません」

 

「でも、何時もこういう事は、聖子ちゃんが言い出してたよね?」

 

伊代と優は、幼少の頃からの聖子との思い出を思い出す。

 

「私達が尻込みしちゃう所を、いつも引っ張ってくれて」

 

「そのせいで散々な目にも遭ったじゃないですか」

 

「そうだったっけ?」

 

「聖子はいつも強引過ぎます」

 

「でも優ちゃん。後悔した事ある?」

 

「…………」

 

伊代のその言葉で無言になる優。

 

何だかんだ言っても、やはり彼女も親友である。

 

「ハッ! ホッ!」

 

「!?」

 

するとそこで、聖子のものと思われる掛け声の様なものが聞こえて来る。

 

「見て」

 

伊代がそう言いながら、校舎の影へと優を案内する。

 

「!」

 

そこで優が見たものは………

 

「ホッ! ハアッ!」

 

1人ダンスの練習に勤しむ聖子の姿だった。

 

「ハッ!………!? わ、とととっ!?」

 

と、ターンをやろうとして、踏ん張りが利かずに尻餅を着いてしまう聖子。

 

「アイタタタタタッ! イターイッ! ふう~、ホントに難しいや。皆良く出来るなぁ。よ~し、もう1回! せーの!」

 

しかし、めげずにまた踊り出す。

 

良く見れば、その傍に置かれている彼女のカバンには、『戦車道入門』と書かれた本も置かれている。

 

「聖子………」

 

「ねえ、優ちゃん。私、やってみようかな?」

 

伊代は優に向かってそう言い放つ。

 

「えっ?」

 

「優ちゃんは如何する?」

 

「………私は」

 

「うわぁっ!?」

 

とそこで、またも転んだ聖子が、尻を抑えて痛そうにしている。

 

すると、その眼前に手が差し出された。

 

「あ………優ちゃん!」

 

それは優の手だった。

 

「1人で練習しても意味がありませんよ。やるなら………3人でやらないと」

 

「! 優ちゃん!!」

 

「………貴女には負けましたよ、ホント」

 

優はそう言い、聖子の手を取って立ち上がらせる。

 

「ふふふ………」

 

伊代も、その光景を見て、笑みを零す。

 

「よおし! それじゃあ早速、大洗機甲部隊の皆さんの所へ行こうっ!!」

 

だが、次の瞬間には、聖子はそう宣言する。

 

「!? ええっ!?」

 

「ちょっ!? いきなりですか!?」

 

「思い立ったが吉日! 善は急げだよっ!!」

 

戸惑う伊代と優にそう言い放つと、聖子は先陣を切って走り出した!

 

「あ! 聖子ちゃん!」

 

「待って下さいっ!!」

 

慌ててその後を追う2人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦会議室………

 

そして、現在に至ると言うワケである。

 

「………と言うワケなんです! 私達も戦車道の選手として………そしてスクールアイドルとして活躍させて下さい!!」

 

「成程………」

 

「いや~、面白いね~」

 

聖子からの話を聞いた迫信と杏がそう言う。

 

「スクールアイドルかぁ………今の内に仲良くなっておけば、将来ウハウハだな」

 

「下衆いですよ、了平」

 

またも良からぬ妄想をする了平に、楓の容赦無いツッコミが入る。

 

「西住くん。如何する?」

 

「えっ!? わ、私!?」

 

突然弘樹から話を振られ、戸惑うみほ。

 

「この部隊の総隊長は西住くんだ。全ての決定権は君にある」

 

「え、えっと………」

 

「西住さん! お願いしますっ!!」

 

みほが言い淀んでいると、聖子が両手を合わせて頼み込んで来る。

 

「あ、そ、そんな畏まらないで! 戦車道をやりたいって言うなら、歓迎するから」

 

「ホントですか! ヤッターッ!!」

 

その言葉を聞いた途端に、飛び上がらんばかりに喜びを露わにする。

 

「でも………今、空いてる戦車が無いんだけど………」

 

「!? ええ~っ!? そんな~っ!?」

 

しかし、続くみほの言葉を聞いて、途端に落胆を露わにする。

 

「戦車が無いって………」

 

「如何言う事ですか? 戦車道は復活させたのでは?」

 

伊代と優も、首を傾げながらそう尋ねる。

 

「それが………」

 

みほは、大洗女子学園は20年前に戦車道を廃止しており、その際に使用していた戦車とその関係資料を紛失していると説明する。

 

「だから、今貴方達が乗れる戦車は無いの。折角来てくれたのに、ゴメンナサイ」

 

聖子達に向かって申し訳無さそうに頭を下げるみほ。

 

「あ、いえ、そんな!?」

 

「突然お邪魔した私達が悪いんです」

 

「だから、そんなに謝らないで下さい」

 

そんなみほの姿を見て、逆に聖子達の方が申し訳なく思ってしまう。

 

「まだ学園艦の全てを調べたワケじゃない。今後の事も考えると、今一度徹底的に捜索を行ってみる必要がありそうだな」

 

「しかし、先ずは目の前に迫った1回戦だ」

 

俊がそう言うと、迫信がパチンと扇子を閉じてそう纏める。

 

「まあ、兎に角、入って来るってんなら歓迎するよ~」

 

「これから、よろしくお願いします。郷さん、西城さん、東山さん」

 

そして、杏とみほが、聖子達を迎え入れる。

 

「あ! 聖子で良いです! よろしくお願いします! 西住総隊長!」

 

「私も伊代で良いです」

 

「優と呼んで下さい」

 

すると聖子達は、名前で呼んでくれて構わないと返す。

 

「お~い、スクールアイドルの卵さん達」

 

「アイドルやるんなら、当然バックバンドとか要るだろう?」

 

「俺達が手を貸させて貰うぜ。目的は一致してるからな」

 

そこで、バンド仲間である磐渡、鷺澪、重音が、聖子達に向かってそう提案する。

 

「! ありがとうございますっ!!」

 

嬉しさを露わにし、磐渡達に礼を言う聖子。

 

「よし! 心強い味方も出来たところで、今度こそ訓練を始めるぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおお~~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

と、そこで桃が改めてそう言うと、大洗歩兵部隊を中心に、雄々しい掛け声が挙がる。

 

「お、おお………」

 

自分で発破を掛けておいて、その様子に戸惑う桃。

 

「よし! 訓練場に向かうぞ! 空教官殿もお待ちかねの筈だ!」

 

弘樹がそう言うと、大洗機甲部隊の面々は、訓練場に向かって移動を始める。

 

「聖子さん達も、一緒に如何ですか?」

 

「暫くは予備要員と言う扱いにさせてもらうからね。しかし、戦車を操縦する事になった際の事を考えると、訓練風景を見学しておく事をお勧めするよ」

 

みほと迫信が、聖子達にそう言う。

 

「ハイ! 是非っ!!」

 

「面白そう~」

 

「そうですね………少しは見ておいた方が良いでしょう」

 

聖子、伊代、優は三者三様の返事を返し、大洗機甲部隊と共に訓練場へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、サンダース&カーネル機甲部隊への対策を考えた大洗機甲部隊は、公式戦1回戦に向けて、日々の訓練に励んだ。

 

整備の敏郎達も、戦車や武器の整備を万全にする一方、新たな武器の調達にも奔放。

 

結果、雀の涙程度ではあるが、幾つかの新装備が歩兵部隊に配備される事となった。

 

また、新たなメンバーに加わった聖子達も、戦車道の訓練を見学する傍ら、本格的にスクールアイドルとして活動を開始。

 

グループ名は、戦車道でのチーム名を兼任と言う事で、本人達の希望により、モチーフはウーパールーパー………

 

『サンショウウオさんチーム』が、彼女達のグループ名となった。

 

衣装は、裁縫が得意な伊代が仕立て、歌の方は、歌詞を中学時代にポエムを嗜んでいた(お察し下さい)優が、曲を磐渡達が作曲。

 

皆が力を合わせ、1回戦突破………

 

そして、サンショウウオさんチームのスクールアイドルデビューに向けて団結していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた戦車道・歩兵道全国大会1回戦の日………

 

会場は南方の孤島………

 

森林地帯が広がり、緩やかな丘が幾つも存在する野戦戦場だった。

 

観覧用の場所では、屋台が幾つも営業を行っており、賑わいを見せている。

 

「レッツゴー、サンダース! ファイト、カーネル!」

 

一方観客席では、サンダース&カーネル機甲部隊側は、両校の全校生徒を含めた席を埋め尽くさんばかりの人で溢れ、チアリーダー達が応援を行っている。

 

対する大洗機甲部隊側の席は若干空席が目立ち、生徒も全員が来ていると言うワケでは無い。

 

集客数から早くも差をつけられた感じである。

 

だが、大洗機甲部隊はそれを気にする事無く、戦車部隊は戦車の最終整備。

 

歩兵部隊は武器の最終手入れ。

 

そして隊長陣は作戦の最終確認を行っていた。

 

「整備終わったかぁーっ!!」

 

と、自分達の戦車の整備(殆ど柚子と蛍がやっていた)が終わった桃が、戦車隊のメンバーに向かってそう問い掛ける。

 

「「「「「ハーイ!」」」」」」

 

「準備完了!」

 

「私達もです!」

 

「Ⅳ号も完了です」

 

それに対し、ウサギさんチームの面々、カエサル、典子、みほがそう返事を返す。

 

「歩兵部隊の諸君も宜しいかね?」

 

迫信も、歩兵部隊の面々に向かってそう問い掛ける。

 

「とらさん分隊、欠員無し。装備の点検、完了しています」

 

「ペンギンさん分隊、OKや! 何時でも行けるでぇ!」

 

「ワニさん分隊、問題無し」

 

「ハムスターさん分隊も大丈夫です」

 

其々の隊の分隊長である弘樹、大河、磐渡、勇武がそう返答する。

 

「よし! では、試合開始まで待機!」

 

「あ! 砲弾忘れてたっ!!」

 

と、桃がそう指示を出した瞬間、ウサギさんチームの優季がそう声を挙げた。

 

「それ、1番大切じゃん」

 

「ゴメ~ン」

 

「「「「ハハハハハハッ!!」」」」

 

「ちょっ! 笑い事じゃないよ~!」

 

ウサギさんチームから笑い声が挙がるが、竜真がそうツッコミを入れる。

 

と、そこで………

 

「呑気なものね」

 

「それで良くノコノコ全国大会に出て来れたわね」

 

「全く、大洗だけに大笑いってか?」

 

「ハハハハハハッ! ナイスジョークだぜ、ジェイ」

 

そう言う小馬鹿にする様な声が聞こえて来て、大洗機甲部隊の一同が注目したところ………

 

そこには、サンダース戦車部隊の副隊長コンビであるナオミとアリサに、カーネル歩兵部隊の隊長と副隊長であるジェイとボブの姿が在った。

 

「はわっ!?」

 

そこで優花里が、慌てて麻子の後ろに隠れる。

 

すると………

 

「コレはコレは………サンダース戦車部隊の副隊長であるナオミさんとアリサさん。それにカーネル歩兵部隊の隊長のジェイさんに副隊長でのボブさんですね。態々挨拶に来て頂けるとは、大変恐縮です」

 

迫信が笑みを見せながらナオミ達とジェイ達の前へと出た。

 

「えっ?」

 

「あ、いやその………」

 

「ご、ご丁寧に如何も………」

 

「ど、如何も………」

 

迫信の思いも寄らない態度に、ナオミ達とジェイ達は出鼻を挫かれる。

 

「申し遅れました。私、大洗国際男子校の生徒会長を務めており、大洗歩兵部隊の隊長の神大 迫信です。本日はよろしくお願いします」

 

そこで迫信は更に、自己紹介をしながらそう挨拶をする。

 

「えっ!? じ、神大!?」

 

「ま、まさか!? あの神大コーポレーションの!?」

 

と、神大と言う名を聞いたアリサとボブが表情を変える。

 

「な、何故、神大コーポレーションのお方が大洗の学校に!?」

 

「無論、学校が好きだからさ。だから、もし私達の母校を馬鹿にする様な者が居るとしたら………許しては置けないね」

 

笑みを浮かべてそう言う迫信だが、目は笑っていない。

 

((((ヒイイィィィィ~~~~~~ッ!?))))

 

その迫信の得体の知れない迫力の前に、4人は声も出せず悲鳴を挙げる。

 

「あっちゃ~、アイツ等も可愛そうに………」

 

「よりによって会長に目を付けられてしまうなんて………」

 

その光景を見ていた俊と清十郎が同情する様にそう言う。

 

「それで………何か用?」

 

とそこで、杏が改めてナオミ達とジェイ達にそう問い質した。

 

「あ、えっと………」

 

「し、試合前の交流も兼ねて、食事でも如何かと、ウチの総隊長が………」

 

するとアリサとナオミが、若干しどろもどろしながらもそう言う。

 

「ああ、良いね~。ごちそうになろうか?」

 

杏は不敵に笑ってそう言い、大洗機甲部隊の面々は、サンダース&カーネル機甲部隊の野営陣へと招待されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回のラストに登場した3人のオリキャラによるオリジナル戦車チーム。
彼女達はスクールアイドルの戦車乗りと言う設定です。
モチーフは、あのアニメのキャラ達です。
このキャラクターは友人の方より提供されたのですが、如何やら例のアニメに嵌っていた様でして。
残念ながらまだ戦車の数が足りないので、今回は原作におけるサンダース戦では観戦・応援ですが、戦車と更なる追加メンバーが加入しだい、彼女達にも奮戦してもらう予定です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第25話『強豪・シャーマン&機械化歩兵軍団です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第25話『強豪・シャーマン&機械化歩兵軍団です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、戦車道・歩兵道全国大会の1回戦を迎えた大洗機甲部隊。

 

その試合前の準備中に、対戦相手であるサンダース&カーネル機甲部隊の戦車部隊副隊長であるナオミとアリサ。

 

歩兵部隊の総隊長と副隊長であるジェイとボブが姿を見せる。

 

試合前の交流と称し、大洗機甲部隊を食事に誘うナオミ達とジェイ達。

 

断る理由も無かった大洗機甲部隊の面々は、サンダース&カーネル機甲部隊の野営陣へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース&カーネル機甲部隊の野営陣………

 

ナオミ達とジェイ達によって連れて来られた大洗機甲部隊の面々は、そこに並んでいる様々な移動用車両を目にする。

 

「凄~い!」

 

「救護車にシャワー車、ヘアーサロン車まで」

 

「ホントにリッチな学校なんですね」

 

その光景を見て、沙織、優花里、華の3人が、そんな言葉を漏らす。

 

「ったく、金持ちを自慢してぇのかよ………」

 

「そう言う積りは無いと思いますけど、コレは差を感じますね………」

 

地市と楓も、そんな事を呟く。

 

「ああもう、何か戦う前から負けって感じで………」

 

「…………」

 

「! い、いいえっ! 何でもありませんっ!!」

 

了平は戦う前から気持ちで負けそうになったが、弘樹が軽く睨むと、すぐに自分を無理矢理奮い立たせた。

 

「熾龍さんは?」

 

「メリケンの施しは受けねぇってよ。相手も日本人だってのに」

 

「まあ、この場に居る全員アメリカ人だと言っても信じてしまいそうだがな………」

 

1人来なかった熾龍の事で清十郎、俊、十河がそう言い合う。

 

「ヘイ! アンジーッ!! サコーッ!!」

 

するとそこでそう言う声が響いて来て、サンダース戦車部隊の隊長であるケイが姿を現す。

 

「アンジー?」

 

「会長の事かな? 角谷 杏だからアンジーとか?」

 

「馴れ馴れしい」

 

ケイが言ったアンジーと言うのが誰の事か分からず首を傾げる蛍と、推察する柚子に、いきなりのフレンドリーな態度に毒を吐く桃。

 

「サコーと言うのは………」

 

「恐らく私の事だろうね」

 

飛彗の呟きに答える様に、迫信がそう言う。

 

「やあやあ、ケイ」

 

「この度はお招きを如何も」

 

「何でも好きな物食べてって。OK?」

 

「OK、OK。おケイだけに」

 

「HAHAHAHAHA! ナイスジョークッ!!」

 

杏のダジャレが面白かったのか、ケイは腹を抱えて笑う。

 

「あ、そうそう。貴方、此間はどうもね」

 

するとそこで、今度は蛍の事を見てそう言う。

 

「あ、いえ、その………」

 

蛍は何と返答して良いか分からず口籠る。

 

「他の3人は如何したの?」

 

「あ、優花里ちゃんが、アッチに………って、しまった!?」

 

とそこで、ケイがそう尋ねて来たので、思わず素直に答えてしまい、ハッとする。

 

しかしその瞬間には、ケイは既に優花里の元へ向かって居た。

 

「ヘイ! オッドボール三等軍曹!」

 

「!? はわぁっ!? 見つかっちゃった!?」

 

フレンドリーに声を掛けるケイだが、優花里は慌てる。

 

「怒られるのかなぁ?」

 

沙織が心配そうにそう言い、みほの如何して良いか分からずに困惑する。

 

するとそこで、国防色の影が、優花里達の前に立ちはだかる。

 

「…………」

 

「! 舩坂くん!」

 

戦闘服姿の弘樹だ。

 

まるで優花里達を守る様に、向かって来るケイの姿を見据えている。

 

「大丈夫よ。別に彼女をどうこうしようって言うんじゃないわ」

 

しかし、ケイはそんな弘樹の行動が杞憂であると言う様にそう言い、弘樹を挟んで優花里の前で止まる。

 

「此間、大丈夫だった?」

 

「へっ? ハイ………」

 

そう尋ねられて、弘樹の後ろに隠れていた優花里は、拍子抜けした様に返事を返す。

 

「また何時でも遊びに来て。ウチは何時だってオープンだからね」

 

そんな優花里の様子を知ってか知らずか、ケイは更にそう言葉を続けた。

 

(良かった………)

 

(隊長は良い人みたいだね)

 

(フレンドリーだな)

 

それを聞いた華、沙織、麻子が小声でそう言い合う。

 

「ところで、ひょっとして貴方が、『グンソー・フクダ』の子孫さん?」

 

とそこで、ケイは今度は弘樹の事を見ながらそう尋ねる。

 

「………それ知っているとは、驚きですね」

 

弘樹は軽く驚いた様な様子を見せてそう答える。

 

「『グンソー・フクダ』?」

 

「舩坂 弘軍曹殿が米軍の捕虜になった際に使っていた偽名ですよ」

 

沙織がワケが分からないと言った様子を見せると、優花里がそう説明する。

 

「まさかあの英霊の子孫と戦う事が出来るなんて、光栄ね。でも、ウチにだって、貴方に負けないくらいのストロングな奴が居るのよ」

 

「ケイ総隊長!」

 

とケイがそう言った瞬間、アメリカ陸軍の戦闘服に身を包んだジョーイ・ミヤギが姿を現す。

 

「我が第442連隊戦闘団の戦闘準備は万全です。ご命令が有れば、何時でも出撃可能です」

 

「OK。でも、試合はまだ始まってないんだから、もっとリラックスして良いのよ」

 

「ハッ! 了解しました!」

 

ケイとそう遣り取りするジョーイ。

 

その姿は弘樹と同じく本物の軍人さながらである。

 

「第442連隊戦闘団………だと?」

 

と、ジョーイが所属する部隊の名を聞いた弘樹が、表情を厳しくする。

 

「!? 第442連隊戦闘団!?」

 

更に優花里も驚きの声を挙げる。

 

「きゃあ!?」

 

「ど、如何したの!? ゆかりん?」

 

「びっくりしました………」

 

「何事だ?」

 

突然大声を挙げた優花里に、みほ達も驚く。

 

「あ、あの………ひょっとして貴方は、日系アメリカ人の方ですか?」

 

しかし、優花里はそれには返事をせず、ジョーイに向かってそう尋ねた。

 

「如何にも………私は日系アメリカ人だ。そして私の祖先は………アメリカ陸軍第442連隊戦闘団に所属していた」

 

ジョーイはそれに対し、淡々とした様子でそう答える。

 

「! やっぱり!」

 

「ねえ、何なの? 第442連隊戦闘団って?」

 

ワケが分からない沙織がそう質問する。

 

「………太平洋戦争中に組織された、アメリカ陸軍の日系アメリカ人による歩兵部隊だ」

 

すると意外にも、弘樹がそう言葉を返した。

 

「えっ? ちょっと待って! 確か、太平洋戦争って、アメリカと日本が戦ったんだよね?」

 

すると沙織は、日本史の授業で習った事を思い出し、そう言う。

 

「そうです。その際に、アメリカはハワイや国内に居た日系アメリカ人を強制収容所に送っているんです」

 

「だが、アジアの白人支配からの打倒を謳う日本がその事を『白人の横暴の実例』として宣伝した為、それに反駁する必要に迫られ、日系人の部隊を編制する事になった」

 

優花里がそう答えると、ジョーイが自らそう語り出した。

 

「しかし、その背景には人種差別問題が絡み、弾除けの為の部隊と噂が立った。だが、我が祖先達は周りからの差別と偏見と戦いながらアメリカに忠誠を誓い、ヨーロッパ戦線で戦った」

 

「その奮戦ぶりは、死傷率314%と言う数字が物語っている」

 

ジョーイが語っていると、弘樹がそう口を挟む。

 

「し、死傷率314%って………」

 

「「「「…………」」」」

 

凄まじさが伝わる数字に、みほ達は言葉を失う。

 

「数多くの仲間を失いながらも、442連隊は終戦まで戦い続け、遂にはアメリカ史上もっとも多くの勲章を受けた部隊となった。私はそんな祖先達を誇りに思っている。私達が今日、アメリカで暮らして居られるのは、祖先達のお蔭だ」

 

そこでジョーイは、戦闘服の二の腕部分に着けられていた442と書かれた部隊章を撫でる。

 

「今日は力の限り、正々堂々と戦おうではないか。無論、勝つのは私達だがな」

 

「それは如何かな………」

 

絶対の自信の元にそう言うジョーイだったが、弘樹はそんな言葉を返すのだった。

 

「あ、そうだ! 話は変わるんだけど、ちょっと良いかしら?」

 

とそこで、ケイがそう言ってやや強引に話を変える。

 

「? 何ですか?」

 

「「「「「??」」」」」

 

突然話を変えたケイに、弘樹は少し戸惑いを見せ、みほ達も首を傾げる。

 

「ニンジャは? あのニンジャの人は何処に居るの?」

 

するとケイは、目をキラキラさせて、大洗歩兵部隊のメンバーを見回す。

 

「総隊長………」

 

「また悪い癖が………」

 

そんなケイの姿を見たアリサとナオミが溜息を吐き、ジェイとボブが頭を抱える。

 

「ニンジャ………と言うと」

 

「葉隠殿ですね。間違いありません」

 

弘樹がそう呟くと、優花里はそれは紛れも無く一緒に潜入任務を行っていた小太郎の事であると推察する。

 

しかし、当の小太郎は、顔を合わせるのはマズイと思っているのか、姿を消している。

 

「ふむ、葉隠くんに御用かね?」

 

とそこで、迫信が近づいて来てそう言った。

 

「YES! 如何しても彼に会いたいの」

 

「ふむ………彼はニンジャだからねぇ」

 

すると迫信は一旦間を置くと………

 

「小太郎は居るか?」

 

少々時代掛かった様な渋い声でそう言う台詞を呟く。

 

「ハッ、閣下殿! 此処に!!」

 

すると迫信の背後に、小太郎が音も無くスーッと現れ、膝を着いて畏まるポーズを取った。

 

「舩坂くん」

 

「! 確保ぉっ!!」

 

とそこで迫信が弘樹に呼び掛け、弘樹はとらさん分隊の面々と共に小太郎の身柄を確保する。

 

「ぬおおっ!? しまったでござる!! ついニンジャ条件反射で!!」

 

仲間から拘束を受けるとは予想していなかったのか、アッサリと確保されてしまう小太郎。

 

「確保致しました」

 

「ご苦労………」

 

確保した小太郎を、迫信の前に突き出す弘樹。

 

「ワオッ! ニンジャさん!!」

 

「うう………」

 

小太郎の姿を見て嬉しそうな様子を見せるケイだったが、小太郎の方は気まずそうにしている。

 

すると………

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ケイです」

 

何とケイは、小太郎が何時も相手にする礼儀………アイサツを小太郎に向かってしたではないか!

 

「! ドーモ。ケイ=サン。葉隠 小太郎です」

 

アイサツされた小太郎は一瞬驚きながらも、即座に自分もアイサツを返す。

 

「コレ、返しておくね」

 

そこでケイは、ポケットから布の様な物を取り出す。

 

それは、小太郎が潜入した際に残して行った、覆面だった。

 

良く見ると、破れていた所が繕われている。

 

「コレは………忝い」

 

「それと………」

 

小太郎がそれを受け取ろうと少し身を乗り出した瞬間!

 

ケイはそのまま小太郎に抱き付く様に寄り添い、小太郎の頬にキスをした!

 

「「「「「「「「「「!?!?!?!?!」」」」」」」」」」

 

コレには小太郎本人ばかりでなく、一部を除いた大洗機甲部隊の面々とサンダース&カーネル機甲部隊の面々も驚きを露わにする。

 

「な、何を!?」

 

「助けてくれたお礼よ………嫌だった?」

 

バッとケイから離れた小太郎が動揺しながら聞くと、ケイは恥ずかしそうに頬を染めて、上目遣いで聞き返す。

 

「い、いや! 決してその様な事は………あ、いや、その!!………」

 

「落ち着き給え、葉隠くん」

 

上手く言葉が出ない小太郎を、迫信がそう言って落ち着かせようとする。

 

「ぐぎぎぎぎぎぎぎ………リア充め………爆発しろ………」

 

「了平、血の涙を流すの止めろ。不気味だぞ」

 

その光景を見て、血の涙を流す了平と、その了平の姿にツッコミを入れる地市。

 

「本当にニンジャに会えて、しかも命を助けてもらうなんて………アタシ、感激しちゃったぁっ!」

 

「………君は忍者が好きなのか?」

 

はしゃぐケイの様を見て、弘樹がそう尋ねる。

 

「オフコース! ニンジャは東洋の神秘! 古事記にもその存在が記されてるくらいですもの」

 

「………古事記に?」

 

自信満々でそう言うケイだったが、弘樹は古事記に書かれていると言う部分に「えっ?」と言う顔を浮かべた。

 

「ケイ、またその話か………」

 

「何度も言ってますけど、総隊長のニンジャ観って絶対間違ってますって」

 

するとそこで、ナオミとアリサが呆れた様子を見せながら、再びケイの元へ歩み寄って来る。

 

その後ろで、ジェイとボブも「うんうん」と言った感じに頷いている。

 

「え~、何言ってるのよ? 何処もおかしくないじゃない。ねえ」

 

「アッハイ」

 

ケイが「何を言ってるんだ?」と言う様な感じで返し、小太郎に呼び掛けると、小太郎は即座に頷く。

 

「総隊長はニンジャを何だと思ってるんですか?」

 

と、ジェイがそう問い質すと………

 

「決まってるじゃない! ニンジャとは、平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在の事よ!!」

 

「「「「「「「「「「いやいや! おかしいおかしい!!」」」」」」」」」」

 

自信満々にそう答えたケイに、大洗機甲部隊の面々がそうツッコミを入れた。

 

「何で忍者が空手なんだよ!?」

 

「平安時代って、時代違うぞ!!」

 

「そもそも半神的存在って何っ!?」

 

次々にケイへとそうツッコミを飛ばす大洗歩兵部隊の面々。

 

「………貴方達も偽りの歴史を信じてるのね。まあ、それも所為が無い事ね。ニンジャ達はキンカク・テンプルで謎のハラキリ儀式を行い、歴史から姿を消したのだから」

 

「キンカク・テンプルって何っ!?」

 

「あとハラキリって、それ忍者じゃないよ!」

 

「歴史は改竄され、隠蔽され………ニンジャの真実は忘れ去られたわ」

 

「今までの全てが真実じゃないよ!!」

 

最早大洗歩兵部隊のツッコミを無視して語り出すケイに、大洗機甲部隊からは次々にツッコミが飛ぶ。

 

「え~、何処から如何聞いてもニンジャ真実じゃない。ねえ、小太郎=サン」

 

「オイ、葉隠。このお嬢さんに本当の忍者の事を教えてやれや」

 

ケイが不満そうに小太郎に問い掛けると、大河も小太郎へそんな台詞を言う。

 

「………良くぞそこまでニンジャ真実に辿り着いたでござるな」

 

「「「「「「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

小太郎のその返しに、大洗機甲部隊の面々は驚きの声を挙げる。

 

「流石! やっぱり貴方は本当のニンジャね!! そんなアトモスフィアがしてたのよ!!」

 

「うむ。カラテあってこそのニンジャだ」

 

先程までの初々しい雰囲気とは一転し、そのまま2人は仲良さげに、2人にしか分からない会話を繰り広げて行く。

 

((((((((((………もう好きにしてくれ))))))))))

 

大洗機甲部隊とサンダース&カーネル機甲部隊の面々は、最早ツッコム事にも疲れ、そのまま2人の会話を聞かない様にスルーを始めたのだった。

 

一方、同じくサンダース&カーネル機甲部隊へ潜入任務を行っていた大詔はと言うと………

 

「美味過ぎるっ!!」

 

「そ、そう………ど、どうもありがとう」

 

「もっと食わせろっ!!」

 

「あ、ハ、ハイ………ちょっと待ってて下さいね」

 

そんな出来事があったなど露知らず、サンダース&カーネル機甲部隊のフードコート車を、次々に食べ歩きしていたのだった。

 

そしてその後………

 

大洗機甲部隊の面々は、サンダース&カーネル機甲部隊の御持て成しを堪能すると、自陣へと引き上げて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊の野営陣地………

 

「あ! 皆~っ!!」

 

大洗機甲部隊の面々が自陣へと帰ると、華やかな衣装に身を包んだ聖子、伊代、優が出迎える。

 

「あ、聖子さん。伊代さん。優さん」

 

「ほう………それが君達のアイドルとしての衣装かい? 中々様になっているよ」

 

みほが気付くと、3人の恰好を見た迫信がそう言う。

 

「ホントですか!? えへへ、嬉しいなぁ~」

 

ピンク色の衣装に身を包んだ聖子が、それを聞いて嬉しそうに、その場でターンして見せる。

 

「そう言われると、苦労して作ったかいがあるよ~」

 

ライトグリーンの衣装に身を包んだ伊代も、笑みを浮かべてそう言う。

 

家が衣装屋であり、自身も裁縫や絵が得意な彼女が、衣装の作成を担当していた。

 

「けどさあ………優ちゃんは何で下ジャージなの?」

 

とそこで、沙織が1人だけスカートの下にジャージを穿いている優の姿を見てそう言う。

 

「いや、その、えっと………や、やっぱり、恥かしくて………」

 

優が顔を赤くしながらそう言ってモジモジとしていると………

 

「優ちゃん………往生際が悪~いっ!!」

 

聖子がそう言い放ち、優が穿いていたジャージを引き下ろした!!

 

「!? いや~んっ!!」

 

「おおおっ!?………?! ぶべぇっ!?」

 

「何を身を乗り出している、貴様は………」

 

悶える優の姿に身を乗り出した了平を成敗する弘樹。

 

「恥ずかしがって、如何するの? スカート穿いてるのに」

 

「で、ですがぁ!」

 

「優ちゃん。可愛いよ」

 

「あ、あううう………」

 

聖子と伊代にそう言われ、すっかり縮こまってしまう優。

 

「今日が私達のスクールアイドルとしてのデビューの日になるんだ………」

 

「頑張れよ」

 

「必ず勝って歌わせてやるからな」

 

「全くだぜ。折角俺達が会心の出来で作った曲を使わずに終わらせるなんて事になって堪るかってんだ」

 

聖子がそう言うと、今回聖子達が歌う歌の作曲を手掛けた磐渡達もそんな事を言う。

 

「それにしても優。お前さんの作詞………良かったぜ」

 

とそこで、磐渡は歌の作詞を手掛けた優に向かってそう言う。

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ、久々にこう、胸にガツーンと来る詞だったぜ」

 

「あんな良い詞の作曲を担当出来ただなんて、光栄だな」

 

優が照れていると、鷺澪と重音もそう言う。

 

「そ、そんな………」

 

優は益々縮こまってしまう。

 

「お~い!」

 

「飛彗~っ!」

 

するとそこで、諸事情で大洗機甲部隊から離れていた海音と豹詑が姿を現す。

 

「あ! 海音、豹詑。如何だった?」

 

「駄目だ! やっぱり白狼の奴、来てないみたいだ」

 

「全く、今日に限って1匹狼モードかよ」

 

飛彗がそう尋ねると、海音と豹詑はそう返す。

 

そう………

 

2人が部隊を離れていた理由………

 

それは白狼が原因だった。

 

何と、彼は今朝から行方をくらましており、現在も居場所が知れていないのである。

 

「何やってんだ、アイツは? 今日は大事な試合だってのによぉ」

 

「嫌になって逃げたんじゃないのか? アイツ、碌な戦果挙げてないし」

 

「それは貴方が言える事ですか? 了平?」

 

地市が愚痴る様に言うと、了平が無責任にそう言い、楓がツッコミを入れる。

 

「そうだぞ、了平。無責任な事を言うな」

 

更に、弘樹も了平を咎める。

 

「舩坂さん………」

 

「小官は君達ほど彼との付き合いが長いワケではない。だが、彼がいい加減な事をする様な性分ではないのは理解している積りだ。きっと何か事情があるのだろう。参加登録は済ませてあるから、試合途中からでも参戦する事は出来る。今は只待とうじゃないか」

 

飛彗が何か言おうとしたが、それを遮って弘樹はそう言い放つ。

 

「わ、悪かったよ………」

 

それを聞いて、了平は気まずそうに黙り込む。

 

『間も無く、試合開始となります! 両チームは集合場所へ集結して下さいっ!』

 

するとそこで、間も無く試合開始である事を告げるアナウンスが流れた。

 

「ふむ………では、諸君。そろそろ行くとしようか」

 

「総員、移動!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

迫信がそう言い、弘樹が号令を掛けると、大洗歩兵部隊の面々は、集合場所へ移動を始める。

 

「私達も行きましょう」

 

「「「「「「「「「「は~いっ!」」」」」」」」」」

 

更にみほもそう言い、大洗戦車部隊の面々も、移動を始める。

 

「頑張ってね~」

 

「しっかり~」

 

「応援してますからぁ!」

 

聖子達はその姿を見送ると、応援の為に関係者観覧席へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両チーム集合場所………

 

『さあ、いよいよ始まりました! 第63回戦車道・歩兵道全国大会第1回戦! 実況は私、『ヒートマン佐々木』! 解説にはお馴染みの『DJ田中』さんに来て頂いております! よろしくお願いします!』

 

『どうも、『DJ田中』です。皆さん、よろしくお願いします』

 

実況席・解説席に居る、戦車道・歩兵道全国大会の実況及び解説を担当している『ヒートマン佐々木』と『DJ田中』が声を挙げる。

 

『さて、早速ですが田中さん。この試合、如何見ますか?』

 

『そうですね~………大洗機甲部隊ですが、女子校側が20年程前に戦車道を廃止しており、今回久々の出場となっています。ですので、出場している選手は粗新人同然と言えます。対する相手は優勝候補の一角であるサンダース&カーネル機甲部隊。普通に考えれば大洗に勝ち目は無いでしょうね』

 

『そうですか』

 

『しかし、情報によれば、この大洗機甲部隊には如何やら西住流の選手と、あの舩坂 弘の子孫が在籍している様ですよ』

 

『何と! あの西住流と英霊・舩坂 弘軍曹の子孫がですか!?』

 

実況者らしく、大げさに驚いて見せるヒートマン佐々木。

 

『ええ、ですので、ひょっとすると………今大会では、大洗機甲部隊が意外なダークホースとなる可能性もありますよ』

 

DJ田中は、何処か楽しそうにそう解説をする。

 

『成程、ありがとうございます。さて、間もなく試合開始となります! 集合場所では、両チームの代表が試合前の挨拶を交わそうとしています!』

 

ヒートマン佐々木の実況通り、観覧席と試合状況を伝える超大型モニターの間には、大洗機甲部隊とサンダース&カーネル機甲部隊の面々が集結し、代表者である杏とケイが挨拶を交わそうとしていた。

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

握手を交わすと、言葉少なげにそう言い合うケイと杏。

 

そして2人が其々の部隊の元へと戻ると、両チームはスタート地点へと移動を開始。

 

そのまま試合開始の合図を待つ。

 

『では此処で、改めて戦車道・歩兵道全国大会のルールを確認しておきましょう。本大会では、フラッグ戦ルールが採用されており、相手チームのフラッグ車を行動不能としたチームが勝利となります』

 

『如何にフラッグ車を攻めるか守るかが勝負のポイントですね』

 

『さあ、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか! いよいよ試合開始です! 大洗機甲部隊! そしてサンダース&カーネル機甲部隊! 君達に、幸されっ!!』

 

ヒートマン佐々木がそう言い放つと、信号弾が打ち上がり、試合開始の合図が送られた。

 

それと同時に、両チームは移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「始まったか………」

 

「ええ、そうね………」

 

「数の上ではサンダース&カーネル機甲部隊が圧倒的です。大洗機甲部隊に勝ち目は有るんでしょうか?」

 

そこには聖ブリティッシュのアールグレイ、聖グロリアーナのダージリンとオレンジペコの姿が在った。

 

「アラ? ペコ。貴方は大洗機甲部隊がそう簡単に負けると思って?」

 

「それは………でも、戦車の数は倍。歩兵の数に至っては6倍の差が有るんですよ。戦車の性能や武器の性能を見ても………」

 

ダージリンがそう言うと、オレンジペコはそう返す。

 

「歴史上、数や質の有利を覆して勝ったと言うのは良くある事だ」

 

しかし、アールグレイが仏頂面で超大型モニターを見ながらそう言う。

 

「まあ、兎に角………今は見守りましょう。彼女達と………彼等の戦いをね」

 

ダージリンはそう言い、持っていたカップの紅茶を飲むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別方向の丘の上でも………

 

「始まったか………」

 

「フン、サンダース&カーネル機甲部隊の勝ちは決まっているわ………大洗が勝てる要素は何1つ無いんだから」

 

黒森峰のまほとエリカが陣取り、試合を見ている。

 

「それは分からないよ。勝負と言うものは、始まってから終わるまで、如何転ぶか分からないものさ」

 

エリカの言葉に、都草がそう返す。

 

「梶歩兵隊長。隊長は大洗が勝つと思っているのですか?」

 

「フフフ、その方が私としては望ましいね。彼とは銃火を交わそうと言う約束もしているし」

 

不満そうに言うエリカだったが、都草は笑みを浮かべている。

 

「何を馬鹿な事を………あんな奴等が勝ち残れる筈が………」

 

と、エリカがそう言いかけた瞬間………

 

「フレー! フレー! み・ほ・ど・の!! ガンバレ! ガンバレ! 大洗っ!!」

 

会場中に響き渡るんじゃないかと思う様な大声と共に、『必勝! 西住 みほ! 大洗機甲部隊!!』と書かれた応援旗を振り回している久美が挙げる。

 

「!? ちょっ!? 久美!? アンタ何やってんの!?」

 

「何って、決まっているであります! みほ殿の応援であります!! さあ、エリカ殿も一緒にやるであります! フレー! フレー! み・ほ・ど・の!! ガンバレ! ガンバレ! 大洗っ!!」

 

仰天するエリカに、久美は当然の様にそう返すと、再びみほと大洗機甲部隊の面々に向かって声援を送り始める。

 

「ちょっ! 止めなさいっ! アンタ、どっちの味方なの!?」

 

「みほ殿の味方に決まっているであります!!」

 

止めようとするエリカを振り払い、久美は再び当然の様にそう言い放った。

 

「…………」

 

「ハハハハ、久美くんはホントにブレないな」

 

「総隊長! 梶歩兵隊長! 見てないで止めて下さ~いっ!!」

 

そんな久美を横目に、我関せずと言った態度を取っているまほと、笑ってその様子を見ている都草に、エリカの情けない声が挙がるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダースとカーネルとの交流(特に小太郎とケイの絡み)やその他のキャラの描写が長引き、1回戦が試合開始のところで終わりとなってしまいました。
本格的な戦闘は次回からとなります。
申し訳ありません。
次回は白熱する試合内容をお届けできると思うので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。



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第26話『1回戦、試合開始です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第26話『1回戦、試合開始です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に幕を上げた戦車道・歩兵道全国大会の1回戦………

 

大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の戦い。

 

戦車の数は倍。

 

歩兵数に於いては6倍の差が有るサンダース&カーネル機甲部隊を相手に………

 

白狼不在と言うトラブルを抱えた大洗機甲部隊に勝機は有るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の1回戦の会場………

 

サンダース&カーネル機甲部隊サイド………

 

「前進前進! ガンガン行くよぉ!!」

 

ケイの指示で、サンダース&カーネル機甲部隊は突き進んで行く。

 

シャーマンの軍団を中心に、その周りにジープやM3ハーフトラック、M3装甲車などの車両部隊。

 

更に、サイドカーを含めたオートバイ部隊など、機械化された歩兵部隊が並走している。

 

「ヒャッハーッ! 大洗なんざ目じゃないぜぇっ!!」

 

そのバイク部隊のリーダーであるボブが、世紀末的な雄叫びと共にそう言い放つ。

 

一応フラッグ車の姿は見えないが、元より数で圧倒している為、積極的に攻勢に出ている様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それに対する大洗機甲部隊は………

 

森林地帯の中に隠れ、慎重に進軍している。

 

数で不利な以上、正面から戦っても負ける事は目に見えているので、敵の戦力を分散させつつ、各個撃破に持ち込む作戦だ。

 

「ウサギさんチームとハムスターさん分隊は右の方向。アヒルさんチームとペンギンさん分隊は左方向の偵察に出て下さい」

 

「了解しました」

 

「了解!」

 

「こちらも了解!」

 

「任せときぃっ!」

 

みほがそう指示を出すと、梓と勇武、典子と大河がそう返事を返し、ウサギさんチームとアヒルさんチーム、砲兵隊を除いたハムスターさん分隊とペンギンさん分隊が、部隊の中から抜けて、偵察へと出る。

 

「残りは全員、カメさんチームを守りつつ前進して下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

残った戦車チームと歩兵分隊は、フラッグ車であるカメさんチームの38tを守りながら慎重に前進を始める。

 

『さて、田中さん。試合が始まりましたが、積極的に攻勢に出ているサンダース&カーネル機甲部隊に対し、大洗機甲部隊は守勢に回っている様ですね』

 

『数の上では圧倒的に不利ですからね。正面からの戦いは避け、戦力を分断させての各個撃破を取る積りでしょう』

 

『成程』

 

そんな両チームの様子を、ヒートマン佐々木とDJ田中が実況する。

 

尚、試合の公正の為に、2人の実況はテレビの中継、並び観客席にだけ聞こえており、両チームの元には届かない様になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウサギさんチーム&ハムスターさん分隊………

 

右方向の偵察へと出たウサギさんチームとハムスターさん分隊は、やがて森林地帯が途切れ、小高い丘となっている場所まで差し掛かる。

 

「全員、一旦停止!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「桂利奈ちゃん、停止!」

 

「あい!」

 

そこで、くろがね四起に乗って居た勇武が手を上げて停止を指示し、梓も桂利奈に呼び掛けて、ウサギさんチーム&ハムスターさん分隊は一旦停止する。

 

「ジェームズくん、清十郎くん」

 

「「ハイ!」」

 

勇武に呼び掛けられ、偵察兵であるジェームズと清十郎を中心に、数名の偵察兵が先行する。

 

「「…………」」

 

森林地帯が途切れている辺りの茂みの中に隠れながら、その先の様子を窺う偵察兵部隊。

 

すると、丘の上に、3両のシャーマンとその護衛を務めている随伴歩兵部隊が現れる。

 

「此方、ジェームズ。敵戦車を3両確認」

 

「周囲に随伴歩兵の分隊多数。その他に敵部隊は見当たりません」

 

それを確認した2人は、すぐに勇武と梓に通信を送る。

 

「了解」

 

「ウサギさんチームよりあんこうチームへ。B085S地点で敵部隊を発見。シャーマン3両とその随伴歩兵部隊。コレより誘き出します」

 

勇武がそれに返事を送ると、梓がみほへそう通信を送り、敵部隊を誘導に掛かろうとする。

 

M3リーが移動を再開し始めると、ハムスターさん分隊の面々も武器の安全装置を解除する。

 

と、その時!!

 

風切り音が聞こえて来たかと思うと、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の周囲に、2発の砲弾が着弾!

 

「!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

突然の事に驚く梓と光照、竜真。

 

「!!」

 

そんな中、勇武が風切り音が聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

背後から木々の合間を縫って迫る、3両のシャーマンとその随伴歩兵部隊の姿が在った。

 

「敵襲! シャーマン3両、後方より接近! 随伴歩兵部隊も多数っ!!」

 

「こちら清十郎! 此方の敵部隊も向かって来ますっ!」

 

勇武がそう声を挙げると、斥候に出ていた清十郎とジェームズが発見した部隊も発砲音で敵存在を感じ取ったのか、向かって来る。

 

「タ、タイヒッ! タイヒッ!!」

 

ジェームズが片言のまま叫び、偵察兵部隊は慌てて後退する。

 

軽装備の偵察兵部隊では、あの規模の敵を迎え撃つのは到底不可能だった。

 

結果、ウサギさんチームとハムスターさん分隊は、シャーマン6両とその随伴歩兵部隊に包囲される形となる。

 

「此方ウサギさんチーム! 挟み撃ちにされました! シャーマン6両に随伴歩兵多数!!」

 

「我々の戦力では対抗出来ません! 至急救援を!!」

 

梓と勇武が大慌ててでみほと迫信へそう通信を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その連絡を受けた大洗機甲部隊・本隊は………

 

「西住総隊長、ウサギさんチームとハムスターさん分隊から救援要請だ。シャーマン6両とその護衛部隊に包囲されているらしい」

 

「! 救援に向かいます! アヒルさんチーム、付いて来て下さい!」

 

「了解しました!」

 

「我々も行くぞ! ペンギンさん分隊も続けっ!!」

 

「おうさっ!!」

 

指揮車の煌人からそう通信を受けたみほは、アヒルさんチームを率いて救援に向かい、弘樹も砲兵部隊を除いた自分の隊とペンギンさん分隊を連れてそれに続く。

 

「いきなり包囲されたのかよ!」

 

「運が悪いぜ、クソッ!」

 

「…………」

 

了平と地市が愚痴る様にそう言ったが、弘樹は1人、何かを考えている様な表情を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、シャーマン6両に加え、護衛の随伴歩兵部隊多数に追われているウサギさんチームとハムスターさん分隊は………

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

敵のシャーマンの内、1両が放った砲弾がくろがね四起に命中し、乗って居た大洗の歩兵達が爆発と共に宙に舞った。

 

「佐藤達がやられた!」

 

「クソォッ!!」

 

九四式六輪自動貨車の荷台に居た正義が、三八式歩兵銃を発砲する。

 

「そらっ!!」

 

竜真もそれに続く様に、九九式手榴弾を投げる。

 

「ちょっと、付いて来ないでよ!」

 

「エッチ!」

 

「ストーカーッ!」

 

「コレでも喰らえっ!!」

 

更にM3リーも、車内で悲鳴の様な喚き声が挙がりながらも、副砲塔を旋回させ、37mm砲を発射する。

 

しかし、三八式の弾丸は相手まで届かず、手榴弾は手前で爆発。

 

37mm砲の砲弾も、シャーマン達の頭上を通過して後方に着弾する。

 

「アハハハハハッ! 全然当たらないよぉっ!!」

 

「そら、お返しだ!!」

 

ケイが笑いながらそう言い、ボブがそう言ったかと思うと、シャーマン達と随伴していた部隊の中に居たハーフトラック『M3A1 自走75mmカノン砲(T30)』が、一斉に砲撃を始める。

 

ウサギさんチームとハムスターさん分隊の周辺に、次々と砲弾が着弾し、土煙を上げる!!

 

「「「「「キャーッ!!」」」」」

 

「「「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

ウサギさんチームとハムスターさん分隊から再び悲鳴が挙がる。

 

『あ~っと! 大洗機甲部隊のウサギさんチームとハムスターさん分隊! いきなりピンチに見舞われました!!』

 

『サンダース側の展開が早いですね。まるで大洗の動きを読んでいたかの様です』

 

そんな様子をヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「流石サンダース。数に物を言わせた戦い方をしますね」

 

戦車1両と随伴歩兵1分隊に、6両のシャーマンと多数の随伴歩兵部隊を差し向けたサンダースの戦い方に、ペコがそんな事を言う。

 

「こんなジョークを知ってる? アメリカ大統領が自慢したそうよ。我が国には何でも有るって」

 

するとダージリンは、とある小話を持ち出す。

 

「そうしたら、外国の記者が質問したんですって。『地獄のホットラインもですか?』って」

 

「…………」

 

ダージリンがそう言うのを聞きながら、アールグレイは試合会場の一角に浮かんでいる、『小型の気球の様な物』を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び試合会場内………

 

サンダースの執拗な追撃を受けるウサギさんチームとハムスター分隊は………

 

「頑張って!」

 

「やれば出来る子だよぉ、桂利奈ちゃん!」

 

「あい~~~っ!!」

 

あゆみと優季が、操縦手である桂利奈を励まし、果敢に反撃を行いながら逃走を続けている。

 

「撃て撃てぇっ! 撃ちまくれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ハムスター分隊の面々も、弾幕を張りつつ撤退を支援している。

 

「ファイヤァッ!!」

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

しかし、サンダース&カーネル機甲部隊の勢いは衰えず、九四式六輪自動貨車にM3A1 自走75mmカノン砲(T30)が撃った砲弾が命中し、搭乗していた大洗歩兵達が戦死判定を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのウサギさんチームとハムスターさん分隊の救援に向かった、あんこうチームととらさん分隊、アヒルさんチームとペンギンさん分隊は………

 

最短ルートでウサギさんチームとハムスターさん分隊の元へ向かって居た。

 

「「………!?」」

 

とそこで、キューポラから上半身を出していたみほが、その隣に並走していたくろがね四起の後部座席に居た弘樹が、何かに気付いた様に左を向く。

 

直後に発砲音が響き渡り、砲弾がⅣ号と八九式の間に着弾する!!

 

「敵襲っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう声を挙げると、大洗歩兵部隊の面々は、一斉に武器を構える。

 

やがて、森林の奥の方から、ナオミが乗るファイヤフライを先頭にした3両の戦車が姿を見せ、それに随伴するジョーイが率いる日系アメリカ人留学生で構成された442部隊も現れる。

 

「3両! 囲まれた!?」

 

「アレはジョーイ=ミヤギ………と言う事は、アレが442部隊か………」

 

みほが戦車部隊、弘樹が歩兵部隊を見てそう呟く。

 

「北東から6両、南南西から3両………凄い! 全10両の戦車の内、9両をこの森に投入ですか!?」

 

「随分大胆な戦術ですね」

 

殆どのサンダース戦車部隊の戦車がこの森に投入されている事に気付いた優花里がそう声を挙げ、華がその大胆攻勢に思わず呟く。

 

「楓、フラッグ車は見えるか?」

 

「いえ、ファイヤフライは居ますが、フラッグ車の姿は見えません」

 

「流石にフラッグ車を含めて攻めては来ないか………意外と堅実だな」

 

楓にフラッグ車の姿を確認させた弘樹が皮肉る様にそう言う。

 

「ウサギさん、ハムスターさん、このまま進むと危険です! 停止出来ますか!?」

 

『『『『『無理で~す!!』』』』』

 

『ウサギさんチームに同じく!』

 

みほがウサギさんチームとハムスターさん分隊にそう通信を送るが、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の勇武からはそう言う返事が返って来る。

 

「6両に集中砲火を浴びてるって!」

 

「分かりました。ウサギさん、アヒルさん。あんこうと間も無く合流出来ますので、合流したら南東に進んで下さい! 歩兵部隊の皆さんもそれに続いて!」

 

沙織からの報告を聞いたみほが即座にそう指示を下す。

 

「ふっ………」

 

それを聞いてほくそ笑んでいる者が居た………

 

「南南西に2小隊を回して下さい!」

 

「OK!」

 

とそこで、ウサギさんチームとハムスターさん分隊を追撃していた6両のシャーマンの内、2両とそれに随伴する歩兵部隊が大洗機甲部隊の退避先へと向かう。

 

「あ! 居た! せんぱーい!!」

 

「ハイ! 落ち着いて!!」

 

「ハムスターさん分隊! 此方に合流しろ! 急げっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

漸く合流に成功したウサギさんチームとハムスターさん分隊は、敵の砲火に晒されている中、陣形を取り直して南東へと進路を取る。

 

「戦車の撤退を支援しろっ!」

 

更に弘樹の指示で、歩兵部隊が試製五式四十五粍簡易無反動砲や試製四式七糎噴進砲、手榴弾や機関銃を敵部隊に向かって撃ちまくる!

 

「!?」

 

とそこで、Ⅳ号の操縦手である麻子が、退却先へ2両のシャーマンと1台のM3A1 自走75mmカノン砲(T30)、カーネルの随伴歩兵部隊が回り込んでいるのを確認する。

 

「回り込んで来た!」

 

「如何する!?」

 

「撃っちゃう?」

 

同じ様にその光景を確認した典子、梓、あやがそう声を挙げる。

 

「このまま全力で進んで下さい! 敵戦車と混ざって!!」

 

しかしみほは、大胆にもそんな指示を下した!

 

「マジですか!?」

 

「了解! リベロ並みのフットワークで!!」

 

戸惑う桂利奈とは対照的に、即座に決断を下す忍。

 

「道は我々が切り開く!」

 

とそこで、戦車部隊の道を切り開く為、弘樹の指示で歩兵車両部隊が一斉に戦車部隊の前へと出た。

 

「突っ込んで来るぞ!」

 

「へっ! 良い的だぜっ!! 撃てぇーっ!!」

 

即座に、カーネル歩兵部隊は機関銃を中心に弾幕を張る。

 

「怯むなぁっ! 前進っ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、大洗歩兵部隊は構わず突き進む!

 

「なっ!? 意にも介さず突っ込んで来やがる!?」

 

「OH,NO! クレイジーだ!! 大洗の歩兵部隊の連中は皆イカれてるのか!?」

 

そんな大洗歩兵部隊の気迫の前に、カーネル歩兵部隊は慌てる。

 

「退け退けぇっ! 俺が片づけてやるぅっ!!」

 

するとそこで、M3A1 自走75mmカノン砲(T30)に乗って居たカーネル歩兵がそう言い、M3A1 自走75mmカノン砲(T30)を前進させる。

 

「! 了平! あのハーフトラックを掠める様に進めっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

それを見た弘樹が、くろがね四起を運転していた了平にそう指示する。

 

スピードを上げたくろがね四起が、M3A1 自走75mmカノン砲(T30)の横を掠めると………

 

「タアアァッ!!」

 

弘樹はくろがね四起の後部座席から飛び、M3A1 自走75mmカノン砲(T30)の側面にしがみ付いた!!

 

「なっ!?」

 

「…………」

 

驚く運転手のカーネル歩兵を尻目に、弘樹はM3A1 自走75mmカノン砲(T30)の荷台部分と運転席に手榴弾を放り込み、飛び降りて地面を転がる。

 

直後に手榴弾が爆発し、M3A1 自走75mmカノン砲(T30)は搭載していた砲が吹き飛び、黒煙を上げて撃破判定を受ける。

 

「舩坂くん!!」

 

と、地面に転がった弘樹の元へ、Ⅳ号が接近する。

 

「!!」

 

それを見た弘樹は即座に起き上がると、そのまま走って来るⅣ号にタイミングを合わせて飛び乗り、タンクデサントする!

 

「掴まってて!!」

 

「了解っ!!」

 

直後に、Ⅳ号は前方から迫って来ていたシャーマン2両の間を、左側の履帯を擦りながらも突破!

 

更に後続のアヒルさんチームとウサギさんチーム、とらさん分隊員達とペンギンさん分隊達も突破に成功する。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

突破された2両のシャーマンの内、片方が反転して追い掛けようとしたが………

 

「!!………」

 

弘樹が、九九式短小銃に装着した二式擲弾器で、そのシャーマンの履帯をタ弾で攻撃!

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

シャーマンは転輪と履帯の一部を吹き飛ばされ、行動不能に陥る!

 

そしてその隙を突き、大洗機甲部隊は小高い丘を越えて、見事撤退を完了するのだった。

 

「クソッ! 逃がしたか!!」

 

「ドンマイ! 深追いNGよ!」

 

ボブが悔しそうにしていると、ケイがそう言う。

 

「チッ………」

 

そして、その通信を聞いていた何者かは舌打ちをした。

 

「工兵部隊。破壊されたシャーマンの転輪と履帯の修理に掛かれ」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

そこでナオミがそう指示を出し、カーネル歩兵部隊の工兵達が、履帯と転輪を破壊されたシャーマンの応急修理に掛かる。

 

「………先程M3ハーフトラックとシャーマンの履帯を破壊したのは」

 

「ああ………間違い無く舩坂 弘樹だった」

 

ジョーイの呟きに、ナオミがそう返事を返す。

 

「やはりか………流石は英霊の子孫だ。大胆な戦い方だ。それでこそ………戦い甲斐があると言うものだ」

 

何処か嬉しそうにそう言い、M1ガーランドを握っている両手に力が籠るジョーイ。

 

「嬉しそうだな、ジョーイ」

 

「当然だ。強敵と戦える事が歩兵道の喜びだからな」

 

「違いない………」

 

ジョーイのその言葉を聞いて、ナオミも不敵な笑みを浮かべる。

 

『さて如何にかピンチを脱した大洗機甲部隊』

 

『ココから如何動くのかに注目ですね』

 

観客席側では、ヒートマン佐々木とDJ田中のそう言う実況が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、如何にかウサギさんチームとハムスターさん分隊の救出に成功したみほ達と弘樹達は………

 

「ふう~~」

 

「危なかったですね~」

 

何とかサンダース&カーネル機甲部隊から逃れる事が出来、ホッとした様に大きく息を吐くみほとそう呟く華。

 

「うん………」

 

「西住総隊長」

 

と、みほがそれに返事を返した瞬間、キューポラのハッチが開いて、タンクデサントしたままだった弘樹が車内を覗き込んで来た。

 

「? 舩坂くん? 如何したの?」

 

「如何も妙だと思いませんか? 敵の展開が、まるでこちらの動きを知っていたとしか思えません」

 

「うん、確かに………! ゴメン! ちょっと退いて!!」

 

弘樹にそう言われたみほは、即座に何かを思いつき、弘樹を退かすとキューポラから出て上空を見上げる。

 

そこには、先程アールグレイが見据えていた、空に浮かんでいる『小型の気球の様な物』が有った。

 

「…………」

 

「やはり………」

 

それを見て表情を険しくするみほと弘樹。

 

「みほさん? 如何したんですか?」

 

「弘樹。如何かしたのか?」

 

それを見た華と地市が、みほにそう尋ねる。

 

「全員、無線を封鎖」

 

「通信傍受機が打ち上げてある」

 

すると弘樹はその場に居た歩兵部隊員全員に、みほはⅣ号の車内へ戻って、華の耳元でそう言う。

 

「えっ!? そんなの反則………うぐっ!?」

 

「しーっ!」

 

思わず大声を挙げそうになった華の口を慌てて塞いで静かにと言うジェスチャーをするみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、本隊へと合流したみほ達と弘樹達は、無線傍受に対する対策会議を始める。

 

「………確かに、ルールブックには傍受機を打ち上げちゃいけない、なんて書いてないですね」

 

「かなりグレーゾーンな手段だがな」

 

ルールブックを確認し、無線傍受について調べていた優花里がそう言うと、指揮車から顔を出していた煌人がそう皮肉を言う。

 

「酷い! 幾らお金があるからって!」

 

「如何する、弘樹? 撃ち落としてやるか?」

 

沙織が憤慨した様にそう言うと、地市が試製四式七糎噴進砲を構えて、弘樹にそう尋ねる。

 

「駄目だ。それでは此方の位置を敵に教える事になる」

 

「なら、審判の方に抗議しましょう」

 

弘樹が地市の意見を却下すると、今度は華がそう意見を挙げる。

 

「待ちたまえ、五十鈴くん。この状況は逆にチャンスだと言えるよ」

 

しかしそれを、迫信がそう言って制した。

 

「? 神大さん?」

 

「閣下、チャンスと言うのは?」

 

華が首を傾げていると、清十郎がそう尋ねる。

 

「簡単だ。此方は敵の無線傍受に気づいたが、向こうはまだバレているとは思っていない。つまり………」

 

「偽情報を流して攪乱するってワケか」

 

「あ! 貴様! 俺の台詞を!!」

 

そこで、十河が迫信に代わる様に得意げに説明を始めたが、俊に台詞を奪われ、イマイチ恰好が付かずに終わる。

 

「成程、良い手ですね」

 

「よし! コレより作戦を開始する! 以後無線による連絡は全て欺瞞情報だと思え! 本連絡は各個人の携帯電話を使用しろ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

飛彗がそう言うと、弘樹がそう仕切り、大洗機甲部隊はサンダース&カーネル機甲部隊を罠に嵌めるべく、作戦行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

『全軍、0985の道路を南進! ジャンクションまで移動して! 敵はジャンクションを北上して来る筈なので、通り過ぎたところを左右から狙います!』

 

通信回線にみほの指示が響き渡る。

 

しかしそれは、サンダース&カーネル機甲部隊を欺く為の偽情報である。

 

『了解です!』

 

『こっちも了解!』

 

「目標はジャンクション。左右に展開しているわ。囮を北上させて! 本隊はその左右から包囲!」

 

すると、その偽情報を聞いた無線傍受を行っていた人物………アリサが、ケイへそう進言する。

 

『OK、OK! でも、何でそんな事まで分かっちゃうわけ?』

 

「女の感です」

 

『アハハハハハッ! そりゃ頼もしい!!』

 

アリサが妙に具体的な情報を出す事に疑問を抱いたケイだったが、元より大雑把な性格が災いし、深く問い詰める様な事はせずに情報通りに部隊を展開させる。

 

「今度こそ終わりだな………」

 

と、そのアリサが乗るシャーマンM4A1の護衛を務めている分隊の中に居たジェイがそう呟く。

 

「隊長………良いですか? 無線傍受機なんか使って?」

 

そこで、分隊員の1人が、無線傍受機を使っている事についてそう問い質す。

 

「何を言ってるんだ? ルールブックには違反してないぞ」

 

「そうですけど………ケイ総隊長にも内緒でだなんて………」

 

「煩い! ケイ総隊長は優秀だが、戦いとは綺麗ごとで済ませられるモノじゃないんだ!! ぼやいている暇が有ったら、しっかり見張りをしろ!!」

 

「イ、イエッサーッ!!」

 

食い下がる隊員をそう一喝するジェイ。

 

彼もかなりダーティな考えの持ち主らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

偽情報を流した大洗機甲部隊は………

 

無線で流したジャンクションが一望出来る丘の上から、サンダース&カーネル機甲部隊の動きを見ていた。

 

「来ました! 北から3両!!」

 

「東からは4両だ!」

 

「西よりも2両でござる!」

 

そこで、双眼鏡を覗いていた偵察兵部隊の中に居た楓、秀人、小太郎がそう報告を挙げる。

 

報告通りに、カーネルの随伴歩兵部隊を伴ったサンダースのシャーマン達が、北から3両、東から4両、西から2両迫って来ている。

 

その先には、後部にワイヤーで丸太や太い枝を繋げている八九式と数台のシケとくろがね四起の姿が在った。

 

「如何やら上手く引っ掛かってくれた様だね」

 

「西住総隊長」

 

「うん!………囲まれた! 全部隊後退!!」

 

迫信が面白そうな笑みを浮かべてそう言うと、弘樹がみほに呼び掛け、みほは偽の指示を出す。

 

その瞬間に八九式とシケ、くろがね四起が一斉に発進。

 

繋がれていた丸太達が派手に土煙を上げる。

 

それを見たサンダース&カーネル機甲部隊は、大洗機甲部隊が全車両で逃げていると思い込む。

 

「見つかった! 全員、小隊規模になってバラバラに退避! 38tはC1024R地点に隠れて下さい!!」

 

「38t………敵のフラッグ車ね。貰ったわ! チャーリー! ロック! C1024R地点に急行! 見つけ次第攻撃!」

 

『『ハイッ!』』

 

「コレでこの試合もケリだな」

 

みほが更に偽の指示を出すと、それを聞いたアリサが即座に指示を送り、ジェイはケリが着いたと言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C1024R地点………

 

大洗機甲部隊のフラッグ車が居ると思い込んでいるサンダース&カーネル機甲部隊のシャーマン2両と、対戦兵を中心とした歩兵部隊が進軍して来る。

 

ポイントの中心地点へ到着すると停止し、フラッグ車を探して砲塔を旋回させるシャーマンと周囲を見回す随伴歩兵部隊。

 

「おかしいぞ? 大洗のフラッグ車どころか、歩兵1人見当たらないぞ?」

 

「変だなぁ?」

 

しかし、中々38tの姿が見つけられず、カーネル歩兵隊員の中からそんな声が挙がる。

 

「ん?」

 

とそこで、砲塔を旋回させていたシャーマンの内、片方の砲手が何かを発見する。

 

それは、茂みの中に隠れ、シャーマンにピタリと照準を合わせている………

 

Ⅲ突の砲口だった!!

 

「!? ジーザスッ!!」

 

「撃てぇっ!!」

 

サンダース砲手の悲鳴が挙がった瞬間、エルヴィンの命令が下り、Ⅲ突が発砲!!

 

更に別の場所で、ハルダウンを行っていたⅣ号も主砲、M3リーも主砲と副砲を発砲!!

 

シャーマンは砲塔右側面、車体左側面、左履帯前方に次々と直撃弾を受けた!!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

被弾したシャーマンのすぐ傍に居たカーネル歩兵達が爆風で吹き飛ばされ、一部の者には破片が直撃したと判定され、戦死となる。

 

計3発もの直撃弾を受けたシャーマンは濛々と黒煙を上げ、やがて砲塔上部から撃破を示す白旗が上がった。

 

「Oh MY GOD!!」

 

「な、何が起こったんだ!?」

 

カーネル歩兵達が、何が起こったんだと慌てる。

 

「今だ!!」

 

「全員、一斉射撃開始!」

 

とそこで、十河と迫信の声が響き渡ったかと思うと………

 

茂みや丘の向こう、蛸壺の中に隠れていた大洗歩兵部隊員達が一斉に姿を見せ、機関銃や小銃、狙撃銃での攻撃を始めた!!

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「か、囲まれているぞ!?」

 

「馬鹿な!? 我々を待ち構えていたと言うのか!?」

 

一瞬にして包囲されたサンダース&カーネル機甲部隊の面々は完全に浮足立ち、更に対戦車戦を想定して対戦車兵を中心の編制を組んでいた事もあり、碌な抵抗も出来ずに1人、また1人と倒されて行く。

 

「装填完了!」

 

「良し! ファイヤァッ!!」

 

とそこで、鷺澪がそう声を挙げると、7.5cm PaK 97/38が火を噴く!!

 

しかし、放たれた砲弾は僅かに逸れ、生き残っていたシャーマンのすぐ傍の地面を爆ぜさせた。

 

「撤退しろ! 撤退ぃーっ!!」

 

そこで慌てて、生き残っていたもう1両のシャーマンは踵を返し、その場から撤退して行く。

 

「わ、我々も撤退だぁーっ!!」

 

それに続く様に、カーネル歩兵部隊も撤退を始める。

 

「逃げちゃうよ!」

 

「撃て撃て!」

 

「ええーいっ!!」

 

逃がさんとばかりにウサギさんチームのM3リーが副砲を発射するが、シャーマンには当たらず、地面を爆ぜさせる。

 

「惜しいっ!」

 

「大丈夫っ! 上手く誘い込めたっ!!」

 

あやがそう声を挙げるが、みほがそう叫ぶ。

 

丘を越え、逃げ果せたかに見えたシャーマンだったが………

 

とある地点に差し掛かった瞬間!!

 

右側履帯の部分の地面が爆ぜ、履帯が千切れ飛んだ!!

 

「!? 地雷だっ!?」

 

「今だ! 行けぇっ!!」

 

生き残っていたカーネル随伴歩兵の1人がそう叫んだ時!!

 

地面に偽装したシートを被せて隠していた塹壕の中から、弘樹を中心とした大洗歩兵部隊が現れ、シャーマンとカーネル随伴歩兵を取り囲む!!

 

「クソッ! 戦車を守れ!!」

 

驚きながらも、即座に右履帯を吹き飛ばされて移動不能に陥ったシャーマンを守る様に展開し、突っ込んで来る大洗歩兵部隊を攻撃するカーネルの歩兵達。

 

「うわぁっ!」

 

「怯むなぁっ! 前進ーっ!!」

 

「大洗男児の意地の見せどころだぞぉーっ!!」

 

「前進ーっ! 前進あるのみーっ!!」

 

カーネル歩兵達の反撃を受けて倒れる者が出るが、大洗歩兵達は気迫を保って突撃を続行する。

 

「よし! 手榴弾、投擲ーっ!!」

 

「爆発するぞーっ!!」

 

そこで、竜真がM24型柄付手榴弾を投げ、傍に居た突撃兵が味方に警告を送る。

 

「「「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」」」

 

カーネル歩兵達の中へと落ちた手榴弾が爆発し、数名が一気に吹き飛ばされ、戦死判定を受ける。

 

「F〇CK!! ジャップ野郎めぇーっ!!」

 

M3A1サブマシンガンを持っていたカーネル歩兵(注意:日本人です)が、そんな台詞を吐きながら、大洗歩兵部隊を近寄らせまいとM3A1で弾丸をばら撒く様に乱射する。

 

「せやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、果敢にも突撃を続けた弘樹が、着剣した九九式短小銃で突きを繰り出した!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

胸を一突きされた短機関銃を持ったカーネル歩兵は悲鳴と共に倒れ、そのまま戦死と判定される。

 

とそこで!

 

弘樹の足元の地面が大きく爆ぜる!!

 

「!?」

 

咄嗟に伏せた弘樹が見たのは、履帯を破壊されているシャーマンのハッチから姿を晒し、機銃架に備え付けてあったブローニングM2重機関銃を発砲しているシャーマンの車長の姿だった。

 

「負けて堪るもんですかぁーっ!!」

 

半ば自棄っぱちの様に叫びながら、爆音と共にM2重機関銃から12.7mm弾をばら撒くシャーマンの車長。

 

「おうわっ! あぶねっ!!」

 

「誰かーっ! アイツを何とかせいっ!!」

 

試製四式七糎噴進砲を撃とうと構えていた地市の傍にも12.7mm弾が着弾して慌てて伏せ、同じく伏せていた大河が誰に言うのとでもなくそう叫ぶ。

 

と………

 

ズギューンッ!!と言う銃声が響き渡ったかと思うと、M2重機関銃の装弾部分にライフル弾が直撃!

 

M2重機関銃が暴発を起こし、破損する!!

 

「キャアッ!?」

 

「………良し!」

 

そのライフル弾を撃った主………

 

ギリースーツの様に戦闘服の全身とヘルメットに、草や木々を装着して茂みに偽装して、モシン・ナガンM1891/30を構えていた飛彗が、顔を挙げてそう声を挙げる。

 

某大尉が「ビューティホー………」と言ってくれそうなくらい、見事な狙撃だった。

 

「!!」

 

「舩坂分隊長! コレを!!」

 

それを見た弘樹が即座に起き上がると、灰史がダイナマイトを詰めた肩掛け鞄………『梱包爆薬』を地面の上を滑らせる様にして送って来た。

 

「!………」

 

即座にそれを拾い上げると、跳躍してシャーマンの側面にしがみ付く弘樹。

 

「! ヤバッ!!」

 

危ないと思ったシャーマンの車長が慌てて車内へ引っ込む。

 

「…………」

 

直後に弘樹はシャーマンの車体の上に攀じ登り、エンジン部の真上に梱包爆薬をセット。

 

拉縄を引くと即座にシャーマンの上から飛び降りて、地面に転がりながら伏せた!!

 

直後に梱包爆薬が爆発!!

 

シャーマンから派手に爆炎が上がり、一瞬間が有って、砲塔から撃破を示す白旗が上がる。

 

「撤退ーっ! てったーいっ!!」

 

生き残っていたカーネル歩兵達は、シャーマンが撃破されたのを見ると、即座に逃げ出して行く。

 

「野郎! 逃がすか!!」

 

「深追いするな! 戦車は撃破した。十分な戦果だ………」

 

追撃を掛けようとした海音を、弘樹がそう言って止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース&カーネル機甲部隊………

 

『こ、こちらヘンリー! 敵の攻撃を受け、チャーリーチームとロックチームがやられました!!』

 

「!? ええっ!?」

 

「何っ!?」

 

「ホワーイッ!?」

 

「馬鹿な!?」

 

「嘘だろっ!?」

 

逃げ延びたカーネル歩兵から、シャーマンが2両とも撃破されたとの報告を受け、サンダース&カーネル機甲部隊は一時騒然となる。

 

「此方が先手を取られたか………フフフ、思った以上にやるな」

 

しかし、そんな中で、唯一ジョーイだけが、不敵な笑みを浮かべてそんな事を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席エリア………

 

「やりましたわね」

 

「ええ………」

 

「相手を舐めていたしっぺ返しが来たな………」

 

ペコ、ダージリンが紅茶を飲みながら優雅にそう言い、アールグレイもいつもの仏頂面を浮かべながらそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大洗機甲部隊が2両撃破………」

 

「その様ね………」

 

大洗機甲部隊が先に戦果を挙げた事に信じられないと言った表情になるエリカと、淡々としているまほ。

 

「おお~~~っ! 流石であります! 西住殿~~~っ!!」

 

「フフフ………」

 

そして、エリカとは対照的に、大洗機甲部隊へ惜しみない称賛を送る久美と、含み笑いを零している都草。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『戦車道・歩兵道1回戦! 大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の戦い! 最初に戦果を挙げたのは! 何と、大洗機甲部隊だぁーっ!!』

 

『いや~、コレはホント凄い試合になりそうですよ!』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が観客席に響く中、1回戦の試合はまだまだ続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよサンダース&カーネル機甲部隊との試合が開始です。
大洗機甲部隊より規模が大きいサンダース&カーネル機甲部隊ですが、更に歩兵部隊も機械化が進んでおり、かなりを機動力を有しています。

序盤は原作通りに無線傍受に気付いたみほがそれを取り、罠に掛ける事に成功。
更に、この作品では歩兵も居るので、2両撃破へ戦果が上がっています。
ですが、次回からは危うい展開になるかもしれません。
どうなるのか楽しみにして待っていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第27話『1回戦、白熱してます!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第27話『1回戦、白熱してます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の1回戦・大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の試合………

 

序盤こそサンダース&カーネル機甲部隊の無線傍受と言うダーティーな戦法に苦しめられた大洗機甲部隊だったが………

 

みほ達の機転により、それを逆手に取る事に成功。

 

サンダース戦車部隊の戦車2両を撃破する、先制点を挙げた。

 

だが、フラッグ戦である公式戦では、フラッグ車を叩く事こそが最大の目的………

 

まだサンダース&カーネル機甲部隊には、17ポンド砲を搭載したファイヤフライを始め8両の戦車が有り、歩兵の数も未だに圧倒的である。

 

果たして、大洗機甲部隊の次なる手は何か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

そんな白熱した試合が繰り広げられていた頃………

 

大洗機甲部隊の中から姿を消していた白狼は………

 

 

 

 

 

黒森峰男子校・車両格納庫………

 

『さて、先に戦車を2両撃破する事に成功した大洗機甲部隊。ココからの試合を如何運ぶと思われますか、田中さん』

 

『そうですね~。先手を取ったとは言え、サンダース戦車隊の戦車はまだ8両も残っていますし、ファイヤフライも健在。歩兵の数でもまだ圧倒的に負けてますからね。慎重かつ大胆な攻めが必要となって来るでしょう』

 

『成程~。ありがとうございます』

 

「友達は頑張ってるな」

 

「ああ………そうみたいだな………」

 

ラジオからヒートマン佐々木とDJ田中の試合の様子を伝えて来る実況が響いて来るが、白狼は感心無さげにバイクを整備していた。

 

「本当に行かなくて良いのか?」

 

「…………」

 

おやっさんが念を押す様にそう尋ねるが、白狼は只黙ってバイクの整備を続ける。

 

「やれやれ………お前さんも相当なへそ曲がりだな」

 

苦笑いしながら呆れた様におやっさんは言う。

 

「…………」

 

それでもなお、黙々と整備を続ける白狼。

 

 

 

 

 

以前、黒森峰を来訪し、女学園の生徒会長と出会って以来………

 

白狼は頻繁に黒森峰を訪れていた。

 

エリカ辺りにでも知られたら大変な事になりそうだったが、幸運にも彼女と出くわす事は無かった。

 

白狼が黒森峰を訪れている最大の理由は、やはり一重に強さへの渇望からである。

 

その為、特に揚羽達と良く会合していた。

 

ある日、学園までの道程へと進んで行た途中の河原で、稽古着を着ていた揚羽が1人で柔術と空手、そして拳法の型をしているのを目撃し、その様子をしっかり観察。

 

そして大洗の学園艦に帰還後、歩兵道の授業が始まる中、白狼は空いてる時間を使って、揚羽がしていた空手の構えをし、早朝から見ていた型をやってみた。

 

しかし、白狼自身はもう少し捻りが必要だと感じ、放課後に黒森峰まで向った。

 

揚羽は相手が敵である大洗の生徒ながらも、熱心にバイクだけでなく武道を励もうとする白狼の姿勢に、少々ながらも打ち解け、総合格闘術を学ばせる。

 

早速揚羽は指定として、生徒会役員の1人である空手やムエタイなどのキック系が得意な斑と稽古を促す。

 

結果は、全く感じの違う相手に押されて、白狼の負けであった。

 

だが、それでも白狼は斑に掠った程度に攻撃を1発だけ当てる事の成功する。

 

驚く斑だったが、白狼は更に精進した方が良いと自分に言い聞かせた。

 

そんな白狼に、揚羽は『とある物』を譲り渡す………

 

かつてドイツ軍が使用していた信号拳銃を改造して作られた小型擲弾発射器………『ワルサーカンプピストル』である。

 

成形炸薬弾を使えば装甲目標にも有効な武器であり、小型なので携帯性にも優れるが、その小型さ故に反動も大きく、使用の際には細心の注意が必要とされる。

 

白狼は素直にそれを受け取り、今も携帯している。

 

そして今日は知っての通り試合の日だったが………

 

白狼は試合に出る気になれず、またこうして黒森峰に来ていた。

 

負けるのは嫌いだが、バイクを戦いの道具にする気にはなれない………

 

そんな思いがグルグルと頭の中を渦巻き、何も結論を出せずに居た………

 

揚羽達とまた組み手でもして気を紛らわそうとしたが、生憎と彼女達は今日は仕事が忙しい為、相手になれないと言われ、仕方なくおやっさんの元へ来たのである。

 

 

 

 

 

『さて、先手を取られたサンダース&カーネル機甲部隊ですが、そこは流石に強豪校。オートバイ部隊が次の作戦の為に激しく動き回っています』

 

「フフフ、オートバイ部隊か………」

 

と、それを聞いたおやっさんが、懐かしそうな笑みを浮かべる。

 

「そう言や、おやっさんも昔は歩兵道の選手だったんだっけ?」

 

「ああ、オートバイ兵だった」

 

白狼がそう尋ねると、おやっさんはそう返す。

 

そしてそのまま当時の事を話し始める。

 

 

 

 

 

自分も若い頃は歩兵道の大会にて、よくバイクを乗り回していた。

 

そして、負けそうな母校を逆転勝利させたと。

 

その時の決め技だったのが、白狼が使う様な拳法とは違う、ジャンプキックだった。

 

バッタの様に突然現れ、飛び跳ねるその姿に、当時の試合を見ていた、ある撮影所の人物は、それをモチーフにしたヒーローを作ろうと考えた。

 

それからその人は、おやっさんにカッコイイバイクの運転の仕方などを見本として見せてもらい、大層感謝したという。

 

 

 

 

 

「…………」

 

おやっさんの話を黙って聞いている白狼。

 

「白狼。バイクはレースの為だけに存在しているのではない。車では行けない場所にも行け、小回りが利き、機動性がある。だから多くの仕事場で使用されている」

 

「それは………」

 

「道具に決まった使い方なんてものは無い。それを決めるのは………扱っている人間自身だ」

 

「…………」

 

おやっさんのその言葉を聞いて、白狼は考え込む。

 

「白狼くん………」

 

とそこで、揚羽を始めとした黒森峰生徒会メンバーが現れる。

 

「揚羽………」

 

「試合に出なさい」

 

白狼に向かっていきなりそう言い放つ揚羽。

 

「何?」

 

「実はウチにはベオウルフのファンが結構居てね………大洗に居るって聞いたら、皆試合に出て来るのを楽しみにしてるのよ」

 

やや戸惑う白狼に、揚羽はそう言う。

 

「ファンの期待には………答えるものじゃないかしら?」

 

揚羽は不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「…………」

 

一瞬の間の後………

 

白狼は決意を固めた様な表情となって立ち上がった。

 

「おやっさん、悪い………コレで失礼させてもらうぜ」

 

「ああ、そうしろ………だが、今から行って間に合うのか?」

 

漸く覚悟を決めた様子の白狼に、おやっさんは安心しながらも、心配する様にそう言う。

 

「それについては、私に任せてちょうだい」

 

しかし、それについては問題無いと言う揚羽。

 

「それと整備長。『アレ』を彼にあげて」

 

「オイオイ、良いのか? 他校の生徒に?」

 

「構わないわ。生徒会長権限よ」

 

「やれやれ………」

 

更に、おやっさんとそんな会話を交わしたかと思うと、おやっさんが車両格納庫の片隅へ向かう。

 

そこには、シートに隠された『何か』があった。

 

「白狼………お前の戦場での相棒だ」

 

おやっさんはそう言い、シートを剥がす。

 

「!? コレは!!」

 

そのシートの中から現れた物を見て、白狼は驚愕を露わにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

戦車道・歩兵道全国大会の1回戦の会場では………

 

「やりましたね! 西住殿!!」

 

「まさか、私達が先に相手の戦車を撃破出来るなんて」

 

「うん」

 

撃破したサンダースのシャーマンを見下ろせる丘の上に集結していた大洗機甲部隊の中で、Ⅳ号・砲塔内の優花里と華がそう言うと、キューポラから外の様子を見ていたみほが返事を返す。

 

「でも、この大会がフラッグ車を叩いた方が勝ちなんでしょう?」

 

「うん」

 

「ですが、敵の戦車を2両減らした意味は大いにあります。敵の戦力の低下は確実でありますし、何よりコチラが先制した事で、多かれ少なかれ敵は動揺している筈です」

 

とそこで、同じ様にハッチから外を見ていた沙織がそう言い、みほが返事を返すと、傍に居た弘樹がそう告げて来る。

 

「………次は如何する?」

 

同じく、ハッチから姿を見せていた麻子が、みほの事を見上げながらそう問う。

 

「次は………」

 

「やはりフラッグ車の捜索が急務だろうね。そしてその間、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊を遠ざけておく必要がある」

 

みほが言おうとした次の作戦を、迫信が代弁する。

 

「ハイ、ですので、また偽情報を流して、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊には、128高地へ向かってもらう積りです」

 

地図を広げながらそう言うみほ。

 

「128高地か………確かにそこなら、何かあってもすぐには駆けつけて来れないな」

 

同じ様に地図を広げながら、迫信がそう言う。

 

「…………」

 

すると弘樹が、何かを考える様な素振りを見せる。

 

「? 弘樹? 如何した?」

 

「な~んか、嫌な予感がするんだけど………」

 

それに気づいた地市が声を掛けると、了平が背中に冷たい汗が流れるのを感じながらそう言う。

 

「………西住総隊長殿、神大歩兵隊長殿。意見具申、宜しいでしょうか」

 

と、そこで弘樹は、みほと迫信に意見具申を申し出る。

 

「あ、ハイ」

 

「何だね?」

 

「ハッ! 如何に128高地が遠いとは言え、サンダース&カーネル機甲部隊は我々の姿が無い事を確認すればすぐにでも立ち去ってしまうでしょう」

 

「それは………」

 

「確かに………」

 

弘樹の指摘に、みほは考え込み、迫信が弘樹が何を言わんとしているかを察する。

 

「ですので、砲兵を中心に我々歩兵部隊も、偵察兵を除いて128高地へ向かわせて下さい」

 

そこで弘樹は、そう意見具申した。

 

「! ええっ!?」

 

「本当に部隊が集結していると見せかけて足止めをする………と言う事か」

 

驚くみほとまるで他人事の様に淡々とそう分析する迫信。

 

「そ、そんな!? 危険だよ!! 歩兵部隊だけで機甲部隊に立ち向かうなんて!!」

 

「ですが、フラッグ車の捜索に手間取れば、敵本隊と合流を計る可能性があります。そうなってしまえば、それこそ数で劣る我々に勝機は無くなってしまいます」

 

「彼の意見は最もだ。理に適っている」

 

指揮車から姿を見せていた煌人も、弘樹と同意見であると告げる。

 

「それは………そうだけど………でも!」

 

「西住総隊長!」

 

「!!」

 

何か言おうとしたみほの声を遮り、弘樹はみほに呼び掛ける。

 

「………我々は歩兵です。貴方達の乗る戦車を守り、部隊を勝利に導く事が我々の使命です。だから、総隊長は迷わず………指示を出して下さい」

 

そう言って、弘樹はみほに向かってヤマト式敬礼をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

と、それに続く様に、大洗歩兵部隊の面々が、みほに向かってヤマト式敬礼をする。

 

「皆さん………」

 

「西住総隊長………御命令を」

 

みほが言葉を失っていると、弘樹は更にそう呼び掛けた。

 

「………大洗機甲部隊・総隊長として命令します。とらさん分隊を中心に、歩兵部隊は偵察兵の皆さんを除いて128高地へ向かって下さい。偽情報によって誘き出されてきたサンダース&カーネル機甲部隊の足止めをお願いします。ただし………」

 

そう付け加えると、みほは一呼吸置いてこう言う。

 

「絶対に無理はしないで下さい。危ないと思ったらすぐに撤退して下さい。皆さんが怪我をしない事が第一です」

 

「「「「「「「「「「………了解っ!!」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊の面々は、そう勇ましく返事を返した。

 

「アイタタタタタッ!! じ、持病の神経性胃炎が………わ、悪いけど、俺はリタイヤで………」

 

そんな中、怖気づいた了平が1人見っとも無く仮病を使って難を逃れようとするが………

 

「警告する! 貴様は戦いから逃げようとしている! 逃亡者は銃殺される!!」

 

弘樹がそう言い、十四年式拳銃を了平の眉間に突きつけそう言い放つ。

 

「ヒイイイイッ!?」

 

「仲間が決死の覚悟で戦おうとしているのに………1人怖気づいて、恥かしいと思わんのか!!」

 

ビビる了平に向かって、弘樹はそう怒鳴る。

 

「わ、分かったよ………クソォッ! こうなりゃもう破れかぶれだ! 矢でも鉄砲でも持って着やがれ!!」

 

「むんっ!?」

 

「ぶべらぁっ!?」

 

了平がやけくそ気味にそう言い放った瞬間、弘樹の鉄拳が横っ面に叩き込まれる。

 

「な、何で?………」

 

「大和魂を注入してやったまでだ………行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹はそう言い放つと、128高地へと向かうのだった。

 

『さて、ココで大洗機甲部隊は戦車部隊と歩兵部隊に分かれました。歩兵部隊は128高地へ移動する様です』

 

『如何やら、戦車部隊がフラッグ車を探し、歩兵部隊がその間、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊を足止めする積りみたいですね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

相変わらず無線傍受を行っていたアリサは………

 

「良い気になるなよ………」

 

苛立った様子で無線傍受機のダイヤルを回している。

 

如何やら、先程戦車を撃破されたのは偶然であり、無線傍受に気付かれたとは思っていない様である。

 

『全部隊、128高地に集合して下さい。現状において一番厄介なのはファイアフライです。危険ではありますが、128高地に陣取って、上からファイアフライを一気に叩きます』

 

とそこで、傍受機からみほの声が聞こえて来る。

 

無論コレは、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊を誘い出す為の偽情報である。

 

「フ、フフフフ………アハハハハハハハハッ! 捨て身の作戦に出たわね!!」

 

しかし、そうとは知らないアリサは、高笑いを挙げて嫌な笑みを浮かべる。

 

「でも丘に上がったら、良い標的になるだけよ………128高地へ向かって下さい」

 

アリサはケイへそう通信を送る。

 

『如何言う事?』

 

「敵の全部隊が集まる模様です」

 

『ちょっと、アリサ。それ本当? 如何して分かっちゃうワケ?』

 

相変わらず具体的な情報の内容に、ケイは若干疑いを覚える。

 

「私の情報は確実です」

 

『!………OK! 全車! ゴーアッヘェェェェーーーーーッドッ!!』

 

しかし、そう言われてすぐに128高地へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その128高地では………

 

「良し! 出来たっ!!」

 

そう声を挙げた勇武と数名の工兵達の目の前には、7.5cm PaK 97/38をベースにハリボテを組んで、更にその上から葉っぱを生い茂らせたカモフラージュネットを被せた、偽装戦車が在った。

 

「良し、良い出来だ。遠目に見れば間違いなく戦車に見える」

 

弘樹がその偽装戦車を見てそう言う。

 

その他にも、高地の彼方此方に、十河や灰史を中心とした工兵部隊が作り上げた偽装戦車が在る。

 

皆、其々に大洗戦車部隊の戦車の形に見える様になっている。

 

「こんなんで誤魔化せんのかよ?」

 

「ま、そこは五分五分だな………後は運を天に任せるだけだ」

 

ハリボテの戦車もどきで本当に誤魔化せるのかと不安になる地市だが、俊が後は運を天に任せるだけだと言う。

 

「! 来たぞっ!! 12時の方向っ!!」

 

と、着弾観測用の双眼鏡を覗いていた明夫がそう声を挙げた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その報告を受けて、128高地に陣取っていた大洗歩兵部隊の面々は、一斉に12時の方向を見やる。

 

12時方向の遠方には、土煙を上げて高地に向かって来る、サンダース&カーネル機甲部隊本隊の姿が在った。

 

「総員戦闘準備!!」

 

弘樹がそう言うが否や、砲兵部隊は偽装戦車にしたり、塹壕や茂みに隠す様に配置した砲に着き、歩兵部隊は塹壕へと転がり込み、重機関銃や対戦車ライフル、試製五式四十五粍簡易無反動砲やライフルを構える。

 

「見つけたわ!」

 

「流石アリサだ! 情報通りに大洗機甲部隊が集結してるぜ!!」

 

「一気に叩く」

 

その光景を見た、ケイ、ボブ、ナオミからそう声が挙がる。

 

「…………」

 

しかし、ジョーイだけは何か気に入らない様な表情を見せている。

 

「来るでぇっ!」

 

「良いか! 我々の目的は西住総隊長達がフラッグ車を発見し、撃破するまでの間、サンダース&カーネル機甲部隊本隊の足止めをする事だ! 1秒でも長く奴等を此処に引き付けろ!! 各員の奮戦に期待するっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

大河がそう声を挙げると、大洗歩兵部隊の面々は、勇ましい返事を返す。

 

とそこで、サンダース&カーネル機甲部隊本隊の中に居たファイアフライが発砲!

 

凄まじい砲撃音が響いた後、風切り音が響いて、砲弾が大洗歩兵部隊が居る陣地の中に着弾した!!

 

「うわぁっ!!」

 

「慌てるな! 只の牽制だっ!!」

 

舞い上がった土片が降って来て、竜真が思わず声を挙げるが、弘樹がそう言って落ち着かせる。

 

直後に、他のシャーマン達も次々と砲撃を開始。

 

そのままジリジリとカーネル歩兵部隊と足並みを揃えながら、大洗歩兵部隊の方へと進軍して来る。

 

「全軍! 攻撃開始ぃっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その瞬間に弘樹の号令が下り、大洗歩兵部隊は一斉に反撃を開始したのだった。

 

『お~と! サンダース&カーネル機甲部隊! まんまと大洗機甲部隊の作戦に引っ掛かってしまいました!!』

 

『ココで歩兵部隊が粘れるかが、大洗機甲部隊に取って重要な場面となって来ますよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

フラッグ車を捜索している、みほ達の大洗戦車部隊は………

 

「恐らくフラッグ車は、此処か此処、それか………この辺りの筈」

 

此方側のフラッグ車の38tを守りながら進軍している中、試合会場の地図を見ながら、サンダースのフラッグ車が潜んでいると思われる場所に目星をつけて行くみほ。

 

「まだ視認できません」

 

「大空くん達も、まだ発見出来ないって」

 

そこで、砲塔側面のハッチを開けて、双眼鏡で周囲を見ていた優花里がそう言い、フラッグ車の捜索に出ていた偵察兵部隊の楓達からメールを受け取った沙織もそう報告する。

 

「後1両あれば、囮に出せるんだけど………」

 

少々歯痒い思いを感じながらも、冷静に務めるみほ。

 

(舩坂くん達が頑張ってくれてる間に………何とかフラッグ車を撃破しないと………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗歩兵達が陣取る128高地では………

 

「俺は攻撃を行う!」

 

「前方に敵! 敵は攻めて来る!」

 

「良し! 手榴弾、投入ーっ!!」

 

「爆発するぞぉーっ!!」

 

「しっかり踏ん張って守るのだぁーっ!!」

 

「弾が切れた! 装填中! 援護せよっ!!」

 

「くたばれ米兵めぇっ!!」

 

「敵の潜水艦を………」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

シャーマンと砲兵部隊の砲撃を援護に、ジリジリと迫って来るサンダース&カーネル歩兵部隊相手に、大洗歩兵部隊は1歩も引かずに奮戦。

 

敵の意識を完全に引き付けている。

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「クソッ! 鷺澪がやられた!!」

 

「弾切れだ! 予備弾倉を!!」

 

「手榴弾! コレで最後です!!」

 

しかし、只でさえ人数の上で負けているのに加え、戦車が居ない為、火力面で圧倒されており、じわじわと被害が増え始めている。

 

「駄目だ、弘樹! とても持ち堪えられねえぞっ!!」

 

撃ち終えた試製四式七糎噴進砲に、新たなロケット弾を装填しながら、地市が弘樹にそう言う。

 

「まだだ! もっと敵を引き付けるんだ!!」

 

だが、弘樹はそう言い放ち、九九式短小銃を3連射し、バイクに乗って居たカーネル歩兵の頭を次々に撃ち抜いた。

 

「チッ! しぶとい連中だっ!!」

 

「やるじゃない! コレだけ不利な状況でココまで持ち堪えるなんてね!!」

 

そんな大洗歩兵部隊の奮戦の様子に、ボブは苛立ち、ケイはその健闘を称える。

 

「けど、そろそろ終わりにしましょう。ナオミ! 右の丘の上に居る戦車を狙って! 多分、アレがフラッグ車よ!!」

 

「イエス、ボス」

 

しかしそこで、勝負を着けようとファイアフライのナオミに通信を送ると、そう命じる。

 

ファイアフライは停止すると、砲塔を旋回させ、17ポンド砲を大洗歩兵隊の防衛陣地の奥に居る38t(に見せかけた偽装戦車)に向ける。

 

「! フラッグ車が狙われている! ファイアフライを止めろぉっ!!」

 

そこで弘樹がそう叫び、大洗歩兵部隊の攻撃がファイアフライへと集中する。

 

「…………」

 

しかしナオミは、至近距離での多数の着弾の振動に揺らされながらも、ガムを噛みながらジッと照準器を覗き込み、38t(に見せかけた偽装戦車)に狙いを定める。

 

「………!!」

 

そしてそのレティクルが38t(に見せかけた偽装戦車)に重なった瞬間!!

 

ナオミは即座にトリガーを引いた!!

 

轟音と共に放たれた17ポンド砲の砲弾が、まるで吸い込まれる様に38t(に見せかけた偽装戦車)に命中っ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

38t(に見せかけた偽装戦車)は粉々になり、辺りにハリボテと3.7cm PaK 36の残骸が散らばり、砲に着いて居た砲兵達が軒並みに倒れ、戦死判定を受けた。

 

「!? ホワッツッ!?」

 

「何っ!?」

 

「!?」

 

その光景に、ケイ、ボブ、ナオミは驚きを露わにする。

 

「! しまったっ!!」

 

「成程………そう言う事か………アリヨシ! あのⅢ突らしき戦車を狙えっ!!」

 

「イエッサーッ!!」

 

弘樹の声が挙がった瞬間、合点が行った様な表情を見せたジョーイが、傍に居た対戦車兵にそう命じ、対戦車兵は持っていたバズーカで、茂みの中に隠れているⅢ突(に見せかけた偽装戦車)にロケット弾を撃ち込んだ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

先程の38t(に見せかけた偽装戦車)と同じ様に、辺りにハリボテと7.5cm Pak 41の残骸が転がり、それに着いて居た砲兵達が折り重なる様に倒れ、戦死と判定される。

 

「やはりな………ケイ総隊長。コレは陽動作戦だ。此処に大洗の戦車は居ない」

 

「ちょっとアリサ! 如何なってるのよ!!」

 

ジョーイがケイにそう報告すると、ケイは即座にアリサへと通信を送るのだった。

 

『あ~っと! 此処で大洗機甲部隊の作戦が露呈してしまいました!』

 

『コレはマズイですよ』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中も、観客席にそう実況を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース&カーネル機甲部隊のフラッグ車である、アリサが乗るシャーマンM4A1型が隠れている竹林の中………

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

 

「オイ、アリサ! ひょっとして連中、無線傍受に気付いていたんじゃないのか!?」

 

ハッチから上半身を出していたアリサが、ケイからの通信に驚きの声を挙げると、護衛をしていたジェイがそう指摘する。

 

「じ、じゃあ、大洗の戦車部隊は今何処に?………」

 

と、アリサがそう呟いた瞬間………

 

近くに在った竹垣を踏み潰す様にして、アヒルさんチームの八九式が姿を現した!

 

「あ………」

 

「「「「「えっ?………」」」」

 

「うん?………」

 

思わぬ遭遇に、アリサとジェイ達。

 

そして、八九式の車外に出て箱乗りしていた典子は固まる。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

奇妙な遭遇により、お互いに思考がストップしてしまい、そのまま暫しの間、途気が止ったかの様に静止する典子達とアリサ達。

 

「…………」

 

やがて典子が、八九式の砲塔上部を叩いて、車内に居る操縦手の忍に合図を送る。

 

「右に転換! 急げぇーっ!!」

 

そしてそう叫んだ瞬間、八九式はすぐさま転換し、M4A1の前から離脱を計る!

 

「蹂躙してやりなさーいっ!!」

 

「! な、何やってる! 撃て! 撃てっ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

そこでアリサがそう叫び、その声で我に返ったジェイも、護衛部隊の面々にそう指示を飛ばす。

 

だが、判断が遅かった為、護衛部隊が発砲するよりも早く、八九式は離脱を開始した。

 

しかし、アリサ乗るM4A1は、砲塔を旋回させ続ける。

 

「本隊に連絡しますか!?」

 

「するまでも無いわ! 撃てぇっ! 撃てえぇっ!!」

 

本隊に連絡するかと尋ねる乗員に、アリサはヒステリーの様に叫び、発砲命令を出す。

 

轟音と共にM4A1から砲弾が放たれる。

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

とその瞬間に、周囲に居た護衛部隊のカーネル歩兵達が、爆風で吹き飛ばされた!

 

「馬鹿野郎! 俺達を殺す気かぁっ!!」

 

皆と同じ様に砲発射の爆風で吹き飛ばされたジェイが、アリサに罵声を飛ばす。

 

「きゅうううぅぅぅぅ~~~~~………」

 

しかし、当のアリサも、ハッチから姿を見せたまま発砲した為に、衝撃波を諸に浴びて軽く伸びていた………

 

一方、奇跡的にもM4A1と護衛部隊の前から逃げ果せたアヒルさんチームは………

 

「敵フラッグ車! 0765地点で発見しました! 護衛に小規模の歩兵部隊あり! 此方は発見され、現在撤退中!!」

 

典子が箱乗りをしたまま、みほへそう通信で報告を送る。

 

『おっと! 如何やら大洗戦車部隊がサンダース戦車部隊のフラッグ車を発見した様です!』

 

『こうなると時間との勝負ですね。サンダース&カーネル機甲部隊の本隊が駆けつけてくるのが早いか、大洗戦車部隊がフラッグ車を撃破するのが早いか………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗戦車部隊………

 

「! 0765地点ですね! 逃げ回って敵を引き付けて下さい! 0615地点へ、全車両前進!!」

 

典子からの報告を受けたみほは、サンダースのフラッグ車を0615地点へ誘い出し、全車両で集中砲火を浴びせる作戦に出る。

 

「武部さん! 無線封鎖を解除! 全部隊に連絡を!!」

 

「分かった!」

 

ココまでくれば無線封鎖は無用であると思い、通信回線を再び開くと、沙織が全部隊にみほの指示を送る。

 

『コチラ大空! 我々偵察部隊も急行します! 戦車の相手は出来ませんが、護衛の歩兵部隊を食い止める事は出来ます!』

 

するとその瞬間に、フラッグ車を捜索していた楓達の偵察兵部隊からも、合流するとの無線が入って来た。

 

「お願いします! 舩坂くん達が敵の本隊を食い止めてくれている内に決着を着けます!!」

 

みほはそう返すと、戦車部隊を0615地点へ向かわせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に敵のフラッグ車を発見した大洗戦車部隊。

 

しかし、既に大洗歩兵部隊の足止め作戦は露見しており、時間との勝負となっていた。

 

果たして、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊が来る前に、フラッグ車を撃破出来るのか?

 

そして、漸く試合会場へと向かった白狼は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白熱する1回戦。
みほ達がフラッグ車を発見・撃破する時間を稼ぐ為に、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊との対決に臨む弘樹達。
そして、1人迷いを抱え黒森峰に居た白狼が、遂に決意を固めます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第28話『ベオウルフ、参戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第28話『ベオウルフ、参戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース&カーネル機甲部隊の無線傍受作戦を逆手に取り、先制点を挙げた大洗機甲部隊は………

 

サンダース&カーネル機甲部隊の本隊を128高地へ誘い込み、その間にフラッグ車を発見して撃破する作戦に出る。

 

その作戦遂行の為に、敢えて歩兵部隊を128高地へ展開させる事を進言した弘樹。

 

みほは反対したが、大洗歩兵部隊員達に強い意志を信じ、最終的にはその進言を汲み上げる。

 

斯くして、弘樹達の大洗歩兵部隊が128高地でサンダース&カーネル機甲部隊の本隊を食い止めている間………

 

遂にサンダース戦車部隊のフラッグ車を発見したみほ達の大洗戦車隊。

 

しかし、同時に大洗歩兵部隊の足止め作戦も露呈し、勝負は時間との闘いとなっていた。

 

果たして、勝利に栄冠はどちらの手に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース戦車部隊のフラッグ車を発見したアヒルさんチームの八九式は、フラッグ車とその護衛歩兵部隊を引き付けながら、みほの指示通り、0615地点へ向かって居た。

 

その間にも、フラッグ車であるM4A1から執拗な砲撃が襲い掛かる。

 

「何をやっている! 早く片付けろ!!」

 

「ですが! 我々はフラッグ車護衛の部隊で、対戦車火器はそれ程………」

 

「相手は第二次大戦以前に作られた骨董品だ! 手榴弾1発でも当てればカタが着くっ!!」

 

更にそれを追う様に、護衛部隊の歩兵が乗ったジープが数台続いている。

 

「ええいっ!!」

 

するとそこで、八九式の車外に箱乗りしていた典子が、発煙筒をフローターサーブで、M4A1とその護衛部隊へ叩き込む!

 

発煙筒は空中で炸裂し、煙幕がM4A1と護衛部隊を包み込む。

 

「うわぁっ!?」

 

「煙幕か!? エホッ! ゴホッ!」

 

煙幕攻撃の前に咳き込むジェイ達。

 

M4A1は構わずに発砲したが、命中しなかった。

 

「何をやっている! 相手は八九式だぞ!!」

 

「視界が!!」

 

「良いから撃てっ!!」

 

視界が遮られているにも関わらず、攻撃を続行させるアリサ。

 

「ううっ!?」

 

外れはしているものの、着弾の衝撃が車内にも伝わり、あけびが思わず耳を押さえて蹲る。

 

「キャプテン! 激しいスパイクの連続です!!」

 

しかしすぐに、空いている砲塔上部のハッチから、車外に居る典子に新たな発煙筒を投げ渡す。

 

「相手のスパイクを絶対受けないで! 逆リベロよ!!」

 

「………意味が分かりません」

 

典子はあけびにそう返すが、あけびは苦笑いする。

 

尚、リベロとはイタリア語で『自由』を意味し、バレーボールに於ける守備専門の選手の事を言うのが、確かにこの使い方では意味が分からないだろう。

 

「ええい! 装填遅いわよ! 何やってんの!!」

 

一方、そんなアヒルさんチームの様子など露知らず、装填手に近い位置にある即応弾が尽きてしまった為、離れた砲弾ラックへと手を伸ばしている装填手に向かってイラだった口調でそう言う。

 

本来ならば即応弾がもっとあるのだが、皮肉にもアリサ自慢の通信傍受機が砲弾ラック部分を圧迫し、装弾数を減らしていたのである。

 

「す、すみません。砲弾が遠くて………」

 

「なら機銃を撃ちなさい!!」

 

「機銃で戦車を撃つなんてカッコ悪いじゃないですか!!」

 

アリサがそう言い放つと、砲手の子がそう反論する。

 

「戦いにカッコイイも悪いもあるか! 手段を選ぶな!!」

 

彼女らしいダーティーな怒鳴り声がM4A1の車内に響く。

 

とそこで、漸く典子が八九式の車内に戻ったかと思うと、砲塔が180度旋回し、発砲を行った。

 

放たれた砲弾はM4A1に命中したが、弾かれてしまう

 

「!? キャアッ!?………あんの動く鉄屑めぇ~~~~っ!!」

 

しかし、車内に走った振動で転びかけたアリサは、激高した様に上部ハッチを開けて、機銃架に着けられていたM2重機関銃を八九式に向けた。

 

「オ、オイ、アリサ!!」

 

「死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

ジェイの声も耳に入らず、大凡女の子が言う様な台詞では無い台詞を吐き、M2重機関銃の引き金を引くアリサ。

 

12.7mm弾が、八九式の装甲に当たって火花を散らす。

 

補足しておくが、旧日本軍の戦車は小銃でも貫通される様な装甲だったと言われる事があるが、誤りである。

 

12.7mm弾でも、余程の至近距離で最も装甲の薄い場所なら貫通出来ただけであり、小銃で装甲を抜かれたと言う事は無い。

 

………多分。

 

それはさておき、すっかり激高したアリサのM4A1と、それに続いているジェイ達護衛部隊は、八九式に誘導されている事に全く気付いていない。

 

やがて八九式は、大洗戦車部隊が集結している0615地点へと突入する。

 

「! 来ました! アヒルさんチームを確認!!」

 

「後方より敵のフラッグ車! 少数の護衛部隊を確認!」

 

「護衛の部隊は居ると思っていたでござるが、意外と数が少ないでござるな」

 

大洗戦車部隊と合流し、離れた場所で待ち構えていた楓、逞巳、小太郎達を含めた偵察兵部隊が、双眼鏡でそれを確認する。

 

「全車、突撃します! 但し、カメさんはウサギさんとカバさんで守って下さい! 偵察兵部隊の皆さんも余り前に出ず、戦車と足並みを揃えて下さい! 敵も軽装備ですが、油断はせずに!」

 

「了解した。行くぞ!」

 

「ROGER!」

 

みほがそう指示を出すとⅣ号を発進させ、大詔とジェームズがそう返事を返す。

 

そして、大洗戦車部隊と偵察兵部隊はサンダースのフラッグ車へと一斉に突撃を開始した。

 

「!? アリサ! 止まれっ!! 罠だ! 誘い込まれぞっ!!」

 

と、M2重機関銃を撃つのに夢中になっていたアリサより、逸早く大洗戦車部隊と偵察兵部隊に気付いたジェイがそう声を挙げる。

 

「へっ?………!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!! 後退! 後退ーっ!!」

 

そこで漸く突撃して来る大洗戦車部隊と偵察兵部隊の存在に気付いたアリサが、慌てて車内へ引っ込み、後退指示を出す。

 

直後に、大洗戦車部隊の一斉砲撃が襲い掛かる!

 

M4A1の至近距離に次々と砲弾が着弾し、車内にはまるで地震の様な振動が走る。

 

「イ、イカン! フラッグ車を守れっ!!」

 

「し、しかし! 我々の装備では!?………」

 

「良いから前に出ろ! フラッグ車がやられたら負けなんだぞ!!」

 

ジェイは慌てて護衛部隊に前に出る様に指示を出す。

 

「護衛部隊が前に出て来ました!」

 

「奴等に対戦車火器は殆ど無い! 此方の戦車に近づかせない様にしろ!!」

 

突撃している38tを守っているM3リーとⅢ突の影に隠れながら進んでいた偵察兵部隊の中で、清十郎と大詔がそう言い合い、SIG KE7軽機関銃とFM mle1924/29軽機関銃を撃ちまくる。

 

「こ、此方フラッグ車! 緊急事態発生! 大洗戦車部隊の集中攻撃を受けています!! 至急救援をっ!!」

 

アリサは慌てて、総隊長であるケイにそう通信を送った。

 

『お~っと! サンダースのフラッグ車、待ち伏せに掛かったぁっ! 大洗戦車部隊全車両からの一斉砲撃に晒される~!!』

 

『八九式と侮って単独で追撃に走ったのが裏目に出た様ですね』

 

実況席ではヒートマン佐々木とDJ田中のそんなコメントが発せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

128高地………

 

「ちょっと、ちょっと! 話が違うじゃない! 大洗機甲部隊が集結してるって言ってたコッチには歩兵部隊しかいないし、如何言う事?」

 

その通信を受けたケイが、アリサにそう問い質す。

 

『ハ、ハイ、恐らく………無線傍受を、逆手に取られたのかと………』

 

とアリサが恐る恐ると言った様子でそう報告すると………

 

「バッカモーンッ!!」

 

ケイは、どこぞの公園前派出所勤務のお巡りさんの上司の様な怒声を浴びせた。

 

『ヒイッ! も、申し訳ありません………』

 

「戦いはフェアプレーでっていつも言ってるでしょ! それとジェイ! 貴方、知ってて黙ってたでしょう!!」

 

『そ、総隊長! 申し訳ありません………ですが! それより今は救援をっ!!』

 

続いて護衛部隊を率いていたジェイへそう通信を送るケイだったが、ジェイからは爆音と銃声混じりのそんな返事が返って来る。

 

「全く、しょうがないわね! 良いから早く逃げなさい!!」

 

『『イエス、マム!!』』

 

アリサとジェイがそう言うと、通信は切断された。

 

「やれやれ………アリサの奴、またやったのか?」

 

ジョーイが呆れた様にそう呟く。

 

如何やら、アリサには前科が有る様だ。

 

「全く、あの子達は………う~ん、無線傍受しておいて、全車両で反撃ってのもアンフェアね。コッチの大洗の歩兵部隊も足止めが必要だし………良し!」

 

そこでケイは128高地に集結していたサンダース戦車部隊に通信を繋ぐ。

 

「敵は5両。3両と442部隊だけ私に着いて来て。ナオミ、ジョーイ、出番よ」

 

「…………」

 

「イエス、マム」

 

ケイにそう言われ、車内で不敵に笑うナオミと、敬礼するジョーイ。

 

「ボブ。此処の指揮は任せたわよ。大洗の歩兵部隊の相手をしてて」

 

「………イエス、マム」

 

続いてボブにそう指示を出したが、ボブは何やら含みがありそうな返事を返す。

 

「それじゃあ、レッツゴーッ!」

 

しかし、ケイはそれには気づかず、ナオミの乗るファイアフライを含めた4両とジョーイの442部隊を引き連れて、フラッグ車の救援に向かう。

 

128高地には、3両のシャーマンと多数の戦闘車両を配備しているカーネル歩兵部隊が残される。

 

「舩坂先輩! 敵部隊の一部が離脱して行きます!!」

 

「フラッグ車の救援に向かったのか………」

 

「オイオイ、マズイんじゃないのか!? 今みほちゃん達を守ってるのは偵察兵部隊の楓達だけだぜ!!」

 

光照の報告に弘樹がそう呟くと、地市がそう声を挙げる。

 

とそこで、残っていたシャーマンが放った砲弾が、3人が居る塹壕の上を飛び超えて、後方に着弾する。

 

「うおっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「しかし、この状況では援護に行くのは難しいね」

 

光照と地市が思わず声を挙げると、何時の間にか近くに来ていた迫信がそう言って来る。

 

………尚、彼も弘樹達と同等の活躍を見せ、かなり奮戦しているのに、戦闘服が全く汚れていない。

 

実にエレガント………

 

「クッ………」

 

苦い表情を浮かべながらも、突出していたM38装甲車目掛けて、二式擲弾器でタ弾を撃ち込んだ!!

 

M38装甲車は爆発し、砲塔の37mm M6戦車砲が外れる。

 

『やったなぁっ!』

 

『前進しますっ!』

 

とそこで、やられた仲間の仇を取ろうと、シャーマン3両が前進する。

 

「待て!」

 

しかし、ボブがそれに制止を掛けた。

 

「お前達は大洗戦車部隊の撃破に行け」

 

『えっ!?』

 

『で、ですが、ケイ総隊長の命令は………」

 

「良いから行け! コレは命令だっ!!」

 

『『!? りょ、了解っ!!』』

 

何とボブは、残っていたシャーマン3両も、大洗戦車部隊を撃破する為に派遣。

 

完全に総隊長であるケイの命令を無視する形だ。

 

「ボブ副隊長!? 良いんですか!?」

 

「構わん! 勝ちさえすれば総隊長も文句はいわねーだろうさ!!」

 

思わずそう問い質してきたカーネル歩兵部隊員の1人にボブは当然の様にそう返す。

 

「! 残りのシャーマン3両も離脱して行きます!」

 

「何っ? 如何言う事だ?」

 

「恐らく、歩兵部隊の副隊長くんの独断だろうね。彼も歩兵部隊の隊長くんも勝ちに拘る主義の様だ」

 

その様子を目撃した灰史がそう報告を挙げると、弘樹が軽く驚いた様な表情を見せ、迫信がそう推察する。

 

「よ~し! 戦車が居ないんなら、コッチのもの………」

 

そこで了平が、珍しく強気な様子でEMP35を構えて塹壕から姿を晒したが………

 

「撃てぇっ!!」

 

直後にM6ファーゴの37mmM6対戦車砲、M116 75mm榴弾砲やM101 105mm榴弾砲の砲弾や榴弾が一斉に叩き込まれた!!

 

「あ、嘘です! ゴメンなさい! ゴメンナサイ!」

 

すぐさま何時もの情けない了平に戻り、塹壕の中に伏せて小さくなる。

 

「チイッ! 戦車が居なくなったちゅうても、数も武器も向こうの方が上やで!!」

 

(イカン………このままでは西住くん達が………)

 

塹壕の中に隠れながら一〇〇式機関短銃を撃ちまくっていた大河の台詞を聞きながら、徐々に焦りを生じさせていく弘樹だった。

 

『さあ、ココで128高地に居たサンダース&カーネル機甲師団の内、約半数がフラッグ車の救援に向かいます』

 

『コレは大洗側に取っては良くない展開ですよぉ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

サンダースのフラッグ車を全車で攻撃していた大洗戦車部隊は………

 

逃走を始めたサンダースのフラッグ車を、全車両で追撃している。

 

楓達偵察兵部隊は、フラッグ車の護衛部隊を待ち伏せ地点に釘付けにし、分断している。

 

「良いぞーっ!」

 

「追えーっ!!」

 

予期せぬ試合展開に、観客席は大盛り上がりを見せる。

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「まさかこんな展開になるとは………」

 

サンダースのフラッグ車が追い詰められている状況になっている事を、ペコが予想外だとコメントする。

 

「うふふ、まるで鬼ごっこね」

 

ダージリンは愉快そうに笑いを零す。

 

「だが、まだ如何なるかは分からん………大洗戦車部隊がフラッグ車の撃破に手間取れば、サンダース&カーネル機甲部隊の本隊が合流する可能性がある」

 

そして1人、真剣な表情で試合の流れを見ているアールグレイだった。

 

 

 

 

 

そして、大会運営の陣営では………

 

「アハハハハハハッ! 新鮮で良いわぁ! こんな追いかけっこ初めてみたわね!」

 

10式戦車の上に胡坐を掻いて座っていた亜美が、試合の様子を見て笑いながらそう言う。

 

「オイ、亜美。女だったらもっと慎みを持ったら如何だ?」

 

そんな亜美の隣に、腕組みをして仁王立ちしている嵐一郎がそう言い放つ。

 

「へっ? 何が?」

 

「もう良い………全く………」

 

何の事かさっぱり分かって居ない亜美に、嵐一郎は憮然として黙り込んだ。

 

と、そこへ………

 

「ヤッホーッ! 亜美! 最豪一尉も!」

 

愛車の10式・改のハッチから上半身を出している状態の空が、2人の元へやって来る。

 

「アラ、空。如何したの?」

 

「いや、ちょっと知った顔が見えたから挨拶に来ただけよ」

 

「呑気なものだな。大洗の試合を見ていなくて良いのか?」

 

亜美と空がそう遣り取りするのを聞いて、嵐一郎が呆れる様にそう言う。

 

「な~に、あの子達なら大丈夫よ。2人も内心そう思ってるんでしょ」

 

「フフフ、まあね」

 

「…………」

 

しかし、空がそう返すと、亜美は笑みを浮かべ、嵐一郎は仏頂面で黙り込んだのだった。

 

 

 

 

 

黒森峰応援席………

 

「ある意味予想外の展開ですね」

 

「…………」

 

エリカがそう言うが、相変わらず無反応でただ試合の様子をジッと観戦しているまほ。

 

「さて………此処までは順調と言ったところだが………」

 

「みほ殿~! 急ぐであります~!!」

 

心底楽しそうに笑いながら試合を観戦している都草の横では、久美が相変わらず声援を送り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、サンダースのフラッグ車を追撃している大洗戦車部隊へ場面は切り替わり………

 

大洗戦車部隊全車両の追撃を受けているM4A1の中では………

 

「このタフなシャーマンがやられるワケないわ! 何せ、5万両も作られた大ベストセラーよ! 丈夫で壊れ難い、オマケに居住性も高い! 馬鹿でも乗れるくらい操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!!」

 

半ばパニクっている様子のアリサが、発狂したかの様にシャーマンの事をべた褒めしている。

 

とそこで、大洗戦車部隊からの砲撃が襲い掛かり、至近弾とかすった砲弾の振動が車内に走る。

 

「キャアアァッ!?」

 

「お言葉ですが、自慢になってません!」

 

「煩いわよぉっ!!」

 

砲手の言葉に、アリサは喚く様にそう返す。

 

その間にも、次々と大洗戦車部隊からの砲撃が襲い掛かる。

 

「何であんなしょぼくれた戦車に追い回されるワケっ!!」

 

M4A1の砲塔が後方へと旋回する中で、アリサが相変わらず喚く。

 

「そこ! 右!! 私達の学校とカーネルは、アンタ達とは格が違うのよ! 撃てぇっ!!」

 

そして、追撃して来る大洗戦車部隊に向かって発砲する。

 

しかし、大洗戦車部隊は僅かに回避行動を取ったが、砲弾はその頭上を飛び越えて、遥か後方へ着弾した。

 

「何よ、その戦車! 小さ過ぎて的にもならないじゃない! 当たればイチコロなのに! 修正、右3度!!」

 

喚きながらも砲手への指示を出すアリサ。

 

「装填急いで! 全く、何なのあの子達! 力も無いくせにこんなとこ出て来て! どうせすぐ廃校になるくせに! さっさと潰れちゃえば良いのよぉっ!!」

 

「………ハア~~」

 

喚くアリサを後ろに、装填手は大きく溜息を吐いた。

 

『果敢に攻める大洗戦車部隊と必死に逃げるサンダースのフラッグ車。しかし、どちらも有効打を与えられていません!』

 

『第二次大戦中の戦車は、基本的に行進間射撃の命中率が悪いんですよね。余程の砲手が乗っていないと、当てるのは難しいでしょう』

 

 

 

 

 

一方、追撃を続けている大洗戦車部隊側は………

 

「「「?」」」

 

中心となって追撃していたⅣ号の車内にて、みほ、華、優花里が何かに気付く。

 

それは、M4A1のハッチを開けたアリサが、自分達に向かって何かを叫んでいる姿だった。

 

「………何か、喚きながら逃げてます」

 

「うん………」

 

流石のみほも、如何コメントして良いか分からず、困った笑みを浮かべる。

 

「目標との距離、詰まって来ています。60秒後、攻撃を再開予定。順次発砲を許可します!」

 

しかし、すぐに頭を切り替え、大洗戦車部隊に次の指示を出す。

 

「前方に上り坂。迂回しながら目標に接近して下さいっ!!」

 

「分かってる」

 

みほの指示に従い、正面に見えてきた丘を迂回する麻子。

 

「柚子、遅れるな」

 

「分かってるよ、桃ちゃん」

 

「頑張れ~」

 

「杏も少しは仕事してよ~」

 

最後尾に続くフラッグ車の38tの車内では、カメさんチームがそんな遣り取りを交わしていた。

 

そして、大洗戦車部隊は、フラッグ車を再び視界に収めると、再度の砲撃準備に入る。

 

「何でタカシはあの子が好きなの!? 如何して私の気持ちに、気づかないのよぉ~~~っ!!」

 

フラッグ車の中では完全に錯乱しているアリサが、全く関係の無い事を叫び出している。

 

と、その時!!

 

ドゴーンッ!!と言う、まるで火山でも噴火したかの様な凄まじい発砲音が響き渡った!!

 

余りの音と衝撃に、森林地帯から野鳥が一斉に飛び立つ。

 

「! 今のは!?」

 

「ファイアフライの17ポンド砲です!」

 

「何か凄い音だったよ」

 

その音を聞いたみほ、優花里、沙織がそう声を挙げる。

 

そして、みほと優花里がハッチを開け、音が聞こえて来た後方の方を見やる。

 

「? 4両だけ?(舩坂くん達は大丈夫なのかな?)」

 

そこには、小高い丘の上に陣取って砲口から白煙を上げているファイアフライと、此方を目指して前進して来るシャーマン3両の姿が在った。

 

更に、周囲には護衛部隊を務めているジョーイの第442連隊戦闘団の姿も在る。

 

「距離、約5000メートル!」

 

「ファイアフライの有効射程は3000メートル。まだ大丈夫です」

 

すぐに全車両へそう通信を送らせるみほだったが、形勢はサンダース&カーネル機甲部隊へ傾こうとしていた。

 

「来たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その姿を確認した途端、先程まで錯乱していたのが嘘の様に歓喜の声を挙げるアリサ。

 

「よっし! イエイ! 100倍返しで反撃よ!!」

 

そして、増援に来たサンダース戦車部隊と共に、大洗戦車部隊に砲撃を開始する。

 

『あ~っと! 此処でサンダース側に増援が出現!!』

 

『コレはマズイですよぉ。一気に大洗側がピンチになる可能性もあります』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中がそんな実況をする中、先程までとは逆に、今度は大洗戦車部隊が激しい砲火に晒される。

 

「如何する、みぽりん!?」

 

「ウサギさん、アヒルさんは後方をお願いします。カバさんと我々あんこうチームは、引き続きフラッグ車を攻撃します」

 

沙織が問うと、みほは素早くそう指示を出す。

 

フラッグ車の38tを中心に、前方をⅣ号とⅢ突、後方をM3リーと八九式が固める陣形を取る大洗戦車部隊。

 

「今度は、逃げないから!」

 

「「「「うん!」」」」

 

梓の声に、紗希を除いた全員が返事を返すウサギさんチーム。

 

「この状況はアラスの戦いに似ている!」

 

「いや、甲州勝沼の戦いだ」

 

「天王寺の戦いだろう」

 

「「「それだ!!」」」

 

カバさんチームの歴女メンバーは、こんな時でもマイペースに、現状を歴史に例えていた。

 

「ココで負けるワケには行かんのだ!!」

 

と、カメさんチームの桃が、そう言う台詞と共に、後方から追撃して来るサンダース戦車部隊目掛けて発砲する。

 

しかし、砲弾は明後日の方向に着弾する。

 

「桃ちゃん、当たってない」

 

「煩い!!」

 

「そもそもこの距離じゃ届かないよ」

 

「壮絶な撃ち合いだねぇ」

 

そんな遣り取りを交わす柚子、桃、蛍を余所に、相変わらず干し芋を齧り続ける杏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧席エリアにある、小高い丘の上………

 

「大洗女子、ピンチですね………」

 

一転して窮地に陥っている大洗戦車部隊を見て、ペコはそう漏らす。

 

「………サンドイッチはね、パンよりも中のキュウリが1番美味しいの」

 

するとダージリンが、ペコに向かってそんな事を言う。

 

「ハイ?」

 

「挟まれた方が良い味出すのよ」

 

ワケが分からないと言った様子のペコに、ダージリンはそう説明する。

 

「成程………」

 

そんなダージリンの言葉に頷くアールグレイ。

 

「アールグレイさん、分かるんですか?」

 

「大体はな………」

 

(………私ももっと勉強しないと)

 

そんな2人を見て、変な方向に努力してしまいそうになるペコだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

128高地では………

 

「うわっ!? クソ、スマンッ!!」

 

「本多さんがやられた!!」

 

「もう弾が無いぞっ!!」

 

「如何すりゃ良いんだ!?」

 

「海軍の支援を要請するっ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊は壊滅寸前だった。

 

戦車が居なくなったとはいえ、多数の火砲を備え、何より人数で勝っているカーネル歩兵部隊は、徐々に大洗歩兵部隊を追い詰めている。

 

「良ーし! 砲撃止めっ!!」

 

「砲撃止めーっ!!」

 

「オートバイ部隊前へ! 一気に踏み潰してやる………」

 

ボブの命令で、大洗歩兵部隊の防御陣地への制圧砲撃が中止され、オートバイ部隊が前へと出る。

 

「? 砲撃が止んだ?」

 

「オートバイ部隊が敵部隊の前方に展開しています!」

 

「一気にトドメを刺す積りか………」

 

塹壕から僅かに顔を出した弘樹が、カーネル歩兵部隊の様子を見て、そう推察する。

 

「如何すんだ、弘樹! 何か手は無いのかよ!!」

 

「…………」

 

地市がそう叫ぶが、弘樹は只苦い顔をするだけだった。

 

「アターックッ!!」

 

と、その次の瞬間!!

 

ボブの号令を受けたカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊が、一斉に大洗歩兵部隊の防御陣地へ突撃を開始する。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊、万事休すか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………と思われた、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1人のバイクに乗った歩兵が、突撃を決行したカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊の横から突っ込んだ!!

 

「!?」

 

「な、何だっ!?」

 

「敵かっ!?」

 

突然の乱入者に、突撃しようとしていたカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊は混乱を起こす。

 

「!? うわあっ!?」

 

「ギャアアッ!?」

 

乱入者を避けようとしてハンドルを切ったオートバイ兵達が、別のオートバイ兵とクラッシュし、次々に車体から投げ出されて行く。

 

中には打ち所が悪かったのか、そのまま戦死判定を受けた者も居る。

 

「…………」

 

そんなカーネル歩兵部隊のオートバイ部隊の中を巧みに走り回っていた謎のオートバイ兵は、そのまま右手で、車体に付けていたホルスターから、銃身を切り詰めたソードオフモデルの『ウィンチェスターM1887』を抜く。

 

そして、手近に居たカーネルのオートバイ兵に向かって、至近距離で発砲!!

 

「ぐあああっ!?」

 

散弾を全身に浴びたカーネル歩兵は、オートバイから落っこち、戦死と判定される。

 

「野郎っ!!」

 

「!」

 

背後に居た別のカーネルのオートバイ兵が、ブローニングM1918自動小銃を向けて来たが、その引き金が引かれるより早く、片手でスピンコックしてリロードを終えた謎のオートバイ兵が発砲!

 

「ぐあああっ!?」

 

先程と同じ様に、ブローニングM1918自動小銃を持ったカーネルのオートバイ兵は、全身に散弾を受けて戦死判定される。

 

その後も、カーネルのオートバイ部隊の中を走り回り、特にはアクロバティックな動きを見せて、次々にカーネルのオートバイ兵を倒して行く謎のオートバイ兵。

 

「! アレは!?」

 

「白狼っ!!」

 

それを見た弘樹が声を挙げた瞬間に、飛彗がそう叫ぶ。

 

そう………

 

謎のオートバイ兵の正体は、戦闘服に身を包み、『ツェンダップK800W』に乗った、神狩 白狼その人であった!

 

その声を聴いた謎のオートバイ兵………白狼は、一旦大洗歩兵部隊の防御陣地まで後退する。

 

「よう、苦戦中か?」

 

「白狼!」

 

「待っとったでぇ!!」

 

不敵にそう言う白狼に、海音と豹詑が笑みを浮かべてそう言う。

 

「お前っ! 今まで何処で何やってたんだよ!!」

 

「ちょっとな………」

 

「ちょっとって、お前………」

 

「話は後だ。神狩 白狼………遅れてきた分はしっかり働いてもらうぞ」

 

了平は、今更ノコノコと姿を見せた白狼に噛み付くが、弘樹がそれを制して、白狼にそう命令する。

 

「………上等!」

 

白狼はそう言い放つと、K800Wをスピンターンさせ、再びカーネル歩兵部隊へと突っ込んで行った!

 

「また来るぞっ!!」

 

「オ、オイ、ひょっとして………アイツ、ベオウルフじゃないのか!?」

 

再び突っ込んで来た白狼を見たカーネル歩兵の1人がそう声を挙げる。

 

「ベオウルフって………あの天才バイクレーサーの!?」

 

「何でそんな奴が大洗なんて無名チームに居るんだよ!?」

 

「俺が知るかぁっ!!」

 

バイクレーサーとしての有名を響かせている白狼が、戦車道・歩兵道では無名の大洗機甲部隊に所属している事に、カーネル歩兵部隊には驚愕が広がる。

 

『田中さん! コレは凄い事になりましたよ!!』

 

『ええ、まさか大洗にあのベオウルフが居たとは………いや~、私も初めて知りましたよ』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中も、やや熱の籠ったコメントを零す。

 

「そらっ!!」

 

「ぐやあっ!?」

 

そんなカーネル歩兵部隊の事情など露知らず、白狼は進路上に居たカーネル歩兵の1人をウィリーしたバイクの前輪で跳ね飛ばす!!

 

そのまま、後方に控えていた砲兵部隊や車両部隊の中へと突っ込む!

 

「良~し、いっちょやってみるかぁっ!」

 

白狼はそう言うと、ウィンチェスターM1887をバイクのホルスターに納め、ショルダーホルスターから揚羽より受け取ったカンプピストルを抜く。

 

そして、手近に居たM8装甲車に狙いを定めると、引き金を引いた!

 

「!? ぐうっ!?」

 

途端に襲い掛かった凄まじい反動に、右腕を持って行かれそうになり、バランスを崩しかけたが、如何にか持ち直す。

 

発射されたグレネード弾は、M8装甲車に吸い込まれる様に命中。

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

炎に包まれたM8装甲車から乗員が飛び出し、全員戦死判定される。

 

「確かにスゲェ反動だ。だが、威力は申し分ないし、バイクに乗りながら使えるってのは気に入ったぜ! そら、ドンドン行くぞっ!!」

 

白狼は次のグレネード弾を装填すると、次々にカーネルの砲兵部隊や車両部隊へ撃ち込んで行く。

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「クソッ! 撃て撃てぇっ!!」

 

「駄目です! 速過ぎて捉えられませんっ!!」

 

次々にやられていくカーネル歩兵部隊は反撃を試みるも、白狼のバイクテクニックの前に翻弄されるばかりである。

 

「今だ! 全員、突撃するぞぉっ!!」

 

と、大混乱に陥っているカーネル歩兵部隊を見て、好機と思った弘樹が、突撃命令を出す。

 

「! 着剣っ!!」

 

「着剣っ!!」

 

それを聞いた大洗歩兵部隊の中で、小銃を装備していた突撃兵が次々に銃剣を着剣する。

 

「全軍! 突撃いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

そして、同じ様に九九式短小銃に銃剣を着剣した弘樹が命令を下し、先駆ける様に突撃した。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それに続く様に、大洗歩兵部隊の隊員達は、一斉に塹壕から飛び出し、カーネル歩兵部隊目掛けて突撃して行く!!

 

「支援砲撃です! 残弾を気にせず、ドンドン撃ち込んで下さいっ!!」

 

誠也を中心に、生き残っていた砲兵部隊が、その突撃を支援する為に、残った砲弾をありったけカーネル歩兵部隊目掛けて撃ち込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダースのフラッグ車を発見し、大洗機甲部隊に勝機が見えたかに思えたが………
撃破に手間取っていた間に、サンダース戦車隊と442連隊の増援が到着してしまう。
歩兵部隊は128高地に逆に釘づけにされ、援護に向かえない。
絶対絶命の危機に現れたのは白狼!
揚羽から譲り受けたツェンダップK800Wとカンプピストル、そしてソードオフショットガンで獅子奮迅の活躍を見せる。
それにチャンスを見出し、大洗歩兵隊はカーネル歩兵隊へ突撃を敢行するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第29話『カーネル歩兵隊を突破せよ、です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第29話『カーネル歩兵隊を突破せよ、です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンダース戦車部隊のフラッグ車を発見したみほ達の大洗戦車部隊だったが………

 

撃破に手間取って居た間に、サンダース戦車部隊の本隊と442部隊が増援として現れてしまう。

 

128高地に展開していた大洗歩兵部隊も、逆にカーネル歩兵部隊に足止めされ、大洗戦車部隊の救援に向かえずに居た。

 

絶体絶命の状況に陥った大洗機甲部隊。

 

だが、そこへ現れたのは………

 

K800WとソードオフモデルのウィンチェスターM1887。

 

そして、カンプピストルを引っ提げた白狼だった。

 

遂に自慢のバイクテクニックを歩兵道にて披露した白狼は、今までが嘘だったかの様な大活躍を見せる。

 

その機に乗じ、弘樹は突撃命令を出す。

 

果たして、勝負の行方は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

128高地………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「大洗、バンザーイッ!!」

 

白狼の登場で、混乱に陥ったカーネル歩兵部隊へと突撃を敢行した大洗歩兵部隊は、カーネル歩兵部隊の隊員達と入り乱れ、乱戦を展開している。

 

『さあ、128高地では大洗とカーネルの歩兵部隊が混じり合い、大混戦を展開しています!』

 

『こうなると、逆に人数が多いカーネル歩兵部隊の方が不利ですね。フレンドリーファイアの危険性が高いですから』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況する。

 

「わあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「逃げちゃ駄目だ! 逃げちゃ駄目だ!」

 

悲鳴の様な叫び声を挙げながらEMP35を撃ちまくる了平と、その了平に続く様にオーウェン・マシンカービンで弾幕を張る竜真。

 

「そこだっ!!」

 

「ぐああっ!?」

 

突撃して来ていたカーネルのオートバイ兵にヘッドショットを決めた飛彗が、すぐに場所を移動し始める。

 

「あのスナイパーを狙えっ!!」

 

「イエッサーッ!!」

 

と、その姿を見たM3装甲車の操縦手が、機銃座に居たカーネル歩兵にそう命じる。

 

走り去ろうとしていた飛彗に、ブローニングM1919重機関銃の7.62mm弾が次々に襲い掛かる。

 

「うわあぁっ!?」

 

飛彗は慌てて、転がり込む様にして塹壕に隠れる。

 

その塹壕に向かって更に、7.62mm弾が撃ち込まれる。

 

「もっと接近してくれ!」

 

「任せろっ!!」

 

トドメを刺そうと、M3装甲車が前進を始める。

 

だが、その瞬間!!

 

轟音が響き、M3装甲車の右前輪が吹き飛んだ!!

 

「「「!? うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

忽ちM3装甲車は横転し、逆さまになり、撃破判定が下され、乗員も戦死が判定される。

 

「…………」

 

それを確認した陣が、両腕に持っていたシモノフPTRS1941を今度はジープへと向ける。

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

轟音と共に14.5ミリ弾が、ジープを穴だらけにし、乗って居たカーネル歩兵を木の葉の様にブッ飛ばす。

 

「しょ、小生だって、やる時はやるのです!!」

 

そう言う台詞と共に、九三式小火焔発射機から火炎を放つ灰史。

 

「うわあぁっ!?」

 

「アチッ! アチチチチッ!!」

 

真面に火炎を浴びたカーネル歩兵達が戦死判定を受け、回避に成功したカーネル歩兵達も、目の前で燃え上がった炎に逃げ惑う。

 

戦車が居なくなったとは言え、数の上で圧倒的に有利に立っているカーネル歩兵部隊を気迫で攪乱する大洗歩兵部隊。

 

「ヒャッホーッ!!」

 

中でも活躍を見せているのは、半ば乱入する様な形で参戦した白狼だ。

 

撃破されたM5トラクターの残骸をジャンプ台代わりに、バイクごと大きく跳躍する。

 

「うおっ!?」

 

「そらっ!!」

 

そして、思わずそれを見上げてしまったカーネル歩兵に、ウィンチェスターM1887・ソードオフモデルの散弾を浴びせる!!

 

「ぐあああっ!?」

 

散弾を全身に浴びたカーネル歩兵は、忽ち戦死と判定される。

 

「そうらっ!!」

 

「!? ガハッ!?」

 

更に、着地地点に居た別のカーネル歩兵の顔に、バイクの前輪を叩き込み、跳ね飛ばす!!

 

「それっ!!」

 

「!? うわああっ!?」

 

そしてオマケとばかりに突っ込んで来ていたカーネルのオートバイ歩兵に、高速マックスターンを見舞い、カーネルのオートバイ歩兵はマシンから放り出されて地面に転がった。

 

「何だ? 歯応えの無い連中だぜ」

 

今までのパッとしなかったのが嘘の様に、次々と戦果を挙げる白狼。

 

今の彼は正に、水を得た魚である。

 

とその時!!

 

K800Wの至近距離の地面を、銃弾が次々に抉った!

 

「!!」

 

白狼は、すぐにその銃弾が飛んで来た方向へ向き直る。

 

そこには、オートバイに乗った状態でM1カービンを片手で構えていたボブの姿が在った。

 

「オノレェ………貴様さえ現れなければ!」

 

「へえ、アンタ隊長格みたいだな。丁度良い。アンタを倒しゃあ、此処に居る連中は混乱するって寸法だ」

 

「ほざけぇっ! ベオウルフだか何だか知らないが、我々はカーネル歩兵機動部隊だ!! 他のどの学校よりも機械化されたエリート歩兵部隊だ!! 負けるワケがない!!」

 

ボブはそう叫ぶと、M1カービンを構えたまま、片手で自分のマシンを操り、発進させる!!

 

「エリートね………じゃあ、精々頑張りな!」

 

それに対し、冷めた目をした白狼は、同じ様にK800Wを発進させる。

 

そして、突っ込んで来るボブに向かって、ウィンチェスターM1887を向けたが………

 

「遅いっ!!」

 

何と!!

 

ボブは右手のM1カービンを構えたかと思うと、バイクを操縦していた左手を離して、腰のホルスターからコルト・ガバメントを抜き、M1カービンと共に発砲して来た!!

 

「!? 何っ!?」

 

走行中のバイクから両手を離すと言う行為を行ったボブに一瞬驚いた白狼だったが、すぐにハングオンしながらハンドルを切り、飛んで来た銃弾を如何にかかわす。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

一旦離れ始めた白狼を、そのままM1カービンとコルト・ガバメントを構えたままで追うボブ。

 

揺れるバイクを体重移動だけで乗りこなしている。

 

「成程………エリートだって言うだけの事はあるみたいだな」

 

後ろから次々に銃弾が飛んで来て、風切り音を立てている中、白狼はバイクの上で姿勢を低くしながらそう呟く。

 

「けど………俺には敵わないぜ!」

 

と不意にブレーキを掛けて止まったかと思うと、その場で再び高速マックスターンを披露!!

 

粉塵が舞い上がって、白狼の姿を隠した。

 

「フン………砂煙に紛れて一気に強襲する積りか………」

 

ボブはそう推測すると、M1カービンとコルト・ガバメントのマガジンを交換する。

 

そして、強襲して来るであろう白狼を待ち構える。

 

と、その次の瞬間!!

 

砂煙の一角が揺らめいた!!

 

「! そこだぁっ!!」

 

お見通しだとばかりに、白狼の身体があるであろう位置に向かって、M1カービンとコルト・ガバメントの弾丸を叩き込むボブ。

 

しかし、砂煙の中から飛び出してきたのは、K800Wだけだった。

 

「!? 奴は何処に………!?」

 

その瞬間、一瞬上方の砂煙が途切れ、ボブは見た………

 

上空で自分に向かって右足を伸ばして飛び蹴りの姿勢を取っている………

 

白狼の姿を!!

 

「しまっ………」

 

「喰らええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

慌てるボブに、白狼必殺のライダーキックが叩き込まれる!!

 

「!! ガハッ!?」

 

ライダーキックはボブの胸を直撃!!

 

まるでハンマーで殴られた様な感覚に襲い掛かられ、ボブはマシンからブッ飛ばされた!!

 

地面に叩き付けられた際の打ち所が悪かったのか、戦死と判定される。

 

「コレが………ベオウルフ………」

 

ボブはそう呟き、気を失う。

 

「ホッ! やったぜ!!」

 

一方その白狼は、ボブにキックを見舞った反動で再び飛び上がり、K800Wに再び跨り、ターンしながら止まると、戦死判定を受けたボブを見てそう言い放った。

 

「副隊長!?」

 

「副隊長がやられた!! 誰か! 誰か指揮を!!」

 

歩兵部隊の副隊長であり、この場の指揮を執っていたボブがやられた事で、混乱していたカーネル歩兵部隊の統率が、更に乱れる。

 

「良し、今だ! 敵の統率は完全に乱れている! 突破を掛けろぉっ!!」

 

その様子を確認した弘樹が、大洗歩兵部隊全員にそう呼び掛ける!

 

「弘樹! アレだ!!」

 

とそこで、傍で戦っていた地市が、戦場の一角を指差す。

 

そこには、カーネル歩兵部隊が乗り捨てたと思われる荷台にM2重機関銃の機銃架が備え付けられたジープが在った。

 

「良し!! 了平! お前も来い!!」

 

「ま、待ってくれよぉっ!!」

 

カーネル歩兵部隊の様子を窺いながら、地市と了平を伴ってそのジープへと駆け出す弘樹。

 

だが、その瞬間!!

 

機関銃から放たれたと思われる銃弾が、弘樹達の足元を耕した!!

 

「!?」

 

「うおっ!?」

 

「わわわっ!?」

 

すぐさまその場に伏せる弘樹と、近くの塹壕に転がり込む地市と了平。

 

「奴等め! 我々のジープを奪う積りか!!」

 

「そうはさせるか!!」

 

ブローニングM1919A2の射手と助手がそう言い合い、助手の方が新たな弾倉をブローニングM1919A2にセットしようとする。

 

「!!」

 

弘樹は腰のベルトに手を伸ばし、手榴弾を使おうと試みたが………

 

「オラァーッ!!」

 

それよりも早く、塹壕を飛び越える様にやって来たくろがね四起が、ブローニングM1919A2ごと、射手と助手を跳ね飛ばした!!

 

「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」

 

跳ね飛ばされたブローニングM1919A2の射手と助手が悲鳴を挙げ、地面に叩き付けられたかと思うと、戦死判定を受ける。

 

「! 大河か!」

 

「ハハハッ! 弘樹! さっさとお嬢ちゃん達の援護に行くでぇっ!!」

 

そのくろがね四起を操縦していたのが大河であるのを確認した弘樹がそう言うと、大河は笑いながらそう言って来る。

 

「ああ、分かっている!」

 

弘樹はそう言いながら起き上がり、放棄されていたジープへと乗り込む。

 

「地市! 了平! 急げっ!!」

 

「おうっ!」

 

「わたたっ!? 急かさないでくれっ!!」

 

ギアチェンジをしながら地市と了平に呼び掛けると、2人が駆け寄って来て、ジープへと飛び乗る。

 

「黒岩くん! 僕も行くぞっ!!」

 

「俺もだ!!」

 

大河が操縦していたくろがね四起の方にも、武志と俊がそう言って乗り込む。

 

「分隊長!」

 

「親分! お供しますぜっ!!」

 

更に、とらさん分隊の分隊員達と、大河の舎弟達を中心としたメンバーが、鹵獲したジープや装甲車、くろがね四起に乗り込んだ状態でそう言って来る。

 

「奴等を行かせるなっ!!」

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

だが、それを見てカーネル歩兵部隊もその意図に気付き、車両に乗って居る大洗歩兵部隊員に攻撃を集中させる。

 

「クッ!!………」

 

飛んでくる銃弾から身を隠しながら、ジープを出しあぐねる弘樹。

 

すると………

 

「させるか!!」

 

「邪魔はさせません!!」

 

正義がそう言って九八式柄付手榴弾を投げ、真竜がオーウェン・マシンカービンで弾幕を張る!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

手榴弾の破片と9mmパラベラム弾を浴びたカーネル歩兵達が次々に倒れる。

 

「舩坂先輩! 行って下さいっ!!」

 

「! 何っ?」

 

オーウェン・マシンカービンで弾幕を張り続けていた真竜がそう言い、弘樹は僅かに驚きを露わにする。

 

「此処は僕達が食い止めます!!」

 

「先輩達は、西住総隊長の救援に向かって下さいっ!!」

 

そこで、九三式小火焔発射機で火炎を噴射していた勇武と、九六式軽機関銃で弾幕を張っていた正義もそう言って来る。

 

「練習試合の時は逃げ出し、天竺ジョロキアの時は碌に活躍出来なかったんです………せめて、ココでぐらい働かせて下さい!!」

 

「先輩! お願いします!!」

 

頼み込む様に勇武と真竜が、弘樹に向かってそう叫ぶ。

 

「舩坂くん、私が残って指揮を執る。君は彼等の言う様に行きたまえ」

 

Kar98kでヘッドショットを決めた迫信も、弘樹にそう呼び掛けた。

 

「………幸運を祈る」

 

弘樹はそれだけを言ってヤマト式敬礼をすると、ジープを発進させる。

 

「恩に着るでぇっ!」

 

大河が乗るくろがね四起も発進し、とらさん分隊の分隊員達と、大河の舎弟達を中心とした車両部隊も発進した。

 

「よ~し! 俺も行くか! 飛彗! 乗れっ!!」

 

「! わ、分かったっ!!」

 

それを見た白狼が自分も後を追おうとし、近くに居た飛彗に声を掛け、バイクの後ろの乗せる。

 

「白狼! 飛彗! 任せたぞ!!」

 

「此処は俺達が食い止めとくでぇっ!!」

 

この場に留まる事を選択した海音と豹詑がそう言って来る。

 

「おうよ! 任せたぜっ!!」

 

「頼むよ、2人共!!」

 

白狼と飛彗はそう言い残し、弘樹達の後を追った。

 

「ま、待てぇっ!!」

 

「行かせるかぁっ!!」

 

追い縋ろうとしたカーネルのオートバイ兵に、勇武が火炎を浴びせる!

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「お前達の相手は………」

 

「俺達っすよーっ!!」

 

炎に包まれたカーネルのオートバイ兵を見ながら、真竜と正義がそう言い放つのだった。

 

『おっとーっ! ココで大洗歩兵部隊の半数がカーネル歩兵部隊を突破したーっ!!』

 

『この試合、まだ分かりませんよ。壮大などんでん返しがあるかもしれません』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0615地点………

 

フラッグ車の護衛をしていたジェイ達を釘付けにしている楓達偵察兵部隊は………

 

「うわぁっ!?」

 

「銅さん!?」

 

「クッソ! すまねぇ! やられちまった!!」

 

楓が銃弾を浴びた秀人に近寄ったが、秀人には既に戦死判定が下されていた。

 

「だ、弾幕はパワーッ!!」

 

「ぐああっ!?」

 

「隊長! アリゾンがやられました!!」

 

「煩い! 分かってるっ!!」

 

逞巳がSIG KE7軽機関銃で展開した弾幕を浴び倒れたカーネル歩兵の事を、別の歩兵がジェイに報告したが、ジェイはうっとおしそうにそう返す。

 

大洗偵察兵部隊とカーネルフラッグ車護衛部隊は、お互いに遮蔽物に身を隠しながら、一進一退の攻防を続けていた。

 

お互いに軽装備の部隊であった為、決め手に欠け、膠着状態に陥っている。

 

(さっきの凄い発砲音………西住総隊長達は大丈夫かな?)

 

そんな中で楓は、先程この0615地点まで聞こえて来たファイアフライの発砲音を聞いており、みほ達の安否を気にしていた。

 

と、その時!!

 

風切り音が聞こえて来たと思われた次の瞬間には、大洗偵察兵部隊が展開していた場所の一角で爆発が発生する!!

 

「!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「砲撃っ!?」

 

それが砲撃であると気付いた大洗偵察兵部隊は驚愕する。

 

その直後に、3両のシャーマンが0615地点へ姿を現す。

 

ボブの独断で、フラッグ車の救援に向かわされたサンダースの戦車部隊だ。

 

『此方ブラボーチーム! ジェイ歩兵隊長! 大丈夫ですか!?』

 

「! 援軍か! よし! コレで形勢逆転だっ!! あの偵察兵共を吹き飛ばせっ!!」

 

『了解! ファイアッ!!』

 

ジェイの命令を受けたシャーマンの1両が、楓達に向かって発砲する!

 

「おうわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「! 蹄さん!!」

 

運悪く着弾の至近距離に居た磐渡が吹き飛ばされ、そのまま戦死判定を受ける。

 

更に、残り2両のシャーマン達も、次々に砲弾を大洗偵察兵部隊目掛けて撃ち込んで来る!!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「助けてくれぇーっ!!」

 

「良いぞ! 奴等を蹴散らしたら、すぐにアリサの救援に向かうぞ!!」

 

先程までの膠着状態から一転して、自分達が完全に優位に立った為か、ジェイが気が大きくなった様な発言をする。

 

その間にも、シャーマンは次々に砲弾を大洗偵察兵部隊へと撃ち込んで行く。

 

「クソッ! このままでは全滅するぞっ!!」

 

ウィンチェスターM1897を発砲しながら大詔が叫ぶ。

 

「ハハハハッ! コレがサンダース&カーネル機甲部隊の力だぁっ!!」

 

悪役染みた台詞がジェイの口から飛び出る。

 

と、その次の瞬間!!

 

白煙の尾を引いて来たロケット弾が、1両のシャーマン後部へ命中!

 

「!? なぁっ!?」

 

思わずジェイが間抜け顔をした瞬間に、砲塔から撃破を示す白旗が上がる。

 

「よっしゃあっ! 命中!!」

 

「楓! 大丈夫かっ!!」

 

その次の瞬間には、助手席に立って砲口から白煙を上げている試製四式七糎噴進砲を担いでガッツポーズをしている地市と、運転席でハンドルを握っている弘樹の姿が見えるジープを先頭に、車両に乗った大洗歩兵部隊が雪崩れ込んで来る!

 

『!? 大洗の歩兵部隊!?』

 

『そんな!? ボブ歩兵副隊長は如何したの!?』

 

突如現れた大洗歩兵部隊を見た残り2両のシャーマンの乗員達が驚愕する。

 

「せ、戦車部隊! 先にアッチを狙えっ!! 奴等の中には対戦車兵も居るっ!!」

 

そこでジェイが、やや慌てながらもそう指示を出す。

 

装甲目標への攻撃手段に乏しい楓達の偵察兵部隊よりも、対戦車兵が含まれている弘樹達の方が脅威だと判断した様である。

 

『りょ、了解っ!!』

 

『ファイアッ!!』

 

戸惑ながらも砲塔を旋回させ、新たに現れた大洗歩兵部隊へ砲撃を浴びせるシャーマン2両。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

直撃を食らったくろがね四起がブッ飛び、乗員が戦死と判定される。

 

「散開しろっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

弘樹のその声で、車両に乗った大洗歩兵部隊は散開する。

 

『バラけられた!』

 

『照準が!!』

 

その動きに着いて行けず、砲塔がウロウロと左右に旋回するシャーマン2両。

 

「奴等の足を止めろ! 攻撃ぃっ!!」

 

するとジェイが、そんな大洗歩兵部隊を止めようと、機関銃を持ったカーネル歩兵達に弾幕を張らせる。

 

「お前達の様な無名の弱小校なんかに! 我々カーネルが! サンダースが負ける事など! あってはならんのだぁっ!!」

 

ジェイ自身もそんな事を叫びながら、ブローニングM1918自動小銃を乱射する。

 

「うわたたっ!? あの野郎!!」

 

「地市! 運転を代われ!!」

 

「えっ!?」

 

銃弾がすぐ傍を掠めて、地市が思わず声を挙げた瞬間、弘樹がそう言い放ち、地市の返事も聞かずに荷台の方へと移動する。

 

「ちょっ!? 待てって、オイ!!」

 

慌てながらもすぐに運転席へと移動して、ハンドルを握る地市。

 

「了平! 邪魔だ、退いてろ!!」

 

「ハ、ハイィッ!!」

 

そして、先程から荷台で伏せていた了平を半ば無理矢理助手席へと退かし、荷台の機銃架に備え付けられていたM2重機関銃に着いた。

 

12.7mmの銃口を、ジェイ達へと向ける弘樹。

 

「!? イ、イカン!!」

 

「!!………」

 

ジェイが慌てて退避命令を出そうとした瞬間!!

 

弘樹はM2重機関銃の引き金を引き、爆音と共に射撃を開始した!!

 

「ぐあああっ!?」

 

「ぎゅああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

曳光弾が混じった弾丸が、カーネル歩兵隊に次々に命中して行く!!

 

「!!………」

 

そのまま薙ぎ払う様にM2重機関銃を連射する弘樹。

 

「うわぁっ!?」

 

「た、隊長ぉっ!!」

 

「う、狼狽えるなっ!! 戦車隊! あのジープの奴を狙えっ!!」

 

次々に味方が薙ぎ倒されるのを見て動揺しながらも、ジェイはシャーマンにそう指示を出す。

 

『了解!』

 

それに応える様に、片方のシャーマンの砲が、弘樹達が乗って居るジープを追尾する。

 

「! 狙われているぞ! 回避っ!!」

 

「ちょっ! ちょっと待ってくれっ!!」

 

弘樹が運転席の地市に向かって叫ぶが、地市は一瞬反応が遅れる。

 

『ファイアッ!!』

 

その一瞬を見逃さず、シャーマンは発砲!

 

「!!」

 

「「おわあああぁぁぁぁーーーーーっ!!」」

 

直撃は辛うじて免れたが、至近距離の着弾で、ジープは粗1回転横に転がった!

 

その際に機銃架が壊れ、M2重機関銃が地面に落ちる。

 

「クウッ! 地市! 了平! 無事か!?」

 

「何とかな………」

 

「もうやだ! 俺お家帰る!!」

 

車両から投げ出された弘樹が頭を振りながら身を起こすと、同じ様にして地市が起き上がり、了平が半分泣きながらそう叫ぶ。

 

如何やら運良く、全員戦死判定は受けなかった様だ。

 

「今だ! アイツ等を仕留めろぉっ!!」

 

その姿を見たジェイは、弘樹達を格好の獲物だと思い、一斉に突撃を開始する。

 

「! 来るぞっ!!」

 

「あわわっ!? 如何すんだよ!?」

 

地市がそう叫び、テンパって何も出来ない了平。

 

「!!」

 

とそこで、弘樹は地面に落ちていたM2重機関銃の元へと駆け寄った。

 

機銃架からは外れたが、損傷はしていない様であり、ベルト式の弾薬もまだ繋がっている。

 

「あの男を狙えっ!!」

 

そんな弘樹へ、ジェイを初めとしたカーネル歩兵部隊の攻撃が集中。

 

近くに次々と銃弾が着弾し、甲高い音を立てる。

 

「弘樹ぃっ!!」

 

「オイ、何する気だよ!?」

 

地市と了平がそう叫んだ次の瞬間!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

何と!!

 

弘樹はM2重機関銃を両手で持ち上げ、そのまま機関部を脇越しで支える様にし、左手で銃身を掴み、右手でトリガー部分を握って構えた!!

 

「「なっ!?」」

 

「んなにいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

「嘘だろっ!? 本体だけでも40キロ近く有るM2重機関銃を!?」

 

「も、持って構えたぁっ!?」

 

信じられない事を仕出かした弘樹に、地市や了平だけでなく、ジェイやカーネル歩兵部隊員達も思わず目が点になる。

 

「!!………」

 

そんなジェイやカーネル歩兵部隊員達目掛けて、弘樹は再びM2重機関銃のトリガーを引いた!!

 

またもや爆音と共に、曳光弾を交えた12.7mm弾が次々に吐き出される!!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「………!!」

 

自分の身体を機銃架代わりに、M2重機関銃を薙ぎ払う様に連射する弘樹。

 

「…………」

 

発砲の熱で銃身が過熱し、その銃身を抑えている弘樹の左手からは白い煙が上がり始めているが、弘樹は表情1つ変えずに薙ぎ払い連射を続ける。

 

「何なんだ、アイツはぁっ!?」

 

「ター〇ネーターか!? それともラ〇ボーかよ!?」

 

アクション映画の主人公も真っ青な無茶苦茶をする弘樹の姿に、カーネル歩兵部隊からは畏怖を込めたそんな声が挙がる。

 

「…………」

 

そんなカーネル歩兵部隊の畏怖など露知らず、只管に12.7mm弾を撃ちまくる弘樹。

 

しかし、やがて弾が切れ、M2重機関銃が乾いた音を立てる。

 

「! 弾切れか………だが、もう十分か」

 

弘樹は只の鉄塊となったM2重機関銃を捨てる。

 

既にカーネル歩兵部隊は粗全滅と言っても差し支えない被害を出していた。

 

「舩坂 弘樹いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

とその瞬間!!

 

戦死判定を受けて倒れ伏せていたカーネル歩兵隊員達の中から、ジェイが叫びと共に起き上がり、弘樹に向かって右手に握った警棒型のトンファーを振るって来る!!

 

「!!」

 

驚きながらも、左手でそのトンファーを掴んで受け止める弘樹。

 

「!?………」

 

だが、火傷していた左手に痛みが走り、一瞬弘樹の動きが止った!

 

「死ねぇっ!!」

 

その瞬間に、ジェイは左手に握ったM1917リボルバーを弘樹へ向ける。

 

「!!」

 

弘樹危うし!!

 

………と思われた、その瞬間!!

 

発砲音がしたかと思うと、ジェイが握っていたM1917リボルバーが弾き飛ばされた!!

 

「ぐあっ!?」

 

「やったっ!」

 

「流石だな、飛彗!!」

 

白狼のバイクの後部に乗って居た飛彗が、モシン・ナガンを発砲し、ジェイのM1917リボルバーを弾き飛ばしたのである。

 

「! 隙有りぃっ!!」

 

今度は逆に弘樹がジェイの隙を突き、両手でジェイの右腕を掴んだかと思うと、1本背負いの要領で投げ飛ばし、背中から地面に叩き付けた!!

 

「ガハッ!?」

 

肺の中の空気が全部吐き出され、一瞬意識が飛びかけるジェイ。

 

「せりゃあああっ!!」

 

そんなジェイにトドメを刺す為、弘樹は脇越しに日本刀を抜き放ち、倒れていたジェイの胸目掛けて、突き下ろした!!

 

「グアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

断末魔の様な叫びがジェイから挙がった瞬間………

 

戦死の判定が下される。

 

『! ジェ、ジェイ歩兵隊長がやられたっ!!』

 

『ちょっ!? ヤバくない!!』

 

『て、撤退! てった~いっ!!』

 

と、そのジェイがやられた姿を見ていたシャーマン2両が、コレ以上戦っていてもしょうがないと判断し、その場から離脱し始める。

 

「オ、オイ!? 待ってくれぇっ!!」

 

「置いてかないでくれぇっ!!」

 

僅かに生き残っていたカーネル歩兵達も、その後を追う様に慌てて撤退して行く。

 

「逃げてくぞ! 追撃するか、弘樹!」

 

「いや、放っておけ。今我々がすべき事は戦車部隊の元へ駆けつける事だ」

 

「分隊長~っ!!」

 

地市と弘樹がそう言い合っていると、とらさん分隊員の1人が操るくろがね四起がすぐ近くに停車する。

 

「乗って下さい!」

 

「助かる………急いで西住総隊長達の救援に向かうぞ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

弘樹を中心とした大洗歩兵部隊は、生き残っていた楓達を初めとした偵察兵部隊を回収し、改めて戦車部隊の救援へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

その大洗戦車部隊はと言うと………

 

「撃てぇーっ!!」

 

「「「アターックッ!!」」」

 

典子の掛け声の後、妙子、忍、あけびの声が挙がり、八九式の主砲が後方から追って来るサンダース戦車部隊目掛けて放たれる。

 

だが、その次の瞬間!!

 

「「「「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」

 

反撃とばかりにファイアフライが放った砲弾が八九式を直撃!!

 

コントロールを失った八九式は、黒煙を上げながら隊から落伍し、岩に乗り上げる形で停まる。

 

「あっ!?」

 

みほが思わず声を挙げる中、八九式から撃破を示す白旗が上がる。

 

「アヒルチーム! 怪我人は!?」

 

『『『大丈夫です!!』』』

 

『すみません! 戦闘不能です!』

 

「ホッ………」

 

アヒルさんチームの声が返って来て、無事であった事に安堵の息を吐くみほ。

 

しかし、状況は刻々と悪化して行っていた。

 

「…………」

 

ガムを噛みながら、次の標的をウサギさんチームのM3リーに定めるナオミ。

 

「…………」

 

淡々とした様子でトリガーを引く。

 

爆音と共に放たれた砲弾が、今度はM3リーを直撃!!

 

M3リーはエンジン部から黒煙を挙げて徐々に減速。

 

そのまま砲撃戦で空いていた穴に落ち込む様にして停まり、白旗を上げた。

 

『すみません! 鼻が長いのにやられました!!』

 

「ファイアフライですね………」

 

「M3まで………」

 

梓の報告を聞きながら、優花里とみほがそう呟く。

 

これで大洗の戦車が3両となったのに対し、サンダース戦車隊はファイアフライを含めた5両が健在。

 

『大洗戦車部隊、大ピンチです!』

 

『歩兵部隊が間に合うのか如何か………そこが勝負の分かれ目となりますね』

 

状況は明らかに大洗の不利だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白狼の参戦に乗じ、戦況の巻き返しを計る大洗歩兵部隊。
白狼のバイクテクニックがボブを、弘樹の大和魂がジェイを倒す。
しかし、みほ達の大洗戦車隊はファイアフライの前に大ピンチ。
果たして、弘樹達の救援は間に合うのか?
次回、いよいよサンダース&カーネル機甲部隊戦、決着です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第30話『英霊VS442です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第30話『英霊VS442です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラッグ車の撃破に手間取り、サンダース戦車部隊と442連隊の増援を招いてしまった大洗戦車部隊。

 

アヒルさんチームの八九式と、ウサギさんチームのM3リーが撃破され、窮地に陥る………

 

だが、その頃………

 

白狼の救援によって、窮地から脱した大洗歩兵部隊の内、弘樹達と共に半数が歩兵副隊長であるボブを撃破して、カーネル歩兵部隊の包囲網を突破。

 

そのまま更に、カーネル歩兵隊長のジェイをも撃破し、楓達の偵察兵部隊と合流。

 

大洗戦車部隊の救援に向かった。

 

果たして、間に合うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席・まほが居る小高い丘の上………

 

「もう時間の問題ですね」

 

「…………」

 

「みほ殿………」

 

エリカは大洗戦車隊の様子を見てそう言い放ち、まほは無表情で、久美は不安げな表情でそれを聞いていた。

 

「いや、それは如何かな? 言っただろう? 勝負と言うものは、始まってから終わるまで、如何転ぶか分からないものだとね………」

 

しかし、都草だけはそう言って、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

一方、その大洗戦車部隊は………

 

サンダース戦車部隊のフラッグ車を追いながら、ファイアフライを含めたサンダース戦車部隊とカーネル442連隊に追われている。

 

八九式とM3リーがやられた事で、サンダース戦車部隊からの砲撃は激しさを増している。

 

『危ない危ない、大洗戦車部隊! 最早その命運も風前の灯火かぁ!?』

 

『コレはマズイですよ………』

 

放送席のヒートマン佐々木とDJ田中も、大洗戦車部隊の劣勢を見て、そう実況する。

 

「………もう駄目なの?」

 

沙織の口からそんな言葉が漏れる。

 

「…………」

 

みほはそれに返事を返せず、只々黙り込むだけだった。

 

「ほうら、見なさい! アンタ達何か蟻よ蟻! 呆気無く象に踏み潰されるね!!」

 

アリサはすっかり調子付き、大洗戦車部隊をそう小馬鹿にしている。

 

とそこで、カバさんチームのⅢ突が、38tの背後へ回った。

 

突撃砲と言う特性上、追撃戦には不向きな為、フラッグ車の盾になる道を選んだらしい。

 

「弁慶の立ち往生の様だ………」

 

「最早コレまで………」

 

「蜂の巣に されてボコボコ さようなら」

 

「辞世の句を詠むな!!」

 

しかし、後方から迫り来るファイアフライを含めたサンダース戦車部隊と442連隊を見て、流石のカバさんチームにも諦めムードが漂う。

 

「駄目だ………もう終わりだ………」

 

中でも1番諦めているのが桃だ。

 

まるでこの世の終わりでも訪れたかの様な表情である。

 

「っ!!………」

 

みほも、無意識の内に震えていた左手を右手で握り締める。

 

その間にも、後方のサンダース戦車部隊の砲撃が襲い掛かる。

 

Ⅳ号が果敢にもフラッグ車を攻撃するが、中々命中しない。

 

と、1発の砲弾が、38tの砲塔側面を掠めて、火花を散らした。

 

「ヒイッ!?………」

 

それが引き金になったかの様に、桃の目に涙が浮かぶ。

 

「も、桃ちゃん! 大丈夫だよ! 掠っただけだし!!」

 

蛍が慌てて宥めようとするが効果は無い。

 

「あんなに近づいて来た!」

 

「追い付かれるぞ!」

 

「駄目だ~~~~っ! やられた~~~~~っ!!」

 

次々と悲痛な叫びが挙がり始める。

 

「! 皆、落ち着いて!!」

 

するとそこで、みほが全員に向かってそう呼び掛けた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「落ち着いて攻撃を続けて下さい! 敵も走りながら撃って来ますから、当たる確率は低いです! フラッグ車を叩く事に集中して下さい! 今がチャンスなんです!!」

 

自身も顔に冷や汗を浮かべながらも、皆を鼓舞する様にそう言葉を続けるみほ。

 

「当てさえすれば勝つんです! 諦めたら、負けなんです!!」

 

「諦めたら………」

 

「負け………」

 

みほの言葉を聞き、エルヴィンと柚子がそう呟く。

 

「いや、もう駄目だよ、柚子ちゃ~~~ん!!」

 

しかしそんな中、桃は1人情けない声を挙げる。

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「桃ちゃん! しっかりして!!」

 

「…………」

 

そんな桃を慰める柚子と蛍に、無言で頭を撫でる杏。

 

「…………」

 

そして、そうは言ったみほだったが、それで絶望的な状況が変わるワケではなく、再び俯いてしまう。

 

すると………

 

そんなみほの、膝の上に置いていた右手に、装填手席の優花里の左手。

 

左手に、砲手席の華の右手が乗せられる。

 

「西住殿の言う通りです」

 

「そうだよね………諦めたら、負けなんだよね!」

 

「うん………」

 

優花里がそう言うと、通信手席の沙織、操縦席の麻子もそう言い放つ。

 

「皆………」

 

『そうだ、諸君! 諦めるのはまだ早いぞ!!』

 

みほがそれに感激した様子を見せた瞬間、通信回線に男性の声が響き渡った。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「! 舩坂くん!!」

 

皆が驚く中、その声の主が弘樹である事に気付くみほ。

 

その次の瞬間!!

 

試合会場内に、ラッパの音色が鳴り響いた。

 

「むっ?………」

 

「WHAT?」

 

「何だ?………」

 

「何よ、このラッパ?」

 

突如として聞こえて来たラッパの音色に、サンダース&カーネル機甲部隊の面々は困惑した様子を見せる。

 

そのラッパの音色は………『突撃ラッパ』だった!!

 

「突撃いいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして次の瞬間!!

 

大洗戦車部隊を追撃していたサンダース戦車部隊と442連隊の中に向かって、側面から弘樹が乗るくろがね四起を先頭に、大洗歩兵部隊が突っ込んだ!!

 

「なっ!?」

 

「て、敵襲ーっ!! 大洗の歩兵部隊だぁーっ!!」

 

「大洗、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

全員が万歳と叫び、サンダース戦車部隊と442連隊の中へと雪崩れ込んだ。

 

『おお~っと!! 大洗歩兵部隊の乱入だぁーっ!!』

 

『乱戦ですよぉ、コレは』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況にも熱が入る。

 

「おうわぁっ!?」

 

「危ないっ!!」

 

「避けろっ! 避けろっ!!」

 

突如として、自分達の隊列の中へと雪崩れ込んで来た大洗歩兵部隊の面々に、サンダース戦車部隊と442連隊は混乱し、避けようとして戦車部隊と車両部隊が一斉にハンドルを切る。

 

密集陣形を取っていた中で、突然各々が勝手に動き出せば如何なるかは………火を見るよりも明らかだった。

 

「「「「「おうわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

442連隊のジープ同士が激突し、乗員が車外へと投げ出される。

 

打ち所が悪かったと判定された者には、そのまま戦死判定が下る。

 

「「「「わあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

更に別のジープも、シャーマンの1両と接触。

 

シャーマンはビクともしなかったが、ジープの方は錐揉み回転する様に宙に舞い、そのまま逆さまになった。

 

「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」

 

他にも、突っ込んで来た大洗歩兵部隊の車両を避けようとして急激にハンドルを切り、車体が横倒しとなって投げ出される者達の姿もある。

 

「キャアァーッ!?」

 

「SORRY!!」

 

シャーマン同士も接触事故を起こし、停止してしまう。

 

「ガッデム! ボブったら突破されたの!? 何やってるのよ!!」

 

ケイが珍しく、苛立っている様な声を挙げてそう言い放つ。

 

「落ち着け、ケイ総隊長! 冷静に指揮を執るんだ!!」

 

そんなケイを、ジョーイが宥めようとする。

 

「! 側面から大洗の車両が!!」

 

「!? 何っ!!」

 

とそこで、ジープの運転手からそう報告が挙がり、ジョーイが横を見ると、そこには………

 

ジョーイ達が乗るジープに向かって、一直線に突っ込んで来ている助手席に弘樹を乗せたくろがね四起の姿が在った。

 

「分隊長! 本気なんですか!!」

 

「本気だ! このまま突っ込めっ!!」

 

「ああ~、もう! ヤケクソだぁ~っ!!」

 

運転席に着いて居るとらさん分隊員にそう言い放ち、くろがね四起はジョーイが乗るジープに突っ込んで行く。

 

「つ、突っ込んで来るぞっ!!」

 

「クレイジーだ! 大洗の連中は皆イカれてやがるっ!!」

 

「しがみ付けっ!!」

 

同乗する442連隊員が、悲鳴の様な声を挙げる中、ジョーイがそう叫んだ瞬間!!

 

「「「「バンザーイッ!!」」」」

 

弘樹が乗るくろがね四起が、ジープに突っ込んだ!!

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」

 

「くうっ!?」

 

振り落されそうになる中、必死に車体にしがみ付くジョーイ。

 

「!?」

 

だが、その時!!

 

ジョーイは見た!!

 

自分に向かって飛び掛かって来る………

 

舩坂 弘樹の姿を!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぐおあっ!?」

 

弘樹はそのままジョーイに体当たりし、ジョーイをジープから引き摺り下ろした!!

 

「ぐあっ!?」

 

「ぬうあっ!?」

 

そのまま地面を転がるジョーイと弘樹。

 

「「!!」」

 

だが両者とも素早く立ち上がり、弘樹は九九式短小銃を、ジョーイはM1ガーランドを構えた。

 

周りでは、既に大洗歩兵部隊と442連隊員達が入り乱れた乱戦が始まっている。

 

「だ、駄目です! 動けません!」

 

「くうっ!? こう両軍が入り乱れてたら、援護も………」

 

サンダースの戦車部隊はその乱戦に巻き込まれ、大洗戦車部隊の追撃を中断せざるを得なくなった上、乱戦の為に442連隊の援護が不可能となっていた。

 

「舩坂さん達が!!」

 

と、その様子を砲塔のハッチを開けて見ていた優花里がそう声を挙げる。

 

「舩坂くん………ありがとう! 皆! フラッグ車を撃破するチャンスは今です!!」

 

「了解っ!!」

 

「こうまでしてもらったら、やるっきゃないね!」

 

それを見たみほはそう呟いた後、カバさんチームとカメさんチームにそう呼び掛け、フラッグ車への攻撃を再開する。

 

(………良し、コレで何とか………)

 

それを横目で見ていた弘樹が、心の中でそう思っていると………

 

「!!」

 

殺気を感じて反射的に横へ飛び退くと、先程まで弘樹が居た場所を銃弾が通過した!!

 

「良く避けたな………」

 

銃口から硝煙が上がって居るM1ガーランドを構えていたジョーイがそう言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹は無言のまま、ジョーイに九九式短小銃を向け直す。

 

「舩坂 弘樹………英霊の血を引く者よ………正直、お前と戦える事を楽しみにしていたぞ」

 

「そう思ってもらえるとは光栄だな………」

 

「貴様を倒す………我が偉大なる祖先達のアメリカ陸軍第442連隊戦闘団の名に掛けて!」

 

「…………」

 

そのまま、弘樹とジョーイの2人は、銃を構えての睨み合いへと発展する。

 

と、その時!!

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」

 

またも442連隊のジープが横転し、乗員が投げ出されたジープが、弘樹とジョーイの間を土煙を挙げて通り過ぎて行った。

 

「「!!」」

 

その瞬間に、2人は土煙に紛れて移動を開始!

 

「そこか!」

 

弘樹が居る位置に当たりを付けてM1ガーランドを発砲するジョーイ。

 

「!!」

 

足元に銃弾が着弾したのを見た弘樹は、その銃弾が飛んで来た方向へ九九式短小銃を発砲する。

 

「狙いが甘いぞっ!!」

 

だが、銃弾は外れ、弘樹がコッキングを行っている間に、ジョーイは更にM1ガーランドを発砲する。

 

「クッ!!」

 

咄嗟に、目の前に在った砲弾の着弾で出来た窪地へ転がり込む様に隠れる弘樹。

 

その間に、ジョーイのM1ガーランドの弾丸が次々に飛んで来る。

 

(流石はM1ガーランド………正面切っての撃ち合いは不利か………)

 

目の前に土に銃弾が当たって弾けても、弘樹は顔色1つ変えずにそう思案する。

 

ジョーイが使用しているM1ガーランドは半自動小銃………

 

即ち、引金を引く毎に弾が1発ずつ発射され、射撃姿勢を崩さずに連射する事が可能なのである。

 

対する弘樹の九九式短小銃はボルトアクション式………

 

つまり、1発撃つ毎にボルトを操作し、排莢と次弾装填を行う必要が有るのだ。

 

その為、余程熟練しなければ連射速度は早くならず、ボルト操作の為には多少の差は有れど、射撃姿勢を崩さなければならない。

 

早くも武器の差が出始めていた。

 

(しかし、ガーランドには弱点が有る………)

 

窪地の中に伏せながらそう思案する弘樹。

 

そう、一見有利に見えるM1ガーランドだが、弱点も存在する。

 

M1ガーランドは、エンブロック・クリップ装弾方式と言う装弾方式で弾を装填している………

 

つまり、専用のクリップに弾丸を挟み、そのクリップを銃へと装填するのである。

 

クリップには8発の銃弾を挟め、撃ち終えたクリップは自動的に排出される。

 

その後に新たな銃弾を挟んだクリップを挟めば、素早く射撃を続行する事が出来る。

 

だが、そのクリップこそが最大の弱点でもあった。

 

先程説明した通り、ガーランドは装弾した弾を全て撃ち切ると、クリップを自動で排出する。

 

その際に、クリップは独特の金属音を立てる。

 

つまり、その音で弾切れの瞬間が相手に分かってしまうのだ。

 

だが、この絶え間なく銃撃音や爆発音等の様々な音が鳴り響いている戦場で………

 

クリップの音を聞き分ける事は困難である。

 

「…………」

 

それでも、弘樹は九九式短小銃に着剣すると神経を研ぎ澄ませる。

 

すると、周りで立っている音が、徐々に遠ざかって行く様に感じ始める。

 

ドンドンと音が遠くなって行き………

 

遂には無音の世界が、弘樹の周りに展開した。

 

「…………」

 

その無音の世界の中で、何かを待つ様にじっとしている弘樹。

 

すると、その時!!

 

無音の世界に、ピーンッ!と言う金属音が鳴り響いた!

 

(! 今だっ!!)

 

その瞬間に弘樹は起き上がり、ジョーイが居る方向に向かって、着剣した九九式短小銃を構えて突撃する!!

 

「!」

 

しかし、そこで弘樹が見たのは、突っ込んで来る自分に向かってM1ガーランドを構えているジョーイの姿だった!

 

「掛かったな!」

 

そう言うジョーイの足元には、空のクリップが転がっている。

 

最初から空だったクリップを落し、弘樹に弾切れだと誤認させたのである。

 

(迂闊だったな、舩坂 弘樹! 貰ったぞっ!!)

 

突っ込んで来る弘樹に照準を合わせ、ジョーイは勝利を確信する。

 

だが………

 

「…………」

 

何と弘樹は突撃を止めるどころか、更に勢いを付けてジョーイに向かって突っ込んだ!

 

「!? 気でも狂ったのか!?」

 

その行動に驚きながらも、すぐに引き金を引こうとするジョーイ。

 

その瞬間!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

弘樹は気合の叫びと共に、着剣した九九式短小銃で突きを繰り出した!!

 

九九式短小銃に着剣された銃剣が、M1ガーランドの銃口に突き刺さる!!

 

「!? なっ!?」

 

驚くジョーイだったが、既に引き金を引いてしまった為、弾丸が発射されるが、銃口を塞がれていたので、暴発を起こす!!

 

「うおわっ!!」

 

「!?」

 

衝撃で仰け反るジョーイと弘樹。

 

M1ガーランドと九九式短小銃は、共に銃身が爆ぜ、使い物にならなくなっていた。

 

「クッ! 何と言う奴だ!!」

 

使えなくなったM1ガーランドを投げ捨てると、腰のホルスターからM1911A1を抜く。

 

「! シエエァッ!!」

 

だが、その引き金を引くよりも早く、同じ様に九九式短小銃を投げ捨てた弘樹が、腰の刀を居合抜きで抜き放ち、M1911A1を弾き飛ばした!!

 

「!? しまったっ!?」

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

驚くジョーイの脳天目掛けて、弘樹は刀を垂直に振り下ろす!!

 

「!?」

 

だが、ジョーイは素早くM1銃剣を右手で逆手に持って抜き、左手で峰を抑えて弘樹の刀を受け止めた。

 

「「!!」」

 

そのままバッとお互いに距離を取る弘樹とジョーイ。

 

弘樹は八相の構えを取り、ジョーイは右手でM1銃剣を逆手に握ったまま構えを取る。

 

(懐に入られれば此方が不利………)

 

(リーチは向こうが上か………)

 

お互いに自分がやられる場合の状況を想定し、そうならない様にと注意を払う。

 

「! キエアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

と、先に仕掛けたのは弘樹!

 

八相の構えから更に刀を高く掲げる様にして、独特の掛け声とともにジョーイに一気に斬り掛かった!!

 

(この初撃をかわせば!!)

 

ジョーイは、弘樹の初撃をかわし、そのまま懐に飛び込んでカウンターを食らわせようとする。

 

「シエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

ジョーイの眼前まで踏み込んだ弘樹は、袈裟懸けに刀を振るった。

 

(! 今だっ!!)

 

その瞬間に、ジョーイも弘樹に向かって踏み込む!!

 

振り下ろされる刀の刃を、身を捻りながらかわそうとする!

 

(コレさせかわせば!!)

 

関節が悲鳴を挙げる程に身体を捻りながら、更に前に進もうとするジョーイ。

 

そして、弘樹が繰り出した斬撃は、僅かにジョーイの身体から逸れ、空を切った!!

 

「取ったぞっ!!」

 

刀を振り切った姿勢の弘樹を見ながら、ジョーイは素早くM1銃剣を弘樹の頭目掛けて振るう!

 

「!?」

 

弘樹の目の前に銃剣の刃が迫る。

 

最早此処までか!!

 

………かに思われたが!!

 

「!? なっ!?」

 

ジョーイの顔が驚愕に染まり、動きが止まる!!

 

その目の前には、M1銃剣の刃を………

 

歯で噛んで受け止めている弘樹の姿が在った!!

 

「!!」

 

そしてそのジョーイの隙を見逃す弘樹ではなく、即座にその足を払う!!

 

「!? おうわっ!?」

 

思わず、M1銃剣を手放してしまい、地面に倒れるジョーイ。

 

「!!」

 

弘樹は振り切っていた刀を両手で逆手に握り、倒れたジョーイの胸目掛けて振り下ろした!!

 

「ガハッ!?」

 

胸にハンマー殴られた様な衝撃が襲い掛かり、ジョーイは思わず声を挙げる。

 

そして一瞬間が有って、戦死判定が下された。

 

「プハッ!………ハア………ハア………」

 

その瞬間に、今まで止めていた息を吐き出し、荒くなった呼吸を整える弘樹。

 

M1銃剣が零れて、地面に突き刺さる。

 

「まさか………そんな受け止め方をするとはな………予想も出来なかったぞ」

 

戦死判定を食らったジョーイが、弘樹にそう言う。

 

「身体の頑丈さには自信がある方だ………」

 

「歯と顎もそうだと言う事か、何て奴だ………負けたよ」

 

そう言い放つジョーイの顔は、何処か清々としていた………

 

だが、そこで!

 

ファイアフライが、混戦状態となっていた戦場を突破する!

 

「!?」

 

『此方ナオミ! 突破に成功しました!!』

 

『急いでアリサのところへ向かって! Ⅳ号が丘の上から狙ってるわ! ハリーアップッ!!』

 

『イエス、マム!!』

 

そしてファイアフライは、混戦している場所からやや離れた前方にて、フラッグ車を上から狙い撃とうと、フラッグ車が避けた手前の丘を駆け上がって居るⅣ号の元へと向かう。

 

「イカン! Ⅳ号が狙われている! 誰か援護に行けるか!?」

 

と、弘樹がそう声を挙げると、その頭上を1台のバイクが飛び越えて行った。

 

「! 神狩 白狼!!」

 

「…………」

 

それが白狼である事に気付く弘樹だが、白狼はそれに反応する事もなく、一直線にファイアフライへと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗戦車部隊サイド………

 

弘樹達が追撃部隊を足止めしている間に、如何にか決着を着けようとする大洗戦車部隊。

 

しかし、サンダースのフラッグ車は蛇行運転を繰り返して、大洗戦車部隊の砲撃を次々にかわしてしまう。

 

「華! 撃って撃って撃ちまくって! 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって! 恋愛だってそうだもん!!」

 

通信手席の沙織が、華にそう言い放つ。

 

するとそこで、その行く手に小高い丘が見えてくる。

 

「いいえ、1発で良い筈です」

 

「えっ?」

 

華がそんな返事を返してきて、沙織は首を傾げる。

 

「冷泉さん、丘の上へ」

 

「?」

 

「??」

 

突如麻子にそう呼び掛けた華の姿に、麻子とみほが何をする気なのかと考える。

 

「上から狙います」

 

「! そうか! 舩坂くん達が敵を食い止めてくれてる今なら、稜線射撃が出来る!」

 

華のその言葉で漸く合点が行ったみほが、正面の丘を見ながらそう言う。

 

「行くぞ………」

 

麻子がそう言うと、Ⅳ号は速度を上げ、サンダースのフラッグ車が迂回した丘を登り始める。

 

38tとⅢ突は、そのまま丘を避けてフラッグ車を追う。

 

「!? 停車っ!!」

 

しかしそこで、みほは何かを感じ取り、反射的にそう指示を出した。

 

「!?」

 

麻子は驚きながらもその指示に従って、Ⅳ号を横滑りさせながら無理矢理停車させる。

 

その直後に、先程までⅣ号が進もうとしていた位置に、砲弾が着弾する。

 

「キャアアァッ!?」

 

「うわあぁっ!?」

 

「!? 何が!?」

 

至近距離に着弾した砲弾の衝撃が車内に走り、沙織、優花里、華が声を挙げる。

 

「!? ファイアフライッ!!」

 

しかしみほだけは、後方で砲口から硝煙を上げているファイアフライの姿をしっかりと見つける。

 

「突破されたか………」

 

「冷泉さん! 急いで!」

 

「ん………」

 

みほが呼び掛けると、麻子は再びⅣ号を発進させ、丘の上へと急ぐ。

 

「チイッ!………」

 

ナオミはかわされた事に舌打ちしながらも、ファイアフライを前進させ、Ⅳ号を追撃する。

 

「ファイアフライが次の弾を撃ってくるまでが勝負!」

 

「分かりました!」

 

みほと華がそう言い合っていた直後に、Ⅳ号は丘の上へと到達する。

 

眼下には、38tとⅢ突の追撃から逃げるサンダースのフラッグ車が、Ⅳ号の目の前を横切る様に進んでいる。

 

Ⅳ号は砲塔を旋回させ、逃げるフラッグ車に照準を合わせようとする。

 

しかし、砲塔旋回だけでは間に合わず、麻子が車両ごと旋回させてカバーを行う。

 

と、その間にファイアフライは、Ⅳ号を砲撃可能範囲へ納めていた。

 

こうなると、Ⅳ号がフラッグ車を撃破するのが早いか、ファイアフライがⅣ号を撃破するのが早いかの勝負となる。

 

「華を活ける時の様に集中して………」

 

ファイアフライに後ろから狙われていると言うプレッシャーの中、砲手である華は華道で養った集中力をフルに発揮し、冷静にフラッグ車へ狙いを定める。

 

「装填完了!」

 

その間に、ファイアフライは次弾の装填を終える。

 

(貰った!)

 

Ⅳ号に照準が定まり、ナオミがそう確信する。

 

だが、その瞬間!!

 

衝撃がファイアフライを襲ったっ!!

 

「!?」

 

「キャアアッ!?」

 

「何っ!?」

 

思わず照準器から目を離してしまうナオミと、悲鳴を挙げる乗員達。

 

「クソッ! 撃破出来なかったか!!」

 

そこで、何時の間にかファイアフライのやや後方に現れていた 銃口から白煙の上がって居るワルサーカンプピストルを構えている白狼が愚痴る様に叫ぶ。

 

如何やら、後部を狙ってグレネード弾を発射した様だが、砲塔部分に当たったらしく、撃破には至らなかった様だ。

 

しかし、ナオミが砲撃するのを遅らせる事には成功する。

 

「! くうっ!」

 

慌ててナオミは、再度照準器を覗き込む間もなく、トリガーを引いた!!

 

「………発射!」

 

だが、それよりも一瞬早く、華が発砲!

 

Ⅳ号から放たれた砲弾が、一直線にフラッグ車へと向かう!

 

砲弾は、フラッグ車の後部上側………エンジン部分へ突き刺さる様に命中!

 

フラッグ車は一瞬揺れたかと思うと、激しく黒煙を上げた!!

 

その直後に、Ⅳ号の右履帯部分にファイアフライの砲弾が直撃!

 

履帯が千切れ飛び、転輪の半分以上が吹き飛ぶ!!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その2つの砲撃音と破壊音で、アレほど騒がしく、慌しく動いていた戦場が、一瞬にして静まり返り、全員が動きを止める。

 

「………如何なったんだ?」

 

「勝ったのか? それも負けたのか?」

 

「砲撃音と破壊音が2回ずつ聞こえてきましたけど………」

 

やがて絞り出すかの様に、地市、了平、楓の3人がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

弘樹は只ジッと黙って、試合結果が放送されるのを待つ………

 

そして………

 

『大洗機甲部隊の勝利!』

 

審判がアナウンスで、大洗機甲部隊の勝利を告げた。

 

途端に大洗側の観客席は、割れんばかりの歓声が響き渡る。

 

「勝利?………」

 

「勝った………んかいな?」

 

「みたい………ですね」

 

しかし、イマイチ状況を把握出来れていなかった大洗歩兵部隊からそんな声が挙がる。

 

だが、徐々に勝利と言う文字が脳内に浸透し始め………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

戦死判定を受けていない生き残った歩兵全員から、歓喜の声が湧き上がる。

 

「「「「「「「「「「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!!」」」」」」」」」」

 

歓喜の余り、万歳三唱が始まる。

 

「勝ったか………」

 

そんな中、弘樹は静かにそう呟き、刀を鞘へと納める。

 

そして、Ⅳ号が駆け上がった丘の方を見やる。

 

丘の上では、右の履帯が吹き飛んだⅣ号の傍で、みほを中心にあんこうチームが、初めての勝利に沸き立っていた。

 

そこへは、生き残ったカメさんチームとカバさんチーム。

 

更に、撃破され回収されたアヒルさんチームとウサギさんチームも集結する。

 

そのまま戦車チーム全員で、勝利の喜びを分かち合う。

 

とその時、弘樹の目に、此方に向かって手を振っているみほの姿が映る。

 

恐らく歩兵部隊に対して感謝を示しているのだろう。

 

「…………」

 

弘樹はそんなみほの姿を見て、姿勢を正すと、ヤマト式敬礼をする。

 

そんな弘樹の姿に気付いた他の大洗歩兵部隊員達も、みほが手を振っている事に気づき、同じ様に姿勢を正して、思い思いの敬礼のポーズを取ったのだった。

 

『ココで試合終了です! 第63回戦車道・歩兵道全国大会第1回戦! 大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の試合! 勝ったのは………大洗機甲部隊だぁーっ!!』

 

『いや、素晴らしいですね。武器の性能や数の差を見事に戦術と気迫で覆しましたよ。いや~、久々に見ごたえのある試合でした!』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中も、興奮冷めやらぬ様子で、そう実況を締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダース&カーネル機甲部隊との戦いに、遂に決着です。
原作同様に追い詰められた大洗戦車隊でしたが、そこでカーネル歩兵部隊を突破した弘樹達が駆け付け、ファイアフライを含めた追撃部隊を足止め。
乱戦へ持ち込んだ中で、弘樹はジョーイとの戦いに臨みます。
最後は原作通りにⅣ号が決めましたが、この作品では白狼のアシストが入っています。

次回はサンダース&カーネル機甲部隊との試合後の交流。
サンショウウオさんチームの初ライブ。
そして、黒森峰機甲部隊の面々との遣り取りをお送りします。

それで、その後は『紹介します!』的な主人公の弘樹を含めたオリキャラの設定紹介をしようと思っていたのですが、ちょっと都合で変更して、先に原作7話の『次はアンツィオ戦です!』に当たる話をしてからにさせていただきます。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第31話『スクールアイドル作戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第31話『スクールアイドル作戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両チーム集合場所………

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたぁっ!!」」」」」」」」」」

 

再び集合場所へと集結した両チームは、互いに並んで礼を交わす。

 

観客席からは惜しみない拍手が送られる。

 

「凄い拍手………」

 

「勝ったーっ!」

 

その拍手を受けて、華と沙織がそう言い合う。

 

「何だか、まだ信じられませんね………」

 

「ホントだぜ」

 

楓と地市がそんな事を言い合う。

 

「シャーマン相手に勝てるなんて………」

 

「ありがとう、舩坂くん、歩兵の皆さん。皆さんが敵を食い止めてくれたから勝つ事が出来ました」

 

と優花里が感激の涙を流している横で、みほは大洗歩兵部隊の面々に向かって、改めて感謝する。

 

「いやいや、それは違うよ、西住くん」

 

「我々は一丸となって任務を遂行したに過ぎない。この勝利は、フラッグ車を撃破し、尚且つ的確な指示と部隊の士気を保てた君の功績だ」

 

しかしそれに対し、迫信と弘樹がそう返す。

 

「そんな、私は………」

 

「貴方がキャプテン?」

 

とみほが謙遜しようとしていたところ、そう言う台詞と共にサンダースのケイと、カーネルのジョーイが現れる。

 

「えっ? あ、ハイ………」

 

「ジョーイ=ミヤギ………」

 

みほと弘樹がそう呟く中、ケイはみほの前に、ジョーイは弘樹の前へ佇んだ。

 

「フフ………エキサイティーングッ!!」

 

すると不意に、ケイが笑みを浮かべてみほに抱き付く!

 

「!? はわわわわっ!?」

 

突然抱き付かれた事に、みほは真っ赤になって固まる。

 

あんこうチームの面々も、其々に様々な反応を見せて固まっている。

 

「こんな試合が出来るとは思わなかったわ~!」

 

「あ、あの………」

 

「何?」

 

やがてケイが離れると、何かを聞こうとするみほ。

 

「戦車が4両しか来なかったのは、一体?………」

 

「貴方達と同じ車両数だけ使ったの」

 

「如何して?」

 

「ザッツ戦車道! コレは戦争じゃない。道を外れたら、戦車が泣くでしょう」

 

首を傾げるみほに、ケイは笑みを浮かべてそう言う。

 

その顔は、求道者の顔だった。

 

「盗み聞きなんて、つまらない事して悪かったわね」

 

「いえ、全車両来られたら、負けてました」

 

みほがそう言うと、背後に居た優花里達も頷く。

 

「でも、勝ったのは貴方達よ」

 

ケイはそう言って、みほの前に右手を差し出した。

 

「あ………ありがとうございます!」

 

みほは一瞬戸惑った様子を見せたが、やがてケイの手を両手で取って、固く握手を交わす。

 

一方………

 

「見事な戦いぶりだったぞ、舩坂 弘樹」

 

「君もな。ジョーイ・ミヤギ」

 

ジョーイは、弘樹とそんな会話を交わしている。

 

「…………」

 

と、ジョーイが不意に黙ったかと思うと、腰のホルスターからM1911A1を抜いた。

 

「!?」

 

「…………」

 

一瞬身構えた弘樹だったが、ジョーイはM1911A1を手の中で回転させ、銃身の方を持って、グリップを弘樹の方に向けて差し出す。

 

「………受け取れ」

 

「何?………」

 

「…………」

 

ジョーイの言葉に、弘樹は躊躇する様な様子を見せたが、やがてジョーイの目を見て、M1911A1を手に取った。

 

「舩坂 弘樹。次の試合………いや、この後の戦いも全て勝て。そして見事優勝をもぎ取れ」

 

「…………」

 

「それが私達を負かしたお前達の責務だ………期待しているぞ」

 

そう言って不敵に笑うジョーイ。

 

「…………」

 

弘樹は、M1911A1を左手に握ると、そんなジョーイに向かって、ヤマト式敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

その後、ケイとジョーイは、みほや弘樹達と2、3言葉を交わすと、自軍の元へと引き上げる。

 

そしてそこには、地面に正座させられているアリサ、ジェイ、ボブの姿が在った。

 

「………反省会するから」

 

「!? ヒイイッ!?」

 

ケイがやや厳しめな声で、アリサの肩に手を置いてそう言うと、アリサは悲鳴の様な声を挙げる。

 

「ジェイとボブは一時的に歩兵部隊の隊長と副隊長から解任するわ。暫くジョーイの部下の1兵として、442連隊で訓練を積んでもらいます」

 

「元上官と言えど、遠慮はしませんよ」

 

((あ、俺達、死んだ………))

 

一方、ジェイとボブにはそう言い渡し、ジョーイは厳しい表情をして2人にそう言い放ち、ジェイとボブの顔には絶望が浮かぶ。

 

「…………」

 

そんな3人を見ながら、ナオミは呆れた様に溜息を吐き、肩を竦めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

大洗機甲部隊VSサンダース&カーネル機甲部隊の試合を、とある場所よりジッと見ていた人物が居た。

 

「素晴らしい………アレが大洗機甲部隊………西住副隊長が率いている部隊か………」

 

その人物は黒毛の馬に跨っており、大洗機甲部隊の戦いをそう褒め称えている。

 

「やはり私が付き従うべき部隊は黒森峰ではなかった………大洗機甲部隊こそ、私が理想とする部隊だ。行くぞ! シュトゥルム!!」

 

ヒヒーンッ!!

 

やがてそう言い放つと、その人物は愛馬を翻し、その場から走り去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

試合会場の観客席エリアの一角に備えられたライブ会場にて………

 

幕が下りて、客席が見えない状態になっているステージの上で、サンショウウオさんチームのメンバーが待機している。

 

その後ろでは、バックバンドを務める磐渡、鷺澪、重音の3人が、其々にギター、ベース、ドラムをスタンバイしている。

 

『大洗女子学園のスクールアイドル、『サンショウウオさんチーム』のファーストライブ! 間も無くで~す! ご覧になる方はお急ぎ下さ~い!』

 

「………いよいよだね」

 

アナウンスを聞いた聖子がそう言う。

 

「うん!」

 

「う、うう………」

 

伊代は若干緊張しながらも返事を返すが、優の方は完全にテンパり、手がブルブルと震えている。

 

するとそこで、聖子は右手で優の左手を握り、更に左手で伊代の右手を握った。

 

「!!」

 

「大丈夫! 私達が付いてるから!」

 

そして優に向かってそう言う。

 

「聖子………」

 

「俺達も忘れて貰っちゃ困るぜ」

 

更に、磐渡達も手にしていた楽器から音を出しながらそう励ます。

 

「蹄さん………」

 

「でも、こういう時、何て言えば良いのかな?」

 

とそこで、伊代が何か掛け声を出そうとして、聖子にそう問う。

 

「ん~~………サンショウウオさんチーム! ファイト、オー!!」

 

「それでは元バレー部の皆さんの様な運動部みたいですよ」

 

少し考えた後、そう声を挙げた聖子に、優がツッコミを入れる。

 

「だよね~」

 

「アハハッ」

 

聖子がそう返すと、伊代が笑う。

 

磐渡達も笑みを浮かべている。

 

「あ! 思い出した! 番号を言うんだよ、皆で!」

 

「面白そう!」

 

思い出した様に聖子がそう言うと、伊代が乗って来る。

 

「よ~し! じゃあ、行くよぉ! 1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

聖子達の声に、磐渡達も乗って、そう声を挙げる。

 

「「「うふふふふふ………アハハハハハハ!」」」

 

緊張が解けたのか、揃って笑い声を挙げる聖子達。

 

「んじゃ、ボチボチ始めるか!」

 

そう言って磐渡は、再びギターを掻き鳴らす。

 

「ハイ! サンショウウオさんチームのファーストライブ! 最高のライブにしよう!」

 

「うん!」

 

「勿論です!」

 

聖子達がそう言った瞬間、ブザーが鳴って幕が上がり始める。

 

手を離して、目を閉じて集中を始める。

 

やがて、幕が開ききると、拍手の音が聞こえて来る。

 

そこで目を開ける聖子達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………

 

観客席に居たのは、大洗機甲部隊のメンバーだけだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他の客の姿は無く、結構な広さを誇るライブ会場は、大洗機甲部隊の面々が全員居ても、空席が目立つ。

 

「「「…………」」」

 

思わぬ光景に言葉を失い、呆然と立ち尽くす聖子達。

 

「コイツは………」

 

「マジかよ………」

 

「アチャー………」

 

磐渡達も気まずそうに顔を伏せる。

 

「お客さん………来ませんでしたね」

 

「宣伝は十分にした筈なんですが………」

 

「試合に出てなかったからかなぁ?」

 

観客席に居た華と優花里、沙織がそう呟く。

 

「やっぱ無名のアイドルのデビューライブなんざ興味ねえってか………」

 

「白狼、それは………」

 

白狼が歯に衣着せぬ言い方でそう言い、飛彗が咎めようとしたが、現実にそんな状況の為、言葉に詰まる。

 

「聖子ちゃん………」

 

「聖子………」

 

一足早く我に返った伊代と優が、聖子に呼び掛ける。

 

「…………」

 

聖子の脳裏には、今までのスクールアイドルへの道や、レッスンの日々が思い起こされる。

 

そしてその記憶が、目の前の光景を一層物悲しい物にする………

 

「………そりゃそうだ!」

 

「「!?」」

 

と、突然大声を挙げた聖子に、伊代と優が驚く。

 

「世の中、そんなに甘くない!!」

 

吹っ切れたかの様にそう言う聖子だったが、その顔は今にも泣きだしそうだった。

 

「「…………」」

 

それに釣られるかの様に、伊代と優の目も潤み始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

バックバンドの磐渡達も、観客席の大洗機甲部隊の面々も何と行って良いか分からず、ライブ会場を悲しい沈黙が支配する。

 

 

 

 

 

と、その時!!

 

 

 

 

 

「あ! あの!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

突如入り口の方から声が聞こえて来て、全員がその方向へ注目する。

 

「ラ、ライブ………もう終わっちゃったんですか?」

 

突然全員の視線を浴び、その声の主………大洗女子学園の制服を着た3人の女子生徒の内、声を発した生徒が、戸惑いながらもそう尋ねる。

 

「!!…………」

 

例えたった3人でも、学校の生徒が見に来てくれた事に感極まりそうになる聖子。

 

 

 

 

 

と、更にその次の瞬間!!

 

 

 

 

 

「ヘーイ! サラマンダーチームのライブ会場は此処かしら!?」

 

そう言う台詞と共に、ケイを先頭にサンダース&カーネル機甲部隊の面々が姿を見せた。

 

「! ケイさん!」

 

「もう~! 水臭いじゃない! 貴方達の学校のスクールアイドルのデビューライブがあるなら、ちゃんと教えてよね」

 

ケイはそう言うと、すぐにサンダース&カーネル機甲部隊の面々と共に、空いている席に座る。

 

………アリサ、ジェイ、ボブが妙にやつれた顔をしているが、気にしてはいけないのだろう。

 

「! やろう!!」

 

「えっ!?」

 

「歌おう! 全力で!!」

 

「聖子………」

 

「だって………その為に今日まで頑張って来たんだから!」

 

「「!!」」

 

聖子のその言葉でハッとする伊代と優。

 

「歌おう!」

 

「聖子ちゃん………優ちゃん!」

 

「ええっ!」

 

「………1、2! 1、2、3!」

 

聖子達がそう言ったのを聞いて、磐渡が音頭を取って、この日の為に考えた曲………『Enter Enter MISSION』の演奏を始める。

 

そして、聖子達のデビューライブが始まった………

 

磐渡達の演奏が響く中、聖子、伊代、優の3人は歌って舞い踊る。

 

空席が目立つライブ会場に、その歌声は透き通る様に響き渡る。

 

ハッキリ言って、身内と対戦相手、僅か3人の生徒しか見に来てくれていないこのライブは失敗と言って良いだろう………

 

だが、それでも彼女達は、今自分達が出来る最高の歌と踊り、そして笑顔を観客席へと届ける。

 

それがスクールアイドルとなった彼女達に課せられた責務なのだ。

 

やがて歌が終わり、聖子達はステージ上で決めポーズを取る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほ達とサンダース&カーネル機甲部隊の面々、そしてお客である3人の女子生徒も、呆然としていた。

 

彼女達のパフォーマンスはまだまだ未熟である。

 

しかしそれでも、今この場に居る人々の心には、深く確かに『何か』を残していた。

 

と、不意に1人が拍手を送る。

 

「! 舩坂くん!」

 

「! 弘樹!」

 

みほと地市が驚きの声を挙げる。

 

何故なら、最初に拍手を送ったのは他ならぬ弘樹だったのだ。

 

「…………」

 

顔は相も変らぬ仏頂面だが、サンショウウオさんチームに向かって惜しみなく拍手を送っている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

やがて、それに呼応するかの様に、大洗機甲部隊の面々、サンダース&カーネル機甲部隊の面々、そして3人の女子生徒達も拍手を始めた。

 

「「「…………」」」

 

会場と比例するとそれ程多くない観客数のため疎らではあるが、惜しみない拍手を受けて、聖子達は感激の様子を見せる。

 

「………郷くん。如何するかね?」

 

するとそこで、不意に迫信が立ち上がり、聖子達に向かってそう言い放った。

 

「えっ? 如何するって?………」

 

「君達の歌とダンスは素晴らしかった。それは認めるよ………だが、デビューライブがこの様子では、今後も如何なるかは分からない………」

 

「ココで止めるのも1つの手だと思うけどね~」

 

戸惑う聖子に迫信はそう言葉を続け、杏もそんな事を言いながら立ち上がる。

 

「! 会長!」

 

「か、閣下! それはあんまりでは………」

 

杏と迫信の思わぬ言葉に、柚子と逞巳が慌てるが………

 

「………続けます!」

 

聖子はそんな2人を正面から見ながらそう返した。

 

「…………」

 

「聖子………」

 

「ほう? 何故かね?」

 

扇子で口元を隠しながら更にそう問い質す迫信。

 

しかし、その顔は不敵に笑っている。

 

「やりたいからです! 今、私ももっともっと歌いたい! 踊りたいって思ってます! きっと優ちゃんも、伊代ちゃんも」

 

聖子がそう言って、左右の優と伊代を見ると、2人も黙って頷いた。

 

「こんな気持ち、初めてなんです! やって良かったって、本気で思えたんです! 今はこの気持ちを信じたい………このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない………応援なんて、全然もらえないかもしれない………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その言葉に通じるものがあったのか、大洗機甲部隊の面々も多種多様な表情を浮かべる。

 

「でも………一生懸命頑張って、私達が頑張って届けたい! 今、私達が此処に居る、この思いを!! それにまだ………戦車道もやってないんだから! 何時か………何時か私達、必ず! 今度は試合にも参加して! 会場を満員にしてみせます!!」

 

迫信と杏を正面から見据え、聖子はそう宣言した!

 

「うむ………君の決意………しかと聞かせてもらったよ」

 

迫信はそう言って、口元を隠していた扇子を閉じる。

 

「じゃあやっぱり優勝しないとねぇ」

 

杏もそんな言葉を口にした。

 

「? 如何言う事ですか?」

 

「実はさあ、今までの戦車道・歩兵道の全国大会優勝でのライブじゃさあ、大手の音楽企業の社長さんや大物プロデューサーが良く現れてるんだよね」

 

「運良く、その方々の目に留まり、武道館でライブを行えたスクールアイドル達は数多いそうだよ」

 

首を傾げる聖子に、杏と迫信は驚くべき情報を齎す。

 

「!? 武道館で!?」

 

「ライブを!?」

 

その情報に伊代と優が驚愕する。

 

「…………」

 

聖子も、驚きを露わに固まっている。

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

「武道館でライブと言やぁ、ミュージシャンの夢じゃねえか!」

 

「大会で優勝すればその可能性が有るのかよ!!」

 

バックバンドを務めていた磐渡達も沸き立つ。

 

「! よ~し! やるぞ~!! 目指せ! 武道館ライブーっ!!」

 

やがて聖子は我に返り、右手で拳を握って、天に向かって突き上げながらそう宣言した!

 

「ブラボー! 頑張ってね、サラマンダーチーム! 私達も応援してるわよ!!」

 

そんな聖子達の決意に、ケイもそう声援を送り、サンダース&カーネル機甲部隊の面々は、再び惜しみない拍手を送り始める。

 

こうして………

 

サンショウウオさんチームのデビューライブは、幕を閉じたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

辺りは夕焼けに染まり、あんこうチームととらさん分隊の面々が、引き上げて行くサンダース&カーネル機甲部隊の面々を見送っていた。

 

「さ~て、コッチも引き上げるよ~。お祝いに特大パフェでも食べに行く?」

 

「おっ! 良いね!!」

 

「行くっ!」

 

沙織がそう言うと、地市と麻子が同意する。

 

するとそこで、ニャ~オ、ニャ~オと言う猫の鳴き声が聞こえて来る。

 

「あ、麻子、鳴ってるよ、携帯」

 

それを聞いた沙織が麻子にそう言う。

 

如何やら、麻子の携帯電話の着信音らしい。

 

鞄から携帯を取り出す麻子。

 

「誰?」

 

「知らない番号だ………」

 

麻子は沙織にそう答えながら、通話ボタンを押して耳に携帯を当てる。

 

「ハイ………えっ?………ハイ」

 

とそこで、麻子の顔に動揺の色が浮かぶ。

 

「? 如何したの?」

 

「いや………何でも無い………」

 

沙織に尋ねられてそう返す麻子だったが、動揺の様子は隠せず、震え始めた手から携帯を落としてしまう。

 

「! 何でも無いワケないでしょ!」

 

「如何したんですか?」

 

その様子を見て只事ではないと感じ取った沙織と楓が、麻子を問い質す。

 

「………おばぁが倒れて………病院に………」

 

「「「「「!?」」」」」

 

麻子が絞り出す様にそう呟くと、みほ達の顔が驚愕に染まる。

 

「麻子、大丈夫!?」

 

「早く病院へ!」

 

「でも、大洗まで如何やって………」

 

「学園艦に寄港してもらうしか………」

 

「撤収まで時間が掛かります!」

 

すぐに麻子を病院へと送ろうとする沙織達だったが、今から大洗まで向かうには時間が掛かってしまう。

 

「!!」

 

するとそこで、突如麻子が靴と靴下を脱ぎ始めた!

 

「麻子さん!?」

 

「何やってるのよ、麻子!?」

 

「泳いで行く!」

 

驚くみほと沙織に麻子はそう言い放つ。

 

完全に冷静さを失っている様だ。

 

「「「ええっ!?」」」

 

みほ達が驚いている間に、麻子は制服をも脱ぎ捨てようとする。

 

「おおっ!?………!? ぶべぇっ!?」

 

「貴様はこんな時に何を考えているっ!!」

 

その光景に思わず目を見張った了平を、弘樹が鉄拳制裁する。

 

「待って下さい、冷泉さん!」

 

そんな麻子を華が落ち着かせようとする。

 

「待っていろ。会長閣下なら、戦闘機の1機ぐらいは………」

 

と、弘樹が迫信を頼ろうとしたその時………

 

「私達が乗って来たヘリを使って」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

突如そう声が掛けられて、みほ達と弘樹達が振り返るとそこには………

 

夕日を背に佇む、まほ、エリカ、都草、久美の黒森峰の面々の姿が在った。

 

「! お姉ちゃん」

 

「梶………都草」

 

まほと都草の姿に、みほと弘樹が軽く驚く。

 

「急ぎたまえ」

 

そんなみほ達に向かって、都草がそう促す。

 

「隊長! 梶歩兵隊長! こんな子達にヘリを貸すなんて!!」

 

「これも戦車道よ」

 

「ですが………」

 

「逸見くん、良い機会じゃないかな? この間のルクレールでの失態を取り返す、ね」

 

「! ぐうっ!………」

 

ヘリを貸す事を渋る様子を見せたエリカに、まほがそう言い、都草はこの前のルクレールでの失態を挙げて黙らせる。

 

「お姉ちゃん………梶さん………」

 

「さ! 急ぐであります! この毛路山 久美が通常の3倍のスピードで送るであります!」

 

みほが言葉を失っていると、久美がそう呼び掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場のヘリポート………

 

そこには、黒森峰が所有している『フォッケ・アハゲリス Fa 223 ドラッヘ』が有り、離陸準備に入っている。

 

「操縦頼んだわね」

 

『ハイ………』

 

『エリカ殿。まだ不満があると言うなら、今週末の炊事手伝いは無しにするでありますよ!』

 

『! わ、分かったわよ!!』

 

操縦席に着いて居たエリカの不満そうな様子が気になった副操縦士を担当していた久美が、半ば脅す様にそう言う。

 

「早く乗って!」

 

「…………」

 

「あ! 私も行く!」

 

まほに促されて、麻子がFa 223に乗り込むと、沙織が付き添いとして一緒に乗り込む。

 

「………ありがとう」

 

「…………」

 

離陸しようとしているFa 223から離れたまほに、みほはそう呟くが、まほは振り返らずに離れて行く。

 

「………此度の件、感謝致します」

 

一方弘樹も、都草に向かって心から感謝し、深々と頭を下げる。

 

「気にしないでくれたまえ。困った時はお互い様さ。それに………ルクレールでの非礼のお詫びでもあるのだからね」

 

都草はフッと笑いながらそう返すと、まほの元へと向かう。

 

「…………」

 

弘樹はそんな都草の背に向かって、姿勢を正して、ヤマト式敬礼をするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日………

 

黒森峰機甲部隊と知波単学園の試合が行われ………

 

黒森峰はまほが駆る『ティーガーⅠ』が、殆どの知波単学園の主力である九七式中戦車・チハを撃破。

 

歩兵の大半も、ドイツ国防軍の戦闘服に身を包み、『StG44』を携えた都草が指揮する歩兵部隊の活躍により、殆どが壊滅状態となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダース&カーネル機甲部隊との交流。
そしてサンショウウオさんチームのアイドルデビュー!
………だったのですが、結果は散々なものになってしまいました。
しかし、彼女達はコレをバネにして一層奮戦します。
彼女達が輝くのは戦車チームとして参戦してからだと思って下さい。

原作でまほが力を貸してくれたシーンは、企画段階では色々と考えていたのですが、見直してみるとどれもイマイチだったので、原作通りのシンプルなものにしました。
黒森峰陣営の活躍は、今後に期待していて下さい。

さて次回はアンツィオ戦前の2回目の戦車捜索です。
原作ではⅣ号の長砲身とルノーを発見しましたが、この作品ではサンショウウオさんチームの戦車も発見する予定です。
ただ、数話使う事になる予定なので、気長にお願いします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第32話『次はアンツィオ戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第32話『次はアンツィオ戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子高校・屋内射撃訓練所………

 

突撃兵を中心とした大洗歩兵部隊の面々が射撃訓練に勤しんでおり、訓練所内には乾いた音が断続的に鳴り響いて、射撃訓練用の標的に次々と穴が空いて行く。

 

「…………」

 

中でも1番の腕前を見せているのは弘樹だ。

 

ジョーイから託されたコルト・ガバメントを構え、人間に見立てた標的の頭と心臓部分に次々と弾丸を命中させている。

 

やがて弾倉内の弾が無くなると、弘樹は構えを解き、標的を自分の方へと近寄らせた。

 

「………まあまあか」

 

標的の頭部と心臓部に集中して穴が空いているのを見て、弘樹はそう呟く。

 

「流石ですね、舩坂さん。新しい銃をもうそこまで使い熟すなんて」

 

と、隣のブースでモシン・ナガンM1891/30で射撃訓練をしていた飛彗が、撃ち終えた様子でそう言って来る。

 

そういう彼の弾も、全て標的の頭に命中している………

 

「折角託された物だ。飾りにしておくワケにも行くまい」

 

弘樹はそう返すと、M1911A1から空になった弾倉を抜く。

 

「そう言えば、冷泉さんのお祖母ちゃん、回復なされたそうですね」

 

「ああ………」

 

サンダース&カーネル機甲部隊との試合後、麻子の祖母が倒れて病院に運ばれたと言う連絡を受け、麻子とその付き添いとして沙織が、黒森峰の協力を得て病院へと向かった。

 

そして今朝方、意識が戻ったと言う連絡が入り、みほ、優花里、華がお見舞いで、現在本土に上陸している。

 

歩兵部隊の面々も何人かが見舞いをした方が良いのではと提案したが、大人数で行っても返って迷惑だろうと言う結論に至り、破損した戦車達の修理も終わってない事もあり、本日は歩兵部隊の面々のみで訓練が進んでいた。

 

「しかし、あんなに慌てた麻子ちゃん見たの初めてだぜ」

 

とそこで、同じ様に射撃訓練を終えた了平が会話に参加して来る。

 

なお、彼の射撃の命中率については、お察し下さい………

 

「聞いた話ですが………冷泉さんの家族はお祖母さん1人だけみたいですよ」

 

更に楓も参加して来る。

 

「えっ? 御両親は?」

 

「彼女が小学生の時に、事故で亡くなったそうです………」

 

「…………」

 

楓の言葉に、自身も両親を早くに亡くしている弘樹が、思う所が有る様な顔をするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

みほ達が戻り、戦車の修理が完了した為、早速空教官の元、2回戦に向けての合同訓練が開始された。

 

「さて、皆。先ずは1回戦突破おめでとう。優勝候補の1つだったサンダース&カーネル機甲部隊を破るとは、正直言って驚いたわ」

 

集まった大洗機甲部隊の面々を前に、空がそう言い始める。

 

「けど! まだそれだけよ! この後もまだまだ強豪校が控えてるんだから! 今まで以上に気合入れて訓練するわよぉっ!!」

 

最初は褒めた様に見えた空だったが、すぐにそう喝を入れる。

 

「「「「ハイ!」」」」

 

「頑張りま~す!」

 

その言葉に、アヒルさんチームの面々が気合の入った、ウサギさんチームのあやが間延びした返事を返す。

 

「勝って兜の緒を締めよ! ダーッ!」

 

「「「おーっ!!」」」

 

カバさんチームもカエサルがそう声を挙げると、他のメンバーも続く。

 

「お前等ぁっ! 2回戦も気合入れてくでぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」

 

歩兵部隊の方でも、ペンギンさんチームの大河がそう言って右の拳を突き上げると、大洗連合の面々が同じ様に拳を突き上げて、気合の声を挙げる。

 

「大洗ー! ファイトッ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」

 

同チームの武志も、ラクビー部メンバーと円陣を組んで声を挙げる。

 

「よっしゃあ、行くぜっ!!」

 

「俺達の快進撃はココからだぁっ!!」

 

「大和魂を見せてやるーっ!!」

 

それを皮切りに、他のメンバー達も声を挙げ始める。

 

「わあ~………」

 

「皆凄いですね」

 

そんなメンバー達の様子に軽く驚きを露わにしていたみほに、華がそう声を掛ける。

 

「うん」

 

それに返事を返しながら、ふとみほは弘樹の事を見やった。

 

「…………」

 

その視線に気づいた弘樹は、無言のまま頷く。

 

「…………」

 

そんな弘樹の姿を見て、みほは微笑を浮かべたのだった。

 

「よ~し! 気合は充分の様ね! ビシバシ行くから、覚悟しなさいっ!!」

 

そんな大洗機甲部隊の面々を見て、空は満足そうにしながらそう言い放ち、その日の訓練が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの少し前までは素人の集まりだった大洗機甲部隊も、3度の実戦を潜り抜け、日々厳しい訓練に励んだ結果………

 

その腕前は、飛躍的に向上。

 

特に、バイクでの参戦を決めた白狼の活躍は目覚ましかった。

 

幼き頃からレーサーとして活躍してきた腕前を遺憾無く発揮し、機動力を武器に大立ち回りを演じる。

 

練習試合では敵前逃亡を仕出かしたハムスターさん分隊の面々も、まだまだ腕に未熟な面は見られるものの、メンタル面での成長が見られ始めた。

 

戦車部隊も、隊列行動が迅速に出来る様になり、砲撃の腕も向上している。

 

………河嶋 桃を除いて。

 

その余りにも酷い砲撃の腕を見た空が………

 

「アンタさぁ………辞めた方が良いんじゃないの?」

 

と思わず言ってしまい、泣き出した桃を宥めるのに暫し時間を要した程であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、日が頭上まで登り、お昼休憩となった。

 

大洗機甲部隊の面々は其々に学食へ向かったり、買い食いに出たり、持参した弁当を広げ始めたりと昼食に入る。

 

 

 

 

 

 

そんな中、みほは1人戦車格納庫を訪れ、Ⅳ号を見据えていた。

 

「2回戦………この戦車で勝てるのかな? 歩兵部隊の皆の武器も揃ってないし………」

 

Ⅳ号を見ながらそんな事を呟くみほ。

 

練度こそ上がって来た大洗機甲部隊だったが、やはり戦車の数や性能面では、他校と比較して大きく劣っている。

 

歩兵部隊の装備も、まだ十分なレベルであるとは言い難い。

 

「此処に居たのか………」

 

と、不意に背後からそう言う声が聞こえて来て、みほが振り返るとそこには、戦闘服姿のままの弘樹が居た。

 

「! 舩坂くん! 如何したの?」

 

「うむ、実は今日は湯江の奴が弁当を作ってくれてたんだがな………」

 

みほが尋ねると、弘樹はそう言いながら、脇に下げていた軍用鞄から握り飯が添えられた大きめの弁当箱を取り出す。

 

「その序だと言って、君の分まで作ったみたいでな。良かったら渡そうと思っていたんだ」

 

更にそう言うと、今度は先程のと比べると小さめの弁当箱を取り出し、みほに差し出す。

 

「湯江ちゃんが? そっか、後でお礼言わないと」

 

そう言いながらその弁当箱を受け取るみほ。

 

「アレ? 西住殿に舩坂殿」

 

するとそこで今度は、同じ様に弁当箱を持った優花里が戦車格納庫内に姿を現した。

 

「あ、秋山さん」

 

「何だよ、弘樹。此処だったのか?」

 

「あ~! テメェ! 俺達を差し置いて、1人だけ西住ちゃんと仲良く昼飯かよ! このリア充野郎め!!」

 

「了平、そんな事だから貴方はモテないんですよ」

 

みほが声を挙げると、続いて地市、了平、楓の面々が姿を現す。

 

「あ! 居た居た!」

 

「教室にも食堂にも居ないから、きっと此処だと思って」

 

「飯にするぞ」

 

更に、コンビニの袋を携えた沙織、華、麻子も現れる。

 

「皆も………」

 

「何だ、騒がしいな………」

 

と、みほがそう呟くと、Ⅳ号の隣に停められていたAEC 四輪駆動装甲指揮車から煌人が姿を見せる。

 

「あ? お前等か」

 

「どうも」

 

「何だよ、此処で飯にすんのか?」

 

「何や、ワイ等と一緒かいな」

 

続いて白狼、飛彗、海音、豹詑がゾロゾロと出て来る。

 

「何時の間にやら大所帯だな………」

 

かなりの人数になったメンバーを見ながら、弘樹がそう呟いて苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、みほ達がⅣ号戦車の上で………

 

弘樹達は格納庫の床に座って、昼食を取り始める。

 

「母がコレ、戦車だって言い張るんです」

 

優花里が自分の弁当を見せながらそう言う。

 

彼女の言葉通り、ごはんの上に海苔で戦車らしき物が作られていた。

 

「凄い! キャラ弁じゃん!!」

 

メロンパンを片手に持った沙織がそう言い、携帯のカメラで優花里の弁当を撮影する。

 

「食べるの勿体無いですね」

 

膝の上に大量のサンドイッチを乗せた華が、そんな事を言う。

 

「さ! 遠慮無く食ってくれ!」

 

「沢山あるでぇっ!!」

 

一方、床に座っている弘樹達の中で、海音がそう言って寿司桶に入った寿司を………

 

豹詑がお好み焼き、たこ焼き、串カツと言った大阪の食べ物を広げる。

 

「おおっ! スゲェなぁ!!」

 

「如何したんですか、コレ?」

 

その献立を前に舌を巻く地市と、2人に向かって尋ねる楓。

 

「俺ん家寿司屋なんだよ。ガキの頃からよく手伝わされて握り方を覚えたんだ」

 

「ワイも実家が大阪に居た頃、道頓堀で食い物屋やっててなぁ。今日は気合入れてみたんや」

 

海音と豹詑はそう返す。

 

「うっひょ~! まさか学校で寿司が食えるとは思わなかったぜ!」

 

「オイ! 高いモンから手え付けてんじゃねえよっ!!」

 

了平が遠慮無く高級食材の寿司から手を付け始め、白狼がツッコミを入れる。

 

「やれやれ………騒がしい連中だ」

 

そんな一同の様子を見ながら、持っていた水筒のカップに中身の紅茶を注ぐ煌人。

 

その直後に、砂糖とミルクを大量に入れ始める。

 

「煌人くん………いつも思うんだけど、入れ過ぎじゃないのかい?」

 

色がすっかり白くなり、解けきれなかった砂糖が山になっているのを見て、飛彗はそうツッコミを入れる。

 

「ズズズ………うん、丁度良い」

 

しかし、そんな飛彗の言葉を無視する様に、煌人は粗砂糖とミルクの紅茶を飲んでそう呟く。

 

「見てるだけで胸焼けがして来るな………」

 

そんな煌人の姿に、苦笑いを浮かべてそう呟きながら、塩の利いた握り飯を齧る弘樹。

 

「あ! そう言えば見ました!? 生徒会新聞の号外!!」

 

とそこで、優花里が思い出した様にそう言う。

 

「コレの事か?」

 

すると、それを聞いた煌人が、その新聞を取り出した。

 

「お前、どっから持って来たんだよ」

 

「機密事項だ」

 

海音が呆れた様にそう言うと、煌人は平然とそう返す。

 

「何々………『1回戦に大勝利! 圧倒的ではないか、我が校は!』」

 

「どっかで聞いた様な台詞だな、オイ」

 

その新聞を手に取った弘樹が、1面の見出し文を読み上げると、地市がそうツッコミを入れる。

 

「凄かったね」

 

「そりゃあ、サンダース&カーネル機甲部隊に勝ったんですから」

 

「『勝った』って言うか、『何とか勝てた』って感じだけど………」

 

「でも、勝利は勝利です!」

 

イマイチ勝利感の薄いみほがそう言うが、優花里は拳を握って力説する様に言う。

 

「………そう、だよね」

 

「「「「??」」」」

 

その言葉を聞いたみほが沈んだ様な様子を見せ、優花里達は首を傾げる。

 

「勝たないと………意味が無いんだよね」

 

「? そうですか?」

 

「えっ?」

 

絞り出すかの様にそう言ったみほの言葉が、優花里によって即座に否定される。

 

「楽しかったじゃないですか」

 

「うん」

 

優花里の言葉に、沙織も同意する。

 

「あ………」

 

「サンダース&カーネル機甲部隊の試合も、天竺ジョロキア機甲部隊との戦いも、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との戦いも、それから訓練も、戦車の整備も、練習帰りの寄り道もみんな!」

 

「うんうん。最初は狭くてお尻痛くて大変だったけど、何か戦車に乗るの楽しくなった!」

 

「そうですね………正直言って、僕も最初の頃は戸惑いの方が大きかったですけど………今はとても楽しいと思えています」

 

「僕だよ」

 

優花里と沙織がそう言うと、楓と飛彗が同意する様にそう声を挙げる。

 

「そう言えば………私も楽しいって思った。前はずっと、『勝たなきゃ』って思ってばっかりだったのに………だから負けた時に、戦車から逃げたくなって………」

 

「私! あの試合、テレビで見てました!」

 

と、みほがそう言うと、優花里がみほが戦車道から離れる切っ掛けとなった出来事………

 

昨年の戦車道・歩兵道の全国大会決勝戦………

 

黒森峰機甲部隊VSプラウダ&ツァーリ機甲部隊との戦いを、テレビで見ていたと言う。

 

「えっ? 何があったの?」

 

「みほさんが戦車道から逃げ出したくなった切っ掛けとは、一体?………」

 

まだ戦車道に関するみほの事は良く知らない沙織と華も、興味深げにみほに尋ねる。

 

「君達、それ以上は………」

 

しかし、弘樹がそれ以上はみほの心の傷に障ると思い、沙織達を止めようとしたが………

 

「舩坂くん、良いよ。私、話すから………」

 

他ならぬみほが、それを制した。

 

「! 西住くん………」

 

「沙織さんも華さんも、それに弘樹くん達も友達だから………良い機会だし、ちゃんと話しておこうと思うの」

 

「…………」

 

そう言うみほの言葉を聞いて、弘樹は黙り込み、話を聞く態勢を取った。

 

「「「「「…………」」」」」

 

地市達と沙織達も、みほの話に真剣に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

去年の戦車道・歩兵道の全国大会決勝戦、黒森峰機甲部隊VSプラウダ&ツァーリ機甲部隊との戦いに於いて………

 

序盤より両軍は激しく交戦し、お互いに消耗戦へと発展していた。

 

だが、その試合中に天候が急変。

 

試合中断とはならなかったものの、豪雨で視界が悪くなった為、両軍は一旦交戦を停止し、互いに距離を取っての睨み合いとなり、膠着状態へ発展。

 

そこまでの消耗戦では、僅かに黒森峰機甲部隊側の戦果が、プラウダ&ツァーリ機甲部隊を上回っていたが………

 

確実な勝利の為に、黒森峰機甲部隊はプラウダ&ツァーリ機甲部隊の奇襲を計画する。

 

豪雨に紛れて、谷川沿いの道を進軍し、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の背後を取ろうとしたのである。

 

その奇襲部隊の指揮を取っていたのが、当時黒森峰機甲部隊の戦車部隊副隊長で、フラッグ車の車長であったみほだった。

 

本来ならばフラッグ車だけは後方に下げて置くべきであったが、序盤の消耗戦で戦車の数が減っていた黒森峰機甲部隊はフラッグ車も借り出さねば確実な勝利は掴めないと判断。

 

フラッグ車の車長が副隊長であるみほであり、護衛を歩兵部隊の総隊長である都草と、彼が選んだ精鋭の歩兵部隊が担当する言う事もあって、フラッグ車を奇襲部隊へと編入したのである。

 

 

 

 

 

だが、それが悲劇の引き金だった………

 

 

 

 

 

順調に進んでいたかに見えた奇襲作戦だったが、プラウダ&ツァーリ機甲部隊はこの奇襲を察知。

 

谷川沿いの道の出口で待ち伏せていたのである。

 

そして、みほが乗るフラッグ車の前方を行って居たⅢ号戦車が、逆に奇襲攻撃された事に慌てて退避行動を取ろうとした結果、谷へと滑り落ち、そのまま川へ水没してしまったのである。

 

本来ならばこの時点で審判によって試合が中断され、水没した戦車の乗員救助が行われなければならなかった。

 

しかし、悪天候の為に審判側の確認が遅れたのである。

 

豪雨で川は増水しており、救助には一刻を争うと判断したみほは戦列を離れ、水没した戦車の救助へ向かった。

 

車長が居なくなったフラッグ車は命令系統が混乱。

 

その場で立ち往生してしまい、後続の戦車と梶の歩兵部隊が盾になろうとしたが間に合わず、撃破される。

 

試合後に、審判側と連盟が確認不備を謝罪し、再試合を行う事を提案したが、黒森峰の戦車道指導者であるみほとまほの母………『西住 しほ』がコレを拒否。

 

『黒森峰が求めるのは王者としての勝利。再試合のでの勝利など、恥の上塗りである』との弁である。

 

結果、黒森峰は前人未到とされていた全国大会10連覇の逃す事となった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほの話を聞き終えた弘樹達と沙織達は黙りこくる。

 

「私のせいで負けちゃったんだ………10連覇も逃して………隊の皆や梶さん………お姉ちゃんにも………迷惑掛けて………」

 

「私は、前にも言いましたが、西住殿の判断は間違っていなかったと思います!」

 

が、みほがそう言うと、即座に優花里がそう言い放った。

 

「秋山さん………」

 

「それに………助けに来てもらった選手の人達は、西住殿に感謝してると思いますよ」

 

そう言ってみほに笑い掛ける優花里。

 

「秋山さん………ありがとう」

 

「!? ハワァッ!? 凄いっ!! 私、西住殿にありがとうって言われちゃいましたぁ~~っ!!」

 

みほに感謝され、優花里は感激の余りか、癖毛の髪を撫でまわしながら身をくねらせる。

 

………と、その時!!

 

「!? ハワァッ!?」

 

身をくねらせた事でバランスを崩したのか、優花里の身体が仰け反り、Ⅳ号の上から落下し始める!!

 

「!? 秋山さん!?」

 

「ゆかりん!?」

 

「危ないっ!!」

 

みほ、沙織、華が慌てて手を伸ばすが間に合わず、優花里の身体は格納庫の床に………

 

「ぐえっ!?」

 

叩き付けられる前に、間一髪で滑り込んだ白狼が、自らの身体をクッション代わりに受け止めた!!

 

「!? 神狩殿!」

 

「神狩!!」

 

「オイオイ、大丈夫かよ!?」

 

「しっかりせえっ!!」

 

優花里が驚きの声を挙げ、飛彗、海音、豹詑が慌てて駆け寄る。

 

「おっふ………食ったもんが口から出るかと思ったぜ………」

 

「す、すみません、神狩殿! 私の為に………」

 

「そう思うんなら先ず退いてくれないか?」

 

慌てて白狼に謝る優花里だったが、白狼にそう返されて、未だに彼の身体の上に乗ったままだった事に気付く。

 

「!? はわぁっ!? すいませんっ!!」

 

すぐさま飛び退く様にして白狼の上から降りる優花里。

 

「くうう~~っ! 俺が後一歩早く飛び出してれば!!」

 

「お前の場合は潰れてそれで終わりだろ」

 

了平が心底悔しそうにしていると、地市が容赦無いツッコミを入れる。

 

「ったく、気を付けろよなぁ」

 

「本当にすみません………あと………ありがとうございます」

 

やれやれと言った具合に身を起こす白狼を見ながら、優花里は若干頬を染めた様子でお礼を言う。

 

「良かった………」

 

「本当に良い友達ばかりだ………そう思わないか、西住くん」

 

その優花里の姿にみほが安堵していると、弘樹がそう声を掛けて来た。

 

「舩坂くん………うん、そうだね………」

 

「武道に於いて、勝つ事は大切だ。だが、それ以上に、何の為に勝つのかを考える事が大事だと小官は思っている」

 

「何の為に………」

 

「西住くん。君は君の戦車道を貫けば良い。それは西住流とは違うかも知れないが………その戦車道こそが、君にとっての真の戦車道になる筈だ」

 

「私にとっての………真の戦車道………」

 

弘樹の言葉に、何か思う様な所がある顔となるみほ。

 

「そうですよね。戦車道の道は、1つじゃないすよね」

 

「そうそう! 私達が歩いた道が、戦車道になるんだよ!」

 

華がそう同意し、沙織も天を指差しながらそんな事を言った。

 

「おっ! 良いな、ソレ!」

 

「俺達の歩いた後に出来た道が、か………」

 

地市達も、沙織のその言葉に感銘を受ける。

 

「「…………」」

 

みほはそんな沙織の言葉を聞いて笑顔で天井を見上げ、弘樹はそんなみほを見て微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗女子学園の生徒会室では………

 

杏、柚子、桃、蛍の女子校側生徒会メンバーと、迫信、十河、逞巳、俊、清十郎、熾龍の男子校生徒会メンバーが合同で食事を取りながら、次の試合となる2回戦の対戦相手………

 

『アンツィオ高校』と『ピッツァ男子校』からなる『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』への簡易的な対策と、大洗機甲部隊の戦力の見直しを話し合っていた。

 

「ふう~~………今の戦力で、2回戦勝てるかなぁ?」

 

「絶対勝たねばならんのだ!」

 

柚子が重い溜息と共に不安そうにそう言うと、桃がテーブルを叩きながらそう言う。

 

「フン………口でそう言ってれば勝てるものではないぞ」

 

「何だとっ!!」

 

「も、桃ちゃん、落ち着いて!」

 

そんな桃に向かって熾龍は毒を吐き、桃が激昂した様子を見せると、蛍が慌てて宥める。

 

「2回戦の相手は確か………『アンツィオ高校』と『ピッツァ男子校』からなる『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』だっけかぁ?」

 

「ハイ、確かそうです」

 

俊が2回戦の相手について確認すると、清十郎が返事を返す。

 

「過去のデータを確認したが、調子が良い時と悪い時の落差が激しい部隊の様だな………」

 

「決勝戦まで行った事もあれば、初戦で敗退した年もありますね」

 

事前にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の昨年度までの全国大会での成績を確認しておいた十河と逞巳がそう言う。

 

「ノリと勢いだけは有るって事だね」

 

「調子に乗らせると手強い相手です」

 

「油断せずに戦うに越した事はないね」

 

杏と柚子がそう言い合うと、迫信は扇子で口元を隠しながらそういうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンダース&カーネル機甲部隊との戦いが終わり、次なる相手………
『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』との戦いに向けた幕間です。

今回、原作に於いて、みほが戦車道から逃げ出す切っ掛けとなった事件を詳しく語ったわけですが………
お分かりかと思いますが、大分私なりの解釈と辻褄合わせが入っています。
話の中でも書いた通り、ああいう人命に関わる様な事態が起こったら、試合どころではないだろうし、審判が何らかの介入をすると思うんですよね。
その辺を私なりに考えて、如何してああなってしまったのかを書き上げてみました。
飽く迄、私なりの解釈と辻褄合わせなので、その辺はご了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第33話『第2次戦車捜索作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第33話『第2次戦車捜索作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2回戦の対戦相手………

 

『アンツィオ高校』と『ピッツァ男子校』からなる『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』との戦いへ向けて訓練に励む大洗機甲部隊。

 

そして、その戦いの日が間近に迫ったとある日………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「良し! 今日の練習はコレまでよっ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

その日の訓練が終わり、空教官に向かって礼をする大洗機甲部隊の面々。

 

「もうすぐ2回戦ね。アンツィオ&ピッツァ機甲部隊はムラっ気のある部隊だけど、今の貴方達には十分な脅威となる相手よ。それに………」

 

何かを言おうとして言うべきか迷った様子を見せる空。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

そんな空の様子に、大洗機甲部隊の面々は首を傾げる。

 

「………アンツィオ&ピッツァ機甲部隊には………『鬼』が居るって噂が有るわ」

 

「『鬼』?………」

 

その言葉に弘樹が反応し、他のメンバー達もざわめき出す。

 

「その『鬼』って言うのが何を指すのかは分からないけど、脅威である事は間違いないわ。今回も気を引き締めて掛かるのよ!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「じゃあ、またね!」

 

空はそう言うと、10式・改に乗り込み、亜美達と同じ様にフルトンシステムで撤収して行った。

 

それを見送ると、大洗機甲部隊は戦車部隊が戦車を格納庫へ入れて、歩兵部隊が武器を整備班に渡し始める。

 

「良し! 整備開始だっ!」

 

「気合入れてくよ~!」

 

敏郎とナカジマがそう言うと、整備部と自動車部のメンバーは一斉に武器と戦車の整備を開始する。

 

「皆、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした、西住殿。良い汗掻きましたね」

 

Ⅳ号から降りたみほと優花里がそう言い合う。

 

「小官としてはもう少し続けて居たかったがな」

 

「オイオイ、お前の体力と一般人の体力を一緒にすんなっての」

 

まだまだ訓練し足りない様子の弘樹がそう言うと、地市がツッコミを入れる。

 

「1、2! 1、2!」

 

とそこで、みほ達と弘樹達の耳に、そんな掛け声が聞こえて来る。

 

みほ達と弘樹達が、その声が聞こえて来た方向を見やるとそこには………

 

格納庫内の空きスペースで、ダンスの練習をしている聖子達、サンショウウオさんチームの姿が在った。

 

「聖子さん」

 

「精が出てるな」

 

それを見たみほ達と弘樹達は、聖子達に声を掛ける。

 

「あ! 西住総隊長! 舩坂分隊長! お疲れ様です!!」

 

「「お疲れ様です!」」

 

と、声を掛けられた事に気付くと、聖子達はダンスレッスンを中断し、みほ達と弘樹達に向かって挨拶をする。

 

「頑張ってるね」

 

「ハイ! 今度こそライブ会場をお客さんでいっぱいにしたいですから!!」

 

沙織がそう言うと、聖子が元気良くそんな言葉を返す。

 

「練習熱心なのは感心だが、君達も戦車チームの一員だと言う事は忘れない様にな」

 

弘樹もレッスンに熱心な聖子達を褒めつつも、自分達も戦車チームである事を忘れるなと釘を刺す。

 

「あ、ハイ! それは勿論です!!」

 

「空き時間を利用してマニュアルに目を通したりはしています」

 

「でも~、やっぱり実際に戦車に乗らないと分からない所も多くて………」

 

聖子、優、伊代はそう言葉を返す。

 

「ふむ………」

 

そこで弘樹は顎に手を当てて考え込む様な様子を見せる。

 

と、その時………

 

「!? 誰だっ!?」

 

ふと背後に気配を感じた弘樹が、そう言いながら振り返った!

 

「「「!?」」」

 

すると3つの人影が、整備資材の陰へと隠れる。

 

「!? 誰か居ますよ!?」

 

「まさか、他校のスパイか!?」

 

優花里と地市がそんな声を挙げる。

 

「!!………」

 

それを聞いた弘樹は、即座に腰に下げていた日本刀を抜くと、整備資材の陰へ駆け出す。

 

「動くなっ!!」

 

そして、隠れた人影に向かって、日本刀の刃を突き付けながらそう言い放つ。

 

「「「ヒイイッ!?」」」

 

隠れていた人影………大洗女子学園の制服を着た少女3人は、そんな弘樹を見て怯える。

 

「何っ?………」

 

隠れていたのが他校のスパイではなく、大洗女子学園の生徒だった為、弘樹は一瞬困惑する。

 

「何々っ?」

 

「如何した如何した?」

 

「何があったの?」

 

その様子を見て、沙織達や地市達、聖子達も駆け寄って来る。

 

「あ! 貴方達は!!………」

 

と、聖子は怯えている大洗女子学園の制服を着た少女3人を見て声を挙げる。

 

何故ならば、その3人の少女こそが、サンダース&カーネル機甲部隊との戦いに勝利した後のライブに来てくれた、大洗女子学園の子達だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「誠に申し訳無い!」

 

落ち着きを取り戻した3人の女子生徒に向かって、弘樹が深々と頭を下げて謝罪する。

 

「い、いえ、そんな!」

 

「そんなに頭を下げないで下さい」

 

「無断で入った私達も悪いんです」

 

3人の女子生徒は、弘樹の誠意溢れる謝罪を前に、逆に戸惑ってしまう。

 

「それで一体何の用かな? えっと………」

 

「あ! わ、私!………」

 

聖子が何をしに来たのかと尋ねようとして、女子生徒達の名前を知らない事に気づき、女子生徒の1人が自己紹介をしようとしたところ………

 

「アレ? 明菜じゃねえか」

 

そう言う台詞と共に、自分のバイクの整備を終えた白狼が、その場へ姿を見せた。

 

「! 白狼!」

 

「神狩さんの知り合いですか?」

 

「『植草 明菜』、幼馴染だ。何やってんだ、お前。こんなとこで?」

 

楓が尋ねると、白狼はそう返しながら、改めて少女………『植草 明菜』にそう尋ねる。

 

「え、えっと、その………あ、改めまして初めまして! 私! 普通科1年の植草 明菜です! コッチは友達の………」

 

「あ、えっと………た、『玉元 静香』………です………」

 

「『錦織 満里奈』だにゃ!」

 

そこで明菜が改めて自己紹介を行い、それに続く様に内気そうな少女・『玉元 静香』と、スポーツ少女と言った感じのする語尾がネコの様な少女・『錦織 満里奈』が自己紹介をする。

 

「あ、あの! えっと! その!………」

 

「あ、明菜ちゃん………落ち着いて………」

 

「明菜、深呼吸だよ、深呼吸!」

 

吃って上手く話せなくなる明菜を、静香と満里奈が落ち着かせる。

 

「う、うん………スーッ………ハーッ………スーッ………ハーッ………」

 

アドバイスに従い、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる明菜。

 

「それで? 如何したの?」

 

聖子が明菜が落ち着いたのを見て、再度問い質す。

 

「わ、私達も………私達も! 先輩達のチームに入れて下さいっ!!」

 

そこで明菜は、一瞬躊躇した様子を見せながらも、聖子達に向かってそう言い放った。

 

「えっ!?」

 

「それって………」

 

「私達と一緒に戦車道………それとスクールアイドルをやりたいって事ですか?」

 

聖子と伊代が戸惑っていると、優がそう問い質す。

 

「そ、そうです!」

 

「こ、この間のサンダース&カーネル機甲部隊との戦い………か、感動しました!」

 

「それに、その後のライブもスッゴイ良かったし!」

 

明菜、静香、満里奈の3人は、この間のサンダース&カーネル機甲部隊との戦い、そしてその後のライブの様子を思い出しながらそう言う。

 

「そ、それで私達も! 皆さんみたいになりたいって思って!」

 

「だ、だから………」

 

「チームに入れて下さい!!」

 

「「「お願いしますっ!!」」」

 

そう言って聖子達に向かって深々と頭を下げる明菜、静香、満里奈。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

場が一瞬沈黙に包まれたかと思うと………

 

「………勿論! 大歓迎だよ!!」

 

「「「!!」」」

 

聖子のそう言う声が響き、明菜達が顔を挙げるとそこには………

 

自分達に向かって手を差し出している聖子、伊代、優の姿が在った。

 

「「「ようこそ! サンショウウオさんチームへ!!」」」

 

笑顔を浮かべ、明菜達に向かってそう言う聖子達。

 

「「「!………ハイッ!!」」」

 

それに対し、明菜達も笑顔を浮かべ、差し出された手を其々に握る。

 

「やったね、みぽりん!」

 

「仲間が増えましたよ! 西住殿!!」

 

「うん!」

 

その様子に、沙織、優花里、みほもそう声を挙げる。

 

「喜んでばかりも居られないぞ………幾らメンバーが増えても、肝心の戦車が無くては意味が無い」

 

しかしそこで、麻子が1人冷静にそうツッコミを入れる。

 

「ああ………」

 

それを聞いたみほが表情に影を落とすが………

 

「となると、やはり予定を繰り上げるしかないか………」

 

そこで弘樹が、そんな事を呟いた。

 

「? 舩坂くん?」

 

「予定って………何ですか?」

 

その言葉に、みほと華がそう問い質す。

 

「………第2次戦車捜索作戦です」

 

そんな2人に向かって、弘樹はそう言う言葉を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

昨日の内に、弘樹が迫信と杏に上申した『第2次戦車捜索作戦』に対する許可が下り、本日は訓練を中止し、大洗機甲部隊の面々全員による、新たな戦車の捜索が開始される。

 

当時の資料は殆ど残って居なかったが、僅かに残されていた資料に、現在大洗戦車部隊が使用しているⅣ号、八九式、Ⅲ突、38t、M3リーの他にも戦車が存在していた事を示す記録が存在した。

 

今後の戦いの事を考え、戦車部隊の戦力増強は急務であり、更にサンショウウオさんチームを何時までも遊ばせておくワケにも行かないとの判断である。

 

大洗機甲部隊は戦車部隊・歩兵部隊混合で、何人かのグループを作り、学園艦の方々へ散らばって、新たな戦車の捜索へ乗り出した。

 

 

 

 

 

大洗女子学園・旧部室棟………

 

この辺りを捜索するのは、戦車部隊からはみほと麻子、そしてバレー部のメンバー。

 

歩兵部隊から、弘樹、誠也、武志、大河を中心に、ラクビー部と大洗連合のメンバーである。

 

「戦車なんだからすぐ見つかりますよね!」

 

「だと思うけど………」

 

典子の自信満々な声に、若干自信無さげなみほがそう返す。

 

「手掛かりはないのか?」

 

「冷泉先輩、刑事みたい」

 

ぼやく様にそう呟いた麻子に対し、忍がそんな事を言う。

 

「それが、部室が昔と移動したみたいで、良く分からないんだって」

 

「仕方がないさ。前回捜索した範囲を更に見直すと共に、新たに捜索範囲を広げて行くしかあるまい」

 

前途多難な捜索作戦に思わず表情に影を落とすみほに、弘樹が励ます様にそう言う。

 

「よっしゃあ! 気合入れて探すでぇ!! お前等ぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「皆も、よろしく頼むよ」

 

「「「「「「「「「「ハイ、キャプテンッ!」」」」」」」」」」

 

当ての無い捜索を前にしても、士気を落とさない大河率いる大洗連合と武志達ラクビー部員達。

 

「頼もしいですね」

 

そんな面々を見て、誠也はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗女子学園の校舎・屋上にて………

 

そこには歴女チームと優花里、白狼の姿が在った。

 

「ハッ!」

 

カエサルが掛け声を挙げ、何やら八卦爻と太極の盤の上の立てていた棒を倒す。

 

「東が吉と出たぜよ」

 

倒れた棒の方向を見て、おりょうがそう言う。

 

「コレで分かるんですか!?」

 

「ド〇えもんのたずね人ステッキかよ」

 

優花里と白狼は、その八卦占いに懐疑的な様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、学園艦の艦内部では………

 

戦車部隊から、沙織と1年生チーム。

 

歩兵部隊からは、地市の他、勇武、光照、竜真、ジェームズ、清十郎、正義と言ったハムスターさん分隊の面々を中心とした分隊が捜索に当たって居る。

 

「何此処? 何~?」

 

「凄い。船の中っぽい」

 

「いや、船だもん」

 

初めて入る学園艦の深部に、優季、桂利奈、あやがそんな会話を交わす。

 

「こんなになってたんだ………」

 

「自分、学園艦に此処まで踏み込んだのは初めてッス!」

 

「僕もです」

 

勇武、正義、光照もそんな事を呟く。

 

「思えば、何で船なんでしょう?」

 

「大きく世界に羽ばたく人材を育てる為と、生徒の自主独立心を養う為に、学園艦が作られた………らしいよ」

 

ふと湧いた学園艦への疑問に、沙織がそう説明する。

 

「無策な教育政策の反動なんですかね」

 

「どっちにしろ、大人の事情に振り回されるのは何時も子供達ですね」

 

清十郎がそんな皮肉めいた事を言う。

 

「でも、スクールシップ構想は非常に有用デス。ステイツでも、色々なスクールシップが建造されてマシタ」

 

「そうなんだ」

 

祖国の事を思い出してそう言うジェームズに、竜真が相槌を打つ。

 

「お疲れ様でーす」

 

とそこで一同は、学園艦の運行を担当している船舶科と呼ばれる水兵姿をした女子生徒2人と擦れ違う。

 

「あ、あの! 戦車知りませんか?」

 

沙織はその船舶科の女子生徒にそう尋ねる。

 

「戦車か如何か分からないけど………何かソレっぽいもの、何処かで見た事あるよね? 何処だっけ?」

 

「もっと奥の方だったかな?」

 

船舶科の女子生徒の片方が、更に学園艦の奥の方を指差す。

 

「よし、行ってみよう!」

 

「どうもありがとうな!」

 

沙織がそう言うと、地市が船舶科の女子生徒にお礼を言って、学園艦内捜索隊は、更に深部を目指して奥へ奥へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗女子学園・生徒会室では………

 

戦車部隊から華と柚子、桃、杏、蛍と言った生徒会チーム。

 

歩兵部隊からは迫信、十河、俊、熾龍と言ったツルさん分隊の面々が、まだ他に資料が残されていないかを調べていた。

 

最も、杏は生徒会長の椅子をリクライニングさせ、俊もソファに寝転んでおり………

 

桃は捜索に出ている者達からの報告待ち、熾龍は何時もの様に腕組みをして壁に寄り掛かっているので、実質働いているのは華、柚子、蛍、迫信、十河の面々である。

 

「戦車道って、随分昔からやってるんですね」

 

「そうね。1920年代頃から………」

 

「まだか!」

 

と、資料を見ながら話し合っていた華と柚子の会話が、桃の大声に中断させられる。

 

「まだ見つからないのか!?」

 

貧乏揺すりをしながら、テーブルの上に置かれた携帯を見据えている桃。

 

「………フンッ」

 

そんな桃の姿を見て、熾龍は一瞬嘲笑する。

 

「オイ! 貴様ぁっ!! 今笑ったかぁっ!!」

 

当然桃は騒ぎ立てるが、熾龍は無視を決め込むのだった。

 

「捨てられちゃったかなぁ?」

 

「でも、処分したんなら、その書類だって残ってる筈だよね」

 

柚子の言葉に、別の資料を見ていた蛍がそう返す。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

「クッ! 全くを持って資料が少なすぎる! 大体大洗女子学園が戦車道をやっていたのは20年も前だぞ!!」

 

華がそう呟くと、大量の資料に目を通している十河が愚痴る様にそう言い放つ。

 

「何れ見つかるさ。諦めさえしなければね」

 

その隣では、迫信が十河が見ている資料の3倍近い量の資料を、十河の5倍近いスピードで目を通して行っている迫信の姿が在った。

 

しかもそれで居て、動きが実に優雅でエレガントである。

 

「果報は寝て待てだよ~」

 

「ZZZZZZzzzzzzz~~~~~~~~………」

 

杏はそう言ってリクライニング式の椅子の上で寝てリラックスし、俊は既にイビキを掻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

捜索開始から数時間が経過………

 

既に日は西へと傾き出し、学園艦の街並みに、薄くオレンジ色が掛かり出す。

 

そんな中で、大洗女子学園・旧部室棟を捜索していたみほ達と弘樹達は………

 

「コレで最後の部室ですよ。手掛かりになりそうな物、無いですね~」

 

旧部室棟の最後の部室の捜索に取り掛かっていた。

 

しかし、典子の言葉通り、手掛かりになりそうな物は見当たらない………

 

「コレはお手上げかなぁ?」

 

忍からそんな弱気な声が漏れる。

 

「諦めるな。もう少し探してみるんだ」

 

そこで弘樹がそう言い放つ。

 

「あ! アレは如何だろう?」

 

とそこで典子が、高い棚の上に乗って居る資料らしき紙束を発見し、手に取ろうとする。

 

「ふっ! くうっ!………届かない!」

 

しかし、身長の低い彼女ではその紙束に手が届かず、棚の前で背伸びした状態でプルプルと震える。

 

「キャプテン、私が取りますよ」

 

見かねた忍がそう言うが………

 

「いいや! コレは私が取る! 根性おおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

典子はそれを断ると、バレーで鍛えたジャンプ力を発揮し、大きく跳躍する。

 

そして資料に手が届くと、そのまま棚にしがみ付く。

 

「やった!………!? うわぁっ!?」

 

その際の衝撃でバランスが崩れ、典子がしがみ付いた手前に向かって棚が倒れ出す!

 

「!? キャアアッ!?」

 

傍に居た忍が悲鳴を挙げて思わずしゃがみ込む。

 

そして棚が倒れたと思われた瞬間に埃が舞い上がり、2人の姿が見えなくなる。

 

「!? キャプテン!!」

 

「忍!!」

 

「「「「!?」」」」

 

典子と忍が棚の下敷きになったと思った妙子とあけび、みほ達が慌てる。

 

しかし、徐々に舞い上がった埃が収まって来ると………

 

「大丈夫かい? 典子ちゃん」

 

「怪我は無いかぁ?」

 

典子をお姫様抱っこで受け止めていた武志と、忍に向かって倒れようとしていた棚を受け止めている大河の姿が露わになった。

 

「た、武志………あ、ありがとう………」

 

「た、助かったわ………」

 

典子は武志に向かって、忍は大河に向かって頬を染めながらそう言う。

 

「どういたまして」

 

「気ぃつけえや」

 

武志はそう言って典子を床に下ろし、大河は棚を元に戻す。

 

「それで、如何だ? その資料は?」

 

そこで弘樹が、典子が取った資料について尋ねる。

 

「あ、うん………違う。戦車の事は書かれてないや」

 

そう言われて改めて資料を見やる典子だったが、それは戦車に関連する物ではなかった。

 

「そうか………」

 

「やれやれ。無駄に埃が舞っただけだったな………」

 

そこで麻子がそう言い、まだ舞っている埃を換気しようと、近くに在った窓を開ける。

 

「? 何処の部だ? こんな所に洗濯物干したのは?」

 

すると窓の外に、洗濯物が干されているのを発見する。

 

「………アレ? 舩坂くん、ちょっと来て」

 

「如何した?」

 

と、それを見たみほが、弘樹の事を呼ぶ。

 

「! コレはっ!?」

 

その洗濯物………

 

いや、正確には『洗濯物が干されている物干し竿』を見て、弘樹が声を挙げる。

 

何故ならその物干し竿は如何見ても………

 

戦車の砲身だったからだ。

 

 

 

 

 

その後、弘樹達は部室から出ると、改めて間近でその砲身を確認する。

 

「間違い無い。戦車砲だ。恐らく………『7.5cm KwK40』だろう」

 

「うん。きっとⅣ号用の部品だよ」

 

「取り敢えずの収穫だな………」

 

物干し竿となっているその砲身を見て、弘樹、みほ、麻子がそう言い合う。

 

「取り敢えず、輸送科の人達に連絡して、運んでもらいましょう」

 

武志が携帯電話を取り出すと、輸送科に連絡を取ろうとする。

 

「………アレ?」

 

とその時、誠也が何かに気付いた様に、地面の一角へと向かったかと思うと、その場にしゃがみ込み、土を触り出す。

 

「? 塔ヶ崎くん? 如何したの?」

 

「いえ………何だか此処の地面だけ、他と違うから少し気になって」

 

妙子が尋ねると、誠也はそう返す。

 

「違う? 如何言う事だ?」

 

「この辺の土だけ、少し新しいんです。まるで1回掘り起こしたかの様に………」

 

「そんな事が分かるんかいな?」

 

「ええ。僕、家が農家なんで、土に関してはちょっと自信がありますよ」

 

自負する様にそう言う誠也。

 

「1回掘り起こした………!」

 

とそこで、誠也の言葉を聞いていた弘樹の頭に、とある考えが過る。

 

「舩坂くん! ひょっとして………」

 

みほも同じ考えに至ったらしく、弘樹に声を掛ける。

 

「東郷くん。手の空いているメンバーも、スコップを持って此処へ集合する様に連絡してくれ」

 

「えっ? あ、分かりました」

 

弘樹は輸送科へ連絡しようとしていた武志にそう言い、武志は一瞬戸惑いながらもそう返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

第2次戦車捜索です。
サンショウウオさんチームに追加メンバーが入ると共に、遂に彼女達が使う戦車が見つかります。
どんな戦車かは次回明らかになります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第34話『新戦車、発見です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第34話『新戦車、発見です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公式戦2回戦の相手であるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊との戦いを前に………

 

戦力補強を考え、まだ存在していると思われる戦車の捜索へ掛かった大洗機甲部隊。

 

メンバー全員による捜索が続く中………

 

弘樹達とみほ達が、旧部室棟にてⅣ号用の物と思われる『7.5cm KwK40』を発見。

 

輸送科に連絡を入れ、運ぼうとしたところ………

 

誠也が、その近くの地面に1度掘り起こされた形跡を発見する。

 

 

 

 

 

大洗女子学園・旧部室棟付近………

 

輸送科の面々が、7.5cm KwK40を回収している横にて………

 

弘樹を中心に集まった大洗歩兵部隊の面々………

 

そして、ジャージ姿のサンショウウオさんチームの皆がスコップを手に、誠也が言っていた掘り返された形跡のある地面を掘っていた。

 

「オイ、弘樹。ホントなのか? 此処に戦車が埋まってるって?」

 

スコップを手に地面を掘っていた了平が、同じ作業をしている弘樹にそう尋ねる。

 

「間違い無い。きっと有る」

 

弘樹はそう短く答え、黙々と土を掘り続ける。

 

「けどよぉ、もう大分掘ってるけど、戦車どころから、石ころ1つ出て来ないぜ」

 

了平の愚痴るかの様な言葉通り、既に大洗歩兵部隊は3メートル近く地面を掘り起こしているのだが、戦車らしき物が出て来る気配は無い。

 

「もう少し掘ってみるんだ」

 

しかし、弘樹はそう言って作業を続ける。

 

「此処に戦車が………」

 

「そしたら、私達も………」

 

「戦車に乗れる」

 

漸く自分達の戦車が手に入るかも知れないと思っているサンショウウオさんチームも、只管に土を掘っている。

 

「み、皆さん! 頑張って下さい!!」

 

「根性ーっ!!」

 

その作業を見守っているみほ達と典子達からそんな声援が飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

既に掘り起こした深さは6メートルに達しようとしていた。

 

しかし、未だに戦車らしき物は出て来ない………

 

「あ~、もう駄目だぁ~っ!!」

 

汗だくの了平が、その場に尻餅をついて座り込む。

 

「ハア………ハア………出て来ませんね………」

 

「本当に埋まってるんでしょうか?」

 

楓もそう言って手を止めてしまい、武志も作業を続けているが、そんな声を漏らす

 

「満里奈も疲れたにゃあ」

 

「わ、私も………」

 

サンショウウオさんチームの方でも、満里奈と静香がそう言って、突き立てたスコップに寄り掛かる様に蹲ってしまう。

 

「流石にココまで掘って出ないとなると、やっぱり違ったのでは………」

 

優もそんな呟きを漏らす。

 

「…………」

 

しかし、聖子だけは滝の様に汗を流しながらも、黙々と土を掘り続けている。

 

「聖子ちゃん………」

 

「「「「…………」」」」

 

そんな聖子の姿に、伊代も優達も何も言えなくなる。

 

(私達も戦車に乗って試合に出るんだ………もう見てるだけじゃなくて………西住総隊長や舩坂さん達と一緒に………)

 

そう思いながら、只管土を掘って行く聖子。

 

と、その時!!

 

スコップの先が何かにぶつかり、ガキィンッ!と甲高い金属音を立てた!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「!?」

 

その音で、作業をしていた一同の視線が聖子の元へ集まり、聖子はすぐさまスコップを放ると、その場所の土を手で掻き分ける様に退かし始める。

 

やがて、鉄板の様な物が見えてきたかと思うと、その鉄板に白いペンキで漢数字の『零』が掛かれているのが露わになる。

 

「! 有った! 有ったよ~~~っ!!」

 

「やったね! 聖子ちゃん!!」

 

「やりましたね!!」

 

「「「先輩~~っ!!」」」

 

思わず歓喜の声を挙げる聖子に、伊代と優、明菜に静香、満里奈が抱き付く。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

周りに居た大洗歩兵部隊の面々も、歓声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、迫信が手配してくれた超大型特殊クレーン車が数台掛かりで、埋まっていた戦車を引き上げ、輸送科が大洗女子学園の戦車格納庫前まで輸送。

 

また、優花里と白狼、歴女チーム達も沼の中に放棄されていた戦車を発見。

 

そちらの戦車も回収され、同じく戦車格納庫前へと輸送された。

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

発見された2台の戦車と、Ⅳ号用の長砲身の前に、一部を除いて集合している大洗機甲部隊の面々。

 

「コレが秋山くん達が見つけた戦車か………」

 

「『ルノーB1 bis』………」

 

優花里達が見つけた戦車………フランス軍の『ルノーB1 bis』を見て、弘樹とみほがそう言い合う。

 

「で、コイツはどないな戦車なんや?」

 

その2人に向かって、豹詑がそう尋ねる。

 

「一応、形式上は重戦車に分類されるな」

 

「最大装甲厚は60mm。車体に75mm砲を搭載。砲塔は47mm砲だね」

 

「おお! 重戦車か!」

 

「砲も2つあって、火力も良さそうだな」

 

重戦車と言う言葉を聞いて、重音と鷺澪が嬉しそうな声を挙げる。

 

「いや、余り過度な期待はしない方が良いぞ」

 

しかしそこで、煌人が首から紐で下げたノートPCを弄りながらそう言う。

 

「? アインシュタイン? 如何言う事だよ?」

 

「この戦車には弱点がある。1つは構造上の問題で、左側面が機関室の給排気用の格子となっている事だ。此処を撃たれればそれまでだ。次にコイツの砲塔は1人用で、車長は47mm砲の砲手および装填手を兼任するから、1人3役を熟さざる得ない。当然、指揮に支障が出る」

 

「うえぇっ? マジかよ………」

 

「折角見つけたのに………」

 

漸く見つけた戦車が、性能的に微妙だと言われて、何名かがガッカリした様な様子を見せる。

 

「まあ、それは運用法と戦術でカバーするしかないね」

 

「んで、もう1つの方は?」

 

そんな一同をフォローするかの様に迫信がそう言い、続いて杏が、弘樹達が発掘した、もう1両の戦車について尋ねる。

 

「コレはイギリスの巡航戦車、『Mk.ⅤⅢ クロムウェル』ですね。型はMk.Ⅲです」

 

するとそこで、優花里はその戦車………『クロムウェル巡航戦車』を見てそう言う。

 

「クロムウェル巡航戦車か………」

 

「コイツも微妙なのか?」

 

先程のルノーB1 bisの事もあり、不安そうに煌人にそう尋ねる海音。

 

「いや、性能的には悪くない。寧ろ、優秀な戦車だと言えるだろう。特に速度に関しては最大時速64キロを記録し、『第2次世界大戦中最速の戦車』と言われた程だ」

 

「最大装甲厚も、この型なら76ミリ有りますし、主砲の6ポンド砲も決して威力は低くはありません」

 

しかし、煌人と優花里からはそう言う答えが返って来る。

 

「時速64キロ!?」

 

「凄いです! 現代戦車の速度にも負けてませんよ!!」

 

最高時速が64キロも出ると聞いた磐渡と清十郎がそう声を挙げる。

 

「只、史実での活躍はパッとしなかった様だがな………」

 

「うむ。有名な話で、ノルマンディー上陸作戦後のヴィレル・ボカージュの戦いにおいて、ドイツ軍の戦車乗りのエースである、『ミハエル・ヴィットマン』が指揮するティーガーⅠ1両が、クロムウェル一個大隊の15両を全滅させたというものがあるな」

 

だが煌人がそう呟き、エルヴィンがどや顔でそんなエピソードを語る。

 

「お前等、持ち上げたいのか、貶めたいのか、どっちだ?」

 

そんな煌人とエルヴィンを見て、俊が呆れた様にそう言う。

 

「まあ、兎も角………戦車2両と長砲身1つ………先ず先ずの成果だな」

 

「そうですね………」

 

十河が纏める様に言うと、みほが改めてルノーB1 bisとクロムウェル巡航戦車、7.5cm KwK40を見てそう言う。

 

「西住総隊長! この戦車! 私達が使っても良いですよね!!」

 

とそこで、聖子がクロムウェルを示しながら、みほにそう尋ねた。

 

「えっ? えっと~………」

 

みほは戸惑いながら、杏と迫信の姿を見やる。

 

「良いんじゃないの~?」

 

「西住総隊長が問題無いと仰られるのでしたら、我々から特に申し上げる事はありません」

 

杏は両腕を頭の後ろで組んで、迫信は畳んだ扇子を顎元に付けながら、いつもの様に不敵に笑ってそう言う。

 

「………うん。じゃあ、サンショウウオさんチームは、クロムウェルを担当して下さい」

 

「分っかりましたーっ!! ああ~~、遂に私達も戦車に乗れるんだ………コレで本当にスクールアイドルだよ~!」

 

「大袈裟ですよ、聖子」

 

目をキラキラとさせてクロムウェルを見上げる聖子に、優が苦笑いしながらそうツッコミを入れる。

 

「ルノーの方の乗員は如何するのですか?」

 

クロムウェルの乗員が確定すると、弘樹がルノーの方についてそう尋ねる。

 

「それはコッチで何とかするから。まあ、任せといて」

 

「今、交渉してみてる子達が居るんだ」

 

それに対し、杏と柚子がそう返す。

 

「そう言えば………沙織さんと1年生チームの皆さん、遅いですね」

 

「勇武くん達もですね………如何かしたのでしょうか?」

 

とそこで、華と誠也が、学園艦内の捜索へ向かった沙織達が、未だに戻らない事を気に掛ける。

 

すると、麻子の携帯が鳴った。

 

「ん?………遭難、したそうだ」

 

メールを確認した麻子が、相手が沙織で、学園艦内で遭難した事を告げる。

 

「「ええっ!?」」

 

「何処でですか!?」

 

華とみほが慌て、優花里がそう問い質す。

 

「船の底だが、何処に居るか分からないと………」

 

「何か表示がある筈だ。それを探して伝えろと言え」

 

麻子がそう返すと、それを聞いていた桃がそう言い放つ。

 

「ん………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いて麻子がメールを返信していると、みほ達と弘樹を除いた大洗機甲部隊の面々が、驚きの表情で桃を見やっている。

 

「な、何だ、お前等?」

 

「河嶋さんが、何か頼りになる事を言ったぞ」

 

「明日にはこの学園艦、沈むんじゃねえのか?」

 

桃が一同の視線に戸惑うと、小声でそんな事を言い合っているのが聞こえて来る。

 

「貴様等ぁーっ!! 私を何だと思ってるんだぁーっ!!」

 

「無能、怯懦、虚偽、杜撰………まだまだ有るぞ」

 

「貴様ーっ!!」

 

怒声を挙げる桃に、熾龍の毒舌が炸裂し、最早お馴染みとなった、桃が一方的に怒鳴って、熾龍がそれを只無視すると言う光景が繰り広げられる。

 

「兎に角、捜索に行くぞ。何人か小官に付いて来てくれ」

 

「警察に頼んだ方が良いんじゃないのか?」

 

「馬鹿か、お前は。大会期間中に警察沙汰なんて事になったら、最悪出場停止だろうが」

 

捜索隊を募ろうとした弘樹に、了平がそんな事を言い、白狼が容赦無い罵声を浴びせる。

 

「ハイ、コレ、船の地図ね」

 

とそこで、杏がみほに学園艦の地図を手渡す。

 

「えっ?………」

 

そしてそのままみほ達も、ワケが分からぬ内に捜索隊へと組み込まれてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・内部………

 

戦車部隊からみほ、優花里、華、麻子。

 

歩兵部隊からは弘樹、白狼、飛彗、了平、楓の面々が捜索隊となり、学園艦内にて遭難した沙織達を探して、薄暗い船内を進んでいた。

 

「こえ~よ~………何でこの辺り電気が点いてねえんだよぉ」

 

「節電の為ですよ」

 

懐中電灯を手に、おっかなびっくりと言った様子で捜索している了平に、楓が淡々とそう言う。

 

「全員、足元に注意するんだ」

 

先頭を行って居る弘樹が、後続のみほ達にそう注意する。

 

「………何か、お化け屋敷みたいですね」

 

ライト付きヘルメットを被った優花里が、不安げにそう言う。

 

と、その時!

 

金属性の物が床に倒れた様な音が鳴り響く!

 

「「!? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」

 

みほと優花里が思わず悲鳴を挙げ、みほは前に居た弘樹の背中に、優花里は後ろに居た白狼に抱き付いた。

 

「!!」

 

弘樹はすぐに、音がした場所を懐中電灯で照らす。

 

そこには、通路の隅に置かれていた資材らしき物が倒れていた。

 

「………心配無い。只の自然現象だ」

 

それを確認した弘樹が、背後からしがみ付いたままのみほにそう言う。

 

「………ホント? ビックリした~」

 

「大丈夫ですよ」

 

みほが安堵の息を吐くと、全く動じていなかった華がそう言って来る。

 

「五十鈴殿………ホント、肝が据わってますよね」

 

「オイ、何時までしがみ付いてる気だ?」

 

優花里がそう言っていると、そんな彼女にしがみ付かれていた白狼がそう言う。

 

「!? はわぁっ!? す、すみません、神狩殿!!」

 

「!! ゴ、ゴメン、舩坂くんっ!!」

 

その言葉で、優花里は白狼から、みほは弘樹からバッと離れた。

 

「ったく、別に良いけどよぉ………」

 

「気にするな。暗がりでは誰もが不安になるものだ」

 

やれやれと言った様子を見せる白狼に、特にリアクションを見せない弘樹。

 

「? 了平?」

 

と、こういう時に騒ぎ立てそうな了平が静かな事に気付いた楓が振り返ると………

 

「…………」

 

そこには、口から泡を吹いて床に倒れている了平の姿が在った。

 

「………気を失ってます」

 

「何をやってるんですか、貴方は?」

 

了平の状態を調べた飛彗がそう言うと、楓からは相変わらず容赦無いツッコミが入る。

 

「? 麻子さん? 大丈夫?」

 

更に、みほが麻子が青褪めた表情で立ち尽くしている事にも気づく。

 

「お………」

 

「お?」

 

「お化けは………早起き以上に無理」

 

『やれやれ、非科学的な物を怖がるなんて、ナンセンスだな』

 

麻子が怯えながらそう呟くと、通信機から煌人の声が響いて来た。

 

「あ、平賀さん………」

 

「アインシュタイン。俺達は今、Bの7ブロック辺りに居る」

 

『確認している。武部くん達が居るらしいブロックはその先だ』

 

「了解。急ぐぞ、皆不安がっている筈だ」

 

「うん」

 

弘樹の言葉にみほが返事を返し、一同は更に奥を目指して進み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

遭難した沙織達や地市達はと言うと………

 

「だぁ~~っ! 駄目だ! 全然分かんねぇっ!!」

 

携帯の写真撮影用のライトで、地図を照らしていた地市が頭を掻きながらそう声を挙げる。

 

必死に現在位置を割り出そうとしていた様だが、如何にも上手く行かなかったらしい。

 

「お腹………空いたね」

 

「うん………」

 

「今晩は………此処で過ごすのかな?」

 

段々と不安になって来たのか、あや、桂利奈、梓からそんな声が漏れる。

 

そしてそのまま、嗚咽が漏れ始めた。

 

「だ、大丈夫ですよ!」

 

「そうッスよ! きっと今! 先輩達が捜索に来てくれてる筈ッスよ!!」

 

清十郎と正義が、慌てて励ます。

 

「そう思いたいけど………」

 

「ハア~~………」

 

しかし、そんな1年生チームに釣られたのか、勇武と光照の雰囲気も暗くなる。

 

「…………」

 

「あの、丸山サン………さっきから何を見てるンデスカ?」

 

そんな中、1人明後日の方向を向いて上の空な様子の紗希に、ジェームズが声を掛ける。

 

「…………」

 

「コワッ! 何か怖いよ、この子!」

 

しかし、紗希は只虚空を見つめるばかりだったので、真竜は思わず怖がるのだった。

 

「み、皆! 大丈夫だよ! みぽりん達や舩坂くん達が捜索に来てくれてるから! あ、そうだ! 私、チョコ持ってるから、皆で食べよう」

 

皆が不安がる中、沙織は一同を励まし、落ち着かせようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、捜索隊のみほ達と弘樹達は………

 

「第17予備倉庫近くだったら、この辺りだと思うんだけど………」

 

「この辺りの通路は複雑になっている。慣れていないと迷うのも無理はない」

 

壁に貼られた案内図を見ながら、みほと弘樹がそう言い合う。

 

するとそこで、砲撃音が鳴り響く。

 

「ふえっ!?」

 

「あ、私の携帯です」

 

「良い趣味してんな、お前………」

 

突如聞こえて来た砲撃音に麻子が驚き、優花里が自分の携帯の着信音だと言うと、白狼が呆れた様にそう言う。

 

「あ、カエサル殿だ。ハイ!」

 

『西を探せ、グデーリアン』

 

「西部戦線ですね。了解です」

 

電話の相手はカエサルだったらしく、優花里はそう遣り取りをすると、電話を切る。

 

「誰だ、ソレは?」

 

麻子が、電話の中で優花里がグデーリアンと呼ばれていた事にツッコミを入れる。

 

「魂の名前を付けてもらったんです」

 

「ああ、歴女さん達が互いに付けてる、アレですか?」

 

「ハイ」

 

楓がそう尋ねると、優花里は嬉しそうにそう返す。

 

「しかし、西と言っても………」

 

「大丈夫です。コンパス持ってます」

 

「お前、何でも持ってるんだな」

 

華が方角が分からないと言う様子を見せると、優花里はコンパスを取り出し、白狼がまたも呆れた様子を見せる。

 

「しかし、如何して西なんだ?」

 

「卦、だそうです」

 

「えっ?」

 

麻子の問いにそう返す優花里に、みほが戸惑った様な様子を見せる。

 

「卦と言うと、つまり………八卦占いの事か?」

 

「占いって………当てになるのかよ、ソレ?」

 

了平が占いで割り出したと言う事に疑念を抱く。

 

「当たるも八卦、当たらぬも八卦ですよ」

 

「まあ、他に何かあるワケでもないですし、行ってみましょう」

 

しかし、華と飛彗がそう言い合い、一同は西を目指して進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、沙織達の方では………

 

「遅いですね………舩坂先輩達………」

 

「まさか、見つからなかったから帰っちゃったんじゃ………」

 

中々来ないみほ達や弘樹達に、光照が思わずそんな事を呟く。

 

「馬鹿野郎! アイツ等がそんないい加減な奴等か! お前、一体アイツ等の何を見て来たんだ!!」

 

途端に、地市が光照に向かってそう怒鳴る。

 

「ヒイッ! す、すみません………」

 

それにビビった光照は、すっかり縮こまってしまう。

 

「あ、いや、ワリィ………」

 

流石にその様子に申し訳なくなったのか、地市はすぐに謝罪する。

 

「大丈夫だって! 皆すぐに来てくれるよ!」

 

そんな中、女子の中で1人平気な様子を見せている沙織が、皆をそう励ます。

 

「武部先輩………」

 

「ひょっとしたら、もうそこまで来てるかも………私、ちょっと見て来るね」

 

そして、もう捜索隊がそこまで来ているかも、と言う考えに至り、立ち上がると一旦その場から離れる。

 

「あ、オイ! 1人で動くなよ! アブねーぞ!」

 

と地市がそう言うが、沙織は聞こえていないのか、スルーしてしまう。

 

「オイ!………しょうがねーな。すぐ戻るから、此処を動くなよ」

 

それを見た地市は、勇武達にそう言うと、沙織の後を追った。

 

 

 

 

 

梓や勇武達が固まっている場から少し離れた場所………

 

「オーイ、武部ぇ! 何処行ったぁっ!!」

 

携帯の僅かな灯りを頼りに、沙織の姿を探す地市。

 

とそこで、脇道の通路から何やら小声が聞こえるのを耳にする。

 

「そこか? オイ、武部………」

 

そのまま通路に入りながら声を掛けようとして、地市は黙り込む。

 

何故ならそこには………

 

通路の壁に背を預け、震える身体を自分の両腕で抱き締めている沙織の姿が在ったからだ。

 

「みぽりん………来てくれるよね?………」

 

地市がすぐ傍まで来ている事にも気づかず、そんな呟きが沙織の口から漏れる。

 

如何やら、不安がっている後輩達の手前、自分も不安な事は見せられずに居た様だ。

 

「………武部」

 

一瞬の躊躇の後、地市は意を決した様に沙織に声を掛ける地市。

 

「!? い、石上くん!? ど、如何したの!?」

 

沙織は慌てながら、慌てて不安がっていた様子を隠そうとする。

 

「無理すんな。お前だって不安だったんだろ?」

 

そんな沙織に、地市はそう言う。

 

「あっちゃ~、バレてたか? ハハハハハ………」

 

無理に笑い飛ばそうとして、乾いた笑いを挙げる沙織。

 

「…………」

 

と、地市はそんな沙織の傍へ無言で歩み寄る。

 

「な、何?………」

 

突然詰め寄られ、沙織は戸惑う。

 

「…………」

 

すると、そこで………

 

地市は沙織の左手を、自分の右手で握った。

 

「!? ふえっ!? い、石上くん!?」

 

突如手を握られ、沙織は赤面する。

 

「ワリィ………」

 

しかし、地市の口から漏れたのは謝罪の言葉だった。

 

「えっ?………」

 

「こんな事しか出来なくて………すまねぇ」

 

「あ………」

 

地市のその言葉を聞いて、沙織は彼が彼なりに自分を励まそうとしてくれている事に気付く。

 

「………ううん、ありがとう。何か少し気持ちが楽になったよ」

 

手を握られ、沙織は本当にそう思い、地市にそう言った。

 

「そうか………」

 

そのまま2人は暫し、手を握り合ったまま無言で過ごす………

 

「………みぽりん達、近くまで来てるかな?」

 

「弘樹の奴も一緒らしいから、そうなんじゃねえか」

 

やがて出た沙織に言葉に、地市はそう返す。

 

「石上くんって、舩坂くんのこと信頼してるんだね」

 

「まっ、ダチだからな」

 

「ねえ? 石上くんと舩坂くんって、如何やって知り合ったの?」

 

ふと興味が湧いたのか、地市に向かってそう尋ねる沙織。

 

「ん? ああ………アイツと知り合ったのは、大洗男子校に入学してからだな。まあ、最初の頃は只の古風な変わりモンだと思ってたんだけどな」

 

「そうなの?」

 

「だってよぉ、自己紹介の時に………『舩坂 弘樹です。至らぬ点もございますでしょうが、ご指導・ご鞭撻の程、よろしくお願い致します』って言ったんだぜ」

 

「アハハハハ、何だか想像出来るなぁ」

 

弘樹のモノマネをしながらそう言う地市に、沙織はその光景が容易に想像出来て、思わず笑う。

 

「んで、あの通り生真面目な性格だからよぉ………正直言うと、ちょっと苦手な奴だったな」

 

「そうなんだ………」

 

「けど、アイツは只生き方が不器用なだけだった。そう気づかされる事があってな」

 

「? どんな事?」

 

「自分で言うのも何だが、俺って特撮ヒーローが好きでな、コレでも正義感が強い方でよ。ある日、街で悪さしてる不良達を見つけてよぉ。後先考えずに喧嘩売った結果、そいつ等の人数の前に返り討ちにされそうになっちまってなぁ」

 

「ええっ!? だ、大丈夫だったの!?」

 

地市の話に沙織が慌てる。

 

「けど、そこに現れたのが弘樹だった。あっちゅう間に不良共を一掃しちまって、俺は助かったワケだ」

 

「そうなんだ。良かった………」

 

「けど、問題はその後でよぉ………あんまりに派手な喧嘩だったもんだから、学校に知られちまってなぁ。弘樹の奴が呼び出しを食らったんだ」

 

「ええっ!?」

 

「俺は半分ボコられたから被害者だと思われててよぉ。弘樹の方が主犯だって思われちまったみてぇでな」

 

思い出しても情けないのか、地市が頭を掻く。

 

「そ、それで如何なったの?」

 

「それがよぉ………あの野郎、まるで言い訳も弁明もしなかったんだよ。自分が喧嘩をしたのは事実だって」

 

「ああ~、それも何か想像出来るなぁ~………」

 

「まあ、結局神大会長が説得と揉み消しをやってくれたんで、御咎め無しって事になったんだが、アイツは自主的に反省文を提出したんだよ」

 

「舩坂くんらしいね………(今何か凄いこと言ってた様な気がしたけど気のせいだよね………)」

 

揉み消しと言う単語は完全にスルーする沙織。

 

「まあ、そんで色々と関わる様になってよ。気づいたら何時の間にかダチになってたって感じだ」

 

「ふ~ん、良いなぁ~。そう言う男同士の友情って………」

 

「ハハハ、汗臭いだけだぜ」

 

「そんな事ないよ! 少なくとも石上くんは結構爽やか系だと思うよ」

 

「えっ? そ、そうか?………いや~、ハハハ………! おおっと!?」

 

余り女性から褒められた事の無い地市は、沙織の言葉に照れくさくなり、メガネを上げようとして落してしまう。

 

「あ、大丈夫?」

 

すぐに沙織がそのメガネを拾う。

 

「………アレ? このメガネ、度が入ってないよ?」

 

するとそこで、地市のメガネに度が入っていない事に気付く。

 

「あ、いや、その………そのメガネ………実は伊達でよぉ」

 

「えっ? 如何してそんなメガネなんか掛けてるの?」

 

「だってよぉ………知的な男っぽく見えた方がモテると思ってよぉ」

 

そう言われた地市が、恥かしげにそう答える。

 

「そうかなぁ? 私は普段コンタクトしてるけど、石上くんはメガネが無くてもカッコイイと思うよ?」

 

沙織はそう言いながら、ふざけて地市のメガネを掛けてみる。

 

「! そ、そう言うお前は、メガネ掛けてても可愛いじゃねえか」

 

「えっ!?」

 

地市は思わずそんな事を口走ってしまい、沙織は顔を赤くする。

 

「「…………」」

 

そのまま、お互いに相手から顔を背けてしまう。

 

先程は意識していなかった握り合っている手同士の体温が妙に感じ取れる。

 

「「…………」」

 

無言の状態が続く2人。

 

「「………あの!」」

 

やがて2人して同時に何かを言うとしたところ………

 

「沙織さん!?」

 

「地市か?」

 

そう呼ぶ声を共に2人の姿が光に照らされる。

 

「「!?」」

 

2人が驚いて照らされた方向を見やると、そこにはみほと弘樹を先頭に、捜索隊の面々の姿が在った。

 

「みぽりん!?」

 

「弘樹!?」

 

「良かった! 無事だったんだ」

 

「他のメンバーは如何した?」

 

驚く2人に向かって安堵の言葉を掛けるみほと、他のメンバーの所在を尋ねる弘樹。

 

「あ、ああ、他の連中もこのすぐ先に居るぜ」

 

「そうか………ところで、2人は此処で何をやってたんだ?」

 

地市がそう尋ねると、弘樹は続いてそう尋ねる。

 

「「そ、それは………」」

 

「アレ? 御2人共、手を………」

 

地市と沙織が口籠っていると、楓が2人が手を握り合っている事に気付く。

 

「「!? わあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」

 

それを聞いた地市と沙織は、互いに大声を挙げながらバッと手を離して大袈裟に離れる。

 

「な、何でも無い! 何でも無いから!」

 

「そ、そうそう! 何でもねえって! ハハ、ハハハハハッ!!」

 

そしてそのまま2人して、強引な誤魔化しに掛かる。

 

「「??」」

 

みほと弘樹は2人の行動の意味が分からず、首を傾げる。

 

「如何したのでしょう? 武部殿と石上殿は?」

 

(成程ね………)

 

優花里も分からない様子だが、白狼は何となく察する。

 

「アラ、うふふふ………」

 

「おやおや………」

 

華と飛彗は、意味有り気な笑みを零す。

 

「地市………裏切り者めぇ………」

 

「気持ち悪いですよ、了平」

 

そして了平は、そんな2人の姿を見て、歯軋りをしながら血涙を流し、楓がそんな了平に容赦無いツッコミを入れるのだった。

 

その後、みほ達と弘樹達は、改めて取り残されていた1年生チームとハムスターさん分隊の面々を救助。

 

やっと助けが来た事に安堵した両チームは、互いに抱き合って喜びを露わにしていた。

 

更に、その際………

 

両チームが居た場所にて………

 

新たに1両の戦車を発見したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にサンショウウオさんチームの戦車が見つかりました。
それはズバリ………
『クロムウェル巡航戦車』です。
グロリアーナ辺りが持っていそうな戦車ですが、クロムウェルを選んだ理由は、やはり速度です。
元々ガルパンでは、戦車の動き等をリアルに見せている点が魅力の1つですが、速度の描写だけは下駄を履かせていると言っていたらしいので、なら元々速い戦車なら描写的にはF1並みになるんじゃないかと思い、クロムウェルを選びました。
次回のアンツィオ戦には間に合いませんが、その次の試合でデビューしますので、楽しみにしていて下さい。

そして地市と沙織にフラグが!
この2人にも今後注目しておいて下さい。

さて、今日は大洗で海楽フェスタ。
残念ながら、私は急な仕事で行けませんが、行ける方は楽しんで来て下さい。

次回ですが、原作における『紹介します!』をやらせていただこうかと思っています。
予定としましては、先ず現在のとらさん分隊、ツルさん分隊、ペンギンさん分隊、ワニさん分隊までのキャラを紹介させていただこうかと。

ハムスターさん分隊はその次回で、サンショウウオさんチーム、その他のキャラ(家族や教官等)、敵機甲部隊のキャラと一緒に紹介させていただこうかと思っています。

予めご了承いただきたいのですが、登場するキャラクターは私が考えたものの他に、友人2人と弟が考えてくれたキャラクター達がいます。
ですのでキャラによって色々なバラつきがあるかと思いますが、その辺のご理解をお願いします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第35話『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第35話『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊メンバー総出の捜索により………

 

新たな戦車を3両と、Ⅳ号用の長砲身を発見する事に成功した。

 

しかし、発見された戦車3両は、どれも長年放置されていた事による劣化や破損が酷く………

 

大規模な整備が必要とされ、次のアンツィオ&ピッツァ機甲部隊との試合には間に合わないとされた。

 

その為、戦車の改造は、Ⅳ号の長砲身化が優先されて行われる事となった。

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「よ~し、ホシノ、そっち押さえて」

 

「OK」

 

「18番の装甲板と7の履帯だ。すぐに発注してくれ」

 

「アイアイサ~! 了解しました、整備長~!!」

 

自動車部と大洗男子校整備部の手により、Ⅳ号の改造が進む。

 

只長砲身化するだけでなく、それに合わせて、Ⅳ号全体をF2型仕様に改造しているのである。

 

2回戦は既にあと僅かまで迫っているが、自動車部と整備部の尽力により、試合前には完成するとされている。

 

「凄い………」

 

「凄いですね、ウチの自動車部と、男子校の整備部の皆さんは」

 

目の前で瞬く間にF2型に改造されて行って居るⅣ号を見ながら、作業の様子を見守っていたみほと優花里がそう声を挙げる。

 

「うん。見つけた戦車が使えないのは残念だったけど、コレで多少の戦力アップは出来たかな………」

 

「此処に居たのか、西住くん、秋山くん」

 

とそこで、格納庫内に弘樹が姿を見せる。

 

「あ、舩坂くん」

 

「如何しました? 練習開始にはまだ少し時間があると思いますが………」

 

「会長閣下が話が有るらしい。皆を集めてくれと言われている。格納庫前に集まってもらえるか?」

 

「あ、ハイ」

 

「分かりました」

 

優花里とみほは、弘樹に連れられて、格納庫を出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「皆、集まってくれたかな? 今日は諸君等に嬉しい知らせが有る」

 

迫信が、集まった大洗機甲部隊の面々を前にそう言う。

 

「嬉しい知らせ?」

 

「一体何だ?」

 

迫信の言う嬉しい知らせと言うのが何か分からず、大洗機甲部隊の面々はざわめく。

 

「あ~、静かに………会長、続きを」

 

そこで俊が一旦一同を静かにさせると、迫信に話の続きを促す。

 

「うむ………実は本日、我が大洗国際男子校に転校生がやって来てね。その転校生くんが歩兵道に志願してくれたのだよ」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

転校生が歩兵道に志願した。

 

その知らせに、大洗機甲部隊の面々は再度ざわめく。

 

「転校生が歩兵道に志願?」

 

「それってつまり………ウチで歩兵道をやりたいって事で転校して来たのか?」

 

「態々弱小チームなウチに来るなんて………物好きな奴も居たもんだぜ」

 

磐渡、鷺澪、重音からそんな言葉が漏れる。

 

「まあ、ウチの学校は曲者………もとい、個性が強い連中が多いからな」

 

俊が大洗歩兵部隊の面々を見回す様に見ながらそう言い放つ。

 

「それで、その転校生と言うのは?」

 

「どうせなら不細工な奴が良いな。俺が引き立って相対的にモテるかもしれないから」

 

飛彗がそう尋ねる横で、了平が何とも下衆な考えを巡らせる。

 

「了平、貴方と言う人は………」

 

と、そんな了平を楓が嗜めようとしたところ………

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

了平が悲鳴を挙げた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「う、馬っ!?」

 

大洗機甲部隊の面々が驚愕する。

 

突如現れた黒毛の馬が、了平の頭に噛み付いたのだ。

 

「イデデデデデデデデッ! 助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」

 

甘噛みなどと言う生易しいものではなく、本気で噛まれている為、了平の頭から嫌な音が聞こえ始める。

 

「了平っ!!」

 

「オイ、テメェ! いくらそんな奴でも死なれちゃ困るんだよっ!!」

 

楓と割と酷い事を言いながら地市が助けに入ろうとするが………

 

「!? アダッ!?」

 

馬は了平を放り投げると、2人を威嚇する様に前足を振り上げ、後ろ足で2本立ちした!!

 

「!? おわっ!?」

 

「!?」

 

2人が慌てて飛び退くと、馬はその場でロデオの様に暴れ出す。

 

「アブネェッ!!」

 

「離れろ、オイッ!!」

 

慌ててその馬から距離を取る大洗機甲部隊の面々。

 

「! あの馬は!?」

 

「西住殿! 危険ですっ!!」

 

と、その馬に見覚えを感じていたみほを、優花里が引っ張って下がらせる。

 

「誰か! 武器を持って来いっ!!」

 

最早手に余ると思ったのか、大洗歩兵部隊員の中からそんな声が挙がる。

 

「!!」

 

しかしそこで、馬に手綱が付いている事に気付いた弘樹が、暴れる馬の前に飛び出した。

 

「!? 舩坂くん!!」

 

「危ないですよっ!!」

 

沙織と華が叫んだ瞬間、馬が弘樹に襲い掛かろうとする。

 

「!!」

 

だがその瞬間!!

 

弘樹は目の前に揺らめいた手綱をキャッチする。

 

「どうっ! どうっ、どうっ!!」

 

そのまま手綱を捌き、馬を大人しくさせようとする弘樹。

 

馬は暫く暴れていたが、やがて大人しくなって弘樹の前で鼻を鳴らした。

 

「良し、良い子だ………」

 

弘樹は大人しくなった馬の頭を撫でる。

 

「凄~いっ!」

 

「流石です! 舩坂先輩っ!!」

 

その光景を見ていたあやと光照がそう声を挙げる。

 

すると………

 

「申し訳無い。私の愛馬が迷惑を掛けた様だな」

 

そういう台詞と共に、黒い衣装に身を包んだ金髪でサングラスを掛けた男性が姿を現した。

 

「………君の馬か?」

 

「オイオイ! 如何してくれんだよ! お前の馬のせいで、俺の頭が………」

 

弘樹がそう問い掛けた瞬間に、頭を噛まれた恨みからか、了平がその男に詰め寄ろうとする。

 

と、その瞬間に、馬が再び暴れ出そうとする!

 

「!? ヒイイッ!?」

 

「どうどうっ!!」

 

慌てて脱兎の如く逃げ出す了平と、再び馬を宥める弘樹。

 

「誠に申し訳無い。『シュトゥルム』は少々主人思いが過ぎる所があってな………私に敵意を向ける者に過剰に反応してしまうのだ」

 

了平に向かって謝罪しながらも、やんわりと釘を刺す男。

 

「それにしても見事だな。シュトゥルムは気難しい馬でもあってな。自分が認めた者以外には従おうとしないのだが………如何やら君は認められた様だな」

 

「みたいだな………」

 

男と弘樹はそう言い合って視線を交差させた。

 

(この男………かなり出来る)

 

その目を見た瞬間に、弘樹は目の前の男がかなりの強者である事を瞬時に理解する。

 

「ランゼンさん! やっぱりランゼンさんの『シュトゥルム』だったんですね!!」

 

とそこで、みほが男に向かってそう言う。

 

「えっ? みぽりん、知り合いなの?」

 

「ランゼン………!? まさか!? 『ガーバイン・ランゼン』の事ですか!? 西住殿!?」

 

沙織がそう言った瞬間に、優花里が大声を挙げる。

 

「『ガーバイン・ランゼン』?」

 

「黒森峰男子校歩兵部隊のエース騎兵ですよ! ドイツからの留学生で、あの梶 都草の戦友であり、その騎兵ならではスピードによる圧倒的な強さで『黒森峰の竜巻』と呼ばれた人なんです!!」

 

首を傾げる華に、優花里は興奮したままそう説明する。

 

「如何してランゼンさんが大洗に!?」

 

みほは男………『ガーバイン・ランゼン』にそう尋ねる。

 

しかし………

 

「失礼だが、人違いだ………私は『ゾルダート・ファインシュメッカー』だ。ガーバイン・ランゼンではない」

 

「!? ええっ!?」

 

自分はガーバイン・ランゼン………ではなく、『ゾルダート・ファインシュメッカー』だと名乗られ、みほは困惑する。

 

「ゾルダート・ファインシュメッカー………『食通の兵士』か」

 

それを聞いていた煌人が、その名がドイツ語で『食通の兵士』となる事を指摘する。

 

「そんな!? だって………」

 

と、優花里がそこで携帯を操作したかと思うと、何かの写真を画面に出す。

 

「ホラ! 何処から如何見てもガーバイン・ランゼンさんじゃないですか!!」

 

そう言って携帯の画面を皆に見せる様に持つ優花里。

 

そこには確かに、黒森峰歩兵隊の戦闘服を着て、髪型が違ってサングラスを掛けていないだけのゾルダート・ファインシュメッカーの姿が在った。

 

「おおっ! 確かに!!」

 

「こりゃ如何見たって………」

 

それを見た大洗機甲部隊の面々は、次々にゾルダートの事をガーバインだと思い始めたが………

 

「私はゾルダート・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

((((((((((ええ~~~~?………))))))))))

 

尚もゾルダートは、某4番目の偽名の赤い彗星の様な台詞を言って平然と白を切った。

 

最早ココまで来ると逆に清々しささせ感じる。

 

「君がガーバイン・ランゼンか、それともゾルダート・ファインシュメッカーなのかは小官等にとって然したる問題ではない。要は敵か味方か、だ」

 

するとそこで、弘樹がゾルダートに向かってそう言う。

 

「無論、私は大洗の味方だ」

 

「…………」

 

ゾルダートが即座にそう言い返すと、弘樹はそんなゾルダートの目をサングラス越しに見やる。

 

「「…………」」

 

そのまま暫し、互いの目を見やる弘樹とゾルダート。

 

「………ゾルダート・ファインシュメッカー。貴官の着任を歓迎する」

 

「感謝する」

 

やがて2人はそう言い合って、互いに握手を交わした。

 

如何やら、2人の中で何らかの決着が着いたらしい。

 

「え~と………」

 

「心強い味方が増えたね。西住くん。コレでアンツィオ&ピッツァ機甲部隊との戦いも楽になるな」

 

最早如何して良いか分からずに居たみほに、迫信がそう声を掛けた。

 

「! ハ、ハイ! そうですね」

 

「んじゃ西住ちゃん。皆に何か言ってやって」

 

みほが戸惑いながらそう返すと、杏が例によって無茶振りをする。

 

「え、ええっ!? えっと………」

 

困惑するみほだったが、既に全員の視線がみほに集まっている。

 

「あう………み、皆さん! 次も頑張りましょーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

みほは戸惑いながらも戦車部隊の皆にそう呼び掛け、戦車部隊の皆からガッツポーズと共に勇ましい声が挙がる。

 

「大洗機甲部隊! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

それに呼応するかの様に、弘樹も歩兵部隊の皆に呼び掛け、歩兵部隊の面々は万歳三唱を始めた。

 

隔して新メンバー、ゾルダート・ファインシュメッカー(ワニさん分隊に配属)を加え、大洗機甲部隊は次なる対戦相手………

 

『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』との戦いに備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた公式戦2回戦の日………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊との試合会場は、山と谷が連なる森林地帯だった。

 

現在大洗機甲部隊の面々は、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊と試合前の挨拶に入ろうとしている。

 

 

 

 

 

両チーム集合場所………

 

「キャーーーーーッ! イタリア戦車揃い踏みですよーっ!!」

 

優花里が歓喜の声を挙げる。

 

今彼女の目の前には、対戦相手であるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の戦車部隊………

 

イタリア軍が使用していた戦車達が並んでいた。

 

M13/40カルロ・アルマートが4両。

 

突撃砲セモベンテM40が2両。

 

カルロ・ベローチェCV35が3両。

 

そして、P40が1両。

 

合計10両のイタリア製の戦車隊である。

 

「全10両ものイタリア戦車! 夢の共演!!」

 

「楽しそうだな………」

 

舞い上がっている優花里を見て、白狼が呆れる様にそう言い放つ。

 

「!? ハッ!?………す、すみません………」

 

その一言で我に返った優花里が、皆に向かって謝罪する。

 

「また戦車の数はウチの倍かよ………」

 

「しかし今回はサンダース&カーネル機甲部隊の時とは違う。敵の戦車の性能はそこそこな物が多い。上手く立ち回れば然程苦戦はしないだろう」

 

地市が愚痴る様に言うと、十河が不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「だが、P40には注意を払わなくてはいけないね………アレならば十分に我が部隊の戦車を撃破出来る」

 

だが対照的に、迫信は油断無くアンツィオ戦車部隊の戦車を見渡しながらそう言う。

 

とそこで、大洗戦車部隊の方が何やら騒がしくなる。

 

「? 何だ?」

 

それに反応して、白狼が大洗戦車部隊の方を見やると………

 

「やあ、カワイ子ちゃん達。この後、お時間ある? 僕と一緒にカプチーノとか如何?」

 

「え? あ、あの………」

 

「に、西住殿! 危険です! 下がってください!!」

 

「やだも~! ナンパされちゃった~!」

 

「私、カプチーノよりもお茶の方が………」

 

「………眠い」

 

第二次世界大戦時のイタリア陸軍の戦闘服に身を包んだ男が、あんこうチームの面々をナンパしていた。

 

ナンパされているあんこうチームは、多種多様な反応を見せている。

 

「オイ! あの戦闘服って、ピッツァ歩兵部隊のじゃないか!?」

 

とそこで、了平がその男の姿を見てそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉で、大洗歩兵部隊の一同は一斉にイタリア陸軍の戦闘服を着た男へ視線を向ける。

 

「あ、君達も如何だい? 勿論僕が奢ってあげるからさぁ」

 

しかし、男はその視線に気付く様子すら見せず、大洗戦車部隊の面々へナンパを続けている。

 

と………

 

「………動くな」

 

何時の間にかその男の後ろに立って居た弘樹が、男の背にM1911A1を突き付けた。

 

「!?」

 

「両手を頭の後ろで組め。ゆっくりとだ」

 

男が固まると、弘樹はM1911A1を突き付けたまま、そう指示をする。

 

「ハ、ハイ!………」

 

男は言われた通りに、両手を頭の後ろで組む。

 

「そのまま膝立ちになれ」

 

弘樹が続けてそう言うと、男は両手を頭の後ろで組んだまま、地面に膝を着く。

 

「ゆっくりとうつ伏せに地面に寝そべるんだ」

 

そして更に、うつ伏せになる様に地面に寝かせる。

 

「…………」

 

そこで弘樹は、M1911A1を右手で何時でも撃てる様にして握りながら、男のボディチェックを行う。

 

「ちょっ!? 止めろって! そんな趣味無いぞ!」

 

「大人しくしていろ!」

 

「ヒイッ!?」

 

男は抗議の声を挙げるが、弘樹が怒鳴ると再び黙り込む。

 

やがて、弘樹は男の懐のホルスターからベレッタM1934を発見。

 

取り上げると、ベルトの後ろに挿し、もうそれ以外に武器が無い事を確認する。

 

「………所属と姓名を明らかにしろ」

 

まだM1911A1を突き付けたまま、弘樹は男に向かってそう言う。

 

「お、俺はピッツァ男子校・歩兵部隊総隊長の『ロマーノ』だ!」

 

すると男………ピッツァ男子校・歩兵部隊総隊長の『ロマーノ』はそう名乗る。

 

「隊長?………お前がか?」

 

ロマーノの自称・隊長と言う言葉を聞いて、疑いの眼差しを向ける弘樹。

 

何故歩兵部隊の総隊長と言う責任ある立場の者が、敵陣へナンパをしに来ていたのか?

 

そしてこうも簡単に無力化されている………

 

その2点で、弘樹はロマーノの言葉を信じられずに居た。

 

「ホ、ホントだってばぁっ!!」

 

「…………」

 

ロマーノは必死に訴えるが、弘樹は敵の攪乱作戦ではないかと勘繰る。

 

「本当だ。その男はピッツァ男子校・歩兵部隊総隊長だ」

 

「!!」

 

とそこで、背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹は素早く左手で刀を抜いて、地面に伏せているロマーノに突き付けると、M1911A1を声が聞こえて来た方向へ向ける!

 

そこには、ロマーノと同じ第二次世界大戦時のイタリア陸軍の戦闘服に身を包んだ、やや日本人離れしている顔立ちをした男と、彼に率いられたピッツァ歩兵部隊の姿が在った。

 

「敵意は無い。隊長を迎えに来ただけだ」

 

と、銃を向けられた男はそう言って、白旗を掲げる。

 

良く見れば、背後に控えているピッツァ歩兵部隊の面々も武装をしていない。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は油断せずにに、M1911A1の銃口を向け続ける。

 

「ふ、舩坂くん! もう良いから!」

 

とそこで、みほが見かねた様にそう声を掛ける。

 

「………総隊長の御命令とあらば」

 

その言葉で、漸く弘樹は武器を納める。

 

「フォルゴーレェッ!!」

 

途端にロマーノは起き上がり、迎えに来た人物にそう呼び掛けながら駆けて行く。

 

と………

 

「むんっ!」

 

「ぶべらぁっ!?」

 

迎えに来た男は、ロマーノを思いっきり殴りつけた!

 

「くぅぅ~~~………ぶったな!! パパにだってぶたれたこと無いのに!!」

 

「………総隊長を撤収させろ」

 

「「ハッ!!」」

 

ロマーノは初代ガ〇ダムのパイロットの様な台詞を言い放つが、男はそれを無視してピッツァ歩兵部隊にそう指示を出し、2人のピッツァ歩兵部隊員が、ロマーノを両脇から拘束して連れて行く。

 

「あ、オイ! 何するんだよ! 俺は隊長だぞ!! オイ、待てって! まだナンパしてない娘が居るのに~~っ!!」

 

煩悩丸出しな台詞を残して、ロマーノは強制的に連れて行かれたのだった。

 

「………全く持って申し訳無い」

 

それを確認すると、男は弘樹達に向かって深々と頭を下げる。

 

「苦労している様だな………ところで、君は?」

 

その男に向かって同情の台詞を言いながら、弘樹はそう問い質す。

 

「失礼、申し遅れた。私はピッツァ歩兵部隊副隊長の『フォルゴーレ』だ。今日はよろしくお願いする」

 

そう言って男………ピッツァ歩兵部隊副隊長の『フォルゴーレ』は、先程のロマーノとは全く対照的に、真面目な挨拶をする。

 

(フォルゴーレ………だと………まさか………)

 

フォルゴーレと言う名を聞いた弘樹の脳裏に、ある予感が過る。

 

と、その時………

 

「あ! 君達ひょっとしてスクールアイドル? 可愛いねぇ。如何だい? この後で僕と一緒にオンステージなんて?」

 

「如何しようか? 伊代ちゃん、優ちゃん」

 

「聖子………貴方分かってないでしょう」

 

「私達今、ナンパされてるんだよ」

 

先程ピッツァ男子校の歩兵部隊に連れて行かれた筈のロマーノが、再び現れて、今度はサンショウウオさんチームの面々をナンパしていた。

 

「! 何時の間に!?」

 

「オイ! 何をやっていた!?」

 

「スミマセン! 暴れられてその隙に!!」

 

弘樹が驚きの声を挙げ、フォルゴーレが後方に居た部下達に向かって怒鳴ると、1人の歩兵がそう報告を挙げる。

 

「あ、君達も個性的だねぇ。パスタ好きかい?」

 

その間にロマーノは、今度は歴女チームの面々へと声を掛け始める。

 

すると………

 

「ロマーノッ!?」

 

「!? ヒイイッ!? この声は………」

 

突如女性の怒声が響き渡り、ロマーノが恐る恐るその怒声が聞こえて来た方向を見やるとそこには………

 

緑色の軍服姿で同じく緑色の髪を黒いリボンでツインテールに纏め、手に教鞭を持った少女の姿が在った。

 

その米神には、怒りのマークが浮き出ている。

 

「私が居ない内に、随分と楽しそうな事をしてるじゃないか………」

 

ツインテールの少女は、教鞭を空いてる手にパシパシと叩きながらロマーノに向かって怒りを露わにしてそう言い放つ。

 

「い、嫌だなぁ~!! 総帥(ドーチェ)アンチョビ様は僕等の天使だよ!! 特にこの控えめなところが魅力的でね~~」

 

と、ロマーノは素早く少女………アンツィオ高校戦車部隊の隊長である『安斎 千代美』こと『アンチョビ』に駆け寄ると、彼女の胸の谷間に顔を埋めながら甘え始めた。

 

「!! 控えめで………悪かったなっ!!」

 

途端にアンチョビは顔を真っ赤にして、持っていた教鞭でロマーノを思いっきりシバき始めた。

 

「このスケベ! エッチ! 変態!!」

 

「ああああああ~~~~~~~っ!?」

 

次々に罵声を浴びせながら、更に教鞭でロマーノをシバくアンチョビ。

 

「あ、あの! もうその辺で………」

 

と、見かねたみほが止めようとしたが………

 

「き………」

 

「? き?」

 

「気持ち良い~~っ! もっと叩いて~!」

 

ロマーノは身をくねらせながら恍惚の表情を浮かべてそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その様に、大洗機甲部隊の面々は、3メートルほど距離を取った。

 

「変態だ………」

 

「それも真正のだ………」

 

更にヒソヒソ声が挙がる。

 

「了平と良い勝負ですね」

 

と、楓が思わずそんな事を言うと………

 

「オイ! 失礼だな!! 俺はシバかれるんなら蝋燭の方が良い!!」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

当の本人からそんな言葉が挙がり、大洗機甲部隊内での了平の株が底値を割った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後………

 

全身ズタボロの状態で放送禁止な表情を浮かべていたロマーノを、ピッツァ歩兵部隊が回収し、集合場所には大洗機甲部隊の面々と、アンツィオ戦車隊の隊長であるアンチョビ。

 

そしてその副官である『カルパッチョ』が残っていた。

 

「大変お見苦しいモノをお見せしました」

 

カルパッチョが、自軍の歩兵部隊の総隊長を見苦しいモノ呼ばわりし、大洗機甲部隊の面々に向かって謝罪する。

 

「い、いえ………アハハハハハ………」

 

それに対し、みほが反応に困った様子を見せながら、苦笑いを零す。

 

「………西住 みほだな」

 

とそこで、アンチョビがみほの事を見ながらそう言う。

 

「あ、ハイ………?」

 

突然声を掛けられ、みほは反射的に返事をする。

 

「…………」

 

そんなみほの事をジッと見据えるアンチョビ。

 

「あ、あの………」

 

みほは只々困惑する。

 

「西住 みほ………お前の戦車道は………弱いっ!!」

 

とそこで!!

 

アンチョビはみほの事を指差しながらそう言い放った!!

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

その言葉にみほは動揺し、優花里は驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

そして、弘樹もピクリと片眉を吊り上げた。

 

「私は去年の黒森峰機甲部隊の試合を見ていた。そして確信したよ………戦車道に背を向けた者に、私達は絶対に負けないとね」

 

そんな弘樹達の様子も知らず、アンチョビはみほに向かってそう言葉を続ける。

 

「覚悟しておく事だな」

 

「では………」

 

やがてアンチョビはカルパッチョと共に踵を返し、高笑いを響かせながら去って行った。

 

「…………」

 

「だ、大丈夫ですか、西住殿!?」

 

表情を曇らせていたみほに、優花里が心配そうに駆け寄る。

 

「何アイツ!? いくら何でも酷くない!?」

 

「ああ! 許せねえぜっ!!」

 

沙織と地市が怒りの声を挙げる。

 

「アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の総隊長、アンチョビ………」

 

「やー、天晴れな宣戦布告だねぇー」

 

「我々と言うよりも、西住に対してという感じでしたが………」

 

「みほちゃん、大丈夫かな?」

 

一方、生徒会メンバーの柚子、杏、桃、蛍はそんな事を言い合う。

 

他のメンバーにも、多少の動揺が走っている。

 

「チッ………総隊長………」

 

「貴様等ぁっ!! 何を呆けているっ!!」

 

と、桃がそんなみほを叱咤しようとした瞬間、日本兵モードとなった弘樹からそう怒声が飛んだ!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「奴等は我々の総隊長である西住殿を侮辱した! この蛮行を許しておけるのかぁっ!!」

 

驚く大洗機甲部隊の面々に向かって、弘樹は演説の様に更にそう言い放つ。

 

「アホ抜かせっ! これが許しておけるかいなっ!!」

 

すると、いの一番に大河がそう言い放つ。

 

「ならば我々がするべき事は何だっ!?」

 

「アンツィオとピッツァの連中に目に物見せてやる事だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで大洗歩兵部隊の面々から雄叫びが挙がる。

 

「打倒! アンツィオッ!!」

 

「「「「「「「「「「打倒! アンツィオッ!!」」」」」」」」」」

 

「打倒! ピッツァッ!!」

 

「「「「「「「「「「打倒! ピッツァッ!!」」」」」」」」」」

 

そう言いながら、各々に持った武器を天に向かって突き上げる大洗歩兵部隊の面々。

 

「大洗! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ! バンザーイッ! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そして最後には、お馴染みとなった万歳三唱が始まるのだった。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

「西住総隊長。コレは敵の心理作戦です。奴等は西住総隊長の動揺を誘い、我々の士気を乱れさせるのが目的だったのでしょう」

 

みほが弘樹に声を掛けようとした瞬間に、既に試合モードとなった弘樹がみほへそう言葉を掛けた。

 

「う、うん………そうだね。危ないところだったよ」

 

「………君の判断は間違っていない」

 

「えっ?」

 

「例え世界中の誰もが否定したとしても………小官は君の行動は正しかったと言い続ける」

 

「!!」

 

「だから………今は試合の事だけを考えるんだ」

 

弘樹はそう言うと、ヤマト式敬礼をして、とらさん分隊のメンバーが居る方向へ歩いて行った。

 

「舩坂くん………ありがとう」

 

そんな弘樹の背に、みほはそう言葉を掛ける。

 

そして、キッと表情を引き締めたかと思うと、皆に向き直る。

 

「間も無く試合開始です! 開始地点まで移動しますっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほは皆にそう呼び掛け、大洗機甲部隊の一同はスタート地点へ向かう準備を始めた。

 

「…………」

 

一方、みほを叱咤しようとしていた桃は、弘樹の行動によって掛ける言葉を失い、呆然とその場に佇んでいた。

 

「桃ちゃ~ん! 行くよ~っ!!」

 

と、そんな桃に、既に38tに乗り込んだ柚子が声を掛ける。

 

「!? ま、待ってよ、柚子ちゃ~ん!!」

 

それを聞いた桃は、慌てて38tの元へと駆けて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして10数分後………

 

遂に公式戦2回戦………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊との試合が、開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗歩兵部隊に新メンバーが加入ですが………
如何見てもトロンベの人です!
本当にありがとうございました。

そして開始されるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊との試合。
アンチョビのキャラは漫画版をベースにしていますが、試合会場はTVの方を元に設定しています。
試合内容ですが………
残念ながら、アンツィオ側は漫画版ほど活躍は出来ないかと思います。
ですが、『鬼』の存在が試合を際立たせる事になる予定です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第36話『2回戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第36話『2回戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな仲間、『ゾルダート・ファインシュメッカー』を加え、公式戦2回戦………

 

『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊』との試合に臨んだ大洗機甲部隊。

 

しかし、その総隊長である『アンチョビ』は、去年の全国大会でのみほの行動を否定する。

 

動揺を隠せなかったみほだったが、弘樹や大洗機甲部隊の皆に支えられ、落ち着きを取り戻す。

 

総隊長であるみほを侮辱したアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に………

 

怒りに燃える大洗機甲部隊の大攻勢が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会公式戦2回戦会場、山と谷が連なる森林地帯………

 

『皆さん、お待たせしました。戦車道・歩兵道全国大会2回戦。本日の対戦カードは、初戦で優勝候補の一角であったサンダース&カーネル機甲部隊を破り、早くも今大会のダークホースとして注目されている大洗機甲部隊』

 

『いや~、あの試合は本当に凄かったですよね』

 

1回戦の時と同じ様に、観客席とTV中継には、ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が届いている。

 

『今回の対戦相手はアンツィオ高校とピッツァ男子校からなるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊です』

 

『アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は調子が良い時と悪い時で成績にかなりの開きが出ますからね。今回の試合の調子が如何なのか。ある意味とても予想し難い戦いになると思いますよ』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中がそんな事を言っている中、山の山頂の方へと続いている山道を、大洗機甲部隊が隊列を組んで進んでいる。

 

「森が深いです。敵の待ち伏せに注意して下さい」

 

「各分隊、厳重警戒だ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

先頭を行って居たあんこうチームのⅣ号のキューポラから上半身を出しているみほと、その後ろのカメさんチームの38tの傍に居た迫信が、大洗機甲部隊員達にそう言い、大洗機甲部隊の面々は警戒を密にする。

 

「西住くん。敵は如何言った戦略で来ると考えるかね?」

 

とそこで、迫信がみほへそう尋ねる。

 

「あ、ハイ! 今回のフィールドは、山と谷が連なっている山脈地帯となっています」

 

みほは持っていた地図を確認しながらそう言い始める。

 

「そこで先ず、セオリー通りに見晴らしの良い高台となる場所を抑えて、そこに陣地を張ります。そして、相手の出方を窺いつつ、徐々に戦力を消耗させていきます」

 

地図の1箇所に、ペンで丸を描いてそう説明を終えるみほ。

 

「消極的な作戦だな………」

 

「正面切って戦うだけならば馬鹿にも出来る」

 

「貴様ぁっ!! 誰が馬鹿だぁっ!!」

 

「貴様以上の馬鹿が居るならお目に掛かってみたいものだな」

 

「ムキーッ!!」

 

「も、桃ちゃん、落ち着いて………」

 

桃の言葉に熾龍が毒を吐き、怒る桃を蛍が宥める。

 

「しかし、当然敵も同じ事を考えるだろうね」

 

「敵より先に高台へ着けるか………時間との勝負だな」

 

「西住総隊長。とらさん分隊分隊長、舩坂 弘樹。意見具申させて頂きたく存じます」

 

迫信と白狼がそう言い合うと、弘樹がみほにそう呼び掛けた。

 

「ハイ、どうぞ」

 

「ハッ! 偵察も兼ね、砲兵を除いた我々とらさん分隊が先行し、敵と陣地形成予定地の様子を探ります。許可を」

 

「分かりました。とらさん分隊は隊列より離脱。敵部隊と陣地形成予定地の様子を偵察して来て下さい」

 

「了解! 行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう言うと、とらさん分隊の面々が乗った車両が大洗機甲部隊の隊列から離脱。

 

そのまま先行して、敵部隊と陣地形成予定地の様子を偵察へと向かうのだった。

 

『おっと! 大洗機甲部隊からとらさん分隊が離脱して行きますね』

 

『恐らく、先行してアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の偵察を行う積りでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山と谷が連なる森林地帯・陣地形成予定地の高台………

 

「もうすぐ目標地点ですね」

 

「良し、全員停止」

 

先頭を行って居たくろがね四起の助手席で、弘樹がそう言って右手を挙げると、とらさん分隊は停止する。

 

「此処からは徒歩だ。先ず少人数で3方に分かれて、其々の地点から高台を偵察する。くれぐれも敵には注意する様に」

 

地図を取り出し、高台の様子が窺える3つの場所をとらさん分隊の面々に示しながらそう言う弘樹。

 

「楓と了平はA地点。白狼と飛彗はB地点。小官と地市はC地点。以上のメンバーで偵察を行う。他の者達は何かあった時の為に待機」

 

「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」

 

「地市、行くぞ」

 

「おう!」

 

そう言い放つと、地市と共に高台が見えるC地点に向かう弘樹。

 

「飛彗、乗れ」

 

「ありがとう、白狼」

 

白狼も、バイクの後ろに飛彗を乗せ、B地点へと向かう。

 

「アイタタタタタッ! 持病の『偵察に行ってはいけない病』が………」

 

「ホラ、行きますよ」

 

そして無茶苦茶な仮病を使って危険な偵察任務を回避しようと試みた了平が、楓に引き摺られてA地点へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高台の様子が窺えるC地点………

 

「既にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は到着していたか………」

 

茂みの中に隠れてそう言う弘樹の視線の先には、高台へ集結しつつあるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の姿が在った。

 

「思ってたより早いな」

 

「敵も1回戦を突破している。大口を叩くだけの事はあると言う事だ。舩坂よりあんこうチームへ。西住総隊長、応答願います」

 

地市にそう言うと、弘樹は通信機を手に取り、あんこうチームのみほへ通信を送る。

 

『こちらあんこう。高台の様子は如何ですか?』

 

「既にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は到着しつつあり。現在、陣地を形成する為の準備を行っている模様です」

 

『そうですか………流石に展開が早い………』

 

「まだ全部隊が集結したワケではない様です。牽制も兼ね、我々で攻撃を行う事も可能ですが………」

 

『いいえ、無理は禁物です。発見された場合を除いて、交戦は極力避けて下さい』

 

「了解しました。通信終わります」

 

みほとそう遣り取りを交わすと通信を切る弘樹。

 

「如何すんだ、弘樹?」

 

「取り敢えず、一旦後退して分隊員達と合流だ。その後、本隊に………!?」

 

と、尋ねて来た地市の方を見ながらそう答えていた瞬間!

 

弘樹は、地市の背後の方に広がっている森の中で、一瞬何かが光ったのを目撃する。

 

「? 如何し………」

 

「伏せろっ!!」

 

地市が何事かと問い質す前に、弘樹は彼の頭を掴んで、共に地面へと伏せる。

 

直後に銃声が鳴り響き、先程まで地市の頭が有った位置を、銃弾が通り抜けて行った!!

 

「!? うおっ!?」

 

「狙撃だ! 遮蔽物に身を隠せっ!!」

 

驚きながらも、地市と弘樹は木陰へと身を隠す。

 

直後に、2人が隠れている木の幹に、次々と銃痕が刻まれる!

 

「クソッ! 待ち伏せかっ!?」

 

「煙幕手榴弾を投げる。合図したら一気に走れ」

 

愚痴る様に地市が叫ぶ中、弘樹が煙幕手榴弾を手に握る。

 

「………! 今だっ!!」

 

「クウッ!」

 

そして、狙撃が一瞬止まった瞬間に煙幕手榴弾を投擲し、同時に地市が走り出す。

 

投げられた煙幕手榴弾が地面に落ちると同時に破裂し、煙が辺りを覆い尽くす。

 

「…………」

 

直後に、弘樹もその煙に紛れて退散するのだった。

 

『あ~っと! 偵察に出ていたとらさん分隊の隊員達が発見されてしまった様です!』

 

『小規模で活動していましたからねぇ。上手く逃げ切れるでしょうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その狙撃を行っていた地点では………

 

「チイッ! 煙幕か! 小賢しい真似しやがって………」

 

「焦るなって。出鼻は挫いてやったんだ。コレからジワジワと追い詰めようじゃないか」

 

煙幕で狙撃不可能となり、苛立った声を挙げるピッツァ歩兵部隊の狙撃兵『ボンコ』に、傍に居たロマーノがそう言い放つ。

 

『此方マルガリータ。B地点でも敵兵を2名発見』

 

『こちらA地点のガルファロ。此方も敵兵を2名発見。逃走を開始しており現在追跡中』

 

するとそこで、B地点とA地点でも大洗歩兵隊のメンバーを発見したとの報告が、通信機から聞こえて来る。

 

「良し、そのまま追撃を続けろ。但し、他の連中を引き寄せてから撃破しろ」

 

『『了解っ!!』』

 

ロマーノがそう命じると、通信先の相手は返事を返し、通信回線を切った。

 

「フッフッフッ、見てろよ、大洗め………このアンツィオ&ピッツァ機甲部隊のスーパーエースであるロマーノ様をコケにした報いは受けてもらうぜ」

 

試合前に返してもらったベレッタM1934をガンスピンさせながら、恨みがましくそう言うロマーノ。

 

「…………」

 

そんなロマーノの背後で、フォルゴーレが渋い面をしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、発見された弘樹達は………

 

「チキショウッ! いきなり見つかるなんて、ツイてねえなぁっ!!」

 

「…………」

 

愚痴る様にそんな事を言いながら必死に走る地市と、時折振り返り、追撃して来ているピッツァ歩兵隊に向かって九九式短小銃を発砲している弘樹。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

九九式短小銃から放たれた7.7mm弾が頭に当り、仰け反る様に倒れる者が出るピッツァ歩兵部隊。

 

しかし、それでも追撃の手を緩めない。

 

「ええい、しつけぇ連中だっ!」

 

と、地市がそう言い放った瞬間………

 

「お助けぇーっ!!」

 

情けない悲鳴と共に、左側の茂みの中から了平が飛び出して来た。

 

「!? 了平か!?」

 

「弘樹!? やった! 助か………ってねえよっ!!」

 

弘樹の姿を見て、一瞬安堵の表情を浮かべたかに見えた了平だったが、その背後にピッツァ歩兵部隊の姿を見てそう叫ぶ。

 

「すみません! 発見されましたっ!!」

 

その直後に、そう言う台詞と共に楓が姿を見せ、その背後には弘樹達と同じ様に追撃して来ていたピッツァ歩兵部隊の姿が在った。

 

「そっちもかよ!!」

 

「兎に角撤退だ! 急げっ!!」

 

再び愚痴る様に言う地市にそう言い放ち、4人となった弘樹達はピッツァ歩兵部隊から逃げ回る。

 

その時………

 

「!? 伏せろっ!!」

 

「「「!?」」」

 

弘樹が何かを感じ取ってそう叫び、地市達は即座にその場に伏せた!

 

直後に、弘樹達が撤退しようとしていた進路先の地面が爆音と共に炸裂した!!

 

「!!………」

 

弘樹は即座に、伏せたまま背後を確認する。

 

「チイッ! 外したかっ!! 次弾装填、急げっ!!」

 

そこには、新たな歩兵部隊と共に、イタリア製の装甲車・AB41のバリエーションであるCannone da 47/32 su Autoblinda 42が姿を見せた。

 

そのオープントップの戦闘室では、追撃部隊の指揮官と思わしきピッツァ歩兵部隊員が、47mm砲の次弾装填指示を出している。

 

「装甲車か………」

 

「野郎っ!!」

 

そこで、地市が反撃しようと、M9A1・60mmバズーカを構えるが………

 

「フォーコッ(撃て)!!」

 

その前に次弾装填が完了し、再びCannone da 47/32 su Autoblinda 42から47mm砲弾が発射される!

 

「!?」

 

「地市ぃっ!!」

 

驚いて固まってしまった地市の腕を弘樹が掴み、無理矢理地面に引き倒す!!

 

直後に47mm砲弾が大木の幹に直撃し、幹を吹き飛ばしてそのまま大木を倒した!

 

「ス、スマネェ、弘樹!」

 

「!………」

 

助けられた事を謝る地市の言葉もそこそこに、弘樹は牽制にとCannone da 47/32 su Autoblinda 42に向かって発砲する。

 

しかし、小銃弾で装甲車を如何にか出来る筈も無く、弾丸は装甲に跳ね返って少し火花を散らしただけだった。

 

「撤退急げっ!」

 

続け様に弘樹はそう言い、九九式手榴弾を投擲する。

 

追撃して来ているピッツァ歩兵部隊の眼前に落ちた手榴弾が爆発し、ピッツァ歩兵部隊の進行を一時的に停止させる。

 

「そら、今の内だ! スタコラサッサーッ!!」

 

「ホント、逃げ足だけは早いですね………」

 

即座に駆け出す了平と、そんな了平の姿を見て呆れる楓が続く。

 

続いて地市が撤退し、弘樹が殿を務めて撤退を再開する。

 

「逃がすなぁっ! 追えぇっ!!」

 

Cannone da 47/32 su Autoblinda 42に乗って居る指揮官がそう指示すると、ピッツァ歩兵部隊員達は弘樹達に追撃を再開する。

 

「ん?………」

 

するとそこで弘樹は、ピッツァ歩兵部隊の追撃再開のタイミングに違和感を抱く。

 

「舩坂さん! 急いで分隊の皆さんと合流しましょうっ!!」

 

「あと西住ちゃん達にも応援要請だ! 戦車でアイツ等を蹴散らして貰おう!!」

 

撤退しながら、弘樹に向かってそう意見具申する楓と了平。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は黙りこくる。

 

「弘樹!? 如何したんだっ!?」

 

地市が、その様子に首を傾げながらも撤退する足を止めずにそう問い質す。

 

と、その時………

 

「退け退けっ!!」

 

そう言う声と共に、弘樹達の横から1台のバイクが、茂みを突き破る様にして飛び出して来たっ!!

 

「!?」

 

「うおおおっ!?」

 

「アブネっ!?」

 

「わわっ!?」

 

驚いて足が止まる弘樹達。

 

「ああ!? んだよ、お前等も追われてんのか!?」

 

「すみません! 見つかってしまいました!」

 

そこで、バイクに乗って居た人物、白狼と飛彗がそう言って来る。

 

「神狩! 宮藤!」

 

「お前達も追われてんのかよぉ!! クソーッ! 最悪だーっ!!」

 

地市が声を挙げると、了平がそう叫ぶ。

 

とそこで、追撃して来たピッツァ歩兵隊が放った弾丸が、弘樹達の足元に命中して甲高い音を立てる。

 

「! チイッ!!」

 

弘樹が反撃とばかりに、一旦足を止めて、九九式短小銃を発砲する。

 

「うおっ!?」

 

「ミートス!? このぉっ!!」

 

ピッツァ歩兵の1人が頭に直撃を貰い、戦死判定を受け、それを見た別のピィツァ歩兵が、弘樹に向かってTZ-45短機関銃を発砲!

 

「!?」

 

咄嗟にその場に伏せる弘樹。

 

目の前の地面に9mmパラベラム弾が次々に着弾し、土片を上げる。

 

「弘樹! 何やってんだ、逃げろっ!!」

 

撤退を続けていた為、やや距離が離れた弘樹に向かって、地市がそう叫ぶ。

 

「クッ………?」

 

そこで立ち上がろうとした弘樹は、ピッツァ歩兵部隊の面々が足を止めているのに気付く。

 

「…………」

 

そして、弘樹が地市達を追う様に動き始めたかと思うと、再び追撃を始めた。

 

「………やはりか」

 

「何がだよ、弘樹ぃ! うわぁーっ! もう駄目だぁっ!!」

 

何かに気付いた様に呟く弘樹に、了平が喚く。

 

「お前も気づいたか、舩坂」

 

と、先行していた白狼が、バイクのスピードを落として、弘樹に隣に並ぶとそう言って来た。

 

「ああ………奴等はワザと追い付かない様に追い掛けて来ている」

 

「? 如何言う事ですか?」

 

弘樹がそう言うと、楓が如何言う事かと尋ねる。

 

「さっきから誰かが足を止めると奴等も足を止めている。恐らく、我々を本隊と合流させた後に反転し、撤退したと見せかけて自分達の部隊が居る場所まで誘導する積りなんだろう」

 

そう推察を述べる弘樹。

 

「敵の狙いは俺達の本隊か!?」

 

「如何しますか?」

 

地市がそう声を挙げると、飛彗が弘樹にそう問う。

 

「奴等の思惑通りには行かんと言う事を教えてやる………奴等は我々で排除するぞ」

 

「うえぇっ!? 冗談だろぉっ!?」

 

「小官は冗談が苦手だ。知っているだろう」

 

何を馬鹿な事を言う様な台詞を言う了平に、弘樹は仏頂面でそう返す。

 

「んなこと言ったって、相手は50人くらい居るだぞっ!?」

 

「西住総隊長がいつも言っているだろう。ようは戦術と腕だ」

 

「面白れぇ………一丁やってやるか!」

 

尻込みする了平だったが、そこで地市が弘樹の案に乗る。

 

「良いぜ。逃げ回るだけってのは癪だからな」

 

「僕も賛成です」

 

「やりますか」

 

続いて、白狼、飛彗、楓が賛同する。

 

「オイオイ! お前等、マジかよっ!?」

 

「了平! 腹くくれ!!」

 

「チキショーッ!!」

 

了平も、地市にそう言われて、無理矢理覚悟を決める。

 

「良し、では作戦は………」

 

『おっと! 追われていたとらさん分隊の面々ですが、何かを思いついた様です』

 

『何を見せてくれるんでしょうね。楽しみですね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、弘樹達がそんな事を話し合っているとは露知らず、追撃しているピッツァ歩兵部隊は………

 

「ハハハハ! 逃げろ逃げろ!!」

 

「本隊と合流したところで誘き寄せて、一気に殲滅してやるぜっ!!」

 

弘樹達が逃げの一手なのに気を良くし、愉快そうに笑いながらそんな事を言い放つ。

 

「オイ、大声を出すな! 作戦が聞こえたら如何するんだ!?」

 

そんなピッツァ歩兵達を、追撃部隊指揮官が嗜める。

 

と………

 

「オイ、アイツ等、分かれたぞっ!!」

 

ピッツァ歩兵部隊の偵察兵の1人がそう声を挙げ、追撃していたピッツァ歩兵部隊員達が弘樹達の姿を見やると………

 

その報告通り、弘樹、地市、楓と、白狼、飛彗、了平の2手に分かれていた。

 

「ぬうっ、面倒な事を………此方も2手に分かれるぞ! 合流させて全員本隊の所まで行かせるんだ!」

 

追撃部隊指揮官はそう命じ、ピッツァ歩兵部隊の追撃部隊も2手に分かれる。

 

追撃部隊指揮官が乗るCannone da 47/32 su Autoblinda 42は、弘樹が居る方を追撃する。

 

「コッチに来たか」

 

「では、手筈通りにやるぞ………楓」

 

「ハイ、行きますっ!」

 

と、ある程度引き付けたかと思うと、弘樹と楓が立ち止まり、追撃部隊の方を振り返って九九式短小銃と九九式軽機関銃を構える。

 

「撃てぇっ!!」

 

「!!」

 

そして、追撃部隊目掛けて弾幕を張り始めた。

 

「うおっ!?」

 

「また撃って着やがった!!」

 

「野郎っ!!」

 

追撃部隊のピッツァ歩兵部隊は、反撃を開始する。

 

「クッ!」

 

「怯むな! 撃ち返せっ!!」

 

至近距離を銃弾が掠めて行き、楓が思わず声を漏らすが、弘樹は眉1つ動かさずに射撃を続ける。

 

「何だアイツ等? あんな所に居座って?」

 

「此方の作戦に気付いたのか?」

 

「構わん。もっと銃撃を浴びせて撤退させろ」

 

ピッツァ歩兵部隊員が疑問の声を挙げるが、追撃部隊指揮官はそう命じる。

 

「! 楓! 援護を頼むっ!!」

 

とそこで、弘樹は九九式短小銃に銃剣を着剣。

 

そして、楓の返事も聞かずに、追撃部隊目掛けて突撃した!!

 

「!!」

 

楓は驚きながらもすぐに弘樹の援護を開始する。

 

「なっ!? 突っ込んで来るぞっ!?」

 

「馬鹿なっ!? 何でこんなタイミングで突撃して来るんだよっ!?」

 

突如として銃剣突撃を敢行した弘樹に、ピッツァ歩兵部隊は動揺を見せる。

 

「せやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そんな動揺の隙を突き、弘樹は一気にピッツァ歩兵部隊に肉薄すると、その隊員の1人に銃剣を突き刺した!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

銃剣の突きを喰らったピッツァ歩兵は倒れ、戦死の判定が下る。

 

「サイゼリアっ!?」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

益々ピッツァ歩兵部隊が動揺する中、弘樹は着剣した九九式短小銃を右手に握ったまま、左手を刀を持ち、二刀流となる!

 

「セイヤァーッ!!」

 

「ぐああああっ!?」

 

「でりゃあああっ!?」

 

「ガハッ!?」

 

そのまま着剣した九九式短小銃で突き、刀で斬撃を繰り出し、次々にピッツァ歩兵部隊の隊員達を戦死判定にさせて行く弘樹!

 

「さ、侍!?」

 

「コイツは侍だ! 間違い無い!!」

 

「こんなんに敵うワケないだろーっ!!」

 

途端に混乱し、士気崩壊までもが始まるピッツァ歩兵部隊。

 

「落ち着けっ! 落ち着くんだっ!! オノレェッ!!」

 

そこでCannone da 47/32 su Autoblinda 42に乗って居た追撃部隊指揮官が、47ミリ砲を弘樹に向ける。

 

と、その時っ!!

 

「貰ったぁっ!!」

 

Cannone da 47/32 su Autoblinda 42の後方の方に、M9A1バズーカを構えた地市が突然現れ、Cannone da 47/32 su Autoblinda 42目掛けて、バズーカからロケット弾を発射した!!

 

「!? な………」

 

に、と言う間に、ロケット弾はCannone da 47/32 su Autoblinda 42を直撃!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

Cannone da 47/32 su Autoblinda 42は大破・炎上し、戦闘室に居た追撃部隊指揮官も爆発で投げ出されて地面に転がる。

 

程なくして、戦死の判定が下った。

 

「指揮官殿!?」

 

「指揮官殿がやられた!! 誰か! 代わりに指揮をっ!!」

 

「でりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

指揮官がやられ、混乱するピッツァ歩兵部隊を、次々に弘樹が斬り伏せる!!

 

「うわぁっ!?」

 

「か、固まれぇっ! 固まって防御するんだっ!!」

 

咄嗟に1箇所に集まり、互いを庇い合う様にして守りを固めようとするピッツァ歩兵部隊員達。

 

しかし、彼等はある事を失念していた………

 

「!………」

 

ピッツァ歩兵部隊員達が固まっているのを見た弘樹は、即座に九九式手榴弾を投擲する。

 

「!? て、手榴弾っ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

慌てるピッツァ歩兵隊員達だったが、時既に遅し!

 

直後にピッツァ歩兵部隊員達の足元へと転がった手榴弾は爆発!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

即座に爆風と飛び散った破片で、ピッツァ歩兵部隊員達は全員吹き飛ばされ、戦死と判定された!!

 

「やったぜ! 一網打尽だ!!」

 

「流石ですね、舩坂さん」

 

ピッツァ歩兵部隊員達が全滅したのを確認した地市と楓が、弘樹の元へ駆け寄る。

 

「ああ、上手く行った………」

 

弘樹は短くそう返し、刀を納刀し、銃剣を外す。

 

「おうっ! そっちも終わったか?」

 

「コッチも何とかなりましたよ」

 

とそこで、バイクに乗った白狼と飛彗が合流して来る。

 

「ぜえ………ぜえ………乗せてくれよぉ………」

 

やや遅れて、1人歩かされた了平が、息を切らせて現れる。

 

「そっちも大丈夫だったか?」

 

「ああ、追って来ていた連中は全滅させたぜ」

 

「装甲車が居なかったから案外楽でしたよ」

 

弘樹がそう尋ねると、白狼と飛彗がそう返す。

 

「へ、へへへ! この綿貫 了平様に掛かればザッとこんなもんよ!!」

 

「お前どうせ矢鱈めったら撃ち捲ってただけだろ」

 

ドヤ顔をする了平に、地市がそうツッコミを入れる。

 

「良し、一旦分隊の元へ戻るぞ。然る後に本隊と合流。偵察結果を報告して作戦を立てるぞ」

 

そこで弘樹がそう仕切り、一同は分隊員達の元へと戻るのだった。

 

『やりました! とらさん分隊、見事ピッツァ歩兵部隊の追撃部隊を撃破しました!』

 

『こうなるとアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は作戦の転換を迫られますね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山と谷が連なる森林地帯・陣地形成予定地の高台………

 

「追撃部隊が全滅しただとっ!?」

 

ロマーノが報告を受けて驚きの声を挙げる。

 

「ハ、ハイッ! その様子かと………」

 

「馬鹿な!? 囮の部隊とは言え、50人は居たんだぞ! 装甲車も入れていた! それがたった6人の歩兵に全滅させられただと!? 有り得ないだろ!!」

 

「隊長(カピタン)。信じられないでしょうが現実です。作戦を練り直す必要があると考えますが………」

 

喚くロマーノに、フォルゴーレがそう言い放つ。

 

「分かっているっ! クソッ! 弱小部隊のくせして………今に見ていろ!」

 

しかしロマーノは怒りが納まらない様子でそう言い放ち、作戦の練り直しに掛かる。

 

「…………」

 

そんなロマーノを、フォルゴーレは険しい顔をして見やっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊との試合の幕開け。
先ずは両者出方を窺っての小競り合いでしたが、次回で一気に形成が大洗に傾きます。
一体どうなるのかはお楽しみです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第37話『攻勢に出ます!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第37話『攻勢に出ます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に開始された全国大会2回戦………

 

大洗機甲部隊VSアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の試合。

 

とらさん分隊の中から、弘樹達が先んじて偵察に出ると、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は既に優位を取れる高台を抑えていた。

 

一旦本隊の元へ引き返そうとした弘樹達に、待ち伏せしていたピッツァ歩兵部隊が襲い掛かったが、弘樹達はコレを撃退。

 

すぐに分隊員達と合流すると、本隊へと帰投するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、2回戦の会場………

 

大洗機甲部隊サイド………

 

「西住総隊長。とらさん分隊、只今帰投しました」

 

帰投したとらさん分隊の中で、弘樹がⅣ号のキューポラから上半身を出していたみほに向かってヤマト式敬礼をしながらそう報告する。

 

「お疲れ様です。皆大丈夫でしたか?」

 

「ハッ、途中敵の追撃を受けましたが、コレを撃退。全員無事で帰投しました」

 

「そう、良かった………」

 

全員無事と言う報告を聞いて、みほが安堵の表情を浮かべる。

 

「オイ、安心している場合か。高台を敵に抑えられたんだぞ。如何するんだ?」

 

しかしそこで、桃がそう水を差す様に言って来る。

 

「あ、ハイ。作戦を変更しますね」

 

するとみほは、地図を取り出して、新たな作戦を考え始める。

 

「大丈夫なんだろうな?」

 

「自信満々で作戦立案して於いて、味方を誤射して露呈させた奴が立てるよりは信頼出来る………」

 

「オイ! 貴様それは私の事かぁっ!?」

 

「自覚していなかったのか? 心底救い様の無いガラクタだな」

 

「何いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

そしてその傍で、いつもの桃と熾龍の遣り取りが開始されるのだった。

 

「敵の攻撃の要はフラッグ車でもあるP40です。恐らく、高所からコチラをスナイピングしてくる作戦で来るでしょう」

 

「P40………カタログスペックを見る限り、当時の重戦車としては余り良い性能ではないが、ウチにとっては脅威に変わりは無いな」

 

みほがアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の戦略をそう予想すると、指揮車の煌人がP40のスペックデータを見ながらそう言って来る。

 

「如何するの? みぽりん」

 

「………高台を取られた場合の作戦を取ります」

 

沙織がそう尋ねると、みほは地図から目を離し、顔を上げながらそう言う。

 

「各戦車チームの皆さん。コレより、歩兵部隊と分かれて行動します」

 

『えっ?』

 

『歩兵部隊と分かれて………ですか?』

 

みほがそう指示を出すと、ウサギさんチームのあやと梓が疑問の声を挙げる。

 

「ハイ。戦車部隊で高台に陣取っているアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に攻撃を仕掛けます」

 

『総隊長、それは………』

 

その言葉を聞いたエルヴィンが危険だと言おうとしたが………

 

「ですが、この攻撃は飽く迄敵の目を戦車部隊へと向かわせる陽動です。その間に歩兵部隊の皆さんは、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の背後を取って下さい」

 

「西住総隊長。背後を取れと言っても、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は急な崖を背にしているんだぞ」

 

十河が、みほの言葉にそう反論する。

 

「………成程」

 

しかし、弘樹が何かに気付いた様にそう呟く。

 

「弘樹? 何か分かったのか?」

 

「………『一ノ谷の戦い』だ」

 

地市が尋ねて来ると、弘樹はそう返す。

 

『おお! 源平合戦か!!』

 

それを聞いていた左衛門佐がそう口を挟んで来る。

 

「一ノ谷の戦い?」

 

「一体何なんだ?」

 

しかし、分からぬ者達は首を傾げるばかりだった。

 

『さて、偵察に出ていた分隊が帰投した大洗機甲部隊。ココから如何出るのでしょうか?』

 

『ん~、何か作戦が有るみたいですね。一体何でしょう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

高台に陣取ったアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は………

 

「総帥(ドゥーチェ)! パスタが茹で上がりました!!」

 

「うむ!」

 

「隊長(カピタン)! ピッツァも焼き上がりましたよ!」

 

「待ってました!」

 

パスタを茹で、ピザを焼きと、完全に食事タイムに入っていた。

 

「総帥(ドゥーチェ)、ノンビリ食事などしていて良いのですか?」

 

「隊長(カピタン)、少々気を抜き過ぎではありませんか?」

 

カルパッチョとフォルゴーレがそう言うが………

 

「心配するな。言っただろう。我々は絶対に負けんとな」

 

「腹が減っては戦が出来ぬだ。兎に角、今は食う事に集中しようぜ」

 

アンチョビとロマーノはそう返し、パスタとピザを食し続ける。

 

「総帥(ドゥーチェ)………ハア~………」

 

そんなアンチョビ達の姿を見ながら、カルパッチョが重々しい溜息を吐く。

 

「全く………オイ、見張り要員。異常は無いか?」

 

フォルゴーレも呆れながら、見張りをしているピッツァの隊員にそう尋ねる。

 

「やっぱパスタはペペロンチーノだぜ」

 

しかし、その見張り要員は任務をそっちのけで、パスタを啜っていた。

 

「オイ! 何をしている! 見張りをしろっ!!」

 

そんな見張り要員の姿を見て、フォルゴーレが怒鳴る。

 

「うわっ!? す、すみません、副隊長」

 

「大丈夫っすよ、副隊長。コッチは有利な高台を抑えてるんすよ。大洗の連中も馬鹿正直に真正面から攻めて来るなんて真似は………」

 

ペペロンチーノを啜っていた見張り要員が謝り、別の見張り要員がそう言いかけた瞬間!!

 

風切り音がして、砲弾がアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の陣地の中に着弾した!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

「な、何だぁっ!?」

 

突然の事態に大慌てになるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々。

 

「!?」

 

そんな中、フォルゴーレが高台の下を見下ろす。

 

そこには、主砲の仰角を最大に上げて、自分達の陣地へ砲弾を撃ち込んでいる大洗戦車部隊の姿が在った。

 

仰角が取れない車両の中には、地面に穴を掘って、そこに潜る様にして無理矢理砲身を上げている車両も在る。

 

「! 隊長(カピタン)! 敵襲です! 大洗の戦車部隊が!!」

 

すぐにロマーノに向かってそう報告するフォルゴーレだったが………

 

「おお、神よぉっ! お助け下さい~っ!!」

 

「「「「「「「「「「神様~っ!!」」」」」」」」」

 

ロマーノはピッツァ歩兵部隊の面々と共に地面にひれ伏し、祈りを捧げていた。

 

「隊長(カピタン)! 祈っている暇が有ったら反撃して下さいっ!!」

 

「退け退けぇっ!!」

 

と、フォルゴーレの怒声が飛ぶ中、アンチョビの乗ったフラッグ車でもあるP40が、高台の縁まで進む。

 

「舐めた真似をしてくれたなぁっ! お蔭で折角のパスタが台無しだっ!! このお礼はたっぷりとさせてもらうぞっ!! フォーコッ(撃て)!!」

 

そして、主砲の仰角を下げると、大洗戦車部隊目掛けて砲撃を行う。

 

P40から放たれた砲弾は、38tの至近に着弾し、大きく土片を舞い上がらせる。

 

しかし、大洗戦車部隊は怯まずに砲撃を続ける。

 

「全車両! 大洗の戦車部隊を狙い撃てぇっ!!」

 

と、アンチョビがそう指示を飛ばすと、アンツィオ戦車部隊が次々に高台の縁まで進み、大洗の戦車部隊目掛けて、上から砲撃を見舞う。

 

「! 砲兵隊! コチラも砲を崖に配置しろっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

漸く落ち着いた様子のロマーノもそう言い放ち、ピッツァ歩兵部隊の砲兵部隊も、野戦砲や対戦車砲を高台の縁へと配置し始める。

 

上からの狙い撃ちに、大洗戦車部隊は苦戦を強いられる。

 

だが、それでも撤退しようとはせずに、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の陣地に、砲撃を撃ち込み続ける。

 

「アイツ等全然逃げないぞ?」

 

「馬鹿じゃないのか? 上から撃ってるコッチの方が遥かに有利だってのよぉ!!」

 

自分達が圧倒的に優位に立っている事で、調子に乗り始めるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々。

 

「隊長(カピタン)、何かの罠の可能性があります。念の為に警戒を………」

 

「その必要は無い! このままフラッグ車を撃破すれば我々の勝ちだ!」

 

1人その様子を不審に思ったフォルゴーレが、ロマーノにそう言うが、ロマーノは攻撃続行の指示を出す。

 

「しかし!………」

 

「諄いぞ、フォルゴーレ! 我々は高台に居て、左右の見通しは良い。背後はほぼ断崖絶壁で敵は攻めて来れない! 我々が圧倒的優勢なのだ!!」

 

「その通り! このまま一気に押し潰しちゃおうっ!!」

 

食い下がるフォルゴーレにロマーノはそう怒鳴り返すと、P40の操縦手である『ペパロニ』もそう同意して来る。

 

「西住 みほ………如何やら貴様は私が思っていた以上に愚か者だった様だな。ならば! ココで完全に葬り去ってくれるわぁっ!! 全部隊! 撃って撃って撃ちまくれっ!!」

 

アンチョビも、みほが完全に下策を取って来たと思い、砲撃指示を継続させる。

 

(おかしい………大洗の連中は何を考えているのだ? 正面切って戦えば自分達が負ける事ぐらい想像出来る筈だ………)

 

只1人、フォルゴーレだが一抹の不安を感じていたのだった。

 

『おおっと、大洗戦車部隊が正面からアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に仕掛けてますね』

 

『いや、コレは陽動です。見て下さい。アンツィオ&ピッツァ機甲部隊が陣取っている高台の背後の崖の上を』

 

と、ヒートマン佐々木とDJ田中はそんな実況を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その実況の内容にあった………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊が背にしている断崖絶壁に近い崖の上にて………

 

「良し………作戦通り、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の目は完全に戦車部隊に向いている。今がチャンスだ」

 

その崖の上に陣取っていた大洗歩兵部隊の中で、崖の縁に立っていた弘樹が、眼下で大洗戦車部隊を攻撃しているアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を見ながらそう言う。

 

「なあ、オイ、弘樹………本当にやる気かよ?」

 

と、傍に居た了平が、青褪めた表情で弘樹にそう尋ねる。

 

「当たり前だ。西住総隊長達が注意を惹き付けてくれている今が好機なのだぞ」

 

「けどよぉ………やっぱ無理だって………この崖を降りるだなんて………」

 

崖の下を覗き込みながらそう呟く了平。

 

そう………

 

大洗歩兵部隊の面々は………

 

何とこの断崖絶壁を下り、大洗戦車部隊に注意が向いているアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を背後から奇襲する作戦の様だ。

 

しかし、崖の傾斜は45度を超えており、最早壁である。

 

「危険が危ないぜ、こりゃ」

 

「危険を冒す者が勝利する………」

 

まだビビっている了平に、大詔が九九式軽機関銃を構えながらそう言い放つ。

 

「SASのモットーだね」

 

それを聞いていた迫信がそうコメントする。

 

「で、でもよぉ………」

 

「ゴチャゴチャ言ってんやないで! もう此処まで来たんや! 後は運を天に任せて突っ込むだけや!!」

 

尚もビビる了平に、大河の一喝が飛ぶ。

 

「では、先陣は私が切らせていただこう」

 

「何っ?………」

 

「駆けろ! シュトゥルムッ!!」

 

とそこで、ゾルダートがそう言い放ち、愛馬シュトゥルムと共に、1番に断崖絶壁の崖を駆け下り始めた!!

 

「うおおっ!? 行きやがったっ!?」

 

「スゲェッ! 正に源平合戦の一ノ谷の戦いだぜ!!」

 

巧みにシュトゥルムを操り、僅かな足場を飛び石を飛ぶ様にしてみるみる間に崖を下り降りて行くゾルダートの姿に大洗歩兵部隊の中から歓声が挙がる。

 

「野郎………負けられねえなぁっ!!」

 

すると続いて、負けず嫌いな白狼が、バイクで崖を下り始めたっ!!

 

「白狼っ!?」

 

「へっ! こんなモン! オフロードバイクのスタントに比べりゃ何て事ないぜっ!!」

 

飛彗が驚きの声を挙げる中、白狼は急勾配でスピードが上がっているにも関わらず、これまた巧みなテクニックで崖を下って行く。

 

「よおし! 我々も行くぞっ!! ラッパを吹けぇっ!!」

 

「了解っ!!」

 

そこで弘樹がそう言い放つと、とらさん分隊員の1人がラッパを取り出し、突撃ラッパを奏でる。

 

「いざ! 突撃いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

九九式短小銃に着剣し、先頭に立って突撃した弘樹に続いて、大洗歩兵部隊のメンバーは一斉に断崖絶壁と言って良い崖を駆け下りて行ったのだった。

 

『ああーっと! 大洗歩兵部隊! 何と断崖絶壁を下り降りての奇襲攻撃だぁっ!!』

 

『いや~、凄いですね。まるで源平合戦の一ノ谷ですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大洗戦車部隊は………

 

「キャアッ!?」

 

Ⅳ号の至近距離に砲弾が着弾し、車内に走った振動に沙織が悲鳴を挙げる。

 

「もうそろそろ持ち堪えるのも限界だぞ」

 

巧みな操縦でアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の攻撃を避けていた麻子が、他人事の様にそう言う。

 

「みほさん! 一旦後退しましょうっ!!」

 

「いえ! まだです!!」

 

後退しようと進言する華にそう返すみほ。

 

「あともう少し! 敵の注意を惹き付けます!!」

 

『こちらウサギさんチーム! もう無理ですぅっ!!』

 

『くうっ! 只でさえ仰角が取れない砲だと言うのに………』

 

『もう駄目だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』

 

そう言うみほだったが、通信回線には梓とエルヴィンの苦い声に加え、桃の絶望し切った悲鳴が響き渡る。

 

その間にも、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の攻撃は激しさを増す。

 

「総帥(ドゥーチェ)アンチョビ! もうそろそろ終わりにしてやろうぜ!! いい加減帰りたいしな!!」

 

「そうだな………遊びはココまでだ。全部隊、大洗のフラッグ車を狙え」

 

そこでロマーノがケリを着けようと言い、アンチョビの命令でアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は、一斉に大洗のフラッグ車………カバさんチームのⅢ突に狙いを定める。

 

『!? マズイ! 狙われているぞっ!!』

 

『総隊長っ!!』

 

「!?」

 

カエサルとエルヴィンの声が通信回線に響くと、みほの表情に焦りが浮かぶ。

 

「終わりだ、大洗! そして西住 みほ! 全部隊、攻げ………」

 

と、アンチョビの命令が下されようとしたその瞬間!!

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の背後上方の方から、突撃ラッパの音色が聞こえて来た。

 

「? 何だ?」

 

「ラッパ?」

 

振り返ったアンチョビとロマーノ、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊が見たモノは………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

断崖絶壁を勢い良く駆け下りて来る、大洗歩兵部隊の姿だった。

 

「なあっ!?」

 

「て、敵襲ーっ!?」

 

「お、大洗の歩兵部隊が! 空から降って来たーっ!?」

 

有り得ない場所からの奇襲に、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は浮足立つ。

 

「シュトゥルムよ! 今が駆け抜ける時っ!!」

 

と、先陣を切っていたゾルダートが1番に仕掛けた!

 

愛馬シュトゥルムと共に、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の中を駆け巡る!!

 

「ぐああっ!?」

 

「う、馬っ!?………!? ギャアアッ!?」

 

まさかの騎兵に、ピィツァ歩兵隊員達は驚き、次々に跳ね飛ばされて行く。

 

「クッ! このぉっ!!」

 

と、1両のカルロ・ベローチェCV35が旋回し、ブレダM38車載重機関銃を発砲するが………

 

「フッ………」

 

ゾルダートが一笑したかと思うと、その姿がシュトゥルム諸共忽然と消えた!

 

「!? き、消えたっ!?………!? キャアッ!?」

 

カルロ・ベローチェCV35の乗員が驚いていると、車体に振動が走る。

 

何と、消えたと思われていたゾルダートが、シュトゥルムごとカルロ・ベローチェCV35の上に着地して来たのである。

 

「覚悟して頂く」

 

そう言い放ち、腰のベルトに下げていた吸着地雷を手に取り、下に落とすゾルダート。

 

吸着地雷がカルロ・ベローチェCV35の上部に張り付いたかと思うと、ゾルダートはバッとシュトゥルムと共に離脱する。

 

直後に吸着地雷が爆発。

 

装甲の薄いカルロ・ベローチェCV35が耐えられる筈も無く、撃破を示す白旗が上がった。

 

「クソッ! 先越されたか! だったら俺の獲物はアイツだ!!」

 

先に戦果を挙げられた事に対抗心を燃やした白狼が、アクセルを吹かすと、近場に居たセモベンテM40へと向かう。

 

「やらせるか!」

 

「調子に乗るなよっ!!」

 

しかし、そうはさせないとピッツァの歩兵達がその前に展開する。

 

「ちょっと!? 退いて! 撃てないよっ!!」

 

だが、それは結果的にセモベンテM40の砲撃を邪魔する事になってしまう。

 

「そらよっ!!」

 

と、白狼はそのセモベンテM40の前に展開したピッツァ歩兵達の前でバイクを思いっきり反転させる様に回転させたかと思うと、砂と土片を舞い上げさせた!

 

「うわっぷっ!?」

 

「目が!? 目がぁっ!?」

 

砂と土片が目に入り、行動不能となるピッツァ歩兵達。

 

「ひゃっほうーっ!!」

 

「!? ゲバナッ!?」

 

すると白狼は容赦無く、1番手前に居たピッツァ歩兵をジャンプ台代わりに跳ね飛ばして宙に舞う。

 

跳ね飛ばされたピッツァ歩兵が戦死判定を受けたのを尻目に、白狼はセモベンテM40の真上を取った。

 

「そらよっ!!」

 

そしてそのまま、セモベンテM40の上部に、カンプピストルでグレネードを撃ち込む!

 

派手な爆発が、セモベンテM40の上部で起こったかと思うと、一瞬間が有って、セモベンテM40から白旗が上がった。

 

「総帥(ドゥーチェ)! カルロ・ベローチェCV35とセモベンテM40が!?」

 

「分かっている! ええい! 歩兵部隊! 何をやっている!! 守りを固めろっ!!」

 

砲手のカルパッチョが悲鳴にも似た声を挙げる中、アンチョビは怒りを露わにしながらも、冷静に指揮を執ろうとする。

 

「そうだ! 怯むなぁっ!! 所詮は戦車の居ない歩兵部隊だ!! 守りを固めれば我々に方が有利だ!!」

 

ロマーノの大声で、ピッツァ歩兵部隊の面々にそう言い放つ。

 

「そ、そうか!!」

 

「よ~し! 戦車を中心に守りを固めろぉっ!!」

 

と、それを聞いたピッツァ歩兵部隊の一部の隊員達が、1両のM13/40カルロ・アルマートの周りに集結し、守りを固めようとする。

 

「よしっ! 榴弾装填っ!!」

 

M13/40カルロ・アルマートの装填手も、主砲に榴弾を装填し、大洗歩兵部隊の中へと撃ち込もうとする。

 

だが、しかし!!

 

集結していたピッツァ歩兵部隊員達の中に砲弾が着弾し、破片が飛び散って、一斉にピッツァ歩兵部隊員達に命中した。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「!? な、何っ!?」

 

慌てて車長が周囲を確認すると、何時の間にかアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の側面へと山を登って来た大洗戦車部隊の中で、長砲身となったⅣ号が砲口から硝煙を上げている。

 

「!? 大洗戦車部隊っ!?」

 

「何時の間に!? ちょっ! 撃って! 早く撃ってっ!!」

 

「で、でも榴弾じゃ!?」

 

M13/40カルロ・アルマートの操縦手が驚きの声を挙げる中、車長が慌てて指示を出すが、砲手は装填されているのが榴弾なので、効かないのではと砲撃を躊躇う。

 

その間に、今度はⅢ突の主砲が火を噴き、砲撃を躊躇して動きが止まっていたM13/40カルロ・アルマートに吸い込まれる様に命中!

 

爆発音が響き渡って黒煙が上がったかと思うと、M13/40カルロ・アルマートは白旗を上げた。

 

「全車攻撃続行! 但し、歩兵の皆さんに当てない様に気を付けて下さい」

 

「と言うワケだから河嶋~。お前は撃つなよ~」

 

「会長!! 如何してですか!?」

 

「桃ちゃん、今までの事を顧みて見れば?」

 

「ア、アハハハハ………」

 

みほからの指示が飛ぶと、38tの中で杏が桃にそう言い放ち、喚く桃に柚子が割と容赦無いツッコミを入れる。

 

そしてそんな一同の遣り取りに苦笑いするしかない蛍だった。

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「ぐああっ!?」

 

「西住総隊長と閣下の為にーっ!!」

 

「ぐあああっ!?」

 

銃剣を着剣した大洗部隊員達が、次々にピッツァ歩兵部隊員を串刺しにして行く。

 

「よし、良いぞ! このまま一気に押せぇっ!!」

 

九九式手榴弾を投げながら、弘樹がそう叫ぶ。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

投擲した九九式手榴弾は、ピッツァ歩兵部隊員達が固まっていた場所に落ち、数名を吹き飛ばす。

 

「良し………!」

 

そこで殺気を感じ、その場から転がる様にして移動する弘樹。

 

直後に、先程まで弘樹がいた場所に銃弾が数発着弾する。

 

「舩坂 弘樹! よくもやってくれたなっ!!」

 

そこには、銃口から硝煙の上がって居るカルカノM1938を構えたロマーノの姿が在った。

 

「ロマーノ………」

 

「フッ………着剣!」

 

するとロマーノは、弘樹にそう言い放ちながら、カルカノM1938の銃剣を着剣する。

 

「銃剣で勝負する積りか?」

 

「俺は銃剣検定2級だ! その腕前を見せてやるぜ!!」

 

そう言い放つと、着剣したカルカノM1938をまるでヌンチャクの様に振り回すロマーノ。

 

「ホッ! ハッ! ヤアッ! さあ、掛かって来いっ!!」

 

「…………」

 

自信満々にそう言い放つロマーノとは対照的に、弘樹は冷静な態度を崩さずに、着剣している九九式短小銃を自然体で構える。。

 

「ハハハハッ! ビビって声も出ないのか!?」

 

その様子を、ロマーノはビビっていると判断する。

 

一体彼のその自信は何処から来るのだろうか………

 

「それっ! 行くぞーっ!!」

 

そしてロマーノは、着剣したカルカノM1938を構えて、弘樹目掛けて突撃する!

 

「…………」

 

対する弘樹はその場から動かない………

 

「貰ったぁーっ!!」

 

そんな弘樹に向かって、勢い良く着剣したカルカノM1938で突きを繰り出すロマーノ。

 

しかし………

 

「フッ!………」

 

弘樹は僅かに身体を右に動かし、ロマーノが繰り出した着剣したカルカノM1938での突きをかわしたかと思うと、そのまま左腕で着剣したカルカノM1938をロマーノの腕ごと抱え込んだ!!

 

「!? なっ!?」

 

「踏み込みが甘いっ!!」

 

驚くロマーノの頭に頭突きを食らわせる弘樹。

 

「ぐああっ!?」

 

ヘルメットとヘルメットがぶつかり合い、鈍い金属音がして頭に衝撃が走ったロマーノは、思わずカルカノM1938を手放してしまい、頭を押さえて後ずさる。

 

「ハッ!………」

 

空かさず弘樹は、追撃の蹴りを食らわせる!

 

「ガハッ!?」

 

弘樹の蹴りを真面に食らったロマーノは、そのまま地面に倒れる!

 

「セリュアァッ!!」

 

そして倒れたロマーノの胸目掛けて、弘樹は容赦無く着剣した九九式短小銃の突きを食らわせた!!

 

「グハッ!?………」

 

肺の中の酸素が全て吐き出されてしまった様な感覚に襲われたロマーノは、そのまま戦死と判定される。

 

「ば、馬鹿な………この俺が………」

 

「お前に1つだけ言っておく………自信と自惚れは全く違うものだ………」

 

「ク、クソォ~~ッ!!」

 

ロマーノの目から悔し涙が溢れる。

 

「隊長(カピタン)がやられた!?」

 

それを目撃していたピッツァ歩兵の1人がそう言った瞬間、Ⅳ号の砲撃でM13/40カルロ・アルマートが、武志が放ったPIATでカルロ・ベローチェCV35が、新たに1両ずつ撃破された。

 

「うわぁっ!! もう駄目だぁっ!?」

 

完全に押されている状況に、ピッツァ歩兵部隊からそんな声が挙がる。

 

「ええい! 落ち着けっ!! 各員其々に背中合わせとなって守り合え! 総帥(ドゥーチェ)! ココは撤退を!」

 

しかしそこで、フォルゴーレがロマーノに代わって指揮を執り、アンチョビにそう進言する。

 

『!? 撤退だと!? 逃げろと言うのか!?』

 

「このままでは全滅を待つだけです!」

 

『クウッ!………この陣地を放棄! 撤退するぞっ!!』

 

アンチョビは悔しそうな声を漏らしながらそう指示を出す。

 

直後に、ピッツァ歩兵部隊から次々に煙幕手榴弾が投擲され、辺りが煙に包まれる。

 

「エッホッ! ゴッホッ! 煙幕かよ!?」

 

「撃つな! 同士討ちになる!!」

 

地市がむせていると、弘樹がそう指示を出し、大洗機甲部隊は一旦戦闘を停止する。

 

やがて煙幕が晴れると、既に高台の陣地内に、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の姿は無かった。

 

「逃げたか………」

 

「見事な引き際だね」

 

十河が呟くと、迫信が皮肉る様な台詞を言う。

 

「西住総隊長。如何しますか? この陣地を接収しますか?」

 

「いえ、此処は追撃を掛けます。恐らく敵は私達が代わって陣地に陣取ると読んで来る筈です。その裏をかきます」

 

「了解しました」

 

そして、弘樹とみほがそう遣り取りを交わすと、大洗機甲部隊はアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の追撃に入るのだった。

 

『さて、手痛い打撃を受けたアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は陣地を放棄して撤退。大洗機甲部隊はコレを追撃するみたいですね』

 

『既にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊は戦車が半数やられてますからね。プレッシャーを与える意味でも、ココで更に追い込みを掛ける積りでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊に有利な高台へ陣取られた大洗機甲部隊。
しかし、その有利を逆手にとって、奇襲攻撃を掛ける。
ゾルダートや白狼、そして弘樹の活躍もあり、戦車を半数に加え、歩兵隊隊長であるロマーノの撃破にも成功する。
そして、みほは撤退するアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に追撃を掛けるのだった。

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊、良いとこ無しですが、次々回ぐらいには例の『鬼』が登場しますので、そこからが本番となります。
楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第38話『追撃戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第38話『追撃戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初動で後れを取り………

 

有利な高台をアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に押さえられた大洗機甲部隊だったが………

 

逆に自分達が有利だと思い込んでいたアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の慢心を突き、奇襲攻撃を掛けた。

 

戦車部隊が注意を惹き付けている間に、一の谷の戦いよろしく、急斜面を下って歩兵部隊がアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を襲撃!

 

想定していなかった場所からの襲撃に、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は大混乱。

 

結果、戦車は半数がやられ、歩兵部隊にも甚大な被害を出して、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は折角高台に形成した陣地を捨て、撤退する事となった。

 

戦局は有利と判断したみほは、追撃を命令。

 

最早半死半生のアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に、打つ手は残されているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会公式戦2回戦会場………

 

『さあ、戦況は現在大洗機甲部隊が有利。敗走するアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を追撃しております!』

 

『ココからアンツィオ&ピッツァ機甲部隊が上手く立ち直れるかがポイントですね』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が続く中、森林の中の道を大洗機甲部隊の面々がかなりの速度で進軍して行く。

 

「敵の戦車は半数撃破しました。歩兵部隊の方にもかなりの被害が出ています。ココで一気に畳み掛けます!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

キューポラから姿を見せているみほの指示に、大洗機甲部隊の面々は勇ましい返事を返す。

 

と、その時!!

 

ターンッ!と言う乾いた音がしたかと思うと、1両のくろがね四起の窓ガラスに罅が入った!

 

「!? うわぁっ!?」

 

それに驚いた操縦手が慌ててハンドルを切ると、くろがね四起は横転し、乗員が地面に投げ出される。

 

「!! 狙撃だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう声を挙げると、大洗機甲部隊の面々は進軍を停止し、歩兵部隊員達が其々に車両や戦車の影に隠れる。

 

「舩坂くん! 何処から撃たれたか分かる!?」

 

みほも慌てて車内へ引っ込み、通信で弘樹にそう尋ねる。

 

「駄目です。森の中からだとは分かりますが………」

 

弘樹がそう返事をしていると、再び発砲音が鳴り響き、銃弾がM3リーに当たって弾かれる。

 

「ヒイッ!?………こ、怖くない! 怖くなんかないぞ!」

 

勇武がその様子にビビるが、まるで念じる様にそう言い張る。

 

「コレじゃ迂闊に動けねえぞ」

 

「如何しますか、舩坂さん………」

 

「…………」

 

地市と楓がそう言うのを聞きながら、弘樹は思案を巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その狙撃手………

 

ピッツァ歩兵部隊の狙撃兵・ボンゴは………

 

「良くもロマーノをやってくれたな………お返しはたっぷりとしてやるぜ」

 

ギリースーツに身を包み、狙撃仕様にカスタマイズしたカルカノM1938の、スコープを覗きながらそう言う。

 

そして、引き金を引いて発砲した。

 

放たれた銃弾は、停めてあったくろがね四起のタイヤに命中。

 

タイヤに穴を空けられたくろがね四起がガクリッ!と傾く。

 

「ヘヘヘ、そうしてお前達が動けないでいる間に『ネロ』が回り込んで襲い掛かる寸法だ。そして混乱しているところで、隠れているセモベンテと歩兵部隊が奇襲を掛けるのさ」

 

まるで自慢するかの様に1人作戦を呟くボンゴ。

 

その直後………

 

「! 浅間さん! あそこです!!」

 

モシン・ナガンM1891/30のスコープを除いていた飛彗が、ボンゴが隠れている地点を指差しながら、陣に向かってそう呼び掛けた。

 

「!………」

 

すぐさま陣は、飛彗が指差している方向に、シモノフPTRS1941を向ける。

 

「!? ヤベッ!? バレたか!?」

 

ボンゴが焦った直後、陣はシモノフPTRS1941を発砲!

 

しかし、放たれた弾丸は、ボンゴの頭上へと消えて行った………

 

「ハッ! 何だ、ハズレか! 下手くそめ………」

 

と、ボンゴが逆に陣を狙おうとして、再びカルカノM1938を構えた瞬間………

 

「!? ゲバハッ!?」

 

上から太い木の枝が振って来て、ボンゴはその下敷きとなった。

 

「ま、まさか………さっきのはコレを狙って………そんなの………有りかよ………」

 

下敷きとなったボンゴは気を失い、そのまま戦死と判定される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

停止している大洗機甲部隊の背後の森林の中で………

 

「フフフ………狙撃に阻まれて進めない上に、注意を奪われてるな………こう言う時こそ、裏取りのチャンスだっての」

 

そう呟きながら、極力物音を立てずに森林の中を進み、大洗機甲部隊の背後へと回り込もうとしているピッツァ歩兵部隊の偵察兵『ネロ』

 

「見てろよ、大洗め………年季の違いを見せてやるぜ」

 

そう言っている間に、遂に大洗機甲部隊の背後へと回り込む事に成功するネロ。

 

「よおし、行くぞぉ………」

 

ブレダM30軽機関銃を握る手に力を込めると、大洗機甲部隊に奇襲を掛けようとする。

 

しかしそこで、背後からガタッ!と言う音がするのを耳にする。

 

「!?」

 

慌ててネロが振り向くと、そこには………

 

ダンボール箱が在った。

 

「何だ、ダンボール箱か………」

 

ネロはそう呟くと、再び大洗機甲部隊に向き直る。

 

「………!? んん!? 何でこんなとこにダンボール箱があるんだ!?」

 

だが、すぐにおかしい事に気付き、再びダンボール箱の方を振り返る。

 

すると!!

 

「待たせたなっ!」

 

そう言う声が響き渡り、ウィンチェスターM12 トレンチガンを携えた大詔が、ダンボール箱の中から姿を現した!

 

「!? お、大洗の!?」

 

「こう言う時にこそ裏取りさせる事を注意する。戦いの基本だ。それぐらい分からないと思ったのか?」

 

ウィンチェスターM12をコッキングしながらそう言い放つ大詔。

 

「ク、クソォッ!!」

 

ネロはすぐにブレダM30軽機関銃を向けたが………

 

「遅いっ!!」

 

それよりも早く大詔が発砲し、ウィンチェスターM12に装填されていたスラッグ弾が、ネロが構えていたブレダM30軽機関銃に命中する!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

衝撃でブレダM30軽機関銃を手放してしまうネロ。

 

主の手を離れたブレダM30軽機関銃は、そのまま地面に落ちて、スラッグ弾が命中した部分からバラけた。

 

「ああっ!?」

 

「非情な様だが容赦は出来ん。このまま戦死判定を受けてもらうぞ」

 

動揺するネロに向かって、大詔は容赦無くコッキングを済ませると、再度引き金を引こうとする。

 

「!! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

とそこで!!

 

ネロが腕を鞭の様に撓らせ、何かを投擲して来た!!

 

「!?」

 

咄嗟に回避運動をしつつ、身体に当たりそうになった物を持っていたウィンチェスターM12で弾く大詔。

 

「!? 手裏剣だと!?」

 

そして大詔は、ネロが投げつけて来た物を見て驚く。

 

それは紛れも無く、八方手裏剣だった。

 

「こう見えても俺は通信教育で忍術を習った事がある! 2級の腕前だぞっ!!」

 

ネロはそう言い放つと、『通信教育忍者免許2級』の免許証を大詔に見せつける。

 

「成程、忍者か………なら、俺より最適な相手が居るな」

 

大詔はそう言ってフッと笑う。

 

「? 何を言って………」

 

と、ネロが大詔の言葉を理解出来ずに居たところ………

 

「Wasshoi!」

 

突如ニンジャシャウトが響き渡ったかと思うと、地面から何かが飛び出し、ドリルめいた回転と共に、地面の上に着地を決めた。

 

「!?!?」

 

「ドーモ、葉隠 小太郎です」

 

驚くネロに向かって、小太郎はアイサツと共にオジギする。

 

「!! ド、ドーモ、葉隠 小太郎=サン。ネロです」

 

動揺しながらも、ネロはアイサツとオジギを小太郎に返す。

 

「………やはり貴様はニンジャ!」

 

と、アイサツを返された事で、ネロの事をニンジャだと認識した小太郎の目が、カタナの刃めいて鋭くなる。

 

「ニンジャ倒すべし………慈悲は無い」

 

マッポーめいた世界を生きているかの様なアトモスフィアが漂い、小太郎はネロに向かって殺気とも言えるニンジャ闘気を向ける。

 

「アイエエエエエエエッ!?」

 

自分の様な欺瞞ニンジャとは違う本物のニンジャを前に、ネロはNRSを起こし、しめやかに(自主規制)した。

 

「ハイクを詠め………ネロ=サン!」

 

そんなネロに、小太郎は先程の言葉通り、一切慈悲を与えず、カイシャクをしようとする。

 

「イ、イヤーッ!!」

 

とその時!!

 

ネロの腕が鞭の様に撓り、無数の八方スリケンが、小太郎へと向かった。

 

恐怖のあまりか、生存本能による攻撃である。

 

「くたばれぇっ!!」

 

コレが歩兵道の試合である事も忘れ、そんな台詞を発するネロ。

 

だが!!

 

「イヤーッ!!」

 

おお、見よ!!

 

小太郎の腕がまるでアシュラ・ゴッドめいて複数に見える程に動いたかと思うと、ネロが投げた八方スリケンは全て側面を叩かれ、トゥモロウの方向へと飛んで行った!

 

タツジン!!

 

「ア、アイエエエエエエエッ!?」

 

ネロの悲鳴が挙がる。

 

自慢のスリケン・ジツも、小太郎の前には無力。

 

「こ、こうなったら! 俺の古代ローマカラテで!!」

 

すると、ネロは古代ローマカラテの構えを取ったが………

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!!」

 

そのワザが繰り出される前に、小太郎のカラテチョップがネロの首筋に命中!!

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!!」

 

更に今度はケリ・キックが炸裂!

 

「や、止めてくれ! 葉隠 小太郎=サン! 貴様の要求に応え………」

 

「慈悲は無いっ!!」

 

遂にネロが降参の言葉を口にしようとした瞬間!!

 

小太郎がトドメのポンパンチを放った!!

 

「サヨナラッ!!」

 

哀れ、ネロは爆発四散したかの様なアトモスフィアを出しながら、その場に倒れ、ダシを取られたマグロの様にぴくりとも身動きしなくなった。

 

「相変わらず容赦の無いカラテだな」

 

戦死判定が下されているネロを見下ろしながら、大詔が小太郎にそう言う。

 

「ノーニンジャ・ノーカラテだ」

 

「良く分からんな………」

 

小太郎のそんな返事に、大詔は苦笑いする。

 

「ど、如何しよう!? ボンゴさんもネロさんもやられちゃったよ!?」

 

「良し! 逃げようっ!!」

 

とそこで、作戦の初手を担当し、中核となっていたボンゴとネロがやられてしまった事で、突撃の機会を失ったセモベンテM40と歩兵部隊が、慌てて退却に入り、大洗機甲部隊の前に姿を晒した。

 

「逃さんっ!!」

 

だが、そこで既に7.5 cm PaK40 L46の展開を終えていた明夫を中心とした砲兵が、逃げ去ろうとしていたセモベンテに向かって、砲弾を放つ!

 

放たれた砲弾が、セモベンテM40の右後部に命中し、履帯と転輪を吹き飛ばした!!

 

「!? 履帯が!?」

 

「工兵! 早く修理をっ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

セモベンテM40の乗員が慌てる中、今度はエルヴィンが叫び、Ⅲ突が砲撃。

 

砲弾はセモベンテM40の側面に命中し、派手に爆発。

 

少し間が有って、セモベンテM40からは白旗が上がる。

 

「撃てぇーっ!!」

 

更に弘樹がそう叫ぶと、軽機関銃や短機関銃を持った大洗歩兵達が、一斉に弾幕を張る。

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

弾幕の嵐の前に為す術も無く、ピッツァ歩兵部隊の隊員達は、次々に戦死判定を下されて行き、遂に全滅した。

 

「歩兵を小隊規模撃破」

 

「戦車も1両減らした。今の奴等に取ってはかなりの痛手だな」

 

弘樹がそう報告を挙げると、十河が現在のアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の戦力を計算し、ニヤリと笑う。

 

「しかし、このまま追いかけっこしてても埒が明かないぞ」

 

『西住より全部隊へ。コレより、私達あんこうチームととらさん分隊は別行動を取り、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の撤退先へ先回りします』

 

と、俊がそう呟いた瞬間に、みほから全部隊へそう通信が送られた。

 

「1部隊で追撃するんですか?」

 

『コレ以上の撤退を許した場合、態勢を整えられて反撃される恐れが有ります。私達あんこうチームととらさん分隊が先回りして、挟撃を掛けます』

 

清十郎がそう尋ねると、みほはそう答える。

 

『確かに、それも一理あるな………』

 

「了解した。此方の指揮は私が取ろう」

 

『お願いします………とらさん分隊の皆さん。付いて来て下さい』

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

指揮車の煌人がそう呟く中、迫信が本隊の指揮を引き継ぎ、みほ達あんこうチームのⅣ号は、弘樹達とらさん分隊の面々を引き連れて、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の撤退先へ先回りを開始するのだった。

 

『あ~っと! 如何やらアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の足止めは失敗した模様です!』

 

『コレは厳しいですよ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「副隊長! 大洗の足止めに向かったボンゴさん達からの連絡が途絶えました! 恐らく………」

 

「やられたか………」

 

「クソッ!!」

 

隊員からの報告にフォルゴーレがそう呟くと、P40のキューポラから姿を見せていたアンチョビが、握った両手を砲塔の天板に叩き付けた!

 

「あんな事を言って置いてこの様か………コレでは良い笑い者ではないか………」

 

身体を震わせてそう呟くアンチョビ。

 

その目には涙が浮かんでいる。

 

「総帥(ドゥーチェ)………」

 

そんなアンチョビの姿を、P40の装填手席に居たカルパッチョが見上げる。

 

「………ペパロニ。止めて」

 

「? カルパッチョ?」

 

とそこで、操縦手のペパロニに呼び掛け、P40を止めさせる。

 

「止まって!」

 

そしてP40が止まるとすぐに車外へと出て、残っていたM13/40カルロ・アルマートを止める。

 

「アイーダ、代わって」

 

「ハ、ハイ」

 

車長の子にそう言い、M13/40カルロ・アルマートへと乗り込むカルパッチョ。

 

「カルパッチョ!? 何をする気だ!?」

 

「私が大洗機甲部隊に突撃して相打ちでフラッグ車を打ち取ります」

 

驚くアンチョビに向かって、カルパッチョは驚くくらいに冷静な態度でそう言い放った。

 

「なっ!? 馬鹿な!? カミカゼをやる気か!? 幾ら戦車道と言えど危険だぞ!!」

 

「私の役割は総帥(ドゥーチェ)に勝利を捧げる事………その為ならば如何なる手段も取る覚悟が有ります」

 

止めようとするアンチョビだが、カルパッチョの決意は固かった。

 

「すまない、諸君………付き合って欲しい」

 

「ハ、ハイ………」

 

「やるしかないよね………」

 

多少の恐怖を見せながらも、カルパッチョに付き従おうとするM13/40カルロ・アルマートの乗員達。

 

「良し………行くぞっ!!」

 

カルパッチョがそう言い放つと、M13/40カルロ・アルマートは反転し、大洗機甲部隊の元へと向かおうとする。

 

と、その時………

 

「お待ち下さい! カルパッチョ様!!」

 

フォルゴーレがそう言い放ちながら、M13/40カルロ・アルマートの前に立ちはだかった。

 

「フォルゴーレ! 止めないで!!」

 

「いえ! その役目は………私にお任せ下さい!」

 

止めるなと言うカルパッチョに対し、フォルゴーレはそう言い返す。

 

「えっ?………」

 

「我等歩兵は戦車を守る盾………みすみす女性を危険に晒す様な真似を黙って見ている事など出来ません。ならば、この私が大洗機甲部隊へと突撃し、見事フラッグ車を撃破してみせましょう!」

 

「そんな!? 戦車でさえ危険が大きいと言うのに、歩兵1人で突撃なんてそれこそ危険だわ!」

 

「構いません。人の生は、何を為したかで決まる………総帥(ドゥーチェ)は我等をココまでお連れ下さった。立派です。そしてカルパッチョ様の望みがこの試合の勝利ならば、それを助けるのが歩兵としての私の役目」

 

フォルゴーレはそう言うと、カルパッチョに背を向けて歩き出した。

 

「あ!………」

 

「副隊長!」

 

「我々も同行致します!」

 

「どうせ散るにしても、恰好付けて散りたいですからね」

 

カルパッチョが何か言い掛けた瞬間、ピッツァ歩兵部隊の中からフォルゴーレに同行する者達が出始める。

 

「すまない………見事、勝利の栄光を掴んでご覧にいれます」

 

そんなピッツァ歩兵部隊員達に感謝しつつ、フォルゴーレは大洗機甲部隊の元へと向かう。

 

「フォルゴーレ………お願い………命だけは大事にして………」

 

フォルゴーレの背を見送りながら、カルパッチョは祈る様に両手を胸の前で合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の撤退先に先回りを試みたあんこうチームととらさん分隊は………

 

「推測が正しければ、そろそろアンツィオ&ピッツァ機甲部隊と接触します」

 

「全員、警戒を厳に!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほと弘樹の言葉に、部隊員達の緊張の度合いは増す。

 

「! 居ました! 10時の方向!!」

 

とそこで、双眼鏡を覗いていた楓がそう報告を挙げる。

 

「このまま行けば、側面を突けます」

 

「西住総隊長、指示を」

 

更に楓がそう報告を挙げると、弘樹がみほに指示を求める。

 

「………全部隊、突げ………」

 

みほが突撃命令を出そうとしたその瞬間!!

 

『コチラ大洗機甲部隊本隊! コチラ大洗機甲部隊本隊! 西住総隊長! 応答願います!!』

 

通信回線に、勇武の物と思われる悲鳴の様な声が響き渡った。

 

「!? 西住です! 如何したんですか!?」

 

『此方は現在、敵の奇襲を受け………うわぁっ!? お、『鬼』がぁっ!? 『鬼』がぁっ!!』

 

みほが問い質した瞬間に、勇武から再び悲鳴が挙がり、通信はノイズだけとなる。

 

「!? もしもし!? 応答して下さい!!………沙織さん!!」

 

「駄目、全然通じない! 向こう側の通信機で何か問題が起こってるみたい」

 

みほは通信手の沙織に呼び掛けるが、沙織は送信側のトラブルであると報告する。

 

「『鬼』が………って叫んでましたね」

 

「まさか、空教官が言っていた、例のアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の『鬼』じゃ………」

 

通信で、勇武がしきりに『鬼』と叫んでいた事を聞いていた楓と飛彗がそう言い合う。

 

「みほさん、如何しましょう?」

 

「すぐに救援に向かいましょう!」

 

「だが、ココでアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊を逃がしたら態勢を立て直されるぞ」

 

華、優花里、麻子がみほにそう呼び掛ける。

 

「…………」

 

みほは如何するべきかと苦渋の表情を浮かべる。

 

「西住総隊長!」

 

するとそこで、弘樹がみほに呼び掛けた。

 

「!? 舩坂くん!?」

 

「本隊の救援には小官と神狩が向かいます。総隊長殿はアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊を」

 

「オイオイ、俺もかよ?」

 

みほに向かってそう言う弘樹に、白狼がそうツッコミを入れる。

 

「オートバイ兵のお前が1番速い。すぐに向かうぞ」

 

そう言うやいなや、白狼の返事も待たずにバイクの後方に腰掛ける弘樹。

 

「おまっ、勝手に………ああ! もう! しょうがねえなぁ!!」

 

白狼が愚痴りながらも、マックスターンをしてバイクの向きを変える。

 

「………舩坂くん! お願いっ!!」

 

みほは弘樹は信頼し、そう言葉を掛ける。

 

「総隊長殿もご武運を!」

 

弘樹はそう言い残し、白狼と共に本隊の救援へと向かうのだった。

 

「………良し! 作戦変更です! 私達はコレからアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊に仕掛けます!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを見送ると、みほはアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊の方へと向き直り、残ったとらさん分隊の皆にそう呼び掛ける。

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

「「「「「「「「「「突撃ぃーっ!!」」」」」」」」」」

 

みほの掛け声を合図に、Ⅳ号ととらさん分隊員達はアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊に突っ込んで行く!

 

「!? 大洗!?」

 

「しまった!? 先回りされた!?」

 

「狼狽えるな! 相手は小隊規模だ! 叩き潰せぇっ!!」

 

ペパロニとカルパッチョが驚きの声を挙げる中、アンチョビはそう命じ、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は迎撃の態勢を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

敗走したアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に追撃を掛ける大洗機甲部隊。
途中、進撃を遅らせようととした足止め部隊を難なく撃破し、徐々にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を追い詰める。
だがその時!
遂にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の『鬼』が現れます。
注目の正体は次回で。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第39話『震える山です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第39話『震える山です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先回りしたみほ達あんこうチームと、弘樹率いるとらさん分隊がアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に奇襲を掛けるちょっと前………

 

通常追撃を行っていた大洗機甲部隊の本隊の方では………

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会公式戦2回戦会場、山と谷が連なる森林地帯………

 

「そろそろ西住総隊長達はアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の先回りに成功した頃だね」

 

「足が止まれば追い付くのは容易だ。既に戦力面では此方が優勢………この試合貰ったな」

 

迫信がそう言うと、十河は勝利を確信した笑みを浮かべる。

 

「副会長さんよぉ、油断は禁物だぜ。最後まで何が起こるか分からないのが歩兵道と戦車道なんだからよぉ」

 

「フッ、何を言う………既にアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に打つ手は無い。我々の勝利は決まったも同然だ」

 

俊がそんな十河にやんわりと注意をするが、十河がドヤ顔でそう返す。

 

と、その瞬間!!

 

突如、大洗機甲部隊の進軍方向に何かが落ちて、そのまま爆発した!!

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

驚いて進軍を止めた瞬間!!

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その爆発の煙が収まりきらぬうちに、ピッツァ歩兵部隊の隊員達が突撃して来る!

 

「!? 敵襲ーっ!!」

 

「ピッツァ歩兵部隊!?」

 

「何だ!? 自棄になって突っ込んで来たのか!?」

 

「落ち着け! 相手は小隊規模だ!! 弾幕を張って近寄らせるなぁっ!!」

 

突如襲撃して来たピッツァ歩兵部隊に驚くものの、その人数が小隊規模であるのを確認すると、大洗機甲部隊の隊員達は遮蔽物や車両・戦車を盾に、弾幕を張って応戦する。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

弾幕の前に、ピッツァ歩兵部隊の隊員達は次々に倒れて行く。

 

「怯むなぁっ! 進め! 進めぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、それでも構わずに、戦死判定となった仲間を飛び越えて更に突撃して来る。

 

「オイオイ! アイツ等本当に自棄になったのか!?」

 

「この弾幕の中に飛び込んで来るなんざ、自殺行為だぜ!」

 

そんなピッツァ歩兵部隊の隊員達の姿に、大洗機甲部隊の隊員達からはそんな声が挙がる。

 

「チッ、流石にうっとおしいな………装甲車を前に出せ!!」

 

「了解っ!!」

 

とそこで、一気に蹴散らそうとしたのか、十河が指示を出し、九三式装甲自動車が前に出る。

 

その直後!!

 

収束手榴弾が飛んで来て、九三式装甲自動車に直撃!!

 

「!? 何っ!?」

 

十河の驚きの声が挙がると、九三式装甲自動車は撃破判定を受け、乗員も全員戦死判定となった。

 

「!! 左の崖の上です!!」

 

すると清十郎が、その収束手榴弾が飛んで来た方向を見やり、そこに在った崖の上に人影を発見してそう報告する。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その声で、一斉に左側に在った崖の上を見やる大洗歩兵部隊の隊員達。

 

そこには、右手に着剣したカルカノM1938を握り、左手にベレッタModello 1938Aを握っているフォルゴーレの姿が在った。

 

「戦車4、歩兵用車両多数、歩兵部隊規模は大隊クラス………Ⅳ号戦車の姿が見えんが、先行して本隊の方へ向かったか?」

 

その両目をギョロリとさせ、大洗機甲部隊の様子を把握するフォルゴーレ。

 

「野郎! たった1人で何の積りだ!?」

 

「舐められてるのか?」

 

「炎苑! 1発かましてやれっ!!」

 

「りょ、了解!」

 

光照がそんなフォルゴーレに試製四式七糎噴進砲を向け、発射する。

 

しかし、放たれた噴進弾は、僅かに逸れて外れる。

 

するとフォルゴーレは、一旦カルカノM1938をベルトで肩に下げたかと思うと、ベルトに装備していたワイヤーを右手に握り、鞭の様にして傍に在った木の幹に巻き付けた。

 

「歩兵の中でも対戦車兵。装甲の無い我等の戦車部隊には脅威となる」

 

そして、そう言い放ったかと思うと、そのまま崖を飛び降りた。

 

「!? 飛び降りやがった!?」

 

「任せておけっ! 落下なら予測出来る!」

 

重音が驚きの声を挙げると、明夫がそんなフォルゴーレに九四式山砲を向ける。

 

「そこだぁっ!!」

 

そして、完璧なタイミングで九四式山砲から砲弾を放つ!

 

放たれた砲弾が、自由落下中のフォルゴーレに向かう。

 

だがそこで、予め巻き付けておいたワイヤーが伸び切り、ワイヤーを握っていた腕を吊られる様にして、フォルゴーレの落下が停止!

 

九四式山砲から放たれた砲弾は、フォルゴーレの真下を通って崖に命中し、派手に土煙を上げる。

 

「やったかっ!?」

 

鷺澪が思わずそう叫んだ瞬間!

 

「先ず1つ!!」

 

晴れた爆煙の中からフォルゴーレが姿を見せ、ベルトの後ろ腰部分に下げていた対戦車地雷を真下に向けて投擲した!!

 

丁度そこには、進軍しようとしていたウサギさんチームのM3リーが居た!

 

「! 澤さん! 危ないっ!!」

 

「えっ?………」

 

勇武が叫んだが時既に遅し!

 

対戦車地雷はM3リーのボンネット部分にぶつかり、大爆発!!

 

M3リーのエンジン部が炎上したかと思うと、砲塔から白旗が上がる!

 

「嘘っ!? やられたの!?」

 

「ウサギさんチームが!?」

 

あやと真竜が驚愕の声を挙げる。

 

「コチラが完全に手玉に取られただと!?」

 

「アッと言う間に戦車を1両撃破………間違い無い。アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本当のエースは奴だ」

 

十河も馬鹿なと言う様な表情を浮かべ、大詔がフォルゴーレをそう評する。

 

その間に、フォルゴーレはワイヤーを緩め、撃破したM3リーを足場に、崖下へと着地を決める。

 

「全員頭を切り替えろ! 奴は普通の歩兵では無い!」

 

とそこで、アッという間にM3リーがやられた事でやや呆然としていた大洗機甲部隊を叱咤する様に、迫信がそう言い放つ。

 

「…………」

 

フォルゴーレは無言のまま左手に握っていたベレッタModello 1938Aを大洗機甲部隊に向け発砲。

 

着弾した弾丸が土煙を舞い上げ、大洗機甲部隊の視界を塞いだ!

 

「クソッ!? 何も見えないぞ!?」

 

「煙幕の積りかいな!?」

 

鷺澪と大河がそう声を挙げる。

 

だが、フォルゴーレが走っていると思われる足音は聞こえており、それは着実に近づいて来ていた。

 

「チイッ! 何処から来るんやっ!?」

 

八九式の直掩に入っていた大河が、土煙だらけの周りを見回しながらそう愚痴る様に言う。

 

その次の瞬間!!

 

突如大河から見て左側の土煙が揺らめき、フォルゴーレが出現したと同時に、大河に体当たりを食らわせた!

 

「!? おうわっ!? こなくそぉーっ!!」

 

木の幹に叩き付けられながらも、すぐにトンプソン・サブマシンガンM1/M1A1を発砲する大河。

 

しかし、既に出現して来た方向にフォルゴーレの姿は無かった。

 

「!? 居ないっ!?」

 

「うわああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

大河が驚きの声を挙げた瞬間、典子の悲鳴と共に、八九式が急発進した!

 

「!? しもうた!?」

 

その八九式の車体の上に、フォルゴーレが乗って居るのを見た大河が声を挙げる。

 

「忍! 振り落せないの!?」

 

「やってるわよ!!」

 

「…………」

 

妙子の台詞に忍がそう返している間に、フォルゴーレは八九式のエンジンハッチをこじ開けると、携帯していた火炎瓶に火を着ける。

 

「エンジンをやる気かいなっ!?」

 

大河がそう声を挙げた瞬間に、フォルゴーレは八九式のエンジンルームへ火炎瓶を投げ入れた!

 

八九式のエンジンルームから炎が上がったと思われた次の瞬間には黒煙が吹き出し、八九式は停止し、砲塔から白旗を上げる。

 

「大河くん! 任せてっ!!」

 

とそこで、武志がフォルゴーレ目掛けてM18 60mmバズーカを発射する。

 

「!!」

 

だが、フォルゴーレは難なく八九式の上から飛んでかわしたかと思うと、そのまま武志に向かってベレッタModello 1938Aを発砲!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

武志は全身に銃弾を浴び、バタリと倒れると、そのまま戦死と判定される。

 

「東郷っ!!」

 

「「「「「キャプテンッ!!」」」」」

 

大河とラクビー部員の声を聞きながら、着地を決めると同時に近場に居た38tに向かって走り出す。

 

「コ、コッチに来るぅっ!?」

 

「どどどどど、如何しようっ!?」

 

「お、落ち着いて! 2人共!!」

 

その様子に、桃だけでなく柚子も慌て、蛍が2人を落ち着かせようとするが自分も動揺を隠せずに居る。

 

「…………」

 

そして杏も苦い顔を浮かべていた。

 

その時!!

 

『砲兵部隊。ポイント24から37に向けて砲撃だ』

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

煌人からそう通信指示が入り、砲兵部隊が一斉にフォルゴーレに向けて榴弾砲で砲撃を開始した!

 

「フラッグ車さえ潰せば………」

 

かなりの至近距離で爆発が起きながらも、フォルゴーレは一切怯まずに走り抜けようとする。

 

だがそこで、1発の榴弾が大木の根本に直撃し、大木がフォルゴーレ目掛けて倒れて来た!!

 

「!?」

 

そのまま大木の下敷きとなるフォルゴーレ。

 

「やったっ!!」

 

「って言うか、大丈夫か、オイ!?」

 

歓喜の声と同時に心配の声を大洗機甲部隊から挙がる。

 

戦闘服を着ている為、死ぬ様な事には先ずならないが、それでも大木の下敷きになっていると思われるフォルゴーレの身を案じている様だ。

 

「こりゃマズイんじゃないのか?」

 

「何をやっている! 早く救助だ! 事故が起こって没収試合にされたら如何する!?」

 

とそこで、先程まで怯えていた様子は何処へやら………

 

38tがやや前進し、桃が細々と集まっていた大洗歩兵隊の面々にそう言い放つ。

 

「全く、勝手な事を………!?」

 

そんな桃にいつも様に毒舌を吐こうとした熾龍が固まった。

 

「? 如何しました、栗林先ぱ………」

 

それに気づいて声を掛けようとした清十郎も言葉を失う。

 

「なっ!? ななななななななっ!?」

 

そして桃は最早言葉にすらなっていない。

 

他の一同も動けずに居る。

 

何故ならば………

 

目の前で倒れていた大木が………

 

持ち上がり始めたからだ!!

 

「…………」

 

何と!!

 

大木の下敷きになったと思われていたフォルゴーレが、その大木を押し出していたのである!!

 

しかも右腕1本で!!

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして気合の雄叫びを挙げたかと思うと、大木を大洗機甲部隊目掛けて押し倒した!!

 

「!? 逃げろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

秀人の声で、慌てて方々に散り始める大洗歩兵部隊の隊員達。

 

「「「「「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

しかし、何人かは退避が間に合わず、倒れて来た大木の下敷きとなる。

 

そんな大洗歩兵部隊を尻目に、フォルゴーレは粉塵が舞う中、38tへと歩を進める。

 

「あ、ああああ………」

 

「怯えろぉっ! 竦めぇっ!! 戦車の性能を活かせぬまま、撃破されて行けぇっ!!」

 

完全に恐慌状態の桃が乗って居る38tに向かって、フォルゴーレはそう叫ぶ。

 

「! 小山! 全速後退っ!!」

 

「!! ハ、ハイッ!!」

 

とそこで、杏の声で我に返った柚子が、慌てて38tをバックさせる。

 

「撃てぇーっ!! 倍返しだぁっ!!」

 

そして、明夫を中心とした砲兵部隊が、フォルゴーレ目掛けて砲撃を行う。

 

しかし、フォルゴーレはその場から動かず、放たれた砲弾は全て爆風による殺傷範囲外の周囲に着弾する。

 

フォルゴーレが回避行動を取れば命中する様に砲撃を行った様だが、それを読んだフォルゴーレは敢えて動かない事で回避したのである。

 

「見た目は派手だが、タンクはがら空きだぞ!!」

 

そしてフォルゴーレはそう言いながら、後退を続けている38tを見据えて火炎瓶を取り出す。

 

「! イカンッ!!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! 来るなっ! 来るなぁっ!!」

 

十河が声を挙げた瞬間に、桃は38tの主砲を連射した!

 

だが、只でさえ砲撃の才能が無いのに、恐慌状態で当たるワケもなく、放たれた砲弾はいつも以上に明後日の方向へと飛んで行っている。

 

「コレで終わりだ」

 

そんな38t目掛けて、フォルゴーレは火炎瓶を投擲する。

 

回転しながら、38tへ向かう火炎瓶。

 

だが、銃声が木霊したかと思うと、火炎瓶が空中で破裂し、炎が飛び散った。

 

「むっ!?」

 

火炎瓶が破裂する寸前に、銃弾が飛んで来たのを捉えていたフォルゴーレはそちらの方向を確認する。

 

「…………」

 

そこには、銃口から硝煙の立ち上っているスプリングフィールドM1903小銃を構えている熾龍の姿が在った。

 

「………フアーッハッハッハッハッ!」

 

すると、フォルゴーレは突如高笑いを挙げた。

 

「………何が可笑しい?」

 

そんなフォルゴーレに向かって容赦無く発砲する熾龍。

 

しかし、発砲のタイミングと銃口が向いている先を見抜いていたのか、フォルゴーレは僅かに身を反らしただけでスプリングフィールドM1903小銃の銃弾を回避した。

 

「総帥(ドゥーチェ)アンチョビ。カルパッチョ様。無事では済ませられそうにありません。自分は………戦うべき相手を見つけました」

 

そして、着剣したカルカノM1938を右手に構え、熾龍を見据えながらそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊へと仕掛けたあんこうチームととらさん分隊は………

 

「フォーコッ(撃て)!!」

 

アンチョビの掛け声で、P40が榴弾を発射する。

 

「「「「「うおわあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」」」

 

爆風と破片の殺傷範囲内に居たとらさん分隊の分隊員達が吹き飛ばされ、戦死判定を受ける。

 

「野郎っ!!」

 

お返しとばかりに、地市がM9A1・60mmバズーカを構え、P40目掛けてロケット弾を放つ。

 

「総帥! 危ないっ!!」

 

しかしそこで、カルロ・ベローチェCV35が間に割って入り、その身を呈してロケット弾を受け止める。

 

衝撃の余り、カルロ・ベローチェCV35は横倒しとなり、白旗を上げる。

 

「ああ、クソッ! 邪魔しやがってっ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

次のロケット弾を装填しようとした地市に、残っていた護衛のピッツァ歩兵部隊が銃撃を浴びせる。

 

「おわたたっ!?」

 

装填を中止すると慌てて逃げ回る地市。

 

「石上さん! Ⅳ号の陰へっ!!」

 

とそこで、みほがⅣ号を前進させ、地市の盾になる様にする。

 

銃弾が次々とⅣ号に命中するが、装甲で弾かれる。

 

「沙織さん! 機銃掃射っ!!」

 

「了解っ!!」

 

そこで、みほは沙織に命じ、沙織は車体前方機銃のMG34機関銃で、地市を攻撃していたピッツァ歩兵部隊に銃撃を浴びせる。

 

「「「「「ぎゅああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

木々が薙ぎ倒されるが如く、次々に戦死判定となって行くピッツァ歩兵部隊。

 

「このぉっ!!」

 

そのⅣ号に向かって、M13/40カルロ・アルマートが砲撃する。

 

「ん………」

 

しかし、それに気づいていた麻子はすぐにⅣ号を発進させ、M13/40カルロ・アルマートが放った砲弾は、Ⅳ号が居た空間を通り抜ける。

 

「徹甲弾、装填完了!」

 

「撃ちます!」

 

そこで優花里が装填を終え、華が再びⅣ号が停止するのと同時に発砲。

 

長砲身となり、威力の増したⅣ号の砲弾は、M13/40カルロ・アルマートの正面装甲を軽く貫通したとの判定を下させ、白旗を上げさせた。

 

「コレで敵の戦車は2両………」

 

キューポラのペリスコープで、アンツィオの残る戦車、P40とM13/40カルロ・アルマートを確認したみほがそう呟く。

 

「みほさん! P40をお願いしますっ!!」

 

「残りの1両戦車と歩兵部隊は、僕達が引き受けますっ!!」

 

そこで、飛彗と楓が、みほへそう呼び掛けた。

 

「おまっ!? まだ戦車が残ってるのに、無理だって!!」

 

只1人、了平だけが不安を露わにそう言うが………

 

「分かりました! お願いしますっ!!」

 

聞こえなかったのか、みほがそう返すと、Ⅳ号はP40に向かって行った!

 

「ちょっ!? 待ってみほちゃん達~っ!! カムバアアアアアァァァァァァーーーーーーーックッ!!」

 

了平が思わず悲痛な叫び声を挙げるが、それは虚しく戦場の轟音で掻き消される………

 

「Ⅳ号が向かって来ます!」

 

「西住 みほ………せめて貴様だけは!!」

 

「総帥(ドゥーチェ)! 如何か冷静に!! 時間を稼げば、必ずフォルゴーレが大洗のフラッグ車を撃破してくれます!!」

 

ペパロニの報告に、アンチョビは教鞭をへし折らんばかりに折り曲げてそう言うが、カルパッチョが落ち着いてと声を掛ける。

 

とそこで、Ⅳ号の主砲が火を噴いた!!

 

「!! 左旋回っ!!」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

アンチョビが叫ぶと、ペパロニが慌ててP40を左旋回させる。

 

直後に、Ⅳ号が放った砲弾がP40の砲塔左側面に命中したが、奇跡的に角度が浅かった為、弾かれた。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐうっ! フォーコッ(撃て)!!」

 

車内に走った衝撃に、ペパロニが悲鳴を挙げ、アンチョビによろけたが、すぐに反撃を行う。

 

「麻子さん!」

 

「!!」

 

Ⅳ号は麻子の抜群の操縦により、P40の砲弾を回避する。

 

「華さん! 沙織さん! 機銃で攻撃っ!!」

 

「分かりました!」

 

「任せてっ!!」

 

そしてそこで、華が主砲同軸機銃、沙織が車体機銃をP40に向けて発砲する。

 

命中した弾丸が、P40の装甲表面で火花を散らす。

 

「うわあぁっ! 鼓膜が破れるぅっ!!」

 

「ぐうっ! オノレェッ!!」

 

その際の音で、P40の車内は騒音に支配され、ペパロニが思わず耳を抑え、アンチョビも顔を歪める。

 

と、ある程度撃ち込んだかと思うと、Ⅳ号が発進する。

 

「! 逃がすな! 追えぇっ!!」

 

先程の機銃攻撃で頭に血が上ったアンチョビは、Ⅳ号への追撃を命じる。

 

「総帥(ドゥーチェ)! お待ちを………」

 

「このぉっ! もう許さないぞっ!!」

 

罠の可能性を感じたカルパッチョが制止しようとするが、その前にペパロニがP40を発進させ、Ⅳ号を追って行った。

 

「! 総帥(ドゥーチェ)!!」

 

「マズイ! 総帥(ドゥーチェ)を守れっ!!」

 

残っていたM13/40カルロ・アルマートと、ピッツァ歩兵部隊の隊員達が慌ててP40を追おうとするが………

 

「そうはさせるかぁっ!!」

 

「行かせません!」

 

「時間稼ぎですね………」

 

地市、楓、飛彗が中心となり、とらさん分隊がそれを阻止する。

 

「うわ~~ん! 何で俺ばっかこんな目に遭うんだよ~~っ!!」

 

その中には、泣きながらカールグスタフm/45を撃ち捲っている了平の姿も在った。

 

「妙に乱射している奴が居るぞ!!」

 

「厄介だな………奴から始末しろ!!」

 

そしてその撃ち捲りの癖により、またも多数の敵から狙われてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に現れたアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の鬼、フォルゴーレ。
その戦いぶりは、台詞にもある通り、08小隊のノリスをリスペクトしております。
立った1人で大洗機甲部隊を掻き回し、戦車を2両も屠ったフォルゴーレ。
果たして彼を止められるのか?
そして、P40と一騎打ちへと持ち込んだあんこうチームは?
次回、いよいよ2回戦も決着です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第40話『フォルゴーレ空挺師団です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第40話『フォルゴーレ空挺師団です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊を追い詰めたかに思われた大洗機甲部隊………

 

だが、しかし!

 

あんこうチームととらさん分隊が本隊への先回りを掛けていた間に………

 

ピッツァ歩兵部隊の副隊長・フォルゴーレが………

 

大洗機甲部隊を強襲!

 

その鬼の様な戦闘力を持って、アッと言う間にM3リーと八九式を撃破する。

 

本隊の危機を聞いたとらさん分隊から、弘樹と白狼が救援に向かい、みほ達あんこうチームと残りのとらさん分隊員達は、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の本隊へ仕掛ける。

 

戦いはどちらがフラッグ車を撃破するのが早いか………

 

時間との戦いとなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・本隊………

 

突如現れたフォルゴーレにより、2両の戦車を撃破され、大混乱の大洗機甲部隊。

 

そしてそんな中、熾龍はフォルゴーレと対峙していた。

 

着剣したカルカノM1938を構えるフォルゴーレと、愛刀・戦獄を脇で構えている熾龍が、互いの様子を窺う様に横移動する。

 

『フォルゴーレ! コチラは現在大洗の隊長車と交戦中!! このままじゃマズイかも知れないわ!!』

 

とそこで、フォルゴーレの耳にそう言うカルパッチョからの通信が飛び込んで来る。

 

「了解しました、カルパッチョ様………悠長にしていられんか………仕掛けさせてもらう!」

 

それを聞いたフォルゴーレは、熾龍へと仕掛けた!

 

「!!」

 

着剣したカルカノM1938の縦斬りを戦獄で流す熾龍。

 

しかし、フォルゴーレはすぐさま返す刀で横薙ぎを繰り出す。

 

「!!………」

 

コレも如何にか受け止めた熾龍だが、間髪入れずに今度は突きが襲って来る!!

 

「チイッ!………」

 

熾龍は飛び退く様にバックステップして距離を離す。

 

そして、左手を戦獄から放したかと思うと、戦闘服の懐に入れて十四年式拳銃を抜き、フォルゴーレに向けたが………

 

「させんっ!!」

 

フォルゴーレはそう言い放ったかと思うと、左手にワイヤーを握り、それを熾龍目掛けて伸ばした!!

 

伸びて来たワイヤーが、十四年式拳銃に巻き付く!

 

「!?」

 

「むんっ!!」

 

熾龍が一瞬驚いていた瞬間に、フォルゴーレはそのまま熾龍の手から十四年式拳銃を奪い去る!

 

ワイヤーに絡め取られていた十四年式拳銃は、上へと舞い上げられ、そのまま彼方へ放り投げられた。

 

「小癪なっ!………」

 

「隙有りっ!!」

 

熾龍がそう言った瞬間、フォルゴーレの着剣したカルカノM1938での袈裟懸けが繰り出される!

 

「!!………」

 

咄嗟に身を反らした熾龍だったが、着剣したカルカノM1938は熾龍の左腕を斬り裂いた!

 

戦闘服が甚大なダメージを受けたと判定を下し、左腕の動きが効かなくなる。

 

「ッ! 片腕をやられただけだ………」

 

だが、熾龍はそれを逆手に取り、フォルゴーレの追撃を動かなくなった左腕で受ける。

 

フォルゴーレは2撃、3撃と攻撃を続けるが、熾龍は左腕を盾に受け止める。

 

「フッ! 反射神経は良い様だな。だが! コレは避けられるかっ!!」

 

するとフォルゴーレはそう叫んだかと思うと、着剣したカルカノM1938を右に向かって思いっきり放り投げた!

 

「!?………! 不覚っ!!」

 

「目の良さが命取りだぁっ!!」

 

熾龍が反射的にそれを目で追ってしまった隙にフォルゴーレは跳躍。

 

再びワイヤーを握って、熾龍に向かって伸ばす!

 

「ぐうっ!?」

 

フォルゴーレが伸ばしてきたワイヤーが、熾龍の首に巻き付く。

 

「栗林先輩!」

 

「拙いぞっ!!」

 

「副隊長の邪魔はさせんっ!!」

 

熾龍の窮地を目撃する大洗歩兵部隊の面々だが、フォルゴーレに付き従って来たピッツァ歩兵部隊の隊員達に阻まれ、援護に行けない。

 

「…………」

 

まだ動く右手で首に巻き付いているワイヤーを掴み、逆にフォルゴーレを引き寄せようとする熾龍。

 

「遊びが過ぎた様だな………」

 

しかし、フォルゴーレはピクリとも動かない。

 

すると………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

桃の叫び声と共に、38tがフォルゴーレに向かって突撃する。

 

「!?」

 

「むんっ!!」

 

するとフォルゴーレは、ワイヤーを手繰り寄せ、熾龍を盾にする様にした。

 

「! 貴様っ!!」

 

「如何する!? まだコイツに戦死判定は下されていないぞ!!」

 

屈辱的な扱いに熾龍が怒りを見せるが、フォルゴーレは意に介せず、突っ込んで来る38tに向かってそう言い放つ。

 

だが………

 

「撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

桃のテンパった叫びが響くと、38tは熾龍を盾にしているフォルゴーレ目掛けて次々に砲弾を見舞った!

 

「!? 何っ!?」

 

「! チイッ!!」

 

味方の事などお構い無しに撃って来た38tにフォルゴーレが驚いていると、熾龍はその隙を突いて後ろ蹴りを叩き込み、拘束から逃れて離脱する!

 

「! 不覚っ!!」

 

そう叫びながらも、飛んで来る砲弾を避ける為、回避行動に移るフォルゴーレ。

 

「味方ごと攻撃するとは!………いや、コチラに隙が出来る事を知って離脱すると読んだか。大した信頼だ」

 

38tからの攻撃をそう解釈するフォルゴーレ。

 

無論そんな事は全然無く、桃はいつもの様にテンパって熾龍が居るのも目に入らず砲撃を行っただけである。

 

「………あの女………後で叩き斬る………」

 

一方、辛うじて離脱に成功した熾龍は、着弾で出来た穴の中に隠れながら怒気を含んだ呟きを漏らしたのだった。

 

「撃てぇーっ! 撃て撃て撃てぇーっ!! 相手を人間だと思うなぁーっ!! 人の皮を被った化け物だと思えーっ!!」

 

「も、桃ちゃんっ!!」

 

「落ち着いて! 落ち着いて、桃ちゃんっ!!」

 

柚子と蛍が止めるのも聞かず、桃は自分で装填しては主砲をブッ放すと言う行為を繰り返す。

 

と………

 

「!? ア、アレッ!? 砲弾が無いっ!?」

 

とうとう38tは搭載されていた全ての砲弾を使い尽くしてしまう。

 

「フッ………弾切れの様だな!」

 

それに気づいたフォルゴーレは回避行動を止め、38tに突撃する。

 

「! 小山! 全速前進! 体当たりだっ!!」

 

「ええっ!? 会長! 幾らなんでもそれは!!」

 

「急げっ!!」

 

杏の指示に柚子は戸惑ったが、杏が何時もの不敵な様子を投げ捨て、完全に焦っている表情で柚子にそう言い放つ。

 

「!? ハ、ハイッ!!」

 

鬼気迫るものを感じ、柚子は条件反射的に38tを発進させ、突撃して来るフォルゴーレを跳ね飛ばそうとする。

 

「蛍! 機銃を撃てっ!!」

 

「! う、うんっ!!」

 

更に杏は蛍に砲塔の機銃を撃つ様に命じ、自らも通信手席に装備されていたMG37を発砲する!

 

砲塔と車体の機銃から次々と放たれた弾丸が、フォルゴーレの足元の地面を爆ぜさせる。

 

「止められるかぁっ!!」

 

しかし、フォルゴーレは一切怯まず突撃を続ける。

 

「! 小山ーっ!!」

 

「ご、ごめんなさいーっ!!」

 

杏は再度柚子に呼び掛け、柚子は遂に最大速度でフォルゴーレに突っ込む!

 

だが、その瞬間!

 

「見切ったぞっ!!」

 

フォルゴーレはそう言い放ったかと思うと、何と!

 

その場に仰向けに寝そべった!!

 

38tが突っ込んで来ると、フォルゴーレは車体と地面の隙間、履帯と履帯の間に入り込む。

 

そして車体下側に在ったフック部分を掴み、引き摺られる。

 

「ア、アレッ!?」

 

「消えたっ!?」

 

突然フォルゴーレの姿が消えた様に見えた柚子と桃が慌てる。

 

「!? 下だよっ!!」

 

「小山! 信地旋回っ!!」

 

と、蛍がそう声を挙げると、杏もそう叫ぶ。

 

「遅いっ!!」

 

しかし、既にフォルゴーレは、対戦車地雷を38tの底面に仕掛け、フック部分から手を離して離脱する。

 

38tがそのまま少し進んだかと思うと、底面部で爆発が起こり停止。

 

そのまま砲塔から白旗が飛び出して、撃破されたと判定された。

 

「!? カメさんチームが!?」

 

「マズイぞっ! もう残ってるのはフラッグ車だけだぞっ!!」

 

それを見た大洗歩兵部隊の隊員達からそんな声が挙がる。

 

そう………

 

Ⅳ号がアンツィオ&ピッツァ機甲部隊へと向かった今、大洗機甲部隊に残された戦車はフラッグ車であるカバさんチームのⅢ突だけだった。

 

「残るはフラッグ車………奴さえ叩けば」

 

フォルゴーレはそのⅢ突を睨みつける様に見据える。

 

「クッ! 何と言う気迫………」

 

「蛇に睨まれた蛙とはこの事だな」

 

その気迫を感じ取った左衛門佐とカエサルが冷や汗を流しながらそう呟く。

 

「おりょう! 前に出ろ! 守ったら負ける!! 攻めるんだっ!!」

 

「おうぜよっ!!」

 

と、そこでエルヴィンがそう指示し、おりょうはⅢ突を前進させる。

 

「待て! カバさんチーム! 危険だっ!!」

 

「撃てぇっ!!」

 

ゾルダートがそう叫んだ瞬間、エルヴィンの号令でⅢ突がフォルゴーレに向かって砲撃する!

 

しかし、フォルゴーレはまたも僅かに身を反らしただけで回避する。

 

「正確な砲撃だ。それ故に予想し易い」

 

「カエサル! 次弾っ!!」

 

「分かっているっ!!」

 

フォルゴーレがそう言う中、エルヴィンはカエサルに次弾を装填させ、再び砲撃を行う。

 

「ほう、思いっ切りの良い戦車長だ。手強い………だが!」

 

再び僅かに身を反らしただけで砲撃をかわすと、フォルゴーレは対戦車地雷をフリスビーの様にⅢ突目掛けて投げつける。

 

「おりょう! かわせっ!!」

 

「ホイッ!!」

 

エルヴィンは即座に反応し、Ⅲ突は左方向へ進行先を変える。

 

対戦車地雷は空を切った………

 

………かに思われた瞬間!!

 

「まだ終わりではないぞっ!!」

 

何と!!

 

フォルゴーレはその投擲した対戦車地雷に向かってワイヤーを伸ばしてキャッチ!

 

そのまま軌道を変えて、Ⅲ突の右側面にブチ当てた!!

 

「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

何が起こったのか分からぬまま、カバさんチームの悲鳴にも似た叫びが挙がり、Ⅲ突の右側の履帯と転輪が幾つも千切れ飛ぶ。

 

しかし、辛うじて撃破判定は下らなかった様で、白旗は上がらない。

 

だが、砲塔の無い自走砲のⅢ突にとって、動けなくなる事は致命傷に等しかった。

 

「大洗機甲部隊、お前達は良く戦った………だが、ココまでだ!!」

 

そのⅢ突にトドメを刺すべく、火炎瓶を構えるフォルゴーレ。

 

「イカン! 駆けろ! シュトゥルムッ!!」

 

すぐさまゾルダートが救援に向かおうとシュトゥルムを駆けさせるが………

 

「邪魔はさせないぞっ!!」

 

「副隊長! 急いでフラッグ車をっ!!」

 

「クウッ! 退いて頂こうっ!!」

 

ピッツァ歩兵部隊が、捨て身で進路に立ちはだかり、ゾルダートを阻止する。

 

「コレで終わりだっ!!」

 

そして遂に、フォルゴーレは火炎瓶をⅢ突へ投げつけようとする。

 

大洗機甲部隊の命運も此処に尽きたか………

 

かと、思われたその瞬間!!

 

爆音と共に、茂みの中から1台のバイクが飛び出し、フォルゴーレの頭上を飛び越す様に大きくジャンプした。

 

「!? むっ!?」

 

「チェストオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッ!!」

 

フォルゴーレがそれを見上げた瞬間!!

 

そのバイク………白狼のK800Wの後部から飛び降りた弘樹が、着剣した九九式短小銃を上段に振り被った状態から落下と共に振り下ろして来る!!

 

「! チイッ!!」

 

咄嗟にバックステップを踏んだフォルゴーレだったが、弘樹の斬撃は火炎瓶の火種部分を斬り落とした!

 

「ぬうっ!?」

 

「やはり貴様か………フォルゴーレ」

 

初めて僅かに動揺を見せたフォルゴーレに、弘樹は着剣した九九式短小銃を構えながらそう言い放つ。

 

「舩坂 弘樹か………流石は英霊の血を引く者………危機を聞いて颯爽と駆けてつけて来たか………」

 

対するフォルゴーレも、ワイヤーを使って放り投げ捨てていた着剣したカルカノM1938を回収し、弘樹に向かって構える。

 

『舩坂 弘樹。気を付けろ………その男は君と一緒だ」

 

とそこで、弘樹の耳に煌人からのそう言う通信が入って来る。

 

「小官と同じ?………」

 

『その男も第二次世界大戦で活躍した者の血を引く男だと言う事さ。最も、個人ではなく部隊の様だがな………』

 

「やはり………『フォルゴーレ空挺師団』か」

 

『その通り』

 

弘樹の言葉を肯定する煌人。

 

 

 

 

 

『フォルゴーレ空挺師団』………

 

第二次世界大戦に於ける、北アフリカ戦線での戦いで伝説的な活躍をしたイタリア軍の部隊である。

 

アメリカからの支援を受け、『バーナード・モントゴメリー将軍』に指揮されたイギリス軍により、それまで北アフリカ戦線で連戦連勝していた枢軸軍は大打撃を受けて敗退。

 

追撃を仕掛けて来た連合軍を食い止めたのがイタリア軍………『フォルゴーレ空挺師団』である。

 

兵力比1:13、戦車比1:70、更には歩兵用の対戦車装備は火炎瓶と地雷だけと言う絶望どころではない状況下で、フォルゴーレ空挺師団はイギリスの戦車部隊に果敢に肉薄攻撃を敢行。

 

最終的にフォルゴーレ空挺師団は壊滅状態となったが、連合軍の戦車部隊に大損害を与え、本格的な攻勢を2度も退けた。

 

時のイギリス首相『ウィンストン・チャーチル』は、フォルゴーレ空挺師団の奮闘を称え、『彼らは獅子の如く戦った』と賞賛したと言われている。

 

 

 

 

 

「気づいていたのか………」

 

「そんなあからさまな名前を名乗られてはな………」

 

不敵に笑うフォルゴーレに、弘樹は無表情のまま着剣した九九式短小銃を構え直す。

 

「フフ、英霊の子孫と一騎打ちする事になるとはな………だが、負けん!」

 

フォルゴーレもそう言い、着剣したカルカノM1938を構える。

 

「「…………」」

 

そしてそのまま、黙って両者は睨み合いとなった。

 

(2人の実力は完全に拮抗している………勝負が着くのは………一瞬だ)

 

その様子を見たゾルダートが、そう分析する。

 

「「…………」」

 

弘樹とフォルゴーレは、お互いの一挙一動を見逃さず、摺り足でジリジリと移動する。

 

(………埒が明かんか。時間を掛けている暇は無い………ならば!)

 

とそこで、本隊も襲撃を受けており、時間的な余裕が無いと感じていたフォルゴーレが誘いに出た。

 

態と大きく身体を動かし、隙を作る。

 

「………!」

 

それを見た弘樹は、即座にフォルゴーレに仕掛ける!

 

着剣した九九式短小銃で、フォルゴーレを突き刺そうと突撃する弘樹。

 

「掛かったなぁっ!!」

 

だが、その瞬間にフォルゴーレも着剣したカルカノM1938を下段に構え、弘樹に向かって突撃する!

 

「!…………」

 

弘樹はそのフォルゴーレに向かって、着剣した九九式短小銃の突きを繰り出す。

 

しかし、フォルゴーレは身を屈め、弘樹が繰り出した着剣した九九式短小銃の突きは微かに肩を斬っただけだった。

 

「勝ったぞっ!!………!?」

 

懐に飛び込む事に成功し、勝利を確信したフォルゴーレは、カルカノM1938での突きを繰り出そうとしたが、そこで彼は目撃する………

 

着剣した九九式短小銃を握っていた筈の弘樹の右手が………

 

何時の前にか、腰の刀・英霊の柄を握っている事に………

 

「しまっ………」

 

「シエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

フォルゴーレが台詞を言い切る前に、弘樹の気合の叫びと共に英霊が引き抜かれ、そのまま片手で居合いを繰り出す!!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

左切り上げで斬り付けられたフォルゴーレは一瞬宙を舞い、そのまま地面に仰向けに倒れたかと思うと、戦死判定が下された。

 

「!? 副隊長っ!?」

 

「弘樹っ!!」

 

ピッツァ歩兵部隊の隊員達の悲鳴の様な叫び声と、大洗歩兵部隊の歓声にも似た声が同時に響き渡り、両部隊の動きが一瞬止まる。

 

その瞬間に………

 

『アンツィオ戦車部隊フラッグ車、行動不能! よって、大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

試合終了………そして、大洗機甲部隊の勝利を告げるアナウンスが響いて来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り………

 

「フォーコッ(撃て)!!」

 

「撃てっ!!」

 

誘い出したP40とⅣ号は一騎打ちを展開。

 

互いに走り回りながら次々と砲撃を行っているが、行進間射撃の為、お互いに命中弾は無い。

 

「西住殿! 徹甲弾、成形炸薬弾の残り僅かです!!」

 

新たな徹甲弾を装填した優花里が、みほにそう報告する。

 

「みぽりん! ウサギさんチームとアヒルさんチームに加えて、カメさんチームもやられたって! 残ってるフラッグ車のカバさんチームも危ないって!!」

 

更に沙織も、本隊から入った報告を伝える。

 

「コレ以上は時間を掛けられない………一か八かですが、勝負を掛けますっ!!」

 

「分かりました」

 

「如何するんだ?」

 

みほがそう判断を下すと、華が照準器を除いたまま力強く頷き、麻子がそう問い質してくる。

 

「麻子さん、敵戦車の左側に回り込んで下さい!」

 

「ん………」

 

その指示通りに、麻子が操縦するⅣ号はP40の左側面に回り込もうとする。

 

「! 左に回り込んで来るぞ! 旋回っ!!」

 

「ハイッ!!」

 

アンチョビはすぐに反応し、ペパロニはP40を旋回させる。

 

「今です! 突っ込んでっ!!」

 

「ホイ………」

 

それを見たみほは、即座に回り込むのを中断し、Ⅳ号をP40目掛けて突撃させた!

 

「!? 突っ込んで来ます!!」

 

「何っ!? ええいっ! フォーコッ(撃て)!!」

 

驚きつつもアンチョビは即座に発砲を指示。

 

P40の砲塔が突っ込んで来るⅣ号に向けられる。

 

だが、その直後!!

 

「華さん! 砲身を下げてっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

Ⅳ号の砲身が少し下がったかと思うと、更に加速を付けて突撃!!

 

「!? 何っ!?」

 

再びアンチョビが驚きの声を挙げた瞬間!

 

P40の砲身とⅣ号の砲身が接触!!

 

そのまま火花を散らして、Ⅳ号の砲身がP40の砲身の下に潜り込んだ!!

 

P40が放った砲弾は、Ⅳ号のキューポラを掠めて外れる!

 

そのまま突っ込んだⅣ号は、砲口をP40の砲塔基部に潜り込ませる様にセットした!!

 

「撃てぇっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

直後に華が徹甲弾を発砲!!

 

P40の砲塔基部から爆発と黒煙が上がる!!

 

暫しその一帯は、爆煙に包まれ、Ⅳ号とP40の姿は見えなくなる。

 

やがて、爆煙が晴れて来たかと思うと………

 

砲身先端部が砕けたⅣ号と………

 

砲塔から白旗を上げているP40の姿が露わになった。

 

『アンツィオ戦車部隊フラッグ車、行動不能! よって、大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

直後に、主審の篠川 香音による、大洗機甲部隊の勝利を告げるアナウンスが流された。

 

「やったぁっ!!」

 

「やりましたね、みほさん!!」

 

「西住殿ぉっ!!」

 

「またギリギリだったがな………」

 

それを受けて、沙織、華、優花里、麻子が、多種多様な声を挙げる。

 

「フゥ~~~~………良かったぁ」

 

みほは緊張の糸が切れた様に、大きく息を吐いて椅子に深く凭れ掛かった。

 

『こちらとらさん分隊分隊長、舩坂 弘樹。西住総隊長、応答願います』

 

とそこで、弘樹からの通信が送られてくる。

 

「! アッ、ハ、ハイッ!! 西住ですっ!!」

 

途端にみほは、通信であるにも関わらずに、姿勢を正して応答する。

 

『やりましたね。フラッグ車を撃破なされたのですね』

 

「うん、何とかね………他の皆は大丈夫?」

 

『ハイ。戦車部隊はほぼ壊滅状態で、歩兵部隊にも多数の被害が出ましたが、負傷者は居ません』

 

「そう、良かった………では、コレより帰還します」

 

『了解しました。通信終わり』

 

そう遣り取りを交わすと弘樹は通信を切る。

 

「麻子さん、動けますか? 集合地点に戻ります」

 

「大丈夫だ、駆動系に異常は無い」

 

みほはそう呼び掛けると、麻子は動くのは問題無いと言って砲身先端部が砕けたⅣ号を操縦して、集合場所まで戻り始めるのだった。

 

「西住 みほ………」

 

その場に残された、撃破されたP40の中では、アンチョビが心底悔しそうな表情を浮かべて、持っていた教鞭を圧し折るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回、鬼の如き活躍を見せたフォルゴーレ。
実は彼も、第二次世界大戦で活躍した部隊に居た人の子孫なのです。
フォルゴーレ空挺師団については、エル・アラメインの戦いを調べてみて下さい。

しかし、今回も首の皮一枚繋がった状態で、大洗の勝利です。
次回は試合後のエピソードとなります。
そしてその次からはいよいよカモさんチームとサンショウウオさんチームが参戦。
更に、歩兵部隊にも増員を行います。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第41話『2回戦、終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第41話『2回戦、終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会2回戦………

 

序盤こそアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に損害を与えた大洗機甲部隊だったが………

 

あんこうチームととらさん分隊が先行した間に、フォルゴーレ率いるピッツァ歩兵部隊に襲撃され、あわやのところまで追い詰められた。

 

だが、辛うじて弘樹が間に合い、更にみほ達あんこうチームも、アンツィオ戦車部隊のフラッグ車………アンチョビが乗るP40の撃破に成功。

 

隔して………

 

大洗機甲部隊は、またも辛くもだが、2回戦を勝ち進んだのだった。

 

 

 

 

 

大洗学園艦が停泊している港………

 

「こりゃまた派手にやられたねぇ~」

 

戦車の回収に来た整備員達の中に居たナカジマが、全て何処かしらが損傷している大洗戦車部隊の戦車を見てそう呟く。

 

「すぐに部品を発注してくれ。整備は損傷の激しい車両から優先して行う」

 

「ホイ来たぁっ!」

 

敏郎は即座に整備部長の顔となり指示を出し、藤兵衛を中心とした整備部員達が戦車を大洗学園艦へと運び出す。

 

「今回もギリギリの勝利だったね」

 

「ハッ………」

 

その様子を見ていた迫信がそう呟き、傍に居た弘樹は肯定の返事を返す。

 

集まっている大洗機甲部隊の面々も、皆大なり小なり疲れた様子を見せている。

 

「み、皆さん………」

 

とそこで、そんな一同にみほが声を掛け、全員の視線がみほに集まる。

 

「今回は私が手間取ったせいで皆さんに負担掛けてしまって、申し訳………」

 

と、みほがそう言って謝ろうとしたところ………

 

「申し訳ありません、西住総隊長」

 

それを制する様に弘樹がみほに向かって謝罪した。

 

「えっ!?」

 

「今回の損害の責任は全て小官にあります。小官が今少し早く本隊へ合流していれば………」

 

戸惑うみほに弘樹はそう言葉を続ける。

 

「そ、そんな! アレは!………」

 

「いやいや、本隊の指揮を任されていたのは私だ。責任は私に有るよ」

 

みほが何か言おうとしたところ、再びそれを遮って、今度は迫信がそう言って来た。

 

「いや、アレは俺が………」

 

「俺がもっと頑張っていれば!」

 

「すみません! 僕が!………」

 

それを皮切りに、大洗歩兵部隊の面々から次々に責任を感じている言葉が挙がる。

 

「皆さん………」

 

「西住くん。責任は我々全員に在る。誰か1人のせいと言う事は有り得ないのだよ。我々がすべき事は、反省点を反省し、次の試合に活かす事だ」

 

そんな大洗歩兵部隊の様子を見ていたみほに、迫信がいつもの様に不敵に笑ってそう言った。

 

「神大さん………」

 

そこでみほは再び弘樹の方を見やる。

 

「…………」

 

弘樹はいつもの仏頂面のまま、ただ力強く頷いた。

 

「………皆さん、ありがとう」

 

それを見たみほは笑顔となり、皆に向かって謝罪ではなく、お礼を言った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊のメンバーは同じ様に笑いながら、ピースサインをしたり、サムズアップをしたり、ガッツポーズをする。

 

「じゃあ、帰ろうかぁ」

 

とそこで場を纏める様に杏がそう言った瞬間………

 

「西住 みほ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

怒鳴り声が響いて来て、一同がそちらを見やるとそこには………

 

「私はお前の戦車道を認めないぞ! お前は黒森峰で! フラッグ車の車長でありながら勝負を投げ出した!!」

 

「総帥(ドゥーチェ)!」

 

「…………」

 

そこには興奮した様子で捲し立てる様に言葉を飛ばしてくるアンチョビとそんなアンチョビを止めようとしているカルパッチョ。

 

そして、その傍に無言で佇んでいるフォルゴーレの姿が在った。

 

「結果、黒森峰は敗北! お前はチームを負けに追いやったのだ!!」

 

「! あ、貴方は!!」

 

「抜かしとんやないで! ワイ等に負けといて言う台詞かい!!」

 

優花里が何か言おうとしたよりも先に、大河がアンチョビに向かってそう言い放つ。

 

「黙れ! 私は西住 みほと話している!!」

 

「何やとぉっ!!」

 

「待って下さいっ!!」

 

思わずアンチョビに掴み掛って行こうとした大河を、みほが手で制す。

 

「………確かに、私は黒森峰で敗北を喫しました。でも、戦車道や歩兵道には、勝つか負けるか以外にも大切な事があると思うんです」

 

「ふざけるな! そんなモノある訳がない! 戦車道や歩兵道をやるからには勝たねば意味が無いのだ!!」

 

「それでは、アンチョビさんが仲間と一緒に頑張った事に意味は無かったんですか?」

 

「何?………」

 

みほのその言葉でアンチョビは黙り込む。

 

「私は大洗に来て、沢山の友達に支えられています。戦車道に背を向けた時もあったけど………今の私や私の戦車道は、友達が居たからこそココにあるんです」

 

そこでみほは大洗機甲部隊の面々を見渡す。

 

「私は『勝負』よりも『仲間』を大切にしたい!!」

 

そして、アンチョビに向かってハッキリとそう言い放った。

 

「西住殿………」

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「…………」

 

そんなみほの姿に、優花里、沙織、華、麻子のあんこうチームの面々は感激した様子を見せる。

 

他の大洗機甲部隊の面々も同様である。

 

「…………」

 

そして弘樹も相変わらず仏頂面だが、静かに頷いていた。

 

「…………」

 

「総帥(ドゥーチェ)、我々も行きましょう」

 

「………ああ」

 

アンチョビはそんなみほの姿を暫し見つめたかと思うと、カルパッチョにそう言われて踵を返す。

 

「西住 みほ………」

 

「!………」

 

と、数歩歩いた所で足を止め、背を向けたままみほに声を掛ける。

 

「お前の言い分は分かった………だが! だが!そんなモノは言葉だけ理想に過ぎないなっ!!」

 

「なっ!………」

 

「待て………」

 

優花里が食いかかろうとしたが、弘樹がそれを止める。

 

「仲間が大切であるなら………尚のこと隊長の役割は、仲間を勝利に導いてやる事じゃないのか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

「隊長としての役割………私はそう思っている」

 

「総帥(ドゥーチェ)………」

 

「カルパッチョ………すまなかった」

 

「………いえ」

 

最後にそう言い残して、アンチョビとカルパッチョは去って行く。

 

「…………」

 

後には、未だに佇んでいるフォルゴーレが残された。

 

「フォルゴーレ………」

 

「本来ならば隊長が来るべきなのだが、不貞腐れていてしまってな。代理で来させてもらった」

 

弘樹が声を掛けると、フォルゴーレは初めて口を開き、そう言い放つ。

 

「そうか………」

 

「先ずは勝利を祝わせてもらおう………しかし、西住 みほ」

 

「ハ、ハイ!」

 

「先程は仲間を大切にしたいと言っていたが………その仲間がコレでは報われんな」

 

「えっ!?」

 

「貴方! 何を!!………」

 

フォルゴーレの思わぬ言葉にみほが驚き、優花里が食いかかろうとしたところ………

 

「今日の試合は見事だった。だが忘れるな、大洗機甲部隊の諸君! 勝てたのは諸君等の力ではない! 西住 みほの指揮と舩坂 弘樹の活躍による精神的な支えのお蔭だ! それを忘れるなっ!!」

 

フォルゴーレはそれを遮る様にそう言い放ち、そのまま踵を返して立ち去って行った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残された大洗機甲部隊の面々は茫然となる。

 

「ふん、負け惜しみを………」

 

「だが、強ち間違いとは言えないぜ」

 

十河は完全なる負け惜しみだと言うが、俊がそれに反論する。

 

「西住総隊長と舩坂の奴が離れていた間に本隊に攻め込まれた時、結局あのフォルゴーレの奴1人に掻き回されたじゃねーか。戦車を3台も撃破されて、フラッグ車もあわやと言うところ。正直、かなり危なかったぞ」

 

「それは!………」

 

俊の言葉に反論しようとした十河だが、なまじ正論な為に言葉に詰まる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々も、言葉が無かった。

 

「諸君、今はその事を気にしていても仕方がないよ」

 

とそこで、迫信がいつもの不敵な表情でそう言って来る。

 

「我々の個々の実力は不足しているのは紛れも無い事実だ。しかし、運が良かったとはいえ、この試合では勝ちを拾えた。ならばその点を猛省し、次にはそうならない様にするのが我々の務めだよ」

 

若干気持ちが落ち込みかけていた大洗機甲部隊に向かってそう言い、上手くまとめる迫信。

 

「会長………」

 

「さ、もうすぐサンショウウオさんチームのライブだ。観覧しに行こうじゃないか」

 

そして、現在戦勝後のライブの準備を行っているサンショウウオさんチームの事を挙げ、話を切り替える。

 

「………そうだな」

 

「気にしててもしょうがねえよな」

 

「次までに練習をもっと頑張れば良いんだから!」

 

「おーっ!!」

 

それにより大洗機甲部隊の面々は気持ちを切り替え、サンショウウオさんチームが居るライブ会場へと向かう。

 

「神大さん、ありがとうございます」

 

みほは、皆の空気を変えてくれた迫信に礼を言う。

 

「何、大した事はしていないさ………では、お先に失礼するよ」

 

迫信はフッと笑うと、自分もサンショウウオさんチームが居るライブ会場へと向かった。

 

「我々も行こうか、西住くん」

 

そこで弘樹が、残されたみほに声を掛ける。

 

「あ、うん………」

 

弘樹に返事を返した後、何かを考え込む様な表情になるみほ。

 

「………気にしているのかい?」

 

先程アンチョビやフォルゴーレに言われた事について尋ねる弘樹。

 

「うん、ちょっと………アンチョビさんが言ってた事も分かる気がするから………それに、フォルゴーレさんが言ってたみたいに、私の存在が皆に依存心を与えてるんじゃないかと思って………」

 

みほは思い悩む様な表情を見せる。

 

「彼女には彼女の戦車道がある。フォルゴーレが言っていた事は、コレから解決して行けば良い………それだけの事だ」

 

弘樹はそんなみほにそう言葉を掛ける。

 

「舩坂くん………」

 

いつも通りの弘樹の仏頂面を見ながら呟くみほ。

 

「みぽり~ん! 行くよ~っ!!」

 

「お~い、弘樹~っ! 何やってんだぁ~っ!!」

 

とそこで、何時の間にか先へ行って居たあんこうチームととらさん分隊の面々の中で、沙織と地市が2人を呼ぶ。

 

「………行くか」

 

「………うん」

 

弘樹とみほはお互いの顔を見合って頷き合うと、2人並んでライブ会場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場………

 

会場内の客席には、大洗機甲部隊の面々に加え、大洗女子学園・男子校の生徒達………

 

更に、アンツィオ高校とピッツァ男子校の一般の生徒達らしき人々が、疎らに席に座っている。

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々の姿は無い為、1回戦の時より空席が目立つが、実質一般の客は増えていると言えるだろう。

 

「少しだけど………お客さん、増えたね」

 

「そうだね………」

 

疎らながらも客席に居る大洗女子学園・男子校の生徒達や、アンツィオ高校とピッツァ男子校の一般の生徒達の姿を見て、聖子と伊代がそう言い合う。

 

「けど、まだ満員には程遠いですね………」

 

「それも、最初に比べれば、大きな進歩だよ!!」

 

優は冷静にそう言い放つが、聖子がポジティブな意見を挙げる。

 

「「「…………」」」

 

一方、今日がデビュー&初ライブとなる明菜、静香、満里奈の3人は、緊張でガチガチに固まっている。

 

最早頭の中も真っ白な状態だろう。

 

「「「…………」」」

 

聖子、優、伊代の3人は、そんな明菜、静香、満里奈の姿を見ると………

 

聖子が明菜、優が静香、伊代が満里奈の背後に立ち、優しくその肩に両手を乗せた。

 

「!?」

 

「ふわっ!?」

 

「せ、先輩!?」

 

優しく置かれたとはいえ、突然肩に手を置かれた事に驚く満里奈、静香、明菜だったが………

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ~」

 

「そうです。日頃の練習通りにやれば良いのです」

 

「失敗しても、私達がちゃ~んとフォローしてあげるから」

 

伊代、優、聖子は其々に3人に向かって笑みを向けてそう言った。

 

「先輩………」

 

「…………」

 

「にゃあ~~………」

 

その笑顔を見た明菜、静香、満里奈から緊張が消えて行く………

 

「………良し! じゃあ行くよぉっ!!」

 

「「「「「おお~~~~っ!!」」」」」

 

そして、聖子が拳を振り上げてそう言うと、他の一同もそれに続いた!

 

「ミュージック、スタートッ!」

 

磐渡がそう言って演奏を開始し、明菜、静香、満里奈を加えた『Enter Enter MISSION』が披露される。

 

「…………」

 

そんな聖子達のライブを、食い入る様な視線で見つめている、1人の大洗女子学園の生徒が居た。

 

「………輝いてる」

 

ステージ上の聖子達を見ながら、そんな言葉を零す少女。

 

「………アタシも………あんな風に………」

 

少女は更にそう呟き、聖子達のステージを1秒たりとも見逃さず、観賞し続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

ライブステージの出入り口付近では………

 

「ふん………中々良い歌じゃないか」

 

アンチョビが出入り口部分に背中を預け、ステージ上のサンショウウオさんチームを見ながらそんな事を呟く。

 

「………まだまだ荒削りですが、中々のモノを持っています………戦車乗りとしても………スクールアイドルとしても」

 

その傍に控えていたカルパッチョも、聖子達を見ながらそう評す。

 

「彼女達が戦車チームとして参戦していたら………もっと危うかったかも知れませんな」

 

フォルゴーレもそう言った瞬間………

 

「L・O・V・E! ラブリー、サンショウウオさんチームッ!!」

 

すっかりサンショウウオさんチームのファンになった様子のロマーノが、脇目も振らずに声援を飛ばす。

 

「…………」

 

それを見たアンチョビは、無言でロマーノをしばき始めた。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

しばかれる度にお礼を言うロマーノ。

 

完全に手遅れである………

 

「………行くぞ」

 

「ハイ」

 

「隊長、行きますよ」

 

「ほええ~~~………」

 

アンチョビがそう言って踵を返すとカルパッチョが続き、フォルゴーレも恍惚の表情を浮かべているロマーノの首根っこを掴んで引き摺って行くのだった。

 

「サンショウウオさんチームか………貴様等が西住 みほの戦車道で生き残れるか如何か………見させてもらうぞ」

 

一瞬だけステージの方を振り返ったかと思うと、アンチョビはサンショウウオさんチームを見ながらそう言い放つ。

 

そのサンショウウオさんチームは既にライブを終え、大洗機甲部隊の面々と、僅かに集まっていた客から拍手を浴びていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊との公式2回戦、終了です。
敗れはしたものの、みほに大きな影響を与えるアンチョビとフォルゴーレ。
サンショウウオさんチームのライブも、地味ながらも観客が入り始めました。

さて、次回からは予告したとおりに、サンショウウオさんチームが本格的に戦車道に参加し、カモさんチームも参入するので、大洗歩兵部隊員の増員を行うエピソードが暫く続きます。
どんなメンバーが加入するのか、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第42話『新分隊、結成です!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第42話『新分隊、結成です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛くもアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を破り………

 

3回戦へと駒を進めた大洗機甲部隊。

 

次なる対戦相手に備えての訓練が続く中、遂に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「お待たせしました。レストア完了です」

 

「良い仕事をさせてもらったよ………」

 

そう言うナカジマと敏郎の背後には、まるで新品同様の輝きを放っているルノーB1bisとクロムウェル巡航戦車が鎮座している。

 

「おおお~~~~っ!!」

 

漸く動かせる様になった自分達の戦車を見て、目を輝かせている聖子。

 

「戦車が2両追加かぁ」

 

「そこそこ戦力の補強は出来たな」

 

生徒会チームの中で、柚子と桃がそう言い合う。

 

「あの、ルノーに乗るチームは如何なったんですか?」

 

とそこで、みほが杏に向かってそう尋ねる。

 

「ああ、それならもう呼んどいたよ」

 

「えっ?」

 

「失礼します」

 

杏がそう答え、みほが首を傾げていると、戦車格納庫内に3人の酷似した髪型をした大洗女子学園の生徒が姿を見せた。

 

「お………」

 

「彼女は………」

 

その3人の少女の先頭に立つ少女………園 みどり子を見て声を挙げる麻子と弘樹。

 

「今日から参加する事になりました、園 みどり子です」

 

「後藤 モヨ子です」

 

「金春 希美です」

 

みどり子が自己紹介をすると、背後に居た風紀委員の2人の少女………

 

みどり子より長いおかっぱ頭の少女『後藤 モヨ子』と、みどり子より短いおかっぱ頭の少女『金春 希美』も自己紹介をする。

 

「略してそど子、ゴモヨ、パゾ美だ。色々教えてやってね~」

 

するとそこで、杏がみどり子の横に立ちながら彼女達の名前を略した渾名を挙げる。

 

「会長、名前を略さないで下さい!」

 

「何チームにしようか~、総隊長?」

 

抗議の声を挙げるみどり子だったが、杏はそれを無視して風紀委員チームのチーム名をみほに問う。

 

「えっ? う~んと………」

 

突如振られたみほは、ルノーを見ながら考え込む。

 

「B1って、カモっぽくないですか?」

 

「じゃ、カモに決定~」

 

「カモですか!?」

 

みほがそう言うと、流れる様に風紀委員チームのチーム名は、『カモさんチーム』となった。

 

「戦車の操縦は冷泉さん、指導してあげてね」

 

「私が冷泉さんに!?」

 

柚子が麻子に操縦の指導を頼むと、みどり子は露骨に嫌そうな態度を露わにする。

 

「分かった………」

 

「成績が良いからって、良い気にならないでよね」

 

了承する麻子の眼前まで行くとそう言い放つみどり子。

 

「じゃあ自分で教本見て練習するんだな」

 

「! 何無責任なこと言ってるの!? ちゃんと分かり易く、懇切丁寧に教えなさいよ!」

 

「ハイハイ………」

 

「ハイは1回で良いのよ!」

 

「ハ~イ………」

 

「………案外良いコンビかもな、あの2人」

 

みどり子と麻子の遣り取りを見ていた地市がそんな事を呟く。

 

「アレはアレだな……トムとジェリーみたいな関係だろ」

 

「ああ、成程………」

 

「そう言われるとしっくりくるな」

 

磐渡、鷺澪、重音の3人もそんな事を言い合う。

 

「ねえ、聖子ちゃん。戦車に乗る時の役割は如何しようか?」

 

とそこで、相変わらずクロムウェルをキラキラとした目で見続けていた聖子に、伊代がそう尋ねた。

 

「あっと、そうか………う~ん………」

 

伊代にそう言われて、聖子は我に返ると考え込む様な様子を見せる。

 

「………取り敢えず、皆で其々に交代交代で役割をやってみて、しっくり来たのをやろうか」

 

「またそんな適当な………」

 

暫し考えた後、聖子がそう意見を挙げると、優が呆れた様子を見せる。

 

「ううん、良いと思うよ。先ずは戦車に乗るって事に慣れないとね」

 

しかし、みほはその案に賛成を示す。

 

「よ~し! いよいよサンショウウオさんチームの戦車道! 始まるよ!! パンツァー・フォーッ!!」

 

聖子はすっかりノリノリな様子で、拳を振り上げてジャンプし、そう声を挙げるのだった。

 

「………生徒会長、意見具申があります」

 

とそこで、今まで黙って成り行きを見ていた弘樹が、迫信に声を掛ける。

 

「君が言いたい事は分かっているよ、舩坂くん」

 

しかし、迫信は口元を広げた扇子で隠しながらそう言う。

 

「流石です、生徒会長………」

 

「うむ………大洗歩兵部隊の諸君、ちょっと聞いて欲しい」

 

弘樹がそれに感心していると、迫信は大洗歩兵部隊の隊員達の呼び掛ける。

 

「「「「「「「「「「………?」」」」」」」」」」

 

突然声を掛けられた大洗歩兵部隊の隊員達は、少々困惑した様子を見せながらも迫信の方を注目する。

 

「この度に於いて、ルノーB1bisを駆るカモさんチームとクロムウェル巡航戦車を駆るサンショウウオさんチームが戦車部隊として参加する事となる。しかし、現在の歩兵部隊の規模では新たなチームを含めた大洗戦車部隊を守るには不十分だと言わざるを得ない」

 

一同が注目して来ているのを確認すると、迫信は演説するかの様にそう言い始める。

 

「そこでだ………実は予てより、大洗歩兵部隊の増員を計画していてね」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

増員と言う言葉に、歩兵部隊の隊員達も、戦車部隊のメンバー達も驚きを示す。

 

「生徒会の方で追加募集を掛けたところ、それなりの人数が集まっている。しかし、増員メンバーとしてはまだまだ心許無い。そこで、諸君等の力を借りたい。君達がスカウト部隊となって、歩兵部隊の新隊員達を勧誘して欲しい」

 

「勧誘、ですか?」

 

「実際に歩兵道を行っている君達の言葉ならば何よりも真実味が有る。無論、生徒会もまだまだ募集を掛けて行くので、それに合わせた形と言う事でお願いしたい」

 

楓がそう呟くと、迫信はそれに答える様にそう言う。

 

「出来うる範囲内で良いので、よろしく頼む」

 

最後にそう言い、迫信は扇子を閉じて、不敵な笑みを露わにした。

 

「それじゃあ、練習始めよっか」

 

それを見計らっていたかの様に、杏がそう言い放つ。

 

「あ、ハイ!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほが返事を返すと、大洗歩兵部隊の面々も様々な敬礼をして返事をし、一同は頭を切り替えて、その日の練習を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝………

 

大洗国際男子校・2年1組教室………

 

「お早う」

 

「おう、弘樹。お早うさん」

 

「オーッス」

 

「お早うございます」

 

登校した弘樹が、既に席に着いて居る地市達に挨拶しながら自分の席へと着く。

 

「弘樹、早速今日の放課後からスカウト開始だぜ」

 

「ああ、分かっている」

 

「やっぱり強そうな奴を誘わないとなぁ………けど、そうなると俺の見せ場が減って、女子からの人気が………」

 

「了平………今まで貴方に見せ場があった事も無ければ、女性から人気があった事もありませんよ」

 

地市と弘樹の会話に、了平が口を挟むと、楓が容赦の無いツッコミを入れる。

 

「静かにしろ~。HRを始めるぞ~」

 

とそこで、担任の教師が姿を見せ、教壇に着いた。

 

教室に居た生徒達は全員自分の席に着き、前を向く。

 

「さて………突然だが、実は今日………このクラスに転校生が来る事になっている」

 

すると、担任の教師がそんな事を言い、生徒達はざわめく。

 

「転校生?」

 

「また随分と急ですね………」

 

「はあ~、コレが普通の学校だったら可愛い女の子との出会いが期待出来るのに………如何してウチの学校は男子校なんだよ!」

 

「煩いぞ、了平!」

 

弘樹、楓、了平、地市もそんな台詞を言う。

 

「静かに!………君、入って来てくれ」

 

「おうっ!」

 

とそこで、担任の教師が生徒達を静かにさせると、教室の外に向かって呼び掛け、教室の外から威勢の良い返事が返って来たかと思うと、1人の男が入って来る。

 

その男は短ランにTシャツ、ボンタン姿で、潰して薄くした革製の改造学生鞄を持って、髪型はリーゼントという、まるで昭和時代の不良の様な恰好をしていた。

 

教室へ入って来た男は、即座にチョークを手にすると、黒板いっぱいに名前を書き始める。

 

「文月 弦一朗(ふみづき げんいちろう)だ!」

 

名前を書き終えた男………『文月 弦一朗(ふみづき げんいちろう)』は、生徒達の方へ向き直ってそう自己紹介する。

 

「絵に描いた様なヤンキーだな………」

 

「リーゼントなんて初めて見たぜ」

 

「まあ、ウチの学校じゃ大人しい方ですね」

 

地市と了平が弦一朗の恰好を見てそう呟き、楓はそんな事を言う。

 

普通の学校ならば明らかに浮く筈の弦一朗の恰好だが、良くも悪くも曲者揃いの大洗男子校の中では、それほど珍しいモノでもなかった。

 

しかし………

 

「俺の夢は、この学校全員の奴と友達になる事だっ!」

 

自己紹介を終えた弦一朗は、教室に居る生徒達を指差しながらそう宣言をした。

 

その弦一朗の宣言に、生徒達は再びざわめく。

 

「学校と全ての奴と友達にだぁ!?」

 

「何言ってんだ、アイツ?」

 

「コレは………思った以上に灰汁の強い人だったみたいですね………」

 

地市、了平、楓もそんな言葉を漏らす。

 

「…………」

 

そんな中弘樹は、戸惑っている生徒達1人1人に、次々と挨拶をして行く弦一朗の事をジッと見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れて昼休み………

 

大洗男子校・学生食堂にて………

 

「ハイよ、大洗定食お待ち」

 

「うっひょ~! 美味そう~っ!!」

 

食堂のおばちゃんから頼んだメニューの乗ったトレイを受け取り、そんな感想を漏らして座る席を探す弦一朗。

 

「文月 弦一朗」

 

「ん?」

 

とそこで、自分を呼ぶ声が聞こえたのでその方向を向くと、何時ものメンバーでテーブルに着いて居た弘樹達の中で、弘樹と目が合う。

 

「おお、弘樹か!!」

 

「いきなり呼び捨てかよ………」

 

「何言ってんだ、ダチだろう? 堅苦しい呼び方なんざ要らねえじゃねえか」

 

いきなり名前を呼び捨てにする弦一朗に了平が呆れる様な言葉を漏らすが、弦一朗はお構い無しに近寄って来て、当然の様に相席する。

 

「面白い男だな………」

 

そんな弦一朗の姿を見て、弘樹はそんな事を呟く。

 

「アンタこそ、良い目をしてるじゃねえか。何者にも屈せず、何者にも従わない、自分の筋を通し抜く男の目だ」

 

すると弦一郎は、そんな弘樹の目を見ながらそう返す。

 

「へえ、スゲェな」

 

「舩坂さんの事を的確に捉えてますね」

 

弘樹の事を的確に捉えた言葉に、地市と楓が感心した様に呟く。

 

「…………」

 

そして弘樹は、そんな弦一朗の事をジッと見据えている。

 

「文月 弦一朗」

 

「んな堅苦しい呼び方すんなよ! 弦一朗で良いぜ!」

 

再び弘樹が、フルネームで弦一朗を呼ぶと、弦一朗は気さくにそう返す。

 

「そうか、分かった………では、弦一朗。単刀直入に聞く。歩兵道をやる気はないか?」

 

「あ? 歩兵道?」

 

「オイ、弘樹。まさかコイツをスカウトするのか?」

 

そう言う弘樹を見ながら首を傾げる弦一朗と、口を挟む了平。

 

「小官の感だが、君は良い素質を持っている。我が部隊としては、是非とも欲しい人材だ」

 

「そう言やぁ、確か大洗は今年から女子校が戦車道を復活させて、今全国大会で大活躍中だったっけ」

 

そこで弦一朗が思い出したかの様にそう呟く。

 

「如何だ? やってみる気はないか?」

 

「ああ、良いぜ」

 

「早っ!?」

 

弘樹が再び尋ねると、弦一朗は即座にそう返事を返し、そのスピード決断に了平がまたも呆れた様に声を挙げる。

 

「ダチの頼みだ! 断るワケにはいかねえだろ! それに、戦車道・歩兵道の全国大会に出りゃ、他の学校の奴とも会うんだろ? そいつ等とも全員友達になりてぇからな!」

 

「ふふふ、そう言う理由か………益々面白いな」

 

そう言う弘樹の顔には微笑が浮かんでいる。

 

「じゃあ、弦一朗さん。後で生徒会長の方に言って下さい。それで参加する事が出来ますから」

 

「それから、今日の放課後、新たな分隊編制の為に、新メンバー確保のスカウトをするから、そっちも手伝ってくれよ」

 

「おう! 任せておけ! 待ってろよー! まだ見ぬ俺のダチーッ!!」

 

楓と地市がそう言うと、弦一朗はそう言って、天井を指差すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は再び流れて放課後………

 

大洗歩兵部隊のメンバーは、其々に何人かのグループに分かれ………

 

新たな分隊を編制する為の人材スカウトを開始する。

 

尚、弦一朗は早速大洗歩兵部隊のメンバーと打ち解けていた。

 

白狼や磐渡達は勿論の事として、何とあの熾龍や煌人とも友達となっている。

 

特に、大河とは意気投合しており、彼の舎弟達である大洗連合の者達も、弦一朗をダチ公と呼んでいた。

 

 

 

 

 

大洗男子校・武道場………

 

「メーンッ!」

 

「やあーっ!!」

 

「とああああっ!!」

 

剣道部や柔道部、空手部と言った武道系の部活動をしている生徒達の声が、武道場の外まで響いて来る。

 

「弘樹、武道部の連中をスカウトする気か?」

 

「確かに、武道経験者なら、即戦力としては申し分無いですね」

 

真っ先にこの場所へと向かった弘樹に、地市と楓がそう言う。

 

「いや、武道部の人達ももうすぐ大会だ。今力を借りる事は難しいだろう」

 

しかし、弘樹はいつもの仏頂面でそう否定する。

 

「んじゃ何でこんなとこ来たんだ?」

 

「心当たりがあるからだ」

 

続いてそう尋ねて来た了平にそう返し、弘樹は武道場の入り口へ向かう。

 

「? 如何言う事だ?」

 

「アイツ、偶に何考えてるのか分かり難い時あるよな………」

 

「まあ、舩坂さんの事ですから、行き当たりばったりって事は無いと思いますけど………」

 

地市、了平、楓はそんな事を言いながら、そんな弘樹の後に続いたのだった。

 

「………やはり居られたか」

 

と、入り口が見えて来た瞬間に、弘樹がそう言って足を止める。

 

「? 如何した?」

 

地市がそう言って、武道場の入り口を見やると、そこには………

 

「…………」

 

ガタイが良く背が高い、強いパーマがかかったロングヘアに殿様がする様な立派なちょんまげの頭。

 

眉が無く、隈なのかなんなのか、白目の縁の部分が黒い男が、武道場内で稽古をしている剣道部を、ジッと見据えていた。

 

「絃賀先輩」

 

「! おおっ! 兄弟!! 久しぶりだなぁっ!!」

 

弘樹が声を掛けると、その男は矢鱈と高いテンションでそう返事を返す。

 

「誰だよ、弘樹? この無駄に煩い奴?」

 

その様子を見た了平が呆れた様にそう尋ねる。

 

「『絃賀 月人(げんが つきと)』先輩。元剣道部の主将だ。知らんのか? 全国大会個人の部での優勝者だぞ」

 

すると弘樹は了平にそう返す。

 

「小生が絃賀 月人である!!」

 

月人もそう自己紹介をする。

 

「テンション高っ!」

 

「絃賀先輩はいつもこんな感じだ。ところで先輩。また剣道部の様子を見ていたんですか?」

 

ハイテンションな月人に、地市が思わずそう声に出すと、弘樹が月人に向かってそう尋ねた。

 

「うむ! 我が絃賀家は代々武門の家柄! その嫡子たる小生が武道を究めんとするのは当然の事だ!! しかし………学年だけは如何しても覆せん!!」

 

最後の方の台詞は悔しさを露わに叫ぶ月人。

 

「あ~、そう言う人なのね………」

 

その言葉に、了平は多少月人の人柄を理解する。

 

「それならば絃賀先輩。歩兵道に参加してみる気は有りませんか?」

 

「!? 何だと!?」

 

「現在、我が大洗歩兵部隊は、大洗戦車部隊の増員に合わせて、部隊員の増員を行っています。絃賀先輩さえ良ければ、すぐにでも参加する事が可能ですが………」

 

「…………」

 

と、弘樹にそう説明される中、月人は不意に黙り込む。

 

「? 先輩?」

 

「あの、如何かしまし………」

 

「フハハハハハハハハッ! 我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

そんな月人に弘樹が首を傾げ、楓が如何したのかと尋ねようとした瞬間、月人は声の限りにそう叫んだ!

 

余りの大声に衝撃波が発生し、武道場の窓ガラスに罅が入る。

 

「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」

 

至近距離でその衝撃波と大声の直撃を受けた了平と地市が、悲鳴を挙げて地面に転がる。

 

「ぐ、あ……鼓膜が………」

 

咄嗟に耳を抑えて蹲った楓も、耳鳴りを覚えて苦悶の表情を浮かべる。

 

「兄弟ぃっ!! 実に良い知らせを持ってきてくれたぁっ!! 実は以前より、戦車道・歩兵道の試合は見させてもらっていたぁっ!! 実に闘争本能を刺激される良いモノだったぞぉっ!! まさか小生も参戦する事が出来るとは! 願っても無い事だぁっ!!」

 

「それは何よりです。では、お手数ですが、生徒会の方に出向いて、届けを出して下さい」

 

更にハイテンションな様子でそう言い放つ月人の眼前で、1人まるっきり平気な様子の弘樹が、何時もと同じく淡々とした様子でそう説明している。

 

「明日っから耳栓が要るな………」

 

「ホントにこんな奴を入れて大丈夫かよ………」

 

まだ地面に転がったままの地市と了平が、そんな2人の様子を見上げながらそんな言葉を漏らすのだった。

 

「では、兄弟。後程な」

 

「ハイ、後程………」

 

そこで月人は、歩兵部隊に入隊すべく、生徒会へと手続きへ向かう。

 

「………ああ、そうだ。増員メンバーを探していると言っていたな?」

 

とその途中、月人は不意に足を止めると、弘樹の方を振り返ってそう言う。

 

「そうですが………」

 

「ならば2年のVクラスに行ってみろ。面白い留学生が居るぞ。何でも先祖代々傭兵の家系らしい」

 

「傭兵の家系?」

 

「案外頼れるかも知れんぞ。フハハハハハハハハッ!!」

 

そう言うと、月人は高笑いを響かせながら、改めて生徒会の元へと向かったのだった。

 

「2年のVクラスか………」

 

「そんな人が居るなんて、知りませんでしたね」

 

「まあ、ウチは1学年のクラスが最低でも20クラス以上は有るからな」

 

「って言うか学生多過ぎだっての。小都市の人口並みだぜ」

 

弘樹が呟くと、漸く回復した楓、地市、了平がそう言って来る。

 

「兎に角、行ってみるぞ。絃賀先輩が薦める様な人間だ。相当な奴だろう」

 

そう言うと、弘樹達は何事かと集まって来ていた武道系の部活動の生徒達の視線を尻目に、月人が言っていた2年のVクラスへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校・校舎………

 

2年生のクラスが並ぶ廊下………

 

「………此処だな」

 

2-Vと掛かれた教室の表札を見て立ち止まる弘樹。

 

「で、どいつが傭兵の家系の奴なんだ?」

 

「留学生って言ってましたけど………」

 

「って言うか、留学生も多過ぎだぞ、ウチの学校………」

 

地市、楓、了平がそんな事を言いながらクラスの中を覗き込み、そんな事を言い合う。

 

月人が言っていた生徒は留学生との事だが、大洗男子校は国際学校の為、留学生の数も他校に比べかなり多い。

 

今地市達が覗いているVクラスに居る生徒も、凡そ3分の1近くが留学生である。

 

「聞いてみるしかないな………諸君、少し良いか?」

 

そう言いながらVクラスに足を踏み込む弘樹。

 

Vクラスに居た生徒達の視線が一斉に弘樹に集まる。

 

「我々は大洗歩兵部隊の者だ。知っている者も居るだろうが、現在我々は部隊員の増員を行っている。無論、参加するかしないかは諸君等の自由意思で決定してもらう。だが、我々は常に仲間を求めている」

 

先ずは事情の説明と、弘樹は生徒達に向かってそう言い放つ。

 

「そこで尋ねるが………このクラスに先祖代々傭兵の家系の留学生が居ると聞いた。是非会って話をしたいのだが………」

 

と、弘樹がそこまで言うと………

 

「俺の事を言っているのか?」

 

背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹と教室の入り口の外に居た地市達が振り返ると………

 

「………!」

 

「うおっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「ぎゃああっ!? 熊だぁっ!? 死んだふりっ!!」

 

弘樹は驚きを示し、地市と楓は半歩後ずさり、了平はそう叫んで倒れ込む。

 

そこには、2メートルを軽く超えた身長に、筋肉隆々と言った体格の、まさに熊と見間違う様な巨大な体躯をした生徒の姿が在った。

 

「外国人を見るのは初めてらしいな」

 

その巨大な体躯の生徒は、弘樹達のリアクションを見てそんな事を言う。

 

「そう言うワケではないが………君がその留学生か?」

 

と一同の中で冷静さを保っていた弘樹が、巨大な体躯の生徒に尋ねる。

 

「『ルダ・シャッコー』だ。祖先はスイス傭兵だった」

 

巨大な体躯の生徒………『ルダ・シャッコー』はそう自己紹介をする。

 

「ほう、あのスイス傭兵か………」

 

それを聞いた弘樹がそう呟く。

 

 

 

 

 

『スイス傭兵』

 

主にスイス人によって構成される傭兵部隊で、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパ各国の様々な戦争に参加。

 

特にフランス王家とローマ教皇に雇われた衛兵隊が名高く、後者は現在でもバチカンのスイス衛兵隊として存在している。

 

国土の大半が山地で農作物が余り取れず、目ぼしい産業が無かったスイスにおいて、傭兵稼業は重要な産業となった。

 

傭兵稼業によってスイスは強大な軍事力を保有する事となり、隣接する他国にとっては、侵略が極めて困難であり、侵略してもそれに見合った利益が得られない国と看做されるようになり、スイスの安全保障に貢献し、「血の輸出」と呼ばれた。

 

 

 

 

 

「アレ、でも………スイスは確か中立国じゃ?」

 

「現在はな………だが、俺の祖先達は根っからの傭兵だった様でな。傭兵の輸出が禁止されると国を飛び出し、各地の戦場を渡り歩いたそうだ」

 

楓がそう指摘すると、シャッコーは仏頂面でそう返す。

 

「今は家族も親戚も全員神大コーポレーション傘下のPMCで働いている」

 

「神大コーポレーションの?」

 

「流石世界の神大コーポレーション」

 

更にシャッコーがそう言うと、地市と了平がそう言い合う。

 

「そうか………では、単刀直入に言わせてもらうが、歩兵道をやる気はないか?」

 

とそこで弘樹が、シャッコーの向かってそう尋ねる。

 

「構わんが………俺は傭兵だ。タダで戦う積りは無い」

 

「オイオイ、幾ら何でもそりゃあ………」

 

「報酬の話は生徒会へ通してくれ。生徒会長はあらゆる要求に応える用意があると言っている」

 

傭兵としてタダでは働けないと言うシャッコーに、地市がツッコミを入れようとしたが、弘樹がそれを遮る様にそう言う。

 

「分かった。契約成立だな。では、手続きに言って来る」

 

シャッコーはそう無愛想気味に言い放ち、弘樹達に背を向けると生徒会室に向かって行った。

 

「オイ、弘樹。良いのかよ?」

 

「歩兵道に参加する生徒の要求には応える用意があると言っていたのは生徒会長だ。それに、傭兵は契約を全うする。その意味では信頼出来る」

 

「成程。確かにそうかも知れませんね」

 

了平の言葉にそう返す弘樹の台詞を聞き、楓がそう言う。

 

「コレで2人確保か」

 

「行くぞ。まだまだ人数が必要だ」

 

更にスカウトを続ける弘樹達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

2回戦を勝ち抜き、次なる3回戦への準備です。
漸くレストアが完了したルノーとクロムウェルに、カモさんチームとサンショウウオさんチームが乗り込みます。

それに合わせて、歩兵部隊も増員を行い、メンバーは新たな隊員のスカウトに走る。
で、今回加入した3人ですが………
元ネタは宇宙キター!のロケットライダー、月の絶好調なテラ子安の御大将、最低野郎に出て来たクエント人の傭兵が元ネタです。

この後も中編、後編と続き、新たな灰汁の強いメンバーが次々に加入します。
楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第43話『新分隊、結成です!(中編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第43話『新分隊、結成です!(中編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、サンショウウオさんチームのクロムウェル巡航戦車と、ルノーB1bisのレストアが完了。

 

ルノーの乗員には、園 みどり子が率いる風紀委員メンバーで構成された『カモさんチーム』が編制される。

 

そしてそれに合わせ………

 

歩兵部隊も増員を行う事となり、弘樹を始めとした部隊員達は………

 

新たな歩兵のスカウトに走る。

 

弘樹達は早くも………

 

転校生の『文月 弦一朗』

 

元剣道部主将の『絃賀 月人』

 

先祖代々傭兵の家系である留学生『ルダ・シャッコー』のスカウトに成功する。

 

その後もスカウトを続け、何人かの勧誘に成功したところで、一度様子を見に、生徒会室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・生徒会室………

 

部屋の前では、歩兵道への勧誘を受けた生徒、追加募集に自ら志願して来た生徒達が列を作り、入隊の手続きを行っている。

 

「ハイ、此方です。この書類に必要事項を書き込んで下さいね」

 

「列を乱すなよ~」

 

入隊手続きの書類を配る清十郎と、列を整列させている俊。

 

「大分集まっている様だな………」

 

とそこで、様子を見に来た弘樹達一同が現れる。

 

「この分なら、目標数の補充は出来そうですね」

 

「うむ………」

 

楓の言葉に、弘樹が頷くと………

 

「ヘーイ! ユーがサージェント・舩坂のディセンダントですぁー!!」

 

「な、何だぁ!?」

 

「?」

 

突如聞こえて来た怪しげな英語と日本語が入り混じり、独特のイントネーションの声に、地市が戸惑いを露わにし、弘樹も思わず首を傾げながら声が聞こえて来た方向を見やる。

 

「ヘーイ! ミーをお探しですかー?」

 

そこには、カウボーイハットを被り、ポンチョを来た外人の姿が在った。

 

「君は?」

 

「HAHAHA! マイネームイズ『ジャクソン・ダート』! アッメェリカから来まーした!」

 

弘樹がそう尋ねると、外人………『ジャクソン・ダート』は再びインチキ外人口調でそう言い放つ。

 

「………コイツ、ホントにアメリカ人か?」

 

その怪しげな喋り方に、了平すらそう思う。

 

「YES! 生まれも育ちもステイツはテキサスッ! チャッキチャッキのアメリカっ子よぉっ!!」

 

「既に怪しいぞ、オイ………」

 

生粋のアメリカ人だと主張するジャクソンだが、地市は疑いの眼差しを向ける。

 

「チッ、チッ、チッ! スモールなコトは気にすんな! ミーが入隊した暁には、必ず大洗をナンバー1にしてみせるぜ! ミスター舩坂の出番は無いよぉ! それじゃあ、シーユー!」

 

言いたい事だけを言って、ジャクソンは入隊待ちの列へと戻って行った。

 

「嵐の様な人でしたね………」

 

「どんな奴でも構わん。腕さえ立てばな………」

 

「時々お前の冷静さが怖くなるぜ………」

 

楓が呆れ気味にそう呟くと、弘樹はそう言い放ち、地市がそうツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

新たに入隊したメンバーの実力を見る為、大洗男子校の歩兵演習場にて、新入隊員の実地テストが行われる事となった。

 

弘樹を始めとした各分隊メンバーも補助に付き、新入隊員達の指導を行っている。

 

 

 

 

 

そんな中………

 

演習場のオートバイ兵用の練習コースにて………

 

「クウッ! 流石はプロレーサー! 速いぜっ!!」

 

「お前も中々やるじゃないか! 弦一朗!!」

 

白狼が乗るバイクに、陸王を操って必死に食らいついている弦一朗。

 

意外にも彼はライダーとしての才能を持っており、それを見抜いた白狼がオートバイ兵に勧誘。

 

弦一郎は、敏郎が『こんなこともあろうかと』用意していた旧日本陸軍も使っていたバイク………『陸王』を受け取り、早速試乗。

 

白狼が教えるテクニックを次々に飲み込み、1日にして食らいつけるまでに成長してみせた。

 

「スゲェーな、アイツ」

 

「初めて乗ったバイクで白狼に食らいつくとは………バケモンやな」

 

そんな白狼と弦一朗の様子を見て、海音と豹詑がそんな事を言い合う。

 

「それにしても………不思議な人ですね、弦一郎さんって。気難しいところが有る白狼といきなりあそこまで仲良くなるなんて」

 

とそこで、バイクに乗って走る白狼と、それに必死に食らいついている弦一朗を見て、飛彗がそんな感想を漏らす。

 

「せやなぁ………何ちゅうか、アイツには自然と引き寄せられる気がするで」

 

「まさに、天性の友達作りの達人だな」

 

豹詑と海音もそう言い、飛彗の言葉に同意する。

 

「よおし! もっとスピード上げてくぜぇっ!! 付いて来おいっ!!」

 

「負けねえぜぇ! うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

そこで2人は更にスピードを上げ、演習場を走り回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、演習場の別の一角では………

 

「HEY! GO!!」

 

怪しげな英語と共に、ブローニングM1918自動小銃、通称BARを薙ぎ払う様に乱射するジャクソン。

 

「うおわっ!?」

 

「アブネッ!?」

 

「HAHAHA! まだまだ行きますよーっ!!」

 

相手をしていた大洗歩兵部隊の部隊員達の足元に次々と弾丸が着弾して慌てると、ジャクソンは気を良くした様に更にBARを乱射する。

 

「この野郎! 調子に乗るなっ!!」

 

とそこで、1人の歩兵がジャクソンに向かって手榴弾を投げつける。

 

「Oh!?」

 

すぐ近くに落ちた手榴弾が爆発し、ジャクソンは土片を浴びる。

 

しかし………

 

「それがユーのマキシマムですかぁ?」

 

ジャクソンは平気そうな様子で、手榴弾を投げた歩兵にそう言い放つ。

 

「野郎っ!」

 

今度は別の歩兵が小銃を連射。

 

しかし、狙いが甘かったのか、弾は全て外れる。

 

「ヘイ! ユーアー・ヘ・タ・ク・ソ! アンダスタン!?」

 

するとジャクソンは、今度はその歩兵に向かってそう言い放つ。

 

「オイ! 何かアイツ腹立つぞっ!!」

 

「クソッ! 撃て撃てぇっ!!」

 

そんなジャクソンのインチキ外人喋りにイラッと来た歩兵達は、集中攻撃を浴びせる。

 

「HAHAHAHAHA! ノォォォォォォ・プロォブレェムだッ!!」

 

ジャクソンは相変わらずイラッとするインチキ外人語を喋りながら、奮戦して見せる。

 

「アメリカが誤解されマース………」

 

そして、そんなジャクソンの姿を見て、アメリカとアメリカ人が誤解されると苦悩するジェームズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の一角にて………

 

「ハハハハハ! 我が世の春が来たぁっ!!」

 

雄叫びを挙げながら、ブローニングM2重機関銃を掃射している月人。

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

12.7mm弾が次々に大洗の歩兵達に戦死判定を下させる。

 

「この重機関銃凄いよぉっ! 流石ジョン・ブローニングの設計ぇっ!!」

 

完全にトリップしている様子で、月人は掃射を続ける。

 

だが、やがて弾が尽き、M2重機関銃は乾いた音を立てる。

 

「むうっ!?」

 

「弾切れだ! 今だ! 突っ込めぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その瞬間を見逃さずに、一斉に月人に向かって突っ込んで行く大洗の歩兵達。

 

しかし!

 

「舐めるなぁっ! この絃賀 月人! 伊達に鍛錬を繰り返していたわけではないッ!!」

 

月人はそう言い放つと、腰に下げていた軍刀を抜き放ち、逆に突撃して来ていた大洗の歩兵達に突っ込んだ!

 

「なっ!?」

 

「逆に突っ込んで来やがったっ!?」

 

「嘘だろぉっ!?」

 

「きえあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

戸惑う大洗の歩兵達に構わず、軍刀を振るう月人!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

その一太刀を浴びた大洗の歩兵が倒れ、戦死判定を受ける。

 

「神の世界への引導を渡してくれるぅっ!!」

 

月人はそのまま、大洗の歩兵達の射線が重なる様に立ち回り、射撃させない様にして次々に斬り捨てて行く。

 

「に、西住総隊長ぉっ!!」

 

と、その光景に1人の歩兵が、今が歩兵だけの演習中にも関わらず、思わずみほの名を挙げてしまう。

 

「戦場でなァ! 恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ! 瀕死の兵隊が甘ったれていうセリフなんだよっ!!」

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

そして即座に、月人によって斬り捨てられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた、別の一角では………

 

「撃てぇっ!!」

 

1人の歩兵の掛け声で、一斉に軽機関銃や短機関銃、小銃を発砲する大洗歩兵部隊。

 

「…………」

 

それを、左腕に装着した戦車用装甲板を盾の様に使って弾くシャッコー。

 

「仕掛ける」

 

そして反撃とばかりに、右手で腰に抱える様に携えていたブローニングM1917A1重機関銃を、大洗歩兵部隊に向かって発砲する。

 

「「「「「「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

毎分600発の連射力で放たれる7.62mm弾が、大洗歩兵部隊を薙ぎ払う。

 

「クソッ! コレでも喰らえっ!!」

 

そこで、三八式歩兵銃に装着していた二式擲弾器から、30mm対戦車擲弾をシャッコー目掛けて放つ。

 

「!………」

 

だがシャッコーは、飛んで来た擲弾に対し、左腕の装甲板を斜めに構え、傾斜装甲の原理で弾いた!

 

擲弾はあらぬ方向へ飛び、爆発する。

 

「なっ!?」

 

「ふんっ!!」

 

擲弾を放った歩兵が驚いていると、シャッコーはその巨体から想像し難いスピードでその歩兵に接近し、そのまま殴りつけた!

 

「がはっ!?」

 

まるで自動車にぶつかられた様な衝撃が歩兵を襲い、そのまま地面に倒れると気を失う。

 

「正に熊だぜ、オイ!」

 

「しかも片腕に戦車用の装甲板を引っ付けてる上に、重機関銃を片手で持ってるんだろ!? どんな怪力だよ!?」

 

「…………」

 

悲鳴の様な声を挙げる大洗歩兵部隊を前にシャッコーは装甲板とブローニングM1917A1重機関銃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新入隊員達は差は有れど、其々に目覚ましい活躍を見せている。

 

そんな中………

 

少し変わった光景が広がっているところもあった。

 

それは………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

四四式騎銃を両手で抱える様に持った1人の歩兵が、叫びと共に砲弾の着弾による爆発の中を駆け抜けている。

 

と、1発の砲弾がその歩兵のすぐ後ろに着弾!

 

「おうわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

その爆風に煽られ、派手に吹き飛ぶ歩兵。

 

そのままツイスト回転を決めながら、派手に地面に倒れて転がる。

 

「………如何だったっ!?」

 

しかし、すぐに起き上がるとある方向を見てそんな事を言う。

 

「バッチリです、部長! 良い画が撮れてますよ!!」

 

その方向には、カメラや照明、集音マイクと言った、映画を撮影するのに必要な機材を扱っている大洗男子校の生徒達が居た。

 

彼等は大洗男子校の映画研究部の部員達である。

 

そして、今彼等が撮影していた歩兵こそ、映画研究部の部長『鎧 鋼賀(よろい こうが)』である。

 

彼は映画研究部の部長として、自らの指揮監督の元、数々の自主製作映画を撮影している。

 

そのどれもが名作と評されており、特にアクション映画では自ら主演俳優を務め、ハリウッドも顔負けの危険なアクションを披露している。

 

『役者が命を懸けてこそ素晴らしい映像が撮れる』と言う事を信条としており、コレまでも撮影の為に『学園艦の甲板から海に飛び込む』、『トラックに撥ねられる』、『階段から回転しながら落下する』、『飛んでいるヘリコプターに命綱無しでしがみ付く』など非常に命知らずな行為を行っている。

 

しかし、負傷が絶えない身にも関わらず、1度も映画を落とした事は無い。

 

そんな姿から『大洗男子校の活劇王』と呼ばれている。

 

何故そんな彼が歩兵道に参加し、それを部員達が撮影しているのかと言うと………

 

実は彼は最近、自分の取るアクション映画に煮詰まりを感じていたのである。

 

常に挑戦する姿勢を忘れない彼は、今までにない新しい映画を撮ろうと試行錯誤していた。

 

そんなある日、TVで偶然戦車道・歩兵道の試合の様子を垣間見る。

 

それを見た彼はインスピレーションを感じ、コレを次の映画の素材にしようと考えたのである。

 

迫信も、広報として使えると判断し、撮影を許可。

 

現在に至ると言うワケである。

 

「どれどれ………」

 

撮影した映像をチェックする鋼賀。

 

「如何です? 良い画、撮れてるでしょう?」

 

「う~ん………」

 

カメラ担当の部員がそう言うが、鋼賀は何処か納得が行って居ない様子を見せる。

 

「駄目ですか?」

 

「もっと迫力が欲しいな………! そうだ! 対戦車地雷を踏んでブッ飛ばされるってのは面白いかもしれないぞ!」

 

「「「「「止めて下さいぃっ!!」」」」」」

 

平然として文字通り自ら地雷に突っ込んで行こうとする鋼賀を、部員達は必死で止めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニューフェイス達は中々に優秀な様だね」

 

「ええ、期待以上の能力です」

 

そんな新メンバー達の演習風景を見ながら、迫信と傍らに居た弘樹がそう言い合う。

 

「しかし、私としてはもう少し腕利きのメンバーが欲しいところだね」

 

「小官もそう思います」

 

だが、まだまだ戦力補強が必要だと言い合う2人。

 

「もう少しスカウトを続ける必要がありそうだね」

 

「出来うる限り、人数を集めます」

 

「頼んだよ」

 

「ハッ!」

 

そこで弘樹は、迫信に向かってヤマト式敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

そんな演習場にて早速訓練に励んでいる新入隊員達の姿を眺めている生徒が1人居た。

 

「凄いなぁ………やっぱり歩兵道をやってる人は皆勇敢なんだな」

 

感激した様子で、演習を行っている大洗歩兵部隊の面々を見続けている生徒。

 

「俺も参加出来たらなぁ………でも………無理だよなぁ………」

 

そう言うと、生徒は表情に影を落とす。

 

「! あ! イケナイ! スーパーのタイムセールが始まっちゃう! 今日は魚が安いんだ! 急がないとっ!!」

 

とそこで、携帯で時間を確認してそう声を挙げ、慌ててスーパーマーケットへと向かうのだった。

 

「…………」

 

そして、そんな生徒の姿を、校舎の影から見ていた別の生徒が居た………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗女子学園の方でも、新チームであるカモさんチームとサンショウウオさんチームの戦車への試乗が開始されている。

 

みどり子率いる風紀委員のカモさんチームは、指導する麻子と喧騒を展開しながらも、着実に戦車道の基礎を覚えていった。

 

一方、サンショウウオさんチームは………

 

早くも問題にぶつかっていた………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前のグラウンド………

 

「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

車長の聖子、通信手の伊代、装填手の明菜、砲手の優、操縦手の満里奈の悲鳴が響く中、クロムウェル巡航戦車が物凄いスピードで走っている。

 

やがてその正面に、グラウンドの仕切りであるフェンスが立ちはだかる。

 

「ぶ、ぶつかるぅっ!!」

 

「満里奈ちゃん! ブレーキ! ブレーキィッ!!」

 

「どれがブレーキだっけぇっ!?」

 

伊代が叫びを挙げ、聖子が慌てて指示を出すが、満里奈はブレーキが分からない。

 

そしてそのまま、クロムウェル巡航戦車はフェンスへ激突!

 

悉くフェンスを薙ぎ倒し、踏み潰し………

 

やがてグチャグチャになったフェンスの上で静止した。

 

「ああ! 皆ぁっ!?」

 

『サンショウウオさんチーム! 大丈夫ですか!?』

 

見学をしていた静香が悲鳴を挙げ、練習の様子を見ていたⅣ号のみほからそう通信が飛ぶ。

 

「な、何とかぁ~~」

 

「うっぷ、吐き気が………」

 

「め、目が回る~」

 

「あうう………」

 

「にゃあ~~~」

 

聖子が応答を返すが、優、明菜、伊代、満里奈からはすっかりノビた様子の声が挙がるのだった。

 

 

 

 

 

その後………

 

Ⅳ号がワイヤーでクロムウェルを引っ張ってフェンスの残骸の中から抜け出させ、格納庫の前まで戻した後………

 

サンショウウオさんチームは戦車から下り、メンバーで話し合っている。

 

他の戦車チームのメンバーも集合している。

 

「如何しよう~………」

 

「まさか戦車の操縦がココまで難しいとは………」

 

「コレじゃ試合に出るどころじゃあ………」

 

沈んだ様子でそう漏らす聖子、優、伊代。

 

コレまで、戦車長、砲手、装填手、通信手、操縦手の役割を交代しながら練習していたサンショウウオさんチーム。

 

全員が各役割にある程度の適性を見せ、中にははまり役とまで言えるほど才能を発揮した者も居た。

 

しかし………

 

操縦手の適性だけが、メンバー全員から見出せなかったのである。

 

辛うじて、静香が僅かに適性を見せたが、他のメンバーは今しがた事故を起こした満里奈とどっこいどっこいの腕である。

 

静香の腕も、とてもではないがまだ実戦では通用しない。

 

やはり、素人がいきなり第2次世界大戦中最速の戦車を乗り熟すのは無理があった様だ。

 

「如何します? 一応、スピードを落とすデチューンを出来ますけど………」

 

クロムウェルの損傷を調べていた自動車部メンバーの中で、ナカジマがそう意見する。

 

「でも………出来れば速度はそのままにして欲しいです。今後の作戦にも影響しますから」

 

しかし、みほはその意見に難色を示す。

 

「ああ~~~~っ! 如何すれば良いの~~~~~っ!!」

 

思わず天を仰ぎながら大声を挙げる聖子。

 

とそこで………

 

「あ、あの………」

 

「ふえっ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

誰かに声を掛けられ、聖子を初めとした一同がその声が聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

「えっと、その………」

 

何やら口籠っている、1人の大洗女子学園の生徒が居た。

 

「? 貴方は?」

 

「わ、私は、その………」

 

「! 貴方! 『天地 唯』じゃない!!」

 

その生徒が口籠っていると、みどり子がその生徒を見てそう言い放つ。

 

「『天地 唯』?」

 

「知ってるのか、そど子?」

 

みほが首を傾げ、麻子がみどり子にそう尋ねる。

 

「そど子って呼ばないで! 知ってるも何も有名よ。この大洗女子学園始まって以来の不良生徒としてね………」

 

みどり子はそう答えると、その生徒………『天地 唯』を睨みつける様に見据える。

 

「む、昔の話だよ! 私はもうスケ番は引退したんだっ!!」

 

「スケ番って………まだ居たんだ、そんな人」

 

「大洗男子校にも似た様な奴が居たがな」

 

唯がそう言う傍らで、沙織がそう呟き、麻子が大河の事を思い浮かべながらそう呟く。

 

「ス、スケ番さんだったんですか?」

 

「ええ、そうよ。おまけに実家はその筋の家だったんだから」

 

「そ、その筋って………」

 

「所謂、やの付く自由業ですか!?」

 

梓の言葉にみどり子がそう返すと、優季とあやがそう言い放つ。

 

「最も、1年程前に手入れが有って、彼女の両親を含めた全員が警察に逮捕されたみたいだけどね」

 

「そ、そのヤーさんの娘が何の用だ!? こ、事と次第によっては容赦せんぞぉっ!!」

 

「桃ちゃん! 私を盾にしないでぇっ!!」

 

「落ち着きなって~」

 

みどり子の説明が続く中、桃が唯に向かって、柚子の背中に隠れながらそう言い放ち、盾にされている柚子が悲鳴の様な声を挙げ、杏が相変わらずマイペースな様子でそう言い放つ。

 

「そ、それは………」

 

「ひょっとして………戦車道をやりたいの?」

 

またも唯が口籠っていると、みほが代弁するかの様にそう言った。

 

「お、おうよ! 戦車を動かすって面白そうだからな! それに、相手の連中をボコボコにすんのが気持ち良さそうだしよぉ!!」

 

「貴方! 散々暴力沙汰を起こしておいて!!………」

 

「園先輩、待って!!」

 

そう言い放つ唯に、みどり子の説教が飛ぼうとしたところ、聖子がそれを止める。

 

「…………」

 

そして、何を思ったのか、唯の眼前に立つと、その顔をジッと見つめる。

 

「な、何だよっ!? ガン飛ばしてんのか!? 上等だ、コラァッ!!」

 

ガン飛ばされてると思った唯は、自分も聖子に向かってガンを飛ばす。

 

「せ、聖子ちゃん!」

 

「聖子! 離れなさい!!」

 

「せ、先輩っ!」

 

「あ、危ないですよ~!」

 

「にゃああ~~~っ!?」

 

伊代、優、明菜、静香、満里奈から悲鳴の様な声が挙がる。

 

「…………」

 

しかし、聖子は唯のガン飛ばしを物ともせず、只ジッと唯の顔を見据えていた。

 

(な、何なんだよ、コイツッ!? 私のガン飛ばしにちっとも怯んでないだと!?)

 

唯は、全く怯んだ様子を見せない聖子に、内心で驚愕する。

 

「………やっぱりだ」

 

やがて、唯の顔を見ていた聖子がそう呟いた。

 

「な、何だよっ!?」

 

「貴方、2回戦の後でのライブを見に来てくれてたよね!」

 

「!?!?」

 

聖子がそう言い放つと、唯は動揺を露わにする。

 

「サンショウウオさんチームのライブに?」

 

「ち、ちげぇーよ! 人違いだっ!!」

 

「ううん、間違いないよ! すっごくキラキラした目で見ててくれたから、よく覚えてるよ!」

 

「だからちげぇーって!」

 

間違いないと言う聖子を頑なに否定する唯。

 

「あの………ひょっとして………スクールアイドルをやりたいから戦車道を?」

 

するとそこで、静香がそんな台詞を言い放つ。

 

「!? ば、馬鹿言うな! 誰がそんなモンに興味あっか! ねーよ! 全然ねーよ!!」

 

((((((((((分かり易い人だなぁ………))))))))))

 

ムキになって否定する姿が逆に肯定を表しており、大洗戦車チームの一同は心の中でそう思う。

 

「スクールアイドル? 貴方が?」

 

と、唯の過去を知るみどり子が、懐疑的な視線を向ける。

 

「ぐうっ!………ああ! そうだよ! 私はスクールアイドルをやりたくて戦車道をやるんだよっ!!」

 

遂に唯は観念したのか、或いは開き直ったかの様にそう言い放つ。

 

「そりゃ、私はワルだったよ………悪い事は何でもやった。御世辞にも真面目な生徒だったなんて言えねぇよ………けどよ、親父や組の連中が逮捕されて、舎弟達も皆居なくなって………どうしようもなく虚しくなったんだよ………けど、今更変われるとも思ってなかったんだよ」

 

そのまま聖子達に向かって語り出す唯。

 

「けど! アンタ等のライブを見て! すっごく輝いてて綺麗で! 私もあんな風になりたいって思ったんだ!! だから………頼む! 私もチームに入れてくれ!!」

 

そう言って唯は深々と頭を下げた。

 

「貴方、幾ら何でも………」

 

それは流石にと思ったのか、優が断ろうとしたが………

 

「うん! 良いよっ!!」

 

「「「「「!? えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

当の聖子がアッサリと了承し、サンショウウオさんチームのメンバーは仰天の声を挙げた。

 

「い、良いのかよ!? そんなアッサリ決めて!?」

 

唯もアッサリと了承された事に戸惑いを隠せない。

 

すると聖子は、そんな唯に向かって右手を差し出す。

 

「!?………」

 

「自分を変えたい………自分も輝きたい………それは戦車道を、スクールアイドルをやるのに十分な理由だと思うよ」

 

「郷 聖子………」

 

「私は貴方の過去の事は知らない………けど! 今此処に居る貴方の気持ちは本物だと思うから!! 西住総隊長! 良いですよね!?」

 

そこで聖子はみほの方を振り返り、そう尋ねる。

 

「郷さん………」

 

そんな聖子の純粋な瞳に、みほは一瞬見入る。

 

「………分かりました。入隊を許可します」

 

「!? 西住さん!? 貴方!………」

 

「総隊長がそう言うんじゃしかたないね~」

 

「会長まで!?」

 

唯の入隊を許可したみほに、みどり子が驚きの声を挙げるが、続いて杏もそう言い放った為、何も言えなくなる。

 

「やったね! コレからよろしくお願いします! 天地先輩!!」

 

「………唯で良いぜ。聖子」

 

それを受けて、聖子が唯に笑顔を向けながらそう言うと、唯も笑顔を浮かべ、差し出されていた聖子の手を握ったのだった。

 

「全く、聖子は………」

 

「聖子ちゃんらしいね」

 

「先輩………カッコイイ」

 

「素敵です~」

 

「にゃあ~」

 

優、伊代、明菜、静香、満里奈は、そんな2人の姿に呆れると共に、感動を覚えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

新分隊結成に向けて、まだまだ新メンバーを集めています。

今回登場した新キャラは、それぞれゲッターロボに出て来たアメリカロボのパイロットと、アジアの活劇王です。

そして、サンショウウオさんチームにも新メンバーが加入。
彼女は諸事情で暫く戦車道の方専門で活躍してもらいますが、時が来たらスクールアイドルとしてもデビューさせます。

今回チラリと出ましたが、まだまだ新メンバーが登場する予定です。
お見逃しなく。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第44話『新分隊、結成です!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第44話『新分隊、結成です!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗歩兵部隊が、新入隊員の適性テストを兼ねた訓練を行う中………

 

大洗戦車部隊も、新規参入チームの訓練を行っていた。

 

しかし、サンショウウオさんチームは操縦士に問題を抱え、参戦が危ぶまれていた。

 

そんな中………

 

サンショウウオさんチームに新しい仲間………

 

元スケ番の少女『天地 唯』が加わる。

 

歩兵部隊もまだまだ増員を考える中、この新メンバーの加入はサンショウウオさんチームに………

 

そして大洗機甲部隊に何を齎すのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が傾き始めた頃、漸く大洗男子校での訓練が終わり、歩兵部隊の隊員達は帰路へと就く。

 

弘樹も夕暮れの街中を、自宅目指して歩いていた。

 

(生徒会長が仰られていた様に、もう少し腕利きのメンバーが欲しいな………特に狙撃兵等が欲しいところだ)

 

帰路の中、歩兵部隊の編成について思案を巡らせている弘樹。

 

現在、大洗機甲部隊には飛彗と陣を筆頭にした狙撃兵が数10人居るが、弘樹としては腕が立つ者が更に欲しいと考えていた。

 

狙撃兵は優秀な者となれば、1人で大軍の敵を足止めする事が可能となる。

 

だが、それ故に、他の兵種に比べ、才能が要求される側面がある。

 

(如何したものか………)

 

弘樹は頭を悩ませる。

 

と、その時………

 

「狙い撃つぜっ!」

 

「………?」

 

そう言う声が聞こえて来て、ふと弘樹がその方向を見やると、そこには………

 

ゲームセンターのスナイパーライフルタイプのガンコントローラーを使うシューティングゲームに興じている、服に大洗男子校の校章を付けた生徒の姿が在った。

 

弘樹が見ている事など気づきもせず、その生徒は次々と画面に現れる標的を射抜き、ポイントを稼いで行く。

 

(! コレは………)

 

その姿を見て、弘樹は何かに気付く。

 

やがて最後の標的が射抜かれ、ゲーム画面にはランキングが映し出され、彼の成績は1位となっていた。

 

「フフ、また記録更新だな」

 

ガンコントローラーから離れると、生徒は表示されている成績を見てそう呟く。

 

(間違い無い………彼には狙撃の才能がある)

 

そして弘樹は、その生徒に狙撃の才能が有ると確信し、脇目も振らずに歩み寄って行った。

 

「君」

 

「ん? アンタ、誰………って、舩坂 弘樹か」

 

「小官を知ってるのか?」

 

「そりゃあ、有名人だからね」

 

何処かキザな態度で、生徒はそう言い放つ。

 

「そうか。ならば自己紹介は無用か。君の名前を教えてくれないか?」

 

「どうせならかわい子ちゃんに名乗りたいとこだが、まあ良いぜ。俺は『伊達 圭一郎(だて けいいちろう)』だ」

 

そう名乗る生徒………『伊達 圭一郎(だて けいいちろう)』

 

「では、伊達 圭一郎。単刀直入に言う。歩兵道をやらないか?」

 

「ああ? 歩兵道を?」

 

「そうだ。先程の遊戯の様子を見させてもらったが、君には狙撃兵としての才能が有る」

 

「オイオイ、止してくれよ。あんなんで才能が有るってんなら、ゲーセンに通ってる奴は皆歩兵道の達人になっちまうぜ」

 

何を馬鹿な事を言う様な様子の圭一郎。

 

「確かに、半ば小官の直感での部分はある。だが、それを差し引いても君は十分な才能がある。如何だ? 歩兵道をやる気は無いか?」

 

「悪いな。折角の誘いだけど、断らせてもらうぜ。興味無いからな」

 

重ねてそう言う弘樹だったが、圭一郎はヒラヒラと手を振ると、弘樹に背を向けて立ち去って行く。

 

「………まだまだ諦めんぞ。伊達 圭一郎」

 

しかし、弘樹は諦めていない様子で、立ち去る圭一郎の背中を見ながら、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

所変わって、学園艦の甲板都市の一角………

 

ごく平凡な1軒の民家にて………

 

「只今ーっ!」

 

「あ! 兄ちゃんが帰って来たー!」

 

「御帰り~、お兄ちゃん」

 

スーパーのレジ袋を携えた大洗男子校の校章を付けた生徒が帰宅すると、ドタドタと言う足音が響いて来て、幼い男子3人、女子3人の計6人が出迎える。

 

「只今、皆。良い子にしてたかい?」

 

その少年少女達………弟と妹達にそう尋ねる生徒………『白鳥 弁慶(しらとり べんけい)』

 

「うん、してた~」

 

「兄ちゃん~。お腹減った~」

 

と、弟の1人がそう言ったかと思うと、その弟の腹の虫がぐぅ~と鳴く。

 

「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと待っててね。すぐ晩御飯にするから」

 

それを聞いた弁慶はすぐに家へと上がると、居間で制服の上着だけを脱いでハンガーに掛け、隣に掛けてあったエプロンを身に着ける。

 

そして台所に立つと、スーパーのタイムセールスで買って来た食材を調理し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

白鳥家の居間………

 

「さあ、出来たよ~。今日は兄ちゃん特製のカレーだぞ~」

 

「「「「「「わ~~~いっ!!」」」」」」

 

弁慶のカレーが出来上がり、ちゃぶ台を囲んでいた弟・妹達が歓声を挙げる。

 

「さあ~、沢山有るから、どんどん食べるんだぞ~」

 

「兄ちゃんのカレー、大好きぃっ!!」

 

「テレビ点けよう! テレビ!」

 

弁慶が弟・妹達にカレーを装ってやっていると、弟の1人がテレビを付ける。

 

『では、続いて戦車道・歩兵道の全国大会のニュースです。本日行われた試合では、黒森峰機甲部隊、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、プラウダ&ツァーリ機甲部隊が其々勝利しました』

 

映っていた番組はニュース番組であり、丁度戦車道・歩兵道の全国大会のニュースを流していた。

 

「!!」

 

そのニュースに反応し、動きが止まる弁慶。

 

「? 兄ちゃん?」

 

「如何したの?」

 

突然動きが止った弁慶の事を、弟・妹達が怪訝な目で見上げる。

 

「! あ、ああ、ゴメンゴメン! 何でも無いよ! さっ! 早く食べようか!! いただきます!!」

 

「「「「「「いただきま~すっ!!」」」」」」

 

しかし、弁慶は誤魔化す様にそう言い、弟・妹達と共に食事に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に時間は流れ………

 

食事を終えた弁慶と弟妹達は、風呂を済ませると、弁慶を除いた全員が就寝。

 

弁慶だけが、2人分の食事を用意して、居間でテレビを見ていた。

 

見ている番組は、やはり戦車道や歩兵道関連のモノである。

 

「…………」

 

番組を見ながら、何やら複雑そうな表情を浮かべている弁慶。

 

「「只今~」」

 

とそこで、玄関の方から男性と女性の声が聞こえて来た。

 

そして、居間の方へ向かう足音が聞こえて来て、スーツ姿の1組の男性と女性………弁慶の両親が姿を見せる。

 

「あ、お帰りなさい。お仕事お疲れ様です。今日はカレーですよ」

 

「おお、そうか!」

 

「それは良かったわ」

 

弁慶がテレビを消しながらそう言うと、父と母は上着だけをハンガーに掛けて、弁慶が作ったカレーに手を付け始める。

 

「うん、美味い! 流石だな、弁慶」

 

「いや~、そんな、ははは………」

 

「ゴメンナサイね。私達がいつも忙しいものだから、家の事は貴方に任っせきりで………」

 

父がカレーに舌鼓を打っていると、母がそう言って弁慶に謝罪する。

 

弁慶の両親は、共に大洗学園艦の運行に関わる仕事に就いている。

 

通常、学園艦の運行は、その学園艦に存在する船舶科と呼ばれる生徒達が運行しているが、船舶科と言えど学生。

 

責任が伴ったり、大人の監督が要る箇所には、弁慶の両親の様なオブザーバーの立場を取る大人の乗組員達も居るのである。

 

学園艦は常に運行されているので、交代制勤務であるとはいえ、その仕事は多忙を務め、時には数日間は帰宅出来ない事もある。

 

そんな両親に代わって、まだ幼い弟妹達の面倒を見ているのが、他ならぬ弁慶なのである。

 

「母さん。その話はしないでって言ったでしょう」

 

「でも、貴方、歩兵道を………」

 

「良いんだよ。僕が好きでやってる事だから」

 

「「…………」」

 

そう言って無理に笑う弁慶の顔を見て、両親達は何も言えなくなってしまうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

大洗男子校の校門にて………

 

「1日ぶりだな、伊達 圭一郎」

 

「! 舩坂 弘樹」

 

登校して来た圭一郎を待ってきた弘樹が声を掛ける。

 

「オイオイ、態々早くに登校して俺を待ってたのかい? ご苦労なこって………」

 

「それだけ我々には君の力が必要なのだ。重ねて言う………歩兵部隊に入隊してくれ」

 

呆れる様な圭一郎の態度も気にせず、弘樹はそう言う。

 

「言ったろ。興味無いって………それじゃあな」

 

だが、圭一郎はにべもなく断り、弘樹から逃げる様に教室へと向かっていったのだった。

 

「…………」

 

その姿を黙って見送る弘樹。

 

しかし、それで舩坂 弘樹という男は、それで諦める様な奴ではなかった………

 

休み時間、昼休み、そして放課後………

 

空いた時間を見つけては圭一郎の元へ赴き、何度も熱心にスカウトを行ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタもホントしつこいね」

 

「そうしなければならない理由がある」

 

何時もの仏頂面でそう言い放つ弘樹。

 

その表情には、一片の揺らぎも感じられない。

 

「………そこまで言うんだったら、1つ勝負をしないか?」

 

「勝負?」

 

「な~に、単なるじゃんけんさ。アンタが勝ったら、俺は大人しく入隊してやる。但し、俺が勝ったら、もう2度と俺の前に現れないでもらおうか」

 

「………良いだろう」

 

一瞬考える素振りを見せた後、弘樹はその勝負に応じた。

 

「んじゃ、行くぜ。一発勝負だ。勝っても負けても恨みっこ無しだぜ」

 

「無論だ………」

 

そう言い合うと、両者の間に沈黙が訪れる。

 

「「…………」」

 

雰囲気はまるで西部劇の決闘である………

 

「行くぜ! じゃんけん!………」

 

「ポンッ!」

 

やがて、お互いのほぼ同時のタイミングで、右手を出しあった。

 

弘樹の手はグー。

 

対する圭一郎の手は………

 

「………やれやれ。負けちまったか」

 

チョキだった。

 

「ま、約束しちまったからな。分かったよ………入隊するよ」

 

「………何故途中で手を変えた?」

 

そう言う圭一郎だったが、弘樹はそう指摘する。

 

「何?」

 

「お前はパーを出す積りだった筈だ。だが、直前でチョキに変えた………ハッキリと見えたぞ」

 

「オイオイ、言い掛かりは止せよ。俺は入隊するって事で決まったんだ。それで良いだろう」

 

飄々とした態度で弘樹にそう言う圭一郎。

 

「…………」

 

弘樹はそんな圭一郎の目を見やる。

 

「良いだろう。では、手続きに向かって貰えるか?」

 

「仰せのままに………」

 

やがて弘樹がそう言うと、圭一郎は入隊の手続きへと向かった。

 

(全く………まさか見切られてたとは思わなかったぜ。けど、確かに俺はアンタに負けてたぜ………アンタのその熱意にな)

 

圭一郎は、内心でそんな思いを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗女子学園・戦車格納庫前のグラウンド………

 

「右旋回!」

 

「あいよっ!!」

 

車長の聖子が指示を出すと、唯が操るクロムウェルは即座に右へと旋回する。

 

「続いて左旋回!」

 

「ホイ来たっ!!」

 

続いて間髪入れずに左旋回の指示を出すが、唯は難なく対応して見せる。

 

そのまま右に左へのスラローム走行で、予め用意されていたパイロンの間を擦り抜けて行く。

 

パイロンとパイロンの間は、クロムウェルが通れるギリギリの幅しかないが、先程からクロムウェルはパイロンに掠る様子すら見られない。

 

「す、凄い………」

 

「驚きだにゃ~」

 

今回の見学組である明菜と満理奈が、そんなクロムウェルの動きを見て呆気に取られる。

 

「まさか天地さんにココまで操縦の才能があるなんて………」

 

「世が世なら絶対名戦車乗りですよぉっ!!」

 

Ⅳ号からその様子を見守っていたみほも驚きを露わにし、装填手用ハッチから上半身を出していた優花里が興奮気味にそう語る。

 

「コレで操縦士の問題はクリアされたな………」

 

「漸くサンショウウオさんチームの皆さんとも一緒に戦えるんですね」

 

「何か楽しみ~」

 

麻子、華、沙織が続いてそう言う台詞を言う。

 

とそこで、クロムウェルが戦車格納庫の前まで戻って来て、全てのハッチが開くと、車長の聖子と操縦士の唯、装填手の静香、砲撃手の優、通信手の伊代が降りて来る。

 

「唯ちゃん最高~っ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

聖子が感極まった様子で唯に抱き付く。

 

「凄い! 凄いよ、唯ちゃん! 唯ちゃんが操縦してくれれば、私達も遂に試合に出られるよ~!!」

 

「あ、ああ………えっと、その、あの………」

 

「聖子。唯さんが困ってますよ」

 

抱き付いたままはしゃぐ聖子に戸惑うばかりの唯だったが、そこで優が聖子を引き剥がす。

 

「ルノーのカモさんチームの訓練も上手く行ってる。コレで戦力はかなり整ったな」

 

「歩兵部隊の方の増員も進んでるみたいだよ」

 

そこで桃と蛍がそう言い合う。

 

「んじゃ今日からまた合同練習だね」

 

「ハイ、歩兵部隊の皆さんが到着次第、練習を再開します」

 

「「「「「「「「「「ハーイ!」」」」」」」」」」

 

続いて杏がそう言うと、みほは集まっていた大洗戦車部隊のメンバーにそう呼び掛ける。

 

そして程なく、大洗歩兵部隊が姿を見せると、一同は演習場へと向かい、合同訓練を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

学園艦甲板都市の一角にて………

 

「とと、ちょっと買い過ぎたかなぁ?」

 

今日も今日とて、スーパーで買い物をした弁慶が、満杯となっているレジ袋を両手に、自宅への帰路に就いて居る。

 

「しかし、凄いなぁ、大洗女子学園と大洗男子校は」

 

「ホントホント。20年ぶりに戦車道・歩兵道の全国大会に参加したのに、3回戦まで勝ち進んだんだぜ」

 

「正直、1回戦で優勝候補のサンダース&カーネル機甲部隊とぶつかった時は駄目だと思ったけど、ココまで奮戦するとは予想外だったよ」

 

「学園艦に住む者達としては鼻が高いよな。コレからも勝ち進んで欲しいね」

 

とそこで、道行く人々が戦車道・歩兵道の話をしているのを耳にする。

 

「…………」

 

その話を聞いた弁慶は立ち止まり、考え込む様な素振りを見せる。

 

するとそこで………

 

満杯のレジ袋の中に入っていた林檎が、袋から零れ、弁慶から離れる様に転がって行く。

 

「! あっ!? ま、待って~~っ!!」

 

慌てて転がった林檎を追う弁慶。

 

林檎はやがて、1人の男の足に当たって止まる。

 

その林檎を拾い上げる男。

 

「あ、ありがとうございます」

 

男から林檎を受け取ろうとする弁慶。

 

「………何時まで自分の心を誤魔化す積りだ?」

 

するとその男は、弁慶に向かってそんな事を言い放つ。

 

「えっ? あ、あの………貴方は?」

 

思いもよらぬ言葉に弁慶は戸惑いつつも、その男の名を尋ねる。

 

「君の行くべき道を知っている者だ」

 

「えっ? な、何ですかいきなり………一体僕の何を知っていると言うんですか?」

 

「君の心は既に答えを見た。後は………正直に生きろ!」

 

「!!」

 

その言葉に衝撃を受ける弁慶に、男は林檎を手渡し、背を向けて去って行く。

 

「………正直に………生きろ」

 

男が去って行った後、その言葉を反芻する弁慶。

 

そのまま悩んだ様子を見せつつ、帰路を急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鳥家………

 

「只今~」

 

男に言われた事が頭の中を堂々巡りしている状態で帰宅する弁慶。

 

しかし、いつもなら全員で出迎えてくれる筈の弟妹達が、何故か1人も出迎えない。

 

「? アレ? 皆? 帰ってるんだろう?」

 

弁慶は奇妙に思いながら家の中へと上がり、居間へと顔を出す。

 

するとそこには………

 

「あ、兄ちゃん!」

 

「御帰り~!」

 

妹の内の2人が、干し終わった洗濯物を畳んでいた。

 

「! お前達、何をやって………」

 

「お風呂掃除終わったよ~」

 

「終わったよ~」

 

弁慶が驚きを露わにすると、背後からそう言う声が聞こえて来て、スポンジを片手に、鼻の頭に泡を乗せた弟達2人が現れる。

 

「あ! 兄ちゃん! 帰ってたんだ!」

 

「お前達まで!?」

 

「兄ちゃん」

 

「お兄ちゃん」

 

またも弁慶が驚いていると、台所の方からエプロン姿の残った弟と妹が姿を見せる。

 

「皆!………」

 

「兄ちゃん。僕達も家の事ぐらい出来るよ」

 

「だからお兄ちゃん。歩兵道やっても良いよ」

 

「えっ?………」

 

「知ってるよ。お兄ちゃんがずっと歩兵道をやりたかったって事」

 

戸惑う弁慶に向かって弟の1人がそう言う。

 

「兄ちゃん。歩兵道、やりなよ。僕、兄ちゃんが活躍してるとこ、テレビで見たいんだ」

 

「アタシも~」

 

「お前達………」

 

弟妹達の気遣いに、思わず涙が出て来る弁慶。

 

「兄ちゃん? 泣いてるの?」

 

「い、いやぁ、ちょっと目にゴミが入っただけさ………」

 

弁慶はそう言いながら、弟妹達全員を抱き締める。

 

「ありがとう………皆、本当にありがとう………」

 

そしてそのまま、何度も何度も感謝の言葉を述べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の放課後………

 

大洗女子学園・戦車格納庫前にて………

 

「諸君、新メンバーを紹介する。2年の白鳥 弁慶くんだ。本日より、歩兵道に参加してくれる事となった」

 

「白鳥 弁慶です! 皆さん! 今日からお世話になります!!」

 

迫信が、戦闘服姿の弁慶を、大洗機甲部隊の面々に紹介する。

 

「あ! コレ、僕が作ったキャンディーです! 良かったらどうぞ! コレからよろしくお願いします!」

 

とそこで、弁慶は携えていたバスケットの中にたんまりと入っていたキャンディを、大洗機甲部隊の面々1人1人に配り始める。

 

「よろしく! よろしくお願いします!」

 

「あ、ああ………」

 

大洗機甲部隊の面々は戸惑いながらキャンディを受け取って行く。

 

「何かまた変わった奴が来たな………」

 

「今更やないけ………お! このキャンディー美味いなぁ!」

 

地市がそんな弁慶の姿を見てそう呟き、大河がツッコミを入れながら、弁慶が配ったキャンディーに舌鼓を打つ。

 

「さて………では続いてのメンバーの紹介だ」

 

「えっ? まだ新メンバーがいらっしゃるんですか?」

 

とそこで、迫信がそう言うと、清十郎がそう反応し、一同も再び迫信に注目する。

 

するとそこで、一同の背後から2人の物と思われる足音が聞こえて来た。

 

大洗機甲部隊の一同が振り返るとそこには………

 

戦闘服姿の、2人の男の姿が在った。

 

「『内藤 英洲(ないとう えいす)』だ。エースと呼んでくれ」

 

「『杷木 拳龍(はき けんりゅう)』です………よろしく」

 

2人の男………『内藤 英洲(ないとう えいす)』こと『エース』と『杷木 拳龍(はき けんりゅう)』は、大洗機甲部隊の面々に向かってそう自己紹介する。

 

「!! 君は………」

 

弁慶がその2人の内、エースの方を見て驚きの声を挙げる。

 

何故なら、その彼こそが、昨日弁慶にアドバイスをしたあの男だったからだ。

 

「…………」

 

エースはそんな弁慶に向かって笑みを浮かべ、無言でサムズアップしてみせる。

 

「さて………では新メンバーも大分増えたところで、新たに参戦する戦車チームであるカモさんチームとサンショウウオさんチームの随伴分隊を発表する」

 

そんな様子を見ながら、迫信がそう宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

戦車部隊にカモさんチームとサンショウウオさんチームが参入するのに合わせ………

 

新たに増員を行った大洗歩兵部隊に、新たな随伴分隊………

 

カモさんチームの随伴分隊である絃賀 月人(突撃兵)を分隊長とする、鎧 鋼賀(突撃兵)、文月 弦一朗(突撃兵)、伊達 圭一郎(狙撃兵)を中心とした『マンボウさん分隊』

 

そして、サンショウウオさんチームの随伴分隊である内藤 英洲(突撃兵)を分隊長とする、杷木 拳龍(偵察兵)、白鳥 弁慶(対戦車兵)、ルダ・シャッコー(突撃兵)、ジャクソン・ダート(偵察兵)を中心として『タコさん分隊』が結成されたのだった。

 

3回戦の時は近い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に新たなる分隊………
マンボウさん分隊とタコさん分隊の結成です。

今回登場した新キャラは、三木眞一郎さんが演じたキャラを3つ程混ぜた感じ、電車に乗る仮面ライダーの2号ライダーの相棒、そして正々堂々とスポーツをするロボットアニメの主人公とそのチームメイトの1人が元ネタとなっています。

さて、次回からなんですが………
ここいらで1つ、ラブコメをやってみようかと思います。
主人公ズの弘樹とみほを中心に、あんこうさんチームのらぶらび作戦をご覧下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第45話『らぶらぶ作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第45話『らぶらぶ作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊に、新たな仲間達が加わった。

 

戦車チームに、園 みどり子を筆頭とした風紀委員達のルノーB1bisの『カモさんチーム』

 

新たに天地 唯をメンバーに加え、聖子達を筆頭としたスクールアイドル達のクロムウェル巡航戦車の『サンショウウオさんチーム』

 

そして、大洗歩兵部隊にも新分隊………

 

カモさんチームの随伴分隊である絃賀 月人(突撃兵)を分隊長とする、鎧 鋼賀(突撃兵)、文月 弦一朗(突撃兵)、伊達 圭一郎(狙撃兵)を中心とした『マンボウさん分隊』

 

そして、サンショウウオさんチームの随伴分隊である内藤 英洲(突撃兵)を分隊長とする、杷木 拳龍(偵察兵)、白鳥 弁慶(対戦車兵)、ルダ・シャッコー(突撃兵)、ジャクソン・ダート(偵察兵)を中心とした『タコさん分隊』が加わった。

 

公式戦3回戦に向け、今日も今日とて訓練が続けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

カモさんチーム&マンボウさん分隊………

 

「小生はっ! 絶! 好! 調! であるうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!!」

 

着剣したKar98kを構え、いの1番に駆け抜けている月人がそう声を張り上げる。

 

「ちょっ!? 分隊長っ! 突っ込み過ぎですって!!」

 

「フハハハハハッ! 我が世の春が来たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

分隊員の止める言葉も何処吹く風、兎に角先頭を突っ走る月人。

 

「おおっ! スッゲェ気合だな、分隊長殿は! よっしゃあっ! 俺も負けられないぜぇっ!!」

 

更にそれに触発されたのか、陸王に乗って居た弦一朗もスピードを上げて、月人に続いて行った。

 

「ちょっ!? 弦一朗さんまで!!」

 

「ちょっと! 何やってんのよ!?」

 

その光景に、ルノーB1bisの車長兼副砲砲手兼装填手を務めているみどり子も声を挙げる。

 

「やれやれ………ウチの分隊は血気盛んな奴が多いみたいだな」

 

パンツァービュクセ 39を携えた圭一郎が、そんな月人と弦一朗の事を見ながら、他人事の様にそう呟く。

 

「面白いなぁ、あの2人………オーイ! あの2人も撮っておけぇ! 後で映像素材に使えるかも知れない!!」

 

一方、アルコン M-1943を携えた鋼賀は、そんな2人の姿を面白がり、映画の素材になると、撮影をしている映研メンバーにそう指示を出すのだった。

 

と、そこで………

 

訓練用に設置されていた、仮想敵陣地から、訓練用無人野戦砲の攻撃が開始された。

 

進軍していたカモさんチームとマンボウさん分隊の周辺に次々と砲弾が飛来し、爆発が起こる。

 

「おっと! 撃って来たか!!」

 

「皆ー、なるべく姿勢を低くするんだぁっ!!」

 

圭一郎がそう言うと、鋼賀が皆にそう呼び掛ける。

 

「その程度で小生を止められると思ったかぁっ!!」

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ! 俺の青春はこんなモンじゃ止められねえぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」

 

しかし、そんな中でも月人と弦一朗は突撃を敢行。

 

そのまま仮想敵陣地の中へと雪崩れ込んだ!!

 

「先祖代々鍛錬を続けてきた、武門の家柄がぁ! そんじょそこらの歩兵共とは違う事を見せてくれるわあぁっ!!」

 

月人は叫びながら次々に手榴弾を投擲し、訓練用無人野戦砲を破壊して行く。

 

「ライダー乱れ撃ちいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

更に弦一朗も、仮想敵陣地の中を陸王で走り回りながら、オーウェン・マシンカービンを無人野戦砲に備え付けられている敵砲兵に見立てた仮想標的を撃ち抜いて行く。

 

「流石に先んじて突っ込んで行くだけの事はあるなぁ………」

 

そんな2人の姿を見て、圭一郎が半ば呆れる様にそう呟く。

 

とその時!

 

無事だった野戦砲が、水平砲撃でマンボウさん分隊目掛けて砲弾を撃ち込んで来た!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

砲撃で足が止まっていたマンボウさん分隊の隊員達が仰天する!

 

だが、そこで!!

 

「ゴモヨ! 割り込んで!!」

 

「わ、分かったよっ!!」

 

ルノーB1bisが、マンボウさん分隊の前に回り込み、斜めにした正面装甲で砲弾を弾き飛ばした!

 

「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」

 

しかし、車内に走った振動と衝撃で、みどり子達からは悲鳴が挙がる。

 

「カモさんチームっ!?」

 

分隊員の声が挙がる中、無人砲台の再装填が終わり、次弾を放とうとする。

 

しかし、次の瞬間!!

 

発砲音が鳴り響いたかと思うと、無人砲台の砲口に銃弾が飛び込んだ!!

 

装填されていた砲弾に弾丸が命中して暴発!

 

遂には無人野戦砲ごと大爆発する!!

 

「やれやれ………歩兵が戦車を守らなきゃいけないってのに、逆に守られてたんじゃお笑い種だぜ」

 

何時の間にか、パンツァービュクセ 39を構えていた圭一郎がそう言い放つ。

 

「つーワケで、ココからは俺達のターンだ………狙い撃つぜっ!!」

 

圭一郎は更にそう言い放つと、次々に無人野戦砲の砲口を狙って銃弾を撃ち込んで行く。

 

「良し、今だぁ! 突撃ぃーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

無人野戦砲が減った事で砲撃が和らぎ、鋼賀の叫びで、マンボウさん分隊は一斉に仮想敵陣地目掛けて突撃する。

 

「うおわぁ!? 何のぉっ!!」

 

途中、鋼賀が爆風で吹き飛ばされかかったが、アクロバティックな動きを披露して再突撃して見せる。

 

「私達も攻撃開始よ、パゾ美!」

 

「了解、ソド子!」

 

更にルノーB1bisuも、車体の75mm主砲と、砲塔の47mm副砲での砲撃を開始。

 

マンボウさん分隊の突撃を支援するのだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、演習場の別の一角では………

 

サンショウウオさんチーム&タコさん分隊………

 

「敵、仮想敵戦車接近!」

 

分隊長であるエースが、進軍していたサンショウウオさんチーム&タコさん分隊の正面から向かって来る戦車に見立てた移動標的を発見して、そう報告を挙げる。

 

『了解! 唯ちゃん! 背後に回り込んでっ!!』

 

『おうよっ!』

 

それを聞いた聖子は、すぐに操縦手の唯にそう指示を出す。

 

クロムウェル巡航戦車は、移動標的の背後へ回り込もうとする。

 

しかし、移動標的はクロムウェル巡航戦車を正面に捉える様にし、背後へ回らせようとしない。

 

更に、後方に控えていた無人野戦砲隊からの砲撃も開始される。

 

移動標的の背後に回り込もうとしているクロムウェル巡航戦車の周りに次々にと砲弾が降り注ぐ。

 

「サンショウウオさんチームを援護しろぉっ!!」

 

そこでエースがそう指示を出し、タコさん分隊の面々は無人野戦砲隊への攻撃を開始する。

 

「HAHAHAHAHA! 一捻りネッ!!」

 

「そこか………」

 

軽機関銃と重機関銃の弾丸を無人野戦砲隊の中へとばら撒くジャクソンとシャッコー。

 

それによって2人の存在に気付いた無人野戦砲隊は、ジャクソンとシャッコーへと狙いを定める。

 

「そこだっ!!」

 

そこで、別の方向からPIATを持っていた弁慶が、その弾体を無人野戦砲隊の中へと撃ち込む!

 

撃ち込まれた弾体は、爆発したかと思うと煙幕を撒き散らした。

 

無人野戦砲隊は視界がゼロになり、砲撃を中断する。

 

『チキショーッ! 中々隙を見せやがらねえっ!!』

 

その間にも、クロムウェル巡航戦車は移動標的の背後に回り込もうとしていたが、速度で大きく劣る移動標的は、細目に向きを変え、クロムウェル巡航戦車に対し背面を見せない様にする。

 

『優ちゃん! 履帯を狙えない!?』

 

『無茶言わないで下さい! 只でさえ行進間射撃の命中率は悪いんですよ!!』

 

聖子が、牽制に砲撃を行えないかと砲手の優に尋ねるが、優は照準器を覗き込んだままそう返す。

 

『クウッ! 足さえ止められればっ!!………』

 

「俺に任せろっ!!」

 

と聖子がそう呟いた瞬間に、そう言う声が響き渡る。

 

それは、ガモン手榴弾を右手に握ったエースの声だった。

 

「俺の血潮が! 沸騰するぜっ!!」

 

目に炎が燃えている様なイメージが見えそうな様子で、エースがそう叫んでガモン手榴弾を握り締めたかと思うと、野球の投球フォームを執る!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、雄叫びと共に、オーバースローでガモン手榴弾を、移動標的目掛けて投げつけた!

 

ガモン手榴弾が、まるで野球ボールの様に飛んで行き、移動標的の側面にぶつかったかと思うと爆発!

 

撃破判定は下されなかったが、駆動系に異常が出たのか、動きが鈍くなる移動標的。

 

『! 今だよ! 唯ちゃん!!』

 

『おうよっ!!』

 

その瞬間を見逃さず、クロムウェル巡航戦車が突っ込み、移動標的の背後を取った!

 

『貰いました!』

 

レティクルの中に移動標的が重なった瞬間、即座に発砲する優。

 

放たれたオードナンス QF 6ポンド砲の57mm弾が、移動標的の後部に吸い込まれる様に命中!

 

と、その瞬間!

 

衝撃で暴発したのか、移動標的の砲塔の砲から、砲弾が放たれる!

 

「!? うわぁっ!?」

 

そして運悪く、暴発した砲弾が拳龍を直撃した!

 

『!? 杷木先輩!?』

 

「先輩っ!?」

 

聖子が声を挙げ、近くに居たタコさん分隊のメンバーも慌てて近寄る。

 

しかし………

 

「………平気だよ」

 

拳龍はそう言ったかと思うと、まるで何事も無かったかの様に起き上がる。

 

「えええっ!?」

 

「ちょっ!? 先輩! ホントに大丈夫なんですか!?」

 

「暴発したのとは言え、砲弾が直撃したんですよ!?」

 

平然としている様子の拳龍に、タコさん分隊のメンバーが心配そうにそう言う。

 

「うん、大丈夫………」

 

だが、拳龍はケロッとしており、本当に何でもない様子である。

 

「信じられねえなぁ………」

 

「どんな耐久力してるんだよ………」

 

タコさん分隊のメンバーは、並外れた拳龍の頑丈さに半ば呆れる様にそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に、その日の演習は終了。

 

大洗女子学園の戦車格納庫前に集合した大洗機甲部隊の一同は、空教官達を前にして整列している。

 

「OKOK! 今日も良い具合だったわよ! 新米達も良い動きしてたじゃない! 十分合格点よ!!」

 

「ありがとうございます」

 

「やったーっ!!」

 

「当然であーるっ!」

 

「うむ」

 

空が新規メンバーであるカモさんチームとサンショウウオさんチーム、そしてマンボウさん分隊とタコさん分隊の事を褒めると、みどり子、聖子、月人、エースがそう多種多様な言葉を返す。

 

「けど! 毎回言ってる様に、油断は禁物よ!! 次の対戦相手の『地走学園』の地走機甲部隊との戦いに向けて! 最高のコンディションを作っておくのよ!!」

 

そう釘を刺す事を忘れない空。

 

「ゆかりん、『地走学園』の機甲部隊って、どんな部隊なの?」

 

とそこで、沙織が次の対戦相手である『地走学園』の機甲部隊について、優花里に尋ねる。

 

「あ、ハイ。地走学園の機甲部隊は自走砲を中心とした編制が組まれていて、車高の低さを利用した待ち伏せ戦を得意としています」

 

「自走砲………って、カバさんチームのⅢ突みたいな奴の事だよね」

 

優花里からそう説明を受けた沙織が、整備の為に整備員達によって格納庫の中へと運ばれていくカバさんチームのⅢ突を見ながらそう言う。

 

「ハイ。本来自走砲と戦車は違う物なんですが、まあ境界は大分曖昧になっています」

 

「他には地走学園について、何か特徴はあるのか?」

 

優花里が続けてそう言っていると、今度は麻子がそう尋ねる。

 

「他にですか? う~~ん………」

 

すると優花里は考え込む様な様子を見せる。

 

「? 如何かしましたか?」

 

「いや、それが………地走の特徴と言われても………自走砲中心の待ち伏せ戦術が得意と言う以外は、コレと言った特徴が………」

 

華が尋ねると、優花里が考え込みながらそう答える。

 

「西住殿は何かご存じですか?」

 

そこで優花里は、助け舟を求める様にみほにそう尋ねた。

 

「…………」

 

しかし、みほはみほで、何やら考え込んでいる様な様子を見せて沈黙している。

 

「? みぽりん?」

 

「!? あ、ゴ、ゴメン! 何?」

 

再度沙織が声を掛けると、そこでみほは漸く気付いた様子を見せ、沙織に問い直す。

 

「みぽりん、如何したの? 最近ボーっとしてること多いけど?」

 

「ううん、何でも無いよ。大丈夫だから」

 

心配そうにそう言う沙織だが、みほは笑みを浮かべてそう返す。

 

しかし、その笑顔には何処となく陰りが見えた………

 

(………西住くん)

 

それを見た弘樹は、表情にこそ出していないが、内心でみほの事を心配する。

 

「そこっ! 静かにしろっ!! 教官が放している最中だぞ!!」

 

とそこで、会話が聞こえたのか、桃がみほ達の方を見ながらそう注意を飛ばす。

 

「「「す、スミマセンッ!!」」」

 

「あ~、良いわよ良いわよ。もう終わりだから」

 

みほ、沙織、優花里はすぐに謝るが、空はヒラヒラと手を振って気にするなと言う。

 

「じゃあ、今日はコレまでね! 解散っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして空は訓練の終わりを宣言し、大洗機甲部隊の一同は空に向かって礼をする。

 

空は10式・改に乗り込み、フルトンシステムで撤収する。

 

「みぽり~ん、帰りにアイス食べて行かない?」

 

大洗機甲部隊の皆が、友達やメンバーの間で会話を交わしながら撤収し始めると、沙織がみほにそう声を掛ける。

 

「あ、ゴメン………今日は地走機甲部隊戦に向かっての作戦プランを練ろうと思うの………だから………」

 

「あ、ああ、良いよ別に! またの機会にすれば良いんだから! ね!」

 

本当に申し訳無さそうな顔をするみほを見て、沙織の方が申し訳無くなり、慌てて取り繕う様にそう言う。

 

「ゴメンね、沙織さん、皆。じゃあ、お先に………」

 

「待て、西住くん。送って行こう。近頃、愚連隊を気取ったチンピラが街で幅を利かせているらしいからな」

 

と、先に帰路に着こうとしたみほに、弘樹がそう言って歩み寄る。

 

「だ、大丈夫だよ」

 

「いや、油断は禁物だ。君は大洗機甲部隊の総隊長だ。君の身にもしもの事があれば我々に明日は無い」

 

「う、うん………ありがとう」

 

少々戸惑いながら、みほは弘樹に送られながら、改めて帰路に就いたのだった。

 

「………リア充、爆発しろ!」

 

「了平………だから貴方はモテないんですよ」

 

そんな2人の内、弘樹の背中を見ながら、恨みがましくそう言う了平に、楓のツッコミが飛ぶ。

 

「みぽりん、疲れてるのかなぁ?」

 

「総隊長ですからね………色々と最終的な決定は西住さんに任せるしかありませんし、僕達には分からない気苦労も多いんだと思います」

 

沙織がまた心配そうにそう呟くと、飛彗がそう言う。

 

「みほさん、そう言う事は自分の中に貯め込むタイプですし………」

 

華も頬に手を当てて心配そうな様子を見せる。

 

「そういう奴はある日突然潰れたりするからな………」

 

「麻子! 怖いこと言わないでよ!!」

 

「ああ~~っ! 西住殿が思い悩んでいると言うのに力になれないなんて~~っ!! 私は何て無力なのでありますか~~~~っ!!」

 

麻子の呟くに、沙織がそうツッコミを入れていると、優花里が両手で頭を押さえて悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「………こうなったら、いよいよ『あの作戦』を実行に移す時が来たみたいね」

 

すると沙織が真剣な表情となってそう呟いた。

 

「? 『あの作戦』?」

 

「沙織、何だ『あの作戦』って?」

 

沙織が言う『あの作戦』と言う単語に華が首を傾げ、地市がそう問い質す。

 

「『らぶらぶ作戦』よ!」

 

すると沙織は、グッと拳を握って力説する様にそう言い放つ。

 

「ら、『らぶらぶ作戦』?」

 

「総隊長の命名センスと良い勝負だな………」

 

直球な作戦名に、飛彗が戸惑いを見せ、白狼が呆れた様に呟く。

 

「古今東西! 女の子が元気になる時と言えば! 好きな人とデートしている時!! 舩坂くんとみぽりんをデートさせるよ!!」

 

しかし、沙織はそれを一切気にせずに更にそう言い放つ。

 

「!? えええっ!? 舩坂殿と西住殿をですかぁっ!?」

 

「何でお前がそんなに驚くんだよ………」

 

仰天の声を挙げる優花里と、そんな優花里にツッコミを入れる白狼。

 

「で? デートさせると言っても如何するんだ?」

 

「それはコレから皆で考える!」

 

「つまり、何も考えてないんですね………」

 

麻子がそう尋ねると、沙織はそう返し、華が呆れた様にそう呟く。

 

「と言うより、皆って………」

 

「僕達もですか?」

 

沙織が皆と言ったのを聞いて、地市と楓がそう呟く。

 

「オイオイッ! 何で俺達が弘樹の奴のデートをお膳立てしなきゃなんないんだよ!!」

 

了平が露骨に不満そうにそう言うが………

 

「あ、綿貫くんは手伝わなくて良いから」

 

「ですね………」

 

「うん………」

 

「すみません、綿貫殿………出来ればご遠慮願いたいのですが………」

 

即座に沙織、華、麻子、優花里からそんな返事が返って来たのだった。

 

「ちょっ!? それはそれで酷くないっ!?」

 

「自業自得ですよ、了平」

 

涙目になる了平に、楓の鋭いツッコミが飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

帰路に就いて居たみほと、それを送っている弘樹は………

 

丁度、途中にある商店街の中を歩いていた。

 

「………西住くん。無理をしていないか?」

 

するとそこで、弘樹はみほにそう尋ねる。

 

「えっ? ど、如何して?」

 

突如そんな事を聞いて来た弘樹に、みほは若干戸惑う。

 

「いや、只の勘だ………君は総隊長だ。総隊長にしか分からない気苦労も多いだろう。そしてそう言う事は中々他人には相談出来ないものだ」

 

「…………」

 

余りにも的確な部分を突いて来た弘樹に、みほは黙り込む。

 

「言いたくないならそれで良い。だが、生徒会長も言って居たが、余り1人で抱え込む様な事はするな。小官達は皆戦友だ」

 

「………ありがとう、舩坂くん」

 

しかし、弘樹が続けてそう言うと、僅かながらも笑みを浮かべて礼を言うのだった。

 

と、その時………

 

「あ! お兄様! 西住さん!」

 

そう呼ぶ声が聞こえたかと思うと、買い物袋を携えた湯江が、2人の元へと歩み寄って来る。

 

「あ、湯江ちゃん」

 

「湯江か。買い物中だったのか?」

 

「ハイ。御2人の姿が見えたので、お声を掛けさせて頂きました」

 

みほと弘樹がそう言うと、湯江はそう返す。

 

「1人でお買い物って大丈夫なの? 最近、愚連隊って名乗ってる人達が居るって舩坂くんが言ってたけど………」

 

そこでみほが、先程弘樹から聞かされていた話を思い出してそう言うが………

 

「大丈夫ですよ。実は私、こう見えても薙刀の免許皆伝の腕前なんですよ」

 

「!? ええ~っ!?」

 

湯江からそんな言葉が帰って来て、みほは驚きの声を挙げる。

 

「本当だ。護身用に習わせていたんだが、才能があったらしくてな」

 

「そ、そうなんだ………」

 

弘樹がそう言うのを聞きながら、みほは脳裏で湯江が薙刀でバッタバッタとチンピラを薙ぎ倒す様子を想像し、冷や汗を掻く。

 

「あ、そうだ、お兄様、西住さん。コレ、よろしければ受け取ってもらえませんか?」

 

するとそこで、湯江は買い物袋の中から、何やらチケットの様な物を取り出した。

 

「? それは?」

 

「本土の大洗水族館のペアチケットです。商店街で福引をやっていて、その景品だったのを当てたんです。でも私、以前小学校の行事で1度行った事がありますから………」

 

弘樹が尋ねると、湯江はそう答える。

 

「大洗水族館のペアチケット………」

 

「もし御2人が要らないのであれば、ご友人の方にでも差し上げて下さい」

 

みほが何かを考えながら呟いていると、更にそう言う湯江。

 

「分かった。明日、学校で聞いてみよう」

 

とそこで、弘樹が湯江からチケットを受け取ってそう言う。

 

「あ………」

 

「? 如何かしたか?」

 

「う、ううん! 何でも無いよ!」

 

思わず声を挙げてしまったみほは、慌てて誤魔化す様にそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

新戦車隊と歩兵分隊を結成し、次なる試合………
『地走学園』との3回戦に向け、訓練を続ける大洗。

しかし、そんな中………
みほは総隊長の重圧による疲れを見せていた。
このままではいけないと思った沙織達は、何と弘樹とみほをデートさせる作戦を立案する。
果たして、上手く行くのだろうか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第46話『初めてのデートです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第46話『初めてのデートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・アクアワールド茨城県大洗水族館前………

 

「わあ~~っ! ココが大洗水族館なんだ~!」

 

大洗水族館の前に立った私服姿のみほが、大洗水族館の建物を眺めながらそう声を挙げる。

 

「小官も来るのは初めてだな………」

 

その隣に立っていた、とんびコート姿で鳥打帽を被った弘樹が、みほと同じ様に大洗水族館の建物を眺めながらそう言う。

 

「舩坂くん! 早く行こう!」

 

逸る気持ちを抑えられない様子のみほが、入り口の方へと少し踏み出しながらそう言う。

 

「慌てるな、西住くん。水族館は逃げたりしないぞ」

 

そんなみほにそう言いながら、弘樹も入り口の方へと足を進めるのだった。

 

何故、弘樹とみほが大洗水族館へと来ているのか?

 

事の起こりは、昨日まで遡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湯江が商店街の福引で、大洗水族館のペアチケットを手に入れたが、当の本人は既に行った事があるとの事で………

 

偶然出会った弘樹とみほにチケットを譲渡。

 

何か言いたげなみほの様子に気づかず、弘樹は友人達に要る者が居ないか、翌日に聞いてみようとした。

 

そしてその翌日………

 

大洗機甲部隊の訓練が終わった後にて………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「皆、少し良いか?」

 

訓練が終わり、解散しようとしていたあんこうチームの面々と、とらさん分隊を中心とした歩兵部隊の一部を、弘樹が呼び止める。

 

「ほえっ?」

 

「んだよ、弘樹?」

 

沙織と地市が声を挙げる中、あんこうチームの面々ととらさん分隊を中心とした歩兵部隊の一部が足を止め、弘樹の方を振り返る。

 

「実は昨日、湯江からこんな物を貰ったんだが………」

 

そう言って、懐から大洗水族館のペアチケットを取り出す弘樹。

 

「コレは?………」

 

「大洗水族館のペアチケットですね………」

 

そのチケットを見ながら、華と飛彗がそう言う。

 

「ああ。商店街の福引で当てたそうなんだが、アイツは既に行った事があるらしくてね。誰か要る人に渡してやってくれって頼まれたんだ」

 

「ペアチケット………」

 

チケットがペア用であると言うのを聞いた沙織が、みほの事を見やる。

 

「…………」

 

みほは、弘樹の斜め後ろで、何か思う所が有る様な表情でそのチケットを見やっていた。

 

(! 地市くん! コレはチャンスだよっ!!)

 

すると沙織は何かを思い付き、地市に小声で話し掛ける。

 

(ああ、確かに!)

 

地市の方も、沙織が何を言わんとしているか察し、小声でそう返す。

 

「? 如何かしたか?」

 

と、そんな沙織と地市の姿を見た弘樹がそう声を掛ける。

 

「! う、ううん! な、何でも無いよ!」

 

「お、おう!」

 

沙織と地市は、慌てて取り繕う様に誤魔化す。

 

「それでチケットだけど! 悪いけど、私達はちょっと都合が悪いんだ! だよね!? 華、ゆかりん、麻子」

 

更に続けて、沙織はそう言いながら、華、優花里、麻子へと呼び掛ける。

 

「え、ええ、そうなんです………」

 

「そ、そうなんですよぉ!!」

 

「うむ………」

 

華と優花里は若干動揺を露わにしているが、麻子はいつも通りのポーカーフェイスで返事を返す。

 

「あ、みぽりん! ちょっと良いかな!! 華達も来てっ!!」

 

「えっ!? ちょ!?………」

 

とそこで、沙織がそう言いながら、みほの手を取って弘樹から離れる様に戦車格納庫の奥の方へと向かい、華達もそれに続く。

 

「ど、如何したの、沙織さん?」

 

突然腕を掴まれて引っ張って行かれた事に戸惑いを隠せない様子のみほ。

 

「みぽりん! コレはチャンスだよ!」

 

沙織は、弘樹に聞こえない様にしながらも、若干興奮している様子でみほにそう言う。

 

「チャンス?」

 

「あのペアチケットで舩坂くんと一緒に水族館へ行くんだよ! デートだよ、デートッ!!」

 

イマイチ状況が掴めていないみほに、沙織が更にそう言う。

 

「え、えええっ!? デ、デ、デートッ!? うぐっ!?………」

 

「しー! 静かに!!」

 

思わず大声を出しそうになったみほの口を押さえる沙織。

 

「プハッ! ささ、沙織さん! デ、デートって………」

 

「舩坂くんの事、好きなんでしょ? だったら、やっぱりデートだよ!」

 

「す、すすす、好きなんて! ふ、舩坂くんの事、その………信頼してるって言うか………」

 

「つまり、好きなんでしょ?」

 

「あ、あううう………」

 

見ている方が恥ずかしくなるぐらい、みほは顔を真っ赤にしてあうあうと言葉にならない様子を見せる。

 

一昔前のアニメや漫画なら、頭から煙が上がっているだろう。

 

「西住殿! この秋山 優花里! 最初はデートと聞いて戸惑いましたが、良く考えれば西住殿と舩坂殿ならばお似合いです! 是非ともコレを機会に絆を深めて下さい!!」

 

更にそこで、優花里の援護が入る。

 

「ゆ、優花里さんまで………」

 

みほは如何して良いか分からず困惑する。

 

「落ち着け、お前等。当の本人が戸惑っているぞ」

 

とそこで、1人いつもと同じ調子の麻子が、沙織達を諌める。

 

「麻子さん………」

 

「まあ、デート云々は置いておいて、ちょっとした気分転換だと思え。最近ボーッとしている事が多いのは事実だろう」

 

「そ、それは………」

 

正論を含んだ麻子の言葉に、みほは言葉に詰まる。

 

「麻子さんの言う通りですよ。そんなに難しく考える事はありませんよ」

 

華もみほに向かって微笑みながらそう言う。

 

「ま、兎に角! 一緒に行こうって言ってみなよ! 先ずはそれから! 当たって砕けろだよっ!!」

 

「いや、砕けたら駄目だろう………」

 

発破を掛ける沙織と、その発破の掛け方にツッコミを入れる麻子。

 

「西住殿! ファイトです!!」

 

優花里も激励を送る。

 

「皆………」

 

そんなあんこうチームの面々を見やると、みほは何かを考え込む様に俯く。

 

「………うん………私………頑張ってみる!」

 

やがて、決意を固めた様な表情を見せると、拳を握った両手をグッと構えて顔を上げ、そう宣言する様に言った。

 

「みほさん………」

 

「その意気だよ、みぽりん!」

 

「西住殿………」

 

「頑張れよ………」

 

華、沙織、優花里、麻子は、そんなみほの事を温かい目で見やる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、弘樹の方は………

 

(西住くん達は何を話しているんだ?)

 

突如沙織達に連れて行かれたみほの事を見やりながらそう思う弘樹。

 

時折何やらみほが大きなリアクションを取る様子を見せているが、会話内容は聞こえて来ない。

 

「(まあ、良い。女同士の会話を盗み聞きするのも失礼だ)さて、武部くん達は如何やら都合が悪い様だが、他に誰か予定の空いてる者は………」

 

やがてそう思いやると、再びペアチケットの貰い手が居ないかを問い質し始める。

 

「オイ、弘樹。自分で使おうとは思わねえのか?」

 

とそこで、そんな弘樹に地市がそう言い放つ。

 

「? 湯江はもう行ったと言っただろう」

 

地市に向かってそう返す弘樹。

 

如何やら、湯江と兄妹で行けと思ったらしい。

 

「いやいやいや! 違うだろ! もっと誘うべき奴が居るだろうが!!」

 

「もっと誘うべき者?………」

 

地市がツッコミを入れると、弘樹は顎に手を当てて考え込む様な様子を見せる。

 

(テメェはラノベのラブコメ主人公か!? リア充爆発しろっ!!)

 

そんな弘樹の姿を見て、了平が血涙を流しながら心の中で呪詛する。

 

「了平。人を呪わば穴二つですよ」

 

その了平にツッコミを入れる楓。

 

「マジで思いつかねえのか?」

 

「全く心当たりが無いが………」

 

「ハア~~、お前って奴は………」

 

心当たりが無いと言う弘樹に、地市は溜息を吐いて呆れる。

 

「? 何なんだ?」

 

と、弘樹が首を傾げると………

 

「お待たせ~っ!!」

 

女同士の会話が終わったらしき沙織達が戻って来る。

 

「ああ、武部くん。話は終わったのかい?」

 

「ええ。それでね、みぽりんが舩坂くんに話が有るんだって!」

 

弘樹がそう尋ねると、沙織が若干早口でそう答える。

 

「ふ、舩坂くん………」

 

幾分か緊張した様子のみほが、おずおずと弘樹の前に出る。

 

「西住くん、小官に話とは? 何だか妙に緊張している様に見えるが………」

 

「え、えっと、その………」

 

口籠るみほ。

 

「??」

 

弘樹はそんなみほの姿を見て首を傾げる。

 

(みぽりん! ファイトッ!!)

 

(弘樹の奴………戦闘に関する事は察しが良いってのに、如何してこういう事にはニブチンなんだ)

 

そんなみほと弘樹を見て、沙織と地市が心の中でそう思う。

 

「そ、その! 良かったら、そのチケットで私と一緒に大洗水族館に行かないっ!?」

 

と、遂にみほは、意を決してそう言い放った。

 

((((((((((言ったーーーーーーーーーっ!!))))))))))

 

沙織達は心の中でそんな叫びを挙げる。

 

「西住くんと………小官でか?」

 

しかし、当の弘樹はあまり乗り気でない様子である。

 

「だ、駄目かな?」

 

「いや、小官の様な無骨者と言ってもつまらないだろう。秋山くん辺りの方が良いんじゃないのか?」

 

(あの、馬鹿野郎!)

 

(舩坂さんらしいと言えますが………)

 

そんな弘樹の姿を見て、地市が辟易し、楓がそんな感想を漏らす。

 

「そ、そんなこと無いよ! きっと楽しいと思うよ!」

 

「いやあ、しかし………」

 

決意を決めたからか、食い下がるみほだが、やはり弘樹は乗り気にならない。

 

「ううう………(如何しよう………如何しよう)」

 

段々とみほの心に焦りにも似た感情が生まれて来る。

 

「まあ、取り敢えず、このチケットは君に譲るから、小官以外の誰かを誘って………」

 

とそこで、弘樹がそう言いながらチケットを差し出してきた瞬間!

 

「! 大洗機甲部隊! あんこうチーム随伴歩兵分隊! とらさん分隊・分隊長! 舩坂 弘樹!!」

 

「!! ハッ!!」

 

突如みほは大洗機甲部隊総隊長モードとなって弘樹に呼び掛け、弘樹も即座に歩兵隊員モードとなる。

 

「大洗機甲部隊総隊長として命令します! そのチケットを使って、私と一緒に大洗水族館へ行きなさい!!」

 

「ハッ! 了解しましたっ!!」

 

みほがそう命令を下すと、弘樹はお馴染みのヤマト式敬礼をしてそう返事を返す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その後、弘樹とみほを含め、その場に居た全員が沈黙し、辺りが一瞬にして静まり返った………

 

「………ッ!!」

 

直後、ボンッ!!と言う様な音が聞こえそうなくらいに一瞬で顔を真っ赤にしたみほが、弘樹に背を向けて、逃げる様に走り出す。

 

「!? ちょっ! みぽりんっ!!」

 

「西住殿ーっ!!」

 

「みほさん!」

 

「やれやれ………」

 

沙織達が慌ててその後を追って行く。

 

「………何だったんだ、今のは?」

 

そこで我に返った弘樹が、みほ達が消えて行った方向を見ながらそう呟く。

 

「いやはや、青春だね………」

 

とそこで、突然迫信が姿を現す。

 

「! 生徒会長!」

 

迫信の姿を見た弘樹が、即座に姿勢を正してヤマト式敬礼をする。

 

「舩坂くん、ココは1つ彼女の言うとおりにしてやってはどうかね?」

 

その弘樹に向かって、迫信が扇子で口元を隠しながらそう言う。

 

「は、はあ………どの道、命令には従う積りでしたし、生徒会長がそう仰られるのでしたら………しかし、西住くんも物好きだな」

 

弘樹は戸惑いを露わにしながらも、そう返す。

 

(やれやれ………こりゃ先が思いやられるぜ………)

 

(リア充、爆発しろ)

 

(西住さん………頑張って下さい)

 

そして、そんな弘樹を見て、地市、了平、楓は内心でそう思いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

弘樹の前から走り去ったみほはと言うと………

 

「命令って言っちゃった………」

 

テンパって命令と言ってしまった事に自己嫌悪し、格納庫の外で膝を抱えて沈んでいた。

 

「だ、大丈夫だよ! 一応は誘えたんだし!」

 

「そうですよ! 後は当日に水族館にさえ行けば何とかなります!」

 

「作戦はコレからであります! 西住殿!」

 

そんなみほを励ます様に、沙織、華、優花里がそう言う。

 

「お前もお前だが、アイツの方もアイツの方だな………よっぽど女っ気の無い人生を送ってたんだな………」

 

一方の麻子は、弘樹に向かってそう毒を吐く。

 

「ま、まあ、舩坂殿の人生は歩兵道一筋だったそうですし………」

 

「舩坂さん、真面目そうですからね………」

 

「私だったら信じられないなぁ。生まれてからずっと異性とあんまり関わらない人生なんて………」

 

優花里、華、沙織もそれに反応する。

 

「兎に角、みぽりん! 一応誘う事には成功したんだし! 後はみぽりん次第だよ!!」

 

沙織が再び、みほをそう言って励ます。

 

「………そうだよね………後は私が如何にかしないと行けないんだよね………」

 

と、その一言で、みほの雰囲気が変わる。

 

「うん! 私………頑張ってみる!」

 

再び決意を決めた様な表情を見せ、みほは立ち上がった。

 

「ガンバ! みぽりん!」

 

「頑張って下さい」

 

「西住殿! 陰ながら無事を祈っております!!」

 

「戦場に行くんじゃないんだぞ」

 

そんなみほに向かって、沙織、華、優花里、麻子はそう言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその翌日の日曜日………

 

タイミング良く、大洗学園艦は大洗の街へ寄港。

 

弘樹とみほは早速、大洗水族館へと訪れた………

 

と言うワケである。

 

「えっと、このチケットで………」

 

「ハイ、ありがとうございます。ようこそ、大洗水族館へ」

 

みほがペアチケットを出入り口の係員に手渡し、弘樹と共に入場する。

 

休日とあって、館内はそれなりに混雑している様子を見せている。

 

「最初のコーナーは、出会いの海ゾーンか………」

 

何時の間にかパンフレットを手にしていた弘樹が、館内の案内図を見ながらそう呟く。

 

「じゃあ、早速………!? キャッ!?」

 

とそこで、みほが他の入館客とぶつかり、弘樹の方へと倒れ込んで来る。

 

「おっと!」

 

それを難なく受け止める弘樹。

 

「あ、すみません。大丈夫でしたか?」

 

「あ、ハイ。大丈夫です」

 

ぶつかった客が謝罪して来ると、みほは大丈夫だと返す。

 

「良かった。どうもすみませんでした」

 

客は再度頭を下げると、館内の奥の方へと歩いて行く。

 

「ビックリした~」

 

「休日だからな。混雑するのも当然だろう。気を付けるんだぞ、西住くん」

 

「うん、ありがとう、舩坂く………」

 

と、弘樹に礼を言おうとしたみほが固まる。

 

今更ながら、自分が弘樹に受け止められている事に気付いた様子だ。

 

「? 如何した?」

 

「!! う、ううん! な、何でも無いよっ!!」

 

そこで慌てて弘樹から離れるみほ。

 

「? そうか?」

 

怪訝に思いつつも、深くは追及しない弘樹。

 

「さ、さあ! 行こう!!」

 

「うむ………」

 

そして、未だに若干頬を染めているみほと、何時もと同じ仏頂面気味の弘樹は、最初のコーナーである『出会いの海ゾーン』へと向かう。

 

「行ったね………」

 

「初っ端からラブコメみたいなイベント見せつけてくれたじゃねえか」

 

と、そんな2人を尾けている、複数の影が有った………

 

沙織、華、優花里と地市、飛彗、白狼のメンバーである。

 

「あの、沙織さん。やっぱり帰った方が良いのでは………」

 

「そうですよ。他人のデートの様子を覗き見するなんて、趣味が悪いですよ」

 

華と飛彗が、この行動を率先して行っている沙織と地市にそう注意する様に言うが………

 

「何言ってるの! みぽりん結構ドジなとこあるから心配じゃん!」

 

「それに、こんな面白い事、見逃せるかよ。あの超合金並みの堅物で知られる弘樹が、西住総隊長とデートだなんてよ!」

 

沙織は純粋にみほが心配で付いて来ていた様だが、地市は完全に面白半分でそう返す。

 

「って言うか、何で俺まで巻き込まれてるんだ?」

 

「すみません、神狩殿………大空殿は、綿貫殿を止めていてくれているので、手が放せなくて………」

 

「いや、それで何で俺が呼ばれるんだよ?」

 

1人呼ばれたのが不思議だと言う顔をしている白狼に、優花里が申し訳無さそうにそう言うが、白狼は納得が行かない様子である。

 

『それで僕を巻き添えにする君も君だと思うけどね、白狼』

 

とそこで、弘樹とみほを尾けている面子全員が付けていたマイク付きインカムの内、白狼の物から煌人の声が聞こえて来る。

 

『沙織、2人は『出会いの海の大水槽』の前まで進んだぞ』

 

更に続けて、今度は沙織の物に麻子の声が聞こえて来る。

 

「了解。麻子」

 

「しっかし、平賀のお蔭で助かるなぁ、オイ」

 

沙織がマイクを掴んでそう返信すると、地市がそう呟く。

 

現在煌人と麻子の2人は、大洗水族館の駐車場に止めてある指揮車に居る。

 

煌人が持ち込んでいる私物のノートPCで、大洗水族館の監視カメラの映像をハッキングし、2人の様子を沙織達に伝えているのである。

 

麻子はその手伝いである。

 

『全く………僕の情報収集能力はこんな事の為にあるんじゃないぞ』

 

『とか言いながらやってるんだな』

 

愚痴る様に言う煌人に、麻子がそうツッコミを入れる。

 

『まあ、暇だったからね。君こそ良く手伝ってるね』

 

『お前と同じ理由だ』

 

煌人と麻子の間で、若干毒が入ったトークが飛ぶ。

 

「よし! それじゃあ、私達も行こうっ!」

 

「おうよっ!」

 

そこで、沙織と地市がチケットを買い求めに走る。

 

「もう、沙織さんったら………」

 

「放って置くと心配ですね。仕方ない………付き合いましょう」

 

その後を、そんな会話をしながら華と飛彗が………

 

「神狩殿! 早くっ!」

 

「ハアア~~~、メンドクセェ………」

 

そして最後に、優花里が露骨に面倒臭い様子を露わにしている白狼を引っ張る様にして、チケットを買い求めに走るのだった。

 

「ママ~。あのお兄ちゃん達とお姉ちゃん達、何やってるの~」

 

「シッ! 見ちゃ行けません!」

 

その様子は、他の来訪客からは若干奇異に見られていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に弘樹とみほがデート。
場所は大洗水族館です。
いや~、この作品、ラブコメでもあるんで、いつかはこの2人のデートを書きたいと思っていたんですよ。
若干、ギャラリーが居ますが(笑)
次回は2人のラブコメの様子をじっくりとご覧ください。
特別ゲストも登場しますので、お楽しみに。

さて、いよいよアンツィオ戦が上映開始されましたね。
自分は今日見に行く予定です。
アニメ版のアンチョビは大分愉快なキャラの様で、レーシングカーの様に動き回っていたイタリア戦車と合わせてとても楽しみにしています。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第47話『大洗水族館でドキドキです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第47話『大洗水族館でドキドキです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょんな事から、大洗水族館のペアチケットを手に入れた弘樹とみほは………

 

それを使ってデートをする事となった。

 

勿論、堅物な弘樹と基本ドジっ子なみほのデートに、沙織達や地市達は興味津々。

 

各々にパートナーを組み、2人のデートをコッソリと監視するのだった。

 

果たして、弘樹とみほは無事にデートする事が出来るのであろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・出会いの海ゾーン………

 

最初の見所である、『出会いの海の大水槽』の前へとやって来た弘樹とみほ。

 

丁度今、水槽の中に登場するダイバーが魚達を紹介してくれる、水中対話ショー『アクアウォッチング』が行われていた。

 

『皆さん~! こんにちは~っ!!』

 

「「「「「「「「「「こんにちは~っ!!」」」」」」」」」」

 

出会いの海の大水槽の前に陣取っていた観客達の中で、子供達が全員元気良く、ダイバーに返事を返す。

 

『は~い、ありがとうございま~す。今日も元気な子供達がいっぱいで嬉しいです。それじゃあ、早速お魚を紹介して行きましょう』

 

ダイバーはそう言うと、水中カメラを手に、出会いの海の大水槽内の魚達を撮影する。

 

そして、水槽横のモニターにその映像が映し出されているのを確認しながら魚達を紹介・解説して行く。

 

『さて! ではココで1つ、クイズを出してみたいと思います。コチラのこの魚………』

 

とそこで、ダイバーはそう言い、1匹のサメの様な魚を映し出す。

 

『コチラのお魚、名前は『シノノメサカタザメ』と言うんですが、サメの様にも、エイの様にも見えますね。さて、このシノノメサカタザメ………サメか、エイか、どっちでしょうか?』

 

「え~っ? どっちだろう~?」

 

「サメって付いてるからサメじゃな~い?」

 

「違うよ~。エイだよ~」

 

ダイバーからのクイズに、子供達は頭を悩ませる。

 

「う~ん………サメ、かなぁ?」

 

「いや、アレはエイだな」

 

みほと弘樹も、其々に答えを予想する。

 

『それでは正解を発表したいと思います。正解は………エイです!』

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

ダイバーが答えを発表すると、子供達から驚きの声が挙がる。

 

『そうなんですよね~。このシノノメサカタザメ。名前にサメと付いていまずが、実はエイの仲間なんです。良く見て下さい』

 

するとそこでダイバーは、シノノメサカタザメの腹側を映し出す。

 

『ご覧の通り、シノノメサカタザメは鰓孔………つまり、えらが下側にあります。サメは横に有るのが普通なので、エイの仲間と言う事です』

 

「そうなんだ~」

 

「成程~」

 

子供達からそんな声が挙がる。

 

「凄いね、舩坂くん。当たったよ」

 

「何、名前を言っておいて態々聞いてきていたから、恐らく違うのだろうと予想しただけさ」

 

弘樹に尊敬の眼差しを送るみほだったが、弘樹は只の感だと謙遜する。

 

「うふふ………」

 

「フッ………」

 

そんな弘樹を見て、みほが笑うと、弘樹も微笑を零す。

 

「良い雰囲気だね~」

 

「結構上手くやってるみたいじゃねえか」

 

と、観客達の中に交じって、コッソリとその様子を見ている沙織と地市がそう言い合う。

 

「流石は舩坂殿。見事な洞察力です」

 

「お前も大概だな………」

 

弘樹とみほに尊敬の念を抱いている優花里がそう呟くのを聞いて、白狼が呆れた様にそう言う。

 

「華さん、見て下さい、あの魚。綺麗ですよ」

 

「まあ、ホント………綺麗ですね~」

 

そして、コッチもコッチで良い雰囲気を作り出している飛彗と華だった。

 

「あ! 次のコーナーに向かうみたいだよ!」

 

「追うぞっ!!」

 

とそこで、ショーが終わったのを確認した弘樹とみほが、次のコーナーへと向かうのを沙織と地市が目撃し、自分達も気づかれない様に次のコーナーへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・暗黒の海ゾーン………

 

次のコーナーは深海魚を中心とした深海の生物を紹介するコーナーであり、深海をイメージして、コーナー全体が暗くなっている。

 

「な、何だか雰囲気あるね………」

 

「ああ、そうだな………」

 

急に暗くなった事で戸惑っているみほと、それに気づかずにクラゲの水槽を見やっている弘樹。

 

「? アレ? 何だろう、あの水槽?」

 

とそこでみほが、真っ暗になっている小さな水槽を発見し、怪訝に思って近寄って見る。

 

「?」

 

近寄っても真っ暗で何も見えなかったので、更に水槽を覗き込む様にするみほ。

 

「西住くん、如何した?」

 

弘樹もそんなみほの傍に立つ。

 

すると………

 

突如水槽内の電灯が点灯し、グロテスクな深海魚の姿が露わになった!

 

「!? キャアアッ!?」

 

みほは悲鳴を挙げながら、弘樹に抱き付く。

 

「深海魚か。まるでお化け屋敷の様な演出だな」

 

しかし弘樹の方は至って冷静な様子でそう言い放つ。

 

「ハアア~~~、ビックリした………」

 

そんな弘樹の態度で落ち着きを取り戻したのか、みほは大きく息を吐きながらそう言う。

 

「………あ」

 

そしてそこで、自分が今弘樹にガッチリと抱き付いている事に気づく。

 

「!?!? ゴゴゴゴ、ゴメンナサイッ!」

 

ボンッと言う音が聞こえそうな様子で顔を真っ赤にしたみほが、慌てて弘樹から離れてしどろもどろする。

 

「………フフ」

 

と、そんなみほの姿を見て、弘樹は笑いを零した。

 

「ど、如何したの?」

 

「いやあ………試合の時はあんなに凛として勇ましい様子を見せてる君が、今小官の目の前でしどろもどろしているのを見たら、何だか可笑しくてな。ハハハ」

 

笑いながらそう言う弘樹。

 

「ふええっ!? 舩坂くん! それ如何言う意味!?」

 

「言葉通りの意味さ。さて、次のコーナーへ行くか………」

 

抗議の様な声を挙げるみほだったが、弘樹ははぐらかして次のコーナーへと向かおうとする。

 

「ああ! ま、待ってよ~! 舩坂く~ん!!」

 

そんな弘樹を慌てて追い掛けるみほだった。

 

「私も、試合の時の西住殿と、普段の西住殿はギャップが大きいと思う時があります」

 

「ある意味、ラクビー部の面々と一緒だな」

 

そんな2人の様子を見て、優花里と白狼がそう言い合う。

 

「クラゲって、こんなに美しい物だったんですね」

 

「色が変わるなんて、初めて知りましたよ」

 

そして、相変わらず良い雰囲気になっている華と飛彗。

 

「うわあ~、コレがリュウグウノツカイ?」

 

「スッゲェ迫力だなぁ、オイ」

 

更に、沙織と地市までもが、本来の目的を見失い始め、リュウグウノツカイの剥製を見て燥ぎ出していた。

 

『オイ、沙織。自分で言った目的を見失ってるぞ』

 

『2人は既に次のコーナーへ向かってるぞ』

 

とそこで、駐車場の指揮車に居る麻子と煌人からそうツッコミが入る。

 

「わ、分かってるよ! ちょっと寄り道しただけだよ!」

 

「折角チケット買って入館したんだからよぉ。少しぐらい楽しんだって良いじゃねえかよ」

 

沙織と地市はそう返し、華達と共に再び弘樹とみほの後を追って行った。

 

『やれやれ………』

 

『何だか馬鹿らしくなって来たよ………』

 

そんな沙織達の様子に、麻子と煌人は愚痴る等にそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・ミュージアムゾーン………

 

弘樹とみほは、世界の海ゾーンでサメやマンボウ、世界の魚を観賞した後、この第4のコーナーまで来ていた。

 

展示物を見たり、触ったり、或いは体験した後、コーナー内に在ったコーヒーショップ『マーメイドギャレー』で一息を入れている。

 

「ふう~~」

 

「疲れたのか? 西住くん」

 

カフェオレを一口飲んだ後、大きく息を吐くみほの姿を見て、茶を啜っていた弘樹がそう尋ねる。

 

「ううん、そうじゃないけど。水族館とか来たの初めてだから、ちょっと圧倒されちゃって………」

 

「そうなのか?」

 

「うん、家じゃいつも戦車の事ばかりだったから………お母さんも戦車道の指導ばかりで、家族で出かけた事なんてあんまり無かったし………」

 

そう言いながら、何処か遠い目をして海を眺めるみほ。

 

「西住くん………」

 

何と声を掛けて良いか分からず、言葉に詰まる弘樹。

 

「あ、でもね! お父さんは凄く優しかったんだ! 稽古をサボらせて、コッソリと遊びに連れてってくれたりしたんだ」

 

しかしみほはすぐにそう言葉を続ける。

 

「そうか………良い父親だな」

 

その言葉に安心した様に、再び茶を啜る弘樹。

 

「うん、ちょっと変わってるところがあるけど、優しくて素敵なお父さんなんだ。私が大洗へ引っ越したいって言った時も、お母さんに内緒で手続きを全部済ませてくれたの」

 

慕っているのか、笑顔を浮かべて父の事を語り出すみほ。

 

「そうか………」

 

今度はそれを聞いている弘樹の方が僅かに遠い目をする。

 

「! あ! ゴ、ゴメン! 舩坂くんのお父さんとお母さんは………」

 

とみほはそこで、弘樹の両親が既に亡くなっているのを思い出し、慌てて謝罪する。

 

「気にするな。言っただろう。小官はもう現実を受け止めている。嘆いたところで、何かが変わるワケではない………」

 

しかし弘樹はすぐに何時もの仏頂面になり、三度茶を啜りながらそう返す。

 

「………強いね、舩坂くん」

 

「そう言う生き方しか出来なかっただけさ………」

 

「ねえ………舩坂くんのお父さんとお母さんの事、聞いても良いかな?」

 

「構わないが………余り面白い話じゃないと思うぞ」

 

2人はそのまま語らいを始めるのだった。

 

「西住殿………楽しそうであります」

 

「そろそろ帰りたいぜ………」

 

そんなみほを離れた席から見守っている優花里と、いい加減に帰りたいと思っている白狼。

 

因みに、沙織と地市、華と飛彗はと言うと………

 

「あ、コレ、可愛い~」

 

「なあ、沙織。コレ如何かな?」

 

沙織と地市は、ミュージアムゾーン内にあるショップ『ガレオス』で、ショッピングに夢中になっていた。

 

「シェフのオリジナルカレーと包み焼きピザ、フライドポテトにアメリカンドッグ、シャークナゲットとマンボウコロッケを下さい」

 

「か、畏まりました………」

 

(やっぱり食べるなぁ、華さん………)

 

華はマーメイドギャレーのメニューを次々に頼み、付き合っている飛彗も流石に唖然としている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・駐車場………

 

「当初の目的を見失っているな、アイツ等………」

 

ノートパソコンに映っているハッキングした監視カメラの映像内の沙織達の様子を見て、麻子がそう呟く。

 

「コレならば最初から合同デートにでもした方が良かったんじゃないのか?」

 

そこへ、両手に紅茶の入ったカップを持った煌人が現れる。

 

「給湯設備が在ったのか? この車には?」

 

「改造して取り付けたのさ。元々この車は僕の私物だからな」

 

麻子にそう答えながら、彼女の分の紅茶をテーブルの上に置く煌人。

 

「そうか………ならベッドも在ったりするか?」

 

「仮眠用のだが、一応在るぞ」

 

煌人はそう答えると、仮眠用の簡易ベッドを展開させる。

 

「ちょっと借りるぞ。朝早くから付き合わされて、もう限界だ………」

 

麻子は何時の間にか紅茶を飲むと、そのまま簡易ベッドに倒れ込む様に横になり、一瞬の間の後、寝息を立て始める。

 

「やれやれ……人の所で随分と寛いでくれるじゃないか………」

 

煌人は愚痴る様にそう言いながらも、毛布を麻子の身体に掛けてやり、自分は再びノートPCの映像を見やり始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一息を入れた弘樹とみほは、水族館巡りを再開。

 

世界の海ゾーン2で、エトピリカやラッコ、ゴマフアザラシなど北の海で暮らす海獣達を見物した後、展望デッキで大洗の海と那珂川の様子を眺めた。

 

その後、キッズランドを経由して、森と川ゾーンで淡水魚を見物。

 

更にそのまま、出会いのデッキへと進もうとしたが………

 

「舩坂くん、ちょっとゴメン。此処で待っててもらえる?」

 

「ああ、分かった」

 

突如みほがそう言ったかと思うと、弘樹を残してその場から去って行った。

 

「西住殿? 如何したのでありましょう?」

 

「便所じゃねえのか?」

 

覗いていた優花里が首を傾げると、白狼が身もふたも無くそう言い放つ。

 

「か、神狩くん! もう少し言い方ってのがあるでしょう!」

 

そんな白狼に、沙織がそうツッコミを入れる。

 

「知るかよ、そんな事………」

 

「白狼、もう少しデリカシーをですね………」

 

白狼の言い方に少々もめつつも、陰でみほが戻るのを待つ。

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後………

 

「…………」

 

怪訝な顔をしながら、腕時計を見やる弘樹。

 

流石に幾ら何でも遅過ぎると感じている様だ。

 

「女のトイレってのはこんなに掛かるのか?」

 

「白狼、また………」

 

「確かに、ちょっと遅過ぎるねぇ」

 

白狼の言い方を注意しようとした飛彗だったが、それよりも先に、沙織も帰りが遅いみほの事を怪訝に思い始める。

 

「あの………ひょっとして………迷子になったのでは?」

 

するとそこで、華がそんな事を言う。

 

「まさか」

 

「いや、でもみぽりん、ちょっとドジなところがあるから………有り得るかも」

 

地市は否定するが、みほを良く知る沙織は強ち否定出来ない。

 

「ええっ!? に、西住殿が迷子に!? どどどどどど、如何しましょう~っ!?」

 

「落ち着け。お前が慌てても何にもならねえだろうが………アインシュタイン、監視カメラで西住総隊長を発見出来ないか?」

 

途端に狼狽する優花里に、白狼がツッコミを入れ、指揮車の煌人に尋ねる。

 

『いや。駄目だ。ちょうど混み合って来たみたいでな。人が増えてる』

 

『監視カメラの映像から探すのは難しいな』

 

しかし、指揮者の煌人と麻子からはそう言う返事が返って来る。

 

「そうか………」

 

「如何しよう………探しに行ったら、私達の事がバレちゃうし………」

 

「でも! このままじゃ………」

 

沙織が頭を悩ませ、優花里が相変わらず焦っている様子でそう言う。

 

「あ! 舩坂さんが動きましたよ」

 

するとそこで、弘樹を見ていた華が、弘樹が動き出した事を告げる。

 

「流石に遅いと思って探しに行くみたいだな」

 

「無事に会える事を祈るしかありませんね………」

 

そんな弘樹を遠巻きに見ながら、地市と飛彗がそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・展望デッキ………

 

「………此処にも居ないか」

 

順路を逆走し、みほの姿を探す弘樹だったが、未だに発見できていない。

 

(係員に頼んで呼び出してもらうか………いや、流石にそれは西住くんに失礼か………)

 

子供の迷子の様に、係員に呼び出しを掛けてもらおうかと一瞬考えるがすぐに止める。

 

「! そうだ! 1回戦の試合の時に、確か西住くんの携帯電話の番号を………」

 

とそこで、1回戦でサンダース&カーネル機甲部隊との戦いの時に、成り行きで全員の携帯番号を交換していた事を思い出し、すぐに携帯電話を取り出す。

 

と、その時………

 

「ちょっとぐらい良いじゃんかよ~」

 

「そうそう! ちょっと付き合ってって言ってんじゃん」

 

ガラの悪い男達数人が、誰かを取り囲んで絡んでいた。

 

「い、いや………助けて!」

 

その囲まれている人物が助けを求める声を挙げる。

 

「! 西住くんっ!?」

 

「おわっ!? 何だテメェッ!?」

 

と、その声がみほのモノだと思った弘樹は、ガラの悪い男達を掻き分ける。

 

「? 誰?」

 

しかし、そこに居たのはみほではなく、脇の露出した青いセーラー服の様な服装をした、銀髪碧眼の小柄な少女姿だった。

 

(! 西住くんではない………しかし、良く似た声をしている)

 

その少女の声が、みほと良く似ていると感じる弘樹。

 

「オイ、テメェ! 引っ込んでろっ!」

 

「俺達は今からこの娘と………」

 

とそこで、ガラの悪い男達が弘樹に追い返そうとするが………

 

「…………」

 

弘樹は無言で傍に居たガラの悪い男の顔面に裏拳を入れた。

 

「ゲボアッ!?」

 

汚い悲鳴と共に床に倒れるガラの悪い男の1人。

 

「なっ!?」

 

「テメェッ!!」

 

「人違いだったが、こういう状況を見逃すほど程、小官は薄情ではない」

 

イキナリ仲間の1人をやられ、狼狽するガラの悪い男達にそう言い放つ弘樹。

 

「んだとぉっ!」

 

「コノヤロウ! すかしやがって!!」

 

ガラの悪い男達は弘樹に遅い掛かろうとするが………

 

「!? オ、オイ、待てっ!? コイツ………舩坂 弘樹だ!!」

 

とそこで、ガラの悪い男の1人がそう声を挙げた。

 

「!? 舩坂って………大洗機甲部隊の!?」

 

途端に、他のガラの悪い男達も顔を真っ青にして弘樹を見やる。

 

「………如何する?」

 

そんなガラの悪い男達に向かって、弘樹は仏頂面で空手の構えを取ってそう言い放つ。

 

「「「「「すいませんでしたーっ!!」」」」」

 

ガラの悪い男達は即座に弘樹に向かって頭を下げたかと思うと、倒れていた仲間を引き摺る様にして逃げ出した。

 

「やれやれ………」

 

「舩坂 弘樹………大洗機甲部隊のあんこうチーム随伴歩兵分隊、とらさん分隊の分隊長………」

 

そんなガラの悪い男達の姿に、弘樹が呆れた様子を見せると、銀髪の少女が弘樹を見ながらそう言う。

 

「………詳しいな。君は一体?」

 

自分の事を詳しく知る少女に、弘樹は怪訝な顔をしながらそう尋ねる。

 

「私は『イオナ』。『千早 群像』のパートナー。ねえ、貴方。群像を知らない?」

 

そんな弘樹に向かって少女………『イオナ』は、感情が余り感じられない口調でそう尋ねる。

 

「千早………群像だと………」

 

と、『千早 群像』と言う名に覚えがあるのか、弘樹は僅かに目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「ア、アレ? コッチじゃなかったっけ?」

 

迷子になっていたみほは、未だに大洗水族館の館内を彷徨っていた。

 

「如何しよう? 舩坂くん、心配してるよね………」

 

オロオロとした様子で、如何すれば良いのか悩むみほ。

 

「あ! そうだ! 確か試合の時に、舩坂くんの番号を………」

 

そこで、みほも携帯に弘樹の番号を登録していた事を思い出し、電話を掛けようとする。

 

と………

 

「イオナ! ココに居たのか!」

 

そう言う声が聞こえて来たかと思うと、みほの肩を後ろから掴む者が現れる。

 

「!? ふえっ!?」

 

突然の事に、みほは驚いて飛び退く様にその人物から距離を取る。

 

「あ、すまない………連れと良く似た声だったから間違えてしまった。申し訳無い」

 

肩を掴んだ人物………黒のショートボブにスーツ姿の少々中性的な顔立ちをした青年が謝罪する。

 

「い、いえ! ちょっとビックリしただけですから、気にしないで下さい」

 

「助かる………ところで、ちょっと聞きたいんだが、青いセーラー服の様な服装をした、銀髪碧眼の小柄な少女を見なかったか?」

 

みほも謝る中、青年はみほにそう尋ねる。

 

「いえ、見てませんけど………と言うより、私も迷子になってしまっていて」

 

「そうなのか?」

 

と、みほと青年がそう会話していると………

 

「群像ーっ!」

 

「此処に居たのか、西住くん」

 

そう言う声が聞こえて来て、イオナと弘樹が、其々青年とみほの元へと現れる。

 

「! イオナ! 探したぞ!」

 

「ゴメン、群像」

 

青年に向かって頭を下げるイオナ。

 

「舩坂くん! 良かった~………」

 

「やれやれ、まあ無事で何よりだ」

 

みほは弘樹の姿を見て安堵の息を吐き、弘樹はみほが無事なのを確認してそう言う。

 

「………君が『千早 群像』か」

 

とそこで、弘樹は青年………『千早 群像』を見てそう言う。

 

「君は………舩坂 弘樹か」

 

群像も、弘樹の事を見やり、そう言う。

 

「? 舩坂くん? 知り合いなの?」

 

そんな弘樹の姿に、みほが首を傾げてそう尋ねる。

 

「いや、そう言うワケじゃないが………彼はちょっとした有名人でな」

 

「それは君の方もだろう………」

 

弘樹がそう答えると、群像はフッと笑ってそう口を挟むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗水族館でデート(?)を満喫する弘樹とみほ。
そんな様子を監視していた沙織達も、何時の間にかイチャつきだす。
自分で言うのもなんですが、今回はラブコメ一色でしたね。

そして前回言っていた特別ゲスト………
『蒼き鋼のアルペジオ』から、『千早 群像』と『イオナ』に出演していただきました。
イオナとみほの中の人繋がりです、ハイ。
因みに私、アニメの方しか見てません。
この群像とイオナは、アルペジオの本人ではなく、ガルパンの世界の群像とイオナ………
所謂平行世界の同一人物だと思って下さい。
ちょっと絡む程度ですが、楽しんでいただければ幸いです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第48話『鉱関高等学園です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第48話『鉱関高等学園です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館でデートを楽しむ弘樹とみほ。

 

陰で見守っていたあんこうチーム&とらさん分隊の面々も、何時の間にか水族館に夢中になっていた。

 

そんな中………

 

ふとした事で逸れてしまったみほを探しに向かった弘樹が………

 

みほと良く似た声を持つ少女『イオナ』と出会う。

 

一方、逸れたみほも、『千早 群像』と言う青年と出会った。

 

弘樹を知る様子の群像と、そんな群像を知る様子を見せる弘樹。

 

果たして、イオナと群像は何者なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・オーシャンゾーンのオーシャンシアター………

 

「さあ~皆~! アシカさんとイルカさんのショーの始まりだよ~!!」

 

「「「「「「「「「「わああああぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

司会の飼育員が挨拶をすると、オーシャンシアターの客席に居る子供達から歓声が挙がる。

 

「は~い、今日も元気一杯の子供達が大勢居てくれて嬉しいです。じゃあ、先ずはアシカさん達の演技です!」

 

飼育員がそう言うと、アシカ達が演技に入る。

 

飼育員が投げた輪っかを輪投げの様にキャッチしたり、ボールを見事にヘディングしたり、前ヒレをバタバタと振って観客に答えて見せる。

 

「お~~」

 

「凄い凄い~」

 

その様子に、無表情だが感心した様子で拍手するイオナと、無邪気に笑顔を浮かべて拍手するみほ。

 

「見事なものだな」

 

「うむ………」

 

群像と弘樹も、短くそう言い合う。

 

一通りの演技が終わると、観客席から一斉に拍手が鳴る。

 

「は~い、ありがとうございま~す! 続きましては、お待ちかね! イルカさん達の演技です!」

 

飼育員がそう告げると、今度はイルカ達の演技が始まった。

 

背面泳ぎや立ち泳ぎ、更には息の揃った大ジャンプが披露されて行く。

 

「おお~」

 

「凄い迫力だね」

 

水槽間近の席に居る為、イルカの大ジャンプの迫力に圧倒されるイオナとみほ。

 

と、その時!!

 

イルカ達が一斉に大ジャンプを行い、着水の際に跳ねた水が、みほの方へと向かって来た!

 

「!? ふええっ!?」

 

咄嗟の事に反応出来ないみほ。

 

このままではずぶ濡れになってしまう!

 

だが、しかし!

 

「…………」

 

弘樹がとんびコートのケープ部分を翻し、みほを隠す様に覆ったかと思うと、そのまま跳ねて来た水を受け止めた!

 

「!?」

 

「大丈夫か、西住くん?」

 

すっかりずぶ濡れになったとんびコートを脱ぎながら、みほにそう尋ねる弘樹。

 

「う、うん………ありがとう、舩坂くん」

 

そんな弘樹を見て、みほは頬を染めながらお礼を言う。

 

「群像。みほは如何して赤くなっているの?」

 

「さてな………」

 

そんなみほの姿を見て群像にそう尋ねるイオナと、それをはぐらかす群像。

 

その後もショーを満喫した4人は、遅めの昼食を取ろうと、フードコートへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館・フードコート………

 

「しかし、まさかこんな所で千早 群像と出会えるとはな………驚いたよ」

 

「俺の方も、舩坂 弘樹と出会えるとは思っていなかったよ」

 

食事をしながら、弘樹と群像がそう言い合う。

 

「イオナちゃんって、『軍艦道』の人だったんだ」

 

「そう。潜水艦の部門を受講してる」

 

みほとイオナもそんな事を言い合う。

 

 

 

 

 

『軍艦道』

 

戦車道、歩兵道に並ぶ兵器を使用する武道の1つである。

 

その名の通り、第二次世界大戦終了時までの軍艦を使い、競い合うのである。

 

戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、水雷艇など、艦種ごとに部門が分かれているが、対戦時には艦隊を組んだり、其々別の艦種が対決し合う事が多々ある。

 

使う兵器が兵器なだけに、その試合の様子は迫力満点であり、高い人気を誇っている。

 

また、歩兵道が女子も少数存在するが基本的に男子、戦車道が女子の武道であるのに対し、軍艦道は男女混合で、割合も半々の武道であり、艦船を使う特性上、何よりもチームワークや連携が重視されている。

 

 

 

 

 

「やはり、父親に憧れて軍艦道を?」

 

「まあ、そんなところだ………」

 

群像の父『千早 翔像』は、かつて軍艦道・世界大会で日本を優勝させた名提督の1人であり、軍艦道を求道する者達にとっては憧れの的である。

 

「そう言う君も、祖先の影響かい?」

 

「影響と言うよりも………」

 

「? 言うよりも?」

 

「『血』だな………」

 

「フフフ、成程。納得出来る理由だ」

 

お互いに兵器使用武道の求道者ゆえに、会話が弾んでいる群像と弘樹。

 

「西住 みほ。一体如何やって大洗機甲部隊を勝たせたの?」

 

「えっ?」

 

「私にとって大洗機甲部隊の戦い方は非常に興味深い。いつも数や練度で負けていながら、最後にはその不利を覆して勝利する………一体あの機甲部隊の何処にそんな力が有ると言うの?」

 

一方のイオナも、みほに向かって淡々とした様子でそう問い質す。

 

「それは西住くんの指揮が的確だからさ」

 

と、みほに代わる様に、弘樹がそう答えた。

 

「一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れは、一頭の狼に率いられた羊の群れに敗れる………」

 

「ナポレオンか………」

 

それを聞いた群像がそんな言葉を口にすると、弘樹がそれはナポレオンの言葉であると言い当てる。

 

「そんな! 私の指揮なんて、そんな大した事ないよ。皆が頑張ってくれてるから………」

 

「群像。みほはああ言ってるけど………」

 

「謙遜しているだけさ。西住くん、君はもう少し、自分を誇っても良いと思うぞ」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

真正面から褒めて来る群像に、みほはすっかり縮こまってしまう。

 

その後、群像とイオナはスーベニアショップ『モラモラ』で土産を買い、大洗水族館を後にしたのだった。

 

弘樹とみほも、一通りの見物を終えたので、次はアウトレットへ向かった。

 

当然、沙織達もその後を尾けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、夕方………

 

大洗学園艦の停泊港………

 

「いや、すっかり遅くなってしまったな………」

 

大洗の海の水平線に沈もうとしている夕日を見て、弘樹がそう呟く。

 

「急がないと、出航の時間になっちゃう」

 

みほもそう言い、学園艦への連絡橋へと急ぐ。

 

(ん? 隣に別の学園艦が入港中か………)

 

とそこで弘樹が、大洗学園艦が入港している隣の港に、別の学園艦が入港している事に気付くが、学園艦が複数入港する事は良くある光景な為、余り気に留めなかった。

 

「コレで2人の仲、進展したかな?」

 

「如何だろうな………あの弘樹だからなぁ」

 

2人を覗き見していた沙織達や地市達は、相変わらず離れた場所から2人の姿を見ている。

 

「あ、あのね、舩坂くん」

 

「ん?」

 

と、連絡橋を渡っている最中、みほが弘樹へと声を掛ける。

 

「えっと………きょ、今日は! とっても楽しかったよ!」

 

一瞬言葉に詰まったが、やがて意を決した様にそう言い放つ。

 

「………そうか。小官の様な者と一緒で退屈させてしまったのではないかと心配していたが………それなら何よりだ」

 

弘樹はそんなみほの言葉を聞いて、微笑を浮かべるのだった。

 

「おお~、やっぱり西住殿と舩坂殿はお似合いですね!」

 

「何でそんな自信満々に言うんだよ」

 

その光景を見ていた優花里がそう言い放ち、そんな優花里に白狼がツッコミを入れる。

 

「華さん、僕も今日は楽しかったですよ」

 

「ええ、私もです」

 

一方、結局弘樹とみほの事をそっちのけで、自分達も楽しんでいた飛彗と華も、そんな事を言い合っていた。

 

『全く、何しに行ったのやら………』

 

『バカばっか………』

 

指揮車で先に学園艦に乗り付けていた煌人は、そんな様子の一同の会話を聞いて呆れた声を無線に零し、麻子も何処ぞの電子の妖精の少女時代の台詞を言い放つのだった。

 

そんなこんなをしている内に、弘樹とみほは連絡橋を渡り切り、学園艦へと乗り込もうとする。

 

と、そこで………

 

みほが持っていたハンドバックの口が少し開いていた為、連絡橋を渡っていた際の振動で、そこから財布が零れそうになる。

 

「! 西住くん! バックから財布が!」

 

「えっ!?」

 

と、それに気づいた弘樹が声を掛けたが、その際にみほが振り返った時の遠心力で、財布は完全に飛び出してしまう。

 

「あっ!?」

 

「くっ!!」

 

驚くみほと咄嗟にキャッチしようとした弘樹だったが、一瞬間に合わず、財布は連絡橋の上をバウンドして、港に落ちる。

 

「良かった~。海には落ちなかったみたい」

 

「取ってこよう」

 

「あ。良いよ。私行くから」

 

海に落ちなかった事を安堵したみほが、弘樹が取って来ると言うのを断り、連絡橋を下って自分で取りに行く。

 

だが、その瞬間!

 

「!? あっ!?」

 

あと少しで降り切ると言う瞬間に、みほは連絡橋の出っ張りに躓き、転びそうになる!

 

「! 西住くんっ!!」

 

「!? みぽりん!!」

 

「!? 西住殿ぉーっ!!」

 

「隊長っ!!」

 

弘樹が慌てて駆け出し、沙織達も最早見ている場合じゃないと飛び出す。

 

しかし………

 

「おっと!」

 

「うわっ!?」

 

そんな弘樹や沙織達よりも早く、突如現れた4人の学生らしき人物の内、その中に男性の1人が、みほの事を受け止めた。

 

「そう言うドジな処は変わってないな、西住ちゃん」

 

「えっ?」

 

その男性がそんな事を言って来て、みほは戸惑いながらその男性の事を見上げる。

 

「よお、久しぶり」

 

男性は親しげにみほに挨拶をする。

 

「! 堅固さん! 堅固さんじゃないですか!!」

 

堅固と呼ばれたその男性を見たみほが、驚きと喜びが入り混じった声を挙げる。

 

(堅固………だと?)

 

一方、出番を失った弘樹は、みほが堅固と呼んだ男性を見て、何やら考え込む様子を見せる。

 

「ハイ、西住ちゃん。財布」

 

とそこで、もう1人の男性が、みほが落とした財布を拾い上げて手渡す。

 

「あ、ありがとうございます、琥珀さん」

 

「気を付けないと駄目よ」

 

「連絡橋って、意外と危ないんだからね」

 

みほが、その男性の事を琥珀と呼び、お礼を言いながら財布を受け取ると、女性2人もそう声を掛けて来る。

 

「うん、心配掛けてゴメンね。瑪瑙さん、瑠璃ちゃん」

 

その女性2人を、其々瑪瑙と瑠璃と呼ぶみほ。

 

(琥珀、瑪瑙、瑠璃………やはり)

 

それを聞いていた弘樹の中で、ある考えが確信に至る。

 

と、その時!!

 

「弘樹いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

地獄の底から響かせて来るかの様な恨みの籠った声と共に、戦闘服姿で、丑ノ刻参りの様に赤く『呪』と刻まれた鉢巻に、火の付いた蝋燭を2本差した了平が、着剣している三八式歩兵銃を握って現れた。

 

「了平?」

 

突如珍妙な恰好をして現れた了平に、弘樹は首を傾げる。

 

「ふ、舩坂さん! 逃げて下さいっ!!」

 

そこで、そんな了平の背後から、慌てた様子の楓が現れ、弘樹に向かってそう叫ぶ。

 

「リア充死すべし! 慈悲は無いっ!!」

 

その瞬間、了平は血走った目を見開いてそう叫び、着剣している三八式歩兵銃を構えて弘樹に突っ込んで行った。

 

「!!」

 

迎え撃とうとする弘樹だったが………

 

「ちょいと邪魔するぜ」

 

それよりも早く、堅固と呼ばれた男性が間に割って入った。

 

「邪魔だぁっ! 退けぇっ!!」

 

堅固と呼ばれた男性に構わず、了平は突撃する。

 

だが、その次の瞬間!!

 

「むんっ!!」

 

「!? ぐええっ!?」

 

堅固と呼ばれた男性は、一瞬にして了平を組み伏せた!

 

(! 速い! しかも了平が怪我をしない様に配慮までしている………)

 

了平を組み伏せたその手際に、内心で軽く驚く弘樹。

 

「どうもすみません! ホラ、了平!」

 

「チキショーッ! モテる男は皆敵だぁーっ!!」

 

その後やって来た楓が了平を引き摺って退散し、了平は最後まで個人的な恨みの言葉を叫んでいたのだった。

 

「ふふふ、元気が良いな」

 

「分隊員がご迷惑をお掛けしました。謝罪致します」

 

そんな了平の姿を見てそう言う堅固と呼ばれた男性に、弘樹が謝罪する。

 

「おう、何だ? お前のとこの分隊員か? ハハハ、気にすんな。アレぐらいの気迫が無きゃ、歩兵道なんてやれねえよ」

 

「『ダイヤモンドの堅固』にそう言って貰えるとは、光栄です」

 

堅固と呼ばれた男性にそう言う弘樹。

 

 

 

 

 

彼の名は『金剛崎 堅固(こんごうざき けんご)』

 

『鉱関高等学園』の機甲部隊の歩兵総隊長である。

 

鉱関高等学園は、日本をモチーフとした学園艦であり、鉄の如き学園をモットーとしている。

 

鉄と言うのは硬いと言う意味だが、鉄の様に硬い心とも言われており、生徒全員が不屈の心を携えている。

 

この学園艦は男女共学高等学校であり、お互い硬い心を敬い重んじている。

 

本島に降り立った際には、鉱山にて地学の授業と共に、採掘などをしている。

 

歩兵道歴や戦車道歴は古く、創立から大会に参加しており、ベテランから教えられたテクニックを駆使しながら勝ち進み、優勝した事もある。

 

戦車の数こそ少ないのにも関わらず、歩兵道の兵士達が見事な連携でサポートしている為、戦車達が無事なまま勝った事と言う記録も有る。

 

そんな学校の機甲部隊で歩兵総隊長を務める堅固も、小学生の頃より歩兵道を求道しているベテランである。

 

 

 

 

 

「何だ、知ってたのか。流石は英霊の子孫だな」

 

「堅固、大丈夫だったか?」

 

「まあ、心配はしてなかったけどね」

 

「堅固さんが負ける姿なんて想像出来ませんしね」

 

堅固が弘樹にそう返していると、鉱関機甲部隊・歩兵部隊副隊長の『榊 琥珀(さかき こはく)』

 

戦車部隊総隊長である『鬼瓦 瑪瑙(おにがわら めのう)』

 

隊長車通信手である『龍宮 瑠璃(たつみや るり)』がそう言いながら、みほと共に傍に寄って来る。

 

「綿貫くん………一体如何したんだろう?」

 

「さあな」

 

狂気さえ感じさせる様子で弘樹へと襲い掛かろうとしていた了平の姿を思い出し、みほと弘樹はそう言い合う。

 

2人とも、何故了平があんな行動に走ったのかはまるで分かっていない様である。

 

「それにしても、西住くん。鉱関機甲部隊の隊長達と知り合いだったのかい?」

 

「あ、うん。黒森峰に居た頃、練習試合をした事が有ったんだけど、その時に知り合ったんだ」

 

「西住くんが黒森峰から去ったと聞いて残念に思ってたんだが………まさか20年ぶりに大会出場して来た大洗の総隊長になってるとは、驚いたぞ」

 

そこで弘樹が、堅固達の事を尋ねると、みほがそう答え、堅固も口を挟んで来る。

 

「練習試合は黒森峰が勝ったんだけど、かなりギリギリの勝利だったんだ。鉱関機甲部隊の戦術や戦略、歩兵1人1人の実力に圧倒されちゃって………」

 

(あの黒森峰がギリギリの勝利か………やはり侮れん)

 

みほがそう言うと、弘樹は感心しつつも、鉱関機甲部隊への警戒を強くする。

 

「あんな事があった後だったからな。てっきり戦車乗りを止めちまったんじゃないかと思ってたが………良くまた戦車に乗ったな」

 

「色々ありまして………でも、今はこの大洗で頑張ろうって決めたんです」

 

「そうか。偉いぞ」

 

そう言うと堅固は、みほの頭を撫でる。

 

「ふわ~~」

 

撫でられて嬉しそうにはにかむみほ。

 

(まるで兄と妹と言った感じだな………)

 

弘樹はその光景をそう感じ取り、内心でそう思う。

 

「ところで………あちらの方達は西住ちゃん達の知り合いかい?」

 

とそこで、琥珀が港の一角を指差してそう言う。

 

その指差した先には、飛び出したままボーッとしていた沙織達の姿が在った。

 

「!? 沙織さん!? 華さん!? 優花里さん!?」

 

「地市? 飛彗に白狼も? 何をやってるんだ?」

 

沙織達や地市達の存在に気付いたみほと弘樹がそう声を挙げる。

 

「!? ヤッバッ!!」

 

「逃げろーっ!!」

 

「まあまあ!」

 

「結局こうなるんですか………」

 

「西住殿ーっ! 申し訳ありませんーっ!!」

 

「やれやれ………」

 

沙織達と地市達は、多種多様な反応を見せ、その場から逃げる様に去って行った。

 

「如何して沙織さん達が………」

 

(まさか今日1日中付けられていたのか? 気づけないとは………何たる不覚だ)

 

沙織達が居た理由が分からずに居るみほと、尾けられていた事に気づけなかった事を悔やむ弘樹。

 

「ねえ、みほちゃん。コレ見て」

 

とそこで、瑪瑙がそう言って1枚の紙をみほに見せる。

 

それは、戦車道・歩兵道全国大会の対戦表だった。

 

「明日、私達は試合なんだけど、その次の日は大洗でしょ?」

 

「私達が勝って、大洗が勝てば、鉱関機甲部隊VS大洗機甲部隊のカードが実現するよ」

 

瑪瑙の言葉に、瑠璃がそう乗って来る。

 

「堅固さんや瑪瑙さん達と試合に!?」

 

「むう………」

 

みほは嬉しそうな声を挙げるが、弘樹は表情を強張らせる。

 

何せ強豪中の強豪との試合となるかも知れないのである。

 

弘樹にしてみれば緊張感の走る内容だった。

 

「で、でも、その為には次の試合に勝たないといけないし………」

 

「何言ってるんだ、西住くん。君の機甲部隊は十分強いさ」

 

若干自信無さげなみほに、琥珀がそう言う。

 

「俺達は明日の試合を勝ち抜く。だから西住ちゃん。お前も勝ち抜いて来い。全国の舞台で戦おうぜ」

 

「堅固さん………ハ、ハイ! 頑張りますっ!!」

 

続いて堅固にそう言われると、みほはやや上擦った様子でそう返事を返す。

 

「良い返事だ、うん………」

 

堅固はそれを聞くと、今度は弘樹の傍へと寄る。

 

「………この娘の事を………宜しく頼むぜ」

 

「…………」

 

みほに聞こえない様に堅固はそう言い、弘樹は無言のまま堅固を見返す。

 

「フッ………じゃあな。大洗機甲部隊との戦いを楽しみにしてるぜ」

 

それを肯定と見た堅固は、そう言い残し、琥珀、瑪瑙、瑠璃と共に去って行った。

 

「堅固さ~ん! また会いましょう~っ!!」

 

そんな堅固達の姿が見えなくなるまで手を振って見送るみほ。

 

「………鉱関学園とも試合の可能性が有るか………中々に我々の前途は多難だな」

 

「そんなに気にする事無いよ。もし負けても、それはそれで良い思い出になると思うし」

 

堅固の姿が見えなくなった後、弘樹がそう言うが、みほは笑顔でそう返す。

 

(小官もそう思うさ………廃校の件さえなければな)

 

しかし、迫信から大洗女子学園廃校の件を聞かされている弘樹は、内心でそう思いやるのだった。

 

「(まあ、今その事を気にしても仕方が無い。先ずは次の試合を勝つ事を考えねばな………)それにしても、西住くん。金剛崎歩兵総隊長と話している時、随分と嬉しそうだったな」

 

だが、すぐに頭を切り替えようと、話の話題も変える。

 

「うん、堅固さん達は私のとっては、憧れの人だし、何て言うか………心の師匠って、感じかな?」

 

「心の師匠か………なればこそ、無様な試合は見せられないな」

 

「うん、次の試合も勝って………堅固さん達と戦おう!」

 

みほはそう言って決意を固めた様な表情を見せる。

 

「………了解しました、西住総隊長」

 

そんなみほに向かって、弘樹は姿勢を正し、いつもの様にヤマト式敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回のラストに登場したアルペジオのイオナと群像。
この世界に存在する『軍艦道』という武道の求道者です。
乗艦は………言うまでもないですよね。

そして、デートを終えた弘樹とみほは、帰りにベテランの機甲部隊が存在する鉱関高等学園の機甲部隊隊長陣に出会う。
その人達はみほにとって心の師匠と呼びべき人々だった。
全国大会の場で戦おうと約束するが………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第49話『ダークホース出現です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第49話『ダークホース出現です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗水族館でのデートを楽しんだ弘樹とみほ。

 

その帰り、学園艦に乗船しようとしたところ………

 

みほが心の師匠と呼ぶ、黒森峰学園関係者以外の友人である鉱関高等学園の機甲部隊・歩兵部隊総隊長の『金剛崎 堅固』とその仲間達と出会う。

 

堅固は、明日に鉱関機甲部隊の試合があり、その試合に勝ち、更に大洗機甲部隊が地走機甲部隊に勝てば、鉱関機甲部隊VS大洗機甲部隊のカードが実現すると言う。

 

憧れの人や友人達と試合が出来るかも知れないと思い、みほは浮かれる。

 

そして、その鉱関機甲部隊の試合の日………

 

敵情視察を兼ねて、大洗機甲部隊の面々は、試合の様子を見に行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉱関機甲部隊の試合会場・大きな河に面した平原………

 

『さあ、いよいよ始まりました! 戦車道・歩兵道全国大会、第3回戦! 今日は優勝候補の一角である鉱関学園の鉱関機甲部隊の試合です!』

 

『いや~、いよいよですか。鉱関機甲部隊の試合を楽しみにしてたんですよ』

 

観客席に、ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が響く。

 

「「「「「「「「「「鉱関! 鉱関! 鉱関!」」」」」」」」」」

 

観客席に居る鉱関学園の生徒達や関係者、ファンも試合開始前から熱いコールを送っている。

 

「スッゲェー声援だな………」

 

「鉱関学園は古豪の機甲部隊だ。それだけファンの数も多いのさ」

 

その声援の迫力に地市が圧倒されていると、迫信がそう言って来る。

 

「…………」

 

そしてみほも、試合が始まるのを今か今と待ちかねている様子を見せている。

 

「みぽりんってば、楽しそうだね」

 

そんなみほの様子を見た沙織がそう言う。

 

「うん! だって久しぶりに堅固さん達の試合が見れるんだもん!」

 

「いや~、私も鉱関機甲部隊の戦いを生で見られるなんて、感激です!」

 

みほが笑顔を浮かべてそう言うと、その隣で優花里が同じ様に嬉しそうな顔をしながらそう言う。

 

「呑気なものだな………もしかするとその鉱関機甲部隊と試合になるかも知れないと言うのに………」

 

「それはそれですよ、冷泉さん」

 

麻子がそうツッコミを入れると、華がそう窘める様に言う。

 

「そう言えば、鉱関機甲部隊の対戦相手って、何処なんですか?」

 

「『パシフィック高等男子校』と『パシフィック高等女子校』からなる『パシフィック機甲部隊』だな」

 

清十郎が鉱関機甲部隊の相手は何処なのかと尋ねると、俊がトーナメント表を片手にそう答える。

 

「今年から参戦して来た部隊ですが、ウチ(大洗)みたいに、昔は戦車道をやっていたとか、歩兵道をやっていたと言う記録はありません。全くの無名校です」

 

「1回戦、2回戦共に辛勝………ま、運だけで勝ち抜いてきた様な機甲部隊だな。だが、鉱関機甲部隊相手では流石にその運も尽きるだろう。運だけで勝てる相手では無い」

 

逞巳がそう言うと、十河が集めた情報が書かれた資料を片手に、ドヤ顔でそう言う。

 

「となると、大洗が次の試合で勝てば、その次に戦うのはやはり………」

 

「鉱関機甲部隊………って事ですね」

 

「うへえ~~、マジかよ………」

 

楓と飛彗がそう言い合うと、了平がげんなりとした様子を見せる。

 

「私は戦いたいな………堅固さん達、今年が最後の試合なんだし」

 

「あ、そっか。あの人達、3年生だもんね………」

 

みほがそう呟くと、沙織が思い出した様に言う。

 

そう、堅固達は現在高校3年生………

 

今年の試合が最後の試合なのである。

 

『一同! 礼っ!!』

 

『『『『『『『『『『よろしくお願いしまーすっ!!』』』』』』』』』』

 

とそこで、両チームが揃ったらしく、主審の香音の声で、集合していた鉱関機甲部隊のメンバーと、パシフィック機甲部隊のメンバーが互いに挨拶をする。

 

「お! 始まるで!」

 

「頑張れーっ! 鉱関機甲部隊ーっ!!」

 

「戦う相手かも知れないのに、応援するの?」

 

「西住総隊長の知り合いだし、良いんじゃない?」

 

大河がそう言うと、桂利奈が鉱関機甲部隊に向かって声援を飛ばし、それを見たあやと優季がそう言い合う。

 

『さあ! 試合開始です!! 鉱関機甲部隊! パシフィック機甲部隊! 君に、幸あれ!!』

 

『試合開始っ!』

 

ヒートマン佐々木がそう実況した瞬間、香音の声と共に、試合開始を告げる信号弾が撃ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始から1時間弱………

 

流れは終始鉱関機甲部隊有利で進んでいた。

 

数の上ではパシフィックが勝っていたが、鉱関機甲部隊は巧みな戦術と戦車部隊と歩兵部隊との連携、そして何より経験で数の差をカバーし、パシフィック機甲部隊の戦車と随伴歩兵分隊を其々に分断して各個に撃破。

 

着実にパシフィック機甲部隊を消耗させている。

 

『鉱関機甲部隊、圧倒的ーっ! コレが経験の差か! いぶし銀の実力! 此処にありだぁーっ!!』

 

『パシフィックも無名ながら3回戦まで良く来たと思いますよ。けど、まだまだ経験不足ですね』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況にも自然と力が入る。

 

「「「「「「「「「「鉱関! 鉱関! 鉱関!」」」」」」」」」」

 

観客席の応援コールも鳴り止むところを知らない。

 

「凄ーいっ! 鉱関機甲部隊が勝ってるよっ!!」

 

「流石は古豪・鉱関機甲部隊! その経験値は伊達ではありませんねっ!!」

 

沙織と優花里が、興奮した様子でそう言い合う。

 

「凄い凄い! これなら、ひょっとして鉱関機甲部隊と………堅固さん達と試合が出来るかも知れないね、舩坂くん!」

 

みほも喜びを露わに、優花里と逆側、右隣に座って観戦している弘樹に声を掛ける。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は何やら難しい顔をして、試合の様子をジッと見ていた。

 

「? 舩坂くん? 如何したの?」

 

「あ、いや………少し、試合の様子に見入ってしまっていただけさ」

 

みほが首を傾げながらそう尋ねると、弘樹は我に返った様にそう返す。

 

「そっか。確かに、堅固さん達の試合運びは凄いもんね」

 

納得が行ったみほはそう言い、再び試合の様子を見やる。

 

「…………」

 

だが弘樹は、また難しい顔をして試合の様子を見ている。

 

(何だ………この妙な予感は………この試合………『何か』が起こる………)

 

その原因は、先程から胸中を過ぎっている妙な予感のせいだった。

 

『堅固! 敵の数も減って来た! そろそろフラッグ車を叩くわよっ!!』

 

「そう来ると思ってたぜ。コッチは既に準備は整ってる」

 

とそこで、戦車部隊の隊長で鉱関機甲部隊の総隊長である瑪瑙がそう言うと、堅固はそれを読んでいたと返す。

 

『流石ね! 良し! 全部隊に通達! 勝負を掛けるっ! フラッグ車を集中攻撃よっ!!』

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた瑪瑙が改めて指示を出すと、鉱関機甲部隊はパシフィックのフラッグ車目掛けて一斉に突撃を開始した。

 

コレで試合が決まる………

 

そう思われた瞬間!!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

突如明後日の方向から飛んで来た砲弾が、鉱関歩兵部隊の一部を吹き飛ばした!!

 

「!?」

 

『何っ!?』

 

すぐさま砲弾が飛んで来た方向を確認する堅固と瑪瑙。

 

そこには、パシフィック機甲部隊のマークを付けた、新たな戦車部隊と随伴歩兵部隊の姿が在った。

 

『パシフィックの増援!?』

 

「別働隊が居たとはな………だが、ちょいと不意を衝いたぐらいで勝てると思わん事だ」

 

瑪瑙が声を挙げる中、堅固は冷静に新たな出現したパシフィック機甲部隊の部隊に対処しようとする。

 

「増援っ!?」

 

一方、観客席のみほも、突如現れたパシフィック機甲部隊の増援に驚いていた。

 

「大丈夫だよ、みぽりん。流れは鉱関機甲部隊に向いてるし、何よりベテランの人達ばかりなんでしょ? ちょっと増援があったからって、負けたりなんてしないよ」

 

しかし、沙織は鉱関機甲部隊に分があると見て、余裕を見せてみほにそう言う。

 

「………うん、そうだよね。これぐらいで動じる堅固さん達じゃないもんね」

 

その言葉でみほは落ち着き、再び試合の様子を見やる。

 

「…………」

 

だが、その横で………

 

弘樹は険しい表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

アレほど騒がしかった鉱関機甲部隊側の観客席が、まるで通夜の様に静まり返っている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々も、大半のメンバーが言葉を失い、呆然としていた。

 

「そ、そんな………まさか………」

 

『し、試合終了です! しかし………コレはっ!!』

 

『まさかですよ………』

 

十河が絞り出すかの様にそう呟いた瞬間、実況の佐々木と田中の声が響き渡る。

 

今、鉱関機甲部隊とパシフィック機甲部隊が戦っていた場所では………

 

鉱関歩兵部隊の面々が全員戦死判定を受けて彼方此方に倒れ伏せ、戦車部隊もフラッグ車を含めた全ての車両から撃破を示す白旗が上がっていた………

 

『戦車道・歩兵道全国大会。第3回戦・鉱関機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合。勝ったのはまさかの………無名のパシフィックです!!』

 

『いや~、大番狂わせですよ、コレは………』

 

「堅固さん達が………」

 

佐々木と田中がそう告げる中、みほは戦死判定を受け、地面に倒れ伏せている堅固の姿を見て、呆然自失の状態となっている。

 

「………平賀くん」

 

『分かっている。大至急パシフィック機甲部隊に関するデータと情報を集めよう』

 

と、唯一平静を保っていた弘樹が、ノートPCを通じて煌人とそう会話を交わす。

 

「頼んだぞ………」

 

「如何やら………我々が勝ち進んだ場合の相手は………彼等の様だね」

 

弘樹がそう返すと、何時の間にか背後の席に着いて居た迫信がそんな事を言う。

 

「イエーイ! 4回戦進出だぁっ!!」

 

と、増援で現れたパシフィック機甲部隊の分隊の中に居た男子生徒の1人がそう歓声を挙げる。

 

「はしゃぐな。まだ3回戦を突破しただけだ」

 

その男子生徒を、歩兵部隊の総隊長と思わしき男子生徒が諌める。

 

「心配ご無用ですわ。この私が居れば、優勝なんて容易い事ですわ。オーッホッホッホッホッ!」

 

すると今度は、車外へ姿を晒していたフラッグ車の車長の女子生徒が、高笑いを挙げる。

 

「あちゃ~、また悪い癖が………」

 

「まあ、らしいけどね」

 

そんな女子生徒の姿を見て、同じ様に車外へ姿を晒していた隊長車の車長と操縦手がそう言い合う。

 

………その5人を含めた、歩兵部隊と戦車部隊の隊員達全員が、2m以上の身長を誇っていた。

 

「デケェ………」

 

「増援で現れた部隊の奴等、戦車部隊の隊員達まで、長身の連中ばっかだぞ」

 

そのパシフィック機甲部隊の増援部隊のメンバーを見て、磐渡と鷺澪がそう言い合う。

 

「あの体格じゃ、接近戦に持ち込まれたらコッチが圧倒的に不利だな………」

 

俊も、パシフィック機甲部隊の増援部隊のメンバーを見てそう言う。

 

大洗にも陣やシャッコーと言った長身の隊員は居るが、飽く迄一部である。

 

もし、あの長身のガタイで接近戦に持ち込まれれば、大洗の歩兵部隊ではは一溜りもない。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

特に戦々恐々としているのは、ウサギさんチームとハムスターさん分隊のメンバーである。

 

「あ、明日の試合に勝ったら、次はあの部隊と戦うの?」

 

「無理だよ………だって、ベテランで優勝候補の鉱関機甲部隊が負けちゃったんだよ!」

 

「私達じゃ敵わないよ!」

 

ウサギさんチームは、ベテランの鉱関機甲部隊を負かしたパシフィック機甲部隊の実力に完全に飲まれており、

 

「あの人達と対峙した場合………1番危ないのは」

 

「僕達デス………」

 

「僕達とあの人達との身長差じゃ………本当に何も出来ない」

 

ハムスターさん分隊は、小柄なメンバーが多い為、長身ばかりのパシフィック歩兵部隊と対峙した際に勝てるのかと尻込みしている。

 

「………西住くん」

 

そんなウサギさんチームとハムスターさん分隊のメンバーを横目で見て心配しながらも、弘樹は今1番心配なみほへと声を掛ける。

 

「堅固さん達が………瑪瑙さん達が………」

 

みほは瞳から光を失った状態で俯き、ブツブツとそう呟き繰り返している。

 

「しっかりするんだ、西住くん!」

 

「!!」

 

そんなみほの肩を掴みながら、弘樹がやや強く言うと、みほは漸く我に帰る。

 

「ショックを受けたのは良く分かる。だが、我々が嘆いたところで何も変わらない。我々に出来る事は、次の試合で勝ち、連中と対峙する事だけだ」

 

「そうだよ、みぽりん!」

 

「金剛崎さん達の仇を取りましょう!」

 

「西住殿! この秋山 優花里! 粉骨砕身の覚悟で次の試合に臨みますっ!!」

 

「戦車道での借りは戦車道で返すしかないな………」

 

弘樹がそう言うと、沙織、華、優花里、麻子も、みほに向かってそう言って来た。

 

「皆………そうだね。私達に出来る事は、次の試合に勝って………4回戦でパシフィック機甲部隊と戦う事だよ!」

 

するとみほも、表情を強張らせてそう言い放つ。

 

「その意気だよ! みぽりんっ!!」

 

「西住殿! 頑張りましょう!!」

 

「やりましょうっ!」

 

「うん………」

 

元気を取り戻した様子のみほを見て、沙織達は安堵の笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

しかし、弘樹だけは、そんなみほの姿に、一抹の危うさを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

戦車道・歩兵道全国大会、第3回戦………

 

大洗機甲部隊VS地走機甲部隊の試合の日が訪れた。

 

試合会場は湿地地帯………

 

彼方此方に沼と小高い丘が点在し、背丈の高い草が生い茂っている。

 

『さあ、戦車道・歩兵道全国大会、第3回戦! 今日は今大会最も注目されている大洗機甲部隊と地走機甲部隊の試合です!』

 

『いやあ、実は私、大洗のファンになりかけてまして………今日の試合も頑張って欲しいですね』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中がそう言い合う中、既に挨拶を済ませた両機甲部隊は、其々のスタート地点に着いて居た。

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊のスタート地点………

 

戦車部隊の戦車が並んでいる周りに、歩兵部隊が其々に随伴分隊ごとに集結している。

 

「それで西住ちゃん? 今回は如何するわけ?」

 

杏が相変わらず干し芋を齧りながら、みほに今回は如何言った作戦で行くのかと尋ねる。

 

「相手は待ち伏せを得意とする地走機甲部隊です。此処はやはり各戦車部隊、随伴歩兵分隊ごと分かれて、周囲を注意しながら慎重に進むのが………」

 

と、みほの作戦を推測した優花里がそう言うが………

 

「いいえ………全部隊で一気に突撃します」

 

「!? ええっ!?」

 

みほがそんな事を言い、優花里が驚きの声を挙げ、大洗機甲部隊の面々もざわめき立つ。

 

「西住総隊長。それは危険過ぎる。下手をしたら全滅してしまう可能性が有る」

 

「いえ、相手が待ち伏せを得意とするなら、待ち伏せの態勢に入る前に叩きます。こんな試合で躓いているワケには行かないんです。この試合に勝って、パシフィック機甲部隊との試合に備えないと」

 

迫信が釘を刺す様に言うが、みほはそう言い返す。

 

(やはり昨日の件が尾を引いているか………)

 

そんなみほを見て、弘樹は昨日の試合で鉱関機甲部隊が敗北したショックをまだ引き摺っていると察する。

 

「み、みぽりん、落ち着いて………」

 

「私は十分落ち着いてるよ。皆さん! 行きますよっ!!」

 

沙織が宥めようとするが、みほは聞き入れず、大洗機甲部隊にそう指示を出す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、大洗機甲部隊の面々は、戸惑うばかりである。

 

「如何したの!? 総隊長の命令だよ! 全軍前進して!」

 

みほはやや声を荒げて更にそう言い放つ。

 

「! 麻子さん! 出して下さい! 私達が先頭を行きます!!」

 

と、痺れを切らしたかの様に、みほは操縦手である麻子にそう言い放つ。

 

「止せ、西住。お前らしくないぞ」

 

流石に麻子も見かねて、みほにそう声を掛けるが………

 

「出して下さいっ!!」

 

みほは強く麻子にそう言い放つ。

 

「に、西住殿………」

 

「みほさん………」

 

そんなみほの姿に、優花里も華も掛ける言葉が見つからない。

 

「…………」

 

麻子も最早何も言うまいと、Ⅳ号を前進させ始めた。

 

………すると!

 

「…………」

 

前進を始めたⅣ号の前に、弘樹が無言で立ちはだかる。

 

「!?」

 

「! 退いて! 舩坂くんっ!!」

 

慌てて麻子がⅣ号を止めると、キューポラから上半身を出しているみほが、弘樹に向かってそう言う。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は全く退く様子を見せない。

 

「! 総隊長命令です! 舩坂 弘樹分隊長! そこを退きなさいっ!!」

 

業を煮やしたかの様に、そう言い放つみほ。

 

「………その御命令には従えません」

 

そんなみほに向かって、弘樹はそう言い返す。

 

「えっ?………」

 

「西住総隊長………恩師の仇を討つ為に、パシフィックと戦いに臨みたいと言う総隊長の気持ちは、この舩坂、十二分に理解出来ます………」

 

驚くみほに向かって、弘樹はそう言葉を続ける。

 

「しかし、総隊長は今、その思いに囚われ、目の前の事が見えていません」

 

「舩坂くん………」

 

「思い出して下さい………総隊長は何故………1度は止めた戦車道を、また始める気になったのかを」

 

「!?」

 

弘樹のその言葉で、みほはハッとする。

 

「みぽりん」

 

「みほさん」

 

「西住殿」

 

「西住」

 

とそこで、Ⅳ号の各ハッチが開き、沙織、華、優花里、麻子が車外へと姿を晒す。

 

「沙織さん………華さん………優花里さん………麻子さん………」

 

そんな沙織達1人1人に視線をやり、何かを思いやるみほ。

 

「!!」

 

やがてキューポラから飛び出すと、大洗機甲部隊の面々の前へと出る。

 

「皆さん! 御免なさい!!」

 

そして、一同に向かってバッと頭を下げた。

 

「私、昨日の試合の事で頭に血が上ってて、それで………兎に角、御免なさい!!」

 

只管に大洗機甲部隊の面々に向かって謝るみほ。

 

「気にしないでいいよ~」

 

「西住くんも人間だ。時には感情に囚われる事もあるだろう」

 

すると、杏と迫信がそう返す。

 

「そうだよね~。私も頭に血が上ると色々とやっちゃう事あるし」

 

「あるある」

 

優季とあやもそんな事を言う。

 

「感情のままに行動するのは正しい人間の生き方だ」

 

「おっ! ヒイロ・ユイのセリフだな」

 

磐渡がそう言うと、それがガンダムWの主人公のセリフである事を見抜く圭一郎。

 

「気にしないで下さい! 総隊長!!」

 

「総隊長のお気持ち、分かります!」

 

「そうですよ」

 

「そうだよ」

 

次々にみほを気遣う声が挙がる。

 

「皆………」

 

「西住総隊長………改めて、御命令を」

 

みほがその様子に感動している様な様子を見せていると、弘樹がヤマト式敬礼をして、そう言って来た。

 

「………各戦車部隊と随伴歩兵分隊ごとに分かれて、周囲を注意しながら慎重に進軍します。お互いに連絡や連携を取り合い、警戒を密にして下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほが改めてそう命じると、大洗機甲部隊の面々は進軍準備に掛かる。

 

「………皆、ゴメンね」

 

その様子を見ながら、みほはあんこうチームの面々に改めて謝罪する。

 

「気にしないで良いって、みぽりん」

 

「いつもの西住さんに戻ってくれて、安心しました」

 

「やっぱりいつもの西住殿が1番であります!」

 

「やれやれだな………」

 

沙織達も、大洗機甲部隊の一同と同じ様に気にしていないと言う。

 

「うん………舩坂くんもゴメンね………それと………止めてくれて、ありがとう」

 

それを見たみほは、今度は弘樹に謝罪と礼を言う。

 

「気にしないで良い。総隊長を支えるのは隊員の義務だ」

 

生真面目にそんな言葉を返す弘樹。

 

「そして君の望みがパシフィック機甲部隊と対決する事ならば………小官はその為に出来る事を全力で遂行する所存だ」

 

「舩坂くん………」

 

「では、任務に戻ります」

 

弘樹はそう言ってヤマト式敬礼をすると、とらさん分隊の面々が居る場所まで戻った。

 

「…………」

 

みほはそれを見送ると、自分もⅣ号の車長席へと戻る。

 

「進軍準備、完了致しました、西住総隊長」

 

とそこで、迫信が進軍の準備が整った事を報告する。

 

「………行きます! パンツァー・フォー!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!」

 

そして、みほと弘樹の掛け声で、進軍を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

心の師である金剛崎 堅固の所属する鉱関機甲部隊の試合を見に行ったみほ達。
しかし………
鉱関機甲部隊は、今年度より参戦して来た全くの無名校………
『パシフィック高校』のパシフィック機甲部隊の前に敗れてしまう。

心の師の敗北に動揺を隠せないみほ。
その雪辱を晴らそうと燃える余り、地走機甲部隊戦で無茶な指示を出してしまう。
だが、弘樹とあんこうチームの仲間達。
そして大洗機甲部隊の戦友達がそんなみほを立ち直せる。
果たして、みほは鉱関機甲部隊の雪辱を果たす事が出来るのか?

前回登場した鉱関機甲部隊の面々ですが、今回で試合からは退場となってしまいます。
一応、客席にゲストとして来たりするので、それで勘弁して下さい。

お気づきになった方も多いと思いますが、今回の展開は某有名アメフト漫画がモチーフとなっています。

次回の地走機甲部隊ですが、TV版でのアンツィオに代わる出オチ役なので、次回だけ決着は着きます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第50話『第3回戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第50話『第3回戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほが心の師匠と呼ぶ、鉱関高等学園の『金剛崎 堅固』の所属する鉱関機甲部隊が………

 

本年度より戦車道・歩兵道に参加して来た全くの無名校………

 

『パシフィック高校』の『パシフィック機甲部隊』の前に敗れ去った………

 

深いショックを受けたみほは、続く大洗機甲部隊と地走機甲部隊との試合で、勝ち進んでパシフィック機甲部隊と戦い………

 

堅固達の仇を討とうとして、無茶な指示を出そうとしてしまう。

 

だが、それを止めたのは他ならぬ弘樹であった。

 

弘樹の言葉で、何故自分が再び戦車道を始めたのかを思い出すみほ。

 

我に返ったみほは、大洗機甲部隊の皆へと謝罪し、改めて指示を下す。

 

果たして、大洗機甲部隊は3回戦を勝ち抜けるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会第3回戦、大洗機甲部隊VS地走機甲部隊の試合………

 

試合会場・湿地地帯………

 

試合会場の所々に点在している沼に注意しながら、各戦車と随伴分隊ごとに分かれ、周囲を警戒しながらゆっくりと進軍している大洗機甲部隊。

 

『さあ、試合開始から既に10数分。大洗機甲部隊は慎重な進軍を見せています』

 

『相手は待ち伏せ作戦に特化した地走ですからね。余り大胆が行動は取れないでしょう』

 

その様子を、ヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況する。

 

「こちらとらさん分隊の舩坂。現在のところ異常無し。敵機甲部隊の姿は見受けられず」

 

と、先頭を行って居たあんこうチームととらさん分隊の中で、弘樹が通信機でそう報告を挙げる。

 

『こちらツルさん分隊。コチラでも敵は発見出来ていない』

 

『ペンギンさん分隊、同じくや』

 

『ワニさん分隊、以下同文』

 

『ハムスターさん分隊、勇武です。コチラでも敵影は確認出来ていません』

 

続いて、迫信、大河、磐渡、勇武の声が通信回線に響く。

 

『恐れを生したかあぁっ!? 地走機甲部隊っ!!』

 

『いや、既に待ち伏せの態勢に入っていると考えるのが自然だろう』

 

初の試合で更にテンションが上がって居る月人が叫ぶが、エースが冷静にそう返す。

 

「うむ………西住総隊長。敵は既に待ち伏せの態勢に入っているかと思われます」

 

『分かりました。全軍停止して下さい。周囲を警戒しつつこの場に待機。新しく作戦を考えますので、少し待って下さい』

 

弘樹がみほへそう推測を挙げると、みほは一旦進軍を停止させ、新たに作戦を練り始める。

 

「コソコソ隠れおって………姑息な連中だ」

 

「座布団1枚」

 

「桃ちゃん、待ち伏せだって立派な戦術だよ」

 

「って言うか、私達もグロリアーナ&ブリティッシュとの戦いで待ち伏せしたよね」

 

38tの中で、桃、杏、蛍、柚子がそんな事を言い合う。

 

「ふん………」

 

『オイ貴様ぁっ!! 今また私の事を馬鹿にしたろっ!!』

 

「…………」

 

『何とか言えぇっ!!』

 

そしてそのまま桃は、熾龍と何時もの遣り取りに発展する。

 

「HAHAHAHAHA! ピーチとジェネラル・栗林のディセンダントは仲が良いネー!」

 

「仲が良いのか………アレは?」

 

そんな桃と熾龍の様子を見て、ジャクソンがそんな感想を口にし、シャッコーがツッコミを入れる。

 

「イエス! ジャパンの諺にありマース! ファイトするほどフレンドリーッ!」

 

「そういうものか………」

 

得意げに語るジャクソンに、シャッコーは首を傾げながらそう返す。

 

「ええいっ! 早く小生を戦わせろぉっ!! このままでは我が世の春は遠いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

月人が待ち切れぬかの様に、刀を抜いて振り回しながらそう叫ぶ。

 

「うおっ!? アブネッ!?」

 

「分隊長! 分かりましたから落ち着いて下さいっ!!」

 

周りに居る分隊員達には堪ったものではない。

 

「う~~ん………」

 

そんな外の喧騒も耳に入らないくらい、みほは地図を見ながら作戦を真剣に考えている。

 

「西住殿、如何ですか?」

 

とそこで、優花里が試合会場の地図を覗き込みながらそう尋ねて来る。

 

「うん………多分、敵が待ち伏せしているとしたら………此処だと思う」

 

するとみほは、地図の一点を指差してそう言う。

 

「敵の戦車は、Ⅱ号自走重歩兵砲が4台。セモベンテ da 90/53が3台。それにⅣ号戦車/70(A)が3台ですね」

 

試合前の挨拶で、地走機甲部隊の戦車を確認していた優花里がそう告げる。

 

「やっぱり自走砲中心なだけに、火力は高いね………」

 

90mmの口径を持つセモベンテ da 90/53と、15cmの砲兵砲のⅡ号自走重歩兵砲、長砲身の75mm砲を持つラングを警戒するみほ。

 

「ヒトラーはクルスクの戦いの報告を聞き、突撃砲は敵戦車に包囲されない限り、当時の主力戦車であったⅣ号戦車よりも優れた戦闘力を持つと確信したそうだからね」

 

そこで迫信は、そんな事を呟く。

 

「やっぱり、如何にか機動戦に持ち込みたいところだな………」

 

十河もそう言い、頭を捻る。

 

「………西住総隊長。意見具申、宜しいでしょうか?」

 

とそこで、弘樹が何か考えがあるらしく、みほにそう問う。

 

「ハイ、どうぞ」

 

「ハッ!………サンダース戦で使ったあの手に一工夫加えるのですが………」

 

みほが許可すると、弘樹は自分の考えを発表する。

 

「………と言うものです。如何でしょうか?」

 

「成程! 考えましたね!」

 

「凄ーい!」

 

弘樹の案に、優花里と沙織がそう声を挙げる。

 

「確かに、良い手です。採用します」

 

「異論は無いね」

 

みほも弘樹の意見を採用し、迫信もそう言う。

 

「では、コレより『偽物作戦』、略して『ニ号作戦』を開始します!」

 

そして、最後にみほがそう号令を掛けると、大洗機甲部隊の面々は一斉に作戦準備に掛かるのだった。

 

『おっと! 大洗機甲部隊、何かを始めました』

 

『コレまでも様々な作戦を展開させている西住 みほ総隊長ですからね。この作戦にも注目ですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

地走機甲部隊サイド………

 

「ゲコゲコゲコ………大洗機甲部隊め………来るなら来てみろ………」

 

「此方のキルゾーンに踏み込んだ瞬間が、お前達の最期よ」

 

背丈の高い草の中で伏せている地走歩兵部隊の総隊長である『轢田 蛙(ひきた かえる)』と、丘を使ってハルダウンさせているフラッグ車のⅣ号戦車/70(A)の中で、戦車部隊隊長・地走機甲部隊総隊長である『処歩 美海(ところふ みみ)』がそう言い合う。

 

地走機甲部隊は戦車部隊も歩兵部隊も完全にカモフラージュをして、待ち伏せの態勢を続けている。

 

しかし、大洗機甲部隊は中々姿を見せない………

 

「来ないですね、隊長」

 

「慌てるな。待ち伏せは痺れを切らしたら負けだ」

 

偵察兵の蒼代(あおだい)がそう言うと、蛙はそう言って待つ様に言う。

 

「待ち伏せと言うのは只管辛抱強く………そして我慢を………」

 

「! 隊長っ! 前方から大洗機甲部隊の分隊が来ますっ!!」

 

とそこで、もう1人の偵察兵である治虫(おさむし)がそう報告を挙げる。

 

「何っ!?」

 

すぐに少し身を起こし、前方を確認する蛙。

 

報告通りに、大洗機甲部隊の分隊………マンボウさん分隊に守られたカモさんチームのルノーB1bisが、存在に気づいていないのか、地走機甲部隊が待ち伏せしているポイントへと無防備に近づいて来ている。

 

そして、ルノーB1bisには、フラッグ車を示す旗が立っている。

 

「! 敵のフラッグ車だ! コレはラッキーッ!!」

 

「よし! 勝ちは貰ったっ!!」

 

蛙と美海は、いきなりフラッグ車が単独で現れた事で、勝利を確信する。

 

マンボウさん分隊とルノーB1bisは、そのまま地走機甲部隊のキルゾーンへと踏み込んで来る。

 

「今だ! びっくり箱作戦、開始ぃっ!!」

 

蛙がそう叫ぶと、地走歩兵部隊の面々が一斉に起き上がり、地走戦車部隊も一斉に砲撃を始める。

 

「! 敵襲ーっ!!」

 

「待ち伏せだぁっ!!」

 

「うわぁっ!? ヤバいぞぉっ!!」

 

攻撃を受けたマンボウさん分隊の面々が慌てる様子を見せる。

 

「小癪なああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、月人がUD M42で9mm弾を辺りにばら撒く様に撃ちまくる。

 

「伏せろっ!!」

 

しかし、蛙がそう指示を出すと、地走歩兵部隊の面々はまたも一斉に伏せ、その姿は湿地地帯の背丈の高い草が覆い隠す。

 

そしてその草の中を動き回り、見えない様に移動してはチマチマと攻撃を続ける地走歩兵部隊。

 

「オ・ノーレェェェェェェェッ!!」

 

「ちょっ! 分隊長っ! 落ち着いて下さいっ!!」

 

そんな小癪な戦い方をする地走機甲部隊にイラだった様に更に弾をばら撒く月人と、そんな月人を落ち着かせようとするマンボウさん分隊員。

 

「撃てぇっ!!」

 

美海がそう号令を下すと、彼女の乗るⅣ号戦車/70(A)の砲が火を噴き、他のⅣ号戦車/70(A)と更にⅡ号自走重歩兵砲達にセモベンテ da 90/53達も砲撃をルノーB1bis目掛けて撃ち込む。

 

至近弾が次々に着弾し、ルノーB1bisは慌てた様に車体を前後させる。

 

と、1発の砲弾がルノーB1bisの極めて至近距離で爆発!

 

爆煙と土煙で、ルノーB1bisの姿が見えなくなった。

 

「やったぁっ!!」

 

仕留めたと思い、歓声を挙げる美海。

 

しかし、段々と爆煙と土煙が治まって来ると………

 

その中から、少し黒煙を上げているルノーB1bisの姿が露わになる。

 

「あ! カス当たりぃっ!?」

 

致命傷を与えられなかった事に軽くショックを受ける美海。

 

だが、ルノーB1bisは旋回を始め、地走機甲部隊のキルゾーンからの離脱を計る。

 

「撤退っ! 撤退だぁーっ!!」

 

「逃げろぉーっ!!」

 

それに合わせて、マンボウさん分隊の面々も撤退を始める。

 

「あ! 逃げるぞっ!!」

 

「逃がすな! 追え! 追えーっ!!」

 

撤退を始めたルノーB1bisとマンボウさん分隊を追撃する様に命じる蛙。

 

「ちょっ!? 蛙、良いの!?」

 

「構うもんか! 相手のフラッグ車は瀕死だ! もう待ち伏せに徹する必要なんて無い! 一気に畳み掛けるんだ!」

 

「それもそうね………よーし! 全部隊、追撃ーっ!!」

 

蛙のそう言う意見を聞いた美海は、待ち伏せに徹するのを止めて、地走機甲部隊・全部隊で、ルノーB1bisとマンボウさん分隊を追撃する様に命じた。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

雄叫びを挙げて背丈の高い草叢の中から飛び出してルノーB1bisとマンボウさん分隊を追う歩兵部隊を中心に、地走機甲部隊は追撃戦へと移る。

 

「奴さん、罠に掛かったみたいだぜ」

 

「よっしゃあっ! このまま引き付けつつ誘い出すぜ!」

 

そんな地走機甲部隊の様子を見ながら、圭一郎と弦一朗がそう言い合う。

 

「しかし、中々良い作戦じゃないか………今度の映画の素材に使えそうだな」

 

そして鋼賀が、『妙に車体や砲塔がガタガタと揺れているルノーB1bis』を見ながら、そんな事を呟くのだった。

 

『おっとーっ! 地走機甲部隊、待ち伏せを止めて追撃戦に入ったぞーっ!!』

 

『あ~と、やってしまいましたね』

 

待ち伏せを止めて追撃戦へと突入した地走機甲部隊の様子を見て、ヒートマン佐々木とDJ田中はそんな実況をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルノーB1bisとマンボウさん分隊は、追撃して来る地走機甲部隊と、付かず離れずの距離を維持しながら、何処かへと誘導して行く。

 

と、やがて黒煙を上げていたルノーB1bisが、ガクリと力が抜けた様に静止する。

 

「! フラッグ車が停まりましたっ!!」

 

「力尽きたか、それとも観念したか………まあ良い。美海! 引導を渡してやれっ!!」

 

「OK!」

 

蛙がそう言うと、美海の乗るⅣ号戦車/70(A)が、ルノーB1bisへと向けられる。

 

「今度こそ貰ったわぁっ! 撃てぇっ!!」

 

美海の号令で、Ⅳ号戦車/70(A)の主砲が火を噴く。

 

………その瞬間!!

 

「脱出っ!!」

 

「うおおおっ!!」

 

ルノーB1bisのハッチが開いて、『大洗歩兵部隊の隊員』が飛び出した。

 

「!? えっ!?」

 

「何ぃっ!?」

 

美海と蛙がそれに驚いた瞬間に、Ⅳ号戦車/70(A)が放った砲弾がルノーB1bisに命中!

 

すると、ルノーB1bis………の形をしたベニヤ板が吹き飛び、その中に在った『くろがね四起』が爆発と共に炎上した!

 

「!? 偽物っ!?」

 

「今だ! 全部隊! 攻撃開始ぃーっ!!」

 

と、美海の声が挙がった次の瞬間に、迫信のそう言う叫び声が聞こえたかと思うと………

 

地走機甲部隊を包囲する様に、大洗機甲部隊が展開した。

 

「!? 大洗っ!?」

 

「馬鹿なっ!? 逆に嵌められたと言うのか!?」

 

「HAHAHAHAHA! 今更気づいても、アフターカーニバルネッ!!」

 

美海と蛙の驚きの声が挙がった瞬間、BARを薙ぎ払う様に乱射するジャクソン。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

一気に5人の歩兵が致命傷を受けたと判断され、戦死とされる。

 

「喰らえっ!!」

 

更に、地市が1両のⅡ号自走重歩兵砲に向かってバズーカを発射する。

 

戦車と比べ、装甲の薄い自走砲では攻撃に耐える事が出来ず、バズーカのロケット弾が命中したⅡ号自走重歩兵砲からは白旗が上がる。

 

「このぉっ! 調子に乗るなぁっ!!」

 

とそこで、1両のセモベンテ da 90/53が、包囲している大洗機甲部隊の一部に向かって砲撃を見舞う。

 

「うわぁっ!?」

 

「姿勢を低くしろぉっ!!」

 

しかし、直撃弾は無く、爆風の殺傷範囲もギリギリで外れていた為、何人かの負傷判定は出たが、戦死判定者は出なかった。

 

「クウッ! 次弾装填っ!!」

 

すぐに次弾を装填させ、再度砲撃を行おうとするセモベンテ da 90/53だったが………

 

「やらせないよぉーっ!!」

 

聖子のそう言う叫びと共に、サンショウウオさんチームのクロムウェルが、セモベンテ da 90/53に向かって突撃する!

 

「先にアンタから片づけてやるわ!」

 

しかし、セモベンテ da 90/53はすぐさまクロムウェルへと狙いを変え、砲弾を放つ。

 

「右旋回っ!!」

 

「おうっ!!」

 

だが、唯の抜群の操縦テクニックにより、クロムウェルは命中直前で砲弾を回避。

 

「!? かわしたっ!? あのタイミングでっ!?」

 

外れるとは思っていなかったセモベンテ da 90/53の車長は驚きの声を挙げる。

 

「このまま側面に回り込んで密着っ!!」

 

「あいよっ!!」

 

その間に聖子は更に指示を出し、クロムウェルはそのままセモベンテ da 90/53の側面に密着する様に接触する。

 

「キャアッ!? ま、マズイッ!!………」

 

「優ちゃん! 撃ってっ!!」

 

「ハイッ!」

 

セモベンテ da 90/53の車長の声が挙がった瞬間にクロムウェルは零距離で砲撃!!

 

派手に爆煙が上がったかと思うと、セモベンテ da 90/53から白旗が上がる。

 

「やったぁっ! 撃破だよっ!!」

 

「聖子ちゃん! 油断しないで!!」

 

「すぐ次の目標に!」

 

歓声を挙げる聖子に、伊代と明菜がそう言い放つのだった。

 

「サンショウウウオさんチームがやったぞぉっ!!」

 

「俺達も負けてらんねえぜ!!」

 

「神大歩兵隊長! 突撃許可を下さいっ!!」

 

と、そのサンショウウオさんチームの活躍に味方の士気が上がり、迫信に突撃の許可を求め始める。

 

「よし、良いだろう。歩兵部隊突撃! 砲兵部隊並びに狙撃部隊は援護を続けてくれたまえ!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

迫信が許可すると、大洗歩兵部隊の面々は、砲兵部隊と狙撃部隊を除いて、一斉に地走機甲部隊に向かって突撃して行った!

 

「我が世に春が来たああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

何より突撃命令を心待ちにしていた月人。

 

命令が下されるや否や、銃を捨てて刀を抜き、脇目も振らずに地走機甲部隊の中心へと突っ込んだ!

 

「な、何だコイツはぁっ!?」

 

「代々武を受け持って来た我が絃賀一門の力を貴様にも教えてやる!!」

 

驚いていた地走歩兵部隊の隊員を、一刀の元に斬り捨てる!

 

「小生は! 絶好調であるうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま叫び声を挙げながら、次々に地走歩兵部隊の隊員達を斬り捨てて行く!

 

「ヒイイッ!? 化け物だぁっ!!」

 

「ハハハハハハハッ! お主等の生体反応のデータを取りつつ、神の世界への引導を渡してやる!!」

 

「分隊長、活き活きとしてるな………」

 

怯える者も容赦無く斬り捨てる月人の姿に、味方からも呆れた様な声が挙がるのだった。

 

「ライダーブレエエエエエェェェェェェーーーーーーイクッ!!」

 

「おうわぁっ!?」

 

叫びと共に、ウィリーで持ち上げた陸王の前輪で、地走歩兵部隊の隊員を跳ね飛ばす弦一朗。

 

「このぉっ!」

 

「おっとぉっ! 危ねえっ!!」

 

別の地走歩兵部隊の隊員が手榴弾を投げたが、すぐにその殺傷範囲外へと脱出する。

 

「野郎っ! だったらコイツで!!」

 

すると今度は、10.5cm leFH 18に着いて居た砲兵達が、榴弾を放とうと10.5cm leFH 18の砲身を水平にする。

 

だが次の瞬間に、砲弾が飛んで来て、そのままバラバラになった10.5cm leFH 18諸共吹き飛んで、戦死判定を受ける。

 

「あ、当たったよ!」

 

「良くやったわ、パゾ美!」

 

その砲弾を放ったカモさんチームのルノーB1bisの車体の47mm戦車砲の砲手であるパゾ美が自分でも驚いていると、みどり子がそう褒める。

 

「オノレェ! 時代遅れの重戦車めっ!!」

 

Ⅱ号自走重歩兵砲がそんなカモさんリームのルノーB1bisのに向かって成形炸薬弾を放とうとするが………

 

突如、バギャッ!!と言う金属を引っぺがす様な音が響いたかと思うと、戦闘室内が明るくなった。

 

「へっ?………」

 

何が起こったのかと車長が後ろを振り返ると、そこには………

 

「…………」

 

レギュレーションを守る為に取り付けた装甲板を引っぺがし、乗員達を見据えているシャッコーの姿が在った。

 

「………降りろ」

 

「………ハイ」

 

シャッコーにそう言われ、Ⅱ号自走重歩兵砲の乗員達が白旗を振って車両を放棄する。

 

「…………」

 

シャッコーは無人となったⅡ号自走重歩兵砲の車内に手榴弾を放り込み、容赦無く撃破する。

 

「また1両やられたっ!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

と、その光景を見ていたⅣ号戦車/70(A)の美海がそう声を挙げた瞬間、エースの投げたガモン手榴弾が至近距離で爆発し、車体が揺れる。

 

「キャアッ!?………て、撤退よ、撤退!」

 

「総隊長! ですが、味方が………」

 

「馬鹿! フラッグ車がやられたら終わりなのよ! 此処は一旦引くのよ!!」

 

操縦士がそう声を挙げるが、美海はそう叫んで掻き消す。

 

「美海! 左側の包囲が緩い! あそこから脱出だぁっ!!」

 

更に、近づいてきた蛙が、大洗機甲部隊が展開している包囲網の緩い所を発見し、そう報告する。

 

「よし! 突撃ぃーっ!!」

 

美海は即座にそう指示を出し、Ⅳ号戦車/70(A)は包囲網の緩い所に向かって突撃する。

 

「フラッグ車に続けぇーっ!!」

 

蛙と僅かな地走歩兵部隊員達もそれに続く。

 

「! 敵のフラッグ車!」

 

「チャンスだ! アタッークッ!!」

 

丁度その場所に居合わせたアヒルさんチームの八九式が砲撃するが、57mm砲ではⅣ号戦車/70(A)の正面上部装甲を破れず、砲弾は弾かれて明後日の方向へ飛んで行った。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「俺は絶対に生き延びるんだぁーっ!!」

 

そのまま美海の乗るフラッグ車のⅣ号戦車/70(A)と、蛙が率いている僅かな歩兵部隊は、大洗機甲部隊の包囲網から脱出。

 

残る仲間達には脇目も振らず、只管に逃げて行く。

 

「よ~し、上手く行ったぞ」

 

「後は西住総隊長と舩坂くんに任せよう………」

 

しかしその様子を見て、鋼賀と拳龍がそんな事を言うのだった。

 

『おっとー! 此処で地走機甲部隊のフラッグ車が大洗機甲部隊の包囲網より脱出!』

 

『上手く行った様に見えますけど、如何ですかねえ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊の包囲網から脱出した美海の乗るフラッグ車のⅣ号戦車/70(A)と、蛙が率いている僅かな歩兵部隊は………

 

ドンドンと大洗機甲部隊から離れて行き、小さな沼が彼方此方に点在する場所まで逃げ果せる。

 

「停止ーっ!!」

 

「ハア、ハア………此処まで来れば………もう安心だ」

 

やがて美海がⅣ号戦車/70(A)を停止させると、蛙も立ち止まって他の歩兵達と一緒に呼吸を整えようとする。

 

だが、その時………

 

彼女達と彼等は気づいていなかった………

 

背後付近の近くに在る沼の水面に………

 

パイプの様な物が付き出している事に………

 

そして………

 

そのパイプが動き始める。

 

「………うん?」

 

その異変に最初に気づいたのは蛙。

 

沼の中を動くパイプは、確実に自分達の方へと迫って来ている。

 

「何だぁ?」

 

しかし、それが何か分からず呆けていた次の瞬間!!

 

ザバーッ!と沼の水が持ち上がる様に溢れ、沼の中より………

 

防水加工を施したあんこうチームのⅣ号戦車が現れた!!

 

「!? 何ぃーっ!?」

 

「せ、戦車が水の中から出て来たーっ!?」

 

予想外過ぎるⅣ号の登場に、蛙達は仰天する!

 

だが、元々Ⅳ号のD型の一部は、潜水出来る様に改造された車両が存在する。

 

現在大洗のⅣ号は長砲身化などF2型の仕様になっているが元はD型。

 

僅かな改造で潜水は可能だったのである。

 

改造は工兵達の手で行われ、改造に必要だった部品などは、敏郎が事前に『こんなこともあろうかと』取り寄せていたのだ。

 

と、Ⅳ号が空砲を発砲し、砲口に付けていたゴムキャップを吹き飛ばす!

 

「優花里さん! 次弾装填急いでっ!!」

 

「了解でありますっ!!」

 

空砲用の薬莢を排出すると、優花里が即座に徹甲弾を装填する。

 

「! 信地旋回! 急いでぇっ!!」

 

やっとの事で我に返った美海がそう指示を出すと、Ⅳ号戦車/70(A)が慌てて信地旋回を開始する。

 

「! このぉっ! 潜拉(もぐら)! パンツァーファウストだっ!!」

 

「おうっ!」

 

一瞬遅れて我に返った蛙も、生き延びていた歩兵部隊の中に居た唯一の対戦車兵に、パンツァーファウストを撃つ様に指示する。

 

潜拉(もぐら)と呼ばれた対戦車兵が、パンツァーファウストをⅣ号に向かって構える。

 

「喰らえっ!!」

 

そしてイザ発射しようとした、その瞬間!!

 

ドコンッ!と言う音が鳴り響いたかと思うと、潜拉(もぐら)と呼ばれた対戦車兵が構えていたパンツァーファウストの弾頭が撃ち抜かれた!

 

「「「「「あっ!?………」」」」」

 

蛙を始めとした地走歩兵部隊の生き残りが間抜けた声を挙げた瞬間、パンツァーファウストの弾頭が爆発!

 

「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その爆発と破片によって、蛙達は全員戦死判定を受けた。

 

更にもう1回ドコンッ!と言う音が鳴り響いたかと思うと、今度はⅣ号戦車/70(A)の履帯が千切れた!

 

「!? 履帯がっ!?」

 

「撃てぇっ!!」

 

美海の驚きの声が挙がった瞬間にⅣ号が発砲!

 

放たれた徹甲弾が、狙いを過たずにⅣ号戦車/70(A)の後部へと命中!!

 

爆発が起こって黒煙が上がったかと思うと、一瞬間が有って、Ⅳ号戦車/70(A)から白旗が上がった。

 

『地走機甲部隊フラッグ車、走行不能! よって、大洗機甲部隊の勝利!!』

 

「やりました!」

 

「イエーイ!」

 

「やったー!」

 

「うん………」

 

香音のアナウンスに、華と優花里がハイタッチを交わし、沙織が麻子に抱き付く。

 

「…………」

 

そしてみほは、ハッチを開けてキューポラから姿を晒すと、湿地地帯の一角を見やる。

 

そこには、地面に置かれた九七式自動砲の傍に佇む弘樹の姿が在った。

 

先程、パンツァーファウストの弾頭を撃ち抜き、Ⅳ号戦車/70(A)の履帯を破壊したのは、弘樹がこの武器を使った様である。

 

「…………」

 

「うふふ」

 

弘樹がみほに向かってヤマト式敬礼をすると、みほはニッコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

大洗機甲部隊は公式戦3回戦を勝ち抜き、4回戦へと駒を進めた。

 

相手は、あの鉱関機甲部隊を下した………

 

パシフィック機甲部隊である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

公式戦3回戦。
地走との戦いです。
アンツィオの代わりに出オチになってくれると言ってました様に、戦闘シーンこそ書きましたが、今回でもう決着となります。
もう次のパシフィックとの戦いがメインとなっていますからね。
今回のは前哨戦だと思って下さい。

され、パシフィック戦の前の幕間ですが………
いよいよOVAのエピソードを入れようと思います。
ズバリ、『ウォーター・ウォーです!』を。
紳士の方はお楽しみに(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第51話『ウォーター・ウォーです(前編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第51話『ウォーター・ウォーです(前編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国大会第3回戦にて、地走機甲部隊を破った大洗機甲部隊。

 

次なる4回戦の相手は、あのベテラン鉱関機甲部隊を破ったダークホース………

 

『パシフィック機甲部隊』

 

長身の歩兵達が居並ぶこの機甲部隊を前に如何戦うのか?

 

しかし、当の大洗機甲部隊は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「皆~! 朗報だよ~っ!!」

 

Ⅳ号の砲塔の上にリラックスして寝そべっていた杏が、干し芋を齧りながらそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

何事かと、格納庫内に居た大洗機甲部隊の面々が集まって来る。

 

「この次に戦うパシフィック機甲部隊との試合会場だけど………南の島に決まったよ~っ!!」

 

「「「「「「「「「「!! おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

杏がそう言い放つと、大洗機甲部隊の面々は歓声を挙げる。

 

「南の島か! こりゃ良いぜ!!」

 

「青い海! 白い雲! 熱い砂浜! サンサンと輝く太陽!」

 

「そして水着のギャル達っ!!」

 

と、了平がそう叫び声を挙げたかと思うと、勢い良く鼻血を噴き出す。

 

「ぐえっへっへっへっ………想像しただけで堪らないぜ………」

 

「了平、顔が法律違反です。あと、その血を止めないと出血多量で死にますよ」

 

下衆い顔をして鼻血を流し続ける了平に、相変わらず容赦の無いツッコミを入れる楓。

 

「南の島か………となるとやはり、海岸やその周辺が試合場所となるな………上陸戦の訓練をした方が良いかも知れないな」

 

「お前が考える事って、いつもそんなだよな」

 

一方、弘樹は試合場所が海岸やその周辺になると予測し、生真面目に上陸戦訓練を行った方が良いのではと思いやり、地市がツッコミを入れる。

 

「上陸戦か………それならノルマンディーだな」

 

「「「うんうん」」」

 

上陸戦と聞いて、エルヴィンが第二次世界大戦で恐らく最も有名な上陸作戦………『ノルマンディー上陸作戦』の事を挙げ、カエサル、おりょう、左衛門佐も頷く。

 

「ナカジマくん、藤兵衛。すぐに整備部員を全員集めてくれ。舟艇の用意と戦車の改造をせねばならん」

 

とそこで、敏郎が傍に居たナカジマと藤兵衛にそう言う。

 

「ハイ、部長!」

 

「舟艇は分かるけど、戦車の改造?」

 

すぐに取り掛かる藤兵衛と、戦車を改造すると言う事の意味が分からずに居るナカジマ。

 

「恐らく、状況によっては戦車も海を渡らなければならなくなる事もあるだろう。輸送艦を用意するが、万が一に備えて、戦車自体に航行能力を付けておこうと思ってな」

 

「そんな事出来るんですか?」

 

「ホシノくんが持っていた特二式内火艇の資料を参考にすれば不可能では無い。純粋な水陸両用車に比べれば性能は落ちるだろうが、備えておけば役に立つ事は間違いない」

 

「いや~、まさか趣味で持ってた資料が役に立つとはね」

 

敏郎がそう言って資料を取り出すと、ホシノが頭を掻きながらそう言う。

 

「ちょっと失礼………ほうほう、成程~………着脱式のフロートかぁ………面白いね」

 

その資料を手に取ると、頷きながらそう呟くナカジマ。

 

「良し! それじゃあ、早速取り掛かろうかっ!!」

 

「無論だ」

 

ナカジマと敏郎がそう言うと、自動車部と大洗男子校整備部の面々は、戦車の方へと向かうのだった。

 

「ねえ! 折角ビーチが在るんだし、泳ごうよ!!」

 

とそこで、沙織がみほ達に向かってそう提案する。

 

「おおー! 賛成! 賛成ー!」

 

「それは良いですね」

 

優花里と華が賛成を示す。

 

「…………」

 

しかし、みほは戸惑った様子でキョロキョロとし始める。

 

「? みほ? どしたの?」

 

怪訝に思った沙織がそう尋ねる。

 

「私………水着持ってない」

 

「ええっ!?」

 

「あらあら………」

 

みほのその返答を聞いて、沙織と華が驚きの声を挙げる。

 

「私は学校指定のを持ってる………」

 

その隣で麻子が、いつものマイペースな様子でそう言う。

 

「じゃあ、皆で買いに行きませんか? アウトレットモールに良いお店があるんですよー」

 

すると、優花里がそう提案する。

 

「話は聞かせてもらったわっ!!」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、戦車格納庫の出入り口が勢い良く開かれる!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々が驚きながら出入り口の方を振り返るとそこには………

 

「いや、ホント、丁度良いタイミングだったわ!」

 

陸自の制服姿のみゆき、キリノ、ミカを引き連れた、同じく陸自の制服姿の空の姿が在った。

 

「藤林教官」

 

「空さん」

 

空達を見ながら声を挙げる弘樹とみほ。

 

「いや~、水着選びに出かけるとは都合が良いわ。貴方達………と言うか、戦車チームの皆にちょっと頼みたい事が有ってね」

 

「うん? 頼み事?」

 

空がそう言うと、杏が反応する。

 

「そ、頼み事………この雑誌については知ってるかしら?」

 

空はそう言うと、手にしていた1冊の雑誌を戦車チームに見せる様にする。

 

「ああ! 月刊戦車道ですね!!」

 

優花里がその雑誌を指差してそう言う。

 

それは、戦車道の特集をやっている月刊誌だった。

 

「流石秋山ちゃんね。その通り。実は私のカレがこの雑誌のグラビアのカメラマンやってるんだけど、次の号で今注目の大洗戦車チームの写真を撮りたいって言って来てね」

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

思いも寄らぬ空からの話に、大洗戦車道チームは驚きの声を挙げる。

 

「って言うか、藤林教官って彼氏居たんですか!?」

 

「意外~っ!!」

 

更に、あやと優季からはそんな声も挙がる。

 

「よ~し、大野、宇津木、良く言った。コッチ来い」

 

途端に空は、夜叉の様な顔をして、ドスが利いた声でそう呟き、あやと優季に向かって手招きをする。

 

「「ヒイイイ~~~~ッ!?」」

 

その迫力に完全にビビり、あやは正義、優季は竜真の後ろに隠れた。

 

「お姉ちゃん、落ち着いて」

 

「どうどうどう」

 

「藤林一尉、如何か冷静に」

 

そこで、みゆき、キリノ、ミカが止めに入る。

 

「チッ、まあ良いわ………取り敢えず、その子達の事は置いといて………」

 

((取り敢えずっ!?))

 

空はそう言って引っ込むものの、あやと優季は戦々恐々状態である。

 

「話を元に戻すけど、そのグラビアで時期も時期だから、水着写真を撮りたいって要望が出てね」

 

「水着でグラビアですか?」

 

「凄~い! まるでアイドルみたい~!」

 

戸惑う優花里と対照的に、沙織は目を輝かせてそう言う。

 

「お~、良いね~! 学校の宣伝にもなるし」

 

杏も賛成の意見を示す。

 

「じゃあ、引き受けてくれるって事で良いかしら?」

 

「モッチロン!」

 

「ふえええ~~っ!?」

 

ノリ良く引き受ける杏に、みほは戸惑いの声を挙げる。

 

「よ~し! それじゃあ皆で水着を買いに行こうか~っ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

そのまま杏は、戦車チームの皆に、水着を買いに行こうと呼び掛けるのだった。

 

「良し! じゃあ、俺達も一緒に………!? ぐえっ!?」

 

そんな戦車チームに付いて行く気満々だった了平に、弘樹がチョークスリーパーを掛けて落とす。

 

「助兵衛成敗」

 

「お前には学習能力ってもんが無いのか?」

 

気絶した了平を解放した弘樹がそう言い、地市がそんな了平にツッコミを入れる。

 

「僕達は上陸戦用の装備を確認しに行きましょう」

 

「女性の方と一緒にと言うのは、アレですからね」

 

楓と飛彗がそう言い合い、大洗歩兵部隊のメンバーはその場から去ろうとしたが………

 

「何言ってんの、アンタ達は!」

 

何時の間にかその移動先へと回り込んだ空が、大洗歩兵部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

「うおっ!? 何時の間に!?」

 

「アンタ達には重要な役割があるでしょうが」

 

海音がそう驚きの声を挙げると、空は更にそう言い放つ。

 

「重要な役割?」

 

「何か嫌な予感がするぞ………」

 

清十郎が首を傾げると、白狼が露骨に嫌そうな顔をしてそう呟く。

 

「女が買い物に行くと言ったら、男がする事と言えば………荷物持ちでしょうがぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「ええええ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

「コレは教官命令よ!」

 

不満そうな大洗歩兵部隊の面々にそう言い放ち、空は強引に説き伏せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦は丁度大洗町に寄港しており、大洗機甲部隊の面々はすぐにアウトレットモールへと移動。

 

男子・女子共に、水着選び(男子は荷物持ち)を始める。

 

「「「おおお~~~~っ!」」」

 

「凄いねえ」

 

「此処に来るのも久しぶりねえ」

 

早速に水着売り場にやって来たあんこうチームと空は、所狭しと揃えられた水着を見てそう言う。

 

「………し、視線がキツイ………」

 

「な~に、何れソレが快感になるさ」

 

「了平………貴方みたいになったら、もう人間として末期ですよ」

 

「ああ、帰りてぇ………」

 

「今回ばかりは同意するよ、白狼」

 

そして、付き合わされている男子の中で、地市、了平、楓、白狼、飛彗は、売り場の女性達の視線を受けて、居た堪れない様子である。

 

「…………」

 

唯一弘樹だけは、腕組みをして壁に背を預けて佇み、何時もと変わらぬ仏頂面を浮かべている。

 

「何でも、水着と名のつく物なら、ありとあらゆる種類を揃えているのが売りだそうです!」

 

「「「あらゆる?」」」

 

「ハイ! あらゆる!」

 

「例えばっ!!」

 

優花里が皆にそう言っていると、突如空が優花里を掻っ攫い、試着室へと突っ込んだ。

 

「ボンペイの壁画をイメージした最古のツーピース! 19世紀のスイムスーツ! お約束の縞水着!」

 

空がそう言いながら、試着室のカーテンを開け閉めすると、彼女の言葉通りの水着姿になった優花里がポーズを決めて現れる。

 

「おお~~! 優花里ちゃんの生水着ショー!」

 

「了平、だから鼻血を………」

 

鼻から目一杯鼻血を流す了平に、楓がツッコミを入れる。

 

「更には古今東西の映画俳優デザイナーズブランド! グラビアアイドル用に至るまで有るわよ!!」

 

続いて空がそう言い放つと、ピンク色のビキニ、更には白いハイレグの優花里が姿を見せる。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~っ! 生きてて良かった~っ!!」

 

「ウルセェよ」

 

了平が感涙しながら叫びを挙げ、白狼がそんな了平に呆れる。

 

「? 何コレ?」

 

と、そこでとある水着を取った麻子がそう疑問を呈する。

 

「わあ~~」

 

「おお! それは幻のモテ水着!!」

 

「ええっ!? 嘘!? コレが!?」

 

「違うでしょ」

 

みほ、沙織、華がそう言い合っているそれは、紐でしかない水着だった。

 

「…………」

 

流石の麻子も恥かしかったのか、すぐに元在った場所へと返品する。

 

「ああ! アレ良さそう!」

 

とそこで沙織がショーウインドウに飾られている水着に気付いて近づく。

 

「おお! コレは女子の嗜み、フラワーね! コッチはガーリー! 堪んないよね、やっぱコレでしょ! ゴス! 1度は着てみたい! そしてペイズリー! コレで私も大人の女!」

 

ショーウインドウに並ぶ水着を次々に眺めながら、沙織は若干興奮した様子で捲し立てる様にそう語る。

 

「だけど、それより! 今年はきっとパンツァーが来ると思うな!!」

 

「パンツァー?」

 

「そう、パンツァー!」

 

沙織の言葉にみほは首を傾げる。

 

パンツァーと言えば戦車の事だが、それが水着と如何関係しているのだろうか?

 

「豹柄ですよね?」

 

「それはパンサー!」

 

「そう言えば、昔パンターはパンサー戦車って言ってました」

 

「そう! 戦車!」

 

「意味不明………」

 

沙織は華、優花里、麻子と次々にそう言葉を交わす。

 

「確かに! 今年流行の水着は戦車になるわね! アイツもそう言ってたし!」

 

そこで空がそう言い放つ。

 

「そうそう! 大胆に転輪をあしらったコレとか!」

 

そう言うと、何時の間にか試着室に入っていた沙織が、彼女の言葉通り、戦車の転輪をあしらった水着姿で登場する。

 

「パレオにメッシュを使って、シュル………シュル………何だっけ?」

 

「シュルツェンですね。外装式の補助装甲板です」

 

優花里が得意の戦車知識を持ち出す。

 

「あと、こんなのもありますよ!」

 

そして更に、自分もとある水着に着替えてみほ達に向かってそう言う。

 

「南国風で可愛いですね」

 

「ねえ、そのマーク………」

 

「ハイ! アフリカ軍団仕様です!」

 

「そう! そう言うの!」

 

優花里が来ている水着に入っている、アフリカ軍団のマークを見て、皆がそう言う。

 

「あと、コレも!」

 

そこで今度は沙織が、麻子をカンガルーのマークが入ったピンク色の水着に着替えさせる。

 

「何で私が………」

 

「ハイ! それは、英国第7機甲師団、通称デザートラッツ仕様です!」

 

若干うんざりしている様な麻子を無視し、優花里が嬉々としてそう語る。

 

「そうそうそうそう! 今年はそんなのが絶対来ると思う!」

 

「「ね~」」

 

「そ、そうなのかな?………」

 

「来ないと思います………」

 

2人で盛り上がる沙織と優花里に、みほと華の困惑したツッコミが入る。

 

「女の流行ってのは良く分からねえなぁ………」

 

「まあ、今年は戦車道がかなり盛り上がってますから、可能性は有るんじゃないですか?」

 

その様子を見ていた地市と飛彗がそう言い合う。

 

「学校指定ので良い………」

 

気だるげな様子の麻子が、選ぶのが面倒な様子でそう言い放つ。

 

「駄目よ、冷泉ちゃん。良い? 小学生から高校生で学校指定の水着で海水浴するなんて………盗撮犯からしたら格好の的よ!!」

 

そんな麻子に向かって、空が拳を握りながらそう説く。

 

「特に冷泉ちゃんや会長ちゃんみたいな子はね」

 

「ハ、ハア………」

 

余りの迫力で語る空に、麻子は戸惑いを浮かべるのだった。

 

「わあ~、ホントに色々有るんだ………どれが良いんだろう? コレだけいっぱいあると………」

 

と、漸く本来の目的を思い出し、自分の水着を選ぼうとし始めたみほが、どれを選んだものかとキョロキョロとする。

 

すると視界の端に、腕組みをして壁に寄り掛かっている居る弘樹の姿を捉える。

 

(あ、そうか………舩坂くんにも水着姿、見られちゃうんだ………)

 

改めてそう思うと、みほの顔が若干赤くなる。

 

「もう良い~か~い?」

 

「ん?」

 

そこで、沙織が試着室に向かってそう呼び掛けているのを耳にし、そちらの方を振り返るみほ。

 

「もう良い~ですわ」

 

試着室から出て来たのは、背中がぱっくり開いた空色大人水着姿の華がだった。

 

「こんなの如何でしょう?」

 

「お~! 可愛い~っ!!」

 

「うふっ………」

 

沙織が燥ぎながらそう褒めると、華は大胆に空いている背中を見せる様に振り向く。

 

「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い~!」

 

「あわわ………」

 

「背中全開………」

 

更に沙織が燥ぐなか、みほはその大胆な水着に戸惑い、麻子はそうツッコミを入れる。

 

「コッチも如何でしょう?」

 

すると華は、今度はランジェリーのような黒のレースが入った水着姿になる。

 

「わあ~! コッチも可愛い~っ!!」

 

「はわわ………」

 

「後方注意………」

 

燥ぐ沙織に戸惑うみほ。

 

そしてツッコミを入れる麻子。

 

「飛彗さん」

 

「は、華さん………」

 

と、そこで華は飛彗へと声を掛け、飛彗は大胆な水着姿の華を直視出来ずにいる。

 

「如何でしょうか? この水着?」

 

「い、良いと思いますよ………」

 

華の事を直視できないままそう言う飛彗。

 

「本当ですか? 良かった~。飛彗さんにそう言っていただけると嬉しいです」

 

「華さん………」

 

嬉しそうにする華と、そんな華の様子に頬を掻く飛彗。

 

「青春ね~」

 

そんな華と飛彗の姿を見て、空がそんな事を呟く。

 

「見て下さい、コレコレ~! DUIのドライスーツ! SEALsでも使われているんですよ!!」

 

そこで今度は優花里が、特殊部隊も使用しているドライスーツ姿を披露する。

 

「流石にそれは無い」

 

その姿に、麻子からツッコミが入る。

 

「じゃあ!………こんなの如何ですか!?」

 

すると優花里は、フルボディの競泳水着となる。

 

「それも無い」

 

「秋山ちゃ~ん。サーフィンやボディボードするんじゃないんなら、それはお勧め出来ないわよ」

 

麻子が再びツッコミを入れると、空もそんな事を言い放つ。

 

「ん~、コレでは大人し過ぎると思いますのに………神狩殿は如何思いますか?」

 

「何でそこで俺に振るんだよ」

 

競泳水着を脱いで、中に来ていたビキニの水着姿となりながら白狼にそう尋ねるが、白狼は素っ気なくそう返すのだった。

 

「学校指定ので良いのに………」

 

「もっと可愛いのが良いと思う」

 

尚も学校指定の水着に拘る麻子に、みほがそう言う。

 

「そうそう。フリフリとか、花柄とか」

 

「フリフリ?」

 

「そう、フリフリ!」

 

「フリフリ………」

 

「フリフリよー!」

 

「フリフリって?」

 

フリフリの話で盛り上がる沙織と麻子。

 

「こんなのでーす!」

 

すると優花里が、迷彩柄のワンピース水着で登場する。

 

「まさにフリフリ!」

 

「フリフリですね」

 

「迷彩以外は………」

 

沙織と華がそれだと言う顔をするが、みほは迷彩柄なのを気に掛ける。

 

「何よ、西住ちゃん。迷彩に文句あるの?」

 

その発言が、陸自隊員として気に障ったかの様な様子を見せる空。

 

「あ、いえ、そう言うワケじゃ………」

 

「じゃあコレで………」

 

みほが慌てて取り繕っていると、麻子がスクール水着姿に着替えて現れる。

 

「麻子、それ違う! 話聞いてた!?」

 

「もう~! 駄目じゃない、冷泉ちゃん」

 

それに沙織がそう声を挙げ、空も呆れた様子を見せる。

 

「それならもっとマニアックな方が良くないですか~?」

 

そう言って来た優花里は、胸部に『ゆかり』と名前の入った水着………所謂『旧型スクール水着』姿だった。

 

「ゆかりん!?」

 

「ガハッ!?………」

 

沙織が驚きの声を挙げ、了平が盛大に吐血して倒れる。

 

「了平っ!?」

 

「………我が生涯に………一片の悔い無しっ!!」

 

「そのまま本当にくたばっちまえ」

 

楓が驚きの声を挙げると、了平は天に向かって拳を突き出しながらそう言い放ち、地市がそう吐き捨てる。

 

「この旧型スクール水着、略して旧スクと言う物ですが、コレが中々奥が深くて………」

 

「流石にそれはあか~んっ!!」

 

旧スクの下部分を捲ろうとした優花里を、流石に見かねた空が止めに入るのだった。

 

「ホラ、麻子! コレ着て、コレ!」

 

「冷泉さん! コッチも可愛いですよ!」

 

「コレ何か良いと思うんだけど!」

 

するとそこで、沙織と華、空が、まるで着せえ人形の様に、麻子に色々な水着を試着させ始める。

 

「ああ………」

 

「特殊部隊装備一式と言うのは如何でしょう?」

 

そんな麻子の姿を見て冷や汗を掻くみほに、潜水服姿の優花里が声を掛ける。

 

「だからちゃんとしたの選んであげようよ!」

 

「コレが良い」

 

みほがそう言うと、白黒の縞水着姿の麻子が姿を見せる。

 

「おお~~っ!」

 

「ソレはちょっと………」

 

優花里が拍手を送るが、みほは難色を示す。

 

「確かにねえ………」

 

やり切った様子の沙織と華とは対照的に、まだやり足りない様子の空もそう言う。

 

「こうなった………」

 

すると、麻子は黒いランジェリー風の水着姿で現れる。

 

「おお~~っ!」

 

「え~と………」

 

またも拍手を送る優花里だが、みほはまたも難色を示すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

他のチームの水着選びの状況も………

 

かなりカオスな事になっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよパシフィック機甲部隊との試合。
が、その前に………

試合会場が南の島と決まり、海で泳ごうと言う空気になる大洗戦車チーム。
空からの思わぬ依頼もありながら、アウトレットへと水着を買いに出る。
しかし、その場は段々とカオスと化して行くのだった………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第52話『ウォーター・ウォーです(後編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第52話『ウォーター・ウォーです(後編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉱関機甲部隊を破ったパシフィック機甲部隊との試合会場は、南の島となった。

 

それを聞いた大洗戦車チームの一同は、折角だからビーチで泳ごうと言う計画を立てる。

 

しかし、みほが水着を持っていないと言う。

 

そこで、大洗戦車チームの一同は、全員で水着を買いに、アウトレットモールへと向かった。

 

空によって無理矢理荷物持ちにされ、歩兵部隊の面々も巻き込まれた中………

 

アウトレットモールに在った水着専門店の品揃えの前に………

 

徐々に大洗機甲部隊の一同は、混沌(カオス)と化して行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・アウトレットモールの水着専門店………

 

「赤ふん! 赤ふん! 歴史は赤ふん! やはり、六文銭の赤ふんで!」

 

胸に晒を巻き、六文銭の印が入った赤い褌を締めている左衛門佐が、右足を椅子に掛けながらそう言い放つ。

 

「いやいや、ここはアフリカ軍団仕様のヤシの木柄で」

 

続いて、Vネックラインで黄色の生地に白いヤシの木のマークが入った水着を着ているエルヴィンが、ビーチチェアに横になっている状態でそう言う。

 

「ローマ軍団は甲冑! そして赤マント!」

 

更に続いて、水着アーマーなる、水着に鎧を装着し、いつもの赤マフラーを巻いているカエサルがそう言う。

 

「海援隊の紅白模様で………」

 

おりょうも、小さな椅子に座り、紅白の縞模様の水着姿でそう言って来る。

 

「真田紐も捨て難い………」

 

と、今度は真田紐で身体を隠すと言う、特殊なプレイでもしているかの様な恰好となった左衛門がそう声を挙げる。

 

「ここはドイツが開発した水に溶ける水着を」

 

するとエルヴィンが、まるでイケナイビデオにでも出て来そうな特性を持つ水着姿となってそう言う。

 

「この家紋入り、腹掛け風水着ぜよ」

 

「「「それだぁっ!!」」」

 

そこでおりょうが、言葉通りに家紋が入った腹掛け風の水着をアピールしながらそう言うと、他の3人はそれに同意する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

彼女達、カバさんチームの荷物持ち担当である磐渡を始めとしたワニさん分隊の面々は、最初こそ何名かが女子の水着姿が見られると燥いでいたが、今ですっかりカバさんチームの面々から距離を取り、他人のふりをしている。

 

「最近の日本の女子の趣味は理解し難いな………」

 

「あの子達が特殊なだけだと思うよ」

 

ゾルダートが間違ったカルチャーショックを受けていると、付き添っていたみゆきがそう言う。

 

「んな水着は月刊戦車道のグラビア撮影で着ろ~っ!!」

 

と、その光景を目撃した空も、カバさんチームの面々にそうツッコミを入れる。

 

「な、何か凄い事になってる………」

 

同じく、その光景を目撃していたみほも、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所でも………

 

「ふっ! ふっ!」

 

「うふふ」

 

「ふふふん」

 

「へへへ」

 

大き目なビーチバレー用のバレーボールを胸に抱える様に持っている忍、水着の上にビーチバレー用のネットを絡ませているあけび、水着姿でバレーボール様のボールカゴに入っている妙子。

 

そして、バレーボールのマスコットキャラクターの着ぐるみを来て、顔だけを出している典子が、満足げな表情で笑い合っている。

 

「ねえねえ、武志。如何かな? この水着?」

 

着ぐるみ姿で武志にそう尋ねる典子。

 

しかし、その姿は最早『それは水着なのか?』と言う疑問さえ生じさせる。

 

「あ、ああ………典子ちゃんらしくて、良いんじゃないかな?」

 

武志は額にギャグ汗を掻きながら、苦笑いしつつそう答える。

 

「そ、そう? 良かった………武志にそう言って貰えて………」

 

すると典子は照れた様子を見せてそう呟く。

 

良い雰囲気なのだが、典子の恰好で全て台無しになっている。

 

「忍、? お前、何やっとんや?」

 

とそこで、所用で離れていた大河が戻って来て、バレーボールを胸に当てている忍を見てそう言う。

 

「あっ!? た、大河!? コレはその………」

 

しどろもどろになって口籠る忍。

 

「………はは~ん」

 

すると大河は、一瞬あけびと妙子の方を見た後、再び忍の方を見て何やら合点が行った様な表情となる。

 

「な、何よ………」

 

「さてはお前さん………それを胸に………」

 

「!?!?」

 

その台詞を聞いた瞬間!

 

忍は、持っていたバレーボールを、思いっきりアタックして、大河の顔面に叩き込んだ!

 

「ブッ!? 何すんねんっ!!」

 

「馬鹿! デリカシーゼロ! 筋肉! 時代遅れっ!!」

 

いきなり何をすると言う大河に向かって、忍は顔を真っ赤にして悪口を並べ立てる!

 

「何やとぉっ! お前に言われんでも、ワシが馬鹿な事は皆承知の事やぁっ!!」

 

微妙にズレた怒り方をしながら、大河は忍と口論に発展する。

 

しかし、その光景は痴話喧嘩の様にも見える。

 

「な、何か良く分からない事になってる………」

 

またもその光景を目撃したみほが、そんな事を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、別の一角では………

 

「えへへ」

 

骨が見えている人の足を吼えているサメ型の浮き輪を持っている水着姿のあや。

 

「う~ん」

 

同じく水着姿で、ガスマスクの様なゴーグルを装着している優季。

 

「バタバタバタバタ」

 

その傍で床にうつ伏せに寝転び、チェーンソーを模したビート板を握っている水着姿の桂利奈。

 

「…………」

 

更にその傍では、水着姿の紗希が、頭にイカの被り物を被っている。

 

「うふふ」

 

そして、あやの傍で、機雷を模したビーチボールを構えている水着姿のあゆみ。

 

「え~と………」

 

そんなメンバー達を見て、只茫然とするばかりの梓であった。

 

「何か怖い事になってる」

 

またまたその光景を見たみほは、そんな言葉を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また別の一角でも………

 

「ねえねえ! 次のライブは水着で歌うってのは如何かな!?」

 

セーラーワンピース水着なるモノを手にした聖子が、メンバー達に向かってそう言い放つ。

 

「なっ!? み、水着で歌って踊るなんて、そんな破廉恥なっ!!」

 

生真面目な優が真っ先に反対意見を挙げる。

 

「わ、私もちょっと恥ずかしいです………」

 

引っ込み思案な気が有る静香も、顔を赤くしながらそう言う。

 

「ええ~~、私は面白いと思うけどな~?」

 

意外とノリが良い伊代は賛成の意見を示す。

 

「私も別に良いよ~、水着ぐらい」

 

「た、確かに………新しい事には挑戦して行かないと」

 

満里奈と明菜も賛成する。

 

「唯ちゃんは如何思う?」

 

「えっ!? い、いや、アタシは別に………まだデビューも出来てないし………」

 

聖子にそう問われ、後半若干落ち込みながらそう答える唯。

 

そう………

 

実は彼女………

 

サンショウウオさんチームには入ったが、まだスクールアイドルとしてはデビューしていないのである。

 

理由は、彼女の実力に有る………

 

何せ笑顔を作るのが苦手で、ステップの動きも全然ダメ。

 

その上、歌唱力はどこぞのガキ大将のリサイタルの様に、ガラスを割り、猫や犬すらも悶えて倒れる程の音痴だったのである。

 

コレではデビューどころの話ではない。

 

戦車の操縦テクニックは1流な彼女だったが、それとは真逆に、スクールアイドルとしての才能は皆無に近かった。

 

「大丈夫だよ! 次のライブまでには必ずデビュー出来る様に成ってるって!!」

 

しかし、聖子は根拠の無い自信を持ってそう言い放つ。

 

「また根拠の無い自信を………」

 

「でも、聖子ちゃんが言うとそうなりそうな気がするよね」

 

優が呆れ、伊代が笑いながらそう言う。

 

「よ~し! そうと決まれば次のライブの為の水着衣装を探さなくっちゃあっ!!」

 

「って、水着でライブやるのは決定事項なの!?」

 

既に水着でライブを行う積りの聖子に、優はそうツッコミを入れるのだった。

 

「コッチは何か大変な事になってる」

 

その光景を目撃したみほは、そんな事を呟く。

 

「ねえねえねえねえ! コッチとコッチ! どっちが可愛いかな?」

 

とそこで、沙織がみほに、両手に持った2つの水着を見せながらそう尋ねる。

 

「それより、コレとコレのどちらが似合うでしょうか?」

 

すると華も、同じ様に尋ねて来る。

 

「SEALs仕様と英国SBSとフランス海軍コマンドとスペツナズ! どれが良いでしょう!?」

 

「金と銀、どっちが良い?」

 

更に、優花里と麻子もそう尋ねて来る。

 

「え、ええと………」

 

「「「「ねえ、ど~れ?」」」」

 

「あうわ~」

 

一斉に尋ねられて、みほが困惑していると、沙織達が催促する様にそう言って来て、みほは軽く混乱してしまうのだった。

 

「どいつもこいつも弛んでる! 恥を知れ! 恥をっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

とそこで、桃の怒声が聞こえて来て、一同はその声が聞こえて来た方向を見やる。

 

「桃ちゃん、説得力無さ過ぎ」

 

しかし、以前も披露した水着姿の柚子の言葉通り、現在桃は水着姿で浮き輪をしている為、説得力は皆無であった。

 

「そうそう、こんな時ぐらい楽しまないとね」

 

「杏は何時も楽しんでる様に見えるけど………」

 

水着姿でビーチチェアに腰掛けて何時も通り干し芋を齧っていた杏がそう言うと、水着姿の蛍がそうツッコミを入れる。

 

「河嶋さんの説得力が皆無なのは置いといて、確かに貴方達浮かれ過ぎよ! 私達は飽く迄授業の一環として行くのよ! 大洗女子学園の恥を晒す様な事はしないで!!」

 

すると今度は、生真面目な上に石頭なみどり子も、戦車チームに向かってそう言う。

 

「園ちゃ~ん、後ろ後ろ」

 

「えっ?」

 

そんなみどり子に空がそう言い、その言葉に釣られる様にみどり子が後ろを向くと………

 

「コレなんて如何かな?」

 

「ちょっと地味じゃないかな? もう少し派手でも良いと思うよ」

 

水着選びに夢中になっているモヨ子と希美の姿が在った。

 

「! 貴方達~っ!!」

 

「ふわっ!?」

 

「そ、そど子………」

 

「何たる様なの! 校則を守る使命を帯びた風紀委員がそんなキャピキャピと!!………」

 

怒声を挙げて、2人に向かって説教を始めるみどり子だったが………

 

「そんな事より、ホラホラ! 園ちゃんの水着も選んであげるわよ」

 

その瞬間に空がみどり子の腕を掴み、試着室の方へと強引に連れて行く。

 

「えっ!? ちょっ!? わ、私は学校指定の水着で………」

 

「何冷泉ちゃんと同じ様な事を言ってるの! 盗撮魔の話。聞いてなかった!? 年頃の女の子がそんなんじゃ駄目よ!」

 

「!? が~んっ!? れ、冷泉さんと………同じ考えで居たなんて………」

 

「失礼な奴だな………」

 

麻子と同じ事を考えていたと言われてショックを受けるみどり子と、そんなみどり子にツッコミを入れる麻子。

 

「みゆき! キリノ! ミカ! 手伝ってっ!」

 

「あ、うん」

 

「あいよ~」

 

「了解しました」

 

そのままみどり子は、空が呼び寄せたみゆき、キリノ、ミカに囲まれ、着せ替え人形状態にされてしまうのだった。

 

「皆~! 楽しんでる~!?」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、杏が戦車チームの皆に向かってそう呼び掛けると、一同はノリの良い返事を返す。

 

「もう一丁~っ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「もう一丁~っ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「………凄い騒ぎだな」

 

と、今まで成り行きを見守っていた弘樹が、ノリノリな戦車チームの面々を見てそんな言葉を呟く。

 

「でも、ちょっと楽しいかも」

 

「………そうか」

 

そこでみほがそう言うと、弘樹は学帽を被り直す。

 

「さ~て! 時間も良い頃だし、皆でお昼にしましょう! 今日は私が奢るわっ!!」

 

その次の瞬間、ぐったりとしているみどり子をみゆき達に預けた空が、大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「やった~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

その言葉に戦車チームは元より、荷物持ちにされてテンションが低かった歩兵部隊の面々も歓声を挙げる。

 

「よ~し! 行くわよっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

そして空に導かれる様に、一同はフードコートの方へと移動を始めるのだった。

 

「小官達も行くか」

 

「あ、うん」

 

その一団に少し遅れて、弘樹とみほも移動を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウトレットのフードコートへと向かう大洗機甲部隊の面々………

 

と、その途中………

 

「やっぱり湯江にはコッチの方が似合うって」

 

「いや、コッチの方が良いんじゃないかな?」

 

「あの、その………」

 

通り掛かったキッズ水着コーナーから、そんな声が聞こえて来る。

 

「ん?」

 

「この声は………」

 

その声に聞き覚えを感じ、キッズ水着コーナーへと目をやる弘樹とみほ。

 

「絶対コッチだって」

 

「コッチの方が良いよ」

 

「あの、2人共………」

 

そこに居たのは、遥、レナ、湯江の仲良し3人組だった。

 

「あ! レナ!」

 

「遥? 何や、お前来とったんか?」

 

「湯江、如何して此処に居る」

 

清十郎、大河、弘樹の3人が、其々妹達に声を掛ける。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「兄貴」

 

「お兄様。実は、私達………」

 

「ああ、アタシが呼んだんだよ」

 

レナ、遥、湯江が弘樹達の姿を認めると、杏が弘樹達に向かってそう言う。

 

「角谷会長が?」

 

「折角の南の島なんだからさぁ、やっぱり大人数で行った方が楽しいじゃん」

 

あっけらかんとそう言い放つ杏。

 

「ねえねえ舩坂さん。湯江ちゃんにはこの水着が似合うよね?」

 

そこで遥が、フリルが沢山着いた水着を弘樹に見せながらそう尋ねる。

 

「いや、コッチの方が良いと思うんですけど」

 

すると今度はレナが、子供用ビキニを見せながらそう言う。

 

「あ、あの、2人共………」

 

「どっちも却下だ」

 

と、湯江がそんな2人に何か言おうとしたところ、それを遮る様に弘樹がそう言い放つ。

 

「ええ~~っ!?」

 

「如何してですか?」

 

「そんな人目を引く様な水着を着て行って、変な連中に目を着けられたら如何する?」

 

何故だと言う2人に、弘樹はそう説明する。

 

「そんな~! 心配し過ぎだよ~!」

 

「そうですよ。今時これぐらいは普通ですよ」

 

「駄目なものは駄目だ」

 

説得を試みる2人だが、弘樹は頑として受け入れそうにない。

 

「あちゃ~、弘樹の奴。頑固が悪い方向に働いてるぜ」

 

「ちょっと私行って来る」

 

その光景を見た地市がそう呟き、沙織が説得しに行こうとする。

 

「いや、待ちたまえ。ココは我等が総隊長殿にお任せしようではないか」

 

しかし、迫信がそう言って沙織を止めた。

 

「舩坂くん。それは流石に酷いんじゃないかな?」

 

その言葉を裏付けるかの様に、みほが弘樹へそう言い放つ。

 

「西住くん? いや、しかし………」

 

「湯江ちゃんだってもう子供じゃないんだよ。オシャレだってしたいだろうし、もっと湯江ちゃんの気持ちを考えてあげないと」

 

「それは………」

 

みほにそう言われ、弘樹は言葉に詰まる。

 

「あの、西住さん。でしたら、私の水着………西住さんが選んでくれませんか?」

 

するとそこで、他ならぬ湯江がそんな事を言って来た。

 

「えっ? 私が?」

 

「ハイ、それならお兄様も納得すると思いますので」

 

「「…………」」

 

湯江がそう言って弘樹を見ると、遥とレナも弘樹を見やる。

 

「………西住くん。お願い出来るか?」

 

それを受けて、やがて弘樹は折れたかの様にみほにそう言う。

 

「あ、うん………じゃあ湯江ちゃん。ちょっと来てもらって良いかな?」

 

「ハイ」

 

みほは弘樹に返事を返すと、湯江達を連れてキッズ水着コーナーの奥の方へと向かうのだった。

 

「…………」

 

残された弘樹は、所在無げに学帽を深く被り直す。

 

「流石西住総隊長ですね」

 

「みほさん、凄いです」

 

そんな様子を見ていた飛彗と華が、そう感想を呟く。

 

その後、みほは湯江に桜色のワンピース水着を選び、弘樹もそれに納得。

 

湯江達も含めて改めて昼食へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、夕方………

 

「楽しかったね~」

 

「あんなに色々水着ってあるんですね」

 

「偶には、戦車以外も良いですね~」

 

「学校指定ので良いのに………」

 

「まったまた~。結構際どいの買ってたじゃない」

 

各自解散となり、あんこうチームととらさん分隊のメンバー+湯江が帰路に着いている中、沙織、華、優花里、麻子が今日の事を振り返ってそんな会話を交わしている。

 

「! ああっ!?」

 

「? 如何した、西住くん?」

 

「西住さん?」

 

とそこで、みほが何かを思い出した様に声を挙げ、近くに居た弘樹と湯江がそう尋ねる。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

他の面子もみほの方を振り返る。

 

「………私、買うの忘れた」

 

何と!!

 

肝心要のみほの水着を買うのを忘れてしまっていた。

 

「あ~、うっかりしてました」

 

「オイオイ! 西住ちゃんの水着が見れないんじゃ、何の為に海行くんだよっ!!」

 

「試合の為でしょうが………」

 

飛彗が思い出した様にそう言い、了平が叫ぶ様にそう言うと、楓がツッコミを入れる。

 

「御心配には及びません、西住殿! そうだと思って、西住殿の分も買って置きましたぁ!!」

 

するとそこで、優花里が自分の紙袋の中からみほの為に買った水着を取り出した。

 

「何時の間に………」

 

「でも、サイズは?」

 

呆れる様に突っ込む白狼と、サイズの心配をする沙織。

 

「見ただけで分かりますから」

 

「えっ?」

 

優花里の言葉に、みほが困惑していると………

 

「バスト82!」

 

「!? ふあっ!?」

 

「ウエスト56!」

 

「ちょっ!?」

 

「ヒップ84!」

 

「いやぁっ!!」

 

そのまま優花里はみほの3サイズを暴露し、みほは恥かしさに悶える様に座り込む。

 

「ヒッヒッヒッヒッ」

 

「ええ~っ!」

 

「凄いです」

 

「身体測定だな………」

 

得意げに笑う優花里に、沙織、華、麻子がそう言い放つ。

 

「YES! ナイスバデェ!………!? ぐえっ!?」

 

「すみません。余りに見苦しかったもので………」

 

「「寧ろ良くやってくれた(ました)!」」

 

それを聞いていた了平が興奮していると、その姿が余りにも見苦しかった飛彗が思わず絞め技を掛け、地市と楓がサムズアップする。

 

「………聞いちゃった?」

 

とそこで、みほはしゃがみ込んだまま傍に居た弘樹にそう尋ねる。

 

「申し訳無いが………」

 

弘樹は小声でそう答え、気恥ずかしげに学帽を目深に被り直して目を隠す。

 

「!!~~~~~~っ!!」

 

途端にみほの顔が茹蛸の様に真っ赤になる。

 

「さあ、西住殿。どう………」

 

「優花里さんの馬鹿~~~~~っ!!」

 

それに気づかぬ優花里が、みほに水着を渡そうとしたところ、みほはそう叫んでその場から走り去って行った。

 

「に、西住殿!?」

 

「みぽりん!?」

 

「みほさん!?」

 

「まあ、逃げたくもなるな………」

 

優花里、沙織、華が驚きの声を挙げ、麻子が1人冷静にツッコミを入れる。

 

「お兄様………その、私何と言えば良いか………」

 

「…………」

 

湯江が困惑する中、弘樹は只立ち尽くす。

 

と、そんな弘樹が腰に下げていた刀に手を掛ける者が居た。

 

優花里である。

 

「!? 秋山くん!?」

 

「西住殿~っ!! 私死んでお詫びします~っ!!」

 

弘樹が驚くと、優花里が弘樹から奪った刀を両手で逆手に持ち、自らの腹を突こうとする。

 

「落ち着けっ!!」

 

「いけません!!」

 

「ゆかりん! 駄目ぇっ!!」

 

「冷静に! 冷静に!!」

 

「西住殿の事を思っての厚意が逆に西住殿を傷つけてしまうなんて! この秋山 優花里一生の不覚! 帝国軍人の情けで死なせて下さい~っ!!」

 

「いつから帝国軍人になったんだ!!」

 

自殺を図る優花里を必死に止める弘樹達。

 

結局その後………

 

優花里を止めるのに30分………

 

恥かしさに部屋に引き籠ったみほを説得するのに1時間を要したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ウォーター・ウォーの続きで、前回よりカオス度が増しています(笑)
ドタバタながらも如何にか水着を調達したメンバー。
次回は試合前の南の島でのバカンスの様子をお送りしたいと思います。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第53話『南の島の海です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第53話『南の島の海です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック機甲部隊との試合会場が南の島と決まり………

 

折角なので海でバカンスを楽しもうと言う流れとなった大洗機甲部隊。

 

そこに、申し合わせたかの様に、教官である空が、月刊戦車道のグラビア撮影の仕事を持ち込んで来る。

 

少々カオスな事になりながらもアウトレットにて水着を購入した大洗機甲部隊。

 

そして、遂に………

 

試合会場となる南の島を訪れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4回戦の試合会場となる南の島のとあるビーチ………

 

「「「「「「「「「「海だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

どこまでも広がる青い空と果てしなく続くサファイアブルーの美しい海を見て、大洗機甲部隊。

 

特に戦車チームの女子達がそう歓声を挙げる。

 

浜辺にはⅣ号も停まっているが、その後部にビーチパラソルが挿され、サマーチェアが置かれている。

 

更にトロピカルドリンクも置かれ、近くの砂浜にはゴムボートもある。

 

「用意しておきました!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

それを用意した優花里がそう言うと、戦車チームの面々から歓声と拍手が挙がる。

 

「よ~し! じゃあ泳ぐぞぉっ!!」

 

「アタシが1ば~ん!」

 

「負けませ~ん!」

 

杏がそう宣言すると、沙織がいの1番に駆け出し、華がそれに続く。

 

そして、戦車チームの一同が、一斉に制服を脱ぎ捨てたかと思うと………

 

下に既に着ていたのか、水着姿となる。

 

「キャハハハハッ!」

 

「あ、冷たい!」

 

「やったなぁっ!!」

 

そのまま波打ち際まで突っ走ったかと思うと、水の掛け合いを始める。

 

「ココは………天国かぁ………」

 

その光景を見て、了平が魂が抜け掛かった状態となる。

 

「そのまま昇天しちまえ」

 

「泳ぐのは久しぶりだな………」

 

そんな了平を見て地市がそう吐き捨てる様に言い、その隣では弘樹が準備運動をしながらそう呟く。

 

他の大洗歩兵部隊の面々も、迫信を除いて水着姿となっている。

 

「…………」

 

その迫信は、パラソル付のテーブルの傍のプラスチック椅子に腰掛け、『君主論』なる本を手に、優雅に読書をしていた。

 

「会長………アレで楽しんでるのでしょうか?」

 

「時々あの人の事が良く分からなくなる時があるよ………」

 

そんな迫信の姿を見て、清十郎と逞巳がそんな会話を交わす。

 

「皆~! 燥ぎたい気持ちは大いに分かるけど、先ずは仕事を終えてからよ~!」

 

とそこで、水着姿のみゆき、キリノ、ミカを従えた、同じく水着姿の空が、皆へそう呼び掛ける。

 

更にその隣には、カメラを首から下げた男性の姿が在った。

 

「集合~~~~っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

空がそう声を挙げると、大洗機甲部隊の一同は一斉に空の元へと集まる。

 

「よ~し、良いわよ」

 

「流石、空の教え子だね。一糸乱れぬ集合だったよ」

 

その様子を見ていた男性がそんな感想を呟く。

 

「当然よ」

 

「あの~、ひょっとして貴方が空教官の彼なんですか?」

 

とそこで、沙織が手を上げながらそう尋ねる。

 

「ああ、申し遅れたね。私フリーのカメラマン兼ライターをしております、『須山 大祐(すやま だいすけ)』と申します。今日は宜しくお願いします」

 

そう言われて男性………『須山 大祐(すやま だいすけ)』は自己紹介をする。

 

「………須山?」

 

と、その名を聞いた弘樹が反応を示す。

 

「何や、弘樹? 知っとるんか?」

 

「いや………何年か前に、歩兵道・戦車道の全国大会の準決勝まで勝ち進んだ事がある学園に同じ名の者が居たと………」

 

大河に尋ねられ、弘樹は記憶を呼び起こす。

 

「おや、それをご存じとは………如何にも、それは私の事ですよ」

 

大祐はアッサリとその話を肯定する。

 

「へえ~、元歩兵道の人なんだぁ」

 

「それが如何して、カメラマンに?」

 

あやがそう言い、飛彗が大祐に向かってそう尋ねる。

 

「いや、元々そっち方面に進む予定だったんですけど、私趣味がジュニアアイドルの写真を撮る事だったので、じゃあ趣味と実益の為に出版業界に就職しようと考えまして、大手出版社の月刊戦車道編集部のグラビア班に就職したんですよ」

 

「良い趣味だな、オイ」

 

白狼が半ば呆れる様にツッコミを入れる。

 

「で、今年の春からフリーとして独立しまして。現在はタウン情報誌のグルメ情報と、小学生読者モデルを使ったファッション記事と、戦車と水着を着た美人戦車乗り達のグラビアを手掛けています」

 

「何て羨ましいっ!!」

 

「了平、黙ってて下さい」

 

水着のグラビアと聞いて了平がそんな声を挙げ、楓が冷たくツッコミを入れる。

 

「因みに、コチラは以前に撮影をさせて頂いた方達の写真です」

 

そう言うと大祐は、数枚の写真を取り出し、大洗機甲部隊の面々に見せる。

 

「!? お姉ちゃんっ!?」

 

その内の1枚に、自分の姉である西住 まほが水着姿で写っている写真があり、驚きの声を挙げるみほ。

 

「ケイ殿!? うぶっ………」

 

小太郎も、サンダース校の総隊長であるケイが星条旗水着で写っている写真を見つけ、思わず鼻を抑える。

 

「ああ、ダージリンさんも!」

 

「ローリエさんも居ますわ」

 

「アンツィオ校のアンチョビ総帥まで………」

 

沙織はダージリン、華はローリエ、優花里はアンチョビの水着グラビア写真を見つけ、軽く驚いた様なリアクションを見せる。

 

「コレ幾らですかっ!?………ぐえっ!?」

 

「お前と言う奴は………」

 

即座にその写真を買い取ろうとした了平を、弘樹が成敗する。

 

「皆さん、今日はよろしくお願いします」

 

とそこで、大祐は改めて大洗戦車チームの皆へお願いする。

 

「えっと………取り敢えず如何すれば?」

 

グラビア撮影の経験などない一同の中で、みほが代表する様に尋ねる。

 

「此方で逐一指示を出しますので、皆さんはそれに従ってもらえれば大丈夫です」

 

「じゃあ、撮影開始よ!」

 

大祐の後、空がそう言い放って、グラビア撮影が開始された。

 

 

 

 

 

各チームごとの撮影。

 

個人ごとの撮影。

 

更には戦車と一緒の撮影など、様々なグラビアの写真が撮影される。

 

更に、湯江達の姿を見た大祐が、是非彼女達も撮影させてくれと言って来た。

 

大河と清十郎は了承し、1人渋った弘樹も、みほと空から説得され、渋々ながらも了承したのだった。

 

 

 

 

 

数時間後………

 

「いや~、皆さん。どうもありがとうございました」

 

撮影は無事終了し、大祐が大洗戦車チームの皆に向かって頭を下げる。

 

「雑誌と写真の方が出来ましたら、皆さんの方に送らせていただきますね」

 

「記事には良い事だけ書いてよね~。ウチの学校の入学希望者が増える様なね」

 

ちゃっかりとそんな事を大祐にお願いする杏。

 

「ハイ、分かりました」

 

「よ~し! コレで撮影はおしまい! 後は皆自由にして良いわよ~っ!!」

 

「「「「「「「「「「イエーイッ!!」」」」」」」」」」

 

空がそう言い放つと、大洗機甲部隊の一同は、改めてバカンスを満喫し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレー部の面々は、やはりと言うとか、大河達を相手にビーチバレーを始めていた。

 

「アターックッ!!」

 

「何のぉっ!!」

 

忍のアタックをレシーブで受け止める大河。

 

「葉隠流! 分裂スパイクッ!!」

 

と、跳ね上がったボールを小太郎がスパイクしたかと思うと、ボールが幾つにも分裂する。

 

「えええっ!?」

 

ブロックしようとしたあけびの腕を擦り抜け、ボールは砂浜に叩き付けられる。

 

「よっしゃあっ! 先制や!!」

 

「ちょっと! 何だよ、ソレ! そんなのバレーじゃないよっ!!」

 

「そうですよ!」

 

ガッツポーズをする大河だったが、バレー部側の応援に着いて居た典子と妙子が抗議の声を挙げる。

 

「葉隠さん、流石に今のは無いかと………」

 

「よ~し、葉隠! 我と代われいっ!!」

 

武志も苦言を呈し、明夫が小太郎と交代でコートへと入る。

 

「美味過ぎるっ!!」

 

一方、その傍では大詔が、先程素手で捕まえて来た魚を、ワイルドにも生で食していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

相変わらず1人何時もの制服姿で読書を続けている迫信。

 

先程の君主論は読み終えたのか、今度は『ヴェニスに死す』なる本を読んでいる。

 

「迫信~。楽しんでるの~?」

 

とそこで、杏がやって来てそう声を掛ける。

 

「ああ、十分に楽しませてもらっているよ。楽しみ方は人其々だからね」

 

読んでいた本から目線を上げると、杏の方を見ながらそう答える迫信。

 

「あ、そう。まあ、それなら良いけどさ~………ねえ、折角だからさ………オイル塗ってくんない?」

 

そこで、杏はサンオイルを取り出しながらそう言う。

 

「ご要望とあらば………」

 

迫信は本に栞を挟んでテーブルの上に置くと、手袋を外して立ち上がり、不敵に笑う。

 

「んじゃよろしく~」

 

「仰せのままに………」

 

杏がそう言って、近くに敷いてあったビニールシートの上に寝転ぶと、迫信はその身体にサンオイルを塗り始めるのだった。

 

「前から思ってたんですけど………そちらの会長さん、ウチの閣下と随分と仲が良いですね」

 

「神大さんは私達が大洗女子学園に入学した頃からの付き合いですから。その頃から色々と援助をしてもらったりしてまして」

 

逞巳が柚子にそう言うと、柚子は迫信との関わりの始まりを話す。

 

「桃ちゃ~ん、早くおいでよ~」

 

海に入っていた蛍が、波打ち際に居る桃に向かってそう声を掛ける。

 

「桃ちゃんと呼ぶなっ!」

 

と、毎度の様に呼び方に不満を持った桃が、大股歩きで海へと突撃する。

 

するとその瞬間、高波が発生!

 

「へっ!? うわぁっ!? ガボガボガボ………」

 

桃はその波に呑まれ、海中に没する。

 

「ガボガボガボッ!?」

 

完全にパニック状態になり、息を吐き出しながら手足をバタバタとする桃。

 

このままでは溺れてしまう。

 

と、思われた瞬間!

 

何者かが桃の足を掴み、そのまま海上へと引っ張り上げた!

 

「!? プハッ!! ゲホッ! ゴホッ!」

 

逆さ吊りにされている状態でむせる桃。

 

「…………」

 

桃を引っ張り上げたのは熾龍だった。

 

「お、お前はっ!? ええい、離せっ! 助けてくれなどと言った覚えは無いぞっ!!」

 

「そうか………」

 

と、桃がそう喚くと、熾龍は桃の足を掴んでいた腕を下げる。

 

「!? ガボボボボボボボボボボボッ!?」

 

頭だけが逆さまに海水に浸かり、桃は再び溺れかける。

 

「…………」

 

しかし、熾龍はギリギリのところで再び引っ張り上げる。

 

「!! ゲホッ! ゴホッ! 貴様ぁーっ! 何をするガボボボボボボボボボボボッ!?」

 

桃が喚くと再び頭を海中へと沈める熾龍。

 

そんな拷問の様な遣り取りが暫く続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あ、ソレ! スイカ割り! スイカ割り!」」」

 

エルヴィン、カエサル、左衛門佐が揃ってそんなコールを飛ばしている。

 

「…………」

 

その視線の先では、目隠しをして棒を持ったおりょうが、ゆっくりとビニールシートの上に置かれたスイカを目指して歩いている。

 

「おりょうさ~ん! もっと右~っ!!」

 

「ああ、行き過ぎです! 左、左!」

 

「そのまま~まっすぐ~っ!!」

 

サンショウウオさんチームの面々も、そんなおりょうに声援を飛ばしている。

 

「うむ、見切ったぜよ!」

 

とそこで、おりょうはスイカの在る場所を確信したのか、棒を上段に構える。

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

そして掛け声と共に一気にスイカ目掛けて振り下ろした!

 

棒を振り下ろされたスイカが、まるで刃物で切ったかの様に真っ二つになる。

 

「おおっ!」

 

「流石だな、おりょう」

 

「これぐらい当然ぜよ」

 

聖子が歓声を挙げ、カエサルがそう労うと、おりょうは目隠しを外しながらそう言う。

 

「………アイツが持ってたの、只の棒だよな?」

 

「良い腕をしてるね」

 

そんなカバさんチームとサンショウウオさんチームの様子を見ていた磐渡と拳龍は、そう言う遣り取りを交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、我等があんこうチームととらさん分隊。

 

それにウサギさんチームとハムスターさん分隊は、浅瀬で泳いでいた………

 

「? ねえ! アレ、自動車部と整備部の人達じゃないかな?」

 

その時、沙織が海岸にⅣ号とM3リーを並べ、その周囲で何かをやっているナカジマ達自動車部のメンバーと、敏郎達整備部のメンバーの姿を見つけ、そう声を挙げる。

 

「あ、ホントだー」

 

「私達の戦車も在るよ」

 

「何やってるんだろ~?」

 

沙織の声で海岸を見やり、同じく自動車部と整備部、そしてⅣ号とM3リーの姿を認めたあや、あゆみ、桂利奈がそう声を挙げる。

 

「………ちょっと行ってみるか」

 

「あ、私も」

 

と、弘樹がそう言って、海岸目指して泳ぎ始めると、みほがそれに続き、他の一同もそれに釣られる様に海岸へと泳ぎ始めた。

 

 

 

 

 

南の島・海岸………

 

「良~し、目張りはこんなもんかなぁ」

 

Ⅳ号とM3リーの隙間の部分を埋めた自動車部のメンバーの中で、ナカジマが額の汗を拭ってそう言う。

 

「では、フロートを取り付けてくれ」

 

「了解しました~、部長~!」

 

そこで敏郎がそう言うと、藤兵衛を中心とした整備部のメンバーが、Ⅳ号とM3リーの前後にフロートを取り付ける。

 

取り付けられたフロートにより、Ⅳ号とM3リーがまるで舟の様な姿となる。

 

「真田整備部長」

 

「ナカジマさん」

 

とそこで、弘樹とみほを筆頭に、あんこうチームととらさん分隊、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々が上陸する。

 

「ああ、舩坂くんか………」

 

「如何だい、西住総隊長。特二式内火艇を参考に、水陸両用に改造してみたよ」

 

敏郎が反応すると、ナカジマが説明する様にそう言う。

 

「おおお~~~っ! この姿は正に特二式内火艇ですねっ!!」

 

優花里が、舟の様な姿となっているⅣ号とM3リーの姿を見て、興奮した様子を見せる。

 

「コレ、浮くんですか?」

 

「そりゃ、水陸両用ですから! 浮かないと困っちゃいますよ!」

 

梓がそう尋ねると、藤兵衛が当然と言う様にそう返す。

 

「まあ、それをコレからテストするところだったんだがね」

 

「じゃあさ、じゃあさ! 私達にやらせてよっ!! 私達の戦車なんだから良いでしょう?」

 

と、敏郎がコレからテストに入ると言うと、沙織が手を上げながらそう言う。

 

「うむ、確かに水陸両用仕様の際の操作性を確かめる意味でも、その方が都合が良いか………分かった、お願いしようか」

 

敏郎は顎に手を当てて少し思案したかと思うと、沙織の申し出を許可した。

 

「やったーっ!」

 

「わ~、面白そう~」

 

喜びの声を挙げる沙織と優季。

 

「そうだな………あの島辺りまで行って帰って来てくれれば十分なデータが取れると思うよ」

 

敏郎がそこで水平線を見やると、やや沖の方に見えている島影を指差してそう言う。

 

「それじゃあ皆さん。搭乗して下さい」

 

みほがそう言うと、あんこうチームとウサギさんチームの面々は、水着姿のままで水陸両用に改造されたⅣ号とM3リーへと乗り込む。

 

「うむ………丁度良いな」

 

それを見た弘樹が、何かを思いついた様な表情となる。

 

「弘樹?」

 

「如何しました?」

 

「な~んか、猛烈に嫌な予感がするんだけど………」

 

地市と楓がそんな弘樹の姿に首を傾げ、了平が某男塾のサザエさんヘアの男の様な台詞を口にする。

 

「Ⅳ号とM3リーに続き、我々も島へと遠泳をするぞ!」

 

そこで弘樹が、とらさん分隊の面々とハムスターさん分隊の面々にそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」」

 

「やっぱし~っ!!」

 

戸惑いの声が挙がり、了平に至っては泣き出している。

 

「歩兵の最大の資本は身体だ。水泳は全身が鍛えられて肺活量の向上も見込める素晴らしい運動だ。高々10数キロ泳ぐくらいで喚くんじゃない!」

 

「いや、喚くだろ、普通………」

 

演説する様に弘樹がそう言い放ち、白狼がボソリとツッコミを入れる。

 

「安心しろ。限界になった者は同行してもらう戦車の上に乗って良しとする」

 

「ど、如何しよう?………」

 

「舩坂先輩がああ言ってるし………」

 

「やるしかないデス」

 

勇武、竜真、ジェームズが小声でそう言い合う。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!! 燃えて来たっす! ガーッツッ!!」

 

「体力作りには良いですね」

 

「2人の前向きさが羨ましいなぁ………」

 

正義はファイトを燃やし、誠也は平然としており、光照がそんな2人を見て羨ましそうに呟く。

 

「前進。ゆっくりと水に入って下さい」

 

「ん………」

 

「桂利奈ちゃん、お願いね」

 

「アイー!」

 

とそこで、Ⅳ号とM3リーが発進し、そのまま海へと進んで行く。

 

取り付けられたフロートにより、その車体が海面に浮き始めると、後部のフロートに内蔵されたエンジンが起動し、スクリューが回り始める。

 

そのままⅣ号とM3リーは、海の上を進んで行くのだった。

 

「成功だ」

 

「よっしゃあっ!」

 

敏郎が満足そうに笑い、ナカジマがグッとガッツポーズを取る。

 

波に揺られながら、Ⅳ号とM3リーは洋上を島目指して進んで行く。

 

「よ~し、我々も行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう言うと、最早逆らえる流れではなく、とらさん分隊とハムスターさん分隊の面々は、Ⅳ号とM3リーの後を追う様に遠泳へと身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

あんこうチームとウサギさんチーム。

 

そしてとらさん分隊とハムスターさん分隊の面々は………

 

無事に、沖合に浮かんでいた島へと辿り着いていた。

 

「ゼエ………ゼエ………」

 

「ハア………ハア………」

 

「こんなに泳いだのは………初めてです」

 

若干疲労の色が見えているハムスターさん分隊の面々。

 

「…………」

 

そして完全に死んでいる了平。

 

「オイ、了平。後輩達だって泳ぎ切ったと言うのに、何だその様は?」

 

「…………」

 

弘樹がそう言い放つが、了平からは返事が無い。

 

只の屍の様だ。

 

「この島は………」

 

とそこで、キューポラから姿を見せていたみほが、改めて島の様子を見てそう声を挙げる。

 

弘樹達とみほ達が上陸した島は、廃墟と化しているビルや住居、港湾や軍事基地と思われる施設が連なり………

 

まるであの『軍艦島』の様な状態となっている。

 

「………旧日本軍の基地跡か」

 

そんな島の様子を見て、弘樹はボソリとそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に南の島でバカンスが始まった大洗機甲部隊。
グラビアの仕事を済ませ、皆思い思いにバカンスを楽しむ中………
水陸両用に改造されたⅣ号とM3リーのテストに付き合っていたとらさん分隊とハムスターさん分隊の面々は、孤島にあった廃墟………
旧日本軍の基地跡へと辿り着くのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第54話『パシフィック高校です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第54話『パシフィック高校です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック機甲部隊との対戦場所が南の島に決まり………

 

その地を訪れた大洗機甲部隊の面々は、対戦を前にビーチでのバカンスと洒落込む。

 

思い思いに楽しむ中、自動車部と整備部が水陸両用に改造したⅣ号とM3リーのテストを行おうとしているのを発見したあんこうチームとウサギさんチーム。

 

改造されたⅣ号とM3リーのテストを兼ね、とらさん分隊とハムスターさん分隊を連れて、沖合に見えていた島へと冒険に出る。

 

だが、上陸したその島は………

 

まるで軍艦島の様な廃墟の広がる………

 

旧日本軍の基地跡だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧日本軍の基地跡の残る島………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

廃墟の広がる島を前に、言葉を失っているあんこうチームとウサギさんチーム。

 

そして、とらさん分隊とハムスターさん分隊の面々。

 

『随分な所に迷い込んだみたいだな』

 

「!? 平賀さん!?」

 

とそこで、通信機から煌人の声が響いて来て、沙織が驚きの声を挙げる。

 

『その島は見ての通り、旧日本軍が駐留していた。第一次世界大戦が終わった後に開発が始まり、当時は最新鋭だった高層建物を幾つも建築し、漁業等を盛んにした一種の人工島だったらしい』

 

「本当に軍艦島みたいですね」

 

『だが太平洋戦争が始まると、この島も戦火に巻き込まれ、最終的には廃墟となり、今では誰も住んでは居ないし、存在自体も粗忘れ去られているそうだ』

 

「忘れられた島………か」

 

「何か、物悲しいですね………」

 

煌人の説明に、白狼と飛彗がそんな事を呟く。

 

「………少し散策してみるか」

 

とそこで、弘樹がそんな事を提案した。

 

「舩坂くん?」

 

「ちょっと………興味が湧いてな………」

 

みほがそんな弘樹の事を見やると、弘樹は廃墟の方を見やりながらそう呟く。

 

祖先の血だろうか?………

 

「賛成ー!」

 

「何だか面白そうですよね」

 

「特撮の撮影場所みたい~!」

 

そんな弘樹の提案に、あや、優季、桂利奈が無邪気に賛成を示す。

 

「けどよぉ、西住ちゃん達は戦車に乗ってるから良いけど、俺達はこの恰好で行くのか? 危なくね?」

 

そう弘樹に言う了平。

 

現在、とらさん分隊とハムスターさん分隊の面々は水着姿であり、廃墟を散策するには不適切で有った。

 

「その点は問題無い………」

 

すると、弘樹はⅣ号のフロートの中を漁り始めたかと思うと、戦闘服を取り出す。

 

「!? 何でっ!?」

 

「真田整備部長が『こんなこともあろうかと』と言って用意してくれていたんだ」

 

「あの人、どんだけ用意周到なんだよ………」

 

敏郎の用意周到さに、地市が呆れる様にそう言う。

 

「さあ、早く着替えろ」

 

既に戦闘服姿となった弘樹が、皆に向かってそう呼び掛ける。

 

一同は諦めた様に戦闘服を着込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の島を散策するあんこうチームとウサギさんチーム、とらさん分隊とハムスターさん分隊の面々。

 

「あ、コレ新聞じゃないですか?」

 

とそこで、勇武が新聞だったらしき紙の一部を見つける。

 

「日付は………昭和14年っ!?」

 

「Oh、戦前の物デス」

 

辛うじて判別できた日付が、昭和14年となっているのを見て、竜真とジェームズがそんな事を言い合う。

 

他にも、廃墟の彼方此方に、子供が描いたと思われる落書きが残って居たり、汚れたこけしや達磨等が転がっており、人が居たという痕跡を残していた。

 

「色んな物が落ちてるな………」

 

「多分、島が戦場になる前に慌てて避難したので、家財などはそのままだったんでしょう………」

 

白狼がそう呟くと、飛彗がそう推論を述べる。

 

やがて一同は、漁港と思わしき港湾施設に出る。

 

海や防波堤等の上に釣り船や漁船として使われていたと思われる木造の舟の残骸が散らばっている。

 

「ココも完全に廃墟ですね」

 

「何だか………物悲しい光景ですね」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

誠也と楓がそう言い合い、他の一同もそう思っているのか、沈黙で肯定する。

 

「? アレ? 舩坂先輩?」

 

「…………」

 

とそこで正義が、弘樹が一同の輪の中から離れ、1人湾内に在ったとある舟の残骸を見やっている事に気付く。

 

弘樹が見やっている舟の残骸………

 

それは、旧日本軍が使用していた上陸用舟艇………『大発動艇』、通称『大発』であった。

 

「…………」

 

ボロボロの大発の残骸をジッと見据えている弘樹。

 

その姿は声を掛けづらい空気を出している。

 

「お、オイ、地市。お前声を掛けろよ」

 

「嫌だよ、お前こそ掛けろよ」

 

現に、了平と地市がそんな弘樹に声を掛けようとして互いに尻込みしている。

 

「あ、あの!………舩坂くん!」

 

「!?」

 

すると、そんな2人に代わる様に、Ⅳ号のキューポラから姿を見せていたみほが声を掛け、弘樹は我に返る。

 

「だ、大丈夫? 何だか難しい顔してたけど………」

 

「ああ、すまない………少しボーっとしていた様だ」

 

「そ、そう………なら良いけど」

 

「今戻る」

 

みほとそう遣り取りすると、皆の元へと戻ろうと歩き出す弘樹。

 

その弘樹のバックは廃墟………

 

廃墟を背に堂々と弘樹は堂々と歩いてくる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その瞬間に、みほ達の脳裏には、弘樹の背後で炎が燃え上がり、弘樹の姿がシルエットになってアップされると言う光景が思い浮かぶ。

 

「? 如何した?」

 

ボーっとしていたみほ達に、今度は弘樹が声を掛ける。

 

「あ、いや、その………」

 

「何て言うか、その………」

 

「炎の臭いが染みついてむせてきそうだったぜ」

 

みほがしどろもどろになり、地市と白狼がそう言い放つ。

 

「??」

 

ワケが分からず、弘樹は只首を傾げるだけだった。

 

「そう言えば………パシフィック機甲部隊との試合会場は、此処みたいに海を跨いで点在する島々だそうですね」

 

とそこで、清十郎が思い出した様にそう言う。

 

「うむ………海が多いこのフィールドで、パシフィックは如何動いてくるのか………」

 

それを聞いた弘樹は、今度は水平線に視線を移し、そんな事を呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の一同も、鉱関機甲部隊を破ったパシフィック機甲部隊の事を思い出し、内心で多かれ少なかれ戦慄を覚えていた。

 

「………そろそろ戻ろうか? 皆も心配するだろうし」

 

そこでみほが、場の空気を変える様にそう言い放つ。

 

「………そうだな。戻るか」

 

「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそれに賛同すると、他の一同も賛同し、思い思いの敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洋上………

 

戦闘服を来た弘樹達は、海の上を進んでいるⅣ号とM3リーにタンクデサントし、帰路に就いて居る。

 

と、もうすぐ最初にいたビーチのある島へと辿り着こうとしていたところ………

 

「………!?」

 

キューポラから姿を見せ、海を見渡していたみほが、何かに気付いた様な表情を見せる。

 

「? 如何した? 西住くん?」

 

それに気づいた弘樹が、そう尋ねながらみほが見ている方向を見やる。

 

その方向の遠方の海面に、矢鱈と海鳥が集まっている場所が在る。

 

そして良く目を凝らすと、そこには………

 

波に揺られる様にプカプカと浮いている人影が在った!

 

「!? 人が浮かんでいるぞっ!!」

 

「ええっ!?」

 

「オイオイ、どざえもんかよ」

 

弘樹がそう声を挙げると、勇武と了平が驚きを露わにする。

 

「まだそう決まったワケじゃないよ! 助けないとっ! 麻子さんっ!!」

 

「任せろ………」

 

しかし、みほはまだ生きている可能性は有ると思い、Ⅳ号をその人影の元へと向かわせる。

 

「桂利奈ちゃん! 私達も!」

 

「あいーっ!!」

 

M3リーもその後に続く。

 

やがて、その人影の元へと辿り着くみほ達。

 

人影は、水着姿の女性だった。

 

「しっかりして下さいっ!」

 

「地市! ロープだっ!!」

 

みほがそう声を掛け、弘樹が飛び込もうとしながらロープを用意する様に地市に言う。

 

と、その瞬間!!

 

「………うん?」

 

何と!!

 

その浮かんでいた女性が、何事も無かったかの様にムクリと起き上がった。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚いて声も出ないみほ達。

 

「………はいさい!」

 

そんなみほ達に向かって、沖縄の方言の挨拶をする女性。

 

「あ、あの………大丈夫、なんですか?」

 

漸く我に返ったみほが、女性に向かってそう尋ねる。

 

「ん? 何が?」

 

「いや、漂流してたんじゃ………」

 

「えっ? 漂流? 私が?」

 

みほの言葉に、女性は首を傾げるばかりだ。

 

「私は昼寝してただけだよ?」

 

「ひ、昼寝っ!?」

 

「海に浮かびながらか?………」

 

あっけらかんとそう言い放つ女性に、みほは絶句し、弘樹は呆れる様にそう言う。

 

「そっ。波に揺られてるとすっごく気持ち良くて、すぐに眠れるんだ。夢見心地も良いし」

 

「そうか………」

 

ケラケラと笑いながらそう言う女性に、弘樹は頭痛がするのを感じて頭を抱えるのだった。

 

「それにしても………面白い戦車だな」

 

するとそこで、女性は水陸両用に改造されているM3リーの方へと近づくと、海からその車体の上へと上がった。

 

「よっ、と」

 

「うわっ!?」

 

「お、大きいっ!?」

 

勇武と梓が思わずそんな声を挙げる。

 

2人の言葉通り、海中に居た時は分からなかったが、この女性………

 

身長が優に2メートルを超えている。

 

モデルも真っ青な体系である。

 

ウサギさんチームとハムスター分隊の面々は、完全にその長身に圧倒されている。

 

と、そこへ………

 

海面の一部が盛り上がったかと思うと、巨大なサメが海上へと姿を現す!!

 

「!?!?」

 

「さ、サメだぁーっ!?」

 

「うわぁっ!? 食われるぅっ!!」

 

一瞬にして阿鼻叫喚となるハムスターさん分隊ととらさん分隊の面々。

 

「待てっ!」

 

しかし、弘樹は何かに気づいた様にそう呼び掛ける。

 

「おっと! ワリィワリィ! 驚かせちまったみてぇだな!!」

 

そこでそう言う声が聞こえて来たかと思うと、サメが持ち上がり、その下からサメを抱えて立ち泳ぎをしているこれまた2メートル近い長身の男が姿を見せた。

 

如何やら、このサメは彼が仕留めた獲物らしい。

 

「サ、サメを捕ったのか?」

 

「カマボコにすると美味いんだぜ」

 

了平がビビリながらそう言うと、男は爽やかな笑みを浮かべてそう返す。

 

「! あ! アレは!?」

 

とそこで、清十郎が何かに気付いた様に声を挙げ、水平線を指差す。

 

その指差している先には………

 

「イエース! アイアームッ!!」

 

ビッグウェーブにサーフボードで波乗りしている、小麦色の肌をしたサングラスの男の姿が在った!

 

そのまま見事なサーフテクを披露する男。

 

「スッゲェ………」

 

「オーイッ! 『シイラ』ーッ!!」

 

地市が感嘆の声を挙げた瞬間、サメを抱えていた男が、サーフィンをしている男に呼び掛ける。

 

「おっ? 『ホージロー』!  また大物仕留めたじゃないかっ!!」

 

サーフィンをしていた男………『シイラ』は、みほ達の元へとやって来たかと思うと、サメを抱えている男………『ホージロー』を見てそう言う。

 

「そっちも相変わらず見事なサーフテクね」

 

そこで今度は、M3リーの上に居た女性が、シイラにそう声を掛ける。

 

「おう、何だ。『ローレライ』も居たのか」

 

シイラはその女性………『ローレライ』を見てそう言う。

 

(この人達………どこかで見た様な?………)

 

シイラ、ホージロー、ローレライの3人に見覚えを感じるみほ。

 

と、その時………

 

突然先程まで真っ青だった空に、黒い暗雲が立ち込め始めた。

 

「? 空が………」

 

梓がそう言い掛けた瞬間!!

 

まるでバケツを引っくり返した様な猛烈な雨が降り始める!!

 

「キャアッ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「何だこりゃあっ!?」

 

「夕立かっ!?」

 

「イタイタイタイタッ! 雨粒が痛いっ!!」

 

突然の豪雨に、大慌ての一同。

 

「キャーッ!?」

 

「何コレーッ!?」

 

「こんな凄い雨初めてーっ!?」

 

見れば、ビーチに居た面々も雨に打たれ、悲鳴を挙げている。

 

「あらあら、大変ね」

 

「こっからなら、俺達の学園艦が近い。そこで雨宿りして行け」

 

そこで、同じ様に雨粒に打たれているにも関わらず平然としているローレライとシイラがそう提案する。

 

「学園艦?」

 

「ああ、『パシフィック学園艦』だ」

 

「!? パシフィックだと!?」

 

ホージローがそう言い放ったのを聞いて、弘樹が驚きの声を挙げる。

 

(!? そうだ! この人達………パシフィック機甲部隊の隊員の人達だ!!)

 

そこでみほも、鉱関機甲部隊との試合で、パシフィック機甲部隊の中に、3人の内、ローレライとホージローの姿が在ったのを思い出す。

 

戦闘服姿でなかった為、イメージが変わっていて気付かなかったのだ。

 

「さ、案内するわ」

 

「水着とは言え、雨に打たれてたら風邪ひくぜ」

 

「ついて来て下さい」

 

そんなみほ達や弘樹達の様子に気づいているのかいないのか、ローレライ、ホージロー、シイラは、大洗機甲部隊の面々を自分達の学園艦へと案内しようとする。

 

雨足は激しさを増しており、一同は止むを得ないと考え、大人しくその後へと付いて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーチ近くの港に停泊しているパシフィック学園艦………

 

この学園艦の甲板都市は、全てがリゾート地の様な構造になっており、天気の良い日には水着姿で出歩く人達の姿もちらほらとあるらしい。

 

それが理由で、新入生の数もかなり多いらしい。

 

大洗機甲部隊の面々は、その甲板都市の一角………

 

『はいさい』と言う名の料亭へと案内された。

 

沖縄料理が専門の料理店らしく、店内は沖縄に関係する飾りが沢山あったり、琉琴の音色も聞こえてくる。

 

「いらっしゃいっ! ウチの自慢の沖縄料理! 存分に味わっていってくれよな!」

 

店の奥から店長らしき人物が出て来て、其々に席に着いて居た大洗機甲部隊の面々へメニューを手渡しながらそう言う。

 

「テビチ、ソーキそば、ヒージャーそば、ゆしどうふ、あおさの天ぷら………」

 

「本当に沖縄料理ばかりだな」

 

「あ! すいません! ゴーヤーチャンプルー、1つ!」

 

メニューの中を見た大洗機甲部隊の面々からそんな声が挙がり、取り敢えず雨が上がるまでは動けないと思い、次々に注文を始める。

 

「あ、あの………」

 

「ん? 何?」

 

そんな中、みほは近くの席に着いて居たローレライに声を掛ける。

 

「えっと、その………わ、私達、実は………」

 

「ああ、大洗の子達でしょ」

 

「!? ええっ!?」

 

正直に言おうとしたみほの言葉を遮る様にローレライがそう言い、みほは驚きの声を挙げる。

 

「し、知ってたんですか!?」

 

「なら、如何して我々を学園艦に上げたのですか!?」

 

「別にそれぐらい良いじゃない」

 

みほと優花里の言葉に、ローレライはあっけらかんとそう答える。

 

「お待ちどうさん!」

 

とそこで、完成した料理を、店長が注文した人の場所へと配膳し始める。

 

「さ、難しい話は後々!」

 

「雨が止むまでは此処でゆっくりして行って下さい」

 

早速運ばれてきた料理に手を付けているホージローとシイラが、大洗の面々に向かってそう言う。

 

「今は彼等の言う通りだね。食事を楽しもうじゃないか」

 

そこで迫信がそう言うと、大洗の面々は色々と思うところがありながらも、出された料理に手を付け始めるのだった。

 

「! 美味いっ!」

 

「スッゲェうめぇな、オイ!」

 

「沖縄料理ってこんな美味かったのかっ!!」

 

「うーまーいーぞーっ!!」

 

と、料理に手を付け始めた面々が、忽ち舌鼓を打ち始める。

 

「店主殿。もしよろしければレシピを教えて頂けないだろうか?」

 

「ええ、良いですよ」

 

美食家のゾルダートは、店長にレシピを尋ねる。

 

「…………」

 

弘樹も、注文したフーチバージューシーを黙々と食べている。

 

その時………

 

「ただいまーっ」

 

厨房の奥、店の裏口の辺りから、そう言う声が響いて来た。

 

「ああ、おかえり」

 

「おっ? 『カジキ』の奴、帰って来たみたいだな」

 

「ですね」

 

それを聞いた店長が裏口の方へと向かい。ホージローとシイラがそう声を挙げる。

 

「『カジキ』?」

 

「俺達の隊長さ」

 

白狼の声に、ホージローがそう返す。

 

そこで、店の裏口が開き、大量の魚の入った網を持った、またもや2メートルを超えているであろう男が姿を見せた。

 

「うわっ、またデカイ奴が来たな、オイ………」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

地市がそんな事を言い、ハムスターさん分隊の低身長組も戦慄しているかの様な様子を見せる。

 

「コレ、今日の分です」

 

「ああ、いつもありがとうね」

 

そう言って男………『カジキ』は、手に持っていた大量の魚の入った網を店長に渡す。

 

「? 何だ? 妙に騒がしいですね?」

 

とそこで、店内が騒がしい事に気づいてそう言う。

 

「ああ、ローレライちゃん達がお客さんを連れて来ていてね。今度の対戦相手の大洗の人達だとか………」

 

「!? 何ですって!?」

 

それを聞いた途端、カジキは人が変わった様な顔となり、店長を押し退ける様にして店内へと入る。

 

「カ、カジキくん!?」

 

「オイ、如何した、カジキ?」

 

突如豹変したカジキに店長が驚き、ホージローも怪訝な顔をする。

 

大洗の一同も、思わず食事の手が止まり、一斉にカジキへ注目する。

 

「…………」

 

そんな大洗の一同の視線を一身に受けながらも、カジキは意に介した様子は見せず、誰かを探す様に大洗の一同を見回す。

 

「…………」

 

そしてその視線が、変わらずにフーチバージューシーを黙々と食べている弘樹を捉える。

 

「!!」

 

即座にカジキは、弘樹の元へと歩み寄る。

 

そしてその傍に立つと、弘樹を睨みつけるかの様に見下す。

 

「………何か用か?」

 

そこで弘樹は漸く食事の手を止め、カジキの事を見上げる。

 

カジキの敵意の籠った視線に微塵も反応を見せず………

 

「お前が………あの舩坂 弘の子孫か?」

 

弘樹に向かってそう尋ねるカジキ。

 

「だったら何だ?」

 

対する弘樹は素っ気ない返事を返す。

 

まるでカジキの事など、初めから眼中に無い様に………

 

すると………

 

「こんな奴があの英霊を継ぐ者だというのか………いい加減な事を言うなっ!!」

 

カジキは突然怒鳴り声を挙げ、拳をテーブルに叩き付けたっ!!

 

余りの衝撃で、テーブルの上の料理の乗った皿やどんぶりが引っくり返す。

 

「!?」

 

「何だぁっ!?」

 

「カジキッ!?」

 

「ちょっ!? 何やってるの!?」

 

突然のカジキの行動に、大洗の一同とホージロー達は慌てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょんな事から、対戦相手であるパシフィック機甲部隊のメンバーと出くわし………

 

その学園艦にまで案内された大洗の一同。

 

しかし、そこで出会ったパシフィック機甲部隊の歩兵部隊総隊長である『カジキ』は、弘樹に激しい敵意を向ける。

 

果たして、その理由は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

廃墟の島での探索の帰りに、海に浮かぶ長身の女性………『ローレライ』と出会うみほ達と弘樹達。
更に、長身の男性………『ホージロー』と『シイラ』も現れる。
何と!
彼等はパシフィック機甲部隊の隊員だった。

成り行きでパシフィックの学園艦にお邪魔する大洗機甲部隊の一同。
そこで出会ったパシフィック歩兵隊の隊長『カジキ』は、弘樹に激しい敵意を向けるのだった。
一体何故?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第55話『潜入作戦パート2です(前編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第55話『潜入作戦パート2です(前編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南の島のビーチでバカンスを楽しんでいたみほ達と弘樹達は………

 

廃墟となっていた軍艦島の探索を終えて帰る途中………

 

海に浮かび、波に揺られて昼寝をしていた2メートル以上の長身の女性『ローレライ』と………

 

同じく2メートルの長身を誇る男性2人、『ホージロー』と『シイラ』と出会う。

 

直後に突然の豪雨に見舞われた大洗機甲部隊の一同は、雨宿りの為にローレライ達の学園艦へと連れられる。

 

その学園艦の名は『パシフィック学園艦』

 

そう、今度の対戦相手である『パシフィック機甲部隊』の所属する学園艦だった。

 

余裕が有るとでも言いたいのか、大洗機甲部隊の面々を馴染みの料理屋に案内し、一緒に沖縄料理の食事を楽しむローレライ達。

 

しかし、そこで現れたパシフィック歩兵部隊の総隊長『カジキ』は、何故か弘樹に対し、いきなり敵意を向けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック学園艦甲板都市………

 

料亭『はいさい』………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

先程まで和気藹々としていた雰囲気は一気に吹き飛び、大洗機甲部隊の面々は緊張した面持ちで弘樹とその彼に敵意を向けているカジキを見やっている。

 

「…………」

 

しかし、当の弘樹は、カジキからの露骨な敵意に対し、何のリアクションも見せていない。

 

「貴様………何とか言ったら如何だっ!!」

 

そんな弘樹の態度に、カジキは更にイライラを募らせる。

 

「…………」

 

それでも尚ノーリアクションの弘樹。

 

「貴様っ!!」

 

とうとうカジキは弘樹の戦闘服の胸倉を掴み、無理矢理席から立ち上がらせる!

 

「! オイオイ! 待てって!!」

 

「カジキ隊長! 駄目ですっ!!」

 

そこでホージローとシイラが慌てて止めに入る!

 

「離せ! ホージローッ!! シイラッ!!」

 

「落ち着けって、カジキ!」

 

「対戦相手を試合前に怪我させたなんて事になったら、最悪出場停止ものですよっ!!」

 

尚も弘樹に食い掛かろうとするカジキを、ホージローとシイラは両脇を抱える様にして引き剥がす。

 

「………何がそんなに気に入らない」

 

弘樹は戦闘服に寄った皺を伸ばしながらカジキに向かってそう尋ねる。

 

「………グロリアーナとブリティッシュ、天竺の親善試合。そしてサンダースとカーネルの一回戦の試合………大洗の活躍は………余りにも無様過ぎる!」

 

「!?」

 

「何だとぉっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

想いも寄らぬカジキの言葉に、みほは驚き、桃が怒声を挙げ、大洗機甲部隊の面々は全員が座っていた席から立ち上がった。

 

「あの伝説の英霊なら、絶対にあんなマネはしない! 西住流と共に、かつて弱小校であった黒森峰を強豪校へと導かせる程の侠(おとこ)だった………」

 

そんな大洗機甲部隊の一同の事など意にも介せず、握った拳をワナワナと震わせながらそう言葉を続けるカジキ。

 

「多くの歩兵道者達にとって、舩坂 弘は尊敬するべき存在であり、目指すべき目標だ………それなのに………その侠の孫が………」

 

「…………」

 

そう言って弘樹を睨むカジキだが、此処へ来ても尚、弘樹はノーリアクションだった。

 

「英霊を継ぐ者など、実際には歩兵道には幾らでも居る………どいつもこいつも………口先ばかりの情けない連中だ」

 

「…………」

 

「弁明も無いか………やはり貴様は英霊の子孫などでは無い!」

 

その弘樹の態度を見て、カジキはそう言い放つ。

 

だが………

 

「………哀れだな」

 

「!? 何だとっ!?」

 

次に弘樹の口から出たのは、哀れみの言葉だった。

 

「小官とて、御先祖様の事は尊敬しているし、誇りにも思っている………だが、貴様のソレは只の妄信だ。英霊と言う言葉に惑わされているに過ぎん」

 

更に苛立つ様なカジキに向かって、弘樹は淡々とした態度でそう言い放つ。

 

「! 貴様ぁっ!!」

 

「おうわっ!?」

 

「隊長っ!?」

 

その言葉で遂にカジキはホージローとシイラを振り解き、弘樹に殴り掛かろうとする。

 

「止めなさい! カジキッ!」

 

「!!」

 

しかしそこで、ローレライが弘樹とカジキの間に割って入り、カジキはローレライに当たる寸前のところで、拳を止める。

 

「いい加減にしなさい。彼に何か言いたい事があるなら、試合で語りなさい。それが歩兵道者と言うものでしょう。違う?」

 

そんなカジキの事を見ながら、ローレライは毅然とした様子でそう言い放つ。

 

「…………」

 

カジキは暫し悩む様な様子を見せたかと思うと、ローレライの眼前に出していた手を、所在無さ気に引っ込めた。

 

「………この借りは試合で返す」

 

「…………」

 

弘樹を見ながらそう言い放つカジキだが、弘樹はやはりノーリアクションである。

 

「っ!!………」

 

そんな弘樹を再び睨みつけたかと思うと、カジキは再び裏口から店外へと出て行ったのだった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残された大洗機甲部隊の一同は茫然となる。

 

「ゴメンナサイ。カジキは歩兵道に人一倍打ち込んでるから………」

 

そんな大洗機甲部隊の一同に向かって、ローレライがそう謝罪する。

 

「お詫びと言ったら何だけど、ココの代金は私とホージロー達で持つから」

 

「!? ちょっ!?」

 

「ローレライ! そりゃねえよっ!!」

 

突然そんな話を振られ、シイラとホージローが慌てる。

 

「連帯責任」

 

しかし、ローレライは『イイ笑顔』でシイラとホージローにそう言い放つ。

 

「「トホホ………」」

 

シイラとホージローはその言葉通りの顔となり、しょんぼりする。

 

「よっしゃあっ! 奢りだ! 奢り!」

 

「食って食って食いまくるぞぉーっ!!」

 

そんな2人を余所に、代金の心配をしなくて良くなった大洗歩兵部隊の面々は、次々に料理を注文し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

雨もすっかり上がり、食事を終えた大洗機甲部隊の一同は、パシフィックの学園艦を後にし、大洗学園艦の帰路に着く。

 

「………あ、あの、舩坂くん」

 

「? 何だ?」

 

と、その道中、みほが弘樹に声を掛ける。

 

「えっと、その………だ、大丈夫?」

 

少々口籠りながらも、弘樹にそう尋ねるみほ。

 

「?………ああ、さっきの事か」

 

一瞬、みほが何の事を言って居るのか理解出来なかった弘樹だが、先程のカジキとの遣り取りを思い出し、もしかしてその事かと言う。

 

「別に気にしちゃいない。あの手合の事を言われたのは初めてというワケじゃない。コレまで数え切れない程に言われてきた」

 

「そう………なんだ」

 

そう言われて、みほは悲しげな顔になる。

 

自分も戦車道・西住流の人間であり、似た様な事を言われて来た経験がある為、弘樹の事が他人事には思えなかった。

 

「あの男にも言った様に、御先祖様の事は尊敬しているし、誇りにも思っている。だが、小官は小官だ。小官なりの歩兵道を貫く………それだけだ」

 

「でも、あのカジキさんって人………試合できっと舩坂くんの事を狙って来るよ」

 

「その時はただ戦うだけだ。奴も言っていたが、歩兵道に付けられたケチは歩兵道で返す………それが歩兵の流儀と言うものだ」

 

一片の揺るぎも無い顔でそう言い放つ弘樹。

 

「…………」

 

そんな弘樹の顔に、みほは思わず見惚れる。

 

「? 如何した?」

 

「!? う、ううんっ!? な、何でも無いよっ!!」

 

「? そうか?」

 

それに気づいた弘樹が声を掛け、みほは慌てて誤魔化すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び小一時間後………

 

大洗学園艦・大洗女子学園………

 

戦車格納庫内にて………

 

帰還するや否や、すぐにパシフィック機甲部隊との戦いに備えた戦略会議を始める大洗機甲部隊の一同。

 

「諸君。本日、思わぬ形でパシフィック機甲部隊のメンバーと出会う形になったが………彼等とは近い内に試合を行う事は知っての通りだ」

 

集まっている大洗機甲部隊のメンバーを前に、迫信がそう言葉を発する。

 

「パシフィック高校は無名校でしたが、今や他学園からも警戒されているダークホースとなっています」

 

続いて柚子が、迫信の言葉を補足する様にそう言う。

 

「みぽりん、パシフィック機甲部隊が使ってる戦車ってどんなのなの?」

 

とそこで、集合しているメンバーの中で、沙織が手を上げながら、一同の前に居たみほにそう尋ねた。

 

「それが、パシフィックは試合ごとに使う戦車を変えてて、試合ごとに編成が違ってるの」

 

「手の内を簡単には晒さないと言うワケか………」

 

みほが申し訳無さそうにそう答えると、白狼が苦々しげにそう呟く。

 

「歩兵部隊については如何なんだ?」

 

すると今度は、大詔がそう尋ねる。

 

「やはり突撃で突っ込んでの接近戦に持ち込み、高身長で圧倒するって戦術が基本となっていますね」

 

清十郎が、一同の前面に用意していたホワイトボードに、パシフィックの試合の様子を撮影したと思われる写真を張り付ける。

 

そこには、高身長のパシフィック歩兵部隊の隊員達が、接近戦に持ち込んだ相手の歩兵部隊の隊員達を、身長差でまるで蹂躙するかの様に蹴散らしている姿が写されていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

その写真の様子に、真竜を始めとしたハムスターさん分隊の低身長メンバーの顔に不安が浮かぶ。

 

平均的な身長である歩兵達が蹂躙されているのだ。

 

低身長な自分達が襲われたら、それこそ如何なるか分からない………

 

そう考えると、僅かに身体が震えて来る真竜達。

 

「そう言えば、歩兵部隊の人達だけじゃなくて、戦車部隊の人達も凄く大きかったよね」

 

とそこで、優季が思い出したかの様にそう言う。

 

先程出会ったローレライと言う女性も2メートルもの身長があり、先の鉱関機甲部隊の時に見かけた戦車部隊のメンバーだと思われる女性2人も、2メートル近い身長を誇っていた。

 

戦車に乗って居る為、その身長が直接的な脅威となるワケではないが、それでも威圧感はバッチリである。

 

「…………」

 

「? 紗希ちゃん、如何したの?」

 

そこで、あやが紗希に声を掛ける。

 

いつもボーっと上の空で、皆とは違う方向を向いている事が多く、何を考えているのか分かり難いところがある紗希だが、この時ばかりは明らかに不安そうな表情をしていた。

 

「…………」

 

しかし、言葉を発する事は無いので、それが何故なのかまでは窺い知る事が出来ない。

 

「やはりまだ情報が不足しているな………」

 

「せめて今度の試合で使って来る戦車の種類だけでも分かりゃあなぁ………」

 

まだパシフィック機甲部隊に関する情報が不十分な事に、十河と俊が愚痴る様にそう呟く。

 

「…………」

 

すると、それを聞いていた優花里が、何かを決意した様な表情となる。

 

「! 秋山先輩、ひょっとして………」

 

と、そんな優花里の姿を見た梓も、何かに気付いた様な顔をする。

 

「………ね、皆。ちょっと良い」

 

「? 何っ?」

 

「何ですか?」

 

そこで梓は、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々に声を掛け、何やらヒソヒソ話を始める。

 

「…………」

 

そして、同じ様にそんな優花里の様子に気づいていたみほも、何かを考えている顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

昨日の雨が嘘の様な快晴のこの日………

 

パシフィック高校の学園艦が停泊している港に、1つの人影が現れる。

 

「………ではコレより、パシフィックの学園艦に潜入したいと思います」

 

手に持っていたハンディーカメラで自分を映しながらそう言う人影………私服姿の優花里。

 

如何やら、サンダース&カーネル機甲部隊の時と同じ様に、パシフィックの学園艦に潜入して情報を持ち帰る積りの様だ。

 

「幸い今回パシフィック学園艦は近くの港に停泊しており、コンビニ船を使わずに入り込む事が出来そうです。では、突撃します」

 

そう言うと優花里は一旦ハンディーカメラの電源を落とし、パシフィック学園艦へと乗船しようとする。

 

すると………

 

「優花里さん!」

 

「!?」

 

突如背後から声を掛けられ、優花里が驚きながら振り返ると、そこには優花里と同じ様に私服姿のみほが居た。

 

「に、西住殿っ!? 如何して此処に!?」

 

「私も一緒に潜入しますっ!」

 

「!? えええっ!?」

 

驚きながらもそう尋ねる優花里に、みほはそう言い放ち、優花里は更に驚きの声を挙げる。

 

「そ、そんなぁっ!? 西住殿までそんな事をする必要はありませんよ! それにもし見つかったら、試合終了まで勾留されてしまうんですよっ!!」

 

慌てた様子でみほにそう言う優花里。

 

彼女の言葉通り、試合前の偵察活動は戦車道・歩兵道連盟の名の元に許可されているが………

 

もし活動中に相手校の生徒に捕まった場合、試合が終わるまで勾留されるルールとなっている。

 

万が一総隊長であるみほが捕まる様な事になれば、それで大洗機甲部隊の勝利は無くなってしまうと言っても過言では無い。

 

「お願い、優花里さん! 一緒に連れてって!!」

 

しかし、みほの決意は固い様であり、優花里の手を掴んで連れて行けとせがむ。

 

(今回だけは如何しても負けたくない………堅固さん達と………舩坂くんの為にも)

 

その胸中には、パシフィック機甲部隊に敗れ去った鉱関機甲部隊の堅固達。

 

そして、昨日因縁を付けられた弘樹の事が在った。

 

「優花里さん! お願いっ!!」

 

「西住殿………」

 

重ねて頼んで来るみほに、優花里の表情が変わる。

 

「………分かりました。そこまで仰られるのでしたら」

 

「! ありがとう、優花里さん」

 

「ですが! 危ないと思った時には私を置いてでも逃げて下さい! 西住殿は大洗機甲部隊の総隊長なのですから!」

 

やがて優花里が折れる形となったが、そう釘を刺す様にみほに言い放つ。

 

「そんな! 出来ないよ、そんな事!」

 

「舩坂殿でもきっと同じ事を言います!」

 

「!!………」

 

そう言われてみほは黙り込む。

 

「良いですね? 西住殿」

 

「………うん」

 

若干納得が行かない様な顔をしながらも、みほは優花里の言葉に頷いた。

 

「では、行きましょう」

 

改めてみほと共にパシフィック学園艦へ乗り込もうとする優花里。

 

と………

 

「アレッ!? 西住総隊長!?」

 

「総隊長っ!? 如何して此処にっ!?」

 

「「!?」」

 

そう言う声が聞こえて来て、優花里とみほが振り返るとそこには………

 

梓を始めとしたウサギさんチームの面々。

 

そして勇武を始めとしたハムスターさん分隊の姿が在った。

 

「ウサギさんチームの皆!?」

 

「ハムスターさん分隊の皆さんまでっ!?」

 

「ひょっとして、西住総隊長も?」

 

「考える事は一緒ですね」

 

驚きの声を挙げるみほと優花里に向かって、あやと光照がそう言う。

 

「ねえねえ、早く行こうよ!」

 

「その通りっす! パシフィックの情報を持って帰ってやるっす!」

 

そこで桂利奈と正義がそう言うと、パシフィックの学園艦目指して駆け出した!

 

「ああ! ちょっと! 1人で勝手に行っちゃ駄目だってばぁっ!!」

 

「正義! 待てってば!」

 

梓と勇武がそう言いながら後を追い、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の一同は、パシフィック学園艦へと乗り込んで行く。

 

「な、何だか、何時の間にか大所帯に………」

 

「こんな人数で行ったら潜入も何もあったものじゃないですよぉ………」

 

みほがギャグ汗を掻きながら、優花里がガックリと肩を落として愚痴る様にそう呟く。

 

しかし、状況は変えられず、2人もそのままパシフィック学園艦へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話投稿させていただきました。

弘樹に敵意を向けるカジキ。
それは、彼が熱心な歩兵道者であり、弘樹の祖先『舩坂 弘』を尊敬してるが故にだった。

そして、優花里は情報が不足しているパシフィックの事を調べる為に、サンダース&カーネルの時の様に潜入を試みる。
しかし、思わぬ形でみほやウサギさんチーム、ハムスターさん分隊の面々が加わり、事態はややっこしくなってしまうのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第56話『潜入作戦パート2です(中編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第56話『潜入作戦パート2です(中編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の試合会場となる南の島で………

 

パシフィック機甲部隊のメンバーと会合を果たした大洗機甲部隊の面々。

 

成り行きで彼等の学園艦へとお邪魔する事となったが………

 

その際に出会ったパシフィック歩兵部隊総隊長の『カジキ』は、弘樹に激しい敵意を向ける。

 

貴様は英霊の子孫などではない。

 

本物の英霊の子孫なら、あんな危うい戦いはしないと。

 

だが、弘樹はそんなカジキの言葉を妄信と斬り捨てる。

 

思わぬ因縁が生まれた中、自分達の学園艦へと帰還した大洗機甲部隊の一同は、対パシフィック機甲部隊戦に向けた対策を練り始める。

 

しかし、パシフィック機甲部隊の機甲部隊の編制が分からず、作戦が立てられずに居た。

 

そこで、優花里が再び、潜入偵察を試みる。

 

そこへ更に、みほとウサギさんチーム・ハムスターさん分隊のメンバーまでもが加わる。

 

何時の間にか大所帯となってしまったメンバーで、果たして潜入偵察を成功させられるのだろうか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック学園艦・甲板都市………

 

パシフィックの学園艦への乗艦は、アッサリと行った。

 

パシフィック学園艦の甲板都市はリゾート地となっており、普段からかなり開放的になっている為、みほ達は堂々と乗船入口から入り込み、甲板都市に入り込む。

 

しかし………

 

「あ! アレ美味しそうだよ!」

 

「ホントだ! 美味しそう!」

 

「ねえねえ! アレ良くないっ!?」

 

「うん! 良いね良いね!」

 

勇武を筆頭としたハムスターさん分隊の面々と、梓を除くウサギさんチームの面々は、甲板都市のショッピング街へ足を踏み入れた途端………

 

本来の目的を忘れ、まるでバカンス気分であるかの様に買い食いやショッピングを始めてしまった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そんな勇武達やあや達を見て唖然としているみほ、優花里、梓に竜真とジェームズ。

 

「ちょっと皆さん! 本来の目的を忘れていないっすかぁっ!?」

 

「まあまあ良いじゃないか」

 

「そうそう。昨日は良く見て回れなかったから、見て行かないと~」

 

正義がそう声を挙げるが、光照と優季が呑気そうにそう返す。

 

「ど、如何しましょう、西住殿~」

 

「如何しようって言われても………」

 

みほに助けを求める優花里だったが、みほも如何して良いか分からず、困惑するばかりだった。

 

「もう! 皆勝手な事して! 良いよ、もう! 私もショッピングするからっ!!」

 

とそこで、梓も頭に来たのか、そう言い放ってショッピングへと向かう。

 

「ええっ!?」

 

「ちょっ!? 澤サンッ!?」

 

真竜とジェームズが思わず声を挙げる。

 

「如何するっす?」

 

正義がそんな真竜とジェームズにそう尋ねる。

 

「仕方ない………僕達だけでパシフィック高校へ向かおう」

 

それを受けて、真竜は諦めた様にそう決断を下す。

 

「それしかないデス………」

 

ジェームズも、溜息を吐きながらそう言う。

 

「澤さん達は僕が見てますね」

 

「お願いします」

 

「それじゃあ、改めてパシフィック高校へ向かいましょう」

 

誠也がそう言うと、みほと優花里、真竜、ジェームズ、正義のメンバーは、改めてパシフィック高校へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

5人は、パシフィック機甲部隊の本拠地である、『パシフィック高等女子校』と『パシフィック高等男子校』の前へと到着する。

 

「ココがパシフィック機甲部隊の本拠地………パシフィック高等女子校とパシフィック高等男子校みたいですね」

 

物陰に隠れて、両校の外観の様子をカメラに撮影しながらそう呟く優花里。

 

「じゃあ、私達は女子校の方に潜入してみるから、疾河くん達は男子校の方をお願い出来るかな?」

 

竜真達の方を見ながら、みほがそう言う。

 

「分かりました」

 

「やってミマス」

 

「お任せ下さいっす!」

 

竜真、ジェームス、正義はそう返事を返す。

 

「くれぐれも見つからない様に気を付けて下さい。バレて捕まったりしたら、試合が終わるまで拘束されてしまいますから」

 

「分かってます。よし、行くぞ!」

 

優花里がそう注意するのを聞きながら、竜真達はパシフィック高等男子校の方へと向かう。

 

「優花里さん、私達も」

 

「ハイ、参りましょうか」

 

それを見送った後、みほと優花里もパシフィック高等女子校の方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック高等男子校・敷地内………

 

茂みの中を匍匐で移動し、なるべく目立たない様にしている竜真、ジェームス、正義。

 

「多分、部室棟の辺りに居ると思うんだけど………」

 

歩兵部隊の集合場所を部室棟と当たりを付け、それらしき場所を目指してる竜真。

 

「アッ! アレじゃないデスか?」

 

とそこでジェームスが、前方にそれらしき建物を発見する。

 

「よ~し。コッソリ近づいて偵察っす」

 

正義がそう言う中、3人は部室棟と思われる建物へと接近し、とある窓の下で屯する様に止まる。

 

「今度の大洗機甲部隊との試合だが………」

 

すると、その窓の有る部室の中から、そう言う声が聞こえて来た。

 

「如何やら此処みたいだね」

 

「丁度僕達とのファイトに備えての会議をしているみたいデス」

 

「好都合っすね」

 

竜真、ジェームズ、正義は、そのままパシフィック歩兵部隊の会議内容を盗み聞きしようとする。

 

だが、その瞬間!

 

「ふう~、クーラー要らないかと思ったけど、閉め切ってるとやっぱり暑いなぁ」

 

パシフィック歩兵部隊の隊員と思わしき男子が、そう言いながら窓を開け放った。

 

「「「あっ!?」」」

 

「ん?」

 

思わず声を挙げてしまった竜真達を即座に発見するパシフィック歩兵部隊の隊員。

 

(ど、如何するんすか!?)

 

(おおおお、落ち着くデス! 何とか誤魔化すしかないデス!)

 

「あ、えっと………僕達、ボール探してて………」

 

正義とジェームズが慌てながら小声でそう言い合う中、竜真がそう誤魔化そうとしたが………

 

「!? コイツ等! 大洗の歩兵部隊員だぁっ!!」

 

パシフィック歩兵部隊の隊員は、大洗歩兵部隊員の顔を把握していたのか、即座にそう声を挙げる。

 

「「「即行でバレたぁーっ!!」」」

 

「大洗の歩兵だと!?」

 

「スパイか! 捕まえろっ!!」

 

竜真達が悲鳴を挙げると、部室棟の中から次々と2メートル近い身長のパシフィック歩兵部隊の隊員達が出て来る。

 

「! 戦略的撤退ーっ!!」

 

「「!!」」

 

竜真がそう声を挙げ、ジェームズと正義と共に一目散に逃げ出す。

 

「「「「「「「「「「待てーっ!!」」」」」」」」」」

 

その3人を、パシフィック歩兵部隊の隊員達が、土煙を上げながら追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

パシフィック高等女子校へと潜入したみほと優花里は………

 

「此処が戦車格納庫みたいですね………」

 

カメラを回している優花里がそう呟く。

 

2人は、優花里が用意したパシフィック高等女子校の制服に身を包んでいる事もあり、すんなりと戦車格納庫まで潜入する事が出来ていた。

 

「やっぱり、水陸両用やそう改造されてる車両が多いね………」

 

格納庫内に在る戦車を見回しながら、みほがそう呟く。

 

「! あ! 西住殿! アレを!」

 

とそこで、優花里が何かを見つけた様にみほに声を掛ける。

 

「! アレは………」

 

みほはそう言いながら、優花里と共にそれに近づく。

 

それは、大洗のⅣ号やM3リーと同じ様に、水陸両用に改造された2台の『M24軽戦車 チャフィー』だった。

 

「M24軽戦車ですね。私達の戦車と同じ様に、水陸両用に改造されてます」

 

「この中に在る中じゃ、この2両が性能的に1番上………多分、この2両が主力になると思う」

 

水陸両用のM24軽戦車を撮影しながら優花里がそう言い、みほもそう推察する。

 

「ねえ、そこの2人」

 

「「!?」」

 

とそこで不意に背後から声を掛けられ、みほと優花里は驚きながら振り返る。

 

そこには、パシフィック戦車部隊の隊員と思われる女子生徒が居た。

 

(マ、マズイです!)

 

「あ、あの、その! 私達は………」

 

気づかれたのかと思い、慌てる優花里とみほ。

 

「もうすぐブリーフィングだよ。戦車部隊の隊員は全員集合なんだから、行かないと駄目だよ」

 

しかし、そのパシフィック戦車部隊の隊員は、みほと優花里に向かってそう言う。

 

「えっ!?………あ! ハイッ!!」

 

(良かった………バレていないみたいですね)

 

一瞬呆けながらも、ハッと思いやって返事を返すみほと、バレたワケではなかった事に内心で安堵する優花里。

 

「さ、行きましょう」

 

パシフィック戦車部隊の隊員はそう言うと、みほと優花里に背を向けて歩き出す。

 

「西住殿、チャンスです。このままブリーフィングへお邪魔して、作戦の情報を頂いて行きましょう」

 

「ええっ!? それは流石に危険なんじゃ………」

 

優花里がそう提案するも、みほは難色を示す。

 

「大丈夫であります。戦車部隊の隊員と出会ってもバレなかったのでありますから、ブリーフィングに参加するのだって大丈夫であります」

 

先程のパシフィック戦車部隊の隊員の事を挙げながら、優花里は尚もみほへそう促す。

 

「う、うん、確かに………良し! やってみよう!」

 

そう言われてすっかりその気になってしまったみほは、優花里の提案に乗り、パシフィック戦車部隊のブリーフィングへの潜入を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック高等女子校・ブリーフィングルーム前………

 

開放されているブリーフィングルームへの入り口と思われる場所を、パシフィック戦車隊の隊員と思われる女子生徒達が次々に潜って行く。

 

「あそこがブリーフィングルームみたいですね………」

 

「行くよ………」

 

優花里とみほも小声でそう言い合い、入り口を潜る。

 

………と、その瞬間!!

 

突如警報が鳴り響き、部屋の壁に備え付けられていた赤色灯が回転を始めた。

 

「!? ふええっ!?」

 

「何事ですか!?」

 

突然の事態に動揺するみほと優花里。

 

『認証システムに登録無し。部外者が入り込んでいます。他校のスパイの可能性有り。直ちに拘束せよ』

 

そんな2人の耳に、校内放送用のスピーカーからそう言う合成音声が響く。

 

「!? しまった!? 顔認証システムが在ったでありますか!?」

 

優花里が、入り口に向けられる様に天井に設置されたカメラらしき機械を発見し、そう声を挙げる。

 

「スパイですって!?」

 

「あの2人よ!」

 

「捕まえるのよっ!!」

 

途端にパシフィック戦車部隊の隊員達は、みほと優花里を拘束しようとする。

 

「! 西住殿!!」

 

「戦略的撤退ーっ!!」

 

優花里とみほは、慌てて逃げ出す。

 

「待ちなさーいっ!!」

 

「止まれーっ!!」

 

その後を追跡するパシフィック戦車部隊の隊員達だった。

 

「申し訳ありません! 西住殿! 私がもっと早く気づいていれば!」

 

「優花里さん! 今はそれより逃げないとっ!!」

 

後ろから地響きの様な音を立てて追って来るパシフィック戦車部隊の隊員達をチラ見しながら、優花里とみほは必死に逃げる。

 

「えっ、と………優花里さん! どっちに行けば良いんだっけっ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 今見取り図を………」

 

しかし、広大な面積を誇るパシフィック校の校舎内を把握していない2人は、何処へ逃げれば良いのかが分からずに居た。

 

「「「「「「「「「「待ちなさーいっ!!」」」」」」」」」」

 

その間にも、パシフィック戦車部隊の隊員達は、相変わらずの地響きの様な足音と共に2人に迫って来る。

 

「! 優花里さん! そこを曲がってっ!!」

 

「! ハイッ!!」

 

するとそこでみほが、進行先に見えてきた通路の十字路で、すぐ道の右へと入る様に指示を出す。

 

十字路を右へと曲がるみほと優花里。

 

直後にパシフィック戦車部隊の隊員達が、同じ様に十字路を右へと曲がったが………

 

パシフィック戦車部隊の隊員達が通路を曲がった瞬間には、みほと優花里の姿は忽然と消え失せていた。

 

「!? 居ないっ!?」

 

「消えたわよっ!?」

 

「何処かに隠れてるのかも知れない!」

 

「手分けして探すのよ! まだそう遠くへは行ってない筈よ!」

 

パシフィック戦車部隊の隊員達は驚きながらも、方々に散らばって2人の捜索を始める。

 

一方、その2人は………

 

「………暫く此処に身を隠すであります」

 

通路を曲がってすぐの所に在った扉の中へと入り、息を潜めてパシフィック戦車部隊の隊員達が遠ざかるのを待っていた。

 

「此処は………」

 

そこでみほは、入り込んだ部屋の中を改めて見やる。

 

その部屋は、大会でも開けそうなくらい広い室内プールだった。

 

「随分と広いプールでありますね………」

 

優花里がそう言いながら、プールサイドまで歩くと、みほも同じ様にプールサイドの傍による。

 

「そらそうさ。男子校との共同プールだからな」

 

「「!?」」

 

と、突如そう言う声が聞こえて来てみほと優花里が驚いていると、プールの水の一部が盛り上がり、プールサイドに競泳水着姿でゴーグルをした1人の男が上がって来た。

 

「よっ! 1日ぶり!」

 

そう言いながらゴーグルを外してみほと優花里を見やる男………ホージロー。

 

「!? 貴方はっ!?」

 

「ホージロー殿っ!?」

 

みほと優花里は、そんなホージローの姿を見て驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

実は、竜真達やみほ達の他に、パシフィックへと潜入していた人物が1人居た………

 

「…………」

 

丸山 紗希である。

 

いつものボーっと上の空で、皆とは違う方向を見ている事の多い彼女。

 

何を考えているのか分かり難い子でもあり、ある意味大洗機甲部隊で最も謎な人物と言っても良いだろう。

 

「…………」

 

そんな紗希が、パシフィック学園艦の甲板都市で燥いでいるチームの仲間には飲まれず、1人本来の目的であるパシフィック校への侵入を果たしていたのである。

 

「…………」

 

いつもと変わらぬボーッとした様子でトコトコと歩きながら、ドンドンとパシフィック高等女子校の奥へと入り込んだ紗希。

 

不思議な事に、誰も彼女を見ても気に留める事は無い。

 

「!? 貴方はっ!?」

 

「ホージロー殿っ!?」

 

「………?」

 

と、そんな紗希の耳に、みほと優花里の声が飛び込んで来る。

 

すると紗希は、トコトコとその声が聞こえて来た方向へと向かう。

 

そして扉を見つけると、少しだけ開け放ち、中の様子を窺うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック校・共同室内プール内………

 

そして、ホージローに見つかってしまったみほと優花里は………

 

「西住殿! 此処は私が食い止めます! 西住殿は逃げて下さいっ!!」

 

と、優花里がみほだけでも逃がそうと、ホージローの前に出る。

 

「そんなっ!? 出来ないよ、優花里さん!」

 

「西住殿は大洗の総隊長です! 貴方が居なければ大洗は試合が出来ませんっ!!」

 

食い下がるみほだったが、優花里は頑として退かない。

 

「ハハハハハハハハハッ! 心配すんなって! 別に捕まえたりなんかしねーって!」

 

しかし、そんな優花里とみほの遣り取りを聞いていたホージローが不意にそう言い放った。

 

「「えっ!?………」」

 

みほと優花里は、思わず呆けた顔をしながら2人してホージローの事を見やる。

 

「だって、情報を盗られたところで、ウチの勝ちは揺るぎねーかんなっ!!」

 

そんなみほと優花里に向かって、ホージローは平然とそう言い放つのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

パシフィックの学園艦に潜入したみほと優花里、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々。
しかし、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の大半は、目的を忘れて遊び呆けてしまう。

仕方なく竜真達とみほ達がパシフィックの男子校、女子校へと潜入したが、見つかってしまう。
だが、みほと優花里が出来わしたホージローは、余裕の様子を見せるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第57話『潜入作戦パート2です(後編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第57話『潜入作戦パート2です(後編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほに優花里………

 

そしてウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々は、パシフィック機甲部隊の情報を入手する為に………

 

彼等の学園艦へ潜入を試みた。

 

しかし、学園艦へはアッサリと入れたものの………

 

甲板都市に広がるリゾートを目にした瞬間………

 

ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々の大半が、任務を忘れて遊び呆けてしまう………

 

仕方なく、残っていたみほと優花里がパシフィック女子校。

 

竜真、ジェームズ、正義がパシフィック男子校へと潜入する。

 

だが、竜真達はアッサリと発見され、みほ達も戦車格納庫を覗く事には成功したものの、ブリーフィングに参加しようとして正体が割れてしまう。

 

逃げ惑うみほと優花里は、両校が共同で使っている巨大室内プールへと迷い込む。

 

そこで再びホージローと出会うみほと優花里。

 

捕まるとオドオドしていた2人に向かって、ホージローは自分達の勝ちは決まっていると言い放つのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック校・共同使用の巨大室内プール………

 

「! それは如何言う事ですかっ!?」

 

優花里がホージローの言葉に噛み付く。

 

「如何って、言葉通りの意味さ。スパイをしたって結果は見え見え………大洗の歩兵達は俺達の圧倒的な身長差の前には手も足も出ないだろうぜ」

 

ホージローはそう豪語する。

 

しかし悪意は感じられないので、如何やら思っている事を考え無しにすぐに口に出してしまうタイプの様だ。

 

「…………」

 

それでも、みほは結構なショックを受けた様で、黙り込んでしまう。

 

だが、そのみほ以上にショックを受けている者が居た………

 

「…………」

 

隠れて様子を見ていた紗希である。

 

「!!………」

 

遂には耐え切れなくなった様にその場から逃げ出そうとする。

 

「キャッ!?」

 

「!!」

 

その際に、プールへと入って来た人物とぶつかってしまい、尻餅を着く。

 

「アラ? 貴方は確か、大洗の?………」

 

入って来たのはローレライだった。

 

「!!」

 

そんなローレライの姿を見上げながら、自分との身長・体格差に愕然とする紗希。

 

「!!………」

 

紗希は全速力で逃げ出すかの様に走り出した。

 

「あっ! ちょっと!………行っちゃった。何だったんだろう?」

 

走り去って行った紗希の姿に、ローレライは怪訝な表情を浮かべる。

 

「そんな事はありませんっ!!」

 

「うん?」

 

そこでそう言う声が聞こえて来て、ローレライがプールの方を見やると、ホージローと言い合っている様子の優花里と、その傍に居るみほの姿を認める。

 

「貴方の言葉には何の根拠も有りません!」

 

「へえ………」

 

そう言い返して来た優花里を見て、ホージローは不敵な笑みを浮かべる。

 

「曲り形にも私達は、この全国大会を3回戦まで勝ち抜きました! それだけの実力は有ると自負しています! それに私達には西住殿と………舩坂殿が居ますっ!!」

 

「ゆ、優花里さん………」

 

毅然とした態度でそう言い放つ優花里に、みほはオドオドとする。

 

しかし………

 

「それこそ根拠の無い話だな………」

 

そう言う台詞が響いたかと思うと、ローレライと共に、竜真、ジェームズ、正義を片手で襟首を掴まえて捕らえているカジキが姿を見せた。

 

「!? 疾河くん!? モンローくん!? 桑原くん!?」

 

「す、すみません、総隊長………」

 

「捕まってしまいマシタ………」

 

「申し訳無いっす………」

 

驚きの声を挙げるみほに向かって、捕まったまま謝罪をする竜真、ジェームズ、正義。

 

「スパイも碌に出来ない奴が歩兵をやっているとはな………」

 

カジキはそう言うと、3人を突き飛ばす様に解放する。

 

「うう………」

 

そんな3人の姿に、優花里も言葉が詰まる。

 

「大体3回戦まで勝ち抜いたと言って、お前達が戦ったのはリッチなだけで十分な戦術もなってないサンダース。戦車道に誇りを持っても戦略が甘過ぎるアンツィオ。そして隠れながら攻撃するしか能の無い地走………皆勝って当然の相手だ」

 

カジキはそう豪語する様に言い放つ。

 

「!? そんな言い方っ!」

 

「止めなさい、カジキ。流石に他校の事まで馬鹿にするのはやり過ぎよ」

 

みほが思わず声を挙げ、ローレライも窘める様にそう言う。

 

「ふん………」

 

しかし、カジキは鼻を鳴らすだけだった。

 

「まっ、兎に角。試合になったら勝ちは貰うぜ………あ、そうだ! 確かアンタ達の戦車チームにM3リーを使ってる連中が居たな」

 

とそこでホージローが思い出したかの様にそう言う。

 

「! ウサギさんチームの事ですか」

 

「アイツ等は駄目だな………出場チームから外した方が良いぜ」

 

優花里が反射的にそう答えると、ホージローはそんな事を言って来た。

 

「!?」

 

「グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合をネットの動画で見たけどよ………アイツ等、戦車放り出して逃げ出したろ?」

 

みほが再び驚愕の表情を浮かべると、ホージローはそう言葉を続ける。

 

「逃げ出す様な連中をチームに入れてても足手纏いなだけだぜ。別に外さなくても良いけど、そん時は真っ先に潰させてもらうぜ。歩兵の連中も頼りないチビな奴ばっかりみたいだしな」

 

「「…………」」

 

ホージローの言葉に、みほと優花里は何も反論出来ない。

 

だが………

 

「そんな事ありませんっ!!」

 

「「!?」」

 

当のハムスターさん分隊の隊員である竜真が、ホージローに向かってそう言い返した!

 

「歩兵道で付けられたケチは歩兵道で返す………それが歩兵の流儀でしたね」

 

竜真はホージローに向かってそう言葉を続ける。

 

「「…………」」

 

ジェームズと正義も、ホージローの事を見据えている。

 

「試合当日に勝って証明しますよ………チビでも最強になれるって!!」

 

と、竜真はそう言い放った瞬間、ジェームズ、正義と共にみほと優花里の手を取り、物凄いスピードで室内プールを後にした!

 

「おお、速いじゃん」

 

「面白くなりそうね………」

 

「…………」

 

その姿を見送ったホージローとローレライがそう言うが、カジキは不機嫌な表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

みほと優花里、竜真、ジェームズ、正義は、甲板都市に居たウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々と合流。

 

大洗女子学園へと撤収した。

 

その帰路にて、みほ達と竜真達は、カジキ達の言葉をウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々へと告げる。

 

流石のウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々も、コレには頭に来たらしく、全員一致団結して、パシフィック機甲部隊の打倒を誓い合った。

 

そして、その日の内に、大洗機甲部隊は入手出来た僅かな情報を元に、対パシフィック機甲部隊に向けた訓練を開始。

 

気合の入ったウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々に、他のメンバーも触発され、訓練は日が暮れた後も行われた。

 

日付が変わろうとしていた頃に漸く訓練は終了し、大洗機甲部隊のメンバーは其々に自宅や寮へと戻る。

 

しかし、程無くして、思わぬ事態が発生する。

 

何と!

 

ウサギさんチームの丸山 紗希が姿を消したのである!!

 

寮が同じだった梓達からの報告で、大洗機甲部隊のメンバーは大洗女子学園の戦車格納庫へと再集結する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫………

 

「丸山くんが居なくなったと言うのは本当か?」

 

全員が集まったのを確認すると、弘樹が梓にそう尋ねる。

 

「ハイ………明日の訓練の事で伝え忘れた事があって、部屋に行ったら見当たらなくて………他の皆の所にも居ないって」

 

「紗希ちゃん、何処行ったんだろう?」

 

「何かパシフィックの学園艦から帰ってから様子がおかしかったよねぇ?」

 

梓がそう答えていると、あやと優季もそう口を挟んで来る。

 

「まさか、パシフィックとの試合に怖気づいて逃げ出したのか?」

 

「紗希ちゃんは逃げたりなんかしないよぉっ!!」

 

そんな事を口走る白狼に、桂利奈が反論する。

 

「しかし、練習試合じゃお前等全員逃げ出したじゃないか」

 

「そ、それは………」

 

そう言われてあゆみが気まずそうな表情を見せ、他のウサギさんチームのメンバーも俯く。

 

「止めろ、神狩。今はそんな事を言っている時ではない。丸山くんを探す事が先決だ」

 

しかしそこで弘樹がそう言って、白狼を諌める。

 

「警察に連絡した方が良いんじゃないですか?」

 

「そりゃあマズイぜ。大会中のこの時期に警察沙汰になんてなったら、下手をすりゃ出場停止だ」

 

華がそう意見を挙げるが、俊がそう言い返す。

 

「それだけは絶対に駄目だ! 何としても丸山を見つけ出せ! 首に縄を付けてでも引っ張って来いっ!!」

 

出場停止と言う言葉に反応した様に、桃がそう大声を挙げる。

 

と、その首に縄が掛けられたかと思うと、思いっきり引っ張られる。

 

「!? ぐえええっ!?」

 

「こんな風にか?………」

 

その縄を掛けた人物、熾龍がそう桃へと言い放つ。

 

「ば、馬鹿者ぉっ! 私ではない!………ぐええっ!?」

 

「スマンが良く聞こえなかった………もう1度言ってもらえるか?」

 

縄で桃の首を締め上げながらそう言う熾龍。

 

「何だか段々と栗林先輩の河嶋さんへの扱いが酷くなってる様な………」

 

「すみません、桃ちゃんが………」

 

逞巳がそんな光景を見て冷や汗を掻き、柚子は何故か謝罪をする。

 

「兎に角、手分けして捜索を開始しよう。時間も時間だ。必ず2人以上で行動してくれたまえ。特に女子は必ず数人でか、男子と一緒に行動する様に」

 

捜索を開始しようと指示する迫信は、時間が深夜の為、安全の為に複数人で行動する様にと注意する。

 

「良し! 捜索開始だっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこで続ける様に弘樹がそう言い放つと、大洗機甲部隊の面々は、数名でのチームを作って、紗希の捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

大洗機甲部隊のメンバーは甲板都市の彼方此方に散らばり、紗希が行きそうな場所を中心に捜索を続けている。

 

しかし、一向に紗希は見つからず、手掛かりすらも掴めなかった………

 

そうこうしている内に天候が変わり、雨が降り始める。

 

コレ以上捜索を続けると隊員達の体調に良くないと判断した迫信とみほは、遺憾ながらも捜索を一旦打ち切る事を決断した。

 

 

 

 

 

捜索チーム・竜真&ジェームズ………

 

「ハイ、分かりました………では、また明日、戦車格納庫に集合ですね。了解しました」

 

そう言って携帯を切る竜真。

 

「捜索中止デスか?」

 

「うん、雨が降り出して来てるし………コレ以上は無理だって、総隊長達が」

 

ジェームズがそう尋ねて来ると、竜真は携帯をポケットに仕舞いながらそう返す。

 

「そうデスか………仕方ありませんネ………」

 

と、ジェームズがそう言った瞬間、雨足が強くなり始める。

 

「うわぁっ!? 急に雨足が!!………」

 

「Oh! イッツゲリラ豪雨ッ!!」

 

一瞬でビショビショになった2人が悲鳴の様な声を挙げる。

 

すると………

 

そんな2人の傍に、高級そうなリムジンが停まる。

 

「!?」

 

「アッ!?………」

 

驚く竜真とは対照的に、ジェームズは何かを知っている様な顔になる。

 

とそこで、リムジンの運転席の窓が開いたかと思うと………

 

「坊ちゃま。御迎えに上がりました」

 

執事服に身を包んで髭を蓄えた、如何にもロマンスグレーと言う雰囲気が漂う執事らしき老年の男性が、ジェームズを見ながらそう言って来た。

 

「えっ? 坊ちゃま? ジェームズ、この人は?」

 

老執事が言った坊ちゃまと言う単語に驚きながら、ジェームズにそう尋ねる竜真。

 

「え、ええと、この人は、ソノ………」

 

ジェームズは露骨に動揺した様子を見せながら、しどろもどろと言い訳をしようとする。

 

「さあさあ! びしょ濡れじゃないですか! 早く家へ戻りましょう! お友達もどうぞです~!」

 

しかしそこで、リムジンの助手席からそう言う台詞と共に、メイド服に身を包み、サングラスを掛けた女性が現れ、ジェームズと竜真を半ば無理矢理後部座席へと押し込む。

 

「うわっ!?」

 

「チョッ!? 『レイチェル』さん!」

 

ジェームズがレイチェルと呼んだ女性に、有無を言わせず乗せられ、リムジンはそのまま発進するのだった。

 

 

 

 

 

リムジン内………

 

「自己紹介が遅れました。私、ジェームズ坊ちゃまの執事をしております、『セバスチャン・セコムズ』と申します」

 

「同じく、メイドの『レイチェル・サンダーソン』です~」

 

車中にて、老執事………『セバスチャン・セコムズ』とメイド………『レイチェル・サンダーソン』が、竜真にそう自己紹介をする。

 

「は、はあ………ジェームズ。君って実は良い所の御曹司さんとかなのかい?」

 

竜真は戸惑いながら、隣に座るジェームズにそう尋ねる。

 

「あ、イエ、その………」

 

「御曹司も何も、ジェームズ様は現合衆国大統領の御子息様です~」

 

ジェームズが答えあぐねていると、代わる様にレイチェルがそう言い放つ。

 

「だ、大統領の御子息!?」

 

「レイチェルさんっ!!」

 

竜真は驚きの声を挙げ、ジェームズはレイチェルに向かって叫ぶ。

 

「坊ちゃま………いつまでも隠せるものではありませんです~」

 

しかし、レイチェルは語尾こそ特徴的なものの、真剣な様子でそう返す。

 

「! そ、ソレは………」

 

そう言われてジェームズは黙り込む。

 

「ジェームズ………君、大統領の息子だったの?」

 

「………驚きましたカ?」

 

竜真にそう問われて、ジェームズは若干小声でそう聞き返す。

 

大統領の息子だが、彼にとってそれはコンプレックスであり、更に本国に居た頃、その事で同年代の子達から弄られ続けたのである。

 

その為、大洗男子校ではその身分を隠して生活していたのだ。

 

知られてしまえばまた弄られるかも知れないと思って………

 

「ハア~、そうなんだ………」

 

だが、竜真のリアクションは思っていたよりも薄かった。

 

「! エッ!? それだけですか!?」

 

余りに薄いリアクションに、ジェームズは思わずそう言う。

 

「いや、だってウチの学校、世界的なコーポレーションの御曹司だとか、時代錯誤の番長とか、第二次世界大戦の英雄の子孫とか、濃い人がいっぱいだからさ………今更、大統領の息子とかじゃ驚かないよ」

 

そんなジェームズに向かって、竜真はあっけらかんとそう言い放つ。

 

「…………」

 

竜真の言葉にジェームズは唖然となる。

 

「………悩んでたのがバカみたいデス」

 

やがてそう言うと、ガックリと項垂れたのだった。

 

「間も無く御屋敷ですよ~」

 

とそこで、レイチェルがそう告げ、リムジンの行く手に屋敷と呼ぶに相応しい家屋が見えて来る。

 

「むうっ?………」

 

するとそこで、セバスチャンが何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「如何したの、セバスチャン」

 

「あのお方は………」

 

ジェームズが尋ねると、セバスチャンは屋敷の門の傍を見ながらそう呟く。

 

「?………!? アレはっ!?」

 

その方向にジェームズが視線をやった瞬間に見えたのは………

 

「…………」

 

降り頻る雨の中、傘も差さずにびしょ濡れとなって佇んでいる紗希の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗など敵では無いと豪語するホージロー。
黙り込むみほに代わる様に反論する優花里だったが、竜真達を掴まえたカジキとローレライの出現でそれも無に終わる。
だが、竜真達はホージロー達を打倒する事を宣言する。

学園艦に戻った一同だったが、その夜に紗希が姿を消した。
発見されたのはジェームズ宅の前だった。
果たして、彼女の心境は如何に。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第58話『大洗チビーズです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第58話『大洗チビーズです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック機甲部隊の情報を入手する為に、パシフィック高校へと潜入したみほと優花里、竜真にジェームズと正義だったが………

 

アッサリとホージロー達に見つかってしまう。

 

しかし、ホージローはスパイをしても自分達の勝ちは変わらないと余裕を見せ、カジキは大洗の実力を見下す。

 

そんなホージロー達に対し、竜真達は闘志を燃やす。

 

だがそんな中………

 

丸山 紗希が姿を消してしまう。

 

懸命な捜索が続けられたが見つからず、天候の悪化もあって、止むを得ず大洗機甲部隊のメンバーは帰路へと就いた。

 

執事のセバスチャンとメイドのレイチェルに迎えられたジェームズと一緒に、ジェームズ宅へと向かった竜真。

 

そしてそこで………

 

雨の中、傘も差さずに佇んでいた紗希を発見するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗希を発見したジェームズと竜真は、彼女がびしょ濡れだった事もあり、一旦ジェームズの家へと上げた。

 

現在はレイチェルが一緒に風呂に入り、濡れた服も洗濯している。

 

その間に、竜真とジェームズは大洗機甲部隊の面々に、紗希を無事に保護したと連絡。

 

皆紗希の無事に安堵していた。

 

そして、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々が、すぐに駆けつけてくれる事になった。

 

 

 

 

 

ジェームズ宅・ジェームズの自室………

 

「坊ちゃま~。丸山さん、上がりましたよ~」

 

ジェームズの自室で待機していたジェームズと竜真の元に、レイチェルがそう言いながら入って来る。

 

「ああ、レイチェルさん、アリガ………」

 

「!?!?」

 

と、レイチェルにお礼を言おうとしたジェームズが固まり、竜真も仰天の表情を浮かべる。

 

何故なら………

 

レイチェルが連れて来た紗希が………

 

ダボダボで袖が余りまくっているYシャツ姿だったからだ。

 

「チョッ!? 何でYシャツナンデスカっ!?」

 

「いや~、こういう時はこの恰好が王道だって、この前買った日本のコミックに………」

 

「それは漫画の中だけです!!」

 

レイチェルがそう言うと、竜真がツッコミを入れる。

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと下着は付けてますから」

 

「全然大丈夫じゃナイデスッ!!」

 

「寧ろそっちの方が危ない場合もあります!!」

 

色々な意味で危険な紗希の恰好に、ジェームズと竜真は大慌てである。

 

「と、兎に角! 早く着替えさせてクダサイッ!!」

 

いつも以上に片言が酷くなっているジェームズがそう叫ぶ。

 

「ええ~、可愛いのに~」

 

レイチェルが不満そうに紗希を連れて部屋を後にする。

 

「あの人いつもあんな感じなの?」

 

それを見送った竜真が、ジェームズにそう尋ねる。

 

「悪い人ではないんデスけど………ハア~~~~」

 

それにそう答えながら、ジェームズは深い溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、紗希は無難な感じの服に着替えさせられ、改めてジェームズの自室へ通される。

 

更にそこで、ウサギさんチームの面々とハムスターさん分隊の面々も駆け付け、それなりに広かったジェームズの部屋は一気に狭苦しくなったのだった。

 

「もう~、紗希~。心配したんだからね~」

 

梓が紗希を抱き締めながらそう言う。

 

「無事で良かったよ」

 

「ホントホント」

 

「紗希ちゃん、一体如何しちゃったの?」

 

「何か悩み事?」

 

あゆみ、桂利奈、あや、優季も紗希へそう声を掛ける。

 

「…………」

 

しかし、梓に抱き締められている紗希は、相変わらず暗い表情で黙り込んでいるだけだった。

 

「多分デスけど………今度の試合の事じゃないデスか?」

 

「パシフィックとの?」

 

そこでジェームズがそう推測すると、光照がそう口を挟む。

 

「相手の高身長に圧倒されたって事っすか?」

 

「!!………」

 

続けて正義がそう言うと、紗希がピクリと一瞬震えた。

 

「そうなの、紗希?」

 

「…………」

 

それに気づいた梓がそう尋ねるが、紗希は黙り込んだままである。

 

「確かに、あの高身長のチームには圧倒されるね。特にそんな歩兵達と対峙する僕達なんか………」

 

「何言ってるんですか、分隊長!」

 

勇武が弱気な意見を挙げたところ、竜真がそう叫ぶ。

 

「と、竜真くん………」

 

「身長が何ですか! 相手が高身長だったらチビは勝てないだなんて、誰が決めたんですか! 僕達は勝ちます! 勝ってチビでも最強になれるって事を証明しましょうっ!!」

 

戸惑う勇武に、竜真は重ねる様にそう言い放つ。

 

「………確かにそうだ。ゴメンよ、皆。分隊長である僕がこんな弱気な事を言ってしまって」

 

そこで勇武は、ハムスターさん分隊の面々に向かって謝罪する。

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

「誰だって不安を感じる事はあります。大切なのは、それに如何向き合って行くかです」

 

そんな勇武に向かって、誠也と清十郎がそう言う。

 

「紗希サン。貴方は1人でパシフィックと戦うワケではアリマセン。ウサギさんチームの皆サンや僕達ハムスターさん分隊の皆。そして、大洗機甲部隊の皆さんと一緒に戦うのデス」

 

「…………」

 

ジェームズは優しく紗希へとそう語り、紗希はそんなジェームズの姿を見やる。

 

「そうだよ、紗希!」

 

「私達が付いてるから!」

 

「一緒に戦おう!」

 

「身長が何だ! 高さが何だ!」

 

「そうだそうだ~!」

 

そこで梓、あゆみ、桂利奈、あや、優季も、紗希を励ます。

 

「…………」

 

皆の言葉を受け、遂に紗希の顔から影が消え、笑みが浮かんだ。

 

「あ! 紗希が笑った!」

 

「やった! 元気になった!」

 

途端に燥ぐウサギさんチームの一同。

 

「おっす! 大洗チビーズの結成っすね!」

 

「何ソレ?」

 

正義がそう言うと、あやが首を傾げる。

 

「俺等ハムスターさん分隊とウサギさんチームとの合同名っす! チビでも最強になれるって事を証明する名前っす!!」

 

「ええ~、もっとカッコイイのが良いんじゃない~?」

 

ドヤ顔気味にそう言う正義だが、優季が若干不満そうにそう言う。

 

「いや、それで行きましょう。敢えてね………」

 

だが、勇武は気に入った様子で、皆にそう言う。

 

「よ~し! 頑張るぞ!! 打倒! パシフィックッ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

勇武がそう言いながら拳を突き上げると、皆も同じ様に拳を突き上げ、声を挙げる。

 

「ご近所迷惑ですよ」

 

「「「「「「「「「「アッハイ…………」」」」」」」」」」

 

しかし、レイチェルに注意されて、すぐに静かになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

粗徹夜だったウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々………『大洗チビーズ』だったが、翌日の訓練には揃って参加。

 

打倒パシフィックに向けての猛訓練を開始する。

 

 

 

 

 

ウサギさんチーム・サイド………

 

「撃てっ!!」

 

車長の梓の声で、M3リーの主砲と副砲が火を噴く。

 

主砲と副砲から放たれた砲弾は徐々に近づいて行き、最後には2発揃って的に命中した。

 

「やったぁっ!!」

 

「当たったっ!!」

 

「まだまだ! もう1回! 次弾装填急いでっ!!」

 

あやとあゆみが歓声を挙げるが、梓はすぐにそう指示を出す。

 

「…………」

 

それに呼応するかの様に、紗希が副砲に次弾を装填する。

 

「桂利奈ちゃん! 次撃ったら移動ね! スラローム走行の練習ね!」

 

「アイアイーッ!!」

 

「優季ちゃん。他のチームとの無線、聞き逃さないでね!」

 

「ハ~イ!」

 

桂利奈と優季にもテキパキと指示を出す。

 

「ウサギさんチーム、凄く頑張ってるね」

 

「コレはコッチも負けていられないね!」

 

「後輩が頑張ってるのに、我々がのほほんとしているワケには行かないからな」

 

そんなウサギさんチームの頑張りに触発される様に、他のチームの面々も、自然と訓練に力が入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ハムスターさん分隊の面々は………

 

「たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「…………」

 

「!? うわぁっ!?」

 

着剣した三八式歩兵銃を構えた竜真が、陣(190cm)に向かって突撃したが、アッサリと身長差で上から押さえ付けられる様に止められる。

 

「どりゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

「がははははははっ! 何だソレはっ!!」

 

「げふっ!?」

 

その傍では、軍刀を握った正義が明夫(200cm)に斬り掛かったが、同じ様に身長差で上から押さえ付けられる様に止められる。

 

「どっからでも掛かって来い!」

 

「…………」

 

「掛かって来い! このクソ共がぁっ!!」

 

「「「…………」」」

 

更にその近くでは、重音(191cm)、シャッコー(230cm)、武志(190cm)と対峙しているものの、恐怖で1歩も動けずに居る勇武、光照、ジェームズの姿が在った。

 

打倒パシフィック歩兵部隊を誓ったハムスターさん分隊の面々は、大洗歩兵部隊の中でも高身長な面子に頼み、パシフィック歩兵部隊の隊員と対峙した時の特訓を行っている。

 

「う~ん………」

 

「成果が上がりませんね………」

 

しかし、誠也と清十郎の言う様に、イマイチ成果は上がらなかった。

 

「真面に正面から遣り合っても駄目だ。何か策を練らん事には話にならんぞ」

 

そんなハムスターさん分隊に向かって、シャッコーが厳しくもそう言い放つ。

 

「分かってますよ、それぐらい………」

 

「でも、如何したら良いんすか………」

 

起き上がった竜真と正義が、若干途方に暮れる様にそう呟く。

 

すると………

 

「如何だ、特訓の方は?」

 

そう言う台詞と共に、その場に弘樹が姿を現した。

 

「! 舩坂先輩!」

 

「先輩!」

 

その姿を見た勇武と光照が姿勢を正す。

 

「中々上手く行きませんね」

 

「相手との身長差は圧倒的ですからね。遣り合うと如何しても潰されてしまいます」

 

「うむ………」

 

誠也と清十郎がそう説明すると、弘樹は顎に手を当てて一瞬考える様な様子を見せる。

 

「………シャッコー。少し相手をしてくれ」

 

「ああ………」

 

するとそこで、弘樹はシャッコーにそう言い、模擬戦闘の態勢に入る。

 

「お前達、良く見ておけ」

 

「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がハムスターさん分隊の面々にそう言うと、ハムスターさん分隊の面々は弘樹に注目する。

 

「「…………」」

 

威圧感抜群に佇むシャッコーに対し、弘樹は刀を居合いの態勢で構える。

 

「「…………」」

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

両者はそのまま黙り込んで対峙し、注目しているハムスターさん分隊の面々にも緊迫感が走る。

 

「…………」

 

とそこで、弘樹が右足を1歩摺り足で下げた。

 

「!!………」

 

それを見たシャッコーが仕掛けてくると踏み、先んじて仕掛けようとする。

 

「!!」

 

だがその瞬間に弘樹は刀を抜き放ち、シャッコーの首元で寸止めした!

 

「むっ!?………やられたな」

 

動きが止まったシャッコーがそう呟く。

 

「…………」

 

弘樹はシャッコーの首筋から刃を離すと、鞘へと納める。

 

「凄いっ!!」

 

「今の、どうやったんですか!?」

 

忽ちハムスターさん分隊からは歓声が挙がる。

 

「………先先の先手攻撃だ」

 

そんなハムスターさん分隊の方へと向き直ると、弘樹はそう言葉を発する。

 

「さきざきのせんてこうげき?」

 

「って、何ですか?」

 

弘樹の言った言葉に首を傾げる正義と竜真。

 

「簡単に言えばフェイントだ。コチラが先に仕掛けると思わせ、相手の攻撃を誘い、相手が攻撃してきた瞬間にカウンターを決める」

 

弘樹はそう説明する。

 

「どんな相手だろうと攻撃を行う瞬間には隙が生じるものだ」

 

「! そうか! 相手に態と先制攻撃をさせようとして、その隙を衝けば!」

 

清十郎が合点が行った様な声を挙げる。

 

「! ナルホドッ!!」

 

「例え身長差が有っても、隙を衝く事さえ出来れば如何にかなりますっ!」

 

ジェームズと誠也もそう声を挙げる。

 

「だが、コレはかなり高度な技だ。試合までにものに出来るか?」

 

そこでそう尋ねる弘樹だったが………

 

「やってみせます!」

 

「チビでも最強になれるって証明するんです!」

 

竜真と正義がそう答え、他のメンバーも力強い表情で頷いた。

 

「良い返事だ………試合での働きに期待しているぞ」

 

そんなハムスターさん分隊の面々の様子を見て、弘樹は微笑を浮かべるとお馴染みのヤマト式敬礼をする。

 

「「「「「「「!!………」」」」」」」

 

それを見たハムスターさん分隊の面々も、ヤマト式敬礼を返す。

 

ウサギさんチーム、ハムスターさん分隊共に、パシフィック機甲部隊との戦いへ向けての特訓を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな中………

 

張り切るウサギさんチーム、ハムスターさん分隊とは逆に、不調を見せているチームが在った………

 

「標的撃破! 聖子! 次の目標は!?」

 

砲撃で仮想標的を撃破した優が、聖子に指示を求める。

 

「…………」

 

しかし、聖子は若干赤みが差し、目が潤んだ状態でボーっとしている。

 

「聖子っ!」

 

「!? えっ!? あっ!? な、何、優ちゃん!?」

 

再度優に声を掛けられて、初めて反応する聖子。

 

「如何したじゃありません! 訓練中ですよ! 何をボーっとしてるんですか!」

 

「ゴ、ゴメン!………」

 

と、聖子が謝罪した瞬間、クロムウェルの至近距離に、Ⅳ号が放った訓練弾が着弾!

 

「!? キャアッ!?」

 

「あうっ!?」

 

クロムウェルの車体が揺れ、搭乗しているメンバーから声が漏れる。

 

「ぜ、全速後退! 榴弾装填っ!!」

 

「おうっ!」

 

「榴弾、装て………!? ええっ!? 榴弾!?」

 

聖子はすぐに唯に後退指示を出し、明菜に榴弾装填の指示を出すが、榴弾を装填しろと言う指示に、明菜が驚きの声を挙げる。

 

「唯ちゃん、待って! この後ろって………」

 

更に、伊代が何かを思い出した様に唯に声を掛けようとしたが………

 

その瞬間にクロムウェルの車体が後ろに傾き、聖子達はシートの背凭れに倒れる様に押し付けられた!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

如何やら、後方に在った塹壕に落ち込んでしまった様だ。

 

『サンショウウオさんチーム! 大丈夫ですかっ!?』

 

その様子を見たみほが、慌ててクロムウェルに通信を送る。

 

「だ、大丈夫です~」

 

通信手の伊代が何とかそう返事を返す。

 

『貴様等ぁっ! 何をやっているぅっ! さっきからまるで駄目ではないか!』

 

「キャッ!?」

 

と、続いて桃の大きな怒声が聞こえて来て、伊代は慌ててヘッドフォンを外す。

 

「聖子。今回ばかりは河嶋先輩の言う通りですよ。一体如何し………!?」

 

そこで聖子を見やりながらそう言った優が仰天する。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

何故なら、背凭れに倒れている聖子が、顔中に脂汗を浮かべて、グッタリとしていたからだ。

 

「聖子! 如何したのですか!? 聖子っ!?」

 

慌ててシートベルトを外すと、聖子に近寄り、その額に手を当てる優。

 

「!? 酷い熱!? 誰か! 誰か手を貸して下さいっ!!」

 

「聖子ちゃん!」

 

「先輩!」

 

「聖子っ!?」

 

優は慌ててハッチから顔を出してそう叫び、他の搭乗メンバーも騒然となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・保健室………

 

「………風邪ね。それと過労もあるみたい」

 

保健室のベッドに寝ている聖子の症状を見た養護教諭が、そう診察結果を下す。

 

「まあ、暫く安静にしてれば大丈夫よ………だから、皆静かにしてね」

 

養護教諭は、保健室内と窓の外や廊下に、所狭しと犇き合う様に集まっていた大洗機甲部隊の面々を見ながら、苦笑いしつつそう言う。

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、ちょっと外すけど、その間はお願いね」

 

と、優がお礼を言うと、養護教諭は所用で保健室を出て行く。

 

「聖子ちゃん………大丈夫?」

 

そこで、伊代がベッドに寝ている聖子に向かってそう尋ねる。

 

「うん、大丈夫………ゴメンね、皆」

 

「一体如何したんですか、先輩」

 

「昨日まではあんなに元気だったのに………」

 

聖子が力無くそう返すと、静香と満里奈が心配そうにそう尋ねる。

 

「実は………今朝まで紗希ちゃんの事を探してたんだ」

 

「!? 何だって!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

と、聖子がそう答えたのを聞いて、唯とウサギさんチームのメンバーが驚きを示す。

 

「雨が降って来た時点で全メンバーに帰宅命令が出た筈だが?」

 

「そうなんだけど………私、如何しても気になっちゃって………それで一旦帰った後、コッソリと………」

 

「あの雨の中を探してたんですか!?」

 

「そりゃ風邪も引くぜ………」

 

飛彗がそう言うと、白狼が呆れた様に呟く。

 

「だって、放って於けないじゃん………」

 

「郷先輩!」

 

「「「「先輩~っ!」」」」

 

そこで、ウサギさんチームの面々が群がる様に聖子の傍に寄る。

 

「…………」

 

紗希も、申し訳ない表情で、両手で聖子の手を握る。

 

「アハハハ、気にしないで………私が勝手にやったんだから………」

 

だが、聖子は気にするなと言う様に、弱々しくも笑顔を浮かべてそう言う。

 

「先輩!………」

 

そんな聖子の姿に感極まった様に、梓達は目尻に涙を浮かべる。

 

「しかし、こうなると試合は無理だな………」

 

「誰か、代わりの車長を務められる人は居ますか?」

 

そこで俊がそう言うと、逞巳が聖子以外のサンショウウオさんチームの面々にそう尋ねる。

 

「あ~、如何しよう?………」

 

「車長の適性が1番高かったのは聖子でしたからね」

 

「アタシ達じゃ聖子さんほど上手く纏められねえよぉ」

 

伊代、優、唯がそう返す。

 

「そうも言って居られん。試合はもうすぐなんだ。次に適性が高い者が………」

 

と、弘樹がそう言い掛けた瞬間!

 

「その役目………我に任せてもらおうか」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然聞こえて来たその声に反応する様に、大洗機甲部隊の面々が保健室の入り口へ向き直ると、そこには………

 

「フフフフ…………」

 

ゴシック風に改造された大洗女子学園の制服を着て、室内にも関わらず日傘を差している両目の色が違う少女の姿が在った。

 

「君は?」

 

「我が名は『黄昏の真祖(レティシア・フォン・ファンタズミク)』………悪魔と吸血鬼の間に生まれ、人間の環境で育てられた。この右目は過去や未来を見通す瞳であり、左目は全てを屈服させる力を持つ」

 

弘樹が尋ねると、少女はそんな事をドヤ顔で語る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

途端に、大洗機甲部隊の面々は黙り込んだ。

 

「ね、ねえ………何言ってるの?」

 

「さあ………ちょっと分かりかねます」

 

そう小声で言い合う沙織と華。

 

「典型的な中二病だな………」

 

「私、中二病の人って、初めて見ました………」

 

麻子と優花里もそんな事を言い合う。

 

「西住くん………彼女は一体何語で喋っているんだ?」

 

「えっ!? ええと………」

 

弘樹に至っては、彼女の言葉を日本語として認識出来なかった様子である。

 

「貴方………『諸星 今日子(もろぼし きょうこ)』じゃない」

 

するとそこで、みどり子がその少女を見てそう言った。

 

「!? ドキッ!?」

 

古典的な驚きの表現をしながら、明らかに動揺を示す少女………今日子。

 

「諸星 今日子?」

 

「ああ~、聞いた事有るね。確か重度の中二病で、意味不明な会話を繰り出す、電波系の子が居るって」

 

柚子がその名を反復すると、杏が思い出した様にそう言う。

 

「わ、我は黄昏の真祖(レティシア・フォン・ファンタズミク)! 悪魔と吸血鬼の間に生まれ………」

 

「いや、それはもう良いから………」

 

明らかに動揺している今日子は、先程の台詞を繰り返そうとするが、地市にそう遮られる。

 

「それで、黄昏の真祖(レティシア・フォン・ファンタズミク)殿。我々に如何なる御用ですかな?」

 

そこで迫信が、いつもの様に口元を広げた扇子で隠すポーズでそう尋ねる。

 

「あ、う………わ、我に掛かれば、鋼の獣を操る事など容易い!」

 

「要するに、アンタがクロムウェルの車長になるってか?」

 

今日子の言葉をそう翻訳する俊。

 

「如何にも!」

 

「って、言ってるけど、如何する?」

 

自信満々にそう返す今日子の事を見ながら、磐渡が優達に尋ねる。

 

「わ、私に聞かれても………」

 

優は如何判断して良いか分からず、他の面々も視線を反らすばかりである。

 

「………それじゃあ、お願いしようかな?」

 

と、そこでそう言ったのは、他ならぬ聖子だった。

 

「!? 聖子ちゃん!?」

 

「聖子! 貴方はまた………」

 

「優ちゃん………その子も私達のライブを見に来てくれてた子だよ………」

 

「えっ!?………」

 

抗議の声を挙げようとした優だったが、聖子にそう言われて黙り込む。

 

「きっとその子もスクールアイドルがしたいんだよ………だったら………私達の仲間だよ」

 

「聖子………」

 

「聖子ちゃん………」

 

聖子の言葉を受けて、優と伊代は一瞬顔を見合わせると頷き合う。

 

「分かりました………リーダーの言葉ですからね」

 

「よろしくね、今日子ちゃん」

 

そして今日子の方へと向き直ると、共に歓迎する。

 

他の面々も笑みを浮かべて、新たな仲間を迎えていた。

 

「! ハイ! よろしくお願いします!!」

 

「何だ。普通の言葉も喋れるのか」

 

「!?!?」

 

思わず普通に返してしまった今日子に、大詔がそうツッコミを入れ、今日子は慌てて口を押える。

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハハッ!」」」」」」」」」」

 

そして、誰からともなく、笑いが巻き起こるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた試合当日………

 

試合会場となる諸島海域………

 

『戦車道・歩兵道全国大会、第4回戦! 本日の対戦カードは大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊! 今大会のダークホース同士の対決です!』

 

『いやぁ、正直この試合がどうなるかは僕にも分かりませんよ。一瞬たりとも目が離せませんね』

 

お馴染みとなったヒートマン佐々木とDJ田中の実況と解説が響き渡る。

 

「「「「「「「「「「GOGO、パシフィック! パシフィック、GOGO!」」」」」」」」」」

 

パシフィック側の応援席では、人魚をイメージしたチア衣装に身を包んだチアガール達が、パフォーマンスを披露している。

 

「凄い応援………」

 

「ウチはまだ若干空席が有るなぁ………」

 

沙織と地市が、初戦から比べれば大分埋まって来ているものの、まだ若干の空席が有る大洗側の応援席を見てそう言い合う。

 

「マーメイドのチアガール! 何て羨ましいっ!!」

 

「何処を見てるんですか、了平」

 

そして、相変わらず悪い意味でブレない了平に、楓がツッコミを入れる。

 

「げへへへへ、チアお嬢さん達があんなに………」

 

そんな楓のツッコミを気にせず、パシフィックのチアガール達を舐める様な視線を見渡していた了平だったが………

 

「GOGO、パシフィック!」

 

「!??! 何か変なの居るぅっ!?」

 

その中にチア衣装姿のホージローの姿を見つけてそんな声を挙げる。

 

「何をやっているんだ、アイツは………」

 

「アラララ………」

 

集合していたパシフィック機甲部隊の中に居たカジキは呆れ、ローレライも思わず苦笑いを零す。

 

「………ハアッ!」

 

だが、その次の瞬間!!

 

ホージローは一瞬でチア衣装を脱ぎ捨て、水着姿になったかと思うと、応援席をまるで体操選手の様なアクロバティックな動きで駆け下り始める!

 

「うおおっ!? スゲェッ!?」

 

「大した身体能力だな………」

 

それに素直に感嘆の言葉を漏らす海音と、冷静にそう呟く大詔。

 

「ハアーッ!」

 

そのままホージローは応援席から飛んだかと思うと、空中で回転しながら逆さまになり、両手で地面に着地を決める!

 

「何て奴や………」

 

「ケッ、カッコ付けやがって………」

 

豹詑が若干の戦慄を覚え、白狼がそう悪態を吐く。

 

「大洗機甲部隊。悪いけど、俺等は『高さ』を武器にアンタ等に圧勝するよ。宣戦布告って奴だ」

 

逆立ちしたまま、両手を足代わりに近づいてきたホージローが、大洗機甲部隊の面々に向かってそう宣言する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その宣戦布告に黙り込む大洗機甲部隊の面々。

 

と、そこでホージローの前に人影が立ちはだかった。

 

「…………」

 

「しょ、勝負ですって言ってます!」

 

「約束通り証明しに来ましたよ!」

 

「Ⅰ’m Back!」

 

「勝負っす!」

 

紗希と梓、竜真にジェームズと正義だ。

 

「月まで逃げなかったのか、ウサギ達………ハムスターさんも巣に引き籠ってれば良かったのによぉ」

 

そんな紗希達や竜真達を見ながら、ホージローは不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

その後、改めて整列した大洗機甲部隊とパシフィック機甲部隊は礼を行い、お互いのスタート地点への移動を開始する。

 

「………必ず貴様を叩き潰す」

 

そんな中、カジキが相変わらず敵意が籠った視線と共に、弘樹にそう言い放つ。

 

「好きにしろ………」

 

だが弘樹は興味が無いと言い放ち、スタート地点へと向かう。

 

「!!………」

 

カジキは表情を強張らせながら、自分達のスタート地点へと向かうのだった。

 

「近海VS大洋………あんこう鍋VS舟盛りの刺身ね………どちらが一番価値があるのか、ハッキリしようじゃないの………」

 

スタート地点へ向かう中、杏が不敵に笑ってそんな事を呟く。

 

『さあ! 間も無く試合開始です!! 大洗機甲部隊! パシフィック機甲部隊! 君に、幸あれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

行方不明だった紗希を発見したジェームズと竜真。
如何やら彼女は、パシフィック機甲部隊のメンバーを前に、戦意喪失状態になった様だ。
しかし、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々からの励ましを受けて立ち直る。

サンショウウオさんチームのトラブルが起こるが一応解決し、遂に臨んだパシフィック機甲部隊との試合の日。
荒波に立ち向かうあんこうの運命や如何に?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第59話『第4回戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第59話『第4回戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な者達の思惑が交錯する中、遂に始まった鉱関機甲部隊を破ったダークホース『パシフィック機甲部隊』との試合………

 

試合会場は島々が点在する海洋………

 

水辺での戦いを得意とするパシフィック機甲部隊にとっては正にホームグラウンドだった。

 

果たして、大洗機甲部隊に勝機は有るのか?

 

 

 

 

 

試合会場・大洗機甲部隊のスタート地点………

 

大洗機甲部隊のスタート地点は、砂浜の海岸だった。

 

既に全戦車には、敏郎達の整備部とナカジマ達の自動車部が開発したフロートが取り付けられ、水陸両用に改造されている。

 

更に、歩兵部隊にも大発動艇を中心とした上陸用舟艇やシュビムワーゲンと言った水陸両用車が用意されている。

 

「皆さん。戦車に問題はありませんか?」

 

キューポラから上半身を出していたみほが、喉頭マイクに手を当て、各車にそう尋ねる。

 

『こちらアヒルさんチーム! 問題ありません!』

 

『カバさんチーム、言うに及ばず!』

 

『ウサギさんチーム、大丈夫です!』

 

『カメさんチームも問題無いよ~』

 

『カモさんチーム、異常無し!』

 

『サンショウウオさんチーム、オールグリーン!』

 

すると、各戦車から問題無しの返答が返って来る。

 

「西住総隊長。我々の方も舟艇と車両のチェックが完了した。全て問題無しだ」

 

そこで、迫信がみほに向かってそう報告を挙げる。

 

それに呼応するかの様に、舟艇や車両に乗って居た大洗歩兵達が疎らに手を上げる。

 

「了解しました」

 

「西住総隊長。質問、宜しいでしょうか? 部隊展開はどの様に行うのですか?」

 

みほがそう返すと、戦闘モードに入った弘樹が、ヤマト式敬礼をしてそう尋ねて来る。

 

「あ、ハイ。今回のフィールドは殆どが海です。陸地は点在する島々だけです。ですので、先ず1番面積が大きい島へ向かいます」

 

「あの島ですか………」

 

それを聞いた弘樹が、水平線の方を振り返る。

 

そこには、前日みほ達と共に上陸した、あの軍艦島の様な島が見えている。

 

「パシフィック機甲部隊は水辺での戦いを得意としています。相手のフィールドで戦えば私達に勝機は有りません。何とか陸上戦に持ち込んで戦車を各個に撃破して行きます」

 

「それがベターな作戦だな………」

 

みほの言葉に、大詔が同意する。

 

「では、先ず歩兵部隊は先行して上陸し、偵察と安全確認を行った後に戦車部隊を上陸させると言う形かい?」

 

そこで、迫信がみほが考える部隊展開を予測してそう言う。

 

「そうですね。その方向でお願いします」

 

みほはそう返すと、今回のフラッグ車であるウサギさんチームのM3リーと、サンショウウオさんチームのクロムウェルの方を振り返った。

 

M3リーからは梓が、クロムウェルの方は今日子が姿を見せている。

 

「梓ちゃん。今回はウサギさんチームがフラッグ車だからね。敵の攻撃にはいつも以上に注意を払って」

 

「了解しました!」

 

「やってやるぜっ!」

 

「燃えて来たーっ!!」

 

「ガッツと元気で頑張りまーすっ!!」

 

「やるっきゃないっ!!」

 

みほがM3リーの方を見ながらそう言うと、梓、あや、桂利奈、優季、あゆみがそう返事を返す。

 

「…………」

 

そして、外から姿は見えないが、紗希も凛々しい表情で頷いていた。

 

「サンショウウオさんチームは、今回が初実戦のメンバーが殆どです。無理はしないで援護に徹して下さい。唯さん、明菜さん。皆さんのフォローをお願いします」

 

「おう、任せとけ!」

 

「分かりました」

 

続いてみほは、クロムウェルを見てそう言い、唯と明菜からそう言う返事が返って来る。

 

今回、聖子が風邪でダウンしてしまい、優と伊代もその付き添いとして残った為、現在クロムウェルの乗車しているメンバーは………

 

今日子が戦車長、明菜が通信手、静香が砲撃手、満里奈が装填手、唯が操縦士と言った具合である。

 

唯は操縦士を継続しているが、明菜は装填手から通信手へと配置換えを行っており、その他のメンバーは全員今回が初試合である。

 

「…………」

 

特に、車長を任された今日子など、傍から見ただけでも分かるくらい、ガチガチに緊張している。

 

「オイッ!」

 

「!? な、何っ!?」

 

と、そんな今日子に白狼が不意に声を掛け、今日子は若干どもりながら返事をする。

 

「あんまり緊張するんじゃねえよ。オメェ1人で戦うワケじゃねえんだ。そんな姿見てるとコッチが緊張しちまう」

 

白狼はそうぶっきらぼうに言うと、クロムウェルから離れて行った。

 

「…………」

 

白狼の言葉に少し呆然となったが、それが彼なりの激励だった事に気づく今日子。

 

「………『信念をも貫く勇敢なる大神』」

 

離れている白狼の背を見ながら、今日子はそんな事を呟くのだった。

 

「よし! 全員乗船、及び乗車っ!!」

 

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

とそこで弘樹がそう言うと、大洗歩兵部隊の一同は舟艇や水陸両用車に乗り込んで行く。

 

「では、アールハンドゥガンパレード!」

 

迫信がそう号令を掛けると、大洗歩兵部隊は一斉に海原へと繰り出す。

 

「私達も行きます! パンツァー・フォーッ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして少し間を開けて、みほ達も戦車部隊も前進。

 

大洗歩兵部隊と少し距離を取りながら、廃墟の島へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

廃墟の島の海岸………

 

やや急勾配の斜面の上に、廃墟となっている建物が並んでいる海岸へ、先んじて到着した大洗歩兵部隊。

 

「よし! 上陸するぞっ!!」

 

弘樹がそう言うと、先ず大発が次々に海岸へと接岸し、歩板を下ろして乗って居た歩兵達が上陸を計る。

 

と、その瞬間!!

 

突如、ダダダダダダッ!!と言う轟音と共に、上陸を図っていた歩兵部隊に、雨の様な銃弾が襲い掛かったっ!!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

丁度上陸しようとしていた大発に乗って居た歩兵達が、一瞬で全滅する。

 

「! 敵襲っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう叫び、大洗歩兵部隊は慌てて遮蔽物を探し出す。

 

その間にも、斜面の上に並んでいる廃墟から、次々と銃弾が飛んで来る。

 

「待ち伏せだっ!!」

 

「クソッ! 奴等、廃墟をトーチカにしてやがるっ!!」

 

磐渡と重音がそう声を挙げる。

 

「クッ! 予想以上に敵の展開が早いっ!!」

 

「まさかもうこの島に上陸しているなんて………!? うわぁっ!?」

 

大発の陰に隠れた十河と俊も、大発に命中して火花を散らしている銃弾にビビりながらそう言い合う。

 

「うおわっ!?」

 

「頭を下げていろっ!!」

 

至近距離で弾けた銃弾にビビる了平にそう言いながら、海岸に在った岩の影に隠れている弘樹が、一瞬の射撃が途切れた瞬間を狙って顔を出し、九九式短小銃を3連射する。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

「やられたぁっ!!」

 

その3連射で廃墟内に居たパシフィック歩兵の3人が戦死判定を受ける。

 

しかし、それで弾幕が弱くなる筈も無く、再び弾幕が襲って来る。

 

「クッ!………」

 

「コレじゃホントに、ノルマンディー上陸作戦だな」

 

再び身を隠す弘樹の近くで、横倒しになっているシュビムワーゲンの陰に隠れている俊が、まるで他人事の様にそう言い放つ。

 

既に海岸の彼方此方には、戦死判定を受けて倒れ伏す大洗歩兵部隊の隊員達の姿が在る。

 

もしコレが本当の戦場ならば地獄絵図である。

 

「! マズイッ! 榴弾砲だっ!!」

 

とそこで、DUKWの陰に隠れていた大詔が、廃墟の一角で此方にM101 105mm榴弾砲を向けているパシフィック砲兵部隊を発見し、そう声を挙げる。

 

「伏せろっ!!」

 

弘樹がそう叫んだ瞬間、M101 105mm榴弾砲が発射される!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

放たれた榴弾は1艘の大発に命中。

 

弾幕に晒され、上陸し攻めあぐねていた歩兵部隊が吹き飛び、大発は爆発する。

 

「! 地市! バズーカッ!!」

 

「! おうっ!!」

 

とそこで弘樹がそう叫び、地市が撃った直後のM101 105mm榴弾砲とそれに付いて居たパシフィック砲兵部隊に向かって、バズーカを放ったっ!!

 

「「「「「うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

爆発と共にM101 105mm榴弾砲がバラバラになり、付いて居たパシフィック砲兵部隊も吹き飛ばされ、アクション映画の様に廃墟から落ちる。

 

更に、爆発の衝撃で廃墟が崩れ、階下に居たパシフィック歩兵部隊を巻き込む!

 

「やったっ!………って、おうわっ!?」

 

敵の一角を崩したかに思えたが、すぐに別の一角がフォローに入り、地市に弾幕を浴びせる。

 

「砲兵部隊! 支援砲撃出来るかっ!?」

 

「今は無理だ!」

 

「砲を配置するどころか、隠れているので手一杯だっ!!」

 

秀人が砲兵部隊に向かってそう返すが、明夫と鷺澪はそう返す。

 

何せ激しい弾幕のせいで砲を撃つどころか、輸送して来た上陸用舟艇から運び出す事すら出来ていないのである。

 

「戦車に支援してもらわないと、此処を突破するのは無理です!」

 

「西住総隊長ーっ!! 早く来てくれーっ!!」

 

楓がそう叫び、海音が悲鳴の様な叫びを挙げる。

 

「戦車?………!?」

 

と、そこで弘樹が何かに気付いた様な顔になる。

 

「どないした、弘樹!」

 

そこで、その隣に転がり込む様に大河が姿を見せる。

 

「待ち伏せと激しい攻撃に気を取られていたが………敵の戦車が見当たらない………歩兵部隊の総隊長であるカジキやホージロー達もな………」

 

弘樹は九九式短小銃をリロードしながらそう返す。

 

「! そう言えば………」

 

「!? まさかっ!?」

 

竜真がハッとして、みほ達が向かって来ている海の方を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は少し戻り………

 

大洗歩兵部隊が上陸を開始した頃………

 

その後方、やや沖合に浮かんでいた大洗戦車部隊は………

 

「歩兵部隊の皆さんが上陸を始めました。安全確保が完了次第、私達も上陸します」

 

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

大洗歩兵部隊の隊員達が上陸するのを、キューポラから上半身を出し、双眼鏡で確認していたみほが、全戦車チームにそう指示を出す。

 

と、その次の瞬間!

 

大洗歩兵部隊が上陸した海岸の斜面の上に在った廃墟から、大洗歩兵部隊目掛けて銃撃が開始される。

 

「!?」

 

慌てて双眼鏡を廃墟の方へと向けるみほ。

 

廃墟にトーチカを作って大洗歩兵部隊を攻撃しているパシフィック歩兵部隊の姿が双眼鏡のレンズに映し出される。

 

「!? パシフィック歩兵部隊! 待ち伏せされたっ!!」

 

「!? そんなっ!?」

 

「コチラの予想を遥かに上回る展開速度です!」

 

みほがそう声を挙げると、華が驚きの声を挙げ、優花里がパシフィック機甲部隊の展開の速さに舌を巻く。

 

そう言っている間にも、パシフィック歩兵部隊の攻撃で、大洗歩兵部隊には次々と戦死判定者が出て行く。

 

「みぽりん! 歩兵の皆が!」

 

「このままだと全滅するぞ………」

 

「! 全車、全速前進! 歩兵部隊の援護に向かいますっ!!」

 

沙織と麻子がそう声を挙げると、みほはすぐにそう指示を出し、戦車チームは速度を上げ、歩兵部隊の援護に向かおうとする。

 

だが、その時………

 

後方からの波が突然激しくなる。

 

「!? 何っ!?」

 

よろけそうになりながら、後方を振り返って確認するみほ。

 

すると、その瞬間!!

 

海面が大きく盛り上がり、巨大な鉄の塊が海中から姿を現す。

 

「!?」

 

驚愕するみほ。

 

海中より現れた巨大な鉄の塊………

 

それは紛れも無く………

 

『潜水艦』だった!

 

「せ、潜水艦っ!?」

 

「アレは『ガトー級潜水艦』のネームシップ、『ガトー』です!」

 

みほが驚愕の声を挙げると、側面ハッチを開けて出て来た優花里が、その潜水艦が第二次大戦中にアメリカ軍が建造した潜水艦………『ガトー級潜水艦』のネームシップ、『ガトー』である事を見抜く。

 

とそこで更に、ガトーの周辺の何か所かの海面が盛り上がったかと思うと、幾つもの円柱状の鉄の塊が浮上する。

 

その鉄の塊が少し変形したかと思うと、37mm砲を備えた水上トーチカとなる。

 

「!? 『浮沈特火点』!? 何てマニアックなものをっ!?」

 

優花里が半ば呆れた様にそう叫ぶ。

 

と、各浮沈特火点から、2名のパシフィック歩兵が現れたかと思うと、大洗戦車チームに向かって37mm砲を発砲し始める!

 

戦車チームの周りに砲弾が着弾し、次々と水柱が上がる!

 

「! 全車急いで陸地へ向かって下さいっ!!」

 

「「「「「! 了解っ!!」」」」」

 

「了か………」

 

みほが慌てて指示を出し、戦車チームの面々が返事を返し、一瞬反応が遅れたアヒルさんチームの典子も返事を返そうとした瞬間………

 

89式の砲弾が直撃して爆発が上がる!!

 

「!? アヒルさんチームっ!!」

 

みほの悲鳴の様な声が響く中、八九式からは撃破された事を示す白旗が上がり、波間を漂い始めた。

 

「よっしゃあっ! 1両やったぜっ!!」

 

それは、ガトーの甲板前部に備え付けられていた4インチ砲の砲撃であり、砲に付いて居た潜水艦の乗員らしき隊員がガッツポーズを取っている。

 

「やるなぁ」

 

「俺達も負けないぜっ!!」

 

更にそこで、後部に備え付けられていた40ミリ機関砲、20ミリ機銃に付いて居た乗員達も、大洗戦車チーム目掛けて水平射撃を行う!

 

機関銃の弾丸が水面を耕し、幾つかは大洗戦車チームの車両へと命中し、装甲表面で火花を散らす。

 

「くうっ!」

 

「西住殿! 側面からも敵がっ!!」

 

「!?」

 

優花里がそう声を挙げたのを聞いて、みほが西の方向を見やるとそこには………

 

コチラに向かって海上を進んで来る水陸両用に改造されたM24軽戦車が2両、M2中戦車が1両、T-38が3両、T-40が3両、特二式内火艇が6艇が在った。

 

「パシフィックの戦車チーム………」

 

「如何するのみぽりん!」

 

「このまま海上で戦っても勝ち目は有りません! 兎に角、急いで島への上陸を!!」

 

沙織がそう叫ぶが、今の状況では如何する事も出来ず、兎に角島へと早く上陸する様にとしか指示を出せないみほだった。

 

「大洗の戦車部隊、逃げてくよ」

 

「海上で戦っては不利と考えたみたいね」

 

只管島を目指して前進する大洗戦車チームの様子を見て、M2中戦車に乗って居る装填手の少女………『メロウ』と、車長であるローレライがそう言い合う。

 

「オーッホッホッホッホッ! この私達から逃げようなどとは、無駄な事を………全車攻撃開始! あの貧相な戦車達を海の藻屑に変えてあげなさいっ!!」

 

するとそこで、片方のM24軽戦車の車長で、パシフィック戦車部隊の指揮官であり総隊長である少女………『セイレーン』が、絵に書いた様な高飛車のお嬢様口調でそう言い放つ。

 

「はあああ~~~~、また………」

 

「あのキャラ作りも大変だって言ってたのに………」

 

ローレライとメロウが、呆れた様にそう言い合いながらも、命令通りに大洗戦車部隊を追撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の島の海岸………

 

「弘樹ーっ! アレ見てみろ!」

 

「!?」

 

地市がそう言って海の方を指差し、その方向を見やった弘樹は、戦車チームが潜水艦と浮沈特火点、パシフィック戦車部隊から攻撃を受けているのを目撃する。

 

「て、敵の潜水艦を発見っ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目………了解っ!!」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊の面々も驚きの声を挙げる。

 

「潜水艦っ!? あんな物まで持ち出して来たのか!?」

 

「4回戦からは『支援要請』が可能になる………水辺での戦い………考えてみれば、艦船の投入は当然か」

 

俊がそう声を挙げると、弘樹は苦虫を噛み潰した様な顔でそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『支援要請』

 

戦車道・歩兵道公式戦では4回戦以降使用可能となる戦術の1つである。

 

軍艦道と行った他武道の選手達に支援を要請し、戦闘の支援を行って貰うのである。

 

非常に強力だが、それ故に試合ごとに要請出来る支援の回数は決まっており、要請のタイミングの見極めが重要となる。

 

その為、支援を要請出来るのは、分隊長以上の指揮能力を有する人物のみと言う規定もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「歩兵総隊長! 敵の攻撃苛烈! コレ以上は持ち堪えられませんっ!!」

 

「止むを得ないか………全員、一時撤退っ! 戦車部隊と合流し、この場を離れるっ!!」

 

とそこで、コレ以上の損害は出せないと判断した迫信は、島への上陸を諦め、歩兵部隊に撤退を指示する。

 

「歩兵総隊長! 撤退なさるのですか!?」

 

「コレ以上、此処で戦っても全滅するだけだ。一旦西住総隊長達と合流して後退し、態勢を立て直す」

 

歩兵部隊員の1人がそう声を挙げるが、迫信は淡々とそう返す。

 

「後退ーっ!!」

 

「後退だ、急げーっ!!」

 

「援護しろーっ!!」

 

一斉に上陸用舟艇や水陸両用車へと戻り、撤退を開始する大洗歩兵部隊。

 

「大洗歩兵部隊が後退し始めたぞ!」

 

「良し、後はカジキ総隊長達に任せよう………」

 

廃墟に陣取っていたパシフィック歩兵部隊の面々はそう言い合い、追撃は行わなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まったパシフィック機甲部隊との試合。
大洗は出鼻を挫かれた上に、まさかの潜水艦の出現に大損害!
果たしてこの危機を如何切り抜けるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第60話『大苦戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第60話『大苦戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、第4回戦………

 

大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合が開始された。

 

パシフィック機甲部隊が得意な水辺での戦いを避ける為に、廃墟の島を占拠しようとする大洗機甲部隊。

 

しかし、それを読んでいたパシフィック機甲部隊は、既に廃墟の島を占領し、歩兵部隊を展開させていた。

 

上陸した直後を襲われ、大損害を被る大洗歩兵部隊。

 

更に、海上を進んでいた大洗戦車チームにも、パシフィックが支援要請で投入したガトー級潜水艦・ガトーとパシフィック戦車部隊に襲われる。

 

止むを得ず、大洗歩兵部隊は撤退を開始するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場・諸島海域………

 

海上を進むみほ達の大洗戦車チームに、ガトーと浮沈特火点、そしてパシフィック戦車部隊からの砲撃が容赦無く襲い掛かる。

 

大洗戦車部隊の周辺に、幾つも水柱が上がっては消え、上がっては消えて行く。

 

「敵の攻撃は苛烈です!」

 

「クッ! 波に揺られて照準が………」

 

優花里がそう声を挙げ、反撃を試みていた華も、Ⅳ号が荒れる波で揺さ振られている為、照準を付けられずに居た。

 

「! みぽりん! 歩兵部隊の皆が!」

 

「!?」

 

とそこで沙織がそう声を挙げ、みほがペリスコープで前方を見やると、廃墟の島の海岸から離れ、撤退を開始している大洗歩兵部隊の姿を確認する。

 

「如何やら持ち堪えられなかったみたいだな………」

 

「無理もありません。アレ程の銃火に晒されては………」

 

麻子がそう呟くと、優花里が仕方が無いと言う。

 

「………全車、速やかに歩兵部隊と合流して下さい。その後、一時撤退して態勢を立て直します」

 

そんな中で、みほは冷静にそう指示を下すのだった。

 

「急げーっ! 急いで戦車チームと合流するんだぁっ!!」

 

「撤退だーっ! 撤退ーっ!!」

 

そんな声を挙げながら、上陸用舟艇や水陸両用車で戦車チームとの合流を計る大洗歩兵部隊。

 

「取り敢えず、戦車と合流すれば一安心だな………」

 

と、先頭を行って居たシュビムワーゲンに乗って居た歩兵隊員の1人がそう声を挙げた瞬間………

 

「ザッバーンッ!!」

 

そう言う声が響き渡ったかと思うと、突如水中から潜水服型戦闘服を来たホージローが、まるでイルカの様に飛び出して来た!!

 

「「「「!?」」」」

 

「ホラ、プレゼントだっつーのっ!!」

 

驚くシュビムワーゲンに乗る歩兵隊員達を目掛けて、ホージローは防水加工されたマークⅡ手榴弾を投擲する。

 

「「「「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

手榴弾はシュビムワーゲンを爆発させ、乗って居た歩兵隊員全員を戦死判定させ、海に浮かばせた。

 

「!? アレは!?」

 

「ホージローさんだっ!!」

 

「クウッ!!」

 

その光景を見ていた正義と竜真が驚きの声を挙げ、ジェームズが九九式軽機関銃を発砲する。

 

「ザッパーンッ!!」

 

しかし、ホージローは海中へと姿を消し、銃弾は海面を少し爆ぜさせるだけに終わる。

 

「Oh! 逃がしマシタ!」

 

「構うな! 今は戦車チームと合流するんだっ!!」

 

ジェームズがそう声を挙げると、弘樹が今は戦車チームとの合流が優先だと呼び掛ける。

 

とそこで、戦車チームとの距離が詰まって来た為か、今まで戦車チームを優先して攻撃していたガトーと浮沈特火点、そしてパシフィック戦車部隊からの砲撃が、大洗歩兵部隊の方にも襲い掛かる。

 

「うわぁっ!?」

 

「うおっ!? アブネッ!?」

 

周辺で次々に水柱が上がり、それによって発生した波により、上陸用舟艇や水陸両用車が思う様に進まなくなる。

 

「クソォッ! 好き勝手にやりやがってぇっ!!」

 

やられてばかりではないと見せようとしたのか、大発に乗って居た重音が、バズーカを構えて身を乗り出す。

 

同乗していた他の対戦車兵も、同様にバズーカや噴進砲を構える。

 

「そこですわっ!!」

 

しかし、それを確認したセイレーンが乗るM24軽戦車が発砲。

 

「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」」」

 

「重音ーっ!!」

 

放たれた砲弾は大発を直撃。

 

大発は爆発炎上して沈没。

 

重音を始めとした歩兵隊員達が戦死判定となって波間に浮かぶ。

 

「貰ったぁっ!!」

 

「パシフィック歩兵の戦い方を見せてやるっ!」

 

更にそこで、先程水中から姿を見せたホージローと同様に、続々と水中から姿を現したパシフィック歩兵達が、次々と銃撃や手榴弾を見舞って来る!!

 

「チキショーッ! 陸から離れてもコレかよっ!!」

 

「もう駄目だーっ! 御終いだぁーっ!!」

 

地市が銃撃から身を隠しながらそう言い、了平が絶望の悲鳴を挙げる。

 

「また貴様か! いい加減にしろっ! この根性無しめっ!!」

 

そんな了平に向かって、日本兵モードとなっている弘樹がそう言い放つ。

 

「! 根性無しだと! 俺が根性無しだとぉっ!!」

 

すると了平は、何時もと違う雰囲気を見せる。

 

「? 了平?」

 

「トオッ!」

 

そんな了平の姿に楓が声を挙げた瞬間、了平は乗って居た大発から飛び出し、搭乗者全員が海へ落されて戦死判定を受け、無人となっていたシュビムワーゲンへ乗り移る。

 

そして、車内に残されていた梱包爆薬を見つけると、自分が持っていた手榴弾と弾薬を追加し、シュビムワーゲンのボンネットの上に固定した。

 

「オイ、何する気だ!?」

 

「漢・綿貫 了平の生き様! 篤と見やがれっ!!」

 

地市がそう言った瞬間、了平はシュビムワーゲンの速力を全開にし、パシフィック戦車部隊目掛けて突っ込んで行った!!

 

「了平っ!!」

 

「アイツ、神風をやる気か!?」

 

遠ざかって行く了平の姿を見て、楓と地市がそう言い合う。

 

「アラ? 歩兵が1人、水陸両用車で突っ込んで来るわ?」

 

と、その了平の姿を目撃したメロウがそう声を挙げる。

 

「!? ちょっ!? ボンネットに爆弾括り付けてるわよっ!?」

 

そこで、同じ様にその姿を目撃したローレライが、了平の乗るシュビムワーゲンのボンネットの上に梱包爆薬を中心とした大量の爆弾が括り付けられているのに気付く。

 

「か、神風っ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「か、回避ーっ! 回避ーっ!!」

 

了平の命知らずな行動に恐れを為したパシフィック戦車部隊は、命令を待たずに其々の車両が勝手に回避行動を取り始める。

 

「ちょっ! 待ちなさいっ! 勝手な行動を取らないでっ!!」

 

「うおおおおおっ! アレがフラッグ車かぁっ!! 行くぜえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

セイレーンが慌てて指示を出そうとするが、そのセイレーンが乗るフラッグ車でもあるM24軽戦車目掛けて、了平の乗るシュビムワーゲンは突っ込んで行く。

 

「!?」

 

「総隊長! 危ないぃっ!!」

 

だがその間に、パシフィック戦車部隊のT-40の1両が割って入る。

 

了平の乗るシュビムワーゲンがそのT-40に激突した瞬間………

 

シュビムワーゲンはT-40ごと大爆発!

 

巨大な水柱が、雲を突かんばかりに立ち上った!!

 

「了平ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」

 

「了平………貴方にそれ程の勇気が有ったとは………」

 

「見事な散り様だったぞ………了平」

 

その光景を見ていた地市が叫び、楓は思わず目頭を押さえ、弘樹はヤマト式敬礼を送る。

 

「ああ………空が青いぜ………」

 

そしてその了平は、全身黒焦げのアフロヘアーとなった状態で波間を漂っていたかと思うと、ガクリと気絶して、戦死と判定された。

 

「彼の行動を無駄にするな! この隙に撤退するんだっ!!」

 

「皆さん! 付いて来て下さいっ!!」

 

そこで迫信がそう言い放つと、漸く合流した戦車チームの中でみほがそう言い、大洗機甲部隊は近くの海岸へと撤退して行く。

 

「総隊長! ご無事ですかっ!?」

 

「セイレーンッ! 大丈夫っ!?」

 

一方、パシフィック戦車部隊の方でも、水中に居たパシフィック歩兵達までもが集まり、セイレーンにそう呼び掛ける。

 

「え、ええ、何とか………彼女達が盾になってくれなければ危ないところでしたわ」

 

セイレーンはそう答えながら、撃破判定を受けて波間を漂っているT-40を見やる。

 

「オイ、総隊長! アイツ等逃げて行くぜ! 追い掛けるかっ!?」

 

とそこで、水中に隠れていたパシフィック歩兵部隊を回収に来たLVT(A)-4の上に乗って居たホージローが、撤退して行く大洗機甲部隊を指差しそう言う。

 

「いいえ、深追いの必要は有りませんわ。既にコチラは大損害を与えていますわ………例え大洗が再度仕掛けて来たとしても、返り討ちにすれば宜しい事ですわ」

 

「ハハハッ! 言えてるぜっ!!」

 

笑い声を挙げながら、セイレーンの言葉に同意するホージロー。

 

「…………」

 

と、別のLVT(A)-4の上に乗って居たカジキは、撤退して行く大洗機甲部隊の姿を睨む様な眼差しで見ていた。

 

(初手でこれ程までの一方的な展開………戦力の大半を失い、士気も低下するだろう………終わりだな、大洗………そして、舩坂 弘樹………)

 

その内心では、既に勝利を確信し始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の島の近くの小島の海岸………

 

「大分手酷くやられたな………」

 

大詔が、既に半分近くとなっている大洗歩兵部隊の面々と、大小に損傷を受けている上陸用舟艇や水陸両用車を見ながらそう呟く。

 

「戦車チームもアヒルさんチームが脱落か………」

 

「もう駄目だぁ~っ!! 御終いだぁ~っ!!」

 

ゾルダートも撃破されたアヒルさんチームの事を思いながらそう呟くと、毎度の如く絶望の悲鳴を挙げる桃。

 

「…………」

 

「ちょっ! 栗林先輩! あんなのでも一応味方ですからっ!!」

 

そんな桃の様子を見て、熾龍が無言で収束手榴弾を取り出したのを見て、逞巳が割りと酷い事を言いながら止める。

 

「西住総隊長。如何なさいますか?」

 

とそこで弘樹は、総隊長であるみほに指示を仰ぐ。

 

「やはり海上で戦っても、勝ち目は有りません。如何にかしてあの島に上陸して、陸上戦に持ち込まない事には………」

 

「けど、あの激しい攻撃を掻い潜って上陸を強行するのは危険だよ」

 

みほがそう答えると、それを聞いていた拳龍がそう言う。

 

「敵もそれを分かっているから、コチラを追撃せず、海上に留まっている様だな………」

 

「まあ、攻めて来られたら、数で劣るコッチに勝機は無いけどな………」

 

追撃を掛けて来ないパシフィック機甲部隊の様子を見ながらゾルダートがそう言うと、俊がそう呟く。

 

「攻めても勝機無し、守っても勝機無し………」

 

「完全に手詰まりじゃねぇかよ………」

 

鷺澪が項垂れながらそう呟く。

 

他のメンツも、多かれ少なかれ、勝機の無さを感じ取り、表情に影を落としている。

 

「まだ負けたワケじゃありません!」

 

しかしそこで、竜真がそう声を挙げた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「その通りデス! 私達はまだ負けていまセン!」

 

それに大洗機甲部隊の一同が反応すると、今度はジェームズがそう声を挙げる。

 

「敵の攻撃の要は水中に潜んでいる歩兵っす! そいつ等の足止めを如何にかすれば、戦車に支援して貰って上陸する事が可能っす!!」

 

そして最後に、正義がそう言い放った。

 

「何とかって言ったって、具体的に如何するんだよ?」

 

そんな竜真達に、海音がそうツッコむ様に言うが………

 

「疾河、モンロー、桑原………ものに出来たのか?」

 

弘樹は竜真達を見ながらそう尋ねる。

 

「完全に、とは言えませんが………」

 

「形にはなっていマス………」

 

「先輩! 自分達にやらせて下さい!」

 

「僕からもお願いします!」

 

「先輩!」

 

竜真、ジェームズ、正義がそう言い、勇武と光照も賛同して来る。

 

「「…………」」

 

誠也と清十郎も、真剣な眼差しを送る。

 

「………西住総隊長。彼等を信じてやらせてくれませんか?」

 

それを受けて弘樹は、みほにそう呼び掛ける。

 

「舩坂くんが信じるんなら、私が信じない理由は無いよ………ハムスターさん分隊の皆さん。お願いします!」

 

みほはそう言って笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間には引き締まった表情でハムスターさん分隊の面々にそう指示を出した。

 

「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」

 

ハムスターさん分隊の面々は、まるで弘樹を見習うかの様に、全員でヤマト式敬礼をしてそう返事を返す。

 

「ならば援護は拙者に任せてもろおう」

 

するとそこで、小太郎がそう名乗りを挙げた。

 

「! 葉隠さん!」

 

「先程はパシフィックのアンブッシュに不覚を取ったでござるが、今度は奴等に教えてやるでござる………キューソーは猫を噛んだら殺す」

 

「言葉の意味は分からないが、兎に角凄い自信だ」

 

小太郎がゴキゴキと指を鳴らしながらそう言い、明夫がそうツッコミを入れる。

 

「では、作戦を立て直します!」

 

そこでみほはそう言い放ち、大洗機甲部隊の面々は新たな作戦に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の島の近海………

 

「来ないね~、大洗~」

 

「ふあああああ………私、眠くなってきちゃった………」

 

M2中戦車の操縦席でメロウがそう呟くと、車長席のローレライも、戦車が波に揺られているのが心地良い為か、そんな事を呟く。

 

「ちょっと御2人共! 試合中ですわよ! もっと緊張感を持って下さいまし!!」

 

そんなメロウとローレライを、即座にセイレーンが注意する。

 

「す、すみません!」

 

「ふぁ~い」

 

メロウは即座に謝るが、ローレライは欠伸混じりな返事を返す。

 

「全くもう………」

 

「! 1時方向に敵発見っ!!」

 

セイレーンが呆れる様な声を漏らした瞬間、LVT(A)-4上で双眼鏡を構えて周辺を警戒していたパシフィック歩兵部隊の偵察兵が、パシフィック機甲部隊から見て1時の方向に大洗機甲部隊を発見し、そう声を挙げる。

 

「! 来ましたわね!」

 

「島の方に向かってるわね………」

 

「コッチを無視して、島に上陸して陸上戦に持ち込む気でしょうか?」

 

セイレーンが声を挙げると、ローレライとメロウが自分達を無視する様に島へと向かって居る大洗機甲部隊の様子を見てそう呟く。

 

「へっ! そうはさせねえっつうの!!」

 

するとそこで、LVT(A)-4の上に居た潜水戦闘服姿のホージローが、海へと飛び込んだ!

 

他の兵員輸送用のLVTからも、次々に潜水戦闘服を来たパシフィックの歩兵達が飛び出し、海へと飛び込んで行く。

 

そしてそのまま、水中を泳ぎながら、大洗機甲部隊の方へと向かって行く。

 

「! パシフィックの歩兵達が海に飛び込みました!」

 

「来るっすよぉっ!!」

 

その様子を見ていた、M3リーにタンクデサントしているハムスターさん分隊の中で、竜真と正義がそう言い合う。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを聞いたハムスターさん分隊の面々が其々に身構える。

 

(へへ………宣言通りに潰させてもらうぜ)

 

水中を進むホージローは、フラッグ車でもあるM3リーとそれを守るハムスターさん分隊に狙いを定める。

 

そしてそのまま、水中から至近距離まで接近したかと思うと………

 

「ザッパーンッ!!」

 

勢い良く海面から飛び出し、背にしていた防水加工済みのパンツァーファウストを構える!

 

と、その瞬間!!

 

「「! そこだぁっ!!」」

 

光照と正義が戦車の上からジャンプし、まるでホージローの出現位置を読んでいたかの様にタックルを食らわせた!!

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

驚きの声と共にパンツァーファウストを手放してしまい、海中へ逆戻りするホージロー。

 

如何に高身長があっても、空中で攻撃を受けては体格差も関係無かった。

 

「ハッ!」

 

と、ホージローが落としたパンツァーファウストを竜真がキャッチし、そのままパシフィック戦車部隊の方へと向ける。

 

「!? ちょっ!? 狙われてるって!!」

 

「ぜ、全車、回避運動っ!!」

 

「遅いっ!!」

 

セイレーンが慌てて指示を出したが、その瞬間には竜真はパンツァーファウストを発射。

 

装着されていた弾頭が、白煙の尾を引きながら特二式内火艇に命中!

 

一瞬間が有って、特二式内火艇から撃破を示す白旗が上がった!

 

「やったぁっ!!」

 

「1両撃破っ!!」

 

あやが歓声を挙げ、竜真が報告する様にそう声を挙げる。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、別の水中に潜んでいたパシフィック歩兵が飛び出してくるが………

 

「ドリャアアアアアアッ!!」

 

「ガッ!?」

 

タイミングを計って居たかの様な正義の、着剣した三八式歩兵銃での突きが決まる。

 

飛び出して来たパシフィック歩兵は戦死と判定されて海へ落ちると、そのまま波間を漂い始める。

 

「先先の先手攻撃です! 忘れないで!!」

 

「相手に態と攻撃させて、その隙を衝くんです!」

 

誠也と清十郎が、確認するかの様に皆にそう言い放つ。

 

「海に帰りなサイ!」

 

「ぐああっ!!」

 

そう言っている間にも、ジェームズが新たに海中から飛び出して来たパシフィック歩兵を、エンフィールド・リボルバーで撃ち抜く。

 

「ええいっ!!」

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

勇武も、海から姿を見せていたパシフィック歩兵達に向かって手榴弾を投擲。

 

3人纏めて戦死判定を下させる。

 

「ホージローさん達の攻撃を凌いだ!?」

 

「馬鹿なっ!?」

 

「チキショウッ! 俺達も行くぞっ!!」

 

それを見た、まだLVTに乗って居たパシフィック歩兵達が、自分達も海中へ潜ろうとする。

 

と、その時である!!

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトと共に、海中から影が飛び出し、イルカめいた曲芸を決めて、LVTの上に着地する。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「ドーモ。パシフィックの皆=サン。葉隠 小太郎です」

 

その人物………小太郎は、パシフィックの歩兵達に向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「アイエエエエ!」

 

「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「コワイ!」

 

「ゴボボーッ!」

 

サツバツ!

 

NRSが起こり、パシフィックの歩兵達は恐怖のあまり容易に(自主規制)し、嘔吐した。

 

「パシフィック殺すべし。慈悲は無い! イヤーッ!!」

 

と、そんなパシフィック歩兵部隊の乗るLVTに、小太郎は容赦無く収束手榴弾を投げ込む。

 

「イヤーッ!!」

 

そして小太郎が跳躍して離れた瞬間に投げ込んだ収束手榴弾が爆発!

 

「「「「「「アバーッ!?」」」」」」

 

LVTは、乗って居たパシフィック歩兵達諸共爆発四散する。

 

「ザッケンナコラー!」

 

「スッゾオラー!!」

 

「海に落ちた瞬間を狙え! 海中の連中と一緒に追い込むんだっ!!」

 

パシフィック歩兵達は怒り心頭で、小太郎の跳躍先に狙いを定め、更に海中に居たパシフィック歩兵も、着水地点に先回りして小太郎を待ち構える。

 

このままでは小太郎の運命はネズミ袋である。

 

だが、しかし!!

 

小太郎が着水すると思われた瞬間………

 

「イヤーッ!!」

 

ニンジャシャウトと共に海面を蹴り、そのまま海の上を走り始めた!!

 

「「「「「「「「「「!? アイエエエエェェェェェ!?」」」」」」」」」」

 

海中で待ち構えていた潜水歩兵と船上から狙いを定めていたパシフィック歩兵の悲鳴めいた声が挙がる。

 

おお、見よ!

 

アレぞ小太郎のニンジャ脚力によって可能とされた水上走法………『ミズグモ・ジツ』である!!

 

ゴウランガ!!

 

「イヤーッ!! イヤーッ!! イヤーッ!!」

 

小太郎は海上を爆走し、両腕を鞭の様に振ってスリケンを投げまくる。

 

「アバーッ!!」

 

「アバババーッ!!」

 

「アバーッ!!」

 

そのスリケンが命中したパシフィック歩兵が、次々に戦死判定を受けて行く。

 

「な、何なんですの!? あの男は!?」

 

「ニンジャだ! ニンジャが居る!!」

 

「ニンポを使うぞ! ニンポを使うぞ!」

 

その光景を見ていたセイレーン、ローレライ、メロウにも混乱が走る。

 

とそこで、砲撃音と爆発音が連続して聞こえて来る。

 

大洗機甲部隊が廃墟の島へと辿り着き、戦車チームがパシフィック歩兵部隊がトーチカとして使っていた廃墟に砲撃を撃ち込み始めたのだ。

 

「華さん! 11時の方向!!」

 

「ハイッ!!」

 

みほの指示を受けた華が、Ⅳ号から見て11時の方向に在った廃墟に砲弾を放つ。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

野戦砲とその砲に付いて居たパシフィック砲兵部隊が纏めて吹き飛ぶ。

 

「良し、今だ! 全員上陸しろーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

段々と廃墟が更地と化して来たところで、弘樹がそう号令を挙げ、大洗歩兵部隊は一斉に上陸。

 

そのまま廃墟の島の内部へと進軍する。

 

「私達も続きます! 皆さん、付いて来て下さい!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

それに続く様に、Ⅳ号を先頭に戦車チームの島へと上陸。

 

歩兵部隊の後を追う様に、島の内部の方へと進軍するのだった。

 

「しまった! 完全に上陸されたわ!!」

 

「時間稼ぎはココまででござるな………サラバ!」

 

と、ローレライがそう声を挙げた瞬間、小太郎は懐から煙玉を取り出して、海面に叩き付ける。

 

「うわぁっ!?」

 

「何も見えねえぞっ!!」

 

煙幕が海面一帯に広がる。

 

暫くして煙幕が晴れたかと思うと、小太郎の姿は完全に消え失せていたのだった………

 

「!? 居ない!? ああ、もうっ!!」

 

「完全にしてやられたわね………」

 

セイレーンが地団駄を踏み、ローレライは半ば感心した様にそう言い放つ。

 

「…………」

 

そしてLVTに乗って居るカジキは、大洗機甲部隊が上陸した場所を睨みつける様に見ていた。

 

「ええーい、チキショー! してやられたぜ!!」

 

とそこで、潜水艦の甲板の上にホージローが海から上がって来る。

 

竜真と光照にタックルを食らったが、戦死判定には至らなかったので、海中を泳いで此処まで退避して来た様だ。

 

「あのおチビちゃん達………意外とやるみたいだな」

 

「………『シイラ』、『ツナ』。お前達も前線に出ろ」

 

ホージローが真面目な顔でそう言うと、カジキが通信機を手にそう言い放つ。

 

「やっと出番か!」

 

「待ってました!」

 

すると、ガトーのセイルのハッチが開き、シイラと長身のパシフィック歩兵部隊の中では小柄だが、それでも日本人の平均身長以上は有る男子………『ツナ』が姿を見せる。

 

「『スクイッド』、お前は引き続きガトーを任せたぞ。海から奴等の姿が見えたら容赦無く攻撃しろ」

 

「了解しました」

 

ガトーの艦長をしている『スクイッド』にそう命令すると、カジキは銛を手にする。

 

「いい気になるなよ………この俺がいる限り………貴様等には負けはしない………」

 

「良し! コレより大洗機甲部隊の追撃に入る! 全部隊、私に続きなさいっ!!」

 

カジキがそう呟くと、セイレーンがそう指示を出し、パシフィック機甲部隊は大洗機甲部隊を追って、自分達も廃墟の島へと上陸し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

初手からパシフィック機甲部隊より大打撃を受けた大洗機甲部隊。
しかし、竜真達ハムスターさん分隊と小太郎の活躍により、如何にか軍艦島への上陸に成功する。
まだ、逆転の可能性は十分にあるのだった。

では、ご意見・。ご感想をお待ちしております。


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第61話『軍艦島の戦いです!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第61話『軍艦島の戦いです!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合が始まった。

 

初戦こそ先んじて廃墟の島を抑え、支援要請で潜水艦を投入したパシフィック機甲部隊に苦戦させられた大洗だったが………

 

竜真、ジェームズ、正義を中心としたハムスターさん分隊の反撃で、ホージローを始めとしたパシフィック水中歩兵部隊を抑え………

 

そこを小太郎が攪乱。

 

パシフィック機甲部隊が混乱に陥った隙に、戦車チームの支援を受けた歩兵部隊が島へと上陸を成功させる。

 

戦車チームもそのまま上陸し、海岸から離れての陸地戦へと持ち込もうとする。

 

それを見たカジキは、潜水艦に搭乗していた『シイラ』と『ツナ』を歩兵として投入。

 

更にホージローも本気を見せ始める。

 

上陸した大洗機甲部隊を追い、パシフィック機甲部隊も島へと上陸。

 

戦いは海上から陸上へと移行していったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の島・中心部………

 

まるで映画のセットの様に、崩れかけている鉄筋コンクリート製のビルや家々が建ち並ぶ中を、パシフィック機甲部隊の面々が注意深く進軍している。

 

「! オイ、アレッ!!」

 

とそこでホージローが、前方に何かを見つけて声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その声でパシフィック機甲部隊は一斉に停止。

 

全員で前方を確認する。

 

そこに在ったのは、大洗戦車チームの戦車が使っていたフロートだった。

 

「大洗の戦車が使っていたフロート?」

 

「何でこんな所に?」

 

「ブービートラップってやつか?」

 

露骨に放棄されていたフロートに、パシフィック歩兵達が怪訝な顔を見せる。

 

「カンパチ、オコゼ、メジロ、見て来い。十分注意してな」

 

「「「了解!」」」

 

とそこでカジキは、3人のパシフィック歩兵にフロートを調べる様に命令する。

 

「「「…………」」」

 

3人は銃を構えて、警戒しながらゆっくりとフロートへと近づいて行く。

 

やがてフロートの傍へと辿り着くと、陰になっている部分などを調べ始める。

 

「! 時限爆弾だ!」

 

とそこで、1人がフロートの陰に時限爆弾が仕掛けられているのを発見する。

 

「やっぱりトラップか………」

 

「工兵! 来てくれっ!!」

 

「ハイ、只今!」

 

すぐに工兵を呼び、時限装置の解除に掛かる。

 

「如何やら設定時間を間違えた様ですね」

 

「ハハハ! 何だそりゃ! 間抜けだなっ!!」

 

時限装置を解除した工兵がそう言うと、パシフィック歩兵の1人がそう笑い声を挙げる。

 

………と、その瞬間!!

 

「貰ったぁっ!!」

 

後部用フロートに在ったハッチが開き、中からUD M42を構えた竜真が姿を見せたかと思うと、偵察と爆弾の解除に来ていたパシフィック歩兵達に至近距離から9mm弾を浴びせる!

 

「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

至近距離からばら撒かれた弾丸に為す術も無く、偵察と爆弾の解除に来ていたパシフィック歩兵達は瞬く間に戦死判定を受けて倒れた。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「大洗の歩兵っ!?」

 

「あんな所に隠れてやがったのか!?」

 

竜真の意外な登場の仕方に、パシフィック歩兵達から驚きの声が挙がる。

 

「このぉーっ!!」

 

と、味方をやられた報復か、随伴して来ていたLVT(A)-4が前に出て、75mm砲を向ける。

 

だが直後に、その LVT(A)-4にロケット弾が直撃!

 

爆発が起こった後、一瞬間が有って、撃破判定が下される。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「撃てーっ!!」

 

パシフィック機甲部隊が驚いていると、そう言う声が響き渡り、廃墟のビルの窓やベランダ、壁が崩れて見えている内部部分等の彼方此方から、大洗歩兵部隊が姿を見せ、パシフィック機甲部隊に銃撃を開始した!!

 

「! 大洗歩兵部隊!」

 

「待ち構えてやがったのか!!」

 

パシフィック歩兵達は慌てながらも、すぐに戦車や遮蔽物の陰に身を隠す。

 

「退却っ!!」

 

その間に、フロートの中から飛び出した竜真は撤退し、近場に在った廃墟の中へと駆け込む。

 

「大洗の歩兵の連中、皆廃墟の中に居るみたいだな」

 

「僕達がやっていた事を真似しているんでしょうか?」

 

遮蔽物に身を隠しながら、M1903A4を持つシイラと、L-39を持つツナがそう言い合う。

 

「無駄な事を………全部隊、分隊ごとに分かれて廃墟内へ侵入しろ。大洗の連中を巣穴から叩き出してやれ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

カジキがそう指示すると、パシフィック歩兵部隊達は分隊規模ごとに纏まり、戦車や遮蔽物の陰を移動しながら、次々と大洗歩兵部隊が居る廃墟の中へと侵入して行く。

 

「敵侵入っ!!」

 

「攻撃中止! 侵入した敵を迎え撃てっ!!」

 

そこで大洗歩兵部隊は攻撃を中止し、廃墟内へ侵入して来たパシフィック歩兵隊の迎撃へと向かう。

 

「セイレーン、私達は?」

 

残されたパシフィックの戦車部隊の中で、ローレライが総隊長であるセイレーンに尋ねる。

 

「私達は………」

 

と、セイレーンが返事を返そうとしたところ、近くの瓦礫に砲弾が命中し、瓦礫が爆ぜた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

パシフィック戦車部隊の面々が、慌てて砲弾が飛んで来た方向を見やると………

 

「ハズレ~」

 

「まあ、期待してなかったけどね………」

 

「如何言う意味だ、ソレはっ!!」

 

「どうどう、桃ちゃん」

 

廃墟の陰に隠れて砲撃してきた、カメさんチームの38tの姿を確認する。

 

「! 敵の戦車を発見っ!!」

 

「不意を衝く積りだったみたいだけど、失敗したみたいだね」

 

メロウが報告を挙げると、ローレライがそう呟く。

 

「この距離で外すとは………敵の砲手さんは随分とお粗末の様ですわね。反撃しなさい!」

 

「ハッ!」

 

セイレーンも桃の事を貶しながら、反撃を命令。

 

M24の主砲が放たれ、38tが隠れている廃墟に命中!!

 

廃墟が大きく崩れ始める。

 

「うわぁっ! やられたーっ!! もう駄目だーっ!!」

 

「て、撤退ーっ!!」

 

さっきまでの態度は何処へやら、絶望し切った悲鳴を挙げる桃と、慌てて38tを後退させる柚子。

 

「追撃致しますわよ。但し、他の大洗の車両の待ち伏せがあるかも知れません。警戒を厳に進軍しなさい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」

 

パシフィック戦車部隊は、大洗戦車チームの待ち伏せを警戒しながら、逃走した38tの追撃に移る。

 

「パシフィックの戦車部隊、追撃して来たよ」

 

「西住ちゃ~ん。言われた通り、敵を誘い出してるよ」

 

蛍がそう報告すると、杏がみほへそう通信を送る。

 

『了解しました。何とかAポイントまで誘導して下さい』

 

「ハイハ~イ………と言うワケだから、小山。Aポイントに着くまで絶対に敵の砲弾に当たるなよ」

 

「会長~! 他人事だと思って~!」

 

みほからの返信を聞くと、柚子にそう指示を出し、指示を受けた柚子は半泣きの様な声を挙げながらも、的確な操縦でパシフィック戦車部隊の砲撃をかわしながら、Aポイントと呼ぶ場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

パシフィック歩兵部隊と、廃墟内での室内戦へと突入した大洗歩兵部隊は………

 

「撃て撃てーっ! 近寄らせるんやないでぇっ!!」

 

通路や廃墟内に在った家財の残骸や瓦礫を使って簡易バリケードを作って盾にし、大河を中心に大洗連合の歩兵達が弾幕を張って、侵入して来たパシフィック歩兵部隊の足を止めている。

 

「チイッ! 調子に乗りやがってっ!!」

 

「ふっとばしてやらぁっ!!」

 

遮蔽物に身を隠していたパシフィック歩兵達がそんな事を言い合うと、1人が大河達目掛けて手榴弾を投擲した。

 

「! 手榴弾や! 下がれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大河と大洗連合の歩兵達は慌ててバリケードから離れる。

 

直後に手榴弾が爆発し、簡易バリケードが吹っ飛ばされる。

 

「チイッ! 撤退やぁっ!!」

 

遮蔽物が無くなり、不利になったと判断したのか、撤退命令を出す大河。

 

「逃がすな!」

 

「追えーっ!!」

 

即座にそれを追撃するパシフィック歩兵達。

 

だが、破壊した簡易バリケードを越えようとした瞬間………

 

先頭を行って居たパシフィック歩兵が、足元に貼られていたワイヤーの様な物に引っ掛かる。

 

「!? おうわっ!?………!?」

 

勢い余って倒れたパシフィック歩兵が見た物は………

 

そのワイヤーの先端が手榴弾の安全ピンに繋がれており、引っ掛けた際にピンが外れている光景だった。

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

手榴弾が爆発し、大河達を追撃しようとしていたパシフィック歩兵部隊は纏めて戦死判定を受ける。

 

「ハハハ! やったでぇっ!!」

 

「こういう閉所では、小生のトラップの出番ですなぁ」

 

その光景を見て歓声を挙げる大河と、トラップを仕掛けた灰史が、得意げにそう言い放つ。

 

「流石やで、水谷! その調子で連中をドンドン罠に嵌めたれぇ!」

 

「お任せあれ」

 

大河にそう言われ、灰史は新たなトラップの設置に掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に別の場所でも………

 

「「「「「…………」」」」」

 

数人のパシフィック歩兵が、通路を警戒しながらゆっくりと進んでいる。

 

とそこで前方で音が鳴る。

 

「「「「「!!」」」」」

 

「!? しまったっ!!」

 

パシフィック歩兵達が一斉に前方を見やると、そこには隠れて移動しようとしていた竜真の姿が在った。

 

「! 居たぞぉっ!!」

 

「さっき仲間をやりやがった奴だ!!」

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

即座にパシフィック歩兵達は竜真に向かって発砲する。

 

「うわあぁっ!?」

 

竜真は悲鳴の様な声を挙げて、慌てて近くに在った部屋へと入り込む。

 

「部屋に入ったぞ!」

 

「馬鹿め、袋の鼠だ!」

 

「追い込めーっ!!」

 

逃げた竜真が入った部屋の入り口に殺到するパシフィック歩兵達。

 

すると………

 

「!? ギャンッ!?」

 

1番最初に部屋へと入り込もうとしたパシフィック歩兵が、入り口の鴨居に頭をぶつけ、そのまま仰け反る様に倒れる。

 

「おわっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

そのままドミノ倒しの様に、入り口へと殺到していたパシフィック歩兵達を押し倒し、全員が床に倒れた。

 

「イテテテテッ………!?」

 

頭をぶつけたパシフィック歩兵が、頭を押さえて痛がりながら身を起こすと、その眼前には………

 

「…………」

 

無言でUD M42を構えている竜真の姿が在った。

 

「!? 馬鹿! 早く退………」

 

け、と言うよりも早く、竜真はUD M42を発砲!!

 

9mm弾が倒れているパシフィック歩兵達を容赦無く撃ち抜く!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

パシフィック歩兵達は為す術も無く、瞬く間に全員が戦死と判定されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に別の場所でも………

 

「弾幕を張れ! 敵を近寄らせるなっ!!」

 

大河達と同じ様に、通路に簡易バリケードを作った大洗歩兵達が、進行して来たパシフィック歩兵達に対して弾幕を張る。

 

「チイッ! 大洗の連中め………」

 

通路の角に身を隠しているパシフィック歩兵の1人が苦々しげに呟く。

 

「心配するな。今別働隊が裏取りに向かっている。そうすれば挟み撃ちだ」

 

だが、別のパシフィック歩兵の1人がそう言ってニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

そして、その別働隊は………

 

「コッチから回れるぞ!」

 

「やれやれ。こういう時は身長が高いと苦労するぜ」

 

弾幕を張っている大洗歩兵部隊の面々の背後に回り込もうと、迷路の様な廃墟の中を、通れる通路を探しながら進んでいる。

 

パシフィック歩兵達の持ち味である高身長が災いし、通れる場所が限られてしまっている為、かなりの回り道をしている。

 

「頑張れ! もう少しだ!!」

 

「おっ! 広い所に出たぞ!!」

 

するとそこで、裏取りに向かって居たパシフィック歩兵達が、他と比べてやや広い通路へと出る。

 

「ココなら身を屈めずに歩けそうだぜ」

 

「ああ~~、窮屈だったぜ」

 

高身長で狭い通路を進んで来ていたパシフィック歩兵達からそんな声が挙がり、伸びをする者も居る。

 

「急ぐぞ! この先に出れば大洗歩兵部隊の後ろだ!!」

 

しかし、その別働隊の指揮を執っている分隊長が、そんな一同を急かす様にそう言い、先立って進み始める。

 

が、そこで壁にぶつかり、足を止める。

 

「イテッ! 何でこんな所に壁が………」

 

そう言いながら壁を見上げて、パシフィック歩兵分隊長は気づく。

 

それは壁ではなく………

 

立ちはだかっていたシャッコーだと言う事に。

 

「………へっ?」

 

「ふんっ!」

 

思わず呆けてしまったパシフィック歩兵分隊長を、シャッコーは思いっきり殴りつける!

 

「!? うわらばぁっ!?」

 

殴られたパシフィック歩兵分隊長は壁に叩き付けられ、そのまま世紀末の様な断末魔を挙げると気絶した。

 

「!? な、何だ、コイツは!?」

 

「大洗の歩兵か!?」

 

「にしたってデカ過ぎるぞっ!?」

 

突如現れたシャッコーに、分隊長がやられた事も合わさって、混乱するパシフィック歩兵達。

 

何せ、平均身長が2メートル前後のパシフィック歩兵達だが、シャッコーの身長は2メートル30センチ。

 

頭1つ分突き抜けてデカイのである。

 

オマケに、体格もまるで熊を連想する様な巨体である。

 

然しものパシフィック歩兵達も、驚きを隠せずに居た。

 

「…………」

 

そんなパシフィック歩兵達を、シャッコーは無言で見下ろしている。

 

「こ、この野郎! ちょっと俺達より大きいからって、調子に乗るんじゃねえぞぉっ!!」

 

そこで、パシフィック歩兵の1人がコンバットナイフを抜き、シャッコーに突撃する。

 

「! 馬鹿! 迂闊だぞっ!!」

 

「テヤァーッ!!」

 

別のパシフィック歩兵の1人がそう声を挙げるが、その瞬間にはコンバットナイフを握ったパシフィック歩兵は、シャッコーに向かって突きを繰り出していた。

 

「…………」

 

が、シャッコーは眼前まで迫ったコンバットナイフを、パシフィック歩兵の腕ごと鷲掴みにして止める。

 

「なっ!?………!? おうわっ!?」

 

驚くパシフィック歩兵をそのまま持ち上げ、宙吊りにするシャッコー。

 

「…………」

 

そしてそこで、近くに在った割れたガラスの入った窓を見やる。

 

「えっ!? まさか!? 嘘だろ!? ちょっ!? 止めてぇっ!!」

 

「フンッ!!」

 

パシフィック歩兵の懇願も虚しく、シャッコーはその窓目掛けて、パシフィック歩兵を放り投げる!

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

窓を突き破ったパシフィック歩兵は、ドップラー効果を聞かせながら廃墟の下へと落下して行った。

 

「………次はどいつだ?」

 

「「「!!」」」

 

凄みを利かせた声でシャッコーがそう言い放つと、パシフィック歩兵達は思わず1歩下がる。

 

と、その瞬間っ!!

 

轟音の様な射撃音がしたかと思うと、通路のコンクリートで出来た壁に穴が空く!

 

「!? ぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

その穴を空けた弾丸に撃ち抜かれた、パシフィック歩兵の1人が即座に戦死判定を受ける。

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

その光景に他のパシフィック歩兵が驚きの声を挙げた瞬間!

 

再び轟音の様な射撃音が鳴り響き、コンクリートの壁に穴が空いて、別のパシフィック歩兵の1人の頭部に弾丸が命中!

 

「!?………」

 

ヘッドショットを受けたパシフィック歩兵は、悲鳴を挙げる間も無く気絶し、戦死と判定される。

 

「じょ、冗談じゃねえぞぉっ!!」

 

1人残ったパシフィック歩兵は、対峙していたシャッコーに背を向けて、逃走する。

 

「…………」

 

そのパシフィック歩兵を追う事はせず、シャッコーは通路に在った窓から、向かいの廃墟の屋上を見やる。

 

「…………」

 

そこでは、ラハティ L-39 対戦車銃を構えていた陣が、シャッコーに向かってサムズアップをしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の一角………

 

『こちらキハダ! 敵の攻撃を受けている! 至急救援を!!』

 

『チキショー! 狭くて上手く身動きが取れねぇっ!!』

 

『オイ、押すな! 先が閊えてんたぞっ!!』

 

「あちゃ~、押されまくってんなぁ~」

 

通信機から聞こえて来る味方の阿鼻叫喚の声に、ホージローがまるで他人事の様にそう呟く。

 

「此方の長身の有利を撃ち消す為に、この廃墟の中での戦いに持ち込んだワケか………」

 

廃墟の彼方此方から聞こえて来る銃声や悲鳴、爆発音を聞きながら、カジキがそう分析する。

 

「けど、それも一時凌ぎだっての。こっからは俺達のターンだぜ」

 

とそこでホージローは不敵な表情となり、そう言い放つ。

 

「此処からは分散行動に入る。其々に敵を見つけて叩け。但し………舩坂 弘樹を見つけたら俺に知らせろ」

 

「了解!」

 

「了解しました、隊長!」

 

カジキがそう言うと、シイラとツナが敬礼しながらそう返す。

 

「舩坂 弘樹………貴様だけは必ず俺の手で………」

 

カジキはそう言い、M1941ジョンソン小銃を握り締めて、分散行動に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

戦闘の舞台は海上から陸上へ。
廃墟を利用して、パシフィック歩兵達の長身の有利を無力化する大洗歩兵部隊。
しかし………
カジキ達がまだ残っている………
まだ勝負の行方は分からない………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第62話『軍艦島の戦いです!(中編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第62話『軍艦島の戦いです!(中編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦が続く大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合………

 

戦場を海上から廃墟の島の陸上へと移し、廃墟に陣取ってパシフィック歩兵部隊を迎え撃った大洗歩兵部隊。

 

狭い廃墟内での戦いで、パシフィック自慢の高身長歩兵部隊は上手く行動出来ず、大洗歩兵部隊に苦戦させられる。

 

しかし、このまま終わるパシフィックではない………

 

隊長であるカジキ、エースのホージロー、シイラ、ツナが動き出す。

 

まだ勝敗の行方は分からない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4回戦会場・島々の点在する海域の1つ、廃墟の島にて………

 

大洗歩兵部隊が、廃墟内でパシフィック歩兵部隊との戦いを繰り広げていた頃………

 

大洗戦車チームと、パシフィック戦車部隊は………

 

単独で攻撃を仕掛けた38tが、故障車両が出た為に遅れているLVT(A)-4部隊を除いたパシフィック戦車部隊に追われながら、廃墟の広がる中の瓦礫が散乱する通路を逃げている。

 

「死ねぇっ!!」

 

桃の物騒な叫びと共に、後ろに向けた砲で、追撃して来るパシフィック戦車部隊を攻撃する38t。

 

しかし、弾丸は明後日の方向に飛び、廃墟の建物に命中する。

 

反撃とばかりに、パシフィック戦車部隊が次々と発砲する。

 

逃げる38tの周辺に至近弾が着弾し、振動が38tを揺さぶる。

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ! 死ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!! 助けてくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

途端に情けない悲鳴を挙げて泣き叫ぶ桃。

 

「も、桃ちゃん! 落ち着いて! 大丈夫だから!!」

 

慌てて蛍が桃を落ち着かせようとする。

 

「もしもし~? カモさんチームとサンショウウオさんチーム? もうすぐそっちに着くから、あとは宜しくね~」

 

『了解!』

 

『了解しました』

 

「飛ばしますよ、会長」

 

「どうぞ~」

 

しかし、杏と柚子は最早いつもの事と思っているのか、まるで気にせずに他チームとの通信や操縦に従事している。

 

「発射ぁっ!!」

 

と、追撃して来ているパシフィック戦車部隊の隊長車兼フラッグ車の、セイレーンが乗るM24軽戦車がセイレーンの号令で発砲する。

 

だが、その瞬間に38tが右にずれる様に動いたかと思うと、砲弾は先程まで38tが居た場所に落ちる。

 

「ああ、もう! チョロチョロと動き回って!」

 

「行進間射撃がそう当たるものじゃないとは言え、あの軽戦車の操縦士、中々良い腕してるわね」

 

それを見たセイレーンが地団駄を踏むと、M2中戦車のローレライがそんな事を言う。

 

「感心している場合ですか! 兎に角追うのです!」

 

そんなローレライにそう返すと、追撃を続行させるセイレーン。

 

やがて、38tとパシフィック戦車部隊は、左側と正面に道が分かれたT字路に差し掛かる。

 

38tはそのまま前進し、正面の通路へと入って行く。

 

その後に続く様に、パシフィック戦車部隊の中で、先行していたセイレーンの乗る車両ともう1両のM24軽戦車とローレライとメロウが乗るM2中戦車が、T字路を真っ直ぐに通過。

 

やや遅れていた他のパシフィック戦車部隊も、その後を追おうとしたが、その瞬間!!

 

T字路の左側の通路から、無数の砲弾が飛んで来て、T字路角の廃墟に着弾!!

 

榴弾だった様で派手に爆炎が上がったかと思うと、着弾した廃墟が崩落。

 

大量の瓦礫が、T字路正面の通路を塞いでしまう!

 

「!? 通路がっ!?」

 

「やったわ!」

 

「足止め成功です」

 

パシフィック戦車部隊の隊員の驚きの声が挙がる中、T字路左側の通路を塞ぐ様に展開していたカモさんチームのルノーB1bisのみどり子と、サンショウウオさんチームのクロムウェルの今日子がそう言い合う。

 

「上手く行きましたね」

 

「事前に工兵が発破解体用の爆薬を仕掛けていたからな」

 

更にその周りの瓦礫の陰や、廃墟の中に砲を据えている誠也や明夫達、砲兵隊の姿も在った。

 

「! 大洗の!?」

 

「しまった! 分断されたわっ!!」

 

「クッ! 仕方が無いわ! コイツ等を排除して先に進むわよ!!」

 

T字路の正面の通路を塞がれ、残るもう一方の左側の通路を陣取る様に展開していた大洗機甲部隊を、分断されたパシフィック戦車部隊が排除しようとする。

 

「来るよ!」

 

「西住総隊長達がフラッグ車を撃破するまで粘らないと!」

 

その光景を見たクロムウェルの明菜と満理奈がそう言い合う。

 

とそこで、パシフィック戦車部隊からの攻撃が開始される。

 

しかし、T-38やT-40の主武装は機関銃であり、特二式内火艇の主砲も37mm砲である。

 

機関銃弾は元より、37mm砲も最大装甲厚が60ミリ前後を誇るルノーB1bisやクロムウェルには威力不足であった。

 

「キャッ!? 凄い音………」

 

「チキショー! コッチが動かないからってバカスカ撃ち捲りやがってっ!!」

 

車内に響く装甲が機関銃弾や37mm砲弾を弾く金属音に、静香が怯えた声を挙げ、唯が悪態を吐く様にそう言い放つ。

 

「大丈夫! この距離ならまだ威力は低いから十分耐えられます! 反撃して下さいっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

今日子がそう言い放つと、静香は照準器を覗き込み、引き金を引くのだった。

 

「コッチも攻撃開始よ! ゴモヨ! パゾ美!」

 

「りょ、了解」

 

「了解です~」

 

ルノーB1bisの方でも、みどり子がそう命じるとモヨ子と希美が返事を返し、主砲と副砲が火を噴く。

 

「俺達も続けぇーっ!!」

 

鷺澪がそう声を挙げると、大洗砲兵部隊もパシフィック戦車部隊への攻撃を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

分断されたパシフィックのフラッグ車兼隊長車であるセイレーンの乗る車両ともう1両のM24軽戦車と、ローレライとメロウの乗るM2中戦車は………

 

「!? 分断された!?」

 

「アチャ~、美味い具合に誘い込まれたワケか………」

 

セイレーンが驚きの声を挙げるが、対照的にまだ余裕の有りそうな様子のローレライ。

 

「やった!」

 

「コレで作戦成功………」

 

と、それを見た柚子と蛍が歓喜の声を挙げた瞬間………

 

もう1両のM24軽戦車の放った砲弾が、山形の軌道で38tのエンジン部に命中!

 

「「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

柚子と蛍、桃の悲鳴が挙がる中、38tは浮き上がって後転しながら前面部から地面に叩き付けられ、そのまま停止。

 

直後に、砲塔上部から撃破された事を示す白旗が上がった。

 

『やりました! 総隊長っ!!』

 

もう1両のM24軽戦車から、セイレーンの乗るM24軽戦車にそう通信が送られて来る。

 

「よ、良くやりましたわ! 流石は我がパシフィックの戦車部隊! オーホッホッホッホッ!!」

 

誘い込まれた事への動揺を残しながらも、もう1両のM24軽戦車が38tを仕留めた事に、セイレーンは高笑いを挙げる。

 

「セイレーン、馬鹿笑いもそこまでよ」

 

そんなセイレーンにローレライがそう言い放つ。

 

「なっ! 馬鹿笑いとは何ですか! 馬鹿笑いとは!!」

 

抗議の声を挙げるセイレーンだったが………

 

「正面にⅣ号………右にはⅢ突………」

 

「左にも、M3リーが居ます」

 

ローレライとメロウが、ペリスコープや覗き窓から周辺を見ながらそう言う。

 

「えっ?………えええっ!?」

 

それを聞いたセイレーンが、慌ててハッチを開けて、キューポラから姿を晒す。

 

ローレライ達の言う通り、正面からⅣ号、右からはⅢ突、左からはM3リーが現れ、パシフィック戦車部隊を包囲していた。

 

「い、何時の間に!?」

 

「落ち着いて、セイレーン」

 

「そ、そうですわ! 狼狽えるんじゃありません! パシフィック機甲部隊員は狼狽えないっ!!」

 

1番狼狽えていたセイレーンが、ローレライの言葉を受けて某ドイツ軍人の様な台詞を吐く。

 

「ローレライ先輩。M3リーが敵のフラッグ車です」

 

とそこで、メロウがM3リーにフラッグ車を現す旗が靡いているのに気付いたメロウがそう報告を挙げる。

 

「M3リー………確か、あの子の居るチームの戦車だったわね」

 

ローレライが紗希の事を思い出しながらそう呟く。

 

「セイレーン。フラッグ車は私達が叩くわ。貴方はその間、やられない様にしながらⅣ号とⅢ突を足止めしておいて」

 

「ちょっと! 指示は私が出しますわ!」

 

「指示じゃないわ………お願いよ」

 

再び抗議の声を挙げて来るセイレーンに、ローレライはそう返す。

 

「ま、まあ、お願いでしたら………」

 

それを受けてアッサリと引き下がるセイレーン。

 

「ありがと………行くわよ、メロウ」

 

「ハイ!」

 

ローレライがそう言うと、次弾を抱いたメロウが返事を返す。

 

「仕掛けます! 全車、各個に攻撃開始! 相手の戦車の性能は高いですが、全て軽戦車ですので装甲はそれ程ありません! 攻撃を当てさえすれば如何にかなります!」

 

「了解!」

 

「了解しました!」

 

そこで、Ⅳ号のみほがそう指示を出し、エルヴィンと梓が返事が返すと、Ⅳ号、Ⅲ突、M3リーは一斉に攻撃を開始!

 

パシフィック機甲部隊の周辺に砲弾が次々と着弾し、アスファルトとコンクリートの破片を舞い上げる。

 

と、その砲撃を掻い潜りながら方向転換を行ったM2中戦車がM3リーへと向かう。

 

「! 敵1両、突っ込んで来るよ!!」

 

「アレって確か、M2中戦車だっけっ!?」

 

「確か、ローレライさんが乗ってる!?」

 

「!!」

 

それを見た梓、あや、優季からそう声が挙がると、紗希の表情が険しくなる。

 

「勝負と行きましょうか………ウサギさんチーム!」

 

そのM2中戦車の中で、ローレライは攻撃的な笑みを浮かべるのだった。

 

「ウサギさんチーム!………っ!?」

 

「邪魔はさせません事よ!」

 

「お前達の相手は私達だ!!」

 

援護に向かおうとしたⅣ号とⅢ突を、2両のM24軽戦車が阻む。

 

「クウッ! ウサギさんチーム! コチラがフラッグ車を撃破するまで兎に角やられない様に頑張って下さい!!」

 

「りょ、了解っ! 皆! 踏ん張り所だよっ!!」

 

「「「「おおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」」」」

 

「…………」

 

みほがそう通信を送ると、梓が返事を返し、あや達が声を挙げ、紗希も無言で頷いたのだった。

 

『おっと! 此処で両チームのフラッグ車が交戦を開始しました!!』

 

『こうなるとどちらが先に相手を撃破出来るかの勝負ですね。しかし、M2中戦車とM3リーの戦いとは、中々面白い組み合わせですね』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中からはそんな実況が流される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

廃墟の建物内でパシフィック歩兵部隊と交戦している大洗歩兵部隊は………

 

廃墟・階段の踊り場………

 

そこには竜真、ジェームズ、正義が陣取り、下の方の階段から上がってこようとしていたパシフィック歩兵部隊を弾幕を張って足止めしている。

 

「手榴弾! 行きますっ!!」

 

「OK!」

 

竜真とジェームズがそう言い合い、竜真が九九式手榴弾を投擲する。

 

「! マズイ、手榴弾だ!」

 

「退避っ! 退避ぃ!!」

 

手榴弾を投げられたパシフィック歩兵部隊が慌てて後退するが、直後に九九式手榴弾が爆発。

 

「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」

 

退避が遅れたパシフィック歩兵達が、破片を浴びて戦死判定を受ける。

 

「クソーッ! お返しだっ!!」

 

すると、生き残ったパシフィック歩兵の1人が、お返しだとマークⅡ手榴弾の安全ピンを外し、投擲の姿勢を取る。

 

が、その瞬間っ!!

 

「頂きっすっ!!」

 

「がっ!?」

 

二式小銃を構えた正義が踊り場から半身を晒し、マークⅡ手榴弾を投擲しようとしていたパシフィック歩兵の胸を撃ち抜く!

 

撃ち抜かれたパシフィック歩兵はその場に倒れて戦死判定を受けると、その手から投げようとしていたマークⅡ手榴弾が零れ、レバーが外れる。

 

「わっ!? 馬鹿っ!!」

 

別のパシフィック歩兵がそう叫んだ瞬間にマークⅡ手榴弾は爆発!

 

「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」

 

生き残っていたパシフィック歩兵達も、瞬く間に全員が戦死判定を受けたのだった。

 

「やったぁ!!」

 

「正義サン! グッジョブッ!!」

 

「へへ~」

 

竜真が歓声を挙げ、ジェームズがサムズアップすると、正義が照れ臭そうに鼻を掻く。

 

と………

 

「誰かぁっ! 助けてくれぇっ!!」

 

「「「!!」」」

 

助けを求める声が響き渡り、竜真達は一斉に反応する。

 

「あの声は………光照くんです!」

 

「行きまショウ!」

 

「勿論っす! 見捨てては置けないっす!!」

 

その声の主が光照である事に気付くと、竜真達はすぐさま救援に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の一角の部屋………

 

「クウッ!………」

 

十四年式拳銃を構えた光照が、ジリジリとゆっくり後ずさりしている。

 

「ヘヘヘ………」

 

そんな光照に、チャールトン自動小銃を握ったホージローが不敵な笑みを浮かべて堂々と歩み寄っている。

 

「お前、あのおチビちゃん達の居るハムスターさん分隊のメンバーだな………お前もちっちぇなぁ」

 

光照の事を見ながら、そんな事を言い放つホージロー。

 

「な、何をぉっ!!」

 

怒った様な様子を見せた光照が、十四年式拳銃を発砲する。

 

しかし、気後れからか、弾丸はホージローの頭上を擦り抜けて、天井に穴を空ける。

 

「オイオイ、良く狙えって………」

 

「グッ!」

 

苦い顔をしながらもまたも後ずさる光照。

 

(弾はあと2発………対人相手に、バズーカじゃ分が悪いし………接近戦も身長差を考えると分が悪過ぎる………)

 

そう思考しながらも、ホージローへの注意を怠らない。

 

対戦車兵の光照は、今回バズーカを装備して試合に臨み、ホージローと出くわす直前までは、パシフィック歩兵達を部屋ごと吹き飛ばして戦果を挙げていた。

 

だが、ホージローと対峙した今、バズーカでは小回りが利かない上、自爆の危険がある為、バズーカを背にすると護身用の十四年式拳銃を抜いたが、ホージローの気迫に気後れしていたせいか、既に6発も外してしまっている。

 

十四年式拳銃の装弾数は8発。

 

残りの弾は2発しかない。

 

予備の弾倉は有るが、敵がリロードの隙を与えて来るとは到底思えない。

 

手榴弾も自爆の危険性が有り、接近戦を挑んでも、正面からでは身長差で相手が圧倒的に有利。

 

ジワジワと手詰まり状態へと追い込まれていた。

 

「そろそろコッチからも行かせてもらおうかな………」

 

とそこで、ホージローがチャールトン自動小銃の銃口を光照に向ける。

 

「!?」

 

光照危うしか!?

 

………その時!!

 

「光照!」

 

そう言う台詞と共に竜真達がその場に雪崩れ込み、先頭に居た竜真がホージロー目掛けてUD M42を発砲する。

 

「! ホッ! ハッ! トアアッ!!」

 

ホージローは抜群の身体能力で連続バク転を決めて、UD M42から放たれた弾丸をかわす。

 

「光照サン!」

 

「大丈夫っすかっ!?」

 

ジェームズと正義がそう言い、竜真達は光照の傍に集まる様に展開する。

 

「竜真くん! ジェームズくん! 正義くん!」

 

援軍の到着に、光照は嬉しそうな声を挙げる。

 

「へへへ………コイツは良い………狙ってた相手がお揃いとはなぁ」

 

しかし、ホージローは4対1の状況にも関わらず、余裕とも取れる不敵な笑みを浮かべる。

 

「「「…………」」」

 

だが、竜真達はその笑みを見て黙り込む。

 

その笑みは正に………

 

強者が浮かべるソレだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗歩兵部隊とパシフィック歩兵部隊との戦いが続く中………
大洗戦車チームもパシフィック戦車隊と交戦を開始。
あんこうチームVSセイレーンと、ウサギさんチームVSローレライの戦いが始まる。
そんな中………
竜真達は因縁の相手であるホージローと対峙するのだった。


では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第63話『軍艦島の戦いです!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第63話『軍艦島の戦いです!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合………

 

初手で遅れを取った大洗機甲部隊は、軍艦島へと強行上陸し、廃墟を利用しての地上戦に持ち込む。

 

大洗歩兵部隊が廃墟の内部を利用し、パシフィック歩兵部隊の持ち味である高身長を封じて、パシフィック戦車部隊と分断したところに、大洗戦車チームが仕掛ける。

 

戦いは歩兵VS歩兵、戦車VS戦車の状況へと持ち込まれる。

 

そんな中で………

 

竜真、ジェームズ、正義、光照が………

 

ホージローと対峙するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軍艦島の廃墟内・窓が並ぶとある通路………

 

「うわぁっ!?」

 

通路の向こう側に居たパシフィック歩兵の頭を、弘樹の九九式短小銃から放たれた7.7mm弾が撃ち抜く。

 

頭を撃ち抜かれたパシフィック歩兵は、他の戦死判定を受けて倒れ伏しているパシフィック歩兵達の上に折り重なる様に倒れ、戦死と判定される。

 

「…………」

 

その様子を見ながら、九九式短小銃に新たな弾薬を込める弘樹。

 

(初手で損害を被り過ぎた………今回は戦車チームを援護する余裕が無い………敵の歩兵部隊と戦車部隊を分断し、敵フラッグ車の撃破は戦車チームに任せるしかない………)

 

弾薬を込めながら、弘樹はそう思考を巡らせる。

 

(情けないが………西住くん達を信じる他ない………だが、隙さえあれば………)

 

歯痒い思いを感じながら、装填を完了する。

 

………と、その瞬間!!

 

発砲音がしたかと思うと、弘樹が立っていた場所の傍に在った窓ガラスが割れ、弾丸が弘樹の目の前を掠めて壁を抉った!

 

「!!」

 

すぐに弾丸が飛んで来た方向を見やる弘樹。

 

「しまった! 外したっ!!」

 

「何やってるんだ、この馬鹿!」

 

その方向………向かいの廃墟の屋上には、M1903A4を構えていたシイラと、その隣でL-39を構えているツナの姿が在った。

 

「!!」

 

弘樹はそれを確認するや否や、その場から駆け出す!

 

「逃がすかっ!!」

 

「お前を生かしておくと厄介だからなっ!!」

 

そんな弘樹に向かって、次々と弾丸を放つツナとシイラ。

 

M1903A4の弾が窓ガラスを破り、L-39の弾はコンクリートの壁を貫通して弘樹へと襲い掛かる。

 

狙撃銃と対戦車ライフルの両方に狙われ、弘樹は隠れ場所が無い。

 

「! クウッ!………」

 

と、そこで通路の窓側の反対方向に部屋への入り口が有るのを発見し、転がり込む様にして飛び込む!

 

「………上手く行ったな」

 

「後はカジキ歩兵隊長に任せましょう………」

 

すると途端に、シイラとツナはそう言い合い、狙撃を中止したのだった。

 

 

 

 

 

一方、部屋の中へと飛び込んだ弘樹は、崩れた天井の瓦礫と放置されていた家財具を遮蔽物に隠れている。

 

(? 狙撃が止んだ?)

 

しかし、既にあれ程に撃って来ていた狙撃がピタリと止んでおり、弘樹は訝しげな様子を見せる。

 

とそこで、部屋の内部から物音がする。

 

「!………」

 

弘樹は注意しながら、ゆっくりと顔を上げて、物音がした方向を見やる。

 

「………成程。上手く誘い込まれたワケか」

 

「…………」

 

そして物音の正体………M1941ジョンソン小銃を握ったカジキの姿を確認し、弘樹はそう言い放つ。

 

「舩坂 弘樹………貴様だけは俺の手で倒す」

 

「いい加減にして欲しいものだな………」

 

殺気の様な闘志を燃やすカジキとは対照的に、弘樹はウンザリしている様な冷やかな様子を見せる。

 

「だが、お前に借りが有るのも事実だ………」

 

しかし、すぐに表情を引き締めると、握っていた九九式短小銃をカジキへと向ける。

 

「…………」

 

それに呼応するかの様に、カジキも弘樹へM1941ジョンソン小銃を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

パシフィック戦車部隊の水陸両用戦車を食い止めているカモさんチームとサンショウウオさんチーム、そして大洗砲兵部隊は………

 

「右! 2時の方向に砲撃!」

 

「りょ、了解!」

 

今日子の指示で、静香がその方向へ砲撃を行う。

 

放たれた砲弾がT-38に命中し、白旗を上げさせる。

 

その近くには、既に撃破されているT-40が1両と、特二式内火艇が2両、擱座している。

 

「クウッ! このぉっ!! 調子に乗るなぁっ!!」

 

と、生き残っていた特二式内火艇の1両が、ルノーB1bisに向かって37mm砲を放つ。

 

しかし、37mm砲の砲弾は、ルノーB1bisの正面装甲に弾かれ、明後日の方向へ飛んで行く。

 

「キャアッ!?」

 

「ゴモヨ! 慌てないで! ルノーの装甲には37mm弾は通用しないわっ!! 食らいなさいっ!!」

 

被弾の衝撃が車内に走り、モヨ子が悲鳴を挙げるが、みどり子は冷静なままそう言い、反撃とばかりに副砲の47mm砲を放つ。

 

放たれた砲弾は、砲撃して来た特二式内火艇に命中し、白旗を上げさせる。

 

「やった!」

 

「コレで残りは6両です」

 

その光景を見た大洗歩兵隊員が歓声を挙げると、誠也がオチキス 47mm対戦車砲の照準を修正しながらそう言う。

 

と、その時!!

 

風切り音が聞こえて来たかと思うと、ルノーB1bisとクロムウェルの傍に砲弾が着弾!

 

特二式内火艇の37mm砲弾では無い大きな爆発と振動が、ルノーB1bisとクロムウェルを揺さぶる!!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

「な、何よ一体!?」

 

サンショウウオさんチームとモヨ子と希美の悲鳴が挙がる中、みどり子が状況を確認する。

 

「大丈夫!? 皆!!」

 

「騎兵隊の到着よっ!!」

 

するとそこで、パシフィック戦車部隊の傍に、遅れていた5両のLVT(A)-4が現れる。

 

「! LVT(A)-4!?」

 

「追い付いて来たの!?」

 

「マズイです! LVT(A)-4は75mm砲を装備しています!!」

 

クロムウェルの今日子、満里奈、明菜からそう声が挙がる。

 

「大洗! もうお前達の好き勝手も終わりだ!!」

 

と、LVT(A)-4の乗員の1人がそう声を挙げると、5両のLVT(A)-4は一斉に75mm砲での砲撃を開始する。

 

機関銃弾や37mm砲弾とは明らかに違う威力の砲撃の前に、カモさんチームとサンショウウオさんチーム、そして大洗砲兵部隊の瓦礫や地面が次々に爆ぜて行く。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

と、運悪く対戦車砲1門が直撃を食らい、砲は全損し、付いて居た砲兵隊員達が吹き飛ばされて、戦死判定を受けた。

 

「マズイな………」

 

「マズイどころじゃねえよ! 大ピンチだぜ!!」

 

明夫がそう呟くと、鷺澪がツッコミの様にそう言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃………

 

パシフィック戦車部隊の主力メンバーと交戦を開始したあんこうチーム、カバさんチーム、そしてウサギさんチームは………

 

「撃てっ!」

 

「ハイッ!!」

 

みほの号令で、華がフラッグ車兼隊長車のM24軽戦車に砲撃を見舞う。

 

「車体を右25度に!!」

 

「ハイッ!!」

 

しかし、セイレーンがそう指示を出すと、M24軽戦車は車体を右へと傾ける。

 

Ⅳ号の砲弾はM24軽戦車の表面で火花を散らし、滑る様に外れた。

 

「くうっ! 弾かれましたっ!!」

 

「M24は避弾経始が優れているとは言え、あれほど的確に弾ける角度に車体を動かさせるなんて………流石はパシフィック戦車部隊の隊長車です」

 

照準器越しにその光景を見ていた華がそう声を挙げ、優花里が次弾を装填しながらそう言う。

 

「反撃よ! 撃てぇっ!!」

 

とそこで、セイレーンがそう号令を掛けると、彼女の乗るM24軽戦車が発砲する。

 

「! 全速後退しながら左の瓦礫の陰へ!」

 

「ん!」

 

それを見たみほがすかさず指示を出し、麻子が指示通りにⅣ号を動かす。

 

セイレーンが乗るM24軽戦車から放たれた砲弾は、Ⅳ号が隠れた瓦礫を吹き飛ばす。

 

「もうっ! 良く狙いなさいっ!!」

 

「す、すみません!」

 

砲手に叱咤を飛ばしながらも、砲撃を続けさせるセイレーン。

 

Ⅳ号は後退しながらジグザグに動いて砲撃をかわして行く。

 

「西住総隊長を援護するぞ!」

 

そこでⅢ突のエルヴィンがそう言い、Ⅲ突が車体をセイレーンが乗るM24軽戦車に向ける。

 

だがそこで、すぐ傍の地面が爆ぜる。

 

「お前の相手は私だ!」

 

そして、もう1両のM24軽戦車が、Ⅲ突に向かって突撃して来る。

 

「クッ! 先にアイツを片付けろっ!!」

 

「おうっ!!」

 

エルヴィンがそう声を挙げると、左衛門佐が突撃して来るM24軽戦車に発砲する。

 

しかし、放たれた砲弾はM24軽戦車の傍の地面を爆ぜさせただけだった。

 

M24軽戦車は速力を活かし、Ⅲ突の側面に回り込もうとする。

 

「側面を取られるな!」

 

「分かってるぜよ!」

 

次弾を装填しながらカエサルがそう言うと、おりょうがⅢ突を信地旋回させる。

 

「クウッ! 自走砲ならではの弱点だ!」

 

旋回式の砲塔を持たぬ自走砲では機動戦は不利であり、軍帽を被り直しながらエルヴィンが苦い表情でそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

そして、ローレライとメロウの乗るM2中戦車に狙われたウサギさんチームは………

 

「撃てっ!!」

 

「おうっ!」

 

梓の号令で、あゆみが主砲の75mm砲を撃つ。

 

しかし、砲弾はM3リーに側面を向けて走行しているM2中戦車の上を飛び越して廃墟に命中する。

 

「あや! 修正下2度!!」

 

「OK!!」

 

梓は続けてあやに命じ、副砲の37mm砲を放つ。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、ローレライがそう言ったかと思うと、側面を向けていたM2中戦車が一瞬で正面を向き、M3リーの37mm砲弾はすぐ横を掠める。

 

「撃てっ!!」

 

そしてローレライの号令で、M2中戦車が主砲の37mmを発砲。

 

砲弾はM3リーの正面装甲に命中したが、距離が遠かったので貫通判定は受けず、装甲が少しへこんだだけだった。

 

「キャアッ!」

 

「大丈夫! 装甲で弾いたから! 桂利奈ちゃん! ジグザグに後退!」

 

「あい~~~っ!!」

 

優季が悲鳴を挙げるが、梓がそう言うと、桂利奈がM3リーをジグザグ走行させながら後退させる。

 

「仕留められなかったあ………」

 

「コッチは37mm砲ですからね。決め手に欠けます」

 

その様子を見ていたローレライがそう呟くと、メロウが次弾を装填しながらそう言う。

 

「ま、それは向こうも一緒ね」

 

しかし、ローレライは続いてそう言い放つ。

 

M3リーの主砲である75mm砲は車体に固定されている為、機動戦には不向きである。

 

対して、旋回砲塔式である副砲はM2中戦車と同じ37mm砲。

 

ローレライの言う通り、勝負はお互いに決め手を欠けており、長期戦へと縺れ込んでいた。

 

恐らく最後に勝負を決めるのは、勝利への執念であろう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び大洗歩兵部隊とパシフィック歩兵部隊の戦いが繰り広げられている廃墟内………

 

「オラオラオラァッ! 如何した如何したぁっ!!」

 

右手にチャールトン自動小銃、左手にコルトM1900を握ったホージローが次々に弾丸を放つ。

 

「うわっ!?」

 

「ひいっ!」

 

瓦礫に身を隠している光照、竜真、ジェームズ、正義の中で、光照とジェームズから悲鳴の様な声が漏れる。

 

「クソォーッ! バカスカ撃ってぇっ!!」

 

「コレでも喰らえっす!!」

 

と、竜真がそんな声を挙げた瞬間、一瞬弾幕が途切れた瞬間を狙い、正義が手榴弾を投擲した。

 

しかし………

 

「シュートッ!!」

 

何と!!

 

ホージローは飛んで来た手榴弾を、まるでサッカーボールの様に蹴り返す!

 

「なっ!?」

 

「ふ、伏せろぉっ!!」

 

「「!?」」

 

正義が驚きの声を挙げ、竜真がそう叫ぶと、光照とジェームズが頭を庇いながらその場に伏せる。

 

直後に手榴弾が空中で爆発!

 

天井の一部が崩れて、粉煙と爆煙で部屋が覆われる。

 

「如何したんだ、おチビちゃん達。仕掛けて来ないのか?」

 

その煙の中で、ホージローは挑発するかの様に声を挙げる。

 

「やっぱり身長差にビビって手が出せないってか?」

 

思っている事をすぐに口にするホージロー。

 

しかし、竜真達からは反応が返って来ない………

 

「何だぁ? 本当にビビって逃げ出した………」

 

のかとホージローが言おうとした瞬間!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

突如爆煙の中から竜真が飛び出して来て、ホージローに体当たりを見舞った!

 

「うおっ!? この野郎っ!!」

 

「!!」

 

何とか堪えたホージローはチャールトン自動小銃を棍棒の様に振るうが、竜真は素早く離脱し、再び爆煙の中に紛れる。

 

「クソッ! 何処行ったっ!!」

 

爆煙の中へ、次々と弾丸を撃ち込むホージロー。

 

「ええいっ!!」

 

すると今度は、後ろから光照が腰に抱き付く様に飛び付いて来た!

 

「おわっ!? コイツゥッ!!」

 

すぐに振り解こうとしたホージローだったが………

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

何と光照は、そのままホージローを持ち上げた!!

 

「な、何ぃっ!? 何処にそんな力が!?」

 

ホージローは自分よりも背の低い光照が自分の事を持ち上げた事が信じられない様子を見せる。

 

「でえええええええいっ!!」

 

光照はそんなホージローを思いっきり投げ飛ばす!!

 

「ゴハッ!?」

 

部屋内に在ったコンクリートの柱に叩き付けられ、ホージローは床に倒れる。

 

「イツツツツ………チキショー、やってくれたなぁ」

 

と、ホージローが後頭部を抑えながら起き上がると、爆煙が晴れて来て………

 

「貰いマシタ!」

 

すぐ傍に、ウィンチェスターM1897を構えたジェームズの姿が在った。

 

「!!」

 

(この距離でショットガン………外しませんヨ!)

 

驚く様なリアクションを見せるホージローを見ながら、ジェームズは引き金を引く。

 

だが!!

 

「舐めるなぁっ! ザッバーンッ!!」

 

ホージローは独特の掛け声を挙げたか思うと、しゃがみ込んでいた状態から一気に天井近くまで跳躍した!!

 

「!? WHAT!?」

 

命中するものと信じて疑わなかった散弾が外れ、ジェームズは動揺しながら、慌ててウィンチェスターM1897を上へと向けたが………

 

「おせぇっ!!」

 

ホージローがそう言い放ってジェームズに飛び掛かりながら右手を振るい、ウィンチェスターM1897を弾き飛ばした!!

 

「アッ!?」

 

「おらぁっ!!」

 

そのままジェームズを、左手で頭から叩き潰す様に押さえ付けるホージロー。

 

「アウチッ!?」

 

床に叩き付けられたジェームズが悲鳴を挙げる。

 

「よくもやってくれたなっ! 先ずはお前からだ!!」

 

ホージローはそう言うと、右手にコルトM1900を握って、左手で押さえつけているジェームズへ向ける。

 

「!?」

 

「ジェームズッ!」

 

「今助けるっすっ!!」

 

と、竜真が声を挙げると、正義が二式小銃に着剣して、ホージローに向かって突撃する。

 

「邪魔すんなっ!!」

 

しかし、ホージローはすぐにコルトM1900を正義へと向けたかと思うと、3発発砲する。

 

「!? うわあぁっ!!」

 

2発は避けたものの、最後の3発目を右足大腿部に食らってしまう正義。

 

右足大腿部に痛みが走って上手く動かなくなり、正義は床の上に転がる。

 

「! 正義くんっ! クソォッ!!」

 

それを見た物陰に居た光照が、十四年式拳銃を発砲する。

 

しかし、弾は全然当たらない。

 

「だから、当たらないっての。さあ、覚悟しろ」

 

ホージローはそう言い放ちながら、改めてコルトM1900を抑え付けているジェームズの向ける。

 

「クウッ!………」

 

最早これまでかと思ったジェームズだったが、その瞬間!!

 

「死なば諸共ーっ!!」

 

そんな叫びを挙げると、竜真が両手に九九式手榴弾を握ってホージロー目掛けて突っ込む。

 

「なっ!? 神風かっ!?」

 

それが特攻行為だと思ったホージローが、慌ててジェームズを解放して逃げる。

 

「! 今だぁっ!!」

 

その瞬間に、竜真はジェームズから離れたホージロー目掛けて両手に持っていた九九式手榴弾を投擲した。

 

「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ホージローの悲鳴の様な声が挙がると、手榴弾が爆発し、そのまま廃墟の部屋の一部が崩れ、天井が崩落。

 

崩落した天井の瓦礫が、ホージローが居た位置へと降り注ぐ!

 

「やったぁっ!!」

 

「今度こそお陀仏っす!!」

 

その光景を見ていた光照と正義からそう歓声が挙がる。

 

「ジェームズ、しっかり!」

 

「ああ、サンキュー、竜真」

 

その間に、竜真はジェームズを助け起こす。

 

すると………

 

ホージローが居た位置に崩れ落ちた天井の瓦礫が積もった場所から、ガタッ!と言う音が聞こえて来る

 

「「「!?」」」

 

「そんな!? まさかっ!?」

 

竜真、ジェームズ、正義が驚愕を露わにし、光照がそう声を挙げた瞬間………

 

「まだまだぁ~~………」

 

瓦礫を押し退けながら、そう言う台詞と共にホージローが姿を見せる。

 

まだ戦死判定は下されていない。

 

「う、嘘だろ………」

 

ホージローのタフさに、流石の竜真達も狼狽する。

 

「お蔭でライフル無くしちまったぜ。まあ、コッチはまだ有るけど、な!」

 

とそこで、ホージローはそう言い放ってコルトM1900を連射!!

 

「!? うわぁっ!」

 

「アウチッ!!」

 

「おうわっ!?」

 

「わああっ!?」

 

竜真が右足、ジェームズが左肩、正義が左脇腹、光照が左足に命中弾を食らい倒れる。

 

戦死判定は受けなかったが、命中箇所には痛みが走り、被弾判定によって戦闘服が動きを制限する。

 

「チッ! 全部ハズレかよ………まあ良い。どうせもう真面に動けないだろう。トドメを刺してやるぜ」

 

ホージローは1人も戦死判定させられなかった事にガッカリしながらも、新たなマガジンをコルトM1900に装填しながら倒れている竜真達に近づく。

 

「あ、足が………」

 

「痛いっす~」

 

「OH、ジーザス………」

 

「やっぱり………敵わないのか………」

 

倒れたまま動けない竜真達に諦めの色が浮かぶ。

 

「………皆、聞いて。最後の賭けに出るよ」

 

しかしそこで、竜真が小声で呟いた。

 

「!? 竜真!?」

 

「!?」

 

「?!」

 

ジェームズ、正義、光照の視線が竜真に集まる。

 

「今はホージローさんは僕達にトドメを刺そうとしてる………確実に仕留められると思って油断してる筈だ。その隙を衝く」

 

「で、でも、身体が………」

 

小声のまま竜真はそう言葉を続けるが、光照は先程のダメージで身体が真面に動かない事を指摘する。

 

「最後の最後まで諦めない………それが大洗機甲部隊の信条だよ」

 

だが、竜真はそれを打ち消す様にそう呟く。

 

「「「!!………」」」

 

それを聞いたジェームズ、正義、光照の顔が覚悟を決めた表情となる。

 

「何ゴチャゴチャ言ってやがるんだ」

 

とそこで、遂に竜真達の傍に立ったホージローが、倒れている竜真達を見下ろしながらそう言い放つ。

 

「手子摺らせやがって………まあ、チビにしちゃよく健闘したよ。褒めてやるぜ」

 

そう言うと、ホージローはコルト1900を竜真達に向ける。

 

「けど、コレで終わりだ………やっぱり最後は、俺の勝ちだ」

 

そして遂に、その引き金が引かれようとする。

 

「! 今だぁっ!!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

竜真の掛け声で、光照が腕の力だけを使ってホージローの足に飛び付く。

 

「!? おうわっ!? 諦めの悪い奴だな!!」

 

すぐに足を振って蹴っ飛ばそうとしたホージローだったが………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

光照はホージローの足を抱いたまま、ドラゴン・スクリューを繰り出す!

 

「!? おうわぁっ!?」

 

思わずコルトM1900を手放してしまい、後頭部を床に強打するホージロー。

 

「イデェッ!! プロレス技かよぉっ!!」

 

まさかのプロレス技にホージローは驚愕しながらも、片足を光照に抱き付かれたまま上半身を起こす。

 

「テヤアアァッ!!」

 

とそこで、もう片足に正義が飛び付く!

 

「おわっ!? コイツッ!!」

 

ホージローはコンバットナイフを抜き、正義と光照を斬り付けようとしたが………

 

「タアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーっ!!」

 

そこへ、銃剣を握ったジェームズが圧し掛かって斬り掛かる!!

 

「!?」

 

そのジェームズに押し倒される様な形となったホージローだが、それでもジェームズの銃剣をコンバットナイフで受け止めている。

 

「ぐううううう………」

 

体重を掛けて、銃剣をホージローの身体に突き刺そうとするジェームズだったが………

 

「その体格差で………押さえられると思ったかぁっ!!」

 

ホージローがそう叫んだかと思うと勢い良く起き上がり、ジェームズ達を一気に引き剥がした。

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

「クッソーッ! チビのくせに!………ん? 後の1人は?………!?」

 

とそこで、ホージローは竜真の姿が見当たらない事に気付くと、その竜真が自分が落としたコルトM1900を拾いに行って居る様を目撃する。

 

「コノヤロウ! させるかってんだっ!!」

 

すぐさまコルトM1900に向かってダッシュするホージロー。

 

「!!」

 

竜真はその姿を一瞬見やりながらも、重い右足を引き摺る様にしながらも、コルトM1900の元へ急ぐ。

 

「おらああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

とそこで、ホージローが水泳の飛び込みの様にヘッドスライディングを繰り出す。

 

それで竜真を弾き飛ばし、コルトM1900を確保する積りの様だ。

 

(今度こそ貰ったぁっ!!)

 

ホージローは何度目とも知れぬ勝利の確信をする。

 

しかし、それこそが慢心であった。

 

「「「わあああっ!!」」」

 

何と!

 

ジェームズ達が最後の力を振り絞り、ヘッドスライディングを繰り出していたホージローの足に組みついたのである!

 

「!? ん何ーっ!?」

 

急に重量が増えた事で、ホージローの身体は急激に床に叩き付けられる。

 

「!?!?! このぉっ! 離せぇっ!!」

 

顔面を強打し、一瞬悶えながらも、足を振ってジェームズ達を振り払うホージロー。

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

「クウッ!!」

 

そしてすぐに、コルトM1900を拾おうと振り返ったが………

 

「…………」

 

見えたのは、倒れている自分の頭にコルトM1900の銃口を突き付けている竜真の姿だった。

 

「………ハハハ………マジで?」

 

ホージローが乾いた笑いを漏らした後、そう呟いた瞬間………

 

竜真はコルトM1900の引き金を引いた。

 

排莢された薬莢が床に落ちて乾いた音を立て、ホージローが仰向けに倒れる。

 

そしてそのまま、戦死と判定されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に対峙する弘樹とカジキ。
果たして勝敗の行方は?

戦車チームも激戦が続く中、竜真達はホージローと対峙。
苦戦の末に、チームワークと根性で身長差を覆し、勝利を掴むのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第64話『4回戦、決着です!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第64話『4回戦、決着です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜真達が死闘の末にホージローを倒した、丁度その頃………

 

廃墟の別の一角では………

 

弘樹が身を隠している瓦礫に、カジキのM1941ジョンソン小銃から放たれた弾丸が突き刺さる。

 

「!………」

 

射撃が途切れた瞬間に姿を晒し、カジキに向かって九九式短小銃を発砲する弘樹。

 

「チッ!」

 

しかし、カジキは瓦礫に身を隠してかわす。

 

「…………」

 

弘樹は再び瓦礫に身を隠すと九九式短小銃をリロードする。

 

(この装填で最後か………)

 

しかし、既に九九式短小銃の弾は装填した5発だけだった。

 

カジキに遭遇するまでに多数のパシフィック歩兵を倒していた事が逆に仇となっていた。

 

(コレ以上無駄弾は使えんな………)

 

まだコルトM1911A1や手榴弾、日本刀などの武器は有るが、メイン武装である九九式短小銃が弾切れしてしまう状況は非常に痛い。

 

「………弾が残り少ないのか?」

 

とそこで、カジキがそんな事を言って来る。

 

「…………」

 

瓦礫に隠れたままその言葉を聞く弘樹。

 

「フン、残弾の確認を怠るなど、素人のやる事だ。それで今まで良く勝ち残れたものだ」

 

「…………」

 

弘樹を挑発する様にそう言うカジキだが、当の弘樹は無視を決め込んでいる。

 

「………そんな態度が取って居られるのも今の内だ。偽物の英霊」

 

「…………」

 

苛立っている様なカジキの声にも、弘樹はノーリアクションである。

 

「!!………」

 

とそこで、カジキは弘樹が隠れている瓦礫に向かって、マークⅡ手榴弾を投擲する。

 

「!!」

 

すぐ傍に落ちて来たマークⅡ手榴弾を見て、弘樹はすぐさまその場から飛び退く。

 

直後に手榴弾が爆発し、弘樹が隠れていた瓦礫が吹き飛ぶ!!

 

更に衝撃で2人が居るフロアの一部が崩落。

 

舞い上がった粉煙がフロアを埋め尽くし、視界を塞ぐ。

 

(この粉煙に紛れて接近戦で来るか………)

 

弘樹はカジキが接近戦で来ると読み、九九式短小銃に銃剣を着剣する。

 

と、その直後!!

 

弘樹から見て右手側の煙が揺らいだかと思うと、そこから煙に包まれた『何か』が飛び出して来る!

 

「!?」

 

咄嗟に九九式短小銃に着剣した銃剣で受け止める弘樹。

 

「………銛だと」

 

その飛び出して来た『何か』が銛である事を確認した弘樹がそう呟く。

 

と、そこで銛が一旦引っ込んだかと思うと、再び弘樹目掛けて飛び出して来る。

 

「! クッ!」

 

再び九九式短小銃に着剣した銃剣で受け止める弘樹だったが、銛は3撃、4撃、5撃とまるでマシンガンの様に連続で襲い掛かって来る。

 

「何と言う速突き………」

 

連続して襲い掛かってくる銛を前に、弘樹は防戦一方である。

 

「!!」

 

その瞬間!

 

弘樹は何か嫌な物を感じ、その場にしゃがみ込む。

 

直後に発砲音がして、弘樹の頭上を弾丸が通り抜けて行く。

 

「貰ったぞ!」

 

更に間髪入れずにカジキが煙の中から現れて蹴り上げを繰り出して来る!

 

「!!………」

 

咄嗟に飛び退く様にして後ろに下がった弘樹だったが………

 

カジキの蹴りは、弘樹が持っていた着剣している九九式短小銃に命中。

 

着剣している九九式短小銃が弘樹の手からは離れ、ガラスが外れた窓から外へと飛び出す。

 

「!………」

 

すぐにその窓へと駆け寄った弘樹だったが、着剣している九九式短小銃はそのまま道路へと落ち、乾いた音を立てる。

 

「しまった………」

 

「終わりだな………舩坂 弘樹」

 

そう言う声が聞こえて来ると、やっと粉煙が晴れて、弘樹に向かってM1941ジョンソン小銃を構えているカジキの姿が露わになる。

 

「…………」

 

ゆっくりとそのカジキの方を振り返る弘樹。

 

「所詮はココまでか………偽物の英霊のお前には相応しい最期だな」

 

「…………」

 

そう言い放つカジキの姿を只ジッと見やっている弘樹。

 

「間も無くローレライ達もフラッグ車を撃破する筈だ。未熟なチームにフラッグ車を任せた貴様達の采配ミスだ。勝利は我々のものだ」

 

そこでカジキの指が、M1941ジョンソン小銃の引き金に掛けられる。

 

「………お前は2つ勘違いをしている」

 

するとそこで、弘樹はカジキに向かってそう言い放った。

 

「!? 何だとっ!?」

 

弘樹の思わぬ言葉に目を見開くカジキ。

 

「1つはウサギさんチームを未熟だと思っている事。そしてもう1つは………小官を追い詰めたと思っている事だ!」

 

そう言い放った瞬間、何と!!

 

弘樹は自ら窓の外へと飛び出た。

 

「!? なっ!?」

 

カジキが驚きの声を挙げた瞬間!

 

弘樹は左手で廃墟の縁に在った雨樋を掴む!!

 

雨樋は弘樹の体重を支え切れず、固定部分が1つずつ剥がれ始める。

 

その剥がれた雨樋をロープ代わりに、まるでターザンの様に廃墟の外壁の傍を滑空する弘樹。

 

途中、外壁が崩れている部分を発見すると………

 

「トアッ!!」

 

雨樋を手放し、その中へと飛び込んだ。

 

「クッ! 何て奴だ!!」

 

カジキはそう言いながら、すぐに弘樹が飛び込んだフロアへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹が飛び込んだフロア………

 

「ッ!………」

 

飛び込んだ際に強かに身体を打った為、弘樹の顔が一瞬歪んだが、すぐに物陰へと隠れ、残っている武器を確認する。

 

(………M1911A1は装填している物を含めてマガジンが3つ………手榴弾は1個………厳しいな)

 

そう思う弘樹だが、表情は相変わらず仏頂面のポーカーフェイスである。

 

状況は厳しいが負ける積りは毛頭無い。

 

(兎に角………ライフルが無い以上、接近戦に持ち込むしかないか………)

 

とそこで、フロアの入り口の方から足音が聞こえて来る。

 

「!………」

 

その足音を聞いた弘樹は、瓦礫の陰に完全に隠れて息を潜める。

 

「…………」

 

その次の瞬間に、カジキがM1941ジョンソン小銃を構えながらフロア内へと侵入して来る。

 

「………何処に居る、舩坂 弘樹」

 

「…………」

 

そう言い放つカジキだが、無論返事をする様な弘樹ではない。

 

「…………」

 

カジキは周囲を警戒しながら、更にフロア内へとゆっくり歩を進める。

 

「…………」

 

息を殺し、ジッとカジキが近づいて来るのを待つ弘樹。

 

凄まじい緊張感が、フロア内を支配する。

 

「…………」

 

と、遂にカジキが、弘樹が隠れている瓦礫の傍に立つ。

 

「…………」

 

瓦礫越しにカジキの殺気を感じ、弘樹の顔に冷や汗が流れる。

 

とそこで、弘樹は傍に在った小さな瓦礫の破片をそっと掴む。

 

そして、傍に立っているカジキに気付かれない様にしながら、彼の背中越しに反対方向へと投げる。

 

破片が床に落ち、音を立てる。

 

「!!」

 

それに反応し、弘樹とは反対側を振り返るカジキ。

 

「!………」

 

その瞬間、弘樹は瓦礫の陰から飛び出し、カジキを背中から羽交い締めにする様に押さえ付ける!

 

「! ぬうっ!? 貴様ぁっ!!」

 

弘樹を振り解こうと暴れるカジキ。

 

「クウッ!………」

 

しかし、弘樹は引き剥がされまいと、身長差の有るカジキに必死に喰らい付く。

 

「このぉ………偽物めっ!!」

 

とそこで、カジキは後ろに飛び退く様にし、背中にへばり付いている弘樹を、壁に叩き付ける。

 

「!!………」

 

一瞬顔が歪む弘樹だったが、それでもカジキの事を離そうとしない。

 

「クソォッ! 離せっ! 離せぇっ!!」

 

カジキは苛立った様に、連続で弘樹の身体を壁へと叩き付ける。

 

「…………」

 

だが、それでも弘樹はまるで万力の様にガッチリとカジキに組み付く。

 

「ええいっ! このぉっ!!………!? とっ!?」

 

その時!!

 

カジキが更に勢い良く弘樹を壁に叩き付けようとしたところ、バランスを崩してよろける。

 

「!!」

 

その一瞬を見逃さず、弘樹はカジキの背に組みついたまま、足でカジキが持っていたM1941ジョンソン小銃を蹴り落とす。

 

「ぬあっ!?」

 

「させんっ!!」

 

慌てて拾おうとするカジキだが、弘樹は羽交い締めをしたまま、カジキを落したM1941ジョンソン小銃とは逆の方向へと向ける。

 

そして、足でM1941ジョンソン小銃を蹴り飛ばした。

 

蹴り飛ばされたM1941ジョンソン小銃は、床に空いていた穴に落ち、下層へと落下する。

 

「!? 銃が!? オノレェッ!!」

 

「!!」

 

するとそこでカジキは、羽交い締めにされたまま弘樹の頭を掴み、そのまま背負い投げの様に投げ飛ばす。

 

「ッ!!」

 

床に背中から叩き付けられた弘樹だが、素早く起き上がると刀を抜いて、カジキへと斬り掛かる!!

 

「むんっ!!」

 

しかしカジキは、両袖から飛び出して来た物を連結させた銛で受け止める。

 

(! さっきの銛か!………)

 

その銛が、先程粉煙の中で自分で狙って来ていたものだと気付く弘樹。

 

「せやあっ!!」

 

とそこで、カジキは弘樹を弾き飛ばす様に下がらせる。

 

「!………」

 

「でええいっ!!」

 

そしてそのまま、上半身をバネの様に振り被り、コークスクリューパンチの様に銛を回転させた突きを繰り出す。

 

「!?………」

 

咄嗟に横に転がる様にしてかわす弘樹。

 

外れた銛の先端がコンクリートの壁に命中したかと思うと、壁にまるでドリルで空けた様な穴が空いた!

 

(! コンクリートの壁を………何て威力だ)

 

「まだ終わりではないぞっ!!」

 

その威力に弘樹が内心で軽い戦慄を覚えていた瞬間、カジキは今度は連続で突きを繰り出して来る。

 

「!!………」

 

その連続突きの前に、またも防戦一方となる弘樹。

 

(イカン………コレではさっきと同じだ………)

 

弘樹はこのままでは先程の二の舞になると察する。

 

(………一か八かだ)

 

そこで弘樹は、賭けに打って出る事にした。

 

「せやあっ!!」

 

カジキが更に突きを繰り出す。

 

と、その瞬間!!

 

「!」

 

弘樹は刀を脇に構えたかと思うと、自らその突きを繰り出して来た銛へと突っ込む。

 

「?! 血迷ったかっ!?」

 

思わずそう叫ぶカジキだったが、銛の先端が弘樹の眼前まで迫った瞬間!!

 

「!!………」

 

弘樹は僅かに首を曲げる!

 

銛は弘樹の耳を掠める様にし、顔のすぐ横を通り過ぎる。

 

1歩間違えれば顔面に銛が直撃していたであろう紙一重の回避である。

 

「………!」

 

弘樹はそのまま、カジキの懐へと飛び込み、刀を振る!

 

「!! ガッ!?」

 

咄嗟に後ろに飛び退いたカジキだったが、弘樹が振るった刃が微かに当たる!

 

戦死判定は下らなかったが、傷を負ったと判定され、戦闘服が動きを制限し始める。

 

(浅いか!………)

 

攻撃が浅かったと察して弘樹は、今度は刀を大上段に構え、2撃目を繰り出そうとする。

 

………だがその瞬間!!

 

発砲音が聞こえて来たかと思うと、弘樹が大上段に構えていた刀の横っ腹に銃弾が命中し、刀が弾き飛ばされた!!

 

「!?………」

 

「やったぜっ!!」

 

驚く弘樹が見たものは、何時の間にかフロアの壁に空いている穴から見えている対面の廃墟の屋上の上に居たM1903A4を構えていたシイラの姿だった。

 

(何時の間に!?………)

 

「舩坂 弘樹ぃっ!!」

 

と、得物の無くなった弘樹に、カジキが再び上半身をバネの様に振り被り、コークスクリューパンチの様に銛を回転させた突きを繰り出す。

 

「!!」

 

咄嗟に左腕を盾にする弘樹。

 

銛がその腕に命中した瞬間に痛みが走り、更に弘樹の身体が木の葉の様に吹き飛ばされ、コンクリートの柱に叩き付けられる!!

 

「ぐうっ!」

 

そのまま弘樹の身体が柱の根元にずり落ちた瞬間!!

 

柱に叩き付けられた衝撃で、天井の一部が崩落!

 

弘樹に向かって瓦礫が降り注いだっ!!

 

「!?」

 

逃げる間も無く、そのまま瓦礫の雨を浴びる弘樹。

 

舞い上がった粉煙が、弘樹の姿を覆い隠す。

 

少しして、その粉煙が消えたか思うと………

 

「不覚………」

 

下半身から右半身に掛けて瓦礫が乗っかり、身動きが取れなくなっている弘樹の姿が露わになった。

 

「今度こそ終わりだな………」

 

カジキがそんな弘樹に近づこうとする。

 

………が、途中でその足を止める。

 

(コイツは油断ならん奴だ………この状況でも何か仕出かすかもしれん………確実に仕留めなければ………)

 

弘樹の潜在的な戦闘センスを警戒し、手榴弾を取り出すカジキ。

 

だが、カジキは見落としていた………

 

瓦礫に埋もれてはいるが、弘樹の右手は動かせる状態なのを………

 

「舩坂 弘樹………死ねっ!!」

 

手榴弾のピンを抜き、弘樹目掛けて投げつけようと振り被るカジキ。

 

………その瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹は瓦礫に埋もれていた右半身部分から、右腕を引き抜く!

 

その手には、コルトM1911A1が握られていた!

 

「なっ!?」

 

カジキは慌てたが時既に遅し!!

 

弘樹はコルトM1911A1を発砲!

 

放たれた弾丸は、カジキが振り被っていた手榴弾に命中!!

 

手榴弾がカジキの手の中で爆発した!!

 

「!? があああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

破片を諸に浴びたカジキが倒れ、そのまま戦死と判定された。

 

と、その直後!!

 

手榴弾の爆発で、脆くなっていたフロアの床が崩落を開始!

 

「!?」

 

弘樹は崩れた床ごと、下層へと落ちて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹とカジキが戦っていたフロアが見える向かいの廃墟の屋上………

 

「!? 隊長が!?」

 

「オイ、あの舩坂って奴は如何した!? 戦死したのか!?」

 

カジキがやられた事に驚愕するシイラと、弘樹の所在が分からなくなって慌てるツナ。

 

「分からん………しかし、あの崩落に巻き込まれたんだ。普通なら間違い無く戦死判定ものだ」

 

「相打ちか………だが、隊長がやられたのならば代わりに指揮を執らんと………」

 

「よし、すぐに部隊に指揮委譲の通達を………」

 

カジキがやられた為、指揮委譲を行おうと、シイラが通信機に手を掛けると………

 

発砲音がして、その通信機が撃ち抜かれた!

 

「なっ!?」

 

「!!」

 

驚くシイラとすぐに銃弾が飛んで来た方向を確認するツナ。

 

「…………」

 

そこには、別の廃墟の屋上で、モシン・ナガンM1891/30を構えている飛彗の姿が在った。

 

「! 敵の狙撃兵か!」

 

「このぉっ!!」

 

すぐさまシイラとツナは、M1903A4とL-39を構え、飛彗に反撃を浴びせる。

 

「!!」

 

狙われた飛彗は、廃墟の屋上を逃げ回る。

 

「そらそら! 如何した如何した!」

 

「通信機よりも先に、僕達を撃ち抜くんだったね」

 

防戦一方となっている飛彗に次々と弾丸を放つシイラとツナ。

 

しかし、この時………

 

2人は攻撃に夢中になり………

 

周囲への警戒が疎かとなっていた。

 

その瞬間!!

 

2人の背後から、エンジン音が聞こえて来る!

 

「「!?」」

 

驚いて振り返ったシイラとツナが見たものは………

 

「貰ったぜっ!!」

 

隣の廃墟の屋上から、バイクごとジャンプして、眼下の自分達に向かってカンプピストルからグレネード弾を放つ白狼の姿だった!

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」

 

グレネードの直撃を食らい、破片を全身に諸に浴びたシイラとツナはそのまま倒れ、戦死と判定される。

 

「よっ、と………へへっ」

 

「…………」

 

着地を決めた白狼が、飛彗に向かってサムズアップすると、飛彗も笑顔で手を振り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に対決の時を迎えた弘樹とカジキ。
勝負はお互いに一進一退。
シイラ達の協力もあって、弘樹を追い詰めたかに見えたカジキだったが………
最後の最後で詰めを誤り、弘樹の反撃を受けて倒される。
しかし、その弘樹も崩壊した廃墟の中へと消えた。
果たしてどうなったのか?
次回、遂にパシフィック戦、決着です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第65話『4回戦、決着です!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第65話『4回戦、決着です!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホージローと竜真達………

 

カジキと弘樹の激しい戦いが終わりを告げていた頃………

 

両校の戦車チームの戦いにも………

 

決着が着こうとしていた………

 

 

 

 

 

第4回戦会場・島々の点在する海域の1つ、廃墟の島………

 

戦車チームが激突している場所では………

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!」

 

みほの号令で、華がセイレーンのM24軽戦車目掛けて発砲するが、砲弾は外れて瓦礫を爆散させる。

 

「西住殿! そろそろ砲弾の残弾が心許無くなってきました!!」

 

と、新たな砲弾を装填しながら、優花里がみほへそう報告する。

 

『こちらカモさんチーム! 敵の攻撃苛烈! もう持ち堪えれらないわ!!』

 

『サンショウウオさんチーム、同じく!』

 

「みぽりん! カモさんチームとサンショウウオさんチームも限界だよ!!」

 

更にそこで、敵の戦車部隊を足止めしているカモさんチームとサンショウウオさんから限界だと言う報告が入り、沙織がそう叫ぶ。

 

「コレ以上時間は掛けられない………」

 

ペリシコープ越しにセイレーンのM24軽戦車を見据えながらそう呟くみほ。

 

と、その直後!!

 

近くから、ドゴーンッ!!と言う爆発音が聞こえて来た。

 

「!?」

 

思わずみほは、キューポラから飛び出す様に姿を晒し、音の正体を確認する。

 

音が聞こえて来た方向では、パシフィック戦車部隊のもう1両のM24軽戦車と、カバさんチームのⅢ突が煙と白旗を上げていた。

 

「! Ⅲ突が!!」

 

『すまない! やられた!! だが、何とか相打ちに持って行った! 後は頼むっ!!』

 

みほが驚きの声を挙げると、Ⅲ突のエルヴィンからそう通信が入る。

 

『申し訳ありません! やられました!!』

 

「クッ! 何て事ですの!!」

 

セイレーンの方にも、M24軽戦車の車長からの通信が入る。

 

「ローレライさん! 随伴のM24が!!」

 

「そろそろケリつけないとマズイわね………セイレーン! 海が見える場所まで逃げなさい! その間に私がM3リーを撃破するわ!!」

 

と、同じ様にその光景を見ていたメロウがそう言い、ローレライがセイレーンにそう通信を送る。

 

「ですから! 総隊長は私ですわ!!」

 

そう言いながらも、セイレーンは海の方に向かって撤退を開始する!

 

「! 西住殿! 敵のフラッグ車が!!」

 

「クウッ!………」

 

フラッグ車を追いたいみほだったが、まだローレライ達のM2中戦車と交戦しているウサギさんチームのM3リーを見て逡巡する。

 

『西住総隊長! 行って下さいっ!!』

 

「!? 梓ちゃん!?」

 

すると、他ならぬウサギさんチームのリーダーである梓からそう通信が入る。

 

『コッチは何とか持ち堪えて見せます!!』

 

『西住総隊長は敵のフラッグ車を!!』

 

『やってみます!!』

 

『総隊長! 行ってっ!!』

 

『倒すのは無理かもだけど、何とか生き延びて見せます』

 

梓、あや、桂利奈、あゆみ、優季から次々にそう声が挙がる。

 

『…………』

 

『紗希も行ってって言ってます!』

 

更に無言だった紗希の言葉を、あゆみが代弁する。

 

「………麻子さん! 敵のフラッグ車を追跡して下さい!」

 

「良いのか?」

 

指示を受けた麻子が確認する様にそう言う。

 

「ウサギさんチームを信じます! 私達は敵フラッグ車の撃破を!!」

 

「ん………」

 

みほがそう言うのを聞いて、麻子はⅣ号にセイレーンが乗るM24軽戦車を追わせるのだった。

 

「敵隊長車、セイレーンさんのM24を追って行きます」

 

「コッチは逃げないか………良い度胸ね」

 

メロウの報告を聞きながら、未だに前方に居座るM3リーをペリスコープ越しに見てそう呟くローレライ。

 

「皆! 西住総隊長達が敵のフラッグ車を撃破するまで、何とか頑張るよっ!!」

 

「「「「おおおおおお~~~~~~~っ!!」」」」

 

「…………」

 

梓の声に、あや、桂利奈、あゆみ、優季が勇ましい返事を返し、紗希も表情を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、逃げたパシフィックのフラッグ車であるM24軽戦車と、それを追うあんこうチームのⅣ号は………

 

「そこ! 左ですわっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

セイレーンの指示で、通路を左へと曲がるM24軽戦車。

 

そこは、防波堤に囲まれたかなり巨大な港だった。

 

如何やら元軍港だったらしく、大型のクレーンや倉庫だったと思われる廃墟が立ち並んでいる。

 

「良し! 此処でしたら………」

 

と、セイレーンがそう言った瞬間!

 

至近距離に砲弾が着弾し、M24軽戦車に車体が揺さぶられる。

 

「「「「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

「クウッ! 追い付いてきましたわね!!」

 

悲鳴を挙げる乗員達を尻目に、セイレーンはペリスコープで追い掛けてきたⅣ号の姿を確認する。

 

「港に入ったよ!」

 

「チャンスです、西住殿! 逃げ場はありません!! 此処で決着を着けましょう!!」

 

沙織がそう声を挙げると、優花里がM24軽戦車を追い詰めたと興奮気味にみほへそう進言する。

 

「…………」

 

しかし、みほは険しい表情を浮かべていた。

 

「? 西住殿?」

 

「如何しました、みほさん?」

 

「何か………嫌な予感がするの………」

 

怪訝に思った優花里と華がそう声を掛けると、みほはそう呟き返す。

 

その頬を、冷たい汗が流れ、床へと落ちる。

 

………と、その瞬間!!

 

突如として湾内の海面の一部が盛り上がり始めた!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

その盛り上がり始めた海面に、あんこうチームの視線が一斉に集まる。

 

やがて海面は弾け………

 

そこからガトー級潜水艦・ガトーが現れる。

 

「! 潜水艦っ!!」

 

「そんな!? まさか湾内にまでっ!?」

 

みほがそう声を挙げると、優花里が狭い湾内にまで侵入して来た潜水艦に驚愕する。

 

1歩間違えれば座礁してしまう可能性も有ると言うのに。

 

「ハハハハハッ! 我々の操船技術を甘く見たな! 撃ちー方よーいっ!!」

 

ガトーの艦内で、スクイッドが得意そうな笑い声を挙げ、そう命令を下す。

 

ガトーの甲板前部に備え付けられていた4インチ砲と、甲板後部に備え付けられていた40ミリ機関砲と20ミリ機銃に乗員が着く。

 

「撃ーち方始めーっ!!」

 

そしてスクイッドの号令で、Ⅳ号目掛けて攻撃を開始した!

 

「! 麻子さん! 後退!!」

 

「!」

 

みほの指示に、麻子はやや焦った様にⅣ号を後退させる。

 

4インチ砲の砲弾と、機関砲弾と機関銃弾が先程までⅣ号が居た場所の地面を抉る。

 

「さあ! 反撃開始ですわっ!!」

 

更にそこで、セイレーンの乗るM24軽戦車も、Ⅳ号に向かって砲撃を開始する。

 

「クウッ!………」

 

そんな中、一瞬の間を見極め、華が湾内に陣取っているガトーに向かって砲撃する。

 

しかし、放たれた砲弾はガトーに届かず、遥か手前の海中へと没する。

 

「駄目です! コチラの攻撃が届きませんっ!!」

 

「潜水艦よりもフラッグ車に攻撃を!」

 

「でもこの状況じゃあ!!………」

 

華にそう指示するみほだったが、潜水艦からの攻撃は凄まじく、とてもではないがフラッグ車を狙える隙が無い。

 

(このままじゃ………舩坂くん………)

 

焦るみほの心中に、弘樹の姿が過るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は再び、ウサギさんチームのM3リーVSローレライ&メロウのM2中戦車の戦いへ………

 

「撃てっ!!」

 

梓の号令で、M3リーの主砲と副砲が同時に火を噴く。

 

「右へ回避した後、急速後退!」

 

「ハイッ!!」

 

しかし、M2中戦車のローレライは弾道を読み、操縦手への的確な方向指示で回避する。

 

「反撃よ!」

 

「了解っ!!」

 

そして、M3リーに向かって反撃とばかりに37mm砲を見舞う。

 

M2中戦車から放たれた砲弾は、M3リーの正面装甲に命中したが、角度が浅かった為、弾かれて明後日の方向へ飛んで行く。

 

「キャアッ!?」

 

「大丈夫! 跳ね返したよ!!」

 

「でも、このままじゃマズイんじゃないの!?」

 

あやが悲鳴を挙げると、梓がそう言って落ち着かせるが、主砲の次弾を装填していたあゆみがそう声を挙げる。

 

彼女の言う通り、既にM3リーのボディの彼方此方には多数の砲弾が命中した後があり、装甲が変形している様子が見て取れる。

 

今は大丈夫でも、このまま命中弾を食らい続ければ、何時かは装甲貫通判定を受ける事になる。

 

対するローレライ達のM2中戦車は粗無傷な状態である。

 

「このままじゃ持たないよ~!」

 

「如何すれば良いの~!?」

 

「クウッ!………」

 

桂利奈と優季から悲鳴の様な声が挙がる中、梓は必死に考えを巡らせる。

 

とそこで、M2中戦車の砲が、再びM3リーへと向けられる。

 

「!? 狙われてる! 全速後退っ!!」

 

「アイーッ!!」

 

それに気づいた梓は、即座に後退指示を出し、桂利奈がM3リーをバックさせる。

 

しかし、M3リーが干上がった大きな排水路の傍まで後退した瞬間!

 

突如足元のコンクリートが崩れ、M3リーはそのまま瓦礫と共に排水路の中へと落下する!!

 

「「「「「!? キャアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

ウサギさんチームの悲鳴が響く中、M3リーは排水路の底へと叩き付けられる様に着地する。

 

更にその周囲を、一緒に崩落していたコンクリートの瓦礫が埋め尽くす………

 

「~~~~っ!………皆、大丈夫!?」

 

「何とか………」

 

「死ぬかと思った~」

 

「アイ~~~………」

 

「イテテテ………肘打っちゃった………」

 

梓が尋ねると、あや、優季、桂利奈、あゆみから何とか無事だと言う返事が返って来る。

 

「…………」

 

「うん、紗希も大丈夫だね。M3も大丈夫みたいだし、良かった~」

 

更に紗希の無事も確認し、M3リーから白旗が上がってない事にも、梓は安堵する。

 

「!? そうだ! M2は!?」

 

しかしすぐにペリスコープでローレライ達のM2中戦車の所在を確認する。

 

M2中戦車は排水路の崩れた縁に陣取り、M3リーに主砲を向けていた。

 

この距離、しかも最も装甲が薄い上面部を狙われている為、命中すれば撃破は免れない。

 

「! 桂利奈ちゃん! 急いで移動してっ!!」

 

「駄目! 全然動かないよ!!」

 

すぐにM3リーを発進させる様に桂利奈に指示する梓だったが、M3リーは半分瓦礫に埋もれた状態であり、桂利奈が幾らアクセルを踏み込んでも動く気配が無かった。

 

「クッ! あや! 副砲で狙って!!」

 

「りょ、了解!」

 

それならば先に撃破すると副砲手であるあやにそう指示する。

 

M3リーの副砲が旋回し、排水路の上に居るM2中戦車に向けられようとしたが………

 

「! 駄目! 仰角が足りないよ!!」

 

僅かに仰角が足らず、M2中戦車を狙えない。

 

動けず攻撃する事も出来ない………

 

文字通り手も足も出ず、絶体絶命の状況だった………

 

「終わりね………まあ、良く頑張ったわ」

 

そんなM3リーの状況が分かっているからか、M2中戦車のローレライはM3リーの事をペリスコープ越しに見ながらそう言う。

 

「装填完了」

 

「何時でも撃てます」

 

そこで、メロウと砲手の子からそう報告が挙がる。

 

「相手は動けないわ。落ち着いて良く狙いなさい」

 

「ハイ!」

 

M3リーが動けないのを良い事に、M2中戦車はじっくりと狙いを定める。

 

「! 狙われてる!!」

 

「如何するの!?」

 

「如何にもならないよー!」

 

「やられちゃうの!?」

 

「私達がやられたら、大洗の負けだよ!」

 

梓、あや、桂利奈、優季、あゆみの悲鳴にも似た声が挙がる。

 

けれども打つ手は無い………

 

大洗機甲部隊の命運も此処に尽きたか………

 

と、その時!

 

「…………」

 

紗希があやを押し退ける様にして、副砲の照準器を覗き込み、引き金に手を掛けた。

 

「!? 紗希!?」

 

「紗希ちゃん!? 何する気!?」

 

突然の紗希の行動に驚く梓とあや。

 

「撃てっ!」

 

その瞬間に、ローレライの号令で、M2中戦車の主砲が火を噴いた!

 

「!!」

 

それより一瞬遅れて、紗希は引き金を引き、M3リーの副砲を放った!

 

撃ち下ろされたM2中戦車の主砲弾と、撃ち上げたM3リーの副砲弾が、互いに接近する。

 

そして激突するかと思われたその瞬間!

 

撃ち降ろしていたM2中戦車の砲弾が、撃ち上げていたM3リーの副砲弾の下側に潜り込む様に接触!

 

その際の衝撃で、M2中戦車の主砲弾は下側へと弾かれ、M3リーの僅かな手前に着弾!

 

M3リーの周囲に在った瓦礫の一部を爆ぜさせる。

 

一方、上へと弾かれたM3リーの副砲弾は、そのままM2中戦車へと向かった!

 

「えっ!?………」

 

ローレライが呆けた声を挙げた瞬間に、M3リーの副砲弾はM2中戦車の砲塔基部に命中!

 

爆発の後、M2中戦車から黒煙が上がり、一瞬間が有って、砲塔上部から撃破された事を示す白旗が上がった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

両者は互いに何が起こったのか分かっておらず呆然としている。

 

「………助かった、の?」

 

「そうみたい~………」

 

やがて、梓が絞り出す様にそう呟くと、優季がやや場違い気味に間延びした口調でそう返事をする。

 

「! やったーっ!!」

 

と、逸早くその事を認識した桂利奈が歓声を挙げる。

 

それを聞いたウサギさんチームの面々も遂に事態を把握し、M3リーの車内をまるで蜂の巣を突いたかの様な大騒ぎとなる!

 

「紗希! やったね!!」

 

「紗希ちゃん凄い!!」

 

感極まったらしいあゆみとあやが、紗希へと抱き付く。

 

「…………」

 

相変わらず喋らない紗希だったが、その顔には確かな笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

港湾施設付近で戦っているあんこうチームのⅣ号も………

 

「喰らえっ!!」

 

「! スピードを上げて下さい!」

 

「ん………」

 

ガトーの4インチ砲が火を噴いたのを確認したみほが、麻子にそう指示を出す。

 

Ⅳ号がスピードを上げると、先程までⅣ号が居た場所に、4インチ砲の砲弾が着弾する。

 

「そこですわ!」

 

しかし間髪入れずに、セイレーンのM24軽戦車が砲撃して来る。

 

「! 車体を右35度の角度に!」

 

「くうっ………」

 

みほがすかさずそう指示を出し、麻子は言われた通りに車体を傾ける。

 

M24軽戦車の砲弾はⅣ号の砲塔に命中したが、角度が浅かった為、明後日の方向へ弾かれる。

 

「キャアッ!?」

 

「西住殿! マズイですよっ!!」

 

「このままでは戦車が持ちません!」

 

車内に走った振動に沙織が悲鳴を挙げる中、優花里と華がそう報告を挙げる。

 

既にⅣ号の彼方此方には被弾の跡が有り、このままでは撃破されるのは時間の問題である。

 

「やっぱり、あの潜水艦を如何にかしないと………」

 

「でも、此方の攻撃は相手に届きませんよ」

 

沙織がそう呟くと、優花里がそう言う。

 

「………みほさん。試してみたい事があります」

 

するとそこで、真剣な表情をした華が、みほへそう言って来た。

 

「? 華さん?」

 

「やらせていただけませんか?」

 

その表情のまま、みほへそう問い掛ける華。

 

「…………」

 

みほは少しの間、そんな華の表情を見やっていたかと思うと………

 

「分かりました。華さんを信じます」

 

表情を引き締め、そう言った。

 

「ありがとうございます………麻子さん! 出来るだけ砲と水面を水平に出来る場所へ移動して下さい!」

 

「なら、あそこだな………」

 

華がそう言うと、麻子が湾内へ船を下ろす為のスロープを見つけ、そこへと向かう。

 

「何をする気か知りませんけど、させませんわよ!」

 

セイレーンはそれを阻止しようとM24軽戦車を前進させるが………

 

「そこです!」

 

そこで華が、作業用の大型クレーンの根元に向かって榴弾を発射!

 

作業用クレーンの根元部分が破壊され、M24軽戦車の進路を塞ぐ様に倒れる!!

 

「!? コレでは通れませんわ!!」

 

セイレーンがそんな事を言う中、Ⅳ号はスロープを下って行き、ギリギリまで車体を水没させ、砲と水面を出来る限り水平にする。

 

「? 何だ?」

 

「アイツ等何をする気だ?」

 

その様子を見ていたガトーの乗員達が怪訝な顔をする。

 

「…………」

 

そんなガトーに砲を向けている華は、集中した様子で照準器越しにガトーによって多少波立っている湾内の海面を見やっている。

 

只ジッと海面を見据えている華。

 

その頬を、緊張から出た冷や汗が伝う。

 

と、やがて波が一瞬穏やかになった瞬間!

 

「! そこです!!」

 

まるでそのタイミングを見計らっていたと言う様に、華は砲弾を発射した!!

 

「敵戦車発砲!」

 

「慌てるな! この距離じゃ届かないさ!!」

 

報告を挙げる乗員に、スクイッドは届かないと言い放つ。

 

その言葉通り、Ⅳ号から放たれた砲弾は徐々に高度を下げ、そのまま海中に没する………

 

………かと思われた瞬間!!

 

何と砲弾が海面でバウンド!!

 

更にそのままバウンドを繰り返し、まるで水切りの石の様にガトーへと向かって行く。

 

「な、何っ!?」

 

「まさか!? 戦車砲弾で反跳爆撃だと!?」

 

まさかの戦車砲での反跳爆撃に驚愕するガトーの乗員達。

 

「きゅ、急速潜航ぉっ!!」

 

「駄目です! 間に合いませんっ!!」

 

慌てて急速潜航の指示を出すスクイッドだったが時既に遅し!

 

Ⅳ号から放たれた砲弾は、ガトーの艦首部分………魚雷発射管の部分へと命中!

 

1度派手な爆発が挙がったかと思うと、更に連続で大爆発が起こる!!

 

「おうわっ!?」

 

「艦首に被弾っ! 魚雷に誘爆っ!!」

 

「浸水発生! 排水ポンプ、作動しませんっ!!」

 

悲鳴を挙げるスクイッドの耳に、乗員からの報告が次々と飛び込んで来る。

 

「電気系統がショートしています!」

 

「浸水状況レッドゾーン! このままでは沈没しますっ!!」

 

「そ、総員! 退艦ーっ!!」

 

最早コレまでだと悟ったスクイッドは潔く退艦命令を下す。

 

ガトーから次々と乗員が海へと飛び込んで行く。

 

やがて、最後まで残っていたスクイッドが飛び込むと………

 

ガトーの艦首が再び大爆発して吹き飛び、そこから一気に浸水。

 

艦首部分が水没し、艦尾が持ち上がって水面に出たかと思うと、艦首部分が湾内の海底に接触。

 

まるで水に突き刺さったかの様な状態となり、艦橋部分の頂部から白旗が上がった。

 

「やりました!」

 

「華、スゴ~イッ!!」

 

「まさか戦車砲で反跳爆撃をするなんて、信じられません!」

 

華が歓声を挙げると、興奮している様子の沙織と優花里がそう言って来る。

 

「前に歩兵の皆さんが川原で遊んでいるのを見て思いついたんです」

 

「急速後退! 次はフラッグ車を叩きます!!」

 

そう華が言っていると、みほがまだフラッグ車が残っていると言い放つ。

 

「うん………」

 

麻子はすぐに半分水没していたⅣ号を後退させる。

 

だが、スロープを登り切った瞬間!!

 

Ⅳ号の左側の履帯後部が爆発!

 

履帯が千切れ、転輪が弾け飛んだ!!

 

「「「「!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「!?」

 

みほ、優花里、華、沙織が悲鳴を挙げ、麻子も驚愕の表情を浮かべる。

 

「何をやっていますの! 今エンジンを狙えたでしょう!!」

 

「す、すみません!」

 

砲口から煙を上げているM24軽戦車の中で、セイレーンが砲手を叱りつける。

 

「まあ、良いですわ。どの道もう動けないでしょう。次でトドメですわ」

 

セイレーンがそう言う中、装填手が次弾を装填に掛かる。

 

「クッ! もう抜け出して来たの!?」

 

「駄目だ! 全く動かんぞ!」

 

みほがもう倒れたクレーンを突破して来たM24軽戦車に計算外だと言い、麻子は操縦桿とペダルを動かすが、Ⅳ号は動かない。

 

撃破判定は下っていないが、コレでは只の的である。

 

「クウッ!」

 

華がすぐに砲塔を旋回させ始めるが………

 

「装填完了っ!」

 

「終わりですわ、大洗………」

 

M24軽戦車の装填は、既に終わっていた。

 

「!!」

 

丸く見える相手の砲門で、直撃コースだと言う事を悟るみほ。

 

最早絶体絶命だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風切り音が聞こえたかと思うと、M24軽戦車のエンジン部にロケット弾が命中!

 

大爆発が起こって一瞬の間の後………

 

M24軽戦車の砲塔上部から、白旗が上がった。

 

「「「「!?」」」」

 

「今のは!?」

 

「な、何が起こったんですの!?」

 

沙織、華、優花里、麻子が驚き、みほとセイレーンがキューポラから車外へと姿を晒す。

 

と、辺りに爆煙が蔓延している中、足音が聞こえて来る。

 

そして、爆煙が晴れたかと思うと、そこには………

 

「…………」

 

右肩に鹵獲したバズーカを掛けている、戦闘服がボロボロになり、全身埃塗れになっている弘樹の姿が在った。

 

「! 舩坂くん!」

 

「そんなっ!? カジキ達は如何したのです!?………!? まさか!?」

 

みほが声を挙げ、セイレーンはカジキが倒された事を悟る。

 

「…………」

 

そんな中、弘樹は無言でみほの方へと歩を進める。

 

「そ、そんな………」

 

セイレーンは崩れ落ちる様にキューポラへと寄り掛かる。

 

「舩坂くん………」

 

みほはまだ呆然とした様子で、Ⅳ号の傍に来た弘樹を見つめる。

 

「…………」

 

と、そこで弘樹は撃ち終えたバズーカを捨て、みほに向かってお馴染みのヤマト式敬礼をする。

 

「!………」

 

一瞬驚いたみほだったが、やがて弘樹に向かって返礼した。

 

『試合終了! 大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

『やった! やりました!! 戦車道・歩兵道全国大会第4回戦! 勝者は………大洗機甲部隊ですっ!!』

 

『いや~、序盤で大損害を受けた時は如何なるかと思いましたけど、今回も見事な逆転劇、見せて頂きました!』

 

そしてそこで、主審の香音が試合終了のアナウスを流し、実況席のヒートマン佐々木とDJ田中が観客席とテレビに、熱い実況を流すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にパシフィック機甲部隊との試合、公式戦第4回戦も決着。

動けなくなりあわやという所で、敵戦車の撃破に成功して難を逃れたウサギさんチーム。
正に追い詰められたウサギはジャッカルよりも凶暴です(それキツネ!)

そして、隊長車でありフラッグ車であるセイレーンのM24軽戦車と戦うみほ達。
如何にか潜水艦を排除したかに思えたが反撃を受け絶体絶命に落ちいる。
しかし、その危機を救ったのはこの男………
やはり無事だった舩坂 弘樹である。

こうして………
大洗は第5回戦へと駒を進めるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第66話『楽しいビンゴ大会です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第66話『楽しいビンゴ大会です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第4回戦………

 

大洗機甲部隊VSパシフィック機甲部隊の試合………

 

水陸両用車中心のパシフィック戦車部隊と、高身長の歩兵達で構成されたパシフィック歩兵部隊を前に………

 

大洗機甲部隊は大苦戦を強いられたが………

 

竜真達とウサギさんチームの奮戦………

 

そしてあんこうチームと弘樹の活躍により………

 

またも辛くもながら、勝利を勝ち取ったのだった。

 

そして試合から2日が過ぎたこの日………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック学園艦・パシフィック高等女子校とパシフィック高等男子校が共同使用している多目的ホールにて………

 

「皆ー! 盛り上がってるーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

特設されたステージ上に居る唯を除いたスクールアイドル衣装姿のサンショウウオさんチームメンバーの中で、聖子がそう問い掛けると、観客である大洗機甲部隊とパシフィック機甲部隊の面々から歓声が挙がる。

 

「OK! 盛り上がってるねー! 実は今日は新曲を披露しようと思ったの!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

聖子がそう言うと、大洗機甲部隊とパシフィック機甲部隊の面々から再び歓声が挙がる。

 

「それじゃあ、心行くまで堪能して行ってね! 新曲! 『DreamRiser』!!」

 

「カモン!」

 

その瞬間に、バックバンドである磐渡達の演奏が始まる。

 

そして、曲に合わせてサンショウウオさんチームの面々が歌い舞い踊る。

 

「聖子ちゃ~ん!」

 

「伊代ちゃ~ん!」

 

「優ちゃ~ん!」

 

「明菜ちゃ~ん!」

 

「静香ちゃ~ん!」

 

「満里奈ちゃ~ん!」

 

「今日子ちゃ~ん!」

 

大洗機甲部隊とパシフィック機甲部隊から、次々とメンバーをコールする声が挙がる。

 

「…………」

 

そんなサンショウウオさんチームの様子を、舞台袖から見ている唯。

 

「やっぱり………皆凄い………私も………何時か………」

 

その目には、聖子達と同じステージに立つ自分の姿が映っていた。

 

「へえ~、良いじゃない。貴方達の学園のスクールアイドル」

 

「ど、どうも………」

 

サンショウウオさんチームのステージを見ながらそう言うローレライに、若干萎縮している様子のみほがそう返す。

 

「本当に良かったんですか? 態々学校のホールを貸してくれてまで………」

 

「総隊長の許可は下りてますから」

 

続いて沙織がそう言うと、ローレライに代わる様にメロウがそう答える。

 

「敗者には敗者の矜持が有る………それだけの事ですわ」

 

そして、セイレーンが優雅な佇まいでそう言う。

 

 

 

 

 

何故、サンショウウオさんチームがパシフィック校の多目的ホールでライブをし、大洗機甲部隊の面々の姿が在るのか?

 

話は第4回戦が終了した頃まで遡る………

 

苦しくも大洗機甲部隊の勝利で幕を閉じた戦車道・歩兵道全国大会第4回戦………

 

ルールに則り、今回も勝利校のスクールアイドル達のライブが行われる予定だったが………

 

当のサンショウウオさんチームは、リーダーである聖子の体調がまだ完全に回復していなかったので、止むを得ず今回のライブを辞退しようとした。

 

しかしそこで、パシフィック校側のスクールアイドル………

 

つまり、セイレーン、ローレライ、メロウ達3人からなる『MERMAIDS(マーメイズ)』がある提案を持ちかけて来た。

 

以前の非礼のお詫びを兼ねて、大洗機甲部隊の祝勝会を開きたいので、そこで歌ってくれないかと。

 

困惑した大洗機甲部隊のメンバーだったが、お詫びとあっては断るのも悪いと思い、その提案を快諾。

 

現在に至ると言うワケである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐもぐ………美味過ぎるっ!!」

 

「まだまだありますから、遠慮無く食べて下さいね」

 

食事は立食パーティー式となっており、テーブルの上に所狭しと並べられている海鮮料理に手を付けていた大詔がお馴染みの叫びを挙げ、傍に居たツナがそう言う。

 

「うむ、川魚はサバイバル訓練の時も良く食べたが、海の魚も美味いな」

 

「へえ~、川魚を………天ぷらにでもしたんですか?」

 

「いや、生だ」

 

「えっ?………」

 

大詔から返って来た答えに絶句するツナ。

 

「な、生って………」

 

「サバイバル訓練中だと言ったろ。火を熾す余裕が在れば焼いていたさ。調味料も有れば使っていた」

 

「で、でも………川魚って、確か寄生虫が………」

 

「良く噛んで食べれば死んで、その寄生虫の分の栄養も摂れる」

 

「…………」

 

余りに壮絶な大詔のサバイバル訓練内容に、ツナは無意識の内に大詔から距離を取ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別の一角では………

 

「…………」

 

ライブや食事に夢中になっている一同を、片手に飲み物の入ったコップを持ち、壁に寄り掛かった状態で見守る様に見ている弘樹の姿が在った。

 

皆が楽しんでいる様子に微笑を零すと、コップの中身を一口呑む。

 

「………少し良いか?」

 

と、そんな弘樹に声を掛ける人物が居た。

 

「………カジキ」

 

そう、カジキであった。

 

「…………」

 

弘樹と同じ様に片手に飲み物の入ったコップを持ったカジキは、無言で弘樹の隣へ移動すると、これまた同じ様に壁に背を預ける。

 

「「…………」」

 

そしてそのまま互いに沈黙する両者。

 

すぐ目の前では、大洗機甲部隊とパシフィック機甲部隊の面々が飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎを繰り広げているが、2人にはその喧騒さえ遠く聞こえた。

 

「………見事だった、舩坂 弘樹。完全に俺の負けだった。試合の勝敗もお前が決めた」

 

やがてカジキは、弘樹に向かってそう言った。

 

「小官だけの力では無い………部隊の皆が其々の役割を懸命に果たした結果だ」

 

いつもと変わらぬ様子でそう返す弘樹。

 

「………俺は来年もう1度仕切り直しだ。視野が狭過ぎた」

 

そう言いながらカジキは、持っていたコップの中を覗き込み、飲み物の表面に自分の顔を映す。

 

「舩坂 弘に憧れ、目標としていながら、その本質を理解していなかった………歩兵道は1人で戦う武道ではない」

 

「…………」

 

「お前とお前の居る部隊がどこまで行けるのか………どんな戦いをするのか………それが見てえ」

 

そこでカジキは弘樹の方へと視線を移す。

 

「必ず決勝まで勝ち残れ………大洗の強さを最後まで見せつけてやれ」

 

「ああ………」

 

そう短く返すと、弘樹は再び飲み物を一口飲む。

 

「………それだけ言いたかっただけだ」

 

そこでカジキは、その場を後にしようとする。

 

「舩坂 弘樹………お前は紛れも無く………英霊を継ぐ者だったよ」

 

去り際に、そんな言葉を弘樹へ残して行った。

 

「…………」

 

弘樹はそんなカジキの背を、見えなくなるまで見送る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、パーティーはドンドン盛り上がって行く。

 

「さあお前等! いよいよお楽しみ!! ビンゴ大会の始まりだぜぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

サンショウウオさんチームがライブを終えた特設ステージ上に立ったホージローがそう言うと、コレまでで最大の歓声が響き渡る。

 

「OK! 良い盛り上がりっぷりだぜ、ブラザーッ!! 早速豪華賞品の発表だぁっ!! 先ずは3等!!」

 

「我が校のマスコット! ジプシー・デンジャーくんのぬいぐるみです!!」

 

ホージローがそう言うと、スクイッドが40cmくらいは有りそうなサイズのデフォルメされたロボットのぬいぐるみを持って現れる。

 

「うわあっ! カッコイイッ!!」

 

アニメ好きな桂利奈が反応する。

 

「おや、桂利奈ちゃん。あのぬいぐるみが欲しいのかい?」

 

「欲しいーっ!!」

 

その様子を見ていた圭一郎が尋ねると、桂利奈は迷わずそう答える。

 

「OK、分かったぜ。じゃあ、俺が当てたら桂利奈ちゃんにプレゼントしてあげるよ」

 

「ホントッ!?」

 

目を輝かせて圭一郎を見やる桂利奈。

 

「その代わり、今度デートしようじゃないか」

 

そんな桂利奈を、圭一郎はプレゼントに託けてナンパに掛かる。

 

「うん! 良いよぉ!! うわーい!! やったーっ!!」

 

それをアッサリと了承し、小躍りを始める桂利奈。

 

如何やら色々と良く分かっていない様子である。

 

「ありゃりゃ………コレは結構手強かったかな?」

 

そんな桂利奈の様子を見て、圭一郎は苦笑いを零すのだった。

 

「続いて2等の景品はコレだぁっ!!」

 

「言わずと知れた、我等がアイドル『MERMAIDS(マーメイズ)』の直筆サイン入りアルバムCD! しかも水着グラビア写真付きだぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ホージローがそう言うと、サインが入ったCDとMERMAIDSの水着のグラビア写真を携えたシイラが現れ、大洗とパシフィック歩兵部隊の一部を除いた面々から歓声が挙がる。

 

「水着! グラビア! ぐふふふふふふふ………」

 

「了平、顔が危ないですよ」

 

「まあ、そうなると思ってたよ」

 

またも法律違反な顔になる了平を見て、楓と地市が呆れながらそう言う。

 

「結構なお宝だけど、コレが2等か………」

 

「となると1位は一体何なんだ?」

 

「否が応でも期待させられるな………」

 

2等の景品がかなり豪華な物であるのを見て、磐渡、鷺澪、重音の3人が1等の景品に期待を膨らませる。

 

「それじゃあ待たせたなぁ! いよいよ1等の景品の発表だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

遂に1等の発表となり、テンションが最高潮に近づく両機甲部隊の面々。

 

「コイツは凄い賞品だぁ! ハッキリ言って俺が欲しいっ!!」

 

「勿体ぶるなぁーっ!!」

 

「早く言えーっ!!」

 

ホージローが勿体ぶる様にしていると、歩兵部隊の隊員から野次が飛ぶ。

 

「聞いて驚くなぁ! そのブツとは、何と!………我等がパシフィック機甲部隊の総隊長であり、MERMAIDSのリーダーである、セイレーン先輩の熱~いキッスだぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「!? うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その発表がされた瞬間!

 

コレまでで最大の歓声が、一部を除いたパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊から挙がった!

 

「マジかよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

「ワッザッ!?」

 

「うひょおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

「ダイターン! カムヒアッ!!」

 

「敵の潜水艦を発見っ!!」

 

「ちょっ!? 皆落ち着いて!!」

 

興奮し過ぎて色々な叫びを挙げる一部を除いたパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々を見て、沙織が若干引きながらそう言う。

 

「何ですか、この盛り上がりは?」

 

「如何やら、コイツ等にとっては想像以上の賞品だったみたいだな」

 

華も戸惑いの色を浮かべ、麻子は冷めた目でそんな一部を除いたパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々を見やる。

 

「ホ、ホージローさん!? わ、私! そんな事は聞いて居ません事よっ!!」

 

と、当の本人であるセイレーンも、狼狽しながらそう抗議の声を挙げた。

 

「ええ~~? でも、企画報告した時に、『私に協力出来る事なら何でも言って下さいね』って、言ったじゃ~ん」

 

「僭越ながら総隊長………同席していた自分も確と聞きました」

 

「自分もであります!」

 

ホージローがすっとぼけた顔でシレッとそう言い放つと、シイラとツナが援護する様にそう言う。

 

「それは………確かにそう言いましたけど!」

 

「キッスが嫌ならそれ以上の事とか………」

 

「それは絶対に嫌ですっ!!」

 

それだけは断固拒否すると言う態度を見せるセイレーン。

 

「じゃあキスね! 決まり! 総隊長のOKも出たところで、行ってみようかぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そのまま強引に、ホージローはビンゴを決行するのだった。

 

「い、良いんでしょうか?」

 

「ブレーキ役のカジキはちょっと外してるし………大洗の面々はあの様子だしね………止めるのは無理ね」

 

そしてそんな様子に戸惑いを浮かべるメロウと、まるで他人事の様に見ているローレライだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

ビンゴ大会は予想以上に白熱。

 

リーチとなった者が多数出るものの、未だに1人もビンゴした者は居ない………

 

段々とパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の間に、ピリピリとした緊張感が漂い始める。

 

「さあ~、いよいよ30巡目! リーチの奴は多数居れど、未だにビンゴは出ず! 盛り上がって来たぜぇーっ!! 果たして勝利の女神は誰に微笑むのかーっ!!」

 

(Uの63、来い!)

 

(頼むぜ、Zの45だ………!)

 

(Eの19! Eの19! 大穴、来いっ!!)

 

(Jの28! 来てくれ!!)

 

ホージローの実況の中、リーチの者達が心の中で念じる。

 

「よし、来たぁっ! 気になる番号は………」

 

そこで遂に、新たな番号がコールされようとする。

 

「Aの7だ! 誰か、居ないかぁっ!?」

 

するとそこで………

 

「ビンゴォッ!!」

 

杏がそう声を挙げた。

 

「!? 会長っ!?」

 

「ええっ!?」

 

柚子と蛍が驚きの声を挙げ、パシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々も動揺する。

 

「かあ~っ! 勿体ねえっ! あ、でも、キマシタワーな展開も有りちゃ有りだなぁ………」

 

「何ですか、キマシタワーって?」

 

了平が節操無い様子を見せ、楓が呆れる。

 

「ああ、違う違う。当たったのはアタシじゃないよ」

 

するとそこで、杏はそう訂正をする。

 

「ああ、な~んだ………」

 

「驚かさないで下さいよぉ」

 

「全くだぜ」

 

途端に安堵の声を漏らすパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々だったが………

 

「当たったのは舩坂ちゃんだよ!」

 

「「「「「「「「「「!? ゲッホッ! ゴッホッ! エッホッ!!」」」」」」」」」」

 

続く杏の言葉を聞いた瞬間、全員が………

 

むせる

 

「…………」

 

当の本人は何時も通りの仏頂面で、ビンゴカードを片手に携えて突っ立っていた。

 

「マジかよ、こいつは………」

 

「ある意味、最も意味の無い人間に当たったわね………」

 

「英霊の血には運を引き寄せる力も有るんでしょうか………」

 

そんな弘樹の姿を見て、ホージロー、ローレライ、メロウはそう呟く。

 

「いやあ、残念だったね、皆。如何やらセイレーンのキスは最強のムッツリのものだよぉ!!」

 

杏がそう言った途端、パシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々は弘樹に向かって一斉にブーイングを送る。

 

「…………」

 

そして、1番のショックを受けていたみほは、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

「に、西住殿?………」

 

「みほさん?」

 

「大丈夫か?」

 

「…………」

 

優花里、華、麻子が心配して声を掛けるが、みほは反応しない。

 

「み、みぽりん! しっかりして!!」

 

とそこで沙織がみほの肩を掴んで揺さ振る。

 

「………はっ!?」

 

そこで漸く我に返るみほ。

 

「みぽ………」

 

「如何しよう沙織さん! 舩坂くんがセイレーンさんと、キ、キキキキ、キススススススス………」

 

「落ち着いてみぽりん!」

 

途端に動揺を露わに沙織に泣きつく様に縋るみほと、如何にか落ち着かせようとする沙織。

 

「心配要らねえと思うぞ」

 

しかしそこで、地市がそんな事を言う。

 

「? 如何言う事? 地市くん」

 

「アイツの事だからきっと………」

 

「で、では、舩坂さん。コチラにいらして下さいな」

 

地市が沙織に言葉を返そうとした瞬間に、セイレーンが弘樹を呼ぼうとする。

 

すると………

 

「………辞退する」

 

そう言って弘樹は、ビンゴカードを破り捨てた。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

途端にパシフィック歩兵部隊と大洗歩兵部隊の面々から何度目とも知れぬ大歓声が挙がる。

 

「良いぞ、舩坂! お前は最高の男だ!!」

 

「よ! 男前!!」

 

「見せてもらったぜ! お前の生き様をよ!!」

 

先程までブーイングを送っていたにも関わらず、熱い掌返しで弘樹の事を褒め称える。

 

「ハイ! 本人が嫌なの無理強いしちゃいけないね! 今回の当選は無効だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「…………」

 

ホージローがそう言い、再び歓声が挙がる中、弘樹は会場を後にする。

 

(拒否されるなんて………舩坂 弘樹………忘れませんわ!)

 

そして、拒否された事がそれはそれでプライドが傷付いたセイレーンだった。

 

その後、再度抽選が行われたが………

 

次に1等を引き当てた人物にも全員のブーイングが行われ、とうとう血で血を洗う戦いが勃発。

 

そこへカジキが帰って来て、見かねた迫信が熾龍に鎮圧命令を出した事で、大多数の人数が拘束され、1等の賞品はお流れとなった。

 

尚、3等は桂利奈が、2等は聖子が引き当てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パシフィック男子校・屋上………

 

「…………」

 

潮風を浴びながら、流れる雲を見上げている弘樹。

 

「あ、舩坂くん」

 

「ん?………」

 

とそこで背後から自分を呼び声が聞こえ、振り返るとみほの姿が在る事を確認する。

 

「西住くんか………」

 

「こんな所に居たんだ。何処行ったのかと思っちゃったよ」

 

そう言いながら弘樹の隣に並び立つみほ。

 

「すまない。少し風に当たりたくなって………」

 

「確かに、学園艦の上の潮風って気持ち良いよね」

 

風に揺れる髪を抑えながら、みほはそう言う。

 

「………ねえ、舩坂くん。如何して賞品を断ったの?」

 

やがてみほが思い切った様に弘樹にそう尋ねる。

 

「余興としては楽しんでいたが、見世物になる気は無かったからな。それに………ああいう事は矢鱈滅多らにするもんじゃない。もっと大事な時の為に取っておくものだ」

 

屋上から見える景色を見ながら弘樹はそう答える。

 

(舩坂くんらしい考えだなぁ………)

 

そんな弘樹の考えをらしいと思うみほ。

 

「じゃあ、もし………」

 

「ん?………」

 

「もし………キスするのが私だったら………受けてた?」

 

「えっ?………」

 

みほの思わぬ言葉に、弘樹は思わず間の抜けた表情を浮かべる。

 

「!! ああ、ゴ、ゴメン! じょ、冗談! 冗談だからっ!!」

 

そこでみほも、自分が凄く大胆な事を言ったと気付き、顔を真っ赤にして慌てて冗談だと執り成す。

 

「じゃ、じゃあ私! 会場に戻るから!!」

 

そして逃げる様にその場を後にして行く。

 

「…………」

 

1人残された弘樹は、暫く呆然としていたが、やがて表情を隠すかの様に学帽を目深に被り直したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、また少し時間が流れ………

 

遂にパシフィック校でのパーティは終了。

 

大洗機甲部隊の面々は撤収を開始した。

 

「今日はどうもありがとうございました」

 

「あんがとねー」

 

「この返礼は何れさせて頂くよ」

 

大洗機甲部隊を代表して、みほ、杏、迫信がパシフィック機甲部隊の面々にそう言う。

 

「そんなの気にしないで」

 

「また何時でも遊びに来て下さいね」

 

「お待ちしておりますわ」

 

ローレライ、メロウ、セイレーンがそう返す。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

杏がそう言うと、大洗機甲部隊の面々はパシフィック校を後にし始める。

 

「頑張りなさいよ、ウサギちゃん達」

 

「ハムスターもしっかりな!」

 

「ハイ!」

 

「…………」

 

「了解です!」

 

「ラジャー!」

 

「了解っす!」

 

ローレライとホージローがウサギさんチームとハムスターさん分隊にそう言うと、梓、竜真、ジェームズ、正義が返事をし、紗希も笑みを返した。

 

「「…………」」

 

一方、弘樹とカジキは、お互いに一瞬目線を合わせただけで、そのまま去って行く。

 

やがて、大洗機甲部隊の姿が完全に見えなくなった………

 

「終わりましたね………」

 

「ああ………俺達の戦いもな」

 

ツナとシイラがそう言い合う。

 

「………そっか………俺達………負けちまったんだよな………」

 

そこでホージローが、改めて自分達が負けた事を認識する。

 

「………ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

やがてそのまま慟哭し始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを皮切りに、パシフィック機甲部隊の面々に、悔しさを露わにする者が出始めた。

 

「総隊長………申し訳ありません。最初で最後の大会をこんな形で………」

 

カジキがセイレーンにそう謝罪する。

 

セイレーンは3年………

 

今年の大会が最初で最後だったのである。

 

「良いんですわ………私、こんなキャラ作りしてますから………今まで真面な友達が居なくて………けど、ローレライさんやメロウさん。カジキさんにホージローさん達………今年はこんなにも友達が出来て、その皆と一緒の事をして………凄く………楽しかったですわ」

 

セイレーンは涙を流しながらも、笑顔を浮かべてそう言うのだった。

 

ココに………

 

パシフィック機甲部隊の戦いは………

 

終わりを告げた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園の戦車格納庫内………

 

自分達の学園艦へと戻って来た大洗機甲部隊の面々は、そのまま解散する予定となっていたが………

 

次の対戦相手が決まったとの通知が送られて来たので、発表の為に一旦大洗女子学園の戦車格納庫内へと集合した。

 

「角谷くん。次の対戦相手は何処に決まったんだい?」

 

皆を代表する様に、迫信がそう尋ねる。

 

「河嶋ー」

 

「ハッ!」

 

杏がそう言うと、桃が次の対戦相手を告げようとする。

 

しかし心做しか、その表情には随分と緊張の様子が見て取れる。

 

「如何したんだ? 河嶋先輩?」

 

「お腹でも痛いのかな?」

 

弦一郎と満里奈がそんな事を言い合う。

 

すると………

 

「次の対戦相手は………『プラウダ高校』の『プラウダ戦車部隊』と『ツァーリ神学校』の『ツァーリ歩兵部隊』からなる『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』だ」

 

「!?」

 

桃が次の対戦相手を告げ、みほが表情を変えた。

 

「プラウダ&ツァーリ機甲部隊っ!?」

 

「それって、確か去年、みぽりんが居た黒森峰と戦った!?」

 

「前回の優勝校だな………」

 

優花里と沙織も驚きの声を挙げ、麻子がそう呟く。

 

「みほさん………」

 

「…………」

 

華がみほを気遣う様に声を掛けたが、みほは強張った表情で俯いていた。

 

(此処へ来て前回の優勝校と当たるとは………しかも、西住くんにとっては因縁の有る部隊か………)

 

そんなみほを心配しながらも、次なる相手………『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』との戦いに、若干の不安を感じる弘樹だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

パシフィック校戦のアフターストーリーです。
敗者の矜持として、大洗機甲部隊を招き、祝勝会を行うパシフィック機甲部隊。
その最中、色々とありながらも無事にパーティーを終え、自分達も戦いが終わった事を改めて認識する。
コレで大洗はパシフィックの分まで戦う事を義務付けられたワケです。

そして、次回の相手は運命のプラウダ&ツァーリ機甲部隊!!
………何ですが、肩透かしする様で申し訳ないのですが、その前に1戦練習試合を入れたいと思います。
全国大会中のこの時期に練習試合と思われるかもしれませんが、コレがプラウダ&ツァーリ戦、引いては大洗がこの先も戦い抜く為の伏線となります。
その練習試合の相手とは、原作にも登場し、弘樹が大洗以外に所属だったら、間違いなくココになるだろうと思われる、『あの学園』です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第67話『知波単学園です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第67話『知波単学園です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4回戦にて、パシフィック機甲部隊を破った大洗機甲部隊の次なる相手は………

 

昨年、みほが居た黒森峰機甲部隊を破り、10連覇を阻止して優勝した『プラウダ高校』の『プラウダ戦車部隊』と『ツァーリ神学校』の『ツァーリ歩兵部隊』からなる『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』

 

みほにとっては因縁の相手と言える機甲部隊だった。

 

昨年の優勝校との対戦を前に、大洗機甲部隊は少しでも戦力の補強を図ろうと、2度目の戦車捜索時に発見していた88ミリ砲搭載の戦車の投入を考える。

 

しかし、その戦車は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・演習場………

 

自動車部のメンバーが、88ミリ砲搭載の戦車の試験走行を行っている。

 

「すごーいっ!!」

 

「強そうーっ!!」

 

その様子を見て、桂利奈とあやがそう声を挙げる。

 

「知ってます、コレ! 『ティーガー』ですよね!!」

 

「マジで!? ティーガーって言えば、ドイツ軍の最強戦車じゃないですか!!」

 

その戦車の型を見て、ティーガーであると判別する勇武と、最強と呼ばれたティーガーが手に入った事に興奮した様子を見せる光照。

 

「「「「「…………」」」」」

 

しかし、同じ様にその様子を見ていた弘樹、みほ、杏、柚子、桃は微妙な顔をしていた。

 

「コレ、レア戦車なんですよねえ!」

 

唯一、優花里だけが嬉しそうにそう言う。

 

「ポルシェティーガー………」

 

桃がその戦車………『VK4501(P)』、通称『ポルシェティーガー』を見てそう呟く。

 

「マニアには堪らない一品です! まあ、地面にめり込んだり………」

 

優花里がそう言うと、走行していたポルシェティーガーの履帯が地面にめり込み、空回りを始める。

 

「過熱して………」

 

更にそう言うと、エンジン部分から黒煙が上がり始め………

 

「炎上したり………」

 

小さな爆発と共にエンジンが火を噴き、ポルシェティーガーはガクリと停止した。

 

「壊れ易いのが難点ですけど………」

 

 

 

 

 

そう………

 

このポルシェティーガー………

 

装甲や主砲のスペックこそティーガーⅠと同じものの、ドイツ重戦車最大の弱点である『壊れ易さ』が顕著に現れている戦車なのだ。

 

元々このポルシェティーガーは、Ⅴ号戦車の試作品であり、正式採用されたのが所謂ティーガーⅠである。

 

採用されなかったのがこのポルシェティーガーであり、その名の通り、あの『フェルディナント・ポルシェ』が設計したのである。

 

独自設計に拘った彼は、このポルシェティーガーの駆動システムをガソリン=エレクトリックとした。

 

つまり、ガソリンエンジンで発電機を回し、その電力でモーターを回して走行するのである。

 

昨今のハイブリットカーに通じるアイデアだったが、当時の技術力ではこのシステムでコンセプト通りの性能を出す事は事実上不可能だった。

 

その為、重戦車ながら非常に非力な駆動システムを搭載する事になり、足回りが非常に壊れ易いと言う、機動兵器として致命的とも言える弱点を抱えていたのである。

 

しかも試作車両ながら、100両分も造ってしまったと言う始末(しかし、その車体を流用して作られたエレファント重駆逐戦車は、対ソ連戦にて大活躍をした)

 

詰まるところ………

 

兵器としては失敗作なのである。

 

 

 

 

 

「あちゃ~! またやっちゃった~。お~い、ホシノ~! 消火器消火器!」

 

そこでナカジマがキューポラから出て来たかと思うと、車内に居るホシノに消火器を取る様に言う。

 

「戦車と呼びたくない戦車だよね………」

 

杏も思わずそんな呟きを漏らす。

 

「で、でも! 足回りは弱いですが! 88ミリ砲の威力は抜群ですから!!」

 

「戦車が動けないと言うのは致命的だと思うのだがなぁ………」

 

「ぐう!………」

 

フォローしようとする優花里だが、弘樹の最もな返しを聞いて、言葉に詰まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

早速故障したポルシェティーガーのオーバーホールが、自動車部と整備部のメンバー総出で行われいる。

 

「やはり次の試合に出すのは難しいかい?」

 

「残念ながら………何せ非常にデリケートなマシンな上、部品を取り寄せるのにも一苦労ですから………」

 

迫信が敏郎に尋ねると、敏郎は発注部品のリストを見ながらそう返す。

 

「今はアテにならない部品がザッと50は有る状態ですからねぇ」

 

ポルシェティーガーの下に潜り込んでいた藤兵衛からも、そういう答えが返る。

 

「動きさえすれば頼りになるんだがなぁ………」

 

「すみませ~ん。出来る限り急ぎますんで」

 

俊がそう呟くと、エンジンを弄っていたナカジマがそう返す。

 

「プラウダ&ツァーリ機甲部隊を相手にする前に、少しでも戦力補強を図れると良かったんだが………」

 

「仕方ないよ………今の戦力で取れる作戦を考えてみるよ」

 

と、弘樹とみほがそう言っていると………

 

「あ、あの………西住さん」

 

「ん?」

 

背後から声を掛けられ、みほが振り返ると、牛乳瓶の底の様なレンズのメガネを掛け、猫耳のカチューシャを付けた、金髪のロングヘアでやや猫背気味な大洗女子学園の生徒の姿が在った。

 

「あ! 猫田さん!」

 

「知り合いか?」

 

「うん、同じクラスの猫田さん」

 

「あ、その………僕の事はねこにゃーで良いです」

 

みほのクラスメイトだと言う生徒………『猫田』こと『ねこにゃー』は、2人に向かってそう言う。

 

「それで………一体何の用だい?」

 

「あ、あの………僕も今から戦車道取れないかな?」

 

「えっ!?」

 

ねこにゃーの思わぬ言葉にみほが驚きの声を挙げる。

 

「是非、協力したいんだけど………操縦はね、慣れてるから」

 

「慣れてる………戦車道をやっていた事があるのか?」

 

弘樹はねこにゃーが戦車道経験者なのかと思ったが………

 

「ああ、いや、その………ゲ、ゲームで………」

 

「ゲーム?」

 

「う、うん………僕、『World of Panzer』って言うオンラインのゲームなんだけど、知らない?」

 

「いや………」

 

それを聞いた弘樹が一瞬困った様な顔をする。

 

「失礼だが、ゲームと実際の戦車道は違うぞ」

 

「わ、分かってます!………でも………協力したいんです!」

 

注意する様にそう言う弘樹だが、協力したいと言う意志は本物であると主張するねこにゃー。

 

「………西住総隊長。如何なされますか? 小官は総隊長の判断に従います」

 

するとそこで、弘樹は歩兵隊員モードとなり、総隊長であるみほの判断を仰ぐ。

 

「私は良いと思うよ。実際の事はコレから覚えて行けば良いんだし」

 

そんな弘樹に、みほはそう返す。

 

「了解しました」

 

「あ、ありがとう、西住さん」

 

弘樹はヤマト式敬礼をし、ねこにゃーは感謝を述べる。

 

「あ、でも………もう今は使える戦車が無くて………」

 

みほが申し訳なさそうにねこにゃーにそう言うが………

 

「あの戦車は使えないの?」

 

ねこにゃーはそんな言葉を言い放つ。

 

「? あの戦車?」

 

「うん。ずっと置いてあるんだけど………」

 

「すぐにそこへ案内してくれ」

 

ねこにゃーがそう言うと、弘樹はすぐにその場所へと向かおうとするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園敷地内の駐車場………

 

「コレは………」

 

「こんな所に三式中戦車が………」

 

みほと弘樹が、屋根付きの駐車場の一角にポツンと置かれていた戦車………『三式中戦車』を見てそう言い合う。

 

「捜索の時に気づかなかったのか?」

 

「アレ? コレ使えるんですか?」

 

「ずっと置きっぱなしになってたから、使えないんだと思ってました」

 

弘樹がそう問い質すと、1年生チームの中で、桂利奈とあやがそう声を挙げる。

 

「…………」

 

それを聞いて呆れた様な様子を見せる弘樹。

 

「ま、まあ、取り敢えず、格納庫へ運ぼうか」

 

みほも苦笑いしながらそう言い、三式中戦車は輸送課によって戦車格納庫へと運ばれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

運び込まれた三式中戦車の状態を敏郎達とナカジマ達がチェックする。

 

「如何ですか?」

 

「うむ、今まで見つかったものと比べてかなり状態が良い」

 

「少し部品を取り換えればすぐにでも動かせそうっすよ」

 

みほが尋ねると、敏郎と藤兵衛がそう返す。

 

「となると後は乗員の確保か………」

 

「あ、それならもう仲間を呼んでるから」

 

弘樹がそう呟くと、ねこにゃーがそう言う。

 

「仲間?………」

 

「「わー! カッコイイーッ!!」」

 

と、弘樹が首を傾げた瞬間、背後からそう言う声が聞こえて来る。

 

みほと弘樹が振り返ると、そこには右目に桃の眼帯を付け、ピンクのカチューシャをした少女と、銀髪のロングヘアに後ろ髪を束ねているナイスバディの少女の姿が在った。

 

「皆オンラインの戦車ゲームしてる仲間です………」

 

ねこにゃーがみほと弘樹にそう言って、2人の少女の元へ近づく。

 

「あ、僕ねこにゃーです」

 

「あ! 貴方が! 『ももがー』です!」

 

「私『ぴよたん』です」

 

ねこにゃーが自己紹介をすると、右目に桃の眼帯を付け、ピンクのカチューシャをした少女………『ももがー』と、銀髪のロングヘアに後ろ髪を束ねているナイスバディの少女………『ぴよたん』が名乗りを挙げる。

 

「おお! ももがーにぴよたんさん!………リアルでは初めまして」

 

「本物の戦車を動かせるなんて、マジヤバーイ!」

 

「………不安だな」

 

「ア、アハハハハ………」

 

まるでゲームでもするかの様に燥いでいるねこにゃー達の姿を見て、弘樹が思わずそう呟くと、みほも乾いた笑いを漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、大洗学園艦・演習場にて………

 

ねこにゃー、ももがー、ぴよたんの3人からなる新たな戦車チーム………『アリクイさんチーム』の実力を測る為………

 

空教官の監視の元、演習が行われる事となった。

 

………のだが。

 

「ギア固い! 入んない!!」

 

「ゲームだと簡単に入るのに!」

 

アリクイさんチームは早速ゲームと現実の戦車の違いに戸惑い、ギアチェンジで躓く。

 

「落ち着きなさい! チハ系統の戦車は回転数を合わせないとギアが入り難いのよ!!」

 

前後に小刻みに動いている三式中戦車を見ながら、空がそう通信を送る。

 

「ううう! うううううう~~~~~~っ!!」

 

そこで操縦手のももがーは、レバーを両手で握り、思いっきり引く。

 

それで漸くレバーが動いたと思われた次の瞬間………

 

「アレ? バックしちゃったよ!?」

 

三式中戦車は思いっきり後退を始めた。

 

「ちょっ!? ストッープッ! ストッープッ! そっちには塹壕が………」

 

空が叫ぶが時既に遅く………

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

ねこにゃー達の悲鳴を響かせながら、三式中戦車は塹壕の中へと転落!

 

完全に引っ繰り返ったかと思うと、底面から白旗が上がった。

 

「あちゃ~………」

 

「…………」

 

空が呆れた表情を見せ、見学していた大洗機甲部隊員達の中に居た弘樹も頭を抱える。

 

「コレは………もっと練習しないと駄目かも………」

 

みほも引き攣った笑みを浮かべてそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三度、大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「派手にやったな………」

 

「早速修理だね」

 

敏郎が泥塗れの三式中戦車を見てそう呟き、ナカジマは自動車部のメンバー+整備員達と共に早速整備に掛かる。

 

「すみません………」

 

「ゴメンナリ………」

 

「ゴメンだっちゃ………」

 

「その語尾って、いつも言ってるの?」

 

すっかりしょぼくれた様子のねこにゃー、ももがー、ぴよたんが謝罪していると、沙織がそうツッコミを入れる。

 

「実際の操縦が初めてだったとは言え、酷過ぎるぞ。あんな事をされては戦車が泣くぞ」

 

とそこで、弘樹からの厳しい言葉が飛ぶ。

 

「「「あうう………」」」

 

それを聞いて、更に落ち込んだ様子を見せるアリクイさんチーム。

 

「舩坂くん、そんなキツく言わなくても………」

 

流石に言い過ぎだと思ったのか、みほがそう注意する。

 

「む………すまない、確かに言い過ぎたな。馴染みのある戦車がぞんざいな扱いをされているのを見てついな………」

 

弘樹はすぐに言い過ぎた事を反省する。

 

「馴染みのある?」

 

と、弘樹の言葉の中に気になる事があり、問い質す様にそう言うみほ。

 

「ああ………中学の頃に所属していた機甲部隊にも三式中戦車が有ってな………」

 

「そういやオメェ、昔っから歩兵道やってたんだっけな」

 

弘樹がそう言うと、地市が思い出した様にそう言う。

 

「中学生の部には全国規模の大会は無いが、近隣の学校とは良く試合をしていた。自惚れかもしれないが、その地域じゃ1番強いと自負していた」

 

懐かしむ様な表情となり、そう語る弘樹。

 

「戦友達にも恵まれていたしな………」

 

「その戦友の方々は今は?」

 

と、弘樹がそう言うと、華がそう尋ねる。

 

「小官は中学を卒業した時に、湯江と一緒にこの学園艦に移り住んだからな………多分、何処かで戦車道や歩兵道を続けているだろうが、詳しくはなぁ………」

 

「舩坂くん………」

 

一瞬少し寂しそうな顔を見せた弘樹を見て、みほの表情が少し曇る。

 

「オイ! そんな事より、今はこの連中を如何にかして使える様にするのが先だろうが!」

 

するとそこで、桃がアリクイさんチームの面々を指差しながらそう言い放つ。

 

「桃ちゃん、空気読もうよ………」

 

「今のは流石に無いと思うよ、桃ちゃん」

 

そんな桃の姿に、柚子と蛍が苦笑いしながらそう言う。

 

「桃ちゃんと呼ぶな!………!? ぐええっ!?」

 

「………少しは黙れ」

 

桃が喚き出すと、熾龍がその頭を片手で鷲掴みにして持ち上げ、強制的に黙らせる。

 

「ちょっ! 栗林先輩! 河嶋先輩の頭から嫌な音がしてますけど!?」

 

「…………」

 

逞巳が熾龍に持ち上げられている桃の頭蓋骨が軋む様な音を聞いて慌てるが、熾龍は意にも介さない。

 

「だが、確かにこのままではとても公式戦に出すワケには行かんな」

 

「しかし、悠長に訓練を行っている時間も無いぞ」

 

エルヴィンとカエサルがそう言い合う。

 

「いっそ練習試合でもして、実戦を経験させてみるってのも有りだな。一の実戦は百の訓練に勝るって言葉もあるしな」

 

「けど、全国大会中のこの時期に練習試合をしてくれる相手なんて………」

 

「ああ~………あの件、受けてみるかなぁ」

 

と、俊と清十郎がそう言うと、杏が何やら意味有り気にそう呟く。

 

「? 会長さん? あの件って、何ですか?」

 

そんな杏の呟きを聞いたみほが、杏に向かってそう尋ねる。

 

「いや、実はさ………とある学園から、ウチとどうしても練習試合をしたいって申し込みが再三送られて来てるんだよね」

 

「練習試合? 全国大会開催中のこの時期にですか?」

 

杏がそう言うと、優花里が疑問の声を挙げる。

 

「うん、1回戦で負けた機甲部隊でね。丁度アンツィオ&ピッツァに勝った頃ぐらいから頻繁に練習試合をしてくれって申し込んで来てるんだよね」

 

「1回戦で負けた機甲部隊………それが何でまた?」

 

「詳しくは分かりませんけど、是非にって事で………練習試合で消費した弾薬や損傷した武器や戦車の整備費用も全部出してくれるって言ってるの」

 

清十郎がそう尋ねると、杏に代わる様に柚子がそう言う。

 

「弾も修理費も持ってくれるってか? 随分太っ腹だな」

 

「西住総隊長。神大歩兵総隊長。如何なさいますか?」

 

磐渡がそう言っていると、弘樹がみほと迫信に問う。

 

「アリクイさんチームの人達の為にも、実戦練習は必要だし………受けてみようと思います」

 

「私としても、その意見に異論は無いね」

 

みほがそう言うと、迫信が扇子を閉じながらそう賛同の意見を述べる。

 

「んじゃ決まりだね。河嶋ー、向こうさんに了承の返事と試合の日時を伝えといて」

 

「はっ! すぐに!」

 

杏がそう指示すると、漸く解放されて伸びていた桃がバッと立ち上がり、格納庫を後にして生徒会室に向かう。

 

「そう言えば、その機甲部隊って何処のどいつや?」

 

とそこで、大河が肝心の相手機甲部隊の名が挙がってない事に気付いてそう言う。

 

「ああ………『知波単学園』の『知波単機甲部隊』だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日後………

 

大洗機甲部隊は、かつてグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合で使用した、大洗町の外れに在る岩肌が露出している丘陵地帯へと集まっていた。

 

知波単機甲部隊との試合は、この場所で行われる事となり、一同は武器や戦車に最終チェックをしながら、知波単機甲部隊は現れるのを待っている。

 

「知波単学園か………確か、初戦で黒森峰と当たって敗退したんだったよな?」

 

『情報によれば、試合開始と同時に、フラッグ車を含めた全車と歩兵部隊全員で万歳突撃を繰り出したそうだ』

 

海音がそう呟くと、指揮車のアインシュタインがそう通信を送って来た。

 

「ええっ!? 万歳突撃っ!?」

 

「無茶ですよ! 知波単機甲部隊の主力戦車は、確か『九七式中戦車』だった筈ですよ!? それでティーガーやパンターに突撃するだなんて!!」

 

それを聞いた清十郎と優花里が驚きの声を挙げる。

 

 

 

 

 

『九七式中戦車』

 

通称『チハ』と呼ばれている、第二次世界大戦中に於ける大日本帝国陸軍の主力戦車である。

 

しかし、中戦車と名付けられているものの、その性能は諸外国の軽戦車並みであった。

 

当時の陸軍は『戦車は歩兵の進軍を支援するもの』という考えを持っていた他、輸送能力の限界、戦闘機や艦船に予算を注ぎ込んだ事による後継機開発の遅延など、様々な事情が重なった結果である。

 

一応、完成当時の頃は、世界水準を満たしていた。

 

だが、欧州での戦いで戦車が恐竜的に大進化を遂げるとアッという間に時代遅れとなり、欧州ではティーガーに破壊されまくっていたM4中戦車にすら歯が立たない有り様だった。

 

だが、旧日本軍の主力戦車であった事や、諸外国の中戦車と比べて小さな事が可愛いと言う理由で、マニア達には愛されている。

 

 

 

 

 

「そら、蟻が象に挑む様なもんだな」

 

白狼は、そんな戦車で黒森峰に正面から突撃した知波単機甲部隊を吐き捨てる様にそう言う。

 

「何でも、その件の責任を取って、その時の総隊長は更迭されたそうですよ」

 

「それで、新しく就任した総隊長がウチとの試合を渇望してるってワケ」

 

そこで柚子と杏がそう言う台詞を言い放つ。

 

「新しい総隊長さんが………」

 

「一体誰なんだ?」

 

と、みほと地市がそう言った瞬間………

 

「! 来ました! 知波単機甲部隊です!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

楓がそう声を挙げ、一同が正面を見やるとそこには………

 

砂煙を挙げながら此方を目指して進んで来る九七式中戦車・チハ4両と、砲を47mm長砲身に換装した新砲塔チハ3両。

 

九五式軽戦車・ハ号が5両。

 

一式中戦車・チヘが3両。

 

一式砲戦車・ホニⅠが2両に、一式十糎自走砲・ホニⅡが2両。

 

二式砲戦車・ホイが1両。

 

短十二糎自走砲が1両。

 

以上の編制の戦車部隊が、一式装甲兵車や一式半装軌装甲兵車・ホハ、くろがね四起に乗った大日本帝国陸軍の戦闘服や、海軍陸戦隊の戦闘服を来た歩兵達を伴ってやって来る。

 

そして、待機していた大洗機甲部隊の前で整列して停まる。

 

「何だ。チハが中心かと思ったら、他にも色々と有るじゃないか」

 

「戦略を転換したのでしょうか?」

 

その知波単機甲部隊の編制を見て俊がそう呟くと、優花里もそんな事を呟く。

 

他の大洗機甲部隊の面々も、思ったより大規模な知波単機甲部隊の様子に少しざわめき立つ。

 

(九七式中戦車か………懐かしいな)

 

そんな中、弘樹はフラッグ車となっている九七式中戦車・チハ(旧砲塔)を見て、懐かしそうな表情をする。

 

するとそこで、そのフラッグ車となっている九七式中戦車・チハ(旧砲塔)のハッチが開き、1人の女性は姿を見せた。

 

「!?」

 

その女性の姿を見た弘樹が珍しく驚きを露わにする。

 

「? 舩坂くん? 如何したの?」

 

それに気づいたみほが声を掛けた瞬間………

 

「よっ、と!」

 

九七式中戦車・チハ(旧砲塔)のハッチから姿を見せた女性が車外へと出て、みほと弘樹の方へと歩み寄る。

 

「貴方が総隊長さん?」

 

女性はみほに向かってそう尋ねる。

 

「あ、ハイ。西住 みほです」

 

「私は知波単機甲部隊の新総隊長、『西 絹代』よ。今日は良い試合をしましょうね。よろしく」

 

そう言って女性………知波単機甲部隊の新総隊長『西 絹代』は、みほに向かって右手を差し出す。

 

「あ、よ、よろしくお願いします」

 

若干戸惑いながらも、みほはその手を取って握手を交わす。

 

「フフ、良い目をしてるわね。良き総隊長の目だわ」

 

絹代はそんなみほの目を見ながらそんな言葉を漏らす。

 

「…………」

 

そして次に、その隣に居た弘樹の事を見やる。

 

「…………」

 

無言で絹代の事を見返す弘樹。

 

「…………」

 

絹代も黙ってジッと弘樹の事を見据えている。

 

「? あ、あの………」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

そんな少し異様な様子に、みほが戸惑い、大洗機甲部隊の面々も首を傾げる。

 

すると、そこで………

 

「………久しぶりね、弘樹」

 

「西総隊長もお変わりなく………」

 

絹代がそう言い、弘樹はそう返しながらお馴染みのヤマト式敬礼を絹代に送った。

 

「えっ? あ、あの、西さん。舩坂くんの事、知ってるんですか?」

 

それを見たみほがやや慌てて絹代にそう問い質す。

 

「ええ、良く知ってるわよ」

 

絹代がそう返したかと思うと………

 

「西総隊長は小官が中学時代に所属していた機甲部隊の総隊長を務めていた方だ」

 

弘樹がそう説明をした。

 

「!? ええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その説明に、みほは驚きの声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊に練習試合を挑んで来た『知波単学園』の『知波単機甲部隊』

 

その新しい総隊長である『西 絹代』は………

 

何と!

 

弘樹が中学時代に所属していた機甲部隊の総隊長であった!

 

かつての上官との戦いが幕を開ける………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との戦いを控え、少しでも戦力アップを図る大洗機甲部隊。
そこで三式中戦車を駆るねこにゃー達『アリクイさんチーム』が加入するが、実戦経験の無い彼女達の腕は散々たるものだった。

そこでみほは、アリクイさんチームの即応教育も兼ね、以前より申し込まれていた知波単学園の知波単機甲部隊との練習試合を受ける。
だが、その知波単機甲部隊の新総隊長『西 絹代』は………
弘樹のかつての上官だった!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第68話『幻の日本戦車です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第68話『幻の日本戦車です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合を前に………

 

『三式中戦車』と、それに乗り込む『ねこにゃー』、『ももがー』、『ぴよたん』からなる『アリクイさんチーム』を仲間に加えた大洗機甲部隊。

 

しかし、ゲームでしか戦車を動かした事がない彼女達の腕は散々なものだった………

 

そこでみほ達は、荒療治ながら実戦を経験させてスキルアップを図るべく、予てより大洗機甲部隊に対し練習試合を申し込んでいた………

 

『知波単学園』の『知波単機甲部隊』との練習試合を決める。

 

その練習試合当日………

 

九七式中戦車を中心に、様々な日本戦車を率いて現れた知波単機甲部隊。

 

その総隊長、『西 絹代』は何と!!

 

弘樹が中学時代に所属していた機甲部隊の総隊長を務めていた人物だった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合会場・大洗町の外れ………

 

岩肌が露出している丘陵地帯………

 

「弘樹の事だから、歩兵道は続けてるって思ってたけど、まさか大洗に居たとはねえ。驚いたわ」

 

「西総隊長の方こそ、知波単学園に居られたとは………まあ、お似合いではありますが」

 

集合している大洗機甲部隊と知波単機甲部隊の面々の中で、親しげに会話を交わしている絹代と弘樹。

 

「九七式中戦車が主体と聞いていましたが、他にもかなりの車両が在ったのですね」

 

「黒森峰にこっ酷くやられてから、ウチの連中も流石に考えを改める様になってね。予算的にちょっと厳しかったけど、色んな所から掻き集めて来たの」

 

「それでも総隊長はチハなのですな」

 

「当たり前よ。私が身体を預けるのはウラヌス以外はこのチハだけよ」

 

「…………」

 

尚も親しげに会話を続ける絹代と弘樹をジッと見やるみほ。

 

その胸には、原因不明の痛みがズキズキと襲い掛かっている。

 

「みほさん? 顔色が悪い様に見えますけど、大丈夫ですか?」

 

そんなみほの様子に気付いた華が心配そうに声を掛ける。

 

「う、うん……胸がちょっと痛くて」

 

「みぽりん、ひょっとして………ジェラシー?」

 

と、みほがそう返すと、その原因が嫉妬である事を感づいた沙織がそう指摘する。

 

「! そ、そんな事!!………」

 

無いと返そうとしたみほだったが、そこで黙り込んでしまう。

 

「? みぽりん?」

 

「………沙織さんの言う通りかも」

 

沙織が首を傾げると、みほは先程までとは変わってそう返す。

 

「舩坂くんと西さんが楽しそうに話してるのを見てると、凄く嫌な気分になるの………私って嫌な子だなぁ」

 

自嘲する様な笑みを浮かべてみほはそう言う。

 

如何やら、嫉妬している自分を自己嫌悪してる様だ。

 

「…………」

 

と、沙織がそんなみほの背後に立ったかと思うと、みほの両肩に自分の両手を乗せ、身体を寄り添わせる。

 

「ふえっ!? 沙織さん?」

 

「みぽりん。それは女の子だったら当然の気持ちだよ。別に気にする事じゃないよ」

 

戸惑うみほに、沙織は優しく諭す様な口調でそう言う。

 

「私だって同じ状況になったらきっとそういう気持ちになるよ。大切なのはちゃんとその気持ちと向かう合う事と………舩坂くんを信じる事だよ」

 

「信じる………事………」

 

沙織にそう言われ、みほは心が軽くなった様に感じる。

 

「………ありがとう、沙織さん。少し楽になったかも」

 

「如何いたしまして………ねえ、いっその事、舩坂くんに告っちゃうってのも有りじゃない?」

 

「ふえええっ!? そ、それはまだちょっと!………」

 

「まだ、って事はする気は有るんだね」

 

「あ、あうう………」

 

「もう~! みぽりんってば可愛過ぎぃっ!!」

 

真っ赤になって縮こまるみほを抱き締める沙織。

 

「話が変わってるぞ………」

 

そんな沙織の姿を見て、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「あの、そちらの戦車は25両と聞きましたが、残りの4両は?」

 

とそこで、逞巳が知波単機甲部隊の戦車が21両なのに気づいて、絹代にそう問い質す。

 

「ああ、ちょっと遅れてるの。何せ今回初めて実戦投入する車両ばかりなものでね。まだ乗員達も慣れてないもんだから。ゴメンナサイね」

 

「総隊長ー! 来ましたーっ!!」

 

絹代がそう言っていると、知波単機甲部隊の歩兵隊員の1人が、後方を見ながらそう報告を挙げる。

 

「おっ! 来たわね!」

 

絹代がそう言って振り返ると、大洗機甲部隊の面々も、此方に向かって来る4両の車両を確認する。

 

「!! おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!? アレはまさかぁっ!?」

 

と、その車両の姿を見た優花里が、興奮した様子で叫び声を挙げる。

 

「ゆ、ゆかりん?………」

 

「優花里さん、また?………」

 

沙織がそんな優花里の姿に戸惑い、みほも思わず苦笑いを漏らす。

 

遅れてやって来た戦車は、どれもが小型と言うイメージが付き纏う日本戦車とは一線を画する物だった。

 

「あ、アレ………三式中戦車じゃない?」

 

「あ、ホントだ!」

 

「三式だっちゃ」

 

アリクイさんチームが、遅れてやって来た4両の戦車の内1両が自分達の戦車と同じ三式中戦車である事に気付いてそう声を挙げる。

 

「でも………向こうの方が砲身がかなり長いナリ」

 

しかし、ももがーが言う通り、知波単機甲部隊の三式中戦車は、砲身がかなり長い物となっている。

 

「『三式中戦車改』です! 主砲を五式七糎半戦車砲を換装して攻撃力をアップさせたタイプです!! 溶接を多用する事で車体強度も上がっています!!」

 

そこで優花里が長砲身の三式中戦車………俗に『三式中戦車改』と呼ばれる物を見て燥ぐ。

 

「あの、秋山先輩。残りの戦車は何て言う戦車なんですか?」

 

とそこで、あやが優花里にそう尋ねる。

 

「あ、うん! 左から順に、『三式砲戦車 ホニⅢ』! 『四式中戦車 チト』! 『五式中戦車 チリ』です!」

 

優花里は興奮した様子のまま、残りの3両………『三式砲戦車 ホニⅢ』、『四式中戦車 チト』、『五式中戦車 チリ』の名を挙げる。

 

「凄いですよ! 皆本土決戦の為に温存されていたか、試作車両が完成していただけの幻の日本戦車です! ああ~、それをこの目で見られるなんて~!!」

 

キラキラとした目で三式中戦車改、三式砲戦車、四式中戦車、五式中戦車を見つめる優花里。

 

「………アレ?」

 

するとそこで、優花里が五式中戦車を見て何かに気付く。

 

「如何した、グデーリアン?」

 

「あの五式中戦車の主砲………ひょっとして、88ミリ砲じゃ?」

 

エルヴィンが尋ねると、優花里は五式中戦車を指差しながらそう言う。

 

「何?………」

 

それを聞いたエルヴィンが、改めて五式中戦車を見やる。

 

確かに、知波単機甲部隊の五式中戦車に取り付けられている主砲は、試製七糎半戦車砲(長)よりも更に口径が大きく、砲身が長い砲だった。

 

「おっ! 良く気づいたわね」

 

とそこで、絹代が優花里にそう言い放つ。

 

「西総隊長………五式中戦車が88ミリ砲を搭載していたと言うのは伝説だったのでは?」

 

「目の前に在るのが真実よ」

 

弘樹がそう指摘するが、絹代は不敵に笑ってそう言い返す。

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! まさか幻の幻! 88ミリ砲搭載の五式中戦車が見られるなんて~っ!! 秋山 優花里! 人生に一片の悔いもありません!!」

 

最早興奮の絶頂状態となっていた優花里が、感動の余り涙まで流しながらそう言い放つ。

 

「何興奮してんだ。俺達はコレからそれと戦うんだぞ」

 

そこで、そんな優花里に、白狼がそうツッコミを入れる。

 

「ハッ!? す、すみません………」

 

漸く我に返った優花里は、その場に正座して縮こまる。

 

「あの………そろそろ試合を始めますよ」

 

と、一連の遣り取りを見ていた主審のレミが、両機甲部隊メンバーにそう声を掛ける。

 

「あ、すみません!………弘樹、積もる話は後にしましょう。先ずは試合よ。腕は鈍ってないだろうけど………確かめてあげるわ」

 

「望むところです………」

 

絹代と弘樹は、そう言い合って互いに不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

「それではコレより! 大洗機甲部隊VS知波単機甲部隊のフラッグ戦による練習試合を始めます!!」

 

レミがそう宣言すると、両機甲部隊のメンバーが整列して向かい合う。

 

「一同! 礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

そしてお互いに礼をして挨拶を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊のスタート地点………

 

「アリクイさんチーム、準備は良いですか?」

 

「お、OKです………」

 

「遂に実戦ナリ………」

 

「ふ、震えてきたっちゃ………」

 

キューポラから上半身を出していたみほが、三式中戦車にそう通信を送ると、同じ様にキューポラから上半身を出していたねこにゃーと、車内のももがー、ぴよたんから緊張している様子の声が返って来る。

 

「大丈夫、緊張しないで下さい。皆さんがフォローしてくれますから」

 

「ハ、ハイ………」

 

みほはそんなアリクイさんチームの緊張を解す様に優しくそう言い、それによってアリクイさんチームは幾分か落ち着く。

 

「………『おおかみさん分隊』の皆さん。アリクイさんチームの護衛、よろしくお願いします」

 

「おう! 任された!!」

 

「大船に乗った積りで居てや!」

 

「…………」

 

続いてみほは、三式中戦車の周りに居た随伴歩兵分隊にそう言い、海音と豹詑がそう返事を返し、陣が無言でビッとサムズアップする。

 

「しっかし、何で俺が分隊長なんて、面倒臭い事を………」

 

「白狼、今更言ってもしょうがないですよ」

 

バイクに跨り、若干不満そうな様子を見せている白狼に、飛彗がそう言う。

 

 

 

 

 

………今回、アリクイさんチームの随伴歩兵分隊として、『おおかみさん分隊』が新設されている。

 

しかし、アリクイさんチームが急な参戦であった為、新たなメンバー増員が間に合わず、既存の分隊から人数を割いて、新たな分隊を編制する形で結成された。

 

その主要メンバーは、宮藤 飛彗、江戸鮫 海音、日暮 豹詑、浅間 陣であり、分隊長には神狩 白狼が就いて居る。

 

 

 

 

 

「………お前を分隊長に推薦したのは小官だ」

 

するとそんな白狼に、弘樹がそう声を掛けた。

 

「あ? お前が?………」

 

「歩兵道のソレとは違うが、お前には人を率いる才能が有る。故に推薦した………見事に務めて見せろ」

 

「勝手なこと言ってくれるぜ」

 

弘樹に睨む様な視線を向ける白狼。

 

「………ま、良いぜ。幸いにもメンバーはダチが中心だからな。やってやるよ」

 

しかし、すぐに諦めた様な雰囲気でそう言い放つ。

 

「メンバーの推薦も小官が行った………」

 

そう言い残すと、弘樹は自分の分隊の元へ帰って行く。

 

「………何から何までアイツの思惑通りってワケか」

 

白狼は肩を竦めてそう呟くのだった。

 

「舩坂くん。西さんは如何来ると思う?」

 

とらさん分隊の元へと戻った弘樹に、みほがそう尋ねる。

 

絹代の事を知る弘樹に、絹代の戦術パターンを確認している様だ。

 

「西総隊長なら、いきなり全車で万歳突撃して来ると言う事はないでしょう。五式中戦車達を除いて、戦車の性能はコチラと粗同等、或いは1ランク下です。数の利を利用して的確に攻めて来ると思います」

 

「やっぱり、そうだよね………」

 

「が、西総隊長は慎重かつ大胆な攻めを得意としています。定石通りとは行かないでしょう」

 

「分かった。コッチも慎重に行動しないとね」

 

と、そこまで言い合うと………

 

『試合開始っ!』

 

主審のレミによる、試合開始のアナウンスが響いた。

 

「行きますっ! パンツァー・フォー!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!」

 

みほと弘樹がそう掛け声を掛け、大洗機甲部隊の面々は一斉に進軍を開始する。

 

「全部隊、防御陣形を取って下さい!」

 

進軍を開始してすぐに、みほがそう指示を出す。

 

直後に、各戦車チームと随伴歩兵分隊が動き始め、戦車チームが今回のフラッグ車であるサンショウウオさんチームのクロムウェルを中心にして円を描く様な陣形………

 

まるで艦隊陣形の輪形陣の様な陣形を取る。

 

各歩兵分隊は同じ様に、随伴している戦車チームの守りに付いて居る。

 

「サンショウウオさんチーム。今回はフラッグ車なので、あまり無理はしない様にお願いします」

 

「分かってます、西住総隊長。無理はしないで頑張ります!」

 

「ホントに分かってるんですか?………」

 

みほがクロムウェルにそう通信を送ると、聖子がそう返し、優がツッコむ様にそう言う。

 

尚、今回のサンショウウオさんチームの編成は、地走の時と同様で、聖子が戦車長、伊代が通信手、優が砲撃手、唯が操縦士、明菜が装填手となっている。

 

「! 前方に敵影確認っ!!」

 

とそこで、先頭を行っていたあんこうチームととらさん分隊の中で、双眼鏡を覗き込んで前方の警戒をしていた楓がそう声を挙げる。

 

「!!」

 

すぐにみほも双眼鏡を構えて自軍の前方を見やる。

 

そこには、此方に向かって進軍して来る5両の九五式軽戦車・ハ号と、その随伴歩兵分隊達の姿が在った。

 

「来ました! 九五式軽戦車・ハ号が5両とその随伴歩兵分隊です!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

みほが全軍にそう通信を送ると、大洗機甲部隊の面々に緊張が走る。

 

「軽戦車で正面から仕掛けて来るなんて、如何言う積りでしょうか?」

 

「威力偵察でしょうか?」

 

向かって来る九五式軽戦車・ハ号5両とその随伴歩兵分隊を見て、優花里と華がそんな事を呟く。

 

「或いは何らかの囮………」

 

「如何するの、みぽりん?」

 

更にみほがそう推測を立てていると、沙織がそう尋ねて来る。

 

「………全車停止。相手が有効射程内に入り次第、各個に攻撃を開始して下さい。但し、周囲への警戒は怠らないで下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

と、みほのそう言う指示が飛ぶと、大洗機甲部隊の面々は進軍を停止。

 

戦車チームの戦車の主砲・副砲が向かって来る九五式軽戦車・ハ号5両に向けられる。

 

歩兵部隊の中に居た砲兵部隊も、対戦車砲を装備していた者達が次々に設置を終えて照準を付ける。

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

すると、気づかれた事を悟ったのか、知波単歩兵の1人がそう声を挙げたかと思うと、別の知波単歩兵が突撃ラッパを吹き鳴らし、知波単歩兵部隊は一斉に大洗機甲部隊に突撃を開始する!

 

「来ましたっ!」

 

「撃てっ!!」

 

「発砲開始ーっ!!」

 

優花里がそう声を挙げると、みほが砲撃命令を出し、砲兵部隊の中に居た明夫もそう声を挙げる。

 

戦車チームが一斉に砲撃を始め、砲兵部隊も榴弾砲や対戦車砲、野砲やカノン砲での攻撃を開始する。

 

「大洗の戦車や砲兵如きでは! 我々の戦意は止められない!!」

 

「我々は知波単学園の機甲部隊だ!」

 

「我等の勇気は奴等の比ではない!」

 

「必ず勝つ!」

 

「バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーイッ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、九五式軽戦車に先駆けて進軍していた知波単歩兵部隊は、周囲に次々と砲弾や榴弾が降り注ぐのにも関わらず、万歳と叫びながら突撃を続行する。

 

「うおっ!? マジかよ!? 全然止まんねえぞっ!?」

 

「やれやれ、まるで舩坂 弘樹の大軍が襲って来てるみたいだな………」

 

「何ソレ? 怖い」

 

鷺澪がそう声を挙げると、圭一郎がまるで他人事の様にそう呟き、それを聞いていた了平が思わずそう声に出す。

 

「…………」

 

当の弘樹の耳にもその会話は聞こえて来ており、仏頂面に心外そうな様子が浮かんでいた。

 

「戦車の方を優先して攻撃して下さい!」

 

「了解した!」

 

と、そこでみほのそう言う指示が飛ぶと、エルヴィンが返事を返し、Ⅲ突が九五式軽戦車の1両に向かって発砲。

 

しかし、撃たれた九五式軽戦車は攻撃を読んでいたかの様に急に右へと転進。

 

Ⅲ突が放った砲弾は、先程まで九五式軽戦車が居た地面を抉る。

 

「クッ! 外れだと!!」

 

「なら、今度は私が!………」

 

エルヴィンが舌打ちをすると、優がそう声を挙げ、今度はクロムウェルが別の九五式軽戦車に向かって発砲する。

 

しかし、またも九五式軽戦車は攻撃を読んでいたかの様に急停止。

 

クロムウェルから放たれた砲弾は、本来ならば九五式軽戦車が居たであろう地点に命中し、土片を舞い上げた。

 

「!? かわされたっ!?」

 

「凄いっ!!」

 

「知波単機甲部隊は武装が貧弱でも、隊員達の練度はトップクラスだって話は本当だったんですね」

 

優が声を挙げると、沙織が思わずそう声を挙げ、優花里が次弾を装填しながらそんな事を言う。

 

とそこで、九五式軽戦車達が砲撃を開始。

 

37ミリ砲弾が次々と飛来し、大洗戦車チームとその周辺に展開していた大洗歩兵部隊に襲い掛かる。

 

「うおわっ!?」

 

「あぶねぇっ!?」

 

周囲で次々に起こる爆発に、大洗歩兵部隊は慌てる。

 

一方、大洗戦車チームの方に多数の砲弾が被弾するが、まだ距離が遠い為、37ミリ砲弾では深刻なダメージを与えるには至らない。

 

「キャアッ!」

 

「大丈夫! この距離なら装甲で問題無く防げます!」

 

「そもそも、旧日本軍の戦車は対戦車戦を想定していない車両が多いですからねえ」

 

車内に走る被弾の衝撃に沙織が悲鳴を挙げるが、みほが安心させる様にそう言い、優花里もそんな言葉を口にする。

 

だが、そこで………

 

輪形陣の後部に陣取っていたアヒルさんチームの八九式と随伴分隊のペンギンさん分隊の周辺に、背後から飛んで来た砲弾が着弾する。

 

「!?」

 

「何やっ!?」

 

ハッチから飛び出す様に姿を見せた典子と、八九式の近くに居た大河が慌てて後方を確認する。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこには、雄叫びを挙げて、着剣した小銃を手に突っ込んで来る知波単歩兵部隊と、その背後から迫って来る一式中戦車2両と一式砲戦車2両、二式砲戦車1両の姿が在った。

 

「! 背後よりも敵! 一式中戦車2両! 一式砲戦車2両! 二式砲戦車1両! 歩兵部隊多数!!」

 

「!!」

 

そう報告を受けて、みほもキューポラから姿を晒すと背後を振り返り、後方から迫って来る知波単機甲部隊を確認する。

 

「挟み撃ちにされました!」

 

「みほさん! 如何しますか!?」

 

優花里がそう叫ぶと、華がみほに指示を仰ぐ。

 

「! 正面の敵を突破します! 全車、パンツァーカイルの陣形を取って下さい! 但し! サンショウウオさんチームの位置は変えないで!!」

 

「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」

 

みほは即座にそう指示を出し、大洗戦車チームはサンショウウオさんチームのクロムウェルを中心にしたまま、1番装甲が厚いカモさんチームのルノーB1bisを先頭にし、その両脇の右側にⅣ号、左側にⅢ突を据える。

 

更にⅢ突の左隣には38t。

 

Ⅳ号の右隣にM3リーで、更にそのM3リーの右隣に八九式を据えると言う、変則パンツァーカイルの陣形を取る。

 

「突撃するぞっ! 全軍着剣及び抜刀っ!!」

 

「!………」

 

歩兵総隊長の迫信もそう指示を出し、弘樹はくろがね四起の後部に備え付けられた機銃架に着く。

 

他の者達も着剣するか、軍刀を抜刀する。

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

みほがそう指示すると、大洗機甲部隊は一斉に正面の5両の九五式軽戦車・ハ号とその随伴歩兵分隊達の知波単機甲部隊に突撃する。

 

「敵が来たぞーっ!!」

 

「俺は攻撃を行う!! 付いて来いっ!!」

 

「俺は防衛を行う!! この位置を保てーっ!!」

 

「お前等なんざ、恐るるに足らないぜぇっ!!」

 

「知波単学園、ココにありだーっ!!」

 

「勝利は我々のものだっ!!」

 

「敵の潜水艦を発見っ!!」

 

「「「「「「「「「「駄目だぁっ!!」」」」」」」」」」

 

それを迎え撃つ5両の九五式軽戦車・ハ号とその随伴歩兵分隊達の知波単機甲部隊。

 

九五式軽戦車の37ミリ砲と、随伴部隊の中に居た砲兵隊の九四式三十七粍砲の砲弾が次々と放たれる。

 

しかし、その殆どが先頭を行って居たルノーB1bisに命中するものの、60mmの正面装甲の前に弾かれる。

 

「キツツキで薙ぎ倒せぇーっ!!」

 

とそこで続いて、歩兵部隊が据え置いた九二式重機関銃での掃射を始める。

 

くろがね四起や一式装甲兵車に乗り込んでいた大洗歩兵部隊に、7.7ミリ弾が襲い掛かる!!

 

「うわっ!?」

 

「構うなっ! 突っ込めっ!!」

 

くろがね四起のフロントガラスを銃弾が貫通し、運転を担当していた地市が思わず声を挙げるが、機銃架に着いて居た弘樹がそう言い放ち、機銃を掃射する!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」」

 

知波単歩兵部隊員数名が薙ぎ払われる様に戦死判定を受ける!

 

他の大洗歩兵部隊員達も次々に機関銃での射撃、並びに手榴弾や火炎瓶の投擲を開始する!

 

「逃げろーっ!」

 

「隠れろーっ!」

 

コレは堪らないと思った知波単歩兵部隊は、大洗機甲部隊の進路を開ける様に逃げ出す。

 

「突破しますっ!!」

 

そこでみほの指示が飛び、大洗機甲部隊は一気にスピードアップ!

 

砲撃を続行する九五式軽戦車達を無視する様に突破した!

 

突破された5両の九五式軽戦車・ハ号とその随伴歩兵分隊達は追撃は行わず、そのまま式一中戦車2両、一式砲戦車2両、二式砲戦車1両とその随伴歩兵部隊と合流する。

 

「九五式1号より西総隊長へ。大洗は我等の部隊を突破し、西へ向かって移動中です」

 

『了解………流石ね。挟み撃ちにされても冷静さを失わずに戦力が薄い方に突破を掛けるとはね』

 

とそこで、九五式軽戦車1両の車長が、絹代にそう通信を送る。

 

『本当に良い指揮官だわ………けど、それが大洗の最大の弱点よ。それじゃあ、手筈通りにお願いね』

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

絹代との通信を終えると、知波単機甲部隊の面々は、移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

知波単機甲部隊の切り札………
三式中戦車改、三式砲戦車、四式中戦車、五式中戦車が登場です。
更に五式は幻の88ミリ砲搭載型!

そして開始された練習試合。
知波単機甲部隊の初手を凌ぐ大洗機甲部隊。
しかし、絹代は大洗機甲部隊の弱点を衝く作戦に出るのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第69話『五式中戦車です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第69話『五式中戦車です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合を控え、新規参入したアリクイさんチームの練度上げの為に………

 

知波単学園の知波単機甲部隊との試合に臨んだ大洗機甲部隊。

 

弘樹のかつての上官である西 絹代に率いられた高い練度の隊員達に加え、幻の日本戦車を投入して来た知波単機甲部隊の初手を如何にか凌ぐ。

 

しかし………

 

絹代は、大洗の最大の弱点を突く作戦に出るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合会場・大洗町の外れ………

 

岩肌が露出している丘陵地帯………

 

挟み撃ちをして来た知波単機甲部隊を突破した大洗機甲部隊は、そのまま西へと移動し、木々が生い茂っている森林地帯へと突入する。

 

道が狭い為、戦車チームは縦一列に並んで進んでおり、歩兵達は其々の随伴している戦車の周りをガードしている。

 

「コチラとらさん分隊の楓。後方に敵影無し。追撃はして来ていない様です」

 

と、最後尾で殿を務めているあんこうチームのⅣ号を守っているとらさん分隊の中で、後方を警戒していた楓がそう報告を挙げる。

 

「了解。引き続き警戒を続けて下さい」

 

「やはり、先程の挟み撃ちは威力偵察だったのでしょうか?」

 

みほがそう通信を返すと、優花里がそう言って来る。

 

「うん………」

 

頷くみほだったが、その顔には納得が行かない様子が出ていた。

 

「! 止まれっ!!」

 

と、先頭を行って居たカバさんチームのⅢ突が、エルヴィンのそう言う声と共に停まる。

 

随伴していたワニさん分隊の面々も停まり、後続の戦車チームと随伴歩兵分隊も停止する。

 

「………橋か」

 

磐渡がⅢ突の前方に在る物………

 

谷の底を流れる川に掛けられた石橋を見てそう呟く。

 

「西住総隊長、如何する? 迂回するか?」

 

エルヴィンがみほにそう尋ねる。

 

「いえ、渡りましょう。この先の地形なら、待ち伏せされている事はありません」

 

みほは地図を見ながら待ち伏せは無いと踏み、渡河する事を決定する。

 

「了解。これより渡河を開始する」

 

エルヴィンがそう言うと、Ⅲ突とワニさん分隊の面々が周囲を警戒しながら石橋を渡り始める。

 

と、その光景を谷川の畔の岩陰で見ている者達が居た………

 

「「「「「…………」」」」」

 

知波単歩兵部隊の工兵達だ。

 

1人はダイナマイト・プランジャーらしき物に付いており、何時でも起爆させられる体勢を取っている。

 

そのダイナマイト・プランジャーから出ている配線は、大洗機甲部隊が渡ろうとしている石橋の底面に取り付けられているダイナマイトに繋がっている。

 

「!!」

 

Ⅲ突とワニさん分隊の面々が橋を渡り始めたのを見て、ダイナマイト・プランジャーに付いて居た知波単工兵がスイッチを入れようとする。

 

「!」

 

しかし、その場の指揮官と思わしき知波単工兵が、右手を上げて『待て』と合図する。

 

やがてⅢ突とワニさん分隊は、石橋を渡り切る。

 

続いて、アヒルさんチームとペンギンさん分隊が橋を渡り、ウサギさんチームとハムスターさん分隊と続く。

 

そして、アリクイさんチームとおおかみさん分隊が渡ったかと思うと、フラッグ車であるサンショウウオさんチームとタコさん分隊が橋を渡り始める。

 

「!!」

 

そこで指揮官と思わしき知波単工兵は、上げていた右手をバッと下ろし、起爆しろと指示する。

 

「!!」

 

それを待っていたとばかりに、勢い良くダイナマイト・プランジャーのスイッチを入れる。

 

………しかし、ダイナマイトは爆発しなかった。

 

「「「「「!?」」」」」

 

知波単工兵達は声を挙げないながらも大慌てとなり、慌ててダイナマイト・プランジャーを点検する。

 

そしてトラブルを発見するとすぐに応急処置を施す。

 

だが、その間に………

 

既にサンショウウオさんチームとタコさん分隊は、石橋を渡り終えていた。

 

「「「「!!………」」」」

 

フラッグ車を仕留める事が出来ず、ガックリと項垂れる知波単工兵達。

 

「…………」

 

しかし、指揮官と思わしき知波単工兵は冷静に、右手を上げてピースサインの様に指を2本立てる。

 

「「「「!!」」」」

 

それを見た知波単工兵達は、すぐに配置へと着く。

 

やがてそのまま、カメさんチームとツルさん分隊が石橋を渡り終えると、カモさんチームとマンボウさん分隊も渡り切る。

 

「全員、無事に渡り切りましたか?」

 

「OKだよ~」

 

「大丈夫です!」

 

「言うに及ばず!」

 

「私達も大丈夫です!」

 

「こちらそど子。随伴分隊員達も含め、全員無事です」

 

「あ、え、えっと………だ、大丈夫だと思います」

 

「後は西住総隊長達だけです」

 

みほが問うと、杏、典子、エルヴィン、梓、みどり子、ねこにゃー、聖子からそう返事が返って来る。

 

「了解しました。麻子さん、私達も」

 

「うん………」

 

「全員、周囲を警戒しろ!」

 

それを聞いたみほが麻子に指示を出し、弘樹は分隊員達にそう命じる。

 

とらさん分隊の分隊員達が後方を中心に、周辺を警戒する中、Ⅳ号がゆっくりと石橋を渡り始める。

 

「!」

 

それを見た指揮官と思わしき知波単工兵が、再びダイナマイト・プランジャーに付いて居る知波単工兵に合図を送る。

 

「!!」

 

知波単工兵はダイナマイト・プランジャーのスイッチを押し込もうとする。

 

「………! 後退しろぉっ!!」

 

とそこで、直感的に危険を感じ取った弘樹が、Ⅳ号に向かってそう叫ぶ。

 

「!!」

 

その叫びが聞こえた瞬間、麻子は反射的にギアをバックに入れていた。

 

急停止したⅣ号が続いて急速後退する。

 

「うわぁっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「わわっ!?」

 

「!?」

 

突然の後退に、車内で揺さ振られる沙織、華、優花里、みほ。

 

と、その直後に知波単工兵はダイナマイト・プランジャーのスイッチを押し込む!

 

今度こそダイナマイトが起爆!

 

爆発と共に石橋が吹き飛び、残骸がガラガラと音を立てて川の中へと落ちて行く!

 

「!? 橋がっ!?」

 

「! 西住総隊長! 2時の方向ですっ!!」

 

キューポラから飛び出す様に姿を見せたみほが驚きを示す中、弘樹は谷川の畔の岩陰に居た知波単工兵達の姿を発見し、報告を挙げる。

 

「! 華さん! 砲塔旋回、2時方向!! 優花里さん! 榴弾装填!!」

 

「ハイッ!」

 

「了解っ!!」

 

みほはすぐさま指示を出し、華が砲塔を知波単工兵達に向け、優花里が榴弾を装填する。

 

「コチラ工兵部隊! 1号、2号作戦、共に失敗! されど3号作戦は成功せり! 申し訳ありませんが我々は此処までです! 後は宜しくお願い致します! 知波単学園! バンザーイッ!!」

 

「「「「バンザーイッ!!」」」」

 

指揮官と思わしき知波単工兵がそう通信を送ると、知波単工兵達は自分達の最期を悟り、万歳をする。

 

「撃てっ!!」

 

直後にⅣ号の主砲が火を噴き、知波単工兵達は隠れていた岩ごと吹き飛ばされた!

 

「まさかあんな所で待ち伏せてたなんて………」

 

「思いも寄りませんでしたね………」

 

「それより如何するんだ? 橋が無くなったぞ?」

 

知波単工兵達の撃破を確認し、みほと優花里がそう言っていると、麻子がそう口を挟んで来る。

 

「総隊長~!」

 

「西住総隊長~!」

 

「大丈夫ですか~!」

 

と、対岸に居る大洗機甲部隊の面々からも心配する声が飛ぶ。

 

「大丈夫で~す! 私達もとらさん分隊の皆も無事です~!」

 

「しかし、マズイ状況です………別の橋まではかなり迂回しないと………」

 

みほがそう返事を返していると、地図を確認していた優花里が、別の橋までの距離がかなりある事を見てそう呟く。

 

「申し訳ありません、西住総隊長。小官がもっと早く敵の存在を察知していれば………」

 

「仕方ないよ。兎に角、早く皆と合流しよう」

 

弘樹が謝罪するが、みほは気にしないでと言う。

 

「皆さん、ポイントG3へ移動して下さい。そこで落ち合いましょう。神大さん。そちらの指揮をお願いします」

 

「心得たよ」

 

みほは大洗機甲部隊の面々にそう指示すると、その指揮を迫信に任せる。

 

そして、あんこうチームととらさん分隊、大洗機甲部隊の面々はポイントG3を目指して移動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

知波単機甲部隊は………

 

「フラッグ車を撃破の1号作戦と、隊長車を撃破の2号作戦は失敗………けど、総隊長と本隊を分離させる3号作戦成功せりか………良くやってくれたわ。皆」

 

橋を爆破した知波単工兵達の最期の通信を聞いた絹代はそう呟き、通信機越しに陸軍式敬礼を送る。

 

「………皆聞いてたわね! 3号作戦で行くわよ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そしてすぐに知波単機甲部隊の面々を見やるとそう言い、知波単機甲部隊の面々も勇ましく返事を返す。

 

「恐らく、大洗機甲部隊の面々はポイントG3へ向かうわ。私だったらそうする」

 

絹代は地図を広げると、大洗機甲部隊の進行先を読む。

 

「孤立しているⅣ号の相手はお願いね。気を付けてよ。随伴している歩兵分隊の中には弘樹も居るから」

 

「了解しました!」

 

その絹代の言葉を受け、五式中戦車が知波単機甲部隊の中から離脱し、単独でⅣ号の元へと向かう。

 

「よし! 私達は大洗機甲部隊の本隊に仕掛けるわよ! 全員付いて来なさいっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

「御供します!」

 

「総隊長に続けぇーっ!!」

 

そして、絹代の九七式中戦車を中心として知波単機甲部隊は、あんこうチームととらさん分隊を切り離された大洗機甲部隊の本隊へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんこうチーム&とらさん分隊………

 

現在両者は、木々が生い茂る森林地帯を進んでいた。

 

「ちょっと見通しが悪いけど、この場所を通れば敵からも発見され難いです。このまま進みます」

 

「警戒は怠るな。何か有ったらすぐに報告しろ」

 

みほがそう言うと、弘樹が補足する様にそう言う。

 

「けどよぉ、フラッグ車は本隊の方だろ? 態々無関係なコッチを狙って来るとは思えねえけどなぁ」

 

とそこで、了平がそんな事を言う。

 

「了平、油断は禁物ですよ」

 

「って言うか、お前のその台詞自体がフラグとしか思えねえよ。何かあったらお前のせいだからな」

 

そんな了平に向かって、楓と地市がそう言い放つ。

 

「ちょっ!? 酷くない! 大体俺は女の子とのフラグしか追ってないての!!」

 

「それが既に死亡フラグなんだよ!!」

 

「ちょっ! 石上さん! 綿貫さん! 喧嘩は………!?」

 

と、言い合いの様な状態になった地市と了平を見て、キューポラから姿を晒していたみほが止めようとしたが、その瞬間に何かに気付いた様に森林地帯の奥を見やる。

 

「………!」

 

同時に弘樹も同じ様にみほが見ている森林地帯の奥を見やる。

 

「西住殿?」

 

「みほさん、如何しました?」

 

優花里と華がそう言った瞬間!

 

「! 散開しろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう叫び、あんこうチームととらさん分隊の面々は反射的に方々へと散らばる様に逃げ出す。

 

その直後!!

 

ドゴオンッ!!と言うまるで落石でも落ちたかの様な轟音が鳴り響き、森林地帯の奥から砲弾が飛んで来た!!

 

「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」

 

逃げ遅れていたくろがね四起に直撃した砲弾は榴弾らしく爆発。

 

くろがね四起の爆発と相まって乗員達は全員戦死判定を食らう。

 

「クッ!………」

 

別のくろがね四起の後部座席に乗って居た弘樹が、すぐに砲弾が飛んで来た方向を確認する。

 

そこには、砲口から煙を上げている五式中戦車が、木々の合間からコチラを睨む様に見ていた。

 

「! 敵戦車確認! 五式ですっ!!」

 

「ええっ!? 事実上、知波単機甲部隊の最強の戦車をコチラに投入ですか!?」

 

弘樹がそう報告を挙げると、優花里が知波単機甲部隊の中で最強と思われる五式中戦車を自分達の方へと回して来た絹代の采配に驚く。

 

直後に五式中戦車が再び発砲!

 

砲弾がⅣ号へと向かう!

 

「! 停車っ!!」

 

「!!」

 

みほの指示で慌ててブレーキを踏む麻子。

 

Ⅳ号が若干前のめりになりながらも急停止すると、そのまま進んでいれば居たであろう場所を五式中戦車が放った砲弾が通過!

 

今度は徹甲弾だったらしく、砲弾が命中した太い木々が次々と圧し折られ、メキメキと言う音と共に倒れ伏せた!

 

「す、凄い威力………」

 

「コレが幻の幻………88ミリ砲搭載の五式中戦車の力………」

 

その砲の威力の前に、沙織と優花里が戦慄を覚える。

 

「やられてばかりではいられません!」

 

とそこで、華が砲塔を旋回させ、五式中戦車に向かって発砲する!

 

だが、五式中戦車はⅣ号が発砲した瞬間には移動を開始しており、Ⅳ号から放たれた砲弾は先程まで五式中戦車が居た地面を抉っただけだった。

 

「! 速いっ!?」

 

「だったら俺達の出番だ!」

 

「行くぞぉっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

華がそう声を挙げた瞬間、バズーカを構えた地市を先頭に、数人のとらさん分隊員達が五式中戦車に突撃する。

 

「幾ら強い戦車だろうが、歩兵が居ないんなら肉薄して倒すまでだっての!!」

 

そう言いながら、バズーカの照準器を覗き込む地市。

 

一緒に突撃していた分隊員達も、収束手榴弾や吸着地雷、九九式破甲爆雷を手にする。

 

「! 待て! 罠だっ!!」

 

しかしそこで、弘樹がそう叫ぶ。

 

その直後に、五式中戦車は車体前面に搭載されていた副砲の一式三十七粍戦車砲を発射!

 

目の前に在った木の幹に命中させたかと思うと、その木が突撃して来ていた地市達に向かって倒れ込む!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

地市は慌ててバズーカを捨てて逃げ、他の分隊員達も散らばる。

 

「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

だが、数名が間に合わずに、そのまま木の下敷きとなり、戦死判定を受ける。

 

直後に五式中戦車が再び主砲から榴弾を発射!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

逃げ果せたと思っていた分隊員達の間に着弾した榴弾は破片を撒き散らし、またも戦死判定者を続出させた!

 

「チキショー! んなのありかよ………」

 

逃げた際に倒れて来た木の衝撃波に煽られて地面に倒れていた地市がそんな事を口にしながら起き上がろうとする。

 

と、その地市を踏み潰さんとばかりに五式中戦車が突撃して来る!

 

「!?」

 

「地市くん!」

 

思わず身体が固まる地市と、悲鳴の様な声を挙げる沙織。

 

「!!」

 

だがその直後に、弘樹が地市の傍へと現れたかと思うと、その身体を抱える様にして一緒に横へと転がった!

 

五式中戦車はそのまま2人の横を通り過ぎ、再び木々の間へと入る。

 

「迂闊に突撃するな!」

 

「す、スマネェ………」

 

地面の段差に身を隠しながら地市にそう言い放つ弘樹。

 

その直後に五式中戦車がまたもや主砲を発射!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

榴弾が炸裂し、とらさん分隊の隊員達数名が纏めて吹き飛ばされる。

 

更に五式中戦車は、主砲を右へと旋回させたかと思うと、今度はⅣ号を狙って徹甲弾を放つ!

 

「左旋回!!」

 

「!!」

 

しかし、弾道を読んだみほの指示により、如何にかⅣ号は五式中戦車から放たれた徹甲弾をかわす。

 

「クッ、やはり半自動装填装置を搭載しているのか………次弾発射が早い」

 

弘樹は五式中戦車が素早く主砲を連射するのを見て、半自動装填装置が搭載されている事を確信する。

 

「撃ちますっ!!」

 

とそこで、華が反撃とばかりにⅣ号の主砲を放つ。

 

だが、五式中戦車は素早く後退し、Ⅳ号が放った砲弾が木の幹を吹き飛ばす。

 

「反応が早い………」

 

「相手の戦車の搭乗員はかなりの練度です」

 

みほがそう呟くと、優花里がそう言って来る。

 

『こちらサンショウウオさんチーム! 西住総隊長! 応答願います!!』

 

「!! みぽりん! サンショウウオさんチームから緊急通信だよ!!」

 

とそこで、本隊に居るサンショウウウオさんチームの聖子から緊急通信が入り、沙織がみほへと回す。

 

「如何しました?」

 

『現在我々本隊は知波単機甲部隊に完全に包囲されました! 敵の攻撃は苛烈! このままでは全滅してしまいます!!』

 

「!? 落ち着いて! 郷さん、もっと詳しく状況を………」

 

『!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!』

 

詳しい状況を問い質そうとしたみほだったが、通信機越しに爆発音が聞こえた後、聖子の悲鳴が響き、通信機からはノイズしか聞こえて来なくなった。

 

「!? 郷さん!? サンショウウオさんチーム!? 応答して下さい!!」

 

そう叫ぶみほだが、通信機からはやはりノイズしか返って来ない。

 

「サンショウウオさんチーム、通信途絶! 他の皆にも繋がらないよ!!」

 

「クウッ………」

 

通信機を弄りながらそう報告する沙織の言葉を聞き、みほは苦い顔を浮かべる。

 

幾らみほの指揮能力が優れているとは言え、本隊と敵の状況が分からず、通信も繋がらないこの状況では指揮の取り様が無い。

 

本隊には迫信が居るが、彼は歩兵の総隊長であり、命令系統上、戦車部隊の指揮を完全に取れない。

 

みほの指揮無くしては成り立たない………

 

それこそが、大洗機甲部隊最大の弱点であった。

 

「早く皆と合流しないと………」

 

「ですが! あの五式を無視して突破するのは無理ですよ!」

 

とお、みほの呟きに優花里がそう言った瞬間、五式中戦車が発砲!!

 

砲弾はⅣ号の傍に在った大き目な岩に命中し、岩を粉々にした!!

 

「キャアッ!?」

 

「このままだとジリ貧だぞ………」

 

「当てる事さえ出来れば………」

 

車内に走った振動に悲鳴を挙げる沙織と、ポーカーフェイスに冷や汗を流す麻子に、照準器を覗き込みながら苦い顔をしている華。

 

「…………」

 

みほも必死に打開策を考えているが、良い作戦は思い浮かばない。

 

「オイオイ………マジで絶体絶命じゃねえかよ………」

 

「今回ばかりは了平の意見に賛成です。このままではやられるのを待つだけです………!? うわっ!?」

 

段差の陰に隠れている了平の絶望的な呟きに、楓がそう返した瞬間、近くに榴弾が着弾し、舞い上がった土片が頭上から降り注ぐ。

 

「…………」

 

そんな中、弘樹は決意を固めた様な表情で五式中戦車を見据える。

 

「西住総隊長。残っているとらさん分隊のメンバーと共に本隊へ合流して下さい」

 

「舩坂くん!?」

 

「五式は………小官が食い止めます」

 

驚くみほに向かって、弘樹は淡々とそう言い放つ。

 

「!? そんな!? 無茶だよ! 幾ら舩坂くんでも、歩兵単独で戦車と戦うなんて!!」

 

「危険です! 舩坂殿!!」

 

単独で五式中戦車と戦う積りの弘樹に、みほや優花里の悲鳴にも似た声が飛ぶ。

 

「無茶か如何かは関係ありません………要はやるかやらないかです」

 

「滅茶苦茶だな………」

 

弘樹がそう返すと、麻子が呆れた様にそう呟く。

 

「楓。小官の代わりにとらさん分隊の指揮を取れ」

 

「舩坂さん! しかし………」

 

「分隊長命令だ!」

 

楓が何か言おうとしたのを、弘樹は分隊長命令で遮る。

 

「!………分かりました」

 

「舩坂くん! 止めて! お願いだから………」

 

そう言われて黙り込む楓だったが、みほからはそう言う台詞が泣きそうな声で飛ぶ。

 

「………西住くん」

 

「!」

 

とそこで、弘樹は歩兵モードではなく、普段の口調となってみほへと呼び掛けた。

 

「………君はいつもと同じ様に………小官を信じてくれれば良い」

 

そう言うと弘樹は、Ⅳ号に背中を見せる様に立ち上がる。

 

「…………」

 

その背中を無言で見やるみほ。

 

「………麻子さん、反転して下さい。生き残ったとらさん分隊の皆さんもⅣ号に続いて下さい!」

 

やがて、麻子と残っていたとらさん分隊のメンバーにそう指示を下した。

 

「………分かった」

 

「了解しました」

 

一瞬の間の後に返事を返す麻子と、即座に返事を返す楓。

 

「舩坂くん、お願い………怪我だけはしないでね」

 

「…………」

 

Ⅳ号が反転する中、みほは弘樹にそう言い残す。

 

そして、生き残ったとらさん分隊のメンバーと共に離脱を開始するⅣ号。

 

五式中戦車は当然追撃しようとするが………

 

その目の前に手榴弾が落ち、爆煙が視界を塞ぐ!

 

そして、その爆煙が収まると………

 

「まさか幻と言われた旧日本軍の最強戦車と遣り合う事になるとはな………」

 

一〇〇式機関短銃を構えた弘樹が五式中戦車の前に姿を晒していたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻の幻である88ミリ砲搭載の旧日本軍最強の戦車・五式中戦車………

 

不死身と言われた生きている英霊『舩坂 弘』の子孫・舩坂 弘樹………

 

まさかの対決の火蓋が、ココに切って落とされる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

知波単の初手をかわした大洗機甲部隊だったが、知波単工兵達により、あんこうチームととらさん分隊が本隊から切り離されてしまう。

みほ達が居なくなった本隊へと強襲を掛ける知波単機甲部隊。
合流を急ごうとするみほ達の前に立ちはだかる旧日本軍最強の戦車・五式中戦車。

みほ達を本隊へ合流させる為、弘樹は単身………
五式中戦車に挑むのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第70話『知波単魂炸裂です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第70話『知波単魂炸裂です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹の戦友・西 絹代が率いる機甲部隊………

 

知波単学園の知波単機甲部隊との練習試合に臨んだ大洗機甲部隊。

 

初手の攻撃を凌いだかに見えた大洗機甲部隊だったが、知波単機甲部隊の策略により、あんこうチームととらさん分隊が本隊より分離させられてしまう。

 

そして、総隊長不在となった大洗機甲部隊の本隊を強襲する知波単機甲部隊。

 

みほ達は本隊との合流を急ぐが、そこに知波単機甲部隊の最強戦力………

 

幻の幻、88ミリ砲搭載の『五式中戦車』が立ちはだかる。

 

火力と高い練度の乗員により圧倒的強さを見せる五式中戦車に………

 

みほ達を本隊へ合流させる為、弘樹は単身で戦いを挑むのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合会場・大洗町の外れ………

 

岩肌が露出している丘陵地帯・ポイントG3………

 

みほ達との合流の為、指定されたポイントG3へと向かった大洗機甲部隊の本隊だったが………

 

その合流地点を読んでいた知波単機甲部隊は、大洗機甲部隊を包囲する事に成功していた。

 

「撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

叫びながら38tの主砲を発射する桃。

 

しかし、明後日の方向にしか飛ばない砲弾で、敵を撃破出来る筈もなかった………

 

「ハズレ~」

 

「クソッ! オンボロ照準器めっ!!」

 

「毎日自動車部と整備部の人達が丁寧に整備してくれてるんだよぉ」

 

杏が呑気そうにハズレたと言うと、桃は照準器に文句を付け始め、蛍がそれは言っちゃいけないと諭す様に言う。

 

とそこで、知波単機甲部隊の新砲塔チハ3両が、38tに向かって一斉に発砲!

 

直撃弾は無かったが、かなりの至近距離に着弾し、38tの車体が大きく揺さぶられる。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? やられたあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!! 助けてくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

途端に桃は泣き叫び始める。

 

「小山、当たるなよ。チハの攻撃でも、38tには脅威だからな」

 

「ハイ、会長」

 

しかし、最早お馴染みの光景となった為か、杏も柚子も全く気にする様子を見せず、冷静に指示と操縦を熟すのだった。

 

「桃ちゃん………不憫な子」

 

そして蛍は、そんな桃の姿に同情していた。

 

「お寝んねしなーっ!!」

 

「ハイサイナラーッ!!」

 

「誰にも俺の邪魔はさせないぜぇっ!!」

 

射撃しながら、包囲している大洗機甲部隊へと詰め寄って行く知波単歩兵部隊。

 

「砲兵隊向きの標的が在る!!」

 

「戦車の支援を頼むぅっ!!」

 

更に、その歩兵を援護する様に、知波単砲兵部隊と戦車部隊が、大洗機甲部隊へ砲撃を撃ち込む。

 

「チキショウッ! コレでも喰らえっ!!」

 

と、蛸壺を掘って隠れていた大洗歩兵部隊の中で、豹詑が少し身を乗り出すと、M24型柄付手榴弾を投擲する!

 

「「「「「うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

固まっていた知波単歩兵達が纏めて吹き飛ばされる!

 

「よっしゃあっ!!」

 

「アイツが仲間をやったぞ!」

 

「戦友達の仇だぁっ!!」

 

「撃てぇっ!! 即刻攻撃ぃっ!!」

 

しかし、戦友達の仇だと言い放ち、知波単歩兵の攻撃が豹詑に集中する。

 

「おわわわわっ!?」

 

慌てて蛸壺の中に引っ込み、頭を押さえて蹲る豹詑。

 

「クッ! 支援砲撃を潰さないと………」

 

「「「「アターックッ!!」」」」

 

と、同じく蛸壺に籠っていた武志が試製四式七糎噴進砲を、支援砲撃を行っていた一式十糎自走砲に向かって放ち、同じ事を考えていたアヒルさんチームの八九式も発砲する!

 

ロケット弾と徹甲弾が一式十糎自走砲を目掛けて飛ぶ。

 

だが、その瞬間!!

 

一式十糎自走砲の前に九五式軽戦車が割って入り、自らの車体でロケット弾と砲弾を受け止めた!

 

「!? しまったっ!?」

 

「ブロックされたっ!?」

 

割って入った九五式軽戦車からは白旗が上がったものの、本命を仕留め損ねて武志と典子が思わず声を挙げる。

 

直後に一式十糎自走砲は榴弾を発射!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

八九式と武志からは狙いが外れたが、対戦車砲に付いて居た大洗砲兵達が吹き飛ばされた!!

 

「ああっ!? 貴重な対戦車砲が!?」

 

「うむ………やはり包囲された状態では圧倒的に不利だね………」

 

逞巳が動揺を露わにしていると、急いで掘った簡易塹壕の中で、戦況を見ていた迫信が、まるで他人事の様にそう呟く。

 

「なら! 此処から抜け出さないとっ!!」

 

「しかし………あそこから狙われていては………」

 

聖子がそう声を挙げるが、エルヴィンが現在大洗機甲部隊が包囲されている場所の周りの崖の上を見て苦々しげにそう呟く。

 

崖の上には、これまた大洗機甲部隊を取り囲む様に、三式中戦車改、三式砲戦車、四式中戦車が陣取り、時折牽制であるかの様に、大洗機甲部隊を狙い撃って来ていた。

 

「崖の上からスナイピングか………」

 

「コッチの対戦車砲も戦車砲も届かんぞ………」

 

「このまま包囲攻撃を受けていれば全滅………しかし、包囲を突破しようとしても崖の上からフラッグ車を狙い撃たれる可能性が有る………」

 

「手詰まりじゃねえかよ! 何かないのか!?」

 

正に文字通り四面楚歌の状態の大洗機甲部隊。

 

みほが居ない状況では、真面に指揮を取れる者も居らず、大洗機甲部隊の面々は只々知波単機甲部隊の猛攻の前に耐えるしかなかった………

 

「良いわよ! そのまま徐々に包囲網を狭めて行って!」

 

大洗機甲部隊を包囲している知波単機甲部隊からやや離れた位置に陣取っているフラッグ車兼隊長車の九七式中戦車の砲塔の上に立ち、通信機を片手に指揮を取っている絹代。

 

「総隊長! 我々も突撃しましょうっ!!」

 

「寧ろ全員で突撃しましょう! 敵は袋の鼠!! 我が知波単機甲部隊の突撃を持ってすれば、撃破容易です!!」

 

「我々の勝利だっ!!」

 

するとそこで、九七式中戦車の同乗員達からそんな意見が挙がる。

 

「それは駄目よ。何があるか分からないからね………」

 

しかし、絹代はやんわりとその意見を却下する。

 

「何故ですか!? 相手の戦車は我々より優れている物も多いですが、練度に於いては我が知波単機甲部隊が圧倒的優位です!!」

 

「大和魂を見せつけてやりましょうっ!!」

 

「臆病風に吹かれたのですか!?」

 

同乗員達から不満の声が挙がる。

 

「黙れっ!!」

 

「「「!?」」」

 

しかし、絹代はその声を一括した。

 

「大洗を甘く見るんじゃないわ。確かに練度は我々よりも劣っているかも知れない………けれど、全国大会を4回戦まで勝ち抜いたチームよ。それは決して運だけのものではないわ」

 

大洗機甲部隊の事を見据えながら、絹代はそう語り出す。

 

「コレまでの試合………大洗機甲部隊はその多くをギリギリで勝利している………だけれども、そのギリギリの勝利を掴んだ、追い詰められてからの爆発力は凄まじいわ」

 

『こちら五式中戦車! 応答願います、総隊長!!』

 

とそこで、あんこうチームととらさん分隊の足止めに向かって五式中戦車から通信が入って来る。

 

「こちら西。突破されたの?」

 

『ハイ! 追撃しようとしたのですが、現在舩坂 弘樹に足止めされている状況です!』

 

「弘樹に?………単独で?」

 

『ハイ! 信じられませんが………奴は単身でこの五式中戦車と渡り合っています!』

 

「…………」

 

『西総隊長?』

 

「総隊長? 如何なされました?」

 

突如黙り込んだ絹代に、五式中戦車の通信手と、九七式中戦車の砲手が怪訝な顔をする。

 

と………

 

「アハハハハハハハハッ!!」

 

『「「「!?」」」』

 

突如絹代は大声で笑い始め、五式中戦車の通信手と九七式中戦車の乗員達は驚く。

 

「仲間を行かせる為に、単独で戦車の足止めに掛かる………相変わらず最高ね、弘樹!」

 

そしてそう言うと、ニヤリと笑う絹代。

 

「それでこそ英霊の子孫よ………コチラ西。五式の方が突破されたわ。直にⅣ号と随伴歩兵分隊が来る。勝負を急ぐわよ」

 

『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』

 

そう通信を送り、返事が返って来たのを聞くと、絹代は九七式中戦車の車内へと入る。

 

「行くわよ! 突撃っ!!」

 

「待ってましたっ!!」

 

「知波単魂を見せてやるーっ!!」

 

乗員達から勇ましい声が挙がると、九七式中戦車は前線へと突撃して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

弘樹の足止めによって、五式中戦車を突破したあんこうチームととらさん分隊は………

 

「舩坂さん、大丈夫でしょうか?」

 

くろがね四起のハンドルを握る楓が、1人で五式中戦車の足止めをしている弘樹の身を案じる。

 

「相手は日本軍最強とか言われてる戦車だろ? 流石の弘樹も今回ばかりはお陀仏か………イデッ!?」

 

「縁起でもねぇこと言うんじゃねえ、馬鹿野郎!」

 

了平が思わずそんな事を口走ると、地市がそんな了平に拳骨を見舞う。

 

「…………」

 

一方、Ⅳ号内に車長席のみほは、まるで祈るかの様に目を閉じ、両手を合わせて固く握っていた。

 

「西住殿………」

 

「みほさん………」

 

「みぽりん………」

 

「…………」

 

そんなみほの事を心配する優花里、華、沙織、麻子だったが、掛ける言葉が見つからない。

 

(舩坂くん………無事で………無事で居て………)

 

まるで呪文の様に、みほは心の中でそう繰り返すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

その弘樹は………

 

ドゴオンッ!!と言う凄まじい爆音と共に、主砲から砲弾を吐き出す五式中戦車。

 

放たれた砲弾………榴弾は森の一角に着弾し、派手に爆発する。

 

衝撃波と破片で周りの木々が薙ぎ倒される。

 

「…………」

 

その中を、倒れる木々と爆煙、土煙に紛れて駆け抜ける弘樹。

 

そして五式中戦車から姿を隠したまま、岩の陰へと隠れる。

 

(こんな事なら何時もの通り、九九式短小銃を持って来るんだったな………)

 

五式中戦車を覗き見ながら、弘樹は内心でそんな事を考える。

 

知波単機甲部隊は突撃戦術を得意とする為、両軍入り乱れての乱戦になると踏んだ弘樹は、接近戦に備えて九九式短小銃ではなく、一〇〇式機関短銃を主武装として携帯して来ていた。

 

いつもの九九式短小銃ならば二式擲弾器を使ってタ弾を撃ち込めるので、多少は有利に戦えたかも知れないが、一〇〇式機関短銃では装甲目標に対しては無力である。

 

(まあ、他に方法は幾らでもある………)

 

しかし、弘樹はすぐにそう頭を切り替えると、ベルトに下げていた吸着地雷を手に取る。

 

とそこで、五式中戦車の砲塔が旋回する音が聞こえて来る。

 

「!!」

 

即座に弘樹は岩陰から移動!

 

直後に五式中戦車が発砲し、先程まで弘樹が隠れていた岩が吹き飛ばされた!!

 

「うおっ!?」

 

爆風に煽られ、地面の上を転がる弘樹。

 

その姿が五式中戦車からも確認出来る位置にまで転がる。

 

「! しまった!………」

 

弘樹はすぐさま起き上がって駆け出すが、そこで五式中戦車は副砲の37ミリ砲を発射。

 

「ぐうっ!!」

 

直撃は喰らわなかったが、榴弾の破片が左足に当たり、甚大なダメージを負ったと判定した戦闘服が左足の動きを制限する。

 

更に、衝撃で吸着地雷を手放してしまい、弘樹の手から零れた吸着地雷はやや離れた場所へと転がる。

 

「ッ!!………」

 

弘樹は煙幕手榴弾を投擲すると、窪地の中へと転がり込む様に身を隠す。

 

「やられたな………」

 

動きが鈍い左足に手を当てながらそう呟く弘樹。

 

コレで肉薄攻撃は難しくなった上に、頼みの綱の吸着地雷を失ってしまった。

 

只でさえ低い勝ち目が更に低くなる。

 

(煙幕が持つのはあと1分か………如何する?………)

 

だが、弘樹に負ける積りは微塵も無く、只管打開策を考える。

 

「…………」

 

と、そこで弘樹は、近くにあった他と比べてやや背丈の高い木を見やる。

 

「………一か八かだ」

 

すると弘樹は、その木へと向かった。

 

やがて煙幕が晴れ、五式中戦車が弘樹の姿を探す様に砲塔を旋回させる。

 

「…………」

 

そして、背丈の高い木を登っている弘樹の姿を発見する。

 

その木の幹に主砲を向ける五式中戦車。

 

「…………」

 

弘樹は狙われているのに気付いていないのか、只管に木を登って行く。

 

そして、遂に!

 

五式中戦車から砲弾が放たれる!!

 

放たれた砲弾は弘樹が登っていた木の幹に命中!!

 

幹が吹き飛び、木は倒れ始める。

 

「! そこだぁっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

弘樹は倒れる勢いを利用して木から五式中戦車に向かって跳躍した。

 

そのまま、五式中戦車の砲塔の上に身体から落ちる弘樹。

 

「!?………」

 

余りの衝撃と痛みで一瞬意識が飛びかけたが根性で耐え、そのまま砲塔の上を転がって、更に車体後部へと落ちると、エンジンルームのハッチを掴んで止まる。

 

取り付かれた五式中戦車は、弘樹を振り落そうと激しく蛇行しながら走り出す。

 

「…………」

 

そんな五式中戦車から振り落とされまいとしながら、弘樹は片手に銃剣を取り、エンジンルームのハッチを抉じ開けに掛かる。

 

ハッチの固定具に銃剣を何度も叩き付ける弘樹。

 

弘樹を振り落そうと猛スピードで走り回る五式中戦車。

 

両者の意地と意地のぶつかり合いである。

 

やがて、バキンッ!!と言う音がしたかと思うと、銃剣の刃が圧し折れる。

 

しかし直後に………

 

五式中戦車のエンジンルームのハッチ固定具も壊れる。

 

「!………」

 

すぐさまエンジンルームのハッチを開け放つと、一〇〇式機関短銃を差し込む様に突き付ける弘樹。

 

「!!」

 

そしてそのまま、一〇〇式機関短銃を発砲する!

 

無数の弾丸がエンジンルーム内へと飛び込み、跳弾となって跳ね回る!

 

だが、五式中戦車はまだ止まらず、弘樹を振り落そうと暴走する!

 

「!!………」

 

それでも片手で五式中戦車にしがみ付きながら、一〇〇式機関短銃を撃ち続ける弘樹。

 

と、やがて一〇〇式機関短銃のマガジンが空になった瞬間………

 

五式中戦車のエンジンから黒煙が上がり始め、ボンッ!!と言う音を立てて炎上!!

 

暴走していた五式中戦車の速度が徐々に落ちて行き、完全に停止したかと思うと、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「…………」

 

弘樹は地上に降りると、撃破した五式中戦車には目もくれず、左足を引きずりながらも、本隊の場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、再び知波単機甲部隊と交戦している大洗機甲部隊・本隊は………

 

「や~ら~れ~た~!」

 

杏の呑気そうな声と共に、38tの砲塔上部から白旗が上がる。

 

「カメさんチームがやられたぞっ!」

 

「おのれぇっ! コレでも喰らえぇっ!!」

 

それを見たカバさんチームの三突が知波単機甲部隊に報復する様に砲撃。

 

放たれた砲弾は一式砲戦車に命中。

 

一瞬の間の後、一式砲戦車の上部から白旗が上がる。

 

だが直後に、崖の上の四式中戦車、三式中戦車改、三式砲戦車からの砲撃がⅢ突に集中する!!

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

幸いにも直撃弾は無かったが、至近弾の衝撃によってⅢ突は激しく揺さぶられ、車内のカバさんチームは悲鳴を挙げる。

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

明夫の号令で、砲兵達が九五式野砲から榴弾を放つ。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

知波単歩兵部隊の歩兵達が数人纏めて吹き飛ぶ!

 

「敵は手強過ぎるっ!!」

 

「救援を要請します!」

 

「了解っ!!」

 

別の知波単歩兵隊員達がそんな事を言うと、短十二糎自走砲が砲身を上向きにして砲撃。

 

まるで迫撃砲の様に榴弾を上空から大洗歩兵部隊に見舞う!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「まるで鉄の雨だ!!」

 

「ぐああっ!? やられたぁっ!!」

 

爆発した榴弾の破片、若しくはその直撃を浴びた大洗歩兵隊員達が次々に戦死判定を食らう。

 

「チキショウめっ!!」

 

と、そんな台詞と共に俊が手榴弾を投擲する。

 

「手榴弾や!」

 

「姿勢を低くしろぉっ!!」

 

手榴弾が近くに転がって来た知波単歩兵隊員達は、その場に伏せて爆風をやり過ごす。

 

「そこに奴等が居るぞぉ!」

 

「倍の速さでぇーっ!!」

 

と、着剣した三八式歩兵銃を構えた知波単歩兵隊員2名が、手榴弾を投げた俊へと向かう。

 

「! ヤベッ!………」

 

「司馬さんっ!!」

 

慌てる俊だったが、そこで横倒しになったくろがね四起の陰に居た清十郎がSIG KE7軽機関銃の弾丸を、突っ込んで来た知波単歩兵隊員2名に見舞う!

 

「「知波単バンザーイッ!!」」

 

突っ込んで来た知波単歩兵隊員2名は、弾丸を浴びるとそう叫んで両手を上げて倒れ、そのまま戦死と判定される。

 

「恩に着るぜ、清十郎」

 

「でも、このままじゃマズイですよ!」

 

そう言いながら、くろがね四起の陰に隠れる俊に、清十郎がSIG KE7軽機関銃のマガジンを交換しながらそう言う。

 

彼の言葉通り、大洗機甲部隊の損害は徐々に増して来ている。

 

無論、大洗機甲部隊とてやられてばかりではなく、先程撃破した一式砲戦車を始め、既に九五式軽戦車を3両、九七式中戦車を1両、新砲塔チハを2両、一式中戦車を1両屠っている。

 

歩兵部隊にもかなりの損害を与えており、砲兵の一部は活動困難に陥っている。

 

だが、元々知波単機甲部隊の方が数で勝っており、包囲されているこの状況では、大洗機甲部隊が圧倒的に不利であった。

 

「やはりこの包囲網を突破しない事には………」

 

「だがその為には、あの崖の上の戦車を如何にかせんといかんぜよ」

 

左衛門佐とおりょうがそう言い合い、崖の上に陣取ってスナイピングして来ている三式中戦車改、三式砲戦車、四式中戦車を見据える。

 

とそこで、三式砲戦車の砲が、サンショウウウオさんチームのクロムウェルに向けられる。

 

「! サンショウウオさんチーム! 狙われてるぞ!! 逃げろぉっ!!」

 

「逃げろって、何処に!?」

 

「周りは敵だらけですよ!?」

 

鋼賀がそう叫ぶが、サンショウウオさんチームの聖子と優からそんな声が返って来る。

 

そんなサンショウウオさんチームのクロムウェルに、三式砲戦車は容赦無く狙いを定める。

 

「クソッ! 駄目だ! 逃げきれねぇっ!!」

 

操縦士の唯から悲鳴にも似た声が挙がる。

 

そして三式砲戦車から砲弾が放たれる………

 

かと思われた瞬間!!

 

砲撃音がして三式砲戦車の後部が大爆発!!

 

一瞬の間の後、三式砲戦車の上部に、白旗が上がった!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その出来事に、大洗機甲部隊、知波単機甲部隊の全隊員達が驚きを露わにする。

 

そして、その直後………

 

「皆さん! 遅れてすみません!!」

 

そう言う声と共に、撃破された三式砲戦車の後ろから、みほがキューポラより姿を晒しているⅣ号の姿が現れた!

 

「! 西住総隊長だぁーっ!!」

 

「助かったーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

あやと桂利奈がそう声を挙げると、大洗機甲部隊の隊員達からも歓声が挙がる。

 

「! Ⅳ号! もう来たの!? 四式! Ⅳ号に向かって攻撃っ!!」

 

「了解っ!」

 

と、そのⅣ号の姿を確認した絹代が、驚きながらもすぐに近くの四式中戦車へと指示を飛ばす。

 

その頃には、四式中戦車は既にⅣ号へと狙いを定めていた。

 

「喰らえっ!………」

 

そして四式中戦車の砲手が引き金を引こうとした瞬間!

 

四式中戦車の後部に、白煙の尾を引いて来たロケット弾が命中!!

 

またも一瞬の間の後、四式中戦車の砲塔上部から白旗が上がる!

 

「よっしゃあっ! 見事命中!!」

 

「やりましたね!」

 

直後に、そう言う撃ち終えたバズーカを持った地市と楓を先頭に、とらさん分隊の面々が姿を見せる!

 

「! とらさん分隊!!」

 

「皆さん! 西の守りが薄いです! Ⅲ突とルノーを先頭にして突破を掛けて下さいっ!! 但し、フラッグ車を守るのを忘れずに!!」

 

竜真の歓声が挙がる中、みほは戦局を見てそう判断し、大洗機甲部隊の面々にそう指示を出す。

 

「了解しました!」

 

「了解! やはり西住総隊長の指揮がなくてはなぁっ!!」

 

みどり子とエルヴィンからそう言う声が挙がると、大洗機甲部隊はクロムウェルを守りつつも、Ⅲ突とルノーB1bisを先頭に、知波単機甲部隊の包囲網の西側に一斉突撃した!

 

「来るぞぉーっ!!」

 

「俺は防衛を行う! この位置を保てぇっ!!」

 

「離れるなーっ!!」

 

「敵の装甲車を発見っ!!」

 

「知波単魂を見せてやるぅっ!!」

 

突っ込まれた包囲網西側の知波単機甲部隊の隊員達と戦車は、先頭のⅢ突とルノーB1bis目掛けて一斉に攻撃を行う。

 

しかし、西側に展開していた知波単機甲部隊は、歩兵部隊は偵察兵が中心であり、砲兵部隊の砲は九四式37mm速射砲が主であり、戦車も九五式軽戦車と旧砲塔の九七式中戦車で在った。

 

ルノーB1bisが盾となり、砲撃を弾き返して強引に押し進む。

 

「発射ぁっ!!」

 

「撃てぇっ!!」

 

そして、時折隙を縫って、脇から姿を晒してくる三突と共に、ルノーB1bisuが砲撃を見舞う。

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

「分隊長がやられた! 誰か指揮を!!」

 

榴弾を浴びた知波単歩兵部隊の隊員達が吹き飛ばされ、次々に戦死判定を受ける。

 

更に、九五式軽戦車と旧砲塔の九七式中戦車にも徹甲弾が突き刺さり、白旗が上がって行く!

 

「着剣せよっ!!」

 

「「「「「「「「「「着剣っ!!」」」」」」」」」」

 

するとそこで、三八式歩兵銃を装備していた知波単歩兵達が、一斉に銃剣を着剣する。

 

「行くぞぉーっ!!」

 

「俺は攻撃を行う! 付いて来いっ!!」

 

「誰にも俺の邪魔はさせないぜっ!!」

 

「知波単学園! バンザーイッ!!」

 

そして、突っ込んで来る大洗機甲部隊に対し、逆に突撃を掛ける!!

 

「やらせん! 行くぞ! シュトゥルム!!」

 

「舐めるなぁっ!!」

 

「行っくぜぇ~~~~っ!!」

 

するとそこで、銃剣突撃して来る知波単機甲部隊に対し、ゾルダート、白狼、弦一朗の3人が、愛馬とマシンを駆って先行!

 

「シュトゥルムよ! 今が駆け抜ける時!!」

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ゾルダートがそう言い放ち、右手に握ったモーゼルC96を馬賊撃ちし、知波単歩兵達を薙ぎ払う!

 

「オリャアーッ!!」

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

白狼は敵陣の中へと突っ込んだかと思うと、その場で高速マックスターンし、まるで竜巻の様に知波単歩兵達を跳ね飛ばす!

 

「ライダアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ! ブレーイクッ!!」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

そして弦一朗は前輪を上げたウイリー状態で、銃剣突撃して来た知波単歩兵達を掻き分ける様に跳ね飛ばして行くっ!!

 

その勢いのまま、大洗機甲部隊は知波単機甲部隊の包囲網を突破した!!

 

「良し、コレで………」

 

「西住さん! 敵の三式が!!」

 

みほがそう呟いた瞬間、楓が慌てた様子でそう叫んだ!

 

「!?」

 

すぐにみほは知波単機甲部隊の三式中戦車改の姿を確認する。

 

すると、何と!!

 

知波単機甲部隊の三式中戦車改は、傾斜45度以上は有る筈の崖を下り、包囲網を突破した大洗機甲部隊の本隊を追撃しようとしていた!

 

「嘘っ!? あの崖を下ってる!?」

 

「何て無茶を!?」

 

信じがたい光景に、沙織と優花里がそう叫ぶ。

 

「! 皆さん! 敵の三式が追撃して来ています! 逃げてぇっ!!」

 

みほは慌ててそう指示を出す。

 

「何っ!?」

 

「うおっ!? マジかよ!?」

 

「あの崖を下って来てやがる!?」

 

それを受けて、大洗機甲部隊の面々も知波単機甲部隊の三式中戦車改が追撃して来ている事に気付き、慌てて散開し始める。

 

やがて知波単機甲部隊の三式中戦車改は、地面に叩き付けられる様に立つ。

 

乗員には相当の衝撃が襲った筈だが、そんな様子は微塵も見せず、散開している大洗機甲部隊の中で、フラッグ車であるクロムウェルに砲塔を向ける。

 

「! 狙われてるっ!!」

 

「分かってるって!!」

 

「砲塔旋回、間に合いませんっ!!」

 

聖子がそう叫ぶが、唯は既に精一杯の回避行動を取っており、優も砲塔の旋回が間に合わないと言う。

 

そんなサンショウウウオさんチームのクロムウェルに無慈悲にも狙いを定める三式中戦車改。

 

だが、その瞬間!!

 

「やらせるもんかぁーっ!!」

 

アリクイさんチームの三式中戦車が、その間に割って入って静止する。

 

「! アリクイさんチーム!」

 

「ぴよたんさん! お願いっ!!」

 

「ハイだっちゃっ!!」

 

聖子が叫ぶ中、三式中戦車は知波単機甲部隊の三式中戦車改を狙う!

 

「発射ぁっ!!」

 

そして、アリクイさんチームの三式中戦車と知波単機甲部隊の三式中戦車改から、ほぼ同時に砲弾が放たれた!!

 

両者の砲弾は至近距離で擦れ違い、知波単機甲部隊の三式中戦車改が撃った砲弾は、アリクイさんチームの三式中戦車の車体前面部に命中!

 

アリクイさんチームの三式中戦車の撃った砲弾は、知波単機甲部隊の三式中戦車改の砲塔基部へと命中した。

 

両戦車の被弾箇所からは朦々と黒煙が上がり、やがて同時に白旗が上がる。

 

『総隊長! 申し訳ありません! 撃破されましたっ!!』

 

「コレでコチラの大火力は全滅ね………」

 

撃破された知波単機甲部隊の三式中戦車改から、絹代へそう報告が飛び、絹代は苦い顔をする。

 

と、その直後に、絹代が乗る九七式中戦車の近くに砲弾が着弾する。

 

「! Ⅳ号!!」

 

その砲弾が、何時の間にか崖を降りて来ていたⅣ号の物であると気付き、声を挙げる絹代。

 

「このまま一気にフラッグ車を叩きます!」

 

キューポラから姿を晒しているみほが、車内の優花里達にそう言う。

 

「来るか!………良いわ! 勝負してあげるっ!!」

 

絹代はそう言うと、同じ様にハッチを開けて姿を晒し、九七式中戦車をⅣ号に向かわせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほ不在の中で、知波単機甲部隊の攻撃に必死に耐える大洗機甲部隊。

一方、五式中戦車と対峙していた弘樹は、吸着地雷を失いながらも、大胆な方法で五式中戦車の撃破に成功する。

あわや全滅かと思われたところで間に合ったみほ達あんこうチーム。
フラッグ車である絹代の九七式中戦車との一騎打ちが始まる。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第71話『西 絹代さんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第71話『西 絹代さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦力強化の為に行われた知波単学園の知波単機甲部隊との練習試合………

 

初手でみほの居るあんこうチームが随伴歩兵分隊のとらさん分隊ごと本隊から切り離される。

 

みほの指揮を失った大洗機甲部隊は知波単機甲部隊に包囲され、全滅も時間の問題かと思われた。

 

しかし、弘樹があんこうチームの足止めに来た五式中戦車の相手を引き受け、その間にあんこうチームは本隊へと合流。

 

いつもの調子を取り戻した大洗機甲部隊は、知波単機甲部隊の包囲を突破。

 

そして、知波単機甲部隊の総隊長である西 絹代の乗るフラッグ車でもある九七式中戦車と、みほ達あんこうチームのⅣ号との一騎打ちが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合会場・大洗町の外れ………

 

岩肌が露出している丘陵地帯………

 

「撃てっ!!」

 

みほの号令で、Ⅳ号の主砲が火を噴く!

 

「右15度転回!!」

 

「ハッ!!」

 

しかし、ハッチから姿を晒したまま絹代がそう指示を出したかと思うと、九七式中戦車は右へ15度転回。

 

Ⅳ号が放った砲弾は、九七式中戦車の砲塔右側、僅か10センチの所を擦り抜けて、後方の地面に着弾する。

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そしてお返しとばかりに九七式中戦車の主砲が発射される。

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の正面装甲に当たり、弾かれる。

 

「キャッ!?」

 

「次弾装填完了!」

 

被弾の衝撃に沙織が悲鳴を挙げる中、優花里が次弾の装填を終える。

 

「撃ちますっ!!」

 

照準器を覗き込んで居た華が、その照準に九七式中戦車が重なった瞬間に引き金を引く。

 

「左20度転回!!」

 

「ハッ!!」

 

しかし、絹代がまたもそう指示を出したかと思うと、九七式が今度は左方向へと転回。

 

Ⅳ号の砲弾は九七式中戦車の車体横、僅か5センチの距離を通過し、またも後ろの地面に着弾する。

 

「! 外れたっ!?」

 

「さっきから信じられん様な紙一重の回避だぞ………」

 

外した事に華が驚きの声を挙げ、麻子が先程から紙一重でⅣ号の砲撃をかわしている事に若干の戦慄を覚える。

 

「敵はコチラの砲撃タイミングを完全に読んでいます!」

 

「コレが………西さんの実力………」

 

優花里がそう報告を挙げると、みほは冷や汗を流した。

 

と、そこでまたしても九七式中戦車の撃った砲弾が、Ⅳ号の正面装甲に当たり、明後日の方向へ弾かれる。

 

「キャアッ!?」

 

「だ、大丈夫です! 旧砲塔のチハの装甲貫通能力は距離300メートルでも26ミリ! 絶対にコチラの正面装甲は抜けません!」

 

「でも、さっきから何発も撃ち込まれてるよ! このままじゃマズイんじゃ!?」

 

座席から落ちそうになり、みほが悲鳴を挙げると、優花里が心配は要らないとそう言うが、沙織がそう指摘する。

 

そう………

 

先程からⅣ号の砲撃は紙一重でかわされ続けているが、逆に九七式中戦車の砲撃は全弾命中しており、しこたま撃ち込まれたⅣ号の正面装甲は、一部が変形を起こしている。

 

その上、九七式中戦車は徐々にⅣ号との距離を詰めて来ており、このままでは何れ持たなくなるだろう。

 

「コチラの攻撃を紙一重でかわしながら、自分達の攻撃は的確に当てて来る………」

 

「隊長車兼フラッグ車を務めている戦車の乗員だけあるな。かなりの練度だぞ」

 

「…………」

 

華と麻子がそう言い合う中、みほはペリシコープ越しに九七式中戦車の姿を見やる。

 

「…………」

 

そんなみほの視線を感じているのか、絹代は不敵な笑みを浮かべている。

 

「!!………」

 

と、その笑みを見た瞬間に、みほはハッチを開けてキューポラから姿を晒す。

 

「!? 西住殿!?」

 

「みほさん!?」

 

「麻子さん! 敵戦車との距離をもっと詰めて下さい!!」

 

優花里と華の驚きの声も耳に入らない様子で、麻子にそう指示を出す。

 

「みぽりん! 幾らなんでも本当に危ないよっ!!」

 

「良いのか? 距離を詰めれば不利になるのはコッチだぞ?」

 

至近距離で撃ち合っている状況にも関わらず、車外へと姿を晒すみほに向かって叫ぶ沙織と、冷静にそう尋ねる麻子。

 

「構いません」

 

「分かった………」

 

「ちょっと、麻子ぉっ!?」

 

みほの返事を聞くと、沙織の抗議の様な声を無視し、麻子はⅣ号を九七式中戦車に近づける様に操縦し始めた。

 

「敵、接近してきます!」

 

「この状況で更に踏み込んで来るか………良い度胸だわ」

 

砲手兼装填手からの報告を聞き、絹代は自分と同じ様に車外へと姿を晒しているみほを見てそう言う。

 

「流石は弘樹の今の上官ね………コッチも更に接近よ! どうせ撃たれたら御終いよ! ぶつける積りで行きなさい!!」

 

「ハイッ!!」

 

絹代がそう指示を出すと、九七式中戦車の操縦手は、更にⅣ号に向かって接近して行く。

 

「総隊長!」

 

「西住総隊長が危ない!」

 

「援護するんだ!」

 

「根性ぉーっ!!」

 

磐渡、梓、俊、典子がそう声を挙げ、あんこうチームの援護に入ろうとする大洗機甲部隊。

 

「させるかぁー!」

 

「俺は防衛を行う! この位置を保てぇーっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「貴様は強くない!」

 

「ワシが片づけてやる!」

 

「知波単機甲部隊、此処に在りだぁーっ!!」

 

だがそれを、態勢を立て直した知波単機甲部隊が阻む。

 

「! 知波単機甲部隊!!」

 

「クッ! もう態勢を立て直したのか!? 予想以上に早い………イレギュラーだ!」

 

逞巳と十河がそう声を挙げる。

 

知波単機甲部隊は、絹代のあんこうチームとの対決への介入を防ぎつつ、大洗機甲部隊のフラッグ車であるサンショウウオさんチームのクロムウェルを狙う。

 

「後退するんだ、サンショウウオさんチーム! 万が一と言う事もある!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

エースがそう叫び、聖子が返事を返すと、クロムウェルが援護砲撃を行いながらやや後方へと下がる。

 

「「「「「「「「「「着剣っ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、知波単機甲部隊の突撃兵達の中で、着剣機能を持つ銃を持った者達が一斉に着剣!

 

「知波単機甲部隊! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そして、大洗歩兵部隊に対し、一斉に突撃を行って来た!

 

「来たぞ! 万歳突撃だ!!」

 

「砲兵部隊! 援護を………」

 

重音がそう声を挙げると、鋼賀が砲兵部隊に援護を要請しようとしたが………

 

「日本男児の意地の見せどころであるぞぉーっ!!」

 

「前進ー! 前進あるのみーっ!!」

 

それよりも早く、知波歩兵部隊達が、大洗歩兵部隊の中へと雪崩れ込んだ!

 

「うおわっ!?」

 

「駄目だ! フレンドリーファイアになる! 砲撃支援不能!」

 

「コッチもだ!」

 

両部隊の歩兵が入り混じった事で、フレンドリーファイアの危険性が大きくなり、砲兵部隊から明夫、戦車チームからはエルヴィンのそう言う声が挙がる。

 

しかし、それは知波単機甲部隊にとっても同じ事………

 

両歩兵部隊が激しく激突する中、知波単戦車部隊と砲兵部隊、大洗戦車部隊と砲兵部隊は睨み合いとなっている。

 

「クッ! 乱戦に持ち込まれたでござるか!」

 

周りで近距離での銃撃戦や格闘戦を展開している両歩兵隊員達の姿を見て、小太郎がそんな事を言う。

 

と、その時!!

 

「………!!」

 

殺気を感じて、小太郎は連続でバク転する。

 

すると、バク転する小太郎を追う様に、次々とスリケンやクナイが飛んで来て、地面に突き刺さる!

 

「!? コレは!?」

 

「「「「「ソイヤァッ!!」」」」」

 

驚く小太郎の目の前に、5つの影が舞い降りる。

 

「!!」

 

「赤の忍! 壱!!」

 

「青の忍! 弐!!」

 

「黄色の忍! 参!!」

 

「緑の忍! 四!!」

 

「黒の忍! 五!!」

 

その5つの影………忍装束風にアレンジされている大日本帝国陸軍の戦闘服を着込んだ、赤、青、黄色、緑、黒のカラフルな知波単歩兵達が、そう名乗りを挙げる!

 

「「「「「5人揃って! ゴニンジャーッ!!」」」」」

 

そして最後には、戦隊もの宜しく、5人で集合してポーズを取った。

 

「「「「「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ゴニンジャーです」」」」」

 

その後、小太郎に向かってアイサツをする。

 

「ドーモ。ゴニンジャー=サン。葉隠 小太郎です」

 

それに対し、小太郎も身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「貴殿の噂はかねがね伺っていた………」

 

「手合せの機会を得られたとは、僥倖」

 

「我等のカラテを見せてくれる」

 

「忍の誇りを賭けて………」

 

「イザ、尋常に勝負!」

 

ゴニンジャー達はそう言い放つと、其々忍者刀やクナイ、鎖鎌やスリケン等の獲物を構え、小太郎へと向かって行く。

 

「ニンジャ殺すべし。慈悲は無い………Wasshoi!」

 

そんなゴニンジャーに対し、小太郎はいつもの台詞と掛け声を決め、跳躍と共に迎え撃つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、あんこうチームと絹代の九七式中戦車の戦いは………

 

「「撃てっ!!」」

 

みほと絹代の声が同時に挙がり、正面から突撃し合っていたⅣ号と九七式中戦車が同時に発砲!

 

砲弾は、互いの砲塔のすぐ横を掠める様に飛んで行く。

 

「くううっ!」

 

「フッ………」

 

苦い表情を浮かべるみほと対照的に、不敵に笑う絹代。

 

Ⅳ号と九七式中戦車は、そのまま互いに更に接近して行ったかと思うと、衝突するかと思われた直前で互いに左へ方向転換。

 

そのまま、まるで戦闘機の巴戦の様に、互いに相手を追う様に回り出す。

 

「「…………」」

 

襲い掛かって来る遠心力に耐えながら、尚も姿を晒し続け、相手を見据えるみほと絹代。

 

「………急速後退!!」

 

とそこで、絹代が意表を衝くかの様に九七式中戦車を後退させた!!

 

「!? 停止っ!!」

 

「!?」

 

みほが驚きながらも指示を出すが、麻子の反応が遅れる!

 

後退して来た九七式中戦車は、後部からⅣ号の正面へとブチ当たる!

 

「「「「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」

 

「!!」

 

凄まじい衝撃が走り、沙織達が悲鳴を挙げ、みほはキューポラの縁にしがみ付く!

 

一方、ブチ当たった九七式中戦車は重量の違いで弾かれ、独楽の様に回転する。

 

「! 今よっ!!」

 

しかし何と!!

 

絹代が声を挙げたかと思うと、回転していた九七式中戦車がピタリと止まる!

 

如何やら、弾かれたと見せかけた運転だった様である。

 

恐るべき操縦技術である。

 

「貰ったわっ!!」

 

弾かれた様に見せかけて移動した九七式中戦車は、まだ静止した状態のⅣ号の車体後部へと狙いを定めた!

 

「!? 左信地旋回っ!!」

 

「クッ!」

 

だが、みほが素早く指示を出し、麻子はⅣ号を左信地旋回させる。

 

直後に九七式中戦車の主砲が火を噴いたが、車体を傾けたので避弾経始が出来、九七式中戦車の砲弾は弾かれる。

 

「! 今のを凌ぐの!?」

 

絹代が驚きの声を挙げる中、九七式中戦車は再び発進する。

 

「華さん!」

 

「ハイッ!!」

 

と、その移動先を読んでいたみほが、華へと指示を出すと、今度はⅣ号の主砲が火を噴く!

 

「!? うわっ!?」

 

直撃はしなかったが、かなりの至近弾で、九七式中戦車の車体が一瞬浮き上がった!

 

「やるわね! そう来なくっちゃっ!!」

 

しかしそれでも、絹代は楽しそうに笑い、九七式中戦車が発砲する。

 

放たれた九七式中戦車の砲弾はⅣ号の正面装甲に当たって弾かれる。

 

「ぐうっ!………」

 

「西住殿! 装甲が限界であります!!」

 

車体に走る振動にみほが顔を歪めていると、優花里が次弾を装填しながらそう報告する。

 

優花里の言葉通り、Ⅳ号の正面装甲はボコボコであり、コレ以上の攻撃に耐えられそうもなかった。

 

「分かってる。次で決着を着けます」

 

「何か手が有るんですか?」

 

みほがそう返すと、華が策が有るのかと問う。

 

「一か八かだけど………やるしかない。沙織さん!」

 

「えっ?」

 

突如呼ばれ、沙織が少し困惑した様子でみほの方を振り返って返事を返す。

 

「そろそろ残弾が心許無いわね………決着を付ける時かしら?」

 

一方、絹代の方も、九七式中戦車の砲弾の残り少ないのを確認してそんな事を呟く。

 

「やりますか! 総隊長!!」

 

「コッチは腹を括りました!」

 

「御命令を! 総隊長!!」

 

その途端に、覚悟を決めたと言う乗員達の言葉が挙がる。

 

「よし、やるわよ!………西住総隊長っ!!」

 

「!? ハ、ハイッ!?」

 

そこで絹代はみほに呼び掛け、突然呼びかけられたみほは困惑しながら返事を返す。

 

「車内に引っ込みなさい」

 

「えっ?」

 

「じゃないと危ないわよ」

 

そう言って、絹代は車内へと引っ込む。

 

「…………」

 

みほは困惑しながらも、どのみち最後の勝負に出る為、車内へと引っ込む。

 

そしてその瞬間に、Ⅳ号と九七式中戦車が、またもお互いに突撃する!

 

「知波単学園! バンザーイッ!!」

 

「「「バンザーイッ!!」」」

 

絹代がそう叫ぶと、乗員達も呼応して叫び、九七式中戦車が更に加速する。

 

「来ます! 沙織さん! お願いっ!!」

 

「わ、分かった!」

 

通信手席に備え付けられている車体機銃のMG34を構えながら返事をする沙織。

 

「麻子さん。合図したら相手の左側へと避けて下さい。沙織さんはその直後に履帯を狙って撃って」

 

「うん………」

 

「よ、よ~し! やるぞ~!!」

 

何時も通りポーカーフェイスの麻子と、やや緊張している様子を見せる沙織。

 

(多分、衝突直前で進路を変える筈………その時に一瞬動きが停まる………そこがチャンス………機銃で履帯の破壊は出来ないけど、上手く噛み合わせ部分に撃ち込めれば、一瞬だけど動きを止められる)

 

みほは食い入る様な目で、ペリスコープ越しに突撃して来る九七式中戦車を見据える。

 

ドンドンと距離を詰めて行くⅣ号と九七式中戦車。

 

すると、その瞬間!!

 

九七式中戦車の砲塔が旋回し、真後ろを向いた。

 

「!? 何をっ!?………」

 

その様子にみほが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

「行っけえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「エンジン全開っ!!」

 

絹代の叫びと共に、九七式中戦車の操縦士は、エンジンを目一杯吹かした!!

 

途端に!

 

九七式中戦車の車体前部が持ち上がり、ウィリーする!!

 

「!?」

 

「なっ!? 戦車でウィリーを!?」

 

みほと優花里が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

ウィリーしていた九七式中戦車はⅣ号と接触!

 

そのままⅣ号を乗り越え始めた!!

 

「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

「「!?」」

 

絹代が乗る九七式中戦車の荒業に、沙織、華、優花里が悲鳴を挙げ、麻子とみほが仰天を露わにする。

 

やがて、九七式中戦車はⅣ号を完全に乗り越えて、その背後の地面に着地した。

 

「!? しまった!?」

 

九七式中戦車の砲塔は後ろを向いており、既にⅣ号に狙いを定めている。

 

(やられる!!)

 

砲塔旋回も信地旋回も間に合わない為、みほはそう覚悟を決める。

 

しかし………

 

ボンッ!!と言う音が響いたかと思うと、九七式中戦車のエンジンルームから黒煙が上がった。

 

そして、一瞬の間の後、砲塔上部から白旗も上がる。

 

「「「「「………えっ?」」」」」

 

やられると思い込んでいたあんこうチームの面々は、思わず間抜けた声を漏らす。

 

「ア、アラァ?………」

 

絹代も、一瞬何が起こったのか分からず、困惑の表情を浮かべる。

 

「すみません、総隊長………エンジンがイかれました」

 

そこで、操縦士が申し訳無さそうにそう報告を挙げた。

 

「アチャ~~、持たなかったかぁ………まあ、仕方ないわね」

 

「すみません、総隊長! 自分がもっと上手く操縦出来ていれば………」

 

「貴方の責任じゃないわ。エンジンの負荷を見誤っていた私のミスよ………」

 

頭を下げて来る操縦士に、絹代は優しくそう返す。

 

「た、助かった~~………」

 

「間一髪だったな………」

 

「ドキドキしました………」

 

「私、まだちょっと手が震えてます………」

 

危うい所で難を逃れ、沙織、麻子、華、優花里から安堵の声が挙がる。

 

(もし、エンジンが壊れなかったら、やられていた………)

 

只1人、みほだけはペリスコープ越しに黒煙を上げている九七式中戦車を見て、まだ戦慄を覚えていたのだった。

 

「………何だ? 終わったのか?」

 

と、そこでやっとの事で戦場へ辿り着いた弘樹が、その場の様子を見てそんな声を挙げる。

 

『知波単機甲部隊フラッグ車、行動不能! よって、大洗機甲部隊の勝利!!』

 

主審の篠川 香音によるアナウンスが響き渡り、大洗機甲部隊VS知波単機甲部隊の練習試合は………

 

辛うじて、大洗機甲部隊が勝利を収めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了後………

 

両機甲部隊は試合開始前の集合地点に再集結。

 

損傷した戦車や車両が其々の学園艦に運ばれて行く中、両部隊の面々は互いの健闘を称え合っている。

 

「凄いですよ! 八九式中戦車であそこまで戦うなんて!」

 

「感動しました!」

 

「い、いや~、そんな~………」

 

「何か照れちゃいます~」

 

特に知波単戦車部隊からの人気が高いのが、日本初の国産制式戦車である八九式中戦車を使っているアヒルさんチーム。

 

そして………

 

「栗林殿に敬礼!」

 

「凄い!」

 

「お見事ぉ!」

 

「太平洋の嵐!」

 

「…………」

 

知波単歩兵部隊から人気を集めているのが、あの名将・栗林中将の子孫である熾龍だ。

 

当の本人はこういう事に慣れていないのか、只々仏頂面で黙り込んでいるが、それでもドンドンと知波単歩兵隊員達が群がっている。

 

「………アレ? 舩坂くんは?」

 

そんな中、弘樹の姿が無い事に気付いたみほが、弘樹を探し始める。

 

「………あ」

 

そして、弦一朗が使っているバイク・陸王と同じ型のバイクの前で、そのバイクに寄り掛かっている絹代と談笑している弘樹の姿を見つける。

 

「流石ね、弘樹。まさか貴方1人に五式中戦車をやられるとは思わなかったわ」

 

「いえ、今回撃破出来たのは運が良かっただけです。試合も、何かが違っていれば、勝ったのは西総隊長達だったでしょう」

 

「フフ、運も実力の内………寧ろ、運さえも呼び込むのが、必然の勝利って奴じゃない?」

 

そんな自論を弘樹へと語る絹代。

 

「フフフ、相変わらずですね」

 

その自論を聞いて、弘樹は微笑を見せる。

 

「…………」

 

みほは思わず、近くに在った一式装甲兵車の陰に隠れて、そんな2人の会話に聞き耳を立て、様子を窺う。

 

「それにしても、やっぱり弘樹と居ると昔の事を思い出すわね」

 

「確かに………思えば色んな学校と戦ったものです………」

 

「ウド学園の混乱………クメン校の地獄………巡り巡ってサンサ学園の狂気………クエント高までもブッ飛ばしたわよね」

 

「元生徒だったグレゴルー達に乗せられて、赤肩高校と試合した事もありましたね」

 

「1番肝を冷やしたのはモナド校との戦いよ。アンタが居る分隊がよりによって敵陣の中央で孤立して、敵全軍が群がって行ったんだから」

 

「ええ、良く覚えています」

 

「もう、皆自棄になっちゃって、『俺達は死なねえっ!』なんて叫びながらモナド校の戦力を全て相手にしてね。結局、最後には弘樹を残して全滅したけど」

 

絹代は懐かしむ様な表情で、楽しげに語る。

 

「コチャックが真っ先にやられた時は、悪いと思ったけど、笑っちゃったわ」

 

「笑い事じゃありませんよ。本当に死ぬかと思っていたのですから」

 

そう言う弘樹だが、その顔にはやはり微笑が浮かんでおり、絹代と同じ様に楽しげな様子だ。

 

「…………」

 

そんな2人の姿を見ていて、みほは胸が苦しくなる。

 

「………ねえ、弘樹」

 

と、不意に絹代が真面目な表情となり、弘樹に声を掛ける。

 

「? ハイ?」

 

絹代の空気が変わった事を察するが、その理由が分からず、軽く困惑を見せる弘樹。

 

「知波単に来る気はない?」

 

「!?」

 

そこで絹代はそう切り出し、隠れていたみほは驚愕する。

 

「貴方が来てくれれば、知波単はもっと強くなるわ。私は3年だから、来年の大会には出られないし、貴方だったら何れは知波単を纏める立場に立てる。如何、弘樹?」

 

弘樹の事を見据えながらそう問う絹代。

 

「…………」

 

当の弘樹は、只無言で絹代を見返している。

 

(舩坂くん………)

 

そんな弘樹の事を、隠れているみほは気が気でない様子で覗き込む。

 

と………

 

「………申し訳ありません。それは出来ません」

 

弘樹は絹代に向かってそう言い放った。

 

「!!………」

 

「そっか………まあ、予想はしてたけどね」

 

途端にみほは安堵した様に膝を着き、絹代はあっけらかんとそう言う。

 

「小官は今、大洗機甲部隊の一員です。今の戦友達を見捨てて行くなど、出来るワケがありません」

 

「そうよね。貴方はそう言う人だもんね」

 

「それに………小官には、今大洗機甲部隊で成し遂げなければならない使命があります」

 

「それって、西住 みほちゃんの事?」

 

「………!!」

 

自分の名が挙がり、みほは再び2人の様子を覗き見る。

 

「ええ………」

 

「へえ~~、あのお堅い弘樹がそこまで熱を上げるなんて………みほちゃんもやるわね」

 

「そういう事ではありません」

 

囃し立てる様な絹代の言葉を流す様にそう返す弘樹。

 

「総隊長もご存じと思われますが、彼女は去年の1件で戦車道に対しトラウマを抱えていました」

 

「決勝での事ね………」

 

「大洗に引っ越して来たのも、当初は戦車道が無いからでした。しかし、彼女は自分を守ろうとしてくれた友達の為に再び戦車道に向き合ったのです」

 

「そう………」

 

「そんな彼女の事を見ていたら、手助けしてやらねばならん………力を貸してやらねばならん………そう思ったのです」

 

「…………」

 

真剣な表情でそう語る弘樹を見ていたみほの顔が赤くなる。

 

「成程ね。貴方らしいわね………? アラ?」

 

とそこで、絹代がふと視線を弘樹から外すと、此方を覗き見しているみほの姿を捉える。

 

「?!」

 

みほは慌てて一式装甲兵車の陰に隠れる。

 

「? 如何しました?」

 

しかし、弘樹の方は気づいていない様で、絹代にそう尋ねる。

 

「………いえ、何でも無いわ」

 

すると絹代は、弘樹にそう返す。

 

「ねえ、弘樹。みほちゃんの事を1人の女の子としては如何思ってるの?」

 

そして、弘樹に向かってそう尋ねる。

 

「ですから、そう言う事では………」

 

「もう~、貴方って戦闘に関する事は鋭いのに、そう言うのはまるでニブチンね………いや、自分自身でも自覚しきれてないのかもね」

 

「? 如何言う事ですか?」

 

絹代の言う言葉の意味が分からず、弘樹は首を傾げる。

 

「それは自分で考えなさい。私からの………最後の命令よ」

 

絹代はそう言うと、バイクから離れて、その場を去り出した。

 

そのまま、みほが隠れている一式装甲兵車の方に向かう絹代。

 

そしてその陰を覗き込むと………

 

「…………」

 

一式装甲兵車の転輪の隙間に上半身だけ潜り込んで隠れている積りのみほの姿を発見する。

 

「ブフッ!………みほちゃん。その隠れ方は無理があるわよ」

 

思わず吹き出して笑ってしまう絹代だったが、何とか堪えてみほにそう呼び掛ける。

 

「…………」

 

するとみほは、気恥ずかしそうに転輪の隙間から出て来る。

 

「え、えっと………わ、私………」

 

「可愛い~!」

 

みほが何と言って良いか分からず、しどろもどろとしていると、不意に絹代は、そんなみほの事を抱き締めた。

 

「!? はわわっ!?」

 

「もう~! 可愛いわね~、貴方! 弘樹が惚れるのも無理ないわ」

 

「!? ほ、惚れるって………」

 

絹代からそんな言葉が出て、みほは狼狽する。

 

「ああ、アレは自覚してないでしょうけど、確実に貴方に惚れてるわよ。良かったじゃない。相思相愛ってワケね」

 

「あ、あううう………」

 

真っ赤になって縮こまるみほ。

 

「けど、気をつけなさい。アイツ、あの通りニブチンで不器用だからね。しっかりと捕まえようとしないと、アッサリ置いてかれちゃうから」

 

そんなみほに向かって、絹代はアドバイスするかの様にそう言う。

 

「………西さん」

 

「絹代で良いわよ」

 

「………絹代さん………絹代さんは舩坂くんの事を………」

 

好きなのか? と聞こうとして言葉が出ないみほ。

 

「さあ、如何かしらね?」

 

それに対し、絹代ははぐらかすかの様にそう返す。

 

「ま、しっかりやんなさい。取り敢えずは先ず………名前で呼び合える様になりなさいよ」

 

「ハ、ハイ!」

 

そう言って朗らかに笑う絹代に、みほはしっかりとした返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数時間後………

 

知波単学園の学園艦が出航する事になり、大洗機甲部隊のメンバー全員で、港まで見送りに出る。

 

知波単機甲部隊は、全員が艦舷のエリアに立ち、一斉に敬礼を送って見送りに返礼する。

 

大洗機甲部隊のメンバー達がその様に圧倒される中、知波単学園の学園艦はゆっくりと出航して行ったのだった。

 

「ああ、そうだ。舩坂くん。実は西総隊長から去り際に、君に渡して欲しいと預かった物があるのだよ」

 

「コレです」

 

と、見送りが終わったタイミングで、迫信が弘樹にそう言い、逞巳が長いケースの様な物を持って現れ、そのケースを弘樹に差し出す。

 

「小官に?………」

 

そのケースを受け取ると、中を改める弘樹。

 

ケースの中には、1丁の小銃が納められていた。

 

「! コレは………」

 

その小銃を見て軽く驚きを示す弘樹。

 

「ほう、珍しい………『四式自動小銃』か」

 

迫信もその小銃を見てそう呟く。

 

そう………

 

その小銃は太平洋戦争末期に、旧日本軍がM1ガーランドをコピーして製造した日本製の自動小銃………

 

『四式自動小銃』だった。

 

「ん?………」

 

更に弘樹は、その四式自動小銃にメッセージカードの様な物が付けられている事に気付く。

 

『近々に良い事が有ると思うわ。楽しみに待っていなさい 西 絹代』

 

(………一体何の事だ?)

 

絹代のそう言うメッセージを受け取る弘樹だったが、まるで予想がつかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合が迫る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に知波単機甲部隊とも戦いも決着。
戦車の性能差を覆す指揮技術でⅣ号を肉薄した絹代。
しかし、酷使し過ぎたチハの自壊で、正に首の皮1枚の勝利。

弘樹と絹代が懐かしい話に花を咲かせているのにちょっと嫉妬しながらも、他ならぬ絹代から恋も激励を受けるみほ。

去り際に、絹代は四式自動小銃を弘樹にプレゼントする。
更に、良い事があると言うメッセージを残す。
果たしてそれは何か?

次回からはいよいよプラウダ戦関連のエピソードになります。
年末年始も休まず週一更新しますので、ご安心下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第72話『プラウダ&ツァーリ機甲部隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第72話『プラウダ&ツァーリ機甲部隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知波単機甲部隊との練習試合も無事終わり………

 

第5回戦の対戦相手である『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』との試合に向けた訓練が再開される。

 

知波単機甲部隊の総隊長である絹代は、去り際に弘樹へ四式自動小銃と良い事があると書かれたメッセージカードを残して行った。

 

果たしてそれは、何を意味しているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある流氷の浮かぶ海………

 

極寒の海を進む1隻の学園艦………

 

キエフ級空母に酷似した外観のその学園艦こそ、プラウダ校とツァーリ神学校の学園艦であった。

 

その甲板都市の中心にあるプラウダ校とツァーリ神学校の内、プラウダ校の応接間にて………

 

「5回戦突破、おめでとうございます」

 

「ま、その栄光もカチューシャ達と当たるまでよ!」

 

「勝負は時の運と言うでしょう?」

 

プラウダ戦車部隊の副隊長であるロングの黒髪で背の高い女子『ノンナ』と、プラウダ戦車部隊の隊長であり、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長である金髪のショートボブでかなり小柄な女子『カチューシャ』が、来客であるダージリンを持て成していた。

 

「どうぞ………」

 

「ありがとう、ノンナ」

 

「いいえ………」

 

ノンナが、カチューシャとダージリンが着いて居るテーブルの上に、トレイの上に乗せて持って来たロシアンティーとジャムを置く。

 

ダージリンは、出されたジャムを紅茶に入れようとする。

 

「違うの!」

 

しかしそれを見たカチューシャがそう言う。

 

「ジャムは中に入れるんじゃないの。舐めながら、紅茶を飲むのよ」

 

カチューシャはそう言うと、ジャムを舐めて紅茶に口を付ける。

 

コレはロシアの作法であり、寒い地方で紅茶にジャムを入れると茶の温度が下がり、体を温めるのに適さなくなってしまう事が理由の1つだと言われている。

 

ロシアと深い交流が有り、戦車や装備も旧ソ連製の物が占めているプラウダならではである。

 

「付いてますよ」

 

と、カチューシャの口の周りにジャムが付いている事をノンナが指摘する。

 

「余計な事言わないで!」

 

「ピロージナエ・カルトーシカもどうぞ。ペチーネも」

 

カチューシャが怒る様にそう言うのを聞きながら、ノンナは合わせて持って来ていた茶菓子………ピロージナエ・カルトーシカとペチーネを、矢鱈と流暢なロシア語で発音しながらテーブルの上に置く。

 

「今度はそちらの試合が近いのに、余裕ですわね。訓練しなくて良いんですの?」

 

「燃料と弾薬が勿体無いわ。幾らダークホースだなんて言われてても、所詮は聞いた事も無い弱小校だもの」

 

余裕の様子でそう言い放つカチューシャ。

 

「でも、総隊長は家元の娘よ。西住流の」

 

「えっ!? そんな大事な事を何故先に言わないの!!」

 

ダージリンのその台詞を聞いた途端、カチューシャは傍に控えていたノンナにそう怒鳴る。

 

「何度も言ってます」

 

「聞いてないわよ!」

 

「但し、妹の方だけれど………」

 

「えっ!? あ、な~んだ………」

 

それを聞いて、安堵した様子を見せるカチューシャ。

 

「黒森峰から転校して来て、無名の学校をココまで引っ張って来たの」

 

「そんな事を言いに、態々来たの? ダージリン」

 

「まさか。美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ」

 

そう言って紅茶に口を付けるダージリン。

 

「あの、ダージリンさん。ちょっとお尋ねしたい事があります」

 

するとそこで、ノンナがダージリンに向かってそう言う。

 

「アラ? 何かしら?」

 

「ダージリンさんは、舩坂 弘樹の事も良く御存じなのですか?」

 

「ええ、直接関わったのはアールグレイだけど、彼の試合での様子も注目させてもらっているわ」

 

「そうですか………それで、如何なのですか? 舩坂 弘樹と言う人物は?」

 

「何よ、ノンナ? そんな奴の事が気になるの?」

 

とそこで、カチューシャが不機嫌そうにそう口を挟む。

 

「英霊の子孫だが何だか知らないけど、所詮は歩兵の1人じゃない。私達プラウダ&ツァーリ機甲部隊の前じゃ、吹けば飛ぶ様な存在よ」

 

「あの方を余り甘く見ない方が宜しくてよ」

 

完全に弘樹の事を見下している様子のカチューシャだが、ダージリンが真面目な表情でそう言って来る。

 

「あの方は言うなれば針………」

 

「針?」

 

「そう………心臓に向かう折れた針よ」

 

「! ゲホッ! ゴホッ!」

 

ダージリンがそう言った瞬間、ノンナが………

 

むせる

 

「!? ノンナ!? 如何したの!?」

 

「い、いえ、何でもありません………只の生理現象です」

 

カチューシャが慌てた様子でそう言うと、ノンナは呼吸を整えながらそう返す。

 

(回っている様ですわね………舩坂 弘樹と言う毒が………)

 

そんなノンナの姿を見て、ダージリンは内心でそんな事を思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

プラウダ校の正門前にて………

 

「今日はどうも御馳走様でした」

 

「またいつでも居らして下さい」

 

「カチューシャは心が広いからね。歓迎してあげるわ」

 

迎えに来たオレンジペコのSASジープの助手席に乗ったダージリンが、ノンナとカチューシャに見送られている。

 

「出しますね」

 

「ええ、お願い………では、御機嫌よう」

 

オレンジペコがそう言い、ダージリンがカチューシャとノンナに向かって会釈すると、SASジープは発進する。

 

「「ダスビダーニャ」」

 

カチューシャとノンナはロシア語で別れの言葉を送る。

 

やがて、SASジープの姿が完全に見えなくなったかと思うと………

 

突如!

 

ノンナの背後から何者かの手が伸びて来て、ノンナの胸を揉み始めた。

 

「うへへへへへ。相変わらず良い身体してるね~、ノンナちゃ~ん」

 

その犯人は男………

 

ツァーリー神学校のツァーリ歩兵部隊のエース、『ピョートル』だった。

 

台詞、行為、顔………

 

全てが法律違反だ。

 

「…………」

 

しかし、当のノンナは胸を揉まれているにも関わらず無表情のままである。

 

「………フッ」

 

だが、不意にピョートルの方を振り返ったかと思うと、微笑みを零す。

 

「おっ!………」

 

それを見たピョートルが気を良くした瞬間………

 

ノンナは、プロボクサーも真っ青なアッパーカットを繰り出し、ピョートルの顎を殴りつけた!

 

「ゲボハァッ!?」

 

ピョートルは口から光る物を撒き散らしながら、まるで漫画の様に宙に舞い、10秒ほど滞空したかと思うと、後頭部から地面の上に墜落した。

 

「イテテテ………手厳しいなぁ、ノンナちゃん。ほんの挨拶じゃないかぁ」

 

しかし、ピョートルは何事もなかったかの様に起き上がる。

 

「と言うワケで、今度はお尻の方を………」

 

と、ピョートルが再び法律違反な顔をしてノンナに近づこうとしたところ、その後頭部に何かが突き付けられる。

 

「ピョートル………バーベキューは好きか?」

 

ピョートルにそう問い質すのは、火炎放射器を持っているツァーリ神学校の生徒………ピョートルと同じくツァーリ歩兵部隊の『デミトリ』だった。

 

「いや、好きだけど………自分がバーベキューになるのはちょっと………」

 

そう言ってスゴスゴと引き下がるピョートル。

 

「全く………大丈夫だったか? ノンナ」

 

「ええ、心配ありません」

 

デミトリがそう尋ねると、ノンナは事務的にそう返す。

 

だが、その顔には微かに微笑みが浮かんでいる。

 

「アンタも懲りないわね。いい加減にしたら如何なの?」

 

とそこで、カチューシャがピョートルに向かってそう言い放つ。

 

「コレが俺の性だ。変え様が無いさ………あ~あ~、『姉ちゃん』もボンッキュッボンッな体型だったらなぁ………」

 

「! このぉっ! カチューシャが気にしてる事を~っ!!」

 

カチューシャの事を姉と呼ぶピョートル。

 

そう………

 

実はこのピョートルと言う男………

 

何を隠そう、カチューシャの実の弟なのである。

 

しかし、127cmと言う高校3年生とは思えないカチューシャに対し、高校2年生であるピョートルは平均的な171cm。

 

2人が並ぶと、如何してもカチューシャの方が妹に見えてしまう。

 

「粛清してやる~!」

 

両腕を振り回してピョートルに向かって行くカチューシャ。

 

「よっ!」

 

それに対し、ピョートルはカチューシャの頭を手で押さえ付ける。

 

「むき~~~っ!」

 

カチューシャは更に腕を振り回してピョートルを殴りつけようとするが、頭を押さえられているので一向に近寄れない。

 

まるでどこぞのお笑い芸人のギャグの様な光景である。

 

「アハハハハッ!」

 

そんなカチューシャの姿を見て笑うピョートル。

 

「むう~っ! ノンナ~っ!!」

 

最後には泣きながらノンナの方へと駆け寄って行くカチューシャ。

 

「カチューシャッ!」

 

ノンナは屈んで、そんなカチューシャの事を抱き締める。

 

「…………」

 

するとそこで、デミトリが無言で火炎放射器をピョートルに向けた。

 

「あ………」

 

「少し悪戯が過ぎたな………同志ピョートル」

 

態々同志と付けてそう言った瞬間!!

 

デミトリは火炎放射器の引き金を引き、ピョートルに火炎を浴びせた!

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? アッチッチーッ!!」

 

全身を炎に包まれ、地面を転がるピョートル。

 

「良くやったわ! デミトリ!!」

 

「スパシーバ」

 

カチューシャがそれをみて喜び、ノンナも流暢なロシア語でお礼を言う。

 

「いえ………と、ご報告が遅れました。『例の計画』は順調に進んでおります。この分ですと、予定していた規模よりも更に拡大出来るかと」

 

するとそこで、デミトリはカチューシャに向かってそう報告した。

 

「アラ、そう? それは良いわね」

 

その報告を受けたカチューシャは上機嫌となる。

 

「しっかし良いのか? こんな事して? アイツ等にだって都合は有るだろう?」

 

とそこで、漸く火が消えたピョートルが、全身黒焦げでアフロヘアになっている状態でそう言って来る。

 

「構わないわ。ちゃんと単位やテスト免除って言った報酬も払ってるんだから。全ては我が偉大なる母校の勝利の為よ」

 

カチューシャはそう言うと、ノンナに肩車される。

 

「貴方の活躍にも期待してるわよ………『ラスプーチン』」

 

そこで後ろを振り返りながらそう言うカチューシャ。

 

そこには何時の間にか、ウェーブの掛かった灰色の髪に少々彫りの深い顔をした男が居た。

 

「お任せ下さい、偉大なる同志カチューシャ。必ずや我等が母校と貴方の為に勝利を………」

 

その男………『ラスプーチン』は、軽く会釈をしながら不敵に笑ってそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度同じ頃………

 

黒森峰の学園艦にて………

 

黒森峰男子学院・歩兵道演習場にて………

 

「良し! 今日の訓練はコレまでとする!」

 

「一同! 教官に礼!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたッ!!」」」」」」」」」」

 

訓練を終えた黒森峰歩兵部隊の面々が、都草の号令で教官に礼をする。

 

「うむ………」

 

それを見た教官は敬礼を返し、その場を後にする。

 

「梶隊長! この後少しお時間を頂けないでしょうか?」

 

「ああ、構わな………ん?」

 

都草が歩兵隊員の1人に話し掛けられた瞬間、携帯電話のメール着信音が鳴る。

 

「すまない、ちょっと待ってくれ………」

 

歩兵隊員にそう言うと、メールを確認する都草。

 

『今男子学院の校門前に居る。すぐ会えないか? まほ』

 

メールには簡潔にそう書かれていた。

 

「(まほから?………)すまない、急用が出来てしまった。また今度で頼めるかな?」

 

「あ、そうですか。コチラこそすみませんでした。では」

 

都草がそう言うと、歩兵隊員は敬礼して去って行く。

 

(まほの方から会いたいだなんて………何かあったのか?)

 

それを見送った後、滅多に自分から会いたいなどとは言わないまほが呼び出しをしてきた事に少し引っ掛かりを感じながら、都草は校門へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰男子学院・校門前………

 

「…………」

 

制服姿のまほが、校門に背を預けて寄り掛かっている。

 

心成しか、その表情には陰りが見受けられる。

 

「まほ!」

 

「!………」

 

そこへ、戦闘服姿のままの都草が到着する。

 

「如何したんだい? 確か今日は実家の方に顔を出していたんじゃ………」

 

と、都草がそう言いかけた瞬間!

 

まほが、都草の胸に飛び込む様に抱き付いて来た。

 

「おわっ!? まほ!?………!?」

 

らしくもない大胆な行動に都草は一瞬戸惑ったが、すぐに抱き付いて来たまほの身体が小刻みに震えている事に気付く。

 

「………実家で何かあったんだね?」

 

すぐにそう察する都草。

 

「都草! みほが! みほが!!………」

 

都草に向かって事情を説明しようとするまほだが、余程動揺しているのか、声が震え、言葉が上手く出ない。

 

「まほ、大丈夫だ。落ち着いて………」

 

そんなまほを落ち着かせる様に、都草はその身体を優しく抱き締める。

 

「う、ううう………」

 

それに安心したのか、まほからは嗚咽が漏れ始めるのだった………

 

 

 

 

 

数分後………

 

「………落ち着いたかい?」

 

「ああ………」

 

落ち着きを取り戻したまほが、都草から離れる。

 

「それで、一体何があったんだい?」

 

改めてまほにそう問い質す都草。

 

「………みほが………西住家から勘当されてしまう」

 

一瞬の沈黙の後、まほは絞り出すかの様にそう答える。

 

「! 如何言う事だい?」

 

一瞬驚きながらも、平静を保って都草はそう尋ねる。

 

そして、まほ曰く………

 

 

 

 

 

最近の活躍により、大洗機甲部隊の名が知れ渡り………

 

遂にまほとみほの母であり、西住流戦車道の現師範であるしほの耳にも、みほが大洗で戦車道を続けている事が入った。

 

しほは怒り心頭の様子で、西住の名を背負っている以上、コレ以上のみほの勝手な振る舞いは許せないとの事である。

 

よって、みほを実家、引いては黒森峰に連れ戻す為、次の大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊の試合を観戦しに行くと。

 

しかし………

 

もし大洗機甲部隊がプラウダ&ツァーリ機甲部隊に敗れれば………

 

西住流としても用は無し。

 

その場にて勘当を言い渡すと宣告したのである。

 

 

 

 

 

「しほさん………何故そこまでみほちゃんの事を………」

 

しほのその決定に、都草も納得が行かない様子を見せる。

 

「みほちゃんにはその事は?」

 

「菊代さんが知らせに行ってくれた………とても私からは話せないから」

 

「そうか………」

 

「けど、あの子の事だ。もう黒森峰に戻って来る積りなんてない………けど、今の大洗の戦力ではプラウダ&ツァーリ機甲部隊に勝つのは厳しい………そうなればみほを待っているのは………」

 

そう言いかけた瞬間、またも身体を震わせ出すまほ。

 

「まほ………」

 

「都草! 私は! 私は………如何したら良いんだ!?」

 

泣き声で都草にそう言うまほ。

 

その姿は戦車道最強の黒森峰女学院の総隊長であり、西住流次期師範ではなく………

 

只の妹を心配する18歳の少女だった。

 

「…………」

 

都草はそんなまほの事を再び抱き締める。

 

「今は信じるしかない………大洗が勝つ事を………」

 

「都草………」

 

「大丈夫。きっと大洗は勝つさ。君の妹が指揮を取っているんだからね。それに………あの英霊の子孫も居る」

 

「舩坂 弘樹………」

 

まほの脳裏に、何時ぞや、戦車喫茶の前でみほを守ると宣言していた弘樹の姿が思い起こされる。

 

「だから………今日は寮に帰ってゆっくりと休んで、気持ちを落ち着かせるんだ」

 

「うん………ありがとう、都草」

 

そこでまほは、若干重い足取りながらも、寮へと向かう帰路に着く。

 

「………さてと」

 

まほが居なくなったのを確認した都草は、何かを決意した様な顔で、校舎の方へと戻って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、プラウダ&ツァーリ、黒森峰でそんな事が在ったなど知らないみほ達、大洗の面々は………

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「よっし! こんなもんかな………」

 

「コッチも取り付け終わったよ~」

 

Ⅳ号の砲塔の上に乗って居たナカジマがそう言うと、同じ様に八九式の砲塔の上に乗って居たホシノからもそう声が挙がる。

 

良く見ると、Ⅳ号のキューポラ付近には機銃架が備え付けられ、ラインメタル/マウザー・ヴェルケMG34機関銃が装備されていた。

 

八九式の方にも、ハッチ付近に機銃架と九七式車載重機関銃が装備されている。

 

更に、格納庫内に並んでいる大洗戦車部隊の戦車全てのハッチ若しくはキューポラ付近に、機銃架と機関銃が装着されている。

 

Ⅲ突と38tには、Ⅳ号と同じMG34。

 

三式には八九式と同じ九七式車載重機関銃。

 

M3リーにはブローニングM1919重機関銃。

 

ルノーB1bisにはFM mle1924/29軽機関銃。

 

そしてクロムウェルにはビッカーズ・ベルチェー軽機関銃が装備されていた。

 

「西住総隊長。全車両への機銃架、及び機関銃の取り付けは完了した」

 

「ありがとうございます」

 

「コレで歩兵が寄って来ても多少は対処が可能ですね」

 

敏郎がそう報告を挙げ、みほがそう返している横で、機銃架と機関銃が備え付けられた戦車達を見ながら弘樹がそう言う。

 

「プラウダ&ツァーリ機甲部隊は歩兵の兵数が全校中1位ですからね………コチラの歩兵部隊だけでは対処し切れなくなる可能性がありますから………」

 

「そんなに歩兵が居るの?」

 

「どれぐらいなんですか?」

 

優花里が説明する様にそう言うと、沙織と華がそう尋ねる。

 

「………去年の決勝戦では、黒森峰の歩兵部隊が1万人だったのに対して、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の歩兵は、凡そ5万人でした」

 

「ご、5万人っ!?」

 

「黒森峰の5倍じゃねーかよ………」

 

優花里に代わる様にみほがそう言うと、沙織が驚愕の声を挙げ、地市が戦慄した様子でそう呟く。

 

「僕達の方は度々増員を行ってますけど、まだ1000人にも満たないですね………」

 

「全然駄目じゃねえかよ! 飲み込まれて終わりだっての!!」

 

楓がそう呟くと、了平が絶望した様な声を挙げる。

 

「…………」

 

そんな了平を、弘樹が睨みつける。

 

「ヒイッ! す、すんませんでした! 分隊長っ!!」

 

「ま、確かに、数で負けてるなんざ、毎度の事だからな………」

 

了平が慌てて姿勢を正して敬礼すると、白狼が皮肉の様な台詞を吐く。

 

「せめて、パシフィック機甲部隊みたいに、支援要請が使えたら良いんですけど………」

 

「ああ、それも『航空支援』がな………」

 

逞巳がそう呟くと、俊がそう言う。

 

 

 

 

 

『航空支援』………

 

支援要請の1つで、その名の通り、『航空機道』の戦闘機、爆撃機、攻撃機、雷撃機、観測機、偵察機などによる支援である。

 

艦船による支援は、内地が戦闘フィールドとなった場合、支援不可能となるが、航空機ならば大概の戦闘フィールドで支援が可能だ。

 

空中からの支援と言う事もあり、非常に強力で、特に使用頻度・重要性が高い支援要請である。

 

航空支援の使い方が試合の勝敗を分かつとまで言われている。

 

 

 

 

 

「けど、私達の学園は元より、男子校の方でも航空機道はやってないから………」

 

「何処かの学校に支援依頼をしないと………」

 

逞巳と俊の言葉を聞いていた柚子と蛍がそう言い合う。

 

 

 

大概の機甲部隊では、支援要請を行う軍艦道や航空機道の者達は、同じ学園に所属している。

 

しかし、中には戦車道、歩兵道は有っても、軍艦道、航空道が無い学園。

 

或いはその逆に、戦車道、歩兵道が無く、軍艦道、航空道が有ると言う学園も存在する。

 

そう言った学園への救済措置として、戦車道・歩兵道委員会は、戦車道、歩兵道は有っても、軍艦道、航空道が無い学園は、戦車道、歩兵道が無く、軍艦道、航空道が有ると言う学園に対し、支援部隊になってもらう事を依頼出来ると言うルールを制定している。

 

だが、前述した通り、飽く迄『依頼』と言う形になる為、支援部隊になるかは如何かの判断は、依頼された学園側の責任者に一任されている。

 

大概は見合った報酬などを要求される為、支援依頼が出来るにはそれなりに裕福な学校とされている。

 

無論、報酬などでは動かず、琴線に触れるか如何かで支援部隊になるかを決める学園も在るが、極稀である。

 

 

 

「我々の方でも様々な学園艦を当たって見ては居るが………」

 

「強い所は既に他校に抑えられているか、報酬が高過ぎる学園ばかりで、如何にも………」

 

十河と清十郎が苦い顔でそう呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

格納庫内の空気が重くなる………

 

「何だ、お前等! その空気は!? 良いか! 例え相手が去年の優勝校でどれだけの数の差が有ろうと、我々が絶対に勝つぞ! 負けたら終わりなんだからな!!」

 

とそこで、桃がそんな空気を振り払う様に、皆に向かってそう言い放つ。

 

「如何してですか?」

 

すると、歩兵隊員の1人からそんな声が挙がる。

 

「負けても来年があるじゃないですか」

 

「そもそも、今年になって戦車道を復活、歩兵道を再興させた俺達がココまで来れただけでも十分な成果だと思いますよ」

 

「相手は去年の優勝校ですよ」

 

それを皮切りに、他の歩兵隊員達からもそう声が挙がり始める。

 

「そうですよ。ココは1つ、来年に向けて胸を借りる積りで………」

 

「それでは駄目なんだっ!!」

 

と、そんな言葉が出た途端に、桃はそれを遮るかの様に大声を挙げた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如大声を挙げた桃に、大洗機甲部隊の面々は驚いて固まる。

 

広い格納庫内が一瞬にして静まり返る………

 

「………勝たなきゃ駄目なんだよね」

 

やがて杏が、意味有り気にそう呟いた。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

事情を知る弘樹と迫信を初めとした男子校生徒会メンバーは、そんな杏の姿を見やる。

 

「………西住、指揮!」

 

やがて桃は、場を仕切り直すかの様にみほにそう言う。

 

「あ、ハイ。では、訓練開始します」

 

みほは引っ掛かるモノを感じながらも、皆に向かってそう言い、本日の訓練を開始する。

 

「西住ちゃん」

 

「? ハイ?」

 

Ⅳ号へと向かう途中、杏に呼び止められるみほ。

 

「後で大事な話が有るから、生徒会室に来て」

 

みほの方を見ずにそう言う杏。

 

その表情は何時になく真剣である。

 

「あ、ハイ………」

 

「…………」

 

戸惑いがらも了承の返事を返すみほと、そんなみほと杏の姿を見て表情を硬くする弘樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、訓練が終わり………

 

すっかり日が暮れた中、弘樹は帰路に就いて居た。

 

(角谷生徒会長は西住くんにあの話をする積りだろうか………)

 

杏の様子から、みほに廃校の件を話すのだろうかと推測している弘樹。

 

(だが、今の今まで内緒にしておいて、果たして話せるのだろうか………)

 

弘樹の胸中には、一抹の不安が過っている。

 

そうこう考えている内に、自宅へと到着する。

 

すると、薄暗い中、門の前に佇む人影を発見する。

 

(? 誰だ?………!?)

 

不審者かと警戒しながら近づいて、その人物の姿を確認した弘樹は驚きを露わにする。

 

「………やあ、久しぶりだね。舩坂 弘樹くん」

 

「梶………都草………」

 

その人物は梶 都草だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




あけましておめでとうございます。
新年の初投稿をさせていただきます。

いよいよ目前に迫ったプラウダ&ツァーリ戦。
しかし、それと同時に西住家でも動きが………
更に、大洗女子学園廃校の話も動き出す………

ウチのノンナさんは若干中の人の趣味がインストールされていますので、最低野郎に片足を突っ込んでます。(笑)
それとロシア語の表記についてですが、私のPCだとキリル文学が上手く使えないのと、何と言っているか分かり易くする為、カタカナで表記させていただきます。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第73話『様々な思惑です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第73話『様々な思惑です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊の次なる対戦相手………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊は、大洗の事など歯牙にも掛けず、不気味な計画を企てていた。

 

一方、黒森峰の方でも………

 

遂にみほの事が、母であり西住流の現師範であるしほに知られてしまう。

 

西住流としてみほの勝手な振る舞いを看過出来ないと言うしほは、みほを黒森峰、引いては西住流に連れ戻す事を決める。

 

しかし、もしみほが次の試合で負ける様ならば、西住流としても用無し………

 

勘当を言い渡すとまで言い放つ。

 

圧倒的歩兵数を誇るプラウダ&ツァーリ機甲部隊を前に、大洗女子学園廃校の件を知らない機甲部隊の隊員達には、何処か必死さが欠けていた………

 

そんな中………

 

帰宅した弘樹が目にしたものは………

 

自分の家の前に佇む梶 都草の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹が自宅の前にて都草と出くわしていた頃………

 

みほが生徒会に呼び出されたので、沙織、華、麻子と一緒にアイス屋に寄り道し、帰路に着いて居た優花里は………

 

(今日の生徒会の皆さん………何だか妙な雰囲気でした………)

 

その途中、優花里は戦車格納庫での生徒会メンバーの様子を思い出す。

 

(西住殿、1人呼び出されていましたが………作戦会議………ですよね?)

 

そんな生徒会に呼び出されたみほの事が心配になる優花里。

 

と、その時………

 

「ようよう、兄ちゃん。俺等が誰だか分かってるのか?」

 

ガラの悪い声でそう言う台詞が聞こえて来る。

 

「!?」

 

優花里がその声のした方向を見やるとそこには………

 

「知らんな………少年聖歌隊か?」

 

見るからにチンピラと思われる人物達、10数人に取り囲まれて、うっとおしそうな表情をしている白狼の姿が在った。

 

(! 神狩殿!!)

 

「へへへ、兄ちゃんよぉ。怪我したくなかったら、それ以上生意気な口聞くんじゃねえぞ」

 

とそこで、チンピラの1人がポケットから折り畳み式のナイフを取り出し、白狼の目の前にチラつかせる。

 

「…………」

 

(はわわっ!? か、神狩殿が危ない!!)

 

白狼は無表情でそのナイフを見ていたが、様子を窺っていた優花里は慌てる。

 

(け、警察に!!………いや、駄目であります! 大会期間中に警察沙汰になんてなったら………)

 

最悪、出場停止も有り得ると思い、携帯を取り出した状態で固まる優花里。

 

(けど、このままでは神狩殿が!!………ええいっ! こうなったら!!)

 

するとそこで、優花里はいつも持ち歩いているバッグから、コレクションの1つである戦車兵用のヘルメットを取り出して被る。

 

更に、戦車整備用の大型レンチも取り出して両手に握る。

 

「神狩殿ぉ! 今お助けします! 秋山 優花里! 突貫ーっ!!」

 

大型レンチを振り上げ、チンピラ達に向かって突貫して行く優花里。

 

しかし………

 

「ぐへっ!?」

 

「ごはっ!?」

 

「おぼあっ!?」

 

次々に汚い悲鳴が聞こえて来たかと思うと、白狼を取り囲んでいたチンピラ達は、1人残らず倒れ伏した。

 

「………アレ?」

 

「喧嘩売る相手は良く選ぶんだな………」

 

唖然とする優花里の前で、白狼は両手を叩いて埃を落としている。

 

「か、神狩殿?」

 

「ん? 秋山? 何でこんなとこに居んだ? つうか、何て恰好してんだよ?」

 

優花里が恐る恐る声を掛けると、白狼はそこで初めて優花里の存在に気付いてそう言う。

 

「い、いや、神狩殿が絡まれているのを見て、助けようと………」

 

「あんなの絡まれた内に入らねーっての」

 

白狼は肩を竦めながらそう言う。

 

「いやはや………恐れ入りました」

 

白狼の喧嘩での強さを目の当たりにし、感心する様にそう呟く優花里。

 

「………アレ?」

 

とそこで、優花里は何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何した?」

 

「アレ………西住殿では?」

 

「ん?」

 

優花里がそう言うのを聞いて、その視線の先を見やる白狼。

 

そこには優花里の言う通り、みほともう1人………

 

着物姿の女性の姿が在った。

 

みほとその着物の女性は、親しげに会話を交わしている。

 

「誰でしょう?」

 

「西住総隊長の知り合いか?」

 

謎の着物の女性を見てそう言い合う優花里と白狼。

 

一方、みほと着物の女性は、優花里と白狼に気付いていないらしく、会話を続けながら何処かへと向かっている。

 

「…………」

 

「!!………」

 

と、その時………

 

みほの顔に一瞬陰りが浮かんだのを、優花里は目撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

みほと着物の女性は近くに在ったファミレスへと入店した。

 

そして………

 

「オイ、何やってんだよ? こんなストーカー紛いな事して………」

 

「い、いや、でも! さっきの西住殿の様子が気になって!………」

 

白狼と優花里も、2人の後を付けて来て、ファミレスへと入っていた。

 

現在、仕切りを挟んで、みほと着物の女性が居るデーブルの反対側のテーブルに着き、2人の会話を盗み聞きしている。

 

「それはお前の勝手だがよ………何で俺まで巻き込まれてるんだ?」

 

「そ、その………つい勢いで………」

 

「ったく………」

 

巻き込まれた形となった白狼が愚痴る。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

とそこで、店員が2人に注文を訪ねて来る。

 

「! ド、ドリンクバー1つ!」

 

「サンドイッチセットで」

 

慌てて反射的にドリンクバーを注文する優花里と、小腹が空いていたのかサンドイッチセットを注文する白狼。

 

「畏まりました。今なら、期間限定のカップル用ドリンクがございますが、如何ですか?」

 

すると店員は、2人の注文を承った後、期間限定メニューを開いて、1つの飲み物に2本のストローが付いている、所謂『カップルドリンク』を紹介する。

 

「ええっ!? そ、そんなものがぁ!?」

 

「俺達がカップルに見えるのか?」

 

純情な反応を見せる優花里と、対照的に冷めた様子で店員にそうツッコミを入れる白狼。

 

「うふふ………ごゆっくりどうぞ」

 

店員は2人供照れているのかと思い、笑いを零すとその場を離れて行った。

 

「ったく………」

 

「…………」

 

愚痴る白狼を、赤くした顔を俯かせて上目使いで見やる優花里だった。

 

と、そこで………

 

「菊代さん。いつも手紙ありがとう」

 

「!!」

 

みほのそう言う声が聞こえて来て、優花里は再びみほの方へと意識を向ける。

 

「いえ………みほお嬢様もお元気そうで安心しました」

 

和服の女性………西住家でお手伝いさんとして働いている『菊代』は、みほにそう返す。

 

(ん? この人、西住流の方かな?)

 

「最近のみほお嬢様の御活躍。拝見しております」

 

優花里がそう思っている中、菊代はそう言葉を続ける。

 

「…………」

 

それを聞いたみほは、何故か強張った表情を浮かべていた。

 

(そりゃあ、大洗機甲部隊は今回の全国大会で大躍進! 注目のダークホースですから!)

 

(何ドヤ顔になってんだか………)

 

それを知らない優花里が、自分の事の様に喜んでいると、そんな優花里を見て、白狼が心の中でそうツッコむ。

 

「………菊代さんが来たのは、その事ですか?」

 

しかし、みほは強張った表情のまま、菊代にそう尋ねる。

 

「ハイ………今日私が来た事でお分かりかと思いますが………今回の大洗でのみほお嬢様の件………既に奥様もご存じです」

 

「!!………」

 

菊代のその言葉を聞いた瞬間、みほの身体が一瞬震える。

 

(奥様って、西住流の………)

 

優花里は、その奥様と言うのがみほの母親………西住流の現師範である事を察する。

 

「やっぱり………」

 

その会話の後、暫しの間沈黙するみほと菊代。

 

(な、何やら空気が………)

 

優花里は2人の空気が重くなったのを感じて黙り込む。

 

「お待たせしました」

 

「ん………」

 

一方の白狼は、我関せずと言った様子で、届いたサンドイッチセットに手を付け始める。

 

「………この様な事を私などが申し上げるのも憚られるのですが………奥様は第5回戦の後………お嬢様を黒森峰、そして西住家へ連れ戻すお積りの様です」

 

「…………」

 

(!? えええっ!?)

 

菊代の言葉を聞き、険しい表情を浮かべるみほと、思わず声を挙げそうになったが、如何にか両手で口を押さえて防ぐ優花里。

 

「ですが………」

 

(!? まだ何か!?)

 

更に菊代が言葉を続けるのを聞いて、優花里の顔が強張る。

 

「もし、第5回戦で敗退した場合………みほお嬢様は西住家より………勘当されます」

 

「!!」

 

「!?!?」

 

みほは固まり、優花里は驚愕を露わにした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後、みほと菊代は会話もそこそこに店を立った。

 

残された優花里と白狼はと言うと………

 

「西住殿が………勘当………」

 

「やれやれ。流派の家元ってのも大変だな………」

 

ショックを受けている様子の優花里とは対照的に、白狼は他人事の様にそう呟く。

 

「! 何を呑気な事を言って居られるのですか、神狩殿! 西住殿が実家から勘当されてしまうのですよ!!」

 

そんな白狼の様子を見て、優花里は声を荒げてそう言い放つ。

 

「それはアイツの個人的な事情だろう。大体、俺達に何が出来るんだ?」

 

しかし、白狼は尚も冷めた様子でそう言い放つ。

 

「! そ、それは………ですが! 西住殿は我々の総隊長なのですよ! 大切な仲間です! 心配するのは当然の事です!!」

 

「仲間ね………」

 

「神狩殿だってそう思っているのでしょう!」

 

そう白狼に言い放つ優花里だったが………

 

「悪いが俺にとっちゃあ、西住は飽く迄只の機甲部隊の指揮官殿だ。それ以上の感情は持ち合わせちゃいない」

 

「!?」

 

白狼がそう言い返したのを聞いて、驚愕を露わにして黙り込む。

 

「序に言っちまえば、大洗機甲部隊の面子だって、俺の中じゃ一部を除いて只の同じ事をやってる連中だってだけだ。ダチは選ぶ方なんでな」

 

「…………」

 

沈黙したまま俯く優花里。

 

「まあ、少しぐらい同情はするが、それ以上は………!?」

 

と、そこで優花里の事を改めて見やった白狼は驚愕して固まる。

 

何故なら、優花里が両目から………

 

ボロボロと大粒の涙を零していたからだ。

 

「私は………神狩殿の事は………ずっと前から仲間だと………友達だと思っていたであります………けど………神狩殿はそうは思っていてくれなかったのですね………」

 

泣きながら白狼にそう訴える優花里。

 

「オ、オイ………」

 

「失礼します!」

 

白狼が何か言おうとした瞬間、優花里は席から立ち、まるで逃げる様に店から出て行った。

 

「…………」

 

残された白狼は只茫然とする。

 

「………クソ………何だってんだよ………」

 

悪態を吐き、残っていたサンドイッチを口に詰め込む白狼。

 

何故か先程までとても美味しかった筈のサンドイッチが、妙に不味く思えた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

舩坂家では………

 

「粗茶ですが………」

 

「ああ、どうもありがとう」

 

弘樹の前へと姿を現した都草は、舩坂家の居間へと通され、湯江に茶を出されていた。

 

「いえ、どうぞごゆっくり………」

 

湯江はそう言って頭を下げると、居間から出て行く。

 

「良く出来た妹さんだね」

 

茶の入った湯呑を手に取りながら、弘樹の方を見てそう言う都草。

 

「どうも………それで、本日はどの様な御用件で?」

 

それに応えながらも、早速本題へと入る様に促す弘樹。

 

「…………」

 

都草はそれを聞いて、茶を一口飲むと、少しの間沈黙する。

 

まるで切り出すタイミングを計るかの様に………

 

「………みほちゃんの活躍が母親………西住流の現師範であるしほさんに知られた」

 

「………それで?」

 

平静を保ったまま、弘樹は更にそう問う。

 

遅かれ早かれ知られる事であるとは分かっていたので、問題はそれを知った母親………しほの対応についてである。

 

「西住の名を持つ者として………コレ以上勝手な振る舞いは許さないらしい。今度の試合後に、みほちゃんを黒森峰、引いては西住流に連れ戻す積りだそうだ」

 

(………どっちが勝手だか)

 

今の今まで放って於いて、活躍して名が知れて来た途端にこの仕打ち………

 

弘樹の中で、しほと西住流への評価が駄々下がりになる。

 

「しかし………」

 

「まだ何か?」

 

「もし、今度の試合で大洗が負ける様であれば………西住流としても用無し………その場にて勘当を宣告するそうだ」

 

「!?」

 

それを聞いた弘樹の顔が驚愕に染まる。

 

「………本気なのですか?」

 

「しほさんの性格からして、恐らくはね………」

 

「それが………それが母親が娘に取る態度か!」

 

弘樹は声を荒げてそう言い、拳をちゃぶ台へと叩き付ける!

 

「しほさんは母親である前に、西住流の現師範だ………」

 

「だが、西住 みほの母親だ………」

 

「…………」

 

都草は沈黙の後、再び茶を一口飲む。

 

「………何故その話を小官にしたのですか?」

 

弘樹はそんな都草に向かってそう尋ねる。

 

「無責任な事を言うが、君ならば如何にかしてくれると思ってね………確証は無いが、確信はしている」

 

都草は、弘樹の方を見ながらそう答える。

 

「…………」

 

「何処までやれるかは分からないが、私の方からもしほさんに働きかけてみる。だが、1番しなければならないのは、この後も大洗が勝ち続ける事だ。こんな事を言える立場ではない事は承知だが………君達の健闘を祈らせてもらう」

 

「…………」

 

「要件はそれだけだ………そろそろ失礼させてもうらうよ。長居をしても悪いからね………」

 

沈黙を続ける弘樹に、都草はそう言うと立ち上がり、居間から出て行く。

 

「あら? もうお帰りですか?」

 

「ああ、用件は済んだからね。夜分に失礼したね」

 

「いえ、お気になさらず。またいらして下さいね」

 

「ありがとう。では、失礼………」

 

「…………」

 

廊下の方から、湯江と都草のそう言う会話の後、戸を開け閉めした音を聞きながら、弘樹は沈黙を続けている。

 

(西住くんが………勘当………何て事だ………)

 

そう思いながら、頭を抱える弘樹。

 

(最早負ける事は絶対に出来なくなった………だが、今の大洗の戦力でプラウダ&ツァーリ機甲部隊と真面に戦えるのか?)

 

次の試合の事を思い、苦悩する。

 

(如何すれば………如何すれば良い………)

 

必死に頭を捻る弘樹だったが、出来る事は無く、只歯痒い思いばかりが積み上がって行く………

 

と、その時………

 

家の電話のベルが鳴り響いた。

 

「あ、ハーイ」

 

近くにいた湯江が、受話器を取る。

 

「ハイ、舩坂です………ハイ………まあ! ご無沙汰しておりますわ。そちらもお元気で………ええ、今代わりますね」

 

受話器に向かってそんな会話を交わしていたかと思うと、弘樹の元へとやって来る湯江。

 

「お兄様。お電話ですよ」

 

「? 小官に? 誰だ?」

 

「お懐かしい方ですわ」

 

「? 今出る」

 

はぐらかす様にそう言う湯江に首を傾げながらも、弘樹は電話の元へ行き、横に置かれていた受話器を取る。

 

「もしもし? 弘樹ですが」

 

「…………」

 

そう言う弘樹だったが、相手からの返事は無い。

 

「? もしもし?」

 

「…………」

 

再度呼び掛けるが、やはり返事は返って来ない。

 

(悪戯か?………)

 

と、弘樹がそう思った瞬間………

 

「よう戦友、まだ生きてるか?」

 

受話器の先の相手が、そんな台詞を言って来た。

 

「!? その声は!? まさか!?」

 

その相手の声を聞いた弘樹が、驚愕を露わにする。

 

「相変わらずだな………戦友」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日の放課後………

 

大洗女子学園・戦車格納庫にて………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合に向けての準備に入ろうとしていた大洗機甲部隊では、ちょっとした騒動が起きていた………

 

「舩坂くんが暫くお休み!?」

 

「マジかよ………」

 

信じられないと言う顔をしてそう言うみほと地市。

 

他の面子も、多かれ少なかれ驚きを露わにしている。

 

「うむ、ちょっとした用でね………暫く学園艦を離れるそうだ。何、試合の時にまでは戻るそうだから心配しなくて良い」

 

弘樹が暫く公休を取る事を告げた迫信は、更にそう告げる。

 

「試合の時までにはって、そんなに掛かる用事なのかよ」

 

「あの舩坂さんが訓練を休んでまで行くんです………かなり大事な用なのでしょう」

 

迫信の言葉を聞いた了平と楓がそう言い合う。

 

「………皆さん、今は兎に角、プラウダ&ツァーリ機甲部隊戦に向けた準備に入りましょう」

 

とそこで、みほが皆の方を振り返ってそう言った。

 

「みぽりん………」

 

「大丈夫だよ………舩坂くんは理由も無く無責任に居なくなる様な事はしないよ。きっと本当に大事な用が有るんだよ」

 

心配する様に声を掛けて来た沙織にそう返すみほ。

 

「それに、試合までには帰って来るって………舩坂くんは絶対に約束を守るよ………私はそう信じてる」

 

そう言うみほの顔は、確信と自信に満ち溢れていた。

 

(西住殿………)

 

だが、それでもそんなみほの事を心配する様子を見せる優花里。

 

昨夜の1件が、やはり衝撃的だったらしい。

 

「では、準備に入ります」

 

そんな優花里の様子には気付かず、みほはそう言って先陣を切る様に準備を始め、それに続く様に他の面子もプラウダ&ツァーリ機甲部隊戦に向けた準備に掛かるのだった。

 

「………あ」

 

「…………」

 

みほに続く様に歩き出した優花里だったが、その途中で白狼と目が合う。

 

「…………」

 

優花里は気まずそうに視線を反らすと、白狼から逃げる様に離れて行った。

 

「………チッ」

 

そんな優花里の姿を見て、白狼は小さく舌打ちをすると、自分のバイクの所へと向かう。

 

 

 

 

 

「そう言えば、みほさん。昨日生徒会の皆さんに呼ばれたのは何だったんですか?」

 

準備に入ったあんこうチームの中で、華が昨日、みほが生徒会に呼び出されたのを思い出してそう尋ねる。

 

「それが、あんこう鍋を御馳走になっただけで、特に大事は話は………何だか、言いたい事があるんだけど、言い出せなかったみたいな感じで………」

 

「そうですか………生徒会の人達にしては珍しいですね」

 

みほがそう返すと、華は首を傾げながらそう言う。

 

「持って来たよ~」

 

とそこで、沙織が次回のプラウダ&ツァーリ機甲部隊戦の会場が、かなり北の地域になるとなった為、相手の得意な雪中戦に備えた防寒具が入った段ボールを持って来る。

 

「カイロまでいるんですか?」

 

その中にカイロが大量に有るのを見て、華がそう言う。

 

「戦車の中には暖房無いから、出来るだけ準備しておかないと」

 

「俺達の場合は戦闘服が多少の防寒機能を備えてるんだよな?」

 

「ええ、でも十分とは言えませんから、指定の防寒具を着用する事になりますね」

 

「あ~、俺寒いの苦手なんだよなぁ………」

 

みほがそう答えている傍で、同じ様に戦闘服と防寒具の用意をしていた地市、楓、了平がそんな事を言い合う。

 

「タイツ、2枚重ねにしようか?」

 

「レッグウォーマーもした方が良いよね」

 

「それより、リップ、色の付いたのにした方が良くない?」

 

「もう5回戦だし、ギャラリー多いだろうしね」

 

「チークとかも入れちゃう?」

 

M3リーの傍で、ウサギさんチームが燥ぎながらそんな事を言い合っている。

 

「どうだ?」

 

「私はコレだ」

 

更に、カバさんチームも、左衛門佐がちょんまげのカツラ、カエサルが月桂冠を被りながらそんな事を言い合っている。

 

「段々と見に来てくれてる人が増えてますね」

 

「戦車にバレー部員募集って書いて張っておこうよ」

 

「良いねー!」

 

アヒルさんチームでも、そんな会話が交わされている。

 

「全く………授業の一環なんだから、少しは校則を守って欲しいわ」

 

そんな一同の様子を見て、みどり子が愚痴る様にそう言う。

 

以前の彼女であれば、口を酸っぱくして注意していたところであろうが、付き合いが長くなった為、この連中には言うだけ無駄だと分かっており、半ば諦めた様な溜息を吐く。

 

「よ~し! 次も勝って、ライブをしよう~っ!!」

 

特に盛り上がっているのは、聖子達サンショウウオさんチームである。

 

何せ、この度、チームにまた新たなメンバーが加わったのだ。

 

「当然ですわ! 何せこの私のスクールアイドルデビューのライブになるのですから! 華麗なる勝利を決めて、見事なライブを披露してあげますわ! オ~ッホッホッホッホッ!!」

 

高飛車なお嬢様口調と笑い声を挙げるのは『薬丸 早苗』

 

神大コーポレンションに次ぐ程の富豪・薬丸家の令嬢である。

 

サンショウウオさんチームに入った理由は、お嬢様故にアイドルと言うものを良く知らず、先日の学園放送で、録画されていた聖子達のライブ映像を拝見し、自身の世界とは全く違う世界に興味を持ったからとの事である。

 

「OK! ノリノリじゃん、薬丸さん! ロックだね~!」

 

ノリの良い口調でそう言うのは『内海 郁恵』

 

アメリカから帰国した帰国子女で、コチラもアメリカ全土でチェーン展開している超高級すし屋の社長令嬢である。

 

人を楽しませることが大好きな性格であり、早苗と同じく学園放送で録画されていた聖子達のライブ映像を見てチームに入ったのである。

 

「郁恵ちゃんもスクールアイドルになってくれるなんて、嬉しいよ」

 

「アッチ(アメリカ)でもパパの会社のCMに出たりして似た様な事してたからね。って言うか、水臭いよ、静香! クラスメイトの私にこんな楽しい事を黙ってるなんて!」

 

郁恵は静香とクラスメイトでもある様で、そんな会話を交わす。

 

「ゴ、ゴメン………」

 

「まあ、兎に角! コレからも大洗女子学園を全国にアピールする為にも! 戦車道もスクールアイドルも頑張って行くよーっ!!」

 

静香が謝って居ると、聖子がそう言って握った右手を天へと突き上げる。

 

「………ちょっと良いかしら?」

 

「ふえっ?」

 

とそこで突然声を掛けられ、聖子は間抜けた声を挙げながら、声がした背後を振り返る。

 

そこには、大洗女子学園の制服を来た、1人の少女の姿が在った。

 

「………誰?」

 

「!? 近藤 里歌!」

 

聖子が首を傾げていると、その女子生徒の姿を見たみどり子が、驚きの声でその生徒………『近藤 里歌』の名を挙げる。

 

「どうも、御無沙汰してます、園先輩」

 

「…………」

 

里歌はみどり子にそう挨拶するが、みどり子は気まずそうなをしている。

 

「あ、あの………何の用?」

 

とそこで聖子が、改めて里歌にそう問い質す。

 

「ああ、そうでした………改めまして、私は『近藤 里歌』。2年G組のクラス委員長をやっています」

 

そこで里歌は、改めて自己紹介をする。

 

「本日伺ったのは………貴方達、サンショウウオさんチームに活動停止を要求する為です」

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

里歌からの予想外の要求に、聖子達は驚愕を露わにする。

 

「ど、如何して?………」

 

「貴方達のスクールアイドルとしての活動を以前より拝見させてもらっていました………あんなパフォーマンスを全国レベルで披露しているなんて、大洗女子学園の恥です」

 

「なっ!?」

 

「酷い!」

 

「そこまで言う事ないじゃん!」

 

身も蓋もない里歌の言葉に、優、明菜、満里奈がそう声を挙げる。

 

「私は事実を言ったまでです。コレ以上パフォーマンスを続けると言うなら、私は法的措置も辞さない所存です」

 

「ほ、法的措置って………」

 

「ペリシティリウムアギトへ至る王権(訳:国家権力)!?」

 

法的措置も辞さないと言う里歌の態度に、伊代と今日子が恐れ戦く。

 

「さあ、如何しますか?」

 

「クウッ………」

 

里歌の睨む様な視線を受け、聖子は思わず1歩後ずさる。

 

「ハイハイ、そこまで~」

 

とそこで、杏が両者の間に割って入った。

 

「! 会長さん!」

 

「角谷生徒会長………」

 

「近藤ちゃ~ん。悪いけど、ウチ等もうすぐ試合なんだよ。その前に士気を落とす様な事は止めてくれないかな~」

 

杏は里歌に向かってそう言う。

 

「角谷生徒会長………貴方はいつも横暴が過ぎます」

 

しかし里歌は、相手が杏でも物怖じせずにそう言い放つ。

 

「横暴は生徒会に許された権利だからね~」

 

だが、杏も杏で、飄々とした様子のままそう反論する。

 

「「…………」」

 

暫しの間、両者の睨み合いが続く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

固唾を飲んでその様子を見守るサンショウウオさんチーム。

 

「………分かりました。今日のところはコレで引き下がります。ですが………必ず活動停止にしてみせますから」

 

やがて里歌はそう言うと、杏とサンショウウオさんチームに背を向け、戦車格納庫を後にした。

 

「は~~、胃が痛くなったぜ」

 

里歌が居なくなったのを確認して、唯が大きく息を吐きながらそう言う。

 

「………そど子。あの女と知り合いか?」

 

と、麻子が里歌の名を挙げていたみどり子にそう尋ねる。

 

「そど子って呼ばないで………前に風紀委員に居た子なんだけど、あんまりにも厳し過ぎるもんだから辞めてもらった子なの」

 

「お前が厳しいって言うんだから相当なもんだな………」

 

みどり子がそう返すと、麻子は冷や汗を流しながらそう言う。

 

「しかし………彼女は私達と言うより、寧ろスクールアイドルそのものを目の敵にしている様にも見えましたが………」

 

「…………」

 

優がそう言っていると、聖子は何かを考え込むかの様に、里歌が去って行った方向を見やるのだった。

 

「さあさあ! 試合の準備を進めないと! もう時間が無いんだからね!!」

 

とそこで、格納庫内の空気を変える様に杏が手を叩いてそう言う。

 

それを受けて大洗機甲部隊の一同は、準備を再開するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほの勘当を知る事となった弘樹、優花里、白狼。
白狼の冷めた態度に、優花里は涙し、2人の仲はギクシャクとする。

そんな中、弘樹の事を戦友と呼ぶ謎の人物から電話を受けた弘樹は、大洗から姿を消した………

そして、サンショウウオさんチームを目の仇にする近藤 里歌………

様々な思惑が交錯しつつ、プラウダ&ツァーリ機甲部隊戦が幕を開ける。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第74話『第5回戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第74話『第5回戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の計画を進めるプラウダ&ツァーリ機甲部隊………

 

みほを黒森峰、西住流に引き戻すか、勘当すると宣告する西住 しほ………

 

ギクシャクする優花里と白狼………

 

サンショウウウオさんチームを目の仇にする近藤 里歌………

 

突如姿を消した弘樹………

 

様々な出来事が巻き起こる中………

 

遂に………

 

試合の日が訪れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、第5回戦………

 

大洗機甲部隊VSプラウダ&ツァーリ機甲部隊の試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る夜の雪原………

 

大洗機甲部隊のスタート地点にて………

 

「さぶっ! マジ寒いんだけど~!」

 

「北緯50度を超えてますからね………」

 

「こんな中で戦うのかよ………」

 

余りの寒さに沙織がそう零すと、楓と地市がそう言い合う。

 

「各戦車の履帯は冬季用履帯に換装してるのだね」

 

「ラジエーターにも不凍液を入れてあります。雪中戦でも問題無い筈です」

 

履帯が冬季用履帯に換装されている各戦車を見ながら迫信がそう言い、清十郎が補足する様にそう報告する。

 

皆、試合開始時間が来るまで思い思いに待機しており、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々は雪合戦に興じている。

 

また、カバさんチームはまるで雪祭りに出展できそうな程の精巧な雪像の武将を作っている。

 

しかし、その大洗機甲部隊の中に、舩坂 弘樹の姿は無い………

 

「…………」

 

弘樹の居ない大洗機甲部隊の様子を、不安げな表情で見ているみほ。

 

「みほさん………」

 

「大丈夫、華さん………舩坂くんは来る………きっと来てくれる」

 

華が心配そうに声を掛けるが、みほは気丈そうにそう返す。

 

(ああ、西住殿が大変だと言う時に………舩坂殿は一体何をやっているのでありますか!)

 

そんなみほに代わる様に、内心でやきもきしている、みほの件を知っている優花里。

 

と、その時………

 

大洗機甲部隊の元へ、2台の車両が近づいて来る。

 

1台は、ソ連が開発した自走式多連装ロケット砲『カチューシャ』

 

もう1台は、同じくソ連製の軍用輸送車両『GAZ-AA』である。

 

2台は共に大洗機甲部隊が待機している場所の手前の方で停止したかと思うと、カチューシャからは2人のプラウダ女子、GAZ-AAからは3人のツァーリ男子が出て来た。

 

「あ!」

 

「誰?」

 

その5人組の姿を確認した優花里と沙織が声を挙げる。

 

「! アレは………プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長と副総隊長。それに歩兵部隊の………」

 

「『地吹雪のカチューシャ』と『ブリザードのノンナ』ですね」

 

「聞いただけ寒くなりそうな渾名だな………」

 

みほがそう言い、優花里が2人の渾名を言うと、地市がそんな事を言う。

 

「歩兵の3人は………『カイザーハウンド』ピョートル………『ブラックハウンド』マーティン………そして『フレイムハウンド』デミトリか………」

 

「全員猟犬って渾名かよ………俺達は獲物か?」

 

十河が歩兵3人の名を挙げると、俊がそうツッコミを入れる。

 

5人は大洗機甲部隊から少し離れた位置で立ち止まり、大洗機甲部隊を見回す。

 

「………フ、フフフ………アハハハハハハッ! このカチューシャを笑わせる為にこんな部隊編成にしたのね! ねえ!」

 

そこで、突如としてカチューシャが笑い声を挙げてそう言い放つ。

 

「アハハハッ! 全くだぜ!!」

 

「大洗だけに、大笑いってか!? ハハハハハッ!!」

 

更にピョートルとマーティンも、露骨に馬鹿にした様子で笑い始める。

 

「! 何やとぉっ!!」

 

「まあ、実際僕達の部隊規模は、他校と比べてかなり小規模な上、弱小ですからね………」

 

大河が怒りの声を挙げるが、飛彗は最もな指摘であると言う。

 

「やあやあ、カチューシャ。よろしく。大洗女子学園生徒会長の角谷だ」

 

「同じく、大洗国際男子校の生徒会長、神大 迫信だ。以後、お見知りおきを」

 

とそこで、杏と迫信がカチューシャの前に出てそう言う。

 

その後ろには、桃と熾龍が控えている。

 

「今日はお手柔らかにね」

 

そう言って杏は少し屈みこんでカチューシャに握手を求める。

 

「………ノンナ!」

 

すると、カチューシャがノンナの事を呼んだかと思うと、ノンナはカチューシャを肩車した。

 

「えっ?」

 

「おやおや………」

 

唖然とする杏と、愉快そうな表情を広げた扇子で隠す迫信。

 

「貴方達はね! 全てがカチューシャより下なの! 戦車も技術も身長もね!」

 

杏と迫信、引いては大洗機甲部隊の面々を見下しながらカチューシャはそう言い放つ。

 

「………肩車してるじゃないか」

 

「ガキのする事だな………」

 

その光景を見て、桃がそうツッコミを入れ、熾龍が毒舌を吐く。

 

「! 聞こえたわよ! よくもカチューシャを侮辱したわね! 粛清してやる!!」

 

と、それが聞こえたカチューシャは、大洗機甲部隊の面々を指差し、そう宣言する。

 

「それは俺達の業界じゃご褒美だぜ!」

 

「了平………幾ら友達でも、警察に通報しますよ」

 

その言葉を聞いてそんな事を言う了平と、そんな了平に容赦無いツッコミを入れる楓。

 

「な、何かピョートルみたいに変なのが居るわね………」

 

「失礼だな、姉ちゃん。俺はロリに興味は無い」

 

「何を言っている、貴様は」

 

そんな了平を見たカチューシャがそう呟き、ピョートルがそう返すと、デミトリが呆れた様子でツッコミを入れる。

 

「って言うか、あの人、カチューシャさんの弟さんだったんだ………」

 

「身長的には逆に見えるがな………」

 

清十郎がそう呟くと、それを聞いていた麻子もそう呟く。

 

とそこで、カチューシャは視界に、みほの姿を捉える。

 

「アラ? 西住流の………」

 

「あ………」

 

「去年はありがとう。貴方のお蔭で私達、優勝出来たわ。今年もよろしくね、家元さん」

 

「!………」

 

カチューシャの言葉に、みほの身体が一瞬震える。

 

何時もならば弘樹が睨み付けるが、生憎と今回は不在………

 

今はみほを守るモノはなかった………

 

「………そこまでにしておけ」

 

と、そこでそう言う台詞と共に、シャッコーがカチューシャとノンナの前に立ちはだかった。

 

「ふえっ!? な、何よ、アンタッ!?」

 

シャッコーの姿を見て仰天するカチューシャ。

 

身長2メートル30センチを誇るシャッコーは、長身のノンナに肩車されたカチューシャよりも更に大きく、カチューシャは思わず軽く仰け反る。

 

と………

 

「!?」

 

シャッコーの姿を見たノンナが驚きを露わにし、思わずカチューシャの足を抑えていた手が緩まる。

 

「!? キャアッ!?」

 

「同志っ!!」

 

仰け反っていたカチューシャは落下しそうになったが、間一髪デミトリが支える。

 

「あ、ありがとう………ちょっと、ノンナ! 如何したのよ!!」

 

デミトリにお礼を言いつつ、ノンナを叱りつけるカチューシャ。

 

「………ル・シャッコ」

 

しかし、ノンナはカチューシャの言葉が届いていないのか、シャッコーを見ながらそう呟く。

 

「人違いだ。俺はルダ・シャッコーだ」

 

「イズヴィニーチェ………貴方の様な方にも会えると………感激です」

 

シャッコーがそう返すと、ノンナは流暢なロシア語で謝罪しながらそんな事を言う。

 

「ところで………舩坂 弘樹は何処ですか?」

 

「えっ!?………」

 

「ちょっと、ノンナ。またなの?」

 

そこでノンナが弘樹は何処だと尋ねると、みほが驚きの声を挙げ、カチューシャが不満そうにノンナに肩車し直す。

 

「生憎、今はちょっと外していてね………」

 

「そうですか………是非1度お会いしたかったのですが………」

 

「ノンナ。そんなに気になるワケ? 英霊の子孫とかいう奴が」

 

不在を知られない様に迫信がそう言うと、ノンナは残念そうな顔をし、カチューシャがまたも不満そうにそう言う。

 

「ええ………だって、素敵じゃないですか、あの方」

 

「!?」

 

「何ですって!」

 

「オイ、ノンナ。本気か?」

 

ノンナがサラッとそう言い放つと、みほが驚愕し、カチューシャが怒りの声を挙げ、デミトリもまさかと言う表情をする。

 

「素敵って………舩坂くん、みぽりんとノンナさんでまさかの三角関係!?」

 

「まあっ!?」

 

「そんな!? まさか!?」

 

沙織、華、優花里も驚きを露わにしており、大洗機甲部隊の面々もざわめき立つ。

 

「ええ、本気ですよ………だって、『キリコ・キュービィー』にソックリですから」

 

とそこで、ノンナは更にそう言い放った。

 

「ハッ?………」

 

「キリコ?………」

 

「キュービィー?………」

 

「誰っ?」

 

その言葉にカチューシャ、みほ、デミトリが首を傾げ、沙織がそう呟く。

 

「キリコ・キュービィーですよ! 知らないんですか!? あの『装甲騎兵ボトムズ』の!!」

 

するとノンナは、それまで余り喋っていなかった為、渾名も相まってクールそうに見えていたのをかなぐり捨て、熱弁する様にそう言い出す。

 

「装甲騎兵ボトムズ?」

 

「あ! 知ってる! 確かロボットアニメの!」

 

「リアルロボットアニメの頂点って言われている作品だな………熱心なファンは多いが、結構マニアックな作品だぜ」

 

華が首を傾げると、アニメ好きの桂利奈と、実は隠れロボットアニメファンの圭一郎がそう言う。

 

「ロボットアニメって………普通、ガンダムだろ」

 

半ば呆れた様子でマーティンがそう言う。

 

「ガンダム?………ああ、アムロとシャアが戦うやつですか」

 

「いや、ざっくりし過ぎ」

 

メジャーな作品なのに、ざっくりとした感じしか知らない様子のノンナに、ピョートルがそうツッコミを入れる。

 

「じゃあ、エヴァは?」

 

「綾波が可愛い」

 

「………マクロス」

 

「何か歌うやつですよね?」

 

「………ギアス」

 

「何です、ソレ?」

 

次々に有名どころなロボットアニメを上げるマーティンだが、ノンナからは興味無さ気な認識が返って来る。

 

「じゃあ………ボトムズ」

 

「アストラギウス銀河を二分するギルガメスとバララントの陣営は互いに軍を形成し、最早開戦の理由など誰も分からなくなった銀河規模の戦争を100年間継続していた。その『百年戦争』の末期、ギルガメス軍の一兵士だった主人公『キリコ・キュービィー』は、味方の基地を強襲するという不可解な作戦に参加させられる。作戦中、キリコは『素体』と呼ばれるギルガメス軍最高機密を目にした為、軍から追われる身となり、町から町へ、星から星へと幾多の『戦場』を放浪する。その逃走と戦いの中で、陰謀の闇を突きとめ、やがては自身の出生に関わる更なる謎の核心に迫っていく」

 

と、ボトムズの名が出た途端に、ノンナは表情を引き締め、詳しく正確なストーリーをスラスラと言い上げた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その場が一瞬の沈黙に包まれたかと思うと………

 

「「「「「「「「「「ゲホッ! ゴホッ!」」」」」」」」」」

 

ノンナと一部のメンバーを除いた全員が………

 

むせる

 

「あ、アンタ………相当な最低野郎だな」

 

「バリショーェ スパシーバ」

 

圭一郎が米神に冷や汗を浮かべてそう言うと、ノンナは良い笑顔と流暢なロシア語でお礼を言う。

 

「も、もう良いわ! 行くわよ!!」

 

と、もう付いて行けなくなったのか、カチューシャがそう言い放ち、強引にその場を去ろうとする。

 

「あ! 姉ちゃん、待てよ!」

 

「失礼します………」

 

「邪魔したな………」

 

「じゃあね! ピロシキ~」

 

「ダ スヴィダーニィヤ」

 

ピョートル、マーティン、デミトリがそう言って背を向けると、ノンナに肩車されたままだったカチューシャもそう言い、ノンナが流暢なロシア語で別れを告げて踵を返した。

 

「………さっきの言葉には驚かされたぞ」

 

と、車へと戻る途中、デミトリがノンナにそう言う。

 

「妬いてるんですか?」

 

「少しな………」

 

ノンナがそう返すと、デミトリはそう答える。

 

「心配しないで。キリコ・キュービィーは飽く迄憧れの存在よ。私のリュビームィ パリンは………貴方だけよ」

 

「ノンナ………」

 

見つめ合うノンナとデミトリ。

 

如何やらこの2人………特別な関係の様である。

 

「ちょっと、ノンナ! デミトリ! 私が居るのを忘れてイチャつくのは止めなさい!」

 

と、肩車されたままだったカチューシャがそう抗議する。

 

「と、申し訳ありません、同志カチューシャ」

 

「イズヴィニーチェ」

 

「あ~、何かムカつくわね! この怒り! 全部アイツ等にぶつけてやるわ!!」

 

2人が謝罪すると、カチューシャは怒りの矛先を大洗機甲部隊へと向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席近くの小高い丘の上………

 

『さあ、間も無く試合開始の時刻となります! 本日の対戦カードは、今大会1のダークホース・大洗機甲部隊と、昨年黒森峰を破って日本1に輝いたプラウダ&ツァーリ機甲部隊です!!』

 

『プラウダ&ツァーリ機甲部隊にとって雪中は最も得意とするバトルフィールド。今回も大洗機甲部隊側が不利ですが、それで終わらないのが大洗の長所。またどんな試合を見せてくれるのか、楽しみです』

 

「この寒さ………プラウダより圧倒的に劣る車両………ツァーリよりも遥かに少ない歩兵部隊………コレで如何やって勝つ積りでしょう?」

 

丘の上に陣取って試合の様子を見ているグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の面々の中で、オレンジペコがそう言う。

 

「確かに、大洗機甲部隊にとって有利な要素は何1つとしてない………だが、それを覆すのが大洗機甲部隊の戦いだ」

 

そんなオレンジペコに向かって、アールグレイがそう言う。

 

「その通り………追い詰められてからの爆発力………それが大洗機甲部隊の恐ろしいところよ」

 

ダージリンも雪が降りしきる中、優雅に紅茶を飲みながらそう言う。

 

「でも、今回は流石に………」

 

「ヘイ、ペコ。試合の結果なんてやってみなければ分からんさ。それに、戦力の差なんて、案外簡単に覆せるものだよ」

 

と、尚も不安そうな声を挙げたペコに、聖ブリティッシュ男子校の制服姿で、腰にクレイモアを帯剣している男子生徒がそう言う。

 

「ジャスパーさん………」

 

オレンジペコが、その男子生徒をジャスパーと呼んだかと思うと………

 

「失礼。御一緒させて貰っても宜しいかな?」

 

とそこで、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の面々にそう声が掛けられたかと思うと、堅固を先頭に、琥珀、瑪瑙、瑠璃の鉱関機甲部隊の面々が現れる。

 

「! 金剛崎 堅固………」

 

「まあ、瑪瑙さん」

 

鉱関機甲部隊の面々の登場に軽く驚きを現すアールグレイとダージリン。

 

「ああ、3回戦でパシフィックに逆転負けした鉱関機甲部隊の連中か」

 

すると、ジャスパーが堅固達に向かってバッサリとそう言い放つ。

 

「「「「…………」」」」

 

途端の堅固達は落ち込んだ様子を見せる。

 

「ジャスパーさん!」

 

「? 何だい?」

 

オレンジペコがジャスパーを叱りつけるが、ジャスパーは叱られている理由が分かってない様子である。

 

「戦友が失礼をした………」

 

「ゴメンなさいね」

 

「いや、良い………」

 

「負けたのは事実だからね………」

 

アールグレイとダージリンが代わって謝罪すると、堅固と瑪瑙はまだ若干引き摺っている様な様子を見せながらもそう返す。

 

 

 

 

 

その後、堅固達の分の席と紅茶が用意され、ダージリン達と共に試合の観戦を始める。

 

「それにしても、大洗機甲部隊も人気が出て来ましたね」

 

大洗側の応援席に、人が溢れているのを見て、琥珀がそう呟く。

 

「サンショウウオさんチームの知名度も上がってるしね」

 

その大洗側の応援席に、如何にもサンショウウオさんチームのファンと思わしき観客が居るのを見て、瑠璃もそう言う。

 

「曲りなりにもココまで勝ち抜いて来たからな………」

 

「さっき向こうの方で、天竺とジョロキア、サンダースとカーネル、アンチィオとピッツァ、パシフィックの連中達が居るのを見たぜ。地走の連中が野次ってるのもな」

 

アールグレイがそう言うと、堅固が此処に来るまでに大洗が今まで戦って来た機甲部隊の面々が居た事を告げる。

 

「そうそう。黒森峰の人達も居たわ」

 

「黒森峰の?」

 

瑪瑙がそう言うと、オレンジペコが反応する。

 

「ええ、総隊長の西住 まほと歩兵総隊長の梶 都草………あと、何か矢鱈と張り切って応援してるカエルみたいな子も居たわね」

 

最後に挙げた誰かがピンポイントで思い当たる………

 

「それと、西住 しほ師範の姿も在ったわ」

 

「西住師範が………」

 

それをダージリンが何やら思い悩む様な顔をする。

 

「如何した? ダージリン?」

 

「ちょっと………嫌な感じがしましてね………」

 

アールグレイが尋ねると、ダージリンは意味有り気な顔でそう返す。

 

「~~♪~~~♪」

 

そしてそんな中、1人マイペースでバグパイプの練習をしているジャスパーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、弘樹が不在のまま試合開始の時刻となる中………

 

みほは大洗機甲部隊の一同を集めて、最後の作戦を伝え始める。

 

「兎に角、相手の部隊規模に呑まれない様に、冷静に行動して下さい。フラッグ車を守りつつ、ゆっくりと前進して、先ず相手の出方を見ましょう」

 

「ゆっくりも良いが………ココは一気に攻めたら如何だろう?」

 

すると、カエサルからそんな意見が挙がる。

 

「えっ?」

 

「うむ」

 

「妙案だ」

 

「先手必勝ぜよ」

 

みほが戸惑っていると、左衛門佐、エルヴィン、おりょうからも同意の声が挙がる。

 

「気持ちは分かりますが、リスクが………」

 

「大丈夫ですよ!」

 

「私もそう思います!」

 

「勢いは大事です!」

 

「是非、クイックアタックで!」

 

リスクが高いと言おうとしたみほだったが、アヒルさんチームからもそう声が挙がる。

 

「俺達だって曲りなりにもココまで勝ち抜いて来たんだ!」

 

「そうそう!」

 

「負けるワケないっての!」

 

「それに相手は俺達の事を舐めてますぜ!」

 

「おう! ギャフンと言わせたろやないけ!!」

 

磐渡、重音、鷺澪、海音、豹詑からもそう声が挙がる。

 

「よし、それで決まりだな」

 

「勢いも大切ですもんね」

 

「今回のフィールドは敵にとって有利だ。長引かせては不利になるだけだ」

 

桃、柚子、十河がそう言い、その場を纏めようとする。

 

「…………」

 

皆のその様子に悩む様な様子を見せるみほ。

 

「待ちたまえ、諸君。確かに、我々は今好調ではあるが………」

 

と、迫信が何かを言うとしたその瞬間………

 

「………分かりました。一気に攻めます!」

 

みほが決断した様子でそう言った。

 

「! 西住くん」

 

「良いんですか?」

 

それを聞いた迫信が珍しく驚きを露わにし、優花里もそう声を挙げる。

 

「慎重に行く作戦だったんじゃ………」

 

「神居さんの言う通り、長引けば雪上での戦いに慣れている向こうの方が有利にかも知れないですし………それに、皆が勢いに乗ってるんだったら」

 

華が心配そうにそう言うと、みほはそう返す。

 

「孫子も言っているしな。『兵は拙速になるを聞くも、未だ巧の久しきを観ず』。ダラダラ戦うのは国家国民の為に良くは無い。戦いはチャチャっと集中してやる方が良いーんだよ。ねっ、西住ちゃん」

 

「ハイ! 相手は強敵ですが、頑張りましょう!」

 

「「「「「「「「「「オオーッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

みほがそう呼び掛けると、大洗戦車部隊の面々は拳を突き上げ、歩兵部隊の皆は万歳を行う。

 

「…………」

 

そんな中で、迫信だけが一抹の不安を感じていた。

 

もし、この場に弘樹が居れば、こう叱咤していただろう………

 

『それは勢いではない! 只の慢心だ!!』

 

と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まった第5回戦。
しかし、弘樹は不在のまま………
更に、ココまでの試合をなまじ勝ち抜いて来た為に、メンバーの中に慢心が生まれていた。
果たして、試合は如何なるのか?

今回も最低野郎っぷりを見せたノンナさんですが………
これ、ノンナやない!
只のすみぺや!!(笑い)

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第75話『絶対絶命です!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第75話『絶対絶命です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に始まった戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦………

 

大洗機甲部隊VSプラウダ&ツァーリ機甲部隊の試合………

 

部隊規模にて圧倒的な差が有る為、慎重に行こうとしたみほだったが………

 

コレまでの試合でなまじ勝ち続けた為に勢い付いた大洗機甲部隊の面々は、一気に攻める事を提案する。

 

その意見に押され、みほは短期決戦を挑む事を決定する。

 

だが、それは慢心以外の何者でもなかった………

 

弘樹不在の中、大洗機甲部隊は泥沼へと嵌って行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

雪を履帯で踏み締めながら、プラウダ戦車部隊の戦車達が進軍している。

 

その数、T-34-76が5両。

 

T-34-85が8両。

 

KV-2が1両。

 

KV-1が2両。

 

T-28が2両。

 

T-26が3両。

 

IS-1が2両。

 

IS-2が1両。

 

IS-3が1両。

 

ISU-152が1両。

 

ISU-122が2両。

 

SU-100が2両。

 

SU-85が2両。

 

SU-76が3両。

 

実に35両ものソ連製戦車並びに自走砲の大軍団である。

 

更に、その全ての戦車・自走砲の上には、ツァーリ歩兵部隊の隊員達がタンクデサントしており、周囲にも凄まじい数の兵員輸送車や装甲車に乗るツァーリ歩兵部隊隊員達が展開している。

 

「良い! アイツ等にやられた奴は、全員シベリア送り、25ルーブルよ!!」

 

と、先頭を行くT-34-85のハッチから姿を晒していたカチューシャが、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ。

 

「日の当たらない教室で、25日間の補習って事ですね」

 

「おお~、やだやだ」

 

「精々頑張るとしますか」

 

ノンナがカチューシャの言葉の意味を補足すると、ピュートルとマーティンがおどけてそう言い合う。

 

「行くわよ! 敢えてフラッグ車だけ残して、後は皆殲滅してやる………力の違いを見せつけてやるんだから!!」

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

カチューシャが続けてそう言い放つと、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の面々からロシア語の勇ましい掛け声が挙がった。

 

更にその後、ノンナとカチューシャが、ロシア民謡『カチューシャ』を歌い始め、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の士気は更に高まるのだった。

 

『さ~て、いよいよ始まりました、戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦! 大洗機甲部隊VSプラウダ&ツァーリ機甲部隊の試合!』

 

『プラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子………正に赤軍そのものですね。怖いですね~』

 

そんなプラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子を、ヒートマン佐々木とDJ田中はそう実況する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一気に攻めるべく、全軍で進んでいる大洗機甲部隊は………

 

「冷える~………」

 

先頭を行って居るⅣ号の中で、沙織がそう呟く。

 

時間が経つと共に気温はドンドン下がっており、鋼鉄製の戦車の中はまるで冷蔵庫の様に冷え切っていた。

 

「一気に決着を着けるのは正解かも知れませんね」

 

「…………うん」

 

それを聞いた華がそう言い、キューポラから姿を晒しているみほは周囲を警戒しながら返事を返す。

 

「ポットにココア入れて来ました。良かったらどうぞ」

 

そこで、優花里がみほに温かいココアを差し出す。

 

「ありがとう………」

 

お礼を言いながらココアを受け取り、口を付けるみほ。

 

と、その時………

 

「西住総隊長、サンショウウオさんチームが遅れている」

 

「えっ?」

 

迫信からそう報告が挙がり、みほが後ろを振り返ると、部隊の中から落後し始めているサンショウウウオさんチームのクロムウェルの姿が目に入る。

 

「サンショウウウオさんチーム、如何しました?」

 

『唯ちゃん、如何したの?』

 

『エンジンの調子が悪い。おかしいな………試合前に点検した時は何でも無かったのに………』

 

みほが問い質すと、聖子と唯のそう言う会話が返って来る。

 

尚、今回のサンショウウオさんチームの参戦者は………

 

聖子が戦車長、伊代が通信手、明菜が砲撃手、唯が操縦士、郁恵が装填手となっている。

 

『オイ、何をやっているんだ! このままでは作戦に支障が出るではないか!!』

 

空かさず桃の叱咤の声が通信回線に割り込んで来るが………

 

「貴様が作戦に支障を出さなかった事が有れば聞いてみたいな………」

 

『何ーっ!! 私が何時作戦に支障を出した!!』

 

「今までの全てでだ」

 

『むきーっ!!』

 

熾龍に毒舌が入り、そのまま何時もの遣り取りを展開するのだった。

 

「………他に遅れている方は居ませんか?」

 

「砲兵部隊が少し遅れているね。それと、アリクイさんチームの面々も僅かに………」

 

そこでみほが迫信にそう問い質すと、迫信は大洗機甲部隊全体を見回してそう言う。

 

「やはり、今回が初試合のアリクイさんチームと重たい砲を運んでいる砲兵に、この雪中での進軍は厳しいみたいですね」

 

「…………」

 

優花里がそう言うと、みほは考え込む様な様子を見せる。

 

『西住総隊長。私達は後から追い付きますから、先に行って下さい』

 

「でも………」

 

『一気に攻めるならスピードは大事です。大丈夫、歩兵の皆が護衛してくれますから』

 

「………分かりました。但し、アリクイさんチームとおおかみさん分隊。それに砲兵部隊の皆さんも一緒に残って下さい」

 

『えっ?』

 

「俺達もか?」

 

と、みほのそう言う指示が飛ぶと、ねこにゃーと白狼から戸惑いの声が挙がった。

 

「小隊規模での行動は危険です。万が一と言う事もあります」

 

『わ、分かりました』

 

「仕方ねえな………」

 

みほが続けてそう言うと、ねこにゃーがそう返事を返し、白狼も不承不承ながらも了承する。

 

「すまないな、西住総隊長。後で必ず追い付く」

 

「ハイ、十分に気をつけて下さい」

 

砲兵部隊を代表する様に明夫がそう言うと、みほがそう返し、アリクイさんチームとサンショウウオさんチーム、そしてその随伴分隊であるおおかみさん分隊とタコさん分隊、それに砲兵部隊を加えた一同が、本隊から離脱する。

 

そして、大洗機甲部隊の本隊は、更に進軍を続けた。

 

「………敵は北東方面に進行中。時速約20キロ。尚、戦車2両を含む中隊規模が遅れて進軍中。コチラは時速10キロ程です」

 

と、その様子を盗み見ている者達が居た………

 

ツァーリ歩兵部隊の偵察兵達である。

 

稜線に伏せて顔だけを出し、双眼鏡で覗き見た大洗機甲部隊の様子をプラウダ&ツァーリ機甲部隊本隊へと送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場の別の場所………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊本隊が駐留している地点………

 

「ふ~ん、一気に勝負に出る気? 生意気な………ノンナ!」

 

その報告を受けて、軽食を取っていたカチューシャは傍らに居たノンナに呼び掛ける。

 

「分かってます………」

 

ノンナはそう答えると、プラウダ&ツァーリ機甲部隊本隊に向かって手を上げた。

 

「………出撃!」

 

それに答える様にデミトリがそう声を挙げたかと思うと、プラウダ&ツァーリ機甲部隊は一斉に動き出すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、サンショウウオさんチーム達を残して進軍している大洗機甲部隊の本隊は………

 

「停止」

 

みほがそう呼び掛けると、大洗機甲部隊の本隊は停止する。

 

一同の前方には、降り積もった雪によって出来た壁が在った。

 

「うわぁっ、コレ全部雪かよ………」

 

「どんだけ降ってたんだか………」

 

その雪の壁を見て、磐渡と俊がそう言い合う。

 

「進路を確保します」

 

と、灰史を初めとした工兵部隊が、雪を除去しようとスコップを手にする。

 

「あ、待って下さい」

 

しかし、みほはそれを制止すると、Ⅳ号の車内へと引っ込む。

 

「華さん、前の雪中を榴弾で撃ってくれる?」

 

「分かりました」

 

「榴弾、装填完了です!」

 

みほがそう指示を出すと、華が返事を返し、優花里が即座に榴弾を装填する。

 

そして、華がトリガーを引くと榴弾が発射。

 

放たれた榴弾は雪の壁に突っ込み、一瞬の間の後、爆発!

 

雪の壁を吹き飛ばした。

 

「おお! スゲェッ!!」

 

「やる事が派手ですね………」

 

重音が声を挙げ、清十郎が思わずそう呟く。

 

そのまま、大洗機甲部隊の本隊は、雪の壁を吹き飛ばした部分から更に進軍して行く。

 

「奥様! 撃ったのはお嬢ですよ!」

 

「花を活ける手で………」

 

その様子を観客席で見ていた新三郎は拍手を送るが、百合は渋い顔をする。

 

「………ココまで来たんですから、応援して差し上げて下さい」

 

「…………」

 

執り成す様にそう言う新三郎だったが、百合は渋い顔のままだった。

 

『さて、続いて大洗機甲部隊の様子ですが………如何やら一気に勝負を仕掛ける積りの様ですね』

 

『う~ん、確かに相手の得意なフィールドで戦う以上、長期戦より短期決戦を挑んだ方が良いと言う考え方も有りますが、さてこれは………』

 

「………! 敵を発見しました!!」

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が続く中、大洗機甲部隊の先頭を行って居たⅣ号に随伴していたとらさん分隊の中で、双眼鏡を覗き込んで前方を警戒していた楓がそう声を挙げる。

 

「!!」

 

すぐにみほも双眼鏡を取り出し、前方の様子を確認する。

 

そこには、T-34-76、T-26、T-28の3両のプラウダ戦車。

 

そして、その3両の随伴歩兵分隊と思われる中隊規模の歩兵部隊の姿が在った。

 

「! 11時に敵部隊! 各部隊警戒!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほがすぐにそう指示を出すと、各部隊が行動に入る。

 

「軽戦車が2両と中戦車が1両に中隊規模の歩兵部隊………外郭防衛線かな?」

 

敵の規模から、みほは外郭防衛線かと推測する。

 

と、そこで、T-34-76、T-26、T-28が、大洗機甲部隊に向かって発砲して来た!

 

「! 気づかれた!」

 

「任せてくれ、西住ちゃん! 漸く配備されたパンツァーファウストの威力を見せてやるぜ!」

 

みほが声を挙げると、地市がそう言って、パンツァーファウストを構える。

 

 

 

 

 

パンツァーファウストとは、第二次世界大戦中のドイツ国防軍が使用した携帯式対戦車擲弾発射器の事である。

 

擲弾発射器の為、ロタ砲やバズーカのロケット弾みたいに、弾頭自体に飛翔能力は無いが、その分後方へ噴出される爆炎が少ないと言う利点がある。

 

最も特筆すべきはその威力であり、初期型のものでも140mm、後期型のものは200mmの装甲を貫通する威力を持っていた。

 

連合軍のあらゆる戦車を撃破可能であり、友軍の誤射であのヤークトティーガーを撃破したと言う話も存在する。

 

すぐ後に出たパンツァーシュレックと共に、第二次世界大戦中に開発された歩兵用の対戦車装備としては最強の部類に入る代物である。

 

しかし、それ故に歩兵道では絶大な人気を誇っており、品薄で強豪校ででもなければ、中々数を揃えられないのが現状である。

 

実際、大洗機甲部隊でも回されたのは地市を初めとした一部の対戦車兵だけであり、他の者達は未だにバズーカやロタ砲である。

 

 

 

 

 

「よ~く狙って………」

 

起こした照準器を覗き込み、T-34-76に狙いを定める地市。

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

と、そんな地市の存在に気付いたツァーリ歩兵達が、一斉に突撃を行って来る。

 

「やらせるかいなっ!!」

 

「…………」

 

だが、邪魔はさせないと大河とシャッコーがヴィッカース重機関銃とブローニングM1917重機関銃で弾幕を張る。

 

「撃てぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それに呼応する様に、軽機関銃や短機関銃を持っていた大洗歩兵達も一斉に射撃を行う。

 

「うわぁっ!!」

 

「ぎゃああっ!?」

 

突っ込んで来ていたツァーリ歩兵部隊は、弾幕を浴びて次々に倒れて行く。

 

「奴さん、射的の的になりたいようです!!」

 

「撃てぇーっ!! 即刻攻撃ーっ!!」

 

次々に倒れて行くツァーリ歩兵部隊の姿を見て、大洗歩兵部隊の面々の士気が高揚して行く。

 

「地市! 早く撃てって!」

 

「分かってるよ! 喰らえっ!!」

 

と、M3サブマシンガンで弾幕を張っていた了平がそう言うと、地市が遂にパンツァーファウストを発射!

 

放たれた擲弾は、弧を描く様にT-34-76に命中!

 

爆発の後、一瞬間が有って、T-34-76の砲塔上部から白旗が上がった。

 

「よっしゃあっ!!」

 

「スゲェッ! 1発で仕留めたぞ!!」

 

地市がガッツポーズをすると、大洗歩兵部隊の中からそんな声が挙がる。

 

「コチラも攻撃します!」

 

直後にみほがそう言うと、Ⅲ突とⅣ号は発砲!

 

砲弾はT-28の車体に直撃し、T-28は白旗を上げた。

 

「命中しました!」

 

「凄~い! 一気に2両も!!」

 

優花里が命中の報告を挙げ、沙織がいきなり敵戦車を2両も撃破した事に歓声を挙げる。

 

「やった!」

 

「昨年の優勝校を撃破したぞ!」

 

「時代は我等に味方している!」

 

「コレは行けるかもしれん!」

 

「この勢いでGoGoだね!」

 

更に、典子、エルヴィン、カエサル、桃、杏からも歓声が挙がる。

 

「ロシアのT-34を撃破出来たなんて! コレは凄い事ですよ!………?」

 

「…………」

 

優花里が興奮した様子でみほにそう声を掛けるが、みほは強張った表情を浮かべていた。

 

「如何したの?」

 

「………上手く行き過ぎる」

 

沙織がそう尋ねると、みほは強張った表情のままそう呟く。

 

「あ! オイ、逃げるぞっ!!」

 

「!!」

 

と、その直後に大洗歩兵部隊員のものと思われる声が挙がり、みほがキューポラから顔を出すと、残っていたT-26とツァーリ歩兵部隊が、大洗機甲部隊に背を向け、逃走を始めていた。

 

「全軍前進! 追撃します!!」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

すぐにみほの指示が飛び、大洗機甲部隊はT-26と残存ツァーリ歩兵部隊の追撃に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪原の中、大洗機甲部隊に背を向けたまま只管逃走しているT-26と残存ツァーリ歩兵部隊。

 

「何で逃げてるの?」

 

「コッチが全軍で追い掛けているからじゃないですかぁ」

 

沙織が逃げの一手のT-26と残存ツァーリ歩兵部隊の事を疑問に思ったが、優花里が戦力差の違いだと言う。

 

「そうだよね~。何故か追うと逃げるよね~、男って」

 

それを聞いた沙織は、それ以上疑問に思わなくなる。

 

「! 逃走中の敵部隊の前方に新たな影を発見!」

 

「確認します!」

 

とそこで、清十郎からそう言う声が挙がり、M3リーのハッチから姿を晒していた梓が双眼鏡で影を確認する。

 

それは、SU-76、KV-1、T-26、T-28、T-34-76のプラウダ戦車部隊。

 

更に、53-K 45mm対戦車砲に付いて居るツァーリ砲兵部隊だった。

 

そして、T-34-76には、フラッグ車である事を示す青い旗がある。

 

「あそこに固まってる………フラッグ車、発見しました!」

 

「千載一遇のチャンス! よし! 突撃!!」

 

「「「「「「「「「「行けええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「アターックッ!!」

 

と、フラッグ車発見の報告を受けた桃が、みほを待たずに独断で指示を出し、大洗戦車部隊は突っ込んで行く。

 

「遅れを取るなぁーっ!!」

 

「行け行けーっ!!」

 

「前進ー! 前進あるのみーっ!!」

 

それに触発される様に、大洗歩兵部隊の面々も突撃する。

 

「アゴーニッ!!」

 

「「「「「ウラァーッ!!」」」」」

 

撃てと言うロシア語が叫ばれたかと思うと、ツァーリ砲兵部隊が53-K 45mm対戦車砲を撃ち始める!

 

更に、プラウダ戦車部隊も砲撃を始める。

 

次々と砲弾が飛来する中、勢いに乗っている大洗機甲部隊は果敢に攻める。

 

「喰らえっ!!」

 

「「「「「おわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

重音がそう言ってバズーカを放ち、1門の53-K 45mm対戦車砲とそれに付いて居たツァーリ砲兵達を吹き飛ばす!

 

「ええいっ!!」

 

更に、自慢の足で接近した竜真が、逃走していたT-26に向かって収束手榴弾を投げつける。

 

収束手榴弾が爆発すると、装甲の薄い軽戦車では耐えられず、逃走していたT-26は失速して停止すると、砲塔上部から白旗を上げる。

 

押され始めたプラウダ戦車部隊とツァーリ砲兵部隊は、フラッグ車を守る様に展開し始める。

 

「撃てぇっ!!」

 

その瞬間にⅢ突が発砲!

 

砲弾がKV-1の砲塔基部に命中すると、白旗が上がる。

 

「KV-1がやられた!」

 

「駄目だ! 逃げろぉーっ!!」

 

と、途端にツァーリ砲兵部隊は対戦車砲を放棄し、撤退を始める。

 

プラウダ戦車部隊も、フラッグ車を庇いながら後退し始める。

 

「逃がすかっ!!」

 

「追え追えっ!!」

 

「ブリッツクリーク!!」

 

「撃て撃てーっ!!」

 

「行け行けーっ!!」

 

「ぶっ潰せー!!」

 

「ぶっ殺せーっ!!」

 

「やっちまえーっ!!」

 

「ストレート勝ちしてやる!!」

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

それを見た大洗機甲部隊の面々は命令を待たずに更に追撃に入る。

 

「ちょっと! 待って下さい!」

 

「待ちたまえ、諸君! 敵の動きがおかしい!!」

 

みほと迫信が制止を掛けるが、熱くなり過ぎている為、誰の耳にも入らない。

 

止むを得ず、みほ達もその後を追う。

 

『プラウダ&ツァーリ機甲部隊、大洗機甲部隊の前に逃げの一手に見えますが、コレは………』

 

『ちょっとマズイですよぉ………』

 

そんな試合の様子を、ヒートマン佐々木ととDJ田中はそう実況する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追撃途中、何故かフラッグ車のT-34-76が部隊から離れて単独で逃げ出した為、大洗機甲部隊はそちらを全戦力で追撃。

 

そのまま廃村の在る窪地へと入り込んでいた。

 

大洗戦車部隊からの絶え間ない砲撃を只管かわしているフラッグ車のT-34-76。

 

「フラッグ車さえ倒せば!」

 

「勝てる!」

 

「この試合貰ったーっ!!」

 

「6回戦進出だぁーっ!!」

 

勝利は目前だと思っている大洗機甲部隊の面々からそんな声が挙がる。

 

だが、その時………

 

大洗機甲部隊の背後に在った家の陰から、2両のT-34-76が出て来る。

 

「! 西住総隊長! 後ろだっ!!」

 

「!?」

 

迫信の声で、みほは背後のT-34-76達に気付く。

 

「東に移動して下さい! 急いで!!」

 

「!? 何だ!?」

 

慌てて部隊に東に移動する様に指示を出し、大洗機甲部隊は戸惑いながらも東へ向かおうとする。

 

だが、そこには既に、ISU-152が1両、ISU-122が2両、待ち構えていた。

 

「! 南南西に方向転換………!?」

 

今度は南南西へと向かおうとしたみほだったが、その方向にも、IS-1が2両、IS-2が1両、IS-3が1両のIS戦車部隊が、雪を掘って作った塹壕の中から出て来る。

 

更に、残りのプラウダ戦車部隊の戦車も、大洗機甲部隊を取り囲む様に出現する。

 

「囲まれてる!」

 

「周り全部敵戦車だよ!!」

 

「罠だったのか………」

 

「ええっ!?」

 

「ああっ!?」

 

「はっ!?」

 

取り囲まれた事に、大洗戦車部隊から次々と驚きの声が挙がる。

 

その次の瞬間には、プラウダ戦車部隊の一斉砲撃が始まる!

 

次々と砲弾が飛び、大洗戦車部隊の周辺に着弾する!

 

と、その内の1発が、M3リーの主砲部分に命中し、砲身を破壊した!

 

「! 主砲が!」

 

「このぉっ!!」

 

梓の声が挙がった瞬間、光照がバズーカを発射する。

 

ロケット弾がT-28に命中し、白旗を上げさせる。

 

「怯むなぁっ! 相手の歩兵部隊は居ないぞ!」

 

「肉薄して1発お見舞いしてやれぇーっ!」

 

プラウダ戦車部隊に、護衛の歩兵部隊が居ないのを見て、大洗歩兵部隊からそう声が挙がる。

 

すると………

 

突如として地鳴りの様な振動と、大勢の叫び声が聞こえて来た。

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

大詔がそう声を挙げた瞬間………

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

ロシア語の雄叫びと共に、凄まじい数のツァーリ歩兵部隊が、窪地の廃村内へと突入して来た。

 

余りの数の多さで、雪原が見えず、地面が黒く染まって見ている。

 

「な、何だアリャッ!?」

 

「! ツァーリ歩兵部隊!!」

 

「何だよ、あの数!?」

 

「ありゃ5万人どころじゃねえ! 10万は居る!!」

 

途端に悲鳴の様な叫び声が挙がる大洗歩兵部隊。

 

それもその筈………

 

突撃して来たツァーリ歩兵部隊の数は凡そ10万人………

 

まるで人の津波の様だった。

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」

 

と、そこでツァーリ歩兵部隊からの銃撃が始まる!

 

「!? うわぁっ!!」

 

「ぐああっ! やられたぁっ!!」

 

四方八方から銃弾が飛んで来て、大洗歩兵部隊に次々と戦死判定者が出る。

 

「クソッタレェっ!!」

 

磐渡が悪態を吐きながらFM mle1924/29軽機関銃を発砲する。

 

「うわぁっ!」

 

「ぐああっ!?」

 

弾丸を浴びたツァーリ歩兵数名が戦死判定を受けて倒れ伏す。

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」

 

しかし、すぐにその100倍以上の人数が、倒れた仲間を文字通り踏み越えて殺到して来る。

 

「だ、駄目だぁっ! 抑えられないっ!!」

 

「全軍! 南西の大きな建物に移動して下さい! あそこに立て籠もります!」

 

磐渡の悲鳴が挙がった瞬間、廃村の中に教会だったと思われる大きな建物を発見したみほが、そこへ向かう様に指示を飛ばす。

 

大洗機甲部隊の面々はすぐさま、その教会跡へと退避を始める。

 

「急げ! 早くしろ!!」

 

「戦車の方が優先だぞっ!!」

 

大洗歩兵部隊は、戦車部隊の退避を優先し、ギリギリまでプラウダ&ツァーリ機甲部隊に立ち向かう。

 

「ウラァーッ!!」

 

と、ツァーリ歩兵の1人が、掛け声と共にF1手榴弾を投擲する。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

爆発の直撃と破片を浴びた大洗歩兵隊員数名が纏めて戦死判定を受ける。

 

「アゴーニッ!!」

 

更に、ツァーリ砲兵部隊から、D-1 152mm榴弾砲が放たれる!

 

「「「「「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

炸裂した榴弾の破片を浴び、またも大洗歩兵隊員数名が纏めて戦死判定を受ける。

 

「クソォッ!」

 

「オイ、しっかりしろっ!!」

 

ヤケクソ気味にツァーリ歩兵部隊に向かって撃ち返す大河と、戦死判定は免れたが負傷判定を受けた大洗歩兵に肩を貸して教会へと逃げ込む大詔。

 

その間に、大洗戦車部隊は八九式、M3リー、ルノーB1bis、38tが教会内への退避を終える。

 

それに続く様にⅢ突が教会内に入ろうとした瞬間!

 

右側の履帯にプラウダ戦車部隊が放った物と思われる砲弾が直撃!

 

「履帯と転輪をやられました!」

 

エルヴィンの報告が挙がり、Ⅲ突は教会の入り口で立ち往生してしまう。

 

そんなⅢ突に、2両のT-34-76が狙いを定めるが、Ⅲ突を守る様に、Ⅳ号がプラウダ戦車部隊に正面を向けながらⅢ突へ接触!

 

Ⅳ号にT-34-76の砲撃が命中したが、角度が浅かった為、弾かれる。

 

反撃にとⅣ号も発砲。

 

砲弾は手前に居たT-34-76の車体側面に命中したが、コレも角度が悪かった為、弾かれてしまう。

 

その直後に、奥に居たT-34-76が発砲。

 

砲弾がⅣ号の砲塔左側を掠る様に被弾する。

 

「砲塔故障!」

 

「後退!!」

 

その被弾の衝撃で砲塔旋回装置が故障した事を華が告げる中、みほは後退を指示。

 

Ⅳ号はⅢ突を押し込む様にして、教会内へと退避する。

 

「アゴーニッ!!」

 

「「「「「ウラァーッ!!」」」」」

 

教会内に立てこもった大洗機甲部隊に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊は容赦無い攻撃を続ける。

 

砲弾や銃弾が次々に教会の壁に命中し、教会内にはまるで地震の様な振動が走る!

 

と、その容赦無い砲撃が、不意に止んだ………

 

「!? 砲撃が止んだ?………」

 

「オイ、誰か来るぞっ!!」

 

みほが戸惑いの声を挙げると、地市がそう声を挙げた。

 

それは、白旗を掲げたプラウダ戦車部隊の隊員と思われる2人の少女だった。

 

何事かと、大洗機甲部隊は戦車部隊員、歩兵部隊員全員が入り口付近に集まる。

 

「カチューシャ総隊長の伝令を持って参りました」

 

「伝令?」

 

「『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる』………だそうです」

 

「!?」

 

「何だと!? ナッツッ!!」

 

何ともテンプレ的な降伏勧告にみほが驚き、桃が悪態を吐く。

 

「総隊長は心が広いので3時間は待ってやる………と仰っています。では………」

 

それだけ伝えると、プラウダ戦車隊員は踵を返して自軍の元へと帰って行った。

 

「誰が土下座なんか!」

 

「全員自分より身長低くしたいんだな!」

 

「徹底抗戦だ!」

 

「戦い抜きましょう!」

 

「そうだそうだ!」

 

「あんな降伏が呑めるかっちゅーんや!」

 

「全くだ!」

 

「せめて一矢報いましょう!」

 

「プラウダになァーッ! 降伏など、出来るわきゃーねェだろォォォーーーッッ!!」

 

典子、桃、エルヴィン、梓、地市、大河、磐渡、勇武、月人からそう声が挙がる。

 

「でも、こんなに囲まれていては………一斉に攻撃されたら、怪我人が出るかも」

 

だがみほはそう懸念する。

 

戦車は傷つき、歩兵部隊も既に半分まで数を減らしている。

 

そのうえ完全に囲まれているとなれば、最早戦っても勝利の望みは薄い………

 

「みほさんの指示に従います」

 

そこで、華がみほにそう言う。

 

「あ………」

 

「私も、土下座くらいしても良いよ!」

 

「ココまで来ただけでも上出来だ。無理はするな」

 

それに続く様に、沙織と麻子もそう言う。

 

「…………」

 

しかし、みほの件を知る優花里だけは何も言えず、俯いていた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その言葉で、大洗機甲部隊の面々も冷静になり、静まり返る。

 

「駄目だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

だが、その静寂を破る様に、桃がそう大声を挙げた。

 

「絶対に負けるワケにはいかん! 徹底抗戦だ!!」

 

身体を震わせてそう言う桃。

 

「…………」

 

いつもなら毒舌の1つも浴びせる熾龍も、何故か黙っている。

 

「でも………」

 

「勝つんだ! 絶対に勝つんだ! 勝たないと駄目なんだ!!」

 

みほの言葉を遮り、桃は尚そう叫ぶ。

 

「如何してそんなに………初めて出場して、ココまで来ただけでも凄いと思います! 戦車道と歩兵道は戦争じゃありません。勝ち負けより大事なものがある筈です」

 

(! 西住殿!!)

 

自分の勘当の件などおくびにも出さずそう言い放つみほを見て、優花里が心の中で叫ぶ。

 

「勝つ以外の何が大事なんだ!!」

 

「私………この学校に来て、皆と出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も、戦車道も大好きになりました! だから、その気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」

 

「みほちゃん………」

 

「くう、泣けるで」

 

みほの言葉を聞いて、大河を初めとした一部の者達が涙ぐむ。

 

しかし………

 

「何を言っている………負けたら我が校は無くなるんだぞ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

続けて桃が放ったその言葉で、大洗機甲部隊の全員に衝撃が走る。

 

「え………学校が………無くなる?」

 

みほは桃が言った言葉の意味が分からず混乱する。

 

「………河嶋の言う通りだ」

 

すると、そんなみほと他の一同に説明するかの様に、杏が口を開く。

 

「この全国大会で優勝できなければ………我が大洗女子学園は廃校になる」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

杏のその言葉に、大洗機甲部隊のメンバー全員が言葉を失い、愕然としたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作よりも車両数が増えているプラウダ戦車隊。
何と、35両も居ます。
そしてツァーリ歩兵部隊は10万人!
正におそロシアです。

原作通りに、サンショウウオさんチーム達を除いて完全包囲されてしまう大洗機甲部隊。
降伏勧告が出される中、最悪のタイミングで廃校の話が表に出てしまう。
果たして、大洗機甲部隊の運命や如何に?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第76話『絶対絶命です(後編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第76話『絶対絶命です(後編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前年度の優勝チーム、プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合に臨んだ大洗機甲部隊。

 

初手にて打撃を与え、優位に立ったと思っていた大洗機甲部隊だったが………

 

コレまで勝利して来た故の慢心により………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の罠に嵌り、完全に包囲されてしまう………

 

怪我人を出さない為に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊からの降伏勧告を受け入れようとするみほ。

 

だが、その瞬間………

 

桃と杏の口から遂に………

 

大洗女子学園廃校の話が、最悪のタイミングで話されてしまうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中にて………

 

「大洗女子学園が廃校になるって………如何言う事ですか!?」

 

未だ愕然となっていた大洗機甲部隊のメンバーの中で、逸早く我に返ったみほが、杏達にそう問い質す。

 

「言葉通りさ………ウチの学校、最近生徒の数も減ってるし、目立つ活動実績も挙げてないからね。そんな学校に出すお金は無いって、文部科学省がさぁ」

 

杏は他人事の様な口調でそう言うが、その表情には曇りが見える。

 

「でも、今年度中に何か実績を挙げれば廃校を取り下げてくれる………文部科学省の人とそう密約を結んだの」

 

「それで戦車道を復活させたんですか………」

 

柚子が補足する様に言うと、みほがそう呟く。

 

「戦車道をやれば、助成金も出るって聞いてたし、それに学園運営費に回せるしね」

 

「じゃあ、世界大会と言うのは嘘だったんですか!?」

 

「それは本当だ」

 

杏の言葉に、梓がそう声を挙げると、桃がそう返す。

 

「でも、いきなり優勝なんて無理ですよぉ!」

 

「いや~、昔盛んだったんなら、もっと良い戦車が有ると思ってたんだけど………予算が無くて、良いのは皆売っちゃったらしいんだよね」

 

そこで杏から更に衝撃的な発言が飛び出す。

 

「では、此処にあるのは………」

 

「うん、皆売れ残ったヤツ」

 

優花里が大洗戦車部隊の戦車達を見ながらそう言うと、杏はアッサリとそう白状する。

 

「それでは優勝など、到底不可能では………」

 

「だが、他に考えつかなかったんだ………古いだけで、何も特徴が無い学校が生き残るには………」

 

桃が何時になく沈んだ声でそう呟く。

 

「無謀だったかもしれないけどさぁ………後1年、泣いて学校生活を送るより、希望を持ちたかったんだよ」

 

「皆、黙って居て、ゴメンナサイ」

 

「私も知ってたんだけど、口止めされてて………」

 

杏、柚子、蛍も続く様にそう言い放つ。

 

「会長! 会長も知っていたんですか!?」

 

「ああ………」

 

とそこで、大洗歩兵部隊の方でも、迫信にそんな質問が飛び、迫信は何時もの不敵そうな様子では無く、真剣な表情でそう答える。

 

「それで歩兵道にあんな法外な特典を付けて、歩兵部隊の再編を………」

 

「でも! 会長閣下だったら、そんな事しないでも、文部省や政府に話を着けられるんじゃ………」

 

大詔が納得が行った様な表情となると、光照がそう言う。

 

「仮に私が話を着けたとしても、大洗女子学園の生徒数減少を止める事は出来ない」

 

「そ、それは………」

 

迫信にそう返されて、光照は黙り込む。

 

「一時的な回避では意味が無い。大会で優勝と言う実績が有れば、生徒数の増加も見込める。だからこそ、歩兵部隊を再編したのだよ」

 

「会長………」

 

「だが、皆を騙していた事も事実だ………本当に申し訳無い」

 

そう言うと、迫信は大洗歩兵部隊の面々に向かって深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

あの迫信が頭を下げると言う事態を目の当たりにし、大洗歩兵部隊の面々は言葉を失う。

 

「………バレー部復活どころか、学校が無くなるなんて………」

 

「無条件降伏………」

 

「単位修得は、夢のまた夢か………」

 

一方、大洗戦車部隊の面々の方も、まるで通夜の様な雰囲気となっており、ウサギさんチームのメンバーの中には、涙を浮かべて泣き始める者も出ていた。

 

「この学校が無くなったら、私達バラバラになるんでしょうか?」

 

「そんなのやだよー!」

 

華と沙織がそう声を挙げる。

 

明るい要素は何1つ無く、大洗機甲部隊に暗い雰囲気が伸し掛かる………

 

だが………

 

「………まだ試合は終わってません」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そんな中、そう声を挙げたのは、他ならぬみほだった。

 

「まだ負けたワケじゃありませんから」

 

「西住ちゃん?」

 

「頑張るしかないです。だって、来年もこの学校で戦車道を、歩兵道の皆さんと一緒にやりたいから………皆で」

 

「総隊長………」

 

「西住総隊長………」

 

大洗機甲部隊全員の視線が、みほに集まる。

 

「私も! 西住殿と同じ気持ちです!!」

 

「そうだよ! とことんやろうよ!! 諦めたら終わりじゃん! 戦車も恋も!」

 

「まだ戦えます!!」

 

「うん………」

 

それに逸早く同意の声を返したのは、やはり優花里、沙織、華、麻子のあんこうチームだった。

 

「降伏はしません! 最後まで戦い抜きます! 但し………皆が怪我しないよう、冷静に判断しながら」

 

「うん………」

 

みほのその言葉を聞いて、杏は軽く笑みを浮かべて頷いた。

 

(やはり彼女には天性の隊長としての素質が有る………)

 

そんなみほの姿に、迫信はみほの才能の高さを改めて認識する。

 

「よし、諸君! 生き残っている工兵を中心に、戦車チームと協力し、損傷した戦車の応急処置に掛かってくれたまえ! 寒さでエンジンが掛かり難くなると思われるので、エンジンルームの暖気も忘れずに!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

と、続けて迫信がそう命じると、大洗歩兵部隊は、損傷した戦車部隊の戦車の修理と整備に取り掛かる。

 

「………我々は作戦会議だ!」

 

そこで桃がそう言い、首脳陣は作戦会議へと移る。

 

「そうだ! まだサンショウウオさんチームとアリクイさんチーム! それにタコさん分隊とおおかみさん分隊が包囲網の外に居るんじゃ!!」

 

するとそこで、蛍が思い出した様にそう声を挙げる。

 

「! ああっ!」

 

「沙織さん! すぐに連絡を!!」

 

「分かった!」

 

柚子が声を挙げると、みほがそう言い、沙織がⅣ号の通信手席に潜り込む。

 

「けど、たった戦車2両と随伴歩兵分隊だけで、あの包囲網を如何にか出来るんでしょうか?」

 

「手数が増えるに越した事はない。作戦の幅が広がれば、その分逆転の手立ても見え易くなる」

 

不安がる優花里に、迫信がそう返す。

 

『さあ、完全にプラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲されてしまった大洗機甲部隊の本隊! しかし、まだ試合を諦めていない様です!!』

 

『状況は絶望的と言っても良いですが、個人的に大洗機甲部隊には頑張って欲しいですね』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況が流れる中、教会跡の外では、降りしきる雪が激しさを増して来ていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのサンショウウオさんチームとアリクイさんチーム………

 

そして随伴分隊のタコさん分隊とおおかみさん分隊は………

 

「ハイ………ハイ………窪地の廃村ですね。分かりました。すぐに向かいます」

 

通信手の伊代がそう言葉を交わすと交信を終了する。

 

「皆さん! 西住総隊長達がこの先の窪地の中にある廃村で、プラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲されています! 救出しますよ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこで聖子が、随伴しているタコさん分隊と、アリクイさんチームとおおかみさん分隊にそう指示を出す。

 

そのまま一同は、みほ達が包囲されている廃村へと向かう。

 

「………やっぱり本当だったんだ………廃校の話………」

 

と、その進軍中、聖子がボソリとそう呟いた。

 

「聖子ちゃん………」

 

「「「…………」」」

 

それを聞いた伊代が聖子の方を見やり、唯、明菜、郁恵の面々は黙り込む。

 

「そうならない為にスクールアイドルになって、今までアイドルも戦車道も頑張って来たのに………もう、駄目なのかな?………」

 

「! 何言ってるんですか!? 聖子さん!!」

 

「そうだぜ! お前らしくないぞ!!」

 

「まだ負けたと決まったワケじゃないでーす!」

 

弱気な呟きが漏れる聖子に、叱咤の様な明菜、唯、郁恵の台詞が飛ぶ。

 

『けど、僕達が行って、何か出来るのかな? 相手は戦車の数でも性能でも勝ってる上に、10万人の歩兵部隊が居るのに………』

 

とそこで、アリクイさんチームのねこにゃーが、通信でそう会話に割って入って来る。

 

「それは………」

 

「「「…………」」」

 

ねこにゃーの言葉に、唯達は何も言い返せない。

 

『折角リアルでも友達になれたのに………』

 

『もう離れ離れになってしまうだっちゃ?』

 

ももがーとぴよたんからも、沈んだ様でそんな声が聞こえて来る。

 

「まさかそんな事になっていたなんて………」

 

「Oh………イッツ、ショックネ」

 

随伴しているタコさん分隊の中でも、弁慶、ジャクソンからそう声が挙がる。

 

「いきなりそんな重い運命背負って戦えって言われたってよ………」

 

「急には受け入れられへんわ………」

 

おおかみさん分隊の方でも、海音と豹詑がそんな声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の分隊メンバーも、重たい雰囲気に包まれている。

 

「エース、皆が………」

 

「イカン。慣れない雪中戦に参っている………身体が冷えて、心まで冷たくなっているんだ。この分では、恐らく本隊の皆も」

 

意気消沈しているメンバーを見て、拳龍とエースがそう言い合う。

 

「白狼………」

 

「情けねえ声出すんじゃねえ。まだ負けるって決まったワケじゃねえぞ」

 

元気の無い声で飛彗が白狼に呼び掛けると、雪の中で器用にバイクを乗りこなしていた白狼がそう返す。

 

(大洗女子学園が廃校だ?………クッソッ!………何でこのタイミングで言うんだよ!………西住総隊長の事だってあるってのによぉ!)

 

だが、心の中ではそう悪態を吐いていた。

 

(………秋山の奴、大丈夫か?………)

 

そんな中で白狼の思考は、みほの勘当の件を知る優花里の事へと向かう。

 

(自分達の学校が無くなって、西住総隊長が実家から勘当………アイツにしてみればダブルパンチを喰らう様なもんだ………)

 

『私は………神狩殿の事は………ずっと前から仲間だと………友達だと思っていたであります………けど………神狩殿はそうは思っていてくれなかったのですね………』

 

脳裏にファミレスでの優花里の言葉が蘇る。

 

(………クソッ!!)

 

白狼は只々、心の中で悪態を吐く。

 

と、その時………

 

「「………!?」」

 

どんよりとした一同の中で、何時もと変わらぬ様子だったシャッコーと陣が何かに気付いた様に周りを見回す。

 

「? 如何したんだ?」

 

その様子に気付いた海音が声を掛けると………

 

「伏せろっ!!」

 

シャッコーがそう叫んだかと思うと、進軍中の一同の後方で、爆発が上がった!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「な、何っ!?」

 

驚く歩兵部隊の一同と、慌ててハッチを開けて車外に出る聖子。

 

「居たぞぉっ! 大洗の残存部隊だ!!」

 

「始末してやれぇ!!」

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

すると、そう言う台詞と共に、IS-1、ISU-152、KV-1、SU-100、SU-76のプラウダ戦車部隊を率いて、ツァーリ歩兵部隊が突っ込んで来た。

 

「!? プラウダ&ツァーリ機甲部隊!」

 

「別働隊!?」

 

聖子と、同じ様に車外に出ていたねこにゃーが驚愕の声を挙げる。

 

「イカン! 敵の戦車は既に此方を射程内に納めているぞ!」

 

「チイッ!!」

 

迫り来るプラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊を見て、エースがそう叫び、白狼が舌打ちをするのだった。

 

『あ~っと! 運良く包囲を逃れていた大洗機甲部隊の面々に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊が襲い掛かるーっ!!』

 

『コレはマズイですよぉ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

観客席の方では………

 

「完全に囲まれてるんですけど、お嬢は無事なんでしょうか?」

 

「落ち着きなさい、新三郎」

 

モニターに映っている大洗機甲部隊の状況を見て、新三郎が心配しそうな声を挙げるが、逆に百合の方は落ち着いていた。

 

 

 

 

 

観客席近くの小高い丘の上………

 

「如何してプラウダとツァーリは攻撃しないんでしょう?」

 

「プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長は楽しんでるのよ、この状況を。彼女は搾取するのが大好きなの………プライドをね」

 

「相変わらず悪趣味ね………」

 

完全に包囲しているにも関わらず、攻めに転じようとしないプラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子を見てオレンジペコがそう言うと、ダージリンがそう説明し、瑪瑙が悪態を吐く様にそう言う。

 

「隊長………みほちゃん達は勝てるんでしょうか?」

 

「分からん………今度ばかりは駄目かもしれないな………」

 

「そんなっ!?」

 

琥珀、堅固、瑠璃の顔には、今回ばかりは駄目かと言う、諦めにも似た表情が浮かんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、別の観客席………

 

試合を観戦していたしほ、まほ、そして都草は………

 

「帰るわ。こんな試合見るのは時間の無駄よ」

 

しほは早々に見切りを着けた様子でそう言い放ち、席を立とうとする。

 

「待って下さい」

 

「?………まほ?」

 

しかし、まほがそれを引き留める。

 

「まだ試合は終わってません」

 

「その通りですよ、西住師範。それにこの試合の勝敗でみほちゃんの処遇を決めるのでしょう? ならば最後まで御覧になられては如何ですか?」

 

まほがそう言うと、都草もしほに向かってそう言う。

 

「梶くん………貴方はこの状況から大洗が逆転するとでも?」

 

「ええ、思っていますよ」

 

しほが厳しい表情でそう問い詰めると、都草は笑いながらそう言う。

 

「馬鹿な………みほ達が勝利する要素は何1つ無いわ」

 

「今はですね………」

 

そうきっぱりと言い放つしほだったが、都草はモニターを見ながらそう返す。

 

「まだ『彼』が来ていませんからね………」

 

「? 『彼』?」

 

「英霊の子孫がですよ………」

 

首を傾げるしほに、都草は不敵に笑ってそう返した。

 

と………

 

「まだ望みは残っているでありますーっ!! 最後の最後まで希望を捨ててはいけないでありますーっ!! 諦めたらそこで試合終了だって、有名バスケ漫画でも言っていたでありますーっ!!」

 

大洗機甲部隊の勝利を願う応援旗を振り回している久美が、会場中に響き渡らんとばかりに大声を挙げている。

 

「…………」

 

そんな久美の姿を見たしほは、何とも言えない表情となる。

 

「毛路山………」

 

「ハハハ、毛路山くんはブレないなぁ」

 

まほも頭を抱えるが、都草は楽しそうに笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び試合会場内………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の野営陣地にて………

 

「ねえ、降伏する条件にウチの学校の草むしり3ヶ月と麦踏みと、ジャガイモ掘りの労働を付けたら如何かしら?」

 

「お、良いね~」

 

「じゃあ、俺達もトイレ掃除でもやらせますか」

 

軍用アエロサン・RF-8の中でボルシチを食べていたカチューシャがそう言うと、焚火に当たっていたピョートルとマーティンもそんな事を言う。

 

「付いてますよ」

 

と、そこでカチューシャの口の周りが汚れている事をノンナが指摘し、ハンカチを差し出す。

 

「知ってるわよ!………ふうっ、御馳走様。食べたら眠くなっちゃった」

 

そのハンカチを受け取り、口の周りを拭くとベッド代わりのRF-8の中に寝そべるカチューシャ。

 

「降伏の時間に猶予を与えたのは、お腹空いて眠かったからですね?」

 

「違うわ! カチューシャの心が広いからよ! シベリア平原の様にね!」

 

続いてノンナがそう指摘すると、カチューシャはそう言い返す。

 

「広くても寒そうです」

 

「煩いわね。お休み」

 

カチューシャはノンナとの会話を打ち切ると、そのまま眠り始めた。

 

「~~~♪~~~♪」

 

するとノンナは、カチューシャの為にコサックの子守唄を歌い始める。

 

その歌を聴きながら、カチューシャは心地良い眠りへと誘われたのだった………

 

「同志カチューシャは?」

 

とそこで、部隊の見回りを終えたデミトリがやって来てそう尋ねる。

 

「シ~~………今眠ったところです」

 

ノンナが口の前に人差し指を立ててそう注意する。

 

「そうか………しかし、包囲したとは言え、少し油断し過ぎではないのか?」

 

「心配ないって。コッチには数も性能も上な戦車部隊と、10万の歩兵部隊が居るんだぜ。負けるワケ無いさ」

 

そう指摘するデミトリだが、マーティンが笑いながらそう返す。

 

「だが、包囲を逃れた部隊も居るぞ」

 

「そっちには俺の『猟犬部隊』が付いた戦車部隊が向かってる。すぐにでも撃破の報告が来るだろうさ」

 

デミトリは今度は包囲を逃れたサンショウウオさんチーム達の事を指摘するが、ピョートルがそう返す。

 

「むう………」

 

「問題ありませんよ、同志デミトリ。何か有れば私と『ニキータ』………それに『雪化粧狙撃部隊』も動きますので」

 

と、デミトリが渋面を浮かべると、何時の間にか背後に居たラスプーチンがそう言って来る。

 

「(!? 何時の間に)急に背後に立つな」

 

「コレは失礼。お許しを」

 

突然背後に現れたラスプーチンに驚きながらもそう言うと、ラスプーチンは頭を下げる。

 

「ラスプーチン。今回ばかりはお前さんの出番は無いかも知れないぜ」

 

「ああ、ひょっとしたら3時間後には大洗の降伏で、俺達の勝利が自動的に決まりって事も有り得るからな」

 

完全に大洗を舐めている態度で、ピョートルとマーティンがそう言い合う。

 

「フフフ、そうなったら素敵ですな………では、所用がありますので、コレにて失礼を………」

 

そんな2人の会話を聞いて、ラスプーチンは愉快そうに笑うと踵を返し、雪の中に溶け込む様に消えて行く………

 

(何時もの事だが、味方ながら不気味な男だ………)

 

ラスプーチンが消えた方を見やりながら、デミトリは内心でそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………

 

「直りそう?」

 

「何とか動くと思うけど………」

 

「コッチはOKです」

 

八九式の内部で整備していたあけびと忍がそう言い合っていると、外側で整備をしていた灰史からそう声が挙がる。

 

「流石にコレは直せないね………」

 

「可愛そう~………」

 

「包帯巻いとく?」

 

「意味無いから」

 

主砲が吹き飛んだM3リーの姿を見上げながらあゆみ、桂利奈、優希、あやがそう言い合う。

 

「澤さん、そっちの配線はコッチにお願いします」

 

「うん、分かった」

 

そして、勇武と共にエンジンを整備している梓。

 

「良し! 動かしてみろ」

 

「ハイ」

 

Ⅳ号の主砲塔を弄っていた十河がそう声を挙げると、砲手席に居た華が旋回ハンドルを回す。

 

すると、Ⅳ号の砲塔が少し嫌な音を立てながらも回る。

 

「回りますね」

 

「ええ」

 

「だが騙し騙しだ。無茶はなるべくするな」

 

優花里と華がそう言い合うと、十河がそう注意する。

 

一方、作戦会議を行っているメンバーは………

 

「問題は、この包囲網を如何やって突破するかだな………」

 

記憶と予想から描いた戦況地図を見て、桃がそう言う。

 

「敵戦車の正確な配置が分かれば良いんだけど………」

 

敵戦車の位置が、現在の場所から確認出来る物しかない地図を見てそう呟く柚子。

 

「偵察を出せれば良いんですけど………」

 

みほが苦い顔をしてそう呟く。

 

敵の正確な配置を知る為には、偵察兵に偵察に行って貰う他無い。

 

しかし、周囲を取り囲んでいるツァーリ歩兵部隊の人数は10万人………

 

軽装備な上、偵察と言う任務上、単独行動をしなければならない偵察兵では、見つかればそれで終わりである………

 

言うなれば、この状況で偵察に出ろと言うのは、死ねと命令するのと同義であった。

 

「…………」

 

そう思うみほは命令を躊躇う。

 

と………

 

「西住総隊長。偵察に行かせて下さい」

 

そこで、楓を初めとした生き残っていた偵察兵達が、みほの傍に立った。

 

「!? 大空くん!? 皆も!?」

 

「偵察が必要なんだろう?」

 

「だったら俺達に任せれば良い」

 

驚くみほに、磐渡と秀人がそう言う。

 

「でも! 相手は10万人………」

 

「大丈夫ですよ」

 

「僕達のミッションは飽く迄偵察です。隠れながら敵をやり過ごし、帰還すれば言いのデス」

 

危険だと言う柚子に、逞巳とジェームズがそう返す。

 

「ステルス任務は俺の得意とするところだ。任せておけ」

 

「拙者のニンジャ偵察力を持ってすれば、この程度の敵を偵察するなど、ベイビー・サブミッションでござる」

 

何故か脇に折り畳んでるダンボール箱を抱えた大詔と、何やら殺気めいたアトモスフィアを出している小太郎がそう言う。

 

「西住総隊長。行かせて下さい」

 

最後に清十郎がそう言い、大洗偵察兵部隊はみほの事を見やる。

 

「…………」

 

みほはその視線を受けて、考え込む様な様子を見せる。

 

「………分かりました。けど、決して無理はしないで下さい。必ず………必ず無事で戻って来て下さい」

 

「偵察は生きて帰って来てこそ任務完了。心得ています」

 

やがて、みほが決意したかの様にそう言うと、楓がそう返して敬礼し、他の一同も一斉に敬礼し返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊に包囲され、絶体絶命の大洗機甲部隊の本隊………

 

更に、包囲を逃れていたサンショウウオさんチームにも、別働隊が襲い掛かる。

 

最早、大洗機甲部隊の命運は、大洗女子学園と共に、風前の灯火なのだろうか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

プラウダ&ツァーリ機甲部隊に完全包囲されながらも、試合続行を決める大洗機甲部隊。
包囲を逃れていたサンショウウオさんチーム達に別働隊が襲い掛かる中、敵の詳しい配置を探る為に偵察兵達が決死の偵察に出る。
果たして、大洗機甲部隊の運命は?

この作品では、偵察兵がいるので、偵察は彼等に行って貰います。
OVAのスノー・ウォーに当るエピソードはありませんので、ニーナ達は別の機会に登場させようかと思っています。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第77話『決死の偵察です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第77話『決死の偵察です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合にて、慢心により相手の罠に嵌り、完全に包囲されてしまった大洗機甲部隊………

 

降伏を勧告され、降参も止むを得ないと考えるみほだったが………

 

桃の口より、大洗女子学園廃校の話が最悪のタイミングで飛び出し、降伏は出来なくなる………

 

最後まで戦おうと、損傷した戦車の修理に掛かる大洗機甲部隊だったが………

 

希望であった唯一包囲を逃れていたサンショウウオさんチーム達にも、プラウダ&ツァーリ機甲部隊が迫る………

 

まだそれを知らない本隊では、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の戦車部隊の正確な配置を知る為に………

 

偵察兵部隊が、決死の偵察へ向かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

「アゴーニッ!!」

 

乗員の叫びと共に、ISU-152の主砲が火を噴く!

 

「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」

 

砲弾はアリクイさんチームの三式の傍に着弾し、三式の車体が一瞬浮き上がる。

 

「「「「「ウラァーッ!!」」」」」

 

更に、ツァーリ歩兵達が、雄叫びを挙げながら突撃して来る。

 

「撃て撃て!」

 

「撃ちまくれぇーっ!!」

 

突っ込んで来るツァーリ歩兵達に、タコさん分隊とおおかみさん分隊の歩兵達は、次々と銃撃を加える。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

銃弾を浴びたツァーリ歩兵達が次々と倒れて行く。

 

「「「「「ウラァーッ!!」」」」」

 

しかし、戦死判定を受けた仲間達を文字通り踏み越えて、ツァーリ歩兵達は突撃を続行する。

 

「何なんだ、アイツ等!?」

 

「倒れた仲間を踏み越えて来るだなんて、イカれてるぜ!!」

 

その異様とも言える突撃の様に、タコさん分隊とおおかみさん分隊の歩兵達の間に恐怖にも似た感情が湧き上がる。

 

「死ねぇっ!!」

 

「我が学園艦の栄誉の為にぃーっ!!」

 

「同志カチューシャの為に!!」

 

「ツァーリ万歳ーっ!!」

 

とそこで、遂に大洗歩兵部隊を射程内に納めたツァーリ歩兵達からも、銃撃が始める。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐはあっ!?」

 

シモノフM1936半自動小銃やDP28軽機関銃の銃撃を受けた大洗歩兵達が、次々と戦死判定を受けて倒れ伏す。

 

「いけない! 明菜ちゃん! 歩兵の皆を支援して!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

それを見たサンショウウオさんチームのクロムウェルが、主砲をツァーリ歩兵達に向ける。

 

「アゴーニッ!!」

 

しかしそこで、KV-1の放った76.2mm砲弾が、クロムウェルに命中する!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

車内に走る凄まじい振動に悲鳴を挙げるサンショウウオさんチーム。

 

幸い角度が浅かった為、砲弾は弾かれて明後日の方向に飛んで行った。

 

「駄目だ! やられちゃうよぉっ!!」

 

「チキショー! ココまでなのかよ!!」

 

しかし、士気の低下していたサンショウウオさんチームからはそんな声が挙がる。

 

「馬鹿野郎! 弱音吐いてる暇が有ったら弾撃て、弾ぁっ!!」

 

と、そんなサンショウウオさんチームに白狼の叱咤が飛ぶ。

 

「白狼!」

 

「俺は諦めねえぞ………絶対に諦めないぞっ!!」

 

飛彗が声を掛けた瞬間、白狼はそう叫び、ツェンダップK800Wのアクセルを全開にして、ツァーリ歩兵達の中へと突っ込んで行った!

 

「! 白狼!」

 

「何やっとんねん!?」

 

単騎特攻した白狼に、海音と豹詑が思わず声を挙げる。

 

「ベオウルフが突っ込んで来ます!」

 

「馬鹿め! 良い的だ!! 全員、撃てぇっ!!」

 

ツァーリ歩兵の1人から報告を受けた、ツァーリ歩兵部隊の分隊長と思わしき歩兵が、そう号令を飛ばす。

 

それにより、ツァーリ歩兵部隊の攻撃が、白狼へと集中する!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが白狼は雄叫びを挙げながら突撃を続行する。

 

銃弾が顔や身体のすぐ傍を掠め、足元に落ちて来た手榴弾が巻き上げた雪片と土片を浴びながらも、SU-76に向かってモロトフ・カクテルこと火炎瓶を投げつけた!

 

火炎瓶はSU-76に命中すると、忽ち中身の液体が飛び散って炎上。

 

SU-76のエンジンを誘爆させ、白旗を上げさせた!

 

「如何だっ!」

 

「オノレッ! よくも同志を!!」

 

「コレで如何だ!!」

 

と、白狼はそう叫んだ瞬間、ツァーリ歩兵部隊の中に居た工兵が、ネットの様な物を、白狼の進行方向に向かって投げた。

 

ネットの様な物は白狼の前に落ち、白狼はバイクに乗ったまま、そのネットの様な物の上を通過する。

 

「!? うおわっ!?」

 

すると、そのネットの様な物がバイクの車輪に絡み付き、車輪が動かなくなりバイクは急停車。

 

白狼はバイクから投げ出されて、ネットの様な物の上に落ちる。

 

「!? ピアノ線だと!?」

 

そのネットの様な物が、螺旋状に編み込まれたピアノ線である事を確認した白狼が叫ぶ。

 

かつてノモンハン事件にて、ソ連軍が日本軍の戦車の動きを封じる為に使った戦法………

 

『ピアノ線鉄条網』である。

 

「よくもやってくれたな」

 

「同志の戦車を破壊した罪は重い。一思いにはやらん。じわじわと嬲り殺しにしてくれる」

 

バイクから放り出された白狼を、ツァーリ歩兵達が取り囲む。

 

「チイッ!」

 

舌打ちをしながら、白狼は自分を取り囲んでいるツァーリ歩兵達を睨み付ける。

 

「白狼!」

 

「アカン、飛彗! 今突っ込んだら、お前までやられてまうで!」

 

「じゃあ見殺しにしろって言うのかよ!!」

 

飛彗が悲鳴の様な声を挙げて助けに行こうとしたが豹詑に止められ、その傍に居た海音がそう叫ぶ。

 

だが、この時………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の隊員達は1つミスを犯していた。

 

それは、突撃して来た白狼を仕留めようと躍起になった余り、ツァーリ歩兵部隊が全員戦車部隊の前へと出てしまっていたのである。

 

つまり、現在プラウダ戦車部隊の背後はガラ空き状態である。

 

本隊が包囲されており、目の前の戦力が全てと思っている以上、それは当たり前の行為だったかも知れない。

 

しかし………

 

その背後ががら空きのプラウダ戦車部隊に、音も無く走り寄る影が1つあった。

 

プラウダ戦車部隊は前方の警戒に集中しており、その存在に気付かない。

 

その影はそのまま、プラウダ戦車部隊の後部に、次々に吸着地雷を仕掛けて行く。

 

「ん? 今何か?………」

 

と、漸くツァーリ歩兵の1人が、戦車の傍で動く影が有る事に気付いた瞬間!

 

プラウダ戦車部隊に仕掛けられていた吸着地雷が次々に爆発!

 

残っていた全ての戦車から白旗が上がった。

 

「!? なっ!?」

 

「何っ!?」

 

「何だ!? 何が起こったっ!?」

 

「戦車部隊が………全滅だと!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如として随伴していたプラウダ戦車部隊が全滅し、ツァーリ歩兵達とサンショウウオさんチーム達は驚きに包まれる。

 

「! 今だっ!!」

 

とその瞬間を見逃さず、白狼は取り囲んでいたツァーリ歩兵部隊を突破する。

 

「!? しまったっ!?」

 

「オノレ、逃すか!」

 

1人のツァーリ歩兵が、逃がしはしないと白狼の背中をトカレフM1940半自動小銃で狙うが………

 

直後に発砲音がして、トカレフM1940半自動小銃を構えていたツァーリ歩兵の頭に弾丸が命中する!

 

「ガハッ!?」

 

トカレフM1940半自動小銃を構えていたツァーリ歩兵は雪の上に倒れ、当然戦死と判定される。

 

更に2度、3度と銃声が響き渡り、ツァーリ歩兵達が次々とヘッドショットされて行く。

 

「! あそこだ!!」

 

とそこで、ツァーリ歩兵の1人が、撃破されたIS-1の影からマズルフラッシュが挙がっているのを発見する。

 

「良くも同志達を!!」

 

「報復だぁっ!!」

 

IS-1の目掛けて、ツァーリ歩兵達の銃撃が集中する。

 

一部は撃破されたIS-1に当たり、装甲上で火花を散らす。

 

「ウラァーッ!!」

 

と、ツァーリ歩兵の1人が、F1手榴弾を投擲する。

 

それに続く様に、他のツァーリ歩兵達も、撃破されたIS-1の影目掛けて、次々とF1手榴弾を投擲する。

 

投げられたF1手榴弾は次々と爆発!

 

余りの連続した爆発で、積もっていた雪が無くなり、地面が露出する程だった。

 

「やったかっ!?」

 

ツァーリ歩兵部隊の分隊長がそう叫ぶ。

 

その瞬間!

 

撃破されたKV-1の砲塔の上に、不意に人影が現れた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」

 

ツァーリ歩兵部隊が驚きに包まれていたその間に、人影はKV-1の機銃架に装備されていたSG-43重機関銃の機銃架用バリエーションであるSGMBに手を伸ばしたかと思うと、何と!!

 

SGMBを機銃架から引っぺがし、ベルト式の弾薬を身体に巻き付けたかと思うと、14キロ近くあるその重機関銃を、腰で支える様にして持って構えた!!

 

「なっ!?」

 

ツァーリ歩兵部隊の分隊長の驚きの声が挙がった瞬間………

 

人影はSGMBの引き金を引いた!

 

轟音と共に7.62x54mmR弾が次々と放たれる!!

 

「ギャアアッ!!」

 

「グアアアアッ!!」

 

「ば、化け物めぇっ!! ウギャアアッ!!」

 

ツァーリ歩兵部隊の隊員達は、悲鳴を挙げながら、文字通り薙ぎ払われ、次々と戦死判定を受けて行く。

 

「ええいっ! 怯むな!! 我等は偉大なるツァーリ歩兵部隊………」

 

と、ツァーリ歩兵部隊の分隊長がそう声を張り上げた瞬間………

 

「さっきのお返しだ!!」

 

混乱に乗じてバイクの回収と応急修理を終えた白狼が、ツァーリ歩兵部隊の分隊長目掛けて、カンプピストルからグレネード弾を放った!

 

「!? ゲバアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

グレネード弾はツァーリ歩兵部隊の分隊長に直撃し、呆気無く戦死判定を下させた。

 

「! 分隊長がやられたぁっ!!」

 

「もう駄目だぁ! 逃げろぉっ!!」

 

指揮者がやられた事で、ツァーリ歩兵達は忽ち士気崩壊。

 

我先にと逃走に入る。

 

「逃がすなぁっ! 砲撃開始ぃっ!!」

 

「オラ、喰らえぇっ!」

 

「撃ちますっ!」

 

そのツァーリ歩兵達を逃がさんと、明夫、鷺澪、誠也を中心に砲兵部隊が榴弾砲で砲撃を開始!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

無数に降り注ぐ榴弾の破片を浴び、逃走していたツァーリ歩兵達は次々と戦死判定を受けて行く。

 

結局、逃げ延びたのは僅か数名程度だった。

 

「やった!」

 

「けど、あの人は一体?………」

 

弁慶が歓声を挙げるが、拳龍は突如現れて、瞬く間にプラウダ戦車隊を撃破し、ツァーリ歩兵部隊に大打撃を与えた謎の人物を見やる。

 

その人物は、撃ち終えたSGMBを捨てると、サンショウウオさんチーム達の方へと歩み寄って来た。

 

「「「「「「「「「「!!………」」」」」」」」」」

 

タコさん分隊とおおかみさん分隊の歩兵隊員が身構える。

 

「………!? お前っ!?」

 

しかしそこで、白狼が何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「話は後だ………先ずは状況を教えて欲しい」

 

その影は、タコさん分隊とおおかみさん分隊の歩兵隊員に向かってそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

プラウダ戦車部隊と、10万人のツァーリ歩兵部隊が取り囲む中へ、決死の偵察活動に出た大洗偵察兵部隊は………

 

「ISU-122が1両。T-34-76が2両。それに………IS-3が1両ですね」

 

雪の稜線に身を隠しながら双眼鏡で、眼前のプラウダ戦車部隊の車種と車両数を確認していた楓がそう言う。

 

「東側にISU-122が1両。T-34-76が2両。IS-3が1両」

 

その傍らに居た逞巳が、持っていた地図に、楓から報告が有った車両を書き込んで行く。

 

『コチラ西側を偵察中の蛇野。コチラにはT-34-85が3両。T-26が2両』

 

『それにSU-85が1両でござる』

 

とそこで、西側の偵察に行って居た大詔と小太郎から、そう通信で報告が入って来る。

 

「T-34-85が3両。T-26が2両。SU-85が1両………と」

 

『コチラ、南側のジェームズデス。コチラには、SU-76が2両とIS-1が1両です』

 

『更に歩兵部隊の装甲車と思わしき車両も多数です』

 

続いて、南側の偵察をしていたジェームズと清十郎からそう報告が入る。

 

「SU-76が2両とIS-1が1両………歩兵部隊の車両多数………」

 

『北側の蹄だ。如何やら此処が敵の本隊らしい。T-34-85が5両。ISU-122が1両。SU-100が1両。IS-2が1両。SU-85が1両を確認』

 

『T-34-85の内、2両は隊長車と副隊長車だ。更に多数のカチューシャが展開している』

 

そして最後に、北側を偵察している磐渡と秀人からの報告が挙がる。

 

「敵の本隊………」

 

「蹄さん、すぐにそこから離脱して下さい」

 

本隊の規模に若干戦慄しながらも、きっちりとメモを取る逞巳と、磐渡に退避する様に呼び掛ける楓。

 

『いや、まだフラッグ車が発見出来ていない。もう少し偵察してみる』

 

しかし、磐渡はそう言って、偵察活動を続けようとする。

 

「無茶をしないで下さい。そこに居るのは敵の本隊なんですよ」

 

『駄目だ。フラッグ車を見つけない事には、俺達に勝機は無い』

 

『何せ負けるワケには行かなくなっちまったからな………』

 

引き留めようとする楓だったが、磐渡と秀人の決心は変わらない。

 

「ですが………」

 

と、楓が更に何か言おうとした瞬間………

 

通信機から連続して爆発音が聞こえて来た!!

 

「!? 如何しました!?」

 

『敵に気付かれた! ロケット弾が次々と降って着やがる!』

 

『! 居たぞ! フラッグ車のT-34-76だ! 敵本隊の後方! KV-2が守ってやがる!!』

 

慌てて楓が尋ねると、爆発音に混じって、磐渡と秀人のそう言う声が返って来る。

 

「2人共! すぐに離脱を!!」

 

『いや、もう駄目だ………すまないが俺達はココまでだ』

 

『西住総隊長に必ず伝えてくれよ! 大洗万歳っ!!』

 

楓がそう叫んだ瞬間、通信機からは磐渡と秀人のそう言う声が響き、その後ノイズだけとなった………

 

「! 蹄さん! 銅さん!」

 

2人に向かって呼び掛ける楓だったが、通信機からはやはりノイズしか返って来ない。

 

「くうっ!………」

 

「2人がやられたんですか………」

 

楓が俯くと、逞巳がそう尋ねて来る。

 

「………行きましょう。2人の行動を無意味にしない為にも、何としてもこの情報を西住総隊長へ知らせないと」

 

「了解です」

 

2人はそう言い合い、撤収しようと、偵察していたプラウダ&ツァーリ機甲部隊の一部に背を向ける。

 

だが………

 

「! 敵だぁっ!!」

 

「! 敵が居るぞぉっ!!」

 

運悪く、歩哨をしていたツァーリ歩兵に、姿を見られてしまう。

 

「!? み、見つかった!?」

 

「走りますよ!!」

 

慌てる逞巳を引っ張る様に、楓は離脱を計る。

 

「逃がすなぁっ!」

 

「追えぇっ!!」

 

ツァーリ歩兵達からそう声が挙がったかと思うと、数台のRF-8が、楓と逞巳を追う様に発進した。

 

「急いで! 早く!」

 

「そ、そんな事を言っても、雪に足が取られて………」

 

急かす楓だったが、逞巳が雪に足が取られて、上手く走れない。

 

「居たぞ!」

 

「偵察兵か………」

 

「獲物としては物足りないが、片づけてやるか!」

 

「その前にちょっと遊んでやろうぜ!」

 

とそこで、RF-8に乗ったツァーリ歩兵達が追い付き、2人の姿を見てそう声を挙げる。

 

「! 追い付かれた!」

 

「ウラァーッ!!」

 

楓が声を挙げると、1台のRF-8の銃手席に居たツァーリ歩兵が、DP28軽機関銃を発砲する。

 

「!? うわぁっ!」

 

「くうっ!」

 

弾丸がすぐ傍を掠め、逞巳と楓は思わず雪の上に倒れる。

 

「そらそらぁっ!!」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

RF-8に乗ったツァーリ歩兵達はそのまま、楓と逞巳の周りを回る様に動き、次々と銃撃を浴びせて行く。

 

しかし、その全ての弾丸は、楓と逞巳のすぐ傍に着弾するも、決して2人に命中する事は無かった。

 

「ヒイイッ!」

 

「くっ! 遊んでいるのですか………」

 

両手で頭を庇う様にして伏せ続ける逞巳と、遊ばれている事に腹を立てる楓。

 

しかし、2人は完全に取り囲まれており、少しでも動けば標的になるだけ………

 

状況はジリ貧であった………

 

「ハーハハハ! こりゃ良いぜ!」

 

「如何したんだぁ? 早く逃げないと撃ち殺しちまうぞぉ!」

 

そんな2人に向かって、ツァーリ歩兵達は挑発するかの様な台詞を浴びせる。

 

「クウッ!………」

 

歯噛みしつつも為す術の無い楓達。

 

「よおし、そろそろ終わりにしてやるかぁ!」

 

と、1人のツァーリ歩兵がそう言ったかと思うと、F1手榴弾のピンを抜いて構える。

 

………その瞬間!!

 

パアァーンッ!と言う甲高い発砲音が響いたかと思うと、F1手榴弾を構えていたツァーリ歩兵がヘッドショットを受けた!

 

「ガッ!?………」

 

ヘッドショットされたツァーリ歩兵は即座に戦死と判定され、F1手榴弾をRF-8の車内へ落してしまう。

 

「なっ!?」

 

操縦席のツァーリ歩兵が驚きの声を挙げた瞬間にF1手榴弾は爆発!

 

RF-8は炎に包まれ横倒しとなり、爆発した!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

それを見た別のRF-8の操縦手のツァーリ歩兵が驚きの声を挙げた瞬間!

 

またも発砲音が響き渡り、その操縦手のツァーリ歩兵がヘッドショットされた!

 

「ガハッ!?」

 

「おわああっ!?」

 

操縦手が戦死判定を受け、更に気を失った事でRF-8は暴走。

 

「わあっ!? 馬鹿! 来るなぁっ!!………! ギャアアアアッ!!」

 

そのまま別のRF-8に衝突したかと思うと、自身も木の幹に突っ込んで爆発する!

 

「!? 狙撃っ!?」

 

「一体何処から!?」

 

別のツァーリ歩兵達がそう声を挙げた瞬間………

 

今度は2連続で発砲音が響き渡り、その2人のツァーリ歩兵達が、またもやヘッドショットされた!

 

「「ぐはっ!?」」

 

それにより、その2人が乗って居たRF-8も暴走して、互いに正面衝突!

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」

 

生き残っていたもう1人のツァーリ歩兵諸共爆発し、全員が戦死判定を受ける。

 

そうして瞬く間に、楓と逞巳を取り囲んでいたRF-8に乗ったツァーリ歩兵達の部隊は全滅した………

 

「コレは………一体何が?」

 

「誰かが狙撃で援護してくれたみたいですけど………何処から?」

 

立ち上がって呆然となる逞巳と、狙撃手を探す楓。

 

しかし、周辺に狙撃手が居そうな場所は無かった………

 

「味方………何でしょうか?」

 

「………少なくとも、今僕達が撃たれていない事を見るに敵では無いと思います………兎に角行きましょう。追撃部隊が来ない内に、西住総隊長の所へ戻らないと」

 

「ハ、ハイ………」

 

逞巳と楓はそう言い合うと、大洗機甲部隊の本隊へ、情報を伝えに戻るのだった。

 

「…………」

 

その様子を、2人が居た場所から1キロ程離れた林の中で見ていた、白いギリースーツを纏い、小柄な身長には不釣り合いな狙撃仕様のライフルを構えた人物が、その吹雪の中に溶け込む様に消えて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中………

 

「今戻った」

 

「只今でござる」

 

そう言う台詞と共に、大詔と小太郎が率いていた偵察部隊が帰投する。

 

「只今戻りマシタ」

 

「部隊、帰還です」

 

続いて、ジェームズと清十郎が率いていた偵察部隊が帰還する。

 

「お疲れ様です」

 

「後は蹄くん達と大空くん達の部隊か………」

 

みほがそう声を掛けて偵察部隊を迎えると、迫信がそう呟く。

 

と………

 

「ゼエ! ゼエ!」

 

「た、只今、き、帰還しました………」

 

息を切らせた楓と逞巳が、偵察兵部隊と共に帰還する。

 

「! 大空さん! 小金井さん!」

 

「オイ! 大丈夫か!?」

 

みほが声を挙げると、地市達が慌てて駆け寄って、2人と偵察部隊を教会内へ引っ張り入れる。

 

「す、すみません………途中、敵に見つかりまして………」

 

「何とか逃げ延びましたが………蹄さん達の部隊は………やられました」

 

「!? 磐渡が!?」

 

磐渡がやられたと言う報告を聞いて、重音が驚きの声を挙げる。

 

「西住総隊長………コレを………」

 

とそこで、逞巳がプラウダ戦車部隊の配置を書き込んだ地図を、みほに差し出す。

 

「蹄さん達が自分達と引き換えに得た情報です………活用して下さい」

 

「! ハイ………」

 

みほは身体を震わせながらもその地図を受け取り、作戦を練り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降伏時間まであと2時間………

 

大洗機甲部隊は如何言う作戦を立てるのか?

 

そして、サンショウウオさんチームの前に現れた人物と、謎の狙撃者の正体は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

包囲を逃れたサンショウウオさんチームだったが、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊を前に窮地に陥る。
遂に白狼がやられそうになった瞬間!
謎の歩兵が現れ、瞬く間にプラウダ&ツァーリ機甲部隊の別働隊を壊滅させた!

更に、決死の偵察に出ていた楓達も、謎のスナイパーの援護を受ける。

果たして、彼等の正体は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第78話『突撃軍歌です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第78話『突撃軍歌です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合にて………

 

慢心していた大洗機甲部隊は罠に嵌り、サンショウウオさんチーム達を除いて完全に包囲されてしまう………

 

更に、大洗女子学園廃校の件が皆に知られる事となり、負ける事は出来なくなる………

 

偵察部隊が犠牲を出しながらも決死の思いで、包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の情報を収集していた中………

 

それを援護した謎の狙撃兵………

 

そして、別働隊に襲われたサンショウウオさんチームを助けた者が居た………

 

その正体は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

観客席サイド………

 

『只今、試合を続行するか、協議しております。繰り返します。只今、試合を続行するか協議しております』

 

主審のレミの声で、そう言うアナウンスが響き渡る。

 

「ますます大洗には不利ですね。敵に四方を囲まれ、この悪天候………きっと戦意も………」

 

そのアナウンスを聞きながら、ペコがそう呟く。

 

「それはマズイわね………」

 

「例えまだ戦うとしても、戦意が落ちていたら普段の力は発揮出来ん………」

 

瑪瑙と堅固も、モニターを見ながらそう言い合う。

 

「やっぱり駄目なのかな………」

 

「うん………」

 

琥珀と瑠璃も諦めムードである。

 

「………それは如何かしらね?」

 

しかしそこで、ダージリンが不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「「…………」」

 

そして、アールグレイとジャスパーは、サラリとモニターに映っているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の車両表から、一気に車両が減ったのをジッと見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………

 

「降伏時間まで、あと何時間だ?」

 

「………1時間」

 

桃がそう尋ねると、柚子がそう返す。

 

「1時間をこの状態で待つのか………」

 

教会内は隙間風どころではない風が雪と共にドンドン入り込んでおり、ほぼ外と変わらない気温となっていた。

 

「何時まで続くんだろうね、この吹雪………」

 

「寒いね~………」

 

「うん………」

 

「お腹空いた………」

 

炬燵の様に毛布を取り囲んで入っているウサギさんチームの中で、あや、優希、桂利奈、あゆみがそう呟く。

 

「やはり、コレは八甲田山………」

 

「天は、我々を見放した………」

 

「隊長! あの木に見覚えがありますぅ!!」

 

入り口付近に立っていたカバさんチームは、近代の登山史における世界最大級の山岳遭難事故である『八甲田雪中行軍遭難事件』を思い起こしている。

 

「良い事考えた。ビーチバレーじゃなくて、スノーバレーって如何ですかね?」

 

「良いんじゃない。知らないけど………」

 

アヒルさんチームは、柱の根元に体育座りして、若干上の空気味にそんな事を言い合っている。

 

「………すー………すー………」

 

「寝ちゃ駄目だよ、パゾ美」

 

カモさんチームは、3人で1枚の毛布に包まり、只ジッと耐えている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そして歩兵部隊の面々は会話すら無く、各々に手持無沙汰気味に黙々と武器の手入れをしていた。

 

「食糧は?」

 

「こういう事態は予測してなかったので、さっきゾルダートさんが調理してくれたスープの他には乾パンしか………」

 

「クッ、すまない………満足な物も振る舞えないとは………」

 

桃と柚子がそう言い合っていると、スープを調理したゾルダートがそう謝罪する。

 

「そんな! 気にしないで下さい! この状況下でアレだけの物を作れただけ凄いですよ!」

 

蛍がそう言ってフォローする。

 

ゾルダートが調理したスープはまるで高級レストランで出て来てもおかしくないくらいの美味であり、一時的に士気は持ち直したかに見えたが、厳しい寒さですぐにまた低下してしまった………

 

「何も食べる物無くなったね………」

 

「さっき偵察中に見ましたけど、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の人達はボルシチとか食べてました」

 

沙織がそう呟くと、楓は偵察中に見た光景を伝える。

 

「マジかよ………」

 

「チキショー、此れ見よがしにしやがって………」

 

そう言いながら、地市と了平が包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の様子を見やる。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊はすっかり勝った気で居る様で、歩兵部隊が焚火を取り囲んで、軽食を摂りながら楽しそうに談笑している。

 

戦車部隊の隊員も、戦車から降りてその談笑に参加している。

 

中には、コサックダンスに興じている者達の姿も在った。

 

「美味しそうだな………」

 

「それに暖かそうです………」

 

「やっぱり、アレだけの機甲部隊を形成している学校ですからね………」

 

その光景を見ていた麻子と華、優花里がそう言い合う。

 

「………学校………無くなっちゃうのかな?」

 

とそこで、沙織がポツリとそう呟いた。

 

「そんなの嫌です………私はこの学校に居たい! 皆と一緒に居たいです!!」

 

その呟きを聞いた優花里がそう声を挙げる。

 

「そんなの分かってるよ………」

 

「如何して廃校になってしまうんでしょうね………此処でしか咲けない花もあるのに………」

 

「…………」

 

沙織がそう返すと、華がそう言い、麻子も表情を険しくした。

 

「皆、如何したの? 元気出して行きましょう!」

 

士気が低下している面々を見て、みほが激励する様にそう言う。

 

「うん………」

 

「さっき皆で決めたじゃないですか! 降伏しないで最後まで戦うって!!」

 

「「「「「「「「「「は~い…………」」」」」」」」」」

 

「分かってま~す………」

 

みほは更にそう言うが、皆からはやる気の無い返事が返って来る。

 

「オイ、もっと士気を高めないと」

 

「えっ?」

 

「このままじゃ戦えんだろ。何とかしろ! 総隊長だろう!」

 

「え、ええっ!?」

 

桃の無茶振りにみほは戸惑う。

 

「相変わらず口先だけは達者だな………」

 

とそこで、熾龍の毒舌が桃へ飛ぶ。

 

「!? 何だと!?」

 

それに桃がいつもの様に言い返そうとしたところ………

 

「河嶋副隊長。今回ばかりは栗林先輩に賛成させてもらいますよ」

 

歩兵部隊の1人から、更にそんな声が挙がった。

 

「!? なっ!?」

 

「いつもいつも口ばっかりで………」

 

「その癖、自分は何の役にも立たないんだからよぉ………」

 

「全くだぜ………」

 

桃が驚いていると、更に別の歩兵達も口々にそんな声を挙げる。

 

「! うう………」

 

「オイ! そんな言い方はねえだろう!!」

 

思わず桃が目尻に涙を浮かべると、弦一朗がその歩兵達にそう反論する。

 

「だって事実じゃねえかよ」

 

「んな事言ってる場合か! コレからプラウダとツァーリの連中にブチ噛まそうって時によ!!」

 

「………なあ? やっぱり降伏するってのは駄目か?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

するとそこで、歩兵部隊からそんな意見が挙がり、戦車部隊の一同が驚愕する。

 

「このまま戦ったって勝てるとは限らねえしよぉ………コレ以上辛い思いするくらいなら、いっそ降伏しまった方が………」

 

「阿保抜かせ! ワイ等が負けたら、大洗女子学園が潰れてまうんやで!!」

 

何を馬鹿な事をと大河が叫ぶが………

 

「別に良いだろ! 俺達の学校はそのままなんだからよ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

歩兵の1人がそう声を挙げ、大洗機甲部隊の一同が固まる。

 

「あ………」

 

言った歩兵も後悔したのか、思わず口を押えたが、その瞬間!!

 

「この馬鹿たれぇっ!!」

 

大河が有無を言わさず、その歩兵を殴り飛ばした!!

 

「ガッ!?………この野郎!!」

 

殴られた歩兵は、大河に反撃する。

 

「ゴホッ! 阿保んだらぁっ!!」

 

そのまま大河と歩兵は取っ組み合いの喧嘩を始める。

 

「オイ、何やってんだっ!?」

 

「馬鹿! やめろって!!」

 

「親分! 駄目です!!」

 

「落ち着いて下さい!!」

 

慌てて大洗連合の舎弟達や他の歩兵が止めに入るが………

 

「オイ、そっちを押さえろって!」

 

「ウルセェッ! そっちで何とかしろ!!」

 

「イデッ!? 誰だ! 今俺を殴ったのは!?」

 

止めに入った歩兵達の間でも殴り合いが始まり、大喧嘩に発展する。

 

「ちょっ! 皆! 止めてよぉっ!!」

 

「落ち着いて下さい!」

 

「仲間割れしている場合じゃないですよ!」

 

沙織、華、優花里から悲鳴の様な声が挙がるが、頭に血が上っている大洗歩兵達には届かない。

 

(ど、如何しよう!? 皆が!?………)

 

みほも只々オロオロとするばかりである。

 

と、そんなみほの脳裏に、弘樹の姿が過った。

 

(! 舩坂くん………)

 

そこでみほは、喧嘩をしている大洗歩兵達を改めて見やる。

 

「…………」

 

そして、何かを決意したかの様な表情となる。

 

「テメェ、この野郎!」

 

「上等だ、ボケェッ!!」

 

「止めるんだ、諸君!!」

 

迫信が身体を張って止めようと、大洗歩兵部隊の大喧嘩の中に割り込もうとした、その瞬間!

 

「貴様等ぁーっ!! この危急存亡の時に仲間割れとは何事だぁーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

脳の芯まで響き渡りそうな怒声が飛び、喧嘩をしていた大洗歩兵部隊の動きが一斉にピタリと止まった。

 

「!? 弘樹っ!?」

 

「舩坂くんっ!?」

 

その怒声が弘樹のものとそっくりであった事に気付いた地市と沙織が振り返る。

 

しかし、その怒声を挙げていたのは………

 

「に、西住殿!?」

 

驚きの声を挙げる優花里。

 

そう………

 

怒声を挙げたのは弘樹ではなく………

 

何と、みほであった。

 

「…………」

 

普段は人を怒鳴りつける様な事など決してしない筈のみほが、険しい顔をして喧嘩をしていた大洗歩兵達を見据えている。

 

………それでも可愛いと思えてしまう辺り、彼女の根の優しさが垣間見れる。

 

「我々は今、大洗の興廃を掛けた重要な局面に面してしている! その重要な局面で内輪揉めなどして………貴様等それでも日本男児か!? 大和魂を何処へやったぁっ!!」

 

「み、みぽりん………」

 

「まるで舩坂さんそのものです………」

 

「…………」

 

沙織と華が驚きを露わにし、麻子も唖然としている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同は、そんなみほの姿に注目する。

 

「………って、舩坂くんだったら言うと思うよ」

 

そこでみほは、いつもの様子に戻り、そう言い放つ。

 

「西住総隊長………」

 

「総隊長………」

 

喧嘩していた歩兵部隊の隊員達が、バツが悪そうな様子を見せる。

 

「ゴメンね、怒鳴っちゃって………お詫びに面白い事するね」

 

「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」」

 

と、続くみほの言葉を聞いて、大洗機甲部隊の面々が首を傾げると………

 

みほは何と、『あんこう踊り』を踊り始めた。

 

「み、みぽりん!?」

 

「あの恥ずかしがり屋のみほさんが、自分から………」

 

その様に再度沙織と華が驚きを示す。

 

「皆を盛り上げようとしてるんですね………」

 

「微妙に間違ってるがな………」

 

優花里がそう言うと、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「私も踊ります!」

 

「やりましょう!」

 

「皆、行くよ!」

 

「仕方ないな………」

 

とそこで、あんこうチームの面々もあんこう踊りに参加。

 

それを皮切りに、他の戦車チームも、次々とあんこう踊りを踊り始めた。

 

「な、何か変な事になってないか?」

 

「だが、盛り上がって来てはいるな」

 

鋼賀がそう呟くと、俊がそう返す。

 

すると、そこで………

 

歩兵部隊の中からも、歌声が響き始めた。

 

「! ハムスターさん分隊!?」

 

十河が驚きの声を挙げる。

 

歌い始めていたのは、勇武達ハムスターさん分隊の面々を中心にした面子だった。

 

歌っている歌は、歩兵達の間で応援歌として親しまれている歌………『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』だった。

 

『苦しい時には、歌を歌いなさい。歌は命令を順守する事を強要される歩兵に許された、唯一神聖なる暗黙の権利よ。両手が使えなくなっても、歌は歌えるわ。歌うなと、上官は言わないわ。何故なら、上官もまた歌うからよ。苦しいとき哀しいとき、己を奮い立たせるその時に、只一つ味方となるのは歌。ガンパレードマーチ(突撃行軍歌)よ』

 

大洗歩兵達の脳裏に、教官である空が言っていた言葉が思い起こされる………

 

やがて、先程まで喧嘩をしていた歩兵達が、大声で歌い始めた。

 

それを皮切りに、大洗歩兵隊の面々は次々に、『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』を歌い始める。

 

廃墟の教会の中に、戦車チームの『あんこう踊り』と、歩兵部隊の『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席サイド………

 

「…………」

 

「お嬢が………」

 

その様子は、大型モニターを通じて観客席側にも伝えられており、百合は頭を抱え、新三郎は驚きを露わにしている。

 

「「…………」」

 

しほは呆れた様な表情を露わにしており、まほは只ジッと無表情でその様子を見ている。

 

「アハハハハ! コレは傑作だ!!」

 

都草は愉快そうに笑っている。

 

「あ、ソレソレ! アンアンであります~!!」

 

そして久美は、便乗するかの様に観客席であんこう踊りを踊り始めている。

 

 

 

 

 

観客席近くの小高い丘の上………

 

「…………」

 

「ハラショーですわ」

 

唖然としているペコの横で、ダージリンは大洗機甲部隊の様子をそう評する。

 

「歌か………」

 

「そう言えば、最近歌ってないですね………ガンパレード・マーチ」

 

堅固と琥珀がそう言い合う。

 

「何時からかしらね………」

 

「そんな事をやってる暇があったら戦うって思い始めたのは………」

 

瑪瑙、瑠璃もそんな事を言い合う。

 

「…………」

 

「ハハハハ! コレは愉快愉快!!」

 

そしてアールグレイはそんな大洗機甲部隊の事をジッと見つめ、ジャスパーは愉快そうに笑い声を挙げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊を包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の中では………

 

「オイ、大洗の連中、何かやってるぞ?」

 

「何だ?」

 

「分からんが、何だか楽しそうな………」

 

若干やる気が感じられないツァーリ歩兵達が、大洗機甲部隊が立て籠っている教会から響いてくる来る楽しそうな声を聞いて、そんな事を言い合う。

 

「貴様等ぁっ! 何をボケッとしているぅっ!!」

 

「「「!?」」」

 

そこで怒声が響いて来て、そのツァーリ歩兵達は慌てて振り返ると、そこには分隊長と思わしきツァーリ歩兵の姿が在った。

 

「サボっている暇が有ったらキッチリ見張りをしていろ!」

 

「つってもよぉ、いくら防寒着を着てたって、この寒さは堪えるぜ」

 

「そろそろ交代させてくれよ」

 

怒鳴るツァーリ歩兵分隊長に、ツァーリ歩兵達はそう言うが………

 

「喧しい! 『正規部隊』はフラッグ車と隊長車の防御で手一杯だ! それに見張りは貴様等『非正規部隊』の役割だろう! 文句を言うな!!」

 

「オイ、そりゃねえだろ!!………」

 

と、『非正規部隊』と言われたツァーリ歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間………

 

その足元に銃弾が撃ち込まれた!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「コレ以上不平不満を言うならば、カチューシャ総隊長の名の元に粛清を行う!」

 

驚く非正規部隊のツァーリ歩兵達に、ツァーリ歩兵分隊長は銃口から硝煙の上がっているトカレフTT-33を向けてそう言い放つ。

 

「「「「「!!………」」」」」

 

それを見た非正規部隊のツァーリ歩兵達は何も言えなくなる。

 

「分かったな………では、見張りを続けろ」

 

ツァーリ歩兵分隊長は一方的にそう言い放つと、その場を去って行った。

 

「チキショー………俺達はこんな扱いかよ………」

 

「強制的に駆り出されて、クソ寒い中で見張り見張り………」

 

途端に、非正規部隊のツァーリ歩兵達から愚痴が漏れ始める。

 

「! うっ!………」

 

と、そこで、その中の1人がフラついたかと思うと、片膝を地に着いた。

 

「!?」

 

「オイ、如何した!?」

 

慌ててその歩兵の元に集まる非正規部隊のツァーリ歩兵達。

 

「すまねえ………実はちょっと風邪気味でよぉ………」

 

「馬鹿! 何で言わなかったんだ!!」

 

「言ったところで休ませてなんざもらえねえだろうさ………」

 

そう言いながら、ドンドンと顔色が悪くなって行くツァーリ歩兵。

 

「クソッ! 如何すりゃ良いんだ!?」

 

別のツァーリ歩兵がそう声を挙げると………

 

「…………」

 

風邪気味のツァーリ歩兵の眼前に、何かの薬が入っている小瓶が差し出された。

 

「!?」

 

「風邪薬だ………使え」

 

そう風邪気味のツァーリ歩兵に言い放つ、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

「あ、ありがてぇ………」

 

小瓶を受け取ると、中の錠剤を口に放り込む風邪気味のツァーリ歩兵。

 

「助かったよ、ありがとう」

 

「いや………」

 

「お前どこの部隊だ?」

 

と、そのツァーリ歩兵の顔が見慣れなかった為、非正規部隊のツァーリ歩兵の1人がそう尋ねる。

 

「隣で見張りをしている部隊だ。歩哨をしていたら、目に付いたのでな………」

 

やや離れた場所で、同じ様に見張りをしているツァーリ歩兵達を、後ろを向けたまま親指で指してそう言う『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

「って事はお前も非正規部隊か」

 

「お互い大変だな」

 

「ああ………」

 

口数の少ない『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』

 

まるで相手から話を聞き出す………

 

或いは、自分の事を余り詮索されない様にしているかに見える………

 

「全く本当に冗談じゃないぜ。幾ら2連覇の為とは言え、元々の歩兵道の受講者に加えて、『運動系の部活メンバー全てをツァーリ歩兵部隊として臨時編成する』だなんてよぉ」

 

「単位やテスト免除の報酬は確かに大きいが………俺達にだって都合と言うものがある」

 

「俺なんて明後日が部活の試合だぜ。ゼッテェー本調子で出れねえよ」

 

口数が少ない『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』を恰好の相手と見たのか、次々と愚痴と共に情報を喋り出す非正規部隊のツァーリ歩兵達。

 

如何やら彼等は元々歩兵道の受講者ではなく、運動系の部活などから半ば無理矢理引っ張って来られた者達らしい。

 

10万人と言う歩兵人数を確保出来たのは、コレが要因らしい。

 

「あ~あ~、いっそ正規部隊の連中に目に物見せてやっかなぁ」

 

「馬鹿、んな事したら粛清と言う名の補習だっての」

 

「だよな~………」

 

「………良いのか?」

 

「えっ?」

 

不意に『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』がそう呟き、非正規部隊のツァーリ歩兵が間抜けた返事を返す。

 

「本当にソレで良いのか?………」

 

短く、在り来たりな言葉………

 

しかし、妙に重みが感じられた………

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを聞いた非正規部隊のツァーリ歩兵達は黙り込む。

 

「………いや、すまない。気の迷いだ。忘れてくれ………原隊に復帰する」

 

そこで『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』はそう言い、隣の見張りをしている部隊の元へと向かった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

残された非正規部隊のツァーリ歩兵達は、顔を見合わせ、何かを考え込む様な様子を見せる。

 

その後………

 

『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』は、次々と非正規部隊の元を訪れ………

 

まるで不満を煽るかの様な言葉を残して行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中では………

 

未だに、戦車チームのあんこう踊りと、歩兵部隊のガンパレード・マーチ斉唱が続いていた。

 

既に先程までの通夜の様な沈痛な雰囲気は無く、まるで祭りでもしているかの様な賑やかな雰囲気となっている。

 

「………あ! あのぉっ!!」

 

とそこで、教会の入り口から声が響いた。

 

「「「「「「「「「「あ………」」」」」」」」」

 

「プラウダ校の………」

 

そこには、降伏勧告の返事を聞きに来たと思われる、プラウダ戦車部隊の隊員の姿が在った。

 

「もうすぐタイムリミットです。降伏は?」

 

「しません。最後まで戦います」

 

そう言うプラウダ戦車部隊の隊員に、みほは即座にそう言い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の野営陣地………

 

「で? 土下座?」

 

「いえ、降伏はしないそうです」

 

大洗機甲部隊が降伏しないと言う情報は、すぐに総隊長であるカチューシャの元へと届けられる。

 

「ああ、そう………全く、待った甲斐がないわね」

 

「手間取らせやがって………」

 

「そっちがその気なら、こっちも容赦しねえ………全員叩き潰してやるぜ」

 

ノンナからの報告を聞いたカチューシャが不満そうに言うと、ピョートルとマーティンも殺気を出しながらそう言い合う。

 

「それじゃあ、さっさと片付けてお家に帰るわよ」

 

「…………」

 

寝ぼけ眼を擦りながらカチューシャがそう言う中、デミトリだけが1人、何か嫌な予感を感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中………

 

「いよいよですね………」

 

「うん………」

 

Ⅳ号の乗り込んだあんこうチームの中で、優花里がそう言うと、みほが返事を返す。

 

「「…………」」

 

華と麻子の顔も、今までにない緊張で、きつく引き締まっている。

 

「? アレ?」

 

とそこで、通信機のチェックをしていた沙織が、何かに気付いた様に周波数を調整する。

 

「? 沙織さん、如何したの?」

 

「うん、通信回線に何か妙なノイズが………」

 

みほが尋ねると、沙織は通信機を弄りながらそう返す。

 

「ノイズ? コチラに回してもらえますか?」

 

「了解」

 

みほは車長用のヘッドフォンを掛けると、沙織がキャッチしたノイズに耳を傾ける。

 

『………ら………ふ………か………お………ね………』

 

すると、ノイズに交じって声の様なモノが聞こえて来る。

 

「?」

 

それを確かめようと、ヘッドフォンを抑え、良く聞き取ろうとするみほ。

 

すると………

 

『………あんこうチーム、応答願います』

 

「!? その声は!?」

 

不意に通信がクリアになり、音声がハッキリと聞こえ、みほは驚愕の声を挙げた。

 

何故ならその声は、みほが待ち焦がれていた人物のものだったからだ………

 

『こちらは大洗機甲部隊あんこうチーム随伴歩兵分隊・分隊長………舩坂 弘樹』

 

舩坂 弘樹………

 

遅参

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

降伏時間が来るのを極寒の中で待つ大洗機甲部隊。
寒さと飢えで、みるみる士気が低下する。
遂には歩兵部隊で喧嘩が始まり、あわや内部崩壊かと思われたその時………
みほは弘樹を真似て、叱咤を飛ばした。
そして、士気を上げる為に、自ら『あんこう踊り』を踊る。
それに呼応するかの様に、歩兵部隊も『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』を斉唱し始める。

遂に降伏時間が訪れ、大洗機甲部隊が作戦を始めようとしたその時!
遂に、あの男が!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第79話『舩坂 弘樹、怒りの雪中戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第79話『舩坂 弘樹、怒りの雪中戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦にて、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の罠に嵌り、完全包囲された大洗機甲部隊………

 

降伏勧告が出され、3時間の猶予が与えられたが、それも士気を削ぐ為のプラウダ&ツァーリの作戦であった。

 

寒さと空腹、そして大洗女子学園廃校の話により、士気の低下した大洗機甲部隊………

 

遂には歩兵部隊の間で喧嘩が始まってしまう………

 

戦わずして大洗機甲部隊崩壊かと思われた瞬間!

 

みほが弘樹を真似て、部隊の一同を厳しく叱咤した!!

 

そして、みほが怒鳴ると言う予想外の光景を目にして呆然としていた一同の前で、『あんこう踊り』を始めた。

 

更に、歩兵部隊達も歩兵達の応援歌『突撃軍歌ガンパレード・マーチ』を斉唱。

 

崩壊しかけていた士気を持ち直させたのだった。

 

いよいよタイムリミットが迫り、大洗機甲部隊の反攻作戦が開始されようとした時………

 

通信回線に、弘樹の声が響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯の窪地………

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中………

 

「舩坂くん! 舩坂くんなんだね!!」

 

「何っ!? 弘樹!?」

 

「舩坂先輩が来たんですか!?」

 

「あの野郎! 散々待たせやがってっ!!」

 

通信回線から弘樹の声が聞こえた事で、みほが思わず戦車の外まで響く歓喜の声を挙げ、周辺に居た大洗歩兵部隊の面々が集まって来る。

 

「忍! 回線を繋いで!!」

 

「ハイ、キャプテン!!」

 

「コッチも繋いで!」

 

「ちょっと待って~!」

 

更に、他の戦車チームも、みほが受けている通信回線を開く。

 

『西住総隊長。申し訳ありません………試合開始までには戻る積りでしたが間に合わず、この様なタイミングでの参戦となり………』

 

「ううん、良いんだよ、気にしないで。舩坂くんが来てくれただけで十分心強いよ」

 

そんな中、弘樹はみほに遅参の件を謝罪すると、みほはそう返す。

 

『感謝します………そちらの状況は把握しています。どの様な作戦をお考えで?』

 

それを聞いた弘樹は、すぐさま戦闘行動へ移るべく、みほがどの様な作戦を立てているかを問い質す。

 

「あ、うん………私が考えている作戦は………『ところてん作戦』だよ」

 

そしてみほは、立案している作戦………

 

『ところてん作戦』について説明し始める。

 

 

 

 

 

現在、大洗機甲部隊を包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網には、1箇所だけ防御が緩い場所が在る。

 

しかしそれは明らかに罠である。

 

そこを突いて脱出しようとしたところを、包囲網の更に外に居る予備戦力が駆け付け、また包囲されるのがオチである。

 

フラッグ車を撃破しようとしても同じ事である。

 

ならば敵の意表を突く為、敢えて包囲網の中で最も敵戦力が集まっている場所………

 

つまり、カチューシャやノンナ、デミトリやピョートル達が居る本陣へと突っ込むのである。

 

無論コレは、玉砕覚悟の無謀な突撃では無い。

 

敵の本陣を突いて攪乱し、予備戦力を足止めしてから、主力を反転させ、フラッグ車の撃破に向かう。

 

コレがみほの考えた『ところてん作戦』の大まかな概要である。

 

 

 

 

 

「………以上が作戦の概要です」

 

『流石は西住総隊長。小官が思っていた通りの作戦です』

 

みほが作戦の説明を終えると、弘樹はそう言葉を返した。

 

「舩坂くんは今何処に居るの?」

 

『包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊のすぐ近くです。サンショウウオさんチームとアリクイさんチーム、タコさん分隊とおおかみさん分隊、それに砲兵部隊のメンバーも近くまで来て待機しています』

 

「じゃあ、サンショウウオさんチーム達には脱出のタイミングに合わせて援護砲撃を行ってくれる様に言って下さい」

 

『了解しました。小官も微力ながら援護します』

 

「舩坂くんも? 如何言う事?」

 

弘樹自身も脱出の援護を行うと言う台詞に、みほは首を傾げる。

 

『小官に策が有ります。兎に角、小官を信じて、作戦通りにプラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣に突っ込んで下さい』

 

詳しくは説明せず、只自分を信じて作戦通りにプラウダ&ツァーリ機甲部隊に突っ込んでくれと言う弘樹。

 

「………分かったよ。信じるよ、舩坂くん」

 

そう言われて信じないみほではなかった。

 

『感謝します。では、作戦開始時にまた………』

 

弘樹はそう言い残し、通信を切る。

 

「…………」

 

通信が切れた後も、ヘッドフォンを耳に押し当て、余韻に浸るかの様な様子を見せるみほ。

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「西住殿………」

 

「…………」

 

そんなみほに視線を向ける沙織、華、優花里、麻子。

 

「………!」

 

と、不意にみほは立ち上がると、ハッチを開けて車外に姿を晒す。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹との通信を車外で聞き耳立てていた大洗歩兵達が驚く。

 

「舩坂くんが来てくれました。包囲網突破援護の策が有るそうです。この試合………勝てます!!」

 

そんな大洗歩兵達に向かって、みほはそう言い放つ。

 

「よっしゃあっ!!」

 

「コレで百人力だぜぇっ!!」

 

「ひゃっほーっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

途端にテンションが上がる大洗歩兵達。

 

普通に考えればこの状況で歩兵が1人加わったところで何の意味も為さない。

 

だが、弘樹は大洗機甲部隊にとって、みほと並ぶ象徴の様な存在………

 

弘樹が居ると言うだけで、大洗機甲部隊の士気は大きく跳ね上がる。

 

「では、コレから、敵の包囲網を一気に突破する『ところてん作戦』………略して『と号作戦』を開始します! パンツァー・フォーッ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、みほが作戦の開始を告げると、大洗機甲部隊の面々からは、勇ましい掛け声が挙がったのだった。

 

『さあ、大洗機甲部隊は如何やら試合を続行する様です。果たしてプラウダ&ツァーリ機甲部隊に完全に包囲されているこの状況から如何出るのでしょうか!?』

 

『普通に考えれば先ず勝ち目は無いんですが、何せ逆転に次ぐ逆転勝利をしてきた大洗機甲部隊ですからね。何かトンでもないモノを見せてくれるのではないかと、正直期待しています』

 

その様子を見ていた放送席のヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況を流す。

 

何時の間にか吹雪は完全に収まり………

 

雲も無くなって月と星の明かりが煌めき………

 

まるで昼間かと錯覚しそうな明るさが辺りに広がっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

包囲しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣では………

 

「敢えて包囲網に緩いとこ作ってあげたわ。奴等はきっとそこを衝いて来る。衝いたら挟んで御終い」

 

T-34-85のハッチから姿を晒しているカチューシャが勝ち誇る様にそう言う。

 

如何やら予想通り、包囲網の緩い所は罠だった様である。

 

「へっへっへっ………覚悟しろよ~、大洗の連中め~」

 

「包囲したら1人残らず蹂躙してやるぜ」

 

若干ゲスい笑みを浮かべたピョートルとマーティンがそんな事を言い合う。

 

「上手く行けば良いんですが………」

 

「総隊長、油断は禁物ですぞ」

 

しかし、ノンナがそう呟き、デミトリもカチューシャにそう注意する。

 

「カチューシャが立てた作戦が失敗するワケないじゃない! それに第2の策で、万が一フラッグ車を狙いに来ても、その時は隠れてるKV-2がちゃんと始末してくれる。用意周到なる偉大なカチューシャ戦術を前にして、敵の泣きべそ掻くのが目に浮かぶわ」

 

すっかり勝った気で居るカチューシャ。

 

本陣にて展開している部隊の面々も、既に勝利を確信しているのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

 

「……………」

 

と、そんな中で只1人………

 

仏頂面を浮かべている、例の『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』が在ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が立てこもっている窪地に在る廃村の中央・廃墟となった大きな教会跡の中………

 

いよいよ『ところてん作戦』、略して『と号作戦』が発動しようとしていた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同は、全員が緊張の様子を露わにし、作戦開始をじっと待っている。

 

「………小山、行くぞ」

 

「ハイ!」

 

と、杏と柚子がそう言い合ったかと思うと、カメさんチームの38tが前進。

 

それに続く様に、他のチームの戦車達も動き出す。

 

歩兵部隊の面々も、車両に乗ってそれに随伴する。

 

そして教会の入り口が近づいた瞬間………

 

「突撃!」

 

杏がそう言い放ち、38tは一気に加速して教会を飛び出す!

 

「バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

更に、後続の戦車部隊と随伴歩兵分隊もスピードを挙げて、万歳の掛け声と共に、一気に雪崩出た!!

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊からの砲撃や銃撃が襲い掛かる。

 

大洗機甲部隊は砲火に晒されながらも、包囲網の薄い場所を目指す。

 

「フッ………予想通りね。流石私」

 

それを見て策が嵌ったと思い、自画自賛するカチューシャ。

 

だが、次の瞬間!!

 

大洗機甲部隊の面々は一斉に進路変更!!

 

「え?」

 

「何?」

 

「!?」

 

突如進路を変えた大洗機甲部隊の姿にカチューシャ、ピョートル、マーティンが首を傾げた瞬間………

 

大洗機甲部隊は、フラッグ車であるアヒルさんチームの八九式を部隊の中心に据えて守る様に陣形を取り、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣目掛けて突っ込む!

 

「コッチッ!? 馬鹿じゃないの!! 敢えて分厚いとこ来るなんてっ!!」

 

カチューシャが驚きながらヘルメットを被る。

 

「慌てんな姉ちゃん! 意表は衝かれたが、コッチの戦力は圧倒的なんだ!!」

 

「力でねじ伏せてやりましょう!」

 

そこで、ピョートルとマーティンがそう声を挙げる。

 

「言われるまでもないわ! 返り討ちよっ!!」

 

「ロケット弾で攻撃しろぉっ!!」

 

と、カチューシャがそう叫ぶと、ツァーリ歩兵部隊の分隊長らしき歩兵がそう声を挙げ、自走式多連装ロケット砲のカチューシャ部隊がロケット弾を大洗機甲部隊へと向ける。

 

かつてドイツ軍に『スターリンのオルガン』と呼ばれ恐れられたロケット弾の雨が、大洗機甲部隊に降り注ごうとする。

 

すると、その瞬間!!

 

「………!!」

 

『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』が、1台のカチューシャに向かって手榴弾を投げつけた!

 

手榴弾が爆発し、装備されていたロケット弾が誘爆!

 

自走式多連装ロケット砲のカチューシャが吹き飛び、更に暴発したロケット弾が周囲の自走式多連装ロケット砲のカチューシャ部隊を誤爆!!

 

更に誤爆された自走式多連装ロケット砲のカチューシャが暴発するという、連鎖反応が起こり始める。

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「た、助けてくれぇーっ!!」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

当然被害は自走式多連装ロケット砲のカチューシャ部隊だけに留まらず、周辺に展開していたツァーリ歩兵部隊や、プラウダ戦車部隊にも降り注ぐ!!

 

ツァーリ歩兵が数10人単位で戦死判定を食らって行き、プラウダ戦車部隊の中でも、T-34-85が2両、ISU-122、SU-85が直撃弾を喰らい、白旗を上げる。

 

「なっ!?」

 

「!?」

 

「ん何ぃっ!?」

 

「な、何が起こったんだ!?」

 

「クッ! 状況を報告しろっ!!」

 

突如本陣内の戦力が多数撃破された事に、カチューシャ、ノンナ、ピョートル、マーティンが驚愕し、デミトリが慌てて状況報告を求める。

 

「…………」

 

「オイッ! 如何言う積りだっ!!」

 

とそこで、この事態の張本人である『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』に、ツァーリ歩兵部隊の分隊長の1人が詰め寄る。

 

と、その瞬間!!

 

「!!」

 

『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』は、近寄って来たツァーリ歩兵部隊の分隊長の1人を、チョークスリーパーで拘束した!

 

「ゴハッ!?………」

 

「分隊長!?」

 

それに気づいたその分隊長の分隊員達が近づいて来ると………

 

「!!」

 

ツァーリ歩兵部隊の分隊長の1人が持っていたDP28軽機関銃を奪い、近づいて来たその分隊長の分隊員達に向かって掃射した!!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「な、何をするぅっ!?」

 

「止めろぉっ! 俺達は味方だぁっ!!」

 

『味方と思っていた相手』から撃たれると言う予想外の事態に、その分隊長の分隊員達は対応出来ず、瞬く間に全員が戦死判定を受けた。

 

「!? お前っ!!」

 

「!!」

 

と、別の分隊の隊員達がその『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』に気付くが、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』は分隊長を拘束したまま盾にし、DP28軽機関銃を薙ぎ払う様に撃ち続ける!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

次々と戦死判定者を出して行くツァーリ歩兵部隊。

 

「貴様! 我等が偉大なる母校を裏切る積りかぁっ!!」

 

拘束されて盾にされているツァーリ歩兵部隊の分隊長が、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』に向かってそう叫ぶ。

 

「………プラウダとツァーリを母校に持った覚えは無い」

 

だが、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』はそう言い返す。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「ええいっ! あの裏切り者を撃てぇっ!!」

 

とそこで、砲兵部隊の分隊長が、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』を指揮棒で指しながらそう言い放つ。

 

「し、しかし! それでは拘束されている歩兵部隊の分隊長殿と周辺の味方まで巻き込んでしまいます!!」

 

だが、野戦砲で撃てば、当然拘束されている歩兵部隊の分隊長は元より、周囲に居る味方歩兵まで巻き込んでしまうと言うツァーリ砲兵。

 

「それが如何した! 多少の犠牲が出ようとも、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の名に掛けて、あの裏切り者を始末するのだ!! それに奴の周りに居る連中の大半は『非正規部隊』だ!!」

 

しかし、歩兵部隊の分隊長は、そう非情な指示を下す。

 

「で、出来ません!」

 

「貴様も裏切り者だぁっ!! 粛清っ!!」

 

ツァーリ砲兵が出来ないと言った瞬間!

 

砲兵部隊の分隊長は、そのツァーリ砲兵に向かってTT-33を発砲した!!

 

「うわぁっ!?………」

 

頭に被弾したツァーリ砲兵は倒れ、戦死の判定を受ける。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「そいつと同じ目に遭いたくなかったら、大人しく命令に従えっ!!」

 

驚愕する他のツァーリ砲兵達に向かって、砲兵部隊の分隊長はそう言い放つ。

 

「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

それを受けて、恐怖に駆られたツァーリ砲兵の1人が、悲鳴に似た叫び声を挙げながら砲撃!

 

他のツァーリ砲兵達も、次々に榴弾砲を撃ち始めた!!

 

榴弾が次々と降り注ぎ、ツァーリ歩兵部隊の分隊長を拘束している『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』が居る場所で爆発する!!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

「!?」

 

巻き込まれたツァーリ歩兵達が次々と戦死判定を受けて行く中、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』の傍にも榴弾が着弾!!

 

爆煙で、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』の姿が見えなくなる。

 

「やったぞっ!!」

 

仕留めたと思い、歓声を挙げるツァーリ砲兵部隊の分隊長。

 

榴弾が降り注いだ場所には、巻き添えを食って戦死判定を受けたツァーリ歩兵達が倒れ、榴弾の爆発による炎が辺り一帯に燃え広がっている。

 

と、その時………

 

その炎の中に、1つの影が現れた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚愕して動きが止まるプラウダ&ツァーリ機甲部隊。

 

「…………」

 

その影は、『妙に防寒着をキッチリと着込んでいるツァーリ歩兵』だった。

 

すると………

 

炎が引火したのか、そのツァーリ歩兵の防寒着が燃え上がる。

 

やがて、完全に防寒着が燃えたかと思うと、そこには………

 

「…………」

 

旧大日本帝国陸軍の寒冷地用戦闘服を着込み、右腕に大洗機甲部隊、左腕にとらさん分隊の部隊章を付けた歩兵………

 

『舩坂 弘樹』の姿が現れた。

 

「ふ、舩坂 弘樹!?」

 

「い、何時の間に!?」

 

「クッ! 急増員したのが仇になったか!!」

 

ピョートルとマーティンが驚愕し、デミトリがそう苦々しげに言い放つ。

 

如何やら、急増員で一気に歩兵人数を増やした為、隊員同士や分隊長でさえ、弘樹の変装を見破る事が出来なかった様だ。

 

「…………」

 

燃え盛る炎を背に、堂々と歩いてくる弘樹。

 

その姿には正に、炎の臭いが染みついている………

 

「! ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」

 

そしてそんな弘樹の姿を見たノンナが、激しく………

 

むせる

 

「ノンナ副隊長!?」

 

「如何しました!?」

 

同乗員が、突然咳き込んだノンナを見て慌てる。

 

「い、いえ、大丈夫です。只の生理現象です………」

 

ノンナはそう返しながら、改めて弘樹の姿を見やる。

 

「アレが舩坂 弘樹………成程………確かに、コレはむせさせられますね………まさに地獄を見れば心が乾くようです」

 

そして笑いながらそんな事を言い放つのだった。

 

「何やってんのよ! たかが歩兵1人! 捻り潰してやりなさいっ!!」

 

とそこで、カチューシャの怒声交じりの命令が飛ぶ!

 

「「「「「「「「「「!? ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

それで我に返ったツァーリ歩兵達が、弘樹に向かって殺到する。

 

………が、次の瞬間!!

 

ズダダダッ!!と言う射撃音が次々と響き、弘樹に向かって突撃して行ったツァーリ歩兵達の『横』から、銃弾が飛び交った。

 

「「「「「「「「「「?! うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」

 

突如横から飛んで来た弾丸に、弘樹に殺到していたツァーリ歩兵の大半が撃ち抜かれ、戦死判定を受ける。

 

「なっ!?」

 

生き残ったツァーリ歩兵の1人が驚きながら横を見やると、そこには………

 

「!? アンタ達、何の積りよっ!!」

 

カチューシャが再び怒声を挙げる。

 

何故なら、横からの弾幕の正体は………

 

『非正規部隊』のツァーリ歩兵が放ったものだったからだ!!

 

「やってられねえんだよ! もうこんな事っ!!」

 

とそこで、『非正規部隊』のツァーリ歩兵の1人がそう声を挙げる。

 

「!? 何ですってっ!?」

 

「その通りだ! 無理矢理借り出された挙句、仲間から撃たれるだなんて真っ平だ!!」

 

「こうなったら試合もクソもあるか! お前等を叩き潰してやるっ!!」

 

それを皮切りに、非正規部隊のツァーリ歩兵達から次々と怒声が挙がる。

 

如何やら、溜まっていた鬱憤と不満が、先程の粛清やフレンドリーファイヤで爆発した様である。

 

「ッ! アンタ達全員シベリア送りよ! 単位とテスト免除も無しよっ!!」

 

「いるか! そんなモンッ!!」

 

「シベリア送り上等! コレ以上我慢したら人間じゃねえっ!!」

 

脅す様にそう叫ぶカチューシャだったが、怒りで頭に血が上っている非正規部隊のツァーリ歩兵達には意味を為さない。

 

「革命だぁーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、その台詞と共に、非正規部隊のツァーリ歩兵達は、一斉に正規部隊のツァーリ歩兵、そしてプラウダ戦車部隊に襲い掛かった!!

 

『あーっと!! プラウダ&ツァーリ機甲部隊! まさかの内紛発生だぁーっ!!』

 

『いや~、私もこの実況の仕事を長くやってますけど、これ程の内紛は見た事ないですよ………』

 

内紛発生と言う事態に、実況のヒートマン佐々木とDJ田中も驚きを隠せずに実況する。

 

「このぉっ!! 全員粛清よっ!! 粛清してやるわっ!!」

 

と、カチューシャがそう叫んだ瞬間!!

 

ズドドドドドドッ!!と言う爆音と共に、機関銃弾と思われる弾丸が、カチューシャの乗るT-34-85の周辺に展開していたツァーリ歩兵達を薙ぎ払う様に浴びせられる!!

 

「うわぁっ!?」

 

「ぎゃああっ!?」

 

「!?」

 

すぐさまカチューシャが銃弾が飛んで来た方向を見やるとそこには………

 

「…………」

 

撃破された戦車から分捕ったSGMBを持って構え、ベルト給弾式の弾薬を身体に巻き付けている弘樹の姿が在った。

 

「…………」

 

無言の仏頂面のまま、SGMBを撃ち捲る弘樹。

 

カチューシャの目には、その弘樹の背後に………

 

『右肩を血の様に赤く染めた3点ターレット式のカメラレンズを持つ緑色のロボット』の姿が浮かんだ様に見えた。

 

「!? ヒッ!?」

 

その幻影に、カチューシャが恐怖した瞬間!

 

SGMBの弾丸が、カチューシャの乗るT-34-85の装甲にも当り、火花を散らした!!

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

カチューシャは悲鳴を挙げて慌てて車内に引っ込むと、ハッチを閉めて、車長席で頭を押さえる様に縮こまる。

 

「カチューシャ総隊長!?」

 

「いやあっ! 怖いっ! アイツ怖いよぉっ!!」

 

半ば泣き声でそう叫び、狂乱したかの様な様子を見せるカチューシャ。

 

「総隊長! お気を確かにっ!!」

 

『総隊長殿! 如何されたのですか!?』

 

『指示を! 指示を下さいっ!!』

 

途端に、総隊長からの指示が途切れ、只でさえ混乱していたプラウダ&ツァーリ機甲部隊は更に混乱する。

 

「落ち着け! 全員態勢を立て直すんだっ!!」

 

慌ててデミトリが代わる様に指揮を取ろうとしたが………

 

直後に砲撃音がして、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣の中に砲弾が着弾する。

 

「!?」

 

「行っけーっ!!」

 

「バ、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

デミトリが砲弾の飛んで来た方向を確認すると、そこにはクロムウェルと三式を引き連れて突撃して来る、タコさん分隊とおおかみさん分隊の歩兵達の姿が在った。

 

「撃てぇーっ!!」

 

更に、窪地の稜線部分にも、明夫達を中心とした砲兵部隊が展開し、野砲やカノン砲、榴弾砲、歩兵砲での援護砲撃を開始する。

 

「!? 遅れていた別部隊か!?」

 

「んな馬鹿な!? 俺が送った猟犬部隊は如何したんだ!?」

 

デミトリが声を挙げると、ピョートルが信じられないと言う声を挙げる。

 

「ど、同志ピョートルーッ!!」

 

とそこで、サンショウウオさんチーム達を襲撃した別働隊の生き残りの歩兵の1人が、息も絶え絶えな様子で現れる。

 

「!? マスティフ! こりゃ一体如何言う事だ!?」

 

「べ、別働隊は僅かな人数を残して壊滅です! 戦車部隊も全滅しました!!」

 

「!? ん何ぃーっ!?」

 

マスティフと呼ばれたツァーリ歩兵からの報告を受け、ピョートルは何度目とも知れない驚きの声を挙げる。

 

「突然戦車部隊がやられ、重機関銃を持って構えて撃って来た化け物の様な歩兵が現れて………」

 

「重機関銃を持って構える!?」

 

そう言われて、弘樹の姿を再確認するピョートル。

 

「…………」

 

弘樹は相変わらず、SGMBを持って構えて、ツァーリ歩兵を薙ぎ払う様に撃ち抜いている。

 

「!? アイツか!?」

 

「貴様! 何でもっと早く報告に来なかったっ!!」

 

ピョートルがそう声を挙げた瞬間、マーティンがマスティフと呼ばれたツァーリ歩兵に向かって怒鳴る。

 

「も、申し訳ありません! 通信機は全てやられてしまい、皆散り散りに逃げた為、現在位置が分からず、自分もやっとの思いで辿り着いた次第で………」

 

「ええい! 貴様粛清だぁっ!!」

 

マーティンがそう言ってトカレフT-33をホルスターから抜く。

 

「ヒイイッ!?」

 

「マーティン! 今はそんな事をやっている場合ではない!!」

 

マスティフと呼ばれたツァーリ歩兵が怯えると、デミトリがそう言って止める。

 

「大洗機甲部隊の本隊、突っ込んで来ますっ!!」

 

「「「!?」」」

 

とそこでそう報告が挙がり、ピョートル、マーティン、デミトリは慌てて大洗機甲部隊の本隊の方を振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・本隊………

 

「策って………」

 

「只アイツが暴れてるだけじゃねえかよ!」

 

弘樹の策と言うのが、自身が本陣に殴り込んで暴れまわる事だったのを見て、みほは苦笑いし、地市はそうツッコミを入れる。

 

「でも、敵は大混乱です」

 

と、楓がそう言う様に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣は大混乱状態だった。

 

「流石やで! コリャ、弘樹にしか出来ん戦法や!!」

 

「この混乱に乗じます! 一気に突撃をっ!!」

 

大河がそう言い放つと、みほのそう言う指示が飛び、大洗機甲部隊の本隊は速度を上げ、大混乱のプラウダ&ツァーリ機甲部隊本陣に突っ込む!

 

「! 大洗! クッ! 行かせるかぁっ!!」

 

とそこで、生き残っていた1両のT-34-85が、突撃して来る大洗機甲部隊の前に立ちはだかる。

 

「河嶋! 砲手を代われ! お前は装填手だ! 蛍は通信手を頼む!」

 

「ハッ!」

 

「分かったっ!!」

 

すると、先頭を行って居たカメさんチームの38tの中で、杏が砲手となり、桃が装填手、そして蛍が通信手と配置転換を行った。

 

T-34-85が発砲し、発砲炎が煌めく。

 

「やっぱ37mmじゃ真面にやっても抜けないよねぇ。小山! ちょっと危ないけど、ギリまで近づいちゃって!!」

 

「ハイッ!!」

 

杏の指示を受け、柚子は38tを更に加速させて、立ちはだかっているT-34-85に接近して行く。

 

「馬鹿め! 良い的だっ!!」

 

突っ込んで来る38tに主砲を向けるT-34-85。

 

「…………」

 

杏は照準器越しに、その主砲の動きを注視する。

 

そして、T-34-85の主砲が完全に円になって見えた瞬間!

 

「来るぞっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

杏がそう声を挙げたと同時に柚子が38tの車体を左へと流す。

 

直後にT-34-85が発砲!

 

砲弾は38tの僅かに右を掠める様に通過した!

 

「!? かわしただと!?」

 

かわされた事に驚愕するT-34-85の車長。

 

直後に今度は38tが発砲!

 

砲弾はT-34-85の砲塔基部を直撃!

 

T-34-85は撃破されたと判定を受け、白旗を上げた!

 

その撃破されたT-34-85の横を擦り抜けて、大洗機甲部隊の本隊はプラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと突入する!

 

「プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣に入ります! ですが、今は敵を撃破する事は忘れて下さい! 作戦通り、敵本陣の中を突っ切った後に離脱! その後主力部隊を反転させてフラッグ車の撃破を狙います! 他の部隊は、アヒルさんチームの防衛を!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そうみほの指示が飛び、大洗機甲部隊メンバーの勇ましい返事が返って来る。

 

逆転なるか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に姿を見せた舩坂 弘樹!
大洗機甲部隊の脱出作戦である『ところてん作戦』を支援する為に、単身敵陣の中で大暴れ!
その姿は正に今回のサブタイトルの元ネタであるベトナム帰還兵!(笑)

さあ、いよいよ逆転です。
まだまだプラウダ戦の話を続きますが、ココから大きく動き始めます。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第80話『包囲網を突破です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第80話『包囲網を突破です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、大洗機甲部隊によるプラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網突破作戦………

 

『ところてん作戦』が開始された。

 

敢えて包囲網の1番厚い場所………プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと突っ込んで虚を突き、一気に脱出する作戦である。

 

だが、それは同時に全滅の危険性も有るリスクの高い作戦でもあった。

 

しかし、遅れていた弘樹が遂に参戦!

 

変装してプラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと忍び込み、大洗機甲部隊の作戦開始と同時に本陣内で大暴れする!

 

サンショウウオさんチーム達の援護と、事前に弘樹が不満を煽っていた非正規部隊の反乱もあり、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣は大混乱!!

 

その大混乱のプラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣の中へと、車長兼砲手を杏に交代したカメさんチーム38tを先頭にして、大洗機甲部隊は突っ込む!!

 

果たして、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網を突破出来るのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪原地帯の窪地の中に在る廃村………

 

「…………」

 

相変わらず無言の仏頂面で、SGMBを持って構えたまま掃射を行っている弘樹。

 

「うわわぁっ!!」

 

「ぎゃあああっ!?」

 

ツァーリ歩兵達が次々に薙ぎ払われて行く。

 

(………本隊が突入したか。もう少し敵の注意を集めなくては………)

 

そこで弘樹は、横目に大洗機甲部隊の本隊が、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣に突入したのを確認し、突破を援護する為に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の注意を惹き付けようとする。

 

と、その時!

 

弘樹の足元に、1発の銃弾が着弾!

 

足元の雪が高く爆ぜた!

 

「!? 狙撃か!?」

 

その銃弾が狙撃によるものだと即座に判断した弘樹は、弾が無くなったSGMBを投げ捨てて、近くに在った雪を掘った塹壕の中へ転がり込む!

 

途端に、弘樹が転がり込んだ場所の付近に、次々と銃弾が着弾する。

 

「クッ………」

 

弘樹は戦闘服のポケットから鏡を取り出すと、塹壕に隠れたまま、鏡越しに狙撃の銃弾が飛んで来た方向を見やる。

 

(あの林の中か?………)

 

鏡にやや遠方の林が映ると、狙撃はそこからかと推測する弘樹。

 

と、次の瞬間!!

 

林の中にスコープの反射が見えた後、マズルフラッシュが煌めき、弘樹が持っていた鏡が撃ち抜かれた!

 

「!? 良い腕だ………」

 

驚きながらも、まるで他人事の様に敵狙撃手の腕を褒める弘樹。

 

(だが………腕の良い狙撃兵はお前達だけではないぞ………)

 

そう思いながら、弘樹は何かをジッと待つ様にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その、やや遠方の林の中では………

 

「フフフ………舩坂 弘樹………まさかツァーリの歩兵に変装して本陣に潜入するとは………驚かされたよ。しかし、我が雪化粧部隊狙撃部隊の攻撃から逃れられるかな?」

 

シモノフPTRS1941のスコープ越しに、弘樹が隠れている塹壕を見ながら、ラスプーチンがそう言い放つ。

 

その周囲には、白い迷彩服を着こみ、ラスプーチンと同じくシモノフPTRS1941か、デグチャレフPTRD1941の対戦車ライフル。

 

または、狙撃銃型のモシン・ナガンM1891/30を構えているツァーリ狙撃兵達………『雪化粧狙撃部隊』が展開していた。

 

全員が不気味なほど無表情で、只ジッと銃のスコープ越しに、弘樹が隠れている塹壕を見やっている。

 

「コレで奴は動けない。このまま抑えておけば、すぐに同志カチューシャと同志ノンナが部隊を立て直す。後は当初の作戦通りに大洗を再包囲して終わりだ………」

 

不気味に笑いながらそう呟くラスプーチン。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんなラスプーチンの周囲で、雪化粧狙撃部隊は相変わらず無表情のまま、狙撃銃や対戦車ライフルを構え続けている。

 

………と、その時!!

 

「!?………」

 

1人の雪化粧狙撃部隊員が、頭に衝撃を受け、もんどりうって倒れる!

 

そしてそのまま、戦死判定が下る。

 

「…………」

 

それでもなお、その他の雪化粧狙撃部隊員は無表情のままで、一言も言葉を発しなかった。

 

「む?………」

 

ラスプーチンがその倒された雪化粧狙撃部隊員に反応すると………

 

またも別の雪化粧狙撃部隊員がヘッドショットを食らい、戦死判定を受ける。

 

「敵のスナイパーか、小癪な………すぐに反撃しろ」

 

その命令を受けて、雪化粧狙撃部隊員は弾丸が飛んで来た方向へと銃を向ける。

 

そして、スコープを覗き込んで敵のスナイパーを探そうとする。

 

しかし、幾らスコープを覗き込んでも、スナイパーらしき影は見当たらなかった。

 

「??」

 

1人の雪化粧狙撃部隊員が、もう少し良く見ようと、僅かに前に身を乗り出した瞬間!!

 

またもその雪化粧狙撃部隊員にヘッドショットが決まる。

 

「スコープの反射が見えないだと?………」

 

隊員がまたも1人やられたのに頓着せず、相手のスナイパーを探すラスプーチン。

 

「まさかスコープ無しで撃っていると言うのか? だとすれば、敵の腕は我等雪化粧狙撃部隊と同等………いや、それ以上か」

 

まるで他人事の様に淡々とそう呟く。

 

と、その直後!!

 

ラスプーチンと雪化粧狙撃部隊が潜んでいる林の中に、次々と榴弾が撃ち込まれ始めた!

 

「むっ?………」

 

砲弾が飛んで来た方向を見やると、大洗砲兵部隊の姿を発見するラスプーチン。

 

「砲爆撃で潰しに来たか………まあ、良い………『ニキータ』、聞こえるか?」

 

周辺に砲爆撃が降り注ぎ、爆風に煽られ、戦死判定者が次々と出ているにも関わらず、ラスプーチンは淡々と通信機を取ってそう言う。

 

『うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!』

 

通信機からは、まるで獣の咆哮の様な雄叫びが返って来る。

 

「お前はそろそろ出る用意をしておけ。だが、英霊の相手は………私がする」

 

『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!』

 

再び獣染みた雄叫びが響くと、通信回線は切断される。

 

「………お前達はやられるまで狙撃を続けろ。敵だけでなく、逃げようとする敗北主義者共にもな」

 

「「「「「「「「「「………了解」」」」」」」」」」

 

ラスプーチンはそう言い残し、またも雪の中に溶け込む様に姿を消す………

 

残された雪化粧狙撃部隊は、戦死判定者が続々と出るにも関わらず、全員が持ち場を一切離れようとせず、まるでロボットの様に黙々と狙撃を続けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと突入した大洗機甲部隊は………

 

「喰らえっ! 正規のクソッタレ共ぉっ!!」

 

「何を小癪な! 非正規の裏切り者めがぁっ!!」

 

周辺でツァーリ歩兵部隊の正規部隊と非正規部隊の面々が激しく争っている中を、陣形を保ったまま突き進んで行く大洗機甲部隊。

 

「酷い………」

 

「醜い争いだな………」

 

そんな周辺の様子に、Ⅳ号の中で沙織と麻子はそんな言葉を漏らす。

 

「ですが、この状況は我々にとって好都合です!」

 

「皆さん目の前の相手と戦うので精一杯で私達に構っていられない様ですからね」

 

続いて、優花里と華がそう言い放つ。

 

その言葉通り、ツァーリ歩兵部隊は非正規部隊の反乱を鎮圧するのに手一杯であり、プラウダ戦車部隊も味方が混戦しているので真面に動けずに居た。

 

「油断しないで下さい! 反乱を起こしている人達は私達の味方ではありません!!」

 

そこでみほがそう言い放つ。

 

そう………

 

ツァーリ歩兵部隊の正規部隊に反旗を翻した非正規部隊だが、一応扱いとしてはツァーリ歩兵部隊の所属となっている。

 

その為、もし非正規部隊の攻撃でフラッグ車が撃破されてしまえば、それはプラウダ&ツァーリ機甲部隊の勝利となってしまう。

 

大洗機甲部隊は、細心の注意を払いながら、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣を突破して行く。

 

やがて、遂に本陣の中を突破すると思われた瞬間………

 

「来たな! 大洗っ!!」

 

「ココは通さんぞっ!!」

 

そこには、教会周辺の包囲部隊として配置されていたプラウダ戦車部隊のT-34-76が4両と、T-34-85が3両展開していた。

 

「!? T-34!」

 

「周り込まれた!? 何時の間に!?」

 

予想よりも遥かに早いプラウダ戦車部隊の展開に、優花里とみほは驚きの声を挙げる。

 

「如何するの、みぽりん!?」

 

「今は戦うのは不利です! 何とか振り切って逃げ切ります!!」

 

「だが、相手は逃がしてくれそうにないぞ………」

 

沙織の言葉にみほがそう返すと、麻子がそう呟く。

 

「西住ちゃん。ココは私達が引き受けるよ」

 

すると、大洗機甲部隊の先頭を行って居たカメさんチームの38tから、杏がそう言って来る。

 

「! 会長さん!」

 

「大丈夫。上手く行ったら後で合流するから」

 

杏はそう言うと、照準器越しに正面に展開しているプラウダ戦車部隊を見据える。

 

「T-34-76とT-34-85か………固そうで参っちゃうな」

 

そう言いながらも、杏の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「小山! ねちっこくへばり付いて!」

 

「ハイ!」

 

「河嶋! 装填早めにね!」

 

「ハイ!」

 

「蛍! 歩兵が邪魔して来たら機銃で蹴散らして!!」

 

「分かった!」

 

同乗している柚子、桃、蛍にそう指示を飛ばす杏。

 

「38tでも零距離なら何とか………」

 

如何やら、砲の威力不足をカバーする為、接近戦を挑む積りらしい。

 

「西住ちゃん! 良いから展開しちゃって!!」

 

「分かりました! 気を付けて!」

 

「そっちもね!………迫信、後は任せたよ」

 

「心得た………」

 

最後にみほと迫信にそう言い、大洗機甲部隊が離脱を初めると、38tはプラウダ戦車部隊へと突っ込んで行く!

 

「…………」

 

「幸運を………」

 

そんな38tを心配そうな表情で見送るみほと、敬礼を送る迫信。

 

「逃がすかっ!」

 

「お前達の相手は私等だよ!!」

 

大洗機甲部隊を追撃しようとするプラウダ戦車隊だったが、そこで38tがそのままプラウダ戦車隊の中へと突入する!

 

小回りの良さを生かし、相手の転回速度や砲塔回転速度よりも早く動き回る38t。

 

途中、1両のT-34-76から砲撃されたが難なくかわし、逆にそのT-34-76の転輪と履帯を砲撃で破壊!

 

その後素早く方向転換すると、別のT-34-76の履帯を狙って攻撃したが、僅かに狙いが逸れて、装甲で弾かれる。

 

「失敗………もう一丁!」

 

「ハイ!」

 

杏がそう言って再度狙いを付けると、桃が砲弾を素早く装填する。

 

直後に杏は発砲し、1両のT-34-76のマフラーを片方を吹き飛ばす!

 

「もう一丁!」

 

「ハイ!」

 

桃が素早く次弾を装填し、柚子が車体を旋回させる。

 

相手の砲撃をかわすと、カウンターの様に砲撃し、履帯と転輪を破壊していたT-34-76にトドメを刺す様に、砲塔基部に命中させる。

 

至近弾が炸裂するが、38tは一旦離脱する様に距離を取り、その後砲撃を受けながらも素早く切り替えして、再度突撃!

 

「せー、のっ!!」

 

杏が砲撃すると、T-34-76の履帯と転輪を吹き飛ばす。

 

「ふっ!」

 

桃が素早く次弾を装填すると再度砲撃し、反対側の履帯も吹き飛ばす!

 

動けなくなったT-34-76から放たれた砲弾が至近距離を掠めながらも突撃を続行し、ほぼ零距離から砲塔基部の砲撃を叩き込む!

 

T-34-76から白旗が上がる。

 

「良し! こんぐらいで良いだろう、撤収~」

 

そこで、もう充分だと悟った杏は、撤退命令を下す。

 

「お見事です!」

 

桃がT-34-76を2両も撃破した杏の腕を称える。

 

「!? 柚子ちゃん! 回避っ!?」

 

「えっ!?」

 

とそこで蛍が何かに気付いた様に柚子にそう言ったが………

 

直後に38tの車体右側に砲弾が直撃!!

 

履帯と転輪が弾け飛び、そのまま38tは空中に舞い上がって横に転がり、逆さまになった状態で止まる。

 

直後に底部から、撃破された事を示す白旗が上がる。

 

「…………」

 

38tを撃破したのは、ノンナの乗るT-34-85だった。

 

かなりの距離から撃った様であり、彼女の砲撃能力の高さが窺い知れる。

 

「………動ける車両は、速やかに合流しなさい」

 

「ハイ」

 

ノンナがそう指示を出すと、生き残っていたプラウダ戦車部隊が合流し始める。

 

「………カチューシャ、聞こえますか」

 

それを確認すると、ノンナは今度はカチューシャへと通信を送る。

 

『いやあっ!? アイツが来るぅっ!! 赤い肩をした悪魔がやって来るぅっ!!』

 

通信回線からは、未だに恐慌状態らしきカチューシャの狂乱している様な悲鳴が返って来る。

 

「落ち着いて下さい、カチューシャ。私の声を聴いて………」

 

ノンナはそんなカチューシャに優しく語り掛ける。

 

『! ノンナ………』

 

「貴方は栄光あるプラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長です。さあ立ち上がって指揮を取って下さい。我等に命令を、カマニディール」

 

流暢なロシア語で隊長と発するノンナ。

 

『! 全戦車部隊! 直ちに大洗の連中を追撃よ!!』

 

それを聞いたカチューシャは涙を振り払って指揮を飛ばす。

 

『こちらフラッグ車。フラッグ車もっすか?』

 

するとそこで、フラッグ車のT-34-75の車長からそう質問が飛ぶ。

 

『アホかぁっ! アンタは冬眠中の羆並みに大人しくしてなさい! 歩兵部隊は反乱分子共の鎮圧と万が一に備えてフラッグ車の護衛!!』

 

『『『『『『『『『『ダー(了解)!』』』』』』』』』』

 

先程まで泣き叫んでいたが嘘の様に、カチューシャは元通りの指揮ぶりを発揮し、プラウダ&ツァーリ機甲部隊からロシア語で応答が返って来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大洗機甲部隊の本隊は………

 

『いや~、ゴメン~。2両しかやっつけられなかった上にやられちゃった~。後は宜しくね………』

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

撃破された38tから杏がそう通信を送って来たのにお礼を返すみほ。

 

『頼んだぞ、西住!』

 

『お願いね!』

 

『任せたよ!』

 

続いて、桃、柚子、蛍の声が通信回線に響く。

 

「………この窪地を脱出します! 全部隊、あんこうに付いて来て下さい!!」

 

「「「「ハイ!」」」」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

みほがそう言い放つと、大洗戦車部隊と歩兵部隊から一斉に返事が返って来る。

 

「良いぞー! 頑張れーっ!!」

 

「まだ負けたワケじゃないぞ~!」

 

途端に観客席からは大洗機甲部隊を応援する声が飛ぶ。

 

「皆大洗を応援しています」

 

「判官贔屓かしらね………」

 

オレンジペコとダージリンもそんな事を言い合う。

 

「麻子さん! 2時が手薄です! 一気に振り切ってこの低地を抜け出す事は可能ですか!?」

 

「了解。多少きつめに行くぞ………」

 

みほの指示に即座に反応する麻子。

 

「あんこう2時、転回します! フェイント入って、難度高いです! 頑張って付いて来て下さい!」

 

『了解ぜよ!』

 

『大丈夫?』

 

『大丈夫!!』

 

『マッチポイントにはまだ早い! 気ぃ引き締めて行くぞぉっ!!』

 

『『『おーっ!!』』』

 

『頑張るのよ、ゴモヨ!』

 

『分かってるよ、ソド子!』

 

素早く沙織が、みほの指示を各チームに飛ばすと、次々に返事が返って来る。

 

「逃がさんぞ、大洗っ!!」

 

だが、その大洗機甲部隊の前方に、ツァーリ砲兵部隊が現れる!

 

「! 砲兵部隊!?」

 

「拙いぞ! 対戦車砲を持ってやがるっ!!」

 

その姿を確認した楓と地市がそう声を挙げる。

 

その間に、行く手に現れたツァーリ砲兵部隊は、全ての砲を大洗機甲部隊へと向ける。

 

「! 砲撃用意っ!!」

 

砲撃で吹き飛ばして強引に突破しようと、みほがそう叫んだ瞬間!

 

弧を描いて飛んで来た手榴弾が、行く手に現れたツァーリ砲兵部隊の中で炸裂!

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

手榴弾と誘爆した砲弾の破片を浴びたツァーリ砲兵達が次々に戦死判定を受けて倒れる。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

みほとツァーリ砲兵部隊の分隊長が驚きを露わにした瞬間!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

右手に着剣した四式自動小銃、左手に日本刀・英霊を構えた弘樹が、ツァーリ砲兵部隊の中へと飛び込む!

 

「!? ふ、舩坂 弘樹っ!?」

 

「せやあっ!!」

 

「げぎゃああああっ!?」

 

驚愕していたツァーリ砲兵部隊の分隊長を一刀の下に斬り捨てると、返す刀で四式自動小銃の銃剣を近くに居たツァーリ砲兵隊員に突き刺し、戦死判定させる。

 

そのまま次々とツァーリ砲兵部隊の隊員達を斬り捨て、或いは突き捨てて行く弘樹。

 

「距離を取れ! 奴とて人間だぁ! 弾が当たれば戦死判定を受ける!!」

 

だがそこで、別の分隊長からそう指示が飛び、一旦距離を取ったツァーリ砲兵達が、護身用に携帯していた拳銃を構える。

 

「!?」

 

「弘樹ぃ!」

 

「援護を!!………」

 

と、あんこうチームに随伴して居たくろがね四起に乗って居た地市が声を挙げ、楓が援護しようとブローニングM1918自動小銃を構えた瞬間!

 

ドドドドドドドッ!と言う、機関銃の射撃音が、地市達のすぐ横から聞こえて来た!

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

「に、西住ちゃん!?」

 

地市、楓、了平が驚愕を露わにする。

 

何故ならそこには………

 

「『弘樹くん』は絶対にやらせないっ!!」

 

そう叫んで機銃架に備え付けられていたMG34機関銃を発砲しているみほの姿が在ったからだ。

 

鬼気迫ると言った表情で、引き金を引き続け、薙ぎ払う様にMG34機関銃を発砲するみほ。

 

「ぐああっ!?」

 

「ぎゃああっ!?」

 

その銃撃を浴びたツァーリ砲兵達が次々に倒れ、戦死判定を受ける!

 

「優花里さん! 弾ぁっ!!」

 

「ハ、ハイィッ!!」

 

残りの銃弾が少ないのを確認したみほがそう叫ぶと、装填手席の優花里が新たな弾帯を手にハッチから出て、MG34に弾帯を取り付ける。

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

新たな弾帯が取り付けられたのを確認すると、みほは再び射撃を始める。

 

「!………」

 

その弾幕の援護で、弘樹は後退。

 

そのまま大洗機甲部隊の方へと走って来る。

 

「! 弘樹ぃっ! 飛び乗れぇっ!!」

 

「!!」

 

それを見た地市はそう叫び、弘樹は前方から向かって来る様に走って来て居た地市達の乗るくろがね四起に向かってジャンプ!

 

「!? うおわっ!?」

 

「わあっ!?」

 

そのままフロントガラスを突き破る様にして、車内へと飛び込んだ!

 

「オ、オイ、弘樹! 大丈夫かっ!?」

 

「………問題無い」

 

地市が声を掛けると、弘樹は身体からガラス片を落としながら起き上がってそう返す。

 

「弘樹くん!」

 

とそこで、漸く射撃を止めたみほが、弘樹へと声を掛ける。

 

「………西住総隊長。舩坂 弘樹、只今合流しました」

 

弘樹はみほを見ながら、お馴染みのヤマト式敬礼を決める。

 

「………うん」

 

その様を見て、みほは心からの笑みを浮かべた。

 

「それにしても………先程の銃撃していた姿には、少し痺れましたよ」

 

するとそこで、弘樹はニヤリと笑いながらみほにそう言う。

 

「ふえっ!? あ、アレは、その! む、無我夢中で………」

 

途端にみほは真っ赤になって慌て始めるが………

 

「冗談です」

 

「!? も、もう! 弘樹くん!!」

 

「ハハハハハ」

 

みほが怒った様な様子を見せると、弘樹は誤魔化す様に笑うのだった。

 

「………皆気付いた?」

 

「ええ………」

 

「西住殿が………舩坂殿の事を名前で………」

 

「本人は気づいてない様だがな………」

 

と、そんなみほと弘樹の遣り取りを聞いていた沙織、華、優花里、麻子がそう小声で言い合う。

 

「やっぱり、みほを本当に笑顔に出来るのは、舩坂くんだけだね………」

 

沙織はそう呟き、優しい目でハッチから姿を晒しているみほの姿を振り返る。

 

「………リア充、爆発しろ」

 

「了平、ハンドルに齧りつかないで下さい」

 

そして、そんな2人の雰囲気を浴びて、血涙を流しながらくろがね四起のハンドルに齧りついていた了平に、楓がそう言い放つ。

 

「さあ、急ぎましょう。この先でサンショウウオさんチーム達も待っています」

 

「うん! 合流した後に、機を見て主力を反転させて、フラッグ車の撃破に向かうよ!」

 

と、そこで弘樹とみほはそう言い合い、撃破したツァーリ砲兵部隊を突破して、窪地からの脱出を図るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと突入した大洗機甲部隊。
カメさんチームの奮闘もあり、弘樹との合流にも成功する。
しかし………
得体の知れないラスプーチンが、不気味に暗躍を始める。
果たして、勝負の行方や如何に?

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第81話『フラッグ車を探します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第81話『フラッグ車を探します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敢えて包囲網の1番厚い場所である、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の本陣へと突っ込んで虚を突き、一気に脱出する作戦………

 

『ところてん作戦』を決行した大洗機甲部隊の本隊は………

 

遅参した弘樹と、駆け付けたサンショウウオさんチーム達の援護に加え、ツァーリ非正規部隊の反乱………

 

そして、カメさんチームの捨て身の奮戦により………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網より脱出する事に成功する。

 

追撃の戦車部隊が迫る中、みほ達はサンショウウオさんチーム達との合流を計るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯の窪地………

 

窪地からの脱出を図り、走り続ける大洗機甲部隊。

 

『! コチラ最後尾のカモさんチーム! プラウダ戦車部隊が来ます!!』

 

とそこで、最後尾に居たカモさんチームのみどり子から、あんこうチームにそう通信が送られる。

 

「! カモさんチーム! 敵の数は確認出来ますか!?」

 

『え~と………全部で8台かと』

 

みほが即座にそう尋ねると、みどり子が追撃して来る車両は8輌であると返す。

 

「フラッグ車は確認出来ますか?」

 

『見当たりません』

 

「やはりフラッグ車はまだあの廃村か………」

 

続いてみほがそう尋ねると、みどり子はそう返し、弘樹がそう呟く。

 

「やっと追い付いたわよ! チマチマと軽戦車みたいに逃げ回ってっ!! 機銃、曳光弾! 主砲は勿体無いから使っちゃ駄目っ!!」

 

そこで、追撃して来ているプラウダ戦車部隊の中に居たカチューシャからそう指示が飛び、プラウダ戦車部隊が曳光弾での機銃射撃を始める。

 

如何やら、暗闇を照らして見通しを立てる積りらしい。

 

曳光弾の弾幕が大洗機甲部隊の上空に広がり、周囲が僅かに明るくなる。

 

「うおっ!?」

 

「慌てるな。コチラを狙っているワケではない。恐らく照明弾代わりに曳光弾を使っているんだろう」

 

了平が思わず身を伏せると、弘樹は上空に広がる曳光弾の弾幕を見上げながらそう言う。

 

「T-26! 先行しなさいっ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

とそこで、追撃部隊の中に居たT-26が、部隊の中より抜け、先行する様に速度を上げて、大洗機甲部隊を肉薄しようとする。

 

『! 敵戦車2台! 接近して来ます!! えっと………T-26ってやつです!!』

 

「!!」

 

「あの足の速さ………大分弄られている様だね」

 

みどり子からの報告を、みほが後方を振り返って確認し、迫信は接近して来るT-26達を見ながらそう言う。

 

「逃がさんぞ、大洗!」

 

「後面を衝いて居る今ならば、我々の主砲でも!!」

 

接近して来ながら、主砲の照準を大洗機甲部隊へと合わせるT-26達。

 

「! 応戦を!!………」

 

止むを得ず、みほが応戦の指示を出そうとしたところ………

 

突如砲撃音がして、大洗機甲部隊の行く手の方から2発の砲弾が飛来!

 

そのまま大洗機甲部隊を飛び越えて、先行して来ていたT-26達に命中!

 

T-26達から派手に爆炎が上がったかと思うと、そのまま白旗が上がった!

 

「なあっ!?」

 

『西住総隊長!』

 

『援護します! 急いでっ!!』

 

カチューシャの驚きの声が挙がった直後に、聖子とねこにゃーの声が通信回線に響く。

 

「! 郷さん! ねこにゃーさん!」

 

みほが前方を見やると、窪地の脱出地点である丘の上に陣取っているサンショウウオさんチームのクロムウェルと、アリクイさんチームの三式を発見し、そう声を挙げる。

 

『撃てッ!!』

 

『ファ、ファイヤーッ!!』

 

直後に再度クロムウェルと三式が発砲!

 

放たれた砲弾は、追撃して来ていたプラウダ戦車部隊の行く手に落ちる。

 

『うわぁっ!?』

 

『危ないっ!?』

 

目の前に砲弾が着弾したのを確認したプラウダ戦車が急停車する。

 

「何やってるのよ! 止まるんじゃないわよっ!! あの距離だったら装甲で十分防げるわっ!!」

 

カチューシャは構わず前進しろと指示を出す。

 

『西住総隊長! 今の内に!!』

 

『い、急いでっ!』

 

再び聖子とねこにゃーのそう言う声が、通信回線に響く。

 

「! 全車全速前進! 窪地を脱出した後、あんこうチームとカバさんチーム、サンショウウオさんチームにアリクイさんチーム、それと歩兵の皆さんは隠れて敵をやり過ごし、フラッグ車の撃破に向かいます!」

 

直後にみほがそう指示を飛ばす。

 

「残りのカモさんチームとウサギさんチームは、フラッグ車であるアヒルさんチームを守りながら出来るだけ敵を惹き付けて下さい!」

 

『『『了解っ!!』』』

 

各チームの車長から、勇ましい返事が返って来る。

 

そのまま、大洗機甲部隊は窪地の脱出地点である丘を越える。

 

『良し! 全速後退!』

 

『こ、コッチも後退!』

 

直後に、援護砲撃を行っていたクロムウェルと三式も後退して丘の影に姿を消す。

 

「逃がすなぁっ! 殲滅しろぉーっ!!」

 

半ば怒声となっているカチューシャの指示が飛び、プラウダ戦車部隊も次々に丘を越えて行く。

 

そして、ウサギさんチームとカモさんチーム、それにフラッグ車のアヒルさんチームを見つけると、全車両で追撃して行く。

 

「………良し、行ったぞ!」

 

と、その直後に、丘の両脇に予めタコさん分隊とおおかみさん分隊が掘っていた塹壕の中に隠れていた弘樹が顔を出し、フラッグ車を追撃して行くプラウダ戦車部隊を見てそう言う。

 

「コレより主力部隊は反転。廃村地帯へ戻り、フラッグ車の捜索と撃破に当たります。廃村ではまだツァーリ歩兵部隊が展開しています。各随伴分隊の皆さんは、戦車への肉薄を防いで下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほの指示に、大洗歩兵部隊の面々は勇ましい返事を返し、主力部隊は塹壕から抜け出して反転。

 

敵フラッグ車を撃破する為、ツァーリ歩兵部隊が残る廃村へと引き返すのだった。

 

「追え追えーっ!!」

 

カチューシャはその主力部隊の姿には気付かず、只管にフラッグ車を追撃して行く。

 

「敵の数が減っていますが………」

 

とそこで、ノンナが敵部隊の数が減っている事に気付いてそう報告するが………

 

「そんな細かい事は如何でも良いから!! どのみちフラッグ車を撃破すればそれで終わりよ!! 永久凍土の果てまで追いなさいっ!!(あの赤い肩の悪魔が居ないなら寧ろその方が良いわ!!)」

 

しかし、完全に頭に血が上り、弘樹への恐怖がまだ残っているカチューシャはそれを気にせずに、追撃命令を出し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、反転して廃村地帯へと戻っている主力部隊は………

 

「もうすぐ廃村地帯だ!」

 

「気を付けるんだ。もう1度言うが、今ツァーリ歩兵部隊は反乱を起こした部隊を鎮圧している様だが、その反乱部隊は我々の味方と言うワケではない」

 

地市がそう声を挙げると、迫信が全員に改めてそう注意を飛ばす。

 

「フラッグ車は何処に?………」

 

目の上に手を翳し、フラッグ車の姿を探す弘樹。

 

他のメンバーも其々にフラッグ車を捜索している。

 

とそこで、横を走っているⅣ号から金属音が聞こえた。

 

「?………」

 

何かと思って弘樹がⅣ号を見やると、そこには………

 

「…………」

 

キューポラの上に立ち、辺りを索敵しているみほの姿が在った。

 

月明かりに照らされたその威風堂々たる姿は、神々しささえ感じられる。

 

(………軍神)

 

そのみほの姿を見た弘樹は、そんな言葉を思い浮かべる。

 

「………偵察兵部隊! 確か廃村の中心部に高い塔の様な建物が在った筈だ! 全員そこへ向かい、そこからフラッグ車を捜索するんだ!」

 

「「「「「「「「「「! 了解っ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、すぐに気を取り直し、楓を初めとした偵察兵部隊にそう指示を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

主力のプラウダ戦車部隊を惹き付けつつ逃走を続けているフラッグ車防衛部隊は………

 

「遅れてすみません! IS-2、只今遅参しました!!」

 

「同じくIS-3! 到着です!!」

 

「自走砲部隊、只今到着しました!!」

 

追撃を続けていたプラウダ戦車部隊に、IS-2とIS-3、そしてISU-122、SU-100、SU-85、2両のSU-76と言う重戦車と自走砲部隊が合流した。

 

「来たーっ! ノンナ! IS-2に移りなさいっ!!」

 

「ハイ………」

 

途端にカチューシャは歓喜の声を挙げ、ノンナにそう指示する。

 

指示通りにノンナはIS-2へと搭乗戦車を変えると、砲手席に着く。

 

その直後!

 

IS-2は発砲!!

 

放たれた砲弾は、八九式のすぐ傍に着弾!!

 

「「「「うわああっ!?」」」」

 

爆発で八九式が一瞬持ち上がったが、何とか持ち直す!

 

「何よアレ!? 反則よぉっ!! 校則違反よ!!」

 

砲塔後部のハッチを開けてプラウダ戦車部隊の様子を窺っていたみどり子が、IS-2の砲撃の威力にそんな声を挙げる。

 

直後に、IS-3と自走砲部隊も砲撃を開始!

 

次々と砲弾が飛来し、アヒルさんチーム達の周辺で爆ぜて行く!

 

「あわわわっ!? 如何しよう!?」

 

「私達の事は良いから、アヒルさん守ろう!」

 

「そうだよ! 桂利奈ちゃん! 頑張ってぇっ!!」

 

「よっしゃあーっ!!」

 

そんな中で、ウサギさんチームの中で桂利奈、あゆみ、優希がそう会話を交わすと、M3リーが八九式を守る様に自らの車体を盾とするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、廃村地帯では………

 

「ハア、ハア………此処からなら………」

 

弘樹の言う塔の様な建物へと辿り着いた楓が、双眼鏡を手に村中を見渡す。

 

「何処に?………何処に居るんだ?………」

 

若干焦りながら、フラッグ車の姿を探す楓。

 

と、その瞬間!

 

双眼鏡が、廃村内の赤い壁の建物の陰から、僅かに出ていたT-34-75の車体を捉えた!

 

「! 居たっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・主力部隊………

 

『こちら楓! フラッグ車、発見しました! 村の南西! 赤い壁の建物の陰です!!』

 

「了解しました!」

 

「了解! フラッグ車の位置が分かった! 仕掛けるぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

楓からのフラッグ発見の報告を聞き、みほが返事を返し、弘樹が歩兵部隊に呼び掛け、歩兵部隊からは雄々しい叫びが挙がる。

 

だが、その時!!

 

「そうはさせんぞ! 大洗っ!!」

 

「散々コケにしてくれやがってぇっ!!」

 

「たっぷりとお返しをしてやるぜぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

そう言う台詞と共に、デミトリ、ピョートル、マーティンを筆頭に、ツァーリ歩兵部隊が突撃して来た。

 

「! ツァーリ歩兵部隊!」

 

「しかも敵のエースが揃い踏みじゃねえかよ! ヤベェじゃん!?」

 

地市と了平が驚きの声を挙げる。

 

「こんな時に………」

 

「くうっ………」

 

麻子が愚痴る様にそう呟き、みほも苦い表情を浮かべる。

 

と………

 

「ぐあっ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

「がはっ!?」

 

銃撃音が3連続で響き渡ったかと思うと、突撃して来ていたツァーリ歩兵部隊の中の3人がもんどりうって倒れ、戦死判定を受けた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

それを見たツァーリ歩兵部隊は足を止める。

 

「西住総隊長! 行って下さいっ!! 歩兵部隊は我々が食い止めます!!」

 

そこで、銃口から硝煙の上がっている四式自動小銃を構えていた弘樹が、Ⅳ号の方を振り返りながらそう言い放つ。

 

「弘樹くん!………お願い! 全車、あんこうに続いて下さい!!」

 

「了解!」

 

「ハイ!」

 

「ハ、ハイ!」

 

みほは一瞬弘樹の事を見やると、すぐにそう指示を出して、戦車部隊を率いてその場を離脱する。

 

「逃がすか!」

 

「行かせんっ!!」

 

1台のBA-10装甲車が大洗戦車部隊を追撃しようとしたが、弘樹は収束手榴弾を投げて、BA-10装甲車を撃破する。

 

「西住総隊長達がフラッグ車を撃破するまで我々でツァーリ歩兵部隊を食い止めるんだっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう言うと、大洗歩兵部隊はそう返事を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共に敵軍のフラッグ車に肉薄した大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊。

 

果たして、どちらが先に相手を撃破するのか?

 

勝負の行方はまだ分からない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網を突破した大洗機甲部隊。
追撃部隊が迫る中、主力部隊が反転し、フラッグ車の撃破を狙う。

だが、逃げる大洗のフラッグ車を重戦車と自走砲の砲撃が襲い………
主力部隊にもツァーリ歩兵部隊のエース達が襲い掛かる。
まだまだ油断は出来ません………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第82話『ツァーリ歩兵部隊大襲撃です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第82話『ツァーリ歩兵部隊大襲撃です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網を、『ところてん作戦』と弘樹の援護、非正規部隊の反乱………

 

そしてカメさんチームの奮戦により突破した大洗機甲部隊。

 

追撃部隊が迫る中、弘樹と合流を果たしたみほ達は、主力部隊として反転。

 

廃村の中に居る敵フラッグ車の撃破を試みる。

 

押し寄せるデミトリ達を含んだツァーリ歩兵部隊を、大洗歩兵部隊が食い止めている間に………

 

みほが率いる戦車部隊は、一斉にフラッグ車の元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯の窪地の中に在る廃村………

 

「間も無く目標地点です! 全車! 周囲に注意を払って下さいっ!!」

 

『『『了解っ!!』』』

 

大洗戦車部隊の先頭を行くⅣ号のキューポラから姿を晒しているみほが、各チームにそう呼び掛ける。

 

「赤い壁の建物………」

 

みほも周囲を見回し、楓が言っていた赤い壁の建物を探す。

 

「! みぽりん! 11時の方向っ!!」

 

「!!」

 

するとそこで、みほを手伝おうと、通信手席のハッチを開けて顔を出した沙織がそう叫び、みほは即座にその方向を見やる。

 

そこには、赤い壁の建物の陰から僅かに覗いている敵フラッグ車であるT-34-75の車体が在った。

 

「! 発見しましたっ!!」

 

「!? 敵来襲っ!!」

 

みほが発見の報告を挙げるのと同時に、敵フラッグ車も大洗戦車部隊の存在に気付いて急発進!

 

「逃がしません! 追撃を!!………」

 

と、みほがそう指示を出そうとした瞬間………

 

敵フラッグ車が逃げた方向とは別の方向から、砲弾が飛んで来て、Ⅳ号の目の前に着弾!

 

「!?」

 

舞い上がった雪から顔を庇いつつも、すぐに砲弾が飛んで来た方向を確認するみほ。

 

そこには、砲口から硝煙を挙げているIS-1の姿が在った。

 

「!? IS-1!!」

 

「此方に残っていたんですか!?」

 

みほと優花里が驚きの声を挙げる中、IS-1は主砲をⅣ号の方へと旋回させる。

 

「! 全車散開っ!!」

 

『『『!!』』』

 

すぐさまみほの指示が飛び、固まって移動していた大洗戦車部隊は方々に散らばる。

 

直後にIS-1が再び発砲し、先程まで大洗戦車部隊が居た場所に砲弾が着弾する。

 

「今の内に逃げろっ!」

 

「あんがとぉーっ!」

 

IS-1の車長がそう言い放つと、敵フラッグ車は逃走して行く。

 

「みぽりん! フラッグ車が!!」

 

「くうっ!………」

 

沙織の声に、みほは苦い表情を浮かべる。

 

その間にも、IS-1は再び砲塔を旋回させる。

 

と、その時!!

 

発砲音がして、2発の砲弾がIS-1へと命中!

 

どちらもIS-1の重装甲の前に弾かれて火花を散らしただけだったが、衝撃でIS-1は動きを止める!

 

「!!」

 

「西住総隊長! ココは私達が!!」

 

「総隊長達はフラッグ車を!!」

 

驚くみほの耳に、サンショウウオさんチームの聖子と、アリクイさんチームのねこにゃーの声が響く。

 

そしてクロムウェルと三式が発砲。

 

砲弾はIS-1へと命中したが、またも装甲で弾かれて明後日の方向へ飛んで行く。

 

「! カバさん! あんこうに続いて下さいっ!!」

 

「了解した!!」

 

それを受けてみほは躊躇わずにカバさんチームのⅢ突を連れ、敵フラッグ車を追撃して行った。

 

「行かせるかっ!!」

 

IS-1がそんなⅣ号とⅢ突に主砲を向けようとするIS-1だったが………

 

そこで三度砲弾が直撃!

 

「うおわっ!?」

 

またも装甲で弾かれるが、衝撃で車内が揺れ、砲撃のタイミングを逃してしまう。

 

「貴方の相手は!」

 

「ぼ、僕達です!!」

 

「オノレェッ!!」

 

聖子とねこにゃーがそう言うと、IS-1はクロムウェルと三式の方へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

ツァーリ歩兵部隊と交戦中の大洗歩兵部隊の面々は………

 

「俺は攻撃を行う!!」

 

「りょーかーいっ! ドンドン行けぇーっ! 貴様の後に続くーっ!!」

 

「行くぞぉっ!」

 

「戦友達の仇だぁーっ!!」

 

即席で掘った塹壕の中に隠れ、或いは廃村の建物内に籠り、突撃して来るツァーリ歩兵部隊に銃撃を見舞っている。

 

「我等が母校の栄誉の為にぃーっ!!」

 

「同志カチューシャ様の為にぃーっ!!」

 

それに対し、相も変わらず人数に任せた強行突撃を続けるツァーリ歩兵部隊。

 

しかし、半数以上の非正規部隊が反乱を起こし、更にその鎮圧の為に部隊を割いてしまっている現在のツァーリ歩兵部隊でその戦術を行うのは余りにも非効率的だった。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

大洗歩兵部隊の銃撃の前に、ツァーリ歩兵部隊の隊員達は次々と地に倒れ伏して行く。

 

「奴さん射的の的になりたいようです!」

 

「良いぞっ! ドンドン撃てぇーっ!!」

 

「こりゃ行けるんじゃねえのか!?」

 

その光景に、了平が思わずそう声を挙げる。

 

「止めろ! お前が言うとフラグにしか聞こえねえんだよっ!!」

 

護身用の十四年式拳銃を撃っていた地市が、了平のその台詞を聞いてそう言い放つ。

 

と、その瞬間!!

 

「ヒャッハーッ!!」

 

世紀末的な叫びと共に、RF-8の乗ったピョートルとマーティンが突撃した来た!!

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

マーティンが操縦するRF-8の後部座席に立っているピョートルが、両手に握っていたトカレフTT-33での二丁拳銃撃ちを繰り出す!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

大洗歩兵部隊の隊員数名が、薙ぎ払われる様に弾丸を浴び、戦死判定を受けた。

 

「ホレ、見ろ!」

 

「俺のせいかよ!?」

 

それを見た地市と了平がそう言い合っていた瞬間!!

 

「猟犬部隊! 突撃ぃーっ!!」

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

またも世紀末的な叫びが響き渡り、RF-8に乗ったピョートルの率いる『猟犬部隊』が一斉に突撃して来る。

 

猟犬部隊は、大洗歩兵部隊の隊員達が籠っている塹壕や家の周りを走り回り、機関銃掃射や手榴弾を投擲する。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

次々と戦死判定者が出て行き、更に動き回る猟犬部隊によって、大洗歩兵部隊は徐々に分断されて行く。

 

「マズイな………分断して各個撃破を狙う積りか………」

 

そう言いながら、九七式狙撃銃で1人のRF-8の操縦手と後部座席に居たツァーリ歩兵を、続け様にヘッドショットする迫信。

 

「数は元々俺達が有利だ!」

 

「分断したらジワジワと嬲り殺しにしてやるぜぇっ!!」

 

RF-8で走り回っているピョートルとマーティンがそう言い放つ。

 

「そうはさせるかってんだぁっ!!」

 

とそこで!

 

陸王に乗った弦一朗が、ピョートルとマーティンが乗るRF-8に向かって行く。

 

「馬鹿め! バイクでアエロサンに挑む積りか!」

 

「やってみなけりゃ分かんねえだろぉっ!!」

 

馬鹿にする様にそう言い放つピョートルだったが、弦一朗は構わずにアクセルを更に吹かして、ピョートル達の乗るRF-8に追いすがる!

 

雪上にも関わらず、弦一朗は巧みなテクニックで徐々に距離を詰め、遂には並走する!

 

「へっ! どうだぁっ!!」

 

「ぬおっ!? コイツゥ!」

 

「生意気なぁっ!!」

 

勝ち誇る様にそう言う弦一朗を見て、ピョートルとマーティンは苦々しげな表情を浮かべる。

 

「退け! ピョートル! マーティン!」

 

とそこで、そう言う声が響き、BA-64が突撃して来て、銃座に居たデミトリが火炎放射器を構える。

 

「! ヤッベッ!」

 

「逃げろ逃げろ!」

 

それを見ると、すぐさまピョートルとマーティンが乗るRF-8は離脱する。

 

「焼け死ぬが良いっ!!」

 

直後に、弦一朗目掛けて、デミトリが火炎放射器から火炎を放つ!

 

「!? おうわっ!?」

 

間一髪のところでハンドルを切り、火炎をかわす弦一朗。

 

「何しやがる! 危うく自慢の髪型が台無しになるとこだったぜ!!」

 

ヘルメットから覗いているリーゼントを撫でながら弦一朗はそう言い放つ。

 

「「ヒャッハーッ!!」」

 

と、その弦一朗目掛けて、またも世紀末的な叫びを挙げながら、ピョートルとマーティンがRF-8を突っ込ませて来る!

 

「貰ったぜぇっ!!」

 

「コレで終わりだぁっ!!」

 

「!? 舐めんななぁっ!!」

 

ピョートルとマーティンがそう言い放った瞬間!!

 

弦一郎はバイクを思いっきりジャンプさせ、ピョートルとマーティンが乗るRF-8の頭上を飛び越えた!!

 

「!? ん何ぃーっ!?」

 

「そんなのアリかよ!?」

 

驚くピョートルとマーティンが乗るRF-8の背後で、弦一朗の乗る陸王は着地を決める。

 

「少しは出来る様だな………ならば本気で相手をしてやろう! イグニッション! ファイヤーッ!!」

 

そこでデミトリがそう叫んだかと思うと、何と!!

 

背負っていた火炎放射器の燃料タンクの両脇に付けられていた筒状の物の下部から炎が上がり、デミトリの身体が宙に舞い上がったっ!!

 

「!? 何ぃーっ!?」

 

「飛んだっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

歩兵が空を飛ぶと言う有り得ない事態に、弦一朗だけでなく、大洗歩兵部隊の全隊員が驚きを露わにする。

 

「アレはロケット弾の推進装置か………恐らく、彼の火炎放射器の燃料はロケット燃料なんだろう。随分と奇抜な装備を考えたものだ」

 

「冷静に観察してる場合ですか、会長!」

 

迫信がそのデミトリの姿を観察してそう言うと、傍に居た逞巳がツッコミを入れる。

 

「覚悟しろ! 今度は逃げられんぞっ!!」

 

デミトリは空中を飛翔したまま、陸王に乗る弦一朗に狙いを定める。

 

「チキショー! 上から狙われたんじゃ如何にもならねえっ!!」

 

弦一郎の言葉通り、真上から火炎を浴びせられては逃げ場が無かった………

 

「憤怒の炎を!………」

 

そして遂にデミトリの指が火炎放射器の引き金を引く………

 

かに思われた瞬間!

 

発砲音がして、デミトリの眼前を銃弾が掠めた!!

 

「!? クウッ!? 狙撃か!?」

 

思わず仰け反ったデミトリはバランスを崩し、そのまま一旦雪の上に着地するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯………

 

「しまった、外した!」

 

その狙撃を行った主………戦場からやや離れた森林の中に居た飛彗は、外した事に少し慌てながらもすぐに排莢を行い、次弾を装填。

 

改めてデミトリを狙う。

 

するとその時!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

獣の咆哮の様な叫び後が聞こえたかと思うと、1本の木が根元から折れ、飛彗目掛けて倒れて来た!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

慌ててその場から移動し、難を逃れる飛彗。

 

倒れて来た木は衝撃で、積もっていた雪を粉の様に舞い上げる。

 

「な、何ですかっ!?」

 

飛彗がそう声を挙げた瞬間………

 

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

再び獣の咆哮の様な叫び声が響いて、木々の間から巨大な影………

 

2m60cmは有ろうかと言う身長に熊の様な体躯………

 

鉄仮面を被って赤いモヒカン刈りの頭をしたツァーリ歩兵………

 

『ニキータ』が姿を現した!

 

「!? ツァーリ歩兵!?」

 

飛彗が驚きの声を挙げるが、次の瞬間にもっと驚かされる光景が展開する。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータが再び獣の様に咆哮したかと思うと………

 

何と!!

 

傍らに置いてあった、移動用の器具を外してあったD-1 152mm榴弾砲を持ち上げて、まるでバズーカの様に肩で構えた!!

 

「!? なっ!? 榴弾砲を担いで構えた!?」

 

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

飛彗が驚愕の声を挙げた瞬間に、ニキータは咆哮を挙げてD-1 152mm榴弾砲を発砲した!

 

「!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

慌てて走り出した飛彗だったが、放たれた榴弾が背後に着弾して爆発!

 

その爆風に煽られる形で転倒してしまう。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータが倒れた飛彗にD-1 152mm榴弾砲を向ける。

 

「!?」

 

飛彗、万事休すか!?

 

と、思われたその時!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ! させるかいなぁーっ!!」

 

そう言う叫び声と共に大河が現れ、飛彗の元へ素早く駆け寄ったかと思うと、ファイヤーマンズキャリーで抱え上げ、これまた素早く退避!

 

D-1 152mm榴弾砲から放たれた榴弾は、地面を爆ぜさせるだけに終わった。

 

「しっかりせい! 大丈夫かいな!?」

 

「く、黒岩さん………助かりました」

 

そのまま近くに在った岩の陰へと隠れた大河は、岩に寄り掛からせる様にして飛彗を降ろす。

 

「アイツはワシに任せい! お前さんは他の連中の援護に向かうんや!」

 

そこで、大河はそう言って携帯していたMP38に新たな弾倉を装填する。

 

「! ですが!………」

 

「任せいっちゅうとるやろ! はよ行けい!!」

 

何か言おうとした飛彗だったが、大河はそう言って飛彗の言葉を遮る。

 

「! 御武運を!!」

 

飛彗はそう言うと、7.62mm ZielGew256(r)を担いで移動を始める。

 

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

その姿を発見したニキータが、担いでいたD-1 152mm榴弾砲を向けるが………

 

「させんっちゅうんやっ!!」

 

そのニキータに向かって、大河が横からタックルを食らわせた!!

 

「!? うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」

 

雪の上へと倒れ、派手に粉雪を舞わせるニキータ。

 

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

しかしすぐに咆哮を挙げながら起き上がると、D-1 152mm榴弾砲を投げ捨て、大河を睨む様に見据える。

 

「ほう? ステゴロかいな? ええで………そっちの方がワシとしても好都合や」

 

それを見た大河もMP38を捨てると、構えを取る。

 

「来んかい!」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

大河がそう言い放つと、ニキータは咆哮を挙げて突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗歩兵部隊とツァーリ歩兵部隊が激突している戦場では………

 

「猟犬部隊! 集まれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

ピョートルが号令を掛けると、世紀末的な叫びと共に、RF-8に乗ったツァーリ歩兵部隊の中の猟犬部隊が集まって来る。

 

「大洗の連中は分断は順調だ! ココで一気に畳み掛ける! 全部隊! 俺とマーティンに続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

またもや世紀末的な叫びが挙がると、RF-8に乗った猟犬部隊が、大洗歩兵部隊目掛けて一斉に突撃する。

 

だが、その瞬間!!

 

「…………」

 

その猟犬部隊の前に、1人の大洗歩兵部隊員が立ちはだかった。

 

「ああっ!? 何だ、アイツは!?」

 

「構わん! 跳ね飛ばせぇっ!!」

 

突如単身で立ちはだかった大洗歩兵部隊員の姿にマーティンが怪訝な顔をするが、ピョートルはそう指示を出し、RF-8に乗った猟犬部隊は構わず突っ込んで行く。

 

RF-8に乗った猟犬部隊が立ちはだかった大洗歩兵部隊員を跳ね飛ばす………

 

………かと思われた瞬間!!

 

「!!」

 

その立ちはだかった大洗歩兵部隊員の周辺で、銀色の閃光が幾重にも煌めいた!

 

そして、RF-8に乗った猟犬部隊は、立ちはだかった大洗歩兵部隊員を素通りして行く。

 

「!? オ、オイ!? 如何したっ!?」

 

と、ピョートルが戸惑いの声を挙げると………

 

「ガハッ!?………」

 

突如マーティンが断末魔を挙げて気絶。

 

戦死判定を受ける。

 

「!? マーティン!?」

 

ピョートルが驚愕の声を挙げるが、更に………

 

「グハッ!?」

 

「ゴガバッ!?」

 

周りに居たRF-8に乗った猟犬部隊も次々と気絶し戦死判定を受ける。

 

忽ちRF-8は暴走。

 

互いに衝突し、或いは段差や廃屋、岩や木の幹に突っ込み、爆発四散して行く。

 

「!?!?」

 

ピョートルは最早何が何だか分からなくなりかけていると、その眼前に廃屋が迫る!

 

「!? うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

反射的にRF-8から飛び降りるピョートル。

 

戦死判定を受けて気絶していたマーティンを乗せたままのRF-8はそのまま廃屋に激突!

 

爆発したかと思うと、廃屋を巻き込んで大炎上した。

 

「マーティン!………クソッ! アイツか!?」

 

ピョートルは怒りを露わに、立ちはだかったあの大洗歩兵部隊員を振り返る。

 

「…………」

 

そこには、立ちはだかったあの大洗歩兵部隊員………愛刀・戦獄を左手に握り、悠然と歩み寄って来る熾龍の姿が在った。

 

如何やら、擦れ違い様に猟犬部隊を全て居合い切りで斬り捨てた様である。

 

「テメェは栗林 熾龍! 名将の子孫だか何だか知らねえが、調子に乗るんじゃねえぞっ!!」

 

ピョートルは怒りを露わに、両手に手斧を握る。

 

「………犬だけあってよく吠えるな」

 

熾龍はそんなピョートルに向かってそう毒舌を吐き、静かに居合いの構えを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

廃屋の1つに楓と共に立て籠もり、ツァーリ歩兵部隊員達を銃撃していた弘樹は………

 

「………妙だ」

 

「? 何がですか、舩坂さん」

 

装填中の竜真を援護する様に発砲していた弘樹がそう呟き、竜真が尋ねる。

 

「さっき、敵陣の中で戦っていた時、狙撃部隊の攻撃を受けた」

 

「狙撃部隊、ですか?」

 

「ああ。幸い位置が掴めたので、砲兵部隊に知らせて砲撃を浴びせて貰ったが………かなりの腕の連中だった。それで全滅したとは考え難い」

 

「まだ狙っていると? でも、さっきから狙撃らしき攻撃はありませんよ?」

 

「それが逆に気になるんだ………」

 

そう言いながらも、ツァーリ歩兵を3人立て続けにヘッドショットする弘樹。

 

「………やはり気になる。疾河くん、此処を頼めるか?」

 

「分かりました。援護しますので飛び出して下さい」

 

「スマンな………」

 

「気にしないで下さい。御武運を………」

 

その竜真のセリフを聞くと、弘樹は廃屋から飛び出した!

 

「! あそこに居るぞ!」

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

それを見たツァーリ歩兵達が、一斉に弘樹へと銃口を向けるが………

 

「させませんっ!!」

 

廃屋に残っていた竜真が窓から姿を見せ、ブルーノZB26軽機関銃を発砲する!

 

「うおわっ!?」

 

「まだ居るぞぉっ!!」

 

「反撃しろぉっ!!」

 

ツァーリ歩兵達はそれに釣られる様に、竜真へと銃火を集中させる。

 

「クウッ!………頼みましたよ、舩坂先輩」

 

一旦身を隠し、もう見えなくなった弘樹へとそう呟く竜真だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その弘樹は………

 

途中で出くわしたツァーリ歩兵部隊を次々に掻い潜りながら、狙撃部隊が居たと思われる狙撃地点らしき森の中へと踏み込んでいた。

 

「…………」

 

四式自動小銃を構え、周囲への警戒を最大にしながら、慎重に歩を進める弘樹。

 

やがて、砲撃が撃ち込まれたと思わしき跡と、その周辺で倒れている狙撃銃や対戦車ライフルを持った白い迷彩服姿のツァーリ歩兵達を発見する。

 

「! やはり居たか………」

 

弘樹は警戒を続けながら、その倒れている白い迷彩服姿のツァーリ歩兵達を調べる。

 

そこで、ある事に気づく………

 

(………全員が銃を持ったまま戦死しているだと?)

 

そう………

 

倒れて戦死判定を受けている白い迷彩服姿のツァーリ歩兵達………雪化粧狙撃部隊員は全員、獲物を持ったままの状態で気絶していた。

 

(まさかカウンターの狙撃と砲爆撃を受けながらも狙撃を続けていたと言うのか? だとすれば………こいつ等は一体?………)

 

カウンターの狙撃と砲爆撃を受けながらも狙撃を続ける敵の姿を想像し、弘樹の背に冷たい物が走る。

 

と、注意が逸れたその一瞬!!

 

発砲音がして、弘樹の頭目掛けてライフル弾が飛んで来た!!

 

「!?」

 

弘樹は反射的に頭を斜めにする様に首を動かした!

 

飛んで来たライフル弾は鉄帽に命中したかと思うと、角度が浅かった事によって明後日の方向へ弾き飛ばされる!

 

「! ぐうっ!?」

 

頭に走った衝撃で一瞬意識が飛びかけた弘樹だったが、持ち前の精神力で強引に引き戻し、すぐさま近くに在った太い木の陰へと隠れる!

 

直後に、弘樹が隠れた大木の幹に次々と銃弾が着弾して銃創が出来る。

 

「そこかっ!!」

 

と、一瞬の銃撃が途切れた瞬間に弘樹は半身を曝し、手榴弾を銃弾が飛んで来た方向へと投擲した!

 

投擲された手榴弾が地面に落ちると、派手に爆炎を上げる!

 

その爆発の煙が漂う中から………

 

シモノフPTRS1941らしき対戦車ライフルを持ったツァーリ歩兵を先頭に、雪化粧狙撃部隊が姿を現す。

 

「流石は英霊の子孫。あんな方法で銃弾をかわすとは………いやはや恐れ入ったよ」

 

先頭に居たツァーリ歩兵………ラスプーチンが、不敵に………そして不気味に笑いながら隠れている弘樹にそう言って来る。

 

「何者だ?………」

 

弘樹は身を隠したまま、ラスプーチンの姿をコッソリと窺いながらそう問い質す。

 

「コレは申し遅れました。私はツァーリ神学校の歩兵部隊所属、雪化粧狙撃部隊の指揮官、ラスプーチンです」

 

ラスプーチンは妙に畏まった態度で弘樹にそう答える。

 

その対応が返って不気味さを際立たせていた。

 

「覚えておく必要はありませんよ。何故なら………貴方はココで私に倒されるんですから」

 

(………妙な奴だ)

 

慇懃無礼な態度のラスプーチンを見て、弘樹は内心でそう思う。

 

(だが、この見通しの悪い森の中からアレだけの狙撃をしてきた奴だ………油断は出来ん)

 

「フッ………」

 

と、弘樹がそう思った瞬間に、ラスプーチンは手榴弾を投擲してきた!

 

「!!」

 

その手榴弾を撃ち抜く弘樹。

 

しかし………

 

手榴弾が爆発したかと思うと、辺りに黒煙が広がる!

 

「!? しまった! 煙幕手榴弾か!?………」

 

弘樹はすぐにその場から移動を開始。

 

直後に、次々に発砲音がして、弾丸が弘樹のすぐ傍を掠め飛んで行く!

 

中にはラスプーチンが撃った物と思われる対戦車ライフルの弾丸もあり、近くに在った木々を薙ぎ倒して行く。

 

(………態と当てていない………何処かへ誘導する積りか………)

 

だが、弘樹はその銃撃が自分を誘導する為のものだと気付く。

 

(だが、この状況では迂闊に動けんか………良いだろう………その誘いに乗ってやる)

 

敢えて誘いに乗る事を決めると弘樹は、誘導されるままに飛び交う弾丸の中を駆け抜けて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ戦いは大詰め。
ツァーリ歩兵部隊のエース達と対峙する弘樹を初めとした大洗歩兵部隊。
サンショウウオさんチームとアリクイさんチームもIS-1と対決する。
果たして、どちらが先に、相手のフラッグ車を撃破するのか?

さて、今日は大洗で海楽フェスタ。
例によってガルパンイベントがあり、劇場版の新情報が公開されるそうです。
行ける方は是非足を運んでみて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第83話『謎めいた歩兵、ラスプーチンです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第83話『謎めいた歩兵、ラスプーチンです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹とサンショウウオさんチーム達の援護で、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の包囲網から脱出した大洗機甲部隊。

 

フラッグ車と護衛車両がプラウダ戦車部隊を惹き付けて逃走を続ける中………

 

合流した弘樹達を含めた主力部隊が、敵フラッグ車の撃破に向かう。

 

廃村の中に隠れていた敵フラッグ車を発見を発見するみほ達だったが、そこでツァーリ歩兵部隊とIS-1が襲い掛かる。

 

大洗歩兵部隊とサンショウウオさんチーム、アリクイさんチームが足止めを引き受け………

 

みほ達あんこうチームとカバさんチームが、逃げる敵フラッグ車を追跡するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

敵戦車部隊を引き連れて逃走中のフラッグ車であるアヒルさんチームとその護衛のウサギさんチームとカモさんチーム………

 

「………そこです」

 

と、その最後尾でフラッグ車をガードしていたウサギさんチームのM3リーを、IS-2に乗り換えたノンナが照準に捉えた。

 

122ミリ砲が火を噴き、放たれた砲弾が放物線を描いてM3リーのエンジン部を直撃!!

 

M3リーはエンジン部から炎を上げ、戦列から落後。

 

脇に逸れて停車したかと思うと、白旗を上げる。

 

「ウサギチーム、走行不能!」

 

『皆さん無事ですか!?』

 

梓がすぐに撃破された事を報告すると、沙織の心配する声が返って来る。

 

「「「大丈夫で~す!」」」

 

「メガネ割れちゃったけど大丈夫で~す」

 

「…………」

 

桂利奈、優希、あゆみ、あやがそう返事を返し、紗希もボーっとした様子は相変わらずだが大丈夫そうである。

 

「カモさん! アヒルさんをお願いします!!」

 

「了解! ゴモヨ! パゾ美! 風紀委員の腕の見せ所よ!!」

 

「「ハイ!!」」

 

そして梓がみどり子にそう通信を送ると、今度はカモさんチームがアヒルさんチームの盾となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、窪地の中に在る廃村では………

 

逃げる敵フラッグ車を、あんこうチームのⅣ号とカバさんチームのⅢ突が猛追跡する。

 

「カチューシャ隊長! こちらフラッグ! 発見されちゃいましたぁ、如何しましょう? そちらに合流しても良いですか? てか、合流させて下さいぃっ!!」

 

逃げる敵フラッグ車の車長が、訛った口調でカチューシャへと指示を請う。

 

『ニェート! 単独で広い雪原に出たら良い的になるだけよ! 随伴歩兵も居ないのよ!!』

 

しかし、カチューシャは怒声気味の声でそう返してくる。

 

『ほんの少しの時間さえ頂けたら、必ず、仕留めてみせます』

 

と、IS-2で今度はカモさんチームに狙いを定めているノンナが、通信回線にそう言って割り込んで来る。

 

『と言うワケだから! 外に逃げずにチョロチョロ逃げ回って時間稼ぎして! 頼れる同志の前に引き摺り出したって良いんだから!!』

 

「りょ、了解しましたー!」

 

敵フラッグ車の車長はそう返すと、自車をある方向へと向かわせる。

 

そこには、包囲網を敷いていた時からフラッグ車の護衛に付いて居たKV-2の姿が在った!

 

そのKV-2の脇を、敵フラッグ車が擦り抜けると、KV-2が前進し、Ⅳ号とⅢ突の前に立ちはだかる。

 

「来た! ギガント!!」

 

かつてドイツ軍の部隊をたった1両で食い止めたと言う逸話を持つ街道上の怪物、KV-2を見てエルヴィンがそう声を挙げる。

 

「大丈夫!」

 

しかし、みほは少しも取り乱さずにそう言い放つ。

 

直後にKV-2が発砲!

 

轟音と共に152mmの榴弾が主砲から吐き出される!

 

だが、Ⅳ号とⅢ突は僅かに横に動いて回避。

 

「停止!」

 

直後に停止し、主砲をKV-2へと向ける。

 

「KV-2は次の装填まで時間が有るから落ち着いて!」

 

「ハイ」

 

みほがそう言う中、照準器を覗き込んでKV-2を見据える華。

 

そう、強力な榴弾砲を装備するKV-2だが、その榴弾の重さと分離装薬式と言う砲弾構造の為、次弾装填に非常に時間が掛かると言う致命的な弱点を持っていた。

 

先程の初弾を外してしまい、随伴歩兵も居ないKV-2に為す術は無い。

 

「もっとも装甲の弱い所を狙って………」

 

「撃てぇっ!!」

 

みほの号令が飛ぶと、Ⅳ号とⅢ突は発砲!

 

砲弾は其々、KV-2の車体下部と砲塔基部に命中!

 

KV-2から黒煙と共に白旗が上がると、Ⅳ号とⅢ突はその脇を擦り抜けて、フラッグ車の追跡を続けた!

 

『大洗、KV-2をアッサリと撃破ぁっ!!』

 

『いや、初弾を外したのはKV-2にとって痛いミスでしたね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ツァーリ歩兵部隊と戦闘中の大洗歩兵部隊は………

 

「ぐあっ!?………」

 

「コレでまた1人………」

 

ニキータから逃れ、別の森の中へと潜み直した飛彗が、ツァーリ歩兵を1人ヘッドショットしてそう呟く。

 

既にその射線上には、何人ものツァーリ歩兵が全てヘッドショットで倒され、戦死判定を受けていた。

 

「うわぁっ!?」

 

「あっ!?」

 

とその時、敵の狙撃で、大洗歩兵隊員の1人が倒されるのを目撃する。

 

「クッ! 敵も森の中から狙撃を………」

 

すぐに森の中をスコープ越しに覗き込む飛彗だが、敵の狙撃兵の姿は見つけられない………

 

「やはり敵の方がカモフラージュは上手ですか………」

 

「ほう? 狙撃兵か」

 

「!?」

 

そこでそう言う声がして、飛彗が慌てて振り返ると、そこには火炎放射器を構えたデミトリの姿が在った。

 

「! マズイ!?………」

 

「焼け死ぬが良いっ!!」

 

飛彗が飛び退く様に移動を始めた瞬間に、デミトリは火炎放射器から火炎を放つ!

 

「うわわわっ!?」

 

火炎がすぐ傍を掠め、焼け焦げた様な匂いが飛彗の鼻を刺激する。

 

炎は森の木々へと燃え移り、炎上させる。

 

「! コレだ!」

 

すると飛彗は、その燃え上がった木々を見て何かを思い付く。

 

「コッチです!」

 

そしてデミトリに態と姿を見せながら逃げ始める。

 

「馬鹿め! 炎からは逃れられんぞっ!!」

 

デミトリはその飛彗を追い掛けながら火炎放射を続ける。

 

火炎はドンドン木々を焼いて行き、森一帯へと広がって行く。

 

遂には森林火災となって、森全てを炎上させた!!

 

「!?」

 

コレは堪らないと、潜んでいたツァーリ狙撃兵達が慌てて森の中から飛び出して行く。

 

「そこです!」

 

「!?」

 

「?!」

 

と、その飛び出して来たツァーリ狙撃兵達を、飛彗が次々とヘッドショットで仕留めて行く。

 

「ぬうっ!? しまった!?」

 

自分の火炎が利用された事に、デミトリは思わず声を挙げる。

 

「………まあ良い。ならば戦法を変えるまでだ。イグニッション! ファイヤーッ!!」

 

しかし、デミトリはそう言ったかと思うと、ロケット弾の推進装置で再び飛翔!

 

飛彗の頭上を取ったかと思うと、酒瓶の様な物を投げつけた!

 

「!?」

 

反射的に、その酒瓶の様な物を撃ち抜く飛彗。

 

途端に酒瓶は大爆発!

 

「!? うわぁっ!?」

 

ガラス片が雨の様に飛彗へと降り注ぐ。

 

如何やら、中に液体燃料が詰まっていた様である。

 

「く、う………」

 

戦死判定は辛うじて免れたが、重傷を負ったと判定した戦闘服が、飛彗の動きを著しく制限する。

 

「フフフ………その状態で私の炎から逃れられるかな?」

 

「クウッ………」

 

上空から火炎放射器を構えるデミトリに、飛彗は苦い顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

雪化粧狙撃部隊に誘導されていた弘樹は………

 

(! 森が途切れる………)

 

遂に森から抜け出し、大きな石橋が掛かる凍った池の前へと出る。

 

その途端に、雪化粧狙撃部隊からの狙撃がピタリと止んだ。

 

「此処へ誘い出すのが狙いだったのか………」

 

「その通り………そして此処が君が最期を迎える場所となるのだよ。舩坂 弘樹」

 

と、弘樹がそう呟いた瞬間!

 

池の対岸の方から石橋の上に、ラスプーチンが姿を見せる。

 

「ラスプーチン………」

 

警戒しながら、四式自動小銃を構える弘樹。

 

「フフフ………英霊よ………神の名に於いて、再びあの世へ戻して差し上げます」

 

慇懃無礼な態度で、ラスプーチンもシモノフPTRS1941を構えてそう言う。

 

「その手の台詞は厭きるほど聞いて来た………」

 

弘樹がそう言い、両者は互いに獲物を向け合った状態で膠着状態へ縺れ込む。

 

「「…………」」

 

睨み合う両者の間に会話は無く、戦場の音までもが遠ざかって行く様な感覚を覚える。

 

と、その時………

 

流れ弾と思わしきロケット弾が、凍った湖に落ちて爆発!

 

派手に水柱を上げて、氷塊を撒き散らした!

 

「「!!」」

 

その瞬間に!!

 

弘樹とラスプーチンの対決の火蓋は切って落とされた!

 

シモノフPTRS1941を発砲するラスプーチンだったが、読んでいた弘樹は横に飛ぶ様にして避ける。

 

「!!」

 

そして、四式自動小銃に銃剣を着剣すると、一気にラスプーチンに向かって突撃した!!

 

(接近戦に持ち込めば!………)

 

ラスプーチンを狙撃兵と思った弘樹は、一気に近づいて接近戦に持ち込む腹の様だ。

 

だが………

 

「フフフ………」

 

「!?」

 

ラスプーチンが不気味に笑みを浮かべた瞬間、弘樹は『何か』を感じ取り、即座にバックステップを踏む!

 

その直後!

 

弘樹の眼前を、銀色の閃光が掠め、銃剣を装着していた四式自動小銃が弾き飛ばされ、凍った湖の氷に突き刺さった!

 

「!?」

 

「ほう………今のを見切りますか…………大したものですね」

 

そう言うラスプーチンの手にはシモノフPTRS1941ではなく、ロシア製の刀剣………『シャスク』が握られていた。

 

「………狙撃兵じゃなかったのか」

 

「『狙撃兵もやっている』………と言うのが正しいですかね。色々と多忙な身でしてね」

 

弘樹の言葉に、シャスクの刀身を撫でながらそう返すラスプーチン。

 

撫でられた刀身が、不気味に輝く。

 

(………一筋縄では行かんか)

 

そう思いながら、弘樹は腰に下げていた英霊の柄に手を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗機甲部隊のフラッグ車であるアヒルさんチームの八九式と、それを護衛しているカモさんチームのルノーB1bisは………

 

「そこです………」

 

八九式の後方を走っていたカモさんチームのルノーB1bisに、ノンナのIS-2が放った砲弾が直撃!

 

ルノーB1bisは火を噴き、回転しながら静止し、白旗を上げる。

 

「あと1つ………」

 

遂に護衛車両が居なくなってしまったアヒルさんチームの八九式を照準器越しに見つめながら、ノンナがそう呟く。

 

「カモチーム、撃破されました! アヒルさんチームの皆さん! 健闘を祈る!!」

 

「「「「ハイ!!」」」」

 

カモさんチームのみどり子からの報告を聞き、アヒルさんチームは単独での逃走を続行する。

 

そのアヒルさんチームの八九式に、プラウダ戦車部隊の砲撃が容赦無く浴びせられる。

 

砲弾が次々に至近距離へと着弾し、八九式の車内には断続的に振動が走る。

 

「も、もう駄目かも~~、うええ~~~~」

 

恐怖の余り、あけびが思わず泣き声を挙げる。

 

「泣くな! 涙はバレー部が復活したその日の為に取って於け!」

 

「! ハイ!」

 

しかし、典子にそう叱咤され、すぐに気を取り直す。

 

「大丈夫! こんな砲撃! 強豪校の殺人スパイクに比べたら、全然よね!」

 

妙子もそう言って、皆を鼓舞する。

 

「そうね。でも、今はココが私達にとっての東京体育館。或いは代々木第一体育館!」

 

「「「「そ~れ、それそれ~~~っ!!」」」」

 

そして忍がそう言うと、全員で掛け声を挙げるのだった。

 

と、その瞬間に1発の砲弾が八九式の行く手に着弾!

 

爆風で八九式の車体が前側から持ち上がり、引っ繰り返りそうになる。

 

しかし、塹壕を超える為に後部に装備されていた橇のお蔭で、持ち直す事に成功する。

 

『危ない危ない、アヒルさんチーム! このまま撃破されてしまうのかぁっ!!』

 

『今回ばかりはちょっと危ないですよぉ』

 

その様子を、ヒートマン佐々木とDJ田中が熱の入った様子で実況するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

フラッグ車を追撃しているあんこうチームとカバさんチームは………

 

「みぽりん! カモさんチームもやられたって! もうアヒルさんチームだけだよ!」

 

「分かってる!」

 

沙織からの報告を聞きながら、敵フラッグ車を視線で追うみほ。

 

しかし、元々雪上での走行に慣れているプラウダのフラッグ車は、障害物の多い廃村の中を巧みに走り回り、中々距離を詰められない。

 

「くうっ! 追い付けん!」

 

「回る砲塔が欲しいっ!!」

 

カバさんチームのⅢ突でも、エルヴィンとカエサルがそう声を挙げる。

 

(急がないと………皆が!)

 

みほの心に、徐々に焦りが生まれ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃村地帯の森の中………

 

「オラァッ! 喰らったれいっ!!」

 

そう言い放ち、ニキータの胸目掛けて右の拳を振るう大河。

 

しかし………

 

「フ~~ン………」

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

胸に真面に大河の拳を食らったと言うのに、ニキータはニヤリと笑って平然としている。

 

「ぬううっ! もう1発ぅっ!!」

 

すると大河は、続け様に左の拳を振るった。

 

「フフ~~ン………」

 

しかし、コレも真面に入ったにも関わらず、ニキータはダメージを受けた様な様子を見せない。

 

「クウッ! こんのおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

大河はそのまま、拳の猛ラッシュを繰り出す。

 

拳が次々に、ニキータの身体へと叩き込まれる。

 

「フフフフ~~~ン………」

 

だが、それでもニキータは平然としている。

 

「コ、コイツ!? 人の姿した戦車とちゃうんかっ!?」

 

ニキータの並外れた頑丈さに、大河は思わずそんな事を言う。

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、ニキータが獣の様な咆哮を挙げると、大河の首を片手で締める!

 

「ごはっ!?………」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

更に咆哮を挙げたかと思うと、何とそのまま大河を片腕だけで持ち上げた!

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま大河を、近くに在った岩に向かって投げつけるニキータ。

 

「ぐおあっ!?」

 

大河は背中から岩に叩き付けられ、雪の上に落ちる。

 

「ゲホッ! ゴホッ!………化け物めぇ………」

 

「フフフフ~~~ン………」

 

咳き込みながら大河がそう言い放つと、ニキータは攻撃的な笑みを浮かべて、ゆっくりと大河に向かって近づいて行く。

 

「チイッ! 調子に………乗んなやぁっ!!」

 

とそこで大河は近くに落ちていた丸太を掴み、ニキータの頭に向かって思いっきりフルスイングをかます!

 

「!?」

 

流石にコレは聞いたのか、ニキータは仰け反る。

 

「よっしゃあっ! もう1発!!」

 

返す刀で、再びニキータの頭目掛けてフルスイングを繰り出す大河。

 

しかし………

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータはフルスイングされた丸太を、両手で抑え込む様に掴む!

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

大河が驚きの声を挙げた瞬間………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

何とニキータは、丸太をまるで新聞紙の様に握り潰した!

 

「!? うおおっ!?」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

思わず大河が距離を取ると、ニキータはまたも獣の様な咆哮を挙げる。

 

「ホンマに化け物や………コイツは………」

 

そんなニキータの姿を見て、大河の頬に冷たい汗が流れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凍った池に掛かる大きな石橋の上にて………

 

「せやああっ!!」

 

気合の掛け声と共に、上段に構えた英霊を振り下ろす弘樹。

 

「フフフ………」

 

しかし、ラスプーチンは不気味に笑いながらまるでスライド移動の様に横へと動いて、弘樹の斬撃を回避する。

 

「!?………」

 

それに驚きながらも、弘樹は素早く斬り上げで追撃する。

 

「…………」

 

だがコレも、ラスプーチンは軽く身体を仰け反らせただけで回避する。

 

「!?」

 

直後に嫌な予感を感じ、弘樹はその場から飛び退く。

 

途端に、すぐ目の前を、シャスクの刃が掠めた!

 

「まだ終わりではありませんよ」

 

と、ラスプーチンは続け様に突きを繰り出し、回避行動中の弘樹を狙う!

 

「!!」

 

弘樹は迫って来たシャスクの刃に、英霊を側面から当てる様にして突きを反らす!

 

シャスクの刃は、弘樹の顔のすぐ横を通り過ぎる!

 

「ハアッ!」

 

「フ………」

 

それに動じる様子も見せずにすぐさま横薙ぎに英霊を振るった弘樹だが、ラスプーチンはまたもスライド移動の様に後退し、斬撃をかわす。

 

(何だ、あの動きは? 奴は人間なのか?)

 

英霊を構え直しながら、ラスプーチンの得体の知れなさにそんな事を思いやる弘樹。

 

『うわぁっ!? 今の結構近かったよ!?』

 

『キャプテン! そろそろ限界です!!』

 

『追い付かれちゃう!』

 

『誰か助けてぇーっ!!』

 

「!!」

 

とそこで、通信回線にアヒルさんチームの悲鳴が響き渡る。

 

「如何やらそちらのフラッグ車も終わりの様ですね。むざむざ生き恥を晒して負けるのも悔しいでしょう。その前に片付けてさしあげますよ」

 

その通信が聞こえた様子のラスプーチンは、そう言ってシャスクの刃を不気味に発光させる。

 

「………やはり保険を使うしかない様だな」

 

だが、弘樹は余り動じる事なく、そんな事を呟く。

 

「保険? 一体何の保険だと言うのですか? 今この状況を引っくり返せる手立てなど………」

 

「ある………」

 

「何?」

 

「此方大洗機甲部隊とらさん分隊長、舩坂 弘樹! 支援要請!」

 

ラスプーチンの言葉を遮って弘樹はそう言い、通信機を手にするとそう言った後に、こう付け加えた………

 

「『ジェリコのラッパ』を鳴らせ! 『悪魔のサイレン』を響かせろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ1・むせる感じの次回予告(あの声優さんの声で脳内再生して下さい)

 

敵の血潮で濡れた翼。

 

ソ連人民最大の敵と人の言う。

 

北緯50度の会場に、第二次大戦の亡霊が蘇る。

 

独ソ戦、東部戦線の空に、

 

無敵と謳われたカノーネンフォーゲル。

 

情無用、命無用の鉄翼兵。

 

この命、金10万ルーブル也。

 

最も高価なワンマンアーミー。

 

次回『急降下爆撃です!』

 

魔王、戦車に向かうが本能か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ2・劇場版嘘予告

 

去る3月15日、大洗の海楽フェスタにて、劇場版ガルパンの新情報が公開されました。

 

その中で、新ビジュアルが公開されましたが………

 

それが戦車の残骸が並んでいるのを背景に、みほがボコを抱いて悲しげな様子で立っており、『取り戻せ』というキャッチフレーズが入っている意味深なものでした。

 

声優さん達にもまだ情報は行っていないので不明ですが、みほ役の渕上 舞さんは『優勝校となったプレッシャーから、みほが黒森峰時代の様な勝利主義の指揮を執る様になってしまい、それに付いて行けなくなった仲間達がみほの元から去ってしまう。再び信頼を得る為にみほが奮戦する』と言う予想を立ててました。

 

個人的にシリアス過ぎるかも知れませんが、可能性としてはあると思います。

………んで、その舞さんの予想を元にしたボイゾル版の劇場版予告を考えてみました。

 

 

 

 

全国大会優勝を果たした大洗。

廃校も取り下げられ、再び平和な学園生活が戻って来た。

だが、その平穏は長く続かなかった………

優勝校と言う看板を背負った大洗機甲部隊は、周囲より多大な期待を寄せられる。

その期待と言うなのプレッシャーを背負わされたみほは、重圧の余りに仲間達との絆を忘れ、黒森峰時代の勝利主義を執る。

そんなみほに付いて行けなくなった大洗機甲部隊からは、1人、また1人と去る者が出始める。

漸くみほが過ちに気付いた時には、彼女の元に残っていたのは、スクラップ寸前のⅣ号だけだった………

みほは、ただ己の過ちに涙する………

いや………

もう1つだけ、みほの元に残っていたものがあった。

それは………

「行こう、みほくん。全てを取り戻しに」

「弘樹くん………」

「例え世界の全てが敵だったとしても………小官だけは君の味方だ」

蘇った英霊・舩坂 弘樹だ。

今、男1人、女1人、戦車1台の孤独な戦いが幕を上げる………

 

「舩坂 弘樹………ふざけるなよ」

 

「ど、如何したの、しずか姫」

 

その前に現れる、百足の紋章を持つ赤い九七式軽装甲車に乗る、赤いリボンの女………『鶴姫 しずか』

 

「無茶だよ、弘樹くん! 相手は250輌の戦車部隊なんだよ!!」

 

「舩坂 弘樹! 私は貴様の生き方を! 認めんっ!!」

『劇場版ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 孤影再び』

我が求むるは只1つ………

 

 

 

 

 

………お目汚し、失礼致しました。

 

最低野郎の妄想だと嘲笑して下さい。




新話、投稿させていただきました。

プラウダ&ツァーリのフラッグ車を攻めあぐねるみほ達。
一方、弘樹はラスプーチンと対峙。
その奇怪な動きに翻弄される。

そんな中、遂に大洗側のフラッグ車が追い詰められてしまう。
絶対絶命かと思われた、その時!
弘樹は支援要請を叫んだ!

さて、皆さん………
遂に次回は『あのお方』が顔見世します。
逃げてぇっ!! プラウダの戦車、超逃げてぇーっ!!

オマケは勢いと、先週の海楽フェスタの一幕で思い至って書いてみました。
予告の方は、飽く迄個人的な妄想ですので………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第84話『急降下爆撃です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第84話『急降下爆撃です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、互いに相手のフラッグ車に肉薄………

 

試合は、どちらが先にフラッグ車を撃破するかの勝負となった。

 

大洗歩兵部隊がツァーリ歩兵部隊を食い止めるが、みほ達は雪上を得意フィールドとするプラウダのフラッグ車を攻めあぐねる………

 

その間に、大洗のフラッグ車の護衛部隊は全滅………

 

フラッグ車も追い詰められる………

 

今度こそ絶体絶命かと思われたその時………

 

弘樹が支援要請を叫んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

雪原を逃げる大洗機甲部隊のフラッグ車、アヒルさんチームの八九式の側面至近距離に砲弾が着弾!

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

衝撃で、八九式が傾く。

 

「重心移動ーっ!!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

しかし、典子達が車内で重心移動を行い、何とか持ち直す。

 

「次で仕留めます………」

 

とそこで、追撃して来ているプラウダ戦車部隊の中で、IS-2に乗って居るノンナが、照準器に八九式を捉えた状態でそう呟く。

 

「全く手古摺らせてくれてぇ! でも、もう御終いよ………やっぱり勝つのはカチューシャ達だったみたいね! ハッハッハッハッハッ!!」

 

勝利を確信し、ハッチから姿を晒していたカチューシャが高笑いを挙げる。

 

と、その時………

 

突如、上空から甲高い音が鳴り響いて来た!

 

「………えっ?」

 

一瞬何が起こったのか分からず、呆然となるカチューシャ。

 

音はドンドンと大きくなり、近づいて来る。

 

「コ、コレって………まさかっ!?」

 

そこでカチューシャの脳裏に嫌な推測が過り、真っ青な表情でバッと空を見上げる。

 

その視線の先には………

 

先程から聞こえて来ていた甲高い音と共に編隊を組んで急降下して来る複数の黒い影………

 

旧ドイツ空軍で運用されていた『ユンカース Ju87 シュトゥーカ』………

 

日本では『スツーカ』と呼ばれている、戦車の天敵………

 

『急降下爆撃機』の姿が在った!!

 

「!? 敵機来襲ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

カチューシャは反射的にそう叫び声を挙げ、ノンナを含めたプラウダ戦車部隊のメンバー全員が驚愕を露わにする!

 

その瞬間には、スツーカの編隊は次々に1トン爆弾を投下!

 

プラウダ戦車部隊の周辺で、次々に火柱が立ち上った!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

1トン爆弾が雨の様に降って来て爆発すると言う事態に、プラウダ戦車部隊の隊員達からは悲鳴が挙がる。

 

と、1発の1トン爆弾が、IS-3の砲塔天板を直撃!!

 

IS-3から派手に火柱が立ち上ったかと思うと、一瞬の間が有って、砲塔上部から白旗が上がった。

 

「!? IS-3が!?」

 

と、カチューシャがそう叫ぶと、今度はSU-76とSU-85を直撃弾が襲い、撃破を示す白旗が上がる。

 

更に、ISU-122が至近弾を受けて横転し、動けなくなったところで空を向いていた側面に1トン爆弾が直撃!

 

履帯と転輪が全て弾け飛び、雪上迷彩の白い塗装が焼け焦げて真っ黒となった状態で白旗を上げる。

 

「クウッ! 支援要請! 航空部隊、直ちに出撃! 上空の敵機を撃墜しなさいっ!!」

 

そこで我に返ったカチューシャは、慌てて車内へ引っ込むと、通信機に向かって怒鳴る様にそう叫んだ。

 

航空部隊に戦闘機を出撃させ、制空権を確保させる積りの様である。

 

しかし………

 

『こちら航空部隊! 出撃には1時間は掛かりますっ!!』

 

通信先の相手………プラウダ&ツァーリの航空部隊からはそう言う返事が返って来る。

 

「ハアッ!? 何言ってるのっ!? コッチが全滅しそうなのよ!!」

 

『カ、カチューシャ総隊長が………今回の試合で航空部隊を使う事はないから、無駄な燃料は全て機体から抜いて、隊員達にも暇を出しておけと仰られたので………』

 

カチューシャが再度怒鳴ると、航空部隊の隊員からはそう返す。

 

如何やら、またもプラウダ&ツァーリの慢心が支障を出した様である。

 

「何よ! 私のせいだって言うの!? 何だって良いから、兎に角すぐに航空部隊を!!………」

 

と、カチューシャがそう言い掛けた瞬間!!

 

ドゴーンッ!!と言う砲撃音が聞こえて来たかと思うと、続いて爆発音が聞こえて来た!

 

「!?」

 

慌ててカチューシャは通信機を放り、再びハッチから出て状況を確認する。

 

そこには、エンジン部から炎を上げて撃破されているSU-76の姿が在った。

 

良く見れば、炎を上げているエンジン部の装甲を、何かが貫いた後が有る。

 

そこで、すぐ頭上を風切り音が通り過ぎて行く。

 

「!?」

 

カチューシャが上を見上げると、そこには………

 

信じられないくらいの低空を飛びながら、両翼の下に取り付けてある37ミリ機関砲で次々にプラウダ戦車部隊の戦車を屠っているスツーカ………

 

『Ju87 G-1』………

 

『大砲鳥(カノーネンフォーゲル)』と呼ばれた機体の姿が在った!

 

「ハハハハハハッ! 実に痛快だな! やはりイワン共の戦車が壊れる様は実に素晴らしい!!」

 

その操縦席に座る男が、眼下にて黒煙と白旗を上げているプラウダ戦車部隊の戦車の姿を見て、『心底愉快そうな良い笑顔』でそう言い放つ。

 

「隊長。相手はイワンじゃなくてプラウダですよ」

 

と、後部座席である機銃座に座っていた男が、パイロットの男にそうツッコミを入れる様に言うが………

 

「イワンの戦車を使う奴は皆イワンだ!」

 

パイロットの男はドヤ顔でそう言い返した。

 

「ハアア~~、全く………」

 

機銃座の男は呆れる様に溜息を吐く。

 

「むっ! あんな所にもイワンが居たか! ココで在ったが百年目!! ご先祖様の時と同じ様に、今日をスターリンにとって最悪の日にしてくれる!!」

 

「スターリンはとっくに亡くなってま………!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

またも機銃座の男がツッコミを入れようとしたが、それよりも先にパイロットの男が急旋回をした為、Gで悶えるのだった。

 

「た、退避ーっ!!」

 

カチューシャの号令が飛び、残っていたプラウダ戦車部隊の戦車達は方々に逃げ回る。

 

最早、大洗のフラッグ車を追跡するどころではなかった。

 

「た、助かったの?」

 

「あの飛行機………一体何処から?」

 

その様子を、八九式の砲塔にあるハッチ越しに見ていたあけびと典子がそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃村地帯の森の中………

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「!? ゴボアッ!?」

 

ニキータのタックルを真面に受けてしまい、ブッ飛ばされる大河。

 

「ゴハッ!?」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

大河は雪の上に倒れたかと思うと、ニキータは追撃とばかりに足で大河の胸を踏みつける!

 

「ガッ!?………」

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま足に体重を掛けつつ、グリグリと左右に動かすニキータ。

 

「ゴ………ア………ガ………」

 

まるで象にでも踏まれているかの様な感覚が襲い掛かり、大河の意識が徐々に遠くなって行く。

 

「ガ………ハ………」

 

しかし、そんな中でも、大河は手を伸ばすと、手の中に雪を握る。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータはトドメとばかり足を振り上げ、大河目掛けて振り下ろそうとする。

 

「調子に………乗んなやぁっ!!」

 

とそこで、大河は手に握っていた雪を、ニキータの顔目掛けて投げつけた!

 

「!? うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

雪が諸に目に入り、視界を失うニキータ!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

それでも大河を近寄らせまいと、ブンブンと腕を振り回す。

 

しかし、一向に手応えが無いどころか、近くに居る筈の大河の気配が感じ取れなくなる。

 

「!??!」

 

ニキータはワケが分からず、軽く混乱した様子を見せる。

 

やがて、漸く目が見えて来て、改めて周りを見る。

 

すると、大河の姿は何処にも無かった………

 

「うがっ?………」

 

消えた大河を探す様に、ニキータは周りをキョロキョロとし出す。

 

が、やはり大河の姿は何処にも見えない………

 

「がうう………」

 

逃げたのかと思い、ニキータの身体から一瞬力が抜ける。

 

と、その瞬間!!

 

『何か』が上から落ちて来て、ニキータに肩車する様に乗っかった!!

 

「!?」

 

「貰ったでぇっ!!」

 

驚くニキータに『何か』………大河はそのまま、リバースフランケンシュタイナーを掛ける!!

 

「!? うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

脳天を地面に思いっきり叩き付けられるニキータ!

 

「どうやっ!?」

 

技を掛けた後、一旦距離を取った大河がそう言い放つ。

 

すると………

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータは雪を撒き散らしながら立ち上がる!

 

「! アカン! 何ちゅータフさや!?」

 

脳天から地面に叩き付けられたと言うのに、意にも介さず起き上がったニキータの姿を見て、大河は思わずそう言う。

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータは咆哮を挙げ、大河に向かって突撃して来る!

 

「!?」

 

身構える大河。

 

しかし………

 

「!? うがっ!?」

 

突如ニキータの足がフラつき、進路がズレて大河から逸れると、脇に在った大木の幹に頭から突っ込む!

 

「!?」

 

大河は驚きながらニキータの方を振り返る。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

ぶつけた際に切ったのか、頭から流血しながら咆哮を挙げて、大河に向き直るニキータ。

 

「うが………」

 

だが、またも足元がフラ付く………

 

「! 効いとる!!」

 

如何やら、先程のリバースフランケンシュタイナーは効いていた様である。

 

脳震盪を起こしかけているニキータは、足元が覚束ない。

 

「なら、もう1撃加えたらぁっ!!」

 

大河はそう叫ぶと、ニキータに突撃し、正面から腰の辺りに組み付く!

 

「! うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

ニキータは当然、大河を振り解こうとその背に肘打ちを打ち込む。

 

「グググググググ………」

 

しかし、大河は歯を食いしばってそれに耐えつつ、ニキータを持ち上げようとする。

 

だが、その巨体に見合った体重を誇るニキータは中々持ち上がらない………

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

その間にも、ニキータは大河の背に次々と肘打ちを喰らわせる。

 

「ぐうううううう………」

 

それでも大河は離れず、全ての力を振り絞る。

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

と、そこでニキータは、両手を組んでのハンマーパンチを、大河の背に見舞った!!

 

「!?………」

 

ハンマーパンチを受けた大河が、膝から崩れる………

 

「ふふ~ん………」

 

それを見て得意げな顔になるニキータ。

 

が、そこで!!

 

「まだやぁっ!!」

 

大河はグッと立ち上がり、再び力を籠め始める。

 

「!?」

 

ニキータが驚いた瞬間………

 

その巨体が、ゆっくりと持ち上がる。

 

「!? うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

手足をバタバタとさせて暴れるニキータ。

 

「逃がさへんでぇ………」

 

しかし、大河はガッチリとホールドして離さない。

 

「受けてみぃっ! コレがワシの渾身の! バックドロップじゃあっ!!」

 

そしてそのまま、正面から抱えて落とす変形バックドロップを繰り出す!!

 

「!? うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

ニキータは再度、地面に激しく頭を打ち付けられる!

 

「ハア………ハア………今度こそ終いやろ………」

 

肩で息をしながら、倒れているニキータから離れた大河がそう言い放つ。

 

………が!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

咆哮と共に、ニキータが起き上がる!

 

「!? んなアホなっ!?」

 

「うがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

驚愕する大河に向かって歩み寄るニキータ。

 

しかし………

 

「う………が………」

 

あと数歩と言う所で、ニキータはガクリと脱力し、そのまま雪の上に倒れ、戦死と判定された。

 

「ハア~………肝が冷えたでぇ………」

 

大河は冷や汗を拭いながらそう呟く。

 

そして、戦死判定を受けて気絶しているニキータから、逃げる様に去って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃村地帯の一角………

 

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「…………」

 

叫び声を挙げて、右手の手斧を振り下ろして来たピョートルに対し、熾龍は半身になってそれをかわす。

 

「もう1本有るぞ!!」

 

するとピョートルは、素早く左手の手斧を横薙ぎに振るう。

 

「…………」

 

だが熾龍は、それも鞘に入れたままの愛刀・戦獄で受け止める。

 

そして手斧を弾くと、そのまま鞘に入れたままの戦獄でピョートルの足を払う!

 

「うおっ!?」

 

足払いと言うには威力の有り過ぎる払い攻撃に、ピョートルの身体が一瞬浮き上がって逆さまになる!

 

「…………」

 

その瞬間に熾龍は抜刀し、逆さまになったピョートルを真っ二つにせんとばかりに横薙ぎを見舞う。

 

「!? コナクソォッ!!」

 

だが、そこは腐ってもツァーリ歩兵部隊のエース。

 

迫って来た戦獄の刃を手斧の刃で受け止め、その勢いを利用して態とブッ飛ばされる。

 

「グッ!………おりゃあっ!!」

 

そして、着地と同時に手斧の片方を、熾龍目掛けて投げつける。

 

「…………」

 

回転しながら飛んで来た手斧を、熾龍は戦獄で、難なく弾き飛ばす。

 

が、しかし!!

 

弾かれた筈の手斧が、まるでブーメランの様に軌道を変えて、再び熾龍へと向かった!

 

「………!」

 

一瞬驚きを示しながらも、宙返りをしてかわす熾龍。

 

「フッ! おりゃああっ!!」

 

と、そのまま手元に戻って来た手斧をキャッチすると、今度は2本同時に投擲するピョートル。

 

2本の手斧が、またもブーメランの様な軌道で、熾龍に向かって来る。

 

「奇妙な技だ………」

 

そう言いながら、身を反らして飛んで来た手斧をかわす熾龍。

 

「ハハハ! 無駄だ! そいつは当たるまで止まらんぞ!!」

 

だが、ピョートルの言った通り、外れた手斧は反転し、再び熾龍へと向かう。

 

「…………」

 

するとそこで、熾龍は戦獄を鞘に納めた。

 

「んん? 観念したのか? だったら、そのままやられちまえっ!!」

 

ピョートルがそう叫ぶ中、2本の手斧が回転しながら熾龍へと向かう。

 

「…………」

 

それに対し、熾龍は全く身じろぎせず、ただ堂々と仁王立ちをしている。

 

そして遂に、手斧が熾龍に命中する!

 

………かと思われた瞬間!!

 

「………!!」

 

熾龍の両手がバッと動いたかと思うと、手斧がキャッチされた!

 

「!? ん何ぃーっ!?」

 

驚愕の叫びを挙げるピョートル。

 

「んな馬鹿な!? 3年も掛けて編み出した妙技が!?」

 

「こんな下らん技に3年も掛けるとはな………」

 

信じられないと言う様なピョートルに向かって、熾龍はキャッチした手斧を投げつける!

 

手斧は回転しながら、元の主へと襲い掛かる!!

 

「!? うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

ピョートルは、ゲッダンの様な超人的な動きをして、飛んで来た手斧をかわす。

 

手斧はそのまま、ピョートルの背後に在った木の幹に突き刺さる。

 

「ハア………ハア………コノヤロウ!………!?」

 

息を切らしながら熾龍の方を見やったピョートルが見たものは………

 

「…………」

 

何時の間にか自分の眼前まで迫って来ていて、今まさに戦獄を居合いで抜かんとしている熾龍だった。

 

(落ち着け! 居合いは一撃必殺の技……逆に言えば、かわす事さえ出来れば相手は無防備になる! 何としてもかわすんだ!!)

 

そうピョートルが思考を巡らせた瞬間に、熾龍は戦獄を鞘から抜き放ち、そのままピョートルへと斬り掛かる。

 

(コイツをかわせば!!………)

 

ピョートルはボクシングのスウェーの様に、上半身を仰け反らせて、熾龍の居合いをかわそうとする。

 

迫って来る刃が、スローモーションの様に見える中、限界まで上半身を仰け反らせるピョートル。

 

(うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! かわせえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!)

 

心の中で叫びが挙がると、戦獄の刃は、ほぼ水平となっていたピョートルの鼻先1センチの辺りを掠めて外れる。

 

「かわした! 俺の勝ちだぁっ!!」

 

そう言う叫びと共に、ピョートルは上半身を起こしながら、ホルスターから抜き放ったトカレフTT-33を熾龍に向ける。

 

だが、その瞬間!!

 

「!? ぐえええっ!?」

 

ピョートルの脇腹に『何か』が当たり、衝撃で身体がくの字になりながら、悲鳴を挙げてトカレフTT-33を手放してしまう。

 

「さ、鞘?………」

 

その当たった『何か』を確認し、ピョートルがそう呟く。

 

そう………

 

脇腹に命中していたのは、戦獄を納めていた鞘だった。

 

刀と鞘を使った二段居合いである。

 

「テメェ………何処の飛天御剣流だ………」

 

「…………」

 

そんな事を言いながら倒れたピョートルに、熾龍は容赦無くトドメの1撃を見舞う!

 

「ガハッ!?………」

 

短く悲鳴を挙げ、ピョートルが気絶すると、戦死判定が下る。

 

「…………」

 

熾龍は汚れを払う様に1度戦獄を振ると、日本刀独特の音を立てて鞘へと納め、興味を亡くした様にピョートルに背を向けて去って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

お待たせしました!
空の魔王、満を持して登場です!
今回は活躍だけでしたので、正式な自己紹介は試合後になります。
楽しみにしていて下さい。

そして、大洗歩兵部隊も、大河が苦戦の末にニキータを………
熾龍は余裕でピョートルを破ります。

次回はサンショウウオさんチームとアリクイさんチームVSIS-1。
そして、飛彗VSデミトリの様子をお届けする予定です。

これからも、よろしくお願いします。


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第85話『5回戦、接戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第85話『5回戦、接戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS-2を中心とした強力な砲を持つプラウダ戦車部隊に追われる、大洗機甲部隊のフラッグ車であるアヒルさんチームの八九式。

 

護衛のウサギさんチームのM3リーとカモさんチームのルノーB1bisも倒され、絶体絶命となる………

 

だが、その時………

 

夜空を切り裂く様な爆音………

 

『ジェリコのラッパ』と共に、急降下爆撃機………

 

『ユンカース Ju87 シュトゥーカ』、日本では『スツーカ』と呼ばれる機体の編隊が出現!!

 

プラウダ戦車部隊に対し、次々と1トン爆弾を投下し、撃破して行った。

 

更に37ミリ機関砲ポッドを翼の下に装着したG-1型、『大砲鳥(カノーネンフォーゲル)』も現れ、プラウダ戦車部隊はまたも大混乱に陥る。

 

一方、フラッグ車を撃破に向かった主力部隊は………

 

あんこうチームとカバさんチームがフラッグ車の追撃を続ける中………

 

大河が苦戦しながらもニキータ………

 

熾龍が難なくピョートルを撃破。

 

決着の時が近づいていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯の中に在る廃村………

 

「クッ! 追い付けない………」

 

逃げ回るプラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車との距離を詰められず、麻子が苦々しげな顔をする。

 

「くう………」

 

みほの表情も渋くなる。

 

『こちら大空! 応答願います!!』

 

とその時、通信回線に楓の声が響く。

 

「! 西住です!」

 

『西住総隊長! 敵は廃村内を周回しています! 廃村の外には出ようとしていません!』

 

みほが応答すると、楓からそう報告が挙がる。

 

「ぐるぐる回ってるだけ?………だったら! カバさんチーム! 追撃を中止して下さい!!」

 

それを聞いたみほが、カバさんチームのⅢ突へそう指示を飛ばす。

 

『何っ!?』

 

『総隊長、如何する積りだ?』

 

それを聞いたカバさんチームのカエサルが驚きの声を挙げ、エルヴィンがそう質問する。

 

「Ⅲ突を雪中に隠して下さい。私達がフラッグ車を誘導してⅢ突の前へと追い込みます」

 

『成程、挟み撃ちか。了解した!』

 

みほからの説明を聞いた瞬間に、Ⅲ突が反転して停止。

 

おりょう以外のメンバーが車外へと飛び出すと、其々スコップを手に、Ⅲ突に雪を掛けて隠し始める。

 

「麻子さん! フラッグ車を誘導する様に、付かず離れずの距離を保って下さい! 華さん! 適度に威嚇射撃を!」

 

「了解………」

 

「分かりました!」

 

そして、あんこうチームのⅣ号が単独で、プラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車を追撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

廃村地帯の別の一角では………

 

「撃てっ!」

 

「は、発射ぁっ!!」

 

聖子とねこにゃーの掛け声で、クロムウェルと三式の主砲が火を噴く。

 

しかし、どちらの砲弾も、IS-1の装甲に当たると、火花を散らして明後日の方向に弾かれる。

 

「駄目! 全部弾かれちゃう!!」

 

「IS-1の正面装甲は砲塔、車体共に100ミリ以上………この距離じゃ、コッチの主砲は通用しないよ」

 

聖子がそう叫ぶと、ねこにゃーがそう呟く様に言う。

 

直後にIS-1が発砲!

 

幸いにも砲弾は外れたが、クロムウェルと三式の至近距離に着弾し、まるで地震の様な振動が車内に走る!

 

「キャアッ!?」

 

「けど、向こうの主砲はコッチの装甲を易々と貫通出来ると来たもんだ!!」

 

ぴよたんが悲鳴を挙げ、唯が愚痴る様に言いながらクロムウェルを移動させる。

 

「やっぱりもっと近づかないと!」

 

「でも、僕達の練度じゃ………」

 

三式を移動させながらももがーがそう言うが、ねこにゃーがそう呟く。

 

まだ練度不足な自分達では、接近する前にやられてしまうのではと言う不安があるのだ。

 

そこで再度IS-1が発砲。

 

回避行動を取っていたクロムウェルの至近距離に砲弾が着弾する。

 

「チキショウッ! エンジンの調子さえ良ければ回り込んでやれるのに!!」

 

再び至近弾の衝撃を感じながらも、唯がそう叫ぶ。

 

そう………

 

試合開始直後に不調を来していたクロムウェルのエンジンだが、実は未だに不調のままなのである。

 

その為、クロムウェル自慢の快速を完全発揮出来ずに居た。

 

「こんな事なら、1度エンジンをちゃんと見て修理しておくんだった………」

 

「聖子ちゃん、今更言ってもしょうがないよぉ」

 

エンジンをキチンとチェックすべきだったと悔やむ聖子に、伊代がそう言う。

 

「…………」

 

と、その会話は通信機を通じて三式の方にも聞こえており、ねこにゃーが何かを考え込む様な様子を見せる。

 

「………郷さん、エンジンは修理可能なんですか?」

 

やがて、聖子へとそう通信を送る。

 

「えっ? い、いや、直接見てないと何とも言えないけど、多分行けるかなと………」

 

「………分かったよ」

 

聖子がそう返すと、ねこにゃーがそう言い、三式が回避行動を止めてIS-1の方を向く。

 

「!? ねこにゃーさん!?」

 

「今の内に離れて下さい! その間にエンジンの修理を! 時間稼ぎくらいはして見せます!」

 

驚く聖子にねこにゃーがそう返したかと思うと、三式が発砲する。

 

だが、やはり砲弾はIS-1に当たると明後日の方向へと弾かれてしまう。

 

反撃にとばかりISが三度発砲!

 

三式の至近距離に着弾し、三式の車体が一瞬浮き上がった!

 

「! クウウッ! まだまだ! ぴよたんさん!!」

 

「ハイッ!!」

 

ぴよたんが次弾を装填すると同時に発砲。

 

しかし、今度は命中もせず、IS-1の上を飛び越えて、後方に着弾してしまう。

 

「ねこにゃーさん!」

 

「急いで! 僕達に出来るのは………これぐらいだから」

 

「!!………」

 

ねこにゃーがそう言うのを聞いて、聖子は葛藤する様な様子を見せる。

 

「聖子ちゃん」

 

「先輩」

 

「聖子」

 

「聖子さん」

 

伊代、明菜、唯、郁恵もそんな聖子を見やる。

 

「………唯ちゃん、IS-1から離れて。安全な場所に隠れたら、エンジンを修理するよ」

 

やがて、ゆっくりと顔を上げ、決断したかの様な表情を見せると、唯に向かってそう言った。

 

「………OK」

 

その指示に従い、唯はクロムウェルを後退させる。

 

「ねこにゃーさん! ぴよたんさん! ももがーさん! 必ず戻ります! それまで待ってて下さいっ!!」

 

去り際に、アリクイさんチームへそう通信を送る聖子。

 

「了解!」

 

「任せるだっちゃ!」

 

「任せるなり!」

 

ねこにゃー、ぴよたん、ももがーはそう返すと、改めてIS-1に向き直る。

 

「ぴよたんさん、榴弾を。装甲を貫けなくても、何かしらのダメージを与えられるから」

 

「了解だっちゃ」

 

砲弾を徹甲弾から榴弾へと切り替えるぴよたん。

 

「ももがーさんは兎に角回避に専念して下さい。難しいですけど………」

 

「任せるなり! 今こそゲームで培った経験が役立つ時なり!」

 

ももがーもそう言い、三式を再び移動させ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、後退したサンショウウオさんチームは………

 

「! 11時の方向! あの崩れた建物の中に!」

 

「おうっ!!」

 

聖子の指示通りに、崩れた建物の中へとクロムウェルを入り込ませる唯。

 

建物の中へと入り込むと、クロムウェルの姿は壁に空いている穴以外からは見えなくなる。

 

すると、操縦手の唯を除いたメンバーが、工具を手に車外へと出る。

 

「郁恵ちゃんは見張りをお願い!」

 

「OK!」

 

「急いで直さないと!」

 

「ねこにゃーさん達も何時までも持ち堪えられないですよ!」

 

郁恵が念の為に見張りに立つと、残りの聖子、伊代、明菜がエンジンの修理に取り掛かる。

 

(アリクイさんチーム………頑張って)

 

必死に時間稼ぎをしてくれているアリクイさんチームに、心の中で声援を送る聖子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのアリクイさんチームは………

 

「撃てっ!!」

 

「えいっ!!」

 

ねこにゃーの掛け声で、ぴよたんが発砲。

 

三式の主砲から放たれた榴弾が、IS-1の砲塔側面に命中する。

 

しかし、白い塗装が剥げて装甲が少し黒く煤けただけであり、IS-1は何事もなかったか様に反撃を見舞う。

 

IS-1に砲弾は三式の至近距離に着弾し、またも三式の車体が一瞬浮き上がる。

 

「うわぁっ!?」

 

「マズイなり! 足回りにダメージが蓄積して来たなり!」

 

ねこにゃーが悲鳴を挙げると、ももがーからそう報告が挙がる。

 

如何やら、先程からの至近弾で車体が浮かぶ度に、足回りへと負荷が掛かっていた様だ。

 

駆動部分や履帯と転輪の噛み合わせ部分から嫌な音が出ている。

 

「ももがーさん、何とか持たせて! サンショウウオさんチームが帰って来るまでは!」

 

と、ねこにゃーがそう叫んだ瞬間!

 

一際大きな振動が、三式を襲った!!

 

「!? うわあっ!?」

 

「ね、ねこにゃーさん! 砲身が!!」

 

「えっ!?」

 

ぴよたんからそう言う叫びが挙がったのを聞いて、ねこにゃーはハッチを開けて車外へ出ると、砲身を確かめる!

 

「!?」

 

そこに在ったのは、中頃から砕けて、ポッキリと折れてしまっている主砲の姿だった。

 

如何やら、運悪くIS-1の徹甲弾が砲身に命中してしまった様だ。

 

「コレじゃ主砲が使えない!」

 

ねこにゃーがそう声を挙げる中、IS-1は射撃不能となった三式に、悠々と近づいて来る。

 

「くうっ!………」

 

そんなIS-1の姿を見て、悔しそうな表情を浮かべるねこにゃー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

クロムウェルのエンジンの修理を急ぐサンショウウオさんチームは………

 

「唯ちゃん! 如何!?」

 

「駄目だ! まだ出力が上がらねえ!」

 

伊代がそう尋ねると、操縦席の唯からはそう返事が返って来る。

 

「おかしいです………もう完全に修理は終わってる筈なのに………」

 

明菜が不安げにそんな言葉を漏らす。

 

「! 三式の砲撃音が聞こえなくなりました!」

 

とそこで、見張りをしていた郁恵がそう声を挙げた。

 

「!? まさか!?」

 

「いや、まだ撃破報告はねえ。やられてはいない筈だ」

 

「けど、何かあったのは確かだよ」

 

「ちょっと! しっかりしてよ!! 仲間が危ないんだよ!!」

 

明菜、唯、伊代がそう言い合っていると、聖子は不意に、エンジンに向かってまるで語り掛ける様にそう言い放つ。

 

「いつも通りに動いて! 早く!!」

 

焦っているのか、口調が段々と荒くなる。

 

しかし、クロムウェルのエンジンの音は、相変わらず不調そうなままである。

 

「!!………しっかりしろーっ!!」

 

すると何と!!

 

聖子はエンジンに向かって、思いっきり頭突きを噛ました!!

 

「!? ちょっ!?」

 

「聖子ちゃん!?」

 

「何やってるの!?」

 

「何だ!? 如何したんだ!?」

 

聖子の思わぬ行動に、明菜、伊代、郁恵が唖然とし、車内に居たので何があった分からない唯が軽く混乱する。

 

「イッタッーイッ!!」

 

当然ながら、聖子は頭突きした頭を押さえてそう叫びを挙げる。

 

と、その瞬間!!

 

クロムウェルのエンジン音が大きくなり、正常に稼働し始めた!!

 

「!?」

 

「おっ! 来た来た! エンジンの調子が戻ったぜ!!」

 

聖子が目を見開くと、唯が歓喜の声を挙げる。

 

「ええ~~っ!?」

 

「嘘………」

 

「アンビリーバブル………」

 

一方、明菜、伊代、郁恵の3人は信じられないと言う様な顔をしていた。

 

まあ、調子の悪いテレビを叩いて直す並みに乱暴かつ理に適っていない事態なので、無理も無い話である。

 

「よし! 行くよ、皆!!」

 

「「「!!」」」

 

しかし、聖子が頭を押さえながらもそう言って車内へと戻るのを見て、伊代達もすぐに車内へと戻る。

 

「よっしゃあっ! 完全復活だ!! 飛ばしてくぜぇーっ!!」

 

そして、唯のそう言う叫びが木霊すると、クロムウェルは急発進!

 

殆ど飛び出す様に、廃屋の中から抜け出して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、IS-1と対峙している三式は………

 

攻撃能力の無くなった三式に、IS-1はゆっくりと近づいて行く。

 

「ねこにゃーさん! 如何するだっちゃ!?」

 

「対抗手段が無いなり!」

 

「…………」

 

ぴよたんとももがーの声が挙がる中、考え込む様な様子を見せるねこにゃー。

 

「………体当たりだ」

 

やがて、覚悟を決めた表情となってそう言い放つ。

 

「えっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「IS-1に体当たりする!!」

 

驚くぴよたんとももがーに、ねこにゃーは重ねてそう言う。

 

「で、でも………」

 

「僕達だって大洗機甲部隊の一員だ! 折角リアルでも友達になれたのに………廃校で離れ離れなんてゴメンだよ!!」

 

「「!!」」

 

それを聞いて、ぴよたんとももがーもハッとする。

 

「………分かったっちゃ」

 

「こうなったら腹を括るなり!」

 

やがて、2人も覚悟を決めた表情でそう言い放つ。

 

「ありがとう、ぴよたんさん、ももがーさん………突撃ぃっ!!」

 

2人へ感謝を伝えると、ねこにゃーはそう叫んで車内へと引っ込む。

 

直後に、三式の履帯が雪を大きく跳ね上げながら回転し、IS-1へと突っ込んで行く!!

 

突如突っ込んで来た三式に面食らったかの様に、IS-1は主砲を発射!

 

しかし、咄嗟で狙いが甘かった為、砲弾は三式の砲塔天板を火花を散らして掠め、外れる。

 

「「「バンザーイッ!!」」」

 

ねこにゃー、ぴよたん、ももがーから万歳の叫びが挙がり、三式がIS-1に接近する。

 

IS-1は三式の突撃をかわそうと、左へとレバーを切る。

 

それは結果的に、三式に対し側面を晒してしまう事になった!

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

ねこにゃーの叫びと共に、三式はIS-1の右側面へとブチ当たる!!

 

凄まじい音が鳴り響き、三式とIS-1の装甲の破片が火花を散らして飛び散る!!

 

やがて、一瞬の間の後………

 

三式の砲塔上部から、撃破された事を示す白旗が上がった。

 

如何やら渾身の体当たりも、IS-1の装甲の前には通用しなかった様である………

 

「やら………れた?………」

 

白旗が上がった事を確認したねこにゃーが、ガックリと車長席へ凭れ掛かる。

 

「「…………」」

 

ぴよたんとももがーも苦い顔で沈黙していた。

 

一方、勝者となったIS-1は、撃破された三式を押し退ける様にして動き出す。

 

と、その直後!!

 

IS-1に榴弾と思われる砲弾が直撃!!

 

白い塗装が剥げて、焼け焦げた装甲面が増える。

 

「「「!?」」」

 

その砲撃に、ねこにゃー達が驚いていると………

 

「アリクイさんチーム………ありがとう」

 

聖子のそう言う言葉が通信回線に響き、クロムウェルが姿を現した!

 

「サンショウウオさんチーム………」

 

「ゴメンね、遅くなって………後は私達に任せて!」

 

そう聖子が言い放った瞬間!

 

クロムウェルはIS-1目掛けて突っ込んで行く!

 

IS-1は即座に、クロムウェルに向かって主砲を発射する!

 

「あらよっ!!」

 

だが、唯の掛け声が聞こえたかと思うと、クロムウェルはバッと右へと進路を変更!

 

IS-1の砲弾は、クロムウェルの横を擦り抜けて、廃村の廃屋へ命中。

 

砲弾が命中した廃屋が、音を立てて崩れる。

 

IS-1は一瞬驚いた様な様子を見せたが、すぐに主砲を旋回させてクロムウェルを追う。

 

「敵主砲、旋回中!」

 

「任せとけって!」

 

しかし、聖子がそう報告すると、唯はクロムウェルをスラローム移動させる!

 

IS-1はそんなクロムウェルを捉える事が出来ず、主砲を右往左往させる。

 

「今だよ! 後ろに回り込んで!!」

 

「おうっ!!」

 

そして、タイミングを見計らった聖子が、唯にそう指示を飛ばす。

 

クロムウェルは一気にIS-1の後方へと回り込もうとする。

 

IS-1はそうはさせないと言う様に、信地旋回を始める。

 

が、その瞬間!!

 

IS-1の右側の転輪が弾け飛び、履帯が千切れ飛んだ!!

 

如何やら、先程の三式の体当たりが効いていた様である。

 

「! チャンスだ!!」

 

「装填っ!!」

 

聖子がそう叫ぶ中、郁恵が主砲に徹甲弾を装填する!

 

IS-1の砲塔がクロムウェルを追う様に旋回する。

 

間に合うのか!?

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「お願い!」

 

唯も咆哮し、伊代が祈る様に両手を合わせる。

 

そして遂に………

 

クロムウェルはIS-1の後ろを取る!

 

「撃てぇっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

号令一下、明菜が主砲の引き金を引いた!

 

ほぼ零距離から放たれたクロムウェルの徹甲弾は、IS-1のエンジン部に命中!

 

薄いエンジン排熱部の装甲を貫通し、エンジンを破壊する!

 

破壊されたエンジンが爆発し、IS-1から一際大きな爆炎と黒煙が上がる。

 

そして一瞬の間の後………

 

IS-1の砲塔上部から、撃破された事を示す白旗が上がるのだった。

 

「やったーっ!!」

 

歓声を挙げる聖子と顔を見合わせて笑みを浮かべる他のメンバー。

 

「ご、郷さん………」

 

とそこで、アリクイさんチームのねこにゃーから通信が送られてくる。

 

「あ、ねこにゃーさん」

 

「良かった………エンジン直ったんですね………僕達、役に立たなかったけど、郷さん達が敵を倒してくれたから………」

 

「それは違うよ、ねこにゃーさん」

 

ねこにゃーのその言葉を、聖子は即座に否定する。

 

「えっ?」

 

「ねこにゃーさん達が頑張ってくれたから、私達は如何にかする事が出来たんだよ。役に立たなかったなんて事、ないよ」

 

「郷さん………」

 

「なり~………」

 

「だっちゃ………」

 

聖子の心からの言葉に、ねこにゃー達は感動を覚える。

 

と、その時!!

 

廃村の中の方から、爆発音が聞こえて来た!!

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

思わず、アリクイさんチームとサンショウウオさんチームのメンバーは、其々の座席のハッチを開けて、廃村の方を見やる。

 

そこには、戦車が撃破されたと思われる煙が上がっていた。

 

「! 誰かの戦車がやられたんだ!」

 

「フラッグ車を撃破出来たの!? それともまさか、西住総隊長達が!?」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

独特の緊張感が会場を包み込み、アリクイさんチームとサンショウウオさんチームのメンバーは、沈黙するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃村の中心部で爆発音が聞こえて来る少し前………

 

木々が生い茂る森林地帯では………

 

「そうらぁっ!!」

 

「クウッ!!」

 

ロケットで空を飛ぶデミトリの火炎放射から必死に逃げ回っている飛彗。

 

しかし、重傷判定を受けている為、戦闘服が拘束具となり、思う様に動けない。

 

「大したものだな。その状態でココまで逃げ切るとは」

 

そこで、空中に浮遊するデミトリが、飛彗を見下ろしながらそう言い放つ。

 

既に辺り一面は、デミトリが放った火炎で焼け野原状態であり、雪もすっかり溶けて無くなってしまっている。

 

「だが、コレで終わりだ………」

 

しかしそこで、デミトリは数本の燃料が入ったガラス瓶を取り出す。

 

「!?」

 

「焼け死ぬが良いっ!!」

 

飛彗が驚きを示した瞬間、デミトリはそのガラス瓶を全て投擲!

 

そして素早く、火炎放射を行った!

 

火炎はまだ空中に在ったガラス瓶へと浴びせられたかと思うと、中の燃料が爆発!

 

まるでナパーム弾の様に広範囲に広がる!

 

「!!………」

 

逃げる間も無く、飛彗の姿はその炎の中へと消える………

 

やがて地上に到達した炎は、辺り一面に広がり、その場を完全に火の海としてしまった。

 

「むう………やり過ぎたか? マズイな………」

 

戦闘服を着ているので死ぬ事は先ず無いが、流石に心配になるデミトリ。

 

と、その瞬間!!

 

火の海となっていた地上から、爆音と共に『何か』が炎を纏ったまま飛び出して来る!!

 

「!? 何っ!?」

 

デミトリが驚いていると、『何か』に纏わりついていた炎が掻き消え………

 

「今だ、飛彗!!」

 

「!!」

 

後部に7.62mm ZielGew256(r)を構えた飛彗を乗せた、白狼のツェンダップK800Wが現れる。

 

「! ベオウルフ! だが、空中ではコチラの方が有利だぞ!」

 

デミトリは一瞬驚きながらも、すぐに火炎放射器を構え、上昇しようとする。

 

だが、その時!!

 

パアンッ!と乾いた音が鳴り響き、デミトリが飛行用に背負っていたロケット弾の推進装置が、撃ち抜かれる!

 

「!? むおおっ!?」

 

バランスを崩し、失速するデミトリ。

 

「そこです!」

 

そんなデミトリの頭に向かって、7.62mm ZielGew256(r)を発砲する飛彗。

 

「!?」

 

放たれた弾丸は、狙いを過たず、デミトリの額に命中する!

 

「そら、オマケだ!!」

 

更にトドメだと言わんばかりに、白狼もカンプピストルからグレネードを見舞った!

 

「!? おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ヘッドショットに加えてグレネードの直撃を受けたデミトリは当然戦死判定を受け、そのまま地面へと墜落したのだった。

 

「よ、っと!」

 

それを尻目に、白狼はバイクを着地させる。

 

「ありがとう、白狼。お蔭で助かったよ」

 

「気にすんな」

 

「でも、まさかバイクごと炎の中に突っ込んで来るなんて思わなかったよ」

 

かなりの無茶をした白狼に、飛彗が意外そうにそう言う。

 

「今回はちょいと頑張らねえといけねえ理由があったからな………」

 

「そうだね………」

 

大洗女子学園廃校の件かと思う飛彗だったが、白狼が考えているのは別の事だった………

 

その瞬間に、廃村の中心の方から、爆発音が聞こえて来る。

 

「! ケリが着いたのか!?」

 

「や、やったのかな?」

 

どうなったのかと緊張した面持ちでアナウンスが流れるのを待つ白狼と飛彗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

サンショウウオさんチームとアリクイさんチーム対IS-1。
飛彗+白狼VSデミトリの様子をお伝えしました。
次回はいよいよ弘樹とラスプーチンの決着。
そして、試合にもケリが着きます。
そして、あの人物達の子孫も正式に登場します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第86話『5回戦、決着です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第86話『5回戦、決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

凍った池に掛かる大きな石橋の上にて………

 

「ハア………ハア………」

 

「如何しました、舩坂 弘樹? 英霊の力はその程度ですか?」

 

勝ち誇る様にそう言うラスプーチンの前には、愛刀・英霊を杖代わりに片膝を着いて息を切らしている弘樹の姿が在った。

 

その戦闘服には、彼方此方に斬られそうになった後や、銃弾が掠めた後がある。

 

(手強い………これ程とは………)

 

内心で冷や汗を流しながら、弘樹は立ち上がって英霊を構え直す。

 

既に戦いが始まって30分以上が経つが、弘樹は攻めあぐねていた。

 

接近戦に持ち込もうにも、ラスプーチンに人間とは思えぬ動きに攪乱され、反撃を受け………

 

かと言って距離を取れば、シモノフPTRS1941で撃たれる。

 

(せめて手榴弾が有れば………敵陣で暴れた時にばら撒き過ぎたか………)

 

遠近共に得意とするラスプーチンを相手に、四式自動小銃を無くし、手榴弾も尽きている弘樹は劣勢である。

 

「遊ぶのも飽きて来ました………そろそろ終わりにして差し上げましょう」

 

とそこで、ラスプーチンはそう言い放ち、シモノフPTRS1941を構える。

 

「!………」

 

それを見て弘樹は身構える。

 

(如何する………弾丸をかわして懐に飛び込んだとしても、あの不思議な動きで避けられればカウンターを諸に喰らう………だが、コレ以上距離を取ればそのまま狙撃戦に持ち込まれて勝ち目は無くなる………)

 

手詰まりと言っても良い状況の中で、弘樹は只管に手立てを考える。

 

(………一か八かだ)

 

と、やがて何かを思い至ったかと思うと、英霊を峰側を向けて八相に構える。

 

「何をする気か知りませんが、無駄ですよ、フフフ………」

 

「…………」

 

小馬鹿にする様なラスプーチンの嘲笑をサラリと流し、弘樹は八相の構えを続ける。

 

「さらばです、舩坂 弘樹………コレで本当の英霊となりなさい」

 

そして遂に!

 

ラスプーチンはシモノフPTRS1941に引き金を引いた!

 

14.5x114mm弾が、弘樹目掛けて飛ぶ!

 

「………! そこだぁっ!!」

 

するとその瞬間、何と!!

 

弘樹は迫って来た14.5x114mm弾に向かって、英霊を野球のバッティングの様にフルスイングする!!

 

英霊の峰が、14.5x114mm弾に当たったかと思うと、何と!!

 

14.5x114mm弾を、ラスプーチン目掛けて打ち返した!!

 

「!? 何っ!?」

 

流石のラスプーチンもコレには驚き、慌てて回避行動を取る!

 

「そこだぁっ!!」

 

と、その回避先を読んでいた弘樹が、ラスプーチンに体当たりを見舞う!

 

「!? ぐうっ!?」

 

2人はそのまま折り重なる様に倒れ、石橋の上を転がる。

 

その際にラスプーチンはシモノフPTRS1941を………

 

弘樹は英霊を手放してしまう。

 

「貴様っ!!」

 

「!!」

 

やがてラスプーチンが弘樹の上に乗っかる様な形で静止したかと思うと、シャスクを逆手に構えて弘樹に振り下ろそうとしたが、弘樹はシャスクを持つラスプーチンの腕を掴んで止める。

 

「ぬうっ! 生意気な!!」

 

「!!………」

 

余裕がなくなって来たのか、台詞と語気が荒くなるラスプーチンに対し、弘樹は必死にシャスクの刃を反らそうとする。

 

「………!!」

 

と、一瞬の隙を見つけ、弘樹はシャスクの刃を横へ反らして、顔の横の地面に突き刺したかと思うと、ラスプーチンを巴投げの様に投げ飛ばす!

 

「!? ぬううっ!!」

 

しかし、ラスプーチンはシャスクを握ったまま、空中で姿勢を整えて着地する。

 

「!!」

 

弘樹はコルトM1911A1を抜き、ラスプーチンに向ける。

 

「させんっ!!」

 

だが、弘樹が引き金を引くよりも早く、ラスプーチンがシャスクで繰り出した突きが、コルトM1911A1を弾き飛ばした!

 

「!? しまった!?………」

 

「むんっ!!」

 

武器が全て無くなった弘樹の顎に、ラスプーチンは回し蹴りを見舞う!

 

「がっ!?………」

 

余りの衝撃で、一瞬空中に舞い上がって錐揉みした後、うつ伏せに倒れる弘樹。

 

「ぐ、う………」

 

軽く脳震盪を起こしたのか、視界がぼやける。

 

だが、無意識の内に伸ばしていた左手が、『何か』を掴む。

 

「?………!」

 

その掴んだ『何か』を目の前まで持って来た見た瞬間、弘樹の意識は急速に覚醒し、すぐに右手で、手頃な大きさの石を掴んだ。

 

「今度こそ終わりです、舩坂 弘樹………」

 

と、その弘樹の様子に気づいていないラスプーチンは、うつ伏せに倒れたままの弘樹に近づいたかと思うと、シャスクを両手で逆手に持って振り被る。

 

「今度こそさらばです、英霊よ。今年の優勝も我々のものです………」

 

そして、ラスプーチンがシャスクを振り下ろそうとした瞬間!!

 

「………!!」

 

弘樹は倒れたまま、ラスプーチンの方を振り返った!

 

その左手には、ラスプーチンが落としたシモノフPTRS1941の14.5x114mm弾が逆手に握られていた!

 

「!? 何っ!?」

 

「貴様がおさらばだ」

 

驚いて固まってしまったラスプーチンにそう言い放つと、弘樹は右手に握っていた石を振り被り、14.5x114mm弾の薬莢の底を思いっきり叩いた!!

 

衝撃により薬莢内の火薬が起爆!

 

14.5x114mm弾がラスプーチン目掛けて発射され、その額に命中した!!

 

「馬鹿………な………そんな………方法………で………」

 

ラスプーチンはよろけながら後ずさり、そのまま石橋の上から凍った池へと落下。

 

氷を叩き割って、水中へと没した。

 

「ッ! 流石に効いたな………」

 

左手に走る痛みに顔を顰めながら起き上がる弘樹。

 

何せ弾薬を素手で掴んで撃つなどと馬鹿とも言える所業を行ったのである。

 

左手の手袋は完全に焼け焦げて真っ黒になっている。

 

衝撃も相当な物だった筈である。

 

とそこで、廃村の中心の方から、爆発音が聞こえて来た。

 

「!………」

 

その爆発音が聞こえて来た方向に視線をやる弘樹。

 

「………やったか」

 

そして、立ち上っている黒煙を確認すると、そう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

窪地の中に在る廃村の一角………

 

そこには、車体下部に直撃弾を受けて静止しているプラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車であるT-34-76と………

 

その正面で、砲口から硝煙を上げている、車体の殆どを雪に埋めて隠れていたⅢ突の姿が在った。

 

如何やら挟み撃ちが成功し、見事Ⅲ突がアンブッシュを決めた様である。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊のフラッグ車であるT-34-76の砲塔上部に、撃破された事を示す白旗が上がる。

 

『試合終了! 大洗機甲部隊の勝利!』

 

「「「やったーっ!!」」」

 

「よっしゃあー!」

 

「よかった~」

 

「「「「「「「「やったーっ!!」」」」」」」」

 

「やりましたね!」

 

「凄ーいっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

主審のレミのアナウンスが流れた瞬間、大洗機甲部隊の面々から歓声が挙がる。

 

「負け………たの?………」

 

一方、プラウダ&ツァーリ機甲部隊の総隊長であるカチューシャは、装甲が所々黒く焦げているT-34-85のハッチから姿を晒したまま呆然としていた。

 

周りには、スツーカ隊によって撃破されたプラウダ戦車部隊の戦車達が、白旗を上げて擱座している。

 

大洗機甲部隊のフラッグ車を追い詰めたかと思っていたら、急降下爆撃機の編隊に襲われ、必死に逃げ回っていると大洗機甲部隊が勝利したと言うアナウンスが流れた………

 

カチューシャからして見ればそんな状況なのである。

 

「………クッ!………う、うう………」

 

悔し涙が目から溢れ出る。

 

「どうぞ………」

 

すると、何時の間にかやって来ていたノンナが、カチューシャにハンカチを差し出す。

 

「! な、泣いてないわよっ!!」

 

途端にカチューシャはそう強がり、ハンカチで鼻をかむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、集合場所へと集結。

 

試合後の挨拶を終えると、大洗機甲部隊は大騒ぎとなる。

 

「凄いです、西住殿!」

 

「やったー!」

 

「うわっ!?」

 

みほの手を取って喜ぶ優花里と、勢い余って抱き付く沙織。

 

「良くやったぞ」

 

「ありがとう~」

 

「みほちゃんのお蔭だよ」

 

更にそこへ、杏達生徒会メンバーもやって来て、みほに感謝の言葉を述べる。

 

「…………」

 

桃も、無言でみほに向かって頭を下げていた。

 

「…………」

 

その生徒会メンバーの姿を見たみほも頷き返す。

 

「折角包囲の一部を薄くして、そこに惹き付けてブッ叩く積りだったのに………まさか包囲網の正面を突破出来るとは思わなかったわ」

 

「あ………」

 

とそこで、ノンナに肩車されたカチューシャと、彼女達に引き連れられる様にデミトリ、ピョートル、マーティンが、大洗機甲部隊の元へとやって来る。

 

「オマケに狙撃兵や急降下爆撃機の援護まであるとは………」

 

「何よりトンでもなかったのは………」

 

「敵陣に1人乗り込んで暴れまわった舩坂 弘樹だぜ………」

 

デミトリ、ピョートル、マーティンがそう言っていると………

 

「呼んだか?………」

 

自分の名が呼ばれた事に反応したのか、弘樹がやって来る。

 

「!? ヒイイッ!?」

 

途端にカチューシャは怯え出し、ノンナの頭にしがみ付く。

 

「わ、私から半径100メートル以内の距離に入るんじゃないわよっ!!」

 

「如何しろと?………」

 

弘樹の事がすっかりトラウマになってしまったカチューシャの理不尽な要求に、弘樹は困惑した表情でそう言う。

 

「ア、アハハ………」

 

その光景に苦笑いするみほ。

 

「カチューシャ、大丈夫ですよ………貴方が舩坂 弘樹ですか」

 

そこでノンナがカチューシャを宥めながら、弘樹に向かってそう言う。

 

「ああ………」

 

「先程の戦いぶり、お見事でした。やはり貴方は………『歴史の裂け目に打ち込まれた楔』なのかも知れませんね」

 

「? 何だ、ソレは?」

 

「いえ、コチラの話です………」

 

聞き慣れない言葉に首を傾げる弘樹だったが、ノンナは誤魔化す様に笑うだけだった。

 

「と、兎に角! アンタ達の勝ちよ………それは認めてやるわ」

 

「いえ、私達が勝てたのは運が良かったからですよ………飛び出した時に一斉に攻撃されていたら負けてました」

 

「それは如何かしらね」

 

「えっ?」

 

「もしかしたら………ああもう! 貴方達、中々のモノよ」

 

「…………」

 

カチューシャの思わぬ言葉に、みほは少しポカンとする。

 

「言っとくけど、悔しくないから!………ノンナ」

 

「ハイ………」

 

と、そこでカチューシャは、ノンナの肩車から降りて、みほの前に立つ。

 

そして、その右手をみほに向かって差し出した。

 

「あ………」

 

一瞬戸惑ったみほだったが、やがて笑顔でその手を取り、握手を交わす。

 

「………優勝しなさいよ。カチューシャをガッカリさせたら許さないんだからね」

 

「! ハイッ!!」

 

カチューシャのその言葉に、みほはしっかりとした返事を返した。

 

「何や、試合が始まる前は生意気なガキやと思っとったけど、中々潔いとこが有るやないけ」

 

「彼女も求道者だったんですね………」

 

そんなカチューシャの姿を見て、大河と楓がそんな事を言い合う。

 

と、そこへ………

 

「いや~、何とか勝てた様だな。ワシも一安心だよ」

 

そう言う台詞と共に、白いギリースーツを纏い、狙撃銃………モシン・ナガンM28を携えた、小柄な男が姿を見せた。

 

「? 誰?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然現れた謎の男に、大洗機甲部隊の面々も、カチューシャ達も首を傾げる。

 

「シメオン!」

 

只1人、弘樹がその『シメオン』と呼んだ男に近づく。

 

「大活躍だったな、弘樹」

 

「何、お前の援護のお蔭だ」

 

親しげにシメオンと呼んだ男と会話を交わす弘樹。

 

「あ、あの、弘樹くん? 知り合いなの?」

 

とそこで、みほが弘樹にそう声を掛ける。

 

「ああ、すまない。紹介が遅れたな。コイツは小官の中学生時代の歩兵道での戦友で………」

 

「『シメオン・ヘイヘ』だ。よろしく、大洗の皆さん」

 

弘樹がそう言うと、男………『シメオン・ヘイヘ』は、大洗機甲部隊の面々に笑顔で挨拶をする。

 

「!? ヘイヘッ!?」

 

「ま、まさか!?」

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

「何と………」

 

と、その名を聞いた優花里とピョートル、マーティン、デミトリが、驚愕を露わにする。

 

「ままま、まさか、貴方は!?………」

 

「そっ。お察しの通り………ワシの祖先は『シモ・ヘイヘ』だ」

 

「! 『フィンランドの白い死神』! 『シモ・ヘイヘ』!!」

 

シメオンがそう返すと、優花里は途端に目を輝かせる。

 

 

 

 

 

『シモ・ヘイヘ』

 

フィンランド軍の軍人であり、フィンランドとソビエト連邦の間で起こった冬戦争で活躍した。

 

恐らく、『世界最強のスナイパー』と言っても過言では無い人物である。

 

冬戦争中のコッラーの戦いにて、ヘイヘを含むフィンランド軍僅か32人が、4000人のソビエト軍を迎撃。

 

この丘陵地は『殺戮の丘』と呼ばれる様になり、後に『コッラーの奇跡』と呼ばれる戦果を挙げる。

 

戦争開始から負傷するまでの約100日間で、505人のソ連兵を狙撃した。

 

非公式な物を含めると更に多いのではとも言われている。

 

彼の凄まじいところは、狙撃の際にスコープを使わなかったのだが、それでも300メートル以内ならば確実に相手の頭を撃ち抜いたそうである。

 

尚、彼曰く………

 

その狙撃のテクニックの秘訣は『練習』との事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舩坂くんの御先祖様以外にもそんな凄い人が居たんだぁ………」

 

「世界は広いですね………」

 

沙織と華は、シモ・ヘイヘの話を聞き、顔を見合わせる。

 

「! もしかして、貴方だったんですか?」

 

「あの時、僕達を助けてくれたのは?」

 

そこで楓と飛彗が、偵察に出ていた時とデミトリと戦っていた時に、謎の狙撃の援護が在ったのを思い出し、そう尋ねる。

 

「まあね。仲間を助けるのは当たり前だろ」

 

「えっ? 仲間って………」

 

「彼は今日付けを持って大洗男子校に転入。歩兵道へ参加する事になっている」

 

みほがシメオンの言葉に引っ掛かりを感じると、迫信がそう言って来た。

 

「ええっ!? そうなんですか!?」

 

「ああ、その手続きの為に、舩坂くんを極秘裏に派遣しておいたのだがね………」

 

「! じゃあ、弘樹くんが居なくなってたのは!?」

 

「すまない。情報を成るべく秘匿する為に、誰にも話す事が出来なくてな………」

 

申し訳無さそうにみほ達にそう謝罪する弘樹。

 

「そうだったんだ………」

 

「ちょっと! じゃあ、あの爆撃機部隊もひょっとして!?」

 

と、みほがそう呟いた瞬間、カチューシャがそう言って来る。

 

すると………

 

上空からレシプロ機が飛んでいる音が響いて来る。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

一同が空を見上げると、帰投途中と思われるスツーカ編隊の姿が在った。

 

「アレは………」

 

「旧ドイツ空軍の急降下爆撃機、Ju-87だな」

 

エルヴィンがその編隊がスツーカで有る事を確認してそう言う。

 

そこで………

 

その編隊の先頭を飛んでいたG-1型のスツーカが反転したかと思うと、ドンドン高度を下げながら近づいて来る。

 

「1機、近づいて来るぞ」

 

「オ、オイ………まさか、着陸する気じゃねえだろうな?」

 

鋼賀がそう言うと、海音が顔を若干青くしてそう言う。

 

「まさか。この雪上にですか?」

 

「せやけど、ドンドン近づいて来るでぇ」

 

飛彗がまさかと言うが、豹詑の言葉通り、G-1型のスツーカは更に高度を下げて来る。

 

「あの馬鹿………」

 

「! 突っ込んで来るぞぉっ!!」

 

それを見た弘樹がそう呟いて頭を抱えると、地市がそう叫びを挙げる。

 

「! 逃げろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

突っ込んで来るG-1型のスツーカを前に、大洗機甲部隊の面々とカチューシャ達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。

 

そんな中へ、G-1型のスツーカは着陸を強行。

 

運悪く、その進路上には了平の姿が………

 

「うわあぁっ!? 何で俺ばっかりこんな目にぃっ!!」

 

悲鳴を挙げて必死に逃げる了平だが、G-1型のスツーカはドンドンと迫って来る。

 

このままではプロペラと接触して、ミンチより酷い事になってしまう。

 

「ヒイイッ!!」

 

「了平! 伏せろぉっ!!」

 

「!!」

 

絶望し切った表情で悲鳴を挙げた瞬間、弘樹のそう言う声が聞こえ、咄嗟にその場にうつ伏せとなる了平。

 

その上、僅か5センチの距離をプロペラが掠め、G-1型のスツーカは了平を超えて漸く静止する。

 

「あ、ああああ………」

 

恐怖の余り、了平はそのまま気絶する。

 

「了平!」

 

「担架です! 急いで!!」

 

地市と楓が駆け寄り、了平は担架に乗せられて運ばれて行ったのだった。

 

「ちょっ! 隊長! 今誰か轢きそうになりましたよ!!」

 

「そうみたいだな。いや~、悪い事をしたなぁ」

 

「そう思うんなら少しは反省している様子を見せて下さいよ!」

 

とそこで、その着陸して来たG-1型のスツーカの操縦席と後部機銃座から飛行服姿の外人と思わしき2人の男が降りて来る。

 

「ハンネス! 小官の友人を殺す気か!」

 

その男2人の内、操縦席の方から降りて来た男に、弘樹がそう怒鳴る。

 

「よお、戦友! まだ生きているか?」

 

しかし、『ハンネス』と呼ばれたその男は、それをスルーして弘樹にそう呼び掛ける。

 

「ああ、生きているぞ………全く、お前は………」

 

それに返事を返すと、それ以上言っても無駄だと悟ったのか、弘樹は頭を押さえる。

 

「すみません、弘樹さん………」

 

「いや、エグモントが謝る事じゃない」

 

後部機銃座から降りて来た男が謝罪すると、弘樹はその男の事を『エグモント』と呼びながらそう返す。

 

「あの………弘樹くん。その2人もひょっとして?………」

 

「ああ、小官のかつての戦友だ………」

 

そこで、みほが恐る恐ると言った様子で尋ねると、弘樹は若干うんざりした様子を見せながらそう返す。

 

「『ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル』だ! 好きな物は牛乳と体操、それに出撃とソ連製の戦車を破壊する事! そして急降下爆撃だ! 嫌いな物は休暇と飛行禁止命令だ!」

 

「『エグモント・ガーデルマン』です。その………色々とご苦労を掛けるかも知れませんが、よろしくお願いします」

 

G-1型のスツーカから降りて来た2人の男………『ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル』と『エグモント・ガーデルマン』が自己紹介をする。

 

「!? ル、ルルル、ルーデルゥッ!?」

 

「ルーデルにガーデルマンだとっ!!」

 

と、その名を聞いた優花里が驚愕の表情を浮かべ、エルヴィンはキラキラとした眼差しを送る。

 

「ルーデルッ!?」

 

「「「「!!」」」」

 

カチューシャとノンナ達も、その名を聞いた途端に後ずさった。

 

「えっ? 何々?」

 

「如何かされたのですか?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

沙織や華、事情が分かって居ない大洗機甲部隊の面々は首を傾げる。

 

「………彼等の祖先の名は『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』と『エルンスト・ガーデルマン』………第二次世界大戦中の旧ドイツ空軍で………いや、世界で最も戦車を破壊したパイロットとその相棒だった男だ」

 

そんな一同に説明する様に、弘樹がそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』

 

『空の魔王』、『戦車撃破王』、『ソ連人民最大の敵』、『スツーカ大佐』などと言う様々な異名を持つ、ドイツ空軍………

 

いや、世界最強の爆撃機乗りである。

 

その戦車撃破のスコアは、公式に記録されているのでは何と519輌。

 

その他にも装甲車やトラック、火砲に上陸用舟艇などを凄まじい程に撃破している。

 

また、航空機撃墜記録も9機とあり、立派なエースパイロットでもある。

 

余りに戦果が凄過ぎた為、当時のソ連の指導者であるスターリンが名指しで批判し、10万ルーブル(日本円で当時ならば約5億円、現在でも約1億円に相当)の賞金を懸けた程である。

 

兎に角出撃していないと気が済まない人物だったらしく、例え片足を失っても僅か6週間後には義足を付けて戦線に戻り、それ以外でも負傷で入院していても「こうしちゃいられない! 出撃だ!!」と言って病院を脱走して出撃。

 

更には同僚や部下が休暇を貰えるよう自分のスコアを譲ったり、逆に指揮官に任命された後は自身が戦場に留まり続ける為に自分のスコアを過小報告するなどと言う行為をしていた。

 

その人間離れした戦果故に、見合う勲章が無くなり、彼の為だけに新設の勲章『黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章』なる勲章が作られた程である。

 

尚、この勲章は円卓の騎士に準え、12個作られたが、受賞者はルーデル只1人である。

 

因みに、ルーデルはこの勲章を受け取る際に、彼を失う事を恐れて地上勤務に回そうとしていたヒトラーに対し、『もう二度と私に地上勤務をしろと言わないのならば、その勲章を受け取りましょう』と言い放ったと言われている。

 

更に付け加えると、彼は被撃墜数でも30と世界最多を誇っており、その全てが地上からの高射砲によるもので、戦闘機に撃墜された事は1度も無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エルンスト・ガーデルマン』

 

ルーデルの愛機であるスツーカは後部機銃座が在り、そこには彼の相棒を務めた人物が5人搭乗している。

 

その5人の相棒の中で、4番目の相棒であり、有名となっているのがガーデルマンである。

 

軍医でもあり、戦闘中に負傷したルーデルの応急処置を何度もしている。

 

彼も中々の人外であり、ある戦闘時に撃墜され、機体がバラバラになり、後ろに座っていたガーデルマンがルーデルの遥か前方に投げ出されて居た。

 

ガーデルマンは肋骨を3本も骨折していたにも関わらず、『休んでいる暇はないぞガーデルマン、出撃だ!!』とルーデルに引き摺られて行き、機体を換えての出撃に付き合わされた………

 

と言う逸話がある。

 

また、ルーデルの航空機撃墜の記録の中には、ソ連軍のエースパイロットも含まれているのだが、それは後部機銃座のガーデルマンの戦果であると言う説もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦車撃破数519輌って………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

圧倒的な戦果スコアに大洗機甲部隊の一同は言葉を失う。

 

「…………」

 

中でも優花里は、凄く複雑そうな表情でハンネスを見据えている。

 

戦車好きの彼女にしてみれば、ハンネスは頼もし過ぎる味方だが、大好きな戦車を世界一破壊している憎むべき人物でもあるのだ。

 

「いや~、西総隊長からお前が大洗で活躍していると話を聞いて居ても立っても居られなくなってな! こうして参戦に馳せ参じたと言うワケさ!!」

 

「聞けば、戦車部隊の女子高が廃校の危機に瀕しているそうじゃないか」

 

「水臭いですよ、弘樹さん。そんな大事な事態に私達を呼ばないだなんて」

 

そんな優花里や大洗機甲部隊の様子など露知らず、ハンネス、シメオン、エグモントは弘樹を取り囲む様にして口々にそう言う。

 

「いや、皆其々の道を歩み始めていると言うのに、小官の都合だけで呼び出すワケには………」

 

「それが水臭いと言うんだ!」

 

弘樹の言葉を、ハンネスがそう言って遮る。

 

「弘樹、ワシ等は戦友だ。共に戦場を駆けた仲じゃないか」

 

「弘樹さんの要望と在れば、地獄の果てだって御供しますよ」

 

シメオンとエグモントもそう言って来る。

 

「ハンネス………シメオン………エグモント………」

 

弘樹の目に、感激の色が浮かぶ。

 

「また昔みたいに暴れ回ろうじゃないか」

 

「そうとも! そうと決まれば、こうしちゃいられない! 出撃だ!!」

 

「いや、もう試合は終わりましたから………」

 

「…………」

 

そんなハンネス、シメオン、エグモントの前に、弘樹は右手を手の甲を上に向ける様にして差し出した。

 

「「「…………」」」

 

ハンネス、シメオン、エグモントは、笑みを浮かべて、その弘樹の右手に自分達の右手を重ねる。

 

「よろしく頼むぞ………戦友」

 

「「「こちらこそ………戦友」」」

 

そしてお互いにそう言い合ったのだった。

 

「凄い……凄いぞ! 枢軸国側の3強軍人とその相棒の子孫が戦友で一同に会している!!」

 

その光景を見て、エルヴィンが若干興奮している様子でそう言い放つ。

 

「…………」

 

みほも、戦友と再会し、嬉しそうな顔をしている弘樹を見て、自然と笑みを浮かべていたのだった。

 

「心強い味方も来てくれたし、これからも優勝目指して頑張ろうね、西住ちゃん」

 

とそこで、杏がみほにそう声を掛ける。

 

「あ、ハイ。皆さんが居れば、優勝も夢じゃ無くなるかも知れません」

 

みほが杏にそう返した瞬間………

 

「調子に乗らない事ね。貴方達が勝てたのは相手の慢心と運が良かったからよ」

 

「!?」

 

そんな雰囲気に水をさすかの様な冷たい言葉が飛んで来て、みほは一瞬身体を震わせる。

 

「何っ?」

 

「誰だ?」

 

大洗機甲部隊の面々も、その言葉の聞こえた方向を見やる。

 

「久しぶりね………みほ」

 

そこに居たのは、都草とまほ、そして久美を引き連れた、しほだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にプラウダ&ツァーリ機甲部隊との戦いも決着です。
またもギリギリながら、大洗機甲部隊の勝利。

そして遂に登場!
弘樹の戦友であるヘイヘ、ルーデル、ガーデルマンの子孫達。
大洗機甲部隊の戦力は大幅アップです。

しかし………
勝利の場に水を差す様に現れたのは、みほの実の母………
西住流の現師範・西住 しほだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第87話『お父さんです!』

2014/4/28
白狼のキャラを投稿していただいたドラグナー様からの意見により、白狼のセリフと直後の描写を一部修正したしました。
御理解とご了承のほど、よろしくお願いします。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第87話『お父さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィンランドの白い死神、『シモ・ヘイヘ』の子孫であるシメオン・ヘイヘ………

 

ドイツ空軍の空の魔王、『ハンス・ウルリッヒ・ルーデル』の子孫であるハンネス・ウルリッヒ・ルーデル………

 

そしてその相棒を務めたドクトルスツーカ、『エルンスト・ガーデルマン』の子孫であるエグモント・ガーデルマン………

 

かつての弘樹の戦友達の活躍もあり………

 

遂に大洗機甲部隊は、プラウダ&ツァーリ機甲部隊を辛くも打ち破った。

 

頼もしい仲間が増え、優勝への期待も高まっていたみほ達に水をさすかの様に現れたのは………

 

みほの実の母であり、西住流の現師範………

 

『西住 しほ』だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

北緯50度を超えた、雪の降り頻る雪原地帯………

 

「お、お母さん………」

 

突如現れたしほの姿に、みほは怯える様に身体を震わせる。

 

「えっ? お母さんって?………」

 

「みほさんのお母様ですか?」

 

「! と言う事は! 西住流の!!」

 

「現師範だな………」

 

そのみほの呟きを聞いた沙織、華、優花里、麻子が、しほへと視線を向ける。

 

「…………」

 

しほは、沙織達の視線など気にしていない様子で、感情の感じられない目でみほを見据えている。

 

「…………」

 

弘樹は、そんなしほの様子に眉を顰める。

 

「あ、あの西住師範。試合会場に部外者は………」

 

とそこで、主審のレミが恐る恐ると言った様子でしほにそう言って来たが………

 

「黙っていなさい。コレは西住家の問題です」

 

しほはそう言ってレミを睨みつけた。

 

「ヒイイッ!? す、スミマセン!………」

 

途端に萎縮して下がるレミ。

 

如何に戦車道連盟の主審と言えど、西住流の師範に正面切って意見する度胸は無い様だ。

 

(何と勝手な………)

 

しほの傍若無人とも言える態度に、弘樹は益々不快感を覚える。

 

「みほ………1度は戦車道から逃げた貴方が、こんな無名チームの総隊長をやっているとは………随分と偉くなった様ね」

 

「あ………」

 

そうしほが言うと、みほはビクリと身体を震わせる。

 

(それが久しぶりに会った娘に言う言葉か………)

 

無意識の内に、拳を握り締める弘樹。

 

とそこで、しほの後ろに控える様に居たまほ、都草、久美の姿を見やる。

 

「「…………」」

 

まほはしほには見えない様に辛そうな表情を浮かべ、都草も苦虫を噛み潰した様な表情をしている。

 

「ゲロォ………」

 

久美は何か言いたげだが、言えずに居ると言った様子である。

 

(やはり面と向かっては逆らえんか………)

 

と、弘樹がそう思っていた瞬間………

 

「西住の名を持つ者として、コレ以上の勝手は許しません。即刻黒森峰に戻って来なさい」

 

「!!」

 

「なっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しほは、みほに向かってそう言い放ち、大洗機甲部隊の面々は驚愕の表情を浮かべる。

 

「き、貴様! 何を勝手な事を………」

 

「…………」

 

「ヒイッ!?」

 

噛み付こうとした桃だったが、しほから睨まれて、慌てて杏の後ろに隠れる。

 

「…………」

 

その杏は、苦い顔でしほの事を見据えている。

 

如何に権限が大きい学園艦・大洗女子学園の生徒会長と言えど、相手は保護者………

 

歯向かえば、立場的に不利になるのは自分達の方である。

 

そう思うと、杏は何も言う事が出来なかった。

 

「…………」

 

迫信の方も、何やら意味深な表情を、広げた扇子で隠しながら黙り込んでいる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

学園トップの2人が黙り込んでいるのを見て、大洗機甲部隊の面々も沈黙するしかない。

 

「さあ、来なさい、みほ。貴方の居るべき場所はコチラに在るわ」

 

しほはそこで、みほを招く様に手を差し出す。

 

「…………」

 

そのしほの前で、俯いて沈黙しているだけのみほ。

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「西住殿………」

 

「…………」

 

そんなみほに不安げな視線を向ける沙織、華、優花里、麻子。

 

と、その時………

 

「…………」

 

みほが、しほの方へと向かって歩き出した。

 

「!? みぽりん!!」

 

「みほさん!!」

 

「西住殿!?」

 

「!!」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

沙織達が悲鳴の様な声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も驚愕を露わにする。

 

「…………」

 

そんな中を、みほは只、黙ってしほの方に向かって歩いて行く。

 

やがて、しほまで後数メートルの距離まで近づく。

 

「それで良いわ。それでこそ西住の名を持つ者よ」

 

その様子に満足そうにそう言うしほ。

 

………だが、しかし!!

 

みほは不意に歩みを止めた。

 

「? 如何したの?」

 

「………だ………」

 

「?」

 

「………! 嫌だ!!」

 

「!? なっ!?」

 

そこでみほから出たのは、拒絶の言葉だった。

 

「如何いう積りなの!? みほ!?」

 

途端に、しほはみほを怒鳴りつける。

 

「! うう………わ、私は………」

 

怯えるみほだったが………

 

「私は………黒森峰には………戻らない!!」

 

顔を上げ、しほの事をしっかりと見据えてそう言い放った!

 

「! みほ!」

 

「みほちゃん………」

 

「西住殿………」

 

まほ、都草、久美の表情に驚愕の色が現れる。

 

あの大人しいみほが、初めて母に………西住流の師範に逆らったのである。

 

「私は此処に居たい! 大洗に居たい! 沙織さんや華さん! 優花里さんに麻子さん! それに戦車部隊の皆や歩兵部隊の皆さんと一緒に戦車道をやりたい!!」

 

「言った筈よ! 西住の名を持つ者として、勝手な振る舞いは許さないと!!」

 

「西住流なんか要らない!!」

 

「なっ!?………」

 

そこでしほは、初めて驚愕の表情を浮かべた。

 

「私は………私だけの戦車道を見つけたい! 西住流じゃなくて、私自身が選んだ戦車道を貫きたい!! だから私は! このチームで優勝してみせる!!」

 

そうハッキリと、みほはしほに向かって言い放つ。

 

「みほ! 貴方は何時から親に歯向かう様な反抗的な子になったの!!」

 

「!? ひゃっ!?………」

 

だが、しほから一際大きな怒声が挙がると、みほは萎縮する。

 

「みほ! 貴方は!!………」

 

と、更に続けてしほが何か言おうとしたところ………

 

「…………」

 

まるでみほを守る様に、1人の人物がしほの前に立ちはだかった。

 

「! 貴方は………」

 

「! 弘樹くん!!」

 

「…………」

 

そう………

 

その人物は舩坂 弘樹であった。

 

「舩坂 弘樹………あの英霊の子孫までもが大洗に居たとは、驚いたわ。でも、貴方には関係の無い話よ。下がって居なさい!」

 

そう言って弘樹の事を睨みつけるしほだったが………

 

「………その台詞はそのままお返ししましょう」

 

弘樹は微塵も応えた様子を見せず、しほに向かって淡々とした様子でそう言い放つ。

 

「!? 何ですって!?」

 

「西住くんは我等が大洗機甲部隊の総隊長………その進退を決める権利は彼女自身に在る………そして彼女は、黒森峰は戻らないと言った………それが全てです」

 

苛立つ様子を見せるしほだったが、弘樹は相も変わらず淡々としたした様子でそう語る。

 

(す、凄い、あの子………西住師範に面と向かって逆らってる………)

 

主審のレミが、そんな弘樹の姿に驚愕する。

 

「貴方………それでも英霊の血を引く者なの!! 西住に生まれた者は西住に帰るべきなのよ!!」

 

「………オイ、いい加減にしとけよ」

 

と、怒りの様子を見せるしほに、そう言う声が飛んだ。

 

「! 神狩殿っ!?」

 

優花里が驚きの声を挙げる。

 

その声の主は、白狼だった。

 

「さっきから聞いてりゃ、好き放題言いやがって………西住総隊長はアンタの都合の良い道具じゃねえんだぞ」

 

静かだが、ハッキリと怒りの心情が聞き取れる様子でそう言い放つ白狼。

 

如何やら、みほがまるで西住流の為に道具の様に扱われている様に、彼としても我慢ならないものがあった様である。

 

「貴方も西住流の重さが分かっていない様ね! 西住流は戦車道の『力の象徴』! そして西住流こそが戦車道! 西住の名を冠することは戦車道を体現するも同じ! 勝利こそが戦車道の本質よ!!」

 

「それは違う! 西住 しほ!!」

 

と、勝利こそ全てと説くしほに、真っ向から反論する者が居た。

 

「!? 何ですって!?」

 

「! エース!」

 

エースこと内藤 英洲だ。

 

「この世には、勝利よりも誇るに値する敗北と言うものも有る!」

 

「! 勝利よりも誇るに値する敗北ですってっ!?」

 

「そうだ! 武道とは、本来は人を殺傷・制圧する技術に、その技を磨く稽古を通じて人格の完成を目指す、と言う『道』の理念が加わったもの! 勝利に為に犠牲を必然とするのは、その『道』の精神に反している!!」

 

そう言い放ち、武道としての西住流の考えを完全否定する。

 

「知った様な口を………」

 

「知った様な口を利いてるのはどっちだ!!」

 

とそこで、大洗歩兵部隊の中からそう声が挙がる。

 

「!?」

 

「西住流だか、何だか知らねえが、俺達にはそんな事は関係ねえっ!!」

 

「そうだ! 俺達は総隊長が西住流だから付いて来たんじゃねえっ!!」

 

「みほちゃんがみほちゃんだから付いて来たんだ!!」

 

「それを横からしゃしゃり出て来て、グダグダ抜かすんじゃねえっ!!」

 

それを皮切りに、大洗歩兵部隊からしほへの非難の声が飛ぶ。

 

「あわわわわ………」

 

レミはその光景を見て、顔を真っ青にする。

 

西住流の現師範であるしほに、こんな野次にも似た非難を飛ばすなど、戦車道に関わる者なら先ず考えられない。

 

数ヶ月前まで素人だった大洗の面々ならではの、怖いもの知らずな行為である。

 

「西住流なんかお呼びじゃねえんだよ! 帰れっ!!」

 

「そうだ! 帰れ帰れ!!」

 

「「「「「「「「「「かーえーれっ!! かーえーれっ!! かーえーれっ!!」」」」」」」」」」

 

とうとう大洗歩兵部隊の面々から帰れコールが始まった。

 

「あ、貴方達っ!!………!? キャアッ!?」

 

と、しほがそんな大洗歩兵部隊の面々に怒声を挙げようとした瞬間、何者かが後ろからしほを掲げ上げる様に持ち上げる!!

 

「!? ルダさんっ!?」

 

みほが仰天の声を挙げる。

 

しほを掲げ上げていたのは、シャッコーだった。

 

「………アンタは母親のクズだな」

 

今までに見た事の無い嫌悪感を露わにした表情で、掲げ上げているしほにむかってそう言い放つシャッコー。

 

そしてそのまま、しほを投げ飛ばそうとする。

 

「や、止めなさいっ!!」

 

「シャッコーッ! 止せっ!!」

 

しほが悲鳴の様に叫び、弘樹もやり過ぎだと制止しようとしたが間に合わず、シャッコーはしほを投げ飛ばす。

 

2メートル30センチの身長を誇るシャッコーが掲げ上げて投げ飛ばしたのである。

 

高さは優に3メートル近くは有る。

 

如何に地面が雪で覆われているとは言え、下手をすれば只ではすまない。

 

「!?」

 

と、しほが思わず目を閉じた瞬間!

 

「危なーいっ!!」

 

そう言う台詞と共に、何者かがしほの落下地点へと回り込んだ!

 

「!? ぐへっ!?」

 

その人物は、そのまましほの下敷きになり、クッションの役割を果たす。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の乱入者に、その場に居た一同は驚きを露わにする。

 

「~っ! 何が………」

 

投げ飛ばされたしほが状況を把握しようと上半身を起こすと………

 

「う~ん、しほちゃ~ん。またお尻おっきくなったんじゃない?」

 

「!?」

 

そう言う声が下から聞こえて来て、しほが慌てて視線をやるとそこには………

 

「えへへへ、でも柔らかくて良いお尻~」

 

しほの尻に顔面を潰されている男が、満足そうな声でそんな事を言っていた。

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

即座に立ち上がると、その男の腹を思いっきり踏みつけるしほ。

 

「!? ゲボッ!?」

 

衝撃で、男の身体がくの字に居れ曲がる。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

羞恥と心労でしほが肩で息をしていると………

 

「もう~、しほちゃんてば、相変わらず照れ屋なんだから~」

 

腹を思いっきり踏まれた男が、何事も無かったかの様に呑気そうなセリフと共に立ち上がる。

 

「だ、誰?………」

 

「さあ?………」

 

その男の様子に若干引きながらそう言い合う沙織と華。

 

大洗機甲部隊の面々も突然現れた謎の男に困惑している。

 

と………

 

「! お父さん!」

 

「お父様!」

 

みほとまほが、その人物を見てそう声を挙げた。

 

「えっ?………」

 

「お父………さん?」

 

「じ、じゃあっ!?」

 

「まさか………」

 

みほの言葉を聞いて、沙織、華、優花里、麻子が有り得ないと言った表情をするが………

 

「ああ、みほ! 久しぶり! 元気だったかい? ちゃんとご飯は食べてるんだろうね? 1人暮らしで寂しい思いなんかしてないだろうね?」

 

男はそんな事を言いながら、みほの元へ近づいて来る。

 

「おや? 君達はみほの友達かい? いや~、こりゃどうも。娘がお世話になってます。みほの父の『西住 常夫』です」

 

そして、沙織達の姿を見ると、男………みほとまほの父親であり、しほの夫、『西住 常夫』はそう挨拶をした。

 

「「「「「「「「「「!? えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

途端に、大洗機甲部隊の面々から驚愕の声が挙がる。

 

「お、お父さん!? この人、みぽりんのお父さんなの!?」

 

「本当なのですか!?」

 

「何かの間違いじゃないんですか!?」

 

「全然似てないな………」

 

先程の光景もあり、みほの父親だと言う事が信じられずにいる沙織達。

 

「ア、アハハ………」

 

みほは苦笑いを零すしかない。

 

「…………」

 

まほに至っては、常夫から完全に目を反らしている。

 

(………何処かで見た様な………)

 

そんな中、弘樹は1人、常夫の顔に見覚えを感じていた。

 

「あ、貴方! 何で此処に居るの!?」

 

とそこで、先程の事が尾を引いているのか、まだ若干顔が赤いしほが、常夫に向かってそう問い質す。

 

「えっ? 何でって………娘が出てる試合を見ない父親が何処に居るよ?」

 

常夫は不思議そうな表情でしほにそう返す。

 

「その子は西住流から逃げた子なのよ! 本来ならば黒森峰で西住流を叩き込む積りだったのに! 貴方が勝手に転校手続きや生活援助までして!!」

 

「ええ~~、だってみほがお願いって言うんだもん。そりゃ聞いちゃうよぉ」

 

怒り心頭と言ったしほの様子など何処吹く風と言う様に、飄々と言葉を返す常夫。

 

「貴方! 婿殿とは言え、貴方も西住家の人間! 西住流の鉄の掟は守ってもらわないと困るわ!!」

 

「別に良いじゃん、そんなの。継ぐ子が居なくなったら、畳んじゃえば良いんだからさぁ」

 

「「「「「「「「「「!? ええ~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

大凡武道の家元の人間の発言とは思えぬ無責任な言葉に、大洗機甲部隊の一同はまたも仰天の声を挙げる。

 

「戦車道を止めたら、そうだな~………あ! パン屋なんかやるのが良いんじゃないかな? 毎日美味しいパンが食べられて、万々歳じゃない」

 

「貴方は如何して何時も何時も!!………」

 

「あ、君!」

 

とそこで、常夫はしほの言葉を無視する様に、レミに声を掛ける。

 

「えっ? な、何ですか?」

 

「この後、暇? 良かったら一緒にお茶しない?」

 

そしてそのまま、妻であるしほの目の前で、少々古い文句でレミをナンパし始めた。

 

「!? 貴方~~っ!!」

 

途端にしほは、顔を茹蛸の様に真っ赤にして、常夫に近づき、襟首を締め上げる。

 

「もう、しほちゃんてばホント、怒りっぽいな~。夜はあんなに泣き虫なのに~」

 

「!! 何を言っとるか~っ!!」

 

常夫から飛び出した下な発言に、しほは常夫の首を絞めたままガクガクとその身体を揺さぶる。

 

「アハハハハハハハッ!」

 

頭がシェイクされているかの様にガクンガクンと揺れているが、その状態で馬鹿笑いを続けている常夫。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は、その光景に最早驚きを通り越して、呆れて何も言えなくなっていた。

 

「こ、個性的なお父さんだね………」

 

と、その光景を見ながら、沙織が言葉を選んだ様にみほにそう言う。

 

「アハハ………お父さん、昔っからああなんだ。いつもいつも無責任で………」

 

しかし、みほも常夫が無責任な事は認めているのか、苦笑いしながらそう返す。

 

「無責任?………!? 思い出した!」

 

すると、その無責任と言う言葉で、弘樹がそう声を挙げる。

 

「うわぁっ!? ど、如何されたのですか!? 舩坂殿!?」

 

突然声を挙げた弘樹に、優花里が驚く。

 

「西住くん。君の父は婿だと言っていたが………旧姓は『平良(たいら)』じゃないか?」

 

「えっ? そうだけど………」

 

「やはりそうか………『日本一の無責任隊長・平良 常夫』か」

 

「「「「「「「「「「『日本一の無責任隊長・平良 常夫』?」」」」」」」」」」

 

「何ソレ?」

 

何とも情けない名前に、沙織が微妙な顔をしながらそう尋ねる。

 

「あれ? 僕のこと知ってくれてたの?」

 

と、その名に反応して、常夫が大洗機甲部隊の方を見やる。

 

「歩兵道者の間じゃちょっとした有名人だ………微風学園と言う学園の歩兵部隊で総隊長を務めていたんだが………ハッキリ言って歩兵としての能力は全く無く、兵法に対する知識もからっきし………その上、やる事なす事が全て無責任だった」

 

「最悪の隊長じゃねえかよ、ソレ………」

 

弘樹がそう語ると、地市はそうツッコミを入れる。

 

「いや~、それ程でも~………」

 

「いや、褒めてないから………」

 

常夫が照れた様子を見せると、今度は俊がそうツッコミを入れる。

 

「だが、彼には他の歩兵には無い恵まれた才が有った」

 

「才?………」

 

「そりゃ一体何だ?」

 

「それは………」

 

「「「「「「「「「「それは?………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同が、弘樹に注目する。

 

「………『運』だ」

 

「「「「「「「「「「ハッ? 『運』?」」」」」」」」」」

 

「そうだ。悪運と言っても過言では無いな」

 

思わぬ答えに唖然とする大洗機甲部隊の面々に、弘樹は真面目な顔のまま語る。

 

「彼が参戦した試合では、所属していた機甲部隊は毎回の様に壊滅寸前の大打撃を受けて敗北が決まったかに見えるまで追い詰められるのだが、その度に有り得ないと言いたくなる様な偶然が重なり、悉く逆転勝利を収めている」

 

「そら確かに悪運やなぁ」

 

「その運の強さは折り紙付きだった。何せ………当時、西住 しほ師範が率いていた黒森峰機甲部隊に、唯一土を付けた事が有るくらいだからな」

 

「!? ええっ!? お母さんが率いてた………」

 

「黒森峰機甲部隊を相手に!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹のその台詞を聞いた途端、みほと優花里を始めとして、大洗機甲部隊の面々は驚愕の表情を浮かべる。

 

「…………」

 

対するしほは、苦い顔をして顔ごと大洗機甲部隊の面々から視線を反らしている。

 

如何やら真実の様である。

 

「で、でも! そんな話、聞いた事有りませんよ!」

 

「微風学園の機甲部隊は、公式試合に出れる程の規模が無かったので、練習試合しかした事がない。故に公的な記録には残されていない。しかし、歩兵道をやっている者の間じゃ有名な話だ」

 

「いや~、懐かしいね。それが切っ掛けでしほちゃんと出会って、お付き合いが始まったんだよね~」

 

常夫は懐かしむ様な顔をして、しほと肩を組む。

 

「! 触らないでっ!!」

 

「!? うひゃあっ!?」

 

途端に、しほは常夫の事を投げ飛ばす。

 

「貴方なんかと………貴方なんかと結婚してしまった事が、私の人生の中で最大の敗北よ!!」

 

握った拳を震わせながら、倒れている常夫に向かってそう言い放つしほ。

 

「兎に角! みほ!! この世に西住流は2つも要りません! 貴方が黒森峰と戦う事になった時! それが貴方の最期よ!!」

 

「ハ、ハイ………」

 

何時もだったら怯えるみほだったが、先程までの常夫との遣り取りの光景のせいで、微妙な表情になる。

 

「舩坂 弘樹! 貴方も覚悟して居なさい! 西住流に逆らうと言う事は、神に逆らうも同然だと言う事を教えてあげるわ!!」

 

更に、しほは弘樹に向かってそう言い放つ。

 

だが………

 

「例え神にだって、小官は従わない」

 

弘樹はしほを見据え、毅然とそう言い放った。

 

「! まほ! 行くわよ!!」

 

「ハ、ハイ!………」

 

それに立腹した様な様子を見せると、しほは踵を返してその場を後にし、まほも一瞬弘樹達の方を見て、しほに分からない様に頭を下げて、後に続いた。

 

「…………」

 

その様子に、みほは複雑そうな表情を浮かべていたが………

 

「みほ。しほの事は僕が何とかするよ」

 

とそこで、雪の上に倒れたままだった常夫が立ち上がり、みほに向かってそう言う。

 

「! お父さん!」

 

「大丈夫、大丈夫。何とかなるって」

 

そう言って朗らかに笑う常夫。

 

その言葉には何の根拠も確証も無い………

 

だが………

 

不思議と信じてしまいそうな『何か』が在った。

 

「それじゃあ、皆さん。今日はコレで失礼させてもらいます。また後日、改めてご挨拶に伺いますから………しほちゃ~ん、待って~」

 

そう言って、常夫はしほを追い掛けて行く。

 

「失礼するよ………」

 

「ゲロ、みほ殿。応援しているであります」

 

それに呼応するかの様に、都草と久美も踵を返す。

 

「「…………」」

 

去り際に、都草と弘樹は一瞬視線を交差させる。

 

「何時の間にか、西住流と正面から遣り合う事になっちまったなぁ………」

 

全員が去った後、俊がそう呟く。

 

「フフフ………面白い事になってきたじゃないか?」

 

「会長のその余裕さが羨ましいです………」

 

迫信は何時もの不敵な笑みを浮かべてそう言い、逞巳は胃の辺りを抑えながらそんな迫信を見やる。

 

「どの道、俺達には勝ち続ける道しかない」

 

「そうだねぇ………やれるだけやるだけさ。よ~し! 頑張ろうぜ、皆ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

大詔がそう言うと、杏がそう言って全員に呼び掛け、大洗機甲部隊の面々が歓声を挙げる。

 

「………ありがとう、弘樹くん」

 

「言っただろう………小官は君の味方だ」

 

そんな中で、みほと弘樹もそう会話を交わす。

 

「ふふ~~ん………」

 

「うふふふ………」

 

と、そんな弘樹とみほの様子を、沙織と華を先頭に、一部の大洗機甲部隊のメンバーがニヤニヤとしながら見ている。

 

「? 何だ?」

 

「な、何? 沙織さん?」

 

「みぽりん………気づいてないの?」

 

「気づいてないって?………」

 

「舩坂くんの事………『弘樹くん』って」

 

「えっ?………!? ああっ!?」

 

沙織に指摘されて、初めて弘樹の事を名前で呼んでいた事に気づき、みほはトマトの様に真っ赤になる!

 

「キャーッ! 西住総隊長ってば、だいたーん!」

 

「ヒュー! ヒュー! お熱いねー! 御2人さんっ!!」

 

途端に、大洗機甲部隊の一部から、囃し立てる様な声が挙がる。

 

「あ、あうう………」

 

「…………」

 

そんな声に、みほは只々縮こまるばかりで、弘樹は困惑している様にヘルメットを被り直す。

 

と、その時………

 

「ノンナ! ノンナ! しっかりしてっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

今まで蚊帳の外だったプラウダ&ツァーリ機甲部隊の中で、カチューシャの悲鳴が聞こえて来た。

 

「ゲホッ! ガホッ! ゴホッ!」

 

見ると、ノンナが尋常ではない程にむせており、呼吸困難になりかかっていた。

 

「ノンナ!? 一体如何したんだ!?」

 

「さっき、あの大男が西住流の師範を投げ飛ばした時からおかしかったが………」

 

「舩坂 弘樹が神になんちゃらとか言った瞬間にコレだぜ!」

 

デミトリ、マーティン、ピョートル達も只々困惑するばかりである。

 

「! 医療班ーっ!!」

 

そこで、レミが慌てて医療班を呼ぶのだった。

 

しかし………

 

むせているノンナの顔は………

 

何処となく満足そうであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほを黒森峰の引き戻そうとするしほ。
しかし、みほはそんなしほを拒絶。
激高するしほだったが、弘樹がみほを守り、大洗歩兵部隊も面々から非難が飛ぶのだった。

そして、遂に登場。
みほとまほの父で、しほの夫である原作では名前だけ設定されている『西住 常夫』
この作品では、今回の様な無責任なお気楽キャラとなっています。
何故、こんなキャラにしたかと言いますと、切っ掛けはしほさんのCVからです。
しほさんのCVは冬馬由美さん。
冬馬由美さんと言えば、ガンダムF91のヒロイン、セシリーの人。
なら、夫のイメージCVは、シーブック役の辻谷耕史さんにしようと思いまして。
それでとある切っ掛けで見た『無責任艦長タイラー』の主人公・タイラーも辻谷耕史さんだったので、タイラーみたいな感じのキャラで、色々と引っ掻き回すけど、実は計算してやってるんじゃないかと思わせる様な感じと、悪運が強いって設定をつけようと思い、こんなキャラになりました。
実を言うと、主人公の弘樹の次に自分でも気に入ってるキャラだったりします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第88話『一航専です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第88話『一航専です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時は敗北さえも疑われたが、みほの作戦と指揮、弘樹の参戦、助っ人と支援要請により………

 

またもや辛くもながら、昨年の優勝チームである『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』に勝利した大洗機甲部隊。

 

その試合終了直後に………

 

みほの母親であり、西住流の現師範である『西住 しほ』が、みほを連れ戻そうと現れたが………

 

弘樹達を始めとした大洗歩兵部隊の反発、そして夫であり、みほとまほのの父親である『西住 常夫』の出現により………

 

調子を狂わされたしほは、黒森峰と当たる事となれば叩き潰すと言う捨て台詞を残して去って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5回戦・試合会場………

 

特設ライブ会場………

 

そこでは、大洗機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊の面々………

 

そして両校の応援席に居た観客の一部が、サンショウウオさんチームの戦勝ライブを観覧していた。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の面々が居るので、粗方の席が埋まっている状態でのライブの為、サンショウウオさんチームのテンションは最高潮。

 

新曲・『それゆけ! 乙女の戦車道!!(サンショウウオさんチームVer)』までもお披露目した。

 

「…………」

 

そんなサンショウウオさんチームの姿に、一際見惚れているのがカチューシャである。

 

キラキラとした目で、ステージのサンショウウオさんチームを見ている。

 

「羨ましいんですか?」

 

と、そんなカチューシャの姿を見て、左隣の席に居たノンナがそう尋ねる。

 

「! べ、べっつにぃ!」

 

途端にカチューシャは頬を膨らませてそっぽを向く。

 

「クスクス………」

 

そんなカチューシャの姿に、ノンナは笑みを零す。

 

「………それにしても、素晴らしい歌ですね」

 

と、ノンナがそう言うと、左手に誰かの手が重ねられる。

 

「…………」

 

ノンナが更に左隣の席を見やると、そこにはステージを見ているままのデミトリの姿が在った。

 

「………お前の歌も十分素晴らしいぞ」

 

その状態のまま、ノンナに向かってそう言うデミトリ。

 

「………ありがとう、私のリュビームィ パリン」

 

ノンナはそう言って、左手の掌を上に向けて、そのままデミトリの手を絡め合わせる様に握ったのだった。

 

 

 

 

 

一方、別の一角では

 

「サンショウウオさんチーム、今回も素敵なライブであります」

 

「ああ、そうだな………」

 

優花里がそう言うと、その前方の席に座っていた白狼がそう返す。

 

「………あの、神狩殿」

 

「ん? 何だ?」

 

「ありがとうございました」

 

「ああ? 何がだよ?」

 

突然お礼を言って来た優花里に、白狼は怪訝な顔をする。

 

「あの時、西住殿を庇ってくれた事です………」

 

「そりゃ舩坂の方だろ。俺はあのババアがムカついたから口を挟んだだけだ」

 

「いえ、神狩殿がああ言ってくれたから、皆さんが動いたんです。舩坂殿だけのお蔭じゃないですよ」

 

「そう言うもんかね………」

 

「そうです。やっぱり神狩殿は私達の仲間であります」

 

「…………」

 

優花里にそう言われて、白狼はボリボリと頭を掻く。

 

「アレ? 何かゆかりんと神狩さん、良い雰囲気?」

 

「お、何や白狼? 何時の間にそんな仲になったんや?」

 

するとそこで、そんな2人の様子を目撃した沙織と豹詑がそう言って来る。

 

「えっ!? あ! いや! その! わ、私は!!………」

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」

 

途端に動揺した様子を見せる優花里と、対照的に辟易としている様子を見せる白狼。

 

「せやけど、女っ気の無いお前さんがそこまで絡むなんて、珍しいやないけ」

 

「だから、馬鹿言うなっての。大体俺は、もっと家庭的な女がタイプなんだよ」

 

「!?」

 

と、白狼がそんな事を口走ると、優花里はショックを受けた様な表情となる。

 

「へえ~、そら意外やなぁ」

 

「何だ何だ? 何の話だ?」

 

「混ぜて貰っても良いですか?」

 

豹詑がそう言うと、海音と飛彗が会話に参加して来る。

 

「………武部殿」

 

すると、そんな白狼達を横目にしながら、優花里は沙織へと声を掛ける。

 

「? 何、ゆかりん?」

 

「今度私に………女子力と言うものを教えていただけないでしょうか?」

 

「えっ? あ、うん、良いよ」

 

「…………」

 

沙織が返事を返すのを聞きながら、前の席で飛彗達と話し込んでいる白狼を見やる優花里。

 

(あ~、コレは本物だね~………)

 

そんな優花里の姿に、沙織は温かい視線を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ステージ上………

 

(お客さん、段々と増えてる………)

 

歌いながら踊っている聖子が、満席とまでは行かないが、かなりの人数が入っている観客席を見て、そう思う。

 

(この調子なら、きっと武道館ライブだって………)

 

とそう思いながら観客席を見回していた時、陰に隠れている1人の人物の姿を目撃する。

 

(! 近藤 里歌さん!?)

 

内心で驚愕する聖子。

 

何故なら、その隠れていた人物とは、近藤 里歌であったからだ。

 

「…………」

 

隠れたまま、ジッとサンショウウオさんチームのステージを見やっている里歌。

 

「…………」

 

と、その顔に一瞬だが、寂しさと悲しさの入り混じった表情が浮かぶ。

 

(!!)

 

聖子がまた内心で驚いていると、里歌は踵を返して会場から出て行った。

 

(近藤さん………何であんな顔を?………)

 

里歌が一瞬見せた、寂しさと悲しさの入り混じった表情が気になる聖子。

 

「「「「「聖子ちゃ~~~んっ!!」」」」」

 

「!!」

 

しかしそこで、客席からコールが入り、我に返る。

 

(そうだ。今はライブに集中しないと………)

 

一抹の気がかりを感じながらも、聖子は今のライブのステージへと集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特設ライブ会場の観客席の片隅………

 

「大洗機甲部隊………いや、面白い部隊じゃないか」

 

コッソリと観客の中に混じっていたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊のメンバーの中で、ジャスパーがそう言う。

 

「やっぱり貴方もそう思ったわね、ジャスパー」

 

「全くだ。今から試合をするのが楽しみだよ」

 

「本当に楽しそうですね………」

 

ダージリンにジャスパーがそう返すと、オレンジペコがそうツッコミを入れる。

 

「当然。危険がいっぱいで素晴らしい試合になりそうだからね」

 

「危険が好きなんですね………」

 

「当然だ。私には『ジャック・チャーチル』の血が流れているのだからね」

 

そう………

 

『ジャスパー・チャーチル』………

 

彼の祖先は第二次世界大戦中にイギリス軍に在籍していた風変わりな兵士………

 

『ジャック・チャーチル』なのであった。

 

「…………」

 

そんな中で、1人静かにサンショウウオさんチームのライブを観賞しているアールグレイ。

 

 

 

 

 

そして程なくしてライブは終了………

 

サンショウウオさんチームは、プラウダ&ツァーリ機甲部隊から『ハラショー』の称賛を浴びたのだった。

 

こうして、戦車道・歩兵道の第5回戦は幕を閉じた………

 

余談となるが、この試合後に………

 

ラスプーチンが、ニキータと雪化粧狙撃部隊と共に………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊から、煙の様に姿を消すと言う、不気味な出来事があったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合の翌日………

 

海原を進む大洗学園艦の横に、別の学園艦が並走している。

 

その学園艦の形は、旧日本海軍初の航空母艦であり、世界でも最初に完成した空母『鳳翔』を模している。

 

学園艦なので、かなりの大きさだが、それでもその全長だけでも70キロメートル近く。

 

最早動く島であり、隣に浮かんでいる大洗学園艦が、まるでおもちゃの様に見える。

 

更に特徴的なのが、その広大な甲板上の都市部分の半分近くが、航空関連施設となっている事だ。

 

ハンガーや管制塔、滑走路に加え、水上機の離着陸の為の物と思われる湖までもが在る。

 

そんな飛行場施設の中心部には、学園艦を学園艦足らしめている校舎が建っている。

 

 

 

 

 

この学園艦の名は、『第一航空専門学校』

 

通称『一航専』と呼ばれている、航空機道専門の学園である。

 

その歴史は、太平洋戦争が終結して間も無くから始まっている。

 

元々旧日本海軍が空母機動部隊を主力としていた事もあり、航空機道は兵器武道の中では軍艦道に続いて普及が進んだ。

 

中でもこの一航専は、その略称の元でもある南雲機動部隊の第一航空戦隊。

 

更には二航戦の友永隊や江草隊。

 

芙蓉部隊に加藤隼戦闘隊などのエースパイロット達が居た、或いは率いた部隊や著しい戦果を挙げた部隊の生き残りが講師として勤務し、その技術を余す事無く伝えたと言われている。

 

正に航空機道の名門中の名門なのである。

 

その為、戦車道・歩兵道しかない学校はおろか、航空機道の部隊が居る学校からも支援の依頼が舞い込む程だ。

 

だが、名門ゆえの誇りからか、金や利益などで動く事は先ず無く、如何に彼等の琴線に触れるか如何かが支援要請を受諾して貰えるかのポイントとなっている。

 

 

 

 

 

そんな名門学園のとあるハンガーに、大洗機甲部隊の姿は在った………

 

「ああ! 零戦です!! アレは二一型ですね! 五二型もあります! おお! アッチには彗星に天山! ああ! 彩雲が有ります!! 瑞雲や零式水上観測機も!!」

 

ハンガー内に並び、整備員達の整備を受けている一航専の航空機道の航空機達を見て、優花里が興奮する。

 

「あちゃ~、またゆかりんがハイテンションだよ………」

 

「ア、アハハ………」

 

そんな優花里の姿を見て、苦笑いを零す沙織とみほ。

 

「一式戦闘機『隼』に九九式襲撃機、四式重爆撃機………陸軍機も有るのか」

 

旧日本海軍の航空機だけでなく、旧日本陸軍の航空機も並んでいるのを見て、俊がそう言う。

 

更に、他と比べると数は多くないが、Ju-87、Ar196、フォッケウルフ Fw190と言った、ドイツ製の航空機も並んでいる。

 

「いやあ、良く来たね」

 

「お待ちしていました」

 

と、そのドイツ製の航空機が並んでいる方から、ハンネスとエグモントが歩いて来る。

 

「やあやあ、2人共」

 

「今日はお招きいただき、感謝しているよ」

 

杏と迫信が、女子学園と男子校を代表して挨拶する。

 

そう………

 

ハンネスとエグモントは、この学園の航空部隊所属だったのである。

 

「最初に聞いた時は驚いたぞ。航空機道を続けているとは思っていたが、まさかこの名門中の名門と言われる一航専に居たとはな」

 

弘樹が、ハンネスとエグモントに向かってそう言う。

 

「フフフ………実はな、弘樹」

 

「この学園にはもう1人………戦友が居るんですよ」

 

するとハンネスが意味深に笑い、エグモントがそう言って来た。

 

「何?………まさか」

 

と、弘樹がそれに思い当たりを感じていると………

 

「うわあ~、凄い………ゲームと全く同じだぁ」

 

零戦を見て感動している様子を見せるねこにゃー。

 

如何やら、戦車だけでなく、航空機のゲームもプレイしている様だ。

 

「!? うわっ!?」

 

そこで、もっと間近で見ようと零戦に近づいた瞬間、足元に落ちていた機材に足を取られ、転んでしまう。

 

その際にメガネが取れ、床に落ちる。

 

「あっ!? メ、メガネ………メガネ………」

 

ねこにゃーは良く見えない状況で、床の上を手探りでメガネを探す。

 

すると………

 

「御探し物はコレかい?」

 

旧日本海軍の飛行服に身を包んだ男が、床に落ちていたねこにゃーのメガネを拾い、目の前に差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

ねこにゃーは顔を上げて、良く見えないながらも、その男の方を見てお礼を言う。

 

「!?」

 

だが、飛行服の男は、ねこにゃーの顔を見た途端に固まった様な様子を見せる。

 

「? あ、あの?………」

 

「………美しい」

 

ねこにゃーが戸惑っていると、その男はそう呟いた。

 

「えっ?………」

 

更にねこにゃーが困惑の様子を見せた瞬間、飛行服の男はねこにゃーの両手を掴んだ!

 

「私は君の存在に、心奪われたっ!!」

 

そしてねこにゃーに向かってそう言い放つ!

 

「えっ?………!? えええええええっ!?」

 

「こ、告白っ!?」

 

「なのか、アレは?」

 

「まあ、何と大胆な………」

 

「あわわわわっ!?」

 

突然の珍妙かつドストレートな告白に、ねこにゃーは一瞬で真っ赤になり、沙織、麻子、華、優花里も様々なリアクションをする。

 

「乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じられずには要られない………真剣なる交際を所望する」

 

「い、いや、あ、あの………ま、まだ出会ったばっかりで、そ、そんな事言われても………」

 

「私は我慢弱く、落ち着きの無い男なのだよ」

 

「あ、あううう………」

 

ねこにゃーがどれだけ照れようと、1歩も退く様子を見せない飛行服の男。

 

「あのバカ………相変わらずか………」

 

「? 弘樹くん?」

 

とそこで弘樹がそう言ったのを聞いたみほが、弘樹の方を向くが、弘樹はそのまま、飛行服の男に近づく。

 

「そ、そんな簡単に付き合うとか決めちゃっても………」

 

「恋愛に理屈を持ち込むとは、ナンセンスだな!!」

 

「あううう………」

 

「さあ! 返答は如何に!?………!? ぐはっ!?」

 

「いい加減にしろ」

 

そこで、弘樹が飛行服の男の頭を、鞘に入れたままの英霊で思いっきりブッ叩いた。

 

「大丈夫か? ねこにゃーくん?」

 

「あ、ハ、ハイ………」

 

「くうっ! 相変わらず容赦が無いな! 我が盟友!」

 

と、飛行服の男は頭を擦りながら弘樹にそう言って来る。

 

「お前のそう言う所も変わっていないな………六郎」

 

弘樹は若干ウンザリした様子を見せながら、六郎と呼んだ男にそう言う。

 

「知り合いなの? 弘樹くん?」

 

「コイツも小官のかつての戦友だ」

 

「コレは申し遅れた………我が名は『坂井 六郎』。舩坂 弘樹の盟友にして、当学園の戦闘機隊の隊長を務めている」

 

みほがそう尋ねると、弘樹はそう返し、『坂井 六郎』は先程までの様子が嘘の様に、少々時代が掛かった口調ながら、真面目にそう自己紹介をする。

 

「!? 坂井っ!? では、貴方は!?」

 

するとそこで、坂井と言う六郎の名字を聞いた優花里が反応する。

 

「如何にも………我が祖先の名は『坂井 三郎』だ」

 

そんな優花里に向かって、六郎は不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「! 『大空のサムライ』! 『坂井 三郎』!!」

 

それを聞いた優花里は、感激と興奮が入り混じった声を挙げる。

 

 

 

 

 

『坂井 三郎』………

 

大日本帝国海軍の軍人、戦闘機搭乗員でエースパイロットである。

 

その総撃墜数は64機と言われている。

 

各国のエースパイロットのみならず、旧日本軍のエースパイロット達と比べるとやや見劣りする数字に思われるが………

 

議論はあるものの、彼には『1度も僚機を撃墜されなかった』という事と、『乗機を破壊されなかった』と言う逸話が有る。

 

また、硫黄島の防空戦にて、帰還に入ろうとして、誤って敵編隊に合流してしまうと言うミスをやらかしたが………

 

何と15対1と言う絶望的な状況の中で、敵の射撃を全てかわし、帰還に成功したと言う逸話もある。

 

戦後まで生き延びて、後に『大空のサムライ』と言う著書を出版し、世界的にベストセラーとなる。

 

 

 

 

 

「お前もこの学園だったのか………」

 

「如何にも。プラウダ&ツァーリ戦では敵航空機の襲来は無かったので出番を譲ったが、次の戦闘では活躍してみせる。期待していてくれ」

 

弘樹の言葉に六郎はそう返すと、再びねこにゃーの方を見やる。

 

「君にも私と零戦の活躍を見てもらいたいな………」

 

「あ、あうう………」

 

「止めろと言っているだろう」

 

六郎がまたもねこにゃーを口説きに掛かると、弘樹が止めに入る。

 

「色恋沙汰となると兎に角突撃して………日本男児ならば、もう少し落ち着きを見せたら如何だ」

 

「言っただろう………私は我慢弱く、落ち着きの無い男なのだよ。その上、回りくどい事が苦手ときている」

 

そう注意する様に言う弘樹だったが、六郎は悪びれた様子すら見せず、寧ろ当然だと言わんばかりの顔でそう返す。

 

「全く、お前は………」

 

呆れながらも、弘樹が更に注意しようとすると………

 

「あ、あの………さ、坂井さん」

 

そこで、他ならぬねこにゃーが六郎へと声を掛ける。

 

「六郎で結構だ」

 

「あ、じ、じゃあ、六郎さん………あの、その………」

 

しどろもどろな様子を見せるねこにゃー。

 

「や、やっぱり………い、いきなり、こ、交際とかはちょっと………と、『友達』から始めませんか?」

 

「…………」

 

ねこにゃーがそう言うと、六郎はねこにゃーの事をジッと見つめる。

 

「あ、や、やっぱり駄目で………」

 

「その旨を良しとする!」

 

と、不意に敬礼すると、そう言い放つ六郎。

 

「何という僥倖………生き恥を晒した甲斐が、あったというもの!!」

 

「ひゃあっ!?」

 

「止めろ。ねこにゃーくんが驚いているぞ」

 

思わず六郎が歓喜の声を挙げると、弘樹がそう言って押さえる。

 

「クッ! 失礼………欲望が身体の端から滲み出てしまった様だ」

 

「い、いえ………じゃあ、その………今度一緒に、WOPをやりましょうか?」

 

「望むところだと言わせてもらう」

 

そう言ってドヤ顔をする六郎。

 

「………ねこにゃーくん、良いのか? 確かに、コイツは誠実かも知れないが、正直に言わせてもらうと、言動がいちいち奇天烈で、精神的に疲れるぞ」

 

そこで弘樹は、心配そうな表情でねこにゃーに小声でそう言う。

 

「で、でも………好きとか、言われたのって初めてだから………無下にしたくないなって………」

 

ねこにゃーは両手の人差し指を合わせたり離したりしながらそう返す。

 

「………まあ、君が納得しているなら、それで構わないが………」

 

弘樹は諦めた様な表情となり、それ以上は追及しないのだった。

 

「な、何か、凄いモノ見ちゃったね………」

 

「ア、アハハ………」

 

そう言う沙織に、みほは乾いた笑いを返す。

 

「何れにせよ、心強い味方が出来たな」

 

「今度の試合までにはポルシェティーガーの整備も完了するみたいですし、戦力アップは間違いありませんね」

 

そこで、俊と逞巳がそう言い合う。

 

「ポルシェティーガーの随伴分隊には、おおかみさん分隊を移動させるんでしたっけ?」

 

「ああ、歩兵道用のバイクが大量に発注出来たって真田整備部長から報告が有ってな。おおかみさん分隊を完全なオートバイ部隊にする計画を立ててるんだ」

 

清十郎がそう尋ねると、俊がそう返す。

 

「…………」

 

当のおおかみさん分隊の分隊長である白狼は、オートバイ部隊を組織すると聞いて、思う所がある様な表情を見せる。

 

「となれば、新しくアリクイさんチームに着く随伴分隊の人員を集めなければ………」

 

「また補充の募集を掛けますか?」

 

「いや、それには及ばないよ」

 

と、十河と清十郎がそう言い合っていると、迫信が口を挟む。

 

「? 如何言う事ですか? 会長?」

 

「角谷くん、丁度時期じゃないかい?」

 

「ああ、そう言えばそうだねぇ」

 

清十郎が首を傾げると、迫信は杏にそう言う。

 

「? 時期って?………何がですか?」

 

みほがそう尋ねると………

 

「大洗学園艦の………『学園祭』だよ」

 

杏は満面の笑みを浮かべて、そう言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

5回戦試合終了後の光景とハンネス達が所属している学園、『一航専』の紹介をさせていただきました。

そしてまたも英雄の子孫登場。
大空のサムライこと坂井 三郎の子孫です。
キャラのモデルは、見ての通り、あの乙女座のガンデレ武士道仮面です(笑)
彼もまた、大洗機甲部隊の支援部隊として活躍してもらいます。

さて………
次回からは暫く戦車や歩兵から離れて、学園イベントの様子をお送りしたいと思います。
ガルパンは学園物でもありますので、ここらで学園的なイベントもやろうかと思いまして。
一応、新たな歩兵募集の為と関連付けています。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第89話『スクールカーニバル・ウォーです!(準備編・前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第89話『スクールカーニバル・ウォーです!(準備編・前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第5回戦にて………

 

大洗機甲部隊は、昨年の優勝チームである強敵『プラウダ&ツァーリ機甲部隊』を破った。

 

その際に援護・支援に駆けつけてくれたのが、弘樹の戦友である狙撃兵の『シメオン・ヘイヘ』

 

そして、スツーカ爆撃機部隊の隊長『ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル』、『エグモント・ガーデルマン』であった。

 

その後、ハンネスとエグモントは、大洗機甲部隊の航空支援部隊となる自分達の母校………

 

『第一航空専門学校』、通称『一航専』に、大洗機甲部隊の面々を招待する。

 

弘樹はそこでも、かつての戦友………

 

『大空のサムライ・坂井 三郎』の子孫である『坂井 六郎』と再会する。

 

彼もまた、戦闘機部隊を率いて、大洗機甲部隊の支援部隊となってくれたのだった。

 

ナカジマ達・自動車部と敏郎達・整備部が修理しているポルシェティーガーの調整も、次の試合までには完了する。

 

そこで、大洗歩兵部隊は、ポルシェティーガーを駆る新たな戦車チームの随伴分隊におおかみさん分隊を移動させ………

 

新たにアリクイさんチームに随伴する歩兵分隊を結成する為に………

 

三度の歩兵補充を行う事を決定した。

 

丁度その頃………

 

大洗学園艦に………

 

『学園祭』の時期が来ていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・作戦会議室にて………

 

普段は対戦相手である機甲部隊の対策会議が行われているこの場所で、今日は大洗機甲部隊の一同が、和気藹々と言った様子で楽しげに談笑している。

 

「ハイ、ちゅーもーく!」

 

とそこで、巨大モニターの下の、1段高くなっている床の上に居た男子校・女子学園合わせた生徒会メンバーの中で、杏が皆にそう呼び掛け、一同は談笑を止めて正面を見やる。

 

「諸君、先日も説明した通り、予てより調整を進めていたポルシェティーガーの整備が次の試合までには終わる事が確定した。ポルシェティーガーに乗る戦車チームの随伴分隊にはおおかみさん分隊に移動してもらう為、アリクイさんチームに新たに随伴分隊を結成する為にまた歩兵部隊の増員を行うものとするのだが………」

 

「タイミングが良い事に、もうすぐ『学園祭』の時期だ」

 

すると、迫信と俊が皆に向かってそう言う。

 

そう………

 

丁度この時期は、大洗学園艦の学校である大洗女子学園と大洗国際男子校の学園祭の時期なのである。

 

2日間に渡って開催され、初日が大洗女子学園、2日目が大洗男子校が主催校となる。

 

「そこで、2日目の我々男子校が主催校となる際に、大洗機甲部隊として広報活動を行い、部隊員の募集を通知したいと計画している」

 

「つまり、大洗機甲部隊として何か出し物をして、存在をアピールするって事ですね」

 

続いてそう言い放つ十河と清十郎。

 

「え~、と言うワケでして、皆さんに出し物の意見を伺いたいと思います」

 

そして最後に、逞巳が皆に向かってそう尋ねるのだった。

 

「楽しみだな~、学園祭」

 

そこで、一同の中に居たみほが、そんな言葉を漏らす。

 

「そっかぁ、みぽりんは大洗に来てから初めての学園祭だっけ」

 

「黒森峰に居られた頃は如何だったんですか?」

 

そのみほの言葉を聞いた沙織がそう言い、華がそう尋ねる。

 

「黒森峰はそんな派手な学園祭はしなくて………精々、戦車とかの展示とか、機甲部隊の行進パレードとか、音楽隊の演奏とかぐらいで………」

 

「まるで軍隊だな………」

 

余りにも硬派な黒森峰の学園祭の様子を聞いた麻子がそう呟く。

 

「昔行った事ありますけど、私は楽しかったですよ! あのドイツのアニマルシリーズを間近で見られて、もう感激でした!」

 

「ま、まあ、ゆかりんはそうだよね………」

 

その黒森峰の学園祭に行った事が有ると言う優花里が興奮した様子でそう語り、沙織が苦笑いを漏らす。

 

「ウチは如何しましょうか?」

 

「黒森峰を真似るワケではないが、戦車の展示や行進パレードはやるべきだな。最大の目的は我々の存在をアピールする事だからな」

 

楓がそう言うと、弘樹がそう返す。

 

「意見が有れば手を上げて下さ~い」

 

「ハイ!」

 

そこで、巨大モニター前の柚子がそう言うと、了平が勢い良く手を上げた。

 

「あ、ハイ。綿貫くん」

 

「何だか嫌な予感がするなぁ………」

 

すぐに了平を名指しする柚子と、何だか嫌な予感を覚える蛍。

 

「フッフッフッ………何を出し物にするかって? そりゃあ、こんな美少女だらけの機甲部隊でやる出し物って言ったら、1つしかないでしょ」

 

「オイ、了平。まさかメイド喫茶だとか言い出すんじゃないだろうな?」

 

立ち上がると不敵に笑ってそう言い放つ了平に、地市が呆れている様な表情でそう言う。

 

「ノンノン、そんなのもう飽和状態で珍しくも何ともないぜ。全く地市のセンスは古いなぁ」

 

(………ウゼェー)

 

了平が何を馬鹿な事をと言う様に返すと、地市は内心でそう毒づく。

 

「今の世の中で求められているモノ………ソレは!!」

 

「「「「「「「「「「ソレは?」」」」」」」」」」

 

「『水着&バニーガール喫茶! ポロリもあるよ!』だぁーっ!!」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くお待ちください………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し! 改めて大洗機甲部隊による、隊員募集の為の出し物を決めるぞ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~っ!!」」」」」」」」」」

 

桃の声に一同はノリノリな様子でそう返事を返す。

 

「…………」

 

その後方には、ボロ雑巾の様になっている了平が横たわっている。

 

「了平………愚かな………」

 

「気にすんな、アイツの自業自得だ」

 

そんな了平の姿を一瞬振り返って、楓と地市がそう言い合う。

 

「では、意見の有る者は………」

 

「ハイッ!!」

 

桃がそう尋ねると、優花里が勢い良く手を上げて声を挙げた。

 

「お、おう………秋山」

 

その勢いに若干戸惑いながらも、優花里の意見を問う桃。

 

「ズバリ! ミリ飯カフェは如何でしょうっ!?」

 

それに対し、優花里は自信満々でそう言い放つ。

 

「ミリ飯?」

 

「軍隊が軍事行動中に配布される食事………所謂、レーションの事だな」

 

聞き慣れない単語に秀人が首を傾げると、大詔がそう言う。

 

「ハイ! 私の秘蔵のレーションを大放出しますよ! そして藤林教官にも協力してもらい、自衛隊の戦闘糧食も出してもらいましょう!」

 

「え~と………面白いと思いますけど………」

 

「一部の人間しか興味を誘わないと思うぞ」

 

嬉々としてそう語る優花里だったが、清十郎が戸惑いを見せ、俊からはそう言うツッコミが飛んだ。

 

「駄目………ですか?」

 

「申し訳ないでけど………」

 

「そうですか………」

 

優花里はガッカリとした様子で項垂れる。

 

「え~と、他に意見の有る人は………」

 

「射的は如何だ?」

 

と、蛍が別の人の意見を尋ねると、シメオンがそう言いながら手を上げた。

 

「射的か………成程、悪くは無い」

 

「機甲部隊のアピールも出来て、お客さんにも楽しんでもらえそうですね」

 

十河がそう言うと、逞巳もそう同意する。

 

「それで独自性を出す為に、標的は1キロ先に置いて、狙撃射的にしよう」

 

「いやいや! それじゃ誰も狙えねえだろっ!?」

 

本物のスナイパー並みの射撃距離でやろうと言うシメオンに、海音がそうツッコミを入れる。

 

「えっ? 1キロぐらいなら簡単だろ?」

 

「「「「「「「「「「そりゃアンタだけだっ!!」」」」」」」」」」

 

シレッとそう言うシメオンに、大洗機甲部隊の一同は揃ってツッコミを入れるのだった。

 

「まあ、取り敢えず、射的ってのは良いアイデアだから、キープかな? 他に何か有る?」

 

そこで杏がそう言い、シメオンの案をキープしつつ、別の意見はないかと尋ねる。

 

「西住総隊長のサイン会なんてどや?」

 

するとそこで、大河がそんな意見を挙げた。

 

「ふええっ!? わ、私のサイン会っ!?」

 

当の本人であるみほは、驚きの声を挙げる。

 

「せや、西住総隊長は大洗機甲部隊の顔や。容姿もええ線行っとるし、行けると思うで」

 

「大河………西住くんは見世物じゃないんだぞ」

 

そう語る大河だったが、みほが見世物にされる様だと弘樹は、そう苦言を呈する。

 

「お? 何や? やっぱお前さんとしては心配か? 西住総隊長に変な虫が付かへんかと」

 

「そう言う心配をしてるんじゃない………」

 

「照れるんやないで、この色男」

 

「全く………」

 

人の話を聞かない大河に、弘樹は辟易した様子を見せる。

 

「それは………素晴らしいですね~」

 

「ゆかりん、帰って来て………」

 

と、みほのサイン会と聞いた優花里が、目をキラキラとさせてうっとりとしてるのを見て、沙織がそう言う。

 

 

 

 

 

その後も、お化け屋敷、ダンスクラブ、アート展覧、映画上映、プラネタリウムetc………

 

様々な意見が挙がったが、どれも決め手に欠けていた………

 

 

 

 

 

「う~ん………煮詰まって来たねぇ………」

 

中々良いアイデアが出ない事に、杏も流石に苦い顔を見せる。

 

大洗機甲部隊の面々も、しきりに首を捻っている。

 

すると………

 

「あの………劇をやるってのは如何かな?」

 

沙織がオズオズと言った様子で手を上げ、そう提案した。

 

「劇?」

 

「うむ、確かに、学園祭の定番の1つだね」

 

逞巳が反応し、迫信もそう呟く。

 

「うん、それにホラ、それなら皆で出来るし、それで1つの事をやって成功させるって言う団結力を見せたら、良いアピールになるんじゃないかなって………」

 

そう沙織が自論を述べると、大洗機甲部隊の面々がざわめく。

 

「劇………か」

 

「ああ、良いんじゃないのか?」

 

「俺達も楽しめてお客さんも楽しめる。一石二鳥だぜ」

 

「オマケに機甲部隊のアピールになるってんなら、願ったり叶ったりだぜ」

 

そして次々と、劇をやる事に対する賛成の意見が挙がる。

 

「よおし! じゃあ劇に決まりだね! 次はやる内容だけど、コレは私達の方で決めるから、皆は展示に向けて戦車の整備ね」

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

「会長命令だ! お前等とっとと行動しろっ!!」

 

劇の内容は両校の生徒会メンバーで決めると言う横暴な決定に不満を漏らす大洗機甲部隊だったが、桃がそう言い放ち、半ば強引に一同を締め出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

学園祭で展示する為に、今まで以上に綺麗な整備を行う必要があり、更にコレまで試合で酷使して来た事もあり、本日は大洗歩兵部隊の面々を加え、全ての戦車のオーバーホールが行われている。

 

結構広かった戦車格納庫内は、大洗機甲部隊の面々が集結した事もあり、手狭となっていた。

 

「それにしても惜しかったです~………」

 

と、Ⅳ号の砲身を磨いていた優花里が、残念そうにそう呟く。

 

「? 自分の企画が通らなかった事?」

 

そんな優花里に、沙織がそう声を掛ける。

 

「それも有るのですが………西住殿のサイン会の企画が通らなかった事がです」

 

「あ、そっちなんだ………」

 

優花里がそう返すと、沙織は苦笑いを返す。

 

「優花里さん。私はサイン会なんか開く様な大それた人間じゃないよ」

 

当のみほも、優花里に向かってそう言い放つ。

 

「何を仰られるのですか! 素人ばかりだった私達がココまで勝ち進んでこれたのは、間違いなく西住殿の手腕です! 今や他校や戦車道の界隈では注目の的なんですよ!!」

 

すると、優花里はトンでもないと言う様にそう返し、自分の鞄を持って来たかと思うと、そこから1冊の雑誌を取り出す。

 

それは、全国大会中に出版される、月刊・戦車道と月刊・歩兵道の合同誌だった。

 

「ホラ! こんなにも大々的に取り上げられているんですよ!!」

 

優花里はそう言い、その雑誌のとあるページを開いて、みほに向かって見せる。

 

そこには、プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合の時に、索敵の為にキューポラの上に立ったみほの姿を捉えた写真と、『大洗の軍神・西住 みほ』と言う見出しが書かれていた。

 

「おおっ! カッコイイッ!!」

 

「みほさん、凛々しいですね」

 

「正に軍神の貫禄だな………」

 

その写真を見た沙織、華、麻子がそう感想を漏らす。

 

「ふええっ!? こ、こんなの書かれてたの!?」

 

しかし、自分が雑誌の記事になっているなど夢にも思っていなかったみほは、真っ赤になって動揺する。

 

「何だ何だ?」

 

「如何かしたの? みほちゃん?」

 

「あ、それ、月刊・戦車道と月刊・歩兵道の合同誌ですか?」

 

と、その声を聞き付けた地市、了平、楓がみほ達の元へ集まって来る。

 

「ああ、皆さん! 見て下さい! 我等が西住殿の特集記事ですよ!!」

 

即座に優花里は、その3人にもみほの記事のページを見せる。

 

「おお! スゲェッ!!」

 

「みほちゃん、マジ軍神!!」

 

「コレは………凄いですね」

 

途端に地市、了平、楓もそんな感想を漏らす。

 

尚、気になる記事の内容は………

 

『20年ぶりに戦車道・歩兵道の全国大会へと出場して来た大洗女子学園と大洗国際男子校からなる大洗機甲部隊。

 

当初は、戦車の保有台数、歩兵部隊の規模、戦車の車種や装備の種類などもあり、弱小校の記念出場と思われていた。

 

しかし、第1回戦に優勝候補のサンダース&カーネル機甲部隊を撃破。

 

その後も、2回戦にてアンツィオ&ピッツァ機甲部隊………

 

3回戦にて地走機甲部隊………

 

4回戦にて鉱関学園を破り、今大会のダークホースとなったパシフィック機甲部隊………

 

そして先の5回戦では、昨年の優勝チームであるプラウダ&ツァーリ機甲部隊を辛くも撃破。

 

まさかの6回戦進出を果たしている。

 

この偉業に、勝ち進んでいる各校の機甲部隊は、大洗を警戒。

 

今や今大会最大のダークホースとして注目を集めている。

 

この機甲部隊の総隊長を務めているのが西住 みほ………

 

戦車道・歩兵道の名門である黒森峰に在籍経験を持ち、戦車道の本家と言われている西住流の人間である。

 

他校と比べて戦力に置いて圧倒的に寡兵である大洗機甲部隊が、ココまでの快進撃を続けているのは、先の試合で登場した優秀な支援部隊と運もあるが、何より彼女自身の指揮能力の高さが物を言っている。

 

西住流と言えば、圧倒的戦力で相手を蹂躙すると言った正面からの戦いを得意とする流派であるが、彼女の戦い方は西住流のソレとは大分異なる。

 

相手よりも劣った戦力を巧みに操り、様々な作戦や戦術・戦略を駆使している彼女の戦い方は、臨機応変と評するのが相応しい。

 

その為、一部では彼女の戦い方は『大洗・西住流』と呼ばれている。

 

尚、彼女は5回戦の試合後に、西住流の現師範であり、実の母親である西住 しほからお叱りを受けているが、それに反発し、正面からの戦いを宣言。

 

もし、大洗機甲部隊がこのまま勝ち進んだ場合、黒森峰と当たるのは決勝戦となる為………

 

今年度の決勝戦では『西住流VS西住流』の戦いが拝めるのでは、という期待の声も出ている。

 

何れにしても、今年度の最注目チームは、彼女の率いる大洗機甲部隊で間違いないだろう』

 

………と書かれている。

 

他にも『大洗の白い悪魔』、『変幻自在の戦車道』、『鮟鱇マークの死神』、『天才策略家』、『奇跡の西住』、『魔術師みほ』などなど、様々な渾名が付けられている。

 

「い~な~、みぽりん。1人だけこんなに特集されて~。きっと全国からファンレター来ちゃうよ~」

 

一通り記事を読んだ沙織が、みほの事を羨ましがりながらそう言う。

 

「悪魔に死神って………」

 

「まあ、こう言った渾名と言うのは総じて物騒なモノだからな」

 

一方のみほは、付けられていた渾名の中に物騒なモノが有るのを見てショックを受け、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「他にはどんな事が書かれているのでしょうか?」

 

とそこで、他にも何か書かれているのではと気になった華が、雑誌のページを捲った。

 

すると、捲った先のページには………

 

燃え盛る炎を背に、ベルト給弾式の弾薬を身体に巻き付けて、SGMBを持って構えて撃っている弘樹の姿の写真が掲載されていた。

 

周囲にはプラウダ戦車部隊の戦車の残骸と、戦死判定を受けて倒れているツァーリ歩兵部隊の歩兵が転がっている。

 

見出しには、『蘇った英霊・舩坂 弘樹』と描かれている。

 

「! 弘樹くん!」

 

「舩坂くんの記事も有ったんだ!」

 

「まあ、アレだけの活躍をすればなぁ………」

 

それを見たみほと沙織が驚きの声を挙げ、対照的に地市は当然だと言う顔をする。

 

「オノレェ、雑誌で全国デビューだなんて………ファンレター来たら、分けて貰おうかな?」

 

「了平………段々と見境が無くなって来てますよ」

 

すっとぼけた事を言う了平に、楓の毒に入ったツッコミが飛ぶ。

 

尚、弘樹の方の記事の内容はと言うと………

 

『そんな軍神・西住 みほの乗る戦車を守っている随伴歩兵分隊の分隊長である舩坂 弘樹。

 

何と彼は、あの『生きている英霊』と言われた太平洋戦争で活躍し、戦後の日本で歩兵道の普及に努めた伝説の歩兵………

 

『舩坂 弘軍曹』の子孫である。

 

1度死んで蘇ったと言う伝説を持つ舩坂軍曹の子孫だけあり、その活躍ぶりは他の大洗機甲部隊の歩兵と比べて、頭1つ飛び抜けている。

 

第1回戦のサンダース&カーネル機甲部隊の試合では、敵の包囲網を突破し、M2重機関銃を持って構えると言う離れ業を披露。

 

2回戦であるアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の試合では、背後の崖を下ると言う大胆な戦術で相手を攪乱………

 

3回戦、地走機甲部隊との試合では、九七式自動砲でフラッグ車撃破をサポート………

 

パシフィック機甲部隊との4回戦では、あんこうチームを助けて、フラッグ車を単身撃破………

 

そして、5回戦となるプラウダ&ツァーリ機甲部隊の試合では、敵陣に単身潜入し、相手に多大な損害を与えると言う獅子奮迅の活躍………

 

更に、ジョーイ・ミヤギ、フォルゴーレ、蛙、カジキ、ラスプーチンと言った各歩兵部隊のエースに、全て単独にて勝利を収めている。

 

終いには、戦車道に於いては神にも等しい西住流へ宣戦布告。

 

英霊の血を引く者として違わぬ活躍を見せている。

 

彼と西住 みほの率いる大洗機甲部隊の活躍に、私自身も目が離せないのが実情である』

 

………と、記されている。

 

みほと同じく、他にも様々な渾名が付けられており………

 

『大洗の鬼神』、『随伴歩兵(戦神)』、『アンガウルからやって来た亡霊』、『生まれながらのパーフェクトソルジャー』、『異能生存体』、『触れ得ざる者』、『カオスを体現する男』と言ったものがある。

 

「流石は舩坂殿です!」

 

「な、何か舩坂くんだと、物騒な渾名も様になっちゃうなぁ~………」

 

優花里が目をキラキラさせてそう言うと、沙織が苦笑いしながらそう呟く。

 

「? 小官が如何かしたか?」

 

とそこで、交換する部品を持って来た弘樹が、自分の名が呼ばれているのを聞いてそう尋ねる。

 

「あ、弘樹くん………う、ううん、何でも無いよ」

 

「? そうか? ところで、コレは何処に置けば良い?」

 

みほがそう返すと、弘樹は首を傾げながらも、持って来た部品について尋ねる。

 

「あ、うん、コッチにお願い」

 

「了解した」

 

「さて、そろそろ作業に戻ろうぜ」

 

そこで地市がそう言い、一同は改めてⅣ号のオーバーホールへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回より暫く、学園祭編をお届けします。
タイトルも原作のOVAっぽくしてみました。

大洗機甲部隊の出し物は劇。
劇自体はとあるおとぎ話を元にしますが、大幅にアレンジが加えられ、更に戦車道・歩兵道への関係が深くなる予定です。
楽しみにしていて下さい。

で、今回、もしみほや弘樹が雑誌の記事になっていたらと言うのを書いてみました。
如何だったでしょうか?
2人の渾名は前半はそれっぽいものを考え、後半とみほ、弘樹其々に、とあるキャラの渾名を流用してみました。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第90話『スクールカーニバル・ウォーです!(準備編・後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第90話『スクールカーニバル・ウォーです!(準備編・後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦に、文化祭の時期がやって来ていた………

 

間も無くポルシェティーガーの整備が完了するのを聞いた大洗機甲部隊の首脳陣一同は………

 

そのポルシェティーガーを駆る戦車チームの随伴分隊となるおおかみさん分隊に代わって、アリクイさんチームの随伴歩兵部隊を組織する為………

 

3度目となる歩兵部隊増員を決定。

 

学園祭にて大洗機甲部隊の一同で演劇を行い、大洗機甲部隊の存在をアピールすると共に、歩兵の新規募集を掛ける事とした。

 

そして、その演劇の内容は、杏達と迫信達………

 

両校の生徒会メンバーに半ば強制的に委ねられていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭での出し物が決まった翌日………

 

大洗国際男子校・作戦会議室にて………

 

「劇の内容が決まったよ~!」

 

「はやっ!?」

 

杏が集まった大洗機甲部隊の一同に向かってそう言い放つと、沙織がそう声を挙げた。

 

何せ、文字通りに昨日の今日である。

 

「いや~、実は今度の学園祭で生徒会主導でやろうと思ってた劇が有ってさ。それに迫信達からの意見を取り入れて配役決めたりしたから、案外早く済んだよ」

 

「結局、何から何まで生徒会が考えたのかよ………」

 

「まあまあ、白狼。会長閣下や角谷さんが考えたんですから、悪い様にはならないと思いますよ」

 

一方的に決められた事に、白狼が不満の声を漏らすが、飛彗が宥める。

 

「あの~、それで一体どの様な演目になったのでしょうか?」

 

と、そこで華が手を上げながら改めてそう尋ねる。

 

「話自体は、西洋の童話を基にするんだけど………」

 

「舞台を昔の大洗って事に変更するから、それに伴って西洋風を和風に直して行く。また日本史の要素を取り入れる予定だ」

 

「言うなれば、『和風童話』って感じかな?」

 

すると、柚子、桃、蛍がそう答える。

 

「和風童話か………」

 

「結構斬新かも知れないなぁ」

 

「で、その基になるって童話は?」

 

鷺澪と重音がそう言い合い、磐渡がそう質問する。

 

「うむ、元にする童話は『眠れる森の美女』だ」

 

「! 『眠れる森の美女』!!」

 

迫信から基になる童話を聞かされ、沙織が思わず声を挙げる。

 

「呪いによって茨に閉ざされていたお城で永い眠りについて居たお姫様が、助けに来た王子様のキスで目覚める………ああ~~、女の憧れだよ~~!」

 

「好きそうだな、お前は………」

 

両手を頬に当ててトリップしている様な様子を見せる沙織に、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「それで、その『眠れる森の美女』を如何アレンジするんですか?」

 

「うむ、それはだね………」

 

光照が尋ねると、迫信がいつもの扇子で口元を隠すポーズで説明を始める………

 

 

 

 

 

『眠れる森の美女』は物語のパターンが幾つかあるが、今回はその中から幾つかを選び、合成した話の構成となる………

 

あるところに子どもを欲しがっている国王夫妻がいた。

 

漸く女の子を授かり、祝宴に一人を除き国中の12人の魔法使いが呼ばれ、魔法使いは1人ずつ、魔法を用いた贈り物をする。

 

宴の途中に、1人だけ呼ばれなかった為に怒った13人目の魔法使いが現れ、11人目の魔法使いが贈り物をした直後に『王女は錘が刺さって死ぬ』という呪いをかける。

 

しかし、まだ魔法をかけていなかった12人目の魔法使いが、これを修正し『王女は錘が刺さり眠りにつく』という呪いに変える。

 

呪いを取り消さなかったのは修正以外不可能だった為である。

 

王女を心配した王は、国中の紡ぎ車を燃やしてしまう。

 

更に、王女を安全の為に、12人の妖精の元へと預ける。

 

しかし、王女が15歳の時に成長し、漸く城へと戻り、城の中を歩いていると、城の塔の一番上で13人目の魔法使いが化けていた老婆が紡いでいた錘で手を刺し、眠りに落ちる。

 

呪いは城中に波及し、城の者達の時は止まり、茨が繁茂して誰も入れなくなった。

 

侵入を試みた者もいたが、鉄条網のように絡み合った茨に阻まれ、入ったは良いがその茨の城の番人となっていた13人目の魔法使いを突破出来ずに皆落命した。

 

やがて………

 

近くの国の王子が噂を聞きつけ、城を訪れる。

 

12人の妖精の加護を受けた王子は、茨を切り裂き、13人目の魔法使いを退け、王女の元へと辿り着き、その唇にキスをする。

 

すると、王女と白は目を覚まし、止まっていた城の者達の時も動き始め、茨も無くなった。

 

2人はそのまま結婚し、幸せな生活を送ったのだった。

 

 

 

 

 

コレをアレンジし………

 

舞台を昔の大洗とし、国王夫妻を華族の夫妻。

 

12人の魔法使いを巫女で、13人目の魔法使いは呪術師。

 

そして王子は、若き陸軍少尉にする、との事である。

 

 

 

 

 

「てな感じかな?」

 

「何か、和風童話と言うより、大正ロマン童話ですね」

 

迫信の説明が終わると杏がそう言い、誠也がツッコミを入れる様にそう言う。

 

「まあ、良いじゃん。楽しければさあ」

 

「学園祭でやる劇だし、少しくらいブッ飛んだ設定でも和気藹々とやれれば、それで良いんじゃないか?」

 

それに対し、杏があっけらかんとそう返し、重音も同意する様にそう言う。

 

「んじゃ、肝心要の主役とヒロインだけど………舩坂ちゃんと西住ちゃん、お願いね」

 

そこで、杏が主役とヒロインに弘樹とみほを指名。

 

「!? ふええっ!?」

 

「小官が………ですか?」

 

みほは仰天の声を挙げ、弘樹も困惑した様子を見せる。

 

(わ、私がヒロイン!? と言う事は、弘樹くんと………)

 

キスシーンがある事を思い、自分と弘樹がそのシーンを演じるのを妄想して真っ赤になるみほ。

 

「あの、角谷会長。小官は芝居の経験などありませんし、客受けする様なモノは持ち合わせておりません。誰か他の者に………」

 

一方弘樹の方は、自分は主役などと言う大層な役には相応しくないと思い、辞退の声を挙げようとしたが………

 

「舩坂くん………申し訳無いが、コレは生徒会からの命令だと考えてくれたまえ」

 

迫信がそう言い、弘樹の言葉を遮る。

 

「………御命令とあらば」

 

命令と言われては弘樹は逆らえず、少々納得が行かない様子を見せながらも黙り込んだ。

 

「他の役に付いては追々発表する」

 

「皆、戦車の整備とかと並行で進めるから大変かも知れないけど、頑張ってね。ひょっとしたら、今年が最後の学園祭になるかも知れないから………」

 

桃がそう言った後、柚子がそう言いながら思わずそんな言葉を漏らす。

 

「! 柚子ちゃん!」

 

「!? あっ!?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

蛍が気付いて指摘すると、柚子はハッとして口を押えたが、既に大洗戦車チームのメンバー全員の表情には影が差している。

 

「ゴ、ゴメンなさい! 私………」

 

「小山副会長。それは違います」

 

柚子が慌てて何か言おうとしたところ、弘樹がそう言いながら立ち上がった。

 

「!? 舩坂くん!?」

 

「!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

驚きの声を挙げる柚子に呼応する様に、みほと大洗機甲部隊の一同は弘樹に注目する。

 

「我々は今大会にて優勝し、大洗女子学園の廃校を阻止し、来年も再来年も………我々が全員卒業したとしても、後輩達が学園祭を続けて行くでしょう」

 

演説するかの様にそう語る弘樹。

 

根拠は無く、只の決意表明と取れる言葉だが………

 

「………そうだな、弘樹の言う通りだ」

 

「絶対に優勝してみせます!!」

 

「大洗女子学園は無くならないよ!!」

 

「後輩達に学園祭を続けさせるんだ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「その通り!!」

 

その言葉は、大洗機甲部隊のメンバー全員の心に響き渡り、そんな声が挙がり始める。

 

「舩坂くん………」

 

「フグッ!!………」

 

柚子はその様子に涙ぐみ、桃は嗚咽を漏らしかける。

 

「柚子ちゃん、桃ちゃん………」

 

「…………」

 

蛍はそんな2人の肩に手を置き、杏は何時もの不敵な笑みではなく、優しい笑みを浮かべていた。

 

「うむ、皆素晴らしい気概だ。実に素晴らしいね。そんな君達………特にサンショウウウオさんチームにとって喜ばしいお知らせが有る」

 

するとそこで、迫信が大洗機甲部隊メンバーの中に居るサンショウウオさんチームの面々を見ながらそう言う。

 

「えっ?」

 

「私達に………ですか?」

 

「何だろう~?」

 

「「「「「「「??」」」」」」」

 

突然の指名に、サンショウウオさんチームのメンバーは首を傾げる。

 

「実は学園祭1日目の大洗女子学園主催の方のイベントで、サンショウウオさんチームにライブをやってもらう積りなんですが………」

 

「そのライブに、本物のアイドルをゲストとして招待する事になった」

 

「!? ええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」

 

「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」

 

清十郎と俊がそう言い放った瞬間、聖子は仰天の声を挙げ、他のメンバーも驚愕を露わにする。

 

「ほほほほほほほ、本物のアイドルって………」

 

「まさか………ホントなんですか!?」

 

まだ動揺が収まらない様子で、聖子と優がそう尋ねる。

 

「フッ、この程度の事、我々生徒会にとっては造作も無い事だ………」

 

「いや~、ホント奇跡的にオファーが取れましてねぇ」

 

「オイ!」

 

十河が自慢する様にそう言うが、逞巳がそう言ってしまい、台無しとなる。

 

「本物のアイドルと会える………」

 

「あわわ、ドキドキするにゃ」

 

明菜と満理奈が、今からどきどきした様子でそう言い合う。

 

「オイ、そのゲストに招くアイドルってのは、誰なんだ?」

 

とそこで、唯が最大の疑問をぶつける。

 

「うむ、ゲストに招待しているアイドルは………」

 

「『346プロダクション』の『シンデレラプロジェクト』のアイドルグループ………『ニュージェネレーションズ』だよ」

 

「!? ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~っ!?」

 

「「「「「「「「「?!?!?!」」」」」」」」」

 

その問いに、迫信と杏がそう返した瞬間、またも聖子は仰天の声を挙げ、他のメンバーも驚愕を露わにする。

 

「『ニュージェネレーションズ』って………あの『ニュージェネレーションズ』!?」

 

「嘘………」

 

「まあ………」

 

郁恵がそう言い、静香と早苗は言葉も出ない様子である。

 

「ノーラムの刻、最も活躍して存在する世界を希望へと導く天使騎士団………(訳:今、最も活躍しているアイドルグループ)」

 

今日子もまさかのゲストに固まっている。

 

「ニュージェネレーションズって、確か『島村 卯月』、『渋谷 凛』、『本田 未央』の女子3人のグループだよな」

 

「皆かわい子ちゃんばっかりじゃねーか!」

 

「実は俺、大ファンでさ。CD全部持ってんだ」

 

「ウチの学園艦の学園祭に来てくれるなんて………感激だぁっ!!」

 

一方、歩兵部隊の面々の中にもファンが多数居り、感激の声を挙げている。

 

「………西住くん。その『ニュージェネレーションズ』と言うのは相当な人気のアイドルなのか?」

 

しかし、そう言った事に疎い弘樹は、良く分かってない様でみほにそう尋ねる。

 

「私も詳しくは知らないけど、よくテレビや雑誌で取り上げられてるのは確かだね」

 

「うむ………」

 

「本物のアイドルに会える………しかも、あの『ニュージェネレーションズ』に………感激~っ!」

 

みほと弘樹がそう言い合っていると、聖子がそう声を挙げた。

 

「一体どの様な手を使ったのでしょう?」

 

「まあまあ優ちゃん。そんな事を考えるより、今はライブを一緒に出来る事を喜ばないと」

 

一方優は、迫信や杏達が一体如何やってそんな人気のアイドルグループにオファーを取り付けたのかが気になるが、伊代にそう言われる。

 

「良いか! 今回のライブでは『ニュージェネレーションズ』は飽く迄ゲストだ! 主役は本校のスクールアイドルであるお前達だ! 学校の名に恥じないライブにしろっ!!」

 

とそこで、桃がサンショウウオさんチームに向かって釘を刺す様にそう言い放つ。

 

「河嶋先輩の言う事も最もです」

 

「本物のアイドルが来るんなら、それに負けないくらいのパフォーマンスをしないとにゃ」

 

明菜と満理奈が、そう言って桃の言葉に同意する。

 

「戦場で生きてきた私とその眷属が伝説に語られし大聖廟を司令官滅ぼす魔導兵舎道化師(ピエロ)なのです………そして、全てを守りたかった………それ故に(訳:私達がこの学園を代表するスクールアイドルなのですから)」

 

今日子も、最早暗号染みて来た中二病台詞でそう言う。

 

サンショウウオさんチームを中心に、大洗機甲部隊のテンションは最高潮に達しようとしていた。

 

「盛り上がってくれた様で何よりだ」

 

「それじゃあ早速! 劇の練習開始だよーっ! サンショウウオさんチームはライブまでにもっとレッスンを宜しくね!」

 

そんな大洗機甲部隊の一同を見て、迫信がそう言うと、杏が皆に向かってそう呼び掛け、拳を握った右腕を突き上げる。

 

「「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊からは、勇ましい声が湧き上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

大洗女子学園・戦車格納庫内にて………

 

整備部のメンバーが小一時間で作ってくれた練習用ステージセット上で、大洗機甲部隊メンバーによる演劇・『眠れる森の美女』の練習が行われていた………

 

「い、何時も夢に出て来る、あ、貴方………ああ、あ、貴方は、い、一体? ど、何方なのですか?」

 

巫女達によって神社に(原作では妖精達によって森に)匿われている時の娘に扮しているみほが、ガチガチに緊張した様子で、詰まりながら台詞を読み上げる。

 

「カットーッ!!」

 

「みぽりん、緊張し過ぎっ!!」

 

それを見た経験を活かして今回の劇の監督を務めている鋼賀からカットの指示が飛び、沙織がみほにそう言う。

 

「ゴ、ゴメン………こういうの初めてだから………」

 

「だからと言って、練習でそんなに緊張していたら、本番は如何なるんだ?」

 

みほが申し訳なさそうにそう言うと、麻子がそう言い放つ。

 

「はうう………」

 

「う~ん、西住さんはちょっと休憩入れよう。舩坂くん! 今度は君が演技してくれるかい!」

 

「了解………」

 

するとそこで、鋼賀がそう言い、陸軍少尉の恰好をした弘樹が、舞台上に現れる。

 

(わあ、弘樹くん………カッコイイ………)

 

その陸軍少尉の恰好をした弘樹の姿に、みほは見惚れてしまう。

 

「じゃあ、シーン27の台詞を!」

 

「………おお、麗しの方よ。貴方は一体何処の誰なのですか?」

 

「「「「「「「「「「ズコーッ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹が言われたシーンの台詞を読み上げた瞬間、その場に居た一同が一斉にズッコケた。

 

何故なら、弘樹の台詞が恐ろしいくらいに棒読みだったからである。

 

「弘樹! 幾らなんでもそりゃ酷過ぎんだろ!」

 

「………言っただろう。芝居の経験など無いと………」

 

地市がそうツッコミを入れると、弘樹は珍しく若干不機嫌そうな様子を見せて目を反らした。

 

「ま、まあ、当日までまだ時間が有る………みっちりと練習して、上手くなってもらうしかないな」

 

鋼賀は仕切り直す様にそう言う。

 

「よ~し! じゃあ初めからやり直しだ! セットを変えてくれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「よし来たーっ!!」」」」」」」」」」

 

続いてそう言い放つと、整備部のメンバーが、某コント番組よろしく、物凄い速さでセットを組み替えて行く。

 

「………ハア~~」

 

そのセットの組み替えを待っている最中、弘樹はまたも珍しく、疲れた様な溜息を吐く。

 

「大丈夫? 弘樹くん?」

 

とそこで、みほがそんな弘樹に声を掛ける。

 

「ああ、西住くん………今回ばかりは小官には少しばかり荷が重い気がするよ。コレなら250輌の戦車部隊に単身挑めと命令された方がまだマシだ」

 

「そ、そう………」

 

マシだと言った命令の方がかなり危険な事な為、みほは思わず苦笑いする。

 

「全く………如何したものか………」

 

「…………」

 

弱音を吐く様な様子の弘樹を見やるみほ。

 

とそこで不意に、弘樹の手を握った。

 

「? 西住くん?」

 

「頑張ろう、弘樹くん。私も初めての事で色々と大変だけど、こうやって皆が1つの事に打ち込むって大切な事だと思うから………だから、頑張ろう!」

 

思わずみほの方を見た弘樹に、みほは笑みを浮かべて激励する。

 

「…………」

 

その眩しささえ覚える笑顔に、弘樹は一瞬見惚れる。

 

「………そうだな。皆が頑張っているのに、コレでは申し訳が立たんな」

 

やがて、軍帽を被り直してそう言う。

 

「ありがとう、西住くん。お蔭で大切な事に気付けた」

 

「ううん、気にしないで………あ、それから」

 

「?」

 

そこでみほが更に何かを言おうとして、弘樹は首を傾げる。

 

「わ、私だけ弘樹くんの事を名前で呼ぶって言うのは不公平だから、弘樹くんも、その………わ、私の事、な、名前で呼んでくれないなぁって………」

 

しどろもどろになりながら、顔を赤くして弘樹にそう言うみほ。

 

「それは………確かにな」

 

一瞬考える様な素振りを見せた後、みほの言葉に同意する弘樹。

 

「では、作戦時はコレまでと同じ様に西住総隊長と呼ばせてもらうが、普段は………『みほくん』で良いか?」

 

「! うん!!」

 

弘樹に名前で呼ばれ、みほは満面の笑みを浮かべるのだった。

 

「………やはりあの2人を主役とヒロインにしたのは正解だった様だね」

 

「だね~」

 

そんな2人の様子を見て、迫信と杏がそう言い合う。

 

「ワン、ツー! ワン、ツー! 頑張って行こーっ!!」

 

「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」

 

更に、別の一角では、本番のライブに向けて、何時も以上に入念にレッスンを行っているサンショウウオさんチームの姿が在ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗機甲部隊が行う劇は『眠れる森の美女』となりました。
作中でも言った通り、和風アレンジ………と言うか、大正ロマンアレンジが加えられます。
ドタバタ劇になる事は間違いなしです(笑)
ま、見て笑っていただければ幸いかと。

そして、今回の学園祭編にて、他作品よりゲストをお招きします。
アイドルマスター・シンデレラガールズから、『島村 卯月』、『渋谷 凛』、『本田 未央』の『ニュージェネレーションズ』がゲスト出演します。
………最も、メインとなるのは彼女達と言うより、『あのプロデューサーさん』になる予定です。
アイマス界隈だけでなく、各所でかなりの人気を誇っているあの人………
実を言う私も、『彼』の存在があったのでシンデレラガールズのアニメを視聴していました。
是非とも大洗機甲部隊………
特に弘樹と絡ませたいと思いまして。
多分、この作品の特色として、硝煙と火薬の臭いが漂う事となるので、予め御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第91話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート1)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第91話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート1)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポルシェティーガーを駆って新たに参戦する事となった自動車部メンバー。

 

その随伴歩兵分隊にはオートバイ部隊化したおおかみさん分隊が付き、新たにアリクイさんチームに付く随伴分隊を組織する為………

 

大洗機甲部隊は、丁度時期となっていた学園祭にて………

 

大洗男子校主催時に、演劇で『眠れる森の美女』を演じ、大洗機甲部隊の存在と新規歩兵隊員募集をアピールしようと計画する。

 

更に、両校生徒会の尽力により………

 

大洗女子学園側が主催時に行うサンショウウオさんチームのライブの際に………

 

ゲストとして、芸能界で活躍している本物のアイドル………

 

『346プロダクション』の『シンデレラプロジェクト』のアイドルグループ………『ニュージェネレーションズ』を招待する事となった。

 

本物のアイドルに負けないパフォーマンスを見せる為に、レッスンに熱が入るサンショウウオさんチーム。

 

他の大洗機甲部隊のメンバーも、主役とヒロインに選ばれた弘樹とみほを中心に、演劇の練習に励む。

 

そして、遂に………

 

大洗女子学園側が主催となる、学園祭の1日目が訪れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園敷地内………

 

『本日は、大洗女子学園の学園祭に御出で下さいまして、誠にありがとうございます。心行くまで楽しんで行って下さい』

 

学園祭の開始を告げる昼花火の音が鳴り響く中、校内放送用のスピーカーから、蛍の声でそうアナウンスが流れる。

 

その直後に、今回の大洗学園艦の学園祭に協力してくれている一航専の戦闘機部隊が、大洗女子学園の上空で航空ショー宜しく、スモークを放射しながら編隊飛行やアクロバット飛行を披露している。

 

「おおー! すっげーなぁっ!!」

 

その様子を見た地市がそう漏らす。

 

「流石は坂井だ。相変わらず良い腕をしている」

 

とそこで弘樹は、その上空を飛んでいる戦闘機部隊の中で、僚機を2機連れている零戦二一型を見て呟く。

 

「分かるんですか? 舩坂さん」

 

「アイツとも長い付き合いだからな」

 

遥か上空を飛んでおり、尚且つ高速で動き回っており、同じ機種も複数存在する中で、正確に六郎の機を捉えた弘樹に楓がそう尋ね、弘樹はそう返す。

 

「流石ですね………」

 

「ビバ! 学園祭!! 普段は戦車格納庫付近しか行けないから、遂に堂々と女子校の中へ入れる! 俺………生きてて良かったっ!!」

 

とそこで、了平が滝の様な涙を流しながら、堂々と女子校の中へ入れる事に感激している。

 

「「…………」」

 

通行人の痛々しい視線が集まるそんな了平の姿に、地市と楓は他人のフリをする。

 

「了平………今日我々は客として大洗女子学園に招かれている。しかし、大洗歩兵部隊、引いては大洗男子校の生徒として………いや、日本男児としてあるまじき行動を取った場合は………分かっているな?」

 

そんな了平に向かって、弘樹は外套(マント)から英霊を覗かせ、鯉口を切ってそう言う。

 

「!! ハハーッ! 了解であります! 分隊長殿ーっ!!」

 

途端に顔を真っ青にした了平は、気を付けをして敬礼する。

 

「分かれば良い………」

 

それを聞いて、弘樹は英霊を鞘に完全に納めると、外套(マント)で隠す。

 

「オイ、コイツの事はアレだが、今日は折角の学園祭だ。物騒な事は無しにしようぜ」

 

とそこで、地市が弘樹にそう言う。

 

「アレって何だよ?」

 

「貴方が一番分かってるんじゃないんですか、了平」

 

了平がアレ呼ばわりされた事に不満そうにするが、楓がそう毒づく。

 

「………みほくん達の所へ行ってみるか」

 

とそこで、弘樹はみほ達の教室へと向かう。

 

「あ、オイ、待てよ!」

 

「舩坂さん」

 

「オイ、抜け駆けか、この野郎!」

 

それに慌てて付いて行く地市、楓、了平だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・普通Ⅰ科A組の教室の前………

 

「あ! 弘樹くん!」

 

「やっほー、地市くん」

 

「ようこそ、御出で下さいました」

 

「いらっしゃいませ!」

 

如何やら、彼女達のクラスではお化け屋敷をやっているらしく、弘樹達は教室の前で、悪魔に扮したみほ、ドラキュラに扮した沙織、番町皿屋敷のお菊さんに扮した華、そして狼男に扮した優花里に迎えられる。

 

「うおおっ!? 何て可愛いお化け達なんだ!………!? イデッ!?」

 

「和洋折衷だな、オイ」

 

そのみほ達の姿を見て歓喜の声を挙げる了平に拳骨を見舞いながら、地市がそうツッコミを入れる。

 

「良いの良いの。こういうのは楽しんだ方が勝ちなんだから」

 

「確かに、そうですね」

 

そのツッコミに沙織がそう返すと、楓が同意する。

 

「アレ? 秋山は確か別のクラスじゃなかたっけ?」

 

とそこで地市が、別のクラスの筈の優花里がみほ達と一緒に居る事を指摘する。

 

「いや~、それが………」

 

「麻子がお化け屋敷になんか居られるかって逃げ出しちゃって、ヘルプで来てもらったの」

 

優花里に代わる様に、沙織がそう説明する。

 

「そう言えば彼女、幽霊が苦手だって言ってましたね」

 

以前に戦車を捜索した際に、学園艦内で遭難した沙織達を助けに向かった時の事を思い出し、楓がそう言う。

 

「冷泉さん、お化け屋敷をやるのには最後まで反対していましたからね………」

 

華がそう言い、頬杖を付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その麻子はと言うと………

 

「………コレは陰謀だ………皆で私を嵌めようとしているんだ………」

 

「それは兎も角として………何でそれで僕の所に来るんだい?」

 

大洗女子学園敷地内の駐車場に駐車していた煌人の指揮車の中の簡易ベッドで横になり、愚痴る様にそう呟いていた。

 

「沙織達はお化け屋敷を手伝ってる………他に行ける場所が此処しかなった………此処が1番落ち着く………」

 

「何?」

 

「………別に深い意味は無い」

 

と、そう言うと、麻子は煌人から視線を反らす様に寝返りを打つ。

 

そしてそのまますぐに、規則正しい寝息が聞こえて来た。

 

「………やれやれ」

 

そんな麻子に、煌人は掛け布団を掛けてやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗女子学園・校舎………

 

普通Ⅰ科A組の教室の前にて………

 

「弘樹くん、入ってく?」

 

みほが弘樹の事をお化け屋敷へと誘う。

 

「いや、小官は遠慮しておく」

 

しかし、意外にも弘樹からはそんな答えが返って来た。

 

「おっ? 何だ、弘樹。お前実はお化けが怖いのか?」

 

そんな弘樹の姿を見た了平が、からかう様にそう言うが………

 

「いや、小官がこういった所に入ると………何故か脅かす側の人間が怖がって出て来なくなってな」

 

「あ、そうですか………」

 

弘樹がそう返したのを聞いて言葉を失う。

 

(確かに、アイツの顔を暗闇でいきなり見たら幽霊よりビビリそうだな………)

 

そして地市は、弘樹の言葉に何処か納得が行っている様な顔をする。

 

「あ、西住さん、武部さん、五十鈴さん、秋山さん。そろそろ休憩入って良いよ」

 

とそこで、お化け屋敷の中から座敷童に扮した生徒が姿を見せ、みほ達にそう言って来る。

 

「えっ? 良いんですか?」

 

「うん、ちょっとお客さんの入りも安定して来たから。それに、その人達、男子校の歩兵道の人達でしょ? 折角の学園祭なんだから、付き添ってあげなよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

座敷童に扮している生徒にお礼を言うみほ。

 

「良いって良いって。じゃあ歩兵道の皆さん。ごゆっくりとね~」

 

そう言うと、座敷童に扮している生徒は手をヒラヒラと振ってお化け屋敷の中に戻って行った。

 

「じゃあ、弘樹くん。着替えて来るから、校舎の入り口で待ってて貰っても良いかな?」

 

「了解した。校舎の入り口で待機している」

 

みほは弘樹にそう言うと、沙織達と着替えに向かい、弘樹達は一旦校舎の入り口へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・校舎の入り口………

 

校舎の入り口でみほ達を待つ弘樹達。

 

するとそこへ………

 

「やあ、どうも、舩坂さん」

 

そう言う台詞と共に、飛彗を先頭に、白狼、海音、豹詑が現れる。

 

海音と豹詑は、模擬店で買ったと思わしきたこ焼きやらお好み焼き、焼きそばを手にして食している。

 

「宮藤くん達か」

 

「やれやれ、折角の祭りでお前と出くわすとわな………」

 

白狼がウンザリした様子を見せながらそう言う。

 

「白狼、そんな事を言うものじゃありませんよ………皆さんは、コレから模擬店巡りですか?」

 

「まあ、そんなところだ………」

 

と、飛彗の言葉に弘樹がそう返していると………

 

「お待たせ、弘樹くん」

 

「! 神狩殿!?」

 

「アレ? 神狩くん達、何時の間に?」

 

着替えを終えたみほ達がやって来て、優花里と沙織が、白狼達の姿を見てそう声を挙げる。

 

「ああ、皆さん………今さっき出会ったんですよ」

 

「まあ、そうでしたか。コレから一緒に学園祭を見て回ろうとしていたのですが、宜しければ御一緒しませんか?」

 

飛彗がそう言うと、華は一緒に学園祭を見て回ろうと提案する。

 

「「「…………」」」

 

するとそこで、楓、海音、豹詑の3人が、弘樹とみほ、地市と沙織、白狼と優花里、飛彗と華の組み合わせを見て、一瞬何かを考えた後、無言で顔を見合わせて頷き合った。

 

「良いね良いね! やっぱ学園祭は女の子と回らないと………!? ぐえっ!?」

 

と、1人勝手にテンションを上げていた了平を、海音と豹詑が抑え込む。

 

「いやいや、あんまり大人数じゃ却って不便だろ」

 

「ココは何組かに分かれて行こうやないけ。ワイ等はワイ等で楽しんで来るさかい」

 

了平を抑えたまま、海音と豹詑がそう言う。

 

「ちょっ!? 何勝手なこと言って………!? むぐっ!?」

 

「舩坂さん達は西住さん達と楽しんで来て下さい。それじゃあ、行きましょうか、皆さん」

 

不満を言おうとした了平の口を楓が塞ぎ、そのまま3人は、了平を引き摺る様に離れて行く。

 

「ちょっ!? 待て! 俺の! 俺のアバンチュールがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

了平の叫びが、ドップラー効果で遠ざかって行く。

 

「アイツ等、あんなに仲良かったか?」

 

そんな4人を見送った白狼が、そう疑問を呈す。

 

「(ありがとう、大空くん、江戸鮫くん、日暮くん)じゃあ、折角だし、ココはペアになって其々回ろうか。私は地市くんと行くね」

 

「お、おう」

 

と、4人の計らいを悟った沙織が、そう言って地市の傍に寄る。

 

「じゃあ、私は飛彗さんとご一緒させて貰いましょうか」

 

「ええ、構いませんよ」

 

華もそう言い、飛彗の傍に寄る。

 

「か、神狩殿! よ、宜しければ、御一緒させていただけないでしょうか!?」

 

そこで優花里も、白狼に向かってそう問い質す。

 

「ああ? お前と?………」

 

「だ、駄目ですか?」

 

白狼から帰って来たのが気だるそうな声だったので、優花里は落ち込んだ様子を見せる。

 

もし、彼女に犬の耳と尻尾が有れば、間違い無く垂れているだろう。

 

「………まあ、良いぜ。飛彗達も別に回るみたいだし」

 

「! あ、ありがとうございますっ!!」

 

しかし、白狼は一瞬考える素振りを見せた後にそう言い、それを聞いた優花里は思わず敬礼した。

 

「(頑張れ、ゆかりん)じゃあ、行こうか、地市くん!」

 

「あ、オイ、待てよ、沙織」

 

そこで沙織が心の中で優花里に激励を飛ばすと、雑踏を目指して歩き出し、地市がそれを追う様に歩き出す。

 

「では、僕達も行きましょうか」

 

「ハイ」

 

それに続く様に、飛彗と華も歩き出し、人混みの中へと消えて行く。

 

「か、神狩殿! 私達も………」

 

「…………」

 

続いて優花里も白狼に声を掛けて歩き出そうとしたが、白狼は既にその場から離れて行っていた。

 

「ああ! 待って下さい、神狩殿ーっ!!」

 

優花里は慌てて、そんな白狼の後を追って行く。

 

「あ、優花里さん!………」

 

「何時の間にやら、小官達2人だな………」

 

みほはそんな優花里の背に声を掛けたが届かず、何時の間にか2人っきりになった状態に弘樹がそう呟く。

 

「えっ?………! あ、ああ、そうだね! うん!………(もしかして、沙織さん達………)」

 

そこでみほは若干顔を赤くして、沙織達の意図を察する。

 

「じ、じゃあ! わ、私達も行こうか?」

 

「そうだな………」

 

みほからそう呼び掛けられると、弘樹は歩き出そうとする。

 

(………折角沙織さん達が気を利かせてくれたんだ。頑張らないと)

 

とそこで、みほはそう決心する様に思いやると、歩き出した弘樹に追い付き、その手を握った。

 

「? 如何した?」

 

突然手を握って来たみほに、弘樹は怪訝な顔を向ける。

 

「ひ、人が多いし、逸れない様にと思って………」

 

みほは若干不安げに、弘樹に向かってそう言う。

 

「………そうだな」

 

弘樹は一瞬間を置くと、みほの手を握り返した。

 

「ありがとう………じゃあ、行こうか」

 

「ああ………」

 

それを受けて笑みを浮かべたみほがそう言い、2人は学園祭中の大洗女子学園内を巡り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

分かれて行ったメンバーの内、白狼と優花里は………

 

「しっかし、女子校の学園祭だけあって、ファンシーな店が多いな………」

 

立ち並ぶ模擬店に、何かしらなファンシーな要素が入っているのを見て、白狼がそう呟く。

 

(はわわわ! 如何しましょう!? 西住殿と舩坂殿を2人にしてあげようとしたばかりに、白狼殿と2人で学園祭を回る事にぃっ!!)

 

しかし、優花里はそんな白狼の言葉も耳は入らないくらいに緊張していっぱいいっぱいであった。

 

「オイ、如何した?」

 

「!? ひゃあっ!? な、何がでありますか!?」

 

と、そこで不意に白狼から声を掛けられ、優花里は悲鳴の様な叫びを挙げながら返事を返す。

 

「何かさっきからソワソワして落ち着かねえみてぇだからよ」

 

「そ、そそそ、そんな事ないであります!」

 

「何処がだよ………」

 

思いっきりテンパっている様子でそう返す優花里に、白狼は呆れた様な顔しながらそう言う。

 

すると………

 

「さあさあ! 寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい!」

 

「当たるも八卦! 当たらぬも八卦! カエサルの相性占いぜよ!」

 

「ん?」

 

「あの声は………」

 

聞き慣れた声が聞こえて来て、白狼と優花里がその声がした方向を見やるとそこには………

 

易者の恰好をして『占』の文字が書かれたテーブルに付いて居るカエサルの前で、鎧武者姿の左衛門佐と、新撰組姿のおりょうが客引きを行っていた。

 

「カエサルさん、左衛門佐さん、おりょうさん」

 

「おお、グデーリアンか」

 

「神狩殿も一緒かぜよ」

 

優花里が声を掛けると、左衛門佐とおりょうがそう返す。

 

「お前、占いなんか出来たのか?」

 

「八卦の応用だ。軽い相性ぐらいなら占える」

 

白狼がカエサルにそう言うと、カエサルは筮竹を弄りながらそう返す。

 

「アレ? エルヴィン殿は?」

 

そこで、エルヴィンの姿が無い事に気付いた優花里がそう尋ねる。

 

「エルヴィンなら上ぜよ」

 

「上?」

 

おりょうにそう言われて、空を見上げる優花里。

 

そこには、未だにアクロバット飛行をしているハンネスのスツーカの姿が在った。

 

「空の魔王と呼ばれたルーデル大佐の子孫であるハンネスの操縦を是非とも体験したいと言ってな。後部座席に乗せてもらっているらしい」

 

「ええっ!? だ、大丈夫なんですか!?」

 

左衛門佐がそう言うと、優花里が心配そうな声を挙げる。

 

何せハンネスの祖先であるルーデルは、その余りに無茶苦茶な操縦ぶりで、後部機銃手が何回も交代しており、内1人はルーデルのせいで完全に再起不能になったと言われている。

 

「私達も止めたんだが、引き下がらなくてな………」

 

「命知らずも良いとこだぜ………」

 

カエサルがそう言うのを聞きながら、白狼は上空をアクロバット飛行するハンネスのスツーカを見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その上空のスツーカのコックピット内では………

 

「そうら! 急降下だぁっ!!」

 

ハンネスがそう言ったかと思うと、彼の乗るスツーカは急降下爆撃機とは言え、有り得ない角度と有り得ない速度で急降下する。

 

「ぐううううううっ!?」

 

後部機銃手席に着いて居たエルヴィンの口から苦悶の声が漏れる。

 

そのまま地面目掛けてドンドン急降下して行くハンネスのスツーカ。

 

悪魔のサイレンが辺り一帯に響き渡る。

 

そして、限界高度ギリギリのところで機体を立て直し、再び急降下を始める前の高度に戻って行く。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

すっかり息切れし、苦しそうにしているエルヴィン。

 

「お嬢ちゃん、そろそろ降りるかい?」

 

するとハンネスはそんなエルヴィンを気遣う様にそう尋ねる。

 

「い、いや、大丈夫だ………もう1回やってくれ」

 

だが、エルヴィンは息を整えると、ハンネスにそうお願いする。

 

「あのルーデル大佐の子孫の操縦を体感出来るんだ………こんなに興奮出来る事は無い!」

 

「ハッハッハッハッ! 良い根性だ! 気に入った! 惜しいな………戦車道の選手じゃなかったら、是非ガーデルマンの代役として後部機銃手に迎え入れたいと思ったのだがなぁ」

 

若干残念そうな様子を見せるハンネス。

 

「良し! ではもう1度急降下だぁっ!!」

 

しかしすぐにいつもの調子となり、再び急降下する為に急上昇を始める。

 

「ぐうううっ!………コレが………空の魔王の飛び方か………」

 

そう呟きながら、エルヴィンは意識が遠くなるのを感じる。

 

数十分後………

 

意識を失ったエルヴィンは、着陸後にエグモントによってスツーカの後部座席から降ろされたが………

 

その顔は、満ち足りた様な穏やかな笑顔であった、とエグモントは語っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・カエサル達の模擬店の前………

 

「そうだ。折角だから、2人の相性を占ってやろうか。戦友だから、サービスでタダにしておくぞ」

 

不意にカエサルは、優花里と白狼に向かってそう言い放つ。

 

「相性占い………」

 

それを聞いた優花里は、気づかれない様に白狼に視線をやる。

 

「悪いが間に合ってる。そう言う類は信じない主義で………」

 

占いなどは信じない主義の白狼は断ろうとしたが………

 

「良いじゃないですか、神狩殿! 折角タダでやってくれるんですから! さあさあ!」

 

「オ、オイ! 押すなって!!」

 

優花里が強引に白狼の背を押して、カエサルの方へと近づくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむむむむ…………」

 

目を閉じて、神妙な面持ちで筮竹を手の中で鳴らしているカエサル。

 

「…………」

 

「ったく………何でこんな事を………」

 

その結果を緊張した様子で待っている優花里と、暇そうにしている白狼。

 

「………出たぞ」

 

やがて、カエサルはそう言って目を開ける。

 

「2人の相性は悪くない………寧ろ良いと言えるな」

 

「! おおっ!!」

 

「ホントかよ?………」

 

喜ぶ様子を見せる優花里とは対照的に、白狼は懐疑的な様子を見せる。

 

「しかし………神狩分隊長はモテるみたいだな。他にも相性が良い女性が居ると出ている」

 

「!? えっ!?」

 

だが、そこでカエサルがそう付け加え、優花里が驚愕の表情を浮かべる。

 

「相性の良い女ね………」

 

「心当たりが有るみたいだな」

 

「さあ、ね………」

 

カエサルの言葉をはぐらかす様に、白狼は素っ気ない返事を返すのだった。

 

(私以外に神狩殿と相性の良い女性………一体、誰なのでありますか?)

 

優花里は、心の中で見ず知らずの相手にそんな念を送る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園の生徒会室………

 

「へぷちっ!」

 

「会長? 風邪ですか?」

 

「う~ん………誰かが噂してるんじゃないかしら」

 

可愛らしいくしゃみを漏らした揚羽が、ティッシュで鼻をかみながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まりました、学園祭!
先ずは1日目、大洗女子学園サイドの方になります。
ラブコメ展開が続く事になると思うので、糖分の執り過ぎに御注意下さい(笑)

白狼と優花里、揚羽はキャラを投稿してくれた友人からのリクエストで三角関係っぽい感じになるかと。
ぶっちゃけそう言う関係性を書くのは苦手なのですが、努力したいと思っています。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第92話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート2)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第92話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート2)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭中の大洗女子学園の某所………

 

「なあ、沙織。取り敢えず何処へ行くんだ?」

 

別れたメンバーの中で、沙織と一緒になっていた地市が、沙織にそう尋ねる。

 

「う~ん、そうだね~………取り敢えず、戦車チームの皆の様子見に行ってみようか? 此処からだと、自動車部の皆が居る所が近いね」

 

沙織は学園祭のしおりを見ながらそう答える。

 

「自動車部って、何を出し物にしてるんだ?」

 

「確かぁ………自動車部が持ってる車で、学園長の車とレースするとか言ってたよ」

 

「学園長のって………あのF40か? アレ確か、蝶野教官が10式で踏み潰してなかったっけ?」

 

亜美がやって来た日に10式によって踏み潰されたF40の事を思い出しながらそう言う地市。

 

「何でも保険が降りたから、同じヤツを新しく買ったって聞いてるけど………」

 

「それでまたF40を買ったかよ。自分の学校が廃校になるかも知れないってのに、何やってんだか………」

 

「まあまあ、兎に角行こう行こう」

 

廃校の危機が迫っていると言うのに新車を買っている大洗女子学園の学園長に呆れている地市の手を引き、沙織は自動車部が居る場所へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自動車部が居る特設レース会場にて………

 

「あ! あそこだね!」

 

「? 何か騒いでねえか?」

 

漸く自動車部が居るエリアに到着した沙織と地市だが、何やら簡易ピットコーナーに置かれている自動車部の車………『マツダ・コスモスポーツ』の周りに、自動車部と手伝いをしていた整備部のメンバーが集まり、何やら騒いでいる。

 

「大丈夫、ホシノ?」

 

「へーき、へーき、これぐらい………! アイタタタタ!」

 

ホシノを気遣うナカジマ。

 

そのホシノは、素足を出している右足に、包帯を巻いている。

 

「無理はするな、骨に異常は無いが、かなりの怪我だぞ」

 

「こりゃ、運転は無理っすねぇ………」

 

そのホシノに向かって、敏郎と藤兵衛がそう言う。

 

「でも、如何しよう………ホシノに合わせてカスタマイズしちゃってるから、今からセッティングを直すと時間掛かるよ」

 

「お客さんはもう入ってるのに………」

 

スズキとツチヤが、不安げな顔を見合わせる。

 

「皆ー!」

 

と、その様子が気になったのか、沙織と地市が自動車部と整備部のメンバーの中に入って来る。

 

「あ、武部さん」

 

「石上くんか」

 

「如何かしたのか?」

 

ナカジマと敏郎がそう声を挙げると、地市がそう尋ねる。

 

「いや、それが………」

 

「今日のレースでレーサーを務める筈だったホシノくんが、トラブルで負傷してしまってな………」

 

「ええっ!? だ、大丈夫なんですか!?」

 

負傷と言う単語を聞いて、沙織が心配する。

 

「大丈夫っす。そんな大怪我って程のモンじゃないっすから」

 

「でも、流石にレーサーをやるのは無理だね………」

 

藤兵衛が心配要らないと返すが。スズキがそう呟く。

 

「大丈夫だって………! アダダダッ!」

 

「ホラ、無理しちゃ駄目だよ」

 

ホシノが強がって立ち上がろうとしたが、足の痛みに耐え切れず、尻餅を着いてしまう。

 

「やはり中止するしかないか………」

 

「お客さん達をガッカリさせちまうのは忍びないっすけどねぇ………」

 

中止の方向へと動き出す敏郎と藤兵衛。

 

「ねえ地市くん。車の運転なら良くしてるし、何とかならない?」

 

とそこで、沙織が地市にそう問い掛ける。

 

「無茶言うなよ。歩兵道用の車両なら兎も角、レース仕様の車なんてそう簡単に運転出来るものじゃねえって」

 

しかし、地市からはそう言う返事が返って来る。

 

「駄目かぁ………」

 

「お困りですか?」

 

するとそこで、そう言う声が聞こえて来た。

 

「えっ?」

 

「「「「「「??」」」」」

 

沙織達がその声がした方を振り返ると、そこには1人の男子の姿が在った。

 

「誰?」

 

「大洗国際男子校の2年………『玖珂 速人(くが はやと)』です。以後お見知りおきを」

 

少々芝居が掛かっている様に見えるが、礼儀正しい態度でそう自己紹介する男子………『玖珂 速人(くが はやと)』

 

「ハア………」

 

「それで? 一体何の用かね?」

 

ナカジマが首を傾げていると、敏郎がそう問い質す。

 

「失礼ですが、先程からの話を立ち聞きさせていただきましてね。宜しければ、その車………私に運転させて頂けないでしょうか?」

 

「何?………」

 

速人がコスモスポーツを見ながらそう言うと、敏郎は僅かに目を見開く。

 

「待ってよ! 素人をいきなり乗せるワケには行かないよ」

 

「それにこの車、今日はホシノに合わせてセッティングしてあるんだよ」

 

スズキとツチヤがそう反論する。

 

「御心配無く。私、運転には少々自信が有りまして………セッティングはコチラが合わせれば良いだけの事です」

 

「無茶苦茶だな、オイ」

 

自分の方をセッティングに合わせると言う無茶も良い所な速人の言葉に、藤兵衛が呆れる様な様子を見せる。

 

「このまま中止しては、観客の皆さんに申し訳が立たないのでは?」

 

「それは………」

 

「うむ………」

 

そう言われて言葉に詰まるナカジマと敏郎。

 

すると………

 

「分かった。頼むよ」

 

他ならぬホシノが、速人に向かってそう言った。

 

「! ホシノ!?」

 

「ホシノくん………」

 

ナカジマと敏郎が驚いた様子を見せる中、速人は不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

特設レース会場のスタートラインには、学園長のF40………

 

そして、自動車部のコスモスポーツが、エンジンを吹かしながら並んでいる。

 

コスモスポーツ側の運転席には速人。

 

そして助手席には、ナビゲーターとして乗り込んだホシノの姿が在った。

 

「大丈夫かな?………」

 

「ホシノの奴、如何してあんな奴に………」

 

「まあ、ココは信じて見守ろうじゃないの」

 

ピット近くのスタッフ観覧席に居るスズキとツチヤがそう言うが、ナカジマが宥める。

 

「ホシノさーん! 頑張れー!!」

 

「アイツ一体何者なんだ?」

 

その中に混ざっていた沙織はホシノに声援を送り、地市は速人の正体を訝しむ。

 

「ココまで来て何ですが………何故任せてくれたのですか?」

 

と、間も無くスタートの合図が掛けられると言う瞬間に、速人は助手席のホシノに向かってそう尋ねる。

 

「只の感さ。アンタは………そう、とても速い。そんな気がしたからさ」

 

ホシノは笑みを浮かべてそう返す。

 

「フフフ、成程。シンプルかつ良い理由です。そこまで期待されているのなら、ご覧に入れましょう………私の速さをっ!!」

 

「それではーっ!! 位置に付いてぇっ!! よ~い!………」

 

速人がそう言い放つと、藤兵衛がそう言い、スターターピストルを上に向けて構える。

 

一瞬の間の後、スターターピストルから破裂音が鳴り響く。

 

その瞬間!!

 

「ラディカルッ! グッドスピイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーードッ!!」

 

速人がそう叫び、サイドブレーキ解除とギアチェンジ等を一気に行い、一瞬で学園長のF40を置いてけぼりにした!

 

「!? なっ!?」

 

「はやっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「コレは………」

 

「す、凄い………」

 

「…………」

 

その様を見たナカジマ、スズキ、ツチヤ、敏郎、沙織が驚愕を露わにし、地市に至っては言葉を失っている。

 

「コ、コレは!?………」

 

「この世の理はすなわち速さだと思わないか! 物事を速くなしとげればその分、時間が有効に使える! 遅い事なら誰でも出来る! 20年かければバカでも傑作小説が書ける! 有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家、週刊よりも日刊です! つまり速さこそ有能なのが、文化の基本法則! そして俺の持論でさあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

助手席のホシノも驚愕している中、速人はとても長い台詞を数秒足らずで言い切ると言う凄まじい早口で捲し立てる様にそう言う。

 

その直後に、置いてった筈の学園長のF40が何故か正面に現れ、追い抜く。

 

「えっ!? 何で置いてった学園長の車が………!? まさか周回遅れっ!?」

 

一瞬で学園長のF40を周回遅れにした事に、ホシノが信じられないと言う顔をする。

 

「ハハハハハッ! 足りない! 足りないぞぉっ!! お前に足りないもの! それはぁっ!! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてぇなによりもおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! 速さが足りないっ!!」

 

速人が再び早口でそう捲し立てた瞬間、またも学園長のF40を周回遅れにした!!

 

「凄い………凄いよ! 玖珂くんっ!!」

 

「速人とお呼び下さいっ! ホシミさん!!」

 

「ホシノだよ」

 

「ハハハハハハッ! そうでしたっけぇっ!?」

 

馬鹿笑いをしている間にも、速人はまたも学園長のF40を周回遅れにする。

 

「はええよ! 学園長のF40がまるで止まってるみたいだぜ!」

 

「私もう、何が何だか分かんないよ………」

 

外からその様子を見ている地市と沙織には、学園長のF40が止まって見える。

 

「ありゃ~、これはもう学園長の方が可愛そうだね………」

 

「って言うか、アレってもう腕がどうこうってレベルじゃないよ」

 

「まあまあ良いじゃん。お客さん、盛り上がってるし」

 

余りの超人的なスピードと抜群のドラテクを見せる速人に、観客達も激しくエキサイティングしている。

 

「俺はこう思うんですよ! 運転するなら助手席に女性を乗せるべきだと! 密閉された空間、物理的に近づく距離、美しく流れるBGM! 体だけでなく2人の心の距離まで縮まっていくナイスなドライブ! 早く目的地に行きたい! でもずっとこうしていたい! この甘美なる矛盾! 簡単には答えは出てしょうが、しかしそれに埋もれていたいと思う自分がいるのもまた事実!」

 

「わっ!?」

 

と、またもや速人が早口でそう捲し立てた瞬間、車内に走った振動で、ホシノが速人に寄り掛かる様な形となる。

 

「! フォオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ! ファンタスティーーーーーーックッ!!」

 

「ゴールッ!!」

 

そして速人がそう絶叫にも似た声を挙げた瞬間、コスモスポーツはチェッカーフラッグを切った。

 

「す、スッゲェタイムだ!」

 

「うむ………」

 

計測していたタイムを見て、藤兵衛が驚きの声を挙げ、敏郎も唸り声を漏らす。

 

「ああ、また世界を縮めてしまった………」

 

「いや~、最高だったよ!」

 

感動に浸っている様子の速人と、満面の笑みを浮かべているホシノが、コスモスポーツから降りて、そう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「ありがとう、速人くん! お蔭でお客さんは大盛り上がりだったよ!」

 

「いえいえ、文化人として、女性が困っているのを見過ごせなかっただけですよ、ナガシマさん」

 

「ナカジマだよ~」

 

「ああ、失礼。人の名前を覚えるのは苦手でして」

 

速人のお蔭でレースは大盛況に終わり、ナカジマが速人にお礼を言う。

 

「整備部長! コレはまたとない逸材っすよ!」

 

「ああ、分かっている………」

 

「なあ、オイ、お前!」

 

と、藤兵衛と敏郎がそう言い合っていた瞬間、地市が速人に声を掛けた。

 

「何ですかな?」

 

「俺は大洗機甲部隊の歩兵隊員、石上 地市だ。玖珂 速人! 歩兵道をやる気は無いか?」

 

速人に向かってそう言う地市。

 

彼の超絶ドライビングテクニックを目撃した身としては、何としても彼を歩兵部隊へと引き入れたいと思った様である。

 

「ほう、歩兵道ですか………」

 

歩兵道と聞いて、速人は意味有り気な表情を見せる。

 

「駄目か?………」

 

それを見て不安を露わにする地市だったが………

 

「フッ………歩兵道の世界を縮めると言うのも悪くない」

 

速人は不敵に笑い、そう言った。

 

「ホントか!?」

 

「悩んでいる時間は無駄以外の何ものでもない! 即決即納即効即急即時即座即答! それが残りの時間を有意義に使う手段だ!」

 

地市が驚いた様に言うと、速人はお得意に早口でそう捲し立てる。

 

「お、おう………ま、まあ、兎も角! コレからよろしく頼むぜ、速人!」

 

「こちらこそ! 石岡さん!」

 

「石上だ!」

 

そして例によって名前を間違える速人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

飲食系の模擬店が並んでいるエリアでは………

 

「う~ん、美味しいです」

 

両手いっぱいに焼きそば、タコ焼き、お好み焼き、林檎飴、チョコバナナ、フランクフルト等々を抱えている華が、チュロス(特大)を頬張りながらそう言う。

 

「よ、良かったですね………」

 

そんな華の姿に苦笑いを零す飛彗。

 

「飛彗さん、全然食べてませんけど、大丈夫ですか?」

 

「え、ええ、お気になさらず………(華さんの食べっぷり見てたらそれだけでお腹いっぱいになるからなぁ)」

 

全然買い食いをしていない飛彗の事を見て、華は心配する様にそう言うが、飛彗は既に華の食べっぷりを見ているだけで、腹が膨らんでいた。

 

と、そこへ………

 

「あ! 五十鈴殿! 宮藤殿!」

 

1人で居た優花里と出くわす華と飛彗。

 

「あら、秋山さん?」

 

「白狼と一緒だったんじゃ?………」

 

「それが………神狩殿が、騒がしくなって来たから帰ると言って居なくなってしまって………」

 

華が首を傾げ、飛彗がそう尋ねると、優花里は困った様な顔をしてそう返す。

 

「ああ、そうですか。白狼は元々こういう騒ぎとかは好きじゃありませんからね。今日は僕達が無理矢理引き出して来た様なものでしたから」

 

「神狩さんって、何処か人を寄せ付けない雰囲気がありますよね………」

 

飛彗がそう言っていると、華がそんな事を言う。

 

「すみません、悪い人ではないんですけど、ちょっと気難しいと言うか、1人で居たがる様なところがあって………」

 

「いえ、そんな。宮藤殿が謝る事じゃありませんよ」

 

白狼に代わる様に謝罪する飛彗だったが、優花里は飛彗が謝る事ではないと言う。

 

「では、秋山さん。ご一緒なさいますか? まだまだ美味しそうなお店がいっぱいありますし」

 

(まだ食べる気なんだ………)

 

そこで華は、そう言って優花里を誘い、飛彗はまだ食欲旺盛な様子の華に内心で冷や汗を流す。

 

「い、いえ! 御2人の邪魔をするワケには行きません! 秋山 優花里! コレで失礼させて頂きます!」

 

だが、優花里はそう言って敬礼したかと思うと、踵を返して華と飛彗から離れて行く。

 

「あ! 秋山さん!」

 

手を伸ばして呼び掛ける華だったが、既に優花里の姿は雑踏の中へと消えていた。

 

「気を遣わせてしまったみたいですね………」

 

「悪い事をしてしまったでしょうか?」

 

「いえ、折角の気遣いなんです。厚意に甘えましょう」

 

「………そうですね。では、参りましょうか」

 

2人はそう言い合うと、再び歩き出す。

 

「う~ん、美味しい………」

 

それと同時に、今度はチョコバナナを食べ出す華。

 

「…………」

 

と、飛彗はそんな華の姿に注目する。

 

「? 如何しました? やっぱりどれか食べたいんですか?」

 

「いえ、ただ………美味しそうに食べる華さんの姿が可愛いなって………」

 

「えっ?………」

 

飛彗がそう言った瞬間、華の顔が赤くなる。

 

「や、やだ、飛彗さんったら………」

 

「ああ、ゴメンナサイ。でも………本当の事ですから」

 

「~~~………」

 

そう言われて益々赤くなる華だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

弘樹とみほはと言うと………

 

1学年の校舎の中を散策していた。

 

「あ! 西住総隊長! 舩坂先輩!」

 

「ん?………」

 

「えっ?………」

 

と、不意に声を掛けられて振り返ると、そこにはウサギさんチームの面々の姿が在ったが………

 

「御2人で仲良く学園祭デートですか?」

 

「良いな~、羨ましいなぁ~」

 

「ちょっと、失礼だって」

 

「御2人共楽しんでますか~!」

 

「…………」

 

あやは海賊、優季は赤ずきん、あゆみは桃太郎、桂利奈は特撮の防衛チームの制服、そして紗希はHTBのマスコットキャラの着ぐるみを着ていると言う、コスプレ姿だった。

 

「ウサギさんチームの皆」

 

「何だ、その恰好は?」

 

みほがそう言い、弘樹が珍妙な恰好について問い質す。

 

「あ、私達のクラスで、コスプレ喫茶やってるんです」

 

メイド服姿の梓が、自分達のクラスの教室を指差してそう言う。

 

その言葉通り、その教室は従業員のクラスの生徒達と客が仮装やコスプレをしている喫茶店となっていた。

 

「へえ~、そうなんだ」

 

「最近の若い奴の趣味は分からんな………」

 

繁盛している様子のコスプレ喫茶を見てそう呟くみほと、年寄りの様な台詞を吐く弘樹。

 

「先輩、お爺ちゃんみたいなこと言ってますよ~」

 

「御2人も如何ですか? 衣装は貸し出ししてますから、そのまま学園祭を回ったり出来ますよ~」

 

「そうと決まれば、2人もコスプレしましょう! さあさあ!」

 

と、あやと優希がそう言ったかと思うと、桂利奈が2人の背を強引に押して行く。

 

「えっ!? あの!?………」

 

「オ、オイ………」

 

何か言おうとした2人だったが、桂利奈はその小柄の身体の何処から出ているのか、信じられない力で、2人をそのまま男性用と女性用の更衣室へと押し込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

ウサギさんチームのクラスの前………

 

「ひ、ひだまりポカポカ?………」

 

そこには、思いっきり照れた様子で、キュアロゼッタの衣装に身を包んでいるみほの姿が在った。

 

「~~~~っ! 恥ずかしいよ~っ!!」

 

「西住総隊長可愛い~!」

 

「すっごく似合ってますよ~」

 

「アイ~! 声もそっくりだし!」

 

耐え切れずにそう声を挙げるみほを余所に、あや、優季、桂利奈はそう言う。

 

「すみません! 皆悪乗りしちゃ駄目だよ!」

 

そこで梓が、皆を代表する様にみほに謝罪し、あや達を嗜める。

 

「「「ええ~~っ?」」」

 

「ええ~っ?じゃない!」

 

不満そうにするあや達に、梓は更にそう言う。

 

「そう言えば、舩坂先輩は?」

 

とそこで、あゆみが弘樹が居ない事に気付く。

 

「みほくん」

 

「!? ひ、弘樹くん!?………!??!」

 

すると、背後から弘樹の声が聞こえて来て、みほが慌てて振り返り、そのまま固まる。

 

何故なら、そこに居たのは………

 

「…………」

 

赤い耐圧服を着込み、ゴーグルと酸素ボンベが付いたヘルメットを被った、ボトムズ乗りだった。

 

むせる

 

「だ、誰っ!?」

 

「小官だ………」

 

思わずみほがそう言うと、ボトムズ乗りは目の部分に在ったバイザーを上げる。

 

そこで漸く、弘樹の顔が見える様になった。

 

「あ! 弘樹くん!」

 

「おお~~! やっぱり舩坂先輩に似合いますね! その耐圧服!!」

 

みほが声を挙げる中、桂利奈がキラキラとした目で耐圧服姿の弘樹を見やる。

 

「一体何処から持って来たんだ、こんな物………」

 

そう言いながら、腰のホルスターに納められていた『バハウザーM571アーマーマグナム』を抜いて見やる。

 

「ア、アハハ………」

 

コレにはみほも苦笑いを零した。

 

「…………」

 

「アレ、紗希まで?」

 

とそこであゆみが、紗希がHTBのマスコットキャラの着ぐるみ姿のまま、弘樹のヘルメットに付いて居るバイザーをしている事に気付いてそう言う。

 

「ちょっと皆~! 人入って来たから、早く戻って~!」

 

するとそこで、ウサギさんチームのクラスから出て来た生徒が、梓達にそう呼び掛ける。

 

「あ、ハイ!」

 

「は~い」

 

「今行きま~す」

 

途端に、梓達は教室の喫茶店へと戻って行く。

 

「あっ! ちょっと!」

 

「オイ!」

 

キュアロゼッタと耐圧服姿で置いて行かれそうになったみほと弘樹が慌てて声を掛ける。

 

「…………」

 

すると、紗希だけが立ち止まり、2人の方を振り返る。

 

「あ、丸山ちゃん………」

 

「…………」

 

しかし、紗希は2人を見ながらグッとサムズアップを決めたかと思うと、ウサギさんチームの皆に続いて、教室へと入って行った。

 

「あ!………」

 

「あの子の事は未だに理解出来んな………」

 

そんな紗希の姿を見送った弘樹がそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

大洗女子学園の敷地内………

 

「や、やっぱり目立つね………」

 

「………そうだな」

 

他の来客や学園の生徒達からの注目されている中を歩くみほと弘樹。

 

何せプリキュアと最低野郎の組み合わせである。

 

ミスマッチ感も相まって、注目の的だった。

 

あの後、梓達のコスプレ喫茶は混み合い出し、落ち着くまで着替えは出来ないと言われた為、2人は止むを得ず、その恰好のまま学園祭巡りを続行。

 

結果はご覧の通りである。

 

「し、視線が………」

 

「気にしなければ気にならないさ」

 

「それはそうだけど………」

 

こんな時でも冷静な様子の弘樹に、みほは呆れる様な表情を見せる。

 

すると………

 

「おっと………会長から? ちょっと失礼するぞ」

 

弘樹の携帯電話が鳴り、電話の相手が迫信で有る事を確認した弘樹は、一旦ヘルメットを取ると電話に出る。

 

「もしもし、舩坂 弘樹ですが………」

 

『やあ、舩坂くん。すまないがちょっとトラブルが有ってね。頼み事をしたいのだが………』

 

電話の先の迫信が、弘樹にそう言って来る。

 

「トラブル?………何でしょうか?」

 

『実は、今日大洗女子学園を訪問してくれる予定の346プロダクションの『ニュージェネレーションズ』なのだが、学園艦の訪問は初めての様でね。道に迷ってしまったと言う連絡が入った。すまないが、迎えに出てくれないか? 生憎、今手の空いている者が居なくてね………』

 

そこに住んで暮らしている者にとってはそうでもないが、内地に住む人達の中には、学園艦の構造に不慣れで、迷ってしまうと言う事は多々有る事なのだ。

 

「分かりました。すぐに向かいます」

 

『すまないね。場所は上空から坂井くん達が見つけている。今メールで送るよ』

 

「了解しました」

 

弘樹がそう言って携帯を切ると、程無くしてメールが着信する。

 

「この場所か………」

 

「如何したの?」

 

メールに添付されていた地図のデータを見て弘樹がそう呟くと、みほが尋ねて来る。

 

「学園に来るアイドル達にちょっとトラブルがあった様だ。すまないが、迎えに出て来る」

 

「あ、じゃあ私も行くよ」

 

弘樹がそう言うと、みほも付いて行くと言う。

 

「いや、みほくんは学園祭を………」

 

「私が一緒だったら、迷惑かな?」

 

学園祭を楽しんでくれと言おうとした弘樹だったが、みほはそれを遮る様にそう言う。

 

「むう………」

 

そう言われると、弘樹は何も言い返せなくなる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

そう言うと、弘樹の手を取り、歩き出すみほ。

 

(………敵わないな)

 

みほに手を引かれながら、弘樹は内心でそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

あんこうチームととらさん分隊の学園祭散策の様子。
そしてその中で新たな歩兵道メンバーの登場です。
モデルは勿論、あの世界を縮める最速のアニキです。

そんな中、道に迷ったニュージェネレーションズを迎えに行く事になった弘樹とみほ。
次回、遂にあのプロデューサーと会合です。(アイドルは?)
お楽しみに。

これからも、よろしくお願いします。


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第93話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート3)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第93話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート3)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に開催された大洗学園艦の学園祭………

 

大洗女子学園側が主催となる1日目にて………

 

大洗機甲部隊の面々は、接客に精を出し、或いは他の出し物の場所を回り、思い思いに楽しんでいた。

 

そんな中………

 

みほと行動を共にしていた弘樹の元に、迫信から連絡が入る………

 

曰く、女子学園側の学園祭にゲストとして招いた346プロダクションのアイドルユニット『ニュージェネレーションズ』が、不慣れな学園艦の道で迷ってしまったと。

 

現在手の空いている者が居らず、弘樹にお鉢が回って来たのである。

 

不満1つ言わずに了承した弘樹は、みほと共に『ニュージェネレーションズ』の迎えに出るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市の某所………

 

「ハイ………ハイ………分かりました。この場所で待機させて頂きます………いえ、こちらこそ、申し訳ありません………ハイ………では、よろしくお願いします」

 

「如何だった、プロデューサー?」

 

「ハイ………学園側の方から迎えが来て頂ける事になりました」

 

「ホントですか!?」

 

「良かった~………道に迷って仕事駄目にした何て事になったら大変だったよ~」

 

「全くだよ………」

 

プロデューサーと呼ばれた男性を取り囲む様にした3人の美少女が、安堵した様な様子を見せる。

 

彼女達こそが、346プロダクションのアイドルユニット『ニュージェネレーションズ』である。

 

「それにしても………ホントに大きいんですね、学園艦って」

 

甲板都市の街並みを見回しながら、そう言うサイドテールをしている少女………『島村 卯月』

 

「ホント………此処が船の上だなんて信じられないよ」

 

黒いストレートのロングヘアの少女………『渋谷 凛』もそう同意する。

 

「私達、陸の学校組からしたら、有り得ないよね~」

 

そう言うのは、茶髪のショートヘアの少女………『本田 未央』

 

皆、アイドルをやっているだけあって、普通にしていてもオーラの様な物が有り、何よりその端麗な容姿は人目を引く。

 

しかし………

 

「では、迎えが来るまで、待機でお願いします」

 

そんな彼女達以上に人目を引きそうなのが、彼女達がプロデューサーと呼んだ男………346プロのプロデューサーである。

 

身長は2メートル近く有り、まるで鍛え抜かれたかの様な大きなガタイ………

 

刃物を思わせる三白眼に目元にはシワ………

 

そして耳に残る低い声………

 

一見するとアイドルのプロデューサーとは思えない。

 

キッチリとスーツを着込んでいる姿が、却って『その筋の人』感を醸し出している。

 

「くれぐれも目立った事はしない様にお願いします。アイドルだと言う事が分かってしまったら騒ぎになってしまう可能性が有りますので………」

 

「分かってるよ………」

 

「プロデューサーこそ、また警察に連れてかれたりしないでよ」

 

「う………」

 

未央にそう言われて、困った様な顔をして、首の後ろに手を当てるプロデューサー。

 

如何やら、実際に警察の御世話になってしまった事がある様だ………

 

「だ、大丈夫ですよ! 私達も一緒なんだから!!」

 

と、卯月がプロデューサーをフォローする様にそう言っていたところ………

 

「ヘイヘーイ! お嬢ちゃん達ぃっ!!」

 

「! ふえっ!?」

 

「? 何?」

 

突然そんな声が聞こえて、卯月が驚きの声を挙げ、凛が戸惑いながら声のした方向を見やると、そこには………

 

「ヘヘヘ、可愛いね、君達ぃ」

 

「良かったら、俺達と遊ばな~い?」

 

「色々と奢ってあげるよ~」

 

あからさまにチンピラと思わしき数人の男達が、下衆な笑みを浮かべて、卯月達にそう言って来ていた。

 

「うわぁ、今時こんな事する人居るんだ………」

 

昔の漫画やアニメにでも出て来そうなチンピラの姿と行動を見て、未央が思わずそう呟く。

 

「み、未央ちゃん、失礼だよ………」

 

「? 未央?………! あーっ!? アンタ、ニュージェネレーションズの本田 未央ちゃん!?」

 

「おおっ! 良く見たら、そっちの子は島村 卯月ちゃんじゃん!」

 

「こっちは渋谷 凛ちゃんだぜ!」

 

そんな未央を注意する卯月だったが、それにより、チンピラに正体が知られてしまう。

 

「! 卯月!」

 

「!? あわわっ!? わ、私、つい………」

 

凛が声を挙げ、卯月が慌てるが、時既に遅し。

 

「うひょー! コイツはラッキーだぜ! まさかアイドルをナンパ出来るなんてなぁ!」

 

「んじゃ、早速行こうかぁ」

 

テンションが上がった様子のチンピラ達は、卯月達の返事も聞かずに、半ば強引に連れ出そうと近づいて来る。

 

「! ちょっと!」

 

「え!? ちょっ!?」

 

「こ、来ないで下さいっ!!」

 

チンピラ達の強引な様子に、凛、未央、卯月は怯えて固まる。

 

と………

 

「………失礼」

 

そこでプロデューサーが、卯月達を守る様に、チンピラ達の前に立ちはだかった。

 

「!? なっ、何だテメェ………」

 

「お引き取り下さいますか?」

 

「ひいっ!?」

 

狼狽するチンピラに向かってそう言い放つプロデューサー。

 

彼にしてみれば普通に言った積りなのだろうが、その容姿のせいで凄みが効いており、半ば脅しの様な効果を発揮している。

 

「うわっ、メッチャビビってる………」

 

「流石プロデューサー………」

 

「ア、アハハ………」

 

チンピラ達もビビる迫力を持つ自分達のプロデューサーに、卯月達は乾いた笑いを漏らす。

 

「ビ、ビビってんじゃねえっ! コイツは只のプロデューサーだ! ちょいと図体がデカくて厳つい顔してるだけだ!!」

 

「いや、でも、何か只者じゃない雰囲気が有りますよ!?」

 

「気のせいだ!」

 

すっかり怯えた様子のチンピラ達の間で、そんな会話が繰り広げられる。

 

「………厳つい」

 

一方のプロデューサーは、厳つい顔だと言われた事に少しショックを受けている様子を見せていた。

 

彼なりに気にしている様である。

 

「こ、この野郎っ!!」

 

と、その時!!

 

チンピラの1人がそう叫んで、ポケットから折り畳み式のナイフを取り出した!!

 

「!?」

 

「ナ、ナイフッ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「プ、プロデューサーさん! 危ないっ!!」

 

凶器を出された事で、プロデューサーも卯月達も慌てる。

 

「ヘヘヘ、如何だ? コイツが有れば………」

 

優位に立ったと思ったチンピラがそう言いかけた瞬間………

 

ダダダダダダッ!!と言う連続の発砲音が鳴り響き、チンピラ達の足元に次々と銃弾が着弾して火花を散らした!!

 

「!? うわあっ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

チンピラ達が慌てながら銃声がした方向を見やると、そこには………

 

「…………」

 

耐圧服姿で、銃口から硝煙の立ち上っている九九式軽機関銃を構えている弘樹の姿が在った(ヘルメットは外している)。

 

「うええっ!?」

 

「今度は一体何?」

 

「あわわ………」

 

「…………」

 

突然現れ発砲した弘樹に、未央、凛、卯月は混乱し、プロデューサーも困惑した様子で首の後ろに手を当てる。

 

「お、お前はまさか!? 舩坂 弘樹っ!?」

 

と、弘樹の事を知っていたチンピラの1人がそう声を挙げる。

 

「!? 舩坂 弘樹だと!?」

 

「あのバケモノ歩兵かよっ!?」

 

途端に、他のチンピラ達にも動揺が走る。

 

「………その方達は大切なゲストだ。3秒待ってやる、消えろ。1………2………」

 

「「「「「「「「「「すいませんでしたーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹が睨みを利かせてそう言い放つと、チンピラ達は一目散に逃げ出した。

 

「…………」

 

それを確認すると、弘樹は九九式軽機関銃を下ろし、安全装置を掛けると、ベルトで肩に担いだ。

 

「………346プロダクションの方々ですね」

 

「あ、ハイ………」

 

そして、卯月達の方を見ながらそう尋ねると、代表する様にプロデューサーが答える。

 

「大洗機甲部隊あんこうチーム随伴歩兵分隊とらさん分隊の分隊長、舩坂 弘樹です。神大会長閣下の命により、御迎えに参りました」

 

それを聞いた弘樹は姿勢を正し、ヤマト式敬礼をする。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「こ、コチラこそどうも!」

 

その弘樹の姿を見た卯月と未央が、思わず陸軍式敬礼と海軍式敬礼を返す。

 

「2人共、落ち着いて………」

 

只1人、凛だけが冷静にそう言う。

 

と………

 

「弘樹く~ん!」

 

そこで、キュアロゼッタの恰好のままのみほが、弘樹を呼びながら姿を見せた。

 

「今度はプリキュア!?」

 

そのみほの姿を見て、卯月が驚きの声を挙げる。

 

「急に飛び出して行ったから、ビックリしたよ」

 

「すまない。嫌な予感を感じたものでな………」

 

「! あ~っ! 西住 みほ総隊長!」

 

と、みほと弘樹がそう言い合っていると、未央がみほを指差しながらそう声を挙げる。

 

「ふえっ!?」

 

「えっ?………ああ! 大洗機甲部隊の総隊長!!」

 

「本物?………」

 

みほが戸惑いを見せると、卯月と凛も驚きを示す。

 

「わ、私の事、知ってるんですか?」

 

「そりゃあ~、有名人だからねぇ~」

 

「私達も戦車道の試合を見てて、それでいつも話題にされてたから」

 

「まあ、私達もそれなりに有名人なんだけどね………」

 

未央と卯月がそう言い合い、凛がそうツッコミを入れる様に言う。

 

「…………」

 

そんな中、プロデューサーはみほの事をジッと見つめている。

 

「? プロデューサー?………」

 

そのプロデューサーの姿に気付いた凛が声を掛けた瞬間………

 

「あの………すみません」

 

プロデューサーはみほへと声を掛ける。

 

「えっ?」

 

「私、こう言う者ですが………アイドルに興味は有りませんか?」

 

そして、みほに向かって名刺を差し出しながらそう尋ねた。

 

「!? プロデューサーさん!?」

 

「おおっ! 久々のスカウト活動だね!!」

 

「………大丈夫かな?」

 

卯月が驚き、未央がそう声を挙げる中、不安そうな様子を見せる凛。

 

何せ前述した通り、プロデューサーは警察の世話になるほどの強面………

 

一見すると気が弱そうに見えるみほが怯えないかと心配していた。

 

しかし………

 

「アイドル………ですか? 私が?」

 

「ハイ………」

 

「あの………お気持ちは嬉しいんですけど、私は今、戦車道で手一杯なんで、とてもアイドルだなんてやってる暇はないんです………」

 

「そう………ですか………」

 

やんわりとながら断られ、若干落ち込んだ様子を見せるプロデューサー。

 

「すみません」

 

「いえ………こちらこそ、突然申し訳ありませんでした」

 

お互いに頭を下げて謝り合うみほとプロデューサー。

 

「プロデューサーに迫られても動じてない?………」

 

「凄~い! 流石、大洗の軍神!」

 

「し、失礼だよ、未央ちゃん! 凛ちゃんも!」

 

その光景を見て、思わずそう口に出す凛と未央に、卯月が注意する。

 

「では、車を回して来ますので、少々お待ち下さい」

 

とそこで弘樹がそう言い、その場を離れて行った。

 

そして程なくして………

 

九四式六輪自動貨車を運転して帰って来た。

 

その際に、兵員輸送車で送迎される事となった卯月達は、唖然とした表情を浮かべたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

大洗女子学園へと向かう道………

 

弘樹の運転で、大洗女子学園を目指して進んでいる九四式六輪自動貨車。

 

「それにしても、総隊長さん。やっぱり凄いね~」

 

その兵員輸送用に改造されている荷台に乗って居たニュージェネレーションズとみほの中で、未央がみほにそう言う。

 

「えっ? な、何がです?」

 

「あ、敬語は良いって、歳もそんなに変わらないんだし。アタシの事も未央って呼んでくれて良いから」

 

戸惑うみほに、未央は持ち前のフレンドリーな性格でそう言う。

 

「あ、私も卯月で良いです」

 

「私も、凛で良いよ………」

 

すると卯月と凛も、未央に賛同する様にそう言って来る。

 

「ハ、ハイ………じゃあ、えっと………未央さん、凄いって何が?」

 

みほは一瞬躊躇した後、未央に向かって改めてそう尋ねる。

 

「いやあ、ホラ………ウチのプロデューサー、ちょっと怖い顔してるでしょ? 迫られた時に怖がるんじゃないかと思ってたんだけど、全然そんな事なかったからさあ」

 

「み、未央ちゃん!………」

 

明け透けにそう言う未央に、卯月が慌てる。

 

「あ、うん。それは何となく、悪い人じゃないって思ったから………」

 

「如何して?」

 

そう言うみほに、今度は凛が尋ねる。

 

「多分………弘樹くんと似てるからかな?」

 

「あ、私もそう思いました」

 

「確かに………顔とか、雰囲気とかがソックリだね」

 

みほがそう言うと、卯月と凛もそう同意する。

 

「成程~………で、その2人はって言うと………」

 

そこで未央は、荷台から運転席が見える窓を見る。

 

「「…………」」

 

そこには無言でハンドルを握って運転をしている弘樹と、同じく無言で助手席に姿勢を正して座っているプロデューサーの姿が在った。

 

「「…………」」

 

2人は終始無言であり、雰囲気も相まって只ならぬ様子に見える。

 

「く、空気重っ………」

 

「あの2人に揃って黙って居られると何かコッチまで重くなってくる気がする………」

 

そんな弘樹とプロデューサーの姿を見て、未央と凛が冷や汗を流しながらそう言う。

 

「プ、プロデューサーさん! な、何かお話しませんかっ!?」

 

「弘樹くんも如何かな?」

 

卯月がそんな空気を変えようとそう言い、慣れているみほも弘樹にそう呼び掛ける。

 

「「…………」」

 

そこで九四式六輪自動貨車は信号待ちで停車。

 

「「…………」」

 

弘樹とプロデューサーは、お互いの姿を見やる。

 

「「…………」」

 

まるで観察するかの様にお互いをジッと見やる弘樹とプロデューサー。

 

「「…………」」

 

無言の時が経過する………

 

「「…………」」

 

「いや! だから何か喋ろうよっ!!」

 

とそこで、耐えかねた様に未央がそう声を挙げた。

 

「………良い体格をしていますね。何か武道を?」

 

するとそこで、プロデューサーのその仕事内容に似あわない体格の良さが気になったのか、弘樹がそう尋ねる。

 

「あ、ハイ………実は昔………歩兵道を少し………」

 

「えっ? プロデューサー、歩兵道やってたの?」

 

プロデューサーがそう答えると、凛が軽く驚きの声を挙げる。

 

「ええ、学生時代にですが………」

 

「へえ~、そうなんだ。それでそんなに大きな身体してたワケかぁ」

 

未央がマジマジとプロデューサーの身体を見ながらそう言う。

 

「意外………だったでしょうか?」

 

「意外と言うより、プロデューサーさんって、あまり自分の事を語ったりしないから、ちょっと驚いた感じです」

 

プロデューサーが少し困惑した様子を見せると、卯月がそう言って来る。

 

「…………」

 

そう言われてプロデューサーは、首の後ろに手を当てる。

 

「歩兵道者でしたか………後学の為に、後でお話を聞かせてもらっても良いですか?」

 

「え、ええ、構いません」

 

「………確かに、似てるかもね」

 

と、弘樹とプロデューサーが会話している様子を見て、凛がそう呟く。

 

「でしょ?」

 

「現役バリバリの歩兵道者とアイドルのプロデューサーって違いはあるけどね」

 

みほが同意する様に笑うと、未央が苦笑いしながらそう言う。

 

そうこう言っている内に、信号は青になり、九四式六輪自動貨車は発進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーが元歩兵道者………

 

この事が後に、大きく役立つ事になろうとは………

 

この時、誰も予想だにしていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に登場、武内P!
………じゃなくてニュージェネレーションズ。
飽く迄ゲストですので、それほど目立たないかも知れませんが、注目して於いて下さい。

そして独自設定として、武内Pは元歩兵道者と言う設定を付加しました。
やっぱりあの体格は何かスポーツか武道やってたと思うんですよね。
そうでなかったら、元軍人とでも言われなきゃ納得出来ないですよ(爆)
この設定が後でのフラグになりますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第94話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート4)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第94話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート4)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不慣れな学園艦の道で迷ってしまい、チンピラに絡まれてしまっていた346プロのニュージェネレーションズとプロデューサー。

 

幸いにも迎えの弘樹とみほが間に合い、事無きを得る。

 

そして、大洗女子学園へと向かう道中………

 

プロデューサーが元歩兵道者であった事が判明するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前の広場………

 

整備部の手によって建設された特設ステージの控室にて………

 

「初めまして! 島村 卯月です!」

 

「渋谷 凛よ………よろしく」

 

「本田 未央です! 今日はよろしくお願いしまーす!」

 

「うわあ~~っ! 本物だぁ~っ!! 本物のニュージェネレーションズだぁっ!!」

 

卯月、凛、未央の3人………ニュージェネレーションズに挨拶をされ、感激した様子を見せる聖子。

 

「は、初めまして! わ、私! この学校のスクールアイドル! サンショウウオさんチームの郷 聖子です!!」

 

「東山 優と申します」

 

「西城 伊代です」

 

「植草 明菜と言います」

 

「天地 唯だ。そこんとこ、夜露死苦」

 

「我が名は『黄昏の真祖(レティシア・フォン・ファンタズミク)』………悪魔と吸血鬼の間に生まれ、人間の環境で育てられた。この右目は過去や未来を見通す瞳であり、左目は全てを屈服させる力を持つ。お会い赦されて光栄………それは毎夜繰り返される悪夢の如き滅びの調べ」

 

「薬丸 早苗ですわ」

 

「た、玉元 静香です………」

 

「ハロー! 内海 郁恵だよ」

 

「錦織 満里奈にゃ」

 

次々に自己紹介するサンショウウオさんチーム。

 

「わあ~、皆さん、とても個性的ですね」

 

「って言うか、ウチの人達と似てる様な子も居るわね………」

 

灰汁が強い………もとい、個性豊かなサンショウウオさんチームの面々を見て、卯月が無邪気にそう言い、凛が若干圧倒されている様に言う。

 

「あの子なんか、らんらんにソックリだもんね」

 

そして未央は、今日子を見ながらそんな事を言う。

 

「「主君を見限らんとする従者のプロトコル」………! 傷ついた悪姫ブリュンヒルデ枢機卿の事象ですか!?(訳:らんらん………!神崎蘭子さんの事ですか!?)」

 

と、未央がらんらんと呼ぶ人物が、彼女達と同じく346プロのシンデレラプロダクション所属のアイドル『神崎 蘭子』であると思い至った今日子がそう声を挙げる。

 

『神崎 蘭子』………

 

シンデレラプロジェクトの中で、唯一ソロ活動を行っているアイドルである。

 

ゴシックロリータのファッションを着こなす容姿と、高い歌唱力を誇るが………

 

彼女もまた、今日子と同じく中二病を拗らせており、過剰に比喩的で難解な言葉使いをしており、同僚の卯月達にも何を言っているのか分からない事がある。

 

「え、え~と………」

 

(何言ってるかさっぱり分からない………)

 

「みりあちゃんが居てくれたら分かったかも知れないんですけど………」

 

未央と凛が困惑し、卯月が苦笑いしながらそう呟く。

 

因みに『みりあ』とは、同じくシンデレラプロジェクトの同僚で、同僚の『諸星 きらり』、『城ヶ崎 莉嘉』と共に、『凸レーション』と言うユニットを組んでいる『赤城 みりあ』の事である。。

 

お喋りが趣味であり、それが理由でか、蘭子の言葉を普通に理解出来ているのである。

 

と、そこで………

 

「やあやあ~、良く来てくれたね~」

 

「本日は御足労頂き、誠に感謝しています」

 

そう言う台詞と共に、両校の生徒会メンバーを引き連れた杏と迫信が、ニュージェネレーションズとサンショウウオさんチームの間に入って来る。

 

「あ、ど、どうも」

 

「どうも………」

 

「いや~、こちらこそ、お招きいただき、感激であります」

 

若干緊張した様子で返事をする卯月に、いつもと変わらぬ調子で返す凛、そして少しおどけて敬礼しながら返事を返す未央。

 

「本日は、よろしくお願いします………」

 

とそこで、今までニュージェネレーションズの後ろに控え、事の成り行きを見守っていたプロデューサーが初めて口を開き、迫信達に向かってそう言いながら頭を下げた。

 

「いやいや~、こっちこそ宜しくね~」

 

「出迎えの件では申し訳ありませんでした。何分、コチラもバタついて居りまして………」

 

杏がいつもの調子でそう返していると、迫信が迎えをすぐに出せなかった事を謝罪する。

 

「いえ、こちらこそ、御手を煩わせてしまい、申し訳ありません………」

 

(真面目な人みたいですね、あのプロデューサーさん)

 

(雰囲気からして、どっかの誰かさんとソックリだな………)

 

それに対し、プロデューサーはそう言って謝罪し、その様子を見ていた清十郎と俊がそんな事を言い合う。

 

「失礼しや~す! そろそろリハーサルの方を行いたいんですけど、大丈夫っすかぁ?」

 

とそこで、ステージの調整を行っていた藤兵衛が楽屋に顔を出し、そう言って来た。

 

「あ、ハイ」

 

「良いですよ」

 

それに対し、卯月と聖子が返事をすると、ニュージェネレーションズとサンショウウオさんチームのメンバーは、リハーサルにステージへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前の広場に設置された特設ステージ上にて………

 

現在、ニュージェネレーションズがリハーサル中であり、持ち歌の『できたてEvo! Revo! Generation!』を歌いながら、ダンスを披露している。

 

「………凄い」

 

その圧倒的なパフォーマンスを間近で見ていたサンショウウオさんチームの中で、聖子がそう呟く。

 

「私達とは比べ物になりませんね………」

 

「コレが………本物のアイドル………」

 

優と伊代も、本物のアイドルのパフォーマンスに圧倒されている。

 

「オイオイ、そんなじゃ困るぜ。今日の主役はコッチなんだからな」

 

と、そんな聖子達に向かって、唯が檄を飛ばす様にそう言う。

 

「そうだね! よ~し! 気合入れるぞ~っ!!」

 

「が、頑張ります!」

 

「やってやるにゃ!」

 

「例え本物のアイドルと言えど、私には敵わなくてよ。オーホッホッホッホッ!」

 

「ロックだね~」

 

それを受けて、明菜、静香、満里奈、早苗、郁恵が次々にそう声を挙げる。

 

「かつては英雄と呼ばれた私とその眷属、我が眷属となりうるサラマンダー。運命を共にする仲間の世界を滅ぼす“力”、真の姿を見せて授けても運命に抗うというのか………(訳:私達、サンショウウウオさんチームの力、見せてあげます)」

 

今日子も相変わらずの難解な言語でそう言う。

 

「ふう、良かった………バッチリですね」

 

とそこで、リハーサルを終えたニュージェネレーションズの中で、卯月が凛と未央にそう言う。

 

「うん、まあまあだね………」

 

「今回も思いっきり盛り上げて行こうね!」

 

卯月にそう返す凛と未央。

 

「それにしても………」

 

そこで凛が、まだお客さんが入って居ない客席の方を見やる。

 

そこでは………

 

「ペンギンさん分隊は西側を。ハムスターさん分隊は東側を固めてくれたまえ。マンボウさん分隊とタコさん分隊は北と南だ。とらさん分隊とおおかみさん分隊は班員を数名ずつに分けて会場内を警備。尚、主メンバーが欠けているワニさん分隊は私達ツルさん分隊の指揮下に入ってくれ」

 

「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」

 

迫信の指示の下、戦闘服姿で武装した大洗歩兵部隊の隊員達が、会場警備の最終確認を行っている。

 

「………凄い警備態勢だね」

 

武装した歩兵達が会場内を歩き回っていると言う光景に、凛は冷や汗を流す。

 

「ア、アハハハ………」

 

「流石は歩兵道の有る学校………いや~、圧巻だね~」

 

卯月も苦笑いを零すが、未央だけはその光景を楽しそうに見ていた。

 

「しかし、こんな物々しい警備が要るのかよ?」

 

「やり過ぎやないのか?」

 

一方、歩兵部隊の中でも、海音と豹詑がそう漏らす。

 

「何を言うんですか。アイドルを襲うって事件は結構有るんですよ」

 

そんな2人に、白狼不在の為、代わっておおかみさん分隊の指揮を取っている飛彗がそう言う。

 

「その通りだ。世の中にはファンを名乗っておきながら塩酸や硫酸を掛けたり、刃物で斬り付けたりする様な奴も居る。そう言った連中から彼女達を守るのは小官達の役目だ」

 

更にそこで、弘樹もそう口を挟んで来る。

 

「若干昭和入ってねえか?」

 

「兎も角、警備を固めるに越した事は無い。何かが起こってからでは遅いからな」

 

そうツッコミを入れる海音だったが、大詔がそう言い、ウィンチェスターM1897のポンプを引く。

 

「やはり、入場者の手荷物検査や所持品検査も実施した方が良いでしょうか?」

 

「確かに、安全面を考えると実施したいところだな………」

 

「しかし、手が足りてねえぞ。ウチは他校と比べて小規模なんだからよ」

 

清十郎、十河、俊がそう言い合う。

 

現在、大洗歩兵部隊の総人数は700人程度。

 

かなりの人数ではあるが、他校の歩兵部隊と比べればかなり小規模であり、元より超マンモス校である大洗女子学園と大洗国際男子校の両生徒に加え、一般の人々も多数来校している。

 

それを捌こうとすると、とても人数が足りなかった。

 

「風紀委員の皆も、手が空いてる子を総動員しているんだけど………」

 

大洗女子学園の風紀委員長であるみどり子も、手の空いている風紀委員全てを総動員させているが、元々学園祭全体の警備や監視・管理を務めている為、動かせる人数は少なく、焼石に水状態であった。

 

「それについては問題無い。間も無く応援が到着する手筈になっている」

 

するとそこで、迫信が不敵に笑いながらそう口を挟んで来た。

 

「会長?」

 

「応援………と申されますと?」

 

逞巳が首を傾げ、清十郎がそう尋ねた時………

 

「只今参りました」

 

そう言う台詞と共に、イートンジャケットタイプの大洗男子校制服を着用した生徒の一団が現れた。

 

全員が左腕に、『風紀』と書かれた腕章を装着している。

 

「ゲッ………」

 

「来てくれたか」

 

「大洗男子校風紀委員一同、集合致しました」

 

大河がその一団を見て苦々しげな声を挙げ、迫信がそう言うと、その一団………大洗男子校の風紀委員達の先頭に立っていたふちなしのメガネをした青年がそう言う。

 

「ご苦労………」

 

「風紀委員?」

 

「ウチの学校に風紀委員なんていたのか?」

 

「俺達も人の事は言えねーが、格好についちゃ皆フリーダムだしよぉ」

 

それを聞いていた地市、明夫、了平の3人がそんな事を言い合う。

 

他の一同も、風紀委員と名乗る一団の元へと集まって来る。

 

「まあ、その通りだね。風紀委員とは名ばかりで、実際は暴力生徒や不審者・不法侵入者の取り締まりと、やっている事は警備員に近いね」

 

と、その3人の声が聞こえたのか、ふちなしのメガネをした青年がそう言って来る。

 

「「「!………」」」

 

3人は気まずそうに視線を反らす。

 

「改めて自己紹介させて頂く。大洗国際男子校の風紀委員の委員長を務めさせて貰っている『上田 紫朗(うえだ しろう)』だ」

 

そこでふちなしのメガネをした青年………『上田 紫朗(うえだ しろう)』がそう自己紹介をする。

 

「今回、大洗女子学園でスクールアイドルと芸能プロ所属アイドルのライブを行うに当たり、会長の要請を受けて今回警備を補佐すると共に、大洗機甲部隊へ参加させて貰う事になる」

 

紫朗がそう説明すると、一部の大洗歩兵達がざわめき立つ。

 

「彼等は常日頃から不審者や不法侵入者の取り締まりを行っているからね。警備に関してはエキスパートだよ」

 

「会長、ひょっとして、また………」

 

「うむ、色々と手を回させて貰ったよ」

 

「やっぱり………」

 

今回の件も、迫信の策略であると分かり、逞巳はげんなりとした様子を見せる。

 

「面倒な奴が来おったわい………」

 

「黒岩 大河………」

 

と、大河がそう言いながら溜息を吐いた瞬間に、紫朗が声を掛けて来る。

 

「何や?………」

 

「君は少し授業をサボタージュしている回数が多過ぎる。このままでは進級に響くぞ。改善したまえ」

 

気だるそうに返事をする大河に、紫朗はそう注意を飛ばす。

 

「大きなお世話や。留年しようがワイの勝手や」

 

「妹さんに申し訳ないと思わないのか?」

 

「うっ!………」

 

そう言われて、大河は言葉に詰まる。

 

「全く………今月分は見逃してやるから、せめて授業にだけは出る様にしたまえ」

 

「わ、分かっとるわ!」

 

大河はそう言うと、逃げる様に紫朗の前から去って行く。

 

「やれやれ………」

 

「宜しいのですか、委員長」

 

紫朗が溜息を吐きながらそう言うと、風紀委員の1人がそう問い質して来る。

 

「構わんさ。彼は素行は少々悪いが、根は良い人間だ。杓子定規に取り締まる事が風紀を守ると言う事では無い。皆が自主的に守ろうとして風紀が保たれるのが理想だからな」

 

(大分話せる風紀委員みたいだな………)

 

紫朗がそう答えるのを聞きながら、圭一郎がそう思いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのまま時間は流れ………

 

いよいよ特設ステージの観客席は開場………

 

話題のサンショウウオさんチームを見ようと、或いはゲストのニュージェネレーションズ目当ての観客達が、アッと言う間に座席を埋め尽くす。

 

「凄い人だ………」

 

「今までやったライブの中で1番じゃないデスか?」

 

「ゲストのニュージェネレーションズの皆さんの効果もあるでしょうけど………それでも圧巻ですね」

 

埋め尽くされた座席を見て、勇武、ジェームズ、竜真がそう言い合う。

 

「お客さん、いっぱいだね」

 

「サンショウウオさんチームも5回戦までの活躍で名が知れたし、芸能プロ所属の人気アイドルが来ているからな。当然と言えば当然だな」

 

一方、貴賓席エリアの座席に座っていた大洗戦車チームの中でも、沙織がそう呟き、麻子がそう言う。

 

「でも、コレだけ集まったのは初めてですね」

 

「コレでまたサンショウウオさんチームが有名になると良いですね、西住殿」

 

華がそう言い、優花里がみほへ呼び掛ける。

 

「うん、そうだね(弘樹くんと一緒に見たかったなぁ………)」

 

そんな優花里にそう返しながらも、警備に就いて居る為、弘樹と一緒に観賞する出来ない事を内心で残念に思うみほだった。

 

「「「「「「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

とそこで、観客達から歓声が挙がる。

 

見ると、特設ステージ上に、唯を除くアイドル衣装のサンショウウオさんチームの皆が姿を現していた。

 

「皆ー! こんにちはーっ!!」

 

「「「「「「「「「「こんにちはーっ!!」」」」」」」」」」

 

聖子がステージ上から挨拶すると、観客達は一斉に挨拶を返す。

 

観客達の中には、サンショウウオさんチームの名前やチームマーク、或いはメンバーの名前が入った横断幕や団扇を手にしている明らかなファンの姿もある。

 

「ありがとうー! 今日は心行くまで楽しんで行ってね! それじゃあ! 最初は勿論、この曲! 『Enter Enter MISSION!』!!」

 

「1、2! 1、2、3、4!」

 

聖子がそう宣言すると、バックバンドの磐渡達が演奏を始める。

 

それと同時に、サンショウウオさんチームのダンスも始まる。

 

「「「「「「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

観客席からは、絶え間無く歓声が巻き起こるのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もサンショウウオさんチームは『DreamRiser』、『それゆけ! 乙女の戦車道!!』と持ち歌を次々に披露。

 

更に今回、一部のメンバーの個人曲が、新曲として披露した。

 

聖子の『君と僕らのマーチング!』、『paradise piece』

 

明菜の『Sunlight』

 

優の『勇気の戦条旗』

 

今日子の『なつかしき島からの手紙』

 

伊代の『あなたを忘れない』

 

早苗の『tank of glory』

 

静香の『ごはんはみんなの思い出』

 

観客席のボルテージは、早くも最高潮に達しようとしている。

 

 

 

 

特設ステージの舞台袖………

 

「凄いですね! サンショウウオさんチームさん!!」

 

サンショウウオさんチームのライブの様子を見ていたステージ衣装姿の卯月がそう声を挙げる。

 

「ホント………凄い盛り上がり」

 

同じくステージ衣装姿の凛も、盛り上がっている観客席の方を見ながらそう呟く。

 

「流石は今注目のスクールアイドルだね! こりゃあ、私達もウカウカして居られないよぉ!」

 

ステージ衣装姿の未央が、卯月と凛に向かってそう言う。

 

「本田さんの言う事も一理有ります………」

 

と、その背後からそう言う台詞と共にプロデューサーが姿を見せる。

 

「あ、プロデューサーさん」

 

「彼女達のパフォーマンスはプロの目線で見るとまだ未熟さが残ります………ですが、それを補って余りある魅力が、彼女達にはあります」

 

卯月が反応すると、プロデューサーはサンショウウオさんチームの方を見ながらそう言う。

 

「それって………」

 

「笑顔です」

 

凛がそれは何かと問い質そうとしたところ、プロデューサーがそう言い放つ。

 

「確かに………皆良い笑顔だよね」

 

それに納得した様に未央がそう言う。

 

プロデューサーの言葉通り、サンショウウオさんチームは長時間パフォーマンスを続けているにも関わらず、全員が笑顔を浮かべている。

 

「でも! 笑顔なら私達だって負けません!」

 

「当然………それでプロデューサーにスカウトされたんだからね」

 

「よっしゃあっ! 笑顔と気合! 入れてくぞーっ!!」

 

そんなサンショウウオさんチームの触発されたかの様に、ニュージェネレーションズのテンションも上がる。

 

「…………」

 

そしてプロデューサーも、そんなニュージェネレーションズの姿を見て、笑みを零すのだった。

 

「間も無く出番となりますが、準備の方はよろしいでしょうか?」

 

とそこで、ステージ内の警備をしていた弘樹が、ニュージェネレーションズにそう声を掛ける。

 

「ハイ! 大丈夫です!」

 

「良いよ………」

 

「ドーンッと来いだよ!」

 

卯月、凛、未央はそう返事を返す。

 

「…………」

 

それを聞いた弘樹は無言で頷く。

 

「さて皆さん! ココでゲストの方々の登場となります!」

 

そこで、ステージ上の聖子が、観客に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

またも観客から歓声が巻き起こる。

 

「多分、この人達を見たくて来た人も居るんじゃないかな? 今日は夢のコラボを楽しんで行って下さい!」

 

「「「…………」」」

 

聖子がそう言ったのを聞いて、3人は飛び出す準備をする。

 

「では! 登場して頂きましょう! ニュージェネレーションズの………」

 

と、その時!!

 

特設ステージ会場の外から、爆発音の様な物が聞こえて来る。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如聞こえて来た爆発音に、会場に居た全ての人間が動きを止めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に会合を果たしたサンショウウオさんチームとニュージェネレーションズ。
そして、歩兵部隊にも新たなメンバーが………

いよいよライブが開始され、サンショウウオさんチームは個人の新曲を披露。
そしてニュージェネレーションズの出番が来た瞬間に、爆発音が!?

只では終わらないのがこの作品。
果たして爆発音の正体は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第95話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート5)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第95話『スクールカーニバル・ウォーです!(女子学園サイド・パート5)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道に迷ってしまい、チンピラに絡まれてしまっていた346プロのニュージェネレーションズとプロデューサーを救出した弘樹とみほ。

 

プロデューサーが元歩兵道者と言う事も判明しながら、ニュージェネレーションズはサンショウウオさんチームと会合。

 

入念なリハーサルが行われる中、大洗歩兵部隊のメンバーは大洗男子校風紀委員達の応援も得ながら、会場の警備を固める。

 

そして遂に、ライブが開始される。

 

順調に進み、いよいよゲストであるニュージェネレーションズの紹介となろうとした瞬間!!

 

ライブ会場の外から、爆発音が響いて来たのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前の広場に設置された特設ライブ会場にて………

 

「何っ!? 今の音っ!?」

 

「爆発みたいだったぞっ!?」

 

「爆発っ!?」

 

「嫌っ! 怖いぃっ!!」

 

突然響いて来た爆発音に、観客達の間に動揺が走る。

 

「いけません! このままではパニックになります!」

 

「皆ーっ! 落ち着いてーっ!!」

 

優がそう言い、伊代が皆を落ち着かせようとするが、その声は届かない。

 

「な、何っ!? 何っ!?」

 

「何なのっ!?」

 

「あわわわわわっ!?」

 

「皆さん! 落ち着いて下さいっ!!」

 

混乱は舞台袖で控えていたニュージェネレーションズにも走っており、プロデューサーが落ち着かせようとしている。

 

「何があった! 状況報告っ!!」

 

そんな中で弘樹は、通信機を取るとすぐに警備に当たっている大洗歩兵部隊の面々に状況の報告を求めた。

 

『こここ、こちらワニさん分隊の水谷! しゅ、しゅしゅしゅ! 襲撃ですっ!!』

 

すると、ワニさん分隊の灰史よりそう報告が挙がる。

 

「襲撃だとっ!? 相手は何処の誰だっ!? 規模はっ!?」

 

『チ、チンピラと暴走族の様な連中です! 規模は少なくとも100人以上は居るかと!!』

 

(チンピラ? まさか報復に来たのか?)

 

続けての灰史の報告に、弘樹はニュージェネレーションズとプロデューサーを助けた際に追い払ったチンピラ達の事を思い出す。

 

「さっきの爆発もそいつ等の仕業か?」

 

『そ、そうです! 敵は! 敵は!!』

 

動揺しているのか言葉が吃る灰史。

 

「落ち着け! 正確に報告しろっ!!」

 

『て、敵は装甲車を保持っ!!』

 

「!? 何だとっ?………」

 

弘樹は目を軽く見開いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場の外側………

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

改造バイクに跨り、鉄パイプやバールの様な物、釘バットや鎖等で武装した暴走族とチンピラ達が、世紀末的な雄叫びと共に土煙を挙げて突っ込んで来る。

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

それに対し、大洗歩兵部隊は機関銃を装備した歩兵達を前面に展開し、弾幕を張って迎え撃つ。

 

「ぎゃあっ!?」

 

「あべしっ!?」

 

「ひでぶっ!?」

 

銃弾が命中した暴走族とチンピラ達が、次々と改造バイクから落ちて地面に倒れて行く。

 

「チイッ! 吹っ飛ばしてやれっ!!」

 

とそこで、暴走族の1人がそう叫んだかと思うと………

 

後方から3台の車輌………

 

ナチスドイツの『Sd Kfz 234/4』が姿を現す。

 

「! 退避ーっ!!」

 

それを見た大洗歩兵部隊の面々が撤退を始めたところ、Sd Kfz 234/4の1台が、装備されていた『7.5cm PaK40』から榴弾を発射する。

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

通常より大きな爆発が起こり、退避が遅れた大洗歩兵部隊の隊員数名が吹き飛ばされた!

 

「クソッ! 何で暴走族やチンピラが火砲付きの装甲車なんて持ってんだっ!?」

 

「大方、横流しされた物を不正入手したんだろ。オマケに色々と改造している様だな」

 

工兵達が急いで掘った簡易塹壕の中で頭を押さえながら地市がそう叫ぶと、Sd Kfz 234/4の様子を窺っていた大詔がそう推察する。

 

大詔の言葉通り、本来ならばオープントップ式で旋回しない筈のd Kfz 234/4の砲塔が、装甲で完全に覆われ、360度旋回する様になっていた。

 

「クウッ! こんな事なら、対戦車火器を用意しておくべきだったね!」

 

「今更言っても仕方が無いっす!」

 

同じく簡易塹壕に籠っていた武志がそう言うと、近くに居た正義がそう言い返す。

 

普段ならば、3輌の装甲車ぐらい何て事は無いが、今回はライブ会場の警備を担当していた為、余り観客に威圧感を与えてはならないと言う配慮から、武装の使用が小銃までと制限されていた。

 

その為、装甲目標であるSd Kfz 234/4に対し、有効な攻撃手段が無いのである。

 

「戦車チームの人達に連絡して、戦車を動かしてもらっては!?」

 

「駄目だ! 彼女達もライブ会場に居るんだぞ! それに戦車は今全部展示中で周りは来客だらけだ! すぐには動かせん!!」

 

勇武がそう声を挙げると、俊が即座にそう返す。

 

「ヒャッハーッ!!」

 

とそこで、Sd Kfz 234/4の1台からまたも世紀末的な声が響いて来たかと思うと、7.5cm PaK40が火を噴く。

 

「「「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」」」

 

またも数名の大洗歩兵部隊の隊員が纏めて爆発で吹き飛ばされる。

 

「このぉっ!!」

 

竜真が塹壕から身を乗り出し、MG34でSd Kfz 234/4の1台を銃撃する。

 

しかし、銃弾はSd Kfz 234/4の装甲の前に全て弾かれる。

 

お返しとばかりに、Sd Kfz 234/4は7.5cm PaK40を発砲する!

 

「!? うわぁっ!?」

 

幸い直撃はしなかったが、衝撃で塹壕の中へ落ち込む竜真。

 

「竜真! 大丈夫デスか!?」

 

「だ、大丈夫………」

 

「やっぱり、対戦車火器がないと、太刀打ち出来ないよ………」

 

ジェームズが竜真を助け起こす中、光照が弱音を吐く様に呟く。

 

「良いぞーっ! このまま学園祭を滅茶苦茶にしてやれーっ!!」

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

チンピラの1人がそう声を挙げると、他のチンピラ達と暴走族達は三度、世紀末的な叫びを挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場・特設ステージの舞台袖………

 

「まさか装甲車を持っているとは………何たる事だ」

 

報告を聞いた弘樹は、苦々しげな表情を浮かべる。

 

「ど、如何なるんですかっ!?」

 

「まさか、ライブ中止っ!?」

 

「そんなっ!?………」

 

傍で聞いていた卯月、未央、凛にも動揺が走る。

 

「皆さん! 兎も角、一旦避難を………」

 

と、プロデューサーが一旦ニュージェネレーションズを避難させようとしたところ………

 

「皆あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!! 話を聞いてええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」

 

ステージ上に居た聖子が、声の限りにそう叫んだ!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「!!」」」」」

 

爆発音も掻き消さんばかりの余りの声の大きさに、観客達はおろか、舞台袖に居たニュージェネレーションズとプロデューサー、弘樹も聖子に注目する。

 

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」

 

相当無理をしたのか、息を切らせている聖子。

 

「聖子………」

 

「聖子ちゃん………」

 

「先輩………」

 

サンショウウオさんチームの面々も、聖子に視線を集めている。

 

「………!!」

 

やがて呼吸を整えた聖子は、顔を上げて観客席を見やる。

 

「ゴメンねー! 近くで歩兵部隊の人達が公開演習を初めたみたーい! ちょっと煩くなるかも知れないけど、私達のライブは爆発音如きに負けないよ~っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

それを聞いたサンショウウオさんチームとニュージェネレーションズ、プロデューサー、そして弘樹は驚きを露わにする。

 

「な~んだ、歩兵部隊の演習だったのか」

 

「ああ~、ビックリした………」

 

「けど、まあ、歩兵道や戦車道が有る学校の学園祭らしいよな」

 

歩兵部隊の演習と聞き、観客達は落ち着きを取り戻し、次々に席へと着き直して行く。

 

(ちょっと、聖子! 何を言ってるんです!?)

 

とそこで、優が聖子に耳打ちする。

 

(そんな予定なんかなかったよ。きっと何か有ったんだよ)

 

反対側からは、伊代もそう耳打ちする。

 

(大丈夫!)

 

だが、聖子は確信に満ち溢れた顔でそう言い放つ。

 

(きっと歩兵部隊の皆が何とかしてくれるよ!!)

 

(何とかって………)

 

(私はそう信じてる………だって、皆仲間だから!!)

 

何の根拠も無い只信じていると言うだけの気持ち………

 

しかし………

 

「………各部隊に通達。コチラ舩坂 弘樹」

 

その様子を見ていた弘樹は、再び通信機を取り、全歩兵隊員に通信を送る。

 

「ライブは続行。大洗歩兵部隊の全隊員は、襲撃者を全力を持って排除せよ。彼女達は我々を信じ、ライブの続行を宣言した。その期待を裏切るのは歩兵道者………いや、日本男児に在らず!」

 

『『『『『『『『『『!!』』』』』』』』』』

 

弘樹からのその通信を聞いた大洗歩兵部隊の隊員達に電流が走る。

 

「大洗の興廃、この一戦に在り! 各員一層奮励努力せよ!! 大洗万歳っ!!」

 

『『『『『『『『『『バンザーイッ!!』』』』』』』』』』

 

最後にはお馴染みの万歳コールが巻き起こる。

 

「………襲撃者は必ず排除します。貴方方はライブを続行して下さい」

 

そして弘樹は、ニュージェネレーションズの方を見てそう言う。

 

「「「…………」」」

 

一瞬何を言って良いか分からなくなるニュージェネレーションズだったが………

 

「………分かりました!!」

 

いの一番に、卯月がそう言う。

 

「! 卯月!?」

 

「しまむー!?」

 

「島村さん!?」

 

凛、未央、プロデューサーが驚きを示す。

 

「サンショウウオさんチームの皆さんは歩兵の皆さんを信じてます! だったら! 私達も信じます!」

 

しかし、卯月は一切迷いの無い瞳で笑みを浮かべ、そう言い放った。

 

「「…………」」

 

そんな卯月の姿を見て、凛と未央は顔を見合わせる。

 

「卯月がそう言うんなら………私も信じようかな」

 

「私も信じるよ! しまむー!」

 

やがて、共に笑顔を浮かべてそう言い放った。

 

「良いよね、プロデューサー?」

 

「それは………」

 

「プロデューサーさん!」

 

「プロデューサー!」

 

躊躇う様な様子を見せるプロデューサーに、卯月、凛、未央はその決意を固めて瞳を向ける。

 

「…………」

 

その瞳を見たプロデューサーは、右手を首の後ろへと当てる。

 

「………分かりました。皆さんの思う様にやって下さい」

 

そして、微笑を浮かべると、卯月達に向かってそう言った。

 

「! ありがとうございます!」

 

「うん………」

 

「よ~し! やるぞーっ!!」

 

「お願いします………では、失礼」

 

それを受けて、3人が喜んでいると、弘樹は襲撃者の迎撃へと向かう。

 

「さあ~! 改めてスペシャルゲストの紹介だよーっ!!」

 

そこで、ステージ上の聖子がそう観客に呼び掛け、観客達は歓声を挙げる。

 

「では! ニュージェネレーションズの皆さん! どうぞっ!!」

 

「………行くよ」

 

「ハイ!」

 

「おおうっ!!」

 

聖子がそう言った瞬間、凛、卯月、未央は互いの手を取り………

 

「「「フライ! ド! チキンっ!!」」」

 

3人揃って、ステージ上へ飛び出す様に登場するのだった。

 

「…………」

 

そんなニュージェネレーションズの3人の背中を見送るプロデューサー。

 

ニュージェネレーションズは、観客席から巻き起こる歓声に、笑顔で手を振って応えている。

 

「…………」

 

その様子を見て、プロデューサーは再び笑みを浮かべたかと思うと、何かを決意した様な表情となり、舞台袖から移動を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場の外側………

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「お寝んねしなーっ!」

 

「ハイ、サイナラーッ!!」

 

「俺は攻撃を行うっ!!」

 

「敵軍、前進中っ!!」

 

「敵軍部隊を発見っ!!」

 

「撃て撃てーっ! 撃ちまくれーっ!!」

 

「敵の潜水艦を発見!」

 

「「「「「「「「「「駄目だっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹から、サンショウウオさんチームがライブを続行したと報告を受けた大洗歩兵部隊の覚悟は決まり、全員の士気が急上昇!

 

押され気味だった戦線が、一気に逆転を始める。

 

「な、何だアイツ等!?」

 

「急に元気になりやがって!………!? ぎゃあっ!?」

 

そう声を挙げたチンピラの1人が、頭に銃弾を受けて倒れる。

 

「チキショーッ! 装甲車だ! 装甲車を前に出せぇっ!!」

 

と、暴走族の1人がそう言った瞬間、3台のSd Kfz 234/4が前に出て来る。

 

「! 装甲車が来るぞーっ!!」

 

「頑張れっ! 今対戦車兵達と砲兵達が対戦車火器と火砲を取り行っている! 戻って来るまで踏ん張るんだっ!!」

 

大洗歩兵部隊の中からそう声が挙がるが、その瞬間!!

 

「ヒャッハーッ!!」

 

世紀末的な叫びと共に、1台のSd Kfz 234/4が発砲!

 

「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

またも数名の大洗歩兵隊員達が、纏めて吹っ飛ばされる!

 

「チイッ! やっぱキツイわ、コイツは!」

 

「弱音を吐くな!」

 

と、大河が思わずそう漏らした瞬間、そう言う台詞と共に、一〇〇式機関短銃を持った弘樹が、塹壕内に飛び込んで来た。

 

「! 弘樹!」

 

「状況は如何なっている?」

 

「チンピラや暴走族相手には押しとるが、あの装甲車が厄介や。今対戦車火器や火砲を取りに行っとるが………」

 

「分かった………援護しろ」

 

「!? 何やて!?」

 

状況を報告した途端にそう言って来た弘樹に大河が驚きの声を挙げた瞬間!

 

「…………」

 

弘樹は塹壕から飛び出し、3台のSd Kfz 234/4に突撃して行った!

 

「弘樹! ええい、あの命知らずっ! 援護やぁっ! 弘樹を援護せいっ!!」

 

大河がそう声を挙げると、大洗歩兵部隊は弘樹を援護する。

 

「何だぁ? 1人突っ込んで来るぞ?」

 

「命知らずの馬鹿野郎か! 構わねぇ、吹っ飛ばせっ!!」

 

3台のSd Kfz 234/4の内の1台に乗って居たチンピラ達が弘樹に気づき、7.5cm PaK40を向ける。

 

「…………」

 

しかし弘樹は、狙いを定められても構わずに突撃を続ける。

 

「死ねぇっ!!」

 

そして遂に!

 

7.5cm PaK40から砲弾が放たれる!!

 

「!!」

 

その瞬間に、弘樹は頭を伏せる!

 

砲弾は伏せた弘樹の頭上すぐ上を通り過ぎ、背後に着弾!

 

爆風で弘樹は吹き飛ばされ、前のめりに倒れる!

 

「………!!」

 

が、すぐに起き上がって、発砲して来たSd Kfz 234/4に更に突撃する!

 

「な、何だアイツは!?」

 

「化け物かっ!?」

 

撃たれても平然と立ち上がり、突撃を続行して来た弘樹の姿に、発砲したSd Kfz 234/4に乗って居たチンピラは恐れ戦く。

 

「………!」

 

直後、弘樹はそのSd Kfz 234/4に肉薄!

 

その車体の上に飛び乗ると、更に砲塔の上へと攀じ登り、銃剣を使ってハッチを抉じ開けようとする!

 

「うおおっ!?」

 

「取り付きやがったっ!?」

 

「コ、コイツだ! コイツが舩坂 弘樹だっ!!」

 

「何ぃっ!? あの『蘇った英霊』かよ!?」

 

ハッチを抉じ開けられそうになっているSd Kfz 234/4に乗って居るチンピラ達はパニックに陥る。

 

「コノヤロウッ!」

 

とそこで、別のSd Kfz 234/4が、ハッチを抉じ開けようとしている弘樹に7.5cm PaK40を向ける。

 

「!? 馬鹿! 止せっ!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

同じ車輌に搭乗していたチンピラが止めようとしたが、間に合わずに砲手のチンピラは発砲!

 

「!………」

 

直後に弘樹はSd Kfz 234/4から飛び降りる!

 

放たれた砲弾は、そのままSd Kfz 234/4を直撃した!!

 

「「「「ギャアアアアアッ!?」」」」

 

砲塔が吹き飛び、車体が宙に舞った後に横倒しとなったSd Kfz 234/4から、乗員のチンピラ達が投げ出される!

 

「!? し、しまった!?」

 

「馬鹿野郎! 同士討ちして如何するっ!!」

 

「今度はコッチに来るぞっ!!」

 

「!?」

 

同士討ちをしてしまったSd Kfz 234/4の乗員のチンピラ達が騒いでいると、弘樹は続いてそのSd Kfz 234/4に突撃して行く。

 

「う、うわあぁっ!?」

 

チンピラの1人が恐怖に顔を歪ませる。

 

だが、その瞬間!!

 

弘樹の足に、鎖が巻き付いた!

 

「!?」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

その巻き付けた相手………改造バイクに乗った暴走族が、改造バイクを発進させる。

 

「! おわっ!?」

 

そのまま西部劇よろしく引き回しにされる弘樹。

 

「! 弘樹!!」

 

「クッソッ! ああ動かれたんじゃ、狙いが………」

 

慌てる大洗歩兵部隊の面々だったが、改造バイクは高速で走り回っており、狙いが定められず、かと言って塹壕から飛び出せばSd Kfz 234/4の7.5cm PaK40で逆に狙い撃ちにされてしまう。

 

「ぐうっ!」

 

足に巻き付いた鎖を掴む弘樹だが、それ以上は如何しようもなかった。

 

「ヒャッハーッ! 不死身の男もコレまでだなぁっ!!」

 

引き回している弘樹の方を振り返ってそう言い放つ暴走族。

 

しかし彼は気づかなかった………

 

前方に立つ人影の存在に………

 

「? ん?………」

 

漸く気付いた様に前を向いた瞬間に………

 

前方に立っていた人物は、腕を横に伸ばした。

 

「!? ぐぎゃあっ!?」

 

その腕に顔面から突っ込む暴走族。

 

ラリアットを自分から喰らいに行った形だ。

 

暴走族はゴム鞠の様に跳ね飛び、主を失った改造バイクは、横倒しとなってスピンした後、爆発・炎上する!

 

「グッ!………」

 

「大丈夫ですか?」

 

漸く引き回しから解放された弘樹が起き上がると、人影………

 

両手にMG34を携帯し、弾帯を身体にコレでもかと言うくらいに巻き付けたプロデューサーの姿があった。

 

「! プロデューサーさん!」

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹が驚きの声を挙げた瞬間に、暴走族とチンピラ達が襲い掛かって来る。

 

「援護します………」

 

するとプロデューサーは、両手のMG34を構え、向かって来た暴走族とチンピラたち目掛けて発砲した!

 

「「「「「「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

爆音と共に発射されている弾丸が、暴走族とチンピラ達を次々と撃ち抜く。

 

「今の内に………装甲車を!」

 

空薬莢を撒き散らし、レシートの如くベルトリンクを伸ばしながら、プロデューサーがそう言う。

 

「! 感謝します!」

 

弘樹はそれを聞くと、手近に居たSd Kfz 234/4に向かって突撃する。

 

「く、来るぞっ!」

 

「う、撃て、撃てぇっ!!」

 

突撃して来る弘樹を見て、Sd Kfz 234/4に乗るチンピラ達が悲鳴の様に叫ぶ。

 

「!………」

 

と、その瞬間!

 

弘樹は銃剣を7.5cm PaK40目掛けて投げつけた!

 

投げつけられた銃剣は、7.5cm PaK40の砲口の中へと飛び込み、砲弾が暴発!

 

「!? うおわあっ!?」

 

砲塔が吹き飛ぶ事はなかったが、車内には爆煙が充満する。

 

「ゲホッ! ゴホッ! コリャ堪らんっ!!」

 

それに堪らなくなったチンピラの1人が、ハッチを開けて車外に姿を晒す。

 

「!………」

 

「がっ!?………」

 

途端に、既にSd Kfz 234/4の車体に攀じ登っていた弘樹によって締め落される。

 

締め落したチンピラを放る様に投げ捨てると、ハッチに一〇〇式機関短銃を差し入れる。

 

「…………」

 

そのまま無言で引き金を引く弘樹。

 

「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

一〇〇式機関短銃から放たれた弾丸は、そのまま車内で跳弾となって暴れまくり、残りのチンピラ全員を気絶させた。

 

コレが本物の弾丸だったなら、車内はミンチより酷い事になっていただろう。

 

「クソォッ!」

 

と、残り1台のSd Kfz 234/4が、弘樹に7.5cm PaK40を向ける。

 

「…………」

 

しかし、弘樹はそれに気づいて居ながらも動かない。

 

「くたばれっ!!」

 

そしてSd Kfz 234/4から7.5cm PaK40が放たれ様とした瞬間!

 

白煙の尾を引いて飛んで来たロケット弾が、Sd Kfz 234/4に命中!

 

Sd Kfz 234/4の側面に大穴が空いた!

 

「「「「ハラホロヒレハレ~~………」」」」

 

その空いた穴から、古典的なギャグの様に、全身真っ黒でアフロヘアとなったチンピラ達が出て来て、そのまま倒れて気絶する。

 

「弘樹ーっ! 大丈夫か~!」

 

「…………」

 

ロケット弾を撃った主………対戦車火器を持って戻って来た対戦車兵と火砲を持って戻って来た砲兵部隊の中に居た地市がそう声を挙げると、弘樹は無言で手を上げたのだった。

 

「そ、装甲車が全滅だとっ!?」

 

「ど、如何すんだよ!?」

 

最大戦力の装甲車が全滅した事で、チンピラと暴走族達に動揺が走る。

 

「如何やら、ココまでの様だね………」

 

と、そんなチンピラ達の前に、紫朗を筆頭に風紀委員達が姿を見せる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「折角の学園祭を台無しにしようとした罪は重い………そう! 万死に値する!!」

 

紫朗がそう言ってメガネを光らせた瞬間!

 

風紀委員達による野戦砲の一斉砲撃が開始された!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

無慈悲な砲撃の前に、チンピラと暴走族達の断末魔が響き渡るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10数分後………

 

装甲車を失い、対戦車火器と火砲を投入した大洗歩兵部隊の前に、チンピラ・暴走族連合は壊滅。

 

全員が両学園の風紀委員に拘束された後、警察へと引き渡された。

 

奇跡的にその様子は、最後までライブ会場の観客に気付かれる事はなく、サンショウウオさんチームとニュージェネレーションズのライブは、大盛況の内に終了したのだった………

 

 

 

 

 

特設ステージの控室にて………

 

「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」

 

ニュージェネレーションズの3人に向かって、全員で感謝を述べると共に頭を下げるサンショウウオさんチーム。

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

「良いステージだったね………」

 

「ホントホント! 何て言うか………皆の気持ちが1つになったって言うか」

 

卯月、凛、未央は、まだ興奮冷めやらぬと言った様子で、そう返す。

 

とそこへ………

 

「皆さん、お疲れ様です………」

 

「無事に終了出来たみたいですね」

 

そう言う台詞と共に、プロデューサーと弘樹が控室に姿を見せた。

 

両者とも、スーツと戦闘服が埃と煤塗れになっている。

 

「あ! プロデューサーさん!」

 

「如何したの? そんなに汚れて?」

 

卯月がそう言うと、汚れているプロデューサーの姿を見て、凛がそう尋ねる。

 

「あ! まさかプロデューサーも歩兵部隊の皆と協力して!?」

 

そこで未央が、そう推察する。

 

「………皆さんのステージを守るのが、プロデューサーである私の仕事です」

 

プロデューサーはそう言い、軽く笑う。

 

「プロデューサーさん………」

 

とそこで、弘樹がプロデューサーに声を掛け、握手を求める様に右手を差し出す。

 

「改めて、御助力感謝します」

 

「いえ、こちらこそ………彼女達のステージを守ってくれて、感謝します」

 

プロデューサーはそう返し、握手に応じる。

 

「「…………」」

 

そのまま無言となる2人。

 

「な、何か………独特の空気が有るって言うか………」

 

「私達にはちょっと理解出来ない世界だね………」

 

そんな様子のプロデューサーの姿を見て、未央と凛は苦笑いを零す。

 

「プロデューサーさん………何だか、カッコイイです」

 

しかし、卯月だけはそんな反応をするのだった。

 

「ああ、そうでした………サンショウウオさんチームの皆さん」

 

とそこで、プロデューサーは聖子の前に立つと、自分の名刺を取り出し、差し出した。

 

「? プロデューサーさん?」

 

「もし、皆さんが学校を卒業してもアイドルを続けたいと思ったなら………私に連絡を下さい。346プロダクションは………貴方達を待っています」

 

戸惑う聖子に、プロデューサーはそう言う。

 

事実上のスカウトである。

 

「! ハイッ!!」

 

それを受けて、聖子は満面の笑みを浮かべて名刺を受け取った。

 

「マジかよ! 本物の芸能プロのプロデューサーからスカウトだぜ!」

 

「ゆ、夢みたいです!」

 

「ううん! 夢じゃ無いよ! 現実だよ!!」

 

サンショウウオさんチームのメンバーも大興奮の様子を見せる。

 

「聖子ちゃん達が346プロに………」

 

「もしそうなったら………後輩だね」

 

「よ~し! その時には美嘉姉の時みたいに、私達のライブに呼んであげようね」

 

その様子を卯月、凛、未央はそんな事を言い合うのだった。

 

「…………」

 

そして弘樹は、無言のままコッソリと控室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

大洗学園艦の学園祭………

 

1日目・大洗女子学園の部は………

 

終了したのだった。

 

そして翌日………

 

遂に大洗機甲部隊メンバーによる劇が披露される………

 

大洗男子校の部が開幕する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

報復に学園祭を滅茶苦茶にしようとやってきたチンピラ達。
厄介な事に不正ルートで装甲車を手に入れていた。
警備用の装備で火力が不足していた大洗歩兵部隊は苦戦を強いられるが………
聖子のライブ続行宣言を聞き、士気を上げて立ち向かう。
そして弘樹の奮戦と、プロデューサーの助力もあり………
ライブは無事に成功しのだった。

さて、次回から男子校サイドのパート。
いよいよ大洗機甲部隊の劇が開幕です。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第96話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート1)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第96話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート1)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少々のトラブルがありながらも………

 

無事に初日の大洗女子学園側の学園祭が終了した。

 

そして迎えた最終日………

 

大洗国際男子校側の学園祭………

 

いよいよ………

 

大洗機甲部隊による演劇の披露の時が近づいていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗国際男子校敷地内………

 

『本日は大洗国際男子校の学園祭に御出で頂き、誠にありがとうございます。我々生徒一同は、来訪者の皆さんを心から歓迎いたします。是非、心行くまで楽しんで行って下さい』

 

女子学園側の時と同じ様に、昼花火の音が鳴り響く中、校内放送用のスピーカーから迫信の声が聞こえ、上空では航空ショーが行われている。

 

「うわあ~、やっぱり男子校の学園祭だけあって、何だか活気が違うねえ」

 

そんな来訪客で賑わう大洗国際男子校の敷地内に居た沙織が、人の波や男子生徒が出している出店や屋台を見ながらそう呟く。

 

「沙織さん、急いで。本番までにまだ打ち合わせしておかなきゃいけない事があるんだから」

 

と、そんな沙織に、みほがそう声を掛ける。

 

「ああ、ゴメンゴメン、みぽりん。今行くね」

 

沙織はそう謝りながら、みほ達と共に、劇を披露する場所である、大洗男子校の多目的ホールへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校の校舎内・多目的ホールの舞台にて………

 

「そっちを押さえてくれ!」

 

「おうよ!」

 

「コレは何処に置けば良いんだ?」

 

「コッチだ。それが終わったらコッチを手伝ってくれ」

 

舞台上では、整備部と工兵の面々が、セットの最終的な組み立てを行っている。

 

「え~と………では、私からは美しさを送ります」

 

「私は歌声を………」

 

舞台袖の方では、出演者達が台詞を確認している。

 

「遅れてすみません!」

 

とそこで、みほ達あんこうチームの面々が姿を見せる。

 

「総隊長殿、待ちかねたぞ」

 

「メインヒロインが遅れちゃ駄目でしょ」

 

みほの姿を見たエルヴィンとみどり子がそう言う。

 

「すみません」

 

「な~に、まだ時間は有るから大丈夫だって」

 

「舩坂くんの方はもうスタンバイしてくれてるから」

 

みほがそう謝ると、杏が気にするなと言う様にそう言い、柚子がそう言い、既に衣装を身に着け、パイプ椅子に座って台本を見やっている弘樹の方を見る。

 

「…………」

 

弘樹は真剣な顔で、台本の最終的な読み込みを行っている。

 

「…………」

 

そんな弘樹の顔に、みほは見惚れる。

 

「み~ぽりん。顔、真っ赤だよ」

 

「!? ふえっ!?」

 

そこで沙織にそう指摘され、みほは動揺を見せる。

 

「お熱いですね、うふふふふ」

 

「は、華さん! そういうのじゃないから!!」

 

続いて華がそう言って笑うと、みほは慌てて誤魔化す様に言う。

 

「ハイハ~イ、ラブコメはその辺にして、準備しちゃってね~」

 

「だから、違うんです~!」

 

杏の言葉にそう返しながらも、劇の準備に入るみほ達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

直前のリハーサル・最終確認を終え、遂に劇は本番を迎える。

 

会場となっている多目的ホールの客席は、童話がモチーフとあってか、子連れの親子を中心に埋め尽くされている。

 

女子学園・男子校の生徒の姿も多数見受けられる。

 

皆、幕が開くのを今か今かと待ち兼ねている。

 

『本日は、大洗国際男子校の学園祭に御出で頂き、誠にありがとうございます』

 

と、遂に時間が訪れ、スピーカーを通して、ナレーション役の沙織から集まった観客に挨拶が送られる。

 

『大変長らくお持たせ致しました。コレより、大洗機甲部隊による『眠れる森の美女』をアレンジした演劇を開幕させて頂きます』

 

沙織がそう言うと、観客席から拍手が起こる。

 

『心行くまで楽しんで行って下さい。それでは………始まり、始まり』

 

そう沙織がナレーションすると、観客席の照明が落とされた。

 

『時は激動の大正………大洗の町に、とある華族の夫婦が居ました。夫婦は子宝に恵まれず、長い間、赤ちゃんの誕生を待ち望んでいました』

 

舞台上の幕が開き、スポットライトでその場面を現す絵画が照らされる。

 

『しかし、毎日大洗磯前神社に祈りを捧げた結果、とうとう御利益を賜り、1人の女の子が生まれました』

 

絵画が変わり、華族の夫妻が赤ん坊を抱き上げている絵画となる。

 

『夫妻は漸く恵まれた子宝に大変喜び、その日、親族一同と大洗の街の人々を屋敷に招き、盛大なお祝いを開催されました』

 

と、そう沙織がナレーションしたかと思うと、スポットライトが消え、多目的ホール内が完全に暗闇となる。

 

その暗闇の中で、黒子に扮した整備部の面々が一瞬にして、そのお祝い会を開いている華族夫妻の屋敷のセットを組み上げる。

 

そして、舞台の照明が点灯。

 

それと同時に、華族の親族や大洗の町の住人に扮した大洗機甲部隊の面々が舞台上に現れる。

 

「やあやあ、皆の衆」

 

「良く集まってくれた。礼を言う」

 

とそこで、華族夫妻………妻役の侯爵夫人役の杏と、旦那の侯爵役である迫信が姿を現す。

 

傍らには、生まれた赤ん坊の居る乳母車が在る。

 

「今宵の宴は我が子の誕生を祝うめでたい宴………」

 

「歌って、踊って、大いに祝い、陽気にやってくれ!」

 

「おめでとうございます! 侯爵様!」

 

「「「「「「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」」」」」

 

迫信と杏がそう呼び掛けると、親族一同と大洗の住民達は一斉にお祝いの言葉を口にし、盛大な拍手を送った。

 

そしてそのまま、祝いの宴が開催される。

 

杏の言葉通り、集まった親族一同と大洗の住民達は、流れる陽気な音楽に合わせて、歌い舞い踊り、侯爵家の子供の誕生を祝う。

 

その様子を、迫信と杏は満足そうな表情で見ている。

 

「………侯爵様、奥方様」

 

「巫女の方々がご到着されました」

 

とそこで、迫信と杏の傍らに控えていた執事役の逞巳とメイド役の柚子がそう告げる。

 

「おー、来たかー」

 

「待ちわびたよ………」

 

杏と迫信がそう言ったかと思うと、舞台上に巫女の恰好をした12人の戦車チームの面々(カバさんチーム+紗希を除くウサギさんチーム+優花里+麻子+華)が現れる。

 

「侯爵様。侯爵夫人様。御機嫌よう」

 

「お子様の誕生と聞いて、参上致しました」

 

「お子様の誕生、おめでとうございます」

 

「おお、巫女の諸君。良く来てくれたね」

 

カエサル、エルヴィン、左衛門佐がそう言うと、迫信がそう返す。

 

「さあ、どうぞ。私達の娘だよ」

 

杏がそう言い、巫女達を乳母車の方へと促す。

 

「まあ!」

 

「何と可愛らしい!」

 

「お嬢様なのかしら!」

 

「まるで天使の様です!」

 

乳母車の中を覗き込ん梓、優希、あゆみ、優花里がそう声を挙げる。

 

「お嬢様に私達12人から1つずつ、幸運を祈って贈り物を差し上げます」

 

そしてあやがそう言うと、巫女達は赤ん坊に祝福の美徳の贈り物を送って行く。

 

「さあ、コレで私の贈り物は済んだぜよ。残りは、君の贈り物ぜよ」

 

やがて11人目であるおりょうの贈り物が終わり、いよいよ最後の12人目である華の番となる。

 

「ハイ。お嬢様、私からの贈り物は………」

 

と、華がそう言いかけた瞬間!

 

突如舞台上が暗くなり、雷のエフェクトと落雷の音が鳴り響き出す。

 

「アーッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

そこでまるで特撮ものに出て来そうな悪の大幹部の様な高笑いと共に、呪術師の恰好をした桃が、スモークと共に舞台上に登場した。

 

「貴方は!? 悪の呪術師!?」

 

「おやおや? 随分と賑やかな事で………」

 

桂利奈がそう声を挙げると、桃は丁寧な口調でそう言う。

 

しかし、その様からは、慇懃無礼な雰囲気が伝わって来る。

 

「今宵の宴はとても華やかな様子………しかし………何故私には招待状が届かなかったのかしら?」

 

「誰が悪の呪術師を招待するか………」

 

桃の言葉に、麻子がそう言い返す。

 

「ほう? 成程………つまり私は………招かれざる客………と言う事か」

 

「申し訳ありません………貴方は賑やかな席は嫌いだとお伺いしていたものですから」

 

桃が不機嫌になった様な様子を見せると、杏がおっかなびっくりと言った様子で取り繕う様にそう言う。

 

(会長の演技力、何気に高いね………)

 

(割と何でも熟せるからね………)

 

と、そんな杏の様子を見ていた、大洗の町の住人に扮していたナカジマとホシノがそう言い合う。

 

「そんな事はございませんわ。その証拠に………私からも、お嬢様に心からの贈り物をお送りしましょう」

 

そこで桃が、不気味な笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

(けど、それ以上にノリノリなのが………)

 

(河嶋さんだね………)

 

そして、そんな杏以上に色んな意味で高い演技力を見せている桃を見て、屋敷の警備兵に扮している正義と竜真がそう言い合う。

 

「良く聞くが良い、皆の者! お嬢様はその美しさと気高さと優しさで人々から愛され、幸せな毎日を送る事でしょう………しかぁしっ!!」

 

クワァッ!と目を見開く桃。

 

その様子に、観客席の一部の子供が泣き始めた。

 

明らかにやり過ぎであるが、ノリにノッて居る桃は気づかない。

 

「17歳の誕生日までに、糸車の針で指を刺して………死ぬっ!!」

 

桃がそう言い放った瞬間!

 

乳母車に呪いが掛かった様なエフェクトが掛かり、赤ん坊の泣き声が響く。

 

「ああっ!? 何て事!?」

 

「その者を捕らえよっ!!」

 

杏が泣きながら乳母車に擦り寄り、迫信がそう命じると、警備兵役の男子が桃を取り囲む。

 

「アーッハッハッハッハッ!! 貴様ら如きに私を捕らえる事など出来んわ! アーッハッハッハッハッ!!」

 

しかし、桃がそう言い放つと、その身体は緑色の不気味な炎に包まれる様なエフェクトが掛かり、高笑いだけを残して煙の様に消えてしまう。

 

「う、ううう………」

 

「誰か………誰か娘を助けてくれる者はいないのか?」

 

乳母車に擦り寄ったまま泣く杏と、集まっている一同にそう呼び掛ける迫信。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

だが、集まっている者達には何も出来ず、只々沈黙するばかりである。

 

「侯爵様。まだ私の贈り物が残っております」

 

するとそこで、まだ贈り物をしていなかった華が、迫信にそう言った。

 

「おおっ! あの呪術師の呪いを解いてくれるのか!?」

 

「いえ………残念ながら、この呪いの力は強過ぎて、私では解く事は出来ません………」

 

期待する様な声でそう言う迫信だったが、華は申し訳無さそうにそう返す。

 

「そんな………」

 

「ですが、内容を修正する事は出来ます」

 

杏が絶望の表情を見せるが、華はそう言葉を続けた。

 

「如何言う事かね?」

 

「………小さなお嬢様。私からの贈り物は、もし悪い呪術師の言う通り、糸車の針で指を刺しても、一筋の希望が残る贈り物を………」

 

迫信がそう尋ねる中、華は贈り物を捧げ始める。

 

「もし糸車の針で指を刺しても、死ぬのではなく、ちょっとの間、深い深~い眠りにつくだけ………やがてお嬢様の事を心から愛する人が現れ、その人の口付けで目を覚ますのです」

 

華がそう言い放つと、乳母車に光り輝くエフェクトが掛かった。

 

そしてそこで、一旦舞台の幕が閉じられる………

 

『呪術師の呪いを恐れた侯爵は、陛下にお願いし、そして町の住人達の協力を取り付け、町中の糸車を燃やしてしまいます』

 

沙織のナレーションが響き、幕が再び開いたかと思うと、山の様に積まれた糸車に火が掛けられ、燃え上がる絵画がスポットライトで照らされる。

 

『しかし、まだ安心は出来ません。何故なら、呪いを掛けたのはあの恐ろしい呪術師なのですから。そこで12人の巫女達は、呪術師の目を欺く為に、お嬢様を自分達の大洗磯前神社へと匿います』

 

暗転すると、今度は大洗磯前神社の絵画が映し出される。

 

『そしてそのまま17年の月日が流れ………いよいよお嬢様の17歳の誕生日の日………そして呪いが効力を失う日が来ました』

 

またも舞台の幕が下りたかと思うと………

 

スピーカーから『陸軍分列行進曲』が流れ始めた。

 

そして幕が上がり、森の奥深くの様なセットが組まれている舞台上に、陸軍軍人に扮した一団が、行進と共に現れる。

 

「ぜんたーい、止まれ!」

 

と、先頭に居た陸軍少尉に扮した隊長役の弘樹がそう号令を掛けると、陸軍軍人に扮した一同はピタリと止まる。

 

「気を付けっ!」

 

弘樹が更にそう号令を掛けると、一同は姿勢を正す。

 

「では本日の訓練を開始する! 先ずは野営陣地の設置だ! 総員、作業開始っ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そしてその号令で、陸軍軍人一同達は、野営陣地設営の演技を始める。

 

「………フウ」

 

そんな陸軍軍人達から少し離れると、溜息を吐く弘樹。

 

「隊長殿、如何致しました?」

 

とそこで、副隊長役の勇武がそう声を掛ける。

 

「いや………最近同じ夢ばかりを見ていてな。それが如何にも頭から離れんのだ」

 

「夢?」

 

「ああ………とても美しい………まるで天女の様な女性の夢だ」

 

遠くを見る様な様子を見せながら、弘樹は勇武にそう言う。

 

その演技にはまだ拙い部分も多いが、逆にそれが無骨な職業軍人と言うキャラクターを演出していた。

 

「へえ、少尉殿がその様な夢を見るとは………意外ですね」

 

「………何がだ?」

 

と、勇武が茶化すかの様にそう言うと、弘樹は不機嫌そうな表情を見せる。

 

「!? あ、いえ、その………! ああ! 定時連絡の時間だ! 失礼します!!」

 

途端に勇武は大慌てで、逃げる様に弘樹の前から離れて行った。

 

「全く………ん?」

 

弘樹が呆れる様な様子を見せた瞬間、その耳に女性の歌声らしきモノが聞こえて来る。

 

「歌?………」

 

周りを見回す弘樹だが、その歌を歌っている主らしき人物は確認出来ない。

 

他の者達も、聞こえていないのか作業に没頭している。

 

「…………」

 

だが弘樹は、その歌声が如何にも気に掛かり、そのまま誘われる様に歌声が聞こえて来る森の奥へと足を踏み入れて行った………

 

そこで舞台が暗転。

 

暗闇の中で弘樹だけがスポットライトで照らされ、勇武達が組み替えられたセットと共に姿を消す。

 

そしてセットの組み換えが終わると共に明かりが再び点くと、場面は森の奥深くの花畑の中のセットとなっていた。

 

「~~~♪~~~♪」

 

その花畑の中心では、1人の女性が歌を歌っている。

 

「! 彼女は!?………」

 

『木陰からその女性を見ていた少尉は、驚きを露わにしました。何故なら、その女性こそが………少尉が夢に見ていた女性だったからです』

 

沙織のそう言うナレーションが響く中、女性………

 

巫女達によって匿われ、美しく成長した侯爵の娘・みほは、美しい歌声を披露し続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に大洗機甲部隊による、アレンジの入った『眠れる森の美女』の演劇が開始です。
いや~、『舞台を演じている風景』という感じで小説を書くのは初めての試みだったので、中々大変です。
もし、気になる点・おかしな点がございましたら、ご指摘の方をお願い致します。

さて、次回はいよいよ盛り上がるシーン。
『あの人』が再び登場したりして、大ドタバタ劇になります。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第97話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート2)』

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第97話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート2)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦の学園祭2日目………

 

大洗男子校が主催となり、遂に大洗機甲部隊による劇の披露が始まった。

 

演目はアレンジされた『眠れる森の美女』………

 

大洗の町に住む侯爵夫妻(迫信・杏)の間に、待望の子宝が生まれた。

 

親族と町の住人達を屋敷に招き、盛大な宴を開く侯爵夫妻。

 

そして生まれた娘に、12人の巫女達が祝福の贈り物を捧げて行く。

 

しかし、招待されなかった事に腹を立てた悪の呪術師が、娘に『17歳の誕生日までに、糸車の針で指を刺して死ぬ』と言う呪いを掛ける。

 

だが、まだ贈り物をしていなかった12人目の巫女が、この呪いを『死ぬのではなく眠りにつき、愛する者の口づけで目が覚める』と言う内容に修正する。

 

それでも安心出来なかった侯爵夫妻は町中の糸車を燃やし、娘を12人の巫女の元へと預けた。

 

それから月日が流れ………

 

娘の17歳の誕生日が近づく中、1人の陸軍少尉(弘樹)が、森の中でいつも夢に見ていた女性を見つける。

 

その女性こそが、巫女たちの元に匿われ、美しく成長していた侯爵夫妻の娘(みほ)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校の校舎内・多目的ホールの舞台にて………

 

「~~♪~~~♪」

 

森の奥深くの花畑のセットの中心で、歌いながら舞い踊っているみほ。

 

周りには小鳥が飛び交い、小動物達が輪を作っている。

 

「………間違いない。彼女だ………小官の夢に出て来た」

 

そのみほの姿を見て、弘樹はそう呟く。

 

と、思わず1歩踏み出してしまった瞬間、足元に在った小枝を踏み折り、音を立ててしまう。

 

「! あ!………」

 

その音で弘樹の存在に気付いたみほが歌うのを止め、立ち尽くす。

 

「だ、誰なの?………」

 

若干怯えた様子を見せながら、みほはそう問い質す。

 

「ああ、コレは失礼を………驚かせる積りは無かったのです。貴方の姿に見惚れていて、声を掛けるのを躊躇ってしまいまして」

 

すると弘樹は、そんなみほの警戒を解く様に、軍帽を脱いで、将校用のマントを外して腕に携えてそう言う。

 

「あ………」

 

そこでみほは何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「小官は帝国陸軍の少尉です。初めまして」

 

「は、初めまして………」

 

「………と言っても、実は小官は、貴方とお会いするのは初めてではないのですが」

 

「えっ?」

 

「この様な話をするのもおかしいと思われるかも知れませんが………ここのところずっと………貴方の事を夢に見ていたのです」

 

「ええっ?」

 

弘樹がそう言うと、みほは驚きを露わにする。

 

「その貴方がこうしてココに実在するとは………未だに信じられません」

 

「あ………」

 

「美しい方………もし宜しければ、お名前をお聞かせ願えません」

 

そう言ってみほの前で畏まる弘樹。

 

「あ、えっと………ゴメンなさい。私、人に名前を言っちゃいけないって言われてるんです。だから………さよなら!」

 

しかし、みほは申し訳無さそうな表情を見せたかと思うと、弘樹の前から逃げ出す様に走り出した。

 

「ああ! 待って下さいっ!!」

 

そう呼び掛ける弘樹だったが、みほの姿は舞台袖へと消える。

 

「行ってしまった………とても美しい人だった………そう、まるで天女の様に………」

 

取り残された弘樹は、みほが消え去った方向を見ながらそう呟く。

 

「もう………彼女とは会えないのだろうか………」

 

更に続けてそう呟いたところで舞台は暗転。

 

暗闇の中で弘樹は舞台袖に姿を消し、整備部がセットを森の奥深くから、大洗磯前神社の境内へと組み替え、照明を再点灯させる。

 

「ハア………ハア………」

 

そこで舞台袖からみほが登場し、息を切らせている演技を見せる。

 

「思わず逃げて来ちゃった………陸軍の少尉さん………実は、私も貴方の事を夢に見ていました」

 

そのまま客席の方を向いて語る様に台詞を続けるみほ。

 

「その貴方が、私の事を夢に見ていたなんて………何だろう? 胸が………胸が苦しい………少尉様………とても………とても素敵なお方………」

 

と、みほがそう言うと………

 

「お嬢様。此処に居たのですか」

 

「探しましたよ」

 

そう言う台詞と共に、12人の巫女達が舞台上に登場する。

 

「あ、巫女様方………」

 

「さあさあ、そろそろ支度の時間ですよ」

 

「今日は貴方の17歳の誕生日」

 

「そして呪術師の呪いが効力を失う日でもあります」

 

みほに向かってカエサル、エルヴィン、左衛門佐がそう言う。

 

「やっと父上と母上の元で一緒に暮らせる様になるのです」

 

「と~っても、おめでたい事なの~」

 

続けて梓と優希がそう言う。

 

「あ、あの………でも、私………」

 

「辛かったでしょうね………17年も離れ離れで………」

 

「でも、それも今日でお終い」

 

「今日からは侯爵夫妻の娘に戻るんだよ~」

 

みほが何か言おうとしたが、それを遮る様にあゆみ、あや、桂利奈がそう言う。

 

「そんな! 待って下さい!」

 

「如何したぜよ? お嬢様?」

 

「何かあったのか?」

 

戸惑いの様子を見せるみほに、おりょうと麻子がそう言う。

 

「わ、私………」

 

「お嬢様。色々とおありでしょうが、身支度を………」

 

「侯爵夫妻がこの17年間、首を長くしてお待ちになっておりますよ」

 

何かを言おうとしたみほだったが言い出せず、華と優花里がそう声を掛けて来る。

 

「………ハイ。分かりました」

 

「さ、こちらへ………」

 

みほはそう言って頷き、12人の巫女達はみほを連れて舞台袖へと消える。

 

そこで一旦幕が下りる。

 

『お互いに惹かれ合う少尉とお嬢様………しかし、お嬢様は今日で侯爵夫妻の屋敷へ戻らなければなりません。もう2人が会う事はないのでしょうか?』

 

そして沙織のナレーションが終わると同時に幕が開き、舞台上にはお嬢様となって侯爵の屋敷へ戻り、自室に居るみほが現れる。

 

「少尉様………」

 

その胸の内は、森で在った陸軍少尉・弘樹の事でいっぱいだった。

 

「如何してこんなに会いたくなるの?………会いたい………貴方に会いたい………」

 

切なげにそう語るみほ。

 

とその時………

 

何処からともなく、糸車を回している音が聞こえて来た。

 

「アラ? 何かしら? あの音?………」

 

みほはその音がとても気になり、音の元へと向かいだしてしまう。

 

舞台が暗転すると、セットが屋敷内の別の一室に組み替えられ、糸車を回している老婆………悪の呪術師・桃が現れる。

 

「何をしているのですか?」

 

「糸を紡いでいるのさ………お前さんもやってみるかい?」

 

そうとは知らずにその老婆の元へと近寄ったみほがそう尋ねると、老婆はみほに向かってそう言う。

 

「如何やるのですか?」

 

「簡単さ。そこの針にちょ~と触れるだけで良いんだよ………」

 

みほには見えぬ様に不気味に笑いながら老婆はそう言う。

 

「針に………」

 

まるで暗示を掛けられているかの様に、みほは糸車の針へと手を伸ばす。

 

そしてその指先が針に触れた瞬間!

 

「あ!………」

 

みほはバタリと倒れ、そのまま深い深~い眠りへと着いた。

 

「ア~ッハッハッハッハッ! 私の呪いは絶対だ! 逃れる事は出来ぬ! ア~ッハッハッハッハッ!!」

 

そこで老婆の衣装を脱ぎ捨てた呪術師・桃が、そう高笑いを挙げ、特殊効果を使って舞台上から姿を消す。

 

その直後に、ステージ上のセットを、茨が覆い尽くした。

 

『巫女の贈り物により、お嬢様は死なず、眠りにつきました。しかし、呪いは屋敷中のみならず、大洗の町中へと広がり、全ての人々が同じ様に眠りにつき、茨が町全体を覆い尽くしました』

 

幕が閉じられると、沙織のナレーションが響き渡る。

 

『その後、幾度となく茨の城と化した大洗の町と侯爵の屋敷に侵入を試みた者が現れましたが、鉄条網の様な茨と呪術師に敗れ、悉く命を落として行きました。もう、お嬢様と街の人々は永遠に目覚めないのでしょうか?』

 

と、沙織がそうナレーションした瞬間、『陸軍分列行進曲』が流れ始める。

 

『いえ、1人………たった1人ですが、お嬢様を救える者が居ました』

 

そして幕が開くと、舞台上には陸軍参謀本部の参謀総長室と思しきセットが組まれていた。

 

その参謀総長席には、陸軍参謀総長役を演じている熾龍の姿が在る。

 

そこで、背景のセットに付けられていた扉をノックする音が響く。

 

「………入れ」

 

「失礼致します」

 

熾龍がそう言うと扉が開き、弘樹が舞台上へと登場する。

 

「参謀総長殿、お呼びでしょうか」

 

弘樹は熾龍の前に立つと、陸軍式敬礼をしながらそう尋ねる。

 

「少尉………貴様に命令だ。それも陛下からの直々の大命だ」

 

「!? 陛下から!?」

 

陛下からの直々の大命と言う事に、弘樹は驚いた演技を見せる。

 

「不服か?………」

 

「いえ! 身に余る光栄です! 陛下の大命とあらば、この身を賭してでも完遂致す所存であります!」

 

姿勢を正すと、宣言する様にそう言う弘樹。

 

「良い覚悟だ………では、命令を伝える」

 

「ハッ!」

 

「少尉………精鋭の部下を連れ、茨に閉ざされた大洗の町へと向かい、その呪いを解け」

 

「! 大洗の!?………」

 

「部下の選定は貴様に任せる。陛下の期待を裏切るなよ」

 

「ハッ! では、失礼致します!!」

 

弘樹は再び陸軍式敬礼をして、参謀総長室から退室して行った。

 

そこで舞台が暗転すると、整備部がセットを組み替え始める。

 

『そう………お嬢様を救える只1人の人物………それはあの少尉だけなのです。大洗へ行けば、お嬢様とまた会える………そんな期待を胸に、少尉は軍馬に跨り、精鋭の部下を引き連れて、茨に閉ざされた大洗の町へと向かったのでした』

 

沙織がそうナレーションを終えると、組み替えられた茨に覆われた大洗の町のセットが照明で照らされる。

 

そのセットが組まれた舞台上に、軍馬(演:シュトゥルム)に跨った弘樹と、彼が引き連れて来た精鋭の部下達が現れる。

 

「何と言う禍々しい光景だ………コレがあの大洗の景色なのか?」

 

茨の生え広がった大洗の町の様子を見て、弘樹がそう呟く。

 

引き連れられていた部下達も、戸惑いの演技をする。

 

「! 何者だっ!!」

 

とその時!

 

何者かの気配を感じ取った弘樹が、軍刀を抜き放ってそう言い放つ。

 

すると舞台上に、12人の巫女達が登場する。

 

「私達は………」

 

「お嬢様を守る………」

 

「巫女だよ~」

 

梓、あゆみ、優希がそう言う。

 

「巫女?………」

 

「私達はお嬢様を心から愛し………」

 

「邪悪な呪術師を打ち砕く………」

 

「勇者を待っていました」

 

弘樹が首を傾げていると、あや、桂利奈、カエサルがそう言葉を続ける。

 

「貴方様こそが………」

 

「我々の待ち望んだお方………」

 

「お嬢様は呪術師の呪いによって………」

 

「侯爵様の屋敷の最深部で眠っている」

 

「お嬢様………! もしや!?」

 

エルヴィン、左衛門佐、おりょう、麻子がそう言うと、弘樹はお嬢様と呼ばれた人物に心当たりを覚える。

 

「そう………貴方がこの大洗の森の奥深くで出会った夢に見た女性………」

 

「あのお方こそ、この呪いを掛けられた侯爵家のお嬢様なのです」

 

「やはり………」

 

華と優花里の言葉に、弘樹は納得が行った表情となり、背景のセットに描かれた、大洗の町を一望出来る丘の上に建てられている侯爵の屋敷を見やる。

 

「………小官に彼女が助けられるだろうか?」

 

「真の愛の道は楽なものではありません………」

 

「真実を武器に戦い………」

 

「勇気で身を守るのです」

 

と、弘樹がそう言うと、巫女達は一斉に御幣を取り出し、お祓いをする様に振る。

 

すると、弘樹に光が降り注ぐ様なエフェクトが掛かる。

 

「ありがとう………お嬢様の呪いは、必ず解いてみせる」

 

弘樹がそう宣言する様に言った瞬間!!

 

「アーッハッハッハッハッ!!」

 

最早お馴染みとなった高笑いを響かせ、天井からワイヤーで吊るされた状態で、呪術師・桃が登場する。

 

「! 貴様はっ!?」

 

「我こそは悪の呪術師………陸軍の少尉よ………お嬢様の呪いを解くだと? アーッハッハッハッハッ!! やれるものならやってみるが良い!!」

 

弘樹を馬鹿にする様に再度高笑いを挙げる桃。

 

「但し………無事にお嬢様の元へと辿り着けたらなぁっ!!」

 

桃がそう言い放った瞬間!!

 

「「「「「イーッ!!」」」」」

 

「「「「「ギーッ!!」」」」」

 

呪術師が呼び出した、悪の式神達が次々に舞台上へと登場する。

 

………しかし、恰好が黒い全身タイツ姿に覆面という事と、前述の掛け声もあって、如何見ても『戦闘員』にしか見えなかった。

 

(チキショー、何でこんな役なんだよ………)

 

(貧乏くじ引いたぜ………)

 

演じている大洗歩兵部隊の面々も覆面の下で渋面を浮かべている。

 

「お嬢様の呪いは絶対に解かせん! 絶対にだ!!」

 

そんな中、1人猛烈なやる気を見せている式神・了平。

 

………明らかに私情が入っている。

 

「リア充死すべし! 慈悲は無ぁいっ!!」

 

私怨たっぷりなアドリブと共に、了平は弘樹へと飛び掛かる。

 

「セイッ!!」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

だがそのまま巫女の加護を受けて光を帯びている軍刀で斬り捨てられ、敢え無く退場した。

 

「………貴様がお嬢様に呪いを掛けた呪術師か」

 

そして弘樹は、斬り捨てた了平には微塵も興味を示さず、ワイヤーで吊られている桃を睨みつける。

 

「!? ヒッ!?………」

 

「お嬢様は小官が助け出す………必ずだ」

 

その迫力に若干ビビった桃に、弘樹はそう宣言する。

 

「な、生意気なぁっ! 式神達よ! やぁっておしまい!!」

 

「「「「「「「「「「アラホラサッサーッ!!」」」」」」」」」」

 

何処かで聞いた様な遣り取りの後、桃は天井へと消え、式神達が一斉に弘樹へと襲い掛かる。

 

「むうっ!」

 

軍刀を握ったまま、空いている片手で手綱を握って、シュトゥルムを操る。

 

しかし、そこで!

 

「むんっ!!」

 

弘樹に襲い掛かろうとしていた式神の棍棒を、着剣した三八式歩兵銃で受け止める勇武。

 

「隊長殿! ココは僕達に任せて下さいっ!!」

 

「何っ!?」

 

「隊長殿は屋敷へ!」

 

「お嬢様を御救い下さいっ!!」

 

驚く弘樹に、同じく部下役の光照と清十郎がそう言って来る。

 

「………任せたぞ!」

 

弘樹は一瞬考える様な様子を見せた後、シュトゥルムを走らせた!!

 

舞台が暗転し、セットが組み替えられる。

 

大洗の町を覆っている茨を軍刀で斬り開きながら、屋敷を目指して進む弘樹。

 

「お嬢様………今参ります!」

 

その視線は、屋敷を一心に見やっている。

 

そして遂に、弘樹は屋敷の真ん前まで辿り着く。

 

「ええい! そうはさせるかぁっ!!」

 

とその行く手に、天井からワイヤーで降りて来た桃が立ちはだかる。

 

「!!」

 

手綱を引き、シュトゥルムを止める弘樹。

 

「こうなったら私が相手だ! 思い知るが良い! 悪の力をっ!!」

 

桃がそう叫ぶと、その身体がスモークに包まれる。

 

少しして、スモークが晴れるとそこには………

 

『何と! 呪術師はその力によって、自らを竜へと変身させたのです!!』

 

沙織がナレーションする通り、桃は変身したと言う設定で、竜の着ぐるみを着ていた。

 

しかし、その着ぐるみは………

 

3つの頭部と、それを支える長くしなやかな3本の首、2本の長い尾、全身を覆う黄金色の鱗、腕の代わりに巨大な一対の翼を持つ姿………

 

如何見ても『キングギドラ』だった!!

 

「アーッハッハッハッハッ!!」

 

構造上の都合なのか、変身していると言う事を分かり易く表現する為か、3つ在る首の内、中央の首の根元部分には、桃の顔が露出しており、高笑いを挙げている。

 

それと同時に、3つの頭からも、エレクトーンの様な独特な咆哮を挙げる。

 

「………ハアッ!」

 

と、そのキングギドラとなった桃に、弘樹は軍刀を掲げる様に構えて、シュトゥルムを突撃させる。

 

「死ねぇっ!!」

 

するとキングギドラ・桃は、やけに感情が籠った声でそう言い放ったかと思うと、3つの口から稲妻状の光線………引力光線を放つ!

 

「!?」

 

咄嗟に弘樹は、これまた巫女の加護を受けたマントを翻して引力光線を防ぐ。

 

しかし、衝撃によって落馬してしまう。

 

「クウッ!………」

 

すぐに体勢を立て直しながら、軍刀を構える弘樹。

 

「アーッハッハッハッハッ!!」

 

その弘樹に向かって高笑いと共に再び引力光線を放つキングギドラ・桃。

 

「ッ!!………」

 

周辺に着弾し、弘樹の周囲で爆発が連続で起こる。

 

「ハアッ!!」

 

しかし、そんな中で敢えて踏み込み、キングギドラ・桃を斬り付ける。

 

「ぐああっ!? お、オノレェッ!! 三下如きがぁっ!!」

 

するとキングギドラ・桃は、3つの口から同時に引力光線を発射!!

 

3つの引力光線が1つに合わさり、弘樹の足元に着弾する!

 

「!? うおわっ!!」

 

爆風に吹き飛ばされ、仰向けに倒れる弘樹。

 

「クッ!」

 

「させんっ!!」

 

すぐに起き上がろうとした弘樹だったが、キングギドラ・桃が巨大な足で踏みつけて来る。

 

「ガハッ!………」

 

弘樹はキングギドラ・桃と床の間に挟まれ、身動きが取れなくなってしまう。

 

「グウッ!!」

 

キングギドラ・桃を退かそうとする弘樹だがビクともしない。

 

「アーッハッハッハッハッ!! 所詮愛の力など、この程度だ! 邪悪の力の前には全てのモノが平伏すのだぁっ!!」

 

(オ、オイ! 段取りが違うぞ!?)

 

(桃ちゃん、完全に役に成り切っちゃって芝居を忘れちゃってる)

 

トリップしているかの様な様子でそう言い放つキングギドラ・桃だが、完全に芝居を忘れてしまっている為、舞台袖で控えている大洗機甲部隊の面々は大慌てとなる。

 

(マズイ! 止めないと!!)

 

(でも! お客さんはまだ芝居が続いていると思ってるし、ココで乱入したら滅茶苦茶になっちゃうよ!!)

 

(既に手遅れだと思うけどなぁ………)

 

桃を止めないとと言う楓だったが、蛍がそう言って止め、俊がツッコミを入れる。

 

と、その時………

 

『陸軍分列行進曲』が流れ始める。

 

(!? オイ! 何で此処で『陸軍分列行進曲』を流すんだ!?)

 

(いや! 自分は操作していません!)

 

地市が音響スタッフ役の機甲部隊員にそう言うが、そう返事が返って来る。

 

(何っ!?)

 

(あの、この音楽………外から聞こえませんか?)

 

そこで優花里がそう指摘する。

 

その言葉通り、今流れている『陸軍分列行進曲』は、ステージのスピーカーからではなく、校舎の外の方から聞こえて来ている。

 

その次の瞬間!!

 

突然多目的ホールの舞台上の壁が、爆発と共に吹き飛び、大穴が空いた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々と観客達、そしてキングギドラ・桃と弘樹も、何が起こったのかと驚愕を露わにする。

 

やがてその大穴から………

 

『九七式中戦車』が姿を現した!!

 

(!? チハです!! それにあのマークは!?)

 

優花里が舞台袖でそう声を挙げると………

 

「ハーッハッハッハッ!!」

 

高笑いと共に九七式中戦車のハッチが開いて、『西 絹代』が姿を現した!!

 

「!? 西総隊長!?」

 

「西 絹代、見参! 義によって助太刀致ーすっ!!」

 

弘樹が驚きの声を挙げた瞬間に、絹代がそう言い放ち、九七式中戦車が発砲!

 

放たれた砲弾は、キングギドラ・桃を直撃した!!

 

「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

重たい着ぐるみを着た桃が、まるで木の葉の様に宙に舞い、舞台の床の上に叩き付けられる!

 

「!!」

 

自由になった弘樹は、すぐさま起き上がり、キングギドラ・桃に向かって軍刀を構えて突撃!

 

「グウウ………」

 

「悪の呪術師! 覚悟ぉっ!!」

 

「!??!」

 

そして、大上段から一気に軍刀を振り下ろし………

 

キングギドラの真ん中の首を真っ二つにした!!

 

「…………」

 

根元の桃の顔まで刃が到達するかと思われた瞬間に、寸止めをする弘樹。

 

「ヒイイイイイイイイッ!? あ………」

 

恐怖の余り、桃はそのまま気絶。

 

その光景が、まるで本当に悪の呪術師が倒されたかの様に見える。

 

「…………」

 

倒れたキングギドラ・桃を一瞥すると、弘樹は軍刀を鞘へと納める。

 

「やったわね。さあ、行きなさい! 貴方を待っている人が居るわ!」

 

そこで絹代が、弘樹にそう言い放つ。

 

まるで話の流れを分かっているかの様に………

 

「お嬢様を目覚めさせる事が出来るのは、真にお嬢様を愛する者のキスだけ………貴方が真にお嬢様の事を愛しているのなら………口づけを」

 

「………ハッ!」

 

何処か含みがある様な絹代のセリフに、弘樹は一瞬戸惑いながらも、陸軍式敬礼をすると、みほの元へと急いだ。

 

(! 暗転だ! すぐにセットを組み換えろ!!)

 

((((((((((!?))))))))))

 

とそこで、敏郎がそう呼び掛け、大洗機甲部隊と整備部の面々は大慌てて劇の続きに取り掛かる。

 

「フフフ………」

 

それに合わせる様に、絹代が乗る九七式中戦車も後退し、壁に空けた大穴から出て行く。

 

直後に整備部の面々が壁を応急修理で塞ぐ。

 

そして、舞台上のセットは組み替えられ………

 

照明が点灯すると、ベッドの上で眠っているみほの姿が現れる。

 

直後に、舞台袖から弘樹が登場する。

 

「おお………正しくあの時、森で出会った人だ」

 

登場した弘樹が、みほの姿を見てそう台詞を言う。

 

「もう2度と会えないと思っていたが………」

 

そう言いながら、眠っている演技をしているみほの傍へと寄る弘樹。

 

(ふえええ~~~………)

 

一方、眠っている演技をしているみほは、表にこそ出していないが、いよいよクライマックスのシーンと言う事もあり、緊張の渦の中に居た。

 

(い、いよいよなんだ………)

 

「お嬢様………小官の愛で、貴方に掛けられた呪いを解いて差し上げましょう」

 

みほの緊張が高まる中、弘樹はそう言って、顔をみほへと近づける。

 

尚、流石に公衆面前でホントにキスは恥ずかしいとの事で、観客からそう見える様にする事になっている。

 

その際に沙織が『公衆面前じゃなかったら良いの?』と問い質し、みほが真っ赤になって黙り込んだのは余談である。

 

「………誰?」

 

と、キスシーンが終わり、みほが目を覚ます。

 

「小官です、お嬢様」

 

「陸軍の………少尉さん」

 

「お助けに参りました。また貴方とお会い出来て………とても、嬉しいです」

 

「少尉さん………」

 

そこで黙り込むみほ。

 

本来ならばこの後も台詞が続く筈である。

 

突然黙り込んだみほに、観客達はざわめき立つ。

 

(みほくん、如何した?)

 

小声でみほにそう尋ねる弘樹。

 

(………台詞、忘れちゃった)

 

(!? 何っ!?)

 

観客達に見えない様に青い顔をするみほと、ポーカーフェイスを保ちながら驚く弘樹。

 

(ちょっ!? みほちゃん台詞忘れてるぞ!!)

 

(カ、カンペを!!)

 

(それが、さっきのドサクサで何処かに行ってしまって………)

 

(ん何ぃっ!?)

 

舞台袖に控えていた大洗機甲部隊の面々も大慌てとなる。

 

(ど、如何しよう!?………)

 

(…………)

 

益々青褪めて行くみほを見ながら、弘樹は何かを考える様子を見せる。

 

そして次の瞬間!

 

弘樹はみほの事を、横抱き………

 

所謂、『お姫様抱っこ』で抱え上げた!

 

「!? ふええっ!?」

 

(! 明かりを消せ! そして真上からスポットライトだっ!!)

 

(! ハ、ハイッ!!)

 

みほが驚きと戸惑いの混じった声を挙げていると、敏郎が何かを察した様にそう指示を飛ばし、照明が消えて、弘樹とみほの姿だけが、真上からスポットライトの光で照らされる。

 

するとそこで、光の粉が降り注ぐようなエフェクトが掛かった。

 

その神秘的な光景に、観客達は全員見惚れる。

 

「…………」

 

そして、抱き抱えられているみほも、弘樹の毅然とした顔を間近から見て、頬を染めていた。

 

『お嬢様の呪いは解けました。そして、侯爵の屋敷と大洗の町も元通りとなり、美しさを取り戻したその町で、少尉とお嬢様は末永く………いつまでも幸せに暮らしましたとさ………御終い』

 

沙織の締めのナレーションが響く中、舞台の幕がゆっくりと下りる。

 

そして完全に幕が降り切ると、観客達から割れんばかりの拍手が送られたのだった。

 

様々なトラブルやドタバタがありながらも………

 

最後は咄嗟の弘樹のアドリブの行動と、沙織のナレーションが劇を上手く纏め、何とか終了させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗機甲部隊による演劇、終了です。
一応は最後までやり遂げましたけど、内容はホント、ドタバタものでしたね(笑)
最後は弘樹のアドリブの行動で締めました。
彼の場合、台詞のアドリブよりも行動のアドリブの方が似合いそうなので、あんな感じにしました。

さて、次回で学園祭編も終了。
女子学園側の方で、あんこうチームのカップリングを描写したので、今回は他チームのカップリングを紹介も兼ねて描写して行こうかと。
人数が人数ですので多少纏まって描写しますの、予めご了承ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第98話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート3)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第97話『スクールカーニバル・ウォーです!(男子校サイド・パート3)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦の学園祭2日目、大洗男子校が主催の日………

 

遂に大洗機甲部隊による演劇『眠れる森の美女』が披露される。

 

途中桃が芝居を忘れてトリップする………

 

ラストシーンでみほが台詞を忘れてしまうと言ったトラブルがあったものの………

 

ドタバタながらも舞台は好評の内に終了。

 

一仕事を終えた大洗歩兵部隊の面々は………

 

其々の部やクラスの出し物の手伝いに回ったり、学園祭巡りへと出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗国際男子校の屋上………

 

「わあ~、凄い活気ね~」

 

手摺に寄り掛かって、眼下に広がる大洗国際男子校の学園祭の光景を見ながら、絹代はそう言葉を漏らす。

 

「西総隊長。こちらでしたか」

 

とそこで、屋上への扉が開き、普段の学生服姿の弘樹が姿を現す。

 

「アラ、弘樹。もうファンサービスは終わったの?」

 

「ええ、まあ………」

 

劇が終了後、ファンサービスとして、舞台出演者やスタッフとして参加していた大洗機甲部隊と観客との交流が行われた。

 

現在、戦車道・歩兵道を順調に勝ち進んでおり、先程ドタバタながらも見事な演劇を魅せた大洗機甲部隊の人気は絶頂。

 

特に主役とヒロインを演じた弘樹とみほの人気は、子供達を中心に高く、ちょっとした黒山の人だかりが出来ていたのである。

 

「来られるのでしたらご連絡を下されば良かったのに………」

 

「今日はプライベートよ。出迎えなんかさせたら悪いじゃない」

 

「チハに乗ってプライベートですか?」

 

舞台に九七式中戦車で乱入して来た事を思い出しながらそう言う弘樹。

 

「言ったでしょう。私が身体を預けるのは、ウラヌス以外はチハだけよ」

 

「ハア………分かりました」

 

コレ以上は行っても無駄だと悟った弘樹は、絹代の隣に立ちながら溜息を吐いた。

 

「しかし………まるで申し合わせた様な即興の芝居でしたね」

 

「私、ああいうの得意だから………と・こ・ろ・で」

 

とそこで、絹代はニヤニヤとした笑みを浮かべて弘樹を見やる。

 

「何ですか、その顔は?」

 

「如何なのよ? みほちゃんとは?」

 

弘樹のツッコミを無視し、絹代はそう尋ねる。

 

「如何と言われましても………別に不仲になったと言う事はありませんが………」

 

「あ~~………その様子じゃ、戦友って関係からあんまり進展はしてないみたいね~」

 

絹代が呆れた様に呟く。

 

「? 如何言う事ですか?」

 

「あ~、気にしないで。前にも言ったけど、私が言う事じゃないし、言っても分からなそうだから」

 

「はあ………」

 

手をヒラヒラと振ってそう言う絹代に、弘樹は若干憮然とした表情を浮かべるのだった。

 

「さてと………折角だから、弘樹んとこの学園祭、堪能させてもらうね」

 

そこで絹代は、寄り掛かっていた手摺から離れる。

 

「案内しましょう」

 

「良いわよ。言ったでしょう、今日はプライベートだって」

 

「しかし………」

 

「それに、アンタを待ってる子も居るのよ」

 

そう言って、屋上の出入り口に視線をやる絹代。

 

「あ………」

 

すると何時の間にかそこに居たみほと目が合う。

 

「みほくん」

 

「ほう~………『みほくん』ねえ」

 

気づいた弘樹が声を掛けると、絹代は名前で呼んでいる事に気付いて、ニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

「~~~………」

 

「?………」

 

その絹代の笑みを見て、恥かしそうに縮こまるみほと、首を傾げる弘樹。

 

「じゃあ、後は2人でごゆっくり~」

 

そう言うと絹代は、みほの隣を通って屋上から去ろうとする。

 

「お嬢様役、可愛かったわよ………頑張りなさい」

 

「! ハ、ハイ!」

 

擦れ違い様にそう言われて、みほは一瞬気を付けをする。

 

「何を言われたんだ?」

 

絹代が去った後、みほにそう尋ねる弘樹。

 

「う、ううん、何でも無いよ」

 

「そうか?………」

 

「そ、それより、私達も行こうよ」

 

そう言って、学園祭の中へ行こうと弘樹を促すみほ。

 

「………そうだな。行くか」

 

「うん!」

 

弘樹がそう返すと、みほは笑みを浮かべて、弘樹と共に男子校の学園祭の中へと繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・正門前………

 

「…………」

 

多くの人が出入りしている正門前で、小太郎が時間を気にしながら、ソワソワとした様子で立っている。

 

すると………

 

「ヘーイ! 小太郎ーっ!!」

 

陽気な声を響かせながら、私服姿のケイが、小太郎に向かって手を振りながら現れた。

 

「! おおっ! ケイ殿!」

 

「お招きサンキューね。ホントは昨日の内に来たかったんだけど、予定が押しちゃってね~」

 

前屈み気味になって小太郎にそう言うケイ。

 

彼女の私服は胸元を含めて色々と大胆に空いている服なので、当然その豊満なバストが強調される。

 

「! ブフッ!………」

 

鼻血を噴きそうになるのを必死に堪える小太郎。

 

「? どしたの?」

 

「い、いえ………何でもござらん」

 

「そう?………ま、いっか! じゃあ、案内宜しくね!」

 

ケイはそう言うと、小太郎の腕を取って、大洗国際男子校の敷地の中へと入って行く。

 

「ケ、ケイ殿!?」

 

腕を掴まれて引っ張られているので、当然小太郎の腕はその豊満なバストに接触している。

 

(ぐおおおおおおおおっ!?)

 

心の中で叫びを挙げながら、小太郎は半ば気絶した状態で引っ張られて行くのだった。

 

ナムサン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・運動場………

 

ラクビーコートにて………

 

そこでは、武志達ラクビー部の面々が、エキシビションマッチとして、大河率いる大洗連合との試合を行おうとしていた。

 

「野郎共ぉっ! 俺達の特技は何だぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「この試合の目的は何だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「俺達はラクビー部を愛しているかぁっ!? 大洗を愛しているかぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「ガンホーッ!! ガンホーッ!! ガンホーッ!!」」」」」」」」」」

 

「良し! 行くぞぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

エキシビションマッチと言えど、スポーツマンとして全力を尽くす積りなのか、いつも通りにキリングマシーンと化す武志とラクビー部員達。

 

「ハハハ! えろう気合入っとるやないけ! ワイ等も負けてられへんでぇっ!! 根性見せいっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

普通の人間ならビビって逃げ出す状況だが、そこは大河の率いるバンカラ集団。

 

怯むどころか、逆に闘志を燃やしていた。

 

「黒岩くん! エキシビションマッチとは言え、お互いに全力を尽くそうじゃないか!!」

 

「当たり前や! 半端な試合してもうたら、お客さんに申し訳が立たへんからなぁっ!!」

 

そこでそう言い合い、握手を交わす武志と大河。

 

それによって、先程までの殺気を感じる雰囲気に飲まれていた観客達が、安堵の息を漏らす。

 

「武志ー! 頑張れーっ!!」

 

とそこで、観客席に居たアヒルさんチームの面々の中で、典子が武志にそう声援を送る。

 

「ホラ! 忍も黒岩さんの応援しなよ!!」

 

「えっ!?」

 

突然典子からそう振られ、忍が動揺する。

 

「ホラ、早く!!」

 

「ハ、ハイ………大河ーっ! 頑張んなさいよーっ!!」

 

「おう! 任せとけいっ!!」

 

再度促されると、忍はそう声援を送り、大河が拳を突き上げてそれに返礼する。

 

「うふふ………」

 

「ふふふ………」

 

と、そんな忍の様子を見ていた妙子とあけびが笑いを零す。

 

「な、何よ、2人共」

 

「いや~、何て言うか~」

 

「微笑ましいと言うか~」

 

忍が問い質すと、妙子とあけびはニヤニヤしながらそう返す。

 

「! ち、違うんだからね! そんなんじゃないんだからね!!」

 

「「うふふふふ………」」

 

「?…………」

 

慌てる忍に、妙子とあけびは意地の悪そうな笑いを零し、典子はワケが分からないと言った様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・部室棟………

 

映画研究部の部室………

 

映画研究部が製作した映画の上映会に、男子校・女子学園の生徒会メンバーと風紀委員メンバーが集まっていた。

 

「だから! 貴方のやり方は甘いって言ってるの!!」

 

「君のやり方が些か厳しいのではないのか?」

 

「学園の風紀を守る為に必要な事です!」

 

「厳しさばかりでは人は付いて来ない………大切な事はさじ加減だ」

 

「ああ、もう!!」

 

紫朗と激しい口論を繰り広げているみどり子。

 

最も、どちらかと言うと、みどり子が噛み付いて来てるのを、紫朗がやんわりと諭していると言う感じだが………

 

「また揉めてる………あの2人………」

 

そんな紫朗とみどり子を見て、モヨ子がそう愚痴る様に呟く。

 

「またと言う事は………以前にも?」

 

「ええ………女子学園と男子校の風紀委員の会合で顔を合わせる度に、方向性の違いであんな感じに………」

 

それを聞いた十河がそう尋ねると、モヨ子はそう返す。

 

「お蔭で何時も会議が長引いて………」

 

「そうか………いっそのこと、君が委員長になった方が良いのではないか?」

 

するとそこで、十河はモヨ子にそんな提案をする。

 

「!? ええっ!? わ、私がですか!? む、無理ですよ~」

 

「リーダーが組織の長として相応しくないと思うのなら当然の行為だ。それに、何時までも人の下に付いて居るだけで終わる積りか?」

 

「わ、私は………」

 

(そして、女子学園の風紀委員を味方に付ける事が出来れば、俺の野望は前進するというもの)

 

十河の提案に思い悩む様な様子を見せるモヨ子と、密かに野心を燃やしている十河。

 

「副会長………何か企んでるんですかね?」

 

「ま、アイツの詰めの甘さなら放っといても心配無いと思うけどな」

 

「いつもの事なんだね………」

 

しかし、その野心はすっかり見透かされており、逞巳と俊、元姫がそう呟き合う。

 

「お~い、そど子~。もうすぐ映画が始まるから、静かにしててね~」

 

とそこで、杏がみどり子に向かってそう言い放つ。

 

「会長! だからそど子って言わないで下さいっ!!」

 

「やあやあ、お待たせ。準備が出来たよ」

 

みどり子が抗議の声を挙げたところに、映写機を弄っていた鋼賀がそう言って来た。

 

「鎧くん、今回の映画はどんなもの何だい?」

 

迫信が鋼賀に、上映する映画の内容について尋ねる。

 

「前回の『大洗国際警察』は凄く面白かったよね」

 

「うん。特に傘でバスにぶら下がるシーンや、デパート内での格闘シーンが凄くドキドキハラハラしたよ」

 

そこで柚子と蛍が、以前に公開した作品『大洗国際警察』でのアクションシーンを思い出してそう言い合う。

 

「いや~、そう言って貰えると、主演として頑張った甲斐があるよ」

 

「………1つ聞いても良いか? ラストのシーンで30メートルを棒に掴まって滑り降りて、感電しながらガラスの天井に突っ込んだシーンも………本当なのだな?」

 

鋼賀がそう言うと、桃がそう尋ねた。

 

「勿論! 僕の映画は合成やワイヤーアクション、そしてスタントマン無しが売りだからね」

 

「正気とは思えんな………」

 

「命知らずここに極まれりか………」

 

自慢げに鋼賀が返すと、桃は冷や汗を掻き、熾龍もそう毒舌を吐く。

 

「命を張ってこそ、真のアクション映画が撮れると言うものさ」

 

「あの、鎧さん………その信念は理解しますけど、もっと命は大事にして下さいね。鎧さんの映画が見れなくなったら、悲しいですから………」

 

とそこで、希美が心配そうな様子で鋼賀にそう言う。

 

映画好きな彼女は、鋼賀の作品の大ファンなのである。

 

「大丈夫、大丈夫。もし死神が見えたって、笑い飛ばしてやるさ。じゃあ、始めるよ。内容は見てからのお楽しみさ」

 

そして鋼賀は映写機のスイッチを入れ、部屋を暗くすると、映画の上映を始めるのだった。

 

今回の作品のタイトルは『私は誰?』

 

主役の活動中の事故で記憶を失い、ひとりぼっちになってしまった某国特殊部隊の隊員役の鋼賀が、自分の素性を求めて旅に出るといった物語である。

 

激しく奇想天外な格闘アクションや豪快なカースタントが目白押しであり、特にラストでの高層ビルを滑り台の様に滑り降りて行くシーンは冷や汗ものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・出店エリア………

 

そこには、1年生チームとハムスターさん分隊を中心にしたメンバーの姿が在った。

 

「ねえねえ、桑原くん。このストラップ如何かな?」

 

そう言ってあやは、白い饅頭に顔と履帯が付いた様なキャラのストラップを正義に見せる。

 

「あ、あ~………い、良いんじゃないっすか?」

 

若干困った様な様子を見せながら正義はそう返す。

 

「ああ~! ブラックオックスの超合金フィギュアだぁ~っ!!」

 

と、フリーマーケット的な出店に並んでいた商品の中に、『鉄人28号』に登場するライバルロボット『ブラックオックス』の超合金製フィギュアを発見した桂利奈が、歓喜の声を挙げる。

 

「如何だい? 今ならお安くしとくよ?」

 

店員をやっている男子生徒がそう勧めて来る。

 

「買う! 買いま~すっ!!」

 

そう言いながら財布を取り出す桂利奈。

 

「………あっ!? ちょっと足りない!?」

 

しかしそこで、手持ちが値段の金額に僅かに足りてない事に気づく。

 

「あ~、それじゃあ売れないね~」

 

「ええ~っ!? そんな~っ!? ま、負けてくれませんか!?」

 

「う~ん、コレも結構なお宝だからね~」

 

値引きを交渉しようとする桂利奈だったが、如何にも負けてくれそうにない。

 

すると………

 

「桂利奈ちゃん。ココは俺に任せな」

 

そう言いながら、圭一郎が割り込んで来た。

 

「! 伊達先輩!」

 

「あ、伊達さん」

 

如何やら店員の男子生徒は圭一郎の知り合いらしく、圭一郎を見てそう声を挙げる。

 

「ちょっと良いか?………」

 

圭一郎はそう言うと、店員と肩を組み、桂利奈から少し離れる。

 

「………でだな………紹介してやっから………」

 

「! マジっすか!?………そ、そう言う事なら………」

 

「??」

 

時折何かボソボソと言い合うのが聞こえて、桂利奈は首を傾げる。

 

「やあやあ、お待たせ! 特別サービスで半額で売っちゃおう!!」

 

と、戻って来た店員は、先程までの態度が嘘の様に、5割引きで売ると言い出した。

 

「! マジっすか!?」

 

「マジマジ! 持ってけドロボーッ!!」

 

「わ~い! やった~っ!!」

 

お金を渡し、超合金フィギュアを受け取った桂利奈は、飛び上がって喜ぶ。

 

「ありがとう~! 伊達先輩~!!」

 

と、勢い余ったのか、そのまま圭一郎に抱き付く桂利奈。

 

「ハハハ、お安い御用さ………(意識して無い行動なんだろうな)」

 

桂利奈にそう返しながら、圭一郎は内心そんな事を思うのだった。

 

「やっぱり戦車道やるんなら歩兵道やってる人と付き合うべきだよね~」

 

「そうですね。その方が話も合わせ易いでしょうね」

 

「うんうん………ところで~、竜真くんって、彼女居る~?」

 

「えっ? いや、僕にはそう言う関係の女性は特に………」

 

「ふ~ん、そうなんだ~」

 

「あ、あの………何か?」

 

「うふふ~………」

 

竜真と会話をしていた優季が意味有り気に笑う。

 

「優季さん、確か………戦車道の話をしていて、彼氏に逃げられたんでしたっけ?」

 

「そうらしいけど………優季ちゃんの事だから、本当に彼氏だったのかは怪しいな」

 

「そうなんですか………」

 

傍でその会話を聞いていた光照とあゆみもそんな会話を交わす。

 

「………ハア~~~」

 

一方で、1年生チームの纏め役である梓は、オープンカフェの出店の一角で、テーブルについて溜息を吐いていた。

 

「如何しました? 梓さん?」

 

その梓と向かい合う様に座っていた清十郎がそう尋ねる。

 

「あ、うん………コレから益々試合は厳しくなるけど、大丈夫かなって思って………私達のチームって、いつもあんまり役に立ってない気がするから………」

 

「そんな事ないですよ。パシフィック戦じゃ大活躍したじゃないですか」

 

「ありがとう………でも、他の試合じゃやられちゃってばかりだし………こういう時こそ、リーダーの私が頑張らないといけないとは思ってるんだけど………他のチームの先輩達と比べて、イマイチ皆を纏めきれてないって言うか………」

 

自信無さ気にそう言う梓。

 

「………梓さん。梓さんはもっと自信を持って良いと思いますよ」

 

するとそこで、清十郎は梓にそう言い放つ。

 

「えっ?」

 

「確かに、他のチームの皆さん………特に西住さんや舩坂さんなんかは類稀なるリーダーシップを持っています。でも、リーダーも十人十色です。西住さんや舩坂さんみたいな人が理想的なリーダーとは限りません」

 

「…………」

 

清十郎の話に聞き入る梓。

 

「僕の個人的意見ですけど………梓さんは見事にチームを纏めてると思います。だから自信を持って下さい。例え根拠が無くても、自信を見せるのもリーダーとして必要な事ですよ」

 

「………ありがとう、清十郎くん」

 

「如何致しまして」

 

そう言い合い、梓と清十郎は、互いに笑みを浮かべたのだった。

 

「…………」

 

「う~~ん………何時飲んでも、ジャパニーズティーは不思議な味がしマス」

 

そして、その隣のテーブルでは、紗希とジェームズが緑茶を飲み合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、夜となり………

 

大洗学園艦の学園祭の最終日………

 

花火が夜空を染めている中………

 

大洗男子校から大洗女子学園へと向かう通りにて………

 

一般車が通行止めとなっている通りを大洗機甲部隊が行進していた。

 

しかも、戦車や車輌が電飾で飾り付けられており、まるで某夢の国のパレードの様である。

 

「わあ~、凄~いっ!!」

 

「綺麗~っ!!」

 

歩道からその様子を見ている通行人からそう声が挙がる。

 

「うふふ………」

 

先頭を行くあんこうチームのⅣ号のキューポラから姿を見せているみほが、そんな通行人達に笑顔で手を振る。

 

「…………」

 

その周りを護衛して随伴して居るとらさん分隊の中の弘樹も、陸軍式敬礼の姿勢を取っている。

 

こうして、2日間に渡った大洗学園艦の学園祭は………

 

その幕を閉じたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

女子学園側の学園祭で、あんこうチームのカップリングをお送りしたので、今回は他チームのカップリングを発表も兼ねてお送りしました。
まだもう少しカップリングは増える予定なので、楽しみにしていて下さい。

さて次回からは新分隊結成編です。
編と付けたのはまた1エピソードあるからです。
またまた個性豊かなキャラが登場しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第99話『愚連隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第99話『愚連隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日間に渡って開催された、大洗学園艦の学園祭………

 

初日の大洗女子学園、最終日の大洗国際男子校の両方にて………

 

大盛況を収めた。

 

そして、学園祭の後片付けが終わった翌日………

 

最大の目的であった、3度目の歩兵部隊員増員が開始される。

 

学園祭での劇の反響もあり、コレまでに比べ、かなりの人数が志願。

 

その為、新分隊の結成だけなく、各分隊の増員までが行われる事となった。

 

現在、大洗国際男子校の作戦会議室に………

 

選考を受けた新歩兵隊員達が、既存部隊メンバーとの顔合わせも兼ねて集合している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・作戦会議室………

 

「わあ~、大分増えたね~」

 

沙織が、新たに志願した歩兵部隊によって増員された大洗歩兵部隊を眺め、そう言う。

 

「頼もしい限りです」

 

「まだ他校の歩兵部隊と比べると小規模も良いところだがな………」

 

それに続く様に華がそう言うが、麻子からそんなツッコミが飛ぶ。

 

「それでも、コレまでに比べれば大幅な増員ですよ!」

 

「うん、コレで大分戦術や戦略の幅が広がるかな………」

 

そんな麻子の意見を振り払う様に優花里がそう言い、みほも大洗歩兵部隊の皆を見渡しながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

その大洗歩兵部隊はと言うと………

 

「まだまだ小規模なのには変わりないが、一応恰好は付く様になってきたか………」

 

周りに居る増員された歩兵部隊の面々を見ながら、大詔がそう呟く。

 

「川西能勢口絹延橋滝山鶯の森鼓滝多田平野一ノ鳥居………」

 

するとそこで、何故か能勢電鉄の駅名がお経の様に聞こえて来る。

 

「! コレは!?………」

 

それを聞いて何かを察した大詔が、次の瞬間にコンバットナイフを抜きながら、防御姿勢を取って振り返る!

 

途端に!!

 

その防御姿勢を取った大詔のコンバットナイフに、何者かが振って来たマチェットが当たり、火花を散らす。

 

「うわっ!?」

 

「何だ何だ!?」

 

突然大詔にマチェットで斬り掛かった者が現れ、周りに居た歩兵隊員達が動揺する。

 

「………流石だな、大詔」

 

「………『ハンター』、遊びが過ぎるぞ」

 

そう言った大詔の視線の先にはマチェットで斬り掛かって来たアメリカ人と思わしき人物………

 

クラスメートであり、友人である『ハンター』の姿が在った。

 

尚、この名前は偽名であり、本名は全く以て不明である。

 

「鈍っていないか確かめてやっただけだ。ファンの期待を裏切ってくれるなよ」

 

「! ファン!? やはりそうか………サンダース&カーネルの学園艦に忍び込んだ時、俺に通信を送って来たディープ・スロートはお前だったんだな!」

 

ハンターがそう言うのを聞いて、大詔は以前優花里達と共にサンダース&カーネルの学園艦に潜入した時に助けられた『ディープ・スロート』の事を思い出す。

 

「あの時は助かったぞ………」

 

「そうか。では………」

 

するとハンターは、大詔に掌を上にした右手を差し出す。

 

「? 何だ?」

 

「救い料100億万円。ローンも可」

 

「金取るのか!?」

 

助けてやった代金を払えと言うハンターに、大詔は思わず大声を挙げる。

 

「当たり前だ。誰がタダで人助けをするか」

 

「お前………最低だな」

 

「いや~、それ程でも」

 

「褒めとらん!」

 

軽蔑の眼差しを送る大詔だったが、何故か照れた様子を見せるハンターだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の一角では………

 

「ちょっと、そこの貴方。少し良いですか?」

 

「えっ? あ、何ですか?」

 

とても高校生とは思えない非常にねちっこく、低音でうねる様な声の新歩兵隊員に話しかけられた古参の隊員が、戸惑いながらそう返す。

 

「貴方は………どんな神を信じていますか?」

 

かなり独特なアクセントで、その新隊員はそう尋ねる。

 

「神って………アンタ、宗教とか信仰してるのか? 悪いけど、俺はそう言うのを信じない性質でな」

 

「ほお~? 神を信じない? それはまた何故?」

 

「世の中に起きる事は人の為す事か、或いは科学的に説明が付く事だからだ」

 

「…………」

 

そう言われて独特な声の新隊員は黙り込む。

 

「あ、でも、前に舩坂分隊長が西住総隊長の事を軍神って言ってたな」

 

「軍神?………」

 

「ああ、プラウダ&ツァーリ戦の時、西住総隊長がⅣ号のキューポラの上に立った姿が、分隊長には軍神に見えたって………」

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

と、それを聞いた途端に、その新隊員は突如として独特な叫びを挙げた。

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

周りに居た大洗歩兵隊員の皆は、何事かとビビる。

 

「軍神! 西住 みほ総隊長が軍神! 成程! それは良い!! かつての大戦に於いても神と称された者達が居た!! 西住総隊長は正に大洗の軍神!!」

 

そう言った瞬間、新歩兵は何時の間にか両手に持っていた銃剣(バイヨネット)で独特の構えを取る。

 

「ならば、我等歩兵はその神の代理人! 神罰を執行する地上代行者! 我らが使命は! 我が神に逆らう愚者を! その肉の最後の一片までも絶滅する事! エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

殺気と闘気を漲らせながら、新隊員………『太田 竜作(おおた りゅうさく)』はそう声を挙げた。

 

「何だよ、アイツ!? こええよっ!!」

 

「貴様等! こんなところで長々と何をしている!? 鼠の様に逃げ遂せるか! この場で死ぬか! どちらか選べええええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」

 

その辺り一帯は阿鼻叫喚と化すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かスゲー灰汁の強い奴がチラホラ居るんだけど………」

 

「いつもの事だろう」

 

そんなハンターや竜作の様子を見ていた了平がそう言うが、弘樹が平然とそう返す。

 

「しかし、俺が見つけて来た玖珂 速人や、会長閣下が誘った上田 紫朗を加えりゃ、かなりの戦力になるな」

 

「僕も今回は新分隊に加えて、各分隊の増員も行いますから、かなりの戦力アップになると思いますよ」

 

地市の言葉に、楓がそう同意する。

 

「………もう1人くらい………腕っぷしの強い奴が欲しいところだが」

 

しかし、弘樹はもう1人くらいは腕っぷしに長ける奴が新分隊には欲しいと考える。

 

と、そこへ………

 

「遅くなってすまない」

 

「注目ーっ!」

 

姿を見せていなかった両校の生徒会メンバーと風紀委員メンバーが大型モニター下の1段高くなっている場所に現れ、その場に居た大洗機甲部隊の面々に注目する様に促す。

 

「「「「「「「「「「!!………」」」」」」」」」」

 

号令が掛かった途端に、先程までの喧騒が嘘の様に静まり返り、整列して生徒会メンバーと風紀委員メンバーに注目する大洗機甲部隊の面々。

 

「おお~、大分様になってるね~」

 

「今回は大分振るいに掛けて選考した。新隊員の質もかなり高い様だ」

 

その光景を見ていた杏と迫信がそう言い合う。

 

「新隊員共! お前達は栄誉ある我等大洗機甲部隊の一員となった! 言うなれば運命共同体だ! 互いに頼り、互いに庇い合い、互いに助け合う1人が全員の為に、全員が1人の為に! だからこそ戦場で生きられる!!」

 

集まっている新隊員を含めた大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い放つ桃。

 

「………嘘を言うな」

 

しかし、そんな桃の演説の言葉に、熾龍がそうツッコミを入れる。

 

「! 貴様ぁ! 私の演説にケチをつけるつもりか!!」

 

「今まで足を引っ張った事しかないお前が言うと益々安っぽい………」

 

「何をぉーっ!!………!? ぐえっ!?」

 

熾龍に掴み掛ろうとした桃だったが、あっさりと首を掴まれて宙吊りにされる。

 

「さて、諸君。実は集まって貰ったのには顔合わせ以外に通達事項が有るからだ」

 

「よく聞いてね~」

 

しかし、最早お馴染みの光景と化している為、生徒会メンバーどころか大洗機甲部隊の中にそれを気に留める人物はいない。

 

「通達事項?………」

 

「一体何だ?………」

 

通達事項と言う言葉を聞いた大洗機甲部隊の一同が、僅かにざわめく。

 

「先日の学園祭の時、襲撃を掛けて来た暴走族とチンピラ達の事は覚えてますよね?」

 

と逞巳がそう言い、大洗機甲部隊の面々は、学園祭初日のライブ時に、装甲車を駆ってライブをブチ壊しにしようとしてきた暴走族とチンピラ達を思い出す。

 

「私達は後で聞いた話だけど、装甲車まで出て来たって聞いてビックリしたよ」

 

「実はその装甲車の出所が気になって調べていたんですが、ちょっと大変な事が分かりまして………」

 

柚子がそう言うと、清十郎がそう言葉を続ける。

 

「大変な事?」

 

「その装甲車を横流ししたのが、この大洗学園艦を根城にしている愚連隊の連中らしいんだ」

 

「愚連隊………」

 

俊の話を聞いた弘樹が、以前に聞いていた愚連隊の噂を思い出し、表情を険しくする。

 

「この愚連隊は最近他の暴走族やチンピラ集団を吸収し、急激に勢力を拡大して、横流しされた兵器で武装。その余りの脅威に、警察も手を焼いているそうだ」

 

紫朗がメガネのレンズを光らせながらそう言う。

 

「ですが、このまま奴等を野放しにすれば学園艦の生徒や住民達に多大な被害が生じる可能性があります」

 

「そこで、警察からの要請により………大洗機甲部隊は、愚連隊壊滅の大規模作戦を展開させる事となった」

 

迫信がそう言うと、大洗機甲部隊の面々はざわめき立つ。

 

「元々、学園艦は学生が管理・運営する事が基本となっている。治安維持の為に警察が置かれているが、要請があれば機甲部隊を治安出動させる事は法令上可能だからね」

 

そんな大洗機甲部隊の一同に向かって、杏があっけらかんとそう言う。

 

「………確かに、あんな事がまたあると思うと、連中を野放しにするってワケには行かないよな」

 

「悪い芽は早めに摘んでおいた方が良いよな」

 

それを受けて、実際に襲撃を受けた大洗歩兵部隊の中には、賛同の意見が出始める。

 

「みぽりん、如何思う?」

 

「あんまり良い感じはしないけど………学園艦の安全の為なら、仕方ないかな」

 

「御用改めぜよ!」

 

沙織がみほにそう尋ね、みほがそう返していると、おりょうがそう声を挙げる。

 

戦車チームの面々は、多少の気後れは有るものの、やはり賛同の意見が大半を占める。

 

「決まりの様だね………」

 

「じゃあ、作戦を説明するね」

 

迫信がそう呟き、柚子がそう言ったかと思うと、大型モニターに映像が映し出される。

 

それは、大洗学園艦の甲板都市の地図だった。

 

「警察からの情報によれば、愚連隊のメンバーは甲板都市上の複数個所に拠点を持ち、各所の他グループへ睨みを利かせているそうだ」

 

十河がそう言うと、大型モニターに映し出されている甲板都市の地図の数箇所が赤く点滅する。

 

「そこで我々も各戦車チームと随伴分隊ごとに分散。警察と協力して愚連隊の全拠点に同時攻撃を掛ける」

 

続けて十河がそう言うと、大型モニター上の愚連隊の拠点を示すマーカーの前に、大洗機甲部隊を現すマークと警察のマークが現れる。

 

「各拠点を分散攻撃ですか?」

 

「ハッキリ言ってコチラの方が規模も装備も練度も勝っちゃいるが、だからと言って敵集団と正面切って戦えば周辺への被害も相当なもんになる」

 

「ですので、相手の戦力が分散している時に各個で撃破し、なるべく甲板都市に被害を出さない様にするんです」

 

飛彗の疑問に、俊と清十郎がそう返す。

 

「成程………」

 

それを聞いて、納得した様子を見せる飛彗。

 

「そして………あんこうチームととらさん分隊の諸君」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

「ハッ!!」

 

とそこで、不意に迫信があんこうチームととらさん分隊を指名し、みほが少し動揺しながら、同じく弘樹が気を付けをして姿勢を正しながら返事を返す。

 

「君達には1番重大なミッションをお願いしたい」

 

「1番重大なミッション?」

 

「会長閣下、ソレは?」

 

迫信がそう言うと、みほは首を傾げ、弘樹は迫信に問い質す。

 

「君達には、愚連隊のリーダーを捕縛して欲しい」

 

「愚連隊の………」

 

「リーダー………ですか?」

 

「うむ………」

 

迫信が頷き、扇子を広げて口元を隠したかと思うと、大型モニターに1人の人物が映し出される。

 

それは、黒髪に紅い目をした少年と言っても差し支えない男だった。

 

「この子が………」

 

「『飛鳥 隆太(あすか りゅうた)』………愚連隊のリーダーだ」

 

「嘘っ!? 私達とそんなに変わらない様に見えるけど!?」

 

十河がそう説明すると、沙織が驚きの声を挙げる。

 

「実際彼の年齢は16歳………高校1年の年齢だな」

 

「16………」

 

同い年であると聞かされたウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々が思わず顔を見合わせる。

 

「…………」

 

そんな中、何やら考えている様な顔で、モニターに映し出されている隆太の姿を見据えている弘樹。

 

「油断するな。そんなに変わらないとは言え、コイツは大洗学園艦に居たチンピラ達を次々に配下に加え、1大勢力に纏め上げた張本人だ」

 

「警察の機動隊を1人で返り討ちにしたと言う情報もあります」

 

「最早テロリストだな………」

 

俊と清十郎の説明を聞いて、麻子がそんな事を呟く。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ! そんな奴等を俺等と西住ちゃん達で取り押さえに行くワケっ!?」

 

そこで了平が、悲鳴の様な声を挙げる。

 

「尚、戦車は飽く迄相手が装甲目標や大火力兵器を使って来た場合の保険だ。基本的には歩兵部隊を中心に作戦を行う」

 

そんな了平を更に地獄に突き落とすかの様に、十河がそう説明する。

 

「うおおっ! 皆、ちょっと待ってくれ………俺の持病の『愚連隊とは戦ってはいけない病』が………」

 

「作戦開始時刻は明日、16:00。各拠点に配備が完了次第、一気に仕掛ける。迅速な行動が作戦の成否を握る………君達の働きに期待する」

 

「大洗! バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

見え見えな仮病を使って難を逃れようとした了平だったが、その声は大洗機甲部隊の万歳三唱によって掻き消されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日の16:00………

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

愚連隊のリーダーが居る拠点………

 

『こちらカメさんチームとツルさん分隊。配置完了だよ~』

 

『アヒルさんチーム、到着しました! ペンギンさん分隊も同じくです!』

 

『カバさんチームとワニさん分隊、何時でも行けるぞ!』

 

『ウサギさんチームとハムスターさん分隊、準備出来てます!』

 

『カモさんチーム並びにマンボウさん分隊、配置に着きました!』

 

『サンショウウオさんチームとタコさん分隊も完了です!』

 

『こちらレオポンさんチーム。おおかみさん分隊と一緒に待機中~』

 

『ア、アリクイさんチーム、準備良しです!………あ、『キツネさん分隊』も』

 

「いよいよですね………」

 

「うん………」

 

愚連隊のリーダーが居ると思われている廃工場前にて、警察の機動隊と共に待機しているⅣ号のみほと、とらさん分隊を率いている弘樹が、各戦車チームからの報告を聞いてそう言い合う。

 

尚、アリクイさんチームに随伴して居る『キツネさん分隊』が、今回の増員で結成された新分隊であり、ハンター(突撃兵)を分隊長に、主要メンバーを玖珂 速人(突撃兵)、上田 紫朗(砲兵)、太田 竜作(突撃兵)が固めている。

 

そして、レオポンさんチームも、ポルシェティーガーのテスト運用を兼ねて参加。

 

事実上、分散しては居るが、大洗機甲部隊の全戦力を投入した形である。

 

「大洗機甲部隊の諸君。いよいよ作戦開始だ」

 

「先ず我々が投降を促す。抵抗して来た場合、鎮圧に切り替えるから、覚悟をしておいてくれ」

 

「ハ、ハイ!」

 

「了解しました」

 

とそこで、機動隊の隊員達がそう言って来て、みほと弘樹が返事を返す。

 

「良し! 前進っ!!」

 

機動隊の隊長がそう声を掛けると、ライオットシールドを持った機動隊員達が、廃工場に向かってゆっくりと前進し、敷地内に侵入する。

 

その途端!!

 

廃工場の割れていた2階部分の窓から、何かが機動隊目掛けて飛んで来た!

 

「!? 手榴弾だ!!」

 

「火炎瓶も有るぞっ!?」

 

「散開っ!!」

 

慌てて隊長が散開指示を飛ばし、機動隊員達は固まっていた状態から方々へ散らばる。

 

その直後に地面に落ちた手榴弾が爆発し、火炎瓶が割れて炎が燃え広がる。

 

「ポリ公なんざ怖かねえぜぇっ!!」

 

「皆殺しだぁーっ!!」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

そして2階部分から世紀末な雰囲気を漂わせる愚連隊の連中が姿を見せ、次々と手榴弾や火炎瓶を投擲して来る。

 

「クッ! いきなり問答無用かっ!!」

 

「隊長! コレでは前進出来ませんっ!!」

 

隊長がそう言い、隊員の1人が声を挙げる。

 

が、しかし!

 

砲撃音が響いたかと思うと、愚連隊が陣取っていた廃工場の2階部分に砲弾が叩き込まれた!

 

「今です!」

 

「歩兵部隊! 突撃っ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

砲口から硝煙の立ち上っているⅣ号のキューポラ上でみほがそう言うと、弘樹の号令で、とらさん分隊の面々が一斉に廃工場内へ突撃して行った!

 

「す、凄い………」

 

「何て勇ましい………アレが全国大会を勝ち抜いている猛者か」

 

そのスマートな流れに、機動部隊員からそんな声が挙がる。

 

「我々も続けぇーっ! 民間人の彼等ばかりに任せておけんぞ!!」

 

そして隊長のその声で、機動隊も廃工場内へ突入して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に結成された新分隊。
その名も『キツネさん分隊』
メンバーは学祭で登場した速人と紫朗に加え、新キャラが2名。

1人は大詔の元ネタである固体蛇の親友のサイボーグ忍者に、その声優である塩沢兼人が演じた名キャラクターの性格を混ぜたものです。

そしてもう1人は………
強力若本です(笑)
基本的には某神父が中心ですが、隙有らば様々な若本キャラが飛び出す予定ですので、楽しみにしていて下さい。

そして、新分隊とレオポンさんチームを加えた大洗機甲部隊の最初の任務は愚連隊の壊滅作戦。
しかし、弘樹はその頭である飛鳥 隆太に思う所あり?
果たして、それは?………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第100話『飛鳥 隆太です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第100話『飛鳥 隆太です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな歩兵隊員達を加え、『キツネさん分隊』を結成した大洗歩兵部隊。

 

戦車チームにも、漸くポルシェティーガーを駆る、ナカジマ達自動車部の『レオポンさんチーム』が本格参戦する。

 

そんな中………

 

大洗女子学園での学園祭の最中に襲撃を掛けて来たチンピラや暴走族達が使っていた装甲車………

 

実はソレが、最近大洗学園艦で急激に勢力を伸ばしている愚連隊から横流しされた物であった事が判明する。

 

連中を野放しにすればまた同じ様な事が起こるかも知れないという懸念から………

 

大洗機甲部隊の面々は、警察からの治安出動の要請を受け………

 

愚連隊の壊滅作戦へと乗り出す。

 

そして、各戦車チームと随伴分隊の面々が機動隊と共に………

 

甲板都市上の愚連隊の各拠点に一斉攻撃を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

アリクイさんチームとキツネさん分隊が担当している街外れの廃雑居ビル………

 

「「「「「「「「「「ザッケンナコラーッ!!」」」」」」」」」」

 

クローンヤクザめいた愚連隊の集団が、廃雑居ビルから次々と出て来て、アリクイさんチームとキツネさん分隊、機動隊へと向かって来る。

 

「さあ! 俺を感じさせてくれ! 俺に生きる実感をくれっ!!」

 

その前に最初に立ちはだかったのはハンター。

 

マチェットを振り回しながら向かって来る愚連隊の集団に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「ズッゾオラーッ!!」」」」」」」」」」

 

そのハンターに向かって、10数人の愚連隊員が飛び掛かる。

 

だが、次の瞬間!!

 

「!!………」

 

ハンターがマチェットを振り回しながらその中を突っ切る!

 

「「「「「「「「「「グアーッ!!」」」」」」」」」」

 

飛び掛かった愚連隊員達は忽ち気絶。

 

地面に叩き付けられる様に落ち、動かなくなった。

 

「ダッテメッコラーッ!!」

 

今度は大柄な愚連隊員がハンターを抑え込もうとしたが………

 

「フンッ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

ハンターはその大柄な愚連隊員の顎を蹴り、仰け反らせる。

 

「ハアッ!!」

 

「アバーッ!?」

 

そのまま跳躍し、仰け反った顔の上に乗ったかと思うと、そのまま体重を掛けて踏み潰した!

 

「そうだ! 良いぞ!! 戦いの基本は格闘だ!! 武器や装備に頼ってはいけないっ!!」

 

ハンターはそう言うと、マチェットを仕舞って格闘の構えを取る。

 

「小癪なーっ!!」

 

とそこで、愚連隊員の1人がハンターに突撃するが………

 

「フンッ!!」

 

「アバーッ!?」

 

ローリングソバットで迎撃され、人形の様にブッ飛ぶ。

 

「うおおおおおっ!!」

 

今度は別の愚連隊員が、背後から抑え込もうとして来たが、

 

「ハアッ!!」

 

ハンターは跳躍し、ムーンサルトしながら後ろから抑え込もうとして来ていた愚連隊員の上に着地!

 

「ぐはっ!?」

 

そのまま踏み潰す!

 

「うおおっ!!」

 

とその時!

 

また別の愚連隊員が、ハンターの頭を角材でブッ叩いた!!

 

「!?」

 

「やったっ!!」

 

歓喜の声を挙げる愚連隊員だったが………

 

「もっと痛みをくれっ!!」

 

ハンターは頭から血を流しながら、角材で殴りつけて来た愚連隊員の方をギュルッと振り返り、そう言い放つ!

 

「ヒッ!?」

 

「俺に生きる実感をくれぇっ!!」

 

「ギャアアアッ! 何だコイツゥーッ!!」

 

狂気を感じさせるハンターの前に、愚連隊員は一目散に逃げ出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我等歩兵は神の代理人! 神罰を執行する地上代行者! 我等が使命は! 我が神に逆らう愚者を! その肉の最後の一片までも絶滅する事! エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

銃剣(バイヨネット)を独特の構えで十字に構え、愚連隊員達に向かってそう吠える竜作。

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

その異様なまでの迫力に、愚連隊員達は思わず後ずさる。

 

「貴様等! こんな所で長々と何をしている? 鼠の様に逃げ果せるか! この場で死ぬか! どちらか選べえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」

 

そんな愚連隊員達に向かって、竜作は更に非常にねちっこく、低音でうねる様な声と独特のアクセントでそう吠える!

 

「「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」

 

と、恐怖に駆られたのか、愚連隊員2人が、鉄パイプとバールの様な物を手に、竜作に突撃する。

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「げぎゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」

 

しかし、その瞬間に竜作は神速とも言える速さで斬り込み、愚連隊員2人は宙に舞ったかと思うと、そのまま地面に叩き付けられた!!

 

「!?」

 

「な、何だコイツッ!?」

 

「ば、化け物だぁっ!?」

 

途端に、愚連隊員達には動揺が走る。

 

「クソッ! コレでも!!………」

 

そんな中、1人の愚連隊員が、竜作目掛けて手榴弾を投げようとしたが………

 

「アイテムなぞ! 使ってんじゃねえっ!!」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

そんな叫びが響いたかと思うと、竜作は一瞬でその愚連隊員の懐に飛び込み、手にしていた銃剣(バイヨネット)でメッタ斬りにした!!

 

「死ぬかぁっ!? 消えるかぁっ!? 土下座してでも生き延びるのかぁっ!?」

 

更にそう吠える竜作。

 

「「「「「「「「「「ヒイイイイイイッ!?」」」」」」」」」」

 

最早愚連隊員達は戦々恐々状態である。

 

「愚民共がぁ。我は第六天より来たりし、魔王なりぃっ!!」

 

そんな愚連隊員達を見て、竜作は調子に乗っているのか、魔王を自称し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハッ! ブラボーッ!!」

 

「「「「「「「「「「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

愉快そうな声を挙げながら、くろがね四起で爆走し、愚連隊員達を次々に跳ね飛ばしている速人。

 

文字通り、車を凶器と化している。

 

「野郎っ! オイ、出せっ!!」

 

「ヘイッ!」

 

とそこで、愚連隊員達の間でそう言う会話がなされたかと思うと………

 

雑居ビルの陰から、旧ソ連の重装甲車『BA-11』が姿を見せる。

 

「流石に装甲車には歯が立たないだろう! 吹き飛ばしてやれっ!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

そう言う会話がなされると、BA-11の主兵装である『20-K 45mm戦車砲』が火を噴く!

 

「おっとっ!」

 

しかし、速人は飛んで来た砲弾を、スラローム走行でかわしたかと思うと、そのままBA-11の方に最大速度で向かって行った。

 

「!? む、向かって来るだと!?」

 

「何をする気だ!?」

 

「大は小を兼ねるのか! 速さは質量に勝てないのか! いやいやそんな事は無い! 速さを1点に集中させて突破すれば! どんな分厚い塊であろうと砕け散るゥゥッ!! ハッハッハッ、ハー!!」

 

狼狽する愚連隊員達を余所に、速人はまたもお決まりの早口でそう捲し立て、くろがね四起をBA-11の側面に突っ込ませた!!

 

猛スピードで突っ込んで来たくろがね四起の衝撃に耐えられず、BA-11は変形し、直後にくろがね四起諸共大爆発した!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

その爆発に、愚連隊員達が多数、巻き込まれる。

 

「ドラマチーック! エスセティーック! ファンタスティーック、ラーンディーングーッ!!」

 

しかし、突っ込んだ当の本人である速人は、そんな台詞を言いながら、爆風に乗って飛び出したして来たかと思うと、華麗に着地を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上田 紫朗………目標を破砕する!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

紫朗がそう言い放つと、彼と共に九五式野砲に付いて居た風紀委員の砲兵が、榴弾を放つ!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

放たれた榴弾は愚連隊員達が作っていた簡易バリケードに直撃し、愚連隊員諸共に爆散させる。

 

「野郎!」

 

「くたばれっ!!」

 

すると今度は、雑居ビルの3階の端側から別の愚連隊員達が姿を見せ、紫朗が付いて居る九五式野砲目掛けて椅子やコンクリート片等を投擲して来る。

 

「照準修正、上15度。右6度」

 

「照準修正! 上15! 右6!」

 

しかし、周りに降り注ぐ物を気にする様子も見せず、紫朗は冷静なまま、メガネのレンズを光らせて照準修正を促す。

 

「再装填、完了!」

 

「撃てっ!」

 

そして紫朗が指示を出すと、砲兵が再び砲撃!

 

「「「「「おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

放たれた砲弾は、正確に愚連隊員達が居た雑居ビル3階の端側を吹き飛ばす!

 

「委員長! 流石の空間認識能力ですね!」

 

「油断するな! 次は左へ20! 下に3度だ!」

 

「了解っ!!」

 

紫朗の指示で、次々に正確な場所へ砲撃を叩き込んで行く風紀委員砲兵達だった。

 

 

 

 

 

 

「凄いっちゃ………」

 

「私達の出番、無いんじゃナリか?」

 

新結成されたキツネさん分隊の奮戦ぶりを、後方から眺めていた三式中戦車の中で、ぴよたんとももがーがそう言い合う。

 

「ぴよたんさん、ももがーさん、油断しないで。私達の目的は、愚連隊員の人達がリーダーが居る本拠地に合流しようとするのを阻止する事だから。逃げ出そうとする人は絶対に見逃さなさいで」

 

するとそこで、キューポラの覗き窓越しに戦況を見ていたねこにゃーが、2人にそう注意する。

 

「あ、ゴメンなさい」

 

「ゴメンナリ………」

 

(西住さん達………大丈夫かな?)

 

ぴよたんとももがーからの謝罪を聞きながら、愚連隊のリーダー捕縛の任に付いて居るみほ達を心配するねこにゃーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚連隊のリーダーが居る拠点・廃工場にて………

 

「離せっ! 離せぇっ!!」

 

「大人しくしろ!」

 

「確保ぉっ!」

 

「チキショーッ!!」

 

刺又、催涙スプレー、警棒や逮捕術を駆使し、次々に愚連隊員達を捕縛して行く機動隊員達。

 

「やはり本拠地だけあって人数が多いな!」

 

「大洗の子達は大丈夫か!?」

 

とそこで、機動隊員達は大洗歩兵部隊・とらさん分隊の様子を窺う。

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

扉を挟む様にして位置取っていたとらさん分隊員達が頷きあったかと思うと、1人が片手でドアノブを掴んで軽く開け、もう1人がその隙間から手榴弾を室内へ投げ入れた!

 

「「「「「グヤーッ!?」」」」」

 

爆発音がしたかと思うと、室内から愚連隊員のものと思われる悲鳴が聞こえて来る。

 

「「!!」」

 

直後に2人は扉を蹴り破り、室内に持っていた短機関銃と軽機関銃を掃射する!

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

手榴弾をかわした愚連隊員達に次々と弾丸が命中し、気絶させる。

 

「「………クリア!」」

 

そして完全に動く敵が居なくなった事を確認すると、外に向かってそう叫んだ!

 

 

 

 

 

「「「…………」」」

 

通路の角で、3人のとらさん分隊員が待ち伏せを行っている。

 

「ザッケンナコラーッ!」

 

「スッゾオラーッ!」

 

すると、奥の方に潜んでいた愚連隊員達が、応援に駆け付けて来る。

 

「「「!!」」」

 

その瞬間に姿を晒し、一斉射を開始するとらさん分隊員達!

 

「「「「「グワーッ!!」」」」」

 

突然現れたとらさん分隊員達の攻撃に為す術も無く、増援に現れた愚連隊員達は全滅する。

 

「GO! GO!」

 

現れた敵の無力化を確認すると、1人が得物を構えたまま前進。

 

それに続く様に2人目が同じく得物を構えたまま前進すると、3人目が後ろを向いて、後方を警戒しながら続くのだった。

 

 

 

 

 

「ヒャッハーッ! 汚物は消毒だぁーっ!!」

 

1人の愚連隊員がスプレー缶とライターを使って、即席の火炎放射器を作り、火炎を浴びせて来る。

 

「うおっ!?」

 

「下がれ下がれっ!!」

 

正面に展開していたとらさん分隊の面々が、それを受けて後退する。

 

「ヒャッハーッ! 炎には敵わねえだろっ!!」

 

その様子に気を良くした様に、更に火炎放射を続ける愚連隊員。

 

「じゃあコイツは如何だっ!」

 

と、その愚連隊員の前に、バズーカを構えた地市が立ちはだかった!

 

「!??!」

 

「吹っ飛べぇっ!!」

 

驚愕する愚連隊員に向かって、地市は容赦無くバズーカを発射する!

 

「「「「「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

簡易火炎放射器を持っていた愚連隊員は、他の愚連隊員を巻き込んで爆発に包まれる。

 

「よっしゃあっ!!」

 

それを見て、ガッツポーズを決める地市。

 

「………要らない心配だった様だな」

 

「流石は戦車道・歩兵道の全国大会を勝ち進んでいる子達だな………」

 

そんな大洗歩兵部隊の様子を見て、機動隊の隊員達は冷や汗を掻きながらそんな事を言い合うのだった。

 

 

 

 

 

「楓。飛鳥 隆太の姿を見たか?」

 

一〇〇式機関短銃に新たな弾倉を装着していた弘樹が、傍に居た楓に尋ねる。

 

「いえ、見てません」

 

「もう大分深部まで踏み込んでいるが………まだ姿を見せんか」

 

楓がそう返すと、弘樹は未だに姿を見せない愚連隊の頭である飛鳥 隆太の事を訝しむ。

 

「うわぁっ!? た、助けてぇっ!!」

 

「「「ヒャッハーッ!!」」」

 

とそこで、数人の愚連隊員に追い回されている了平の悲鳴が2人の耳に入る。

 

「了平………全く、仕方ないなぁ」

 

それを聞いた楓が、呆れながらも救援に向かう。

 

「………!?」

 

弘樹も同じく救援に向かおうとしたが、その時………

 

崩れた機材の下に、僅かながら覗いている扉の一部の様な物を発見する。

 

「…………」

 

その場所へ近づくと、上に乗って居た機材を退かす弘樹。

 

覗いていた物はやはり扉であり、弘樹が開け放つと、地上部分の機材に繋がれていると思われるパイプやらコードやらがゴチャゴチャとしている空間が広がっていた。

 

「…………」

 

弘樹は一瞬考えた後、その中へと入り込み、サッと周辺を警戒する。

 

敵の姿が無い事を確認すると、そのままパイプやらコードやらの間に空いていた隙間を縫う様に移動し始める。

 

(機械整備の為の空間か?………)

 

そんな事を弘樹が思いやった瞬間、目の前に扉が現れる。

 

「!………」

 

その扉の中から気配を感じた弘樹の身体に緊張が走る。

 

ゆっくりと扉に近づくと、耳を当てて中の様子を探る。

 

しかし、扉の奥からは何の反応も無い………

 

「…………」

 

だが、確実に誰か居ると確信している弘樹は、一〇〇式機関短銃を構える。

 

「………!!」

 

そして、ドアを蹴破ったかと思うと、バッと内部へ突入し、一〇〇式機関短銃を向ける。

 

「………あ! 見つかっちゃったか」

 

すると、突入した部屋の内部の中心に在った木箱の上に寝そべっていた少年が、そう言いながら弘樹を見やる。

 

「………飛鳥 隆太だな」

 

「そうだよ」

 

警戒を続けたままそう問い質す弘樹に、少年………愚連隊の頭『飛鳥 隆太』は、邪悪な笑みを浮かべてそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

愚連隊を相手に、新分隊『キツネさん分隊』の初戦闘です。
何て言うか………阿鼻叫喚ですわ(爆)
尚、レオポンさんチームも今回初参戦してますが、正式な活躍の様子は次の試合でお送りしたいと思います。
御了承下さい。

そして愚連隊のリーダーである飛鳥 隆太と対峙した弘樹。
いよいよ2人の戦いが始まります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第101話『不死身の分隊長です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第101話『不死身の分隊長です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦の甲板都市にて勢力を拡大していた愚連隊を排除する為………

 

警察の機動隊と協力し、愚連隊の各拠点の制圧に乗り出した大洗機甲部隊。

 

作戦が順調に進む中………

 

愚連隊の頭が居ると思われる拠点へと乗り込んだとらさん分隊の内、弘樹が………

 

遂に頭である『飛鳥 隆太』と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

愚連隊のリーダーが居る拠点・廃工場の敷地内にて………

 

「こちらあんこうチーム! 舩坂分隊長、応答して下さい! 繰り返します! こちらあんこうチーム! 舩坂分隊長、応答して下さい!」

 

機動隊の装甲車等と共に廃工場の外で待機していたⅣ号の中で、沙織が通信機を弄りながら弘樹へと通信を送っている。

 

しかし、通信機からはノイズが返って来るだけである。

 

「駄目。やっぱり連絡が取れないよ」

 

「何かあったのでしょうか?」

 

「アイツに限ってチンピラ如きにやられたなんてのは考え難いがな………」

 

沙織がそう言うと、華と麻子がそんな事を口にする。

 

「…………」

 

「あ、あの、西住殿………」

 

そんな中、冷静な表情のままで居たみほに、優花里がオズオズと声を掛ける。

 

「大丈夫だよ、優花里さん。弘樹くんならきっと無事だよ」

 

するとみほは、そんな優花里にそう返した。

 

その目には、一片の疑いの色も無い。

 

「ハ、ハイ………」

 

そう言われて、優花里は黙り込む。

 

(………信じてるよ、弘樹君)

 

みほはそう思いながら、ペリスコープ越しに未だに銃撃音が鳴り響いている廃工場を見据えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

その弘樹は………

 

廃工場の地下・機材整備用のフロアに在った1室………

 

「…………」

 

「ヘヘヘへ………」

 

弘樹に一〇〇式機関短銃を突き付けられながらも、部屋の内部の中心に在った木箱の上に寝そべった姿勢のまま、愉快そうな笑みを浮かべている飛鳥 隆太。

 

「観念しろ………間も無く上の連中の制圧も終わる………お前達の負けだ」

 

そんな隆太に細心の注意を払いながら、弘樹は降伏を促す。

 

「へっ………そしたら、また新しい愚連隊を作るまでさ」

 

しかし隆太は平然とそう言い放つ。

 

「そんな事が出来ると思っているのか?」

 

「出来るさ。俺の………『力』さえ有ればな」

 

そう言って拳をグッと握って見せる隆太。

 

「(『力』に固執しているのか?)力で何もかも解決出来ると思ったら大間違いだぞ」

 

「いいや、出来るね。結局人は強い力に従う………力が有れば何でも出来る。力こそが強さだ!」

 

そこで隆太は初めて身を起こし、木箱に腰掛ける姿勢になる。

 

「………未熟者め」

 

「何だと?」

 

そう言った弘樹を、隆太は睨み付ける。

 

「お前の力には心が無い………心無き力は強さに在らず………寧ろ力ですらもない」

 

「知った様な口を聞くなぁっ!! もういい! お前倒すぜ、良いよな? 答えは聞かねえけどなっ!」

 

とそこで、隆太は弘樹に突撃する。

 

「!!」

 

すぐさま一〇〇式機関短銃の引き金を引こうとした弘樹だったが………

 

「セアアッ!!」

 

隆太は弘樹の眼前で両手を地面に着いたかと思うと、そのまま逆立ちをした状態で回し蹴りを繰り出して来た!

 

「!?」

 

思わぬ攻撃に、弘樹は一〇〇式機関短銃を蹴り弾かれる!

 

「セエエイッ!!」

 

すかさず隆太は、今度は身体を回転させながら鞭の様に撓らせた足での蹴りを繰り出して来る!

 

「!!」

 

素早く反応して防御する弘樹だったが………

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

隆太は2撃目、3撃目と連続で蹴りを繰り出して来る!

 

「?!」

 

コレはマズイと思った弘樹は、蹴りと蹴りの僅かの間を読み、一旦隆太から距離を取った。

 

「………奇怪な技を使うな」

 

「カポエイラにブレイクダンスを混ぜた自己流さ………けど、手並みは保障するぜ」

 

弘樹の言葉に、本当にダンスでも踊っている積りなのか、ステップを踏みながらそう返す隆太。

 

「セヤアアッ!!」

 

と、その次の瞬間には、フォーリャの様な蹴りを繰り出して来る!

 

「!!」

 

咄嗟に身を仰け反らせてかわす弘樹。

 

「甘いっ!」

 

だが、空かさずに隆太は、ヘッドスタンドの様な姿勢から、右足を振り下ろして、浴びせる様に蹴りを繰り出す。

 

「!!」

 

間一髪で降り注いで来た蹴りを受け止める弘樹。

 

「そらあっ!?」

 

「むっ!?」

 

しかしその瞬間に、隆太は身体をスピンさせ、足を掴んだままだった弘樹を投げ飛ばす!

 

「ガハッ!?………」

 

背中から強かに床に叩き付けられ、一瞬肺の空気が無くなる弘樹。

 

「! セエエイッ!!」

 

だが、すぐに持ち直したかと思うと、まだ床に寝そべったままだった隆太に向かって正拳突きを繰り出す。

 

「おっとっ!」

 

隆太は弘樹の正拳突きを、床の上を転がって避ける。

 

「そうらっ!!」

 

そして、起き上がろとして繰り出したウィンドミルの勢いで、またも蹴りを繰り出す。

 

「ッ!!」

 

ガードして如何にか防ぐ弘樹だったが、ガードした両腕に若干の痺れが残る。

 

(強い………予想以上だ………コイツならば………)

 

隆太の強さを実感しながら、弘樹はとある事を思いやる。

 

「何ボーッとしてやがる! まだ勝負は終わってないぜっ!!」

 

とそこで、隆太がそう叫び、側転しながら繰り出す蹴り、アウー セン マォンを見舞って来る。

 

「!!………」

 

すると弘樹は、両腕を肘を曲げて腰の辺りに構え、両足を踏ん張って軽く中腰になり、全身に力を込めた!

 

隆太のアウー セン マォンの蹴りが、その弘樹の肩へと命中!

 

しかし!!

 

「!? がっ!?(何だっ!? まるで岩を蹴ったみたいだっ!?)」

 

まるで岩でも蹴ったかの様な衝撃が足に返って来て、隆太の顔が驚きと痛みで歪む!

 

「!!」

 

その瞬間に、今度は弘樹は再び隆太の足を掴む!

 

「!? しまっ………」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

空かさず弘樹は、渾身の力で隆太を壁目掛けて投げ飛ばす!

 

「! ガハッ!?」

 

壁に顔と身体を強かに打ち付け、一瞬張り付いたかと思うと、そのままずり落ちる隆太。

 

「この、野郎………!?」

 

顔を抑えながら振り返った隆太が見たのは、飛び蹴りを繰り出して来ている弘樹の姿だった。

 

「セイヤーッ!!」

 

「うおわっ!?」

 

咄嗟に横に転がる様にしてかわす隆太だったが………

 

「逃がさんっ!!」

 

何と弘樹は飛び蹴りが壁に命中すると、そのまま蹴りの反動で三角跳びし、回避した隆太の方に跳ぶ。

 

「!? んなっ!?」

 

「むんっ!」

 

驚く隆太の顎に、空中回し蹴りをヒットさせる。

 

「ガハッ!?」

 

カンフー映画宜しく、ツイスト回転しながら床に叩き付けられる様に倒れる隆太。

 

「グッ! テメェッ!!………!? ととっ!?」

 

すぐに起き上がり、弘樹に向かって行こうとした隆太だったが、視界がグニャリと歪み、足がフラつく。

 

「無理をするな。脳を揺らす様に蹴った。暫くは真面に動けんだろう」

 

そう言いながらも、油断なく構えを取っている弘樹。

 

「このぉっ! 舐める、なぁっ!!」

 

しかし隆太は怒声を挙げると、シャペウ ジ コウロを繰り出す。

 

だが、その動きにキレはなかった。

 

「むんっ!」

 

「ガハッ!?」

 

アッサリとその蹴りを受け止められると、カウンターの正拳突きを真面に喰らう。

 

「ゲホッ!」

 

「もうその辺にしておけ。お前はまだ若い………真面目に更生すれば、きっとやり直せる」

 

再び倒れた隆太に向かって、弘樹はそう言い放つ。

 

「………やり直したところで………俺には………俺には………」

 

しかし、隆太はそう言うと無理矢理に立ち上がろうとする。

 

「…………」

 

そんな隆太の姿を見て、弘樹は何かを考える様な素振りを見せる。

 

「オーイ、弘樹ーっ!!」

 

「何処行ったんだよーっ!」

 

「舩坂さ~ん! 無事ですか~!?」

 

するとそこで、弘樹が入って来た扉の方から、地市、了平、楓の声が聞こえて来る。

 

「む?………」

 

「! クソッ! 仲間が来やがったのか!!」

 

漸く立ち上がった隆太がそう悪態を吐く。

 

と………

 

「………行け」

 

「!? 何っ!?」

 

弘樹からの言葉に、隆太が驚く。

 

「行け。3日後に演習場に来い。そこでケリを着けよう」

 

「如何言う積りだ!?」

 

弘樹の意図が読めず、隆太は困惑した様子を見せながらも怒鳴る。

 

「………お前とはとことんやり合わなければならない。そんな気がするだけだ」

 

仏頂面でそう返す弘樹。

 

「…………」

 

「早くしろ。もうすぐアイツ等が来る」

 

「………クソッ!!」

 

隆太は最後に舌打ちをすると、弘樹が入って来た方向とは逆側に在ったドアから姿を消す。

 

「…………」

 

その姿を黙って見送る弘樹。

 

「おお! 此処に居たのか!?」

 

「オイオイ、探したぜ」

 

「何があったんですか?」

 

直後に、弘樹が入って来たドアから、地市、了平、楓が姿を見せる。

 

「ん? ボロボロじゃねえか? 誰かと戦ったのか?」

 

「まさか………飛鳥 隆太と?」

 

とそこで、弘樹の姿が若干ボロボロになっているのを見て、地市と了平がそう言う。

 

「ああ………」

 

「ホントですか!? で、飛鳥 隆太は?」

 

「まさか………逃がしたのか!?」

 

弘樹がそう返すと、楓がそう尋ね、了平がまさかと言う顔でそう言う。

 

「………3日後に演習場でケリを着ける」

 

「何っ!? 如何言う事だ!?」

 

「…………」

 

そう問い質す地市だったが、弘樹はその質問には答えず、落ちていた一〇〇式機関短銃を拾うと、地市達の脇を擦り抜け、部屋から出て行った。

 

「弘樹………」

 

「「…………」」

 

そんな弘樹の姿に、地市達は何かを察した様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

結局この日………

 

大洗機甲部隊は機動隊と共に愚連隊の粗全ての拠点とメンバーを制圧。

 

メンバーは全員が警察へと引き渡されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアッと言う間に3日後………

 

大洗学園艦・演習場………

 

暗雲立ち込め、時折稲光と共に雷鳴が鳴り響く中………

 

「…………」

 

戦闘服姿で丸腰の弘樹が、腕組みをして仁王立ちした状態で、隆太を待っていた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その後方に在る森林の中では、カモフラージュをした大洗機甲部隊のメンバーが、弘樹の姿を覗き見ていた。

 

地市達から話を聞いた大洗機甲部隊のメンバーは、弘樹に隆太を逃し、決闘の場を用意した意図を問い質したが、弘樹は何も答えなかった………

 

遂に決闘当日となり、演習場へと向かう弘樹に付いて行こうとしたが止められ、仕方なくコッソリと後を尾け、こうして隠れて様子を窺っているのである。

 

「如何言う積りなんだろう、舩坂くん?」

 

「態々こんな決闘染みた事をするとはな………」

 

「今回ばかりは流石に舩坂さんの意図が読めませんね………」

 

「私もです………」

 

頭に木の枝を付けてカモフラージュをしているあんこうチームの中で、沙織、麻子、華、優花里がそう言い放つ。

 

「…………」

 

同じ様にカモフラージュを行っているみほも、心配そうな様子で弘樹の姿を覗き見ている。

 

「みほさん、大丈夫ですか?」

 

するとそこで、今回の決闘の話を聞き付け、大洗機甲部隊に同行していた湯江が、そんなみほへ声を掛ける。

 

「あ、うん、大丈夫だよ。ありがとう、湯江ちゃん」

 

「無理はしないで下さいね」

 

「うん………ねえ、湯江ちゃん。湯江ちゃんは弘樹くんが何を考えてるのか分かる?」

 

とそこで、みほは湯江にそう尋ねてみた。

 

「いえ、残念ながら、私にも理解しかねます」

 

「そう………」

 

「ですが………」

 

「?」

 

「お兄様が無意味な事をやるとは思えません。きっと何かワケがあるのだと思います。それに殿方と言うのは、時には拳でしか語り合えない事もあると思っています」

 

「…………」

 

そう言う湯江の言葉を聞いて、再び弘樹の姿を見やるみほ。

 

(拳でしか語れない………か)

 

先程の湯江の言葉が脳内で反芻され、自分と姉であるまほが、戦車に乗って対峙している光景が思い浮かぶ。

 

「! オイ、来たぞ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、俊がそう声を挙げ、全員が弘樹の方を見やる。

 

「…………」

 

立っている弘樹の前方から、明確な敵意を表情に浮かべた隆太が歩いて来ていた。

 

「…………」

 

弘樹から少し離れた場所まで来ると、そこで静止する隆太。

 

「………来たか」

 

その隆太の姿を確認した弘樹が、腕組みを解きながらそう言う。

 

「………アンタだけは絶対にブッ潰す」

 

最早殺気とも取れる闘気を溢れ出させながら、弘樹を睨みつけてそう言う隆太。

 

「勝手ですまないが………お前の事を調べさせてもらった」

 

だが、弘樹はそんな殺気も何処吹く風と言った様子でそう言い放つ。

 

「何?………」

 

「飛鳥 隆太………元はそれなりに裕福な家庭の生まれである、家族構成は父と母、それに妹が1人………しかし、家族揃って外食中に暴力団同士の抗争に巻き込まれ、お前を除く全員が死亡した………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹の口から語られた隆太の過去に、隆太自身と大洗機甲部隊の面々は驚く。

 

「1人生き残ったお前は引き取り手が見つからず、施設へと預けられた。しかし、程無くして脱走………非行行動を繰り返しながら各地を転々とし、この大洗学園艦に流れ着いた………」

 

「テメェッ! 何勝手に調べてやがるっ!!」

 

「お前が力に固執するのは、理不尽な理由で家族を失ったからか? 自分にもっと力が有れば如何にか出来たのではないかと………」

 

激昂する隆太だったが、弘樹は相変わらず意にも介さず言葉を続ける。

 

「だが、今のお前の持っている力が、本当にお前の望んだ力か? そんな事をしていて………御両親や妹に顔向け出来るのか?」

 

「黙れぇっ! アンタに俺の何が分かるぅっ!!」

 

隆太がそう叫びを挙げた瞬間に雷が落ち、激しい雨が降り出した。

 

「………問答はココまでだ」

 

とそこで弘樹は構えを取る。

 

「後は拳………お前のその『力』で語ってみろ」

 

「上等だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

怒声と共に、弘樹に向かって突撃する隆太。

 

「セリャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その勢いのままにシャーパを繰り出す。

 

「!………」

 

弘樹は、繰り出された蹴りを、僅かに身を動かしてかわす。

 

「!!」

 

そしてそのまま、隆太の方へと踏み込んだ!

 

「!? なっ!?」

 

まさか踏み込んで来るとは思わなかった隆太は、驚きながら慌てて距離を取ろうとしたが………

 

「逃がさんっ!!」

 

弘樹がそう言い放って、隆太の服の両肩部を掴んだ!

 

「!? しまっ………」

 

「うおおおおっ!!」

 

弘樹はそのまま、隆太を力任せに振り回して、地面に背中から叩き付ける!

 

「ガハッ!?」

 

泥水が跳ね上がる中、肺の空気が一気に吐き出されて、一瞬意識が遠のく隆太。

 

「! このぉっ!!」

 

だが、すかさず反撃の蹴りが、弘樹の側頭部へ叩き込まれた!

 

「! ぬああああっ!!」

 

しかし、弘樹は隆太を離さず、再度力任せに振り回して、またも地面に背中から叩き付けた!

 

「グハッ!?」

 

「おおおおおおおっ!!」

 

再び意識が遠のいた隆太だったが、弘樹は今度は連続して、隆太を振り回しては地面に何度も何度も叩き付ける。

 

「ゴホッ!? ゲバッ!? ゴバッ!?(コ、コイツ!! 俺の技が距離が無いと使えないの知って投げ技で!!)」

 

ドンドンと酸素を失って行きながらも、弘樹が打撃技を避ける為に超接近戦での投げ技で来た事を察する。

 

「ッ! 舐めるなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、プライドからの意地か、弘樹が振り回した瞬間を見計らって身体を捻らせる隆太。

 

隆太の服の肩口辺りを掴んでいた弘樹の手が離れる。

 

「………!!」

 

「でりゃあああっ!!」

 

隆太はそのまま弘樹の脳天に浴びせ蹴りを食らわせる。

 

「ッ!?………」

 

脳天への衝撃で、弘樹はフラついた………

 

かと思われた次の瞬間には、着地した隆太に最接近する!

 

「!? マジかよッ!!」

 

弘樹のタフさに驚愕しながらも、バックステップで距離を取ろうとする隆太。

 

「!!………」

 

だが弘樹は、伸びていた隆太の左腕を、右手で掴む事に成功する。

 

「!? うわっ!?………」

 

「むんっ!」

 

そのまま隆太の左腕に、自分の右腕を絡めて、まるでボクシングのクリンチの様に肩口がぶつかり合う程に組み合う弘樹。

 

「ハアッ!!」

 

その状態のまま、空いている左手で、隆太の顔面を殴りつける!

 

「ブッ!?………コイツウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

すると喰らった隆太も、空いている右手で弘樹の顔面を殴り返す!

 

「!!………」

 

隆太の拳を食らった瞬間に、再度左の拳を再び隆太の顔面に打ち込む弘樹。

 

「ガッ!………ウワアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

隆太もまた、弘樹の顔面に拳を打ち込む。

 

2人はそのまま、ノーガードで相手の顔面を殴打すると言う、何とも痛々しい戦いへと発展した。

 

骨と骨がぶつかり合う鈍い音が、豪雨の中でもハッキリと聞こえて来る。

 

「キャアッ!?」

 

「うわぁ………」

 

「見てるコッチが痛くなってくるぜ………」

 

その凄惨な光景に、女性陣の殆どは目を反らし、男性陣も痛々しさを覚える。

 

「も、もう見てらんないよ! 地市くん! 舩坂くんを止めて!!」

 

「飛彗さん! お願いします!!」

 

「神狩殿!!」

 

と、沙織がそう言って地市に弘樹を止める様にお願いし、華も飛彗、優花里も白狼にそう頼む。

 

「「「…………」」」

 

しかし、地市、飛彗、白狼の3人は、黙って弘樹と隆太の殴り合いを見守っていた!

 

「! 如何したの!? 何で止めないの!?」

 

「武部ちゃん………男が何かを賭けて戦っている時、それを止める事など誰にも出来はしない………それでも止めるとしたら………それこそ弘樹の奴を殺す積りでないとな」

 

沙織がそう言うと、シメオンがそう返して来る。

 

「何ソレ!? 全然分かんないよ!」

 

「それが男と言う生き物さ………」

 

「! みぽりん! 湯江ちゃん! 舩坂くんを止めよう!!」

 

そこで沙織は、男子以外で弘樹を止められそうな人物であるみほと湯江にそう言う。

 

だが、しかし………

 

「「…………」」

 

みほと湯江は、その手を血が出そうなぐらい固く握り締めながらも、弘樹の姿から決して目を反らそうとせず、見守り続けていた。

 

「み、みぽりん………湯江ちゃん………」

 

その2人の覚悟に満ちた顔を見て、沙織は何も言えなくなる………

 

その間にも弘樹と隆太の殴り合いは続いており、最早両者の顔は特殊メイクでもされたかの様にボコボコとなり、流血さえもしていた。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」

 

両者体力が限界に近づいたのか、クリンチ状態こそ解けていないが、共に肩で息をしている。

 

「………次で決まるな」

 

その様子を見ていた俊がそう呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

見守っている大洗機甲部隊の面々にも緊張が走る。

 

「………やるじゃないか」

 

「貴様こそ………」

 

そう言い合う隆太と弘樹。

 

何時の間にか、両者の間には微笑が浮かんでいる。

 

「だが、勝つのは俺だ………」

 

「如何かな?………」

 

そこで両者は最後の力を振り絞り、互いに拳を握り合い、腕を振り上げる。

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

そして同時に拳を繰り出した!

 

「!! お兄様っ!!」

 

とそこで、我慢が限界に達したのか、湯江が隠れていた茂みから立ち上がってそう叫ぶ!

 

(!? 麻友!?)

 

しかし、その声に反応したのは弘樹ではなく、隆太だった。

 

湯江の姿が、亡くなった妹と重なったのである。

 

その次の瞬間!!

 

ガキィッ!と言う鈍い音と共に、弘樹と隆太の拳が、互いの顔面に叩き込まれた!!

 

まるで見計らったかの様に雷が落ちて、稲光が辺りを包み込み、雷鳴が響き渡る。

 

「「…………」」

 

互いに拳を打ち込んだ状態で固まっている弘樹と隆太。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は、固唾を飲んでその光景を見守っている。

 

………と、

 

「………ぐっ!?」

 

そう言う台詞と共に、弘樹がクリンチを解いて、片膝を地面に着けた。

 

「! 弘樹くんっ!!」

 

みほが悲鳴の様な声を挙げる。

 

その次の瞬間!!

 

「ガハッ!?………」

 

隆太からそう声が漏れたかと思うと、そのままグラリと身体が揺れ、仰向けに地面に倒れた。

 

「弘樹の勝ちだ………」

 

笑みを浮かべてそう言い放つシメオン。

 

まるでこの結果が最初から分かって居たかの様に………

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

「アンタ………やっぱり………強い………な………」

 

息を切らせている弘樹に、隆太はそう言い放ち、気を失ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「………うっ!?………う、うう~ん………」

 

意識を取り戻した隆太が最初に見たのは、知らない天井だった。

 

「此処は………! そうだ、俺はっ!!………!?~~~~ッ!?」

 

ぼんやりとしていた意識がパッと覚醒し、慌てて飛び起きると、全身が痛んで悶える隆太。

 

「気が付いたか………」

 

「!!………」

 

と、横からそう声を掛けられて、隆太が見やると、そこには………

 

学生服姿の弘樹が居た。

 

「アンタ………」

 

「此処は大洗国際男子校の保健室だ………あの後に運び込んだんだ」

 

状況を説明するかの様に隆太にそう言う弘樹。

 

「そうか………勝負は俺の負けだな」

 

「ああ………」

 

「で………俺を如何するんだ?」

 

弘樹にそう問い質す隆太。

 

その顔には吹っ切れたかの様な様子が見て取れる。

 

「………お前にはこの学校………大洗国際男子校に入学してもらい、歩兵道者として参加してもらう」

 

「!? ええっ!?」

 

しかし、弘樹からの思わぬ返答に、驚きを露わにした。

 

「実はお前には歩兵の素質が有ると思っていてな。戦ってみて確信に至った。全国大会で優勝する為に、是非ともお前の力が欲しい」

 

「そんな、急に言われても………」

 

「手続きや経歴の事なら心配するな。会長閣下が全て手を回してくれている。隊員達は全員納得済みだ」

 

「…………」

 

弘樹の手際の良さに唖然とする隆太。

 

「ハア~~~………逃げられそうにないな………分かったよ、ココに入学して歩兵道をやるよ」

 

「うむ………では、ゆっくり休んで、早く傷を治せ」

 

「ああ………って、オイ! ちょっと待て!」

 

「? 何だ? 何か質問か?」

 

「いや、アンタの怪我は!? 俺と同じぐらいになってた筈じゃ!?」

 

そう言い放つ隆太。

 

彼の言葉通り、ボコボコに殴られた隆太の顔には包帯がグルグル巻かれてミイラ男の様な状態になっているのに、同じくらいのダメージを受けた弘樹の顔は綺麗そのものであった。

 

「治った」

 

「ハアッ!?」

 

「生まれつき傷が治り易い体質でな………じゃあ、ゆっくり休め」

 

それだけ言うと、弘樹は保健室を後にした。

 

「…………」

 

残された隆太は暫し茫然としていたが、やがて脱力した様にベッドに倒れる。

 

「ハ、ハハハハ………俺………トンでもない化け物と戦ってたみたいだな………」

 

そして天井を見上げて、乾いた笑いを零す。

 

(………父さん………母さん………麻友………俺………やり直してみるよ………)

 

そんな事を思いやり、隆太は目を閉じて、やがては寝息を立て始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

愚連隊の頭、飛鳥 隆太との対決。
予告した通り、少年漫画的に拳で語り合せてみました。
ちょっと血生臭かったですが(爆)

さて、その隆太も男子校へ編入されて歩兵部隊に配属。
いよいよ次の試合に向けての準備が始まりますが、その前にちょっとした伏線張りをしたいと思っています。
遂にあのゲームから、あの名物キャラが登場します。
お見逃しなく。

それと、次の試合に入る前に、2度目の紹介します!をやろうかと予定しています。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第102話『次の試合に向けてです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第102話『次の試合に向けてです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦の甲板都市で幅を利かせていた愚連隊を、警察と協力し排除した大洗機甲部隊。

 

そんな中で………

 

愚連隊の頭であった『飛鳥 隆太』と弘樹が、紆余曲折あり、決闘を行う事に………

 

拳にて語り合った両者の間には、やがては絆の様なモノが芽生える………

 

そして、決闘は弘樹の勝利に終わり………

 

飛鳥 隆太は、その弘樹の推薦で大洗国際男子校へと編入。

 

大洗歩兵部隊へ参加する事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

演習を終えた大洗機甲部隊のメンバーが、格納庫内へと入って来る。

 

「お疲れーっ!」

 

「ああ~、今日もキツかったなぁ~」

 

「けど、次の試合まではもうすぐなんだ。気合入れてかないとな」

 

武器や装備を外しながら、そんな事を言い合う大洗歩兵部隊の面々。

 

「飛鳥! 今日はお前、大活躍だったじゃないか!」

 

「い、いえ、そんな事は………」

 

「謙遜するな。今日の演習のMVPは間違いなくお前だ」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

弦一郎と大詔からそう言われて、隆太は恐縮している様な様子を見せる。

 

あの決闘騒動の後、大洗男子校へと編入し、歩兵部隊のキツネさん分隊へと配属になった隆太。

 

弘樹が説明した通り、他の部隊員達は戦車チームを含めて納得済みであり、隆太自身も積極的に部隊に貢献しようとした為、馴染むのには時間が掛からなかった。

 

何より、彼に好印象を与えているのが………

 

「隆太」

 

「あ、『兄さん』」

 

やってきた弘樹の事を、隆太がそう呼ぶ。

 

拳で殴り合った仲故か、隆太は弘樹に対し尊敬の様な念を抱く様になり、前述の通り、または『アニキ』と呼ぶ様になっていた。

 

弘樹自身も「好きにしろ」と言って咎めたりはしなかったが、そのポジションは完全に舎弟のソレである。

 

「ええ舎弟が手に入ったやないけ、弘樹」

 

「そんな積りは無い………」

 

大河が肩を組みながらそう言って来るが、弘樹はやんわりと否定する。

 

「オーイッ! すまないが、誰か薬莢を出すのを手伝ってくれないかーっ!?」

 

とそこで、Ⅲ突の整備に入っていたカバさんチームの中で、カエサルがそう声を挙げる。

 

「あ! 俺やります!」

 

すると、隆太がそう言って駆け出し、Ⅲ突の車体の上に登る。

 

しかし、急いでいたのか、ハッチの有る戦闘室の上に登ろうとして足を滑らせる。

 

「!? うおわっ!?」

 

「ぜよっ!?」

 

そのまま三突の横へと落ち、偶々そこに居たおりょうを巻き込む!

 

「おりょう!?」

 

「隆太、大丈夫か!?」

 

エルヴィンが声を挙げ、弘樹が思わず近づいて来る。

 

「イテテテ………しくじったぁ………ん?」

 

左手で頭を押さえながら隆太が起き上がると、右手が何か柔らかい物を掴んでいる事に気付く。

 

「何だ、コレ? 柔らかい………」

 

思わず隆太がその柔らかい物を揉みしだくと………

 

「………何処を触ってるぜよ」

 

隆太に押し倒される形となっていたおりょうが、真っ赤な顔に涙目でそう訴えて来る。

 

隆太が揉みしだいていたのは、おりょうの豊満なバストだった。

 

「!??!」

 

慌てておりょうから飛び退く隆太。

 

「い、いや、あの! コレはその!」

 

と、隆太がテンパりながら何かを言おうとしたところ………

 

その首筋に、日本刀の刃が押し当てられた。

 

「!?」

 

「腹を切れ。介錯はしてやる」

 

仰天する隆太に向かって、日本刀の刃を突き付けている左衛門佐がそう言い放つ。

 

「これより軍事法廷を開く! 死刑! 以上っ!!」

 

何時の間にか用意されていた裁判官が座る席に付いて居たエルヴィンが、ガベルを叩いて一方的にそう宣告する。

 

「えええっ!? ちょっと、待って………!? ガッ!?」

 

尚も訴えようとしたところ、背中に衝撃を感じる隆太。

 

「ブルータス、お前もか………」

 

それは、隆太の背にナイフを突き刺しているカエサルのものだった。

 

「それ………アンタが言うの?………」

 

そう言い残して、隆太はどさりと倒れる。

 

「むっ? やり過ぎたか?」

 

倒れた隆太を見下ろしながら、カエサルはマジックナイフの刃の部分を引っ込めたり出したりしながら遊ぶ。

 

「ぬうう~~~っ! ラッキースケベめぇっ!!」

 

「何を羨ましがってるんですか、了平」

 

そんな隆太の事を羨ましげな目で見ている了平に、楓のツッコミが入る。

 

「………やれやれ」

 

そんな一連の流れを見ていた弘樹は、そう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

大洗学園艦はとある港町に寄港………

 

この町には、歩兵道用の大型ガンショップがあり、次の試合に向けて新たな武器と消耗した弾薬の調達を試みたのである。

 

大洗歩兵部隊のメンバーと整備部の面々、それに興味を持ったあんこうチームの面々が同行。

 

武器・弾薬を調達すると、一部のメンバーがガンショップに設置されていた射撃場で、射撃訓練を開始するのだった。

 

 

 

 

 

ガンショップ・射撃場………

 

「…………」

 

射撃ブースに立ち、離れた場所に在る人を象ったターゲットに、四式自動小銃の弾丸を次々に撃ち込んで行く弘樹。

 

放たれた弾丸は全て、1撃で戦死判定を狙える急所部分に直撃している。

 

「凄~いっ!」

 

「流石は舩坂殿! 見事な射撃の腕です!」

 

それを見ていた沙織と優花里が、そう感嘆の声を挙げる。

 

「…………」

 

みほも、射撃を行っている弘樹の姿に見惚れている。

 

「お嬢ちゃん達も撃ってみるかい?」

 

するとそこで、ガンショップのオーナーが、幾つかの銃を持って現れ、みほ達にそう言って来た。

 

「!? ええっ!?」

 

「私達が………ですか?」

 

突然そんな話を振られ、沙織と華が戸惑いの声を挙げる。

 

「遠慮は要らねえよ。可愛い子にはサービスしとくぜ。ホラ、好きなモンを選びな」

 

オーナーは笑いながらそう言うと、みほ達に持って来ていた銃を差し出す。

 

「如何するんだ?………」

 

「私! 撃ってみたいです!!」

 

麻子がそう言うと、優花里がノリノリでそう声を挙げる。

 

「………そうだね。ちょっとやってみようか?」

 

と、興味が湧いたのか、みほがそう言う。

 

その言葉で、あんこうチームの面々は、其々に思い思いの銃を取り、射撃ブースへと向かったのだった………

 

 

 

 

 

「キャアッ!?」

 

デリンジャーを撃った沙織が、反動で尻餅を着く。

 

勿論、弾は見当違いな方向に飛び、天井に当たる。

 

「いった~いっ!」

 

強かに打ち付けた尻を摩りながらそう言う沙織。

 

「やれやれ………何をやってるんだか………」

 

そんな沙織の姿を見た麻子がそう呟く。

 

「だって凄い衝撃だったんだもん! 麻子もやってみなよ!」

 

「良いだろう………」

 

と、沙織がそう言い返すと、今度は麻子が射撃ブースに立つ。

 

「ん………」

 

そして、二十六年式拳銃をターゲットに向けて構える。

 

「…………」

 

しっかりと照準を合わせると、引き金に指を掛け、思いっきり引く麻子。

 

と、途端に麻子の両腕は反動で背中側にまで仰け反り、それに引っ張られる様に身体まで仰け反って後頭部から床の上に落ちた!

 

「!?~~~~~~っ!?」

 

余りの痛みに、麻子は後頭部を抑えて転がって悶える。

 

「麻子、大丈夫っ!?」

 

慌てて駆け寄って介抱する沙織。

 

「銃は………危険だ」

 

麻子は涙目で訴える様にそう言うのだった。

 

「おお~~………コレがボーチャードピストル………」

 

一方、その隣のブースでは、優花里が世界初の自動拳銃・ボーチャードピストルを見てうっとりとしていた。

 

レア物な銃に見惚れており、射撃する事を忘れている。

 

「…………」

 

そして、更にその隣のブースでは、華が九七式狙撃銃を構え、スコープ越しにターゲットを見据えている。

 

「…………」

 

相当集中している様であり、見ている方が緊張感を感じる雰囲気を出している。

 

「………!!」

 

やがて何かのタイミングが合ったかの様に引き金を引いた!

 

放たれた三八年式実包が、人型ターゲットの頭の中心を撃ち抜く!

 

「アラァ………隣の的に当たってしまいました」

 

しかし、華がそう言った様に、命中したのは華が居る隣の射撃ブースの的だった。

 

「やっぱり、砲撃の様に上手くは行きませんねぇ~」

 

頭部分に穴が空いた隣の的を見ながら、溜息混じりにそう言う華。

 

「くうっ!………」

 

そんな中、ワルサーP38を構えたみほが、次々と弾をターゲットに向かって撃ちこんでいる。

 

だが、その全ては的に当たっているだけであり、致命傷になる様な場所には1発も当たって居ない。

 

「あう~、全然駄目だぁ~………」

 

「射撃は反復練習があってこそだからな。いきなり撃ってそう上手く当たるものではない」

 

みほがガッカリしていると、撃ち終えた弘樹がやって来てそう言う。

 

「あ、弘樹くん………」

 

「それに構え方も少し悪いな。良いか………」

 

するとそこで、弘樹はみほの腕を掴んだ。

 

「!??!」

 

「先ず、脇は締めてだな………」

 

みほが動揺しているのにも気づかず、そしてそのまま文字通り手取り足取りをしてみほに正しい射撃姿勢を取らせて行く。

 

「で、構えたら的を良く見据える」

 

更に最後には、二人羽織の様に背後からくっ付いて銃身を的の方へと向けさせる。

 

「!?!?!?!?!」

 

最早みほは完全にテンパり状態である。

 

「この距離なら両目とも開けておいて構わん。それから………」

 

(アワワワワワッ! ひ、弘樹くんと、み、密着~っ!?)

 

既に弘樹の説明の言葉も耳に入っていない。

 

「うわ~、弘樹くんったら大胆………」

 

「アレは気づいてないだけだと思うぞ………」

 

「みほさん、すっかり慌ててますね………」

 

「西住殿! お気を確かに!!」

 

そんなみほの姿を見て、沙織、麻子、華、優花里はそんなコメントをする。

 

と………

 

「こんな場所でイチャつくたぁ、流石に今年度最大のダークホース校は違うね~」

 

何処か小馬鹿にする様な台詞が聞こえて来た。

 

「!?」

 

「?………」

 

「「「「??………」」」」

 

それを聞いたみほが慌てて弘樹から離れ、弘樹と沙織達は、その声が聞こえた方向を見やる。

 

そこには、弘樹達と同い年くらいと思われる、西部劇の様な恰好の男子の姿が在った。

 

「それとそっちのお嬢ちゃん達も、撃ち方がなっちゃいないよ。てんで駄目だ」

 

男子は沙織達の射撃の様子を見ていたのか、今度は沙織達に向かってそう言う。

 

「何、その言い方!」

 

「例え本当の事でも、失礼じゃありませんか!」

 

あからさまにバカにしている様な言い方に、沙織達は文句を言う。

 

「銃の発展は大昔から来てるが、そのテクニックは、開拓時代に完成した」

 

すると今度はそう言う台詞が聞こえて来て、テンガロンハットを被っている、これまた飄々としたガンマン風の男が現れた。

 

テンガロンハットの男はそのまま、空いていた射撃ブースの立つ。

 

その次の瞬間!

 

腰にぶら下がっていたホルスターから、M1917リボルバーをクイックドロウよろしく素早く抜き取ったかと思うと、ターゲットに向かって一瞬で6発全弾発射した!

 

弾丸は全てターゲットの中心を撃ち抜いており、百発百中だった。

 

「「「「…………」」」」

 

「す、凄い………」

 

「ふふん………」

 

余りの射撃能力に、唖然とする沙織を見て、最初に声を掛けて来た男子は、得意げな顔をする。

 

「見ただろう? こいつの腕前を。なぁ、『ジャンゴ』!」

 

「ふっ………ならお前も見せてやれ、『レオパルド』………」

 

ジャンゴと呼ばれたテンガロンハットの男はM1917リボルバーの銃口から上がっていた硝煙を吹き消すとホルスターに納め、レオパルドと呼ばれた飄々とした男子に向かってそう言う。

 

「おうよ」

 

レオパルドと呼ばれた男子はライフルを取り出す。

 

すると殆ど息つく暇もなく2連射し、ターゲットの頭と身体の中心を連続で貫いた。

 

「「「「「!!」」」」」

 

「本当に見事なものだよ………山猫の名に恥じぬ実力だ………」

 

みほ達が驚いていたところにまた別の客が現れた。

 

ベレー帽をかぶっている男である。

 

男は腰のホルスターからコルト・シングル・アクション・アーミー、通称ピースメーカーを引き抜くと、銃を回転させるガンスピンを披露する。

 

「「「「おお~~~…………」」」」

 

見事なガンスピンに、みほ達は思わず感嘆の声を漏らす。

 

「俺の名は『オセロット』………またの名を、『リボルバー・オセロット』」

 

男………『オセロット』はそう名乗った瞬間!!

 

その場でグルリと回転し、ピースメーカーをしっかりと握り締めて、弘樹へと向けた!!

 

「「「「!?」」」」

 

「弘樹くん!!………」

 

「フッ………」

 

みほが悲鳴の様な声を挙げた瞬間、オセロットは発砲!

 

発射された弾丸が、弘樹の脇や股下、顔の横など掻い潜ったかと思うと、射撃場の壁に命中して何度も何度も跳弾し、最後はターゲットの股間部分を貫いた。

 

「「「「「「「「「「うっ!!………」」」」」」」」」」

 

大洗歩兵部隊のメンバーは、その光景を見て、思わず股間を抑える。

 

「…………」

 

一方の弘樹は、弾丸が至近距離を通過したにも関わらず、身動ぎどころか表情1つ変えていない。

 

「山猫は獲物を決して逃さない………これが我々のポリシーだ………」

 

「大した大道芸だな………」

 

誇らしげにそう語るオセロットに、弘樹は冷めた様子でそう言い放つ。

 

「射撃の腕を見せたとはいえ、男にとっての大切な場所を撃つのは気持ちが良いものではないな………」

 

「だったらやるなよな………」

 

そう言うオセロットに、大洗歩兵部隊員がそうツッコミを入れる。

 

オセロットはピースメーカーをガンスピンさせながら、弘樹達を見やる。

 

そして、スピンを止めると………。

 

「………お前達の学園には蛇と名の付く男が居るそうだな」

 

「俺がなんだって?」

 

オセロットがそう言うと、その後ろに、大詔が現れた。

 

「フッ………」

 

オセロットは振り向かず、ニヤリと笑う

 

そしてゆっくりと振り向きながら、表情を戻し、大詔を向き合う。

 

「お前があの蛇野………か?」

 

「あのか如何かは知らんが、俺は確かに蛇野だ。それが如何なんだ?」

 

「いやいや、鬼に見つからずに良くかくれんぼに勝利したものだな」

 

「何だと?」

 

それを聞いた大詔は、眉をピクリとさせる。

 

「君の家系の話も聞いた事がある。代々潜入工作員の家系だそうだな………しかし、君の祖父は所詮、隠れる事しか出来ない弱虫野郎だ………何の理由で大会に出たのかは知らないが、伝統だけは汚さないでもらおう………」

 

「弱虫だと?………」

 

「別の学園艦の調査を行う事しか出来ない君には、この大会と言う世界での実力というモノとは次元が違うのだよ………目的は金か? 名声か?」

 

「…………」

 

「まあ、所詮はそんなもんだろう。君の学校にはチートなバカ共が多いが、我々は違う。常に辛い訓練で力を蓄え、体を鍛え、技を磨きつつ、大会に出場し、その成果を試した。そしてその瞬間、今までの辛さが報われ我々は、勝利を喜び合うんだ。君達みたいな最初からチートで他の学園を簡単に負かしてしまうようでは、本当の強さには辿り着けないさ。特に君の様に他の学園を調べなければ勝てない………いや、あの伝説の英霊や死神、魔王、西住流、そしてフェンリルに助けられなければ勝てない弱小校ではな………」

 

「それ以上………」

 

「もう良いだろオセロット………コレ以上は規則に引っ掛かるぜ」

 

大詔が何か言おうとした瞬間に、ジャンゴがそう言ってオセロットを止める。

 

「もう帰ろうぜ。教官にどやされちまうぜ」

 

「フン………山猫は雑食だ、何でも喰える。何れ我々と戦えばお前達は獲物と化すのだ………」

 

ジャンゴを筆頭に、レオパルドとオセロットは帰ろうとする。

 

と………

 

「………待て」

 

「何だい? かくれんぼでも教えてくれるのかい? 臆病者の蛇め………」

 

「どうもお前は………俺が只のかくれんぼのマニアとでも言いたい様だな?」

 

「犬が西向けば尾は東、そんな事は当たり前だ………だいたい先程のプラウダ&ツァーリ戦では、コレと言った活躍もしてないではないか。いや、今までも、か………」

 

「………どうもお前は2つの根本的な誤解をしている様だ」

 

「………何だと?」

 

大詔にそう言われて、オセロットの表情が変わる。

 

「まず1つ………大洗は弱小でもチートが無くては勝てない弱虫などではない。2つ………お前は相手を見縊り過ぎている………」

 

そう言いながら、蛇野はM1911Aを構えると、素早く発砲した。

 

するとオセロットのベレー帽が宙に舞った!

 

「!?」

 

驚くオセロット。

 

「俺達は大洗に勝利を貢献する為にずっとずっと頑張ってきた………貴様なぞに、俺達の学園を侮辱する資格は無い!」

 

「………ふん、言ってくれるじゃないか」

 

と、オセロットがそう言った瞬間………

 

「………落ちましたよ」

 

何時の間にかその横に立っていた弘樹が、大詔が撃ち落としたオセロットのベレー帽を差し出した。

 

(!? 何時の間に!?)

 

全く気付かないままキルゾーンに入れられていたオセロットは一瞬動揺する。

 

「チッ!………君がそこまで言うのだったら、次の対戦相手………『黄金スフィンクス男子高等学園』と『聖クレオパトラ女学院高校』の『クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊』との試合で示してみせろ、貴様が弱虫でない証拠。そして君達学園がどこまで太刀打ち出来るかをな………」

 

オセロットは舌打ちをしながら、ベレー帽を引っ手繰る様に受け取り、大詔にそう言い放つ。

 

「………良いだろう」

 

「あ~、言っとくけど、戦場場所が砂漠でない事を祈った方が良いよ。それじゃな」

 

オセロットと蛇野が睨み合うと、レオパルドが付け加えるかのようにそう忠告すると、3人はそのまま帰って行った。

 

「テンガロンハットに滑車付きブーツ………間違いありません! 強豪校として、マカロニウェスタンで名高い、学園艦ワイルドキャットの西部学園の生徒達です!」

 

「強豪校って、強い?」

 

「私も聞いた事ある。西部学園の歩兵はリボルバーの扱い方に長けていて、戦車部隊も自動装填装置が付いてるんじゃないかってぐらい早打ちが得意だって………」

 

みほ達は西部校に対し戦慄を覚え始める。

 

「もし、このまま行けば、次の次の試合でそこと当たるワケか………」

 

と、何時の間にか対戦表を取り出していた弘樹が、組み合わせを確認してそう言う。

 

「マジかよ………」

 

「心配している場合か。先ず我々が考えなければならないのは、次のクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊だ」

 

絶望する様な呟きを漏らす了平に、弘樹はそう言い放つ。

 

「西部学園の方達が言っていた通り、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は砂漠戦を得意としています。もし砂漠でのフィールドで試合になんて事になったら………」

 

「…………」

 

優花里がそう言うと、みほも懸念するかの様な表情を見せるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

一通りの試射と射撃訓練を終えた大洗歩兵部隊は、あんこうチームと共に学園艦への帰路に着いた。

 

しかし、その途中………

 

「あの、すみません………」

 

「? 何でしょう?」

 

弘樹が風呂敷包みを担いだお婆さんに声を掛けられた。

 

「この場所へ行きたいのですが、如何行けば良いでしょうか?」

 

そう言うとお婆さんは地図が描かれたメモを弘樹に見せる。

 

「この場所は………」

 

「さっきまで居たガンショップの近くだね………」

 

その地図を見た弘樹と、それを覗き込んで来たみほが、それに掛かれている場所が、先程まで居たガンショップの近くである事に気付く。

 

「………お送りしましょう」

 

弘樹は少し考える様な素振りを見せた後にそう言う。

 

「いえ、そんな。道だけ教えて頂ければ………」

 

「遠慮なさらないで下さい。さ、どうぞ」

 

遠慮するお婆さんの前に弘樹は背を向けて屈み込み、背中に乗る様に促す。

 

「………すみません」

 

「いえ、当然の事です」

 

お婆さんが遠慮しながら背に乗ると、弘樹はお婆さんをおんぶして立ち上がる。

 

「では、しっかりと掴まっていて下さい」

 

「あ、弘樹くん。私も付き合うよ」

 

と、弘樹が歩き出すと、みほが付いて来る。

 

「いや、小官1人で十分なんだが………」

 

「気にしないで。私が付いて行きたいだけだから」

 

「………分かった。スマンが先に戻って居てくれ」

 

他の歩兵部隊やあんこうチームの面々にそう言い、弘樹とみほは、お婆さんを目的地に送りに行くのだった。

 

「みぽり~ん! 舩坂く~ん! 出航の時間には遅れない様にね~!!」

 

去り際に沙織がそう呼び掛け、2人は手を振って答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その後………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単に済むと思っていた目的地探しは思いのほか難航。

 

途中で放り出すワケにも行かず、弘樹とみほはお婆さんの目的地を必死に捜索。

 

その結果………

 

学園艦の出航時間を、大幅にオーバーしてしまったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港………

 

「やっぱり、もう出航しちゃったみたいだね………」

 

大洗の学園艦が港に無いのを見て、みほがそう呟く。

 

「すまない、みほくん。小官が手間取ったばかりに………」

 

「ううん、そんな! 弘樹くんのせいじゃないよ!」

 

責任を感じて謝る弘樹に、みほはそう言う。

 

「しかし、こうなると、連絡船を待つしか………」

 

「そこのお熱い御2人さん! 良かったら乗ってくかい?」

 

と、弘樹がそう呟いた瞬間、そんな声が聞こえて来た。

 

「!? ふええっ!?」

 

「!? この声は!?」

 

カップルとしてからかわれた事に動揺するみほと、その声を聴いて驚きを露わにする弘樹。

 

その声が聞こえて来た方向には、入港している1隻の艦船………

 

旧大日本帝国海軍所属・陽炎型駆逐艦の8番艦………

 

太平洋戦争初戦から終戦まで主要な海戦に参加し続けながらも、小破以上の損傷を受ける事無く、数々の戦果を挙げた、類稀なる幸運の不沈艦………

 

『雪風』の姿が在った。

 

「久しぶりだな、弘樹。噂は聞いているぞ」

 

「! 新代先輩!」

 

その艦橋横の甲板に立っていた海軍将校の服を着た人物が、弘樹に向かってそう言い、弘樹はヤマト式敬礼をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

早速大洗機甲部隊に馴染んでいる隆太。
ラッキースケベイベントなんて起こしちゃって(笑)

そして出て来た新たな学校………
西部学園のキャラ達。
何と、MGSの名物キャラ、オセロットがそのまま登場です。
最も性格にはこの世界のオセロットといったところですが………

学園艦の出航に乗り遅れてしまった弘樹とみほ。
そこに現れた、駆逐艦・雪風に乗る弘樹が新代先輩と呼ぶ人物。
果たして何者か?

次回もまた、大物ゲストが出演します。
次回の話の次に、2度目の紹介します!を予定しています。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第103話『先輩と不沈艦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第103話『先輩と不沈艦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の試合………

 

『黄金スフィンクス男子高等学園』と『聖クレオパトラ女学院高校』の『クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊』の戦いに備え………

 

本土のとあるガンショップに武器と弾薬の仕入れに訪れた大洗歩兵部隊とあんこうチーム。

 

そこで一同は………

 

強豪校『西部学園』の歩兵部隊のメンバー、『ジャンゴ』、『レオパルド』、『リボルバー・オセロット』と出くわす。

 

挑発的な言葉を残し去って行ったジャンゴ達は、大洗がクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を破れば、次に戦う相手である。

 

次の試合も終わらぬ内に新たな脅威を感じながら帰路に就いた大洗歩兵部隊とあんこうチーム。

 

その途中………

 

弘樹とみほが、道に迷ったお婆さんを助け、学園艦の出航に乗り遅れてしまう………

 

連絡船待ちで港で立ち往生していた弘樹とみほに声を掛けて来たのは………

 

旧大日本帝国海軍所属・陽炎型駆逐艦の8番艦『雪風』に乗った、弘樹が『新代先輩』と呼ぶ男だった………

 

果たして、何者なのか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海原を進む雪風………

 

その艦橋にて………

 

「すみません、先輩。態々送っていただいて………」

 

「ハハハ、気にするなって。俺とお前の仲だろう」

 

「恐縮です………」

 

先輩と呼ぶ、雪風の艦長と親しげに話している弘樹。

 

「あの、弘樹くん………その人は?」

 

とそこで、同じく艦橋に居たみほがそう尋ねる。

 

「ああ、すまない、みほくん。紹介が遅れた。この方は、小官の中学生時代の先輩で………」

 

「『新代 護(しんだい まもる)』。当艦、雪風の艦長だ」

 

弘樹がそう言うと、雪風の艦長………弘樹の中学生時代の先輩である『新代 護(しんだい まもる)』は、そう自己紹介した。

 

「先輩って事は………」

 

「ああ、新代先輩は軍艦道をやっておられるんだ。中学生時代は、先輩の援護砲撃のお蔭で勝ちを拾った試合もある」

 

「オイオイ、弘樹。俺1人の力じゃないぞ。お前や西………それにシメオンやハンネスにエグモンド、六郎達………部隊の全員が力を合わせて勝利を勝ち取ったんだ」

 

謙遜するかの様に、護はヒラヒラと手を振る。

 

「それにしても驚いたぞ。試合の帰りにちょっと立ち寄った港でお前達の姿を見た時は………」

 

「先輩は今、どちらの学園に?」

 

「広島だ。呉に所属している造船工業学校の学園艦さ」

 

「! 呉の造船工業学校と言えば、軍艦道では強豪で知られるエリート校じゃないですか! そこへ入学出来たとは………流石ですね、先輩」

 

「ハハハハ! 運が良かっただけさ………お前こそ、最近大活躍してるじゃないか。テレビで見てるぞ」

 

「いや、お恥ずかしい………小官はまだまだ未熟です」

 

「ハハハハ! 相変わらず生真面目だな、お前は」

 

笑い合いながら話に花を咲かせている弘樹と護。

 

(何だか良いな………)

 

そんな2人の様子を見て、みほは男同士の友情に憧れの様な感情を抱く。

 

と、その時………

 

「! 艦長! 左前方、10時の方向に艦影!」

 

「何っ?………」

 

艦橋に居た双眼鏡を覗いていた見張り員の1人がそう報告を挙げ、護は艦橋の窓の傍へ寄るとその方向を確認する。

 

見張り員の報告通り、その方向には艦影が見えていた。

 

「何処かの学園艦の連絡船みたいですが………」

 

「大洗の連絡船じゃないんですか?」

 

「いや、形が違う………別の学園艦の連絡船だな」

 

見張り員と護がそう言い合っていると、みほと弘樹が同じ様に艦橋の窓から艦影を見ながらそう口を挟んで来る。

 

「! あ! 艦影の周りに機影有り!」

 

「! 何だとっ!?」

 

と、そこで見張り員が新たにそう報告を挙げると、護も首に下げていた双眼鏡を手に取り、機影を見やる。

 

確かに、連絡船らしき艦影の周囲には、飛行艇らしき機影が、多数飛び回っていた。

 

「! マズイ! 空賊に襲われてるぞ!!」

 

「! 空賊っ!?」

 

「空中海賊………航空機を所有して一団をなし、海賊や盗賊と同様の行為を行う連中だ。この辺りにも出没していたのか………」

 

護がそう声を挙げると、みほが驚き、弘樹が空賊について説明する。

 

「助けに行くぞ! 取り舵いっぱ~いっ!!」

 

「了解! 取り舵いっぱ~いっ!!」

 

すぐに護のそう言う指示が飛び、操舵輪を握っていた操舵手が、左に思いっきり舵を切る。

 

雪風の船体が勢い良く左に曲がり始める。

 

「キャッ!?」

 

「おっと!」

 

その際の慣性でみほがよろめいたが、弘樹が受け止める。

 

「近くの海上保安庁、並びに自衛隊に連絡! スマン、弘樹、みほちゃん。巻き込んでしまって………」

 

通信手にそう指示を飛ばしながら、護は弘樹とみほに謝罪する。

 

「いえ、気にしないで下さい」

 

「空賊に襲われている船を見す見す見過ごすワケには行きません」

 

「助かる。危ないから、艦内の方に避難して居てくれ………全速前進っ!!」

 

みほと弘樹がそう返すと、護は再び指示を飛ばし、空賊に襲われている連絡船の元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空賊に襲われている連絡船………

 

「停まれーっ! 停まらねえと沈めるぞぉっ!!」

 

連絡船を取り囲む様に飛んでいた空賊達の飛行艇の中で、主犯格と思われる空賊の飛行艇が連絡船の横へと着水。

 

窓やハッチ、機銃座に居た団員達が、威嚇するかの様に機銃を発砲し、武器を振り回す。

 

「キャアーッ!」

 

「マンマユート団だぁっ!!」

 

「助けてくれーっ!!」

 

連絡船の乗客達は悲鳴を挙げながら、狭い甲板や艦内をパニックになって走り回る。

 

「ね、姐さん!」

 

「クソッ! 何でこんな事に………」

 

その乗客の中に、ペパロニやアンチョビの姿が在った。

 

如何やら、襲われているのはアンツィオ&ピッツァ学園艦の連絡船らしい。

 

「フォルゴーレ………」

 

「大丈夫です、カルパッチョ様。如何か冷静に………」

 

怯えるカルパッチョを抱き締めながら、フォルゴーレがそう言う。

 

「空賊怖い、空賊怖い………」

 

一方、ロマーノは………

 

シートを上半身に被せて床に蹲り、ガタガタと震えていた。

 

と、そこで連絡船が空賊の指示に従い速度を落とし始め、やがて完全に停止する。

 

「よおし、良い子だ! 野郎共ぉっ! 金目のモンは根こそぎ頂いて行けぇっ!!」

 

「お頭ぁーっ!! 9時方向から別の船が近づいて来ますーっ!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

略奪の指示を出す団長だったが、そこで団員の1人がそう報告を挙げ、9時方向を見やる。

 

そこには、波飛沫を上げて近づいて来る、雪風の姿が在った。

 

「チイッ! 軍艦道をやってるガキ共か! 仕方ねえ、アッチを先に片付けるぞっ!!」

 

と、団長がそう言うと、彼の乗って居た飛行艇が離水。

 

そのまま雪風の方へと向かうと、他の飛行艇もその後に続く。

 

「敵機、コチラに接近して来ますっ!」

 

「対空戦闘用意っ!!」

 

「対空戦闘用意ーっ!!」

 

見張り員の報告を聞いて、護がそう指示を出すと、副長が復唱。

 

雪風の各所に備え付けられた九六式25mm3連装機銃と九六式25mm単装機銃に付いて居た乗員達に緊張が走る。

 

やがて、空賊達の飛行艇が、対空機銃の射程内へと侵入する。

 

「撃ち方始めーっ!!」

 

護の指示が飛んだ瞬間、雪風の対空機銃が一斉に火を噴く!

 

曳光弾の混じった機銃の弾丸が、空に花火の様に煌めく!

 

その弾丸を浴びた1機の飛行艇が火を噴き、海へと墜落すると派手に水柱を上げた!

 

「チキショーッ! やられたぁっ!!」

 

「オノレェ、ガキ共めぇっ! コレでも喰らえっ!!」

 

海面を漂っている飛行艇の空賊団員がそう声を挙げる中、マンマユート団の団長が乗る飛行艇が、雪風の上空を通過した瞬間に、収束手榴弾を投げ落とす。

 

「おもーかーじっ!!」

 

「おもーかーじっ!」

 

それを確認した護がすぐに面舵の指示を出し、操舵手が右へと舵を切る。

 

収束手榴弾は雪風から外れて海中に落ち、派手に水柱を上げた!

 

「うわっ!?」

 

「怯むなっ! 弾幕張り続けろっ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

その水柱の水を浴びた九六式25mm単装機銃に付いて居た乗員の1人が、一瞬射撃を中止してしまうが、護に叱咤されてすぐに射撃を再開する。

 

その再開した対空射撃の銃弾が、またも空賊の飛行艇に命中!

 

「クソッ! エンジンがイカれた! 着水するっ!!」

 

エンジンを撃ち抜かれたらしく、命中弾を浴びた飛行艇は命中箇所から白い煙を吹きながら、海面へと着水する。

 

「またやられたぞ!」

 

「やられた時の修理費は割り勘だよなっ!?」

 

「女々しい野郎だぜ! 自己負担に決まってるだろうっ!!」

 

「割り勘じゃないんなら、俺は抜けるぞっ!!」

 

「爆弾も自己負担なのか!?」

 

「当たり前だろうっ!!」

 

と、仲間が次々にやられた事で、空賊達の間で言い争いが始まる。

 

「ウルセェーッ! だ・ま・れーっ!!」

 

そんな言い争いに辟易したのか、マンマユート団の団長が、ランチャーをブッ放しながら無理矢理黙らせる!

 

「高がガキだと思っていれば調子に乗りやがって………オイ! とっておきだっ!!」

 

「ええっ!? 『アレ』を使うですか!?」

 

「早くしろっ!!」

 

「!!」

 

団長に尻を蹴られて、団員は飛行艇の機内から何かを持ち出し、側面ハッチを開けると、脇に抱える様に持って雪風へと向ける。

 

「!? 主犯格の飛行艇に不審な動き有り!」

 

「何っ!?」

 

見張り員がその様子に気づくと、護も双眼鏡でマンマユート団の飛行艇を確認する。

 

側面ハッチから姿を見せていた団員は、脇に抱えていた何かに付いて居た導火線に火を着けると、そのまま落っこどす。

 

「!? マズイ! ロケット弾だっ!!」

 

護がそう声を挙げた瞬間に、落っことされたロケット弾が点火!

 

白煙の尾を引きながら、雪風の艦橋へと向かう!

 

「クウッ!!」

 

雪風の艦橋前に装備されていた九六式25mm3連装機銃に付いて居た乗員が、ロケット弾を迎撃しようと弾幕を張る!

 

だがロケット弾はドンドンと近づいて来る!

 

「総員艦橋から退避っ!!」

 

と、護が退避命令を出した瞬間!

 

張られていた弾幕の弾丸1発が、ロケット弾に命中した!

 

ロケット弾は雪風の艦橋の眼前で爆発する!!

 

「うわあっ!?」

 

「!?」

 

艦橋前部の九六式25mm3連装機銃に付いて居た乗員が諸に爆風を浴びて倒れ、艦橋の窓ガラスも衝撃波で割れて、艦橋内へと飛び込んで来る!!

 

「クウッ! 全員無事か!?」

 

「な、何とか………」

 

「だ、大丈夫です………」

 

窓ガラスが全て割れた艦橋内で副長がそう声を挙げると、各乗員からそう返事が返って来る。

 

「艦長?………!? 艦長ぉっ!!」

 

しかし、艦長である護からの返事が無い事に副長が気付いて護が居た場所を見やるとそこには………

 

「ぐ、う………」

 

頭から血を流し、床の上に倒れている護の姿が在った。

 

「! 医務室! 艦長が負傷した! すぐに来てくれっ!!」

 

「先輩! 今の揺れは………!? 先輩っ!?」

 

副長が慌てて伝声管で医務室に連絡していると、先程のロケット弾が至近距離で爆発した振動を感じ取った弘樹が艦橋に現れ、血を流して倒れている護の姿を見てすぐさま駆け寄る。

 

「! 如何したんですかっ!?」

 

その後から艦橋に入って来たみほも、護の姿に気付くとすぐに傍に駆け寄って来て、弘樹が助け起こしているのを補助する。

 

「くう………油断………した………」

 

「喋らない下さい! 傷に障ります!」

 

「救急箱! 応急処置を!!」

 

「ハ、ハイ!」

 

護がそう呟く様に言うと、弘樹がそう言い、みほが艦医が来るまでの間の応急処置を行い始める。

 

「チキショーッ! 迎撃されたか! だが、あの距離で爆発したんなら相当の被害の筈だ! 野郎共ぉっ! 一気に畳み掛けろぉっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

とそこで、空賊達は艦橋の辺りから黒煙を上げている雪風の姿を見て、一気に畳み掛けようと殺到して来る!

 

「敵機! 接近して来ますっ!!」

 

「クッ! 艦長に代わって指揮を執る! 弾幕を張れっ!!」

 

見張り員の報告を聞いた副長が、護に代わって指揮を取り始める。

 

艦橋付近での爆発に動揺して止んでいた対空砲火が再び上がり始める。

 

「怯むなぁ! 正面から行けぇっ! 対空機銃が1門沈黙してるから弾幕が薄いぞっ!!」

 

しかし、艦橋正面の九六式25mm3連装機銃の乗員が倒れて気絶してしまっているので、僅かに空いた弾幕の隙間を縫って、空賊達の飛行艇は雪風へと接近して来る!

 

「駄目です! 敵機、止まりませんっ!!」

 

「クソッ! 誰か! 正面の機銃を!!………」

 

副長が縋る様な思いでそう声を挙げた瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹が割れた艦橋の窓から飛び出し、艦橋正面の九六式25mm3連装機銃に着いた!

 

「! 弘樹くん!!」

 

「…………」

 

みほの声が挙がる中、弘樹はジッと照準器を見据え続け、そのレティクルに空賊達の飛行艇が重なるのを待つ。

 

「! そこだっ!!」

 

そしてドンピシャのタイミングで引き金を引き、1機の飛行艇を蜂の巣にした!!

 

「「「「「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

蜂の巣にされた飛行艇の空賊達が悲鳴を挙げながら、海へと突っ込む。

 

「うおっ!? あの野郎っ! コレでも喰らえぇっ!!」

 

それを見たマンマユート団の団長が、怒りを露わに収束手榴弾を投げつける。

 

「! 弘樹くん! 危ないっ!!」

 

「!!」

 

みほが声を挙げた瞬間には、収束手榴弾は弘樹の眼前に迫っていた。

 

………が!

 

収束手榴弾は九六式25mm3連装機銃の防弾板に当たったかと思うと、爆発せずに弾かれ、海へと落ちた。

 

「うん?………」

 

弘樹が訝しげな顔をする。

 

やがて、雪風が少し離れると………

 

漸く収束手榴弾は爆発したのか、雪風の後方で水柱が上がる。

 

「んなっ!?」

 

「何やってんだ、マンマユート!」

 

「火薬の湿気った中古手榴弾でも買ったのか!?」

 

空賊達から、マンマユート団の団長へ罵声が飛ぶ。

 

「う、ウルセェーッ!!」

 

「今度はワシがやってやるわい! それ、投下っ!!」

 

すると、別の空賊の飛行艇から、手投げ式の投下爆弾が投げつけられる。

 

「! 直上より爆弾!!」

 

「! 全速前進!!」

 

弘樹が声を挙げると、副長は雪風を全速前進させて避けようとする。

 

だが、またしても………

 

手投げ式の投下爆弾は、雪風の上空で何故か勝手に爆発!

 

雪風には何の損傷も与えなかった。

 

「アレェッ!?」

 

「テメェこそ何やってやがる!」

 

驚く空賊に、マンマユート団の団長からそう罵声が飛ぶ。

 

「コレは………」

 

一方の雪風の乗組員達も、立て続けの幸運に唖然としていた。

 

「雪風は沈まず………か」

 

そんな中、艦医から手当てを受けていた護がそんな事を呟く。

 

(コレが太平洋戦争で『奇跡の駆逐艦』と言われた雪風の運か………それに加えて………)

 

そこで護は、九六式25mm3連装機銃で敵機の迎撃を続けている弘樹の姿を見やる。

 

(今は『不死身の分隊長』までもが乗艦してるからな………コレは沈む筈が無い)

 

雪風の運と弘樹の不死身っぷりが合わさり、最強に見える………

 

護の心情は正にそれだった。

 

「うわぁっ!? やられたぁっ!!」

 

またも空賊の飛行艇1機が機銃で撃ち抜かれ、錐揉みしながら海へと墜落する。

 

「またやられたぞ! さっきから何だ、このやられっぷりはっ!!」

 

「お頭ーっ! 如何すんですかーっ!!」

 

マンマユート団の団長はその様子を見て苦々しげにそう呟いていたところで、団員の1人がそう尋ねて来る。

 

「こうなりゃ仕方ねえ! 機関銃で蜂の巣にしてやる!! オイ! あの駆逐艦と並行する様に飛べっ!!」

 

「ヘ、ヘイッ!!」

 

マンマユート団の団長から指示が飛び、彼の乗る飛行艇が、一旦雪風から離れて背後に回ったかと思うと、水面スレスレまで降下し、後ろから迫って来る。

 

「! 敵機が後方からっ!!」

 

「! 機銃掃射を行う積りか!? 甲板に居る乗員は艦内へ退避! 急げっ!!」

 

後方の見張りをしていた乗員がそう報告すると、副長は慌ててそう指示を飛ばす。

 

「退避っ! 退避っ!!」

 

雪風の甲板や対空機銃に付いて居た乗員達が、すぐさま艦内へ入ろうと狭い出入口に殺到する。

 

「喰らえぇーっ!」

 

だが、マンマユート団は既に雪風を射程内に納め、飛行艇に搭載されて居たり、手持ちしていた機銃を全て向け、引き金を引こうとする!

 

………その瞬間!!

 

マンマユート団の頭上から多数の弾丸が降り注ぎ、その内の数発がエンジンへと被弾!

 

エンジンが火を噴き、煙を上げて停止する!

 

「!? んなっ!?」

 

墜落する飛行艇の窓から身を乗り出していたマンマユート団の団長が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

太陽の中から、真っ赤な『マッキ M.33』に酷似した飛行艇が現れ、空賊達の飛行艇の中へと突っ込んで行く!!

 

「!? 豚だぁっ!!」

 

それを見た空賊の1人がそう声を挙げた瞬間に、真っ赤なマッキ M.33は機銃を発射!

 

その空賊が乗って居た飛行艇が即座に撃破された!

 

「この豚野郎っ!!」

 

と、1機の空賊の飛行艇が、真っ赤なマッキ M.33を追う。

 

だが………

 

宙返りした真っ赤なマッキ M.33を空賊の飛行艇が追ったかと思うと、何時の間にかマッキ M.33が空賊の飛行艇の後ろを取っていた。

 

『捻り込み』である!

 

「!? しまったっ!?」

 

空賊がそう声を挙げた瞬間に、真っ赤なマッキ M.33の機銃弾が、空賊の飛行艇のエンジンを撃ち抜く!

 

「わあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

空賊が悲鳴を挙げながら、空賊の飛行艇は墜落。

 

そのまま真っ赤なマッキ M.33は、空賊達の飛行艇部隊を瞬く間に全て撃墜した。

 

「凄い………」

 

「何と言う操縦技術だ………」

 

その圧倒的なまでのマッキ M.33の強さに、みほと弘樹は空を見上げながらそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

撃墜され、漂流していた空賊達は、駆け付けた海上保安庁と自衛隊によって救助され、そのまま御用となった。

 

現在雪風は、被害が無いかを確認する為、連絡船に横付けしている。

 

「まさかお前達に助けられるとはな………」

 

「ア、アハハ………」

 

「特に何をしたと言うワケではないが………」

 

確認に来た雪風の乗組員の中に居たみほと弘樹に向かって、アンチョビがそう言う。

 

「………まあ、感謝はする………ありがとう」

 

しかし、すぐに視線を反らしながら、2人に向かってそう言った。

 

「ナイス、ツンデレ!」

 

「おお~~! コレが巷で流行中のツンデレっすか!」

 

そんなアンチョビの様子を見たロマーノとペパロニがそう声を挙げる。

 

「喧しい! 誰がツンデレだ!!」

 

途端にアンチョビは怒りを露わにする。

 

「すみません………」

 

「いや、こういう遣り取りには慣れている」

 

そんな様子をカルパッチョが代わる様に謝罪すると、弘樹は気にするなと返す。

 

「感謝する………ところで、あの赤い飛行艇のパイロットは?」

 

と、フォルゴーレがそう返礼すると、真っ赤なマッキ M.33の事について尋ねるが………

 

「若いの………俺に何か用か?」

 

そこで横から非常に渋い声が聞こえて来て、飛行服姿の何処となく豚を思わせる男が現れる。

 

「! 貴方は!?」

 

「! やはり!! 

 

「ポルコさん!!」

 

その男の姿を見た途端に、驚きを露わにするアンチョビ達。

 

「ポルコ?………」

 

「! まさか! 貴方が、嘗て航空機道の飛行艇部門で名を馳せたピッツァ校の伝説のエースパイロットの!?」

 

みほは首を傾げたが、弘樹はその男が元ピッツァ校の生徒で、航空機道の飛行艇部門で名を馳せた伝説のエースパイロットである事に気付く。

 

「昔の話だ………今は只の第一航空専門学校の校長だ。趣味で賞金稼ぎもしてるな」

 

そんな弘樹達に、ポルコと呼ばれた男は吸っていたタバコを灰皿に捨てながら、渋い声でそう返す。

 

「ええっ!? 一航専の!?」

 

「何と………」

 

みほと弘樹は、ポルコと呼ばれた男が六郎やハンネスの通う一航専の校長だと聞いて更に驚く。

 

「お、お会いできて光栄です!」

 

「是非今度! 我が校でご教授を………」

 

「気が向いたらな………」

 

アンチョビやロマーノが緊張しまくりの様子でそう言う中、ポルコと呼ばれた男は連絡船の隣に停めてあった真っ赤なマッキ M.33に乗り込む。

 

「じゃあな、お嬢ちゃん達に若いの。縁が有ったらまた会おう」

 

そしてそう言い残すと、真っ赤なマッキ M.33は離水。

 

翼端から雲を引いて、夕焼けになっていた空に消えて行く。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

弘樹とみほ、アンチョビ達………

 

それに雪風は、その雲が消えるまで、ずっと空を見上げていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

最近、アニメ化が切っ掛けで『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』の漫画を電子書籍で購入したのですが………

 

いや、面白いですね。

 

元々地球舐めんなファンタジー系は好物だったので。

 

で、当然ながら、思った事なんですが………

 

『もしもゲートを、この小説の延長線上の物語にしたとすれば』………

 

などとくだらない事を考えてしまいまして………

 

取り敢えず、ダイジェスト予告風を作ってみましたので、お目汚しにご覧下さい。

 

 

 

 

 

『ゲート異伝 大洗機甲部隊奮戦記』

 

大洗機甲部隊が全国大会で優勝してから数か月後………

 

東京・銀座に出現した異世界への扉『門(ゲート)』

 

そこから出現した『帝国』の軍勢により、多数の死傷者が出た『銀座事件』

 

日本政府はゲートの先に在る異世界『特地』の勢力を交渉の場に引き出す為、自衛隊の派遣を決定する。

 

しかし………

 

開いたゲートは1つではなかった………

 

何と、大洗学園艦の甲板都市にも、ゲートが出現!

 

銀座の悲劇が、大洗学園艦でも繰り広げられ………

 

………る事はなかった。

 

その理由は、ゲートから現れた軍勢が、銀座と比べて遥かに少数だった事。

 

そしてもう1つ………

 

ゲートが出現した場所は、大洗機甲部隊が使用している演習場のど真ん中であり………

 

奇しくも丁度、大洗機甲部隊による演習が行われている真っ最中だった。

 

突如現れた不審な軍勢を、大洗機甲部隊は躊躇せずに総攻撃!

 

航空機部隊の爆撃と機銃掃射。

 

戦車部隊と砲兵部隊の連続砲撃。

 

そして、歩兵部隊の制圧射撃と精密狙撃、銃剣突撃によって、軍勢は瞬く間に制圧された。

 

なお、制圧と称したのは、彼等が使用している武器が戦車道・歩兵道・航空機道の為の物であり、殺傷能力を有していなかった為に相手に多数の死傷者を出した銀座とは異なり、全員を生きたまま拘束したのである。

 

第2のゲートの存在を知った日本政府は、大洗の学園艦を接収しようと試みたが………

 

折角守った学園艦を接収されては堪らないと思った杏と迫信は策略と謀略を巡らせ………

 

何と、学生による学園艦の自治権を盾に、日本政府から第2のゲートの管理並びに独自調査を任されたのである。

 

他国の陰謀も、迫信が神大コーポレーションを通じた圧力と買収で黙らせ、大洗機甲部隊は協力校である第一航空専門学校、呉造船工業学校………

 

更には、先の全国大会で砲火を交えた学園艦の学校の部隊と同盟を築き………

 

学生による一大戦闘部隊………

 

『学生連合軍』、通称『学連軍』を結成!

 

日本政府・自衛隊とは別に、特地の調査を開始したのだった………

 

 

 

 

 

「まさか異世界に来て戦う事になるなんて………」

 

「心配するな、みほくん。例え何処であろうと、君と君が乗る戦車は小官が守る」

 

「弘樹くん………」

 

「相変わらず、お熱いね。あの2人」

 

「みほ………ううう………」

 

変わらぬ絆を見せる弘樹とみほに、そんな2人を見守る都草と複雑な心中のまほ。

 

 

 

 

 

「報告。調査中に敵小規模部隊と交戦。全員捕虜にしました」

 

「またか。いい加減収容所がパンクしちまうぞ」

 

「俺達の武器には殺傷能力が無いからな。敵と交戦すれば、必然的に相手は皆捕虜として生捕る事になっちまう」

 

「でも、流石にコレ以上は面倒見切れんぞ」

 

殺傷能力を持たない武器での交戦の為、増え続ける捕虜。

 

そんな中で、みほは有る大胆な思い付きをする。

 

「………捕虜の人達にも私達に協力してくれるよう、説得してみましょう」

 

 

 

 

 

ヒト種は兎も角、亜人種は帝国の政策により虐げられていた事もあり、高待遇をしてくれた学連軍に恭順。

 

学連軍は亜人の部隊をも取り込んだ一大勢力と化す。

 

更に、異世界でも変わらぬ活躍ぶりから、みほは『軍神』、弘樹は『戦神』として亜人達より崇め奉られる。

 

「軍神・西住 みほ様! 我々をお導き下さい!!」

 

「戦神・舩坂 弘樹様! 我々に勝利を!!」

 

「え、え~と………」

 

「小官は神と言う柄じゃない………」

 

 

 

 

 

「貴方が銀座事件の英雄『伊丹 耀司』二等陸尉ですか。お会い出来て光栄です」

 

「いや、そんな英雄だなんて………それを言ったら、『不死身の分隊長』って言われてる君の方が凄いんじゃない?」

 

「御謙遜を………小官がやっている事は飽く迄『武道』………貴方達の様に国防を担うものではありません」

 

時には自衛隊とも協力。

 

特地の調査と、帝国と日本との交渉を進めて行く。

 

 

 

 

 

だが、そんな中………

 

帝国の皇帝モルトの長男・ゾルザルによるクーデターが発生。

 

水面下で交渉を進めていた帝国の講和派を捕らえた彼は、暴君となりて自衛隊と学連軍に戦いを挑む。

 

如何やったかは不明であるが、特地で災害とまで言われている『炎龍』を味方に付け、自衛隊をも苦戦させるゾルザル。

 

「最早俺は皇帝などではない! 神だ! この世界の頂点に君臨する神となったのだぁっ!!」

 

だが、彼は自分が犯した最大の過ちに気付いていなかった………

 

ゾルザルが犯した最大の過ち………

 

それは………

 

「例え神にでも、小官は従わない」

 

『ヤツ(舩坂 弘樹)』を敵に回した事だ!!

 

 

 

 

 

 

 

………こんな感じですかね。

 

結局最後はボトムズでむせるです。




新話、投稿させていただきました。

弘樹とみほの前に現れた雪風に乗る人物………
それは弘樹の中学時代の先輩で、軍艦道の履修者『新代 護』だった。

護の雪風に送られて学園艦へと戻る弘樹とみほだったが………
その途中で空賊に襲われているアンツィオ&ピッツァ校の連絡船に遭遇。
雪風は即座に救援に向かう。
護が負傷しながらも、弘樹の助力と雪風の運、そして現れた一航専の校長の助太刀もあって、如何にか空賊を退けたのだった。

前回予告したスペシャルゲスト!
アドリア海のエースにお越しいただきました!
彼の乗る機は原作設定ではサボイアですが、形状的にはマッキなので、そっちであるとさせていただきました。
御了承下さい。

オマケはゲート見てハマった為の妄想です。
重ねてお目汚し、失礼しました。

来週は予告通り、2回目の紹介します!をやります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第104話『第6回戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第104話『第6回戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ………

 

遂に戦車道・歩兵道の全国大会の第6回戦………

 

大洗機甲部隊VSクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の試合の日が訪れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦………

 

大洗機甲部隊VSクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

いや、最早『砂漠』と言っても過言ではない場所だった。

 

大小の砂山が彼方此方に出来ており、同じく大小の岩石が所々に砂から露出している。

 

更に、試合の為にか、歴史文明を感じさせる遺跡の様なオブジェが配置されていた。

 

「………砂漠ステージになってしまいましたね」

 

「相手な最も得意なフィールドで戦うワケか………」

 

集合場所に集合していた大洗機甲部隊の中で、優花里と白狼がそう呟く。

 

「試合会場はルーレットで決まるらしいからな。仕方あるまい」

 

「寧ろ心配するべきは………この暑さだな」

 

麻子がそう呟くと、煌人が手を翳して太陽を見上げながらそう言う。

 

現在の天気は快晴………

 

しかも茹だる様な猛暑である。

 

大洗機甲部隊が居る僅か数メートル先で、陽炎が見えている。

 

良く見れば、観客席の観客達も、タオルや帽子、水分補給の為のドリンク、挙句は団扇や小型の扇風機などを携えている。

 

「暑いよ~~~………」

 

「俺だってそうだよ………」

 

既に汗だくな状態になっている沙織と地市が愚痴る様にそう言う。

 

「皆さん! 熱中症に注意して下さい!」

 

「細目に水分を補給しろ!」

 

そんな一同に向かって、みほと弘樹がそう呼び掛ける。

 

「この暑さだと、レオポンが愚図らないか心配だねぇ」

 

「只でさえデリケートな子だからねぇ」

 

ポルシェティーガーに乗車しているナカジマとホシノが、ポルシェティーガーの調子を心配する。

 

「! 来たぞ! クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで俊がそう声を挙げ、ダレていた大洗機甲部隊の一同はバッと気を引き締める。

 

その前方からは、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の戦車部隊………

 

巡航戦車MK.Ⅳ クルセイダーMk.Ⅲが5両

 

マチルダⅡが6両

 

M10戦車駆逐車が4両

 

バレンタイン歩兵戦車Ⅱが7両

 

Ⅲ号戦車N型が5両

 

M3A1スチュワート軽戦車が3両

 

セモヴェンテM42 da 75/34が2両

 

そして………

 

「! アレは!?」

 

「間違いありません! ティーガーです!!」

 

みほと優花里が、デザート迷彩を施されたドイツ軍………いや、第二次世界大戦中に製造された中で、最強の重戦車として名高いティーガーⅠの姿を見て驚愕の声を挙げる。

 

「黒森峰以外にも持ってる学校が居たのか………」

 

「しかし、何かの偶然かねぇ………向こうさんの戦車って、北アフリカ戦線に投入された事があるやつばっかだな」

 

十河がティーガーⅠを見て苦々しげな表情を浮かべる中、俊がクレオパトラ戦車部隊の戦車が北アフリカ戦線に投入された事のある物ばかりなのに気づいてそう言う。

 

そうこうしている内に、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は大洗機甲部隊の前までやって来て停止する。

 

そして、戦車からは聖クレオパトラ女学院高校の戦車道選手。

 

ガイ装甲車やハンバー装甲車、M39多目的装甲車、兵員輸送車からは黄金スフィンクス男子高等学園の歩兵道選手が出て来て整列する。

 

学校のモチーフの国が国だけか、全員が戦闘服やパンツァージャケット姿であるものの、何処となく古代エジプトを思わせる恰好をしている。

 

と、その中から2人の男子生徒と、1人の女子生徒が前に出る。

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の代表である、歩兵部隊総隊長『キングコブラ』と副隊長の『アナコンダ』

 

そして戦車部隊長であり総隊長の『ネフェティ』である。

 

「汝が大洗機甲部隊の総隊長か?」

 

「! ハ、ハイ!」

 

ネフェティがみほに向かってそう尋ね、みほは若干上擦った返事を返す。

 

「妾はネフェティ。クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊じゃ」

 

そんなみほの様子も気にせず、ネフェティは説明する様にそう言う。

 

「今日は良き試合にしようぞ………最も、勝つのは妾達じゃが」

 

礼儀正しく振舞いながらも、ネフェティは不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「!!………」

 

その不敵な笑みに、みほは一瞬気後れを感じる。

 

「…………」

 

一方で、歩兵達の隊長であるキングコブラは、只黙って大洗機甲部隊の姿を見据えている。

 

(無口な方みたいですね………)

 

(けど、妙な威圧感があるな………)

 

そんなキングコブラの姿を見て、飛彗と海音がヒソヒソとそう言い合う。

 

「フフフ………」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、不意にアナコンダが笑いを零し、大洗機甲部隊の面々の視線が、アナコンダに集まる。

 

「我等が黄金スフィンクスは、我等なりの戦い方で貴様等を迎え撃つ………試合が始まった瞬間に覚悟するが良い」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

挑発する様なその言い方に、大洗機甲部隊のメンバーは少々戦慄する。

 

するとそこで、アナコンダは大詔を見やる。

 

「? 俺に何か、アナコンダ?」

 

その視線に気づいた大詔がそう尋ねる。

 

「リキッドと呼べ。俺の潜入動作は静かに流れる液体の様に誰にも気付かずに行動できる」

 

「リキッド………か」

 

意味深な様子でそう返す大詔

 

「貴様はそうだな………『スネーク』………と呼んでやろう」

 

アナコンダもとい、リキッドから付けられた突然の渾名に、彼の後ろにいた何人かのクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の隊員が含み笑いを零す。

 

「? 何なんだ?」

 

「スネークとは、通称シマヘビ………つまりは世界一地味な蛇だ」

 

困惑する大詔に、リキッドがそう言い放つ

 

「貴様は蛇の名を持つ男だが、偽装にダンボールを使うなど、そんな事は誰でも出来る。そんな子供じみた偽装方法がこの先通用すると思うな」

 

「最近妙に喧嘩を売られるな………だが、俺の事は兎も角、ダンボールを馬鹿にするな」

 

リキッドの馬鹿にする様な言葉に、大詔はそう言い返す。

 

「ダンボール箱は敵の目を欺く最高の偽装だ。潜入任務の必需品だ」

 

そしてそのまま、ダンボールについて熱く語り出す。

 

「ダンボール箱に命を救われたと言う工作員は古来より数知れない。ダンボール箱を如何に使いこなすかが任務の成否を決定すると言っても過言ではないだろう」

 

「あ、あの、蛇野さん?………」

 

「但し、如何にダンボール箱と言えど、素材は紙………手荒い扱いをしているとすぐ駄目になる」

 

あんまり熱く語るもので、困惑した大洗歩兵隊員の1人が声を掛けるが、大詔はそれにも気づかないで更に熱く語り続ける。

 

「ダンボール箱は大事に使うんだ。丁寧に扱えば、ダンボール箱はきっと応えてくれる。真心を込めて使うんだ。必要なのはダンボール箱に対する愛情だ」

 

「…………」

 

馬鹿にしていたリキッドは、大詔が余りにも熱く語るので、すっかりドン引きしていた。

 

「ま、まあ良い………貴様に本当の潜入テクニック………暗殺を教えてやる。覚えておけ」

 

そう言い残し、リキッドはアナコンダ、クレオパトラと共に自分達の部隊の中へと戻って行く。

 

「では、これより! 戦車道・歩兵道全国大会、第6回戦! 大洗機甲部隊対クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の試合を始めます! 一同、礼!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで主審のレミがそう宣言し、両機甲部隊のメンバーは互いに礼をすると、其々のスタート地点へと向かう。

 

『さあ、全国大会もいよいよ半分を過ぎました! 今日の対戦カードは、お馴染みダークホースの大洗機甲部隊とクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊!』

 

『今回はフィールドが砂漠地帯ですからね。砂漠戦はクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の最も得意とする戦闘です。前回に続いて相手の得意な場所で戦う大洗は気を引き締めないと危ないですよ』

 

『間も無く試合開始! 大洗機甲部隊! そしてクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

そして、実況席からはお馴染みのヒートマン佐々木とDJ田中の実況が、観客席に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルフィールド・海に面した広大な海岸砂丘地帯………

 

大洗機甲部隊のスタート地点………

 

「クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は砂漠戦を得意としています。プラウダ&ツァーリの時と同じく、敵にとって最も戦い易い場所での戦いとなります」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

試合前のみほの言葉で、前回慢心して危機を招いたしまったプラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合の事を思い出し、大洗機甲部隊の面々の中に、チラホラと苦い顔が浮かぶ。

 

「更に今回は砂漠なので、コチラの身を隠す遮蔽物が殆ど有りません。撃ち合いになれば、数と武器の質で劣る私達に勝ち目は有りません。ココは着実に、敵を徐々に分断させて、孤立した部隊から各個撃破して行きます」

 

「それが妥当な作戦だな………」

 

みほの、敵の戦力を分散させて各個撃破を狙うと言う作戦に、十河が同意する。

 

「あと、試合前に審判の皆さんから聞いたんですけど………このフィールドは気象が変化し易いそうです」

 

「気象が?」

 

「ハイ。砂嵐やスコールが1日に何回も発生する事があるそうです」

 

「軽く異常気象だな………」

 

俊がそんな事を呟く。

 

「雲行きや気象の変化には細心の注意を払って下さい。砂嵐に遭遇した場合、遭難の危険性もありますから」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほの言葉に、全員がそう返す。

 

「カモさんチーム。今回は皆さんがフラッグ車です。余り前に出ない様にお願いします」

 

「了解です」

 

今回のフラッグ車を務めるカモさんチームのルノーB1bisから、みどり子の返事が返って来る。

 

砂漠戦の為、撃ち合いが多くなると踏んだみほは、装甲の厚いルノーをフラッグ車に選んだ。

 

現状、大洗の戦車で1番装甲が厚いのはレオポンチームのポルシェティーガーであるが………

 

何分、故障率が高い戦車であり、自損による自滅の恐れがあり、尚且つレオポンさんチームは今回が初試合であり、そこまでの負担を強いるワケには行かないと言う事で、除外した。

 

同等の装甲があるサンショウウオさんチームのクロムウェルについても、大洗最速の足を活かした攪乱作戦の要で有る為、除外。

 

そして、ルノーに白羽の矢が立ったのである。

 

「暑い~~~………」

 

「まるでサウナに入っている様ですわ………」

 

そのサンショウウオさんチームのクロムウェルの中で、今回の車長である聖子と、装填手である早苗がそう漏らす。

 

「聖子。それは皆同じですよ」

 

「早苗さんも頑張りましょうよ」

 

そんな聖子と早苗に、砲手の優と、通信手の明菜がそう言う。

 

「頼むぜ、車長のアンタがしっかりしてくれねえと、コッチもやりようがないんだからな」

 

そして最後に、何時も通り操縦手を務めている唯がそう言う。

 

「う、うん、分かったよ………よっしっ!!」

 

聖子はそう返すと、気合を入れ直す様に、自らの両頬を手で打った。

 

『試合開始、10秒前!』

 

とそこで、主審であるレミのアナウンスが流れる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊のメンバーに緊張が走る………

 

『試合開始!』

 

そして、信号弾が撃ち上がると、試合開始の宣言が出される!

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!!」

 

みほと迫信の号令が掛かり、大洗機甲部隊は進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始、10数分後………

 

岩石だらけの熱い砂漠の中を、辺りを警戒しつつ、なるべく砂煙を上げない様に進んで行く大洗機甲部隊。

 

「此方前方のとらさん分隊。敵部隊の姿は確認出来ず。引き続き警戒を続行する」

 

「了解です」

 

部隊の前方を行っていたとらさん分隊の弘樹から、みほへそう報告が飛ぶと、他の周囲の歩兵分隊も敵影未だ見えずの報告を挙げる。

 

「もう結構進軍してますが、未だに敵の斥候とすら接触がありませんね………」

 

「何処かに隠れてるのかな?」

 

「この何も無い砂漠にあの大部隊がか?」

 

優花里がそんな声を漏らすと、沙織がそう言い、麻子がツッコミの様にそう返す。

 

「何だか、不気味ですね………」

 

「うん………」

 

華がそう言うと、みほは表情を険しくする。

 

と、その時!!

 

「! 前方に敵戦車部隊を確認っ!!」

 

「!!」

 

弘樹からそう報告が挙がり、みほはすぐさまハッチを開けて車外へ身を乗り出した。

 

そこには、大洗機甲部隊の前方に、まるで宿営地に停まっているかの如く、整列して停車しているクレオパトラ戦車部隊の姿が在る。

 

大洗機甲部隊の存在に気付いていないのか、動きの見られないクレオパトラ戦車部隊。

 

「戦車部隊だけ?………歩兵部隊は?」

 

「偵察や斥候に出てるんじゃないのか?」

 

「だが、戦車に随伴する歩兵を1人も残していないと言うのは明らかに不自然だ」

 

みほが首を傾げ、磐渡がそう言うと、エースがその意見を否定する。

 

「罠………か?」

 

「だとしても、一体如何いう罠なのか見当もつかねえなぁ」

 

大詔がそう呟くと、俊が愚痴る様にそう言う。

 

「如何します、西住殿?」

 

「攻撃しますか?」

 

「…………」

 

優花里と華がそう尋ねる中、みほはクレオパトラ戦車部隊の姿を見据える。

 

「………仕掛けます。攻撃準備」

 

やがて決断したかの様にそう言い、指示を出す。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その指示を受けて、大洗機甲部隊のメンバーは全員が戦闘態勢を取る。

 

と、その瞬間!!

 

突如クレオパトラ戦車部隊が動き出し、全戦車が一斉にバラバラの方向へと逃げ出した!!

 

「!?」

 

「ちょっ!? 逃げちゃったよっ!?」

 

「如何する? どの戦車を追う?」

 

みほが驚く中、沙織と麻子の声が飛ぶ。

 

「! フラッグ車を追います! 全部隊、追撃っ!!」

 

すぐにフラッグ車であるティーガーⅠを追うと指示を出し、大洗機甲部隊は全軍でクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の隊長車でありフラッグ車であるティーガーⅠの追撃に入る。

 

バラバラに逃げて行ったクレオパトラ戦車部隊の中からティーガーⅠを見つけると、全部隊で追い縋る。

 

大洗機甲部隊に背を向け、逃走を続けるティーガーⅠ。

 

「チャンスだ! 今なら最も装甲が薄い後部を狙える!!」

 

「全戦車部隊、目標敵フラッグ車のティーガーⅠ! 撃ち方………」

 

十河がそう声を挙げ、みほが戦車部隊に砲撃指示を出そうとしたその瞬間!!

 

風切り音が聞こえて来たかと思うと、大洗機甲部隊の行く手を遮る様に砲弾が着弾し、砂煙を上げた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚いた大洗機甲部隊の進軍が止まる。

 

「何だ!? 何事だ!?」

 

大詔がそう言うと、今度は停止した大洗機甲部隊の周辺に次々と砲弾が着弾する!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

「砲兵からの砲撃か!?」

 

「しかし、奴等が砲を設置したにしても早過ぎるぞ!!」

 

周辺で次々と巻き起こる砲弾の着弾による爆発に、大洗歩兵部隊が若干浮足立つ。

 

「! 舩坂さん! 10時方向を!!」

 

とそこで、何かを発見した楓が、弘樹に双眼鏡を投げ渡して来る。

 

「! アレは!?………」

 

その双眼鏡で、楓が示した方向を見やった弘樹が、驚きの声を挙げる。

 

そこには、砂漠の窪みとなっている部分に陣取り、コチラに向かって次々と砲弾を放って来ている………

 

『M7自走砲』とそれに付いて居る『スフィンクス砲兵達』の姿が在った!

 

「自走砲だ! スフィンクス砲兵達による攻撃だ!」

 

「何っ!? 自走砲っ!?」

 

「オイオイ! 男が戦車使うのってルール違反じゃねえのか!?」

 

「いや、そうとも言えないね………」

 

弘樹の報告に、了平がバカなと言う様な声を挙げるが、迫信がそう反論する。

 

「本来、自走砲と言うのは機甲科では無く、砲兵科に配備されていた物だ。つまりは砲兵の兵器と言える」

 

「その点を踏まえれば、砲兵が自走砲を使っても問題無いってか………考えたな!」

 

迫信の推測に、俊がそう愚痴る様に呟いている間にも、大洗機甲部隊の周辺には次々と砲弾が着弾。

 

遂には、舞い上がった砂煙が、辺り一面に広がり、視界を完全に塞いでしまう。

 

「視界が!?………」

 

「コレでは何も見えんぞ………」

 

みほと弘樹がそう声を挙げる。

 

現在2人が確認出ているのⅣ号とその周辺に展開しているとらさん分隊員の姿だけである。

 

すぐ近くに居る筈の他の戦車チームや随伴歩兵分隊の姿は確認出来ない。

 

と、その次の瞬間!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

すぐ近くから爆発音と共に、大洗歩兵部隊のものと思われる悲鳴が響いて来た!

 

「!?」

 

「如何した!? 何があった!?」

 

みほが驚き、弘樹が報告を求めたが………

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

返って来たのは銃撃音と、またもや大洗歩兵部隊のものと思われる悲鳴だった。

 

「何が起こっているんだ!?」

 

砂煙が視界を遮る中、爆発音と銃撃音、そして大洗歩兵部隊のものと思われる悲鳴が断続的に響き渡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

6回戦の開始。
相手はエジプトモチーフのクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊。
相手の得意なフィールドである砂漠戦に加えて、相手の隊長車兼フラッグ車はあのティーガー。
のっけからピンチの様子ですが、果たして如何戦うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第105話『吹き付ける砂粒です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第105話『吹き付ける砂粒です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の全国大会の第6回戦………

 

大洗機甲部隊の対戦相手は、『黄金スフィンクス男子高等学園』と『聖クレオパトラ女学院高校』からなる『クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊』

 

北アフリカ戦線に投入された事のある枢軸国・連合国の戦車を駆り、その隊長車兼フラッグ車はあの『Ⅵ号戦車・ティーガーⅠ』だった。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合に続き、相手が得意とするフィールド………

 

『砂漠戦』で戦う事となった大洗機甲部隊。

 

試合開始直後、クレオパトラ戦車部隊を発見し、フラッグ車の撃破を狙った時に、スフィンクス歩兵部隊が駆る自走砲の攻撃が開始される。

 

その砲撃の着弾によって舞い上がった砂煙によって視界を塞がれた大洗機甲部隊に異変が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

スフィンクス歩兵部隊の砲兵達が駆る自走砲の攻撃で舞い上がった砂煙が立ち込める中、大洗歩兵部隊の悲鳴が何度も響いて来る。

 

「オイ、まただぞ!」

 

「やはり襲撃を受けているのか………」

 

またも響いて来た大洗歩兵部隊員のものである悲鳴を聞いた地市がそう言うと、弘樹がそう推測する。

 

「でも、こんな砂煙の中で、敵は正確にコチラの位置を把握出来ているんですか!?」

 

「砂漠戦は敵の得意とするフィールドだ………何か秘技の様なものでもあるんだろう」

 

「兎に角! このままこの砂煙の中に居るのは危険です! 沙織さん! 皆さんに砂煙の中から脱出する様に伝えて!」

 

楓と弘樹がそう言い合っていると、みほがキューポラから姿を晒したまま車内を覗き込んで、通信手席の沙織にそう言う。

 

「でも、みぽりん! 皆が何処に居るのか全く分かんないよ!!」

 

だが、沙織は僅か数メートル先さえ見えない砂煙が立っている状態を見てそう返す。

 

「大丈夫です! 砂埃が起きる前の皆さんの位置は把握してあります! 恐らく真面に移動も出来ないからその場に留まってる筈です!!」

 

「! 分かった!!」

 

だが、みほがそう言うと、すぐさま全部隊へと通信を繋げた!

 

「全部隊! 全速前進です! この砂埃の中から脱出します! このままでは全滅します!! 何としても脱出して下さい!!」

 

「「「「「「「「「「りょ、了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほの指示が飛ぶと、全部隊から戸惑いながらも返事が返って来る。

 

そして、大洗機甲部隊は一斉に前進を始める。

 

「むっ………移動を始めたか」

 

「この嵐の中で進軍を再開するとはな………」

 

「如何やら向こうの総隊長殿は相当優秀な様じゃな」

 

その様子を、砂嵐の中にも関わらず把握しているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊のネフェティ、キングコブラ、アナコンダがそう言い合う。

 

「フラッグ車は先頭じゃな………キングコブラ、アナコンダ、付いて参れ」

 

「御意………」

 

「仰せのままに」

 

ネフェティはそう言うと、キングコブラにアナコンダと分隊規模の随伴歩兵を引き連れ、ティーガーⅠを発進させるのだった。

 

「麻子! もっと早く走れないの!?」

 

「無茶を言うな。前が全く見えん………下手をしたら随伴して居る歩兵を轢き潰してしまうぞ」

 

一方、砂煙の中から脱出を試みる大洗機甲部隊の先頭を行っているⅣ号の中で、沙織がそう言うと、麻子がそう返す。

 

砂煙のせいで視界は粗ゼロの状態であり、Ⅳ号は最高速度を出せず、随伴して居る歩兵部隊と事故を起こさない様に進むのがやっとだった。

 

その間にも、歩兵部隊員の悲鳴や敵からの砲撃音が断続的に鳴り響いて来る。

 

「「「「…………」」」」

 

その様に、みほ以外のあんこうチームの面々は戦慄する。

 

(いけない、このままじゃ………)

 

と、その様子を見たみほは、意を決した様にハッチを開けて、キューポラから姿を晒した!

 

「!? 西住殿!?」

 

「みほさん!?」

 

「うっ!?………」

 

優花里と華の驚きの声が挙がる中、みほは吹き付ける砂粒が顔に当たったり、隙間から服の中に入ったりするのを感じながらも、用意していたゴーグルを装着して目を守る。

 

「西住総隊長! 周辺の警戒ならば小官達が!!………」

 

「この状況です! 目は少しでも多い方が良いんです!!」

 

弘樹がそう言い放とうとして、みほに遮られる。

 

「しかし!………」

 

「!!」

 

尚も弘樹が何かを言おうとした瞬間、みほは前方の砂煙が揺らめいた事に気付く。

 

そして揺らめいた砂煙の中から………

 

ティーガーⅠがその姿を現す!

 

「! 敵襲っ! 散開して下さいっ!! 麻子さん! 左へ転進っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

みほが叫ぶや否や、とらさん分隊員達はティーガーⅠの姿を確認するまでもなく、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し、麻子もⅣ号を左へ転進させる!

 

直後にティーガーⅠが発砲!

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

1両の一式半装軌装甲兵車がエンジンを貫通されて爆発し、その近くに居たもう1両の一式半装軌装甲兵車に貫通した砲弾が直撃して爆発。

 

一気に2両の一式半装軌装甲兵車と、多数の歩兵が犠牲となる。

 

「オイ!? 1両貫通して、もう1両まで破壊したぞ!?」

 

「流石は88ミリ砲ですね………」

 

「クウッ!」

 

了平と楓がそう言い合う中、回避行動を取っていたⅣ号が、ティーガーⅠに砲身を向け、華が引き金を引く。

 

しかし、放たれた砲弾は、ティーガーⅠの正面装甲に命中したかと思うと、明後日の方向へ跳ね返る。

 

「!? 正面装甲とは言え、この至近距離で弾かれるなんて!?………」

 

「流石はティーガーⅠ………100ミリの装甲は伊達じゃありません」

 

「感心してる場合じゃないよ、ゆかりん!!」

 

華の驚きの声に、優花里がそう言い、沙織がツッコミを入れる。

 

とそこで、ティーガーⅠの砲塔が回転し、Ⅳ号に向けられる。

 

「!! 停車っ!!」

 

「!!」

 

みほの叫びで、慌ててブレーキを踏む麻子。

 

直後にティーガーⅠが発砲。

 

そのまま進んでいれば直撃していたであろう場所を砲弾が通り過ぎ、派手に爆煙を上げた。

 

「危なっ!!」

 

「駄目です! 正面から撃ち合っても勝ち目は有りません!」

 

「ならば、肉薄攻撃だ!」

 

沙織と優花里がそう声を挙げた瞬間、弘樹がそう叫んで、歩兵部隊がティーガーⅠに肉薄攻撃を仕掛ける。

 

だが、その瞬間!!

 

ティーガーⅠの周辺の砂が数箇所盛り上がり始める!

 

「! 止まれっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさま弘樹が停止命令を出し、とらさん分隊の面々が慌てて止まる。

 

直後!!

 

盛り上がった砂が弾け、中からスフィンクス歩兵部隊員が現れる!

 

「!? スフィンクス歩兵部隊!?」

 

「砂の中から!?」

 

「モグラかよ!?」

 

「他の連中はコレにやられたのか!………! 伏せろっ!!」

 

その様にとらさん分隊の面々が驚いている中、殺気を感じ取った弘樹がその場に伏せ、他の分隊員もそれに倣った直後、伏せたとらさん分隊の頭上を、鞭の様な物が通過する!

 

「ぐああああっ!?」

 

反応が遅れていた分隊員がその鞭の様な物を真面に浴びて倒れると、戦死と判定される。

 

「! 蛇腹剣か!?」

 

弘樹はその鞭の様な物の正体が、蛇腹剣である事に気付く。

 

「…………」

 

伸びていた刃が戻って行くと、そこにはキングコブラの姿が在った。

 

「奴が使い手か………」

 

と弘樹が言っていると、その目の前に手榴弾が落ちて来る!

 

「!!」

 

即座に引っ掴むと、味方の居ない方向へと投げ捨てる弘樹。

 

間一髪、手榴弾は何も無い場所で爆発する。

 

「良い反応だな………」

 

新たな手榴弾をお手玉しながら、アナコンダがそう言う。

 

「スネークでないのが残念だが、お前も生かしておくと厄介だからな………すぐに始末してやる」

 

と、アナコンダがそう言った直後!

 

今度はとらさん分隊を取り囲む様にスフィンクス歩兵部隊が砂の中より出現する!

 

「!? しまった!?」

 

「囲まれたぞっ!?」

 

「クッ! 白兵戦用意っ!!」

 

弘樹と地市が声を挙げると、とらさん分隊員の1人がそう言い放ち、他のとらさん分隊員達は銃剣を着剣したり、軍刀を抜いて手近なスフィンクス歩兵部隊員に白兵戦を挑む!

 

しかし………

 

「せえいっ!!」

 

「!!」

 

分隊員の1人が小銃に着剣して銃剣で突きを繰り出したが、スフィンクス歩兵はそれをアッサリと避けたかと思うと、両手にワイヤーを握り、分隊員の首に巻き付けた!

 

「ぐええっ!?………」

 

ワイヤーを撒かれた分隊員は悲鳴を挙げると、そのまま戦死判定を受け、スフィンクス歩兵はそうなった分隊員を投げ捨てる。

 

「このおっ!!」

 

「…………」

 

別の分隊員が、スフィンクス歩兵に向かって軍刀を垂直に振り下ろしたが、スフィンクス歩兵は駒の様に回転して避けると、その勢いのまま袖口から出したナイフで、分隊員の首筋を斬り付けた!

 

「ガッ!?」

 

呆気無く戦死判定を受けて倒れる分隊員。

 

「………!!」

 

「ガハッ!?」

 

更に、別の分隊員が、アパッチ・リボルバーのナックルダスターで殴られた後、7mm弾を浴びせられて戦死判定を受ける。

 

「暗器系の武器を………こいつ等、暗殺術の使い手か」

 

「拙いぞ、弘樹! どんどんやられてっぞ!?」

 

弘樹がそう言っていると、了平が慌てた様子でそう声を掛けて来る。

 

彼の言う通り、とらさん分隊の面々はスフィンクス歩兵部隊の暗殺術を応用した戦い方と暗器系の武器の前に、次々と戦死判定を受けて行っている。

 

「クッ!………」

 

その光景に苦い顔を浮かべる弘樹だが、有効な反撃手段は無い。

 

すると………

 

「突撃します!」

 

みほのそう言う声が挙がったかと思うと、Ⅳ号はスフィンクス歩兵部隊と交戦しているとらさん分隊の元へと突っ込んで行った!

 

「!? 西住総隊長!」

 

「皆さん! 退いて下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹が驚きの声を挙げる中、みほはそう叫び、スフィンクス歩兵部隊と交戦していたとらさん分隊の面々は慌てて離脱する!

 

「!? 何っ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

残されたスフィンクス歩兵部隊の面々は、一部が突っ込んで来たⅣ号によって撥ねられ、次々に戦死判定を受ける。

 

「!!」

 

そこでみほは更に、機銃架に装備されていたMG34を薙ぎ払う様に発砲!

 

「ぐああっ!?」

 

「げぎゃああっ!?」

 

「退避! 一旦退避!!」

 

コレは堪らないと、スフィンクス歩兵部隊は再び砂の中へと潜り始める。

 

「ほう? あの総隊長、度胸もあるのう。じゃが、歩兵を助ける為に戦車が危険を犯すなぞ、本末転倒じゃ!」

 

そんな様子を見ていたネフェティがそう言うと、ティーガーⅠが再び主砲をⅣ号へと向ける。

 

「! 全速前進!!」

 

みほはそれに気づきながらも機銃掃射を続けながら麻子へと指示を飛ばす。

 

「!!」

 

言われた通りにⅣ号を全速前進させる麻子。

 

だが、次の瞬間!!

 

不意に砂煙が途切れたかと思うと、操縦席の麻子の目に飛び込んで来たのは………

 

切り立った崖だった!!

 

「!?!?」

 

慌ててレバーを倒し、車体を横滑りさせながら急ブレーキを掛ける麻子。

 

Ⅳ号は崖の直前で何とか停止した………

 

………かに思われた瞬間!!

 

「!? えっ!?」

 

射撃に夢中になっていた為、崖に気付いて居なかったみほが、急停止による慣性で、キューポラから投げ出される。

 

投げ出された先は、当然崖である!

 

「!? 西住殿ぉっ!?」

 

「みほさんっ!!」

 

「みぽりんっ!?」

 

「!!!!」

 

「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

 

あんこうチームの悲鳴の様な声が響き渡る中、みほは砂煙で見えない崖の下へと落下して行く。

 

「に、西住殿! 今お助け………」

 

と、優花里が思わず自分も崖下へ飛び降りようとした瞬間!!

 

「!!」

 

それよりも早く、Ⅳ号を飛び越える様にして、崖下へと何の躊躇も無く自ら飛び降りた人物が居た!

 

弘樹だ!!

 

着剣した四式自動小銃を崖に付き立ててブレーキにしながら、崖を下って行く。

 

「!? 舩坂殿!?」

 

優花里が声を挙げている間に、弘樹の姿もアッと言う間に見えなくなる。

 

「如何した!?」

 

「何があったんだ!?」

 

とそこで、停止していたⅣ号の周りにとらさん分隊の面々と、漸く砂煙が収まって来た事で合流を果たした他チームが集まって来る。

 

どの分隊も歩兵が大幅にやられており、戦車が損傷しているチームもある。

 

「み、みぽりんと舩坂くんが崖から落ちて!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「何てこった!!」

 

沙織がそう言うのを聞いて大慌てとなる大洗機甲部隊。

 

とその時………

 

「! フラッグ車! 見つけたぞっ!!」

 

集合した大洗機甲部隊の中に、フラッグ車であるカモさんチームのルノーB1bisを発見したネフェティが、ティーガーⅠを突撃させて来た!!

 

「!? ティーガーが!?」

 

「あわわわっ!? 如何しよう!?」

 

総隊長不在状態の大洗機甲部隊に動揺が走る。

 

と、その時!!

 

「!!」

 

迫信が突撃して来るティーガーⅠに向かって、手榴弾を投げつけた!

 

「フン、手榴弾如きでこのティーガーが………」

 

そう言い放とうとしたネフェティだったが、手榴弾は空中で炸裂したかと思うと、そのまま辺り一帯を黒煙で覆い尽くす。

 

「!? しまった!? 煙幕手榴弾か!?」

 

「ま、前が見えません!!」

 

ティーガーⅠの操縦手がそう声を挙げる。

 

如何やら砂煙の中は大丈夫でも、流石に煙幕の中までは見通せない様である。

 

「全員退避っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

続け様に迫信はそう声を挙げ、大洗機甲部隊の面々はティーガーⅠの進路上から退避する。

 

直後にティーガーⅠが煙幕の中から飛び出して来る!

 

「よし、煙幕を抜けた………!? ブレーキッ!!」

 

「!!」

 

視界確保の為にガスマスクをしてキューポラから姿を晒していたネフェティだったが、煙幕が晴れた途端に崖が目の前に広がっていた為、慌ててそう言い放つ。

 

ティーガーⅠはフルブレーキを掛け、砂の上を滑り、先程のⅣ号と同じ様に崖の寸前で停止に成功………

 

「!? うわあっ!?」

 

したかに思われた瞬間に、ネフェティがバランスを崩してキューポラから飛び出し、ティーガーⅠの上を転がりながら、崖下へと落下した!

 

「! ネフェティッ!!」

 

それを見たキングコブラが初めて声を挙げたかと思うと、自分もネフェティを追って崖下へと跳ぼうとする。

 

「待て、キングコブラ! お前まで行ったら誰が指揮を執る!?」

 

しかし、それを見たアナコンダが慌ててキングコブラを羽交い締めにして止める。

 

「! 放せいっ!!」

 

キングコブラはアナコンダの顔に肘打ちを叩き込む。

 

「ブッ!? だ、誰か手を貸せぇっ!!」

 

だが、それでもアナコンダはキングコブラを離さず、応援を要請して押さえつけようとする。

 

「今の内だ! 離脱するぞ!!」

 

と、そのクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の混乱ぶりを見た迫信が、チャンスだと言って大洗機甲部隊に離脱を促す。

 

「けど、西住殿が!!」

 

「大丈夫だ! 弘樹が行ったんだ!! 後はアイツに任せるんだ!!」

 

優花里がそう叫ぶと、シメオンがそう言って来る。

 

「アイツならきっと西住総隊長を連れてコチラに合流して来る筈だ! 信じるんだ!!」

 

「!!」

 

そう言われて、優花里が逡巡の様子を見せながらも、Ⅳ号の車内へと引っ込む。

 

「全員、離脱っ!!」

 

そして、迫信の号令で、一斉に離脱を開始する大洗機甲部隊。

 

混乱しているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、それを追撃する事は、出来なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

砂煙の中から脱出しようとするみほ達の前に立ちはだかるティーガーⅠ
その圧倒的な性能の前に、手も足も出ない。
更に、スフィンクス歩兵部隊の暗殺術により、弘樹達も苦戦を強いられる。

だが、そんな中………
みほと弘樹、そしてネフェティが崖下へと落下するトラブルが!?
両機甲部隊は混乱に包まれる。
果たして、3人は無事なのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第106話『クソ真面目な男です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第106話『クソ真面目な男です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6回戦にて、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と相対した大洗機甲部隊。

 

砂漠戦を得意とするクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、砲兵部隊に自走砲を配備し、その着弾による砂煙で大洗機甲部隊の目を潰す。

 

身動きが取れなくなった大洗機甲部隊を、モグラの如く砂の中からスフィンクス歩兵部隊が強襲。

 

砂煙の中から脱出を試みたみほ達の前にも、隊長車兼フラッグ車であるティーガーⅠが立ちはだかる。

 

その強靭な装甲と圧倒的な攻撃力の前に、あんこうチームのⅣ号は手も足も出ない………

 

だが、その最中………

 

大洗機甲部隊からみほと弘樹………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊からネフェティが………

 

崖下へと転落する事態が発生したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「………う………長………隊長………西住総隊長!」

 

「う?………ううん………」

 

自分を呼ぶ声が聞こえて、みほは重たい瞼を如何にか開ける。

 

「気が付かれましたか………」

 

飛び込んで来たのは、全身砂塗れになっている弘樹の姿だった。

 

「弘樹くん………! そうだ! 私、崖から落ちて!………! ッ!?」

 

身体を動かそうとした瞬間に、右足に鈍い痛みが走り、みほは苦痛の表情を浮かべる。

 

見ると、右足には応急処置と思われる処置が施されていた。

 

「軽い捻挫です。骨には異常はありませんが、暫く動かさないで下さい」

 

「弘樹くんが手当してくれたの? ありがとう」

 

「いえ、お礼を言われる資格はありません………小官がもっと気を付けていれば、西住総隊長が転落する様な事態は防げていたのに………」

 

「ううん、弘樹くんのせいじゃないよ。私がうっかりしてたのがいけなかったんだから………それより此処は………」

 

頭を下げる弘樹にそう言うと、みほは辺りを見回す。

 

向かって右手には、先程転落して来た崖が壁の様に聳え立っており、後は全て砂漠である。

 

現在みほは、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の正面の履帯の間の車体に背中を預けて地面に座っている状態である。

 

「崖の下ですね………この崖を登るのは不可能でしょう。通信機も落下した時に故障してしまった様で………」

 

垂直の崖を見上げながら、みほにそう言う弘樹。

 

「私の通信機も駄目みたい………ところで、この戦車は?」

 

みほは自分の通信機も駄目な事を確認してそう言うと、自分が背を預けている鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車について尋ねる。

 

「元々この場所に在りました。恐らく、昔の大会でマナーの悪い選手が壊れたのをそのまま捨てて行ったのでしょう」

 

「酷い………一緒に戦ってくれた戦車を捨てるなんて………」

 

弘樹がそう言うと、みほは物悲し気な表情で、背にしている鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲を撫でる。

 

と、その時!!

 

突如として機関銃の発砲音が鳴り響き、飛んで来た無数の銃弾が、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲上で火花が散らす!

 

「!? キャアッ!?」

 

「!!」

 

すぐさま弘樹はみほを抱き抱えて、銃弾が飛んで来た方向の反対側へと移動し、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車を盾にする。

 

直後にまた機関銃の発砲音がして、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の錆びた装甲上で火花が散る!

 

「…………」

 

みほを庇いながら、銃弾の飛んで来る方向を見やる弘樹。

 

そこには、砂の稜線上から覗いているブルーノZB26軽機関銃の銃身が在った。

 

「………西住総隊長、コレを」

 

それを確認した弘樹は、四式自動小銃をみほに渡すと、腰のホルスターからM1911Aを抜く。

 

「弘樹くん!?」

 

「此処を動かないで下さい」

 

そう言うと弘樹は、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車から飛び出す。

 

当然、ブルーノZB26軽機関銃からの銃弾が襲い掛かるが、運良く命中せず、向かい側の稜線の陰へと入る事に成功する。

 

「…………」

 

そのまま大回りで、ブルーノZB26軽機関銃が見えていた稜線の後ろへと回って行く。

 

「…………」

 

ブルーノZB26軽機関銃が見えていた稜線の後ろに近づくと、気配を殺し、抜き足差し足でゆっくりと進む弘樹。

 

「………!」

 

やがて至近距離まで近づいたかと思うと、M1911Aを構えながらバッと飛び出す。

 

しかし、そこに在ったのはブルーノZB26軽機関銃だけで、射撃していた人物の姿は無かった。

 

「?………」

 

警戒をしながらも、置かれていたブルーノZB26軽機関銃に近づき、調べようとする弘樹。

 

「………!」

 

だが、その瞬間!

 

何か嫌なモノを感じ取った弘樹は、ブルーノZB26軽機関銃から離れる様に飛び退く!

 

直後に、ブルーノZB26軽機関銃が在った場所が爆発した!

 

「………手榴弾を埋めていたのか」

 

伏せたままの状態で、その爆発が手榴弾のものである事を見抜いた弘樹がそう言うと、その目の前に銃弾が着弾した。

 

「!!」

 

すぐさま起き上がり、走り出す弘樹。

 

その足元に、弾丸が次々と着弾して、砂を撒き上げる。

 

「………!」

 

それから逃げながら、弘樹は砂丘の稜線の上で、ワルサーP38を構えて撃っているネフェティの姿を認める。

 

「彼女か………!? ッ!」

 

そう思った瞬間、砂に足を取られて、派手に転倒してしまう。

 

「クッ!………」

 

「そこまでじゃ」

 

すぐに起き上がろうとした弘樹だったが、目の前には既に、ワルサーP38を構えているネフェティの姿が在った。

 

「不覚………」

 

「不死身の英霊の命運も遂に尽きた様じゃのう。貴様さえ居なければ、大洗の歩兵など、所詮は烏合の衆よ」

 

ネフェティはそう言い、ワルサーP38の引き金に指を掛ける。

 

そして、銃声が鳴り響いた!

 

「ぬあっ!?」

 

しかし、吹っ飛ばされたのはネフェティのワルサーP38だった。

 

「!!」

 

弘樹がすぐに、その銃声がした方向を見やると、そこには………

 

「…………」

 

稜線の上に立ち、銃口から硝煙の上がって居る四式自動小銃を構えているみほの姿が在った。

 

「! あうっ!………」

 

しかし直後………

 

みほは短く悲鳴を漏らし、右足を押さえる様にして倒れる。

 

「! 西住総隊長!」

 

そう叫んで立ち上がりながらも、弘樹は油断無く、M1911Aをネフェティに向ける。

 

「クッ………さっさと撃つが良い。敵に情けを掛けられとうない」

 

弘樹を睨みながら、ネフェティはそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は一瞬ネフェティから視線を反らしたかと思うと、M1911Aを腰のホルスターに納める。

 

「!」

 

「歩兵が戦車乗りを攻撃する事はルールで禁止されている。それに………女を撃つ趣味は無い」

 

驚くネフェティにそう言い放つと、弘樹はみほの元へと向かう。

 

「西住総隊長!」

 

すぐにみほを助け起こす弘樹。

 

そこで、みほの包帯を巻いている方の足が僅かに腫れ上がっているのを確認する。

 

「何故動いたのですか!?」

 

「ゴメン………弘樹くんが危ないと思って、つい………! ッ!」

 

弘樹にそう返すと、足に鈍い痛みが走り、みほは苦悶の表情を浮かべる。

 

「総隊長!」

 

「だ、大丈夫………弘樹くん………頼みが有るの」

 

「?」

 

「私を………置いて行って」

 

「!」

 

みほの言葉に、弘樹は僅かに驚きを露わにする。

 

「まだ試合は続いている筈。でも、この足じゃ歩くのは無理だよ………だから………コレを持って、弘樹くんだけで皆と合流して」

 

みほはそう言いながら、パンツァージャケットの内ポケットからノート手帳を取り出す。

 

「この手帳に、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に対しての対策と作戦が皆入ってるから。コレを神大さんに見せて指揮を移譲して………」

 

「…………」

 

「お願い! 行って! 弘樹くん!!」

 

懇願するかの様に、弘樹の手を握ってそう言うみほ。

 

しかし………

 

「冗談は無しだ。小官はクソ真面目な男だ」

 

「! キャッ!?」

 

弘樹はそう言ったかと思うと、みほを抱き抱え上げた。

 

「ひ、弘樹くん………」

 

「小官に任せておけ………」

 

戸惑うみほを抱えたまま、また鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車の元へと歩く弘樹。

 

そしてみほを一旦下ろすと、鉄屑状態のルノー FT-17 軽戦車から次々と部品を外し始める。

 

その外した部品で、即席の背負子式の椅子を作り出す。

 

「コレで西住総隊長を背負って行きます」

 

「む、無理だよ! この砂丘を人を背負ったまま超えるなんて………」

 

「やってみなければ分かりません」

 

無理だと言うみほを半ば無理矢理背負子式の椅子に座らせると、背に背負って立ち上がる弘樹。

 

「…………」

 

そして、試合会場の地図とコンパスを取り出し、現在位置を割り出すと、歩き出した。

 

(しかし、本当に試合は続いているのか………続いていたとしても、上手く味方と合流出来るのか………出来たとしても、今のみほくんは………)

 

その胸中には、様々な不安が過っている。

 

(………他の何ものも要らない。只………今は彼女だけを助けたい)

 

しかし、頭を振ってその不安を振り払うと、只今はみほを助ける為だけに歩き続ける。

 

「逃がさんぞ………お前達を本隊の合流させるワケには行かぬ」

 

だが、その後を、ネフェティが付いて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

みほと弘樹を欠いた、大洗機甲部隊は………

 

砂丘内に在ったオアシスの様な場所に陣地を張り、何やら話し合っていた。

 

「やっぱりみぽりんと舩坂くんを探そうよ!」

 

「いや! 先にクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を叩くべきだ!」

 

沙織がそう言うと、続いてハンターがそう言う。

 

「でも! コチラは総隊長が不在なんですよ! それに舩坂殿も!………」

 

「それは敵も同じだろう。寧ろ、敵が混乱している今こそ、俺達が攻め入るチャンスだ」

 

今度は、優花里がそう言うと、白狼がそう言う。

 

如何やら、みほと弘樹を探しに行くか、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に攻撃を仕掛けるかで意見が割れている様だ。

 

「西住さんの指揮無しでコレまで真面に戦えた例が無いぞ。このままクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と戦うのは危険でしかない」

 

「それは我々も十分理解している。だから最近は各歩兵部隊の分隊長や、戦車チームの戦車長にも戦術論や戦略論の座学を受けさせていたのだろう」

 

みほが不在では戦えないと言う大洗機甲部隊の弱点を指摘する麻子だったが、十河がそれに対する対策はして来たと反論する。

 

「ですが、みほさんの事が心配です。この炎天下で、この砂丘の中で迷っているとなると………」

 

「しかし、舩坂さんも一緒なんですから、大丈夫なんじゃないですかね」

 

みほの事を心配する華と、弘樹が付いて居るから心配無いと言う飛彗。

 

「お前等ぁ! 何を揉めている! 隊長が不在でも、副隊長が此処に居るではないかぁっ!!」

 

とそこで、38tの砲塔上に立った桃が、腕組みをして仁王立ちの状態で、大洗機甲部隊の一同を見下ろしながらそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな桃の姿を見て、先程までの喧騒が嘘の様に静まり返る大洗機甲部隊。

 

「フフフ、分かった様だな。では、指揮は私が引き継いで………」

 

その様子を見た桃が、得意げになって言葉を続けようとしたところ………

 

「「「「「「「「「「………ハアァ~~~ッ」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の一同が一斉に、深い溜息を吐いた。

 

「! な、何だ、その態度は!?」

 

「そうだった………この人副隊長なんだった………」

 

「今の今まで忘れてましたよ………」

 

「河嶋さんが部隊の指揮を?」

 

「駄目だこりゃ………大洗の命運もコレまでだな」

 

狼狽する桃の耳に、絶望混じりの大洗機甲部隊のメンバーの声が聞こえて来る。

 

「! き、貴様等ぁ~~~っ! 私を侮辱する気かぁっ!!………!? うわっ!?」

 

桃が激昂した様子を見せたかと思うと、何者かがその足を払った。

 

空中で1回転したかと思うと、砂の上に落ちそうになる桃。

 

と、そんな桃の頭を掴んで止める者が居た………

 

お馴染み、熾龍である。

 

「貴様に侮辱される様な実績があったのか?」

 

「な、何をぉ~っ! 仮にも総隊長代理に向かって、この態度は………!? ぐええええっ!?」

 

桃が抗議の声を挙げた瞬間に、熾龍はアイアンクローで桃の頭を締め上げる。

 

「ちょっ! 栗林先輩! ストップ! ストップ! 河嶋さんの頭から嫌な音がしてますけどぉっ!?」

 

「…………」

 

逞巳が慌てて止めに入るが、熾龍は無言で桃の頭を締め続ける。

 

(マズイな………ココまで意見が割れるとは………)

 

一方、そんな中………

 

迫信は意見が真っ二つに分かれている大洗機甲部隊の面々を見て、内心で苦い顔を浮かべる。

 

仮にココで迫信が、歩兵部隊総隊長の権限でどちらかの意見を強行採用したとしても、角が立つ事になる。

 

そうなれば敵と遭遇した場合に連携に支障が生じ、全滅の危険性もある。

 

(だが、この場で座して居ても何もならない………如何したものか………)

 

迫信は珍しく、頭を悩ませていた。

 

「小規模の分隊を作って、それを西住総隊長と舩坂分隊長の捜索に当てると言うのは如何でしょう?」

 

「しかし、さっきの砂埃の中で大分やられちまったからなぁ。コレ以上歩兵を割くのはなぁ………」

 

「それに、その小規模分隊が敵と遭遇すれば全滅は必至………無駄に戦力を消耗するだけだ」

 

清十郎の言葉に、俊と大詔がそう反論する。

 

「通信も先程から通じていないな………」

 

「手詰まりやなぁ………」

 

「ああ~、もう駄目だ~! もうお終いだぁ~~っ!!」

 

「了平。頼むから絶望を煽る様な事は止めてくれませんか?」

 

煌人がそう言い、大河がそう呟くと、了平がどこぞの映画での王子の様な台詞を吐いて取り乱し、楓がそうツッコミを入れる。

 

「(このままではバラバラになるだけか………決めねばなるまいな)皆………」

 

と、迫信が意を決した様にそう口を開いた瞬間………

 

「! 敵襲~っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

見張りをしていた偵察兵の1人がそう声を挙げ、大洗機甲部隊の一同に緊張が走る!

 

(このタイミングでか………)

 

迫信はそう思いながら、報告を挙げて来た偵察兵が居る方向を見やる。

 

そこには、クレオパトラ戦車部隊のM3A1スチュワート軽戦車が3両、セモヴェンテM42 da 75/34が2両。

 

その戦車達を守るかの様に展開しているスフィンクス歩兵部隊の歩兵達の姿が在った。

 

「クソッ! 向こうから来やがったか!!」

 

「けど、随分と数が少ないな………戦車も軽戦車と駆逐戦車だけだし………」

 

磐渡がそう声を挙げると、重音が向かって来るクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の部隊規模を見てそう呟く。

 

「(何かの罠か? しかし、向かって来る以上、迎撃しないワケには行かないか)総員、戦闘準備! 指揮は臨時で私が取る! フラッグ車を防衛しつつ迎撃戦を行う!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

迫信は罠の可能性を感じつつも、向かって来る敵を迎撃しないワケにも行かず、そう指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

崖下へと落下したみほと弘樹。
ネフェティの襲撃を退けたが、みほの負傷が悪化し、動けなくなってしまう。
そこで弘樹は、みほを背負っての砂丘越えを試みるのだった。
一方、意見に割れていた大洗機甲部隊にも、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が襲い掛かる。

感想で予測されている方も居ましたが、砂漠と言う事なので、ボトムズのサンサ編のエピソードをオマージュしてみました。
クソ真面目な男は名台詞ですよね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第107話『砂塵を越えてです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第107話『砂塵を越えてです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との戦いの最中………

 

崖から転落し、本隊と逸れてしまう弘樹とみほ。

 

同じく本隊から逸れていたネフェティからの襲撃を退けたが、足を痛めていたみほが移動不能となってしまう。

 

みほは自分を置いて、弘樹だけでも本隊に合流する様に言ったが、当然そんな願いを聞く弘樹ではなかった。

 

不法投棄されていたルノー FT-17 軽戦車の残骸から作った背負子式の椅子でみほを背負い………

 

炎天下の砂丘越えを試みるのだった。

 

一方、その頃………

 

みほ不在の大洗機甲部隊に………

 

同じく総隊長不在である筈のクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が攻撃を仕掛けて来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

時刻は間も無く昼に差し掛かろうとしている。

 

照りつける太陽の光は一段と強くなり、何も遮蔽物が無い砂丘は、地面からの反射熱が合わさり、僅か数センチ先で陽炎が見えると言う暑さになっていた。

 

「…………」

 

そんな砂丘に足跡を残しながら、只管に黙々と歩き続ける影が在った。

 

「…………」

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

弘樹と彼に背負われているみほだ。

 

仲間達との合流する為、何も無い砂丘を只管に歩き続けている。

 

炎天下での砂丘の中の移動は、背負合われているだけのみほの体力も徐々に奪う。

 

ましてや、みほを背負って歩いている弘樹の消耗度はかなりのものである筈である。

 

「………ハア………ハア………」

 

そして、その弘樹とみほのやや後方を、後を付ける様に歩いているネフェティ。

 

2人を合流させまいと思っているのだが、武器が無い為、只こうして後を尾けるしか出来なかった。

 

「………ハア………ハア………」

 

滝の様な汗を流し、息を切らせながらも2人の後を追い続けるネフェティ。

 

「…………」

 

すると、弘樹が不意に立ち止まり、ネフェティの方を振り返った。

 

「!!………」

 

ネフェティは硬直する。

 

「…………」

 

既にかなりの長距離を歩いており、大量の汗を掻いて居るにも関わらず、無表情な仏頂面を崩していない弘樹の視線が、ネフェティに突き刺さる。

 

「ッ!………」

 

ネフェティはその視線を、多少怯みながらも正面から受け止める。

 

「…………」

 

やがて、弘樹はネフェティに興味を無くしたかの様に視線を外すと、再び前を向いて歩き出した。

 

「…………」

 

ネフェティも、その後を付ける事を再開する。

 

「「…………」」

 

言葉は無く、時折砂丘に吹き付ける風の音だけが響いて来る。

 

「…………」

 

と、大きめな岩を見つけた弘樹が、その影の中へと入ると、一旦背負っていたみほを下ろした。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

目を閉じ、息苦しそうな様子を見せているみほ。

 

「西住総隊長、水です」

 

そんなみほに、弘樹はそう言って水筒を差し出す。

 

「わ、私は良いよ………弘樹くんが飲んで………」

 

「ご心配無く。小官は先程飲みました」

 

弘樹に飲んでくれと言うみほだったが、弘樹はそう返すと、水筒の蓋を外し、みほの口へと水を注ぐ。

 

だが、それは嘘であり、弘樹は砂丘越えを始めてから、1滴の水も口にしていない。

 

にも関わらず、弘樹は消耗の様子など微塵も見せていない。

 

大した精神力である。

 

「んぐ………んぐ………」

 

余程喉が渇いていたのか、注がれる水をすぐさま飲み干して行くみほ。

 

(水も残り僅かか………)

 

やがて水筒を離した弘樹が中を見て、残りが少ない事を確認する。

 

「…………あ」

 

とそこで、不意に砂丘の方を見たみほが、自分達を追って来ているネフェティの姿に気付く。

 

「弘樹くん………」

 

「何も仰らないで下さい………」

 

何かを言おうとしたみほだったが、弘樹はそれを遮る様にそう言い、再びみほを背負うと、歩き出す。

 

「………ハア………ハア………」

 

一方、追跡して来ているネフェティも相当参っている様子を見せていた。

 

「………ハア………ハア………」

 

持っていた水筒を開け、水を飲もうとする。

 

「! クウッ!」

 

しかし、既に水筒の中身は空であり、ネフェティは苛立った様に水筒を投げ捨てる。

 

「…………」

 

その間にも、弘樹とみほはドンドン砂丘を進んで行く。

 

「………ハア………ハア………」

 

それを只管に追い続けるネフェティ。

 

(負けるものか………奴等をこのまま行かせるワケには行かん)

 

最早執念とも言うべき根性で、2人を追い続ける。

 

しかし、徐々にその視界が霞み始める………

 

(クウッ! 何たる事じゃ、此処まで追って来ながら………まだじゃ………彼奴等を倒すまで………絶対に逃さん………)

 

足取りがフラ付き始める………

 

(そうとも………逃すものか………逃す………ものか………)

 

意識も遠くなって行く………

 

(………あ)

 

そしてとうとう、ネフェティは糸が切れた人形の様にバタリと倒れる。

 

「み………水………」

 

殆ど無くなっている意識の中で、水を求め、右手を前へと伸ばす。

 

すると………

 

そんなネフェティの手に、何かが握らされた。

 

「?………」

 

朦朧としている目でそれを確認するネフェティ。

 

握らされていたのは、水の入っている水筒だった。

 

「! 水ぅっ!!」

 

ネフェティは一も二もなく、すぐさま水筒の蓋を開けると、中に入っていた水を飲み干す。

 

「んぐ! んぐ! んぐ!………プハーッ! た、助かった………!!」

 

とそこで、完全に意識が回復したネフェティは、みほを背負った弘樹が目の前に立っている事に気付いた。

 

「き、貴様っ!?」

 

そして漸く………

 

自分が先程飲み干した水筒の水が、弘樹が持っていた物である事に気付く。

 

「な、何故じゃっ!!」

 

何故敵である自分を助けたのか。

 

そう問い質す様に聞くネフェティ。

 

「………西住総隊長の御指示だ」

 

弘樹は感情が籠っていない様子で、只それだけ言い放ち、ネフェティに背を向けたかと思うと、再び歩き出す。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

その背に背負われているみほは、相変わらず息苦しそうな様子で、グッタリとし始めていた。

 

「~~~~~ッ! クウッ!!」

 

ネフェティは只、苛立ちを露わにしながら、空になった弘樹の水筒を投げ捨てるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の襲撃を受けた、大洗機甲部隊の面々は………

 

「撃てっ!」

 

「ハイッ!」

 

典子の号令で、あけびが八九式の九〇式五糎七戦車砲が火を噴く。

 

だが、放たれた砲弾は、M3軽戦車の正面装甲に命中したかと思うと、明後日の方向に跳ね返される。

 

「また弾かれたぁっ!!」

 

「もうこの光景も見慣れて来たなぁ………」

 

あけびが悲鳴の様な叫びを挙げるのと対照的に、何処か諦めにも似た表情を浮かべた妙子がそう呟く。

 

とそこで、反撃とばかりにM3軽戦車の主砲が火を噴く。

 

幸い直撃はしなかったが、至近弾で八九式が大きく揺さぶられる。

 

「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」

 

「おどれ何してくれとんねんっ!!」

 

アヒルさんチームの悲鳴が響くと、大河が反撃だとばかりに収束手榴弾を投げつける。

 

M3軽戦車に接触した収束手榴弾が大爆発。

 

爆煙が晴れたかと思うと、M3軽戦車から白旗が上がる。

 

「よっしゃあっ!」

 

「「「「…………」」」」

 

ガッツポーズを取る大河だったが、アヒルさんチームは複雑そうな表情をしていた。

 

「そらっ!」

 

一方、カメさんチームの38tが発砲したかと思うと、セモヴェンテM42 da 75/34の履帯を破壊する。

 

「今だ、小山! 回り込めっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そして、動きの停まったセモヴェンテM42 da 75/34の背後に回り込もうとする。

 

「そうはさせん! 対戦車兵部隊!!」

 

護衛のスフィンクス歩兵部隊の中に居た分隊長クラスらしきスフィンクス歩兵がそう叫んだかと思うと、バズーカを構えたスフィンクス対戦車兵部隊が整列する。

 

「させるかっ!!」

 

だが、それを撃たせるワケにはいかないと、くろがね四起の荷台部分に居た俊が、機銃架に備え付けられた九二式車載十三粍機関砲を発砲する!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

13.2ミリ弾が、スフィンクス対戦車兵部隊を文字通り薙ぎ払う。

 

「サンキュー、司馬ちゃん!!」

 

「装填完了です!」

 

杏がそう言っている間に、桃が次弾の装填を終える。

 

「よおし! よ~く狙って………喰らえっ!!」

 

そして杏は、38tがセモヴェンテM42 da 75/34の後ろに回り込んだ瞬間に、後部のエンジン部に向かって主砲を放つ!

 

最も装甲の薄いエンジンルームの排熱口に砲弾が飛び込み、一瞬の間の後に爆発が発生!

 

セモヴェンテM42 da 75/34からは白旗が上がる。

 

「よっしっ!」

 

「撃て撃てっーっ!!」

 

「弾幕を張れ! 近寄らせるなぁっ!!」

 

杏が歓声を挙げる中、大洗歩兵部隊の面々も、機関銃や車載機銃を中心に弾幕を張り、スフィンクス歩兵部隊を攻撃する。

 

「良し! そのまま距離を取った戦いを維持しろ! 接近戦ではコチラの分が悪いっ!!」

 

その様子を見ていた十河からそう指示が飛ぶ。

 

スフィンクス歩兵部隊が暗殺術を得意とする為、大洗歩兵部隊は接近戦を避け、徹底した距離を取っての射撃戦を展開していた。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

弾幕の前に、スフィンクス歩兵部隊は次々に戦死判定者を出して行く。

 

「チッ! 榴弾砲! 用意っ!!」

 

すると、スフィンクス砲兵部隊の分隊長がそう叫び、弾幕を張る大洗歩兵部隊に、スフィンクス砲兵部隊のM3 105mm榴弾砲が向けられる。

 

「! 敵の榴弾砲がコチラを指向っ!」

 

「全員退避ーっ!!」

 

それに気づいた秀人がそう報告を挙げると、磐渡の号令で大洗歩兵部隊は弾幕を張るのを止め、退避行動を取る。

 

「撃てぇっ!!」

 

そんな大洗歩兵部隊目掛け、M3 105mm榴弾砲から榴弾を放つスフィンクス砲兵部隊。

 

だが、そこで!!

 

退避行動を取る大洗歩兵部隊を守る様に、レオポンさんチームのポルシェティーガーが榴弾の前に立ちはだかった!

 

そのまま、榴弾の直撃を受けるポルシェティーガー。

 

しかし………

 

「流石ポルシェティーガーだ! 何ともないぜ!!」

 

ツチヤの何処ぞの水中モビルスーツ乗りの様な台詞通り、榴弾の直撃を受けたにも関わらず、ポルシェティーガーは無傷だった。

 

「撃てぇっ!」

 

「おうっ!!」

 

そして反撃とばかりに、ナカジマの号令でホシノが主砲から榴弾を発砲!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

8.8cmの榴弾が、M3 105mm榴弾砲ごとスフィンクス砲兵部隊を吹き飛ばす。

 

「ナカジマ! エンジンが熱を持って来た! ちょっとマズイよっ!!」

 

そこで、スズキからそう報告が挙がる。

 

彼女の言う通り、ポルシェティーガーのエンジン部からは白い煙が上がり始めていた。

 

「アチャー、思ったより早いなぁ」

 

「この子はデリケートだからね。一旦下がるよ」

 

ナマジマが呑気そうにそう呟く中、ツチヤが成るべくエンジンに負担が掛からない様にポルシェティーガーを後退させ始める。

 

「逃すかっ!!」

 

とそこで、スフィンクス歩兵部隊の対戦車兵の1人が、パンツァーシュレックを構え、レオポンさんチームのポルシェティーガーに向ける!

 

「させるかぁっ!!」

 

だが、竜真がそう叫んだかと思うと、態勢を立て直した大洗歩兵部隊が弾幕を張るのを再開する。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

パンツァーシュレックを構えていたスフィンクス歩兵部隊の対戦車兵は、全身に銃弾を浴びて、戦死と判定される。

 

「撃てっ!!」

 

と、クレオパトラ戦車部隊の中で生き残っていた2両の内、片方のM3軽戦車が、カバさんチームのⅢ突を視界に捉え、主砲を発砲。

 

しかし、狙いが甘かったのか、砲弾はⅢ突に上をを通り過ぎる。

 

「撃てぇっ!!」

 

エルヴィンの号令で、反撃の砲撃がⅢ突から放たれる!

 

Ⅲ突の主砲弾は、M3軽戦車の正面装甲を易々と貫通したと判定。

 

M3軽戦車からは白旗が上がった。

 

「コッチコッチーッ!」

 

「クッ! チョロチョロと!!」

 

一方、残り1両となっていたセモヴェンテM42 da 75/34を、サンショウウオさんチームのクロムウェルが速度を活かして攪乱。

 

「今だ!」

 

「えいっ!!」

 

と、セモヴェンテM42 da 75/34が側面を見せた瞬間に、アリクイさんチームの三式が発砲する!

 

だが、砲弾はセモヴェンテM42 da 75/34より、僅かに手前に着弾する。

 

「! チイッ! そっちかっ!!」

 

その砲撃で三式の存在に気付いたセモヴェンテM42 da 75/34は、先にそちらを片付けようと車体を旋回させる。

 

「てやんでい! 本命はコッチよぉっ!!」

 

しかし、それもまた誘いであり、本命であるバズーカを構えた海音が、岩陰からセモヴェンテM42 da 75/34の背後に飛び出す。

 

「!? しまったっ!?」

 

「喰らえっ!!」

 

海音はそのままバズーカの引き金を引く。

 

ロケット弾が吸い込まれる様にセモヴェンテM42 da 75/34のエンジン部に直撃!

 

セモヴェンテM42 da 75/34から白旗が上がる。

 

「クッ! 4両やられたか!」

 

「歩兵部隊の損耗も激しいな………」

 

残った最後のM3軽戦車の車長と、分隊長と思われるスフィンクス歩兵がそう言い合う。

 

「! 車長! 通信です!」

 

「繋いで………ハイ………ハイ………了解です」

 

するとそこで、車長の元に通信が入り、車長が何度か頷く。

 

「………もう良いそうよ」

 

「了解………全部隊、てったーいっ!!」

 

と、M3軽戦車の車長が、分隊長と思われるスフィンクス歩兵にそう伝えたかと思うと、分隊長と思われるスフィンクス歩兵はそう叫んで、信号弾を撃ち上げた。

 

「「「「「!!」」」」」

 

途端に、スフィンクス歩兵部隊は一斉に交戦をやめ、砂の中へと姿を消す。

 

M3軽戦車も、大洗機甲部隊の前から離脱して行く。

 

「!? 撤退して行く?………」

 

「まあ、これ程の損害を受けたんですから、当然じゃないですか?」

 

「…………」

 

撤退して行くクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を見て紫朗がそう言うと、逞巳が撃破された4両の戦車を見ながらそう言うが、迫信は引っ掛かりを感じていた。

 

「逃がすな―っ!! 総隊長代理命令だぁーっ!! 地獄の果てまで追い詰めろーっ!!」

 

と、アドレナリン過剰状態の桃がそう叫びを挙げる。

 

「桃ちゃん………プラウダ&ツァーリの時に、それで罠に嵌ったの、忘れたの?」

 

「うぐっ!?………」

 

が、柚子にそう言われ、すぐに言葉に詰まる。

 

「兎も角、追撃は不要だ。各部隊、損害状況を………」

 

迫信が各部隊の損害状況を確認しようとした、その瞬間!!

 

突如、大洗機甲部隊を包囲する様に、スフィンクス歩兵部隊が砂の中から現れた!!

 

「!? 囲まれたっ!?」

 

「狼狽えるな! 所詮は歩兵部隊だけだ! 戦車を中心に陣形を組んで突破を………」

 

梓がそう声を挙げるが、十河は相手が歩兵だけなのを見て、戦車を中心にしての突破を掛けると言おうとしたが………

 

次の瞬間!!

 

再び大洗機甲部隊を取り囲む様に、今度は大きく砂が爆ぜ始める!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚く大洗機甲部隊の面々が、爆ぜた砂の中に見たのは………

 

クレオパトラ戦車部隊の戦車達だった!!

 

「なっ!? クレオパトラ戦車部隊っ!?」

 

「まさか!? 戦車まで砂の中を移動して来たってのかよ!?」

 

「イカンッ!!」

 

驚愕の声に交じり、迫信は珍しく焦った様な声を挙げる。

 

「か、完全に包囲された………」

 

そして、清十郎の絶望に満ちた呟き、響き渡るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

敵の総隊長を引き連れると言う、奇妙な状況で、みほを背負って炎天下の砂丘越えを試みている弘樹。
しかし、その消耗は激しかった………

一方、小規模部隊からの攻撃を退けたかに見えた大洗機甲部隊だが、それは大洗機甲部隊をその場に釘付けにする為の罠だった。
完全に包囲された大洗機甲部隊。
果たして如何するのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第108話『デザート・ウォーです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第108話『デザート・ウォーです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほと弘樹、そしてネフェティが其々の味方との合流を目指して、決死の砂丘越えを行っていた頃………

 

大洗機甲部隊は、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊から分散していたと思われる小規模隊の攻撃を受けた。

 

コレを退けたかに思われたが、何と!

 

砂の中からクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が出現!

 

大洗機甲部隊は、完全に包囲されてしまったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「撃て撃てぇーっ!」

 

「敵を近寄らせるなぁっ!!」

 

ウサギさんチームのM3リーの周りに陣取ったハムスターさん分隊の面々が、スフィンクス歩兵部隊を近寄らせまいと弾幕を張っている。

 

「ぬあっ!」

 

「怯むなぁっ! 掛かれいっ!!」

 

「一点突破だぁっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

しかし、士気の高いスフィンクス歩兵部隊は怯まず、一塊の一団を作ったかと思うと、一点突破を掛ける。

 

「つ、突っ込んで来るっ!?」

 

「クッ! 榴弾で………」

 

「ハムスターさん分隊の皆、伏せて! 私達がやるからっ!!」

 

勇武がそう声を挙げると、誠也が九六式十五糎榴弾砲を撃とうとしたが、そこで梓のそう言う声が響き、M3リーの副砲塔が、突っ込んで来るスフィンクス歩兵部隊の一団に向けられる。

 

「紗希! キャニスター弾、装填!」

 

「…………」

 

梓の言葉を聞いた紗希が、副砲に対歩兵用の散弾………『キャニスター弾』を装填する。

 

「撃てっ!!」

 

「おりゃあっ!!」

 

あやが叫びを挙げて引き金を引くと、M3リーの副砲からキャニスター弾が発射!

 

発射されてすぐに、細かい小さな鉄球が広がる様にして、突っ込んで来るスフィンクス歩兵部隊の一団に襲い掛かった!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

まるで鉄の雨を浴びた様な感触を感じながら、突っ込んで来ていたスフィンクス歩兵部隊の一団は全滅する。

 

「やったぁっ!」

 

「流石っす!!」

 

その光景に、あやと正義が歓声を挙げる。

 

だが、次の瞬間!!

 

風切り音が聞こえて来たかと思うと、上空から降って来る様に落ちて来た砲弾が、M3リーの車体後部………エンジンルームに直撃して爆発!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

間近に展開していた為、巻き込まれたハムスターさん分隊員達が悲鳴と共に戦死判定を受けるのと同時に、M3リーも砲塔上部から白旗を上げた。

 

「よっしゃあっ! 直撃だっ!!」

 

「見たかっ!!」

 

その爆発の正体………

 

『15cm自走榴弾砲ロレーヌ・シュレッパー』を駆っていたスフィンクス砲兵達が歓声を挙げる。

 

「ヴァイパー、よくやった! 次の目標を………」

 

戦闘室で砲発射を担当していたスフィンクス砲兵に、操縦手がそう言った瞬間………

 

15cm自走榴弾砲ロレーヌ・シュレッパーの近くを何者が通り過ぎ、戦闘室内に何かが投げ込まれた。

 

「ん?………」

 

それは、手榴弾だった。

 

「!? ヤバ………」

 

イと思った瞬間には時既に遅し!

 

手榴弾は爆発し、戦闘室内に在った砲弾にも誘爆!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

15cm自走榴弾砲ロレーヌ・シュレッパーは花火の様に大爆発を起こした!

 

「ウサギさんチーム………仇は取りましたよ」

 

燃え盛る15cm自走榴弾砲ロレーヌ・シュレッパーを見ながら、手榴弾を投げ入れた人物………竜真がそう呟く。

 

「ロレーヌ・シュレッパーがっ!?」

 

「ええいっ! 撃て撃てぇっ!!」

 

とそこで、その竜真に狙いを定め、スフィンクス歩兵部隊の機銃掃射とクレオパトラ戦車部隊のⅢ号戦車N型からの榴弾砲撃が開始される!

 

「っ!!」

 

竜真は砂の上を走り出し、回避行動を取る。

 

それを追う様に、スフィンクス歩兵部隊の機銃掃射とクレオパトラ戦車部隊のⅢ号戦車N型からの榴弾砲撃を続ける。

 

爆発と飛び交う銃弾の中を砂を撒き上げながら走り抜ける竜真。

 

「何だ、アイツ!? この砂の上をあんな速さで!?」

 

「陸上部員か何かか!?」

 

そんな竜真の様子を見たスフィンクス歩兵達は、竜真の事を陸上部員かと思い始める。

 

「このまま味方に合流を………」

 

「ヒューッ! そうは行かないぜーっ!!」

 

とそこで不意にそんな声が聞こえたかと思うと、竜真の近くの砂が爆ぜる。

 

「!?」

 

「中々の走りじゃねーか。しかーし! この『追撃のマンバ』様からは逃げられるかなぁ?」

 

驚いていた竜真に、爆ぜた砂の中から現れた人物………スフィンクス歩兵の『マンバ』

 

通称『追撃のマンバ』がそう言い放つ。

 

マンバは屈強な体躯の多いスフィンクス歩兵達の中では珍しく細身な体躯をしているが、腕が妙に長かった。

 

「クッ!!」

 

すぐさま走るペースを上げる竜真。

 

「ヒューッ! 良いねぇ! そうこなくっちゃっ!!」

 

しかし、マンバも更にペースを上げ、追い縋って来る。

 

「! 速いっ!」

 

「だけじゃないぜぇっ!!」

 

と、驚く竜真に向かって、マンバはその長い腕を伸ばす!

 

アッと言う間に、戦闘服の背中を掴まれる竜真。

 

「うわっ!?」

 

「ヒューッ!」

 

そしてそのまま、竜真の身体を片腕で抱え上げる様に持ち上げたかと思うと、背中から地面に投げつけた!

 

「ガハッ!」

 

「終わりだ、おチビちゃん」

 

砂の上に叩き付けられた竜真に、エンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.Ⅰを向けるマンバ。

 

「!!」

 

竜真絶体絶命か!?

 

しかし、その時!!

 

銃声がしたかと思うと、マンバのエンフィールド・リボルバーNo.2 Mk.Ⅰが弾き飛ばされる。

 

「アウッ!?」

 

「やらせまセンッ!!」

 

銃口から硝煙の上がって居るFN ブローニングM1910を構えていたジェームズがそう言い放つ。

 

「ジェームズ!」

 

「この野郎~! テメェから先に片付けてやるっ!!」

 

竜真が叫んでいると、マンバは狙いをジェームズに変え、ダッシュで接近を試みる。

 

「!!」

 

それを見たジェームズは、マンバに背を向けて走り出し、追い駆けっこが始まる。

 

「ヒューッ! 言った筈だぜぇ! 俺様からは逃げられないってなぁっ!!」

 

すぐにジェームズに追い付き、竜真と同じ様に、その背に向かって腕を伸ばすマンバ。

 

そて、その手が遂にジェームズを捉える!

 

………かに思われた瞬間!!

 

「………ドウでしょうね!」

 

ジェームズがそう言い放ったかと思うと、更に走るスピードを上げた!!

 

「!? ん何ぃっ!!」

 

更にスピードを上げたジェームズに、今度はマンバが驚愕する。

 

自身もスピードを上げるが、追い付けない。

 

「馬鹿な! 俺様より………この追撃のマンバ様から逃げきれそうだと!? そんな事あって堪るかぁっ!!」

 

プライドを傷つけられたマンバは、意地になって後先考えず、全力で最高速を出す。

 

「………Forward Note(前方注意)」

 

するとその途端に、ジェームズはそう言い放って、横へと飛び退く。

 

ジェームズが飛び退いた先には、岩が在った。

 

「!? だあああっ!? 止まれねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」

 

反応が遅れた事と最高スピードを出していた事で、マンバはその岩をかわす事が出来ず、頭から突撃!

 

「きゅうう~~~~~………」

 

目の前で火花が散り、頭の上を鳥が飛び交っている様なイメージを感じながら、マンバは気絶して倒れる。

 

そしてそのまま、戦死と判定された。

 

「YES!」

 

ガッツポーズを取って歓声を挙げるジェームズ。

 

しかし、その直後、爆発音が鳴り響く。

 

「!?」

 

見ると、カメさんチームの38tが車体正面装甲に直撃弾を受けて煙を上げており、一瞬の間の後、白旗を上げる。

 

「やられた~~っ!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!! もうお終いだああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

杏の呑気そうな声と、桃の絶望に満ちた叫びが木霊する。

 

「カメさんチームが!?」

 

「此方ワニさん分隊! 分隊員の半数が戦死判定!!」

 

「集中攻撃を受けてる援護してくれっ!!」

 

「誰かぁ! 左を守れっ!!」

 

「チキショーッ! 四方八方から攻めて来やがる!!」

 

更に、歩兵各分隊からも苦戦の報告が次々に挙がる。

 

元々圧倒的寡兵である大洗歩兵部隊にとって、包囲されて総攻撃を受けると言うのは最悪の状況である。

 

プラウダ&ツァーリ戦では、廃村内での戦いと言う事で、廃墟となっていた教会に立て籠もって持ち堪える事が出来たが、今回のフィールドは砂丘………

 

現在、大洗機甲部隊が居る場所には、何も遮蔽物が無かった。

 

こうなれば数と兵器の質で勝るクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が完全に有利である。

 

「駄目だ! この包囲網を如何にかしない限り、我々に勝ち目は無いぞ!!」

 

「だが、如何すれば良いんだ!?」

 

M10戦車駆逐車を1両撃破したⅢ突の中で、エルヴィンとカエサルがそう言い合う。

 

「! 正面、敵戦車ぜよっ!!」

 

とそこで、おりょうが操縦手用の覗き窓から見える正面に、クレオパトラ戦車部隊の戦車が飛び込んで来て、そう叫びを挙げる。

 

「!!」

 

すぐにエルヴィンがその戦車を確認すると、それは………

 

「!? ティーガーッ!!」

 

それは、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊のフラッグ車、ティーガーⅠであった。

 

「フラッグ車! 奴さえ撃破すればっ!!」

 

「! 待て、左衛門佐!」

 

それを聞いた左衛門佐が、ティーガーを撃破しようとするが、エルヴィンが止める。

 

しかし既に引き金は引かれ、三突の砲弾がティーガーⅠ目掛けて放たれる。

 

だが、Ⅲ突の砲弾はティーガーの防盾に命中したかと思うと、火花を散らしただけで弾かれ、明後日の方向へ飛んで行く。

 

「!? 馬鹿なっ!?」

 

「左衛門佐! もう1発だっ!!」

 

左衛門佐が驚愕するが、そこでカエサルがそう言い放ち、主砲に成形炸薬弾を装填してそう叫ぶ。

 

「クッ!」

 

即座に左衛門佐は発砲!

 

成形炸薬弾が、ティーガーⅠの砲塔正面の装甲に命中し、小さな爆発を上げる。

 

爆煙が晴れるとそこには………

 

命中部分の装甲が僅かに穿かれ、灰色に焦げているティーガーⅠの姿だった。

 

「! 成形炸薬弾でも駄目だと!?」

 

「流石ティーガーだ………並みじゃない」

 

左衛門佐が悲鳴の様な声を挙げる中、エルヴィンはコチラに向かって真ん丸に見ているティーガーⅠの砲門を見ながら、苦笑いと冷や汗を浮かべてそう言う。

 

直後にティーガーⅠが発砲!

 

砲弾はⅢ突を直撃!

 

一瞬の間の後に、Ⅲ突から白旗が上がる。

 

「!? カバさんチームもやられたぞ!!」

 

「神大歩兵隊長! 航空支援を要請しましょうっ!!」

 

その光景を見ていた俊がそう叫んだ瞬間、清十郎が迫信にそう進言する。

 

この状況を打開出来るのは航空機による支援攻撃しかないと考えたのである。

 

「………それしかないか。こちら神大! 航空支援を要請する!!」

 

一瞬の逡巡の後、迫信は通信機に向かってそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫信からの要請を受け、大洗学園艦と共に近くの港に停泊していた一航専の学園艦より、六郎の零戦二一型を中心とした護衛戦闘機部隊と共に、ハンネスの率いるスツーカ急降下爆撃機部隊が発進。

 

更にそこへ戦略爆撃機部隊として『一式陸上攻撃機』の編隊も参加し、試合会場へと飛んだ。

 

「コチラ、護衛隊長の坂井。スツーカ隊並びに一式陸攻隊。方位ヒトヒトマルマルへ」

 

「スツーカ隊、了解。方位ヒトヒトマルマルへ進路変更」

 

「一式陸攻隊、了解」

 

零戦二一型に取り囲まれている様な形で飛行を続けるスツーカ隊と一式陸攻隊。

 

「イワン共の戦車は無いらしいが、この際構わん。敵の戦車は全てスクラップにしてくれる!」

 

「結局、戦車を撃破出来るなら何でも良いんですね………」

 

今から戦車を撃破する事が楽しみで楽しみで仕方がないと言う様な様子のハンネスの声を聞いて、後部機銃座で後方と上空を警戒していたエグモンドは、呆れる様な声を漏らして一瞬ハンネスの方を振り返る。

 

と、再び視線を後方と上空に向けた瞬間………

 

太陽の中に、小さな黒い点が幾つも浮かんでいるのを目にする。

 

「! 敵機来襲っ!!」

 

それを見たエグモンドは、即座にそう声を挙げた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その報告は、忽ち航空部隊全員の耳に飛び込む。

 

だが、その直後に………

 

太陽の中から急降下して来た戦闘機………『F4F ワイルドキャット』の編隊による機銃が火を噴く。

 

「! 散開っ!!」

 

ハンネスが叫び、零戦隊とスツーカ隊は散開して回避行動を取る。

 

しかし、1機の一式陸攻が逃げ遅れて被弾。

 

撃墜と判定された為、離脱して行く。

 

「チイッ! やってくれたなっ!!」

 

「まだ来ますっ!!」

 

ハンネスがそう言った瞬間に、エグモンドが更にそう言い放つ。

 

直後に、再び太陽の中から今度は『ホーカー ハリケーン』が急降下して来て、スツーカ隊に襲い掛かる。

 

「チイッ! うっとおしい連中め! エグモンド! 後ろに張り付かせるなよ!!」

 

「分かってますっ!!」

 

ハンネスの声に、既に後部機銃を発砲し、1機のハリケーンを撃墜していたエグモンドがそう返す。

 

とそこで、ハンネスの目に、ワイルドキャットに狙われている隊のスツーカが飛び込む。

 

「! 6番機! 狙われているぞ! 回避行動を取れっ!!」

 

ハンネスからの通信を受けて、そのスツーカは慌てて回避行動を取り始める。

 

しかし、戦闘機と比べて遥かに鈍重な爆撃機では振り切る事は難しく、遂に機銃の射程内に納められる。

 

「貰った! 撃墜マーク1つ頂き!」

 

撃墜を確信したワイルドキャットのパイロットが、思わずそう声を挙げる。

 

だが、その直後に、機体を振動が襲う!!

 

「!? 何っ!?」

 

ワイルドキャットのパイロットが驚いた瞬間に、安全の為に航空機道用の小型機に取り付けられていた射出座席が作動。

 

パイロットが居なくなったワイルドキャットは、火を噴きながら墜落する。

 

「!!」

 

落下傘降下しているワイルドキャットのパイロットが見たのは、自分の真上を悠々と飛び越えて行く、零戦二一型の姿だった。

 

「ココは我々に任せろ! 爆撃機隊は直ちに戦場へ迎えっ!!」

 

そう言いながら、更にハリケーンを撃墜する六郎。

 

「分かってる! 全機! 敵戦闘機には構うなっ!! 護衛戦闘機部隊を信じて、戦場へ向かう事を優先しろっ!!」

 

ハンネスのそう言う指示が飛び、散開していたスツーカと一式陸攻の爆撃機部隊は再び集結。

 

試合会場を目指して飛ぶ。

 

「行かせんっ!!」

 

「ならばコチラはやらせんっ!!」

 

それを追おうとするクレオパトラ&スフィンクス戦闘機部隊に、六郎が率いる護衛戦闘機部隊が立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほと弘樹が不在ながらも奮戦する大洗機甲部隊。
しかし、元々数と戦車の性能で劣っている為、徐々に押され始める。

頼みの綱の航空支援も、敵の迎撃戦闘機に阻まれる。
大洗機甲部隊の命運は風前の灯火。
果たしてこのまま負けてしまうのか?………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第109話『灼けた大地に孤影を踏んでです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第109話『灼けた大地に孤影を踏んでです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「…………」

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

グッタリとしていて、呼吸も粗くなって来ているみほを背負い、只管に灼熱の砂丘を歩く弘樹。

 

しかし、行けども行けども、広がっているのは砂の山と岩肌ばかりである………

 

まるで同じ場所を歩き続けているのではないのかと錯覚しそうなぐらい、景色は代わり映えしなかった………

 

「…………」

 

それでも弘樹は、進むのを止めない。

 

必ず味方と合流して、みほを助ける………

 

今の弘樹の頭には、それしかなかった。

 

「…………」

 

そして、そんな2人の後を、ネフェティは相変わらず追い続けていた。

 

と、そこで………

 

「………弘樹………くん………」

 

今まで粗い呼吸音しか漏らしていなかったみほが、不意に呟いた。

 

「! 西住総隊長」

 

「ゴメン………少し………休ませて………」

 

「…………」

 

近くに日陰は無い………

 

しかし、それを聞いた弘樹は立ち止まり、みほを背から降ろし、抱き抱える様に支える。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

みほの顔は脂汗が大量に浮かんでおり、顔色も悪かった。

 

(………コレ以上、彼女に負担は掛けられない)

 

それを見た弘樹は、みほが限界に近い事を悟る。

 

そして、戦闘服の胸元の内側に手を入れたかと思うと、信号拳銃を取り出した。

 

コレは、歩兵道・戦車道連盟が各選手に携帯させている、救難要請、或いは棄権申請用の物である。

 

試合中、様々な事情により、事故にあったり遭難した、或いは何らかの事情で棄権する選手を速やかに救助・回収する為の措置である。

 

しかし、当然ながら使用した場合、救助を要請している、或いは棄権すると言う意志を表している事となり、その試合から離脱する事になる。

 

つまり、自動的に戦死・撃破判定を受ける事となるのだ。

 

「…………」

 

取り出した信号拳銃を見て逡巡する弘樹。

 

コレを使えばみほを助ける事は出来る。

 

だが同時に、自分達が試合を棄権する事になる為、大洗機甲部隊の勝率は絶望的なものなる………

 

みほの為に大洗機甲部隊を見捨てるか………

 

それとも、大洗機甲部隊の為にみほを見捨てるか………

 

弘樹にとって、17年の人生で最大の決断を迫られる。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

悩んでいる間にも、みほの具合は刻一刻と悪化して行っている………

 

「…………」

 

弘樹の顔が険しさを増し、拳が血が出んばかりに握り締められる。

 

「………すまない………許してくれ………戦友達よ」

 

やがて、弘樹は決意した様な表情を見せたかと思うと、大洗機甲部隊の面々に向かって謝罪する。

 

「…………」

 

そして、信号拳銃を空に向かって構える………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として、弘樹の背後の空中から、爆発音が聞こえて来た!

 

「!?」

 

振り返った弘樹が見たモノは………

 

タイフーンとワイルドキャットの戦闘機隊に襲われているスツーカと一式陸攻の編隊。

 

そして、そのスツーカと一式陸攻の編隊を襲っているタイフーンとワイルドキャットの戦闘機隊と空中戦を繰り広げている零戦二一型の一団の姿だった。

 

「! あの機体は………六郎か!」

 

弘樹は、遥か上空を飛んでいる零戦二一型の一団の中に、六郎の機体が在る事を確認してそう声を挙げる。

 

「神大歩兵隊長が航空支援を要請したのか………敵機に襲われている様だが、コレはチャンスだ」

 

そう言うと、信号拳銃を懐に仕舞い、代わりに発煙筒を取り出す弘樹。

 

そして、点火させると、白い煙が上げ始める。

 

その発煙筒を片手で掲げる様にして、左右に振る。

 

(気づいてくれ!………)

 

祈る様にそう念じながら、弘樹は煙が上がる発煙筒を左右に振り続ける。

 

「! アレは我等達の航空部隊! オオーイッ! ココだぁっ!! 妾は此処に居るぞぉーっ!!」

 

一方のネフェティも、タイフーンとワイルドキャットの戦闘機隊が、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の支援部隊である事に気付いて、両腕を振って合図を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

その空中戦の真っただ中では………

 

「クソッ! やられた! 離脱するっ!!」

 

1機の一式陸攻が撃墜判定を受け、空域から離脱して行く。

 

「隊長! 一式陸攻部隊の残りは3機です!」

 

「分かっている! このまま飛び続けろっ!!」

 

後部機銃座で、新たにワイルドキャット1機を撃墜しながらエグモンドがそう報告を挙げると、ハンネスは怒鳴る様に通信回線に声を響かせる。

 

「チイッ! 数が多いっ!!」

 

護衛に付いて居る六郎は、敵機の数の多さに、思わず舌打ちを漏らす。

 

「隊長! 後ろですっ!!」

 

「!?」

 

と、隊員の声に六郎が後ろを振り返ると、1機のタイフーンが六郎の乗る零戦の背後を取っていた。

 

「後ろを取った! 貰ったぞっ!!」

 

勝利を確信しながら機銃の引き金を引くタイフーンのパイロット。

 

しかし!

 

「何のぉっ!!」

 

六郎はそう叫んだかと思うと、自機の機首を思いっきり引き上げる!

 

急な機首上げで、六郎の零戦は粗垂直状態となってスピードが大きく落ち、機銃の弾丸とタイフーンは、零戦の尾部の下を通り抜ける。

 

「な、何ぃっ!? レシプロ機でコブラだと!?」

 

「人呼んで! 六郎スペシャルッ!!」

 

タイフーンのパイロットが驚いている間に、六郎は機体を水平に戻し、機銃を発射!

 

銃弾がタイフーンの尾翼を全て吹き飛ばす。

 

「やられたぁっ!!」

 

タイフーンのパイロットの叫びが響くと、航空機道用の機体に取り付けられている射出座席が作動し、機外へと放り出され、落下傘降下に入る。

 

尾翼を全て失ったタイフーンは、そのまま黒煙を引いて墜落し、爆発四散した。

 

「敢えて言おう! 坂井 六郎であると!!………ん?」

 

タイフーンが墜落したのを確認していた六郎がそう叫んだ瞬間、視界の端にタイフーンが墜落したのとは違う煙を捉える。

 

それは、弘樹の発煙筒の煙だった。

 

「! アレは弘樹!? 何故あんな所にっ!?」

 

粗豆粒にしか見えない高度にも関わらず、六郎はその煙を上げているのが弘樹である事に気付き、驚きの声を挙げる。

 

そして更には、その弘樹の傍でグッタリとしているみほの姿にも気づく。

 

「西住総隊長まで!? コレは只事ではない!」

 

すぐさま六郎は、大洗機甲部隊の本隊へ連絡を入れようと、通信機の周波数を合わせ始める。

 

「! オイ、アレは!?」

 

「ネフェティ総隊長だ! あんな所に居たのか!?」

 

「すぐに地上部隊に連絡を!!」

 

一方、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の支援航空部隊も、弘樹達の傍にネフェティの姿が在る事に気づき、すぐさま本隊に連絡を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗機甲部隊とクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の本隊は………

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

三式が爆発し、ねこにゃー達の悲鳴が響き渡ったかと思うと、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「! アリクイさんチームが!?」

 

「拙いぞ! もう半分近くがやられてるっ!!」

 

その光景を見ていた大洗歩兵部隊の面々からそんな声が挙がる。

 

ココまで今やられたアリクイさんチームを含め、ウサギさんチームのM3リー、カメさんチームの38t、カバさんチームの三突がやられている。

 

歩兵の残存数も半分を割っており、大洗機甲部隊の戦力は半減していた。

 

対するクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊も、セモヴェンテM42 da 75/34を2両、M3A1スチュワート軽戦車を2両、M10戦車駆逐車を1両、巡航戦車MK.Ⅳ クルセイダーMk.Ⅲを2両、Ⅲ号戦車N型を2両撃破されている。

 

しかし、元々部隊規模の大きいクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊にとってみれば、その損害は許容範囲と言えた。

 

「航空支援は如何したんだ!?」

 

「まだ来ないのか!?」

 

頼みの綱である航空支援が何時まで経っても到着しない。

 

戦況は絶望的になろうとしていた。

 

「フフフ………全滅の時間の問題の様だな………」

 

そんな大洗機甲部隊の様子を見て、撃ち終えたSIG MKMS短機関銃のマガジンを交換しながら、アナコンダがそう言い放つ。

 

「…………」

 

一方、その隣では、キングコブラが不満そうな様子で突っ立っていた。

 

足元には、倒されて戦死判定を受けている大洗歩兵達が折り重なる様に倒れている。

 

「まだ不満なのか、キングコブラ」

 

「…………」

 

アナコンダがそう声を掛けると、キングコブラは睨み付ける様な視線を向ける。

 

「睨むな。総隊長の捜索隊を出さないと判断した事は謝る。だが、総隊長ならば自分を気にせず勝利を得よと命じた筈だ。違うか?」

 

「…………」

 

睨み付けられたアナコンダがそう返すと、漸く視線を外すキングコブラ。

 

「………!!」

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

そして、蛇腹剣を伸ばし、大洗歩兵隊員数名を薙ぎ払う様に斬り倒す。

 

「全く………八つ当たりも程々にしておけ。流石に相手が憐れだ」

 

そう言いながらも、表情には笑みを浮かべているアナコンダも、SIG MKMS短機関銃を掃射し始めるのだった。

 

「………最早コレまでか」

 

「そんなこと言わないでよ、麻子!」

 

みほ不在のあんこうチームのⅣ号の中で、麻子が思わずそう呟き、沙織がすぐにそう言い返す。

 

「ですが、このままではやられるのを待つだけです!」

 

華がそう言いながら主砲を発射し、Ⅲ号N型を1両撃破する。

 

「西住殿が居てくれれば………」

 

次弾を装填しながら、優花里がそう呟く。

 

「みほさん………」

 

「みぽりん………」

 

「…………」

 

その優花里の呟きを聞いた華、沙織、麻子の顔に影が差す。

 

と、その時!!

 

『コチラ航空部隊の坂井! 大洗機甲部隊、応答願うっ!!』

 

「! ハイ! コチラあんこうチーム!!」

 

通信回線に、六郎の声が響き渡ったのを聞いて、沙織がすぐに回線を繋げる。

 

『武部くんか! そちらの状況は!?』

 

「クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に包囲されて集中攻撃を受けてるの! このままじゃ全滅しちゃうよ!!」

 

六郎が状況を尋ねると、沙織は悲鳴の様にそう返す。

 

『坂井くん! 航空部隊はまだ着かないのか!?』

 

とそこで、迫信が回線に割り込んで来る。

 

『現在、敵戦闘機部隊の襲撃を受けている! 敵の数が多く、既に爆撃機部隊の半数がやられている! 突破と到着にはまだ時間が掛かる!!』

 

「そんなっ!?」

 

『万事休すか………』

 

六郎からの返事に、沙織が絶望の表情を浮かべ、迫信もそんな呟きを漏らす。

 

『だが、コチラで今、弘樹と西住総隊長を発見した!』

 

「!? みぽりんと舩坂くんを!?」

 

『! 本当かね!?』

 

だが、続けて弘樹とみほを発見したと言う報告を受け、一途の望みが生まれる。

 

『位置は………1504地点だ!』

 

『了解した!』

 

「1504地点だね! 分かったっ!!」

 

沙織はすぐに、生き残っている大洗機甲部隊員全員の通信回線を開く!

 

「みぽりんと舩坂くんが見つかったよ! 場所は1504地点だって!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた大洗機甲部隊員達に驚きが走る。

 

「やっぱり無事だったか、弘樹の奴………」

 

「しかもしっかりと西住総隊長を助けてるとはよぉっ!!」

 

「舩坂さんは、本当に不死身ですね!」

 

シメオン、地市、楓からはそんな声が挙がる。

 

「すぐに迎えに行きましょう!」

 

「ですが、この包囲を如何すれば良いのか………」

 

優花里がそう声を挙げるが、華が照準器を覗き込んだままそう返す。

 

その言葉通り、まだ大洗機甲部隊はクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に包囲されている状態である。

 

戦力が半減している今、一点突破を掛けるのも難しい………

 

状況は好転したワケではなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、しかし!!

 

ココで天は、大洗機甲部隊に味方した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程まで陽炎が立ち上る程のかんかん照りだった空に、まるで鉛の様な黒雲が立ち込め始めたのである。

 

更には、雷までもが鳴り始めた。

 

「!? 天気が………」

 

「!? コレは!?………マズイッ!!」

 

その空模様を見たアナコンダがそう叫んだ瞬間!!

 

突然、バケツを引っくり返した様な豪雨が降り始めた!!

 

スコールである!!

 

「うわあっ!? スコールだっ!?」

 

「じゅ、銃に水が!?」

 

「せ、戦闘服が水を吸って、重く………」

 

豪雨を真面に浴びたスフィンクス歩兵達は、戦闘服が急激に水を吸って重くなり、一部の者は銃に水が入り、機能不全を起こす。

 

「キャアッ!」

 

「ちょっ! ハッチを閉めて! 早くっ!!」

 

「わああっ!? 通信機がショートしたっ!?」

 

また、一部のハッチが開けたままだったクレオパトラ戦車部隊でも、大量の雨水が戦車内に流れ込み、乗員達は大慌てとなる。

 

通信機や一部の電気系統がショートを起こす。

 

「! チャンスだ! 全部隊、11時方向へ突撃! コレより1504地点へ向かい、西住総隊長と舩坂分隊長を回収する!!」

 

「「「「「「「「「「!! 了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そのチャンスを逃さず、迫信は突撃命令を出し、大洗機甲部隊員達は一瞬戸惑いながらも、1504地点へ向かう11時方向に向かって一斉に突撃を掛けた!

 

「! 大洗機甲部隊が突撃を開始したぞ! 阻止しろぉっ!!」

 

「突撃って、何処にだ!?」

 

「前が全然見えないぞっ!!」

 

大洗機甲部隊が突撃を開始した事に気付いたスフィンクス歩兵がそう声を挙げたが、豪雨は僅か数メートル先が見えないまでの雨量となっており、更に激しい雨音で他の音が掻き消されてしまっていた。

 

「見えるかっ!?」

 

「駄目です! 雨で何も見えません!!」

 

1両のバレンタイン歩兵戦車Ⅱが、照準器や覗き窓越しに大洗機甲部隊の姿を探すが、何も見えない。

 

するとそこで………

 

自車の正面に、大きな影が現れた!

 

「「「「!?」」」」

 

驚くバレンタイン歩兵戦車Ⅱの乗員達の目の前に現れたのは、ポルシェティーガーだった!

 

「! う、撃………」

 

「どすこーいっ!!」

 

バレンタイン歩兵戦車Ⅱの指示が飛ぶよりも先に、ポルシェティーガーが思いっきり体当たりをブチかました!!

 

「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」」」」

 

バレンタイン歩兵戦車Ⅱの乗員達の悲鳴が響き渡り、重量差からバレンタイン歩兵戦車Ⅱが玩具の様に弾き飛ばされて脇に転がる。

 

「そこです!」

 

そこへオマケだと言わんばかり、ポルシェティーガーに続いて通過したⅣ号が、エンジン部に砲弾を叩き込んで行った。

 

一瞬の間の後、バレンタイン歩兵戦車Ⅱから白旗が上がる。

 

「爆発音がしたぞ!」

 

「クソッ! 如何なっている!?」

 

降り続いているスコールのせいで、未だに状況が把握出来ないクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊。

 

やがて、漸くスコールが収まって目にしたのは………

 

撃破されたバレンタイン歩兵戦車Ⅱと、その場を大洗機甲部隊が通り抜けた跡だった。

 

「! しまった! 突破された!!」

 

「………全部隊、1504地点へ向かえ」

 

するとそこで、キングコブラからそう指示が飛んだ。

 

「待て、キングコブラ! 総隊長の回収よりも、大洗を追撃するべきだ!!」

 

そんなキングコブラに、アナコンダがそう言う。

 

実は先程、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の支援航空部隊より、ネフェティを発見したとの報が入っていたのだ。

 

「………その近くで西住 みほと舩坂 弘樹を発見したそうだ」

 

だが、追加の情報を受けていたキングコブラがそう返す。

 

「!? 何っ!?」

 

「大洗機甲部隊はそこへ向かって居る………ならば総隊長と合流してから叩いても遅くは有るまい」

 

「だが、しかし!!………」

 

アナコンダが更に何か言おうとしたところ………

 

「!!………」

 

キングコブラはアナコンダの襟首を掴んで、自分の方へと引き寄せる!

 

「ガッ!………」

 

「文句はあるまい………」

 

有無を言わぬと言った迫力で、アナコンダにそう脅しかけるキングコブラ。

 

「! わ、分かった! それで良いっ!!」

 

その迫力に押され、アナコンダは頷く。

 

「………移動開始」

 

キングコブラはアナコンダを開放すると、1504地点へと移動を開始する。

 

「クソッ!」

 

アナコンダは悪態を吐きながらも、その後をクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を率いて続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

限界の近いみほを前に、試合を棄権する事が脳裏に浮かぶ弘樹。
だが運よく、敵航空部隊に襲われていた六郎達が近くを通りかかり、すぐに大洗機甲部隊に連絡が行く。
そして大洗機甲部隊は、奇跡的に起こったスコールで、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を突破にする事に成功する。
果たして、合流できるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第110話『熱砂の危機です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第110話『熱砂の危機です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

その上空にて………

 

1機のスツーカが、タイフーンの弾丸を浴びて炎上。

 

パイロットが射出座席で脱出すると、機体は一気に失速して墜落。

 

砂丘に叩き付けられて、爆発した。

 

「7番機がやられました!」

 

「ええい! 根性の無い奴め!!」

 

「根性で如何にかなる問題じゃないですよ………」

 

報告にそう怒鳴るハンネスに、エグモンドはそう返す。

 

「空の魔王め! 俺が叩き落してやる!!」

 

とそこで、1機のワイルドキャットが、ハンネスのスツーカを落とそうと後ろに付く。

 

「エグモンド! 追っ払えっ!!」

 

「もう弾がありませんよ!」

 

エグモンドに追っ払えと言うハンネスだったが、既に後部機銃座の弾丸は尽きていた。

 

「コレで俺の名も上がるってもんだ!!」

 

ワイドルキャットのパイロットはそう言いながら、照準器の中心にハンネスのスツーカを捉えようとする。

 

「ならばコレだぁっ!!」

 

すると何を思ったか、ハンネスはスツーカを急降下させ始めた!

 

「うわあっ!? ちょっ!? 隊長! 如何する気ですか!?」

 

「やかましい! 黙ってろっ!!」

 

エグモンドにそう返し、急降下を続けるハンネス。

 

「逃がすか!」

 

ワイルドキャットはそれを追う様に急降下する。

 

スツーカの『ジェリコのラッパ』と称される、独特の風切り音が辺りに鳴り響く。

 

「見てろよ………立て直す為に機首上げをしたところを撃ち抜いてやる」

 

ワイルドキャットのパイロットは、ハンネスが水平飛行に戻る瞬間を狙い撃とうとする。

 

しかし、間も無く限界高度に達しようとしているにも関わらず、ハンネスの機体は水平飛行に戻る気配を見せなかった。

 

「!? 何故引き起こさない!? このままでは地面に激突するぞ!? 気でも狂ったのか!?」

 

引き起こしをする様子の見えないハンネス機を見て、ワイルドキャットのパイロットはハンネスの正気を疑う。

 

その間にも、地面はドンドン接近して来る。

 

「! う、うわぁっ!? 駄目だぁっ!!」

 

とうとう耐えられなくなり、引き起こしを行うワイルドキャット。

 

だが、時既に遅く、機体は機首を上げながらも地面に向かう。

 

勿論、ハンネスのスツーカも。

 

「うわぁっ!? ぶつかるっ!!」

 

「バカモン! 何の為の頑丈な固定脚だ!!」

 

エグモンドの悲鳴が響く中、ハンネスがそう言い放った瞬間、スツーカの車輪が砂丘に接触。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間にハンネスはエンジンをフルパワーにする。

 

すると何と!!

 

スツーカは激しく砂を撒き上げながら、砂丘の上を『走行』して行った!

 

「そら、飛べぇっ!!」

 

そしてそのまま、砂丘の頭頂部から再び離陸する。

 

「ば、馬鹿なああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

墜落すると判定されたワイルドキャットから射出座席で飛び出したパイロットが、その様を見て驚愕する。

 

ワイルドキャットはそのまま砂丘に叩き付けられ、グシャリと潰れた。

 

「ハハハハハッ! 見たか!! スツーカの頑丈さを舐めるなよ!!」

 

「航空機をこんな使い方するのは隊長ぐらいですよ………」

 

勝ち誇る様なハンネスに、エグモンドがそうツッコミを入れるのだった。

 

とそこで、3機のワイルドキャットの編隊が、地面の方に向かって高度を落とし始める。

 

「むっ!? また来たか!?」

 

「いえ、コチラには向かって来ていません」

 

それを見たハンネスが警戒するが、エグモンドは3機のワイルドキャットの編隊は、自分達に向かって降下して来ているのではない事を察する。

 

「では、何を………! イカン!」

 

「! 敵の狙いは弘樹さんと西住さんです!」

 

そこでハッと気づくハンネスとエグモンド。

 

3機のワイルドキャットの編隊の狙いは、弘樹とみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹とみほが居る地点………

 

「!!」

 

自分の方に向かって来る3機のワイルドキャットの編隊に気付いた弘樹は、すぐに発煙筒を放ると、みほを背負子式の椅子から降ろし、抱き抱えて走り出す。

 

直後に、3機のワイルドキャットの編隊が機銃掃射をお見舞いして来て、背負子式の椅子が粉々に砕け散った!

 

「舩坂 弘樹を倒せるなんて! またとない機会だ!!」

 

「流石の奴も、航空機に狙われては一溜りもあるまい!」

 

「逃げ回ってヒイヒイ言ってるところを狙い撃ちしてやるぜ!」

 

少々下衆な台詞を吐きながら、3機のワイルドキャットの編隊は旋回し、弘樹とみほを追う。

 

「良いか! 奴が戦車乗りから離れたところを狙うんだ!」

 

「「了解っ!!」」

 

そう言い合うと、みほを抱き抱えて走る弘樹の後にピッタリと付ける3機のワイルドキャットの編隊。

 

戦車から降りている、或いは身を出している戦車乗りの女性を攻撃する事は、ルールによって固く禁じられている。

 

また、そのルールを悪用されない為に、戦車乗りの女性を盾にする様な行為も禁止とされている。

 

つまり、現状では3機のワイルドキャットの編隊は、みほを巻き込む恐れが有るので攻撃出来ないが………

 

弘樹も、いつまでもみほを抱えたまま行動する事は出来ない。

 

何れ弘樹がみほから離れる時が来る………

 

3機のワイルドキャットの編隊は、その時を待ち続ける。

 

「………!」

 

やがて弘樹は、行く手に大きな岩が有るのを確認する。

 

その岩の陰に走り込むと、抱えていたみほを降ろし、岩陰に隠れる様にする。

 

「ひ、弘樹くん………」

 

「すぐに戻ります………」

 

何かを言おうとしたみほにそう返し、弘樹は四式自動小銃を構えると、岩陰から飛び出した!

 

「! おっ! 如何やら離れたみたいだな!」

 

「絶好のチャンスだ!」

 

「コレで俺達も英雄だな!」

 

それを確認した3機のワイルドキャットの編隊が、弘樹へと向かう。

 

「…………」

 

背後の空から爆音が聞こえて来るのを感じながらも、砂丘を走り続ける弘樹。

 

「そら、喰らえっ!!」

 

と、そこで遂に、3機のワイルドキャットの編隊は弘樹に機銃掃射を見舞う!

 

「!!」

 

しかし、弘樹はその場に伏せ、如何にかやり過ごす。

 

「チッ! 猪口才な!!」

 

「反転してもう1度だ!」

 

3機のワイルドキャットの編隊は、もう1度機銃掃射を見舞う為、弘樹の頭上を通り抜けて行く。

 

その瞬間!!

 

「!………」

 

弘樹が四式自動小銃を構え、3機の内、右に位置取っていたワイルドキャットに向かって発砲した!!

 

弾丸は、ワイルドキャットの下部に命中。

 

航空燃料が漏れ始める。

 

「!? 燃料計が低下!?」

 

「オイ! 機体の下から燃料が漏れてるぞ!?」

 

燃料計の針が低下しているのを見たパイロットが驚いていると、別のワイルドキャットのパイロットが、下部から燃料が漏れている事を指摘する。

 

「まさか、撃たれたのか!?」

 

「んな馬鹿な!? 低空飛行してたとは言え、ライフル銃の弾を航空機に当てるなんて!?」

 

パイロット達が有り得ないと言う様な声を響かせる中、燃料の漏れていたワイルドキャットの機体がガクリと揺れる。

 

「!? うおっ!? ヤバいっ!?」

 

立て直しを図るパイロットだったが、既に燃料計の針は0を示しており、プロペラの回転も止まる。

 

「クソォッ! 駄目だぁっ!!」

 

そうパイロットが叫んだ瞬間に射出座席が起動。

 

パイロットが座席ごと機外に放り出されると、ワイルドキャットは失速し、地面に叩き付けられてバラバラになった。

 

「クソッ! あの野郎!!」

 

その光景に激昂に駆られたパイロットが、機体をインメルマンターンで反転させ、再度弘樹の元へと向かう。

 

「ま、待てっ!!………」

 

「喰らえっ!!」

 

残りの1機のワイルドキャットのパイロットが止めるが、その瞬間には反転したワイルドキャットは、弘樹に向かって再び機銃掃射を仕掛けた!

 

「!!………」

 

弘樹は横っ飛びをして、ワイルドキャットの射線から逃れる。

 

「…………」

 

そして何を思ったか、ワイルドキャットが通過しようとしていた地面に向かって発砲した。

 

と、銃弾が地面に当たった瞬間!!

 

忽ちその辺り地面が火の海となった!!

 

「!? なっ!?」

 

突然目の前まで立ち上った火柱に驚愕するワイルドキャットのパイロット。

 

何と弘樹は、先程撃ち落としたワイルドキャットから洩れた燃料に火を着けたのである!

 

一瞬にして巨大な炎が上がった事で、その周辺の空気が一瞬だが無くなる。

 

「!? お、落ちるぅっ!?」

 

だがそれは、航空機を失速させるには十分な時間だった。

 

空気が無くなった事で、ワイルドキャットは一気に失速。

 

腹を打ち付ける様に地面に接触したかと思うと、パイロットが射出座席でブッ飛ばされ、機体は粉々に砕けて炎上した。

 

「クッ! 化け物めぇっ!!」

 

と、残る1機のワイルドキャットが、自棄になった様に弘樹へと向かう。

 

「…………」

 

その向かって来るワイルドキャットに対し、四式自動小銃を構えて仁王立ちする弘樹。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

ワイルドキャットが、弘樹に向かって12.7mm弾を放つ。

 

「…………」

 

その弾丸がすぐ傍を掠めながらも、射撃姿勢を崩さず、ワイルドキャットに狙いを定める弘樹。

 

そして、ワイルドキャットの距離と高度が、四式自動小銃の射程内に入った瞬間!

 

「………!」

 

弘樹は引き金を引き、1発発砲。

 

放たれた弾丸は、ワイルドキャットのプロペラの隙間を擦り抜け、冷却用の空気取り込み口からエンジン部へと入り込んだ!

 

「!? うおおおっ!?」

 

途端にワイルドキャットの機体がガクガクと揺れ始める!

 

そしてエンジンから黒煙が上がり始めたかと思うと、一瞬にして炎を上げる。

 

「だ、脱出っ!!」

 

途端に射出座席で脱出するパイロット。

 

炎上したワイルドキャットは、空中で分解し、バラバラの状態で砂丘の彼方此方へと落ちるのだった。

 

『何とーっ! 舩坂 弘樹ぃ! まさかの航空機撃墜の戦果だぁっ!!』

 

『いや~、対空火器じゃなくて、普通の歩兵用装備で航空機を撃墜だなんて、普通なら有り得ないですよ』

 

その様を見ていたヒートマン佐々木とDJ田中が熱い実況を送る。

 

「…………」

 

ワイルドキャットが全て墜落したのを確認すると、弘樹は再びみほの元へと向かう。

 

だが、そこで!

 

またもや機銃掃射が襲い掛かる!

 

「!!………」

 

幸いにも外れた様だが、次の瞬間に弘樹が見たのは………

 

「舩坂 弘樹! 覚悟ぉっ!!」

 

機体下部に取り付けられていたロケットランチャーを放とうとしているハリケーンの姿だった。

 

「!?………」

 

驚きながらも四式自動小銃を構える弘樹。

 

だが、相手がロケット弾では太刀打ちのしようが無い。

 

万事休すか!?

 

 

 

 

 

と、その瞬間!!

 

 

 

 

 

砲撃音が聞こえたかと思うと、ハリケーンの左主翼が吹き飛んだ!!

 

「!!」

 

「なっ!?」

 

弘樹とハリケーンのパイロットが驚く中、左主翼を失ったハリケーンは、錐揉み回転を始める。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

パイロットの悲鳴が挙がると、射出座席が作動し、機外へ放り出される。

 

錐揉み回転していた機体は、砂丘の斜面に激突すると、ボールの様にバウンドしながらバラバラとなり、爆発・炎上した。

 

「! 今のは!………」

 

弘樹は、その砲撃音が戦車砲のモノ………

 

しかも良く聞き慣れていたものである事に気づき、音がした方向を見やる。

 

そこには………

 

「やりました!」

 

「華凄~いっ!!」

 

「戦車砲で航空機を撃墜するとはな………」

 

「まるでオットー・カリウスです!」

 

砂丘の頂上部に陣取り、車内で歓声を響かせ、砲口から硝煙を上げているⅣ号の姿が在った。

 

「! あんこうチーム! 無事だったか………」

 

「弘樹~っ!!」

 

「分隊長~っ!!」

 

「西住総隊長~!」

 

「西住さ~んっ!!」

 

弘樹がそう言うと、砂丘を超えて、無事だった大洗機甲部隊の面々が姿を見せ始める。

 

「…………」

 

それを確認した弘樹は、すぐに踵を返し、岩陰に避難させていたみほの元へと向かう。

 

「西住総隊長! 味方です! 無事合流出来ました!」

 

みほを抱き起しながらそう呼び掛ける弘樹。

 

「………ホントに?」

 

「本当です。ホラ」

 

「みぽり~ん!」

 

「みほさ~~ん!」

 

「西住殿~~~っ!!」

 

「無事か~!」

 

グッタリとしていたみほがそう問い質すと、その耳に沙織達の声が聞こえて来る。

 

「皆………」

 

「さ、行きましょう」

 

弘樹はそう言うと、再びみほを抱き抱え、大洗機甲部隊に合流しようとする。

 

しかし………

 

「! 後方に敵ですっ!!」

 

「何ぃっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

清十郎がそう声を挙げたかと思うと、大洗機甲部隊の一同は、一斉に後方を振り返る。

 

そこには、砂煙を上げて大洗機甲部隊を追撃して来ているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の姿が在った。

 

「! クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊!!」

 

「クソッ! もう追い付いて来やがったのか!?」

 

「弘樹ーっ!! 急げーっ!!」

 

「!!」

 

大洗機甲部隊の一同が慌てる中、地市がそう叫ぶと、弘樹は一気に駆け出す。

 

「駄目だ! もう少しで敵の射程内だ!!」

 

だが、僅かに間に合わず、大洗機甲部隊がクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の有効射程内へ入ってしまう。

 

「そう上手くは行かんぞ。全部隊! 攻げ………」

 

き、とアナコンダが言葉を繋げようとした瞬間!!

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊が居る場所に、次々と爆弾が降り注いだ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「!?」

 

アナコンダが驚きながら空を見上げると………

 

「落とせ落とせ! 爆弾倉を空にしろっ!!」

 

「生き残ってるのは俺達だけなんだ!」

 

「任務はキッチリと果たすんだっ!!」

 

生き残っていた3機の一式陸攻、数機のスツーカ達が、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に対し爆撃を行っていた!

 

「そらそらそらぁっ!!」

 

勿論ハンネスも、G―1型の自慢である37mm砲をクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に向かってドンドンとぶっ放す。

 

「うわぁっ! こりゃ堪らん!」

 

「味方の戦闘機部隊は何をやってるんだ!?」

 

「今だ!………」

 

スフィンクス歩兵の怒声が響く中、弘樹は遂に大洗機甲部隊と合流し、そのままⅣ号の砲塔の上に登った。

 

「舩坂殿!!」

 

「西住総隊長を降ろす! 手伝ってくれっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そして、優花里と華に支えて貰いながら、みほをキューポラからⅣ号へと乗車させる。

 

「みぽりん!」

 

「大丈夫なのか?………」

 

車内へ入ったみほに、沙織と麻子が心配そうに声を掛ける。

 

「ハア………ハア………優花里さん………水………」

 

「ハイ、どうぞ!」

 

息も絶え絶えにみほがそう呟いたかと思うと、すぐさま優花里が水の入った水筒を差し出す。

 

「ん、んぐ、んぐ、んぐ………」

 

みほをそれを受け取ると、一息で一気に飲み干した。

 

「………プハッ!………ハア………ハア………」

 

「みほさん………」

 

「………沙織さん、全部隊に通信を」

 

「! わ、分かった!」

 

水を飲み終えたみほに、華が心配する様に声を掛けたが、みほはそう言い、沙織が通信回線を開く。

 

「………皆さん、御心配をお掛けしました。西住 みほ、部隊に復帰します!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

先程までのグッタリとした様子など微塵も感じさせない調子で、凛とした声でみほがそう宣言すると、大洗機甲部隊は歓声に包まれた。

 

「西住殿、本当に大丈夫なのでありますか?」

 

「弘樹くんが命懸けでココまで連れて来てくれたんだもの………今更引き下がる事なんて出来ないよ」

 

優花里がそう尋ねると、みほは苦しそうな表情を浮かべながらも、揺るぎない口調でそう言った。

 

「………分かりました! この秋山 優花里!! 万が一の時には、西住殿と心中する覚悟です!!」

 

「縁起でもないこと言わないでよ、ゆかりん!!」

 

それを聞いた優花里がそんな事を言い、沙織からのツッコミが飛ぶ。

 

「………反撃を開始します!」

 

「…………」

 

そう宣言するみほが乗って居るⅣ号の傍では、弘樹が四式自動小銃をリロードしていた。

 

『さあ! 遂に合流に成功した西住 みほと舩坂 弘樹! 勝負はまだまだコレからの様です!』

 

『普通に考えれば、大洗に勝ち目は有りませんが………コレばっかりは分かりませんねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にクレオパトラ&スフィンクスの航空部隊が、弘樹とみほへと襲い掛かる。
だが、弘樹は勇敢に戦い………
何と、航空機3機を撃墜する戦果を挙げた。

そして漸く………
2人は大洗機甲部隊との合流に成功。
反撃開始である。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第111話『大洗機甲部隊、奮戦します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第111話『大洗機甲部隊、奮戦します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫信が要請した航空支援部隊が、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の航空部隊に阻まれる。

 

だが、空戦の最中………

 

六郎が地上に、砂丘を超えていた弘樹とみほを発見する。

 

運良くスコールに出くわした大洗機甲部隊は、半数が壊滅と言う被害を出しながらも、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の包囲を突破。

 

弘樹が敵の航空機の襲撃を凌ぐ中………

 

とうとう合流を果たす事に成功する。

 

果たして、逆転は可能なのか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ! この甘ったれ共がああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びを挙げながら、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に次々に37mm砲弾を撃ち込んで行くハンネス。

 

「そらそらそら………むっ!?」

 

しかしそこで、トリガーを引いても砲弾が出なくなる。

 

「クッ! 弾切れか!?」

 

『こちら一式陸攻隊! 爆弾は全て投下しました! 燃料も残り僅かです!』

 

『スツーカ隊、同じく』

 

ハンネスがそう呟くと、一式陸攻部隊とスツーカ部隊からもそう報告が挙がる。

 

敵戦闘機部隊に襲われた際に回避運動を何度も行った事で、燃料を消費してしまった様である。

 

『ハンネス! 敵の戦闘機部隊は大体片付けた! 一旦帰投するなら今しかないぞ!』

 

とそこで、敵戦闘機部隊を相手にしていた護衛戦闘機部隊の六郎から、そう通信が送られて来る。

 

「燃料と弾薬がなければ話にならん………止むを得ん! 一旦帰投する!!」

 

ハンネスは補給の為、一旦帰投する事を決断。

 

一式陸攻部隊とスツーカ部隊が離脱を始める。

 

「ええい! 口惜しい! 弾薬さえあればもっと戦車を撃破してやれたのに!!」

 

「流石の隊長も弾切れじゃ戦えませんね………」

 

心底悔しそうにしているハンネスに、エグモンドがそうツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、地上では………

 

『こちらハンネス! 弾薬と燃料が心許無い! 一旦帰投して補給する! すまない!』

 

「いえ、十分です! ありがとうございます!!」

 

帰投の報告を入れて来たハンネスに、みほはそう返す。

 

「被害状況を報告しろ!」

 

「歩兵部隊は被害甚大! 砲兵部隊の自走砲と野戦砲は殆どが破壊されました!!」

 

一方、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、ハンネス達の航空支援での被害を確認している。

 

「コチラ戦車部隊。M3A1スチュワート軽戦車が1両、Ⅲ号N型が1両、バレンタイン歩兵戦車Ⅱが2両、マチルダⅡが1両やられました」

 

「フラッグ車に損傷はありません」

 

そして戦車部隊から撃破された車両の報告と、フラッグ車の状態の報告が挙がる。

 

「フラッグ車は無傷か………フフフ、運が良い。今の航空支援で仕留められなかった事を存分に後悔させてやろう」

 

その報告を聞いたアナコンダが、不敵に笑いながらそう言い放つ。

 

「………油断するな、アナコンダ。西住 みほと舩坂 弘樹が合流しているのだぞ」

 

しかしそこで、キングコブラが注意する様にそう言う。

 

「何、如何に軍神と戦神と言えど、アレ程までの損耗した部隊で何が出来る? 再度の航空支援を要請したところで間に合わんさ」

 

だが、アナコンダはそう言い返す。

 

「…………」

 

確かに状況はアナコンダの言う通りだが、それでもキングコブラは気に食わない様な様子を見せていた。

 

と、その時………

 

「キングコブラ~っ!!」

 

「!!」

 

響いて来た女性の声に、キングコブラは逸早く反応する。

 

「ハア………ハア………キングコブラ~っ!!」

 

それは、最後の力を振り絞って走って来るネフェティの姿だった。

 

「!………」

 

キングコブラは、すぐさまネフェティの元へ駆け出す。

 

「! オイ!………全く、歩兵隊長殿は総隊長殿の事となると我を忘れるから困る………」

 

そんなキングコブラの姿を見たアナコンダが、愚痴る様にそう呟く。

 

「ネフェティ! 無事だったかっ!!」

 

ネフェティの傍に駆け寄ったキングコブラは、すぐに自分の水筒を手渡す。

 

「んぐ! んぐ! んぐ!………プハーッ! ああ、何とかな………」

 

それを引っ手繰る様に奪うと、すぐさまに飲み干してそう返すネフェティ。

 

「良かった………」

 

途端に、無表情だったキングコブラの顔が、初めて柔和な表情になる。

 

「仕切り直しじゃ! 大洗機甲部隊にクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の真の力を見せてくれようぞ!!」

 

「心得た!」

 

ネフェティがそう言うと、キングコブラは彼女を抱え、ティーガーⅠの元へと運ぶ。

 

運ばれたネフェティは、すぐさまティーガーに搭乗する。

 

「総隊長!」

 

「御無事でしたか!!」

 

「良かったぁ………」

 

「心配しましたよ」

 

ティーガーの乗員達が、ネフェティを見てそう声を掛ける。

 

「すまぬ、心配を掛けたな………いよいよ我等の本領発揮じゃっ!!」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

ネフェティがそう言うと、乗員達は勇ましい返事を返すのだった。

 

「敵の総隊長も復帰したか………」

 

「オイ、弘樹。ホントに大丈夫なのか?」

 

その様子を楓から借りた双眼鏡で見ていた弘樹がそう言うと、地市が心配そうにそう言って来る。

 

みほと共にすぐに部隊へと復帰した弘樹だが、運ばれていただけのみほが相当に消耗していたのだ。

 

そのみほを背負って砂丘を超えて来た弘樹の体力は相当消耗して居る筈である。

 

「小官の心配をしている暇が有ったら任務を果たす事を考えろ」

 

しかし弘樹は、いつもと変わらぬ調子で、四式自動小銃に新たな弾薬を装填しながらそう返す。

 

「やれやれ、お前らしいな。無理はするな………と言っても聞く玉じゃないか。なら精々任務を果たすんだな」

 

そんな弘樹の姿を見て、シメオンがそんな事を言う。

 

「百も承知だ………」

 

「この戦力じゃ、正面切っての戦いは元より、戦力を分断しての各個撃破も難しいし、再度の航空支援は時間が掛かる………」

 

弘樹がそう返す中、Ⅳ号の中では、みほが現在の戦力表と試合会場の地図を見ながらブツブツと呟いている。

 

カメさんチームの38t、カバさんチームのⅢ突、ウサギさんチームのM3リー、アリクイさんチームの三式がやられ、歩兵も半分以上は戦死判定を受けている。

 

現在の大洗の戦力は、半分以下にまで落ちている。

 

現状の戦力のみで、未だに10両以上の戦車と数多くの歩兵を残しているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と戦うのは事実上不可能に近い。

 

切り札とも言える航空支援も、先程の使用で再度の要請には時間が掛かる。

 

戦況は絶望的だった………

 

(何か………何か方法は………)

 

しかしそれでも、みほは必死に頭を回転させ、逆転の手立てを考える。

 

とそこで、ふと試合会場の地図に目を落としたみほが、ある事に気付く。

 

「!! この場所は………」

 

試合会場の地図のとある地点をジッと見やるみほ。

 

「現在位置は………」

 

そして次に、大洗機甲部隊の現在位置を確認する。

 

「此処からこう行けば………この場所に………」

 

みほはブツブツと言いながら地図との睨めっこを続ける。

 

(………コレしかない!)

 

そして、やがて決断を下した様子で、顔を上げる。

 

「沙織さん! 全部隊に通達! 西へ移動して下さい!!」

 

「え? 西に?」

 

「急いで下さいっ!!」

 

「! わ、分かった!!」

 

突然のみほの指示に戸惑う沙織だったが、みほから急かされ、すぐに全部隊に通達を送る。

 

「西に移動!?」

 

「逃げるのか!?」

 

「まあ、今の戦力を顧みれば、そうするしかないかも知れないが………」

 

「けど、逃げたところで何れはやられるだけだぞ!」

 

みほの事実上の退却とも言える指示に、大洗機甲部隊の面々は困惑する。

 

「貴様等ぁっ! 何を呆けているっ!! 西住総隊長は既に命令を下したぞっ!! ならばそれに従えっ!!」

 

しかしそこへ、日本兵モードの弘樹の怒声が飛ぶ。

 

「「「「「「「「「「!! りょ、了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを受けて、大洗機甲部隊の面々は、戸惑いを残しつつも、みほの指示通り、西へ向かっての移動を開始するのだった。

 

「むっ? 移動し始めただと?」

 

「逃げる積りか? まあ、この戦力差ならば当然の選択とも言えるがな………」

 

「…………」

 

その様子を見ていたクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の中で、ネフェティ、アナコンダがそう言い合い、キングコブラは気に入らないと言った様子の表情を浮かべる。

 

「何かの罠かも知れん………全部隊、距離を取りながら追跡」

 

「総隊長殿。一気に捻ってやっては如何かな?」

 

罠の可能性を感じたネフェティはそう指示を出すが、アナコンダは圧倒的戦力差なので正面から叩き潰そうと意見する。

 

「いや、油断するでない………今までの奴等の試合は、相手が大洗を追い詰めながらも悉く逆転を許しておる。西住流とは違うが、あの西住 みほの指揮は侮れん」

 

だが、ネフェティは油断は禁物だと言い、指示を変えない。

 

「考え過ぎだ。奴等に逆転の手立てなど一片足りとて残っていない。総隊長殿がそんな弱気では、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の名が泣く………!」

 

と、そこまで言った瞬間に、アナコンダが突然飛び退く。

 

直後に、アナコンダがさっきまで居た場所に、蛇腹剣の刃が突き刺さる。

 

「…………」

 

それを操っていたキングコブラが、柄を引いて蛇腹剣を元に戻す。

 

「アナコンダ………コレ以上の行為は抗命罪………引いては反逆罪として処断するぞ」

 

本気の目でアナコンダを見据えてそう言い放つキングコブラ。

 

「フッ………分かった、分かった。従おうじゃないか、歩兵隊長殿」

 

アナコンダはやれやれと言った感じの様子を見せると、そう言い放つ。

 

そして、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、大洗機甲部隊から少し距離を取りながら、追撃を始める。

 

「沙織さん! 今から言う周波数に通信を合わせてくれませんか!?」

 

「えっ!? わ、分かった! ちょっと待って!!………」

 

一方、移動を開始した大洗機甲部隊の中で、みほは沙織に指示し、何処かへ通信を入れる。

 

『お~っと? 大洗機甲部隊が移動を開始しました。何処へ向かって居るのでしょうか?』

 

『あの先に在るのは確か………』

 

そんな大洗機甲部隊の様子に、実況のヒートマン佐々木とDJ田中も、怪訝そうなコメントを漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いかけっこが始まり、数十分が経過………

 

時折牽制と見られるクレオパトラ戦車部隊の砲撃に晒されながらも、大洗機甲部隊は只管に西を目指して移動している。

 

只々移動しているばかりで、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に対し、攻撃らしき行為は1度も行っていない。

 

「何だアイツ等は? 本当に逃げているだけか?」

 

「分からん………何を企んでおるのじゃ?」

 

そんな大洗機甲部隊の意図が読めず、アナコンダとネフェティが困惑の声を漏らす。

 

(逃げ回って判定勝ちを狙っている?………いや、既に損害状況では我々が与えた被害の方が圧倒的………移動を続けてコチラの戦車の故障を狙っている?………いや、砂漠戦を得意とする我等の戦車は徹底的に整備されておる。故障はありえん………)

 

幾つかの考えが頭に浮かぶが、どの可能性も即座に否定される。

 

「総隊長。コレでは本当に埒が明かんぞ。やはり一気に畳み込むべきだ」

 

とそこで、痺れを切らしたかの様に、アナコンダが再び、ネフェティに意見を言って来る。

 

「アナコンダ………」

 

「待て、キングコブラ」

 

途端にキングコブラが不機嫌そうな様子を見せたが、他ならぬネフェティが止める。

 

「…………」

 

そのまま沈黙し、逡巡する様な様子を見せるネフェティ。

 

「………よし、先ずは様子見じゃ。全部隊、速度を上げよ! 大洗機甲部隊との距離を詰めるぞ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

やがて決断したかの様な表情でそう言うと、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は大洗機甲部隊との距離を詰め始めるのだった。

 

「!! 敵が距離を詰めて来ましたっ!!」

 

「痺れを切らしたか………」

 

「追い付かれますよ!」

 

「西住総隊長! まだ移動しなきゃ駄目ですか!?」

 

その様子を確認した楓から報告が挙がると、大洗機甲部隊の面々は口々にみほに尋ねる。

 

「まだです! もう少し………もう少し西へ行かないと………各戦車チーム! 遅滞行動を取って下さいっ!!」

 

「了解ですっ!」

 

みほがそう命じると、華が砲塔を180度回転させ、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊に狙いを定める。

 

他の戦車チームも、西への移動を続けながらも、砲塔を後ろに向けて、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を狙う様にする。

 

「撃てっ!!」

 

そしてみほの号令が掛かると、一斉に行進間射撃を始める。

 

当然、命中率は凄まじく悪いが、コレは飽く迄遅滞行動であり、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の進軍を遅らせる事が目的である。

 

「漸く撃ってきおったか………」

 

「だが移動は続けている。コレは遅滞行動だな」

 

漸く砲撃を行って来た大洗機甲部隊の様子を見て、ネフェティはそう言い、アナコンダは攻撃の様子から、それが遅滞行動である事を見抜く。

 

「残り少ない筈の貴重な弾薬を浪費しての移動継続………益々分からんな」

 

相変わらず大洗機甲部隊の意図が読めず、ネフェティは困惑するばかりである。

 

「じゃが、やられてばかりと言うのも癪じゃ………クルセイダー部隊! 奴等の足を止めいっ!!」

 

とそこで、ネフェティがそう命じると、生き残っていたクルセイダーMk.Ⅲ3両が、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の中から離脱し、巡航戦車の速力を活かして、一気に大洗機甲部隊との距離を詰めて来る。

 

「! 敵の巡航戦車が先行して来ます!!」

 

「マズイ! 3両だけでも、今のウチに取っちゃ大戦力だぞ!」

 

清十郎の報告に、俊がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

その報告を聞きながら、みほはキューポラのペリスコープ越しに、コチラに向かって来る3両のクルセイダーMk.Ⅲを見据える。

 

すると、その時!!

 

突如として、アヒルさんチームの八九式と、サンショウウオさんチームのクロムウェルが、横滑りする様にして停止。

 

「!?」

 

みほが驚いていると、更にその周りに随伴歩兵分隊であるペンギンさん分隊とタコさん分隊の面々が展開する。

 

「皆さん! 何を………」

 

「西住総隊長!」

 

「行って下さいっ!!」

 

「ワイ等は此処で………」

 

「敵を食い止めるっ!!」

 

みほの声を遮る様に、典子、聖子、大河、エースからそう言う声が挙がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に合流を果たした弘樹とみほ。
しかし、大洗機甲部隊の戦力は半減しており、敵の総隊長であるネフェティも戻る。
航空支援も再度要請に時間が掛かり、戦況は絶望的。
だが、みほはある事を思い付き、部隊に移動を命じる。
それを追撃するクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊だが………
その前に、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊が立ちはだかるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第112話『アヒルの飛翔、サンショウウオの俊足です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第112話『アヒルの飛翔、サンショウウオの俊足です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漸く大洗機甲部隊との合流に成功した弘樹とみほだったが………

 

合流までの戦闘で、大洗機甲部隊の戦力は半減していた。

 

更に、頼みの綱であった航空支援も、敵の戦闘機部隊に阻まれ………

 

如何にか浴びせた爆撃は、限定的な損害しか与えられなかった。

 

再度の航空支援要請には時間が掛かる中、みほは大洗機甲部隊にとある場所まで移動する様に指示を出す。

 

その大洗機甲部隊を、ネフェティが戻ったクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は追撃する。

 

猛攻に曝されながらも移動を続ける大洗機甲部隊だったが………

 

このままでは全滅すると思ったアヒルさんチームとペンギンさん分隊………

 

そして、サンショウウオさんチームとタコさん分隊が………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の前に立ちはだかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

「食い止めるって!?………」

 

「駄目です! 皆さんも一緒に西へ移動して………」

 

「このままでは全滅してしまうぞ!!」

 

「!!」

 

沙織が驚きの声を挙げ、みほが再度の指示を出そうとしたところ、エースの叫びがそれを遮った。

 

『行って下さい、西住総隊長。私達の事は気にしないで』

 

続いて、サンショウウオさんチームのクロムウェルから、聖子がそう通信を入れて来る。

 

「でも!!………」

 

「総隊長はん。何や策が有るんやろ? それで移動を続けとったんとちゃうんかい?」

 

今度は大河が、みほの台詞を遮ってそう言う。

 

『西住総隊長とフラッグ車さえ生き残って居てくれれば、私達は勝てます! 総隊長の策が整うまでの時間は、私達が稼ぎます!!』

 

更に、アヒルさんチームの八九式から、典子がそう言って来る。

 

「「「「私達(ワイ等、我々)は、西住総隊長の事を信じています(とる、る)!!」」」」

 

そして最後には、4人揃ってそう言い放つ。

 

「皆さん………」

 

その言葉を聞いたみほは、一瞬躊躇する様な様子を見せたが………

 

「………お願いします。出来るだけ時間を稼いで下さい」

 

やがて、断腸の思いと言った表情で、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊に指示を出したのだった。

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

典子、聖子、大河、エースから勇ましい返事が返って来る。

 

「………残りの部隊は、引き続き西へ移動して下さい」

 

「「「「「………了解」」」」」

 

みほの命令に、少し間を開けて返事を返す大洗機甲部隊の一同。

 

「西住総隊長!」

 

とその時、聖子がみほに呼び掛けた。

 

「! ハイ!」

 

「御武運をっ!!」

 

「!!」

 

聖子の言葉にみほは驚き、言葉を失う。

 

それは、みほの方が聖子達に掛けなければいけない言葉であったにも関わらず、聖子の方がみほに言って来たのだ。

 

「………御武運を」

 

やがてみほは苦しそうにそう言い返し、大洗機甲部隊は離脱して行くのだった。

 

「さって………皆ぁっ! 行くよぉっ!!」

 

「俺の血潮が沸騰するぜっ!!」

 

「根性ーっ!!」

 

「大洗万歳やぁっ!!」

 

それを確認すると、聖子の号令で、サンショウウオさんチームとタコさん分隊、アヒルさんチームとペンギンさん分隊は、迫り来る3両のクルセーダーMk.Ⅲに向かって行った!!

 

 

 

 

 

「ん? コッチに向かって来る奴等が居るわよ?」

 

そこで、3両のクルセーダーMk.Ⅲ部隊の内、1両の車長が、サンショウウオさんチームとタコさん分隊、アヒルさんチームとペンギンさん分隊が向かって来るのを確認する。

 

「戦車が2両。クロムウェルと………八九式?」

 

別の車長が、向かって来る連中の戦車がクロムウェルと八九式である事を確認すると、首を傾げる様な仕草をする。

 

「クロムウェルは兎も角、八九式で戦う積りなの? 足止めの囮かしら?」

 

更に別の車長がそう推察する。

 

「全車、クロムウェルに注意。八九式は問題無いわ」

 

「「了解!」」

 

と、最初に報告を挙げた車長がそう指示を出すと、3両のクルセーダーMk.Ⅲは分かれ、サンショウウオさんチームとタコさん分隊、アヒルさんチームとペンギンさん分隊を包囲しようとする。

 

………が!!

 

「うおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

唯の叫びが響き、クロムウェルが一気に加速したかと思うと、分かれようとしていたクルセーダーMk.Ⅲの1両に、体当たりせんばかりの勢いで迫る。

 

「なっ!? か、回避っ!!」

 

「クウッ!!」

 

車長の指示で、操縦手が慌てて左へとクルセーダーMk.Ⅲを転進させる。

 

直後に、僅か10cm横を、クロムウェルが砂塵を撒き上げて通過する。

 

「クッ! 小癪な真似を! 撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

既に砲塔を旋回していたクルセーダーMk.Ⅲが、通り過ぎたクロムウェルの背後を狙って発砲する。

 

「何のぉっ!!」

 

しかし、唯が叫びと共に車体を傾け、傾斜装甲の原理を利用して砲弾を弾く。

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そして聖子が叫ぶと、優が主砲を発射する。

 

「! チイッ!」

 

狙われたクルセーダーMk.Ⅲは素早くバックして回避する。

 

とそこで、側面に砲弾が当たって弾かれる。

 

「なっ!?」

 

車内に走る振動に驚きながらもクルセーダーMk.Ⅲが何事かと確認すると、コチラに向かって主砲を次々に発砲しながら突っ込んで来る八九式の姿を確認する。

 

「撃て撃てぇーっ! 撃ち続けてればどんな分厚い装甲だって何時かは壊れる筈だぁっ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

典子が装填する砲弾を、次々にクルセーダーMk.Ⅲ目掛けて発砲するあけび。

 

クルセーダーMk.Ⅲの車内では、まるでまるでドラム缶に入れられて殴られている様な音が鳴り響く。

 

「ぐああっ!? 耳がぁっ!?」

 

「このぉっ!! 時代遅れの化石戦車め!!」

 

罵声と共に、クルセーダーMk.Ⅲは八九式に向かって発砲する。

 

「サイドステップッ!」

 

「ハイッ!!」

 

しかし、典子の指示が飛ぶと、忍が見事な動きで、砲弾をかわす。

 

「!? 何っ!?」

 

「馬鹿な!? 何で八九式であんな動きが出来るんだ!?」

 

その様子を見ていたクルセーダーMk.Ⅲの乗員は、有り得ない動きをした八九式に驚愕する。

 

「ええいっ! 所詮は第二次世界大戦以前の日本戦車! 当てれば一撃だ!! 良く狙えっ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

しかし、すぐの気を取り直すと、集中して八九式を狙い始める。

 

「3号車! 横にクロムウェルッ!!」

 

「!?」

 

だが、別のクルセーダーMk.Ⅲからそう通信が入り、車長が慌ててキューポラの覗き窓から横を見やると、主砲を真っ直ぐに向けて突っ込んで来るクロムウェルの姿が飛び込んで来る。

 

「しまっ………」

 

「撃てぇっ!!」

 

た、と言い切る前に、至近距離にまで接近したクロムウェルが主砲を発射!!

 

砲弾は砲塔基部に命中し、一瞬の間の後、クルセーダーMk.Ⅲから白旗が上がった!!

 

「3号車がやられた!」

 

「ええい! 八九式には構うな! 先にクロムウェルを仕留めるぞっ!!」

 

そこで、残っていた2両のクルセーダーMk.Ⅲは、狙いをクロムウェルに定め、襲い掛かる。

 

「クルセーダー隊を援護しろっ!!」

 

更に、スフィンクス歩兵部隊からも、小隊規模の歩兵達が本隊より先行し、2両のクルセーダーMk.Ⅲを援護しようとする。

 

「やらせるかいっ!!」

 

「ココを通すワケにはいかん!」

 

しかし、大河率いるペンギンさん分隊と、エース率いるタコさん分隊の歩兵達が機関銃を中心に弾幕を張り、スフィンクス歩兵達の進軍を阻む。

 

その間、クロムウェルは2両のクルセーダーMk.Ⅲに追い掛け回される。

 

「クッ! 追い付かれる!」

 

「カタログスペックじゃコッチの方が速い筈なのに!」

 

「練度の差ですかね………」

 

カタログスペックの速度では勝っている筈なのに追い付かれそうになっているのを見て、唯、聖子、優がそう呟く。

 

「如何するんですの!? このままではジリ貧ですわ!!」

 

「でも、2対1じゃ反撃のしようがないですよ」

 

次弾を抱えている早苗がそう叫ぶが、明菜がそう返す。

 

「よし、良いぞ! このまま連携攻撃で追い詰めるぞっ!」

 

その様子を見て、1両のクルセーダーMk.Ⅲの車長はそう言い放つ。

 

「コラーッ! 私達を無視するなぁーっ!!」

 

とそこで、クロムウェルを追い掛け回す2両のクルセーダーMk.Ⅲの後ろから、典子の叫びと共に、八九式が迫る。

 

「後方より八九式が来ます!」

 

「放って於け! 行進間射撃じゃ当たらんだろうし、奴の主砲弾なら角度を着ければ軽く跳ね返せる筈だ!!」

 

1両のクルセーダーMk.Ⅲの車長がそう報告するが、もう1両のクルセーダーMk.Ⅲの車長はそう返す。

 

「撃てぇーっ!」

 

「ハイッ!!」

 

とそこで、典子の号令が響いて、あけびが主砲を発砲する。

 

だが、放たれた砲弾は、狙ったクルセーダーMk.Ⅲから僅かに逸れて外れる。

 

「駄目です、キャプテン! 当たりません!!」

 

「当たってもまた弾かれるかも………」

 

あけびがそう叫び、妙子が思わずボソリとそう呟く。

 

「クウッ! 如何すれば………」

 

典子は珍しく、悩む様な顔をしてそう呟く。

 

(いや! 悩む必要なんて無い! 私達はバレー部だ! バレー部だったら、こんな時は………)

 

しかしすぐにそんな事を思いやり、ふと行く手を見やると、とある物を発見する。

 

「! アレだっ! 妙子! サンショウウオさんチームに通信!」

 

「! ハイッ!」

 

それを見て、何かを思いついた典子は、すぐに妙子に命じてサンショウウオさんチームに通信を飛ばす。

 

『サンショウウオさんチーム! 右へ移動して下さい!』

 

「右に移動!? 何でですか!?」

 

『説明してる暇は無いよ! 兎に角すぐに右にっ!!』

 

「そ、そんな事を言われましても………」

 

「下手に方向転回をしたら、それこそ狙い撃ちにされる可能性があります」

 

「オイ、如何すんだ、車長!?」

 

右へ行けと言う指示のアヒルさんチームからの通信に困惑し、操縦手の唯は、聖子の判断を仰ぐ。

 

「………アヒルさんチームを信じよう! 右へ転回!」

 

そして聖子は、アヒルさんチームを信じ、右への転回を指示した!

 

「了解っ! こうなりゃ一か八かだっ!!」

 

それを受けて、唯はクロムウェルは右方向へと転回させる。

 

「右へ転回? 何を考えてるんだ?」

 

「チャンスだ! スピードが落ちたところを狙い撃つぞ!」

 

クロムウェルを追っていた2両のクルセーダーMk.Ⅲは、すぐに反応し、転回でスピードが落ちたところを狙い撃とうとする。

 

「忍! しっかり喰らい付け!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

そんな2両のクルセーダーMk.Ⅲに喰らい付く八九式。

 

「砲を支えれば、戦車が揺れても照準は安定する! 気合入れてけぇっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

典子の指示通り、あけびは片手式の主砲を全身を使ってしっかりと固定する!

 

「狙いは『アレ』だ!………今だ! 撃てっ!!」

 

「くうっ!」

 

タイミングを見計らったかの様に指示を出した典子に従い、あけびがトリガーを引く。

 

八九式の主砲から再び砲弾が放たれるが、それはクルセーダーMk.Ⅲが居る方向とはまるで別の方向に飛んで行く。

 

「馬鹿めっ! 何処を狙って………」

 

と、1両のクルセーダーMk.Ⅲの車長がそう言い掛けた瞬間………

 

『外れた筈の八九式の砲弾』が、彼女のクルセーダーMk.Ⅲの右履帯部分に命中した!

 

「なっ!?」

 

「り、履帯破損! 走行不能っ!!」

 

驚く車長に、操縦手がそう報告する。

 

「やったっ!」

 

「Bクイック成功っ!!」

 

それを見て歓声を挙げるあけびと典子。

 

2人の視線は、『何かが当たって一部が弾け飛んだ岩』に向けられている。

 

そう………

 

実は先程撃った砲弾は、この岩に命中し、跳弾となってクルセーダーMk.Ⅲに命中したのである。

 

かなりの練度が無ければ出来ない芸当であり、バレー部の技量の高さが改めて浮き彫りとなった。

 

「! 敵1両走行不能! チャンスだよ!!」

 

「よっしゃあっ! うおおおっ!!」

 

それを確認した聖子が声を挙げると、唯はクロムウェルをスピンさせる様に反転させる!

 

「! こ、このぉっ!!」

 

残っていた1両のクルセーダーMk.Ⅲが発砲するが、砲弾は僅かに逸れる。

 

その間に、クロムウェルは動けなくなった方のクルセーダーMk.Ⅲへ接近する。

 

「ク、クロムウェル接近!」

 

「! 主砲照準っ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

クロムウェル接近の報告を受けて、動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲの車長は慌てて攻撃を指示する。

 

突っ込んで来るクロムウェルに対して照準を合わせる動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲの砲手だったが………

 

「させませんっ!!」

 

優がそう叫んだかと思うと、クロムウェルの主砲が動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲを跳ね上げる様にして、その下へと潜り込む!

 

「!? なっ!?」

 

「目標砲塔基部! 撃てぇっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲの砲手が仰天の声を挙げた瞬間に、クロムウェルが発砲!

 

砲弾は動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲの砲塔基部に命中。

 

2両が一瞬爆煙に包まれたかと思うと、それが晴れた瞬間に、動けなくなったクルセーダーMk.Ⅲから白旗が上がった!

 

「やったっ!………!? キャアッ!?」

 

思わず歓声を挙げる聖子だったが、その瞬間に振動がクロムウェルを襲う!

 

「オノレェッ! よくもぉっ!!」

 

それは、残った最後のクルセーダーMk.Ⅲの体当たり攻撃だった!

 

「しまった! 組みつかれた! 動けねぇぞっ!!」

 

「主砲旋回、間に合いませんっ!!」

 

「!?」

 

唯と優からそう声が挙がり、聖子は思わずキューポラの覗き窓越しに組みついて来たクルセーダーMk.Ⅲを見据える。

 

「終わりだっ!!」

 

そしてクルセーダーMk.Ⅲは、クロムウェルの砲塔基部に主砲の狙いを付ける。

 

だが、その瞬間っ!!

 

「そーれっ!!」

 

「「「そーれっ!!」」」

 

そう言う叫びと共に、クロムウェルに組み付いて居たクルセーダーMk.Ⅲに、八九式が体当たりを噛ましたっ!

 

「!? うわっ!? ええい! またか! 八九式めっ! だが、重量はコチラの方が上だ! ダメージは無いぞっ!!」

 

車内に走った振動に一瞬よろめくクルセーダーMk.Ⅲの車長だったが、ダメージが無いのを確信してそう言い放つ。

 

しかし………

 

「「「「根性ぉーっ!!」」」」

 

アヒルさんチームの面々はそう叫んで、八九式のエンジンを全開にしてクルセーダーMk.Ⅲを押し続ける!!

 

すると、何と!

 

クルセーダーMk.Ⅲが、斜めに傾き始めた!

 

「なっ!? ば、馬鹿な!? 八九式の何処にこんな力がっ!?」

 

クルセーダーMk.Ⅲの車長が驚愕している間にも、クルセーダーMk.Ⅲはドンドン傾いて行き、とうとう最も装甲が薄い底面部を、押している八九式に曝す!

 

「今だ!!」

 

「「「アターックッ!!」」」

 

その底面部目掛け、零距離からタ弾を放つ八九式。

 

クルセーダーMk.Ⅲの底面部で爆発が起こり………

 

一瞬の間の後に、上部から白旗が飛び出す。

 

「やったーっ!」

 

「やりましたっ!」

 

「凄いっ!」

 

「コレがバレー部の底力だぁっ!!」

 

八九式の中では、あけび、忍、妙子、典子がお祭り騒ぎ状態となる。

 

「やったーっ! アヒルさんチーム、凄いっ!!」

 

と、やっとの事で擱座から抜け出したクロムウェルの中でも、聖子がキューポラ越しに八九式を見やりながらそう言う。

 

その次の瞬間!!

 

八九式の側面に砲弾が命中っ!!

 

余りの威力と衝撃に、右側の履帯と転輪は全て弾け飛び、八九式自体も宙に舞い、横に一回転半して、上部から砂上に叩き付けられた。

 

そして、底面部より白旗が上がる。

 

「!?」

 

聖子はすぐさま、八九式を撃破した砲弾が飛んで来た方向を見やる。

 

そこで砲口から硝煙を上げていたのは、やはりティーガーⅠだった。

 

「! ティーガー! 優ちゃん! 撃ってっ!!」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

すぐさまクロムウェルの主砲をティーガーⅠに向かって放つ。

 

だが、砲弾はガキィンッ!と言う甲高い音と共に明後日の方向に跳ね返る。

 

その間に、ティーガーⅠの主砲がクロムウェルに向けられた。

 

「! 避け………」

 

て、と言おうとした瞬間には、ティーガーⅠの主砲は火を噴き、クロムウェルに直撃!

 

衝撃でクロムウェルが僅かに後退したかと思うと、撃破の白旗が上がる。

 

「!? アヒルさんチームとサンショウウオさんチームがっ!?」

 

「しまったっ!?」

 

その光景を目撃した大河とエースからそう声が挙がる。

 

「ネフェティ総隊長。残った歩兵は我々が片づける。総隊長殿は大洗の本隊を」

 

「頼んだぞ」

 

そこで、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、残ったペンギンさん分隊とタコさん分隊の相手となる歩兵達を残し、大洗機甲部隊本隊の追撃を続ける。

 

「チイッ! 待てぃっ!!」

 

「貴様等の相手は俺達がしてやる!」

 

大河達は追い縋ろうとしたが、その前にアナコンダが率いるスフィンクス歩兵部隊が立ちはだかる。

 

『八九式、クロムウェル撃破! 大洗機甲部隊の戦力は益々低下しています!!』

 

『う~ん、流石に今回ばかりは如何にもならないですかねぇ………』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の実況も、何処か大洗に諦めを感じ始めていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

足止め部隊の内、アヒルさんチームとサンショウウオさんチームの戦闘の様子をお送りしました。
特に奮戦を見せたのがアヒルさんチーム。
戦車の性能が低いのを、技術とチームワーク、そして根性でカバーしての大活躍です。
しかし、ティーガーⅠの前に2両とも撃破されてしまう………
次回はペンギンさん分隊とタコさん分隊の戦闘の様子をお送りします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第113話『蛇VS蛇です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第113話『蛇VS蛇です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

とある地点に向かって移動を続けている大洗機甲部隊の本隊………

 

「みぽりん………アヒルさんチームとサンショウウオさんチーム、撃破されたって。ペンギンさん分隊とタコさん分隊は今、敵の歩兵部隊の一部を相手にしてるって」

 

「………分かりました。全部隊、移動を続けて下さい。もう少しです」

 

沙織からの報告に、みほは影の差した表情を見せながらも、移動を続ける様に指示を出す。

 

(………最早逆転にはこの方法しかない。何とかあの場所まで辿り着かなくては………)

 

随伴して居る歩兵達の中の弘樹も、そんな事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

取り残されたペンギンさん分隊とタコさん分隊は………

 

「フンッ!」

 

「ぐはっ!?」

 

飛び掛かって来たスフィンクス歩兵を殴り飛ばすシャッコー。

 

殴り飛ばされたスフィンクス歩兵は、他のスフィンクス歩兵を巻き込んで派手に砂煙を上げる。

 

「カモン! カモン! カモォンッ!!」

 

2丁拳銃でS&W M27を構えたジャクソンが、次々にスフィンクス歩兵に向かって発砲する。

 

「装甲車! 前へっ!!」

 

するとそこで、スフィンクス歩兵隊の中から、ハンバー装甲車 マークIVが前に出る。

 

ジャクソンが放つS&W M27の弾丸は、装甲車に当たると次々に弾かれる。

 

「Oh! コイツはバッドね!」

 

ジャクソンはそう言ったかと思うと、近くに掘っていた蛸壺に飛び込む。

 

直後に、ハンバー装甲車 マークIVの37ミリ砲から 榴弾が放たれる!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

蛸壺に飛び込んだジャクソンは難を逃れたが、他の大洗歩兵達が爆発で飛んだ破片を浴び、戦死判定を受ける。

 

「どうだ! もう1発………」

 

ハンバー装甲車 マークIVの砲手がそう言って次弾を放とうとした瞬間………

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

エースが叫びと共に、M39卵型手榴弾を野球ボールの様に投擲!

 

M39卵型手榴弾は開きっ放しだったハンバー装甲車 マークIVの砲塔の上部ハッチから、車内へと飛び込む。

 

「!? ヤバ………」

 

外へ放り出す時間も無く、M39卵型手榴弾は爆発!

 

ハンバー装甲車 マークIVは砲塔が吹き飛び、開いた穴から乗員が折り重なる様に這い出て倒れ、戦死と判定された。

 

「クソッ! 怯むなぁっ! 押し潰せっ!!」

 

しかし、1人のスフィンクス歩兵がそう言い放ったかと思うと、新たなハンバー装甲車とガイ装甲車が次々に前に出る。

 

「やらせるかぁっ!!」

 

「行けぇっ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

それに対し、武志や弁慶と言った対戦車兵や、明夫を中心とした砲兵達が、次々と対戦車火器や野戦砲で応戦する。

 

「撃て撃てぇっ! 撃ちまくるんやぁっ!!」

 

大河も、進軍して来るスフィンクス歩兵達に対し、EMP44で弾幕を張る。

 

「こないな事してへんで。はよ、本隊に戻らなぁ………!?」

 

とそこで殺気を感じた大河は、居た場所から後方へと飛び退く。

 

直後に、大河が居た場所の砂が弾け………

 

巨大な身長と体躯を誇り、両手に剣と盾を持ったスフィンクス歩兵が姿を現した。

 

「チイッ! 退いとけや、木偶の坊!!」

 

現れた巨漢のスフィンクス歩兵に向かって、EMP44を即座に発砲する大河。

 

「!!………」

 

しかし、巨漢のスフィンクス歩兵は左手に持っていた盾を構えたかと思うと、EMP44の弾を全て弾いてしまう。

 

「!? 何ぃっ!? 防弾性の盾かいな!?」

 

大河が驚きを示した瞬間!!

 

「………!!」

 

巨漢のスフィンクス歩兵は、右手の剣を振り被りながら突進して来た!!

 

「!? うおわっ!?」

 

思わずEMP44を手放してバッとその場から飛び退く大河。

 

巨漢のスフィンクス歩兵が振り下ろした剣は、残されたEMP44を斬り裂く!

 

「………如何やら木偶の坊やないらしいな」

 

「…………」

 

大河がそう言う中、巨漢のスフィンクス歩兵………『パイソン』は、盾と剣を構え直す。

 

「銃は無しかい。そっちの方が自信あるって事かいな?」

 

「…………」

 

パイソンは、大河の問いに沈黙で返す。

 

「上等や! ならワイも1番得意な戦い方………ステゴロで行かせてもらうでぇっ!!」

 

それを見た大河はそう言って拳を握り、パイソンに突撃して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片や、別の場所でも………

 

「ぐあああっ!?」

 

「チッ! キリが無いな………」

 

ウィンチェスターM1912のポンプを引いて排莢を行っていた大詔が、未だに周辺に数多く展開しているスフィンクス歩兵を見てそう呟く。

 

「西住総隊長達は大丈夫なのか?………!?」

 

とそこで、大詔は背後から殺気を感じて、咄嗟にその場に伏せる!

 

その頭上を、ナイフの刃が通過する。

 

「ハアッ!」

 

「おっと!」

 

そして直後に、後方に向かって後ろ蹴りを繰り出したが、殺気を放っていた人物はバックステップして回避する。

 

「フフフ、危機察知能力だけは言い様だな………」

 

「貴様か………リキッド」

 

殺気を放っていた人物が、リキッドことアナコンダである事を確認した大詔がそう言う。

 

「漸くお前と勝負を着けられる時が来たな」

 

「その様だな………」

 

挑発的な笑みを浮かべ、余裕そうな様子を見せているアナコンダとは対照的に、大詔は油断なく構えており、何時でもウィンチェスターM1912を撃てる様にしている。

 

「………!!」

 

そして不意を衝く様に、バッとウィンチェスターM1912の銃口をアナコンダに向けたが………

 

「フンッ!」

 

それに対してアナコンダが右手を伸ばしたかと思うと、袖口から細いワイヤーが射出され、ウィンチェスターM1912の銃身に巻き付く!

 

「!?」

 

「ムンッ!!」

 

大詔が驚いた瞬間、アナコンダはワイヤーを掴んで引き、ウィンチェスターM1912の銃身をバラバラにしてしまう!

 

「! チイッ!!」

 

舌打ちしながら右腰のホルスターからM1911Aを右手に抜き、左手にナイフを逆手に持ってアナコンダにCQCを仕掛けようとする大詔。

 

「フッ………」

 

だが、アナコンダは接近してきた大詔の右側へ回る様に動いたかと思うと、その右手のM1911Aを掴む!

 

「!?」

 

すぐに振り解く大詔だったが、M1911Aのスライドが抜かれてしまう。

 

「!!………」

 

それでも怯まずに、ナイフをアナコンダの喉元目掛けて振るう大詔。

 

「無駄だ!」

 

しかし、それもアナコンダの左手に左腕を掴まれて制止される。

 

「むんっ!!」

 

「がっ!?」

 

アナコンダは右手に有ったM1911Aのスライドを捨てると、大詔の喉を掴む。

 

「ハアアッ!!」

 

「ぐああっ!?」

 

そしてそのまま、チョークスラムで砂の上に叩き付ける様に投げ飛ばす!

 

その際の衝撃で、大詔はナイフを手放してしまう。

 

「喰らえっ!!」

 

「!!」

 

追撃にと大詔の顔面目掛けて拳を振り下ろすが、大詔は砂の上を転がってかわす!

 

「セアアッ!!」

 

そして、立ち上がると同時に上段回転蹴りを繰り出す。

 

「ゴフッ!?」

 

真面に喰らったアナコンダがよろめき、数歩下がる。

 

「………そう来なくては」

 

だが、相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、口の端に流れた血を拭ってそう言い放つ。

 

「…………」

 

そんなアナコンダを見据えながら、大詔は冷や汗を流して構えを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

再び、大河VSパイソンの場では………

 

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

繰り出された大河のケンカキックを盾で防ぐパイソン。

 

「!」

 

そして反撃にと、剣を横薙ぎに振るう。

 

「おっと!?」

 

後ろへと身を反らす大河だったが、戦闘服が僅かに斬られる。

 

「チイッ! コナクソォッ!!」

 

素早く身を戻すと、パイソン目掛けて今度は拳を振るう大河。

 

「!!………」

 

だが、この攻撃も、パイソンは盾で防いでしまう。

 

「~~~~ッ! 何ちゅう頑丈な盾や!!」

 

大河は殴った拳を抑えて後ずさりながらそう言い放つ。

 

既に何度か殴りつけていたのか、大河の両手は赤く染まり、若干腫れ上がっていた。

 

「…………」

 

しかし、パイソンの盾には傷1つ付いていない………

 

(アカン………拳の感覚が無くなって来とる………このままやと………)

 

対する大河は殴り過ぎで、拳の感覚がなくなって来ていた。

 

と、その時!!

 

「………!!」

 

何と!!

 

今まで守勢に回っていたパイソンが突然攻勢に出て、大河に向かって突撃して来る!

 

「!? 何やイキナリ!? やる気になんたんかぁっ!?」

 

驚きながらも、構えを取って警戒する大河。

 

そして、パイソンが右手に握る剣の動きに注意を払う。

 

だが………

 

「!!」

 

何とパイソンは、大河の至近距離までに接近したかと思うと、盾の方を突き出して来たではないか!!

 

「!? 何やて!?………!! グハァッ!?」

 

てっきり剣の方を振るって来ると思っていた大河は意表を衝かれ、真面に盾でのパンチを食らってしまう。

 

「ガハッ!?」

 

「!!」

 

そして大河が倒れ伏せた瞬間!!

 

パイソンはその右足に剣の刃を突き立てた!!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

戦闘服が甚大な傷を負ったと判定し、大河の右足が動かなくなる。

 

「…………」

 

パイソンは動けなくなった大河に対し、ゆっくりと剣を頭上に掲げる様に構える。

 

脳天から唐竹割りの様に剣を振るう積りらしい。

 

「チイッ! ワイとした事が………油断したわい」

 

そう言いながら、眼前のパイソンの姿を睨む様に見据える大河。

 

「!!」

 

そして遂に!

 

パイソンの剣が、大河目掛けて振り下ろされる!!

 

………が、その瞬間!!

 

「ハアッ!!」

 

突如大河とパイソンの間に拳龍が割り込み、真剣白刃取りで受け止めた!

 

「!?」

 

「杷木っ!?」

 

パイソンと大河が驚きを露わにする。

 

「ぐうううう………」

 

力任せに振り下ろされようとしている剣を、必死に受け止め続ける拳龍。

 

「!!」

 

だが、パイソンは更に力を込め、拳龍を力尽くで斬り裂こうとする。

 

「杷木! 逃げぇっ!!」

 

そんな拳龍の姿を見て、大河がそう叫ぶ。

 

しかし………

 

「ぐうううううっ!!」

 

その拳龍の身体から、オーラの様な物が溢れ始める。

 

「!?」

 

「何やっ!?」

 

パイソンと大河が戸惑いを見せた瞬間………

 

何処ぞの戦闘民族の様に、拳龍の髪の毛が逆立った!!

 

「コレ以上大切な仲間を………失わせないっ!!」

 

と、拳龍がそう叫ぶと、パイソンの刀の刀身が、粉々に砕け散る!!

 

「!?!?」

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァ………」

 

驚愕するパイソンの前で、拳龍は正拳突きの構えを取る。

 

「龍・鉄・拳っ!!」

 

その台詞と共に、拳龍の鉄拳が、パイソンへと繰り出される!

 

「!!」

 

パイソンは盾を構え、防ごうとしたが………

 

拳龍の鉄拳が命中した瞬間!!

 

銃弾をも防いだ頑強な盾が、まるで豆腐の様にバラバラになる!!

 

「?!??!!」

 

そしてそのまま、拳龍の鉄拳はパイソンのボディを直撃!!

 

巨漢のパイソンが、まるで木の葉の様にブッ飛んだっ!!

 

数10メートルはブッ飛んだかと思うと、その先に居たM39 汎用装甲車の側面に激突。

 

M39 汎用装甲車は、パイソンが激突した側面からくの字型に折れ曲がり、当然パイソンも戦死と判定される。

 

「! いけない! やり過ぎた!………あの人、大丈夫かな?」

 

とそこで、興奮が冷めた様子の拳龍が、殴り飛ばしたパイソンを心配する。

 

「………流石は空手道場の免許皆伝や」

 

そんな拳龍を見て、冷や汗を掻きながらそう呟く大河だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大詔VSアナコンダの戦いは………

 

「てええりゃあっ!!」

 

「甘いぞっ!」

 

大詔が振るった右の拳を、左手で手首を掴んで下へと反らしたかと思うと、右腕で大詔の右肩を押さえ付けるアナコンダ。

 

「せえりゃあっ!?」

 

そのまま大詔の腕の上を滑らせる様に、顔面に肘鉄を見舞う。

 

「ガッ!?………せやあっ!?」

 

「のうっ!?」

 

しかし、大詔はよろけて後ずさりながらも、置き土産とばかりに、上段回し蹴りを繰り出し、アナコンダの横っ面を蹴っ飛ばす。

 

「やるな!」

 

相変わらず不敵な笑みを崩さないアナコンダ。

 

「…………」

 

油断無く構えを取り直す大詔。

 

「今度はコチラから行くぞぉっ!!」

 

と、今度はアナコンダが大詔へと仕掛ける。

 

「セアッ! ハアッ! ドォアッ!!」

 

連続で大詔の頭目掛けて拳を繰り出すアナコンダ。

 

「ぐうっ!?」

 

大詔はガードを固めて防御する。

 

「せいやぁっ!!」

 

「!? がっ!?」

 

しかし、ガードが上がった為、がら空きになった腹に、アナコンダはボディブローを叩き込む。

 

「ハアアッ!!」

 

更にもう1発叩き込むと、大詔が思わずガードを下げたので、空かさず横っ面を殴り付ける!

 

「ッ!!」

 

「ハアアアッ!!」

 

更に返す裏拳で反対の横っ面を殴ると、再びボディブローを1発!

 

そしてまたもフックで、横っ面を殴りつける。

 

「ガッ!?」

 

「セイヤァッ!!」

 

「!!」

 

とそこで、ストレートを繰り出して来たアナコンダの腕を掴む事に成功した大詔は、そのままその腕を後ろ手に固めようとしたが………

 

「セエエイッ!!」

 

「!? ぐあっ!?」

 

逆の方の腕で、背中越しに肘打ちを連続して食らい、アナコンダを解放してしまう。

 

「ツアアアアアアッ!!」

 

すると大詔は、飛び上がってのローリングソバットを繰り出す!

 

「むんっ!?」

 

「!?」

 

だが、アナコンダは敢えて踏み出したかと思うと、大詔を身体ごとキャッチし、そのままボディスラムの様に砂の上に叩き付ける!

 

「ガハッ!!」

 

そして追い打ちとばかりに宙返りしてのセントーンを喰らわす!!

 

「ゴハッ!?」

 

肺の中の酸素が一気に無くなった大詔の意識が一瞬飛びかける。

 

「セエエイッ!!」

 

更に容赦無く、肘打ちを顔に叩き込むアナコンダ!

 

「!!」

 

「ぬあああああああっ!!」

 

終いにはマウントポジションを取り、連続して拳を顔面に浴びせ掛ける!!

 

「ゴハッ! ガハッ!………」

 

大詔の血反吐で、辺りの砂が赤く染まって行く………

 

それでもアナコンダは殴るのを止めない。

 

「ふあっ! ふあっ! でやああっ!………ハア………ハア………ハア………」

 

やがて、息切れを起こした事で、漸く攻撃が止まる。

 

「…………」

 

大詔の方は虫の息で、戦死判定を受ける寸前である。

 

「終わりだな、スネーク………所詮はこの程度だったか………トドメだぁっ!!」

 

呼吸を整え、トドメの拳を大詔に振り下ろそうとするアナコンダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Wasshoi!」

 

「!?」

 

ニンジャシャウトと共にアナコンダの前方の砂が弾け、嫌な予感がしたアナコンダが、大詔の上から飛び退く!

 

直後に、先程までアナコンダが居た場所を、スリケンが通り抜けて行く!

 

「ドーモ、アナコンダ=サン。葉隠 小太郎です」

 

現れた人物………小太郎は、アナコンダに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「ドーモ、葉隠 小太郎=サン。アナコンダです」

 

するとそれに対し、アナコンダもアイサツを返す。

 

「フッ、舐めるなよ。俺はNRSなど起こさん」

 

「ぬうっ………」

 

余裕の表情でそう言い放つアナコンダを見据えながら、小太郎は大詔に駆け寄る。

 

「蛇野殿! しっかりするでござる!」

 

「う………あ………」

 

そう声を掛ける小太郎だったが、大詔からは呻き声しか返って来ない。

 

「無駄だ。ソイツはもう戦えん」

 

「………お主は知らぬ様でござるな」

 

「何?」

 

「蛇野殿の底力を見るでござるっ!」

 

すると小太郎はそう言い放ち、腰に下げていた巾着袋から小さな箱の様な物を取り出した。

 

「??」

 

何をする気だとアナコンダが見ていると、小太郎は更に、その箱の中から更に小さな袋を取り出す。

 

そして、その袋を破ると、中に入っていたブロック状の物体を、大詔の口の中に半ば無理矢理押し込んだ!

 

「!? むぐっ!?………モグ………モグ………」

 

口に中に突っ込まれたブロック状の物を、大詔は反射的に咀嚼し、飲み込む。

 

すると………

 

「!! 美味過ぎるっ!!」

 

大詔はそう絶叫して、先程まで瀕死であったのが嘘の様にガバリと起き上がった!

 

「!? な、何ぃ!? 馬鹿な!? き、貴様! 一体ソイツに何を食わせたっ!?」

 

そこで初めて、アナコンダは動揺を露わにし、小太郎にそう問い質した。

 

「蛇野殿の大好物でござるよ」

 

そう言って小太郎は、先程巾着袋から取り出した小箱………『カロリーメイト(チョコレート味)』を見せる。

 

「もっと食わせろっ!!」

 

とそこで、大詔は小太郎からカロリーメイトを引っ手繰り、残りも全部平らげる。

 

「カロリーメイトを食って復活だと!? 嘘を言うなっ!!」

 

「嘘でもなければ冗談でもない! 俺は至って正気だ!」

 

信じられないと言った様子を見せるアナコンダに、すっかりピンピンしている大詔がそう言い放つ。

 

「ええい! ふざけた奴め! だが退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! スフィンクス歩兵に逃走はないのだぁっ!!」

 

動揺の余り同じ声の別の人が出て来たりしながら、アナコンダはSIG MKMS短機関銃を構える!

 

「イヤーッ!」

 

だが、引き金を引こうとした瞬間!

 

小太郎が投擲したスリケンが、銃口に突き刺さる!

 

「!? おうわっ!?」

 

SIG MKMS短機関銃は忽ち暴発し、アナコンダは両手に甚大なダメージを追う。

 

「りょ、両手が!?………」

 

「蛇野殿っ!!」

 

「とああっ!!」

 

両手が使えなくなったアナコンダに、小太郎の両手を足場にして、大詔が飛び掛かる!

 

その右手には、何時の間にかバズーカが握られている。

 

「!?」

 

「多くの戦友達の犠牲が無駄ではなかった事の証の為に! 大洗の理想を掲げる為に! 優勝の成就の為に! アナコンダ! 覚悟ぉっ!!」

 

大詔が叫んだ瞬間、バズーカからロケット弾が発射される!!

 

「!? ぐああああああっ!?」

 

まるで核爆発が起った様な爆炎に包まれ、アナコンダは戦死と判定された。

 

『試合、終了っ!!』

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、試合終了を告げるレミのアナウンスが流れ、両部隊は動きを止める。

 

果たして、勝ったのはどっちなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

残されたペンギンさん分隊とタコさん分隊の奮戦。
此処へ来て拳龍がその強さの一端を魅せました。
そして大詔VSアナコンダの対決は中の人合戦(笑)
そこへ流れる試合終了のアナウンス。
果たして、勝ったのはどっちだ!?
いよいよ次回、決着です。


では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第114話『海軍の支援を要請します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第114話『海軍の支援を要請します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦の試合会場………

 

海に面した広大な海岸砂丘………

 

アヒルさんチームとペンギンさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊の足止めを振り切り、移動を続けている大洗機甲部隊を追撃しているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊。

 

「! 前方に敵を発見!」

 

とそこで、前方を行っていたスフィンクス歩兵達の中の1人が、そう報告を挙げる。

 

「!」

 

ネフェティが、ハッチを開けてキューポラから車外へと姿を晒すと、前方を行っている大洗機甲部隊の姿を確認する。

 

「居たか………漸く捉えたぞ」

 

「総隊長。敵フラッグ車、有効射程内です」

 

そうネフェティが呟くと、ティーガーⅠの砲手がそう報告して来た。

 

「行進間射撃でやれるか?」

 

「やってみます………」

 

砲手はそう返すと、大洗機甲部隊のフラッグ車であるルノーB1bisに狙いを定める。

 

「………!!」

 

そして、ルノーB1bisが砂丘の頂上部に達した瞬間に発砲!!

 

88ミリ砲弾は、ルノーB1bisの車体を僅かにそれ、右履帯の後部に命中!

 

「!? キャアッ!?」

 

「り、履帯損傷っ!?」

 

「追い付かれたの!?」

 

途端に、みどり子、モヨ子、希美の悲鳴が挙がる。

 

直後、衝撃で砂丘の砂が崩れ、ルノーB1bisは砂丘の向こう側に落ちて行く。

 

「!! カモさんチーム!」

 

「全員、カバーッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさま、みほのあんこうチームのⅣ号とレオポンさんチームのポルシェティーガーが砂丘を下り降りて、右履帯が千切れているルノーB1bisの傍で停止。

 

歩兵部隊も、周囲を囲む様に展開し、防護陣形を取る。

 

「工兵! すぐに修理だ!!」

 

「分かってますっ!!」

 

そして、工兵部隊が駆け寄り、履帯の修理に取り掛かる。

 

だが………

 

「そこまでじゃ………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そう言う声が降って来て、大洗機甲部隊の面々が見上げると、そこには………

 

砂丘の上に陣取り、完全にコチラを包囲して、砲門を向けているクレオパトラ戦車部隊と、攻撃準備の整っている対戦兵部隊と砲兵部隊を中心に展開しているスフィンクス歩兵部隊の姿が在った。

 

コレだけの数から一斉攻撃を受ければ、あんこうチームやレオポンさんチーム、そして大洗歩兵部隊の防御陣形など何の意味も為さない。

 

全員撃破・戦死判定にさせられ、それで終わりである。

 

「まさか自分から袋小路に入り込んでくれるとは思わなかったぞ。よりによってこんな場所へと逃げるとはな」

 

呆れた様な様子で自分達の展開している場所の反対側を見ながらそう言うネフェティ。

 

………そこは海であり、大洗機甲部隊の面々は、寄せては返す波打ち際に居る状態だ。

 

正に袋小路。

 

逃げ場は無い………

 

「チイッ!………」

 

それでも抵抗しようと、四式自動小銃を構える弘樹。

 

だが、狙いをつけようとした瞬間………

 

「!? むっ!?………」

 

突然視界がボヤけ、身体から力が抜ける様な感覚に襲われ、片膝を着くと、四式自動小銃を杖代わりにする。

 

「!? 弘樹っ!?」

 

「分隊長っ!?」

 

あの弘樹が片膝を着くと言う事態に、大洗歩兵隊員達の間に動揺が走る。

 

「限界の様じゃな。碌に水分補給もせずに炎天下の砂丘を越えて、平然として居られる奴など居らんのう」

 

「グッ!………」

 

そう言い放つネフェティだったが、弘樹は気力で体力をカバーで、立ち上がる。

 

「ほう? 見上げた精神力だ。だが、それももう無意味だ………攻撃用意!」

 

ネフェティがそう号令を掛けると、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の面々は、一斉に攻撃態勢に入る。

 

「や、やられるっ!?」

 

「もう駄目なのか?………」

 

「チキショーッ!!」

 

大洗歩兵部隊から絶望の声が挙がる。

 

「「…………」」

 

しかしそんな中で、みほと弘樹だけは、冷静な様子を崩さなかった。

 

(しかし解せぬ………何故奴等は態々こんな場所へ? 幾ら疲労していたとはいえ、あの西住流が指揮ミスとは考え難い………)

 

一方でネフェティも、未だに疑惑を感じ、考える様子を見せている。

 

(だが、それならば何故尚の事、逃げ場の無い海辺等に………!? 海辺っ!?)

 

とそこで、現在地が海辺である事を再確認したネフェティが、ある可能性に思い至る。

 

そしてすぐさま、水平線を確認する。

 

するとそこには………

 

コチラに側面を晒す様にして洋上に停泊している、複数の船影が在った………

 

「!? イカンッ! 全員退避っ! 全力でこの場から離れろぉっ!?」

 

「!? 総隊長っ!?」

 

「如何したんですか、一体!?」

 

勝利を目前として居る筈なのに、突然撤退命令を下したネフェティに、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は困惑する。

 

「今更気づいても遅い」

 

「こちらあんこうチーム、西住! 砲撃支援、願います!!」

 

その姿を見た弘樹がそう言い放つと、みほが通信回線に向かってそう言う。

 

『了解! 砲撃開始ぃっ!!』

 

すると、そう言う返信が返って来て、洋上に停泊していた船影………

 

旧帝国海軍の重巡洋艦である『古鷹型』の1番艦『古鷹』と同2番艦『加古』

 

同じく重巡洋艦の『青葉型』の1番艦『青葉』と同2番艦の『衣笠』

 

旧日本海軍・第一艦隊・第六戦隊の艦隊が、主砲の50口径20.3cm連装砲の艦砲射撃を開始した!!

 

20.3cmの砲弾が、大洗機甲部隊の頭上を飛び越え、砂丘の稜線上に陣取っていたクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の中へ次々に叩き込まれて行く!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

直撃や爆発を諸に喰らったスフィンクス歩兵達が木の葉の様に宙に舞い、砂の上に倒れると戦死と判定されて行く。

 

「た、退避っ! 退避ーっ!!」

 

「ちょっ!? こっち来ないで!?」

 

慌てて逃げようとしたバレンタイン歩兵戦車Ⅱが、Ⅲ号戦車N型に衝突!

 

直後に、両者共に艦砲射撃の直撃を喰らい、何トンもの車体が一瞬宙に舞ったかと思うと、逆さまになって砂の上に叩き付けられ、底部から白旗を上げる!

 

「このぉっ!!」

 

と、1両のマチルダⅡが、水平線に見えている第六戦隊に向かって主砲を発砲する。

 

しかし、当然届く筈も無くマチルダⅡから放たれた砲弾は、遥か手前の海に着弾して海中に沈む。

 

そしてその瞬間に、青葉が撃った砲弾が、マチルダⅡの正面に命中!!

 

巨大な砲弾が一番厚い防盾部分に深々と突き刺さっており、マチルダⅡは砲塔の上部から白旗を上げる。

 

如何に分厚い装甲で知られているマチルダⅡと言えど、艦砲を防ぐ事は出来なかった。

 

「ハハハ! 敵は大慌てだな!」

 

「艦長、笑っている場合じゃありませんよ。我々も攻撃に加わりましょう!!」

 

とそこで、第六戦隊に追従していた駆逐艦の艦隊の中に居た雪風の艦橋で、護がそう声を挙げ、副長がそう促す。

 

「分かっている。よおし! 全艦! 撃ちー方始めーっ!!」

 

護がそう言い放つと、随伴して居た駆逐隊………

 

陽炎型8番艦『雪風』、同7番艦『初風』、同9番艦『天津風』、同10番艦『時津風』で構成された『第十六駆逐隊』も艦砲射撃を開始!

 

50口径三年式12.7cm連装砲が次々と火を噴く。

 

第六戦隊の20.3cm連装砲と比べれば、かなり小型の艦砲であるが、しかし戦車にとってみれば12.7cmと言うのは、あのヤークトティーガーやマウスの主砲と粗同じである。

 

そんな物で撃たれては重戦車と言えど一溜りも無い。

 

「うわぁ、凄いね、コレ………」

 

「あ、圧倒的じゃないの………」

 

「正に敵がゴミの様だな………」

 

その光景を見ていた大洗機甲部隊の中で、ナカジマとみどり子がそう呟き、俊が某大佐の様な台詞を口にする。

 

「コレが、艦砲射撃………」

 

「新代先輩、感謝します」

 

優花里もそう呟く中、弘樹は洋上の第六戦隊と第十六駆逐隊に向かって頭を下げる。

 

そう………

 

何を隠そう、あの艦隊は弘樹の中学時代の先輩である新代 護が所属している『呉造船工業学校』の『軍艦道』の艦隊なのである。

 

実は護は、弘樹とみほに出会った後、大洗の支援艦隊として名乗りを挙げたのである。

 

彼もまた、大洗女子学園の事情を知っており、尚且つ戦友達が多数居て奮戦していると言う話を聞いて、放って於けなかったのである。

 

コレによって大洗機甲部隊は、航空支援のみならず、海上支援をも手に入れたのだ。

 

「総隊長! 逃げて下さいっ!!」

 

「せめてフラッグ車だけでも!!」

 

と、砲撃に曝されているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の中で、戦車部隊や歩兵部隊の隊員達が、フラッグ車であるティーガーⅠに乗るネフェティにそう呼び掛ける。

 

「クウッ!………止むを得ん! 撤退じゃっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

それを受けて、ネフェティはそう命じ、ティーガーⅠは離脱して行く。

 

「!!………」

 

その様子を見たキングコブラも、ティーガーⅠに付き従って離脱する。

 

「あ! フラッグ車が逃げるよ!!」

 

「ツチヤ、追える!?」

 

「いや~、無理だね~。コレ以上はエンジンが持たないよ」

 

その様子を見たレオポンさんチームのポルシェティーガーの中で、ホシノ、ナカジマ、ツチヤがそう言い合う。

 

カモさんチームのルノーB1bisも、履帯が損傷している為、追撃出来ない。

 

「私達が追います! 麻子さん!」

 

「任せろ………」

 

そこで、みほがそう声を挙げ、Ⅳ号がティーガーⅠを追う。

 

「!!」

 

すると、それを見た弘樹がⅣ号の車体の上に飛び乗り、タンクデサントする。

 

「弘樹ぃっ! 持ってけぇっ!!」

 

とそこで、地市が自分が持っていたパンツァーファウストを投げ渡す。

 

「感謝する!………」

 

それを受け取ると、ベルトで背中に背負う弘樹。

 

『さあ、まさかの海上援護で大逆転の大洗機甲部隊! 決着は一騎打ちに縺れ込んだぁっ!!』

 

『Ⅳ号VSティーガー、コレは面白い対決ですよ』

 

観客席とTV放送には、ヒートマン佐々木とDJ田中のそう言う実況が流れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦砲射撃が行われている海岸から少し離れた地点………

 

背後から爆発音が鳴り響いて来る中、それから逃げる様に移動しているクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊のフラッグ車・ティーガーⅠと、それに追従しているキングコブラ。

 

「! 総隊長! 追っ手だ!!」

 

「!?」

 

とそこで、背後を警戒していたキングコブラがそう報告を挙げ、ティーガーⅠのキューポラから姿を晒していたネフェティが振り返る。

 

そこには、砂塵を撒き上げてコチラを追撃して来るあんこうチームのⅣ号の姿が在った。

 

そのキューポラからは、みほが姿を晒している。

 

「Ⅳ号! 西住か!!」

 

「ネフェティ! 逃げろっ!! 奴は俺が始末するっ!!」

 

ネフェティがそう声を挙げた瞬間、キングコブラがⅣ号に向かって蛇腹剣の刃を伸ばした!

 

その先端には、梱包爆薬が括り付けられている。

 

「!?」

 

コチラに向かって伸びて来る蛇腹剣の刃と、その先端に括り付けられている梱包爆薬を見て驚くみほ。

 

しかし………

 

銀色の閃光が煌めいたかと思うと、蛇腹剣の刃が真上へと弾かれる。

 

括り付けられていた梱包爆薬は、そのまま爆発し、花火となる。

 

「!!」

 

キングコブラが驚きながら、良くⅣ号の姿を見やると………

 

「…………」

 

そこには、英霊を抜き放った体勢のままでⅣ号の上に乗って居た弘樹の姿が在った。

 

「舩坂………弘樹!」

 

途端に、キングコブラの顔が険しくなる。

 

「西住総隊長! 奴は小官が引き受けますっ!!」

 

「お願いっ!!」

 

弘樹はみほにそう言うと、Ⅳ号の上から飛び降り、キングコブラと対峙。

 

Ⅳ号はそのまま、ティーガーⅠを追う。

 

「Ⅳ号! 向かって来ますっ!!」

 

「コレ以上の敵に背を向けての逃走はクレオパトラ戦車部隊の名折れ………迎え撃つぞ!」

 

そこでティーガーⅠも、コレ以上の逃走はプライドが許さない為、反転してⅣ号を迎え撃ちに掛かるのだった。

 

 

 

 

 

弘樹VSキングコブラ………

 

「!!………」

 

「!」

 

生き物の様に撓りながら伸びて来た蛇腹剣の刃を、弘樹は英霊を振って弾く。

 

「ぬんっ!」

 

しかし、キングコブラが蛇腹剣の柄を引くと、刃が再び弘樹の方へと向かう。

 

「! チイッ!」

 

即座に側転すると、蛇腹剣は先程まで弘樹が居た場所に突き刺さる。

 

(やはりあの剣が厄介だ。アレを如何にかしなくては………)

 

蛇腹剣を無力化しなければ、キングコブラを倒すのは難しいと感じる弘樹。

 

(………やってみるか)

 

そして、ある思案が脳裏に浮かぶ。

 

それを実行に移そうと、移動を始める。

 

「!? グッ!?………」

 

だがそこで、再び目眩がし、頭を押さえて片膝を着く。

 

「隙有りだ! 舩坂 弘樹!!」

 

その隙を見逃さず、キングコブラは蛇腹剣の刃を伸ばす!

 

「!?」

 

弘樹に向かって一直線に迫り来る蛇腹剣の刃!

 

「終わりだ!」

 

勝利を確信したキングコブラがそう叫ぶ。

 

………しかし!!

 

「むんっ!!」

 

弘樹は、迫って来た蛇腹剣の刃を、英霊で防いだかと思うと、敢えて英霊に、蛇腹剣の刃を巻き付かせる!

 

「!? 何っ!?」

 

「!!」

 

キングコブラが驚いた瞬間、弘樹は蛇腹剣の刃が巻き付いたままの英霊を、地面に深々と突き刺した!

 

そして、四式自動小銃に着剣し、キングコブラに突っ込んだ!

 

「!? しまった!?」

 

慌てて蛇腹剣の刃を戻そうとするキングコブラだったが、刃は英霊ごと地面に深々と突き刺さっており、戻らない!

 

「ハアアッ!!」

 

動きの停まっていたキングコブラに向かって、弘樹は四式自動小銃に装着していた銃剣で袈裟懸けを繰り出す!

 

「! チイッ!」

 

止むを得ないと、蛇腹剣を手放し、バックステップをして回避するキングコブラ。

 

(一気に決めるっ!!)

 

自分の体力が限界を超えている事を察していた弘樹は勝負を急ぐ。

 

袈裟懸けから素早く着剣した四式自動小銃を持ち上げ、突きを繰り出す弘樹。

 

しかし………

 

「ぬううんっ!?」

 

「!? ぐあっ!?」

 

その瞬間に、キングコブラの丸太の様な太い腕が弘樹の背に回され、ベアハッグを掛けられる!

 

「勝負を焦ったなな、舩坂 弘樹!」

 

そう言い放ち、キングコブラは弘樹の身体を締め上げる!

 

「ッ!!………」

 

弘樹は苦痛に顔を歪ませながらも、キングコブラを引き剥がそうと、頭を殴りつけたり、首に手刀を打ち込む。

 

「むううんっ!!」

 

だが、キングコブラはビクともせず、更に弘樹の身体を締め上げる。

 

「ガッ!?………」

 

元より体力で限界を超えていた弘樹は、徐々に意識が遠くなり始める。

 

(意識が………マ………ズ………イ………)

 

徐々に思考も回らなくなる弘樹。

 

最早ココまでか………

 

………しかし、その瞬間!

 

弘樹の手が、キングコブラが装備していたある物に掛かる。

 

「………!!」

 

飛びかけていた意識を無理矢理引き戻す弘樹。

 

その手に掛かっていたのは、キングコブラが胸元に装備していた手榴弾の安全ピンだった。

 

「!!」

 

弘樹は最後の力を振り絞り、その安全ピンを抜き放つ!

 

「!? 手榴弾のピンが!?」

 

途端にキングコブラは慌てふためき、弘樹を解放してしまう。

 

「!!」

 

その瞬間!!

 

弘樹は先程まで意識を失い掛けていたとは思えない様な高打点の空中後ろ回し蹴りを繰り出す!

 

「!? ガッ!?」

 

キングコブラは顎を蹴り飛ばされ、そのまま砂丘の上から転がり落ちて行く!

 

やがて下まで到達して止まったかと思うと………

 

ピンが抜かれていた手榴弾が他の手榴弾や携帯していた弾薬を誘爆させて爆発!!

 

「!!………」

 

派手な爆発が上がった中で、キングコブラは戦死判定を受けたのだった。

 

 

 

 

 

Ⅳ号VSティーガーⅠ………

 

「撃てっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

Ⅳ号の主砲が火を噴くが、やはり砲弾は、ティーガーⅠの正面装甲で弾かれる。

 

反撃とばかりに、ティーガーⅠの主砲が火を噴く!

 

「回避っ!!」

 

「くうっ!!」

 

間一髪、麻子の抜群の操縦で、砲弾を回避するⅣ号。

 

「西住殿! コレが最後の砲弾………成型炸薬弾です!!」

 

と、そこで新たな砲弾を装填した優花里が、その成型炸薬弾が最後の砲弾である事を告げる。

 

「外しちゃったら終わり………華!」

 

外したら終わりと言うプレッシャーを感じているだろう華の事を、沙織が見やる。

 

「大丈夫です、沙織さん。必ず当てます」

 

しかし華は、照準器を覗き込んだまま、凛とした表情でそう言い放つ。

 

「しかし、成型炸薬弾でも正面は厳しい。後ろか、せめて横に回りたいところだが、そんな隙は見せてくれんぞ」

 

そんな中で、麻子がそう呟く。

 

先程からⅣ号は、ティーガーⅠの後面、或いは側面を狙おうとしているが、敵もそれを分かっているのか、常に正面がⅣ号の方を向く様に上手く立ち振る舞っている。

 

「…………」

 

何か手は無いかと、注意深くティーガーⅠの姿を観察するみほ。

 

「! アレは!?」

 

するとそこで、ティーガーⅠの車体に、『あるモノ』を発見する。

 

「華さん! 『アレ』を狙えますか!?」

 

すぐさま華にそう問い質すみほ。

 

「………やってみます」

 

華はそう返し、ジッと照準器を覗き込む。

 

「次弾、装填完了!」

 

「良く狙え! 今度は外すなっ!!」

 

「ハイ!」

 

一方、ティーガーⅠの方でも次弾装填が完了。

 

ネフェティの指示で、砲手が照準器越しにⅣ号の方をジッと見据える。

 

だが、狙われているのは分かっている筈なのに、Ⅳ号は動かない。

 

「? 諦めたか? それも砲弾が尽きたか? 何れにせよ、動かぬと言うならば遠慮無く撃たせてもらうぞっ!!」

 

そう言って、砲撃命令を下そうとするネフェティ。

 

その直後!!

 

ティーガーⅠの傍に何かが落ちて、派手に爆発した!!

 

「!?」

 

ネフェティが驚きながら、その何かが飛んで来た方向を確認すると、そこには………

 

「…………」

 

撃ち終えたパンツァーファウストを構えている弘樹の姿が在った。

 

「舩坂 弘樹………流石のお前も限界じゃった様じゃな。この千載一遇のチャンスを逃してしまうとはのう」

 

そんな弘樹の姿を見て、ネフェティは嘲笑の様な笑みを浮かべる。

 

しかしこの時、弘樹に気を取られて、命令を下すのが遅れていた事に気付かなかった………

 

「! 今ですっ!!」

 

「! 発射っ!!」

 

そしてその隙を衝く様に、Ⅳ号が最後の砲弾………成型炸薬弾を放った!

 

「! 敵戦車発砲!」

 

「慌てるでない! どうせコチラの装甲は貫けんのじゃ!」

 

装填手が報告を挙げるが、ネフェティはそう返す。

 

だが、しかし!!

 

成型炸薬弾が、ティーガーⅠの砲塔正面の装甲に命中した瞬間………

 

それまでとは違う、巨大な爆発が起こった!?

 

「!? ぬあああっ!?」

 

キューポラから姿を晒していた為、その爆風の熱風を直に感じるネフェティ。

 

そしてその直後………

 

ティーガーⅠは白旗を上げた!!

 

「!? 馬鹿な!? Ⅳ号の主砲ではティーガーの装甲は貫けぬ筈じゃ! それが何故!?………!?」

 

信じられないと言う声を挙げながら、ネフェティは被弾箇所をチェックし、ある事に気付いた。

 

Ⅳ号が成型炸薬弾を命中させた場所、それは………

 

カバさんチームのⅢ突が、成型炸薬弾を命中させ、僅かに装甲を穿っていた場所だった!

 

「ま、まさか彼奴等………寸分違わず同じ場所に命中させて、このティーガーⅠの装甲を!?………」

 

そう言い放ったかと思うと、ネフェティは脱力したかの様に車内へ引っ込み、車長の椅子に深く凭れ掛かった。

 

「総隊長………」

 

「何と言う奴等じゃ………全く持って………信じられん」

 

声を掛けて来た乗員に、ネフェティは悟ったかの様な表情でそう返すのだった。

 

『試合終了! 大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

「やったーっ!!」

 

「やりました!!」

 

「やれやれ………今回は本当に薄氷の勝利だったな」

 

主審のレミのアナウンスが流れる中、Ⅳ号の中で沙織と優花里が歓声を挙げ、麻子が漸く一息つけると言う感じに脱力した。

 

「みほさん! やりました!!………!? みほさん!?」

 

「「「!?」」」

 

とそこで、みほに声を掛けた華が悲鳴の様な声を挙げ、他の3人も慌ててみほの方を見やる。

 

「…………」

 

そこには、グッタリとして、車長用の席に凭れ掛かって気を失っているみほの姿が在った。

 

「!? みぽりん!」

 

「しっかりしろっ!!」

 

「舩坂殿! 西住殿が!!」

 

沙織と麻子が慌てて傍により、優花里がハッチを開けて外に出ると、弘樹に救援を求める。

 

「…………」

 

だが、そこで優花里が見たのは、砂の上に倒れ伏す弘樹の姿だった………

 

「!? 舩坂殿ぉ!?」

 

優花里の悲鳴が、砂丘に木霊する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

絶体絶命だった大洗機甲部隊。
それを救ったのは何と!
新代 護の艦隊!!
遂に大洗は、海上支援をも手に入れたのだった!
予想されていた方もいらっしゃいましたが、逆転の手立て………
それは艦隊による艦砲射撃でした。

逃げ果せたかに見えた敵フラッグ車のティーガーⅠとキングコブラも、あんこうチームと弘樹の奮戦で撃破!
しかし試合終了と同時にみほと弘樹が倒れてしまう。
果たして無事なのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第115話『第6回戦、終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第115話『第6回戦、終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の第6回戦………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊と相対した大洗機甲部隊は………

 

壊滅寸前の状態となり、最早コレまでかと思われたが………

 

試合会場が海辺の砂丘であった為、海上支援要請が通り………

 

新代 護が引き連れて来た第六戦隊と第十六駆逐隊の艦砲射撃が炸裂!

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊は、アッと言う間に………

 

隊長車兼フラッグ車であるネフェティの乗るティーガーⅠと歩兵部隊総隊長であるキングコブラだけとなった。

 

それを追撃したみほ達あんこうチームのⅣ号と随伴した弘樹は………

 

お互いに壮絶な一騎打ちの末………

 

遂に相手を撃破。

 

またしても薄氷の勝利で、更なる試合へ駒を進めたのだった。

 

だが、しかし………

 

試合が終了したと同時に………

 

限界を超えていた弘樹とみほが倒れる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「? ココは?………」

 

みほは暗闇の中で目を覚ました。

 

立っている為、地面の感覚はあるが、上下左右全てが真っ暗であり、その中に自分の姿が発光しているかの様にハッキリとしている。

 

「!? 試合は!? 試合は如何なったの!?」

 

そこで、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との試合の結果が分かっていない事を思い出し、そう声を挙げる。

 

その瞬間!!

 

風切り音がしたかと思うと、みほが立っている場所の近くに、砲弾が着弾した!!

 

「!? キャアッ!?………な、何っ!?」

 

驚きながらも、すぐに砲弾が飛んで来た方向を確認するみほ。

 

そこに居たのは………

 

朦々と土煙を巻き上げながら進軍して来る所属不明の機甲部隊の姿が在った。

 

「!? 機甲部隊!?………!? ハッ!?」

 

そこでみほは、自分が何時の間にかⅣ号に乗って、キューポラから姿を晒している状態になっていた事に気付く。

 

そしてその周囲には………

 

撃破されて白旗を上げている大洗戦車チームの戦車達と………

 

戦死判定を受けて倒れ伏している大洗歩兵部隊の姿が在った。

 

「!? み、皆さん!?………!? キャアッ!?」

 

みほが再び驚きの声を挙げた瞬間、またも近くに砲弾が着弾する。

 

「クッ! 麻子さん! 移動を!!」

 

状況が呑み込めないまま、反射的に麻子へと指示を出すみほ。

 

「…………」

 

しかし、麻子からの返事は返って来ず、Ⅳ号も動かない。

 

「!? 麻子さんっ!?」

 

戸惑いながらみほがキューポラから車内を覗き込むと、そこには………

 

「「「「………」」」」

 

まるで人形の様に無表情の状態で固まっている沙織、華、優花里、麻子の姿が在った。

 

「!? 如何したの!? しっかりしてっ!!」

 

「「「「…………」」」」

 

慌ててそう呼び掛けるみほだが、やはり4人は固まったままである。

 

その間にも、所属不明の機甲部隊はドンドンと迫って来る。

 

「!!………」

 

恐怖に顔が歪むみほ。

 

するとそこで………

 

何者かがⅣ号の横を擦り抜け、所属不明の機甲部隊へと向かって行く。

 

「!? 弘樹くんっ!?」

 

それは着剣した四式自動小銃を手にしている弘樹だった。

 

一直線に所属不明の機甲部隊へと向かって行く弘樹。

 

「! 駄目! 弘樹くん、戻ってっ!!」

 

「…………」

 

みほが叫ぶが、弘樹は聞こえていないのか、真っ直ぐ突っ込んで行く。

 

その直後!!

 

所属不明の機甲部隊の戦車部隊の主砲が一斉に火を噴いた!!

 

砲弾が弘樹に向かって次々と降り注ぎ、着弾!

 

弘樹の姿は、爆炎の中に消えた………

 

「弘樹くうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!! 弘樹くんっ!?」

 

「!? うわぁっ!?」

 

突然飛び起きたみほに、沙織が驚きの声を挙げる。

 

「………アレ?」

 

そこでみほは、自分が病室の様な場所のベッドに居て、あんこうチームの面々に囲まれている事に気付く。

 

「夢?………」

 

「西住殿ぉーっ!!」

 

「!? キャアッ!?」

 

みほがそう呟いた瞬間、優花里が抱き付いて来る。

 

「うううっ! 良かったぁ~っ!! 良かったであります~~っ!!」

 

「ちょっ! ゆかりん! 顔から出るモノ全部出てるよっ!?」

 

感激の余りか、顔から出るモノが全て垂れ流しになっている優花里を見て、沙織が慌ててティッシュを取り出して拭いてあげる。

 

「あ、あの………」

 

「此処は大洗学園艦の甲板都市の病院です。みほさん、試合が終わった瞬間に気絶されて、丸1日寝たままだったんですよ」

 

みほが戸惑っていると、華がそう告げて来る。

 

「そうだったんだ………!? 試合は!? 試合は如何なったの!?」

 

そこで慌てて、試合の結果について尋ねるみほ。

 

「安心しろ。私達の勝ちだ。最も、今回は本当にギリギリだったがな………」

 

今度は麻子が、ニヒルな笑みを浮かべてそう告げる。

 

「そっか、良かった………あ、弘樹くんは?」

 

「「「「…………」」」」

 

と、みほが一旦安堵した後、今度は弘樹の事を尋ねると、沙織達の表情が曇った。

 

「えっ? な、何?………」

 

「………みぽりん。落ち着いてよおく聞いてね」

 

みほが戸惑っていると、沙織が真剣な表情でそう言って来る。

 

「舩坂さんも、みほさんと同じ様に、試合終了の瞬間に倒れられたんです………」

 

「あの炎天下の砂丘を人1人を背負って延々と歩いていたんだ。当然の結果だ………」

 

「重度の脱水症状に加えて熱中症に日射病………身体も彼方此方が疲労骨折を起こしかけていたそうです。搬送が開始された時には意識不明の重体でした………」

 

更に華、麻子、優花里も、真剣な表情でそう告げて来る。

 

「看護兵さんが、ひょっとしたら助からないかもって………」

 

「!? そんなっ!?」

 

沙織のその言葉を聞いて、みほは先程の夢の光景を思い出し、顔を青褪めさせる。

 

「………でもね」

 

「えっ?」

 

しかし、沙織が何か言葉を続けようとしたので、首を傾げた瞬間………

 

病室のドアがノックされる。

 

「あ、どうぞ」

 

みほは反射的にそう返事をする。

 

すると、病室のドアが開き………

 

「みほくん。目が覚めたのか」

 

至って健康そうな弘樹が姿を現した。

 

「………えっ?」

 

みほは混乱し、固まってしまう。

 

「? 如何したんだ? 幽霊でも見ている様な顔をして?」

 

そんなみほの姿に、今度は弘樹が首を傾げる。

 

「ひ、弘樹くん? 重体だったんじゃ?………」

 

混乱したまま、弘樹にそう問い質すみほ。

 

「治った」

 

「!? えええっ!?」

 

事も無げにそう返す弘樹に、みほは思わず仰天の声を挙げる。

 

「そうなの、みぽりん。舩坂くんったら、最初に試合会場の救護室に運ばれた時点で、意識は無かったんだけど、もう症状が回復し始めてて………」

 

「病院に搬送された頃には、もう完治していたそうです」

 

「驚異的な回復力でした」

 

「医者が頭を抱えていたぞ。医学的に言わせてもらうと、悪夢だって」

 

そこで沙織、優花里、華、麻子もそう言って来る。

 

「ア、アハハハハ………」

 

その言葉に、みほは乾いた笑いを零すしかなかったのだった。

 

「元気そうだな。安心したよ」

 

そんな中、弘樹はみほが居るベッドの傍まで来たかと思うと、傍に在った椅子に腰かける。

 

「………さてと、じゃあ私達もう行くね」

 

すると、沙織がそう言って立ち上がり、他の3人を連れて引き上げようとする。

 

「では、西住殿」

 

「今はゆっくりと身体を休めて下さいね」

 

「健康維持も総隊長の務めだぞ」

 

優花里、華、麻子がそう言い残し、沙織達は病室から退室する。

 

「………気を遣わせてしまったかな?」

 

「あの………弘樹くん」

 

気を遣わせてしまったかと思った弘樹に、みほが声を掛ける。

 

「? 何だい?」

 

「えっと………」

 

みほは何かを言おうとして、先程の悪夢の内容を思い出してしまう………

 

「………ううん、何でも無いよ」

 

「? そうか?」

 

結局何も言えず、弘樹はそんなみほの姿に首を傾げるのだった。

 

「兎も角、無事に目を覚ました様で良かった………」

 

するとそこで、今度は弘樹の方が黙り込む。

 

「? 如何したの? 弘樹くん?」

 

そんな弘樹に向かって、みほがそう尋ねる。

 

「………実は、君と砂丘を越えようとしていた、あの時………小官は試合を棄権しようと考えた」

 

「えっ?」

 

不意にそう語り始めた弘樹に、みほは驚きの声を挙げる。

 

「小官は兎も角、まだ大洗機甲部隊は君無しで勝てる程の実力は無い………それでも、苦しむ君を見て、放って於けなかった」

 

吐露するかの様に弘樹は言葉を続ける。

 

「例えどんな理由が有ろうと、小官がやろうとした事は戦友達を裏切る行為だ………そんな自分が許せん」

 

そう言うと、右手の拳を血が出んばかりに握り締め、表情を険しくする弘樹。

 

「…………」

 

みほは、そんな弘樹の姿を少しの間見つめていたかと思うと………

 

その握り締められている右手に、自分の右手を重ねた。

 

「! みほくん」

 

「弘樹くんは皆を裏切ってなんかないよ。もし、逆の立場だったら私も………ううん、大洗の皆は、弘樹くんと同じ事を考えたと思うよ」

 

優しく諭すかの様な口調で、みほは微笑みを浮かべて弘樹にそう言う。

 

「そうか?………」

 

「うん、きっとそうだよ」

 

「…………」

 

みほに断定口調でそう言われ、弘樹の握っていた手の力が抜ける。

 

「………ありがとう、みほくん。そしてすまなかったな。病み上がりだと言うのに、愚痴を聞かせる様な事をして………」

 

「ううん、気にしないで。弘樹くんの気が楽になったんなら、私も安心出来るから」

 

「本当にありがとう。みほくん」

 

そう言われて、弘樹は微笑を浮かべたのだった。

 

「さて………小官もそろそろ御暇するよ。次の試合への準備もしなけばならないからな」

 

「次の試合………」

 

その言葉で、みほは次の試合の相手………

 

以前、ガンショップで出くわした『西部学園』の面々の事を思い出す。

 

強豪と名高い西部学園………

 

彼等は次の試合も勝って、大洗と戦う事になるだろう………

 

恐らく今度も苦戦は免れまい………

 

そう考えると、みほの脳裏に、先程の悪夢の光景が思い起こされる………

 

弘樹の姿が、爆炎の中に消える様が、フラッシュバックの様に再生される。

 

「!!」

 

みほはビクリと身体を震わせる。

 

「では、大事にな………」

 

しかし、その様に気付かなかった弘樹は、椅子から立ち上がると、病室を後にしようとする。

 

「!! 待ってっ!!」

 

その瞬間、みほは思わずそう叫び、去ろうとしていた弘樹の手を握って引き留めていた。

 

「? みほくん?」

 

みほの思わぬ行動に、弘樹は僅かに戸惑いを見せながら振り返る。

 

「あ!………え、えっと………」

 

引き留めてしまったみほは、何と言って良い分からず困惑する。

 

「………何かあったのか?」

 

しかし、そんなみほの様子を見て、弘樹はそう察し、再び椅子に座り込む。

 

「良かったら話してくれ。小官だけ愚痴を聞いてもらって、君の話を聞かないと言うのも悪いからな」

 

「………あのね」

 

弘樹にそう言われ、みほは先程の悪夢の内容を語り出すのだった………

 

 

 

 

 

「そうか………そんな夢を………」

 

「それを思い出したら、凄く怖くなっちゃって………ゴメンね。こんな事で引き留めたりしちゃって………」

 

申し訳無さそうな顔をして弘樹に向かって謝罪するみほ。

 

「…………」

 

するとそこで、弘樹はみほの頭の上に手を置いたかと思うと、優しく撫で始めた。

 

「ふえっ!?」

 

「みほくん。もしコレからも何か不安な事があったなら、遠慮なく小官に言ってくれ。小官の前では大洗機甲部隊の総隊長としてではなく、只の西住 みほで居ても構わない」

 

赤面するみほの頭を優しく撫で続けながら、弘樹はそう言う。

 

「弘樹くん………」

 

ゴツゴツとした無骨な手の感触が、みほの中から不安や恐れと言った感情を消して行く。

 

「それに………」

 

と、そこで撫でるのを止めたかと思うと、一瞬言葉を貯める弘樹。

 

「??」

 

みほが何かと首を傾げると………

 

「もしその悪夢と同じ様な事が起きたとしても、小官がそれぐらいでやられはせんさ」

 

弘樹は至って真面目な顔でそう言い放った。

 

「そ、それは………確かに………」

 

思わず顔が引きつるみほ。

 

普通に考えれば先ず助からない状況である。

 

しかし、そこは英霊の子孫・舩坂 弘樹。

 

コレまでの戦績もあり、全く無事な姿で居ると言う悪夢の続きが容易に想像出来てしまった。

 

「「…………」」

 

お互いに沈黙する弘樹とみほ。

 

「………フフ………アハハハ!」

 

「ハハハハ!」

 

やがて、どちらからともなく笑い出す。

 

「ありがとう、弘樹くん。お蔭で楽になった気がするよ」

 

「何、お互い様だ」

 

「あ、あのね………それで………もう1つ頼みたい事がるんだけど………良いかな?」

 

「小官に出来る事なら」

 

「もう少し眠りたいんだけど………眠るまでの間、そ、その………」

 

モジモジとしながら、言葉に詰まるみほ。

 

「………て、手を………握ってて貰っても良いかな?」

 

「………了解した」

 

弘樹はそう返すと、みほの右手を、自分の両手で包み込む様にして握る。

 

「ふあぁ………」

 

みほは更に顔を赤くしながら、ベッドに横になる。

 

「…………」

 

そして弘樹は約束通り、みほが眠るまで、手を握り続けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談となるが………

 

その後程無くして、みほは眠りについたのだが………

 

その際に弘樹の手をしっかりと握り締めてしまい………

 

解く事が出来ず、かと言ってみほを起こすなんて事も出来なかった弘樹は………

 

検診の看護師が訪れるまで、その場から動く事が出来なかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫の脇………

 

「「「「「「「「「「ワン、ツー! ワン、ツー!」」」」」」」」」」

 

格納庫の脇にて、全員がジャージ姿でダンスレッスンに励んでいるサンショウウオさんチーム。

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との試合で、大洗機甲部隊の殆どの戦車が撃破され、深い損傷を負った。

 

その為、現在自動車部の面々と整備部の一同が、オーバーホールも兼ねて徹底的に整備を行っている。

 

なので、歩兵部隊は訓練を続けているが、戦車チームはやる事がない状態なのである。

 

そこでサンショウウオさんチームは、もう1つの本業であるスクールアイドル活動に精を出しているのだ。

 

ミュージックに合わせてステップを続けるサンショウウオさんチーム。

 

「いい加減にして下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで、そう言う叫び声が聞こえて来て、一同は思わず動きを止める。

 

「何だろう?………」

 

「行ってみよう!」

 

伊代がそう呟くと、聖子がいの1番に駆け出す!

 

「あ、聖子! 全く………好奇心が旺盛なのにも程がありますよ」

 

そんな聖子の姿を見てそう言うと、後に続く優。

 

他の面子も、同じ様に後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、校舎傍まで来たサンショウウオさんチームが見たのは………

 

「話を………聞いていただけませんか?」

 

「話す事なんてありません!」

 

346プロのプロデューサーと、彼に向かって怒鳴っている近藤 里歌の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

試合後に倒れた弘樹とみほだったが………
弘樹は当然として(笑)、みほも大事には至らなかった。
一安心したところで、次なる相手………西部学園への懸念が過る。

一方………
サンショウウオさんチームは、346プロのプロデューサーが、近藤 里歌に声を掛けている光景を目撃していた。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第116話『近藤 里歌さんの過去です!』

本日はあんこう祭の日。
勿論私も行きます。
土曜には劇場版が遂に公開なので、最新の情報が聞けるのでしょうか?
劇場版は仕事の都合で初日には見に行きませんが、2日目の日曜には見に行きます。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第116話『近藤 里歌さんの過去です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は本当にギリギリながら………

 

クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊を下した大洗機甲部隊………

 

試合終了直後に倒れた弘樹とみほも、無事に回復。

 

弘樹に至っては当然の様に即日退院したのだった。

 

そんな中………

 

戦車の殆どが大破し、オーバーホール中なので、スクールアイドルのレッスンに励んでいたサンショウウオさんチーム。

 

その時、怒鳴り声が聞こえ、興味からその元へと向かったサンショウウオさんチームが見たのは………

 

346プロのプロデューサーと、その彼に向かって怒鳴っている近藤 里歌の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・大洗女子学園の一角………

 

「せめて、名刺だけでも………」

 

「しつこいですよ! いい加減にして下さいっ!!」

 

プロデューサーは里歌に向かって名刺を差し出すが、里歌は怒鳴るばかりで受け取る様子は無い。

 

「プロデューサーさんが………近藤さんをスカウトしてる!?」

 

その様子を隠れて窺っていたサンショウウオさんチームの中で、聖子が驚きの声を挙げる。

 

「オイオイ、何だってあんな奴を?」

 

「スクールアイドル活動してる私達を目の仇にしてるのに………」

 

唯と満理奈が、信じられないと言う表情を見せる。

 

「兎に角! 私はアイドルになんて興味有りません! コレ以上付き纏うなら、警察を呼びますよ!!」

 

「! そ、それは………」

 

警察を呼ぶと言う里歌に、プロデューサーは狼狽する。

 

何度か職質を受けている身だけに、過敏に反応してしまっている様だ。

 

「分かったらお引き取り下さい。今度姿を見たら………本当に警察に通報しますから」

 

そう言い残し、里歌はプロデューサーの前から去って行った。

 

「…………」

 

残されたプロデューサーは、所在無さ気に立ち尽くしていた。

 

「………ハア~」

 

「あの~………プロデューサーさん」

 

と、プロデューサーが深く溜息を吐いた瞬間、隠れて様子を窺っていたサンショウウオさんチームの面々が、ゾロゾロと現れる。

 

「! サンショウウオさんチームの皆さん。コレは、お恥ずかしいところを………」

 

「あ、いえ、そんな………」

 

「プロデューサーさん。何で近藤さんをスカウトしてたんですか?」

 

頭を下げるプロデューサーに聖子がしどろもどろと応対していると、伊代がそう尋ねる。

 

「彼女はスクールアイドル活動をしている私達を目の仇にしているのですよ」

 

「えっ? そう、なのですか?………」

 

続いて優がそう言うと、プロデューサーは軽く驚きを露わにする。

 

「ええ、私達のパフォーマンスは人に披露するレベルじゃないって………」

 

「そうですか………彼女の目からすると、そう見えてしまうのかも知れませんね」

 

静香の言葉に、意味有り気な台詞を言うプロデューサー。

 

「ワルキューレ達の主枢機卿、ひょっとして………幻影の事象を何か自らの記憶《メモリー》にインプットしているのか(訳:プロデューサーさん、ひょっとして………彼女の事を何か知ってるんですか?)」

 

「それは………」

 

今日子にそう問われ、プロデューサーは言葉に詰まる。

 

………如何でも良いが、蘭子で慣れたのか、今日子の中二病台詞にも、普通に反応出来ているプロデューサーであった。

 

「あの! もし宜しかったら、教えていただけませんか!?」

 

真っ直ぐにプロデューサーの事を見てそう言う聖子。

 

「…………」

 

そんな聖子の目を見て、プロデューサーは一瞬困った様に首の後ろに手を回したが………

 

「………分かりました。皆さんを信じてお話致します」

 

やがて決心した様な顔となってそう言う。

 

「ですが………この話は決して他言しないと約束して下さい」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

プロデューサーのその言葉に、サンショウウオさんチームの面々は無言で頷いたのだった。

 

「………実は、あの学園祭で雑誌やホームページ掲載用の写真を撮影していたのですが………観客席を写した写真を見た島村さんが、見覚えの有る方が居らっしゃると言う事を話してくれまして」

 

「島村さんが?」

 

「ハイ、島村さんの話に寄りますと………彼女、近藤 里歌は………以前、島村さんと同じ養成所に所属していたそうです」

 

「!? ええっ!?」

 

「近藤 里歌が………」

 

「島村 卯月さんと………」

 

「同じ養成所に!?」

 

プロデューサーから齎された思いも寄らぬ話に、サンショウウオさんチームの面々は驚愕を露わにする。

 

「ハイ。それに………同期の候補生の中でも、トップクラスの成績だったそうです。幼い頃からアイドルが大好きで、教育テレビを見ながらダンスを楽しみ、小学校の頃からジュニアダンススクールに通い、アイドル専門雑誌を読みながらアイドルに関する事などを独学で猛勉強し、猛特訓していたそうです」

 

「信じられませんわ………」

 

「ロックだねぇ」

 

早苗と郁恵がそう呟く。

 

「史上最年少で武道館ライブをするのが彼女にとっての夢であり、生きる目標でもあると常々語っていたそうです………ですが」

 

「ですが?」

 

プロデューサーの表情が曇ったのを見て、明菜が嫌な予感を感じる。

 

「彼女も島村さんや他の候補生の皆さんと同様に、中々プロとしてデビューする事が出来なかったそうです」

 

「現実の壁にブチ当たったワケか………」

 

「更に、そんな彼女に追い打ちを掛ける様な事も有りました………」

 

「追い打ち?」

 

「『飛鳥城 星姫(あすかじょう きらら)』さんの事は御存知ですか?」

 

プロデューサーの口から出た『飛鳥城 星姫(あすかじょう きらら)』なる人物の名。

 

「知ってます。確か、数年前にトップアイドルになって、史上最年少で武道館ライブをやった伝説のアイドルですよね」

 

アイドルに詳しい静香が、『飛鳥城 星姫(あすかじょう きらら)』についてそう説明する。

 

「! ちょっと待って、静香! 史上最年少で武道館ライブって………」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

と、それを聞いた満里奈がそう声を挙げると、他のサンショウウオさんチームの面々もハッとする。

 

「………彼女はそれにより夢を………生きる目標を失ってしまったのです」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

プロデューサーが辛そうな表情でそう言い、サンショウウオさんチームの面々は絶句する。

 

「その後すぐに、近藤さんは養成所を辞めたそうです。その後の音信は不通………島村さんも、写真を見て初めて気づいたそうです」

 

「そう………だったんですか」

 

聖子がまるで自分の事の様に悲しげな表情を見せる。

 

「でも、如何してそんなにアイドルが好きだったのに、今は………」

 

「恐らく、現実に直面しての挫折に加え、夢と生きる目標を結果的に一気に奪われた事で、好きだった気持ちが憎しみに変わってしまったのでしょう………」

 

伊代がそう言うと、優がそう推察を述べる。

 

「…………」

 

そこで聖子の脳裏に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合後のライブでの里歌の姿を思い出す。

 

ジッと自分達のステージを食い入る様に見つめ、去り際に寂しさと悲しさの入り混じった表情が浮かべた里歌。

 

(近藤さん………本当はまだ………)

 

「ですが、まだ彼女の可能性は失われていないと思います」

 

「!!」

 

そこでプロデューサーが自分の考えていた事と同じ事を言ったので、聖子は驚く。

 

「少なくとも私には、彼女は今………自分の本当の気持ちに嘘を吐いている様に見えました。本当はアイドルへの思いが、まだ残っていると」

 

「…………」

 

プロデューサーのその言葉を聞いて、聖子は考える様な素振りを見せる。

 

「………プロデューサーさん!」

 

やがて、決意したかの様な表情となり、プロデューサーに声を掛ける。

 

「? ハイ?」

 

「近藤さんの事は………私達に任せてくれませんか?」

 

「えっ?………」

 

「聖子!?」

 

「聖子ちゃん!?」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

そう言った聖子に、プロデューサーと優、伊代にサンショウウオさんチームの面々は驚きを露わにする。

 

「私、近藤さんがライブに来たのを見たんです。ジッと私達のステージを見てて………去り際に一瞬だけど、凄く寂しくて、悲しそうな顔をしてました」

 

「そんな事が………」

 

「同じ学校のスクールアイドルである私達の方が、説得もし易いと思うんです………お願いします! プロデューサーさん!!」

 

聖子はそう言い、プロデューサーに向かって深々と頭を下げる。

 

「…………」

 

そんな聖子の姿を、プロデューサーは暫しの間、ジッと見ていたかと思うと………

 

「………分かりました。近藤さんの事はお任せ致します」

 

やがてそう言い放った。

 

「! ありがとうございます!!」

 

「良いんですか? スカウトに来たのでは?」

 

プロデューサーに向かってお礼を言う聖子だが、優はそう疑問を呈する。

 

「確かに、彼女を346プロに迎え入れられないのは残念です………ですが」

 

「ですが?」

 

「もし彼女の最高の笑顔が見れるとしたら………それはサンショウウオさんチームの皆さんと一緒に居る時では………確証はありませんが、そんな気がするのです」

 

「プロデューサーさん………」

 

「アイドルのプロデューサーとしては、失格な行為かも知れませんが………」

 

「そんな事ありません!」

 

自嘲する様にそう呟いたプロデューサーの言葉を、聖子が遮る。

 

「プロデューサーは、最高のプロデューサーさんです! きっとシンデレラプロジェクトの皆さんもそう思ってますよ!!」

 

「………ありがとうございます」

 

聖子のその言葉を聞いて、プロデューサーは微笑を浮かべる。

 

「では、近藤さんの事は、よろしくお願い致します!」

 

「ハイ!」

 

威勢の良い聖子の返事を聞いて、プロデューサーは会釈をすると、その場から立ち去って行った。

 

「よ~しっ!」

 

「聖子。近藤 里歌を説得すると言ってましたが、勿論考えが………」

 

「全然無いっ!!」

 

「………だと思いました」

 

優の疑問に、何故か自信満々にそう返す聖子を見て、優は溜息を吐いて頭を押さえる。

 

「取り敢えず、もっともっとスクールアイドルとして頑張ろう! 私達が頑張ってる姿を認めてくれたら、近藤さんだって考えが変わるかも知れないよ!」

 

「んな、大雑把な………」

 

「良いんじゃない? 今のところ、出来る事って言ったらそれぐらいだし」

 

唯が呆れる様な様子を見せるが、郁恵が賛同する。

 

「うん! そうと決まったら、次の試合も勝ってライブをしないと! 前の試合はそれどころじゃなかったからね!!」

 

聖子がそう言う通り、実は第6回戦・クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との試合に勝利した記念ライブは、サンショウウオさんチームは行わなかった。

 

みほと弘樹が倒れて搬送され、弘樹はその日の内に回復したものの、みほに至っては入院まで必要となった為、それどころではなかったのである。

 

「それじゃあ! レッスンの続きを!!………」

 

「あ、あの~………」

 

「ふえっ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

と、勇んでレッスンに戻ろうとしたところ、突然声を掛けられて、聖子とサンショウウオさんチームの面々は一斉にその声がした方向を振り返る。

 

「ひゃあっ! ご、ゴメンなのです~!」

 

そこには、一斉に視線を向けられて萎縮した様子の、幼く見える容姿で、頭に大きなリボンを付けた大洗女子学園の生徒の姿が在った。

 

「貴方は?………」

 

「アレ? さゆりちゃん?」

 

聖子が誰かと思っていると、静香がそう声を挙げた。

 

「静香ちゃんの知り合い?」

 

「あ、ハイ。良く図書室で会う友達で、1年の『赤坂 さゆり』ちゃんです」

 

「あ、あああ、『赤坂 さゆり』、なななななな、なのです………」

 

伊代がそう尋ねると、静香はそう言い、少女………『赤坂 さゆり』がガチガチに緊張した様子でそう言う。

 

「そんなに緊張しなくても宜しいのではないですか?」

 

「すすすす、すみません! ああああ、あがり症、なななな、なのでして………」

 

早苗がそう言うと、さゆりは相変わらずガチガチに緊張している様子でそう返す。

 

「いや、あがり症にも程が有るにゃ」

 

「こんなにあがり症な人、初めて見たよ」

 

その様子を見て、今度は満里奈と郁恵がそう言い合う。

 

「伝説はこう始まる………この黄昏の真祖『レティシア・フォン・ファンタズミク』とその眷属どもに何か宿命だと?(訳:それで、私達に何か御用ですか?)」

 

「え、え~と………」

 

今日子の問いに、しどろもどろとなるさゆり。

 

「そ、そそそそ、そのぉ………わわ、わた、わた、わた………」

 

「オイオイ、落ち着けよ」

 

「一回深呼吸してみて」

 

緊張しっぱなしのさゆりを見て、唯と伊代がそう言う。

 

「ハ、ハイ! スー………ハー………スー………ハー………スー………ハー………」

 

そこでさゆりは深呼吸をして、幾分か落ち着きを取り戻す。

 

「あ、あの! 私も………スクールアイドルになっても良いですかっ!?」

 

そして、サンショウウオさんチームの面々に向かって、そう問い質した!

 

「スクールアイドルに?………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いた聖子とサンショウウオさんチームの面々が、顔を見合わせる。

 

「や、やややや、やっぱり駄目ですよね。わ、わわわわ、私、こんなあがり症だし………」

 

「大歓迎だよっ!!」

 

さゆりが落ち込む様な素振りを見せた瞬間、聖子がさゆりの両肩を掴んでそう言い放った。

 

「!? ひゃいっ!?」

 

「ようこそサンショウウオさんチームへ、さゆりちゃん。私達は、来る者は拒まない主義だからね」

 

「何時からそんな主義になったんですか、全く………」

 

驚くさゆりにそう言い放つ聖子に、優が呆れる様な台詞を吐いたが、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

「よお~し! 新しい仲間も加わった事だし! 改めてレッスンの続きだ~っ!!」

 

と、聖子がそう叫ぶと、何の前触れも無く、いきなり走り出す。

 

「ちょっ! 聖子!!」

 

「聖子ちゃ~ん! 待って~っ!!」

 

「ま、待って下さ~いっ!!」

 

慌ててその後を追うさゆりを加えたサンショウウオさんチームの面々。

 

何だかんだで、聖子がリーダーとして、彼女達を引っ張っているのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

大洗学園艦は、とある港に停泊している………

 

その甲板都市………

 

大洗女子学園・戦車格納庫にて………

 

「皆さん、御心配をお掛けしました」

 

退院したみほが、集まっていた大洗機甲部隊の面々に向かってそう言い、頭を下げる。

 

「みぽりん、退院おめでとう~!」

 

「おめでとうございます! 西住殿!!」

 

「お帰りみほちゃん!」

 

「御無事で何よりです! 総隊長!!」

 

途端に、大洗機甲部隊の面々からは割れんばかりの拍手が鳴り響く。

 

「あ、ありがとう………」

 

嬉しいやら気恥ずかしいやらでオドオドとしてしまうみほ。

 

「それじゃあ、練習を始めましょうか」

 

しかし、すぐに気を取り直し、練習に入ろうと呼び掛ける。

 

「大丈夫ですか? もう少し休まれた方が………」

 

華が、みほがまだ病み上がりなのを心配してそう言うが………

 

「大丈夫、もうすっかり元気だから。それに………次の相手は、あの西部学園だしね」

 

「西部学園………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほの口から、西部学園の名が出ると、大洗歩兵部隊の一同は沈黙する。

 

その脳裏に、ガンショップで出会った西部のジャンゴ、レオパルド、そしてオセロットの姿が思い起こされる。

 

高圧的な態度が目に付いたものの、その実力は本物であり、西部学園自体も強豪校で知られている。

 

それが次の相手と思うと、自ずと大洗機甲部隊には緊張が走る。

 

「緊張ばかりしていても仕方ない。兎も角、戦うには敵を知らなければな………」

 

するとそこで、指揮車から煌人が出て来てそう言う。

 

その手には、1枚のDVDが握られている。

 

「アインシュタイン?」

 

「そのDVDは?」

 

「西武学園の試合のDVDだ」

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

サラリとそう言い放つ煌人に、みほを初めとした大洗機甲部隊の一同は驚愕を露わにする。

 

「そ、そんな物を、一体何処から!?」

 

「極秘ルートだ………」

 

優花里がそう問い質すが、煌人ははぐらかす。

 

「まあ、何はともあれ、貴重な資料が手に入ったね」

 

「早速皆で見てみようじゃないか」

 

そこで杏と迫信が場を纏める様にそう言い、大洗機甲部隊は男子校の作戦会議室へと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗国際男子校・作戦会議室………

 

大型モニターに映し出されている西部機甲部隊の試合の様子をジッと見つめている大洗機甲部隊の一同。

 

試合会場は市街地で、既に決まりかけていた………

 

するとその時………

 

戦車の砲撃が響いている中、試合が行われている市街地の中で、女の子が楽しそうに走り回っている。

 

その姿を観客用の大型モニターで見た、観客席にいた1人の女性が悲鳴を上げる。

 

如何やら女の子はその女性の娘で、目を離している内に試合会場内に入ってしまった様だ。

 

そして最悪の事態が起こる!

 

相手機甲部隊のフラッグ車が、西部機甲部隊に追われて町中を逃げ回っており、その進行方向には先程の女の子が!!

 

フラッグ車の乗員は逃げるのに夢中で女の子に気付かない!!

 

それに気がづいた、西部機甲部隊のジャンゴが大声で………

 

『ピューマ!! 東の道路交差点だ!!』

 

と叫んだ!!

 

すると1人の歩兵が現れ、まるで機関車の様に両腕を振りながら物凄いスピードで、そのまま少女の方まで走り出す!

 

『その子を抱えながら走れ!』

 

ピューマと呼ばれた歩兵は、目を光らせ、あっと言う間にフラッグ車を追い抜くと、少女を掻っ攫い、そのまま抱えながら走り抜けた!

 

そして試合会場外まで出ると立ち止まり、鼻息を思いっきり吐く。

 

抱えている少女を審判に渡すと、再びジャンゴの指令で、先程の相手フラッグ車を追い掛ける。

 

彼の名は『ピューマ』、別名『人間重機関車』

 

機関車の様に徐々にスピードを上げ、相手フラッグ車との距離をドンドン詰めて行くピューマ。

 

しかし、相手フラッグ車も只逃げているだけではなく、狙撃兵達が配置された裏路地にピューマを誘導。

 

ピューマが射線に入って来るのを、狙撃兵達はジッと待つ。

 

だが、その時!!

 

突然ピンボールの様に跳ね飛んでいる銃弾が複数飛んで来て、狙撃兵達を襲い、瞬く間に狙撃兵は全滅………

 

何時の間にか路地裏に居たオセロットだ。

 

ガンショップでも披露した、見事な跳弾テクニックにより、単独で狙撃兵達を全滅させたのである。

 

一方のピューマは、もう相手フラッグ車に追いつこうとしていた。

 

するとそこで、車両を使って追い付いて来たジャンゴから武器………『フリーガーファウストB型』が渡される。

 

本来は航空機迎撃用で、結構な重さが有るフリーガーファウストB型を、速度を落とさず走り、更にはまるでブレずに構えるピューマ。

 

そして引き金が引かれると、幾つものロケット弾がフラッグ車を襲い、フラッグ車は白旗を上げた。

 

西部の勝利に観客は大歓声、大喝采を浴びせる。

 

「凄い………」

 

「あのピューマとか言う奴………本当に人間か?」

 

沙織が思わずそう呟き、地市もそんな事を呟く。

 

「…………」

 

一方聖子は、まだ食い入る様に大型モニターを見つめている。

 

映像は切り替わっており、西部学園のスクールアイドルによる戦勝ライブの様子が映し出されていた。

 

ステージが映るそこに現れたのは、数人のカウガール衣装のスクールアイドル。

 

しかも、野外ライブなので、芸達者なスクールアイドルが複葉機の翼の上に乗ると言うアクロバティックなエアショーも行われ、西部戦後のライブはお祭り状態である。

 

(こんなパフォーマンスも有るんだ………)

 

そのハイレベルなパフォーマンスに、聖子は内心で舌を巻いていた。

 

「やはり一筋縄では行かない相手の様だな………」

 

「うん………」

 

映像を見終わり、弘樹とみほはコレから当たる敵と如何戦うのかを考え始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に明らかになった近藤里歌の過去。
そして、次なる対戦相手である西部校の新たなエースが発覚。
様々な苦難が待ち受ける大洗機甲部隊。
果たして、女子学園廃校を阻止できるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第117話『サバイバル・ウォーです!(パート1)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第117話『サバイバル・ウォーです!(パート1)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新代 護達、呉造船工業学校の軍艦道艦隊の援護砲撃により………

 

第6回戦、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との試合で勝ちを拾った大洗機甲部隊。

 

だが、次なる相手は西部学園………

 

何時かのガンショップで、歩兵のエース達がその実力を見せつけて来た、強豪校だった………

 

またもや強敵との試合に、大洗機甲部隊は臨む事となる。

 

そんな大洗機甲部隊は今………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一角………

 

「よおし! 出来たっ!!」

 

「お~い! 終わったんならコッチを手伝ってくれぇっ!!」

 

「竃はこんなモンで良いか?」

 

「誰か~! 金槌貸してくれぇっ!!」

 

戦闘服に身を包んだ大洗歩兵部隊の一同が、忙しく動き回りながらテントなどの組み立てを行い、宿営地作りに従事していた。

 

「まさか一部とは言え、東富士演習場を使わせて頂けるとはなぁ………」

 

テントの設営を終えた弘樹が、やや遠くに見える富士山を眺めながらそう呟く。

 

「ホント、藤林教官様々だな」

 

その呟きを聞いたシメオンがそう返して来る。

 

「ああ………」

 

とそこで弘樹は、少し離れた場所で同じ様に宿営地作りをしているみほ達………大洗戦車チームの方を見やる。

 

「此処が宿営地です!」

 

「宿営地って何?」

 

「キャンプ場の事かな?」

 

「ねえねえねえねえ! それより、それより………何で水着なの?」

 

優花里、麻子、みほがそう会話していると、私服姿の沙織が、水着姿になっているみほ、華、優花里、麻子の姿を見ながらそう尋ねる。

 

「ホラ、生徒会や1年の皆さんが水着なので、私達も合わせようかと」

 

華がそう返した通り、キャンプ場に着くが否や、水遊びに興じようとして足を攣り、杏達生徒会チームに救助された1年生チームは、共に水着姿になっており、遊ぶ気が満々であった事が窺える。

 

「その方が変じゃない?」

 

「眠い………」

 

と沙織がそうツッコミを入れていると、相変わらず気だるげな様子で居た麻子が、設営しようとしていたテントの上で横になり、眠ろうとしていた。

 

「麻子、まだ早い! 寝るのはテントの中! 上じゃないの!!」

 

「あ~! 麻子先輩、寝ないで下さい!」

 

沙織がそう注意すると、梓も麻子にそう呼び掛ける。

 

「…………」

 

するとそこで、紗希が麻子の傍に近寄って行ったかと思うと………

 

「…………」

 

その隣に同じ様に寝転がった。

 

「紗希も一緒に寝ない!」

 

「でも気持ち良さそう~」

 

「そうですね~」

 

あゆみが注意するが、優希と華からはそう呑気そうな声が挙がる。

 

「大丈夫です! 後で私がキチンと設営しますから!」

 

「先輩、流石です!!」

 

「アタシ達も手伝います!」

 

「手伝いまーす!」

 

とそこで優花里がそう声を挙げると、梓、桂利奈、あやがその手伝いに立候補する。

 

「それじゃあ、早速始めましょう! ツェルトバーンの設営は布1枚でもテントとして使えますが、先ずは4枚を1つに繋ぎます!」

 

そして優花里は、ドイツ国防軍で簡易雨具としても使用出来る野営用テント………『ツェルトバーン』の組み立てを始める。

 

「「へ~!」」

 

「先輩、流石です!」

 

「このボタンで布を繋いで………ね!」

 

「流石です、先輩!」

 

「テントってこうなってるんだぁ!」

 

テキパキと作業する優花里の姿を見て、テンションの上がっている1年生チーム。

 

「へえ~~」

 

「いや、それは特殊なテント………」

 

沙織も感心した様に呟くが、そこでみほがそうツッコミを入れる。

 

「そうなの?」

 

「うん、もっと簡単に組み立てられるの、持って来たから」

 

そう言ってみほが手で示した先には、一般的なアウトドア用のテントが組み立てられていた。

 

「わあ! もう出来てる!」

 

「うわあ~、可愛い~!」

 

「すっご~いっ!!」

 

沙織が驚きの声を挙げると、あやとあゆみが、みほの設置したテントの方に走り寄る。

 

「ヒグ………ううう………折角第二次大戦の雰囲気を味わおうと思ったのに………ヒグ、ヒグ………」

 

と、その光景を見た優花里が、ガチ泣きを始める。

 

「秋山くんはブレないな………」

 

そんな優花里を、みほ達が宥めているのを見ながら、弘樹はそう呟く。

 

 

 

 

 

何故、大洗機甲部隊の面々が、東富士演習場の一角でキャンプをしているのか?

 

実は先日………

 

大洗の面々は、次なる対戦相手………西部学園との試合に向けて、更なる指導を教官である空に依頼。

 

するとそれを了承した空は、いつもの演習場ばかりで練習していては上達に限界が来ると思い、何と上層部と掛け合い、東富士演習場を一部借りる事に成功したのである。

 

これから試合の間までずっととまでは行かなかったが、この東富士演習場が訓練の場となる。

 

その為、当面の宿泊の為に、キャンプよろしく宿営地を設営しているのだ。

 

 

 

 

 

「ハンネス達や新代先輩達も来れれば良かったんだがなぁ」

 

「仕方あるまい。航空機や艦艇は演習場が限られているからな」

 

ふとそこで、シメオンがそう呟いた事に、弘樹がそう返す。

 

そう、今回のキャンプ、もとい合宿には、ハンネス達の航空部隊、そして護の艦隊は参加していない。

 

両者とも、使う兵器の特性上、演習場が限られているからだ。

 

現在両隊は、大洗機甲部隊が宿営地を設立している場所から1番近い洋上で訓練中である。

 

その様子はと言うと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洋上の空中………

 

一航専の演習の様子………

 

「うおおおおぉぉぉぉぉっ! 逃がさんぞ、坂井ぃーっ!!」

 

「チイッ!!」

 

巴戦を展開している六郎の零戦二一型と旧陸軍の一式戦闘機・隼。

 

共に高度を落としながら左旋回を続け、六郎の零戦二一型を隼が追う形となっている。

 

「もう………ちょい!」

 

身体に掛かるGに苦しみながらも、照準レティクルが間も無く六郎の零戦二一型を捉えそうなのを見て踏ん張る隼のパイロット。

 

やがてレティクルが、完全に六郎の零戦二一型に重なる。

 

「貰ったっ!!」

 

その瞬間、隼のパイロットは、迷わず機首の一式十二・七粍固定機関砲の引き金を引いた!

 

しかし、曳光弾の混じった弾丸が、六郎の零戦二一型に向かって飛んだかと思われた瞬間………

 

六郎の零戦二一型の姿が、忽然と消える!

 

「!? 消えたっ!? 何処に!?………」

 

突如消えた六郎の零戦二一型の姿を、隼のパイロットはコックピット内から風防越しにキョロキョロと辺りを見回しながら探す。

 

するとその瞬間………

 

何時の間にか太陽の中に居た六郎の零戦二一型が、隼に向かって急降下!

 

「!?」

 

隼のパイロットが反応するよりも早く、翼の九九式一号20mm機銃2挺が火を噴く!

 

「うわわぁっ!? クソォッ! やられたっ!!」

 

ペイント弾で真っ赤に染まった機体を見ながら、隼のパイロットは悪態を吐く。

 

「良い腕だったぞ」

 

「皮肉にしか聞こえねえよ。ったく………今度は負けねえからな!」

 

六郎が通信でそう言うのを聞きながら、隼のパイロットは機体を離脱させる。

 

『やるじゃねえか、坂井』

 

『流石はあの坂井 三郎の子孫だけはあるな』

 

とそこで、六郎の零戦二一型にそう言う通信が入って来たかと思うと、その横に1機のジェット戦闘機が姿を見せる。

 

それは航空自衛隊の戦闘機『F-4EJ』だった。

 

良く見ると、機体には『680』と言う番号が振られ、一部に赤と白のダンダラ模様のカラーリングが施されている。

 

「いえ、神田教官と栗原教官の教えの賜物です」

 

六郎はその機体に向かってそう返信する。

 

そう、彼等は蝶野 亜美や最豪 嵐一郎、藤林 空達と同じく、一航専の航空機道の特別講師として招かれている航空自衛隊の教官………

 

茨城県は小美玉市にある百里基地所属、パイロットの『神田 鉄雄二等空尉』とナビゲーターの『栗原 宏美二等空尉』である。

 

この2人、自衛隊内では『ファントム無頼』と呼ばれ、色々な意味で有名なコンビでもある。

 

F-4EJは、生産国では既に退役済であり、日本でも後継機が決まっている機体だが、2人は好んでこの機体に乗り続けている。

 

F-4EJの退役が決まったら、自分達も退官する積りとまで豪語している。

 

『ハハハ! 嬉しい事言ってくれるじゃないか!』

 

『なら今度は回避機動のマニューバをフルセットだ。早速始めろ』

 

鉄雄が笑いながらそう言うと、宏美が即座にそう言い放つ。

 

「了解! 回避機動マニューバに入ります!」

 

六郎はコックピット越しに敬礼すると、回避機動マニューバの練習に入るのだった。

 

「栗、お前も相変わらず厳しいな」

 

「アイツは良いパイロットだ。何れは俺達も超える様になるかも知れん。だから、今の内に精々扱いてやるさ」

 

「お~、こわっ」

 

六郎の機体への通信を切ると、コックピット内でそんな会話を交わす鉄雄と宏美。

 

「ちょっ!? 隊長っ!! 訓練なんですから、そんな無茶は………」

 

「馬鹿者ぉっ! 訓練は実戦と同様に行わなければならない! そら急降下だぁっ!!」

 

と、その下方では、ハンネスとエグモンドの乗るスツーカが、ほぼ垂直の角度で、海面に向かって急降下して行く。

 

「………アイツもブレねえなぁ」

 

「後部座席の奴は気の毒だな………」

 

そんなハンネスとエグモンドの乗るスツーカの姿を見て、鉄雄は呆れる様に呟き、宏美は後部座席の相棒に同情するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、海上では………

 

「1番主砲! 撃ちー方、始めーっ!!」

 

「撃ちー方、始めーっ!!」

 

護の号令で、雪風の1番主砲が火を噴く。

 

弧を描きながら飛んで行った砲弾は、仮想標的である敵巡洋艦に命中!

 

仮想標的の巡洋艦の、艦首と後部砲塔が吹き飛ぶ!

 

「良し、今だ! 全速前進! 吹雪、白雪に打電! 雷撃戦を仕掛ける! 我に続けっ!!」

 

「了解っ!!」

 

それを確認した護は、操舵手にそう言い、雪風を全速前進させると、続けて通信士にそう言い、雪風の後方に居た吹雪型(特Ⅰ型)駆逐艦1番艦『吹雪』と同2番艦である『白雪』に電文を送らせる。

 

その電文を受け取った吹雪と白雪が、雪風と同様に全速前進を開始する。

 

とそこで、仮想標的の巡洋艦が、まだ生きていた前部の主砲で、迫り来る雪風、吹雪、白雪に対し砲撃を行って来る。

 

仮想標的の巡洋艦の主砲弾は、雪風達の周囲に降り注ぎ、大きな水柱を上げる!

 

「おわっ!?」

 

「狼狽えるな! 水雷戦は度胸だ! 確実に当てられる距離まで近づけた奴が勝つ! 機関室! 全速を維持しろっ!!」

 

至近弾で上がった水柱の水が艦橋の窓を濡らし、艦体に振動が走った事で、艦橋員の1人が思わず声を挙げたが、護がそう怒鳴り、機関室へと通信を入れる。

 

『了解! 持たせてみせますっ!!』

 

機関室から、機関長のそう言う返事が返って来る。

 

「魚雷発射管、左舷に向けろっ!」

 

続いて護がそう命令を出すと、雪風に2基搭載されている九二式61cm四連装魚雷発射管が、左舷側を向く。

 

後続の吹雪、白雪も、61cm三連装魚雷発射管を左舷側に向ける。

 

その間にも、仮想標的の巡洋艦からの砲撃は続く。

 

「まだだ………まだ早い………」

 

しかし、それでも尚、護は雪風を仮想標的の巡洋艦に向かって真っ直ぐ前進させる。

 

やがてその距離が、目と鼻の先と言えるまで近づいた瞬間………

 

「! 今だっ!! 面ーかーじっ! いっぱーいっ!!」

 

「面ーかーじっ! いっぱーいっ!!」

 

護の号令が響き、操舵手が思いっきり右に舵を切る!

 

雪風が急激に面舵旋回を始め、後続の吹雪、白雪もそれに倣う。

 

そして3艦は、仮想標的の巡洋艦に対し、単縦陣で反抗戦を取る形となる。

 

「魚雷発射ぁっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

その直後に、3艦から一斉に魚雷が発射される!

 

仮想標的の巡洋艦は、迫り来る魚雷に対し、船体を垂直にする事で回避しようと試みたが………

 

「遅いっ!!」

 

護の指摘通り、その回避行動は遅く、1発の魚雷が艦尾部を直撃っ!!

 

派手に水柱が上がったかと思うと、仮想標的の巡洋艦の艦尾部が消滅!

 

その破損個所から、大量の海水が船内へと流れ込む。

 

やがて仮想標的の巡洋艦は、艦首を持ち上げて、艦尾部から沈没して行く………

 

轟沈である。

 

「よしっ!!」

 

と、護がそう声を挙げた瞬間………

 

凄まじい轟音が響き渡り、空気が振動して、雪風の艦橋の窓ガラスが震える。

 

護が艦橋窓から轟音の聞こえた方向を見やると、そこには………

 

主砲である45口径35.6 cm連装砲を一斉発射している日本が初めて純粋に建造した超弩級戦艦………

 

『扶桑型戦艦』の1番艦である『扶桑』と同2番艦の『山城』の姿が在った。

 

風切り音を響かせながら、弧を描いて、目標である仮想標的の敵戦艦へと向かう扶桑と山城の砲弾。

 

やがて砲弾は着弾し、何発かが仮想標的の敵戦艦に命中。

 

残りの砲弾は、全て海に落ちて、大きな水柱を上げた。

 

命中箇所から激しい炎と黒煙を上げる仮想標的の敵戦艦。

 

しかし、まだ致命傷には至って居なかったのか、反撃にと砲撃を行って来る。

 

回避行動を取る扶桑と山城だったが、山城の後部甲板付近に着弾!

 

凄まじい爆発が起こったかと思うと、水上機射出用のカタパルトが吹き飛んだ!

 

甲板に穴が空き、朦々と黒煙を上げる。

 

直後に、乗員達が飛び出して来て、手早く消火作業と応急処置によるダメージコントロールを開始する。

 

一方、無事だった扶桑は、照準の修正を行い、再び仮想標的の敵戦艦に主砲を斉射!!

 

またも何発かの砲弾が仮想標的の敵戦艦に命中したかと思うと、一際大きな爆発が起こり、仮想標的の敵戦艦は中央部分から真っ二つになり沈没・轟沈した。

 

「やっぱり戦艦同士の撃ち合いは迫力あるな。良し! 我々も後れを取るなっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

護が乗員達にそう言うと、雪風は新たな仮想標的の敵艦へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

その演習の様子を、少し離れた場所で見守る様に浮かんでいる、1隻の艦………

 

海上自衛隊のDGG-2199・護衛艦『やまと』の姿が在った。

 

「どうだ、沖田? あの子等は?」

 

その艦橋にて、双眼鏡を使って護達の演習の様子を見ている海上自衛官の佐官服に身を包んでいる老年の男に、同様に海上自衛官の佐官服に身を包んでいる同じくらいの年齢の男がそう問う。

 

「………素晴らしいな。流石は軍艦道名門校の生徒達だけはある。お前もそう思わんか? 土方」

 

沖田と呼ばれたその自衛官は、声を掛けて来た自衛官・土方にそう返す。

 

この2人も、呉造船工業学校の軍艦道の講師なのである。

 

「うむ………聞けば、例の大洗機甲部隊の洋上援護艦隊を引き受けたそうじゃないか」

 

「戦友が居るとの事だ。今時友の為にそこまで出来るとは、本当に良く出来た子達だ」

 

「恐らく、あの子達の何人かは海自へと来るだろうな」

 

「ああ、楽しみだな………それまでは現役を続けさせてもらうとするか」

 

未来の海上自衛官達の姿を思い浮かべ、沖田は嬉しそうな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

OVAの話、サバイバル・ウォーをベースの西武戦への道のりを書かせて頂きます。
今回は原作冒頭部と、一航専と呉艦隊の演習模様をお送りしました。
特別ゲストも出演し、大迫力でお送りできたかと思います。

さて、遂に昨日から公開の劇場版ガルパン。
自分は今日見に行って来ます。
そして帰りは大洗で買い物です。
見た後に現地に行ける………
こればっかりは地元人の特権ですね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第118話『サバイバル・ウォーです!(パート2)』

注意

ラストの方に劇場版に絡んだ小話が掲載されています。

見たくない方はお手数ですが読み飛ばして下さい。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第118話『サバイバル・ウォーです!(パート2)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次なる対戦相手は西部学園………

 

ガンショップで出会ったジャンゴ、レオパルド、オセロットに加え………

 

煌人が極秘ルートで入手した西部学園の試合の様子を写した映像に出て来た人間重機関車『ピューマ』………

 

またもや超人的な歩兵達が所属している事に戦慄を覚える大洗機甲部隊。

 

当然、戦車も強力な物を揃えて来ている筈である………

 

そこで、大洗機甲部隊は………

 

空教官の厚意により、東富士演習場の一部をお借りし、宿営地を築いての強化合宿を行う事とした。

 

ハンネスや六郎達の一航専、護の呉造船工業学校も演習に励んでいる中………

 

大洗機甲部隊の面々は、漸く宿営地の設営を終えようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一角………

 

「よし! コレで終わりだ!!」

 

「あ~、やっと終わったぜ~」

 

全員分のテントを張り終えた大洗歩兵部隊の面々がそう声を挙げる。

 

「出来た!」

 

「「「「「「「「「「やった~っ!!」」」」」」」」」」

 

一方、大洗戦車チームの面々も、全員がテントの設営を終えていた。

 

「………結局ツェルトバーンのテントにしたのか」

 

「良いじゃねえか! こう言うのも青春だぜっ!!」

 

弘樹は、ツェルトバーンを使ったテントだらけの大洗戦車チーム側の宿営地を見て呟くが、弦一朗がそう言う。

 

「おお、出来た様だな」

 

「綺麗に出来てますね」

 

「やっと私の準備体操も終わったぞ」

 

「杏ったら、ずっとそればっかじゃない」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、水着姿の桃、柚子、杏、蛍が姿を見せる。

 

「会長、今まで準備体操してたんだ」

 

「意外と念入りですね」

 

「って言うか、まだやってない?」

 

「みたいですね」

 

まだ準備体操を続けている杏の姿を見て、沙織と華がそう言い合う。

 

「よ~し! 水遊びにレッツラゴーッ!!」

 

とそこで、杏は浮き輪を携え、川へと向かう。

 

「レッツラゴー?」

 

「レッツラゴーって?」

 

「さあ?………」

 

「でも何か可愛い! レッツラゴーだって!」

 

「レッツラゴー!」

 

「「「「「レッツラゴーッ!!」」」」」

 

と、それに梓達、1年生チームが続いて行く。

 

「待てっ! 我々は合宿に来ているんだぞ!」

 

早速遊び始めようとした面々に向かって、弘樹がそう注意をするが………

 

「まあまあ、舩坂くん。良いじゃないか」

 

そう言いながら、いつもの様に、口元を扇子で隠した迫信が、弘樹の傍に現れる。

 

「! 会長閣下!」

 

迫信の姿を確認すると、弘樹は姿勢を正してヤマト式敬礼をする。

 

「先日の試合ではコレまでに無い大苦戦だったんだ。多少なりと士気の落ちている者も居る。先ずは気分をリフレッシュさせてからでも遅くはないだろう」

 

「ハア………会長閣下がそう仰るのなら………」

 

迫信にそう言われ、弘樹は返す言葉を無くす。

 

「それそれっ!」

 

「わあっ! 冷たい~!」

 

「気持ち良いですね~」

 

「ヒヤッホォォォウッ! 最高だぜぇぇぇぇっ!!」

 

と、そこでそう言う声が聞こえて来たので、川の方を見やると、水着姿で水の掛け合いをしているみほ、沙織、華、優花里の姿が、弘樹の目に入る。

 

他にも、何時ぞやの機雷型ボールでバレーをやっているバレー部チーム。

 

水鉄砲の撃ち合いをしている歴女チーム。

 

浮き輪を使ってウォータースライダーごっこをしている生徒会チーム。

 

息止め競争をやっている梓、あゆみ、優希、あや、桂利奈。

 

そして、川の流れに身を任せて流れている麻子と紗希の姿も在った。

 

「………少し気を入れ過ぎたか」

 

そんな一同の姿を見て、弘樹はそう反省すると、歩兵部隊の宿営地へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

「折り畳み傘、ろうそく、ライター、発煙筒にスペースブランケット、非常食っと。それから………」

 

「そど子~」

 

「やっぱり幾ら何でも持って来過ぎだってぇ………」

 

やけに本格的な自分達のテントの中で、その小柄な身体に背負うには不釣り合いなゴツイリュックの中から、次々と荷物を取り出しているみどり子に、モヨ子と希美がそうツッコミを入れる。

 

「何言ってるの! もし遭難した時は私達風紀委員が皆を助ける義務が有るのよ!!」

 

「此処キャンプ場だよぉ………」

 

「それも自衛隊が使ってる………」

 

「万が一と言う事が有るでしょう! 貴方達ももっと風紀委員として………」

 

過剰なまでの心配をするみどり子に呆れる2人だったが、みどり子は頑として自分の意見を曲げず、逆に2人に向かって説教を始めようとする。

 

と、その時………

 

固定が甘かったのか、テントの張り綱を結んでいたペグの1本が抜け、みどり子達の居るテントが崩れた!

 

「!? キャアッ!?」

 

「な、何ぃっ!?」

 

「わああ~っ!? 助けて~っ!!」

 

突然の事態に何が起こったのか分からず、混乱する風紀委員チーム。

 

崩れたテントが、モゴモゴと蠢く。

 

とそこで、誰かが崩れたテントを持ち上げる。

 

「プアハッ!」

 

「た、助かった~………」

 

「あう~………」

 

それで露わになった出口から、風紀委員チームは脱出に成功する。

 

「やれやれ、何をやっているんだ………」

 

「全くだ」

 

「大丈夫かい? 希美ちゃん」

 

そこで、崩れたテントを持ち上げていた人物、紫朗と十河、それに鋼賀がそう声を掛ける。

 

「あ、鎧さん………」

 

「神威さんも………」

 

「ゲッ!? 上田 紫朗!?」

 

希美が鋼賀、モヨ子が十河を見てそう言うと、みどり子も紫朗の姿を確認してそう声を挙げる。

 

「そう嫌そうな顔をされると流石に傷つくな………」

 

そんなみどり子の様を見て、紫朗は溜息を吐きながらそう言う。

 

「ペグの固定が甘かったみたいだな。初歩的なミスだ」

 

「うぐっ!?」

 

「大体何だ、その荷物は? 我々は雪山に来ているのではない。少々特殊だがキャンプ場に来てるんだ。嵩張る荷物は正直言って邪魔でしかないぞ」

 

「うぐぐぐぐ!!………」

 

紫朗からの指摘に、みどり子は顔を真っ赤にして頬を膨らませるのだった。

 

「あの2人は放っといて………すぐに張り直すぞ」

 

とそこで、十河がそう言って、テントの張り直しに掛かろうとする。

 

「ありがとうございます、神威さん」

 

「気にするな(ふふふ………ついているな………女子学園の風紀委員に借りを作る機会に恵まれるとは)」

 

モヨ子にそう返しながら、またも内心で野心を燃やしている十河。

 

が、ペグを打とうとハンマーを振り下ろした瞬間………

 

狙いがズレ、ペグを押さえていた自分の手を思いっきり打ってしまう。

 

「ッ~~~~~~~っ!?」

 

声にならない悲鳴を挙げ、打った方の手を押さえて地面の上を転がって悶える十河。

 

「か、神威さ~んっ!?」

 

「神威さん。インドア派が無理しないで下さいよ」

 

「ど、どうもです………」

 

モヨ子が慌てて駆け寄る中、手際良くテントを張り直して行く鋼賀と、そんな鋼賀にお礼を言う希美だった。

 

 

 

 

 

一方、アリクイさんチームのテントでは………

 

「アウトドアでもインドア~」

 

「私達がやる事と言えば………」

 

「やっぱりコレっちゃね~」

 

折角のアウトドアだと言うのに、テントの中に引き籠って輪になり、携帯ゲーム機で遊んでいるネット戦車ゲームチーム。

 

とそこで、メールの着信音がテント内に鳴り響く。

 

「? ねこにゃーの携帯じゃないナリか?」

 

「あ、ホントだ………」

 

ももがーから指摘され、鳴っていたのが自分の携帯である事に気付くねこにゃー。

 

「あ! 六郎さんからだ!」

 

と、メールの送り主が六郎である事を確認したねこにゃーが嬉しそうに笑う。

 

『ねこにゃー殿。

 

お元気でしょうか?

 

そちらはもう合宿に入られたのですか?

 

私の方は相も変わらず厳しい訓練に身を置いて居ます。

 

しかし、大洗の為………

 

延いては貴女の為になると思えば、コレもまた試練だと乗り切れます。

 

尽きまして、宜しければ、今度の休日にまたWOPを一緒にプレイ致しましょう。

 

何時ものサーバーの何時ものステージでお待ちしています。

 

貴方の為ならば、阿修羅すら凌駕してみましょう。

 

では、訓練の続きがありますので、コレで失礼致します。

 

坂井 六郎より』

 

「えへへへへ………」

 

送られてきたメールの内容を見て、顔が蕩け出すねこにゃー。

 

その顔のまま、メールの返事を書き始める。

 

「「…………」」

 

一方、ももがーとぴよたんは、そんなねこにゃーに羨望にも似た眼差しを送っている。

 

「よし、送信っと………? アレ? 如何したの? ももがーさん? ぴよたんさん?」

 

と、書き終えたメールを送信し、漸くももがーとぴよたんの様子に気付くねこにゃー。

 

「「リア充、爆発しろナリッ(っちゃっ!!)」」

 

そこで2人は、ねこにゃーに向かってシンクロしてそう言い放つ。

 

「え、えええっ!?」

 

友人2人からの思わぬ言葉に、ねこにゃーは困惑するしかなかったのだった………

 

 

 

 

 

こちらは、レオポンさんチームのテント………

 

もとい、野外整備用のテント式格納庫………

 

「如何だい? 調子は?」

 

「ちょいとご機嫌斜めみたいかな~」

 

「な~に、明日の演習までには直して見せるさ」

 

「ホント、退屈させてくれない戦車だよね~、ウチの子は」

 

早速、ポルシェティーガーの整備を行っている自動車部チーム。

 

「失礼するよ」

 

「どうも~、お邪魔します~」

 

とそこで、ポルシェティーガー出入り用のテント入り口が開いて、敏郎と藤兵衛を中心に、機材を携えた数人の整備部メンバーが入って来る。

 

「やあ、敏郎。待ってたよ」

 

「やはり調子が良くない様だな。すぐに取り掛かる」

 

ナカジマがそう言うと、敏郎はポルシェティーガーの不調を見抜いていた様で、すぐに作業の手伝いに入る。

 

「OH! ジャマ! ジャマー!」

 

するとそこで、そう言う挨拶と共に、速人がテント内に入って来た。

 

「あ、速人くん」

 

「何、その挨拶?」

 

その姿を見たホシノが声を掛け、スズキが挨拶にツッコミを入れる。

 

「コレ今、陸の町で流行ってるんですよ。つまらないですか? 寒いですか? 引きましたか? 痛かったですかぁ?」

 

いつもの様に、早口気味で捲し立てる様に言葉を続ける速人。

 

「今度はもっと良いのを仕入れて来ますね、ホシミさん」

 

「ホシノだよ。いい加減覚えてよね」

 

「ああ~、流石に腹が据わってるだけあって返す言葉も手厳しい」

 

「そっちは相変わらずだね。何か用?」

 

「いや~、折角大自然の中に来たのですから、開放的な気分を味わいながら一緒にドライブでもとお誘いに来たのですが………如何やら、それどころではない様ですねぇ」

 

そう言って、速人は整備員達が軽くバラし始めているポルシェティーガーの姿を見やる。

 

「ゴメンね、折角のお誘いだけど、この子を明日までには動ける様にしないといけないから」

 

「いやはや。旧ドイツ軍が末期に作り出した戦車は性能こそ優れてはいたものの、故障率の高さがネックでしたからね~」

 

「特にこの子の場合、本来は試作車両で、エンジンからして特殊だからねぇ」

 

ホシノと速人の会話に、ナカジマがそう口を挟む。

 

「分かりましたぁ! では、私もお手伝いしましょう!」

 

「えっ? 良いの?」

 

「貴女が自分の道を選んだ様に、私も私の道を選んだだけです」

 

「良い台詞だけど、今この場面で言う?」

 

カッコ良く決める速人だったが、ツチヤからそんなツッコミが飛ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、サンショウウオさんチームのテントの近くでは………

 

「出来た―っ!! キャンプファイヤーの組み木! かーんせーいっ!!」

 

「やったーっ!!」

 

キャンプファイヤー用の組み木を完成させた聖子と満理奈がそう声を挙げる。

 

「聖子ちゃん、まだ昼間だよ」

 

「気が早過ぎます」

 

とそこで、伊代と優から、聖子にそうツッコミが飛ぶ。

 

「え~っ!? だって、キャンプって言ったら、キャンプファイヤーじゃない! それに、炎をバックにライブをやるって、すっごく盛り上がると思うんだけど、如何かな?」

 

そう問い質してくる聖子。

 

如何やら、キャンプファイヤーを舞台に、野外ライブをする積りの様だ。

 

「良いね、ロックだね」

 

「炎のステージ………素晴らしいですわ!」

 

「預言書に記された通り、燃ゆる仮面劇《マスカレード》になり………認めたくはないが、そうであると信じられていた(文字通り、燃えるステージになりそうですね)」

 

郁恵と早苗、それに今日子は、聖子のファイヤーライブステージ(仮)に賛同を示す。

 

「ほ、炎をバックって………」

 

「ちょ、ちょっと怖いかも………」

 

「むーりぃー」

 

しかし、明菜、静香、さゆりは反対する。

 

「ええ~、絶対に良いって。ねえ、唯ちゃん」

 

聖子はそう言い、唯に向かってそう話を振る。

 

「えっ? いや~、その~………」

 

唯は何と答えて良いモノかと困惑する。

 

「ホラ、聖子。皆困ってますよ」

 

そんな唯の姿を見かねたかの様に、優が聖子にそう言い放つ。

 

「ぶう~~………」

 

そう言われて、ぶ~たれた顔をする聖子。

 

「そんな顔をしても駄目です。伊代も何か言ってやって下さい」

 

「えっ? う~ん、そうだね~………」

 

優にそう言われて、何か考える様な素振りを見せる伊代。

 

「私は、炎をバックにするのは、私達より舩坂さんの方が似合うと思うけど………」

 

そして、そんな言葉が伊代の口から出る。

 

「舩坂さんの………」

 

「バックで炎………」

 

するとそこで、サンショウウオさんチームの全員がプラウダ&ツァーリ戦での事を思い出す。

 

燃え盛る炎を背に、堂々と歩いてくる弘樹の姿が、全員の脳裏に過った瞬間………

 

「「「「「「「「「「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」」」」」」」」」」

 

サンショウウオさんチームの全員が………

 

むせる

 

「や、やっぱり止めようかなぁ~………」

 

「流石に炎と硝煙の臭いが漂って来そうなライブは………」

 

「ありえませんわ………」

 

「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」

 

途端に、聖子、郁恵、早苗はファイヤーライブステージ(仮)は無いと思い始める。

 

今日子に至ってはまだむせていた。

 

「流石舩坂さんだね」

 

「何か違う気もしますが………」

 

そんな聖子達の姿を見て、伊代がそう言い、優がツッコミを入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

歩兵部隊の宿営地の一角で………

 

「………ん?」

 

「如何した? 弘樹?」

 

「今何か………小官の与り知らぬところで、何か言われた様な気がする」

 

「どうせ対戦校の連中が悪口でも言ってるんだろ。それぐらい日常茶飯事だろ」

 

「………そうだな」

 

弘樹とシメオンが、そんな会話を交わしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ(劇場版ネタ・注意)

 

劇場版を見た後、思いついた妄想シーン

 

「ハア………ハア………ハア………」

 

荒い息と共に、顔中に汗を浮かべているみほ。

 

彼女がキューポラから姿を見せているⅣ号は既にボロボロであり、何とか動いている状態である。

 

そのみほとⅣ号の眼前からは………

 

大学選抜チームの戦車部隊である、超重戦車T-28を先頭に、M26パーシングとM24軽戦車チャーフィーの大軍が進軍して来ている。

 

周辺には、多数の随伴歩兵達の姿も在る。

 

「…………」

 

その最後尾には、大学選抜チームの総隊長であり、戦車道・島田流の後継者であり、飛び級で大学に進学している少女『愛里寿』の乗るセンチュリオンの姿が在る。

 

「み、みほ………」

 

「みほちゃん………」

 

みほの後方では、撃破されたティーガーⅠのキューポラに力無く寄り掛かる様に姿を見せているまほと、そのティーガーⅠに凭れ掛かるようにして戦死判定を受けている都草の姿が在った。

 

「終わりね………」

 

「まあ、良く頑張ったわね………」

 

「流石は西住流と言ったところかしら………」

 

パーソナルマークの入ったパーシングに乗る大学選抜チームの『メグミ』、『アズミ』、『ルリ』が、みほとⅣ号の姿を見てそう言い放つ。

 

「………砲撃準備」

 

と、愛里寿がそう言うと、T-28が砲撃態勢に入る。

 

「負けられない………必ず勝って………私達の学校を………取り戻すんだ………」

 

祈るかの様にそう呟くみほ。

 

だが、それで状況が変わるワケではなかった………

 

「撃てっ!!」

 

愛里寿の号令が響いた瞬間、無慈悲にもT-28が発砲する。

 

「!!」

 

だが、次の瞬間!!

 

砲弾とⅣ号の間に………

 

九七式中戦車・チハ(旧砲塔)が割り込んだ!!

 

「!? 絹代さんっ!?」

 

それが西 絹代の車両である事にみほが気付いた瞬間!!

 

チハはT-28の砲弾の直撃を浴び、余りの衝撃で、横回転しながら宙に舞い、Ⅳ号とみほの頭上を飛び越えて行った!!

 

そのまま地面に叩き付けられ、部品がバラバラになって引っ繰り返るチハ。

 

「グハッ!………さ、流石に効いたわね………」

 

そのチハの中から、絹代が這い出る様に脱出する。

 

「チッ! トンだ邪魔が!」

 

「気にするんじゃないわ」

 

「ちょっと試合が終わるのが遅くなっただけよ」

 

しかし、メグミ、アズミ、ルリがそう言い合っていた間に、T-28は次弾の装填を終えていた。

 

「!?」

 

今度こそ駄目かとみほが身構える。

 

だが………

 

「………守り切ったわ………後はお願い………」

 

絹代はその光景を見ながら、そう呟いていた。

 

そして彼女は呼んだ………

 

最強の歩兵の名を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舩坂 弘樹」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間!!

 

突如T-28の真下の地面が大爆発!!

 

余りの爆発で、T-28の車体が完全に浮かび上がり、履帯と転輪・駆動輪が全て弾け飛んだ!!

 

「!? なっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「何事っ!?」

 

「!?」

 

メグミ、アズミ、ルリ、そして愛里寿が驚愕する中、浮かび上がっていたT-28が逆さまになって落下し、地面に叩き付けられると白旗を上げる。

 

爆心地では、まだ激しい炎が燃え盛り、黒煙が立ち上っている。

 

「!??!」

 

その瞬間、愛里寿の身体がゾクリと震えた!

 

(な、何っ!? この感じ!?)

 

計り知れない恐怖が、全身を駆け巡る。

 

「! 撤退っ! 全部隊、直ちにこの場から撤退っ!!」

 

そして反射的に、彼女はそう命令を下していた。

 

「隊長っ!?」

 

「撤退って!?」

 

「如何されたのですか!?」

 

突然の撤退命令に、メグミ、アズミ、ルリ、大学選抜チームは戸惑う。

 

その次の瞬間!!

 

炎の中から、2発のパンツァーファウストが飛び出して来て、パーシング2両を直撃!

 

パーシング2両から白旗が上がったかと思うと、続いて収束手榴弾3発が、弧を描きながら投擲されて来て、チャーフィー3両に命中して爆発!!

 

チャーフィー3両から白旗が上がると、今度は12.7ミリと思われる銃弾が、薙ぎ払う様に掃射されて来た!!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

戦車部隊の周りに展開していた大学選抜チームの随伴歩兵達が、文字通り薙ぎ払われて行く!

 

「て、敵かっ!?」

 

「ど、何処に居るんだっ!?」

 

大学選抜チームの間に混乱と動揺が広がる中、更に今度は、2本の刺突爆雷が投槍の様に飛んで来て、パーシングとチャーフィーを直撃!

 

立て続けに、二式擲弾器からの対戦車擲弾、バズーカからのロケット弾、九七式自動砲の20ミリ弾の攻撃が襲来!

 

アッと言う間に、10両の戦車が白旗を上げ、多数の歩兵が戦死判定を受けた。

 

「…………」

 

愛里寿が愕然とする中………

 

炎の中に、1つの影が浮かんだ!

 

「「「「!?」」」」

 

再び驚愕するメグミ、アズミ、ルリ、愛里寿。

 

その影の正体は………

 

「…………」

 

パンツァーファウスト、九七式自動砲、ブローニングM2重機関銃、グロスフスMG42機関銃、四式自動小銃、トンプソン・サブマシンガン、etc………

 

全身にコレでもかと言うくらいに武装を携え、右肩を血の様に赤く染めた歩兵………

 

『舩坂 弘樹』だった。

 

「!? 舩坂 弘樹!?」

 

「あ、アレが………『大洗の鬼神』」

 

「『触れ得ざる者』………」

 

「『アンガウルからやって来た亡霊』………」

 

弘樹の姿を見た、メグミ、アズミ、ルリ、愛里寿が戦慄を覚える。

 

「…………」

 

そんな中、弘樹は淡々と何時もの様に、四式自動小銃を構える。

 

「フフフ………そうだ、舩坂 弘樹。それでこそ倒す意義がある………貴様を倒し、私こそが真のパーフェクトソルジャーだと証明してみせる!」

 

そして只1人………

 

その弘樹の姿に闘志を燃え上がらせている、大学選抜チームの歩兵隊長………

 

『イプシロン』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース

 

ザ・ラストアンガウルソルジャー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心せよ………

 

貴様達が相手をするのは………

 

カオスを体現する、あの男だ………




新話、投稿させていただきました。

原作のサバイバル・ウォーの時点では参戦していなかった3チームとオリジナルのサンショウウオさんチームの様子を書いてみました。
如何だったでしょう?

そして劇場版、見て来ました。
最高でした!
これぞ俺達のガルパンだと言う映画でした!
んで、テンションが上がったもんですから、また劇場版絡めた小話を入れちゃいました。
未視聴の方、申し訳ありません。
また今日も見に行ってきます。

尚、感想で劇場版について触れる際には、他の方への御配慮をお願い致します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第119話『サバイバル・ウォーです!(パート3)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第119話『サバイバル・ウォーです!(パート3)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園との対戦を前に………

 

空教官の厚意で東富士演習場の一部を使ってキャンプを兼ねた合宿を行う事とした大洗機甲部隊。

 

だが、厳しくなる事が予測される合宿の前に………

 

少しでも楽しもうと、大洗機甲部隊の面々は遊びに興じる。

 

そして、時は流れ………

 

お腹も減って来た一同は、食事の準備に掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一角………

 

調理場の傍にて………

 

「カレーかな? バーベキューかな?」

 

用意されている食材を見て、みほがそう言う。

 

「キャンプと言えばバーベキューだ」

 

するとそこで、杏がそう言って来る。

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。カレーやシチューを大量に作るのも美味しい」

 

「うんうん」

 

「しかし、それ等は食べようと思えば何処でも食べられる」

 

「うんうん」

 

「それに比べてバーベキューはこう言った屋外じゃないと楽しめないからな」

 

柚子がいちいち頷きを入れる中、杏がそう言い放つ。

 

「ほ~う?」

 

「そうなんだ」

 

「まあ、一理有るな」

 

その杏の言葉を聞いた優花里、みほ、俊が同意する様にそう呟く。

 

「そんな事無いと思いますよ」

 

「バーベキューだとお店で食べられるから………」

 

「シャラーップッ!! 会長がバーベキューと言ったらバーベキューなんだ!」

 

華と沙織が否定的な意見を出したが、桃が怒鳴って黙らす。

 

「まあまあ」

 

「じゃあ、バーベキューにしましょう」

 

「へ~い」

 

そんな桃を、当の杏が取り押さえると、みほがそう言い、沙織も若干不満そうな声を出しながらも返事を返す。

 

「そうと決まれば!」

 

するとそこで、優花里がそう声を挙げたかと思うと、持って来た荷物の中に在った、段ボール箱の中身をシートの上に広げる。

 

「じゃっじゃ~ん! じゃんじゃかじゃんじゃんじゃ~ん!」

 

「優花里先輩、何ですか? コレ?」

 

「コレって………」

 

意気揚々としている優花里に、梓がそう尋ね、清十郎が優花里が広げた物に見覚えを感じる。

 

「私の秘蔵コレクション! 各国レーションです!!」

 

「ゆかりん! 今バーベキューにするって言ったよね、今!?」

 

優花里が自慢する様にそう言うと、沙織のツッコミが飛ぶ。

 

「ねえねえ? レーションって何?」

 

「アレじゃない? シュミレーションって言うじゃない」

 

レーションと言う言葉の意味が分からなかったあゆみがそう尋ね、優希が的外れな推測を述べる。

 

「そうそう! 趣味のレーション!」

 

「それは、シミュレーション」

 

「何処が違うの?」

 

「何処も彼処も違うよ!」

 

更にあや、梓、桂利奈のそう言う会話が続くと、みほがツッコミの様に声を挙げる。

 

「レーションとは、戦闘食とか野戦糧食とも言って、軍事行動中に食べる食糧の事です」

 

「あ! ミリメシってヤツですね!」

 

「知ってる! ランチョンミートですしょ!」

 

「あのゴーヤチャンプルとかに入ってるヤツ?」

 

「オニギリにもなってるよ!」

 

「スパムの事ですね」

 

優花里の説明を聞いた梓達がそう言い合っていると、楓が口を挟んで来る。

 

その後、あゆみ、あや、桂利奈の3人が、イギリスのコメディ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』のエピソード………

 

『スパム』の一部を再現し始め、梓から煩いと連呼された。

 

「って言うか、良く知ってるな、あんなネタ………」

 

その光景を見ていた逞巳が、そうツッコミを入れる。

 

「コレ全部がそうなんですか?」

 

「違うよ。色んな食べ物が入ってるの。チョコとかガムも有るよ」

 

そこで、優希がそう尋ねると、優花里がそう答えた。

 

「えっ? お菓子も入ってるんですか?」

 

「うわ~、食べたい! 食べたいっ!」

 

それを聞いたあやと桂利奈が、スパムコントを止めてそう言って来る。

 

「それ、大丈夫なの?」

 

「確か、一般に販売されているレーションとかって、消費期限が過ぎてるヤツなんじゃなかったっけ?」

 

そこでみほが不安そうにそう尋ね、秀人もそう指摘する。

 

「え~と、通常入手出来るのはコレクション用と言う名目なので、本来喫食は自己判断なのですが………」

 

「喫食って何?」

 

「食べるって意味みたいですけど………」

 

「普通に言えば良いのに………」

 

と、優花里の言葉に、沙織と華がそう言い合っていると、バーベキュー用の金網にうつ伏せになって寝ていた麻子が起きてそう言って来る。

 

「麻子起きたー!」

 

「お腹空いた―………」

 

如何やら空腹で目を覚ました様である。

 

「自己判断………」

 

「自己責任………」

 

「自業自得………」

 

一方、1年生チームは躊躇の様子を見せている。

 

「大丈夫! 此処に有るのは、特別なルートで入手したので、全部安全に食べられます!」

 

「「「「「わあ~~~っ!」」」」」

 

しかし、優花里がそう言うと、途端に目を輝かせる。

 

「本当に食べられるんですか?」

 

「本当です!」

 

「「「「「わ~! やったやったやった~っ!!」」」」」

 

大はしゃぎの1年生チーム。

 

「盛り上がっている様だな………」

 

「うん………」

 

そんな一同を、弘樹とみほを初めとした一同は、温かい視線で見守る。

 

「先輩! コレ幾らするんですか!?」

 

するとそこで、桂利奈とあゆみが、優花里に手に取ったレーションを見せながらそう尋ねる。

 

「それが1個5000円」

 

「えっ?………」

 

「そっちは1万5000円」

 

「コレ1つで!?」

 

優花里から値段を聞いた途端に、仰天して固まる。

 

「やはり食用可能なレーションとなればそれぐらいはするか………」

 

「そんだけあったら、他にもっと美味いモンがぎょーさん食えるやないけ!」

 

十河がそう指摘し、豹詑がそうツッコミを入れる。

 

「…………」

 

「ホラ! 高いんだから、勝手に弄らない!」

 

と、興味を持ったのか、紗希がシートの上に有ったレーションを指で突いていると、梓が注意する。

 

「それ1個300円だから気にしないで良いよ」

 

「!? ええっ!?」

 

「何でそんなに値段違うんだ?」

 

先程までとは打って変わって格安な値段のレーションが有り、梓が驚くと、麻子がそう尋ねて来る。

 

「さあ?」

 

「不思議ですね」

 

「不思議です~」

 

「基本的に一般流通に乗らない物なのと、欧州のは味も良いから、如何しても高くなるんです」

 

沙織、華、優希がそう言っていると、優花里がそう説明する。

 

「欧州って………『あの国』もか?」

 

「あ~、あそこはレーションの評価は高いらしいですから、大丈夫だと思いますけど………」

 

するとそこで、海音がそう尋ね、優花里は若干明後日の方向を向きながらそう返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

聖グロリアーナ女学院………

 

「………ん?」

 

ティータイムを楽しんでいたダージリンが、突如険しい顔をして、カップをソーサーに置く。

 

「ダージリン様?」

 

「如何か致しましたか?」

 

その様子を見たオレンジペコとアッサムがそう尋ねる。

 

「いえ………今ちょっとムッと来たものですから」

 

「「??」」

 

そう返すと、オレンジペコとアッサムは首を傾げるが、ダージリンは気にせずに優雅にティータイムを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、東富士演習場………

 

「じゃあ、コレは何で安いの?」

 

沙織が、優花里が安いと言った中に含まれていた、パッケージに『MRE』と書かれたレーションを手に取り、そう尋ねる。

 

「マズイから」

 

「それ以外無いよなぁ………」

 

そこで麻子がバッサリとそう言い放ち、地市が同意する。

 

「えへへ………」

 

「そんなにマズイんですか?」

 

「まあ、『MRE』………ああ、コレ『MRE』って言うんだけど、一部ではMeals Rejected by the Enemyの略って言われてますし………」

 

「如何言う意味?」

 

優花里の言った英語の意味が分からず、首を傾げる沙織。

 

「ミールは食べ物、エネミーは敵の事ですね」

 

「リジェクトは破棄するとか、拒絶するって意味ですから………」

 

「敵も拒絶する、食事?………」

 

飛彗と華がそう訳すると、梓が顔を若干引き攣らせながらそう呟く。

 

「そんなにマズイんだ………」

 

「各国軍人が、レーション交換会やって、米軍のは大量に残ったと言うのを聞いた事がある」

 

「そんなに美味しくないのはちょっと気になりますね」

 

「止めておけ。ソイツだけはな………」

 

麻子の言葉に、華がMREに興味を持つが、大詔が警告する様にそう言う。

 

「大詔殿。食べた事があるのでござるか?」

 

「ああ、1度機会が有ってな」

 

小太郎が尋ねると、大詔はうんざりした様な表情をする。

 

「それで、如何だったの?」

 

「マズイ過ぎる! 余程の極限状態でもなければ食えた代物じゃないぞ!」

 

沙織の問いに、力説する様にそう答える大詔。

 

「さっき秋山くんが敵も拒否した食い物だと言ったが、他にも『とても食べられたものじゃない食物』、『誰もが拒否した食べ物』、『精神薄弱料理』、極め付けは『食べ物に似た何か』と言われる様なもんだぞ」

 

「そ、そうなんだ………」

 

余りに不満タラッタラに語る大詔に、沙織は若干引く。

 

「アレを食い続けるくらいなら、ジャングルで蛇を掴まえて食った方がマシだ」

 

「へ、蛇って………」

 

(共食い………)

 

蛇を食うと平然と言い放った大詔に、梓が顔を引き攣らせ、白狼は内心でそんな事を思う。

 

「ま、まあ、それでも此処に有るのは割と美味しいメーカーのですから」

 

「えっ? メーカーで味が違うんですか?」

 

「うん! 有名メーカーが3つ在って………」

 

「ハイハイ! バーベキューの準備しちゃいましょう!」

 

と、コレ以上語られては堪らないと思ったのか、みほが優花里を押さえて一同にそう呼び掛けるのだった。

 

「「「「「は~いっ!」」」」」

 

1年生チームが返事を返すと、戦車チームはエプロンを装着して、食事の準備に掛かる。

 

………水着の上から。

 

「!? 水着エプロンだとぉっ!? くうっ! この世の桃源郷だぜぇっ!!」

 

そんな戦車チームの姿を見た了平が、涙と鼻血を流しながら歓喜の声を挙げる。

 

「了平………後ろ、後ろ」

 

「? 後ろ?」

 

とそこで、楓がそう言って来たので、了平が後ろを振り返ると………

 

「…………」

 

恐ろしいくらいな仏頂面の弘樹が、無言で英霊を上段に構えていた。

 

「えっ? ちょっ!?」

 

「天誅っ!!」

 

驚く了平に向かって、弘樹は容赦無く英霊を振り下ろす!!

 

「ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」

 

了平の断末魔が、東富士演習場一帯に響き渡ったのだった(注:峰打ちです)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、歩兵部隊も手伝いながら、食事の用意が進められて行く………

 

「ハイ! 初めちょろちょろ中ぱっぱだからねぇ」

 

米の入った飯盒を火に掛けた優花里がそう言う。

 

「それ何の呪文?」

 

「火の具合ですよね?」

 

沙織が聞き覚えの無い言葉に首を傾げると、華がそう言う。

 

「懐かしいな。中学時代の野外訓練の時によく言っていたな」

 

その傍で、大鍋で味噌汁を煮ている弘樹もそう口を挟んで来る。

 

「そうです! お米の甘さは70度ぐらいで増すので、最初は弱火でゆっくり温度を上昇させて、沸いたら噴き零れない様に、火力を調整して下さい」

 

「面倒だな………」

 

「炊飯器では駄目なんですか?」

 

「確か、整備部の人達が発電機、持って来てたよ」

 

手間が掛かる事に、麻子、華、沙織がそう声を挙げる。

 

「それでは風情がありません! 飯盒炊爨の御飯を味わうのが、キャンプの醍醐味です!」

 

「何か、今日のゆかりん、すっごい活き活きしてる」

 

「うん………」

 

「うふふ」

 

テンションが高い優花里の姿を見て、沙織と麻子がそう漏らし、華が微笑ましそうに笑い声を漏らす。

 

「居るよなぁ………お前みたいに、こういうのでテンション上げる奴………」

 

と、そこで、そんな台詞と共に、細かく切った豆腐の乗ったまな板を持った白狼が現れる。

 

「!? あっ!? か、神狩殿!」

 

「神狩、豆腐を持って来たか? ならすぐに入れてくれ」

 

「ヘイヘイ………」

 

優花里が白狼の姿を見て顔を赤らめるが、白狼はそれに気づかず、弘樹の方へ向かい、豆腐を鍋に入れる。

 

(あうう………神狩殿に引かれたかなぁ………)

 

「大人しくなったな………」

 

「麻子、そっとしておいてあげて」

 

その後ろで優花里はシュンとなっており、麻子がそう呟くと、沙織がそう諌めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に時は流れ………

 

バーベキューの大凡の準備が整っていた………

 

「随分出来たね」

 

「「「「ね~」」」」

 

出来上がった食材を刺した串を見て、1年生チームがそう言う。

 

「まだかなぁ、お腹空いてきたなぁ………」

 

「先に焼いちゃおうか?」

 

「コラ、先輩達と歩兵部隊の皆さんが………」

 

もう焼き始めようと言うあやを、梓が叱るが、そこで梓の腹の虫が鳴く。

 

「ああっ!?」

 

真っ赤になって、腹を押さえる梓。

 

「「「アハハハハッ!」」」

 

「身体は正直だね~」

 

あや、あゆみ、桂利奈が笑い、優希もそんな事を言う。

 

「先に焼いちゃおうよ!」

 

「御飯ももうすぐ出来るみたいだし、良いんじゃない?」

 

「もうちょっと待ってみない?」

 

「もう焼いちゃいました」

 

桂利奈、あゆみ、優希がそう言っていると、既に串を網の上に載せて、火で炙り始めているあやの姿が在った。

 

「何やってるのーっ!?」

 

「「焼いちゃいました~!」」

 

梓が悲鳴の様な声を挙げるが、その時には既に桂利奈とあゆみも焼き始めていた。

 

「ちょっと~!」

 

「アレ? もう始めてるんすか?」

 

とそこで、そう言う声が聞こえたかと思うと、新たに仕込みを終えた食材を持った、誠也と清十郎を除いたハムスターさん分隊の面々が現れる。

 

「じゃあ、僕等も焼いちゃいましょうか」

 

「そうしましょう、そうしましょう」

 

あや達がバーベキューを始めているのを見て、自分達も持って来た食材を火に掛け始める。

 

「ああ、もう~、仕方ないな~。私も焼く!」

 

と、そこで梓はもう止める事を諦め、自分も食材を火に掛け始める。

 

「ドンドン焼いちゃおう!」

 

「コレも!」

 

「コレも!」

 

ドンドンと食材を火に掛け始める1年生チームとハムスター分隊の面々。

 

「ちょっと火の勢い弱くないかな?」

 

「薪、モットくべマスね」

 

竜真がそう言うと、ジェームズが火に薪を追加する。

 

しかし、追加し過ぎたのか、逆に火が消えそうになってしまう。

 

「あ! 消えちゃうっ!?」

 

「油を掛けよう!」

 

するとそこで、桂利奈が燃え上がらそうと、食用油を直接火に掛けた。

 

途端に炎を急激に燃え上がり、調理場自体が大炎上した!!

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

悲鳴を挙げて、慌てて逃げ出す1年生チーム。

 

「火、火がっ!? 火がぁっ!?」

 

「光照! しっかり!」

 

余りの火の勢いに腰を抜かした光照を、勇武が引き摺って下がらせる。

 

「だ、誰か消火器をぉっ!!」

 

と、正義がそう叫んだ瞬間!

 

『何か』が回転しながら飛んで来て、炎上している調理場に飛び込んだかと思うと………

 

次の瞬間には大爆発!

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

爆風に煽られた1年生チームと、ハムスターさん分隊の面々が地面に倒れる。

 

やがて、爆風が治まると、そこには………

 

完全に壊れた調理場が広がっていた。

 

「オイ、やり過ぎじゃねえか、弘樹?」

 

「すぐに消し止める必要があった。此処で火災を起こせば、忽ち森林火災になってしまう可能性があったからな」

 

何かを投擲した様な姿勢を取っていた弘樹に、地市がそう言う。

 

如何やら、手榴弾を投げ入れて、爆風消火による破壊消火を行った様である。

 

「皆さん! 大丈夫ですか!?」

 

「怪我はない!?」

 

「はいぃ………」

 

「な、何とか………」

 

そこで、倒れていたハムスターさん分隊に清十郎、1年生チームにみほが駆け寄り、全員を助け起こす。

 

「食材は………全滅か」

 

とそこで、調理場を確認したシメオンが、食材が全て消し炭になっているのを見てそう呟く。

 

「全く! 食べ物を粗末にして!!」

 

その光景に、農家出身の誠也が怒りを露わにする。

 

「「「「「スミマセン………」」」」」

 

「「「「「ゴメンなさい………」」」」」

 

只々平謝りするしかない1年生チームとハムスターさん分隊。

 

「しかし、どないするんや? コレじゃあ、全員分の飯が出来へんで?」

 

と、大河がそう尋ねる様に声を挙げる。

 

「仕方が無い。食材を獲って来ましょう。探せば何か有る筈です」

 

「川に行って来るよ。何か食べられる魚が居るかも知れない」

 

楓がそう言うと、武志がそう言って、戦車チームが水遊びをしていた川へと向かう。

 

「森の中を探せば、山菜ぐらいあると思いますよ」

 

「キャンプつうより、サバイバルになってきたな………」

 

続いて、飛彗がそう言うと、白狼が愚痴る様にそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遊び終えた一同は食事の準備に掛かる。
優花里の秘蔵レーションコレクションの展覧会や、スパムコントなどがありながらも進められる食事の用意。
しかし、トラブルから食材が喪失。
全員分の食事を確保する為に、食材探しに奔走する事となるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第120話『サバイバル・ウォーです!(パート4)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第120話『サバイバル・ウォーです!(パート4)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部戦に向けて、東富士演習場の一部を使った合宿を開始した大洗機甲部隊。

 

しかし、トラブルで仕込みの食材が焼失………

 

全員分の食事を確保する為………

 

ある者達は川へ………

 

ある者達は森の中へと向かい、食糧を探す。

 

楽しいキャンプ染みていた空気は、一瞬でサバイバルと化したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一部………

 

大洗戦車チームが水遊びをしていた川にて………

 

「さて、川にやって来たが………如何すれば良いんだ?」

 

「見えるとこにチラホラと魚が見えるが………」

 

綺麗な川の為、魚の姿が良く見える川を前に、磐渡と重音がそう言い合う。

 

「心配すんな。道具は真田整備部長が『こんなこともあろうかと』用意してくれてある」

 

そう言う俊の横には、釣り具や投網、銛と言った漁法の道具が一通り揃っていた。

 

「それから、仕掛けを作るぞ。念の為に明日以降の分も確保しておきたいからな」

 

とそこで、秀人が仕掛けに使う道具を持って川へと入り、石を組んだりして魚を捕まえる罠を作り始める。

 

「手伝おう」

 

「では、小生も自家製の罠を………」

 

それの手伝いに入るゾルダートと、自分で考えたオリジナルの仕掛けを設置し始める灰史。

 

「よっしゃっ! ワイはこの投網で一気に大漁や!!」

 

「僕はこの竿を使わせてもらうね」

 

「じゃあ、我はこの銛を………」

 

更に、大河が投網、武志が竿、明夫が銛を手に取り、ポイントを探しに行く。

 

他のメンバーも、それに倣い、仕掛け作りと漁法に入るのだった………

 

 

 

 

 

数十分後………

 

「おっ! また釣れた様だね」

 

「…………」

 

次々と竿で魚を釣り上げている迫信と熾龍。

 

(ぐぬぬ! 何故だ! 理論的には完璧な筈だ!!)

 

少し離れたポイントでは、ボウズの十河が、そんな迫信の姿を見て心底悔しそうな表情を浮かべている。

 

「獲ったどぉ~~~~っ!!」

 

別の場所では、銛で魚を突く事に成功した鷺澪が、某芸人の様な雄叫びを挙げる。

 

「…………」

 

一方、小太郎は川の中に在った石の上に腕組みをして佇み、ジッとしている。

 

するとそこで、魚が1匹跳ねて、水から跳び上がる。

 

「!!」

 

その瞬間に、小太郎は腕を鞭の様に撓らせて、跳び上がった魚目掛けてスリケンを投擲!

 

スリケンは魚に突き刺さったかと思うと、そのまま岩肌に魚を張り付けにした!

 

「うむ………」

 

「普通に獲れよ」

 

満足げに頷く小太郎に、俊からそう言うツッコミが飛ぶのだった。

 

「大分獲れましたね」

 

「うむ、生きの良い大物ばかりだ」

 

更に別のポイントで釣りをしていた逞巳と大詔が、ほぼ満杯に近いクーラーボックスの中を見て、そう言い合う。

 

「おっと! またヒットだ!!」

 

そこで大詔が、またもや大物を釣り上げる。

 

「わあ、大きいですね!」

 

「ああ、美味そうだ………」

 

と、そう呟いたかと思うと、大詔は釣り上げたその大物を見たまま黙り込む。

 

「? 蛇野さん?」

 

「ああ! もう我慢出来ん! サバイバルビュアーッ!!」

 

如何したのかと逞巳が尋ねようとした瞬間、大詔はそう叫び声を挙げた。

 

「サバ………えっ?」

 

「あぐっ! むぐっ! むぐっ!」

 

逞巳が戸惑っているのも構わず、大詔は釣り上げた魚に噛り付く!!

 

「!? ちょっ!? 川魚を生で!? しかもそんな一息にっ!?」

 

「美味いっ!!」

 

仰天して大慌てになる逞巳を尻目に、大詔は良い笑顔を浮かべてそう言う。

 

そして更に、魚を食べ進めて行く。

 

「美味過ぎるっ!」

 

「は、腸まで食べてる………」

 

「この柔らかい所が美味い!」

 

「あっ!? 寄生虫が!?………」

 

「良く噛めば死ぬ」

 

「うわぁ………」

 

腸も嬉々として食い、寄生虫すら噛み潰す大詔の悪食っぷりに、逞巳はドン引きする。

 

結局、その後………

 

大詔はその魚を骨まで完食。

 

間近でその光景を見ていた逞巳は、すっかり食欲が無くなってしまっていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

森林の中へと向かったメンバーは………

 

「あ、コレはウワバミソウですね。コレは食べられます」

 

「よし、頂き」

 

飛彗がそう言った山菜を、海音が採取する。

 

「なあ、飛彗。このキノコは食えるんか?」

 

「どれどれ………ああ、コレは毒キノコですね。結構危険な奴です」

 

「駄目かぁ……」

 

そこで、豹詑がキノコを持ってやって来たが、飛彗に食べられないと言われて、残念そうに放り捨てる。

 

「飛彗さん、お詳しいんですね」

 

近くでゼンマイを採取していた華が、先程から的確にアドバイスをしている飛彗の姿を見てそう言う。

 

「いえ、昔から自然の中で生活してたから、自ずと身に付いたんです」

 

「そうなんですか………あら? 綺麗なお花」

 

飛彗がそう返すのを聞きながら山菜採取を続けて居た華の目に、ふと綺麗な花が飛び込んで来る。

 

「あ、それツリガネニンジンの花ですよ」

 

「ええっ!? ニンジンのお花なんですか!?」

 

ニンジンの花だと言われて、華が驚く。

 

「ええ。食用には柔らかい若い芽と根を使うんですが、若い芽はおひたしに各種和え物、てんぷら。根は各種漬け物やきんぴらなんかになるんですよ」

 

「へえ~~」

 

仲良さ気に会話しながら、山菜を採取して行く華と飛彗。

 

「………リア充め! 爆発しろっ!!」

 

「了平! 口より手を動かせっ!!」

 

そんな飛彗の姿を恨めしそうに見ている了平と、その了平にツッコミを入れている地市は、何やら木の根元を掘り起こしている。

 

「如何? 地市くん?」

 

「あ~、まだ掘らないと駄目だな………」

 

山菜を採取していた沙織が、掘っている穴を覗き込みながら尋ねると、地市は額の汗を拭いながらそう答える。

 

その視線の先には根の様な物………『自然薯』が埋まっていた。

 

「頑張ってね。ハイ、お水」

 

「おっ! サンキュー!」

 

そこで沙織は、ペットボトルの水を差し出し、貰った地市はグビグビと水を飲む。

 

「………テメェーも爆発しろ!」

 

血涙を流しながらそう主張する了平だった。

 

「皆~! どれだけ集まった~!?」

 

「アタシこれだけ」

 

「私はコレだけ」

 

と、どんぐり拾いをしていた梓達1年生チームが、一旦集まって互いの成果を見せる。

 

「結構集まったけど………」

 

「皆で食べるんだから、もっと有った方が良いんじゃない?」

 

「私達のせいで食事を駄目にしちゃったんだから、頑張らないと」

 

あやと優希がそう言うと、責任を感じている梓がそんな事を言う。

 

「? アレ? 紗希は?」

 

とそこで、紗希の姿が無い事に気付いた桂利奈がそう声を挙げる。

 

「あ! あそこ!」

 

「「「「!?」」」」

 

するとそこで、あゆみがそう言ってとある方向を指差し、梓達がその方向を見やるとそこには………

 

「…………」

 

背負子式の籠の中に、溢れ出んばかりのどんぐりを入れ、それを背負って歩いて来る紗希の姿が在った。

 

「紗希ちゃん、凄~い!」

 

「いっぱい獲ったね~!」

 

その光景を見て、あやと桂利奈がそう声を挙げる。

 

と、その瞬間!!

 

「………!?」

 

紗希は石に躓き、思いっきり倒れた!

 

背負っていた籠の中のどんぐりが、辺りに散らばる!

 

「! 紗希! 大丈夫っ!………って、キャアッ!?」

 

慌てて駆け寄った梓も、散らばったどんぐりを踏んづけて、転倒する。

 

「大丈夫っ!?………!? わああっ!?」

 

「桂利奈ちゃん!?………!? キャアアッ!?」

 

「あやっ!?………!? キャアアッ!?」

 

「優希!………わああっ!?」

 

そして、桂利奈、あや、優希、あゆみも、慌てて2人の元へと駆け寄り、同じ様に散らばったどんぐりを踏みつけて転倒した。

 

「………何やってんだよ」

 

一連の光景を見ていた白狼が、呆れる様に呟く。

 

「イッタ~イ………」

 

「アイタタタタ………」

 

「お尻打った~」

 

結構強く身体を打った為か、暫くその場で悶える1年生チーム。

 

「ダイジョウブですか?」

 

「さ、手を………」

 

とそこで、木の実を取っていた面々がやって来て、ジェームズが紗希、清十郎が梓、正義があや、桂利奈を圭一郎、竜真が優希、光照があゆみを助け起こす。

 

「ありがとう」

 

「しかし、丸山ちゃん。よくこんなに集めたね」

 

「全く、大したもんだ」

 

と、散らばっていたどんぐりを拾い集めながら、誠也とシメオンがそう言う。

 

「…………」

 

紗希は、ジェームズに助け起こされながら、Vサインをする。

 

「しかし、当然だが植物やキノコばかりだな………」

 

「一応、川に向かったチームが魚を確保してくれている筈ですが………」

 

するとそこで、集まっている食材が全て植物かキノコばかりなのを見て、麻子と優花里がそう呟く。

 

「何か、そう……動物性蛋白質的な物が欲しいですね」

 

『つまるところ、肉だな』

 

楓がそう呟くと、指揮車の中に引き籠っている煌人が通信でそう割り込んで来る。

 

「そうですね………」

 

「アレ? そう言えば弘樹くんは?」

 

とそこで、みほが皆と一緒に来ていた筈の弘樹の姿が無い事に気付く。

 

「アレ? そう言えば?………」

 

「弘樹の奴なら、さっき森の奥の方へと向かって行ったが………」

 

その事にシメオンがそう言った瞬間………

 

森の奥の方から、獣の咆哮の様なモノが響いて来たっ!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「な、何っ!?」

 

「行ってみよう!」

 

驚きながら、その咆哮の響いて来た方向へと向かう一同。

 

そして、目に飛び込んで来たのは………

 

「…………」

 

2メートルは有ろうかと言う巨大なイノシシに、着剣した四式自動小銃を構えて対峙している弘樹の姿だった。

 

「!? イ、イノシシッ!?」

 

「それもあんな大きさの!?」

 

「ひ、弘樹くんっ!!」

 

その光景を見た沙織、華、みほが悲鳴の様な声を挙げる。

 

「「!!」」

 

と、その瞬間!

 

シメオンがモシン・ナガンM28、圭一郎がボーイズ対戦車ライフルを構えた。

 

何時でも撃てる状態で、タイミングを見計らう。

 

「…………」

 

その様子に気づきながらも、弘樹はイノシシから目を反らさない。

 

弘樹とイノシシの睨み合いが続く。

 

やがて………

 

イノシシが鼻を鳴らしたかと思うと、森の中へと消えて行く。

 

「………ふう」

 

その姿が完全に見えなくなったのを確認すると、弘樹はやっと構えを解き、大きく息を吐いた。

 

「弘樹くん!」

 

「弘樹ーっ!!」

 

みほと地市を先頭に、皆が弘樹の元へと駆け寄る。

 

「大丈夫!? 怪我は無い!?」

 

「大丈夫だ、みほくん。この通りピンピンしている」

 

慌てているのか、みほが早口にそう問い質すと、弘樹はそう返す。

 

「まさかあんな巨大なイノシシが居るなんて………」

 

「お前、良く逃げなかったなぁ」

 

楓が戦慄している様にそう呟き、了平はイノシシと睨み合いをしていた弘樹に呆れる様な様子を見せる。

 

「野生動物と不意に遭遇した場合、背を向けて逃げると本能的に獲物だと思って襲い掛かって来る。逆に相手の目を見据える方が威嚇になる」

 

「前に訓練中にクマと遭遇した時もそんな感じで乗り切ったなぁ」

 

弘樹がそう説明していると、モシン・ナガンM28を肩に担ぐ様に持って近づいてきたシメオンが、サラリとトンでもない話をする。

 

「!? ク、クマァッ!?」

 

「ああ、山間部での訓練中に不意に出くわしてな。流石にあの時ばかりは小官も少し焦った」

 

「少しじゃすまないと思いますけど………」

 

沙織が思わず声を挙げると、弘樹がそんな事を言い、華がツッコミを入れる。

 

「それにしても惜しかったですねぇ。貴重なお肉を………」

 

「いや、アレを仕留めるのは無理だろう………」

 

優花里がイノシシを逃してしまった事を残念そうに言うと、麻子がそうツッコミを入れて来る。

 

………と、その時!!

 

「セガサターン、シロッ!!」

 

そんな叫び声が、イノシシの消えて行った森の奥の方で聞こえて来たかと思うと、木々を薙ぎ倒しながら、何かが飛んで来たっ!!

 

「!? 危ないッ!!」

 

「キャアッ!?」

 

咄嗟に、傍に居たみほを上に覆い被さる様にして地面に倒れる弘樹。

 

「チイッ!」

 

「うわぁっ!?」

 

「華さんっ!」

 

「あっ!?」

 

「逃げるぞ、沙織!」

 

「えっ!? キャアッ!?」

 

白狼も近くにした優花里を抱き抱えて飛び退き、飛彗は華の手を引いてその場を離れ、地市は沙織の肩を抱いて一緒に走る!

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? 何で俺だけぇっ!?………!? へぶあっ!?」

 

1人逃げ遅れた了平が、飛んで来た何かに跳ね飛ばされる。

 

そして、飛んで来た何かは、岩に勢い良く叩き付けられて、地面に落ちる。

 

「大丈夫ですか、了平?」

 

「もう嫌………こんな生活………」

 

倒れていた了平に、楓がそう問うと、了平は涙を流しながらそう訴えかけた。

 

「一体何が飛んで来たんだ?」

 

(はわわわわっ!? ひ、弘樹くんに、押し、押し、押し倒されて………)

 

身を起こしながら弘樹が飛んで来た物体を確認している中、その弘樹に押し倒されている状況にみほがテンパる。

 

「コレは!?………」

 

「さっきのイノシシです!」

 

とそこで、戻って来た華と飛彗が、飛んで来た物体が、先程の巨大イノシシであった事を確認する。

 

イノシシは岩に叩き付けられた際に絶命した様でピクリとも動かない。

 

「それが如何して飛んで来たんだよ?」

 

「な、投げ飛ばされて来た様にも見えましたけど………」

 

白狼がそう疑問の声を挙げ、抱き抱えられたままの優花里が、若干頬を染めながらそう言う。

 

「んな馬鹿な。こんなデカいイノシシを投げ飛ばせるワケねえだろ」

 

「そう言えば、さっき何か聞こえなかった? セガ、何とかって?」

 

地市と沙織も、イノシシを見ながらそう言い合う。

 

「兎も角、肉が確保出来た事は幸運だ。全員で運ぶぞ」

 

とそこで、弘樹が起き上がり、イノシシの傍に寄りながらそう言う。

 

それに反応して、歩兵メンバーがイノシシの周りに集まる。

 

………と、その時!!

 

突然林の中から咆哮がしたかと思うと、1頭の暴れ牛が現れた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「今度は牛ぃっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

不意を衝く様に現れた暴れ牛に、一同は驚く。

 

暴れ牛はそのまま、弘樹達の方に向かって突っ込んで来る。

 

「こ、コッチに来るよぉっ!?」

 

「皆! 逃げてぇっ!!」

 

梓が悲鳴の様な声を挙げると、みほがそう呼び掛け、あんこうチームとウサギさんチームの面々がバラバラに逃げ出す。

 

「クッ!………」

 

一方の弘樹は、再び着剣した四式自動小銃を構えて、暴れ牛の前に飛び出す。

 

その時!!

 

暴れ牛の後方から、無数のロープが飛んで来たかと思うと、暴れ牛の足や身体、角等に巻き付く!

 

バランスを崩した暴れ牛は派手に転倒する。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

一同が驚いていると………

 

「いや~、すまない。うっかり逃げ出されてしまってなぁ」

 

流暢な日本語で喋る外国人が、ロープを手繰りながら現れた。

 

如何やら、先程暴れ牛に巻き付いたロープは、彼が投げた投げ縄だった様である。

 

「あ、ありがとうございます! 助かりました!」

 

みほが一同を代表する様にお礼を言った、その時………

 

「! ああーーーーっ!! オリバー!? オリバーなのかい!?」

 

ジェームスがその外人を見て、そう声を挙げた!

 

「! ええっ!? ジムッ!? 本当に日本に居たのかよ!?」

 

オリバーと呼ばれたその外人も、ジェームズを見て驚きの声を挙げる。

 

「ジェームズ? 知り合いなの?」

 

事情の呑み込めない一同の中で、竜真がそう尋ねると………

 

「知ってるも何も、ジムの兄貴さ」

 

「「「「「「「「「「!? えええぇぇぇ~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

当の本人がそんな事を言い、一同は驚きの声を挙げる。

 

「イヤ、僕、1人っ子デスよ」

 

「如何言う事なんだ?」

 

しかし、ジェームズが更にそう言ったので、弘樹もワケが分からず、首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如現れたジェームズの兄貴を名乗る外人。

 

しかし、ジェームズ本人は兄弟は居ないと言う。

 

果たして、何者なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

川と森林で、食材の確保に掛かる大洗機甲部隊の一同。
そんな中………
森で食糧確保を行っていた弘樹達の前に現れた外人『オリバー』
ジェームズの兄を自称するが、ジェームズ本人は兄弟は居ないと言う。
果たして一体何者なのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第121話『サバイバル・ウォーです!(パート5)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第121話『サバイバル・ウォーです!(パート5)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部戦を前に、東富士演習場の一部を使っての合宿を始めた大洗機甲部隊だったが………

 

トラブルにより食材が一部喪失。

 

補充の為に、森林の中へ足を踏み入れていたとらさん分隊とあんこうチーム、ハムスターさん分隊とウサギさんチームを中心にした面々。

 

その最中に、暴れ牛が出現!

 

あわやと言ったところで、暴れ牛は投げ縄を操る外人に取り押さえられる。

 

その外人の姿を見たジェームズが驚きの声を挙げる。

 

外人の名は『オリバー』

 

ジェームズの兄貴だと名乗った。

 

しかし、ジェームズは1人っ子だと言う………

 

一体如何言う事なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一部・森林の中………

 

「すまないが、分かる様に説明してくれないか?」

 

ジェームズとオリバーに向かって、弘樹がそう説明を求める。

 

「えっと、ソノ………オリバーは………僕に『走り』を教えてくれたティーチャ―なんです」

 

「何?………」

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

するとジェームズはそう答え、弘樹は僅かに眉を動かし、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々は驚きを露わにする。

 

「懐かしいな。アリゾナのスクールだったな」

 

するとオリバーはそう言い、ジェームズとの出会いを語り始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前………

 

アメリカ・アリゾナ州のとある学校………

 

当時ジェームズは、母の仕事の都合でワシントンから此処アリゾナへと引っ越した。

 

しかし、気の弱いジェームズは恰好のイジメ対象となってしまう。

 

その日も、イジメっ子グループ全員の鞄持ちをさせられていた………

 

「こ、こんなに沢山運べないよぉ~」(注意:英語で喋っているので言葉が流暢になってます)

 

「大丈夫だって! その為にビニール紐を持って来たんだからよぉっ!!」

 

大量の鞄を持たされてフラつくジェームズに、イジメっ子グループがそう言ったかと思うと、持っていたビニール紐で鞄を纏めて、更にジェームズの身体に縛り付ける。

 

「じゃあなぁ! ちゃんと全員の家まで運んどけよぉっ!!」

 

「ううう………」

 

鞄を押し付けて、遊びに向かおうとするイジメっ子グループ。

 

その時………

 

「ふ~ん? 御人好しにつけ込んで、男が寄って集って荷物の押し付けか? 情けないな、お前等………」

 

そう言う台詞と共に、1人の人物がイジメっ子グループの前に立ちはだかった。

 

それがオリバーであった。

 

(! 同じクラスの………確かオリバー、くん………)

 

「やっべ、オリバーだ! 逃げようぜ!」

 

「何だよ! ちょっとカッコ良くて、勉強が出来て、駆けっこで一番速いからって、調子に乗ってんじゃねーっ!!」

 

イジメっ子の1人はオリバーの姿を見て逃げようとするが、リーダーは立ち向かって行く。

 

「喰らえっ!!」

 

そしてオリバーに殴り掛かったが………

 

「フッ………」

 

オリバーはアッサリとその攻撃をかわし、リーダーが持っていたビニール紐の束を奪い取ったかと思うと、一瞬でイジメっ子グループをボンレスハムに仕立てる。

 

しかし、ちゃんと鞄を付けて。

 

「アラッ!?」

 

「ホワッツッ!?」

 

「何時の間にっ!?」

 

「ママ~~~ッ!!」

 

足まで雁字搦めにされたイジメっ子グループは、ピョンピョン跳ねながら一目散に逃げて行く。

 

「フン、ケンカも真面に出来ないなんて、情けない奴等だな………お前もお前もだ。あんな奴等にビビリ腰になって如何するんだ?」

 

それを冷めた目で見た後、ジェームズに向かってそう言い放つオリバー。

 

「いやでも………僕の場合はケンカなんかした事ないし………弱いしさ………」

 

「…………」

 

そう返すジェームズの姿を見て、オリバーは何かを考える様な素振りを見せる。

 

「………良し! 良いこと考えたぞ!!」

 

「えっ?………」

 

「今日から俺がジェームズの兄貴分として、ケンカの必勝法を教えてやるよ!」

 

「えっ?………!? えええええっ!?」

 

突然のオリバーの言葉に、ジェームズは困惑の声を挙げる。

 

「そんな、いきなり言われても………」

 

「弟分は兄貴分の言う事を聞くもんだぞ」

 

「って、もう兄弟分にされてるし………」

 

「さあ、行くぞっ!」

 

「ちょっ!? 待っ………」

 

そしてオリバーは、ジェームズを半ば無理矢理に連れて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連れて来られた場所は、人気の無いダートロード………

 

「俺が教えるのは『スピード』だ」

 

「『スピード』?」

 

「そうだ。ケンカに必要なのは力じゃなくてスピードだ。素早さってのは攻撃をかわすのにも有効だ」

 

「そう言えば、ジャパンの諺に『当たらなければ如何と言う事はない』って言うのがあるって聞いた事があるよ」

 

「それは………違うな」

 

オリバーの脳裏に、仮面を着けた赤くて3倍速いロリコンの男の姿が過る。

 

「と、取り敢えず、如何したら足が速くなるのか教えてやる。しかもただ足が速いだけじゃなく、爆発力の有るダッシュだ! 先ず、走ってみなよ、ジム」

 

「う、うん………」

 

当然の様に愛称で呼ばれる事に戸惑いながらも、ジェームズはダッシュしてみせる。

 

その走り方は、ペタンペタンと言う音が聞こえて来そうな感じだ。

 

「あー、違う違う! そんなペッタペタな走り方じゃ、かけっこはビリだ!! 靴に注目するんだ!」

 

即座にオリバーはダメ出しをし、自分の足を見る様に言う。

 

「さっきの走り方は、足首から先を回して地面を蹴る感じだったな。コレは最悪だ。足首は90度直角で固定! 足全体の力で、地面を押しながら進むんだ!」

 

言葉通りに実演して見せるオリバー。

 

「直角で?………押しながら??」

 

しかし、ジェームズはワケが分からず困惑する。

 

「まあ、いきなりは無理だ。今日から放課後、此処で練習だな!」

 

それから2人は、学校の放課後にダートロードに来ては、走り方の練習を続けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日が立ち、ジェームズが走り方を身に着け始めた頃………

 

2人はアリゾナの観光名所………

 

バーミリオン・クリフ国定公園の『ホワイトポケット』を訪れた………

 

「走る時って、何処の筋肉使ってる?」

 

「え? 何処って………」

 

オリバーにそう聞かれて、ジェームズは走るポーズを取って動かしている筋肉を確認する。

 

「こう………太腿の前の方、此処で引っ張って支える………みたいな感じ?」

 

その部分を手で押さえながらそう答えるジェームズ。

 

「うん、まあそれが普通の人間の走り方だ。だけどそれじゃ、爆発ダッシュは出来ない………色んなアスリートやオリンピックのスポーツ選手は走り方が全然違う」

 

そう言いながら、クラウチングスタートの様な姿勢を取るオリバー。

 

「足の内側や、後ろの筋肉を使って………前にドンと押し出す!」

 

そしてスタートしたかと思った瞬間、一瞬でトップスピードに達する!

 

「うわっ!?」

 

「足を漕ぐ感じで! 引っ張る力より押す力の方が強いに決まってるんだ!」

 

急ブレーキを掛けて静止すると、オリバーはジェームズにそう言う。

 

「ドンと………押し出す感じで………」

 

「そうだ! そのイメージでダッシュ出来れば………誰にも負けないスピードが得られるんだ!」

 

オリバーに指示されながら、ジェームズは爆発力のあるダッシュの練習を続けた。

 

しかし、場所は岩石だらけの岩場………

 

「!? あっ!?」

 

岩に足を取られて、ジェームズは転倒する!

 

「分かるか? ダッシュするにおいて、進行方向上に障害物があったりする。足元が特に注意だ」

 

そう言いながら、今度はオリバーが走り出すと………

 

岩床の隙間に躓くことなく、見事に走り抜ける。

 

更にはウェーブのある岩を難なく走り抜ける様も、披露した。

 

ジェームズはその姿に感銘し驚く。

 

しかし彼が最も尊敬するのは、何と動物のチーターだと言う。

 

陸上動物の中でも100mを3~4秒で走り抜ける。

 

そのバネの様に跳躍しながら走る姿にオリバーは憧れているのだと言う。

 

ジェームズは、そう語るオリバーの姿を、少しだけカッコイイと思っていた………

 

しかし、1年後………

 

ジェームズは再び親の事情により、今度はニューヨークへと引っ越す事となり、オリバーと別れる事になる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在………

 

東富士演習場の一部・森林の中………

 

「てっきりステイツに居るとオモッテタノニ………」

 

「まさかこんな所で会えるとはな………」

 

ジェームズとオリバーはそう言い合い、ガッチリと握手をかわす。

 

「そんな事が………」

 

「良い話だな~~」

 

一方、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々は、2人の過去話に感銘を受ける。

 

「………っと、いけね。そろそろ戻らないと。世話の途中で逃げ出した牛を追って来たんだからな」

 

とそこで、オリバーはそう言うと、牛を拘束していたロープを解き、その背に跨った。

 

「オリバー! また会えるかな!?」

 

去り際にそう問い掛けるジェームズ。

 

だが………

 

オリバーからは、思わぬ答えが返って来た………

 

「ああ! 俺は今、西部学園って学校で歩兵道をやってるんだ! 今度の試合で大洗ってとこにで勝つのを見ていてくれよな!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何と!?

 

オリバーは西部学園の歩兵隊員だったのだ!!

 

驚愕を露わにするジェームズ達だったが、オリバーはそれに気づかず、牛に跨ったまま去って行った。

 

「オリバーが………西部学園に?………」

 

「君の走りの師匠と言う事は、相当な実力者と言う事だな………」

 

まだ驚きを露わにしているジェームズがそう呟くと、弘樹が若干苦い顔をしながらそう言う。

 

「…………」

 

「ジェームズ、その………」

 

「えっと………」

 

黙り込んだジェームズに、竜真と正義が何かを言おうとするが、言葉が出て来ない。

 

が………

 

「大丈夫デス、2人共。お気遣い、サンキューネ」

 

「!?」

 

「ジェームズ!………」

 

他ならぬジェームズが、そう返した。

 

「寧ろ、僕は楽しみにしてイマス………オリバーと………本気でファイト出来る事を」

 

闘志が燃えている目で、ジェームズはそう言い放つ。

 

(………一端の歩兵らしくなってきたな)

 

そんなジェームズの成長を確認し、弘樹は内心で笑みを浮かべる。

 

(オリバー………きっと君は昔よりずっと速く、強くなっているでショウ………でも、僕も負けません………大洗のソルジャーとして………親友として)

 

親友であるオリバーとの対決に、ジェームズは決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場近くの牧場………

 

「ただいま~」

 

牛に乗ったオリバーが、そう言って牧場の敷地内へと入って来る。

 

「おう、お帰り、オリバー。無事に捕まえたみたいだな………」

 

そう言ってオリバーを出迎えるジャンゴ。

 

「もうすぐ飯だぞ。今日はバーベキューだそうだ」

 

更にそう言う台詞と共に、レオパルドがそう言って来る。

 

「ワンダホー! そいつは楽しみだね。肉もたっぷりある事だし」

 

牛舎へと運ばれて行く、掴まえた牛の姿を見ながらそう言うオリバー。

 

………如何やら、あの牛は食される運命にあるらしい。

 

「そう言えば………この近くで、次の対戦相手の大洗の連中もキャンプをしているらしいな」

 

ふとそこで、ジャンゴがそんな事を呟く。

 

「えっ!? この近くで!?」

 

それを聞いたオリバーが驚きの声を挙げる。

 

「ああ、まさかこんな偶然があるとはねぇ………」

 

「ま、連中が幾ら練習しようが、勝つのは俺達に決まってるがな、ハハハハ!」

 

ジャンゴがそう言葉を続けると、レオパルドがそう言って笑い声を挙げる。

 

「…………」

 

しかし、オリバーにはそんなレオパルドの笑い声も遠くに聞こえた。

 

(大洗がこの近くに………じゃあ、まさかジェームズの奴………)

 

ジェームズが、大洗の歩兵である事を察するオリバー。

 

(アイツと………試合で戦う事になるワケか………)

 

そう思った瞬間、オリバーの顔が険しくなる。

 

「さ、さっさと飯にするぞ」

 

「………すいません。レオパルドさん。俺もう少し訓練して来ます」

 

と、飯にすると言ったレオパルドにそう返し、オリバーは訓練へと向かう。

 

「あ、オイ!………如何したんだ? アイツ?」

 

「何か妙にやる気が出たみたいだねぇ………」

 

突然異様なやる気を見せたオリバーに、レオパルドとジャンゴは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、東富士演習場………

 

整備班が中心となって、再建させた調理場では………

 

「よおし、大分集まったな」

 

桃が集められた食材を前にしてそう言う。

 

「こんな大きなイノシシ、どうやって仕留めたの?」

 

その中に、あの2メートル越えのイノシシが有るの見て、柚子が弘樹達に尋ねる。

 

「仕留めたと言うか………」

 

「まあ、運が良かったとだけ言っておこう」

 

地市が返答に困っていると、弘樹がそう返す。

 

「よ~し! じゃあ早速調理に取り掛かろうかぁっ!!」

 

するとそこで、そう言う台詞と共に、エプロンをした杏が姿を見せた。

 

「アレ、会長っ?」

 

「その恰好は?」

 

そんな恰好で現れた杏に、みほと優花里が首を傾げてそう言う。

 

「角谷くんは料理が趣味なのだよ」

 

とそこで、いつもの様に口元を扇子で隠している迫信がそう説明して来る。

 

「へえ~、見かけによらないですね」

 

「ちょっと!? 沙織さん!?」

 

沙織の素直な言葉に、みほは思わずツッコミを入れる様に声を挙げる。

 

「角谷さんばかりではないぞ」

 

更にそこへ、同じ様にエプロンをしたゾルダートも姿を見せる。

 

「わあ! 久しぶりにゾルダートさんの料理が味わえるんですね!」

 

そのゾルダートの姿を見たみほが目を輝かせる。

 

「そう言えば、聞いた事あります。ガーバイン・ランゼン殿は歩兵の腕だけでなく、料理の腕も一流で、三ツ星シェフが裸足で逃げ出す程だとか」

 

優花里が思い出した様にそう語る。

 

「フッ、私はゾルダート・ファインシュメッカーだよ、秋山くん」

 

そしてそんな優花里に向かって、相変わらずのスタンスを貫くゾルダート。

 

「何を! 会長の方が凄いに決まってる!」

 

「まあまあ、河嶋。料理の腕ってのは比べるもんじゃないよ。大切なのは食べてもらう人に美味しいって思って貰う事さ」

 

「その通りだ。流石ですね、角谷さん」

 

杏を崇拝する桃がそれに噛み付くが、当の杏がそう言って抑え、ゾルダートも杏に敬意を払う。

 

「手分けしてやるぞ。何せ人数が人数だ。全員で協力して終わらせるんだ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう言うと、大洗機甲部隊の面々は、一斉に食事の支度を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ジェームズの兄貴と名乗ったオリバーは、ジェームズの兄貴分の親友だった。
ジェームズに『走り』を教えてくれたのも彼だと。

だが………
何と彼は、今西部学園で歩兵道をしていると言う。
かつての親友との戦いに、ジェームズは覚悟を決めるのだった。

さて、次回でキャンプは終わり、次の西部戦へ向けての話となります。
で、キャンプの最終回ですが………
ちょっとサービスシーンを入れようかなと(爆)
と言っても、ほんのちょっとなので、過度な期待はしないで下さい。
この小説は健全なので

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第122話『サバイバル・ウォーです!(パート6)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第122話『サバイバル・ウォーです!(パート6)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場での合宿を始めようとした大洗機甲部隊は………

 

トラブルから食材を喪失し、サバイバルよろしく現地調達を迫られた。

 

その最中に………

 

牧場から逃げ出した牛を追って来たアメリカ人の少年・『オリバー』が現れる。

 

何と、オリバーはジェームズの親友であり、走りの師匠であった。

 

そして………

 

彼は今、西部学園で歩兵道をしていると言い残して去って行った。

 

親友であり師匠であるオリバーとの戦いに、ジェームズが闘志を燃やす中………

 

合宿1日目の夜が過ぎようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一角………

 

大洗機甲部隊の宿営地にて………

 

「「「「「「「「「「御馳走様でしたーっ!!」」」」」」」」」」

 

夕食が終わり、皆が一斉にそう声を挙げる。

 

「あ~、食った食った~」

 

「キャンプで、しかも現地調達した食材でこんなに美味しい料理が食べられるとは思わなかったなぁ」

 

「コレも角谷会長とゾルダートさんのお蔭ですね」

 

爪楊枝を口に咥えている大河がそう言うと、武志と逞巳もそう声を挙げる。

 

「いや~、ハッハッハッ!」

 

「喜んで頂けた様で何よりだ」

 

それを聞いて呵呵大笑する杏と、笑みを浮かべるゾルダート。

 

「よおし、全員で後片付けだ!」

 

「それが終わったら、お楽しみのキャンプファイヤーだよぉっ!!」

 

と、弘樹がそう号令を掛けると、聖子が補足する様にそう言って来る。

 

「お~! 良いね、キャンプファイヤー!」

 

「やっぱり定番はオクラホマミキサーだよな!」

 

「マイム・マイムもだろう」

 

キャンプファイヤーと聞いた磐渡、重音、鷺澪がテンションが上がった様子を見せる。

 

「女の子の手を堂々と握れる………グヘへへへへ」

 

「了平、その顔を止めないと親友止めますよ」

 

そしてまたも良からぬ想像に走って法律違反な顔になる了平に、楓が厳しくそう言い放つ。

 

「急いで片付けよう!」

 

「キャンプファイヤー、楽しみ!」

 

「コレそっちやってえ」

 

「洗ったやつ、此処ね~」

 

と、キャンプファイヤーが楽しみな男子・女子の1年生組が、率先して片付けを始める。

 

「おっと、1年生ばかりにやらせておけねえな」

 

「私達も早く片付けましょう」

 

それに触発された様に、他のメンバーも手早く食事の後片付けを済ませて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

キャンプファイヤー会場………

 

集まった大洗機甲部隊の面々の中心では、井の時に組み上げられた丸太が、大きな炎を上げて燃えている。

 

そして、誰かが持って来たラジカセから、『オクラホマミキサー』が再生され、炎を囲んでフォークダンスを楽しんでいる。

 

「良いな~………」

 

「早く出番来ないかなぁ~………」

 

しかし、女子の人数が40人ぐらいなのに対し、男子側が1000人近く居る為、殆どの男子は周りで待機し、一踊り終わった者との交代を待ちわびている。

 

「フォークダンスなんて小学校以来だな」

 

「久しぶりにやると楽しいねえ」

 

昔にやった事を思い出しながら、卒なく踊っている地市と沙織。

 

「ったく、何でこんなガキ臭い事………」

 

「まあまあ、神狩殿。コレも思い出であります」

 

不満そうな白狼を宥めながら、ややリードして踊っている優花里。

 

「身体を動かすのは得意じゃないんだが………」

 

「さっさと寝たい………」

 

共にダウナーな状態で踊りながら、ブツブツと不満を露わにしている煌人と麻子。

 

「うふふ、お上手ですね、飛彗さん」

 

「華さんこそ」

 

若干イチャついてる様子を見せながら、軽やかなに踊って見せている華と飛彗。

 

美女と美男子の組み合わせの為、絵的にも映えている。

 

「っと、すまない。間違えた」

 

「う、ううん! 私もちょっと間違えちゃったから! 大丈夫だから! 気にしないで!」

 

そして、生来の不器用さに加え、慣れない事をしているので、何度も手順を間違える弘樹と、緊張の余りに動揺しまくり、同じ様に何度も手順を間違えるみほ。

 

見ていてかなり初々しい様子である。

 

事実、弘樹とみほの様子を見ている周りの人間は、全員が優しい笑みを浮かべていた。

 

「………リア充、爆発しろ」

 

………只1人、了平だけが血涙を流しながら呪詛の様にそう呟いている。

 

盛り上がりを見せる中、サンショウウオさんチームの臨時キャンプライブも行われ、大洗機甲部隊の一同は、楽しいレクリエーションの時間を過ごして行ったのだっだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、キャンプファイヤーが終わり、後片付けが済むと………

 

「後は寝るだけかぁ~………やっぱりシャワーくらい浴びたいなぁ」

 

沙織がふと、そんな言葉を漏らした。

 

「キャンプですから、流石にそれは無理かと」

 

「大丈夫ですよ、少しくらい」

 

「もう! ゆかりんも女の子なんだからそう言うのは気にしないと駄目だよ!」

 

華と優花里がそう返して来ると、沙織は反論する。

 

(こういう小さな事を気にするのから、女子力は上がってくんだから)

 

(! そうなのでありますか! 勉強になりました!!)

 

更に優花里の方には、小声でそうアドバイスする。

 

「この後も暫くお風呂無しの生活なんでしょ? 匂い付いちゃうよ~」

 

「確かに、お風呂は入りたいかも………」

 

「よし! 温泉を掘ろうよ!!」

 

「いや、無理だって………」

 

と、沙織の言葉を皮切りに、他の戦車チームからも風呂に関する話が出始める。

 

するとそこで………

 

「すまない。少し良いかね?」

 

そんな戦車チームの面々に、敏郎が声を掛けて来た。

 

「あ、真田さん」

 

「どしたの? 整備部長」

 

それに気づいたみほと杏が返事を返す。

 

「戦車チームの皆に見せたいモノがあってね。ちょっと一緒に来てもらいたいんだが………」

 

「見せたいモノ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

敏郎にそう言われ、戦車チームの面々は首を傾げながらもその後に付いて行った。

 

 

 

 

 

宿営地から少し離れた場所………

 

「真田さん、見せたいモノってなんですか?」

 

「………アレだ」

 

みほがそう尋ねると、敏郎はそう言って前方を指差した。

 

そこに在ったのは………

 

「! アレは!?」

 

「陸上自衛隊の『野外入浴セット2型』ですっ!!」

 

それを見た優花里が、興奮した様子でそう声を挙げる。

 

そう、それは自衛隊の装備で、主に災害派遣時に野外で軽易に入浴を実施する装備品………

 

『野外入浴セット2型』だった。

 

御丁寧に、入り口には『富士演習場の湯』と書かれた暖簾が掛けられている。

 

「藤林教官が特別に貸し出してくれていたんだ。年頃の女の子が何日も風呂無しはキツいだろうと言ってな」

 

「皆様方~! 準備は万全! 良い湯加減ですよ~!」

 

敏郎がそう説明していると、暖簾を潜って現れた藤兵衛がそう言う。

 

「やった~っ! ありがとう、藤林教官っ!!」

 

「素敵っ!!」

 

「神様、仏様、藤林様~っ!!」

 

「御姉様と呼ばせて~っ!!」

 

途端に、大洗戦車チームの面々からは空に対する感謝感激の声が挙がる。

 

「わあい! お風呂だ~!」

 

「私が1番~」

 

「あ、ズルイ~! 私が1番だよ~!」

 

そして、一斉に野外入浴セット2型の方へ向かって行く。

 

「喜んでもらえたみたいっすね」

 

「ああ、藤林教官には改めて感謝を伝えておかないとな………さ、我々は例の物の整備の続きだ。明日の演習で早速使うからな」

 

それを見送った後、藤兵衛と敏郎は自分達の整備テントへと向かって行った。

 

「………フフフフフフ」

 

と、その一連の様子を、茂みの中から覗いていた謎の影………

 

「野外入浴セット………藤林教官、ホントに良い物をくれたぜ」

 

了平だ。

 

その顔は、露骨に不埒な事を考えている顔だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗歩兵部隊の宿営地の1つのテントの中にて………

 

「ええっ!? ノゾキィッ!?」

 

「シイッ! 声がデカイッ!!」

 

了平によって集められた歩兵部隊の一部の面子が、了平の言葉を聞いて驚きを露わにする。

 

「いや、幾らなんでもそれは………」

 

「犯罪ですよ」

 

「何言ってんだお前等! こんな近くで女子達が風呂に入ってるんだぞ! 寧ろ覗かない方が失礼ってもんだろっ!!」

 

尻込みする面々に、了平は演説する様にそう言い放つ。

 

「如何考えても覗く方が失礼だと思いますよ………」

 

「チイッ! 分かってねえなぁ、お前等」

 

煮え切らない様子の隊員達に、頭をガシガシと掻く了平。

 

「想像して見ろ、お前等! 戦車チームの艶姿………入浴シーンをよぉっ!!」

 

「艶姿………」

 

「入浴………」

 

そう言われて、思わず想像を掻きたててしまう隊員達。

 

途端に、悶々とした思いが込み上げて来る。

 

「………良いかも」

 

「だろう! だったらやってやろうじゃねえか! なあに、今の俺達の技術なら、バレないで覗くぐらい朝飯前よ! だからよぉ、ちょっとだけ………な」

 

そんな隊員達に、了平は更に誘惑の言葉を掛ける。

 

「そ、そうですね………」

 

「ちょ、ちょっとだけなら………」

 

「バレなきゃ良いんですしねぇ」

 

(勝ったっ!!)

 

そして遂に乗り気になり始めた隊員達の様子を見て、了平は内心で満面の笑みを浮かべてガッツポーズを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野外入浴セット2型が設置されている場所へと続く茂み………

 

「此方コットンリーダー………各員、状況報告せよ」

 

「α隊、準備良し」

 

「β隊もOKです」

 

ギリースーツ姿で、御丁寧にフェイスペイントまで施した了平が、茂みの中を音を立てない様に匍匐しながら、同様の恰好で随伴している隊員達にそう尋ね、そう言う返事を聞く。

 

「よおし、先ずγ隊が先行する。そしたら今度は俺達の番だぞ………グヘヘヘヘヘ」

 

最早完全にアウトな笑い顔でそう呟く了平。

 

と、そこで、γ隊の面々が戻って来た。

 

「アレ? もう戻ったの? 早くない?」

 

早々と戻って来たγ隊の面々に、了平が首を傾げていると………

 

「だ、駄目です! ノゾキは不可能です!」

 

γ隊の隊員が、青褪めた顔でそう告げて来た。

 

「はあっ!? 何でだよっ!? パラダイスを目の前にオメオメと帰れってのか!?」

 

それを聞いた了平は、憤慨した様子を見せる。

 

「そ、そう言われても………御自分の目で確認して下さい」

 

「ああ? 何だってんだよ、ったく………」

 

続けてそう言われると、了平は隊員達を伴い、野外入浴セット2型が設置されている場所の近くまで前進すると、茂みの中から様子を覗き見た。

 

するとそこには………

 

「「「「「…………」」」」」

 

四式自動小銃を携えて歩哨を行っている弘樹。

 

同じく、煉獄を携えて辺りを警戒している熾龍。

 

腕組みをして仁王立ちしている小太郎。

 

愛馬シュトゥルムに跨り、辺りを見回っているゾルダート。

 

無言でモシン・ナガンM28に装弾を行っているシメオン。

 

ブローニングM1919重機関銃を腰だめに構えているシャッコー。

 

野戦砲を野外入浴セット2型の周囲に並べ、風紀委員の隊員達と共にメガネを光らせている紫朗。

 

ラハティL-39対戦車銃を両手に持って構えている陣と言った………

 

野外入浴セット2型を護衛している面々の姿が在った。

 

「…………」

 

了平は無言で隊員達と共に茂みの中へと引っ込む。

 

(んだよ、アレッ!? 何だよ、あの鉄壁布陣っ!?)

 

(如何やら、会長閣下が真面目な人達に依頼したみたいで………)

 

小声ながらも相当焦った様子でそう呟く了平に、隊員の1人がそう答える。

 

(クッソ~ッ! 俺達の行動を読まれてたのか!!)

 

(やっぱりココは諦めて帰りましょうよ。相手があの面子じゃ絶対勝てませんって)

 

諦めようと了平に進言する隊員の1人。

 

(いや! こうなれば玉砕覚悟の突撃だっ!!)

 

了平は一同に向かってそう言い放った。

 

(!? ええ~~っ!?)

 

(本気ですか!?)

 

(当たり前だ! 覗かずに逃げ帰るか、覗いて死ぬかと問われれば、俺は後者を選ぶっ!!)

 

(その熱意を少しでも歩兵道に向けて下さいよ………)

 

覗きに対し命を懸けると言う了平の態度に、隊員達は呆れ果てる。

 

(イザ行かんッ! パラダイスへと!!)

 

「ほお~~? パラダイス? 素晴らしい響きの言葉じゃないですかぁ~」

 

(当たり前よ! デカイ山有り、際どい谷有りの桃源郷………えっ?)

 

とそこで、不意に非常にねちっこく、低音でうねる様な声がして、了平が振り返ると、そこには………

 

「良い夜だな、不埒者共………」

 

目を光らせ、口から吐息を煙の様に漏らして、両手に銃剣(バイヨネット)を握っている………太田 竜作の姿が在った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

了平達の顔が、真っ青を通り越して真っ白くなる。

 

「我等歩兵は神の代理人………神罰を執行する地上代行者………我等が使命は………我が神に逆らう愚者を………その肉の最後の一片までも絶滅する事………エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

竜作がそう叫びを挙げて、了平達に襲い掛かった!!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

………余りに残酷なシーンの為、描写をカットさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野外入浴セット2型の内部………

 

「………うん?」

 

湯船に浸かっていたみほが、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「みぽりん? 如何かしたの?」

 

「今何か………悲鳴みたいな声が聞こえた様な気が………」

 

「気のせいですよ、きっと」

 

沙織が尋ねると、みほはそう答えるが、華が気のせいだと言う。

 

「………そうだね。良く聞こえなかったし」

 

そう言われてみほは、気のせいだと納得するのだった。

 

 

 

 

 

「ねこにゃーさんってメガネ取るとホント美人ですよね」

 

洗い場で身体を洗っていた聖子が、同じ様に隣で身体を洗っていたねこにゃーにそう言う。

 

「えっ!? そ、そうかな?………」

 

「そうですよ~。今度からコンタクトにして見たら如何です?」

 

「い、いや、コンタクトって何か怖いし、メガネ無いと上手く人と話せないから………」

 

「え~、勿体無いですよ~。スタイルも結構良いのに………」

 

「ス、スタイルって………」

 

と、聖子がねこにゃーが泡に包まれているねこにゃーの身体を見ながらそう言っていると………

 

「う~ん………またおっきくなったかなぁ………ブラ新調しないと………」

 

近くに居た柚子が、胸を寄せて上げながらそんな事を呟く。

 

「「…………」」

 

それを聞いた2人は一瞬顔を見合わせた後、自分達の胸を見て………

 

「「………ハアア~~」」

 

深く溜息を吐いたのだった。

 

「………それだけあって悩むなんて贅沢よ」

 

しかし、そんな2人の様子を見た忍が、恨みがましそうな目で睨み付けていたのだった。

 

 

 

 

 

「皆で風呂に入ると楽しいね~」

 

大人数で入浴している様子を、風呂の縁に座って眺めながら楽しんでいるホシノ。

 

………タオルを巻いていないので、色々と丸見えである。

 

「ホシノ~。少しぐらい隠そうとしなよぉ」

 

「え~、別に良いじゃん。女同士なんだからさぁ」

 

やんわりと注意するナカジマだが、ホシノは何処吹く風である。

 

「そうそう! 裸の付き合いにタオルなんざ無粋ってもんだぜ!」

 

とそこで、風呂から上がった唯が、手拭いの水気を股下で叩いて払いながらそう言って来る。

 

「「それはやっちゃいけないっ!!」」

 

「うわぁっ!? な、何だよ!?」

 

途端に、ナカジマ、ホシノからのツッコミが飛ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外の喧騒も知らず、和気藹々とした雰囲気で入浴を楽しんでいる大洗戦車チームの面々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、入浴タイムは無事終了。

 

みほ達と弘樹達は其々の宿営地へと帰還し、各々のテントへと入って、就寝となった。

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「………眠れないなぁ」

 

環境が変わったからか、中々眠れないみほがテントの中で身を起こす。

 

「う~ん………遂に私にもモテ期が………」

 

「朝が来ない………何て素晴らしいんだ………」

 

「今度は………どんな花を活けましょうか………」

 

「おお~………アレが噂の………海軍十二糎自走砲………キングチーハーでありますかぁ~………」

 

周りでは、沙織、麻子、華、優花里が楽しそうな笑顔を浮かべて寝言を呟いている。

 

「………ちょっと外の空気を吸おうかな」

 

と、みほはそんな沙織達を起こさない様にしながら、テントの外へと出る。

 

「うわぁ………星が落ちて来そう」

 

空には満天の星空が広がっており、みほは思わずそう呟く。

 

「明日も良い天気になりそうだな………うん?」

 

するとそこで、懐中電灯を片手にコチラに向かって歩いて来る人影が有る事に気付くみほ。

 

「………みほくん? 起きてたのか?」

 

それは、戦闘服姿で武装した弘樹だった。

 

「弘樹くん。如何したの? そんな恰好で?」

 

「見回りだ。昼間にイノシシを見たからな。野生動物が此処まで現れないとは限らない。一応の用心にな」

 

みほが尋ねると、弘樹はそう返す。

 

「そうだったんだ」

 

納得が行った様な表情となるみほ。

 

女子側の宿営地の方をウロついていたと言われれば、普通は有らぬ疑いを掛けられてしまいそうなものだが、みほは弘樹に限ってそれは無いと断言出来る為、そう思う事はなかった。

 

「それにしても………綺麗な星空だな」

 

とそこで、弘樹の方も星空を見上げてそう言う。

 

「ホント、学園艦の上で見る星空とは違った良さが有るよね」

 

「うむ、この星空は故郷を思い出す」

 

「そんなに経ってない筈なんだけど、何だか凄い昔の事みたい思えるなぁ」

 

以前、弘樹の故郷で天竺ジョロキア機甲部隊と試合した事を思い出しながら、そう言うみほ。

 

「アレから色々有ったからな。小官も大分昔の事の様に感じているよ」

 

「………弘樹くん」

 

「うん?………」

 

「私最近、こう思える様になってきたんだ………今の私が有るのは、西住流が………ううん、戦車道があったからだって」

 

「うむ………」

 

「戦車道があったから、沙織さんや華さん、優花里さんや麻子さん、戦車チームや歩兵部隊の皆さん………それに」

 

そこでみほは弘樹の方を見たが、すぐの恥かしそうに視線を反らす。

 

「ひ、弘樹くんにも出会えたから………」

 

消え入りそうな声でそう呟くみほ。

 

「………そうか」

 

しかし、弘樹には聞こえていた様で、そう言う返事が返って来る。

 

「実はな………小官も最近、少し思い始めていた事があってな」

 

「えっ?………」

 

「小官は只管に歩兵道をやってきた。それが当然だと思っていた。或いは血の影響だとな………だが、本当は………」

 

とそこで、弘樹はみほの事を見据える。

 

「………君に逢う為に、やっていたのではないかとな」

 

そして星明りに照らされた状態で笑みを浮かべ、そう言い放った。

 

「!?!?」

 

「いや、すまない………小官らしからぬ事を言ってしまったな。忘れてくれ」

 

みほは一瞬で茹蛸の様に真っ赤になって頭から煙を噴き出すが、弘樹は柄にもない事をしたと言う。

 

「じゃあ、見回りの続きがあるのでな、失礼するよ。お休み」

 

「お、お休み………」

 

そこでみほは真っ赤な顔のままテントの中へと戻り、弘樹は見回りの続きへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんこうチームのテントの中………

 

(うう~~~っ! 益々眠れなくなっちゃったよ~っ!!)

 

真っ赤な顔のままのみほが、頭まで布団を被って必死に寝ようとしているが、その度に先程の弘樹の言葉と姿が反芻され、眠る事が出来ない。

 

結局………

 

そのままみほは、一睡も出来ずに夜を明かしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

ボトムズの幻影篇1話のPV(桑島法子バージョン)を見ていて、ちょっと思いついたボイゾル版

 

 

 

 

 

語り:地市と沙織の娘(CV:桑島法子)

 

石上 地市、石上 沙織………(BGM:Enter Enter MISSION!オルゴール版)

 

私の父と母だ。

 

2人が同窓会に出かける。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ、サンダース&カーネル、アンツィオ&ピッツァ、プラウダ&ツァーリ、黒森峰………

 

甘酸っぱい青春の思い出が蘇るOur School class Reunion

 

でも、2人の心の中には、『あの2人』の面影が在るらしい………

 

『あの2人』って誰?(ココから『炎のさだめ』がサビ部分からフェードイン)

 

華小母さんも、飛彗小父さんも、『あの2人』を特別視する。

 

何で皆『あの2人』を求めるの?

 

『あの2人』って何?

 

でも私も、戦場の光と炎を映し出す様な瞳が気になる………

 

あんこうの描かれた後ろ姿が気になる………

 

私も、あの2人の後を追いたい………

 

少しでも、あの2人の事が分かるなら………

 

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 幻影篇』

 

あの2人の名………

 

『西住 みほ』

 

そして………

 

『舩坂 弘樹』




新話、投稿させていただきました。

夕食の後は皆でキャンプファイヤー。
そして女子は癒しの入浴………
しかし、それを覗こうとする不埒者が………
だが、呆気無く成敗されたのだった(笑)

お約束通り、サービスシーンをお届けしました。
ホントちょっとですが、私の貧相な脳味噌ではコレが限界で………
戦闘シーンとかのアイデアならスラスラ出て来るんですが(爆)

最後にイチャラブもありつつ、次回より西部戦へストーリーが向かいます。

そして今回のオマケ。
幻影篇のPV見てたら書いてみたくなりまして………
飽く迄オマケですので、軽く流して下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第123話『西部学園です!』

あけましておめでとうございます。

今年も、『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』をよろしくお願い致します。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第123話『西部学園です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空教官の厚意で、東富士演習場の一部を借り………

 

合宿による訓練を始めた大洗機甲部隊。

 

初日は士気を上げる為に楽しいキャンプと洒落込んだが………

 

その最中に………

 

ジェームズが走りの師であり、親友である『オリバー』と再会………

 

何と彼は今、西部学園で歩兵道をやっていた………

 

ライバルとして対決する事になったオリバーに、ジェームズは闘志を燃やす。

 

そして夜が明けて合宿2日目………

 

いよいよ本格的な訓練が開始される………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東富士演習場の一角………

 

「撃てぇっ!」

 

Ⅳ号のキューポラから姿を見せているみほの号令が掛かると、横一列に整列していた大洗戦車部隊の戦車が次々に発砲!

 

遠方に在った標的に向かって砲弾が飛んで行く。

 

その内の8割が、的を捉えて破壊する。

 

(皆の腕も上がって来てる。凄いな………まだ戦車道を始めてほんの数ヵ月なのに………)

 

戦車チームの皆の腕が上がっている事を見たみほが、ほんの数ヶ月前までは只の素人の集団だった事を思い出して、感慨深く感じる。

 

「いや~、それにしても凄いですね~。さしずめ、大洗戦車部隊総火演と言ったところでしょうか」

 

とそこで、装填手席側の砲塔ハッチが開いて、優花里が顔を出したかと思うと、砲撃を続けている周りの戦車を見回しながらそう言う。

 

そう………

 

今、大洗戦車チームが砲撃訓練を行っている場所は………

 

陸上自衛隊の富士総合火力演習………

 

俗に総火演と呼ばれている、陸上自衛隊最大の火力演習が行われている場所なのだ。

 

「こんな場所で訓練出来るなんて………もう空教官には、足を向けて寝られないであります!」

 

「未だにゆかりんのこういう時のテンションて慣れないなぁ………」

 

感激の余り、熱い涙を流している優花里を車内から見ながら、沙織はそう呟く。

 

「アハハハ………歩兵部隊の皆の方は如何かな?」

 

そんな優花里の様子に苦笑いしながら、別の場所で新規の装備の投入訓練を行っている歩兵部隊の事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車チームが砲撃訓練を行っている場所から少し離れた場所にて………

 

「敵機来襲ーっ!!」

 

大洗歩兵部隊の隊員の1人がそう声を挙げたかと思うと………

 

無人標的機が、低高度から大洗歩兵部隊の頭上へと侵入して来る。

 

そのまま胴体部に装備されていた爆弾を落そうとするが………

 

「撃ち方始めぇーっ!!」

 

明夫がそう号令を掛けると、対空機関砲が火を噴き、対空砲火が張られた!!

 

曳光弾の混じった機関砲弾が、青い空に鮮やかな軌道を描く。

 

と、その内の1発が無人標的機の左翼を撃ち抜いた!

 

左翼に空いた穴から炎が上がると、無人標的機は錐揉み回転を始めて、そのまま墜落して爆散した。

 

「3時方向より新たな敵機!」

 

とそこで、1人の偵察兵がそう声を挙げ、3時方向からの新たな無人標的機の襲来を報告する。

 

「任せろ!」

 

すると、その3時方向から向かって来る無人標的機に対し、対空戦車『メーベルワーゲン』の砲塔に乗って居た砲兵がそう声を上げ、3.7cm FlaK43/1の照準を合わせる。

 

「喰らえっ!!」

 

そう叫んで引き金を引くと、曳光弾交じりの3.7cm機関砲弾が、山形の軌道を描いて無人標的機へと向かう。

 

機関砲弾は無人標的機のエンジンと胴体を撃ち抜き、無人標的機から炎が上がったかと思うと、そのまま空中で爆散する。

 

「まだ来るぞぉっ!!」

 

更に別方向から来た無人標的機を、ボフォース 40mm機関砲に付いた砲兵が機関砲弾を浴びせる。

 

「高高度に戦略爆撃機!」

 

とそこで、またも偵察兵からそう報告が挙がる。

 

その報告通り、大洗歩兵部隊の頭上の遥か上空に、戦略爆撃機を模した無人標的機の姿が在った。

 

高高度である為、対空機関砲や機銃では届かない。

 

戦略爆撃機型の無人標的機は、機体下部のハッチを開けると、大洗歩兵部隊に爆弾の雨を浴びせようとするが………

 

砲撃音が響き渡ったかと思うと、戦略爆撃機型の無人標的機の解放されたハッチ部から砲弾が飛び込み、爆発!

 

忽ち投下しようとしていた爆弾が誘爆し、戦略爆撃機型の無人標的機はそのまま空中で大爆発した!

 

「やったっ!!」

 

「流石だね………アハト・アハト」

 

竜真が思わず歓声を挙げ、砲撃した誠也も、それを行った高射砲………

 

俗に『アハト・アハト』と呼ばれている、『8.8 cm FlaK 36』の性能に、手放しで感動している。

 

「うむ、良い感じだね」

 

「コレである程度は敵の航空機による攻撃に対抗出来ますね」

 

一連の様子を見ていた迫信がそう呟き、傍に居た弘樹もそう言う。

 

そう………

 

大洗歩兵部隊に新たに配備された装備とは………

 

『対空火器』であった。

 

前回、クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との戦いで、大洗側の航空支援が敵の航空支援によって潰されかけた。

 

その事を踏まえ、今後の試合で、敵の航空支援が襲い掛かって来る事になると考え、自衛用の手段として、対空火器の配備が開始されたのである。

 

機関銃や機関砲に加え、整備部がⅣ号と38tの車体部品の予備を使って、『対空戦車』の製造にも成功した。

 

『対空戦車』とは、所謂自走式対空砲であり、その名の通り、車体に戦車の物が使われている。

 

しかし、その使用目的上、オープントップの状態でしか運用出来ない為、現状のレギュレーションでは戦車でありながら戦車道では使用出来ず、歩兵道側の装備となっている。

 

この他にも、非装甲車両や装甲車両の一部にも対空砲を搭載し、自走式対空砲化を行っている。

 

更に、高射砲も配備され、砲兵部隊の一部が高射砲兵へと兵種転換を行っている。

 

そして、その配備された高射砲の中には………

 

あのアハト・アハトも有ったのである。

 

「確かコイツはあのティーガーの主砲にもなったんだろう?」

 

「うむ、かのエルヴィン・ロンメル将軍が、僅か9門のアハト・アハトで、マチルダⅡを中心としたイギリス軍の戦車91両を葬り去った事は有名だな」

 

磐渡がアハト・アハトを見上げながらそう言うと、十河がロンメルのエピソードを持ち出してそう言う。

 

「って事は、コイツが有れば対戦車戦も安心ってワケだ!」

 

「いや、そうとも限らんぞ………」

 

弦一郎が歓喜の声を挙げるが、それに水を差す様に弘樹がそう言って来る。

 

「? 如何言う事だよ、弘樹?」

 

「確かに、コレを戦車砲に転用したティーガーを初めとしたドイツ戦車は驚異的な活躍を見せた。だが………コレは飽く迄『高射砲』だ」

 

「戦車砲に比べれば取り回しは格段に悪い。敵歩兵に肉薄されれば何も出来ない。オマケに装甲に守られているワケではないから、相手からの攻撃には非常に脆い」

 

弦一郎が尋ねると、弘樹と迫信がそう説明する。

 

そう………

 

高射砲としてだけでなく、対戦車砲としても優秀な戦果を挙げたアハト・アハトであるが………

 

飽く迄高射砲である為、その取り回しは悪く、肉薄攻撃には脆く、装甲が無いので敵からの攻撃に対する防御手段も皆無である。

 

完全無敵とまでには行かないのだ。

 

「何や、期待させといてソレかいな………」

 

「でもまあ、イザと言う時には頼りになる物があるのは安心出来ますよ」

 

大河がそう言って溜息を吐くと、楓がフォローの様にそう言う。

 

「ところで、了平達の方は如何だ?」

 

とそこで、弘樹が楓にそう尋ねた。

 

「今、地市が扱いてます。でも、ホントに良いんですか? アレは流石にやり過ぎじゃ………」

 

「不埒な真似をしようとした罰だ。ああでもしなければ示しがつかん」

 

「了平………死なないと良いですけど」

 

弘樹とそう会話を交わすと、楓はそんな心配をするのだった………

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

楓に心配されていた了平はと言うと………

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!! 助けてくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

心の底からの悲鳴を挙げて、何人かの歩兵と共に逃げている了平。

 

それを追っているのは………

 

「了平ーっ! 逃げるなぁーっ! 向かって来いーっ!!」

 

M20装甲車に乗った地市だ!

 

了平と歩兵達を追い回し、轢こうとしている。

 

良く見れば、了平と一緒に居る歩兵達は………

 

昨晩、戦車チームの風呂を覗こうとした面子であった。

 

「何でこんな目に遭うんだよーっ!!」

 

「恨むんなら、不埒な事をしようとした自分自身を恨むんだなぁっ!!」

 

了平が悲鳴を挙げた瞬間、地市がそう言ってアクセルを踏み込む。

 

M20装甲車が一気に速度を上げ、了平達の中へと突っ込む!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「あぶなっ!?」

 

慌てて横っ飛びする様に回避する覗き歩兵達。

 

「!? ぐへえっ!?」

 

しかし、了平は逃げ切れず、真面に跳ねられる!

 

勿論、戦闘服を着ている為、怪我は皆無だが、かなりの激痛である。

 

「綿貫さん!」

 

と、覗き歩兵の1人が了平を助け起こしていると、M20装甲車が反転して来る。

 

「!? うわぁっ!? また来たぁっ!?」

 

「逃げるなぁーっ! 車に向かって来いーっ!!」

 

了平達が逃げ出すと、地市がそう叫ぶ。

 

「地市ーっ! コレは一体何の拷問なんだよーっ!!」

 

「拷問じゃない! 特訓だっ!! かつて地球を守った獅子座から来た戦士は、この特訓で敵を打ち破ったんだ!! だからお前等もそれに倣えーっ!!」

 

「無茶苦茶だーっ!! ホントにこんな特訓した奴なんか居るかーっ!!」

 

居るんだなぁ、コレが………

 

その後、了平達は日暮れまで追い回され………

 

弘樹達が様子を見に来た時には、ボロ雑巾と呼ぶのも憚られる様な姿で倒れていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

大洗戦車チームの宿営地・あんこうチームのテントにて………

 

「う~~ん………うん?」

 

寝ていた優花里がふと目を覚ますと………

 

「う~~ん………コレで良いかな?………いや、まだちょっと甘いな。もう少し見直しを………」

 

布団の上でうつ伏せになり、手元を携帯電灯で照らしながら、作戦計画書を必死に練っているみほの姿が目に入った。

 

「西住殿?」

 

「あ、優花里さん。ゴメンね、起こしちゃった?」

 

「いえ、偶々目が覚めただけです………まだ作戦を練ってるんですか?」

 

「うん、今度の西部もまた強敵だから………良く作戦を練っておかないと………」

 

そう言いながら、作戦計画書を書き進めるみほ。

 

「大丈夫ですか? 昨日も余り寝られなかったのでは?」

 

「! う、うん! だ、大丈夫だよ!」

 

優花里に昨日寝られなかったのではと言われ、弘樹の事を思い出して、みほは僅かに動揺する。

 

「………やっぱり、敵戦車の編制が分からないとコレ以上は無理か………」

 

「西部は試合ごとに使用する戦車を変えていましたからね………かなりの戦車を保有している様です」

 

西部機甲部隊はコレまでの試合で、まるで相手に合わせるかの様に使用する戦車を変えていた。

 

その変幻自在な機甲部隊に、みほは対策を立てあぐねている。

 

「せめて、今度の試合で使って来る戦車が分かればなぁ………」

 

「…………」

 

愚痴る様に呟いたみほの姿を見て、優花里の表情に何かを決意した様な様子が浮かぶ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数日が経過………

 

結局、西部機甲部隊への具体的な対策は立てられぬまま、大洗機甲部隊は学園艦への帰還日を迎えた。

 

まだ試合までは数日あるが、その期間は戦車や戦闘車輌、兵器や武器の整備に充てなければならない。

 

しかし、その帰還日に………

 

ある事が起きた………

 

 

 

 

 

東富士演習場・大洗機甲部隊の宿営地………

 

「秋山くんが居ない?」

 

宿営地の撤収作業を行っていた一同の中、みほから報告を受けた弘樹がそう声を挙げる。

 

「今朝起きたら姿が無くて………こんな書置きが………」

 

みほはそう言って、優花里が残して行ったと思われる書置きを見せる。

 

『誠に勝手ではありますが、極秘任務の為、単独行動を取ります。自分で学園艦までは帰還致しますので、心配しないで下さい 秋山 優花里』

 

「極秘任務?………」

 

書置きの内容を見た弘樹がそう呟くと………

 

「西住さ~ん!」

 

柚子がみほを呼びながら、小走り気味に近づいて来る。

 

「あ、小山さん」

 

「大変なの、西住さん。蛍ちゃんの姿も見えないの」

 

「えっ!? 蛍さんも?」

 

柚子が蛍の姿も見えないと報告して来た事に、みほは軽く驚きを示す。

 

「弘樹ーっ!」

 

とそこで、今度は地市が弘樹の元へやって来る。

 

「ウチの方でも、蛇野と葉隠の奴の姿が見えないそうだ」

 

「蛇野と葉隠が?」

 

「………あ! ねえ、その面子って………」

 

地市が弘樹にそう報告していると、柚子が何かを思い出した様にそう言う。

 

「! まさか………優花里さん達………」

 

「…………」

 

そこでみほと弘樹も同じ考えに至る。

 

「…………」

 

そして、そんな一同の会話に聞き耳を立てている白狼の姿が在った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園の学園艦………

 

西部学園艦の街並みを、朝早くから凄いスピードで駆け抜ける1人の青年が居た。

 

西部学園の留学生、黒人の『パンサー』だ。

 

彼は首に下げているバッグの中の朝刊を、次々にポストの中へと配っている。

 

別の方角でも、オリバーが牛乳瓶が詰まっている何段も重なっている篭を運んで、走り配っている。

 

遠くの方の農場エリアでは、農薬散布の飛行機が飛んでおり、それを操縦しているのはやはり西部学園の生徒『イーグル』とその後輩『カイト』だった。

 

西部学園の多くの生徒達は、早起きが多く、皆早朝のアルバイトや家業の手伝いをしている。

 

そして、早朝の仕事をやり終えた後、学校へと向かう。

 

西部学園では農業や酪農等が盛んであり、農家志望の少年少女達は大抵ここに入学して来て、農業を学ぶ。

 

それ以外にも、人気なのが広大な大自然である。

 

西部劇にあるような砂塵地帯だけでなく、水や森などの自然あふれるエリアに、誰もが憧れる。

 

また、長い年月を掛けた現在の科学にて、マンモスやクアッガ、そしてドードーやジャイアントモアなどの絶滅動物を甦らせ、そこで保護すると言う名目の元、自然状態で管理・飼育されている。

 

基本的に洋上にある学園艦は、密猟者の侵入を阻むにはうってつけであり、蘇った絶滅動物達は伸び伸びと暮らしている。

 

そんな無駄に壮大かつ広大な学園艦の砂塵地帯に佇む、4つの影が在った………

 

「え~………私達は今、西部学園の学園艦に到着したばかりで………見てください、この光景! まるで本物の西部開拓の時代にタイムスリップしたみたいです!」

 

「コレは、凄いな………」

 

「でござる………」

 

「サンダース&カーネルにも負けないくらいお金持ちなんだね、西部学園って………」

 

優花里、大詔、小太郎、蛍だ。

 

「それでは、コレより西部学園に侵入し、使用戦車の情報を入手したいと思います!」

 

如何やら優花里達は、久々にまたもや………

 

相手学園艦への潜入任務を決行したらしい………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部学園との試合に向けての訓練に励む大洗機甲部隊。
対空兵器も配備され、アハト・アハトも導入されるが、西部はかなりの強敵………

機甲部隊の編制が変わらず、作戦計画に頭を悩ませるみほを見て………
優花里は大詔達を引き連れ………
またも、相手学園への潜入を試みるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第124話『潜入作戦です!(西部学園編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第124話『潜入作戦です!(西部学園編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園との試合に向け、対空兵器を配備して合宿に励む大洗機甲部隊。

 

みほも対西部戦に向けた作戦計画を練るが………

 

相手によって使用戦車を変える西部の変幻自在な戦車部隊を前に、具体的な対策を立てあぐねていた………

 

そんなみほの姿を見た優花里は………

 

蛍、大詔、小太郎を引き連れて………

 

またもや、西部学園への潜入偵察を試みたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園艦・甲板都市………

 

西部劇に出て来そうな荒野を進んでいる優花里、蛍、大詔、小太郎………

 

「それにしても………何で学園艦の甲板都市にこんな荒野を造ったのかな?」

 

ふと、高い岩山が点在し、サボテンの生えている荒野の光景を見て、蛍がそう呟く。

 

「それは多分………」

 

「待て、秋山。何か聞こえないか?」

 

優花里が蛍に返事を返そうとしたところ、大詔がそう言って来た。

 

「はて………そう言えば………」

 

と、優花里がそう呟いた瞬間には、その音は全員にハッキリと聞こえる様になり、背後の方から振動が走って来るのも感じ取れる。

 

「「「「??」」」」

 

優花里達が振り向くとそこに居たのは………

 

「「「「「「「「「「アワワワワワワワワ~~~~~~~~~~~~ッ!!」」」」」」」」」」

 

馬に乗って独特の雄叫びを挙げているインディアンの大群が、コチラに向かって来ていた!

 

「!? ネイティブアメリカン!!」

 

「インディアンですよ!! 隠れましょうっ!!」

 

優花里達はすぐさま、近くに在った大きな岩の影に隠れる。

 

幸いにも、インディアン達は優花里達の姿を見ていなかったのか、馬を走らせたまま何処かへ行ってしまう………。

 

「ハア~、ビックリしました………」

 

「全くだ………」

 

優花里がホッとした様にそう呟くと、1人段ボール箱を被ってカモフラージュしていた大詔がそう返す。

 

「何で荒野に段ボールが在ったのに、気にしなかったんだろう?」

 

「段ボールは敵の目を欺く最高の偽装でござるからな」

 

蛍が納得が行かない様な顔をするが、小太郎が謎の説得力を持つ言葉で宥める。

 

と、そこで………

 

今度は突撃ラッパの音が響いて来た!

 

「「「「!?」」」」

 

岩陰と段ボールの中から、ラッパが聞こえた方向を見やると、今度は騎兵隊の大群がコチラにやって来ていた!

 

「「「「!!」」」」

 

優花里達はすぐさま、またも岩陰と段ボールの中へと逃げる。

 

「………行ったみたいですね」

 

「ハア~~、心臓に悪い………」

 

そして、騎兵隊達が走り去って行った事を確認すると、漸くホッとする。

 

「驚いたなぁ………この学園艦自体が西部劇そのものみたいだね」

 

「この学園艦の責任者………相当の西部劇好きだな………」

 

「そうでなければ、あんな光景を目にする事など先ず無いでござる………」

 

蛍、大詔、小太郎がそう言って、呆れる様な様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、再び移動を開始した優花里達は程無くして………

 

これまた西部劇に出て来そうな小さな町へと辿り着く。

 

「町ですね………」

 

「此処も西部劇の片田舎風だな………」

 

広がる町並みを見て、蛍と大詔がそう言い合う。

 

「見たところ、この辺りに西部学園は無い様でござるが………」

 

「あの、すみません。西部学園へは如何行けば良いですか?」

 

と、小太郎が学園らしき建物が無い事を見てそう呟くと、優花里が偶々通り掛かった住人らしき人にそう尋ねる。

 

「ん? 西部学園かい? それならこの先の駅から列車に乗って、西部学園前駅ってとこで降りればすぐだよ」

 

「ありがとうございます!………皆さん、如何やら駅から列車が出てるみたいですよ」

 

「駅って言うと………アレか」

 

優花里がそう報告すると、大詔が駅舎らしき建物を発見する。

 

駅にて切符を買い、暫く待つと、蒸気機関車がやって来た。

 

「凄い! 本物の蒸気機関車ですよ!」

 

「しかもご丁寧に西部開拓時代に使われていた代物だな………」

 

電動のレプリカなどではなく、本物の薪を使って走る昔の蒸気機関車だ。

 

優花里達が蒸気機関車に乗り込み、学園駅前まで向かう。

 

「おお~~っ! コレは電車では味わえない迫力であります!」

 

「ホント、凄いね」

 

力強く走る蒸気機関車に優花里は意気揚々とし、蛍も感激している様な様子を見せる。

 

「乗客も西部劇の登場人物みたいだな………」

 

「まるで俳優にでもなった気分でござる」

 

大詔と小太郎は車内の様子を見回した後、外の景色を見やる。

 

「! あ! ねえ、アレッ!」

 

とそこで、蛍が車両の外側後方を指差しながらそう声を挙げる。

 

「「「?………」」」

 

優花里達が、窓からやや身を乗り出して見やるとそこには………

 

「ハイヤーッ!!」

 

蒸気機関車に、馬に乗りながら並走して来ている、赤毛のカウガールが居た。

 

「! カウガールです!」

 

「いよいよ西部劇染みて来たな………」

 

優花里と大詔がそう言っていると、乗客達が窓から顔を出し、カウガールに向かって手を振り始める。

 

「えへへ」

 

赤毛のカウガールも、それに応える様に手を振る。

 

やがてカウガールは列車から離れて行った………

 

蒸気機関車はそのままトンネルを抜け、橋の上を渡って行く………

 

橋を渡り終えると、巨大な岩場の中を通り抜けて行く。

 

「凄い岩場ですね………!?」

 

と、岩場を見渡していた優花里が仰天の表情を浮かべた!

 

「如何したの? 優花里ちゃん?」

 

「あああ、アレッ!!」

 

蛍が尋ねると、優花里は仰天した様子のまま岩場の一角を指差す。

 

そこには………

 

岩場と岩場の間を跳躍している人影が在った!

 

間の感覚はかなり広く、普通の人間であれば、先ず跳べる距離ではない。

 

「何て跳躍力だ………」

 

「もしや………ニンジャ!?」

 

その跳躍力に舌を巻く大詔と、その影がニンジャではないかと疑う小太郎。

 

「なんだいアンタ達、知らないのかい?」

 

するとそこで、反対側の窓際の席に居た乗客がそう言って来たので、優花里達は思わず全員でその乗客の方を振り返る。

 

「見ない顔だが、観光にきたのかい?」

 

「ま、まあ………そんな所です………」

 

若干言葉に詰まりながらも、そう誤魔化す様に答える優花里。

 

「あの岩場を軽く越せる奴なんざ、居やしないさ………『アイツ』以外はね」

 

しかし、乗客はそれを気にした様子も見せず、そう言葉を続ける。

 

「『アイツ』?………」

 

「卓越した身体能力をもっている、アメリカの黒人留学生………1年生ながらもその身軽さ故に、この学園艦の生徒や住民から『ブラックパンサー』と呼ばれてるのさ」

 

「『ブラックパンサー』………」

 

と、優花里がそう呟いた瞬間、蒸気機関車は再びトンネルに入った。

 

暫くしてトンネルから出ると、そこには………

 

まるでカナダに来たかのような大自然な世界が広がっていた!

 

再び橋の上を渡ると、眼下にはマンモスの群れが行進しており、別の場所にはメガテリウムが居た。

 

「うわぁっ! 凄いです!!」

 

「絶滅した筈の動物達が自然の世界で戯れてる!?」

 

優花里と蛍が有り得ない光景に興奮を隠せずにそう言う。

 

「あれはフクロオオカミか………クアッガを追いかけているとは………」

 

「見てください! 広い河でシャチの親子が泳いでますよ!」

 

「成程………あの河は海水が含まれているのでござるな………」

 

「西部学園では絶滅した動物を遺伝子工学で復活させて保護してるって噂を聞いてたけど、ホントだったんだ………」

 

絶滅動物の保護区域があると噂されている学園艦『西部学園』

 

噂は本当であった………

 

これには流石の優花里達も驚きを隠せなかった。

 

「あ! アレは!?………」

 

とそこで、空には大きな鳥が羽ばたいている事に気付く。

 

それはインディアン達に伝わる伝説の巨鳥………『サンダーバード』である事を、優花里達は知らない………

 

大自然の光景が流れて行く中、蒸気機関車は再びトンネルへと入って行く………

 

そして、トンネルを抜けると、目的地である西部学園前駅へと到着する。

 

「着きました!」

 

「コレは………」

 

「いやはや………」

 

「凄~い!」

 

蒸気機関車を下車し、駅から街中へと出た優花里達は、目の前の光景にまたも驚きを露わにする。

 

そこに広がって居たのは………

 

まるで西部開拓時代のアメリカの街並みだったからだ。

 

しかし、住民らしき人々は、ウェスタンな恰好では無く、現代の普通の恰好をしているので、かなりシュールである。

 

「住民が普通なのが滑稽だな………」

 

「それよりも、早く西部学園に行くでござる」

 

大詔がそう呟くと、小太郎が促す。

 

「え~と………あ! アッチですね」

 

そこで優花里が、西部学園への案内板を発見する。

 

「じゃあ、行こうか」

 

蛍がそう言うと、一同は西部学園を目指して歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

「着きました! ココが西部学園です!」

 

優花里が西部学園にカメラを向けて撮影しながらそう言う。

 

「コッチは学校が普通だな………」

 

「通っている生徒は普通じゃないが………」

 

「日本人、外国人………あ、アレって部族民かな?」

 

一方、大詔、小太郎、蛍は、学校内にある生徒達らしき人達の姿を見て、そんな感想を漏らす。

 

「では、早速潜入しましょう!」

 

そう言う優花里の恰好は、何時の間にかカウガールの姿となっていた。

 

「よし、行くか」

 

「でござる」

 

「準備OK!」

 

そしてそれに返事を返す大詔、小太郎、蛍も、其々カウボーイ、シェリフ、シスターの恰好となっている。

 

此処に来る途中で在った服屋で購入したものである。

 

如何やら、今回は全員で堂々と潜入する積りらしい。

 

「イザ! 西部学園へ潜入です!」

 

優花里がそう言って、先陣を切り、大詔達もその後に続くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園・敷地内………

 

「じゃあ、先ずは如何しようか?」

 

「取り敢えずは戦車格納庫を目指すか?」

 

「後は、戦車部隊の隊員にでも接触出来れば上々でござるな」

 

西部学園の敷地内を堂々と歩きながら、そんな事を言い合う蛍、大詔、小太郎。

 

「では、戦車格納庫を探し………」

 

と、優花里がそう言い掛けた時、一同の耳にある音が聞こえて来る。

 

「? コレは?………」

 

「ピアノ?………」

 

「この曲はモーリス・ラヴェルの『水の戯れ』か」

 

「綺麗な音色でござるな」

 

ピアノ演奏による『水の戯れ』が聞こえて来て、一同は思わず、それに誘われるかの様に、音の発生源を目指す。

 

 

 

 

 

暫く行くと、校舎らしき建物の1階部分の1室の窓際に、黒山の人だかりが出来ているのを発見する。

 

「此処から聞こえて来ますね」

 

優花里達は人混みを掻き分ける様にして、その教室へと近づく。

 

やがて窓際まで辿り着いて中を覗くと、そこは音楽室であり、1人の女子生徒がピアノを弾いていた。

 

如何やら、彼女が演奏の主の様だ。

 

「あぁ~………今日も美しい音色だ~………」

 

「流石は西部学園一のアイドル………」

 

「ブチお姉様~~~っ!!」

 

と、何人かの生徒達が、歓喜の声を上げる。

 

「ブチ………お姉様?………」

 

『ブチ』と呼ばれた女子生徒の名に聞き覚えのあった優花里が、反芻する様に呟くと………

 

「何だい? 気になるかい?」

 

近くに居た男子生徒がそう言って来た。

 

「この西部学園に来たからには彼女を知らなければ損するだけさ!」

 

そのまま男子生徒は、嬉々として『ブチ』と呼ばれる女子生徒の事を説明し始める。

 

 

 

 

 

『ブチ』

 

当然名前は西部学園から与えられたソウルネームであり、本名は敢えて伏せている(しかし、西部学園の生徒達は全員知っている)。

 

その才能と魅力は、完全無欠の少女と言われている程である。

 

例えば、前年度学園艦を含み全国高校生限定ミスコンで2年連続優勝者。

 

実家が代々続く貿易商であるお嬢様。

 

文武両道、才色兼備、良妻賢母で、幼い頃から習っている稽古事の数は優に数10を超えると言うが、その全てに於いて類稀な才能を発揮している。

 

それでいてそれを鼻にかけない性格の良さ。

 

しっかりとした大人びた性格で、誰に対しても分け隔てなくにこやかに穏やかに接する。

 

正に白百合が咲く様な雰囲気と言うか、何にせよ、美人は性格が悪いと言う定説をひっくり返してくれる貴重な実例。

 

神様から与えられた貴重な才能を持っている為、まるで別世界の住人ではないかとすらも思えてしまう程だ

 

そんな彼女に魅了され、告って玉砕した数は、老若男女合わせて3桁を下らない………

 

 

 

 

 

 

「それがブチさ!」

 

「す、凄いです………」

 

「居るもんだな、そんな完璧な美女と言うのが………」

 

優花里がその説明に圧倒され、大詔が感心した様に呟く。

 

改めてピアノを演奏している女子生徒………『ブチ』に見惚れる一同。

 

「ん?………ねえ、アレ」

 

とそこで、蛍が何かに気付いた様に声を上げて、ある方向を指差す。

 

「「「??」」」

 

優花里、大詔、小太郎がその方向を見やるとそこには………

 

薄着な恰好で、手にブラシや何やを持って、何処かへと向かって居る生徒達の姿が在った。

 

「ブラシ………ひょっとして、戦車の清掃に向かってのでは」

 

「となれば、長居は無用でござる」

 

「行くぞ………」

 

そこで一同は本来の目的を思い出し、名残惜しそうにしながらも、その薄着の生徒達を追って行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄着の生徒達を追って辿り着いたのは………

 

「戦車格納庫ではなかったか………」

 

「プールでござるな………」

 

薄着の生徒達に交じってやって来た一同の中で、大詔と小太郎がそう言い合う。

 

「どうやらあの皆さんはプールの清掃に来た様でありますね」

 

「それにしても、かなり楽しそうだね………」

 

その様子を撮影しながら、優花里と蛍がそう言い合う。

 

如何やら、プール開きが近い様であり、一同はそれでプール掃除を始めている様だ。

 

モップやブラシを片手に大忙しの男子生徒達。

 

一方、女子達の方は、濡れるといけないと言う理由で、水着の上にTシャツを着て、掃除をしている。

 

了平が見たら鼻血を流して絶叫しそうな光景である。

 

「オイ、お前等! 何サボってんだ!!」

 

「早く手伝ってよ! 手が足りないんだから!!」

 

するとそこで、男子生徒と女子生徒が、優花里達に向かってそう声を掛けて来た。

 

「えっ!? あ、いや、あの、自分達は………」

 

「ホラ! 早く早く!」

 

「わああっ!?」

 

「オイオイ………」

 

誤魔化そうとした優花里だったが、西部の生徒達は強引に引き入れ………

 

結局優花里達は、成り行きでプール掃除の手伝いをさせられる事となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「お、終わりました~………」

 

「疲れた~………」

 

プール掃除が漸く終わり、すっかり疲れ切った様子の優花里と蛍が、絞り出した様な声でそう言う。

 

「身体を動かしたら、腹が減ったぞ………」

 

「そろそろ昼時でござるな」

 

大詔は腹に手を当ててそう言い、小太郎が校舎に掛けられている時計が昼時を差しているのを確認する。

 

「皆~! 御苦労様~っ!! お昼の準備、出来てるよ~っ!!」

 

「おお~っ! 待ってたぜっ!!」

 

「漸くメシだ!」

 

とそこで、プールにやって来た女子生徒が、掃除をしていた生徒達に向かってそう声を掛け、掃除をしていた生徒達はその女子生徒に付いて行く。

 

「おお! メシか!!」

 

そして食べる事に対して貪欲な大詔も、当然その中に交じって付いて行こうとする。

 

「ちょっ! 蛇野殿っ!?」

 

「調査は如何するの!?」

 

さも当然の様に付いて行く大詔の姿に、優花里と蛍が思わず声を挙げる。

 

「な~に、メシを頂いた後でも問題無いだろう。それに、食事の場での会話から、何か貴重な情報が得られるかも知れん」

 

だが、大詔はもっともらしい事を言って、そのまま付いて行ってしまう。

 

「蛇野さん!?」

 

「ああ、行っちゃた………」

 

西部学園の生徒達に交じって昼食に向かう大詔の姿に、蛍と優花里は唖然となる。

 

「ああなったら蛇野殿は止められないでござる。我々も続く以外に無いでござるな」

 

そこで、小太郎がそう言い、仕方なく優花里と蛍も、昼食の場へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園・校庭………

 

連れて来られたのは、西部学園の複数在る校庭の1つであり、所狭しとバーベキューが行われている。

 

「おお~、コレは凄いな!」

 

「西部劇をモチーフにしてるだけに、サンダース&カーネルみたいに、アメリカンなノリがありますね」

 

大詔がその様子に軽く驚き、優花里がサンダースやカーネルとの共通点を見出す。

 

「ん? 子供?………」

 

「幼稚園児くらいに見えるけど………」

 

とそこで、小太郎と蛍が、その昼食の場に、幼稚園児らしき多数の子供達の姿がある事に気付く。

 

「ああ、ウチの学校の系列の幼稚園の子達だよ」

 

「機甲部隊のメンバーが招待したみたいだよ」

 

すると、近くに居た西部学園の生徒がそう説明して来る。

 

「機甲部隊のメンバーが………」

 

「と言う事は、西部機甲部隊のメンバーが居るんですか?」

 

蛍がそう呟くと、優花里がその生徒に更に尋ねる。

 

「ああ、丁度あそこに………」

 

そう言って、西部の生徒が視線で示した先には………

 

「さあ、皆ー! 僕の素敵なステーキを召し上がれ! なんちて!」

 

赤毛なカウガールの少女がダジャレを言いながら、園児達にステーキを振る舞っていた。

 

「! あの人はさっきの………」

 

蛍はその人物が、列車に乗って居た時に馬で並走して来ていた女性である事に気づく。

 

「良く見れば、あの人………西部戦車部隊の『ミケ』さんですよ!」

 

そこで優花里も、赤毛のカウガールが西部戦車部隊の隊員の1人………『ミケ』である事に気づく。

 

「うーまーいーぞーっ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

とそこで、どこぞのリアクションが過剰な料理アニメで聞けそうなセリフが聞こえて来て、優花里達は一斉にその方向を見やる。

 

「やっぱりミケのステーキは最高だよ!」

 

「も~、『マンチカン』ったら、大袈裟なんだから」

 

「でも、本当に美味しいですわ」

 

そこには、ショートカットが似合うしっかり者と言った感じの少女『スコッティ』

 

高校生離れした巨乳とロングヘアがトレードマークのマイペースそうな少女『ラグドール』

 

そして、ポニーテールがトレードマークの元気っ子と言った雰囲気の少女『マンチカン』

 

通常『とりお・ざ・きゃっつ』と呼ばれている3人組の少女の姿が在った。

 

(彼女達も戦車部隊の隊員か?)

 

(ハイ………『とりお・ざ・きゃっつ』と呼ばれている『スコッティ』、『ラグドール』、『マンチカン』の3人組です)

 

とそこで、大詔と優花里がそう小声で言い合っていると………

 

「ほらほら! 君達も食べて食べて!!」

 

そう言いながら、ミケがステーキが大量に乗った皿を、優花里達に手渡して行く。

 

「ええっ!?」

 

「こ、こんなに!?」

 

「何と………」

 

その凄まじい量に圧倒される優花里、蛍、小太郎。

 

「おお~~っ!」

 

只1人、大詔だけが、目を輝かせて嬉しそうにして居た。

 

「ささ! 遠慮せずに!」

 

「では頂こう。むぐっ!………美味過ぎるっ!!」

 

ミケがそう言うと、大詔が最初に手を付け始め、一息でステーキ1枚を平らげ、お馴染みのリアクションを決める!

 

「この肉汁の量………肉質………焼き加減………どれ1つとっても最高の出来だ!」

 

「ホント! 嬉しいな~っ! まだまだ沢山あるから、ドンドン食べてね!」

 

手放しで絶賛する大詔に、ミケは気を良くする。

 

「ど、如何しましょう?………」

 

「食べるしか………ないんじゃないかな?」

 

「でござる………」

 

優花里達も戸惑いながらも、食べるしかないと思い、盛られたステーキに手を付け始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「ゲフッ!………も、もう無理です~………」

 

「は、腹が………はち切れるでござる………」

 

「明日から………ダイエットしなきゃ………」

 

すっかり腹がパンパンになっている様子の優花里、小太郎、蛍が、地面に座り込んで苦しそうに腹を摩っている。

 

「最高だっ!」

 

一方の大詔は、未だにステーキを食べ続けている。

 

更に、それだけは飽き足らず、幼稚園の先生達が持って来たサンドイッチやおにぎりや唐揚げ等にも手を付け始めている。

 

「ヘイ、良い食いっぷりだな、ブラザー」

 

とそこで、そんな大詔に声を掛ける者が居た。

 

あの岩場を飛んでいた男子生徒、『ブラックパンサー』である。

 

「! アンタ………ブラックパンサーか」

 

「パンサーで良いぜ。皆からはそう呼ばれてるからな」

 

大詔が一瞬表情を引き締めると、パンサーはフランクな様子でそう言って来る。

 

「ところで、まだまだ行ける口かい?」

 

「ああ、勿論だとも」

 

「じゃあ、コイツは如何だ? 俺の祖母ちゃんの自家製オートミールだ」

 

パンサーはそう言って、オートミールの入ったタッパーを大詔に差し出す。

 

「おお! 頂こうか!!」

 

大詔はすぐさまタッパーを受け取ると、オートミールを一気に口から胃へ流し込む。

 

「………!?」

 

だが、その途端!!

 

大詔の頭の上に『!』が浮かんだ様なイメージが見えた後、バタリと倒れた!

 

「!? 蛇野殿!?」

 

「蛇野さんっ!?」

 

「!?」

 

慌てて優花里達が駆け寄る。

 

「………気絶しているでござる」

 

倒れた大詔の状態を調べた小太郎がそう言う。

 

「一体如何して!?」

 

「多分………コレじゃないかな?」

 

優花里がそう言うと、蛍が空になったオートミールが入っていたタッパーを手に取る。

 

良く見れば、僅かに残っているオートミールは食べ物としてあってはいけない色をしており、刺激臭の様な臭いも漂って来ている。

 

「おお~っ! そんなに美味かったのか!!」

 

パンサーは気絶する程に美味かったのかと解釈したが、明らかに違う………

 

実は彼の祖母の作る非常に不味く、知人達の間では拷問だとまで言われている代物なのである。

 

「やっぱ祖母ちゃんのオートミールは最高だよな」

 

しかし、幼少期よりそれを食して来たパンサーは味覚が完全に破壊されており、全く平気な様子で食べ進めていたのだった。

 

(パンサー………恐るべしでござるな………)

 

そんなパンサーの姿に、ある意味の畏怖の念を抱く小太郎。

 

「アレ? そう言えば、ジャンゴとブチはまだかな?」

 

するとそこで、ミケがジャンゴとブチの姿がこの場に無い事に気づく。

 

「多分、校舎の方だと思いますけど………探しに行ってみます?」

 

傍に居た同じ戦車部隊の隊員『ノーラ』が、そう提案して来る。

 

「うん、行ってみようか」

 

ステーキを焼くのが一段落していたミケは、その提案に乗って、ジャンゴとブチの事を探しに校舎に向かう。

 

「! ジャンゴ!」

 

「それにブチって、さっきの人だよね?」

 

とそこで、優花里が西部歩兵部隊のジャンゴの名が出た事に反応し、蛍もブチと言うのが、先程の音楽室の少女である事を思い出す。

 

「………行ってみましょう」

 

「うん………葉隠さん。蛇野さんをお願いします」

 

「心得たでござる」

 

優花里と蛍は、大詔の事を小太郎に任せると、ミケとノーラの後を追い、校舎へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園・校舎内………

 

「オ~イ! ジャンゴ~ッ!」

 

「ブチ~! 何処に居るんですか~?」

 

ジャンゴとブチの事を呼びながらその姿を探すミケとノーラ。

 

「「…………」」

 

その後方では、優花里と蛍が気取られない様に後を付けていた。

 

「オ~イ………ん?」

 

「如何しました、ミケ?」

 

「今、此処から声がした様な………」

 

突然立ち止まったミケにノーラが声を掛けると、ミケはとある教室の入り口の傍による。

 

すると………

 

「………それじゃ、もう良いだろう」

 

「あ、はい………ですが………」

 

すると扉越しに、男女の会話らしき声が聞こえて来る。

 

「ジャンゴ?」

 

「ブチ?」

 

「大丈夫だって、俺だってこんなのは初めてだしさ」

 

「は、はい、実は私も………」

 

ミケとノーラが、それがジャンゴとブチの声である事に気づくと、更に会話が続く。

 

「あ、ココ………思ったより良いね………何だか………マシュマロみたいで柔らかいな………」

 

「あ、はい………お母様ゆずりです………あ、そ、そんなに触ってはいけません………もっと優しく扱って下さると………」

 

「あ、御免。余りにも柔らかくてな………コッチは如何だ?」

 

「は、はい………凄く大きいです………」

 

「「!??!」」

 

会話の続きを聞いたミケとノーラはボンッ!と音を立てて真っ赤になる。

 

その会話は如何聞いて………『アレ』の最中の様に聞こえたからだ

 

「あああ、あの2人、学校で何やってんの!?」

 

「それじゃあ、こいつをココに入れて………」

 

「あ、ダメです………もっとゆっくりとしないと………」

 

「大丈夫だって、もう限界なんだ………良いだろう? 最初はヘタで失敗するかもしれんが………」

 

思わずミケがそう声に出す中、2人の会話は続く。

 

「だ、大丈夫です………覚悟は出来ています………それでは………」

 

「ああ………行くぞ………」

 

「ちょ………ちょっと待った~~~~~~~~~っ!!」

 

とそこで耐え切れなくなったのか、ミケは勢い良くドアを蹴り開けた!!

 

「「!?」」

 

「ゆ、ユー達一体何をしてたの!? ランチタイムの前にまずそっちからなの!?」

 

「エ、エッチなのはいけないと思います!!」

 

驚いているジャンゴとブチに向かって、ミケとノーラはそう叫ぶ。

 

「いや、調理にエッチは関係ないだろ………」

 

「「………えっ?」」

 

だが、ジャンゴがそう言うのを聞いて、よく見てみると………

 

そこは調理室であり、ジャンゴはホットプレートで焼いている生地にコテを入れている状態で、近くのテーブルには真っ白な柔らかそうなクリームの入ったボールがある。

 

「え?」

 

「ア、アレ?………」

 

その光景を見たミケとノーラは、目をこれ以上にないくらいに点にする。

 

「あの………私達は『オムレツスフレ』を作っているところなんです」

 

とそこで、ジャンゴと同じ事をしていたブチがそう言って来る。

 

「オ………オムレツ………」

 

「スフレ………ですか?」

 

「はい、『COOK PARTY』と呼ばれるお料理サイトで美味しそうな卵のホットケーキがありましたので、ジャンゴさんと一緒に作ろうって意気込んでいたんです」

 

ブチの屈託のないにっこり笑顔

 

「「…………」」

 

沈黙が続いているミケとノーラ。

 

やがて………

 

「………てことは僕の勘違い?………な、何だー! それなら早く言ってよ! 僕はてっきり………」

 

「何だよ、てっきりって?」

 

誤魔化す様にそう言うミケに、ジャンゴのツッコミが飛ぶ。

 

「い、良いんだよ!! 何でもないったら何でもない!! もう! デリカシーが無いんだから!!」

 

「少しは乙女心を読んで下さい!!」

 

「…………」

 

ジャンゴはそう言われると、出来上がったスフレを皿に移し、ソースやミントを盛り付けると、ノーラに突きつけた。

 

「あ、ありがとう」

 

「そういう考えをするヤツほど………ロクな事がないんだよ………」

 

「うぐ!………」

 

そう言いながらジャンゴは、ホットプレートに戻り、再び作業を開始するのだった。

 

「…………」

 

そして、ブチはそんなジャンゴの事を気にしている様な様子を見せている………

 

「何だったんでしょうね?」

 

「さあ?………」

 

一方、遠方からその様子を見ていた優花里と蛍は、会話が聞こえていなかったので、何が何やらサッパリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、校庭にて………

 

ブチとジャンゴが合流し、優花里と蛍が戻ると、バーベキューパーティーはダンスパーティーに移行。

 

ウェスタン・ミュージックが鳴り響く中、皆思い思いに踊り楽しんでいる。

 

(有益な情報は得られませんでしたね)

 

(やっぱり戦車格納庫に向かった方が良かったんじゃ………)

 

(蛇野殿………)

 

(スマン………)

 

そんな中で優花里達は語り、そう小声で話し合っていた。

 

と、その時………

 

「ホラホラ! 貴方達も踊りなさいよ!」

 

そう言う台詞と共に突如現れた黒い髪をポニーテールにし、元気な笑顔と人懐っこい瞳が特徴的な闊達かつ天真爛漫そうな少女が、優花里の手を取って、踊っている西部の生徒達の中心へと連れて行った!

 

「えっ!? あ、あのっ!?」

 

「優花里ちゃん!?」

 

「「!?」」

 

蛍達が止める間も無く、優花里はポニーテールの少女と共に踊らされる。

 

「す、すみません! 私、やらなきゃいけない事が………」

 

と、優花里がそう言いながらポニーテールの少女から離れようとしたところ………

 

「来るのは知っていたよ………大洗の生徒さん」

 

「!?」

 

ポニーテールの少女がそう言い放ち、優花里は仰天する。

 

「申し遅れたね。私は『クロエ』。西部機甲部隊の総隊長だよ」

 

「! 総隊長っ!?」

 

慌ててクロエを振り解き、逃げ出そうとする優花里だったが………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

先程まで楽しく踊っていた筈の西部の生徒達が、全員で優花里を取り囲み、ピースメーカーを向けていた。

 

「!?」

 

「ゆ、優花里ちゃん………」

 

「スマン………」

 

「抜かったでござる………」

 

またも驚愕する優花里の元に、ピースメーカーを突き付けられている蛍、大詔、小太郎が連れて来られる。

 

「うふふ………ようこそ、西部学園へ」

 

そしてそんな中で、クロエは不敵に笑うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部学園への潜入任務に向かった優花里達。
西部劇の街並みや、絶滅動物を復活させて保護している事に圧倒されながら、西部学園へと忍び込む。

次々に現れる西部の戦車隊や歩兵隊と会合。
だが、肝心の使用戦車を突き止める前に………
西部機甲部隊の総隊長、『クロエ』に見つかって捕まってしまう。
果たして、優花里達の運命は!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第125話『優花里と白狼です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第125話『優花里と白狼です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部機甲部隊の使用戦車を探る為………

 

西部学園への潜入を試みた優花里、蛍、大詔、小太郎。

 

絶滅動物を再生させて保護しているエリアや………

 

西部劇の世界に飛び込んだ様な西部開拓時代の街並みに驚きながらも、西部学園へ侵入。

 

西部機甲部隊のメンバーと会合しつつ、戦車格納庫へ向かおうとしたが………

 

西部機甲部隊の総隊長『クロエ』によって、優花里達は捕らわれの身となってしまった………

 

だが、クロエは………

 

優花里達を、意外な場所へと案内したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園………

 

優花里達がクロエによって連れて来られた場所、ソレは………

 

「さ、此処がウチの戦車格納庫よ」

 

「「「「…………」」」」

 

堂々とそう言うクロエに、優花里達は唖然とする。

 

そう………

 

優花里達が連れて来られたのは、彼女達が最も行きたかった場所………

 

『戦車格納庫』だった。

 

「で、あそこに並んでるのが、今度の試合で使う戦車達だよ」

 

更にクロエはそう言い、格納庫の一角に並んでいる40輌の戦車達を指差す。

 

「M4シャーマン………」

 

「M4A3型です………」

 

蛍は並んでいる戦車の内20輌が、サンダースが使っていたM4シャーマンである事に気づき、優花里は型がM4A3である事に気づく。

 

「コッチは………『M22軽戦車・ローカスト』か」

 

「空挺戦車とは、珍しいでござるな」

 

大詔と小太郎は、並んでいる4輌の『M22軽戦車・ローカスト』を見てそう言う。

 

「それに………M24軽戦車・チャーフィー」

 

更にM24軽戦車も10輌並んでいた。

 

「で、あの『M5軽戦車・スチュアート』がミケと、とりお・ざ・きゃっつのヤツね」

 

そこでクロエは、砲塔横に肉球らしきマークが描かれた軽戦車………『M5軽戦車・スチュアート』を指してそう言う。

 

「アッチに在るのが、右から順に、副隊長の『シロミ』のに、ノーラ、それとブチの戦車だよ」

 

更に今度は、整列されているM4A3型のシャーマンとは別に並べられている、3輌のシャーマンを指差す。

 

「!? アレは!?」

 

「『M4A3E8・イージーエイト』………」

 

「『シャーマン・カリオペ』だと………」

 

「『M4A3E2・ジャンボ』でござるか………」

 

そのシャーマン達を見て驚きを示す優花里達。

 

そこに在ったのは、後期型のM4中戦車で、完成形とも言われ、初期の自衛隊でM24と共に主力戦車となった『M4A3E8』、通称『イージーエイト』

 

多砲身ロケット発射器を搭載した、『シャーマン・カリオペ』

 

そして、最大装甲厚152mmを誇る装甲強化型の『M4A3E2』、通称『ジャンボ』だった。

 

「それから………アレが今回の目玉、ウチの参謀の『シャム』の戦車よ」

 

そう言ってクロエが指差した先に在ったのは、平べったい巨体に4つの履帯を持ち、100ミリ以上は有る固定式の主砲を備えた、駆逐戦車の様な車両である。

 

「!? 『T28超重戦車』!?」

 

「何処から、持って来たんだ、こんな物………」

 

優花里が仰天の声を挙げ、大詔が呆然となる。

 

 

 

 

 

『T28超重戦車』

 

マウスの様なドイツ軍重戦車への対抗として設計され、また重防御されたドイツ軍のジークフリート線に対する攻撃をも企図して準備されていた戦車である。

 

元々試作の戦車であり、85トン以上の重量にも関わらず、シャーマンと同じエンジンを使っていたので、僅か13キロの速度しか出ないと、欠陥の多い代物だ。

 

だが、最大装甲厚は300ミリとあのマウスを超えており、65口径105ミリ砲の威力は絶大である。

 

そして何と言っても、最大射程19キロと言う脅威がある。

 

 

 

 

 

 

「いや~、アレを見つけるのは苦労したわぁ~………あ、因みに私が使うのは、アレ………『M18』、『ヘルキャット』よ」

 

とそこで、思い出したかの様に自分が使う戦車………T28の隣に並べられていた駆逐戦車『M18』、通称『ヘルキャット』を指差す。

 

駆逐戦車なのでオープントップなのだが、規定を守る為にハッチが取り付けられ、砲塔は密閉されている。

 

「ヘルキャットでござるか………」

 

「駆逐戦車としては完成度が高い車輌だよ。装甲が極端に薄いけど、威力の高い52口径76.2ミリ戦車砲M1を備え、最高時速80キロの快速を誇ってる………」

 

M18ヘルキャットを見た小太郎と蛍がそう言い合う。

 

「あ、あの! 如何してそんな情報を私達に教えるんですか!?」

 

とそこで優花里が、重要な情報をペラペラと話すクロエに疑念を抱き、そう尋ねる。

 

「そうね………楽しみたいから、かしら?」

 

「楽しむ?………」

 

クロエからの思わぬ返答に、一瞬キョトンとする優花里。

 

「実はコレまでの貴方達の戦い、記録映像でだけど見させて貰ったのよ。毎回の様に絶体絶命の危機に陥っても悉く逆転勝利を決める。運の良さもあるかもだけど………貴方達の秘められた実力のお蔭ね」

 

そんな優花里に向かって、クロエは言葉を続ける。

 

「そんな貴方達とは私も全てを賭けて戦ってみたい………だから、手の内を明かしたのよ。貴方達が全力で戦える様にね」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべるクロエ。

 

如何やら、少々戦闘狂の気がある様だ。

 

「うう………」

 

そんなクロエの笑みを見て、優花里は若干気後れする。

 

と、その時………

 

「総隊長殿、困りますな………貴方の個人的な趣味に付き合わされる部下の身にもなって欲しいものです」

 

そう言う台詞と共に、ガンプレイをしながら、オセロットが部下の『山猫部隊』を率いて現れた。

 

「! オセロット………」

 

「フッ………良い様だな、蛇野」

 

大詔が呟くと、オセロットは捕まっている大詔を小馬鹿にする様にそう言う。

 

山猫部隊の部下達も、態とらしく笑い声を挙げる。

 

「総隊長、コイツ等がココまで勝ち残れたの様々な偶然が重なった結果に過ぎません。過大評価ですよ」

 

「そうかしら?」

 

そうクロエに言うオセロットだったが、クロエは若干聞き流している。

 

「そもそも、黒森峰の10連覇を台無しにした西住 みほが指揮を取っていると言う時点でその実力も知れたものですよ」

 

「!! 西住殿は立派な総隊長です! 私達がココまで勝ち上がって来れたのは間違いなく西住殿のお蔭です! 偶然や運だけではありません!!」

 

更にオセロットはみほの事をも馬鹿にする様な事を言い、優花里が即座に噛み付く。

 

「ほう………偶然や運だけではないと?………では、試してやろう」

 

するとオセロットはそう言い、山猫部隊の隊員2人が、優花里の両腕を掴んでオセロットの前へと引っ張って行く。

 

「うわっ!?」

 

「優花里ちゃん!?」

 

「秋山殿!」

 

「秋山!」

 

「邪魔をするな!」

 

蛍、小太郎、大詔が止めようとしたが、他の山猫部隊の隊員に阻止される。

 

オセロットの目の前まで連れて行くと、山猫部隊員は優花里を離す。

 

「フフフ………」

 

優花里を目の前に立たせたオセロットは愉快そうに笑いながら、右腰のホルスターからピースメーカーを抜く。

 

そして、装填口を開けて1発だけ弾を込めて元に戻す。

 

更に、左腰と後腰のホルスターのピースメーカーも抜く。

 

「この3つの銃のどれかに、1発だけ弾が入っている。続けて6回トリガーを引く」

 

「!?」

 

つまりは変則のロシアンルーレットである。

 

驚愕と恐怖に顔が歪む優花里。

 

「良いか………行くぞ」

 

オセロットはそう言ったかと思うと、3つのピースメーカーの内、1つを上に放り投げる。

 

落ちて来たところで、残り2つのピースメーカーを投げて、ジャグリングを始める。

 

そして、その状態で優花里に向けて引き金を引き始める!

 

「ヒイッ!?」

 

優花里は身構える。

 

1回、2回、3回とトリガーが引かれるが、弾は発射されない………

 

「止めてっ! 止めてよぉっ!!」

 

「止めろ! オセロットッ!!」

 

「何の意味があるのでござる!」

 

山猫部隊の隊員に抑えられながら蛍、大詔、小太郎が叫ぶ。

 

「…………」

 

しかし、オセロットは意にも介さず、4回目のトリガーを引く。

 

「あ、あああ………」

 

そして5回目が引かれたところで、優花里は恐怖の余り尻餅を着いてしまう。

 

「オセロット! 止めなさいっ!!」

 

見かねたクロエが止めに掛かるが、遂に6回目のトリガーが引かれようとする………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時!!

 

轟音と共に、戦車格納庫の壁が砕け散った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「!? 何っ!?」

 

驚きながら砕け散った壁の方を見たオセロットの目に飛び込んできたのは………

 

粉煙の中から飛び出して来た、1台のバイクだった!!

 

そのバイクの前輪がオセロットの顔面に叩き込まれる!!

 

「!? ガハッ!?」

 

顔に思いっきりタイヤの跡を刻まれ、もんどりうって倒れるオセロット。

 

「隊長っ!?」

 

「!?」

 

山猫部隊が慌てる中、飛び込んで来たバイクは着地を決めると同時にターンして優花里の方に向き直る。

 

「何やってんだよ、お前」

 

「!? 神狩殿っ!!」

 

驚きの声を挙げる優花里。

 

そう、バイクに乗って飛び込んで来たのは、何と白狼だったのだ!

 

「グウウッ………ベオウルフ………貴様ぁっ!!」

 

とそこで、起き上がったオセロットが、ナイフを抜いて白狼に襲い掛かろうとする。

 

「…………」

 

が、白狼は少しも慌てずに、右手を上げたかと思うと………

 

その右手の中に、先程までオセロットがジャグリングしていたピースメーカーの1つが落ちて来る。

 

キャッチしたピースメーカーをオセロットに向け、引き金を引く白狼。

 

すると、装填されていた1発の弾が発射され、オセロットの眉間に命中した!

 

「!? ギャアアッ!?」

 

「運が無いのはお前だったみたいだな…………」

 

再びもんどりうって倒れたオセロットを尻目に、撃ち終えたピースメーカーを捨てる白狼。

 

「貴様ぁっ!!」

 

とそこで、山猫部隊の隊員1人が白狼に銃を向けたが………

 

「!!」

 

その瞬間に白狼はアクセルを全開にして急発進。

 

「「!?」」

 

「乗れっ!?」

 

「えっ!?………?! わあっ!?」

 

山猫部隊の隊員が慌てて避けると、白狼は優花里を掻っ攫う様にして無理矢理バイクの後部に乗せた!

 

「!? 今だっ!!」

 

「むんっ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

「「「グワーッ!?」」」

 

即座に、蛍が鳩尾を強打し、大詔がCQCで、小太郎がカラテチョップを決めて、自分達を押さえていた山猫部隊の隊員を気絶させる!

 

「! アレだっ!!」

 

そして戦車格納庫の中にジープを見つけると、それに飛び乗る。

 

「付いて来いっ!!」

 

それを確認した白狼がそう叫び、先程の穴から脱出!

 

大詔達が乗ったジープもそれに続いた!

 

「!? しまったっ!?」

 

「アラアラ、派手な事するわねぇ~」

 

山猫部隊の隊員の1人が、逃がしてしまった事に慌てるが、クロエは呑気そうにそう呟く。

 

「ぐうう………オノレッ! 逃がすな! 追えぇっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

とそこへ、やっとの事で起き上がったオセロットがそう命じ、山猫部隊は優花里達の追撃に向かう。

 

「!!」

 

「ちょっと、オセロット………」

 

そしてオセロットも、フライングプラットフォームに乗り込み、白狼達を追撃して行った。

 

「全く、あの子は………ま、多分逃げ切るだろうから、心配要らないか」

 

やれやれと言った具合にクロエはそう言うと、試合で使う戦車の方に向き直る。

 

「楽しみだな………本当に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西部学園から脱出した優花里達は………

 

「神狩殿! 如何して此処に!?」

 

バイクの後ろに座り、白狼の背中にしがみ付いている優花里がそう尋ねる。

 

「合宿から帰ろうとしたらお前が居ないって他の連中が騒いでてな! 前に何度か相手の学校にスパイしに行ったって言ってたのを思い出したんだ!」

 

「それで助けに!?」

 

爆音と風の音で聞き取り難いので、大声で話し合う2人。

 

「お前には借りが有るからな!」

 

「借り!?」

 

「何時かのファミレスでの事だ!」

 

「! ああ!………」

 

白狼に言われてハッとする優花里。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合の前に、みほが勘当を言い渡されるかもしれないと言う話を立ち聞きした際に、優花里を泣かせてしまった白狼。

 

如何やら彼なりに気にしていた様である。

 

「追っ手が来たぞ!」

 

とそこへ、大詔達が乗るジープが追い付き、運転席の大詔が、サイドカーに乗った山猫部隊が追撃して来るのを確認してそう叫ぶ。

 

「如何するの!?」

 

「この先の湖まで走れっ!!」

 

蛍がそう尋ねると、白狼がそう返す。

 

そこで、追撃して来ていた山猫部隊が、次々と機関銃で攻撃して来る。

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!?」

 

そこで小太郎が、腕を鞭の様に撓らせ、スリケンを投擲し、追撃して来ていた山猫部隊のサイドカー1輌を仕留める。

 

だが、代わる様に新たなサイドカーに乗った山猫部隊の隊員が現れる。

 

「攻撃は牽制に止めろ! 兎に角、今は逃げるんだ!!」

 

大詔がそう言いながら、ピンを抜いたグレネードを後方に向かって放る。

 

「「「「グアーッ!?」」」」

 

爆発で数輌のサイドカーが纏めて吹き飛ぶ。

 

「見えたぞ!」

 

とそこで、白狼がそう声を挙げ、湖が見えてきた事を告げる。

 

「! アレは!?」

 

「『二式大艇』です!」

 

湖を確認した蛍が、そこに大型の飛行艇が停泊している事に気づき、優花里がそれが旧日本海軍の大型飛行艇………『二式飛行艇』、通称『二式大艇』だと判別する。

 

良く見ると、機体には一航専の校章が描かれている。

 

「アレに乗れ!」

 

「良し! 飛ばすぞぉっ!!」

 

白狼がその二式大艇を見ながらそう叫び、大詔が一気にアクセルを踏み込む!

 

そのまま一気に、二式大艇の元へと突っ走った!!

 

「逃がすなぁっ!!」

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

その間にも、山猫部隊からの執拗な攻撃が襲い掛かる。

 

しかし、白狼達は如何にか二式大艇の元へ辿り着く。

 

「急げっ!!」

 

「失礼します!」

 

「お邪魔します!」

 

「蛇野殿! 先に!!」

 

「スマン!」

 

白狼と優花里はバイクに乗ったまま、大詔達は岸にジープを乗り捨て、二式大艇へと乗り込む。

 

「逃がさんっ!!」

 

尚も山猫部隊の追撃が迫るが………

 

そこで援護の為に、二式大艇の防御用火器、20ミリ旋回銃と7.7ミリ旋回銃が火を噴き、山猫部隊に弾幕を浴びせた!!

 

「「「「「うわあああああーーーーーーーっ!?」」」」」

 

機銃座からの攻撃に為す術も無く、次々に倒される山猫部隊。

 

「全員乗りましたかっ!?」

 

そこへ、二式大艇の操縦士が、乗り込んだ白狼達に向かってそう尋ねる。

 

「大丈夫です!」

 

「早く飛ばせっ!!」

 

優花里がそう返事を返し、白狼が発進を急かす。

 

「行きますっ!!」

 

二式大艇の操縦士がそう言うと、4発のエンジンが作動し、プロペラが回り始める。

 

そしてそのまま、水上を滑走し始める。

 

徐々に速度が上がって行き、離水体勢に入る。

 

「離水します!」

 

「コレで一安心ですね………」

 

二式大艇の操縦士の言葉を聞き、優花里がそう呟いた瞬間………

 

突如機体に衝撃が走った!

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

そこで、大詔が窓から外を確認する。

 

「蛇野おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! まだだぁっ! まだ終わってなあいっ!!」

 

そこには、フライングプラットフォームに乗って二式大艇と並走しているオセロットの姿が在った!

 

「オセロットッ!?」

 

大詔が驚きの声を挙げる中、オセロットはフライングプラットフォームを二式大艇のハッチに体当たりさせる!

 

「キャアッ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

蛍と小太郎が思わず声を漏らす中、衝撃でハッチが外れる。

 

「トアアッ!!」

 

その外れたハッチに接近すると、フライングプラットフォームから跳び、二式大艇の中へと跳びこんで来るオセロット。

 

………しかし、勢い余って反対側のハッチにぶつかったかと思うと、ハッチが開いて、再び外へと放り出される。

 

「!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

オセロットは悲しげな悲鳴と共に、湖に水没する。

 

「ええ~………」

 

「ドリフのコントみたい………」

 

「憐れな………」

 

「何しに来たんだ、アイツ?………」

 

優花里と蛍が呆れ、小太郎が同情し、白狼が冷めた目をする。

 

「………いいセンスだ」

 

只1人、大詔はオセロットが落ちたハッチを見ながらそう呟いたのだった。

 

「離水します!」

 

とそこで、二式大艇の操縦士がそう言い、二式大艇は離水。

 

そのまま、西部学園艦から離れて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

優花里達を乗せた二式大艇は、西部学園の航空部隊の追撃を受ける事も無く、無事に大洗学園艦へと辿り着いた。

 

二式大艇は、そのまま甲板都市にあった貯水用の池に着水する。

 

「ハア~、ヒヤッとしました………」

 

「ホント、危なかったね~」

 

最初に外に出た優花里と蛍がそう言い合う。

 

「いやはや、トンだ目に遭ったでござる」

 

「しかし、お蔭で西部が今度の試合で使う戦車の種類が分かった。大収穫だな」

 

続いて降りた小太郎と大詔がそう言う。

 

「…………」

 

そして最後に、白狼が無言でバイクを押して降りて来る。

 

「では、自分達はコレで………」

 

全員が降りたのを確認すると、二式大艇の操縦士はそう言って、一航専の学園艦へと帰投する。

 

「よおし! 早速この情報を西住殿に………」

 

「待って、優花里ちゃん」

 

「お前は一旦家に帰れ」

 

優花里が、入手した情報をすぐにみほへと伝えに行こうとしたが、蛍と大詔にそう止められる。

 

「ええっ!? 何故ですか!?」

 

「我々は寮暮らしでござるが、秋山殿は実家通学でござろう」

 

戸惑いの声を挙げる優花里に、小太郎がそう言う。

 

「あ!………」

 

「本当なら今日の午前中には帰っていた筈だろう。ご両親が心配している。すぐに帰るんだ」

 

優花里が何かに気付いた様な声を挙げると、大詔が更にそう言って来る。

 

そう………

 

東富士演習場で訓練を行っていた大洗機甲部隊は、本来であれば今日の午前中には全員学園艦に帰投している筈であった。

 

だが、優花里は大洗機甲部隊が撤収する前に西部学園の学園艦に潜入したので、両親に帰りが遅れる事を報告していなかったのである。

 

「そうでした………すみません」

 

「謝るなら、ご両親に謝るんだな」

 

「情報の方は私達から西住総隊長や神大会長に伝えておくから、心配しないで」

 

「では、神狩殿。秋山殿を家まで頼むでござる」

 

ショボンとする優花里に大詔と蛍がそう言っていると、小太郎が白狼にそう言い放つ。

 

「ああ? 何で俺が?………」

 

「この中で個人的な移動手段を持ってるのがお主だけだからでござる」

 

「それに、借りが有るんじゃなかったのか?」

 

白狼が不満そうに返すと、小太郎がそう言い、大詔が優花里への借りを指摘する。

 

「聞こえてたのかよ………チッ、分かったよ」

 

不承不承と言った様子ながら、白狼はバイクに跨ると、優花里の前まで移動する。

 

「ホラ、さっさと乗れ」

 

「あ、ハイ………」

 

そう言われて優花里は、やや遠慮気味に白狼のバイクの後部に乗る。

 

「じゃあ、掴まってろよ」

 

「掴まって………」

 

そこで優花里は、西部での逃走劇の際、白狼の背中にしっかりとしがみ付いていた事を思い出す。

 

「!?!?」

 

思い出した途端に顔が真っ赤になり熱を帯びる優花里。

 

そんな顔を隠すかの様に、白狼の背中にしがみ付いて、顔を埋めた。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

しかし、白狼はその様子に気づかず、バイクを発進させる。

 

「「「青春だな(でござるな)~」」」

 

そんな2人を見送った大詔達は、そんな呟きを漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

優花里の実家・『秋山理髪店』の前にて………

 

「う~~ん………う~~ん………」

 

何やら唸りながら、店の前を行ったり来たりしているパンチパーマでメガネの男性………優花里の父・『秋山 淳五郎』

 

「お父さん、いい加減に中で待ってたら?」

 

とそこへ、店の扉が開いて、優花里と似たくせ毛の女性………優花里の母・『秋山 好子』が顔を出す。

 

「だって、お前! 午前中までに帰るって話だったのに、もう午後も大分過ぎてるんだぞ! 心配じゃないか!!」

 

「全く、何時まで経っても過保護なんだから………」

 

過保護とも取れる心配をする淳五郎に、好子は呆れた様子を見せる。

 

と、そこで………

 

エンジン音が聞こえて来たかと思うと、1台のバイク………

 

白狼と優花里の乗ったツェンダップK800Wが停まる。

 

「此処で良いのか?」

 

「ハ、ハイ………ありがとうございます、神狩殿」

 

白狼がそう言うと、後ろに乗って居たまだ若干顔の赤い優花里が、バイクから降りる。

 

「! 優花里!」

 

「あら、優花里。お帰りなさい」

 

その姿を確認した淳五郎が駆け寄り、好子も声を掛ける。

 

「た、只今………」

 

「心配したぞ~! 午前中に帰って来るって言ってたのに、全然帰って来ないから!」

 

優花里が申し訳無さそうに挨拶をすると、淳五郎が心底心配していた様子でそう言う。

 

「ご、ゴメンなさい、お父さん。ちょっと野暮用が入っちゃって………」

 

「まあ、何事も無かった様で良かったわ。ところで、そっちの子は?」

 

謝罪する優花里に、今度は好子がそう尋ねる。

 

「あ、えっと、大洗国際男子校の歩兵道の隊員で、神狩 白狼殿です」

 

「ああ、優花里のとこの部隊の人ね。どうも、優花里がいつもお世話になってます」

 

「…………」

 

優花里が白狼の事を紹介すると、好子は挨拶をするが、そう言った事が苦手な白狼は頭を掻きながら無言である。

 

「…………」

 

するとそこで、淳五郎も白狼の事をジッと見始めた。

 

「お、お父さん?………」

 

その様子に優花里が若干慌てる。

 

淳五郎が過保護なところがある事は良く知っている為、白狼の事を悪い虫だとでも思っているのでないかと心配する。

 

「…………」

 

ジッと白狼の事を見据える淳五郎。

 

「んだよ、オッサン。何か用か?」

 

その視線に気づいた白狼がそう返す。

 

(ど、如何しよう!?………? アレ?)

 

動揺する優花里だったが、そこで………

 

淳五郎の視線が実は白狼では無く、彼のバイクの方に注がれている事に気づく。

 

「………良いバイクだね」

 

と、不意に笑みを浮かべてそう言う淳五郎。

 

「どうも………」

 

「しかし、最近立ち上がりが悪いんじゃないかい?」

 

「!? 何でそれを!?」

 

淳五郎が自身のバイクの不調を見抜いた事に、驚く白狼。

 

「ちょっと裏に来なさい」

 

すると淳五郎はそう言い、白狼を店の裏手………庭の方へと招く。

 

「…………」

 

黙ってバイクを押して付いて行く白狼。

 

「え………ええっ!?」

 

淳五郎の思わぬ態度に、優花里は戸惑うばかりである。

 

「アラアラ、お父さんったら、久しぶりに血が騒いじゃったのかしら?」

 

しかし、1人ワケを知っている様子の好子が笑いながらそう言う。

 

「お母さん? 如何言う事?」

 

「付いて来れば分かるわよ」

 

優花里はそんな好子に尋ねるが、好子はそう言って同じく店の裏手に向かう。

 

「あ! ま、待って!」

 

慌ててその後を追う優花里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋山理髪店の裏手・秋山家の庭………

 

庭には、大きな物置の様な建物が1件在った。

 

扉には南京錠が掛けられていたが、淳五郎はポケットから鍵を取り出し、それを開ける。

 

(あそこは………昔から入っちゃいけないって言われてた………)

 

それは優花里が、幼少期の頃より入ってはいけないと言われていた場所だった。

 

と、中に入った淳五郎が、電気のスイッチを入れたかと思うと、物置の中が照らされる。

 

「! コレはっ!?」

 

ハッキリとした物置の中を見て驚く優花里。

 

そこは様々な工具や機材が並べられている場所………

 

『ガレージ』だった。

 

「さ、入ってくれ」

 

「コイツは………凄いな」

 

プロのオートレーサーでもある白狼から見ても凄いと言わしめる程、そのガレージは本格的だった。

 

「ちょっと失礼するよ………」

 

とそこで、淳五郎はテーブルの上に有った工具箱を掴むと、白狼のバイクの傍に屈み込んで弄り始める。

 

「オ、オイ!………」

 

「ああ、やっぱりコレだ!」

 

白狼が抗議の声を挙げようとした瞬間に、淳五郎は取り外した部品を見てそう言う。

 

「コレが消耗していたんだよ。だから立ち上がりに影響が出ていたんだ」

 

「! そんなとこが………」

 

「コレはプロでも見逃し易い所だからね。他にもちょっと気になるとこがあったんだけど………言っておこうかい?」

 

「ああ、是非聞かせてくれ」

 

淳五郎がプロでも気づかない部品の消耗に気付いた事で、白狼はすっかり尊敬の念を抱いた様で、素直にその言葉に耳を傾ける。

 

「…………」

 

一方の優花里は、今まで見た事の無い父の姿に呆然としている。

 

「うふふ、驚いた、優花里? 実はお父さん、昔はツッパリだったのよ。その頃はブイブイ言わせてたんだから」

 

そんな優花里に向かって、好子が驚くべき真実を話して来た。

 

「!? ええっ!? お父さん、不良だったの!?」

 

「ええ………ホラ、コレがその時の写真」

 

優花里が驚愕の声を挙げると、好子は壁に掛けられていた1枚の写真を指差す。

 

そこには、若き日の淳五郎が、『爆走道』と背中に掛かれた特攻服姿で、バイクを背にヤンキー座りで、撮影したと思われるカメラにメンチを切っている姿が写っていた。

 

「うわぁっ………」

 

「懐かしいわねぇ~。当時の私はお父さんの同級生で風紀委員をやってたから、何時も注意をしてて………思えば、それが馴れ初めだったわね~」

 

写真を見て唖然とする優花里に向かって、好子は懐かしみながら顔を赤らめる。

 

「でも、結婚して優花里が生まれてからは、教育に良くないって事で封印してたの。でも、あの子のバイクを見て、血が騒いじゃったのかしらね」

 

ツェンダップK800Wを弄りながら、白狼にアドバイスをしている淳五郎を見て、そう言う好子。

 

「…………」

 

一方の優花里は、ジッと若き日の父の写真を見つめている。

 

「………お父さんに幻滅した?」

 

好子がそう尋ねるが………

 

「………ううん。例えどんな昔が有っても………私にとっては最高のお父さんだから!」

 

優花里は屈託の無い笑顔でそう返した。

 

「そう、良かった………やっぱり貴方は私とお父さんの娘ね」

 

それを聞いて好子も笑みを浮かべる。

 

まるで最初からこうなる事が分かっていたかの様に………

 

「よ~し! こんなものだろう………」

 

「ありがとよ、オッサン! 凄い調子が良いぜ!!」

 

と、整備が終わったのか、白狼はバイクに跨ってエンジンを吹かしている。

 

「どれ………じゃあ、ちょっとひとっ走り行くかい?」

 

そこで淳五郎は、ガレージ内に在ったシートの掛かった物に手を掛けたかと思うと、シートを外す。

 

そこから現れたのは1台のバイク………

 

『スズキGSX1100S』

 

通称『スズキ・カタナ』と呼ばれるバイクだった。

 

「へえ~、良いマシンじゃねえか」

 

「勿論。相棒だからね」

 

白狼の言葉に、淳五郎は笑いながらそう返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後・秋山理髪店前………

 

「じゃあ母さん。ちょっと行って来るよ」

 

ジーパンに革製のライダーズジャケットを羽織り、ヘルメットを被ってゴーグルを付けた淳五郎が、好子にそう言う。

 

「行ってらっしゃい。夕飯までには戻って来て下さいね」

 

「分かってるって………じゃあ、行くぞ、神狩くん!」

 

「へっ! こちとら現役のプロだぜ。ロートルのオッサンには負けねえよ」

 

「言ったね………勝負!」

 

と、淳五郎がそう言った瞬間、両者のマシンは同時に発進!

 

一気にトップスピードまで達したかと思うと、一瞬でその姿が見えなくなった。

 

「アラアラ、燥いじゃって………よっぽど久しぶりに誰かと走れるのが嬉しかったのねえ」

 

「だ、大丈夫かなぁ?………」

 

ニコニコとした笑顔を浮かべてそれを見送った好子だったが、優花里の方は若干心配そうにしている。

 

「大丈夫よ、優花里。ああ見えて、お父さん結構有名な走り屋だったのよ。『パンチパーマの稲妻』とか呼ばれてたとか………」

 

「『パンチパーマの稲妻』………」

 

しかし、何とも微妙な父の渾名を聞いて、優花里の表情も微妙なものになるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

捕らわれの身となった優花里達ですが、クロエは何と!
優花里達が知りたがっていた使用戦車の事を教えてきた!
大洗と全力で戦う為だと………

その中には、原作劇場版で猛威を振るったT28超重戦車も。
元々以前から何処かの学園に使わせようと思っていたのですが、原作劇場版で先に使われちゃいました(笑)
しかし、西部のT28は劇場版と違った形で脅威となりますので、楽しみにしていて下さい。

そして優花里に拷問紛いなロシアンルーレットを仕掛けるオセロット。
しかしそこでヒーロー登場!
白狼が優花里達を救出しまし。
二式大艇に乗って脱出しますが、そこでもオセロットが………
でも、まさかのシークレットシアタールート(爆笑)
ぶっちゃけ、アレが1番面白いと思うんですよね。

更に、この作品では初登場となる優花里の両親、淳五郎さんと好子さん。
淳五郎さんが元ツッパリの走り屋と言う独自設定は、『淳五郎さん人なり良いけど、パンチパーマのせいで見た目は怖い人に見えなくもないから、実は昔ツッパリとかだったんじゃ?』と妄想しまして。
好子さんが風紀委員と言うのもその妄想からの発展です。
白狼、ご両親に気に入られて外堀埋められる?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第126話『本多 美嵩さんです!』

祝! 劇場版ガルパン、4DXシアターで公開!

また映画館通いの日々が始めるぜぇっ!!(笑)

今からホント楽しみです!


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第126話『本多 美嵩さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園に潜入したものの、捕らわれの身となってしまった優花里達………

 

だが、西部機甲部隊の総隊長である『クロエ』は………

 

そんな優花里達に自分達の使用戦車をバラす。

 

戦闘狂の気の有る彼女は、大洗と全力で戦う為に、敢えて手の内を明かしたのである。

 

しかし、そこで現れたオセロットにより、優花里がロシアンルーレットの洗礼を受けそうになったが………

 

救出に現れた白狼のお蔭で事無きを得る。

 

その後、白狼と一航専の手引きにより無事脱出した一同は、大洗の学園艦に帰投。

 

白狼に連れられて家に帰った優花里は、父・淳五郎が元走り屋であった事を知る。

 

昔の血が騒いだのか、淳五郎は愛車を引っ張り出し、白狼とのドライブと言う名の競争に繰り出したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市の艦首側付近………

 

「ッ!! シャアッ! 勝ったぁっ!!」

 

海原が見える見晴らし台の柵の手前に、愛車を横滑りさせながら停めた白狼が、思わずガッツポーズを取りながらそう叫ぶ。

 

「くうっ! 負けたぁ………歳かなぁ」

 

それから数秒遅れで、淳五郎が乗ったバイクがやって来て、白狼の傍に停まる。

 

如何やら、この対決を制したのは白狼の方だった様だ。

 

だが、現役のプロレーサーに、僅か数秒の差まで迫った時点で、淳五郎の実力も相当なものである。

 

(危なかったぜ………只のオッサンだと思ってたが………油断ならねえぜ)

 

内心冷や汗ものだった白狼は、そんな事を考える。

 

「ハイ」

 

とそこで、淳五郎が何時の間にか自販機で買っていた缶コーヒーを差し出して来る。

 

「えっ?………あ、ど、どうも………」

 

戸惑いながらもそれを受け取ると蓋を開ける白狼。

 

「いや~、久しぶりに熱い時間を過ごさせて貰ったよ。ありがとう」

 

「い、いや………」

 

自分の缶コーヒーを一口飲んだ後、淳五郎は白狼にそう言って来る。

 

「神狩………白狼くんだったね」

 

「ああ………」

 

「うん、君になら任せても大丈夫だな………如何か優花里の事を、コレからもよろしく頼むよ」

 

そう言って白狼に向かって頭を下げる淳五郎。

 

「あ?………オイ、ちょっと待て、アンタひょっとして………」

 

淳五郎の言葉の意味が最初分からなかった白狼だが、すぐに淳五郎が自分の事を優花里の彼氏だと誤解している事の気づき、訂正しようとしたが………

 

「………あの子は昔は友達が出来なくてね。寂しい思いをしてたんだよ」

 

「!………」

 

淳五郎がそんな事を語り出し、思わず黙り込んでしまう。

 

「ずっと戦車の事が好きでねえ。話す話題も戦車ばっかり………だから、学校で戦車道が復活するって聞いた時は本当に嬉しそうで………」

 

「…………」

 

「それからと言うもの、今日の訓練じゃこんな事があった、今日は如何だったって、もう毎日の様に楽しそうに話して来るんだ」

 

(想像出来るな………)

 

淳五郎がしみじみと語る優花里の姿が容易に想像できる白狼。

 

「何時かなんか、その友達が家に尋ねて来てね。あの時は本当に驚いたよ。優花里の友達が家まで来てくれた事なんてなかったから」

 

「…………」

 

「神狩くん!」

 

とそこで、淳五郎は白狼の両手を自分の両手で掴む。

 

「オ、オイ!………」

 

「本当に! 本当に!! 優花里の事を!! 如何か! 如何か宜しくお願いしますっ!!」

 

戸惑う白狼の様子に気づかず、淳五郎はそう言って、白狼の手を握ったまま深々と頭を下げる。

 

「…………」

 

その迫力(?)に押され、結局白狼は何も言えなかったのであった………

 

その後、日が傾いていたので、淳五郎がウチで夕食を食べて行かないかと誘ったが、流石にそこまでは付き合えないと思い、適当な理由を付けて、白狼は退散した………

 

だが、その翌日に………

 

あんな事が起こるとは………

 

白狼自身でさえも、予想だにしていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗男子校・作戦会議室にて………

 

優花里達の潜入作戦、そしてクロエの挑発ともスポーツマンシップ精神とも取れる行動により………

 

西部機甲部隊の使用戦車を把握する事が出来た大洗機甲部隊は、早速対策会議を開始したのだった。

 

「M4A3型のシャーマンに対しては、サンダース&カーネルと戦った時と同様の対処で何とかなる。M24もパシフィック校との対戦の時に戦闘経験済みだ。やはり1番の問題は………」

 

「T28ですね………」

 

中央に置かれた大型テーブルの上に敷かれた疑似戦闘地図に、西部学園の機甲部隊を現す戦車や模型を置かれているのを見ながら、迫信とみほがそう言う。

 

2人の視線の先には、T28の模型が置かれている。

 

「足が遅いとはいえ、19キロも射程がある代物だ………先に発見され、観測射撃でもされたら、コッチは一方的にアウトレンジされるな」

 

俊が、T28の射程範囲を、地図上に円を描く様に書いてそう言う。

 

「心配するな。所詮は試作止まりの戦車だ。航空支援で空から攻撃すれば、アッサリと………」

 

「でも、神威副会長。1輌のT28を倒す為だけに、使用回数と再使用可能時間が有る航空支援を使ってしまうんですか?」

 

「うぐっ!?………」

 

十河が航空支援で撃破してしまおうと言うが、清十郎にそう指摘され、黙り込む。

 

「敵もそれを見越して、敢えてT28を単独で配置させる可能性も有るな………空爆は最後の手段とした方が良いだろう」

 

「では、精鋭を選りすぐって、T28撃破を任務とした特務部隊を編制させるのは如何だ?」

 

弘樹がそう言ったところ、カエサルがそんな提案をして来た。

 

「特務部隊か………」

 

「有りっちゃ有りだな」

 

その意見に同意する様子を見せる大詔と地市。

 

「うむ、悪くないね………」

 

「作戦パターンの1つに入れておきますね」

 

迫信も口元を扇子で隠した状態でそう言い、みほは手帳にメモする。

 

「じゃあ、次の問題は………」

 

「このカスタムシャーマン達ですね………」

 

そこで聖子とねこにゃーが、同じく地図上に置かれたイージーエイト、カリオペ、ジャンボの模型を見てそう言う。

 

「イージーエイトはシャーマンの完成形とも言えるモデルだ。他のシャーマンとはワケが違う」

 

「カリオペのロケット発射器T34も厄介極まりない。アレで制圧射撃でもされたら堪ったもんじゃない」

 

「そしてジャンボ………あのティーガーも超える152ミリの装甲を正面から撃ち破るのは難しいだろう………」

 

エース、シメオン、煌人が其々イージーエイト、カリオペ、ジャンボの模型を見ながらそう呟く。

 

「スチュアートにも注意が必要だろう。乗って居るのは相手校のエースの様だからな」

 

「確かに………」

 

エルヴィンがM5軽戦車の模型を、先程の3輌のカスタムシャーマンの傍に置いてそう言う。

 

「あの………隊長車については?」

 

とそこで、典子がそう質問する。

 

敵はあの戦闘狂の気の有るクロエである。

 

ひょっとするとトンデモナイ事を仕出かしてくるのではないか………

 

一同の胸に、そんな思いが過る。

 

「足の速い駆逐戦車。かなりの脅威だ。だがヘルキャットの装甲は薄い。至近距離ながら小銃の弾でも貫けるそうだ」

 

そこで、そう指摘する弘樹。

 

そう、ヘルキャットは抜群の速度と、それなりの火力を持つが、防御力だけは極端に薄かった………

 

一応、車体には傾斜装甲が施され、被弾に対しての備えを持っているが………

 

至近距離では、鋼芯徹甲弾を使えばライフルや機関銃の弾丸でも貫通されたと言う不名誉な記録を持っている。

 

「当てる事さえ出来れば、八九式や38tの主砲でも十分撃破出来る筈だ」

 

「ホントですかっ!?」

 

八九式でも撃破出来ると言われて、典子が喜び混じりの声を挙げる。

 

「だが、相手は敵の総隊長だ。自分が乗る車輌の適性ぐらい把握していて当然だろう………」

 

「一筋縄じゃいかないって事だね~………」

 

弘樹の言葉に、いつもの様に干し芋を齧りながらも、苦い顔をして杏がそう言う。

 

「兎に角、隊長車を含めたエース戦車とは、単独での戦闘を避けて下さい。必ず2台以上で相手をする様にして下さい」

 

「優勢火力ドクトリンだな」

 

みほがエース車輌とは数の有利を活かして戦えと指示し、俊がそう言う。

 

「うむ、後は………」

 

と迫信が次の課題を挙げようとした瞬間………

 

「白狼っ!!」

 

白狼の事を呼ぶ女性の声が響いて、作戦会議室のドアが勢い良く開かれた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何事かと、大洗機甲部隊の一同がドアの方を振り返ると、そこには………

 

艶やかな黒髪に潤んだ唇、整った睫毛という容姿を持った女性の姿が在った。

 

大洗女子学園の制服ではない為、学園の生徒では無さそうである。

 

「? 誰だ?」

 

(彼女は………)

 

地市が突然現れた謎の女性に首を傾げている中、弘樹はその女性に見覚えを感じる。

 

「…………」

 

と、女性はそんな大洗機甲部隊の面々の困惑の様子も気にせず、ズカズカと作戦会議室に入って来たかと思うと、白狼の傍に立つ。

 

「『美嵩(みかさ)』………」

 

「帰るわよ」

 

白狼が、その女性の事を『美嵩(みかさ)』と呼んだかと思うと、女性は白狼の手を取り、有無を言わさず連れて行こうとする。

 

「オ、オイッ!?」

 

「神狩殿っ!?」

 

「ま、待って下さいっ!!」

 

白狼と優花里が慌て、みほがそう呼び止めるが………

 

「…………」

 

女性はそれを無視して白狼を引っ張って行く。

 

「ちょいと待った!」

 

するとその行く手に、了平が立ちはだかった。

 

「誰だか知らないけど、今作戦会議中なんだ。おおかみさん分隊の分隊長を連れて行かれちゃ困る………と言うワケで、代わりに俺を連れてって下さ~い」

 

「また了平の悪い癖が………」

 

女性に向かってそう言い放つ了平の姿に、楓が呆れる。

 

だが、次の瞬間!!

 

「…………」

 

女性は、目の前に立ちはだかった了平に向かって、正拳突きの様に拳を繰り出した。

 

「!? ゲボハァッ!?」

 

女性の正拳突きを喰らった了平は、まるで木の葉の様にぶっ飛び、作戦会議室の壁にオブジェクトの様にめり込んだ!!

 

「!? 了平っ!?」

 

「オ、オイッ!? 大丈夫かっ!?」

 

楓と地市が慌てて駆け寄り、救出に掛かる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

突然現れた女性が、了平をまるで木の葉の様にブッ飛ばした事に、大洗機甲部隊の面々は唖然となる。

 

(! 何と………)

 

弘樹も内心で驚きながら、了平を殴り飛ばした女性を見やる。

 

「…………」

 

しかし、女性は殴り飛ばした了平から既に興味を無くすと、再び白狼の手を引いて連れて行こうとする。

 

「! ま、待って下さいっ!!」

 

「誰なんや、アンタっ!?」

 

「一体何なんですか!?」

 

「白狼を何処に連れてく気だ!?」

 

とそこで、今度は優花里、豹詑、飛彗、海音がその女性の前に立ちはだかる。

 

「………貴方達もああなりたいの?」

 

途端に女性は、凍える様な殺気の籠った目で優花里達を見ながら、壁に減り込んでいる了平を指差す。

 

「!? ヒイッ!!」

 

「「「!?」」」

 

その視線に優花里は完全に怯え、飛彗達もたじろぐ。

 

「………下がって居ろ。君達の手には余る」

 

するとそこで、そんな優花里達に代わる様に、弘樹が女性の前に出た。

 

「! 舩坂殿っ!!」

 

「今度は貴方がああなりたいの?………」

 

優花里が声を挙げる中、女性は弘樹に凍える様な殺気の籠った目を向ける。

 

「落ち着きたまえ。先ず君が何者なのかぐらいは教えてくれないかな?」

 

しかし弘樹は微塵の動揺も見せず、尚且つ女性を刺激しない様にそう問い質す。

 

「………『本多 美嵩(ほんだ みかさ)』」

 

やがて女性………『本多 美嵩(ほんだ みかさ)』がそう名乗る。

 

「!? 本多っ!?」

 

「まさか………」

 

と、その女性の名前を聞いた左衛門佐とおりょうが反応する。

 

(やはりこの女性………あの時の………)

 

一方で弘樹は、美嵩と名乗った女性が、以前白狼とファーストコンタクトを果たしたスタジアム艦で、白狼に詰め寄ろうとしていたカメラマン達を蹴散らしていた女性である事に気付く。

 

「では、本多 美嵩くん。君は神狩と如何言う関係だ? 何故彼を連れて行こうとする?」

 

「…………」

 

更に美嵩への質問を続ける弘樹だったが、美嵩はイライラし始め、弘樹の事を睨みつける。

 

「美嵩、やめろよな、そういう敵意向き出しの気迫は………」

 

とそこで、引っ張られていた白狼が漸く口を開く。

 

「神狩、彼女は知り合いなのか?」

 

「ああ、こいつはウチの姉代わりだ………」

 

弘樹が問い質すと、白狼はそう返す。

 

「………家族です」

 

一方、美嵩はそんな事を口にする。

 

「何々? 騒々しいわね」

 

「何かあったんですか?」

 

するとそこで、座学の時間が間も無くだったので、教官である空達が作戦会議室内に姿を見せた。

 

「………白狼、この人達は?」

 

美嵩は空達を見ながら、白狼にそう尋ねる。

 

「ああ、戦車道と歩兵道の教官だよ」

 

「そう、貴方達が………」

 

白狼がそう答えると、途端に美嵩は、空達に向かって敵意の籠った視線を向ける。

 

「ヒッ!?」

 

「ううっ!?」

 

「あわわっ!?」

 

みゆき、桐野、ミカは、その殺気とも取れる視線を受けて狼狽する。

 

現役自衛官をも狼狽させる程に、美嵩の威圧感は半端ではなかった。

 

「ふ~~ん………その歳にしては随分と良い目をするじゃないの?」

 

だが、空だけは美嵩の敵意の視線を正面から受け止め、不敵な笑みを浮かべながらそう返していた。

 

「…………」

 

そんな空の姿を見て、美嵩の顔に不機嫌さが増して行く。

 

「美嵩、止めろって。コレじゃ延々と同じ事の繰り返しだ」

 

とそこで、再び白狼が止めに入る。

 

「アラ、神狩くん。そちらの方は貴方のお知り合いかしら?」

 

それを見て空は、ややおどけた様子を見せながら白狼に尋ねる。

 

「本多 美嵩。俺の姉代わりみたいなもんだ」

 

「………家族です」

 

と、白狼が空にそう返していると、美嵩は再びそう呟いた。

 

何やら『家族』と言う言葉に執着があるらしい………

 

「OK、OK…………それで? その本多 美嵩さんは一体全体如何して騒いでいたのかしら?」

 

尚もおどけた様子を見せながら、空は美嵩にそう尋ねる。

 

「そうだな。いい加減、それを説明してもらいたいな」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

弘樹もそう言い、大洗機甲部隊の注目が、美嵩に集まる。

 

「………白狼」

 

するとそんな中で、美嵩は白狼に声を掛ける。

 

「ん? 何だよ?」

 

白狼がそう尋ねると、美嵩の口からは思いも寄らぬ言葉が飛び出したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ歩兵道を辞めなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

1発クロスオーバーネタ

 

 

 

 

 

我々の世界とは異なる歴史を辿った東京………

 

そこでは、女子高生達が戦闘機を駆り、各校の縄張りである『空域』を争って空中戦が日常的に起こっている。

 

今日も今日とて、少女達は自分達の空域を守る為に、激しい火花を平和的に散らしていた。

 

 

 

 

 

だが、しかし………

 

 

 

 

 

突如として謎の黒い戦闘機の集団が出現。

 

戦闘機に乗る少女達に次々に襲い掛かった。

 

愛機を破壊され、空域を奪われたばかりでなく、命までをも取られそうになる少女達………

 

『石神女子高校』の航空隊『新撰組』のパイロット『羽衣 マキ』は、友達を守る為に只1人黒い戦闘機集団に、『紫電改』を駆って立ち向かう。

 

だが、多勢に無勢により、徐々に追い詰められていく………

 

最早コレまでかと思った、その時………

 

 

 

 

 

突如として、空中に門の様な物が現れたかと思うと、その中からもう1機の『紫電改』が飛び出して来た!

 

 

 

 

 

「何だ、バカヤロウ! 何が起こりやがったコノヤロウ!」

 

「紫電改!? って、言うか、何この声っ!?」

 

『なんつー罵声だ………』

 

突然現れ、罵声を響かせるパイロットに、マキも『紫電改』も困惑する。

 

そのパイロットの名は、『菅野 直』………

 

『菅野デストロイヤー』と渾名された、旧日本海軍のエースパイロットだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫電改のマキ×ドリフターズ

 

『紫電改のマキVS紫電改のバカヤロウ』

 

1発ネタの為、連載予定はありません。




新話、投稿させていただきました。

淳五郎に優花里の彼氏と思われてしまった白狼。
訂正する機会を逃したまま、次の試合に向けての作戦会議へ突入。
しかし、その最中………
謎の女性『本多 美嵩』が白狼を連れ去ろうとする。
了平を木の葉の様にブッ飛ばした恐るべき強さの美嵩は、白狼の姉代わりであり家族だと言う。
そして白狼に、歩兵道を辞めろと宣告する。
一体彼女は何を考えているのか?

そして今回のオマケですが………
2人の愛機が同じだったので、ちょっと絡ませてみたいなと思って思い付きました。
重ねて言いますが、1発ネタなので連載予定はありません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第127話『7回戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第127話『7回戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優花里の父・淳五郎に気に入られ、彼氏と勘違いされた白狼。

 

訂正する間も無く、翌日には西部戦へ向けての作戦会議が開始された。

 

だが、その最中………

 

突如、白狼の姉代わりで家族だと言う女性………

 

『本多 美嵩』が現れ、白狼を連れて行こうとする。

 

止めようとした了平がブッ飛ばされ、騒然となる大洗機甲部隊だったが、他ならぬ白狼が彼女を押さえる。

 

そして、教官である空達が現れたところで、何と!

 

美嵩は、白狼に歩兵道を辞めろと言って来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校・作戦会議室にて………

 

「!? えええっ!?」

 

「歩兵道を………辞めろって」

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

「どないなっとんねん?」

 

美嵩が、白狼に歩兵道を辞めろと言った事で、優花里、飛彗、海音、豹詑が仰天の声を挙げ、大洗機甲部隊の一同もざわめき立つ。

 

「………何故歩兵道を辞めさせようとする?」

 

そんな中で、弘樹は冷静に、美嵩に向かってそう問い質す。

 

「歩兵道は危険よ………毎年どれだけの怪我人が出ているか知ってるの?」

 

美嵩は弘樹を睨み付けながらそう返す。

 

(成程な………)

 

その視線を受け止めながらも、弘樹は冷静に内心で納得した様な様子を見せる。

 

弾丸や砲弾等が飛び交う中で生身を晒している歩兵道は、安全に対し他の武道より厳格な配慮が成されている。

 

しかし、それでも他武道と比べて、負傷者が発生する率は高い。

 

彼女はそれを気にしている様だ。

 

「確かに、歩兵道者の負傷率は高い。だが、どんな武道やスポーツであろうと、負傷のリスクは有るものだ。そして、皆それを承知でやっている」

 

「貴方達と白狼は違うのよ。白狼は何れ世界を相手にするレーサーになるのよ。もし負傷してバイクに乗れない身体にでもなったら如何する積り!」

 

弘樹の意見にそう反論する美嵩。

 

主張は平行線である。

 

「美嵩………俺は歩兵道を辞める積りは無い」

 

とそこで、他ならぬ白狼が、美嵩にそう言った。

 

「! 白狼! 如何してっ!?」

 

「俺自身の………プライドの為だ」

 

驚く美嵩に向かって、白狼はそう言葉を続ける。

 

「…………」

 

それを聞いた美嵩は、驚いた表情を消し、押し黙る。

 

「………次の対戦相手は何処なの?」

 

そして、白狼に次の対戦相手の事を尋ねる。

 

「西部学園ってところだ」

 

「そう………」

 

それを聞いた美嵩は、一瞬黙り込んだかと思うと………

 

「なら、その西部との試合で良い成績を出せなかったら、歩兵道を辞めて鈴鹿に帰ってもらうわ」

 

白狼に向かってそんな事を言い放った。

 

「ちょっ! そんな勝手に………」

 

「小母さんからの許可も貰ってあるわよ」

 

飛彗が食い下がろうとしたが、美嵩は1枚の書類を取り出してそう言った。

 

「失礼するよ」

 

迫信がその書類を手に取り、改める。

 

それは、白狼の転校届であり、白狼の母の実印が押されていた。

 

「………確かに、コレは正式な転校届の書類の様だね」

 

「そんなっ!? 何とかならないんですか!?」

 

アッサリとそう認める迫信に、飛彗がそう言うが………

 

「飛彗、もう良いぜ」

 

「! 白狼! でも!!………」

 

「美嵩を納得させるには俺が納得行く活躍をするしかねえんだ。どの道、大洗機甲部隊に負けは許されねえ」

 

切り捨てるかの様にそう言う白狼。

 

「決まりね………」

 

「用はそれだけか? なら今日も帰ってくれよ。このままじゃコッチも肩身が狭いんだ」

 

「…………」

 

白狼にそう言われると、美嵩はキッと踵を返し、空達の横を擦り抜けて、何も言わずに去って行った。

 

「………ハア~~、やれやれ」

 

「嵐………いや、ゴジラみたいな女だったわね」

 

美嵩の姿が完全に消えた事を確認した白狼が深く溜息を吐くと、空が美嵩の事をそう評した。

 

「あの、神狩殿………あの、本多 美嵩と言う方は家族だと仰ってましたが、一体如何言う御関係で?」

 

とそこで、優花里が美嵩が白狼の家族だと名乗った事に付いて、白狼自身に尋ねる。

 

「ああ………美嵩は昔、死んだ親父が引き取って来たんだ。親友の娘だったとかでな」

 

「神狩くんって母子家庭だったんだ」

 

白狼がそう説明すると、沙織がその言葉から白狼が母子家庭である事に気付く。

 

「引き取ったと言う事は………彼女の本当の両親は既に?」

 

「ああ、死んでる………しかも最悪な形でな」

 

「最悪?」

 

白狼の言葉に、優花里が首を傾げる。

 

「美嵩の両親は外交官だったんだが………派遣先の国で、テロに巻き込まれた」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

衝撃的な話に大洗機甲部隊の一同は固まる。

 

「しかもアイツも巻き込まれてな。一命は取り留めたんだが、直後にそのテロリスト達に人質として捕まり、人身売買されそうになったらしい」

 

「その話、聞いた事あるわ。確か某国での事で、特殊作戦群が初めて海外で活躍して、人質を救出した事件ね」

 

白狼が更に衝撃的な事実を続ける中、その事件に自衛隊の特殊部隊『特殊作戦群』、通称『特戦群』が関わっていた事を思い出した空がそう口を挟む。

 

「全てを失ったアイツは俺の家に引き取られた。目の間で家族を無残に殺され、自身も残酷な目に遭ったアイツは新しい家族………特に一番仲が良い俺に執着する様になってな」

 

「だから神狩さんに歩兵道を辞めろって、あんなに強く………」

 

自身も暴力団の抗争で家族を亡くしている隆太が、思う様なところがある様な表情で呟く。

 

「けど、白狼よぉ。本当に大丈夫なのか?」

 

「せやで。今度の試合で活躍出来なきゃ歩兵道を辞める上に、転校までさせられてまうんやろ?」

 

とそこで、海音と豹詑が先程の条件を思い出しながら白狼にそう言う。

 

「言ったろ。どの道やるしかないってな」

 

しかし、白狼は淡々とそう返す。

 

とそこで、パンパンと空が両手を鳴らした。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

呆然としていた大洗機甲部隊の注目が、一斉に空に集まる。

 

「良い心掛けね、神狩くん。それでこそ歩兵道者よ。皆、今神狩が言った様に、兎に角やるしかないいんでしょう。なら先ずは目の前の試合に集中しなさい!」

 

その注目を受ける中、空は大洗機甲部隊の一同にそう呼び掛ける。

 

「藤林教官の言う通りだ。神狩くんが活躍出来るか如何かは我々次第だ」

 

「また厳しい戦いになると思いますが………皆さんの力を合わせて頑張りましょう!」

 

そして、大洗機甲部隊の総隊長と歩兵隊長であるみほと迫信がそう締める。

 

「………そうだな」

 

「どの道やるしかないか!」

 

「やったるぞーっ!!」

 

「頑張りましょうっ!!」

 

途端に大洗機甲部隊の隊員達の士気が高揚する。

 

「そうと決まれば作戦会議の続きだ!」

 

そして、皆一斉に作戦会議の続きに入る。

 

(………神狩殿)

 

しかし、優花里だけは、心配と不安が入り混じった表情で、白狼を見ていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

作戦会議が長引いた大洗機甲部隊の一同は、静香の提案で………

 

彼女が常連にしているステーキハウスに、戦勝祈願を兼ねた食事会に行く事となった。

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市の一角………

 

ステーキハウス『バトルホッパー』………

 

「こんばんわ~」

 

「いらっしゃいませ!………ああ、静香ちゃんか。待ってたよ」

 

「光太郎さん、今日はお世話になりますね」

 

静香が先頭で店に入ると、店のオーナーである何故か分からないが非常に頼りになるオーラを持っている壮年の男………『黒木 光太郎』が出迎える。

 

「皆さん、入って来て下さい」

 

「こんばんわ」

 

「お邪魔します」

 

静香がそう言うと、大洗機甲部隊のメンバーが店内へと入って来る。

 

メンバー全員で来たのだが、店の規模はかなり大きく、皆が席に着いても空席が有る程だった。

 

「いや~、食べ盛りな学生さんがこんなに来てくれて嬉しいよ。今夜はたっぷりとサービスするから、皆遠慮しないで食べてくれ!」

 

「おっしゃ~っ!!」

 

「ゴチになりま~すっ!!」

 

光太郎がそう言うと、大洗歩兵部隊を中心に、歓声が挙がるのだった。

 

 

 

 

 

「『BLACKステーキ』5人前追加で!」

 

「こっちも『RXステーキ』を10人前追加!!」

 

「ハ~イ! ちょっと待っててね~っ!!」

 

次々に舞い込む追加注文を、店員と共に手際良く処理して行く光太郎。

 

その手際は人間離れしていると言っても過言ではなかった。

 

「あのオーナーさん、凄い………」

 

「確かに………あの対応能力には目を見張るものがあるな………」

 

そんな光太郎の様子を見て、みほと弘樹がそう漏らす。

 

「まあまあ、良いじゃないの、西住ちゃん」

 

「そうそう。今は食事を楽しもうじゃないか」

 

と、反対側のテーブルに居た杏と迫信が、2人の呟きを聞いてそう返して来る。

 

「ハイ、追加お待ちどうさま!」

 

そこで、光太郎が杏達のテーブルの方に、追加分の注文の品を持って来る。

 

「ああ、どうも~」

 

「確か、大洗女子学園の生徒会長さんだったよね? 大洗女子学園が廃校にされるかも知れないって言うのは本当かい?」

 

杏が礼を言うと、ふと光太郎がそんな事を尋ねて来た。

 

「………まあね。文科省の学園艦教育局の役人さんが、生徒が減ってるし、目立った実績も無いから今年度いっぱいで廃校だって」

 

一瞬言うべき迷った様子を見せた杏だったが、やがて吐露する様にそう話す。

 

「酷い話だ。元々学園艦は文科省の方針で造られたものだと言うのに、幾ら何でも横暴過ぎる………!! もしや!? ゴルゴムの仕業か!?」

 

それを聞いた光太郎が、謎の単語を口にする。

 

「は? ゴルゴム?」

 

「何です? ソレ?」

 

杏と同じテーブルに居た桃と柚子が、そんな光太郎の姿を見て首を傾げる。

 

「! いや、クライシスの陰謀かも知れん! おのれ文科省! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

しかし、光太郎は気にせず、更なる謎の単語を発したかと思うと、台詞が全て濁音になる程に文科省へ怒りを爆発させ、何やら拳をギリギリと音がするまで握り締めて変身しそうなポーズを取る。

 

「「「「「…………」」」」」

 

弘樹、みほ、杏、桃、柚子は、そんな光太郎の姿に唖然とするばかりである。

 

「………っと! ゴメンよ、つい昔の癖で………」

 

「スイマセーン! また追加で!!」

 

「あ、ハーイ! 今お伺いしまーすっ!!」

 

と、我に返った様にそう言った瞬間に、追加の注文が入って、すぐに伺いに向かう光太郎。

 

「か、変わった人みたいだね………」

 

(………何だ?………あの構えていた瞬間………とてつもない気迫を感じた気がする………)

 

みほが思わずそう漏らすが、弘樹は光太郎がポーズを取った瞬間に、まるで太陽の様な凄まじさを感じ取っていたのだった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

皆が楽しそうに会話を交えてステーキに舌鼓を打っている中、1人カウンター席で、淡々とステーキに噛り付いている白狼。

 

「如何だい? ウチのステーキは?」

 

そんな白狼に、カウンター越しに光太郎が声を掛けて来た。

 

「………まあまあだな」

 

白狼はうっとおしそうにしながら適当に返事を返す。

 

「フフフ、ひねくれてるね。『早川先輩』が言っていた通りだね、神狩 白狼くん」

 

「! アンタ、おやっさんの事を知ってるのか!?」

 

とそこで、光太郎の口から『早川先輩』なる人物の名が出ると、白狼が目の色を変える。

 

『早川先輩』………

 

それは白狼がおやっさんと呼んでいる、黒森峰のバイク整備長………

 

『早川 志郎』の事だった。

 

「ああ、早川さんは僕の大先輩に当たる人でね。昔はよく世話になったものさ」

 

「そうなのか………」

 

「………何か悩んでいるのかい?」

 

「!!………」

 

確信に触れて来る様な光太郎の言葉に、白狼は黙り込む。

 

「答えたくなければ別に良いさ。だけど、コレだけは言わせてくれないかな?」

 

「?………」

 

「君は………1人で戦っているワケではない。その事を忘れない事だ」

 

光太郎はそう言い残し、厨房の方へと帰って行った。

 

「…………」

 

残された白狼は、少しの間沈黙していたが、やがてまたステーキに噛り付き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのまま日は流れ………

 

遂に西部学園との試合の日が訪れた………

 

試合会場は、西部学園艦の艦上でも在った、西部劇に出て来そうな荒野で、御丁寧に西部劇風の街並みのセットが組まれている。

 

砂埃が舞い上がり、タンブル・ウィードが転がっている。

 

如何やら、和製西部劇の撮影所として使われている場所の様だ。

 

その一角で待機中の大洗機甲部隊は、試合前の戦車と武装の最終チェックを行っている。

 

と、その中に並んでいる戦車の中で、Ⅳ号の装いが変わっていた。

 

ジャーマングレイだった塗装がレッドブラウンに変わり、車体横と砲塔周りに鉄板………増加装甲の『シュルツェン』が取り付けられている。

 

また主砲も43口径75mm砲から48口径75mm砲へと僅かながら上位に換装されている。

 

「マークⅣスペシャルだぁっ! カッコイイですね!!」

 

そのⅣ号………『Ⅳ号H型』を見て、優花里がそう歓声を挙げる。

 

「スマンな。もう少し強化してやれれば良かったんだが、コレが手一杯でな」

 

「いえ、十分です。ありがとうございます」

 

敏郎がそう詫びて来ると、みほは十分だとお礼を言う。

 

「そう言えば、整備部長。例の38tの改造案は如何なったんだ?」

 

とそこで、桃が敏郎に向かってそう尋ねる。

 

「八方手を尽くしているが、肝心の改造キットが品薄状態でな。取り寄せるにはまだ時間が掛かる」

 

「クソッ! アレさえあればかなりの戦力強化になると言うのに!」

 

敏郎がそう返すと、桃は悪態を吐く。

 

(改造キットか………)

 

と、その会話を聞いていた弘樹が、何やら思う様なところが有る表情を見せる。

 

「あ、舩坂さん」

 

するとそこで、飛彗が声を掛けて来た。

 

「ん? 如何した、宮藤くん?」

 

「白狼の事、見ませんでしたか?」

 

「何?………」

 

飛彗からの思わぬ質問に、弘樹は軽く驚きを示す。

 

「一緒じゃなかったのか?」

 

「それが………前日に、例の転校届の件で母親に問い質しておきたい事があるからって、故郷の鈴鹿の方に………試合会場には直接来るって言ってたんですけど………! あ、すみません」

 

そう説明していると、携帯が鳴ったので、相手を確認する飛彗。

 

「! 白狼!」

 

そして掛けて来た相手が白狼である事を確認するがいなや、すぐに通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。

 

「もしもし?」

 

『ああ、飛彗。今何処に居るんだ? コッチはもうとっくに会場で待ってるんだぞ』

 

飛彗が呼び掛けると、白狼からそんな台詞が返って来た。

 

「えっ!? とっくにって………僕達も、もう会場入りして試合準備を進めてるとこなんだけど?」

 

『何っ? でも姿が見えないぞ。と言うか、審判やら観客の姿も見えないんだが………』

 

「!? ま、まさか!?………」

 

それを聞いた飛彗の脳裏に、ある嫌な予感が過る。

 

「ほ、白狼………今居るのは○○市ですよね?」

 

『えっ? いや、××市だけど………』

 

白狼がそう返すと、飛彗の顔がサーッと青くなる。

 

「試合会場は○○市ですよっ!!」

 

『!? 何ーっ!?』

 

思わず飛彗がそう叫ぶと、白狼の仰天の声が返って来る。

 

「試合会場の場所を………間違えたのか?」

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

弘樹が呆れる様にそう呟いた瞬間に、傍で聞いていた大洗機甲部隊の一同も、驚愕の声を挙げる。

 

「と、兎に角! すぐにコッチに来て下さいっ!!」

 

『わ、分かったっ!!………』

 

白狼は最後にそう返し、電話を切った。

 

「××市から〇〇市までは、どんなに急いでも1時間は掛かるぞ………」

 

「クソッ! あのバカタレ! 何ちゅうポカやらかしたんや!!」

 

十河が頭を抱えて苦い顔でそう呟き、大河がイラついている様に地団駄を踏む。

 

「もう試合開始時間ですよ………」

 

清十郎が、携帯の時計を見ながらそう呟く。

 

「………やってしまったものは仕方が無い。宮藤くん、おおかみさん分隊は君が分隊長代理として指揮を取れ」

 

「! ハ、ハイッ!」

 

「皆さん! 時間は掛かりますが、神狩さんは必ず来てくれます! それまで、私達も頑張りましょう!!」

 

だが、何時までも動揺しては居られないと、弘樹がすぐに飛彗をおおかみさん分隊の分隊長代理に任命し、みほも皆の動揺を抑える様にそう言う。

 

「せや! 白狼は来る! 必ず来る!!」

 

「それまで俺達がアイツの分まで働くぜっ!!」

 

その言葉に逸早く豹詑と海音が反応し、それを皮切りに大洗機甲部隊の士気が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後………

 

とうとう試合開始の時刻が訪れ、大洗機甲部隊は西部機甲部隊との挨拶の為、集合場所へと移動した。

 

「それではコレより、戦車道・歩兵道全国大会第7回戦………大洗機甲部隊と西部機甲部隊の試合を開始致します! 一同、礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

集合した大洗機甲部隊と西部機甲部隊の隊員達が互いに礼をして挨拶を交わす。

 

「貴方とは初めましてね、西住 みほさん。私が西部機甲部隊の戦車隊長兼総隊長、クロエよ」

 

と、両機甲部隊の代表として前に出ていたみほと迫信、クロエとジャンゴの内、クロエがみほにそう言い放つ。

 

「ハ、ハイ………」

 

「貴方が如何戦うか、期待させてもらうわね。私の事を………熱くさせて頂戴よ」

 

そう言ってニヤリと笑うクロエ。

 

「!!………」

 

しかしみほは、その笑みに猛獣の様な気迫を感じ取り、一瞬身体を震わせるのだった。

 

「「…………」」

 

一方、後方に控えている両機甲部隊のメンバーの中でも、視線を交差させている者達が居る。

 

ジェームズとオリバーだ。

 

(オリバー………)

 

ジェームズは緊張する。

 

まさか走りの先生であるオリバーと戦う事になるとは………

 

今のオリバーは、一体どんなスピードを見せてくれるのか………

 

ジェームズは拳を握り締めながら戦慄する。

 

「フッ………」

 

「!!」

 

そんなジェームズの心情に気付いたのか、オリバーが不敵に笑う。

 

(そうだ………ココまで来て怖気づいてなんか居られまセン………僕達は………必ず勝たなければナラナイデス)

 

決意を新たにし、オリバーを見据えるジェームズだった。

 

一方、大詔とオセロットも睨み合っている。

 

(………まだ若干跡が残っているな)

 

しかし、大詔はオセロットの顔に、白狼のバイクのタイヤの跡が未だに残っているのを見て、そんな事を思う。

 

(スネーク………貴様は俺が倒す! だが、その前に神狩 白狼だ! 奴は何処に居る!?)

 

そしてそのオセロットは、大詔に加えて、白狼に対しても敵意を燃やしていたのだった。

 

その後、両機甲部隊は、其々のスタート地点へと向かう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・スタート地点………

 

『全国1億人の兵器武道ファンの皆さん、お待たせ致しました! いよいよ第7回戦の開始です! 今日のカードは大洗機甲部隊VS西部機甲部隊!』

 

『今大会最大のダークホースと黒森峰に次ぐと噂される強豪校の対戦。いや~、またしても我々を唸らせてくれそうな試合になりそうですね』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中の声が響く中、遂に試合開始の信号弾が撃ち上がる。

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレードッ!」

 

みほと迫信の号令が響き渡り、大洗機甲部隊は進軍を開始する。

 

『さあ、始まりました! 大洗機甲部隊! そして西部機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

そして、ヒートマン佐々木がお馴染みの台詞を決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

怪我の絶えない歩兵道を辞めろと白狼に言う美嵩。
美嵩が白狼を過剰に守ろうとする理由。
それは、彼女の幼き日の経験ゆえだった。
白狼は引き下がらないが、美嵩は半ば強引に辞める約束をこじつける。

そして戦勝祈願の食事会を行って臨んだ西部戦だったが………
何と肝心の白狼は試合会場を間違えてしまう。
白狼の不在のまま、試合は幕を開ける。
果たして、大洗機甲部隊と白狼の運命は?

ちょっと雑談になりますが、最近某所にて『ガルパン×黒騎士物語』と言う有りそうでなかったSSを発見しまして。
これが何とも面白いんですよ。
興味があったら読んでみて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第128話『超重戦車T28です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第128話『超重戦車T28です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に戦車道・歩兵道公式戦の第7回戦………

 

大洗機甲部隊と西部機甲部隊の試合が開始された。

 

カスタムされたシャーマンを駆るエース戦車乗り達にT28を操る参謀………

 

そして、快速の駆逐戦車を駆る総隊長に、個々の能力に秀でている歩兵部隊………

 

またもや苦戦は免れそうにない中、白狼が試合会場を間違えると言うトラブルが発生。

 

果たして、大洗機甲部隊の運命は?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道公式戦、第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所………

 

その観客席エリアにて………

 

「始まったな………」

 

大洗側の観客に席に座り、試合が始まったのを見てそう呟く護。

 

今回の試合会場は内陸に位置する為、洋上支援は使えず、呉造船工業学校の軍艦道の面々は、応援に徹するしかなかった。

 

「艦長………大洗は大丈夫でしょうか?」

 

雪風で副長を務めている生徒が、護にそう尋ねる。

 

「分からん。今の俺達に出来るのは、只管に勝利を祈る事だけだ」

 

「でも、それって結構大切な事じゃないかしら?」

 

と、護がそう返した瞬間に、そう言う声が響いて、護の前に絹代が姿を見せた。

 

「! 西! 来てたのか?」

 

「他の学校の子達も来てたわよ。皆大洗の事を気にしてるわ」

 

護が軽く驚きを示していると、絹代はそんな護の隣に腰掛ける。

 

「西………お前は大洗が勝つと思っているのか?」

 

「勿論」

 

「その根拠は?」

 

迷い無く大洗が勝つと断言した絹代に、そう問い質す護。

 

「無いわ。只の感よ」

 

「変わらないな、そういうところは………」

 

絹代はあっけらかんとそう言い返すが、その答えに護は納得が行ったかの様な表情となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内………

 

荒野を進軍している大洗機甲部隊………

 

「周囲への警戒を怠らないで下さい。例え歩兵1人であっても、それが観測要員なら脅威となります」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

今回フラッグ車を務めているあんこうチームのⅣ号のみほから全員にそう指示が飛ぶ。

 

やはりT28の超長距離を懸念し、観測要員の可能性も有る為、1人でも敵を見逃すなと警戒を厳にさせている。

 

「さて、敵は如何出て来るかな?………」

 

「普通に考えれば、小戦力で此方を足止めしている間に観測要員を配置し、T28で一方的にアウトレンジと言うのが効率の良い戦い方だな」

 

迫信がそう呟くと、俊が予測される最も効率の良い戦い方を述べる。

 

(普通ならばな………)

 

しかし、弘樹は何やら嫌な予感を感じていた。

 

と、その時!!

 

不意に風切り音が聞こえて来たかと思うと、Ⅳ号の傍に砲弾が着弾する!

 

「!?」

 

「! 敵襲ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

咄嗟にキューポラにしがみ付くみほと、即座に敵襲の報告を挙げる弘樹。

 

『! 西住総隊長! 2時の方向に!!』

 

とそこで、今回は聖子が戦車長、伊代が通信手、優が砲撃手、唯が操縦士、明菜が装填手を務めているサンショウウオさんチームのクロムウェルの中で、聖子がそう報告を挙げる。

 

「! アレはっ!?」

 

報告のあった方角を見て、みほが驚愕を露わにする。

 

何故ならそこに居たのは………

 

西部機甲部隊の総隊長であるクロエの乗る………

 

M18ヘルキャットだった!

 

「! ヘルキャットッ!?」

 

「嘘っ!? 総隊長がいきなり仕掛けて来たの!?」

 

「しかも単独です………」

 

「舐めてるのか………それも余程の自信があるのか………」

 

優花里、沙織、華も驚きを露わにし、麻子も皮肉を言いながらも苦い顔を浮かべている。

 

と、その瞬間!!

 

ヘルキャットが両履帯後部から砂塵を巻き上げ、大洗機甲部隊に向かって突撃して来た!

 

「!? 突っ込んで来るぞっ!?」

 

「馬鹿な!? たった1両で何の積りだっ!?」

 

「撃てっ! 迎撃しろっ!!」

 

「! 攻撃開始っ!!」

 

十河の声が響き渡ると、みほも戦車部隊に攻撃命令を下す!

 

戦車部隊が一斉に砲撃を開始し、歩兵部隊も徹甲弾を装填したライフルや機関銃、野戦砲や対空機銃の水平射撃を始める。

 

だが、その激しい砲火と弾幕の中を、ヘルキャットは速度を落とすどころか、更に上げて前進を続ける。

 

「!? 止まらねえぞっ!?」

 

「敵の総隊長は頭がイカれてるのかっ!?」

 

狂気の沙汰とも取れるヘルキャットの行動に、大洗機甲部隊に動揺が走る。

 

その間に、遂にヘルキャットは、大洗機甲部隊の中へと飛び込んで来た!!

 

そしてその瞬間に、至近距離に居た一式装甲兵車に向かって発砲!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

一式装甲兵車は爆発し、近くにした大洗歩兵数名が、その爆発に巻き込まれて戦死判定を受ける。

 

「!?」

 

「クソッ!!」

 

1人の歩兵が、咄嗟にヘルキャットに向かって手榴弾を投げる。

 

しかし、ヘルキャットは手榴弾が投擲された場所を既に通り過ぎており、手榴弾は別の大洗歩兵達の元へと向かう。

 

「!? あっ!?」

 

手榴弾を投げた大洗歩兵が『しまったっ!』と言う顔をした瞬間に、弘樹がその手榴弾を手で弾き飛ばす。

 

弾かれた手榴弾は、荒野の方に落ち、そのまま爆発した。

 

「味方が至近距離に居る状態で迂闊に爆発物を使うなっ!!」

 

「ス、スミマセンッ!!」

 

弘樹にそう叱咤され、手榴弾を投げた大洗歩兵は平謝り状態となる。

 

とそこで、再び爆発音が聞こえて来た!

 

「!?」

 

弘樹がすぐにその方向を見やるとそこには………

 

ヘルキャットに撃ち抜かれ、大破・炎上しているオストヴィントの姿が在った。

 

「対空戦車が!?」

 

『このぉーっ! もうやらせないよっ!!』

 

その瞬間、聖子のそう言う声が響き渡り、味方の中で暴れるヘルキャットをクロムウェルが追った!

 

だが………

 

「唯ちゃん! もっと早くっ!!」

 

「コレで目一杯だ!………クソッ! 駄目だ! 追い付けねぇっ!!」

 

聖子がもっとスピードを上げろと指示を出すが、唯は既にクロムウェルは全速を出していると返す。

 

クロムウェルのカタログスペックでの最高速は時速64キロ。

 

対するヘルキャットのカタログスペックでの最高速は時速80キロ。

 

カタログスペックの時点で、両者には圧倒的な差が有るのだ。

 

追い掛けて来るクロムウェルなど物ともせず、またも発砲し、テクニカル化されていたジープを1台吹き飛ばす!

 

「またやられたぞっ!?」

 

「クソッ! アイツ1輌に良い様にやられちまうのかよっ!!」

 

大洗歩兵部隊の中から、焦燥の声が漏れ始める。

 

「地雷だ! 地雷を撒けっっ!!」

 

だがそこで、弘樹がそう叫んだ!

 

「!?」

 

「その手が有ったかっ!!」

 

それを聞いた工兵達が、一斉に手持ちの地雷を地面にばら撒き始める。

 

流石に地雷を避けながら走り回る事は出来ないのか、それを見たヘルキャットが、即座に撤退し始める。

 

「逃がさんっ!!」

 

だがその行く手に、Ⅲ突が立ちはだかったっ!!

 

「散々暴れ回った代金は払ってもらうぞ!」

 

「装填完了っ!!」

 

エルヴィンがそう言う中、カエサルが装填を追える。

 

「左衛門佐、慌てるなよ。何処を狙っても撃ち抜ける」

 

「心得ているでござる」

 

冷静にヘルキャットに狙いを合わせる左衛門佐。

 

「発射っ!!」

 

そして遂に引き金が引かれ、砲弾がヘルキャットに向かう。

 

だが、その瞬間!

 

ヘルキャットは一瞬車体をブレさせたかと思うと、何と!!

 

車体の左側を浮かせ、右の履帯だけで片輪走行状態となったっ!!

 

Ⅲ突の砲弾は、片輪走行状態のヘルキャットの車体下を擦り抜けて外れる。

 

「!? なっ!?」

 

「「「!?」」」

 

カバさんチームが驚愕を露わにしていた間に、ヘルキャットはそのままⅢ突も跨ぐ様にして片輪走行で擦り抜けると、漸く元に戻り、そのまま砂埃を立てて離脱して行った。

 

「逃げられる!」

 

「西住総隊長、追いますか!?」

 

歩兵隊員の1人が、みほに向かってそう尋ねるが………

 

「いえ、深追いはしないで下さい。態勢を立て直しましょう」

 

「了解」

 

みほは態勢の立て直しを優先し、追撃命令を出さなかった。

 

「………よもや総隊長車が単独で突貫して来るとは思いませんでしたね」

 

「うん。駆逐戦車で片輪走行するなんて………」

 

そこでⅣ号の傍に立った弘樹がそう言い、みほが先程のヘルキャットの動きを思い出してそう言う。

 

「出鼻を挫かれた感じだね………」

 

迫信も、ヘルキャットが去って行った方向を見やりながら、そんな事を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大洗機甲部隊の中から離脱して行ったヘルキャットの車内では………

 

「う~ん………いきなりフラッグ車は無理でも、2、3輌は食えるかと思ったんだけどなぁ~」

 

先程の大洗機甲部隊への突貫で撃破したのが歩兵や彼等の使っている車輌、対空戦車だけだった戦果に、クロエが不満そうに呟く。

 

「私の読み違いだったって事ね………良いわ。そうじゃなくちゃ面白くないわ」

 

しかしすぐに笑みを浮かべてそう言う。

 

「総隊長。オセロットさんから通信が入って来てます」

 

とそこで、通信手がクロエにそう告げて来た。

 

「ん、コッチに回して」

 

「了解」

 

クロエがそう言うと、通信手はクロエに通信回線を繋げる。

 

「ハ~イ、コチラはクロエ」

 

『ハ~イ、じゃありません! 総隊長!! 一体何を考えているのですか!!』

 

間延びした声で、クロエが通信機に向かって喋ると、途端にオセロットからの怒声が響いて来る。

 

「何って………ちょっと大洗機甲部隊に小手調べしてやっただけだけど?」

 

だが、クロエはまるで悪びれる様子も無く、平然とした様でそう返す。

 

『小手調べではありません! 敵軍の中へ単独で攻撃を仕掛けに行く総隊長が何処に居るのですか!?』

 

「此処に居るじゃない」

 

『そうではありません! そもそもクロエ総隊長には総隊長としての自覚が………』

 

「黙れ」

 

『!?』

 

と、そこで突然、クロエの声がドスの利いた低いモノとなり、オセロットは絶句する。

 

「良い、私はね………神に会うては神を斬り! 悪魔に会うてはその悪魔をも撃つ! 戦いたいから戦い! 潰したいから潰す! 私に大義名分などないのよ!!」

 

そしてそのまま、クロエは通信機越しにオセロットに向かってそう言い放った!

 

「私がやられたとしても、シロミやシャムの指揮が有れば十分でしょう? コレ以上私に何か言おうってんなら………命を掛けて来なさい」

 

『ぐうっ!………』

 

クロエの迫力に押され、完全に何も言えなくなるオセロット。

 

『オセロット。その辺にしておけ』

 

とそこで、通信回線にジャンゴの声が割り込んで来た。

 

『! ジャンゴ! しかしだな………』

 

『ウチの総隊長殿がこんななのは分かり切ってる事だろ』

 

『ッ!………』

 

ジャンゴの諦めにも似た言葉を聞き、オセロットは再び黙り込む。

 

『………分かりました。ですが! 既に第1作戦は開始されています! せめてその間は作戦通りに動いてもらいますよ!!』

 

だが、せめてもと言った具合に、オセロットはクロエに作戦が発動した事を知らせる。

 

「了解、了解。じゃ、切るわよ」

 

『ちょっ! 総隊………』

 

クロエが軽い感じで返事を返し、通信を切ろうとした事に慌てたオセロットだが、何かを言う間に通信は切断される。

 

「さて………本番はココからよ、大洗さん。フフフ………一体如何するのかしらね?」

 

猛獣の様な獰猛な笑みを浮かべて、クロエは心底楽しそうにそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗機甲部隊側では………

 

クロエのヘルキャットの奇襲から態勢を立て直し終え、再び進軍を開始していた。

 

超長距離砲撃の為の観測要員が居ないかを警戒しながら、慎重に進軍している大洗機甲部隊。

 

「10時方向、異常無し」

 

「2時方向も異常無し」

 

「6時方向、異常ありません」

 

周囲を監視している歩兵達から、次々と異常無しの報告が挙がる。

 

「今のところ、観測要員の姿は無し、か………」

 

「敵は超長距離砲撃では来ないのではないですか?」

 

「それはちょっと考え難いかな………折角T28が居るのに、アウトレンジ戦法を使ってこない事は無いと思うんだ」

 

余りに異常が無い為、優花里は敵は長距離砲撃では来ないのではと疑うが、みほはそれは考え難いと返す。

 

(………嫌な予感がするな)

 

そして弘樹もまた、不気味な静けさに、嫌な予感を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………と、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静けさを保っていた荒野に、風切り音が響き渡る!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その音を聞いた大洗機甲部隊の一同は、すぐさま空を見上げた。

 

そしてその目に飛び込んで来たのは………

 

太陽の中から大洗機甲部隊目掛けて落ちて来る………

 

砲弾の姿だった。

 

「! 散れえぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹が叫んだ瞬間には、大洗機甲部隊はバラバラになり、方々へと逃げ出す。

 

直後に、砲弾が先程まで大洗機甲部隊が居た場所に着弾!

 

爆発と共に巨大な炎が上がり、黒煙が立ち上った!!

 

着弾跡は、巨大なクレーターとなっている。

 

「来やがった!」

 

「超長距離攻撃です!」

 

「固まるな! バラバラになって逃げるんだっ!!」

 

遂に襲い掛かって来たT28の物と思われる超長距離砲撃に、大洗機甲部隊の面々は分散して攻撃を凌ごうとする。

 

と、その直後に再び風切り音が聞こえて来たかと思うと、再び上空から降って来た砲弾が、ウサギさんチームのM3リーの傍に着弾した!

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

爆煙でM3リーの姿が見えなくなる中、紗希を除いたウサギさんチームの悲鳴が響き渡る。

 

「! ウサギさんチーム! 大丈夫ですか!?」

 

すぐさまみほはM3リーへと通信を送る。

 

「だ、大丈夫です………」

 

と、そこで梓のそう言う声が返って来たかと思うと、爆煙の中から装甲の表面が所々黒く煤けたM3リーがゆっくりと姿を現す。

 

如何やら、ギリギリ爆発の威力範囲からは外れていた様である。

 

「ほっ………」

 

その様子を見て、安堵の溜息を吐くみほ。

 

しかしそこで、3度目の風切り音が響き渡る。

 

「! 左だっ!!」

 

「うわおっ!?」

 

くろがね四起の助手席に乗って居た弘樹が、ハンドルに手を伸ばして無理矢理左へ切らせた。

 

直後に、くろがね四起が向かおうとして居た先に砲弾が着弾!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

「!?」

 

直撃はしなかったが、至近距離からの爆発に煽られたくろがね四起は宙に舞い、乗って居た弘樹、地市、了平、楓は車内から投げ出されて荒野に転がる。

 

宙に舞ったくろがね四起は、そのまま逆さまに地面に叩き付けられて爆発する。

 

「! 弘樹くん!」

 

「大丈夫だ………問題無い」

 

「コッチも大丈夫だ!」

 

「危ないところでした………」

 

みほが慌てるが、即座に弘樹が大丈夫だと返事を返し、地市と楓も無事である様子を見せる。

 

「もうやだ………こんな生活………」

 

只1人、了平だけが無事なものの、倒れたまま涙を流していた。

 

「! 敵の攻撃は正確です! 何処かに観測要員が居る筈です! 高所を中心に周囲を再確認して下さい!!」

 

それに再び安堵しつつも、敵の長距離砲撃が正確な事を見て、観測要員が居ると踏んだみほは、即座にそう命令を下す。

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

すぐさま双眼鏡を持つ偵察兵を中心に、歩兵部隊が周囲に見回す。

 

各戦車チームの車長も、ハッチを開けて姿を晒し、観測要員が居ないか辺りを見回す。

 

しかし………

 

「東方向に観測要員の姿無し!」

 

「西方向、同じく!」

 

「北方向にも観測要員は居ません!」

 

「南方向もです!」

 

各方向何れにも、観測要員の姿は無いと言う報告が挙がる。

 

「そんなバカな! もっと良く探せっ!!」

 

「し、しかし、本当に姿が見えないんです!」

 

十河が怒鳴るが、どれだけ捜索しても、観測要員らしき者の姿は発見出来ない。

 

その間に、4発目の砲撃が着弾!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く、Sd Kfz 250に直撃し、搭乗者と輸送されていた兵員が戦死判定を受ける。

 

「仲間がやられたぁっ!!」

 

「敵は一体何処に居るんだ!?」

 

「だから超長距離攻撃してるんだろうが!」

 

段々と大洗機甲部隊に動揺が走り始める。

 

(おかしい………観測要員も無しに、これだけ正確な砲撃が出来る筈は無い………観測要員は一体何処に?………!? まさかっ!?)

 

するとそこで、何かに気付いた様に、みほが上空を見上げる。

 

「!!」

 

と、全く同じタイミングで、弘樹も何かに気付いた様に空を見上げた。

 

そして、2人が見上げた空………

 

その太陽の中に………

 

軽飛行機ボイジャーの軍用型………

 

『スチンソン L-5 センチネル』………

 

『観測機』の姿が在った!

 

「! 上です! 上空に観測機がっ!!」

 

「高射部隊! 対空砲火ぁっ!!」

 

みほがそう声を挙げ、弘樹が号令を掛けると同時に、アハト・アハトを中心とした高射砲兵達が、上空のL-5に向かって対空砲火を打ち上げ始めた!

 

「! チイッ! 気づかれたかっ!?」

 

「コチラ観測機! 敵に気付かれました! 一旦離脱しますっ!!」

 

と、L-5の乗員が西部機甲部隊にそう連絡を入れると、一旦大洗機甲部隊の上空から離脱して行く。

 

「今の内です! 向こうの岩山の陰に隠れます! 全部隊、全速前進っ!!」

 

それを確認したみほは、すぐさま岩山の陰に隠れるべく、そう命令を下したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

岩山の陰にて………

 

T28の射線から逃れる様に、岩山の陰に固まってジッとしている大洗機甲部隊。

 

「多分、T28が居るのは、この辺りだと………」

 

みほが、先程の超長距離砲撃で、砲弾が飛んで来た方向と角度、それにT28の射程を逆算し、T28が居ると思われる大体の位置を割り出す。

 

「鉱山付近ですか………」

 

その場所が、鉱山となっている場所である事に気付いた優花里がそう指摘する。

 

「それで如何するの、みぽりん?」

 

「皆さんで一気に攻め掛かりますか?」

 

沙織と華がそう尋ねるが………

 

「いえ、恐らく敵はT28を守る様に布陣している筈です。大部隊で移動すれば、すぐに気付かれて、包囲されたところに再度T28からの超長距離砲撃を受ける可能性が有ります」

 

みほは西部機甲部隊の布陣予想図を地図に書き込みながらそう返す。

 

「だが、このまま此処にジッとしているワケにも行かんぞ」

 

「分かってます………やっぱり、あの手しかないか」

 

麻子がそう指摘すると、みほはそう呟いて、ハッチを開けて車外へ姿を晒す。

 

「…………」

 

するとⅣ号の傍には弘樹が待機しており、命令を待っている様子だった。

 

「………弘樹くん」

 

「ハッ!」

 

みほが呼び掛けると、弘樹はヤマト式敬礼をする。

 

「これよりT28撃破を任務とした特務部隊を臨時編成するね。その部隊長をお願い出来る?」

 

「御命令と在らば、一命を賭してでもやり遂げる所存です」

 

「………編成するメンバーは一任するけど、無理はしないでね」

 

「了解」

 

弘樹は再度みほに向かってヤマト式敬礼をすると、T28撃破の為の、特務部隊の編成に掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まった西部学園との試合。
開幕でいきなりクロエの駆けるヘルキャットの襲撃を受けたかと思うと、続けてT28の超長距離攻撃を受ける。
観測機を排除した事で一旦難を逃れたが、T28を撃破しない事には動きが取れない………
そこでみほは、作戦立案時にも出たアイデア………
弘樹を部隊長に、T28撃破を任務とした、特務部隊を臨時編制するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第129話『アッセンブルEX-10です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第129話『アッセンブルEX-10です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道公式戦の第7回戦が開始された………

 

対戦相手である西部機甲部隊の総隊長であるクロエが、単独での奇襲を仕掛けて来ると言う意外な初手に戸惑っている中………

 

T28超重戦車のモノと思われる超長距離砲撃が、大洗機甲部隊に襲い掛かった。

 

何とか観測機を見つけ出し、追い払った事で被害を軽微に済ませたが、超長距離攻撃を封じない事には動けない大洗機甲部隊。

 

そこでみほは………

 

作戦会議時に提案されていた案………

 

T28撃破を任務とした、特務部隊を臨時編成する事を決める。

 

メンバーは、その部隊長となった弘樹に一任されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所………

 

岩山の陰に隠れて、T28の超長距離砲撃を凌いでいる大洗機甲部隊とは別に………

 

荒野を移動している小規模な部隊の姿が在った。

 

弘樹を部隊長とした、T28撃破の為に臨時編成された特務部隊だ。

 

隠密性を重視する為、戦車チームからは比較的に小型であるアヒルさんチームの八九式中戦車とカメさんチームの38tが同伴し………

 

歩兵隊員の中には、小太郎、弦一郎、陣、弁慶、灰史、隆太と言ったメンバーの顔触れがある。

 

「! 停まれっ!」

 

と、不意に弘樹がそう声を挙げると、部隊が停止する。

 

「…………」

 

そして弘樹が、双眼鏡で前方を確認する。

 

そこには、M4A3を中心に周囲に歩兵部隊を展開している一部の西部機甲部隊の姿が在った。

 

「………こちら『アッセンブルEX-10』。西住総隊長、応答願います」

 

そこで特務部隊………『アッセンブルEX-10』の部隊長である弘樹は通信機を取ると、みほへと通信を送る。

 

『こちら西住です。どうぞ』

 

「ポイントB3地点に敵部隊を確認。如何やら西住総隊長の予想が当たっていた様です」

 

『やっぱり………コッチが全部隊でT28を撃破に向かった場合、左右から挟撃して足を止めさせて、その間にまた超長距離攻撃でアウトレンジする積りだったみたいだね』

 

展開していた部隊を発見したと言う弘樹の報告を聞いて、みほは自分の予測が正しかった事を確信する。

 

『展開している部隊の中に、フラッグ車は確認出来ますか?』

 

「いえ、確認出来ません」

 

『ではアッセンブルEX-10は予定通り、敵部隊を避けてT28が居ると思われる地点に向かって下さい』

 

「了解しました。通信終わります」

 

弘樹は通信を切ると、アッセンブルEX-10のメンバーの方に向き直る。

 

「命令に変更は無しだ。このまま敵部隊を避けてT28の居ると思われる地点に向かう」

 

「あの~………ちょっと良いか?」

 

「? 何だ?」

 

「何でこの部隊に俺も入られてるワケ?」

 

そこで、メンバーの中に居た1人………了平がそう尋ねて来る。

 

良く見れば、他のメンバーの中にも、合宿の際に了平と共に覗きを行おうとしていた隊員達の姿が在った。

 

「お前達は懲罰も兼ねて選定した」

 

「懲罰っ!? あの特訓で終わったんじゃないのかよっ!?」

 

「アレは飽く迄『訓練』だ。本来の懲罰任務はコレから始まる」

 

懲罰と言われて顔を青褪めさせる了平達に、弘樹は無慈悲にそう言い放つ。

 

「まさか………俺達の事を弾除けに使うんじゃないだろうな?」

 

「そうなるかならないかはお前達次第だ。コレ以上の懲罰を受けたくないなら働きを持って名誉を回復してみろ」

 

「………チキショーッ! こうなりゃ自棄だぁーっ!!」

 

「むんっ!!」

 

自棄になった様に大声を挙げる了平に、弘樹は拳骨を見舞った。

 

「ガハッ!? な、何で!?………」

 

「大声を出すな。敵に気づかれたら如何する?」

 

抗議の声を挙げる了平にそう言い放ち、再び敵部隊の方を双眼鏡で見やる弘樹。

 

幸いにも気づかれていなかった様で、敵部隊に動きは無い。

 

「………良し、先を急ぐぞ」

 

それを確認した弘樹は、敵部隊を避ける様にして、先を急ぐのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後………

 

アッセンブルEX-10は、T28が居ると思われる地点………

 

鉱山のエリアに到着した。

 

「此処からは歩兵部隊が先行して偵察を行う。アヒルさんチームとカメさんチームは戦車を隠して待機願います」

 

「分かりました!」

 

「りょ~か~い」

 

弘樹が八九式と38tの方を振り返ってそう言うと、ハッチから姿を見せていた典子と杏がそう返事を返す。

 

「………歩兵部隊、展開!」

 

そして弘樹は、四式自動小銃のチェックを行うとそう命令を下し、他の歩兵隊員達と共にT28の捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………居たな」

 

捜索開始から程無くして………

 

弘樹がT28の姿を発見した。

 

階段の様に段が複数に分かれており、トロッコ用のレールが敷かれている炭鉱への入り口が幾つも開いている崖を背に、T28がその主砲を天に向けて堂々と鎮座している。

 

周囲や、段々となっている崖の上には、護衛と思われる西部歩兵部隊の姿もある。

 

その様子を、T28部隊の居る場所から見て左上に位置する崖の上から、弘樹は観察している。

 

「歩兵部隊だけとは言え、やっぱ相当な守りだな………」

 

弘樹と共に行動していた了平が、その布陣を見てそう呟く。

 

「良く見ろ。他にも戦車が居るぞ」

 

だが、弘樹がそう指摘する。

 

「えっ!? 何処に?」

 

「坑道の入り口を良く見てみろ」

 

「??」

 

弘樹にそう言われて、坑道の入り口を双眼鏡で見やる了平。

 

するとそこに、坑道の中に隠れる様に入っていたM22軽戦車・ローカストを発見する。

 

「! ローカストっ!? 坑道内に隠すなんて、アリかよ!?………!? へぶっ!?」

 

「大声を出すな………小型の空挺戦車ならでは発想だな」

 

驚きの声を挙げる了平の頭を掴んで地面に押しつけながら、弘樹はそう言う。

 

「ブハッ!………で、如何すんだよ、弘樹? あんな風に崖を背にされた上に歩兵部隊を展開されてるんじゃ、アンツィオ&ピッツァの時みたいには行かないぜ」

 

と、解放されて顔を上げた了平がそう指摘する。

 

弘樹が編制したアッセンブルEX-10は、歩兵部隊こそ精鋭揃いだが、戦車チームは火力に乏しい八九式と38t。

 

T28を正面から撃破出来る能力は無く、撃破するには歩兵部隊の対戦車兵か、工兵達の爆薬等を使っての肉薄攻撃しかない。

 

だが、敵の歩兵の方が数が多く、護衛としてローカストも居る為、歩兵部隊だけの攻撃ではT28を撃破するのは厳しい。

 

了平の言う通り、T28が背にしている段々となっている崖にも歩兵部隊が展開しているので、アンツィオ&ピッツァの時の様に崖を降りての奇襲も不可能だろう。

 

「こんな事ならもっと戦車や砲兵を連れて来た方が良かったんじゃ」

 

「今回は隠密性を重視した編制にした。今更言っても仕方あるまい。それに………例え我が部隊で最も火力が有るポルシェティーガーを連れて来たとしても、奴の正面装甲は抜けん」

 

了平が不満を言うが、弘樹はそう返す。

 

彼の言う通り、T28の正面装甲は300ミリ。

 

ポルシェティーガーの主砲や、アハトアハトでも撃ち抜けない。

 

「…………」

 

弘樹は顎に手を当てて、彼是と思案を巡らせる。

 

「………あの坑道は何処まで続いているんだ?」

 

ふとそこで、ローカストが隠れている坑道を見て、そんな事を呟く。

 

「弘樹?………」

 

「………良し」

 

弘樹の言った言葉の意味が分からず困惑する了平だが、弘樹は何かを思いついた様な顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

展開しているT28とその護衛部隊は………

 

『歩兵部隊、周囲に異常は無い?』

 

T28の車長である勝ち気な目つきの少女『シャム』が通信で、周囲に展開している西部歩兵達にぶっきらぼうな口調と態度でそう尋ねる。

 

「異常ありません」

 

「今大洗の機甲部隊は超長距離砲撃を恐れて隠れているところです。もう少ししたら我々の本隊が動いて包囲するでしょう」

 

『油断しないで。小規模な偵察部隊がコチラの警戒網を抜けて来ているかも知れないわ』

 

「もしそうだったとしても、そんな小規模な偵察部隊で何が出来るんですか?」

 

「そうですよ。この鉄壁の布陣ですよ」

 

油断するなと言うシャムだが、西部歩兵達は余裕を見せる。

 

『この馬鹿! アンタ達の頭飾りなのっ!?』

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

途端にシャムからの怒声が飛ぶ。

 

『今までの大洗の試合は貴方達も見ていたでしょう。どの学校も数で圧倒しながら敗れ去った………決して油断せずに当たれ。クロエ総隊長からはそう命令された筈よ』

 

「ハッ! も、申し訳ありませんっ!!」

 

「し、失礼しました!」

 

その迫力の前に、西部歩兵達は平謝りとなる。

 

『分かったならちゃんと警戒を続けなさい。何1つ見逃すんじゃないわよ』

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

『………アウト』

 

西部歩兵達が一斉にそう返すのを聞いて、シャムは漸く無線を切ったのだった。

 

「ふう~、流石シャムさん。厳しい~」

 

「そのシャムさんがクロエ総隊長に絶対服従してるんだから、世の中って分からないよね~」

 

その様子を聞いていた、1輌のローカストの乗員達がそんな雑談を始める。

 

「何でも、昔大層な恩を受けたって話を聞いたよ」

 

「それでクロエ総隊長に近づく不埒な男子生徒達を皆返り討ちにしたりしたワケ?」

 

「ちょっとやり過ぎじゃない? 第一、総隊長ならそう言う輩は自分で叩きのめしたがると思うんだけど………」

 

「一部じゃソッチの気が有るって話も聞いたよ」

 

「ええ~、マジで? 所謂百合ってヤツ~?」

 

「シッ! シャムさんに聞こえたら大目玉だよ。最悪、訴えられるかもよ。あの人、弁護士目指してるらしいし」

 

「お~、コワッ!」

 

段々と雑談に夢中になり始めるローカストの乗員達。

 

「………ん?」

 

しかしそこで、車長の隊員が何かに気付いた様な声を挙げる。

 

「? どしたの?」

 

「いや、何か………履帯の音がしない?」

 

「「えっ?」」

 

車長の隊員にそう言われ、残りの2人の乗員も耳を澄ませる。

 

すると確かに、履帯の鳴る音が聞こえて来た。

 

「! ホントだ、何だろう?」

 

「!? まさかっ!?」

 

とそこで、車長の子が何かを思い付き、慌ててハッチを開けて外に姿を晒すと、ローカストの後方………坑道内を見やった。

 

するとそこには………

 

ローカストの後部に、しっかりと照準を合わせているアヒルさんチームの八九式の姿が在った!

 

「!? 敵襲ーっ!!」

 

「そーれっ!!」

 

「「「そーれぇっ!!」」」

 

ローカストの車長の叫びが挙がると同時に、典子の掛け声が掛かり、忍、妙子、あけびがそれに合わせて叫んだかと思うと、八九式の主砲が火を噴いた!!

 

対戦車戦を想定していない九〇式五糎七戦車砲と言えど、元々装甲の薄いローカストの後面を至近距離で撃ったので当然貫通判定となり、ローカストは白旗を上げる。

 

「!? ローカスト3号車がっ!?」

 

「て、敵ですっ! 坑道内に、敵の戦車がっ!!」

 

それを目撃した西部歩兵の1人がそう声を挙げると、撃破されたローカストの車長が、せめて最後の報告とそう叫ぶ。

 

「坑道内だとっ!?」

 

「このぉっ! モグラみたい真似しやがってっ!!」

 

即座に、撃破されたローカストが入って居た坑道への入り口に、バズーカを持った対戦車兵達を中心とした西部歩兵が殺到する。

 

撃破されたローカストとの隙間を縫う様にして、坑道内へと入り込んで行く。

 

「後退っ!!」

 

「ハイッ!」

 

即座に典子は後退の指示を出し、忍は八九式をバックさせる。

 

「そーれそれそれっ!!」

 

典子も牽制とばかりに機銃架の九七式車載重機関銃を発砲する!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「このぉっ!!」

 

戦死判定を喰らう者が次々に出ながらも、1人の対戦車兵がバズーカを発射する!

 

しかし、間一髪のところで八九式はカーブとなっている場所に退避し、バズーカの弾は坑道の壁に当たる。

 

爆発の衝撃で坑道が崩れて埋まる。

 

「クソッ! 仕留めそこなったっ!!」

 

「全員、坑道内に注意しろっ! 敵が侵入しているぞっ!!」

 

西部対戦車兵の1人が、すぐさまT28の護衛部隊全員にそう通信を送る。

 

「了解っ!」

 

「野郎っ! 舐めた真似しやがってっ!!」

 

と、それを受けた別の坑道の出入り口付近に居た西部歩兵達が、各々に銃をチェックして坑道内に踏み込む。

 

するとその前方から、ガーッと言う音が聞こえて来た。

 

「「「「「!?」」」」」

 

すぐさま一斉に銃を坑道内へと向ける西部歩兵達。

 

やがて坑道内から、無人のトロッコが姿を現した。

 

「? トロッコ?」

 

「誰も乗ってないぞ?」

 

西部歩兵達は、無人のトロッコが向かって来た事に困惑する。

 

トロッコは徐々にスピードを落として行き、やがて立ち止まっていた西部歩兵達の目の前で停止する。

 

「………オイ」

 

「「「「…………」」」」

 

中に敵が隠れているかも知れないと考えた西部歩兵達は、油断無く銃を構えて、ゆっくりとそのトロッコに近づく。

 

「「「「「!!」」」」」

 

そしてタイミングを見計らい、一斉に銃をトロッコ内へと突き付けた!

 

しかし、そこに在ったのは敵である大洗の歩兵ではなく………

 

拉縄が引かれて起爆し、白い煙を挙げている肩掛け鞄………『梱包爆薬』だった。

 

「!! 退避―っ!!」

 

西部歩兵の1人がそう叫んだ瞬間に、梱包爆薬は大爆発を起こした!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

爆風で吹っ飛ばされて、坑道内から追い出される西部歩兵達。

 

当然、全員が戦死判定を受けた。

 

直後に、梱包爆薬の爆発で、坑道の出入り口が崩れて塞がる。

 

「C班がやられた!」

 

「クソッ! ホントにモグラかよ、アイツ等は!!」

 

立て続けの損害で、西部歩兵部隊に動揺が走るが………

 

「狼狽えないでっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その瞬間にシャムのそう言う叫びが木霊し、西部歩兵部隊の一同はハッとなる。

 

「今観測機が再度大洗機甲部隊を捉えたわ。岩山の陰でコチラの射線を遮ってるみたい。チャーフィー部隊が追い出しに向かったから、超長距離攻撃を再開させるわ。貴方達はその間だけ敵を食い止めていなさい」

 

飽く迄冷静な態度を崩さずにそう指示するシャム。

 

「ハッ! 了解しましたっ!!」

 

「ローカスト部隊、坑道内に突入します!」

 

それによって西部歩兵部隊は落ち着きを取り戻し、残っていたローカスト達が、坑道内に居る大洗部隊の撃破に向かう。

 

「………さて、コチラも始めるわよ。T28より観測機へ」

 

『コチラ観測機。感度良好、どうぞ』

 

「超長距離砲撃を再開するわ。大洗機甲部隊の現在位置を知らせ」

 

『了解! 大洗機甲部隊の現在位置………方位28、距離6.8』

 

「砲手、仰角+3。操縦手、右+1」

 

「「了解っ!!」」

 

シャムが指示すると、砲手が主砲の角度を修正し、操縦手が車体を動かして方位を修正する。

 

「装填完了っ!」

 

「発射っ!!」

 

そして装填手から装填完了の報告が挙がると、即座に発射命令を下した!

 

爆音と共に、T28の105ミリ砲が火を噴く!!

 

吐き出された砲弾は上空へと登って行き、やがて重力に引かれて弧を描き落ちて行って見えなくなったかと思うと、やや遅れて着弾音が聞こえた。

 

『遠! 至近弾!!』

 

「俯角、-1」

 

「俯角-1!」

 

観測機からの報告を聞いて、すぐさま照準を修正させるシャム。

 

「アウトレンジ戦法は戦闘の基本よ………卑怯とは言わせないわ」

 

シャムは勝気な目つきを更に鋭くしてそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

T28撃破を目的とした特務部隊………
『アッセンブルEX-10』が結成され、坑道エリアに陣取っていたT28への攻撃を初める。
だが、参謀の『シャム』の元、統制が取られていたT28の護衛部隊は、アッセンブルEX-10のゲリラ戦に怯む事無く、即座に反撃に入る。
その間に、T28も再び超長距離攻撃を再開する。
果たして、アッセンブルEX-10はT28を撃破出来るのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第130話『鉱山の戦いです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第130話『鉱山の戦いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超長距離攻撃を行って来た西部機甲部隊のT28を撃破する為………

 

弘樹を部隊長とした特務部隊………

 

『アッセンブルEX-10』が臨時編成される。

 

鉱山に陣取る様に展開していたT28と護衛部隊に対し………

 

アッセンブルEX-10は坑道を利用したゲリラ戦を仕掛ける。

 

しかし、その間に西部の観測機が再度大洗機甲部隊を捕捉。

 

チャーフィー部隊が向かう中、T28の超長距離攻撃が再開される。

 

果たして、アッセンブルEX-10は、T28を撃破出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・鉱山エリアの坑道内某所………

 

「…………」

 

岩陰から上半身だけを出した弘樹は、四式自動小銃を3連射する。

 

「「「うわああっ!?」」」

 

それにより、頭や心臓の辺りに命中弾を喰らった西部歩兵3人が、一斉に倒れる。

 

「オノレェッ! 撃て撃てぇっ!!」

 

しかし、西部歩兵の1人がそう叫ぶと、軽機関銃や短機関銃を持った西部歩兵が弾幕を浴びせる。

 

「!………」

 

弘樹は身を屈め、岩陰に完全に隠れて弾幕を凌ぐ。

 

「うわあああっ!? 如何すんだよ、弘樹! 坑道内を通って不意を衝くんじゃなかったのか!?」

 

近くでは共に行動していた了平が、縮こまって頭を両手で抱えながらそう悪態を吐く様に言う。

 

「思ったより敵の立て直しが早かった………作戦失敗だ」

 

「ええっ!? マジかよ! うわあっ! もう駄目だぁっ!!」

 

「嘆いてる暇が有ったらお前も応戦しろ!」

 

銃だけを相手の方に向けて、牽制の射撃を行っている弘樹が、喚く了平にそう言い放つ。

 

と、そこで………

 

坑道内にまで響き渡る轟音と細かな振動が伝わって来た。

 

「! この音は!?………」

 

「T28が超長距離攻撃を再開したのか?………」

 

了平がハッとすると、弘樹が苦い顔をしてそう呟く。

 

『こちら西住! アッセンブルEX-10、応答願います!』

 

途端に、みほからの通信が入って来る。

 

「こちらアッセンブルEX-10、舩坂です。西住総隊長、敵の超長距離攻撃が再開されたのですか?」

 

『うん! 今は山影で凌いでるけど、さっき哨戒に出てた偵察兵部隊がチャーフィーの部隊がコッチに向かってるのを見つけたって。攻撃されたら、流石に動かないといけないけど………』

 

「観測機付きの超長距離攻撃に身を晒す事になる………か」

 

益々苦い顔をする弘樹。

 

『多少は持たせられると思うけど、弘樹くん、お願い………成るべく急いでT28を撃破して』

 

「了解しました」

 

みほにそう返すと弘樹は通信を切る。

 

「オイ、早めに撃破してくれって、先ずこの状況如何にかしないと駄目だろっ!?」

 

「だったらお前も考えろ!」

 

傍で通信内容をを聞いていた了平がそう言い放つが、弘樹はそう怒鳴り返す。

 

とその時!

 

「フッ飛べっ!」

 

M1ガーランドに、M7グレネードランチャーを取り付けていた西部歩兵がそう言う声と共に、装着しているグレネードを弘樹達に向ける。

 

「! 伏せろっ!!」

 

「へぶっ!?」

 

それを見た弘樹は、そう言って了平の頭を掴み、地面に完全に伏せさせる。

 

直後にグレネードが発射され、弘樹達が隠れている岩を飛び越して行ったかと思うと、その先に在った木箱に命中する。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「クッ………」

 

慌てふためく了平と、短く声を漏らす弘樹。

 

幸い殺傷範囲からは外れていたらしく、弘樹達の元に届いたのは木箱の破片と爆煙だけだった。

 

するとそこで………

 

弘樹の目の前に、石ころが転がった様な音と共に『何か』が転がって来る。

 

「!? コレは………」

 

その転がって来たモノを見て、弘樹は僅かに驚きを示す。

 

「…………」

 

そして何かを思いついたかの様な顔を見せたかと思うと、その転がって来たモノを引っ掴んだ。

 

「やったかっ!?」

 

「いや、まだだ! もう1発………」

 

倒したかと思う西部歩兵に対し、M1ガーランドを持つ西部歩兵が、再びM7グレネードランチャーを装着する。

 

………そこで!!

 

「そらっ!」

 

岩陰から一瞬で身を出した弘樹が、手に握っていた物を投擲した!

 

「! グレネードだ! 下がれっ!!」

 

「!? うおおおっ!?」

 

投擲されて来た物が手榴弾だと思い、後退する西部歩兵。

 

しかし、何時まで経っても爆発が起こらなかった………

 

「………うん?」

 

「不発弾か?………」

 

爆発しなかったので、そこで改めて投擲されて来た物を確認する西部歩兵達。

 

すると………

 

「なっ!?」

 

「ア、アレはっ!?」

 

「そんな!? まさか!?」

 

途端に西部歩兵達は目の色を変える。

 

何故なら、投擲され来た物は黄金色に輝く物体………

 

そう………

 

「き………」

 

「「「「「金だぁーっ!!」」」」」

 

金だった。

 

「俺の物だぁーっ!!」

 

西部歩兵の1人が、欲望丸出しでそう言い、その金を拾い上げる。

 

「あ! テメェッ! 抜け駆けは許さねえぞっ!!」

 

別の西部歩兵が、その金を奪おうと掴み掛る。

 

「ウルセェッ! 早いもん勝ちだぁっ!!」

 

「そんなのアリかよ!?」

 

「俺に寄こせっ!!」

 

「いや、俺だぁっ!!」

 

忽ち、金を巡っての奪い合いに発展する西部歩兵達。

 

何とも醜い争いである。

 

「…………」

 

するとそこで、弘樹が再び岩陰から身を乗り出し、またも『何か』を投擲した!

 

「おおっ!? また金かっ!?」

 

「今度は俺のモンだぁっ!!」

 

と、欲に支配された西部歩兵達は、それも金だと思い、キャッチする。

 

しかし、キャッチした物は………

 

手榴弾だった。

 

「「「「「………あ」」」」」

 

西部歩兵達の間抜けな声が響いた瞬間に、手榴弾は爆発!

 

当然、西部歩兵達は悲鳴を挙げる間も無く、全員が戦死判定となって倒れ伏せた。

 

「………欲に目が眩むと碌な事がないぞ」

 

とそこで、岩陰から出て来た弘樹が、倒れ伏せている西部歩兵達に向かって、皮肉の様にそう言う。

 

「オイ、弘樹。でも、流石に勿体無かったんじゃ………」

 

一方、遅れて出て来た了平はそんな言葉を漏らす。

 

「………欲しいならやるぞ」

 

すると弘樹は、足元に有った物を拾い上げ、了平の方へ背中越しに放り投げた。

 

「わっ、と!………! うおおおっ! き、金!………あ?」

 

それが先程使った金で有ったのを見た了平は歓喜の声を挙げたが、すぐに気づく………

 

その金が欠けた部分から………

 

プラスチックが見えている事に………

 

「偽物かよ!?」

 

「撮影で使われた小道具を忘れて行ったんだろう………まあ、お蔭で状況を打開出来たがな」

 

「チキショーッ!!」

 

小道具の金を地面に叩き付けると、了平は地団駄を踏む。

 

「………急ぐぞ」

 

しかし、それを気にする様子も見せず、弘樹はそう言うと走り出した。

 

「あ! オ、オイ! 待ってくれよぉっ!!」

 

慌ててその後を追う了平だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の坑道内でも………

 

38tが、時々車体を坑道内の付き出した岩で擦りながらも進んで行っている。

 

「え~と………次の分かれ道を左折で」

 

「了解………」

 

マッピングした坑道内の地図を見ながら、柚子に指示を出している蛍。

 

「でも、上手くT28の背後に回り込めても、38tの主砲じゃ貫通は難しいんじゃ………」

 

とそこで、蛍がそう不安を口にする。

 

「やるしかない………出来るとか出来ないとか言ってられる状況じゃないんだから」

 

すると、珍しく真剣な表情の杏がそう返す。

 

「流石です、会長!」

 

「…………」

 

桃のヨイショする言葉にも反応せず、ジッと照準器を覗き込んで居る杏。

 

「あ、次左折ね」

 

「うん」

 

とそこで、38tは真っ直ぐと正面に分かれた道を、左の方へと左折する。

 

途端に、目の前にローカストが立ちはだかった。

 

「「「あ………」」」

 

「「「え?………」」」

 

不意の至近距離での遭遇だった為、カメさんチームもローカストの乗員も、唖然となって思わず固まってしまう。

 

沈黙が坑道内を支配する………

 

「全速後退っ!! 元の道へ戻れっ!!」

 

「!!」

 

しかしそこで、杏の声が響き、柚子は反射的に38tをバックさせる!

 

「! う、撃てっ! 撃てぇーっ!!」

 

「!!」

 

そこでローカストの乗員達も我に返り、車長が砲撃を命じ、ローカストの主砲が火を噴く!

 

だが、間一髪、38tは左折した分かれ道のところへ後退し終え、砲弾を避ける。

 

「全速前進! 正面の道へ行けっ!!」

 

「ええっ!? 敵の前を横切るんですか!?」

 

「バックじゃスピードが出ない! 坑道が狭過ぎて信地旋回も無理だ! 今撃ったばかりだから急げば間に合う!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

直進せよと言う杏の指示に戸惑ったものの、矢継ぎ早に説明され、柚子はすぐに38tを全速前進させた!

 

そしてローカストが居る左の通路への入り口を通り過ぎた瞬間に、ローカストが放った次弾が、坑道の壁を抉った!

 

「うわっ!? 間一髪っ!!」

 

「まだだっ!!」

 

「追え追えーっ!! 逃がすなぁーっ!!」

 

直後にローカストが飛び出して来て、後を追って来る。

 

「うわあーっ!? 追って来るーっ!!」

 

「小山! 兎に角逃げろ! 逃げて逃げまくれ!」

 

「ハイッ!!」

 

例によって桃が絶望の悲鳴を挙げる中、杏は柚子にそう言い、38tは車体の彼方此方を擦りながら坑道内を駆け抜けて行く。

 

「逃がすかっ!!」

 

そこで三度、ローカストが発砲!

 

砲弾は38tの僅か後ろの地面に着弾し、トロッコのレールと地面を抉って穴を空ける。

 

「!? うわぁっ!?」

 

と、その穴の上をローカストが通過した際に、車体が跳ね上がる。

 

「駄目だ! こう狭いと外した時にコッチに支障が出る! 広めな所に出るまで待て!」

 

「了解!」

 

「こちらローカスト4号車! 敵38tを発見! 現在追跡中! 近くの歩兵はすぐに援護に来て!」

 

『『『『『了解っ!!』』』』』

 

無闇な発砲は自分達も危険だと判断したローカストの車長は発砲を控える様に指示し、歩兵部隊に救援要請を送る。

 

するとそこで、車体に銃弾が連続で当たり、金属音を響かせ始める。

 

「うわぁっ!」

 

「煩ーいっ!!」

 

車内に充満する不快な金属音に、ローカストの乗員は思わず悲鳴を挙げる。

 

「会長~! 効いてませ~んっ!!」

 

「牽制になれば良い! 兎に角撃ち続けろ!!」

 

後ろを向けた砲塔の主砲横に着けられていたMG37(t)を撃っている桃が涙声でそう訴えるが、杏は撃ち続けろと言い放つ。

 

「! 会長! 前にっ!!」

 

「!?」

 

そこで柚子がそう声を挙げ、杏がキューポラから前方を見やると、坑道が直進と右へと分かれており、直進の道には西部歩兵が展開していた。

 

「小山! 右へ行けっ!!」

 

「ハイッ!」

 

すぐさま杏はそう指示を出し、38tは西部歩兵達を避ける様に右の通路へと入った!

 

当然ローカストも後を追って来る。

 

「! 前方が開けるぞ!!」

 

と、キューポラから前方を見続けていた杏が、前方に木枠の入り口が見えたのを見てそう言う。

 

そして、木枠の入り口を越えた瞬間………

 

「なっ!?」

 

「何此処ーっ!?」

 

柚子と蛍がそう悲鳴を挙げた!

 

38tが飛び込んだ場所は………

 

トロッコ用のレールが、木で造られた櫓の上を走っていると言う、まるでジェットコースターの様な場所だった。

 

しかも、丁度38tが向かっている先は、ジェットコースターの始まりの様に、急な下り坂になっている。

 

「………行け、小山!」

 

一瞬考えた様な素振りを見せた後、柚子に向かってそう言い放つ杏。

 

「ええっ!? 此処をですかっ!?」

 

「追われてるんだ! 悩んでいる暇は無い!!」

 

「な、南無三ーっ!!」

 

思わずそんな言葉を口走りながら、柚子は38tを進ませた!

 

当然、下り坂に入った途端、38tは急加速する。

 

「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」

 

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

悲鳴を挙げる柚子と蛍。

 

桃に至ってはこの世の終わりの様な声を挙げている。

 

「…………」

 

そんな中でも、杏は1人冷静に、追って来るローカストに狙いを合わせようと、照準器を覗き込んで居る。

 

(クソッ! こう動きが激しいと………)

 

しかし、ジェットコースターのコースの様なトロッコのレール上を高速で移動している状態で狙いを付けるのは至難の技だった。

 

「良し! 開けた場所に出たぞっ! 撃ち方用意っ!!」

 

「ですが、この状況じゃ………」

 

「撃っていればその内当たる! 兎に角撃てっ!!」

 

一方、ローカストの方は下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦で行く様で、主砲をドンドンと発砲する。

 

その内の1発が、38tの砲塔側面に、掠る様に命中した。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ! やられたーっ!!」

 

「やられてないよ、桃ちゃん!」

 

「会長! 如何するんですか!?」

 

「今考えてる!」

 

カメさんチームに焦りが生じ始める。

 

と、その時!!

 

ローカストから放たれた1発の砲弾が、38tの進路上に着弾!

 

トロッコのレールと足場の櫓が崩れ落ちた!

 

「! 会長! 道がっ!!」

 

「!!」

 

杏は苦い顔で前方を見やる。

 

(! アレは!?)

 

しかしそこで、前方に下の方に、このエリアの出口と思われる場所を発見する。

 

「………小山! スピードを最大まで出せっ!!」

 

「ええっ!? 会長! 気でも狂ったんですかっ!?」

 

「良いから出せっ!!」

 

「ハ、ハイーッ!!」

 

杏の指示に従い、最高スピードを出す柚子。

 

「皆何かに掴まれっ!!」

 

「「!!」」

 

そして杏は続けてそう言い、桃と蛍は身体を固定する。

 

「飛ぶぞぉーっ!!」

 

と、杏が叫んだ瞬間!!

 

38tは崩れた場所から大ジャンプ!!

 

そのまま出口へと向かう。

 

「!? 停止ーっ!!」

 

「ま、間に合いませんーっ!!」

 

追って来ていたローカストはブレーキを掛けたが停まれず、そのまま崩れた部分から落下!

 

下方の地面に叩き付けられたかと思うと、そのまま大破と判定され、白旗が上がった。

 

「会長ーっ! コレ着地は考えてるんですかーっ!!」

 

一方、まだ空中に居る38tの車内で、柚子がそう杏に問い質す。

 

「任せろ………運に」

 

「「「運任せーっ!?」」」

 

柚子達の悲鳴が響いた瞬間!

 

38tは出口へと到達。

 

バウンドして、天井に叩き付けられた後に止まる。

 

「………ふ~~う、運が良かったみたいだな」

 

「今日ばかりは会長に付いて来た事を後悔しました………」

 

「私も………」

 

「うわあ~~~~~~んっ!!」

 

杏が天を仰いでいる中、柚子と蛍がそう言い合い、桃は子供の様に泣きじゃくるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に別の坑道内では………

 

「居たぞっ!! 大洗の歩兵だ!!」

 

坑道内を進んでいた2名の大洗歩兵を見つけた西部歩兵がそう声を挙げ、他の西部歩兵が集まって来る。

 

「狙えっ!!」

 

そして一斉に銃を構えるが………

 

「イヤーッ!!」

 

その2名の歩兵の内の片方………小太郎がニンジャシャウトを響かせたかと思うと、腕を鞭の様に撓らせ、スリケンを複数投擲した!

 

投擲されたスリケンは、西部歩兵が構えていた銃の銃身に突き刺さり、銃口を塞ぐ!

 

「!?」

 

「銃がっ!?」

 

「イヤーッ!!」

 

西部歩兵達が驚いていた瞬間に、再び小太郎のニンジャシャウトが木霊し、複数のスリケンが投擲される!

 

「「「「「アバーッ!?」」」」」

 

そのスリケンは全て西部歩兵の眉間に命中!

 

西部歩兵達は一斉に戦死判定を喰らった!

 

「水谷殿、大丈夫でござるか?」

 

「ハ、ハイ………何とか………」

 

西部歩兵が全員戦死判定を喰らったのを確認した小太郎がもう1人の歩兵………灰史にそう声を掛ける。

 

直接戦闘能力に乏しい工兵の為、この場は小太郎に任せるしかなかったのだ。

 

とそこで、またも坑道内に砲撃音が響き、振動が走る。

 

「クッ! T28でござるか!」

 

「急がないと、本隊も危ないですよ」

 

「しかし、こう敵と出くわしてばかりでは………」

 

苦々しげにそう呟く小太郎。

 

「………うん?」

 

とその時、灰史が何かに気付いた様に坑道の壁に近づき、手を当てる。

 

「? 如何したでござる、水谷殿」

 

「………水です」

 

「水?」

 

灰史の言う通り、彼が今手を当てている坑道の壁からは、僅かだが水が染み出して来ていた。

 

「地下水でござるか………」

 

「コレは………使えるかも知れない」

 

そこで灰史はそう言うと、坑道内のマップを広げる。

 

「現在位置が此処だから………うん、行ける」

 

「何をする気でござる?」

 

「天竺&ジョロキア機甲部隊との練習試合で、西住総隊長が使った手ですよ」

 

小太郎が尋ねると、灰史はそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、坑道の外………

 

T28が陣取っている場所では………

 

『着弾!! やや東より!!』

 

「右に2度修正」

 

「ハイッ!!」

 

シャムの指示で、僅かに車体を動かすT28の操縦手。

 

「装填完了!」

 

「撃てっ!!」

 

「発射っ!!」

 

そしてまたもや、主砲から轟音と共に砲弾が吐き出される。

 

『着弾!! 敵装甲車を撃破!!』

 

「チッ! 中々戦車に損害を出せないわね………」

 

さっきからバカスカ撃っているのに、大洗の戦車には命中弾を出せていない事にシャムが苛立ち始める。

 

「まあ、良いわ。どうせ向こうは何も出来ないんだから。ジワジワと追い詰めてあげる。左に3度」

 

「ハイ!」

 

しかし、すぐに冷静になると、またも操縦手に車体を動かす様に指示を出す。

 

と、その時!!

 

ガキンッ!!と言う金属同士がぶつかり合った様な音が、T28の車内に響いた!

 

「!? 何っ!?」

 

損害は無かったが、何事かとハッチから上半身を出して、音の正体を確認しようとするシャム。

 

その直後に発砲音がしたかと思うと、T28の車体上面右側の部分に何かが当たって、火花を散らした!

 

「!!」

 

シャムが発砲音がした方向を確認すると、そこには…………

 

「…………」

 

崖の稜線越しに、ラハティ L-39 対戦車銃を伏せ撃ちで構えている陣の姿が在った。

 

排莢を行ったかと思うと、再び射撃する陣。

 

「キャッ!? 狙撃兵!? 何考えてるの!? 対戦車ライフル如きでこのT28の装甲を抜けると思ってるの!?」

 

近くに着弾した為、シャムは驚きの声を挙げるが、すぐに車内へと引っ込んでそう言う。

 

「撃ちますかっ!?」

 

「止めなさい! 歩兵1人に構ってる暇は無いわ! 今は大洗の本隊を攻撃するのが先よ! アイツは歩兵部隊に処理させるわ!!」

 

対戦車ライフルではT28に損害は与えられないので、シャムは陣を無視して超長距離攻撃を続ける様に指示する。

 

「…………」

 

その間にも、陣は黙々と射撃を続けるのだった。

 

「野郎っ!」

 

「場所も変えないで撃ち続けるとは、舐められたもんだぜっ!!」

 

そんな陣の元へ、西部歩兵達が向かおうとする。

 

と………

 

「行かせるかぁーっ!!」

 

直後に、坑道への入り口から、陸王に乗った弦一朗が飛び出して来て、陣の元へと向かおうとしていた西部歩兵部隊に突っ込む!

 

「!? 何っ!?………! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

1人の西部歩兵が、突然現れた弦一朗のバイクに跳ね飛ばされ、崖を落ちて行く。

 

そして崖の下に到達すると、戦死と判定される。

 

「! 野郎っ!!」

 

「おらあっ!」

 

「ガハッ!?」

 

別の西部歩兵が、ピースメーカーを抜いたが、弦一朗はバイクに乗ったまま、擦れ違い様に蹴りを喰らわせる!

 

「ヒャッホーッ!!」

 

そして一旦、西部歩兵達から距離を離す様に去って行く。

 

「野郎!」

 

「ふざけやがってっ!!」

 

距離を離した弦一朗に向かって、西部歩兵達は一斉に銃を向けたが………

 

「撃てぇーっ!!」

 

横からそう言う声が聞こえたかと思うと、弦一朗が飛び出して来た坑道の入り口に姿を現した大洗歩兵達が、短機関銃や軽機関銃で銃撃を浴びせた!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「良し、今だっ!!」

 

坑道の出入り口付近に居た西部歩兵達を排除すると、大洗歩兵達は坑道内から出て来て、障害物に隠れながら武器を構えて、陣の元へと向かう道を封鎖する。

 

「クソッ! 防御線を敷かれたか!!」

 

「A班! 上の方から行けるかっ!?」

 

『任せろっ!!』

 

しかし、西部歩兵達は段々となっている崖の内、大洗歩兵部隊が展開した所より上の段の方から、別の部隊が回り込もうとする。

 

「おっと! 此処は通行止めだぜっ!!」

 

だが、その前にも、右手に二式拳銃を持った隆太が立ちはだかった。

 

「お前達、倒すけど良いよな? 答えは聞かないけどな!」

 

「生意気な野郎めっ!」

 

「たった1人で何が出来るっ!!」

 

隆太の挑発の言葉に怒った西部歩兵達が、一斉に隆太に向かって銃撃する。

 

「よっ! ほっ! ハッ!」

 

しかし、隆太はブレイクダンスをしながら、その銃撃をかわす。

 

「コノヤロウッ! ふざけやがってっ!!」

 

踊りながら自分達の弾をかわす隆太に、西部歩兵達は怒りを募らせる。

 

と………

 

「バーンッ!」

 

不意に隆太は、ブレイクダンスのアクロバティックな姿勢のまま、二式拳銃を発砲した!

 

「ぐあっ!?」

 

1人の西部歩兵が、その弾丸で頭に命中弾を喰らい、戦死と判定される。

 

「何っ!?」

 

「バンッ! バンッ! バーンッ!!」

 

別の西部歩兵が驚きの声を挙げる中、隆太は子供の様に発砲音を口で響かせながら、ブレイクダンスのアクロバティックなポーズを次々に決めて、その都度に発砲する。

 

「がはっ!?」

 

「ギャッ!?」

 

その弾が次々に西部歩兵達に命中し、次々と戦死判定者を出して行く。

 

「隆太、大丈夫か?」

 

「うええ、漸く狭苦しい場所から出たかと思ったら、最前線かよ………」

 

とそこで、近くに在った坑道への出入り口から、弘樹と了平が出て来る。

 

「ああ、兄さん。別に如何って事ないさ、コレぐらい」

 

『準備、完了しました!』

 

隆太が弘樹にそう返した瞬間に、通信回線に灰史の声が響いた。

 

「良し! やれ、水谷くん!」

 

『ハイ!………爆破ッ!!』

 

弘樹の指示に灰史がそう返すと、爆発音と振動が坑道エリアに響いた!

 

『!? 何っ!?』

 

シャムが驚きの声を挙げると………

 

坑道の出入り口から、大量の水が噴き出して来た!!

 

「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

余りの水の量の前に、坑道内に残っていた西部歩兵達だけでなく、残っていた2両のローカストも流し出されて来る。

 

そして、大量の水によって、辺り一面の地面がぬかるみ始める。

 

『地盤を緩ませて、コッチの動きを封じる積りね………けど、このT28の4重履帯なら!』

 

だが、4重の履帯を持つT28は、泥沼状態の地面でも問題無く動いて見せる。

 

と、その時!!

 

「…………」

 

陣がまたもやラハティ L-39 対戦車銃を発砲する。

 

そして、放たれた弾丸が、T28の左上面部に命中したかと思うと………

 

何と、T28の左外側の履帯が車体から外れた!

 

『えっ!?』

 

シャムが驚きの声を挙げた瞬間に、再び20ミリ弾がT28の今度は右上面部に命中。

 

すると今度は、右外側の履帯が外れる!

 

『右外部履帯脱落!』

 

『!? まさかっ!?』

 

操縦手の報告を聞いたシャムが、ハッチから飛び出して『ある物』を確認する。

 

「! やっぱり! 履帯の固定器具を!?」

 

そう………

 

先程からの陣の攻撃………

 

それは、T28の外側の履帯を固定している器具を狙っていたのだ。

 

履帯が2本になり、接地圧が下がったT28は、ぬかるんだ地面に埋まり始める。

 

「! いけないっ!!」

 

「良し、今だ! 白鳥くんっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

シャムが声を挙げた瞬間に弘樹がそう叫び、彼が居る場所から1つ上の段の崖の上に、パンツァーファウストを構えた弁慶が姿を見せる。

 

「うおおおおっ!! させるかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

だがそこで、弘樹達の居る段と同じ段の崖の上に居た西部歩兵の1人が、弁慶目掛けて手榴弾を投擲した!

 

「!? うわぁっ!?」

 

幸い爆発の殺傷範囲からは逃れたが、爆風に煽られ、弁慶はパンツァーファウストを手放してしまう。

 

「白鳥くん!? チイッ!!」

 

弁慶の心配をしつつも、四式自動小銃で西武歩兵達を射撃する弘樹。

 

「あわわわっ!? やばいじゃん!!」

 

そんな中であわあわするばかりの了平。

 

と、そんな了平の傍に………

 

弁慶が手放してしまったパンツァーファウストが落ちて来る。

 

「!!」

 

そのパンツァーファウストを見てハッとする了平。

 

そして、反対側の崖の方を見やると、採掘品を運ぶ為に空中に張られたロープに付いている滑車が目に入る。

 

丁度その張られているロープは、T28の真上を通過している。

 

「…………」

 

了平は、考え込む様な素振りを見せる。

 

「クソッ! うっとおしいなっ!!」

 

「そこか!………」

 

隆太と弘樹は、西部歩兵達への対処で手一杯の状態である。

 

「………よ、よおし! 俺だって!!」

 

とそこで、了平はパンツァーファウストを拾い上げると、滑車の方へと向かう了平。

 

「! 綿貫先輩!?」

 

「了平っ!?………! 隆太! 了平を援護しろ!!」

 

「! ハイッ!!」

 

了平の突然の行動に驚く2人だったが、弘樹はすぐに何をする気なのかを悟り、隆太に援護する様に言う。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

了平はパンツァーファウストを片腕に抱え、もう片方の腕で滑車にしがみ付く。

 

「ア~ア~ア~ッ!!」

 

そしてターザンの様な声を挙げながら、滑車で空中のロープを滑って行く。

 

そのままT28の頭上に差し掛かると、パンツァーファウストを向ける。

 

「喰らえっ!………アレッ?」

 

しかし、引き金を引いても弾頭が発射されない………

 

如何やら、先程落下した際に、壊れてしまっていた様である。

 

「チキショーッ! マジかよっ!?」

 

嘆く了平。

 

このままではT28の頭上を素通りしてしまう。

 

「…………」

 

そこで了平は、覚悟を決めた顔になった。

 

「………おりゃあっ!!」

 

何と!

 

滑車から手を離し、T28目掛けて落下する!!

 

「!? ヤバイッ!!」

 

その了平の姿を見たシャムが、反射的に車内へ引っ込む。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! コレで俺もモテモテにぃーっ!!」

 

そしてそのまま………

 

パンツァーファウストの弾頭を、T28の上面………エンジンルーム部分へ叩き付けた!!

 

途端に弾頭が爆発!!

 

巨大な爆煙が、立ち上る!!

 

「了平っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹が声を挙げ、他の大洗歩兵隊員達も爆発地点に注目する。

 

やがて、徐々に爆煙が晴れて行き、その中から………

 

戦死判定を受けて地面に倒れ伏せている了平と………

 

その傍で白旗を上げているT28の姿が露わになった。

 

「………見事だ、了平」

 

それを見た弘樹はそう呟き、ヤマト式敬礼をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の面子も、それに倣ってヤマト式敬礼を了平へと送るのだった。

 

『こちらカメさんチーム。残ってたローカストと西部の歩兵達が撤退して行くよ』

 

『追撃しますか!?』

 

とそこで、事前に坑道内から退避していたカメさんチームの杏とアヒルさんチームの典子からそう通信が入る。

 

「いえ、我々の目的は果たしました。本隊に合流しましょう」

 

『りょ~か~い』

 

『分かりました』

 

「………撤収するぞ。本隊に合流だ」

 

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

 

杏と典子にそう返すと、傍に居た歩兵隊員達にもそう言い、アッセンブルEX-10は大洗機甲部隊の本隊へ合流に向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

T28撃破の為に、坑道を利用したゲリラ戦を展開したアッセンブルEX-10だったが、敵の立て直しが早く、苦戦を強いられる。
だが、灰史が地下水が染み出しているのを発見し、天竺&ジョロキア機甲部隊との練習試合で使った、泥濘を利用する手を考える。
陣のアシストもあって、護衛部隊を排除し、T28の動きを封じる事に成功する。
そして最後は、了平の捨て身の攻撃のより、T28撃破に成功。
任務を果たしたアッセンブルEX-10は、本隊へ帰還するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第131話『荒野の戦いです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第131話『荒野の戦いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部機甲部隊との試合にて………

 

観測機の援護を受けたT28の超長距離攻撃に晒された大洗機甲部隊は………

 

弘樹を部隊長とした、少数精鋭の特務部隊『アッセンブルEX-10』を編制………

 

鉱山エリアに陣取っていたT28の撃破に向かった………

 

激戦の末に、了平の決死の犠牲もあって………

 

アッセンブルEX-10は、T28の撃破に成功したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所………

 

T28を撃破した弘樹の率いる特務部隊・アッセンブルEX-10は、大洗機甲部隊の本隊へ合流した。

 

「綿貫さんが………」

 

「勇敢な最期でした………」

 

了平が己の身と引き換えにT28を倒したと言う報告を聞いたみほが表情を曇らせる。

 

「気にすんな、西住ちゃん。寧ろ、褒めて………いや、詰ってやった方が、アイツの場合喜びそうだぜ」

 

「想像出来るのが何か嫌ですね………」

 

とそこで、そんなみほをフォローするかの様に地市がそう言い、楓がそう光景が容易に想像出来て苦笑いする。

 

「………それで、歩兵の損害は軽微。戦車の方も大丈夫だったんですね」

 

「ハッ! カメさんチームの38tが足回りにダメージを受けていましたが、今工兵部隊が応急で整備を行っています」

 

まだ試合中である為、何時までも気にしては居られないと、みほは気持ちを切り換えて、次の報告を受ける。

 

「チャーフィーの部隊は?」

 

「T28が撃破された事を察すると引き揚げて行きました。コチラも損害を受けたけど、幸い戦車は皆無事だよ」

 

今度は弘樹の方がみほに尋ねると、みほは全員が無事な戦車チームと、移動用等の車両に損害を受け、戦死判定を受けた歩兵達が運ばれて行くのを見ながらそう返す。

 

「それで総隊長殿。次の手は何だい?」

 

そこで迫信が割り込んで来て、今度の動きについてみほに尋ねる。

 

「あ、ハイ………T28が消えた以上、我々を一気に殲滅ないし、大打撃を与えるとしたら空爆、或いは………」

 

「シャーマン・カリオペか………」

 

みほが言わんとした事を、先んじる様に迫信が言う。

 

「ロケット弾の雨か………出来れば浴びたくないねぇ」

 

「って言うか、浴びたい人なんか居るんですかね………」

 

多連装のロケットランチャーを持つシャーマン・カリオペ。

 

もし、ロケット弾を一斉発射され、制圧爆撃でも行われたら堪ったものではない。

 

「兎に角、先ずは敵を見つけない事には何ともなりません。偵察兵の皆さんは広域偵察に出て下さい。但し、T28を撃破した事で敵は警戒を強めている筈です。十分に気を付けて下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこでみほからそう指示が出て、偵察兵達が遠距離偵察へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西部機甲部隊側では………

 

『ゴメン、クロエ! ゴメンッ!!』

 

「あ~、良いわよ。そんなに気にしないで」

 

涙声で通信機越しに謝って来るシャムに、クロエが軽い感じでそう返す。

 

「敵がそれだけ強かったって事よ。寧ろ私にとってみればこの上ない事よ。戦う相手は強ければ強い程、燃えて来るってもんよ」

 

『でも! 私!………』

 

「ええいっ! 喧しいっ!!」

 

『!?』

 

尚もシャムが謝罪の言葉を続けて来ると、クロエは突然怒鳴る。

 

「良いっ!? 私が気にするなって言ってるの! だから気にすんじゃないわよ!!」

 

『クロエ………』

 

「まだ来年もあるんだから。そん時にリベンジしてやりなさい。まあ、やる以上は勝ちに行くけどね」

 

『! うんっ!!』

 

「じゃ、後は応援の方、よろしくね」

 

最後にそう言い、クロエは通信を切った。

 

「クッ! まさかこんなにも早くT28を撃破されるとは………それも小人数の歩兵と軽戦車の部隊に!!」

 

とそこで、オセロットが忌々しげな声を挙げる。

 

「歩兵と戦闘車輌にある程度損害を与えたが………戦車は1輌も撃破出来ずか」

 

「ま、流石にココまでの試合を勝ち抜いて来ただけはあるねえ」

 

レオパルドも苦々しげにそう言うと、ジャンゴは飄々とした様子を崩さない。

 

「で? 如何すんだ? 総隊長殿?」

 

そこで、パンサーがクロエに向かってそう尋ねる。

 

「………大洗の連中がフラッグ車以外で次に狙うとしたら、ノーラのカリオペね」

 

クロエは、西部機甲部隊の戦車搭乗員『ノーラ』の乗るシャーマン・カリオペに視線をやってそう言う。

 

「アラ? 私ですの?」

 

シャーマン・カリオペの車長・ノーラが、御淑やかそうな声でそう返す。

 

「ええ、だから………悪いけど、囮頼める?」

 

「ハイ、お任せ下さい」

 

まるでお使いに行って来てとでも言う様な感覚で囮役を頼むクロエと、それをアッサリと了承するノーラ。

 

「良い。場所は此処よ」

 

とそこで、クロエは地図を取り出し、ノーラに見える様に向けて、ある地点を指差す。

 

「分かりましたわ」

 

「序にフラッグ車も付けてあげますか。ミケ、とりお・ざ・きゃっつ、良いわね」

 

更にクロエは、フラッグ車であるM5軽戦車・スチュアートの方を見ながらそう言う。

 

「OK! 僕に任せてっ!!」

 

「了解です」

 

「分かりました~」

 

「イエーイッ!」

 

車長のミケ、砲手のラグドール、操縦手のスコッティ、通信手のマンチカンが其々に返事を返す。

 

「………で、パンサー。やれるわね」

 

と更にそこで、クロエはパンサーにそう言った。

 

「フッ、誰に言ってるんだ?」

 

パンサーは不敵に笑ってそう返す。

 

「フフ………よおし! それじゃあ第2作戦と行くわよっ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

クロエの声に、西部機甲部隊から勇ましい返事が返って来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

再び、大洗機甲部隊の本隊では………

 

『コチラ大空。A地点に敵影は無し』

 

『銅だ。B地点にも敵は居ない。引き続き偵察を続行する』

 

『C地点の竹中です。こちらにも敵の姿は確認出来ません』

 

ポイントへの偵察に出ていた偵察兵達から、次々に敵影無しの報告が挙がる。

 

「コレで3つのポイントに敵影は無しか………」

 

「T28がやられたので、警戒して後方に下がっているのでは?」

 

ハッチから姿を晒し、広げている地図の敵影が無かった場所に×印を書き込みながら、偵察が次々に空振りに終わった事を不審に思うみほに、車内の優花里がそう言う。

 

「普通ならそうかも知れないけど、何ていうか………あのクロエさんって人………普通じゃない気がするの」

 

「確かに………猛獣みたいな感じがしたな」

 

みほがそう返すと、麻子もそんな事を言う。

 

『杷木です、Dポイントに敵を発見しました』

 

とそこで、拳龍から敵発見の報告が入って来た。

 

「杷木先輩! 詳細をお願いします!」

 

それを受けた沙織が、無線機を調節しながら拳龍に、発見した敵の詳細を問い質す。

 

『ちょっと待って………えっ!?』

 

「? 如何しました?」

 

すると拳龍から驚きの声が挙がり、みほがそう問い質す。

 

『敵は………シャーマン・カリオペ。それに………フラッグ車のM5軽戦車』

 

「!? 本当ですかっ!? 他に敵は!?」

 

『間違いないよ。他に敵の姿は見えない………』

 

優先目標とフラッグ車が固まっている事にみほは驚きの声を挙げるが、拳龍は間違いないと返す。

 

「フラッグ車と優先目標車が都合良く固まっている上に、護衛部隊の姿も無し………」

 

「何か、話が美味し過ぎない?」

 

「如何言う積りでしょう?」

 

「間違いなく罠だな………」

 

余りに都合の良い展開に優花里、沙織、華は訝しみ、麻子は罠だと予測する。

 

「しかし、折角発見したフラッグ車を放っておくと言うのもな………」

 

「………Dポイントは岩場かぁ」

 

俊がそう言うと、みほは地図を見ながらフラッグ車とシャーマン・カリオペの居るDポイントが、戦車も余裕で隠れられるくらいの大きな岩が多数点在する場所である事を確認する。

 

「西住総隊長、如何致しますか?」

 

と、弘樹がみほにそう尋ねると………

 

「………Dポイントへは、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、それにカバさんチームとワニさん分隊が向かって下さい」

 

「分かりました!」

 

「お! 出番かいな!」

 

「ヤヴォール!」

 

「分かった」

 

みほがそう指示を出し、典子と大河、エルヴィンと磐渡が返事を返す。

 

「残りの皆さんは、念の為にDポイント近くまで移動してそこで待機します」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

続けてみほがそう指示を出すと、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、それにカバさんチームとワニさん分隊が先行し、それを追う形で大洗機甲部隊は進軍を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dポイント………

 

戦車が隠れられる程の巨大な岩が多数点在する岩場………

 

「停止。此処で待機する」

 

「了解ぜよ」

 

岩場の入り口付近に姿を見せたⅢ突が、岩場の陰に車体を隠す様にして停止する。

 

「ワニさん分隊、配置完了だ」

 

更にその周りには、同じ様に岩陰やⅢ突の陰に隠れたり、蛸壺を掘って隠れているワニさん分隊の姿が在る。

 

「アヒルさんチーム、ペンギンさん分隊、任せたぞ」

 

「了解っ!」

 

「ほな、行くでぇ!」

 

そして、アヒルさんチームの八九式と大河を筆頭にしたペンギンさん分隊が岩場の中へと足を踏み入れいて行く。

 

如何やら、アヒルさんチームとペンギンさん分隊が囮となり、フラッグ車ないしシャーマン・カリオペをⅢ突の前に引き摺り出す作戦の様だ。

 

高さだけでも10メートル近くある巨大な岩と岩の間を、八九式とペンギンさん分隊の面々は縫う様に進んで行く。

 

「気を付けえぃ。敵は何処から来るか分からんでぇ」

 

アルコン M-1943を携えた大河が、周囲を警戒しながら分隊員達にそう呼び掛ける。

 

すると、その時………

 

ペンギンさん分隊の居る岩と岩の間の上を、何かが飛び越えて行った。

 

「………うん?」

 

「如何した、東郷?」

 

それに気づいた様に武志が空を見上げると、大詔がそう尋ねて来る。

 

「今、上を何かが通り過ぎなかったかい?」

 

「上を?」

 

「鳥じゃないですか? 幾ら何でも、この岩と岩の間を何て………」

 

と、そう言っていたペンギンさん分隊の隊員の傍に、何かが落ちた。

 

「ん?………」

 

ペンギンさん分隊の隊員が視線をやるとそこには………

 

安全ピンの抜かれた手榴弾が落ちていた。

 

「へっ?………」

 

「! 手榴弾だ! 伏せろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

ペンギンさん分隊の隊員が思わず呆然となってしまうと、大詔がそう叫んで、他の分隊員達は一斉に飛び退いて地面に伏せる。

 

直後に手榴弾は爆発した!

 

「! ぎゃああああっ!?」

 

爆風と破片を諸に浴びたペンギンさん分隊の隊員は、黒焦げになって倒れ、そのまま戦死と判定される。

 

「な、何やっ!?」

 

と、地面に伏せていた大河が顔を上げながらそう言った瞬間………

 

今度は八九式目掛けて、対戦車地雷が降って来た!

 

「! チイッ!!」

 

すぐさまアルコン M-1943を発砲する大河。

 

放たれた銃弾は、八九式に降り注ごうとしていた対戦車地雷に命中。

 

ギリギリのところで爆発させた!

 

「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

「何々っ!? 何が起こったのっ!?」

 

あけび、忍、妙子の悲鳴が挙がる中、典子はハッチを開けて車外に姿を晒し、状況を確認しようとする。

 

すると日々のバレーボールによる修練の賜物か、典子は岩と岩の間を飛び交っている影を目撃する。

 

「! 上だぁっ! 上に何か居るっ!!」

 

「上だと!?」

 

「んな馬鹿な!? このデカい岩の上に!? しかも結構な間が空いてる岩と岩の間を跳んでっ!?」

 

典子がそう声を挙げると、ペンギンさん分隊の面々から戸惑いの声が挙がる。

 

「! もしや………『アイツ』か!?」

 

そこで大詔が、西部学園に潜入した際に出会い、実際にコンタクトもした『ある人物』を思い浮かべる。

 

と、その瞬間!!

 

黒い影が岩と岩の間を自在に飛び回りながら、次々に手榴弾を落として来た!!

 

「! 散れっ! 散るんやぁっ!!」

 

「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大河の言葉で、一斉に散開するペンギンさん分隊の面々。

 

直後に落ちて来た手榴弾が爆発!!

 

辺り一面が爆炎と砂塵に包まれる!!

 

「ぬおおおおおっ!?」

 

「ハハハハ! 如何だい、大洗のソルジャー達っ!!」

 

爆風に煽られて地面に倒れた大河が思わず声を挙げた瞬間、頭上からそう言う声が降って来た!

 

「!?」

 

その声に反応して、顔を上げて上を見やる大河。

 

そこには、岩の上に佇むブラックパンサーの姿が在った。

 

「! パンサーッ!!」

 

「よお、ブラザー。この間は見送り出来なくて悪かったな。だから今日は………地獄への見送りに来てやったぜ!」

 

パンサーの姿を見た大詔が反応した瞬間、パンサーはまたも岩と岩の間を跳躍し、手榴弾を落として来る。

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

真面に爆風を喰らったペンギンさん分隊の隊員数人が、纏めて戦死判定を受ける。

 

「コナクソッ!!」

 

「そこだっ!!」

 

そこで大河がアルコン M-1943を、武志がバズーカをパンサー目掛けて放つ。

 

「ハハッ! 無駄無駄っ!!」

 

しかし、パンサーはまるで重力を無視しているかの様な跳躍を繰り返してかわす。

 

「! 何や!? あの動きはっ!?」

 

「まるで彼だけ無重力の宇宙空間にでも居る様な感じですね………」

 

大河が驚愕の声を挙げ、武志も冷や汗を流す。

 

「アレじゃ攻撃が当たりませんよ」

 

「せめてコッチも同じ場所に行ければ………」

 

「でも、如何やってこの岩の上に行けば………」

 

巨大な岩の上を自在に飛び回るパンサーに手が出せないペンギンさん分隊の隊員からそんな声が挙がる。

 

「いや、この場に1人居るな………対抗出来る奴が………」

 

しかしそこで………

 

大詔がそんな事を呟いた。

 

 

 

 

 

Dポイントの岩場………

 

巨大な岩の上………

 

「連中手も足も出てないな。まっ、俺の無重力の足をもってすりゃ、ザッとこんなもんか」

 

岩の上で、勝ち誇る様に仁王立ちしながら、パンサーは笑みを浮かべる。

 

と、その時!!

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトと共に、有り得ない様な大跳躍をしてきた1つの影が、パンサーと同じ岩の上に立った!

 

殺戮者のエントリーだ!!

 

「!?」

 

驚きながら、その影を見やるパンサー。

 

「ドーモ。ブラックパンサー=サン。葉隠 小太郎です」

 

その人物………小太郎は、パンサーに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「! ドーモ。葉隠 小太郎=サン。ブラックパンサーです」

 

するとパンサーは、片掌にもう一方の拳をつける姿勢を取り、オジギを返した。

 

「ほう?………どうやらニンジャの心得があるようでござるな」

 

アイサツを終え、戦闘態勢に入った小太郎が、パンサーにそう言い放つ。

 

「忍道を受講してた事もあったからな。しかし、ブラザーと一緒に居たお前がニンジャだったとはな………ニッポンに来た甲斐があったぜ!」

 

やはり外人はニンジャが好きなのか、若干興奮した様子を見せているパンサー。

 

「ならば遠慮はせん。西部学園倒すべし。慈悲は無い」

 

しかし、小太郎はすぐに殺気を漲らせ、カラテの構えを取った。

 

「行くぜ、ジャパニーズニンジャ! このパンサー様の動きを捉えられるかぁっ!!」

 

「イヤーッ!!」

 

そしてそのまま、両者は岩と岩の間を稲妻を描く様に跳び回り、戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

了平の尊い犠牲(?)でT28を撃破した大洗機甲部隊。
しかし、西部機甲部隊の総隊長であるクロエは動じる事なく、T28に次いで火力のあるシャーマン・カリオペとフラッグ車を囮にすると言う大胆な戦術に出る。

発見したシャーマン・カリオペとフラッグ車に対し、罠を警戒して少数部隊で攻撃を仕掛けさせるみほ。
だが、その少数部隊に選ばれたアヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊に、無重力の足で自在に跳び回るパンサーが襲い掛かる。
それに対して立ち向かったのは………
ニンジャである小太郎だった!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第132話『ニンジャVS豹です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第132話『ニンジャVS豹です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹率いる特務部隊アッセンブルEX-10の活躍で………

 

T28を撃破する事に成功した大洗機甲部隊。

 

次なる目標はシャーマン・カリオペと定めたが………

 

それを読んでいたクロエは、大胆にもシャーマン・カリオペとフラッグ車であるM5軽戦車・スチュアートを囮にする。

 

囮となったシャーマン・カリオペとフラッグ車の撃破に向かった、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊だったが………

 

巨大な岩場を利用し、頭上からの攻撃を仕掛けて来た『無重力の足』を持つ西部歩兵『ブラックパンサー』の襲撃に遭う。

 

岩と岩の間を自在に跳び回るパンサーを攻めあぐねるが………

 

そのパンサーの前に、小太郎が立ちはだかった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所のDポイント………

 

戦車が隠れられる程の巨大な岩が多数点在する岩場………

 

「そらっ!!」

 

ピースメーカーをファニングと呼ばれる、西部劇などで見かける早撃ちの仕方で連射するパンサー。

 

「イヤーッ!!」

 

しかし小太郎は飛んで来た銃弾に向けてスリケンを投擲し、全て弾き落とす。

 

「ヒューッ! やるねぇ! 流石はニンジャだっ!!」

 

「カラテあっての事よ………イヤーッ!!」

 

排莢をして、新たな弾丸を込めながらパンサーが言うと、小太郎はそう返しながら、腕を鞭の様に撓らせて、今度はクナイを投擲する。

 

「おっと!」

 

寸前で装弾を終えたパンサーは跳躍。

 

クナイは先程までパンサーが居た場所に突き刺さる。

 

一方、跳躍したパンサーは、別の岩の上まで移動する。

 

「じゃあ、今度はコイツだっ!!」

 

するとパンサーは、背負っていたブローニングM1918自動小銃を構えた。

 

「チイッ! イヤーッ!!」

 

流石に機関銃の弾幕は撃ち落とせないのか、小太郎は岩の間を跳び回り、狙いを定められない様にする。

 

「逃がすかってんだっ!!」

 

だが、パンサーも同じ様に岩の間を跳び回りながら小太郎を追い、その状態のままブローニングM1918自動小銃を連射して来た!!

 

(ぬうっ! 空中で射撃姿勢を全くブレさせないとは………やはり此奴、出来る!)

 

跳び回って居て、空中で射撃姿勢を取っているにも関わらず、自分の至近距離を弾丸が飛ぶのを見て、パンサーの強さに改めて感嘆する小太郎。

 

「(だが、足止めぐらいは出来る)皆の衆! 此奴は拙者が相手をするでござる! 今の内にフラッグ車を!!」

 

「! 此処は小太郎の奴に任せるんだ!」

 

小太郎が叫ぶのを聞いた大詔が、散っていたペンギンさん分隊の隊員達とアヒルさんチームにそう呼び掛ける。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを受けて、アヒルさんチームとペンギンさん分隊の隊員達は、敵フラッグ車の元へと向かう。

 

「行かせるかっ!………! おっとっ!?」

 

そうはさせないと手榴弾を取り出し、また頭上から見舞おうとしたパンサーだったが、そこでスリケンが目の前を掠める。

 

「お主の相手は拙者でござる!」

 

「ガッデムッ!!」

 

そう言い放つ小太郎に向かって、舌打ちしながら叫ぶと、通信機を取り出すパンサーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

囮となっている西部機甲部隊のフラッグ車のM5軽戦車・スチュアートと、シャーマン・カリオペは………

 

『ソーリー、抜かれた! エィティナインとソルジャー達がそっちに向かった!』

 

「了解しましたわ。後はお任せ下さい」

 

砲塔から姿を晒した状態でいたノーラが、パンサーからの通信を受け、落ち着いた様子でそう返事を返した。

 

「パンサーが突破されたの?」

 

すると、同じ様に砲塔から姿を晒していたミケがそう尋ねて来る。

 

「ええ、何でも、ニンジャに足止めを受けてるとか………」

 

「! ニンジャ! スゴーイッ!! 大洗にはニンジャが居るんだっ!!」

 

と、ノーラからニンジャと言う言葉を聞いたミケは、目を輝かせ始める。

 

「サムライがナンバー1だけど、ニンジャも良いよね~………フウマは居るか! ハッ! 殿、此処に! 貴様の腕を見込んでこの仕事を任せる!!」

 

やがて興奮の余り妄想の世界に入り込み、1人小芝居が始まる。

 

「オノレ、何奴! さては伊賀者か!? 忍のさだめにてお命頂戴仕る! キャ~ッ! なんちてなんちて!!」

 

「うふふ………ミケさんって、本当に愉快なお方ですね」

 

そんなミケを叱るどころか、笑いを零しながらそう評するノーラ。

 

「! あっ!? またやっちゃった………」

 

「やれやれ、その癖だけは治らないね」

 

「ミケの妄想癖には困ったものですわ」

 

「そうかな? 私は面白いと思うけど」

 

スチュアートに同乗しているスコッティ、ラグドール、マンチカンのとりお・ざ・きゃっつからもそんな声が挙がる。

 

「取り敢えず、一旦後退しましょう。パンサーさんが突破されたとなれば、敵はすぐにでも来ますわ」

 

「見つけたっ!」

 

「フラッグ車とカリオペや!」

 

と、ノーラがそう言った瞬間にそう言う声が響き、砲塔から典子が姿を見せている八九式と、大河を先頭にしたペンギンさん分隊の面々が現れる。

 

「アラ? 思ったよりかなり早かったですわね」

 

「ノーラ! カリオペで蹴散らしちゃえっ!!」

 

その様子を見ても態度を変えないノーラに、ミケがそう言うが………

 

「こんな狭い場所でロケット弾なんかを使ったら自滅の可能性が有りますわよ。先ずは後退ですよ」

 

ノーラはそう言って車内に引っ込む。

 

「分かった」

 

するとミケも、それ以上何か言う様な事はせず、ノーラと同じ様にスチュワートの車内に引っ込むと、スチュワートが後退を始める。

 

「逃がすかぁっ! あけび、撃てっ!!」

 

「ハイッ!」

 

そうはさせるかと、典子があけびに命じると、八九式の主砲が火を噴いた!

 

だが、そこでシャーマン・カリオペがスチュワートの前に出たかと思うと、八九式の砲弾はシャーマン・カリオペの正面装甲に当たり、火花を散らして明後日の方向へ弾かれた。

 

「ああ、クソッ!」

 

「典子ちゃん、下がってっ!!」

 

するとそこで今度は、バズーカを構えた武志が前に出る。

 

だが、シャーマン・カリオペは車体機銃のM1919A4機関銃を掃射して来る!

 

「! うわっ!?」

 

命中はしなかったが、弾丸が目の前の地面を耕す様に掠め、射撃姿勢を崩してしまう武志。

 

更にそこで、シャーマン・カリオペの主砲が指向し、アヒルさんチームとペンギンさん分隊に向けられる!

 

「! マズイッ! 逃げえいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大河がそう声を挙げた瞬間に、八九式は岩陰に隠れ、ペンギンさん分隊の面々も方々に散らばる。

 

直後にシャーマン・カリオペが主砲を発砲!

 

砲弾が岩肌に命中し、岩の破片を撒き散らす。

 

「すみません! カリオペが付いたままでは狙い辛くて………」

 

「構いませんわ。牽制にはなるでしょうし………榴弾の装填、お願いします」

 

「ハイ!」

 

外して謝るシャーマン・カリオペの砲手に、ノーラがそんな事を言っていると、装填手が榴弾を装填する。

 

「同軸機銃での射撃もお願いします」

 

「了解!」

 

砲手にそう命じ、同軸機銃での攻撃も開始するシャーマン・カリオペ。

 

「発射っ!」

 

更に、榴弾も発砲する。

 

「チイッ! コレじゃあ身動きが取れんぞ!」

 

「アヒルさんチームよりカバさんチームへ! 敵の誘い出しは失敗! フラッグ車とシャーマン・カリオペは離脱を始めています!」

 

『了解! 先回りする!!』

 

大河がそう叫ぶと、妙子がカバさんチームへそう通信を送り、エルヴィンからそう返事が返って来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カバさんチーム&ワニさん分隊………

 

岩場の中を避け、大回りで回り込みを掛けているカバさんチームのⅢ突とそれに随伴しているワニさん分隊。

 

「急げっ! 敵が後退するとすれば、多分この先からだ!!」

 

「分かってるぜよっ!!」

 

「急げ、急げ!」

 

「シュトゥルムよ、今が駆け抜ける時!」

 

両者とも、敵フラッグ車とシャーマン・カリオペよりも早く攻撃地点に着く為、全速で飛ばしている。

 

「ストップ! 此処だっ!!」

 

「ぜよっ!」

 

やがて目標地点に着いた事に気付いたエルヴィンがそう言うと、おりょうはⅢ突を横滑りさせる様に停止させる。

 

ワニさん分隊の面々も停止すると、砲兵が対戦車砲を設置し、他の歩兵隊員達は蛸壺を掘ったり、岩陰に隠れたりする。

 

「如何やら、先回りには成功したみたいだな」

 

「よおし、出て来たところで一斉攻撃だ」

 

磐渡がそう呟くと、パンツァーファウストを携帯している重音がそう言い放つ。

 

やがて、岩場の方からエンジン音と履帯の音が聞こえて来る。

 

「! 来るぞ! 攻撃用意っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

磐渡の声が挙がると、一斉に獲物を構えるワニさん分隊の面々。

 

「一意専心………」

 

左衛門佐も、照準器を覗き込んで精神を集中させる。

 

やがて、その照準器の中に………

 

シャーマン・カリオペとスチュワートの姿が現れる。

 

「! 見えた! 貰っ………!? うわっ!?」

 

レティクルが重なり、引き金を引こうとした瞬間に、Ⅲ突内に振動が走った。

 

「! 後ろだっ!?」

 

それが後ろから飛んで来て、Ⅲ突を掠める様に着弾した砲弾で有った事を目撃していた鷺澪が、自分の付いて居る7.5 cm PaK 40を後方に向けながらそう叫ぶ。

 

何時も間にかカバさんチームとワニさん分隊の後方からは、M4A3シャーマン8輌と、騎兵部隊が迫って来ていた!

 

「!! M4A3! 何時の間に! クソッ! おりょう! 反転して岩を背にしろっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

シャーマン・カリオペとスチュワートを狙っていたⅢ突も、反転して岩を背にすると、背後から来ていたM4A3に砲門を向ける。

 

「左衛門佐、撃て! この距離なら正面装甲だろうと余裕で貫ける!!」

 

「任せろっ!!」

 

エルヴィンの指示で、左衛門佐がトリガーを引き、Ⅲ突の主砲が火を噴く。

 

だがそこで………

 

8輌のM4A3達を追い抜く様に、新たなシャーマンタイプの戦車が前に出て来たかと思うと、Ⅲ突が放った砲弾を、正面装甲で受け止める!

 

そして、火花と共に明後日の方向へと跳ね返す!

 

「!? 何っ!? シャーマンがⅢ突の弾を弾いたっ!?」

 

照準器越しに見えていたその光景に、左衛門佐は信じられないと言う声を挙げる。

 

「!? アレは!?」

 

だがそこで、エルヴィンはそのシャーマンが、西部戦車部隊のメンバーであるブチの乗る車両………装甲強化型のM4A3E2・ジャンボである事に気付く。

 

「マズイ、ジャンボだ! 奴の装甲厚は最大で152mm有る! Ⅲ突の主砲でも無理だ!!」

 

と、エルヴィンがそう声を挙げた瞬間に、ジャンボを中心にしたM4A3の軍団が、次々に発砲して来た!

 

Ⅲ突とワニさん分隊の面々の周辺で、次々に火柱が上がる!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

カバさんチームとワニさん分隊から悲鳴が挙がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

パンサーと戦う小太郎は………

 

「おりゃあっ!」

 

「イヤーッ!」

 

パンサーが投げて来た手榴弾を、スリケンで迎撃する小太郎。

 

だが、そのスリケンが刺さった手榴弾が爆発したかと思うと、その爆煙の中から新たな手榴弾が現れる!

 

「!?」

 

ウカツ!

 

パンサーは最初の手榴弾が迎撃される事を見越して、その陰に隠す様に2個の手榴弾を投擲していたのである。

 

ワザマエ!

 

「ぬうっ!」

 

咄嗟に上空へと跳ぶ小太郎。

 

「そこだぁっ!!」

 

だが、その回避先を読んでいたパンサーが、ブローニングM1918自動小銃を発砲する。

 

「!? グアーッ!!」

 

無数の銃弾を浴びた小太郎の戦闘服がボロボロとなり、バランスを崩した小太郎はそのまま落下。

 

地面に落ちたかと思うと、派手に砂煙を上げた!

 

「やった! 勝ったぞっ! 俺は………ニンジャに勝ったぁっ!!」

 

小太郎を倒したと思ったパンサーは、キンボシ・オオキイとばかりに燥ぎ倒す。

 

「…………」

 

地面に落ちた小太郎は、仰向けに倒れたままピクリとも動かない。

 

(無念………ココまでか………荒野にて………風舞う砂に………我ともに………)

 

最早コレまでかと、ハイクを詠み、そのまま意識を闇に沈めようとする小太郎。

 

(イカン、小太郎! 真の敗北とは諦める事なり!)

 

だがその小太郎の脳裏に、叱咤する様な声でそんな言葉が過った。

 

(! 父上っ!!)

 

それは小太郎の父であり、師匠である『マスターニンジャ』の声だった。

 

(良いか! ニンジャのディクショナリーに諦めるの文字は無い! 諦める心に呑まれる事なかれ! 貴様の心の手綱を握るのは貴様自身よ! 分かったか! この馬鹿息子がぁっ!!)

 

どこぞのマスターアジアめいた台詞と共に、マスターニンジャの声が終わる。

 

そして、それと同時に、小太郎の脳裏に、マスターニンジャの教えが蘇る!

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトが木霊し、小太郎が再び、岩の上へと跳び上がって来た!

 

「!? 馬鹿な!? アレだけ銃弾を喰らって、起き上がれる筈が………」

 

「…………」

 

驚愕するパンサーをジッと見据える小太郎。

 

(良いか小太郎。力に力で対抗してはならぬ。速さで行くと決めたならば、飽く迄も速さを貫き通すべし。100発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、1発の力に頼ってはならぬ。1000発のスリケンを投げるのだ!)

 

小太郎の脳裏に過る師匠の教え。

 

そう、これぞ………

 

「インストラクション・ワン!  イヤーッ!!」

 

そう叫び、小太郎はスリケンを投擲!

 

「馬鹿野郎! それは俺には通用しねえぇっ!!」

 

パンサーはそう言い放ち、クイックドロウの様に抜き放ったピースメーカーでスリケンを撃ち落とす。

 

「イヤーッ!!」

 

そこで小太郎は2つ目のスリケンを投擲!

 

「無駄だっ!」

 

パンサーはピースメーカーを発砲して撃ち落とす!

 

「イヤーッ!!」

 

続け様に3つ目のスリケンが投擲される。

 

「!?」

 

それを撃ち落としながらも、異変に気付いた様子を見せるパンサー。

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎は4つ目のスリケンを投擲!

 

「コイツ!?………」

 

「イヤーッ!!」

 

4つ目のスリケンを撃ち落とした瞬間には、5つ目のスリケンが投擲される。

 

「! クソッ!」

 

そこでパンサーはヤバイと本能的に判断し、ピースメーカーを捨てるとブローニングM1918自動小銃に持ち替えて発砲する。

 

その瞬間!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎の身体がタツマキめいて回転を始め、無数のスリケンが次々に投擲され始めた!

 

「! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

様々な感情が入り混じった叫びを挙げながら、ブローニングM1918自動小銃を発砲してスリケンを撃ち落として行くパンサー。

 

「イヤーッ!!」

 

だが、小太郎のスリケンを投擲する速度は更に増して行く!

 

0.9秒、0.8秒、0.7秒、0.6秒、0.5秒………

 

最早その速さはマシンガンすら凌駕し始めた!

 

「コ、コレが! コレが本当のニンジャのイクサかよっ!?」

 

驚愕の声を挙げるパンサーは、迎撃に手一杯で無重力の足を使う暇が無い!

 

「イヤーッ!!」

 

そして遂に!!

 

小太郎のスリケン投擲速度は、最高潮を迎える!!

 

「!? た、弾がっ!?」

 

その瞬間に、パンサーのブローニングM1918自動小銃は弾切れを起こした!

 

「! グワーッ!!」

 

途端に、無数のスリケンは、パンサーの身体中に突き刺さり、パンサーはサボテンめいた姿となる!!

 

と、そんなパンサーを背後から羽交い絞めにする者が居た!

 

「西部歩兵………殺すべし!」

 

何時の間にか背後に回っていた小太郎だ!

 

「!?」

 

「慈悲は無いっ!!」

 

お馴染みの台詞と共に空高く跳び上がる。

 

そしてパンサーと共に逆さまになったかと思うと、そのまま高速回転して地面に向かった!

 

ジュー・ジツの禁じ手のヒサツ・ワザ!

 

『アラバマオトシ』だ!!

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!!」

 

自分と小太郎の体重に急降下の勢いを加えた衝撃を、全て脳天で受けるパンサー!

 

両者はそのまま、地面の上に倒れる。

 

「サヨナラッ!」

 

パンサーがそう断末魔を挙げると、爆発四散したかの様なアトモスフィアで戦死判定を受けた。

 

「………申し訳ござらん、皆の衆………拙者はココまでござる………」

 

だが、小太郎も限界だったのか、そう呟いて目を閉じたかと思うと、やや間が有って戦死判定が下ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、M4A3とジャンボ、西部騎兵部隊に襲われたカバさんチームとワニさん分隊は………

 

「撃てぇっ!!」

 

鷺澪が号令を掛けると、砲兵達が7.5 cm PaK 40を発射する。

 

放たれた砲弾は、1輌のM4A3の側面へと向かうが、そこへまたもジャンボが割って入り、自慢の装甲で弾いてしまう。

 

「クッ! 駄目だ! 歯が立たねえっ!!」

 

「ならコイツで!!」

 

すると今度は、重音がパンツァーファウスト60を構えたが………

 

「させませんわ」

 

そこでジャンボが主砲を発砲!

 

「!? おうわっ!?」

 

榴弾が重音の近くに着弾し、重音は地面に倒れる。

 

「! 重音! しっかりしろっ!!」

 

「だ、大丈夫だ。掠り傷みたいだ」

 

磐渡が助け起こすが、幸い殺傷範囲内に入っておらず、運良く破片も直撃しなかった様で、重音の判定は軽傷判定だった。

 

だが、そこで今度は、ジャンボとM4A3部隊、騎兵部隊が一斉に機銃掃射を行って来る。

 

「! ヤベェッ!!」

 

咄嗟に重音を引き摺る様にして、岩陰へと退避する磐渡。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

しかし、真面に機銃掃射を浴びてしまったワニさん分隊の歩兵数名が戦死と判定される。

 

「オノレェ! ワニさん分隊員達の仇ぃっ!!」

 

そこで左衛門佐がそう叫び、Ⅲ突の主砲が火を噴く。

 

「前へっ!」

 

だが、またもやジャンボが前に出て、自慢の装甲を持って、Ⅲ突の主砲弾を明後日の方向へ弾き飛ばす。

 

「クウッ! またしても!!」

 

と、左衛門佐が悔しそうな声を挙げた瞬間………

 

苦戦しているカバさんチームとワニさん分隊の横を擦り抜ける様にして、スチュワートとシャーマン・カリオペが通過し、ジャンボ達の一団に合流した!

 

「! フラッグ車とカリオペが!!」

 

「クウッ! 合流されたか………」

 

カエサルとゾルダートがそう漏らす。

 

「ナイスタイミング、ブチ!」

 

「ありがとうございますわ、ブチさん」

 

「気にしないで下さい。ではノーラさん、手筈通りに………」

 

「了解ですわ」

 

ミケとノーラが、ブチとそう言い合ったかと思うと、ノーラのシャーマン・カリオペが反転し、カバさんチームとワニさん分隊の方を向いた。

 

「待てーっ!!」

 

「逃がさへんでぇっ!!」

 

するとそこで、そう言う声が聞こえて来て、シャーマン・カリオペとスチュワートを追って来たアヒルさんチームとペンギンさん分隊の面々が現れる。

 

「来ましたわね………」

 

その姿を照準器越しに確認したノーラが笑みを浮かべ、シャーマン・カリオペのロケット砲が稼働する。

 

「! アヒルさんチーム! ペンギンさん分隊! 来るなぁっ!!」

 

エルヴィンがそれに気づき、近づいて来ていたアヒルさんチームとペンギンさん分隊にそう叫んだが、遅かった………

 

「発射」

 

ノーラの無慈悲な号令と共に、シャーマン・カリオペのロケット弾が一斉発射される!

 

「「「「!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

ロケット弾の雨の前に、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊は一瞬で炎に包まれる。

 

「今だぁっ! 残敵を打ち取れぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、ジャンボ達の周辺に展開していた西部騎兵部隊が、生き残った大洗機甲部隊の面々を打ち取ろうと突撃する。

 

 

 

 

 

一方、ロケット弾の雨を浴びたアヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊は………

 

「う、うう………撃破されなかったのか?………!?」

 

思ったより衝撃が来なかった事に違和感を感じたエルヴィンが、観測装置を除いて驚愕する。

 

そこには、まるでⅢ突を守るかの様に側面を曝して白旗を上げている八九式の姿が在った。

 

Ⅲ突に向けているのと反対の側面には、ロケット弾が多数命中し、装甲が完全に焼け焦げている。

 

「アヒルさんチーム! 応答しろ!!」

 

「こ、此方アヒルさんチーム………カバさんチーム、無事ですか?」

 

すぐにエルヴィンが通信を送ると、通信手の妙子が応答する。

 

「馬鹿! 人の心配をしている場合か! 幾ら安全だからって、何て真似をしたんだ!!」

 

「だってⅢ突は大洗にとって貴重な火力じゃないですか!!」

 

「!?」

 

叱咤するエルヴィンだったが、すかさず典子からそう言う声が返って来て黙り込む。

 

「私達の八九式は火力に乏しいから、やられてもそんなに影響はありません」

 

「だから、取れる最善の手を取っただけです」

 

「アヒルさんチーム………」

 

あけび、忍からそう言う声が聞こえて、エルヴィンは身体を震わせる。

 

「行けーっ!!」

 

「トドメを刺せーっ!!」

 

とそこで、西部騎兵部隊の面々が突っ込んで来る。

 

「! 早く後退を!」

 

「本隊に合流して下さい!」

 

それを見て、アヒルさんチームからそう声が挙がる。

 

「………すまない………カエサル、榴弾装填!! 左衛門佐、牽制しろ!! おりょう、全力で後退だ!!」

 

「「「りょ、了解(でござる、ぜよ)!」」」

 

エルヴィンは一瞬逡巡した後、辛そうな表情でそう命じた!

 

Ⅲ突から牽制の榴弾が放たれ、突っ込んで来ていた西部騎兵部隊の中に着弾する。

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

「! Ⅲ突だ!!」

 

「何ぃっ!? あのロケット弾の中を生き延びてたってのかよ!?」

 

多数の西部騎兵が吹き飛ばされ、生き残った西部騎兵が、Ⅲ突が健在であった事に驚きの声を挙げる。

 

「生き延びた歩兵に告ぐ! 撤退するぞ! 見っとも無くても良い! 今は兎に角逃げろ!!」

 

そして更に、エルヴィンは生き残っていた歩兵達にもそう通信を送る。

 

「りょ、了解!」

 

「煙幕手榴弾投擲!」

 

それを受けて、ペンギンさん分隊とワニさん分隊の生き残っていた歩兵達が撤退に入り、煙幕手榴弾を投擲する。

 

辺り一面に、煙幕手榴弾の煙が立ち込める。

 

「クソッ! 煙幕かっ!?」

 

「うわぁっ!? どう! どうどうっ!!」

 

煙幕に驚いた西部騎兵隊の馬達が暴れ出し、西部騎兵部隊は身動きが取れなくなる。

 

「良し、今だ!!」

 

同時にⅢ突が後退。

 

生き残っていた大洗歩兵達も、そのガードを固めながら撤退して行く。

 

「やられっぱなしと言うのは主義ではない………」

 

とそこで、生き延びていたゾルダートがそう言ったかと思うと、シュトゥルムが嘶いて、足元に有ったパンツァーファウストを蹴り上げる。

 

「覚悟して頂く!」

 

その蹴り上げられたパンツツァーファウストをゾルダートが掴んだかと思うと、馬上で上向きに発射する!

 

放たれたパンツァーファウストの擲弾は、放物線を描く様に飛び………

 

盾となっていたジャンボの上を飛び越えて、後方に居た1輌のM4A3に命中した!!

 

「!? 何ですって!?」

 

撃破されたM4A3をペリスコープ越しに見て、ブチが驚きの声を挙げる。

 

「「!?」」

 

ミケとノーラにも動揺が走る。

 

そしてその間に、カバさんチームと残存大洗歩兵隊員達は、撤退する事に成功したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

無重力の足を持つパンサーの前に、小太郎は大苦戦。
だが、師匠である父の教え………インストラクション・ワンを思い出し、遂にパンサーを倒した。
………かに思われたが、自らも力尽き、相打ちとなる。

一方、フラッグ車とシャーマン・カリオペを狙ったアヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊も………
増援に現れたM4A3と騎兵部隊………
何よりジャンボの相手に戸惑っている内に………
シャーマン・カリオペのロケット弾が炸裂。
アヒルさんチームが身を呈してカバさんチームを庇ったが、ペンギンさん分隊とワニさん分隊は多大な被害を受け、撤退を余儀なくされたのだった………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第133話『大空のサムライとリボン付きです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第133話『大空のサムライとリボン付きです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T28に続き………

 

次なる脅威であるシャーマン・カリオペの撃破を狙う大洗機甲部隊の意図を読み………

 

フラッグ車のM5軽戦車・スチュワート共々囮に使った西部機甲部隊の総隊長・クロエ………

 

巨大な岩が点在する場にて、頭上から襲い掛かって来たブラックパンサーを、小太郎がその身と引き換えに倒したが………

 

ジャンボを中心に現れた増援部隊によって時間稼ぎをされ、シャーマン・カリオペとフラッグ車の合流を許してしまうカバさんチームとワニさん分隊………

 

そして、シャーマン・カリオペの無慈悲なロケット弾攻撃が襲い掛かったが、アヒルさんチームの捨て身の防御により、辛くもカバさんチームは生き残る。

 

悔しさを滲ませながら、カバさんチームは残存歩兵部隊を引き連れて、撤退したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・大洗機甲部隊が集結している地点………

 

「アヒルさんチームが………」

 

アヒルさんチームが撃破されたと言う報告に、みほは表情を曇らせる。

 

「私達の盾となってくれたんだ………」

 

エルヴィンも辛そうな顔を軍帽のつばを下げて隠している。

 

「歩兵部隊にも大分戦死判定者が出た………蹄分隊長、鶏越くん、狗魁くんもやられた」

 

「大岩分隊長と東郷………葉隠もやられた」

 

ゾルダートと大詔もそう報告する。

 

「ゴメンね。私が全軍で向かっていれば、こんな事には………」

 

みほは自分の判断ミスだと謝ろうとしたが………

 

「西住総隊長の責任ではありません」

 

それを遮る様に、弘樹がそう言って来た。

 

「! 弘樹くん。でも………」

 

「西住総隊長の責任ではありません」

 

尚も何か言おうとしたみほだったが、途端に弘樹はそう言葉を繰り返す。

 

「「…………」」

 

暫しの間、2人の視線が交差する。

 

「………次の御指示をお願いします」

 

「………うん」

 

するとみほは、気持ちを切り替え終わったかの様に地図を広げ、新たな作戦と戦術を考え始めた。

 

(舩坂くん、ナイス!)

 

(今のは舩坂さんでないと出来ませんね)

 

(流石ですぅ! 舩坂殿ぉっ!!)

 

(やれやれ………)

 

そんな弘樹とみほの様子を見ていたⅣ号内のあんこうチームは、そんな感想を抱いていたのだった。

 

「多分、シャーマン・カリオペはロケット弾の再装填の為に一旦後退している筈………でも、アレだけのロケット弾を全部再装填させるには時間が掛かる筈………」

 

その間にも、みほはブツブツと呟きながら敵の戦術を予測する。

 

「となると、次に大打撃を与えられるのはやっぱり空爆………固まって移動するにはマズイ。けど、分散して移動しても、敵に見つかれば数の差で各個撃破される可能性が………」

 

「先んじて、此方が航空支援を要請すると言うのは如何だ?」

 

とそこで、俊がそう進言して来る。

 

「でも、相手の機甲部隊の位置が不明ですし、細かく分散されていたら空爆の効果は半減します」

 

だが、みほはそう反論する。

 

「とすれば………敢えて相手に空爆の機会を与えると言うのは如何だい?」

 

すると今度は、迫信がそんな提案をして来た。

 

「! 神大さんっ!?」

 

「相手に空爆の機会を与えるって………」

 

「正気ですかっ!? 会長っ!?」

 

みほが驚きの声を挙げ、清十郎が呆然となり、逞巳が迫信の正気を疑う。

 

「まあ、落ち着きたまえ」

 

と、迫信は何時もの調子で、そんな一同を宥める。

 

「空爆を要請すれば、当然敵の機甲部隊も攻勢に出るだろう。航空支援下での陸戦開始は戦闘の基本だからね」

 

「それは………確かに」

 

迫信がそう言うの聞いて合点が行った様子を見せるが、危険には変わりないので、冷や汗を流す逞巳。

 

「つまり、態と敵に航空支援を使わせて、攻勢に出て来たところで、ゲリラ戦に持ち込むって事ですか?」

 

「要約するとそうなるね」

 

飛彗がそう尋ねると、迫信は広げた扇子で口元を隠してそう返す。

 

「となると、先ず先に敵の爆撃機を、コチラの戦闘機で撃墜ないし食い止めてもらう必要がありますね」

 

「となると、問題となるのは航空部隊の技量か。だが………」

 

清十郎がそう呟き、十河が考え込む様に顎に手を当てたが、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「六郎達は一航専だ。技量は保障する」

 

「………では、その作戦で行きましょう」

 

シメオンがそう言うと、みほも腹を決めた顔でそう宣言する。

 

「場所は、この先に有る街です」

 

「西部劇の街並みですね………建造物は全て木造性ですから、盾にする事は出来ませんが、イザと言う時は破壊して脱出する事が可能ですね」

 

みほが地図を見ながらそう言うと、装填手席のハッチから姿を見せていた優花里が、その地図を覗き込んでそう言う。

 

「ワニさん分隊はファインシュメッカーさんが分隊長をお願いします。ペンギンさん分隊の残存歩兵はワニさん分隊に合流して下さい」

 

「心得た」

 

「了解だ」

 

そしてワニさん分隊とペンギンさん分隊の生き残りメンバーにそう言うと、ゾルダートと大詔が返事を返す。

 

「………全軍、前進!」

 

みほの指示に従い、大洗機甲部隊全軍は、西部劇の街を目指して前進するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西部機甲部隊は………

 

「大洗機甲部隊が全軍で移動している?」

 

ロケット弾を再装填しているシャーマン・カリオペの横に停まっているヘルキャットのハッチから姿を見せ、無線機のヘッドフォンを耳に当てていたクロエが、偵察兵からの報告にそう返す。

 

「間違いないの?」

 

『ハイ、全軍で街のセットが在る場所へ向かっています』

 

「ふむ………」

 

それを聞いたクロエは、顎に手を当てて考え込む様な様子を見せる。

 

「街のセットを使って、お得意のゲリラ戦に持ち込む積りかねぇ?」

 

「馬鹿め。コチラは既に動きを掴んでいる。空爆を浴びせた後に一斉攻撃で御終いだ」

 

ジャンゴがそう推測すると、オセロットがそう言い放つ。

 

「総隊長、空爆を要請して一気に攻め込もうぜ!」

 

レオパルドも、クロエに向かってそう言い放つ。

 

「………ロケット弾の再装填は?」

 

「あと10分は掛かるかと!」

 

そこでクロエは、シャーマン・カリオペの周りで作業をしていた工兵達に尋ね、工兵達はそう報告する。

 

「分かったわ、カリオペは護衛部隊と一緒に此処に待機! 残りは前進! 目標、街のセットッ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

クロエの号令一下、カリオペとその護衛部隊を除いて一斉に進軍を開始する西部機甲部隊。

 

(何か考えてるわね………良いわ。さっきはコッチが策に乗って貰ったからね。今度はコッチが乗って上げる番よ)

 

だがクロエは、頭の中ではその独特の価値観でそう考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部の街並みのセットが在るエリア………

 

先に到着した大洗機甲部隊は、4つに部隊を分け、街の彼方此方に展開する。

 

『カメさんチームとツルさん分隊、配置完了しました』

 

『アリクイさんチームとキツネさん分隊も配置完了したにゃあ』

 

蛍とねこにゃーが、配置に着いたとの報告を送って来る。

 

『カモさんチーム、それとマンボウさん分隊も配置完了よ』

 

『カバさんチームとワニさん分隊も配置に着いた』

 

続けて、みどり子とエルヴィンからの報告が挙がる。

 

『ウサギさんチーム、ハムスターさん分隊、配置完了しました~』

 

『レオポンさんチームとおおかみさん分隊も配置完了だよ~』

 

優季とナカジマが、共に間延びした声で報告して来る。

 

「サンショウウオさんチームとタコさん分隊もOKです」

 

「各部隊、対空警戒を怠らず、敵との遭遇に備えて下さい」

 

そして、Ⅳ号の隣に並んでいたクロムウェルのハッチから姿を見せていた聖子がそう報告するのを聞きながら、みほは喉頭マイクを押さえてそう指示を出す。

 

「敵の空爆を凌げるでしょうか?」

 

「六郎達なら必ずやってくれる。万一に備えて、高射部隊を分散配置させているからな」

 

楓が不安そうにそう言うと、弘樹はそう言い、近くに居たアハトアハトを仰角を目一杯上げて設置している高射砲兵を見やる。

 

「…………」

 

そんな中、指示を出し終えたみほは、双眼鏡を手に空を見据え、敵機の襲来を見逃さない様に全力で警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセットの近くまで進軍した西部機甲部隊………

 

「そろそろだね」

 

「全軍停止!」

 

シロミがそう言うと、クロエが全軍停止の指示を出し、進軍していた西部機甲部隊が停止する。

 

「…………」

 

それを確認すると、クロエは双眼鏡で街の方を見やる。

 

すると彼方此方に、展開している大洗の歩兵が動いている様子と、建物の隙間から戦車の一部も目撃する。

 

「………細かく分散して全軍で展開しているみたいね」

 

「分散していても纏まっている事に変わりはない。空爆で打撃を与えた後に全軍で一気に制圧だ」

 

勝利を確信したかの様に、オセロットが笑みを浮かべる。

 

「総隊長! さっさとおっ始めようぜっ!!」

 

レオパルドも、逸る気持ちを押さえずにそう言う。

 

「………此方クロエ。航空支援を要請する」

 

そこでクロエは、双眼鏡を外すと、喉頭マイクを押さえながらそう言い放った。

 

『支援要請受理! これより航空支援を開始します!』

 

即座に航空部隊から、要請を受理したとの返事が返って来る。

 

「大洗もコレで最後だね」

 

「…………」

 

そう言うシロミだったが、クロエは表情を引き締めたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセット………

 

「………! 敵機来襲ーっ!!」

 

コチラに向かって飛んでくる爆撃機の編隊を、建物の屋上で双眼鏡を構えて監視していた偵察兵が発見し、声を挙げる。

 

「来たか………」

 

「高射部隊、攻撃準備」

 

弘樹が呟くと、迫信が高射部隊に射撃準備の指示を出す。

 

「西住殿!」

 

「分かってるよ、優花里さん………コチラ西住。航空支援要請。戦闘機の出動を要請します」

 

優花里が声を挙げると、みほは即座に航空支援要請を発動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場・上空………

 

大洗機甲部隊が展開している西部劇の街並みのセット目指して飛ぶ西部学園の爆撃機部隊………

 

ダグラス・A-26・インベーダーが6機と、ボーイング・B-17・フライングフォートレスが2機の編隊である。

 

「見えたぞ! あの街だっ!!」

 

先頭を行っていたA-26の操縦士が、前方の眼下に、大洗機甲部隊が居る街のセットを発見してそう声を挙げる。

 

「覚悟しろよぉ。街のセットごと吹っ飛ばしてやるぜっ!!」

 

別のA-26の操縦士が、過激な事を言い放つ。

 

「良し、行くぞっ! 進路そのままーっ!!」

 

そして、B-17の操縦士がそう言い放つと、西部爆撃機部隊は、編隊を維持したまま街の上空へと差し掛かろうとする。

 

と、その時!!

 

1機のA-26が、上空から無数の弾丸を浴びてペイント弾の色に染まり、離脱して行った!

 

「!? 何っ!?」

 

別のA-26の乗員が驚きながらも上空を見上げるとそこには………

 

雲の中から次々と降下して来る真っ白なレシプロ戦闘機………

 

零戦二一型が姿を現し、急降下して来る!

 

「! 敵だ! チキショウッ!!」

 

西部爆撃機部隊の誰かがそう声を挙げたかと思うと、A-26とB-17は備え付けの防御火器で弾幕を張る。

 

「この程度の弾幕!」

 

「我等一航専の実力を甘く見るなっ!!」

 

だが、一航専の戦闘機部隊は、荒れ狂う弾の嵐の中をスイスイと飛んでみせる。

 

「嘘だろっ!? こんなに撃ってるのに何で当たらねえんだよっ!?」

 

「コレが………噂の一航専かっ!?」

 

その凄まじいまでの操縦テクニックに、西部爆撃部隊の隊員達は驚愕の声を挙げる。

 

「貰ったっ!!」

 

と、そこで六郎の零戦二一型が、防御火器の弾幕を擦り抜けて、B-17の1機を肉薄。

 

そのまま、B-17の垂直尾翼に向かって翼の九九式一号20ミリ機銃2挺を掃射!

 

20ミリの弾丸を浴びたB-17の垂直尾翼は一瞬でペイント弾で染め上げられる

 

「メーデー! メーデー! 垂直尾翼をやられた!! 駄目だ! 離脱する!!」

 

垂直尾翼をやられたB-17は自動離脱装置が働き、試合会場の上空から離脱して行く。

 

「良し、良いぞ! このまま………」

 

と、その様を目撃した別の零戦二一型のパイロットがそう言った瞬間………

 

下方から機銃掃射が浴びせられた!!

 

「!? うわあっ!? 脱出するっ!!」

 

穴だらけにされた機体から、パイロットが射出座席で脱出する。

 

直後に、その墜落して行く零戦二一型の下から、複数の機影が上がって来る!

 

「!!」

 

上がって来た機影を確認する六郎。

 

それは、ノースアメリカン・P-51・マスタングと、7機のグラマン・F6F・ヘルキャットだった!

 

「簡単に爆撃機部隊を全滅させるわけには行かないな………」

 

「さあ、獲物を捕らえる番だ!」

 

F6Fの1機に乗って居る西部戦闘機部隊の隊員である『イーグル』がそう言うと、マスタングに乗る西部戦闘機部隊の隊長『ファルコン』もそう言い放つ。

 

そしてそのまま、マスタングとF6Fの編隊は、六郎達の零戦二一型部隊へ突っ込んで来る!

 

正面から突っ込んで来た敵編隊を避ける為、零戦二一型部隊は方々に散開する。

 

「今だ! 下降中のヤツを狙えっ!!」

 

するとファルコンがそう指示を出し、西部戦闘機部隊は下降中の零戦二一型に狙いを定める。

 

「! 6番機! 狙われているぞっ!!」

 

「! チイッ!」

 

「遅いっ!!」

 

六郎からの通信で狙われている事に気付いた下降中の零戦二一型は、すぐに機体を上昇させようとしたが手遅れで、マスタングのブローニングM2重機関銃が火を噴き、蜂の巣にされる。

 

「! 脱出っ!!」

 

パイロットが脱出すると、機体は炎上して錐揉み回転を始め、空中で爆発四散した。

 

「クッ!」

 

「やったなぁっ!!」

 

六郎がその光景に苦い顔を浮かべたかと思うと、別の零戦二一型がマスタングへと向かう。

 

「フッ………」

 

だが、マスタングはF6Fの編隊と共に速度を上げたかと思うと、そのまま離脱して行く。

 

「待てっ! 逃げるのか、卑怯者めっ!!」

 

と、零戦二一型のパイロットがそう声を挙げたかと思うと、離脱していたかと思われたマスタングとF6Fの編隊が反転。

 

そのままトップスピードで零戦二一型に向かって突っ込んで来る!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

擦れ違い様に銃撃され、主翼が根元から圧し折れる。

 

パイロットが射出されたかと思うと、主翼が折れた零戦二一型は墜落して爆発した。

 

「このぉっ!」

 

別の零戦二一型が仕掛けようとしたが、マスタングとF6Fの編隊は再び離脱して行く。

 

「降下時を狙い、一撃離脱戦法を執る………零戦の弱点を狙って来たか」

 

その様子を見ていた六郎は、敵が零戦の弱点である急降下性能と速度が悪いところを衝いて来た事を察する。

 

「各機、護衛戦闘機は私が相手をする。お前達は爆撃機を叩け!」

 

「! 隊長!? しかし!!………」

 

「命令だ!」

 

自分が護衛戦闘機を一手に引き受けると言う六郎の言葉を聞いて、一航専戦闘機隊の隊員が何かを言おうとするが、六郎は命令だと言い放つ。

 

「!………了解! 全機、護衛機に構うなっ! 爆撃機を狙えっ!!」

 

一航専戦闘機隊の隊員がそう言うと、六郎の機体以外が、一斉に西部爆撃機隊へ向かう。

 

「良し! お前達の相手は私だ!」

 

それを確認した六郎は、単機で西部戦闘機部隊へと向かう。

 

「フフフ………」

 

だが、そんな六郎の零戦二一型を見て、ファルコンは不敵な笑みを浮かべる。

 

(! 何だ? この感じは?………)

 

すると六郎は、何か嫌なモノを感じ、西部航空隊に違和感を覚える。

 

(既に爆撃機2機を落としていると言うのに、この余裕の様子は何だ?………!? 爆撃機! まさかっ!?)

 

とそこで、何かに気づいた様に、風防越しに上空を見上げた。

 

そこには、白い雲の尾を引きながら高高度を飛ぶ1機の戦略爆撃機………

 

かつての大戦で日本中を火の海にした超空の要塞………

 

『ボーイング・B-29・スーパーフォートレス』だった!

 

「! B-29! あんな物までっ!!」

 

六郎はそう言うと、西部戦闘機部隊の相手を止め、機体を上昇させようとする。

 

しかし………

 

「クッ! 駄目だっ! 追い付けんっ!!」

 

零戦二一型の上昇性能では、高高度に居るB-29まで辿り着くのは至難だった。

 

このままでは、六郎の零戦二一型が同高度に上る前に、B-29は爆撃を開始するだろう。

 

1機だけと言えど、最大9トンもの爆弾を搭載できるB-29。

 

それだけあれば、十分に大洗機甲部隊を西部劇の街並みのセットごと吹き飛ばす事は出来る。

 

「やらせるワケには………!?」

 

それでも諦めずに機体を上昇させていた六郎だったが、殺気を感じて機体を左旋回させると、先程まで自機が居た場所を曳光弾交じりの機銃弾が通り抜けて行く。

 

「何処へ行く気だ?」

 

「ちゃんと僕達の相手をして下さいよ」

 

マスタングとF6Fの編隊が追い縋って来たのである。

 

「クウッ!」

 

敵機に追われては、とても高度を上げるどころの話ではない。

 

そうしている間にも、B-29はドンドンと街の方へと迫って行く。

 

「コレで大洗の命運も尽きたな」

 

「加えてあの一航専のエースを討ち取ったとあれば、僕達の名も上がると言うものです。観念しなさい」

 

「…………」

 

ファルコンとカイトの声を聴きながら、無言で操縦桿を動かし、敵弾を回避する六郎。

 

「………すまない」

 

やがてB-29の方を見上げて、ボソリとそう呟く。

 

「………任せたぞ………後輩」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高高度を飛ぶB-29………

 

いよいよ大洗機甲部隊の上空へと差し掛かろうとしている西部のB-29。

 

「もうすぐ目標視点だ!」

 

「ハッチ開けろぉっ!!」

 

B-29の乗員がそう言い合い、機体下部の爆弾投下用のハッチが開く。

 

「大洗め! 石器時代に戻してやるぜっ!!」

 

「程々にしてやれよ。イジメになっちまうからな」

 

「投下準備完了っ!!」

 

とうとう爆弾投下の準備が完了する。

 

「………ん?」

 

しかしそこで、防御用の機銃座に着いて居た乗員が、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何した?」

 

「いや、今、太陽の中に何か………」

 

別の乗員が尋ねると、機銃座の乗員は太陽の中に目を凝らす。

 

すると、やがて………

 

太陽の中から、1機のレシプロ機が姿を現した!

 

主翼には一航専の校章が描かれている。

 

「! 敵機だっ!!」

 

「何ぃっ!? 馬鹿なっ!?」

 

「チキショウッ! 予め高高度に控えてやがったのか!!」

 

「ええい、所詮零戦1機だ! 撃ち落としてやれっ!!」

 

B-29の機長がそう叫ぶと、機体の各所に装備された防御用の機銃が一斉に火を噴く。

 

だが、弾幕の隙間を縫う様に飛び回る。

 

「馬鹿なっ! 零戦がこの高度であんな自在に動けるワケがないっ!?」

 

「オ、オイッ! ありゃ零戦じゃねえっ!!」

 

その様子に乗員が驚きの声を挙げると、別の乗員がその機体が零戦でない事に気づく。

 

「アレは………まさかっ!?」

 

「『紫電改』だっ!!」

 

そう………

 

それは太平洋戦争後期に於いて………

 

開発が遅延した烈風に代わり、旧日本海軍の次期主力機となった局地戦闘機………

 

『紫電改』だった!

 

「…………」

 

そのパイロットは、弾幕が煌めく中、恐ろしい程に冷静な様子で操縦桿を握っている。

 

すぐ目の前を掠める曳光弾交じりの機銃弾を、まるでクラッカーか何かかと思っている様にも見える。

 

驚くべき事に、このパイロットはまだ1年生である。

 

入学して即座に頭角を現し、その才能を見込んだ六郎が、貴重な紫電改を与え(本人が紫電改を余り好んでいなかったと言う話もある)、肝入りの秘蔵っ子としていたのである。

 

「…………」

 

無言のまま、紫電改の射程距離までB-29に接近して行く。

 

やがて、B-29を射程内に納め、照準器のレティクルが完全にエンジン部を捉える。

 

そしてその瞬間に、パイロットは初めて言葉を発したのだった。

 

「メビウス1、交戦」

 

その紫電改の尾翼には、パーソナルマークと思われる捻じれたリボンの様なエンブレム………『メビウスの輪』が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部機甲部隊………

 

『コチラ爆撃部隊! 敵機の攻撃苛烈!! 爆撃不可っ!!』

 

「馬鹿な!? B-17やA-26は兎も角、B-29までだとっ!?」

 

B-29の爆撃が阻まれている事に驚きを露わにするオセロット。

 

「まあ、考えてみれば当然かしらね。あの一航専が護衛に付いてるんですもの。そう簡単に制空権を渡したりはしてくれないか」

 

しかしクロエは、冷静なままの様子でそう呟く。

 

「如何するんだ、クロエ。一旦後退するか?」

 

「それ癪だから嫌。このまま行くわよ」

 

ジャンゴがそう尋ねると、クロエは差も当然の様にそう返す。

 

「待って下さい、総隊長! 爆撃無しで攻め入るのは………」

 

「別に構わないわよ、元々爆撃の戦果はオマケ程度にしか考えてなかったから。何より、ココで退いたら、爆撃が無いから怖くて帰りますって言う様なものじゃないの?」

 

「ぐうっ!!………」

 

そう言われると、オセロットとしてもプライドが傷付き、何も言い返せなくなる。

 

「予定変更よ。爆撃の支援は無しで街へ突入するわ。大洗の連中は遭遇戦が得意みたいだけど、街はセットよ。いざとなればセットごと撃破してやりなさい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを見たクロエは、西部機甲部隊に改めて命令を下す。

 

「良し! 全軍前進っ!!」

 

そして、そう言い放つと自身も車内へ引っ込み、いの1番に進軍を始める。

 

「あ! 総隊長っ!?」

 

「待って下さい~っ! 総隊長~っ!!」

 

「やれやれ………」

 

その後を、西部機甲部隊のメンバーが慌てて追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部の街並みのセットが在るエリア………

 

『敵軍、進軍を再開! コチラに向かって来ます!』

 

「坂井さんが爆撃機隊を食い止めている間が勝負です! 各自、他の分隊との位置関係を忘れずにゲリラ戦に移って下さい! 但し、建物は遮蔽物として使えない事に注意です!」

 

『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』

 

みほの指示に、大洗機甲部隊のメンバーから勇ましい返事が返って来る。

 

(頼むぞ…………六郎)

 

その傍に居た弘樹も、西部戦闘機隊と空戦を繰り広げている六郎の零戦を見上げながら、そう思いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

アヒルさんチームが撃破され、ペンギンさん分隊とワニさん分隊にも多数の戦死判定者を出してしまった大洗機甲部隊。

だが、嘆いている暇は無いと、西部の街並みのセットを使って、得意のゲリラ戦を展開しようとする。
西部機甲部隊は空爆を要請し、一気に大洗機甲部隊を片付けようとするが、一航専に阻まれ、虎の子のB-29も、紫電改を翔ける若きエースに阻まれるのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第134話『西部の街の戦いです!』

お知らせ

今更ながら、西 絹代の学年の設定が、当初の3年生から2年生に変更されているのを知りまして………

しかし、私のこの作品の中では、弘樹の元上官と言う設定との兼ね合いの為、3年生という設定のままにさせていただきます。

御理解・ご了承ください。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第134話『西部の街の戦いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アヒルさんチームが脱落し、ペンギンさん分隊とワニさん分隊に多数の脱落者を出した大洗機甲部隊は………

 

敢えて西部機甲部隊に空爆のチャンスを与え、攻勢に出て来たところで得意のゲリラ戦に持ち込むと言う賭けに出た………

 

その目論み通り………

 

西部劇の街並みのセットの中に展開した大洗機甲部隊に、西部機甲部隊は空爆を要請しての攻勢に出る………

 

六郎達と秘蔵っ子の『紫電改』パイロットが西部機甲部隊の空爆を阻止している間………

 

大洗機甲部隊は勝負を掛けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部の街並みのセットが在るエリア………

 

『! 来ました! 偵察部隊らしき部隊が先行して来ます!!』

 

「了解しました………ウサギさんとハムスターさん、それとレオポンさんとおおかみさんが1番近いです。A地点で、手筈通りにお願いします」

 

『分かりました!』

 

『了解です!』

 

『りょ~か~い』

 

『心得ました』

 

偵察兵からの報告を聞いて、みほはウサギさんチームとハムスターさん分隊、そしてレオポンさんチームとおおかみさん分隊に指示を出す。

 

「上手く行くでしょうか?」

 

「大丈夫だよ。ウチの工兵さん達は皆優秀な人ばかりだから」

 

優花里が不安そうにそう言うと、みほがそう返す。

 

「…………」

 

そして弘樹は、無言のままに四式自動小銃を握る手に力を込めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部の街並みのセットが在るエリア・A地点………

 

西部劇の街並みのセットの通りを、西部の戦車部隊が2列横隊を組んで、周りを警戒しながら慎重に進んで行っている。

 

戦車の周りには西部歩兵部隊が展開し、これまた周囲を警戒している。

 

とそこで………

 

2列横隊の先頭を行っていたM4A3に、無数の銃弾が命中し、装甲上で火花を散らし始めた!

 

「「「「「!?」」」」」

 

すぐさま、随伴して居た西部歩兵達が、銃弾が飛んで来た方向を確認するとそこには………

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

西部の部隊が進軍している通りから、交差点となって左の方へと向かう道の角に、土嚢を積み上げたバリケードを築き、土嚢の上に据えたブローニングM1919重機関銃を発砲している大洗歩兵部隊の姿が在った。

 

「敵発見っ!」

 

「歩兵部隊か………私が片づけます!」

 

敵が歩兵だけなのを見て、2列横隊で、左側の先頭を行っていたM4A3が前進する。

 

「撃ち続けろーっ!!」

 

積み上げた土嚢に隠れている大洗歩兵部隊は、機銃掃射を続けるが、当然戦車相手では効果が無い。

 

「纏めて吹き飛ばしてあげるわ!」

 

M4A3の車長がそう言い、M4A3の主砲が積み上げた土嚢に隠れている大洗歩兵部隊に向けられる。

 

「! 7号車! 右だっ!!」

 

だがそこで、後方に居た西部歩兵の1人が、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「えっ!?」

 

それを聞いたM4A3の車長が、大洗歩兵達の反対側………

 

十字路の右へと向かう道の方を見やるとそこには………

 

自分の方に主砲と副砲を向けているM3リーの姿が在った!

 

「!? M3!? 砲撃中止! 砲塔及び車体旋回!!」

 

「あや! 履帯を!!」

 

「OK!」

 

慌てて砲塔と車体を旋回させる様に指示を出すM4A3の車長だったが、そこで梓の号令で、あやが副砲の37ミリを発砲。

 

37ミリ砲弾がM4A3の履帯に命中し、破損させる。

 

「!? 履帯がっ!!」

 

「あゆみ! 今っ!!」

 

「いっけーっ!!」

 

続け様に、主砲の75ミリが火を噴く!

 

75ミリ砲弾は、M4A3の車体側面後部………エンジン部分に命中!

 

エンジンが爆発して炎と共に黒煙を上げたかと思うと、M4A3から白旗が上がった!

 

「良し! 後退っ!!」

 

それを見た、積み上げた土嚢に隠れていた大洗歩兵部隊が後退。

 

「桂利奈、下がって!」

 

「アイッ!」

 

続いて、M3リーも後退する。

 

「野郎っ!!」

 

「待て! 罠かも知れんっ!! 迂闊に前進するなっ!!」

 

西部歩兵達が追い縋ろうとしたが、分隊長らしき人物がそう言って押し止める。

 

「偵察兵。十字路の様子を確認してくれ」

 

「了解っ!!」

 

数名の西部偵察兵が十字路へと進み、左右の方向を確認する。

 

既に大洗歩兵部隊も、M3リーの姿も無くなっていた。

 

「………クリア!」

 

「良し、ゆっくり前進だ」

 

「了解っ!」

 

分隊長がそう言うと、2列横隊で右側の先頭を行っていたM4A3がゆっくりと前進。

 

だが、最初に撃破された左側の列のM4A3の隣まで来たかと思うと………

 

「ヒャッホーッ!!」

 

ツチヤの乗りの良い声と共に、建物を突き破る様にポルシェティーガーが側面から現れた!

 

「!? なっ!?」

 

「撃てっ!!」

 

「ハイよッ!!」

 

ナカジマの号令でホシノが発砲!

 

至近距離から、M4A3の側面に、アハトアハトが叩き込まれた!!

 

当然貫通と判定され、M4A3からは白旗が上がる。

 

「ポルシェティーガーッ!?」

 

「クソッ! 建物を突っ切って来るとは!!」

 

「撃て! 撃てっ!!」

 

思わぬ側面からの奇襲に、西部部隊は驚きながらも、残りのM4A3達がポルシェティーガーに向かって発砲する。

 

だが、その全ては、ポルシェティーガーの装甲を貫けず、表面で火花を散らして明後日の方向へ弾かれるばかりだった。

 

「とと、後退するよ。シャーマンの主砲でも、至近距離から撃たれたら危ないかも知れないからね」

 

「了解っ!」

 

しかし、念の為にとナカジマは後退の指示を出し、ツチヤはポルシェティーガーを破壊して来た建物内を通る様に後退させる。

 

「その前にもう1発!」

 

その際に、装填が終わったので、帰り際の駄賃だとばかりにホシノが再度発砲。

 

2列横隊の右側2輌目のM4A3を撃破する。

 

「クソッ! 一気に3輌も………」

 

思わぬ損害に分隊長が舌打ちをしていると………

 

「コッチも建物を破壊して追いましょうっ!!」

 

するとそこで、1輌のチャーフィーがポルシェティーガーを追う為、破壊して登場して来た建物の隣の建物へと突っ込んだ!

 

同じ手を使って後面へと回り込む積りの様だ。

 

だが………

 

チャーフィーが突っ込んだ瞬間………

 

突っ込んだ建物が大爆発を起こしたっ!!

 

「「「「「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

一部の西部歩兵達が、爆風に真面に煽られて倒れる。

 

「!? 何っ!?」

 

西部分隊長が驚きの声を挙げるとやがて、燃え盛る建物の残骸の中で、白旗を上げているチャーフィーの姿が露わになった。

 

「アイツ等! 建物に爆薬を仕掛けてやがったのか!?」

 

「コレじゃあ、迂闊に建物内に入れないぜ!!」

 

その光景を見て、そう声を挙げる西部歩兵達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待機していた西部機甲部隊の本隊………

 

「建物に爆薬が?」

 

『ええ。恐らく全ての建物がそうではないでしょうが、コレでは迂闊に破壊して突破すると言うワケには行きません』

 

「成程ね………遮蔽物として使えないから、トラップとして利用して来たワケか………」

 

隊員からの報告を受けて、クロエは笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「良いね、良いわよ………面白くなって来たわ」

 

「総隊長! コチラは戦車4輌と言う損害を出しているんですよ!!」

 

「無駄だ、オセロット。今の総隊長に何を言っても意味が無い」

 

面白くなってきたと言うクロエに、オセロットは自分達は損害を受けているのだと言うが、ジャンゴがそう諭す様に言う。

 

「各員、一層警戒しなさい。ゲリラ戦は大洗が得意とする戦い方よ」

 

『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』

 

そこでクロエは、西部機甲部隊の面々に一層警戒して臨む様に指示を出す。

 

「シロミ、ブチ。其々に小隊を預けるわ。敵と遭遇した場合は独自の判断で交戦して良いわ」

 

「つまり、好きにしろって事?」

 

「まあ、大胆な御命令ですわね」

 

続けて、イージーエイトに乗るシロミと、ジャンボに乗るブチにそう指示を出し、2人はそのアバウトとも取れる指示内容に軽く驚きを示す。

 

「相手が好き勝手やって来るんなら、コッチも好き勝手やって対抗するまでよ」

 

クロエ節の理論が展開し、不敵な笑みを浮かべるクロエ。

 

「ジャンゴ達も好きにして良いわよ。色々と相手をしたい奴とか居るんでしょう?」

 

「お見通しか………」

 

「ありがとうございます、総隊長」

 

更に続けて、歩兵部隊にそう言うと、ジャンゴがヘルメットを被り直してそう呟き、オリバーが感謝する。

 

「…………」

 

「不満かしら? オセロット?」

 

唯一不機嫌そうな顔をしていたオセロットにそう声を掛けるクロエ。

 

「………本来であれば、この様な統率の取れていない戦い方は総隊長がなさる事ではありません」

 

「…………」

 

「………ですが、私にも因縁浅からぬ相手が居ります」

 

「ならソイツの相手をして来なさいよ。フリーダム・オブ・フリーダム。それがウチのモットーよ」

 

「………山猫部隊! 行くぞっ!!」

 

「「「「「ハイ、隊長っ!!」」」」」

 

しかし、クロエとそう会話を交わしたかと思うと、山猫部隊を引き連れて、1番に行動に入った。

 

「じゃあ、私達も行くね」

 

「それでは、御機嫌よう」

 

続いて、戦車小隊を率いて、シロミとブチも行動に入る。

 

「じゃ、俺も行くか………ピューマ、付いて来てくれ」

 

「…………」

 

ジャンゴがそう言うと、ピューマが無言で付いて行く。

 

「じゃあ、そうだな………『サーバル』、『カルカラ』、付き合ってくれよ」

 

「分かりました」

 

「了解」

 

レオパルドがそう言い、騎兵隊の様な戦闘服を着てサーベルを携えた西部歩兵………『サーバル』と、ポンチョを纏った西部歩兵………『カルカラ』に声を掛け、連れ立つ。

 

「すみません、総隊長。自分も失礼します」

 

そしてオリバーもそう言い、走ってその場から離脱して行った。

 

「では、私達も………」

 

「行きますか」

 

ブチとシロミもそう言い合ったかと思うと、其々M4A3を2輌、チャーフィーを1輌引き連れて、別々の方向へと進軍した。

 

他の戦車部隊も、小隊規模となって分散して行く。

 

「ねえ、クロエ。僕は?」

 

とそこで、残っていたスチュワートのミケが、クロエに尋ねる。

 

「アンタは一応フラッグ車だからね。私と一緒に来なさい。けど、イザと言う時は悪いけど自分の身は自分で守ってね」

 

「ハハ、クロエらしいね。りょーかい」

 

そう言うクロエに、ミケはおどけた様子で敬礼して見せる。

 

「じゃあ、行くわよ」

 

そして、クロエのヘルキャットも、ミケのスチュワートを連れて前進し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、西部の街並みのセットが在るエリア・とある通路………

 

「気を付けて。大洗の連中は建物を破壊して奇襲を仕掛けて来たみたいだから」

 

先頭を行くM4A3の車長が、同行している戦車部隊と随伴歩兵部隊にそう呼び掛ける。

 

「気を付けてって言っても………」

 

「建物の向こうまで流石に警戒し切れないぜ………」

 

「爆薬が仕掛けてあるかも知れないから、迂闊に中に入って調べられないし………」

 

しかし、随伴して居る西部歩兵達からはそんな声が挙がる。

 

「嫌だな………まるでお化け屋敷に入ったみたい」

 

と、最後尾に居たチャーフィーの車長が、そんな事を呟いた瞬間!!

 

「おりゃあっ!!」

 

みどり子の声と共に、左側の建物が崩れ、中からルノーB1bisが飛び出して来た!!

 

「!? えっ!?」

 

チャーフィーの車長が呆気に取られている間に、ルノーB1bisは至近距離から主砲と副砲を同時発射!!

 

副砲が砲塔、主砲が車体の側面に命中し、チャーフィーからは白旗が上がった!

 

「!? しまったっ!?」

 

西部歩兵の1人がそう声を挙げると、ルノーB1bisは西部部隊に背を向けて街の通路を逃走し始める。

 

「馬鹿め! 後面を晒して逃げるなんてねっ!!」

 

と、最も脆い後面部が見えているのを見た1輌のM4A3が反転し、ルノーB1bisを追い掛けようとする。

 

だが、ルノーB1bisが奇襲の際に破壊した建物の前まで来た瞬間!!

 

建物の残骸の中からから砲弾が飛び出して来て、M4A3の側面に命中!!

 

ルノーB1bisを追ったM4A3は白旗を上げた!

 

「!? 何っ!?」

 

西部歩兵の1人が、驚きながらも砲弾が飛び出して来た崩れた建物の中を見やると………

 

「やったぞっ!」

 

「アンブッシュ成功だ!」

 

そこには、半分瓦礫に埋もれた状態で砲門から硝煙を上げているⅢ突の姿が在った!

 

「! Ⅲ突!!」

 

「クソッ! まだ居やがったのかっ!!」

 

西部歩兵の1人がそう言って、収束手榴弾を投げつける。

 

「後退っ!!」

 

「ぜよっ!!」

 

即座にエルヴィンの指示が飛び、おりょうは瓦礫を押し退けながらⅢ突を後退させる。

 

収束手榴弾は、Ⅲ突の手前に落ちて爆発する。

 

「逃がすかっ!!」

 

と、今度はバズーカを持った西部対戦車兵達数名が、崩れた建物の前に立ち、一斉にバズーカを構える。

 

すると!

 

「シュトゥルムよ! 今が駆け抜ける時っ!!」

 

そう言う台詞と共に、Ⅲ突の上を飛び越えて、シュトゥルムに跨ったゾルダートが姿を現した!

 

「!? なっ!?」

 

「覚悟して頂くっ!!」

 

そして、両手に握ったモーゼルC96でのダブル馬賊撃ちで、西部対戦車兵達に弾丸の雨を浴びせる!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

瞬く間に戦死判定を受ける西部対戦車兵達。

 

「ハアッ!!」

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ゾルダートは更に、敵に中へと切り込み、モーゼルC96の2丁撃ちで、次々に西部歩兵達を撃ち抜いて行く。

 

「戦車部隊! 援護をっ!!」

 

「駄目だ! 速過ぎるっ!!」

 

戦車部隊も、騎兵のゾルダートの動きが速過ぎて、狙いを付けられずに居た。

 

「良し、このまま………! シュトゥルムッ!!」

 

そのまま攻撃を続けようとしたゾルダートだったが、何かに気付いた様にシュトゥルムに指示すると、シュトゥルムはその場から横っ飛びする様に飛び退く。

 

直後に、先程までゾルダートとシュトゥルムが居た場所に砲弾が着弾!

 

派手に土片を巻き上げた!

 

「くうっ!!」

 

飛んで来る土片から顔を守りながら、ゾルダートは砲弾が飛んで来た方向を見やる。

 

「外しましたか………他の車両はルノーの追撃を」

 

「「「了解!」」」

 

ゾルダートが戦っていた西部部隊からやや離れた場所に陣取り、砲口から硝煙を上げているジャンボの姿が在った。

 

その傍からは、随伴して居た小隊のM4A3とチャーフィーが、ルノーB1bisを追って離れて行く。

 

「ジャンボか………」

 

モーゼルC96をホルスターに納めると、吸着地雷を手にするゾルダート。

 

すると………

 

ジャンボの近くに在った建物が爆発したかと思うと、中からⅢ突が飛び出して来た!

 

そのままジャンボに向かって発砲したが、ジャンボは昼飯の角度を取ってⅢ突の砲弾を跳ね返す。

 

『ファインシュメッカー隊員………コイツは私達にやらせてくれ』

 

「!? 何っ!?」

 

とそこで、エルヴィンからそう言う通信が送られて来て、ゾルダートは驚きの声を挙げる。

 

『頼む………コイツだけは………私達の手で』

 

「…………」

 

だが、続けて聞こえて来た懇願する様な声を聞くと………

 

「………分かった。カモさんチーム、ジャンボ以外の戦車を惹き付けてくれ。歩兵は引き受ける」

 

『了解!』

 

カモさんチームへとそう通信を送り、自らも背負っていたMG34機関銃を構える。

 

『感謝する………』

 

「フッ………駆けよ、シュトゥルムッ!!」

 

感謝の通信を送って来たエルヴィンの乗るⅢ突に向かって一瞬笑みを零すと、ゾルダートはシュトゥルムと共に西部歩兵達の方へ向かって行った。

 

「さっきのⅢ突………固定砲塔で旋回砲塔に挑むとは、勇ましいですわね」

 

一方、ジャンボのブチは、Ⅲ突を見ながらそう呟く。

 

「カエサル、左衛門佐、おりょう………すまないが、お前達の命運、私が預かる」

 

そのブチのジャンボを、ペリスコープ越しに見据えながら、エルヴィンがそう言う。

 

「フフ………何を今更」

 

そのエルヴィンの言葉を聞いて、次弾を抱えているカエサルが不敵に笑う。

 

「我等はソウルネームで結ばれた友垣………」

 

左衛門佐も、照準器を覗き込みながらそう言う。

 

「生きるも死ぬも一緒………一蓮托生ぜよ」

 

そしておりょうも、操縦席用の覗き窓を見据えながらそう答える。

 

「………ありがとう、友よ」

 

エルヴィンはそう言って、トレードマークの軍帽を被り直す。

 

「………行くぞっ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

そして、エルヴィンの掛け声に、カエサル、左衛門佐、おりょうが勇ましく返事を返すと、Ⅲ突はジャンボへ向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

得意のゲリラ戦へと持ち込んだ大洗機甲部隊。
地の利を活かして、次々に西部戦車を撃破する。

そしてそんな中で………カバさんチームのⅢ突と、ブチのジャンボが対峙するのだった。

今日は大洗の海楽フェスタ。
また声優さん達がいらっしゃるので、楽しみですね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第135話『激突です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第135話『激突です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六郎達、一航専の航空隊が、西部の爆撃機部隊を食い止めている間に………

 

西部劇の街並みのセットを利用して、得意のゲリラ戦を展開した大洗機甲部隊………

 

待ち伏せや、建物のセットを破壊して登場の不意打ち、建物のセットそのものを爆弾と化した作戦で………

 

早くも複数の西部戦車を撃破する………

 

だが、クロエもそれに対抗する様に、隊を分散させての遊撃戦の許可を出す………

 

西部劇の街並みのセットがあるエリアは………

 

両軍の部隊が入り乱れた、混沌の戦場と化すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部の街並みのセットが在るエリア………

 

1列縦隊を取っているシロミのイージーエイトが率いるM4A3が2輌とチャーフィーが1輌からなる戦車小隊。

 

周りには馬に跨った騎兵を中心としたの随伴歩兵部隊の姿も在る。

 

少し進むと、道が合流する開けた場所に出る。

 

正面には教会のセットが建てられている。

 

「全部隊、停止。見通しが良過ぎるわ。随伴部隊は先行。周囲を確認して」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

見通しが良過ぎる為、シロミは一旦戦車小隊を停止させると、随伴して居た歩兵分隊を先行させて、偵察させる。

 

「………クリア!」

 

「コチラもクリアです!」

 

「クリアッ!!」

 

各通りに待ち伏せがないか確認すると、次々にクリアの声が挙がり始める。

 

………と、その時!

 

突如、オルガンの音色が響いて来た。

 

「!? 何だっ!?」

 

「あの教会からです!」

 

それが教会から聞こえて来たものであると気付くと、西部歩兵部隊は教会の近くに集まる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そして数名の西部歩兵達が、教会の入り口の前に立つ。

 

「…………」

 

1人が罠を警戒しながら、ゆっくりと扉を少し開ける。

 

「「「「「…………」」」」」

 

罠が無い事を確認すると、他の西部歩兵と顔を見合わせる。

 

「「「「「!!………」」」」」

 

そして扉を蹴破って、其々に獲物を構えて、一気に教会の中へと雪崩れ込んだ!!

 

「…………」

 

そこには、入って来た西部歩兵達に背を向ける形で、オルガンを弾いている1人の神父の姿が在った。

 

「神父様?………」

 

「あの、何やってるんですか?」

 

「今は戦車道と歩兵道の試合中ですよ?」

 

神父の姿を見た西部歩兵達がそう言いながら、武器を降ろして近づく。

 

「! 待てっ!!」

 

「「「えっ?」」」

 

しかし、西部歩兵の1人が何かに気付いた様にそう声を挙げ、他の西部歩兵達が戸惑いの声を挙げた瞬間………

 

神父は両手を鍵盤に叩き付け、不協和音を鳴らした!

 

「「「「「!?」」」」」

 

西部歩兵達が驚いていると、神父は椅子から立ち上がる。

 

「我等は軍神の代理人………神罰を執行する地上代行者………」

 

そしてそんな台詞を口走り始めたかと思うと、袖口から銃剣(バイヨネット)が飛び出し、両手に握られる。

 

「我らが使命は! 我が軍神に逆らう愚者を! その肉の最後の一片までも絶滅する事! エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

殺気と闘気を漲らせながら、神父………竜作は銃剣(バイヨネット)を独特の構えで十字を象る様に構え、火花を散らさせる!

 

「! 大洗の!?」

 

慌てて武器を構え直す西部歩兵達だったが………

 

「貴様等! こんなところで長々と何をしている!? 鼠の様に逃げおおせるか! この場で死ぬか! どちらか選べえええええぇぇぇぇぇぇぃっ!!」

 

その瞬間には、竜作は両手の銃剣(バイヨネット)で、西部歩兵達に踊り掛かった!!

 

「「「「「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「!? 如何した!?」

 

「何があったっ!?」

 

突然教会内から聞こえて来た悲鳴に、外で待機していた西部歩兵達が、慌てて教会内へと突入しようとする。

 

と、その瞬間!!

 

教会のドアが勢い良く開き、戦死判定を受けた西部歩兵達が人形の様にブッ飛ばされて来た!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「!? 何っ!?」

 

その様に、待機していた西部歩兵達と遠目で見ていたシロミは驚きを露わにする。

 

「かあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~………」

 

すると続けて、教会の中から両手に銃剣(バイヨネット)を握り、口から煙の様に息を吐いている竜作が姿を現す。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

この世のモノとは思えぬ異様な雰囲気に、シロミ達と西部歩兵達は一瞬気圧される。

 

「う、撃てっ! 撃てぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

恐怖に駆られた西部歩兵の1人がそう叫び、西部歩兵達が一斉に銃を竜作に向ける。

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

途端に竜作は独特な掛け声を挙げ、手近に居た西部歩兵1人を、両手の銃剣(バイヨネット)で斬り付けた!!

 

「!? ぎゃああっ!?」

 

斬り付けられた西部歩兵は、悲鳴と共に倒れ、戦死と判定される。

 

「! クソッ!」

 

それを見た別の西部歩兵が、手榴弾を投擲しようとしたが………

 

「アイテムなぞ使ってんじゃねぇっ!!」

 

それよりも早く、竜作が多数の銃剣(バイヨネット)を投擲した!

 

「!? ゲバナッ!?」

 

全身に銃剣(バイヨネット)が突き刺さり、ハリネズミ状態となって戦死判定を受ける西部歩兵。

 

「貴様等の死に場所は………ここだ! ここだ! ここだぁぁぁ!!」

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

「バケモンだぁっ! 助けてくれぇーっ!!」

 

怪物染みた雰囲気と強さの竜作を前に、西部歩兵達は士気崩壊を起こしかける。

 

「マズイ! 戦車前進っ!! あの歩兵を仕留めるわっ!! 榴弾装填っ!!」

 

それを見たシロミが、西部歩兵部隊を助けようと、自車のイージーエイトを含めた戦車部隊を、竜作が居る教会前の広場まで前進させる。

 

だが、その瞬間!!

 

最後尾に居たM4A3の後部が爆発!

 

砲塔上部から白旗を上げた!

 

「!? 何っ!?」

 

シロミが後ろを振り返ると、そこには………

 

「やったっ! 命中したっちゃ!!」

 

「うむ、良い腕だ」

 

砲口から硝煙を上げている三式と、その隣に土嚢を積み上げて設置された砲兵陣地に備えられた8.8 cm PaK 43に付いて居る紫朗を中心とした砲兵の姿が在った。

 

「!? 大洗の戦車!? しまった! あの歩兵に気を取られている内に後ろに………!? 旋回中止っ!!」

 

すぐさま反転して三式と紫朗達を狙おうとしたシロミだったが、何かに気づいて旋回を止めさせる。

 

途端に、イージーエイトの正面装甲に、37ミリ砲弾が命中。

 

明後日の方向へと弾かれたが、もし旋回を続けていたら、側面後部のエンジン部を直撃されていただろう。

 

「アチャ、気づかれたか………勘の良い奴」

 

その砲撃の主は、建物の前に停まっていた馬車の陰に隠れていた、カメさんチームの38tだった。

 

「! 38tか!」

 

「このぉっ!!」

 

シロミが声を挙げると、もう1輌のM4A3が、38tに向かって発砲する!

 

「小山っ!」

 

「ハイッ!!」

 

だが、間一髪のところで38tは発進し、M4A3の砲弾は、馬車を粉々にし、建物に命中して爆発・炎上させる。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

と、発進した38tを、快速のチャーフィーが追う。

 

「左旋回っ!」

 

「ハイッ!!」

 

それを見た杏がそう指示すると、38tは通りの入り口前を掠める様に左旋回。

 

「チイッ! 生意気なっ!!」

 

チャーフィーもすぐに左旋回するが、最高速度が上のチャーフィーは38tより旋回が大回りとなり、通りの入り口まで入ってしまう。

 

途端にチャーフィーが大爆発!

 

爆煙が治まったかと思うと、砲塔上部から白旗が上がった!

 

「!? 通りの入り口に対戦車地雷が!?」

 

それが対戦車地雷の爆発であった事に気づいたシロミがそう声を挙げると………

 

「今だっ! 行けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

俊の掛け声と共にセットの建物の中から、次々に大洗歩兵が飛び出して来た。

 

「!? しまった! 誘い込まれたわっ!!」

 

「フフフ………通りが繋がっている広場を包囲網に使うとは予測出来なかった様だな」

 

十河が、慌てた様子を見せるシロミの姿を見てほくそ笑む。

 

「さて、撃破出来るかな?………」

 

しかし、対照的に迫信は、油断無くシロミの小隊を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊と西部機甲部隊が激突している西部劇の街並みのセットへと向かう小隊規模の部隊の姿が在った………

 

「大分遅れてしまいましたわ。皆さんはご無事でしょうか?」

 

ロケット弾の再装填を終えたノーラのシャーマン・カリオペと、その護衛部隊だ。

 

「ノーラさん。連絡のよると、現在我が部隊は街のセット内で、大洗機甲部隊とゲリラ戦を展開していると」

 

とそこで、護衛部隊の歩兵の1人からそう報告が挙げられる。

 

「ゲリラ戦? 空爆要請の後に一気に制圧攻撃を掛ける筈だったのでは?」

 

「空爆が敵の戦闘機部隊に阻止されたので、そのまま街のセットへ突入して遭遇戦となった様です」

 

「成程。クロエさんらしいですわね」

 

「如何なさいますか?」

 

「街のセットの近くまで行ったら、ロケット弾で制圧攻撃を駆けますわ」

 

「それでは味方を巻き込む可能性がありますが………」

 

「私達の部隊にフレンドリーファイアでやられる様な方がいらっしゃるかしら?」

 

西部歩兵の指摘に、ノーラは微笑みながらそう返す。

 

「………それもそうですね」

 

それを聞いて、西部歩兵は納得が行った様子を見せる。

 

「まあ、一応攻撃前には通信で連絡します。心配ないでしょう」

 

そう言って、ノーラは護衛部隊と共に、改めて街のセットの所へ向かう。

 

だが、その様子を目撃した者が居た………

 

「! 皆! 9時の方向!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

敵部隊の一部を撃破し、一旦離脱していたウサギさんチームとハムスターさん分隊、そしてレオポンさんチームとおおかみさん分隊の面々だ。

 

「カリオペじゃねーか!?」

 

「アカン! ロケット弾の補給が終わったんか!?」

 

迫り来るシャーマン・カリオペの姿を見て、海音と豹詑がそう声を挙げる。

 

「ありゃあ、こりゃマズイね」

 

「あの西部機甲部隊の事だ………味方が居るのも構わず、フレンドリーファイアでやられるワケないって、ロケット弾で制圧攻撃してきそう」

 

「想像出来るのが怖いね………」

 

ツチヤがそう漏らすと、スズキとホシノもそう言い合う。

 

「如何する? ウサギさんチーム」

 

そこでナカジマが、ウサギさんチームへ通信を送って対応を相談する。

 

「………私達で相手をしましょう!」

 

すると梓は、一瞬の逡巡の後、そう言い放った。

 

「ええっ!?」

 

「マジっすかっ!?」

 

あやと桂利奈が驚きの声を挙げる。

 

「大丈夫! 総隊長の言いつけ通り、コッチは2チームだから」

 

「でも、護衛部隊が………」

 

あゆみがシャーマン・カリオペを守っている西部歩兵部隊と、M4A3が2輌とチャーフィーが1輌の戦車小隊を見てそう言う。

 

「それは僕達が何とかします」

 

するとそこで、飛彗がそう言って来た。

 

「良いですね? ハムスターさん分隊の皆さん」

 

更にそう言い、ハムスターさん分隊の面々に確認を取る飛彗。

 

「正直言うと凄く怖いです。でも………」

 

「今相手を出来るのは、僕達だけですからね」

 

その問いに、勇武と光照がそう返す。

 

「…………」

 

「ジェームズ、オリバーが気になるのは分かるけど………」

 

「分かってマス。今は目の前のエネミーに対処するのが先決デス」

 

オリバーを気にするジェームズにそう言う竜真だったが、ジェームズは分かっている様子だった。

 

「良し、行くよ」

 

「OK。それじゃあ、派手に行こうか」

 

最後に梓とナカジマがそう言い合うと、ウサギさんチームとハムスターさん分隊、そしてレオポンさんチームとおおかみさん分隊は、ノーラのシャーマン・カリオペとその護衛部隊に向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

あんこうチームととらさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊は………

 

西部の街並みのセットの一角………

 

鉄道の駅舎の敷地内で戦っていた。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

唯の凡そ女の子らしくない叫び声と共に爆走するクロムウェル。

 

「撃て! 撃てっ!!」

 

そのクロムウェルの前方に横隊で展開していた3輌のM4A3が、次々に発砲する。

 

「ぐううっ!!」

 

クロムウェルはスラローム走行で蛇行し、M4A3から放たれた砲弾を全てかわす。

 

「クソッ! 速いっ!!」

 

「伊達に第二次世界大戦中最速の戦車って言われてねーぞっ!!」

 

そしてそのまま、クロムウェルは展開していた3輌のM4A3の間を擦り抜け、背後へと回った!

 

「回り込まれた!」

 

「旋回! 急いでっ!!」

 

後ろに回られた事で、すぐに砲塔旋回と信地旋回を行う3輌のM4A3。

 

だが、直後!!

 

横隊の右端に居たM4A3の後部に砲弾が命中!!

 

エンジンが爆発して黒煙が上がったかと思うと、白旗を上げる。

 

「!? 何っ!?」

 

「!? あそこだ!」

 

何事かと見やった残り2輌のM4A3の車長達は、敷地内に敷かれたレールの上に停めてあった2両の客車の間から、Ⅳ号の砲身が伸びているのを見つける。

 

「クソッ! Ⅳ号かっ!! 先にヤツを………」

 

「待て! クロムウェルがまた来るぞっ!!」

 

片方のM4A3は、先にⅣ号を片付けようとするが、そこで通り抜けて行ったクロムウェルが反転し、再びM4A3の方へと向かって来る。

 

「歩兵部隊! クロムウェルを止めてっ!!」

 

「了解っ!」

 

「俺に任せろっ! 吹っ飛ばしてやるぜっ!!」

 

そこで、片方のM4A3の車長がそう命じると、随伴していた西部歩兵がそう返し、西部の対戦車兵がクロムウェルにバズーカを向けた!

 

「! 唯ちゃん! 10時の方向っ!!」

 

「! ヤベッ!!」

 

しかし、間一髪のところでその対戦車兵の存在に気付いた聖子がそう叫ぶと、唯はクロムウェルを急停止させる!

 

直後に、西部対戦車兵のバズーカから放たれたロケット弾が、クロムウェルのすぐ目の前の地面を直撃。

 

派手に土煙を撒き上がらせる。

 

「アッブネェ………」

 

「後退っ!!」

 

「!!」

 

聖子からの指示で、唯はすぐにクロムウェルを後退させる。

 

だが………

 

「残念だったなっ! そう動くのは予想済みだ!!」

 

残っていた2輌のM4A3の内の1輌が、クロムウェルの進路を予測し、狙いを定めていた!

 

「! 優ちゃん! 砲塔旋回っ!!」

 

「駄目です! 間に合いませんっ!!」

 

先んじて撃とうと、優に砲塔旋回を指示する聖子だったが、優からは間に合わないと言う返事が返って来る。

 

「貰ったぁっ!!」

 

クロムウェルに狙いを定めたM4A3の砲手はそう言って、トリガーに指を掛けたが………

 

「その隙が命取りだ………」

 

そう言う台詞と共に貨車の上に現れた弘樹が、手にしていた火炎瓶をM4A3に向かって投げつけた!!

 

火炎瓶はM4A3のエンジンルームの上部に叩き付けられたかと思うと割れ、中の液体が一気に燃え上がった!!

 

「!? うわぁっ!? 火がっ!?」

 

「しょ、消火器っ! 消火器ぃっ!!」

 

エンジン部が炎上した事に動揺し、M4A3の車内は大混乱となる。

 

やがてボンッ!と音を立ててエンジンが黒煙を上げ、停止。

 

M4A3の砲塔上部から、白旗が上がる。

 

「しまったっ!?」

 

「オノレェッ! 舩坂 弘樹!!」

 

すぐに展開していた西部歩兵が、貨車上の弘樹に向かって発砲を始める。

 

「…………」

 

弘樹は慌てず、貨車の後部へ飛び降り、車輪部分を盾にする形で応戦を始める。

 

「ぐあっ!?」

 

その応戦で、西部歩兵の1人が撃ち抜かれて戦死判定を受ける。

 

「クソッ! たかが歩兵1人に!!」

 

「撃て撃て! 撃ちまくれっ!!」

 

自分達が有利な状況の筈なのに損害を受けた事で頭に血が上り、弘樹1人に攻撃が集中し始める。

 

すると………

 

「貰いました」

 

「HAHAHAHA! サ・ヨ・ナ・ラ・ネッ!!」

 

九九式軽機関銃を持った楓と、ウィンチェスターM1912を持ったジャクソンが、弘樹への攻撃に夢中になっていた西部歩兵達の横へと回り込み、機関銃の掃射と散弾を浴びせた!!

 

「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

対応が遅れた西部歩兵達は、瞬く間に蜂の巣にされて戦死判定を受ける。

 

「やったなぁっ!!」

 

そこで、残り1輌のM4A3が、同軸機銃と車体機銃を楓とジャクソンに向かって掃射して来る。

 

「!!」

 

「OH! デンジャーッ!!」

 

すぐに2人は、近くに在った砂利の山の陰に隠れる。

 

「クッ! 逃げられた………!? クロムウェル接近っ!!」

 

そこで、クロムウェルが正面から接近して来ていた事に気付くM4A3の車長。

 

「今度こそ!」

 

「旋回します!」

 

今度こそ仕留めようと砲塔を旋回させる砲手と、車体を動かす操縦手。

 

「!? 待てっ!? 後方よりⅣ号接近っ!!」

 

だがそこでM4A3の車長は、後方からⅣ号が突撃して来ている事に気付く。

 

「ええっ!?」

 

「ど、どっちを狙えば良いんですかっ!?」

 

操縦手が驚きの声を挙げて手を止め、砲手もどちらを狙えば良いのかと問い質す。

 

「え、ええとっ!?………」

 

それを受けて、どちらを先に狙うべきか考えてしまうM4A3の車長。

 

だが、車長は砲手からの『どちらを狙えば良いのか?』と言う質問のせいで、『逃げる』と言う選択肢が、頭の中から抜け落ちてしまっていた。

 

その間に、Ⅳ号とクロムウェルは、M4A3を左右から挟み込む様に位置取る!

 

「撃てっ!!」

 

「発射っ!!」

 

そのまま、至近距離から75ミリ砲と6ポンド砲のサンドイッチをお見舞いする!

 

為す術も無く、M4A3は派手に爆発し、やがて爆煙が晴れると、煤けて白旗を上げている姿が露わになった。

 

「やったぁっ!」

 

「お見事です、聖子さん」

 

黒煙を上げるM4A3を挟んで、キューポラから姿を現して歓声を挙げる聖子と、その聖子を褒めるみほ。

 

「敵歩兵部隊の排除も完了しました」

 

更にそこへ、そう言う報告と共に、弘樹を初めとしたとらさん分隊とタコさん分隊の面々も集結する。

 

「ありがとう………上手く遭遇戦に持ち込めてる。この調子で………」

 

と、みほが戦況の推移が良い方向に向かって来ていると確信し始めた、その瞬間!!

 

突如、駅舎の建物が、派手に音を立てて粉々に粉砕された!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何事かと、駅舎の方向に全員の視線が集まる!

 

「見つけたあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

と、そういう叫び声と共に、舞い上がった粉煙の中から、ヘルキャットが飛び出して来る。

 

そのハッチからは、クロエが姿を覗かせている。

 

「!? ヘルキャットッ!?」

 

「そんなっ!? 建物の中を平気で突っ切って来たっ!?」

 

「爆薬が仕掛けられているかも知れないのは知っていた筈ですよっ!?」

 

みほ、聖子、優花里が驚きの声を挙げる中、ヘルキャットはみほ達の前にドリフトしながら停まる。

 

「フフフ………運が良かったわ。駅舎に爆薬は無かったみたいね」

 

そう言って僅かに狂気が感じられる笑みを浮かべるクロエ。

 

「こ、怖い………」

 

「ぜってぇーアイツ、真面な神経してねえぜ………」

 

そんなクロエの姿に、沙織と唯が恐怖を感じる。

 

「待ってよー、クロエー!」

 

とそこで、ヘルキャットが破壊した駅舎の残骸を超えて、ミケの乗るスチュワートも姿を現す。

 

「! フラッグ車だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

地市が挙げた声で、今度はスチュワートに全員の視線が集まる。

 

「丁度良いわね。そっちもフラッグ車と護衛1輌。イーブンよ。存分にやり合いましょうか」

 

「…………」

 

相変わらず独特の価値観で語るクロエに、みほは己の頬に冷や汗が伝うのを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回、カバさんチームとジャンボが激突しましたが、今回はその他のチームの対戦カードの発表です。
更に、一部には西部歩兵部隊のメンバーが乱入して来る予定です。
いよいよ戦闘は山場に突入します。
どの対決もお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第136話『ウェスタン戦車戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第136話『ウェスタン戦車戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部劇の街並みのセットにて、西部機甲部隊にゲリラ戦を挑んだ大洗機甲部隊………

 

その遭遇戦の最中………

 

カバさんチームが、ブチのジャンボ………

 

カメさんチームとアリクイさんチームが、シロミのイージーエイト………

 

ウサギさんチームとレオポンさんチームが、ノーラのシャーマン・カリオペ………

 

そしてあんこうチームとサンショウウオさんチームが、クロエのヘルキャットにミケのスチュワートと対峙するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部の街並みのセットが在るエリア………

 

「撃てっ!!」

 

エルヴィンの号令でⅢ突の主砲が火を噴く。

 

だが、放たれた砲弾は、ジャンボの正面装甲に命中したかと思うと、火花を散らして明後日の方向に弾かれる。

 

「チッ! 駄目か!!」

 

「次弾装填!」

 

左衛門佐が舌打ちをする中、カエサルが次弾の装填を終える。

 

「おりょう! 左旋回しながら後退すると見せかけて右旋回しながら後退!」

 

「ぜよっ!」

 

エルヴィンはすぐさまそう指示を飛ばし、おりょうが注文通りにⅢ突を動かす。

 

直後に、ジャンボの砲弾が、Ⅲ突が左旋回したままだったら直撃していたであろう場所に叩き込まれた。

 

「見事ですわね。けれども………」

 

「次弾、装填完了」

 

ブチがそう言いながら、装填手からの次弾装填完了の報告を聞くと共に第2射を見舞う!

 

放たれた砲弾は、Ⅲ突の眼前に着弾し、Ⅲ突の車体が一瞬浮き上がる!

 

「「うわぁっ!?」」

 

「クッ! おりょう!! 側面に回り込めっ!!」

 

「おうぜよっ!!」

 

カエサルと左衛門佐が悲鳴を挙げる中、エルヴィンはそう指示し、おりょうはⅢ突をジャンボの側面へ向かわせる。

 

「自分達が突撃砲だと言うのをお忘れで?」

 

だが、ブチがそう言うと、ジャンボは車体と砲塔を旋回させてⅢ突に狙いを定める。

 

「! 駄目だ! 離脱っ!!」

 

「クッ!!」

 

それを見たエルヴィンが、即座に回り込むのを止めて離脱する様に指示。

 

直後に、Ⅲ突の上面スレスレを、ジャンボの砲弾が掠めてる。

 

「駄目だ! やはり突撃砲で機動戦は無理だっ!!」

 

「一旦退いて待ち伏せしたら如何だ?」

 

「駄目だ! 周りは敵だらけだ! 何処へ退くと言うんだ!?」

 

カエサルと左衛門佐の問いにそう返すエルヴィン。

 

その言葉通り、周辺では西部歩兵部隊とペンギンさん+ワニさん分隊とマンボウさん分隊の隊員が銃撃戦を展開しており、カモさんチームのルノーB1bisも数輌のM4A3に追い掛け回されていた。

 

 

 

 

 

そんな歩兵部隊の様子はと言うと………

 

「ぬおおおおおおおっ!!」

 

咆哮と共に、刀を片手に西部歩兵の1人へと斬り掛かって行く月人。

 

「!? うおわっ!?」

 

斬り掛かられた西部歩兵は、咄嗟にサーベルを抜いて、月人の斬撃を受け止める。

 

「甘いわぁっ!!」

 

だが、その瞬間!!

 

月人は空いていたもう一方の手で、西部歩兵の腹に掌底を打ち込んだ!

 

「!? ゲボッ!?」

 

「ぬおおおおおおおっ!!」

 

そしてそのまま、気合の雄叫びと共に西部歩兵を片腕で頭上まで掲げ挙げる!

 

「ぬうんっ!!」

 

その後、地面に向かって叩き付ける様に投げ捨てた!

 

「ガハッ!?」

 

西部歩兵は一瞬痙攣した様な動きをしたかと思うと、ガクリと気絶し、戦死と判定される。

 

「成程! シャイニングフィンガーとはこういうものか!!」

 

その様を見て、1人納得が行った様な顔をしている月人だった。

 

 

 

 

 

「駆けよ、シュトゥルム! その名の如くっ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

馬上からのモーゼルC96の馬賊撃ちで、西部歩兵を次々に屠って行くゾルダート。

 

「クソッ! 騎馬部隊! 取り囲めっ!!」

 

するとそこで、西部歩兵部隊の騎兵達が、サーベルを片手にゾルダートを取り囲む。

 

「うおおっ!」

 

「フッ………」

 

1人が擦れ違い様に斬り掛かったが、ゾルダートは涼しい顔で身を低くしてかわしたかと思うと、その体勢のまま、通り過ぎた西部騎兵の背を撃ち抜いた!

 

「ぐはっ!?」

 

背中に衝撃を受けた西部騎兵は落馬し、戦死と判定される。

 

「このぉっ!」

 

続け様に、別の西部騎兵が斬り掛かったが………

 

「甘いっ!」

 

ゾルダートはそう言い、斬り掛かって来た西部騎兵のサーベルの柄に銃弾を撃ち込んだ!

 

「うわっ!?」

 

衝撃でサーベルを手放してしまう西部騎兵。

 

するとゾルダートは、モーゼルC96をホルスターに納め、弾かれて宙に舞ったサーベルを逆手に持つ様にキャッチする。

 

「あっ!?」

 

「覚悟して頂くっ!!」

 

そして呆気に取られていた西部騎兵の無防備な腹に、横薙ぎの一閃を叩き込んだ!

 

「ぐはっ!?」

 

斬られた腹を抑え込んで落馬する西部騎兵。

 

そのまま戦死判定を受ける。

 

「ええい! 戦車部隊っ!! 構わないから俺達ごと撃てぇっ!!」

 

「分かったわっ!!」

 

すると、腹を決めたかの様な表情を見せた西部騎兵の1人がそう叫び、1輌のM4A3が、西部騎兵達に取り囲まれているゾルダートに主砲を向ける。

 

「! 味方ごと撃つ積りか!?」

 

表情が険しくなるゾルダートだが、取り囲んでいる西部騎兵達が邪魔で離脱出来ない。

 

「うおおおおおっ! やらせるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

すると、そのM4A3に向かって、陸王に乗った弦一朗が突っ込んで行く!

 

「それはコッチの台詞だっ!!」

 

だがそこで、別のM4A3が、ゾルダートを狙うM4A3を守る様に陣取り、弦一郎に主砲を向けた!

 

「何のぉっ! 気合だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、弦一朗は止まるどころか、更に速度を上げて、立ちはだかったM4A3に突っ込んで行くっ!!

 

「馬鹿め! 木端微塵になれっ!!」

 

そんな弦一朗に狙いを定めたM4A3の砲手が、引き金を引こうとする。

 

その瞬間!!

 

発砲音がしたかと思うと、照準器が何も見えなくなった。

 

「!? 照準器が!?」

 

「悪いね………狙い撃たせてもらったよ」

 

砲手が驚きの声を挙げる中、建物のセットの上でボーイズ対戦車ライフルを構えていた圭一郎がそう言い放つ。

 

如何やら、照準器をピンポイントで破壊した様である。

 

「ナイス援護だぜ、ダチ公!! うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そこげ弦一朗は、一気にM4A3に突撃し、バイクをウイリーさせ、前輪を正面装甲に掛けたかと思うと………

 

そのままM4A3をジャンプ台にして、バイクごと跳躍した!

 

「なっ!?」

 

「飛んだっ!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

ジャンプ台にされたM4A3の乗員が驚きの声を挙げる中、弦一朗は火炎瓶をゾルダートを狙っていたM4A3に向かって投擲した!

 

エンジン部に叩き付けられた火炎瓶が割れ、派手に炎上したかと思うと、エンジンが爆発!

 

ゾルダートを狙っていたM4A3から白旗が上がる!

 

「なっ!?」

 

「しまったっ!?」

 

その光景に、ゾルダートを取り囲んでいた西部騎兵達が一瞬動きを止めると………

 

次々と発砲音がして、銃弾が西部騎兵達の頭に命中!

 

「「「「「!?………」」」」」

 

悲鳴を挙げる間も落馬し、戦死と判定された。

 

「…………」

 

その狙撃の主であるシメオンは、丁度圭一郎が居る建物の反対側に当たる建物の2階から、すぐに音も無く移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、Ⅲ突の方では………

 

「確かに、この状況では皆を巻き込めんな………」

 

「…………」

 

次弾を抱えたままのカエサルがそう言うが、エルヴィンは先程の弦一朗の戦いを見てから、何かを考えている様子だった。

 

「? エルヴィン?」

 

それに気づいたカエサルが声を掛けた瞬間………

 

至近弾がⅢ突を襲い、衝撃でまたも一瞬車体が持ち上がった!

 

「!? うおわっ!?」

 

「申し訳ありませんが、何時までも貴方のお相手をしてあげる時間はありませんの。決着を付けさせてもらいますわ」

 

丁寧な口調ながらも、引き締まった表情でそう言い放つブチ。

 

「クソッ!」

 

思わず悪態を吐くエルヴィンだったが、その時………

 

「何愚図愚図をやってるのよ!」

 

他の戦車部隊の相手をしていたカモさんチームのルノーB1bisが、隙を衝いて抜け出して来たのか、Ⅲ突の隣に現れる。

 

「! カモさんチーム!」

 

「装甲が厚いんだったら、近づいて撃てば良いだけの事でしょう! ゴモヨ! 突撃よっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

エルヴィンが声を挙げるとルノーB1bisは、全速力でジャンボに向かって突っ込んで行った!

 

「!? 待て! 無謀だっ!!」

 

「風紀委員の意地! 見せてやるわぁっ!!」

 

左衛門佐がそう叫ぶが、熱くなっているみどり子の耳には届かない。

 

「コレでも喰らいなさいっ!!」

 

突撃中に、牽制とばかりに主砲と副砲を同時に放つ。

 

だが、そのどちらも、ジャンボに当たると明後日の方向へ跳ね返された。

 

「自分達の戦車の性能は良く把握して於く事をお勧めしますわ………撃て!」

 

その光景に呆れた様に呟くと、ブチは容赦無く、突っ込んで来ていたルノーB1bisに主砲を叩き込んだ!

 

しかも、運が悪い事に車体正面の脆い主砲部分に命中してしまう。

 

「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」

 

着弾の衝撃でルノーB1bisは横にスピンし、建物のセットに突っ込んだ!!

 

崩れたセットが、ルノーB1bisの車体の上に降り注いだかと思うと、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「先ず1輌………Ⅲ突の方も………」

 

と、ブチがそう言って、砲塔をⅢ突の方へと向けた瞬間………

 

Ⅲ突が全速力で、ジャンボ目掛けて突っ込んで来た!

 

「自棄になりましたの? それは余りお勧め出来る手段ではありませんね………」

 

しかし、ブチは冷静な様子を崩さず、そんなⅢ突の姿に呆れた様な様子を見せる。

 

「装填完了!」

 

そこで装填手が、次弾の装填を終えた。

 

「コレで終わりですわ」

 

そう呟いて、ペリスコープ越しにⅢ突の姿を見据えるブチ。

 

と、その瞬間!!

 

Ⅲ突は突如方向を変えた!!

 

「!? 何処へ!?………」

 

突然の方向転換にブチは驚きながらもその向かう先を確認する。

 

Ⅲ突が向かった先………

 

それは撃破され、建物のセットの瓦礫に半分埋もれているカモさんチームのルノーB1bisだった。

 

「カモさんチーム! しっかりと車内で踏ん張ってろっ!!」

 

「ちょっ!? 何する気よっ!?」

 

突然のエルヴィンの通信に戸惑いながらも、言われた通りに車内で踏ん張るカモさんチーム。

 

「おりょうっ! 思いっきり行けっ!!」

 

「南無阿弥陀仏ぜよっ!!」

 

エルヴィンは続けておりょうにそう言ったかと思うと、Ⅲ突は遂に最高スピードに達する。

 

そのまま、瓦礫に埋もれているルノーB1bisの車体後部へ接触!

 

………したかと思われた瞬間!!

 

何とⅢ突は、ルノーB1bisをジャンプ台にして、宙に舞った!

 

「なっ!?」

 

ブチが驚愕を露わにする中、Ⅲ突は前方を下にしながら、ジャンボの真上を差し掛かる。

 

「左衛門佐ぁっ!!」

 

「定めなき浮世にて候へば、一日先は知らざる事に候………」

 

エルヴィンの声が響く中、左衛門佐は真田 幸村が最後に送った書状に書かれていた言葉を口にし、引き金を引いた!

 

真下を向いたⅢ突から砲弾が放たれ、ジャンボの後部車体上面………エンジンルームを直撃する!!

 

ジャンボのエンジンが爆発すると共に、砲塔上部から白旗が上がった!

 

直後にⅢ突は逆さまになった状態で地面に叩き付けられ、底部から白旗を上げた。

 

「相討ちか………」

 

「だが一矢は報いた………口惜しさは残るが、後は皆に任せよう」

 

カエサルがそう言うと、エルヴィンはやり切った顔でトレードマークの軍帽を被り直す。

 

「………突撃砲でトップアタックするなんて………普通思いつきませんわ」

 

先程とは違う意味で呆れながら、ブチは引っ繰り返ったⅢ突の姿を見やって居たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西部劇の街並みのセットの近くにて………

 

「撃てっ!」

 

「発射ぁっ!」

 

梓とナカジマの掛け声で、M3リーの主砲と副砲、ポルシェティーガーの主砲が火を噴く。

 

M3リーの主砲と副砲は外れたが、ポルシェティーガーの砲弾はシャーマン・カリオペの護衛に付いて居たM4A3の車体正面に命中。

 

易々と装甲を突き破ったと判定され、命中したM4A3から白旗が上がる。

 

「撃て撃てっ! 戦車に近寄らせるなぁっ!!」

 

ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の面々は、岩や僅かな稜線を機銃陣地として、ヴィッカース重機関銃とブローニングM1919重機関銃を数丁設置し、西部歩兵達を近寄らせない様に弾幕を張っている。

 

「クソッ! 凄い弾幕だ!!」

 

「ノーラさん! カリオペで一気に蹴散らして下さい!!」

 

「そうしたいんですけど………ココでカリオペを使ってしまっては、本隊の援護が出来なくなってしまいますわ」

 

その弾幕に晒されている西部歩兵達から、シャーマン・カリオペのノーラにそう要請が飛ぶが、本隊の援護が出来なくなる為、ノーラはカリオペの使用を躊躇する。

 

と、直後に護衛に居たもう1輌のM4A3に砲弾が命中し、撃破されたと判定され、白旗を上げる。

 

「また命中!」

 

「流石、主砲は本家ティーガーと同じなだけはあるねぇ」

 

ホシノがそう声を挙げると、ナカジマがそう言う。

 

「チイッ! ポルシェとは言え、ティーガーか!!」

 

「ノーラさん! このままじゃマズイですよ!!」

 

「………仕方ありませんわね」

 

西部歩兵達から悲鳴の様な声が挙がる中、ノーラが止むを得ず、カリオペを使おうとする。

 

「………アラ?」

 

しかしそこで、ペリスコープ越しに何かを発見した様な表情を見せる。

 

「フフフ………良いタイミングですわ」

 

そしてそう言って微笑むのだった。

 

「護衛戦車の残りはチャーフィーだけ。上手く主砲の75ミリを当てられれば………レオポンさんチーム、私達がチャーフィーを排除しますから、カリオペを狙って下さい」

 

「りょうか~い」

 

梓がそう通信を送ると、ナカジマから間延びした返事が返って来る。

 

「あゆみ、良く狙って」

 

「任せて」

 

あゆみが、主砲の75ミリ砲でチャーフィーに狙いを定める。

 

「………!!」

 

だがそこで、何かに気付いた様子を見せた紗希が、梓のパンツァージャケットの袖を引っ張った。

 

「!? 紗希!?………!! 反転180度っ!!」

 

「!! アイーッ!!」

 

一瞬首を傾げた梓だったが、すぐにそう指示が飛び、桂利奈がM3リーを180度反転させる!

 

直後に、M3リーの正面装甲に収束手榴弾が当たり、跳ね返って宙に舞ったかと思うと爆発!

 

「「「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

衝撃が車体を襲うが、幸い離れて爆発した事と正面装甲を向けていた事で、ダメージは軽微であり、撃破判定は下らなかった。

 

「!? 背後に敵っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

飛彗がそう声を挙げると、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の面々は一斉に後ろを振り返る。

 

「! オリバーッ!!」

 

そしてジェームズが驚きの声を挙げる。

 

そこに居たのは、銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を片手に携えているオリバーだった。

 

「チイッ! 背後に回られたかっ!!」

 

と、ヴィッカース重機関銃が備え付けられていた機関銃陣地に居た大洗歩兵達が、背後に現れたオリバーの方にヴィッカース重機関銃を向け、発砲する!

 

だが!!

 

「!!」

 

オリバーはバッと駆け出したかと思うと、稲妻の様に左右へ激しく揺れてダッシュし、ヴィッカース重機関銃から放たれた銃弾をかわす。

 

「な、何っ!?」

 

「何だよ、あの動きっ!?」

 

「アイツ人間かっ!?」

 

機関銃から放たれる銃弾を全て避けると言う、俄かには信じがたいオリバーの動きに度胆を抜かれる大洗歩兵達。

 

「フッ………」

 

そしてオリバーは、そのまま機関銃陣地の中へと跳び込む!

 

「!?」

 

「コイツッ!!」

 

機関銃陣地に居た大洗歩兵達は拳銃を抜いて応戦しようとしたが………

 

「遅いっ!!」

 

オリバーは銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を、ターミネーターの様に片手でスピンコックさせて次々に発砲!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

一瞬で機関銃陣地に居た大洗歩兵達を全滅させた!

 

「ハッ!!」

 

そして機関銃陣地から跳び出すと、リロードを行いながらまたも高速で走り回る!

 

「速いっ!」

 

「駄目だ! 狙えないっ!!」

 

そのスピードの前に、大洗歩兵達は狙いを付けられない。

 

「弾幕が途切れたぞ!!」

 

「今だ! 攻め込めぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

と、オリバーに気を取られた事で、弾幕が途切れてしまい、ノーラ達の護衛の西部歩兵達が突撃を掛けて来る。

 

「あちゃ~、こりゃマズイねぇ」

 

「こうなったら、先にカリオペだけでも!………」

 

ナカジマが呑気そうに言うと、梓はカリオペだけでも排除しようと言うが………

 

「果敢ですわね………ですが、こういうのは如何ですか?」

 

ノーラがそう言い放った瞬間!

 

装着されていたカリオペが外れた!

 

「!? ええっ!?」

 

「嘘~っ!?」

 

「カリオペを………捨てたっ!?」

 

あやと優季が驚きの声を挙げ、梓もノーラの思わぬ行動に一瞬呆気を取られる。

 

「さて………行きますわよ」

 

と、ノーラはそう言い放つと、カリオペを捨て、M4A3となった状態で機動戦を仕掛けてくる!

 

「! 速いっ!」

 

「しまったっ!? カリオペを捨てたのは、機動力を上げる為だったんだ!?」

 

桂利奈がそう声を挙げると、梓がカリオペを捨てた意味を察する。

 

その瞬間に、ノーラのM4A3が発砲する。

 

「!?」

 

「危ないっ!!」

 

梓は固まってしまうが、そこでポルシェティーガーが間に割って入り、ノーラのM4A3の砲弾を装甲で弾く!

 

「ボーッとしないで!!」

 

「! ゴメンナサイッ!」

 

「チャーフィーも来たよっ!!」

 

珍しく大声を出すナカジマに、梓が謝って居ると、ツチヤがそう報告を挙げる。

 

その報告通りに、残っていた護衛戦車のチャーフィーも、ノーラのM4A3に追従して機動戦を仕掛けて来る!

 

「マズイね………そろそろエンジンがヤバイし、機動戦になったら何分持つか分からないよ」

 

苦い顔をしてそう言うナカジマ。

 

只でさえ快晴で気温が高い荒野を移動し続けていたせいで、ポルシェティーガーのエンジンには相当の負荷が掛かっており、ココへ来て機動戦となれば、エンジンが持たない可能性があった。

 

「やるしかないよ。向こうはコッチの都合何て御構い無しだしね」

 

「まあ、そうだね~」

 

そこでスズキがそう言うと、ナカジマは何時も通りの口調でそう返す。

 

「となると、問題はあの歩兵………」

 

梓はそう呟き、ペリスコープ越しに高速で走り回るオリバーの姿をを見やる。

 

「澤サン。オリバーは僕に任せて下サイ」

 

するとそこで、ジェームズがそう進言して来る。

 

「!………分かった! お願いしますっ!!」

 

梓は一瞬逡巡したが、すぐにそう返す。

 

「了解デス!」

 

「モンローくん! 紗希が頑張ってだって!!」

 

ジェームズが返事を返した瞬間、あやがそう通信を送って来た。

 

「…………」

 

副砲装填手席の紗希は、不安そうな表情で返事を待っている。

 

「センキュー、紗希サン。必ず勝ちマス!」

 

「!………」

 

だが、ジェームズからそう返事が返って来ると、笑顔を浮かべた。

 

「………行きマス!」

 

ブレン軽機関銃Mark 2を構えたジェームズが、オリバーの方に向かって駆け出す。

 

「来たか! ジェームズッ!!」

 

「オリバーッ!!」

 

両者はそのまま、互いに睨み合いながら走り抜けて行くのだった。

 

「良し! 私達も行くよ!! パンツァー・フォーッ!!」

 

「梓ちゃん、西住総隊長みた~い」

 

それを見て、自分達もノーラのM4A3とチャーフィーに当たろうと、パンツァー・フォーの号令を出す梓の姿を見て、優希がそんな事を言う。

 

「ポルシェティーガーが厄介なのは当然ですけど………貴方達は如何でしょうね? ウサギさん」

 

そんなウサギさんチームのM3リーの姿を見ながら、ノーラは不敵に笑ってそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ブチのジャンボと対峙するカバさんチームのⅢ突。
しかし、突撃砲と戦車では機動戦での有利不利が大きかった。
だが、弦一郎の戦い方とカモさんチームの犠牲で………
どうには相討ちに持ち込んだのだった。

一方………
ノーラのカリオペと戦っていたウサギさんチーム達の元には………
オリバーが乱入。
ノーラもカリオペを捨てて機動戦を挑んで来る。
果たして、こちらの勝負の行方は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第137話『ウサギさんチーム、頑張ります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第137話『ウサギさんチーム、頑張ります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊と西部機甲部隊の激戦が続く中………

 

弦一朗の行動をヒントに、奇策を思いついたカバさんチームが………

 

カモさんチームの尊い犠牲で、ブチのジャンボを相討ちで撃破。

 

一方………

 

西部劇の街並みのセットの外でノーラが乗るシャーマン・カリオペの部隊と戦っていたウサギさんチームとハムスターさん分隊、レオポンさんチームとおおかみさん分隊は………

 

M4A3を2輌撃破する事に成功したが………

 

突如現れたオリバーと、カリオペを捨てて機動戦を挑んで来たノーラによって、混戦に持ち込まれるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部の街並みのセットの近く………

 

「FIRE!!」

 

ブレン軽機関銃Mark 2をオリバーに向かって発砲するジェームズ。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、高速で走るオリバーには当たらない。

 

「お返しだ、ジェームズ!」

 

そして、反撃とばかりに銃床の方を切り詰めたウィンチェスターM1887を発砲する。

 

「!!」

 

だが、オリバーが発砲すると思われた瞬間にはジェームズは駆け出しており、散弾は地面を耕す。

 

「オオオオッ!!」

 

「ウオオオッ!!」

 

そのまま、お互いに平行に並んでダッシュしたながら、互いの得物を撃ち合う2人。

 

やがて、2人の前方に大きな岩が見えて来たかと思うと、両者はそのまま、その岩を挟み込む様に位置取って、身を隠した!

 

「クッ!…………」

 

弾倉と熱を持った銃身を交換するジェームズ。

 

(やっぱりオリバーはハヤイ………もうかなり撃ってるのに、1発も掠りすらシナイなんて………)

 

空になっている数個の弾倉を地面に置きながら、ジェームズはそんな事を考える。

 

(やるな、ジェームズ。コレだけ撃って1発も当たらないなんてな)

 

一方、丁度反対側に隠れているオリバーも、ウィンチェスターM1887に新たな散弾を入れながら同じ事を考えていた。

 

(付け入る隙が有るとすれば………オリバーの得物がウィンチェスターM1887だと言う事デスカ)

 

そこで、ジェームズの方が、オリバーの武器がウィンチェスターM1887である事を思い出してそう考える。

 

(ウィンチェスターM1887の装弾数は5発………成るべく相手の発砲を誘って、弾切れになったところ狙う………コレしかアリマセン)

 

(多分、コッチの弾切れを狙って来るだろうな………だが、そいつは無駄だぜ、ジェームズ)

 

オリバーの弾切れを狙おうとするジェームズだったが、オリバーはそんなジェームズの考えを読んでおり、背負っていた背嚢から、『ある物』を取り出す。

 

「………!!」

 

やがて、装填を終えたジェームズが、バッと岩陰から飛び出す。

 

それと同時に、オリバーも岩陰から飛び出した。

 

(弾切れを狙って………!?)

 

威嚇射撃をしようとオリバーの方を見たジェームズの顔が驚愕に染まる。

 

オリバーは、右手だけでなく、左手にも銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を握っていたからだ。

 

「ソレッ!!」

 

右手の銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を発砲したかと思うと、空かさず左手の方も発砲するオリバー。

 

2発の散弾による弾幕が、ジェームズに迫る!

 

「!!」

 

ジェームズはすぐさま走り出し、如何にかかわしたが、掠めた散弾が戦闘服の表面に引き裂いた様な跡を残す。

 

「マサカ! ショットガンの2丁撃ちだなんて!!………」

 

思わぬオリバーの手に、ジェームズは一旦撤退しようと、オリバーから距離を取り始める。

 

「逃がすかっ!!」

 

だが、オリバーはすぐさま駆け出し、ジェームズを追って来る。

 

(引き離………せない!!)

 

(差が、詰まらない!!)

 

逃げるジェームズをオリバーが追う形となっているが、その両者の間は一定のままだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

カリオペを捨てたノーラのM4A3と対峙していたウサギさんチームとレオポンさんチームは………

 

「撃てっ!」

 

梓の掛け声で、M3リーの主砲と副砲が火を噴く。

 

しかし、主砲は外れ、副砲はM4A3の防楯部分に命中して弾かれてしまう。

 

「発射」

 

そして、M4A3の反撃が放たれる。

 

「後退っ!!」

 

「うえーいっ!!」

 

梓の指示で、すぐさまM3リーを後退させる桂利奈。

 

M4A3の砲弾が、直前までM3リーが居た場所に着弾。

 

舞い上がった土片がM3リーの上に降り注ぐ。

 

「次弾装填、急いで!………! 左からチャーフィーッ!!」

 

次弾装填の指示を出しながら、ペリスコープ越しに左側からチャーフィーが迫って来ている事に気付く梓。

 

「側面! 貰ったぁっ!!」

 

側面を取ったと、チャーフィーの車長はそう声を挙げる。

 

「! 停止っ!!」

 

だが、すぐに嫌なモノを感じ取り、停止指示を出した!

 

直後に、停止したチャーフィーの眼前に砲弾が着弾し、大きい土片を巻き上げた!

 

「あ、外した!」

 

「相手の車長さん、良い勘してるみたいだね~」

 

ホシノが声を挙げると、ナカジマがチャーフィーをハッチを僅かに開けて覗き見ながらそう言う。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、チャーフィーがお返しだとばかりに発砲する。

 

しかし、砲弾はポルシェティーガーの正面装甲で弾かれ、明後日の方向に飛んで行く。

 

「クウッ! 後ろに回れっ!!」

 

チャーフィーの車長はそう言うと、ポルシェティーガーの後ろに回り込もうとする。

 

「来るよ! ツチヤ! なるべくエンジンに負担が掛からない様に移動!!」

 

「無茶言ってくれるね~」

 

ナカジマの指示に、ツチヤはそう言いながらも、笑顔で操縦桿を動かす。

 

回り込もうとして来るチャーフィーに対し、ポルシェティーガーは正面を向け続ける様に機動戦を展開する。

 

「レオポンさんチーム!………! 停止っ!!」

 

「! えーいっ!!」

 

レオポンさんチームを気に掛ける梓だったが、すぐに何かに気付いて桂利奈に停止指示を飛ばし、桂利奈はM3リーを急停車させる。

 

直後に、M3リーの前面スレスレを、砲弾が通り過ぎて行った!

 

「他人の心配をしている余裕が有るのかしら?」

 

ペリスコープ越しにM3リーを見据えながら、ノーラはそう言い放つ。

 

「くうっ!! 応戦してっ!!」

 

「了解っ!!」

 

「任せてっ!!」

 

苦い顔をしながらも梓は指示を飛ばし、あやとあゆみがノーラのM4A3を狙うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、ジェームズVSオリバーの様子は………

 

「如何したジェームズ! 逃げるだけか!? そんな事の為にお前に走りを教えたんじゃないぜっ!!」

 

両手の銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887をスピンコックで連続発砲しながら、オリバーがジェームズにそう挑発の言葉を飛ばす。

 

「クウッ!………」

 

その弾幕密度に苦い声を漏らしながら、ジェームズはブレン軽機関銃Mark 2を構える。

 

「おっと!」

 

だが、狙った瞬間には、オリバーはその場所から消えてしまう。

 

「そらそらそらっ!」

 

そして新たな場所へと移動したかと思うと、再び両手の銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887をスピンコックで連続発砲して来る!

 

「! オウッ!!」

 

咄嗟に、近くに在った岩の影に転がり込むジェームズ。

 

そのままブレン軽機関銃Mark 2から空になった弾倉を外す。

 

(………コレが最後のマガジンデス)

 

しかし、新たに取り付けた弾倉で手持ちは無くなってしまう。

 

(………やはり、僕ではオリバーに勝てないんじゃ)

 

思わずそんな考えが頭を過る!

 

が、すぐに頭を振ってその考えを振り払う。

 

(何を弱気になってるんデスか! 必ず勝つと誓ったじゃないデスか! しっかりしろ!!)

 

自分を奮い立たせる様に、両手で頬を叩くジェームズ。

 

(何か………何か有る筈デス! あの散弾の弾幕の攻略法ガ!!………!? 散弾!?)

 

とそこで、ジェームズがオリバーが使っている弾薬が散弾である事を思い出す。

 

そして、頭の中に『とある作戦』が浮かぶ。

 

(コレならオリバーの意表を衝けマス。でも………失敗したら、コッチがやられてしまう………)

 

だが、その作戦は一か八かであり、失敗すればやられるのは自分である。

 

(…………)

 

逡巡するジェームズ。

 

ふと、その脳裏に………

 

紗希の顔が浮かんだ。

 

(そうだ! 何を恐れているんデスか! 紗希サンは僕に頑張ってって言った! だっだら頑張らなければ………アメリカ人の名が廃ると言うものデス!!)

 

ジェームズの瞳に、決意の色が浮かぶ。

 

(やるしかない!!)

 

そう思い、ジェームズは立ち上がると、バッと岩陰から姿を現す。

 

「!!」

 

そんなジェームズの姿を見たオリバーが、一瞬動きを止める。

 

「オリバーッ! 最後の勝負デス!!」

 

そのオリバーに向かって、ジェームズは宣言する様に高らかにそう言い放つ。

 

「(! 何か考えたな………良いだろう)望むところだ! 来い、ジムッ!! 返り討ちにしてやるぜっ!!」

 

オリバーはそう言うと、両手の銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を構える。

 

「…………」

 

ジェームズもブレン軽機関銃Mark 2を構える。

 

「「…………」」

 

両者は沈黙し、風音だけが響いて砂塵が舞う中、緊迫した空気が流れる………

 

「! バンザーイッ!!」

 

と、ジェームズが不意にそう叫んだかと思うと、オリバーに向かって突撃した!

 

(! 突撃っ!? いや、コッチが撃つ寸前で左右どちらかにかわして攻撃する気だな!!)

 

ジェームズの行動をそう予測するオリバーだったが………

 

「ワアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

予想に反して、ジェームズは真っ直ぐに突っ込んで来る!

 

「!? 自棄になったのか!? ジム! ガッカリだぞっ!!」

 

そんなジェームズの姿に、オリバーは一瞬失望の色を見せたかと思うと、両手の銃床を切り詰めたウィンチェスターM1887を発砲した!!

 

 

 

 

 

その瞬間っ!!

 

 

 

 

 

「! 今デスッ!!」

 

ジェームズがそう叫んだかと思うと、そのスピードが更に増した!

 

「!? 何っ!?」

 

オリバーが驚きの声を挙げた瞬間、何と!!

 

ジェームズは、発射された散弾が拡散する前に、その間を擦り抜けた!!

 

後に、オリバーは、この時のジェームズを………

 

『光になっていた』と評したと言う………

 

「ワアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのままオリバーに肉薄!!

 

ブレン軽機関銃Mark 2の銃口を、突き刺す様にその胸に突き付けた!!

 

「「…………」」

 

その状態で固まり、両者は沈黙。

 

再び場に、緊迫した空気が漂い出す。

 

「………ジム、お前の勝ちだ」

 

と、オリバーがそう言って笑う。

 

「何時の間にか抜かれてたみたいだな………強く………いや、『速くなった』な」

 

「…………」

 

そうオリバーが言葉を続けた瞬間………

 

ジェームズはブレン軽機関銃Mark 2の引き金を引いた!

 

爆音と共に弾丸が次々に吐き出されてオリバーの命中して行く!

 

やがて、弾倉の弾が無くなると、オリバーはその場にバタリと倒れる。

 

程無くして、戦死の判定が下った。

 

「…………」

 

銃口から硝煙が立ち上ったままのブレン軽機関銃Mark 2を力無く持ったまま、脱力した様子を見せるジェームズ。

 

「………勝った?」

 

やがて、そう呟いたかと思うと、その身体が小刻みに震え始める。

 

「勝った! 勝ったーっ! オリバーに………勝ったんだ! アイム ヴィクトリーッ!!」

 

そう叫んで両腕を空に向かって突き上げるジェームズ。

 

今、1つの師弟の戦いに、決着が付いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ウサギさんチームとレオポンさんチームはと言うと………

 

「桂利奈ちゃん! 急いで! 射線が通っちゃうっ!!」

 

ノーラのM4A3の射線が通りそうなのを見て、梓が焦った様子でそう叫ぶ。

 

「コレで精一杯だよぉーっ!!」

 

だが、M3リーを移動させている桂利奈は、既に精一杯だと返す。

 

「貰いましたわ!」

 

と、ノーラがそう言い放った瞬間!!

 

「やらせるかぁっ!!」

 

あやが副砲をM4A3に向け、発砲した!!

 

だが、防盾に命中した為、弾かれてしまう。

 

「! クッ!! 撃てっ!!」

 

車内に走る衝撃に、一瞬顔を顰めながらも指示を飛ばすノーラ。

 

それを受けてM4A3は発砲!!

 

放たれた砲弾がM3リーの主砲の付け根に横から命中。

 

M3リーの主砲身が砕け散った!

 

「! 主砲がやられちゃったっ!!」

 

「でも、直撃されなかったよ~」

 

あゆみが悲鳴の様な声を挙げるが、優希がそう言う。

 

彼女の言う通り、M4A3の砲弾は、本来ならば車体に直撃しただろうが、直前にM3リーの副砲弾が当たった衝撃で、狙いが逸れたのである。

 

「でも! 如何するの!? 私の方じゃM4A3の正面装甲は抜けないよ!!」

 

「クウッ!」

 

あやの声に、梓は苦い顔を浮かべる。

 

と、その時!!

 

何かが爆発した様な音が、2回続けて聞こえて来た!

 

「!?」

 

梓がペリスコープ越しにその音がした方向を確認すると、そこには………

 

ポルシェティーガーの砲弾が命中し、命中部から黒煙を上げているチャーフィーと………

 

エンジンが炎上しているポルシェティーガーの姿が在った。

 

「! ポルシェティーガーが!?」

 

「ゴメ~ン、チャーフィーはやっつけたんだけど、エンジンが限界だったみたい」

 

梓が思わず声を挙げると、ナカジマからそう通信が入って来る。

 

「如何しよう………」

 

「コレじゃあアイツを倒せないよ………」

 

あやとあゆみから絶望の声が挙がる。

 

主砲を破壊され、ポルシェティーガーも脱落した今、M3リーのM4A3を倒せる可能性は粗無かった。

 

ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の面々も、相手の歩兵部隊を食い止めるので精一杯であり、救援に来れそうにない。

 

(駄目だ………もう何も出来ない………)

 

無力感から俯き、目を閉じて両手を握り締める梓。

 

だが、そこで………

 

梓の脳裏に、みほの顔が浮かんだ。

 

(! 西住総隊長っ!!)

 

そこで梓はハッと目を見開く。

 

(………そうだ………総隊長だったら絶対に諦めない………必ず何とかしようとする筈………だったら、私だって………諦めない!!)

 

そう思い、表情を引き締める梓。

 

「…………」

 

そんな梓の顔をジッと見ている紗希。

 

彼女には一瞬、その姿に………

 

みほの姿が重なった様に見えた。

 

(落ち着け………落ち着け、澤 梓………落ち着いてもう1度状況を整理するんだ………)

 

梓は先ず自分を落ち着かせ、今の状況を頭の中で整理し始める。

 

(今のM3リーは主砲が無くなっている………使えるのは副砲の37ミリ………正面装甲を撃ち抜くのは到底無理………ポルシェティーガーもやられて、歩兵部隊の援護も望めない………)

 

パズルを組み立てる様に、1つ1つの事態を冷静に分析して行く。

 

(側面か背面を狙って接近戦を挑もうにも機動性も相手が上………他に副砲で貫通出来そうな場所と言えば底面か上面ぐらいだけど、高低差がそんなにある地形じゃないから、そんなところを狙うなんて………!? そう言えばっ!?)

 

そこで梓の脳裏に、座学で習った『ある戦法』が過る。

 

「(………コレしかない!)桂利奈ちゃん! 出来るだけM4A3を見上げる様な形になる場所に移動して!!」

 

「えっ!? 見上げるっ!?」

 

「M4A3より下に位置取るって事~?」

 

「それって危ないんじゃないの!?」

 

即座にそう指示を飛ばすと、桂利奈、優希、あゆみから戸惑いの声が挙がる。

 

「大丈夫! お願いっ!!」

 

しかし、梓は大丈夫だと言い、桂利奈に向かってそう言う。

 

「! 分かったっ!!」

 

そんな梓の姿を見た桂利奈は、梓を信じて指示通りに移動する。

 

「あや! 副砲照準! 狙いは………だよ!」

 

「! 了解っ!!」

 

梓は続いてあやに指示を出し、あやはそれを聞いて梓が何をしようとしているのか察する。

 

「? 見下ろせる位置へ移動?」

 

「如何言う積りか知らないけど、チャンスですよ、ノーラさん!」

 

M3リーが、ノーラのM4A3から見下ろされる形となる場所へと移動した事に首を傾げるノーラだったが、砲手の子がそう進言して来る。

 

戦いに於いて、相手より高い位置を取れば有利になるのは自明の理である。

 

「………そうですわね。どの道、残されたM3リーの副砲では、この距離でコチラの装甲を抜く事は不可能です。正面を向けながら砲塔指向」

 

「「了解!」」

 

ノーラはそう判断して命を下すと、砲手と操縦手がM4A3を言われた通りに動かす。

 

「砲塔がコッチを向いた! 桂利奈ちゃん、停止っ!!」

 

「えーいっ!!」

 

と、M4A3の砲が自分達の方を向いたのを見た梓が指示すると、桂利奈がM3リーを停止させる。

 

「? 停まった?」

 

「観念したのか?」

 

「なら、遠慮無くトドメを刺してあげなさい」

 

突如停止したM3リーに、M4A3の操縦手と砲手は怪訝な顔をするが、ノーラは冷酷にそう言い放つ。

 

「あや、良く狙って! 全部あやに掛かってるんだから!!」

 

「分かってるよ!」

 

狙われながらも、M3リーは副砲の照準をM4A3へと合わせる。

 

「狙いはバッチリ………行けーっ!!」

 

そして、あやの叫びと共に、副砲から砲弾が放たれる!

 

放たれた砲弾は、俯角を取っていたM4A3の防盾部分に命中!

 

すると、砲弾が下向きに弾かれ………

 

M4A3の車体上部を直撃した!

 

爆発が起き、M4A3の砲塔上部から白旗が上がる!!

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「!? しまったっ!? 『ショットトラップ』ッ!!」

 

M4A3の乗員が驚きの声を挙げ、ノーラがそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

『ショットトラップ』とは………

 

跳弾が発生した後、跳ねた弾が装甲の薄い天板等に命中する事、あるいはその可能性のある装甲板の配置の事である。

 

独ソ戦においても、ソ連の重装甲を誇る戦車を、熟練したドイツ戦車兵がこのショットトラップを使って撃破したと言われている。

 

 

 

 

 

「やった?………」

 

「やった! やったよぉっ!!」

 

「勝った~!」

 

「バンザーイッ!!」

 

ノーラのM4A3が黒煙と白旗を上げているのを見て、あや、あゆみ、優季、桂利奈が歓声を挙げる。

 

「浮かれないでっ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

だがそこで、梓の怒声が飛んで、思わず硬直する。

 

「まだ試合は続いてるんだよ! 急いで次の行動に移らないと!!」

 

『こちら柳沢! 敵が撤退し始めました!』

 

「!!」

 

とそこで、勇武からそう通信が入って来て、梓はハッチを開けて車外へ姿を晒すと、周囲の状況を確認する。

 

勇武の報告通り、残っていた西部歩兵部隊の隊員達が、次々に撤退を開始して行っている。

 

「追撃しますか!?」

 

「ううん、コッチも大分やられたから、先ずは態勢を立て直そう。残存歩兵を集めて!」

 

「了解!」

 

M3リーの傍に現れた勇武が梓に尋ねると、梓はそう返し、勇武はその指示に従って、残存人員を集めて行く。

 

「………ふう~~」

 

そこで梓は脱力した様に座り込んで、再び車内へと戻る。

 

「…………」

 

すると、そんな梓の肩に、紗希が手を置く。

 

「紗希………」

 

梓が先の姿を見やると、紗希は笑みを浮かべる。

 

まるで、お疲れ様と言う様に………

 

「………ありがとう、紗希」

 

そんな紗希の笑顔を見て、自分も笑みを浮かべる梓だった。

 

「澤さん! 残存歩兵、集合しました!!」

 

するとそこで、勇武のそう言う報告が聞こえて来る。

 

「被害状況は如何ですか?」

 

「おおかみさん分隊、海音と豹詑を含めた半数が戦死判定です」

 

「ハムスターさん分隊も同じくです」

 

梓が報告を求めると、飛彗と勇武が、両隊共に半数が戦死判定を受けたと報告して来る。

 

「ねえ、モンローくんは?」

 

「まだ戻って来てません………」

 

そこであやがそう尋ねると、竜真がそう返す。

 

「まさか、ジェームズ………」

 

「そんなっ!?」

 

「やられちゃったの~?」

 

正義がそう呟くと、桂利奈と優季がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

それを聞いた紗希が、しょんぼりした様子を見せる。

 

「紗希………」

 

今度は梓が、そんな紗希を慰める様に肩に手を置く。

 

と、その時!!

 

「オーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

声が聞こえて来て、その場に居た全員がその方向を見やると、そこには………

 

「皆サーン! ご心配をお掛けしまシターッ!!」

 

手を大きく振りながら、コチラに向かって走って来るジェームズの姿が在った。

 

「モンローくんだ!」

 

「!!………」

 

あゆみがそう声を挙げると、紗希の顔が忽ち笑顔になる。

 

「勝ったんだ………」

 

梓も、そんなジェームズの姿を見て、感慨深そうな顔をする。

 

「………良し! これより我が隊は再度街中へ突入! ゲリラ戦を再開します!!」

 

だが、すぐに表情を引き締めると、その場の全員にそう指示を飛ばす。

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

おおかみさん分隊とハムスターさん分隊の残存歩兵の面々が、勇ましく返事を返すと、ウサギさんチームと共に、再度西部劇の街並みのセットへと突入して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ジェームズVSオリバー。
そして、ウサギさんチームの奮戦の様子をお送りしました。

長い戦いの末にオリバーを破ったジェームズ。
ウサギさんチームも、絶体絶命に追い込まれながらも、梓の冷静な判断により、ノーラのM4A3を撃破。
しかし、またも味方の損害は大きかった………

ウサギさんチームとハムスターさん分隊+おおかみさん分隊の残存歩兵には、この後も大活躍の場があります。
楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第138話『歩兵部隊、奮戦せよです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第138話『歩兵部隊、奮戦せよです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カモさんチームの犠牲がありながらも、ジャンボを相討ちに持っていたカバさんチーム。

 

ウサギさんチームも、レオポンさんチーム脱落と主砲破損の状況にも関わらず………

 

梓の冷静な判断でのショットトラップ戦法により、ノーラのM4A3を撃破。

 

ジェームズとオリバーの師弟対決も、ジェームズの勝利で幕を閉じた………

 

だが………

 

まだ勝負はどう転ぶか、分からなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部の街並みのセットが在るエリア………

 

教会が在る、通路が複数伸びている広場………

 

「喰らえっ!!」

 

隆太がそう叫び、バズーカの引き金を引く。

 

白煙の尾を引いたロケット弾が、M4A3の側面に命中!

 

派手な爆発が起きたかと思うと、M4A3から白旗が上がる。

 

「味方戦車、沈黙!」

 

「シロミさん! 戦車部隊の残りは私達だけです!!」

 

「分かってる! 10時方向! 撃てぇっ!!」

 

通信手と装填手からの報告にそう怒鳴り返しながら、砲手に10時方向への砲撃を命じるシロミ。

 

「発射っ!」

 

その命令にしたがって、10時方向へ砲撃を行う砲手。

 

「ハッズレ~!」

 

しかし、標的であった走っている38tには当たらず、手前に着弾する。

 

「クッ! チョロチョロと!!………」

 

「よおし! 護衛車輌も居なくなったし、そろそろ決めようかぁ!」

 

と、シロミが愚痴る様に呟いた瞬間、杏が勝負に出ると宣言する。

 

「小山! 次の砲撃をかわしたら一気に後ろに回り込め! 零距離で決めるぞっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

杏からの指示を受けて、柚子は38tをイージーエイトに接近させる。

 

だが、その時!!

 

突然38tの車体がガクリと揺れたかと思うと、速力が一気に落ち始める!!

 

「!?」

 

「オイ、柚子っ! 停まるなっ!! 狙われてるんだぞっ!?」

 

「わ、私じゃないよ!? アクセルは目一杯踏んでるんだよ!?」

 

杏が驚きを露わにし、桃がそう怒鳴るが、柚子は自分は何もしてないと返す。

 

「ひょっとして………あの時のが!?」

 

そこで蛍が、T28撃破に赴いた時、坑道内で大ジャンプをした事を思い出してそう言う。

 

如何やら、応急修理だけでは補いきれない損傷が有り、最悪な事にその傷が今のタイミングで開いてしまった様である。

 

「車体のトラブルみたいね………けど、容赦はしないよ」

 

そう言うシロミのイージーエイトは、既に38tに狙いを定めていた。

 

「! クウッ!!」

 

杏は攻撃を反らせようと、38tの主砲を発砲する。

 

しかし、その砲弾は無慈悲にもイージーエイトの防盾に当たって弾かれる。

 

直後にイージーエイトが発砲!

 

速力が下がった38tはかわせず、側面に直撃を貰う!!

 

一瞬車体が浮かび上がると、そのまま横倒しとなり、側面部から白旗が上がる。

 

「や~ら~れ~た~!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!! 御終いだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

杏の間延びした声と、桃の絶望に満ちた悲鳴が響き渡る。

 

「!? カメさんチームが!?」

 

「クッ! 拙いぞっ!!」

 

俊と十河が慌てた様子を見せる。

 

「アリクイさんチーム! 上田くん! 君達でイージーエイトを狙ってくれ!!」

 

しかし、迫信はすぐに、通路の1つを封鎖していたアリクイさんチームと、8.8 cm PaK 43に付いて居る紫朗達に指示を飛ばす。

 

「了解! 目標、イージーエイトだっ!!」

 

先に動いたのは紫朗。

 

風紀委員の砲兵達に指示し、8.8 cm PaK 43をイージーエイトへと向けさせる。

 

「!? 上田さん! 後ろっ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

だがそこで、三式のねこにゃーからそう声が挙がり、紫朗が後ろを振り返ると、そこには………

 

「今更気づいても遅いぜ!」

 

何時の間にか背後に現れていたレオパルド、サーバル、カルカラの姿が在り、3人が一斉にマークⅡ手榴弾を投擲した!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

3発の手榴弾が一斉に炸裂し、8.8 cm PaK 43は破壊され、付いて居た砲兵達も吹き飛ばされる。

 

「う、上田さんっ!」

 

「クッ! すまない………ココまでの様だ」

 

ねこにゃーが叫ぶと、爆煙が晴れて、戦死判定を受けている紫朗の姿が明らかになり、そう言って来た。

 

「も、ももがーさん! 急速旋回! ぴよたんさんも砲塔旋回!!」

 

「りょ、了解モモ!」

 

「了解ぴよ!」

 

すぐにねこにゃーは、三式の車体と砲塔をレオパルド達の方へと向ける様にももがーとぴよたんに指示する。

 

「!? 待て、アリクイさんチーム! 狙われているぞっ!!」

 

「えっ!?」

 

だがそこで秀人のそう言う声が飛び、ねこにゃーがキューポラ越しに見やると、何時の間にか三式に主砲を向けているイージーエイトの姿が目に飛び込んで来る。

 

「!? しまっ………」

 

た、と言い切る前に、イージーエイトが発砲。

 

76.2mm砲弾が、薄い車体後部へと吸い込まれる様に命中する!

 

「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

まるで波に揺られる小舟の様に三式の車体は揺さぶられ、激しく前後にバウンドしたかと思うと、白旗を上げて止まった。

 

「!? アリクイさんチームもやられた!?」

 

「ママママ、マズイですよ、コレは!?」

 

隆太がそう声を挙げると、思いっきり動揺している逞巳がそう言う。

 

まだイージーエイトが残って居るにも関わらず、コチラは戦車を欠いてしまった。

 

加えて、西部歩兵のエース達まで参戦して来ている。

 

旗色はかなり悪い………

 

「レオパルドさん、ありがとう! よ~し、反撃開始よっ!!」

 

と、シロミがそう言うと、イージエイトの砲塔が旋回し、大洗歩兵達が多数居る建物のセットへと向けられる。

 

「! ヤバいっ!!」

 

「逃げろっ!!」

 

「退避! 退避―っ!!」

 

建物の中に籠って西部歩兵達に銃撃を浴びせていた大洗歩兵達が慌てて逃げ出すが、直後に無慈悲な砲撃が叩き込まれる。

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

木端微塵になった建物の残骸と共に、大洗歩兵隊員達が人形の様にブッ飛ばされる!

 

次々に地面に転がると、戦死判定を受ける。

 

「俺達も行くぞ! サーバル! カルカラ! 好きに暴れろ! 俺が許す!!」

 

とそこで、レオパルドはサーバルとカルカラにそう言い放ち、背負っていたボーイズ対戦車ライフルMKⅡを構えると、イージーエイトの居る戦場へと雪崩れ込んで行った!

 

「待っていましたよ」

 

「お任せあれ」

 

それを聞いたサーバルは両手にサーベルを握り、カルカラはポンチョを翻す様にして、続け様に戦場へと突入するのだった。

 

 

 

 

 

「ソラソラソラッ!!」

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ボーイズ対戦車ライフルMKⅡを腰溜め撃ちで乱射すると言う、俄かには信じがたい事をしながら、大洗歩兵隊員達を次々に至近距離から撃ち抜いて行くレオパルド。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、1人の大洗歩兵隊員が、着剣した三八式歩兵銃で果敢にも接近戦を挑む。

 

「フッ………」

 

だが、レオパルドはボーイズ対戦車ライフルMKⅡの側面を使って銃剣を防いだかと思うと、そのまま受け流して、崩しを掛けた!

 

「と、ととっ!?………!? ガハッ!?」

 

そして、バランスの崩れてよろけた大洗歩兵隊員の後頭部に、容赦無く銃床での打撃を見舞う!

 

「ハハハハッ! 如何した!? 大洗歩兵! こんなもんなのかぁっ!?」

 

レオパルドは挑発する様にそう言い放つ。

 

すると………

 

「何処を見ているっ!!」

 

「!?」

 

そう言う声が聞こえて来て、レオパルドは反射的にその場にしゃがんだ。

 

直後に、その頭上を横薙ぎの斬撃が通り抜ける。

 

「!!」

 

すぐさましゃがんだ状態から連続で後転して距離を取ると、ボーイズ対戦車ライフルMKⅡを構えるレオパルド。

 

「良い動きだ………」

 

そこには、マチェットを片手に握っているハンターの姿が在った。

 

「お前は俺を感じさせてくれるのか?」

 

「気持ち悪い事聞いてくんな。さっさと終わらせてやるよ」

 

ハンターの言葉にそう返しながらも、油断無くボーイズ対戦車ライフルMKⅡを構え続けるレオパルドだった。

 

 

 

 

 

「シャアッ!」

 

「うわあぁっ!?」

 

サーバルの両手のサーベルで×の字に斬り裂かれた大洗歩兵隊員が倒れ、そのまま戦死判定を受ける。

 

「このぉっ!」

 

「うおおっ!!」

 

そこで背後から、別の大洗歩兵隊員2人が、着剣した小銃と軍刀で斬り掛かったが………

 

「フッ!………」

 

サーバルはバック宙の様に跳び上がってかわしたかと思うと、空中で逆さまになった状態で、背後の大洗歩兵隊員2人に斬り付けた!!

 

「「グハッ!?」」

 

大洗歩兵隊員2人はバタリと倒れ、アッサリ戦死判定を喰らう。

 

「よっと………!」

 

と、サーバルは着地を決めると、何かに気付いた様に右の方向を見やる。

 

「…………」

 

そこには、煉獄を片手に佇む、熾龍の姿が在った。

 

「ほう………名将・栗林中将の子孫殿か………楽しませてくれそうだな」

 

それを見たサーバルは、熾龍の方に向き直ると、両手のサーベルをクロスさせる様に構える。

 

「………口はデカい様だな」

 

そんなサーバルに向かって、熾龍は吐き捨てる様に言うと、居合いの構えを取り、睨みを利かせる。

 

「果たして口だけかな?」

 

だが、サーバルは微塵も動揺した様子を見せず、寧ろ楽しそうな笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

レオパルドとサーバルが攻勢に出ている中、1人ポツンと佇んでいるカルカラ。

 

「1人佇んでる奴が居るぞ!」

 

「討ち取れっ!!」

 

すぐさま大洗歩兵隊員達が周りを取り囲み、武器を向ける。

 

「!!」

 

だがその瞬間!

 

カルカラがポンチョを翻したかと思うと………

 

その下から、多数のコルト・ディテクティブスペシャルが収まった、ベルト状のホルスター複数が露わになる。

 

「!? なっ!?」

 

大洗歩兵隊員の1人が驚きの声を挙げた瞬間!

 

カルカラは両手に1丁づつコルト・ディテクティブスペシャルを握り、ガン=カタの様な動きで、周りを取り囲んでいた大洗歩兵隊員達を撃ち抜く!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

一瞬で全員が戦死判定を喰らい、倒れ伏す。

 

「このっ!!」

 

と、弾切れのタイミングを狙って、新たに現れた大洗歩兵隊員達が、再度カルカラを取り囲んだが………

 

「!………」

 

カルカラは弾切れになったコルト・ディテクティブスペシャルを捨てると、ホルスターから新たなコルト・ディテクティブスペシャルを抜き、再びガン=ガタの動きで再度取り囲んで来た大洗歩兵隊員達を撃ち抜いた!

 

「「「「「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「…………」

 

倒れ伏した大洗歩兵隊員達を見下ろしながら、カルカラは再び新しいコルト・ディテクティブスペシャルを抜く。

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その瞬間!!

 

竜作が独特の掛け声と共に、多数の銃剣(バイヨネット)をカルカラ目掛けて投擲して来た!!

 

「!!」

 

飛んで来た銃剣(バイヨネット)の内、当たりそうだった物だけを撃ち落とすカルカラ。

 

「かあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~………」

 

またもや口から煙の様に息を吐いている竜作が、カルカラを見据える。

 

「…………」

 

そんな竜作に対して、カルカラは両手のコルト・ディテクティブスペシャルを油断無く向ける。

 

しかし………

 

その顔には、冷や汗が流れていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンターVSレオパルド………

 

「そらっ!!」

 

ハンターに向かってボーイズ対戦車ライフルMKⅡを連射するレオパルド。

 

「如何した? それで狙っている積りか?」

 

しかし、ハンターはレオパルドが狙った瞬間に移動をし、照準を付けさせない。

 

その為、弾は全て外れる。

 

「チイッ! 何て動きしやがる!! ホントに人間かっ!?」

 

「失礼な! レオナルド・デカ〇リオだっ!!」

 

「嘘こけぇっ!!」

 

途中で漫才な様な遣り取りが挟まれつつも、高度な戦闘を繰り広げる2人。

 

「! チッ! 弾切れかっ!!」

 

と、残弾が無くなり、空になったマガジンを捨てると、新たなマガジンを装填しようとするレオパルド。

 

「戦いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない」

 

するとそこで、ハンターは挑発するかの様にマチェットを放ると、拳法の型の様な動きをして見せる。

 

「………言ってくれるじゃねえかよ。よおし、その勝負、乗ったっ!!」

 

その挑発に乗ったレオパルドが、ボーイズ対戦車ライフルMKⅡを地面に置くと、ボクシングの様な構えを取る。

 

「ハッ!!」

 

そこでハンターが仕掛ける!

 

前転から側転、そしてバック宙からの錐揉みというアクロバットな動きを決めて、レオパルドの頭上から全体重を乗せた拳を振り下ろそうとする。

 

「………馬鹿めっ!!」

 

だが、その瞬間、何と!!

 

レオパルドは足元に有ったボーイズ対戦車ライフルMKⅡを蹴り上げて手に握ったかと思うと、頭上のハンターに向けた!

 

「卑怯何て言うなよ! コレも戦術だっ!!」

 

そう言い放ち、引き金を引こうとするレオパルド。

 

しかし………

 

「フッ………当然だ」

 

ハンターがそう言って笑ったかと思うと、振り下ろそうとしていた右手を引く。

 

その右手に巻かれていた透明な糸が、ハンターの投げ捨てたマチェットに繋がっており、糸が引かれた事で、マチェットが再びハンターの手に戻る!

 

「!? なっ!!」

 

「トオアァッ!!」

 

驚愕するレオパルドに向かって、ハンターは奇声に近い叫びを挙げ、マチェットを投擲した!!

 

投擲されたマチェットは、レオパルドの戦闘服の胸部に突き刺さる!!

 

「がっ!?………」

 

その瞬間には引き金を引いたレオパルドだったが、ガク引き状態だった為、弾はハンターの傍を掠める様にして外れる。

 

「ふんっ!!」

 

「ごぼっ!?」

 

更にハンターは、トドメだと言わんばかりに、両足でレオパルドの顔面に着地!

 

そのまま地面との間に挟み込んで押し潰した!

 

「正義は勝つ………」

 

レオパルドの顔面を踏み潰したまま、ハンターはそう言い放つ。

 

「納得………いかねえ………」

 

レオパルドはそう呟いて気絶し、戦死と判定されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熾龍VSサーバル………

 

「そらそらそらっ!!」

 

「…………」

 

サーバルのサーベルでの二刀流の連撃を、表情を変えずに煉獄で捌く熾龍。

 

「やるな! だったらコイツは如何だっ!!」

 

そこでサーバルは跳びあがったかと思うと、空中で前転し、全体重を乗せた二刀での振り下ろしを見舞って来る!

 

「…………」

 

だが、その刃が熾龍に当たるかと思われた瞬間………

 

熾龍の姿が煙の様にバッと消える。

 

「!? うおっととっ!?」

 

突然消えた熾龍に驚きながらも、サーバルは少しよろけて着地を決める。

 

「野郎!? 何処へ行ったっ!?」

 

キョロキョロと周りを見回して熾龍の姿を探すサーバル。

 

「…………」

 

すると、その背後に居合いの構えを取った熾龍が音も無く出現!

 

ガラ空きの背中目掛けて鋭い斬撃が走る!

 

しかし、何と!!

 

サーバルは左手のサーベルを背中の方に回したかと思うと、振り向かずに熾龍の居合い切りを受け止める。

 

背面受けである!!

 

「!!………」

 

「受け止められた事がそんなに意外かい?」

 

そこで僅かに驚きを示した熾龍に、サーバルはそう言い放つ。

 

「ハアッ!!」

 

そして次の瞬間には、身体ごと回転して、右手のサーベルでの斬り上げを繰り出した!

 

煉獄が弾かれ、上空へと舞う。

 

「!!………」

 

「貰ったぁっ!!」

 

その瞬間に、空かさず腕を交差させてサーベルを構えたサーバルは、熾龍に斬り込む!

 

サーバルの斬撃が熾龍を襲う………

 

………かに見えた瞬間!!

 

「!? ゲハッ!?」

 

熾龍のストレートパンチが、サーバルの顔面に叩き込まれた!

 

「う、ご………」

 

まさか反撃が来るとは思わず、自分から斬り込んでいたサーバルのダメージは深刻である。

 

「!!」

 

しかし、熾龍は畳み掛ける様に、今度はボディブローを見舞う。

 

「!? ゴハッ!?」

 

戦闘服を突き抜けて衝撃が走った様な感覚に襲われ、胃液を口から吐き出すサーバル。

 

「…………」

 

すると熾龍は今度は、小さくジャンプして、サーバルの顔面に右足での回し蹴り、更には続け様に左足での後ろ回し蹴りをコンボで喰らわせた!!

 

「ゴハッ!?………」

 

その衝撃で、サーバルの身体が僅かに浮き上がる。

 

「!!」

 

先に着地していた熾龍は、その浮かび上がったサーバルに向かって跳んだかと思うと………

 

サマーソルトキックを2連続で繰り出し、1撃目は右足で、続け様に左足での2撃目を、顎に叩き込んだ!!

 

「ゴハアアッ!?」

 

2連撃のサマーソルトを喰らい、浮き上がっていたサーバルの身体が、更に高くへと舞い上がる。

 

「!………」

 

それを追う様に再び跳躍する熾龍。

 

するとそこへ………

 

サーバルに弾かれ、上空に待っていた煉獄が落ちて来る。

 

それを難なくキャッチしたかと思うと、空中で居合いの構えを取る熾龍。

 

「!!」

 

サーバルの顔が驚愕に染まった瞬間………

 

「勝てるとでも思っていたか?………」

 

熾龍のそう言う台詞と共に、一瞬で数10もの居合い斬りが叩き込まれた!!

 

「ゲハッ!?………」

 

戦闘服がズタボロとなり、地上へと落下するサーバル。

 

そのまま、戦死と判定されると、そのサーバルを背後にする様に、熾龍が着地する。

 

「つまらん………」

 

倒れているサーバルに背を向けたまま、熾龍はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜作VSカルカラ………

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

独特の掛け声と共に、またもや無数の銃剣(バイヨネット)を投擲する竜作。

 

「!!」

 

カルカラは、当たりそうな物だけを撃ち落とす。

 

「ハイヤァアアアアアアアアアアァアアアアッ!!」

 

直後に、両手に銃剣(バイヨネット)を握った竜作が突撃。

 

「!!………」

 

カルカラは新たなコルト・ディテクティブスペシャルを抜くと、竜作に向かって発砲する!

 

「エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

だが、竜作は弾丸が至近距離を掠める様に飛んで来るにも関わらず、速度を落とすどころか、更に上げて突撃を続行する!

 

「!??!」

 

カルカラが驚きを露わにした瞬間には、竜作は眼前にまで迫っていた!

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

独特の掛け声と共に、両手の銃剣(バイヨネット)を×の字を描く様に振るう竜作!

 

カルカラのポンチョが斬り裂かれる!

 

しかし………

 

斬り裂かれたのはポンチョだけで、カルカラの姿は無かった………

 

「!? ぬうっ!?………!!」

 

竜作は驚きながらも、後ろから殺気を感じ、すぐに振り返る。

 

が、その瞬間に、持っていた銃剣(バイヨネット)に銃弾が当たり、手の中から弾かれる!

 

「!!」

 

「…………」

 

丸腰になった竜作に、カルカラは両手のコルト・ディテクティブスペシャルを向けている。

 

「チイッ!」

 

竜作は舌打ちをして、悔しそうな顔をする。

 

「…………」

 

それを見た瞬間に、カルカラは両手のコルト・ディテクティブスペシャルの引き金を引いた!

 

「! ぬああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

すると!!

 

竜作はまるで某映画の主人公の様に、後ろに仰け反りながら、銃弾をかわす。

 

しかし、映画とは違い、その姿勢の状態から、再び立ち上がる!

 

「!?」

 

コレにはカルカラもビックリしたのか、思わず動きが止まってしまう。

 

「ぬううんっ!!」

 

するとそこで、竜作は戦闘服の上から着ていた神父服の内側から、ある物を取り出した!

 

中折れ式のショットガンだ!

 

「!?」

 

「何時から私の武器が銃剣(バイヨネット)だけだと勘違いしていた?」

 

驚くカルカラに向かって、竜作はショットガンを発砲。

 

銃口から飛び出したのは散弾………ではなく、スラッグ弾だった。

 

「!!………」

 

スラッグ弾を真面に喰らったカルカラは、人形の様にブッ飛ばされて、地面を転がる。

 

やがて勢いが止まったかと思うと、戦死判定が下った。

 

「ヌワ~ハッハッハッハッ! ベリーメロンッ!!」

 

勝利の祝いの様に、竜作は何処からか取り出したメロンを齧りながら、そんな叫びを挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「撃てっ!!」

 

シロミの掛け声で、イージーエイトが榴弾を発砲!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

直撃を喰らった大洗歩兵隊員達が、木の葉の様に宙に舞い、地面に叩き付けられると戦死判定を受ける。

 

「クソォッ!!」

 

と、無事だった大洗歩兵隊員の1人が、イージーエイトに向かって短機関銃を発砲するが、当然戦車の装甲を破れる筈も無く、表面で火花を散らすだけである。

 

お返しだとばかりに、イージエイトの車体機銃が火を噴く!

 

「ぐあああっ!?」

 

蜂の巣にされた大洗歩兵隊員が倒れ、戦死と判定される。

 

「もう相手に戦車は居ないわ。対戦車兵に注意して蹂躙してやりなさい」

 

「その対戦車兵が来ます!」

 

シロミがそう指示を飛ばすと、操縦手からそう報告が挙がった。

 

「!!」

 

すぐにシロミが確認すると、速人が駆るジープの荷台部分に立ち乗りし、バズーカを構えている隆太の姿を確認する。

 

「隆太! 振り落されるなよぉっ!!」

 

「大丈夫です! 気にしないでトップスピードで突っ込んで下さい!!」

 

「言ったなぁ! 後悔するなよぉっ!!」

 

隆太がそう言ったのを聞いて、速人はアクセルを目一杯踏んだ!

 

「あ! やっぱりちょっとスピード落して欲しいかも………!? うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?」

 

思わず後悔してそう言い放つ隆太だったが、時既に遅く、速人はトップスピードを出した!

 

「正面を向けつつ後退!」

 

「ハイッ!」

 

シロミはすぐに、突っ込んで来るジープに対し、正面を向けつつ後退しろと指示する。

 

イージーエイトがその指示通りに動くと、主砲が速人と隆太の乗るジープへと向けられる。

 

「狙われてるぞ! 早く撃てっ!!」

 

「そ、そんな事言われても、こう揺れてちゃ………」

 

早く撃てと言い放つ速人だが、速度を上げたせいで更に振動が激しくなった荷台部分での照準は、困難を極めた。

 

と、そこで、イージーエイトが発砲!

 

「!? ヤベェッ!!」

 

咄嗟に速人が急ハンドルを切り、直撃を回避するものの、至近距離に着弾して、車体が一瞬浮かび上がる!

 

「!? うわぁっ!?」

 

その際の衝撃で、隆太はバズーカを発射してしまう。

 

「!? しまった! ガク引いたっ!?」

 

「外れるぞっ!!」

 

隆太と速人がそう声を挙げた通り、バズーカから放たれたロケット弾は、イージーエイトの頭上を飛び越えて行きそうになる。

 

「貰ったわっ!!」

 

シロミはそう声を挙げ、次弾装填の終わった主砲が、速人と隆太に向けられる。

 

………と、その時!!

 

銃声がしたかと思うと、イージーエイトの頭上を飛び越えて行きそうだったロケット弾の推進部が撃ち抜かれた!

 

それにより噴射が止まり、ロケット弾がイージーエイトに向かって落下する!

 

「!? えっ!?」

 

シロミがそれに気づいた瞬間には、時既に遅し!

 

落下したロケット弾は、装甲の弱い天板部に命中!

 

大きな爆発が、イージーエイトの天板部で起こり、まるで花が咲いた様に爆炎が広がる。

 

そして一瞬の間の後………

 

イージーエイトから白旗が上がった。

 

「!? やった………のか?」

 

「一体誰だ? 飛翔してるロケット弾の推進部だけを撃ち抜くなんて芸当をしてみせたのは?」

 

隆太が呆然とそう呟き、速人は先程の銃撃の主を探す様に辺りを見回す。

 

「………偶には指揮以外で活躍しないとね」

 

そしてそう呟いたのは、イージーエイトと速人、隆太から結構離れた位置にあるバーのセットの建物内で、入り口から半身だけを曝し、銃口から硝煙の立ち上っているワルサーGew43半自動小銃を構えていた迫信だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

シロミのイージーエイトを追い詰めてかに見えたカメさんチームとツルさん分隊、アリクイさんチームとキツネさん分隊だったが………
レオパルド達、西部エース歩兵達の登場で形勢は逆転。
戦車チームが2チームとも脱落と言う手痛い損害を負う。
しかし、残された歩兵部隊の奮戦により………
イージーエイトとレオパルド達は倒されるのだった。

いよいよ次回はみほ達とクロエ達の戦いです。
また、戦車チームで唯一生き残っているウサギさんチーム達のもうひと踏ん張り。
更に未だに姿を見せないアイツの登場もあり、意外な展開を見せます。
お楽しみに

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第139話『暴走特急です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第139話『暴走特急です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦に次ぐ激戦の連続となった西部戦………

 

相手のエース達を撃破しながらも、自らも撃破されてしまって行く大洗機甲部隊………

 

しかし、フラッグ車が倒されてなければ、試合は終わる事は無い………

 

まだ、勝利の女神はどちらに微笑むか、決めかねている様だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

西部の街並みのセットの一角・鉄道の駅舎の敷地内………

 

「アハハハハハハハッ!!」

 

狂気の混じった笑みを浮かべて笑い声を挙げるクロエが姿を見せているヘルキャットが、Ⅳ号に向かって突撃して来る!

 

「! 撃てっ!」

 

そのクロエの姿に、みほは一瞬気圧しされながらも、砲撃命令を出し、Ⅳ号の主砲が火を噴く。

 

「甘いっ!!」

 

だが、クロエがそう叫ぶと、ヘルキャットは一瞬車体をブレさせたかと思うと、またもや片輪走行を披露!

 

Ⅳ号が放った砲弾は、ヘルキャットの車体下を潜り抜ける様に通り抜け、停めてあった貨車に命中。

 

貨車を粉々に粉砕する。

 

「!!」

 

驚くみほの乗るⅣ号をも擦り抜けながら、ヘルキャットはⅣ号の背後で元に戻ると、砲塔を後ろに向ける。

 

「! 砲塔及び車体旋回っ!!」

 

「「やってます(る)!!」」

 

慌ててみほが指示を飛ばすが、既に華と麻子はⅣ号の砲塔と車体を旋回させていた。

 

しかし、ヘルキャットの方が僅かに早い。

 

「やらせないよーっ!!」

 

だがそこで、聖子のクロムウェルが、ヘルキャットの側面から突撃を敢行する。

 

「おっと!」

 

それに気づいたクロエは、ヘルキャットを発進させる。

 

直後に、先程までヘルキャットが居た場所に、6ポンド砲の砲弾が叩き込まれる。

 

「それっ!!」

 

その間に、砲塔を旋回させていたヘルキャットが発砲し、クロムウェルに徹甲弾が叩き込まれる。

 

幸いにも装甲の厚い砲塔正面部だった事と、角度が浅かった事もあり、クロムウェルは砲弾を弾き飛ばす。

 

「キャアッ!?」

 

「フフフ………」

 

車体に走った衝撃に、聖子が悲鳴を挙げていると、クロエは不敵に笑いながら、一旦離脱する。

 

「サンショウウオさんチームはフラッグ車を狙って下さいっ!!」

 

「でもクロエさんは強いですよ! 先ずは2人でクロエさんを倒してから………」

 

「駄目ですっ!!」

 

「!?」

 

突然怒鳴る様な口調で言って来たみほに、聖子は驚愕する。

 

「確かにクロエさんは強いです。ひょっとしたら………2輌掛かりでも勝てないかも知れません」

 

「!? そんなっ!?」

 

みほの分析に、聖子は驚愕の声を挙げる。

 

「ですが! フラッグ車さえ倒せれば、この試合は私達の勝ちです! 危険ですが、コチラのフラッグ車である私達が何とか時間を稼ぎます! だからフラッグ車を!!」

 

「!!………了解っ!!」

 

聖子は逡巡した様子を見せたが、やがて苦渋の決断を下した様に、フラッグ車の方へと向かって行った。

 

「タコさん分隊はサンショウウオさんチームを! とらさん分隊はあんこうチームの援護を願いますっ!!」

 

「任せてもらおう」

 

「了解」

 

更に続けて、みほはタコさん分隊にサンショウウオさんチーム、とらさん分隊に自分達あんこうチームの援護を命じる。

 

「フフフ………」

 

その一連の動きを、クロエはハッチの縁に両肘を置いて、頬杖をした状態で愉快そうに眺めていた。

 

「………随分と余裕だな」

 

指示を出し切るまで待っていた様子のクロエに、弘樹が皮肉の様にそう言い放つ。

 

「別に余裕だなんて思ってないわ。ただ楽しいだけよ」

 

しかし、クロエは特に気にした様子も無く、只そう返す。

 

「やっぱり良いわね、戦車道は。全身の血がこう熱くなって………今にも身体が燃えそうだわ」

 

そう言って口の端を釣り上げるクロエ。

 

「………生粋の戦闘狂だな、貴様は」

 

そんなクロエの姿を見て、弘樹はそう評す。

 

「知ってるわよ」

 

「………行きますっ!!」

 

と、クロエがそう返した瞬間に、不意を衝く様にⅣ号が仕掛けた!

 

ヘルキャットの右側面側に向かって行ったかと思うと、急停車して90度ターン!

 

そのままヘルキャットの側面に向かって発砲する!

 

「アハハッ!」

 

だが、クロエはヘルキャットを急発進させたかと思うと、あんこうチームと同じ様に即座に90度ターンし、発砲する!

 

「! 後退っ!!」

 

「クッ!」

 

珍しく麻子が苦い声を挙げながらⅣ号を下がらせると、先程までⅣ号が居た場所に砲弾が着弾する。

 

「撃て! 至近距離ならばライフル弾でも装甲を抜ける筈だ!!」

 

とそこで弘樹がそう声を挙げ、とらさん分隊の面々が、手にしていた得物で攻撃を始める。

 

「おっとと、後退よ」

 

装甲に当たった銃弾が次々に火花を散らすのを見て、クロエはヘルキャットを一時後退させる。

 

「逃がすかよ!」

 

とそこで、地市がパンツァーファウストを構え、ヘルキャットに狙いを定める。

 

「喰らえっ!!」

 

そう叫んで引き金を引くと、弾頭がヘルキャットに向かって発射される。

 

しかしそこで………

 

銃声がしたかと思うと、飛翔していたパンツァーファウストの弾頭に銃弾が命中!

 

パンツァーファウストの弾頭は空中で爆発した!

 

「!? 何っ!?」

 

「!? 西住総隊長! 後退して下さいっ!!」

 

「!! 全速後退っ!!」

 

地市が驚きの声を挙げた瞬間に、弘樹が何かに気付いてそう叫び、みほは反射的に全速後退の指示を飛ばす!

 

「全員、伏せろぉっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

直後に弘樹がそう叫んで、とらさん分隊の隊員達が地面に伏せたかと思うと………

 

その頭上から、無数のロケット弾が降り注いで来た!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く直撃弾を貰ってしまったとらさん分隊員数名が、爆風で宙に舞った後、地面に叩き付けられて戦死判定を受ける。

 

「ありゃ、気づかれたか………流石に良い感してるねえ、舩坂分隊長」

 

「…………」

 

そこでそう言う台詞と共に、右手に銃口から硝煙の上がって居るM1917リボルバーを握ったジャンゴと、その傍に控える様に、多数のフリーガーファウストを携えているピューマが現れた。

 

「ジャンゴ………」

 

「ピューマの奴も居るぜ!」

 

「このタイミングでですか………」

 

弘樹が呟き、地市が声を挙げると、楓が苦い顔でそう言い放つ。

 

「総隊長、悪いがこの戦いに介入させてもらうぜ」

 

「う~ん、仕方ないわね………でも、Ⅳ号は私がやるわよ」

 

「ご自由に………」

 

クロエとそう会話を交わすと、ジャンゴはヘルメットの上から被っていたテンガロンハットをかぶり直す。

 

「さてと………大洗さん。悪いがこの試合もウチ等が勝たせてもらうぜ」

 

「…………」

 

そう言ってM1917リボルバーを向けて来たジャンゴの姿を見て、弘樹の四式自動小銃を握る手に力が入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、西部機甲部隊のフラッグ車であるミケととりお・ざ・きゃっつのM5軽戦車・スチュワートを狙うサンショウウオさんチームとタコさん分隊は………

 

「待てーっ!!」

 

「待てと言われて待つワケないだろーっ!!」

 

スチュワートを追うクロムウェルのキューポラから姿を晒していた聖子がそう叫ぶと、同じく姿を晒しているミケがそう返す。

 

「スコッティ! あの車両と車両の間にっ!!」

 

「ホイ、来たっ!!」

 

と、ミケが続け様にそう指示を飛ばしたかと思うと、スチュワートがレールの上に停められていた客車と客車の間に潜り込む様に入る。

 

「クッ! 駄目だ! 追い掛けられないっ!!」

 

同じ様に追おうとしたクロムウェルが、スチュワートが入って行った隙間の前で停止する。

 

カタログスペック上、クロムウェルの方が速度では僅かに優れていたが、車体が比較的小柄なスチュワートは、クロムウェルが通り抜けられない隙間を見つけては飛び込み、上手く逃げ回っていた。

 

「そっち行ったぞっ!」

 

「いや、コッチだっ!!」

 

タコさん分隊の分隊員達も、高速で動き回る2輌に付いて行けず、翻弄されるばかりであった。

 

「クッ! コレでは援護もままならないか………」

 

「軽戦車なら、上手く行けば収束手榴弾でも片付けられるのに………」

 

エースと弁慶がそう呟く。

 

「くうっ!? 何処に!?………」

 

スチュワートの姿を見失った聖子が、辺りをキョロキョロと見回していると………

 

「貰ったぁっ!!」

 

そう言う声が響いて来て、クロムウェルの後方に在った、砂利が積まれた貨車の影からスチュワートが飛び出して来る。

 

主砲は既に、クロムウェルの後部へ向けられている。

 

「! 思いっきりバックゥッ!!」

 

「ぬおおっ!!」

 

すると聖子は反射的にそう指示を飛ばし、唯がギアをバックに入れると同時にアクセルを思いっきり踏み込んだ!

 

クロムウェルが高速バックしながら、スチュワートに迫る。

 

「!? 砲撃中止! 緊急発進っ!!」

 

それを見たミケは、慌てて砲撃を中止させ、スチュワートを急発進させる。

 

直後に、クロムウェルがスチュワートが盾にする様にしていた砂利の積まれた貨車に衝突!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

衝撃でクロムウェルの車体全体が揺れ、衝突した貨車が倒れて、砂利が地面に広がった。

 

「ハア~………危なかったぁ………」

 

「ちょっ! ミケ! 前見て、前っ!!」

 

ミケが安堵の溜息を吐いていると、車内のマンチカンが悲鳴の様な声を響かせて来る。

 

「えっ?………」

 

それを聞いたミケが、前方を見やると、そこには………

 

積まれて小さな山となっていた大量の砂利が在った!

 

「! ブレーキィッ!!」

 

「駄目! 間に合わないぃっ!!」

 

慌ててスコッティに向かってそう叫ぶが、当人からそんな声が返って来た瞬間!!

 

スチュワートは砂利の山をジャンプ台に大跳躍!

 

そのまま数秒間、空の旅をする。

 

「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

そして重力に引かれて落下を始めたかと思うと、線路の上に停止していた先頭車が蒸気機関車となっている車両の、2両目の客車に上から突っ込んだ!!

 

「!?」

 

「!? ミケッ!?」

 

「やったのかっ!?」

 

「おいおい、大丈夫かぁ?」

 

辺り一面に轟音が響いた為、みほやクロエ、弘樹達やジャンゴ達は思わず戦闘を中断し、落下したスチュワートの姿に注目する。

 

やがて、立ち込めていた粉煙が晴れて来ると、そこには………

 

完全に客車に埋まり込んでいる形となっているスチュワートの姿が露わになった。

 

白旗は上がっていない………

 

「アイタタタタ………オデコぶつけた………」

 

ハッチから姿を見せていたミケが、額の辺りを擦りながらそう言う。

 

「ミケ! 大丈夫なのっ!?」

 

と、それを見たクロエが、ミケに向かってそう叫ぶ。

 

「あ、うん! 大丈夫~! 旗もまだ上がってないよ~っ!! スコッティ! 早く脱出してっ!!」

 

即座にミケはそう叫び返し、スコッティに脱出する様に指示するが………

 

「そ、それが………完全にハマっちゃってて無理」

 

「!? ええっ!?」

 

スコッティがそう返して来たのを聞いて、ミケは思わず声を挙げる。

 

見れば、スコッティが操作をしているにも関わらず、スチュワートの履帯は空回りしていて、全く動いて居ない。

 

「チャンスだ!!」

 

「動かない的を外しませんよ」

 

思わぬチャンスに出くわしたサンショウウオさんチームは、容赦無くスチュワートに狙いを定める。

 

「!? うわぁっ!? ちょっ!? タ、タンマ! タンマッ!!」

 

慌ててそう叫ぶミケだが、それが通じるワケも無く、6ポンド砲がスチュワートに合わさる。

 

「チイッ! やらせないよっ!!」

 

「行かせませんっ!!」

 

クロエのヘルキャットが救援に向かおうとするが、Ⅳ号が阻止に動く。

 

『コレは思わぬチャンス! この試合は大洗機甲部隊の勝利かぁっ!!』

 

『いや~、コレは予想外の形ですね~』

 

実況者のヒートマン佐々木とDJ田中も、大洗の勝利は決まったと思い、そう実況をする。

 

だが、次の瞬間………

 

誰も予想していなかった事が起きる!

 

スチュワートが突っ込んでいた客車が連結している蒸気機関車が、汽笛を鳴らして、煙突から煙を噴き上げたのだ!!

 

「「「「「「「「「「えっ!?…………」」」」」」」」」」

 

そして、車輪がゆっくりと動き始め、遂には発車した!!

 

「!? 優ちゃん! 撃ってっ!!」

 

「! クッ!!」

 

聖子が咄嗟に優にそう叫び、クロムウェルの主砲が火を噴くが、列車が発車した事で狙いがズレ、砲弾がスチュワートが突っ込んでいた客車の1つ後ろの客車を吹き飛ばす。

 

「ちょっ!? ちょっとぉっ!?」

 

「ど、如何なってるの!?」

 

「分かんないよっ!!」

 

「何々っ!?」

 

ミケ、スコッティ、ラグドール、マンチカンの声が響き渡る中、スチュワートを乗せた列車はスピードを上げて離れて行く。

 

「フラッグ車がっ!?」

 

「クッ! 唯ちゃん! 追ってっ!!」

 

「! 応っ!!」

 

明菜がそう叫ぶと、聖子がそう言い、我に返った唯がクロムウェルで列車を追い掛ける。

 

「! マズイッ! ピューマッ!!」

 

「!!」

 

続いてジャンゴが我に返り、ピューマに呼び掛けたかと思うと、ピューマは走って列車の後を追い始める。

 

「来いっ! 相棒ぉっ!!」

 

更に続けてそう言い、右手の親指と中指で作った指笛を吹く。

 

するとそこで、彼の愛馬と思われる馬が駆けて来る。

 

「ハアッ! ハイヤーッ!!」

 

その馬に飛び乗ると、列車を追うジャンゴ。

 

「アララ~、コレは予想外………でも益々面白くなって来たわ! 西住 みほっ!!」

 

「!!」

 

その光景を見ていたクロエがそう言い放ったかと思うと、続いてみほに呼び掛け、突如呼び掛けられたみほはビクリとする。

 

「付いてらっしゃいっ!」

 

と、続けてそう言い放ったかと思うと、ヘルキャットが発進し、Ⅳ号の脇を擦り抜けて、スチュワートの乗った列車を追い始めた!

 

「!?」

 

「みぽりん!」

 

「西住殿! 如何なさいますかっ!?」

 

その光景にみほが驚いていると、車内の沙織と優花里からそう声が飛ぶ。

 

「! フラッグ車を追いますっ!!」

 

「分かった………」

 

一瞬の逡巡の後、みほはそう決断を下し、麻子が列車を追い始める。

 

「我々も続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

更にそこで弘樹もそう声を挙げ、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達は停めてあった車輌に乗り込み、同じ様に列車を追って行ったのだった。

 

「コチラはジャンゴ! 残存部隊に告げるっ!!」

 

その時………

 

列車を追跡する一同の中で、先頭を行くクロムウェルの次を行っていたジャンゴが、通信機で西武残存部隊に何か指示を飛ばしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

西部の街並みのセット内では………

 

あんこうチームとサンショウウオさんチーム以外で唯一生き残っていたウサギさんチームのM3リーが、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の隊員達と共に、街道を進んでいる。

 

「! 前方にM4A3を2輌確認!」

 

と、キューポラから姿を見せていた梓が、前方の交差点を横切ろうとしている2輌のM4A3の姿を見つけてそう声を挙げる。

 

「………!!」

 

M4A3の方も、片方の車長がハッチを開けて姿を晒しており、ウサギさんチーム達に気付く。

 

「交戦用意っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

勇武がそう言い放つと、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の面々が得物を構える。

 

「もう砲弾も残り少ないけど………やれるだけやるよ!」

 

M3リーの方でも、あやが照準器を覗き込みながらそう言い放つ。

 

しかし………

 

M4A3は速度を上げると、ウサギさんチーム達から逃げる様に交差点を通過して行った。

 

「!? えっ!? 逃げたっ!?」

 

敵の思わぬ行動に、梓は驚きを露わにする。

 

「ええ~? 何々?」

 

「如何して逃げたんだろう?」

 

あやと桂利奈も困惑を露わにする。

 

「きっと私達に恐れをなしたんだよ~」

 

「主砲の壊れてるM3と消耗している歩兵部隊に?」

 

優希がお馴染みのノンビリ口調でそう言うが、あゆみは有り得ないと返す。

 

「…………」

 

そしれ、紗希は1人、険しい表情をしていた。

 

「! 清十郎くん! 高い所から敵の動きを見てくれる!」

 

「分かりました!」

 

そこで梓も、何かに気付いた様に清十郎にそう言い、清十郎は高所となっている場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

『コチラ竹中。敵は戦車を先行させながら街のセットから抜け出し始めて行っています。如何やら、駅のセット辺りから何処かへ向かっている様ですが………』

 

高所から西部機甲部隊の動きを見ていた清十郎が、そう報告を送って来た。

 

「やっぱり……街のセットから抜け出そうとしていたんだ………」

 

「でも、如何して急に?」

 

梓がそう呟くと、あやがそう尋ねて来る。

 

『コチラあんこう! ウサギさんチーム! 応答願いますっ!!』

 

「あ! 武部先輩だ!! こちらウサギさんチームで~す!!」

 

そこで、沙織からの通信が入って来て、優希が応答する。

 

『ウサギさんチーム! コチラは現在、敵フラッグ車を追跡中です!!』

 

「追跡中? 発見したけど、逃げられたんですか?」

 

『いや~、逃げられたと言うか、逃げられてると言うか~………』

 

「? 如何したんですか?」

 

『実はね………』

 

沙織の要領を得ない回答に、梓が首を傾げていると、沙織は詳細を説明し始めた………

 

 

 

 

 

 

 

「ええっ!? そんな事がっ!?」

 

『そうなの! だから至急に援護に来て下さい! 繰り返します! 至急援護に来て下さいっ!!………』

 

と、沙織が救援要請を繰り返したところで、突如通信音声が雑音しか聞こえなくなる。

 

「!? 先輩!? 武部先輩っ!? 応答して下さいっ!!………優希!!」

 

「さっきの戦闘で通信機もダメージ受けてたみたい~。遠距離になって通信が不調なの~」

 

梓が応答を願うが返事が無く、優希に声を掛けると、そう言う報告が挙がった。

 

『成程………敵戦車も、そのフラッグ車を追って街から出て行っているんですね』

 

「梓ちゃん! 私達もすぐにフラッグ車を追おうよ!!」

 

「でも、主砲の壊れたM3リーじゃ、追い付いても戦力になるか如何か………」

 

清十郎からの通信が入る中、あやが梓にそう進言するが、梓はM3リーの損傷状態を気にする。

 

「………澤車長。意見具申、宜しいでしょうか?」

 

するとそこで、M3リーの傍に控えていた勇武が、ハッチから姿を見せている梓を見上げながらそう言って来た。

 

「? 柳沢くん?」

 

「追撃に向かって戦力にならないのならば、敵の戦車部隊を足止めしましょう!」

 

梓が返事をすると、勇武はそう意見具申する。

 

「敵の戦車部隊を?」

 

「ハイ。敵のフラッグ車は状況を見る限り、西住総隊長と舩坂先輩達に任せるしかありません。ならば我々は合流に向かって居る敵戦車部隊を足止めし、総隊長達が挟撃を受けるのを防ぐべきです」

 

「食い止めるって言っても、如何やって? M3リーは主砲が壊れてるし、パンツァーファストやバズーカの残弾も少ないんだよ」

 

「………僕の考えは」

 

そこで勇武は、思わぬ考えを発表した。

 

「ええっ!?」

 

「そりゃ無理ッスよ!」

 

「デンジャーです!」

 

途端に、竜真、正義、ジェームズから反対の声が挙がる。

 

「幾らなんでもそれは………」

 

おおかみさん分隊の方でも、飛彗も難色を示すが………

 

「今ココで敵を足止め出来るのは我々しか居ないんですよ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

勇武にそう言われ、一同はハッとする。

 

「選択肢は2つ! このまま何もしないか! それとも! この地雷と爆薬と火炎瓶を使って、馬鹿な事をするかです!!」

 

そして勇武は、地雷と爆薬、火炎瓶を取り出してそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、西部フラッグ車を追撃している一行は………

 

「誰か停めてーっ!!」

 

ミケの悲鳴が響く中、スチュワートがめり込んだままの客車を引っ張って、荒野を爆走する蒸気機関車。

 

荒野に出てからは、レールが敷かれている場所が少し高くなった鉄道土手となっており、走る蒸気機関車を中心に右側に西部機甲部隊のクロエとジャンゴ、ピューマ。

 

そして反対側に、大洗機甲部隊のⅣ号とクロムウェル、それに車輌に乗ったとらさん分隊とタコさん分隊の面々が、列車を追って走っている。

 

鉄道土手を挟んでいるので、両者は相手の姿を直接確認出来ていないが、立ち上る土煙で、確実に居る事は察している。

 

「このままじゃ埒が明かないな………ハイヤーッ!!」

 

とそこで、ジャンゴがそう言ったかと思うと、愛馬を列車に近づけさせた!

 

「! ジャンゴ!………」

 

ジャンゴの姿が鉄道土手の向こう側から現れたのを見た、くろがね四起の荷台部分に乗って居た弘樹が、四式自動小銃を向けたが、ジャンゴはアッと言う間に列車の陰に隠れてしまう。

 

「クッ………」

 

「ハイヤーッ!!」

 

弘樹が苦い顔をして四式自動小銃を構えるのを止めると、ジャンゴは馬を限界まで早く走らせ、列車の傍に寄ったまま、成るべく前の方まで移動する。

 

「…………」

 

そして、鞍の上に足を置いて屈む姿勢を執ったかと思うと………

 

「ハアッ!!」

 

何と!!

 

そのまま列車に向かって跳躍!!

 

側面にしがみ付いたかと思うと、客車の窓から中へと入り込んだ。

 

「ピューマァッ!!」

 

「!!」

 

そしてまたもピューマの事を呼んだかと思うと、ピューマが走っている蒸気機関車と同じ様に、鼻息を煙の様に噴き出ししながら、鉄道土手と列車の陰に隠れて、列車に接近。

 

ジャンゴから近い位置に飛び付き、そのまま列車内へ潜り込んだ。

 

「クソッ! アイツ等、中に入りやがったぞっ!!」

 

「我々も行くんだ! 続けーっ!!」

 

弘樹はそう叫ぶと、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達が乗った車輌が、列車に近づく。

 

「させないよ」

 

だがそこで、客車の窓から身を乗り出したジャンゴが、M1917リボルバーを発砲!

 

「ガッ!?………」

 

放たれた銃弾は、1台のジープの運転手をやっていた隊員の頭に命中し、その隊員は戦死判定。

 

運転していたジープはコントロールを失い、別のジープと激突した!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

乗って居た隊員達が投げ出され、地面に叩き付けられると戦死と判定される。

 

「ピューマッ!!」

 

「…………」

 

更に、ジャンゴが叫ぶと、今度はピューマが、フリーガーファウストを構えた状態で、客車の窓から身を乗り出してくる。

 

「! イカンッ! 退避っ!!」

 

「「!!」」

 

弘樹がそう叫ぶと、真っ先に反応した聖子とみほが、クロムウェルとⅣ号を離脱させる。

 

直後にピューマはフリーガーファウストを発射!

 

多数のロケット弾が、とらさん分隊とタコさん分隊の隊員達が乗る車輌部隊へと叩き込まれる!

 

「「「「「「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

直撃弾を喰らい、或いは爆発で車体が引っ繰り返ったり、撃破された別の車輌の残骸に衝突するなどして、次々に隊員達がやられて行く。

 

「クッ! 楓! 強引にでも寄せてくれっ!!」

 

「ハ、ハイッ!」

 

そんな中、至近距離での爆発の熱を感じながらも、弘樹は乗って居るくろがね四起を列車に近づかせる様に運転手の楓に指示。

 

強引ながらも、如何にか列車の最後尾に着く事に成功する。

 

「良し!」

 

列車の最後尾の貨車の後部デッキに飛び乗ろうと、くろがね四起の荷台から立ち上がると、フロントガラスを超えてボンネットの上に立つ弘樹。

 

「!? 弘樹! ヘルキャットだっ!?」

 

「!!」

 

そこで地市の声が挙がり、みほ達が居る反対側の鉄道土手の下に、主砲をコチラに向けて居るヘルキャットの姿を確認する。

 

「チイッ!」

 

弘樹は反射的に、ボンネットを蹴って、後部デッキへと跳んだ!

 

少し遠かったが、何とか転落防止用の柵にしがみ付く事に成功した!

 

「地市! 楓! お前達も跳べぇっ!!」

 

そしてすぐに残っていた地市と楓にそう呼び掛けたが………

 

「弘樹ぃっ! 受け取れぇっ!!」

 

地市がそう叫んで、自分が持っていたパンツァーファウストを、弘樹に向かって投げる。

 

「!!」

 

それを見た弘樹は、如何にか片腕で柵にしがみ付いたまま、もう片方の手でパンツァーファウストを掴む。

 

「武運を祈りますっ!!」

 

と、楓がそう言った直後!!

 

ヘルキャットが発砲し、砲弾が地市と楓の乗って居たくろがね四起に着弾!

 

くろがね四起は炎を上げて宙に舞い、鉄道土手横に転がって、遠ざかって行った………

 

「!!………」

 

その光景に弘樹はショックを受けながらも、すぐに気持ちを切り替え、柵をよじ登って後部デッキに立った。

 

「…………」

 

そして、パンツァーファウストと四式自動小銃をベルトで背に背負うと、M1911A1を構えて列車の車内へと侵入するのだった。

 

「舩坂さんが車内に!」

 

「良し! 私達も………」

 

と、みほがそう言い掛けた瞬間に、Ⅳ号の目の前に砲弾が着弾した!

 

「!?」

 

驚きながらも、砲弾が飛んで来たその方向を見やるみほ。

 

そこには………

 

「撃て撃て! こうなったら自棄だよーっ!!」

 

客車に填まったままの状態で、主砲をみほ達の方に向けて発砲しているスチュワートの姿が在った。

 

「ちょっ! 撃って来たよ!!」

 

「こうなると武装列車ですね!」

 

「クッ! 行進間射撃で当てるのは無理ですね………」

 

その光景を見て沙織と優花里がそう声を挙げ、必死に狙いを付けようとしていた華も、悪路での振動に苦戦している。

 

「…………」

 

そしてみほは、己の頬に嫌な汗が流れるのを感じ取っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にお互いのフラッグ車を狙ってのガチンコ対決。
しかしその途中で、西部のフラッグ車が暴走特急と化す。
西部劇と言えば蒸気機関車が出ているイメージがあったので、ちょっとこんな展開にしてみました。
果たしてクロエとみほは如何するのか?

そして、増援に向かおうとしている西部残存戦車部隊を足止めする為に、ウサギさんチーム達が執った手とは………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第140話『神狩さん、遅参です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第140話『神狩さん、遅参です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦に次ぐ激戦で………

 

西部のエース戦車乗り達を撃破しながらも、次々にリタイヤして行った大洗戦車チーム達………

 

そんな中………

 

西部機甲部隊のフラッグ車が………

 

暴走した列車で運ばれて行ってしまうと言う珍事が発生………

 

追撃を掛けたあんこうチームととらさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊は………

 

ジャンゴとピューマ、クロエの妨害を受けながらも………

 

如何にか弘樹が列車に飛び乗る事に成功する。

 

一方………

 

唯一生き残っていたウサギさんチームは………

 

ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊と共に………

 

クロエの元に増援として向かおうとしている西部戦車部隊の足止めに掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・西部フラッグ車を乗せた列車が走っている線路が続いているエリア………

 

生き残っていた西部機甲部隊の戦車部隊………

 

M4A3が8輌、チャーフィーが6輌、ローカストが2輌………

 

合計16輌の戦車隊が、砂煙を巻き上げながら、鉄道土手になっている線路の片側を沿う様に進軍している。

 

「急がないと! フラッグ車が狙われてるんでしょっ!!」

 

「けど、相手のフラッグ車も居て、クロエ総隊長も居るんでしょ?」

 

「態々私達が向かわなくても大丈夫じゃない?」

 

「それはそうかも知れないけど………でも! 万が一って事もあるじゃない!!」

 

西部戦車部隊のメンバーの間では、そんな会話が飛んでいる。

 

………と、その時!!

 

突如風切り音が聞こえて来たかと思うと、先頭を行っていたローカストの傍に、砲弾が着弾した!

 

「!? 敵襲っ!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさま、西部戦車部隊の面々は前方を確認する。

 

そこには、やや小高い丘となっている場所の斜面に、ハルダウンしているウサギさんチームのM3リーの姿が在った。

 

「! 大洗の戦車!!」

 

「落ち着いて! 報告によれば、あのM3は主砲を破損しているわ! 使えるのは副砲の37ミリだけよ!!」

 

「それに大洗の残りの戦車は、フラッグ車を追跡している2輌を除けばあのM3だけ………」

 

「コッチは16輌も居るんだ! 気にせず前進するわよっ!!」

 

しかし、主砲を破損し、1輌しかいないM3リーを脅威とは思わず、西部戦車部隊は前進を続ける。

 

「撃てっ!!」

 

16輌の西部戦車部隊の一斉射が、M3リーに襲い掛かる!

 

「キャアッ!?」

 

「凄い攻撃………」

 

「やっぱり無理だよ~!」

 

周辺への着弾で、車内に激しい振動が走り、あゆみが悲鳴を挙げると、あやが冷や汗を流し、優希が若干涙声でそう言う。

 

「無理でもやるしかないよ! あの戦車達を西住総隊長達の元へ行かせるワケには行かないんだからっ!!」

 

「気合だぁーっ!!」

 

だが、梓はそんな一同を鼓舞し、桂利奈は自らを奮い立たせる様に叫ぶ。

 

「…………」

 

そして紗希は、黙々と副砲の装填を続けるのだった。

 

そんなウサギさんチームのM3リーに向かって、西部戦車部隊は容赦無く行進間射撃をお見舞いして行く。

 

「クウッ! 当たらないわよっ!!」

 

「あんなに深くハルダウンされてて、行進間射撃してるんじゃねえ………」

 

しかし、M3リーがダグインしている穴は、高いM3リーの車体が完全に隠れてしまう程に深く、西部戦車部隊から見えているのは副砲塔の部分だけだった。

 

その上、只でさえ命中率の低い行進間射撃なので、当てる事が出来ない。

 

「良し! M4A3部隊で先行するわ!! コッチの正面装甲なら、ギリギリ耐えられる筈よ!!」

 

「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」

 

するとそこで、先行していたチャーフィー6輌とローカスト2輌が停止し、それを追い越す様にM4A3が前に出た。

 

如何やら、正面装甲でM3リーの砲撃に耐えつつ、しっかり狙える位置まで接近する積りらしい。

 

「M4A3が先行して来たよっ!」

 

「良し、予定通りだね………」

 

「光照くん達………お願いね」

 

あやがそう声を挙げると、梓は表情を強張らせ、あゆみが祈る様に両手を合わせる。

 

「もう少し接近して!」

 

「M3め、覚悟しろっ!」

 

その間にも、M4A3の部隊はM3リーに接近して行く。

 

だが、この時………

 

車長が全員車内に籠っており、随伴歩兵も居ない事もあって、西部戦車部隊は気づかなかった。

 

自分達がM3リーの方向へと向かって居る進路上に………

 

人1人が入れそうな穴………

 

蛸壺が無数に空いている事に………

 

「………来た」

 

その中の1つから、勇武が顔を覗かせて、向かって来るM4A3部隊を見据える。

 

その手には、対戦車地雷が携えられている。

 

「…………」

 

更に、別の蛸壺には、梱包爆薬を携えている清十郎の姿も在った。

 

他の蛸壺にも、ハムスターさん分隊とおおかみさん分隊の隊員達が、収束手榴弾、火炎瓶、吸着地雷や九九式破甲爆雷を携えて籠っており、無人の蛸壺も在る。

 

その蛸壺地帯に向かって、M4A3部隊がドンドン迫って来る。

 

「………ゴクッ」

 

目の前まで戦車が迫って来ると言う恐怖に、勇武は思わずツバを飲み込む。

 

だが、決して迫り来る戦車達から目を反らそうとしない。

 

(やるんだ………僕達だって………舩坂先輩達みたいに………勇敢に………)

 

そして遂に、M4A3が目と鼻の先にまで迫った瞬間!

 

「! 今だっ!!」

 

勇武は対戦車地雷を携えたまま蛸壺から飛び出し、地面を転がって、迫って来た居た1輌のM4A3の履帯と履帯の間で仰向けに伏せる!

 

勇武の存在に気付いていなかったM4A3は、そのまま進み、勇武の姿がM4A3の車体下へ吸い込まれる様に消える。

 

「フッ!」

 

その瞬間勇武は、対戦車地雷を磁気吸着機能で、M4A3の車体下に張り付けた!

 

そしてM4A3が通り過ぎると、手近に掘って在った蛸壺の中へ転がり込む。

 

直後に、対戦車地雷を仕掛けられたM4A3が爆発!

 

砲塔上部から、白旗が上がった!

 

「!? ええっ!?」

 

「何っ!?」

 

突如として白旗が上がった友軍車輌の姿を見て、西部戦車部隊に動揺が走る。

 

「良しっ!!」

 

と、そこで今度は、梱包爆薬を携えた清十郎が飛び出し、近くを走り抜けようとしていたM4A3に駆け寄り、その車体上に攀じ登った!

 

「! 8号車! 大洗の歩兵だ! 取り付かれているぞっ!!」

 

やや後方に居たチャーフィー部隊とローカスト部隊の内、ローカストの1輌の車長が、清十郎が取り付いたM4A3を見てそう通信を送る。

 

「!? ええっ!?」

 

取り付かれたM4A3の車長が驚愕の声を挙げた瞬間!!

 

「ハッ!!」

 

M4A3のエンジンルーム上に梱包爆薬を仕掛け終わった清十郎が、拉縄を引いて飛び降りる。

 

その数秒後に、梱包爆薬が爆発!

 

エンジンのガソリンに引火し、炎を撒き散らしながら炎上したかと思うと、白旗を上げる!

 

「うおおおっ!!」

 

ハムスターさん分隊の分隊員の1人が蛸壺から飛び出し、接近して来たM4A3に火炎瓶を持って突撃する。

 

「機銃掃射っ!」

 

「ハイッ!!」

 

しかし、タイミングを誤った為、同軸機銃での掃射を浴びせられてしまう!

 

「!? うわぁっ!?」

 

戦死判定は喰らわなかったものの、右足の大腿部に命中弾を喰らい、足が動かせなくなった状態で倒れるハムスターさん分隊の分隊員。

 

そのハムスターさん分隊の分隊員にトドメを刺そうと、M4A3が接近して来る。

 

踏み潰す積りの様だ。

 

「危ないっすっ!!」

 

とそこで、近くの蛸壺の中に居た正義が飛び出し、倒れていたハムスターさん分隊の分隊員の上に覆い被さる様にしがみ付いたかと思うと、そのまま一緒に転がってM4A3を回避する。

 

「チキショウッ!!」

 

そして、ハムスターさん分隊の分隊員が持っていた火炎瓶を手に取ると、通り過ぎたM4A3のエンジン部に向かって投げつけた!

 

火炎瓶が命中したエンジン部から炎が上がり、一瞬間を於いてエンジンが爆発!

 

M4A3は白旗を上げて停止する。

 

「マズイ! 突入するわよ!!」

 

「了解! 連携を密にっ!!」

 

とそこで、後方に下がっていたチャーフィー部隊とローカスト部隊が再度速度を上げ、やられているM4A3部隊を援護しようと突撃する。

 

その瞬間!

 

「貰ったぁっ!!」

 

そう言う台詞が聞こえたかと思うと、西部戦車部隊が居る場所の反対側の鉄道土手に隠れていた光照を中心とした対戦車兵部隊が、バズーカやパンツァーファウストを構えて姿を現す!

 

「!? しまった!? 鉄道土手の陰に!?」

 

「行けーっ!!」

 

1輌のチャーフィーの車長が驚きの声を挙げた瞬間、光照が構えていたバズーカの引き金を引く。

 

バックブラストが吹くと、ロケット弾が白煙の尾を引いて1輌のチャーフィーに向かい、車体側面に命中!

 

側面が焦げたチャーフィーが、ガクリと停止したかと思うと、白旗を上げる!

 

「ええいっ!!」

 

更に、別の大洗対戦車兵が、ロタ砲を発射し、ローカストに命中させる。

 

ローカストの砲塔上部から、白旗が上がる。

 

「ええいっ! 応戦しろっ!!」

 

止むを得ず、チャーフィー部隊と残り1輌のローカストは足を止め、鉄道土手の方へと車体と砲塔の向きを変え、砲撃を開始する。

 

砲弾が光照達の周辺に着弾し、次々に土埃が舞い上がる!

 

「うわあぁっ!?」

 

「こ、後退っ!!」

 

コレは堪らないと言う様に、光照達は再び鉄道土手の陰へと隠れる。

 

「逃がすか! 蹂躙してやるっ!!」

 

と、頭に血が上ったのか、残り1輌のローカストが鉄道土手を超えて光照達を追撃しようとする。

 

「! 待て! 深追いするなっ!!」

 

1輌のチャーフィーの車長がそう言ったが、既にローカストは鉄道土手の頂上部へ到達していた。

 

「貰ったっ!」

 

その瞬間、逃げた様に見せかけて、実はその場を動いていなかった光照が、鉄道土手を越えようとして晒されたローカストの車体下部分に、再装填を終えたバズーカのロケット弾を放った!

 

「なっ!?」

 

ローカストの車長が驚きの声を挙げた瞬間に、ロケット弾は命中。

 

当然撃破と判定され、白旗が上がる。

 

「密集して! 孤立していたらやられるわっ!!」

 

1輌のチャーフィーの車長がそう指示を飛ばし、西部戦車部隊は1箇所に集まろうとする。

 

「今だっ!!」

 

とそこで、籠っていた蛸壺の手近を通りかかったチャーフィーを見て、竜真が飛び出し、背後から車体の上に攀じ登り、梱包爆薬を仕掛けようとする。

 

「! 竜真! デンジャーッ!!」

 

「!? えっ!?」

 

しかしそこで、ジェームズがそう叫ぶのを聞いて、竜真が顔を上げると………

 

飛び乗ったチャーフィーの後方に居たチャーフィーが、竜真に向かって同軸機銃を発射した!!

 

「!? うわああっ!?」

 

真面に機銃弾を浴びてしまい、竜真は乗って居たチャーフィーの上から転がり落ちると、地面に倒れ、戦死と判定される。

 

「竜真! ガッデムッ!!」

 

それを見たジェームズは、怒りに駆られて蛸壺から飛び出し、対戦車地雷を片手に、竜真を撃ったチャーフィーを追う。

 

「! 後方より歩兵接近! 振り切ってっ!!」

 

だが、チャーフィーの車長は、接近して来るジェームズを発見し、速度を上げて振り切ろうとする。

 

「ううううっ!!」

 

それを必死に追うジェームズ。

 

全力疾走を続け、遂にチャーフィーの車体横の部分を片手で掴み、引き摺られる様に並走する。

 

「バンザイッ!!」

 

そして、もう片方の腕で抱えていた対戦車地雷を、履帯と転輪の中へと放り込んだ!

 

爆発でジェームズは吹き飛ばされて戦死となったが、チャーフィーも白旗を上げる。

 

「竜真! ジェームズッ!!」

 

竜真とジェームズがやられたのを見て、蛸壺から出ていた勇武が、思わず動きを止めてしまう。

 

「そこっ!!」

 

そしてそれを見逃さずに、M4A3が榴弾を発砲する。

 

「!? うあああっ!?」

 

至近距離に着弾し、無数の破片を浴びて倒れる勇武。

 

しかしまだ、辛うじて戦死判定は喰らっていない。

 

「ううう………」

 

呻き声を挙げ、戦闘服がダメージ判定で身体の動きを制限しているのを感じながら上体を少し起こす。

 

するとその目の前に、梱包爆薬が転がっていた。

 

「!!」

 

それを見てハッとする勇武。

 

先程榴弾を放ったM4A3は、勇武を倒したと思い、別の歩兵を攻撃しようと前進して来ている。

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

それを見た勇武は叫び声を挙げて梱包爆薬を抱えて拉縄を引き、向かって来るM4A3の方へと転がって行く!

 

そしてそのまま、M4A3に飛び込んだ!!

 

爆発と共にM4A3が擱座し、撃破の判定を受ける。

 

勿論、勇武も戦死である………

 

多くの犠牲を払いながらも、西部戦車部隊を足止めするウサギさんチームとハムスターさん分隊におおかみさん分隊。

 

「…………」

 

「皆さん! 何としても此処で食い止めて下さいっ!!」

 

鉄道土手を遮蔽物に、陣がラハティ L-39 対戦車銃で履帯を破壊し、動きを止めたチャーフィーに向かって火炎瓶を投げつけて撃破しながら、飛彗がそう叫ぶ。

 

と、その時………

 

戦車とは違う、別のエンジン音が聞こえて来た。

 

「? 何だ?」

 

飛彗がその音が聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

「オノレ、大洗め! よくも我々の戦車部隊を!!」

 

バイクに乗るオセロットを先頭に、サイドカーに乗った山猫部隊の姿が在った。

 

「! リボルバー・オセロットッ!?」

 

「神狩 白狼の奴を探していたのに………何処にもいないではないか! その間にジャンゴから救援要請が来たと思えば、戦車部隊がこの有り様とは………全員、モグラ共を始末しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

飛彗が驚きの声を挙げる中、オセロットは愚痴りながらそう指示を出し、サイドカーに乗った山猫部隊が方々に散らばって行く。

 

「コレ以上はやらせんっ!」

 

「うわあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

サイドカーの側車に乗って居た山猫部隊員が、短機関銃を薙ぎ払う様に連射し、ハムスターさん分隊員とおおかみさん分隊員達を次々に戦死させて行く。

 

「そらっ!!」

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

また、別の山猫部隊員は、蛸壺の中に手榴弾を投げ入れ、籠っていたおおかみさん分隊員を戦死させる。

 

「喰らえっ!!」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

更に別の山猫部隊員は、火炎放射器から火炎を放ち、地上と蛸壺を同時に攻撃して戦死判定者を出して行く。

 

「フッ………」

 

「うわぁっ! た、弾が跳ね返って………」

 

オセロット自身も、得意の跳弾で蛸壺内の大洗歩兵隊員を次々に屠って行く。

 

「いけないっ! このままじゃっ!!」

 

その様子に焦った飛彗が、遮蔽物にしていた鉄道土手から飛び出す。

 

「!!」

 

陣が止めようとしたが敵わず、飛彗はオセロットの前へと躍り出る。

 

「指揮官を倒せば!………」

 

「馬鹿め! 狙撃兵が姿を晒して攻撃するなど!!」

 

しかし、飛彗がモシン・ナガンM1891/30を撃つよりも先に、オセロットがピースメーカーを発砲。

 

モシン・ナガンM1891/30が弾かれる。

 

「!? しまったっ!?」

 

「そらぁっ!!」

 

狼狽した飛彗に、オセロットはウィリーさせたバイクの前輪を叩き込んで来る!

 

「!? うわあっ!?」

 

咄嗟に身を捻ってダメージを軽減させたものの、衝撃でブッ飛ばされ、地面に倒れる飛彗。

 

「ぐうう………」

 

「しぶとい奴め………トドメだ」

 

戦闘服が動きを制限して中々立ち上がれない飛彗の傍の停車したオセロットがピースメーカーも向ける。

 

「くうっ!………」

 

ピースメーカーを向けて来ているオセロットを睨む飛彗。

 

だが、そこで………

 

またもやエンジン音が聞こえて来た。

 

「! この音っ!?」

 

飛彗が驚きの声を挙げる。

 

そのエンジン音は、飛彗にとって聞き慣れている音だった。

 

その直後!!

 

「うおりゃあっ!!」

 

オセロットの頭上に、バイクに乗った人物が躍り出た!!

 

「!? 何っ!?」

 

驚きながらも即座にバイクを発進させるオセロット。

 

バイクに乗って居た人物は、先程までオセロットが居た位置に着地する。

 

「やっと着いたぜ! チキショウッ!!」

 

その人物………漸く試合会場に到着した神狩 白狼は、そう悪態を吐く。

 

「白狼っ!!」

 

「飛彗! 大丈夫かっ!?」

 

白狼はバイクから降りると、近くに在ったモシン・ナガンM1891/30を拾い、飛彗を助け起こす。

 

「白狼! 僕の事は良いです! それより西住総隊長の方へ向かって下さいっ!!」

 

「ああ? 何でだよ?」

 

「実は………」

 

首を傾げる白狼に、飛彗はみほ達の状況を簡潔に手早く説明する。

 

「んな事になってるのかっ!?」

 

「恐らく、西住総隊長達は1人でも援軍が欲しい状態です。今此処から向かって間に合えるのは白狼だけです! 行って下さいっ!!」

 

「…………」

 

そう言われた白狼の脳裏に、一瞬優花里の顔が浮かんだ。

 

「………やられるんじゃねえぞ」

 

そして、白狼はそう言ったかと思うと、再びバイクに跨り、線路に沿って離脱して行く。

 

「良し………」

 

飛彗は如何にか身体を動かして、手近に在った蛸壺の中へと転がり込む。

 

すると、そこで………

 

「待てぇっ! 神狩 白狼ッ!!」

 

そう言う台詞と共に、オセロットが白狼の後を追った。

 

「! クッ!!………」

 

すぐにモシン・ナガンM1891/30を構える飛彗だったが、既にオセロットは射程外である。

 

「しまった………白狼、すみません。頼みます!」

 

飛彗はそう言うと、狙いをサイドカーに乗って居る山猫部隊員達に変え、その頭を次々にヘッドショットして行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

線路沿いにバイクを疾走させている白狼………

 

「急がねえとな」

 

白狼はそう言ってアクセルを更に吹かす。

 

何せ今回の戦いで活躍を挙げなかった場合、彼は大洗から転校しなければならないのだ。

 

「…………」

 

と、その事を思い出した白狼の顔に一瞬影が差す。

 

「神狩 白狼おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「!?」

 

だがそこで叫び声が聞こえて来て、後ろを振り返るとそこには………

 

「あの時の屈辱を晴らさせてもらうぞぉっ!!」

 

右手にピースメーカーを握った状態でバイクに跨っているオセロットが、白狼を追撃して来ていた。

 

「チイッ! 今お前に構ってる暇はねえんだよっ!!」

 

白狼はそう言うと、速度を更に上げ、オセロットを振り切ろうとする。

 

「逃がさんっ!!」

 

するとオセロットは、腰のベルトに下げてあった銃床を取り、ピースメーカーに装着。

 

肩撃ちの姿勢で白狼に狙いを定めた。

 

「!? ヤベッ!!」

 

しかし、それに気づいた白狼は即座に、ハンドルを切る。

 

銃弾は、先程まで白狼が居た空間を通り抜ける。

 

「チイッ! 小癪なぁっ!!」

 

弾丸がかわされたのを見ると、オセロットは速度を上げ、そのまま白狼のバイクに後ろから接触した!

 

「!? おわっ!? テメェッ! 俺の大事なバイクに何しやがるっ!!」

 

一瞬バランスを崩しながらも持ち直し、接触されて少し破損したバイクの後部を見ながら、オセロットにそう怒鳴る白狼。

 

「ハアッ!」

 

しかし、オセロットはそれを無視して、今度は左側から接触して来る。

 

「うおっ!? またやりやがったぁっ! もう我慢出来ねぇっ!!」

 

すると白狼はそう言い放ち、今度は自分の方からオセロットの乗るバイクに接触した!

 

「おわっ! 貴様! 大事だと言って置いて自分からぶつけるのか!?」

 

「むんっ!!」

 

と、オセロットがそう喚いたところ、白狼はバイクに跨ったまま、オセロットの頭に左腕でヘッドロックを掛ける!

 

「うおっ!?」

 

「コノヤロッ! コノヤロッ!!」

 

そしてもう片方の手で、ヘッドロックを掛けたオセロットの脳天に拳骨を何度も見舞う。

 

「うおっ!? 馬鹿! 止せっ!!」

 

慌てるオセロット。

 

2人は未だにバイクに跨って走っている状態なので、傍から見ると危ない事この上ない。

 

「コノッ! コノォッ!!」

 

更にオセロットの脳天に拳骨を見舞う白狼。

 

「アダッ! イダッ!?………ええーいっ! いい加減にしろぉっ!!」

 

と、漸くの事で、白狼のヘッドロックを振り払うオセロット。

 

「うおっ!?」

 

バランスを崩して、オセロットから離れる白狼。

 

その間に、オセロットは白狼の背後の方に位置取る。

 

そして再び、銃床を付けたままのピースメーカーを構え、発砲する。

 

「!? うおっ!?」

 

白狼は咄嗟に、バイクの上にうつ伏せになる様な姿勢を取って回避する。

 

「チイッ!」

 

それを見たオセロットは舌打ちすると、速度を上げて再び白狼の隣に並ぶ。

 

「テヤァッ!!」

 

そして、銃床を付けたピースメーカーの銃本体部分を掴むと、銃床の部分で殴りつけて来る!

 

「うおっ!? 野郎っ!!」

 

それをかわすと、白狼はバイクに付けてあったホルスターから、ソードオフモデルのウィンチェスターM1887を抜く。

 

「させんっ!!」

 

「おわっ!?」

 

だが、オセロットは再びピースメーカーに取り付けた銃床で、白狼が抜いたソードオフモデルのウィンチェスターM1887を殴りつける!

 

ソードオフモデルのウィンチェスターM1887が弾かれそうになるが、白狼は何とか耐える。

 

しかしその際に、レバーがオープンになり、装填していた弾薬が衝撃で全て外へと飛び出してしまった。

 

「! 弾がっ!?」

 

「貰ったぞ! ベオウルフッ!!」

 

白狼がそう声を挙げた瞬間、オセロットはピースメーカーを白狼に向ける。

 

「! おりゃあっ!!」

 

だが、その瞬間!!

 

白狼は片足をギアから上げ、オセロットの身体にソバットを見舞った!

 

「!? ガハッ!? オノレッ!!」

 

その衝撃で、オセロットの乗るバイクが僅かに後退し、白狼の横にはオセロットが乗るバイクの前輪が来る。

 

「!!」

 

そこで白狼は、弾の無くなったソードオフモデルのウィンチェスターM1887を、刀で突きを繰り出す様な姿勢で構えた。

 

「!? き、貴様、まさかっ!?」

 

それを見て、オセロットは白狼が何をする気か察し、慌てて離脱しようとしたが………

 

「禁断の必殺技! 車輪に異物っ!!」

 

白狼はそう言い放ったかと思うと、オセロットの乗るバイクの前輪に、ソードオフモデルのウィンチェスターM1887を差し込んだ!!

 

「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ソードオフモデルのウィンチェスターM1887が引っ掛かり、前輪が止まると、バイクが急停止し、オセロットは前方に投げ出された!

 

「!? ゴハッ!?」

 

1度地面に叩き付けられて、バウンドしたかと思うと………

 

「うおおおおおっ!!」

 

ウィリーした白狼が突っ込んで来て、バイクの前輪が身体に叩き込まれた!!

 

「ゲヤアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴と共に跳ね飛ばされて、地面を転がるオセロット。

 

漸く停止したかと思うと、そのまま戦死と判定される。

 

「言ったろっ! お前に構ってる暇は無いんだぁっ!!」

 

倒れているオセロットにそう言い放つと、白狼はアクセルを全開にし、改めて優花里達のところへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みほ達の元へ増援に向かって居た西部戦車隊を阻止する為………
決死の攻撃を開始したウサギさんチーム、ハムスターさん分隊、おおかみさん分隊。
今回ハムスターさん分隊達がやってきた攻撃は、以前アンツィオ&ピッツァの時にも紹介した、イタリア軍のフォルゴーレ空挺師団がやっていたとされる戦い方です。
それを映画にした『砂漠の戦場エル・アラメン』というものがあり、某動画サイトで観覧可能ですので、ご覧になって下さい。
見て損は無い戦争映画だと言えます。

そして遂に現れた白狼。
オセロットを下して、みほ達の救援に向かいますが、実は彼が思わぬ事態を引き起こしてしまいます。
それが何かは、次回のお楽しみにで。

では、ご意見、ご感想をお待ちしております。


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第141話『まさかの展開です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第141話『まさかの展開です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に試合会場へと到着した白狼。

 

飛彗に促され、西部機甲部隊のフラッグ車を追撃しているあんこうチーム達の元へと向かう………

 

一方………

 

列車で運ばれている西部機甲部隊のフラッグ車を追っていたあんこうチーム達の中で………

 

弘樹が、列車に取り付く事に成功していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦・試合会場………

 

和製西部劇の撮影所・鉄道土手となっている線路………

 

「撃てーっ! 撃て撃てーっ!! 撃ちまくれーっ!!」

 

ミケの自棄になって居る様な号令と共に、荒野を爆走する蒸気機関車が牽いている客車に填り込んでいるスチュワートの主砲が何度も火を噴く。

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

運悪く直撃弾を喰らったジープが爆発し、乗員の大洗歩兵隊員達が投げ出され、地面に叩き付けられると戦死の判定を受ける。

 

「クッ! 撃てっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

反撃にと、みほと聖子の号令が響いたかと思うと、Ⅳ号とクロムウェルが主砲を発砲する。

 

しかし、Ⅳ号の砲弾は鉄道土手に命中し、クロムウェルの砲弾は列車の上を通り過ぎて行った。

 

「優ちゃん! もっと良く狙ってっ!!」

 

「無茶言わないで下さい! 行進間射撃をしてる上、目標も動いてます! 当てるのは至難の技ですっ!!」

 

聖子が砲手の優に良く狙ってくれと言うが、悪路での行進間射撃な上、目標も高速で移動している為、狙いが殆ど付けられないと返す。

 

とその時!

 

「…………」

 

列車内へ入っていたピューマが再び顔を出し、フリッガーファウストを構えた!

 

「! マズイッ! 分散して下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

みほの慌てた指示が飛び、サンショウウオさんチームととらさん分隊員、タコさん分隊員達の乗る車輌がバラバラに回避行動を取り始める。

 

直後に、ピューマのフリッガーファウストが火を噴くっ!!

 

次々と放たれたロケット弾が、あんこうチーム達に襲い掛かる!!

 

「!? 被弾っ!? クッ! 損傷はっ!?」

 

「大丈夫です! 砲塔右側のシュルツェンが吹き飛ばされただけですっ!!」

 

命中弾を喰らった様な感覚に襲われたみほがそう問い質すが、優花里からそう報告が返って来る。

 

『コチラ白鳥です! やられました! すみませんっ!!』

 

『Oh、NO! ミーもバトルデッドねっ!!』

 

とそこへ、弁慶とジャクソンから戦死判定を受けたと言う報告が入って来る。

 

「みぽりん! 歩兵の皆もドンドンやられてるよっ!!」

 

報告を受けた沙織が、みほに向かってそう言う。

 

彼女の言葉通り、既にとらさん分隊は全滅。

 

タコさん分隊も残り3分の1にまで数を減らしていた。

 

「舩坂さんが車内に居る筈ですが………」

 

「だが、このままでは何れ私達もやられるぞ」

 

華が1人列車に突入する事に成功した弘樹の事を思い出すが、麻子は受けている損害の方が大きいと言う。

 

「………麻子さん、列車に接近して下さい。ギリギリまで近づいて、死角からの攻撃を試みます」

 

それを聞いたみほは、一瞬考え込んだ様な様子を見せたかと思うと、麻子にそう指示を飛ばした。

 

「分かっ………」

 

『西住総隊長! ヘルキャットがっ!!』

 

「!?」

 

しかし、麻子が返事を返そうとした瞬間に、聖子から慌てた様子でそう報告が入って来て、みほはすぐにハッチを開けて車外に姿を晒す。

 

するとすぐさま、鉄道土手を超えて、自分達が居る方に進軍して来たクロエのヘルキャットの姿を目撃する。

 

「そろそろ仕掛けさせてもらうわっ!!」

 

みほと同じく、ハッチから身を乗り出していたクロエがそう言い放ち、ヘルキャットがⅣ号とクロムウェルの背後に陣取ったかと思うと、即座に発砲する!

 

「! 回避っ!!」

 

「!!」

 

「くうっ!!」

 

みほの声で、Ⅳ号とクロムウェルは互いに離れる様に動いて、ヘルキャットから放たれた砲弾を回避!

 

だが、その砲弾が着弾すると同時にヘルキャットは動き出し、広がったⅣ号とクロムウェルの間を擦り抜けて両者の前方へと躍り出る。

 

そして勢い良く180度ターンしたかと思うと、そのままバックで走り出し、主砲と車体正面をⅣ号とクロムウェルに向ける!

 

「! 停止っ!!」

 

「くうっ!!」

 

すぐさまみほの停止指示が飛び、麻子はⅣ号を急停車させる。

 

直後に、停止したⅣ号の目と鼻の先に砲弾が着弾!

 

そのまま進んでいれば、間違いなく直撃弾を喰らっていただろう。

 

「ひゅ~、良いわ、良いわよ! 熱くて面白くなってきたわっ!!」

 

その光景を見たクロエの血が更に滾る。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、聖子の声が響くと、クロムウェルがヘルキャット目掛けて砲撃する。

 

「おっと!!」

 

だが、ヘルキャットは僅かに左に逸れて回避する。

 

「お返しよっ!!」

 

反撃にと主砲が火を噴き、砲弾がクロムウェルに向かう。

 

「! 砲塔旋回っ!!」

 

「!!」

 

咄嗟に聖子はそう指示を飛ばし、優が砲塔を旋回させる。

 

直後に、ヘルキャットから放たれた砲弾が、クロムウェルの砲塔側面に命中したが、角度が浅かったので弾く事に成功する。

 

「! 砲塔旋回装置に異常っ!!」

 

「ええっ!?」

 

しかし、無事と言うワケには行かず、砲塔旋回装置に異常が発生したと優が報告を挙げる。

 

「旋回自体は可能ですが、かなり速度が落ちます」

 

「クッ! 唯ちゃん! 砲撃時にフォローお願いっ!!」

 

「分かったっ!」

 

優からの報告を聞いた聖子は、唯にそう指示を飛ばす。

 

車体の方のコントロールで、落ちた砲塔旋回速度をカバーする積りの様だ。

 

「郷さんっ!!………!? キャアッ!?」

 

その様子を見たみほが聖子に声を掛けるが、直後にⅣ号の車体左側のシュルツェンが、ヘルキャットの撃った砲弾で吹き飛ばされ、思わず悲鳴を挙げる。

 

「さあ如何した!? まだシュルツェンが吹き飛んだだけだぞ! 掛かって来い!! 作戦を立案しろ! 徹甲弾を撃ち出せっ! 機銃で牽制しろっ! 速度を上げて喰らい付いて来いっ! さあ戦車道はこれからだ!! お楽しみはこれからだ!! ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリーッ!!」

 

そんなみほに向かって、クロエは狂気の笑みを浮かべて心底楽しそうにそう挑発する。

 

「!!………」

 

そのクロエの姿を見て、みほの身体は完全に震え上がった。

 

「う………あ………」

 

嫌な汗が止まらなくなり、顔色が見る見る内に青くなって行くみほ。

 

「! 西住殿!?」

 

「みほさん!? 大丈夫ですか!?」

 

「しっかりして、みぽりん!!」

 

「気をしっかり持て!!」

 

そんなみほの様子を見たあんこうチームは、優花里、華、沙織は当然ながら、普段からテンションの低い麻子でさえ、大声を挙げて心配する程だった。

 

(弘樹………くん………)

 

恐怖に押し潰されそうな中、みほは心の中で弘樹の名を呼ぶ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴走する蒸気機関車が牽いている列車の後部・車内………

 

「! 西住総隊長」

 

唯一、暴走する列車への侵入に成功していた弘樹は、みほが呼んだ様な感覚を感じて、客車の窓から外の様子を見やる。

 

そこには、ヘルキャットを相手に苦戦しているⅣ号とクロムウェルの姿が在った。

 

「クッ………」

 

助けたい衝動に駆られた弘樹だが、この状況ではみほ達を援護するより西部機甲部隊のフラッグ車を叩く方が、結果的に助けになると判断。

 

(申し訳ありません、西住総隊長………今暫くの御辛抱を)

 

心の中でみほにそう詫び、弘樹は西部機甲部隊のフラッグ車であるスチュワートが填り込んでいる前方の客車を目指す。

 

やがて、列車の丁度中央辺りに差し掛かり、新たな客車の車内へと続くドアを開けようとした瞬間………

 

「………!!」

 

ドアの向こうから僅かに殺気を感じ、弘樹はドアノブを握る手を止めた。

 

(この気配は………)

 

その気配の正体を推測しつつ、弘樹のM1911A1を握っている手に力が入る。

 

「………フゥ~~」

 

と、弘樹は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 

「…………」

 

そして、片手にしっかりとM1911A1を握りながら、もう片方の手で客車の車内へと続くドアのノブを回す。

 

やがて、ドアノブが回り切って、ドアが開けられる状態になると………

 

「………!!」

 

勢い良くドアを開けて、即座に近くに在った座席の陰に隠れた!

 

直後に発砲音がして、弘樹が隠れた座席に次々と弾痕が刻まれる!!

 

「流石に良い勘してるね~」

 

M1917リボルバーから撃ち終えた薬莢を排莢し、新たな弾薬を込めながら、ジャンゴがそう言い放つ。

 

「ジャンゴ………」

 

「さて、如何する、舩坂分隊長? この先に行きたかったら俺を倒して行くしかないよ、うん?」

 

座席の陰からジャンゴの姿を見やる弘樹に、ジャンゴは何処かおどけた様な態度でそう言い放つ。

 

「…………」

 

弘樹はそれに何かを言い返す様な事はせず、無言のままにM1911A1を両手で握る。

 

「オイオイ、折角の対決だってのに、俺だけが一方的に話すってのは悲しいぜ」

 

「無駄話は得意ではない………」

 

とそう言った瞬間!

 

弘樹はバッと座席の陰から立ち上がり、ジャンゴに向かってM1911A1を発砲した!

 

「おっと!」

 

しかし、ジャンゴはそれを読んでいた様で、弘樹が発砲した瞬間には、代わる様に座席の陰へと隠れていた。

 

「質実剛健だねぇ。まあ、良いさ。ボチボチ行こうか」

 

「…………」

 

とぼけた態度を続けるジャンゴだったが、弘樹は決して油断はしない。

 

何時ぞやのガンショップでの事もあり、ジャンゴが相当の実力者である事は分かっているからだ。

 

「…………」

 

ジャンゴが隠れたままだったので、M1911A1を構えたまま、ゆっくりと前進する弘樹。

 

「ほっ、と!」

 

と、不意を衝く様にジャンゴが姿を晒し、再びM1917リボルバーを発砲する!

 

「!!」

 

すぐさま近場の座席の陰に転がり込む様に隠れる弘樹。

 

だが、ジャンゴは弘樹が隠れている座席に向かって発砲を続ける。

 

(………3………4………5………)

 

弘樹は、ジャンゴが何発撃っているのかをしっかりと確認し、最後となる6発目を撃ち終えた瞬間に飛び出そうとタイミングを見計らう。

 

(………6!!)

 

そして最後となる6発目の発砲音が聞こえると、すぐさま座席の陰から身を曝し、M1911A1をジャンゴに向けた!

 

しかし!!

 

「! グッ!?」

 

その瞬間に、銀色に光る『何か』が飛んで来て、弘樹が構えていたM1911A1を弾き飛ばす!

 

弾かれたM1911A1は、ドアが開けっ放しだった為、後方の客車内の方まで転がって行く。

 

「見積もりが甘かった様だな、舩坂分隊長さん」

 

そう言い放つジャンゴの、M1917リボルバーを握っている右手の反対の手………左手には、数本のナイフが握られていた。

 

「投げナイフか………」

 

「御名答。ソラッ!!」

 

弘樹がそう呟くと、ジャンゴは左腕を鞭の様に撓らせ、握っていたナイフを投擲する。

 

「!!」

 

身を反らす様にしてかわし、再び座席の陰に隠れる弘樹。

 

「無駄だぜ………」

 

しかし、ジャンゴがそう言って投げナイフを壁に向かって投擲したかと思うと………

 

壁に当たって跳ね返った投げナイフが、座席の陰に隠れている弘樹に向かった!

 

「!?」

 

驚きながら、咄嗟にその場に伏せて如何にか跳ね返って来た投げナイフをかわす弘樹。

 

「チイッ!」

 

舌打ちをしながらも、背負っていた四式自動小銃を手にすると、再び身を晒してジャンゴに狙いを付けようとする。

 

「おっと!」

 

しかし、弘樹が狙いを付けるよりも早く、接近して来たジャンゴが、四式自動小銃の銃身を掴む。

 

「!!」

 

「こんな狭い中で小銃を使うのは不利だぜ………」

 

ジャンゴはそう言い放つと、弘樹に前蹴りを食らわせる!

 

「グッ!………」

 

咄嗟に自分から跳んでダメージを軽減したものの、銃身を掴まれたままだった四式自動小銃が、ジャンゴに奪われてしまう。

 

「フフ………」

 

ジャンゴは不敵に笑うと、奪った四式自動小銃を客車の窓から投げ捨てた。

 

「…………」

 

弘樹は英霊の柄に手を掛けたが、思い留まった様な様子を見せると、三十年式銃剣の方を抜く。

 

「良い判断だな。ポン刀より銃剣の方がこの場じゃ取り回しが良いからな」

 

「…………」

 

右手にM1917リボルバーを持ち、左手に数本の投げナイフを握りながらそう言うジャンゴに対し、弘樹は只無言で、右手に三十年式銃剣を握って構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

クロエのヘルキャットと戦っているあんこうチームのⅣ号と、サンショウウオさんチームのクロムウェルは………

 

「それっ!!」

 

「クウッ!」

 

クロエの掛け声と共に放たれた砲弾を、麻子が苦い声を漏らしながらもギリギリで回避。

 

Ⅳ号の車体右側に付けられていたシュルツェンが吹き飛ぶ。

 

「撃ちますっ!!」

 

反撃にと、ヘルキャットに狙いを済ませて砲撃する華だったが………

 

「ホイっと!!」

 

クロエがそう声を挙げたかと思うと、ヘルキャットは片輪走行状態となり、Ⅳ号が放った砲弾をかわす。

 

「クッ! またしても………」

 

「フラッグ車撃破の事を考えると、コレ以上砲弾は無駄に出来ませんよっ!!」

 

華が悔しそうな様子を見せる中、優花里が新たな砲弾を装填しながらそう言う。

 

「…………」

 

そしてみほは、まだ青さを残している顔で、クロエの乗るヘルキャットを見据えていた。

 

「西住総隊長! 歩兵の皆が落伍し始めてますっ!!」

 

「!!」

 

するとそこで、聖子からそう報告が挙がり、みほが振り返ると、追従して来ていたタコさん分隊の残存歩兵部隊の速度が落ち、徐々にあんこうチームとサンショウウオさんチームとの距離が開き始めている。

 

コレまで生身で戦闘を続け、快晴の為に反射熱も相当ある荒野の移動を繰り返した為、屈強な歩兵部隊のメンバーにも疲労が出始めたのだ。

 

(………ココでスピードを落としたら、フラッグ車を見失っちゃう………消耗度を考えると、私達が絶対不利………何としてもフラッグ車を叩かないと………)

 

だが、状況を顧みると、歩兵部隊の速度に合わせて減速するワケには行かず、何とか早くフラッグ車を叩きたいと考えるみほ。

 

と、その時!!

 

Ⅳ号とクロムウェルの周辺に、次々とロケット弾が着弾した!!

 

「キャアッ!?」

 

「!!」

 

悲鳴を挙げる聖子と、すぐにロケット弾が飛んで来た方向を確認するみほ。

 

「…………」

 

そこには、何時の間にか列車から降り、自分達の方へと向かって来ながら、フリーガーファウストを構えているピューマの姿が在った。

 

「!? 何時の間にっ!?」

 

「逃げ切れんぞっ!!」

 

みほが驚きの声を挙げ、麻子が回避が間に合わないと言う。

 

「…………」

 

フリーガーファウストの狙いを、Ⅳ号とクロムウェルに付けるピューマ。

 

「「!!」」

 

みほと聖子の目が見開かれる。

 

………と、その時!!

 

爆音と共に、1台のバイクが、鉄道土手からジャンプしながら現れた!

 

「「「!?」」」

 

みほ、聖子、クロエが驚く中、空中に在ったバイクは、降下しながらピューマを踏み潰そうとする。

 

「………!!」

 

しかし、寸前で進行方向を変更したピューマは、バイクのボディプレスをかわす。

 

「チイッ! 外したかっ!!」

 

乗って居た人物が悪態を吐きながら、アクセルターンすると、Ⅳ号とクロムウェルに追従する様に走り出すバイク。

 

「! 神狩殿っ!!」

 

優花里が声を挙げる。

 

そう、現れたのは白狼と彼の駆けるツェンダップK800Wだった。

 

「神狩さん!」

 

「神狩くん!」

 

「白狼!」

 

「やれやれ………やっと到着か」

 

聖子、沙織、明菜、麻子もそう声を挙げる。

 

「悪かった! 色々あってよ!!………」

 

「神狩さん! フラッグ車を狙って下さいっ!!」

 

白狼は謝罪の言葉を述べて来るが、みほはそれを遮る様に叫んだ。

 

今この場で、フラッグ車を撃破出来る可能性が1番高いのが、白狼だからである。

 

「! 分かったっ!!」

 

それを聞いた白狼は、すぐさまバイクを加速させ、列車に填り込んでいる西部機甲部隊のフラッグ車へと向かった!

 

「! オートバイ兵が来ますっ!!」

 

「アレ、神狩 白狼じゃないっ!?」

 

「マジで!? ヤバいじゃんっ!!」

 

接近して来るバイクに跨った白狼の姿を見て、ラグドール、スコッティ、マンチカンがそう声を挙げる。

 

「撃てーっ! 近寄らせるなぁっ!!」

 

そこでミケがそう叫び、スチュワートの主砲が白狼に向けられ、火を噴く。

 

「うおっ! こんのぉっ!!」

 

榴弾を使っているのか、すぐ近くで次々に着弾の爆発が上がるが、白狼は構わずに更にバイクの速度を上げる。

 

爆発が次々に起こる中をバイクで走り抜けると、一昔前の特撮作品のヒーローの様な状況に置かれる白狼。

 

「懐に飛び込めば………」

 

やがて、鉄道土手を登り、スチュワートの射線が通らない列車のすぐ傍へとバイクを寄せる。

 

「! 死角に入られたっ!!」

 

「何も出来ないよっ!?」

 

「ピューマさんっ!!」

 

「!!」

 

攻撃が出来なくなる慌てるミケとマンチカンだったが、ラグドールがそう呼び掛け、ピューマが白狼を追う。

 

「…………」

 

フリーガーファウストを構えると、白狼に向かって引き金を引く。

 

「うおっ!?」

 

ロケット弾が至近距離に次々と着弾し、思わず声が出る白狼。

 

しかしそれでも、アクセルを緩める様な事はしない。

 

「へんっ! そんなヘナチョコ弾に当たるかってんだよっ!!」

 

白狼は後ろを振り返ると、ピューマに向かって挑発する様にそう言い放つ。

 

すると………

 

「…………」

 

何とピューマは、背負っていたまだ装填されている状態のフリーガーファウストを全て捨てた!

 

そして、その次の瞬間!!

 

「!!」

 

今まで以上のスピードで走り出し、アッと言う間に白狼のバイクへと追い付く!!

 

「!? 何っ!?」

 

「………!!」

 

白狼が驚きの声を挙げた瞬間、ピューマは両手でバイクの後部を掴み、両足を思いっきり踏ん張った!!

 

「!? うおおっ!?」

 

途端にバイクが急減速を初め、白狼は思わず声を漏らす。

 

「マジかよっ!? コイツ、ホントに人間かっ!?」

 

信じられないピューマの身体能力に、白狼は驚愕を露わにする。

 

「クッソッ!! 離せってんだよぉっ!!」

 

アクセルを全開にして、ピューマを振り払おうとする白狼。

 

「!!」

 

だがピューマは、まるで喰らい付いたスッポンの様に、白狼のバイクから手を離そうとしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、列車の客車内では………

 

「おっと? 向こうも面白い事になってるみたいだな」

 

「! 神狩………」

 

その光景は、客車内に居るジャンゴと弘樹からも確認出来ており、ジャンゴは飄々とした、弘樹は苦い顔を浮かべる。

 

車内の彼方此方には、弾痕と切り傷が刻まれ、投げナイフが突き刺さっており、弘樹の戦闘服も、所々が斬り裂かれている。

 

対するジャンゴも、戦闘服に斬られた後が有るものの、弘樹と比べてその度合いは少ない………

 

得意な得物を駆使して戦うジャンゴに対し、弘樹は1歩後れを取っていた。

 

「となると、コレ以上の戦いは無意味か………そろそろ決めさせてもらうぜ、舩坂分隊長」

 

「!!………」

 

とそこで、ジャンゴは勝負に出ると宣言し、弘樹の銃剣を握る手に力が入る。

 

「「…………」」

 

両者はそのまま睨み合う。

 

「………フッ!」

 

不意を衝く様に、ジャンゴが投げナイフを1本投擲!

 

「!………」

 

その軌道を見切った弘樹は、銃剣を使って、飛んで来た投げナイフを弾き飛ばす。

 

だが、直後!

 

最初に投擲された投げナイフの陰に隠れる様に飛んで来た、もう1本の投げナイフが襲い掛かった!

 

「! グッ!」

 

2本目の投げナイフは、弘樹の戦闘服の右肩口に命中して突き刺さる。

 

途端に、右腕が痺れて鉛の様に重たくなり、銃剣を落としてダラリと力無く垂れ下がった。

 

「終わりだな………舩坂分隊長」

 

そう言ってジャンゴは、M1917リボルバーを弘樹に向ける。

 

すると、その瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹はまだ動く左手を、背負っていたパンツァーファウストに掛けた。

 

(オイオイ、対戦車兵器を対人に使うのか? けど、俺の早撃ちなら、弾頭が飛ぶ前に撃ち抜いてやるなんざ………)

 

ジャンゴは、弾頭が飛ぶ前に撃ち抜いてやろうと考えたが………

 

弘樹は弾頭が装着されている前部を、後ろに向けて構える!

 

「!? 何っ!?」

 

そこで初めてジャンゴは飄々とした顔を崩し、驚きを露わにした。

 

「…………」

 

弘樹はその状態のまま、パンツァーファウストの引き金を引く!

 

弾頭は後部に向かって発射され、バックブラストが前方に居たジャンゴに襲い掛かった!!

 

「! ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

真面に爆炎を浴び、仰け反るジャンゴ。

 

しかし、まだ戦死判定を下させるには至らない。

 

その直後!!

 

後方に向かって飛んだパンツァーファウストの弾頭が、弘樹達が居る客車の1両後ろの客車の車内の壁に命中!

 

「!?」

 

「ぐうっ!?」

 

爆風が前方に居た弘樹とジャンゴに襲い掛かる!

 

と、その時………

 

弘樹の傍に何かが飛んで来た………

 

それは、ジャンゴによって、後部車両の車内へと弾き飛ばされていたM1911A1だった。

 

パンツァーファウストの弾頭の爆発で、吹き飛ばされて戻って来たのである。

 

凄まじい偶然である。

 

「!!」

 

弘樹は反射的にそのM1911A1を左手で握ると、ジャンゴへと向ける!

 

「!?」

 

バックブラストのダメージを引き摺ったまま爆風に煽られたジャンゴは為す術もない!

 

「!!………」

 

弘樹はそのジャンゴに向かって、マガジン内の弾を全て撃ち込んだ!!

 

「ゴハッ!!………」

 

短く断末魔を漏らして床に倒れるジャンゴ。

 

今度こそ遂に、戦死判定が下った。

 

………その瞬間!!

 

列車が大きく揺れた!!

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、白狼の方では………

 

「コレで如何だっ!!」

 

バイクの後部にしがみ付くピューマを振り払おうと、左右に激しくハンドルを切る白狼。

 

「!!………」

 

だが、それでもピューマは、バイクから手を離そうとしない。

 

「ええい! いい加減にしろっ!!」

 

とそこで、白狼は苛立った声と共に、カンプピストルを抜く。

 

この距離で使えば、白狼にも被害が及ぶのだが、頭に血が上っているのか、気づいていない。

 

しかし、そこで!!

 

突然、1両の客車が爆発!!

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

ピューマと白狼が驚きを露わにした瞬間、爆発して激しく損傷した客車が脱線!

 

脱線した客車を引き摺る形となった蒸気機関車もバランスを崩す。

 

「えっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「まさかっ!?」

 

「嘘でしょっ!?」

 

ミケ、スコッティ、ラグドール、マンチカンがそう声を挙げた瞬間!!

 

先頭の蒸気機関車も遂に脱線!!

 

スチュワートが填っていたのを含めた残りの客車も次々にクラッシュして脱線し、大事故となる!

 

そしてその脱線した車両が全て、派手に土煙を挙げながら白狼達の方に転がって来た!!

 

「!? うおおおっ!?」

 

「!?!?」

 

回避が間に合わず、真面にその中へと突っ込む白狼とピューマ。

 

「!? 停車っ!!」

 

「ヤバッ!? ブレーキッ!!」

 

「止まってーっ!!」

 

更に、Ⅳ号、ヘルキャット、クロムウェルもその中に突っ込みそうになり、みほ、クロエ、聖子の慌てた指示が飛んだが、間に合わず………

 

3輌は脱線した車両の中へと突っ込んだ!!

 

白狼とピューマ、Ⅳ号、ヘルキャット、クロムウェルの姿は、脱線の際に舞い上がった土煙の中に完全に消える………

 

 

 

 

 

土煙の中………

 

「イテテテ………クッソ! 如何なったんだっ!?」

 

頭を押さえながら白狼が立ち上がる。

 

事故る直前にバイクから受け身を取って飛び降りたのだが、周りは濃い土煙が立ち込めていて何も見えない。

 

「試合終了のアナウンスが無いって事は、まだどっちのフラッグ車もやられてないって事か?」

 

試合終了のアナウンスが無い事からそう推察し、白狼は目を凝らしながら土煙の中を見回す。

 

その時!!

 

「!!」

 

白狼の前方の土煙が揺らめいたかと思うと、そこからピューマが飛び出して来た!

 

如何やら、彼も無事だった様である。

 

「! ピューマッ! クソッ!!」

 

白狼は反射的に、握ったままだったカンプピストルのグレネードを、ピューマ目掛けて発射した!

 

「!?」

 

だが、ピューマは上体を仰け反らせ、某映画の様にかわした………

 

かに見えたが、身体を支えきれず、後頭部を地面に強打!!

 

「!?………」

 

そのまま気を失ってしまう。

 

しかし、そこで………

 

最悪の事態が発生した!!

 

ピューマがかわした為、外れて飛翔を続けたグレネード弾が飛んだ先に、大きな影が現れる。

 

それは、停車し切れずに事故現場へと突入してしまった………

 

あんこうチームのⅣ号だった!!

 

「なっ!?」

 

「えっ?………」

 

白狼が驚愕し、みほが声を挙げた瞬間………

 

グレネード弾はⅣ号の装甲の薄い後部………

 

エンジンルームを直撃!!

 

即座に、Ⅳ号の砲塔上部から、撃破を示す………

 

白旗が上がった………

 

「!? ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴の様な声を挙げる白狼。

 

最悪も最悪………

 

フレンドリーファイヤによって………

 

自軍のフラッグ車を撃破してしまったのである。

 

「そ、そんな………」

 

「嘘………負けちゃった?………」

 

「まさか………」

 

「あ、あああ………」

 

「…………」

 

撃破されたⅣ号のあんこうチームも、呆然自失となっていた。

 

負けたと言う事は、即ち………

 

大洗女子学園の廃校が決定してしまったのである………

 

今までの努力も健闘も、全て水泡に帰した………

 

大洗女子学園の存亡を掛けた戦いは、西部機甲部隊に敗れるという形で、ココに幕を閉じた………

 

誰もがそう思っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………? アナウンスが無い?」

 

そこでみほが、違和感を覚えた。

 

試合終了を告げるアナウンスが流れて来なかったからだ。

 

撃破判定システムは、審判団の持つ携帯端末から即座に確認出来る様になっているので、確認が出来てないと言う事は考えられない。

 

するとそこで、風が吹き、辺り一帯に待っていた土煙が吹き飛ばされる。

 

その瞬間、みほは………

 

西部機甲部隊のフラッグ車………

 

スチュワートから白旗が上がっているのを目撃する。

 

「! 西部のフラッグ車が!?」

 

「一体誰がっ!?」

 

みほと、装填手用のハッチを開けて身を乗り出して来た優花里も、驚きの声を挙げる。

 

「あ、当たった! 当たってるよっ! 優ちゃんっ!!」

 

「!?」

 

とそこで、後方からそう言う声が聞こえて来て、みほが振り返ると、そこには………

 

砲門から硝煙を上げているクロムウェルと、そのハッチから身を晒して叫んでいる聖子の姿が在った。

 

「ま、まさか………本当に当たるとは………」

 

「だから言ったでしょう! あそこに西部のフラッグ車が居る気がするって!!」

 

「いや、流石にそれだけじゃあ………」

 

優が信じられないと言う様子を見せていると、聖子がそう言い放ち、明菜が呆れた様子を見せる。

 

『只今の試合結果についてお知らせします』

 

とそこで、漸く主審のレミからのアナウンスが、試合会場内に響き渡る。

 

『確認を取ったところ、大洗機甲部隊フラッグ車と西部機甲部隊フラッグ車が撃破されたタイミングは完全に同時である事と判明しました』

 

「引き分け………なら」

 

『よって、戦車道のルールに則り………両機甲部隊、代表戦車チーム同士による、1対1の延長戦を行うものとします!』

 

みほがそう呟くと、レミがそうアナウンスを続けた。

 

そう………

 

戦車道のルールでは………

 

制限時間内に勝負が着かなかったり、両軍のフラッグ車が完全に同時に撃破されたりした場合………

 

両機甲部隊から代表戦車チームを1チーム選抜し………

 

1対1の延長戦を行うと言うルールが定められているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部機甲部隊のフラッグ車を追って、激しいデットヒートを繰り広げるあんこうチームとサンショウウオさんチーム。
弘樹がジャンゴを倒している間に、白狼もピューマの相手を引き受けていたが………
何と!!
フレンドリーファイヤで自軍フラッグ車を撃破してしまう。

命運尽きたかと思われた大洗だったが………
幸運にも、西部のフラッグ車も同時に撃破されていた。
首の皮一枚繋がった大洗は………
延長戦となる1対1の勝負に臨むのだった。

公式の戦車道ルールで、時間内に決着が着かなった場合、フラッグ車同士で1対1の戦いをやるって言うのがあったので、それを少し弄って導入してみました。
次回の決闘戦車戦にご注目です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第142話『第7回戦終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第142話『第7回戦終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊と西部機甲部隊の試合………

 

戦車道・歩兵道全国大会の第7回戦………

 

意図せぬ事とはいえ、フレンドリーファイヤによって自軍フラッグ車を撃破してしまった白狼………

 

大洗女子学園の命運もココに尽きたかに思われたが………

 

何と、全く同時のタイミングで………

 

サンショウウオさんチームが西部機甲部隊のフラッグ車を撃破していた事が判明………

 

勝負は引き分けとなり、戦車道の公式ルールに則って………

 

両機甲部隊から代表戦車チームを1チーム選抜し合っての………

 

延長戦に突入するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道公式戦、第7回戦の試合会場………

 

大洗機甲部隊の野営陣………

 

「予備のシュルツェンを急いで持って来い!」

 

「馬鹿! 補給は榴弾じゃない! 徹甲弾だ!!」

 

「機銃弾の補充は如何したっ!?」

 

「足回りの点検、急げっ!!」

 

整備部員達の怒号が飛び交う中、ボロボロになっていたⅣ号が急ピッチで整備・修復されている。

 

延長戦に臨むチームがあんこうチームと決まったので、大急ぎで完全な状態に仕上げているのだ。

 

良く見れば、整備部員だけでなく、他の戦車チームや歩兵部隊の隊員達も何かしらの作業を手伝っている。

 

「あ、あの! 私達も何か出来る事ありますか!?」

 

「お手伝いさせて下さい!」

 

とそこで、その様子を見ていたあんこうチームの内、沙織と華が近くに居た敏郎にそう尋ねた。

 

「いや、君達はこの後に延長戦に臨まなくてはならないんだ。少しでも身体を休めておいてくれ」

 

「しかし………」

 

「コレは俺達の仕事っすよ! 任せてくだせえ! 勝負までには新品同様に仕上げてみせますぜ! 野郎共ぉーっ! 整備部魂を見せてやれぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

敏郎がそう返すと、華が食い下がろうとしたが、藤兵衛がそう言い、整備部員達の勇ましい雄叫びが挙がる。

 

「皆さん………」

 

「だ、そうだ………私達は精々延長戦に向けて、身体を休め………むにゃむにゃ………ZZZ」

 

「だからって寝るのは休み過ぎだよぉーっ!!」

 

そんな整備部員達の姿に感激した様子を見せる華と、言われた通りに身体を休めようと寝に入る麻子と、そんな麻子にツッコミを入れる沙織。

 

「…………」

 

「………神狩殿」

 

そして、優花里は他のメンバーと同じ様にⅣ号の整備を手伝っている白狼に、不安げな瞳を向けている。

 

あの後、白狼は碌に会話もせずに野営陣へと戻り、Ⅳ号の整備が始まると、無言のままに率先して整備の手伝いを始めた。

 

罪滅ぼし、或いは良心の呵責を感じているかの様に………

 

一方、そんな白狼と同じ程に………いや、それ以上に暗い雰囲気を出している者が居た。

 

「…………」

 

みほである。

 

顔色は悪く、右手が小刻みに震えている。

 

(多分、西部機甲部隊の代表はクロエさんになる筈………戦わなくちゃいけないんだ、あの人と………)

 

(さあ如何した!? まだシュルツェンが吹き飛んだだけだぞ! 掛かって来い!! 作戦を立案しろ! 徹甲弾を撃ち出せっ! 機銃で牽制しろっ! 速度を上げて喰らい付いて来いっ! さあ戦車道はこれからだ!! お楽しみはこれからだ!! ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリーッ!!)

 

「!!」

 

その脳裏には、あのクロエの狂気の入り混じった心底楽しそうな笑みが何度も甦っており、その度にみほは頭を振ってその顔を振り払おうとする。

 

「西住ちゃん?」

 

「如何かしたの?」

 

「顔色悪いよ? まさか具合が良くないんじゃ?」

 

とそこへ、カメさんチームの面々が現れて、杏、柚子、蛍が心配する様にそう言って来る。

 

「あ、い、いえ、大丈夫です………」

 

心配を掛けない様にとしながらも、オドオドとした様子でみほがそう返す。

 

「ならもっとしゃんとしろ! 負けたかと思ったが、引き分けになって延長戦に持ち込めたんだぞ! お前が負けたら全て終わりなんだぞっ!!」

 

「!?」

 

しかしそこで、桃の怒声交じりのそんな台詞が飛び、みほの目が見開かれる。

 

「ちょっ!」

 

「桃ちゃん!」

 

「………か~しま」

 

途端に蛍と柚子が慌て、杏は桃をジト目で睨み付けた。

 

「あ………」

 

そんな杏達の様子を見て、桃はハッとしたが………

 

「…………」

 

その瞬間にはみほは、一同に背を向けて、その場から逃げる様に走り出した。

 

「! みぽりんっ!?」

 

「みほさんっ!?」

 

「西住殿っ!?」

 

突然逃げる様に離れて行ったみほに、沙織、華、優花里が驚きの声を挙げる。

 

「あ、い、いや、違うんだ! 私は………」

 

「先生~、お願いしま~す」

 

慌てて言い訳を始めようとしていた桃だったが、そこで杏がそんな台詞を言ったかと思うと………

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「…………」

 

何時の間にか桃の背後に立っていた熾龍が、無言で桃の頭をアイアンクローで掴んで持ち上げた。

 

心なしか、何時もより力が入っている様に見え、桃の頭からはミシミシと頭蓋骨が軋んでいる音が聞こえて来ている。

 

「「「…………」」」

 

杏達は、今回(今回も?)ばかりは桃が悪いと思っているので、止める気配は微塵も無かった。

 

「みぽりんを追い掛けないと!」

 

「その必要は無いぞ………」

 

とそこで、沙織がみほの事を追い掛けようとしたが、半分寝ていた麻子がそう言って来る。

 

「? 冷泉さん? 如何言う事ですか?」

 

「ん………」

 

華がそう尋ねると、麻子は顎で、みほの後を追う様に付いて行った人物の事を指す。

 

「………お願い致します」

 

優花里も、その人物の背中に向かって、そう言いながら頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ううう」

 

逃げる様に去って行ったみほは、九四式六輪自動貨車の陰に隠れる様に、震える自分の身体を抱き締めていた。

 

脳裏に浮かぶのは、やはりクロエの狂気の笑みである。

 

(落ち着いて………落ち着かなきゃ………この後、あの人と戦って勝たないと………じゃないと、私達の学校が………)

 

必死に心を落ち着かせ、恐怖を振り払おうとするみほ。

 

しかし、その思いと裏腹に、身体の震えは酷くなる一方である。

 

(だ、駄目………震えが………止まらないよ………)

 

みほは、遂に涙が零れそうになる。

 

と、その時………

 

「みほくん」

 

「!!」

 

声を掛けられて、みほは驚きながら俯いていた顔を上げる。

 

そこに居たのは、弘樹だった。

 

「弘樹くん………」

 

「大丈夫か? 大分震えていた様だが………」

 

「…………」

 

弘樹の問いに、みほは俯いて黙り込む。

 

「相手の総隊長………クロエが原因か?」

 

「………私………あんな風に戦車道をする人なんて、初めて見た」

 

そう弘樹が言葉を続けると、みほは吐露する様に語り出す。

 

「黒森峰に居た頃から、色んな人と試合をしてきたけど、あんな風に………例え自分がやられそうになったり、不利になっても笑っていられる人なんていなかった………」

 

「彼女は相当の戦闘狂らしい………戦う事自体に楽しさを見出しているんだろう」

 

「それがあの人の戦車道なんだと思う。けど、私は………それが凄く怖い」

 

そう言うと、再び身体の震えが酷くなるみほ。

 

「負けられないのに………私達の学校を守らないといけないのに………あの人と1対1で戦わないといけないと思うと、どうしようもなく身体が震えて来るの………」

 

「みほくん………」

 

「私………如何したら………」

 

そう言って、またもみほの目から涙が零れそうになる。

 

するとそこで………

 

「…………」

 

弘樹は、腰に挿していた英霊を鞘ごと抜き、みほの前に差し出した。

 

「えっ?………」

 

「…………」

 

戸惑うみほの前に、英霊を差し出し続ける弘樹。

 

「…………」

 

受け取れと言う事なのかと思ったみほは、英霊を受け取る。

 

(! 重い………)

 

弘樹の手が英霊から離れると、その重さが改めて分かる。

 

何時も弘樹が軽々と振り回し、如何なる敵をも斬り捨てて来た英霊。

 

それがこんなにも重たいものだったとは………

 

みほは初めて知った。

 

「それを持って試合に臨め」

 

「えっ?」

 

「御先祖様が御守り下さる」

 

「!!」

 

そこでみほはハッと思い出す。

 

そう、この英霊は………

 

弘樹の祖先である、舩坂 弘軍曹が使っていた物なのだ。

 

「だ、駄目だよ、弘樹くん! コレは弘樹くんの御先祖様が使っていた大切な………」

 

「ああ………だから試合に勝ったら、必ず返してもらうぞ」

 

「!!」

 

そこでみほは察した。

 

コレは弘樹なりの不器用な激励だと言う事に………

 

その為に、大切な祖先の刀まで託してくれたのだ。

 

「…………」

 

みほは英霊を右手で持ったまま、自分の左手を見る。

 

震えは、何時の間にか止まっていた………

 

「………ありがとう、弘樹くん」

 

そしてみほは、1点の曇りも無い顔を上げると、弘樹にお礼を言う。

 

「…………」

 

弘樹は無言で、ヘルメットを被り直す様な仕草をする。

 

「それで、あの………もうちょっとだけお願いしても良いかな?」

 

「お願い?」

 

しかし、続くみほの言葉で、首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れ………

 

いよいよ延長戦開始の時刻が迫り、修理と整備を終えたⅣ号が大洗機甲部隊の隊員達を伴って、集合地点へと移動。

 

そこでは既に、クロエの乗るヘルキャットが待機しており、そのクロエとヘルキャットの姿を遠巻きに見ている西部機甲部隊の隊員達の姿も在った。

 

それを確認すると、大洗機甲部隊の隊員達は停止し、Ⅳ号だけがヘルキャットの元へと向かう。

 

「来たわね。待ってたわよ」

 

目の前まで来たⅣ号に向かって、ハッチから姿を晒していたクロエがそう言い放つ。

 

とそこで、Ⅳ号のハッチが開き、みほが姿を見せる。

 

………が、

 

「あら?」

 

「うえっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「はっ?………」

 

「何アレ?………」

 

それを見たクロエと、西部機甲部隊の隊員達から困惑の声が挙がった。

 

何故なら、今みほは………

 

頭に『必勝』と書かれた日の丸入りの鉢巻を巻き………

 

大洗女子学園の校章が描かれた校旗を、マントの様に羽織り………

 

英霊を下緒で背に背負っていると言う姿だったからだ。

 

「…………」

 

コスプレと言われてもおかしくない恰好だが、本人の顔は至って真剣であり、伊達や酔狂でこんな恰好をしているのではなく、彼女なりの覚悟の現れと言うのが感じ取れる。

 

(何だよ、アレ?………)

 

(スッゲー恰好だな、オイ………)

 

(西住 みほと言えば、大洗の軍神と言われてるけど………)

 

(差し詰め、あの恰好は………大軍神モードって言ったところか)

 

西部歩兵部隊の間で、そんなヒソヒソ話が展開される。

 

「…………」

 

一方で、大洗機甲部隊の方では、弘樹が無言でそのみほ(大軍神モード)の姿を見守っていた。

 

「いや~、舩坂ちゃんがあの恰好の西住ちゃんを連れて戻って来た時には流石にビックリしたよ~」

 

「一瞬、如何かしちまったのかと思ったぜ」

 

と、そんな弘樹の傍に居た杏と地市がそう言って来る。

 

「やはり君の影響かな? 舩坂 弘樹くん」

 

更に、ゾルダートもやって来て、弘樹に向かってそう言う。

 

「黒森峰に居た頃の彼女の姿を知る者からすれば、あんな事をするなんて想像出来ないだろう………君の存在が彼女を様々な意味で勇気づけ、前向きにしているのだね」

 

「………小官の影響など微々たるものです。最後に決めたのはみほくんの意志です」

 

そう言葉を続けるゾルダートに、弘樹はみほから視線を外さずにそう返す。

 

「ねえ、ファインシュメッカーさん。黒森峰の頃の西住総隊長を知ってるって事は、やっぱりファインシュメッカーさんって………」

 

「フッ………私はゾルダート・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

とそこで、聖子がゾルダートの正体について尋ねて来ると、ゾルダートはお決まりの台詞を返すのだった。

 

「………フフフフ………アッハッハッハッハッハッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、不意にクロエが大笑いを始め、西部機甲部隊の面々はハッと我に返り、大洗機甲部隊の面々も彼女に注目する。

 

「ハッハッハッハッハッ! 良いわ! 良いわよ、西住 みほ!! 最高じゃない!! 本当に貴方は、私を熱くしてくれるわっ!!」

 

クロエはそう言い放ち、またもや狂気の笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

しかし、そのクロエの笑みを見ても、みほは微塵も怯む様子を見せず、背負っていた刀の柄に手を掛けたかと思うと、天に向かって掲げる様に抜き放つ。

 

「大洗機甲部隊、戦車部隊長兼総隊長! 西住 みほ!! いざ、尋常に………勝負っ!!」

 

そして直後にそう言い放ち、クロエに向かって切っ先を突き付ける。

 

「望むところよっ!!」

 

クロエはそう応じ、両手でハッチの端をガッと掴んだ!

 

『では、これより、戦車道・歩兵道全国大会第7回戦………大洗機甲部隊と西部機甲部隊の延長戦を開始致します!!』

 

そこで、タイミング良く、主審のレミにより、延長戦開始の知らせが入る。

 

『さあ、いよいよ始まります! 大洗機甲部隊と西部機甲部隊の延長戦!!』

 

『延長戦自体は珍しい事ではありませんが、この勝負はひょっとしたら、戦車道の歴史に残る名勝負になる予感がしますよぉ』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中も、興奮した様子の実況をお届けしている。

 

「………優花里さん。用意は良いですか?」

 

そんな中、キューポラから姿を晒したまま、装填手席の優花里に声を掛けた。

 

「ハ、ハイ! ですが、西住殿………本当にこんな作戦で行く積りですか?」

 

やや戸惑った様子の優花里がそう返して来る。

 

みほに心酔していると言っても過言ではない優花里が不安げに尋ねて来る………

 

それ程までに、今回みほが立てた作戦は無茶苦茶なものだった。

 

「クロエさんに勝つにはこの方法しかありません」

 

「大丈夫なの? みぽりん?」

 

みほがそう返すと、今度は沙織が尋ねて来た。

 

「………私は………沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんなら………あんこうチームの皆さんならきっと出来ると信じて………いえ、『確信』しています」

 

だが、みほは一点の曇りも迷いも無い顔でそう言い放つ。

 

「みほさんにそこまで言われたら………応えないワケには行きませんね」

 

それを聞いた華が、不敵そうに笑顔を浮かべた。

 

「麻子さん、手筈通りに動いたら、初撃は絶対にかわして下さい。そうしないとこの作戦は始まらないどころか、そこで終わりです」

 

「無茶を言ってくれる………まあ、やってやるんだがな」

 

麻子も呆れた様な表情の後に、不敵な笑みを浮かべてそう返す。

 

『では、延長戦………試合開始っ!!』

 

そこで遂に………

 

レミの試合開始の宣言が出され、信号弾が撃ち上がった!

 

「GO!!」

 

と、先に動いたのはクロエのヘルキャット!

 

一直線にⅣ号に向かって突っ込んで行く!!

 

(機動力はコチラが遥かに上! Ⅳ号の機動性じゃコチラに喰らい付いて来れない! 初弾で決まれば良し! 外れたとしても、そこからは機動戦になるからコチラが有利!! さあ、如何出る!!)

 

そんな事を考えながら、みほが如何動くかを期待しているクロエ。

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

するとみほは、再び英霊を掲げる様に構えたかと思うと、振り下ろす様に正面に切っ先を向けた!

 

それと同時にⅣ号が発進!

 

突っ込んで来るヘルキャットに自ら向かって行く!!

 

(!? 突っ込んで来た! 良いわよっ! 何を見せてくれるのかしら!?)

 

その様子に驚きながらも、みほの行動への期待が高まるクロエ。

 

「撃てぇっ!!」

 

とそこで、Ⅳ号が発砲する!

 

「何のっ!!」

 

だが、クロエはお得意の片輪走行でかわす!

 

「ファイヤッ!!」

 

そして反撃と、その状態のまま、今度はヘルキャットの主砲が火を噴く!

 

「麻子さんっ!!」

 

「!!」

 

即座にみほの声が飛び、麻子が操縦桿を動かす。

 

Ⅳ号が僅かに左へとズレたかと思うと、ヘルキャットが撃った砲弾は、Ⅳ号の車体右側に付いて居たシュルツェンを根こそぎに吹き飛ばした!!

 

そのまま、Ⅳ号と片輪走行状態のヘルキャットが擦れ違い合う………

 

かに思われた瞬間!

 

「優花里さん! 今ですっ!!」

 

「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

みほの声が飛び、装填手ハッチが開いて、姿を見せた優花里が、『何か』をヘルキャットに向かって放り投げた!!

 

「!? 何っ!?」

 

投げられた物の正体が分からず、クロエが声を挙げる中、ヘルキャットは普通の態勢に戻る。

 

「! 牽引用のワイヤーッ!?」

 

そこでクロエは、優花里が投げた物が、他の戦車を牽引する際に使用するワイヤーであった事に気づく。

 

ワイヤーはヘルキャットの車体の突起箇所などに、複雑に絡みついている。

 

「今です!!」

 

「ええいっ!!」

 

するとそこで、ヘルキャットに巻き付けたのと反対側のワイヤーの端を持っていた優花里が、そのワイヤーの端を………

 

起動輪に引っ掛けた!

 

「デスマッチ作戦! 行きますっ!!」

 

そしてみほがそう言い放ったかと思うと、Ⅳ号が反転!

 

ワイヤーを引っ掛けた起動輪を全開で回し始めた!

 

すると!!

 

引っ掛けられていたワイヤーが掃除機のコードの様に巻き取られ、Ⅳ号が一気にヘルキャットに再接近する!!

 

『コレはぁっ!? 何とぉっ! まさかの戦車同士によるチェーン・デスマッチだぁっ!!』

 

『いや、最早プロレスですねぇ』

 

その様子をヒートマン佐々木が興奮した様子で実況し、DJ田中も呆れ混じりのコメントを漏らす。

 

「! 振り払えっ!!」

 

クロエがそう叫ぶと、ヘルキャットがⅣ号を振り払おうと急旋回を始めるが、ワイヤーで繋がっている為、Ⅳ号はヘルキャットに振り回される様に旋回を始める。

 

「西住さん! 履帯が切れるっ!!」

 

「構いませんっ!!」

 

と、ワイヤーを巻き込んでいる事で、履帯が切れそうになっている事を麻子が報告するが、みほは即座にそう返す。

 

直後に、Ⅳ号の履帯が破断!

 

だが、ワイヤーはまだ巻き取られている為、Ⅳ号は通常ではありえない、円を描く様な動きでヘルキャットに迫る。

 

「砲塔旋回っ!!」

 

振り払うのは無理だと思ったクロエがそう命じ、ヘルキャットの砲塔がⅣ号に向かって指向する。

 

「近接戦闘っ!!」

 

「!!」

 

「撃つよぉっ!!」

 

だがそこで、みほが機銃架、華が同軸機銃、沙織が車体機銃を一斉に発射!

 

弾丸の豪雨が、ヘルキャットに襲い掛かる。

 

「ぐうっ!?」

 

「駆動系損傷っ! 移動不能っ!!」

 

「通信機破損っ!!」

 

「砲塔旋回装置に異常! 砲塔旋回速度が落ちますっ!!」

 

「照準器にも問題がっ!!」

 

装甲の薄いヘルキャットにとっては機銃弾でも脅威であり、目の前で散る火花にクロエが僅かに怯む中、乗員達から次々と損傷の報告が挙がる。

 

が、まだ致命傷には程遠い!

 

「負けるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

クロエがそう叫ぶと、旋回速度が落ちながらも指向を続けさせていた砲が、Ⅳ号に向かって火を噴く!

 

放たれた砲弾は、Ⅳ号の砲塔左側のシュルツェンに命中!

 

シュルツェンは砕け散り、その破片がキューポラから出ていたみほへと襲い掛かった!

 

「!?」

 

咄嗟に、持っていた英霊を盾にする様に構えたみほ。

 

シュルツェンの破片は英霊の刃に当たると、真っ二つに切り裂かれて、みほを避ける様に飛んで行った。

 

(! 守ってくれた!)

 

弘樹が預けてくれた先祖の刀が自分を守ってくれた………

 

一瞬みほは、その事に感動を覚える。

 

「! 主砲発射用意っ!!」

 

「装填完了してますっ!!」

 

しかし、すぐに勝負の事へ戻って指示を飛ばすと、優花里からそう声が挙がる。

 

Ⅳ号は、ワイヤーで振り回されている様に動きながら、ヘルキャットの正面に位置取ろうとする。

 

「砲塔戻してっ!!」

 

すぐにクロエがそう指示を飛ばし、ヘルキャットの砲塔が正面に戻され始める。

 

「華さん! お願いっ!!」

 

「決めてみせます!」

 

一方、Ⅳ号の方も、華が照準器を覗き込んで集中しており、後はみほが撃つタイミングを見計らうばかりだった。

 

そして、Ⅳ号がヘルキャットの正面に位置取り、ヘルキャットの主砲も正面を向く。

 

「「撃てえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」」

 

みほとクロエの叫びが木霊し、Ⅳ号とヘルキャットが同時に発砲!

 

ヘルキャットの放った砲弾は、みほの横を擦り抜ける様に通過………

 

対するⅣ号の砲弾は、ヘルキャットの車体正面に命中!

 

ヘルキャットから派手に爆発が上がる!!

 

直後に牽引ワイヤーが切れ、Ⅳ号は駒の様に回転し始める。

 

「ぐううっ!」

 

しかし、麻子の天才的な操縦テクニックにより、残った片方の履帯操作だけで如何にか停止する。

 

損傷は激しいものの、白旗は上がっていない………

 

一方、黒煙を上げていたヘルキャットの方からは、独特の音と共に、白旗が上がった。

 

『西部機甲部隊代表、ヘルキャット行動不能! よって、この試合………大洗機甲部隊の勝利!!』

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

主審のレミが、大洗機甲部隊の勝利を告げると、大洗の面々は歓声を挙げる。

 

今回は負けたと思っていたのが首の皮1枚で繋がり、逆転の勝利となったのだ。

 

喜びも一入である。

 

「西住総隊長ーっ!!」

 

「西住先輩ーっ!!」

 

「西住さ~~んっ!!」

 

皆口々にみほの事を呼びながら駆け出す。

 

「…………」

 

しかし、白狼だけは、影の有る表情のまま、呆然とその場に立ち尽くしたままだった………

 

「やれやれ………今回ばかりは本当に無茶だったな………」

 

「手がもう汗だくだよぉ~」

 

「そうですか? 私は結構楽しかったですけど………」

 

「五十鈴殿………益々肝が据わってきましたね………」

 

ボロボロのⅣ号から脱出する様に這い出た麻子、沙織、華、優花里がそう言い合う。

 

「やった………」

 

「「「「「「「「「「西住総隊長~っ!!」」」」」」」」」」

 

みほもそう呟き、Ⅳ号から降りると、その周りを大洗機甲部隊の面々が取り囲む。

 

「皆さん………」

 

「見事な作戦でした、西住総隊長」

 

皆の事を見回していたみほの前に、弘樹が立つ。

 

「弘樹くん………」

 

そこでみほは、握ったままだった英霊を背の鞘に戻し、下緒を外すと弘樹に差し出した。

 

「ありがとう………守ってくれたよ」

 

「お礼なら小官ではなく、御先祖様に言って下さい」

 

弘樹は英霊を受け取ると、腰に差し直してそう言う。

 

「西住 みほ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、不意にみほを呼ぶ声が聞こえ、一同はその声が聞こえて来た方向を見やる。

 

そこには、クロエの姿が在った。

 

「クロエさん………」

 

「…………」

 

みほがその存在を認めると、クロエはみほに向かって歩き出す。

 

「「「「「「「「「「!!………」」」」」」」」」」

 

思わず大洗機甲部隊の面々は揃って道を譲り、まるでモーゼの十戒の様に人の波が割れて行く。

 

「…………」

 

とうとうクロエは、みほの目の前に立つ。

 

「あ、あの………」

 

みほが戸惑っていると………

 

「…………」

 

クロエは、スッと右手をその眼前に差し出した。

 

「えっ?………」

 

「良い勝負だったわ。久々に熱くなれたわ。礼を言うわよ」

 

驚くみほに、クロエは試合中に浮かべていたのとは違う、翳りの無い笑顔を浮かべてそう言い放つ。

 

「! ハイッ! 私の方こそ、ありがとうございました!!」

 

そこでみほも笑顔になり、クロエの手を取ると、ガッチリと握手を交わした。

 

やはり彼女も戦車道求道者。

 

試合中は戦闘狂となっても、普段は淑女そのものである。

 

………かに思われたが。

 

「うふふふ………可愛い」

 

「えっ?………」

 

突然クロエはそう呟いたかと思うと、不意にみほの顔に自分の顔を近づけたかと思うと、その頬に口付けた。

 

「!? ふえええっ!?」

 

「なあっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「まあっ!?」

 

「おお………」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

クロエの思わぬ行動に、みほ、優花里、沙織、華、麻子は驚きの声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も仰天する。

 

「な、何をっ!?………」

 

「ねえ、今晩暇? 私空いてるんだけど、良かったら如何?」

 

狼狽するみほに向かって、クロエは試合中とは違う狂気の笑みを浮かべてそう尋ねる。

 

「えっ!? ええっ!? わ、私達、お、女の子同士で………」

 

「大丈夫! 私、ソッチでも行ける口だから!」

 

「ええええっ!?」

 

物凄い事をサラッとカミングアウトしたクロエに、みほはまたも驚きの声を挙げる。

 

「ひ、弘樹く~んっ!!」

 

そしてクロエの前から逃げる様に駆け出し、バッと弘樹の背中に隠れた。

 

「…………」

 

一方の弘樹の方も、片腕でみほを庇う様にしながら、もう片方の手を英霊の柄に掛ける。

 

「アラ、残念………フラれちゃった」

 

その様子を見たクロエは、ケタケタと笑いながらそう言う。

 

「総隊長~! 行きますよ~っ!!」

 

「それと~! 何かシャムさんがすっごく怒ってますよ~っ!!」

 

とそこで、クロエのヘルキャットに乗って居た乗員達が、クロエに向かってそう呼び掛けて来る。

 

「あ~、今行くわーっ! あの子ったら、すぐ焼きもち焼くんだから、しょうがないわね。じゃあ、また今度ね」

 

乗員達にそう返すと、クロエはみほにウインクを送り、去って行った。

 

「ハア~~、ビックリした~………」

 

「色々な意味で危ない奴だったな………」

 

ホッと息を吐いて胸を撫で下ろすみほと、クロエの性格に呆れた様子を見せる弘樹。

 

「まあ、何はともあれ、勝てたんだし、OK~」

 

「ホントにギリギリでしたけどね………」

 

やがて締める様に杏がそう言うと、柚子がツッコミを入れる。

 

「さあ! 皆! ライブの準備だよ! 前回は出来なかったから、今回は気合入れてかないと!」

 

「うん!」

 

「そうだね!」

 

「頑張りましょうっ!」

 

サンショウウオさんチームも、1試合ぶりの勝利ライブに向けて動き出そうとする。

 

「………アレ? 宮藤殿。神狩殿は、何処に?」

 

するとそこで、優花里が飛彗に向かってそう尋ねた。

 

「えっ?………」

 

しかし、飛彗もその言葉で、初めて白狼の姿が無い事に気付く。

 

「おかしいな………さっきまで居たのに………」

 

「………!!」

 

飛彗がそう言った瞬間に、優花里はある嫌な予感を感じて、本能的にその場から駆け出す!

 

「!? 優花里さんっ!?」

 

「優花里ちゃん!?」

 

(神狩殿!!………)

 

みほ達の声も耳に入らず、優花里は走り続けた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部学園との延長戦。
クロエへの恐怖と廃校のプレッシャーが重なり、潰れる寸前だったみほ。
しかし、それを救ったのはやはり弘樹。
愛刀である英霊をお守り代わりに預け、彼女を奮い立たせる。

そして始まった延長戦。
みほは何と!
ヘルキャットとチェーンデスマッチを展開する。
今回の戦闘は、『宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟』で、ヤマトとメタルーザの最終決戦を参考にしました。
宇宙戦艦がチェーンデスマッチするんだから、戦車がチェーンデスマッチしても不思議ではないと思いまして(爆)

如何にか勝利をもぎ取った大洗。
しかし、白狼が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第143話『別れです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第143話『別れです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の第7回戦………

 

西部機甲部隊との戦いは………

 

代表戦車チーム同士による延長戦に縺れ込んだ末に………

 

みほ達あんこうチームが、一か八かの大作戦でクロエを撃ち破り………

 

遂に勝利を収めたのだった!

 

しかし、その最中………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤすると言う大失態を犯した白狼が………

 

姿を消したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第7回戦の会場の最寄駅………

 

白狼はそこに居た。

 

駅の改札の前では、美嵩が待ち構えていた。

 

「さあ、約束よ」

 

「用意の良い奴だ………」

 

そう言って来た美嵩に、白狼は皮肉交じりにそう言う。

 

約束………

 

そう、西部との試合で良い成績を出せなかったら、歩兵道を辞めて鈴鹿に帰る………

 

試合前に、白狼は美嵩とそう約束を交わしていた。

 

しかし、イザ試合が始まって見れば、白狼は初っ端から会場を間違えると言う失敗をし、参戦できたのは試合が終わり掛かっていた頃………

 

西部歩兵のエースであるオセロットを撃破と言う戦果を挙げたが………

 

それを帳消しどころか、マイナスにする程の大失態………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤで撃破すると言う事を仕出かしてしまった。

 

(俺なんか居なくても、今の大洗なら優勝出来るさ………)

 

そう思い込む白狼。

 

何より彼自身が、自分の失態を許せていないのである………

 

「行くわよ………」

 

そこで美嵩は、白狼の分の切符を取り出す。

 

「…………」

 

白狼はそれを受け取ると、自動改札を通ろうとする。

 

「待ってください! 神狩殿っ!!」

 

だがそこで、そう言う声が響いたかと思うと、パンツァージャケット姿のままで、息を切らせている優花里が現れる。

 

「! 秋山………」

 

「…………」

 

軽く驚く白狼と、優花里の事を不機嫌そうな目で睨み付けている美嵩。

 

「神狩殿! 行かないでください!!」

 

「………良いんだ、秋山」

 

「ですが!」

 

「俺がいなくてもお前らだけでも勝ち進めるさ………」

 

食い下がる優花里に、白狼は何処か遠い目をしてそう言う。

 

「結局俺は俺の為に戦っていただけだ………けど、お前等は学園艦の為………そんな俺があわや負ける原因を作ってしまうところだった………もう俺には歩兵道を続ける理由が無い」

 

「待ってよっ!!」

 

とそこで、優花里とは別の人物の声が響いた。

 

「!」

 

優花里が声の聞こえた後ろを振り返ると、そこにいたのは明菜だった。

 

「行っちゃうの?………」

 

「約束だからな」

 

「そんなの無いよ! ここまで来て、鈴鹿に帰っちゃうなんて!!」

 

「約束は約束だ。これ以上曲げてどうするんだ。それじゃ………」

 

白狼は踵を返し、改札口まで行こうとする。

 

………その瞬間!

 

「バカッ!! 待ってっていってるじゃないっ!!」

 

明菜は走り出し、白狼の背中に抱きつき、離すまいと必死にしがみ付いた。

 

その瞳は必死であり、どこか泣きそうな表情だった。

 

「…………」

 

優花里はその光景に、何か胸にズキンという痛みが走った………

 

「そりゃ、確かに遅刻したり間違って撃ったりしたのは悪いって思っているよ………だけど! それでもあたし達の為に頑張ってくれたじゃない!! なのに! なのに!!」

 

「…………」

 

明菜の言葉に只無言のままの白狼。

 

「だけど約束は守らなきゃ………違う?」

 

とそこで、美嵩がそう言って、明菜を白狼から引き離した。

 

「美嵩さん………」

 

明菜は美嵩の目を見て、何も言えなくなる。

 

「それじゃあな………」

 

遂に白狼は自動改札に切符を通し、駅の構内へと入る。

 

「「あ!………」」

 

優花里と白狼が思わず手を伸ばした瞬間………

 

「神狩ーっ!!」

 

「白狼ーっ!!」

 

「神狩さーんっ!!」

 

複数の白狼を呼ぶ声と共に、大洗機甲部隊の面々が現れる。

 

「お前等………」

 

「行くな、白狼!」

 

「そんなに責任感じる事ないだろう!」

 

「そうですよ! 試合には勝ったんですから、それで良いじゃないですか!!」

 

豹詑、海音、飛彗がそう言い放ち、他の面々も口々に白狼を引き留める。

 

「…………」

 

だが、白狼の心は変わらないのか、再び背を向け、歩き出そうとする。

 

「神狩さんっ!!」

 

みほが白狼を呼んで、一同の前に出た。

 

「…………」

 

白狼は背を向けたまま立ち止まる。

 

「神狩さん自身は如何なんですか!? 如何思ってるんですか!?」

 

「西住殿………」

 

「私は戦車道から逃げ出してしまいましたが、会長達に言われて、半ば無理矢理戦車道をもう一度やりました………でも! 今は周りの皆と一緒にやっていて、戦車道が楽しくてしかたないんです! 此処にいる皆と………ずっと続けていければ良いなって!! そしてその喜びと楽しさを、皆と一緒に伝えたいんです!!」

 

「…………」

 

無言でみほの言葉を聞き続ける白狼。

 

「神狩さんの答えを知りたいんです!! 約束とかそういう事は関係なく!! 此処にいる皆さんと歩兵道や戦車道をやって如何思ってたんですか!? 楽しくなかったんですか!?」

 

「…………」

 

「私が考えた戦車道や歩兵道は、皆と気持ちを分かち合う事が大事なんです! それを神狩さんもきっと分かってくれるんじゃないかと思っていたんです!! だからこそ! また皆と一緒に歩兵道をやりたいんですか!? 私達や、大洗の皆と一緒に………」

 

「そんなの当たり前だ!!」

 

そこで白狼はそう声を挙げた。

 

騒いでいた大洗機甲部隊の面々が一瞬で静まり返る。

 

「良かった………その答えが聞きたかったんです」

 

みほは笑顔でホッとする。

 

「だが、今の俺はお前達と一緒に戦う事は出来ない………もし、俺が自分を許せたら………いや、何でもない。今度こそホントにじゃあな」

 

白狼はそう言い残し、美嵩と共に乗る予定の電車が来ているホームへ向かった。

 

「あ!………」

 

「! 優花里さん! 来てっ!!」

 

「えっ!?」

 

と、思わず優花里が声を挙げると、明菜が優花里の手を引いて、駅の外へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームに到着していた電車に乗り込むと、丁度発車のベルが鳴り、ドアが閉まって電車は走り出す。

 

「あそこが空いてるわ」

 

「ああ………」

 

美嵩が2人掛けのクロスシートが空いているのを見てそう言い、白狼が窓側に座って、美嵩が通路側に座る。

 

走り出した電車の窓から、ドンドンと景色が流れ始める。

 

「………!?」

 

と、そこで白狼は、その景色の中に、『とある物』を発見する。

 

それは、自分達が乗って居る電車と並走している、クロムウェルの姿だった。

 

「神狩殿ーっ!!」

 

そのキューポラからは優花里が姿を見せている。

 

「アイツ………」

 

思わず電車の窓を開ける白狼。

 

「我々は待っています!! いつでも大洗で待っています!! 神狩殿が帰ってくる事を信じて!!」

 

白狼に向かって懸命にそう叫ぶ優花里。

 

「…………」

 

白狼は何も言わず、片腕だけ出してサムズアップして見せた。

 

やがて電車の速度が上がり、白狼の姿が前に流れて行く。

 

「チイッ! ココまでだっ!!」

 

最早追跡は不可能だと判断した唯が、クロムウェルを止める。

 

「…………」

 

遠ざかって行く電車を、優花里は何時までも………

 

何時までも見つめていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗学園艦・大洗女子学園の戦車格納庫にて………

 

「諸君! いよいよ我々は第7回戦を突破した! 次は準々決勝となる! 長いこの戦いも後3戦を残すのみだっ!!」

 

集まった大洗機甲部隊の面々を前に、迫信がそう言い放つ。

 

「遂に準々決勝か………」

 

「ホント、良くココまで来れたぜ」

 

「ほんの数ヶ月前まで、僕達、素人同然の集まりでしたからね」

 

いよいよ準々決勝と聞いて、大洗機甲部隊の面々もざわめき立つ。

 

「私達は負けられないよぉ。学校の為にもねえ」

 

そこで、真面目な表情の杏がそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いて、大洗戦車チームの面々は、コレが自分達の学校の命運を掛けた戦いである事を改めて認識する。

 

「必ず優勝するぞ! 我々にはそれしか道はないっ!!」

 

「大洗バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

続いて桃がそう言い放つと、弘樹が音頭を取る様に万歳三唱を始め、他の面々がそれに続く様に万歳三唱を始めた!

 

「バンザーイッ! バンザーイッ! バンザーイッ!」

 

優花里もその中で、何時もと変わらぬ調子で万歳三唱をしている。

 

(優花里さん………)

 

(本当はお辛い筈なのに………変わらない様に振る舞って………)

 

(今はそっとしておいてやろう………)

 

(それしかないよね………)

 

みほ、華、麻子、沙織は、優花里が無理をしていると見抜いていたが、原因を解決する手段が無い為、今はただそっとしておく事しか出来なかった………

 

と、その時………

 

「アラ? 盛り上がってるわね」

 

格納庫内に、昨日良く聞いていた声が聞こえて来た。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

全員がその声に驚いて、聞こえて来た方向である格納庫の入り口の方を振り返ると………

 

「ヤッホー、こんにちは~」

 

呑気そうな声と共に、ヒラヒラと手を振っているクロエの姿が在った。

 

「!? 西部のクロエッ!?」

 

「!?」

 

十河が驚きの声を挙げ、みほは弘樹の背中に隠れた!

 

「………何用だ」

 

先日の事もあり、みほを庇いながら色々な意味でクロエを警戒する弘樹。

 

「そう警戒しないでよ。別にココの娘達を取って食いに来たワケじゃないんだから」

 

しかし、クロエはケラケラと笑いながら、格納庫内へと入って来る。

 

「じゃあ、何の用なのかな~?」

 

「聞いたわよ。仲間が1人居なくなったみたいね」

 

「!!」

 

杏がそう尋ねると、クロエはそう言い、優花里が反応する。

 

「ク、クロエさん!」

 

「ああ、ゴメンゴメン。別にそれで弄ろうって積りは無いわ」

 

みほが弘樹の背に隠れたままながらも抗議する様に声を挙げると、クロエは手を上げて謝罪する。

 

「ちょっと落ち込んでいるんじゃないかなと思って来てみたんだけど………余り心配は要らなそうね」

 

「! 心配してくれたんですか?」

 

クロエが自分達の事を心配して来てくれたと言う事に、みほは驚いた様子を見せる。

 

「そりゃ、自分を倒した相手が落ち込んでるって知ったら気にもなるわよ。それに………」

 

そこで一旦言葉を区切るクロエ。

 

「過ぎた事を気にせずただ前を見て進んだ方が、明るくて楽しい未来が待ってる筈よ。どんなに辛い事があっても、過ぎれば過去になるわ。それを穿り返しちゃったら、きっと一生呪う事になる。大事なのは、過ごしている今の事。そしてその喜びを他の皆と分かち合い、教える事よ」

 

「!!」

 

再び驚くみほ。

 

それは、みほが白狼に向かって言った事と同じであった。

 

「じゃあ、1つ目の用事は済んだから、2つ目の方に行かせてもらうね」

 

「? 2つ目?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

とそこで、クロエがそう言うと、大洗の一同は首を傾げる。

 

「2つ目は………コレよ」

 

クロエはそう言い、右手を上げてその指を鳴らしたかと思うと………

 

格納庫の戦車出入口の方の大きな扉が開いて、数台のトラックが入って来た。

 

そして、そのトラックの運転席と荷台から、西部歩兵部隊の面々が現れたかと思うと、次々にトラックに積まれていた荷物の木箱を下ろし始める。

 

「何だ何だ?」

 

「何が始まるんだ?」

 

「??」

 

突然の事態に、大洗機甲部隊の面々は戸惑うばかりである。

 

やがて、トラックに乗って居た全ての木箱が、大洗機甲部隊の面々の前に並べられた。

 

「私からの細やかな勝利祝いよ」

 

クロエが再び指を鳴らすと、西部歩兵部隊の面々が木箱の蓋を開けて行く。

 

その中には………

 

「! おお! スゲェッ! キングサーモンだっ!!」

 

海音が見た木箱の中には、立派なキングサーモンが氷と共に大量に詰められていた。

 

「コッチは卵だぜ!」

 

地市が空けた箱には、大量の卵が詰められている。

 

「皆ウチの学園で獲れたヤツよ。遠慮しないで持ってってね」

 

「学園で?」

 

「そう言えば、西部学園はもともと農業と水産業を教える学校だったね。その延長線上で生物学や遺伝子工学を始め、更に何代か前の学園長の趣味で学校を西部劇風にしたと」

 

クロエの台詞に俊が首を傾げると、迫信が思い出した様にそう語る。

 

「へえ~、そうだったんだ………」

 

「しかし、お祝いと言っても、コレだけの物を只で頂いてしまうのはちょっと悪い気がします」

 

沙織が相槌を言っていると、華がそんな事を言う。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他のメンバーも、多かれ少なかれそう思っている様子である。

 

「そんな、気にしなくて良いのに」

 

「いえ、折角ですから、何かお礼をさせて下さい」

 

気にしないで良いと言うクロエだったが、みほがそう食い下がる。

 

「う~~ん………そうね~」

 

頭をガシガシと掻いて考えを巡らせるクロエ。

 

「………あ! じゃあ、ウチの仕事を手伝って貰うってのは如何かしら?」

 

そこでハッと思いついた様にそう言う。

 

「ウチの作業をって………農業ですか?」

 

「そ! 幸い体力には自信有るでしょう?」

 

「「「「…………」」」」

 

大洗機甲部隊の面々を見回しながら、クロエはそう言うが、十河とアリクイさんチームの面々だけは視線を反らしていた。

 

「ふむ、面白そうだね。幸い決勝関係戦に入ったから、次の試合まで結構間が空く。時間的な余裕は有るね」

 

いよいよ次の試合から準々決勝となる為、決勝関係戦用の専用試合会場が用意される様になり、その準備の為に次の試合までの期間が大分開く事となる。

 

それを見越して迫信がそう言う。

 

「皆さん、如何ですか?」

 

そこでみほが、改めて大洗機甲部隊の面々に向かって問い質す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は、無言で文句は無いと言う肯定を行う。

 

「………分かりました。クロエさん、よろしくお願いします」

 

「コチラこそよろしくね。じゃあ学園艦を横付けしておくから、明日は朝5時にウチの学校に来てね」

 

「!? 朝の5時っ!?」

 

と、話が決まったのでそう言葉をかわしたみほとクロエだったが、その中に在った朝の5時集合と言う言葉に、麻子が過剰に反応する。

 

「………スマン。私は欠席させてもらう」

 

「麻子、またぁ?」

 

途端に欠席を表明する麻子と、そんな麻子に呆れる沙織。

 

「アラ? 貴方、朝起きれないタイプ?」

 

「そんな時間に起きる奴の方がおかしい………」

 

「じゃあ、私が起こしに行ってあげようか?………私のやり方でね」

 

そこでクロエは、麻子の事を獲物を狙う猛禽類の様な目で見る。

 

「!?!?」

 

そのクロエの姿に、背筋が凍る様な感覚を覚える麻子。

 

「では、明日は朝5時に西部学園艦の学園に集合だ」

 

その様子に気づかず、迫信が最後にそう話を纏めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗学園艦に横付けした西部学園艦の西部学園に、大洗機甲部隊の面々は、作業着姿で集結していた。

 

その中には麻子の姿も在る。

 

沙織が、珍しい事もあると言うと麻子は………

 

「身の危険を感じて目が覚めた………」

 

と、力無い様子で答えていた。

 

その後、クロエを筆頭に西部機甲部隊の面々が姿を現し、大洗機甲部隊の面々は何組かに分かれると、各メンバーに連れられ、担当の場所へと案内される。

 

その中で、クロエとシャムに案内されるみほ、優花里、弘樹、飛彗が向かった場所は………

 

「わあ~~、凄~い!」

 

ケージに入れられて大量に並べられている鶏を見て、みほが驚きの声を挙げる。

 

「この規模は普通の養鶏農家でも見ないな」

 

弘樹もそう感想を述べる。

 

一同が案内されたのは、養鶏所の在る鶏舎棟だった。

 

「さあさあ、さっさと取り掛かるわよ」

 

「数が数なんだから、手早くやってよね」

 

とそこで、クロエとシャムがそう言って、鶏卵の回収を始める。

 

「では、やりますか」

 

「了解であります!」

 

飛彗と優花里がそう言うと、弘樹達も養鶏の回収を始めるのだった。

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「ふう~~………思ったより大変でありますなぁ………」

 

数が多い事に加えて、次から次へと卵を産むので、回収するのも一苦労であり、優花里が額に浮かんでいた汗を拭う。

 

ふと、近くに居たシャムに目をやると、彼女は既に優花里の倍以上の卵を回収していた。

 

(流石に、西部学園の生徒だけあって、手慣れているでありますな~)

 

と、優花里が感心していると、目の前の鶏が新しい卵を産んだ。

 

「おっと………」

 

すぐにその卵を回収する優花里。

 

しかしそこで………

 

「…………」

 

ある疑問が湧き上がり、手が止まる。

 

「ちょっと、何ボーッとしてるの? そんなじゃ困るわよ」

 

それに気づいたシャムがそう言って来る。

 

「あ、あの、シャム殿………鶏の卵とは………何処から出てくるんでありますか?」

 

「何処からって………肛門に決まってるじゃない」

 

(糞と一緒にっ!?)

 

予想が当たり、優花里は内心で驚愕する。

 

「まあ、正しくは総排泄腔って言って、卵管の出口と直腸が………」

 

「西住殿ーっ!!」

 

シャムの説明も半ばで、優花里は大急ぎで、みほの元へと向かった。

 

「ど、如何したんですか? 優花里さん」

 

突然走り寄って来た優花里に、みほは戸惑う。

 

「西住殿!! それは! それは!!」

 

みほが手袋をした手に持っている卵を指差しながらワナワナと震える優花里。

 

「ハイ、産み立てほやほやの卵ですよね」

 

「ってぇ!? 汚くないんですか!? コレ!!」

 

しかし、特に気にした様子の無いみほの姿を見て、優花里は再び驚愕する。

 

「だからこうして全部丁寧に洗って丁寧に磨いているのよ」

 

「そうそう。卵1個1個に生産者の気持ちが籠ってるんだから」

 

シャムとクロエが、回収した卵の洗浄作業をしながらそう言う。

 

「優花里さん、一体如何したの?」

 

みほは優花里が何故そんなに慌てているのか分からない。

 

弘樹と飛彗も、淡々と作業を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数10分経過後………

 

「ん! ああ~~、終わった~」

 

慣れない作業で疲れたのか、みほが伸びをしながらそう言う。

 

「中々良い経験をさせて貰った」

 

「ですね」

 

手袋を外しながら弘樹がそう言うと、首を鳴らしていた飛彗がそう相槌を打つ。

 

「…………」

 

一方で、優花里はまだ先程の事を引き摺っていたのだった。

 

「お疲れ様」

 

「ま、初めてにしては良かった方ね」

 

そんな弘樹達に向かって、クロエとシャムがそう言い合う。

 

「おう、終わったのか?」

 

とそこで、そう言う台詞が聞こえて来たかと思うと、1羽の鶏を足を掴んで手に持ったサーバルが現れる。

 

「貴方は確か………」

 

「サーバルか………」

 

「おっ! 覚えていてくれたとは嬉しいねぇ」

 

「サーバル、今日はチキンかしら?」

 

クロエがサーバルに向かってそう尋ねる。

 

「ああ。美味いスモークチキンを食わせてやるから待ってろ」

 

と、サーバルはそう言うと、みほ達の目の前で、持っていた鶏を絞め始めた!

 

「!? ヒイイッ!?」

 

生々しい光景を目撃してしまい、優花里が悲鳴を挙げる。

 

「な、何!? 何が起こったの!? 弘樹くん!?」

 

「君は耐えられん………」

 

一方、みほの方は弘樹が目を塞いだので、その光景を目撃していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて朝食の時間となり、大洗の一同は西部の面々と共に食堂に集合。

 

一緒に食事を楽しんでいた。

 

「…………」

 

しかしそんな中で、優花里が1人固まっていた。

 

彼女の目の前に有る朝食の中には、先程彼女達が回収していた物………

 

『生卵』があった。

 

(何処からって………肛門に決まってるじゃない)

 

「ううう………」

 

先程の光景とシャムの言葉を思い出してしまい、卵には手が伸びない優花里。

 

「秋山さん? 如何かしましたか?」

 

と、近くに座っていた飛彗が、そんな優花里の様子に気づいてそう尋ねる。

 

「あ、いえ………その………コレ、差し上げます」

 

すると優花里は、卵を飛彗に差し出した。

 

「えっ? 良いんですか? ありがとうございます」

 

飛彗は喜んで卵を受け取ると、早速殻を割って混ぜ、炊き立てのご飯の上に掛けて掻っ込む。

 

「…………」

 

そんな飛彗の姿を、優花里は複雑そうな目で見やる。

 

「美味しいね、弘樹くん」

 

「ああ、新鮮な卵と炊き立ての白米の組み合わせは絶品だ」

 

ふと、そんな声が聞こえて来て、優花里がその方向を向くと、そこには飛彗と同じ様に卵掛け御飯を食しているみほと弘樹の姿が在った。

 

「!! に、西住殿ぉっ!………! へぶっ!?」

 

慌ててみほの元へ向かおうとして、立ち上がりそこなって転んでしまう優花里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、朝食を終えた大洗の一同は、引き続き農作業へと向かった。

 

酪農の定番である、乳牛の乳絞りにも挑戦した者達が居たが、見た目と違って意外にも難しく、失敗する者も多数居た。

 

畑を耕したり、馬の蹄鉄を取り付けたり、色々とあるが、どれも難しい。

 

そして更にはマンモスの毛繕いと言った危険を伴う作業もあった。

 

数匹繁殖に成功したマンモスを近日中には、本島へと放す予定であるとの事である。

 

それまでは、これからの暑い季節に備え、出来る限り毛並みをカットするようだ。

 

大昔絶滅した動物を甦らせ、本島へと還した種類は数10。

 

日本のみならず、海外の各大陸にも、そういう動物を甦らせ、還しているそうである。

 

自然保護団体などのエコロジー関係からの支援もあり、現在のところ順調に進んでいる。

 

数10年くらい前は、外国の科学者が恐竜を甦らせ、それを利用した島のテーマパークを設けたが、現在は放棄されている。

 

しかも1つだけではなく、幾つも同様の施設が在るがそれだけに留まらず、海に住む古生物すらも甦らせたと言う噂もある。

 

………そうこうしている内に、何時の間にか日が沈みかけていた。

 

そろそろ帰ろうとしていたところで、農園の顧問の先生が、慌てて駆けて来た。

 

曰く、今夜に掛けて天気が荒れるとの事であり、ビニールハウスが飛ばされてしまうかも知れない。

 

急いで補強を行うので、人手が欲しいと。

 

大洗の一同は、すぐに西部の面々と共にビニールハウスが在るエリアへと向かった。

 

しかし、その時点で既に強風が吹き荒れており、作業は困難を極めた………

 

「そっちを押さえろーっ!!」

 

「馬鹿! そんなペグじゃだめだっ!!」

 

「補強用の鉄パイプは何処だっ!!」

 

「踏ん張れーっ! もう一息だーっ!!」

 

強風が吹き荒れ、怒号が飛び交う中、懸命な補強作業が続く。

 

漸くの事で補強を終えた頃には、全員がすっかりボロボロとなっていた。

 

日もすっかり暮れており、夕食の方も、西部の学園艦で頂く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園の学食………

 

「皆ー、お疲れ! 大洗の皆も、今日はありがとうねー! それじゃあ、頂きまーす!!」

 

「「「「「「「「「「頂きまーすっ!!」」」」」」」」」」

 

集まっている西部の面々と大洗の一同に向かって、クロエがそう言い、頂きますの音頭を取る。

 

「…………」

 

その席でまたも固まっている優花里。

 

食事にはまたも、卵が付いていたからである。

 

周囲の皆は、一様に御飯の上に卵を割って乗せ、醤油を掛けて食べている。

 

「…………」

 

その様子に優花里は頭を悩ませる。

 

まだあの事は払拭出来ていないが、ビニールハウスの補強作業を手伝った事ですっかり腹ペコなのと、皆が美味しそうに卵掛け御飯を食べているのを見て、迷っている様だ。

 

(ええいっ! ココは突貫でありますっ!!)

 

やがて意を決した様に、卵を割り、御飯の上に乗せたあと醤油を掛け、掻き混ぜた。

 

そしてガツガツ食べると………

 

(………ヒヤッホォォォウ! 最高だぜぇぇぇぇ!!)

 

と、心の中でパンツァー・ハイの様な状態になりながら、感動していた。

 

あのイメージはすっかり払拭出来た様であり、今となっては感涙の賜物。

 

更に、またもサーバルが用意してくれたスモークチキンにも噛り付き、感無量な美味しさにがっつく。

 

(鶏って凄いであります………)

 

(良かった………優花里さん、本当に元気出たみたい)

 

鶏の凄さに感動している優花里と、そんな優花里の様子を見て安心するみほだった。

 

こうして………

 

西部学園での1日は過ぎて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

フラッグ車をフレンドリーファイヤし、危うく大洗を敗北させてしまうところだった白狼。
責任を感じ、美嵩との約束もあった彼は………
引き留める仲間達の声も虚しく、大洗を去った………

白狼が居なくなった事に人一倍落ち込んでいた優花里だったが………
西部学園との交流イベントで、少し元気を取り戻す。

次回から、白狼復帰に向けたストーリーへと突入します。
あの大人気ブラウザゲームのキャラクター達が設定を変えてですが登場したりしますので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第144話『冥桜学園です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第144話『冥桜学園です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園との試合に勝利した大洗だったが………

 

その試合で白狼は………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤすると言う、大失態を犯してしまった………

 

責任を感じた白狼は、美嵩との約束もあり、大洗を去った………

 

その事に、表面上は元気に振る舞いながらも、内心で落ち込んでいた優花里………

 

みほ達はそんな優花里の心情を察しながらも、掛ける言葉が見つからなかった………

 

しかし、西部学園のクロエ達の気遣いで体験した農業実習で、僅かながらも元気を取り戻したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園艦・西部学園の敷地内………

 

大洗の面々が農業体験実習に訪れた翌日………

 

「皆ーっ! 今日は集まってくれてありがとーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

特設ステージ上に、アイドル衣装姿で居たサンショウウオさんチームの中で………

 

聖子が集まっていた観客………西部学園の生徒達と大洗の面々を前にそう言うと、割れんばかりの歓声が返って来る。

 

西部学園との試合に勝ったので、サンショウウオさんチームはライブを行う権利を得ていたが、白狼の事があったのでそれどころではなく、結局またもライブは中止になった。

 

しかし、そこでまたもクロエが気を遣い、態々特設ステージを組んで、西部学園でライブをしてくれと言って来たのである。

 

流石に2回続けてのライブ中止はサンショウウオさんチームとしても残念だった為、クロエの話には1も2もなく飛び付いた。

 

「それじゃあ今日は何と! 新曲を披露だよっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「じゃあ行くよ! 聞いてね! 『Miracle Game』!!」

 

聖子がそう言うと、バックバンドの磐渡達が演奏を始め、新曲『Miracle Game』のライブが開催される。

 

サンショウウオさんチームが歌っている間、観客となっていた西部学園と大洗の面々からは色取り取りのサイリウムが振られ、一部の者はオタ芸を披露する。

 

「「「「「「「「「「サンショウウオさんチーム、サイコーッ!!」」」」」」」」」」

 

やがて歌が終わると、またもや大歓声が巻き起こったのだった。

 

「ありがとうーっ!! じゃあ、この後はお楽しみの触れ合いコーナーで………!!」

 

とその時、ステージ上に居た聖子が、ある人物の姿を捉える。

 

「…………」

 

西部学園の女子生徒達の中に紛れる様にしていた、里歌の姿を………

 

(近藤さん………やっぱり)

 

まだアイドルへの未練が有るのだと聖子が思った瞬間………

 

「…………」

 

里歌はサッと踵を返し、西部学園の女子生徒達の中から抜け出して、西部学園からも出て行く。

 

「!!」

 

それを見た途端、聖子は後先考えず、ステージの上から飛び降りた!

 

「!? 聖子っ!?」

 

「聖子ちゃん!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

聖子の突然の行動に、優と伊代、サンショウウオさんチームと観客の一同は驚く。

 

「ゴメンナサイ! ゴメンナサイ! ちょっと通してっ!!」

 

しかし聖子は構わずに、驚きで固まっていた観客達を掻き分け、里歌を追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園から少し離れた地点にて………

 

「待って、近藤さん!」

 

「! 郷 聖子………」

 

追い付いた聖子の姿を見て、里歌は驚きを露わにする。

 

「………何の用かしら? アイドルがファンをほっぽり出して来るなんて………やはり貴方はアイドルとしての自覚が足りない様ね」

 

しかし、すぐに顔を強張らせると、聖子に向かってそう厳しい言葉を投げ掛ける。

 

「………ほっぽり出してなんかいないよ」

 

だが、聖子はそんな里歌の事を正面から見据えてそう言った。

 

「? 如何言う事かしら?」

 

「だって、近藤さんだって私達のファンだから」

 

「!? ハアッ!?」

 

聖子の思わぬ言葉に、里歌は呆気に取られたような表情となる。

 

「だって近藤さん………こうしてライブに来てくれてるじゃない。プラウダ&ツァーリとの試合の時も………なら、立派なファンだよ」

 

「! それは………」

 

反論しようとする里歌だったが、実際訪れていた事は事実な為、言葉に詰まる。

 

「近藤さん、先に謝っておくね。ゴメンナサイ」

 

「な、何に謝るのよ?」

 

「この前………近藤さんが346プロのプロデューサーさんと揉めてるところ見ちゃって………それでプロデューサーさんに近藤さんの昔の事、聞いちゃったんだ」

 

「!!」

 

それを聞いた里歌は目を見開く。

 

「………プライバシーの侵害だわ」

 

「ホントにゴメンナサイ!………でも、近藤さん。本当はまた………アイドルやりたいんだよね?」

 

「………そんな積りは無いわ」

 

「嘘! もしそうなら、私達のライブを見に来てくれなんかしないでしょ!」

 

「無いって言ってるでしょう! コレ以上言う気なら、貴方の事を名誉棄損で訴えるわよ!」

 

法的措置も辞さないと大層な剣幕で言う里歌。

 

しかし………

 

「そんな言葉で誤魔化さないでっ!!」

 

「!?」

 

それ以上の迫力を発した聖子を見て、思わず黙り込む。

 

「………私ね。最初は大洗女子学園が廃校になるって話を聞いて、それで如何にかしたいと思ってスクールアイドルを始めたの」

 

「その話なら私も聞いてるわ。でも、それは文科省が決めた事でしょ。私達がどうこう出来る問題じゃ………」

 

「でも、今はそれだけじゃないの」

 

「えっ?………」

 

「私達を応援してくれてる沢山の人が居る。最初のライブは大洗機甲部隊の皆や対戦した学校の人達以外、殆どお客さんがいなかったけど、今は大勢の人達が私達のライブを見に来てくれてる」

 

「…………」

 

「その時思ったんだ。この人達を笑顔にする事が私達の役目なんだって!」

 

「笑顔………」

 

「勿論、廃校を阻止するって言うのは今でも1番の目的だよ。けど、それも応援してくれる皆の力が有れば出来る事だと思うんだ」

 

「…………」

 

黙って聖子の話に聞き入る里歌。

 

「応援してくれる皆の為にも、私はアイドルをやるんだ………きっと近藤さんにも居るよ! 応戦してくれる人が!」

 

「………居ないわよ、そんな人」

 

「居るよ。少なくとも目の前の1人」

 

「え?………」

 

「私は近藤さんの事を応援するよ」

 

「そんなの………」

 

「近藤さん………夢はある意味、呪いと同じなんだよ」

 

「夢が………呪いと同じ?」

 

「呪いを解くには、夢を叶えるしかない。途中で挫折した人は、一生呪われたままなんだ………今の近藤さんに掛けられている呪いを解けるのは………近藤さん自身なんだよ」

 

「…………」

 

「コレ………」

 

とそこで、聖子は1冊の本を取り出し、里歌に差し出した。

 

「コレは………」

 

それは、クロムウェル巡航戦車のマニュアル本だった。

 

「もし私達と一緒にアイドルをやりたくなったら、それを読んで戦車道をやろう。近藤さんなら、アイドルが何たるかなんて言うのは、釈迦に説法だと思うから」

 

「…………」

 

反射的にその本を受け取る里歌。

 

「…………」

 

しかし、すぐに踵を返すと、聖子の前から逃げる様に走り出す。

 

「近藤さ~~んっ! 待ってるからね~~~~っ!!」

 

「!!………」

 

その背中に聖子はそう投げ掛け、里歌は一瞬反応したかの様な様子を見せたが、振り返らずに走り去って行った。

 

「………よし! 私も戻らないと!」

 

それを見届けると、聖子はライブ会場へと戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、暫く時が過ぎた………

 

決勝関係試合の試合会場が準備されるまで1ヶ月………

 

大洗機甲部隊は、更なる練度向上を目指し、今まで以上に厳しい訓練に明け暮れていた。

 

戦車チームが空からの教導を受ける傍ら、歩兵部隊も空の友人であると言う、自らを『消耗品』と名乗る傭兵集団とその仲間、戦艦ミズーリでコックをやっていたと言う人物から特訓を受ける。

 

傭兵集団とコックの腕は凄まじく、大洗歩兵部隊のメンバーが全員で掛かって行っても返り討ちに遭った程である。

 

誰もがその正体を気に掛けたが、詮索はしないという約束の為、深くは追究しなかったのだった。

 

そんなある日の事………

 

大洗の学園艦は、三重県のとある港へと寄港する事となった。

 

そして三重は、白狼の実家の有る場所だった………

 

あれから白狼との音信は一切不通である。

 

まだ自分を許せていないのだろうか………

 

気になった大洗機甲部隊の一同は、白狼の実家へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三重県・某所………

 

白狼の実家………

 

「………留守の様だな」

 

白狼の実家へと辿り着いた一同の中で、代表して呼び鈴を押した弘樹だったが、何時まで経っても誰も出て来ず、再度呼び鈴を鳴らしたが反応が無かった為、そう判断する。

 

「そうですか………」

 

それを聞いて、優花里が露骨に落ち込んだ様子を見せる。

 

「優花里さん………」

 

そんな優花里を気遣う様に肩に手を置くみほ。

 

「何か、アイツが行きそうな場所の心当たりとかねえのか?」

 

「そう言われてもなぁ………」

 

「ワイ等も白狼の奴の実家の方に来たのは初めてやしなぁ………」

 

地市が海音と豹詑に尋ねるが、良い答えは返って来ない。

 

「………あ!」

 

とそこで、飛彗が何かを思い出したかの様な様子を見せる。

 

「宮藤くん。何か心当たりが?」

 

「ハイ。確か、実家の近くにレーシングクラブが在って、そこでいつもバイクを乗り回していたって言う話を白狼から聞いた事があります」

 

弘樹が尋ねると、飛彗はそう答える。

 

「レーシングクラブか………」

 

「他に手掛かりも無い。探してみるか」

 

飛彗の言葉を頼りに、一同はレーシングクラブの捜索に乗り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

方々に散らばって捜索していた大洗機甲部隊の一同の中で、小太郎からそれらしきレーシングクラブが見つかったとの連絡が入り、一同はその場所へと再集結。

 

しかし………

 

「閉鎖されているな………」

 

弘樹が、すっかり寂れてしまっているレーシングクラブ………『タチバナレーシングクラブ』の建物を見上げてそう言う。

 

「何てこった、折角の手掛かりが………」

 

「…………」

 

俊が愚痴る様に呟いていると、優花里も俯く。

 

「………念の為、裏手のサーキットの方も見てみましょうか?」

 

とそこで、みほがそう提案し、一同はレーシングクラブ裏手のサーキットへと向かった。

 

 

 

 

 

レーシングクラブ裏手のサーキット・タチバナサーキット………

 

サーキットもやはり閉鎖しており、人影は無い………

 

かに思われたが、1人の女性が、サーキットの傍に佇んでいるのを発見する。

 

「あの………」

 

「あら? 珍しいわね。閉鎖されたサーキットに人なんて………」

 

みほが声を掛けると、女性が振り向く。

 

その女性は、何処となく白狼と似た雰囲気を思わせた。

 

「この辺りの方ですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「小官は大洗国際男子校の舩坂 弘樹と言う者です。神狩 白狼と言う人物を探しているのですが、御心当たりはございませんか?」

 

「まあ! 貴方達、白狼の友達なの?」

 

弘樹がそう尋ねると、女性は軽く驚いた様な様子を見せた。

 

「ハイ。神狩 白狼の事をご存じなのですか?」

 

「御存じも何も………」

 

「ちょっと待ったーっ!!」

 

弘樹の問いに、女性が何かを答えようとしたところ、了平のちょっと待ったコールが入る。

 

(あ、また良からぬ事を言う気ですね………)

 

またも了平が碌でも無い事を言う気だと察し、呆れる様子を見せる楓。

 

「フフフ、俺にはお見通しですよ。貴方のその雰囲気から察するに………ズバリ! 貴方! 神狩 白狼のお姉さんでしょう!!」

 

ビシッと女性を指差しながらそう言い放つ了平。

 

「………アハハハハハハ!」

 

女性は一瞬呆気に取られた様な様子を見せたが、すぐに大笑いし始める。

 

「ア、アレ? 外した?………」

 

外したのかと困惑する了平。

 

「嫌だわ、お姉さんだなんて。口が上手いんだから」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

しかし、続いて女性がそう言うと、大洗の一同も首を傾げた。

 

「初めまして………白狼の母の『神狩 夜魅(かがり やみ)』です」

 

そして女性………白狼の母親である『神狩 夜魅(かがり やみ)』が、笑顔でペコリと頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「!? えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

途端に、一部を除いた大洗機甲部隊の面々から仰天の声が挙がる。

 

「お、お母さんっ!?」

 

「マジかよっ!?」

 

「若っ!!」

 

「下手したら20代って言っても信じるぞ………」

 

そんな声が次々に挙がる。

 

そう………

 

夜魅の見た目はとても若く、如何見ても高校生の息子の居る母親には見えなかった。

 

「母上でしたか。御子息にはお世話になっています。彼は今は何処に?」

 

「冷静だね、弘樹くん………」

 

そんな中、冷静な様子のままで、夜魅に白狼の事を尋ねる弘樹と、そんな弘樹の姿に呆れる様な様子を見せるみほ。

 

「………あの子は此処には居ないわ」

 

と、夜魅は何処か寂しそうな表情でそう答える。

 

「居ない?………」

 

「海外のプロバイクレースチームからスカウトが来て、日本を出て行ったわ」

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「「「「「「「海外っ!?」」」」」」」」」」

 

まさか日本に居ないとは思っていなかった優花里と大洗機甲部隊の面々は驚きの声を挙げる。

 

「死んだお父さんに代わってプロレーサーになる………それがあの子の夢だったからねぇ」

 

「えっ!? 白狼の親父さん、レーサーやったんか?」

 

夜魅がそう言葉を続けると、豹詑が驚きの声を挙げる。

 

「「…………」」

 

飛彗と海音も顔を見合わせている。

 

如何やら、友人にも話していない事だったらしい。

 

「ええ、アマチュアであんまりパッとしないレーサーだったけどね………それでも走る事が大好きで、白狼の事を良くサーキットに連れて行っていたわ………けど、レース中に事故でね」

 

そう言って何処か遠い目をする夜魅。

 

「白狼に何時も、『必ずプロのレーサーになってカッコ良いお父さんを見せてやる』って、口癖の様に言っててね」

 

「それでアイツもバイクに乗り始めたのか………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

白狼の思わぬ過去を聞き、大洗機甲部隊の面々は黙り込む。

 

「外国と言うのは………何処の国ですか?」

 

そんな中で、尋ね辛そうな一同に代わる様に、弘樹が夜魅にそう尋ねる。

 

「ゴメンナサイ。急に決まったらしくて、あの子急いでそのチームの所へ向かったから、行き先はちょっと………」

 

「知らないんですか?」

 

「あの子には自由に生きて欲しかったからね。あまり彼是言わないから、あの子も彼是言って来なくて………あ! そうだ!」

 

思い出したかの様に手を叩く夜魅。

 

「『冥桜学園』の子達なら、何か知ってるかも知れないわ」

 

「! 『冥桜学園』………」

 

「ええっ!?」

 

「『冥桜学園』ですって!?」

 

夜魅の口から出た、『冥桜学園』なる学校の名前に、弘樹、みほ、優花里が驚きを示す。

 

「『冥桜学園』?」

 

「って、何?」

 

「何処の学校なんだ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

しかし、事情を知らぬ大洗機甲部隊の一同は首を傾げる。

 

「武道の名門校さ。今はやっていないが戦車道や歩兵道で、創設から太平洋戦争が始まる前までの間には嘗て華々しい成績を納めていてな………恐らく、黄金期の実力は今の黒森峰以上だろう」

 

「! 黒森峰以上っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

途轍もない実力の冥桜学園の存在に、大洗機甲部隊の一同は驚愕する。

 

「そんな凄い学校だったのに、如何して戦車道や歩兵道を辞めたんだ?」

 

「太平洋戦争が始まり、戦況が悪化して行くと、冥桜学園の生徒達はその腕を買われ、学徒出陣させられた………そしてその殆どが即座に最前線か特攻に送られ、戦死した」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹が話したショッキングな内容に、大洗機甲部隊の一同は今度は言葉を失った。

 

「多くの未来ある学生を死なせてしまった冥桜学園はそれ以来、自戒の意味を込めて、戦車道や歩兵道と言った兵器を使用する武道からは遠ざかっている」

 

「如何してその学校の人達が、神狩殿の事を?」

 

と、弘樹が言葉を続ける中、優花里は白狼と冥桜学園の関係を夜魅に問い質す。

 

「だって、冥桜学園は美嵩ちゃんが通ってる学校だから」

 

「ええっ!? あの女、そんな学校の出身だったのかよ!?」

 

夜魅がそう答えると、以前美嵩に手痛い目に遭わされた了平が思わず声を挙げる。

 

「あの子も白狼に付いて行っちゃったから、同じ学校の友達なら何か知ってるかも知れないわよ」

 

(本多殿が神狩殿と一緒に海外に………)

 

そう思った優花里の胸がズキリと痛む。

 

「で、その冥桜学園は今何処に?」

 

「さあ~、そこまでちょっと………」

 

「肝心な所は分からず仕舞いか………」

 

俊が愚痴る様に呟く。

 

「仕方が無いね。一旦引き上げようか」

 

そこで迫信がそう言い、大洗機甲部隊の一同は撤収に入る。

 

「あ、待って!」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

とそこで、夜魅がそんな大洗機甲部隊の一同を呼び止める。

 

「もしあの子に会ったら、変わらず接してあげて下さいね。あの子、ちょっと捻くれてる所が有るけど、本当はとっても良い子なの」

 

「ええ、良く分かっていますよ………失礼します」

 

夜魅がそう言うのを聞き、弘樹は思う所が有る様な顔をしながらペコリと頭を下げる。

 

大洗機甲部隊の一同も、同様に夜魅に向かって頭を下げると、その場から去り始める。

 

「………ちょっと心配だったけど、良いお友達が居るみたいね」

 

そんな大洗機甲部隊の一同の背を見送りながら、夜魅は慈愛の籠った笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

三重県・某港………

 

「結局無駄足だったか………」

 

「でも、冥桜学園の人に聞けば分かるかもって………」

 

「けど、大洗と冥桜学園とは交流が無い。連絡を取ろうにも如何すれば良いか………」

 

「地道に調べるしかないのか?」

 

諦めきれない様子を見せながら、港へと戻って来た大洗機甲部隊の一同。

 

「! ね、ねえっ! アレッ!!」

 

するとそこで、沙織が何かに気付いた様に港の方を指差した。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その沙織が指差した方向を見た大洗機甲部隊の一同は驚愕する。

 

何故なら、自分達の学園艦が入港しているすぐ隣の港に………

 

一航専の学園艦と同等かそれ以上の大きさが有ろうかと言う、巨大な学園艦が入港していたからだ。

 

「デケェッ!」

 

「オイオイ、何処の学園艦だ、アレッ!?」

 

その学園艦の余りの巨大さに、大洗機甲部隊の面々からは次々に驚きの声が挙がる。

 

「ん?………! オイ、見ろっ!!」

 

するとそこで、磐渡が何かに気付いた様に、その巨大な学園艦の艦首部分を指差す。

 

そこには、かつて日本海軍の軍艦の艦首に、菊の紋章が付けられていた様に、校章と思われる紋章と、『冥桜学園』と書かれたプレートが填められていた。

 

「! 冥桜学園っ!!」

 

「まあ! アレが!?」

 

「何てタイミングだ………」

 

みほと華が驚きの声を挙げ、麻子が何とも良いタイミングで現れた冥桜学園の学園艦に、呆れる様に呟く。

 

「でも、助かりましたよ。行ってみましょう!」

 

「そうですよ! またとないチャンスですよ!」

 

しかし、漸く掴んだ白狼の手掛かりを逃してはならないと、飛彗と優花里が声高にそう言う。

 

「そうだな………兎に角、冥桜学園に言って、本多 美嵩の知り合いを探してみるか」

 

その場を纏める様に弘樹がそう言い、大洗機甲部隊の一同は、冥桜学園の学園艦の方へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園の学園艦が入港している港………

 

大洗機甲部隊の一同が、荷物の搬入口付近に近づいたところ、学園艦内へと運ばれている荷物を管理していると思われる、制服姿の男子生徒と女子生徒を発見する。

 

「コレで必要な物は全部揃いましたね」

 

「ああ、大体良いんじゃないかな?」

 

女子生徒と男子生徒がそう会話を交わす。

 

「あの………すみません」

 

とそこで、その2人に、一同を代表してみほが、恐る恐ると言った様子で声を掛ける。

 

「ハイ?」

 

「君達………誰?」

 

女子生徒と男子生徒は、突如現れた大洗機甲部隊の面々に首を傾げる。

 

「お忙しいところ申し訳無い。我々は………」

 

と、迫信が代表して自己紹介しようとしたところ………

 

「『吹雪』さん? 如何かしたんですか?」

 

「『清光』、何事だ?」

 

それよりも先に、日傘を差した女性と、何処となく古風な感じのする男性が現れる。

 

「あ、『大和』さん」

 

「『宗近』さん。いえ、この人達が………」

 

『吹雪』と呼ばれた女子生徒と、『清光』と呼ばれた男子生徒が大洗機甲部隊の面々を示す。

 

「どうも、突然すみません。我々は大洗国際男子校と大洗女子学園の者です」

 

改めて自分達の身分を明かす迫信。

 

「大洗?………」

 

「ああ! あの戦車道・歩兵道の全国大会で快進撃を続けているって言う、ダークホースの!」

 

「そうでしたか。あの学園艦は大洗の学園艦だったんですね」

 

吹雪は首を傾げ、清光は手をポンと鳴らし、日傘を持った女性は大洗の学園艦を見ながらそう言う。

 

「ああ、申し遅れました。私は『徳川 大和』と申します。お見知りおきを」

 

「あ、私は『真田 吹雪』です」

 

「俺は『沖田・加州清光・総司』さ」

 

「俺の名は『足利・三日月宗近・義輝』だ」

 

そこで、日傘を持った女性・『徳川 大和』

 

吹雪と呼ばれた女子生徒・『真田 吹雪』

 

男子生徒・『沖田・加州清光・総司』

 

そして、古風な男性・『足利・三日月宗近・義輝』が、其々に自己紹介をした。

 

「どうも、初めまして。大洗国際男子校の生徒会長を務めております神大 迫信です」

 

「同じく、大洗女子学園の生徒会長、角谷 杏だよー」

 

丁寧に自己紹介を返す迫信と、何時もの調子を見せる杏。

 

「それで、何か御用なんですか?」

 

「ええ、実は………」

 

「まぁまぁ、皆まで言うな」

 

と、迫信が事情を説明しようとしたところ、宗近がそれを制した。

 

「この冥桜学園へ来たからには観光も華じゃぞ。どれ、俺達が案内してやろう」

 

「いえ、我々は観光に来たワケでは………」

 

「ほれ、行くぞ」

 

観光に来たワケではないと言う迫信だったが、宗近はそれをスルーして冥桜学園の学園艦へと向かう。

 

「すみません、宗近さん、マイペースなもんだから………」

 

「………まあ、どの道、学園艦に上がらせて貰いたいと思っていたところだよ」

 

清光が謝罪するが、迫信は特に気にしていない様子でそう返す。

 

「では、ご案内致しますね」

 

「ようこそ、冥桜学園へ」

 

そしてそのまま、大洗機甲部隊の一同は、宗近、清光、大和、吹雪に連れられ………

 

『冥桜学園』へと足を踏み入れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

西部学園で久々のライブを行うサンショウウオさんチーム。
その観客の中に、里歌の姿を発見した聖子は、彼女に自ら思いをぶつけ、アイドルへの再起を促し、クロムウェルのマニュアルを渡した。
果たして、彼女の決断は?

後日、白狼の事が気になり、実家へと様子を見に行った大洗の一同。
そこで、白狼の母・夜魅と出会い、白狼が日本に居ないと言う驚愕の事実と、彼と父の思い出を聞かされる。
行方の手掛かりは、美嵩の学校である『冥王学園』にあると言われた大洗は、偶然にも同じ港に入港していた冥桜学園の学園艦に出くわし、その生徒に案内されて、足を踏み入れるのだった。

今回登場した冥桜学園の生徒………
御存じ、大人気ブラウザゲーム『艦これ』と『刀剣乱舞』のキャラクターです。
あまりクロスさせるなと言う注意を受けましたが、これは世話になっている友人たっての要望でして………
名前の武将や偉人の名前が入っている理由につきましては、後々に明らかになります。
また、どちらかと言えば艦これ側のキャラが中心で、刀剣側は脇役気味になります。
そして、コレからアニメ版・艦これのエピソードを元にしたストーリーが展開されます。
色々と物議のあるアニメ版でしたが、出来る限り納得が出来るモノになれるように作り上げますので、何卒ご理解・ご了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第145話『神狩さんと冥桜学園の関係です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第145話『神狩さんと冥桜学園の関係です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西部学園の西部機甲部隊との試合に於いて………

 

自軍フラッグ車をフレンドリーファイヤすると言う失態を犯した白狼は………

 

自責の念と美嵩の約束が合わさり、大洗を去った………

 

だが、やはり白狼の事を見捨てられない大洗の一同は………

 

彼の実家が在る三重県を訪れ、幼少時に通っていたレーシングクラブ跡地にて………

 

白狼の母親である『神狩 夜魅』と出会う。

 

そして、彼女から白狼がプロレーサーチームにスカウトされ、外国へ行ったと言う驚愕の事実が告げられる。

 

行き先は彼女にも分からず、白狼に付いて行った美嵩の母校である『冥桜学園』の生徒ならば分かるかも知れないと言うが………

 

大洗に冥桜学園との交流は無く、結局は手詰まりであった………

 

しかし………

 

大洗の学園艦が入港していた港に………

 

幸運にも、冥桜学園の学園艦が入港していた。

 

荷物の搬入をしていた冥桜学園の生徒、『徳川 大和』、『真田 吹雪』、『沖田・加州清光・総司』、『足利・三日月宗近・義輝』に案内され………

 

大洗機甲部隊の一同は、冥桜学園の学園艦へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園・学園艦の甲板都市………

 

「コレは………」

 

「うわあ………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

冥桜学園の学園艦・甲板都市の様子を見た大洗機甲部隊の一同は、呆気に取られた様な様子を見せる。

 

そこには、江戸から昭和の初期と言った感じの建築物が立ち並び、道行く人々の恰好も、それに準じた格好をしている人達が多い。

 

走っている乗り物は牛車や籠、果てには路面電車やオート三輪と………

 

言うなれば、古き良き日本の姿を現している都市と言えた。

 

「さ、コッチだ。付いて来い」

 

と、そんな大洗機甲部隊の一同に、宗近がそう声を掛け、吹雪達と共に移動し始める。

 

「あ、待って下さい」

 

すぐにその後を追う大洗機甲部隊の一同。

 

やって来たのは、『甘味処・間宮』と言う店だった。

 

尚、コレも古き良き日本の慣習を踏まえているのか、看板の文字が、右から読む仕様になっていた。

 

「いらっしゃいませ………あら、吹雪ちゃんに大和さん。それに清光くんに宗近さんも」

 

暖簾を潜って店内に入ると、割烹着に赤いリボンとヘアピンが特徴の朗らかな雰囲気の女性………『安国寺 間宮』がそう言って来た。

 

「こんにちは、間宮さん」

 

「特盛餡蜜をお願い出来ますか?」

 

吹雪が間宮に挨拶し、大和は日傘を畳みながら即座に注文を言う。

 

「ハイ、只今。『伊良湖』ちゃん。特盛餡蜜ね」

 

「ハイ、間宮さん」

 

間宮が厨房の方にそう呼び掛けると、厨房に居た黒い髪を赤いリボンで結び、ポニーテールにしている、間宮と同じ割烹着姿で、ピンクのワイシャツに紺色のネクタイを締めた女性………『磯前 伊良湖』がそう返事を返してくる。

 

「皆さんもお好きな席へどうぞ」

 

「あ、ハイ………」

 

「失礼します」

 

間宮にそう言われ、大洗機甲部隊の面々も其々に着席し、メニューを眺める。

 

「ココの店の甘味はどれも絶品だよ」

 

「いや、だから私達は観光をしに来たワケではないんですが………」

 

清光がそう言って来るが、優花里が少々焦り気味にそう言う。

 

「では、一体何をしに来たのかな?」

 

「私達は………」

 

宗近の問いに、みほが答えようとしたところ………

 

「お待たせしまた。特盛餡蜜です」

 

間宮のそう言う声が響いて、大和の前に、どんぶりサイズの器に入れられた餡蜜が置かれた!

 

「!? デカッ!?」

 

「何だ、アレは?………」

 

その余りの大きさに、沙織と麻子が呆気に取られた様子を見せる。

 

「間宮名物の特盛餡蜜ですよ」

 

「コレが美味しいんですよ」

 

吹雪がそう答える横で、大和がパクパクと特盛餡蜜を食べ進めて行く。

 

「あの美人さん、スゲー勢いで食べてるな………」

 

「甘い物が好きなのか、それとも単に食欲が旺盛なのか………」

 

そんな大和の姿を見て、俊と逞巳が呆れ気味に呟く。

 

「すみません。あの人と同じ特盛餡蜜を5つ」

 

「華さんっ!?」

 

「まさか、それ全部1人で食べる気!?」

 

するとそこで、華がそんな事を口走り、みほが驚愕し、沙織がまさかと言う顔をして尋ねる。

 

「ええ。だってとても美味しそうなんですもの」

 

「相変わらず五十鈴殿の食欲には驚かされます………」

 

「あの身体で何処に入ってるんだ?………」

 

華がそう答えると、優花里と麻子がそう呟き合う。

 

(………やりますね)

 

(そちらこそ………)

 

するとそこで、大和と華の視線が交差し、そうアイコンタクトを交わした。

 

「何!? 今のアイコンタクトッ!?」

 

「………話を戻しても宜しいでしょうか?」

 

沙織がツッコミを入れる中、弘樹が話の軌道の修正に掛かる。

 

「ああ、そうだったね」

 

「それじゃあ改めて、君達の目的を聞こうか」

 

清光と宗近がそう言う。

 

「我々はこの学園のとある生徒の事で用があり、来ました」

 

「その生徒と言うのは?」

 

「………本多 美嵩と言う者だ」

 

「!? ええっ!?」

 

「本多さん………」

 

「美嵩さんに?」

 

「おやおや、コレはコレは………」

 

弘樹が美嵩の名を出すと、吹雪、大和、清光は驚きを露わにし、宗近は面白そうな顔をする。

 

「知っているんですか?」

 

「そりゃあ、もう」

 

「本多さんはこの学園でも有名人ですから」

 

飛彗がそう言うと、吹雪と大和がそう答える。

 

「でも確か、本多くんは数日前から休学になっている筈だが………」

 

「いや、正確には彼女の事が聞きたいワケではないよ」

 

宗近がそう言うと、迫信がそう割り込む。

 

「? 如何言う事です?」

 

「実は………」

 

清光に問われ、迫信が事の詳細を説明する。

 

「何だ、君達が用が有るのは本多くんじゃなくて、神狩くんの方か」

 

「それならそうと言ってよ」

 

「何や? 白狼の事も知っとるんか?」

 

宗近と清光の言葉を聞き、豹詑がそう尋ねる。

 

「ああ、神狩くんは良くこの学園艦にも来てくれていたからね。私達以外にも、彼と親しくしていた生徒は多いよ」

 

「ええっ!? そうなんですかっ!?」

 

「意外な交友関係だな………」

 

白狼が良く冥桜学園を訪れていたと言う事に、優花里が驚きの声を挙げ、海音も意外そうな顔をする。

 

「では、彼が今居る場所については?」

 

「申し訳ありません」

 

「私達は何も………」

 

肝心の質問をする迫信だったが、大和と吹雪は申し訳無さそうな顔をする。

 

「そうですか………」

 

それを聞いて、優花里が落ち込んだ様子を見せる。

 

「あの! もし宜しければ、私達の学校へ行って、他の皆さんにも聞いてみましょうよ!」

 

するとそこで、吹雪がそんな提案をして来た。

 

「良いんですか?」

 

「ハイ! 神狩さんの友達なら、私達にとっても友達ですから」

 

みほの問いに、吹雪は屈託の無い笑顔を浮かべてそう返す。

 

「ありがとうございます!」

 

「助かるよ………」

 

みほは吹雪に向かって頭を下げ、迫信はお馴染みの扇子を広げて口元を隠すポーズを取った。

 

その後、皆は注文した甘味を食し終わると、吹雪達の学園………

 

『冥桜大学付属鎮守府学園』へと向かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜大学付属鎮守府学園・玄関………

 

「およ、吹雪ちゃん、皆!………およ? お客さんなのです?」

 

吹雪達の学校………『冥桜大学付属鎮守府学園』の玄関で、吹雪達と大洗機甲部隊の面々を迎えたのは、白地に暗緑色のセーラー服の上に黒の長袖上着を着た、優花里の様に触り心地が良さそうなショートヘアをした、少し変わった口調の少女だった。

 

「こんにちは、『睦月』ちゃん」

 

「こちらは、大洗機甲部隊の皆さんだよ」

 

その少女………『柴田 睦月』に向かって、大和と吹雪がそう言う。

 

「おお~! 大洗と言えば、今戦車道・歩兵道で驚異の快進撃を続けている、あの!」

 

「ど、どうも………」

 

それを聞いた睦月は、キラキラとした目で大洗機甲部隊の一同を見やり、その視線を受けたみほが照れた様子でそう返す。

 

「それより、睦月ちゃん。ちょっと聞きたいんだが………」

 

「神狩くんの行き先を知らないか?」

 

とそこで、宗近と清光が、睦月にそう問い質す。

 

「にゃ? 神狩くんの? さあ? 睦月はちょっと分からないのです………あ! そうにゃし! 今教室に、『夕立』ちゃんが居るから、ちょっと聞いてみるのです」

 

睦月はそう言うと、校舎の中に入って行き、吹雪達と大洗機甲部隊の面々も、その後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜大学付属鎮守府学園・某教室………

 

「夕立ちゃん、居る?」

 

「ぽい?」

 

睦月がそう言って教室のドアを開けると、室内の椅子の1つに腰を掛け、本を読んでいた亜麻色のストレートヘアを背中まで長く伸ばしており、前髪は斜めに軽く揃えてカットして、上のところで黒い細身のリボンで結んでいるグリーンの瞳をした少女………『宮本 夕立』が反応する。

 

「睦月ちゃん、夕立に用事っぽい?」

 

「ううん、用が有るのはこの人達ぞよ」

 

夕立がそう尋ねると、睦月は大洗機甲部隊の面々を示す。

 

「初めまして、私達は………」

 

みほが代表して、自分達の紹介と目的を説明する。

 

「白狼が今居る場所~?」

 

「うん、夕立ちゃん、何か知らない?」

 

「さあ~、知らないっぽい~?」

 

「どっちなんだ?」

 

夕立のぽいぽいと言う口調に、重音が呆れる様に呟く。

 

「アレ、お客さん? ねえねえ、夜は好き?」

 

「姉さん、失礼ですよ」

 

とそこで今度は、廊下の方に、茶髪のセミロングをツーサイドアップにし、髪と同じ茶色い瞳をした少女と、その少女を姉と呼ぶ長髪の先端を縛り、後頭部に緑のリボンを付けている少女が現れる。

 

「あ、『川内』さん、『神通』さん」

 

「お疲れ様です!」

 

「お疲れっぽい~」

 

その2人の少女………『服部 川内』と『細川 神通』に向かって、吹雪、睦月、夕立の3人が、畏まって挨拶する。

 

「およ? 『那珂』ちゃんは?」

 

そこで睦月が、川内と神通にそう尋ねる。

 

「アレ? さっきまで居たんだけどなぁ?」

 

川内がそう言った瞬間………

 

「那珂ちゃんでぇ~すっ!!」

 

「うん?………」

 

そう言う声が外から聞こえて来て、一同は窓から外を見やる。

 

「冥桜のアイドル! 那珂ちゃんのライブやりま~す!! 皆! 来ってね~~っ!!」

 

そう言いながら、手作りと思われるビラを、道行く生徒達に配っているシニヨンヘアの少女………『出雲・那珂・阿国』の姿が在った。

 

「あの子もスクールアイドルなんだ」

 

「アレが那珂ちゃんさん?」

 

「妹もスミマセン………」

 

そんな那珂の姿を見て聖子とみほがそう呟き、神通が謝罪して来る。

 

「それで、貴方方は?」

 

「我々は………」

 

川内が大洗機甲部隊の面々について尋ねると、迫信が代表して自己紹介と目的を述べる。

 

「そうでしたか、神狩さんを探して」

 

「アイツ、此処の学園以外にも仲間が居たんだ」

 

(この人達も神狩殿の知り合いですか………)

 

事情を聞いた神通と川内がそう言い合うのを聞いて、優花里が内心でそう思う。

 

「それで、彼の行く先に心当たりは?」

 

「いや、悪いけど、ちょっと分からないかなぉ………」

 

迫信が尋ねると、川内はそう返す。

 

「生徒会の方達なら、何か知ってるかも知れません。案内しますね」

 

「何だか、盥回しにされてる様な気がするな………」

 

「仕方ないですよ、司馬さん」

 

神通はそう言い、冥桜学園の生徒会室へと案内を始めるが、盥回しをされている感を感じた俊がそう愚痴り、清十郎が宥めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園・生徒会室前………

 

吹雪達と大洗機甲部隊の一同が、生徒会室前へと辿り着くと、2人の女性が丁度生徒会室から退室して来たところだった。

 

「アラ、吹雪ちゃん達………お客さんですか?」

 

2人の女性の内、黒髪のショートヘアの女性がそう言って来る。

 

「こんにちは、『高雄』さん」

 

「『愛宕』さんもこんにちはっぽい?」

 

吹雪が『高雄』と呼ばれた女性にそう返すと、夕立はもう1人の、『愛宕』と呼んだ金髪のロングヘアの女性にそう言う。

 

すると………

 

「ぱんぱかぱーんっ!!」

 

『愛宕』と呼ばれた女性の方が、突如両腕を広げる様なポーズを取ってそう口走った。

 

「「ぱんぱかぱーんっ!!」」

 

「ぱんぱかぱーんっぽい!」

 

すると、吹雪、睦月、夕立が同じ事をし返した。

 

「な、何だ?………」

 

「挨拶………なのか?」

 

その様子に、大洗機甲部隊の面々は困惑する。

 

「デ、デカイ! あんなデカイのは初めて見たぜっ!!」

 

そんな中で、了平は『高雄』と『愛宕』の身体の一部分………

 

とどのつまりは胸を見て、大興奮した様子を見せる。

 

「!? へぶっ!?」

 

「…………」

 

だがその瞬間に、弘樹に後頭部を掴まれ、思いっきり壁に顔面を叩き付けられた!

 

「………学友が大変な失礼を働きました。深くお詫び申し上げます」

 

『高雄』と『愛宕』の両名に向かって、深々と頭を下げる弘樹。

 

「い、いや、そこまでしなくても………」

 

「そうよ~。それぐらい、男の子なら当然の反応じゃない」

 

弘樹の容赦無い制裁と深い謝罪に困惑する『高雄』と、気にするどころかノリノリな様子を見せる『愛宕』

 

「あ、申し遅れました。私、『北条 高雄』です。こちらは妹の………』

 

「『北条 愛宕』よ。よろしくね~」

 

そこで、場の空気を変える様に『北条 高雄』と、その妹の『北条 愛宕』は自己紹介をする。

 

「御丁寧にどうも。我々は………」

 

再び迫信が代表し、挨拶と自己紹介、事情の説明を行う。

 

「そう、神狩くんの事で………」

 

「丁度生徒会長も居るし、聞いてみたら良いんじゃないかしら」

 

「ハイ、それで案内して来たんです」

 

高雄と愛宕がそう言うと、吹雪がそう返す。

 

「生徒会長方は中に居ます。粗相の無い様にお願い致します」

 

「あまり大人数で入っても迷惑だろう。何名か代表を絞ろう」

 

高雄が続けてそう言うと、迫信は生徒会室に入室するのは代表のみにしようと提案。

 

そして代表者は両校の生徒会長である迫信と杏、それに総隊長のみほとその近衛として弘樹、そして白狼の事を誰よりも知りたい優花里と飛彗と言う人選になった。

 

 

 

 

 

冥桜学園・生徒会室………

 

室内にノックの音が響く。

 

「入れ」

 

「失礼致します」

 

入室の許可が下りると、迫信を先頭に、代表の一同が入室する。

 

室内には、生徒会長の机と思われる机に付いて居る黒いロングストレートの髪の女性と、その傍に控えている茶髪のショートヘアの女性。

 

それに、何かしらの報告をしていたと思われる黒髪に翠眼の少年。

 

そして、片隅のデスクで、書類を整理していると思われるメガネの女性の姿が在った。

 

「私が冥桜学園の生徒会長、『織田 長門』だ」

 

「副会長の『森 陸奥』よ」

 

机に付いて居る黒いロングストレートの髪の女性『織田 長門』と、傍に控えていた茶髪のショートヘアの女性『森 陸奥』がそう自己紹介する。

 

「僕は『堀川国広・歳三』です。そちらは書記官の『毛利 大淀』さん」

 

「どうも………」

 

黒髪の男性『堀川国広・歳三』もそう自己紹介し、メガネの女性『毛利 大淀』の事も紹介する。

 

大淀は仕事が忙しいのか、軽く会釈だけすると、また書類に向き直る。

 

「初めまして、大洗男子校生徒会長の神大 迫信です」

 

「大洗女子学園生徒会長の角谷 杏だよ~」

 

「に、西住 みほです」

 

「舩坂 弘樹です」

 

「秋山 優花里であります」

 

「宮藤 飛彗と言います」

 

それに答える様に、迫信達も自己紹介をする。

 

「早速だが、君達が我が学園に来た目的を教えてもらおうか」

 

それを聞き終えた長門は、少々威圧気味にそう問い質す。

 

「それは………」

 

迫信はそれを気にする事なく、事情を説明する………

 

「………そうか。神狩の奴の行方を追ってか」

 

「あの子も良い戦友を持ったじゃない」

 

「ええ、ココまで追って来てくれるなんて、良い人達ですよ」

 

事情を聞き終えた長門、陸奥、堀川国広がそう言い合う。

 

「それで………彼の行方については?」

 

「残念ながら、我々には心当たりが無い」

 

迫信が肝心の質問をするが、長門は知らないと返す。

 

「「…………」」

 

途端に、優花里と飛彗の顔に影が差す。

 

「長門、『金剛』達なら知ってるんじゃない? 美嵩と結構親しかったし」

 

するとそこで、陸奥がそんな事を言って来る。

 

「『金剛』?」

 

「誰ですか?」

 

「この学園の生徒ですよ。武道の学園である我が校でも、特に優れた武術者であると知られています」

 

弘樹とみほがそう言うと、堀川国広がそう答える。

 

「へえ~、凄い人なんだねぇ」

 

「きっと傍から見ても憧れる様な方なのでしょうね」

 

杏がそう言い、大洗の武人達を見ている優花里が、『金剛』なる人物への想像を膨らませる。

 

と、その時………

 

「て~~~~~と~~~~~~く~~~~~~~っ!!」

 

何やら女性の声と思わしき声と共に、地震の様な足音と振動が生徒会室に伝わって来る。

 

「な、何っ!?」

 

「!?………」

 

みほが驚き、弘樹も戦闘態勢を取る。

 

その瞬間!!

 

生徒会室のドアが勢い良く開かれ、ブラウン色のロングヘアに両サイドにお団子を結ったアホ毛が生えている女性が姿を見せる。

 

「バァァァニングゥ! ラァァァヴ!!」

 

そして跳び上がりながら回転し、大淀の頭に飛び付いた。

 

「提督~~!………! アレッ!? コレは提督じゃなくて、Oh!淀ですか!?」

 

「大淀です………」

 

飛び付かれたままの状態で書類整理を続けていた大淀が、若干不機嫌そうにそう答える。

 

「生憎、提督は席を外している」

 

「SHIT! でも次は負けまセン! 提督のハートを掴むのは私デース!!」

 

そう言って燃え上がる様子を見せる女性。

 

「………ひょっとして、この方が? 『金剛』さん?」

 

「その様だな………」

 

飛彗が呆気に取られた様に呟くと、弘樹もそう言いながら戦闘態勢を解く。

 

「ところでこの人達は?」

 

「別の学園艦から来た連中だ」

 

「大洗からだそうよ」

 

『金剛』と思われる女性が、漸く弘樹達の存在に気付くと、長門と陸奥がそう答える。

 

「と言う事は、YOU達がミッキーの言ってたNEWナマクラ達ネ!」

 

「ミッキー?」

 

「本多 美嵩の事だろうね」

 

杏がミッキーと言う人物に首を傾げると、迫信が美嵩の事であると推察する。

 

「な、なまくらって………」

 

「まあ、いずれ磨き上げれば、立派になれるっていうしネー。でも立派さなら私だって負けないネー!」

 

と、『金剛』と思わしき女性は、みほ達に向き合ったかと思うと………

 

「金剛隊総隊長! 英国で生まれた帰国子女! 『豊臣 金剛』デース!」

 

「同じく副隊長! 恋も戦いも負けません! 『石田 比叡』です!」

 

「同じく第2副隊長! 『島 榛名』! 全力で参ります!」

 

「同じく総参謀長! 隊の頭脳! 『竹中 霧島』!」

 

「「「我等! 金剛4姉妹」」」

 

「デース!!!」

 

何時の間にか現れた3人の女性と共に、名乗りを挙げてポーズを決めた!

 

「成程………貴方方が金剛さんとその姉妹の方ですか」

 

「時々弘樹くんのその冷静さが怖くなるよ………」

 

唖然としていた一同の中で、怖いくらいに冷静な弘樹の様子に、みほがそうツッコミを入れる。

 

「全く………何の積りだ?」

 

米神の辺りを押さえながらそう問い質す長門。

 

「それが、長い修行を終えての帰還と言う事で………」

 

「『提督』にアピールしようと、金剛お姉さまのテンションが上がりまくりまして」

 

すると、『大谷 榛名』と『竹中 霧島』がそう答える。

 

「そもそも、比叡達は何時から此処で用意をしていた」

 

「それは勿論! コッソリ迅速に忍び込んで!」

 

「無駄に高い隠密スキルだね~」

 

『石田 比叡』がそう言うと、杏も呆れ気味にそうツッコミを入れる。

 

「あの………『提督』って?」

 

とそこで、みほが先程から会話に出ている『提督』なる人物の事について尋ねる。

 

「我々の長だ。この学園では、在学中の学生の中で最強の強さを持つ者を『提督』と呼び、生徒会長の上に君臨させる風習がある」

 

「武闘派の冥桜学園で最強の存在か………興味深いね」

 

長門がそう答えると、迫信が広げた扇子で口元を隠しながらそう言う。

 

「それで、YOU達は何をしに来たデスかー?」

 

「実は、神狩 白狼の事に付いて聞きたいのだが………」

 

改めて『豊臣 金剛』がそう問い質すと、迫信が事情を説明する。

 

「Ohー、そうですか………でも、残念ながら、私達もホローの行方は知らないデース」

 

「また駄目ですか………」

 

「金剛お姉様。ひょっとすると、『島風』ちゃんなら知っているかも知れません」

 

またもや空振りに終わったかに見えたが、そこで霧島がそんな事を言って来た。

 

「『島風』?」

 

「最近、彼女が神狩くんに会ったと言う話を聞いた事あります」

 

「成程! ぜかましなら知ってるかも知れまセーン!」

 

「では、申し訳無いが、すぐに呼び出してもらえないだろうか?」

 

「それは無理ね」

 

迫信が『島風』なる人物の呼び出しを願うが、陸奥がそう返す。

 

「? 如何してですか?」

 

「島風ちゃんは非常に自由奔放な子で………呼び出しても気分が乗らなければ来ないし、何処に居るかも把握出来ていないんです」

 

「それは自由と言うより無責任なんじゃないですか?」

 

榛名の説明に、優花里がそうツッコミを入れる。

 

「仕方が無い………兎に角、その『島風』と言う人物を探すしかないな」

 

弘樹がそう言い、『島風』なる人物の一大捜索が開始されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白狼の行方を知る美嵩の友人が居ると思われる冥桜学園に来た大洗の一同。
そして意外な事に、白狼も冥桜学園と関わりが深い事を知る。
行方を知る人物を探して回る大洗の一同だが、盥回しにされる………
そして最後の希望を掛けて………
『島風』なる生徒の捜索に出るのだった。

今回は艦娘登場回ですね。
次回も更に艦娘が登場します。
流石に全員出すのは無理なので、アニメ版で中心だったキャラ+αでお送りします。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第146話『島風ちゃんと第六駆逐部隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第146話『島風ちゃんと第六駆逐部隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗から去った白狼の行方を探るべく………

 

美嵩の母校であり、白狼も頻繁に出入りしていたと言う、武道の名門校………

 

『冥桜学園』を訪れた大洗機甲部隊。

 

しかし、白狼や美嵩との面識を持つ者は多く居れど………

 

肝心の行方を知る者は1人も居なかった………

 

大洗の一同は、藁にも縋る思いで、最後の砦である………

 

『猿飛 島風』の捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園・冥桜大学付属鎮守府学園の敷地内某所………

 

「探すって言っても、こんなに広い学園からどうやって捜せばいいのよ~」

 

手分けして島風を捜索していた大洗機甲部隊メンバーの中で、固まって行動していたあんこうチームの沙織が愚痴る様にそう呟く。

 

「今、他の生徒の皆さんにも連絡して捜索して貰ってますから。必ず連絡がありますよ」

 

そこで、そのあんこうチームに同行していた吹雪がそう言って来る。

 

「すみません、ご迷惑をお掛けして………」

 

「いえ、そんな、ご迷惑だなんて。私達も、白狼さんの行き先について知りたいですし」

 

華が謝罪をすると、吹雪はとんでもないと返す。

 

「しかし、手掛かりが全く無いぞ。如何すれば良いんだ?」

 

「やっぱり、虱潰しに探すしかないと思います。大変ですが、頑張っていきましょう」

 

麻子が手掛かり無しで探すのは骨が折れると言うが、みほは檄を飛ばす様にそう返す。

 

(神狩殿………)

 

そして、白狼が見つかるか如何かの瀬戸際な優花里は、人一倍力が入った様子で、島風を捜索するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

冥桜学園・校門前………

 

「学校の外に居ると言う可能性も有るな………しかし、如何探したものか………」

 

島風が学校の敷地外に居る可能性に思い至った弘樹が、校門付近で佇んでいたが、やはり手掛かりが全く無い為、足が進まなかった。

 

と、その時………

 

「あ、あああ、あの!」

 

「ふ、舩坂 弘樹さんですか!?」

 

「ん?………」

 

不意に背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹が振り返ると、そこには………

 

灰色の陸軍制服を思わせる上着にプリーツスカート姿で軍帽を被り、背曩を背負った弘樹より少し年下ぐらいの少女と………

 

左胸部分に〇で囲まれた『ゆ』と言う文字のプリントが入ったジャージを着た、小学生ぐらいの少女の姿が在った。

 

「小官は舩坂だが、君達は?」

 

「も、申し遅れました! 自分は、『今村 あきつ丸』と申します!」

 

「『宮崎 まるゆ』です!」

 

弘樹が尋ねると、軍帽の少女は『今村 あきつ丸』、小学生ぐらいの少女は『宮崎 まるゆ』と名乗った。

 

「生きている英霊・舩坂 弘軍曹殿の子孫とお会い出来て、光栄です!」

 

「光栄です!」

 

更にそう言葉を続け、弘樹に向かって陸軍式敬礼をする2人。

 

「ああ、そう言う事か………そう畏まらなくても良いぞ」

 

「何を仰いますか! 舩坂 弘殿は大日本帝国陸軍の誇り! その子孫であらせられる舩坂 弘樹殿をぞんざいにするなど出来ません!」

 

「出来ません!」

 

納得が行った様な顔をしながら2人にそう言う弘樹だったが、あきつ丸とまるゆは直立不動の態勢を取る。

 

「むう………」

 

そんな2人の姿に、弘樹は少し困った様に学帽を被り直す。

 

「時に舩坂殿! 聞けば、島風の事を探していると!」

 

「是非、私達にもお手伝いさせて下さいっ!!」

 

そこで再び陸軍式敬礼をしながら、あきつ丸とまるゆが弘樹にそう言う。

 

「それはありがたい。小官は学校の外を探そうとしていたところだ。取り敢えず、この辺りを手分けして捜索してみてくれるか?」

 

「ハッ! 了解致しました!!」

 

「了解致しましたっ!!」

 

あきつ丸とまるゆはそう言うと、すぐに島風を探しに出る。

 

「小官も行くか………」

 

そしてそれに続く様に、弘樹も足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び、あんこうチームの方は………

 

「見つかりませんねえ………」

 

「あ~、もう疲れたよ~!」

 

未だに島風を発見出来ず、華が呟くと、沙織が両手を上げてそう叫ぶ。

 

「す、すみません………」

 

「あ、いや、別に吹雪ちゃんのせいじゃないからね、うん!」

 

そんな沙織の姿を見て申し訳無く思ってしまう吹雪と、その吹雪を慌ててフォローする沙織。

 

「やはりこの広い学園艦を手掛かりも無しに捜索するのは無理があるぞ………」

 

「ですが、見つけないと神狩殿の行方が………」

 

「う~~ん………」

 

麻子と優花里がそう言い合うのを聞いて、頭を捻るみほ。

 

「そんなにしかめっ面してたら、プリティーなフェイスが台無しですよ、ミポリー」

 

するとそこで、そんなみほにテーカップに入った紅茶を差し出した者が居た。

 

「あ、ありがとうございます………!? えっ!?」

 

反射的に受け取ったみほだったが、すぐにティーカップが出された事に驚く。

 

そこには、何処から持って来たのか、イギリスの茶菓子の乗ったテーブルの椅子に腰掛け、紅茶を飲んでいる金剛の姿が在った。

 

比叡、榛名、霧島も、同じ様に着席して紅茶を嗜んでいる。

 

「何やってるのぉ!? 島風ちゃんを探してくれてたんじゃないのぉっ!?」

 

「今はティータイムの時間デース。このタイムは何人たりとも冒せないのデース」

 

沙織がそうツッコミを入れるが、金剛は優雅に紅茶を飲みながらそう返す。

 

「金剛お姉さま、御手製のスコーンです」

 

「大盛りでーっ!」

 

「榛名、全力で頂きます」

 

霧島、比叡、榛名もすっかりくつろぎムードである。

 

「すみません。金剛さん、イギリスに長期留学に行っていたので、イギリスの習慣が抜けなくて………」

 

「この学校より、聖グロリアーナに行った方が良いんじゃないのか?」

 

吹雪が申し訳無さそうに謝罪すると、麻子からそうツッコミが入る。

 

と、その時………

 

「あ! 良い匂い~! 私も食べる~っ!!」

 

そう言う台詞と共に、ウサギ耳のカチューシャをした少女が駆け寄って来て、空いていた椅子に腰掛けた。

 

「あ! 『島風』ちゃん!!」

 

その少女………『猿飛 島風』の姿を見た吹雪がそう声を挙げる。

 

「えっ!? あの子がですか!?」

 

「こんな簡単に………」

 

「私達の苦労は何だったの~っ!!」

 

捜していた相手がアッサリと自分から出て来た事に、あんこうチームは思わず脱力するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

冥桜学園・甲板都市の一角………

 

「舩坂殿!」

 

「おお、今村くん」

 

甲板都市部で島風を捜索していたあきつ丸と弘樹が合流する。

 

「如何だった?」

 

「申し訳ありません。見つけられませんでした………」

 

「そうか………捜索範囲を広げるか」

 

あきつ丸からの報告を聞いた弘樹が、顎に手を当てて思案する。

 

「………ん? そう言えば、宮崎くんは如何した?」

 

「いや、自分とは別に捜索していたので………」

 

とそこで、弘樹がまるゆの姿が無い事に気付くが、別々に捜索していた為、あきつ丸は知らないと言う。

 

すると………

 

「返して下さいっ!!」

 

「! あの声は!?」

 

「まるゆくんだな………何かあったのか?」

 

まるゆにモノと思わしき声が聞こえて来て、すぐにあきつ丸と弘樹は、その声が聞こえて来た方向へと向かった。

 

 

 

 

 

甘味処・間宮の前………

 

「返して下さい! それはまるゆのお財布なんです!!」

 

「オイオイ、嬢ちゃん。言い掛かりは止せよ。コレがお嬢ちゃんの財布だって証拠はあんのかよ」

 

そこには、如何にも不良と言った感じの男子数名の中で、リーダー格と思われる男が、右手で頭上に掲げる様に持っている財布を必死に取ろうとしているまるゆの姿が在った。

 

「貴方達! 何をしているの!?」

 

と、騒ぎを聞いた間宮が店から出て来て、不良達にそう言い放つ。

 

「ウルセェッ! 引っ込んでろっ!!」

 

「じゃねえと店をブッ壊すぞ!!」

 

「うっ!………」

 

しかし、不良達は逆に、鉄パイプやバットを突き付けて、間宮を威嚇する。

 

「! 彼等は………」

 

「恐らく、他校の不良生徒であります。冥桜学園は観光地として常に一般開放しているのですが、近頃はああ言った輩まで入り込んで来る様になっていまして………」

 

そこで、弘樹とあきつ丸が駆け付ける。

 

「返して下さいっ!!」

 

「ええいっ! ガキだと思ってりゃあ、調子に乗りやがってっ!!」

 

すると、しつこく食い下がるまるゆに腹が立ったのか、リーダー格の不良が、まるゆを蹴飛ばした!

 

「!? キャアアアッ!?」

 

勢い良く、背中から地面に倒れるまるゆ。

 

「う、ううう………」

 

倒れたままのまるゆの目尻に涙が浮かぶ。

 

「! まるゆ!」

 

「!!」

 

あきつ丸が叫び、弘樹は外道の所業に我慢出来ず、英霊に手を掛ける。

 

と、その時………

 

1人の黒いマントを羽織り、右目に眼帯をした人物が、不意にその場に姿を見せた。

 

「あん?………!? ぐあっ!?」

 

その人物は、問答無用でリーダー格の不良の襟首を右手で掴んで引き寄せ、そのまま宙吊りにする。

 

そして、左手でまるゆの財布を持っていたリーダー格の不良の右手首を握ったかと思うと………

 

そのまま力任せに圧し折った!!

 

「!? ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

手首を圧し折られたリーダー格の不良は悲鳴を挙げ、取り巻きの不良達も戦慄する。

 

圧し折られた手からまるゆの財布が零れ、倒れていたまるゆの傍に転がる。

 

「! あ、貴方は………『木曾』さん!!」

 

と、その人物を見たまるゆがそう叫ぶ。

 

黒マントの人物………

 

それは吹雪達と同じく、冥桜大学付属鎮守府学園の生徒………

 

『長宗我部 木曾』だった。

 

「木曾殿!」

 

「彼女もこの学園の生徒か………」

 

あきつ丸も声を挙げ、弘樹は英霊に掛けていた手を離す。

 

「間宮さん、ラムネをくれ」

 

「! あ、ハイ!」

 

木曾は、店の外に出たままだった間宮にそう言い、間宮は店内へ戻る。

 

「木曾さん………」

 

財布を取り戻したまるゆは、羨望の眼差しで木曾を見上げる。

 

「お待たせしました」

 

とそこで、間宮がラムネの瓶を持って戻って来る。

 

木曾はリーダー格の不良を持ち上げたまま、左手でラムネの瓶を取ると、リーダー格の不良に見せつける様にしながら片手で栓を空ける。

 

「一杯やれよ」

 

「お、俺は炭酸が飲めないんだ! 勘弁してくれっ!!………むぐっ!?」

 

炭酸が飲めないと喚くリーダー格の不良だったが、木曾は容赦無く、ラムネをリーダー格の不良の口に捻じ込み、流し込む!!

 

「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! 口と喉が焼ける~~~っ!!」

 

ラムネの瓶が空になると、漸くリーダー格の不良は解放され、情けない姿で退散して行く。

 

「リーダーッ!?」

 

「ま、待って下さい~っ!!」

 

他の不良達も、リーダー格が逃げ出したのを見て、慌てて逃げて行くのだった。

 

「やれやれ………最近はああいうのが多くて困るぜ」

 

「ありがとうございます、木曾さん!」

 

皮肉る様な笑みを浮かべる木曾に、財布を取り戻したまるゆが礼を言う。

 

「大丈夫だったか?」

 

木曾はそんなまるゆの頭を撫でてやりながらそう言う。

 

「木曾殿! まるゆを救っていただき、感謝致します!」

 

とそこで、弘樹を伴ったあきつ丸が寄って来て、陸軍式敬礼をしながら木曾にお礼を言う。

 

「おう、あきつ丸も居たのか。で、そっちのはどいつだ?」

 

木曾があきつ丸に気づくと、その隣の弘樹にも気づいてそう尋ねる。

 

「初めまして。小官は学園艦・大洗の大洗国際男子校の舩坂 弘樹と申します」

 

「大洗? あの戦車道・歩兵道の全国大会で最大のダークホースって言われている? そんな奴が何でウチに居るんだ?」

 

弘樹がそう自己紹介すると、木曾はそう疑問を呈する。

 

「それは………」

 

そんな木曾に対し、弘樹は事情を説明するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜大学付属鎮守府学園の敷地内某所………

 

余りにもアッサリと姿を見せた島風を加え、金剛姉妹達と共にティータイムと洒落込んでいるあんこうチームと吹雪。

 

「えっ? 白狼の今居る場所?」

 

「うん、何か知らない、島風ちゃん?」

 

スコーンを齧っていた島風に、吹雪がそう尋ねる。

 

「ううん、知らないよ」

 

「そう、ですか………」

 

だが、最後の希望と思われた島風も知らないと言い、優花里は完全に落ち込んだ様子を見せる。

 

「ゆかりん! しっかり!!」

 

沙織が慌ててフォローする。

 

「………白狼は約束を守る奴だよ」

 

不意にそこで、島風がそう語り出す。

 

「けど、約束を守る為に別の約束を破っちゃう事もあるの。それで周りの人に迷惑掛けて、悲しませたりして………だから、白狼は約束を破る事の結果を恐れてるの」

 

「白狼さんにそんな事が………」

 

それを聞いた華がそう呟く。

 

「でも、私は白狼に感謝してるよ。ぼっちだった私の最初の友達になってくれたんだ」

 

「私にとっても、ホワイトウルフは大切なフレンドね。彼に助けられた事もあるデース!」

 

「本当に、この学園の奴等からは慕われてるんだな………」

 

島風と金剛がそう言うのを聞いて、麻子が意外そうに呟く。

 

「では、皆さんからも神狩さんに大洗に戻る様に頼んでくれませんか?」

 

そこでみほは、金剛達にも白狼の説得を手伝って貰いたいと願い出る。

 

しかし………

 

「OH、そうしたいのは山々ですが………」

 

「美嵩が絡んでるんじゃ難しいよぉ」

 

金剛と島風は申し訳無さそうにそう返す。

 

「本多殿は、一体何者なのでありますか?」

 

「前にウチに来た時に、綿貫くんを凄い感じに殴り飛ばしてたけど………」

 

そこで、優花里が冥桜学園での美嵩の事について尋ね、沙織が以前に美嵩が了平を殴り飛ばした時の事を思い出しながらそう言う。

 

「美嵩は、今我が校で上位の強さを誇る生徒デース」

 

「恐らく、私達が束になって掛かっても危ういでしょうね………」

 

金剛がそう答えると、霧島がメガネをクイッと上げながらそう言う。

 

「そ、そんなに強いんですか?」

 

「イエース。私達のネームについて、何か気になる事はありませんか?」

 

みほが驚いていると、今度は金剛がそんな事を聞いて来た。

 

「名前ですか?………」

 

「えっと、真田 吹雪ちゃんに、豊臣 金剛さん、石田 比叡さん、島 榛名さん、竹中 霧島さん………アレ? コレって?」

 

「戦国時代の武将の名が入っているな………」

 

華が首を傾げ、沙織が金剛達のフルネームを繰り返していて何かに気づき、麻子がそう指摘する。

 

「イエース! 我が校では達人レベルに達した生徒には戦国の武将や歴史の偉人の名をソウルネームとして与えられるのデース!」

 

紅茶に口を付けながら、金剛がそう説明する。

 

「そして美嵩のソウルネームは『本多』………つまりはそう言う事デース」

 

「!? ま、まさか………『本多 忠勝』ですか!?」

 

優花里が驚愕の声を挙げる。

 

 

 

 

 

『本多 忠勝』

 

徳川 家康に仕えた武将であり、徳川四天王の1人である。

 

生涯57回の合戦に参加したが、その全てに於いて傷を負う事無く、無傷だったと言う逸話が有る。

 

その豪傑ぶりから戦国最強の武人と言われており、『徳川には過ぎたるものが二つあり、唐のかしらに本多 忠勝』と言う狂歌まで存在する。

 

 

 

 

 

「それは強い筈だ………」

 

「あんなに可憐な方ですのに………」

 

「いや、華。何処を如何見たらそうなるの?」

 

麻子がそう呟き、華が若干センスがズレた発言をし、沙織がツッコミを入れる。

 

「カレン?………! Oh! そうデースッ!!」

 

「キャアッ!? ど、如何したんですか!?」

 

とそこで、金剛が何かを思い出したかの様に声を挙げ、みほがそれに驚きながら尋ねる。

 

「今度の夏祭りの日に、冥桜学園鎮守府カレー大会が有るのを忘れていました~」

 

「「「「冥桜学園鎮守府カレー大会?」」」」

 

「何だそれは?」

 

何かのイベント名と思われるものを口にした金剛に、みほ、沙織、華、優花里が首を傾げ、麻子がそう尋ねる。

 

「私から説明させていただきます」

 

すると、霧島が金剛に代わる様に説明を始める。

 

「冥桜学園鎮守府カレー大会とは、かなり昔、全国の学校の給食にカレーを盛り込む計画があったのですが、様々な事情により各学校で既に献立が決まっており、中々カレーを盛り込むのが難しかったのです。しかし、関係者の弛まぬ努力によって、夏のこの時期に学校の献立にカレーを盛り込む事が出来たの。そして夏祭りのその日は、丁度カレーを盛り込む事が出来た日で、カレー大会を開く事となったのです」

 

「な、何だか凄く壮大な話になった様な………」

 

霧島の説明を聞いたみほが、思ったよりも壮大な話に困った様な笑みを浮かべる。

 

「優勝者には記念トロフィーが送られる他、夏祭りで優勝したメンバーのカレーが食べ放題になり、更には次の大会までの1年間、優勝したメンバーのカレーが食堂のメニューとして採用されるのです」

 

「結構名誉ある大会なんですね」

 

「私は本場英国式カレーで参加しマース! 優勝は頂きデス! そしたら、私のカレーを1年間提督に………うふふふふふ」

 

優花里がそう言っている横で、金剛は自分が優勝し、自分のカレーが提督に食べられている光景を想像して笑みを浮かべている。

 

「イギリス式………」

 

「大丈夫です! 金剛お姉さまのカレーは美味しいんですよ!」

 

「そうです! それに大会当日は私もサポートに入りますから!!」

 

イギリス仕込みと聞いて、沙織が不安そうな様子を見せるが、榛名と比叡からそんなフォローが入る。

 

「えっ?………」

 

と、比叡が手伝うと言うのを聞いた吹雪が、顔を青くしたが、一同は気づかなかった。

 

すると、そこで………

 

「甘いわね、金剛」

 

「Watts!?」

 

「「「「「??」」」」」

 

不意にそう言う声が聞こえて来て、金剛達とみほ達は振り返る。

 

そこには、黒いロングウェーブヘアで、プロポーションに優れた長身な女性の姿が在った。

 

「わあ~、スッゴイ出来る女の人って雰囲気が有る~」

 

その女性の姿を見た沙織が、そんな感想を漏らす。

 

「Oh! 『足柄』! さっきの言葉、如何言う意味デスかー!」

 

金剛はその女性の事を『足柄』と呼び、食って掛かる。

 

「あの人は?」

 

「『斎藤 足柄』。大学の方の生徒よ。誰よりも貪欲に勝利を求める人でね。『飢えた狼』とも呼ばれているわ」

 

「大した渾名だな………」

 

みほが霧島に尋ねると、霧島は『斎藤 足柄』の事をそう紹介し、麻子がそうツッコミを入れる。

 

「その大会には私も出るわ。ちょっとやそっとじゃ、私のワイルドでハードな極上のカレーに太刀打ちする事なんて出来ないわよ。優勝は私で決まりね」

 

「面白いネ。流石は飢えたウルフと言われる事はありますね」

 

「フフフ………ところでこの人たちは誰なの?」

 

不敵に笑った足柄は、みほ達に気づいてそう尋ねる。

 

「此処のエヴリワンは大洗から来た生徒達ね」

 

「ああ、今開催中の戦車道・歩兵道全国大会の出場校ね。何しに来たかは知らないけど、夏祭りは今度の日曜日よ」

 

「いえ、私達が来たのは………」

 

優花里が足柄に、自分達がこの学園艦を訪れた目的を説明する。

 

「何だ、そう言う事。白狼の事なら知ってるわよ」

 

「えっ!? 本当でありますか!?」

 

「「「「!!」」」」

 

遂に白狼の行方を知る人物が現れ、みほ達は顔を見合わせる。

 

「ええ。ただ、美嵩から聞いたけど居場所ははっきり答えてくれなくて、会話からして心当たりがありそうな単語を幾つか聞いただけだけど」

 

「そ、それで! 神狩殿は今、どちらに!?」

 

「う~ん、教えてあげたい気持ちは山々なんだけど、美嵩に知られたら、後が怖いから流石に言い難いわね」

 

「そ、そんな~………我々がこれだけ苦労をかけたのに、あんまりでありますよ~~っ!!」

 

とうとうそんな弱音の叫びを挙げてしまう優花里。

 

「………なら勝負をしましょう」

 

「「「! しょ、勝負っ!?」」」

 

するとそこで、足柄はそう提案し、優花里、沙織、華は戦慄を覚える。

 

「武道で………ですか?」

 

みほも冷や汗を掻きながらそう尋ねる。

 

「それじゃあ、こっちがアッという間に勝って意味が無いでしょ」

 

しかし、足柄は不敵に笑ってそう返す。

 

「ひょっとして………」

 

「ええ、その通りよ。カレー大会で私に勝つ事が出来たら、白狼の居場所のヒントを教えるわ」

 

そこで麻子が何かに思い至り、足柄が肯定する様にそう言う。

 

「カレー大会でですか………」

 

「オイ、さっきから何の話してるんだ?」

 

と、みほがそう呟いた瞬間に、そう言う台詞と共に2人の女子生徒が姿を見せた。

 

「アラ、『天龍』に『龍田』」

 

1人は、龍の角の様な髪飾りを付け、左目に眼帯をして木刀を携えた少女………『伊達・天龍・政宗』

 

もう1人はその妹で、紫がかった黒のセミロングヘアーと同色の瞳を持ち、左頬には泣き黒子がある少女………『片倉・龍田・景綱』である。

 

「あら~、お客さん~?」

 

「ええ、実はね………」

 

龍田がノンビリとした口調で尋ねると、足柄はみほ達の事を紹介し、カレー大会で勝負する事を説明する。

 

「へえ~、そうなの~」

 

「オイ、待てよ。カレー大会に参加出来るのはウチの学園の関係者だけってルールの筈だぜ」

 

龍田がそう返すと、天龍がそう指摘する。

 

「あ! そう言えば、そうだったわね………」

 

「ええ~~っ!? そんな~っ!?」

 

「それじゃ駄目じゃないですか!!」

 

足柄が思い出した様に呟くと、優花里と沙織がそう声を挙げる。

 

「だったら、こういうハンデなら文句無いかしらね」

 

「ハンデ?」

 

「優勝を狙っているのは私や金剛だけじゃないわよ。他にも何人かの参加者が居るから、その子達のチームにお手伝いとして参加するの」

 

「お! 成程な!!」

 

「確かに~。お手伝いさんを入れちゃいけないってルールも無いし~、ギリギリ大丈夫じゃない~?」

 

天龍が上手い事考えたなと手を叩くと、龍田が間延びした口調でそう言う。

 

つまり、足柄に勝つ為には他の参加者と一緒にカレーを作り勝てば良い、というワケである。

 

「じゃあ、首を洗って待ってる事ね」

 

そう言うと、足柄はその場を後にして去って行った。

 

「凄い自信………」

 

「相当に腕に覚えがあるのでしょうね………」

 

「「「…………」」」

 

その足柄の姿に、沙織と華がそう言い合い、麻子、優花里、みほは黙り込んだ。

 

「ハイ、コレ」

 

するとそこで、龍田がみほ達に何かのプリントを手渡して来た。

 

「? コレは?」

 

「カレー大会の参加者名簿よ」

 

「そん中から組みたい相手を選びな。俺達が話を通しておいてやるぜ」

 

みほがそう尋ねると、龍田と天龍がそう返す。

 

「ありがとうございます」

 

「天龍さんは相変わらず面倒見が良いですね」

 

みほがお礼を言っていると、吹雪が天龍に向かってそう言う。

 

「べ、別にそんなんじゃねえよ………」

 

途端に、天龍は照れた様子を見せて、ぶっきらぼうにそう返す。

 

(((((可愛い人だな………)))))

 

その天龍の姿を見たあんこうチームは、そんな感想を抱くのだった。

 

「そ、そんな事より! 早く参加するチームを決めろよ!」

 

「では、自分はこの人達のチームに参加するであります!」

 

天龍に促され、優花里はプリントの『第六駆逐部隊』と書かれたチームを指差す。

 

「『第六駆逐部隊』?」

 

「優花里さん、如何してこのチームに?」

 

「何だか頼り甲斐の有りそうな名前ですから。何処となく、駆逐戦車の部隊の様にも聞こえますし!」

 

「やっぱり戦車絡みなんだ………」

 

みほが尋ねると、優花里はそう答え、沙織が何時も通りだなと言う顔をする。

 

「じゃあ、私は………『上杉姉妹』チームで」

 

続いてみほが、『上杉 翔鶴』と『直江 瑞鶴』からなる『上杉姉妹』チームを選ぶ。

 

「私は、この『武田組』と言うチームに参加させていただきます」

 

華は、『武田 赤城』、『山本 加賀』からなる『武田組』チームを選ぶ。

 

「じゃあ、私は………」

 

「Hey! サオリン! 良かったら、私達のチームに参加しませんかー?」

 

沙織が参加チームを選ぼうとしたところ、金剛がそう提案して来た。

 

「えっ!? 良いんですか!?」

 

「YESー! 貴方となら上手くやれそうな気がしマース!!」

 

如何やら金剛は、沙織に自分と似た匂いを感じ取った様である。

 

「じゃあ、よろしくお願いします」

 

「なら、私は………お前とで良いか」

 

「お゛うッ! 私?」

 

残った麻子は、島風のチームへ参加を表明する。

 

「麻子、適当過ぎない?」

 

「大丈夫だ、問題無い………」

 

沙織が心配そうに言うが、麻子は全然大丈夫そうじゃない台詞で返す。

 

「よっし、決まりだな! 今言った連中には連絡しておくからな」

 

「当日を楽しみにしてるわね~」

 

「では、ティータイムもそろそろお開きですね」

 

そして、天龍と龍田がそう言うと、金剛がそう言い、ティータイムは終了となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから………

 

あんこうチームは、大洗機甲部隊の一同を1度集結させ、事情を説明。

 

様々な反応が上がりつつも、ココはあんこうチームに任せようと言う結論に到り、あんこうチームを残して、一旦解散となった。

 

そして、残されたあんこうチームの中で………

 

第六駆逐部隊チームへ参加する事になっていた優花里は………

 

天龍からの連絡で、今彼女達が居ると言う、冥桜学園の女子寮の離れにあるキッチンへと向かって居た。

 

 

 

 

 

冥桜学園女子寮・離れにあるキッチン………

 

「此処でありますな………失礼しま~す」

 

漸く離れのキッチンへと辿り着いた優花里は、そう言いながら扉を開けて、キッチン内へと入り込む。

 

「? 誰?」

 

「あ! ひょっとして!」

 

「天龍さんが言っていた………」

 

「秋山 優花里さんなのですか?」

 

優花里を出迎えたのは、中学生くらいの黒いセーラー服を着た4人の女の子だった。

 

「あ、ハイ、そうです」

 

「やっぱり! 初めまして! 『鬼庭 雷』よ! かみなりじゃないわ! そこのとこもよろしく頼むわねっ!」

 

茶色のショートヘアの少女、『鬼庭 雷』がそう挨拶する。

 

「『鬼庭 暁』よ。1人前のレディーとして扱ってよね!」

 

黒に近い濃い紺色のロングヘアに、錨マークの入った黒い帽子を被っている女の子、『鬼庭 暁』が自己紹介する。

 

「『鬼庭 響』だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ」

 

続いて自己紹介して来たのは、白、もしくは銀髪のロングへに暁と同じ帽子をかぶっている少女、『鬼庭 響』

 

「『鬼庭 電』です。どうか、よろしくお願いいたします」

 

そして最後に、茶色のセミロングを結い上げている少女、『鬼庭 電』がペコリと頭を下げる。

 

彼女達は如何やら髪の色や形は違えど、4つ子の姉妹の様だ。

 

「こちらこそ、よろしくお願いするであります」

 

「ところで秋山さん。1つ聞きたいんだけど」

 

「ハイ、何でありますか?」

 

「カレーって如何やって作るの?」

 

「えっ?………」

 

暁からの思わぬ質問に固まってしまう優花里。

 

「まさか皆さん………知らないんですか?」

 

「「「「…………」」」」

 

優花里がそう尋ね返すと、第六駆逐部隊チームは苦笑いを浮かべた。

 

「いや、その………私も母の作るカレーは大好きでしたが、作り方までは………それ以外はレーションばっかりで」

 

「そうなのですか………」

 

「仕方ないわね………図書館に行って調べましょう! 行くわよ、皆!」

 

雷がそう言い、1番にキッチンから出て行く。

 

「ちょっと! 雷! 仕切らないでよ!!」

 

「ま、待って欲しいのです!」

 

その後を、少し慌てて暁と電が追う。

 

「やれやれ………」

 

「先行きが不安になって来たであります………」

 

そんな3人の様子に、響が呆れた様に肩を竦め、優花里は早くも先行きに不安を感じ始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白狼の行方を知っているかも知れない島風を探すあんこうチームだが、金剛達のティータイムでアッサリと発見。
しかし、肝心の白狼の行方は分からなかった。

だが、そこで足柄と名乗る女性が現れ、何と白狼の行方に心当たりがあると言う。
しかし、美嵩の事があるので、容易には教えられないと言い、夏祭りの日に開かれるカレー大会で対決し、勝てたら教えると言って来た。

参加ルールに基づき、様々なチームの元へと向かうあんこうチーム。
その中で優花里は、4つ子の姉妹の『第六駆逐部隊』へ参加するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第147話『夏祭りです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第147話『夏祭りです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼の行方を知る為に訪れた冥桜学園で………

 

遂にそれを知る人物、『斉藤 足柄』と出会ったあんこうチーム。

 

しかし、足柄は只で教える事が出来ないと言い、今度の日曜日………

 

冥桜学園の夏祭りで開かれるカレー大会に出場するチームに助っ人に入り………

 

そのチームで優勝出来たら教える、と言う条件を出して来た。

 

漸く掴んだ白狼の行方の手掛かりを諦めるワケには行かないと………

 

あんこうチームは其々に、参加チームへ助っ人として参戦を決意する。

 

そしてその中で………

 

優花里は4つ子の姉妹、『鬼庭 暁』、『鬼庭 響』、『鬼庭 雷』、『鬼庭 電』から成る………

 

『第六駆逐部隊チーム』に参戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園女子寮・離れにあるキッチン………

 

漸く図書館でカレーの作り方を調べ終わった第六駆逐部隊チームと優花里が、キッチンへと戻って来ていた。

 

カレーの作り方は一般的には、野菜(じゃがいも、にんじん、たまねぎ)の皮を剥き、食べやすい一口大サイズに切っておく。

 

お肉は事前に炒めて、次に玉ねぎも一緒にあめ色になるまでひたすら炒める。

 

続いて、深手のお鍋に切ったジャガイモ、にんじんを炒め、先程炒めた肉と玉ねぎを入れて、水を加え沸騰させる。

 

沸騰したら灰汁を取り、約15~20分煮込む。

 

煮込み終えたら火を止め、ルウを割り入れながら溶かす。

 

そして再び火をつけ、弱火でとろみがつくまで煮込めば至ってスタンダードなカレーライスの出来上がりである。

 

「それじゃあ!………」

 

「作り方も分かったし、作るわよ!」

 

暁が音頭を取ろうとしたところ、それを遮る様に雷がそう宣言した。

 

「ちょっと! 勝手に仕切らないでよ! それは長女である私の仕事でしょ!!」

 

「良いから、私に任せれば良いのよ!」

 

「もう! だから喧嘩は止めるのです~~~~っ!!」

 

そのまま暁と雷が口論になりかけたが、それを見た電が両腕を振り回して制止する。

 

「本当に大丈夫なのでありましょうか………」

 

「…………」

 

その光景を見て、またもや不安になる優花里と、無言で肩を竦める響だった。

 

 

 

 

 

そんなこんなありつつも、如何にか第六駆逐部隊チームと優花里のカレー作りが始まる。

 

優花里は肉を炒める係。

 

雷と電はジャガイモの皮むき。

 

そつなくこなず雷に対し、電は実を削ぎながら皮を剥いてしまい、最後には一口サイズのじゃがいもだけが残った。

 

暁は玉ねぎを剥いて切るものの、玉ねぎと言えばやはり言わずもがな………

 

暁は切りながら涙を流している。

 

玉ねぎは、成分である硫化アリルが鼻から涙腺に刺激し、涙を流してしまうというが、そうとは知らずに玉ねぎの被害を受けた人達は大勢いるだろう。

 

響の方は、にんじんの皮を剥いた後、一口大に包丁で切っていたが、誤って指を切ってしまい、暁達が急いで救急箱を持って治療した。

 

「さ! 後はこのまま良く煮て、具材が柔らかくなるのを待つだけよ!」

 

「ふう~~、やっとでありますかぁ」

 

色々あったが、漸く役割を果たし、鍋に入れ水を加え、煮えるまで待っている状態となる。

 

「シンプル・イズ・ベストね」

 

「実にハラショーだ」

 

「そして良く煮えたら、1度火を止めて、カレー粉を溶かすのです」

 

鍋を見守りながら、具材が煮えるのを待つ第六駆逐部隊チームと優花里。

 

「ま、まだ煮えないのかしら?」

 

「いやいや、暁殿。まだ1分も経ってないでありますよ」

 

と、待つのが苦手なのか、暁がそんな事を口にし、優花里がツッコミを入れる。

 

「そんなに早く火は通らないわ」

 

「なら、もっと強い火力で………」

 

するとそこで、雷と響がそんな事を言い合う。

 

「でも、コレ以上強い火力なんて………! あ! 有るのですっ!!」

 

と、電が何かを思い出した様に声を挙げる。

 

「ああ、アレね!」

 

「成程! アレなら行けるかも!!」

 

「うん………」

 

「えっ? 何でありますか?」

 

暁、雷、響も電が思い出した事を察するが、優花里は首を傾げる。

 

「行くわよ! 皆!!」

 

「だから、仕切らないでよーっ!!」

 

しかし、第六駆逐部隊チームはそんな優花里には応えず、具材の入った鍋を抱えて何処かへと向かう。

 

「あ! 待って下さいっ!!」

 

優花里は慌ててその後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園・たたら場………

 

第六駆逐部隊チームと優花里がやって来たのは、刀剣の材料となる玉鋼を製鋼しているたたら場だった。

 

「こんな所で、一体?………! ま、まさか!? 鍋をたたら炉で熱する気では!?」

 

「そんな事しないわよ!」

 

「そうよ! 刀剣作り修行をしている生徒の人達に怒られちゃうじゃない!」

 

優花里がまさかとそう言うが、暁と雷から否定の返事が返って来る。

 

「ああ、良かった………」

 

「使うのはコッチなのです!!」

 

安堵の息を吐く優花里だったが、そこで電が持って来たのは、火炎放射器だった!!

 

「ええっ!? 何でたたら場に火炎放射器が!?」

 

「炉の温度を一気に上げたい時に使ってるんだ………」

 

驚愕する優花里に、響が淡々とそう説明する。

 

「準備完了なのです!」

 

「それじゃあ、高速クッキング………開始!」

 

「あ! 待って下さいっ!!」

 

唖然としている間に火炎放射器が鍋に向けられ、慌てて止めようとした優花里だったが、時既に遅く、火炎放射器から放たれた猛火が鍋を包み込んだ!

 

「完成なのです!………!? あっ!?」

 

そこで電が見たのは、ボロボロに焦げた鍋………

 

いや、『鍋であった物』の残骸だった。

 

当然、具材も一緒に焼失している………

 

「そりゃそうですよ………」

 

鍋であった物の残骸を見ながらそう呟く優花里。

 

「暁が煮えるのを待てないから………」

 

「あ、暁のせいだって言うの!?」

 

「最初っから私に任せておけば良いのよっ!」

 

「何ですって! 夏祭りカレー大会に出るって決めたのは暁の方なのよっ!!」

 

そこで再び、暁と雷の口論が始まってしまう

 

「ま、まあまあ! 失敗は誰にでもありますからここは穏便に………」

 

「ふ、2人とも悪くないのです! 変な事を思いついちゃった、電が悪いのです………」

 

優花里が止めに入ろうとするが、そこで今度は電が泣き出す。

 

「ああ、電殿! 泣かないで下さいっ!!」

 

「だいだい雷はいつも出しゃばりなのよ! 暁の方がお姉さんなんだからねっ!!」

 

「そのお姉ちゃんが頼りないから私が頑張ってるじゃないっ!!」

 

電を慰めようとする優花里だったが、その間にも暁と雷の口論はヒートアップして行く。

 

「あうう………どうすればいいんでありますか~~~~っ!! 西住殿おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

手の付けられない状況となり、優花里は思わずみほの名を叫んだ。

 

と、その瞬間!!

 

「………てい」

 

「あう!」

 

「キャッ!?」

 

「ふにゃ!」

 

「はわっ!?」

 

突如響が、暁、雷、電、優花里の頭を軽く叩いた。

 

「少し落ち着こう………」

 

「「「「響ちゃん(殿)」」」」

 

「第六みんなで優勝目指すんだろう? 昔、白狼も言ってたじゃないか。信じ合うこそが本当の仲間という証だって」

 

「! 神狩殿が!?」

 

響の口から白狼の名が出た事に驚く優花里。

 

「………そうね。皆で1人前のレディーを目指すんだもんね」

 

「ちょっと熱くなり過ぎちゃってたかも」

 

「反省なのです………」

 

それを聞いた暁、雷、電が反省の色を見せる。

 

(響殿が1番落ち着いているでありますな………って言うよりも、私が1番年上だったのに………諭されてしまったであります)

 

4人の中で1番長女らしい響の様子を見ながら、場を納める事が出来なかった事に優花里は自己嫌悪する。

 

「でも、鍋は如何する? これじゃあ、とても代わりが欲しいなんて言えないわ」

 

「「「う~ん………」」」

 

「でしたら、大洗の皆さんに………」

 

鍋を如何すると言う話になり、第六駆逐部隊チームが悩んでいると、優花里が大洗の皆に助力を得ようとするが………

 

そこで、たたら場の入り口が開かれた。

 

「「「「「??」」」」」

 

その音に反応して、第六駆逐部隊チームと優花里が入り口の方を見やると、そこには………

 

オレンジのつなぎ作業服に溶接マスクを付けた怪しい人物が2人立っていた!!

 

「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」

 

「だ、誰ですかっ!?」

 

悲鳴を挙げる第六駆逐部隊チームと、その人物に向かって問い質す優花里。

 

「ちょっ! 待ってよ!」

 

「私達ですよ!」

 

するとそこで、2人の人物は溶接マスクを上げて顔を見せる。

 

「ゆ、『夕張』さん………」

 

「『明石』さんも………」

 

電と雷が、その2人が刀剣作りに参加している生徒………『黒田 夕張』と『牧野 明石』である事に気付く。

 

「お、驚かさないでよっ!!」

 

「ゴメンゴメン」

 

「刀剣錬成の自主練習してたもんだから」

 

(刀剣と言うよりは、何か機械的な物を作って居そうな姿でありますが………)

 

夕張と明石がそう謝っていると、優花里は心の中でそんなツッコミを入れる。

 

「それで、皆は何してるの?」

 

「見たところ、玉鋼の製鋼って感じじゃなさそうだけど………」

 

「えっと、実は………」

 

そう尋ねられた電は、事情を説明する。

 

「成程………そうでしたか」

 

「そう言う事ならお姉さん達に任せなさい!」

 

「「「「「本当(でありますか)!?」」」」」

 

事情を聞いた明石と夕張はそう言い、第六駆逐部隊チームと優花里の目に希望が戻る。

 

「刀剣作りの要領で、鍋も作って上げるわ」

 

「それも飛び切り上等な物をね」

 

明石と夕張はそう言い合い、早速鍋作りに取り掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来たわ!」

 

「早っ!?」

 

ものの数分で出来上がったと言う声が挙がり、優花里が驚きの声を挙げる。

 

2人の言葉通り、そこにはまるで刀剣の様な輝きを放つ鍋が出来上がっていた。

 

「「「「おおお~~~~~っ!!」」」」

 

「上等の玉鋼をふんだんに使いましたから」

 

「ちょっとやそっとじゃ壊れない、最高の鍋よ!」

 

(玉鋼で鍋って………)

 

鍋を見て感動した様子を見せる第六駆逐部隊チームに、誇らしげにそう語る明石と夕張に、心の中でツッコミを入れる優花里。

 

「「「「ありがとうございますっ!!」」」」

 

「いえいえ! こういう事なら、私達にお任せ下さい!」

 

「後で感想聞かせてね!」

 

明石と夕張がそう言われながら、第六駆逐部隊チームと優花里はたたら場を後にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのままキッチンに戻るかと思いきや………

 

何故か甘味処・間宮を訪れていた。

 

「美味しいカレーの作り方?」

 

「「「「ハイ!」」」」

 

「是非、ご教授下さい」

 

間宮にそう尋ねる第六駆逐部隊チームと優花里。

 

如何やら、味を高める為に、間宮にアドバイスを貰いに来た様だ。

 

「そうね………愛情と言う名のスパイスかしら?」

 

「武部殿も良く言っておられます」

 

間宮がそう言うと、優花里が沙織もそんな事を良く言っていたのを思い出す。

 

「「「「そう言うのは良いです」」」」

 

しかし、意外にも第六駆逐部隊チームはリアニストだった。

 

「い、意外と現実的なのね………」

 

そんな第六駆逐部隊チームの姿に、間宮は苦笑いするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園女子寮・離れにあるキッチン………

 

その後、自分達なりに試行錯誤を重ね、カレーの味を高めようとした第六駆逐部隊チームと優花里。

 

しかし、全員が粗料理の素人である為、早くも行き詰まりを感じて始めていた。

 

「もうやだ! やってらんなーいっ!!」

 

「あ、暁殿!」

 

突如そう声を挙げた暁に、優花里が狼狽する。

 

「もう………止めちゃおっか」

 

「「「…………」」」

 

その暁の意見に、雷達は反対する様子を見せない。

 

彼女達も限界を感じ始めていたのだった………

 

「み、皆さん!………」

 

「努力に憾みなかりしか!」

 

と、優花里が何か言おうとしたところ、それを遮ってそう言う声が響いた。

 

「! 長門さん!」

 

声がした方を向いた暁が、キッチンの出入り口に立つ長門の姿を認める。

 

「詳しくは聞くまい………だが、諦めるか?」

 

「「「「…………」」」」

 

長門の問いに沈黙で返す第六駆逐部隊チーム。

 

「それも良いだろう………十分に努力したと、胸を張って言えるのならな」

 

「そんなの………言えるワケないじゃない!」

 

「そうよね! 1度や2度の失敗で諦めてたら、武道なんで出来ないもの!」

 

「不死鳥の様に、立ち上がるまで」

 

「まだ試していない事は山程有るのです」

 

まるで激励するかの様な長門の言葉に、第六駆逐部隊チームの心が再び燃え上がる。

 

「私達は、必ず勝つわ!」

 

「微力ながら、お力添えさせていただきます!」

 

暁がそう言うと、優花里も敬礼しながらそう言う。

 

「フッ………」

 

そんな第六駆逐部隊チームと優花里の姿を見て、長門は微笑むと、その場から去って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はアッと言う間に流れ、日曜日………

 

冥桜学園の夏祭りの日………

 

冥桜学園の甲板都市………

 

カレー大会の様子を観戦すべく、大洗歩兵部隊の面々が、甲板都市に足を踏み入れていた。

 

「コレは凄い活気だな………」

 

夏祭りムード一色に染まっている甲板都市の様子を見て、弘樹がそう呟く。

 

「話によれば、学園艦の半分が祭会場となり、屋台も多数出るらしいね」

 

「コレだけデカイ学園艦の半分がかよ………スケールがデケェなぁ」

 

迫信が説明する様にそう言うと、俊がスケールの大きさに圧倒される。

 

「お待たせ~」

 

とそこで、杏の声が響いて来て、大洗歩兵部隊の一同が振り返ると、そこには………

 

全員が浴衣姿となっている大洗戦車チームの面々の姿が在った。

 

「Ohー! ビューティフォーッ!」

 

「ジャパニーズユカタネ!」

 

その戦車チームの面々を見て、ジェームズとジャクソンがそう歓声を挙げ、他の大洗歩兵部隊の面々も多種多様な反応を見せる。

 

「お兄様」

 

「おお、湯江」

 

とそこで、湯江が弘樹の元に歩み寄って来る。

 

浴衣姿のみほのを手を引いて………

 

「あ………」

 

湯江によって半ば無理矢理に弘樹の前に引き出されたみほは、頬を染めて沈黙する。

 

彼女の浴衣は水色の生地に、赤と青の花が入れられ、黄色い帯をあんこうの帯留めで止めている。

 

「流石だな、湯江。上手く着付けが出来ている」

 

「これぐらい当然ですよ」

 

湯江に向かって弘樹がそう言う。

 

如何やら、湯江が着付けを担当した様である。

 

「それよりもお兄様。みほさんに言う事が有るのではないのですか?」

 

「? 言う事?」

 

湯江にそう言われ、弘樹は首を傾げる。

 

「もう! この浴衣、みほさんに似合ってますか!?」

 

「ゆ、湯江ちゃん………」

 

朴念仁な弘樹に痺れを切らした様にそう言い、みほは縮こまる。

 

「ふむ………」

 

そう言われて、弘樹は改めて浴衣姿のみほを見やる。

 

「え、えっと、弘樹くん………如何、かな?」

 

「ああ………似合っているぞ」

 

「! そ、そう………」

 

只それだけの言葉だが、それだけでみほはとても嬉しく、益々真っ赤になって、頭から湯気を上げる。

 

((((((((((甘酸っぺぇ………))))))))))

 

そしてそんな弘樹とみほの様子を見て、そんな思いを抱く大洗機甲部隊の一同。

 

「兄貴! 早く行こうよ!!」

 

「お兄ちゃんも早く早く!」

 

とそこで、同じく浴衣姿の遥とレナが姿を見せ、大河と清十郎にそう呼び掛ける。

 

「分かった分かった。そないに慌てんな」

 

「お祭りは逃げたりしないよ」

 

「では、カレー大会が始まるまで、祭の様子を見て回るとしようか」

 

大河と清十郎がそう返すと、迫信がそう言って、大洗機甲部隊の一同は、祭の中へと繰り出して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ! ねえ! アレやろうよっ!!」

 

少し歩いていると、桂利奈がとある屋台を指差してそう言う。

 

「金魚すくいか………」

 

それは金魚すくいの屋台だった。

 

祭の規模がデカいだけに、金魚すくいの屋台も半端では無く………

 

横幅が10メートル近くある巨大な水槽が鎮座しており、大量の金魚が優雅に泳いでいる。

 

「わー! 凄いっ!!」

 

「やろうやろう!」

 

あやとあゆみがそう言って屋台に向かい、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々が金魚すくいに挑戦する事になる。

 

「コレは………一体如何やるのデスか?」

 

と、金魚すくいを初めて見たジェームズが、そんな声を挙げる。

 

「あ、そっか。アメリカには金魚すくいなんてないもんね~」

 

「ほら、モンローくん。このポイって言うのを使ってね………」

 

優季がそう言うと、梓が店主から貰ったポイを水に沈め、紙が破けない様にしながら金魚を掬い上げ、御椀の中に入れる。

 

「こんな風にして、紙が破けない様に金魚を掬うんだよ」

 

「熟練すればこの様な事も可能だ………」

 

と、梓がそう言っていると、何時の間にか参加していた迫信が、既に御碗5杯に金魚を満杯にしながらそう言う。

 

「「「「「「「「「「おおお~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「流石は会長!」

 

(この人、ホントに何でも出来るな………)

 

その様子に見物客から歓声が挙がり、清十郎が手放しで褒めている横で、内心で半ば呆れている逞巳。

 

「D、DIFFICULTですね………でもやってみマス!」

 

ジェームズ、金魚すくいに初挑戦。

 

ポイを水中に沈めると、慎重に動かしながら、金魚を乗せて掬い上げる。

 

「ヤッタ!」

 

成功したかに思われた瞬間!

 

紙が破れ、金魚は水槽に落下した!

 

「ア!」

 

「惜しかったねぇ、外人の兄ちゃん」

 

思わず声を挙げるジェームズに、屋台の店主がそう言う。

 

「Oh………」

 

ガッカリするジェームズ。

 

するとそこで、新しいポイが横から差し出された。

 

「!」

 

「付き合うよ。出来るまでやろう」

 

それを差し出したのは竜真だった。

 

彼も、自分用のポイを手に持っている。

 

「トウマ………THANK YOU VERY MUCH」

 

竜真にお礼を言うと、一緒に挑戦を再開するジェームズだった。

 

「よおし! 俺も良いとこ見せてやる!!」

 

と、女性陣に良いとこを見せたい了平が、気合十分な様子で挑戦を始める。

 

「………! そこだぁっ!!」

 

ニュータイプの様に額の辺りで電撃を走らせたかと思うと、勢い良くポイを水槽に入れ、金魚を掬い上げる。

 

しかし、勢いに余ったのか、金魚がポイの上からスッ飛ぶ!!

 

「キャアッ!?」

 

そしてその金魚が、沙織の浴衣の首元から胸の中へと飛び込んだ!

 

「や、やだ! あんっ!? そ、そこは駄目! あううっ!?」

 

飛び込んだ金魚が暴れ、沙織が色っぽい悲鳴を挙げながら悶える。

 

「うおおっ!? 堪りませんなぁ~………ゲボッ!?」

 

その様に了平は歓喜の声を挙げたが、その瞬間に後頭部を鷲掴みにされて、金魚の水槽に顔を突っ込まれた!

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!」

 

「ガボガボガボッ!?」

 

鷲掴みにしている人物・地市が、そんな口上と共に更に了平の顔を水槽に水没させて行く。

 

「地市さん! それ以上は駄目です! 本当に死にますよっ!!」

 

本当に了平を殺しかねない勢いの地市を、楓が慌てて止める。

 

「さ、取れましたよ」

 

「ありがとう~、華~」

 

一方、問題の金魚は、華の手によって回収されていた。

 

と、そこで………

 

「アラ? ひょっとして、みほじゃない?」

 

「えっ?」

 

不意にそう声を掛けられて、みほが振り返るとそこには………

 

「やっぱり! 凄いBy CHANCEね!」

 

「な、何でアンタ達がこの学園艦に居るのよ!?」

 

「アリサ、落ち着け………」

 

浴衣姿のケイ、アリサ、ナオミ………

 

サンダース戦車部隊の面々の姿が在った。

 

「! ケイさん!」

 

「久しぶり! この前、あの西部を破ったそうじゃない! 流石はミラクルみほね!! ところで、何でこの学園艦に?」

 

「実は………」

 

みほは、ケイ達に事情を説明する。

 

「へえ、そうだったの………」

 

「ハッ、逃げ出した歩兵1人の為に、随分と世話を焼くじゃない」

 

「! 神狩殿は逃げ出したワケではありません!」

 

ケイが頷いていると、アリサがそんな皮肉を飛ばし、優花里が空かさず反論する。

 

「居なくなったのは事実でしょう。それが逃げ出したと言わず………」

 

「止せ、アリサ」

 

皮肉を続けるアリサだったが、ナオミが止めに入る。

 

「ちょっと! 何で止めるのよ!」

 

「周りを見て見ろ………」

 

「えっ?………」

 

ナオミにそう言われて、アリサが周囲を見渡すと………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

殺気立った大洗歩兵部隊の面々が、アリサに刺す様な視線を向けていた。

 

「!? ヒイッ!?」

 

「コレ以上は本当に命が危ないぞ」

 

途端に顔を真っ青にするアリサに、ナオミはそう忠告する。

 

「ゴメンナサイね、またアリサが………」

 

「いえ、大丈夫です。神狩さんは必ず戻って来てくれますから」

 

みほに謝るケイだったが、みほは笑ってそう返す。

 

「ありがとう………あ! 小太郎ーっ!!」

 

とそこでケイは、小太郎の姿を発見し走り寄る。

 

「ケイ殿」

 

「小太郎! 一緒に屋台巡りしましょう!」

 

「ええ、構わぬで………!? ござるううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?」

 

ケイから誘いを受ける小太郎だったが、返事をしていた最中に、何かに気付いた様に大声を挙げる。

 

「What’s happened? 如何したの小太郎」

 

「ケケケケケケ、ケイ殿ぉっ!! 何故肌着を付けておらぬのでござるかぁっ!?」

 

首を傾げるケイに、小太郎は絶叫しながらそう問い質す。

 

そう………

 

実は今のケイ………

 

下着を付けていないのである。

 

その証拠に、浴衣のその豊満なバスト部分に『アレ』がハッキリと浮き出ていた………

 

「えっ!? だって、浴衣や着物の時は下着を付けないんでしょう?」

 

「いやいや! それ、間違ってるから!!」

 

さも当然の様にそう返すケイに、沙織のツッコミが飛ぶ。

 

「もう! そんな事より、早く行きましょうよ!!」

 

と、そこでケイは、小太郎の腕を取った。

 

それは即ち、ケイの豊満なバストが、小太郎の腕に布1枚越しに………

 

「!? サヨナラッ!!」

 

途端に小太郎は爆発四散した様なアトモスフィアを醸し出し、盛大に鼻血を噴いて倒れた!

 

「!? 小太郎!? 如何したの!?」

 

「………大惨事だな」

 

慌てて倒れた小太郎を揺さぶるケイと、辺り一面に小太郎の鼻血が撒き散らされている様子を見て、大詔がそう呟く。

 

さながら何かの事件現場の様だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「あ、頭がクラクラするでござる………」

 

「大丈夫、小太郎?」

 

貧血気味の鼻にティッシュを詰めた小太郎に、心配そうに寄り添っているケイ。

 

因みに、アリサ達から言われ、(渋々ながら)現在は下着を着用している。

 

大洗機甲部隊の一同は、ケイ達を加えて、屋台の並んでいる通りを更に散策している。

 

「ねえ、ノンナ~! まだなの~!」

 

「申し訳ありません、カチューシャ! ですが、どうしても! どうしてもアレだけは!!」

 

「! この声は………」

 

とそこで、聞き覚えのある声が聞こえて来て、みほがその方向を見やると、そこには………

 

「店主! もう1回です! 今度こそ必ず………」

 

「ノンナ~」

 

射的の屋台で、鬼気迫ると言った表情でライフル型のコルク銃を構えているノンナと、そのノンナの横で退屈そうにしているカチューシャの姿が在った。

 

尚、2人とも浴衣姿である。

 

「カチューシャさん!」

 

「アレ? ミホーシャ?」

 

みほが声を掛けると、カチューシャは大洗機甲部隊の一同の姿に気づく。

 

「今度こそ………」

 

しかし、ノンナの方は射的に夢中になっており、気づいていない。

 

「ど、如何したの、ノンナさん?」

 

「アレよ………」

 

そんなノンナの事を沙織が尋ねると、カチューシャはそう言い、射的の景品が並んでいる棚の一角を指差した。

 

そこには、『10分の1モデル ブルーティッシュドッグ(ファンタム・レディフィギュア付き)』と言う、ノンナからしてみれば喉から手が出る程欲しい代物があった。

 

「成程ね。それで夢中になっているワケか………」

 

「もう~! 私もやりたいのに~!!」

 

圭一郎が納得が行った様な顔になると、カチューシャが地団駄を踏む。

 

如何やら、彼女の身長では、手前の台に遮られて、射的が出来ない様だ。

 

「もう1回です!」

 

しかし、ノンナはそんなカチューシャの様子には気づかず、新たなコルクを購入する。

 

「ぶう~~~」

 

頬を膨らませて不満をアピールするカチューシャ。

 

すると………

 

「!? キャアッ!?」

 

不意に、その身体が何者かに持ち上げられた。

 

「…………」

 

陣である。

 

不満そうなカチューシャを見ていられなくなったのか、両脇に手を添えて、子供を抱き上げるかの様にして台に付かせる。

 

「ちょっ、ちょっと! 何勝手な事してるのよ!!」

 

「?………」

 

しかし、カチューシャは不服そうな様子を見せ、陣は困惑した様子を見せる。

 

「カチューシャは子供じゃないのよ! こんな持ち上げ方、失礼じゃないっ!!」

 

両腕をバタバタと振ってそう言うカチューシャ。

 

「…………」

 

陣はでは如何すれば良いのかと言う顔をする。

 

「仕方ないわね………特別にカチューシャを肩車する権利を挙げるわ! 光栄に思いなさい! ノンナ以外は貴方が初めてなんだから!」

 

そこでカチューシャは、偉そうな様子を見せてそう言う。

 

するとそこで………

 

「…………」

 

陣は屈み込むと、自分の右肩にカチューシャを座らせる様に乗せた。

 

「! えっ!?」

 

コレにはカチューシャも驚きの声を挙げた。

 

カチューシャが小柄であり、陣のガタイが相当デカいので出来る芸当だ。

 

「…………」

 

そのまま椅子代わりの様に、しゃがみ込んだまま台に付く陣。

 

陣の身長は190cmある為、しゃがんだままでも相当な高さで、カチューシャにはピッタリである。

 

(あ、コレ…………結構良いかも)

 

肩車とは違う感じに、カチューシャは満足そうな顔をする。

 

「おめでとう! 10分の1モデル ブルーティッシュドッグ(ファンタム・レディフィギュア付き)ゲットだよ!」

 

「やったっ! やりましたよ、カチューシャッ!!」

 

とそこで、遂にノンナが、目当ての景品を手に入れ、歓喜の声を挙げながらカチューシャに声を掛ける。

 

「もっと右に行って! ああ、行き過ぎ! 良いわ! そのままちょっと上げて!」

 

「…………」

 

そこで目に入って来たのは、陣の肩に乗って燥いでいるカチューシャの姿だった。

 

「…………」

 

その光景を見て沈黙するノンナ。

 

(何でしょう………勝った筈なのに、この敗北感は………)

 

その胸中には、勝負に勝って試合に負けた様な気持ちが渦巻いていた。

 

「どれ、我々も参加してみるか………」

 

とそこで、迫信がそう言い、大洗歩兵部隊の一同も、射的に挑戦する。

 

歩兵道で鍛え上げているだけあり、一同は次々に景品をゲットして行く。

 

中でも狙撃兵のメンバーの成績は凄まじく、特にシメオンと飛彗など、百発百中の腕前で、巨大な景品にも同じ個所に連続して命中させて揺さ振ると言うテクニックでゲットして行っている。

 

「凄いですね、飛彗さん」

 

「いえいえ、まだまだですよ………」

 

華がそんな飛彗の姿を褒めると、飛彗は謙遜する。

 

「あ………」

 

とそこで、飛彗はゲットした景品の中にとある物が有るのを発見する。

 

「華さん、ちょっと良いですか?」

 

「えっ?」

 

華が戸惑っていると、飛彗は何かを華の髪に挿した。

 

それは、藤の花を模した髪飾りだった。

 

「あ………」

 

「うん、やっぱり似合いますね」

 

髪飾りを挿した華の姿を見て、飛彗は笑いながらそう言う。

 

「あ、ありがとうございます………」

 

華はそんな飛彗を熱っぽい視線で見ながら、照れた様子を見せるのだった。

 

「チイッ! リア充め………今度こそ俺の凄さを見せてやる!!」

 

と、そんな飛彗と華の姿を呪いながら、コルクを思いっきり詰め込んだコルク銃を構える了平!

 

「そこだっ!!」

 

狙いを定めて、大き目な景品に向かって引き金を引く。

 

しかし、景品はビクともせず、逆に命中したコルクが跳ね返って戻って来る。

 

「!? はうっ!?」

 

そのコルクは運悪くみほの額を直撃。

 

みほは仰け反って倒れそうになる。

 

「!? 西住殿!?」

 

「みぽりんっ!?」

 

「きゅう~~~~………」

 

幸いにも、優花里と沙織が間一髪で両脇から支えたが、余程強く当たったのか、みほは気を失っている。

 

「あ、ヤバッ………!?」

 

思わず了平がそう言った瞬間、背後から凄まじい殺気を感じる。

 

錆びついたブリキの玩具の様にギギギギと音を立てながら振り返った了平が見たモノは………

 

「…………」

 

恐ろしい位に無表情で英霊を構えている弘樹の姿だった。

 

(あ、俺………死んだ………)

 

その弘樹の姿を見て………

 

了平は静かに………

 

自分の死を悟ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~~~ん………アレ?」

 

「気がついた? みぽりん」

 

みほが目を覚ますと、沙織の顔が視界に飛び込んで来る。

 

「沙織さん………」

 

意識がハッキリしたみほは、自分が長椅子に寝かされ、沙織に膝枕されている状態である事を確認する。

 

「具合は如何だ?」

 

「あ、弘樹くん。うん、大丈夫だよ………綿貫くん、如何したの?」

 

そこで、弘樹の顔が視界に入り、みほは身を起こしながらそう返すと、弘樹の傍に了平………

 

いや、かつて『了平だったモノ』が転がっているのを見てそう尋ねる。

 

「気にするな………」

 

「そ、そう………」

 

真顔で弘樹がそう言うので、みほはそれ以上追及するのを止めるのだった。

 

とそこで、周りから色々美味しそうな良い匂いが漂って来るので見回すと、この辺り一帯が食べ物関係の屋台となっているのに気づく。

 

綿あめ、焼きもろこし、たこ焼き、焼きそば、たい焼き、イカ焼き、大判焼き、お好み焼き、焼き鳥等々………

 

次々に視界に入って来る食べ物に、みほは思わずお腹が鳴りそうになる。

 

「お~い、沙織~!りんご飴買って来たぜ!」

 

「わ~! ありがとう、地市くん!」

 

とそこで、地市が両手にりんご飴を手にして現れ、片方を沙織に渡す。

 

「小官達も何か食べるか」

 

「うん、そうだね」

 

それを見た弘樹がそう言うと、みほは立ち上がって、屋台街の中へと繰り出す。

 

「何にしようか?」

 

「そうだな………」

 

歩きながら、何を食べようかと屋台を見回す。

 

「アンツィオ名物! 鉄板ナポリタンだよー! 美味しいパスタだよーっ!!」

 

「………何?」

 

「アンツィオって………」

 

するとそこで、聞いた事のある名前が聞こえて来て、弘樹とみほは声のした方向を見やる。

 

そこには、コック姿で鉄板ナポリタンを販売しているペパロニの姿が在った。

 

「アンツィオの………」

 

「あ、あの!………」

 

「ハイ、いらっしゃい! 2人前だね!!」

 

声を掛ける弘樹とみほだったが、ペパロニは2人の姿を見て即座に調理に入る。

 

「い、いえ、あの………」

 

「先ず、オリーブオイルはケチケチしなーい。具は肉から火を通すー。今朝獲れた卵をトロトロになるくらーい。ソースはアンツィオ校秘伝・トマトペースト。パスタの茹で上がりとタイミングを合わせてー………ハイ、お待ちー!!」

 

みほの声にも気づかず、ペパロニは出来上がった鉄板ナポリタンを差し出す。

 

「オイ、ペパロニ。売り上げは如何だ………って!? 西住 みほに舩坂 弘樹!?」

 

とそこで、アンチョビが屋台の中に顔を出し、みほと弘樹に気づいて声を挙げる。

 

「えっ?………あ、ホントだ!?」

 

「お前気づかなかったのかっ!?」

 

アンチョビに言われる今の今まで弘樹とみほに気づいていなかったペパロニがそう声を挙げ、アンチョビがツッコミを入れる。

 

「ドゥーチェ。今の御2人はお客様ですよ」

 

と、続いて現れたカルパッチョが、アンチョビにそう指摘する。

 

「う! そ、そうだな………2人前で600円だ」

 

「………貰おう」

 

アンチョビがそう言うと、弘樹が財布を取り出し、お金を払った。

 

「あ、美味しい………」

 

「当然だろぉ! 何たってアンツィオ校の名物だからなぁっ!!」

 

早速口を付けたみほがそう感想を漏らすと、ペパロニが自慢げにそう言う。

 

「………あの西部学園を倒したそうだな」

 

ふとそこで、アンチョビがみほにそう言って来た。

 

「あ、ハイ。何とかでしたけど………」

 

「………もうお前の戦車道が弱いだなどとは言えんな」

 

「えっ!?」

 

アンチョビからの思わぬ言葉に、みほは驚く。

 

「西住 みほ。お前の戦車道は本物だ。その戦車道で優勝して見せろ」

 

「アンチョビさん………」

 

「コイツはサービスだ」

 

そう言ってアンチョビは、みほの前にティラミスを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「如何したんすか、姐さん。今日はヤケに気前が良いっすね」

 

「フッ………祭りの熱気に当てられただけだ」

 

ペパロニがそう言うと、アンチョビは何処か達観した様な顔でそう返すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、2人でブラブラと屋台を見回っていた弘樹とみほだったが………

 

何処からともなく和太鼓の音が聞こえて来て、その音に導かれる様に足を進めると、そこには………

 

天辺で和太鼓を叩いている者が居る櫓を中心に、盆踊りを踊っている人々の姿が在った。

 

「わあ~、凄~い」

 

「盆踊りの規模も半端ではないな………」

 

踊っている人数の多さに若干圧倒されながら、そう言葉を漏らすみほと弘樹。

 

「お兄様~! みほさ~ん!」

 

とそこで、踊っている人々の中から自分達を呼ぶ声が聞こえ、よくよく見てみると、その人々の中に交じって一緒に踊っている湯江と遥にレナの姿が在った。

 

更に、大洗機甲部隊員達の姿もチラホラと見受けられる。

 

「一緒に踊ろうよ~」

 

「楽しいよ~」

 

遥とレナもそう呼び掛けて来る。

 

「え? で、でも、盆踊りなんて………」

 

突然の誘いに戸惑うみほ。

 

すると………

 

「こんな言葉を知ってるかしら? 『踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損損』」

 

「えっ?」

 

そんな台詞が聞こえて来て、みほが振り返るとそこには、浴衣姿のダージリン、アッサム、オレンジペコの姿が在った。

 

………浴衣姿でも紅茶を嗜んでいる辺り、意地を感じる。

 

「お久しぶりですわね」

 

「ダージリンさん!」

 

「御機嫌よう」

 

「お元気そうで何よりです」

 

ダージリンが挨拶し、みほが驚きの声を挙げると、アッサムとオレンジペコも挨拶して来る。

 

「盆踊りに踊り方は関係ありませんわ。此処は祭りの場………つまりは楽しんだ者が勝者となりますのよ」

 

「は、はあ………」

 

確信を突いている様で的外れな事を言っている様なダージリンの台詞に、みほは困惑する。

 

と、そこで………

 

何者かが、弘樹とみほの手を取った。

 

「えっ!?」

 

「むっ?………」

 

「ホラホラ、ボーっとしてないで!」

 

「折角のお祭りなんだよ!」

 

浴衣姿のローリエとルウだった!

 

「わあっ!? ローリエさん!?」

 

「ルウくん!?」

 

その2人に強引に、みほと弘樹は盆踊りの場へ進まされ、止むを得ず見よう見まねで踊り始める。

 

(………楽しいなぁ)

 

困惑しつつも、みほは他校の生徒達とも一緒に祭りを楽しめている事を感じ、笑みを浮かべる。

 

「…………」

 

そして弘樹も、そんなみほの姿を見て微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、特設会場でもイベントで刀工が開始された。

 

沢山のセットが用意され、テレビなどで見る鍛刀が始められる。

 

観客の誰もがおおーっと驚きの声を挙げていると、見事の手際で日本刀が完成する。

 

その煌びやかな刀身に、誰もがうっとりとする。

 

イベントは続き、歌舞伎、能楽狂言、日本舞踊、寄席、落語、時代劇などなど、日本を代表とする伝統的な芸能が披露される。

 

「ファンタスティークッ!!」

 

ケイにとってはこれまでにない日本文化の祭典に大満足。

 

そして日本文化だけでなく、金剛4姉妹と冥桜のアイドル・那珂によるスクールアイドルのライブも開始。

 

盛り上がりが最高潮に達しようとしていると………

 

遂に一大イベントである………

 

『冥桜学園鎮守府カレー大会』が開始されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白狼の行方を知る為に、カレー大会での優勝を目指す事に。
優花里は第六駆逐部隊と協力して、紆余曲折ありながらも、カレー作りの修練を積む。

そして迎えた冥桜学園の夏祭りの日。
カレー大会開催までの間、祭の中を散策する事にした大洗の一同。

折角なので、他校の生徒にもお越しいただきました。
原作で関わったグロリアーナ、サンダース、アンツィオ、プラウダに、この作品で練習試合をして学園でも交流もしている天竺の2人にも再登場願いました。
流石に今回のストーリーは登場キャラが多いので、男子校の面々にはお留守番してもらっています。
今回、何やら新たな学校枠を超えたカップルの気配が………
そして確認の為言っておきますが、ウチのアンツィオは漫画版です。
今回は少しカッコ良く書いてみました。
カッコイイドゥーチェが居ても良い筈だ。
自由とはそう言う事だ。

さて、いよいよ次回はカレー大会。
波乱とカオスが特盛です。
御注意下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第148話『カレーライス大作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第148話『カレーライス大作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海外のプロバイクレースチームからスカウトされ、日本を去った白狼。

 

その行方を知る冥桜学園の足柄から、彼の居場所を聞き出す為に………

 

冥桜学園の夏祭りで行われるカレー大会に、参加チームの助っ人として参戦する事になったあんこうチーム。

 

その中で優花里は、中学生くらいの4姉妹のチーム………

 

『第六駆逐部隊チーム』へ参加。

 

紆余曲折しつつも、如何にか満足の行くカレーを作れる様になる。

 

そして迎えた大会当日の夏祭りの日………

 

大洗機甲部隊のメンバーは、遊びに来ていた他校のメンバーと共に冥桜学園の夏祭りを楽しみつつ………

 

遂に開催された『冥桜学園鎮守府カレー大会』へ参戦するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園の甲板都市………

 

冥桜学園鎮守府カレー大会の会場………

 

「マイク音量大丈夫? チェック、1、2………ハ~イ! 皆さん、お待ちかねぇ! 冥桜学園鎮守府カレー大会、開幕~!! 司会実況は私金剛4姉妹の霧島!! 現場実況は!?」

 

「冥桜学園のアイドル、那珂ちゃんで~す!」

 

遂にカレー大会が開幕し、司会実況を務める霧島が特設された櫓の上からそう言い、近くでレポートする役の那珂にそう振る。

 

「それじゃあ、出場者を紹介しちゃうよ~! バーニングカレー! 金剛さんと比叡さんに、助っ人の武部 沙織ちゃん!!」

 

「テートクのストマックを掴むのは、私達のカレーデース!」

 

「気合! 入れて! 作ります!!」

 

「私の女子力、見せちゃうよ~!」

 

やる気満々の金剛チームとその助っ人の沙織。

 

「5番隊の実力を見せる為に来ました! 『瑞鶴』さんと『翔鶴』さん! その助っ人! 大洗の軍神!! 西住 みほ!!」

 

「瑞鶴にはカレーの女神が付いて居てくれるんだから!」

 

「1番隊の皆さんに少しでも近づける様なカレーを作ります」

 

「な、何か私の紹介だけ違わない?………」

 

黒髪のツインテールの少女・『上杉 瑞鶴』がそう言い、その姉である白いロングストレートの髪をした少女・『上杉 翔鶴』がそう言う中、ヤケに気合の入った紹介に困惑するみほ。

 

「ごはんも対戦相手もお残しは許せない! 1番隊の加賀さんと赤城さん! 助っ人の五十鈴 華ちゃん!」

 

「5番隊のカレーなんかと一緒にしないで………」

 

「1番隊、赤城! いただき………作ります!!」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

5番隊に突っ掛る様な事を言うサイドテールの少女・『山本 加賀』と、作る気より食べる気が感じられる黒いロングの髪をした少女・『武田 赤城』、そしてその助っ人の華。

 

「辛きこと島風の如し! 島風さんとその助っ人、冷泉 麻子!!」

 

「コレ以上辛くなっても知らないから!」

 

「やれやれ………」

 

妙に自信満々の島風と、その助っ人の麻子。

 

「御淑やかな性格だけど強い芯! 羽黒さん! そして、求めるは勝利! 敵は全て屠る飢えた狼! 足柄さん!」

 

「足柄姉さんの背中は、私が守ります!」

 

「出撃よ! 戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!!」

 

足柄の妹である『斉藤 羽黒』がそう言い、この場に居る中で最も戦意を見せている足柄がそう吠える。

 

「兵站のエキスパート、第六駆逐部隊の暁さん、雷さん、電さん、響さん。そして助っ人の秋山 優花里さんです!」

 

「いよいよですね………」

 

「「「「…………」」」」

 

そう呟く優花里の横で、暁、雷、電、響が神妙な面持ちで佇んでいた。

 

「どうやら相当鍛錬を積んでいる様ね。けど! 勝つのは私よ!!」

 

「イエース! 正々堂々勝負ネ!!」

 

早くも激しい火花を散らす足柄と金剛。

 

「そして審査員は、我等が生徒会長の長門さんと副会長の陸奥さん! そして大和さんと妹の武蔵さん!」

 

「…………」

 

「うふふ」

 

「よろしくお願いします」

 

「期待しているぞ」

 

審査員席には、長門、陸奥、大和、そしてその妹である『徳川 武蔵』の姿が在った。

 

「ナンバー1の座を賭けて!」

 

「冥桜学園カレー大会スタートッ!!」

 

霧島と那珂がそう宣言し、一斉に自分達の調理場へと走ったのだった。

 

「始まったな………」

 

「さて、どうなる事やら………」

 

「…………」

 

遂に始まったカレー大会の様子を見て、地市と俊がそう呟き、弘樹も無言で成り行きを見守る。

 

 

 

 

 

優花里が参加している第六駆逐部隊は、全員が分担して、それぞれに並行で作業を開始。

 

優花里は玉ねぎをあめ色になるまで炒める係。

 

電はお米を洗う係。

 

雷はじゃがいもとにんじんの皮を剥き、切る係。

 

響はフライパンでお肉を炒める係。

 

そして暁はゴマすりで隠し味を作っている。

 

「皆で頑張って練習したのです」

 

「チームワークなら負けないわ」

 

「その通りであります!」

 

「…………」

 

電、雷、優花里がそう言い、響も無言で同意する。

 

「他のチームはどんな様子かしら?」

 

とそこで、暁が他のチームの様子を覗き見る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛&比叡+沙織チーム………

 

「う~ん、全ての具が溶け込んだこの黄金のカレースープ。優勝は私達で決まりデース!」

 

「凄いです、金剛さん! とても女子力高いカレーですね!」

 

イギリス式のカレースープを煮込みながら、優勝宣言をする金剛と、その金剛のカレーを手放しで褒める沙織。

 

「イエース! そしたら………も~う! 駄目だよ、テートク~!! 私は食後のデザートデース!!」

 

と、すっかり慢心し切った金剛は、その場で妄想を始める。

 

「デザート………そうだ! 序にそれも作っちゃおう!」

 

一方沙織は、金剛がデザートと言ったのを聞いて、デザートも用意しようと流し台の方へと向かう。

 

それが悲劇の始まりだった………

 

「!? ハッ!? このカレー………具が入って無い!?」

 

妄想している金剛に代わって鍋を覗き込んだ比叡がそう言う。

 

如何やら金剛が具材が溶け込んだと言っていたのを全く聞いていなかった様である。

 

(お姉さまに恥は掻かせません! こんなこともあろうかと………え~いっ!!)

 

そこで比叡は、自分が用意していた食材を、カレーの中へ放り込んだ。

 

金剛の妄想はまだ続いており、気づいていない。

 

と、比叡の具材が放り込まれた瞬間………

 

それまで普通だったスープカレーが………

 

真っ赤に変色して、まるでマグマの様にゴボゴボと音を立て始めた!!

 

「コレがお姉さまと私の合作………あ、愛の共同作業! ハハ~ハッ! なんちゃって~っ!!」

 

そして比叡は、姉妹愛を暴走させる。

 

「それでは比叡! 一緒に味見デースッ!!」

 

とそこで、先に我に返った金剛が、カレーの現状を確認せず、味見用の小皿によそる。

 

「ハイ! 御姉様っ!!」

 

そして、金剛と比叡は、一緒に味見用によそったカレースープを1口飲む。

 

「「!?!?」」

 

途端に、金剛と比叡の顔………いや、全身が真っ赤に染まって行き………

 

「「カレエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーッ!?」」

 

まるで怪獣の様に口から火を吐いて、バタリと倒れた。

 

「お待たせ~………って!? 何があったの!?」

 

漸く戻って来た沙織が、僅か数分の間に起きた惨状に驚愕する。

 

「カウント! 1、2、3! 御姉様方!! まさかまさかのダブルノックダウンです!!」

 

「き、霧島さん?………」

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 自分の姉妹がアクシデント起こしてんのに何、K-1のレフェリーぶってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

霧島の的外れとも取れる実況が響き、那珂が唖然とし、観客の中に居た逞巳が、某文字が多い漫画ばりのツッコミを入れる。

 

「比叡さん………極度の辛党なんですけど、いつもやり過ぎて、自分でも食べられない様にしちゃうんです………」

 

「苦労してるんだね………」

 

吹雪が遠い目をしてそう言い、聖子がそんな吹雪の肩に手を置く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、赤城&加賀+華チームは………

 

「栄えある1番隊に小細工何て必要無いわ。普段通りにやれば良いだけ。そうよね、赤城さん」

 

そう言って加賀が、切り終えたじゃがいもをザルの中へ入れる。

 

すると、凄い速さで手が伸びて来て、ジャガイモを掴んで引っ込む。

 

「う~ん、その通りよ、加賀さん」

 

それは赤城の手だった。

 

何と、まだ調理も何もしていない皮を剥いただけのじゃがいもを次々に頬張っており、その頬はハムスターの様に膨れている。

 

「ええっ!? あ、あの………まだ調理も何もしていないんですけど………」

 

「…………」

 

華が思わずそう言うが、何故か加賀は頬を染めて、食材を切っては赤城の方へ差し出して行く。

 

「えっ!? か、加賀さん!?」

 

「お~と、加賀さん! 見事なスルーパス! あ、今のは赤城さんの行動をスルーした件と、食材をパスした件をかけた解説です」

 

「自分で説明しちゃうの!?」

 

「いやその前に突っ込むところあるだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

霧島の実況に那珂がそう返し、またも逞巳のツッコミが飛ぶ。

 

「………ハア~、申し訳ありません。私、棄権させていただきます」

 

そして華はやってられなくなったのか、棄権を表明してその場から去って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いては、翔鶴&瑞鶴+みほチーム………

 

「フフ、1番隊、恐るるに足らずね!」

 

赤城と加賀の惨状を見て、勝利を確信する瑞鶴。

 

「そんな事言っちゃ駄目よ、瑞鶴。5番隊の私達が慢心してはいけないわ」

 

(翔鶴さんが居れば大丈夫そうかな………それにしても、カレーかぁ。お姉ちゃんが好きだったなぁ)

 

そんな瑞鶴をやんわりと戒める翔鶴と、その様子を見て安心しつつ、カレーが好きだった姉の事を思い出すみほ。

 

「分かってるって………あ! 翔鶴姉! カレー跳ねてる!」

 

するとそこで、瑞鶴が翔鶴の服にカレーが跳ねているのを発見する。

 

「えっ!? 何処!? カレーの汚れって落ち難いのに………」

 

「ホラ、此処此処」

 

跳ねていたのは、翔鶴のスカートの丁度端の辺りだった。

 

「あ、待ってて下さい! 確か台所用の洗剤で………」

 

みほが一般的な手順に基づき、台所洗剤を探すが………

 

「ま、待って! スカートはあまり触らないで!………!? キャアッ!?」

 

あまりスカートを触られたくない翔鶴が身を捩ったところ、足をもつらせて転んでしまう。

 

「ああっ!?」

 

「だ、大丈夫ですか!?………!? ああっ!?」

 

瑞鶴が声を挙げ、慌てて駆け寄ったみほも驚きの声を挙げる。

 

何故なら、翔鶴の穿いていたスカートは現在瑞鶴の手に握られたまま………

 

つまり、パンモロ状態なのである!

 

「えっ? あ!………ああっ!? もう! 何で私ばっかり~っ!!」

 

翔鶴は恥ずかしさのあまり逃げ出してしまう!

 

「ま、待って翔鶴姉! 態とじゃないの~っ!!」

 

「ああ! カレーは如何するんですか~~~!?」

 

慌ててその後を追う瑞鶴とみほ。

 

「ありがとうございます!! こういうのを待っていたんですよ!!」

 

「霧島さん! 声も顔も冷静だけど、実はテンションマックスだよね!!」

 

「何でラッキースケベに喜んでるんだよぉぉぉぉあんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

またも霧島が無理矢理締め、那珂と逞巳のツッコミが炸裂するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、島風+麻子チームは………

 

「ふ~んふん、ふふふん、ふんふふん~」

 

鼻歌交じりに、お湯を入れた鍋で、小さな袋の様な物を温めている島風。

 

やがて、その袋を取り出し、封を切って、皿に盛っていた御飯の上に中身を掛ける。

 

「出来た―っ!!」

 

そう言う島風の手にはカレー………

 

そう、レトルトカレーが出来上がっていた。

 

「ねえ、島風ちゃん。それ、もしかしてレトルトカレーじゃ………」

 

「うん? だって早いもん」

 

那珂が呆然となりながら尋ねると、島風はシレッとそう返す。

 

「早いからって、レトルトは………」

 

「御馳走様~」

 

と、那珂がツッコミを入れようとしていた間に、島風はカレーを平らげる。

 

「食べるのも早っ!? とゆーか、島風ちゃんが食べちゃ駄目ーっ!!………あ、そうだ! 麻子ちゃんは!?」

 

激しくツッコム那珂だったが、そこで麻子が居る事を思い出して、一途の望みを掛ける。

 

「ん………」

 

しかし、そこに居たのは、カレーパンを手にしている麻子の姿だった。

 

「…………」

 

那珂は諦め切った表情で、その場を後にする………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席サイド………

 

「さっきから真面に作れているメンバーが居ないぞ………」

 

「最早料理への冒涜やで………」

 

1大イベントにも関わらず、グダグダの内容に、海音と豹詑が呆れ果てる。

 

「…………」

 

弘樹も思うところがあるのか、何時も以上の仏頂面となっている。

 

「舩坂」

 

「舩坂殿」

 

「舩坂さん」

 

とその弘樹に声を掛ける者がいたので、弘樹が振り返ると、木曾、あきつ丸、まるゆの姿を確認する。

 

「ああ、長宗我部くん達か」

 

「心配になって見に来たんだが………案の定みてぇだな」

 

木曾が、カレー大会の惨状を見て、呆れた様にそう呟く。

 

「酷い光景であります………」

 

「折角の大会なのに………」

 

あきつ丸とまるゆも、気落ちした様子でそう言う。

 

他の観客の中にも、呆れている様子を見せている者達が居る。

 

「うむ………止むを得んか。湯江」

 

「? ハイ? 何ですか、お兄様?」

 

とそこで、弘樹は傍に居た湯江に声を掛ける。

 

「ちょっと頼まれて欲しいんだが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暁、雷、電、響+優花里チーム………

 

他のチームが次々と脱落する中、順調に調理を進めている第六駆逐部隊チームと優花里………

 

「周りが勝手に脱落して行く、この虚しさは何なのかしら………」

 

脱落したチームの様子を見て、暁が虚しそうに呟く。

 

「それより暁ちゃん。味見、お願いなのです」

 

とそこで電が、完成間近のカレーの味見を頼んで来る。

 

「ん………」

 

「如何だい?」

 

「良い! 今まで1番良いわ!!」

 

響が尋ねると、暁はそう返す。

 

「ホント!? やったね!!」

 

「努力して来た甲斐がありました!」

 

それを聞いて、雷と優花里が笑顔を見せる。

 

「ええ! 周りもあんな調子だし、コレなら勝ったも同然よ!!」

 

勝利を確信し、そう言い放つ暁。

 

「それは如何かしら?」

 

「「「「うん?」」」」

 

「! 斉藤殿!?」

 

しかし、そんな暁達に水を差す様に、足柄がそう言って来た。

 

「羽黒、お願い」

 

「ハ、ハイ………どうぞ、皆さん」

 

足柄がそう言い、羽黒がお盆の上に、味見皿に入った自分達が作ったと思われるカレーを、5人に差し出して来る。

 

「「「「「…………」」」」」

 

流される様に、そのカレーを味見する第六駆逐部隊チームと優花里。

 

「! コ、コレは!?」

 

「な、何コレ!? かりゃ過ぎるっ!?」

 

「で、でも! 凄く美味しいのです!!」

 

「痺れる程の辛さなのに、何処かまろやかで、コレは後を引く味だわ!」

 

「ハ、ハラショーッ!」

 

第六駆逐部隊チームと優花里は衝撃を受ける。

 

足柄達のカレーは辛みが強いものの、とても美味しかったからだ。

 

「…………」

 

と、その様子を見ていた審査員席の長門の表情が険しくなる。

 

「? 長門さん? 如何したんですか?」

 

「い、いや………何でも無い」

 

大和が尋ねるが、長門は誤魔化す様にそう返す。

 

「? 変な奴だな………」

 

「ふふふ………」

 

武蔵も首を傾げる中、1人分かっている様子の陸奥が笑いを零す。

 

「何で!? 何で暁達のカレーとこんなに違うの!?」

 

「これまでの知識と経験、そして数えきれない程の試行錯誤を繰り返して生み出された黄金配合スパイス………私と貴方達とでは年期が違うのよ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

戦慄している第六駆逐部隊チームと優花里に、足柄はそう言い放つ。

 

「それに何よりも背負ってるものの重さが違う!!」

 

「如何言う事ですか?」

 

「私はどんな勝負であろうと決して手を抜かない! 勝利に為ならあらゆる努力を惜しまない! 全てを投げ捨てる覚悟さえ有るわ! そういう気持ちで! 私はこの大会に出場しているのよ!!」

 

「マジだーっ! たかが夏祭りのイベントにこの人大マジで挑んで来てるよーっ!!」

 

足柄の言葉に、那珂のツッコミが飛ぶ。

 

そりゃそうであろう………

 

幾ら大会と言う名を冠していても、所詮は夏祭りのイベント………

 

勝負の云々よりも、来訪しているお客様に楽しんでもらいたいと言う側面が大きい………

 

それを彼女は人生が掛かっているかの様なガチの心構えで挑んで来ているのである。

 

「ゴメンなさい………私には止められませんでした」

 

そんな足柄の様子に、羽黒はただそう言って視線を落とすばかりであった。

 

「「「「うう………」」」」

 

と、足柄の闘気に当てられたのか、膝を着く第六駆逐部隊チーム。

 

「! 皆さん!?」

 

「クッ………」

 

「私達には重過ぎるわ………」

 

「ココまでなのです?………」

 

「あんなに頑張ったのに………」

 

既に、第六駆逐部隊チームの心は折れかけている………

 

「皆さん!………」

 

「武将に渡るなかりしか!!」

 

と、優花里が何か言おうとしたところ、それを遮る様にそう言う台詞が響き渡る。

 

「「「「!?」」」」

 

「織田殿!?」

 

それは、審査員席に居た長門の声であった。

 

「お前達は十分な努力をした! ならば、後は最後まで取り組むのみだ!! 神狩 白狼ならば、決して諦めない不屈の魂を持って立ち向かう! そうだろう!!」

 

「! 神狩殿なら………」

 

長門の口から白狼の名が出て、優花里もハッとする。

 

「長門さん………」

 

「どうしてそこまで?………」

 

「ふっ、私だけではないさ………」

 

長門がそう言うと………

 

「頑張れー! 第六駆逐部隊チームっ!!」

 

「秋山先輩も頑張れーっ!!」

 

会場から第六駆逐部隊チームと優花里に応援が飛び交ってくる。

 

「なんと会場中から第六駆逐部隊チームと優花里ちゃんにコール! 彼女達の頑張りが遂に会場を動かしたというのでしょうか!?」

 

「単に傍から見て足柄さんが大人げなく見えるから応援してるだけじゃ………」

 

霧島がそう実況すると、那珂がツッコミを入れる。

 

「………少し軽くなった」

 

「皆が呼んでくれるなら………」

 

「私たちは立ち上がるのです!」

 

「そうよ! 暁達は誓ったんだから! 皆で勝つって!!」

 

「我々は負けませぬ! 神狩殿が諦めない様に………我々も諦めません!!」

 

コールが届いたのか、第六駆逐部隊チームは立ち上がり、優花里も再度闘志を燃やす。

 

「良いわ! 掛かって来なさい! 正面からねじ伏せてやるわ!!」

 

足柄はそんな第六駆逐部隊チームと優花里を見据え、そう言い放つ。

 

「第六チーム立つ!! 今、冥桜の全てを掛けた運命の最終戦が始まるのです!!」

 

「これカレー大会だよね!?」

 

「何時の間にか日曜朝アニメになってるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 

相変わらずの霧島の実況に、那珂と逞巳のダブルツッコミが決まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に、調理が終わり………

 

審査の時間となった。

 

「さあ、全てのカレーが出揃いました! いよいよ最終審査の時です!!」

 

「では、審査員の皆さん! お願いしますっ!! 最初は足柄さんと羽黒さんのカレーです!!」

 

霧島と那珂がそう言い、審査員の前に、足柄と羽黒のカツカレーが並べられる。

 

「流石のボリュームね」

 

「コレは食べ応えがありそうだ」

 

「それでは………」

 

「………頂こうか」

 

陸奥、武蔵、大和、長門がそう言い、足柄と羽黒のカレーを頬張る。

 

「う~ん、辛~い」

 

「だが、病み付きになる辛さだ」

 

「ホント、絶妙なスパイスの配合ですね」

 

「…………」

 

陸奥、武蔵、大和がそう感想を言うが、長門だけは脂汗を浮かべて無言のままだった。

 

「では、続いて! 第六駆逐部隊チームと秋山さんのカレーです!!」

 

今度は、第六駆逐部隊チームと優花里のカレーが、審査員の前に並べられる。

 

「こっちは甘口のカレーね」

 

「だが、カレーの持ち味を損なわず、絶妙なバランスを保っている」

 

「コレも見事です」

 

「うむ………」

 

陸奥、武蔵、大和がそう言うと、今度は長門も短く頷きの声を出す。

 

「フフフ………」

 

「「「「「…………」」」」」

 

不敵に笑う足柄と、固唾を呑んで見守っている第六駆逐部隊チームと優花里。

 

とそこで………

 

審査員達の前に、新たなカレーが並べられた。

 

「アラ? まだあったの?」

 

「足柄達と第六駆逐部隊チーム以外は全滅かと思っていたが………」

 

「それにしてもこのカレーは………」

 

「ああ、一風変わっているな………」

 

新たに出て来た風変わりなカレーに、審査員の一同は怪訝な顔をしながら口を付ける。

 

………すると!!

 

「!?」

 

「コ、コレはっ!?」

 

「こ、このカレーは!?」

 

陸奥、武蔵、大和の顔色が変わったと思われた瞬間!!

 

「美ーーーーーーー味ーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーぞーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

長門が突然そう叫び声を挙げて、口から光線を吐きながら巨大化する!!

 

………様なイメージを見せた。

 

「コレは美味い!」

 

「ホント! 美味しいわ!!」

 

「まるでお店で出て来る様なカレーです!」」

 

「美ーーーーーーー味ーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーぞーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

審査員から絶賛の嵐が巻き起こる。

 

「そ、そんなっ!?」

 

「だ、誰よ!? あのカレー作ったの!?」

 

足柄が狼狽し、暁が他のチームを見回す。

 

「俺達さ………」

 

と、そう声を挙げたのは………

 

あきつ丸、まるゆ、湯江を引き連れた木曾だった。

 

「!? 木曾っ!?」

 

「「「「木曾さんっ!?」」」」

 

「如何だ? ビルマ風カレーの味は?」

 

驚きの声を挙げる足柄と第六駆逐部隊チームを尻目に、木曾は審査員達にそう言う。

 

「美味しい! ホントに美味しいわ!」

 

「ああ! 全くだっ!!」

 

「これ程のカレーは初めて食べました!!」

 

「美ーーーーーーー味ーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーぞーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

相変わらずの大絶賛を送る審査員達。

 

「そんなに美味しいの!?」

 

「あ、暁達も食べるっ!!」

 

と、その様子に我慢出来ず、足柄と第六駆逐部隊チームも、木曾達のビルマ風カレーに手を付ける。

 

「!? コ、コレは!?………」

 

「お、美味しい………」

 

「私達のカレーよりずっと………」

 

「な、なのです………」

 

「ハラショー………」

 

そして足柄と第六駆逐部隊チームも、そのカレーの美味しさを実感する。

 

「妹殿! ご協力ありがとうございました!」

 

「お蔭で大絶賛です」

 

「いえ、そんな。私はレシピ通りに作っただけですから」

 

あきつ丸とまるゆがそう言うと、湯江はそう謙遜する。

 

「おーっと! 思わぬダークホースが出現だぁーっ!!」

 

「コレは優勝決定かーっ!?」

 

何ともエンタ-テイメント的な演出に、霧島と那珂が興奮気味に実況する。

 

観客達も、思わぬ展開に沸き立つ。

 

「如何するの?」

 

「やはり決まりだろう………」

 

「そうですね。文句無しの一品でした」

 

陸奥、武蔵、大和が、優勝は木曾達のカレーだと判断する。

 

「…………」

 

しかし、長門だけは難しい顔をして黙り込んでいた………

 

「………では、優勝は!」

 

遂に優勝者が発表されようとした、その瞬間………

 

何やら、屋台の並んでいる通りの方から、破壊音が聞こえて来た。

 

「!? 何だっ!?」

 

地市が声を挙げると、更に破壊音が続き、悲鳴の様な声も聞こえて来る。

 

「!………」

 

居ても立っても居られず、弘樹が駆け出し、大洗と冥桜学園の一同も続いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋台が並ぶ通り………

 

「オラァッ!!」

 

「やっちまえっ!!」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

そこでは、不良と思われる男どもが、打ち壊し宜しく、屋台を破壊していた。

 

「! お前達! 何をやっているっ!!」

 

駆け付けた大洗と冥桜の一同の中で、その光景を見た長門が怒声を挙げる。

 

「! アイツ等は………」

 

「あ! リーダーッ! あの女っすよ!!」

 

と、木曾がその不良達に見覚えを感じた瞬間、不良の1人が木曾を見てそう声を挙げた。

 

「居やがったなぁ、このアマァッ!!」

 

すると、そう言う怒声と共に、右腕をギプスで固め、首から三角巾で吊っている不良が前に出る。

 

まるゆの財布をカツアゲしようとして、木曾に灸を据えられた連中である。

 

「やっぱり、あの時の連中か………」

 

「ウルセェッ! この前の落とし前を付けさせてもらうぜ!………総長! お願いしやすっ!!」

 

木曾が呆れた様子を見せると、リーダーはそう声を挙げる。

 

すると、近づいて来る機械音が耳に入る。

 

「! この音は!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その音を聞いたみほと、大洗と他校の戦車チームが反応する。

 

何故ならその音は、彼女達にとって馴染みにある音………

 

戦車の履帯とエンジンの音だったからだ。

 

その直後!!

 

無事だった屋台を破壊して、3輌の戦車が姿を現す!

 

「! IS-3………」

 

「!!」

 

その戦車がプラウダでも使用していたIS-3だったので、ノンナとカチューシャが反応する。

 

そこで、3輌の内、先頭に居たIS-3のハッチが開いたかと思うと………

 

「オウオウオウオウッ! テメェかぁっ!! ウチの舎弟共を可愛がってくれたっちゅうんはっ!!」

 

そう言う台詞と共に、晒で胸だけを隠した上に、白い特攻服を着て、頭に白い鉢巻を巻いた、いかにもレディースの総長っと言った風体の女性が姿を見せる。

 

「うおおっ!? 晒ブラジャー! 美味しいです!………! ぐへっ!?」

 

「黙ってろ………」

 

その女総長の姿を見た了平が悪い癖を出し、弘樹に制裁される。

 

「お前は?………」

 

「アタイは『湘南 晴風(しょうなん はれかぜ)』! 泣く子も黙るパンツァーレディース、『棲蛇亜麟(スターリン)』の総長様よ!! 夜露死苦っ!!」

 

木曾が問うと、女総長・『湘南 晴風(しょうなん はれかぜ)』はそう自己紹介する。

 

「パンツァーレディース?………」

 

「『戦車暴走族』ですわ。戦車を使って暴走行為を繰り返しているので、警察も手を焼いている存在ですわ」

 

沙織が聞き慣れない単語に首を傾げていると、意外にもダージリンがそう説明した。

 

「詳しいのですね………」

 

「ええ、ちょっと、ね………」

 

華がそう指摘すると、ダージリンは口籠った様子を見せてそう言う。

 

(あの子もあんなところに居たのね………)

 

その胸中には、クルセイダー巡航戦車を乗り回すグロリアーナの隊員の顔が浮かんでいた。

 

「スターリンだが、ヒトラーだか知らねえが………ウチの学園でこんな事して、只で済むと思ってるのか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

木曾が若干怒りの様子を見せながらそう言うと、長門達も闘気を纏い始める。

 

「!? ヒイッ!? そ、総長ぉ~………」

 

「情けねえ声出してんじゃねえっ! まあ、待ちなって、冥桜さんよぉ………ココは1つ勝負と行こうじゃねえか」

 

「勝負だと?………」

 

「その通り! アタイ等と勝負して、そっちが負けたらお前等全員に土下座して詫び入れてもらって、この学園をアタイ等の好きにさせてもらおうか!!」

 

勝負と聞いた長門が反応すると、晴風はそう宣言する。

 

「そ、そんなっ!?」

 

「お前達が負けた時は?」

 

「そん時にゃあ、コッチがキッチリと詫び入れて、2度とこの学園艦には来ねぇって約束してやるよ」

 

あんまりな条件に、吹雪が狼狽した様子を見せたが、直後に武蔵がそう問い質すと、晴風はそう返す。

 

「まさか勝負を挑まれて受けないとかは言わねえよなぁ? 天下の冥桜学園様がよぉ?」

 

砲塔の上でヤンキー座りをしてメンチを切りながらそう挑発する晴風。

 

「舐められたものね………」

 

「良いだろう。その勝負………」

 

「待ってくれ、長門」

 

陸奥がその挑発に苛立った様子を見せ、長門が受諾しようとしたところ、木曾がそれを押さえて前に出る。

 

「! 木曾!」

 

「この騒ぎの原因は俺にある。ならこの勝負は俺が受けるのが筋ってもんだ」

 

長門に向かってそう言い、晴風の傍まで歩み寄る木曾。

 

「へへへ、流石は冥桜学園の生徒様だ。良い覚悟だぜ」

 

「フッ………実力差も分からずに喧嘩を売るなんざ、無能な総長だな。じゃあ、勝負と行こうか?」

 

「ああ、勝負だ!………『戦車道』でなぁっ!!」

 

「!? 何だとっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

晴風がそう言い放つと、長門が驚愕の声を挙げ、冥桜学園の一同も狼狽する。

 

「ま、待って下さいっ! 私達の学園では戦車道は………」

 

「オイオイ。ソイツは勝負を受ける事を受諾したんだぜ。なのにそれを覆すのか? そしたら冥桜の奴は勝負の約束を反故にする様に連中だって言いふらしてやるぜ!!」

 

「! 卑怯なっ!!」

 

冥桜学園の生徒達の誇りを逆手に取り、勝負にならない勝負を仕掛けて来た晴風に、武蔵が不快感を露わにする。

 

「まあ、確かに、戦車もねえのに戦車道は出来ねぇよな。じゃあ。歩兵道で良いぜ! お前がウチの戦車と歩兵の連中を叩きのめす事が出来たら、さっき言った通りに詫び入れてやるぜ!!」

 

「………その言葉に二言は無いな?」

 

完全に木曾を見下した様子でそう言う晴風だったが、木曾は静かにそう言い放つ。

 

「ああ、ねえぜ! じゃあ、準備が出来たら、この先の草原に来な! まあ、逃げたって一向に構わねえぜ………ハハハハハハハッ!!」

 

晴風の高笑いを残し、3輌のIS-3と不良達は去って行く。

 

「長宗我部殿!」

 

「木曾さん! 無理ですよ! 相手は戦車ですよ! それに歩兵も居るって………」

 

「私達の学校はもう何10年も戦車道と歩兵道をやってないから、戦車どころか戦闘服だってないんですよ!」

 

「絶対に無理っぽいっ!!」

 

そこで木曾の周りに、あきつ丸、まるゆ、睦月、夕立が集まって来て、口々にそう言って来る。

 

「………武人ならば、危険を顧みず、死ぬと分かっていても行動しなくてはならない時がある。負けると分かっていても、戦わなくてはならない時がある」

 

だが、木曾はそう言い放ち、退く様子を見せない。

 

「木曾さん………」

 

そんな木曾の姿を、まるゆは不安げに見上げる。

 

「ど、如何しよう………」

 

「加勢したいところですが、戦車が………」

 

「今から学園に取りに戻っては時間が掛かってしまいます」

 

一方、大洗の一同は、冥桜に加勢したいと考えているが、肝心の戦車や武器がこの場に無く、戦闘服も無いので如何する事も出来ない。

 

他校の面々も同様である。

 

(何か手は………)

 

弘樹も、何か手は無いかと必死に頭を回転させる。

 

と、その時………

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然後ろからそう言う声が聞こえて来て、一同が振り返ると、そこには………

 

「! 絹代さん!?」

 

「西総隊長っ!?」

 

背中に『祭』と書かれた法被を纏い、頭に捩り鉢巻を巻いている絹代の姿が在った!

 

「! 西隊長!」

 

一方、長門も絹代の姿を見て、驚きの声を挙げる。

 

「長門さん。この勝負………義によって助太刀させてもらうわ!」

 

そんな長門に、絹代はそう言い放つ。

 

「何っ?」

 

「『アレ』を使う良い機会だと思ってね」

 

「! 完了したのか!?」

 

「ぶっつけ本番になるけど、まあ大丈夫よ、『彼女』なら」

 

何やら気になる単語を交えながら、絹代と長門がそう言葉を交わす。

 

「西総隊長、一体何の話ですか?」

 

とそこで、弘樹が絹代にそう質問した瞬間………

 

またもや、戦車の履帯とエンジンの鳴る音が響いて来た。

 

「わあっ!? また来たの!?」

 

「!? いえ、違います! このエンジン音は!?」

 

沙織が慌てるが、優花里は興奮した様子を見せる。

 

その直後………

 

人混みを避けながら、1人の知波単学園の戦闘服を着た男性をタンクデサントさせていた戦車が、大洗と他校、冥桜学園の生徒達の元へやって来た。

 

「やっぱり! ティーガーⅠです!!」

 

その戦車が、ティーガーⅠである事を確認した優花里が、そう声を挙げる。

 

「お久しぶりです、舩坂さん」

 

と、そのティーガーⅠにタンクデサントしていた戦闘服の男性が降りて来ると、弘樹に向かってそう挨拶した。

 

「! 『ライ』か! と言う事は………」

 

「弘樹!」

 

弘樹がその男性の事を『ライ』と呼ぶと、ティーガーⅠの操縦席のハッチが開いて、赤い特徴的に跳ねた髪型にバンダナをした知波単学園のパンツァージャケットを着た少女が姿を見せる。

 

「やはり『カレン』か」

 

「久しぶり! 元気そうだね!!」

 

かなり親しげな様子で弘樹に話しかける『カレン』と呼ばれた少女。

 

「お前達も知波単に居たのか? 練習試合の時には見かけなかったが………」

 

「いえ、最近転校して来たんですよ」

 

「前はマジノの方に居たんだけど………」

 

「マジノに? しかし、あそこは防御主体の戦術を柱にしていた筈………お前のやり方とは合わないんじゃないのか?」

 

「親が行けって煩くてさぁ………でも、エクレールって子が改革を目指して新たに総隊長になって、機動力を主体とする騎兵戦術に変わろうとしていたの。だけど………」

 

「そのエクレールさんと伝統を急激に変えるのに反発した3年生全員と1・2年生数名に亀裂が生じてしまって………」

 

「マジノはお嬢様の学校だから、アイツ等エクレールの奴に陰湿なイジメをしたのよ」

 

「オイ、まさか………」

 

そこで弘樹は、何かを思い至った顔になる。

 

「ええ、お察しの通り………カレンがその反発していた生徒達全員を叩きのめしちゃったんですよ」

 

「やれやれ………」

 

「仕方ないでしょう! 見てられなかったんだから!!」

 

弘樹が呆れた様に肩を竦めると、カレンがそう声を張り上げる。

 

「まあ、それでカレンが悪者になっちゃって、結果的にチームは再び纏まったんですけど………流石にマジノには居られなくなって、西総隊長が声を掛けてくれたんで、知波単に転校したんです」

 

「全く、お前らしいな」

 

「あ、あの、弘樹くん。その人達は?」

 

とそこで、みほが弘樹にそう尋ねる。

 

「ああ、すまない。紹介が遅れたな。シメオンや西総隊長達と同じ、小官の戦友の『神楽坂 ライ』と『紅月 カレン』だ」

 

「ライです。初めまして」

 

「カレンだよ。よろしくね」

 

弘樹はそう言って、男性・『神楽坂 ライ』と女性・『紅月 カレン』を紹介する。

 

「凄いイケメン~!」

 

「カッコイイ~ッ!」

 

ライを見た1年生チームが、その美形ぶりを見てそんな声を挙げる。

 

「おお、凄いオッパイ………!? ぐへっ!?」

 

「お前もホンットに懲りない奴だな」

 

一方で、カレンの中々豊満なバストを見た了平が下衆に笑い、地市が制裁を入れる。

 

「ところで、このティーガーは如何したんだ?」

 

そこで弘樹は、カレンとライが乗って来たティーガーⅠを見ながらそう尋ねる。

 

「砲塔を見てみて」

 

「?………コレは」

 

カレンに言われて、弘樹がティーガーⅠの砲塔を見やると、そこには日の丸が描かれていた。

 

「このティーガーは旧日本軍がドイツから輸入した物よ」

 

「ええっ!? 確かに、旧日本軍がティーガーの輸入を計画していましたが、戦況悪化で海路を押さえられて立ち消えになった筈じゃ!?」

 

カレンがそう説明すると、優花里が旧日本軍のティーガー輸入計画を思い出してそう声を挙げる。

 

「いえ、実際には輸入されていたのよ。非公式な記録だけど、ミャンマー………当時の『ビルマ』で英軍の戦車を相手に戦ったって」

 

「その後、日本にまで運ばれましたが、そこで終戦となり、連合軍に接収される事を惜しんだ日本軍が、この学園艦の奥深くに隠したそうなんです」

 

「!? そうなんですか、長門さん!?」

 

「そんな話、聞いた事無いっぽい?」

 

ライの説明を聞いた吹雪と夕立が、長門にそう問い質す。

 

「………お前達も知っている通り、この学園は戦車道や歩兵道から遠ざかっていた。だからそのティーガーの事も誰も触れない様にして、今では極一部の者にしか伝えられていなかった」

 

「けど、知波単にも旧日本軍の色々な記録の書類が残されていてね。その中にこのティーガーの事も書かれていたのよ」

 

長門がそう説明すると、絹代がティーガーの車体に手を置きながらそう言う。

 

「我々にとって、戦車は忌まわしい記憶を呼び覚ます物だ。だから、西総隊長が引き取ってくれると言った時は正直助かった」

 

「長年放置されてたから、大分痛んでてね。整備しようにも運び出すのも容易じゃないから、仕方なく此方から出向いて手入れをしてたのよ」

 

「成程………旧日本軍のティーガーか………ん?」

 

とそこで、改めてその旧日本軍のティーガーを見やった弘樹が、とある事に気づく。

 

「コレは………『倒福』?」

 

ティーガーの車体横に、逆さまに張られた福の文字が在った。

 

中国で幸運を呼ぶとされる、所謂まじないである。

 

「ああ、それなら最初から入ってたわよ」

 

「気にはなったんですけど、縁起は良いモノですから、特に問題無いと思って………」

 

「倒福と日の丸を持つティーガーか………」

 

何か思うところが有る様に、弘樹はそのティーガーを見やる。

 

「ですが、相手はあのIS-3。それも3輌も居るのですよ。きっと歩兵も多数居ます。幾らティーガーと言えど、1輌では………」

 

「では、我等が助太刀致そう」

 

と、優花里がそう言った瞬間、そう言う声が聞こえて来た………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に開催されたカレー大会。
原作通り、カオスな内容となっています。
比叡と足柄のネタは、個人的に受け入れられなかったので、変えさせてもらいました。
しかし、最後の最後のところで、何と木曾達のチームが乱入!
優勝を掻っ攫いか?

………と、思われた瞬間に、木曾にやられた不良達が、レディースの総長を引き連れて仕返しに!
冥桜学園生徒としての誇りを逆手に取り、卑怯な勝負を仕掛ける晴風だったが、そこへ来ていた絹代が助太刀する!

新たに弘樹の旧友キャラが出ましたが、カレンの方はご存じコードギアスのキャラです。
何故旧友にしたかと言いますと、後々の劇場版の事で、知波単に副隊長ポジションのキャラが欲しかったので、スパロボでキリコとカレンが仲が良かったのを思い出し、キリコモチーフの弘樹の旧友で絡ませられると言う思いもあり、参戦してもらいました。

ライと言うキャラの方は、コードギアスのゲーム『LOST COLORS』の主人公キャラでして。
私このキャラとカレンのカップリング、俗にいう『輻射波動夫婦』が大好きでして。
カレン出すなら、やっぱりライも出したいと思い、丁度知波単に名有りの歩兵を入れたいとも考えていたので、御登場願いました。

そして、そのカレンの愛車ですが、何とティーガーです。
最初は、練習試合で出した五式辺りにしようかと思ったのですが、原作でのカレンの強さを見て、もっと強力なヤツが良いと思い、WOTで知った日本軍のティーガー輸入計画を思い出し、じゃあティーガーにしようと。
そして、そのティーガーに付けられている『倒福』のマークですが………
恐らく、ガルパンおじさん達にはお分かりでしょう。
そう、あのタイガー(敢えてこの呼び方)です!
輸入ティーガーを使おうと思った時に、丁度あの作品のティーガーも日本軍として戦っていたなと思い、やっちゃいました。
実はこのティーガー以外にも、あの作品を思い起こさせる物が登場しています。
次々回辺りで明らかになりますのでお楽しみに。

最後に現れた援軍の人ですが、口調から予想のつく方も居るでしょう。
でも、『アイツ等』の登場は流石に読めないと思います。
楽しみにしていて下さい。


長くなりましたが、では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第149話『バトリングです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第149話『バトリングです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼の行方を知る為に冥桜学園を訪れた大洗機甲部隊の一同………

 

行方を知る足柄から情報を得る為………

 

夏祭りのカレー大会の参加チームに助っ人として参戦する事になったあんこうチーム………

 

結局カレーを作り上げたのは2チームだったり………

 

湯江を助っ人にした木曾チームの乱入があったりした中………

 

いよいよ優勝者の発表がなされようとしたところ………

 

まるゆからカツアゲをしようとして、木曾に撃退された不良達が、『パンツァーレディース』………

 

『戦車暴走族』の総長・『湘南 晴風』を引き連れて、仕返しにやって来た。

 

そして卑怯にも、武道の名門である冥桜学園の誇りを逆手に取り、晴風は戦車道・歩兵道での勝負を木曾に挑む………

 

誇りの為に勝負を降りる事をしなかった木曾に助太刀をしようとする大洗だが、肝心の戦車や、着用義務の有る戦闘服が無い………

 

だが、そこで………

 

冥桜学園に眠っていた旧日本軍がドイツから輸入したティーガーⅠを回収に来ていた絹代と………

 

弘樹の戦友である『神楽坂 ライ』に『紅月 カレン』に出会う。

 

更に、そんな一同に声を掛ける者が現れた。

 

それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園の甲板都市………

 

夏祭り会場………

 

「? 誰?」

 

突然聞こえて来た声の方向を、みほを初めとした一同が振り返ると、そこには………

 

赤備えの様に真っ赤に染められ、砲塔両面と車長ハッチにムカデ、車体前面に武田菱を黒色ペイントしている小型の戦車………

 

『九七式軽装甲車(砲搭載型)』、通称『テケ』と、その車長ハッチから上半身を出しているショートの黒髪に大きな赤いリボンをしている目つきの鋭い少女と、操縦手ハッチから顔を見せているロングの金髪の少女の姿が在った。

 

「おお! テケ車です! 珍しいっ!!」

 

「あのマークは、赤備え………武田………百足紋………」

 

テケに反応する優花里と、そのテケのカラーリングとエンブレムに反応する左衛門佐。

 

「君達は?………」

 

「馬上より失礼致す。身共は楯無高校、『鶴姫 しずか』と申す」

 

弘樹が尋ねると、リボンの少女………『鶴姫 しずか』が時代掛かった口調でそう自己紹介する。

 

「そして、我が愛馬………」

 

「あああ、あの! 西住 みほさんですよね!? 私、『松風 鈴』って言います! 試合、何時も見てます! 大ファンなんです!!」

 

「え、えっと、あ、ありがとうございます………」

 

と、続けて操縦手の子を紹介しようとしたが、その子、『松風 鈴』はテケから降りて、みほの前に立ち興奮した様子でそう捲し立てていた。

 

「君、ちょっと落ち着いて………」

 

「! わあぁーっ!? 出たっ!? 大洗の鬼神! 蘇った英霊! カオスを体現する男! 不死身の歩兵、舩坂 弘樹!!」

 

鈴を落ち着かせようとした弘樹だったが、鈴は弘樹の姿を見て、更に興奮した様子を見せる。

 

「…………」

 

弘樹は困った顔になって、テケの上に居るしずかを見やる。

 

「…………」

 

しかし、しずかもしずかで、如何して良いか分からずに居る様子だった。

 

「ちょっと、鈴。落ち着きなさいよ」

 

「わたたっ!?」

 

とそこで、制服姿の女子が現れ、鈴のシャツの首根っこを掴んで落ち着かせる。

 

「友人が大変失礼致しました」

 

「いや、構わない。ところで、君は?」

 

「あ、申し遅れました。私、楯無高校の『遠藤 はるか』。『ムカデさんチーム』のマネージャーみたいなものです」

 

そう女子生徒………『遠藤 はるか』は自己紹介する。

 

「『ムカデさんチーム』? 戦車道の者か?」

 

と、弘樹がそう問い質した瞬間………

 

「否っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

テケの砲塔上に立つしずかがそう声を挙げ、一同の注目が集まる。

 

「我等がするのは戦車道などと言う婦女子の暇潰しに非ず。戦也」

 

「なっ!?」

 

「戦車道が………暇潰しですって」

 

戦車道を婦女子の暇潰しと断ずるしずかに、他校戦車チームの面々の一部が渋面を浮かべる。

 

「如何にも。所詮はお遊戯。故に廃れているのではないか?」

 

「このぉっ! 黙って聞いてればっ!!」

 

「粛清してやるわ!」

 

「許せないわっ!!」

 

尚もそう言葉を続けるしずかに、アリサ、カチューシャ、ルウが掴み掛って行きそうになったが………

 

「オイ、お姫さん。その辺にしときな。助っ人しようってのに、喧嘩売って如何すんだ?」

 

「! この声は………」

 

そう言う男性のものと思われる渋い声が聞こえて来て、弘樹が反応する。

 

そして、テケの後ろから、楯無高校の男子用の制服に身を包んだ3人の男が現れる。

 

「よう、弘樹」

 

「久しぶりだな」

 

「元気そうじゃねえか。まあ、お前さんなら当然だろうがな………」

 

顔中に傷跡のある男と、寡黙そうな男、そしてニヒルな感じのする男が、弘樹を見ながらそう言う。

 

「『グレゴルー』! 『ムーザ』! 『バイマン』もか!」

 

その3人………『グレゴルー・ガロッシュ』、『ムーザ・メリメ』、『バイマン・ハガード』の姿を見て、弘樹がそう言う。

 

「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」

 

「ちょっと、ノンナ。またぁ?」

 

その3人の姿を見た途端、ノンナが………

 

むせる

 

カチューシャはそんなノンナの姿に呆れる様に呟く。

 

「お前達も、まだ歩兵道を続けていたのか?」

 

「いやあ、生憎ともうルールで縛られた戦いにはうんざりしてな」

 

「今は『バトリング』の方にのめり込んでるのさ」

 

弘樹がそう尋ねると、グレゴルーとバイマンがそう返す。

 

「『バトリング』?………成程。するとそちらの2人は『強襲戦車競技(タンカスロン)』の選手という事か」

 

『バトリング』と言う単語を聞いた弘樹が、再びしずかと鈴の事を見やりながらそう呟く。

 

「ねえ、ゆかりん。『バトリング』とか『強襲戦車競技(タンカスロン)』って何?」

 

「どちらも連盟非公式・非公認の歩兵競技と戦車競技です。戦車の方は参加可能車輌が10トン以下である事以外はルールが無く、歩兵側に至っては粗ルール無用と言っても過言ではありません。車輌数の制限も無いうえ、試合中の増援や試合への乱入も禁止されていません。競技会場や開催時間にも制限は無く、夜間でも競技が行われます。一部では非合法な賭け試合も行われていると聞きます」

 

「つまりは野試合………若しくは非合法戦というワケだな」

 

沙織が『バトリング』と『強襲戦車競技(タンカスロン)』について優花里に尋ね、優花里がそう答えると、麻子が口を挟む。

 

「そこであのお姫さんとも出会ってな。色々あって、今じゃチーム組んでやってるってワケだ」

 

「成程………お前達らしいな」

 

グレゴルーがそう言うと、弘樹は微笑する。

 

「まあ、兎に角。豆戦車とは言え、コレで戦車は2輌。多少はマシに………」

 

「いや、3輌だよ」

 

と、カレンがそう言いかけた瞬間、そう言う台詞と共に、弦楽器を鳴らした様な音が響いた。

 

「! この音は………」

 

その弦楽器の音に、シメオンが反応した瞬間………

 

小型の車体に頭でっかちな砲塔を持つ戦車………

 

フィンランド軍が、ソ連軍から鹵獲したBT-7にイギリス軍から提供されたQF 4.5インチ榴弾砲を搭載した改造戦車………

 

『BT-42』が姿を現した。

 

その砲塔の上には、チューリップハットとジャージ姿で、フィンランドの民族楽器・カンテレを持っている少女が腰掛けている。

 

「やあ、久しぶりだね、シメオン」

 

「シメオンさん、久しぶり」

 

「元気そうだね」

 

チューリップハットの少女がそう言うと、砲塔上部のハッチが開いて、ブロンド色の髪を二つ結びで纏めたおさげの少女が姿を見せ、操縦手用のハッチからも、赤茶色の髪をビックテール状で纏めている少女が顔を見せた。

 

「『ミカ』! 『アキ』に『ミッコ』も!」

 

「! 『ミカ』さん!」

 

シメオンがそう声を挙げ、みほも驚きを示す。

 

チューリップハットの少女は『ミカ』

 

ブロンド色の髪を二つ結びで纏めたおさげの少女は『アキ』

 

赤茶色の髪をビックテール状で纏めている少女『ミッコ』

 

彼女達は、『継続高校』の戦車道チームの隊長とその隊員達だった。

 

「みほさんも久しぶりだね。何時かの練習試合以来かい?」

 

「ハイ、お久しぶりです」

 

「みぽりんとヘイヘくんの知り合い?」

 

そのミカ達と面識がある様子を見せるみほとシメオンに、沙織がそう尋ねる。

 

「うん、継続高校の戦車道チームの隊長さんと隊員さん達だよ。黒森峰に居た頃、練習試合をした事あるんだけど、苦戦させられて」

 

「ええっ!? あの黒森峰が!?」

 

黒森峰が苦戦させられたと言うみほの話に、聖子が驚きの声を挙げる。

 

「ヘイヘさんは、如何言ったお知り合いで?」

 

「ああ、言ってなかったな。ワシが大洗に転校して来る前に居た学校が継続だったんだよ」

 

「ええっ!? そうだったんですか!?」

 

清十郎が、シメオンは如何言う知り合いなのかと尋ねると、シメオンがそう答え、光照が驚きの声を挙げる。

 

「しかし、ミカ。何で此処に………って、聞くだけ野暮か」

 

「その通り………風に吹かれて来たのさ」

 

シメオンの問いに、ミカはそう返すと、カンテラを鳴らした。

 

「もう~、ミカってば、そればっかり」

 

「何だか………浮世離れしている感じがする子だな」

 

アキが呆れた様にそう言うと、磐渡がそんな感想を漏らす。

 

「君達も手を貸してくれるのか?」

 

「風がそう言っているからね」

 

弘樹が尋ねると、ミカはそう返しながら、またカンテラを鳴らす。

 

「コレで戦車の数ではイーブンね」

 

「豆戦車と実質突撃砲の戦車ですけどね」

 

絹代がそう言うと、カレンが若干呆れた様子でそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

冥桜学園・夏祭り会場から少し離れた草原………

 

月明かりに照らされる草原を進む3輌の戦車と、5名の歩兵の影………

 

「すまねえな。巻き込む形になっちまって」

 

ティーガーⅠの操縦席に乗り込んでいる木曾がそう言う。

 

「気にしないで。コッチはこのティーガーを貰う約束になってたから、言わば恩返しよ」

 

砲手席のカレンがそう返す。

 

「そうそう。でも、みほちゃん達は良かったの?」

 

と、通信手席の絹代もそう言うと、車長席のみほと、装填手席の優花里の姿を見やる。

 

「ハイ。戦車乗りとして、戦車を暴走行為やあんな事に使う人を見逃せませんから」

 

「私も同じです! あんな使い方をされては、戦車が可愛そうであります!」

 

車長席のみほがそう言うと、優花里もそう同意する。

 

「それもそうね………よおし! あの暴走族達に、本当の戦車乗り魂って奴を教育してやりましょう!!」

 

「「「「おおーっ!(おうっ!)」」」」

 

絹代がそう言うと、車内に勇ましい返事が響き渡るのだった。

 

「姫。助っ人買っといてなんだけど、大丈夫かな? 相手は何時ものタンカスロンで戦ってる豆戦車や軽戦車じゃなくて、重戦車だよ?」

 

「フッ、相手は強大であればあるほど良い。戦とはそういうものよ」

 

一方、テケの方では、不安そうな様子を見せている鈴に、しずかが狂気染みた笑みを浮かべてそう返す。

 

彼女も中々の戦闘狂の様である。

 

「で、ホントのところは、如何して助っ人する気になったの?」

 

「戦車道には人生の大切な事が色々と詰まっている………そんな戦車道を汚す様な彼女達がちょっと許せないのさ」

 

「お、珍しくマジだね、ミカ」

 

BT-42の車内でも、アキ、ミカ、ミッコがそんな会話を交わしている。

 

「まさか、こんな形でまた弘樹さんと同じ戦場に立つとは思いませんでしたよ」

 

「全くだ………」

 

そして、随伴していた歩兵の中で、知波単の戦闘服姿のライが、弘樹にそう言う。

 

「オイ、弘樹。戦闘服の具合は如何だ?」

 

するとそこで、ムーザが弘樹にそう尋ねて来た。

 

「ああ、サイズはピッタリだ。問題無い」

 

「運良く予備の戦闘服が有って良かったな」

 

弘樹がそう返すと、今度はバイマンがそう言って来る。

 

今、弘樹が来ている戦闘服は、グレゴルー達の古巣………

 

『赤肩学園』の物である。

 

その証拠に、右肩が血の様な暗い赤で染められている。

 

「しっかし、こうしているとまるで亡霊にでもなった様な気分だな」

 

「フッ、亡霊か………なら、さしずめ、レッドショルダーの亡霊って事か。序にコイツの肩は赤く塗らねぇのか?」

 

「えっ? 僕ですか?」

 

グレゴルーがそんな事を言うと、バイマンがライの事を見ながらそう言う。

 

「貴様………塗りたいのか?」

 

「へっ、冗談だよ」

 

グレゴルーがバイマンを睨みつけると、バイマンはそう返す。

 

「お喋りはその辺にしておけ。そろそろ目標地点だ」

 

と、ムーザがそう言い、目標地点が近い事を告げる。

 

「! 伏せろっ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

「! 全車停止っ!!」

 

「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

するとそこで、弘樹とみほが何かに気付いた様にそう声を挙げ、歩兵部隊は一斉に伏せ、戦車も停止する。

 

直後に、その周辺に次々と砲弾が着弾!

 

派手に火柱を上げたっ!!

 

「!!」

 

火柱が治まると、みほがハッチを開けて車外に姿を晒す。

 

「!? アレはっ!?」

 

そこでみほは目にする。

 

前方の小高い丘の上に陣取り、主砲から硝煙を上げている3輌のIS-3………

 

そして、その周辺に展開している、合わせて50輌近くは居る………

 

『T-54』と『T-10』の戦車部隊の姿を!

 

戦車の周りには、世紀末的な恰好をしたチンピラ達の歩兵部隊の姿も在る。

 

「『T-54』と『T-10』!!」

 

「なっ!? そんなっ!? どっちも第二次世界大戦後の戦車じゃないですか!?」

 

みほがそう叫ぶと、優花里が驚きの声を挙げる。

 

「端から戦車道で勝負する気なんてなかったのね!」

 

「挨拶も無しに仕掛けて来てる時点で、その積りみたいよ」

 

カレンが怒りを露わにする中、絹代は冷めた様子でそう言う。

 

「良いぜ。本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」

 

だが木曾は、立ちはだかる50輌近くの戦車を見ながら、逆に闘志を燃え上がらせる。

 

「クククク………」

 

そしてもう1人………

 

しずかも、居並ぶ戦車部隊を前に、闘志が高まる余り、狂気の笑みを浮かべていた。

 

(ヤバ~イ! 姫が超楽しそうな笑みを浮かべてる~っ!!)

 

一方の鈴の方は、敵戦車部隊としずかの様子に、戦々恐々としている。

 

「何よ、アレ!? 卑怯にも程があるよっ!!」

 

「…………」

 

アキがそう言うと、ミカの顔も無表情になる。

 

「…………」

 

そして、無言のままにカンテラを鳴らし始め、ある曲を演奏し始めた。

 

「おっ! いきなりやる気だね、ミカ!!」

 

その曲を聞いたミッコがそう声を挙げる。

 

それはフィンランドの民謡………

 

『サッキヤルヴェン・ポルッカ』だった。

 

「ライ、お前はこのまま護衛として戦車と一緒に居ろ。小官達は側面に回って仕掛ける」

 

「了解!」

 

「行くぞっ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

そして歩兵部隊も、弘樹がそう命じ、ライを戦車の護衛に残すと、グレゴルー達と共に棲蛇亜麟の側面へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場となっているフィールドから少し離れた丘の上………

 

「何アレ!? 卑怯じゃないっ!!」

 

「戦後の戦車を使い、挨拶も無しに攻撃………オマケにあの数………」

 

「如何やら初めから戦車道で勝負する気など無かったようですわね」

 

棲蛇亜麟の部隊編成を見た沙織がそう声を挙げ、麻子が呟くと、ダージリンも不快感を露わにする。

 

「だが、コレは非公式の試合だ。審判も居ないとなればルールを順守する必要も無い。つまり、向こうがやってる事を咎める事は出来ないと言う事だ」

 

しかし、十河が淡々とそう言い放つ。

 

「だからって、幾らなんでも、アレはあんまりですよ!」

 

そんな十河に、梓が棲蛇亜麟部隊を指差してそう言い放つ。

 

「如何しようっ!?」

 

「今からでも西住総隊長と舩坂先輩に加勢に行きましょうっ!!」

 

「でも、戦車と戦闘服が………」

 

男子・女子の1年生達は、今からでも加勢に行こうと言うが、やはり戦車も戦闘服も無いので如何する事も出来ない。

 

「クウッ! 折角加勢してくれた彼女達に、我々は何も出来ないのか………」

 

「長門………」

 

長門を初めとして冥桜学園の生徒達も、自分達の代わりに戦ってくれている弘樹やみほ達を見ている事だけしか出来ず、歯痒い思いを募らせる。

 

「皆、落ち着いてくれ」

 

しかしそこで、シメオンがそう声を挙げ、一同の視線が集まる。

 

「弘樹達なら大丈夫だ。ワシが保証する」

 

「で、でも! あんなに数の差が………」

 

「まあ、見ているんだ」

 

不安そうにそう言う沙織に、シメオンはそう言い、再び戦場を見やるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原エリア………

 

「ハハハハハハッ! 馬鹿正直に来やがって! 誰が真面に戦車道なんかするかってんだ! どんな手を使おうが、勝てば良いんだよ! 勝てばっ!!」

 

IS-3の砲塔の上に仁王立ちしている晴風が、高笑いしながらそう言い放つ。

 

「総長! 1輌突っ込んで来やすぜっ!!」

 

「あん?………」

 

と、傍に居た随伴歩兵の不良からそう声が挙がり、晴風が視線をやるとそこには………

 

隊列から飛び出し、コチラに向かって爆走してくるBT-42の姿が在った。

 

「何だぁ? 自棄になっての特攻か? 構わねえっ! 捻り潰せっ!!」

 

晴風がそう命じた瞬間、棲蛇亜麟戦車部隊が、突っ込んで来るBT-42に一斉砲撃する!

 

………だが!!

 

「行っくよーっ!!」

 

ミッコがそう言い放つと、BT-42は巧みな機動で、棲蛇亜麟戦車部隊の砲撃を紙一重で回避して行く。

 

「んなっ!? 馬鹿野郎っ! もっと良く狙えっ!!」

 

晴風がそう怒鳴り、棲蛇亜麟戦車部隊の砲撃の激しさが増すが、やはりBT-42には掠りもしない。

 

やがて、BT-42はそのまま、棲蛇亜麟部隊の中へと飛び込んだ!

 

「トゥータッ!」

 

そして至近距離から、手近に居たT-54のエンジン部に砲弾を撃ち込んだ!

 

エンジン部に砲弾を撃ち込まれたT-54が爆発し、白旗を上げる。

 

更にBT-42は、棲蛇亜麟戦車部隊の中を走り回りながら、次々とエンジン部や砲塔リング、車体の覗き窓と言った弱点部分だけを正確に狙い撃って行く。

 

「は、速過ぎるっ!?」

 

「何だ、あの操縦は!? レーサーでも乗ってるのか!?」

 

戦車や歩兵が密集した中を、縦横無尽に走り回るBT-42の姿に、棲蛇亜麟戦車部隊のレディース達からは驚愕の声が挙がる。

 

「落ち着けっ! 包囲して、逃げ場を………」

 

「総長っ! 今度はテケが突っ込んで来やすっ!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

晴風がBT-42を包囲しろと言いかけた瞬間、レディースの1人がそう声を挙げ、その言葉通り、BT-42に続く様に突っ込んで来るムカデマークのテケの姿を確認する。

 

「ええいっ! 消し飛ばせっ!!」

 

晴風がそう命じると、数輌のT-54とT-10が、テケに向かって砲撃する。

 

「キャアアアッ!? 怖い怖い怖い~っ!!」

 

「落ち着け、鈴。コチラの速度と車体の大きさなら、そうそう当たるものではない………」

 

「でも怖いよ~っ!! 普段飛んで来る砲弾とは全然違うよ~っ!!」

 

タンカスロンでは絶対に経験する事の無い大型砲弾の着弾の嵐に、鈴が悲鳴を挙げるが、対するしずかは狂気の笑みを浮かべたままである。

 

「クソッ! あのテケ、タンカスロン用だな! 大分弄られてるぞっ!!」

 

明らかにカタログスペックを凌駕している動きを見せているテケに、レディースの1人がそう声を挙げる。

 

「慌てるな! 所詮は豆戦車だ! 装甲なんざ無いに等しい! 接近して来たら吹き潰してやれば良いんだ!!」

 

と、別のレディースの1人がそう言った瞬間に、テケは棲蛇亜麟戦車部隊の布陣の中へと飛び込んで来る。

 

「来たぞっ! 潰せぇっ!!」

 

途端に、1輌のT-10が、テケを踏み潰そうとダッシュする。

 

「…………」

 

だが、それを見たしずかは、狂気の笑みのまま、足を鈴の背中に這わせた。

 

操縦の指示である。

 

「!? ひゃううっ!?」

 

それに若干悶えながらも、指示通りに戦車を急停車させたかと思うと、すかさずバックする。

 

「なっ!?」

 

「うわっ!? 馬鹿っ!?」

 

テケを狙ったT-10は、そのまま奥に居たT-54に衝突!

 

余程勢い良くぶつかったのか、両車から白旗が上がる。

 

「チキショウがッ!!」

 

と、別のT-54が、テケに向かって発砲する!

 

「見切ったっ!!」

 

しかし、しずかはそう言い放ち、テケの主砲を発砲したかと思うと、何と!!

 

テケから放たれた砲弾が、T-54が放った砲弾に当たり、明後日の方向に弾かれた!!

 

「「「「「うわあああっ!?」」」」」

 

弾かれた先にはT-10が居り、直撃を受けて白旗を上げる。

 

「んなっ!?」

 

「砲弾に砲弾を当てて弾いただとっ!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「何なんだよ、あの女っ!?」

 

とんでもない神業を見せたしずかに、パンツァーレディース達の間に戦慄が走る。

 

「ええい! うろたえるんじゃねえっ!! それでも天下の棲蛇亜麟かぁっ!?」

 

そう叫ぶ晴風だが、パンツァーレディース達の動揺は収まらない!

 

「クソッ! どいつもこいつも………おうわっ!? アダッ!?」

 

と、晴風がそう悪態を吐いた瞬間に、彼女のI-3に砲弾が命中。

 

傾斜装甲で弾かれたが、その振動で晴風は足を滑らせ、ハッチから車長席に落ちて尻餅を衝く。

 

「総長! 大丈夫ですか!?」

 

「イデデデデッ! な、何だっ!?」

 

装填手のレディースがそう尋ねて来る中、晴風は車長用のスコープで外を確認する。

 

「装填完了っ!」

 

「発射ぁっ!!」

 

そこには、自分達に向かって発砲して来ているティーガーⅠの姿が在った。

 

「チイッ! ティーガーのヤツが仕掛けて来やがったか!!」

 

「総長! 突っ込みますかっ!?」

 

「いや、このまま撃てっ! コッチは虎狩り用に開発されたIS-2の後継機だぜ! 自慢のアハトアハトもこの距離じゃコッチの装甲は抜けねぇっ! なら、アウトレンジで仕留めさせてもらうぜ!!」

 

晴風がそう指示すると、3輌のIS-3がティーガーⅠに向かって砲撃する。

 

ティーガーⅠの周辺で、次々に火柱が上がる!

 

しかし、ティーガーⅠは回避行動を取りはするものの、距離を詰めようとはして来ない。

 

「? 何考えてんだ? この距離じゃ貫通出来ねえって分かってる筈だぜ?」

 

ティーガーⅠの行動の意味が分からず、首を傾げる晴風。

 

と、その直後にティーガーⅠがまたも発砲!

 

砲弾は晴風の乗って居るIS-3の隣に居たIS-3の砲塔に命中したかと思うと、傾斜装甲によって明後日の方向に弾かれる。

 

「無駄だってのっ!!」

 

晴風は余裕の様子でそう言う。

 

だが………

 

「装填完了!」

 

「良し! 分かったわ! ココねっ!!」

 

再度装填を終えたティーガーⅠが発砲したかと思うと、放たれた砲弾が晴風の左側に居たIS-3の防盾部分下側に命中!

 

下向きに跳ね返った砲弾が、車体上部を貫通したと判定され、爆発!

 

一瞬の間の後に、IS-3から白旗が上がる!

 

「なっ!?」

 

何が起こったのかと、晴風が再び車外に姿を晒す。

 

直後に、今度は晴風の右側に居たIS-3に、同じ様に砲弾がショットトラップで命中!

 

もう1輌のIS-3も、白旗を上げた!

 

「!? ま、まさかっ!? アイツ、狙ってショットトラップをっ!?」

 

そこでそう言う結論に至り、晴風が戦慄する。

 

「砲塔3時! T-10!!」

 

「了解っ!!」

 

みほの指示で、照準器に捉えたT-10に向かって発砲するカレン。

 

砲弾はまたもショットトラップで、T-10の車体上部に命中して爆発。

 

白旗を上げさせる。

 

「良しっ!」

 

「凄いですね、紅月殿っ! ショットトラップをコレだけ連発させるだなんて!!」

 

カレンが軽くガッツポーズを決めると、優花里が次弾を装填しながらそう言う。

 

「私も初めて見ました。凄い腕ですね」

 

「別に大した事じゃないよ。昔っから火力の有る戦車と無縁だったから、如何やったら相手の戦車を撃破出来るかと考えた時に思いついた戦法がコレで、馬鹿の1つ覚えみたいに練習してただけよ」

 

みほもカレンを褒めるが、カレンはそう返して大した事じゃないと言う。

 

(そう言えば、黒森峰じゃそう言う練習はしなかったな………大体どんな戦車とも正面から撃ち合える戦車ばかり使ってたから)

 

そうみほが考えている中、反撃の砲撃が、ティーガーⅠの付近に次々と着弾する。

 

「甘いぜっ!!」

 

しかし、木曾の巧みな操縦で、ティーガーⅠは次々に砲弾を回避する。

 

「良い操縦ね。さっきマニュアルを読んで覚えたばかりとは思えないわ」

 

木曾の操縦テクニックを、絹代がそう褒める。

 

「いや、俺は特別な事はしてない。何故か向こうの弾が当たり難いだけだ」

 

「じゃあ、倒福のおまじないの効果かしらね」

 

木曾がそう返すと、絹代はティーガーⅠの車体側面に在った『倒福』マークの事を思い出してそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やられたーっ!?」

 

「コッチもだぁっ!?」

 

ティーガーⅠからの砲撃と、自陣内で暴れ回っているBT-42とテケによって、棲蛇亜麟戦車部隊のT-54とT-10は次々に撃破されて行く。

 

「ええいっ! 歩兵部隊! 何やってやがるっ!! お前等も働けっ!!」

 

「りょ、了解っ! ティーガーを狙えっ! 頭を仕留めればコッチのもんだっ!!」

 

晴風がキレ気味にそう命じ、アタフタしていた不良歩兵達が、パンツァーファウストやバズーカでティーガーⅠを狙う。

 

しかしそこで、発砲音がしたかと思うと、不良歩兵の1人が持っていたパンツァーファウストの弾頭が撃ち抜かれた!

 

「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

弾頭が爆発し、パンツァーファウストを持っていた不良歩兵と、周りに居た不良歩兵数名が巻き込まれる!

 

「!? 何っ!?」

 

「…………」

 

驚く不良歩兵の1人の目が、ウィンチェスターM70を構えているライの姿を目撃する。

 

ライは次々に発砲し、パンツァーファウストを持った不良歩兵だけを狙って、その弾頭を撃ち抜いて行く。

 

「「「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「クソッ! 先に奴を片付けろっ!!」

 

対戦車兵の不良歩兵が次々にやられて行った為、先にライの方を片付けようと、突撃兵の不良歩兵達が、得物をライに向けて構える。

 

と、その瞬間!!

 

側面から、無数のロケット弾が飛んで来て、不良歩兵達の中に次々と着弾した!!

 

「「「「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「!? 今度は何だっ!?」

 

不良歩兵達は狼狽えながら、ロケット弾が飛んで来た方向を見やる。

 

「「「「…………」」」」

 

そこには、丘の稜線の上に立つ、弘樹、グレゴルー、ムーザ、バイマンの姿が在った。

 

「回り込んで来やがった!」

 

「クソッ! やっちまえっ!!」

 

不良歩兵達の攻撃が、一斉に弘樹達に向かう。

 

「行くぞ!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

その直後に、弘樹の号令で、4人は一斉に敵陣へと突撃する!!

 

飛び交う銃弾の射線を読み、ジグザグに動きながら斬り込んで行く!!

 

夜の草原に、血の様に赤く染められた弘樹達の右肩が、不気味に蠢く!!

 

「気を付けろ!………」

 

「ケッ! こんなもん、裸のマヌケにしか効きゃしねえ!」

 

至近距離を銃弾が飛び交う様子を見て、弘樹がそう言うが、ムーザはそう言って更に速度を上げる。

 

「チキショウッ! 何で当たらねえっ!?」

 

「あの右肩………アイツ等、まさか赤肩学園のっ!?」

 

と、不良歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間………

 

「そこだっ!!」

 

その不良歩兵目掛けて、ムーザがMP40を発砲する!

 

「ぐああああっ!?」

 

蜂の巣にされた不良歩兵は、バタリと倒れる。

 

「そらよっ!!」

 

続けて、グレゴルーが腰溜めに構えていたフリーガーファウストを放つ!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ロケット弾が次々に不良歩兵達を吹き飛ばす!!

 

「た、助けてくれぇっ!」

 

「何にやってんのよ! 全く、だらしないわねっ!!」

 

と、不良歩兵の1人が思わず悲鳴を挙げると、1輌のT-54が弘樹達に主砲を向ける。

 

「榴弾装填完了っ!!」

 

「コレでも喰らいなさいっ!!」

 

装填手が榴弾の装填を追えると、砲手が引き金を引く。

 

「そうは行かねえなぁ………」

 

だが、その瞬間に、バイマンがそのT-54目掛けて、バズーカからロケット弾を発射!

 

主砲口から飛び出そうとしていた榴弾に、ロケット弾が直撃っ!!

 

「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」

 

榴弾とロケット弾の爆発で、主砲身が完全に破損っ!!

 

車内にも爆風が逆流したと判定され、白旗を上げる!!

 

「…………」

 

そして弘樹は、MG34を単射で連発し、不良歩兵の頭や心臓部を狙い撃ち、次々に戦死判定で動けなくして行く。

 

「無駄弾を使う積りは無い………」

 

その言葉通りに、1発も外していない。

 

「チキショウッ! こうなりゃ白兵戦でっ!!」

 

とそこで、不良歩兵は白兵戦を挑むべく、各々にナイフや軍刀と言った近接武器を手にし始める。

 

………その時!!

 

「「「「「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

突如不良達の中を影が走り抜け、銀色の閃光が閃いたかと思うと、次々に戦死判定者が出た!!

 

しかし、戦死判定を受けた不良歩兵達は、全員が首を刎ねられたと言う判定だった。

 

「なっ!?」

 

不良歩兵の1人が驚きの声を挙げると、またもや影が走り抜け、閃光と共に首を刎ねられたと判定されての戦死者が増えて行く。

 

そして、影は不意に、不良歩兵達の目の前で止まる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「首置いてけ! なあ! 大将首だ!! 大将首だろう!? なあ大将首だろお前!!」

 

それは、刀を携え、狂気の顔を浮かべた人物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場となっているフィールドから少し離れた丘の上………

 

「だ、誰? あの妖怪みたいな人?………」

 

突然の乱入者を見て、沙織が唖然としながらそう呟く。

 

「! 提督っ!!」

 

と、その乱入者を見た長門がそう声を挙げる。

 

「えっ!? 提督!?」

 

「じゃ、じゃあ、あの人が………」

 

「そう、我等が提督………」

 

「冥桜学園最強の武人………『島津 豊久』よ」

 

「テートクーッ!! バーニングラァァァァァァブッ!!」

 

長門と陸奥がそう言う横で、提督こと『島津 豊久』に熱烈なラブコールを送る金剛だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッと言う間に、棲蛇亜麟部隊は、晴風の乗るIS-3だけとなった。

 

「あ………が…………」

 

アレだけ居た手勢が、今や自分だけとなってしまった事に、晴風は言葉を失う。

 

「残りはお前だけだ………」

 

「降伏して下さい。コレ以上の戦闘は無意味です」

 

その晴風の前に集まった混成部隊一同の中で、弘樹とみほがそう言い放つ。

 

「…………」

 

それを受けて黙り込む晴風。

 

だが、その時!!

 

「総長ーっ!!」

 

「!!」

 

晴風の事を呼ぶ声が聞こえた来たかと思うと………

 

新たにT-54とT-10の部隊が現れる!

 

「! まだ居たのっ!?」

 

「此処に来て増援っ!?」

 

その新たに出現したT-54とT-10の部隊を見て、カレンとアキが声を挙げる。

 

「! よっしゃあっ! お前等、良く来た! ココから一気に逆転………」

 

それを見て、晴風の士気が戻った瞬間………

 

「いや、もう終わりだ………」

 

「へっ?………」

 

弘樹がそう言い放ち、晴風が思わず間抜けた顔をすると………

 

空から、サイレンの様な音が響いて来た。

 

「「あ………」」

 

その音を聞いたみほと優花里が、思わず声を漏らす。

 

その直後………

 

「イワンの戦車めええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

ハンネスの乗ったJu87 G-1が、新たに現れたT-54とT-10の部隊に1トン爆弾を投下した!!

 

部隊の中心部に着弾した1トン爆弾は大爆発!!

 

殆どの車両が撃破判定となった!!

 

「うおおおおっ!!」

 

更に、生き延びていた車輌を、37ミリ砲で次々に天板を撃ち抜いて行くハンネス。

 

「ちょっ!? 隊長、落ち着いて………」

 

「イワン共めえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

「駄目だ。前の試合で出番が無かったからフラストレーションが溜まって手が付けられない………」

 

目を血走らせているハンネスの姿を見て、エグモンドは力無く項垂れる。

 

「えっ!? え、えっ!?」

 

「退避っ!!」

 

戸惑うばかりの晴風を余所に、みほの号令で混成部隊は一斉に戦場外へと退避する。

 

「喰らえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

その直後に、増援部隊を片付けたハンネスが、残っていた37ミリ砲の砲弾を、全て晴風のIS-3へと叩き込む!

 

「!? ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

断末魔の叫びと共に、多数の37ミリ砲弾を喰らったIS-3が大爆発。

 

暫く黒煙が漂っていたかと思うと、やがて晴れ………

 

中から白旗を上げたボロボロのIS-3が現れる。

 

「「「「「御愁傷様………」」」」」

 

そのIS-3を見て、ティーガーⅠに乗って居たみほ達はそう憐れみの念を送ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

前回のラストで助っ人を買って出て来た人物………
スピンオフ作品『リボンの武者』の主人公・鶴姫 しずか松風 鈴のムカデさんチームでした。
この作品では、原作より試合が多くなっていて、大会の開催期間が延びているので、ムカデさんチームは既にタンカスロンに参加していると言う設定になっています。
しかし、続く3人の登場は予想外だった人も多いでしょう。
野望のルーツ、ザ・ラストレッドショルダーに登場したグレゴルー、ムーザ、バイマンです。
この組み合わせを考えたのは、タンカスロンは非公式の戦車戦だから、非公式の歩兵戦もあっても良いなと思い、そう言うのが似合いそうなキャラをチョイスして、組ませてみました。
過去話でチラッと出てたので丁度良いかと。
ノンナさん、大感激でむせる(笑)

そして、劇場版に先駆けて継続校の皆さんにも登場してもらいました。
シメオンとの関係と、劇場版への布石みたいな感じのゲスト出演してもらいました。

そして冥桜学園の提督も満を持して登場。
意外!
それは妖怪首おいてけ!
『島津 豊久』!!
武人の学校なので、この人が思い浮かんで離れなくなってしまいまして。

そして肝心の戦車暴走族ですが………
少数で性能の劣った戦車軍と言えど、精鋭。
ハンネスの強襲もあって、敢え無く撃破となりました。
しかし、次回で意外な展開に………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第150話『神狩さんの行方です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第150話『神狩さんの行方です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園の夏祭りにて開催されたカレー大会の最中………

 

戦車暴走族の一行が、木曾への仕返しにやって来た。

 

冥桜学園生徒の誇りを逆手に、卑怯な勝負に持ち込んだ戦車暴走族に対し………

 

弘樹、みほ、優花里が、知波単の絹代とカレン、ライ………

 

更に継続校の面々と、ムカデさんチームに元赤肩校の面子と協力し、助っ人で参戦。

 

戦後戦車を使い、圧倒的な数を揃えて襲い掛かって来た戦車暴走族を相手に、混合チームは奮戦。

 

最後には提督の『島津 豊久』の乱入や、ハンネスの爆撃が炸裂し、見事に戦車暴走族を粉砕したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥桜学園・草原………

 

「チキショーめ………」

 

力無く胡坐を掻いている晴風がそう呟く。

 

その背後には、スクラップ寸前になっている彼女達の戦車と共に、そこかしこで伸びている彼女のチームの面々の姿が在った。

 

「さて………約束は守ってもらうぜ」

 

そんな晴風に向かって、集まった混合チームの中で、木曾がそう言い放つ。

 

「まさかそこまで反故にする気じゃないでしょうね?」

 

カレンも、晴風の事を睨みながらそう言う。

 

と、その瞬間!!

 

「!!………」

 

晴風は特攻服の内側からドスを取り出した!

 

「!………」

 

「まだやる気ですか!?」

 

空かさず弘樹が英霊に手を掛け、優花里もそう声を挙げる。

 

しかし!!

 

晴風は自分の左手を開いた状態で地面に付けたかと思うと、ドスの刃をその小指に掛けた!

 

「!?」

 

「ちょっ!? 何する気だいっ!?」

 

アキが驚愕し、ミッコも声を挙げる。

 

「詫びは入れる………しっかりと見とけっ!!」

 

そう言い放つ晴風。

 

如何やら極道宜しく、エンコ詰めをする気らしい。

 

「待つんだっ!」

 

「うおおおっ!!」

 

ライが止めようとするが、晴風はドスの刃を小指に落そうとする。

 

だが、その刃が指に食い込む寸前のところで………

 

「駄目っ!!」

 

みほがそう叫んで、晴風のドスを持っていた手を包み込む様に掴んで止めた!

 

「! 何しやがるっ!?」

 

「それはコッチの台詞だよ!? 何でそんな事しようとするの!?」

 

晴風が怒鳴るが、それ以上の怒声でみほがそう言い放つ。

 

彼女にしては珍しく、怒りの様子を露わにしている。

 

「ウルセェッ! どうせアタイは不良の半端モンだ! 指の1本や2本無くなったとこで………」

 

「!!」

 

と、その瞬間!!

 

みほは、晴風の頬にビンタを噛ました!!

 

「イデッ!?………」

 

「何でそんなに自分を粗末に出来るの!?」

 

晴風の目を見据え、みほはそう言い放つ。

 

「貴方が如何して不良になったのかは私には分からない………でも! 自分を粗末にする様な事だけは絶対にしちゃいけないんだよ! まだやり直す事は出来るんだから!!」

 

「…………」

 

みほの言葉を聞き入る晴風。

 

「温い事を………そやつが指を切ると言うなら、そやつの好きに………むぐっ!?」

 

「姫! 空気読んでっ!!」

 

その様子に不満を抱いたしずかがそう言うが、途中で鈴に遮られる。

 

「やり直せない事なんてないんだよ。だから、そんな事はしちゃ駄目だよ」

 

そう言ってみほは、晴風の手からドスを取ると、落ちていた鞘を拾って納める。

 

「甘い事を………」

 

「だが、大した奴だぜ」

 

「流石は、弘樹の奴の今の総隊長だな」

 

その光景を見ていたムーザ、グレゴルー、バイマンがそう言い放つ。

 

「………よか」

 

豊久も、満足そうな表情を浮かべている。

 

「………お名前をお伺いしても宜しいですか?」

 

「えっ? えっと、西住 みほです」

 

ふと、みほの名前を問い質す晴風。

 

すると………

 

「………お見逸れ致しやしたっ!!」

 

突然晴風はそう声を挙げ、みほに向かって土下座の姿勢を取った。

 

「え、ええっ!?」

 

「この湘南 晴風! みほさんの心意気に感服致しやしたっ!! 今日から姐(あね)さんと呼ばせて下せえっ!!」

 

みほが困惑していると、晴風は顔を上げてそう言い放つ。

 

「あ、姐さんっ!?」

 

「おうっ! テメェ等ぁっ!! たった今から棲蛇亜麟は西住 みほの姐さんの傘下に入るっ!! 文句はねぇなぁっ!!」

 

狼狽しているみほを余所に、晴風は後ろを振り返り、起き上がり始めていた棲蛇亜麟の面子にそう言い放つ。

 

「姐さん!!」

 

「西住の姐さんっ!!」

 

「姐御ぉっ!!」

 

途端に、棲蛇亜麟の一同も、みほの事を姐さんや姐御と呼び始める。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ~っ!!」

 

その光景に、みほは悲鳴の様な声を挙げる。

 

「根は素直な子達だったみたいね。差し詰め、『大洗会直系西住組』って言ったところかしら。アハハハハハハッ!!」

 

「…………」

 

そしてそんなみほの様子を見て、そう評しながら豪快に笑う絹代と、無言で微笑んでいる様な表情でカンテラを鳴らすミカだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、晴風を筆頭とした棲蛇亜麟は、長門達に正式に謝罪。

 

晴風達の潔い態度を見た長門達はこの謝罪を受け入れ、この場は手打ちとなった。

 

そして、その場の勢いで、図らずも組長を襲名してしまったみほだったが………

 

棲蛇亜麟の面々の為にも、止むを得ずその立場を受け入れ、晴風達に不良行為を絶対にしない事と更生を厳命。

 

晴風達はそれを受け入れ、以後棲蛇亜麟の名は不良界から姿を消したのだった………

 

 

 

 

 

冥桜学園鎮守府カレー大会の会場………

 

「さてさて~、トラブルはありましたが、いよいよカレー大会、優勝チームの発表です!」

 

「ホント、トンでもないトラブルだったけいどね~」

 

霧島と那珂がそう実況し、いよいよカレー大会の優勝チームが決められようとしている。

 

「やっぱり、木曾さん達よね………」

 

「そうですね………」

 

「悔しいけど、完敗だわ………」

 

「姉さん………」

 

しかし、第六駆逐部隊+優花里チームも足柄&羽黒チームも、既に敗北を悟った様な顔をしていた。

 

彼女達も木曾達が作ったビルマ風カレーを実食しているので、その美味しさは身に沁みて分かっていた。

 

「異論は無いな」

 

「私は無いわ」

 

「大和も有りません」

 

武蔵が問うと、陸奥と大和がそう返す。

 

「…………」

 

しかし、長門だけは沈黙したままだった。

 

「では、今大会の優勝チームは、ビルマ風カレーの木曾チームに決定とする!」

 

と、遂に武蔵が、木曾達のチームが優勝だと宣言したが………

 

「辞退するぜ」

 

「………ハッ?」

 

途端に木曾が辞退を表明し、武蔵は思わず間抜け顔をしてしまう。

 

「おおっと!? 木曾チーム! まさかの優勝辞退宣言です!!」

 

「一体如何言う事なのぉーっ!?」

 

それを聞いた霧島が大袈裟に実況し、那珂も困惑を露わにする。

 

「俺達が参加したのは、他の連中が真面にカレーを作れてなくて、大会の盛り上がり的に問題ありと思ったからだ。別に優勝に興味はねえ」

 

「「「「「…………」」」」」

 

木曾にそう言われ、カレーを真面に作る事すら出来ていなかった他のチームの面々が気まずそうに目を伏せる。

 

「それに………このビルマ風カレーのレシピは借りモンでな」

 

「借りもの?」

 

「長宗我部殿が親しくなったカレーショップのオーナーとシェフ殿から教えて頂いたモノを拝借した次第であります」

 

「店を開いた初代のオーナーとシェフさんから代々受け継いできたメニューだそうです」

 

木曾のレシピが借り物と言う事に、大和が首を傾げると、あきつ丸とまるゆが敬礼しながらそう説明する。

 

「何てお店なの?」

 

「確か………そう、カレーショップ『ハッピータイガー』だ」

 

陸奥の質問に、木曾は一瞬の思案の後、そう答える。

 

「まあ、兎に角、そう言うワケだから、優勝は辞退させてもらうぜ」

 

「となると、やはり足柄達のカレーと第六駆逐部隊のカレーの勝負となるか」

 

木曾が重ねてそう言うと、武蔵が顎に手を当てて思案顔になる。

 

「………私は第六駆逐部隊のカレーを押す!」

 

するとそこで!

 

今まで沈黙を保っていた長門がそう言って立ち上がった!

 

「「「「! 長門さん!!」」」」

 

「ちょっ!? 如何してっ!? 理由を教えて頂戴っ!!」

 

第六駆逐部隊は笑顔を浮かべたが、足柄は納得が行かない様子である。

 

「足柄………確かに、お前のカレーと比べて、第六駆逐部隊のカレーは未熟と言わざるを得ない」

 

「だったら………」

 

「しかし! 未熟なりに自分達を見据え、向上して行こうと言う志を私は感じたっ!!」

 

足柄の言葉を遮り、長門がそう叫ぶ。

 

「お前のカレーの味は完成された味………武人として、常に高みを目指す我等にとって、完成とは即ち停滞。日々之精進………第六駆逐部隊のカレーには、そんな意志が込められていた!!」

 

「うっ!!………」

 

「成程………確かに」

 

「言われてみればその通りだ」

 

長門の言葉に、足柄は怯み、大和も武蔵も納得が行った様な表情を見せる。

 

「………フフフ」

 

しかし、陸奥だけは意味有り気に笑いを零していた。

 

「それじゃあ………」

 

「ああ………優勝は、第六駆逐部隊+秋山 優花里チームとする!!」

 

「「「「! やったーっ!!」」」」

 

「や、やりましたーっ!!」

 

長門がそう宣言したのを聞き、第六駆逐部隊は跳び上がって喜び、優花里も歓声を挙げる。

 

「ま、負けた………この私が………」

 

一方、負けた足柄は相当なショックを受けている様子を見せている。

 

「ね、姉さん。そんなに落ち込まないで………」

 

そんな足柄を気遣う様な様子を見せる羽黒。

 

「…………」

 

しかし、足柄は無反応である。

 

「姉さん?………!? 姉さんっ!?」

 

不審に思った羽黒が再び声を掛けた瞬間、彼女は驚愕する!

 

「燃えたわ………燃え尽きたわ………真っ白な灰にね………」

 

「姉さあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーんっ!?」

 

足柄は、どこぞのボクサー宜しく、真っ白な灰になって燃え尽きていた………

 

「ハア~~~………」

 

そんな喧騒の中で、長門は椅子に腰掛け、深く息を吐いていた。

 

「審査員、大変だったわね」

 

その長門に、陸奥がそう声を掛ける。

 

「大した事は無い………」

 

「良かったわねぇ。これから1年、カレーの日は第六の甘口カレーで。長門ってば、辛い物がホントに駄目だもんね」

 

「………煩い」

 

陸奥の言葉に、不機嫌そうにそう返す長門。

 

如何やら、第六駆逐部隊のカレーを評価したのは、彼女の個人的な嗜好もあった様である。

 

そんな事は露知らず、大洗の一同を含めた観客達は、優勝者である第六駆逐部隊と優花里のカレーを振る舞われていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、暫し時が流れ………

 

「タマヤーッ!」

 

「カギヤーッ!」

 

楽しい夏祭りも、終わりが近づき、シメを飾る打ち上げ花火が打ち上げられている。

 

夜空に咲き誇る花火の花々を見上げながら、歓声を挙げる大洗一行。

 

そして、そのシメの花火も、間も無く終わろうとしていた。

 

「どうだったい? 冥桜学園の夏祭りは」

 

ふとそこで、大洗の一同の前に、三日月宗近が現れ、そう尋ねて来た。

 

「あ、宗近さん」

 

「久しぶりに楽しませて頂きましたよ」

 

みほが気付いて声を挙げると、迫信がそう返事を返す。

 

「そうか、それは何よりだ」

 

「宗近さん、斉藤さんは………」

 

とそこで、優花里が宗近に足柄の事を尋ねる。

 

「足柄の奴なら、まだ燃え尽きたままだよ。よっぽど気合を入れていたんだろうね。暫くはあのままだと思うよ。白狼の事は、私が後で聞いて連絡するよ」

 

「そうですか………」

 

実を言うと一刻でも早く白狼の居場所を聞きたい優花里だが、肝心の足柄が元に戻らない事にはどうしようもなかった。

 

「ところで、この後、まだ時間は有るかい?」

 

すると宗近はそんな事を尋ねて来る。

 

「? ハイ、大丈夫ですけど………」

 

「そうかそうか。じゃあ、取って置きの場所へ案内しよう」

 

「「「「「「「「「「取って置きの場所?」」」」」」」」」」

 

そう告げる宗近に、大洗の一同の一部は、首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宗近が用意していた数台のバスに乗り込み、吹雪、睦月、夕立、大和、清光、それに睦月の妹分に当たる『明智 如月』を加えて、大洗の一同は甲板都市の山岳地帯へと向かった。

 

暫く山道を進んでいたかと思うと、不意にバスは、山道が在った路肩に停まる。

 

「さ、ココからは歩きだ」

 

「ええ~っ!? この山道を行くのぉ~っ!?」

 

宗近がそう言い、聖子が長そうな山道を見て思わずそう声を挙げる。

 

「大丈夫ですよ。見た目の割に短いですから」

 

「ホントに~?」

 

吹雪がそう言うが、沙織が疑いの眼差しを向ける。

 

しかし、何時までも此処に居ても仕方ないと思い、一同はその山道を登って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山道を暫く歩くと広い空間へと出る………

 

目の前に在ったのは、古くボロボロになった廃寺だった………

 

「ご苦労様、ココは冥桜学園艦一美しい寺だよ」

 

「………此処が?」

 

如何見ても只の廃寺にしか見えない寺を見て、重音が思わずそう声に出す。

 

「想像してみて下さい………きっと素晴らしい場所に違いありませんよ」

 

「………いや、その………分からないんだが………」

 

「分からなくても構いません。ただ………この場所が1番だという事を知って欲しくて………」

 

「それだけの為に?」

 

「それだけだと思ってんの? 見なよ」

 

清光に言われ別の方向を見ると、蛍が飛んでいるのを見えた。

 

「! おおっ! 蛍!!」

 

「見て下さい! 1匹や2匹じゃないですよ!!」

 

海音が声を挙げると、清十郎がそう言い、蛍の大群が現れる。

 

大量の蛍の光によって、辺りが幻想的に明るくなり、大洗の一同は驚きを露わにする。

 

「私達、冥桜の生徒達は、ずっと昔からホタルを繁殖させる為にこうして、研究し、保護してるんです」

 

「だから私達も、こうして夏になると山に来て、ホタルの様子をみるっぽい」

 

「そうだったんですか………」

 

冥桜の生徒達の努力に感銘を受けるみほ。

 

「遠い昔はそこかしこに蛍が居たが、技術進歩の為に工場等による水質汚染が増え、農村でも農薬散布や生活排水などが原因で、蛍の絶滅が危惧されておる」

 

「近代化の弊害とも言えるな」

 

宗近の言葉に、俊がそんな事を言う。

 

「やがて私達はこの冥桜で………恋に落ちたんです」

 

「恋に!?」

 

ふとそこで、如月がそんな事を言い、真っ先に沙織が反応する。

 

「ふふふ、多分勘違いしているけど、そういう恋とは違うんですよ」

 

その様子に苦笑しながらそう返す如月。

 

「えっ? 如何言う事?」

 

「恋に落ちたのはこいつさ」

 

沙織が首を傾げると、清光がある方向を指差した。

 

その方向を向いた大洗の一同が見たのは………

 

「うわああ~~~~~っ!」

 

「凄~~~いっ!」

 

夜空には天の川、そしてその天の川を映す美しい湖と大量の蛍火だった。

 

幻想的な光景に、誰もが息を呑む。

 

大洗では決して見れない光景、冥桜だからこそ見れる光景である。

 

「凄いねぇ………」

 

「いやはや、恐れ入ったよ」

 

杏と迫信も、素直にそんな感想を漏らす。

 

夏になればこういう光景を見られ、冬になれば湖は凍りつきスケート場になる。

 

学園艦にも自然公園みたいなものはあるが、ここまでするとは思いも寄らなんだ………

 

見ただけで心が洗われる、そんな光景であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後………

 

漸く立ち直った足柄から、白狼の行方の手掛かりが知らされる。

 

曰く、白狼と美嵩が会話していた場面を目撃し、その際に『海に面した長いビーチ』、『大好きなネズミの国』、そして『誰もが釣りを楽しめる、アメリカ人の国』と言う単語を聞いたらしい。

 

煌人によれば、この3つに該当する場所はたった1つ………

 

アメリカの『フロリダ州』であると。

 

そして、フロリダでは丁度、オートバイ競技が行われていると。

 

そこで迫信が、神大コーポレーションを通じ、現地の大使館に白狼の行方について尋ねた。

 

返答が有り次第、白狼を迎える準備をするとの事である。

 

漸く居場所が分かった………

 

そう思った大洗の一同は、逸る気持ちを押さえながら、次の試合に向けての準備を整えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内………

 

「そうですか………いえ、どうもありがとうございます。それでは」

 

備え付けの電話を使っていた敏郎が、そう言って受話器を置いた。

 

「如何でした?」

 

「やはり駄目だ。在庫は無いそうだ」

 

柚子がそう尋ねると、敏郎はやや落胆した様子でそう答える。

 

「クウッ! 何たる事だっ!!」

 

「まさか『ヘッツァー改造キット』がこんなに品薄状態だなんて………」

 

桃が苛立ちの声を挙げ、蛍が頭を抱える。

 

 

 

 

 

『ヘッツァー改造キット』とは………

 

戦車道連盟が正式に認可し、戦車道関連企業で販売している戦車の改造キットの1つである。

 

『ヘッツァー』とは、ドイツ軍が開発した軽駆逐戦車の事であり、このキットを使う事で、軽戦車からの改造でヘッツァーを組み上げる事が出来るのだ。

 

万年火力不足に喘ぐ大洗戦車部隊の戦力を少しでも上げようと、生徒会が各方面から集めた義捐金で38tの改造用に購入を計画していた。

 

しかし、肝心のキットが現在品薄状態であり、入手が困難なのである。

 

 

 

 

 

「う~ん、コレは戦力強化は無理かな~………」

 

杏もそんな諦めの言葉を口にする。

 

金が在っても、物が無ければ仕方がなかった。

 

すると………

 

「角谷生徒会長殿」

 

その杏に、弘樹が声を掛けて来た。

 

「あ、舩坂ちゃん。どったの?」

 

「実は改造キットの件なのですが………小官に少し当てがありまして」

 

「当て?」

 

弘樹の言葉に、柚子が首を傾げた瞬間………

 

不意に、格納庫の戦車用の出入り口が開いた。

 

「「「「「「「「「「!?………」」」」」」」」」」

 

「ちょいと邪魔するぜぇ。大洗戦車チームは此処かい?」

 

一同の視線が集まる中、開いた出入り口から、髪と同じ灰色の顎鬚を蓄えた中年ぐらいの男性が姿を見せた。

 

「誰?」

 

「ちょっと貴方! 勝手に学校の敷地内に入って来て………」

 

あやがそう言うと、みどり子がその男性に詰め寄って行くが………

 

「園風紀委員長殿。申し訳ありません。小官の知人です」

 

弘樹がそう言って、みどり子を抑えた。

 

「おう、弘樹! 久しぶりだな!」

 

「とっつぁんも元気そうだな」

 

とっつぁんと呼ばれた男が弘樹の姿を見て笑顔になると、弘樹も微笑を浮かべる。

 

「弘樹くん、その人は?」

 

「小官が中学生時代に所属していた機甲部隊に、武器・弾薬等を卸してくれていた方だ」

 

「『ブールーズ・ゴウト』だ。よろしくな、軍神ちゃん」

 

みほがそう尋ねて来ると、弘樹がそう説明し、男………『ブールーズ・ゴウト』が自己紹介する。

 

「それでとっつぁん。例の物は?」

 

「ああ、ちゃんと持って来たぜ。ホレ」

 

ゴウトはそう言い、背後に停めてあったトラックの、オープンになっている荷台に積まれている物を指す。

 

「! ああっ!? ヘッツァー改造キットッ!!」

 

蛍がその積まれていた物………ヘッツァー改造キットを見てそう声を挙げる。

 

「一体コレを何処で!?」

 

「ま、蛇の道は蛇………でな」

 

柚子が尋ねると、ゴウトはしたり顔でそう返す。

 

「ちゃんと正規の物なんだろうな?」

 

「オイオイ、人聞きの悪い事言うなよ。入手経路は明かせねえが、物自体は連盟が認可してる純正品だぜ」

 

((((((((((入手経路が凄く気になる………))))))))))

 

弘樹がゴウトとそう言い合うのを聞いて、大洗機甲部隊の面々は入手経路を気にするものの、敢えて問い質す勇気の有る者はいなかった。

 

「まあ、兎も角、商売の話をしようじゃないか。代金としてこれぐらい貰おうか」

 

ゴウトは商談に入る為、1枚の書類を杏に差し出す。

 

「どれどれ?………ふむふむ………えっ? こんなんで良いの?」

 

その書類を受け取った杏は、思わずそんな声を挙げる。

 

「通常の半額以下じゃないですか」

 

横から書類を覗き込んだ柚子も、書かれている値段を見てそう指摘する。

 

「良いのか、とっつぁん?」

 

「サービスだよ。お前には散々儲けさせてもらったからな」

 

弘樹が尋ねると、ゴウトは笑みを浮かべたままそう返す。

 

「うん、ありがとね………じゃあ、真田ちゃん! 早速改造しよっか!!」

 

「ああ、すぐにでも取り掛かろう」

 

杏はゴウトに礼を言うと、敏郎にそう呼び掛け、整備部員達によってヘッツァー改造キットが、トラックごと格納庫内に運ばれる。

 

他の面々も、改造を手伝うべく、格納庫内へ戻って行く。

 

「………世話になったな」

 

1人残っていた弘樹が、ゴウトにそう礼を言う。

 

「気にすんな。他ならぬお前さんの頼みだから」

 

「助かる。我々は何としても大洗女子学園の廃校を阻止しなければならないからな」

 

「………弘樹。その事なんだが、ちょいと気になる噂を聞いてな」

 

とそこで、ゴウトが表情を険しくしてそう言って来る。

 

「? 気になる噂?」

 

「ああ、廃校の話が持ち挙がってる、或いは持ち挙がった事があるのは、大洗女子学園だけじゃねえそうだ」

 

「大洗女子学園の廃校は、文科省の学園艦統廃合計画の一環だ。別段不思議ではないだろう。それに申し訳無くは思うが、他の学校の事まで気に掛けている余裕は………」

 

「その廃校の話が持ち挙がった中に、グロリアーナ&ブリティッシュ、サンダース&カーネル、プラウダ&ツァーリ、黒森峰の名が在ってもか?」

 

「………如何言う事だ?」

 

ゴウトのその言葉を聞いた弘樹の表情も険しくなる。

 

元々大洗女子学園に廃校の話が持ち挙がったのは、生徒数の減少と目立った活動実績が挙がっていない事が理由である。

 

しかし、ゴウトが挙げた学園は何れも戦車道・歩兵道で毎年優秀な成績を納めており、生徒数減少とも無縁の学園ばかりである。

 

「そもそも、元々大洗の廃校は女子学園だけでなく男子校も一緒に………つまりは学園艦その物を廃校にする積りだったそうだが、お前のところの生徒会長さんが敏腕で男子校を立て直しちまったから、女子学園だけに矛先が向かったって話もあるぜ」

 

「………つまり、その噂が真実だとするならば、文科省は学園艦を潰したがっている、と言う事か?」

 

「そう言う事になるな」

 

「…………」

 

弘樹は顎に手を当てて思案顔になる。

 

「………とっつぁん」

 

「分かってる。皆まで言うな。その話を更に詳しく調べてみてくれってんだろ?」

 

「頼めるか?………」

 

「任せておけって。分かり次第、連絡する」

 

「頼んだぞ………」

 

弘樹とゴウトはそう言い合い、互いに無言で頷き合ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

ゴウトから気になる噂を聞きつつも………

 

漸く入手出来たヘッツァー改造キットによって………

 

カメさんチームの38tは………

 

『軽駆逐戦車ヘッツァー』へと生まれ変わったのだった。

 

だが、しかし………

 

その翌日に、一同を落胆させる知らせが届いた………

 

フロリダの大使館から回答が有り………

 

神狩 白狼なる人物は………

 

フロリダには、いないと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

最近この作品に触れて、ちょっと興味を持ったので、やってみました

 

 

 

 

 

エキシビジョンマッチを終えて、大洗女子学園に戻ったみほ達を待っていたのは………

 

文部科学省学園艦教育局長・辻 康太による廃校の知らせだった。

 

優勝すれば廃校を取り下げるという約束は、口約束は約束ではないと反故にされた。

 

こうして、みほ達は守り抜いた筈の学校を失った………

 

 

 

 

 

かに思えたが………

 

 

 

 

 

何と、下船した筈の学園艦の住人達と生徒達が再び乗船。

 

廃校の準備を進めていた文科省の役人達を追い出して学園艦を奪取。

 

そのまま出航したのである。

 

『学園艦占拠』………

 

この歴史上類を見ない事態に、辻 康太は驚きながらも直ちに対応。

 

相手が相手だけに、海上保安庁や海上自衛隊に治安出動を要請したが、世論を気にした国会によって却下される。

 

そこで、独自のコネを利用し、何と安保条約を持ち出して、在日米軍を出動させた。

 

大洗学園艦は、忽ち米艦艇に包囲された。

 

だがそこで………

 

突如、大洗学園艦の傍に、1隻の原子力潜水艦が出現。

 

大洗学園艦を包囲していた米艦艇に向かって、こう打電した。

 

 

 

 

 

『大洗学園艦を包囲中の米艦艇に告げる。直ちに停船せよ』

 

『本艦の攻撃準備は完了せり』

 

『警告する』

 

『我が魚雷並びにミサイルの弾頭は………』

 

『通常に非ず』

 

 

 

 

 

米艦艇に衝撃が走った。

 

弾頭は通常に非ず………

 

即ちそれは………

 

『核弾頭』を保有していると言う宣言だった。

 

 

 

 

 

学園艦の奪取と言う事態だけでも、驚くべき事態であったが………

 

此処へ来て、核弾頭を保有する大洗に味方する原潜の存在が発覚。

 

コレには文科省だけでなく、日本の国会、そしてアメリカ政府、国連までもが揺れた。

 

だが、更なる驚愕の知らせが、舞い込んで来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その原潜・『やまと』の艦長であり、大洗女子学園に2学期から着任する予定だった学園長………

 

『海江田 四郎』は、世界に対し、こう宣言した。

 

我々は、『独立国・大洗』であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー×沈黙の艦隊

 

『沈黙の学園艦隊』

 

公開予定無し。

 

スミマセンでした。




新話、投稿させていただきました。

戦車暴走族を見事に破った弘樹達。
そしてみほは組長に就任(笑)
カレー大会は木曾が辞退した事で、長門の推しにより、第六駆逐部隊+優花里チームとなる。
こうして、白狼の行方を知る事が出来たのだった。

そして、決勝リーグ開幕が迫る中、弘樹の知り合いである『ブールーズ・ゴウト』のツテで、漸くヘッツァー改造キットを入手。
早速、カメさんチームの38tを改造に掛かる。
だが、それと同時に………
ゴートから弘樹に、学園艦廃校に関する怪しげな噂がもたらされるのだった。

そして、更に悪い知らせが………
足柄が言っていた場所に………
白狼は居なかった………

オマケの方は、最近『沈黙の艦隊』を少し見まして、劇場版ガルパンでは役人に先手を打たれて出来ませんでしたが、廃校に抗議して学校に立て籠もるって言う、一昔前の青春ドラマみたいな展開をするって想像をしていたところ、沈黙の艦隊で原潜・やまとが独立宣言する場面を見て………
『原潜が国家になるんなら、学園艦なら国家として申し分ないな』と言う考えが浮かびまして、ちょっと小ネタで書いてみました。
本編の執筆は先ず無理です。
私、政治とかの話は書けないので………
飽く迄ネタとして見て下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第151話『神狩 白狼の放浪記です!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第151話『神狩 白狼の放浪記です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紆余曲折有りつつも………

 

冥桜学園の足柄から、白狼の居場所のヒントを聞き出した大洗の一同………

 

『海に面した長いビーチ』、『大好きなネズミの国』、そして『誰もが釣りを楽しめる、アメリカ人の国』………

 

そのヒントから、白狼が居るのはアメリカのフロリダ州と推測し、迫信が神大コーポレーションを通じて、現地の大使館へ問い合わせる。

 

その間に、決勝リーグに向けて大洗機甲部隊は………

 

弘樹と旧知の仲であるゴウトの助けもあり………

 

カメさんチームの38tを、『軽駆逐戦車ヘッツァー』へと改造する。

 

だが、大使館より連絡が有り………

 

神狩 白狼と言う人物は、フロリダに居ない事が判明するのだった………

 

一体、白狼は何処に?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーストラリア・ビクトリア州………

 

フィリップ・アイランド・サーキット………

 

そのサーキットを走る、1台のバイク………

 

やがて周回を終えたのか、ピットへと入る。

 

「………駄目だ、駄目だ! 全然目標タイムに届いてないぞ!!」

 

「………すみません」

 

ピットに待機していたバイクチームのメンバーの内、監督と思わしき人物がストップウォッチを片手にライダーにそう詰め寄ると、ライダーがヘルメットを外す。

 

それは紛れも無く、白狼だった。

 

「如何したんだ、ミスター神狩! チームに入ってから碌な成績を出していないじゃないか! 天才バイクレーサーと言われていた君は何処へ行ってしまったんだ!?」

 

「…………」

 

監督の言葉に、白狼は只沈黙で返す。

 

「ミスター神狩!」

 

「待って!」

 

更に白狼に詰め寄ろうとした監督を止めたのは、美嵩であった。

 

「白狼は海外でのレースは初めてよ。色々と戸惑いが有る筈よ。それを考慮して貰いたいわ」

 

「………ミス美嵩がそう言うなら」

 

殺気すら感じさせる視線で見られ、監督はスゴスゴと引き下がる。

 

「…………」

 

しかし、白狼は浮かない顔のままだった。

 

と、そこへ………

 

「オイ、このサーキットかっ!?」

 

「本当にベオウルフが居るのか!?」

 

日本人観光客らしき団体が、そんな声を挙げながらサーキット内へ侵入して来る。

 

如何やら、白狼の事を知って居て、野次馬に来た様だ。

 

「チッ! 白狼! 空港に逃げなさいっ!! そこから宿泊先へ行けるわっ!!」

 

「あ、ああ………」

 

それを見た美嵩が舌打ちしながらそう言い、白狼は美嵩の迫力に押される様にバイクを発進させた。

 

(折角欺瞞情報で大洗の連中を攪乱したのに………こんな事で白狼の居場所を知られるワケには行かないわ!)

 

そう思いながら、野次馬を蹴散らしに向かう美嵩。

 

如何やら、足柄の言っていた話は、美嵩が意図的に流した欺瞞情報だった様である。

 

そんな事は露知らず、白狼は近くの空港に向かってバイクを急がせるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

「ヘイ、神狩 白狼だね」

 

「ああ………そうだ」

 

「早速乗ってくれ!」

 

白狼が空港に着くと、チャーター機の操縦士が待っており、機に乗るよう催促され、乗り込んだ。

 

(何処へ向かってるんだ?………)

 

暫く飛んで行き、窓から眼下の景色を見下ろせば、綺麗なサンゴ礁が確認出来る。

 

やがて、ハート形のサンゴ礁………『ハートリーフ』が見えてくる。

 

「見えて来たよ! アレが『ハミルトン島』だ!」

 

白狼が連れて来られた場所は、オーストラリア有数のリゾート地、『ハミルトン島』だった。

 

着陸すると、操縦士から地図を渡され、指定のホテルにチェックインをしてくれと言われ、白狼はその場所まで向かった。

 

何かと呼ばれているようだが意味が分からず、取り敢えず到着すると、ホテルの従業員らしい人が案内してくれた。

 

案内されたホテルの部屋は、リゾート地らしい開放的な様子の部屋だった。

 

快適なデザイナーズ家具、棟内のプライベートプール、温度調整されたインフィニティーエッジ・プランジ・プール。

 

サンデッキまで付いており、リゾート気分を満喫できる空間だった。

 

「観光に来たんじゃねえんだけどなぁ………」

 

そう呟きながら荷物を置き、散歩でもしようかとホテルの従業員に訊けば、ホワイトヘブンビーチがベストと言われ、そこへ向かう事にした。

 

 

 

 

 

それほど離れていないマリーナへと向かい、そこで沢山の人の居るクルーザーに乗り込む。

 

暫く透き通る様な青い海を進み、クルーザーが到着した場所は………

 

真っ白なビーチが何処までも繋がって居る様な凄い場所だった。

 

海の色も美しく、リゾートには持って来いであった。

 

「大したもんだ………」

 

しかし、白狼は相変わらず浮かない顔のまま、白い浜辺を目的も無く歩いて行く。

 

と、暫く歩いていたところ………

 

白狼が聞き慣れた音が聞こえて来た。

 

「あ? この音は………戦車?」

 

そう、それは戦車のエンジンと履帯の鳴る音だった。

 

更に、銃声や爆発音、叫び声の様な物も聞こえて来る。

 

「…………」

 

思わずその音のする方向へと足を進める白狼。

 

やがて、その行く手に、『関係者以外立ち入り禁止』と言う注意書きが張られたフェンスが立ちはだかる。

 

そして、そのフェンス越しに、奥の方では………

 

多数の戦車や歩兵が忙しく動き回っている。

 

如何やら、戦車道・歩兵道の演習中の様である。

 

「ハア~、海外でもやってる奴いるんだなぁ………」

 

海外の戦車道・歩兵道の様子を初めて見た白狼は、他人事の様にそう呟く。

 

「………アレ? あのマークって?」

 

しかしそこで、戦車や歩兵の戦闘服に刻まれているマークに見覚えがある事に気づく。

 

すると………

 

「ちょっとそこの君! 何をしてるの!?」

 

「!?」

 

いきなり背後から誰かに声を掛けられ、白狼が振り向くと………

 

「って、ほ、白狼君っ!?」

 

「アレ!? 揚羽じゃねえか!?」

 

何とそこに居たのは、随分と可愛らしいプリントのある水着を着ていた、黒森峰女学園の生徒会長・揚羽だった。

 

「な、何で白狼君が此処に!?」

 

揚羽が驚いていると………

 

「会長? 戻ったのか?」

 

「折角海外にまで演習に来たのに、遊んでばかりじゃ他の者達に示しが………って!? アンタはっ!? 大洗のっ!?」

 

演習を終えた様子のパンツァージャケット姿のまほとエリカが寄って来た。

 

エリカの方は、白狼の事に気づいた様子である。

 

「まさかこんな所にまで偵察に来るなんてね! でも、見つかったのが運の尽きよ! 会長! すぐにその男を………」

 

「如何した、エリカくん。何を騒いでいる?」

 

白狼を取り押さえる様に揚羽に言うエリカだったが、そこへ騒ぎを聞き付けた都草がやって来る。

 

「あ、梶歩兵隊長! 敵です! 大洗のスパイを発見しました! すぐに拘束を!」

 

「大洗のスパイ?………」

 

エリカがそう喚く様に言うのを聞いて、都草は白狼の姿を確認する。

 

「…………」

 

一方の白狼は、スパイ扱いされているにも関わらず、リアクションが無い。

 

「君は確か………神狩 白狼くんだったかな?」

 

「そう言うアンタは黒森峰の歩兵総隊長の………誰だっけか?」

 

「貴方! 一体誰に向かって口を聞いてるの!?」

 

気だるげな白狼の様子を無礼と捉え、エリカが噛み付く。

 

「知らねーよ。話をした事もねえしな」

 

「貴様っ!」

 

「落ち着きたまえ、エリカくん」

 

尚も気だるげな態度を取る白狼に、エリカは更に噛み付こうとするが、他ならぬ都草がそれを制する。

 

「さて、神狩くん。何故君は此処に居るのかな? もし本当に偵察目的ならば、ルールに基づき、拘束させてもらう事になるが………」

 

「あ~………如何でも良いよそんなの。だって俺、辞めたんだし」

 

「何?………」

 

白狼がそう返答したのを聞いて、都草は眉をピクリとさせる。

 

「そんな見え透いた嘘を!!………」

 

「嘘じゃねえよ。この前の試合の戦績が全然ダメダメで………そういう結果が出たなら、今後の試合から降りろって約束されたんだ。だから俺はもう大洗の歩兵でもなんでもねぇよ」

 

エリカは話が信じられず食って掛かるが、白狼は相変わらず気だるげにそう返す。

 

「そんな話が信じるわけが!!………」

 

「だから落ち着きたまえ、逸見くん」

 

更に噛み付くエリカだったが、それを再び都草が制す。

 

その片手には、何時の間にか携帯が握られている。

 

「今確認が取れた。確かに、神狩 白狼は大洗国際男子校に転校届を提出。受理されているね」

 

「流石だな。もう調べたのか………」

 

「歩兵総隊長として当然さ………それで、此処に居る理由は?」

 

白狼の皮肉の様な台詞も気にせず、都草は白狼に此処に居る理由を問う。

 

「フィリップアイランドでバイクレースをしていたんだよ。まあ、ちょっと不調だけどな………そこへカメラの野次馬共が来やがったから、逃げて此処まで来たってわけ」

 

「成程。即ち1人リゾートと言う訳か………」

 

「ま、そう言うこった。1人でも結構楽しいもんだぜ」

 

「おい、そいつは誰だ?」

 

するとそこで、そう言う声が響いて、旧ドイツの武装親衛隊の迷彩服姿の男が現れる。

 

「ああ、『朽葉』副隊長」

 

「へっ、良い響きだ………」

 

副隊長と呼ばれた男子が、気を良くした様な様子を見せる。

 

「え? 副隊長?………」

 

「ああ、白狼君には言ってなかったわね。と言うか、長らく空席だったのが、ついこの前に決まったんだけどね」

 

白狼が疑問の声を挙げると、揚羽がそう言って来る。

 

「じゃあ、アイツが歩兵隊の副隊長って事か?」

 

「そ、去年のあの試合以降、前の副隊長が梶くんの下じゃやってられないって、辞めちゃって。空席となっていた歩兵隊副隊長に、こちらの『朽葉 蟷斬』が副隊長になったの」

 

「ふーん、見た目が凶暴そうなのが腑に落ちないけどな」

 

「あんだよテメェ。文句あんのか?」

 

武装親衛隊の迷彩服姿なのも重なり、凶悪さや凶暴さを感じさせる副隊長………『朽葉 蟷斬』を見て白狼がそう言うと、蟷斬は白狼を睨みつける。

 

「よすんだ、朽葉副隊長。黒森峰の歩兵隊員として、私闘は厳禁だ」

 

ガン飛ばす蟷斬を、都草が押さえるように彼の前に出る。

 

「はんっ! それぐらい分かってらぁっ!! 言われなくても、黒森峰歩兵隊の心得の教本ぐらい全部読破したんだっ!!」

 

「…………」

 

そう怒鳴る蟷斬を、都草は厳しい目で見据える。

 

「俺は長い月日をかけてやっとここまで登り詰めた………何れはテメェを越える………先輩だがそんなの知るか! 俺は必ず………全てを抜き捲って、天辺を取るっ!!」

 

「…………」

 

蟷斬の鋭い眼光に睨まれながらも、都草は決してブレる様子は無く、只厳しい視線で見据えていた。

 

「もう止めなさいって! 白狼くんは完全に部外者だよ! コレ以上は失礼だよ!!」

 

「「「「…………」」」」

 

揚羽に制され、一同は落ち着く。

 

(部外者………)

 

しかし、白狼は部外者と言う言葉が心の何処かで引っ掛かる。

 

「チッ! けったくそ悪い………」

 

しかし蟷斬は面白くなさそうな表情で、ブイッとそっぽを向けると。そのまま何処かへと去って行った………

 

「冷たい奴だな………」

 

「彼は昔もああいう感じでな………」

 

「あ? 知ってんのかよ?」

 

蟷斬の昔を知って居る様な口ぶりの都草に、白狼がそう尋ねる。

 

「まあね。だが、人に言う程の事でも無いんで、この話は終わりとさせてもらうよ」

 

だが、都草はそう言って会話を打ち切った。

 

「ま、アンタが大洗の人間じゃなくなったってのは、もう如何でも良いわ。けど、もし大洗が私達の前に立ちはだかったら、即蹴散らしてやるから見てなさい」

 

蟷斬との会話が終わると、エリカがそう言って来た。

 

「大した自信だな」

 

「当然よ! 黒森峰の戦車道は西住流! 王者の戦車道よ! だからこうして海外まで足を運んで演習に打ち込んでるんだから!!」

 

「演習に打ち込んでるねぇ………」

 

すると、白狼は呆れた様子を見せながら、ビーチの方に目をやる。

 

「?………」

 

その視線に釣られる様にエリカがビーチの方をもう見やって見たモノは………

 

「う~ん、トロピカル、トロピカルであります………」

 

浜辺に停めた担当愛車のⅣ号突撃砲の上にビーチパラソルを挿して、サマーチェアを置き、その上に寝転んでトロピカルジュースをストローで飲んでいる久美の姿が在った。

 

「何がトロピカルなのよ、この馬鹿久美ーっ!!」

 

「!? ゲローッ!?」

 

途端に、何時の間にかフェンスを乗り越えたエリカが、久美に向かってダッシュして行き、ドロップキックを喰らわせた!

 

真面に喰らった久美は、顔から砂浜に落ちる。

 

「………ブハッ! ペッ! ペッ! 何をするでありますか、エリカ殿!! 折角のリゾート気分が台無しであります!!」

 

「何がリゾート気分なのよ! 私達は演習に来てるのよっ!! 何1人で南国を満喫してるのっ!!」

 

口から砂を吐き出しながら抗議の声を挙げる久美を、エリカがそう怒鳴り付ける!

 

「折角南国に来たのに、満喫しないで如何するでありますか! 戦車になら何時でも乗れるであります!!」

 

「アンタ! 黒森峰機甲部隊の隊員として誇りは無いの!?」

 

「誇りで飯が食えるかぁーっ!!」

 

「言ったな、テメェッ!!」

 

余程頭に血が上っているのか、口調が変わり始めるエリカ。

 

「またか………」

 

「毛路山くんもブレないねぇ」

 

「ホント、らしいわね」

 

何時の間にかその近くまで来ていたまほ、都草、揚羽がそう言い合う。

 

「何だ、この戦車は?」

 

一方、白狼は久美の愛車であるⅣ号突撃砲を見てそう呟く。

 

車体両側面に取り付けられているシュルツェンを含め、全体が真っ赤に塗られており、戦闘室中央上部に、大型のブレードアンテナが取り付けられており………

 

何処から如何見ても、通常の3倍速い赤い彗星仕様になっていた。

 

突撃砲の利点である隠蔽性が欠片も無い。

 

「如何であります! 我輩のシャア専用Ⅳ突の勇姿はっ!!」

 

「勇姿………ね」

 

ドヤ顔をする久美だったが、白狼は呆れた表情のままである。

 

「呆れられてるじゃないの! 戻しておけって言ったじゃない!!」

 

「コレは我輩の魂のカスタマイズ! 絶対に譲れないでありますっ!!」

 

「総隊長! 総隊長からも何か言って下さいっ!!」

 

埒が明かないと思ったエリカが、まほに助力を求めるが………

 

「言うだけ無駄だ………そろそろミーティングだ。都草、戻るぞ」

 

「了解」

 

まほは諦めた顔でそう言い、都草を伴ってその場を後にする。

 

「ちょっ!? そ、総隊長っ! 待って下さいーっ!!」

 

慌ててその後を追うエリカだった。

 

「慌しいな………」

 

「いつもあんな感じよ………ところで、白狼くん?」

 

それを見送った白狼に、揚羽が何やら尋ねたい様な様子を見せる。

 

「ん? 何だよ?」

 

「その………明日って暇かな?」

 

「ああ、明日は休みだからな。自主練する気も無かったし、暇っちゃ暇だが………」

 

「実は私、明日生徒会の皆と一緒に、午前中は沖に出てダイビングをして、午後はオーストラリア本土の町へとショッピングへ行く予定になってるんだけど、一緒に来ない?」

 

そう言って、揚羽は白狼を誘った。

 

「………良いのか?」

 

一瞬考える様な様子を見せた後、白狼はそう尋ねる。

 

「うん。白狼くんが居てくれた方が生徒会の皆も楽しいだろうし………」

 

「我輩も同行させて下さいでありますっ!!」

 

とそこで、久美が自分も連れて行ってくれと手を上げる。

 

「ええ、良いわよ」

 

「よっしゃーっ! でありますっ!!」

 

「盛り上がってるとこ悪いが、お前等練習は良いのか?」

 

「「…………」」

 

白狼がそう問うと、揚羽と久美は顔を見合わせる。

 

そして、不意に白狼の方を見やったかと思うと………

 

「「訓練ってのは、サボる為にあるのよ(であります)!!」」

 

堂々たる態度でそう言い放った。

 

(………コイツ等、本当に黒森峰の生徒か?)

 

何とも自由な2人に、白狼は内心でそう呆れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、迎えた翌日………

 

白狼はノックの音以前に起きており、準備は済ませていた。

 

美嵩の目を掻い潜って港にて船に乗り、スキューバダイビングを体験。

 

見事な珊瑚礁を楽しむ一同。

 

そして、昼食時になり、オーストラリアのメルボルンにて昼食をとった。

 

食事を楽しんだ後、一同はメルボルンの観光へと向かう。

 

メルボルンは『芸術の街』

 

道には絵を描いて売る人やパフォーマンスをする人々が居り、壁にはストリートアートが描かれている場所も在る。

 

当然美術館もあり、ビクトリア国立美術館もその内の1つ。

 

1861年にオープンした、オーストラリア最古の美術館。

 

展示されている作品はなんと7万点!

 

幾つもの絵を見て、白狼はつい嘆声を洩らす。

 

その中には、和風の絵まで在った。

 

ヨーロッパの影響を強く受けたメルボルンには、街の中の至る所にカフェが存在している。

 

美術館から出た一同はボークストリートと呼ばれる路地の『ブラザー バババダン』と呼ばれるカフェにてコーヒータイム。

 

白狼はコーヒーがそんなに好きではないが、香りの良さに流石に惹きつけられ、飲むしかなかった。

 

苦みを覚えながらも、飲み干した白狼の姿を、揚羽達と久美は面白そうに見ながら、カフェを出て、今度はブルネッティと呼ばれるスイーツカフェへと向かった。

 

数多いイタリア菓子に、白狼は歓喜に震えながらケーキを眺め、早く味わいたいと急かした。

 

ケーキを食べ満足した白狼と揚羽達は、それから聖・パトリック大聖堂やルナパークを通り過ぎたが………

 

白狼曰く、遊園地のくせに入り口が奇妙過ぎる………

 

と言った感想も在った。

 

そして町を抜け、海側へと向かうと、とても長い時間を掛け、ある場所へと到着した

 

そこはとある海岸線だった。

 

崖の在る先へと向かう白狼達。

 

崖の先から見える景色には、美しい曲線を描いた海岸線に、南極海側に突き出した豊富な花崗岩の巨奇岩群が見えており、吼える様な風と広大な海に晒された、美しい絶景だった!

 

オーストラリア人なら誰もが知ってるグレートオーシャンロードである。

 

一同は嘆声を洩らし、久美に至っては生徒会の揚羽と瀬芹を除くお気楽三人組と一緒にカメラ撮影をしていた。

 

とそこで、白狼は海岸に人影を発見する。

 

(………!? アレは!?………)

 

と、その人物が誰であるのか分かった瞬間、白狼はまだ写真撮影に夢中のなっている久美達を置いて、海岸へ降りて行った。

 

「………西住 しほ」

 

「…………」

 

白狼は声を掛けると、その海岸に居た人物………しほは、白狼の方を振り返るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

白狼が居たのはフロリダでは無く、オーストラリア。
フロリダは美嵩の欺瞞情報だったのである。
しかし、当の白狼は絶賛不調中。

身が入らない中、遠征に来ていた黒森峰と遭遇。
流れで揚羽達生徒会メンバー+久美とリゾートを満喫する事に。

さて、次回ではスペシャルゲストが多数登場します。
学園祭に時に出た、あの作品関係のキャラ達です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第152話『神狩 白狼の放浪記です(後編)!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第152話『神狩 白狼の放浪記です(後編)!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗から離れた白狼が居たのは、オーストラリアだった………

 

スカウトされたチームで、バイクレースの練習に励むが、イマイチ調子が乗らなかった………

 

そんな中、美嵩に言われてカメラマン達から逃げた向かった宿泊先のリゾート地にて………

 

偶然にも、海外合宿中だった黒森峰機甲部隊と出くわす………

 

エリカや、歩兵隊副隊長の『朽葉 蟷斬』と一悶着あったものの………

 

都草の仲裁で何とか穏便に済ます………

 

その翌日………

 

白狼は、揚羽達と久美に誘われ、リゾート地の観光に繰り出す………

 

その日の夕方に訪れた海岸で………

 

西住 しほの姿を発見するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーストラリア・グレートオーシャンロード………

 

「………大洗の歩兵だったわね」

 

しほは白狼に向かってそう言い放つ。

 

「いや、もう大洗とは関係ねぇ」

 

「そう………」

 

「何で此処に?」

 

「黒森峰の指導教官として来ていたのよ。今日の訓練は終わったから、此処に居るのは単なる気まぐれよ」

 

そう言うとしほは、白狼から興味を無くした様に、水平線を見やる。

 

「………あの時は言い過ぎた。すまない」

 

するとそこで、突如白狼は、しほに向かってそう謝罪した。

 

「…………」

 

しかし、しほは水平線を見たままである。

 

「プラウダ&ツァーリの試合の時、その………言い過ぎた」

 

白狼が謝っているのは、如何やら見事に啖呵を切った様に見えたが、内心気にしていた様である。

 

「………貴方はもう大洗の人間ではないのでしょう。謝罪を受け取る理由は無いわね」

 

しかし、しほは振り返りそう言ったかと思うと、そんな白狼の横を擦り抜けて去って行った。

 

まるで最初から白狼の存在に興味が無かったかの様に………

 

「…………」

 

残された白狼は、何とも言えない気持ちで佇んでいた。

 

と、そこで………

 

「あの~………すいません」

 

突然誰かに声をかけられた。

 

振り向けばそこにいたのは、身長がやけに低そうながらも意外にも揃っている女の子達と、やけに身長がデカい女の子がいた。

 

みんな水着を着ている。

 

「十二使徒って言うのは何処にありますか?」

 

「ああ、それならアレだ。あの突き出した花崗岩の奇岩がその十二使徒と呼ばれているヤツだ」

 

女の子の1人の質問に、白狼はその場所を指差しながらそう返す。

 

「おお~~~っ!」

 

女の子達は目を輝かせ、その美しい光景をジッと見つめる。

 

「お前等も観光か?」

 

「ああ、いえ、ボク達はここで撮影をしに来ました」

 

「撮影って事は………何かテレビの関係者か?」

 

「あ、あの………ハイ………」

 

「ほ、他のプロダクションのトモダチと一緒に………ヌード写真を撮りに………」

 

「ハッ? ヌード?」

 

思わぬ言葉に、白狼は驚いた様子を見せる。

 

「いや、ヌードはないよ………杏達は、海外出張っていう名目の元、他を挿んでグラビア撮影に来たんだよ」

 

「んでー。撮影が終わったら杏ちゃんとみんなでビーチで遊ぶんだにぃ」

 

小柄な少女・『双葉 杏』が、背の高い少女・『諸星 きらり』に抱えられた状態でそう言って来る。

 

「ふーん………」

 

やけに個性的な連中だが白狼は動じない。

 

と言うよりも余り興味が無い様子である。

 

「も、もしかしておにーさんは、ぬ、ヌードが………ご、ご希望………か?」

 

銀髪の少女・『星 輝子』が、照れながらそう尋ねる。

 

「いやーん、こんなにもカワイイボクの裸を見るのが御希望とは罪な人ですね」

 

「いや、全然」

 

「同感」

 

「それ、どういう意味なんですか!? というよりも杏さん! 貴方も賛同しないで下さいっ!!」

 

白狼の一言にジト目の女の子は怒る。

 

「皮肉気な人………なんですね………」

 

「このどうみても自意識過剰なヤツに腹が立っただけだ」

 

「自意識過剰じゃありません! 僕は自分に確実に自信があるんです! そうこの『輿水 幸子』は世界一カワイイトップアイドルなんですよ!」

 

そう言ってジト目の少女・『輿水 幸子』はドヤ顔を決める。

 

「知るか、そんなもん」

 

しかし、やはり白狼は興味ゼロである。

 

「このカワイイボクを知らないなんて、おにーさんってばかわいそうな人ですね」

 

「ホント腹の立つ奴だな………」

 

「本当に知らないの? 杏達はアイドルなんだぞ」

 

ふとそこで、杏がそう尋ねて来る。

 

「あ~………ワリィ、あんましテレビ見る余裕がないから………そのうち見て覚えておくよ」

 

「ふふーん。このボク、輿水幸子の可愛さは………」

 

「あ、でもアイドルって事は………スクール関係?」

 

「………って聞いてくださいよ!!」

 

話を遮られ、憤慨する幸子。

 

「ん~ん~。きらり達はプロダクションに入っているアイドルだにぃ! 因みにきらりは司会進行のお仕事もやってるよ~っ!!」

 

「じゃあ、モノホンってヤツだな」

 

「とーぜん! 何たって………」

 

「で、何の番組だ?」

 

「とときら学園っていうんだにょ~」

 

「ってだから聞いてくださいよっ!!」

 

幸子は無視され続けている白狼に怒鳴ったものの、白狼はそれをスルーしてきらりと話を続けた。

 

「じゃ、俺はも行くぜ。多分待ってるだろう連中が居るんでな。縁が在ったらまた会おう」

 

「バイバイだにぃ~!」

 

やがて白狼は話を打ち切ると、揚羽達を待たせていると思い、その場から去って行った。

 

「さ、杏ちゃ~ん。お仕事行くにぃ~」

 

「あ~、メンドクサイなぁ~」

 

きらりは杏を持ち上げたまま、仕事場へと向かう。

 

それを見た輝子は………

 

「よし………幸子ちゃん………わ………私達も………」

 

「ちょっとちょっと!? 何対抗してるんですかっ!?」

 

「だ………だって………何時かは勝負するかもしれないから………こ………こちらも………トモダチ魂を………み………みせつけてやろうぜ………フヒ………フヒヒヒ………」

 

何やら意味の分からない理論を展開する………

 

「ああ、もう! 仕方ありませんね、ほら!」

 

「ふ………ふひひひ………では………お言葉に甘えて………」

 

腰を下ろし、背を向けた幸子に向けて足を上げて乗っかろうとするが………

 

「? 如何したんですか? 早く上がってください」

 

「あ………足が………こ………これ以上………上がらない………」

 

輝子の足は、僅かに上がったところで止まっていた。

 

「何々ですか、結局!? だから嫌だったんですよこんなユニット!!」

 

運動不足な輝子に叫び散らす幸子。

 

「うふふ………皆楽しそう………あの子も喜んでる」

 

一方、今までずっと黙っていた片目の隠れた少女・『白坂 小梅』は、何も無い空間を見ながら少し微笑んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ過ぎになり………

 

白狼は宿泊しているホテルに戻り、夜になると再び揚羽達がやって来て、ディナーへ誘われた。

 

美嵩に小言を言われたが無視し、揚羽達に誘われるがままに近くのレストランへ。

 

そこで出された品物は、メガネモチウオ、そしてシロカジキ、数10匹のロブスターと大量のパシフィックオイスター。

 

と言った具合に海鮮尽くしであった。

 

それ等がコックにより調理され、完成した料理がテーブルに並べられると、皆は美味しく召し上がり始める。

 

白狼はロブスターの殻を剥きながら、かぶりついたり、味の付いた茹でたオイスターを持ち上げ、それを口に付けると中身だけ吸い出して食べた。

 

(美味いな………)

 

凄く美味しいと白狼は内心で絶賛する。

 

白狼を中心に、次々と美味しそうに食べる様子に、揚羽達は和気藹々となる。

 

その時、何処からか………

 

「は~い! そこにいる日本人のおに~さんも、盛り上がっちゃってる~?」

 

ビールを片手に、紫色のテカテカなボディコン風な低身長の女性が、白狼に絡んで来る。

 

「オメーも日本人だろ………つーか気色悪りぃから近づくな」

 

「むむ~、ナマイキなニーチャンめ~~~! そんな悪いコにゃ~、タイホしちゃうぞ~~~っ!!」

 

酔っ払いな相手に対し、一蹴する白狼だが、そんな態度の白狼に女性は胸元から取り出した手錠を掛けようとするが………

 

「ちょっと、此処は日本じゃないわよ」

 

そう言って揚羽が、女性の手首を掴み、手錠を取り上げる。

 

「こら~~っ! 公務執行妨害だぞ~っ!!」

 

女性はすっごく不満そうな顔をする。

 

離れていても匂って来るほど、相当酒臭い………

 

「酔っ払いに用はないんです! ここは私達の席なので!」

 

「ふ~んだ! 何よ何よ! ペッタンコのくせに~~~!!」

 

「ペッタンコじゃない!! 子供みたいな屁理屈言ってないで帰りなさい!!!」

 

コンプレックスを刺激され、揚羽が激昂する様子を見せる。

 

「ごめんなさい~! ウチの同僚が悪いことしませんでしたか~っ!?」

 

失礼な事を言う女性に、別の女性が現れ、酔っ払いの女性を手元に引き寄せ謝る。

 

「見りゃわかるでしょ!! とっとと戻って下さい!!」

 

「ホント、すみません!」

 

再度謝罪すると、酔っぱらいの女性を連れて、すぐさまその場から去った。

 

「全く、もう………」

 

余程さっきの言葉が気に障ったのか、イラついている揚羽。

 

「騒々しいな、全く………」

 

白狼は訳が分からず、取り敢えず食事を再開する。

 

「ねえねえ! さっきのひょっとして、『片桐 早苗』さんと『川島 瑞樹』さんじゃなかったっ!?」

 

「ああ、そう言えば!!」

 

「嘘! マジで!!」

 

生徒会お気楽三人組は、先程の二人が『片桐早苗』、『川島瑞樹』と言うアイドルだと気付き、感激する。

 

(またアイドルか………何か今日はアイドルに良く合うな………)

 

またも現れたアイドルに、白狼は呆れた様子を見せる。

 

「申し訳ありません~。これ、私達からのお詫びです~」

 

するとそこで、今度は小さめのポニーテールにメイド服を着ていた小柄な少女が、白狼達の席にトロピカルフルーツセットを差し入れた。

 

「おお、ありがと、メイドさん」

 

「気に入ってくれて何よりです。ナナもそんな皆さんを見て嬉しい気持ちでいっぱいです~」

 

誰もが喜ぶと、メイドの少女も喜んでいた。

 

「つーかお前も日本人かよ」

 

「フッフッフ………ナナはこのお店で欠員している店員さんの代わりにお仕事をしているんですが………その実態はっ!!」

 

すると少女は可愛いポーズを取ると………

 

「ウサミンパワーでメルヘンチェ~ンジ!! ウサミン星からやって来た、歌って踊れる声優アイドル・ウサミンこと、『安部 菜々』で~~すっ!!」

 

「…………」

 

ウィンクしながらポーズを決めた『安部 菜々』の事を、白狼は呆然としながらジト目で睨む。

 

「な、何なんですかそのケーハクそうな目は………ナナ悲しんじゃいますぅ~」

 

「ワリィ………余りにもハッチャけすぎる様子だったから………どうにもな」

 

泣き真似をされて気まずくなったのか、白狼がそう謝罪する。

 

「まあ、引いてしまう人も多く居ますが………それでもナナは明日に向かって歩き出す! それがウサミン星人のプラス思考で~すっ!!」

 

「とんだプラス思考だな………アイドルってヤツは………スクールアイドルと言い、随分な連中が多いんだな」

 

「いやぁ、ナナもこんなに若いリアルJKに………ああ! いえ!! ナナも若いですよ! 永遠の17歳ですから!! もちろんスクールアイドルにも参加していま~す! キャハ!」

 

「てことはお前も戦車道にか?」

 

「しかし、ウサミンという単語は聞いたことないであります。揚羽殿は?」

 

「いや、私も知らない………」

 

「あ、いえ、ウサミン星は非軍事主義でして、兵器の類は存在しません」

 

「それでよくスクールアイドルなんて参加出来たな………」

 

「一応スクールアイドルには、戦車道道が関わっているけど………」

 

「な、ナナの故郷は、一応認められていまして、今に至ってまーす!!」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

何やら慌てふためく彼女の様子に、怪訝な顔をする一同。

 

「奈々ちゃん、別の人のオーダー入ってるわよ」

 

そこへ、またも別の女性が現れ、菜々に仕事の催促をする。

 

「あ、すみませ~ん! すぐ行きま~す!」

 

驚く菜々はすぐさまメイドの仕事に取り掛かる。

 

「ごめんなさいね。あれでも普段は結構真面目なんですよ」

 

「あんな中二病っぽい設定がか?」

 

「うふふふふ、でも可愛いじゃないですか。西部戦じゃ、ウサギさんチームを必死で応援していましたし」

 

「え? 何でお前が西部戦の事を知ってるんだ?」

 

戦車道・歩兵道全国大会の事を知る様子の女性に、白狼は軽く驚く。

 

「知ってますよ。西部戦の事は、せーいぶ、知ってますから。フフフフ………」

 

「…………」

 

屈託のない笑みを見て、白狼は呆然とする。

 

それよりも先ほどダジャレっぽく聞こえるのは気のせいなのか………

 

すると揚羽、瀬芹を除く生徒会3人娘が席を立ち、女性をマジマシと見つめ、驚く。

 

「ひょっとしてお姉さんって………『高垣 楓』さんですか!?」

 

「あ、あのアイドル界のラスボスと言われる高垣楓をこの目で見られるとは………」

 

「今日はアイドル達のオフなのか?」

 

と、感激の様子を露わにする。

 

「またアイドルか………踏んだり蹴ったりだな………」

 

「至れり尽くせりじゃない辺りが白狼くんらしいわね」

 

呆れる白狼に、揚羽がそう言う。

 

「………それよりも、メシが冷めちまう。如何だ一緒に?」

 

「外国なだけにしめ鯖がないのが惜しいところですけどね。宜しいんですか?」

 

尋ねて来た楓に白狼は皆で食べれば美味しいと主張した。

 

思わぬゲストを迎え、生徒会3人娘のテンションが上がる。

 

楽しいディナーに、周りのお客さんの中に居た日本人観光客らしき人々も和気藹々とし出す。

 

その時………

 

「あ~っ!!」

 

突如驚きの声が挙がり、白狼がそれがした方向を見やると、そこには幸子達の姿が在った。

 

「あ、お前………コミミズ………だっけ?」

 

「輿水です! コ・シ・ミ・ズ!! カワイイ僕こと、輿水幸子ですっ!!」

 

「お~、昼ぶりだな~、おに~さん」

 

「にゃっほ~い! おひさだにぃ~!!」

 

「こ………こんばんわ………」

 

「ふ………ふひひひひ………」

 

「お前らも此処でメシか?」

 

「そうですよ! 此処はとっても美味しいと評判なんです!!」

 

アイドル達は其々に席に着く。

 

「おお! 今度は142cm揃いのJCトリオ! 幸子ちゃんと小梅ちゃんと輝子ちゃん!」

 

「そして更にはあんきらの2人まで………アイドル尽くしだな………」

 

「最近のアイドル人気、凄いからね~………」

 

生徒会の面々は、彼女達の姿に感嘆し、異様に感激する。

 

席は丁度、白狼が座っているテーブルの近く。

 

「撮影は終わったのか?」

 

「うん! すっごく楽しかったにー!! ねー、杏ちゃん!」

 

「ん~………まあね………」

 

「ふふ~ん! こんなにかわいい僕を撮影してくれるとは、カメラマンさんも幸運ですね」

 

「一体どの辺りが幸運なのか俺には全然分からないけどな………」

 

ドヤ顔の幸子に白狼は呆れる。

 

「でも、まだ明日撮影があるんだったよなぁ………」

 

「うん! 今度は愛梨ちゃんも一緒だにぃ!」

 

「誰だ?」

 

「あ………きらりさんと一緒に司会している………人です………」

 

「ある意味………ボインな………いい体つきな………アイドルで………ケーキも………ご馳走してくれて………フ………フヒヒヒヒ………」

 

「まあ、別にどっちでもいいけどよ」

 

尋ねておきながら、興味無さ気な白狼。

 

「アイドルに興味はないんですか?」

 

「もしあったら喜んでいたさ。でも今はどうでも良い………」

 

「失礼な人ですね。まあ、僕は明日も続くグラビア撮影が楽しみなんですよ~」

 

「グラビア撮影じゃないわよ」

 

「………え?」

 

幸子が自慢していると後ろから瑞樹が声を掛けて来た。

 

「川島さん? 如何して此処に?」

 

「愛梨ちゃんって、以前川島さんと一緒に司会もしていたから、その縁で今回は合同なんだにぃ」

 

「え?………ごう………どう………?」

 

「ああ、たしかアクティビチィーが如何だこうだとか………」

 

「うん………ゴールドコーストの………『タワーオブテラー』とか『ジャイアントドロップ』とか………」

 

「あ、あと………『ボマトロン』とか………『フライコースター』とか………」

 

「き、聞くからにして、穏やかそうじゃなさそうですね………」

 

いやな予感がしてたまらない幸子

 

むしろ何かデジャヴを感じていた。

 

「う、うん………全部、絶叫系だって………」

 

「さ………幸子ちゃん、頑張って………」

 

「なんでボクが!?」

 

「だ………だって………この前の………謎のくじ引きで………幸子ちゃん………赤が出たでしょ………」

 

「スタッフさんの話だと………今日の合同番組で………幸子ちゃんが絶叫マシンに乗って………アクティビティーを体験だって………」

 

「そんな話聞いてませんよ!! っていうか今更過ぎ!!」

 

「大丈夫だにぃ~! 幸子ちゃんは大好きだって聞いたんだにぃ!」

 

「全然! むしろ反対ですよ!!」

 

「幸子ちゃん、気持ちはわかるわ。でもね、明日の絶叫ロケは全国放送だから、活躍すれば幸子ちゃんの可愛さが伝わる筈よ」

 

「え………そうなんですか………ふ………ふふん! しょうがないですね! なんたってボクは何をやらせても可愛いんですから!!」

 

瑞樹に言われると、幸子はどこか得意げになるのだった。

 

「さ、流石身体を張ったアイドル………」

 

「なんだか大昔の芸人さんを彷彿とさせるわね………」

 

「有名人も大変だね~」

 

「というよりも、チョロいアイドルね………」

 

生徒会のメンバーは幸子に言いたい放題言いまくる。

 

「………ああ、これが至れり尽くせりか」

 

「踏んだり蹴ったりですよっ!!」

 

白狼が思い出した様に例えるが、幸子はツッコミを入れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、夕食を済ませ、揚羽達と別れてホテルへと戻った白狼。

 

すると、意外な人物が出迎えた。

 

「やあ、こんばんわ」

 

「アンタは………」

 

都草である。

 

「何の用だ? 黒森峰の歩兵総隊長さんがよぉ」

 

「………此処じゃなんだ。少し歩こうか?」

 

「…………」

 

そのまま2人は、夜の浜辺へと移動する。

 

人気は無く、波の寄せて返す音だけが辺りに響いている。

 

「んで、何なんだよ?」

 

「………大洗を辞めた理由は、あの西部戦での事かい?」

 

「!………」

 

都草からそう言われ、白狼は一瞬驚いた様子を見せた後、黙り込む。

 

「図星の様だね。確かに、フレンドリーファイヤで危うく敗退だなんて、責任を感じるのも無理は無い」

 

「別に責任を感じたワケじゃない」

 

「ほう………」

 

白狼がそう返したのを聞いて、都草は意味深な笑みを見せる。

 

「大洗は俺が居なくても勝てる………そう思っただけだ。元々バイクを歩兵道に使うのはあんまり気が乗らなかったからな」

 

「レーサーとしてプライドか………」

 

「それに、美嵩のヤツと約束していた。約束は守るもんだ」

 

「約束か………確かに、約束を守る事は大事だ。だが、今の君はそれに固執するあまり、もっと大切な事を見失っているのではないのかい?」

 

「? もっと大事な事? 何だよ、ソレ?」

 

「それは君自身が気づかなくてはならない」

 

「んだよソレ………」

 

はぐらかす様な都草に、白狼は若干イラつく。

 

「心配しなくても良い。君ならすぐに気づけるさ。それが言いたかったんだ。邪魔をしたね」

 

都草はそう言い残し、去って行こうとする。

 

「オイ、待て」

 

だが、白狼はその都草を呼び止めた。

 

「………何かな?」

 

都草は、白狼に背を向けたまま、顔だけ振り返って尋ねる。

 

「何で俺にそんな事を言いに来た? 俺は元はお前等の敵だぞ」

 

「敵………か。敵とは何かね?」

 

「ああ?………」

 

「確かに、他校の機甲部隊の事を便宜上敵と呼ぶ。だが、敵は滅ぼすもの。歩兵道や戦車道で相手を滅ぼすなんて事は先ず有り得ない」

 

「…………」

 

「我々は試合と言うの名の元で戦う。だがそれは相手を滅ぼす為ではなく、互いに切磋琢磨し合い、共に高みへと向かう為の戦いだ」

 

「綺麗事だな………」

 

「その通りだ。だが、その一言で否定し切れるのかね?」

 

「…………」

 

黙り込む白狼。

 

「では、失礼するよ………」

 

そんな白狼を海岸に残し、都草は改めて去って行った。

 

「…………」

 

白狼は暫く、海岸に立ち尽くしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・空港にて………

 

黒森峰の面々が帰国する事になり、見送りに(半ば無理矢理)訪れた白狼。

 

「じゃあね、白狼。今度は日本で会いましょう」

 

「ああ…………」

 

「神狩殿! またお会いしましょうっ!!」

 

そう言って搭乗ゲートを潜って行った揚羽と久美を、白狼は何処か上の空で見送った。

 

「…………」

 

続いてしほが、白狼には目もくれずにゲートを潜る。

 

「よう、生徒会長さんの見送りか?」

 

「…………」

 

続いて、蟷斬がやって来て、挑発する様な言葉を吐くが、白狼は無視する。

 

「チッ、ムカつく野郎だぜ。あばよ、クソヤロウ」

 

「………ハリガネムシには気をつけるんだぞ」

 

蟷斬がイラついた様子を見せると、白狼はそう言い放つ。

 

尚、ハリガネムシとはカマキリ等の昆虫に寄生する寄生虫の事である。

 

「!!………」

 

蟷斬は歯ぎしりしながらゲートを潜って行った。

 

「…………」

 

「………また会おう」

 

最後に、まほが軽く会釈して、都草が短くそう言って、ゲートを潜って行く。

 

程無くして、黒森峰の面々が乗った飛行機が飛び立った。

 

「…………」

 

それを見送ると、白狼は空港から出ようとする。

 

本来ならばレースの練習に行くべきなのだが、如何にもそんな気持ちになれなかった。

 

(如何するか………)

 

白狼がそう思っていると………

 

「う………うう………」

 

「?………」

 

呻き声が聞こえて来た気がして、白狼が視線をやると、そこには………

 

ターミナル内で、膝を着いて苦しんでいる老人の姿が在った。

 

「オイ、爺さん。大丈夫か?」

 

流石に放っては置けず、白狼が声を掛けると………

 

「お、おお………若いの………スマンが、ちょっと荷物を頼めるかのう?」

 

目を隠すほどの白く太い眉毛の老人は、白狼にそう言って荷物を差し出して来る。

 

「それは良いが、救急車呼んだ方が………」

 

と、白狼が荷物を受け取りながらそう言いかけた瞬間………

 

「ハアアアアアア~~~~~~………」

 

老人は両手を腹の中心に添えるようにすると、一瞬カッと目を見開き、深く深呼吸をした。

 

「………ふう」

 

すると、何事も無かったかの様に立ち上がった。

 

「何?………」

 

その様子に、白狼は驚きを露わにする。

 

「スマンの若いの。世話を掛けた」

 

そう言って、老人は白狼から荷物を返してもらう。

 

「………本当に大丈夫か?」

 

「うむ、もう心配ないぞ。ホッホッホッホ………」

 

心配する白狼だが、老人は大丈夫な様で、ケラケラと笑う。

 

「さ~て、急がんと………飛行機が出てしまう」

 

と、老人は改めて、搭乗ゲートへと向かう。

 

「………待てよ」

 

するとそこで、白狼はその老人に付き添う。

 

「心配だからな。付いてくぜ」

 

「………構わんぞ」

 

老人は一瞬白狼の目を見やると、何かを察した様な表情となった。

 

そしてそのまま………

 

白狼は老人と共に飛行機に乗り込み、オーストラリアを発ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、辿り着いたのは………

 

中国は安徽省………

 

空港から出た老人は、そのまま歩いて目的地に向かい出し、白狼もそれに続いた。

 

そのまま数時間は延々と歩き続け、ドンドンと田舎の方………

 

更には人里離れた場所まで向かい始める老人。

 

「ゼエ………ゼエ………オイ、爺さん………一体………何処まで行くんだ?………」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、もうすぐじゃ」

 

完全に疲労の色が見えている白狼とは対照的に、老人は涼しげである。

 

「着いたぞ。此処じゃ」

 

「あん?………」

 

そう言われて顔を上げた白狼は絶句した。

 

その先にあるのは階段………それもとてつもなく長い石の階段………

 

最早天辺の方は、霞が掛かって見えないくらいだった。

 

「…………」

 

「では行くかのう」

 

白狼は開いた口が塞がらない感じだが、老人はその階段を難なく上って行く。

 

「ええいっ! 此処まで来たら!!」

 

白狼も追い掛ける様に登って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後………

 

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」

 

すっかり息も絶え絶えで、最早立っている気力も無く、這う様に石段を登って居る白狼。

 

老人の姿は既に見えなくなっている。

 

「クソ………舐めるなよ………」

 

しかし、白狼は意地で登り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして更に1時間後………

 

「ハア………ハア………着いた………」

 

「遅かったのう」

 

倒れ込む様に天辺に到着した白狼に、待っていた老人がそう声を掛ける。

 

そこは見事な寺院だった。

 

開いている門の先には何人もののカンフー胴着姿の者達が、見事な拳法の型を披露しながら鍛錬している様子が見えている。

 

とそこで、老人が白狼を杖で起こす。

 

「これくらいでへばってしまっては、まだまだじゃのう」

 

「も………もとより………俺はまだまだ………だ………つーか………此処………ヤケに………息切れするのが………早い………頭も………クラクラする………」

 

「当然じゃ。この寺は山の天辺で空気が薄い。お主の様に無駄な動きが多い若造共には耐えられん」

 

「へぇ………って事は何? アンタはこんな山奥の天辺に済む仙人みたいなものかよ?………」

 

「多くはそう言う。そしてワシはこの中国の歴史を、ご先祖様達より沢山沢山学んだ………そして、戦いにおいて大事なモノも学んだ」

 

「大事なモノ?………」

 

「時にお主は………歩兵道と呼ばれるものの歩兵じゃな………」

 

「な、何で知ってるんだっ!?」

 

「ワシにはチャンと分る。男は約束を堅く守ると言うが、自分の誇りよりも勝るモノは必ず存在する。お主はそれに気づいていないだけじゃ………」

 

「………でも、仮に破って戻ったとしても………」

 

「では、お主に1つ助言をしてやろう………お主は後ろを向き過ぎじゃ。未来に向かって真っ直ぐ歩く事が人生にとって一番大事な事じゃ」

 

「未来に………真っ直ぐ」

 

「何よりもお主は大切な事に気がついていない………まだまだ未熟な証拠じゃ」

 

「………そうか」

 

「理解したか?………」

 

老人に言われ、白狼は項垂れていた………

 

かと思ったら、再び顔を上げて………

 

「だからと言って諦めちゃダメなんだよな! なあ、爺さん! 俺に稽古をつけてくれ!!」

 

「………今のお主には覇気が残っておらぬ………そんなお主に用は無い。助けてくれたのは感謝するが、それとこれとは話が別じゃ」

 

「だからこそ諦める積りも無い………ここで居座って、教えてくれるまで動かん!」

 

「ならば、好きにせい………」

 

そういいながら老人は寺院の門の向こうへと入って行き、門を閉めた。

 

「………望むところだ」

 

白狼は睨むような目付きで、門を見据えるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

スペシャルゲストは、シンデレラガールズの面々でした。
前にニュージェネレーションズと武内Pをゲスト出演させたので、その関係で出して欲しいと白狼のキャラを提供してくれた友人に頼まれまして………

そしてその白狼ですが、謎の老人に付き添って中国へ。
そこで一念発起し、稽古をつけて欲しいと
いよいよ復活なるでしょうか?

次回は再び大洗。
遂に決勝リーグが始まります。
その最初の相手は………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第153話『ハロウィン学園です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第153話『ハロウィン学園です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗から離れ、美嵩と共にオーストラリアでスカウトされたバイクチームの参加していた白狼は………

 

偶然にも海外へ遠征合宿へ来ていた黒森峰と遭遇。

 

揚羽達生徒会メンバーと久美に連れ回され………

 

西住 しほや346プロのアイドル達との出会いもあったが、白狼の心は何処か晴れなかった………

 

そして、都草に塩を送られ、翌日に黒森峰が去った空港で、白狼は謎の老人と遭遇………

 

具合が悪そうだったのを呼吸法1つで回復した老人に興味を持ったのか、白狼はその老人に付き添い、中国へと向かった………

 

そしてその老人が、拳法を教えている仙人の様な存在である事を知った白狼は………

 

一念発起する様に、老人に稽古を願った。

 

しかし、老人は覇気の無い白狼を受け入れず、白狼は老人の住む修行寺の前で座り込みを始めたのだった………

 

一方、その頃………

 

日本の大洗学園艦では………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・大洗学園艦………

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「全員集合したな!」

 

揃った大洗機甲部隊のメンバーを見て、桃がそう言う。

 

「今日は通達事項が在って召集を掛けた」

 

「通達事項?………」

 

「何でしょう?」

 

続いて十河がそう言うと、地市と楓が小声でそう言い合う。

 

「私達の次の対戦相手なんだけど………」

 

「『ナイトウィッチ女子学園』と『ハロウィン高校』からなる『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』だ」

 

「『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』………」

 

柚子と俊がそう言うと、みほが対戦相手となる『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』の名を反芻する。

 

「ゆかりん、知ってる?」

 

「ハイ。どちらもマジシャンの養成をしていると言う珍しい学校で、戦車道・歩兵道の歴史は他校と比べて浅いですが、過去にはグロリアーナ&ブリティッシュと同じく、準優勝した事もある学校です」

 

「と言う事は、少なく見積もってもグロリアーナ&ブリティッシュと同等と言う事か………」

 

沙織が対戦校の事を優花里に尋ね、優花里がそう答えると、麻子が口を挟んで来る。

 

「思えば私達が唯一完全に黒星なのがグロリアーナ&ブリティッシュですね」

 

「そう考えると大変な相手になりそうですね………」

 

それを聞いた華と飛彗もそう言い合う。

 

「そこ! 煩いぞっ!!」

 

「「「「すみません!」」」」

 

とそこで、その声を目敏く聞き付けたかの様に桃が注意して来て、面倒になる前に謝って済ます沙織、優花里、華、飛彗だった。

 

「でさー、そのナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊なんだけどねぇ………」

 

「明日、エキシビジョンマッチをするそうだ」

 

「エキシビジョンマッチ?………大会中にも関わらずですか?」

 

杏と迫信がそう言うと、弘樹が疑問の声を挙げた。

 

練習試合なら兎も角、エキシビジョンマッチは一般公開が原則とされる。

 

つまり、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は自らの手の内を晒す行為をしていると言える。

 

「それがナイトウィッチもハロウィンもこの大会中に何度もエキシビジョンマッチを行ってるの」

 

「自分達は戦車道・歩兵道の選手であると共にエンターテイナーであり、常に考えるべき事はお客様に楽しんでいただく事である………と言うのが、両校の信条なんだそうです」

 

その疑問に、蛍と清十郎がそう答える。

 

「随分と変わった学校だな………」

 

「ですが、コレだけ手の内を明かしているにも関わらず、コレまでの試合を全て勝ち抜いて居ます」

 

海音が呆れる様に呟くと、逞巳がそう言って来る。

 

「それだけ油断ならない相手だと言う事さ………そこでだ。明日のエキシビジョンマッチを見学に行こうと考えている」

 

そこで迫信がそう言い、口元を隠していた扇子を閉じたかと思うと、大洗機甲部隊の面々がざわめく。

 

「確かに………コレだけ堂々と敵情視察が出来る機会も無いな」

 

「手の内が知れるなら、知っておいた方が良いと思うし………」

 

弘樹がそう言うと、みほも同意する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の者達も、2人と同意見の様である。

 

「決まりだね。では、明日はナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊のエキシビジョンマッチを見物しに行くとしよう」

 

迫信がそう纏め、その場は解散となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌日………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊のエキシビジョンマッチが行われている試合会場………

 

「ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の勝利!」

 

主審のレミの声が響き、客席様に設置された超大型モニターに、『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊・WIN』の表示が映し出される。

 

「一方的な試合だったな………」

 

「うん………」

 

試合内容が、終始ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊のペースだった事に、弘樹とみほはそう漏らす。

 

「マジシャンの養成学校だとは聞いていたが………まさか試合にまでマジックの様な手を使って来るとはな」

 

「忽然と消えたかと思えば、不意に現れて奇襲………正にマジックでござるな」

 

大詔と小太郎が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合での様子を思い出し、そう呟く。

 

するとそこで………

 

ナイトウィッチ戦車部隊が、観客席の前に集合した。

 

「? 何だろう?」

 

と、聖子がそう呟いた瞬間!

 

戦車からマジシャンコスを着ていた女子生徒達が現れた!

 

服の裾から、旗やら花やらが勢い良く飛び出し、シルクハットを取って、ステッキで叩くと、鳩が無数に飛び出して来る!

 

更には、トランプのジョーカーを取り出すと、それをシルクハットの中に入れる。

 

そして、1、2、3!の合図でシルクハットをステッキで叩くと………

 

シルクハットから蒸気が溢れ出し、やがて蒸気が収まると、腕が現れ、遂にはピエロの様なメイクをしたタキシードの男が現れて、シルクハットから飛び出す。

 

「「「「「「「「「「おおぉぉ~~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

観客達からは歓声と共に拍手が沸き上がり、女子生徒達は礼をする。

 

と、そこで、シルクハットからは今度は色違いのタキシードを着たピエロが3人現れる。

 

全員が出て来ると、その内の1人は、シルクハットを持ち上げ、中には何もない事をアピールする。

 

そしてシルクハットに手を突っ込むと、出したのはギター。

 

そのギターを赤色のピエロに渡すと、続いて取り出したのはベース。

 

そのベースは青色のピエロに渡すと、更に続いて取り出したのはキーボード。

 

緑色のピエロにキーボードを渡すと、シルクハットを地面に置き、両手をシルクハットの中に手を突っ込み、ドラムの太鼓を取り出した!

 

更に再び両手をシルクハットの中に突っ込み、またまた太鼓を取り出すと、またもや両手をシルクハットの中に突っ込み、シンバルと組み立てキットを取り出す!

 

其々を地面に置いたかと思うと、何処からか大きなシーツを取りだし被せる。

 

そして1秒も満たない瞬間に、それをサッと引くとドラムセットが完成!

 

そのままピエロ達が演奏を開始すると、女子生徒達はマジシャン服に手を掛け、それを思いっ切り引っ剥がしたかと思うと………

 

アッという間にスクールアイドルの衣装に早変わりした。

 

「! あの子達、スクールアイドルだったんだ!?」

 

聖子がそう言う中、沸き立つ歓声と共にナイトウィッチ学園のスクールアイドル達は歌いながらマジックを披露し始めるのだった。

 

「凄い………」

 

「流石にエンターテイナーを自称するだけはあるね」

 

その圧倒的とも言えるパフォーマンスの前に、みほは嘆声を漏らし、迫信も口元を扇子で隠してそう呟く。

 

(………ん?)

 

するとそこで、弘樹がふと近くの観客席に目を向けると、そこに何やら感じの違う男が居る事に気づく。

 

(アイツは?………)

 

その男の姿に、言い様の無い違和感を感じる弘樹。

 

とそこで、その男の隣に、恰幅の良い体格で、人柄の良さそうな白髪にメガネの老人が現れ、席に座る。

 

老人はそのまま、男と何かを話し始める。

 

「うおおおおっ! もうちょいでパンツが見えそうなのに見えないぃっ!!」

 

そんな時、その2人の近くに居た了平がそんな声を挙げる。

 

如何やら、ナイトウィッチ学園のスクールアイドル達のパンチラを狙っている様だ。

 

最低である………

 

「オイオイ、お主。彼女達はパンツを見せる為にパフォーマンスをしとるワケじゃないぞ」

 

すると、老人が了平にそうやんわりと釘を刺して来た。

 

「ああん? んだよ、爺さん。此処は若い奴が来るとこだぜ。場違いなんじゃないの?」

 

しかし了平はパンチラを追うのに夢中になっていて、老人の言葉が耳に入らない。

 

「って言うか、何その身体。まるで狸みたいじゃん」

 

更には老人の体格を見て、そんな無礼を働く。

 

(あの馬鹿………)

 

流石に無礼が過ぎると思った弘樹は、了平を戒めようと立ち上がる。

 

「あ~、もう試合終わっちゃったみたいねぇ………」

 

とそこで、空がそう言う台詞と共に観客席に姿を見せた。

 

「藤林教官」

 

「ああ、舩坂くんに大洗の皆。来てたんだ………うん?………!?」

 

空に気付いた弘樹が声を掛けると、空も弘樹達に気づき、更に了平の方を見て顔を青くした。

 

「あ、藤林教官~。ひょっとして俺に会いに来て………!? グアハァッ!?」

 

何時もの調子で挨拶しようとした了平の顔面に、空は全力のドロップキックをブチ噛ました!!

 

「ギベッ!? アボッ!? ウバッ!?………」

 

了平はそのまま観客席の階段を転がり落ちて行き、最下段まで落下したかと思うと、ピクピクと痙攣したまま動かなくなった…………

 

「大変申し訳ありません! 私の不肖の教え子がトンだ失礼を!!」

 

しかし、空はそれを気にする様子も見せず、老人に向かって平謝りし始めた。

 

「友人が大変な失礼を働きました。代わってお詫び致します」

 

弘樹も、ノビている了平に代わる様に謝罪をする。

 

「ふぉっふぉっふぉっ、構わんよ。彼はまだ若いからのう」

 

老人は気にしていない様で、2人にそう返す。

 

「ほっ………」

 

その言葉を聞いて、安堵した様に胸を撫で下ろす空。

 

と、その時………

 

「何だと、コラァッ!!」

 

「やんのかテメェ、この野郎っ!!」

 

何やら怒声が聞こえて来て、弘樹達がその方向を見やると………

 

スクールアイドル達の親衛隊と思しき観客達が揉めていた。

 

如何やら応援に熱が入った余り、喧嘩に発展した様だ。

 

「うおおおっ! もう許せんっ!!」

 

そこで、2メートル以上は有りそうな大柄の親衛隊員が、興奮の余り喧嘩相手の親衛隊員に体当たりを喰らわそうとする。

 

すると!!

 

「…………」

 

何時の間にか、老人の隣に居た感じの違う男が、大男の前に立ち………

 

「………!」

 

「!? うおおおっ!?」

 

何と倍以上の体格差が有ろうかと言う大男を片手で弾き飛ばした!

 

(!? あの大男を片手で………)

 

その様子に、弘樹はポーカーフェイスを保ちながらも内心で驚愕。

 

他の大洗機甲部隊の一同も、多かれ少なかれ驚きを露わにしていた。

 

「オイ! 何の騒ぎだっ!!」

 

「君達! ちょっと来なさいっ!!」

 

そこで警備員が駆け付け、大男を含めた揉め事を起こした親衛隊員は、連行されて行った。

 

「………先生、そろそろ帰りましょう」

 

「うむ、そうするかのう………」

 

感じの違う男は老人にそう言い、老人は席から腰を上げる。

 

「…………」

 

するとその瞬間、感じの違う男は弘樹に視線をやった。

 

「…………」

 

感じの違う男の視線を正面から見返す弘樹。

 

「………成程」

 

「?………」

 

「君も『英霊』を継ぐものなんだね、舩坂 弘樹くん………」

 

不意に、感じの違う男は弘樹にそう言い放った。

 

「小官を知っているのか?」

 

「フッ………」

 

弘樹はそう尋ねたが、男は答えず、只意味有り気に笑うと、老人と共に去って行った。

 

「…………」

 

「何だったんだろう………あの人?」

 

憮然とした表情で佇む弘樹と、そう言うみほだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

具体的な対策は見出せなかったものの、奇襲を得意とするナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を相手に………

 

常に警戒を厳にして戦うべく、大洗機甲部隊は今まで以上に戦車と歩兵との連携を重点的に訓練するのだった。

 

そして訓練終了後………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫内にて………

 

「インパクトが必要だよ!」

 

訓練が終わり、集まっていたサンショウウオさんチームの面々を前にして、聖子がそう言い放つ。

 

「………はあ?」

 

「聖子ちゃん。インパクトって?」

 

突拍子の無い聖子の言葉に、優はキョトンとし、伊代も首を傾げる。

 

「この前のナイトウィッチのスクールアイドルのライブ、思い出して。皆歌いながらマジックまで披露してたよ」

 

「ああ、そうですね」

 

「預言書の記述によればに、【検閲削除】は炎と氷を同時に操るイン・パクトゥがありましたね。(訳:確かに、アレはインパクトがありましたね)」

 

聖子の言葉に、明菜と今日子が同意する。

 

「けど、インパクトって言っても、具体的には何をすれば良いんだ?」

 

そこで、唯がそう疑問を呈する。

 

「それを今から考えるんだよ!!」

 

それにそう返す聖子。

 

いつもの事だが考える前に行動に移した様だ。

 

「大丈夫かにゃ………」

 

「ふ、不安です~………」

 

そんな聖子の姿を見て、満里奈とさゆりが不安そうにそう言い合う。

 

「やはり、アイドルたる者、歌で勝負するべきではありませんか」

 

「お、良い意見だね」

 

そこで、早苗がそう提案し、郁恵が同意する。

 

「歌………新曲を用意するって事ですか………でも、そんな急にインパクトのある曲って言われても………」

 

静香がそう言って首を捻る。

 

「皆で考えようよ! きっと何とかなるって!!」

 

「また根拠の無い事を………」

 

「兎に角、考えてみようよ」

 

相変わらず根拠の無い自信を示す聖子に、優が呆れるが、伊代が宥めながら、サンショウウウオさんチームは次のライブで使う………

 

『インパクトのある曲』を考え始めるのだった。

 

そして………

 

「…………」

 

そんなサンショウウオさんチームの姿を、格納庫の入り口から扉の陰に隠れて見ている者が居た。

 

「…………」

 

里歌である。

 

聖子から貰ったクロムウェル巡航戦車のマニュアルを、胸に抱き締める様に抱え、複雑そうな表情でサンショウウオさんチームの姿を見やっている。

 

そんな里歌の事には全く気付かず、サンショウウオさんチームは、次のライブで使う『インパクトのある曲』を必死に考えていた。

 

「………何で………そこまで………」

 

その様子を見て、里歌はそう呟き、マニュアルを更にキツく抱き締める。

 

「アレ? 貴方は………」

 

とそこで、入り口近くを通り掛かったみほが、里歌の姿に気づく。

 

「!!………」

 

途端に、里歌は逃げる様に走り去る!

 

「あ!………行っちゃった」

 

声を掛ける間も無く走り去った里歌の後ろ姿に、みほはそう呟く。

 

「…………」

 

そしてそこで、サンショウウオさんチームの方に目をやる。

 

サンショウウオさんチームは相変わらず新曲への相談を続けており、その傍にはクロムウェルが控えている。

 

そして、そのクロムウェルの車体の上に………

 

1つの段ボール箱が置かれている。

 

「…………」

 

みほはそれを見て、何かを確信した様に笑うと、Ⅳ号の方へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂に………

 

戦車道・歩兵道の全国大会の決勝リーグ………

 

準々決勝………

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合の日が、訪れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に決まった大洗の準々決勝の相手………
マジシャンの養成学校のナイトウィッチ学園とハロウィン校。
公式戦の最中にエキシビジョンマッチを行う大胆さに加え、マジシャンならではの奇襲戦法を得意とする機甲部隊。
謎の人物との出会いや、苦悩する里歌の姿もありながら、いよいよ………
準々決勝の日が訪れた………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第154話『決勝リーグ、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第154話『決勝リーグ、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼が中国に行っていた頃………

 

大洗機甲部隊は、間も無く開始される決勝リーグを前に………

 

対戦相手である『ナイトウィッチ女子学園』と『ハロウィン高校』からなる『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』のエキシビジョンマッチの見学へ向かった………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と同じく、過去に準優勝した事もある強豪校………

 

公式戦の最中にも関わらず、エキシビジョンマッチを行うなど、その態度にも余裕が見て取れる………

 

圧倒的パフォーマンスを見せるナイトウィッチのスクールアイドル………

 

謎の老人と、その老人に付き従う男………

 

様々な会合があった中で終わったエキシビジョンマッチから程無くして………

 

遂に、決勝リーグが開幕となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ………

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合会場となったのは………

 

『廃墟となった工業地帯』であった。

 

その名の通り、試合会場の殆どの場所は、廃墟となっている工場である。

 

工業地帯らしく、海辺に面しており、一部の区画は従業員やその家族の為の施設が建つ都市部も在る。

 

遮蔽物が多い為、大洗機甲部隊が得意とするゲリラ戦がやり易いが、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊も不意打ち戦法を得意としており、混戦が予測される………

 

そんな中………

 

観客席が設置されているエリアでは………

 

「おはようございます」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「おはようございます」

 

「今日はよろしくお願いします」

 

プロデューサーを筆頭に346プロ所属のアイドル達が、DJ田中にヒートマン佐々木と挨拶を交わしている。

 

今回の試合は『とときら学園』の特別企画と言う事で、戦車道や歩兵道を取り上げてのミリタリー授業を行う事となっているのだ。

 

衣装であるいつものチャイルドスモッグも、今回は特別として迷彩柄になっており、ヘルメットまで付いている。

 

「大和さん。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ! よろしくお願いするであります!!」

 

そしてこう言った事にうってつけなアイドル………『大和 亜季』が特別講師としてゲスト出演する事になっている。

 

御丁寧にバ○アー大尉のコスプレをしている。

 

「ねえねえ! みりあ達も戦車乗れるのかなぁ!?」

 

「もし私が乗ったら優勝間違い無しね!」

 

と、生徒役レギュラーメンバーである『赤城 みりあ』と『城ヶ崎 莉嘉』が、初めて生で見る戦車道・歩兵道の試合に興奮し、そんな事を言い始める。

 

それを皮切りに、10歳前後の年齢が多い生徒役レギュラーメンバー達はワイワイと騒ぎ出す。

 

「み、皆静かに!」

 

「そんなに騒いじゃ駄目だにぃ~」

 

先生役で司会進行の『十時 愛梨』と『諸星 きらり』が騒ぎ過ぎた生徒役レギュラーを諌めようとしたところ………

 

「この馬鹿者共っ! 私のケツを舐めろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然亜季がそんな事を言い放ち、きらり達とみりあ達は固まる。

 

「や、大和さん!? 何を………」

 

「おっと、出ました! 『俺のケツを舐めろ』!!」

 

「コレは外せない名台詞ですからね~」

 

プロデューサーもアイドルらしからぬ発言をした亜季に困惑するが、ヒートマン佐々木とDJ田中は何時もの実況の様にそんな事を言い合う。

 

「アハトゥンクッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

亜季は続けて、ドイツ語で傾注と言い放つと、一同は意味は分からずとも、条件反射で姿勢を正し、亜季に注目する。

 

「戦車道はお遊戯じゃないぞ! 今日は私が戦車道の何たるかをたっぷりと教育してやる! 私と共に祖国と兄弟肉親の為に死ね! 犬死はさせん!!」

 

そう言ってビシッと見事な敬礼をする亜季。

 

「「「「「「「「「「ヤヴォール! ヘルコマンダールッ!!」」」」」」」」」」」

 

すると、きらり達も何故かドイツ語でそう答え、見事な敬礼を返す。

 

「…………」

 

プロデューサーは唖然となり、最早何も言えなくなっている。

 

「おっと! ココでナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が到着した様です!」

 

するとそこで、ヒートマン佐々木がナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々が会場入りした事に気づいてそう声を挙げる。

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、マジックを披露しながら、まるでパレードの様に入場して来ている。

 

「わあ~~っ!」

 

「凄~~いっ!」

 

その圧倒的パフォーマンスに、生徒役レギュラーメンバーの一部は感嘆の声を漏らす。

 

「あ! 君、赤い瞳の! ジャックくんだよね? ソウルネームで悪いけど、今回は決勝リーグ開幕の試合だから、エースメンバーには紹介が入るんだ」

 

ヒートマン佐々木がやって来た赤い瞳の男、ハロウィン歩兵の『ジャック』にそう話し掛ける。

 

その男は、あのエキシビジョンマッチの時に、老人と共に観客席に居た男だった。

 

「しょーかいって?」

 

「スポーツ等で選手が入場する時に、アナウンサーがその選手の名前を観客の皆さんに紹介するのです」

 

『龍崎 薫』が首を傾げると、プロデューサーがそう説明する。

 

「その時の二つ名『兵隊処刑人(ソルジャー・オブ・エクスキューショナー)』で良いかな?」

 

ヒートマン佐々木が、ジャックにそう尋ねると………

 

「………『本当の英霊を継ぐ者』でも構いませんよ」

 

「えっ?………」

 

ジャックはそう言い放ち、唖然とするヒートマン佐々木を置いて、自軍の陣地へと向かって行った。

 

「英霊って………前に卯月ちゃん達がお仕事しに行った学校の人の事だよね?」

 

「ハイ、舩坂さんの御先祖、そして今の舩坂さんが呼ばれている名ですが、一体?………」

 

みりあがプロデューサーにそう尋ねると、プロデューサーも如何言う事なのかと首を傾げる。

 

「いよう! アイドルさん達っ!!」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

するとそこで、今度は別のハロウィン歩兵が、346アイドル達に声を掛けて来た。

 

「俺はハロウィン歩兵の『カロ』! 今日は応援よろしくなっ!!」

 

そのハロウィン歩兵・『カロ』はそう言って、持っていた携帯用の折り畳み式の櫛で、髪型を整える。

 

「よろしくだにぃ~」

 

「ど、どうも………」

 

きらりは普通に挨拶を返すが、愛梨は突然現れたカロに困惑する。

 

すると………

 

「ホワタァッ!!」

 

カロは掛け声と共に、足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばす!

 

蹴り飛ばされた空き缶は、アイドル達の頭上を飛び越え、その先に在った空き缶用のごみ箱の、小さな入れ口へ飛び込んだ!

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「す、凄いっ!」

 

その神業的な技術に、アイドル達は思わず声を挙げる。

 

「そして、中身入ってたぜ………」

 

が、如何やら雨水が溜まっていたらしく、蹴った瞬間に中の水が全てカロに掛かってズブ濡れになっていた。

 

「ありゃりゃ…………」

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハッ!」」」」」」」」」」

 

そんなカロの姿に、きらりはギャグ汗を浮かべ、生徒役レギュラーメンバーの笑い声が挙がる。

 

「チイッ! この失態は試合で挽回して見せるぜ! 良~く見てなっ!!」

 

カロはそう言い残し、自軍の陣地へと向かった。

 

「今のハロウィンの歩兵も実力者が揃っているみたいですね………」

 

そんなカロを見送った後、プロデューサーがボソリとそう呟く。

 

「そう言えばプロデューサーさん、歩兵道の経験者だっけ?」

 

と、それが聞こえていたのか、ヒートマン佐々木がプロデューサーにそう尋ねる。

 

「あ、ハイ。学生時代に多少齧った程度ですが………当時のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊と試合をした事もあります」

 

「へえ~、そうなの。やっぱり当時も強かったワケ?」

 

「強い、と言うよりも………不気味だったかも知れません」

 

「? 不気味?」

 

プロデューサーからの意外な返しに、ヒートマン佐々木は首を傾げる。

 

「ハイ。それは試合が目前に迫ったある日の事でした………」

 

そのままプロデューサーは、当時の出来事を語り始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロデューサーが所属していた機甲部隊で、ある1人の先輩が………

 

試合の迫ったナイトウィッチ学園とハロウィン校の噂話を話し出した。

 

とある学校の歩兵の1人が、偵察の為に、ハロウィン校に忍び込んだ。

 

天気は曇り空から雨………

 

学校の中は静まり返っており、まるで無人の廃墟の世界みたいだった。

 

情報を得ようと探索してみるが、生徒の姿は影一つすら見当たらない………

 

何か変だと思い、潜入した歩兵は辺りを見回していると、携帯電話が鳴った。

 

潜入した歩兵が出ると………

 

「こんにちは。今、校門前に居るの」

 

その言葉に、潜入した歩兵はすぐに窓から校門を見てみるが、校門には誰もいなかった………

 

悪戯かと思い気を取り直すと………

 

再び携帯が鳴った。

 

「こんにちは。今、下駄箱前に居るの」

 

下駄箱………

 

既に学校に入っているという意味なのか………

 

潜入した歩兵はこっそりと下駄箱の辺りを覗いてみたが、そこには誰もいなかった………

 

やはりイタズラなのかと考え、コレ以上此処に居ても無駄だと思い、偵察を終えて帰路に着く。

 

雨が激しくなり、雷が轟く………

 

早いところ港に行かなくてはと校門近くまで走ると、携帯が鳴った。

 

「こんにちは。今、貴方の後ろにいます」

 

その言葉に潜入した歩兵は恐る恐る後ろを振り返ると………

 

人影が立っていた………

 

しかも雨だというのに頭に炎が燃えている………

 

その色は青い………

 

稲光が照らし出すと、目は鋭く、口はギザギザしていた………

 

そして、その手に持っているものは………

 

鉈だった。

 

潜入した歩兵は悲鳴を挙げると、全力疾走でその場から逃げ出した。

 

余程の恐怖で正気を失っていたのか、船に乗らず、嵐の海へ飛び込んだ。

 

その歩兵が見つかったのは、それから3日後………

 

全身の皮膚が白くなり、痩せこけた様子だった。

 

歩兵は言った………

 

あの学園は呪われている、と………

 

そんな怪談話をしていると、誰もが怯えたが、話していた先輩は、相手がマジシャンの養成学校なので、きっと何かの仕掛けやトリックだと考え、皆を安心させる。

 

この世に幽霊等の類いはある筈はないとし、遂に試合の日を迎えた。

 

その日の天気も、雨であり、途中からは雷も鳴り始めた。

 

歩兵達が其々位置に着き、攻めて来たナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を迎え撃つ形で交戦を開始し暫くすると………

 

突如として次々と歩兵達の通信が途絶し、戦死者が一方的に出続け始めた。

 

歩兵部隊が混乱する中、その隙を突く様にナイトウィッチ戦車チームは攻勢を強め………

 

遂にはフラッグ車だけが残っている状態となってしまう。

 

フラッグ車だけは死守せねば………

 

そう言い聞かせながら、残存歩兵部隊は守りを固めたが………

 

建物の屋上にスタンバっていた狙撃兵が戦死したという情報が入り、唖然とする。

 

するとその屋上に誰かが立っている様子があったが、暗くて見えかったが、落ちた稲光が照らし出した。

 

そこに居たのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………結局その試合は、何が起こったのか分からないまま私の所属する部隊の負けでした」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

プロデューサーの口から語られた、ホラー映画の様な試合内容に、アイドル達とヒートマン佐々木、DJ田中は言葉を失っていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊の陣地では………

 

「バッテリーOKか!? 燃料と弾薬も大丈夫だなっ!!」

 

「12.7ミリ弾の予備は何処に置いたっ!?」

 

「馬鹿野郎っ! 榴弾じゃ無い! 徹甲弾だっ!!」

 

「油の1滴は血の1滴だぞっ!!」

 

整備部員達が忙しく走り回り、戦車や戦闘車輌、武器の最終チェックを行っている。

 

「徹甲弾、行きますね」

 

「は、ハイ!」

 

サンショウウオさんチームのクロムウェルでも、今回砲手を担当する静香が、車体の上でしゃがんでいた装填手であるさゆりに搭載する徹甲弾を渡す。

 

「無線機の調子は良いみたいだにゃ」

 

通信手の満里奈が、通信手席で通信機を弄りながらそう呟く。

 

「ゴメン、お待たせー!」

 

「ワリィ、遅れちまった」

 

そこへ、車長を務める聖子と、操縦手である唯がやって来る。

 

「あ、聖子さん」

 

「ゆ、唯さん」

 

やって来た聖子と唯に反応する静香とさゆり。

 

と、その時!!

 

手が滑ったのか、さゆりが抱えていた徹甲弾を手放してしまう。

 

落下先には静香の姿が!!

 

「あっ!?」

 

「えっ?………」

 

声を挙げたさゆりの方を振り返った静香に、徹甲弾が………

 

「! 危ねえっ!!」

 

降り注ぐかと思われた瞬間に、すぐさま駆け寄って唯が、静香の肩を掴んで下がらせる。

 

………が!

 

「!? うわっ!?」

 

静香を下げた際に足を滑らせ、尻餅をつく様に転んでしまう。

 

そして、さゆりが落とした徹甲弾は、唯の足に落ちる。

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「!? 唯ちゃんっ!!」

 

「!? 天地先輩!!」

 

「せ、先輩っ!?」

 

「だ、大丈夫かにゃっ!?」

 

悲鳴を挙げた唯の傍に、慌てて駆け寄る聖子、静香、さゆり、満里奈。

 

「如何したのですか!?」

 

「何があったっ!?」

 

同じく悲鳴を聞いたサンショウウオさんチームの残りメンバーと、大洗機甲部隊の面々も駆け寄って来る。

 

「唯ちゃんが足に砲弾を!」

 

「何だってっ!?」

 

「衛生兵ーっ! 衛生兵ーっ!!」

 

「だ、大丈夫だって、ちょいと声が出ちまっただけ………!? ぐうっ!?」

 

騒ぎが大きくなる中、当の唯が何て事は無いと言って起き上がろうとしたが、砲弾が落ちた足を地面に付けた瞬間に苦悶の表情を浮かべる。

 

「無理しないで下さい。骨折かも知れませんよ」

 

「でも、如何するの!? サンショウウオさんチームの操縦手は!?」

 

華がそう言って唯に楽な姿勢を取らせるが、沙織が困惑した様子でそう言う。

 

そう………

 

サンショウウオさんチームは唯以外のメンバーが操縦適性が無く、ずっと唯に操縦手を任せっきりだった。

 

その唯が負傷したとなれば、サンショウウオさんチームには致命的なダメージである。

 

「大丈夫だって、言って………!? ッ!!」

 

「駄目です、天地さん。総隊長として、今の貴方が試合に出る事を認める事は出来ません」

 

尚も平気に振る舞おうとした唯だったが、厳しい表情をしたみほが、有無を言わせぬ迫力でそう言い放つ。

 

「そんなっ!? 私が居なかったら、一体誰が操縦をするんだよっ!!」

 

「わ、私なら多少適性があります! 私が………」

 

「無理だ。お前の適性値じゃ、この準々決勝の試合に付いて来れない」

 

唯がそう言うと、辛うじて操縦の適性値が有った静香が名乗りを挙げるが、麻子にそう否定される。

 

「如何しよう………」

 

打つ手無しかと、聖子の顔にも影が差す。

 

と、その時………

 

「私がやるわ」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如背後から聞こえて来た声に、大洗機甲部隊の一同は驚きながら振り返る。

 

そこに居たのは………

 

「! 近藤さん!」

 

クロムウェルのマニュアルを携えた、近藤 里歌だった。

 

「お前っ!?………」

 

「近藤さんっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

サンショウウオさんチームの面々が驚愕を露わにする。

 

「細かい話は後よ。試合はもうすぐ始まるわ。早く準備を済ませてしまいましょう」

 

しかし、里歌はそんなサンショウウオさんチームや大洗機甲部隊の面々の反応なぞ気にせず、ぶっきらぼうにそう言い放つ。

 

「いや、待て! マニュアルは目を通したみたいだが、そんないきなり………」

 

「この前受けた戦車道教習の適性結果よ」

 

十河がそう言うと、里歌はそう言って1枚の書類を取り出した。

 

そこには、『操縦適性・S』と言う文字が大きく書かれていた。

 

「何とっ!?」

 

それを見た十河は驚きの声を挙げる。

 

「………西住総隊長、確かに彼女の言う通り、もう試合開始の時間だ。無駄話をしている時間は無い」

 

「そうですね………分かりました。近藤 里歌さん。貴方の戦車道参加を許可します」

 

「…………」

 

迫信の言葉を受けたみほが、里歌に向かってそう言うと、里歌は綺麗な敬礼を返す。

 

「近藤さん!」

 

とそこで、聖子が里歌に近寄る。

 

「言ったでしょう。細かい話は後でって………」

 

「コレッ! 受け取ってっ!!」

 

里歌の言葉を遮り、聖子は里歌に向かって、段ボール箱を差し出す。

 

「? 何よ?………」

 

戸惑いながらも、その段ボール箱を開けて、中を確認する里歌。

 

入っていたのは………

 

パンツァージャケットとアイドル衣装だった。

 

「!? コレはっ!?………」

 

「きっと近藤さんが来ると思ってたから………用意しておいたんだ」

 

驚く里歌に、聖子は屈託の無い笑顔でそう言い放つ。

 

「…………」

 

その聖子の笑顔を見て、里歌は照れた様に視線を反らす。

 

「よろしくね! 近藤さんっ!!」

 

「………里歌で良いわ」

 

「うん! 里歌さんっ!!」

 

「…………」

 

そこで里歌は、パンツァージャケットを段ボール箱から取り出すと、袖を通す。

 

「………頼んだぜ」

 

「ええ………」

 

そして唯からそう言われると、表情を引き締め、聖子達と共にクロムウェルに乗車するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程無くして………

 

『皆さん、お待ちかね~っ! 遂に第63回戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグの開幕です! 気になる最初の試合は、今大会最大のダークホース・大洗機甲部隊VS準優勝経験もある強豪校・ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊!!』

 

ヒートマン佐々木のノリの良い実況が、実況席から観客席へ届けられる。

 

『実況はお馴染み、このヒートマン佐々木! そして解説の!』

 

『DJ田中です! 決勝リーグもよろしくお願いします』

 

『そして本日はスペシャルゲスト! 今を時めく346プロダクションのアイドル! 『川嶋 瑞樹』さんと『十時 愛梨』ちゃんにお越し頂きました!!』

 

『よろしくお願いします』

 

『よろしくです』

 

今回はゲストとして、『川嶋 瑞樹』と『十時 愛梨』が実況席入りしている。

 

『それではココで、試合会場入り口へと中継が繋がっております。現場の安部 菜々さ~ん!』

 

『ハ~イ、ウサミンパワーでメルヘンチェ~ンジ! ウサミン星からやって来た、歌って踊れる声優アイドル! ウサミンこと安部 菜々で~す!』

 

とそこで、ヒートマン佐々木がそう言うと、観客席に設置された大型モニターに、レポーターをやっている奈々の姿が映し出される。

 

『今日の試合会場は、廃墟となった工業地帯! 遮蔽物が多く、工業地帯ならではの物も多く設置されているこの場所で、一体どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!? 今から楽しみで~す!! それでは! 両校の選手入場です!!』

 

奈々がそう言うと、2つ設置されていた試合会場の入り口の内、片方にスモークが放出され、大洗戦車チームが入場して来た。

 

『出ました! 先ずは大洗の戦車チームから! 全ての歴史命! 大口空けても隙を空かず、『カバさんチーム』!!』

 

『続いて! バレー部復活の望みの全てを戦車に!! 水の上ではなく空を翔ける、『アヒルさんチーム』!!』

 

『車だけでなく戦車も整備可能! 獅子と豹の如く勢いのある、『レオポンさんチーム』!!』

 

『ゲームだけじゃなくリアルにも挑戦! 戦車ゲームオタク仲間、『アリクイさんチーム』!!』

 

『風紀は守る為に存在する! 絶対風紀厳守、『カモさんチーム』!!』

 

『1年だからって甘く見るな!! 期待のスーパールーキー、『ウサギさんチーム』!!』

 

『学園廃校を免れるべく自ら戦陣に立つ! 実質上大洗の万年支配者『カメさんチーム』!!』

 

『同じく学園廃校を免れるべくべく、集結した選ばれし歌姫! 個性豊かな人気絶頂スクールアイドル、『サンショウウオさんチーム』!!』

 

『そして!! 学園を救うのは彼女達が鍵だ!! 大洗女子学園生徒を率いし軍神、『あんこうチーム』!!』

 

ヒートマン佐々木の熱い実況と共に、次々に紹介される大洗の戦車チーム。

 

続いて、大洗歩兵部隊の面々が入場する。

 

『さあ! ココからは戦車を守りし、勇敢なる歩兵達の紹介だ!! 先ず皆さん御存じこの漢! 付けられた2つ名数知れず! 不死身の兵士! 英霊を継ぐ猛虎『舩坂 弘樹』!!』

 

『続いては、その親友であり、趣味は特撮観賞! その佇まいはヒーローか!? 歩兵道の正義の味方『石上 地市』!!』

 

『スポーツ、航空会社の社長の間に生まれた、社長の息子! 大洗の貴公子『大空 楓』!!』

 

『原動力は女子への邪な思い!? 女の子にモテモテ願望! 下心丸見えの変態王子様『綿貫 了平』!!』

 

『自然の世界で育ち! 自然の環境で全てを見通せる! 全生命の護り手! ネイチャースナイパー『宮藤 飛彗』!! 」

 

『大洗を、世界を掌握する神大コーポレーションの御曹司! 絶対的総裁閣下『神大 迫信』!!」

 

『その冷たい目には何が映るか! 誰にも止められない居合いを繰り出す、名将の血を引く冷酷なる用心棒『栗林 熾龍』!!』

 

『子分の数は壮大!? 喧嘩の実力は強大!? 義理人情に厚い大洗連合の大将! そして応援団長の筆頭を勤める! 大洗の白虎『黒岩 大河』!!』

 

『食欲旺盛! 何でも食べてしまうその姿は正に蛇! 潜入ならばお薦めは必ずダンボール! ステルスコマンダー『蛇野 大詔』!!』

 

『忍者ではなくNINJA! ナンデニンジャ! 現代に復活のニンジャスレイヤー『葉隠 小太郎』!!』

 

『愛馬を巧みに操る騎兵! 食通の天才! 彼の正体は何者!? 黒き竜巻『ゾルダート・ファインシュメッカー』!!』

 

『大洗に外国人!? 1年生だけどその素早い動きは誰にも追い付けない! スピード・オブ・プレジデント『ジェームズ・モンロー』!!』

 

『彼から逃れられるのか!? いや、逃れられない! 彼の目に映る兵士は皆命を断つ………北欧からやって来たムーミン谷の白い死神『シメオン・ヘイヘ』!!』

 

『彼が味方するのは強いもの!? その上、救い料10億万円、ローンも可! ふざけんなこの野郎と言われるものの、その実力は正しく本物!! ジャッカルよりも凶暴な猟狐『ハンター』!!」 

 

『かつては不良を束ねし愚連隊の総長! だけど今は大洗の心強い味方! 舩坂 弘樹の舎弟『飛鳥 隆太』!!』

 

エースメンバーが次々に紹介され、大洗側の応援席を中心に、歓声が巻き起こる。

 

『さあ、今度はナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の紹介だぁ! 先ずはナイトウィッチ戦車チームッ!!』

 

とそこで、ヒートマン佐々木がそう言うと、もう一方の出入り口からもスモークが放射され、そこからブロンドのウェーブヘアやセクシーなナイスバディの少女が現れる。

 

『出ました!! アメリカ大陸からやってきた本場のアメリカ人! マジシャンレベルはアメリカ級!! ラスベガスのショーにも出演した経験のある美しき奇術師! 『シュガー』!!』

 

「イッツ、ショータイムッ!!」

 

『シュガー』と呼ばれた女子生徒は、タキシードにレオタードと言う以前見た服装で登場すると、大きなカーテン布を取り出し、それを広げた。

 

すると、カーテン布は何もない場所に何かに覆われた様に被さり、それを一瞬で引くと………

 

「続いて現れたのは………何と! 全身を脱出不可能な鎖で繋がれたり、巻かれたりされた日本人美少女奇術師が現れました!! しかもガラスのショーケースの中でです!!」

 

そこに現れたのはガラスのショーケースの中に入っているシュガーと同じ服装の黒髪の女子生徒だった。

 

鎖で囚われ口を塞がれた女子生徒の回りには、何と幾つもの手榴弾が転がっている!

 

「よっ!」

 

すると、シュガーの胸のポケットから白いネズミが現れ、彼女の腕から掌まで進んで行くと、彼女はその白いネズミにハンカチを被せた。

 

そしてハンカチを引くと、彼女の掌には手榴弾!!

 

「ハッ! ホッ!」

 

シュガーは音楽のリズムに合わせ、手榴弾をお手玉の様にジャグリングする。

 

「アッ!?」

 

とそこで、誤って手榴弾のピンを引き抜いてしまい、彼女は慌てふためきながら手榴弾を持ち直そうとするが………

 

手が滑ったのか何と手榴弾を上空へと飛ばしてしまう。

 

宙に舞った手榴弾は、そのまま黒髪の女子生徒が入っているガラスのショーケースの中へと入ってしまった!!

 

「オー、ノーッ!!」

 

手榴弾は爆発し、ガラスのショーケースごと木っ端微塵になってしまった!!

 

「うわぁっ!?」

 

「大変だぞっ!?」

 

観客だけでなく、大洗の一同が騒然とする!!

 

「あわわわ………」

 

一番ショックを受けたのはみほだった。

 

中に人がいるのにまさかの大事故!

 

「落ち着け、みほくん。多分何かのマジックだ………」

 

そこで弘樹がそう言い、みほを落ち着かせる様に肩に手を置いたが………

 

「!? 誰っ!?」

 

みほはそう言って、弘樹から距離を取った。

 

「へっ?………」

 

「その通りだ。貴様、何者だ?………」

 

思わず呆けた顔をした弘樹に、後ろからM1911A1を構える………『弘樹』

 

「!? ふ、舩坂くんがっ!?」

 

「2人居るっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

『2人の弘樹』の姿に、大洗機甲部隊の面々は驚愕する。

 

「………何で分かった?」

 

M1911A1を向けられている弘樹が、みほにそう尋ねる。

 

「あ、その………な、何となくと言うか………」

 

しかし、みほ自身も、何故声を掛けて来た弘樹が違うと思ったのか、説明出来ない様である。

 

「………成程ね。そう言う事か」

 

するとそこで、銃を向けられていた弘樹が、『女の声』でそう言った。

 

「!!」

 

「…………」

 

驚くみほと、無言でM1911A1を降ろす弘樹。

 

すると、女の声を出した弘樹が、顔の皮膚を掴んだかと思うと、顔を引っぺがした!

 

いや、引っぺがしたのは顔では無く………『変装用のマスク』だった!

 

そのマスクの下から現れたのは、何と!

 

あの爆発で吹っ飛んだ筈の黒髪の女子生徒だった!!

 

「何と何と!! お見事!! あの脱出不可能な鎖とショーケースの中から無事に脱出しました!! 正しくあの伝説の脱出王フーディーニの奇跡の復活です!! 彼女は現代のフーディーニ!! ナイトウィッチ学園『ソルト』!!」

 

「…………」

 

ヒートマン佐々木の実況が響く中、みほは目をパチクリしながら唖然としている。

 

「ゴメンナサイね、驚かせて。コレはお詫びよ」

 

ソルトは脅かしたお詫びにと、みほに掌を握らせたかと思うと、指で軽く叩く。

 

「あ………」

 

するとみほは手の中に違和感を感じ、開いてみると、中から現れたのはミルクキャラメルだった!

 

「ソルト。そろそろやるわよ」

 

「OK、シュガー」

 

そして、シュガーと合流したソルトは、シュガーから大きな布の先端を持つ様に言われ、ソルトはそれを持つと、大洗機甲部隊の面々からナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の入場ゲートを隠す様に持つ。

 

「1!」

 

「2!」

 

「「3!!」」

 

そしてその掛け声で、布を落したかと思うと………

 

そこには、既に集結していたナイトウィッチ学園戦車部隊の姿が在った!

 

『BT-5』が11輌と『BT-7』が同じく11輌。

 

75ミリ砲を搭載した『バレンタイン歩兵戦車XI』が10輌。

 

『ヴァリアント歩兵戦車』が10輌。

 

『シュトゥルムティーガー』が1輌。

 

『Ⅳ号突撃戦車ブルムベア』が1輌。

 

『トータス重駆逐戦車』が1輌の、計45輌の戦車部隊である。

 

そして………

 

『続いては、ハロウィン高校の歩兵達を紹介します!』

 

ヒートマン佐々木の実況と共に、今度はハロウィン歩兵部隊が入場する。

 

『先ず、キック力100%、その蹴りの威力は何処まであるのか………蹴撃のスマートウルフ『カロ』!!」

 

『続きまして、パワフル率100%大きな体だけでなく、闘争たる野生本能全開のフランケンシュタイン『スコール』!!』

 

先程アイドル達に絡んでいたカロと、巨体の男『スコール』が紹介される。

 

更に………

 

『そして、ハロウィン校と言えばやはり彼! 全てが謎に包まれた戦闘力未知数の赤瞳の猟兵(イェーガー)『ジャック』!!………またの名を………本当の英霊を継ぐ者!!』

 

そう言う実況と共に、ジャックが姿を見せる。

 

「!? 本当の英霊を継ぐ者!?」

 

「ど、如何言う事ですか!?」

 

その説明に、地市と優花里が驚く。

 

「弘樹くん………」

 

「…………」

 

みほは弘樹を見やるが、相変わらず弘樹はいつもの仏頂面のままだった。

 

そのまま、両総隊長の挨拶へと事は進む………

 

「よろしく。お互い恨みっこなしの勝負をしようね」

 

シュガーは礼儀正しく、みほにお辞儀をしてそう言い、握手を求めた。

 

「ハイ! よろしくお願いします」

 

みほはそれに応じ、握手を交わす。

 

そしてそのまま、両機甲部隊は、開始地点へと向かった。

 

『試合開始っ!!』

 

『いよいよ試合開始です! 大洗機甲部隊! そしてナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

主審レミの掛け声と、ヒートマン佐々木の実況が響き………

 

遂に、準々決勝が開始されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

またもゲストで、シンデレラガールズの面々に、試合観戦に訪れて頂きました。
今回入場で紹介が入りましたが、流石に歩兵隊員全員を紹介するとトンでもない長さになるので、とらさん分隊の他はエースや主要メンバーだけにさせていただきました。
御了承下さい。

そして登場のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々。
いきなりマジックショーを披露するなど、大胆不敵。
そして英霊を名乗る謎の男、ジャック。
果たしてその意味は?
ピンチヒッターで駆け付けた里歌を加えた大洗機甲部隊の奮戦や如何に?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第155話『準々決勝です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第155話『準々決勝です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、決勝リーグ・第1試合………

 

準々決勝の試合が開始された。

 

大洗機甲部隊の相手は、マジシャンを養成する学校『ナイトウィッチ学園』と『ハロウィン高校』からなる『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊』

 

マジシャンらしく、奇術によって出現した戦車部隊に圧倒されたり………

 

本当の英霊を継ぐ者と名乗るジャックの出現に、大洗機甲部隊の面々が驚く中………

 

遂に試合の火蓋が切って落とされる。

 

そして、丁度同じ頃………

 

『アイツ』が日本に帰って来ていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合が行われている会場からかなり離れた空港ターミナル内………

 

「………帰って来ちまったか」

 

そう呟いたのは、紛れも無く白狼であった。

 

幾分かはガタイがガッシリとしており、顔や手には傷の痕が残っている。

 

「………行くか」

 

そう言うと歩き出す白狼。

 

すると………

 

「来たか、神狩 白狼」

 

その白狼にそう声を掛ける者が居た。

 

長身で、クールそうな美人な女性だった。

 

「『フユ』! 久々だな!」

 

「今の私は先生だ。まさか貴様が戻ってくるとはな………」

 

「色々あってな。そう言えば、イチも一緒か?」

 

「アイツは試合会場で観客として観ている。お前が来るのを信じてな………」

 

「そうか………」

 

と、白狼がそう呟いた瞬間………

 

「神狩!」

 

「白狼!」

 

「神狩さ~ん!」

 

「白狼く~ん!」

 

そう言いながら白狼の元へ、冥桜学園の面々が駆け寄って来た。

 

「お前達………」

 

「そろそろ戻って来る頃だと思ってな………」

 

「お帰りなさい、神狩さん」

 

軽く驚く白狼に、宗近と吹雪がそう言う。

 

「神狩………」

 

とそこで、長門が白狼の前に立つ。

 

「長門………」

 

「………行くのか?」

 

「ああ………」

 

「心は決まっている様だな………」

 

「でなきゃ此処には居ねえさ」

 

「ならば言う事は無い………行って来い」

 

長門はそう言うと、白狼に道を空けた。

 

そして白狼が歩き出した、その瞬間………

 

「白狼っ!!」

 

そう叫び声が木霊して、美嵩が姿を現した。

 

「! 本多さん!」

 

「あっちゃ~、マズイねぇ………」

 

神通と川内が、美嵩の姿を見て思わずそう言う。

 

「白狼! 約束を破る積りっ!!」

 

「落ち着いて下さい、本多さん!」

 

「いい加減、お前も大人になれ!!」

 

白狼に詰め寄ろうとした美嵩だったが、大和と武蔵によって抑えられる。

 

「折角の海外チーム入りを捨てるって言うの!? バイクレーサーとして大成する事が白狼の夢じゃなかったの!? 小父さんの果たせなかった夢を果たすって!!」

 

「…………」

 

それでも美嵩は尚食い下がり、白狼はそんな美嵩に背を向けたまま佇んでいる。

 

「白狼! 私は白狼の為に………」

 

と、その瞬間!!

 

「ウルセェッ! いい加減にしろよ!!」

 

突如白狼はそう叫んで振り返ったかと思うと、美嵩の頭に自分の頭を思いっ切り打ち付けた。

 

所謂頭突きである。

 

「!??!」

 

白狼の思わぬ行動に、備えをしておらず、諸に頭突きを喰らってしまった美嵩が、涙目でおでこを押さえて蹲る。

 

「あらあら、駄目よ、神狩。女の子にそんな事しちゃ」

 

陸奥が白狼にそう言いながら、美嵩の介抱に掛かる。

 

「ほ、白狼………」

 

「美嵩、確かに約束は大事さ。それは俺が良く知ってる………」

 

「なら!………」

 

「けど、今の俺にとっては、そんな事より、目の前の未来が大事なんだよ」

 

「…………」

 

一片の迷いの無い目で言われ、美嵩は黙り込む。

 

「………お前の負けだ。美嵩」

 

そこで長門が、美嵩に向かってそう言い放つ。

 

「…………」

 

そう言われて頭を垂れる美嵩。

 

「………分かったわ」

 

そしてとうとう折れた。

 

「けど、白狼。コレだけは約束して………無茶はしないって」

 

やがて、懇願する様な目で白狼を見上げ、美嵩はそう言い放つ。

 

「………その約束は守れないかもな………俺はオオカミ………とても貪欲な生き物だ。一度決めたら骨ごとしゃぶり尽くすまで、止める事が出来ないからな………」

 

しかし、白狼はそんな言葉を返す。

 

「何か中二病臭~い」

 

だが、夕立がそんな声を挙げて、思わずズッこける。

 

「ゆ、夕立………折角人が決めてる時に………」

 

白狼はそう抗議の声を挙げるが………

 

「ゴメンナサイ、神狩さん。それ、私も思っちゃいました」

 

「睦月もです~」

 

追い打ちを掛ける様に吹雪と睦月が苦笑いしながらそう言って来た。

 

「お、お前等まで………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

と、良く見れば、冥桜学園の一同全員が、苦笑いを浮かべている。

 

如何やら全員同じ意見の様だ。

 

「………何だよ、チキショウ!」

 

そんな冥桜学園の一同の様子を見て、白狼は若干不貞腐れるのだった。

 

「…………」

 

その最中、美嵩は無言で立ち上がる。

 

「美嵩………」

 

「………さよなら」

 

そして、白狼に背を向けたかと思うと、そのまま走り去って行った。

 

「………コレで………良いんだよな?………」

 

「気にするな。長門も言った通り、お前の勝ちだ」

 

頭を掻く白狼に、フユがそう言う。

 

「それよりも急いだ方が良いんじゃないですか? もう試合は始まってますよ」

 

とそこで、宗近の傍に居た少女『滝川 三日月』がそう言う。

 

「おっと、そうだな。神狩、チャーター機を用意してある。会場までソレで行って、後は落下傘で飛び降りろ」

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

さも当然の様に落下傘降下しろと言って来た宗近に、白狼は呆れ顔になる。

 

「怖気づいたか?」

 

「誰が! やってやるよっ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

落下傘降下をやってのけると宣言した白狼に、冥桜学園の一同から拍手が送られる。

 

「良い覚悟だ………そうだ! お前の為に良い物がある!!」

 

宗近はそう言うと、白狼に色々な物を渡し始める。

 

「良いか。コイツは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準々決勝………

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合会場………

 

廃墟の工業地帯では………

 

大洗機甲部隊の全部隊が、隊列を組んで工業地帯内の広い通りを進軍している。

 

「敵影無し」

 

「コチラにも敵影は有りません」

 

周囲を警戒している歩兵達からそう報告が挙がる。

 

「既に試合開始から大分経つが、未だに接敵無しか………」

 

「プラウダ&ツァーリや、クレオパトラ&スフィンクスの時みたいにコチラを待ち受けているんでしょうか?」

 

大詔がそう呟くと、清十郎が過去の試合を思い出しながらそう言う。

 

「…………」

 

Ⅳ号のキューポラから姿を見せているみほも、未だに接敵が無い事を訝しんでいた。

 

「西住総隊長。このまま進軍を続けますか?」

 

と、その後ろから付いて来ていた、今回のフラッグ車であるウサギさんチームにのM3リーのハッチから姿を見せていた梓が、みほにそう尋ねる。

 

「いえ、全軍停止して下さい」

 

するとみほは全軍停止の指示を出し、それに従って、大洗機甲部隊は進軍を停止する。

 

「アヒルさんチームとペンギンさん分隊、それにアリクイさんチームとキツネさん分隊の皆さん、砲兵の方を除いて偵察をお願いします」

 

「分かりました!」

 

「任しときぃっ!」

 

「了解にゃ」

 

「心得た………」

 

みほがそう言うと、砲兵メンバーを除いたアヒルさんチームとペンギンさん分隊、それにアリクイさんチームとキツネさん分隊の一同が戦列を離れ、偵察へと向かう。

 

「偵察が帰って来るまでの間、全員建物の影などに隠れて下さい。カモフラージュも忘れずに」

 

「向こうにはブルムベアとシュトゥルムティーガーが居ますからね。超長距離攻撃には注意しませんと………」

 

続いてみほがそう命じ、待機していた大洗機甲部隊の面々が建物などの陰に隠れ、カモフラージュを施して行く中、優花里がそう呟く。

 

 

 

 

 

『ブルムベア』、『シュトゥルムティーガー』………

 

共にⅣ号戦車とティーガーⅠの車体を流用して製造された自走砲である。

 

しかし、戦闘室は密閉式の為、戦車道で使う事が出来る。

 

自走砲ならではの超長距離砲撃が可能な事に加え、砲自体もかなりの威力が有る物が使用されている。

 

更には装甲もかなりあると言う厄介な相手である。

 

 

 

 

 

「トータスも居るし、正直敵を見つけても迂闊には攻撃出来ない………」

 

みほはナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の使用戦車が書かれた書類を片手にそう呟く。

 

 

 

 

 

『トータス重戦車』………

 

こちらは謂わば、イギリス版のT28である。

 

オードナンス QF 32ポンド砲(94ミリ砲)を搭載し、最大装甲厚は228ミリ。

 

最高速度は19キロと遅いが、主砲の威力は絶大で、900メートル程の距離からパンターの装甲を撃ち抜ける。

 

大洗で1番の装甲を持つポルシェティーガーと言えど危うい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに気になるのが………」

 

「『BTシリーズ』ですね」

 

みほが持つ書類を覗き込みながら、優花里がそう言う。

 

 

 

 

 

『BT-5』並びに『BT-7』………

 

共に旧ソ連軍で開発された『BT戦車シリーズ』………

 

『快速戦車』と呼ばれる戦車達である。

 

アメリカ人のジョン・W・クリスティーが開発した新たな懸架装置『クリスティー式サスペンション』が採用されており、その名の通り快速を誇った。

 

この戦車の特徴として、履帯を外して装輪で動く事も可能だと言う点がある。

 

その分装甲は貧弱で、数多くの車両が撃破されたが………

 

ソ連軍はこのシリーズの開発により、あの傑作戦車・T-34を生み出す事に成功している。

 

余談となるが、このBT-7を、フィンランド軍が鹵獲し、改造したものが継続校の面々が使っていたBT-42である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高時速52キロ。装輪状態なら72キロにまで達します」

 

「それに車体が小柄だから小回りも聞くし、市街戦となると私達より有利かも………」

 

優花里の言葉に思案顔になるみほ。

 

今回初めて………

 

大洗は得意としていたゲリラ戦で、苦戦を強いられるかも知れない………

 

そんな考えが、彼女の頭を過っていた。

 

「…………」

 

みほと同じ考えか、弘樹も密かに嫌な予感を感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

偵察に出たアヒルさんチームとペンギンさん分隊、アリクイさんチームとキツネさん分隊は………

 

「………居ないなぁ」

 

「そうですね………」

 

其々の車輌のハッチから、上半身を出している典子とねこにゃーがそう言い合う。

 

偵察に出てそれなりに経つが、やはり接敵する気配は無い。

 

「何や、随分と消極的な連中やな。今までの奴等やったら、もうとっくに戦闘しとるで」

 

中々敵と出くわさない事に、大河が退屈そうにそう言う。

 

「油断するな。慎重な相手ほど厄介な敵はいない………コレも敵の作戦かも知れん」

 

そんな大河を戒める様に、大詔がそう言う。

 

「狙撃部隊。そちらでは何か確認出来るか?」

 

とそこで、ハンターが建物の上に陣取り、狙撃態勢を取っている狙撃兵部隊に通信を送る。

 

高い位置に居る彼等なら、何かを発見しているのではと思った様だ。

 

『こちら宮藤。今のところは何も………』

 

『シメオンだ。コッチも何も確認出来ない』

 

『コッチも同じくだ。浅間の奴も敵影見えずだってよ』

 

しかし、飛彗、シメオン、圭一郎に陣も、敵を見つけられないと返して来る。

 

「何だか、変な感じだな………」

 

「奇遇だな、飛鳥。俺もそう思っていたところだ………」

 

隆太がそう言うと、速人が同意して来る。

 

と、その時!

 

「「「!? あっ!?」」」

 

不意にアヒルさんチームとペンギンさん分隊、アリクイさんチームとキツネさん分隊の前方に、3人のハロウィン歩兵が現れた。

 

装備から見るに、全員偵察兵の様であり、偵察中に不意に遭遇してしまったと言う感じに見えるが………

 

「! 敵の歩兵部隊を発見っ!!」

 

「て、撤退ーっ!!」

 

大洗歩兵の1人がそう声を挙げた瞬間、ハロウィン偵察兵隊は一目散に逃げ出す。

 

「待たんかいっ! 漸くの接敵なんやっ!! 戦わせろやっ!!」

 

「ぶるああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

と、漸くの接敵に痺れを切らしたのか、大河と竜作が逃げたハロウィン偵察兵隊を追う。

 

「ちょっ! 黒岩さん! 待ってっ!!」

 

「お、太田さん! 落ち着いてっ!!」

 

命令無しに追撃に走ってしまった大河と竜作に、典子とねこにゃーの声が飛ぶが、聞こえなかった様で、2人はそのままハロウィン偵察兵隊が逃げて行った路地裏に飛び込もうとする。

 

「!? 待つでござる! 2人共っ!!」

 

と、何かに気付いた様に小太郎がそう声を挙げた瞬間!!

 

突如路地裏の通路が大爆発した!!

 

大河と竜作は、その爆発に飲まれた!!

 

「!? 黒岩っ!!」

 

「太田っ!!」

 

大詔と速人が声を思わず声を挙げる。

 

やがて、爆煙が治まると………

 

「あ、危ないところやった………」

 

その中から這い出す様に大河が現れる。

 

「親分!」

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

すぐさま大洗連合の舎弟の歩兵が、大河の元へ駆け寄る。

 

「ああ、けど、太田の奴が………」

 

「ぶるあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~………」

 

大河がそう言って見やった先には、黒焦げになって戦死判定で倒れている竜作の姿が在った。

 

「! 太田さん!?」

 

「アイツが前に出ようとしたんで、結果的に盾になってくれたんや………スマン」

 

と、倒れている竜作に大河が詫びていると………

 

風切り音が聞こえて来て、突然近くで爆発が起こった!

 

「おうわっ!?」

 

「何だっ!?」

 

突然の爆発に、ペンギンさん分隊歩兵とキツネさん分隊歩兵は慌てる。

 

「!!」

 

そこで大詔が空を見上げると、上空から次々に降って来る迫撃砲弾を発見する。

 

「! 迫撃砲の攻撃だっ! 全員散れっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大詔が叫ぶや否や、歩兵隊員達は方々に散らばる。

 

直後に、迫撃砲弾が次々に着弾!

 

彼方此方で火柱が上がる!

 

「狙撃兵部隊っ! 射撃地点は確認出来るかっ!?」

 

「駄目です! 建物の陰で見えません!!」

 

大詔が狙撃兵部隊に、迫撃砲の発射地点を尋ねるが、建物の陰の死角から撃っている様で、確認出来ないと返って来る。

 

その間にも、迫撃砲弾は次々と降り注いで来る。

 

「クソッ! アヒルさんチーム、アリクイさんチーム、退れ! 迫撃砲弾と言えど、当たり処が悪いと撃破判定を喰らうぞっ!!」

 

「りょ、了解っ!」

 

「了解だにゃっ!!」

 

大詔がそう叫ぶと、八九式と三式がバックで後退する。

 

と、その瞬間っ!!

 

「「「「「「「「「「イッツ、ショータイムッ!!」」」」」」」」」」

 

そう言う声が響いたかと思うと、建物の陰や路地、廃墟の中から、次々にBT-5やBT-7が飛び出して来る!!

 

「!? BT戦車っ!!」

 

「つ、遂に来たっ!!」

 

「「!!」」

 

典子とねこにゃーがそう声を挙げると、砲手のあけびとぴよたんが、照準器を覗き込む。

 

しかし………

 

そのまま八九式と三式に向かって来るかと思われたBT戦車達は、迫撃砲の攻撃で散らばっていた歩兵達の方へと向かった。

 

「「えっ!?」」

 

あけびとぴよたんが驚きの声を挙げていると、BT戦車達は主砲からの榴弾や同軸機銃で大洗歩兵隊員達を屠り始める。

 

更に、BT-7の中に交じっていた、主砲が火炎放射器となっているバリエーション『ChBT-7』も、火炎放射を浴びせる。

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

ちょこまかと動き回るBT戦車達を捕らえられず、一方的に攻撃を受ける大洗歩兵達。

 

「! ま、マズイッ! 忍! 前進だ!!」

 

「ももがーさん!」

 

「「! 了解っ!!」」

 

とそこで、我に返った典子とねこにゃーの指示が飛び、歩兵隊員達を救援しようと八九式と三式は前進する。

 

その途端、BT戦車達は方々に散らばり、再び建物の陰や路地、廃墟の中へと消えて行った。

 

「!? 逃げたっ!?」

 

「随分と引き際が良いですね………」

 

典子の声に、妙子がそう呟く。

 

「み、皆さん、大丈夫ですか?」

 

「ペンギンさん分隊、黒岩、蛇野、葉隠、東郷、無事や。せやけど、分隊員達は半分以上やられてもうたわ………」

 

「キツネさん分隊、こちらも太田を含めて半数以上がやられた」

 

ねこにゃーが尋ねると、大河とハンターからそう報告が挙がる。

 

「やられたな………敵は歩兵に狙いを定めて来た様だ」

 

とそこで、大詔がそう指摘する。

 

「歩兵部隊に?」

 

「でも、確かにウチの部隊の歩兵人数って少ないですけど、戦車を倒した方が戦力を削げるんじゃ?」

 

典子が首を傾げると、ねこにゃーもそう言う。

 

「いや、この遮蔽物の多いフィールドでは、戦車は思う様に動きが取れない。本来戦車は市街戦を苦手としているからな」

 

「護衛の歩兵を先に屠り、その後で戦車部隊を潰して行く作戦みたいだね………」

 

大詔はそう返し、武志も相手の手を予測する。

 

「クソッ! 真綿で首を絞める様な戦術を………」

 

「だが、有効な手でござる。ねこにゃー殿の指摘通り、ウチの部隊の歩兵数は他校と比べて圧倒的に寡兵でござるからな………」

 

飛鳥が舌打ちしながら言うと、小太郎がそう口を挟む。

 

「………兎も角、一旦後退して本隊に合流だ。敵の狙いを西岡総隊長に報告しなければ」

 

「西住や、玖珂。後退するで」

 

速人がそう言い、大河が名前の言い間違いを指摘しながらそう言うと、アヒルさんチームとアリクイさんチーム、そして残存ペンギンさん分隊とキツネさん分隊の面々は本隊と合流しに後退するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まった準々決勝。
そんな中………
遂に白狼が帰ってきました。
果たして、試合に間に合うのか?

そして、その試合内容は………
歩兵部隊を狙って来たナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊に、先制パンチを喰らう形に………
果たして、ココからどう展開するのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第156話『大ピンチです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第156話『大ピンチです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝にて、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊との試合を開始した大洗機甲部隊。

 

ブルムベアとシュトルムティーガーの超長距離攻撃を警戒しつつ、廃墟の街並みを進軍していたが、中々接敵しない………

 

待ち伏せ作戦を警戒したみほは、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、アリクイさんチームとキツネさん分隊を偵察に出す………

 

しかし、そこで接敵した偵察部隊は………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の罠に嵌り………

 

ペンギンさん分隊とキツネさん分隊の多数の歩兵達が戦死判定を受けてしまう………

 

そこで大詔が………

 

敵の狙いが歩兵部隊である事に気づくのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準々決勝………

 

大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の試合会場………

 

廃墟の工業地帯・大洗機甲部隊本隊の待機地点では………

 

「敵の狙いは歩兵部隊?」

 

「恐らくな………」

 

戻って来た偵察部隊の大詔が、みほにそう報告する。

 

「市街戦では歩兵の存在が重要になる。それを先に叩こうと考えたワケか………」

 

「西住総隊長。如何致します?」

 

「…………」

 

俊がそう呟くと、弘樹がみほに尋ね、みほは顎に手を当てて思案顔になる。

 

「………ウサギさんチーム」

 

やがて、ウサギさんチームのM3リーの方を見ながらそう声を掛ける。

 

「! ハイッ!」

 

「………囮役、頼める?」

 

「!!」

 

みほにそう聞かれて、一瞬梓の顔が強張る。

 

「フラッグ車を囮にするんですか?」

 

「うん。フラッグ車が動けば、流石に敵も狙って来る筈。そこを叩きます」

 

「でも、大丈夫? 危なくない?」

 

優花里にそう言葉を返すみほだが、沙織が心配そうに言う。

 

「………大丈夫です、西住総隊長。囮役、拝命させて頂きます」

 

しかし、当のウサギさんチームの梓が、しっかりとした口調でそう言って来た。

 

「私達だって、何時までの昔の私達じゃないもんね!」

 

「頑張るよー」

 

「あいーっ!!」

 

「…………」

 

「紗希もやれるって言ってます」

 

更に、あや、優希、桂利奈、紗希、あゆみもそう反応を示す。

 

「では、『うさうさ作戦』を開始します! 決行はこの先の森林地帯です!」

 

みほはそう号令を掛け、現在大洗機甲部隊が居る場所から少し先にある、この廃工業都市の僅かな森林スペースへと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林スペース内………

 

「分隊員の皆さん。周辺の警戒をお願いします」

 

「「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

木々が生い茂る中で、M3リーが1輌だけで停車している。

 

その周りには、ハムスターさん分隊の歩兵達が展開し、周辺を密に警戒しているが、一見すると防備は手薄に見える。

 

だが、見えるだけであり、すぐ近くにはカメさんチームのヘッツァーと、カバさんチームのⅢ突がカモフラージュの迷彩ネットを車体に掛けて待ち伏せをしている。

 

周りにも、ツルさん分隊とワニさん分隊の歩兵達が、戦車と同じ様にカモフラージュを施して隠れている。

 

更に、少し離れているがすぐ駆けつけられる位置には、みほの大洗機甲部隊本隊が控えている。

 

「…………」

 

神妙な面持ちで、ハッチから姿を晒して周囲を警戒している梓。

 

「………狙撃兵の皆さん。何か見えますか?」

 

とそこで、勇武が相変わらず高所に陣取って居る狙撃兵部隊へ通信を送る。

 

『いや、何も見えない。まだ敵に動きは………』

 

その通信に、狙撃兵の1人が答えていた瞬間………

 

『!? うわっ!?』

 

「!? 如何しました!?」

 

遣り取りしていた狙撃兵が突然声を挙げた事に驚きながらもすぐに問い質す勇武。

 

しかし、通信機から返って来たのはノイズ音だった。

 

「! 狙撃兵の人がやられました! 敵はすぐ近くまで来てますっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

勇武がすぐにそう報告すると、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の皆に緊張が走る。

 

「カメさんチーム、ツルさん分隊。そちらに異常はありませんか?」

 

『無いよ~』

 

『コチラは敵の姿を確認していない』

 

梓がカメさんチームとツルさん分隊へ通信を送ると、杏と迫信がそう返信して来る。

 

「分かりました。カバさんチーム、ワニさん分隊、如何ですか?」

 

そこで梓は続けて、カバさんチームとワニさん分隊へ通信を送る。

 

………しかし、両者から返信は無い。

 

「? カバさんチーム? ワニさん分隊? 応答して下さい」

 

再度呼び掛けるが、やはり返信は無い。

 

「優希、通信機の調子は?」

 

「バッチリだよ~」

 

「無線の不具合じゃない………と言う事は………」

 

梓の頬を冷たい汗が伝う。

 

「確認して来ます」

 

「………お願い」

 

勇武がそう言うと、ハムスターさん分隊の半数が、カバさんチームとワニさん分隊の元へ向かった。

 

………直後に!

 

「!? うわあっ!?」

 

「う、撃て! 撃てぇっ!!」

 

ハムスター分隊員のものらしき悲鳴が聞こえて来たかと思うと、続いて銃声が響き渡る!

 

「!? 柳沢くん! 何があったの!?」

 

すぐに梓は勇武に状況を尋ねるが、通信機からはノイズしか返って来ない。

 

「柳沢くん!? 応答してっ!!」

 

再度呼び掛けるが、やはり応答は無い………

 

直後に、アレだけ騒がしかった銃声も鳴り止む………

 

「! 残りの随伴歩兵の皆さん! 付いて来て下さいっ!! 移動しますっ!!」

 

「「「「「! 了解っ!!」」」」」

 

そこで梓は直感的に、この場に留まるのは良くないと判断し、残っていたハムスターさん分隊を伴って、銃声がした方向、引いてはカバさんチームとワニさん分隊の元へ向かう。

 

「!?」

 

そして梓が目にしたのは………

 

戦死判定を受けて倒れ伏せている勇武達と磐渡達の姿だった!

 

「分隊長っ!!」

 

「蹄サンっ!!」

 

倒れていた勇武と磐渡の元に、竜真とジェームズが走ったが、そこで大洗歩兵達が倒れている辺りに足を踏み入れた瞬間!

 

踏んづけた地面がカチッ!と言う音を立てたかと思うと、直後に爆発が起こったっ!!

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

竜真とジェームズは宙に舞った後に地面に叩き付けられ、戦死と判定される。

 

「! 地雷っ!?」

 

「竜真! ジェームズ!」

 

「正義さん! 駄目ですっ!!」

 

梓がそれが地雷の爆発であった事に声を挙げ、正義が竜真とジェームズの元へ向かおうとして清十郎に止められる。

 

「本隊に合流します! 桂利奈! 反転180度っ!!」

 

「あ、あいーっ!!」

 

梓はすぐに本隊への合流を計り、M3リーが反転して、残りのハムスターさん分隊員達と共に本隊の元へと向かい出す。

 

だが、その瞬間!

 

反転したM3リーの左後方から、黒い大きな影が飛び出して来た!

 

(!? 敵の戦車っ!?)

 

そう思った梓だったが、咄嗟の事だったので指示が間に合わず、M3リーと影は接触を起こす!

 

「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッ!!」」」」

 

「くうっ!」

 

紗希を除いたウサギさんチームの面々から悲鳴が挙がり、梓も衝撃に揺さぶられながらも、反射的に機銃架のM1919を掴んで影に向ける。

 

「待て、撃つなっ!!」

 

しかし、そう言う声が響き、影の上部からエルヴィンが姿を見せた。

 

「! エルヴィンさん!!」

 

そこで梓は、影の正体がカバさんチームのⅢ突であった事を確認する。

 

「エルヴィンくん! 大丈夫かっ!?」

 

「ひいぃ~~………」

 

更にそこへ、愛馬シュトゥルムに跨ったゾルダートとその後ろにしがみ付く様に乗って居る灰史、そして無事だった少数のワニさん分隊員達が現れる。

 

「ゾルダートさんも! 無事だったんですね!!」

 

「無事とは言い難いがな………ワニさん分隊は殆どがやられた。壊滅的な損害だ」

 

梓の言葉に、ゾルダートは苦い顔をしてそう返す。

 

「如何やら敵はまた歩兵狙いで来たみたいですね………」

 

「如何してッスか!? フラッグ車を狙う絶好のチャンスだった筈なのに!?」

 

「コチラの作戦が読まれていた………そうとしか考えられませんね」

 

清十郎、正義、光照がそう言い合う。

 

「兎も角、今は本隊と合流しましょう」

 

「ああ、そうだな………」

 

梓がそう言うとエルヴィンが同意し、ウサギさんチームと残存ハムスターさん分隊、それにカバさんチームと残存ワニさん分隊は本隊の元へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また歩兵狙いで来た!?」

 

その後、待機していたカメさんチームとツルさん分隊も加えて、本隊へ合流した梓達からの報告を受けて、みほは驚きの声を挙げる。

 

「完全にコチラの手を読まれました………」

 

「ねえ! ひょっとしてサンダース&カーネルの時みたいに、通信を盗聴されてるんじゃ!?」

 

優花里も険しい表情を浮かべていると、沙織が以前サンダース&カーネル機甲部隊との試合で、アリサが使った無線傍受ではないかと疑う。

 

「いや、それは無いね。見たところソレらしき物は浮かんでいないし、第一あの試合の後にレギュレーションが変更されて無線傍受は完全な禁じ手になっている。仮にルール違反をしていたとしてもリスクが大き過ぎる………」

 

しかし、迫信がそう言って沙織の懸念を否定する。

 

「じゃあ、如何して敵はコッチがフラッグ車を囮にしていると?………」

 

「………西住総隊長の戦術・戦略パターンを完全に解析したのかもしれん」

 

と、逞巳がそう首を傾げていると、十河がそんな事を言い放った。

 

「!!」

 

「みほさんの………戦術・戦略パターンを?」

 

その言葉にみほの顔が驚愕に染まり、華が強張った顔でそう呟く。

 

「考えられなくはない。状況に合わせた臨機応変な指揮が西住総隊長の特色だ。だが、人間誰しも無意識に執る癖というモノは有る。コレまでの我々の試合を分析して、西住総隊長の戦術の癖や戦略の定型を分析したのだろう」

 

「つまり、西住ちゃんの指揮はナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊にはお見通しって事か?」

 

「そうなるな………」

 

地市の問いに、十河は淡々とそう返す。

 

「私の戦術・戦略パターンが………完全に読まれてる………」

 

一方、みほは流石にショックが大きかったのか、俯いてブツブツと呟き始めている。

 

「西住総隊長! しっかりして下さいっ!!」

 

「!!」

 

しかしそこで、弘樹がⅣ号の上に攀じ登り、みほの肩を掴んでそう言った事で、みほは我に返る。

 

「兎に角、先ずこの森林地帯から撤退しましょう。敵が誘いに乗って来ない以上、この場に留まるのは得策ではありません」

 

「う、うん、そうだね………全軍、この森林地帯から撤退します!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

続けて弘樹がそう進言すると、みほはそう命じて、大洗機甲部隊は森林地帯からの離脱を始める。

 

「………うん?」

 

と、殿を固めていたカモさんチームとマンボウさん分隊の中で、鋼賀がふと立ち止まる。

 

「? 如何した、鋼賀?」

 

「何か聞こえませんか?」

 

それに気づいた弦一朗が声を掛けると、鋼賀はそう返して来る。

 

「何か?………」

 

言われた弦一朗は、耳を凝らして見る。

 

すると………

 

ロケットの音と風切り音が聞こえて来た。

 

「! ヤベェッ!!」

 

弦一郎がソレが何かを察した瞬間!!

 

上空から巨大なロケット砲弾が振って来て、カモさんチームのルノーB1bisの後部、5メートル程の位置に着弾!

 

巨大な爆発を起こした!!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!・」」」」」

 

ルノーB1bisの後方に展開していたマンボウさん分隊員達が纏めて吹き飛ばされ、戦死と判定される!

 

「キャアッ!?」

 

「うわあっ!?」

 

「ちょっとっ!? 何よっ!?」

 

更にその強力な爆風は、32トンのルノーB1bisの車体後部を僅かに浮かせた程であった。

 

「!?」

 

「今のはっ!?」

 

「ロケット推進音がしました! 間違いありません! シュトルムティーガーの砲撃ですっ!!」

 

と、フラッグ車の防備に付いて居たあんこうチームととらさん分隊の中で、弘樹とみほがすぐに反応し、優花里がその爆発がシュトルムティーガーの攻撃だと察する。

 

直後に、再びロケットの音と風切り音が聞こえて来たかと思うと………

 

今度は大洗機甲部隊の行く手に、ロケット砲弾が着弾した!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

運悪く着弾地点に居たツルさん分隊員達が爆風で吹き飛ばされ、戦死判定を喰らう。

 

「! 全速離脱! 急いで下さいっ!!」

 

すぐさまみほはそう指示を飛ばし、大洗機甲部隊は全速で森林地帯からの離脱を計る。

 

だが………

 

「! 西住総隊長! 森から火の手が上がっていますっ!!」

 

「!!」

 

弘樹からそう報告が挙がり、みほが見やると、森林の一角から巨大な炎が上がっているのを目撃する。

 

「! 風上に回って下さいっ!!」

 

現在の風向きでは間違い無く炎に飲まれると判断したみほが、慌てて指示を飛ばし、大洗機甲部隊は離脱方向を風上へ変更する。

 

「急げ、急げっ! 炎に巻かれるぞっ!!」

 

「チキショーッ! 焦土作戦でもする積りかよぉっ!!」

 

「戦車道や歩兵道で焦土作戦は無いと思いますよ………」

 

弘樹が運転しているくろがね四起で、同乗していた地市、了平、楓がそう言い合う。

 

「………! 飛び降りろっ!!」

 

「「!!」」

 

「えっ? 何?………!? ぐえっ!?」

 

そこで、弘樹が何かに気付いた様に声を挙げ、地市と楓が反射的にくろがね四起から飛び降り、反応の遅れた了平は、弘樹が首根っこを掴んで一緒に飛び降りる。

 

直後に、木々の合間から炎が伸びて来て、先程まで弘樹達が乗って居たくろがね四起を包み込んだ!

 

くろがね四起は炎上し、木の幹に激突したかと思うと、爆発する!

 

「!!」

 

すぐに炎が伸びて来た先を確認する弘樹。

 

そこには、Sd Kfz 251………火炎放射器を搭載している16型の姿が在った。

 

「ヤツが火の手を放った犯人か………」

 

そう呟きながら、収束手榴弾を手に取る弘樹。

 

だが、その瞬間!

 

すぐ目の前のに、何かが降って来て、派手に爆発する!

 

「!!………」

 

咄嗟に伏せていた弘樹の身体の上に、爆発で舞い上がった土片が落ちて来る。

 

「うおおっ!? またシュトルムティーガーの砲撃かよぉっ!?」

 

「いえ、ロケットの推進音がしませんでした。コレは多分、榴弾砲です!」

 

「オイ、また来たぞっ!!」

 

了平と楓がそう言い合っていると、地市が空から再び黒い物が降って来ている事に気づく。

 

だが、その黒い物は地面に落ちたかと思うと、そのまま土にめり込んだ。

 

「助かった………不発だったみたいですね」

 

「………! コレはっ!?」

 

楓が安堵の声を挙げたが、弘樹はその黒い物を見て驚きを露わにする。

 

「如何した、弘樹………って、コイツはっ!?」

 

声を掛けながらその物体を見やった地市も、驚愕の声を挙げる。

 

地面に減り込んでいたのは、黒く丸い物体………

 

『球形の砲弾』だったからだ!

 

「球形の砲弾っ!? 今時こんなの使う奴居るのかよっ!?」

 

「何でまたこんな物を?………」

 

地市と楓が何故化石の様な球形の砲弾を使って来たのかと言う事に疑問を呈す。

 

「…………」

 

だがそこで弘樹は、何か違和感を感じていた。

 

「? 弘樹、如何した?」

 

「………敵は何処からコレを撃って居るんだ?」

 

その様子に気づいて尋ねて来た了平に、弘樹はそう返す。

 

「! そう言えば、砲撃音がしません!」

 

「こんな物を飛ばす砲なんざ、相当射程が短い筈だぜ。なのに砲撃音は聞こえないのはおかしいぜ!」

 

その言葉に、楓と地市も気付いた様に声を挙げる。

 

『コチラ狙撃兵部隊の宮藤! 砲弾の発射地点を発見! 森林地帯の端の方………丘になっている場所です!』

 

するとそこで、本隊から離れていた狙撃兵部隊の飛彗が、砲弾が発射されたと思われる場所を発見した事を報告して来た!

 

「! 宮藤くん! 砲兵を狙えるか!?」

 

『待って下さい! 今砲兵の姿を確認して………!? えええっ!?』

 

「如何したっ!?」

 

砲撃を行っていると思われる砲兵の姿を確認しようとした飛彗が驚きの声を挙げる。

 

『そ、そんな馬鹿なっ!?』

 

「落ち着け! 正確に報告しろっ!!」

 

『て、敵は! 敵はっ!!………』

 

だが、飛彗から齎された報告は、驚いて当然とも言うべきモノだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯の端に位置する丘の上にて………

 

「チッ! 1発不発だったか! スマートじゃねえぜ!!」

 

先程の砲弾が不発だったのを確認したカロが、不満そうにしながら、ヘルメットを脱いで、携帯式の櫛で髪を掻き上げている。

 

「オイ、次だっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

と、カロがそう言ったかと思うと、傍に居たハロウィン歩兵が、積み上げてあった球形の砲弾を1つ手に取り、カロの足元へ置いた。

 

「今度こそスマートに行くぜ………」

 

準備運動の様に屈伸をしながら、カロがそう言うと、砲弾から少し距離を取る。

 

そして、砲弾に向かって助走の様に駆け寄り、そして何と!!

 

「オラアァッ!!」

 

球形の砲弾を、まるでサッカーボールの様に蹴り飛ばした!!

 

蹴られた砲弾は、まるで大砲から撃たれた様に、弧を描いて飛んで行くと、大洗機甲部隊が居る場所へと落下し、爆発する!

 

「「「「「うああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

直撃と破片を浴びた大洗歩兵達が戦死の判定を受ける。

 

「よっしゃあっ! スマートだぜっ!!」

 

それを確認したカロが、満足そうな様子でまたもや髪を掻き上げる。

 

「流石です、カロさん!」

 

「馬鹿野郎! 早く次を用意しろっ!!」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

賛辞して来たハロウィン歩兵をそう叱咤し、カロは新しい砲弾を用意させる。

 

「ソウラァッ!!」

 

そして再び!

 

強烈なキックで蹴り飛ばし、大洗機甲部隊の居る場所へと着弾させる!

 

「見たか、大洗! コレがカロ流、スマート砲撃だぜっ!!」

 

そう言いながら、カロは次々に球形の砲弾を蹴り飛ばして行く。

 

『何とーっ! コレは驚き! カロ選手、砲弾を蹴って飛ばしているぅっ!!』

 

『いや~、トンでもない脚力ですね………』

 

『あの子、歩兵よりサッカーとかやった方が良いんじゃない?』

 

そして、ヒートマン佐々木が驚き、DU田中が半ば呆れ、そして瑞樹がそんなコメントを実況するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

歩兵を狙って来たナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の戦略に、みほは敢えてフラッグ車を囮にする作戦を執る。
だが、その作戦は完全に読まれており、またも歩兵が狙われ、ワニさん分隊とハムスターさん分隊が被害を受ける。

その直後………
恐れていたシュトルムティーガーの砲撃に、火炎放射器搭載のSd Kfz 251の焦土作戦で危機陥る大洗機甲部隊。
更に信じられない事に………
ハロウィン歩兵部隊のカロが、砲弾を蹴り飛ばして砲撃してきたのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第157話『まだまだ大ピンチです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第157話『まだまだ大ピンチです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝の試合で………

 

歩兵部隊戦力を狙って来たナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊に対し………

 

みほはフラッグ車を囮にして、敵戦力を誘き出す作戦を取る。

 

しかし………

 

敵に手を読まれた事で、またもワニさん分隊とハムスターさん分隊の歩兵隊員達が多数犠牲となってしまう………

 

慌てて集結した大洗機甲部隊を、シュトルムティーガーのロケット弾砲撃が襲い………

 

逃げ道を塞ぐ様にSd Kfz 251/16によって放たれた炎が、森林地帯を包み込む………

 

更に信じられない事に………

 

ハロウィン歩兵隊のエース・『カロ』が………

 

球形の砲弾をボールの様に蹴り飛ばして、砲爆撃を見舞って来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃墟の工業地帯・森林スペース………

 

「また来たぞっ!!」

 

上空から降って来た球形の砲弾を見て、弘樹がそう声を挙げると、近くに居た歩兵達が一斉に伏せる。

 

直後に球形の砲弾は、無人となっていた兵員輸送用のトラックを直撃。

 

トラックは爆発と共に炎に包まれた。

 

「クソォッ! ホントにコレ、蹴っ飛ばして来てるのかよ! 無茶苦茶だぜっ!!」

 

伏せていた面子の中に居た地市がそう叫ぶ。

 

「狙撃兵部隊! 砲弾を蹴っている奴を狙えるかっ!!」

 

そこで弘樹は、狙撃兵部隊にカロを狙撃出来るかと問う。

 

『少々遠いですが、やってみま………!? うわっ!?』

 

「! 如何した!?」

 

飛彗がやってみようと返そうとした瞬間に悲鳴を挙げ、弘樹は再度問い質す。

 

『カウンタースナイプです! コチラの位置がバレましたっ!!』

 

『こちらシメオン! 浅間がやられたぞっ!! 敵の位置が分からんっ!!』

 

飛彗はカウンタースナイプを受けたと報告したところ、続け様にシメオンから陣がやられたとの報告が入る。

 

「撤退しろ! すぐにコチラと合流するんだ!」

 

『ったく! 屈辱だぜっ!!』

 

弘樹がそう命じると、圭一郎が愚痴りながら撤退を開始する。

 

その直後、前進して来たSd Kfz 251/16が、火炎放射器で火炎を薙ぎ払って来る!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その火炎を真面に浴びてしまった大洗歩兵隊員達が炎に包まれ、そのまま戦死判定となる。

 

「ええい! もう我慢ならん! 突っ込むでぇっ!!」

 

「援護するぞっ!!」

 

とそこで、その光景に我慢ならなくなった大河が、ペンギンさん分隊員と共にSd Kfz 251/16に突撃し、エースを初めとしたタコさん分隊の面々も続く。

 

だが………

 

「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

どこかで聞いた様な叫びと共に、燃え上がっていた木々を薙ぎ倒して、巨大な体躯をした黒い影のある赤髪のハロウィン歩兵が現れる。

 

「!? 何やっ!?」

 

「アレは!?………確か、『スコール』と」

 

大河が驚いていると、エースがその歩兵が入場時に紹介されていた歩兵………『スコール』である事に気づく。

 

「俺、大洗、倒すっ!!」

 

やや片言な言い方をしながら、スコールは『何か』を構える。

 

「!? ちょっ!?」

 

「う、嘘でしょっ!?」

 

「Oh! イッツ、クレイジーッ!!」

 

その『何か』を見た武志、弁慶、ジャクソンが悲鳴の様な声を挙げる。

 

スコールが構えたのは『MK 108 機関砲』………

 

航空機に搭載する30ミリの機関砲だった!!

 

「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

気合の叫びと共に、MK 108 機関砲を撃ち始めるスコール。

 

「おうわっ!?」

 

「伏せろっ! 伏せろっ!!」

 

すぐにペンギンさん分隊とタコさん分隊の面々は地面に伏せたり、燃えていない木々や近くに在った岩、更に破壊された車輌の残骸に隠れる。

 

「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

しかし、30ミリの機関砲の前に、木々や岩、車輌の残骸は遮蔽物としての意味を為さず、隠れていた大洗歩兵隊員達は、次々に貫通弾を浴びた!!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「皆っ!!」

 

「マズイッ! このままでは全滅でござるっ!!」

 

次々にやられていく分隊員達の姿を見て、拳龍と小太郎がそう叫ぶ。

 

「慌てるな! MK 108 機関砲のデータからすると、そろそろ………」

 

しかしそこで、大詔がそう言ったと思うと、MK 108 機関砲からの弾幕が途切れ、乾いた音を立て始める。

 

弾切れである。

 

「フンガッ!?」

 

MK 108 機関砲が突如撃てなくなった事に戸惑うスコール。

 

「! 今やっ!!」

 

と、チャンスとばかりに伏せていた大河が起き上がり、スコールに突撃する!

 

「! ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

しかし、何とっ!!

 

スコールは、持っていたMK 108 機関砲を、突撃して来ていた大河目掛けて軽々と投げつけた!

 

「なっ!?………! ごはっ!?」

 

意表を衝かれた大河は真面に喰らってしまい、そのままMK 108 機関砲の下敷きとなり、戦死と判定される。

 

「親分っ!!」

 

「コノヤロウッ!!」

 

「親分の仇だっ!!」

 

その光景を見た大洗連合のペンギンさん分隊員達がスコールに跳び掛かる。

 

「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

だが、スコールは拳を握った両腕を左右に突き出して、その場で独楽の様に回転!

 

「「「「!? うおわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

跳び掛かった大洗連合のペンギンさん分隊員達はブッ飛ばされ、地面を転がる。

 

そこへ、シュトルムティーガーのロケット砲弾が着弾し、トドメを刺される。

 

「44ソニックゥーーーーーッ!!」

 

とそこで、エースがマークⅡ手榴弾を野球ボールの様に、スコール目掛けて投擲した!

 

プロ野球選手並みの、時速150キロの球速でスコールへと向かう手榴弾。

 

「! ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

けれども、スコールはまたもや信じられない事に、近くに生えていた大木を根元から引っこ抜いたかと思うと、それをスイングして、エースが投げた手榴弾を打ち返した!

 

「!?」

 

驚きながらも、すぐに回避しようとしたエースだが………

 

(! イカン! このままでは後方の味方に!!………)

 

自分が避ければ後方の味方に被害が及ぶ事に気づき、手榴弾をキャッチしたかと思うと、そのまま抱え込む様にして地面に伏せた!

 

直後に手榴弾は爆発!

 

エースは破片と衝撃を一身に浴びた!

 

「エースッ!!」

 

「すまない、拳龍………後は頼む」

 

拳龍が駆け寄るが、エースには既に戦死判定が下されていた………

 

「フハハハハハッ! 誰も俺を止める事は出来んっ!!」

 

スコールは調子に乗った様に、残るペンギンさん分隊とタコさん分隊の隊員達の方へ突っ込んで来る!

 

「させるか!………」

 

と、その前にシャッコーが立ちはだかる。

 

そして手四つで組み合い、力比べへと発展する。

 

が!!

 

「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

「! コイツ!………」

 

何と、スコールの並外れた怪力の前に、シャッコーは押し負けそうになる。

 

「ルダさんが押されてる!?」

 

「嘘だろっ!? どんだけだよ、アイツッ!?」

 

大洗歩兵部隊随一の怪力であるシャッコーをも上回るスコールのパワーに、大洗歩兵部隊に動揺が走る。

 

「みぽりん! このままじゃ歩兵の皆が!!」

 

「! パンツァーカイルで一気に突破を試みます! レオポンさんチーム!!」

 

「了解~」

 

沙織が叫ぶと、みほは一気に突破すべくパンツァーカイルを指示し、大洗戦車チームの中で1番装甲の厚いポルシェティーガーが先頭に出る。

 

そして、フラッグ車であるM3リーを中央に据えて、残るチームが其々に両翼を固めると、一気に突撃する!

 

「!? うおおっ!?」

 

「!!」

 

突っ込んで来た大洗戦車チームの姿を見て、流石のスコールも退き、シャッコーはその隙を衝いて離脱し、突っ込んで来た大洗戦車チームの戦車の内、ルノーB1bisに飛び乗ってタンクデサントする。

 

Sd Kfz 251/16が、先頭を行っていたポルシェティーガーに向かって火炎を放とうとしたが………

 

「させないよっ!!」

 

既に狙いを付けていたホシノが発砲!

 

88ミリの榴弾を浴びたSd Kfz 251/16は忽ち大破・炎上!

 

「ソーレッ!!」

 

そのままツチヤが声を挙げると、ポルシェティーガーはSd Kfz 251/16の残骸をを蹴散らして更に前進。

 

燃え盛る森林へと突っ込んで行く!

 

「持ってよ、エンジン」

 

次弾を抱えながら、ポルシェティーガーのエンジンが熱でやられない事を祈るスズキ。

 

そして遂に、ポルシェティーガーを先頭にした大洗戦車チームは炎の中へ突入!

 

燃え盛る木々を薙ぎ倒し、通過の際の風圧で火を掻き消す!

 

「! あそこから脱出だ! 全員、戦車チームに続けっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを見た弘樹がそう声を挙げ、大洗歩兵部隊は残っていた車輌に乗り込んだり、或いは自らの足で、戦車チームが空けた炎の隙間を通り抜けて行く。

 

「………シナリオ通りだ」

 

だが、その大洗機甲部隊を見送ったスコールが、不気味に笑ってそう言い放ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ森林エリアを抜けるよ」

 

パンツァーカイルの先頭を行っているポルシェティーガーのナカジマが、全車へそう通信を送る。

 

「もう1度市街地で遭遇戦を展開します! 各車、森林エリアからの離脱後は歩兵部隊の到着を待って、チーム・分隊ごとに行動します!」

 

「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」

 

もう1度市街地で遭遇戦を展開しようと考えるみほ。

 

しかし………

 

「抜けたぁっ!!………!? マズイッ!!」

 

先頭を行っていたポルシェティーガーが、遂に炎の中を突っ切り、再び市街地に入ったかと思われた瞬間!!

 

轟音が鳴り響き、巨大な砲弾が車体の前面装甲に突き刺さった!!

 

ポルシェティーガーは急停止し、撃破を示す白旗を上げる。

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

残りの戦車チームは、咄嗟に左右に広がる様に停止!

 

「!? トータスッ!?」

 

その中で、みほがポルシェティーガーを撃破した犯人………

 

『トータス重駆逐戦車』の姿を確認して、驚愕の声を挙げる。

 

「へっへ~、此処へ来るのはお見通しだったよ~」

 

トータスの車長である『マヨネ』が、ペリスコープ越しに大洗戦車チームの姿を確認して、そう言い放つ。

 

「また読まれていた………」

 

「コレでは、作戦の展開のしようがありません!」

 

みほが微かに震えた声でそう漏らし、優花里が悲鳴の様に叫ぶ。

 

「固定砲塔なら、側面に張り付けばっ!!」

 

「やれるナリ」

 

とそこで、アリクイさんチームが危機的状況で先走ったのか、トータスに向かって突撃した!

 

「! アリクイさんチーム! 待って下さいっ!!」

 

みほが慌ててそう呼び掛けるが、三式がトータスの側面に出た瞬間!!

 

またも轟音がしたかと思うと、三式にトータス程ではないが、巨大な砲弾が命中した!!

 

「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

アリクイさんチームの悲鳴が木霊すると、三式は一瞬宙に浮かび上がり、そしてバウンドしたかと思うと、そのまま横倒しとなる!

 

そして側面部から、白旗を上げた!

 

「側面を狙って来る事ぐらい、お見通しです………」

 

そう言う台詞と共に、トータスの影から『ペッパー』が駆ける『ブルムベア』が姿を見せる。

 

更にその後ろからは、5輌のヴァレンタインが姿を現す。

 

「! ブルムベア!………」

 

「ヴァレンタインも居ます!」

 

その姿を見て、またもみほと優花里がそう声を挙げる。

 

その間に、ブルムベアと5輌のヴァレンタインは、大洗機甲部隊の行く手を塞ぐ様に展開する。

 

「如何したんだっ!?」

 

「!? アレはナイトウィッチ戦車チームッ!?」

 

「ええっ!? また俺達の動きを見破られたってのかよ!?」

 

「…………」

 

と、漸く追い付いた歩兵部隊の中で、とらさん分隊の地市、楓、了平がそう言い放ち、弘樹も苦い顔をする。

 

「見たか、大洗! コレがナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の力だ! スマートだぜっ!!」

 

そこへ、何時の間にか移動して来たのか、脇に球形砲弾を抱えたカロが大洗機甲部隊が突破して来た道に佇み、お決まりの台詞を決めた。

 

「! カロかっ!?」

 

「何時の間にっ!?」

 

その存在に気付いた一部の大洗歩兵部隊が銃を向けるが………

 

「オラァッ!!」

 

「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

カロは脇に抱えていた球形砲弾をその大洗歩兵達に向かった蹴り込み、一網打尽にする。

 

「俺のスマートなキックに敵う奴なんでいないぜ!」

 

「蹴りならば負けないぜっ!!」

 

勝ち誇るカロだったが、そこへ隆太が側転してから跳び上がり、全体重を乗せた浴びせ蹴りを繰り出す。

 

「オウラッ!!」

 

それに対し、カロはハイキックを繰り出し、隆太の蹴りとカロの蹴りがぶつかり合う。

 

一瞬の間の後………

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

隆太が地面に落ち、蹴りを繰り出した足を押さえながら悶える。

 

如何やら、蹴り負けたのは隆太の方だった様である。

 

「良い蹴りだったぜ………俺の次にな」

 

「!!」

 

カロはそう言い、腰のホルスターからSACM Mle1935Aを抜いたかと思うと、隆太に容赦無くトドメを刺した!!

 

「飛鳥くん!」

 

「ノコノコと出て来やがったなぁっ!!」

 

それを見て飛び出した拳龍に、カロは回し蹴りを繰り出す!

 

「! くっ!!」

 

だが、そこは空手道場の息子にして免許皆伝。

 

すぐさま防御の姿勢を取り、衝撃を受け止める。

 

「ほう? 良い反応じゃねえか。だが、何時まで持つかなぁっ!!」

 

だがカロは、軸足の左足だけで立ったまま、上げた右足を鞭の様に撓らせて、次々に蹴りを繰り出す。

 

「………平気だよ」

 

持ち前の頑丈さで、その全てに耐える拳龍。

 

「そうらっ!!」

 

とそこで、カロは拳龍のボディに向かって、強烈な前蹴りを叩き込む!

 

「!!」

 

余りの衝撃で、足が地面を抉りながら後退させられる拳龍。

 

「大丈夫………!?」

 

それでも尚平気な様子を見せる拳龍だったが、そこで蹴られた腹に………

 

信管付きのC-3爆薬が張り付けられていた!

 

「さっきの!………」

 

「おせぇぜっ!!」

 

慌てて取り外そうとした拳龍だったが、カロが起爆スイッチを押す方が早く、C-3は爆発!

 

「………ゴメン、皆」

 

爆煙が晴れると、平気そうな様子ながらも、戦死判定が下されてしまった拳龍の姿が露わになった。

 

「あ、飛鳥くんと杷木さんが………」

 

「…………」

 

次々と仲間がやられて行き、みほの表情には絶望の色が浮かんでいた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

まだまだ大ピンチの大洗。
遂に戦車チームにも被害が及んできました。
歩兵部隊も、スコールとカロによって最早壊滅状態………
かつてない大ピンチです。
ですが、次回………
遂にアイツが………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第158話『帰還です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第158話『帰還です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

「撃てっ!!」

 

みどり子の号令で、ルノーB1bisの主砲と副砲が発射され、トータスに向かう。

 

しかし、どちらもトータスの正面装甲を貫けず、弾かれる。

 

「無駄無駄。コッチの装甲は228ミリよ。あのマウスより厚いのよ」

 

マヨネがそう言った瞬間、トータスの主砲である口径94ミリのオードナンス QF 32ポンド砲が火を噴く。

 

「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」

 

車体正面に直撃を受けたルノーB1bisは衝撃で両履帯が千切れた上、逆さまに引っ繰り返った!

 

そして、底面部から撃破を示す白旗が上がる。

 

「! カモさんチームっ!!」

 

「すみません! 撃破されましたっ!!」

 

みほが叫ぶと、みどり子の申し訳無さそうな声が響く。

 

「オラアァッ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

更に後方でも、カロが至近距離から球形砲弾を蹴って来て、次々に起こる爆発で大洗歩兵がやられて行く。

 

「! 全部隊、右へ転進っ!! 今は兎に角逃げますっ!!」

 

みほは何とかこの状況から脱出しようと、ナイトウィッチ戦車部隊とカロから逃れる方向への転進指示を出す。

 

だが………

 

「待ってましたーっ!」

 

「そう来ると思ってたよ!」

 

そう言う台詞と共に、またもやBT戦車部隊が現れる。

 

「! BT戦車!?」

 

「行くわよ! BT全車、『メリーゴーランドアタック』!!」

 

みほが驚きの声を挙げた瞬間、BT戦車部隊は大洗機甲部隊の周りを高速で移動しながら周回!

 

そのフォーメーションの名の通り、高速回転の輪の中に、大洗機甲部隊を封じ込めた!

 

「!? 囲まれましたっ!?」

 

「撃てーっ!!」

 

優花里がそう声を挙げた瞬間、BT戦車部隊は一斉に砲撃を開始!

 

四方八方から砲撃が飛んで来て、大洗機甲部隊の中へと着弾する。

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

次々と至近弾で着弾する砲弾の振動に、戦車チームが悲鳴を挙げ、歩兵部隊も次々にやられていく。

 

「クソッ! こうなったら強行突破だ! 行くぞ、忍っ!!」

 

「了解、キャプテンッ!!」

 

とそこで、典子と忍がそう言い合い、八九式がBT戦車部隊のフォーメーションを強引に突破に掛かる!

 

「根性おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

お馴染みの叫びと共に、高速で周回しているBT戦車部隊の輪に突っ込んだかと思うと、上手く突破する事に成功した………

 

「やったっ!!………!?」

 

だが、典子が歓声を挙げた瞬間!!

 

八九式は輪の外に待ち構えていた戦車………『ヴァリアント歩兵戦車』に正面衝突!

 

衝突部から煙が立ち上ったかと思うと、続いて砲塔上部から白旗を上げた。

 

「! アヒルさんチーム!!」

 

「西住総隊長! 如何やらBT戦車の輪の外を、更にヴァリアント歩兵戦車が固めている様だ!!」

 

みほが声を挙げると、迫信がそう報告して来る。

 

その言葉通り、BT戦車が形成している周回のフォーメーションの外側に、ヴァリアント歩兵戦車がまるでトーチカの様に包囲網を形成。

 

『ヴァリアント歩兵戦車………欠陥戦車として名高いが、装甲だけは114ミリと無駄に厚い。BTの包囲を突破するにはその無駄に厚い装甲に正面から挑まなくてはな………』

 

とそこで、指揮車のアインシュタインがそう通信を送って来る。

 

そしてその瞬間に、ヴァリアント歩兵戦車達が、輪を形成しているBT戦車部隊の上を通過する様に砲撃を開始!

 

更なる砲弾の雨が、大洗機甲部隊に襲い掛かった!

 

「うわあっ!?」

 

「アカンッ!!」

 

運悪く直撃を貰ってしまった海音と豹詑が戦死。

 

「そら、駄目押しだぁっ!!」

 

カロもそう叫んで、大洗機甲部隊の中に球形砲弾を蹴り込んで来る。

 

「………!!」

 

だが、熾龍が居合いの構えを取ったかと思うと、神速の抜刀術で、球形砲弾を全て空中で斬り裂いた!!

 

斬り裂かれた砲弾は、まるで花火の様に空中で爆発する。

 

「へえ、やるじゃねえか。なら! コイツは如何だっ!!」

 

と、再び新たな球形砲弾を熾龍目掛けて蹴っ飛ばすカロ。

 

「!!」

 

熾龍はそれも、居合いで斬り裂いたが………

 

その際、爆発直前で発せられる発光が、今までのよりも強い事に気づく。

 

「! チイッ!!」

 

すると熾龍は、近くに居た迫信の事を突き飛ばした!

 

「! 熾龍っ!!」

 

迫信が声を挙げた瞬間、砲弾が爆発!

 

それまでよりも強い爆発が、熾龍を包み込んだ!!

 

そして、爆煙が晴れると………

 

「………屈辱」

 

煉獄を杖代わりに膝を着き、戦死判定を受けている熾龍の姿が露わになった。

 

「如何だ! 火薬量を2倍にした砲弾だ! スマートだぜっ!!」

 

そう言うと、ヘルメットを脱いで、折り畳み式の櫛で髪を整えるカロ。

 

「栗林殿がっ!?」

 

「オノレェッ! 栗林殿の仇ぃっ!!」

 

と、その様子を見ていたカバさんチームのⅢ突が、車体を旋回させ、榴弾を装填した主砲をカロに向けたが………

 

「!? マズイ! 逃げろっ!?」

 

「ぜよっ!?」

 

突然叫んだエルヴィンに、おりょうの反応が遅れた瞬間!

 

Ⅲ突の上面に、ロケット推進音と共に巨大な砲弾が直撃!

 

巨大な爆発が上がったかと思うと、Ⅲ突は白旗を上げる!

 

「! カバさんチーム、撃破されました! またシュトルムティーガーの砲撃です!!」

 

「駄目………このままじゃ………」

 

優花里の報告に、みほはに必死に考えを巡らせるが、何も良い手が思いつかない………

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その間にも、歩兵部隊に次々に戦死判定者が出て来る。

 

「! 此方大洗機甲部隊とらさん分隊長、舩坂 弘樹! 支援要請! 航空支援を要請する!!」

 

とそこで弘樹が、独断で航空支援を要請。

 

『待っていたぞ、弘樹ーっ!!』

 

その途端、そう言う声が通信回線に響いたかと思うと、ハンネスの乗るJu87 G-1を先頭に、Ju87編隊が上空から急降下して来た!

 

「! 敵機来襲ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

ハロウィン戦車部隊はすぐにそれに気づくと、フォーメーションを解いて散開に入る。

 

「遅いっ!!」

 

だが、すぐさまハンネスのJu87 G-1が、37ミリ機関砲でBT-5とBT-7を1輌ずつ撃破する。

 

後続のJu87も、次々と1トン爆弾を投下して行く。

 

降り注ぐ機関砲弾と爆弾の雨から逃げ回るナイトウィッチ戦車部隊。

 

「今だ! 全員撤退っ! 兎に角この場を離れるんだっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこで弘樹がそう叫び、生き残っていた大洗機甲部隊のメンバーは、爆撃とナイトウィッチ戦車部隊の間を縫う様に、方々へと離脱して行く。

 

「あ! コラ、待て………!? わあっ!?」

 

近くを通った大洗機甲部隊のメンバーを、1輌のヴァレンタインが追おうとしたが、直後に1トン爆弾の直撃を喰らって白旗を上げた。

 

「迂闊に追撃しようとするな! 爆撃の餌食になるわよ!!」

 

「高射部隊! 対空砲火よっ!!」

 

ペッパーとマヨネがそう叫んだかと思うと、予め配置していたのか、廃墟の各所から対空機関砲や高射砲による対空砲火が開始された!

 

「ぬうっ!?」

 

「隊長! 無理しないで下さいよ! 対空砲火には何度も撃墜されてるんですから!!」

 

「分かっている! 全機、無理はするな! 大洗機甲部隊は既に離脱した! 後は精々奴等の注意を惹き付けるんだっ!!」

 

相棒のエグモントからの忠告にそう返しながら、ハンネスは編隊機にそう指示を飛ばす。

 

「! 2時方向より敵機っ!」

 

「むっ!?」

 

更なるエグモントからの報告に、ハンネスがその方向を見やると、そこにはコチラに向かって飛んで来るホーカー タイフーンの編隊が目に入る。

 

「一航専め! 好き勝手にやらせるか!!」

 

「あのG-1型を狙え! アレが隊長機だっ!!」

 

タイフーンの編隊は、ハンネスの乗るJu87 G-1に殺到して来る。

 

「狙われています!」

 

「分かっているっ!!」

 

「ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル! お前を落せば名が上がるってもんだっ!!」

 

パイロットがそう言って、1機のハリケーンが、ハンエスのJu87 G-1にヘッドオンして来る。

 

「たわけぇっ!!」

 

だがその瞬間に、ハンネスは機体を上昇させる!

 

「へっ!?………!? うわっ!?」

 

一瞬戸惑ったハリケーンのパイロットの眼前に、Ju87 G-1のタイヤブレーキが目一杯広がり、直後に射出座席が起動。

 

無人となったハリケーンのコックピットを、Ju87 G-1の固定脚が破壊!

 

コックピットを潰されたハリケーンは、錐揉み回転しながら墜落。

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

地上で対空砲火を撃ち上げていたハロウィン高射部隊を巻き込んで爆散する。

 

「このハンネス! 戦闘機に狙われたぐらいでビビる男とでも思ったか!!」

 

(爆撃機が戦闘機に狙われたら普通ビビると思いますけど………)

 

その様子を見ながらそう言うハンネスに、心の中でツッコミを入れるエグモントだった。

 

「! あの野郎っ!!」

 

「叩き落してやるっ!!」

 

思わぬ攻撃で仲間がやられた事に動揺したハリケーンの編隊だったが、すぐに気を取り直して、再びハンネスのJu87 G-1へ殺到する。

 

しかしその瞬間!!

 

「! 散開しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

航空隊長がそう叫び、ハリケーンの編隊は反射的に散開。

 

だが、数機が上空から振って来た弾丸を浴びて穴だらけになり、パイロットが脱出した直後に炎上・墜落する。

 

「人呼んで、六郎スペシャル! アンドリバースッ!!」

 

そう言う台詞と共に急降下してきた零戦二一型の編隊の中心に居た六郎が、すかさず急上昇。

 

1機のハリケーンをレティクルに捉えると、迷わず引き金を引いた!

 

主翼部から放たれた機銃弾が、ハリケーンの腹を引き裂く!

 

「脱出ーっ!!」

 

引き裂かれた腹から炎が上がると、パイロットが脱出し、直後にハリケーンは空中で爆発四散した。

 

「野郎! よくも俺の僚機を!!」

 

とそこで、撃墜したハリケーンの僚機が、六郎の零戦二一型の後部に付く!

 

「!!」

 

「貰ったぁっ!!………」

 

六郎が振り返ってハリケーンの姿を確認した瞬間に、ハリケーンのパイロットは引き金を引こうとする。

 

が、そこでそのハリケーンは、後方から機銃弾を浴びせられた!

 

「! イジェークトッ!!」

 

驚きながらもすぐさまパイロットは脱出。

 

直後に機銃弾を浴びせられたハリケーンは、そのまま空中で爆発四散した。

 

そして、その爆発の煙の中を突っ切って、尾翼にメビウスの輪のエンブレムを描いた紫電改が現れる。

 

「助かった。すまないな、後輩」

 

「…………」

 

六郎がそう言うと、紫電改のメビウス1はロックウィングをして返信する。

 

だが直後に、2機の間を機銃弾が擦り抜ける!

 

「「!!」」

 

「まだまだぁっ!!」

 

「相手が手練れだってんなら、数で押すまでよ!!」

 

何と、新たなハリケーンの編隊が出現したのである。

 

最初に現れたハリケーンの編隊を合わせると、かなりの数が展開している。

 

「チイッ! まだいたのか!?」

 

「…………」

 

新たに現れたハリケーンの編隊の姿を見て、六郎がそう声を挙げ、メビウス1も目を細める。

 

「行けーっ!!」

 

「押せ押せーっ!!」

 

ハリケーンの編隊は、数に任せて一航専の戦闘機部隊に襲い掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

爆撃での混乱を衝いて、離脱した大洗機甲部隊だったが………

 

兎に角逃げる事を優先した為に、全員がバラバラになってしまっており、必死に合流している最中だった………

 

「え~と、現在位置は………」

 

そしてそのバラバラになったメンバーの中には、フラッグ車であるウサギさんチームのM3リーの姿も在った。

 

現在位置を見失ってしまったのか、車長の梓がハッチから出て周りの様子を見ながら、地図とコンパスを並べて必死に睨めっこしている。

 

「優希ちゃん、通信機まだ繋がらないの?」

 

「駄目~、さっき脱出する時に他の戦車とぶつかったりしたから調子悪いの~」

 

あやが優希に尋ねると、間延びした口調で優希がそう返して来る。

 

そう、頼みの綱の通信機も、脱出の際にナイトウィッチ戦車チームの戦車と接触してしまった時の衝撃で、絶賛不調中なのである。

 

「マズイよ。他のチームの皆さんどころか、随伴歩兵1人居ないんだよ。今狙われたら絶体絶命だよ」

 

「あい~………」

 

「分かってるよ! ちょっと待ってってば!!」

 

あゆみがそう言い、桂利奈が不安そうな声を漏らすと、焦りからか怒鳴る様に返してしまう梓。

 

「………!」

 

するとそこで、紗希が突然砲塔横にあるハッチを開ける。

 

「? 紗希ちゃん、如何したの?」

 

「…………」

 

あやが尋ねると、紗希は静かにと言う様に、人差し指を立てた左手を顔の前に置く。

 

「…………」

 

ジッとハッチ越しに廃墟の中を見据える紗希。

 

「………!!」

 

そして不意に、梓の身体を掴んだかと思うと、思いっきり引っ張って、車内へと引っ込めた!!

 

「キャッ!? 紗希、如何し………」

 

たの、と問い質す前に、M3リーの傍に砲弾が着弾した!

 

「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」

 

「あいいいいいぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~っ!?」

 

「!?」

 

悲鳴を挙げるあや、優希、あゆみ、桂利奈だったが、梓はすぐに頭だけをハッチから出して状況を確認する。

 

見れば、近くの廃墟の壁の一部に、先程の砲撃では破壊されたと思われる穴が空いていた。

 

そして、その穴が空いた部分を崩す様にして、ヴァリアントが1輌姿を見せた。

 

「! ヴァリアントッ!?」

 

「イエース! フラッグ車を発見ネッ! ラッキーよ! この試合のMVPは、この『ヴィーネ』様に決まりね!」

 

梓が驚きの声を挙げると、そのヴァリアントの車長・ラテン系の黒人留学生の少女・『ヴィーネ』は、陽気そうな様子でそう言い放つ。

 

直後に、ヴァリアントの主砲が再び火を噴き、M3リーの傍に砲弾が着弾する!

 

「! 桂利奈ちゃん! 緊急発進っ!!」

 

「あ、あい~~~~~~っ!!」

 

梓の号令で我に返った桂利奈が、慌ててM3リーを発進させる。

 

「兎に角逃げて! ヴァリアントは速度が遅いから、逃げ切れるよ!!」

 

既に遥か後方になったヴァリアントの姿を見ながら、梓がそう言う。

 

しかし………

 

「レッツロックッ!!」

 

ヴィーネがそう言い放った瞬間………

 

ヴァリアントが『トンでもないスピード』でM3リーを追い始めた!

 

「!? ええっ!?」

 

「何、あの速度っ!?」

 

梓と砲塔横のハッチからその様子を見たあやが仰天する。

 

ヴァリアント歩兵戦車の最高速はカタログによれば僅か19キロ。

 

しかし、今M3リーを追い掛けて来ているヴィーネのヴァリアントはぐんぐん迫って来ており、少なくともM3リーの最高速である39キロ以上は出ている。

 

「ハハハハハハハッ! レギュレーションに違反しない範囲でカスタマイズしてありまーす! 私のヴァリアントを只のヴァリアントと思わない事でーす!」

 

ヴィーネがそう言っている間に、ヴァリアントはM3リーの僅か10数メートル後方にまで迫る。

 

「! マズイッ!」

 

「こんのぉっ!!」

 

梓が声を挙げると、あやが副砲塔を旋回させ、ヴァリアントに向かって発砲する。

 

しかし、砲弾はヴァリアントに命中したかと思うと、そのまま砕け散る。

 

「駄目だよ、あや! ヴァリアントの114ミリの装甲は75ミリ砲の方でも抜けないよっ!!」

 

「じゃあ如何するの!?」

 

ヴァリアントのスペックを思い出しながらそう言う梓に、あやは若干涙目でそう返す。

 

「コレでジエンドね!」

 

そこで、ヴィーネのヴァリアントの主砲が、M3リーに狙いを定める。

 

「「「「「!?」」」」」

 

最早コレまでか………

 

大洗女子学園の廃校は決まってしまった………

 

ウサギさんチームの誰もがそう思った………

 

「…………」

 

いや………

 

只1人、紗希だけが………

 

いつもの様に明後日の方向を向いてボーっとしていた………

 

「…………」

 

すると、紗希の顔に微笑が浮かぶ。

 

………その瞬間!!

 

突如、バイクの物と思われる爆音が響いて来た!

 

「!? ワッツッ!?」

 

「!? コレって、ひょっとしてっ!?」

 

ヴィーネと梓が驚きを露わにした瞬間………

 

廃墟をジャンプ台にして、1台のバイクが宙に舞いあがった。

 

「!?」

 

そのバイクの姿を見上げるヴィーネ。

 

宙に舞ったバイクは、そのままヴァリアントの頭上を飛び越えて行く………

 

………かに思われた瞬間に、『何か』が落ちて来て、ヴァリアントの上部に張り付く。

 

「!? オーノーッ! 吸着地雷っ!!」

 

ヴィーネが悲鳴を挙げる。

 

ヴァリアントの上部に張り付いたのは、吸着地雷だった!

 

取り外す間も無く、吸着地雷は爆発。

 

ヴァリアントは慣性で少し走った後に停まると、上部から白旗を上げた。

 

「停止っ!」

 

それを確認した梓が、M3リーを停めさせる。

 

停止したM3リーの傍に、あのバイクとそれの跨る人物が近づいて来る。

 

「大丈夫か、1年共」

 

「神狩先輩っ!!」

 

梓が歓喜の声を挙げる。

 

そう………

 

そこに現れたのは………

 

紛れも無く………

 

『神狩 白狼』だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

カモさんチーム、アヒルさんチーム、カバさんチームまでやられ、最早全滅寸前の大洗。
弘樹の咄嗟の判断での航空支援で、一旦離脱に成功したものの、フラッグ車が孤立。
そのフラッグ車にナイトウィッチの魔の手が迫った時………
遂にアイツが帰って来ました!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第159話『神狩 白狼、奮戦します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第159話『神狩 白狼、奮戦します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の攻撃の前に………

 

大洗機甲部隊は戦力の半数以上を失い、かつてない大ピンチに………

 

更に、包囲を突破した際にメンバーが散り散りになり………

 

フラッグ車であるウサギさんチームのM3リーが孤立………

 

現れたナイトウィッチ戦車部隊のヴァリアントによって撃破されてしまいそうになった時………

 

遂にあの男が………

 

『神狩 白狼』が帰って来た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

『おやっ? どうやら大洗に援軍がやって来たみたいですね』

 

『援軍と言っても来たのは1人だけのようですが………ん? 前にもこんな事があった様な?………』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中が、白狼の姿が良く確認出来ていない状況でそう実況する。

 

『上空実況の幸子ちゃんに確認した方がよろしいですわね。確か、小梅ちゃんや輝子ちゃんも一緒の筈ですが………幸子ちゃん? 聞こえますか? 輿水 幸子ちゃん?』

 

そこで、瑞樹が試合会場の上空で旋回飛行をしている審判団の航空機………陸上哨戒機『東海』の機内から試合模様を中継している幸子達へ通信を繋ぐ。

 

すると、観客席用の大型モニターに、東海の機内と幸子達の姿が映し出される。

 

『はーい、聞こえますよ! 現在、出来る限り離れて確認してしますが………え~と………あれ? アレって!?』

 

『如何したんですか? 誰か見えましたか?』

 

幸子が何かに気付いた様に声を挙げると、瑞樹が尋ねる。

 

『えーと………前のオーストラリアでの仕事の時に出会った、あのお兄さんにそっくりな人が、バイクに乗って走ってます!!』

 

『名前は忘れたけど………確かに………あのお兄さんですね………』

 

幸子の言葉に、小梅がそう同意する。

 

『ふ………フヒヒヒ………喧騒………砲撃………爆発………ふ………フヒヒヒヒヒヒ………ヒャッハーーーーーーッ!! リア充共爆発しろォォォォォォーーーーーーーーっ!!』

 

するとそこで、輝子がまるで人が変わったかの様に絶叫する!

 

『って、ちょっと輝子さん! 何勝手に別の話をしてるんですか!! 全然実況になってませんよ!!』

 

『あ~………と云うわけで、誰なのか分からずじまいですけど………』

 

喧騒が始まり、瑞樹は苦笑いしてそう言う。

 

『あ、ですが、カメラが漸く追い付いて確認できましたね。アレは………』

 

『おっと! 増援の歩兵は神狩 白狼選手だ! しかし、彼は西武戦の後、大洗から去ったと言う情報もありましたが………』

 

だがそこで、地上の中継用カメラが追い付き、増援が白狼であった事を確認したヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況する。

 

「帰って来てくれたんですね、神狩先輩!」

 

「あ~! ホントに先輩だぁっ!!」

 

「わっ! ホントだっ!!」

 

「嘘~~」

 

「あい~っ!!」

 

「あ~、ウルセッ! いっぺんに喋るなっ!!」

 

白狼の姿を見て、M3リーからウサギさんチームの面々が次々に顔を出し、其々に口を開くと、煩く思った白狼がそう怒鳴る。

 

「…………」

 

只1人、紗希だけは何も言わずに微笑を浮かべているだけだった。

 

「居たぞっ! フラッグ車だっ!!」

 

「オイ、あのヴァリアントは、ヴィーネのか!?」

 

そこで、カロとスコールを筆頭に、ハロウィン歩兵部隊が姿を見せた!

 

「………ノンビリ話してる暇はねえな。ココは俺が引き受けるから、お前等は本隊に合流しろ。落下傘で降下した時に、この先に5キロ程行った辺りに集まってるのを見た」

 

すると白狼は、ウサギさんチームにそう言いながらバイクから降り、カロとスコールが率いるハロウィン歩兵部隊に向き直る。

 

「引き受けるって、そんな無理ですよ! 多数を相手に1人でなんて!!」

 

梓が1人で中隊規模程は居るハロウィン歩兵を引き受けると言った白狼に、梓がトンでもないと言う。

 

「うだうだいってる場合じゃねえ! 負けたいのかよ!?」

 

「!!………」

 

しかし、白狼にそう怒鳴り返されて、思わず黙り込む。

 

「………今まで勝手な事してた分の借りを返す。返せなかった時は………悪いが自分で何とかしてくれ」

 

白狼は続けてそう言うと、再びハロウィン歩兵部隊を見据える。

 

「………桂利奈、出して」

 

「えっ? で、でも………」

 

「早く!!」

 

「あ、あい~っ!!」

 

梓は桂利奈にそう命令し、M3リーは逃げる様に白狼から離れて行った。

 

「…………」

 

その姿を振り向かず、遠ざかるエンジン音だけを聞きながら、白狼は表情を引き締める。

 

「フラッグ車が逃げるぞっ!!」

 

「逃がすなぁっ! 追えっ!!」

 

ハロウィン歩兵部隊は当然フラッグ車を追おうとするが………

 

「行かせねえよっ!!」

 

白狼がそう言ったかと思うと、複数の手榴弾を纏めて投擲する。

 

「! 手榴弾っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

転がって来た手榴弾を見て、慌てて散開するハロウィン歩兵部隊。

 

しかし、手榴弾は爆発せず、黒い煙を吹き出し始める。

 

「! しまった! 発煙手榴弾かっ!?」

 

「えほっ! ごほっ! クソッ! 何も見えねえっ!!」

 

発煙手榴弾から発生した煙は、アッと言う間に辺り一面に広がり、ハロウィン歩兵部隊は視界を奪われ、或いは煙で咳き込み、行動不能となる。

 

やがて、段々と煙が晴れて行くと………

 

「…………」

 

フラッグ車の姿は完全に見えなくなっていたが、相変わらずその場に佇んでハロウィン歩兵達を見据えている白狼の姿が現れる。

 

「! テメェ、一人で俺達とやり合おうってのか? 舐めた真似してカッコつけてんじゃねえ!!」

 

そんな白狼の姿を見たスコールが、激高した様にそう叫ぶ。

 

「貴様確か、神狩 白狼と言う奴だな。元ジュニアクラスでのトップレーサーだったと聞いたが、随分と焼きが回った様だな」

 

カロも、白狼に向かってそんな事を言い放つ。

 

「気安く呼ぶんじゃねえ………」

 

「! 何っ!?」

 

「俺を名前で呼べるのは友達が仲間だけだ………お前等は………『ベオウルフ』と呼びな」

 

ハロウィン歩兵部隊に向かってそう言い放つ白狼。

 

「へっ! 大した自信じゃねえか! なら!………」

 

「待て、カロ! お前が出張るまでも無い! こんな奴、俺達だけで十分だっ!!」

 

その言葉を挑発と受け取ったカロが、お馴染みの髪を整える仕草をしながら、白狼と対峙しようとしたところ、スコールにそう言って止められる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それと同時に、ハロウィン歩兵部隊が一斉に、白狼に向かってU.S.M1カービンを構える。

 

「撃てぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そして、スコールの合図で、白狼に向かって一斉射撃を開始した!!

 

「フッ!!」

 

白狼はすぐに、転がる様に跳んで、近くに在った木箱の影に入る。

 

「撃て撃てーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかし、ハロウィン歩兵部隊からの射撃は止まらず、白狼が隠れている木箱がドンドン穴だらけにされて行く!

 

中には、木箱を完全に貫通したモノもある。

 

「撃ち方止めーっ!!」

 

再びスコールの号令で、射撃が中止される。

 

木箱は穴だらけである、貫通弾も多数有る状態だった。

 

「………見て来い、カルロ」

 

「ハッ!」

 

スコールに言われ、カルロと呼ばれた歩兵が、白狼が隠れた木箱に近づく。

 

その途端!

 

「オラッ!!」

 

「がっ!?」

 

バッと現れた白狼に、M1カービンを構えた腕ごと掴まれ、投げ技を掛けられる!

 

投げ飛ばされた歩兵は、頭から地面に叩き付けられて、戦死となる。

 

「オラオラオラァッ!!」

 

そして白狼は、奪ったM1カービンを、ハロウィン歩兵達に向かって乱射する!

 

「うわっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

「ち、散れっ! 散れっ!!」

 

弾が命中して戦死判定を受ける歩兵が出るのを見て、スコールが慌てて指示を飛ばす。

 

「!!」

 

その一瞬の隙に、白狼はM1カービンの銃身の方を掴んで棍棒の様に構え、ハロウィン歩兵の中に突撃した!

 

「ホワタァッ!!」

 

「ガフッ!?」

 

そして、近場に居たハロウィン歩兵の頭を思いっきり殴打!

 

殴打されたハロウィン歩兵は、気絶して倒れる。

 

「! このっ!?」

 

それを見て、別のハロウィン歩兵が、白狼にM1カービンを向けて発砲する!

 

「おっと!」

 

「ぐああっ!?」

 

しかし白狼は、別の手近に居たハロウィン歩兵を掴まえたかと思うと、そのまま盾にしてM1カービンの弾を受けさせる。

 

「あ!? し、しまった!?………」

 

「セイッ!!」

 

フレンドリーファイヤに慌てるハロウィン歩兵に向かって、白狼は盾に使って戦死判定となっていたハロウィン歩兵を物の様に投げつける!

 

「!? ぐはっ!?」

 

「良い夢を………」

 

戦死判定を受けた歩兵ともつれ合って倒れたハロウィン歩兵に、白狼は接近すると、残っていたM1カービンの弾を全弾叩き込んだ!

 

「このぉっ!!」

 

そこで更に別のハロウィン歩兵が、着剣したM1カービンで白狼に踊り掛かる!

 

「!!」

 

すると白狼は、弾の無くなったM1カービンを捨てたかと思うと、腰のベルトに携えていた………ヌンチャクを手にした!

 

「オワタァッ!!」

 

「ガハッ!?」

 

そして瞬時に、着剣したM1カービンで踊り掛かって来たハロウィン歩兵を返り討ちにする!

 

「ホオオオオオオォォォォォォーーーーーーー………アチャーッ!!」

 

そのまま気合の叫びと共に、見事なヌンチャク捌きを披露する白狼。

 

その姿はまるで、ジークンドーの使い手である某有名カンフースターを思い起こさせる。

 

「ううっ!?………」

 

「!?」

 

その妙な迫力の前に、ハロウィン歩兵達が1歩後ずさる。

 

「こ、このぉっ!!」

 

だが、1人のハロウィン歩兵がその迫力にも負けず、白狼に向かってM1カービンを構えて引き金を引く。

 

その瞬間!!

 

「オワタァッ!!」

 

何と!

 

信じられない事に、白狼は飛んで来た銃弾を、ヌンチャクを振って叩き落とした!

 

「!? んなっ!?」

 

驚きの余り、発砲したハロウィン歩兵が固まってしまうと………

 

「ホワチャァッ!!」

 

「ゲボアッ!?」

 

白狼は一瞬でそのハロウィン歩兵に接近し、ヌンチャクの1撃で沈める!

 

「アチャーッ!! オワタァッ!! ホワチャァッ!!」

 

「グハッ!?」

 

「ゲホッ!?」

 

「ゲボラッ!?」

 

そのままヌンチャクを振り回し、ハロウィン歩兵を薙ぎ倒して行く白狼。

 

「ええいっ! だらしのない連中め! こうなれば俺が相手だっ!!」

 

その様子を見かねた様に、スコールが白狼に肉薄する。

 

「オワタァッ!!」

 

すぐさま白狼は、スコールの顎にヌンチャクの1撃を叩き込む!

 

「ふんっ! 何だソレは?」

 

しかし、スコールには全く効いておらず、平然としている。

 

「!? アチャーッ!! オワタァッ!! ホワチャァッ!!」

 

白狼は一瞬驚いた様子を見せながらも、今度は連続で、スコールの頭に集中的にヌンチャクの攻撃を叩き込む!

 

………が!!

 

「こそばゆいわぁっ!!」

 

それでも尚、スコールに応えた様子は無かった!

 

「ぬんっ!?」

 

「ぐっ!?」

 

スコールは右手で白狼の頭を、アイアンクロー宜しく鷲掴みにする!

 

「ぬああああああああっ!!」

 

そして気合の声と共に持ち上げて、左手の鉄拳で殴り飛ばす。

 

「ぐああっ!?」

 

吹き飛ばされた白狼だったが、すぐに受け身を取って着地する。

 

「今だぁ! 撃てぇーっ!!」

 

そこでスコールがそう命じ、再びハロウィン歩兵部隊が、白狼に向かって銃撃を見舞う。

 

「!!」

 

すると白狼は、近くに在った森林地帯の茂みの中へと逃げ込む!

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

茂みに向かって射撃を続けるハロウィン歩兵部隊。

 

しかし、幾ら撃っても手応えが無い………

 

「クソッ! 追え追え! 絶対に逃がすなっ!!」

 

スコールがそう命じ、ハロウィン歩兵部隊は森林地帯へと足を踏み入れて行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯内………

 

「居たかっ!?」

 

「いや、居ない!」

 

「コッチもだ!」

 

茂みの中を漁る様に、白狼の姿を追い求めるハロウィン歩兵部隊。

 

「気を付けろ! 何処から出て来るか分からんぞ!!」

 

と、スコールがそう注意を飛ばした瞬間!

 

木々の合間から、『黒い物体』が飛んで来る!

 

「!?」

 

「スコールさん! 危ないっ!!」

 

驚くスコールの前に、ハロウィン歩兵が躍り出る!

 

「!? ゴハッ!?」

 

その身を犠牲に、スコールへの攻撃を防いだハロウィン歩兵。

 

「! オイッ!?」

 

倒れたハロウィン歩兵の状態を見るスコールだったが、既に戦死判定が下っていた。

 

「外したか………」

 

そう言いながら現れたのは、中国の暗器『流星錘』を携えた白狼だった。

 

「貴様っ!」

 

「よくも戦友をっ!!」

 

怒りに駆られたハロウィン歩兵達が、その白狼へと襲い掛かるが………

 

「ハッ! ホッ! そりゃあっ!!」

 

「ゲボッ!?」

 

「ブバッ!?」

 

襲い掛かったハロウィン歩兵達は、次々に流星錘の攻撃を喰らい、倒されて行く。

 

「オノレェッ! もう許さんぞぉっ!!」

 

とそこで、今度はスコールが、白狼に向かって突撃する!

 

「そらよっ!!」

 

「ブッ!?」

 

そんなスコールにも、白狼は容赦無く流星錘での攻撃を、顔面に浴びせた!

 

「何のこれしきぃっ!!」

 

しかし、スコールは僅かに後ずさっただけで、再び白狼へと向かって行く。

 

「じゃあもう1丁だっ!!」

 

すると白狼は、流星錘を振り回して勢いを付けると、真上からスコールの脳天へと叩き付けた

 

「!?!?」

 

目の前に星が散らばるスコール。

 

「! ぬんがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、それでもスコールは気合を入れる様に叫び、踏み止まる。

 

恐ろしいまでの頑丈さである。

 

「チッ、無駄に丈夫な野郎だぜ………」

 

と、白狼はそう言ったかと思うと………

 

「…………」

 

その場に気を付けして、両手を拝む様に合わせると、目を閉じた。

 

その姿はまるで、瞑想している様にも見える………

 

「何だぁっ!? 俺様の頑丈さに恐れをなしたかぁっ!?」

 

しかしスコールは、自分に気迫負けしたと思い込み、足元に落ちていたM1カービンを手にすると、白狼へと狙いを定める。

 

「…………」

 

それでも尚。白狼は瞑想を続ける。

 

「………!!」

 

不意に目を見開いたかと思うと、流星錘を鎖ごとスコール目掛けて投げつけた!

 

流星錘はスコールの両足に巻き付く!

 

「ぬおっ!? 何のこれしきぃっ!!」

 

倒れそうになったスコールだが、気合で耐える。

 

「!?」

 

だが、そこでスコールが見たモノは………

 

自分に向かって空中回転から跳び蹴りの姿勢を取る白狼の姿だった!

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の雄叫び共に、白狼はスコールの胸にキックを食らわせる!!

 

(!? な、何だこの衝撃はぁっ!?)

 

途端に、スコールの身体には、まるで10トントラックにでも衝突された様な衝撃が走る!

 

「!? ぬ、ぬあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

耐えようとしたスコールだったが耐え切れず、木々を薙ぎ倒しながらブッ飛ばされた!!

 

その際に、足に巻き付いていた流星錘が外れる。

 

「ま、まだだぁっ! まだ、終わり………では………」

 

そう気合を入れながら起き上がろうとしたスコールだったが………

 

途中で力尽きた様にガクリと崩れ、再び地面に倒れると、そのまま戦死と判定される。

 

「ス、スコールさん!」

 

「そんなっ!?」

 

それを見た残存ハロウィン歩兵部隊に動揺が走る。

 

タフさだけならハロウィン1である筈のスコールが、白狼の跳び蹴り1発で倒されてしまったのだ。

 

動揺するなという方が無理である。

 

「…………」

 

しかし、そんな中で、狙撃銃にて白狼を狙う者が居た………

 

「…………」

 

スコープの真ん中に、白狼の頭を納めるハロウィン狙撃兵。

 

そして、引き金に指が掛けられる………

 

………と、その時!

 

「………そこだなっ!!」

 

白狼はそう良い放ったかと思うと、腰のベルトから今度はボウガンを手に取り、何処へともなく発射した!

 

放たれたボウガンの矢は、木々や障害物の間の僅かな隙間を一直線に抜けて行き………

 

白狼の頭に狙いを定めていたハロウィン狙撃兵のヘルメットに突き刺さった!

 

「!? 馬鹿………な………」

 

ハロウィン狙撃兵はそう呟き、バタリと倒れる。

 

「!? 何だっ!?」

 

「今誰かやられたのか!?」

 

しかし、ハロウィン歩兵達は、その狙撃兵の存在に気づいていないかの様に、そんな会話を繰り広げる。

 

「何故、僕の………この『サミー』の居場所が分かったんだ?………」

 

その言葉と共に戦死判定を受けるハロウィン狙撃兵・『サミー』

 

何を隠そう、この男こそ、大洗の作戦を筒抜けにした張本人である。

 

彼の特技は狙撃の腕………

 

………ではなく、その存在感の薄さにある。

 

何せ、大洗が戦車道を復活させた時から、ズッと密かに学園艦に潜んで偵察を続けていて、全然気づかれていなかった程である。

 

屋上に陣取っていた大洗狙撃部隊をカウンタースナイプしたのも彼である。

 

「存在は消せても、気配までは消せてなかったみたいだな………」

 

姿の見えないサミーに向かって、白狼はそう言い放つ。

 

「サミーさんがやられたみたいだぞ!」

 

「そんな!?」

 

「まさかっ!?」

 

と、その様子を、森林地帯に面した廃墟ビルの屋上に陣取っていたハロウィン狙撃兵部隊が確認する。

 

「クソッ! サミーさんの仇だっ!!」

 

「構えっ!!」

 

サミーの仇を取ろうと、ハロウィン狙撃兵部隊は一斉に狙撃銃を白狼に向かって構える。

 

が………

 

「!? 居ないっ!?」

 

「何処へ行ったっ!?」

 

スコープを覗き込んだ瞬間には、白狼の姿は忽然と消えていた。

 

「!? 下だっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ハロウィン狙撃兵の1人がそう声を挙げ、他の狙撃兵達も一斉に眼下を見やると、何時の間にか廃墟ビルの間近にまで接近して来ていた白狼の姿を確認する。

 

「…………」

 

すると白狼は、ガントレットを填めていた左腕を、廃墟ビルの屋上へと向けた。

 

そして何と!

 

ガントレットから細いワイヤーが射出され、先端に装着されていたフックが屋上に引っ掛かったかと思うと………

 

「そらっ!!」

 

白狼はワイヤーを巻き取りながら上昇!

 

そのまま屋上へと一瞬で登り上がった!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「近づいちまえばコッチのもんだ!!」

 

仰天するハロウィン狙撃兵達に、白狼は接近戦を挑む。

 

「うわっ!?」

 

「ぐわっ!?」

 

発見された上に接近戦に持ち込まれたハロウィン狙撃兵達は為す術も無く、次々に白狼に殴り倒されて、戦死判定となって行く。

 

「クウッ! 距離を………」

 

「そらっ!!」

 

「がはっ!?」

 

距離を取ろうとしたハロウィン狙撃兵も、ボウガンで撃ち抜き、遂に全滅させる。

 

「良し、コレで………!?」

 

と、白狼がそう言った瞬間!!

 

彼が居た廃墟ビルに、球形砲弾が着弾!!

 

大爆発が起こったかと思うと、衝撃が廃墟ビルが完全に崩れる!!

 

立ち上った粉煙が、辺り覆い尽くす。

 

白狼は崩落に飲まれてしまったかに見えたが………

 

「ケホッ! 何だってんだ、クソッ!!」

 

粉煙が晴れて来ると、崩れた廃墟ビルの瓦礫の上に、無事な姿を見せた。

 

「少しはやるみてぇだな………だが! コレ以上の勝手は俺がスマートに許さねえぜっ!!」

 

球形砲弾を蹴り込んだカロが、白狼に向かって、お馴染みの櫛で髪を整えるパフォーマンスをしながらそう言い放つ。

 

「うっとしいから、髪切れ」

 

そんなカロの仕草にイラついたのか、そんな事を言う白狼。

 

「! テメェッ! 1番言っちゃならねえ事を言ったな! 絶対にスマートに葬ってやるぜっ!!」

 

それが逆鱗に触れたのか、カロは怒りを露わに白狼を睨みつけるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

やっと到着して白狼。
後れを取り戻すべく大奮戦です。
そして次回はカロとの対決………

更に、大洗機甲部隊も逆転の作戦に入ります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第160話『神狩 白狼、まだまだ奮戦します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第160話『神狩 白狼、まだまだ奮戦します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯の一角………

 

「オラァッ!!」

 

新たな球形砲弾を、白狼目掛けて蹴り飛ばすカロ。

 

「ふう~~~~………」

 

すると白狼は、深く呼吸したかと思うと、円を描く様な動きを取り始める。

 

太極拳の動きだ。

 

白狼の周りは完全に静かな世界へと変わってゆき、最早その耳には喧騒すらも聞こえない………

 

そこへ、カロが蹴った球形砲弾が迫る。

 

「!!」

 

すると白狼は、その球形砲弾に対し、まるで生クリームを掻き混ぜる様に回転させた右手を差し出す。

 

そうすると何と!!

 

蹴られた球形砲弾の勢いが急激に衰え始める。

 

そのまま白狼が身体を回転させると、球形砲弾はまるで白狼の手に吸い付いているかの様に一緒に動き、やがてはまるでバスケットボールの様に右手の人差し指の上で回転させる。

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

「ホラ、返すぜっ!!」

 

驚くカロに向かって、白狼は球形砲弾を『投げ返す』!!

 

「!? うおおっ!?」

 

「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

咄嗟にその場に伏せて交わしたカロだったが、後方に居たハロウィン歩兵達が巻き添えを喰らった形で戦死判定となった。

 

「! しまったっ!?」

 

「如何した? もう終わりか?」

 

その光景に思わず声を挙げるカロだったが、白狼はそう言って挑発する。

 

「! テメェ………」

 

そんな白狼の姿に、カロは歯軋りをする。

 

「カロさん! 援護しますっ!!」

 

とそこで、残っていたハロウィン歩兵達がカロの援護に入ろうとする。

 

「来るんじゃねえっ!!」

 

だが、カロはそれを制止する。

 

「! しかし!………」

 

「オメェ―等は本隊と合流して大洗を叩きに行けっ! 例えコイツが強くたって、フラッグ車をやっちまえば大洗の負けだ!!」

 

「! 分かりましたっ! 本隊に合流しますっ!!」

 

その指示を聞き、残存ハロウィン歩兵達は、本隊への合流に向かうのだった。

 

「何だ? 勝てないと思って諦めたのか?」

 

「勘違いすんな。飽く迄戦略的な判断だ。貴様は必ず倒す。オオカミの名は今日地に落ちる!」

 

更に挑発する様な白狼に、カロはそう言い放って、髪を櫛で整える。

 

「オオカミってのは群れで行動するスマートな動物だ! お前みたいな孤高気取りの奴なんかに、オオカミの名を名乗る権利はねえっ!!」

 

「オオカミだって色々居るんだ。まあ、確かに俺は群れより1匹が良いけどな」

 

「ハッ! それで、大洗を離れたんだろ! 仲間を信じず、勝手に逃げた捨て犬みたいなもんだ!」

 

「事情が悪くて、離れたんだ。あの時の俺は全然ダメダメで、どーせ俺なんかいなくても、大洗の優勝は決まりだと思ったからな」

 

「そういうのを逃げるって言うんだよ!」

 

「………此処に来る前に冥桜の連中に聞いたところ、連中俺の事を探しに来たってよ。ただ単にお節介なのかお人好しなのか、俺には全然分かんねえな………けど、態々探しに来てもらった責任ぐらいは執らねえとな」

 

「お前を探しにだと………なら………その仲間に対して………その態度は何だぁっ!!」

 

と、そう叫んだと同時に、カロは白狼に向かって突撃!

 

蹴り上げを繰り出す!

 

「おっと!」

 

僅かに後退してかわす白狼。

 

だが………

 

「甘いっ!!」

 

カロがそう言うと、蹴り上げた足が急降下して来る!

 

ネリチャギ(踵落とし)である!!

 

「!?」

 

しかし、白狼はこの攻撃を、身体をスピンさせた体捌きで何とか避ける!

 

「! チイッ!!………」

 

が、身体に僅かに掠り、それだけでも結構なダメージを受けた。

 

「フフフ………」

 

カロは不敵に笑ったかと思うと、軽やかなステップで一旦距離を取ったかと思うと………

 

「!? グアッ!?」

 

白狼は突然身体に衝撃を感じ、後ずさる。

 

見れば、衝撃を感じた部分には足型が残っており、カロは何時の間にか中段前蹴りを繰り出した姿勢となっていた。

 

「成程………やるな」

 

「今、何があったのか分かったのですか、宗近さん」

 

その様子を、観客席で見ていた宗近と三日月がそう言い合う。

 

「三日月、居合い抜きを知っているな? 先程のはアレと同じでな………鞘に納められた刀を高速で抜くと同じく、アレは膝から先が見えない程の速度でキックを繰り出したんだ」

 

「見えないキック………」

 

宗近の解説に、三日月は唖然とする。

 

「………つまらねえ技だ」

 

しかし、白狼はその見えない速度での蹴りを食らったのにも関わらずに、首を鳴らして平然としている様な態度を執る。

 

「………この後に及んで挑発か。スマートじゃねえぜ」

 

カロはそんな態度が気にくわないのか、顔を強張らせる。

 

「セイヤァッ!!」

 

「!!」

 

と、不意を衝く様に一気に接近したカロが蹴りを繰り出すが、白狼は体捌きで、後ろに回り込み、攻撃しようしたが………

 

「そこだぁっ!!」

 

カロは白狼の事を見ないまま、背面に向かって蹴りを繰り出した!

 

「!?」

 

腕を交差させてガードする白狼だったが、腕には痺れが残る。

 

「凄いのです!」

 

「後ろは見えない筈なのに、背面から向かってくる白狼に蹴りを出すなんて………」

 

「ハラショー」

 

観客席にいる電、雷、響は驚く。

 

「今のはピットロチャギか………」

 

「は? ピッコロちゃん?」

 

天龍の言葉をそう聞き違える暁。

 

「ピットロチャギ。言うなりゃひねり蹴りだな。通常は真横にある目標に対して内から外にひねりながら蹴り込む技だな。パワーより柔軟さが一番重要なテコンドーならではの足技さ」

 

「何それ、スゴッ!!」

 

先程のカロの蹴り技を天龍は解説するが、暁は唖然とする。

 

「ソラソラソラァッ!!」

 

カロは更にヨプチャチルギ(横蹴り)、アプチャプシギ(前蹴り)、コロチャギ(掛け蹴り)と連続仕掛ける。

 

(チイッ! はえぇっ!!)

 

蹴り技のオンパレードな上に、技自体の速度に、白狼は避けるのと捌くので精一杯となる。

 

「調子に………乗るなっ!!」

 

「ガハッ!?」

 

だが、一瞬の隙を衝いて蹴りを弾いたかと思うと、そこから外門頂肘を繰り出した!

 

その強烈な一撃にカロは吹き飛ばされ、観客席は歓声を上げた。

 

「………グウッ!!」

 

しかしカロは鳩尾を押さえながら、踏み留まる!

 

「しぶといなっ!!」

 

それを見た白狼は追い討ちを掛ける為、カロに向かって走り出す。

 

だが!

 

「! そこだぁっ!?」

 

カロは素早く片足を天高く上げると、白狼の方に向かって落とした!

 

「!? ガッ!?………」

 

落ちる速度の速いネリチャギは、白狼の左肩に直撃!!

 

すると、グギッと言う何か嫌な音が響き渡る。

 

「!!」

 

即座に白狼は痛みで気付く………

 

左鎖骨にヒビが入ったと………

 

「グウッ!」

 

「うおおおっ!!」

 

左肩を押さえながら、白狼がカロを見据えると、カロは攻撃の手を緩めず、更に仕掛けてくる。

 

懐からコルト・ガバメントを取り出すと、白狼に向かって発砲する!

 

「!!」

 

しかし、白狼は銃口の向きで弾道を見極めると、カロへと最接近!

 

そのまま、ガバメントを構えていた腕を取って、1本背負いの様に投げ飛ばす!!

 

「うおっ!?」

 

「おりゃああっ!!」

 

投げ飛ばされ、空中で無防備となったカロに向かって跳び蹴りを放ったかと思うと、跳び蹴りの反動で反転し、更にキックを見舞ったっ!!

 

「ガハッ!………まだまだぁっ!!」

 

反転飛び蹴りを食らい、吹き飛ばされたものの、カロは受け身を取って耐える。

 

「うおおおっ!!」

 

そのカロに向かって、着地した瞬間に走り出す白狼。

 

「!!」

 

カロは白狼を一瞬睨み付けたかと思うと、白狼に向かって連続バク転で迫る!

 

「!?」

 

「オラァッ!!」

 

その意外な行動に白狼が一瞬唖然とした瞬間に、カロはドロップキックを食らわせる!

 

「ガッ!?」

 

「ララララァーッ!!」

 

更にそのまま、連続で蹴りを食らわせるカロ。

 

「トドメだぁっ!!」

 

そして着地すると、再びガバメントを取り出し、残り全弾を白狼に叩き込んだ!!

 

「!!………」

 

諸に喰らい、数歩後ずさったかと思うと、そのまま倒れそうになる白狼。

 

「………!!」

 

だが、寸前のところで踏ん張る!

 

「!? 嘘だろっ!?」

 

「………急所は外れたみたいだな」

 

驚愕するカロに対し、白狼は他人事の様にそう言い放つ。

 

「コイツ!!………」

 

苛立ちを露わに、カロは弾の無くなったガバメントを捨てる。

 

「…………」

 

すると白狼は両手を広げる姿勢を執った。

 

「さあ、来いよ!」

 

「な、何っ!?」

 

「今、俺の鎖骨にはヒビが入ってる! 確実に勝ちを手に入れるんなら、折らなきゃ意味ないぞ!!」

 

『何とぉっ! 神狩選手! 鎖骨にビビが入っている事を自ら露呈し、挑発に使うぅっ!!』

 

『バカじゃないですか』

 

『ホント、本物のバカだわ………』

 

白狼のその挑発を実況するヒートマン佐々木の横では、DJ田中と瑞樹がそう酷評を下していた。

 

「………ふざけやがって。そこまで言うんなら覚悟しとけよ! 犬ッコロ!!」

 

挑発に乗ったカロは思い切りジャンプし、白狼に向かって空中踵落としを繰り出す!!

 

「貰ったぁっ!!」

 

踵落としは見事に白狼の肩に直撃した!!

 

しかし………

 

「………残念だが………そこは鎖骨じゃない………」

 

「!? しまったっ!?」

 

怒りで僅かに狙いを誤った為、カロは白狼のヒビが入った鎖骨を僅かに外してしまう!

 

「狙いの粗さが仇になったな!!」

 

直後に!!

 

白狼は腕を思いっきり振り上げ、カロの足の骨………腓骨を叩き折った!

 

「! があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

カロは苦悶の表情を浮かべ、悲鳴を挙げながら倒れる。

 

「…………」

 

白狼は、そんなカロを一瞥すると、その場から去ろうとする。

 

「待てっ!!」

 

「!?」

 

しかし、そう言う声が聞こえて、白狼が驚きながら振り返ると、そこには腫れ上がった足で佇むカロの姿が在った。

 

「ベオウルフ!! 足が折れても俺はまだ立っているぞ!!」

 

「………いや………もうケリは着いた」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊本隊は………

 

「西住総隊長っ!!」

 

「ウサギさんチーム! 良かった………無事だったんだね」

 

残存大洗機甲部隊が集結していた地点に漸くの事で合流したM3リーと梓の姿を見て、みほは安堵の声を漏らす。

 

「ハイ! 神狩先輩が助けてくれたんです!」

 

「!? 神狩殿が!?」

 

「白狼が!? 白狼が帰って来たんですかっ!?」

 

梓の報告を聞いた優花里と飛彗がそう驚きの声を挙げる。

 

「ハイ。今は私達に襲い掛かって来たハロウィン歩兵部隊を相手にしてくれています!」

 

「そうですか………やっぱり帰って来てくれたんですね」

 

「神狩殿………」

 

安堵の表情を浮かべる飛彗と、頬を紅潮させて両手を組む優花里。

 

「だが、現在の我々の状況は非常に厳しい………」

 

だがそこで、迫信が珍しく難しい顔でそう呟く。

 

その言葉通り、現在大洗機甲部隊は、戦車チームはあんこうチーム、カメさんチーム、うさぎさんチーム、そしてサンショウウオさんチームだけ………

 

歩兵部隊は、弘樹、地市、了平、楓、迫信、秀人、俊、大詔、小太郎、灰史、ゾルダート、光照、誠也、清十郎、月人、シメオン、鋼賀、ハンター、紫朗、飛彗、弁慶、シャッコーのメンバーを含め、僅か100名足らず………

 

壊滅寸前の被害だった………

 

「如何するの? この戦力で?………」

 

「…………」

 

沙織が不安そうにみほにそう尋ねるが、みほの表情は暗い………

 

「恐らく、敵は一気に勝負を着けようと、全戦力を投入してくるだろう………」

 

「正面決戦となれば、我々に勝ち目は無い………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大詔とゾルダートの言葉が、残存大洗機甲部隊メンバーの心に突き刺さる。

 

「今度ばかりはホントに駄目かもな………」

 

「うわ~~~んっ! 柚子ちゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~んっ!!」

 

「も、桃ちゃん落ち着いて!」

 

俊が思わずそう呟くと、絶望的な悲鳴と共に、桃が柚子に抱き付く。

 

(如何しよう………このままじゃ負けちゃう………そしたら学校が………)

 

必死に考えを巡らせるみほだったが、自分の手が読まれている以上、思いつく限りの作戦は使えない………

 

「全員、良く聞けっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで不意に弘樹がそう声を挙げ、残存大洗機甲部隊メンバーの視線が弘樹に集まる。

 

「現在の我々に状況は非常に厳しい………だが、我々はまだ戦闘継続が可能である! 元より負けられない戦いだと言うのは百も承知の筈だ!!」

 

「けどよ、弘樹。ウチの司令塔のみほちゃんの作戦が読まれてるんだぜ?」

 

「ならば全員で知恵を絞って作戦を考えれば良い! 今こそコレまでの学習の成果を発揮する時だ! 大洗の意地を見せろっ!!」

 

了平の弱気な台詞も跳ね飛ばし、弘樹はそう言い放つ。

 

「………よおし! やってやらぁっ!!」

 

「このまま負けたとあっちゃあ、女子学園の皆に申し訳が立たないぜ!」

 

「元より徹底抗戦であああああああるっ! 誇り高き大洗に敗退の文字などなあああああああいっ!!」

 

それを聞いた残存大洗機甲部隊メンバーの指揮が上がり、月人も相変わらずテンションが高い様子を見せる。

 

「弘樹くん………」

 

「…………」

 

そんな弘樹にみほが声を掛けると、弘樹はただ、みほの方を見返して無言で頷いた。

 

「………態勢を立て直します!! 何か意見が有れば、遠慮無く言って下さいっ!!」

 

そこでみほも表情を引き締め、皆に向かって意見を集う。

 

「兎に角、相手の数を一気に減らせる作戦が必要だ!」

 

「洋上支援を要請して、艦砲射撃を浴びせて貰うのは如何だ?」

 

「コチラは敵の位置を掴めていない。艦隊の偵察機を使っては気づかれて分散されてしまう。何より、洋上支援自体が妨害される可能性も有る」

 

「特攻でもするか?」

 

「それこそ勝ち目が無くなるだけだぞ!」

 

皆が考えた、様々な作戦が議論されて行く………

 

「………うん? アレは?………」

 

とそんな中、周囲を警戒していた地市が、何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「如何した? 地市?」

 

「いや、『アレ』なんだけどよぉ………使えねえかなと思って」

 

弘樹が尋ねると、地市は見つけた『アレ』を指差してそう言う。

 

「『アレ』をか?………」

 

「いやな、この前見た映画で、『アレ』を使ったシーンがあってな………」

 

「あっ! その映画! 私も見ましたぁっ!!」

 

怪訝な顔をする弘樹に地市がそう言うと、M3リーの桂利奈がそう言って来る。

 

「桂利奈、どんな風に使われたの?」

 

「えっとねぇ………」

 

梓が尋ねると、桂利奈が映画の内容を思い出しながら語り始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………と言う感じだったんだよぉ」

 

「何ソレ?」

 

「ありえな~い」

 

桂利奈の話を聞き終えたあやとあゆみがそう声を挙げる。

 

「幾ら何でも、それは無いよね~、梓ちゃ~ん」

 

優希がそう言いながら、梓の姿を見上げる。

 

「…………」

 

しかし梓は、何時の間にか地図を取り出して、何かを考えている様な表情となっている。

 

「? 梓ちゃん?」

 

「西住総隊長! 地図を見て貰えますかっ!? B5の地点です!!」

 

首を傾げる優希だったが、梓はそれに構わず、みほへと声を掛ける。

 

「B5?………! 此処はっ!?」

 

「此処を使えば、さっき桂利奈が言ってた事が出来ると思うんですっ!!」

 

促されて地図を見たみほが何かに気づき、梓がそう言う。

 

「ええっ? 映画でやってた手を使うのぉっ!?」

 

「幾ら何でも無茶苦茶だよ~」

 

梓の意見に、それは無いと言う様な声を挙げるあやとあゆみ。

 

「………いや、奇抜で意外と行けるかも知れないよ」

 

しかしそこで、同じ様に地図を見ていた迫信がそう言った。

 

「この際、使える手は全て使ってみるまでだ。案外行けるかも知れん」

 

弘樹もそう同意する。

 

「すぐに作業に掛かりますっ!!」

 

「時間が惜しい! 全員でやるぞっ!!」

 

直後に、灰史を筆頭に、残存大洗機甲部隊メンバーが作戦への準備に取り掛かり始める。

 

「西住総隊長、作業が完了するまで、時間を稼ぐ必要があります。洋上支援を要請しましょう」

 

「うん………コチラは大洗機甲部隊総隊長、西住 みほ。洋上支援を要請します!」

 

弘樹のその言葉に、みほは護の呉造船工業学校艦隊へ支援要請を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は………

 

『偵察機よりシュガー総隊長へ。洋上に多数の艦影を確認。大洗機甲部隊の支援艦隊と思われます』

 

「了解………艦砲射撃で一気に撃破を狙う積りかしら?」

 

偵察機から、洋上より艦隊が接近しているの報告を受け、シュガーがそう思案する。

 

「如何します、総隊長?」

 

「一旦停止。バラバラになって遮蔽物に退避して。コチラも洋上支援を呼ぶわ。安全が確認され次第、追撃を続行するわよ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

シュガーがそう指示すると、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は小隊規模に分散し、頑強な遮蔽物の影へと入り込む。

 

「悪いけど、ウチの支援艦隊は対洋上支援艦隊用に特化した艦隊よ。そっちは手も足もだ出せないわ。シュガーより支援艦隊へ」

 

不敵に笑いながら、シュガーは自軍の支援艦隊へと通信を送るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

試合会場に面している海から、数隻の艦艇が波飛沫を上げて向かって来る。

 

呉造船工業高校の支援艦隊だ。

 

伊勢型戦艦の1番艦『伊勢』と2番艦の『日向』を中心に、球磨型軽巡洋艦5番艦『木曾』、長良型軽巡洋艦4番艦『鬼怒』と同5番艦『阿武隈』

 

そして、護が駆る雪風と初風、天津風、時津風の第十六駆逐隊に、特Ⅱ型、通称綾波型7番艦『朧』、同8番艦『曙』、同9番艦『漣』、同10番艦『潮』から成る『第七駆逐隊』が、輪形陣を取って航行している。

 

「間も無く、試合会場が伊勢と日向の射程に入る。全艦、戦闘隊形を取れ!」

 

「戦闘隊形へ移行!」

 

「了解っ!!」

 

伊勢に座乗している艦隊司令からそう通達が入り、雪風の艦橋でも護の指示が飛ぶ。

 

各艦が動き出し、艦隊が陣形を変えて行く。

 

と、その時!!

 

「!! 9時方向に雷跡っ!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

見張り要員からそう報告が挙がり、護がすぐに双眼鏡で9時方向を確認すると、そこには確かに、艦隊に向かって来る2本の雷跡が在った!

 

「! 全艦に通達! 9時方向に雷跡を確認! 数2! 距離1000! 速力、凡そ40ノット!!」

 

「戦闘陣形展開中止! 全艦、一斉回頭っ!!」

 

護がすぐさま全艦に報告すると、艦隊司令からそう指示が飛び、艦隊は一斉に回頭を始める。

 

その間に、魚雷はドンドン艦隊へと迫って来る。

 

「かわせーっ!!」

 

雪風艦橋の見張り要員がそう言った瞬間………

 

魚雷は艦隊の間を擦り抜けて行った………

 

「かわした!」

 

「見張り要員! 付近に水上艦、或いは敵雷撃機は見えるかっ!?」

 

艦橋見張り員がそう言う中、護は伝声管でマスト頭頂部の見張り小屋の見張り要員にそう問い質す。

 

「いえ! 敵艦、並びに敵航空機の存在は見受けられず!!」

 

「と言う事は、さっきの雷撃は潜水艦か………」

 

先程の雷撃が潜水艦によるものだと判断した護の表情が険しくなる。

 

大日本帝国海軍の艦船達からしてみれば、潜水艦は忌むべき相手だった。

 

元々、帝国海軍は対潜能力が低く、多くの艦艇が潜水艦の雷撃によって撃沈されている。

 

「ソナー! 水中の音を聞き逃すなっ! 見張り要員! 潜望鏡が見えないか、注意しろ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

「全艦! 対潜警戒態勢っ!!」

 

護がソナー員と見張り要員にそう指示する中、司令官からもそう指示が飛び、支援艦隊は対潜警戒態勢を取る。

 

「外したか………」

 

「ですが、コレで敵艦隊は迂闊な行動は出来なくなりました」

 

その水面下にて、ガトー級潜水艦6番艦『ガードフィッシュ』の艦長と副長がそう言い合う。

 

更にガードフィッシュの周りには、同じガトー級潜水艦10番艦『ブラックフィッシュ』、同13番艦『コッド』、同18番艦『フライングフィッシュ』、同20番艦『ハダック』、同23番艦『キングフィッシュ』

 

合計6隻もの潜水艦の艦隊が展開していた。

 

「その通り………後はじっくりと料理してやれば良い」

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の支援艦隊は、水面下にて静かに行動を開始するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ハロウィンのエース、カロと対決する白狼。
激しい戦闘の末に………
カロの自慢の足を叩き折って勝利した白狼。

一方、残存大洗機甲部隊も、弘樹の激で持ち直し、最後の作戦に打って出る。

時間稼ぎとして支援艦隊を投入するが、その艦隊は、ナイトウィッチ&ハロウィンの潜水艦隊に阻まれる………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第161話『反撃開始です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第161話『反撃開始です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け付けた白狼の活躍によって………

 

ハロウィン歩兵部隊のスコールとカロが撃破された………

 

しかし、大洗機甲部隊の戦力は壊滅状態………

 

とてもナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の戦力に対抗出来るとは思えなかった………

 

だが、彼等と彼女達は最後まで諦めず………

 

地市と桂利奈の見た映画を元に、皆の知恵と力を合わせ………

 

最後の作戦に打って出るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

『こちらガードフィッシュ。現在、呉校の艦隊を足止め中。敵はコチラへの対応で手一杯です』

 

「了解。全軍、前進再開するわ!」

 

支援艦隊のガードフィッシュ艦長から報告を受けたシュガーはそう指示を飛ばす。

 

分散して廃墟内等に隠れていたナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々が再び姿を現し、残存大洗機甲部隊が居る場所へと進軍を再開する。

 

と、その進行方向に、砲弾が着弾した!

 

「!!」

 

すぐにシュガーがハッチから出て砲弾が飛んで来た方向を確認すると………

 

そこには、廃墟やその瓦礫の影に車体を隠しながら、自分達に向かって砲撃を行っている残存大洗戦車チームの姿が在った。

 

更に、周りには残存大洗歩兵部隊が展開し、砲兵を中心に射撃準備を整えている。

 

「撃ち方始めぇっ!!」

 

迫信の号令が飛び、歩兵部隊も射撃を開始する。

 

しかし、100人足らずの歩兵と戦車4輌での攻撃は、火力が圧倒的に不足していた………

 

「何だ何だ? こんな火力で正面から挑んで来るなんて? 気でも狂ったの?」

 

「或いは勝ち目が無いと思ってせめて一矢報いようとしてきたのか………」

 

「総隊長、如何します?」

 

ソルトとペッパーがそう言い、マヨネがシュガーに尋ねる。

 

「………ヴァリアントを前へ。3人は火力支援よ。慎重に行きなさい。大洗は追い詰められたからって自棄になる様な部隊じゃないわ」

 

シュガーは飽く迄冷静にそう言い放つ。

 

圧倒的戦力差となりながらも、彼女は決して大洗を侮る様な事はせず、油断もしなかった。

 

「了解。前進します」

 

ヴァリアントが前面に出て、残存大洗機甲部隊からの攻撃を弾き返しながら、ゆっくりと進んで行く。

 

そのヴァリアント達に隠れる様にして、他のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の面々も前進。

 

そして、シュトルムティーガー、ブルムベア、トータスが後位置から火力支援を開始する。

 

残存大洗機甲部隊が展開している場所で、次々に爆発が起こって火柱が立ち上る!

 

「!? うわあっ!?」

 

と、アハト・アハトを水平射撃していた誠也達砲兵が直撃弾を貰う!

 

「! 誠也くん!」

 

「すみません………やられました」

 

完全に壊れたアハト・アハトの傍で、戦死判定を受けた誠也がそう告げて来る。

 

「全員、遅滞行動に入って下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこでみほの指示が飛び、残存大洗機甲部隊は遅滞行動を取り始める。

 

「………敵は遅滞行動を取っている」

 

残存大洗機甲部隊が徐々に後退を始めるのを見て、軍服の上に胸当ての鎧を着け、更にジャック・オー・ランタンの顔をしたマスクを付け、鷲のようなフードがついた特殊な装束のハロウィン歩兵………ジャックがそう指摘する。

 

「ええ、分かってるわ。各員、周囲に注意しつつゆっくりと追撃しなさい」

 

「一気に潰さないんですか?」

 

「そうしようとして返り討ちにあった部隊が幾つ有ると思ってるの? このまま着実に相手の戦力を削りながら行くわよ」

 

戦力差は圧倒的であるが、シュガーは決して油断せず、真綿で首を絞める様にジワジワと追い詰めて行くのだった。

 

「徹甲弾の使用は控えて! 成るべく派手に目を惹ける様に榴弾を使って! 但し、撃破出来ると思ったら躊躇無く撃ってっ!!」

 

「りょ、了解!」

 

「ハイッ!」

 

聖子の指示に、装填手のさゆりと砲手の静香が返事を返す。

 

「! バレンタインがコッチを狙ってるにゃっ!!」

 

とそこで、満里奈がナイトウィッチ戦車チームのバレンタイン歩兵戦車の1輌が、コチラにオードナンスQF 75mm砲を向けているのに気付く。

 

直後に、そのバレンタインは、クロムウェルに向かって発砲した!

 

「! 回避………」

 

「遅滞行動中に大きく動く積り?」

 

慌てて回避の指示を飛ばした聖子だったが、里歌はそう返したかと思うと、クロムウェルに僅かに右を向かせた。

 

すると、バレンタインの撃った砲弾は、角度が浅かった為、傾斜装甲の原理で明後日の方向へ跳ね飛ばされる。

 

「うわっ、とっ! 危なかっ………!? 2時方向にBT-5とBT-7!!」

 

車体に走った衝撃に聖子が思わず声を漏らした直後、ペリスコープ越しにBT-5とBT-7がコチラに主砲を向けている事に気づく。

 

直後に、BT-5とBT-7は発砲する!

 

「! また来た! しかも2発っ!?」

 

「慌てないで………」

 

満里奈が悲鳴の様な声を挙げたが、里歌は落ち着いた様子でクロムウェルを今度は左を向かせたかと、またも角度を衝けた装甲で、相手の砲弾を弾き飛ばす。

 

「! また弾いた!?」

 

「す、凄いです………」

 

「大した事ないわ。クロムウェルのスペックは全部頭に入ってるわ。あのトータス達の攻撃にさえ気を付けていれば、後は皆角度を付けて弾き飛ばせるわ」

 

驚く静香とさゆりに、里歌はさも当然の様にそう言い放つ。

 

「里歌さん………」

 

「感動してる暇が有ったらちゃんと指示しなさい。車長なんでしょ?」

 

「! 了解っ!」

 

感動している様子の聖子に、里歌は素っ気なくそう返すが、聖子は笑顔で敬礼を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

試合会場の上空でも動きが有った………

 

「コレでっ!!」

 

「うおおっ!?」

 

六郎の零戦二一型の翼内20mm機銃がハリケーンを蜂の巣にし、やられたハリケーンからパイロットが脱出すると、機体は炎上して爆散する!

 

「クッ! 弾も残り僅かか………」

 

だが、長く空戦を続けていた六郎の零戦二一型の残弾は尽きかけていた。

 

「…………」

 

同じくハリケーンを新たに1機撃墜したメビウス1の紫電改も、自分も同じだと言う様に翼を振る。

 

「敵の残弾は残り僅かだ!」

 

「この機を逃すな! 一気に畳み掛けろっ!!」

 

敵もそれに気づいているらしく、命令系統混乱と士気低下を狙い、執拗に六郎の零戦二一型とメビウス1の紫電改に攻撃を加えて来る。

 

「クウッ!!」

 

「!!………」

 

六郎とメビウス1が苦い顔を浮かべる。

 

………と、その時!!

 

機銃音が鳴り響くと、六郎とメビウス1に襲い掛かっていたハリケーンが、数機纏めて火を噴いた!!

 

「!? なっ!?」

 

「OK! 間に合ったなっ!!」

 

1機のハリケーンのパイロットが驚きの声を挙げた瞬間、陽気そうな声と共に、空域に新たな5機編成の漆黒の戦闘機隊が現れる!

 

「! 一航専の新手かっ!?」

 

「オイ! あの機体って………」

 

「!? 『疾風』だっ!?」

 

ハリケーンのパイロット達は、その漆黒の戦闘機が全て、大日本帝国陸軍の傑作機………『四式戦闘機・疾風』である事を確認して驚きの声を挙げる。

 

「すみません、坂井総隊長!」

 

「機体の調整に手間取っちまってな」

 

気弱そうな声と、真面目そうな声での通信が、六郎の元へ送られてくる。

 

「いや、良く来てくれた! すまないが此処を頼む! 私とメビウス1は一旦帰投する!」

 

「…………」

 

六郎がそう返し、メビウス1が風防越しに敬礼すると、零戦二一型と紫電改は空域から離脱して行く。

 

「ブレイズ。後ろは任せて」

 

「今日も頼むぜ、分隊長さんよぉ!」

 

「………はい」

 

隊長機の援護位置に付いて居る機体から女性の声がし、再び陽気そうな声が響くと、隊長機から短く返事が返って来る。

 

「野郎! 舐めるなよっ!!」

 

「幾ら疾風でも、コレだけの数を相手に出来ると思うなっ!!」

 

そこでハリケーンの編隊が、一斉に5機の漆黒の疾風へと向かう。

 

「………ラーズグリーズ隊、交戦」

 

漆黒の疾風編隊の隊長がそう言い、尾翼にヴァルキリーの一柱であり『計画を壊す者』と訳される女神・ラーズグリーズのエンブレムを描いた疾風達が戦闘を開始するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃………

 

試合会場に面する海上でも………

 

「爆雷投射っ!!」

 

護の号令で、雪風の爆雷投射機から爆雷が発射される。

 

近くに居た初風、天津風、時津風も次々に爆雷を投射。

 

投射された爆雷が水没したかと思うと、一瞬間があって、次々に水柱が立ち上る!

 

「ソナー! 如何だっ!?」

 

「待って下さい! まだ爆発の残響が………」

 

すぐに潜水艦を撃沈出来たのかと水測員に尋ねる護だが、爆発の残響の為、聞き取れないと返す。

 

「雷跡視認! 魚雷2本が、漣に向かって居ます!!」

 

「!?」

 

と、マスト頭頂部の見張り台の見張員からの報告に、護は双眼鏡を手にして漣の方を確認すると、そこには漣へと向かう2本の雷跡が在った!

 

「! 漣! 8時方向から魚雷だ! 回避しろっ!!」

 

護がすぐに漣へと通信を送ると、漣は大きく回避行動を取り始める。

 

「機関最大戦速っ!!」

 

「舵切れ、舵っ!!」

 

「また潜水艦にやられるなんて勘弁だぜっ!!」

 

漣の艦橋や艦内では、乗員が怒声と共に慌しく走り回っている。

 

太平洋戦争にて、漣は米軍の潜水艦からの魚雷攻撃によって沈められているだけに、切羽詰るものがあった。

 

「駄目です! 魚雷、命中コースですっ!!」

 

だが、乗組員達の奮戦も虚しく、魚雷は直撃コースを取る。

 

「駄目だ………避けられない………衝撃に備えっ!!」

 

最早回避出来ぬと踏んだ漣の艦長は、すぐにそう命令を飛ばし、乗組員達は手近なモノにしがみ付く!

 

しかし、そこで!!

 

轟音が鳴り響いたかと思うと、雷跡が浮かんでいた場所に砲弾が着弾!

 

巨大な水柱が上がり、水中に走った衝撃波が、魚雷を爆発させた!!

 

「! 伊勢か! 助かったっ!!」

 

その砲撃が、伊勢からのモノである事を確認した漣の艦長が、安堵の息を吐きながらそう言う。

 

と、その傍に居た日向の後部から、次々に水上機が発艦している。

 

「! 瑞雲が発艦したか!」

 

漣の艦長が、その発艦した水上機………『瑞雲』を見てそう言う。

 

伊勢と日向は単なる戦艦では無い………

 

艦体後部に、水上機射出機と格納庫を備えた、『航空戦艦』なのである。

 

太平洋戦争に於いては、そのコンセプトで運用される事はなかったが、今時を越え、航空戦艦としての活躍を見せている。

 

潜水艦が居ると思われる場所に、瑞雲は搭載していた爆雷を次々に投下して行く。

 

「後方で爆雷の炸裂音、多数」

 

「やるじゃないか。対潜装備のお粗末な日本艦でかなり正確に攻撃して来ている」

 

ソナー員からの報告に、ガードフィッシュの艦長はそう言い放つ。

 

「ですが、今一歩ですね。そろそろ終わりにしてあげましょう」

 

「その通りだ………全艦! 魚雷発射用意っ!!」

 

副長がそう言うと、ガードフィッシュの艦長は、潜水艦隊全艦での雷撃を試みる。

 

一斉射で逃げ場を無くし、完全にトドメを刺す積りだ。

 

呉校艦隊、万事休すか………

 

と、思われたその時!!

 

「………うん?」

 

ブラックフィッシュのソナー員が、何かを聞き取った。

 

「如何した?」

 

「何か聞こえます」

 

「僚艦のエンジン音じゃないのか?」

 

「いえ、明らかに違います」

 

ソナー員からの報告に、ブラックフィッシュの艦長はそう返すが、ソナー員はソナーを調整して詳細に聞き取ろうとする。

 

すると………

 

「!? コ、コレは!?」

 

「何だ? 何が聞こえるんだ?」

 

「………交響曲(シンフォニー)です」

 

「………はっ?」

 

ソナー員の報告が理解出来ず、間抜けた声を挙げるブラックフィッシュの艦長。

 

「モーツァルト………」

 

「41番………」

 

「ハ長調………」

 

一方、他の潜水艦のソナー員達も、その音を捉えていた。

 

そして………

 

「!? 左舷30! 後方100! そこから交響曲(シンフォニー)が!………我々の艦隊では無い潜水艦が居ますっ!!」

 

ブラックフィッシュのソナー員が、交響曲(シンフォニー)は自艦の左舷側後方から………

 

所属不明の潜水艦から発せられている事を報告した!!

 

「!? 面舵一杯っ!!」

 

その報告を受けたブラックフィッシュの艦長は、即座に不明艦から離れようと面舵を指示する。

 

「取舵だ! 急げっ!!」

 

一方、そのブラックフィッシュの傍に居たコッドは、不明艦を攻撃しようと取舵を切る。

 

この時、突然の不明艦の出現に慌てた両者は、互いの位置を確認する事を忘れていた。

 

結果………

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

ブラックフィッシュとコッドは、互いの艦首をぶつけ合う形で衝突!

 

膨大な浸水が発生する致命的な損傷を負った!

 

直後に、安全装置として装備されていた強制浮上システムが作動し、バルーンに包まれたブラックフィッシュとコッドは、水上へと浮かび上がる!

 

「!? 如何した!?」

 

「ブラックフィッシュとコッドが衝突! 撃沈判定です!!」

 

「何だとっ!?」

 

ガードフィッシュの艦長は、挙げられた報告に驚愕を露わにする!

 

「!? 艦長! 正面から交響曲(シンフォニー)! 距離150! 深度、本艦と同じ! 衝突コースです!!」

 

「!?」

 

一方、潜水艦としては絶対タブーである筈の『自ら音を出す』と言う行為をしている不明艦は、今度はフライングフィッシュに正面から向かって行く。

 

「艦長! 魚雷を!!………」

 

「この距離で撃ったら巻き添えを食う! 速力一杯! 進路そのまま! 体当たりしろっ!!」

 

体当たりされる前に、コチラから体当たりしてやろうと、フライングフィッシュの艦長はそう指示する。

 

「チキンレースだ! コッチが逃げると思ってるのか!?」

 

迫る不明艦に対し、フライングフィッシュの艦長はそう言い放つ。

 

「! 不明艦、タンク注水音! ダウントリムを掛けます!!」

 

すると不明艦は潜行を開始する。

 

「野郎! コッチもダウントリム一杯だ! 逃がすなっ!!」

 

挑んでおきながら逃げる不明艦の態度にイラつきながら指示を飛ばすフライングフィッシュの艦長。

 

だが………

 

「!? か、艦長! 不明艦の後方に、ハダックが!?」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

ソナー員からの報告に、フライングフィッシュの艦長は驚愕する!

 

実は不明艦の後方からは、ハダックが追跡する形で付けて来ていたのだが、不明艦が邪魔となり、フライングフィッシュのソナー員は探知出来なかったのだ。

 

ハダックのソナー員も同様である。

 

ハダックはそのまま、ダウントリムを掛けていたフライングフィッシュの艦橋に、艦首から衝突!!

 

フライングフィッシュの艦橋と、ハダックの艦首が潰れる!

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

乗員達の悲鳴が響く中、両艦は強制浮上システムで、バルーンに包まれて海上に浮かび上がる。

 

「フライングフィッシュとハダックもやられました!」

 

「潜行だ! 潜れっ!!」

 

一方、残ったキングフィッシュとガードフィッシュは、海底に付いて不明艦を撒こうと考える。

 

「!? うおっ!?」

 

「沈没船に接触! 海底です!」

 

と、キングフィッシュが海底に在った沈没船の残骸に接触する。

 

「後部トリムタンク注水! 艦水平!!」

 

「後部タンク注水! アイッ!!」

 

すぐにキングフィッシュは、艦を水平にしようとする。

 

だが………

 

「!? トリム、戻りません!!」

 

「!? 前部タンクブローだ! 思い切り吹かしてみろ!!」

 

艦が水平の戻らないとの報告に、キングフィッシュの艦長はそう命じるが………

 

「駄目です! 前甲板に反応! 不明艦が乗って居ます!!」

 

「!? 何だとっ!?」

 

何と!

 

何時の間にか、キングフィッシュの前甲板部を抑え込む様に、不明艦が乗っかっていたのだ!

 

不明艦はそのまま潜行を掛け、キングフィッシュを沈めて行く。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

乗員の悲鳴が挙がる中、キングフィッシュは完全に沈没船の残骸の中へと押し込められ、脱出不能となった。

 

「艦長! キングフィッシュのスクリュー音が消えました! 恐らく、やられたものかと!!」

 

「この短時間で、5隻の潜水艦を戦闘不能にしただと………」

 

「バケモノめ………」

 

残るガードフィッシュのソナー員がそう告げると、副長と艦長に戦慄が走る。

 

「! 不明艦! コチラに接近して来ます!!」

 

「落ち着け! 今この場所は沈没船同士に挟まれた隙間だ! コチラが音を立てない限り、見つかりはしない! 奴が捜索を諦めて離脱に掛かった時を狙うぞ!!」

 

再びの報告に、艦長は指示はそう指示を飛ばす。

 

と………

 

「!? 不明艦、魚雷を発射しました!!」

 

「!? 魚雷だと!? 馬鹿な! 敵も第二次世界大戦中の艦だ! ホーミング魚雷など積んでいない筈だ!!」

 

ソナー員からの報告に、副長が驚きの声を挙げる。

 

第二次世界大戦中の魚雷は一部を除いて殆どが無誘導であり、基本的に相手の動きを予測して撃つのが普通である。

 

その為、水中を3次元機動で動き回る潜水艦を潜水艦が魚雷で攻撃するなど、有り得ないのである。

 

「何故そんな無駄な事………!? バランストタンクブロー! 急速浮上っ!!」

 

「!? 浮上っ!?」

 

「如何したんですか、艦長!?」

 

そこで、何かに気付いた艦長が叫んだが、乗員達は困惑する。

 

その直後………

 

ガードフィッシュが隠れている沈没船に、不明艦の魚雷が命中した!

 

沈没船が破壊され、大量の瓦礫が、傍に隠れていたガードフィッシュに降り注ぐ!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「機関、最大出力!」

 

「駄目です! ピクリともしません!!」

 

すぐに脱出を試みたが、瓦礫の量は半端ではなく、完全に埋もれたガードフィッシュは、まるで動けない状態となっていた。

 

「…………」

 

それを聞いた艦長は、ガクリと膝を着いた。

 

「たった1隻の潜水艦が、我が潜水艦隊を壊滅させたと言うのか………奴は………『モビーディック』か………」

 

不明艦の恐るべき能力に対し、艦長は神話に登場する白鯨………『モビーディック』を思い浮かべるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、海上の呉校艦隊の雪風でも………

 

「艦長! 水中に残っていた敵潜水艦のスクリュー音が消えました! 聞こえるのは不明艦の音と交響曲(シンフォニー)だけです!」

 

「とうとう1隻で全滅させたか………」

 

水測員の報告に、護はバルーンによって浮かび上がっていたブラックフィッシュとコッド、フライングフィッシュとハダックを見ながらそう言う。

 

「不明艦の音紋を照合した結果………伊201型の潜水艦ではないかと思われます」

 

「伊201型なら、ウチにも有ったな」

 

「けど、潜水艦の人達って、普段は何処で何してるのか全く分かりませんからね」

 

不明艦が、大日本帝国海軍の『伊201型潜水艦』ではないかと推測され、一体誰が乗って居るのかと雪風の乗員が話し込む。

 

「………こんな事が出来るのは只1人しかいない」

 

そこで、護はそんな事を言う。

 

「艦長? ご存じなのですか?」

 

副長が尋ねると、護は………

 

「………かつて、原子力潜水艦1隻で世界を変えようと挑んだ男の息子さ」

 

護は水平線を眺めながら、そう呟いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊に攻撃を仕掛ける残存大洗機甲部隊。
果たして、何を考えているのか?

一方、上空では………
『疾風』を翔けるエースチーム『ラーズグリーズ隊』が、新たに救援に翔け付ける。

そして、潜水艦隊に襲われていた呉艦隊も、謎の潜水艦によって事無きを得る。
原子力潜水艦1隻で世界に挑んだ男の息子………
一体、何江田 四郎の息子なんだ?(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第162話『逆転作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第162話『逆転作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

「クッ! すまない! やられたっ!!」

 

牽引車で引かれながら8.8 cm PaK 43を撃っていた紫朗の砲兵部隊が、直撃弾を貰う。

 

「コレで砲兵は完全に全滅だ!」

 

「もう少しです! 皆さん! 頑張って下さいっ!!」

 

俊がそう言う中、みほはそう声を挙げ、残存大洗機甲部隊は遅滞行動を続ける。

 

(あと少し………もう少し………)

 

みほの顔からは汗がだらだらと流れ、呼吸も自然と荒くなる。

 

キューポラの視察口越しには、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊がジワジワと迫り来る様子が見えている。

 

「…………」

 

みほの顔を流れる汗の量が増える………

 

「西住総隊長! 目標地点に到着しました!!」

 

「!!」

 

とそこで、弘樹からそう報告が挙がるがいなや、みほはハッチを開けて車外へ姿を晒す。

 

風が汗を冷やし、急激に冷えるが、みほはそんな事には気を取られず、自分達が居る場所を確認する。

 

そこは、多数の線路が敷かれている車両基地の跡地だった。

 

「………全車、現エリアの端まで移動して下さい。但し、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が全てエリア内に入るギリギリまで惹き付けてから離脱して下さい」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほの指示が飛ぶと、残存大洗機甲部隊はそれまでの遅滞行動から、一気に車両基地エリアの端まで後退。

 

一旦そこで停止すると、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を待ち構える。

 

少し間が有って………

 

進軍速度を変えていなかったナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が再び姿を見せ始める。

 

「急に思いっ切り退いたかと思えば、今度は堂々と待ち伏せ?」

 

「何だか行動が読めませんね」

 

「総隊長。如何します?」

 

ソルト、ペッパー、マヨネが、シュガーにそう問い質す。

 

「………作戦変更は無し。このままジワジワと追い詰めるわ」

 

しかし、シュガーは警戒を解かず、飽く迄慎重に攻めて行く。

 

(………何だ? この感じ?)

 

ジャックは、妙な違和感を感じていたが、それが何かは分からず、警戒しながら前進するのだった。

 

ジワジワと距離を詰めながら進軍して来るナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

それに対し、残存大洗部隊は、今度は遅滞行動もせず、ただその場でジッとしている。

 

「キャアッ!?」

 

「至近弾が多くなって来ました!」

 

至近距離に着弾する砲弾の衝撃に、聖子と梓がそう声を挙げる。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! やられたああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「河嶋! 落ち着けっ!!」

 

ヘッツァーの方でも、桃が絶望の悲鳴を挙げ、杏が諌めるが、その彼女の声にも何時もの余裕は無い。

 

「フラッグ車が命中弾を喰らってしまったらお終いです!」

 

「…………」

 

優花里がそう言うが、みほは黙ったままである。

 

作戦を成功させるには、まだこの場に留まるしかない。

 

今みほに出来る事は、フラッグ車が命中弾を喰らわない様に祈るだけだった。

 

そんなみほの思いを嘲笑うかの様に、徐々にM3リーへの至近弾が増えて行く。

 

(お願い………当たらないで………)

 

M3リーを見ながら懇願する様に祈るみほ。

 

と、その時………

 

「…………」

 

弘樹が無言で、M3リーの前に仁王立ちした。

 

「!? 弘樹くんっ!?」

 

「舩坂先輩っ!?」

 

みほと梓が驚きの声を挙げる。

 

その間にも、M3リーには次々に至近弾が襲い掛かる。

 

当然、その前に立っている弘樹には、至近弾が巻き上げた土片やら何やらがビシビシと当たっているが、弘樹は眉1つ動かさずに仁王立ちを続けている。

 

「先輩! 危険です! 下がってっ!!」

 

「危ないよ! 弘樹くん!!」

 

梓とみほの悲鳴の様な声が飛ぶ。

 

だが………

 

「………小官に弾は当たらん」

 

弘樹はそう返し、ただ正面のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を睨みつける。

 

………心做しか、先程から弾の方が弘樹を避けている様に見える。

 

「フー………アレが英霊の加護か………」

 

そんな弘樹の姿を見て、ジャックはそんな言葉を漏らす。

 

「総隊長! ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が完全に車両基地エリアに入りました!!」

 

とそこで、高所から観測をしていた清十郎が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が、全部隊完全に車両基地エリアに入った事を確認し、そう報告する。

 

「!! 全力後退っ!! 同時に爆薬点火っ!!」

 

すぐさまみほはそう指示を飛ばし、残存大洗機甲部隊は全力で車両基地エリアを離脱。

 

その直後!!

 

予め仕掛けていた爆薬が爆発し、残存大洗機甲部隊が離脱して行った道を、瓦礫が塞いだ!!

 

「! 全軍、停止っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

シュガーの指示が飛び、全軍停止するナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

その直後!!

 

今度は、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の後方で爆発が発生!!

 

またもや瓦礫が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が侵入してきた経路を塞いだ!

 

「! 総隊長! 背後でも爆発! 通って来た経路が塞がれました!!」

 

「閉じ込められた!?」

 

「いえ、線路が有る左右は開いています。脱出は可能です」

 

ハロウィン歩兵からの報告に、ソルトが慌てるが、別のハロウィン歩兵からそう報告が挙がる。

 

その瞬間!!

 

車両基地エリアの彼方此方から、煙幕が立ち上り始めた!!

 

「! 煙幕です!!」

 

「此処で仕掛けてくる積り?」

 

「けど、煙幕なんて、ウチには通用しないよ」

 

報告を挙げるハロウィン歩兵の声を聴いて、マヨネとペッパーがそう言い合う。

 

「………防御陣形」

 

だが、シュガーはその光景に何処か違和感を感じながらも、部隊に防御陣形を取らせる。

 

煙幕はやがて、完全に車両基地エリアを覆い尽くす。

 

「さあ、何処から来る、大洗!」

 

「返り討ちにしてやるぜっ!!」

 

しかし、こんな煙幕など何の問題にもならないのか、ハロウィン歩兵達からはそんな声が挙がり、ナイトウィッチ戦車チームにも動揺は見えない。

 

と、その時………

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊から見て、右側の線路の方から、『何か』が迫って来る。

 

「! 来たなっ!!」

 

「私に任せて! 返り討ちにしてやるわっ!!」

 

その『何か』に、マヨネのトータスが主砲を向ける。

 

ポルシェティーガーさえ正面から撃破した主砲だ。

 

残存大洗戦車部隊のどの戦車でも、1撃で行動不能は免れない。

 

だが、現れたのは大洗の戦車では無く………

 

貨車を牽いた、『蒸気機関車』だった!!

 

「………へっ?」

 

思いも寄らぬモノの登場に思わず呆けてしまうマヨネ。

 

「マヨネ! 避けなさいっ!!」

 

シュガーのその声が飛んだ瞬間には、蒸気機関車はそのままトータスへと衝突!

 

途端に!!

 

突っ込んで来た蒸気機関車は、潰れた先頭の機関車が大爆発!!

 

その爆発に連鎖する様に、連結されていた貨車も、まるでチェーンマインの様に次々と爆発する!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

多数のハロウィン歩兵と、ナイトウィッチ戦車チームの一部がその爆発に巻き込まれ、戦死・撃破判定を受ける。

 

当然、蒸気機関車が衝突したトータスも、白旗を上げている。

 

「クウッ! 何なの!?」

 

「如何やら、無人の蒸気機関車に爆薬や可燃物を満載して突っ込ませた様だね」

 

「こんなの流石に予想外よ!!」

 

ソルトが叫ぶと、ジャックがそう答え、ペッパーが呆れ混じりにそう言い放つ。

 

その瞬間!!

 

「突入っ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

フラッグ車のM3リーを除く残存大洗機甲部隊が、車両基地エリアに再突入していた!!

 

「!? 大洗が来たぞっ!!」

 

「迎え撃てっ!!」

 

迎撃行動に出るナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊。

 

しかし、先程の無人蒸気機関車爆弾の事で動揺が走っており、攻撃の精度が落ちている。

 

「大洗の為にーっ!!」

 

「バンザーイッ!!」

 

「母校の名誉に掛けてぇーっ!!」

 

「バイノハヤサデーッ!!」

 

「よし! 俺が突撃するぅーっ!!」

 

対する残存大洗機甲部隊は、もう後が無く、コレ以上手も無い事から、全員が捨て身で攻撃して来ており、戦意と士気は高い!

 

「だ、駄目だぁ! 抑えきれないっ!!」

 

「コレが壊滅寸前の部隊の攻撃かよぉっ!!」

 

ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は、遂に完全に浮足立つ。

 

各員の足並みが揃わなくなり、防御陣形が綻び始める………

 

「敵陣形、乱れていますっ!!」

 

「この機を逃すな! 『無人ディーゼル貨物車爆弾』、全車投入!!」

 

高所からの観測を続けていた清十郎が、煙幕の合間から僅かに見えるナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊の様子を見てそう報告すると、迫信がそう声を挙げた!

 

その瞬間!!

 

ディーゼルエンジン音と共に、多数の貨車を引くディーゼル機関車が、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊と残存大洗機甲部隊を挟み込む様に突っ込んで来た!!

 

「!? 今度はディーゼル車っ!?」

 

「に、逃げろぉっ!!」

 

「逃げろって何処にっ!?」

 

突っ込んで来る『無人ディーゼル貨物車爆弾』を見て、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊は大混乱!

 

逃げようにも前後の通路は瓦礫で防がれ、開いている左右の線路は『無人ディーゼル貨物車爆弾』が埋め尽くしている。

 

「死なば諸共っ!?」

 

「!!」

 

シュガーの悲鳴の様な声が挙がり、ジャックの顔も強張った瞬間………

 

『無人ディーゼル貨物車爆弾』は、全て車両基地エリアへ突入!!

 

貨車に積まれていたありったけの爆薬と可燃物が大爆発!!

 

車両基地エリアから、まるで原爆の様な巨大な炎とキノコ雲が上がった!!

 

「キャアアアアッ!?」

 

その車両基地エリアから、やや離れた場所で待機していたM3リーにも、爆発の際に発生した強烈な爆風が襲い掛かり、ハッチから姿を晒していた梓が悲鳴を挙げる。

 

「うあああっ!?」

 

「と、飛ばされるぅっ!!」

 

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

「落ち着いて! 流石に戦車が飛ばされたりしないからっ!!」

 

爆風はM3リーの車体をも揺さぶり、パニックを起こし掛けているあや、桂利奈、優希を必死に宥めるあゆみ。

 

「…………」

 

只1人、紗希だけがしっかりと車内の取っ手にしがみ付いて、身体を固定している。

 

「………収まった」

 

やがて爆風が収まると、梓は改めて立ち上ったキノコ雲を見上げる。

 

そのキノコ雲はとても巨大であり、頭頂部は今まで出ていた空の雲よりも更に上に位置していた。

 

「西住総隊長………」

 

そこで梓は視線を前に向け、今度は炎に包まれている車両基地エリアを見やる。

 

あの大爆発である。

 

恐らく、残存大洗機甲部隊も、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊も………

 

………と、その時!!

 

炎の中から砲弾が飛び出して来て、M3リーの傍に着弾した!!

 

「!?」

 

「クッ! 外したか!!」

 

梓が驚きを露わにした瞬間………

 

燃え盛る炎を掻き分ける様にして………

 

ところどころが黒く焦げたバレンタイン歩兵戦車が現れる。

 

フラッグ車である総隊長のシュガーのバレンタインだ!!

 

「!? フラッグ車っ!?」

 

「嘘ぉっ!」

 

「あの爆発で無事だったのぉっ!?」

 

梓が声を挙げると、あやと優希も悲鳴の様な声を漏らす。

 

その間に、シュガーのバレンタインは、主砲のオードナンスQF 75mm砲を向けて来る。

 

「! 後退っ!!」

 

「あ、あいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

梓が慌てて指示を飛ばし、桂利奈がM3リーを後退させる。

 

だが、その直後!!

 

発砲音がしたかと思うと、対戦車ライフルの弾と思わしき弾丸が、M3リーの右履帯へ命中!

 

履帯が破断する!!

 

「!? 履帯がっ!?」

 

「いやはや、流石に危なかったよ………」

 

梓が声を挙げると、炎の中からボーイズ対戦車ライフルを携えたジャックが姿を見せる。

 

「ありがとうジャック」

 

「いや………礼を言われるのは早いみたいだ」

 

「………その様ね」

 

とそこで、シュガーのバレンタインとジャックは、炎の方へ向き直った。

 

その瞬間!!

 

炎の壁を突き破って、Ⅳ号戦車が現れる!

 

「無事ですか! 梓さん!!」

 

「西住総隊長!」

 

ハッチが開いて、みほが姿を見せると、梓が嬉しそうな声を挙げる。

 

そして更に………

 

炎の中から足音が聞こえて来たかと思うと………

 

「…………」

 

戦闘服の彼方此方が焼け焦げている弘樹がゆっくりと姿を見せる。

 

燃え盛る炎を背に、歩み寄って来る弘樹。

 

正に炎の臭いが染みついて………

 

むせる

 

「フー………やはり健在だったか。舩坂 弘樹」

 

「…………」

 

ジャックがそう言うと、弘樹は無言で四式自動小銃を構える。

 

「ジャック。舩坂 弘樹は任せるわ。良いわね」

 

「望むところさ………」

 

シュガーがそう言うと、ジャックは僅かに笑みを浮かべてそう返す。

 

「…………」

 

と、その会話が聞こえていたのか、弘樹がジャックを誘い出すかの様に、Ⅳ号から離れる。

 

「フッ………」

 

その後を追うジャック。

 

「さてと………」

 

それを見送ると、シュガーはハッチを開けて車外に姿を晒した。

 

「!!」

 

「ふふふ………」

 

みほが身構えると、シュガーは不敵に笑う。

 

そして、シーツの様な大きな布を取り出したかと思うと、それで自分を覆い隠す。

 

「??」

 

何をする気だと、みほが怪訝な顔をした瞬間!

 

「ワン! ツー! スリーッ!!」

 

手品の掛け声と共に、バッと布が取り払われる。

 

そして現れたのは………

 

「!? わ、私っ!?」

 

動揺するみほ。

 

そう………

 

布の中から現れたのは………

 

紛れも無く、『西住 みほ』だった。

 

「貴方の敵は………貴方自身だよ」

 

バレンタインに乗る西住 みほ(シュガー)が、みほに向かってそう言い放つ。

 

「…………」

 

その言葉を聞いたみほは、身体が震えるのを感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ジャックを誘い出した弘樹は………

 

みほ達から少し離れたかと思うと立ち止まり、付いて来ていたジャックに四式自動小銃を向ける弘樹。

 

「フー………いよいよ対決と行こうか。英霊を継ぐ者くん」

 

「…………」

 

不敵な様子のジャックに対し、弘樹は射撃姿勢を崩さずジッと見据える。

 

「フッ………」

 

ジャックはそんな弘樹の姿を見て、満足そうな様子を見せたかと思うと、持っていたボーイズ対戦車ライフルを捨てる。

 

そして、肩に掛けていた小銃を構えて、弘樹に向ける。

 

それは弘樹と同じ、『四式自動小銃』だった。

 

「!………」

 

自分と同じ武器を構えた事に、弘樹は僅かに反応を見せるが、隙は見せない。

 

「「…………」」

 

お互いに四式自動小銃を向け合ったまま、膠着状態となる両者。

 

しかし、その膠着は長くは続くなかった………

 

「………!」

 

膠着が続くかと思われた瞬間に、弘樹は引き金を引いたのだ!

 

10発全弾をジャックへと叩き込む弘樹。

 

「フッ………」

 

だが、弘樹が発砲したのと同時のタイミングで、ジャックも発砲。

 

更にその弾丸は、弘樹が撃った弾丸と寸分違わず同じコースを飛び………

 

そのまま弘樹の撃った弾に命中!!

 

お互いの弾が空中で衝突して、砕け散る!

 

「!………」

 

弾丸に弾丸を当てて撃墜すると言う離れ業に、弘樹は驚いたものの、身体は本能的に移動を初め、近くに在った瓦礫の陰へと隠れた。

 

一方、ジャックの方も同じ様に瓦礫の陰に隠れる。

 

(………大した奴だ)

 

四式自動小銃に新たな弾を込めながら、弘樹はジャックがかなりの実力者である事を察する。

 

「…………」

 

弘樹は瓦礫の上から顔を出し、ジャックが隠れている瓦礫を確認する。

 

「…………」

 

そして、九九式手榴弾を手に取ると、瓦礫の陰に向かって投げ込もうとする。

 

………が!

 

「フッ………」

 

何と、弘樹が投げるよりも先に、ジャックの方が九九式手榴弾を投擲して来た。

 

「!!」

 

驚きながら、すぐに四式自動小銃を構え、空中に在った九九式手榴弾を撃ち抜く!

 

九九式手榴弾は空中で爆発する。

 

「クッ………」

 

破片から身を守る為に、再び瓦礫の陰へと伏せる弘樹。

 

「………!!」

 

だが、そこで殺気を感じ、すぐさまそこから離れると、先程まで弘樹が居た位置に銃弾が着弾する!

 

「!………」

 

「フフ………」

 

銃弾が飛んで来た方向を見やると、そこには不敵な笑みを浮かべているジャックの姿が在った。

 

如何やら、さっきの手榴弾の爆発に紛れて接近して来た様である。

 

「………!」

 

反撃にと、弘樹は牽制も兼ねて四式自動小銃を発砲する。

 

「当たらないよ………」

 

だが、ジャックはまるで牽制目的である事が分かっているかの様に、至近距離への着弾を気にせず、再び瓦礫の陰に身を隠した。

 

「!………」

 

弘樹も、前方に在った瓦礫を跳び越えて、その陰へと隠れる。

 

(牽制で撃ったのが分かっていたのか?………)

 

そう思いながら、再びリロードを行おうとする。

 

(! 弾切れか………)

 

しかし、四式自動小銃の九九式普通実包は、先程の牽制で使ったのが最後だった………

 

「…………」

 

止むを得ず、弾の無くなった四式自動小銃をその場に置くと、腰のホルスターからM1911A1を抜く。

 

(接近戦に持ち込むか………)

 

M1911A1を構えながらそう考え、煙幕手榴弾を取り出す。

 

だが、そこで………

 

何かが転がった様な音が聞こえたかと思うと、辺りに煙が立ち込めた!

 

(! 煙幕か!?………)

 

すぐに口元を押さえる弘樹。

 

(………さっきからコチラの行動の先を行かれている………)

 

ジャックは最初に銃弾に銃弾を当たれた時から、手榴弾を投げようとした瞬間、煙幕を使おうとした瞬間と先んじられ、コチラの行動の先を行かれている。

 

「行動を先読みされている………と気付いた様だね」

 

「!!」

 

不意にジャックの声が聞こえ、辺りを見回す弘樹だったが、煙幕の為に何も見えない。

 

「僕達が研究していたのは西住 みほだけではない。君の事も良く研究させてもらったよ、舩坂 弘樹くん」

 

「…………」

 

「君も西住 みほと同じ大洗の要だ。当然の事だろう。君の戦術パターンや動きの癖は全て把握している」

 

「…………」

 

そう語るジャックの位置を、弘樹は聴覚を最大限に活用して探ろうとする。

 

しかしそこで………

 

「!!」

 

左から僅かに感じた殺気に、弘樹はバッと後方へと飛び退く!

 

直後に、弘樹が隠れていた瓦礫を、鉈らしき刃が掠め、火花を散らした!!

 

「!………」

 

ジャックが接近戦を仕掛けて来たと判断した弘樹は、すぐさま風上に向かって移動し始め、煙幕の中から抜け出す。

 

「フッ………」

 

だが、直後に鉈を手にしているジャックも飛び出して来る。

 

「!!」

 

弘樹は瓦礫の間を縫う様に走り、距離を取ろうとしたが………

 

「甘いね………」

 

何とジャックは、その瓦礫の上に跳躍したかと思うと、そのまま次々に瓦礫の上を軽やかに飛んでショートカットして来る。

 

(あの動き………パルクールか)

 

弘樹はジャックのその動きが、パルクールのそれであると気付く。

 

その瞬間には、ジャックは弘樹の頭上を取った!

 

「!………」

 

すぐにM1911A1を向けた弘樹だったが、ジャックのキックで弾き飛ばされる。

 

「フー………」

 

続け様にジャックは、弘樹をコルバタで投げ飛ばす。

 

「グッ!………」

 

背中から地面に叩き付けられた弘樹が、声を漏らす。

 

「!!………」

 

だがすぐに立ち上がると、英霊を鞘から抜く。

 

「接近戦は望むところだよ」

 

そこでジャックは、弘樹目掛けて手斧を投擲した!

 

「!!」

 

飛んで来た手斧を、英霊で弾き飛ばす弘樹。

 

だが、その瞬間には、ジャックが目の前で鉈を振り被っていた!

 

「!!」

 

「貰ったっ!!」

 

弘樹の脳天目掛けて、鉈を振り下ろすジャック。

 

すると弘樹は、何を思ったか、振り下ろされる鉈に向かって頭突きの様に頭を衝き出す!

 

そして、鉈が当たる瞬間に首を捻って角度を付けたかと思うと、ヘルメットで鉈を受け流した!

 

「………!」

 

驚きで目を開くジャック。

 

僅かでも角度が狂えば、即座に戦死判定を受ける行為である。

 

「セヤアッ!!」

 

そのジャックに向かって、英霊で突きを繰り出す弘樹。

 

「!!」

 

ジャックはバック宙で距離を取りながらかわす。

 

「…………」

 

正眼の構えを取り、ジャックを見据える弘樹。

 

「フー………」

 

対するジャックは、自然体で鉈を構える。

 

「! セイヤーッ!!」

 

弘樹は上段へと構えを変えたかと思うと、一気に斬り掛かる!!

 

「! 見切ったっ!!」

 

だが、ジャックは英霊が振り下ろされるタイミングを見切り、アッパーカットの様に鉈を斬り上げる!

 

鉈が英霊の刃に当たると、英霊は弘樹の手から離れ、回転しながら上空へと舞った!

 

「!………」

 

「ハッ!」

 

反射的に弾かれた英霊を見上げてしまった弘樹に、ジャックは足払いを掛ける。

 

「! しまったっ!?」

 

仰向けに倒れた弘樹に、ジャックは鉈を振り下ろす!

 

「!!」

 

危機一髪のところで、最後の武器である銃剣を抜き、鉈の刃を受け止める弘樹。

 

だが、その瞬間………

 

弘樹の胸の上に何かが落ちる。

 

「!?」

 

落ちて来た物を見た弘樹が目を見開く。

 

それは、九九式手榴弾だった。

 

「ジエンドだ、舩坂 弘樹………」

 

ジャックはそう言って、バッと弘樹から飛び退く。

 

(コレで僕は英霊を超えた………)

 

勝利を確信したジャックは、そんな事を思いやる。

 

………だが!

 

信管が作動し、白い煙を出していた九九式手榴弾だったが………

 

爆発の瞬間になって、突然煙が消える。

 

「………!」

 

「!? 何っ!?」

 

ジャックが驚きの声を挙げる。

 

如何やら、『偶然』不発弾だった様である。

 

「!!」

 

弘樹はその不発弾を掴むと、起き上がりながらジャック目掛けて投擲した!

 

「! グッ!」

 

ジャックの頭に当たった不発弾は、ヘルメットに弾かれて打ち上げられる。

 

「このっ!………!?」

 

不意打ちを食らったが、不発弾だった為、ジャックが気にせず突撃しようとしたところ………

 

先程、ジャックが弾いた英霊が………

 

上から回転しながら落ちて来て………

 

『偶々』不発弾に突き刺さった!!

 

その衝撃で不発弾は爆発!!

 

ジャックの姿が爆煙に包まれた!!

 

「…………」

 

その光景を見据えながら、弘樹が右手を上げると、その手に爆風で飛ばされてきた英霊が納まる。

 

そこで爆煙が収まり、中から………

 

「馬鹿な………こんな事が………」

 

戦死判定を受けて倒れているジャックの姿が露わになった。

 

「…………」

 

それを確認すると、弘樹は英霊をバッと一振りし、鞘へと納めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

予想されていた方も居られましたが、大洗の起死回生の作戦は………
『無人在来線爆弾』、もとい『無人蒸気機関車爆弾』と『無人ディーゼル貨物車爆弾』でした。
シン・ゴジラは良いぞ(爆)
庵野監督のアイデアには脱帽させられました。
あんなの見たら自分も使いたくなるでしょう(笑)

そして、勝負は一気にエース同士の対決へ。
まるで自分と戦っている様な錯覚生じさせるジャックの戦法。
遂に弘樹もコレまでかと思いきや………
最後は本物の英霊の子孫である証………
異能生存体並みの悪運で切り抜けました。
さあ、長らく続いた準々決勝も次回で集結です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第163話『準々決勝、決着です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第163話『準々決勝、決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝試合会場・廃墟の工業地帯………

 

「撃………」

 

「ファイアッ!!」

 

みほが発砲を指示しようとしたタイミングで、バレンタインのみほ(シュガー)がワンテンポ早く発射を指示!

 

「! 停車っ!!」

 

「! クッ!!」

 

慌てて停車指示を出し、麻子がフルブレーキを掛ける。

 

直後に、Ⅳ号のすぐ目の前に、バレンタインの砲弾が直撃する。

 

「右へ転進!」

 

「そう来るでしょうよね………」

 

着弾で立ち上った土煙が収まる前に、みほは次の指示を飛ばすが、バレンタインのみほ(シュガー)はそれを読んでいた様で、移動先へ向かって再度発砲する!

 

「!? キャアッ!?」

 

幸い直撃は免れたが、砲塔後部のシュルツェンが吹き飛ばされた。

 

「後退して下さい!」

 

「下がるわよ! 追撃っ!!」

 

後退しようとするとバレンタインは即座に追撃を掛けて来る。

 

(やっぱり………動きが読まれてる)

 

そこでみほはハッキリと、自分の動きが見透かされている事を認識する。

 

(貴方の敵は………貴方自身だよ)

 

「!!………」

 

シュガーの言葉が思い起こされ、再び身体が震えるのを感じるみほ。

 

「西住殿!」

 

「みほさん!」

 

「みぽりん! しっかりっ!!」

 

その様子に気づいた優花里、華、沙織が激励を飛ばす。

 

「!? マズイ! 来るぞっ!!」

 

とそこで、操縦手の覗き窓から、バレンタインの主砲がコチラを向いているのを見た麻子が声を挙げる。

 

「! 左旋回っ!!」

 

「だから見切ってるって!!」

 

すぐに指示を飛ばすみほだったが、みほ(シュガー)がそう言った瞬間に、バレンタインが発砲!

 

「「キャアアッ!?」」

 

「うわあ!?」

 

「「!?」」

 

Ⅳ号に凄まじい衝撃が走る!

 

「! みほさん! 砲身がっ!?」

 

「!? ああっ!?」

 

華から挙がった声に、みほはⅣ号の砲身を見て、悲鳴の様な声を挙げる。

 

先程のバレンタインの砲弾は、Ⅳ号の砲身に命中し、砲身を根元から破壊していた。

 

撃破判定は下らなかったが、コレでは攻撃が出来ない。

 

シュガーのバレンタインを撃破する事が出来なくなってしまった。

 

「コレで本当に手詰まりね」

 

「…………」

 

バレンタインのみほ(シュガー)が不敵に笑うと、みほは思わず俯く。

 

(駄目だ………私の戦い方が通用しない………勝てないよ………)

 

そんな諦めの言葉が脳裏を過ぎる。

 

「終わりにしてあげるわ」

 

と、バレンタインのみほ(シュガー)がそう言うと、バレンタインの主砲が再びⅣ号へ向けられる。

 

「! 狙われています!」

 

「如何するんだっ!?」

 

「みぽりん!!」

 

「みほさん!!」

 

「…………」

 

あんこうチームの声が飛ぶが、みほは俯いたまま動けない………

 

………その時!

 

「みほくんっ!!」

 

「!!」

 

名前を呼ばれたみほが顔を上げると、コチラに向かって駆けて来る弘樹の姿を発見する。

 

「! 弘樹くん!!」

 

「何も考えずに走れっ!!」

 

「!!」

 

弘樹がそう叫んだ瞬間、みほは身体に電流が走った様な感じを覚える。

 

「バレンタインに向かって突撃っ!!」

 

「えっ!?」

 

「早くっ!!」

 

「あ、ああっ!!」

 

即座にそう指示が飛び、戸惑っている麻子に更にどやしつける様に叫ぶと、Ⅳ号はバレンタインに向かって突撃した!!

 

「!? なっ!? ファイアッ!!」

 

みほなら絶対にしないであろう行動に、バレンタインのみほ(シュガー)は狼狽し、慌てて発砲する。

 

バレンタインの主砲が火を噴いたが………

 

照準の調整が甘かった為、Ⅳ号車体右側のシュルツェンを吹き飛ばすだけに終わった!

 

そのままⅣ号はバレンタインに体当たりを敢行!!

 

「!? ぐうっ!?」

 

「まだまだですっ!!」

 

バレンタインのみほ(シュガー)が、衝撃で揺さ振られていると、みほは更にそう叫び、そのままバレンタインを押して行く!

 

そしてそのまま、背後にあった瓦礫の壁に押し付けた!!

 

Ⅳ号はバレンタインをそのまま壁に埋めかねない勢いで押し続ける。

 

バレンタインは、Ⅳ号と瓦礫の壁に挟まれ、動けなくなる。

 

「クッ! 次弾装填! 早くっ!!」

 

「は、ハイッ!!」

 

そこでバレンタインのみほ(シュガー)は、装填手に次弾の装填を指示。

 

バレンタインの主砲を、自分達を抑え込んでいるⅣ号へ向ける。

 

粗接射の状態である。

 

外す事は無い。

 

「…………」

 

それでもみほは、バレンタインから離れようとしない。

 

「!!………」

 

その様子を見た弘樹は、吸着地雷を手に更に走る速度を上げる。

 

「装填完了っ!!」

 

だが、バレンタインの装填の方が先に終わってしまう。

 

「惜しかったわね! 主砲が壊れていなければココで勝負を決められたものを!!」

 

Ⅳ号とみほを見据えながら、バレンタインのみほ(シュガー)がそう言い放つ。

 

「…………」

 

だが、みほはバレンタインとみほ(シュガー)から目を反らさない。

 

「今度こそ終わりよ! 撃………」

 

て、と言う前に………

 

バレンタインのモノではない砲撃音が鳴り響き、バレンタインの車体側面に、砲弾が命中!

 

爆発が起こり、一瞬の間の後………

 

バレンタインから白旗が上がった!

 

「!? なっ!?」

 

「「!?」」

 

みほ(シュガー)と弘樹、みほが砲弾が飛んで来た方向を確認するとそこには………

 

「やった………のか?」

 

「やった! やりましたよ会長!」

 

「みたいだね………はあ~~、疲れた~~」

 

「お疲れ様、杏」

 

装甲が殆ど真っ黒に染まり、所々へこんでいる痕がありながらも………

 

如何にか動いていたカメさんチームのヘッツァーが、砲口から硝煙を上げていた。

 

「! 会長っ!!」

 

「折角ヘッツァーに改造したのに、良いとこ無しでやられちゃったら申し訳が立たないからねぇ」

 

みほがそう口走ると、ヘッツァーのハッチを開けて姿を晒した杏が、そう言って来た。

 

『ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊フラッグ車、行動不能! よって! 大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

そこで、主審のレミにより、大洗の勝利を告げるアナウンスが流される。

 

直後に、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。

 

『やった! やりましたぁっ!! 大洗機甲部隊! またしても奇跡の大逆転勝利ーっ!!』

 

『ホント、大洗は毎回魅せてくれますね』

 

『分かるわ』

 

実況席のヒートマン佐々木、DJ田中、瑞樹も興奮している様子でそう実況する。

 

「勝った………!? うわっ!?」

 

勝利を聞き届けた瞬間、みほは脱力してキューポラの縁に寄り掛かろうとしたが、身体がかなり外に出ていた為、キューポラの縁を超えて背中から落ちそうになる。

 

………が、そのみほを弘樹が支えた。

 

「大丈夫ですか、西住総隊長」

 

「弘樹くん………ありがとう」

 

弘樹がみほの顔を覗き込みながらそう尋ねると、みほは安堵の笑みを浮かべてそう返した。

 

「まさか最後の最後で見誤るとはね………」

 

とそこで、バレンタインのみほ(シュガー)が、みほの目の前まで来てそう言って来る。

 

「あ、シュガーさん」

 

「フフ………」

 

みほがそれを確認すると、みほ(シュガー)は変装用のマスクを顔から剥がし、只のシュガーへと戻る。

 

「まさかヘッツァーが無事だったとはね………それを見越して突撃して来て動きを封じるなんて」

 

「いえ、カメさんチームが無事だったのは知りませんでした」

 

「へっ?」

 

みほがそう言ったのを聞き、シュガーは思わず間抜けた表情を浮かべる。

 

「じゃ、じゃあ、如何してあんな突撃を?」

 

「何も考えてませんでした」

 

「ええっ!?」

 

更に問い質すと、驚愕の答えが返って来て、シュガーは思わず声を挙げる。

 

「な、何もって………ホントに何も考えてなかったのっ!?」

 

「………弘樹くんが、何も考えずに走れって言ってたから………だから、それを信じて突っ込んだんです」

 

「…………」

 

唖然とした様子を見せるシュガーだったが………

 

「ハハハハハッ! 成程ね! 信じて何も考えずにか………それは読めないわ」

 

そう言って豪快に笑うと、右手をみほの方へと差し出す。

 

「…………」

 

みほはその手を取り、2人はしっかりと握手を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

両機甲部隊は集合地点へ集結………

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

互いに試合終了の挨拶を交わし、改めて準々決勝は終了。

 

大洗は準決勝へと駒を進めた。

 

「白狼! コイツゥッ!!」

 

「いいとこで現れやがって、ホンマに!!」

 

「テメェの遅刻癖は一生治らねえのかよっ!!」

 

「ちょっ!? お前等っ! 止めろぉっ!!」

 

そして漸く復帰した白狼に対しては、海音と豹詑を中心に、大洗歩兵部隊が祝福と言う名の袋叩きをお見舞いしていた。

 

殴る・蹴るは当たり前………

 

中には投げ技を食らわせたり、絞め技を決めている者も居た。

 

「あ、あの、皆さん………そ、その辺で………」

 

止めようとする優花里だが、微妙に殺気立っている大洗歩兵部隊を前に、完全に尻込みしている。

 

「安心しろ、秋山くん。命に危険が及びそうになったら小官が止める」

 

「それって、命の危険が無かったら止めないって事ですよねっ!?」

 

そんな優花里に弘樹がそう言うと、優花里はそうツッコミを入れる。

 

「よ~し、今日はコレぐらいで勘弁してやる」

 

「もう勝手な真似するんじゃねえぞ」

 

とそこで、如何やら飽きたらしく、大洗歩兵部隊の面々が白狼を解放した。

 

「テメェ等………覚えてろよ」

 

戦闘服がすっかり泥塗れになった白狼が、大洗歩兵部隊の中から逃げる様に抜け出して来る。

 

「あ! 神狩………」

 

「ホロウッ!!」

 

優花里が声を掛けようとしたところ、それを遮る様に白狼と同い年ぐらいの男子が現れ、白狼に声を掛ける。

 

「! 『イチ』!! また会えるだなんて夢にも思わなかったぞ!!」

 

「俺もだよホロウ!! もう二度と会えないと思っていたけど、会えて嬉しいよ!」

 

『イチ』と呼ばれた男子と、親しげに会話を交わす白狼。

 

「ハハハハッ!! 俺もだよ!! 元気にしてたか?!」

 

「ああ! でも相も変わらずフユ姉にしごかれてさ、大変な毎日だったよ………」

 

「ほう? 私のシゴキがそんなに大変か?………」

 

「ああ、そりゃもう、地獄の様な………って、フユ姉!? あ、いや………!? イデェッ!!」

 

と、何時の間にか現れた、空港で白狼を迎えた女性・フユが、イチに拳骨を見舞う。

 

「全く………お前も男なら、アレ位の事で音をあげてどうする? 情けないぞ、未熟者」

 

「ご、ごめん………」

 

(相も変わらず………か)

 

フユとイチの遣り取りを見て、白狼は笑みを零す。

 

「白狼さん!」

 

「白狼くん!」

 

「白狼!!」

 

「神狩!」

 

「神狩くん!!」

 

「ホーリー!!」

 

「! お前等!」

 

とそこで今度は、冥桜学園の面々が姿を現し、白狼を取り囲んだ。

 

(神狩殿………楽しそうであります)

 

その様子を見て、優花里は複雑そうながらも、笑みを浮かべる。

 

「優花里さん………」

 

「…………」

 

みほはそんな優花里の姿を見て何と言って良いか分からず、そんなみほの傍に弘樹は無言で佇んでいる。

 

「フーッ………舩坂 弘樹」

 

「………貴様か」

 

とそこで、背後から声を掛けられた弘樹が振り向きながら、ジャックの姿を確認する。

 

「完敗だよ。やはり君は英霊の血を引く者だった」

 

「…………」

 

「僕は君の祖先………舩坂 弘軍曹に憧れていた。彼の様な英雄になりたいと心から思った。だから剣術、射撃などを一意専心に学び続け、歩兵道を続けて来た」

 

「…………」

 

「そして何時しか、僕の中には舩坂 弘の不死身とは『最強である』事………即ち『絶対に負けない』と言う方程式が出来上がっていた」

 

「………それが貴様の2つ名の意味か」

 

「そう………僕が英霊を名乗った理由………それは絶対に負けないと言う覚悟の証だ」

 

淡々と聞いている弘樹と、同じ様に淡々と話すジャック。

 

「だが、所詮は紛い物………本物の英霊の血を引く者の前では無力だったよ………運や事象、環境さえも味方につける異能の力を持つ者の前にはね」

 

「………買いかぶり過ぎだ」

 

「その言葉は皮肉にしか聞こえないね………」

 

仏頂面でそう言う弘樹に対し、ジャックはうっすらと笑みを浮かべてそう言う。

 

「その異能の力が本物か如何か………この全国大会を通して見極めさせてもらうよ………フフフ、如何やら早くも君の毒が回り始めた様だな。では、失礼」

 

そう言い残すと、ジャックは弘樹に背を向け、去って行った。

 

「な、何だか、言いたい事だけ言って帰ってったみたいだね………」

 

「小官の事を毒蛇か何かだとでも思っているのか?………」

 

みほが冷や汗を掻きながらそう言うと、弘樹は若干眉を顰める。

 

「すまない。盛り上がっているところに失礼させてもらうよ」

 

とそこで、そう言う迫信の声がしたので弘樹とみほが振り返ると、冥桜学園の者達に囲まれている白狼に、紫朗と連れ立った迫信が声を掛けていた。

 

「会長………」

 

「神狩くん。先ずは復帰おめでとう………で、コレからも大洗機甲部隊の一員として戦ってくれると見て良いのかね?」

 

「………ああ」

 

いつもの様に開いた扇子で口元を隠している迫信に、白狼はそう返す。

 

「了解した。手続きは済ませておこう。神狩 白狼くん………君の再入隊を歓迎する」

 

「そりゃどうも………」

 

「それから………上田風紀委員長」

 

とそこで、迫信は控えていた紫朗に視線をやる。

 

「ハイ………神狩 白狼。君には1週間の謹慎を言い渡す」

 

「………はあっ!?」

 

紫朗から突然謹慎を言い渡され、白狼は泡を食った表情になる。

 

「理由はどうあれ、この短期間に個人の都合で入退学を繰り返したんだ。風紀委員としては何らかの処分を下さなければ他の生徒に示しが付かない」

 

「ちょっ!? じゃあ暫くは自室に缶詰って事か!?」

 

「いや、歩兵道の訓練と試合には出て貰う。我が部隊に遊ばせておく戦力は無いからな。だが、それ以外に於いては一切の自由行動を制限する。また、期間中に反省文を原稿用紙100枚分書き上げる事」

 

「100っ!?」

 

「コレでも軽くした方だ。君の勝手な行動のせいで、我が部隊は大変な迷惑をこうむったのだからな」

 

「…………」

 

呆然としていた白狼の肩に、手を置く者が居た。

 

「神狩………」

 

「宗近………」

 

宗近である

 

「………コレも人生だ」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

宗近がそう言うと、冥桜学園の面々も全員が同意する様に頷いた。

 

「………チクショウ! 神は死んだっ!!」

 

「神なら留守だ。休暇を取ってラスベガスに行っている」

 

「ウルセェよ!」

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

思わずそう叫ぶ白狼に、竜作がそんな事を言い、またも白狼は叫ぶと、大洗機甲部隊の面々は大笑いし始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

自らに化け、その動きまでもトレースしたシュガーに苦戦するみほ。
だが、弘樹のアドバイスに従い、何も考えずに突撃を敢行。
そして、生き延びていたヘッツァーがシュガーを仕留め、大洗は準決勝へと駒を進める。

なお、復帰した白狼には、コレまでの勝手な行動のペナルティとして、謹慎と反省文が言い渡されたのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第164話『優花里と白狼・パート2です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第164話『優花里と白狼・パート2です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝リーグ………

 

準々決勝での、大洗機甲部隊VSナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊との戦いは………

 

序盤こそナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊に圧倒され、壊滅寸前まで追い込まれた大洗機甲部隊だったが………

 

白狼の復帰に加え、逆転を掛けたヤシオリ作戦の成功とあんこうチーム&弘樹の奮戦によって………

 

首の皮一枚で大洗機甲部隊の勝利となった………

 

尚、勝手に部隊を離れた白狼には、1週間の謹慎処分と反省文100枚の提出が言い渡されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝の試合会場………

 

その特設ライブステージにて………

 

「「「「「「「「「イエイッ!!」」」」」」」」」

 

歌を歌い終えたサンショウウオさんチームが、ステージ上で最後の決めのポーズを取る。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

満席状態の客席からは、割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。

 

「ありがとうーっ!!」

 

聖子が代表する様にそう返礼すると、サンショウウオさんチームの面々は、観客に手を振りながら舞台袖へと消えて行く。

 

 

 

 

 

舞台袖………

 

「凄いお客さんだったね!」

 

「ええ、流石に準々決勝ともなると凄い人です」

 

「それに、皆私達の事、応援してくれてたね」

 

聖子、優、伊代が、燥ぎながらそう言う。

 

「お~い! 皆~!」

 

とそこで、片足を庇う様に歩きながら、唯が現れる。

 

「! 唯ちゃん!」

 

「だ、大丈夫なんですかっ!?」

 

聖子が驚きの声を挙げ、明菜が心配する。

 

「心配すんな。戦車道用の安全ブーツを履いてたのが幸いしたぜ。骨に異常は無しだ。2、3日で真面に歩ける様になるそうだ」

 

そんな心配を吹き飛ばす様に、唯は笑いながらそう言い放つ。

 

「良かったにゃ~」

 

「ホント、一時は如何なる事かと思いましたよ」

 

満里奈と静香は、それを聞いて安堵の息を漏らす。

 

「それよりも、今日も最高のステージだったぜ! ぶっつけ本番の新曲披露も上手く行ってよぉ!」

 

「全くですわ。里歌さんが用意して来ていた新曲をいきなりやるとライブ前に言われた時は如何なる事かと思いましたが………」

 

「意外と何とかなるもんだね~」

 

唯が若干興奮している様子を見せながらそう言うと、早苗が呆れる様に、郁恵があっけらかんとそう言い放つ。

 

そう………

 

実はライブ直前で、里歌が自分が作った歌が有る事を漏らすと、聖子は何と、その歌をライブで披露する事を決定。

 

ぶっつけ本番でのライブにメンバーは一度は反対したものの、聖子の強い意志に押され、結局折れる形でそれを承諾。

 

僅かな練習と振り付けの図を見ただけで、その新曲に臨む事となった。

 

そして結果は、観客席の歓声からも分かる通り、大成功である。

 

「さ、里歌さんの指導がとても分かり易くて、指示も的確だったからだと思います」

 

「正典エトロニア第二十章に記されている位は根源モーグリの信仰する現人神不死鳥の騎士団長候補永遠であると信じられてきた(訳:流石は元アイドル候補生です)」

 

さゆりと今日子がそう口にする。

 

ぶっつけ本番の新曲披露が上手く行ったのには、サンショウウオさんチーム全員のポテンシャルが高まっていたのもあるが、何より曲の責任者である里歌の、元アイドル候補生として経験を活かした的確な指導・指示の恩恵が大きい。

 

「…………」

 

その里歌は、舞台袖の陰から、観客席の様子を覗き見ていた。

 

サイリウムや手製の団扇などを手に、未だに興奮冷めやらぬ様子の観客達。

 

その全員が、笑顔を浮かべている。

 

「…………」

 

そんな観客達の笑顔に釣られる様に、笑みを浮かべる里歌。

 

「あ! 里歌さんが笑った!」

 

「!?」

 

とそこで、その顔を聖子が覗き込んで来て、里歌はギョッとする。

 

「え~、ホントッ!?」

 

「初めて見るかも!」

 

満里奈と郁恵が、興味津々な様子で近づいて来る。

 

「わ、笑ってなんかいないわよ! 見間違いよっ!!」

 

里歌は顔を真っ赤にしながら、怒鳴る様な声で誤魔化そうとする。

 

「その決定的な瞬間、撮らせていただきましたけど」

 

しかしそこで、早苗がそう言いながら、何時の間にかスマホのカメラで撮影した里歌の笑顔を、画面に表示させて皆に見せる。

 

「!? 何撮ってるのよぉっ!!」

 

「わあ~、良い笑顔だね~」

 

「ですね………」

 

里歌が悲鳴の様に叫ぶが、既に全員がその写真を見ており、伊代と優がそんな言葉を漏らす。

 

「~~~~~~っ!!」

 

怒りや羞恥やらが色々と入り混じった表情でプルプルと震える里歌。

 

「里歌さん、そんなに照れなくても………」

 

「照れてなんかいないっ!!」

 

と、聖子にそう怒鳴り返したところ、観客席からのアンコールが始まった。

 

「ホ、ホラ! アンコール入ったわよっ!! 早く行くわよっ!!」

 

「誤魔化そうとしてる………」

 

「煩いっ!!」

 

郁恵のツッコミに、里歌は即座に言い返す。

 

「よ~し! 皆! アンコールだよっ!!」

 

「「「「「「「おお~~~~~~っ!!」」」」」」」

 

しかし、聖子がそう声を掛けると、サンショウウオさんチームはすぐに団結し、アンコールの為に、再びステージ上へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜………

 

冥桜学園・甲板都市………

 

その一角にある小さな店………

 

『食堂居酒屋鳳翔』にて………

 

「チキショーッ! やってらんねーぜっ!!」

 

カウンター席に座っていた白狼が、空にしたコップをカウンターに叩き付ける様に置きながら、愚痴る様に声を挙げる。(注:ウーロン茶です)

 

「ホ、ホロウ、飲み過ぎだって………」

 

右隣の席に同伴していたイチは、そんな白狼の様子に戸惑う。

 

「あらあら、荒れてますね。神狩くん」

 

「何か、学校であったのか?」

 

そんな白狼の姿を見た、この店の主である『今川 鳳翔』と『三河 蜻蛉切』が声を掛ける。

 

「あったかじゃねえよ、ったく!」

 

白狼はそう言うと、1週間の謹慎と反省文100枚の提出を言い渡された事を告白する。

 

「あらあら………」

 

「神狩よ。同情はするが、それはお前のケジメだぞ。しっかりとやらないと駄目だ」

 

話を聞いた鳳翔は苦笑いし、蜻蛉切はやんわりとながらも、やらないと駄目だと説教する。

 

「分かってるよ! ただ愚痴りたいだけだっての!!」

 

そう言うと白狼は、再びウーロン茶を注いだコップを煽る。

 

「って言うか、ホロウ。謹慎言い渡されたのに、こんなとこに居て良いのかよ?」

 

とそこで、イチがそうツッコミを入れる。

 

「処分は明日からだそうだ。その前に精々好きに過ごしておけとの事だ」

 

「良かったですね。理解の有る学校で」

 

「ちっとも良かねえよ! 俺が束縛されるのが嫌いっての知ってるだろ」

 

鳳翔の言葉にそう言い返す白狼。

 

「………それから、お前。何時までそこで見てる気だ」

 

「!? ふあっ!?」

 

とそこで、不意に白狼が店の入り口の方を振り返ってそう言い放つと、短い悲鳴が聞こえ、店の戸が鳴った。

 

「…………」

 

暫しの間の後、やがて観念したかの様に戸が開き、私服姿の優花里が姿を現す。

 

「アレ? 君、確か………」

 

「す、すみません、神狩殿! わ、私、その………」

 

イチが優花里の姿に見覚えを感じていると、優花里が白狼に向かって頭を下げる。

 

「鳳翔さん、コイツに適当なモン頼む」

 

しかし白狼は、鳳翔に優花里に何か作ってくれと頼む。

 

「えっ?」

 

「ハイ、神狩くんの奢りですね」

 

「あっ? 何でだよ?」

 

「神狩よ。こういう時は男が払うのが甲斐性と言うものだぞ」

 

鳳翔が代金は白狼持ちだと言い、蜻蛉切もそう言い放つ。

 

「チッ、分かったよ………何してんだ、早く座れ」

 

「あ、ハイ………」

 

そう言われて、優花里はおずおずと言った感じで白狼の左隣の席に座る。

 

とそこで………

 

「こんばんわ~」

 

「大将、女将さん。やってる?」

 

そう言う台詞と共に、冥桜学園の生徒達が次々に入店して来た。

 

「いらっしゃい」

 

「好きな席に掛けてくれ」

 

鳳翔と蜻蛉切がそう言うと、冥桜学園の生徒達は思い思いの席へ腰かけて行く。

 

店の中が一気に騒がしくなる。

 

「集まって来たな………」

 

「皆さん、良く利用されるのですか?」

 

「ああ、此処は俺達の憩いの場所だからな」

 

白狼がそう呟き、優花里が尋ねると、客の中に居た木曾がそう返す。

 

段々と客が増えて来て、店員の『乱藤四郎』と『薬研藤四郎』が、出来上がった料理をあちらやこちらのテーブルに慌しく運んで行く。

 

厨房の方では、夜はコチラで働いている間宮と伊良湖の姿が見える。

 

更に、三日月と文月と皐月と宗近と御手杵が入店してきたかと思うと、三日月と文月と皐月がエプロンを装着して鳳翔の手伝いを始める。

 

如何やら、此処でバイトをしている様だ。

 

皆話に花が咲き、小宴会の様な雰囲気となっている。

 

「何か………良いですね」

 

「当然だろ」

 

そんな光景を見て、ポツリとそう呟く優花里に、白狼が同意する。

 

「そう言えば、神狩殿。試合中に見せたあのカンフー………一体何処で身に付けたんですか?」

 

「中国の山奥さ。仙人みたいな爺さんに稽古をつけてもらってな………大変だったぜ。只管投げ飛ばされて受け身を取らされたり、水瓶の中の水を只管移し替えたり、逆さに釣られた状態で下にある水瓶の水を、御猪口で上の水瓶に移し替えたり、両手に木の棒を固定されて爺さんと同じ動きをさせられたり、只管胡桃を指で割ったり………」

 

「す、凄い修行ですね………」

 

と、そこで………

 

「こんばんわ~、やってますか~?」

 

そう言う台詞と共に、1人の女性が入店して来た。

 

「!? ああっ!? た、たたたた、高垣 楓さんっ!?」

 

その女性・楓の姿を見た吹雪が仰天の声を挙げる。

 

「ええっ!? 嘘っ!?」

 

「マジッ!?」

 

「本物だぁっ!?」

 

その声で、他のメンツも楓に気づき、一様に驚きの声を挙げる。

 

「失礼しま~す」

 

「笛吹TVの者ですがぁ」

 

とそこで、楓の後に続く様にカメラマンやディレクターなどの面々が現れた。

 

如何やら、テレビの撮影の様である。

 

「ああ、いらっしゃい。お待ちしてましたよ」

 

「ようこそいらっしゃいました」

 

鳳翔と蜻蛉切が、そう言って楓とスタッフを歓迎する。

 

「皆さん。言い忘れてましたけど、今日はテレビの撮影があります。けど、変に気を使わず、普段通りにしていて下さいね」

 

「「「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」」」

 

そう鳳翔に言われ、客に来ていた生徒達は、普段通りに振る舞う。

 

その後番組は何事も無く進行。

 

楓は、本日のお勧めである『彩りコロッケの豚汁定食(ご飯おかわり無料)』を、某まいうーな人や宝石箱や~な人にも匹敵する美味しそうな表現で紹介。

 

そして、味わった後は店に来ていた人達に1人づつインタビューをすると、番組は終わった。

 

しかし、ココからが楓の本領発揮だった………

 

撮影した映像の編集の為にスタッフは引き上げたが、酒好きの楓はこの店の酒を味わいたいと残留。

 

そのまま1人でドンドンと酒をかっ喰らい始め、その飲みっぷりに誘われる様に、隼鷹、千歳、那智、足柄と言った大学組の生徒達がこれまた飲み始め………

 

小宴会が飲み比べ大会へ発展してしまう。

 

「あわわわ………」

 

「ウルセェなぁ………」

 

そんなどんちゃん騒ぎを見て如何すれば良いのかとオロオロする優花里と、対照的に冷めた目で飲み比べをしている面子を見据えている白狼。

 

と、そこへ………

 

「ありゃ~? お兄さんは確か~………」

 

「や~、また会ったね~」

 

そう言う台詞と共に、店の入り口に双葉 杏を抱えたきらりが姿を見せた。

 

「全く、先輩アイドルともあろうお方が困ったものですね………ってあの時のおにーさんっ!?」

 

「あ、こ………こんばんわ」

 

「ま、また会えたな………ふ、ふひひひひ………」

 

更にその後ろから、幸子、小梅、輝子の身長143センチ組が現れる。

 

「お前達か………」

 

「楓さんのプロデューサーさんに様子見てきてくれって頼まれたんだけど………案の定みたいだっただね~」

 

白狼が反応すると、杏が酒盛りをしている楓の姿を認めてそう言う。

 

「にゃっほーい! ハロウィン戦、カッコよかったにー!!」

 

きらりがそう言うと、一同は白狼の近くの席に付き、注文をする。

 

「そりゃどうも………お前らも仕事か?」

 

「ええ、この冥桜の都市伝説の紹介をボクも御一緒との事で………」

 

「こ、この学園艦には………お岩の幽霊が出ると言うことで………早速、現場調査撮影の為に………」

 

「め、珍しいキノコも有るとの事で、トモダチと一緒に………ふ、フヒヒヒヒヒヒ………」

 

「理由がメチャクチャだな………」

 

「え? でも、あそこにいる高垣 楓っていう女の人を迎えに来たんじゃ?」

 

3人の目的に、白狼が呆れていると、イチはそう指摘する。

 

「うん! そうだにー! お迎えに様子に見てきてほしいって高垣さんのPちゃんに言われたから来たんだにー!」

 

「でも、あの人って、お酒やおつまみが好きだから、居酒屋に入ったら飛ばすからね~………」

 

「………番組の為に来たんじゃねーのかよ」

 

「あ、あははは………」

 

またも呆れる白狼に、イチは苦笑いを浮かべる。

 

当の楓は美味しいお酒と肴にご満足の様子である。

 

「ところで、お前等アイドルなんだろ? 戦車道に興味とかあるのか?」

 

「戦車道になんて興味ありませんよ! このカワイイボクが、あんな鉄のカタマリと一緒に居たら、ボクのカワイイイメージが総崩れになりますよ」

 

「むっ………」

 

幸子の発言に、優花里が少しムッとした様子を見せる。

 

「わ、私は………あまり………グラグラしてるのとか………大きな音は………好きじゃ………ないから………」

 

「せ、戦車の中は、く、暗くてジメジメしてるから、う、動かない方が………キノコも喜ぶ………」

 

「殆ど自分の趣味範囲じゃねーか………」

 

「きらりもねー、学校でね、乗れる戦車が無いから、入れないの~。」

 

「あたしはどっちかと言えば戦車ゲーが一番だな~。」

 

きらりと双葉 杏もそう言って来る

 

「………そう言えばおにーさんは、歩兵さんなんですよね?」

 

「ああ、以前も今もだけどな」

 

「何ですか、その中途半端な態度は………歩兵道の男子達は立派で誇り高い名誉ある人達だって言われてましたよ。シンデレラプロジェクトのプロデューサーさんだって、元々は歩兵道の選手だったんですから」

 

「余所は余所、ウチはウチだ………大体、俺はそんな大層立派な心掛けなんか無いし、戦車に乗った女子をを守るのは、それがルールだからだ」

 

「白狼、そんな言い方はないだろ。女の子が男の子に守られるのは、皆憧れるもんなんだぜ」

 

「お前は彼女持ちだから言える義理なんだ」

 

白狼の皮肉をイチは咎めようとするが、そんな彼の言葉に白狼はそう返す。

 

「………ってことは………リア充か………フフフフフ………爆発しろリア充めぇぇぇぇぇぇ!! ヒャッハァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!」

 

「な、何だよいきなり………未成年の癖に、飲んじまったのか?」

 

突然豹変した輝子の様子に、白狼が若干ビビる。

 

「う、ううん………輝子ちゃんは………元々こういう性格だから………気にしないで………」

 

「………はっ! ご………ごめんごめん………ついつい………憎しみのオーラが………」

 

「どういう環境で育ったんだよ………」

 

我に返った輝子に、またも白狼は呆れる。

 

「と、兎に角! 貴方の様な態度じゃ、守ってる女の子に失礼ですよ!! 歩兵道も戦車道もそんなごっこ遊びじゃないんですから!!」

 

「さっきまで戦車に乗らないって言ってたヤツが言う台詞かよ………そこまで言うんなら、お前は守られる事に憧れがあるのかよ?」

 

「勿論じゃないですか! この世界一カワイイと称される輿水 幸子を守れるる男子達は幸運に決まってますよ! 戦車道には、そう言う嬉しい気持ちがあるんですから!」

 

「嬉しい気持ちね………俺には全然分かんねぇ……つーか理解したくもねえな」

 

「何か………凄く酷い言い方………」

 

あんまりな白狼の物言いに、思わずきらりの表情にも曇りが出る。

 

と、その時!!

 

白狼の顔に、茶色い液体が掛けられた!

 

「うわっ!? な、何だよ、秋山っ!?」

 

「…………」

 

優花里が、持っていたコップの中身のウーロン茶を掛けたのである。

 

「一体何の積………」

 

「この不覚悟者めぇっ! 私のケツを舐めろぉっ!!」

 

「!?」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

白狼が問い質そうとしたところ、優花里は突然そう叫び、白狼も思わず固まり、他の面々も一瞬で静まり返って優花里と白狼に注目した。

 

「神狩殿ぉ~………大体貴方は………ちょっと身勝手が過ぎるであります………」

 

完全に据わった目で白狼を睨みつける様に見ながら、優花里はそう言い放つ。

 

「あ、秋山、さん?………」

 

その迫力の前に、白狼はタジタジになり、思わず優花里の事をさん付けで呼ぶ。

 

「………ヒック」

 

「ヒック?………!?」

 

と、優花里がしゃっくりを漏らしたのを聞いた白狼は、先程優花里に掛けられたウーロン茶を舐めて、ある事に気づく………

 

「オイ! 鳳翔さん! コレ、ウーロンハイじゃねえかっ!!」

 

「ええっ!?」

 

「あ、しまったっ! 高垣さん達の方に持って行くのと間違えたっ!!」

 

白狼がそう指摘すると、鳳翔と蜻蛉切が慌てた声を挙げる。

 

そう………

 

優花里が今飲んでいたのは、ウーロン茶ではなくウーロンハイ………

 

カクテル、つまりは『酒』だ。

 

つまり、今優花里は酔っぱらっているのである。

 

「大体でありますな。神狩殿は日頃から縛られるのは嫌いだとか、自由が好きだなどと言っておりますが………自由には責任が伴うって事を分かってますか!!」

 

「お、おい、秋山。落ち着け………」

 

「人の話を聞けぇっ!!」

 

優花里を落ち着かせようとした白狼だったが、優花里はそう言い放って、何処かから取り出した巨大ハリセンで白狼を引っ叩いた。

 

「ぶべっ!?」

 

「経緯は如何あれ、神狩殿は今我々大洗機甲部隊の一員であります! 私も含めて、皆神狩殿の事を仲間だと思っているのであります! その仲間達の気持ちを理解出来ないですって! 寝言は寝てから言って下さいっ!!」

 

「い、いや、だから………」

 

「口答えするなぁっ!!」

 

再び白狼が何か言おうとすると、再び優花里のハリセンチョップが炸裂する。

 

「アバッ!?」

 

「………白狼くん」

 

すると、引っ叩かれた白狼に、鳳翔が声を掛ける。

 

「ん? 何だよ、鳳翔?」

 

「自由に生きる事も良いですけど、偶には周りを見渡す事も大切ですよ」

 

「…………」

 

鳳翔にそう言われて黙り込む白狼。

 

「私は沢山の子達に弓道を教えてあげて、自分のお店を持って、間宮さんや伊良湖ちゃんと一緒にお料理を作って、三日月ちゃんや文月ちゃん、皐月ちゃん達と一緒にお仕事をして、そして蜻蛉切さんと出会って働いて、沢山のお客様の色んな顔を見て、それに幸せに感じたのよ。貴方も此処に居る皆や大洗の子達と出会って、何か感じた事が有るでしょ? それは自由以上に素敵な事の筈よ」

 

「鳳翔殿の言う通りですよ。昔はよく貴方の自由に振り回されましたが、そのお陰で鳳翔殿と御近づきになれました。それは私だけではありません。此処、冥桜学園の皆が勇気を手にしました。皆貴方に感謝しています。だからこそ、今度は白狼殿が大切な人達と共に幸せになる番ではないですか?」

 

「…………」

 

鳳翔と蜻蛉切からそう言われ、白狼は返事をする代わりに、自分のコップのウーロン茶を飲み干す。

 

と………

 

「今の良い話に対して何のリアクションも無しか、コラァッ!!」

 

「!? べごっ!?」

 

その態度が気に入らなかったのか、優花里が突然、白狼にタックルを掛けた!

 

2人はカウンター席から落ちて、そのまま床の上に転がる。

 

丁度、白狼が仰向けの状態で、優花里に馬乗りにされている状態となる。

 

「お前………いい加減にしろよ! この西住の忠犬!!」

 

「何ですと~? 私の何処が犬でありますと~?」

 

大分酔いが回って来たのか、呂律が怪しくなる優花里。

 

「じゃあ、何様なんだよ? 弱音を吐くとすぐに西住 みほ総隊長の名前を叫んでるくせに」

 

「さっきから聞いて居れば言いたい放題に………犬と言うのはでありますね~………こういう事をする奴の事を言うのであります~っ!!」

 

と、優花里はそう言い放ったかと思うと………

 

白狼に馬乗りになったまま、白狼の顔を舐めまわし始めた!!

 

「!? うわっ!? オイ、馬鹿!! 止めろっ!!」

 

「聞こえないであります~」

 

白狼が止めるのも聞かず、まるで本当に犬の様に、白狼の顔を舐め回す優花里。

 

「クソッ!………って!? 何だ、この力っ!?」

 

埒が明かないと、力づくで引き剥がそうとした白狼だったが、優花里は凄まじい力でしがみ付いており、引き剥がせない。

 

実は装填手である優花里は、日課として自主的に筋トレをしており、そんじょそこらの男子よりは筋力が有るのだ。

 

「ん~~、神狩殿の顔は美味しいでありますなぁ~」

 

「オ、オイ、お前等っ! 助けてくれっ!!」

 

更に顔を舐め回され、白狼は冥桜学園の生徒達に助けを求めたが………

 

「こりゃ傑作だ」

 

「わおっ! シャッターチャンスッ!」

 

「見ちゃいました!」

 

「アハハハ、面白い面白い」

 

冥桜の皆はその光景を面白がり、携帯やスマホで写真・動画撮影しており、全く助けようとする気配は無い。

 

「お前等ぁっ!!」

 

「ブログのネタにしよう」

 

「ツイッターに挙げたろ」

 

「動画投稿サイトに………」

 

怒鳴る白狼だったが、冥桜の面々は全く気にせず、撮影した写真や動画をネットに挙げ始めようとするのだった。

 

「い、良いんですか? 止めなくて?」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。いつもの事ですから」

 

「それはそれで問題じゃないかなぁ………」

 

思わずそう言う幸子だったが、鳳翔が笑いながらそう返すと、杏が呆れた様に呟く。

 

「そう言えば、都市伝説を探してるんでしたね。お店が終わったらその場所までご案内しますね」

 

「え? 良いんですか?」

 

そこで鳳翔は、幸子達の企画を思い出しそう言う。

 

「ええ、その場所でしたら詳しいので」

 

「む? そう言えば、撮影者は?」

 

とそこで、蜻蛉切がカメラマンの姿が無い事に気づく。

 

「さ、撮影は………このビデオカメラで、撮すの………」

 

そう言って家庭用のホームビデオを見せる小梅。

 

「成程。ドキュメンタリー形式ですか………」

 

「ふふん! 僕に怖いものなんてありませんよ! ねっ! 杏さん!」

 

(きらりの袖を掴んでも説得力無さ過ぎ………)

 

強がってそう言う幸子だったが、その手はきらりの服の袖をしっかりと握り締めていた。

 

その後、店が終わり………

 

鳳翔が幸子達を案内すると、ハンディカムを持ってきた小梅が、撮影を開始。

 

暗い夜道の中を幸子は、杏の袖を掴んだまま出発する。

 

その後………

 

放送されたとときら学園の番外コーナーの、142cmとあんきらのホラーショーにて………

 

幸子が気絶した姿が放送されたのは言うまでも無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、酔っぱらって白狼の顔を舐め回した優花里は………

 

翌日にはスッカリ記憶を失っており………

 

更には二日酔い状態となっていたので、戦車の振動や砲撃音に終始苦痛の表情を浮かべていた。

 

優花里に覚えていないと言われた白狼も、練習中は終始憮然とした表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

 

 

 

あの破天荒警察官が………

 

 

 

 

 

再びガルパンの世界へ………

 

 

 

 

 

やって来るっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版ガールズ&パンツァー×こちら葛飾区亀有公園前派出所

 

『劇場版 両津&パンツァー 亀有より愛を込めて』

 

 

 

 

 

「大洗女子学園が廃校だとぉっ!!」

 

「そうなんですよ~。文科省が決めたらしくて………」

 

「ふざけるな! 中川! 来いっ!!」

 

「えっ!? ちょっ!?………」

 

 

 

 

 

「学園艦が戻って来てる!?」

 

「ようこそ、『私立』大洗女子学園へ」

 

「大洗女子学園艦と関係する全ての権利は、僕が買い取らせていただきました。だから、大洗女子学園は県立から私立になります」

 

「「「「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

「クソッ! 何で中川財閥が出張って来るんだ!!」

 

「折角懇意の解体業者に仕事を流して、その見返りを手に入れようとしたのに、全てパーだっ!!」

 

「おのれ、大洗………見ていろよ………このままではすまさんぞ」

 

 

 

 

 

「その繋がった眉毛は………ひょっとして………勘ちゃん?」

 

「えっ?」

 

「ホラッ! 私よ、私! 同じ小学校で同級生だった、『ちよきち』よ!!」

 

「!? 『ちよきち』!? お前、まさか!! 『千代』かよ!?」

 

 

 

 

 

「優勝旗を返還しろっ!?」

 

「優勝したのは県立大洗女子学園であって、私立大洗女子学園じゃないってさ」

 

「そんな事出来ません! あの旗には………私達皆の思いが籠っているんです!!」

 

 

 

 

 

「もしよろしければ………我々文科省が、ボコミュージアムのスポンサーをしてあげてもいいですよ」

 

「!?」

 

「如何します?」

 

(………大丈夫………私が助けてあげるからね)

 

 

 

 

 

「お願い、勘ちゃん! あの子を! 愛里寿を助けてっ!!」

 

「心配するな、ちよきち! わしに任せておけっ!!」

 

 

 

 

 

「待て待て待てえーいっ!!」

 

「! この声は!?」

 

「葛飾警察署亀有公園前派出所勤務、両津 勘吉巡査長! 大洗に味方するぜぇっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SS速報VIPにて、掲載予定!!




新話、投稿させていただきました。

里歌を加えたサンショウウオさんチームの初ライブ。
無事成功し、里歌もメンバーと大分打ち解けました。

そして、白狼は………
謹慎前の晩餐と、冥桜学園の居酒屋鳳翔で、冥桜の仲間達と過ごす。
そこへ乱入する優花里とアイドル達。
最後は酔った優花里に何とも羨ましい事をされるのだった(笑)

オマケですが、『VSこち亀』の、ガルパンとのコラボが予想以上に良かったので、時系列的に劇場版の前だから、このまま両さんが劇場版に介入したらと思い至りまして。
記載した通り、SS速報の方で掲載しようと思うので、台本形式+会話文オンリーの簡易SSです。
そうしないと、本編と並行で書き進めるなんて出来ないので。
開催時期につきましては、まだ何とも言えません。
余裕が在った、SS速報への掲載が終わった後、地の文などを追加して、こちらにも投稿しようかと。
あまり期待しないでいて下さい。

これからも、よろしくお願いします。


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第165話『グロリアーナ&ブリティッシュ、再びです!』

ハッピーバースデイ、みぽりん!!

本日、10月23日は、我等が軍神・西住 みほちゃんの誕生日!!

小説書きとしては、誕生日記念SSの1つも書くのでしょうが………

残念ながら本編執筆が忙しく、暇がありませんでした。

ごめんよ、みぽりん。

せめてものお詫びに、精一杯祝わせてもらいます、

お誕生日おめでとう!!


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第165話『グロリアーナ&ブリティッシュ、再びです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準々決勝にて、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊を相手に壊滅寸前まで追い込まれた大洗機甲部隊だったが………

 

白狼の帰還と、起死回生のヤシオリ作戦が成功し、如何にか勝利を収めた。

 

いよいよ残す試合は後2回………

 

そんな大洗機甲部隊は………

 

 

 

 

 

日本・某所………

 

『天竺ジョロキア機甲部隊、フラッグ車行動不能! よって、黒森峰機甲部隊の勝利っ!!』

 

「! ローリエさん!」

 

観客席に居たみほが思わず目を見開く。

 

今日は準々決勝の第3試合………

 

天竺ジョロキア機甲部隊VS黒森峰機甲部隊の試合が行われていたのだ。

 

練習試合を行い、交流もあった天竺ジョロキア機甲部隊と、王者黒森峰機甲部隊の試合………

 

気になる対戦カードに、みほは居ても立っても居られず、あんこうチームと弘樹、地市、飛彗、白狼、煌人と共に、試合会場を訪れていた。

 

そして結果は、ご覧の通りである………

 

「ローリエさん達………負けちゃった………」

 

「残念です………」

 

「やはり、相手が黒森峰では………」

 

「けど、惜しかったな………」

 

沙織、華、優花里、麻子の面々の表情も何処か浮かない。

 

「黒森峰の壁は厚かったか………」

 

「再戦の約束をしていたのに………」

 

「チッ………」

 

「だが、お蔭で黒森峰に対するデータが多少収集出来た」

 

地市、飛彗、白狼も何処か思う所が有る様子を見せる中、冷静に黒森峰のデータを収集している煌人。

 

「…………」

 

そして弘樹は、未だに彼方此方で黒煙が立ち上っている試合会場を見ながら、やがて傍に居たみほの方へと視線をやる。

 

「みほくん………」

 

「………弘樹くん」

 

弘樹に声を掛けられ、みほは弘樹の方を振り返る。

 

「………行くか」

 

「………うん!」

 

弘樹がそう問い質すと、みほは一瞬考え込んだ様な様子を見せたかと思うと、やがて決心した様子で力強く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天竺ジョロキア機甲部隊の宿営地………

 

「オーライ! オーライッ!」

 

「それはコッチに頼む!」

 

天竺ジョロキア機甲部隊の面々が忙しく動き回り、撤収に入っている。

 

「「「「…………」」」」

 

その中で、ドラゴンワゴンに乗せられる、彼方此方に被弾し、ボロボロになっているコメット巡航戦車を見上げているローリエ、ルウ、ターメリック、キーマの姿が在った。

 

「ローリエさん!」

 

「ターメリック」

 

とそこで、みほと弘樹を先頭に、あんこうチームと地市達が姿を見せる。

 

「! みほちゃん!」

 

「舩坂 弘樹………」

 

「「!!」」

 

ローリエとターメリックが反応し、ルウとキーマも弘樹達の方へ向き直る。

 

「………負傷したのか?」

 

とそこで、弘樹がターメリックの腕に包帯が巻かれているのを見てそう言う。

 

「掠り傷だ………」

 

そう答えるターメリックだが、その表情は複雑そうだ。

 

「ローリエさん、あの………」

 

「ゴメンナサイね………再戦の約束は果たせなかったわ」

 

みほが何か言おうとして口籠ると、ローリエの方がそう切り出す。

 

その表情は何処か悲しげだ………

 

「ゴメン! 私がもっと上手く操縦してれば!!………」

 

「いや! 俺がもっとしっかりとしていれば!!………」

 

そこで、耐え切れなくなった様に、ルウとキーマが悔し涙を流し始める。

 

「止めろ、2人共っ!!」

 

「「!!」」

 

しかし、ターメリックがそれを一喝する。

 

「我々は負けた………それが事実だ」

 

「そうよ。気にするなとは言わないけど、引き摺っちゃ駄目よ。貴方達には来年が有るんだから」

 

ルウとキーマに向かって、ターメリックとローリエはそう言い放つ。

 

「で、でも、お姉ちゃんは………」

 

「隊長はもう………」

 

「…………」

 

そう言うルウとキーマの様子を見て、みほも黙り込む。

 

「確かに、私の高校での戦車道はもう終わったわ………でも、まだ次の戦車道があるわ」

 

「! 次の………戦車道」

 

ローリエのその言葉に、みほが軽く驚きを示す。

 

「大学に行っても、社会人になっても戦車道は出来るわ。戦車道そのものが終わったワケじゃないわ」

 

「お姉ちゃん………」

 

「キーマ、ジョロキアの事は任せたぞ………」

 

「隊長………ハイ!」

 

ローリエとターメリックにそう言われ、ルウとキーマは表情を引き締める。

 

「………みほちゃん、再戦の約束は果たせなかったけど、もし貴方がコレからも戦車道を続けるなら、きっとまた道が交わる日が来るわ」

 

「その時に………改めて勝負だ」

 

そして、ローリエはみほに握手を求め、ターメリックは弘樹に握り拳を突き出す。

 

「! ハイッ!!」

 

「望むところだ………」

 

みほはその握手に応え、弘樹は自分の拳をターメリックの拳に軽くぶつけた。

 

こうして、天竺ジョロキア機甲部隊の戦車道・歩兵道全国大会は終わりを告げた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗女子学園・戦車格納庫………

 

「よし! コレでOKだね!」

 

「ああ、何とか形になったな………」

 

ナカジマと敏郎が、サンショウウウオさんチームのクロムウェルを見上げながらそう言う。

 

そのクロムウェルの主砲は、6ポンド砲ではなく………

 

75ミリ QF砲に換装されており、更に追加装甲をボルト止めで増設してあった。

 

「凄~いっ! 何か強そうになったぁっ!!」

 

「強そうじゃなくて、実際に強化されているんですよ」

 

聖子がそんなクロムウェルの姿を見て、目を輝かせながらそう言うと、優がそうツッコミを入れる。

 

「気を付けてよ。火力と装甲は強化して、速度も据え置きだけど、その分足回りへの負担は増えるから、操縦は慎重にね」

 

「大丈夫だって、任せとけ!」

 

藤兵衛がそう忠告すると、唯は心配要らないとサムズアップを返す。

 

「天地、貴方にはまだやる事があるでしょう」

 

とそこで、そんな唯に里歌がそう言って来た。

 

「うえっ!? またかよ………」

 

「上手く歌いたいんでしょう? 文句言わない」

 

「ヘイヘイ………分かりましたよ」

 

里歌にそう言われ、唯は愚痴りながら頷く。

 

サンショウウオさんチームの中で、歌唱力に問題を抱えていた為、今までステージで歌った事の無い唯に対し、里歌が元候補生の経験を活かして、個人的にボイスレッスンを付けていた。

 

その甲斐あって、当初の頃はジャイアンリサイタル並みだった唯の歌唱力は瞬く間に向上。

 

今では人並みに歌える様になっていた。

 

「いよいよ次のステージではメンバー全員でパフォーマンスが出来そうだね」

 

「楽しみだにゃ~」

 

伊代と満里奈が笑顔を浮かべてそう言い合う。

 

「また世話になったな、とっつあん」

 

「気にすんなって。丁度良いのが有ったから手に入れておいてやっただけだ」

 

その様子をやや離れたところから見ていた弘樹とゴウトがそう言い合う。

 

何を隠そう、クロムウェルの強化改造用の部品を持って来てくれたのはゴウトであった。

 

「………ところで、『例の件』の方は?」

 

そこで弘樹は、小声でゴウトに調べておいて欲しいと頼んだ件………

 

文科省が進めている学園艦統廃合計画の裏側の事を尋ねる。

 

「ああ、まだ大きな事は掴めちゃいねえが………少なくとも、一部では無く文科省全体が絡んでいるのは間違いねえ。金も相当動いているみてぇだしな」

 

「そうか………」

 

「けど、コレ以上調べるとなると、公的な機関からの情報も欲しいところだな」

 

「公的な機関………警察等か」

 

ゴウトからそう言われた弘樹は、少し思案顔になる。

 

「………分かった。生徒会長に話してみる」

 

「神大の御曹司様か………成程、うってつけだな」

 

迫信に相談すると言った弘樹の言葉を聞いて、ゴウトはニヤリと笑う。

 

「じゃあ、そろそろ失礼するぜ。今年の戦車道・歩兵道の全国大会は異様なまでに盛り上がってるんでな。商売話が溢れてるんだ」

 

「ああ。また頼むぞ」

 

「毎度あり~」

 

ゴウトはそう言い残すと、格納庫から出て行った。

 

「………さて」

 

それを見送ると、弘樹は迫信の元へと向かう。

 

「生徒会長、宜しいですか?」

 

「ああ、舩坂くんか。丁度良かった」

 

歩兵部隊の補給品のリストをチェックしていた迫信が、弘樹の姿を認めるとそう言う。

 

「ちょっとお話が有るのですが………」

 

「………余り人に聞かれたくない事かい?」

 

「…………」

 

迫信がそう尋ねると、弘樹が無言で頷く。

 

そして弘樹と迫信は、格納庫の隅の方へと移動する。

 

「………それで? 一体どんな話だい?」

 

「実は………」

 

弘樹は、ゴウトが得ていた情報を、迫信へと開示する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程………統廃合計画に黒い噂が有るのは聞いていたが、君も知り合いに調べて貰っていたとはね」

 

「生徒会長。私感ではありますが、この件、かなり根が深いかと………」

 

「私もそう思うよ………了解した。私の方からも手を回そう」

 

「ありがとうございます、生徒会長」

 

弘樹は迫信に向かって頭を下げる。

 

「………そう言えば生徒会長。先程、『丁度良かった』と仰っておりましたが、それは?」

 

「ああ、そうだった。角谷くんが君を探していてね。大洗女子学園の生徒会室まで来て欲しいそうだ」

 

「角谷会長が? 分かりました。すぐに向かいます。失礼」

 

杏が自分を探していると聞き、弘樹は大洗女子学園の生徒会室へと向かう。

 

「………さて」

 

弘樹が去ると、迫信は懐からスマホを取り出すと、電話帳に有ったとある人物へと電話を掛ける。

 

『………ハイ、もしもし?』

 

「お久しぶりです、後藤警部補。迫信です」

 

『ああ、神大とこのお坊ちゃん。久しぶりだね~』

 

電話の先からはとぼけた様な声が返って来る。

 

『………それで、俺に電話掛けて来たって事は、厄介事かな?』

 

しかし、すぐに鋭い感じがする声になる。

 

「お察しが良くて助かります。実は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………成程。そりゃ臭いな』

 

「知人が個人的に調べていたのですが、民間からの情報だけではそろそろ限界が来ている様でして」

 

『それでウチ(警察)での情報を入れてくれって事ね。でもね、分かってる? そう言うのっていけないんだよ?』

 

「『正義の味方』の後藤警部補としては、見逃せない事態だと思ってご連絡差し上げたのですが?」

 

『若い内から大した狸っぷりだね………ま、良いさ。実を言うと俺もその噂は気になってたんだ。調べてみるよ』

 

「お願いします。今度そちらへの寄付金を割り増しする様に指示しておきますので」

 

『そりゃ大いに助かるね。じゃ、忙しいから、切るね』

 

電話の相手はそう言うと、迫信の返事も待たず電話を切った。

 

「…………」

 

すると迫信は、更に別の人物へと電話を掛け始める。

 

「もしもし………公安9課の荒巻課長をお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

迫信から、杏が自分を探していたとの話を聞いた弘樹は、大洗女子学園の生徒会室前に来ていた………

 

「角谷会長、舩坂です」

 

扉をノックし、中に居ると思われる杏に声を掛ける。

 

「おお~、待ってたよ~、入って~」

 

「失礼します」

 

杏からの許しを得て、弘樹は生徒会室内へと入る。

 

するとそこには先客の姿が在った………

 

「! 弘樹くん!」

 

「みほくん? 君も呼ばれてたのか?」

 

「うん………」

 

弘樹はみほの隣に並び立つと、共に生徒会長席に腰掛けている杏に視線を向ける。

 

「2人共揃ったね~」

 

「あの、会長………私達2人に用って何ですか?」

 

杏がそう言うと、みほが改めてそう問い質す。

 

「ん~~、実はね~~………」

 

そこで杏は、生徒会長机の引き出しをゴソゴソと漁り始める。

 

「え~と、何処やったかなぁ~?………おっ! あったあった!」

 

やがて何かを見つけると、それを取り出して、弘樹とみほに見せる様に机の上に置く。

 

それは、高級感溢れる2枚の封筒だった。

 

「2人宛に届いてたんだ~」

 

「手紙?………」

 

「小官達宛に?………」

 

杏がそう言うと、みほと弘樹はその封筒を手に取る。

 

そして送り主を確認すると………

 

「! 聖グロリアーナ女学院っ!?」

 

「ダージリン………」

 

みほが驚きの声を挙げ、弘樹も表情を険しくする。

 

何故なら、聖グロリアーナ女学院、そして聖ブリティッシュ男子高校のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は………

 

次の準決勝の相手なのである。

 

かつて、戦車道を再開させ、歩兵部隊の規模もまだまだだった頃………

 

大洗町を舞台に行ったグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との練習試合………

 

結果は奮戦したものの、大洗機甲部隊の惨敗………

 

初期からのメンバーにとっては、苦い記憶である。

 

そのグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と、遂に再戦をする機会を得た。

 

しかも、全国大会の準決勝と言う晴れの舞台で………

 

大洗機甲部隊の戦意は、否が応にも高まっていた。

 

無論、弘樹とみほも例に漏れない。

 

「「…………」」

 

2人は顔を見合わせると、封筒を開き、中に有った手紙を広げる。

 

「何て手紙?」

 

「コレは………」

 

「招待状です………」

 

杏がそう尋ねると、弘樹とみほは呆気に取られた様な表情でそう言う。

 

「招待状?」

 

「ハイ………私と弘樹くんを、是非お茶会に招待したいって」

 

「罠か? 或いは試合前の諜報戦の一種か………」

 

みほが杏とそう言い合っている横で、弘樹は思案顔になって様々な可能性を考える。

 

「行ってみりゃ分かるんじゃないの?」

 

しかし、杏はあっけらかんとそう言い放った。

 

「!? 会長っ!?」

 

「角谷生徒会長、それは………」

 

何かを言おうとするみほと弘樹だったが………

 

「な~に、あの隊長さんは腹芸は得意そうだけど、信用は出来るさ。それにコッチから偵察に行って捕まったら拙いけど、向こうが招待してくれて行く分には大丈夫じゃん」

 

それを制する様に、杏は続けて2人にそう言った。

 

「それは………」

 

「一理有りますが………」

 

「それに言うじゃん。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ってね」

 

「「…………」」

 

杏がそう言うのを聞いて、弘樹とみほは顔を見合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

聖グロリアーナ女学院&聖ブリティッシュ男子高校の学園艦の甲板都市の一角にて………

 

「此処が聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校の学園艦の甲板都市………」

 

「学園艦自体は前に見ていたが、甲板都市に上がるのは初めてだな」

 

連絡船の乗り場から上がって来たみほと弘樹が、目の前に広がるイギリス風の街並みを見てそう言い合う。

 

2人は虎穴に入る事を決断したのである。

 

と、そこへ………

 

「失礼します。西住 みほ様と舩坂 弘樹様ですね?」

 

そう声を掛けられて、弘樹とみほが声の主を確認すると………

 

「お待ちしておりました」

 

何時の間にか停まっていた馬車の傍でお辞儀をしているメイドの姿が在った。

 

「貴方は?………」

 

「ダージリン様の使いで参った者です。どうぞ、御乗り下さい。学園までご案内致します」

 

弘樹が尋ねると、メイドはそう言い、2人に馬車に乗るよう促す。

 

「御乗り下さいって………この馬車にっ!?」

 

「その様だな………」

 

まさか馬車が迎えに来るとは微塵も思っていなかったみほは驚きの声を挙げる。

 

「グロリアーナは英国風に加え、お嬢様の学校だと聞いていたが………ココまでとはな」

 

「あ、あはは………」

 

そう呟く弘樹に、みほは乾いた笑いを漏らしながら、共に馬車へと乗り込む。

 

「ハイッ!」

 

2人が乗ったのを確認すると、メイドは馬車の馬を操る席に座り、手綱を引くと、馬車を走らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

再戦の約束をしていた天竺ジョロキアは、黒森峰の前に敗れた………
だが、新たな再戦の約束を胸に、新たな天竺ジョロキア機甲部隊が生まれる。

そして、大洗の準決勝の相手は因縁のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊。
学園艦統廃合計画の裏への調べも進む中………
ダージリンより、みほと弘樹に茶会の招待状が届いた。
果たして、その目的は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第166話『ダージリンさんのお茶会です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第166話『ダージリンさんのお茶会です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の準決勝で、大洗機甲部隊と当たるのは………

 

かつて、再編直後に大洗機甲部隊と練習試合を行い………

 

大洗機甲部隊唯一の黒星………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊であった。

 

遂に訪れたリベンジの再戦を前に、大洗機甲部隊の士気は上がる。

 

そんな中………

 

当の対戦相手であるグロリアーナ校のダージリンから………

 

弘樹とみほに、お茶会の誘いが届いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院&聖ブリティッシュ男子高校の学園艦の甲板都市………

 

迎えに来ていた馬車に乗り込み、暫し揺られる事………

 

「お待たせいたしました。ご到着です」

 

馬を操っていたメイドがそう言って馬車を停めると、素早くドアを開いて、弘樹とみほの降車を促す。

 

「………コレは」

 

「わあ………」

 

馬車から降りた弘樹とみほは驚きに目を見開く。

 

何故ならそこには………

 

「「「「「「「「「「ようこそ、聖グロリアーナ女学院へ」」」」」」」」」」

 

校舎まで続く真っ赤なカーペットの両端に、メイドがズラリと整列して、一斉に挨拶と共にお辞儀をして来ていた。

 

「はわあ~~………」

 

「…………」

 

呆気に取られているみほと、如何にもこそばゆさを感じる弘樹。

 

「さあ、どうぞ此方へ。ダージリン様がお待ちです」

 

と、馬車を操っていた迎えのメイドがそう言い、弘樹とみほを案内しようとする。

 

「「…………」」

 

そのメイドに連れられるままに、2人はカーペットの上を歩いて校舎へと向かう。

 

その間、他のメイド達はカーペットの端に並んだまま、お辞儀の姿勢を取り続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院・校舎内………

 

まるで宮殿の様な豪華の内装の校舎内を、メイドに案内されて歩く弘樹とみほ。

 

「ふわあ~~………」

 

(如何にも落ち着かないな………)

 

内装にまたも圧倒されているみほと、居心地の悪さを感じる弘樹。

 

やがてメイドは、これまた高級そうな木製のドアの前で立ち止まったかと思うと、そのドアをノックする。

 

「ダージリン様。西住 みほ様と舩坂 弘樹様をお連れしました」

 

「通してちょうだい」

 

「ハッ、失礼します………どうぞ」

 

ドアの向こうから、ダージリンの入室許可が下りると、メイドはドアを開け、弘樹とみほに入室を促す。

 

「「…………」」

 

促されるままに部屋の中へと入る弘樹とみほ。

 

「………お待ちして居ましたわ」

 

豪華な内装の部屋の窓際に置かれていた、茶菓子の乗って居る円卓に備えられた椅子に、ティーカップを片手に腰掛けているダージリンが、弘樹とみほの姿を認めるとそう挨拶する。

 

「御機嫌よう」

 

「ようこそ御出で下さいました」

 

そのダージリンの両隣を固める様に椅子に腰掛けていたアッサムとオレンジペコも、お辞儀をしながら挨拶をする。

 

「ど、どうも………」

 

「お招きありがとうございます」

 

緊張した様子で挨拶を返すみほと、やや社交辞令気味に返す弘樹。

 

「さ、どうぞお座りになられて」

 

ダージリンはそう言い、2人に円卓の空いてる席に座るよう促す。

 

「「…………」」

 

促されるままに空いていた席に腰掛ける弘樹とみほ。

 

「今、お茶を淹れますね」

 

とそこで、オレンジペコが弘樹とみほの紅茶を淹れる為に立ち上がろうとしたところ………

 

「待ってペコ。今日は私が淹れるわ」

 

ダージリンがそう言ってペコを制した。

 

「!? えっ!?」

 

「ダージリン様、自ら!?」

 

ダージリン自ら紅茶を淹れると言う事に、アッサムとオレンジペコは驚きを露わにする。

 

「…………」

 

しかしダージリンは、そんな2人の驚きを気にする事も無く、ティーカップをテーブルの上のソーサーに置くと、椅子から立ち上がる。

 

そして、部屋の中に在った備え付けの給湯所へ行くと、自ら紅茶を淹れ始めた。

 

少しして………

 

「どうぞ………『ダージリン・ティー』ですわ」

 

ダージリンがそう言って、弘樹とみほに出したのは、自らの名前と同じ『ダージリン・ティー』

 

「あ、ありがとうございます」

 

「どうも………」

 

早速2人は、ソーサーを手に取り、カップを持ち上げると、紅茶を口にする。

 

「! 美味しいっ!」

 

「!………」

 

途端に、みほがそう声を挙げ、弘樹も僅かに目を見開いた。

 

「こんな美味しい紅茶、初めて飲みました!」

 

「そう………それは良かったわ」

 

みほが感激しながらそう言うと、ダージリンは嬉しそうに微笑む。

 

「………それで、本日は一体どんな用で小官達を呼んだのですか?」

 

とそこで、弘樹が一旦カップとソーサーを置いたかと思うと、そう話を切り出した。

 

「ひ、弘樹くん………」

 

「あら? 随分とストレートにお尋ねになるのね」

 

「回りくどいのは苦手でして………」

 

みほが少し動揺するが、ダージリンは特に気にした様子は見せない。

 

「そうね………貴方達を呼んだ理由………」

 

ダージリンは再び自分の席に腰掛けると、紅茶を一口飲んで間を入れる。

 

「………貴方達とお茶会がしたかったからよ」

 

「えっ?………」

 

「それだけ………ですか?」

 

思わぬダージリンの返しに、みほは戸惑うが、弘樹は疑いの目を向ける。

 

「ええ、それだけよ………」

 

しかし、ダージリンはしれっとした様子で、また紅茶を飲む。

 

「………私はね………貴方達の………大洗のファンなのよ」

 

「ファン?」

 

「ええ………覚えていらっしゃるかしら? あの練習試合の事を………」

 

「あ、ハイ。私達が初めて他校相手に行った試合ですから………」

 

「あの時以来、私は貴方達から目が離せなくなってしまったわ」

 

みほがそう言うと、ダージリンは懐かしそうな目をしながらそう言う。

 

「あの試合、結果だけ見れば私達の勝利でしたが………何かが違っていたら………私達が敗者となっていたかも知れませんわ」

 

「そんな事………」

 

「正直、私はあの時………貴方達の事を見下していました」

 

「えっ?………」

 

そんな事は無いと言おうとしたみほを遮り、ダージリンはそう告白する。

 

「戦車道を復活させたばかりの戦車チームに、細々と歩兵道を続けていた歩兵部隊………正々堂々と言いましたけど、私達の一方的な試合になると心の何処かで思っていましたわ」

 

「「…………」」

 

「けど、貴方達は必死に喰らい付いて来た………それこそ、私達の喉元までに」

 

「ダージリン………」

 

「ダージリン様………」

 

ダージリンの言葉に、アッサムとオレンジペコも思うところが有る様な顔を見せる。

 

「以来、アナタ方の試合は欠かさず観戦させて頂いていおりましたわ。今の大洗機甲部隊に、あの時の素人集団の面影は見受けられません。今や立派な強豪校と言えるでしょう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「だからこそ………私も本当に全力でお相手する事が礼儀だと思っております」

 

と、ダージリンがそう言った瞬間、その身体から気迫が放たれる。

 

気のせいか、窓ガラスがビリビリと震えた様に思えた。

 

「「!!」」

 

そんなダージリンの姿を初めてみるアッサムとオレンジペコは、思わず萎縮して黙り込んでしまう。

 

「「…………」」

 

しかし、弘樹とみほは、戦闘時の引き締まった表情となり、ダージリンのその気迫を真正面から受け止めていた。

 

「………それでこそ、私の宿敵………ライバルですわ」

 

そんな2人の様子を見て、ダージリンは満足そうな表情を見せると、またもや紅茶を飲むのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

試合に関する話はそれっきりになり、残りは他愛の無い会話を交わしたり………

 

ダージリンの格言とアッサムのジョークトークが炸裂したりとありながら、お茶会はお開きとなった………

 

 

 

 

 

聖グロリアーナ女学院・玄関………

 

「今日はどうもありがとうございました」

 

「気にしないで、みほさん。招待したのはコチラなのですから」

 

見送りに来てくれたダージリン達に、みほがお辞儀をする。

 

「試合の日を楽しみにしていますわ………」

 

「ハイ、私もです………」

 

「では、失礼します」

 

弘樹がそう言うと、みほは弘樹と共に、来た際にも歩いたカーペットの上を歩き出す。

 

「「「「「「「「「「ありがとうございました。お気を付けて」」」」」」」」」」

 

またも、カーペットの両脇に整列していたメイド達が、挨拶と共に一斉に頭を下げて見送る。

 

「あ、あはは………」

 

「慣れんな、コレは………」

 

その様子に、如何にも居心地の悪さを感じ、みほと弘樹は正門付近に停めてある馬車の元まで早足気味になる。

 

「ん? アレは………」

 

と、その時………

 

弘樹が、校門の付近に佇んでいる人影を発見する。

 

「あ、あの人は………」

 

「アールグレイ………」

 

「…………」

 

近づくと、その人影がアールグレイである事に気づく2人。

 

「…………」

 

無言で2人の姿を見据えながら、ジッと佇んでいるアールグレイ。

 

「「…………」」

 

弘樹とみほは無言のまま歩みを進め、馬車の元へと辿り着く。

 

そして、先ずみほが馬車へと乗り込み、続いて弘樹が乗り込もうとしたところ………

 

「………決勝へ進むのは、我等グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊だ」

 

「…………」

 

アールグレイがそう言ったのを聞いて、弘樹の足が止まる。

 

「………それは如何かな?」

 

弘樹は一瞬だけアールグレイの方を見やると、改めて馬車へと乗り込む。

 

2人が乗り込んだのを確認すると、手綱を握っていたメイドは、馬車を走らせる。

 

「…………」

 

アールグレイは、その馬車の姿を見えなくなるまでジッと見ていたのだった。

 

「珍しいですわね………」

 

「アールグレイさんがあんな事をするなんて………」

 

その様子を見ていたアッサムとオレンジペコがそう漏らす。

 

「それだけ彼も期待していると言う事よ………歩兵道者としての試合をね」

 

しかし、ダージリンだけは不敵な笑みを浮かべてそう言う。

 

「………それにしても、ダージリン様。本当に良かったのですか?」

 

「『彼女』とクルセイダーの投入は、黒森峰用の隠し玉だった筈では」

 

とそこで、オレンジペコとアッサムは、ダージリンにそう問い質す。

 

「先ず大洗に勝たなければ黒森峰も何も無いわ。それに、全力で戦う………そう約束したのですから」

 

「まあ、確かに今の大洗機甲部隊のデータは、練習試合の時と比べて遥かに優れています。油断は出来ません」

 

ダージリンがそう返すと、アッサムが自分のノートPCを取り出し、大洗機甲部隊について纏めたデータを見ながらそう言う。

 

「でも、OG会の意向を無視して、新しい戦車を購入して投入するのはやり過ぎではないですか?」

 

「そうですよ。もし負けたりしたら、OG会が何て言って来るか………」

 

アッサムとオレンジペコの顔に不安な様子が現れる。

 

聖グロリアーナ女学院は、本家イギリスとの提携や卒業生の経済支援により、財政的には裕福な学校なのであるが………

 

その体制ゆえに、OG会が強力な発言権を持っており、マチルダ会・チャーチル会・クルセイダー会の3つから成るOG会が、購入・使用する戦車を制限して来ているのだ。

 

マチルダ会に至っては、戦車道チームの戦車編成にまで注文をつけてくる有り様である。

 

しかし、ダージリンは今回、そのOG会全ての意向を完全に黙殺。

 

戦車道用の予算を、全て独断で決めた戦車購入に充てたのである。

 

「心配要らないわ。その時は全て私が独断でやった事と言う事にすれば、お叱りを受けるのは私1人で済むわ」

 

「! ダージリン! それは!!………」

 

「!!」

 

サラリとそう言い放つダージリンに、アッサムとオレンジペコは驚愕する。

 

「アッサム、ペコ………私は次の試合………それこそ燃え尽きる積りで戦う積りよ」

 

「「えっ!?………」」

 

「だって、あの方は………西住 みほさんは………」

 

そう言いながら空を見上げるダージリン。

 

その見上げている空に、みほの姿が幻視される。

 

「………私の終生のライバルと認めた相手ですから」

 

そう言い放つダージリンの目は、闘志に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は流れ………

 

遂にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊との準決勝戦………

 

大洗機甲部隊にとっては、リベンジ戦となる戦いの日が訪れた。

 

試合会場となるのは、何処となく大洗に似た港町を模した自衛隊の演習場だった。

 

既に両機甲部隊は、試合開始前の挨拶の為に集まっており、お互いの部隊の人員と使用戦車の姿が晒されている。

 

「…………」

 

「ほう? コレはコレは………」

 

そのグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の、グロリアーナ戦車チームの戦車を見たみほが軽く驚きを示し、迫信も口元を扇子で隠して笑う。

 

グロリアーナ戦車チームの戦車は………

 

ダージリン達が乗るフラッグ車とは別にチャーチルが4輌の計5輌

 

マチルダⅡが10輌

 

クルセイダーMk.Ⅲが10輌

 

チャーチルを改造した駆逐戦車『チャーチル・ガンキャリア』が5輌

 

『エクセルシアー重突撃戦車』、『TOGⅡ』、『ブラックプリンス』、『クロムウェル』が其々1輌ずつ。

 

アメリカ軍からレンドリースで供与されたM10・ウルヴァリンに17ポンド砲を搭載したイギリスの改造車『アキリーズ』が10輌

 

M3軽戦車ことスチュアートⅢが3輌。

 

M5軽戦車ことスチュアートⅥが3輌。

 

中心はやはりチャーチル、マチルダ、クルセイダーながらも、それ以外の多数の戦車が多く揃えられていた。

 

「此処へ来て、コレだけの新戦車を一斉投入だと?」

 

「グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、今までズッとチャーチルとマチルダⅡの編成で勝ち進んでいたと言うのに、如何言う積りだ?」

 

桃と十河が、いきなり多数の新戦車を投入して来たグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を訝しむ。

 

「御機嫌よう………」

 

とそこで、パンツァージャケット姿のダージリンが、みほの前に姿を現す。

 

「ダージリンさん………」

 

「言ったでしょう………全力を持ってお相手するって」

 

そう言って不敵に微笑むダージリン。

 

「!………」

 

その笑みに迫力を感じ、一瞬息を呑むみほ。

 

「………今日は、よろしくお願いします」

 

だが、すぐに気を取り直すと、ダージリンに向かって右手を差し出し、握手を求めた。

 

(………本当に御強くなられたわね。今から試合が楽しみだわ)

 

ダージリンはその握手に応えながら、内心でそう思いやっている。

 

「それでは、これより戦車道・歩兵道全国大会準決勝………大洗機甲部隊対グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の試合を開始します」

 

とそこで、主審のレミがそう告げる。

 

「一同、礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「よろしくお願いしますっ!!」」」」」」」」」」

 

レミの号令に従い、両機甲部隊の隊員達は礼を交わす。

 

そしてすぐに、自分達のスタート地点へと向かう準備に入る。

 

「「…………」」

 

その中で、弘樹とアールグレイが、互いに睨み合う様に視線を交わす。

 

「「…………」」

 

だがそれも一瞬の事であり、両者はすぐに自分達の部隊と共に移動を始める。

 

言葉を交わす必要など無い………

 

全ては試合………弾丸を通して語る………

 

それが歩兵道だ………

 

まるでそう言うかの様に………

 

『さあ! いよいよ長く続いたこの第63回戦車道・歩兵道全国大会も残す試合は後僅か! 本日の準決勝の試合のカードは! 大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊!!』

 

『情報によれば、大洗は戦車道を復活させて間も無くの練習試合で、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊に敗北していると聞きます。この試合は大洗にとってはリベンジの機会とも言えるでしょう』

 

実況席でも、ヒートマン佐々木とDJ田中によるお馴染みの実況が開始される。

 

『その注目の1戦を制するのは、果たしてどちらなのでしょうか!?』

 

『それはまだ分かりませんが………少なくとも、今年の参加部隊は、全て伝説を作っている………コレだけは確かに言えると思っています』

 

『では、いよいよ試合開始です! 大洗機甲部隊! そしてグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

『試合開始ッ!!』

 

最後に、ヒートマン佐々木の決め台詞が響くと、レミの声で試合の開始が宣言されたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ダージリンから茶会の招待を受けたみほと弘樹。
その席で告げられたのは、ダージリンからの宣戦布告だった。
全力を持って相手をする………
その言葉を証明するかの様に、試合当日に新戦車を多数引っ提げて登場したグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊。
そして遂に………
準決勝の幕が上がる。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第167話『準決勝、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第167話『準決勝、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝………

 

大洗機甲部隊VSグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

フラッグ車であるⅣ号を囲む陣形で、街中へと続く海岸線の大通りを進軍中の大洗機甲部隊は………

 

「今回の試合会場………何だか、大洗の町にそっくりですね」

 

「うん………」

 

優花里の言葉に、キューポラから姿を晒しているみほはそう返す。

 

「そうなると、勝手が似てるって事で、俺達には有利って事か?」

 

「地市、忘れたのか? 我々は大洗の町でグロリアーナ&ブリティッシュと戦い、敗れているんだぞ」

 

地市がそんな事を口にするが、即座に弘樹が戒める。

 

「っと、そうだった………」

 

「ですが、今回の戦いはその雪辱戦としてうってつけですね」

 

すぐに気を取り直す地市と、そう口にする楓。

 

「ああ、そうだな………」

 

その言葉に、弘樹も思う所が有る様な様子で頷く。

 

「西住総隊長。先ず、如何しますか?」

 

とそこで、M3リーのハッチから姿を晒していた梓が、みほへそう尋ねる。

 

「やっぱり、市街地でゲリラ戦ですか?」

 

その随伴分隊長である勇武もそう言って来る。

 

「そうしたいところですが………相手は、あのダージリンさんです。初めて戦った時も、手を読まれましたし、私達の試合を欠かさず観戦していたそうです」

 

「ナイトウィッチ&ハロウィンの時と同じで、コチラの行動を読まれる可能性が大と言う事だね」

 

みほがそう言うと、迫信が補足する様にそう言う。

 

「ハイ。なので、今回は………」

 

と、みほが何かを言うとした瞬間!

 

全員の耳に、風切り音が聞こえて来た!

 

「! 散開っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

即座にみほはそう指示を出し、大洗機甲部隊の一同は方々に散らばる。

 

直後に、先程まで大洗機甲部隊が纏まっていた場所に、砲弾が着弾!

 

派手に火柱と爆煙を立ち上らせた!!

 

「超長距離砲撃っ!? カノン砲かっ!? それとも自走砲かっ!?」

 

「かなり大型の砲弾だったぞっ!!」

 

地面に伏せて爆風を回避しながらも、降って来た砲弾を観察していた大洗歩兵部隊員からそう声が挙がる。

 

「西住総隊長! 今の砲撃は、海側から飛んできましたっ!!」

 

とそこで、砲撃が海側から飛んで来ていたのを目撃していた秀人が、みほへそう報告を挙げる。

 

「海側っ!? まさかっ!?………」

 

みほは驚きながらも、双眼鏡を手にして、すぐに水平線を確認する。

 

するとそこには………

 

艦隊を形成して浮かんでいる………

 

イギリス海軍艦艇………グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の支援艦隊の姿が在った!!

 

「! 敵の支援艦隊ですっ!! 全部隊、急いで町へ移動して下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

みほの声に驚きながらも、大洗機甲部隊の面々はすぐに市街地へ向かっての移動を開始する。

 

その直後に、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の支援艦隊の艦影に、発砲炎が煌めき、大洗機甲部隊の周辺で次々に火柱が上がった!!

 

「おうわっ!? 凄まじいなぁっ!!」

 

「当たり前だ。戦艦が4隻も居るぞ」

 

ジープを操る大河が思わずそう漏らすと、双眼鏡でグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の支援艦隊の様子を見ていた大詔がそう言う。

 

その言葉通り、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の支援艦隊には4隻もの戦艦………

 

ネルソン級戦艦1番艦の『ネルソン』、同2番艦『ロドニー』………

 

そして、クイーン・エリザベス級戦艦の1番艦『クイーン・エリザベス』、同2番艦の『ウォースパイト』の姿が在った。

 

周辺には、護衛艦隊と思われるヨーク級重巡洋艦の1番艦『ヨーク』と、同2番艦の『エクセター』

 

サウサンプトン級軽巡洋艦の1番艦『サウサンプトン』、同4番艦の『ニューカッスル』、同5番艦の『シェフィールド』

 

2代目E級駆逐艦の1番艦『エクスマス』、同4番艦の『エレクトラ』、同5番艦の『エンカウンター』

 

J級駆逐艦の1番艦『ジャッカル』、同7番艦の『ジュノー』、同8番艦の『ジュピター』の姿が在る。

 

「西住総隊長! コチラも洋上支援を要請する事を進言します! このフィールドであの規模の艦隊の艦砲射撃に晒され続けるのは危険です!」

 

「分かってる! コチラは大洗機甲部隊総隊長、西住 みほ。洋上支援を要請します!!」

 

Ⅳ号の傍を走るくろがね四起の運転席から、弘樹がそう叫ぶと、みほは即座に呉造船工業学校艦隊へ支援要請を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場に面した洋上………

 

要請を受けた呉造船工業学校艦隊の艦隊………

 

伊勢、日向に加え、大日本帝国海軍の象徴であった長門型戦艦の1番艦『長門』と、同2番艦の『陸奥』を中心に………

 

最上型重巡洋艦の1番艦で航空巡洋艦仕様となっている『最上』、同2番艦の『三隈』

 

川内型軽巡洋艦の2番艦『神通』、球磨型軽巡洋艦の3番艦で雷撃に特化した重雷装巡洋艦仕様となっている『北上』、同4番艦で同じく重雷装巡洋艦仕様となっている『大井』

 

お馴染みの護の雪風を含めた初風、天津風、時津風の第十六駆逐隊。

 

特Ⅲ型型駆逐艦、通称暁型の1番艦である『暁』、同2番艦の『響』、同3番艦の『雷』、同4番艦の『電』からなる『第六駆逐隊』で構成されている水上打撃部隊だ。

 

「敵艦隊、視認っ!!」

 

「全艦! 砲雷撃戦、用意っ!!」

 

「砲雷撃戦、用意っ!!」

 

長門の艦橋見張り要員がそう報告を挙げると、座乗していた艦隊司令はそう号令を掛け、雪風の艦橋では護が復唱する。

 

とそこで、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の支援艦隊が一斉回頭。

 

全艦隊が、呉造船工業学校艦隊の方へと向かって来る。

 

「敵艦、一斉に回頭して来ました!」

 

「向こうもやる気か………良いだろう! 帝国海軍の水雷戦能力、篤と見せてやるっ!!」

 

「水雷戦隊、各艦! 我に続けっ!!」

 

護がそう声を挙げた瞬間、神通の艦長が水雷戦隊全艦に指示を飛ばし、一斉に速度を上げ、先陣を切る様に敵艦隊へと向かって行く。

 

そこで、敵艦隊の内、ネルソン、ロドニー、クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヨーク、エクセターが、斉射を行う為に、一斉に取舵を取り、呉造船工業学校艦隊に側面を向ける様に陣形を取る。

 

「敵主力艦、一斉に取舵回頭」

 

「おも~か~じ、いっぱ~いっ!!」

 

「おも~か~じっ!!」

 

それに対し、長門、陸奥、伊勢、日向、最上、三隈は合わせる様に面舵を取り、両主力艦は同航戦へと縺れ込む。

 

その先頭を行くのは、呉校側が長門、陸奥。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ側がネルソン、ロドニー。

 

共に、世界のビッグ7と呼ばれた戦艦同士だった。

 

「スゲェッ! ビッグ7同士が撃ち合いを始めるぞっ!!」

 

「こんな光景、中々お目に掛かれねえぜっ!!」

 

史実では叶う事の無かった、ビッグ7同士の殴り合いに、観客達のテンションも上がる。

 

『コレは夢の対決っ! 長門型戦艦VSネルソン級戦艦のカードだぁっ!!』

 

『いや~、僕も初めてですねぇ。ビッグ7同士の殴り合いを見るのは』

 

実況席のヒートマン佐々木とDJ田中のテンションも高い。

 

とそこで、そんな観客達の期待に応えるべく………

 

長門と陸奥、そしてネルソンとロドニーの主砲が一斉に火を噴き、爆音をフィールド一帯へ響かせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊・本隊………

 

「我が方の支援艦隊が、大洗の支援艦隊との戦闘に入りました」

 

「そう………コレで大洗の支援艦隊は封じられたわね」

 

アッサムからの報告に、ダージリンは優雅に紅茶を飲みながらそう返す。

 

「でも、いきなり洋上支援を使ってしまって、良かったのですか?」

 

しかし、オレンジペコは、いきなり洋上支援を投入してしまった事へ懸念を示す。

 

「このフィールドの市街地は、それほど背が高かったり、頑丈だったりする建造物は殆ど無いわ。海からの砲撃を防ぐ手立ては殆ど無い………つまり、強力な大洗の支援艦隊を封じるのは当然の手よ」

 

だが、ダージリンは優雅な態度を崩さずにそう言う。

 

「大洗が航空支援でコチラの艦隊を迎撃すると言う可能性もあったのでは………」

 

「私がみほさんだったらそれはしないわ」

 

「如何してですか?」

 

「元々陸上戦力に乏しい大洗に取って、対地攻撃に於いて最も絶大な効果を発揮出来る航空支援は言わば虎の子………序盤から投入するのは躊躇う筈よ」

 

「流石はダージリン総隊長。見事な読みですね」

 

ダージリンの戦略眼に、セージが感心した様にそう言う。

 

「フフ………さて、次の手ね………『ローズヒップ』」

 

とそこで、ダージリンがそう言ったかと思うと………

 

1台のクルセイダーMk.Ⅲが、ダージリンの乗るフラッグ車でもあるチャーチルの横に、ドリフトの様に滑りながら横付けして来る。

 

「お呼びでございますかぁっ! ダージリン様ぁっ!!」

 

砲塔上部のハッチが開いたかと思うと、濃いピンクの髪を真ん中で分けたヘアスタイルの少女………『ローズヒップ』が、勢い良く姿を見せる。

 

尚、彼女が右手に持っているティーカップは、中身がバチャバチャと飛び散っている………様に見えて、1滴も零れていない。

 

まるで、某豆腐屋のハチロクの様な運転である。

 

「ローズヒップ、貴方また………」

 

「アッサム。今はお小言は無しよ………大洗はきっとB5の地点へ向かっているわ。先回りして仕掛けなさい」

 

「了解致しましたですわっ!!」

 

アッサムが注意しようとしたのを制し、ダージリンがそう命じると、ローズヒップは再び車内へ戻ったかと思うと、クルセイダーMk.Ⅲが発進。

 

そのローズヒップ車に続く様に、残りのクルセイダーMk.Ⅲと、スチュアートⅢ、スチュアートⅥが発進する。

 

するとそこで、クロムウェルがチャーチルの横へ付けて来たかと思うと、ハッチが開いて、丸眼鏡をかけた茶髪で、後ろ髪をラウンドシニヨンにしてまとめている少女が姿を見せる。

 

「『ニルギリ』、手筈通りにね」

 

「ハ、ハイ! 頑張りますっ!!」

 

ダージリンに『ニルギリ』と呼ばれた少女は、やや緊張している様子で返事を返す。

 

「そんなに緊張しないで。訓練通りにやれば問題無いわ」

 

「し、しかし………わ、私は、このクロムウェルに乗っての実戦はコレが初めてで………」

 

そんなニルギリの緊張を解そうとするダージリンだが、ニルギリは弱気そうな台詞を返す。

 

すると………

 

「そう………じゃあ、代わりましょうか」

 

「!? ええっ!?」

 

「ダージリン様っ!?」

 

ダージリンは突如そんな事を言い、ニルギリとオレンジペコが驚きの声を挙げる中、チャーチルから完全に抜け出し、そのままチャーチルの上を歩いてクロムウェルの方へと歩いて来る。

 

「! お、お待ち下さいっ!!」

 

それを見たニルギリが、慌ててダージリンを制した。

 

「こ、この様な事でダージリン様のお手を煩わせる様な事はさせられません! 申し訳ありません! このニルギリ! 甘ったれておりました!!」

 

先程までの弱気な態度が嘘の様に、ニルギリはダージリンに向かってそう言い放つ。

 

「『ニルギリ』の名に掛けて! 必ずや任務を遂行してご覧に入れます!!」

 

そう言うと、ニルギリはクロムウェルの車内へと消え、ハッチが閉じたかと思うと、クロムウェルが発進する。

 

「…………」

 

ダージリンはそんなクロムウェルを見送り、紅茶に口を付ける。

 

「………貴方も人が悪いわね、ダージリン。ニルギリを奮い立たせるのに、あんな真似をするなんて」

 

とそこで、アッサムがハッチから姿を見せ、チャーチルの車体の上に立ったままだったダージリンの背に向かってそう言い放つ。

 

「………半分は本気だったわ」

 

「えっ?………」

 

しかし、ダージリンからの思わぬ返しを受けて、驚きの表情のまま固まるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ダージリンの読み通り、フィールドのB5地点………

 

海から市街地を挟んで反対側の、大通りに入っていた………

 

「艦砲射撃が止んだぞ………」

 

「コッチの支援艦隊が来てくれたんだ。今頃、洋上じゃ一大艦隊戦が繰り広げられているんだろうな………」

 

重音の声に、磐渡がそう返す。

 

「被害を報告して下さい」

 

「戦車部隊は全員大丈夫だって」

 

みほが被害報告を求めると、各戦車から通信を受けた沙織がそう報告して来る。

 

「野戦砲と対戦車砲が数門、砲兵10数名と一緒にやられた」

 

「対空戦車も一部やられました」

 

一方、歩兵部隊からは野戦砲と対戦車砲、対空戦車に被害が出て、砲兵10数名がやられたとの報告が挙がる。

 

「…………」

 

被害が出た事に苦い顔になるみほだが、艦砲射撃を喰らい、損害がこの程度ならば寧ろ幸運な方と言える。

 

「………全部隊、コレより………」

 

「西住総隊長! 前方ですっ!!」

 

「!!」

 

すぐに気を取り直して指示を出そうとしたところ、弘樹がそう声を挙げ、すぐに前方を見やる。

 

そこには、派手に砂煙を巻き上げて突っ込んで来る、ローズヒップ車を先頭にしたクルセイダーMk.Ⅲ、スチュアートⅢ、スチュアートⅥからなる高速戦車部隊の姿が在った。

 

「発見しましたわぁっ! やっつけますわよぉっ!!」

 

大洗機甲部隊の姿を確認したローズヒップがそう号令を掛ける。

 

………相変わらず手にしている紅茶はバチャバチャと零れている様に見えて零れていない。

 

「! クルセイダー! それにスチュアートⅢとスチュアートⅥ!」

 

「高速の戦車部隊か………足の速さを活かして、予想した退避地点へ向かわせたと言う事か………」

 

みほがそう言うと、迫信が推測を述べる。

 

「対戦車砲、用意っ! 向こうは装甲の薄い戦車ばかりだ! コチラを射程に捉える前に、攻撃しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこで、十河がそう声を挙げ、砲兵達が迫って来る高速戦車部隊を迎え撃つ様に対戦車砲を配置する。

 

対戦車兵達も、手持ちの対戦車火器を構える。

 

「全車、砲撃用意っ!!」

 

そしてみほも、戦車チームに砲撃用意をさせる。

 

「撃ち方、始めぇっ!!」

 

再び十河の声が響いて、迫り来る高速戦車部隊に向かって、対戦車砲が火を噴く!

 

対戦車兵達も、対戦車火器の引き金を引き、戦車チームも砲撃を開始する!

 

すると………

 

「ぶっちぎりますわよーっ!!」

 

何と、高速戦車部隊の先頭を走っていたローズヒップのクルセイダーMk.Ⅲが、更に速度を上げて突っ込んで来る!!

 

「!? 速度を上げたっ!?」

 

「馬鹿なっ! 自殺行為だぞっ!?」

 

更に速度を上げたローズヒップ車に、大洗歩兵部隊はどよめく。

 

その直後っ!!

 

「必殺! サンダードリフト走法っ!!」

 

ローズヒップがそう叫んだかと思うと、彼女の乗るクルセイダーMk.Ⅲが、まるで稲光の様なジグザグの走行を見せる。

 

「なっ!?」

 

「何ぃっ!?」

 

大洗機甲部隊メンバーから驚きの声が挙がる中、その走行でローズヒップ車は全ての攻撃を回避する。

 

「『ハマの雷神』の名は伊達じゃありませんことよぉっ!!」

 

相変わらずカップの中で紅茶をバシャバシャと跳ねさせながら、ロースヒップがそう言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席の大洗サイド………

 

「総長っ! あの走りっ!!」

 

「ああ、間違いねえっ! 『ハマの雷神』だっ!!」

 

大洗側の観客席で、大洗機甲部隊を応援していた大洗会直系西住組のメンバーの中で、晴風がローズヒップの走りを見てそう言い放つ。

 

「『ハマの雷神』って………横浜を縄張りにしていた、戦車走り屋集団のリーダーっすよね?」

 

「ああ、速さに命を賭けてたって専らの噂だったぜ。嘘か真か知らねえが、戦車にジェットエンジンを積んで、音速を超えようとした事もあるって話だ」

 

舎弟の質問に、晴風は腕組みをした状態で、モニターに映るローズヒップのクルセイダーMk.Ⅲを見据えてそう言う。

 

「けど、何でそんな奴がお嬢様校で有名なグロリアーナに?」

 

「アタシが知るか、馬鹿」

 

だが、その筋金入りの不良戦車乗りが、お嬢様校で知られるグロリアーナに居る理由は分からないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、試合フィールド・B5地点の大通り………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! ぶっちぎりですわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ローズヒップ車を初めとした、クルセイダーMk.Ⅲ、スチュアートⅢ、スチュアートⅥの高速戦車部隊が、大洗機甲部隊の陣形の隙間を縫う様にちょこまかと動き回る。

 

「クソッ! ちょこまかと!!………」

 

「迂闊に撃つな! 同士討ちになるっ!!」

 

同士討ちが起こる可能性が高い大洗機甲部隊は、反撃もままならない。

 

「そこだっ!!」

 

「うわあああぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 

逆にグロリアーナ高速戦車部隊は、攻撃し放題であり、機銃を使って歩兵を次々に狩っている。

 

歩兵の守りを排除してから距離を空け、再びの機動戦で戦車を葬る腹の様だ。

 

「みぽりん! 如何するのっ!?」

 

「………全車! 煙幕展開っ!!」

 

と、沙織の声が挙がった瞬間、みほはそう指示を下した!

 

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

その指示に各戦車チームの車長は即座に反応。

 

備え付けられていたスモーク・ディスチャージャーや、レギュレーション内の改造で取り付けた煙幕発生装置から一斉に煙幕が放出される。

 

「!? アラーッ!? 何も見えませんわぁ!?」

 

視界を奪われたローズヒップ車が蛇行を始める。

 

と、その直後に!

 

その行く手にスチュアートⅢが出現した!

 

「!? 右ですわぁっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

思わず、車長席から操縦席まで身体を伸ばし、操縦桿を右へと切るローズヒップ。

 

間一髪のところでローズヒップ車はスチュアートⅢを回避する。

 

しかし、その後すぐに、回避したスチュアートⅢが、前に現れたスチュアートⅥと激突!

 

両車の車体が激しく変形したかと思うと、砲塔上部から白旗を上げる。

 

更に別の場所でも、クルセイダーMk.Ⅲ同士が激突し、白旗を上げた。

 

「全車、一旦停止ですわっ!!」

 

ローズヒップがそう叫ぶと、彼方此方からブレーキ音が聞こえて来る。

 

程無くして煙幕が晴れると、そこには大洗機甲部隊の姿は無く、道路に履帯跡を刻んで衝突寸前で停まっている高速戦車部隊の姿が在った。

 

「くううううううっ!!」

 

ローズヒップが、悔しさを滲ませた顔で、クルセイダーMk.Ⅲのハッチから姿を晒す。

 

「この私を、止めさせましたわねぇっ!!」

 

………主に走りを止められた方が気に入らない様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

離脱に成功した大洗機甲部隊は………

 

如何にか市街地内に入る事に成功。

 

公営駐車場らしき場所に集結していた。

 

「全員居ますか?」

 

「サンショウウオさんチームが遅れています」

 

みほが問い質すと、弘樹がサンショウウオさんチームのクロムウェルが遅れている事を報告する。

 

「ウチで1番速い戦車が遅れてるのかよ」

 

「途中で道間違えたみたいやな。コッチも煙幕で良く見えへんかったし」

 

大洗で最速であるクロムウェルが遅れている事に怪訝な様子見せた海音に、豹詑がそう説明する。

 

「あ、来ましたよ」

 

とそこで飛彗がそう声を挙げ、大洗機甲部隊の面々は、コチラに向かって来るクロムウェルの姿を目視する。

 

「無事だったみたいですね」

 

「うん………?」

 

華が安堵の声を漏らし、みほも安心したが、そこでふと………

 

向かって来るクロムウェルの姿に違和感を覚える。

 

「? 如何しました、西住殿?」

 

「…………」

 

優花里の声に返事を返す事も無く、みほはクロムウェルの姿をジッと凝視する。

 

「! 地市! パンツァーファウストを撃てっ!!」

 

するとそこで、弘樹も何かに気付いた様子を見せ、地市に攻撃しろと叫ぶ。

 

「えっ?」

 

「オイ、弘樹! 何言ってんだ!? 仲間を撃てって………」

 

「! 待って下さいっ! アレはサンショウウオさんチームのクロムウェルじゃありませんっ!!」

 

突然の事に地市は戸惑い、了平は味方を撃てと言う命令に弘樹がとち狂ったのかと思ったが、楓はそのクロムウェルがサンショウウオさんチームのモノではなく………

 

グロリアーナ戦車部隊のクロムウェルである事に気づく。

 

「! 気づかれた! 砲撃用意っ!!」

 

気づかれた事を察したニルギリは、即座に砲撃態勢に入る。

 

クロムウェルの主砲が、Ⅳ号へと向けられる。

 

「! 全速後退っ!!」

 

「フラッグ車を守れっ!!」

 

すぐにみほは後退を指示し、他の戦車チームと大洗歩兵部隊は、フラッグ車であるⅣ号を守ろうと前に出る。

 

「撃………」

 

と、ニルギリのクロムウェルの砲撃準備が整い、発砲しようとした瞬間!

 

「させるかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そう言う叫びと共に、ハッチから聖子が姿を見せている、サンショウウオさんチームのクロムウェルが、ニルギリのクロムウェルの側面に飛び出して来た!

 

「!? キャアッ!?」

 

そのままクロムウェル(ニルギリ)に体当たりを敢行!

 

その衝撃で、クロムウェル(ニルギリ)の砲弾は明後日の方向へ飛んで行く。

 

一方、体当たりしたクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の方も、反動で駒の様に回転しながら弾き飛ばされたが………

 

「唯ちゃん! ストーップッ!!」

 

「コナクソォッ!!」

 

聖子がそう言い放つと、操縦手の唯が急制動を掛け、如何にか静止する。

 

「撃てぇっ!!」

 

「伝説の黒の核晶《コア》を喰らい給え………貴様を殺すためのな!」(訳:この砲弾を喰らいなさい!)

 

続けて聖子がそう命じると、砲手の今日子が中二病台詞と共にトリガーを引き、発砲する。

 

「! 左旋回っ!!」

 

だが、ニルギリの指示が飛ぶと、クロムウェル(ニルギリ)は左へと車体と砲塔を傾け、傾斜を利用してクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の砲弾を弾く。

 

「! 弾かれたっ!?」

 

「向こうも相当な腕の様ね………」

 

驚きの声を挙げる聖子に、通信手の里歌が冷静にそう言い放つ。

 

とそこで、クロムウェル(ニルギリ)は一気に後退。

 

そのままクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の前から離脱を計る。

 

「あ! 待てぇっ!!」

 

咄嗟に追撃を掛けるクロムウェル(サンショウウオさんチーム)。

 

「! 聖子さん! 待ってっ!!」

 

慌てて制止するみほだったが、その速度故に、2輌のクロムウェルは既に遠くまで離れて行っていた。

 

「クッ! タコさん分隊とアリクイさんチーム・キツネさん分隊はサンショウウオさんチームを追って下さいっ!!」

 

「「「了解っ!!」」」

 

すぐにみほは次の指示を飛ばし、タコさん分隊とアリクイさんチーム・キツネさん分隊が、サンショウウオさんチームの後を追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まった準決勝。
グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊とのリベンジ戦。

いきなりの洋上支援の投入と、ローズヒップが率いる高速戦車隊の奇襲。
更にニルギリのクロムウェルを使った欺瞞作戦と、出鼻を挫かれる事になった大洗機甲部隊。
だがみほは、次の1手に、『あの部隊』を再編させます。
果たして、その狙いは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第168話『アッセンブルEX-10、再びです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第168話『アッセンブルEX-10、再びです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝にて………

 

遂にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊とのリベンジ戦に臨んだ大洗機甲部隊………

 

イキナリの洋上支援による艦砲射撃を如何にか凌いだかに見えたが………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、既に次の手である元横浜で名を馳せていた走り屋暴走族………

 

『ローズヒップ』の駆るクルセイダーMk.Ⅲ軍団と、スチュアートⅢ、スチュアートⅥからなる高速戦車部隊で奇襲を仕掛ける。

 

コレも何とか凌いだかに見えた大洗機甲部隊だったが、同じ戦車である事を利用し………

 

グロリアーナのニルギリが駆るクロムウェルが、大洗機甲部隊の中へと潜入を試みて来た………

 

寸前のところで、サンショウウオさんチームのクロムウェルに阻止されたが………

 

サンショウウオさんチームは、ニルギリのクロムウェルを深追いしてしまい、本隊から離れてしまう。

 

止むを得ず、みほはタコさん分隊とアリクイさんチーム・キツネさん分隊に、サンショウウオさんチームの後を追わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「早速切り崩された形になったね………」

 

扇子で口元を隠しながら、迫信がみほへそう言う。

 

「ハイ、流石はダージリンさんです。コチラの手を的確に読んで来ています。今の状況は、前回のナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊との試合の時に似ています」

 

「それって超ヤバイじゃん! 如何するの!?」

 

みほが迫信へそう返すと、通信手席の沙織が悲鳴の様にそう言って来る。

 

「…………」

 

だが、みほは顎に手を当てて思案顔になる。

 

前回の様な動揺は見られない………

 

「………弘樹くん」

 

「ハッ!」

 

みほに呼ばれ、弘樹が姿勢を正す。

 

「アッセンブルEX-10の再編成を命じます。前と同じ様に、人選については一任します」

 

「了解しました」

 

「それから、編成後………アッセンブルEX-10は、大洗機甲部隊指揮下から離脱。以後の指揮権限は、弘樹くんに一任します」

 

「! 指揮下から離脱………ですか」

 

みほからの思わぬ命令に、弘樹は僅かに目を見開く。

 

「うん………アッセンブルEX-10には、独立遊撃部隊として行動してもらいます」

 

「独立遊撃部隊………」

 

「西住総隊長。指揮系統の違う部隊同士が動けば全部隊の混乱を招くぞ」

 

十河が、反対だと言って来るが………

 

「いえ、大丈夫です」

 

「何っ? 何故だ?」

 

「私は弘樹くんを信頼してますから」

 

「はあっ!?」

 

思わぬ答えに、十河は間抜けた表情となる。

 

「それに、ダージリンさんの戦術眼を破るには、指揮系統を分けた部隊によって攪乱するしかありません」

 

『一理あるな………幾ら戦術眼が優れていたとしても、一度に2つの部隊の戦術に対応するのは至難だ』

 

煌人からもそう通信が入る。

 

「では、西住総隊長。小官はコレよりアッセンブルEX-10を再編成。以後、大洗機甲部隊指揮下より離脱し、独自の行動を取ります」

 

「よろしくお願いします」

 

「…………」

 

みほがそう言うと、弘樹はヤマト式敬礼を返し、アッセンブルEX-10を再編する為、メンバーの選定に入る。

 

「ふふ~ん」

 

「あらあら」

 

「フッ………」

 

とそこで、沙織、華、麻子が意味有り気な笑みを浮かべる。

 

「? 如何したの?」

 

「に、西住殿………こんな大勢の前で………だ、大胆です………」

 

その様子に気づいたみほが、車内に戻りながら問い質すと、頬を赤らめている優花里がモジモジとしながらそう言って来た。

 

「? 大胆って………何が?」

 

みほは訳が分からず、首を捻るばかりである。

 

「私は弘樹くんを信頼してますから」

 

とそこで、沙織がみほの真似をしながら、先程の台詞を言い直す。

 

「?………!?」

 

またも困惑したみほだったが、やがてその台詞が、聞き様によっては告白とも取れる台詞だった事に気が付く。

 

「戦場の中心で愛を叫ぶ………」

 

「ち、違うよ~! そんな積りで言ったんじゃないよ~っ!!」

 

麻子が一昔前に流行った恋愛小説のタイトルを捩った台詞を言うと、みほは真っ赤になって慌てて否定する。

 

「良いじゃないですか。ロマンチックで」

 

「は、華さん! だから違うって~っ!!」

 

(戦場での告白………コレは結構良いシチュエーションなのでは!?)

 

華からもからかわれ、すっかりワタワタとしているみほの横で、優花里は白狼の事を考えながら妄想をしていた。

 

((((((((((甘酸っぱいね~))))))))))

 

そしてその遣り取りを聞いていた、周囲の大洗機甲部隊の面々は、またも甘酸っぱさを感じている。

 

「と、兎に角! コチラは全軍で市街地へ侵攻します! グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を誘き出します!!」

 

やがて、みほは再びキューポラから姿を晒すと、全軍に対し、そう指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊・本隊………

 

「サンショウウオさんチームとアリクイさんチーム、そして其々の随伴歩兵分隊を本隊から引き離しましたわね」

 

「戦力を分散させてのゲリラ戦は、大洗の得意戦術では?」

 

ニルギリがサンショウウオさんチーム達を惹き付けていると言う報告を受けたダージリンがそう言うと、オレンジペコがそう指摘する。

 

「そう、このフィールドは大洗の得意なゲリラ戦を展開させ易い………つまり、対大洗用の戦術プランが効果を発揮すると言う事よ」

 

「大洗のデータは欠かさず収集してましたからね」

 

ダージリンがそう返すと、アッサムが自前のパソコンに、大洗機甲部隊のデータを映し出しながらそう言う。

 

「ダージリン。偵察兵部隊から連絡が来た。大洗機甲部隊・本隊に動きがあった様だ」

 

とそこで、送り出した偵察兵部隊から連絡が入り、セージがダージリンにそう報告する。

 

「分散しての市街地各所への展開?」

 

ダージリンはそう予測を述べるが………

 

「いや、サンショウウオさん達を除いた全部隊で纏まって動いているそうだ」

 

「えっ!?」

 

「そんなっ!? データに無い戦い方です!」

 

予想を裏切る形となったセージの報告に、オレンジペコとアッサムが驚きの声を挙げる。

 

「落ち着きなさい。恐らく、私に手の内が読まれていると察して、戦術を変えて来たのよ」

 

「如何なさいますか? ダージリン総隊長」

 

しかし、ダージリンは微塵も動揺せずにそう言い、セージは改めてダージリンに指示を請う。

 

「全部隊で移動しているなら、正面から挑むまでよ。全部隊、大洗本隊の進行先へ先回り」

 

ダージリンがそう指示を出すと、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は移動を開始した。

 

「…………」

 

その中で、愛馬に跨っておるアールグレイは、険しい表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗の本隊から引き離される形となったサンショウウオさんチームは………

 

「あ~もう! 逃がしちゃったぁっ!!」

 

市街地の一角に停まっているクロムウェルのハッチから姿を晒している聖子が、悔しそうにそう言う。

 

如何やら、ニルギリのクロムウェルを見失ってしまった様である。

 

「と言うより、深追いし過ぎたわね」

 

「えっと、現在地は………」

 

里歌がそう指摘し、唯が地図を広げて現在地を確認する。

 

「お~い!」

 

「うん?」

 

そこで声が響いて来て、聖子がその声が聞こえた方向を見やると、エース達タコさん分隊を先頭に此方へやって来るアリクイさんチームとキツネさん分隊の姿が目に入る。

 

「あ、皆さん」

 

「駄目ですよ、郷さん。1輌で勝手に本隊を離れたりしたら」

 

聖子が声を挙げると、弁慶がやんわりとながら、そう注意して来る。

 

「ゴメンなさい。同じ戦車が相手だと思ったら、つい熱くなっちゃって………」

 

「気持ちは良く分かる。だが、戦車道も歩兵道もチームプレイが大事だ。例えどんな強豪だろうと、1人では戦えないぞ」

 

聖子が頭を下げる中、エースがそう語り掛ける。

 

「と、兎も角、早く本隊に戻りましょう」

 

ねこにゃーがそう提案するが………

 

「いや………それは難しいな」

 

険しい顔をしたハンターがそう言い放つ。

 

「ハンターさん?」

 

「………来ているな」

 

ハンターの台詞の意味が分からず首を傾げる拳龍と、何かを察するシャッコー。

 

その直後っ!!

 

「見つけましたわよ~~~っ!!」

 

威勢の良い台詞と共に、ローズヒップのクルセイダーMk.Ⅲが姿を見せる。

 

「! クルセイダーッ!!」

 

「あ、あの稲妻みたいな走り方をした奴です!」

 

聖子が声を挙げると、ねこにゃーがそのクルセイダーMk.Ⅲが、ローズヒップの乗る車輌である事に気づく。

 

「やっつけますわよ~っ!!」

 

ローズヒップがそう言い放った瞬間に、彼女の乗るクルセイダーMk.Ⅲの主砲が火を噴く!

 

「! 散開っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまエースの声が響き、サンショウウオさんチームとアリクイさんチームは離脱。

 

タコさん分隊とキツネさん分隊の面々も散開する。

 

「逃しませんわよぉ~~っ!!」

 

するとローズヒップは、分散した一同の中から、アリクイさんチームに狙いを絞って追撃を掛ける。

 

「うわっ!? こ、コッチに来たっ!?」

 

「先ずはノロマな方から片づけて差し上げますわ! 次弾装填完了っ!!」

 

ねこにゃーが驚きの声を挙げる中、ローズヒップはそう言い放ちながら、車長兼装填手として装填を終える。

 

「撃………!? おととととととっ!?」

 

て、と言うとした瞬間にクルセイダーMk.Ⅲの車体が揺れ、ローズヒップはハッチの取っ手を掴んで踏ん張る。

 

「そうは佐世保は長崎県よ~っ!!」

 

速人の操るM8装甲車が、ローズヒップのクルセイダーに幅寄せする様に体当たりして来ていたのだ。

 

「ぬうっ! 猪口才な………あ、いや、うっとしいでございますわ! 先に始末して差し上げます!!」

 

ローズヒップの絶妙に間違ったお嬢様言葉と共に、クルセイダーMk.Ⅲの砲塔が、速人のM8装甲車の方を向く。

 

「おおっとっ!!」

 

しかし、速人はアクセルを踏み込み、ローズヒップ車の前に出る。

 

すぐにクルセイダーMk.Ⅲは砲塔を旋回させるが、M8装甲車は蛇行運転をして照準を付けさせない。

 

「クウッ! ちょこまかとっ!!」

 

「ハハハハハッ! 遅い遅いっ! お前に足りないものは! それは~! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そして何よりもおおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ!! 速さが足りないっ!!」

 

狙いを定められないローズヒップを、速人はそう挑発する。

 

「!! この私が遅いっ!? この私がスロウリィッ!?」

 

「あっ!? マズイッ!!」

 

「ロ、ローズヒップさん! 落ち着い………」

 

「冗談じゃないですわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

それを聞いたローズヒップの顔色が変わったのを見て、砲手と操縦手が慌てるが、止める間も無くローズヒップは操縦手を押し退けて、自分が操縦席へと座る。

 

そしてアクセルをベタ踏みにし、一気に速人のM8装甲車へ接近する。

 

「おおっ!? 良いね、良いねっ! コレの俺と速さを競おうってのかいっ!!」

 

「負けられませんわぁっ! ハマの雷神の名に掛けてぇっ!!」

 

「おもしれぇっ!! お前が雷神なら、俺は風神だぁっ!! 白黒付けてやろうじゃねえかっ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! ですわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

両者はそのまま、砂煙を巻き上げて、サンショウウオさんチーム達の周りを円を描く様に回ってデッドヒートを繰り広げる!!

 

「ちょっ!? 玖珂さんっ!?」

 

「め、目が回る~………」

 

試合そっちのけでレースを繰り広げるローズヒップと速人に、聖子は慌てて呼び掛け、ねこにゃーは2人の姿を追って、目が回りそうになる。

 

「ドラマチーック! エスセティーック! ファンタスティーック! ラーンディーングー!」

 

「ぶっちぎりますわよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「完全に熱くなっているな………」

 

「ワオッ! エキサイティングな光景だネ!!」

 

だが、2人は完全に競争に夢中になっており、その姿を見て紫朗が呆れ、ジャクソンが無責任に囃し立てるのだった。

 

と、その時っ!!

 

「! サンショウウオさんチーム! 後退しろっ!!」

 

「! 唯ちゃんっ!!」

 

「!!」

 

突然エースが叫び、聖子が反射的に唯を呼ぶと、これまた反射的に唯はクロムウェルにバックを掛けた。

 

直後に、先程までクロムウェルが居た場所に砲弾が着弾する。

 

「クッ! 外したっ! 仕方が無い! 全部隊、突撃っ!!」

 

「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

砲弾を放った主・ニルギリのクロムウェルが砲身から硝煙を漂わせている中、ローズヒップが率いていた高速戦車部隊と、小隊規模のブリティッシュ騎馬部隊が、サンショウウオさんチーム達に突撃を掛ける。

 

「! グロリアーナのクロムウェルに高速戦車部隊!!」

 

「ブリティッシュの騎兵部隊も居るぞ!」

 

「………迎え撃つしかないな」

 

聖子やキツネさん分隊員の驚きの声が挙がる中、ハンターは冷静にそう言い、マチェットを構える。

 

「この世の理はすなわち速さだと思わないか! 物事を速くなしとげればその分、時間が有効に使える! 遅い事なら誰でも出来る! 20年かければバカでも傑作小説が書ける! 有能なのは月刊漫画家より週刊漫画家、週刊よりも日刊です! つまり速さこそ有能なのが、文化の基本法則! そして俺の持論でさあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「素晴らしい自論ですわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一方、競争を続けているローズヒップと速人は、妙な意気投合を始めていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

市街地の一角を進む、小規模なグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の隊が在った。

 

TOGⅡを中心に、マチルダⅡが2輌。

 

ダージリン車ではないチャーチルが1輌。

 

アキリーズが2輌に、騎兵を中心とした中隊規模が随伴している。

 

恐らく、先遣隊であろう。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊らしく、綺麗な隊列を組んで周辺を警戒しながらゆっくりと進んでいる。

 

「戦車6輌………騎兵中心の中隊規模の歩兵が随伴中か………」

 

と、そのグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊の様子を、やや離れた場所の建物の屋上から双眼鏡で覗き見ている弘樹。

 

その後ろには、今回編制したアッセンブルEX-10のメンバー………

 

地市、俊、小太郎、武志、重音、ゾルダート、光照、正義、シメオン、鋼賀、海音、陣を中心としたメンバーの姿が在った。

 

主に突撃兵と対戦車兵が中心となった歩兵部隊である。

 

「先遣隊か………」

 

「このままの進路で進軍した場合、ウチの本隊と接触するのは20分後だな」

 

地市が呟くと、俊が時計を見ながらそう言う。

 

「すぐに本隊へ連絡を………」

 

「………仕掛けるぞ」

 

重音がすぐに大洗機甲部隊・本隊へ連絡を入れようとしたが、それを遮る様に弘樹がそう言った。

 

「!? ええっ!?」

 

「仕掛けるって………」

 

「無茶ですよ! コッチは歩兵部隊だけなんですよ!!」

 

弘樹のその言葉に、光照と海音が動揺し、正義もそう意見する。

 

「何の為に対戦車兵を中心とした部隊を編成したと思っている。敵もまさか歩兵部隊だけで戦車を含む部隊に仕掛けてくるとは思うまい」

 

「相変わらず攻めると決めた時は大胆不敵だな」

 

しかし、弘樹はそう言い放ち、そんな様にシメオンが笑みを浮かべる。

 

「例え損害が出たとしてもコチラは歩兵だけだ。戦車の数を減らせば、有利になるのはコチラだ。無理強いはしない………降りたい者は降りてくれて構わない」

 

弘樹はそう言い、アッセンブルEX-10のメンバーの方を見やる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その弘樹の視線を正面から迎えすアッセンブルEX-10のメンバー。

 

「そう言われて降りる者など居ないよ」

 

「曲りなりにもこの舞台まで辿り着いたんだ………今更ビビったりはしない」

 

「腹は皆決まっておるでござる」

 

鋼賀、海音、小太郎がそう言い、他のメンバーも無言で頷く。

 

「………良し、行くぞ。アールハンドゥガンパレード!」

 

その様を見た弘樹は、歩兵道の掛け声を発し、グロリアーナ&ブリティッシュ先発隊を見据えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

早速ダージリンに切り崩された形となった大洗機甲部隊。
だが、これまでの戦いを糧に成長したみほは動揺せず、弘樹にアッセンブルEX-10の再編を指示。
独立部隊として動かし、ダージリンの戦術眼を攪乱する作戦にである。

一方、分断されたサンショウウオさんチームに合流したタコさん分隊とアリクイさんチーム・キツネさん分隊は、再びローズヒップとニルギリの襲撃を受ける。

そして、再編されたアッセンブルEX-10は………
歩兵戦力だけで、戦車を含むグロリアーナ&ブリティッシュ先発隊への攻撃を決意するのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第169話『対戦車道です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第169話『対戦車道です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の全国大会の準決勝………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊とのリベンジ戦に臨んだ大洗機甲部隊………

 

だが、ダージリンはその卓越した戦術眼で、みほの動きを次々と看破………

 

損害こそまだ軽微なものの、サンショウウオさんチームが孤立し、援護の為にタコさん分隊とアリクイさんチーム・キツネさん分隊を派遣した事で、戦力を分散させられる………

 

そこでみほは………

 

弘樹を部隊長とする『アッセンブルEX-10』を再編させ、独立遊撃部隊として行動させる作戦に出る………

 

指揮系統の違う部隊を出現させ、ダージリンの読みを攪乱させるのが狙いだ………

 

そして、弘樹の判断により、突撃兵と対戦車兵を中心とした歩兵部隊のアッセンブルEX-10は………

 

本隊より先行していたグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊へ攻撃を仕掛けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

TOGⅡを中心に、マチルダⅡが2輌。

 

ダージリン車ではないチャーチルが1輌。

 

アキリーズが2輌のグロリアーナ戦車部隊に、騎兵を中心としたブリティッシュ歩兵が中隊規模で随伴している先遣部隊。

 

「各員、周囲の警戒を怠らないで下さい」

 

中心となっているTOGⅡのハッチから姿を晒しているグロリアーナ戦車隊員が、周辺の部隊員にそう呼び掛ける。

 

「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」

 

周辺の戦車の乗員達と、ブリティッシュ歩兵達から返事が返って来る。

 

(敵、目標地点に接近)

 

(合図でスイッチを入れろ)

 

と、そんなグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊の様子を、進行方向の路地の陰から、弘樹と正義が覗き見ている。

 

良く見ると、正義の手は、ダイナマイト・プランジャーの様な物に掛けられている。

 

それを知らずに、ゆっくりと前進して来るグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊。

 

段々と弘樹、正義が居る路地へと接近して来る。

 

(舩坂先輩! まだっすかっ!?)

 

(もう少し引き付けろ………)

 

(でも、コレ以上接近されたら見つかる可能性が………)

 

(初弾が外れてくれる事を祈れ)

 

(ええ………)

 

弘樹の言葉に、正義は何とも言えない顔になる。

 

その間にも接近してくるグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊。

 

「! 敵発見っ!!」

 

とそこで、先頭を行っていたブリティッシュ騎兵の中の1人が、隠れていた弘樹と正義を発見する。

 

「! み、見つかったっす!!」

 

「今だ! 爆破っ!!」

 

「!!」

 

その瞬間に弘樹の指示が飛び、正義はダイナマイト・プランジャーのT字型の棒を思いっきり押し込んだ!!

 

途端に、グロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊の居る道路の両脇に在った建物が爆発した!!

 

「!?」

 

「しまったっ!? 罠かっ!?」

 

突然の爆発に慌てるグロリアーナ&ブリティッシュ先遣部隊。

 

しかし、爆発はそれ程のものでは無く、精々建物を半壊させた程度だった。

 

「何だ、虚仮威しか!」

 

「驚かせやがって!」

 

「奴等を撃てっ!!」

 

ブリティッシュ騎兵達が弘樹達を始末しようと、馬を方向転回させようとしたが………

 

「! うおっ!?」

 

「オイ、如何したっ!?」

 

「何故動かないっ!?」

 

何故か馬達が動こうとせず、ブリティッシュ騎兵達は困惑する。

 

「! しまった! 足元だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

そこで、ブリティッシュ騎兵の1人が何かに気づいてそう声を挙げ、他のブリティッシュ騎兵達も一斉に下を見やる。

 

そこには、先程建物が爆発した際に飛び散った外壁の破片が散乱していた。

 

中には尖った物や、鉄筋が剥き出しになっている物も有る。

 

それが、元来臆病な動物である馬達に動く事を躊躇させていた。

 

「今だ! 突撃ぃーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その瞬間に弘樹の指示が飛び、他の路地や爆破されていなかった建物内等から、小銃に着剣したり、軍刀を握った突撃兵が一斉に飛び出す!

 

「うおおおおっ!!」

 

「うぐあっ!!」

 

着剣した小銃の一突きで、ブリティッシュ騎兵の1人を討ち取る大洗歩兵。

 

「このぉっ!!」

 

ランチェスター短機関銃を持つブリティッシュ騎兵が、突撃して来た大洗歩兵を薙ぎ払おうとするが………

 

「!? ぐあっ!?」

 

パーンッ!と言う乾いた音が響いたかと思うと、ランチェスター短機関銃を持っていたブリティッシュ騎兵の頭に衝撃が走り、落馬。

 

そのまま戦死と判定される。

 

「…………」

 

その攻撃の主である、やや高い高圧電線を模した鉄塔の中腹辺りに位置取っていたシメオンは、狙撃したブリティッシュ騎兵の戦死判定を確認すると、即座に別のブリティッシュ騎兵の頭に狙いを定め、続け様にヘッドショットした!

 

「手榴弾行くぞぉっ!!」

 

鋼賀がそう叫んで、持っていたRG-42を投げる!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

見事密集地帯に叩き込まれたRG-42は、ブリティッシュ騎兵数名を纏めて吹き飛ばす!

 

「良しっ!………!? うわあっ!?」

 

とそこで、鋼賀の近くの地面が爆ぜた!

 

「好き勝手にさせません事よ!!」

 

2輌居たアキリーズの内の1輌が、鋼賀に向かって主砲を発砲して来たのだ。

 

幸いにも、ギリギリ殺傷範囲外だったが、直後に今度は、そのアキリーズの車長が車外へ姿を晒し、機銃架に備え付けられていたブレン軽機関銃を発砲する。

 

「!!」

 

すると鋼賀は、何を思ったか、そのアキリーズに向かって突撃する。

 

「!? 血迷ったのですかっ!?」

 

その行動に驚きながらも、ブレン軽機関銃の引き金を引き続けるアキリーズの車長。

 

「! たあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、次の瞬間、鋼賀はアキリーズに向かって思いっきり跳躍!

 

「!?」

 

アキリーズの車長が驚いている中、右足をアキリーズの車体に掛けたかと思うと、そのまま全身のバネを使って跳び上がり、跳び箱の様にアキリーズを飛び越えて着地した!

 

車体の上から跳んだ瞬間に、捻り回転を入れると言う余裕っぷりで。

 

「! クッ!………!? 銃身がっ!?」

 

すぐに鋼賀へブレン軽機関銃を向けるアキリーズの車長だったが、何時の間にか銃身が無くなっており、驚愕する。

 

「ふふふ………」

 

そしてその銃身は、鋼賀の手元に在った。

 

アキリーズを飛び越えた際に、銃身交換機能を逆手にとって、奪取したらしい。

 

「クウッ!!………!?」

 

思わずアキリーズの車長が声を挙げた瞬間、更なる置き土産………吸着地雷が張り付けられていた事に気づく!

 

アキリーズの車長が慌てて車内へ引っ込むと、直後に吸着地雷が爆発!

 

装甲の薄い駆逐戦車であるアキリーズは当然耐えられず、アッサリと白旗を上げる。

 

「良くもやってくれましたわねっ!!」

 

すると、もう1輌のアキリーズが、仲間の仇を取ろうと、主砲を鋼賀へと向ける。

 

その直後!

 

ドゴンッ!!と言う鈍い発砲音がしたかと思うと、アキリーズの砲塔側面に大型の銃弾が命中。

 

更に、2発、3発、4発と次々にその弾丸が叩き込まれた!!

 

「キャアッ!?」

 

「対戦車ライフルッ!?」

 

「落ち着きなさい! 幾ら装甲の薄いアキリーズでも、対戦車ライフルの弾丸ぐらいでは………」

 

と、砲手と操縦手が慌てる中、車長は落ち着かせる様にそう言った直後!

 

5発目となる弾丸が命中したかと思うと、アキリーズの砲塔上部から白旗が上がった!

 

「なっ!?」

 

何故白旗が上がったのか分からない車長は、弾丸の命中地点を見やる!

 

「!?」

 

そこで初めて、先程からの着弾が、全く同じ場所であった事に気づく。

 

「れ、連続して同じ箇所に命中させて装甲を貫通したと判定させたと言うの!?」

 

「…………」

 

アキリーズの車長が驚きの声を挙げる中、シメオンが居る場所の反対側で、ラハティ L-39 対戦車銃を2丁撃ちしていた陣が、無言でそのアキリーズを見やっている。

 

「行けっ!!」

 

「ファイヤッ!」

 

「喰らいやがれっ!!」

 

掛け声と共に構えていたパンツァーファウストを一斉に発射する重音、光照、海音。

 

3発のパンツァーファウストの弾頭がマチルダⅡへと向かい、重音が撃った物がマチルダⅡへと命中!

 

マチルダⅡが爆煙に包まれたかと思うと、やがて白旗を上げた状態で再度姿を現す。

 

「良しっ!………おうわっ!?」

 

思わずガッツポーズをする重音だったが、直後にすぐ傍の地面が爆ぜる。

 

「良くもお姉様を!!」

 

もう1輌のマチルダⅡが、そう言う台詞と共に再び主砲を発砲する。

 

「後退っ!」

 

「逃げろ、逃げろっ!」

 

光照と海音からそう声が挙がり、3人はマチルダⅡに背を向けて逃げ出す。

 

「逃がしませんわ!」

 

マチルダⅡは追撃し、次々に主砲を発砲する。

 

だが、マチルダⅡの2ポンド砲は榴弾が撃てない為、発射しているのは皆徹甲弾であり、破片を浴びせると言う手が使えない為、近くに着弾させる事が出来ても殺傷させるには至らない。

 

「クッ! 機銃に切り替えて攻撃しなさいっ!!」

 

「ハイッ!」

 

埒が明かないと思ったのか、攻撃を機銃に切り替える様に指示を飛ばすマチルダⅡの車長。

 

すると………

 

「今でござる! 石上殿っ!!」

 

「貰ったぁっ!!」

 

建物の壁が紙の様に捲れたかと思うと、そこから小太郎と、パンツァーファウストを持った地市が出現!

 

隠れ身の術である!

 

「!? なっ!? そんな所に………」

 

マチルダⅡの車長が驚きの声を挙げた瞬間に、パンツァーファウストの弾頭が命中!

 

一瞬の間の後、マチルダⅡは白旗を上げた!

 

「コレで残りはチャーチルとあのデカブツか!」

 

ブルーノZB26軽機関銃を薙ぎ払う様に掃射して、ブリティッシュ歩兵を次々に撃ち抜いていた俊が、TOGⅡとそれを守る様に位置取っているチャーチルを見ながらそう言う。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! すぐにスクラップにしてやるぜぇっ!!」

 

と、コンバットハイ状態となっている武志が、ラクビー部の対戦車兵2名を引き連れて、TOGⅡとチャーチルに突撃する。

 

そこでチャーチルが近寄らせないと発砲!

 

マチルダⅡと違い、榴弾の撃てるQF 75mm砲を装備したチャーチルから放たれた砲弾は当然榴弾であり、武志達の近くに着弾するとド派手に爆発する。

 

「うおっ!?」

 

爆風に煽られ、武志とラクビー部の対戦車兵1名が地面に伏せる様に倒れる。

 

「クソッ! やられたっ!!」

 

残る1名は破片を真面に浴びたのか、戦死と判定される。

 

「仇は取ってやるぞぉっ!!」

 

「お供します、キャプテンッ!!」

 

そこで武志はすぐに起き上がり、再びチャーチルへと向かって行き、生き残ったラクビー部の対戦車兵も続く。

 

「喰らえっ!」

 

「発射っ!!」

 

そして遂に有効射程に達すると、チャーチルに向かって2発のパンツァーファウストの弾頭が飛ぶ。

 

武志の撃った物が主砲の砲身、ラクビー部の対戦車兵が撃った物が車体左後部に命中!

 

主砲身と左後部のサイドスカートと転輪の一部が弾け飛ぶ。

 

しかし、白旗は上がらない。

 

チャーチルは主砲の無くなった砲身を回転させると、同軸機銃を薙ぎ払う様に掃射する!

 

「! クウッ!!」

 

「うわあっ!?」

 

武志は咄嗟に伏せてやり過ごしたが、ラクビー部の対戦車兵は反応が遅れ、銃弾を浴びて倒れると、戦死と判定される。

 

「まだ戦闘能力が失われたワケではございませんわっ!!」

 

チャーチルの車長はそう言いながら、機銃掃射を続ける。

 

「うわあっ!!」

 

「ぐわあっ!?」

 

新たに2名の戦死判定者が出る。

 

「コレ以上はやらせんっ! 駆けよ、シュトゥルムッ!!」

 

するとそこで、シュトゥルムに跨ったゾルダートが、機銃掃射しているチャーチルに突撃する。

 

「敵騎兵がチャーチルに突っ込むぞっ!」

 

「行かせるなっ!!」

 

だが、ブリティッシュ騎兵達が間に割って入り、ゾルダートの突撃を阻止しようとする。

 

その瞬間!

 

「我を阻むものなしっ!」

 

ゾルダートがそう言った瞬間に、シュトゥルムが大跳躍!

 

ブリティッシュ騎兵達を一気に跳び越える!

 

「なっ!?」

 

「何っ!?」

 

「!?」

 

余りの事態に、ブリティッシュ騎兵達とチャーチルの車長は上を見上げて固まる。

 

「覚悟して頂くっ!!」

 

そのブリティッシュ騎兵達とチャーチルに向け、ゾルダートは滞空している状態で収束手榴弾を放り投げる。

 

収束手榴弾は、チャーチルに当たって爆発!

 

「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」

 

チャーチルの傍に展開していたブリティッシュ騎兵数名を巻き込み、チャーチルから白旗を上げさせた。

 

「コレで残るはTOGⅡのみ………!? むっ!?」

 

ゾルダートがそう言う台詞と共に着地した瞬間に、TOGⅡが動き始める!

 

撃破されたチャーチルを押し退け、電柱や郵便ポスト、電話ボックスなど路肩の物を薙ぎ倒しながら前進する。

 

如何やら強引に突破する積りらしい!

 

「アブネェッ!!」

 

「あんなのに轢かれたらペシャンコだぞっ!!」

 

TOGⅡのその巨体を前に、流石のアッセンブルEX-10のメンバーも尻込みする。

 

「デカブツめ! コレでも喰らえっ!!」

 

が、1人の大洗突撃兵が、果敢にも二式擲弾器からタ弾を放つ!

 

放たれたタ弾はTOGⅡの側面に命中。

 

しかし、装甲が僅かに穿かれただけで、撃破には至らない。

 

とそこで、何を思ったか、TOGⅡは路肩の建物に自ら突っ込んだ!

 

すると、突っ込んだ建物が崩落し、それに巻き込まれる形で隣の建物も崩落し始め、それがドミノ倒しの様に連鎖して行く!

 

「!? うわあああっ!?」

 

そのままタ弾を放った大洗突撃兵の傍の建物も崩れ、大洗突撃兵は瓦礫に埋もれる。

 

更に、TOGⅡの主砲である17ポンド砲も火を噴く。

 

「! 伏せろっ!!」

 

「うおおっ!?」

 

幸いにも外れたが、かなりの大きな爆発にアッセンブルEX-10メンバーは慌てる。

 

その混乱を衝き、TOGⅡは崩した建物の中から抜け出ると、再び強行突破を計ろうとする。

 

と、そのTOGⅡに走る寄る者が1人………

 

「…………」

 

弘樹だ!

 

「………!」

 

TOGⅡの左側面から接近したかと思うと、そこに在った乗降用のハッチの取っ手を目掛けて跳躍!

 

ハッチの取っ手を掴み、側面に張り付く。

 

だが、TOGⅡはその弘樹に気づき、彼を押し潰そうと建物の方へ幅寄せする。

 

「!!………」

 

間一髪のところで弘樹は転がる様にTOGⅡの車体後部の上に登り、押し潰される事を回避。

 

すると今度は、砲塔が旋回し、17ポンド砲の砲身が棍棒の様に振られていた!

 

「!………」

 

それも弘樹は、車体後部の上で伏せる事で回避する。

 

そして、腰のベルトに下げていた吸着地雷を外し、TOGⅡの車体後部上にセット!

 

信管を作動させると、TOGⅡの後方に向かって跳び降りる。

 

弘樹が地面に転がる様に伏せた瞬間、吸着地雷が爆発!

 

TOGⅡの車体後部上から炎が上がり、動きが止まる。

 

「やったっ!」

 

「いや、まだだっ!」

 

光照が思わず歓声を挙げるが、直後に弘樹がそう言うと………

 

TOGⅡのエンジン音が響き渡り、車体後部上を炎上させたまま、再度動き始める!

 

「!? まだ動くのかっ!?」

 

「見た目通り、タフな奴だぜ、オイ!」

 

そんなTOGⅡの姿を見て、俊と海人がそう言い放つ。

 

直後に、TOGⅡの17ポンド砲が火を噴く!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

運悪く榴弾の殺傷範囲に入っていた大洗突撃兵が悲鳴と共に倒れる。

 

幸い戦死判定は免れた様だが、重傷判定で真面に動けない。

 

TOGⅡはトドメを刺す為、履帯で轢き潰そうと迫る。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

悲鳴の様な叫びを挙げる大洗突撃兵。

 

幾ら死ぬ事は絶対に無い戦闘服を着ていると言えど、TOGⅡの様な超重戦車が迫って来れば、怯えるなと言うのが無理だった。

 

目の前に迫る81.3トンのTOGⅡの車体!!

 

「!!………」

 

だがそこで! 

 

弘樹がその大洗突撃兵に駆け寄り、覆い被さる様に抱き付くと、そのまま横に転がる!

 

転がって移動した僅か5cm横を、TOGⅡの履帯が金属音と共に通り過ぎて行く。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます、舩坂分隊長………コレを!」

 

弘樹がそう尋ねると、大洗突撃兵はお礼を言いながら、弘樹に火炎瓶を差し出す。

 

「良し………」

 

弘樹はそれを受け取ると、点火してTOGⅡに向かって投げつける!

 

弧を描いて飛んだ火炎瓶は、丁度弘樹が吸着地雷を付けて爆破した場所へと命中!

 

燃え上がっていた炎が更に炎上!

 

大火災が発生するっ!!

 

火を消そうとしているのか、激しく動き回るTOGⅡだったが………

 

やがて一際大きな爆発………エンジンの爆発が起こると、静かに停止し、砲塔上部から白旗を上げた。

 

「やったっ!」

 

「クッ! 撤退しろっ!!」

 

地市が歓声を挙げると、戦車を全て失った生き残りのブリティッシュ歩兵達が撤退する。

 

「残存歩兵部隊、撤退中」

 

「深追いは無用だ。戦車は全て撃破出来た………損害報告」

 

「戦死判定5。重傷判定3。他は軽傷か無傷です」

 

傍に居たアッセンブルEX-10の隊員からそう報告を受ける弘樹。

 

「重傷判定者は戦闘続行可能か?」

 

「難しいですね………」

 

「そうか………」

 

その報告を受けた弘樹は、重傷判定を受けている隊員の元へ行く。

 

「あ、舩坂分隊長………」

 

「大丈夫か?」

 

「これぐらい平気です!」

 

「まだ戦えます!」

 

そう言う重傷判定の隊員達だったが、その動きは目に見えて鈍い。

 

「無理をするな。戦死判定者の回収が来たら一緒に搬送してもらえ」

 

「そんな! 大丈夫ですよ!!」

 

「イザと言う時には盾になるぐらいの事は………」

 

「それは西住総隊長の意志に反する」

 

「「「!!」」」

 

そう言われて、重傷判定の隊員達は黙り込む。

 

「コレは命令だ。お前達は武器を譲渡の後、戦死判定者と共に離脱しろ」

 

「「「………了解しました」」」

 

悔しさを滲ませながらも、重傷判定の隊員達は弘樹の命令を承服する。

 

そして、無事な隊員に武器を譲渡する。

 

「分隊長………後は頼みます」

 

「うむ………」

 

弘樹も、重傷判定の隊員の1人から、パンツァーファウストを受け取る。

 

「………良し! 移動するぞ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして、アッセンブルEX-10のメンバーを連れて、移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗機甲部隊・本隊は………

 

「みぽりん! 舩坂くんから連絡で、マチルダⅡ2輌、チャーチル1輌、アキリーズ2輌、TOGⅡ1輌を撃破だって!」

 

「凄い! 大戦果ですよっ!!」

 

「しかも歩兵部隊だけでだ………勲章ものだな」

 

「素晴らしいです」

 

弘樹から戦果報告を受けた沙織が興奮気味にそう言い、その大戦果に優花里や麻子、華もテンションが上がる。

 

「油断しないで下さい。敵のフラッグ車を含め、まだ脅威となる戦車は健在です。ココからが正念場となります」

 

しかし、みほは淡々とそう皆に言い放つ。

 

「「「「!!」」」」

 

その言葉を受けて、沙織達も浮かれては居られないと表情を引き締める。

 

「それで~? 次は如何するの~?」

 

そこで、杏がみほへと指示を仰ぐ。

 

「恐らく、敵はアッセンブルEX-10によって受けた損害によって多少なりと動揺する筈です。更に揺さぶりを掛けます………梓ちゃん」

 

「! ハ、ハイッ!」

 

突如みほから呼ばれ、梓が緊張した様子で返事を返す。

 

「コレから部隊を更に2手に分けます。片方は私が指揮を取るから、もう片方の指揮をお願い出来るかな?」

 

「!? わ、私が部隊を指揮するんですかっ!?」

 

みほからの指示に、梓は仰天の声を挙げる。

 

「そ、そんなっ!? 私にはまだ部隊指揮なんて………」

 

「梓ちゃんなら出来るよ」

 

「でも………」

 

「自分が信じられないなら………私を信じてくれないかな?」

 

「! 西住総隊長………」

 

驚きの表情でみほの事を見つめる梓。

 

だが、次の瞬間には引き締まった表情となる。

 

「………了解しました。澤 梓、部隊を預かります!」

 

そして、弘樹を真似てか、ヤマト式敬礼をしてそう言い放つ。

 

「うん………」

 

そんな梓の様子を見て、みほは満足そうに頷く。

 

「………一応、私が副隊長な筈だが………」

 

と、そんな中、一応戦車部隊副隊長である筈の桃がそう漏らす。

 

「………貴様より、あの1年娘の方が使えると言う事だろう」

 

「! 何ぃっ!!」

 

お馴染みの熾龍の毒舌に噛み付こうとした桃だったが………

 

「澤ちゃん、最近めっきり腕を上げてますもんね」

 

「うん。正に副隊長の貫禄だね」

 

「西住ちゃん達が卒業しても、大洗は安泰かな」

 

柚子、蛍、杏も、すっかり梓が副隊長であると言う様な態度を取っている。

 

「会長~~~~っ!!」

 

そんな杏達の様子を見て、泣き出す桃。

 

そして、その後………

 

大洗機甲部隊は2部隊に分散………

 

みほの指揮するあんこうチーム・とらさん分隊、カメさんチーム・ツルさん分隊、アヒルさんチーム・ペンギンさん分隊、カモさんチーム・マンボウさん分隊………

 

そして、梓が指揮するウサギさんチーム・ハムスターさん分隊、カバさんチーム・ワニさん分隊、レオポンさんチーム・おおかみさん分隊の2部隊に分かれての行動に入るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊・本隊にて………

 

「先遣隊の戦車が全滅っ!?」

 

「しかも歩兵部隊だけによって、ですってっ!?」

 

「ハ、ハイ………残念ながら………」

 

生き延びて本隊に合流した先遣部隊のブリティッシュ歩兵からの報告に、オレンジペコとアッサムが驚きの声を挙げる。

 

「まさか、そんな………」

 

「有り得ません………データではこんな事は………」

 

信じられない報告に、オレンジペコもアッサムも動揺を見せる。

 

と、その時!!

 

ガシャッ!!と言う、まるで陶器が潰れたかの様な音が響いた!

 

「「!?」」

 

驚いたオレンジペコとアッサムが見たモノは………

 

「…………」

 

無表情で、ティーカップを握り潰しているダージリンの姿だった。

 

ダージリンは更に拳を握り締め、潰れたティーカップの破片が更に潰され、砂状になって行く。

 

「ダ、ダージリン様………」

 

「ダージリン………」

 

凄まじいダージリンの迫力に、オレンジペコとアッサムは言葉を失う。

 

「………おやりになりますのね」

 

だが、そこでいつもと変わらぬ不敵な笑みを浮かべるダージリン。

 

「ですが………それでこそですわ」

 

「ダージリン総隊長。如何しますか?」

 

とそこで、セージがダージリンに指示を仰ぐ。

 

「………『例の部隊』にそろそろ出番だと伝えてくれるかしら」

 

「………分かりました」

 

ダージリンがそう言うと、セージはメガネを不気味に光らせた。

 

「ヘイ、ダージリン。そろそろ私の出番かい?」

 

更にそこで、ジャスパーがダージリンにそう尋ねる。

 

「ええ、そろそろお願いする事になりそうね。その時はよろしく頼むわ」

 

「OKOK。さあ、危険な試合になりそうだ。ああ~、楽しみだな~」

 

ダージリンがそう返すと。ジャスパーは心底ワクワクしている様子を見せるのだった。

 

「………その時は貴方も頼みますわね………アールグレイ」

 

「………イエス、マイ・ロード」

 

更にダージリンは、自身の乗るチャーチルの傍に控えていたアールグレイにもそう言い放ち、アールグレイは騎士が忠誠を示すポーズを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

グロリアーナ&ブリティッシュ先遣隊へ仕掛けたアッセンブルEX-10
犠牲を出しながらも、先発隊の戦車を全滅させる事に成功する。

そこでみほは………
更なる攪乱を狙い、梓に指揮を任せた新たな部隊を編成する。

一方、ダージリンは初めて読み違えた事に内心憤慨したものの、すぐに冷静さを取り戻し、次なる手を打って来る。
果たして『例の部隊』とは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第170話『梓ちゃん、奮戦します!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第170話『梓ちゃん、奮戦します!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダージリンの戦術眼を攪乱する為………

 

弘樹を部隊長にした『アッセンブルEX-10』を再度結成し、独立部隊として行動させたみほ………

 

そしてその突撃兵と対戦車兵を中心とした、歩兵部隊のアッセンブルEX-10は………

 

TOGⅡ、チャーチル、マチルダⅡ2輌、アキリーズ2輌撃破と言う大戦果を挙げた………

 

更なる攪乱を考え、ウサギさんチームの梓に指揮を任せた新たな部隊を編制するが………

 

ダージリンはまだ手札を隠し持っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

梓が率いている部隊………

 

「…………」

 

緊張が残る面持ちでM3リーのハッチから姿を晒している梓。

 

「梓さん、リラックスですよ、リラックス」

 

と、そんな梓の様子を察した清十郎がそう言って来る。

 

「! 清十郎くん………」

 

「その通りだ。過度の緊張はかえって隙を招くぞ」

 

「そんな難しく考えないで、訓練の延長線上だと思えば良いさ」

 

梓が僅かに驚きを示すと、彼女の乗るM3リーに追従する形で続いていたⅢ突のエルヴィンと、ポルシェティーガーのナカジマがそう言って来る。

 

「………皆さん。私の様な1年生に指揮されるのは不安だと思っているのは分かっています………ですが! 私なりに精一杯努力致します! どうか………力を貸して下さい」

 

とそこで梓は、カバさんチームとワニさん分隊、レオポンさんチームとおおかみさん分隊の皆に向かって改めてそう言い放つ。

 

「もう~、だから固いって~」

 

「西住総隊長が信じて指揮を託したんだ。ならば私達もまた信じるだけだ」

 

「しっかりフォローするぜ」

 

「オドオドすんな。うっとおしい」

 

そんな梓に向かって、ナカジマ、エルヴィン、磐渡がそう返し、白狼も一見厳しい様に見えるが、彼なりの励ましの言葉を送る。

 

「皆さん………ありがとうございます!」

 

梓はそんな一同に向かって深々と頭を下げる。

 

「………!!」

 

と、その時!!

 

覗き窓から外の様子を眺めていた紗希が、バッと覗き窓の方へ詰め寄った!

 

「!? 紗希ちゃん、如何したの!?」

 

「如何したの?」

 

「「??」」

 

あやがそれに気づき、あゆみが声を掛けた事で、桂利奈と優希も気づく。

 

「紗希ちゃん。何かを見つけたみたいなんだけど………」

 

「何かって?」

 

「!!………」

 

あやがそう言い、あゆみがそう問い返すと、梓は双眼鏡を取り出し、紗希が見ていた視線の先………

 

波が寄せては返す、海岸線の方を見やる。

 

だが、そこには何の姿も見えない………

 

「………何も居ない」

 

「見間違いだったんじゃない、紗希ちゃん」

 

「…………」

 

梓がそう言ったのを聞くと、あやは紗希にそう言うが、紗希は納得が行かない表情をする。

 

その表情が示した様に、双眼鏡では確認出来ない海岸の波打ち際には………

 

履帯の跡が………

 

波で消されかかった状態で残っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

みほが率いている部隊は………

 

全車がエンジン音を絞りながら、丁度海岸と山側を通っている幹線道路の中間地点である街中の大通りを進んでいた。

 

「私達はコレから敵本隊が居ると思われる地点を通り過ぎます。不意に遭遇したと思わせて撤退し、追撃して来たところを各個撃破して行きます」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」」

 

みほがそう指示を出すと、同行しているとらさん分隊、カメさんチーム・ツルさん分隊、アヒルさんチーム・ペンギンさん分隊、カモさんチーム・マンボウさん分隊の面々は勇ましい返事を返す。

 

「…………」

 

その返事を聞きながら、みほは黙り込む。

 

「みぽりん? 如何かしたの?」

 

その様子に気づいた沙織が声を掛ける。

 

「何だか………嫌な感じがするの」

 

「嫌な感じ?」

 

「上手く説明出来ないんだけど………危ないって言うか………」

 

と、みほが説明に戸惑っていた時………

 

「………ん?」

 

M3ハーフトラックを運転していた秀人が、山側に町を見下ろす様に通っている幹線道路上で、何かが動いたかのを目撃する。

 

「何だ?」

 

双眼鏡を取り出して、良く確認しようとする秀人。

 

その瞬間!!

 

今度は幹線道路上に光が煌めいた!!

 

「!!」

 

その光が発砲炎の光である事に気づいた瞬間、秀人はアクセルをいっぱいに踏み込んで、あんこうチームのⅣ号の隣へ躍り出た!

 

「!? 銅さんっ!?」

 

秀人の行動にみほが驚きを示した瞬間!!

 

M3ハーフトラックの側面に砲弾が命中し爆発!!

 

更に、2度、3度と砲弾が着弾し、ハーフトラックは完全に破壊される!!

 

当然、搭乗していた秀人も戦死判定だ!!

 

「!? 建物の陰へっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまみほはそう指示を飛ばし、一同は幹線道路から見えない様に建物の陰へと隠れる。

 

「逞巳くん! 敵の姿は見えるっ!?」

 

「確認出来ません! 既に移動した様です!!」

 

柚子は傍に居た逞巳に問い質すと、逞巳は身を隠しながら双眼鏡で幹線道路上を確認してそう報告する。

 

「さっきの砲撃音は………間違い無く17ポンド砲でした」

 

「と言う事はアキリーズか?」

 

優花里が砲撃音が17ポンド砲のものであった事を察し、麻子がそう推察する。

 

(何だろう?………違和感を感じる………)

 

しかし、みほは根拠は無いものの、撃って来たのはアキリーズではないと思えた。

 

と、その時!!

 

幹線道路の反対側………

 

海岸の方から、爆音と共に砲弾が次々に飛んで来た!!

 

「!?」

 

「今度は海岸線から来たぞっ!?」

 

みほが驚愕し、了平が驚きの声を挙げる中、砲弾は幹線道路から隠れる様にしていた大洗部隊へ降り注ぐ!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

直撃を受けた大洗歩兵数名が纏めて吹き飛ぶ!

 

「コレはいけないね………砲兵部隊、攻撃! 牽制になれば良い! 海岸線へ砲爆撃を浴びせるんだ!!」

 

「「「「「「「「「「! 了解っ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、迫信が飛ばした指示で、砲兵部隊が海岸線へ向けて砲爆撃を開始!

 

砂浜の彼方此方で火柱が上がり始める!

 

しかし、此方への砲撃は止んだものの、手応えを感じる事は出来なかった………

 

「逃げられたか………」

 

「クッ! 敵の正体は一体何だ!? 見当もつかんぞ!!」

 

俊がそう言うと、未だに敵の正体を捉えられない事に、十河が苛立ち気味にそう言い放つ。

 

(17ポンド砲を有し、隠蔽性と逃げ足の速い戦車………やっぱりアキリーズ?………でも、離脱が速過ぎる気が………)

 

そんな中で、1人冷静に敵の正体を推察し続けるみほ。

 

(砲撃を行った後、一体どうやって素早く姿を? まるで後ろ向きで砲撃して、そのまま前進で逃げた様な………!?)

 

とそこまで考えた時に、みほの脳裏にある可能性が過った!

 

「沙織さん! 自走砲のカタログ、有りますっ!?」

 

「えっ!? あ、有るけど………」

 

「貸して下さいっ!!」

 

「う、うんっ!」

 

みほに突然そう言われ、沙織は戸惑いながらも、自走砲のカタログをみほへ渡す。

 

「…………」

 

受け取ったみほは、すぐにページを捲くり始め、何かを探す。

 

「! コレだっ!!」

 

そして、その手がとあるページで止まる。

 

「! 『アーチャー対戦車自走砲』!!」

 

みほが開いているカタログのページを覗き込んだ優花里が、そこに載っていたのがイギリス製の対戦車自走砲………『アーチャー対戦車自走砲』であるのを確認する。

 

 

 

 

 

『アーチャー対戦車自走砲』………

 

当時連合国の対戦車砲としては最も優秀な対戦車能力を有していた17ポンド砲を搭載した対戦車自走砲である。

 

戦車に搭載された17ポンド砲は、戦車兵へと回された為、砲兵の為に開発された車輌であり、車体には旧式化していたバレンタイン歩兵戦車の物が使われている。

 

最大の特徴は、車体に対し砲が『後ろ向き』に取り付けられていると言う点だ。

 

この主砲配置の為、主砲を発射すると砲尾が操縦席部分まで後座する欠陥があり、操縦手は射撃時に車外へと退避する必要があった。

 

しかし、その特性により、操縦手が戻る時間を差し引いても、攻撃後に素早く退避や別の場所への移動が可能なのである。

 

故に、優れた待ち伏せ兵器として威力を発揮する事となった。

 

 

 

 

 

「成程、考えたね………」

 

「コレはオープントップ仕様の砲兵用装備………戦車の枠を埋める事なく、強力な対戦車火力を有する事が出来る………」

 

迫信が感心した様に、十河が苦々しげにそう言い放つ。

 

(梓ちゃんの方は大丈夫かな?………)

 

そしてみほは、別部隊を率いている梓を心配するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その梓が率いている方の部隊は………

 

『こちらジェームズ。敵部隊を発見。かなりの規模です。本隊と見て間違いないかと』

 

「! 敵の本隊っ!」

 

偵察に出ていたジェームズが通信で、敵の本隊を発見したとの報告をしてきて、梓の顔に驚きが浮かぶ。

 

「うわあ、まさか本隊と出くわしちゃうとはねぇ………」

 

「うむ、戦力差は歴然としている………」

 

ナカジマとエルヴィンが苦い顔をしてそう呟く。

 

「…………」

 

だが、梓は覚悟を決めた様な表情となる。

 

「無理に戦うべきではない」

 

「そうだね。ココは一旦後退して………」

 

「仕掛けます!」

 

そして、後退すべきだと言う意見で纏まっていたエルヴィンとナカジマにそう言い放った。

 

「!? 何っ!?」

 

「ええっ!? 無茶だよっ!!」

 

「澤隊長! それは無謀ですっ!!」

 

「いやいやいや! 無理だってっ!!」

 

「気でも狂ったのか!?」

 

当然、エルヴィンとナカジマは戸惑い、勇武、磐渡、白狼の各随伴分隊長からも反対の意見が挙がる。

 

「ダージリンさんが西住総隊長の指揮を読み切る天才です。俄仕込みの私の戦術なんて通用しません。だから、敢えて真っ向から挑みます」

 

「それはそうかも知れませんが、やはり戦力差が有り過ぎます。フラッグ車を狙って一点突破を掛けたとしても、上手く行くか如何か………」

 

「ううん………フラッグ車は狙えたら狙う感じで良いの」

 

「えっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

敵本隊に仕掛けると言うのに、フラッグ車を優先して狙わないと言う梓の言葉に、一同は戸惑いの色を浮かべる。

 

「狙いは敵の戦力は出来る限り削ぐ事………そうすれば、後は西住総隊長や舩坂先輩が如何にかしてくれる」

 

「チームとしての勝利の為に………敢えて捨て石になるワケですか」

 

決意を固めた様な表情でそう語る梓に、飛彗がそう言い放つ。

 

「………ゴメンナサイ、皆さん。コレが私が、今考えられる最高の手なんです………嫌だと言うなら、無理には………」

 

「その策………乗ったぞ!」

 

自分でも無茶苦茶な手だと理解している為、梓は無理強いはしないと言おうとしたが、その台詞を遮って、エルヴィンがそう言い放つ。

 

「! エルヴィン先輩………」

 

「負けると分かっていても、戦わなければならない時もある………」

 

「歴史の中へ消えて行った人物の中には、そんな連中がごまんといた………」

 

「ならば我々もそれに倣おうではないか!」

 

「フッ………今日は散るには良い日ぜよ」

 

梓が驚きを露わにする中、エルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうが最高のドヤ顔でそう言って来る。

 

「って、言ってるけど、如何する?」

 

「良いんじゃない?」

 

「レースは勝つ事よりも、完走する事に意味が有るんだよ」

 

「上手く良けば、相手のフラッグ車も撃破出来て、勝ちが決まるかもね~」

 

「じゃ、決まりだね!」

 

レオポンさんチームも、ナカジマが問うと、ホシノ、スズキ、ツチヤがそう返し、ナカジマもそれに同意する。

 

「あの時逃げ出してしまった事への清算は………ココで付けます!」

 

「1年生の意地を見せる時ですね」

 

「やってやります!」

 

「やりましょう!」

 

ハムスターさん分隊の勇武、誠也、竜真、清十郎も士気を挙げる。

 

「ここいらで手柄の1つでも欲しいところだな………」

 

「正直嫌ですが………ココで逃げると言ったら卑怯者ですね」

 

「ロックに行くか」

 

「俺は勝つ積りで行くぞ」

 

「白狼らしいですね」

 

「全くやな」

 

更にワニさん分隊の磐渡、灰史、鷺澪、おおかみさん分隊の白狼、飛彗、豹詑も同意に様子を見せる。

 

「皆さん………」

 

「ちょっと、梓ちゃん」

 

「先ず最初の意見を聞かないといけない人達の事、忘れてない?」

 

「梓ちゃ~ん。幾ら車長だからって、勝手に決めないでよ~」

 

梓が感激していると、M3リーの車内からあや、あゆみ、優希のそう言う声が挙がる。

 

「えっ!? 皆やらないのっ!?」

 

すると、桂利奈がそんな3人の様子を見てそう言い放つ。

 

「か、桂利奈ちゃん………」

 

「そ、それは~………」

 

そんな桂利奈の姿に、あゆみと優希が戸惑っていると………

 

「…………」

 

「うわっ! 紗希ちゃんが超やる気だっ!!」

 

そして紗希も、次弾を握り締めながらガッツポーズをして見せ、あやが驚きの声を挙げる。

 

「ゴメンね。でも、どうせ皆やる気なんでしょう?」

 

とそこで、梓がウサギさんチームの面々にそう言い放つ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

梓の問いに、一瞬沈黙するウサギさんチーム(紗希は何時も通りだが)

 

「………そんなの当たり前じゃん!」

 

「もう逃げるとか、諦めるだなんて事は、忘れちゃったよ」

 

「突撃して敵をやっつけようっ!!」

 

「死なば諸共だよ~」

 

「…………」

 

だが次の瞬間には、あや、あゆみ、桂利奈、優希からそう言う声が挙がり、紗希も力強く頷いた。

 

「ありがとう、皆………ありがとう、皆さん」

 

そこで梓は、改めてウサギさんチームと部隊一同にお礼を言う。

 

「………では、コレより………敵本隊を強襲します! パンツァー・フォーッ!!」

 

そして次の瞬間には、表情を引き締めてそう言い放つ。

 

その表情は、正にみほそのものだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな梓達の事を知らないグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の一同は………

 

相変わらずキチンと隊列を組み、全軍で大通りを進軍している………

 

だが、その中心に居るフラッグ車兼隊長車であるチャーチルのハッチから姿を晒しているダージリンは、難しい表情をしていた。

 

(アーチャー部隊からの報告によれば、フラッグ車の他に確認出来た戦車は3輌………2輌とその随伴分隊はニルギリにローズヒップと交戦中………如何やら、歩兵部隊だけでなく、機甲部隊でも独立して動いている部隊を出した様ですわね)

 

コレまでの報告から、大洗機甲部隊の状況をそう推測する。

 

(となれば、その機甲部隊が如何動いて来るか………)

 

顎に手を当て、思案するダージリン。

 

と、その瞬間!!

 

最後尾側に居たアキリーズの砲塔と車体側面に砲弾が着弾!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

傍に居たブリティッシュ歩兵に巻き添えを食らわせながら、アキリーズは白旗を上げる。

 

「!!」

 

すぐにダージリンは振り返り状況を把握すると、砲弾が飛んで来た位置を逆算し、その場所へ視線を向ける。

 

そこには、車体幅ギリギリの路地から僅かに姿を晒して、主砲と副砲から硝煙を上げているM3リーの姿が在った。

 

「! M3リー………1年生達のチームでしたわね」

 

「良くも私の友をっ!!」

 

ダージリンが脳内から情報を引き出していると、撃破されたアキリーズに親友の乗って居た1輌のマチルダⅡの車長がそう言い、自車をM3リーに向かわせた!

 

「M3リーなら簡単ですわ」

 

更に、相手がM3リーだけと見て、功を焦った別のマチルダⅡもそれに続く。

 

「! 待ちなさいっ!!」

 

ダージリンはすぐにそう言い放つが、その瞬間にM3リーが路地の中へと後退を開始。

 

「逃がすものですかっ!!」

 

最初に追撃を掛けたマチルダⅡがそれを追って路地に飛び込む。

 

「フフフッ! 逃げ場はありませんわよっ!!」

 

路地の幅ギリギリの車体であるM3リーを見て、マチルダⅡは親友の仇を取ろうと主砲を向ける。

 

だが、その瞬間!!

 

路地横の壁を突き破って飛んで来た徹甲弾が、マチルダⅡの砲塔側面に命中!

 

マチルダⅡは即座に白旗を上げた!!

 

「!? なっ!?………」

 

「前の戦いの時は壁を抜かれてやられたが………」

 

「今度はコッチの番だったみたいだな!」

 

驚くマチルダⅡの車長に、エルヴィンと左衛門佐がそう言い放つ。

 

「クウッ! 無念ですわ………!? キャアッ!?」

 

撃破されたマチルダⅡの車長が悔しそうにしていると、不意に後ろからの衝撃を感じた!

 

「ちょ~っとゴメンあそばせっ!」

 

もう1輌のマチルダⅡが追い付き、撃破されたマチルダⅡの車体をグイグイと押し始めたのだ!

 

「残念でしたわね、大洗のⅢ突………良い待ち伏せでしたが、先に行った車輌を攻撃したせいで、位置が分かりましたわ」

 

如何やら、先程の先行したマチルダⅡが撃破されたのを見た事で、Ⅲ突の場所を確認した様である。

 

撃破されたマチルダⅡを押して、次弾装填前に撃破する積りの様だ。

 

遂に撃破されたマチルダⅡを押し退け、Ⅲ突の前へと躍り出る後続のマチルダⅡ。

 

「貰いましたわ!………!?」

 

そこで、貰ったと思った後続のマチルダⅡの車長が見た物は………

 

Ⅲ突の上を越える様にして主砲を向けている………

 

ポルシェティーガーの姿だった。

 

「待ち伏せしてるのが1輌だけだと思ったのが運の尽きだね」

 

「発射っ!!」

 

ナカジマがそう言った瞬間に、ホシノが引き金を引き、アハトアハトが火を噴く!

 

主砲から吐き出された徹甲弾は、狙いを過たずにコチラに主砲を向けていたマチルダⅡの砲塔正面に命中!!

 

最も厚い装甲部分である防楯部分に徹甲弾が深々と突き刺さり、後続のマチルダⅡもアッサリと白旗を上げる。

 

「またマチルダが!?」

 

「オノレッ! コレ以上はやらせんぞっ!!」

 

マチルダⅡを2輌もやられ、ブリティッシュ歩兵達が仇を討とうとするが………

 

そこで、風切り音が響いて来た。

 

「! 伏せろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

セージがそう叫ぶと、ブリティッシュ歩兵達は一斉に伏せる!

 

直後に、2発の榴弾が、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の中へと降り注いだ!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

運悪く直撃を喰らったブリティッシュ歩兵の一団が、悲鳴と共に吹き飛ばされて地面に叩き付けられ、戦死と判定される。

 

「初弾命中!」

 

「同一射撃! 効力射っ!!」

 

双眼鏡を構えている観測隊員の報告を受け、鷺澪が付いて居る九六式十五糎榴弾砲と、誠也が付いて居るM115 203mm榴弾砲から次弾が放たれる!

 

両榴弾砲の榴弾は、再びグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の中へと着弾!

 

「履帯損傷!」

 

「砲身破損っ!!」

 

1輌のマチルダⅡが至近弾で履帯を切られ、アキリーズ1輌が砲身を折られる。

 

「今だぁっ! 突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、その榴弾砲による火力支援の元、ハムスターさん分隊、ワニさん分隊、おおかみさん分隊の面々が一斉に突撃した!

 

「落ち着きなさい! 全部隊! 直ちに迎撃態勢へ移行っ!!」

 

「ダージリン様! 正面から敵戦車っ!!」

 

浮足立ちかけていたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊にそう指示を出すダージリンに、オレンジペコがそう報告を挙げる。

 

「!!」

 

正面を見やったダージリンが見たモノは、M3リーを中心に突っ込んで来るⅢ突とポルシェティーガーの姿だった。

 

(まさか真っ向から挑んで来るとは………コチラの戦力を削ぎ、みほさんに有利に戦って貰う積りの様ね………)

 

すぐにウサギさんチーム達の意図に気付いたダージリンは、M3リーとそのハッチから姿を晒している梓の姿を見て、フッと笑う。

 

(まさかあの逃げ出したチームの子達がこんな果敢な攻めを見せるなんてね………あの子の顔なんて、みほさんそのものね)

 

引き締まった梓の表情に、みほの顔をダブらせながらそう思うダージリン。

 

「良いわ………来なさい! 西住 みほを継ぐ者っ!!」

 

そして、向かって来る梓に向かってそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

部隊を細かく分け、ダージリンの戦術眼を攪乱しようと試みるみほ。
だが、彼女の率いる部隊は、『アーチャー対戦車自走砲』部隊の奇襲を受ける。

一方………
梓達の部隊は何とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊を発見!
その戦力を削ぐ為に………
決死の強襲を試みる。
果たして、梓達の運命は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第171話『過去から来た男です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第171話『過去から来た男です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アッセンブルEX-10の活躍で、グロリアーナ戦車部隊に損害を与える事に成功したみほは………

 

本隊戦力を分け、更なる攪乱を狙う………

 

だが、みほの居るフラッグ車部隊は、ダージリンの手札の1枚………

 

『アーチャー対戦車自走砲』部隊の攻撃を受ける………

 

そんな中で………

 

梓が率いる部隊は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊を発見………

 

その戦力を削ぎ、みほの戦いを有利にする為………

 

ウサギさんチーム達は果敢にも………

 

攻撃を開始するのだった………

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

梓率いる部隊と、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が会敵した場所は、海沿いを走る幹線道路であり、近くには大きく開けた駐車場と、アウトレットの様なショッピングモールを模した建物が在った。

 

幹線道路を進んでいたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、攻撃してきたウサギさんチーム達に追い立てられる様に駐車場の方へと入り込んだ。

 

普通に考えれば、ウサギさんチーム達は数の差で叩き潰されてしまうだろう………

 

だが、ココで………

 

梓達は大胆な行動に出た。

 

それは………

 

「駄目です! 射撃不能っ!!」

 

「射線上に味方部隊がっ!?」

 

「コッチも撃てませんっ!!」

 

グロリアーナ戦車部隊から次々に挙がる攻撃不能の報告。

 

当初、戦闘する場所を確保する為に駐車場の方へと移動したグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊だったが………

 

何と、梓達もその駐車場敷地内へと突入して来たのである。

 

そのまま、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の中を走り回るウサギさんチーム達。

 

この為、防衛戦の為に広がる様に展開していたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、どちらを向いても味方が射線に入ってしまい、攻撃出来ない状況となっていた。

 

「撃てっ!」

 

「キャアッ!」

 

「ホシノ! 4時方向っ!! 榴弾っ!!」

 

「分かってるっ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

対するウサギさんチーム達は、周りは粗敵な為、適当に機銃を連射するだけでも、歩兵数名を薙ぎ倒せると言う入れ食い状態である。

 

だが、敵の数が減れば、それだけ射線が通る確率も上がる………

 

つまり、敵を撃破すればする程、逆にウサギさんチーム達が不利となるのだ。

 

それを承知で………

 

ウサギさんチーム達は果敢に攻める!

 

「撃てっ!!」

 

「発射っ!」

 

「喰らえっ!!」

 

梓の号令で、M3リーの副砲と主砲が同時に火を噴く。

 

榴弾砲の攻撃で砲身を折られていたアキリーズが、砲塔及び車体側面に命中弾を浴び、勢い余って横倒しとなると、側面部から白旗を上げる。

 

「梓ちゃん! 3時方向から敵歩兵部隊!!」

 

「!!」

 

側面ハッチの除き窓から外の様子を見ていた優希がそう報告し、梓がその方向を見やると、PIATを持ったブリティッシュ対戦車兵達が接近して来ていた。

 

「このぉっ!!」

 

梓はすぐに、機銃架のブローニングM1919重機関銃を向けると、発砲した!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

横薙ぎに掃射される7.62ミリ弾が、ブリティッシュ対戦車兵達を悉く撃ち抜いて行く!

 

「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!………クッ! 弾切れっ!! あや! 同軸機銃っ!!」

 

「わ、分かったっ!!」

 

更に掃射を続けていた梓だったが、やがてブローニングM1919重機関銃の弾が切れ、装填の間を援護する様に、あやに副砲の同軸機銃を撃つ様に指示する。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、1輌のマチルダⅡが、M3リーに主砲を向ける。

 

だが、直後にそのマチルダⅡの砲塔側面に砲弾が命中し、白旗を上げる。

 

「よし、次っ! 2時方向の歩兵部隊っ!!」

 

その砲弾を撃ったⅢ突の車内で、エルヴィンが望遠メガネを覗きながらそう声を挙げる。

 

「榴弾装填っ!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

カエサルが次弾の榴弾の装填を終えると、既に照準を合わせ終えていた左衛門佐が発砲!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

狙いを過たずに、固まっていたブリティッシュ歩兵の一団の中へと命中した榴弾は、爆発と共に撒き散らした破片で、数名を戦死判定とする。

 

「おりょう! 後ろには回り込まれるなよっ!!」

 

「分かってるぜよっ!!」

 

続いてエルヴィンはおりょうにそう指示を飛ばす。

 

突撃砲であるⅢ突にとって、背後や側面を取られるのは致命的であり、操縦は細心の注意を要求された。

 

「クソッ! 好き勝手にやらせるかっ!!」

 

「相手は突撃砲だ! 後ろに回れっ!!」

 

だが、それは相手も承知している事であり、ブリティッシュ騎兵達が機動力を活かして回り込もうとする。

 

「させないよーっ!!」

 

「「「「「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

だが、そうはさせまいと、レオポンさんチームのポルシェティーガーが同軸機銃で薙ぎ払う!

 

「っと! エクセルシアー重突撃戦車がコッチを狙ってるよっ!!」

 

とそこで、次弾の装填を終えたスズキが、エクセルシアー重突撃戦車の主砲がポルシェティーガーの方を向いている事に気づく。

 

「大丈夫! ホシノ、落ち着いて狙って!」

 

「分かってるっ!」

 

だが、ナカジマは気にした様子を見せず、ホシノにしっかりと狙いを定める様に指示する。

 

直後にエクセルシアー重突撃戦車が発砲する!

 

しかし、エクセルシアー重突撃戦車から放たれた砲弾は、ポルシェティーガーの防楯部分に命中したかと思うと、そのまま明後日の方向へ弾かれて行った。

 

「見た目はゴツイけど、アイツの主砲は75ミリだからね。コッチの装甲は貫けないよ」

 

「貰ったっ!!」

 

ナカジマがそう言う中、ホシノがトリガーを引き、ポルシェティーガーの主砲から徹甲弾が放たれる。

 

88ミリ砲弾は、エクセルシアー重突撃戦車の車体中心に命中。

 

一瞬の間の後、命中した部分から黒煙を漂わせながら、エクセルシアー重突撃戦車から白旗が上がる。

 

「マズイね………エンジンが悲鳴挙げて来たよ」

 

とそこで、ツチヤが何時もはニコニコとしている顔に、焦りの表情を浮かべてそう報告する。

 

「こう言う時、どっかの黒騎士中隊長さんなら、ワルキューレの声に聞こえるとか言うんだろうけど………」

 

「生憎、整備も担当してる私達からすれば、そんな事は言えないね」

 

そのツチヤの報告に、スズキとホシノが苦笑いしながらそう言い合う。

 

「ゴメンよ、レオポン………今日はかなりの無茶に付き合って貰うよ。最後の最後まで、よろしく頼むよ」

 

そしてナカジマは、レオポン………ポルシェティーガーに向かってそう呼び掛けるのだった。

 

「俺は攻撃を行うっ!」

 

「大洗機甲部隊の意地を見せてやれぇーっ!!」

 

「西住総隊長、バンザーイッ!!」

 

そんな戦車チームの奮戦に触発されたかの様に、随伴歩兵分隊のメンバーも奮戦を見せる。

 

「うおおおおっ! この甘ったれ共めぇっ!!」

 

鬼気迫ると言った表情で、ブローニングM1918自動小銃を乱射している磐渡。

 

「そこですっ!!」

 

レミントンM31のポンプを何度も引きながら、次々に散弾を見舞って行く清十郎。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「Hooah!!」

 

オーウェン・マシンカービンを持った竜真と、M2サブマシンガンを持ったジェームズが、敵兵の中を走り回りながら短機関銃を乱射する。

 

「ええで! このまま押したれぇっ!!」

 

自軍が優勢だと感じた豹詑が、そう声を挙げた瞬間………

 

ダダダッ!と言う、幾つもの小銃を一斉に撃った様な発砲音が響き渡った。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

そして、多数の大洗歩兵達が銃弾を浴びて倒れる。

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

すぐさま銃弾が飛んで来た方向へと注目する大洗歩兵隊員達。

 

そこで彼等は、信じ難いモノを目にする………

 

「!? アレはっ!? そんなまさかっ!?」

 

「『戦列歩兵陣』だとっ!?」

 

大洗歩兵隊員達から驚愕の声が挙がる。

 

そう………

 

彼等が見たモノは………

 

横一列になってリー・エンフィールド小銃を構え、陣形を組んだまま進軍して来る………『戦列歩兵』のブリティッシュ歩兵部隊だった。

 

 

 

 

 

『戦列歩兵』………

 

近世ヨーロッパでの戦争で使われていた、当時としてはポピュラーな戦術である。

 

当時の銃はマスケット銃であり、球形の弾丸を発射する事などもあり、命中率が非常に悪かった。

 

そこで考えられた戦術が『戦列歩兵』である。

 

要するにコレは、戦死者が出ようと構わず射撃位置まで前進し、射撃位置まで移動したら射撃を繰り返す。

 

それに耐え切れなくなって逃げた方が負けと言う、何ともブラックな戦術である。

 

その後、銃や大砲の性能の向上もあり、機関銃も開発された為、戦列歩兵はその存在意義を無くし、現代では映画の中ぐらいでしかお目に掛かる事は出来ない。

 

 

 

 

 

その時代錯誤な戦術を、今正にブリティッシュ歩兵部隊の隊員達の一部が行っているのである。

 

「進め! 進め! 勝利の女神はお前等に下着をチラつかせているぞ!!」

 

中心では、バグパイプを吹きながら、ジャスパーが陣形を形成しているブリティッシュ歩兵達に向かってそう激を飛ばす。

 

「アイツが指揮者かっ!?」

 

「バグパイプ吹いてるぞ?………」

 

「何なんだアイツは?」

 

またもや時代錯誤な戦列歩兵の指揮官であるジャスパーに怪訝な目を向ける大洗歩兵隊員達。

 

「分かり易いですね………」

 

と、そんなジャスパーを狙撃しようと、モシン・ナガンM1891/30を構える飛彗だったが………

 

引き金を引こうとした瞬間に、銃口が何かが突き刺さる様に詰まった!

 

「!? 矢っ!?」

 

銃口に詰まった物が『矢』である事を飛彗が確認した瞬間………

 

彼の胸にも、飛んで来た矢が命中したっ!!

 

「! うわあっ!!」

 

倒れた飛彗は戦死と判定される。

 

「! 飛彗っ!!」

 

「ふふふ………」

 

白狼が叫ぶ中、何時の間にか飛彗を仕留めた矢を放ったロングボウを構えていたジャスパーが不敵に笑う。

 

「そらそらっ!!」

 

「うわあっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

ジャスパーは更にロングボウで矢を放ち、大洗歩兵部隊員を射抜いて行く。

 

「クソッ! 時代錯誤な真似しやがって! 中世に帰りやがれっ!!」

 

と、コレ以上好き勝手はやらせないと、白狼がバイクのアクセルを吹かし、一気にジャスパーに突撃しようとする。

 

だが、その前に、1人の騎兵が立ちはだかった!

 

「!!」

 

「お久しぶりです………かなりの修練を積まれた様ですね………御強くなられた」

 

ティムだ。

 

白狼に向かってそう言い放ち、軽く微笑む。

 

「お前か………」

 

白狼はティムの姿を見ると、バイクから降りた。

 

「…………」

 

ティムも、愛馬のライトニングスターから降りる。

 

「「…………」」

 

そして白狼がカンフー、ティムがボクシングの構えを取る。

 

「「………!!」」

 

一瞬の間の後、両者は互いに一気に距離を詰め、激突した!

 

 

 

 

 

「! マズイッ! 歩兵部隊が苦戦してるよ! 援護しなきゃっ!!」

 

「了解! 榴弾装填っ!!」

 

一方、歩兵部隊が苦戦し始めた事に気づいたナカジマが援護を命じると、スズキが榴弾を装填する。

 

「! 2時方向に敵戦車っ!!」

 

「!?」

 

だが、ツチヤがそう声を挙げ、確認の為にペリスコープを除いたナマジマが見たモノは………

 

「!? ブラックプリンスッ!!」

 

ポルシェティーガーに17ポンド砲を向けるブラックプリンスの姿だった。

 

「ホシノ! 撃ってっ!!」

 

「今装填してあるのは榴弾だよっ!?」

 

「良いから! 早くっ!!」

 

「くうっ!!」

 

歩兵援護の為に榴弾を装填していた為、砲撃を戸惑うホシノだったが、ナカジマに言われて、引き金を引く。

 

ポルシェティーガーの主砲から放たれた砲弾は、狙いを過たずにブラックプリンスに命中!

 

派手な爆発が起き、爆煙がブラックプリンスを覆い尽くした!

 

「今だ! 全速後退っ!!」

 

「んんっ!!」

 

その隙を衝き、ポルシェティーガーは一旦後退しようとする。

 

………だが!!

 

突如としてポルシェティーガーの速度がガクリと落ちる。

 

「!?」

 

「ヤバッ! エンジン燃えたよっ!!」

 

驚くナカジマに、車内に漂って来た臭いで、エンジンが炎上した事を悟るスズキ。

 

その直後に爆煙が晴れ………

 

中から榴弾が命中した箇所が黒く焦げているだけのブラックプリンスが姿を見せる。

 

その主砲の照準は、ポルシェティーガーに合わされたままである。

 

「………ココまでか」

 

ナカジマが悟った様な表情を浮かべた瞬間………

 

ブラックプリンスの17ポンド砲が火を噴き………

 

その砲弾がポルシェティーガーに命中!!

 

爆発が起き、一瞬の間の後………

 

ポルシェティーガーから白旗が上がる。

 

『大洗機甲部隊、ポルシェティーガー行動不能!』

 

「!? レオポンさんが!?」

 

「マズイ! 今度はコッチを狙っているぞっ!!」

 

レオポンさんチームが撃破された報告に、カエサルが驚きの声を挙げると、エルヴィンがブラックプリンスが今度は自分達に標的を定めようとしている事に気づく。

 

「おりょう! 車体をもっと右に! 攻撃される前に叩くっ!!」

 

「おうぜよっ!!」

 

左衛門佐がやられる前にやってやろうと、おりょうに車体を動かす様に指示する。

 

だが、その直後!!

 

Ⅲ突の右後方転輪が爆発!!

 

履帯が千切れ、転輪が弾け飛ぶ!!

 

「!? しまったっ!? チャーチル・ガンキャリアッ!!」

 

そこでエルヴィンが、ブラックプリンスに気を取られ、チャーチル・ガンキャリアが何時の前にかⅢ突を包囲していた事に気づく。

 

チャーチル・ガンキャリアの主砲が、一斉にⅢ突に向けられる。

 

「! 衝撃に備えろぉっ!!」

 

エルヴィンがそう叫んだ瞬間!!

 

チャーチル・ガンキャリアが一斉に砲撃っ!!

 

動けなくなったⅢ突に次々と砲弾が命中!!

 

やがて巨大な爆発が起き、一瞬Ⅲ突の姿が見えなくなる………

 

そして爆煙が晴れると、そこには………

 

車体の彼方此方に徹甲弾が突き刺さり、白旗を上げているⅢ突の姿が露わになった。

 

「!? カバさんチーム! レオポンさんチームッ!!」

 

新たにアキリーズを1輌撃破し終えたM3リーの梓が、そこで漸く様子に気づく。

 

「マズイよ! もう私達だけだよっ!!」

 

残った戦車が自分達だけとなった事で、あやが悲鳴を挙げる。

 

だが、その時………

 

突如として、M3リーの周りの敵が、戦車・歩兵共々スーッと引き始めた。

 

「!?」

 

「何々?」

 

「如何したんだろう?」

 

その様子に、梓、優希、あゆみが戸惑いの声を挙げる。

 

引いて行ったグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は、円形になってM3リーを取り囲む。

 

M3リーは、まるでコロッセオの中へ放り込まれた様な状態となる。

 

すると、そこで………

 

正面の敵が左右にサッと分かれ………

 

その分かれた間を進んで来る、フラッグ車………

 

ダージリンのチャーチルの姿が露わになる。

 

「!?」

 

「フラッグ車だよっ!!」

 

フラッグ車が姿を見せた事に、紗希と桂利奈が驚きを露わにする。

 

「………御機嫌よう」

 

フラッグ車のチャーチルは、M3リーの少し前方で静止したかと思うと、ハッチが開いてダージリンが姿を見せる。

 

「ダージリンさん………」

 

ダージリンと対峙した梓の頬を、冷たい汗が伝う………

 

「まさかあの時逃げ出したチームがココまで果敢な攻めを御見せになるとは………正直、驚きましたわ」

 

一方、ダージリンは不敵な笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「その勇気に敬意を表し………1対1で勝負してあげましょう」

 

「!?」

 

「お受けになるかしら?」

 

突如1対1の戦いを申し込まれ、困惑した様子を見せた梓に、ダージリンは不敵に笑ったままそう問う。

 

「………受けて立ちます」

 

「梓ちゃんっ!?」

 

「「「…………」」」

 

やがて決意した表情で梓がそう言い放つと、あやが声を挙げ、あゆみ、優希、桂利奈も驚愕する。

 

「…………」

 

しかし、紗希だけは引き締まった表情で次弾を持つ手に力を込めていた。

 

「それでこそ………西住 みほのチームの1員ですわね」

 

梓の返答に、満足そうな様子を見せるダージリン。

 

「皆………行くよ」

 

「「「「!!………」」」」

 

そう梓が言うと、あや、あゆみ、桂利奈、優希も覚悟を決めた表情となる。

 

「さあ………来なさいっ!!」

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

ダージリンのその言葉で、梓はM3リーを突撃させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊へ強襲を仕掛けた梓達。
大体にも敵陣の中へと飛び込み、有利に戦いを進めていたかと思えたが………

ジャスパーの奇天烈な戦法に驚いている間に、白狼がティムと対峙。
カバさんチームとレオポンさんチームが撃破されてしまう。
だがそこで………
残ったウサギさんチームに、ダージリンが1対1での勝負を挑んで来たのだった………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第172話『ウサギさんチーム、彼の地にて、斯く戦えりです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第172話『ウサギさんチーム、彼の地にて、斯く戦えりです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダージリン率いるグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊に………

 

果敢にも襲撃を仕掛けたウサギさんチーム達………

 

敵の戦力を少しでも削ぎ、みほ達に後を託す為である………

 

だが、混戦に持ち込み、優位に戦闘を進めていたと思われたが………

 

ジャスパー・チャーチルの戦列歩兵と言う奇想天外な戦法に意表を衝かれた歩兵部隊に損害が生じ………

 

その隙を衝く様に、ポルシェティーガーとⅢ突が撃破されてしまう………

 

だが、そこで………

 

ダージリンは、自ら梓の前にその姿を晒し………

 

1対1での決闘を申し込んだのだった………

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準々決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「おりゃあっ!!」

 

「トアアッ!!」

 

白狼が放った地獄突きと、ティムのストレートパンチが衝突!

 

「「!!」」

 

その反動で、両者はバッと距離を取る。

 

「てやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

再度先に仕掛けたのは白狼。

 

ティムに向かって右ストレートを見舞う。

 

「ふっ!」

 

しかし、ティムはウィービングで白狼の繰り出したストレートの外側へ逃げる様に回避する。

 

「甘いっ!!」

 

だがその瞬間!

 

白狼は握って居た拳を開いたかと思うと、そのまま外側に逃げたティム目掛けて手刀を繰り出す!

 

「!!」

 

ティムは驚きながらも、スウェーで上体を反らしてかわす。

 

「!………」

 

白狼の手刀がスウェー状態のティムの鼻先を掠め、ティムは冷や汗が流れるのを感じる。

 

「ホワタァッ!!」

 

「!!」

 

と、直後に姿勢を戻した瞬間に、白狼の跳び後ろ回し蹴りが胸を直撃!

 

「! グウッ!!」

 

肺の中の空気が一気に無くなるのを感じながら、後ろにブッ飛ばされるティム。

 

「クッ!………!!」

 

何とか受け身を取って着地するが、その瞬間に嫌なモノを感じて頭を下げると、先程までティムの頭が在った位置を、白狼の横薙ぎの様なキックが通過する。

 

「この絡み付く様な独特な動き………中国拳法ですか」

 

「おうよ! 中国の山奥の寺で仙人みたいな爺さんから必死こいて習ったんだよっ!!」

 

「フフフ、まるで漫画ですね………」

 

白狼の中国拳法を習得した成り行きを聞いて、ティムは思わず吹き出す。

 

「隙有りっ! おりゃあっ!!」

 

それを隙だと見た白狼が、再び後ろ回し蹴りを放つ。

 

「!!」

 

だが、その瞬間!!

 

ティムは、爪先を伸ばした鋭い蹴りを、カウンターの様に繰り出した!!

 

両者の蹴りが激突!

 

「!!」

 

思わぬ反撃を受けた白狼が1歩後退。

 

「ハアッ!」

 

直後に、ティムは更に爪先を伸ばした突きの様な蹴りを連続で繰り出して来る。

 

「! チイッ!」

 

太極拳の様な動きでその蹴りを往なして行く白狼。

 

「ハアッ!!」

 

「!!」

 

一瞬の隙を衝いて肘打ちを繰り出したが、察知していたティムはバックステップを踏んで回避する。

 

「ボクシングだけじゃねえのか………」

 

「サバットです………靴を履いたまま出来ると言うところが気に入ってましてね」

 

白狼が、ティムが見せた動きが先程までのボクシングのモノと異なる事を指摘すると、ティムは微笑みながらそう返す。

 

「そうかよっ!!」

 

と、そこで白狼はティムに向かって跳躍し、空中で右足、左足との連続キックを放つ。

 

「!!」

 

「トアアッ!!」

 

またもバックステップで回避したティムだったが、そこで白狼の掌底が胸に命中する。

 

「!!………」

 

一瞬よろめいたティムだったが、それだけであり、白狼の掌底に耐える。

 

「!? 何っ!?………!? ガッ!?」

 

驚いた白狼の顎に、ティムのアッパーカットが炸裂!

 

「ガハッ!?………クソッ!!」

 

脳味噌が揺れている様な感覚を、頭を振って振り払い、すぐに半身を起こす白狼。

 

「フッ!!」

 

その白狼に、ティムが追撃とばかりにローキックを繰り出す。

 

「!! ハアッ!!」

 

白狼は、ブレイクダンスの様な動きで蹴りを繰り出しながら立ち上がる。

 

「ッ!?」

 

その蹴りが横っ面に当たり、よろけるティム。

 

「ハアッ!!」

 

しかし、すぐに白狼の顔面にコークスクリューブローを決める。

 

「ブッ!!」

 

白狼は諸に顔面にパンチを食らう。

 

「!!………」

 

だが、その状態で前へ踏み出してくる。

 

「!?」

 

「オラアッ!!」

 

そして、ティムの鼻っ面に肘鉄を叩き込む!

 

「!!」

 

ティムは顔を押さえて後ずさる。

 

と、その足元にポタリと血が落ちる。

 

「クッ!………」

 

如何やら鼻血を出した様だ。

 

「ハハハッ! 良い様だなっ!!」

 

と、白狼が挑発する様にそう言った瞬間!!

 

「ハアッ!!」

 

その側頭部にティムの爪先での鋭い蹴りが炸裂!!

 

「ゲボッ!?」

 

余りに速い反撃を真面に喰らった白狼は、顔面から地面に倒れ込む!

 

「グウウ………」

 

起き上がる白狼の鼻からは、鼻血が流れている。

 

「良い様ですね………」

 

「るせぇっ! 見えてねえんだろっ!!」

 

ティムが意趣返しの様にそう言うと、白狼はそう吠えて、ローキックを繰り出す!

 

「フッ!!」

 

それに対し、ティムもローキックを繰り出す!

 

お互いのローキックが激突し、骨と骨がぶつかり合った乾いた音が響く。

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

だが、2人はそのまま、ローキックの繰り出し合いへと発展する。

 

お互いにローキックを出している足を蹴り合う白狼とティム。

 

キック同士がぶつかり合う度に、骨の軋む音が響き合う。

 

何とも、傍から見ている方が辛い意地の張り合いである。

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

だが、当人達は大真面目であり、お互いに1歩も引かない!

 

「………! クウッ!」

 

やがて、ティムが我慢出来なくなった様に後退。

 

蹲ったかと思うと、ローキックを繰り出し続け、白狼のローキックと激しくぶつけ合っていた脛を摩る。

 

「如何したっ! オラ! 掛かって来いっ!!」

 

しかし、白狼の方は何ともない様子で、蹲っているティムに向かってそう挑発を飛ばす。

 

(何て人です………痛みを感じていないのですか?)

 

そんな白狼の頑丈さに、ティムは内心で舌を巻く。

 

「オラ、来いっ! 如何したっ!!………お~、イッテ~」

 

だがそこで、そう言いながら蹲り、ティムとぶつけ合っていた足を摩る。

 

………痩せ我慢だった様である。

 

「………フフフ。本当に貴方は楽しませてくれますね」

 

そんな白狼の様子を聞いて、ティムはまたも笑みを零す。

 

「ウルセェッ! コッチはマジなんだよっ!!」

 

白狼はそう返しながら、拳法の呼吸法を使い、ダメージを緩和して行く。

 

「………如何です、神狩さん。そろそろ決着を着けませんか?」

 

「? 何ぃっ?」

 

「お互いに忙しい身でしょう………チマチマとやらずに、お互いの大技を出し合って………それで決着としませんか?」

 

「…………」

 

ティムから出された思わぬ提案に、白狼は考える様子を見せる。

 

罠………と言う可能性も大いにあるが………

 

「………乗った」

 

白狼はその提案に乗る事にした。

 

元より彼は、チマチマとした事が苦手な性分なのである。

 

「それでこそです………」

 

そんな白狼に向かってティムはそう言い、構えを取る。

 

「…………」

 

白狼も無言で構えを取り、再び両者は構えを取った状態で沈黙する。

 

「「…………」」

 

お互いに微動だにしない2人。

 

周囲の大洗・ブリティッシュ両歩兵部隊の面々も、自分の戦闘に集中したり、2人の纏う闘気に圧倒されたり、歩兵道的に空気を読んでいたりと、邪魔する様子は無い。

 

「「…………」」

 

只々無言で睨み合う2人。

 

と、その時!!

 

「神狩さん! 危ないっ!!」

 

大洗歩兵の1人がそう叫んだかと思うと………

 

白狼とティムの間に、榴弾が着弾し、派手に爆煙を上げた!!

 

味方の支援砲撃の流れ弾である。

 

「!?」

 

突如発生した爆煙に、白狼は一瞬怯む。

 

と、その瞬間っ!!

 

その爆煙を突っ切って、ティムが白狼の懐へ飛び込んで来た!!

 

「!!」

 

「貰いましたよ!」

 

ティムはそう言い放ち、白狼の顎に向かって、右のアッパーカットを繰り出した!!

 

「!? ガハッ!?」

 

そのアッパーカットの威力の前に、白狼の身体が宙に浮く。

 

「まだですっ!!」

 

だが、ティムの攻撃は終わらず、続け様に今度は左のアッパーカットが炸裂!!

 

「ゴハッ!?」

 

白狼の身体が完全に宙に浮き上がる。

 

「コレで………フィニッシュですっ!!」

 

駄目押しとばかりに、再び右でのアッパーカットが炸裂!

 

白狼の身体は空中高く舞い上がる。

 

………しかし!!

 

「………フッ」

 

白狼が不意に笑ったかと思うと、体勢を整え、バク宙を決める!

 

「!? 何っ!?」

 

目は見えずとも、白狼がまだやられていない事を空気で察するティム。

 

「トアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

白狼は、落下の勢いを乗せたキックを、ティム目掛けて繰り出す!

 

「何のっ!!」

 

だが、ティムは寸前のところでガードの姿勢を取る事に成功する。

 

「! グウッ!!」

 

ガードした両腕が痺れるのを感じるティムだったが、防ぎ切る!

 

「残念で………」

 

「トアアアアッ!!」

 

「!?」

 

だが、ティムがそう言い放とうとした瞬間………

 

何と白狼はキックした反動を利用して再び宙に舞う!

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そしてまたも、バク宙からのキックを繰り出す!

 

「! ぐあああっ!!」

 

2度目の蹴りは、痺れた腕では防ぎ切れず、ティムのガード姿勢が崩れ去る!

 

「やあああああっ!!」

 

すると信じられない事に、白狼はまたもキックの反動を利用して跳躍!

 

「ハイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

3度目となるバク宙からのキックが炸裂する!!

 

「!?」

 

そのキックは、ガードを抉じ開けられたティムの胸に命中!!

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ティムの身体は人形の様に吹き飛び、ブロック塀に背中から激突!!

 

そのままブロック塀を破壊して、倒れた!!

 

「………飛竜三段蹴り」

 

その様子を見ながら着地を決めた白狼が、ボソリとそう呟く。

 

「………完敗です………まさか、僕が3連続のアッパーカットで行ったのに対して………貴方は3連続の跳び蹴りを決めて来るなんて………」

 

「俺はな………勝つ積りでこの場に居るんだよ」

 

戦死判定が下ったティムがそう言うと、白狼は素っ気なくそう言い返す。

 

「成程………でも、勝負は貴方の勝ちですが………歩兵道としては貴方の負けですよ」

 

「? 何っ?」

 

如何言う事だと白狼が問い質そうとした瞬間………

 

『大洗機甲部隊、M3リー! 行動不能っ!!』

 

「!?」

 

そういうアナウンスが響き渡り、驚きを露わにするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻り………

 

ダージリンのチャーチル(フラッグ車)と対峙していたウサギさんチームは………

 

「撃てっ!!」

 

梓の掛け声で、M3リーの副砲と主砲が同時に火を噴く。

 

だが、そのどちらの砲弾も、チャーチルの正面装甲に弾かれ、明後日の方向へ飛んで行く。

 

「………砲撃」

 

と、反撃にとダージリンの静かな指示の元、チャーチルの主砲が火を噴く。

 

「!!………」

 

だが、M3リーは撃ち終えた瞬間には移動を開始しており、砲弾は何も無い空間を通り抜ける。

 

「次弾装填!」

 

「右へ40度………」

 

「了解」

 

しかし、オレンジペコが素早く次弾装填を終えると、ダージリンはそう指示し、アッサムが砲塔を旋回させる。

 

「! 停止っ!!」

 

「!!」

 

それを見た梓はそう叫び、桂利奈がM3リーに急ブレーキを掛ける!

 

履帯と地面の接触面から火花を散らして停止するM3リー。

 

直後に、チャーチルの主砲弾が、M3リーの1メートル先に着弾した!

 

「マズイ! 離れないと!!………」

 

「桂利奈! 突っ込んでっ!!」

 

あやがそう叫ぶが、何と梓は突っ込めと言う指示を出した!

 

「ええっ!?」

 

「梓ちゃん、気でも狂ったのっ!?」

 

「装甲は向こうの方が上だよ! 離れたらコッチに勝ち目は無いよ! だったら敢えて突っ込んで機動力で攪乱するしかないよっ!!」

 

桂利奈と優希が驚きの声を挙げるが、梓はそう言葉を続ける。

 

「で、でもぉ………」

 

「桂利奈! お願いっ!!」

 

戸惑う桂利奈に、梓は重ねてそう言う。

 

「………アイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーッ!!」

 

すると、桂利奈は覚悟を決めた様に、M3リーをチャーチル目掛けて突っ込ませた!!

 

「! 突っ込んで来ますっ!!」

 

「離れては勝てないと思って敢えて接近する………良い度胸ね。あの逃げ出した子達と同一人物だとは思えないわ」

 

その様子を見たオレンジペコが驚愕するが、ダージリンは少しも慌てず、突っ込んで来るM3リーを見据える。

 

「ですが、データ上で彼女達が勝利する確率は粗ゼロです」

 

そしてアッサムがそう言い、チャーチルの主砲がM3リーの合わせられる。

 

「敵主砲、此方を指向中!」

 

「桂利奈! 私が合図したら右へ切ってっ!!」

 

「ア、アイーッ!!」

 

あゆみがそう報告するのを聞きながら、梓は発射のタイミングを見極めて回避すると桂利奈に伝達。

 

そのまま自分達に向けられているチャーチルの主砲に目を凝らす梓。

 

(まだだ………まだ早い………)

 

「もう目の前だよ~!」

 

「梓ちゃん! まだなのっ!!」

 

タイミングを見極めようとしている梓だが、優希やあやが悲鳴の様な声を挙げ、他のメンバーも気が気でない。

 

「もう目の前だよっ!!」

 

「ア、アイーッ!!」

 

(まだ………まだまだ………)

 

あゆみと桂利奈も声を挙げる中、必死にタイミングを見極めようとする梓。

 

と、その時!!

 

「………!!」

 

紗希が何かに気付いた様に、梓のパンツァージャケットを引っ張った!

 

「!? 紗希!?………!! 桂利奈! 今っ!!」

 

「! ええいっ!!」

 

一瞬戸惑った梓だったが、即座にそう指示を飛ばし、M3リーは右へと進路を切る!

 

その直後にチャーチルが発砲!!

 

飛んで来た75ミリ砲弾が、回避行動に入ったM3リーの左側面僅か4センチのところを擦り抜け、後方の地面に着弾した。

 

「!? かわされたっ!?」

 

「お見事ですわ………」

 

アッサムが驚きの声を挙げる中、ダージリンは静かに梓を称える。

 

(良し! 後は擦れ違い様に副砲で上面装甲を狙えば………)

 

梓はそのままM3リーを突撃させ、車高の高さを活かして、チャーチルの上面装甲を副砲で撃ち抜こうと考える。

 

副砲でも、上面装甲を至近距離でなら十分貫通出来る。

 

しかし!!

 

突如チャーチルは信地旋回を行い、突っ込んで来るM3リーに右側面を向ける!!

 

「!? 避けてっ!!」

 

「間に合わないよーっ!!」

 

横を擦り抜ける積りでギリギリを行っていたM3リーは衝突コースを取り、回避も間に合わず、チャーチルの右側面に勢い良く激突した!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

「!?」

 

重量差からM3リーの方が弾き飛ばされ、撃破したマチルダⅡの残骸へ衝突して止まる。

 

「撃ちなさいっ!」

 

そしてその瞬間に、チャーチルの主砲弾が放たれ、M3リーに命中!

 

爆煙が漂ったかと思うと、M3リーから白旗が上がる………

 

『大洗機甲部隊! M3リー、行動不能っ!!』

 

「やられたーっ!!」

 

「また負けた………」

 

「もうちょっとだったのに………」

 

「でも、今度は頑張ったよね?………」

 

撃破を告げるアナウンスが流れる中、M3リーの車内で、煤けた顔で桂利奈、あや、あゆみ、優希がそう言い合う。

 

「クソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

「「「「!?」」」」

 

だがそこで、梓の叫び声が聞こえて来て、あや達は驚きながら梓の姿を見上げる。

 

梓は握った両拳をキューポラの縁に叩き付け、身体を振るわせて悔しさを露わにしていた。

 

「梓ちゃん………」

 

「梓………」

 

「「…………」」

 

そんな梓の姿を見て、あや達は何とも言えない表情になる。

 

「…………」

 

紗希も、悲しそうな表情で悔しがる梓を見上げていた。

 

(まだ未熟ではありますが………お見事でしたわ)

 

そんな梓の姿を見ながら、ダージリンは内心で再び称えたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! しまったっ!!」

 

撃破されたM3リーの姿を見て、白狼が声を挙げる。

 

「僕との戦いに気を取られ過ぎましたね………例え貴方が生きていようと、戦車が撃破されれば試合では負けになる………歩兵道は人の為に戦う武道なのですよ」

 

「クウッ!………」

 

倒れたままそう言い放つティムに、白狼は苦い顔を浮かべる。

 

「神狩先輩! 歩兵部隊の損害も50%を超えました! 宮藤先輩の他にも、鶏越先輩、誠也、灰史も戦死判定です!! 撤退しましょうっ!!」

 

とそこで、戦闘服が所々ボロボロになっている勇武がそう報告して来る。

 

「………お前等は撤退しろ」

 

「!? 先輩っ!?」

 

「俺は残る………どの道、撤退するなら殿が必要だ。逃げたらアッセンブルEX-10に合流しろ。あの野郎なら残存部隊を纏めるなんざお手の物だろう」

 

弘樹の事を思い浮かべながら、白狼はフッと笑う。

 

「いけません! 先輩も一緒にっ!!………」

 

「行けって言ってんだっ!!」

 

「!!」

 

食い下がる勇武を、白狼は怒鳴り付ける。

 

「コイツは俺なりの………ケジメだ」

 

「!………撤退します! 皆さん! ついて来て下さいっ!!」

 

勇武がそう呼び掛け、残存部隊を率いて撤退に入る。

 

「…………」

 

白狼はその姿を見ながら、ヌンチャクを取り出す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その前方には、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊全部隊が立ちはだかる。

 

「………さあ、行くぜっ!!」

 

その中へと、白狼はヌンチャクを振り回しながら突撃して行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

次々にアナウンスされていたブリティッシュ歩兵部隊の戦死報告の最後に………

 

白狼の戦死報告がアナウンスされたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

因縁の相手であるティムを、苦戦の末に破った白狼。
リベンジを果たしたが、ウサギさんチームが撃破されてしまう。

いいところまで喰らい付いたウサギさんチームだったが、最後は経験の差で敗北する。
白狼は殿として残り、残存歩兵の撤退を支援して散った………

戦いも佳境に入り始めています。


それから、以前予告したガルパン×こち亀の短編が一応仕上がりました。
今夜9~10時辺りに、SS速報へ掲載してみようかと。
以前お断りした通り、台本形式+会話文オンリーの簡易SSとなります。
一応最後まで書けていますが、反応を見たいのとSS速報の使い方に慣れる為、1週間ぐらいかけて小出しにして行こうかと思ってます。
それから、この作品の感想は、コチラの感想掲示板ではしないで下さい。
規約違反に接触する可能性がありますので。


では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第173話『コマンドーVSニンジャです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第173話『コマンドーVSニンジャです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を相手にした準決勝戦の中………

 

分隊を任されたウサギさんチームの梓は………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊と遭遇………

 

コレに打撃を与えるべく、果敢に挑んだが………

 

最後はダージリンの駆るチャーチルに撃破され、戦車部隊全滅となった………

 

そして、撤退する残存大洗歩兵部隊を援護する為に………

 

苦戦の末にティムを倒した白狼が殿となり………

 

見事に散ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準々決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「梓ちゃん達の戦車部隊が全滅………」

 

「神狩殿も残存歩兵部隊を逃がす為に………」

 

「飛彗さん………」

 

梓達が率いていた戦車部隊が全滅したのと、飛彗が戦死判定となり、白狼が撤退する残存大洗歩兵部隊の殿となってやられたと言う報告を受けた沙織と華、優花里が表情を曇らせる。

 

「…………」

 

キューポラから姿を晒しているみほも、辛そうな表情で拳を握り締める。

 

「………梓ちゃん達の行動は無駄ではありません。グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊に打撃を与える事に成功しました」

 

だが、すぐに表情を引き締め、自部隊の皆にそう呼び掛ける。

 

「では、ココは先ずアーチャー対戦車自走砲部隊を片付けてから、敵本隊を………」

 

「いえ、作戦変更はありません。このまま敵本隊へ仕掛けます」

 

「!? 何っ!?」

 

十河がそう戦術予測を立てたが、みほは作戦を変更せずにグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊へ仕掛けると言い、驚きの声を挙げる。

 

「ちょっ! みほちゃん! そりゃ無理だってっ!!」

 

「損害を与えたとは言え、ウサギさんチーム達が仕掛けた事で警戒度を上げている筈だ。今仕掛けるのは無謀じゃないか?」

 

了平が悲鳴の様な声を挙げ、大詔も無茶ではないかと進言する。

 

「いえ、だからこそ敢えて仕掛けるんです。ダージリンさんは既に別系統で複数の部隊が動いている事を見抜いて居ます。だから、別の部隊が同じ行動を取って来る可能性は低いと考える筈です。仮に見破られていたとしても、今度は此方にはフラッグ車が居ます。必ず撃破を狙って来る筈です」

 

「そこを衝けば、得意のゲリラ戦、或いはフラッグ車同士の対決に持ち込めるって作戦だね」

 

みほがそう作戦を述べると、迫信がそう補足する。

 

「ですが、西住総隊長。アーチャー対戦車自走砲部隊は如何するんですか? 無視出来る存在じゃないと思うのですが………」

 

楓は、アーチャー対戦車自走砲部隊を警戒するが………

 

「大丈夫です。きっと抑えてくれます」

 

「………成程。そう言う事ですか。了解しました」

 

みほがそう返すと、納得が行った様な表情で敬礼を返した。

 

「………攻撃寸前に航空支援を要請します。一気に攻勢に出て来たと思わせて、敵フラッグ車を『Gエリア』に誘導します」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

「ではコレより、『タバ作戦』を開始します!」

 

改めてみほは、梓達に続いてグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊へ攻撃を仕掛け、敵フラッグ車を誘い出す作戦………

 

『タバ作戦』の発動を宣言する。

 

「西住ちゃ~ん。因みにその作戦名ってどんな意味なの?」

 

とそこで、杏が作戦名の由来について尋ねる。

 

「えっ? え~と、皆で『束』になって攻撃するから、『タバ作戦』って言う名前にしたんですけど………」

 

「成程~。良いね、ソレ」

 

「チームワークは最大の武器ですっ!!」

 

「不良っぽい気もするけど………仕方ないわね」

 

みほがそう答えると、杏は満足そうな声を挙げ、典子とみどり子も賛同する。

 

「………では、改めて! パンツァー・フォーッ!!」

 

それを聞きながら、みほはパンツァー・フォーの号令を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊は………

 

「各車輌、応急処置が完了しました」

 

「歩兵部隊の隊列の組み直しも終わったよ」

 

マチルダⅡ隊の車長の1人である『ルクリリ』がそう報告すると、セージもそう報告を挙げて来た。

 

「了解しましたわ………」

 

「結構な痛手を負いましたね………」

 

「まさかあの小戦力で仕掛けてくるなんて………」

 

ダージリンが返事を返すと、アッサムとオレンジペコが先程のウサギさんチーム達の襲撃を思い出し、そう言い合う。

 

「ですが、次のみほさんの手は読めています。恐らく、分断しているクロムウェルと三式を除いた部隊………フラッグ車を含む本隊で仕掛けて来るでしょうね」

 

「!? ええっ!?」

 

「まさかっ!? 同じ手を2度も取るとは思えません!」

 

と、ダージリンがみほの次の手を読み当てると、オレンジペコとアッサムは驚きの声を挙げる。

 

「驚く事じゃないわ。私がみほさんでしたら………きっとそうしますから」

 

だが、ダージリンは確信に満ちた顔でそう返した。

 

「そして………ジャスパー」

 

「うん?」

 

「貴方は貴方のコマンド部隊を率いてアーチャー対戦車自走砲部隊の援護に向かって下さる?」

 

「アーチャー部隊の援護かい?」

 

「私の読みが当たれば………歩兵部隊が次に攻撃する目標はそっちだからよ」

 

ジャスパーが尋ねると、ダージリンがそう読みを述べる。

 

「戦車6輌葬った強靭な歩兵部隊が相手とは………何とも危険がいっぱいで楽しそうじゃないか。OK、引き受けたよ」

 

心底楽しそうな様子でジャスパーはそう返す。

 

「頼むわね」

 

「良し! じゃあ、行くぞぉっ!!」

 

と、ダージリンがそう言うのを聞きながら、ジャスパーはSASジープへと乗り込み、数台の同じ車輌を率いて、本隊から離脱する。

 

「さて………私達はこのまま進軍します。大洗の部隊と遭遇した場合の指示は追って出します」

 

「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」

 

ダージリンがそう言い、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊は進軍を再開する。

 

「…………」

 

そのダージリンのチャーチルの横では、仏頂面を浮かべているアールグレイが、愛馬に跨って随伴している。

 

「ゴメンなさいね、アールグレイ」

 

「!………」

 

と、突如ダージリンが謝罪して来て、アールグレイは軽く驚いた様子で視線を向ける。

 

「歩兵部隊を率いているのは十中八九で舩坂 弘樹ね。貴方にとって戦うべき相手でしょうけど、戦略上それは出来ないの」

 

申し訳無さそうにアールグレイにそう言うダージリン。

 

「………それが戦略上の判断ならば異論は無い。歩兵道の真髄は戦車に随伴し、守る事にある」

 

だが、アールグレイは命令に従うのが自分の役割であると言う様に返す。

 

「………ありがとう。でも、もし万が一の時には………頼りにしていますわ」

 

「イエス、マイ・ロード」

 

お馴染みの台詞と共に、騎士が忠誠を示すポーズを取るアールグレイだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

噂されていたアッセンブルEX-10は………

 

「………むっ? 海岸に出たか………」

 

敵の姿を求めて市街地を進んでいる内に、砂浜の海岸線へと辿り着いていた。

 

遠くの方の洋上では、呉校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊が、激しい砲雷撃戦を展開している。

 

「お~、スッゲェなぁ」

 

「ココまで轟音が聞こえて来るぜ」

 

地市と海音が、洋上の艦隊決戦の轟音を聞きながらそう漏らす。

 

「見惚れている暇は無いぞ。早く次の敵部隊を探して………!?」

 

と、そこまで言い掛けた瞬間!

 

弘樹は何かに気付いた様に猛然と波打ち際へダッシュした!

 

「!? 舩坂先輩っ!?」

 

「如何したんすかっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

光照と正義が驚きの声を挙げて、アッセンブルEX-10のメンバーが慌てて後を追う。

 

「…………」

 

波打ち際へ片膝を着いて屈み込み、波に濡れるのにも構わずジッと足元の濡れた砂浜を見やる弘樹。

 

「一体如何したんですか?」

 

「何か有るのかい?」

 

注意深く濡れた砂浜を観察する弘樹を見て、武志と鋼賀がそう尋ねる。

 

「ん? コレは………」

 

するとそこで、シメオンも何かに気付いた様に弘樹の傍に屈み込む。

 

「オイ、そろそろ説明してくれよ」

 

「………微かだが、履帯の跡が在る」

 

俊がじれったく感じてそう言うと、弘樹は濡れた砂浜を見たままそう返した。

 

「えっ!?」

 

「むっ! 確かにコレは………」

 

重音が驚きの声を挙げ、小太郎も弘樹が見ている濡れた砂浜に、波に消されかけているが、履帯の跡らしきモノが微かに浮かんでいる事に気づく。

 

「グロリアーナの戦車でござるか?」

 

「…………」

 

小太郎がそう言うと、陣が否定の意味を現すポーズを取る。

 

「戦車の履帯跡だけで歩兵や騎兵、他の車輌の跡は見えない。グロリアーナの戦車が単独で行動するとは考え難い………」

 

「まさか、また自走砲か?」

 

ゾルダートがそう指摘すると、地市がクレオパトラ&スフィンクス機甲部隊との試合を思い出してそう言う。

 

「自走砲………イギリス………! アーチャー対戦車自走砲か」

 

そこで弘樹が、アーチャー対戦車自走砲の存在を思い出す。

 

「アーチャー対戦車自走砲?」

 

「17ポンド砲を搭載したイギリスの対戦車自走砲だ。1撃を加えた後の離脱が速く、待ち伏せに最適な兵器だ」

 

「成程。オマケに自走砲扱いだから砲兵の装備として持ち込み可能で、戦車の枠を埋めずに使えると言う事か」

 

地市が首を傾げると、弘樹がそう答え、シメオンが補足する。

 

「マジかよ!」

 

「クソッ! 厄介なモンを持ち出して来やがって!」

 

重音が思わずそう声を挙げると、海音が悪態を吐く様に言う。

 

「如何しますか、舩坂先輩?」

 

「………予測射撃位置から察するに、アーチャー対戦車自走砲が狙ったのは西住総隊長の居る本隊だ。野放しには出来ん」

 

「叩くでござるな」

 

光照が尋ねて来ると、弘樹はアーチャー対戦車自走砲への攻撃を決意し、小太郎も賛同の様子を見せる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他のアッセンブルEX-10メンバーも無言で頷き、同意して見せる。

 

「良し。良いか? 恐らく次の射撃地点は………」

 

それを見た弘樹は試合会場の地図を取り出し、みほの本隊の位置から、次にアーチャー対戦車自走砲部隊が攻撃を行うと思われる地点の割り出しに掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊………

 

まだまだ多数残っている戦車部隊と歩兵・騎兵部隊で隊列を組み、大通りを進軍しているグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊。

 

と、交差点に差し掛かったところで………

 

進軍していたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊から見て左側の通路から、みほのⅣ号を先頭に、八九式、ヘッツァー、ルノーB1bisが飛び出して来る。

 

「! 敵発見っ!!」

 

「来ましたわね………」

 

ブリティッシュ歩兵の1人からそう報告が挙がると、ダージリンは僅かに目を細める。

 

大洗戦車部隊は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の行く手を遮る様に大通りに並んだかと思うと、砲塔或いは車体を旋回させて、砲を向ける。

 

「撃てっ!!」

 

そしてみほの号令で、一斉に砲撃!!

 

八九式の主砲弾とルノーB1bisの副砲弾は弾かれたが、Ⅳ号の砲弾はアキリーズ、ヘッツァーの砲弾はチャーチル・ガンキャリアに命中!

 

共に白旗を上げさせた!

 

「やりましたわね!」

 

撃破されたのとは別のチャーチル・ガンキャリアの車長がそう声を挙げ、大洗戦車部隊に向かって発砲する。

 

「前進! 離脱しますっ!!」

 

だが、大洗戦車部隊は撃ち終えた直後に移動を開始しており、狙いも甘かった事もあって、チャーチル・ガンキャリアの砲弾は外れる。

 

大洗戦車部隊はそのまま正面………グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊から見て右側の路地へと姿を消す。

 

「大洗戦車部隊、路地へ消えました!」

 

「誘い出す積りね………半数は私と共に追撃。残り半数は手前の路地から回り込みなさい。ルクリリ、そちらは任せますよ」

 

「ハッ! 了解しましたっ!!」

 

またもブリティッシュ歩兵の1人からそう報告が挙がると、ダージリンはそう言い、部隊の半数を率いて追撃。

 

そしてもう半数の指揮をルクリリに任せ、回り込ませる作戦に出る。

 

「それと、航空支援を要請。仕掛けてくるとすれば今よ。迎撃機を出して制空権を守らせなさい」

 

「了解。此方グロリアーナ。航空支援要請、航空支援要請」

 

更にダージリンは、みほが航空支援を投入すると踏み、自分達も航空支援を要請するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場上空………

 

ダージリンの予測通り、そこには一航専の航空部隊の姿が在った。

 

ルーデルの乗るG-1型を隊長機としたスツーカ編隊と、『九九式艦上爆撃機』の編隊が群れを成している。

 

如何やら、入り組んだ市街地での爆撃となる為、戦略爆撃を行う大型爆撃機よりも、目標を正確に攻撃出来る戦術爆撃機が選択された様である。

 

その爆撃機の群れを守る様に、メビウス1が率いる紫電改部隊と、ラーズグリーズを中心として疾風部隊が飛んでいる。

 

「ハハハハッ! 良い天気だ! 絶好の爆撃日和だな! イワンではないがブリテンも敵だ! たっぷりと爆撃をお見舞いしてやるぞ!!」

 

「もうツッコむ気力もありませんよ………」

 

出撃出来ている為、テンションが高いハンネスの姿に、エグモンドは力無く首を横に振る。

 

「! 11時方向! 敵編隊を確認っ!!」

 

とそこで、ラーズグリーズのグリムが敵の編隊を発見した事を報告。

 

その敵編隊の中には、戦略爆撃機らしき大型爆撃機の姿も在る。

 

そして、その護衛に付いて居る戦闘機は………

 

「やはり来たか………」

 

「うげっ!? 『スピットファイア』かよ!!」

 

ラーズグリーズのスノーとダヴェンポートがそう声を挙げる。

 

 

 

 

 

そう………

 

敵爆撃機の護衛としても現れた敵戦闘機は………

 

イギリスが生んだ傑作機………

 

『スーパーマリン スピットファイア』であった。

 

 

 

 

 

「グロリアーナ&ブリティッシュの戦闘機なら、あの機体になるのは当然よ」

 

「………ハイ」

 

ラーズグリーズのナガセがそう言うと、分隊長のブレイズが短く返事をする。

 

とそこで………

 

スピットファイア達が加速し、一気に一航専航空隊との距離を詰めて来た。

 

「来たぞっ!」

 

「坂井総隊長が来るまで持ち堪えろよ!」

 

「来てくれると良いけどね………」

 

「縁起でも無いこと言わないで下さいよ!」

 

スノー、ダヴェンポート、ナガセ、グリムがそう言い合う中、ブレイズとメビウス1は迫る敵編隊を静かに見据える。

 

「ブレイズ、交戦」

 

「メビウス1………交戦」

 

そして、短い言葉を合図に、空中戦が開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

アッセンブルEX-10は………

 

「! 居たぞっ!!」

 

海岸線沿いに移動を続け、遂に目標としていたアーチャー対戦車自走砲部隊を発見する。

 

アーチャー対戦車自走砲部隊はまだアッセンブルEX-10の存在には気付いておらず、操縦手が車外へ退避しており、全ての車輌が砲門を市街地の方へ向けている。

 

恐らく、みほの大洗本隊を狙っているモノと思われる。

 

「敵は気づいていないぞ」

 

「良し! 一気に仕留める! 突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

此方に気づいていないのを絶好の好機と捉え、弘樹は突撃を決行!

 

アッセンブルEX-10のメンバーが一斉にアーチャー対戦車自走砲部隊に向かって走り出す!

 

「!? 敵襲ーっ!!」

 

「大洗の歩兵部隊っ!?」

 

「例の小規模攪乱部隊かっ!?」

 

そこで初めてアッセンブルEX-10の存在に気づいたアーチャー対戦車自走砲部隊は、大慌ててで操縦士達が再度乗車を計る。

 

「乗り込ませるなぁっ!!」

 

だが弘樹がそう叫んで収束手榴弾を投擲!

 

収束手榴弾は、1輌のアーチャー対戦車自走砲のオープントップ戦闘室へと飛び込む。

 

「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」

 

直後に、収束手榴弾は戦闘室内に在った砲弾を誘爆させて大爆発!

 

乗員のブリティッシュ砲兵達がまるで弾けたポップコーンの様に車外へ投げ出され、戦死と判定される。

 

「急げ! 旋回だ旋回!」

 

1輌のアーチャー対戦車自走砲部隊が、砲をアッセンブルEX-10の方向へ向けようとするが………

 

「させませんっ!!」

 

光照がそう叫んでバズーカを発射!

 

ロケット弾がアーチャー対戦車自走砲部隊の右履帯を転輪ごと吹き飛ばす!

 

「し、しまったっ!?………」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

動けなくなったところへ、俊がブルーノZB26軽機関銃を戦闘室目掛けて発砲する。

 

「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」

 

銃弾の雨を浴び、乗員のブリティッシュ砲兵達は全員が戦死判定となる。

 

「良いぞ! このまま………! 伏せろっ!!」

 

流れに乗って居ると感じた弘樹が攻撃続行を指示しようとした瞬間に殺気を感じ、咄嗟に全員に伏せる様に言う。

 

その直後に、横合いから銃弾の雨が飛んで来る!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

反応が遅れた数名のアッセンブルEX-10隊員が諸に銃弾を浴び、戦死と判定される。

 

「居たぞ! 例の歩兵部隊だっ!!」

 

「先遣隊の仇だ! 全滅させてやれっ!!」

 

そしてそんな台詞と共に、数台のSASジープが雪崩れ込んで来る。

 

「増援かっ!?」

 

「対戦車兵を狙えっ!!」

 

弘樹がそう声を挙げると、SASジープは停車し、乗って居たブリティッシュコマンド隊員達が次々にアッセンブルEX-10の対戦車兵達に襲い掛かる。

 

「コチラの対戦車火力を奪う積りか! そうはさせ………!?」

 

立ち上がりながら四式自動小銃を構えようとした弘樹だったが、その瞬間に英霊を抜いて頭上を守る様に構えた!

 

すると英霊の刃に何かがぶつかり、火花を散らす!

 

「ほう! 流石だ! 良く見切ったね!!」

 

その正体………刀剣のクレイモアを振り降ろして来たジャスパーが笑いながらそう言う。

 

「!!」

 

「おっと!」

 

英霊を力任せに振り切ると、ジャスパーはバックステップで距離を取る。

 

「やるねえ、英霊の子孫くん。特に剣を携えているのが素晴らしい。『歩兵たるもの、剣を持たずして戦場に赴くべきではない』」

 

「その言葉………成程。貴様はジャック・チャーチルの………」

 

「御明察。僕は君と同じ英雄の血を引く者………ジャック・チャーチルが子孫、ジャスパー・チャーチルだ」

 

嬉しそうにそう語るジャスパーに対し、弘樹は右手の英霊を突き付ける様に構えながら、左手で四式自動小銃を保持する。

 

(………コイツは間違い無くエースの1人………それをコチラに差し向けて来たと言う事は………! まさか敵はコチラの本隊との交戦を!?)

 

脳裏で状況を整理すると、その可能性が過る。

 

(だとすれば、こうしては居れん………だが、この状況では………)

 

みほ達の援護に駆け付けたいところだが、ジャスパーに対峙されている上、周りではブリティッシュコマンド部隊の面々がアッセンブルEX-10のメンバー交戦しており、とても抜け出せる様子では無かった………

 

「余計な事を考えて言ると、アッと言う間に戦死判定だぞ!」

 

とそこで、ジャスパーはロングボウを構えたかと思うと、束ねた矢を掛けて、弘樹に向かって発射した!!

 

「!!」

 

束ねられていた矢が分散し、まるで散弾の様に弘樹へと向かう。

 

………その時!!

 

「イヤーッ!!」

 

ニンジャシャウトと共に無数のスリケンが飛んで来て、弘樹に向かって居た矢を迎撃した。

 

「むっ!?」

 

そのスリケンにジャスパーが反応した瞬間!!

 

「Wasshoi!」

 

砂浜の砂が爆ぜたかと思うと、中から小太郎が現れ、ジャスパーの前に立ちはだかる。

 

殺戮者のエントリーだ!!

 

「ドーモ。ジャスパー・チャーチル=サン。葉隠 小太郎です」

 

小太郎は、ジャスパーに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「ふふ、それには確かこう返すんだったかな? ドーモ。初めまして、葉隠 小太郎=サン。ジャスパー・チャーチルです」

 

するとジャスパーは、騎士の様なオジギと共にアイサツを返す。

 

「ブリティッシュ倒すべし………慈悲は無い」

 

アイサツを終えると、小太郎はそう言いながら殺気を漲らせ、ジャスパーを見据える。

 

「良いね………危険な臭いがプンプンするよ」

 

そんな小太郎を見て、ジャスパーは心底楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「………舩坂殿。事象は理解しておるでござる。コヤツは拙者に任せ、本隊へ!」

 

「! 頼むぞっ!」

 

そう言われた弘樹は、躊躇無くジャスパーを小太郎に任せ、本隊の援護に向かおうとする。

 

「シュトゥルムッ!!」

 

と、そこで………

 

ゾルダートが声を挙げてシュトゥルムの背から降りたかと思うと、シュトゥルムが弘樹の元へ向かった。

 

「舩坂くん! シュトゥルムに乗りたまえっ!!」

 

「!!」

 

ゾルダートの声で、並走して来たシュトゥルムに気付いた弘樹は、走ったままシュトゥルムへと乗馬!

 

「ハイヤーッ!!」

 

そして、弘樹はそのまま、シュトゥルムと共に大洗機甲部隊本隊の元へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

梓達の部隊が壊滅したのを聞き、みほは遂にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊へ仕掛ける作戦、『タバ作戦』を決行する。
果たして、上手くダージリンをG地点に誘導出来るのか?

そしてアッセンブルEX-10はアーチャー対戦車自走砲部隊を攻撃するが………
それを読んでいたダージリンが送り込んだジャスパーのコマンド部隊と交戦に入る。
小太郎がジャスパーの相手を引き受けている間に、弘樹はシュトゥルムでみほの元へと向かうのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第174話『駐車場の罠です!』

今年最後の更新です。

来襲の日曜日は元日ですが、更新は何時も通り行います。

来年もガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースをよろしくお願いします。

良いお年を。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第174話『駐車場の罠です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の誘い出しに掛かったみほ達は………

 

「! 来ましたよっ!!」

 

「よし! 出せっ!!」

 

楓が、Ⅳ号を先頭に此方へと向かって来るみほ達、戦車チームの姿を確認すると、先行して待機していた大洗歩兵部隊が進軍を再開。

 

そのままⅣ号達へと合流するのだった。

 

「西住総隊長! 此方カモさん! グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の半数が追撃して来ています!!」

 

と、最後尾を固めていたカモさんチームのルノーB1bisのみどり子が、砲塔後部のハッチを開けて、追って来るグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の姿を確認し、みほへそう報告を挙げる。

 

「半数?………間違いありませんか?」

 

「間違いなく半数です。さっき見た時と数が合いません」

 

みほが確認する様に問い直すと、みどり子は間違いないと返す。

 

「………半数は回り込ませて挟み撃ちにする作戦か」

 

瞬時にみほは、ダージリンの作戦を読む。

 

「西住総隊長! そっちは私達が引き受けます!!」

 

するとそこで、アヒルさんチームの典子が、そう声を挙げた!

 

「! 磯辺さん!」

 

「情けないですけど、この中で真面な戦力にならないのは私達ですからね。でも、足止めぐらいはして見せます」

 

驚いた様子を見せるみほに、典子はやや自虐的ながらも、ハッキリとした口調でそう言う。

 

「西住総隊長! ワイ等も行くで!!」

 

「戦車と随伴歩兵分隊は運命共同体だからな」

 

とそこで、ペンギンさん分隊の大河と大詔もそう声を挙げる。

 

「………お願い出来ますか?」

 

一瞬考え込んだ様子を見せたみほだったが、すぐに典子とペンギンさん分隊の方を見ながらそう言った。

 

「分かりました!」

 

「任せときぃっ!!」

 

典子と大河がそう威勢の良い返事を返したかと思うと、交差点に差し掛かった瞬間!

 

アヒルさんチームの八九式とペンギンさん分隊の面々が左折!

 

そのまま離脱して行った!

 

「敵部隊の1部が離脱します」

 

「ルクリリ、聞こえる? そちらに戦車が1輌と随伴分隊が向かったわ」

 

アッサムがそう言うと、ダージリンは即座に狙いを見抜き、ルクリリにそう通信を送る。

 

『敵の車種は何ですか?』

 

「八九式よ」

 

『えっ? 八九式ですか?』

 

向かって来ている相手が八九式だと知り、ルクリリは拍子抜けした様な声を挙げる。

 

「侮るんじゃありません。大洗の八九式は化け物よ。そう思って対処しなさい」

 

しかし、すぐさまダージリンは、強い口調でそう戒める。

 

『! ハ、ハイ! 了解しましたっ!!』

 

一瞬慌てた様に返事を返し、ルクリリは通信を終了する。

 

「やれやれ………」

 

「あの子もある意味、ローズヒップと良い勝負ですからね」

 

ダージリンが呆れた様な溜息を吐くと、アッサムがそう言って来る。

 

「まあ、仮にもティーネームを持つ身………早々にドジは踏まないでしょう。全部隊、離脱した戦力には構わず前進。フラッグ車を追撃しなさい」

 

気を取り直すと、部隊にそう指示を出し、みほ達の追撃を続けるダージリンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

海岸線では………

 

「イヤーッ!!」

 

ニンジャシャウトと共に、小太郎が両手を鞭の様に撓らせ、広げる様に動かしたかと思うと、無数のスリケンが射出される。

 

「フフフ………」

 

だが、ジャスパーは不敵に笑いながら、ロングボウに掛けた束ねた矢を放つ。

 

散弾の様に拡散した矢が、小太郎の放ったスリケンを全て叩き落す。

 

「トアアーッ!!」

 

そして今度は自分の番だとばかりに、ロングボウを左手に持ったまま、クレイモアを右手に小太郎に斬り掛かる!

 

「むうっ!!」

 

その1撃を、小太郎は後ろ腰から抜いた忍者刀で受け止める。

 

「そらそらそらっ!!」

 

するとジャスパーは2撃、3撃と連続でクレイモアでの斬撃を見舞って来る。

 

「ぬううっ!!」

 

素早い攻撃の前に防戦一方となる小太郎。

 

「如何した、忍者くん! 得意の忍術を見せてくれよ!!」

 

そんな小太郎を、ジャスパーはそう挑発する。

 

「ではご披露するでござるっ!!」

 

するとその瞬間!!

 

小太郎は一瞬にして砂の中へと潜った!!

 

「!? おおっ!?」

 

コレにはジャスパーも目を見開いて驚きを露わにする。

 

「Wasshoi!」

 

と、そのジャスパーの背後に、小太郎が砂の中から飛び出して、姿を見せる。

 

「!!」

 

「イヤーッ!!」

 

そして空中回転して勢いを付けた踵落としを見舞う!!

 

「! グウッ!!」

 

咄嗟に身を捻って頭部への直撃は避けたものの、左肩へ喰らってしまうジャスパー。

 

そのままガクリと膝を付く。

 

「ハイクを読め! カイシャクしてやるっ!!」

 

間髪入れず、小太郎はジャスパーの首目掛けて忍者刀を振るう。

 

………が!

 

その1撃は、ジャスパーが立てる様に構えたクレイモアによって防がれる!

 

「!?」

 

「そう来ると思っていたよ」

 

如何やら、ジャスパーは小太郎の攻撃を予測していた様である。

 

「セヤッ!!」

 

そして、左手に持ったままだったロングボウで、小太郎の横っ面を思いっきり殴りつけた!!

 

「! グワーッ!!」

 

まさか弓で殴りつけて来るとは思っていなかった小太郎は真面に喰らってしまう。

 

「そらっ!!」

 

更にそこで、ジャスパーは態勢の崩れた小太郎に向かって手榴弾を投げつける!

 

「! イヤーッ!!」

 

小太郎は反射的に手刀で手榴弾を弾き飛ばす!

 

弾かれた手榴弾は空中で爆発する。

 

そしてその間に、ジャスパーは小太郎の懐へと飛び込む!

 

「!!」

 

「貰ったよっ!!」

 

ウカツ!!

 

小太郎の懐へと飛び込んだジャスパーは、小太郎の胸目掛けて、クレイモアでの突きを繰り出す!

 

「! グワーッ!!」

 

直撃を貰い、ブッ飛ばされる小太郎。

 

そのまま砂浜に背中から叩き付けられる!!

 

ナムアビダブツッ!!

 

あのパイルバンカーめいて凄まじい突きを喰らっては、小太郎と言えど、戦死判定は免れない!!

 

最早勝負あったか………

 

「………ゴホッ! ガハッ!」

 

しかし、何と!!

 

小太郎は吐血している様なアトモスフィアで身を起こしたではないか!!

 

「!? 何っ!?」

 

ジャスパーは驚愕する。

 

手応えで、完全に戦死判定をもぎ取っていたと確信していたからである。

 

「………運に救われたでござる」

 

小太郎はそう言いながら、ジャスパーの突きを喰らった部分の戦闘服の内側に手を入れる。

 

そこから、真っ二つに割れたスリケンを取り出す。

 

如何やら、このスリケンがジャスパーの突きを受け止め、その威力を軽減させた様である。

 

サイオー・ホースだ!

 

「ぬう、運が良いな………だが、2度目は無いぞ」

 

ジャスパーはそう言い、クレイモアを突きの姿勢で構える。

 

(またアレを喰らえば戦死判定は確実………幸運も2度は続かんでござる………だが、距離を取ったとしても、弓矢の攻撃が待ち構えているでござる………如何すれば………)

 

有効な攻撃手段の浮かばない小太郎。

 

(駄目か………いや、諦めてはイカンでござる………また父上に叱られるでござる)

 

しかし、諦める積りはなかった。

 

(ニンジャは地水火風の精霊と常にコネクトし、操る存在だ。これをフーリンカザンと称す!)

 

その脳裏に、父であるマスターニンジャの教え………インストラクション・ツーが過る。

 

(フーリンカザン!………)

 

と、小太郎は心の中でそう唱えたかと思うと、何を思ったか、一気にジャスパーから距離を取った。

 

「逃がさんっ!!」

 

すぐさまジャスパーは得物をロングボウに持ち替え、束ねた矢を連続で放つ!

 

束ねた矢は散弾の様に拡散!

 

無数となって小太郎へと迫る!!

 

「…………」

 

だが、何を思ったか、小太郎は迫り来る矢を前にして目を瞑り、合掌する。

 

「諦めたかっ!?」

 

「………スーッ………ハーッ………スーッ………ハーッ………」

 

ジャスパーのそう言う声も余所に、小太郎は独特な呼吸を始める。

 

それは太古の昔より伝わる暗殺拳………『チャドー』の呼吸法だっ!!

 

無数の矢が小太郎に突き刺さる………

 

………かに思われた瞬間!!

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎はその矢に向かって跳躍!!

 

1番先頭を飛んでいた矢を足で踏み付けたかと思うと………

 

「イヤーッ!!」

 

何と!!

 

そのまま踏み付けた矢を足場に更に前へと跳躍!!

 

別の矢を踏み付け、更に前へと跳躍!!

 

それを繰り返して、一気にジャスパーとの距離を詰めたっ!!

 

ゴウランガッ!!

 

「!? アイエエエッ!?」

 

その小太郎のワザマエに、ジャスパーは悲鳴めいた声を挙げる!

 

「イヤーッ!!」

 

その間に、小太郎は最後の矢を踏み越え跳躍!

 

一気にジャスパーへと跳び掛かろうとする!

 

「! このおっ!!」

 

だが、そこは腐ってもブリティッシュ歩兵部隊のエースであり、ジャック・チャーチルの子孫!

 

素早く我に返り、再び握ったクレイモアで突きの体勢を取る!

 

「イヤーッ!!」

 

だがそこで、小太郎は『何か』をジャスパーに向かって投擲!

 

その投擲された物は、ジャスパーのクレイモアを構えている手に当たったかと思うと、そのままクレイモアごとジャスパーの手に巻き付いた!

 

分銅鎖である!!

 

「! イヤーッ!!」

 

ジャスパーは構わず、小太郎に向かって突きを繰り出す!

 

「イヤーッ!!」

 

だが、おお、見よ!!

 

小太郎は付き出されたクレイモアの刃の上にも足を掛け、そのまま足場にして真上に跳躍した!!

 

「!?」

 

驚きながら上空を見上げるジャスパー!

 

その瞬間に彼の目に飛び込んで来たのは、サンサンと輝く太陽の光であった!!

 

「!? うわっ!?」

 

備えなく日光を直視してしまったジャスパーは思わず目を瞑る。

 

「イヤーッ!!」

 

その瞬間!

 

小太郎のメテオめいたボン・パンチが、ジャスパーに炸裂する!

 

「! グワーッ!!」

 

その凄まじい威力に、ジャスパーの身体は砂浜に打ち付けられたかと思うと、反動で空中に浮かび上がった!!

 

「イヤーッ!!」

 

そのジャスパー目掛けて、小太郎は溜め動作の後、『唐突な嵐の如き』ジェットロケットめいた爆発力で鋭角に跳躍!!

 

完璧に均整のとれた姿勢での跳び蹴りが、ジャスパーの頭部に叩き込まれる!

 

ドラゴンッ!!

 

これぞ伝説の暗黒カラテ技『ドラゴン・トビゲリ』だ!!

 

「サヨナラーッ!!」

 

ジャスパーの身体は大きく吹き飛び、そのまま海へと落下!

 

戦死の判定が下された。

 

「………イヤーッ!!」

 

小太郎はその様子を無感情に見届けると、残るアーチャー対戦車自走砲とコマンド部隊を片付ける為、手榴弾を手に跳躍するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

逃走するみほ達の先回りをしろと命ぜられたルクリリが率いている部隊………

 

彼女の乗るマチルダⅡともう1輌。

 

アキリーズが3輌にチャーチルとチャーチル・ガンキャリアが1輌ずつの部隊が、護衛のブリティッシュ歩兵部隊を率いて進軍している。

 

「…………」

 

先頭を行くルクリリ車では、車長のルクリリがハッチから姿を晒し、周辺を警戒している。

 

するとそこで………

 

突如ブザーの様な音が聞こえて来た。

 

「!!」

 

ルクリリがその警報が聞こえて来た方向を見やると、そこにはタワーパーキングが在り、鳴っていたのは入り口が開閉する事を知らせるブザーだった。

 

「タワーパーキング………まさか、あそこに?………全車停止」

 

とそこで、ルクリリは右腕を上げ、後続の車輌を停止させる。

 

「パーキングの前へ移動」

 

「大丈夫ですか?」

 

「潜んでいるのは八九式よ。例え零距離でもコッチの正面装甲は抜けないわ。出て来たところを狙い撃ちしてやりなさい」

 

「了解」

 

装填手が心配する様に尋ねて来たが、ルクリリは潜んでいるのが八九式である事からそう言い放つ。

 

タワーパーキングの真ん前へと移動するルクリリ車。

 

やがて、タワーパーキングの扉がゆっくりと開き始める。

 

「馬鹿め………」

 

思わずそんな言葉が口から出るルクリリ。

 

しかし、そこで………

 

タワーパーキングの反対側………

 

丁度ルクリリ車の停まっている場所の真後ろの立体駐車場が動き出す。

 

地下に潜っていた格納部分から、八九式が姿を現す。

 

「! ルクリリさんっ! 後ろですっ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

待機していたブリティッシュ歩兵がそれに気づいて慌てて声を挙げると、ルクリリは後ろを振り返り、立体駐車場から八九式が出現しようとしている事に気づく。

 

「! 後ろだっ!!」

 

「そーれっ!!」

 

「「「そーれっ!!」」」

 

ルクリリがそう叫んで車内へ引っ込んだ瞬間、八九式が発砲!

 

砲弾はマチルダⅡの後部に装備されていた予備燃料タンクを破壊!

 

燃料に引火して激しい炎を上げる!

 

「クッ! 油断したわ!………けど、悲しいわね! 貫通しなかったわよ!!」

 

だが、ルクリリはそう言い放つ。

 

彼女の言う通り、八九式が撃った砲弾は予備燃料タンクを破壊後、更に砲塔後部へと命中していたが、弾かれて明後日の方向へ飛んでいた。

 

「砲塔旋回! コチラが此処に居れば奴は袋の鼠よ!!」

 

ルクリリは、自車が八九式の出口を塞いでいるのを見てそう言い、砲塔を旋回させる。

 

と、その瞬間!

 

「「「「失礼しまーすっ!!」」」」

 

アヒルさんチームのそう言う声が響いたかと思うと、八九式が勢い良く前進!

 

そして何と!

 

車体より履帯の先端が突き出していると言う八九式の構造を利用し、予備燃料タンクの無くなったマチルダⅡの車体の上に登って脱出した!

 

「!? なっ!? 私を踏み台にしたっ!?」

 

思わず何処かの黒い三連星の様な事を口走るルクリリ。

 

マチルダⅡを乗り越えた八九式は、そのまま逃走を図る。

 

「オノレッ! 逃が………」

 

「ル、ルクリリ様ぁっ!!」

 

ルクリリが追撃を指示しようとした瞬間、操縦手が悲鳴の様な声を挙げた!

 

「如何したの!?………!?」

 

そこでルクリリは、ペリスコープ越しに正面を向いて絶句する!

 

開き切ったタワーパーキングの中に……

 

7.5 cm PaK 40をコチラに向けている明夫達、大洗砲兵の姿が在った!!

 

「ワッハッハッハッ! 残念だったな!! コッチは囮じゃなかったのさ! 撃てぇっ!!」

 

明夫がそう言い放った瞬間、7.5 cm PaK 40が火を噴く!!

 

粗零距離からの攻撃で、マチルダⅡの正面装甲と言えど耐え切れず、徹甲弾が深々と突き刺さる!!

 

一瞬の間の後、ルクリリ車から白旗が上がる。

 

「ルクリリ様がやられたっ!?」

 

「誰か指揮をっ!!」

 

指揮を任されていたルクリリがやられた事で、グロリアーナ&ブリティッシュ部隊に混乱が走る。

 

「良し! 今だっ!!」

 

「突撃やぁっ! タマとったれーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、大詔と大河の声が響き、建物内や路地、果てはマンホールに隠れていたペンギンさん分隊の面々が一斉に飛び出して、突撃して行った!

 

「私達も行くぞぉっ!!」

 

「「「ハイ、キャプテンッ!!」」」

 

更に、離脱すると見せかけていた八九式も反転し、突入して行く。

 

「よおし! ええでっ!! 八九式の援護を受けながら………」

 

と、大河がペンギンさん分隊の面々に指示を出そうとしたところ………

 

すぐ傍に『何か』が着弾し、爆発したっ!!

 

「!? うおっ!?」

 

細かい破片が飛んで来たのを感じた大河だが、幸いにも戦死判定は下らなかった。

 

「ぶわっはっはっはっはっ! やるのう! ルクリリの奴を仕留めるとは!!」

 

それは、オレガノが放ったPIATの弾だった。

 

「だが、コレ以上の好き勝手は許さんぞ!!………え~と、予備の弾、予備の弾………」

 

オレガノはそう言いながら、PIATに新たな弾を装填しようとするが………

 

「ん? 何だ? 入らんぞっ?」

 

手順を間違えているのか、ガサツな為か、新しい弾が中々装填出来ない。

 

「………ええ~いっ! 面倒じゃっ!! このまま行くぞっ!!」

 

と、遂には装填を諦め、PIATを棍棒の様に構えて突撃して来た!!

 

「上等じゃいボケッ!! 吐いた唾呑むなやぁっ!!」

 

それに対し、大河も持っていたMP40を投げ捨て、オレガノへ突撃して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




新話、投稿させていただきました。

小太郎VSジャスパーの対決は、小太郎に軍配が上がりました。
やっぱりニンジャは強かった。

そして、ルクリリの前にはアヒルさんチームとペンギンさん部隊が立ちはだかる。
有名な駐車場でのシーンをアレンジしてお送りしましたが、何故ココでやったかと言いますと、実は私の作品では練習試合の時に、駐車場の場面を再現出来なかったのです。
しかし、劇場版でのシーンを見て、コレは駐車場のシーンを入れておいた方が良いなと判断し、今回使わせていただきました。
来年には劇場版に突入出来ると思いますので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第175話『不敵なるダージリンさんです!』

新年あけましておめでとうございます。

今年も『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』をよろしくお願い致します。

今年度末にはガルパン最終章の1章が公開です。

この作品もそれまでにはいよいよ劇場版に突入出来ると思います。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第175話『不敵なるダージリンさんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

みほ達を追う、ダージリンが率いるグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊………

 

「ルクリリ………アレ程油断するなと言っておいたのに………」

 

ルクリリが撃破されたとの報告を受けて、ダージリンが呆れた様に溜息を吐く。

 

「ジャスパーさんもやられたみたいですね………」

 

オレンジペコも、ジャスパーが戦死判定となった事を聞いて、表情を曇らせる。

 

「ですが、残存部隊が例の歩兵部隊の発見と足止めに成功しています。ローズヒップとニルギリもまだ粘っている様ですし、コチラが優勢です」

 

そこでアッサムが、相変わらずパソコンを弄り居ながらそう報告する。

 

「アッサム、データ主義が悪いとは言わないけど、それだけだと足をすくわれるわよ」

 

しかし、ダージリンはそう言って、やんわりと釘を刺す。

 

そして、キューポラの覗き窓越しに、逃げる大洗機甲部隊の先頭を行くⅣ号を見据える。

 

(そろそろかしらね………決着を付けましょうか、みほさん)

 

そう言って不敵に笑うダージリン。

 

現在彼女は、マチルダⅡを3輌、アキリーズを2輌、チャーチル・ガンキャリアを3輌率いて、みほ達を追撃している。

 

そう………

 

何時の間にか………

 

残り2輌のチャーチルと………

 

ブラックプリンスの姿が見えなくなっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中のとある地点………

 

「ハイヤーッ! シュトゥルム! 急いでくれっ!!」

 

弘樹がそう言うと、シュトゥルムは返事の様に嘶く。

 

蹄の音を鳴らしながら、街中を駆け抜けて行くシュトゥルムに跨った弘樹。

 

と、その前方に歩兵らしき影が現れる。

 

「!!」

 

ブリティッシュ歩兵かと思い、四式自動小銃を構える弘樹だったが………

 

「ストップ! ストーップッ!!」

 

「先輩! 僕達です!!」

 

その歩兵らしき影の中に居たジェームズと勇武がそう声を挙げる。

 

「! モンロー! 柳沢!」

 

弘樹は人影の前でシュトゥルムを止める。

 

歩兵らしき影は、ハムスターさん分隊、ワニさん分隊、おおかみさん分隊の残存歩兵だった。

 

「無事だったのか」

 

「ハイ。戦車チームの皆さんが全滅した後、僕達は撤退しましたので」

 

「けど、神狩の奴が殿に残って、やられてもうた………」

 

竜真がそう言うと、豹詑が表情に影を浮かべてそう言う。

 

「そうか………恐らく今、敵の本隊と我々の本隊は交戦状態に入っている。戦力比はまだ敵の方が上だ。オマケに………」

 

そう言って弘樹が空を見上げると、そこでは制空権を争っている一航専の航空隊とグロリアーナ&ブリティッシュの航空隊の姿が在った。

 

「制空権が確保されていないとなると、航空支援も望めない。一刻も早く援護に駆け付けねばならん。全員、小官に続け!」

 

そしてそう号令を掛けると、再びシュトゥルムを駆け出させる。

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまその後に続く残存ハムスターさん分隊達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を誘い出しているみほ達は………

 

「間も無く、『Gエリア』………『ゴルフ場』です! ココへ敵部隊を誘い込み、歩兵部隊と切り離した後に、戦車を各個撃破します!」

 

「ゴルフ場なら、木々が生い茂って居て、騎兵が動くには不向きですからね」

 

間も無く『Gエリア』………『ゴルフ場』が近い事を確認したみほがそう指示を飛ばし、優花里がそう言う。

 

ゴルフ場へ誘い出そうとしている理由………

 

それは、優花里の言う通り、ブリティッシュ歩兵を切り離す算段の為である。

 

ブリティッシュ歩兵部隊は騎兵を中心としており、非常に高い機動力を有している。

 

だが、木々が生い茂っている場所など、障害物の多い所ではその機動力は損なわれる。

 

そこでみほは、この試合会場で最も木々が生い茂る場所であるゴルフ場にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を誘い出し、先ずは騎兵の機動力を奪う。

 

そして、歩兵部隊と戦車チームの足並みが乱れたところで、戦車チームを各個に撃破する作戦である。

 

(でも、ダージリンさんの事だから、もうこの手を読んでいる可能性も………その場合はやっぱり、ゴルフ場に入る前に勝負を掛けてくる可能性が………)

 

「! 西住さん! 前だっ!!」

 

「!!」

 

と、思案していたところで麻子の声が挙がり、みほがペリスコープで正面を見やると、そこには………

 

大洗機甲部隊の進路を妨害する様に陣取っている、2輌のチャーチルの姿が在った!

 

「! 先回りされた! やっぱり読まれて………! 左へ避けてっ!!」

 

「!!」

 

みほがそう言った瞬間には、麻子はⅣ号を左に動かす。

 

「「!!」」

 

後続のヘッツァーとルノーB1bisもそれに続く様にハンドルを切る。

 

直後に、先回りして陣取っていたチャーチル2輌が発砲!

 

2発の砲弾が、先程までⅣ号が居た場所に着弾し、アスファルトの破片を巻き上げる。

 

「今だ! 次弾装填の隙を狙えっ!!」

 

「バズーカやパンツァーファウストばかりが戦車への攻撃手段じゃないぞっ!!」

 

とそこで、数名の大洗突撃兵の面々が梱包爆薬や収束手榴弾、吸着地雷を手に、チャーチルへ果敢にも肉薄攻撃を仕掛けて行く。

 

「アレ? ねえ、あのチャーチル、何か後ろに付いてるよ?」

 

「アラ? ホントですね」

 

すると沙織が、正面に見えるチャーチルが2両とも、タンクの様に見える物を牽引している事に気づき、華も照準器越しにそれを確認する。

 

「! イケナイッ!!」

 

「皆さん! 逃げて下さいっ!!」

 

みほはそれが何であるかを瞬時に悟り、優花里が悲鳴の様な声を挙げた瞬間!

 

チャーチルの車体正面………本来ならば前方機関銃が装備されている場所から………

 

突撃して来ていた大洗歩兵目掛けて、火炎が発射された!

 

「!? なっ!?」

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

突っ込んで行っていた大洗突撃兵達はかわす事が出来ず、全員が火炎を浴びてしまう。

 

更には爆薬に引火し、次々と誘爆。

 

一瞬にして、突っ込んだ大洗突撃兵の面々は全滅した。

 

「な、何アレッ!?」

 

「『チャーチル・クロコダイル』………前方機銃の代わりに火炎放射器を装備した『火炎放射戦車』です!」

 

驚愕の声を挙げる沙織に、優花里が火炎を放ったチャーチル………

 

『火炎放射戦車』………『チャーチル・クロコダイル』の事を説明する。

 

「オイオイ、如何すんだよ!? アレじゃ近づけねえよっ!!」

 

「コレでは挟み撃ちにされます!」

 

了平と楓がそう声を挙げる。

 

行く手をチャーチル・クロコダイルに阻まれ、後方からはグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の本隊が迫っている。

 

正に前門の虎、後門の狼である。

 

「………クッ! 華さん! 牽引車を狙えますかっ!!」

 

「駄目です! 車体の陰になって居て狙えませんっ!!」

 

みほは華に、チャーチル・クロコダイルが牽引している火炎放射用の燃料タンクを狙えないかと尋ねるが、華が言う通り、弱点が分かっている為、チャーチル・クロコダイルは昼飯の角度を取って、車体でタンクを隠していた。

 

「! 敵主砲、コチラに指向中っ!!」

 

「! 回避っ!!」

 

「駄目だ! もう1輌からも狙われている!!」

 

と、華が1輌のチャーチル・クロコダイルの主砲がコチラに向けられようとしているのを見てそう叫び、みほは慌てて指示を飛ばすが、麻子がそう言い、もう1輌のチャーチル・クロコダイルにも狙われている事を報告する。

 

2門の砲に狙われ、逃げ場の無いⅣ号。

 

そして、2輌のチャーチル・クロコダイルから、砲弾が放たれる!

 

「!?(やられる!!)」

 

みほがそう思った瞬間!!

 

「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

みどり子の叫び声と共に、ルノーB1bisが前進!

 

Ⅳ号の前へと躍り出ると、自らの身でチャーチル・クロコダイルの砲弾を受け止める!!

 

「! カモさんチームッ!!」

 

みほの悲鳴の様な声が挙がった瞬間に、爆炎に包まれたルノーB1bisから白旗が上がる。

 

「西住さん、申し訳ありません………ですが、貴方には如何しても生き残って貰わないと………」

 

「園さん………クッ!」

 

「グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊! 間も無く此方を射程内に納めます!!」

 

みどり子から申し訳無さそうな声が挙がる中、みほが苦い顔をし、優花里がそう報告を挙げる。

 

「全車、砲撃用意………」

 

ダージリンがそう言うと、グロリアーナ戦車部隊が一斉にⅣ号とヘッツァーに主砲を向け始める。

 

ブリティッシュ歩兵達も、砲兵が対戦車砲を設置し始め、対戦車兵がPIATを構える。

 

「万事休すか………」

 

麻子がそう呟く。

 

「………いや、そうでもない様だよ」

 

だがそこで、迫信がそんな台詞を呟いた。

 

「会長? 何を………」

 

逞巳が迫信の言葉の意味が分からずに聞き返そうとした瞬間………

 

空からエンジン音の様な物が聞こえて来た。

 

「!?」

 

「! まさかっ!?」

 

それを聞いたみほとダージリンは、同時にハッチを開けて車外へと姿を晒すと、上空を見上げる。

 

そこには………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ルクリリが率いていた分隊の残存戦力と交戦中のアヒルさんチームとペンギンさん分隊は………

 

「うおおおおっ! 死に曝せ、アホンダラッ!!」

 

アドレナリンの過剰分泌か、少々過激な言葉と共に、オレガノに正面から腰目掛けてのタックルを食らわせる大河!

 

「おうっ!?………バーッハッハッハッハッ! やるのうっ!!」

 

一瞬怯んだ様な様子を見せたオレガノだったが、すぐに平然とし、タックルして来た大河を、背中側から抱え込む様に捕まえる!

 

「!?」

 

「ぬあああっ!!」

 

そしてパワーボムの様に持ち上げた後、脳天から地面に叩き落す!

 

「ゴハッ!?………バカタレイッ!!」

 

「グオッ!?」

 

一瞬意識が飛びかけた大河だったが、持ち前の気力で強引に引き戻し、オレガノの顔面を蹴って脱出する。

 

「オリャアアッ!!」

 

そしてお返しとばかりに、オレガノに延髄斬りを見舞う!

 

「バッ!?」

 

「オラララララララーッ!!」

 

更に畳み掛けるかの様にナックル・パンチを連続で見舞う。

 

「ゴハッ!? オウッ!? ブベッ!?」

 

サンドバック状態になるオレガノ!

 

「オリャアッ!!」

 

「何のぉっ!!」

 

だが、大河が大振りの1撃を繰り出した瞬間、そのナックル・パンチに向かって頭突きを繰り出す!

 

「!? おうわっ!?」

 

思わず衝撃を受け、頭突きを喰らった手を振りながら、大河が後ずさる。

 

「ブリティッシュ・ラリアートッ!!」

 

そして、大河の首に向かってラリアットを掛ける!

 

「!? ゴフッ!?」

 

真面に喰らい、数メートル引き摺られたかに見えた大河だったが………

 

「!!」

 

そこで足を踏ん張り、無理矢理オレガノを止める!

 

「!? んなぁっ!?」

 

「男は根性やぁっ!!」

 

そのまま、サイクロン・ホイップで投げ飛ばす!

 

「ゴバッ! まだまだっ!!」

 

「上等じゃボケェッ!! 吐いた唾呑むなやぁっ!!」

 

更に激しいプロレス技の応酬を繰り広げる大河とオレガノ。

 

「………あそこだけ別の戦いになっているなぁ」

 

そんな2人の戦いの様子を見て、大詔がそう漏らす。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!!」」」」」

 

「!?」

 

だがそこで悲鳴が聞こえて来て、その方向を見やり、チャーチル・ガンキャリアが放った榴弾で、複数のペンギンさん分隊員が戦死しているのを目撃する。

 

「おっと! 気を取られている場合じゃなかった! しかし………厳しいな」

 

未だに健在のマチルダⅡ、アキリーズ3輌、チャーチル、チャーチル・ガンキャリアの姿を見て、大詔は苦い顔で呟く。

 

対戦車兵の大半がアッセンブルEX-10に編成されてしまった為、現在大洗の各随伴歩兵分隊は対戦車火器が不足しているのである。

 

現在最も有効な対戦車兵器は、突撃兵達による肉薄攻撃のみだった。

 

「根性ーっ!!」

 

八九式も果敢に砲撃を行っているが、如何せん攻撃力不足であり、先程から命中こそしているものの、全て弾かれてしまっている。

 

「ええい! こうバカスカ撃たれては狙いどころではないわっ!!」

 

唯一の希望とも言える明夫の7.5 cm PaK 40も、グロリアーナ戦車部隊から激しい砲撃に晒され、狙いを付けられない。

 

「何か手は………」

 

打開策はないかと、必死に頭を巡らせる大詔。

 

と、その時………

 

頭上から、サイレンの様な音が聞こえて来た。

 

「!? コレはっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大詔だけでなく、その場に居た全ての人間が頭上を見上げる。

 

そして、目に飛び込んできたのは………

 

「グーテンターク! グロリアーナの淑女とブリティッシュの紳士諸君! だが、もうおやすみの時間だぁっ!!」

 

そう言う台詞と共に、37ミリ機関砲をブッ放した、ハンネスのJu87 G-1の姿だった!

 

37ミリ機関砲弾が、チャーチル・ガンキャリアの上面部に命中!

 

派手に火柱が立ち上ると、チャーチル・ガンキャリアは白旗を上げる。

 

そしてそのハンネス機に続く様に、スツーカと九九艦爆が急降下して来る!

 

次々に爆弾が、ルクリリ部隊の残存戦力に向けて投下される!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

至近距離への着弾で、破片と衝撃波を浴びたブリティッシュ騎兵達が纏めて戦死判定を喰らう。

 

更に、天板に1トン爆弾が直撃したマチルダⅡが、派手な爆炎に包まれたかと思うと、直後に白旗を上げた。

 

「うおおっ!? 何だっ!?」

 

とそこで、近場で爆発があり、オレガノが漸く爆撃を受けている事に気づく。

 

「余所見しとる余裕が有るんかぁっ!?」

 

その瞬間に大河は、渾身の拳をオレガノのボディへ叩き込む!

 

しかし………

 

「!? つあぁっ!?」

 

何と!!

 

大河の方が殴った手を押さえながら後ずさる。

 

「バーッハッハッハッ! 余裕余裕!」

 

勝ち誇りながら馬鹿笑いを挙げるオレガノ。

 

如何やら、拳が来るのを読んでいて、腹筋を締めて受け止めたらしい。

 

「そうれっ!!」

 

「!? うおおっ!?」

 

そしてオレガノは、怯んでいた大河を、頭上で掲げる様にリフトアップする。

 

「そうらっ! 飛んでけぇっ!!」

 

「おおわぁっ!?」

 

そのまま、ボディスラムで投げ飛ばす!

 

「!? ゴバッ!?」

 

大河は受け身が取れず、地面に叩き付けられる。

 

(ア、アカン………打ち所が悪かったみたいや………)

 

意識が朦朧とし始め、大河は頭を振る。

 

「クウッ! これしきぃ………」

 

何とか立ち上がるが、足元がフラつき、仰け反る様な姿勢になる。

 

(グウウ………!? アレは!?)

 

だがそこで、大河は霞む視界で何かを捉える!

 

「うおおおおっ!!」

 

その瞬間に、最後の気力を振り絞って、オレガノ目掛けて突進して行く!

 

「バーッハッハッハッ! 返り討ちだぁっ!!」

 

オレガノは返り討ちにしようと、両手を広げる様な姿勢を取って待ち構える。

 

と、そこで!!

 

「おりゃあっ!!」

 

大河は身に着けていた戦闘服以外の全ての装備を投棄し、力の限り思いっきり跳躍した!

 

「!? 何っ!?」

 

そんな大河を目で追い、上を見上げるオレガノ。

 

「良し! 掴んだでぇっ!!」

 

すると、跳躍した大河は、上から降って来た『物』をキャッチする。

 

………それは、九九艦爆が投下した、60キロ爆弾だった!

 

「なあっ!?」

 

「コレがホントの………パワーボムじゃいっ!!」

 

驚くオレガノに向かって、大河は両手で60キロ爆弾を空中で振り被り、オレガノ目掛けて落とす様に投げつけた!

 

「!? バアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

思わず声を挙げたオレガノの脳天に60キロ爆弾は命中!

 

オレガノの姿が巨大な爆煙に包まれた!!

 

「アデッ!?」

 

着地に失敗しながら地面に降りる大河。

 

直後に爆煙が晴れ、中から………

 

「…………」

 

ヘルメットの頭頂部がヘコんで煤けているオレガノが、目を回した状態で倒れている姿が露わになる。

 

当然、戦死判定だ。

 

「ヘッ………ええ勝負やったで」

 

そのオレガノ姿を見ながら、大河は笑ってそう呟いたのだった。

 

「ハハハハハハハッ! 如何だぁ! ブリテン共ぉっ!!」

 

一方、ハンネスは歓喜の声と共に37ミリ機関砲弾を撃ちまくっている。

 

「オイ、ルーデル! お前がコッチに来て如何する! 西住総隊長の本隊を援護しないと駄目だろうが!!」

 

しかしそこで、大詔がハンネスが本来向かうべきはみほの方である事を指摘する。

 

「心配要らん! 今回はアッチに譲ったからな!!」

 

「アッチ?」

 

だが、ハンネスからはそう言う返事が返って来て、大詔は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのみほの居る大洗機甲部隊の本隊は………

 

「来ますわ! 回避を!!」

 

「無理ですっ!!」

 

チャーチル・クロコダイルの車長と操縦士からそう言う声が挙がった瞬間………

 

その砲塔上部に、『何か』が命中!

 

爆煙が上がったかと思うと、チャーチル・クロコダイルは撃破されたと判定される。

 

チャーチル・クロコダイルの砲塔上部に突き刺さった『何か』………

 

それは、75ミリの砲弾であった。

 

「コチラへ来ましたわっ!!」

 

と、もう1輌のチャーチル・クロコダイルの車長がそう叫ぶ。

 

そのペリスコープ越しの視線の先には、上空を飛ぶ2機の双発の大型機の姿が在る。

 

2機の双発大型機は、編隊を組んだまま旋回し、チャーチル・クロコダイルの方を向こうとしている。

 

そして、その機首がチャーチル・クロコダイルへと向けられた瞬間………

 

先端に付いて居たピトー管の様な物が火を噴いた!!

 

直後に、チャーチル・クロコダイルのエンジン部と牽引していた火炎放射用の燃料タンクに砲弾が命中!

 

燃料タンクが派手に爆発し、辺り一面が火の海となって、チャーチル・クロコダイルも白旗を上げる!

 

「おお~! コレは凄いね~!」

 

「ありがとうございますっ!!」

 

その光景に杏がそう漏らし、みほはお礼と共に2機の双発大型機に向かって手を振る。

 

「………まさかあの様な機体が一航専に有ったとは」

 

対照的に、ダージリンは初めて苦い顔を浮かべてそう呟いた。

 

「『キ109』………」

 

アッサムが、上空を旋回している2機の双発大型機………『キ109』を見ながら、パソコンにデータを出してそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キ109』

 

大日本帝国陸軍が生んだ傑作爆撃機『四式重爆撃機「飛龍」』をベースに改造を行った特殊防空戦闘機である。

 

この機体の最大の特徴………

 

それは、航空機でありながら、『75ミリ砲』を搭載していると言う事である。

 

コレは八八式七糎半野戦高射砲をベースとしたもので、元々はB-29をアウトレンジで迎撃する為のものだったが………

 

肝心の機体の高高度性能不足の為、戦果を挙げられず、上陸用舟艇攻撃用に温存され、そのまま終戦を迎えた機体である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、悲願であったB-29を墜とす事は叶わず、無念のままに終戦を迎えた機体は………

 

大洗の頼もしい味方となって、活躍していた!

 

チャーチル・クロコダイル2輌を仕留めたキ109は、更にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊・本隊へも75ミリ砲弾の雨を降らせる!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「「「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

頭上から降って来る75ミリ砲弾の雨に為す術も無く、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊・本隊に損害が生じる。

 

「クッ! 高射砲部隊! 対空砲火っ!!」

 

ダージリンは焦った様子でそう指示を飛ばす。

 

高射砲部隊が、上空のキ109に向かって対空砲火を撃ち上げる。

 

キ109の周辺で、黒煙を伴った爆発が次々に起こり、溜まらず高度を上げて一旦離脱に掛かるキ109。

 

だが、そこへ………

 

「見つけたぞ!」

 

「オノレェッ! スツーカ部隊と九九艦爆部隊は囮か!!」

 

メビウス1やラーズグリーズ隊を切り抜けた様子のスピットファイア編隊が、キ109を目指して飛んで来る。

 

「! 味方の航空部隊です!」

 

「コレで一安心ですわね………」

 

オレンジペコがそう声を挙げると、ダージリンも安堵の表情を浮かべる。

 

と、その瞬間!!

 

1機のスピットファイアが、上空から降って来た機銃弾を浴びて炎上した。

 

「!? 何っ!?」

 

編隊長が驚きの声を挙げ、炎上した機体のパイロットが脱出したかと思うと………

 

上空から1機の戦闘機らしき機体が急降下して来て、擦れ違い様にまたスピットファイアを1機撃墜する。

 

「! 敵機かっ!?」

 

「!? あの機体は!? まさかっ!?」

 

編隊長がそう言った瞬間、別のスピットファイアのパイロットが現れた機体を見て驚愕の声を挙げる。

 

大型の逆ガルウイングを持つその機体は………

 

「『烈風』だとっ!?」

 

「うおっ! 初めて見たっ!!」

 

驚愕の声を挙げるスピットファイア編隊のパイロット達。

 

 

 

 

 

そう………

 

その機体は零戦の後継機として開発されながら………

 

様々な要因による開発遅延により、量産・配備されず、実戦を経験しえなかった幻の日本海軍次期主力戦闘機………

 

『烈風』だった!

 

 

 

 

 

「『烈風』よ! あの大戦の無念………晴らす時は来たっ!!」

 

そのコックピットで、パイロットである六郎は、風防越しにスピットファイヤ編隊を見据えてそう吠えるのだった。

 

「凄い! まさか烈風が飛んでいる光景に御目に掛かれるなんて!」

 

幻の名機が大空を飛んでいる様に、優花里が感動の声を漏らす。

 

「チャンスです! 障害は無くなりました! このまま一気にG地点へ向かいますっ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

とそこで、みほの指示が飛び、大洗機甲部隊は再びゴルフ場を目指し始める。

 

「クッ! 動ける者だけで良いわ! 続きなさいっ!!」

 

「「「「「イエス、マイロードッ!!」」」」」

 

苛立った様な声を挙げながら、動ける戦車と歩兵隊員達を連れて、ダージリンはみほ達を追撃するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

新年最初の更新で、大洗に反撃の兆しです。
チャーチル・クロコダイルの攻撃でカモさんチームを失うも………
一航専の隠し玉『キ109』によってグロリアーナ&ブリティッシュに打撃を与えました。
いよいよみほとダージリンの対決も間近です。


では、ご意見・ご感想をお待ちしております。

今年もよろしくお願いします。


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第176話『ローズヒップの過去です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第176話『ローズヒップの過去です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

カモさんチームが撃破されながらも、尚もG地点………ゴルフ場を目指すみほ達・大洗機甲部隊の本隊。

 

と言っても、戦車はⅣ号とヘッツァーだけとなっていたが………

 

「………間も無く、予測地点です。カメさんチーム、手筈通りにお願いします」

 

するとそこで、みほがヘッツァーにそう通信を送る。

 

『りょ~か~い! しかし、西住ちゃんも無茶言ってくれる様になったねぇ』

 

茶化す様な杏の返事が返って来る。

 

「すみません………現状ではコレしか手が無くて………」

 

『気にしないで良いよ。そうしなきゃいけない事は分かってるから』

 

みほが申し訳無さそうにすると、杏は気にするなと言う。

 

『だから必ず勝て! 全てはお前に掛かっているんだぞっ!!』

 

とそこで、桃がそう通信に割り込んで来る。

 

『ちょっ! 桃ちゃん! そんな事を言ったらみほちゃんが………』

 

またも炸裂した桃の癇癪に、蛍が慌てるが………

 

「分かってますよ。いつもの事じゃないですか。もう慣れました」

 

みほからは、至って冷静な様子でそんな返事が返って来た。

 

『お、おう、そうか………』

 

こう返されてしまっては桃としても黙るしかない。

 

「では、交信終了します」

 

そしてそのまま、みほは通信を切った。

 

「みぽりん、最近舩坂くんに似て来たね」

 

とそこで、車長席のみほを見上げながら、沙織がそう言う。

 

「えっ!?」

 

「確かにそうだな………」

 

戸惑うみほを余所に、麻子がその言葉に同意する。

 

「やはり、今のみほさんが在るのは、舩坂さんの影響が大きいと言う事なんでしょうね」

 

「は、華さん!………」

 

そして華が良い笑顔でそう言うと、みほは真っ赤になって縮こまってしまう。

 

「!? 西住殿! 来ましたっ!!」

 

「!!」

 

だがそこで、優花里がそう声を挙げると、みほは立ち上がって車外へと姿を晒す。

 

そして見据えた正面には、狭い十字路を塞ぐ様に中心に陣取る、スーパーチャーチル………もとい、ブラックプリンスの姿が在った。

 

「ブラックプリンス………やっぱり来た………」

 

険しい表情で、正面のブラックプリンスを見据えるみほ。

 

先程のチャーチル・クロコダイルの襲撃の混乱の中でも、改めてグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の様子を確認していたみほは、ブラックプリンスの姿が無い事にも気がついていた。

 

そして、最も効果的な待ち伏せ地点を導き出し、予測を立てていたのである。

 

「この交差点を左折すればゴルフ場だよっ!!」

 

沙織が地図を見ながらそう言い放つ。

 

「………カメさんチーム! 行きますっ!!」

 

「あいよーっ!!」

 

みほがそう言って、杏からの返事を聞いたかと思うと、Ⅳ号が加速!

 

一気にブラックプリンスとの距離を詰める。

 

ブラックプリンスは冷静に、突っ込んで来るⅣ号に17ポンド砲を向ける。

 

「…………」

 

だが、狙いを付けられているのは明らかな筈なのに、みほは突撃を続行させる。

 

照準器にⅣ号の姿が重なる。

 

装填も終わり、後は撃つばかりである。

 

そして遂に、引き金が引かれそうになった瞬間………

 

「!!」

 

「ひゃっほーいっ!!」

 

突如Ⅳ号が減速したかと思うと、それを追い越す様にヘッツァーが前に出た!

 

すっかりフラッグ車を仕留める積りで居たブラックプリンスは、突如前に出て来たヘッツァーに戸惑い、僅かに主砲身が左右にブレる。

 

「! 今ですっ!!」

 

すると、その途端にⅣ号が再加速!!

 

僅かに辛うじてⅣ号が通れる程に空いていた左折する道を、ブラックプリンスのすぐ傍を掠める様にして擦り抜けようとする。

 

即座にブラックプリンスは発砲したが………

 

砲身がブレていた為、その砲弾はⅣ号を捉えられず、交差点横に有った建物を破壊!

 

崩れた瓦礫が交差点上に散乱する。

 

ブラックプリンスは車体を旋回させ、Ⅳ号を追撃しようとするが………

 

「させないよーっ!!」

 

杏のそう言う叫びと共に、ヘッツァーがブラックプリンスの左側面前方側に体当たりを噛ました!!

 

衝撃で、ブラックプリンスの履帯が千切れる。

 

更に今、ヘッツァーの砲口が、ブラックプリンスの左側面に接触している状態となってる。

 

しかしそこで、ブラックプリンスも砲塔を旋回させ、17ポンド砲をヘッツァーに向ける!

 

「会長ーっ!!」

 

「!!」

 

柚子が叫んだ瞬間に、杏は引き金を引き、ヘッツァーとブラックプリンスの両方から砲弾が発射される!!

 

両者の姿が爆煙に包まれ、一瞬見えなくなったかと思うと………

 

やがて煙が晴れ、両車とも白旗を上げている様が露わになる。

 

「相討ちっ!?」

 

「今だ! 突破を掛けろっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

直後に、大洗歩兵達が車輌を放棄すると、擱座しているヘッツァーとブラックプリンス、散乱している瓦礫を乗り越えて、Ⅳ号が向かった左の道へと入る。

 

「………ルフナ、行きなさい」

 

「えっ!? し、しかし………」

 

「構いません」

 

「りょ、了解!」

 

するとその直後に、ダージリンのそう言う指示が飛び、フラッグ車のチャーチルが、その自慢の走行能力を活かし、ヘッツァーとブラックプリンスを踏み越えてⅣ号を追撃する。

 

「! ダージリン様!」

 

「いけない! 追い掛けてっ!!」

 

フラッグ車を孤立させない為に、同じ車体を持つチャーチル・ガンキャリアが、同じ様にヘッツァーとブラックプリンスを踏み越えようとしたが………

 

「今だっ!!」

 

「投げられる物は全部投げろぉっ!!」

 

途端に、通路脇の建物内等に潜んでいた大洗歩兵達が一斉に姿を現し、収束手榴弾や梱包爆薬を投げつけて来た!!

 

「!? しまったっ!? Ⅳ号を追ったんじゃなかったのっ!?」

 

チャーチル・ガンキャリアの車長の悲鳴が響いた瞬間に、収束手榴弾や梱包爆薬が次々に爆発!

 

チャーチル・ガンキャリアは、ヘッツァーとブラックプリンスの上に乗っかった状態で白旗を上げる!

 

「!? しまったっ!? コレじゃ通れないっ!?」

 

上にチャーチル・ガンキャリアが乗っかった事で、交差点が更に塞がれてしまい、グロリアーナ戦車部隊はダージリンを追う事が出来なくなってしまった。

 

「我々が!!………」

 

「撃てぇーっ!!」

 

ブリティッシュ歩兵部隊が人力で瓦礫を乗り越えて進もうとしたが、そこで残っていた大洗歩兵部隊が、瓦礫や撃破された戦車を盾に、弾幕を張り始めた!

 

「「「「「! うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

瓦礫を乗り越えようと徒歩で近づいていたブリティッシュ歩兵達が蜂の巣にされ、戦死判定を受ける。

 

「進ませるな! ココで食い止めて、西住総隊長がフラッグ車を倒す時間を稼ぐんだ!!」

 

迫信がそう言い、バイポットを立てたMG34機関銃を薙ぎ払う様に掃射!

 

更には手榴弾を2つ同時に投擲する!

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それによって、複数のブリティッシュ歩兵が纏めて戦死判定を受ける。

 

「会長に後れを取るなぁっ!!」

 

「撃って撃って撃ちまくれーっ!!」

 

その戦果を見て、士気の上がった大洗歩兵部隊も次々に銃撃を浴びせる。

 

「さっきフラッグ車のチャーチルが乗り越えて行こうとした時に撃破した方が良かったんじゃないですか?」

 

「いや、敵の総隊長は我々が潜んでいた事に気づいていた。飛び出せば即座に反撃を喰らって、その間に他の部隊が乗り越えて来ただろう」

 

先程、フラッグ車のチャーチルが瓦礫等を乗り越えて行った時に撃破すべきではなかったのかと言う逞巳に、迫信はそう返す。

 

その瞬間!!

 

1騎の騎兵が、銃弾の雨の中へ突撃して来た!

 

「…………」

 

アールグレイだっ!!

 

巧みな手綱捌きで、まるで縫う様に弾丸と弾丸の隙間を抜けて来る!!

 

「クソッ! 止まらねえぞっ!!」

 

「手榴弾だっ!!」

 

そこで、大洗歩兵の1人がそう叫んだかと思うと、アールグレイに向かって手榴弾が投擲される。

 

投擲された手榴弾は、アールグレイが駆けている騎馬の足元に落ちる。

 

だが!!

 

「………!!」

 

アールグレイが愛馬の脇腹を蹴ったかと思うと………

 

何と、そのまま大跳躍!!

 

大洗歩兵部隊が盾にしているヘッツァー達の残骸を、一足で跳び越え、Ⅳ号とチャーチルが向かった先へと走り抜ける!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「しまった! 抜かれたっ!!」

 

手榴弾が遅れて爆発する中、驚愕の声を挙げる大洗歩兵部隊。

 

「アールグレイさんに続けっ!!」

 

「今こそ騎兵部隊の力を見せる時だぁっ!!」

 

だがそこで、他のブリティッシュ騎兵達も大挙して押し寄せ、次々に瓦礫と撃破された戦車の上を超えて行った!!

 

「うわっ!? コレはマズイッ!!」

 

「流石に、フラッグ車の居る本隊の護衛を任されていただけあって、精鋭の騎兵部隊だった様だね………」

 

逞巳が声を挙げる中、迫信も珍しく苦い顔を浮かべてそう言う。

 

すると、その瞬間!!

 

今度は逆に、大洗歩兵部隊が銃撃を受け始める!!

 

「クソッ! 足止めする積りが、逆に此方が足止めを喰らってるぞ!!」

 

「………後は任せるしかありませんね」

 

十河が苛立ちながらそう叫ぶ中、楓は弘樹の事を思い浮かべながらそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

市街地のとある一角では………

 

「う、撃てっ!!」

 

ねこにゃーの号令で、三式が主砲を発砲する。

 

「クッ!!………」

 

だが、クロムウェル(ニルギリ)は自慢の機動力を持って回避する。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、回避した先に待ち構えていたクロムウェル(サンショウウオさんチーム)が突撃を敢行してくる!

 

「! 左へ流してっ!!」

 

すぐさまニルギリの指示が飛ぶと、クロムウェル(ニルギリ)の車体が僅かに右へ向く。

 

クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は、クロムウェル(ニルギリ)の向けた車体左側へと接触したかと思うと、火花を散らしながら、受け流される!

 

「! 受け流されたっ!?」

 

「撃てっ!!」

 

聖子が驚きの声を挙げた瞬間に、砲塔旋回を終えていたクロムウェル(ニルギリ)は、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)に向かって発砲!

 

「! うおおおおっ!!」

 

咄嗟に唯は操縦桿を思いっきり引っ張り、全力でバック。

 

クロムウェル(ニルギリ)が放った砲弾は、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)の砲塔左側面を掠めて、火花を散らした!

 

「マシンスペックは同じ………となると、乗ってる人間の差で勝負は決まるね」

 

次弾を抱えている郁恵が、そんな言葉を呟く。

 

「………フン、だろうな………しかし、《セカンドゥム》対Ⅰ(イオタ)で翻弄されてましたとさ………ククッ、「かの者」は闇の王の如くな超越者です(訳:けど、2対1で翻弄されてます。相手は相当な実力者です)」

 

「…………」

 

今日子がそう言うのを聞きながら、聖子はクロムウェル(ニルギリ)の事を見据えて、苦い顔を浮かべる。

 

(うう~~、ローズヒップが勝手な事するから、私1人で2輌の戦車を相手にしなくちゃいけなくなってるじゃない~)

 

しかし、当のニルギリは結構いっぱいいっぱいな状態であった。

 

「他人に運命を左右されるとは意志を譲ったという事だ! 意志なきものは文化無し! 文化無くして俺は無し! 俺無くして俺じゃないのは当たり前!! だから!! 俺はやるのだ!!」

 

「上等ですわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!」

 

そのローズヒップは、相変わらず速人のM20装甲車と車体を擦り合せて火花を散らしながら、激しいデッドヒートを繰り広げていた。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「そこだ!」

 

「喰らえっ!!」

 

他の生き残っているクルセイダーやスチュアートⅢ、Ⅳも、手榴弾を野球ボールの様に投げるエースや、対戦車兵の攻撃によって、クルセイダーが3輌葬られ、スチュアートⅢ、Ⅳに至っては全滅していた。

 

無論、キツネさん分隊やタコさん分隊の被害も大きく、隆太に弁慶、ジャクソンがやられ、既に人数も半数近くが戦死判定を受けている。

 

状況は五分五分………

 

いや、元々数で劣っている大洗側が不利な状況である。

 

(何とかしてこう………流れを変えないと)

 

そんな事を思いやる聖子。

 

天性のセンスで、現在の状況が敵にペースに飲まれていると直感し、流れを変える必要があると感じたのだ。

 

だが、良い手は思い浮かばない………

 

手詰まりかと思われた、その時!!

 

『誰か応答して下さいまし! ダージリン様が孤立しました!! 向かえる者は直ちにG地点へ移動して下さいッ!!』

 

グロリアーナ&ブリティッシュ側の通信回線に、グロリアーナ戦車隊員のそう言う叫びが木霊した!

 

「えっ!?」

 

その報告に驚くニルギリ。

 

「!? ダージリン様がっ!?」

 

だが、ローズヒップはそれ以上に驚きを露わにし、顔色を変える。

 

そして、次の瞬間には、アレほどデッドヒートを繰り広げていた速人のM20装甲車からアッサリと離れ、その場から離脱を始めた!!

 

「!? オイ、如何したっ!?」

 

「ローズヒップ、何をっ!?」

 

「今お助けに参りますわぁっ!! ダージリン様ぁっ!!」

 

速人やニルギリの言葉も耳に入らず、ローズヒップは爆走する。

 

そしてそのまま、姿を消した………

 

「ちょっ!? ローズヒップッ!? ローズヒップッ!?」

 

突然いなくなったローズヒップに、ニルギリは大慌てとなる。

 

「! ねこにゃーさん! 今ですっ!!」

 

「! 分かったにゃあっ!!」

 

それをチャンスと確信した聖子は、ねこにゃーに呼び掛け、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)と三式中戦車が、同時にクロムウェル(ニルギリ)へと突撃するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

速人達との交戦を放棄し、ダージリンの元へと向かったローズヒップは………

 

「ちょっ! ローズヒップさん! 落ち着いて………」

 

「ダージリン様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」

 

押し退けられた操縦士の止める声も耳に入らない様子で、ローズヒップはアクセルを全開に吹かし、ダージリンの元へと急ぐ。

 

(絶対に! 絶対にダージリン様をやらせは致しませんわっ!! あのお方は! 私にとって!!………)

 

そう思うローズヒップの脳裏には、ダージリンとの出会いが思い起こされていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズヒップは大家族の末っ子だった………

 

食事の時間などは戦争に近く、毎日がドタバタの連続である。

 

幼き日の彼女は、そんな日々にウンザリとし始めていた。

 

そして、ある日………

 

彼女の人生を一転させる、ある出来事があった………

 

それは、とある日に………

 

学校の帰りにそのまま友人宅へと遊びに行き………

 

つい夢中になって連絡も無しに日が沈むまで遊び呆けていた………

 

だが、慌てて帰宅した彼女を迎えた母親から出た言葉は、叱咤の言葉ではなく………

 

『アラ? アンタ、居なかったの?』

 

と言う言葉だった………

 

大家族の母親として、多忙な毎日を送っていた母親にしてみれば、疲れから思わず出てしまった言葉だったのだが………

 

それ以来、ローズヒップはある思いを抱く事になった………

 

『自分は居ても居なくても大して変わらない人間なのではないか?』と言う思いを………

 

その思いは、やがて彼女を非行に走らせた………

 

荒れた彼女を、自分達が原因だと思っている家族は止める事が出来なかった………

 

やがてローズヒップは、戦車暴走族へと誘われ、そのまま族入り。

 

走っている間………風を感じている間は嫌な事を忘れていられる………

 

そう感じた事で、戦車で暴走する毎日を繰り返していた。

 

そんなある日だった………

 

ダージリンと出会ったのは………

 

『貴方、良い走りをしているわね。私の部隊に入って一緒に戦いなさい』

 

彼女から発せられた第1声がそれだった………

 

自己紹介やローズヒップの事を尋ねるよりも先に、自分の部隊に入って一緒に戦え………

 

何とも高圧的なスカウトである。

 

当然、ロースヒップはその場で蹴った。

 

だが、当然それで諦めるダージリンではない。

 

次の日から、事ある毎にローズヒップの前に現れてはスカウトを繰り返した。

 

1週間が経過した頃には、ローズヒップもブチキレて、そのまま売り言葉に買い言葉で、レースで対決して自分が負けたら入ってやると言ってしまったのが運の尽き………

 

バリバリにチェーンした改造戦車を駆るローズヒップに対し、ダージリンは何時ものチャーチル………それも自らが運転してである。

 

チャーチルの鈍足を知っていたローズヒップは、勝負はもう勝ったも同然だと確信していた。

 

だが、勝ったのはダージリンであった………

 

チャーチルの鈍足を、走行能力でカバーし、道無き道を突き進んで悉く先回り。

 

そのままゴールを掻っ攫った。

 

しかも、いつもの様に紅茶を1滴も零さずに………

 

絶対の自信を持って挑んだ勝負に負けた事で、ローズヒップのプライドはズタズタだった。

 

最早如何でも良いと、ダージリンのスカウトを受けた………

 

彼女が聖グロリアーナ女学院の生徒である事は知っており、自分の頭と経済事情では入学は当然無理であろうし………

 

何より、族を辞めると言う事は、仲間からケジメと言う名の集団リンチを受ける事になる………

 

最悪、命まで失う事になるかも知れない………

 

だが、生きがいを無くしたローズヒップにはそれすらも如何でも良く、ケジメの場に顔を出した。

 

「アラ? 貴方にしてはゆっくりとした到着でしたわね。少々待ちくたびれてしまいましたわ」

 

しかし、そこで見たのは、そう言う台詞と共に紅茶を飲んでいたダージリンと………

 

その後方で、何故かズタボロの状態で警察に連行されている族仲間達の姿だった。

 

その時のローズヒップの唖然とした顔は今思い出しても笑える………

 

後にダージリンはそう語った。

 

その後、ダージリンはローズヒップに付きっきりで勉強を教え、それなりの成績を要求されるグロリアーナの編入試験に、赤点ギリギリながらも合格。

 

しかも、戦車道の才能有りと言うダージリンの推薦が通り、特待生に認定され、学費は免除された。

 

名誉とされるティーネームまで与えられ、正に至れり尽くせりである。

 

何故そこまでしてくれるのか?………

 

どうしても腑に落ちないローズヒップはダージリンにそう尋ねた。

 

するとダージリンは………

 

『私は貴方を必要としているからよ。それでは不満?』

 

満面の笑みでそう言うダージリンに、ローズヒップはこの上ない感銘を受けた………

 

それ以来、ローズヒップはダージリンの事を尊敬し、彼女の為に働く事を決意。

 

苦手だったお嬢様言葉も必死に覚え、グロリアーナ伝統の紅茶を零さない走りもマスターした。

 

………実際のところはどちらも完璧に修得出来ているとは言い難いのだが、

 

『貴方は貴方らしくありなさい。私が許しますわ』

 

他ならぬダージリンからそう言われ、ローズヒップのダージリンへの忠誠度は益々上がって行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在………

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「ダージリン様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そのダージリンが危ないのである。

 

ローズヒップに急がない理由は無かった。

 

「リミッター外しちゃいますわよーっ!!」

 

「!? ちょっ!? ローズヒップさんっ!?」

 

操縦士が止める間も無く、ローズヒップはクルセイダーの調速機を解除する!

 

途端に、クルセイダーの速度が格段にアップする!

 

しかしコレは、クルセイダー自身の故障率を高めてしまう諸刃の剣である。

 

「ダージリン様! 今参りますわぁーっ!!」

 

だがそれでも、彼女はダージリンの元へ最速で駆け付ける事を選択したのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回の話はタイトル通りに、ローズヒップの過去について描写させていただきました。
登場時にもありました様に、私の作品では、ローズヒップは元不良娘と言う設定になっています。
最初にローズヒップを見た時、『不良娘が無理してお嬢様っぽく振舞おうとしている』と言う印象を受けたのが元でして………

そして、グロリアーナの犬キャラとも言われているので、元不良娘が如何にしてダージリンに忠誠を誓う様になったのかを私なりに書いてみました。
しかし………
自分で書いておいてなんですが、これダージリンが何者だよ!?って感じになってますね(笑)
まあ、私の中のダージリンはこういう不敵な強キャラって感じなので………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第177話『Gエリアの決戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第177話『Gエリアの決戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

「みぽりん! もうすぐG地点だよっ!!」

 

「分かりました!」

 

地図を見ていた沙織がそう言うのを聞いて、みほはハッチを開け、キューポラから姿を晒し、後方を見やる。

 

そこには、自分達のⅣ号を追跡して来るフラッグ車であるダージリンのチャーチルと、その後方から砂煙と共に追従しているアールグレイを筆頭としたブリティッシュ騎兵部隊の姿が在った。

 

(騎兵部隊が着いて来てる………想定外だけど、ココまで来たらやるしかないか………)

 

チャーチルに護衛部隊が残っているのを見て苦い顔を浮かべるが、すぐに切り替えて、正面に向き直る。

 

眼前には、ゴルフ場への入り口が在った。

 

「このまま行きます! 突入して下さいっ!!」

 

「分かった」

 

みほが指示を飛ばすと、麻子がⅣ号の速度を上げる。

 

そしてそのまま、入り口を塞いでいたフェンスを踏み潰し、ゴルフ場内へと突入した!

 

「敵はゴルフ場内へ進入しました」

 

「如何やら、あそこが決戦の場の様ね………このまま前進。Ⅳ号に続きなさい」

 

オレンジペコがそう言うと、ダージリンは不敵に笑ってそう言い放ち、ブリティッシュ騎兵部隊と共にⅣ号を追ってゴルフ場へと侵入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴルフ場内………

 

芝生に履帯の後を残しながら進んでいたⅣ号が、とあるホールで停まり、後方に信地旋回する。

 

追っていたダージリンのチャーチルは、Ⅳ号からある程度の距離を取って停まったかと思うと、その周辺にブリティッシュ騎兵が展開する。

 

「………御機嫌よう」

 

とそこで、チャーチルのハッチが開き、そう言う挨拶と共にダージリンが姿を現す。

 

「ダージリンさん………」

 

「まさかココまでやられるとは………無傷で勝てるとは思っていませんでしたけど、正直想定外でしたわ」

 

緊張の色が濃くなるみほに対し、ダージリンはやはり不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「ですが、この勝負にもいい加減決着を付ける時が来たようですわね」

 

「…………」

 

とそこで、チャーチルの主砲がⅣ号に向けられ、アールグレイを初めとしたブリティッシュ騎兵達も、ガモン手榴弾を握ったり、ライフルグレネードを構えたりする。

 

「…………」

 

みほはその様子を見据えながら、機銃架のMG34を構える。

 

「…………」

 

そこで、アールグレイが腰のフルーレ………愛剣『エトワール』を抜き、頭上に掲げる様に構える。

 

「…………」

 

そしてそれを振り降ろす様にⅣ号へと向けたかと思うと………

 

「「「「「「「「「「ハイヤーッ!!」」」」」」」」」」

 

ブリティッシュ騎兵達が、一斉にⅣ号目掛けて突撃を開始した!!

 

「! 沙織さん! 華さん! 機銃っ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

「了解しましたっ!!」

 

みほは即座にそう叫び、沙織が車体機銃、華が同軸機銃の引き金に指を掛ける!

 

「!!」

 

みほも機銃架のMG34の引き金に指を掛け、イザ発砲しようとした瞬間!!

 

突撃したブリティッシュ騎兵達の先頭集団に、横から無数の銃弾と手榴弾が飛んで来たっ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

銃弾を浴びたり、手榴弾の爆発での破片を浴びたブリティッシュ騎兵達が次々に落馬し、戦死判定となる。

 

乗って居た馬達も嘶いて立ち往生したり、主と共に地面に倒れたりする。

 

「「「「「!?」」」」」

 

先頭集団がやられた事で、後続のブリティッシュ騎兵達は進軍を阻まれ、止まってしまう!

 

その途端!!

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

銃弾や手榴弾が飛んで来た方向から、着剣した小銃や軍刀等を構えたハムスターさん分隊の隊員達が一斉に突撃して来た!

 

「!? 大洗の歩兵だとっ!?」

 

「何時の間にっ!?」

 

ブリティッシュ騎兵達が戸惑っている間に、ハムスターさん分隊の隊員達は一斉にその中へと雪崩れ込む。

 

「ええいっ!!」

 

「とおおっ!!」

 

「ぐわっ!?」

 

着剣した小銃を持ったハムスターさん分隊の隊員数名が、1人のブリティッシュ騎兵を取り囲んだかと思うと、一斉に突きを繰り出して串刺しにする。

 

「ええいっ!!」

 

「うおおっ!?」

 

更に清十郎が、果敢にも馬上のブリティッシュ騎兵に跳び掛かり、そのまま一緒に落馬する!

 

「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」

 

オーウェン・マシンカービンを持った竜真と、M2サブマシンガンを持ったジェームズが、空に向かって発砲しながらブリティッシュ騎兵達の中を走り回る。

 

味方も入り乱れている為、フレンドリーファイヤの可能性があるので、馬の至近距離で銃撃音を鳴らし、馬を怯えさせる作戦の様だ!

 

「おうわっ!?」

 

「クッ! どう! どうっ!!」

 

効果は大であり、一部のブリティッシュ騎兵の馬達が怯えた様に暴れる。

 

「わあああっ!!」

 

「クウッ! 離れろっ!!」

 

そして勇武は、無謀にも馬の足にしがみ付き、馬が暴れるのも物共せずに動きを封じる。

 

「!!………」

 

と、そこでアールグレイが、入り乱れてるブリティッシュ騎兵達とハムスターさん分隊の面々を避けて、大回りでⅣ号の元へと向かおうとする。

 

だが………

 

「トアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

気合の雄叫びと共に横の茂みの中から飛び出して来た、シュトゥルムに跨った弘樹が、右手に握っていた英霊を横薙ぎに振るって来る!

 

「!?」

 

アールグレイは驚きながらも、片手で手綱を握り締めたまま、ボクシングのスウェーの様に上体を仰け反らせて回避。

 

そのまま弘樹が通り過ぎて行くと、手綱を思いっきり引っ張って上体を起こすと同時に、愛馬を反転させ、弘樹の方に向き直る。

 

「…………」

 

対する弘樹も、既に静止してアールグレイの方に向き直っていた。

 

「…………」

 

そこでアールグレイは、エトワールを目の前で立てる様に構える。

 

「…………」

 

対する弘樹は、英霊を握った右腕を肩よりも高く上げ、水平にして構える。

 

「「…………」」

 

両者は一瞬睨み合った後………

 

「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

気合の雄叫びと共に激突した!

 

「弘樹くん………移動します!!」

 

「分かった」

 

みほは一瞬だけ弘樹の姿を見やった後、Ⅳ号を移動させた。

 

「追いなさい」

 

「しかし! 騎兵の護衛無しとなっては………」

 

「こうなってしまった以上、騎兵の援護は望めないわ………なら後は、意地と意地をぶつけ合うまでよ」

 

追撃の命を下すダージリンに、オレンジペコが意見するが、ダージリンは即座に却下する。

 

チャーチルは交戦状態に入った騎兵達を残し、Ⅳ号を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「撃てっ!!」

 

「は、発射ぁっ!!」

 

聖子とねこにゃーの叫びが木霊すると、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)と三式の主砲が火を噴く!

 

共にクルセイダーに着弾し、白旗を上げさせる。

 

「このっ!!」

 

「やってくれましたわねっ!!」

 

とそこで、その撃破されたクルセイダーの陰から、残る2両のクルセイダーが飛び出して来て、三式とクロムウェル(サンショウウオさんチーム)に向かって発砲する!

 

しかし、三式へ放った砲弾は外れ、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)への砲弾は命中したものの、装甲を貫けずに明後日の方向へと弾かれた。

 

「しまった!」

 

「ならば接近戦だ!!」

 

クルセイダー2両は、接近して砲撃を見舞おうと、三式とクロムウェル(サンショウウオさんチーム)に突撃する。

 

「来るよ!」

 

「行くにゃっ!!」

 

と、それに呼応するかの様に、三式とクロムウェル(サンショウウオさんチーム)も突撃する………

 

かと思わせて、両者は互いに逆方向にハンドルを切り、左右に広がる様にしてクルセイダー2両の突撃を回避する!

 

「「えっ?………」」

 

クルセイダーの車長達が思わず間抜けた声を挙げた瞬間………

 

彼女達のクルセイダーは、そのまま建物へと突っ込んだ!

 

「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」

 

クルセイダー車長達の悲鳴が木霊する。

 

更にその直後!

 

片方のクルセイダーに砲弾が直撃!!

 

爆炎が上がったかと思うと、クルセイダーの上部に白旗が飛び出る。

 

「命中! 次弾装填急げっ!!」

 

その砲弾を撃ったZiS-3 76mm野砲に付いて居た紫朗が、同砲に付いて居る大洗砲兵達にそう指示を飛ばす。

 

「マズイッ!!」

 

残った最後のクルセイダーが、慌ててバックして、崩れた建物の瓦礫の中から抜け出す。

 

「「………あ」」

 

だが、そこで目にしたのは………

 

そのクルセイダーに向かって既に狙いを定めている三式とクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の姿だった。

 

「撃てっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

再び聖子とねこにゃーの指示が響き渡り、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)と三式が発砲!

 

両者の砲弾は、クルセイダーに吸い込まれる様に命中!

 

爆発の後、クルセイダーは横転し、側面部から白旗を上げた!

 

「良し! コレで………! 伏せろっ!!」

 

紫朗が何かを言おうとした途中で叫んだかと思うと、その紫朗が付いて居たZiS-3 76mm野砲に榴弾が直撃!

 

爆発と共にZiS-3 76mm野砲はバラバラになった!

 

「! 上田さん!!」

 

「すまない………如何やらココまでの様だ」

 

聖子が叫ぶと、爆煙が晴れた中から倒れ伏せ、戦死判定となっていた紫朗がそう言ってきた。

 

「良し! コレでもう歩兵の中に、対戦車火力を持つ奴は居ないな」

 

榴弾を撃ったクロムウェル(ニルギリ)の車内で、ニルギリが僅かに安心した様子を見せる。

 

その言葉通り、紫朗を撃破した事で、キツネさん分隊とタコさん分隊の対戦車火力は全滅しており、残る大洗歩兵達も、ブリティッシュ騎兵達に攪乱され、満足に戦車の援護が出来ずに居た。

 

「けど、2対1と言う事には変わりない………やはりクロムウェルを先に潰すべきか」

 

ニルギリは、自分も同じ戦車に搭乗している為、その性能を完全に把握しているクロムウェルの方が脅威度が高いと判断し、サンショウウオさんチームのクロムウェルから先に潰そうと考える。

 

「敵はコッチを先に潰しに来るだろうね」

 

「………さもあろううね。同等魔導アーマーに乗って宿ると告ぐ事象は、約束の地のセイン=ノウは「かの者」に筒抜け・サンダーブレイドだろう。その門が開かれた時、真実の人間の物語に命を賭す(訳:でしょうね。同じ戦車に乗って居ると言う事は、コチラの性能は相手に筒抜けです)」

 

次弾を装填しながら郁恵がそう言うと、今日子もそう同意して来る。

 

「聖子! そろそろ足回りが悲鳴挙げてきてるぞ!」

 

とそこで、唯からそう報告が挙がる。

 

強化した事で負担の増したクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の足回りに限界が来始めている様だ。

 

「長期戦になったら負ける………仕掛けるしかないか」

 

聖子はそう思案するが、決着を着ける為にはまだ1手足りない………

 

本能的にそう感じていた。

 

すると、そこで!

 

「唯、代わりなさい」

 

里歌が通信手用のインカムを外しながら、唯にそう言う。

 

「! 近藤っ!?」

 

「里歌さんっ!?」

 

「何の為に通信手として乗り込んだと思ってるの? 足回りの負担を考えながら最適な動きをするなんて芸当、貴方じゃ無理でしょう」

 

驚く唯と聖子を余所に、里歌はそう告げる。

 

「けど、この状況で操縦士を入れ替えている暇は………」

 

「僕達が時間を稼ぎます!」

 

郁恵がそう指摘した瞬間、三式がクロムウェル(サンショウウオさんチーム)を庇う様に位置取り、停止した。

 

「! アリクイさんチーム!」

 

「アイツに勝てる可能性が有るのはサンショウウオさんチームだけです! 僕達の事は気にしないで! 早くっ!!」

 

「やるちゃよ~っ!!」

 

「此処が死に場所なりっ!!」

 

聖子が驚きの声を挙げる中、ねこにゃー、ぴよたん、ももがーからは勇ましい声が挙がる。

 

「? 動きを止めた?………何を考えているか分からないけど、チャンスだ! 攻撃せよっ!!」

 

ニルギリは動きを止めた三式とクロムウェル(サンショウウオさんチーム)を訝しむものの、絶好のチャンスだと思い指示を飛ばすと、クロムウェル(ニルギリ)の主砲が火を噴く!

 

放たれた砲弾は、盾となっていた三式の右前部履帯に命中!

 

履帯が千切れ、駆動輪が弾け飛ぶ!

 

「撃てっ!!」

 

しかし、ねこにゃーは構わずに砲撃を指示。

 

三式が発砲するが、砲弾はクロムウェルの砲塔正面に当たり、明後日の方向へ弾き飛ばされる。

 

そこで次弾装填を終えたクロムウェル(ニルギリ)が再び発砲!

 

砲弾は三式の砲塔左側面を削る様に通り過ぎ、装甲が僅かに抉れて、アリクイさんチームのマークが掻き消される!

 

「まだまだ!」

 

「ありったけ撃つっちゃっ!!」

 

「意地の見せどころなり!!」

 

ねこにゃーが叫び、ぴよたんが食い入る様に照準器を覗き込み、操縦が不可能になった為、装填手に回ったももがーも吠える!

 

「! 里歌さん! 唯ちゃん! 急いでっ!!」

 

「分かってるってっ!!」

 

「急かさないでっ!!」

 

それを見た聖子が悲鳴の様に叫ぶ中、唯と里歌は狭い車内で四苦八苦しながら席を入れ替わろうとする。

 

その瞬間に三式がまた発砲するが、やはり砲弾はクロムウェル(ニルギリ)の装甲で弾かれてしまう。

 

そして、3度目となるクロムウェル(ニルギリ)からの砲撃が、三式の主砲の下部を掠める様に外れる。

 

「! 駐退復座機がやられたぴよ!」

 

「!!」

 

だがその1撃は運悪く、三式最大の弱点である砲塔外に向き出しとなっていた駐退復座機を破壊していた。

 

クロムウェル(ニルギリ)の主砲が、ゆっくりと三式を捉える。

 

「………後は頼みました」

 

ねこにゃーがそう言った瞬間に、クロムウェル(ニルギリ)が発砲!

 

砲弾は三式の砲塔基部を捉えて命中。

 

爆発が起こり、一瞬の間の後………

 

三式の上部から、無情な白旗が立ち上った。

 

「良し! 次は向こうのクロムウェルよ!!」

 

三式の撃破を確認したニルギリがそう叫び、クロムウェル(ニルギリ)が三式を避ける様に移動。

 

その背後に隠れていたクロムウェル(サンショウウオさんチーム)を捉える。

 

まだクロムウェル(サンショウウオさんチーム)は動かない………

 

「貰ったわっ!!」

 

勝利を確信したニルギリの言葉と共に、クロムウェル(ニルギリ)が発砲!

 

徹甲弾が一直線に、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)へと向かう!

 

と、その瞬間!!

 

クロムウェル(サンショウウオさんチーム)が僅かに信地旋回を行ったかと思うと、昼飯の角度で、クロムウェル(ニルギリ)の砲弾を弾き飛ばした!

 

「なっ!?………! 後退っ!!」

 

驚きながらも、すぐに後退の指示を飛ばすニルギリ。

 

直後にクロムウェル(サンショウウオさんチーム)が発砲!

 

砲弾がクロムウェル(ニルギリ)の目の前に着弾して、アスファルトを爆ぜさせるっ!!

 

そしてその直後に、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は急発進し、一気にクロムウェル(ニルギリ)との距離を詰めている!

 

「次弾装填急いで!」

 

「ハ、ハイ!………完了です!!」

 

「撃てっ!!」

 

装填手を急かして次弾を装填させると、即座に発砲させるニルギリ。

 

だが、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は走行を続けながら、命中する瞬間に僅かに角度を付けて、砲弾を弾き飛ばす!

 

「!? 動きが変わったっ!?」

 

「間に合ったわね………」

 

クロムウェル(サンショウウオさんチーム)の動きが変わった事を感じたニルギリがそう叫んだ瞬間に、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)の操縦席に付いて居た里歌がそう呟く。

 

如何やら、危機一髪のところで入れ替わりが済んだ様である。

 

「それで聖子。ココから如何するの?」

 

「…………」

 

里歌がそう尋ねると、聖子は思案顔で黙り込む。

 

「! ねえ、里歌さん! こういう事って出来る!?」

 

そこで、何かを思いついた様な顔となり、その思い付きを里歌に話す。

 

「ええっ!?」

 

「オイオイ、マジかよ………」

 

「アビスだと伝わっている!(訳:危険です!)」

 

聖子の策を聞いた郁恵、唯、今日子が驚愕の声を挙げる。

 

「………確かに、やれなくはないけど………下手したら、コッチがやられるわよ」

 

里歌も渋い顔でそう言うが………

 

「大丈夫! きっとやれるよ!!」

 

聖子は自信満々の顔でそう返して来た。

 

「………その根拠は?」

 

「アイドル戦車乗りとしての勘!!」

 

「はああ~~~~~………」

 

当然の様に聖子がそう言い返すのを聞いて、里歌は深く溜息を吐く。

 

「………まあ、良いわ。どの道、もう後が無いからね」

 

しかし、すぐに気を取り直してそう言う。

 

「確かに面白いかもね………こんな大事な場面でそんな戦術なんてさ」

 

「博打は嫌いじゃねえぜ!」

 

「宿命のカケベオルブ……………『贖罪』を背負いました(訳:その賭け………乗りました)」

 

郁恵、唯、今日子からも賛同の声が挙がる。

 

「良し! やろうっ!!」

 

「行くわよ………」

 

聖子が声を挙げると、里歌がそう言ってクロムウェル(サンショウウオさんチーム)を更に加速させた!

 

「! 敵、速力を上げました!」

 

「一か八かの突撃!? けど、近づくって事は、自分達の装甲を貫かれる可能性も上がるのよ! 目標! 敵戦車の砲塔基部!」

 

更に速度を上げて突撃して来るクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の姿を見て、ニルギリはそう言い放ち、砲手に指示を飛ばす。

 

「落ち着いて狙って………的は向こうから近づいて来てるわ」

 

「ハイ!」

 

ニルギリの指示に従い、しっかりとクロムウェル(サンショウウオさんチーム)の砲塔基部に狙いを定める砲手。

 

「! 今だっ!!」

 

そして照準が定まり、絶好のタイミングで、引き金を引いた!

 

クロムウェル(ニルギリ)の主砲が火を噴き、徹甲弾が吐き出される。

 

既に回避出来る距離では無い………

 

サンショウウオさんチーム、敗れたか!?………

 

………と、思われた瞬間!!

 

「今だっ!!」

 

「超信地旋回っ!!」

 

聖子が叫ぶと、里歌は左右の履帯を同速度で互いに反対に回転させる事によって、移動する事なく車体の向きを変える行動………

 

第2次世界大戦中の戦車では限られた物でしか出来ない『超信地旋回』を行った!

 

すると、何と!!

 

クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は突撃していた慣性によって、独楽の様に回転しながらクロムウェル(ニルギリ)と向かう!

 

「なっ!?」

 

ニルギリが驚きの声を挙げた瞬間、クロムウェル(ニルギリ)が撃った砲弾が、回転によって弾かれる!

 

「! 次弾装………! い、いや! 退避っ! 全速退避っ!!」

 

「ま、間に合いませんっ!!」

 

すぐに次弾装填を行わせようとしたが、回避が先だと気付いてニルギリが叫んだが、その一瞬の躊躇が命取りだった。

 

「行けっーっ!! ベーゴマアタアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーックッ!!」

 

聖子の叫びと共に、高速で回転するクロムウェル(サンショウウオさんチーム)が、クロムウェル(ニルギリ)に激突する!!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

ニルギリと乗員の悲鳴が挙がる中、クロムウェル(ニルギリ)は大きく吹っ飛ばされ、民家に突っ込む!

 

が、まだ白旗は上がらなかった………

 

「! 耐えた! すぐに反撃をっ!!………」

 

白旗が上がらなかったのを確認したニルギリは、すぐさま反撃に移ろうとしたが………

 

「停止ーっ!!」

 

「ぐうっ!!」

 

里歌が聖子の声と共に操縦桿を力一杯引くと、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)は左右両方の履帯を千切らせながらも、急停止!

 

その主砲は、既に民家の壁にめり込んだクロムウェル(ニルギリ)に合わされている。

 

「!?」

 

「貰ったぁっ!!」

 

ニルギリが驚愕の表情を浮かべた瞬間に、今日子は引き金を引き、クロムウェル(サンショウウオさんチーム)が発砲!

 

放たれた砲弾は、クロムウェル(ニルギリ)のエンジン部を直撃!

 

一際大きな爆発がクロムウェル(ニルギリ)を包み込んだかと思うと、それが段々と晴れて行き………

 

やがてクロムウェル(ニルギリ)の上部から、白旗が上がった!!

 

「! やったーっ!!」

 

クロムウェル(ニルギリ)の白旗を確認した聖子が、歓声を挙げる。

 

「やれやれ………もう此れっ切りにして欲しいわね」

 

「でも、ウチの大将はこうでなくっちゃな」

 

呆れる様に言う里歌に、唯がそう返す。

 

「それにしても、聖子ちゃん。ベーゴマアタックはないよ」

 

郁恵も、聖子にそうツッコミを入れる。

 

「ええ~っ!? ガメラアタックとどっちにするか迷ったんだよっ!?」

 

「敢えて形容するならば、「それ」もイン・クァガ・ル・ヴォロスなんだった………というわけだかと………そう聞いているのだがね?(訳:それも如何なんですか?)」

 

聖子がぶーたれるて言うと、今日子もそうツッコミを入れて来る。

 

そんな中………

 

この準決勝の試合にも、遂に………

 

決着の時が訪れようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよGエリアに到着し、決戦を挑むみほ。
弘樹達も間に合い、ダージリンとは1対1。
後はお互いの気迫と執念が物を言う勝負です。

一方、サンショウオさんチームも、アリクイさんチームの犠牲で、同戦車同士の対決に勝利。
里歌を通信手にしたのはこの動きを変えると言う戦法の伏線だったのです。
決勝戦でもこの戦法は炸裂する予定ですので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第178話『因縁の戦いです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第178話『因縁の戦いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝の試合会場………

 

大洗町に似た港町を模した演習場………

 

Gエリアにて………

 

「撃てっ!!」

 

みほの号令と共にⅣ号の主砲が火を噴く。

 

吐き出された徹甲弾は、ダージリンの乗るチャーチルの右側に在った木の幹に命中。

 

折れた木が、チャーチルの行く手を塞ぐ様に前方に倒れる。

 

だが、チャーチルはその倒れて来た木を難なく乗り越え、Ⅳ号に向かって発砲!

 

「! 後退っ!!」

 

「うん………」

 

みほの指示が麻子がⅣ号を後退させると、チャーチルの砲弾は先程までⅣ号が居た場所の地面を爆ぜさせる。

 

「一旦距離を取って、後ろに回り込んで下さい!」

 

「分かった………」

 

続けての指示にも麻子は即座に反応し、Ⅳ号はチャーチルから大きく距離を空けて、機動力を活かして装甲の薄い後部へと回り込もうとする。

 

「それぐらいはお見通しですわ………」

 

しかし、ダージリンはそれを読んでおり、チャーチルは周りの木々を薙ぎ倒しながらⅣ号を追いつつ正面だけを見せ続ける。

 

「! やっぱり読まれてる………」

 

「コレでは周辺の木々もアドバンテージにはなりませんね………」

 

みほが険しい顔をしながらそう呟くと、次弾を抱えている優花里もそう漏らす。

 

今チャーチルは木々が生えた場所に居り、車体の大きいチャーチルは移動を制限されると踏んだが、ダージリンは木々を物ともせずに踏み潰させ、機動力で勝るⅣ号に対し、弱点である後面を晒さない様にしている。

 

「………後部へ回り込むのは一旦中止で。向こうの大きなバンカーへ向かって下さい!」

 

「了解………」

 

するとみほは、一旦チャーチルの後部へと回り込もうとするのを止め、フェアウェイの先に見えていた大きな砂場………バンカーへと向かう。

 

「逃がしませんわ………」

 

チャーチルはすぐにⅣ号を追う。

 

「…………」

 

その様子を振り返りながら確認したみほは正面を向き、やがて大きなバンカーの手前まで達する。

 

「このまま進んで下さい」

 

「良いのか? 砂に足を取られる可能性も有るぞ?」

 

「麻子さんの腕を信頼します」

 

「簡単に言ってくれる………」

 

みほの言葉に、麻子は愚痴る様な台詞を返しながらも、笑みを浮かべて応じる。

 

Ⅳ号はそのまま大きなバンカー内へと突入。

 

「バンカーに自分から入った?」

 

「如何言う積りか知りませんが、チャンスです」

 

オレンジペコがⅣ号の行動を訝しむが、アッサムは砂地でスピードが鈍ったⅣ号に照準を合わせる。

 

と、その瞬間!!

 

「今ですっ!!」

 

「ん………」

 

みほが叫ぶと、麻子は態と履帯を空転させた。

 

バンカーの砂が巻き上げられ、砂煙となる!

 

「!? Ⅳ号はっ!?」

 

その砂煙により、Ⅳ号の姿を見失うアッサム。

 

「………砲塔2時方向。撃ちなさい」

 

「!?」

 

だがそこで、ダージリンからそう指示が飛び、アッサムは反射的にその指示通りに砲撃。

 

チャーチルの砲弾が砂煙の中へと吸い込まれたかと思うと、金属が引き剥がされた様な音が鳴り響く。

 

直後に、砲塔後部のシュルツェンが吹き飛んでいるⅣ号が飛び出して来る。

 

「コレも読まれるなんて!」

 

みほの顔には驚きが浮かんでいる。

 

「す、凄い………」

 

「ペコ、次弾装填を急ぎなさい。みほさんは接近して来るわよ」

 

砂煙の中のⅣ号の位置を的確に当てたダージリンの読みに感嘆の声を挙げるオレンジペコに、ダージリンは次弾装填を促す。

 

「あ、ハイッ!」

 

「Ⅳ号、来ますっ!!」

 

オレンジペコが返事をした瞬間に、アッサムが声を挙げる。

 

「クッ! 装填が………」

 

「ぶつける積りで行きなさい。重量はコチラが上よ。弾き飛ばしなさい」

 

「了解!」

 

装填が間に合わない事にオレンジペコが焦るが、ダージリンは即座に体当たりを指示。

 

向かって来るⅣ号にチャーチルが迫る。

 

と、遂に衝突かと思われる距離まで接近した瞬間!

 

「今ですっ!!」

 

みほがそう叫んだかと思うと、Ⅳ号の主砲が火を噴く!

 

「砲塔旋回っ!!」

 

だが、狙いが砲塔である事を見抜いたダージリンは、砲塔を旋回させ、傾斜で弾き飛ばそうとする。

 

しかし、Ⅳ号から放たれた砲弾は、チャーチルの砲塔に命中した瞬間に爆発した!

 

「!? 榴弾っ!?………!! わっぷっ!?」

 

Ⅳ号が放った砲弾が榴弾であった事にダージリンが驚いた瞬間に、ハッチから上半身を出したままだった彼女に、榴弾の爆発による爆炎と爆風が襲い掛かる!!

 

「ダージリン様っ!?」

 

その様子にチャーチルの操縦士が一瞬気を取られる!

 

「衝撃に備えて下さいっ!!」

 

直後に、Ⅳ号が僅かに左へと移動!

 

車体右側のシュルツェンを弾き飛ばしながら、チャーチルの横を擦り抜けた!

 

「今ですっ!!」

 

「装填完了してますっ!!」

 

「貰いましたっ!!」

 

チャーチルの背後へと回ったⅣ号は、即座に信地旋回を行うと同時に砲塔も旋回させ、チャーチルの後部目掛けて砲弾を放った!

 

だが、まだ爆煙に包まれたままだったチャーチルが動き出し、僅かな差でかわされてしまう。

 

「!!」

 

「まさかあの距離で目眩ましに榴弾を使って来るとは思いませんでしたわ。下手をすれば自分も危険でしたのに………」

 

みほが驚きの表情を見せる中、爆煙が晴れて来ると………

 

「ですが、挑む者に勝利あり………こんな言葉もありますわ」

 

自慢のギブソンタックの髪型が解け、長い金髪を風に棚引かせている、顔中に少々煤の付いたダージリンが、やはり不敵な笑みを浮かべてそう言って来た。

 

「…………」

 

みほは、榴弾の爆煙が収まり切らぬ内に突撃した為、ダージリン同様に多少煤けている顔で彼女を見据える。

 

「………ふ………ふふふ」

 

すると不意に、その顔に笑みを浮かべて、笑い声を漏らし始めた。

 

「! 西住殿!?」

 

「みほさん?」

 

「みぽりん?」

 

「如何したんだ?」

 

突然笑い出したみほに、優花里、華、沙織、麻子は困惑した様子を見せる。

 

「ゴメンね、皆………大事な試合だって事は分かってるんだ………でも………今私、凄く楽しいんだ。ダージリンさんと良い勝負が出来て」

 

するとみほは、優花里達にそう説明する。

 

「「「「…………」」」」

 

その言葉を聞いて、優花里達は一瞬黙り込む。

 

「………分かりますよ。その気持ち」

 

やがて、華が最初に賛同の意志を示す。

 

「私も今、西住殿と同じ気持ちです」

 

続いて、優花里がそう言う。

 

「奇遇だな………私もだ」

 

麻子も笑いながらそう呟く。

 

「皆同じ気持ちだよ、みぽりん」

 

最後に沙織が、笑顔でみほにそう呼び掛ける。

 

「皆………」

 

その言葉に感動しながらも、みほは表情を引き締めると、再びダージリンに向き直った。

 

「フフフ………」

 

ダージリンは相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

 

「ダージリンさん。さっき言っていましたね………挑む者に勝利あり、って」

 

「ええ………」

 

「………行きますっ!!」

 

と、そう会話を交わしてたかと思うと、みほは再びⅣ号を突撃させる!

 

「来なさい………西住 みほっ!!」

 

それに対し、ダージリンもチャーチルを突撃させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

その激闘を繰り広げるⅣ号とチャーチルの近くでは………

 

「せやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

シュトゥルムの突撃と気合の叫びと共に振られた弘樹の英霊を、アールグレイはフルーレで往なす。

 

「フッ! ハアッ!!」

 

アールグレイを一旦通り過ぎた弘樹は、手綱を引いてシュトゥルムを反転させ、再度アールグレイに接近。

 

「ハアアッ!」

 

「!!」

 

再び英霊を振るうが、アールグレイはコレも往なす。

 

「うおおっ!!」

 

「…………」

 

そのまま接近戦となり、2撃、3撃と斬撃を繰り出す弘樹だったが、アールグレイはポーカーフェイスのまま、その全てを往なし、或いは避ける。

 

(やはり出来る………本来は突く事が専門のフルーレでコチラの攻撃を次々に往なされる………)

 

(更に腕を上げた………アレほどに素早く重い斬撃をこう連続で繰り出して来るとは………)

 

お互いに、相手の腕に内心で感嘆していた。

 

「「!!」」

 

やがて両者は、お互いに弾かれる様に距離を取った。

 

「ハアッ!!………!?」

 

とその直後、シュトゥルムを反転させていた弘樹が、何か嫌なモノを感じてシュトゥルムの背に伏せたかと思うと、先程まで弘樹の頭と身体が在った位置を、銃弾が通り過ぎて行った。

 

(銃声が無い?………)

 

銃弾が飛んで来たにも関わらず、銃声が無かった事に違和感を感じながらアールグレイを見やる弘樹。

 

「…………」

 

(成程………『ウェルロッド』か………)

 

そこでアールグレイの右手に、フルーレから持ち替えて握っていた消音機付きの自動拳銃『ウェルロッドMk.Ⅰ』が有るのを見て納得する。

 

「………!」

 

と、アールグレイは更に2発、3発とウェルロッドを発砲する!

 

「! ハイヤーッ!!」

 

弘樹はシュトゥルムを駆けさせ、木々の合間を縫う様に疾走する。

 

アールグレイのウェルロッドから放たれる弾丸が、木々の幹に次々と穴を空ける。

 

「クッ………」

 

細かな木片が顔に掛かって来るのを感じながら、弘樹は一旦英霊を左腰の鞘へ戻すと、右腰のホルスターからM1911A1を抜こうと手を掛ける。

 

「!!………」

 

だが、その瞬間に!!

 

アールグレイは左手に握っていた愛馬の手綱を引いたかと思うと、彼の愛馬は疾走し、木々で移動ルートを制限されていた弘樹とシュトゥルムの前に回り込んだ!

 

「!!」

 

「ハアアッ!!」

 

そしてウェルロッドを納め、再び右手に握ったフルーレで、弘樹の首を狙って突きを繰り出す。

 

「クッ!」

 

咄嗟にホルスターから抜いたM1911A1に装填されていたマガジンの底で、そのフルーレの突きを受け止める。

 

「! ツウッ!!………」

 

だが、その突きの威力の前に、弘樹の右腕はM1911A1を握ったまま後方へと伸び切ってしまう。

 

「貰ったぞっ!!」

 

その隙を見逃さず、アールグレイは素早く2撃目の突きを繰り出す!

 

姿勢が悪いので回避は出来ない………

 

すると、弘樹は!!

 

「!!」

 

何と!

 

左手に握っていた手綱を口で咥え、左手で左腰に挿していた鞘に納めていた英霊を逆手で抜き放ち、アールグレイのフルーレの突きを受け止める。

 

「!?」

 

アールグレイは驚きながらも、素早く手綱を引いて、愛馬と共に離脱する。

 

「…………」

 

その間に弘樹はバランスを取り直し、シュトゥルムをその場で停まらせる。

 

そして、左手で握っていた英霊と、右手に握っていたM1911A1を交換すると、手綱を口から放し、アールグレイに向かって突撃した!

 

「…………」

 

一方のアールグレイも、弘樹と同じ様に右手にフルーレ、左手にウェルロッドを握ると、弘樹に向かって突撃!

 

「「………!!」」

 

お互いに突撃し合った弘樹とアールグレイが、M1911A1とウェルロッドを其々に相手に発砲!

 

弾丸は寸分違わず同じコースを辿り………

 

ウェルロッドの弾丸とM1911A1の弾丸は、互いに衝突し合って潰れ、地面に落ちる!

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

と、そこで両者の距離は零距離となり、右手の英霊とフルーレを振るう。

 

ぶつかり合った英霊とフルーレが火花を散らした瞬間!

 

「「!!」」

 

弘樹とアールグレイは、お互いに左手を相手に突き出し、頭に向かって発砲!

 

だが、どちらも狙いが甘かった様で、銃弾はお互いの顔の横を掠める様に通り過ぎる。

 

「「…………」」

 

両者は再び距離を空ける。

 

騎馬対騎馬の対決は、やはり1撃離脱に成り易い。

 

お互いに決め手を欠いているこの状況では、中々決着は付かなかった。

 

何かこの拮抗状態を破るモノがなければ、決着は付かないであろう………

 

「「…………」」

 

距離を取った弘樹とアールグレイは、睨み合いへと発展する。

 

(………アレを試してみるか?………しかし、それには一瞬でも奴に隙が出来なければ………)

 

と、弘樹が何か手を思いついた様だが、アールグレイに隙が無ければ使えないらしく、隙を作らせるべく思案を巡らせる。

 

………その時!!

 

突如、2人の間を、砂煙を立てながら『何か』が通り過ぎて行った!!

 

「!?」

 

予想外の事態に、アールグレイの愛馬が嘶く。

 

「! 隙有りっ!!」

 

絶好の隙を見逃さず、弘樹は右手の英霊を再び逆手に握ったかと、アールグレイに向かって投擲した!

 

「! 窮したか! 舩坂 弘樹っ!!」

 

だが、隙を衝いたにも関わらず、アールグレイは素早く対応。

 

飛んで来た英霊を、アッサリとフルーレで弾き飛ばす!

 

(自らの得物を投げるとは………何を考えて………!?)

 

得物を投げると言う、軽率とも取れる行動をした弘樹に、アールグレイは苦い顔を浮かべた次の瞬間には、驚愕の表情を浮かべた。

 

「…………」

 

何故なら、先程まで離れていた筈の弘樹が、目の前に飛び掛かって来ていたからである!

 

(タイ捨術!!)

 

「むんっ!!」

 

飛び掛かって来た弘樹は、そのままアールグレイに覆い被さる様にして、左脇にアールグレイの頭を抱え込み、更に左足でロック、クラッチする!

 

「グウッ!!」

 

「おおおおっ!?」

 

アールグレイが思わず声を漏らすと、弘樹はそのまま全体重を掛け、一気に馬上から落ちた!!

 

「!?」

 

その際に頸椎を圧迫され、後頭部に衝撃を受けたアールグレイは、四肢が麻痺し、意識が遠のく。

 

「!!」

 

そのアールグレイに、弘樹は馬乗りになったままで銃剣を抜き、両手で逆手に構えて振り被る。

 

「!!………」

 

だが、アールグレイも最後の意地で右腕に残る全ての力を集中させて自由にすると、フルーレで弘樹の首目掛けて突きを繰り出す!

 

「!!」

 

その瞬間に弘樹も銃剣を振り降ろす!!

 

そして!!

 

弘樹の銃剣がアールグレイの胸を突き、アールグレイのフルーレが弘樹の喉を突いた!!

 

「「…………」」

 

一瞬の静寂が、辺りを支配する。

 

やがて、戦死を告げるブザーが………

 

アールグレイの方から成り響いた。

 

「………私の負けだ」

 

静かにそう言うアールグレイ。

 

「…………」

 

弘樹は、そのアールグレイの身体の上から退くと、戦闘服の襟を貫いていたフルーレを抜き放つ。

 

そう………

 

あの時のアールグレイの突きは僅かにズレ………

 

弘樹の喉ではなく、戦闘服の襟を貫いていたのだ。

 

正に紙一重であった………

 

と、その直後!!

 

一際大きな爆発音が鳴り響く!

 

「「!!」」

 

その音がした方向をバッと向く弘樹とアールグレイ。

 

それは、この準決勝の決着を告げる爆音だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弘樹とアールグレイの対決に決着が付く寸前………

 

みほVSダージリンの戦いは………

 

「そこですっ!!」

 

ダージリンの声と共に、チャーチルの主砲が火を噴く。

 

「麻子さん! 右に流してっ!!」

 

「くうっ!!」

 

みほがそう指示すると、麻子はⅣ号を右へと向かわせ、チャーチルの砲弾はⅣ号の車体左横のシュルツェンを破壊する!

 

「撃ちますっ!!」

 

そこで今度は、華の声と共にⅣ号が発砲!

 

「車体を左へ傾けなさい!」

 

だが、ダージリンのそう言う指示が飛ぶと、チャーチルは車体を左へと傾ける。

 

Ⅳ号の砲弾はチャーチルの車体右側面に命中したが、角度が浅かったので受け流される。

 

「ジグザグに後退っ!!」

 

「クッ………」

 

みほのそう言う指示が飛び、Ⅳ号は稲妻の様なジグザグを描きながら後退。

 

途中でチャーチルが発砲して来たが、回避に成功する。

 

「ハア………ハア………」

 

みほの顔は煤や付着した砂が汗を吸って出来た泥に塗れており、髪もボサボサになって来ており、明らかに疲労困憊していた。

 

「フウ………フウ………」

 

そして、ダージリンも同じ様な状況である。

 

(そろそろ限界………決着を付けないと………)

 

コレ以上の長期戦は無理と判断したみほは、決着を付ける事を決意する。

 

「決着を付けます! 優花里さん! 最後の『アレ』を使います!!」

 

「! 了解です!!」

 

みほがそう言うと、優花里が『ある物』の用意に掛かる。

 

「………そろそろ決着を付けに来る頃ね」

 

一方、ダージリンもみほが決着を付けに来る事を読んでおり、疲労困憊の顔に不敵な笑みを浮かべる。

 

「………行きますっ!! 全速前進っ!!」

 

とそこで、Ⅳ号は全速でチャーチル目掛けて突っ込んだ!!

 

「突っ込んで来ます!」

 

「アッサム! 良く狙いなさいっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

オレンジペコがそう言うと、ダージリンはアッサムに向かって叫び、アッサムは食い入る様に照準器を覗き込み、砲撃のタイミングを見計らう。

 

そして、絶好の砲撃タイミングが訪れようとした瞬間………

 

「今ですっ!!」

 

みほが叫んだかと思うと、Ⅳ号のスモーク・ディスチャージャーから煙幕が放出された。

 

「!? まだ煙幕が残っていたっ!?」

 

「よ、Ⅳ号ロストっ!!」

 

ダージリンが驚きの声を挙げ、アッサムがⅣ号の姿を見失ったと報告する。

 

「クッ! 何処に!?………」

 

煙幕が辺りに立ち込める中、Ⅳ号の姿を探すダージリン。

 

この煙幕は予想外だった為、位置が掴めない。

 

と、その瞬間!!

 

チャーチル後方の煙幕が揺らめいたかと思うと、Ⅳ号が姿を現す。

 

「! 何時の間にっ!! 砲塔旋回っ!!」

 

「貰いましたっ!!」

 

ダージリンがそれに気づいて砲塔旋回の指示を飛ばすが、その瞬間にみほの叫びが木霊し、Ⅳ号の主砲から徹甲弾が、チャーチルの車体後部に向かって放たれた!

 

………しかし!!

 

「ダージリン様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッ!!」

 

そう言う叫び声と共に、ローズヒップのクルセイダーが、チャーチルとⅣ号が放った徹甲弾の間に割り込んだ!!

 

「!?」

 

「えっ!?」

 

ダージリンとみほが驚愕を露わにした瞬間に、割り込んだクルセイダーにⅣ号が放った砲弾が命中!

 

ローズヒップのクルセイダーは、まるで玩具の様にブッ飛び、地面に叩き付けられた後、ゴロゴロと転がって行き………

 

やがてゴルフコース内に在った池に水没した!

 

「!?」

 

そのクルセイダーが水没する瞬間を見てしまったみほの脳裏に、一瞬だが黒森峰時代………前回の全国大会・決勝戦で仲間の戦車が水没してしまった場面が過る。

 

「! 隙有りですわっ!!」

 

そしてその隙を見逃すダージリンではなかった。

 

砲塔旋回を終えたチャーチルが、Ⅳ号へ向かって砲弾を吐き出す!

 

「!?」

 

砲撃音でハッと我に返るみほだったが、指示が間に合わない!

 

「クウッ!!」

 

だが、その瞬間!

 

麻子が咄嗟の判断で、Ⅳ号を僅かに旋回させた!!

 

チャーチルの放った砲弾は、Ⅳ号の砲塔右側面に命中したが、角度が付いて居たのと1度シュルツェンに当たって減速した事により、弾かれる!

 

「クッ!!」

 

「! 砲塔旋回装置損壊! 砲塔旋回が出来ませんっ!!」

 

「!?」

 

至近を掠めたシュルツェンの破片に一瞬怯んでいたみほに、華が悲鳴の様にそう報告を挙げる。

 

砲塔旋回装置が損壊した事で、Ⅳ号の主砲は正面を向いたままの状態で固まっていた。

 

更にそこで、無情にも煙幕が晴れてしまう………

 

「! 急速後退!!」

 

すぐにみほはⅣ号をバックさせてチャーチルとの距離を空ける。

 

対するチャーチルは、ゆっくりと超信地旋回を行い、車体正面をⅣ号へと向ける。

 

「フフフ………残念でしたわね」

 

不敵に笑いながらそう言い放つダージリン。

 

如何やら、砲塔旋回装置が損壊しているのを見抜いた様だ。

 

「…………」

 

みほの頬を冷や汗が流れる。

 

状況は誰が見ても正に絶体絶命だった………

 

「…………」

 

だが、みほの目にはまだ諦めの色は浮かんでいなかった。

 

その目は、まだ状況の打開を考えている目である………

 

(落ち着け………落ち着け、西住 みほ………どんな時でも冷静に考えるんだ………)

 

そう思いやるみほ。

 

その脳裏には、どんな状況にあろうと冷静に戦闘を熟す弘樹の姿が在った。

 

更に続けて、みほは練習試合でグロリアーナ&ブリティッシュと戦った時の事を思い出す。

 

(! そうだ!!)

 

そこで、みほの1つの案が浮かぶ。

 

「………皆。危険だけど、1つだけ勝てる戦法を思いついたの」

 

「なら御命令ください!」

 

「みほさんに従います」

 

「みぽりんの戦法だもん! 信じるよ!!」

 

「一蓮托生だ………」

 

みほがそう言うと、既に覚悟の決まってる優花里達からはそう声が挙がった。

 

「ありがとう、皆………」

 

思いついた戦法を皆に説明するみほ。

 

そして………

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

気合のパンツァー・フォーと共に、再度ダージリンのチャーチルに向かって突撃した!!

 

「Ⅳ号、突撃して来ます!」

 

「アッサム! 恐らく練習試合の最後に見せたあのドリフトよ!! 方向を見極めて砲塔を旋回させなさい!!」

 

「ハイッ!!」

 

オレンジペコがそう言うと、ダージリンはそう叫び、アッサムが全神経を照準器内のⅣ号へ集中させる。

 

(右………左………)

 

Ⅳ号がドリフトするのにどちらへ旋回するのかを必死に見極めようとするアッサム。

 

と、その瞬間………

 

Ⅳ号の車体が、僅かに右へ切られた。

 

「! 左っ!!」

 

だが、アッサムはそれがフェイントである事を見抜き、砲塔を右へ旋回させた。

 

直後に左へと操縦桿を切ったⅣ号の姿が、再び照準器に重なる。

 

その重なったⅣ号が、履帯から土片を巻き上げながら、ドリフトを開始する。

 

「! そこだっ!!」

 

その瞬間にアッサムはトリガーを引いた!

 

チャーチルの主砲が火を噴き、砲弾がドリフトしているⅣ号の1番荷重が掛かっている、左履帯に命中!

 

履帯と転輪、駆動輪が吹き飛び、荷重が掛かって居た場所を失ったⅣ号の車体が回転する様に浮き上がった!

 

「勝ったっ!!」

 

思わずそう声を挙げるダージリン。

 

彼女は今、完全に勝利を確信していた………

 

「!?」

 

だが、その直後にダージリンの顔は驚愕に染まった。

 

何故なら………

 

空中に巻き上げられたⅣ号のキューポラから………

 

まだみほが姿を見せたままだったからだ!

 

「…………」

 

錐揉みする様に空中で回転するⅣ号から姿を見せたまま、ダージリンのチャーチルをジッと見据えるみほ。

 

Ⅳ号の主砲は、チャーチルの車体後部上部………エンジン部に向けられている。

 

「!! 急速後退っ!!」

 

ダージリンは即座にその狙いを見抜き、後退指示を出す。

 

チャーチルが急速で後退を始める………

 

かに思われた瞬間!!

 

ガキィンッ!!と言う、金属が金属を咬んだ様な音が響き、チャーチルの動きが止まった!

 

「!?」

 

ダージリンが音のした場所を確認すると………

 

チャーチルの右側の履帯が、サイドスカートを咬んで、動かなくなっていると言う光景が広がっていた。

 

「まさか、あの時に!?………」

 

実はM3リーと戦った時………

 

最後の体当たりを、チャーチルの右側面で受け止めたが………

 

その際に実は、サイドスカートに歪みが生じていたのだ。

 

そこへ、Ⅳ号との勝負中に受けた被弾が重なり………

 

今まさに、ダージリンにとっては最悪、みほにとっては絶好のタイミングで履帯を咬んだのである!

 

「今ですっ!!」

 

「………発射っ!!」

 

そこでみほの指示が飛び、錐揉み中のⅣ号の中で必死に踏ん張り、照準器を覗き続けていた華が、トリガーを引いた!!

 

砲弾は一直線に、チャーチルのエンジン部へと向かう。

 

その迫り来る砲弾を見てダージリンは………

 

「………お見事」

 

まるで悟ったかの様な穏やかな笑みを浮かべ、そう呟いた。

 

その直後にⅣ号の放った砲弾は、チャーチルのエンジン部へ命中!

 

爆発と共に、火柱がチャーチルから立ち上る!!

 

そこでⅣ号も地面に叩き付けられる!

 

残っていたシュルツェンや履帯、転輪など様々なパーツを撒き散らしながら転がった後に停止するⅣ号。

 

「~~~ッ!………皆、大丈夫?」

 

と、歪んでいたキューポラのハッチを抉じ開けて、みほが車外へ姿を晒しながらそう言う。

 

「な、何とか無事であります~」

 

「流石に今回のは………アクティブ過ぎました………」

 

「私もう暫くジェットコースターとか乗れない~………」

 

「戦車道で無かったら如何なっていた事やら………」

 

そう言う台詞と共に、優花里、華、沙織、麻子が同じ様に其々のハッチを抉じ開け、這い出る様に車外へ姿を晒す。

 

と、そこで………

 

Ⅳ号の上部に白旗が上がる。

 

「!? チャーチルはっ!?」

 

そこでハッとして、ダージリンのチャーチルを見やるみほ。

 

そこには、既に白旗が上がって居るチャーチルのキューポラで、静かな笑みを浮かべ、拍手をしているダージリンの姿が在った。

 

「ダージリンさん………」

 

「おめでとう、みほさん………貴方の勝ちよ」

 

みほが呟くと、ダージリンはみほの勝利を祝福した。

 

と、その時………

 

観客のモノと思われる歓声と、溢れんばかりの拍手が聞こえて来た。

 

「!? 何っ!?」

 

「何ですの?」

 

突然の歓声と拍手に戸惑うみほとダージリン。

 

最初は試合の決着した事でのモノかと思ったが、まだ試合終了を告げるアナウンスは流れていない。

 

では、一体?

 

その答えは、洋上………

 

呉造船工業学校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の戦闘にあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に、因縁の対決にも終止符が打たれました………
みほVSダージリン。
弘樹VSアールグレイ。
共に激戦の末に………
みほと弘樹が、見事に勝利を納めました!
遂に大洗、決勝戦進出です。

しかし、試合終了同前の時に響いて来た歓声。
その原因は洋上の戦いにあり?
果たして何が起こったのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第179話『敵兵を救助せよ、です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第179話『敵兵を救助せよ、です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとダージリンの戦いに決着が着く寸前………

 

試合会場の洋上でも………

 

「てぇーっ!!」

 

艦長の号令で、長門の主砲が全門火を噴き、ネルソンへと砲弾が飛ぶ。

 

その内の2発が、ネルソンの甲板に命中!

 

巨大な爆発が起こり、ネルソンが朦々と黒煙を上げる。

 

しかし直後に、ネルソンから反撃の砲撃が、陸奥に向かって放たれた!!

 

回避行動を取る陸奥だったが、第3主砲塔に砲弾が1発着弾!

 

その途端!!

 

陸奥の第3砲塔が大爆発を起こし、炎上した!!

 

「陸奥炎上!! 弾薬庫に誘爆した様です!!」

 

「またか!? この前の時にも第3砲塔をやられて誘爆起こしてたろうが!!」

 

副長の報告に、艦長は思わずそう叫ぶ。

 

戦艦陸奥は、かつて第3砲塔が謎の爆発を起こして沈んでおり、そのせいか第3砲塔が損傷を受け易いと言うジンクスがあった。

 

今回もそのジンクスが当たってしまった様である。

 

「陸奥より発光信号! ワレ、ソンショウニヨリ、ソクリョクテイカセリ!」

 

「クッ! マズイな………」

 

伊勢と日向が、クイーン・エリザベスにウォースパイトと撃ち合っている様子を見ながら、副長の報告に舌打ちする艦長。

 

現在、呉校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊は同航戦をしており、1隻でも速力が低下すれば、忽ちその艦が集中砲火の的となってしまう。

 

するとそこで、最上と三隈が速力を上げ、損傷した陸奥を庇う様にその前に位置取る。

 

「! 最上! 三隈! 無茶だっ!!」

 

艦長が叫んだ瞬間に、最上と三隈の周辺に、多数の砲弾が降り注ぎ、水柱が次々と上がる!

 

中には至近弾で、最上と三隈に損傷を与えた物もある。

 

しかし、最上と三隈は1歩も退かず、果敢に主砲で反撃する!

 

だが、その直後!!

 

三隈にクイーン・エリザベスが放った砲弾が直撃!

 

巨大な爆発が三隈から上がったかと思うと、艦橋上部に白旗が出現した。

 

「三隈、轟沈判定っ!!」

 

「クソッ!!」

 

副長が報告すると、艦長は拳を艦橋内の壁に叩き付けるのだった。

 

 

 

 

 

同じ頃、敵の護衛艦隊と戦闘していた呉校艦隊の水雷戦隊は………

 

「魚雷発射っ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

護が叫ぶと、雪風の魚雷発射管の担当乗員が魚雷を2発発射する。

 

放たれた魚雷は、ニューカッスルへと向かう。

 

だが、ニューカッスルは向かって来る魚雷に対し、艦体を垂直にする様に舵を切る。

 

雪風が放った魚雷は、ニューカッスルの両舷を擦り抜けて行く。

 

直後に、後部のMk ⅩⅩⅢ 15.2cm(50口径)三連装主砲が火を噴く。

 

「回避行動ーっ!!」

 

護の叫びと共に、雪風が回避行動を取ると、ニューカッスルの放った砲弾が周辺に着弾し、水柱を上げる。

 

「うおっ!?」

 

「敵艦、離れます! 魚雷射程外っ!!」

 

艦橋に走る衝撃に、護が思わずよろけていると、副長からそう報告が挙がる。

 

「チイッ! さっきからこの繰り返しだな………」

 

その報告を聞いた護が、悪態を吐く様にそう言う。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊は、呉校水雷戦隊の最大の武器である酸素魚雷を警戒し、命中率が下がる遠距離で艦隊隊形を維持して、レーダー射撃による遠距離砲撃戦を行って来ていた。

 

日本海軍はレーダー等の電子機器の開発に於いて、連合国側に大きく差を付けられており、戦争後期の頃には粗負け越していた。

 

無論、呉校水雷戦隊の乗員達は、全員がエリートと言って差し支えない面子だが、彼等は人間であり、疲労もする。

 

機械頼りのグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊との戦いでは、長引くほど不利となる。

 

「よし、良いぞ。このまま距離を保ちつつ砲撃を続けろ。敵に疲労が溜まれば此方が有利となる」

 

護衛艦隊の指揮を取っているサウサンプトンの艦長が、無線で護衛艦隊にそう呼び掛ける。

 

「状況は我々に有利ですな、艦長」

 

そこで副長が、艦長にそんな事を言う。

 

「ああ、懸念事項が有るとすれば、準々決勝でナイトウィッチ&ハロウィンの潜水艦隊を単艦で行動不能にしたという、あの潜水艦だ」

 

「伊201ですか………」

 

「だが、コチラとて対潜戦闘の用意は万全だ」

 

艦長はそう言って、サウサンプトンの艦首側に装備された、多数の柄付き手榴弾を装填しているかの様な形状の兵器………

 

対潜迫撃砲『ヘッジホッグ』を見てそう言う。

 

他の艦艇にも、同様にヘッジホッグが装備されており、中には『スキッド』を装備している艦も在る。

 

ナイトウィッチ&ハロウィン戦での伊201の戦闘を聞き及んでおり、万全に備えてきている様だ。

 

と、その時………

 

「!? ソナーより艦橋へ! 交響曲(シンフォニー)ですっ!! モーツァルト 第40番 第1楽章!!」

 

ソナー員よりそう報告が挙がった。

 

「来たか………場所はっ!?」

 

「待って下さい………! 本艦前方、5000!! 深度200!!」

 

「!? 護衛艦隊の真正面だと!?」

 

艦長が正確な位置の報告を求めると、ソナー員はそう報告し、副長が驚きの声を挙げる。

 

「ほう、面白い………我が艦隊に真正面から挑む積りか………それが無謀でしかない事を教えてやる。全艦! ヘッジホッグ、スキッド用意っ!!」

 

サウサンプトンの艦長がそう言うと、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊は一斉にヘッジホッグとスキッドの発射態勢に入る。

 

「ソナー! 敵進路に変わりはないか?」

 

「変わりありません! 此方に向かって一直線に突っ込んで来ています!!」

 

「良し! 目標がアタックポイントに入り次第、一斉攻撃を行う!」

 

「目標アタックポイントまで、あと100………50………25………10………アタックポイントに入りました!!」

 

「全艦! ヘッジホッグ! スキッド! 発射ぁっ!!」

 

ソナー員からの報告が挙がるや否や、サウサンプトンの艦長がそう号令し、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊から一斉に対潜弾が発射された!!

 

何10発もの対潜弾が次々に水中へと放り込まれて行く。

 

「モビーディックッ! 幾ら貴様が怪物であろうと、水中に居る限り、この対潜弾から逃れる術は無いぞ! 何せ直径2キロの範囲全深度に40発以上だっ!!」

 

勝利を確信しているサウサンプトンの艦長は高らかにそう言い放つ。

 

「伊201よりタンクブロー音! 浮上する積りの様です!!」

 

とそこで、ソナー員から伊201が浮上しようとしている事を探知し、報告する。

 

「対潜弾との接触を回避しようとしているのか? 無駄な事を………信管には接触式と時限式を混ぜてある。例え接触式をかわしても、時限式が爆発し、その時の誘爆によって強大な爆圧が発生する!!」

 

だが、サウサンプトンの艦長は無駄な足掻きだと吐き捨てる。

 

「言った筈だ! この攻撃から逃れる術は無い! それこそ、水中から脱出でもしない限りはなっ!!」

 

その光景を目撃する事になろうとは、この時サウサンプトンの艦長は予想だにしていなかった………

 

やがて、時限式の対戦弾の爆発時間が訪れた。

 

低い轟音が鳴り響き始めたかと思うと、水面が風船の様に盛り上がり始め………

 

やがて次々と水柱が上がり始めた!!

 

「やったっ!」

 

「噂のモビーディックを仕留めたぞっ!!」

 

「俺達は英雄だっ!!」

 

伊201を仕留めたと確信し、沸き立つグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達。

 

だが、その次の瞬間!!

 

突如、一際大きな水柱が上がったかと思うと、その水柱の中から『何か』が飛び出して来た!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の視線が、一斉にその飛び出して来た『何か』に集まる。

 

 

 

 

 

それは………

 

空中を飛翔する………

 

伊201の姿だった!!

 

7メートル………

 

海面から僅か7メートルではあったが………

 

伊201は確かに………

 

『空を飛んでいた』!!

 

 

 

 

 

「!? オーマイガーッ!!」

 

「アンビリーバボーッ!?」

 

「サブマリンがっ!?」

 

「空を飛んでいるっ!?」

 

信じられない光景に、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は己が目を疑う。

 

やがて最後の対戦弾が爆発し終わった直後に、伊201は着水。

 

そのまま急速潜航を掛け、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊が展開している海の中へと消えた!

 

「ま、まさか………対潜弾の爆圧を利用して急速浮上を掛け、そのまま勢いに乗って空中に飛び出したと言うのか!? 有り得んっ!!」

 

サウサンプトンの艦長は狼狽しながらそう叫ぶ。

 

「艦長! 落ち着いて下さいっ!!」

 

その艦長を、副長が落ち着かせる。

 

「ハッ!? そ、そうだ! 落ち着かなければ………ソナー! 伊201は探知出来るかっ!?」

 

それで僅かに落ち着きを取り戻したサウサンプトンの艦長は、ソナー員に伊201を探知出来るかと問う。

 

「駄目です! 先程の対潜弾の炸裂で水中が掻き回されています! ソナーが有効になるには後数10分は要します!!」

 

だが、先程の大量の対潜弾での攻撃により、水中が撹拌されており、伊201の音を聞き取るのは不可能だった!

 

「ならアクティブ・ソナーを打てっ!!」

 

「危険です! コチラの位置を知られてしまいますっ!!」

 

アクティブ・ソナーとは、通常使用されている相手が発する音を聞き取るパッシブ・ソナーとは逆に、自ら音を発してその反射音で相手の位置を特定するソナーである。

 

一般的にパッシブ・ソナーと比べて正確に相手の位置を把握出来るが、自ら音を出すので、相手にも自分の位置を気取られると言うデメリットも存在する。

 

と、その時………

 

「!? レーダーに反応! 本艦左舷後方に不明艦が出現しましたっ!!」

 

レーダー員から突如そう報告が挙がった!

 

「!? 何っ!?」

 

その報告にサウサンプトンの艦長が驚きの声を挙げた瞬間………

 

カーンッ!と言う甲高い電子音の様な音が、サウサンプトンの艦内に鳴り響いた。

 

「うおっ!?」

 

「コレは!?………」

 

「探信音(ピンガー)っ!?」

 

それは、潜水艦が放つアクティブ・ソナーの音………探信音(ピンガー)だった。

 

「艦長ーっ! 伊201ですっ!! 本艦左舷後方、距離300を浮上航行中ーっ!!」

 

「!? 何ぃーっ!?」

 

とそこで、後方の甲板見張り要員の悲鳴の様な叫びが木霊し、サウサンプトンの艦長はすぐさま艦橋から飛び出して後方を確認する。

 

そこには、見張り要員の報告通り、左舷後方300の距離を堂々と浮上航行している伊201の姿が在った。

 

「オノレェッ! さっきの探信音(ピンガー)は、我々はもう撃沈済みだと言う警告の積りか! ふざけおってっ!!」

 

堂々と浮上航行し、更には雷撃ではなく探信音(ピンガー)を打った事に、サウサンプトンの艦長は屈辱を受けたと震える。

 

「後部主砲を発射用意っ!! 目標伊201っ!!」

 

とそこで、艦長はそう叫び、サウサンプトンの後部の主砲が伊201へと向けられる。

 

「撃てぇーっ!!」

 

そして、艦長の号令で主砲が火を噴く!

 

「! 伊201、急速潜航っ!!………!? 艦長ーっ! 射線上に友軍艦がぁっ!?」

 

「!? 何ぃっ?!」

 

そこで、伊201は急速潜航を掛け、そして見張り員は初めて、主砲を撃った射線上に友軍………

 

エンカウンターの姿が在るのに気づいた!

 

サウサンプトンから放たれた砲弾は、急速潜航を掛けた伊201の頭上を飛び越え………

 

そのままエンカウンターへと命中!!

 

駆逐艦が軽巡洋艦の砲撃に耐える事は出来ず、爆発と共に艦橋上部から白旗を上げた!

 

「な、何て事だ………」

 

フレンドリーファイアで友軍艦を撃沈判定にしてしまった事に愕然となるサウサンプトンの艦長。

 

「! 雷跡接近ーっ!!」

 

「!?」

 

たがそこで、畳み掛ける様に左舷の見張り員から報告が挙がり、サウサンプトンの艦長が目にしたのは………

 

自艦に命中する寸前の水面下を進む伊201から放たれた魚雷の姿だった。

 

「!?」

 

サウサンプトンの艦長が驚愕の表情で固まると、その瞬間に魚雷は命中!

 

サウサンプトンから巨大な水柱が立ち上る!!

 

そして、艦橋上部から白旗が上がったのだった………

 

「サウサンプトンがやられたっ!!」

 

「クソォッ! モビーディックめっ!!」

 

その様子を見ていたシェフィールドの乗員からそう声が挙がる。

 

と、その時………

 

シェフィールドが発している航跡………バッフルズの中から、伊201が浮上した!!

 

「うおっ!? 出たぞっ!! 本艦左舷後方! 距離500!!」

 

気づいたシェフィールドの見張り員が慌ててそう叫ぶ。

 

「! 取舵一杯! 魚雷発射用意! 目標、伊201っ!!」

 

シェフィールドの艦長は魚雷を喰らわせようと、取舵を切らせ、魚雷発射管を追尾して来ていた伊201へと向けようとする。

 

その瞬間に、探信音(ピンガー)が鳴り響いた!

 

「! 伊201から探信音(ピンガー)を探知っ!!」

 

「クソッ! 奴はゲームをしている積りなのか!? 魚雷発射っ!!」

 

「魚雷発射しますっ!!」

 

シェフィールドの艦長は怒りに震えながら魚雷発射の指示を飛ばし、シェフィールドから伊201に向かって魚雷が放たれる。

 

すると伊201は、そのシェフィールドの魚雷と並走するかの様に舵を切る。

 

「! 艦長ーっ!! 伊201の回頭先にニューカッスルがぁっ!?」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

見張り員からの報告に、シェフィールドの艦長が慌てて確認すると、伊201が向かった先には、左舷を向けているニューカッスルの姿が在った!

 

伊201に向けて放った魚雷は、並走している為、当然同様にニューカッスルへ向かう。

 

そして、ニューカッスルに向けて伊201がまたも探信音(ピンガー)を放つと急速潜航。

 

魚雷は潜行した伊201の上を擦り抜けて、ニューカッスルへ向かい、そのまま命中!

 

水柱が次々に立ち上ったかと思うと、ニューカッスルから白旗が上がる!

 

「ああっ!? またフレンドリーファイヤを………」

 

「魚雷、来ますっ!!」

 

シェフィールドの艦長が愕然となっていたところに、伊201からの魚雷が接近!

 

正確に機関部に直撃した魚雷は、1撃でシェフィールドを轟沈判定にした。

 

「瞬く間に敵軽巡洋艦が全滅か………相変わらずの腕だな」

 

その一連の様子を見ていた護が、神掛かった伊201の戦法と操艦に舌を巻く。

 

「敵陣形、乱れています!」

 

と、伊201の活躍により、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の陣形は完全に乱れていた。

 

「神通より発光信号! ワレトツゲキス! カクカンアトニツヅケ!」

 

そこで、呉水雷戦隊の旗艦である神通から、水雷戦隊全艦にそう発光信号が送られているのを見張り員が気付いて報告する。

 

「良し! ココからが水雷屋の見せ場だ! 総員に告げる! コレより本艦は神通に続いて敵艦隊へ突撃する! 各員の奮闘を期待するっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

護の号令に、雪風の乗組員達は威勢の良い返事を返す。

 

そして、神通が先陣を切って敵艦隊の中へと突撃すると、第十六駆逐隊と第六駆逐隊も後に続く。

 

砲門と魚雷発射管を其々に左右に向け、敵艦隊の中へと飛び込む呉校水雷戦隊。

 

「主砲及び魚雷! 攻撃始めぇーっ!!」

 

そして一斉に、主砲と魚雷による攻撃を開始した!

 

必中の距離から放たれた砲弾と魚雷は、狙いを過たずに残っていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の駆逐艦達に次々に命中して行く。

 

グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の駆逐艦達も、負けじと魚雷や砲撃で反撃するが、呉校水雷戦隊は至近弾や至近距離を擦り抜ける魚雷を気にも留めず、突撃を続ける。

 

水雷魂此処に有りである。

 

「艦長! 護衛艦隊がっ!?」

 

「!!」

 

そこで、その様子に気づいた主力艦隊に居たエクセターの副長が、艦長へ報告を挙げる。

 

と、その時………

 

エクセターの艦内に、探信音(ピンガー)が鳴り響いた!

 

「!? 探信音(ピンガー)!? 伊201かっ!?」

 

「艦長! 重巡洋艦の我々では対潜戦闘は不可能です!!」

 

その音を耳にしたエクセターの艦長がそう言うと、副長がそう報告する。

 

しかし、次の瞬間………

 

「! 右舷500に白波を確認! 潜水艦が浮上しますっ!!」

 

「!? 何だとっ!?」

 

見張り員からの報告に、エクセターの艦長が仰天の声を挙げると………

 

白波の中から、伊201が姿を見せた!

 

「オノレェッ! 馬鹿にしおって! 全砲門を伊201に向けろっ!!」

 

エクセターの艦長がそう命じ、エクセターの主砲全門が、右舷方向の伊201へと向けられる。

 

「射撃準備、完了!」

 

「撃………」

 

「!? 艦長っ!! 左舷より敵の巡洋艦がっ!?」

 

「!?」

 

だがそこで、左舷側より呉校水雷戦隊の重雷装艦・北上と大井が突撃して来た!

 

主砲は伊201に向けている為、応戦出来ない。

 

エクセターと反航戦に持ち込んだかと思うと、重雷装艦自慢の片舷だけで20射線の魚雷発射管が一斉に火を噴き、大量の酸素魚雷がエクセターへと向かった!

 

「か、回避っ!!」

 

「無理ですぅっ!! 魚雷の数は多過ぎますっ!!」

 

艦長と副長の悲鳴の様な声が木霊した瞬間、10本以上の魚雷がエクセターに命中!

 

忽ちエクセターは轟沈判定となった。

 

「艦長! 護衛艦隊がっ!!」

 

「ぬうっ!?………」

 

その様子に、総旗艦であるネルソンの副長と艦長が渋い顔をする。

 

「水雷戦隊に負けるなぁっ!!」

 

「全艦! 撃って撃って撃ちまくれぇーっ!!」

 

呉校水雷戦隊の活躍に遅れは取らぬと、呉校艦隊の士気が上がり、長門、陸奥、伊勢、日向の主砲が次々に火を噴く。

 

内1発は、ネルソンの第2主砲に命中!

 

巨大な爆発が起こり、ネルソンの第2主砲が大破する!

 

「うおっ! オノレェッ!! 反撃しろっ!!」

 

やられてばかりではいないと、グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊が反撃する。

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「後部甲板の火災鎮火!」

 

「前甲板の火災も消火完了しました!」

 

轟沈判定となって海上に留まっていたエンカウンターの甲板にて、火災の消火に当たっていた乗組員達から、消火完了の報告が続く。

 

「よし! 後は連盟の回収船が来るまで………」

 

と、自らも消火活動に当たっていたエンカウンターの艦長がそう言い掛けた瞬間………

 

エンカウンターの船体が大きく揺れた!

 

「!? うわっ!? 如何したっ!?」

 

「潮流が変わりました! 諸に横波が!!」

 

咄嗟で対応出来なかった為、転んでしまったエンカウンターの艦長が叫ぶと、乗組員の1人がそう報告を挙げる。

 

如何やら、試合が長引いた為、潮汐が変化し、潮流も変わった様である。

 

横波は更にエンカウンターを襲い、艦体が更にグラつくと共に、甲板上まで波が押し寄せる。

 

「イカン! 総員、何かに………」

 

しがみ付け、とエンカウンターの艦長が言おうとした瞬間………

 

一際大きな波が、まるでエンカウンターを呑み込む様に襲い掛かった!

 

幸い、エンカウンターが転覆・沈没する様な事はなかったが………

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

甲板で消火活動をしていた乗組員が、全て流れされてしまう!!

 

他の艦でも同じ事が起こった様で、多数のグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達が海へと投げ出されている。

 

更に運が悪い事に………

 

変わった潮流は、沖へと向かう様に流れており、海へと投げ出されたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員は、どんどん遠洋の方へと流されてしまっている。

 

「た、助けてくれーっ!!」

 

「ヘルプミーッ!!」

 

流されているグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達から助けを求める声が挙がる。

 

「大変だ! すぐに救助しないと!!」

 

「どうやってだ!? コッチは殆ど撃沈判定を受けてる上、交戦中だぞ!?」

 

まだ艦上に残っていた乗組員からそう声が挙がる。

 

戦車道と同じく、撃沈判定を受けた艦艇は連盟の回収船が来るまで再度動かす事は出来ない仕様になっている。

 

動ける艦艇も交戦状態にあり、救助に向かえる状況ではない。

 

「連盟の救助隊はっ!?」

 

「今コチラに向かって居るそうです!」

 

「間に合うのかっ!?」

 

連盟からは救助隊を発進させたとの連絡が来たが、潮流は想像以上に速く、流されている乗員は既にかなり沖の方へと運ばれている。

 

このままでは漂流してしまう………

 

その時………

 

「! 艦長! グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗組員達が流されています!!」

 

「何っ?」

 

呉水雷戦隊の中に居た雷でも、見張り要員がその様子に気づいて声を挙げ、艦長も双眼鏡で確認する。

 

「イカン………あのままでは漂流してしまうぞ」

 

「しかし、今は交戦の真っただ中です」

 

「連盟の救助隊に任せた方が良いのでは?」

 

「だが、あの様子では一刻も早く救助せねば危ないぞ」

 

艦長の言葉に、副長を始めとした艦橋の乗組員達は言い争いを始める。

 

「…………」

 

雷の艦長も、目を閉じて静かに考え込む。

 

「…………」

 

やがて、艦橋の壁に飾られていた、1枚の写真に目をやる。

 

それは、旧帝国海軍の軍人と思わしき人物の写真だった。

 

「………諸君」

 

「「「「「………!」」」」」

 

雷の艦長がそう呼び掛けると、副長達は言い争いを止め、艦長に注目する。

 

「コレは艦長である私の独断だ………」

 

そう前置きすると、雷の艦長は副長達の方へと向き直る。

 

そして………

 

「敵兵を………救助せよっ!!」

 

副長達にそう命じた!

 

「「「「「!!」」」」」

 

命令を受けた副長達は、一瞬戸惑った様子を見せたが………

 

「………了解!」

 

「敵兵を救助しますっ!!」

 

「通達! 本艦はコレより救助活動に入る! 総員、救命具を用意せよっ!!」

 

すぐさまキビキビと動き出し、全乗組員に救助活動の用意をせよと通達する。

 

「…………」

 

雷の艦長は、その様子を見て、満足そうに笑いながら頷いた。

 

そして、雷は呉校水雷戦隊の陣形から離脱。

 

流されているグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の元へと向かう。

 

すると、その後に続く様に………

 

電も進路を変更して艦隊を離脱した。

 

「電が付いて来ます!」

 

「発光信号を確認! ワレ、キカンニツヅク!」

 

「アイツ等も同じか………」

 

雷の艦長は、電の方を振り返りながらそう呟く。

 

と、その雷と電の周辺に、次々と砲弾が飛来し、水柱を上げる!

 

如何やら、まだ戦闘可能状態にあるグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の艦が、自軍の乗組員達が流されている事に気づかず、艦隊陣形から離脱した雷と電を恰好の得物だと思って集中砲撃を浴びせている様だ。

 

「! アイツ等!………」

 

「構うな! 救助が先だっ!!」

 

雷の副長がコチラの意図に気づかないグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊を睨むが、雷の艦長は構わずに救助へと向かう。

 

「艦隊から離脱した艦に攻撃を集中しろ!」

 

「如何言う積りか知らないが、良い的だぜ!」

 

一方、まだ気づいていないヨークの砲術員達が、次々と砲弾を雷と電に向かって撃ち込む。

 

(何故だ?………何故このタイミングで陣形から離脱した?)

 

しかし、ヨークの艦長は雷と電の行動が腑に落ちず、怪訝な顔をする。

 

「照準修正完了! 今度は当てるぜっ!!」

 

とそこで、照準の修正を終えた砲術員がそう言う。

 

「喰ら………」

 

「! 攻撃中止っ!!」

 

遂に引き金が引かれそうになった瞬間に、ヨークの艦長が攻撃中止命令を下す。

 

「なっ!? 艦長! 何故ですかっ!?」

 

「あの2隻が向かって居る先を見ろ!」

 

「?………!? 我が艦隊の乗組員達が!?」

 

艦長にそう言われ、砲術員は初めて、自軍の乗組員達が流されていた事に気づく。

 

「まさか………あの2隻は救助に?」

 

「そんな! まだ戦闘中だってのに、態々敵である我々の仲間を、危険を冒してまで救助に向かったと言うのか!?」

 

「コレが………『武士道』か」

 

ヨークの乗組員達が困惑する中で、艦長は雷と電の姿を見ながらそう呟いた………

 

 

 

 

 

その雷と電は、漸く流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達の元へと辿り着く。

 

「機関停止! O旗を上げろっ!!」

 

雷と電は、機関を止め、艦を完全に停止させると、マストに国際信号機・O旗………『海中への転落者あり』の旗を掲げる。

 

「しっかりしろーっ!」

 

「もう大丈夫だっ!!」

 

甲板に集まった両艦の乗組員達が、次々と浮き輪を投げ込み、救命ボートを降ろす。

 

「た、助かったーっ!!」

 

「敵が助けてくれるなんて………奇跡だ!」

 

流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は、雷と電に向かって必死に泳ぐ。

 

「落ち着け! 負傷者が先だぞっ!!」

 

そこで、エンカウンターの艦長がそう叫ぶと、グロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達は負傷者や体力が限界の者達から救助して貰う様に動く。

 

雷と電の乗組員達は、救助ボートに乗せた者をラッタルを使って甲板まで上げたり、ロープを使って甲板上から直接引き上げたりする。

 

中にはじれったいとばかりに、自らの身体にロープを巻き付け、直接海へと飛び込んで救助を行う者も居た。

 

誰もが全力で、流されていたグロリアーナ&ブリティッシュ護衛艦隊の乗組員達を助けようとしている。

 

「クソッ! 手が足りないぞっ!!」

 

「泣き言を言うな! やれるだけやるんだっ!!」

 

しかし、漂流者の数は多く、雷と電の乗員達を持ってしても、救助が追い付かなかった。

 

と、その時………

 

雷や電の物とは別に、浮き輪や救命ボートが海上へと下ろされる。

 

「「!!」」

 

雷と電の艦長が目を見開く。

 

それは、先程まで雷と電に攻撃を加えていた筈のヨークだった!

 

ヨークの乗組員達も、全力を持って漂流者の救助作業に当たる。

 

「助けに来たぞっ!!」

 

更にそこで、護の雪風を初めとした呉校艦隊が、長門や陸奥までをも引き連れて、救助活動に参加して来た!

 

「我々も救助に参加させて貰う!」

 

グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊も同様である。

 

伊201も浮上し、艦内から現れた乗員が、救助活動を開始。

 

最早、敵も味方も、試合さえも関係無かった………

 

その海域に居た全ての動ける艦艇とその乗組員達が一丸となり、漂流者を救助して行く。

 

シーマンシップ溢れるその光景に、観客席からは割れんばかりの歓声とスタンディングオベーションが送られる。

 

『グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、フラッグ車・行動不能! 大洗機甲部隊の勝利!!』

 

そこで、審判が漸く試合の決着が着いた事に気づいて、そうアナウンスを流す。

 

だが、今の呉校艦隊とグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗員達には、関係の無い話であった。

 

「よし、安心しろ! もう大丈夫だ!!」

 

「ありがとう………ありがとう………」

 

1人の漂流者を救助した雷の乗組員が、その漂流者から涙と共に感謝の言葉を繰り返し受ける。

 

「…………」

 

艦橋で指揮を取りながらその光景を見守っていた雷の艦長は、再び壁に掛けてあった写真を見て、海軍式の敬礼を送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その写真の人物は………

 

『工藤 俊作中佐』

 

雷の9代目艦長であり、かつてスラバヤ沖海戦にて………

 

敵である422名のイギリス海兵の命を救った、誇り高き帝国海軍の軍人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

新聞の1面には、こんな見出しが書かれた………

 

『スラバヤ沖の奇跡、再び』

 

と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

洋上でも激しい戦いが繰り広げられていました。
またも出現した伊201によって形勢が呉校側に傾きましたが………
その最中で、グロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗員達が波にさらわれてしまうと言う事態が発生。
それを見た呉校艦隊の雷と電が危険を顧みずに救助に向かう。
その2艦の心意気に動かされ、やがては全艦隊が救助に参加したのだった。

ココへ訪れる方や、提督の方は良く御存じであろう、スラバヤ沖海戦で雷と電が行った敵兵の救助活動へのオマージュです。
私も初めて知った時、深く感動致しまして、多くの方に知ってもらいたいと思い、今回取り上げさせて頂きました。
また、この出来事が後々に多少影響する事になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第180話『準決勝、終了です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第180話『準決勝、終了です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会、決勝リーグ・準決勝………

 

大洗機甲部隊VSグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の因縁の戦いは………

 

大苦戦の末に、大洗機甲部隊が、見事リベンジを果たす事となった。

 

支援艦隊同士の洋上戦では、スラバヤ沖海戦の奇跡が再現されるなど、ドラマティックな試合内容だった。

 

そして、両校の一同は………

 

試合終了の挨拶へ赴いていた………

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊VSグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の試合会場………

 

「一同、礼っ!!」

 

「「「「「「「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の一同が、互いに礼をする。

 

「とうとう準決勝突破かぁ!」

 

「次の決勝に勝てば優勝だよっ!」

 

「まさか数ヶ月前まで素人だった俺達がこんなところまで来るとはなぁ!」

 

「人生って分からないねえ」

 

準決勝突破に加え、因縁の相手にも勝利したとあり、大洗機甲部隊の面々は、興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「西住総隊長! 申し訳ありませんでしたっ!!」

 

だが、そんな中で、梓はみほに向かって謝罪と共に頭を下げる。

 

「梓ちゃん?………」

 

「私達がもっと戦えていたら、総隊長にあそこまで苦労を掛けずに済んだのに………折角預かった部隊も壊滅状態にしてしまって………」

 

戸惑うみほに、梓は自分の失態を吐露する。

 

「…………」

 

だが、みほは優しく微笑みながら、下げられている梓の頭の上に右手を置いた。

 

「! 総隊長………」

 

「そんな事無いよ。梓ちゃん達が敵の戦力を削ってくれたのと、フラッグ車のチャーチルに損傷を与えてくれていたから、私達は勝てたんだよ」

 

「そんな! 私は………」

 

「ありがとう、梓ちゃん」

 

「!!………」

 

梓の言葉を遮り、みほはお礼を言うと、梓はキッと表情を引き締め、姿勢を正してヤマト式敬礼をした。

 

「お前達も、良くやったな。お蔭でアールグレイとの戦いに専念する事が出来た………立派だったぞ」

 

「「「「「「ありがとうございますっ!!」」」」」

 

一方弘樹の方も、アールグレイと対決していた間、ブリティッシュ騎兵部隊を懸命に足止めしてくれていたハムスターさん分隊の面々に礼を言っている。

 

と、そこで………

 

「盛り上がっているところを申し訳ありませんが、お邪魔致しますわ」

 

「失礼する………」

 

そう言う台詞と共に、ダージリンと『何か』を携えたアールグレイが現れる。

 

「! ダージリンさん!」

 

「アールグレイ………」

 

みほと弘樹が、其々にダージリンとアールグレイの姿を見やる。

 

「先ずはみほさん………決勝進出、おめでとうございます」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ダージリンはまだ試合終了直後な為、解けた金髪がそのままになっており、顔の煤汚れも拭われていないが、それでもその立ち振る舞いは淑女そのものであり、みほは若干萎縮する。

 

「決勝の相手は、やはり黒森峰になるでしょうね………お姉さん………いえ、西住流と戦う覚悟はおありで?」

 

「!………」

 

ダージリンにそう言われ、みほは一瞬黙り込む。

 

「………正直に言うと、戦いたくないと言うのが本音です」

 

「そう………」

 

「でも、それは西住流を恐れてるからじゃありません」

 

「…………」

 

みほがそう言うと、今度はダージリンが黙り込む。

 

「戦いたくないのは………私は別に、お母さんやお姉ちゃんを打ちのめしたいワケじゃないんです。出来れば、また昔みたいに仲良くなりたいと思ってます」

 

「………そう」

 

「でも、それには戦わなければならないと言う事は分かっています。お姉ちゃんやお母さんと話す為には………私の戦車道を示さないといけないんです」

 

「それが出来て?」

 

「私1人では無理です………でも」

 

みほはそう言うと振り返り、最初に弘樹の事を見て、その次にあんこうチームの面々を見た後、最後には大洗機甲部隊全員の姿を見やった。

 

「友達と一緒なら………出来ると信じてます」

 

そして、ダージリンの方に向き直ると、一点の曇りも無い表情でそう言い放った。

 

「きっと出来ますわ。貴方の戦車道は………こんなにも素晴らしいのですから」

 

そう言うと、ダージリンはみほに握手を求める。

 

「…………」

 

ダージリンの手を取り、みほは固く握手を交わす。

 

「みほさん………今日のこの敗北は、私が今まで掴み取って来たどんな勝利よりも………誇るに値する敗北でしたわ」

 

「! ハイッ!!」

 

ダージリンの言葉に、みほは一瞬驚いた様な表情を見せたが、すぐに笑顔を浮かべて頷いた。

 

「………見事だったぞ」

 

「そうか………」

 

「………優勝して見せろ」

 

「その積りだ………」

 

一方、アールグレイと弘樹の方も、お互いを見ながらそう会話を交わす。

 

短い遣り取りであったが、それで十分だった………

 

彼等は全てを出し切って戦い、片方は敗れ、片方は勝った………

 

それ以上の事実は必要無い………

 

また語り合う時………

 

それは再び、大洗とグロリアーナ&ブリティッシュが戦う時である………

 

「それから………ウサギのお嬢さん」

 

「えっ!? わ、私っ!?」

 

とそこで、みほとの握手を終えたダージリンが、梓に呼び掛け、急に呼ばれた梓は慌てる。

 

「確か澤 梓さんでしたわね?」

 

「ハ、ハイ! そうです!!」

 

「………アールグレイ」

 

「…………」

 

ダージリンが呼び掛けると、アールグレイは携えていた物………バスケットをダージリンに渡す。

 

(! アレって………)

 

そのバスケットに見覚えを感じるみほ。

 

「どうぞ………」

 

「えっ? わ、私に?………」

 

そしてダージリンは、そのバスケットを梓に差し出し、梓は戸惑いながらもそれを受け取る。

 

「あ、あの………中を見ても?」

 

「構いませんわよ」

 

「…………」

 

ダージリンから許可され、梓は恐る恐るバスケットを開けて、中身を確認する。

 

すると………

 

「! コレって!?」

 

中身を確認した梓が驚愕の表情を浮かべる。

 

バスケットの中に入っていたのは………

 

ウサギさんチームの人数分の『紅茶』だった。

 

聖グロリアーナ女学院は、好敵手として認めた相手に紅茶を送ると言う伝統がある。

 

即ちコレは………

 

ダージリンが梓達を好敵手と認めた証だった。

 

「………来年の貴方達と戦えない事が残念でなりませんわ」

 

「!!」

 

「澤 梓さん………貴方と、そして貴方のチームは立派な戦車乗りですわ。私が保障致します」

 

「! ハイッ!!」

 

それを聞いた梓の目からは、嬉しさの余り涙が零れそうになったが、グッと堪えて笑顔でダージリンに返事を返す。

 

「それから、呉校の皆さんにもよろしくお伝えして下さるかしら。私達の支援艦隊の乗組員を、危険を顧みず救助してくれた事、深く感謝しておりますと」

 

「確かに伝えさせていただきます」

 

そして最後に、ダージリンは自分達の支援艦隊の乗員を救ってくれた呉校艦隊の面々へのお礼を言づける。

 

「あの! ダージリンさん!!」

 

するとそこで、聖子が走り寄って来て、ダージリンに声を掛けた。

 

「この後、私達のライブがあるんです! 良かったら見に来てくれませんか?」

 

如何やら、勝利ライブに直接ダージリンを誘いたかった様である。

 

「ええ、是非観覧させて頂きますわ。実は私、貴方達の大ファンなの」

 

「ええっ! 本当ですかぁ! 嬉しいなぁっ!!」

 

ダージリンの思わぬ告白に、聖子は素直に喜びを露わにする。

 

「では、後程お邪魔させていただきますわ。御機嫌よう」

 

「失礼する………」

 

そしてそう言い残すと、ダージリンとアールグレイは、自軍のメンバーが居る場所へと戻っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーージリン様ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!

 

そのダージリンを出迎えたのは、人目も憚らず号泣しているローズヒップだった。

 

「ローズヒップ………如何したの、一体?」

 

そんなローズヒップの姿を見て、流石のダージリンも困惑する。

 

「申し訳ありません~~~~~~~~~~っ! 私が! 私がもっと速くダージリン様の元へ辿り着けていればああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そう言って更に号泣するローズヒップ。

 

「ダージリン様………」

 

オレンジペコも申し訳無さそうな顔をしている。

 

今回の戦い、ダージリンにとっては高校最後の全国大会だっただけでなく、事情的にも絶対に負けられない筈の戦いであった。

 

今回の試合の為に、OG会の意見を黙殺して新戦車を多数購入していたのである。

 

この後、ダージリンの立場が如何なるかは想像だに出来ない………

 

「もう、ペコまでそんな顔をするんじゃありません」

 

しかし、ダージリンは何時もと変わらぬ様子でそう言い放つ。

 

「ですが………」

 

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーんっ!!」

 

何か言おうとしたオレンジペコを遮る様に、まるでサイレンの様に泣き声を響かせるローズヒップ。

 

「………ローズヒップ。貴方随分とずぶ濡れね」

 

するとそこで、ダージリンはローズヒップのパンツァージャケットがずぶ濡れで有る事を指摘する。

 

撃破された時に、ゴルフ場の池に嵌ったせいで、車内に水が入って来て濡れた様である。

 

「!? ああ、すみません! 私とした事が、ダージリン様の前でこんな失礼な姿を!!」

 

それを聞いたローズヒップは、すぐさまずぶ濡れのパンツァージャケットの上着を脱ぎ捨てる。

 

「! ローズヒップ! 淑女が無闇に人前で衣服を脱いだりするんじゃありません!!」

 

途端に、アッサムからの叱咤の声が飛ぶ。

 

「ヒッ! も、申し訳ありませ………」

 

と、ローズヒップが謝ろうとした瞬間………

 

その身体に、別のパンツァージャケットが肩からに掛けられた。

 

「!?」

 

ローズヒップの顔が驚きに染まる。

 

ローズヒップに掛けられたパンツァージャケット………

 

それは、ダージリンが自分のパンツァージャケットを脱いで、ローズヒップに掛けたものだった。

 

「ダ、ダージリン様!………」

 

「ペコ………貴方にはコレを」

 

狼狽しているローズヒップを横目に、ダージリンは今度は、自らが使っていたティーカップとソーサーをオレンジペコに差し出す。

 

「う、受け取れませんよ! それはダージリン様の………」

 

「受け取って、ペコ。もうコレは貴方が………次のグロリアーナを受け継ぐ者が持つのが相応しいわ」

 

受け取れないと言うオレンジペコだったが、ダージリンはそう言って微笑む。

 

「ダージリン様………」

 

その微笑みを向けられ、オレンジペコは恐る恐ると言った様子で、ティーカップとソーサーを受け取った。

 

そこで、ダージリンが左手をローズヒップの右肩へ置き、右手をオレンジペコの左肩へ置いた。

 

「「!!」」

 

「貴方達が作る新しい伝統を楽しみにしていますわ」

 

驚くローズヒップとオレンジペコに向かって、ダージリンはそう言う。

 

「「! ハイッ!!」」

 

その言葉に対し、ローズヒップとオレンジペコは力強く返事を返し、頷いて見せるのだった。

 

「オ~イ、大洗のスクールアイドルのライブが始まるぞ~っ!!」

 

とそこで、オレガノが若干空気を読めてない様子で、サンショウウオさんチームのライブへ行こうと誘いを掛けて来た。

 

「オレガノさん………」

 

「やれやれ。困った先輩だな」

 

そんなオレガノの様子に、ティムとジャスパーが呆れた様な顔をする。

 

「うふふ、それでは行きましょうか」

 

しかし、ダージリンは特に気にした様子を見せず、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の面々を率いて、サンショウウオさんチームのライブへと向かう。

 

「ダージリン総隊長。ブリティッシュのOB会の方々に取りなしてくれる様に頼んでおいた。きっとグロリアーナのOG会の方々もそんなにお叱りにはならない筈さ」

 

とそこで、セージがダージリンにそう言う。

 

「ありがとう、セージ歩兵隊長………しかし、あの方達に頭を下げて回らないといけないと言うのは憂鬱ね」

 

「そう言う割には嬉しそうね。ダージリン」

 

OG会の面々に頭を下げて回らなければならないと愚痴るダージリンだったが、アッサムがその顔に笑みが浮かんでいる事を指摘する。

 

「当然ですわ………」

 

するとダージリンは、アッサムの方を見ながらこう言った。

 

「生涯に於いて最高の勝負が出来たのですから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、サンショウウオさんチームのライブにて………

 

新曲『GOING PANZER WAY!』が披露され………

 

大洗機甲部隊も、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の面々………

 

そして両校の応援に来ていた観客達も大いに盛り上がる中………

 

ダージリンは静かに、ライブの様子を見守り………

 

終わった後には、惜しみない拍手を送ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の準決勝・第1試合………

 

勝利したのは、大洗機甲部隊………

 

遂に大洗は………

 

優勝目前である………

 

決勝戦へと、駒を進めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

大洗学園艦にて………

 

戦車の整備が急ピッチで進められる中………

 

改良の余地が有ったⅢ突と三式の改造が行われた。

 

Ⅲ突の方には、Ⅳ号と同様に、車体両側にシュルツェンが装備され………

 

三式は、知波単からの情報援助を元に、三式改への改造が行われた。

 

悲願の優勝が目前まで迫っているだけに………

 

皆の気持ちも自然と高まり、引き締まっている………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・生徒会室………

 

その優勝が掛かった決勝戦を前に………

 

部隊長クラスでの作戦会議が行われていた………

 

「Ⅲ突と三式の改造は今日中には終わるらしい」

 

「流石にぶっつけ本番で使わせるワケには行かないからな。慣らしの練習期間が取れるのはありがたい」

 

迫信が敏郎からの報告を告げると、エースがそう言う。

 

「今度の準決勝・第2試合の勝者と戦うワケだが………」

 

「まあ、黒森峰が勝ち上がって来ると見て、先ず間違いないだろうね」

 

「…………」

 

カエサルの言葉に、杏がそう言い、みほが表情を硬くする。

 

「コレまでの試合で、黒森峰はティーガーやパンター、それにStG44やMP40、MG42と言った、ドイツ製の高性能兵器を多数駆使しています」

 

「そして、西住流の戦車道か………」

 

「聞けば聞くほど、勝てる気がしなくなるな………」

 

柚子と桃が事前情報を整理しながらそう言うと、磐渡が愚痴る。

 

「戦車道の伝統ある流派・西住流………そのような連中と戦う事が出来る………これぞ武門の誉れなり!」

 

逆に月人は闘争本能を溢れさせている。

 

「そう言えば………黒森峰と準決勝で戦うのって、何て学校なんですか?」

 

とそこで、聖子がそう疑問を呈した。

 

「あ~、確か………『カンプグルッペ学園』ってとこだったかな?」

 

杏が頭を捻りながらそう答える。

 

「『カンプグルッペ学園』?………」

 

「聞いた事無い名前の学園ね………」

 

典子が首を傾げ、みどり子がそう言い放つ。

 

「確か~、ウチと一緒で、今年から戦車道・歩兵道に参戦して来た学校だね~。けど、結構良い学校みたいだよ。黒森峰と同じドイツ兵器で固めて、自前の航空隊や艦隊も持ってるって」

 

「となると、意外と良い勝負を見せてくれるかも知れませんね」

 

杏がそう続けると、勇武がそんな感想を漏らす。

 

「…………」

 

そんな中………

 

弘樹は1人黙り込んでいる。

 

(如何にも妙な予感がする………黒森峰とカンプグルッペとの試合に………何かが起こる様な………)

 

その胸中には、黒森峰とカンプグルッペとの試合に一波乱が起きそうだと言う………

 

奇妙な予感がしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その予感が現実のものとなり………

 

それが戦車道・歩兵道の歴史始まって以来の大事件となる事を………

 

この時の弘樹は、知る由も無かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

準決勝を勝ち抜いた大洗。
その大洗を素直に祝福するダージリン。
こんな格好良いダージリン様もありですよね。

さて、そして大洗は次なる決勝戦に備える。
準決勝・第2試合で黒森峰と戦うのは、新参の『カンプグルッペ学園』
だが、その学校はトンでもない学校だった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第181話『逸見 エリカさんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第181話『逸見 エリカさんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の全国大会決勝リーグの準決勝にて………

 

大洗機甲部隊は、因縁の相手・グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を破り………

 

遂に、優勝の掛かった最終試合………

 

決勝戦へと勝ち上がった………

 

準決勝・第2試合にて、黒森峰機甲部隊が勝ち上がって来ると思い………

 

決戦に向けた準備が行われる大洗………

 

だが、その準決勝・第2試合………

 

黒森峰機甲部隊と相対する『カンプグルッペ学園』が………

 

戦車道・歩兵道の歴史始まって以来の事件を起こそうとは………

 

この時、誰も予想だにしていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰学園艦………

 

黒森峰機甲部隊の演習場にて………

 

「では、本日の訓練はコレまでとする!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

日課の訓練を終えたまほが、黒森峰機甲部隊の隊員達にそう言い、黒森峰機甲部隊の隊員達は姿勢を正して返事をする。

 

「明後日の試合で対峙するカンプグルッペ学園は、新参校ながらも準決勝まで勝ち進んで来ている学園だ。だが、諸君等が普段の訓練の成果を十分に発揮すれば勝てない相手では無い」

 

「我々黒森峰はその試合に勝ち、そして決勝戦も勝利し、今一度優勝の栄光を手にする。戦車道・歩兵道に黒森峰在りと知らしめるのだ!」

 

まほと都草が、隊員達に向かって士気を高める様に演説する。

 

「「「「「「「「「「ジーク・黒森峰!」」」」」」」」」」

 

隊員達は一斉にそう叫んで、敬礼する。

 

「では、明日は試合に備えて休養とする………解散!」

 

まほがそう纏めると、隊員達は命令通りに解散する。

 

「………そう言えば、決勝で当たるのって、大洗機甲部隊だよね?」

 

「うん、副隊長………じゃなかった、みほさんが居る」

 

とそこで、戦車隊員達の間で決勝戦で相手をする事になる大洗………みほに対する会話が発生する。

 

「まさかみほさんと戦う事になるなんて………」

 

「やっぱり凄いよね………大洗って、今年から参戦した殆ど素人の集団なんだよね? それで決勝戦まで勝ち上がって来るなんて………」

 

「フン、あの裏切り者め………黒森峰の栄光に泥を塗ったばかりか。敵対して来るだなんて」

 

「西住師範からは叩き潰せとの指示が来ているわ。徹底的にやってやりましょう」

 

その対応は賛否両論であり、みほの事を気に掛ける者達も居れば、裏切り者だと非難する者達も居る。

 

気に掛けている者達は主にみほと同学年だった者や非西住流の者達で、非難しているのは3年生や西住流の信奉者達である。

 

「…………」

 

そんな様子を遠巻きに見ているエリカ。

 

彼女はやはり、みほに対しては批判的な立場にある。

 

元々彼女は、まほと西住流に憧れて黒森峰へと進学して来たのだが、その憧れ故に、当時副隊長をしていた妹のみほの性格や戦術を受け入れる事が出来なかった。

 

そして、昨年の全国大会にて、結果的にみほが黒森峰の10連覇を阻む事になってしまい、みほが黒森峰から去った後、実力を認められて副隊長へと就任したが、当のみほは大洗の総隊長となって全国大会へ参戦。

 

黒森峰と西住流に泥を塗っておきながら、のうのうと戦車道を続け、剰え決勝まで勝ち上がって、黒森峰と対峙しようとしている。

 

更には、西住流の師範であり、黒森峰戦車道の教官である西住 しほに真っ向から反抗したと言う。

 

その全てがエリカを苛立たせていた。

 

最も、その苛立ちの中には、みほの才能への嫉妬も含まれているのだろうが………

 

(明日は非番か………)

 

そこでエリカは、明日が非番なのを回想すると、何かを思い立った様な顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

黒森峰学園艦………

 

総隊長執務室にて………

 

「…………」

 

皆に休養を命じておきながら、総隊長であるまほは、試合に向けての書類整理を含めた最後の調整を進めていた。

 

「ん? この件は確かエリカに任せたものだな………」

 

と、書類の中にエリカに一任していた物が有り、詳細を問おうと、まほは携帯を取り出すとエリカへコールする。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所に有るか、電源が入っていない為、掛かりません』

 

しかし、通話先から返って来たのは、無機質な合成音声だった。

 

「むっ? おかしいな………」

 

再度掛け直すが、やはりメッセージは同じである。

 

「むう、すぐに詳細が要る案件なのだが………仕方が無い。直接出向くか」

 

と、すぐにでも詳細が必要な為、止むを得ずまほは、直接エリカの元へと出向く事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学園・女子寮………

 

エリカの部屋の前………

 

呼び鈴を鳴らすまほだったが、反応は無い………

 

「エリカ? 居ないのか?」

 

再度呼び鈴を鳴らすと、ノックしながらそう問うまほだったが、やはり反応は返って来ない。

 

「留守か。弱ったな………」

 

連絡が取れず、部屋にも居ないと来て、まほは頭を捻る。

 

「あの~………機甲科の西住 まほさんですよね?」

 

「ん?」

 

そこで声を掛けられて、まほが振り返ると、黒森峰女学園普通科の生徒の姿が在った。

 

「逸見 エリカさんに何か御用ですか?」

 

「ああ。しかし、留守のようでな。携帯も繋がらなくて困っているんだ………」

 

「私、逸見さんが何処に居るか知ってますよ」

 

「何? 本当か?」

 

「ハイ。案内しますので付いて来て下さい」

 

「ありがとう。助かる」

 

普通科の生徒にそう言われて、まほは連れられるままに歩き出したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

当のエリカはと言うと………

 

「全く! 何でヘリポートと学園がこんなに離れてるのよっ!!」

 

悪態を吐きながら街中を歩いているエリカ。

 

彼女が居る場所………

 

それは、大洗学園艦の甲板都市だった。

 

何故、彼女が仇敵とも言える大洗の学園艦に居るのか?

 

エリカはかなり沸点が低く、気に入らない者には噛み付く攻撃的な性格である。

 

また、嫌味で執念深いところもある。

 

何時ぞや戦車喫茶エクレールで見かけたみほにも噛み付いたが、弘樹や迫信の手により返り討ちにあったどころか、結果的に都草に頭を下げさせると言う愚を犯してしまった。

 

当然、エリカはずっと大洗を目の仇にしており、とうとう決勝戦と言う舞台にまで上がって来た大洗………

 

引いてはみほに、今度こそ恨みの丈をぶつけてやりたいと思っており、その気持ちを抑え切れずに、こうして大洗学園艦に乗り込んで来たのである。

 

が………

 

態々ヘリまで使って来たのだが、当然大洗側に知られるワケには行かないので、学園の敷地内に降りるワケには行かず、一般のヘリポートへと着陸したのだが………

 

そのヘリポートから大洗女子学園までは結構離れており、また慣れない甲板都市での地理で、完全に迷っていたのである。

 

「ハアァ~~~、よりによって携帯も忘れるし………」

 

運が悪い事に、携帯を充電していたのを、息巻いて出かけようとしたので忘れてしまっていた。

 

「コレも元副隊長のせいよ!」

 

そんなエリカの苛立ちは、逆恨みとしてみほへと向かう。

 

と………

 

「! イダッ! ちょっと! 何処見て歩いてんのよっ!!」

 

苛立ちで前を良く見ていなかったエリカは、通行人とぶつかり、思わず声を荒げてしまう。

 

「ああ~ん?」

 

「姉ちゃんよぉ? ぶつかってきたのはソッチじゃねえか」

 

「そりゃあ無いんじゃないのぉ?」

 

(あ………)

 

だが、ぶつかった相手からの台詞で、その連中がチンピラである事に気づき、内心でしまったと冷や汗を掻く。

 

「おっ? 良く見りゃ、良い女じゃねえか」

 

「慰謝料代わりにちょいと付き合って貰おうか」

 

「ホラ、来い」

 

案の定、チンピラ達はエリカに絡み出し、内1人がエリカの左腕を掴んだ。

 

「! 触らないでっ!!」

 

途端に攻撃的なエリカは、反射的に腕を掴んだチンピラの頬に、空いていた右手で平手打ちを喰らわせた!

 

「イデッ!………てんめぇー! 女の癖して、生意気なっ!!」

 

平手打ちを喰らった頬に紅葉を浮かべながら、チンピラ3が怒声と共に、自分の両手でエリカの両腕を掴んだ!

 

「! 放………!? んぐっ!?」

 

「へへへへ………」

 

放せと言おうとしたところで、チンピラ2が背後から抱き付く様に右腕を腹に回し、左手でエリカの口を塞いで拘束する。

 

「オイ、そこの路地だ」

 

そしてチンピラ1が、近くに在った狭い路地を指してそう言うと、エリカは拘束されたまま、そこへ運ばれる。

 

「むぐーっ! むぐーっ!(放しなさい! 何する気よっ!!)」

 

口を塞がれている為、声にならない声を挙げながら、エリカは拘束を解こうと暴れる。

 

が、幾ら戦車道をしているとは言え、所詮は17歳の少女。

 

チンピラ2人の拘束から逃れる術は無かった………

 

「覚悟しろ。俺達に逆らえない様にしてやるぜ」

 

「女に生まれた事を後悔するんだな、姉ちゃん」

 

チンピラ3がそう言ったかと思うと、自由だったチンピラ1が、徐にエリカの制服の胸元を掴み………

 

一気に引き裂いた!

 

「!?!?」

 

ブラジャーと白い肌が露わになり、エリカの顔が朱に染まる。

 

「お~っ! 結構デケェぞ!」

 

「最近の女子高生は発育が良くてけしからんぜ」

 

「こりゃたっぷりと楽しめそうだな、へへへ」

 

下衆な笑みを浮かべて、舌なめずりするチンピラ達。

 

(い、嫌ぁっ! だ、誰か! 助けてっ!!)

 

その様子を見たエリカの顔が恐怖に引き攣り、目尻に涙が浮かぶ。

 

と、その瞬間!!

 

突然エリカの身体が引っ張られた!!

 

「えっ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

驚くエリカとチンピラ達。

 

エリカを引っ張った人物、それは………

 

「…………」

 

道着姿の拳龍だった。

 

偶々日課の走り込みをしていて通り掛かり、この場に遭遇した様である。

 

「あ、アンタは!?」

 

「大丈夫?」

 

驚くエリカを背に庇う様にしながら、拳龍は優しげな声でそう問う。

 

「何だ、テメェッ!?」

 

「邪魔しようってのか!?」

 

「如何なるか分かってんだろうな?」

 

チンピラ達は拳龍を取り囲む。

 

すると拳龍は………

 

「…………」

 

何と、抵抗するワケではなく、防御の姿勢を執った。

 

「!? ちょっとっ!?」

 

「ああ?」

 

「何だ?」

 

「馬鹿かコイツ!」

 

エリカが驚愕の声を挙げた瞬間に、チンピラ達は拳龍を袋叩きにし始めた!

 

防御の姿勢を執り続ける拳龍は只々殴られ、蹴られるばかりである。

 

「何やってんのよ! アンタ確か空手やってんでしょっ! 殴り返しなさいよっ!!」

 

「…………」

 

そう叫ぶエリカだったが、拳龍はやはり防御の姿勢を執るだけだった。

 

「ハハハッ! ホントの馬鹿だぜ、コイツは!!」

 

「オラオラ、サンドバッグだ!」

 

「悔しかったら殴り返してみろってんだっ!!」

 

一切反撃する素振りを見せない拳龍に、チンピラ達は気を良くして更に暴行をエスカレートさせて行く。

 

だが、やがて………

 

チンピラ達は異変に気づき始める。

 

「オ、オイ………何でコイツ平然としてやがんだっ!?」

 

「ゼエ、ゼエ………」

 

「殴ってるコッチの方がイテェってのは如何言う事だ!?」

 

そう………

 

既に100発以上もパンチやキックを喰らっているにも関わらず………

 

「………平気だよ」

 

拳龍は一切ダメージを受けていないのである!

 

それどころか、暴行を加えていたチンピラ達の手足の方が痛み出していた。

 

「こ、この野郎!」

 

すると、その瞬間!!

 

チンピラ1が、怒声と共に折り畳み式ナイフを取り出す!

 

「!? 刃物っ!?」

 

「もう許さねえっ! ブッ殺してやる!!」

 

興奮して頭に血が上ったのか、本気で拳龍をナイフで刺そうとするチンピラ1。

 

と、そこで!!

 

「お止めなさいっ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

凛とした声が響いて来て、エリカと拳龍、チンピラ達はその声がした方向を見やる。

 

「男が3人掛かりで無抵抗な1人を甚振るとは………恥を知りなさいっ!!」

 

それは、買い物帰りと思わしき、湯江だった。

 

「! 湯江ちゃん!」

 

「何だぁ、ガキィッ!!」

 

「俺達に盾突こうってのかっ!?」

 

「ガキだからって容赦しねえぞっ!!」

 

拳龍が驚きに声を挙げると、苛立っていたチンピラ達は、標的を湯江に変えて迫る。

 

「………口で言っても分からない様ですね」

 

すると湯江は、襷掛けをして袖を纏めると、買い物袋の中に入っていた伸縮式の物干し竿を取り出し、それを伸ばして、薙刀の様に構えた。

 

「さあ、何処からでも掛かって来なさいっ!!」

 

「ああっ!?」

 

「舐めてんのかっ!?」

 

「ガキの分際でぇっ!!」

 

その様子に苛立ちが最高潮に達したチンピラ達は、残る2人もナイフを取り出して、湯江に襲い掛かった!

 

………その瞬間!!

 

「ハアァーッ!!」

 

湯江は気合の叫びと共に物干し竿を一振り!

 

その一振りだけで、チンピラ達のナイフが全て弾き飛ばされ、ブロック塀に纏めて突き刺さった!

 

「「「………へっ?」」」

 

その光景に、チンピラ達が間抜けた顔で固まると………

 

「ハイッ!!」

 

「! ぐへっ!?」

 

湯江は先ずチンピラ1の顎に切り上げを食らわせて気絶させる。

 

「トオッ!!」

 

「ぐふっ!?」

 

続いて、チンピラ2の鳩尾を突きで突いて気絶させ………

 

「ハイイッ!!」

 

「!? はうわぁっ!?」

 

最後にはチンピラ3の股間を強打し、悶絶させた!

 

この間、僅か5秒!!

 

「………口程にもありませんでしたね」

 

物干し竿を立てる様に地面に付けて、倒れているチンピラ達を見下ろしながらそう言い放つ湯江。

 

「嘘………」

 

エリカも、信じられないモノを見る目で湯江を見ていた。

 

「杷木さん、大丈夫ですか?」

 

「うん、平気」

 

「良かった………アラ? そちらの方は?」

 

拳龍に声を掛けた湯江が、その背後のエリカに気づく。

 

「あ、わ、私は………」

 

「………取り敢えず、御隠しになった方が宜しいかと思いますが」

 

「えっ?………!?」

 

湯江にそう指摘されて、エリカは自分の身体を見て、制服が破られて、下着丸出し状態である事を思い出す。

 

「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

途端に、悲鳴を挙げてその場に蹲るエリカ。

 

すると、そのエリカの身体に何かが掛けられた。

 

「!?」

 

「使って………」

 

拳龍の胴着の上着だった。

 

「…………」

 

思わず拳龍の事を見上げるエリカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「さっ、きりきり歩け」

 

「「「最近の幼女つえぇ………」」」

 

通報を受けて駆け付けた警察によって、チンピラは連行されて行った。

 

「いや~、御手柄だったねぇ、湯江ちゃん」

 

「いえ、偶々居合わせただけですから」

 

一方、当の湯江は、顔見知りらしき警官と楽しげに談笑を交えて簡易な事情聴取を終えたところである。

 

「それじゃあ、えっと、逸見 エリカさんだっけ? 申し訳無いけど、署の方まで御同行願えますか?」

 

とそこで、警官はエリカの方へと向き直ったかと思うとそう言う。

 

「えっ!?」

 

「いや、一応被害者と言う事になりますので、一応詳しい事情聴取をさせていただきませんと。場合によっては先生か保護者の方に来て頂く様になるかも知れませんが………」

 

「!?」

 

そう言われたエリカが、明らかに動揺した様子を見せる。

 

このままでは、エリカが無断で大洗に来ていた事が黒森峰に知られてしまう。

 

大事なこの時期に個人的な感情で行動した挙句、警察沙汰になったと知られれば、黒森峰内のエリカの立場は無い。

 

下手をすれば、機甲科から追い出されてしまう可能性もある。

 

「そ、それは………」

 

動揺したまま、如何したら良いのかと視線を泳がせるエリカ。

 

身体も小刻みに震えている。

 

すると………

 

「………巡査長さん。逸見さんですが、私の家に連れて行きたいのですが」

 

「!?」

 

何と湯江が、警官の事を見ながらそう言って来た。

 

「えっ? いや、それは………」

 

「如何やら何か事情を抱えている様です。お願い致します。詳しい話は後で私が警察署の方まで出向いてご説明致しますので」

 

戸惑う警官に、湯江は深々と頭を下げて更にお願いする。

 

「う~~ん………普通は駄目なんだけど………他ならぬ湯江ちゃんのお願いだからな。署長も納得してくれるだろ。分かった、良いよ」

 

「! ありがとうございます!」

 

信頼の厚い湯江からの頼みとあり、警官は許可し、湯江は再び深々と頭を下げてお礼を言う。

 

「じゃあ、パトカーに乗りなさい。家まで送って行くよ」

 

「重ね重ね、ありがとうございます」

 

そして、湯江とエリカ、それに拳龍はパトカーで舩坂家まで送られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舩坂家・居間………

 

「杷木さん。お兄様の服、サイズは大丈夫ですか」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

ノーダメージだったが、チンピラ達にボコボコにされてた為に汚れていた拳龍の胴着を洗濯、干し終えた湯江が戻って来ると、拳龍がそう返す。

 

「ゴメンナサイ、逸見さん。逸見さんに会う服は置いてなくて………さっきお兄様に連絡して、女子学園の方の服を貸していただける様にお願いしたので、帰って来るまで待っていて下さい」

 

「…………」

 

一方、着せられる服が無かった為、毛布に包まっているエリカは、不機嫌そうな様子で黙り込んでいる。

 

「………一体如何言う積り?」

 

とそこで、不意にエリカは、湯江に向かってそう問い質した。

 

「? 何がですか?」

 

「惚けるんじゃないわよ! 私が黒森峰機甲部隊の人間だって知ってるんでしょう! 目的は一体何!? 言っとくけど、私は一切情報は漏らさないわよ!!」

 

「別に目的だなんて………」

 

「嘘よ! そうでなきゃ私を助ける理由が無いわ!」

 

「えっと………エリカちゃん、落ち着いて」

 

捲し立てる様に叫ぶエリカを落ち着かせようと、拳龍が声を掛けるが………

 

「気安く呼ばないでよ! 大体アンタ! 何でさっき反撃しなかったの! アンタ空手家でしょ! あんな連中、簡単に片づけられるでしょう!」

 

エリカは矛先を拳龍へと向ける。

 

もう殆どヒステリーである。

 

「………僕、暴力とか苦手だし。それに、武術は無闇に素人の人に振るって良いモノじゃないから」

 

「ハンッ! 流石元副隊長の部隊の人間ね! 甘っちょろい事を!!」

 

「それは甘さでは無く、優しさですよ。逸見さん」

 

とそこで、吐き捨てる様に言ったエリカに、湯江がそう言って来た。

 

その顔には僅かに怒りの様子が見て取れる。

 

「先程、元副隊長と仰っていましたが………それはみほさんの事ですね」

 

「ええ、そうよ。あの子が余計な事をしたせいで、黒森峰は10連覇を………」

 

「本当にそう思っているんですか?」

 

「ハッ? 何を………」

 

「如何なのですか?」

 

「!? ひっ!?」

 

口調こそ穏やかで、表情にもそれ程に怒りの様子は見えないが、湯江は凄まじい迫力を出しながらそう問い質す。

 

(………やっぱり舩坂くんの妹なだけはあるね)

 

そんな湯江の姿を見て、拳龍はそんな感想を抱く。

 

「………ッ!」

 

その迫力に気圧される様に黙り込んでいたエリカだったが………

 

「………あの子が勝手に黒森峰から居なくなって、残された隊長や私達が皆を纏めるのにどんな苦労したか………」

 

やがて吐露するかの様に語り出す。

 

「なのにあの子はのうのうとまた戦車道を始めたばかりか、剰え全国大会に出場して来て、私達の敵になったのよ! 私達や隊長がどんな気持ちで居たか!! 1人で傷ついている積りで!!」

 

「…………」

 

「仮にも隊長の妹で西住流のなのよ! それなのに!!」

 

エリカの言葉を黙って聞き入る湯江。

 

と、その時………

 

「湯江、今帰ったぞ」

 

そう言う台詞と共に、居間に通じる戸が開けられ、弘樹が姿を見せた。

 

「! 舩坂 弘樹!」

 

「逸見 エリカ、だったな………本当に来ていたとはな」

 

エリカは弘樹の事を睨みつけるが、弘樹は軽く受け流している。

 

すると………

 

「エリ………逸見さん」

 

そう言う台詞と共に、紙袋を携えたみほが、弘樹の横から姿を見せた!

 

「!? 西住 みほ! 何でっ!?」

 

「湯江から連絡を受けた時、偶々傍に居合わせてな。是非会いたいと言うのでな」

 

驚くエリカに、弘樹がそう説明する。

 

「! アンタ! よくも私の前に顔を出せたわね!」

 

途端にエリカは、みほへと噛み付く。

 

「逸見さん、それよりも先ずはコレを………」

 

しかしみほは、エリカの傍へと寄って座ると、紙袋から『ある物』を取り出した!

 

「! それはっ!?」

 

「私の黒森峰時代の制服だよ。捨てられなくて取って置いたんだけど、良かったら………」

 

そう言って、みほはエリカに向かって黒森峰時代の制服を差し出すが………

 

「! ふざけるんじゃないわよっ!!」

 

エリカは即座に、みほの手を払い除ける。

 

「あ!………」

 

「施しの積りっ!? 生憎、アンタに同情されるほど落ちぶれてなんか………!? ブッ!?」

 

みほが声を挙げ、エリカがまた喚き始めた瞬間………

 

湯江がエリカの頬を思いっ切り平手で打った!!

 

「な、何すん………」

 

「お黙りなさいっ!!」

 

「ヒイッ!?」

 

怒鳴り返そうとしたエリカだったが、湯江に一喝される。

 

「人の好意は素直に受け取ったら如何なのですか? 仮にも貴方は天下の戦車道名門・黒森峰女学園の機甲部隊員………それが礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育てる戦車道を嗜む者の態度ですか!!」

 

「う、あ………」

 

「そもそも先程貴方はみほさんに隊長さんの妹だからだの、西住流だからだのと言っていましたが、それは貴方が勝手な理想像を押し付けてるだけではないのですか!? 1度でもみほさんの事を個人として見た事があるのですか!?」

 

「うう………(な、何よ、この子の迫力………まるで隊長………いえ、西住師範並みだわ!)

 

湯江に発する迫力が、西住 しほ並みである事で、エリカは何も言い返す事が出来ず、只黙っているばかりである。

 

「凄いね………」

 

「あんな風になった湯江を見るのは久しぶりだ………」

 

その湯江の様子に、拳龍と弘樹もそう漏らす。

 

「大体副隊長とは言え、1人が抜けたぐらいで再度隊を纏めるのに苦労した!? それが鉄の掟と鋼の心の西住流を主体とする黒森峰機甲部隊の隊員が言う台詞ですか!? 甘ったれるのもいい加減にしなさいっ!!」

 

「!? ヒイイィッ!!」

 

とうとうエリカは涙目になり始める。

 

小3に説教されて涙目になる高2………

 

傍から見るとかなりシュールな光景である。

 

「湯江ちゃん。もう良いよ」

 

しかし、それを止めたのは他ならぬみほだった。

 

「! みほさん!………申し訳ありません。私とした事が、お見苦しいところを………」

 

それで我に返った湯江は、エリカの傍から離れる。

 

「…………」

 

みほは払い除けられた黒森峰時代の制服を拾うと、再びエリカの前に差し出す。

 

「! アンタ………」

 

「大洗(ここ)に来てから色々とあったからね。こんな事を言ったら、また怒られるかも知れないけど………今なら逸見さんが言ってた事も分かるよ。私が無責任に逃げたのは事実だから」

 

「!!」

 

みほのその言葉に、エリカは目を見開く。

 

「けど、言葉や言い訳なんかじゃ逸見さんは納得しないよね………だから、話は戦車道で着けようと思うの」

 

「えっ!?」

 

「戦車道から逃げた責任は、戦車道で取る………それが私の責任の取り方だし、逸見さんも納得するでしょう?」

 

凛とした表情で、エリカに向かってそう言い放つみほ。

 

その顔には一切の迷いは無い。

 

(な、何よ、コイツ!? コレがホントにあのオドオドしてた副隊長なの!?)

 

そんなみほの姿を、エリカは信じられないと言う表情で見やる。

 

「………取り敢えずは、これを着て。ね?」

 

「…………」

 

そして呆然としたまま、エリカはみほから、黒森峰時代の制服を受け取るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

「良かった。丁度良いみたいだね」

 

みほの黒森峰時代の制服に着替えたエリカを見て、みほがそう言う。

 

(………若干胸が余る………クソーッ!!)

 

だがエリカは、内心で敗北感に打ちひしがれていた。

 

とそこで、みほの携帯が鳴る。

 

「あ、久ちゃんからだ」

 

携帯の画面を見て、相手が久美である事を確認するみほ。

 

「ハアッ!? ちょっと待ちなさいよ! 何で久美からアンタに電話が掛かって来るのよ!?」

 

黒森峰の久美から、大洗へ移ったみほへ電話が掛かって来た事に、エリカは疑問の声を挙げる。

 

「えっ? 久ちゃん、良く連絡くれるよ。今日の試合は凄かったとか、新しいガンプラが完成したとか」

 

「アイツは~~~~~~っ!!」

 

与り知らぬ幼馴染の行動に、エリカは思わず声を挙げる。

 

「もしもし?」

 

『おお! みほ殿! すまないでありますが、ひょっとしてそちらにエリカ殿はお邪魔していないでありましょうか!?』

 

そんなエリカの姿を尻目に、みほが電話に出ると、久美が何やら切羽詰った様子で、挨拶もそこそこにそう尋ねて来る。

 

「えっ? うん、居るけど………今代わるね」

 

久美の様子に違和感を感じながらも、みほは携帯をエリカに差し出す。

 

「ちょっと、久美! アンタ!………」

 

『エリカ殿! 今すぐに黒森峰に帰って来るであります!!』

 

久美を怒鳴り付けようとしたエリカだったが、それよりも先に、久美がそう捲し立てて来た。

 

「!? 何かあったの!?」

 

その久美の様子に、何か有った事を察するエリカ。

 

すると、久美の口から………

 

信じられない言葉が飛び出した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まほ殿が………西住総隊長が行方不明なのであります!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回は、劇場版以降、ネット上でカルト的に人気が上がって居る(笑)、逸見 エリカにスポットを当てて見ました。
ぶっちゃけ、私はTV放送時にはエリカにはマイナス感情しか抱いて居ませんでしたね。
今も若干有りますが………
今はメンドクサイが動かすと面白いキャラだと思っています(笑)

で、そのエリカがみほへの鬱憤をぶちまけるべく大洗を訪問。
しかし、危ない目にあったばかりか、幼女には引っ叩かれて説教され、そのみほからは助けられる始末………
やり過ぎましたかね?(爆)

だが、そんな中で飛び込んで来たまほ行方不明の報告。
一体如何言う事なのか?
次回から物語が加速します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第182話『求道者の精神です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第182話『求道者の精神です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道準決勝の第2試合………

 

カンプグルッペ学園の試合を翌日に控えた黒森峰機甲部隊は………

 

明日に備えて休養日を執る………

 

その休養日に………

 

みほに対して複雑な感情を持つエリカが、決勝戦まで上がって来た大洗の事が気に食わず、一言物申しに向かったのだが………

 

街中でチンピラに絡まれ、危うく女性としての危機に陥ってしまいそうになる………

 

そんなエリカを助けたのは、拳龍と湯江だった。

 

その後、湯江に舩坂家に連れられ、みほとも思わぬ再会を果たすエリカ………

 

その際に感情を爆発させたエリカだったが、その姿に腹の立った湯江から説教を喰らったばかりか、肝心のみほはそれを正面から受け切る………

 

と、その時………

 

みほへと掛かって来た電話の相手である久美から、驚くべき話が齎された………

 

まほが………

 

行方不明になったと言う………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

舩坂家・居間………

 

「!? 隊長が行方不明ですってっ!?」

 

「えっ!?」

 

「「「!?」」」

 

久美からの話を聞いたエリカは思わずそう叫んでしまい、みほや弘樹達も話の内容を知る事となる。

 

『兎も角! すぐに戻って来て欲しいで有ります!!』

 

「わ、分かったわ! すぐに戻るわっ!!」

 

エリカは慌てて携帯を切ると立ち上がる。

 

「エリ………逸見さん! 今、お姉ちゃんが………」

 

すぐさまみほが、事の詳細を問い質そうとするが………

 

「ホラ、返すわよっ!!」

 

「!? わわっ!?」

 

エリカはみほの携帯を投げ返し、みほがそれをお手玉している間に立ち上がって、すぐさま玄関へと向かった。

 

「逸見さん! 待………」

 

「コレは黒森峰の問題よ! アンタには関係無いわっ!!」

 

玄関までエリカを追い、尚も問い質そうとしたみほだったが、エリカはそう吐き捨てる様に言うと、勢い良く戸を開け、走り去って行った!

 

「逸………」

 

「コレは只事では無いよ………」

 

「すぐに会長閣下に報告だ。あの方なら何かを掴んでいるかも知れない」

 

呆然と立ち尽くすみほの後ろで、拳龍と弘樹がそう言い合い、迫信に相談しようと言う話になる。

 

(………お姉ちゃん)

 

「みほくん。今は兎に角、会長閣下への報告へ向かおう。それできっと何か分かる筈だ」

 

今は疎遠となったとは言え、彼女にとって只1人の姉であるまほの身を案じるみほに、弘樹はそう声を掛けて、肩に手を置いた。

 

「………うん」

 

「湯江、スマンがまた出かけるぞ」

 

「ハイ、御気を付けて」

 

やや力無く立ち上がったみほを連れて、弘樹と拳龍は、湯江に見送られて舩坂家を後にしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして………

 

黒森峰女学園・戦車格納庫内………

 

「久美!!」

 

「エリカ殿!!」

 

「逸見くん。いやはや大変な事になったよ………」

 

漸く戻って来たエリカが格納庫内に飛び込んで来ると、久美と都草が出迎えた。

 

他の機甲科の隊員達も集合している。

 

「梶歩兵隊長、総隊長は!?」

 

「落ち着きたまえ………2、3時間程前に、まほが姿を消した。最後に目撃されたのは女子寮だったそうだが、その後の足取りは一切不明。携帯も繋がらない状態だ」

 

エリカが都草に詰め寄ると、都草はエリカを落ち着かせながらそう言う。

 

「今、男子校の歩兵隊員総出で捜索しているが、まだ発見出来ていない」

 

冷静にそう言う都草だったが、その顔には僅かに焦りの様子が見て取れる。

 

「まほ殿はエリカ殿に確認事項があって会いに行ったそうであります。エリカ殿は何か知らないでありますか?」

 

「わ、私も何も………」

 

久美がそう言うと、エリカは狼狽しながらそう返す。

 

(そんな………私が携帯を忘れて勝手にいなくなったせいで、総隊長が………)

 

自分のせいでまほが行方不明になったと感じ、自責の念に苛まれる。

 

「副隊長! 如何するんですかっ!?」

 

「明日はカンプグルッペ学園との試合なんですよ!!」

 

「総隊長が居ないんじゃ………」

 

集まっていた機甲科の隊員達からも動揺の声が挙がる。

 

黒森峰機甲部隊は、西住流の後継者たるまほの下、徹底的に統率された重戦車を中心とする言わば火力重視の正面戦闘を得意としている。

 

だがそれは、まほが要として黒森峰の全てを統率していると言える状態であり、そのまほを失った結果、綻びが生じ始めていた。

 

「お、落ち着きなさい!」

 

副隊長として皆を落ち着かせようとするエリカだったが、自身も動揺している為、その声が届く事は無い………

 

と、その時!!

 

「梶隊長ーっ!!」

 

そう言う台詞と共に、黒森峰歩兵隊員が1人、格納庫内に慌てた様子で入って来た!

 

「! 如何したっ!?」

 

「い、今、コチラに戻って来たら………校門の前に、コレが………」

 

都草が問い質すと、黒森峰歩兵隊員は『ある物』を取り出しながらそう報告する。

 

「!? それはっ!?」

 

「! 総隊長の携帯っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

久美とエリカ、機甲科の隊員達は驚きを露わにする。

 

黒森峰歩兵隊員が取り出したのは、まほの携帯だった。

 

………そこで!!

 

突如、まほの携帯に着信が入る。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

突然の着信に、エリカ達は一瞬身構える。

 

「………貸して!」

 

「あっ!?」

 

すると、エリカが黒森峰歩兵隊の手から奪い取る様にまほの携帯を手に取る。

 

「…………」

 

エリカが画面を確認すると、『非通知』と言う文字が浮かんでいる。

 

「………もしもし」

 

意を決してスピーカーフォンを起動させ、皆にも通話内容に聞こえる様にすると、電話に出るエリカ。

 

『………黒森峰機甲部隊の方ですか?』

 

電話の先から聞こえて来たのは、ボイスチェンジャーを使っていると思われる合成音声だった。

 

「副隊長の逸見 エリカよ………」

 

『ほう、副隊長さんですか………それは好都合』

 

「アンタ一体誰よ。如何して総隊長の携帯に………」

 

『西住 まほさんは我々が預かって居ます』

 

「!? なっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

まほを預かっている………

 

電話の先の相手から齎された驚愕の言葉に、エリカと黒森峰の一同は驚愕する。

 

「た、性質の悪い悪戯は止めなさい! 何の証拠が………」

 

『この携帯電話に電話を掛けている事が何よりの証拠ではありませんか?』

 

「ぐっ!………」

 

そう言われてエリカは言葉に詰まる。

 

「………要求は何?」

 

『話が早くて助かります………次の準決勝の試合を棄権して下さい』

 

「!? 何ですってっ!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

黒森峰の一同に動揺が走る。

 

「そんなこと出来るわけないでしょう!」

 

『しないと言うなら構いませんよ。但し、その場合は西住 まほさんの安全は保障しかねますね………』

 

「!! アンタ! カンプグルッペ学園の奴ね!!」

 

電話の相手に向かってそう言い放つエリカ。

 

この要求を飲んだ場合、1番得をするのは当然カンプグルッペ学園である。

 

相手はカンプグルッペ学園の人間………

 

そう思うのは当然だった。

 

『さて? 何の事でしょうかねえ?』

 

そんなエリカを嘲笑うかの様に、白々しく惚けるフリをする電話の相手。

 

「惚けるんじゃないわよ!!」

 

『まあ、取り敢えず、棄権するのかしないのかだけお聞かせ願えますかね?』

 

「………ふざけるんじゃないわよ」

 

相変わらず惚けた態度を続けながら電話の相手がそう問うと、エリカは身体を小刻みに震わせながら絞り出す様にそう言い放つ。

 

「! 逸見くん! 待ちたまえ!!」

 

「ふざけるんじゃないわよ! 棄権ですって!? 誰がするもんですか!! 私達は黒森峰よ! 戦車道・歩兵道の頂点に立つ王者よ!! 戦わずして負けを認める事なんて絶対に無いわっ!!」

 

都草がハッとして止めようとしたが、エリカは感情を爆発させてそう言い放ってしまう。

 

『………つまり、棄権する気は無いと?』

 

「そうよ! 西住流に逃げるなんて言葉は無いわっ!!」

 

「エ、エリカ殿………」

 

久美が言葉を失う。

 

確かに、戦車道・歩兵道の頂点に立つ黒森峰に於いて、そして西住流から教えを受ける者達として、棄権して不戦敗などと認められるものではない。

 

『………フハハハハハハハハッ!!』

 

すると、突然!

 

電話の相手は大声で笑い始めた!

 

「! 何がおかしいよのっ!!」

 

『いやあ、コレは失敬。実は先程、西住 しほさんにもお電話を差し上げたのですが、貴方と同じ様な事を言っていたものですから』

 

「! 西住師範にもっ!?」

 

しほにも脅迫の電話を掛けていたと言う事に、エリカは驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻前………

 

西住家にて………

 

『では、要求を飲む積りは無いと?』

 

「当然です。その様な要求が受け入れられるワケがありません」

 

まほを誘拐したと言う相手に向かって、しほは毅然とした態度でそう言い放つ。

 

『宜しいのですか? その場合はお嬢さんの安全は保障しかねると………』

 

「その前に貴方達を捕まえてやります」

 

まほに危害を加えれると言っても、しほは毅然とした態度を崩さない。

 

「西住流に逃げると言う道はありません。貴方達の姑息な手など正面から粉砕してあげます。西住の名に掛けましてね」

 

『………素晴らしい』

 

「はっ?」

 

突然称賛の言葉を送って来た誘拐犯に、しほは初めて困惑した様子を見せる。

 

『実の娘より西住流の名の方が大事だと言う貴方の態度………正に流派の家元の鏡ですな』

 

「何を………」

 

『それが聞けて大変満足です………また後程にご連絡を差し上げます。もしその時に気が変わっていましたらお教え下さい。では………」

 

「! 待ちな………」

 

誘拐犯は一方的にそう言うと、電話を切った。

 

「…………」

 

「奥様! 宜しいのですか!?」

 

しほの方も電話を切ると、傍に控えていた菊代が、慌てた様子でそう問い質して来る。

 

「………戦わずして負けを認めるなど、西住流の名折れです。要求は絶対に受け入れません」

 

「しかし! まほお嬢様が………」

 

「まほは西住流の後継者です。あの子も西住の恥となる事は望みません」

 

「奥様っ!!………!?」

 

あんまりな物言いに、菊代は思わずしほに食って掛かろうとしたが、そこでしほの手が小刻みに震えている事に気づく。

 

「奥様………」

 

(まほ………)

 

しほは今、必死に耐えていたのである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰女学園・戦車格納庫内………

 

『………と言う事でしたね。流石は勝利を貴ぶ西住流の教え子の方。どちらも総隊長さんより勝利が大切と言う事ですか。いや感服、感服』

 

「! アンタッ!!」

 

芝居が掛かっている上に、完全に舐めた態度を執る誘拐犯に、エリカはまたも怒りを爆発させる。

 

『では、その勝利への執着心に敬意を表しまして、良い提案を致しましょう』

 

「良い提案ですってっ!? 何様よ、アンタッ!!」

 

『黒森峰が次の試合で勝てば、西住 まほさんを無事に返す事にしましょう』

 

「そんな約束を信じろっての!?」

 

『信じるしかない筈ですよ? 今の貴方達には?』

 

「! ぐうっ!!………」

 

痛い所を衝かれ、エリカはまたも絶句する。

 

『では、黒森峰の奮闘に期待させて頂きます』

 

「ちょっ! 待ちなさいっ!!」

 

そう言うエリカだったが、電話を無情にも切られる。

 

「クウッ!………」

 

「エリカ殿………」

 

「逸見くん。如何するかね?」

 

苦い表情を浮かべるエリカに、久美と都草がそう言って来る。

 

「副隊長! コレはもう事件ですよ!!」

 

「警察に届けましょう!」

 

会話を聞いていた黒森峰機甲科の面々からそう声が挙がる。

 

「駄目よ! 警察沙汰になったら試合に影響するかも知れないでしょ!」

 

「試合って………」

 

「総隊長は如何なるんですかっ!?」

 

「総隊長だって西住の名に泥を塗る真似はしない筈よ! 明日の試合に勝てばそれで済む話よ! 兎に角、全員明日の試合に備えるのよ!!」

 

しかし、エリカは黒森峰機甲部隊の戦車隊副隊長として、飽く迄試合の勝利を考える。

 

「………試合、試合って………副隊長は総隊長の命より、試合の勝ち負けの方が大事なんですか!?」

 

「!?」

 

だが、機甲科隊員からそんな声が挙がると、エリカは動揺する。

 

「………失礼します」

 

そして、その隊員はその場から去ろうとする。

 

「! 何処行くのよ!」

 

「もう私………付いて行けません!」

 

エリカが呼び止めるが、隊員はそう叫んで走り去った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを皮切りに、他の隊員達もゾロゾロと立ち去り始める者が出始める。

 

「ちょっ!? ま、待ちなさいっ!!」

 

エリカが呼び止めるが、去り出した隊員達は振り向きもしなかった。

 

かつて、西 絹代は大洗の事をみほさえ居なければ烏合の衆であると評した。

 

皮肉な事に、彼女の姉であるまほが率いている黒森峰機甲科も、実は同じ様な状態だった。

 

黒森峰の統率、西住流の心得である鉄の掟と鋼の心は、実質まほ1人のお蔭で浸透していたのである。

 

「…………」

 

「エ、エリカ殿………」

 

「逸見くん。皆は単に動揺しているだけだ。ココは副隊長である君が………」

 

その光景に、エリカは俯いて立ち尽くし、久美はオロオロとし、都草はフォローに入るが………

 

「………行くわよ!」

 

突然エリカは顔を上げると、そう言い放つ。

 

「ゲロッ!?」

 

「行くって………何処へだい?」

 

「決まってるわ! カンプグルッペ学園よ!!」

 

驚く久美と都草に、エリカはそう言い放つ。

 

「ええっ!?」

 

「待ちたまえ、逸見くん! まだこの事件にカンプグルッペ学園が関わっているとは………」

 

「!!………」

 

久美が狼狽し、都草が早まるなと止めようとしたが、エリカは即座に駆け出した!

 

「逸見くん! クッ! 毛路山くん! 付いて来てくれっ!!」

 

「りょ、了解でありますっ!!」

 

都草は苦い顔をしながらも、久美を引き連れてエリカを追ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗男子校・作戦会議室では………

 

「ふむ、分かった………いや、コチラこそすまなかったな………そう言って貰えると助かる………では、友よ。近い内にまた」

 

何処かへと電話を掛けていたゾルダートが、そう言って電話を切る。

 

弘樹達から、黒森峰の総隊長であるまほが誘拐されたらしいと言う報告を受けた迫信は、事が事だけに機甲部隊員全員に召集を掛け、対応の協議を開始。

 

その中で、黒森峰に友人を持つゾルダートが、その友人に連絡を取り、事の詳細を問うていたのである。

 

「ゾルダートさん………」

 

「残念ながら………西住 まほが行方不明になったのは本当の様だ。しかも如何やら誘拐らしい」

 

「!!………」

 

「みほくん!」

 

ゾルダートからそう聞かされたみほの気が一瞬遠くなり、倒れそうになったのを弘樹が支える。

 

「だ、大丈夫だよ、弘樹くん………」

 

だがすぐにみほは気を取り直し、立ち上がる。

 

「ゆ、誘拐だなんて……事件だよ! 事件!!」

 

「たたた、大変ですっ!!」

 

「2人共、落ちついて下さい。私達が騒いでも仕方ありませんよ」

 

誘拐と言う言葉を聞いて、沙織と優花里が動揺を露わにすると、華がそう言い放つ。

 

他のメンバーも大なり小なりざわめき立つ。

 

「………警察には届けたのか?」

 

「それは無いだろう。黒森峰の気風や西住流の在り方からして、警察沙汰にして試合への影響を出すとは考え難い」

 

麻子がそう問うと、煌人がパソコンを弄りながらそう言う。

 

「何ソレ! 人が誘拐されてるのに、試合の方が大事なの!!」

 

「…………」

 

思わず沙織がそう叫ぶ中、みほの脳裏には、母であるしほの顔が過る。

 

「それにしても、誘拐だなんて………身代金目的か?」

 

「或いは次の試合で当たると言うカンプグルッペ学園の妨害工作か………」

 

ハンターと大詔がそう推察を述べる。

 

「それについてだが………」

 

「そのカンプグルッペ学園について調べてみたら、とんでもない事が分かったんです」

 

そこで、俊と蛍がそう声を挙げる。

 

「? とんでもない事?」

 

「うむ………全員、前方のスクリーンに注目してくれたまえ」

 

勇武がそう呟くと、迫信がそう言い、一同の視線が前方の大型スクリーンへと集まる。

 

すると、スクリーンにある記録票の様な物が映し出される。

 

「コレはカンプグルッペ学園の今までの試合結果を纏めたモノだ」

 

「! オイ! コレってっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

十河がそう言うと、地市が『ある事』に気づき、他の一同も目を見開く。

 

「そうなんです………」

 

「カンプグルッペ学園は、コレまでの試合の殆どを………相手校の棄権、或いは試合中にギブアップを宣言されての不戦勝で勝ち進んで来たんです」

 

「更に言うと、ギブアップした相手校の機甲部隊には、必ず何かしらのトラブルが起きている」

 

清十郎、逞巳、十河がカンプグルッペ学園のコレまでの戦績を見ながらそう言い放つ。

 

「超真っ黒じゃん!!」

 

「絶対その学校の仕業だよっ!!」

 

「連盟に訴えましょうよ!」

 

それを聞いたあや、あゆみ、優希がそんな声を挙げる。

 

「それが………連盟も流石に変に思って度々査察をしているんですけど………」

 

「その全ての結果が白だった」

 

柚子と桃がそう言うと、映像が査察の結果、問題無しとされた記録のモノに切り替わる。

 

「そんなっ!?」

 

「まあ、実際は限りなく黒に近い灰色ってところだけどね~」

 

梓が驚きの声を挙げると、杏がいつもの調子でそう言うが、その顔にいつもの不敵な笑みは無い。

 

「だが、黒森峰はカンプグルッペ学園の仕業だと思っているんじゃないのか?」

 

「しかし、状況的にはそうとしか考えられないが、確たる証拠が無ければ………」

 

「向こうが白を切ってしまえばそれまでか………」

 

「逆に名誉棄損で訴えられるって事もありえるぜよ」

 

エルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうからそんな意見が挙がる。

 

「あの! 1つ質問良いですかっ!?」

 

するとそこで、聖子がそう言って手を上げた。

 

「何だ?」

 

「詰まる所………私達は如何すれば良いんですか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

聖子がそう言うと、一同の視線が両校生徒会メンバーへと注がれる。

 

それは今、この場に居る全員が感じている疑問だった。

 

「それについての意見を伺う為に、皆には集合してもらったのさ」

 

そこで迫信が、何時もの様に開いた扇子で口元を隠しながらそう言う。

 

「会長方。この件、やはり関わるべきではないと思います」

 

するとそこで、桃が迫信と杏に向かってそう進言した。

 

「!! 桃ちゃんっ!?」

 

「これは黒森峰とカンプグルッペ学園の問題です。それに、もしカンプグルッペ学園が不正を行っているのだとすれば、その証拠を掴んで失格処分にすれば良い話です。上手く行けば黒森峰に不戦勝して勝ったところで不正を訴えて失格処分にすれば、我が校の優勝が自動的に決定します」

 

柚子が驚きの声を挙げる中、桃はそう自論を展開する。

 

「河嶋さん!」

 

「河嶋先輩! それは………」

 

「我々は大洗女子学園を守らなければならんのだ! その為には優勝をしなければならん! 態々危険を冒してまで黒森峰を助ける義理は無い!!」

 

逞巳と清十郎が何を言うんだと言って来たが、桃はコレまでにない強い口調でそう言い放つ。

 

「! そ、それは………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

桃の言葉にも一理有り、逞巳達が黙り込むと、大洗の一同も沈黙する。

 

「…………」

 

その中でみほは、膝の上に乗せた両手を固く握り締めていた。

 

(みほくん………)

 

そんな痛々しい姿を見て、弘樹は桃に意見しようとしたが………

 

「………が、西住。お前は如何したい?」

 

「!? えっ!?」

 

突如桃は、みほに向かってそう尋ねた。

 

「如何したいかと聞いているんだ! ハッキリ言えっ!!」

 

「! わ、私は………」

 

畳み掛ける様に桃が怒鳴ると、みほは一瞬逡巡した様子を見せたが………

 

「私は、黒森峰を………お姉ちゃんを………助けたいですっ!!」

 

やがてそう言って立ち上がった。

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「西住殿………」

 

「西住さん………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんなみほの姿に、あんこうチームを初めとした大洗の一同は注目する。

 

「確かに、河嶋さんの言う事にも一理有ります………でも! 相手を失格にして優勝したからって、それを誇る事が出来るんですか!? 真の優勝とは………黒森峰に勝って手に入れる優勝だと思います!!」

 

その一同に向かって演説の様に語り始めるみほ。

 

「それに私は、1人の戦車道求道者として………戦車道や歩兵道を汚す様な真似をしているかも知れないカンプグルッペ学園の事を見過ごす事は出来ませんっ!!」

 

「…………」

 

桃もみほの話を黙って聞いていたかと思うと………

 

「………分かった。総隊長であるお前がそう言うならば仕方が無い。好きにしろ」

 

そうぶっきらぼうにそう言い放った!

 

「! コレより大洗機甲部隊は、西住 まほ救出作戦を開始しますっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまみほはそう命じ、大洗機甲部隊の一同は一斉に行動を始めた。

 

「…………」

 

「桃ちゃん………」

 

「偉いよ、桃ちゃん!」

 

「河嶋。立派だったぞ」

 

その様子を桃が見ていると、柚子、蛍、杏が口々に称賛を送って来る。

 

「総隊長は西住です。アイツが決めた事ならば仕方が無いでしょう」

 

ぶっきらぼうにそう言い放つ桃。

 

「…………」

 

とそこで、そんな桃の前に熾龍が立った。

 

「! な、何だっ!?」

 

何時ものようにアイアンクローを食らわせるのかと思いきや………

 

「フッ………少し見直したぞ」

 

熾龍はそう言って軽く笑って見せた。

 

「!?!?」

 

途端に、桃の顔が朱色に染まる。

 

「…………」

 

だが熾龍は、もう用は無いとばかりに踵を返した。

 

「珍しいね~、栗林ちゃんが河嶋の事を褒めるなんて」

 

杏がそう言って桃の隣に立つ。

 

「…………」

 

「? 河嶋?」

 

「………アイツ………あんな顔もするのか」

 

と、桃が呆然としていた事に気づいた杏が声を掛けると、桃がそう呟く。

 

「………ほほ~う?」

 

「!?」

 

杏がそう声を挙げると、桃は初めて杏の存在に気づく。

 

「かかかか、会長! いや! い、今のは、その!!」

 

「やっぱ喧嘩するほど仲が良いって事だったんだね~」

 

「違うんです~~~~~っ!!」

 

ニヤニヤする杏に向かって、泣きながら必死に否定する桃。

 

「「…………」」

 

そして柚子と蛍は、そんな桃の姿を温かい目で見守っていたのだった。

 

「しかし、ホンマにカンプグルッペ学園の仕業なんか?」

 

「もし間違ってて逆に訴えられたら、俺達の方がヤバイんじゃ………」

 

そんな中、豹詑と海音がそんな事を言っていると………

 

大会議室に有った固定電話の1台が鳴った。

 

「私だ………分かった、繋げてくれ………」

 

如何やら外線での着信の様であり、電話に出た迫信がそう言い、その後何かを2言、3言と言っていたかと思うと………

 

「西住くん、君にだ」

 

「! えっ!? 私っ!?」

 

自分宛ての電話だと言われ、みほは戸惑いながらも迫信の元へ向かい、受話器を受け取る。

 

「もしもし? 西住ですけど………」

 

『………久しぶりね、みほ』

 

「!? その声!? ひょっとして!?………」

 

受話器の先から聞こえて来た声を聞いたみほは、驚愕を露わにするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

まほは誘拐されていた………
犯人は身柄と引き換えに準決勝の棄権を要求するが、しほとエリカはコレを突っぱねる。
勝てばまほを返すと言う犯人からの提案に乗り、準決勝への準備を進めようとしたエリカだったが………
まほ無き黒森峰の脆弱さが露見………
機甲課は空中分解寸前になってしまう。
エリカは久美と都草と共に、犯行をカンプグルッペの仕業だと断定して、学園へと向かうが………

一方、その頃………
大洗でもまほ誘拐の情報はキャッチしていた。
そして、カンプグルッペの対戦記録に闇を見る………
みほの呼び掛けにより、大洗の一同はまほ救出を決意するが、そこへ掛かって来た電話の相手は………

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第183話『旧友です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第183話『旧友です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝の第2試合………

 

黒森峰機甲部隊VSカンプグルッペ機甲部隊の試合が迫る中………

 

まほが何者かに誘拐された………

 

誘拐犯は、まほを返して欲しければ、黒森峰に準決勝の試合を棄権しろと要求して来た………

 

しかし、勝利を貴ぶ黒森峰と西住流はコレを拒否………

 

その結果、まほの不在と重なり、黒森峰戦車部隊員達の間に不和が生じる………

 

自棄になったエリカは、都草と久美を引き連れて、犯人と思われるカンプグルッペ学園への乗り込みを掛ける………

 

そんな中………

 

大洗の面々も、カンプグルッペ学園への乗り込みを計画していたところ………

 

みほへの突然の電話が入る………

 

その相手は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗男子校・作戦会議室では………

 

「『エミちゃん』………なの?」

 

驚きを露わに、電話の先の相手にそう問い質すみほ。

 

『………そうよ』

 

電話の先の相手はややぶっきら棒にそう返す。

 

「! やっぱり! うわ~~っ! 久しぶりっ!! 元気だったっ!?」

 

途端にみほは、今度は嬉しさを露わにする。

 

「エミちゃん?………」

 

「ああ! 前にみぽりんに聞いた事ある! 確か、小学校の頃の友達で、ドイツに行っちゃったって言う子だよ!」

 

聞き慣れない名前に、弘樹が疑問を浮かべていると、沙織が思い出した様にそう言う。

 

 

 

 

 

『中須賀 エミ』

 

みほが小学生の頃の同級生であり、ドイツからの留学生で、日本人とのハーフ。

 

かつて自身の姉がまほに試合で負けた事を根に持っており、みほを邪険にしていたが………

 

ひょんな事から友達となり、そのまま同じく同級生である『柚本 瞳』、『遊佐 千紘』共々友情を深めて行った。

 

だが、ドイツへの帰国が決まり、みほ達とは別れる事に………

 

みほは最後に、彼女と『自分の戦車道を互いに見つける』と言う約束を交わしている………

 

云わば、みほが西住流ではなく、自分自身の戦車道を目指す切っ掛けを作った少女である。

 

 

 

 

 

「日本に帰って来てたのっ!?」

 

『ええ、今は『ベルウォール学園』ってとこに居るの。ホントはこんな形で連絡したくはなかったんだけど、事態が事態だしね』

 

「? 事態?」

 

『………お姉さんが誘拐されたのは知ってるわよね』

 

「!? えっ!? 如何してエミちゃんがその事をっ!?」

 

『ウチの歩兵の連中に、そう言う事に関して耳が早い奴等が居てね………そいつ等から聞いたの』

 

まほが誘拐されたと言う話を知っていたエミに、みほが驚くと、エミはそう返す。

 

「耳の早い人?」

 

『ええ、そっちの………!? あっ!? ちょっとっ!?』

 

『よう、こんにちは。軍神の西住さんかい?』

 

みほが首を傾げていた瞬間、突如電話の先の声が、エミから男のものに変わる。

 

「えっ!? えっと………」

 

『悪いが、ちょっと舩坂 弘樹に代わってくれるかい?』

 

戸惑うみほの事も気にせず、電話の男はそう要求して来る。

 

「ひ、弘樹くん。弘樹くんに………」

 

「? 小官に?」

 

そのままみほが受話器を弘樹へ差し出すと、弘樹は首を傾げながら受け取り、電話に出る。

 

「もしもし? お電話代わりました。舩坂 弘樹です」

 

『おお~っ! 本当に弘樹じゃねえかっ!! 久しぶりだなぁっ!!』

 

「!? 『バーコフ分隊長』! 貴方ですかっ!!」

 

「『バーコフ』?」

 

「弘樹の旧友だ。無論、ワシやハンネス達にとってもだがな」

 

今度は弘樹が懐かしそうな雰囲気を出し、地市が首を傾げると、シメオンがそう説明する。

 

「ベルウォールに居られたとは、驚きました………『ゴダン』や『ザキ』、『コチャック』の奴も一緒ですか?」

 

『ああ、一緒だ。皆元気で馬鹿やってるぜ』

 

「それは何よりです………分隊長ですか。西住 まほの誘拐の件を嗅ぎ付けたのは」

 

『まあな。ウチの補給品を卸している業者の奴が、カンプグルッペ学園に西住 まほらしき女が連れ込まれるのを見たそうだ』

 

「それは重要な証言です。すぐに連盟へ連絡を………」

 

『待て、弘樹』

 

重要な目撃者が出た事で、弘樹は連盟へ訴える事が出来ると思ったが、バーコフがそれを止める。

 

『どうもカンプグルッペ学園ってのは、相当ヤバイ連中が集まってるらしい。下手に連盟なんかに任せると、手続きだなんだとお役所仕事をしている間に、西住 まほを処分しちまうかも知れん』

 

「処分………」

 

バーコフの言葉に、弘樹は若干戦慄する。

 

「………何故そこまでの事を?」

 

『理由は不明だが、如何やらカンプグルッペ学園の戦車道の教官が、黒森峰と西住流に大分恨みを持ってるみてぇだ。だから今回みたいな強硬手段に出たらしい』

 

「…………」

 

そう言われて考え込む弘樹。

 

確かに、もしコレまでのカンプグルッペ学園の不戦勝が妨害工作によるものならば、何故今回に限って足の付き易い誘拐などと言う手段に出たのか………

 

それは黒森峰と西住流に深い恨みを抱いているからではないか?

 

そう考えれば辻褄の合う話だった。

 

『だから、こういう時にやる事と言ったら決まってるだろう?』

 

と、考え込んでいた弘樹に、バーコフがそう呼び掛けて来た。

 

「………強行突入ですか?」

 

『西住 まほがカンプグルッペ学園に居るのは間違いねえんだ。だったら後は力尽くで行くしかねえだろ』

 

「………確かに」

 

一瞬考える素振りを見せた弘樹だったが、やがてバーコフの案に同意する。

 

『ちょっと! 何勝手に殴り込み掛ける気で居るのっ!!』

 

とそこで、電話に先で再びエミの声が聞こえて来た。

 

如何やら、バーコフが受話器を強引に奪って話に入り込んで来ていた様である。

 

『オイオイ、何言ってんだ、総隊長さん。殴り込みを掛けるって言ったのはアンタじゃねえか』

 

しかし、電話の先で、バーコフはエミにそう返した。

 

『うっ! そ、それは………皆がノリノリで言うもんだから………つい流されて………』

 

段々と声を小さくしながらそう漏らすエミ。

 

如何やら、隊員達を纏めるのに苦労している様である。

 

「………バーコフ分隊長。中須賀 エミに代わって貰っても宜しいですか?」

 

『ん? ああ、良いぜ。ホラよ、総隊長さん。弘樹がアンタと話したいそうだ』

 

『えっ!? ちょっと!?………ベルウォール機甲部隊の総隊長、中須賀 エミよ』

 

「大洗機甲部隊とらさん分隊の分隊長、舩坂 弘樹です。初めまして」

 

エミが挨拶すると、弘樹も自己紹介と共に挨拶する。

 

『噂は兼ね兼ね聞いてるわ』

 

「今回の御助力………真に感謝致します」

 

『ちょっ! そんな畏まったお礼とかしないでよ! 私としても、戦車道を汚す様な真似をしているカンプグルッペ学園が気に食わなかっただけだから!!』

 

「それでも、貴方からの連絡が無ければ、我々は途方に暮れていたところです」

 

『………生真面目ね』

 

「性分ですから………」

 

エミが呆れる様な言葉を漏らすと、弘樹は自嘲する様にそう返した。

 

『まあ良いわ。で、悪いけど、またみほに代わって貰えるかしら?』

 

「了解しました………みほくん、中須賀総隊長殿だ」

 

「あ、うん………」

 

弘樹はみほへ受話器を渡す。

 

「もしもし、エミちゃん?」

 

『悪いわね、ドタバタして。それじゃあ、本題に入るわよ』

 

「うん………」

 

エミにそう言われて、みほは表情を引き締める。

 

『今カンプグルッペ学園の学園艦は、横須賀沖………東京湾内に居るわ。で、私達の学園艦が丁度反対側の千葉県富津市の沖よ。先ず、大洗は私達の学園艦と合流。その後に私達の学園艦に乗り代えて貰って、そこから一気にカンプグルッペの学園艦へ乗り込むわ』

 

「えっ? エミちゃん達の学園艦に乗り込んでから向かうの?」

 

『曲りなりにも、アンタ達の学校は決勝進出校でしょう? 次の準決勝第2試合をやる予定の学園艦に近づいたら警戒されるに決まってるじゃない』

 

「あ、そうか………」

 

『私達の学校は大会に出場してないわ。不良校としては有名みたいだけど、大洗よりは怪しまれないでしょう。乗り込んだら、先ず斥候を送って、カンプグルッペ学園の様子を窺って、まほさんの詳しい位置を把握。合図を持って突入するわ』

 

「うん………」

 

『当然、カンプグルッペからは激しい抵抗が予想されるわ。覚悟は大丈夫?』

 

「大丈夫だよ、エミちゃん。私も大洗の皆も、ココまで来て引き返そうとする様な人は居ないよ」

 

そう言うとみほは、一旦視線を周りに居る大洗機甲部隊の面々へと向ける。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それに対し、大洗機甲部隊の面々は、全員が力強く頷いたのだった。

 

『………みほ。アンタ、変わったわね』

 

とそこで、エミがそんな事を言う。

 

「えっ?」

 

『在り来たりかも知れないけど、色々と強くなったわ。やっぱり………あの噂って本当なの?』

 

「噂?」

 

『西住 みほは………舩坂 弘樹と付き合ってるって』

 

「!? ふえええっ!?」

 

旧友からの思わぬ言葉に、みほは一瞬にして真っ赤になる。

 

「なななな、何ソレっ!?」

 

『違うの? 他の学校の戦車道履修者の間じゃ結構有名な話なんだけど?』

 

「ち、違うよ~! まだ付き合ってるワケじゃないよ~っ!!」

 

『………『まだ?』』

 

「!? あっ!?」

 

『へえ~、成程~………告白はしてないって事ね』

 

みほの失言を聞き逃さなかったエミは、電話の先でニヤニヤと笑いながらそう言う。

 

「あ、あうう………」

 

『………ねえ、みほ。覚えてる?』

 

「えっ?」

 

『私達が同級生だった頃、ちょっとした行き違いから色々と衝突したりしたわよね』

 

「う、うん………」

 

『でも、私達は友達になれた………それはお互いに気持ちを素直に伝え合ったからだと思うの』

 

「…………」

 

『思ってるだけじゃ………伝わらないわよ』

 

「!!」

 

エミの言葉に、みほは僅かに目を見開く。

 

『まあ、兎に角………今はまほさんの事を考えましょう。細かい打ち合わせは合流してからね』

 

「うん、分かった………ありがとう、エミちゃん」

 

『………また一緒に戦車乗るわよ』

 

「うん!」

 

『じゃ、またね………』

 

エミがそう言うと、電話は切られたのだった。

 

(エミちゃん………)

 

名残惜しそうにしながらも、みほは受話器を戻す。

 

「………緊急作戦会議を行います! 全員、そのまま聞いて下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

だが、すぐに気持ちを切り替え、まほを救出する為の作戦会議へと入るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのまほはと言うと………

 

カンプグルッペ学園艦の甲板都市………

 

カンプグルッペ学園の敷地内にある廃倉庫内にて………

 

「むーっ! むーっ!!」

 

猿轡を噛まされ、縄で柱に縛り付けられてるまほが、何かを必死に言おうと声を漏らし、身体を捩っている。

 

「良い恰好だね、西住 まほ………」

 

そのまほの眼前には、カンプグルッペ学園の戦車道の教官の女性と、戦車隊の隊員達の姿が在った。

 

「むーっ!! むーっ!!」

 

更に何かを言おうと、漏らす声の大きさが大きくなるまほ。

 

「………喋らせてあげなさい」

 

「ハッ!」

 

教官がそう言うと、戦車隊員の1人がまほの猿轡を外す。

 

「プハッ! 一体何の積りだ! こんな事をして戦車道連盟が黙っていると思うのかっ!? 私を今すぐに解放しろっ!!」

 

漸く喋る事が出来たまほは、教官に向かって一気に捲し立てる様にそう言い放つ。

 

「お黙りっ!!」

 

「! うっ!?………」

 

途端に、教官はまほの頬を平手で打つ。

 

「西住 まほ。貴様さえ居なければ黒森峰は烏合の衆だ。貴様無き黒森峰など恐るるに足らん!」

 

「馬鹿な事を言うな。黒森峰と西住流がそう簡単に敗れるものか」

 

「敗れるものか、か………フッ、去年10連覇を逃しておいて、良くそんな台詞が吐けるな」

 

「!!」

 

教官にそう言われて、まほは教官を睨みながら閉口する。

 

「しかもその敗北の責任を副隊長や水没した車両の隊員に押し付けたそうじゃないか………やはり西住流も黒森峰も何も変わっていないな」

 

「何っ? どう言う事だ?」

 

「………私は元黒森峰機甲部隊の隊員だ」

 

「!? なっ!?」

 

教官からの思わぬ告白に、まほは目を見開いた。

 

「丁度貴様の母親………現師範の西住 しほが隊長を務めていた頃に入学した。当時、西住 しほは戦車道の求道者にとって憧れの存在だった。私もその1人だったよ」

 

そんなまほを見たまま、教官は自らの過去を語り始める。

 

「だが、あの事件で………私は一気にその認識を改めた」

 

「あの事件?」

 

「当時の全国大会での決勝戦………陽動部隊に居た私の乗る戦車が………相手チームが起こした土砂崩れに巻き込まれて生き埋めになった」

 

「!?」

 

それを聞いたまほの脳裏に、去年の全国大会で、味方の車両が水没した事が過る。

 

「私はすぐに隊長へ助けを求めた。そしたら、あの女は何て言ったと思う? 『今は敵のフラッグ車と交戦中です。連盟の救助を待ちなさい』と言ったんだよ! お前の母親はっ!!」

 

「! そ、そんな………」

 

「戦車道で使う戦車には安全の為に様々なサバイバビリティーシステムが搭載されている………だが! 乗員の生命は守れても精神まで守れるワケではない! 貴様に分かるかっ!? 光さえ入って来ない息が詰まる様な狭い車内に数時間も押し込められて居たと言う恐怖が!!」

 

「…………」

 

返す言葉の無いまほ。

 

「後に私はその事を西住 しほと黒森峰に訴えた………だが! 返って来たのは『勝つ為の犠牲は止むを得ない』という答えだった! 生き埋めになったのは貴様のミスの自己責任だとなっ!!」

 

「そ、それは………」

 

『勝つ為の犠牲は止むを得ない』………

 

それは嘗て、しほがみほを叱った際に言った言葉であり、みほが戦車道から離れて、大洗へと転校する切っ掛けとなった言葉だった。

 

「その後すぐに黒森峰を辞めたよ………結局西住 しほや黒森峰にとって、私は必要な犠牲でしかなかったと言う事だ………ところで、気づかないか? 我が校のメンバーに見覚えは無いか?」

 

「何っ!?………!? お、お前達はっ!?」

 

と、そこで教官がまほにそう問い、まほは改めてカンプグルッペの戦車隊員達を見やり、驚愕する。

 

何故なら彼女達は………

 

西住流の門下生だった生徒達だったからだ。

 

「そうだ。此処に居る連中は皆黒森峰を辞めさせられ、西住流から破門された連中さ。西住流のやり方に異議を唱えたと言うだけで、他の門下生から疎まれ、師範からも見捨てられてな」

 

「!?」

 

そんな事が在ったなど露知らなかったまほは、正に青天の霹靂であり、

 

「だが、お蔭で私もコイツ等も1つ気づけた事が有る」

 

そう言うと、教官は邪悪な笑みを浮かべる。

 

「結局戦車道で大切な事は勝つ事だと………ならば私は勝つ為には手段は選ばない! 例え反則だろうがバレなけば良いのだ! 勝利こそ全てなのだからな!!」

 

「ち、違う! 戦車道で大切な事は心だっ!!」

 

「黒森峰の総隊長にして、西住流の後継者である貴様がそれを言うのかっ!?」

 

「!!」

 

絶句するまほ。

 

今の彼女に、カンプグルッペ学園の戦車道の教官を否定出来る資格は1つも無かった………

 

「貴様には………黒森峰と西住流には最も無様な敗北を味わわせる。棄権による不戦敗と言う屈辱をな。去年優勝を逃して10連覇を潰しているだけに、そんな事になれば黒森峰と西住流の立場は無いな」

 

「…………」

 

「安心しろ。貴様は後でちゃんと返してやる………大会が終わって、黒森峰と西住流の名が地に落ちた後でな! ハーッハッハッハッハッ!!」

 

「「「「「「「「「「ハハハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

そこで教官は高笑いを初め、控えていた戦車隊員達も一斉に笑い出す。

 

「教官っ!」

 

とそこで、カンプグルッペの歩兵隊員らしき男子生徒が、廃倉庫内へと入って来る。

 

「? 如何した? 何事だ?」

 

「ハッ! 黒森峰の戦車隊副隊長と隊員1名、それに歩兵部隊の隊長が見えています。西住 まほを返せと」

 

「!? エリカと都草達が!?」

 

歩兵隊員からの報告に、まほが驚きの声を挙げる。

 

「そう………馬鹿な奴等だ。我々が西住 まほを拉致していると言う決定的な証拠は無い。逆にコチラが名誉棄損で訴える事も出来る」

 

「今は歩兵道教官殿が対応しておりますが………」

 

「何? アイツが? マズイな………余計な事を言われると厄介だ。仕方が無い、私も行こう。お前達! しっかりと見張って於け!」

 

「「「「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」」」」

 

教官はそう言うと、廃倉庫を後にする。

 

(都草………エリカ………)

 

都草達の身を案じるまほだったが、今の彼女には何も出来ない。

 

(………みほ)

 

やがてまほの脳裏には、最愛の妹であるみほの事が過るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

電話の相手の正体は、リトルアーミーⅡの主人公『中須賀 エミ』でした。
そして何とバーコフ分隊も。
なお、原作では彼女はマネージャーと言う立ち位置でしたが、この作品ではバーコフ達の後押しで、正式に総隊長に就任しています。
彼女達と協力して、カンプグルッペに乗り込みます。

そして、やはりまほ誘拐の犯人であったカンプグルッペ。
その正体は、黒森峰と西住流に恨みを持つ者達の集まりだった。
『勝つ為の犠牲は止む無し』としほは言っていましたが………
じゃあ、その犠牲とされた人達の立場は?と考えて、このストーリーを思いつきまして。
これが戦争なら犠牲にされた人達は当然死んでるでしょうから死人に口無しです。
しかし、死者の出ない戦車道に於いて、犠牲にされた人々は当然西住流や黒森峰を恨むんじゃないかと?
そして、その恨みが積もり積もって、逆襲してくるんじゃないかと。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第184話『空挺降下です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第184話『空挺降下です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何者かに拉致された西住 まほ………

 

そのせいで黒森峰戦車部隊は瓦解を始める………

 

そんな中………

 

みほの旧友『中須賀 エミ』と、弘樹の戦友である『バーコフ分隊の面々』から………

 

まほを拉致したのがカンプグルッペ学園である事が知らされる………

 

カンプグルッペ学園は、西住流と黒森峰に恨みを抱く者達が集まった学園だった………

 

姉であるまほを助ける為にみほは………

 

大洗機甲部隊とベルウォール学園の機甲部隊と共に………

 

カンプグルッペ学園への強襲を決意するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園艦・カンプグルッペ学園の校門にて………

 

「アンタ達の仕業でしょう! 白状しなさいっ!!」

 

「黙れっ! 言い掛かりは止してもらおうかっ!!」

 

校門の前では、エリカがカンプグルッペ学園の歩兵道の教官である口髭を生やした男と言い合っている。

 

「エ、エリカ殿! 冷静にっ!!」

 

「落ち着きたまえ、エリカくん!」

 

エリカに引き連れられる形で付いて来ていた久美と都草は、エリカを止めようとしているが、カンプグルッペ学園の歩兵道教官の後ろに控えているカンプグルッペ歩兵達は、下衆な笑みを浮かべてその様子を面白そうに見ている。

 

「一体コレは何の騒ぎ?」

 

とそこで、戦車隊員数名を引き連れたカンプグルッペ学園の戦車道教官が姿を見せる。

 

「あ、天親(てんじん)教官。いや、あちらの人達が我々に言い掛かりを付けて来ていまして」

 

カンプグルッペ歩兵の1人が、戦車道教官………天親(てんじん)に対してそう答える。

 

「アラ? 誰かと思えば、黒森峰の戦車隊副隊長の逸見 エリカさんですね。コレは如何も。本日は如何なる御用ですか?」

 

すると天親は、エリカ達の姿を見て、態とらしくそう問い質してくる。

 

「アンタ達なんでしょう! 私達の総隊長を誘拐したのは!!」

 

そんな天親に向かって、エリカはそう噛み付く。

 

「誘拐? 私達が?」

 

「そうよっ!!」

 

惚けた態度を取る天親に、更に噛み付くエリカ。

 

すると………

 

「………ククク………アハハハハハッ!!」

 

天親は突然高笑いを始め、他の隊員達も同様に笑い出す。

 

「何を仰ると思えば………全くを持って言い掛かりですなぁ。いやあ、天下の黒森峰ともあろう者が、こんな言い掛かりを付けて来られるとは………驚きましたよ」

 

「アンタ達以外に考えられないのよ! 大体アンタ達はコレまでの試合を全て不戦勝や相手のトラブルでの途中棄権で勝ち上がってきたそうじゃない!」

 

「偶然ですよ、偶然。現に我々は何度も連盟の査察を受けていますが、結果は全て潔白だったのですよ」

 

「どうせ上手く誤魔化しただけでしょう!」

 

「………貴方もしつこいですね」

 

段々と天親の顔が、うっとおしそうにしている様子になる。

 

「コレ以上言い掛かりを付ける様なら、連盟に訴えますよ? 先程からの会話は全て録音させていただきましたので」

 

そう言って、ポケットから録音状態になっているボイスレコーダーを取り出す天親。

 

「!!」

 

「そ、それはっ!?」

 

「…………」

 

エリカと久美が驚愕し、都草も苦い顔を浮かべる。

 

現状、まほの誘拐がカンプグルッペの仕業だとする決定的な証拠は何1つ無い。

 

今連盟に訴えれば、逆に黒森峰側がペナルティを受ける可能性さえ有る。

 

そうなれば、只でさえ瓦礫寸前な黒森峰機甲部隊はお終いである。

 

「さて? 如何なさいますか?」

 

そんなエリカ達の心情を逆なでするかの様に、天親は慇懃無礼な態度を取るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのカンプグルッペ学園の校門に面している大通りにて………

 

2両の戦車と、小隊規模の随伴歩兵達が、カンプグルッペ学園を目指して進んでいる。

 

大洗のあんこうチームのⅣ号と随伴分隊の弘樹率いるとらさん分隊。

 

そして、ベルウォールのエミの駆るティーガーⅠとその随伴分隊であるバーコフ分隊であった。

 

Ⅳ号とティーガーⅠのキューポラからは、みほとエミが姿を見せている。

 

「間も無くカンプグルッペ学園です。各員、戦闘に備えて下さい」

 

「良いわね? 先ずは斥候の歩兵部隊を潜入させて、西住 まほの所在を確認。然る後に、控えさせている全戦力で一斉に突入するわよ」

 

みほとエミから、全部隊にそう指示が下る。

 

「了解」

 

「任せておけって」

 

それに弘樹とバーコフが返事を返し、他の歩兵隊員達も頷く。

 

「ん?………西住総隊長! 校門前で揉めている人達が居ます!」

 

とそこで、双眼鏡でカンプグルッペ学園の様子を探っていた楓がそう報告を挙げる。

 

「! 全軍、停止っ!!」

 

みほは全軍に停止指示を出すと、自分も双眼鏡を取り出して、カンプグルッペ学園の校門を確認する。

 

「! エリカさん! 久ちゃん! 梶さんも!」

 

「彼等も来ていたのか………」

 

みほがそう声を挙げたのを聞いて、弘樹も双眼鏡で様子を確認する。

 

「ん? アイツは………」

 

するとそこで、そんな声を挙げる。

 

「? 如何したの、弘樹くん?」

 

「………西住総隊長。この場は任せて頂けますか?」

 

「えっ?」

 

みほが尋ねると、弘樹はみほへそう進言する。

 

「………分かった。お願いするね」

 

「了解………」

 

みほが許可すると、弘樹は1人、カンプグルッペ学園へと向かった。

 

「! ちょっ! ちょっと! 勝手な行動は………」

 

「心配すんな、総隊長さん。アイツがああいう行動に出た時は、大抵上手く行く」

 

「そうそう。黙って見てなって」

 

その様子にエミが慌てたが、バーコフとゴダンがそう言って制する。

 

「チキショー。またアイツばっかりカッコつけやがって………」

 

「だったらお前もカッコつけて見ろよ」

 

コチャックが恨みがましく言うのに、ザキがそう返す。

 

「みほ! 大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だよ、エミちゃん。弘樹くんなら」

 

しかし、エミはまだ納得出来ていない様で、今度はみほへと呼び掛けるが、みほは笑いながらそう返す。

 

「………やっぱりアンタ達、付き合ってるんじゃないの?」

 

「!? ふええっ!? だ、だから違うよ~っ!!」

 

そこでエミがそう指摘すると、みほは真っ赤になって否定する。

 

((((((((((甘酸っぱいなぁ~………))))))))))

 

そして、他の一同は、場の空気に甘酢っぱさを感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、カンプグルッペ学園の校門では………

 

「土下座して謝るのなら、まあ見逃してあげても良いですよ!」

 

「ア、アンタはぁっ!!」

 

「さあさあ、如何しますか?」

 

エリカが激高する様子を楽しげに眺めながら、更に挑発を重ねる天親。

 

と、そこで………

 

「お話し中に失礼させて頂きます」

 

そう言う台詞と共に、戦闘服姿で武器を携えた弘樹が姿を見せた。

 

「!? 舩坂くんっ!?」

 

「ゲロッ!? 舩坂殿っ!?」

 

「!? ア、アンタッ!?」

 

都草、久美、エリカの3人は、突如現れた弘樹に驚く。

 

「!? き、貴様はっ!?」

 

だが、そんな3人以上に驚愕の様子を露わにしているのは、歩兵道教官だった。

 

良く見れば、腕も怒りからかワナワナと震えている。

 

「おやおや? 貴方は確か、大洗の舩坂殿でしたね? 何故此処に? しかもそんな恰好で?」

 

「…………」

 

一方、天親は惚けた態度のまま弘樹にそう問い質すが、弘樹は無言で返す。

 

「決勝で戦うかも知れない相手の偵察………にしては随分と堂々としていますし、何よりそうだとすれば、コチラは貴方を拘束する権利が有るのですが………」

 

「…………」

 

(コイツ………何が目的だ?)

 

更に言葉を続ける天親だが、弘樹は無言を貫き、その姿に天親は疑念を募らせる。

 

と………

 

「舩坂 弘樹っ!! 貴様! よくもこの俺の前にぬけぬけと現れおったなぁっ!!」

 

突如、歩兵道教官が、弘樹に向かってそう声を張り上げた。

 

「………何処かで会ったか?」

 

弘樹は視線だけを歩兵道教官に向けてそう言う。

 

基本的に目上の人間には礼儀正しく接する弘樹だが、何故かこの歩兵道教官にだけはそんな様子が微塵も無い。

 

「貴様っ! 忘れたとは言わせんぞっ! この『カン・ユー』様をなぁっ!!」

 

「オ、オイ! カン・ユー、落ち着け!」

 

そんな弘樹の態度に怒りがヒートアップする歩兵道教官の『カン・ユー』と、その様子に初めて慌てた様子を見せる天親。

 

「貴様のせいで俺はクメン校の教官をクビになったんだ! 忘れもしないぞっ!!」

 

「………そんな昔の事は覚えていないな」

 

「グウウッ! オノレェッ! もう許さんっ!! 貴様も廃倉庫の西住 まほと一緒に地獄に送ってやるっ!!」

 

「「「!!」」」

 

更に弘樹が挑発するかの様な態度を取った途端、怒りが頂点に達したのか、カン・ユーはそう口走り、エリカ達が反応する。

 

「!! 馬鹿野郎っ!!」

 

「グハッ!? な、何をするっ!?」

 

怒りの形相でカン・ユーを引っ叩く天親と、何故引っ叩かれたのかまるで理解出来ていないカン・ユー。

 

「そうか………西住 まほは廃倉庫に居るのか………だそうです、総隊長」

 

しかし、弘樹はそこで、繋ぎっ放しだった通信機に向かって、そう呼び掛けた。

 

すると………

 

『突入ーっ!!』

 

『『『『『『『『『『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!』』』』』』』』』』

 

通信機からはみほの声と、歩兵隊員達の雄叫びが返って来る。

 

そして次の瞬間には、カンプグルッペ学園の校門に突撃している、Ⅳ号とティーガーⅠ、随伴分隊の姿が露わになった。

 

「!? うおおっ!!」

 

「た、退避っ! 退避ーっ!!」

 

狼狽えるカン・ユーと慌てて退避命令を出す天親。

 

「「「!!」」」

 

エリカ達も慌てて退避する中、Ⅳ号とティーガーⅠは体当たりで校門を破壊して、随伴分隊と共にカンプグルッペ学園の敷地内へと侵入。

 

「弘樹くん!」

 

「!!」

 

その際に、校門に居た弘樹は、Ⅳ号へと飛び乗り、タンクデサントする。

 

「オイ、乗れっ!!」

 

「!!」

 

「ゲローッ! 待って欲しいでありますっ!!」

 

「失礼するよ!」

 

更に、地市がそう呼び掛けた事で、エリカ達も兵員輸送車へと駆け込んだ!

 

「西住総隊長! 全軍に合図をっ!!」

 

「うん!」

 

弘樹がそう進言すると、みほは腰のホルスターに挿していた信号拳銃を抜き、空に向けると発砲。

 

打ち上げられたのは照明弾で、空中で昼間でも見える程の光を発して滞空する。

 

「ぐううっ! オノレェッ! 舩坂 弘樹ぃっ!!」

 

「あだだだだ………」

 

とそこで、突っ込んで来たⅣ号達を避ける際に転んでいたカン・ユーと天親が起き上がる。

 

『きょ、教官! 大変です、教官!!』

 

すると、戦車道教官の持っていた通信機から、戦車隊員のものと思われる悲鳴が響いて来た。

 

「! 如何したっ!?」

 

『学園の彼方此方から戦車が突入して来ましたっ!! 所属は………大洗女子学園とベルウォール学園です!!』

 

「!? 何だとっ!? ええいっ! まさかこんな強襲作戦を執って来るとは………」

 

『ど、如何しましょうっ!?』

 

「狼狽えるなっ! 此処は我々の学園だぞっ! すぐに迎撃態勢を………」

 

と、迎撃態勢を取れと戦車道教官が言おうとした瞬間………

 

上空から、無数のエンジン音が聞こえて来た!

 

「!?」

 

「な、何だっ!?」

 

それに釣られる様に空を見上げた戦車道教官とカン・ユーの目に飛び込んで来たのは………

 

護衛と思われる戦闘機部隊に守られて、編隊を組んで飛ぶ………

 

無数の『一〇〇式輸送機』と『九六式陸上輸送機二一型』の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その内の1機の一〇〇式輸送機の中で………

 

「1番機ー! 行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

 

「行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

「行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

「立てーッ!!」

 

その機に乗って居たハンターがそう号令を掛けると、パラシュートを装備した戦闘服姿の大洗歩兵隊員達が立ち上がる。

 

それと同時に、一〇〇式輸送機の側面に在ったドアが開く。

 

「1番機! コース良し! コース良し! 用意! 用意! 降下! 降下! 降下!」

 

機長から、兵員室内にそうアナウンスが流されたかと思うと、続いてジリリリリッというベルが鳴り響く。

 

「降下! ジェロニモーッ!!」

 

そして、ハンターが1番に機外へと飛び出したかと思うと、予め機内のパイプに引っ掛けておいた紐が引かれ、落下傘が展開!

 

「降下!」

 

「降下っ!」

 

「降下っ!!」

 

更に、他の隊員達も次々に飛び出し、落下傘を開いて行く!

 

「反対扉、良し! 機内、良し! お世話になりましたっ!!」

 

最後に残っていた隊員が確認を終えると、パイロットに礼を述べて降下した。

 

 

 

 

 

更に、別の九六式陸上輸送機二一型でも………

 

「確認、良し………さて、行くか」

 

最後に残っていた大詔が、今正に降下せんとしている。

 

「鳥になってこい! 幸運を祈るっ!!」

 

すると、九六式陸上輸送機二一型のパイロットからそう激励の言葉が駆けられた。

 

「ありがとう」

 

大詔はそう返礼すると、飛び降りる。

 

そして、空の彼方此方に咲いている白い花の中へと混じって行った。

 

 

 

 

 

「な、ななななっ!?」

 

「馬鹿なっ! エアボーンだと!? 空の神兵でも気取ってるのかっ!!」

 

完全に狼狽しているカン・ユーと、悪態を吐く天親。

 

『此方飛行場っ!! 空から空挺兵が!! 既に格納庫にて破壊活動を実施中! 機体の半数がやられました! 管制塔も占拠されるのは時間の問題です!!』

 

『第1戦車格納庫が抑えられました! 主力戦車は全て敵の手の中です!!』

 

『第3武器庫も抑えられました! 敵が我々の装備を鹵獲して使用して来ていますっ!!』

 

『第2弾薬庫にも敵兵! ああ! 今、弾薬庫が爆破されました!!』

 

だが、その僅かな間に、次々と損害の報告が舞い込んで来た!

 

「!? 何て速さだっ!? ええいっ! 使える戦力は全て使えっ!! 奴等を迎撃しろっ!!」

 

『りょ、了解っ!!』

 

「それから、『アレ』も投入しろっ!!」

 

『ええっ!? しかし、『アレ』は元々訓練用の………』

 

「構わんっ! やれっ!!」

 

『ハ、ハイッ!!』

 

「見ていろ、大洗にベルウォール………今に吠え面を掻かせてやるっ!!」

 

怒りの形相を浮かべて、天親はそう言い放つのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

カンプグルッペへ抗議に出たエリカ達でしたが、証拠が無い事を逆手に取られてピンチに。
しかし、まさかのカン・ユーを雇い入れていたのが運の尽き。
弘樹によってまほの居場所が暴かれ、大洗とベルウォールが突入します。
そしてエアボーンでの電撃戦です。
敵の本拠地なので、流石に全戦力を相手にするのは無理なので、動く前に潰す作戦です。
しかし、敵もこのままでは終わりません………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第185話『レッドショルダーです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第185話『レッドショルダーです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園に拉致されたまほを助ける為………

 

みほの旧友である中須賀 エミが総隊長を務めるベルウォール機甲部隊と共に強襲を掛ける大洗機甲部隊………

 

早急に決着を着けるべく、電撃戦を行い………

 

空挺降下によって、カンプグルッペの重要施設を制圧する大洗&ベルウォール機甲部隊………

 

だが………

 

カンプグルッペ学園は、切り札を隠し持っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園・航空基地………

 

「良し! コレで管制塔は占拠したぞっ!!」

 

破壊された機材の並ぶ管制塔内で、磐渡がそう声を挙げる。

 

「磐渡! 鷺澪から連絡だ! 此処に居たカンプグルッペの隊員達は全員逃げ出したそうだ!」

 

「格納庫に有った機体も、全て水谷くんと工兵達が使えない様にしたとの事だ」

 

そこで、管制塔を占拠したワニさん分隊の中に居た重音とゾルダートがそう報告して来る。

 

「おしっ! コレで制空権は問題無いな! まあ、今回は西住 まほを助けるのが目的だから、空爆とかは必要無いんだが………」

 

と、磐渡がそう言いながら、何気なく管制塔の窓から外を見やると………

 

「………ん? アレは?………」

 

遠くの空に、編隊を組んで飛んでいるレシプロ機達の姿が目に入る。

 

最初は一航専の機体かと思われたが、その機影達がドンドンと近づいて来たかと思うと………

 

「!! 逃げろーっ!!」

 

「「!!」

 

磐渡がそう声を挙げると、重音とゾルダートを初めとしたワニさん分隊の面々は一斉に管制塔から退去し始める。

 

やがて、基地の上空までその編隊が到着したかと思うと………

 

編隊は一斉に基地目掛けて急降下!!

 

管制塔と基地施設目掛けて爆弾を投下して来たっ!!

 

管制塔に爆弾が命中すると、管制塔は大爆発して炎上!!

 

基地施設の彼方此方でも、爆発と共に炎が上がる!!

 

「全員、無事かーっ!!」

 

「大丈夫だーっ!!」

 

「コココ、コッチも何とかっ!!」

 

管制塔から脱出した磐渡が声を挙げると、鷺澪と灰史に、彼等が引き連れていた歩兵達が返事を返す。

 

「! ありゃあ、『ドーントレス』じゃねえかっ!?」

 

とそこで重音が、爆撃を仕掛けて着たのがアメリカ海軍で使用されていた艦上爆撃機『SBD ドーントレス』である事に気づく。

 

「また来たぞっ!!」

 

ゾルダートが、新たなドーントレスの編隊が急降下して来るのを見てそう声を挙げる。

 

「対空砲火だっ! 弾幕を張れっ!!」

 

磐渡が叫ぶと、ワニさん分隊の隊員達が鹵獲した高射砲や対空機銃で弾幕を張り始める。

 

「一体あの航空機部隊は何処から!?」

 

「他に飛行場が有るのか!?」

 

「い、いえっ! データによれば、カンプグルッペ学園の飛行場は此処だけの筈ですっ!!」

 

鷺澪と重音がそう言い合っていると、灰史がカンプグルッペの学園艦のデータが映ったタブレットを見ながらそう口を挟む。

 

「兎に角、持ち堪えるんだ! 今輸送機の護衛に付いて居た戦闘機部隊が戻って来てくれている!」

 

ゾルダートがそう叫ぶ中、ドーントレスは更に次々と飛来するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園・敷地内………

 

「航空機がっ!?」

 

「そんなっ!? 飛行場は抑えたんでしょっ!?」

 

敵機襲来の報告は直ちに全軍へ通達され、みほとエミが驚きの声を挙げる。

 

「………西住総隊長。襲来した敵機は、艦上爆撃機のSBD ドーントレスで間違いありませんか?」

 

するとそこで、何かを思いついた様な顔の弘樹が、みほへそう確認を取る。

 

「えっ? うん、そうだけど………!? まさかっ!?」

 

そこでみほも、何かを思い至った様な表情となる。

 

「見つけたぞ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

だがそこで、カン・ユーが戦闘服姿のカンプグルッペ男子生徒を小隊規模ほど引き連れて現れる。

 

その背後からはティーガーⅡとパンターF型が1両ずつ現れる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「………また貴様か」

 

接敵に緊張が走るみほ達だったが、弘樹だけは呆れた様子でカン・ユーを見ながら、うんざりとしている様子でそう呟く。

 

「黙れっ! 貴様だけは絶対に見逃さんっ!! 今度はあの時の様にポタリアやキデーラの邪魔は入らんっ!! そして見ろっ!!」

 

だが、カン・ユーは既に勝ち誇った様な表情を浮かべており、引き連れて来た歩兵隊を示す。

 

「ヘヘヘ………」

 

「ヒヒヒ………」

 

下衆な笑いを零しながら、弘樹達の事を見据えているカンプグルッペ歩兵達。

 

「!? あの肩っ!? ま、まさか!? 『レッドショルダー』!?」

 

そこで、エミがそう驚きの声を挙げる。

 

現れたカンプグルッペ歩兵隊員達は、全員………

 

戦闘服の『左肩』が、『明るい赤色』で染められていたのである。

 

「その通り。俺達は元赤肩高校の歩兵部隊………人呼んで吸血部隊のレッドショルダーよ」

 

そのエミの台詞を聞いたカンプグルッペ歩兵の1人がそう言い放つ。

 

「レッドショルダー………歩兵道界の殺し屋………生き残る為には味方の血を吸う、死人の肉を食う………地獄からだって這い上がってくるって言われた、あの………」

 

エミの頬を冷たい汗が流れる。

 

身体も小刻みに震え始める。

 

「その通り! コレだけの元レッドショルダーを集められたのも、一重にこのカン・ユー様の偉大さあっての事だ! さあ、如何する、舩坂 弘樹! 土下座して謝ると言うならすぐに楽にしてやるぞっ!!」

 

そのエミの反応に、カン・ユーは満足そうにしながらそう言い放つ。

 

「! クッ! みほっ! アンタ達は行きなさいっ!! ココは私とバーコフ達が食い止めるわっ!!」

 

真面にやり合っては勝てないと思ったエミは、みほの方を見てそう言い放つ。

 

しかし………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

当のみほ達は物凄く冷めた目でカン・ユー達を見ていた。

 

まるで『お前は何を言っているんだ』と言う様な表情である。

 

「ちょっ!? みほ!? 何、その目っ!?」

 

「き、貴様等っ! 何だその目は!? 今が如何言う状況か分かってるのかっ!?」

 

その様子を見たエミが戸惑い。カン・ユーも苛立った様に叫ぶ。

 

「お前達………ちょっとそれを貸してくれ」

 

「あ、ハイ」

 

「どうぞ」

 

とそこで、弘樹がとらさん分隊の2名から、一〇〇式機関短銃を借り受け、両手に持って、カンプグルッペ歩兵達の前へ歩み出る。

 

「総隊長さんよぉ。ココは任せて貰おうか」

 

「ったく、レッドショルダーの事を知ってるのは良いが、もっと詳しく知っとくべきだったな」

 

「そ、そうだぜ! 俺はすぐに分かったぜ!」

 

「アイツ等が出て来た時、1番ビビってたのはお前だろうが」

 

更に、MP40を携えたバーコフ、バズーカを携えたゴダン、M3サブマシンガンを携えたコチャック、MG34機関銃を携えたザキもそれに続く。

 

「!? ちょっ!? アンタ達、何を勝手な事を………」

 

「何だぁっ? 態々前に出て来て………自殺志望か?」

 

エミがその行動に慌てる中、カンプグルッペ歩兵の1人が弘樹達をそう挑発する。

 

と、その瞬間!!

 

「………!!」

 

弘樹は一瞬にしてカンプグルッペ歩兵達の中へと踏み込む!!

 

「………へっ?」

 

それに対し、カンプグルッペ歩兵の1人が間抜けた声を挙げた瞬間………

 

「…………」

 

弘樹は両腕を交差させる様に構えたかと思うと、手に構えていた一〇〇式機関短銃をその場で回転しながら発砲!!

 

「うわぁっ!?」

 

「ギャアアッ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

汚い悲鳴と共に次々に倒れて行くカンプグルッペ歩兵。

 

「………!!」

 

そしてすぐさまに弘樹は後退する。

 

「あ! 待てっ!!」

 

「舐めた真似をっ!!」

 

カンプグルッペ歩兵達が追撃を掛け、一斉に弘樹へと殺到した瞬間………

 

「そらよっ!!」

 

ゴダンがその固まったカンプグルッペ歩兵達に向かってバズーカを放つ。

 

「「「「「うわああああああっ!?」」」」」

 

直撃を受けたカンプグルッペ歩兵達が纏めて吹き飛ぶ!!

 

「なっ!?」

 

生き残っていたカンプグルッペ歩兵が驚きの声を挙げた瞬間に、バズーカの爆煙を中を突っ切ってバーコフとコチャックが斬り込んで来る!

 

「コチャックッ! ドジ踏むなよっ!!」

 

「わ、分かってるってっ!!」

 

そう言いながら、2人は互いに背中合わせになる様に位置取ると、MP40とM3サブマシンガンの弾をばら撒くっ!!

 

「ぐはっ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

「アババッ!?」

 

またも汚い悲鳴と共に次々に倒れ伏せて行くカンプグルッペ歩兵達。

 

「クッ! このぉっ!!………!? ガッ!?」

 

「やらせるかよっ!!」

 

距離を取っていたカンプグルッペ歩兵達も、ザキがMG34をセミオートで精密射撃して倒す。

 

「な、なななっ!?」

 

カン・ユーが動揺を露わにしている間に、元レッドショルダーのカンプグルッペ歩兵達は全滅した。

 

「う、あああ………」

 

「貴様に教えておいてやる………」

 

「!?」

 

足元で呻き声を漏らしていた元レッドショルダーのカンプグルッペ歩兵に、弘樹が声を掛ける。

 

「レッドショルダーの赤はもっと暗い、血の色だ。それとマークは右肩だ」

 

「なあっ!?………」

 

弘樹がそう言ったのを聞いて、元………いや『自称』元レッドショルダーのカンプグルッペ歩兵はガクリと気を失った。

 

「!? 何だとっ!?」

 

「!? 偽物だったのっ!?」

 

それを聞いていたカン・ユーとエミも驚きの声を挙げる。

 

「本物の赤肩学園のレッドショルダーは、昔俺達が叩き潰してやったぜ」

 

「リサーチ不足だったな」

 

バーコフとゴダンも、カン・ユーに向かってそう言い放つ。

 

「! みほ! アンタ、知ってたのっ!?」

 

「うん。前に聞いた事あったから………それに、本物の元赤肩学園のレッドショルダーだった人と会った事もあるんだけど………纏ってる空気が全然違うよ」

 

エミがみほに尋ねると、みほはそう返す。

 

(空気で分かるって………何があったのよ、みほ)

 

一方でエミは、みほがコレまでどれだけの修羅場を潜り抜けて来たのかと驚愕する。

 

「ええいっ! 貴様等! よくもこの俺を騙ってくれたなっ!! 元レッドショルダーだと言うから高い金を払って雇い入れたと言うのにっ!!」

 

「何言ってやがる! 見抜けなかったテメェの責任だろうがっ!!」

 

カン・ユーが倒れ伏せている自称元レッドショルダーに向かって怒鳴ると、ザキがそう指摘する。

 

「黙れっ! 俺の指揮に間違いは無いっ!!」

 

「あ~あ、典型的な無能野郎の台詞だぜ………」

 

「お前に言われちゃお終いだな」

 

カン・ユーが喚くと、コチャックが呆れた様に呟き、ゴダンが茶化す。

 

「ええいっ! ふざけおってからに! まだコッチには戦車がある事を忘れたかっ!!」

 

と、カン・ユーがそう言った瞬間に、控えていたティーガーⅡが主砲を弘樹達へと向けようとする。

 

だが、その瞬間!!

 

「撃てっ!!」

 

「発射っ!!」

 

ティーガーⅡに、Ⅳ号とティーガーⅠが放った砲弾が命中する!!

 

しかし、どちらの砲弾も、ティーガーⅡの前側面で弾かれる。

 

「馬鹿めっ! そんな攻撃などティーガーⅡには通用しない………」

 

と、カン・ユーが言い掛けた瞬間に、爆発音が響いた。

 

「!?」

 

驚いたカン・ユーが振り返って目にした物は………

 

エンジン部に2つの大穴が空いて白旗を上げているパンターF型の姿だった。

 

如何やら、ティーガーⅡが弾いた砲弾が、隣に居たパンターF型のエンジン部を直撃したらしい。

 

「ななっ!?」

 

「「突撃っ!!」」

 

またもカン・ユーが狼狽している間に、Ⅳ号とティーガーⅠは左右に広がる様に突撃!

 

ティーガーⅡは、どちらを狙おうかと迷ってしまい、照準が遅れる!

 

その間に、Ⅳ号とティーガーⅠは、ティーガーⅡを挟み込む様に位置取る。

 

「「撃てっ!!」」

 

そして左右から同時に、エンジン部に向かって零距離砲撃を見舞った!

 

当然砲弾はエンジン部へと直撃し、エンジンが完全に破壊されたティーガーⅡはアッサリと白旗を上げる。

 

「乗り手が戦車の性能に追い付いてなかったみたいね………」

 

「卑怯な真似をする人達に負けたりしません!」

 

不敵に笑うエミと、毅然とした態度でそう言い放つみほ。

 

コレまで真面に戦った事が無く、戦車の性能頼みなカンプグルッペ戦車部隊員は、歴戦の勇士である2人に為す術が無かった。

 

また、戦車道の求道者として、卑劣な手段を取る連中に後れを取るワケにはいかない。

 

「ええいっ! オノレェッ!!」

 

激昂と共に、カン・ユーは懐からコルトM1917を抜く。

 

が、その瞬間に、足元に手榴弾が転がって来る。

 

「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

避けられる筈も無く、真面に爆風と破片を浴びるカン・ユー。

 

歩兵道用の安全な手榴弾とは言え、戦闘服を着ていなかったカン・ユーにとってはかなりの凶器であり、全身に激痛が走る。

 

「ぐあああっ!? イデデデデデデデッ!!」

 

「消えろ………お前の相手をしている暇は無い」

 

地面の上を転がって悶えているカン・ユーに向かって、弘樹はそう言い放つ。

 

「ぐぐぐっ! オノレェッ! 舩坂 弘樹!! またしても!! 覚えていろぉっ!!」

 

カン・ユーは悔しさを露わにしながら、痛む身体を引き摺って逃げ去って行った。

 

「典型的な負け犬の遠吠えだな、オイ」

 

「ああいう台詞が似合う様になったら人間、お終いだぜ」

 

その様に、バーコフとゴダンがそうツッコミを入れる。

 

「弘樹、トドメ刺さなくても良かったのか?」

 

「そうだぜ。あの分じゃまた来るぞ」

 

そこでザキとコチャックが、弘樹へそう指摘するが………

 

「好きにすれば良い………」

 

弘樹はまるで他人事の様にそう冷たく言い放つ。

 

「興味無しか」

 

「お前にしてみれば、相手にもなってねえって事だな」

 

それを聞いたバーコフとゴダンがそう言い放つ。

 

「さ! 敵の排除は済んだわ! コレで………」

 

と、先へ進もうとエミが促そうとしたところ………

 

上空からエンジン音が聞こえて来た!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

一同が一斉に空を見上げると、3機のドーントレスの編隊が、一同に向かって急降下して来ていた!

 

「! 散れっ!!」

 

直後に弘樹がそう叫び、一同は慌てて散開。

 

ドーントレスの下部に付けられていた爆弾が次々に投下され、激しく火柱が連続で立ち上る。

 

「皆さん! 無事ですかっ!?」

 

「ああ、何とかな………」

 

「コッチも大丈夫よ」

 

「弘樹程じゃねえが、悪運は強い方だぜ」

 

爆発が収まった直後に、みほが呼びかけると地市、エミ、バーコフからそう返事が返って来て、無事な様子を見せる一同。

 

『弘樹!!』

 

「! 六郎か!」

 

『遅れてスマン! コレより上空援護に入る!』

 

とそこで、輸送機の護衛から戻って来た戦闘機部隊の六郎から弘樹に通信が入り、一航専の戦闘機部隊が上空に居たドーントレス達との空中戦を開始する。

 

「ふう~、コレで一安心であります………」

 

兵員輸送トラック内に居た久美が、上空の空中戦の様子を見て、安堵の溜息を吐く。

 

「いや、まだよ!」

 

「ゲロッ!?」

 

「まだ敵の航空部隊が何処から来たのかが特定出来ていない。そこを叩かなければ、コチラが消耗戦になるぞ」

 

しかし、エリカがそう叫んだので驚きの声を挙げると、都草がそう補足して来る。

 

(………もし、私の予感が正しければ、発進位置は………)

 

そんな中で、みほはカンプグルッペの航空部隊の発進地点に、ある予測を立てていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻………

 

横須賀沖のカンプグルッペ学園艦から浦賀水道方面の海域………

 

その上空を1機のレシプロ機が飛行している………

 

一航専所属の旧大日本帝国海軍の傑作偵察機『彩雲』である。

 

「確か敵機はこの方角から飛んで来ていたな………」

 

操縦桿を握るパイロットが、目を皿の様にしながら、敵機の発進場所を探している。

 

輸送機護衛の際に、上空から敵機襲来を見ていた一航専の面々は、カンプグルッペの航空部隊が現れたのが洋上からであったのを目撃しており、その場所を探る為、偵察機部隊に彩雲を発進させたのだ。

 

「! アレはっ!?」

 

すると、真ん中の航法席に居た乗員が、何かを見つける。

 

「如何した!?」

 

「3時の方向! 洋上ですっ!!」

 

「!!」

 

航法員にそう言われて、パイロットがその場所を確認すると、そこには………

 

「! やはり………『航空母艦』か!!」

 

洋上に浮かぶ大型艦………米海軍の航空母艦『ワスプ』の姿を目撃し、パイロットはそう声を挙げる。

 

その飛行甲板上からは、次々にドーントレスが発進している。

 

そう………

 

襲来したドーントレスは、此処から発艦していたのである。

 

軍事道に於いて、航空機は所属している学園艦から飛び立つのが通常であり、空母は基本的に訓練時の標的となる無人機を発進させる為や、対艦攻撃の訓練の為に保有されている。

 

だが、如何やらカンプグルッペ学園は、本来標的機として運用される筈の無人機を改造し、攻撃に転用している様である。

 

当然ながら、試合で使えば明確なルール違反となる行為である。

 

「コチラ偵察機『彩雲』! 浦賀水道に敵空母を確認! 現在襲来している敵機はそこから発艦している模様っ!!」

 

「! 敵機来襲っ!!」

 

と、パイロットが報告を送って居ると、後部機銃座席の乗員がそう叫ぶ。

 

「!?」

 

パイロットが風防越しに上空を見上げると、そこには自分達の乗る彩雲に向かって来る『F4F ワイルドキャット』の編隊の姿が在った。

 

「残念だったな。もう報告は送ったぞ」

 

しかし、パイロットは慌てる事無くそう言い放つと、スロットルを最大にする。

 

すると彩雲は、F4F達を一瞬で置いてけぼりにして、飛び去って行く。

 

「我ニ追イツクグラマン無シ!」

 

既に遥か後方の豆粒となったF4F達に向かってそう言い放ち、彩雲は悠々と帰投するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

電撃戦で滑走路を押さえたはずなのに来襲する敵機。
更に、弘樹達の前に、カンユ・ユーが元レッドショルダーの歩兵達を引き連れて現れたが………
偽物であった為、アッサリと撃破される。

一方、一航専の偵察により、敵機の正体が空母から発艦している改造された無人標的機である事が判明する。

カンプグルッペの切り札は違法改造の無人攻撃機です。
ある意味では現代の戦争の兵器とも言えますね。

この無人機隊と空母ワスプを如何するかですが………
多分、ワスプと聞いた時点で多くの方が御想像されているでしょうね………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第186話『サジタリウスの矢です!』

本日は海楽フェスタです。

最終章の情報が聞けるか楽しみですね。

皆さんも大洗へお越しください。


『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第186話『サジタリウスの矢です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰と西住流へ恨みを持つカンプグルッペ学園により拉致されたまほを救出する為………

 

大洗機甲部隊はベルウォール機甲部隊と共に、カンプグルッペ学園を強襲した………

 

カン・ユーが雇い入れていた偽レッドショルダーを撃破したみほ達だったが………

 

カンプグルッペ学園は、演習用の無人機を改造した爆撃機で反撃する………

 

そんな中で、一航専の偵察機が、その無人機の発進基地………

 

『航空母艦・ワスプ』を発見するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浦賀水道海域………

 

無人機を次々に飛ばしているワスプの近くの水面に………

 

潜水艦の潜望鏡が覗いていた。

 

「偵察機に見つかったか………」

 

「如何しますか? 艦長」

 

その潜望鏡を上げている潜水艦………『ガードフィッシュ』の艦長に、副長がそう問い質す。

 

「フッ………構わん、放っておけ」

 

「良いんですか? 相手はあの一航専ですよ? それに大洗が出張って来てるなら、恐らく呉校の艦隊も………」

 

「今は一航専の航空部隊は我々の学園の制空権を取る事に夢中だ。呉校の艦隊が来たところで、上空援護の無い艦隊など航空機には的でしかない。例のモビーディックも同様だ」

 

そう言う艦長が覗き込んで居る潜望鏡に、ワスプの護衛に付いて居る航空部隊や対潜哨戒機の姿が映る。

 

「了解しました。それにしても、訓練用の無人機を攻撃用に改造するとは、ウチの技術班の連中も大したもんですね」

 

「ああ。大元の指示はコチラから入力しなければならんが、細かい所はワスプに搭載されているスパコンと無人機の簡易AIがやってくれる。俺達は只見ているだけで良いんだからな」

 

副長がそう言うと、艦長は悪辣な笑みを浮かべて潜望鏡を旋回させる。

 

そう………

 

実はこのカードフィッシュ………

 

無人機に指示を与えている大元なのである。

 

元々第二次世界大戦時の航空機を無人操縦にすると言う無茶な改造を行っている為、無人航空機には最低限の判断をするAIしか搭載されておらず、詳細な判断をする為のスーパーコンピューターをワスプに搭載している。

 

しかし、コチラも無茶な改造であり、結果居住スペースを殆どスパコンが埋め尽くす事となり、ワスプは人が乗れる船ではなくなっていた。

 

そこで、指示を出す人間は潜水艦に搭乗させる事にしたのである。

 

ガードフィッシュからは細いワイヤーの様な物が伸びており、それがワスプの艦底部分に繋がっている。

 

恐らく、このワイヤー回線を通じて、ワスプに指示を送り、それを元にワスプが無人機を発艦させているのである。

 

「………ん?」

 

と、その時………

 

潜望鏡を旋回させていたガードフィッシュの艦長が何かに気づく。

 

「? 如何しました? 艦長?」

 

「何かが飛んで来るぞ?」

 

副長が尋ねると、遠くに光っている光点を潜望鏡で確認した艦長がそう返す。

 

「えっ!? まさか、一航専の航空機ですかっ!?」

 

「それにしてはたった1機と言うのは………」

 

不審に思いながら潜望鏡を覗き続け、光点の正体を確認しようとする艦長。

 

徐々に光点は段々と大きくなって行く。

 

「んん~~~?………!?」

 

そこで、ガードフィッシュの艦長の顔が驚愕に染まる。

 

近づいて来ていた光点の正体………

 

それは、翼を持つ巨大なミサイル………

 

『トマホーク巡航ミサイル』だった!!

 

「ト、トマホークミサイルッ!?」

 

「!? えっ!?」

 

艦長が思わず叫び、副長が驚きの声を挙げた瞬間………

 

トマホークは、ワスプ右舷の開放されていた格納庫扉から、格納庫内へ飛び込む!

 

途端に、ワスプを包み込む程の巨大な爆炎が発生!

 

立ち上った黒煙が、空一面に広がる。

 

そして少し間を置いて、今度は飛行甲板を下から突き破って爆発が発生!

 

丁度発艦しようとしていたドーントレスが爆風に煽られ、隣のアベンジャーと衝突!

 

直後に立ち上った炎が2機を覆い尽し、燃料と搭載爆弾・魚雷が誘爆!

 

それを皮切りに、まだ甲板上に在った機体が次々に誘爆!

 

まるでリズムを刻むかの様に爆発が連鎖したかと思うと、トマホークの着弾よりも巨大な爆発が発生!!

 

艦橋を含めたアイランドが激しく損傷。

 

甲板にも彼方此方に大穴が空き、そこから激しく炎が噴き出している。

 

やがて艦全体がゆっくりと傾斜を始め、運良く生き残っていた艦載機達が、甲板から滑り落ちて、海中に没して行く。

 

「ワスプがっ!?」

 

「機関室は浸水! 機関停止!!」

 

「飛行甲板及び弾薬庫にて誘爆多発! 消火不能です!!」

 

「破孔からの浸水拡大! エジェクターも稼働しません!!」

 

「ワスプ、傾斜角11度! 復旧は絶望的です!!」

 

潜望鏡でトマホークが命中したワスプの様子を見ていた艦長が声を挙げると同時に、ワスプの様子をモニタリングしていた発令所要員から次々に報告が挙がる!

 

「イカン! ワイヤーを切り離せっ! 沈没に巻き込まれるぞっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

艦長の命に従い、発令所要員がワスプとガードフィッシュを繋いでいたワイヤーを切り離す。

 

その直後に!!

 

一際大きな爆発が起こり、ワスプの艦体が前部と後部に分断された!!

 

そして、真っ二つになったワスプは、艦首と艦尾を持ち上げて垂直となり、そのまま海の底へ沈んで行った………

 

「ああ、我々のワスプが………」

 

「艦長! 先程のトマホークは、一体!?」

 

潜望鏡でワスプが沈む様を目撃した艦長が愕然となる中、副長がワスプを撃沈したトマホークの正体を尋ねる。

 

「! 艦長! コチラに接近して来る船が有ります! この音は………ガスタービンエンジンッ!?」

 

とそこで、ソナー員がこの海域に向かって来る船のエンジン音を感知。

 

それがガスタービンエンジンの音である事が分かると、驚きの声を挙げる。

 

「! ガスタービンエンジンだと!? やはりっ!!」

 

潜望鏡を旋回させて、そのエンジン音の船を探す艦長。

 

「! 居たっ!!」

 

やがてその船………『護衛艦』の姿を発見する。

 

「やはり海自の護衛艦だっ!!」

 

「!? か、海自っ!?」

 

「何故海自がワスプをっ!?」

 

海上自衛隊の護衛艦がワスプを沈めたと言う事を知り、発令所内がざわめく。

 

「!? 無人機がっ!?」

 

するとそこで艦長が、既に発艦していたワスプの艦載機の内、アベンジャーとドーントレスが護衛艦に向かって行くのを目撃する。

 

如何やら、ガードフィッシュとワスプからの指示が途絶えた事によって、簡易AIは演習時のオートモードである、1番近い目標に向かって行くと言う行動を取っている様だ。

 

「80度、15マイル。対空目標を約40機確認」

 

その護衛艦………DDH-1820『ゆきなみ型護衛艦3番艦・みらい』のCICで、オペレーターの1人がそう報告を挙げる。

 

「命令の途絶えた無人機が向かって来たか………」

 

「艦長。本当に宜しかったのですか? 一応は学生が所有している艦を撃沈するなど………」

 

CICに居たみらいの艦長・梅津がそう呟くと、砲雷長の菊池がそう意見する。

 

「………我々は訓練航海での帰路で、不審船を発見し、警告を行ったが問答無用で攻撃を受け、自衛の為に止むを得ず反撃して撃沈した………そう言う事だ」

 

「艦長………」

 

「目標更に接近! 間も無く攻撃可能距離に入ります!!」

 

そこでオペレーターから再度報告が挙がる。

 

「………対空戦闘用意っ!!」

 

「対空ー戦闘用意ーっ!!」

 

そこで菊池はそう命じ、CIC内に警報が鳴り響く。

 

「80度7マイル! 主砲、短SAM、攻撃用意っ!!」

 

「目標群α、13機! 80度!」

 

「距離、5マイルに接近!!」

 

「目標軍β、22機! 170度、6マイル!!」

 

オペレーター達から続々と報告が挙がる。

 

イージスシステムを搭載し、音速目標を撃墜出来る最新鋭のこの護衛艦に対し、レシプロ機は精々時速240キロ………

 

止まっている蠅を叩き落す様なものだ。

 

先ず攻撃態勢に入ったのは雷撃機のアベンジャー。

 

水面近くまで高度を落とし、雷撃の態勢に入る。

 

しかし………

 

そこは既にみらいの射程内であり、もう主砲の照準をロックオンされていた。

 

みらいの主砲・オート・メラーラ 127mm速射砲がアベンジャーに向けられる。

 

「右対空戦闘、CIC指示の目標………撃ちー方始めー」

 

「トラックナンバー2-6-2-8。主砲、撃ちー方始めー」

 

梅津の命令が下されると、菊池が指示を出す。

 

「撃ちー方始めー!」

 

その指示に従い、CIC要員の1人が、主砲の発射トリガーを引く!

 

主砲が火を噴いたかと思うと、1機のアベンジャーのド真ん中に命中!

 

エンジンにめり込んだ砲弾が爆発し、アベンジャーは炎上!

 

バランスを崩して、左主翼が脱落したかと思うと、右翼が海面に接触し、水没してバラバラになった!

 

更に続け様に、主砲が2連射され、飛び出した砲弾が近接信管によりアベンジャーの目の前の空中で爆発!

 

爆発と破片を諸に浴びたアベンジャー2機が砕け散る!

 

「トラックナンバー2-6-2-8から2-6-3-0、撃墜!」

 

撃墜したアベンジャーの事を報告に挙げるCIC要員。

 

「新たな目標210度!」

 

と、別の方向からアベンジャーが接近して来たが、みらいの主砲は素早くそちらの方向へ向けられる。

 

速射砲の名の通りに、次々に砲弾を発射。

 

瞬く間にアベンジャーは全機撃墜された。

 

すると今度は、ドーントレスがみらいへ襲い掛かった。

 

急降下により、主砲を避けつつ爆撃を見舞う積りだ。

 

だが、第二次世界大戦中の艦船になら通用したかも知れない戦法も、みらいには無意味である。

 

「トラックナンバー2-6-4-2! 更に接近!」

 

「シースパロー発射始め! サルボー!!」

 

CIC要員がドーントレスの接近を報告すると、菊池は艦対空ミサイル『シースパロー』の発射指示を飛ばした!

 

Mk48 VLSから垂直発射されるシースパロー。

 

それは一瞬にして1番迫っていたドーントレスに命中!

 

ドーントレスは原型も留めぬほど木端微塵となった!

 

更に、続くドーントレスにも次々にシースパローが発射される。

 

ドーントレス達も、大きく旋回したり、高度を落として海面スレスレを飛んだり、急上昇したりと、回避行動を取るが………

 

マッハで飛ぶ対空ミサイルに対しては無駄な行動だった。

 

「全滅か………当然か」

 

潜望鏡でその光景を見ていたガードフィッシュの艦長は、全ての攻撃機が撃墜されたのを確認してそう呟く。

 

と、その時!!

 

「クソッ! このまま終われるかっ!! 魚雷発射っ!!」

 

頭に血が上った魚雷発射管担当員が、みらいに向けて魚雷を放った!!

 

「!? 馬鹿野郎っ! 何やってんだっ!? 相手は潜水艦絶対殺すマンの海自だぞっ!!」

 

しかし、世界屈指の対潜戦闘能力を持つ海自に喧嘩を売った事に、艦長は顔を青褪めさせて怒鳴る。

 

「!! 魚雷音聴知! 210度! 高速接近っ!!」

 

「! 潜水艦が居たのか!? ソーナー員! 何をしていたっ!!」

 

「申し訳ありません!」

 

今までガードフィッシュの存在にに気づいていなかったソナー員を叱りつける菊池。

 

「距離!」

 

「距離2000!」

 

「!?」

 

と、菊池とCIC要員の遣り取りを聞いていた水雷長の米倉が動揺を見せる。

 

「魚雷、見えるかっ!?」

 

「待って下さい………! 雷跡視認っ!!」

 

操舵を指示している航海長の尾栗が尋ねると、双眼鏡で海面を見渡していた麻生と柳の内、麻生がそう報告を挙げる。

 

「最大船速っ!!」

 

副長兼船務長の角松が叫ぶと、みらいが最大船速で前進!

 

「かわせーっ!!」

 

尾栗が叫んだ瞬間に、ガードフィッシュから放たれた魚雷は、みらいの艦尾の側を擦り抜けて行った。

 

「かわした!」

 

「CIC・艦橋! 魚雷発射予想位置にデイタムを設定!」

 

「! 洋介!?」

 

「念の為だ………」

 

ガードフィッシュが居ると思われる位置を割り出させる角松。

 

「方位240度! 距離3800!」

 

「………や、やられる………」

 

ガードフィッシュの位置が割り出される中、更に動揺の様子を見せている米倉。

 

「魚雷、かわされました!」

 

「ホッ………」

 

一方ガードフィッシュでは、魚雷が外れたと言う報告に、艦長が安堵の息を吐く。

 

………が!!

 

「まだ3番から6番が有るぞっ!!」

 

「! 馬鹿野郎っ!!」

 

「ブッ!!」

 

尚も魚雷攻撃を続けようとする発射管要員を艦長は殴り飛ばしたが、一足遅く、残りの魚雷発射管の魚雷も発射されてしまう!

 

「包囲240度………距離3700………深度10………」

 

ブツブツと小声で呟き始める米倉。

 

「また来たか! 多いぞっ!!」

 

「面舵いっぱいっ!!」

 

角松と尾栗が叫び、みらいが再度回避行動を取る。

 

「ハア………ハア………」

 

一方、米倉は過呼吸の様に呼吸を荒くしている。

 

「大丈夫だ。みらいの足なら必ずかわせる。尾栗、頼むぞ」

 

しかし、菊池は親友である尾栗とみらいの性能を信頼しており、微塵も動揺していない。

 

「う、撃って来たのは………向こうなんだ………」

 

「新たな魚雷! 計4本! 右へ広がって来ます!!」

 

「やってくれるぜ!」

 

「如何する?」

 

「慌てるな。10度に戻せ」

 

艦橋でも、角松と尾栗が冷静に指揮を取る。

 

「そんなに………僕達の力が見たいのか………」

 

だが、米倉の動揺は最高潮に達する。

 

「攻撃して来る………お前達が悪いんだぞ………」

 

米倉は火器管制を制御し、前甲板に設置されたVLSの1基のハッチをオープン。

 

装填されていた艦載用対潜ミサイル『アスロック』が発射態勢になる。

 

「やって………やる………」

 

「距離、3000ヤード!」

 

「やられる………前にっ!!」

 

そして遂に!

 

米倉はアスロックの発射ボタンを押してしまう!

 

VLSから煙が噴き出したかと思うと、アスロックが飛び出した!

 

「前甲板、VLS開放! アスロック飛翔中!」

 

「!? 何っ!?」

 

CIC要員からアスロックが発射されたと言う報告を受けて、菊池が驚きの声を挙げる。

 

「!? 魚雷発射ポイントに向かって居ます!」

 

「誰が発射ボタンを!………!?」

 

一体誰が発射したのかと考えた菊池は、瞬時にアスロックの発射ボタンの有る席に座っている人物………米倉の元へ駆け寄る!

 

「米倉っ!! 貴様っ! 命令も無しに撃つ奴があるかぁっ!!」

 

米倉の襟首を掴んで引き寄せてそう怒鳴り付ける菊池。

 

「やらなければ………やられます、砲雷長」

 

しかし、米倉はそう反論する。

 

「お前はっ!!」

 

「CIC・艦橋! 誰が撃てと言った! 現状を報告せよっ!!」

 

菊池が憤っていると、艦橋の角松からもそう怒声が入る。

 

「えいいっ!」

 

「うっ!?」

 

菊池は米倉をそのまま床へと叩き付ける。

 

「ヒューマンエラーだと報告しろ! それから! コイツをCICから叩き出せっ!!」

 

菊池がそう言うと、米倉はCIC要員によってCICから叩き出されるのだった。

 

「魚雷4本の内の2本、本艦との距離、1000ヤード!!」

 

「柳! この魚雷は何処の魚雷だっ!!」

 

「米海軍の魚雷、Mk.14です! 旧日本軍の物は酸素魚雷ですから、航跡は殆ど見えません! 先程の魚雷は、二酸化炭素を排出していました!」

 

ミリタリー趣味のある柳が、尾栗の問いにそう返す。

 

尚、正確には排出していたのは窒素である。

 

「航跡が見えるんだな! 角度は!?」

 

「左130度! 相対速度約5ノット!」

 

「面舵いっぱーいっ!!」

 

新たに4発撃たれた魚雷の内、先行していた2本が迫る中、みらいは面舵を切る。

 

「距離、50! 30!」

 

そして2本の魚雷は、みらいの左舷側を通り抜けて行く。

 

「かわした!」

 

「まだだ! 残り2本! 交差知らせっ!!」

 

「雷跡、真艦尾! 広がりつつ接近っ!!」

 

「距離300!」

 

「戻ーせーっ!!」

 

ガスタービンエンジンが唸りを挙げる中、面舵に切っていた舵を戻すみらい。

 

「距離150ヤード! 接触します!! 後5秒!!」

 

「…………」

 

CIC要員の報告に、無言でモニターを見据えてる菊池。

 

「4秒!………3秒!………2秒!………1秒!」

 

そして最後の2本の魚雷は………

 

みらいを避ける様に左右に広がり、遠ざかって行った!

 

「魚雷! 全弾かわしました! 遠ざかります!」

 

「ふう………」

 

「ヒュ~ッ」

 

魚雷を避けきった事に菊池が安堵の溜息を漏らし、尾栗が口笛を吹く。

 

一方、発射されたアスロックは………

 

ガードフィッシュが居る海域へと到達したかと思うと、ロケットモーター部分が切り離され、接続されていた短魚雷がパラシュートで減速落下しつつ海面に着水。

 

「! イカンッ! アスロックだっ!! 面舵いっぱい! モーター全速だっ!!」

 

着水するアスロックの姿を確認したガードフィッシュの艦長が、潜望鏡を仕舞いながら慌てて指示を飛ばす。

 

ガードフィッシュはアスロックに背を向ける様に逃走を始める。

 

アスロックは、着水の衝撃でパラシュートが切り離されると、アクティブ・ソナーを放ちながらガードフィッシュの方へ向かう!

 

「急げっ! 兎に角遠くまでっ!!………」

 

と、ガードフィッシュの艦長がそう叫んだ瞬間………

 

ガードフィッシュの艦内に、探信音が鳴り響き始めた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

乗組員達の表情が一斉に青褪める。

 

探信音は、徐々に聞こえる感覚が短くなりながら、ドンドン大きくなって行く。

 

「魚雷命中まで、10秒!」

 

「菊池! 魚雷を自爆させろっ!!」

 

「了解っ!!」

 

が、そこで………

 

みらいからの自爆指示により、短魚雷は爆発!

 

爆圧がガードフィッシュへ襲い掛かる!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

艦内に走った衝撃により、乗組員達が転げ回る。

 

「ソナー。潜水艦の機関音は聞こえるか?」

 

「機関音は聞こえませんが、船体の軋み、圧搾空気排出音………急速浮上中の模様」

 

角松がソナー員に尋ねると、そう報告が返って来て、その報告通りにガードフィッシュが浮上。

 

直後に、艦橋上部に白旗が上がる。

 

「よし、後は海上保安庁の管轄だ………」

 

「終わったか………コレが我々に出来る最善の手だったと思いたいな」

 

角松がそう言っていると、艦橋に戻って来た梅津がそう言う。

 

「ハイ………それにしても、幕僚長からの直々の御命令で訓練航海に出たのはこの為だったのですか」

 

「幕僚長とは個人的に付き合いがあってな………」

 

そこで角松が、今回の1件が実は海自の幕僚長直々の命令だった事を思い出してそう言うと、梅津がそう返す。

 

「如何にも頭の上がらない古い知人から頼みだったそうだ」

 

「古い友人? それは一体?」

 

「詳しくは知らんが、『山本』幕僚長曰く、兎に角無責任な男だったそうだよ」

 

「はあ………」

 

梅津の言葉に、角松は怪訝な顔を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

カンプグルッペ学園では………

 

「ワスプが撃沈されただと!」

 

「ハ、ハイ! 無人機も全滅したそうです!」

 

「ぐあああっ! どいつもこいつも私の邪魔を~っ!!」

 

ワスプ撃沈の報告を受けた天親が、凄まじい形相で地団駄を踏んでいる。

 

「きょ、教官! 間も無く大洗とベルウォールの連中が西住 まほの場所まで到達します!!」

 

「教官! このままでは!!」

 

主要な格納庫を殆ど抑えられたため、戦車に乗る事すら出来なかった戦車部隊員達が慌てた様子でそう言って来る。

 

「………させるものか」

 

「? 教官?」

 

「させるものかっ! こんな事で私の復讐は終わりはしないっ!! 終わらせてたまるかぁっ!!」

 

と、不意にそう叫びを挙げると、天親は何処かへと走り出す!

 

「教官っ!?」

 

「見ていろ! 全てを灰にしてやるっ!!」

 

凄まじい形相のまま、天親は更にそう叫ぶのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

みらい登場です!
やっぱり、ドーントレスはイージス艦で撃ち落とさないと(使命感)
サービスでアスロックも付けました(笑)

尚、本来みらいの型番はDDH-182でしたが、この型番は現実で『いせ』につけられましたので、少し改変させていただいております。
御了承下さい。

切り札を失ったカンプグルッペですが、そこで天親が凶行に走ります。
それによって、弘樹が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第187話『異能生存体です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第187話『異能生存体です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園艦・カンプグルッペ学園の敷地内………

 

「オラオラッ!」

 

「カチコミだ、カチコミーっ!!」

 

「全員ブチのめせーっ!!」

 

「いてもうたれーっ!!」

 

ぶっそうな台詞と共に、カンプグルッペ歩兵達を蹴散らしているベルウォール機甲部隊の面々。

 

中心となっているのは、2両の駆逐戦車、ヤークトパンターとエレファントである。

 

「テメェ等ぁ! 千冬に遅れを取るんじゃねえぞっ!!」

 

「アンタ達………音子に負けたりしたら承知しないよ」

 

ヤークトパンターの車長である『山守 音子』と、エレファントの車長である『土居 千冬』がそう言い合う。

 

共にベルウォール戦車部隊の元キャプテン候補であり、ベルウォール戦車部隊の不良女子達を其々に纏め上げている人物である。

 

この2人、実は幼馴染なのだが、好きなものが同じになることが多く、共に喧嘩っ早い性格な為、常に争いが絶えない。

 

更に、前キャプテンが後任を決めずに学園を去ってしまい、以後両者グループの間で次期キャプテンを狙った抗争が頻発。

 

キャプテンが決まらなければあらゆる活動が行われない為、歩兵部隊も事実上の活動休止状態になってしまい、元々不良なベルウォールの歩兵達は再び非行行為に走り始め、学園の治安は悪化。

 

その為、ベルウォール機甲部隊は活動休止状態となっており、全国大会に出場していなかった。

 

しかしつい先日………

 

中須賀 エミがベルウォールに在籍していた旧友の『柚本 瞳』が出したスカウトのオファーを受けて転校してきた。

 

更に時を同じくして、バーコフ分隊の面々も転校して来て、荒れに荒れていたベルウォール歩兵部隊をその腕っぷしで瞬く間に纏めあげる事に成功。

 

そのままバーコフ分隊がエミの傘下に入り、次期キャプテン争いにも介入。

 

戦車道部のメンバーも手が付けられなかった歩兵道メンバーを纏めたバーコフ分隊の実力と、エミ自身の努力もあり、彼女は新たなキャプテン………総隊長として認められる事となったのだった。

 

「千冬! テメェにだけは負けねえからなっ!!」

 

「フフ、言ってな………」

 

いがみ合いながらも、次々にカンプグルッペの戦力を潰して行く2人。

 

何だかんだ言いつつも、実は仲が良い様である。

 

「何かアイツ等ばっかり目立ってる!」

 

「クッソ―ッ! 私達だって負けてないのにーっ!!」

 

そんな音子と千冬の活躍を悔しそうに見ているⅡ号戦車を駆っている双子の姉妹『柏葉 金子』と『柏葉 剣子』

 

元々は戦車道部を目の敵にしていた自動車部の会長と部長で、親の権力を使って好き放題していた姉妹だったが、エミとの対決に敗れた事や、うっかりバーコフ分隊を本気で怒らせてしまった事で、今や立派な戦車道部のメンバーである。

 

コチラも、愛車であるⅡ号戦車に愛着を持つなど、何だかんだで戦車道を楽しんでいる。

 

「オラッ! 退け退けぇっ!!」

 

「邪魔する奴はしばくぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そんな戦車部隊の面々と同様に、一昔前のバンカラな不良生徒の集団であるベルウォール歩兵達も、言葉通りにカンプグルッペの歩兵達をしばいている。

 

「アイツ等、やるなぁ!」

 

「コレはコッチも負けてらんねえぞっ!!」

 

「遅れを取るなぁっ! 突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そんなベルウォール機甲部隊の面々に触発され、大洗機甲部隊の面々の士気も上がる。

 

と、その時………

 

「! あの煙は?」

 

大洗歩兵の1人が、カンプグルッペ学園の敷地の一角から、激しい黒煙が上がって居る事に気づく。

 

それは、最悪の事態を知らせるものだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、大洗歩兵の1人が黒煙を発見する前………

 

「廃倉庫は何処だ?」

 

「こ、この先、500メートルの所だ………ぐえっ!?」

 

襲い掛かって来たカンプグルッペ歩兵の内の1人を捕まえた弘樹が、尋問でまほの居る廃倉庫の詳しい場所を聞き出し、気絶させる。

 

「西住総隊長! 廃倉庫はこの先500メートルのところですっ!!」

 

「了解!………待ってて、お姉ちゃん」

 

弘樹からの報告を聞いて、みほの気持ちが逸る。

 

「総隊長………」

 

「まほ殿………」

 

「まほ………」

 

兵員輸送車に便乗しているエリカ、久美、都草も同じである。

 

そして遂に………

 

一同はその廃倉庫の前々で到達する。

 

「総隊長ーっ!!」

 

途端に、エリカが兵員輸送車から飛び出し、廃倉庫の中へと飛び込もうとする。

 

「! エリカ殿ぉっ!!」

 

「エリカくん! 待てっ!!」

 

迂闊に飛び込むのは危険だと、久美と都草も飛び出して、エリカを止めようとする。

 

だが、そこで!!

 

1両の戦車が、エリカと廃倉庫の間へ割り込んで来た!!

 

「!!」

 

「! エリカ殿っ!!」

 

「エリカくん!!」

 

エリカが思わず静止すると、追い付いた久美が彼女にしがみ付き、都草が2人を庇う様に戦車の前に立つ。

 

現れたのは、Ⅲ号戦車M型だった。

 

「貴様等! よくもやってくれたなっ!!」

 

そのハッチが開いたかと思うと、天親が姿を見せる。

 

「! アンタッ!!」

 

「無駄な抵抗は止めろっ!」

 

「もうすぐ学園の全域の制圧が完了するわっ!!」

 

「もう貴方達の負けです! 投降して下さい!」

 

エリカが声を挙げると、弘樹、エミ、みほがそう言い、天親に投降を促す。

 

「煩いっ! もう終わりだと言うのなら、1人でも多く道連れにしてやるまでだっ!!」

 

「まだそんな事を!」

 

「それに此処でカンプグルッペが終わったとしても、私の復讐は既に遂げられているのだっ!!」

 

「………如何言う事だ?」

 

復讐が遂げられていると言い放った天親に、弘樹が表情を険しくして問い質す。

 

「フフフフフ………」

 

だが、天親はその問いには答えず、狂気の笑みを浮かべると、Ⅲ号の主砲が旋回を始める。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

身構える一同。

 

しかし………

 

Ⅲ号は主砲を弘樹達では無く、廃倉庫へと向けた。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

みほと弘樹が驚きを示した瞬間!!

 

Ⅲ号の主砲から、火炎が噴き出したっ!!

 

如何やら、Ⅲ号M型の改造車であるⅢ号火焔放射戦車だった様である。

 

火炎は忽ち、廃倉庫を燃え上がらせる!!

 

「! 撃てっ!!」

 

それを見たエミが慌てて指示を出し、ティーガーⅠの主砲が火を噴くと、Ⅲ号火炎放射戦車へ直撃!

 

至近距離からの砲撃で、Ⅲ号火炎放射戦車は横転し、天親は車外へ投げ出された!

 

「コイツッ!」

 

「何て真似をっ!!」

 

すぐさま大洗歩兵達とベルウォール歩兵達が取り押さえに掛かる。

 

しかし、Ⅲ号火炎放射戦車の火炎を浴びた廃倉庫は一瞬にして炎に包まれる!

 

競技用の安全な火炎では無い。

 

本物の炎である。

 

「キャアアッ!」

 

「助けてぇーっ!!」

 

まだ中でまほを見張っていた戦車部隊員達が、慌てて飛び出して来る!

 

「ちょっとっ! 総隊長はっ!? 西住 まほは如何したのっ!?」

 

その内の1人を捕まえたエリカがそう問い質す。

 

「ま、まだ中に………」

 

「!? 何ですってっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その答えを聞いたエリカが戦慄し、一同にも衝撃が走る。

 

既に廃倉庫は完全に炎の塊と化しており、人が内部に入るのは不可能である。

 

戦車ならば突入出来るかも知れないが、元が廃倉庫なので、下手に破壊して突入すれば、炎上して脆くなっている建物が潰れてしまう可能性も有る。

 

「総隊長ーっ!!」

 

「まほっ!!」

 

だが、それでも構わずに、エリカと都草が、廃倉庫へ突入しようとする。

 

「お姉ちゃーんッ!!」

 

更にみほも、Ⅳ号に備え付けられていた緊急時用の消火器を引っ掴むと、燃え盛る廃倉庫へ突入を試みる。

 

「エリカ殿っ! 都草殿! 駄目でありますっ!!」

 

「みほ! 落ち着きなさいっ!!」

 

しかし、エリカと都草は久美に、みほはティーガーⅠから飛び出したエミによって止められる。

 

「離しなさいっ! 久美っ!!」

 

「久美くん! 離してくれっ!!」

 

エリカと都草が久美を振り解こうとする。

 

流石の都草も、この事態に冷静では居られない様だ。

 

「お姉ちゃん! お姉ちゃーんっ!!」

 

「みほ! 駄目よっ!!」

 

一方、エミに止められているみほも、完全に錯乱しており、まほの名を呼びながら尚も炎上する廃倉庫へ飛び込もうとしている。

 

「ハハハハハハハハッ! 燃えろっ!! 全て燃えてしまえぇっ!!」

 

「テメェもう黙れっ!!」

 

その光景を見ながら、天親は狂気の笑いを挙げ、大洗歩兵の1人にそう怒鳴られる。

 

「消防車はっ!?」

 

「今連絡したけど、この燃え方じゃ到着までに建物が持たんぞっ!!」

 

了平の言葉に地市がそう返す。

 

最早まほはもう駄目なのか………

 

そんな思いが一同に過ったその時………

 

エミに押さえられていたみほの手から消火器を引っ手繰った人物が居た!

 

「!!」

 

「…………」

 

弘樹だっ!!

 

燃え盛る廃倉庫へ走りながら、消火器を噴射する弘樹。

 

それにより、消化液が噴き掛けられた部分の炎が、一瞬消える。

 

「!!」

 

その瞬間に弘樹は空になった消火器を放り投げると、何の躊躇も無く炎が消えた部分に在った窓を突き破って廃倉庫内へと突入!

 

直後に、再び燃え上がった炎が、弘樹が突入した部分を燃え上がらせる!

 

「!? 弘樹くんっ!?」

 

「あの馬鹿っ!!」

 

「クソッ! 水だっ! 水持って来いっ!!」

 

炎の中へと突入した弘樹を見て、その場の混乱が更に激しくなるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その燃え盛る廃倉庫内では………

 

「ゲホッ! ゴホッ! だ、誰かっ! 助けてくれぇっ!!」

 

充満する煙にむせながら、必死に助けを求めるまほ。

 

未だに柱に縛られている彼女だが、奇跡的にもそこまでは炎が及んでいなかった。

 

しかし、何れは炎が回るのは明らかであり、見張りをしていた隊員も全て逃げてしまったので、逃げる事も出来ない。

 

このままでは確実に焼け死んでしまう………

 

「ゴホッ! ガホッ!………頼む………誰かぁ………」

 

段々と声が弱々しくなっていくまほ。

 

(もう………駄目だ………)

 

遂にそう思ったまほの脳裏に、幼少時のみほとの思い出が蘇る………

 

(みほ………こんな事になるんだったら………お前にもう1度………姉として接してやりたかったなぁ………)

 

次々と走馬灯が過る中、意識を手放そうとするまほ。

 

………と、その時!!

 

炎の中から、人影が飛び出して来た!!

 

「!?」

 

「御無事ですか?」

 

驚いて急激に意識を覚醒させたまほに、人影………弘樹はそう問う。

 

「! 舩坂 弘樹っ!? 何故此処にっ!?」

 

「話は後です」

 

まほの問いを後回しにし、銃剣を使ってまほを拘束していた縄を切る。

 

「コレを………」

 

「うわっ!?」

 

そして何と!

 

自分の戦闘服の上着とヘルメットを脱いだかと思うと、まほに着せた!

 

歩兵道用の戦闘服には安全の為に、防火服としての機能も有している。

 

無論、消防等の専門の装備に比べると大分劣るが、それでも並みの炎ならば耐える事が出来る。

 

だが、それを脱いだと言う事は、当然弘樹自身が危険に晒される事になると言う事である。

 

「だ、駄目だ! コレは君のだろうっ!!」

 

「生憎、しぶとい身でしてね………」

 

慌ててまほが戦闘服を返そうとするが、弘樹はそう言って制する。

 

と、その瞬間!!

 

とうとう耐え切れなくなった廃倉庫が崩落を始めたっ!!

 

天井が崩れて、大量の瓦礫が弘樹とまほへと降り注ぐ!!

 

「!?」

 

「!!」

 

まほが硬直する中、弘樹は彼女に覆い被さる様に跳び掛かったっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、廃倉庫の外でも………

 

「あ、ああああっ!?」

 

「まほっ!!」

 

「お姉ちゃんっ! 弘樹くんっ!!」

 

轟音と共に、廃倉庫が崩れ落ちる様子を見て、エリカ達とみほの顔が青褪める。

 

と、その時………

 

上空からエンジン音が聞こえて来た!

 

「! 一航専の四式重爆撃機っ!!」

 

空を見上げた楓が、その音の正体が一航専の四式重爆撃機の編隊である事に気づく。

 

四式重爆撃機は燃え盛る廃倉庫の上空へ差し掛かったかと思うと、爆弾槽を開き、消火弾を投下!

 

空中で炸裂した消火弾の消火剤が、廃倉庫の火災を一瞬で鎮火した!

 

「! 弘樹くん! お姉ちゃんっ!!」

 

「総隊長!」

 

「まほっ!!」

 

みほ、エリカ、都草が、火災の消えた廃倉庫跡へと突入する。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

他の一同もすぐさま駆け寄り、瓦礫やら何やらを退かし始める。

 

「お姉ちゃん! 弘樹くん! 返事をしてぇっ!!」

 

悲痛な叫びを挙げながら、必死に瓦礫を退かして行くみほ。

 

「………ほ………み………みほっ!」

 

「!?」

 

と、その彼女の耳に、まほの声が飛び込んで来る。

 

「! 総隊長!」

 

「まほっ!!」

 

「まほ殿っ!!」

 

エリカ達もその声に気づき、声がする場所へと集まると、その場所の瓦礫を退かし始める。

 

「退いてろっ!!」

 

「ココは俺達に任せておけっ!!」

 

すると、力仕事は自分達の担当だと、地市とバーコフを先頭に大洗歩兵達とベルウォール歩兵達が集まって、その場所の瓦礫を集中して退かし始める!

 

「総隊長………」

 

「お姉ちゃん………弘樹くん」

 

不安そうな眼差しで、その様子を見守っているエリカとみほ。

 

「! オイッ! 手が見えるぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、ザキが瓦礫の中から伸びていた手を発見する。

 

一同が集まると、ザキが言った通り、瓦礫の中から女性のモノと思われる手が1本伸びていた。

 

「西住 まほだ!」

 

「瓦礫を退かせっ! 慎重にだっ!!」

 

すぐさま、その手の近くに在った瓦礫を慎重に退かし始める大洗歩兵達とベルウォール歩兵達。

 

「よし、良いぞ!! 引っ張り出せっ!!」

 

「「「「「せーのっ!!」」」」」

 

やがて、大きく隙間を作る事に成功すると、数名がまほの手を掴んで慎重に引っ張り出す。

 

「お姉ちゃん!」

 

「まほっ!」

 

「総隊長っ!」

 

「まほ殿っ!」

 

すぐさま、みほ、都草、エリカ、久美が傍へと駆け寄る。

 

「う、うう………みほ………都草………エリカ………久美………私は………助かったのか?」

 

みほ達の声に反応し、まほは呻き声を挙げると、やや焦点の合って居ない様子の目を開け、そう呟いた。

 

「まほ………良かった」

 

「総隊長………良くぞご無事で」

 

「いや~、ヒヤリとしたであります」

 

その様子を見て、都草はまほを抱き締め、エリカは涙を流し、久美は安堵の息を吐く。

 

「! その戦闘服とヘルメット………お姉ちゃん! 弘樹くんはっ!?」

 

しかし、みほだけは、まほの身に着けていた戦闘服とヘルメットを見て、弘樹の安否を気に掛ける。

 

「! そうだ! 舩坂 弘樹は!? 彼は私を庇って………」

 

その言葉で、まほの意識が急激に覚醒した瞬間………

 

「居たぞっ! 弘樹だっ!!」

 

弘樹を見つけたらしいゴダンがそう声を挙げた。

 

「! 弘樹くんっ!!」

 

すぐさまみほが、その場所へと走る。

 

「うっ!? コレはっ!!………」

 

「マズイ! 嬢ちゃん、来るなっ!!」

 

しかしそこで、コチャックが何かに気づき、バーコフがみほを止めようとしたが間に合わなかった。

 

「弘樹くん!………!!」

 

そこでみほが見たのは、まだ瓦礫に半分身体が埋まっている弘樹の姿だった。

 

「弘樹くん!!」

 

すぐに引っ張り出そうと、みほは弘樹の元へ駆け寄り、その身体に触れる。

 

すると、その手にヌチャリと言う、液体を触った様な感覚が走った。

 

「えっ?………」

 

みほが呆然となりながらその手を見やると………

 

その手は、赤黒い液体………

 

『血』で真っ赤に染まっていた。

 

「えっ?………」

 

思考が停止するみほ。

 

そのまま再び弘樹へと視線をやると………

 

弘樹の身体の下に、血溜まりが出来始めている事に気づく………

 

「!? 嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

やっとの事で脳が思考を再開した瞬間に、みほは悲鳴を挙げる。

 

「救急車だっ! 急げぇっ!!」

 

混乱が広がる中で、バーコフの叫びが虚空に木霊するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

横須賀市の総合病院・手術室前………

 

当初はカンプグルッペ学園艦の甲板都市の病院に運び込まれた弘樹だったが、怪我の程度は重く、すぐに近場の横須賀市の病院にドクターヘリで空輸された。

 

現在は手術室で緊急手術を受けている状態である。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その手術室前の廊下には、みほを始めとしたあんこうチーム、地市、了平、楓、シメオン、ハンネス、エグモンド、六郎、エミ、バーコフ分隊の面々。

 

そして、軽傷だった為に既に治療を終えたまほにエリカ、都草と久美の姿が在った。

 

流石に全員は入れないので、他のメンバーは病院の外で待機している。

 

皆が固唾を呑んで手術が終わるのを待っている。

 

「…………」

 

特にみほの様子は深刻であった………

 

長椅子に座って俯き、膝の上に乗せている両手を固く握り締めている。

 

「みぽりん………」

 

「西住殿………」

 

その両脇には、沙織と優花里が座り、みほの肩と握っている拳の甲に手を乗せている。

 

「大丈夫ですよ、みほさん。舩坂さんの事ですから、きっと大丈夫ですよ」

 

「そうだ。アイツは不死身だ」

 

更に沙織の隣に居た華と、優花里の隣に居た麻子がそう言って励ます。

 

「………うん」

 

しかし、みほは弱々しい返事を返すだけだった。

 

とそこで、手術室のランプが消えた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

みほ達が立ち上がり、全員の視線が手術室の扉に集まると、中から手術着姿の主治医が出て来て、マスクを外す。

 

「先生! 弘樹くんは!!」

 

すぐにみほが主治医へと詰め寄る。

 

「大丈夫ですよね!」

 

「そうだ! アイツがそう簡単に死んでたまるか!!」

 

「しぶとさなら隊長以上な人ですよ!」

 

「先生!」

 

シメオン、ハンネス、エグモンド、六郎も同じく詰め寄る。

 

だが………

 

「手は尽くしたのですが………残念です」

 

「えっ?………」

 

主治医がそう言い、みほの頭が真っ白になった瞬間………

 

手術室の中から、顔に白い布を置かれた弘樹を乗せたストレッチャーが、看護婦達によって運び出されて来る。

 

「!!」

 

「あ! ちょっとっ!!」

 

みほはすぐにそのストレッチャーに駆け寄ると、看護婦の抗議の声も無視して、顔に乗せられていた布を取り払う。

 

そこには、まるで眠っているかの様な弘樹の姿が在った。

 

「…………」

 

震えながらもその顔に手を触れるみほ。

 

その顔はまだ温かかった………

 

「弘樹………くん………うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間にみほは、堰を切った様に弘樹の胸に縋り付いて泣き始めた。

 

「嘘だろ、弘樹………」

 

「お前が死ぬなんてよ………」

 

「クソッ!!」

 

「弘樹………」

 

バーコフ、ゴダン、ザキ、コチャックも信じられないと言った表情を見せる。

 

「「「…………」」」

 

地市、了平、楓は言葉も無い様子だ。

 

「みほ………」

 

エミは泣きじゃくるみほの肩に手を置くが、何も出来ずに只途方に暮れる。

 

「すまない、みほ………私が迂闊だったばかりに………」

 

まほが申し訳無さそうな表情でみほへと謝罪する。

 

「ゴメンナサイ………ゴメンナサイ………みほ」

 

「エリカ殿………」

 

エリカも責任を感じており、泣きながらみほへ繰り返し謝罪し、久美はそんなエリカに寄り添う。

 

「舩坂 弘樹………こんな事になるとは………非常に残念だよ………」

 

そして都草は、弘樹と勝負出来なかった事へ未練を感じると共に、掛け替えのないライバルを失った事で虚無感に見舞われていた。

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

弘樹の胸に縋り付き、泣き続けるみほ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ドックン………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? えっ!?」

 

みほはピタリと泣き止み、驚愕の表情を浮かべた。

 

「? みほ?」

 

「みぽりん?」

 

「如何したんですか?」

 

「西住殿?」

 

「何だ?」

 

突然泣き止んだみほに、エミ、沙織、華、優花里、麻子が怪訝な顔をする。

 

「…………」

 

しかし、みほはそれには答えず、弘樹の胸に耳を当てた。

 

………ドックン………

 

「!!」

 

そして今度はハッキリと耳にする。

 

弘樹の………

 

心臓が動く音を!!

 

「! 弘樹くん! 弘樹くん!!」

 

途端に、みほは弘樹の身体を揺さぶる。

 

「み、みぽりんっ!?」

 

「西住殿っ!?」

 

「ちょっ! 落ち着きなさいってっ!!」

 

「みほさん、駄目です!」

 

沙織、優花里、エミ、華は、みほが錯乱したのかと思い、押さえようとする。

 

「………うん?」

 

麻子も押さえに入ろうとした時、何かを感じて、弘樹の事を見やる。

 

すると………

 

身体に掛けられていたシートの隙間から見えていた弘樹の右手が、ギュッと握り締められるのを目撃する!

 

「!? ヒイイッ!?」

 

途端に麻子は、悲鳴を挙げて尻餅を衝いた。

 

「!? 冷泉殿っ!?」

 

「如何したの、麻子!?」

 

「あ、あああああ………」

 

優花里と沙織が尋ねると、麻子は尻餅を衝いたまま顔を青褪めさせ、震える指で弘樹を指す。

 

それにより、一同の視線が弘樹へと集まると………

 

「…………」

 

弘樹の目が………

 

ゆっくりと………

 

開かれた………

 

「「「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」」」

 

衝撃の余り固まる一同。

 

「………此処は………何処だ?」

 

そんな一同の驚きも知らずに、弘樹は至って普通にそう言って、上体を起こす。

 

「そ、そんな馬鹿なっ!? 確かに死亡確認を!?」

 

「あああ………」

 

主治医が信じられないと言う顔で狼狽し、看護婦の1人が気絶する。

 

「弘樹くん!」

 

「おわっ!? みほくん?………」

 

「良かった………」

 

只1人だけ、みほは上体を起こした弘樹に抱き付き、その身体の感触をしっかりと確かめる様に抱き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

結局弘樹の復活の理由については、主治医の誤診と言う事で決着が着いた。

 

その際に主治医が………

 

「いっそその方が精神衛生的に助かる………」

 

と力無く呟いていたのが印象的であった。

 

翌日には弘樹は退院。

 

カンプグルッペ学園は、まほの証言もあり、改めての連盟の査察でコレまでの数々の不正が発覚。

 

当然、失格処分となり、黒森峰は準決勝を不戦勝となる。

 

歩兵道の教官であったカン・ユーは逃亡したが、戦車道の教官である天親は殺人未遂で逮捕され、一部の生徒も書類送検となった。

 

更に、カンプグルッペは無期限の大会出場停止処分を受ける。

 

カンプグルッペを襲撃した大洗とベルウォールについては、事前に迫信と杏が手を回して於いた事と、常夫が友人達に頼んで便宜を図ってもらったので、御咎め無しとなった。

 

しかし………

 

復讐は既に遂げられている………

 

そう言っていた天親の言葉が、本当だったと言う事を………

 

この後、黒森峰と西住流は思い知る事となった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

この作品でのベルウォールの事について、少し補足説明させていただきました。

しかし、今回最大の見所は天親の凶行と、異能生存体・弘樹です。

とうとうまほを殺そうとした天親。
燃え盛る炎の中へ、まほを救出に向かった弘樹だったが、自分が命を落とす事に………
だが、彼は不死身の分隊長・舩坂 弘の子孫………
死亡が確認されて、尚蘇ってみせたのだった。

しかし………
復讐は既に遂げられている………
次回、黒森峰と西住流は、この言葉の意味を思い知る事になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第188話『没落の栄光です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第188話『没落の栄光です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園に誘拐されたまほを、無事救出する事に成功した大洗機甲部隊とベルウォール機甲部隊………

 

1度は死亡確認された弘樹も、持ち前の生命力で自力蘇生………

 

カンプグルッペ学園は失格となり、黒森峰が不戦勝となった事で、決勝戦が前倒しで行われる事になった………

 

だが………

 

今、黒森峰と西住流は………

 

最大の危機を迎えていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・生徒会室………

 

「コレは………」

 

「酷いです………」

 

「…………」

 

「胸糞悪くなるな………」

 

「まさかこんな………」

 

桃、清十郎、熾龍、俊、逞巳が、生徒会長である杏の机を取り囲んで不快そうな表情や困惑の表情を浮かべている。

 

「「…………」」

 

その机の主である杏とその隣に立つ迫信も、複雑な表情な浮かべている。

 

彼等と彼女達が視線をやっている机の上には、複数の週刊誌が並べられている。

 

その見出しには………

 

『黒森峰の真実! 栄光の裏に隠された犠牲の歴史!!』

 

『殺人流派! これが西住流の正体だ!!』

 

『勝利の為に犠牲を肯定!? 教育機関にあるまじき教導!!』

 

『人殺しの学園! 黒森峰、偽りの栄誉!!』

 

全て、黒森峰や西住流への批判、若しくは誹謗中傷の記事となっていた。

 

「こんな事になるなんて………」

 

「あの戦車道教官。かなり強かな奴だったみたいだな」

 

柚子が影の有る表情で言うのとは対照的に、淡々とそう言う十河。

 

 

 

 

 

そう………

 

こんな記事が出回っている原因は、全てカンプグルッペの戦車道教官・天親にあった………

 

カンプグルッペが行った軍事道に於いて例を見ない不正行為は、世間にも広く知れ渡る事となり、当然カンプグルッペには批判が寄せられた。

 

しかし、その中に………

 

カンプグルッペがその様な行動に走ったのは、黒森峰と西住流にも責任が在ると言う意見が噴出していた………

 

実は、しほやエリカとの電話の遣り取りを記録していた天親は、大洗とベルウォールの奇襲を受けた際に、それらを全て、自分達の素性と共に、マスコミにばら撒いていたのである。

 

彼女達が凶行に走ったそもそもの原因は、西住流と黒森峰の教導や体制にあると………

 

また、天親がしほ、エリカに行った電話記録が公開され、しほやエリカがまほよりも試合の勝利を優先していたと言う事が知られる事となった。

 

脅しに屈しなかったと言えば聞こえは良いが、それが世間一般に通用するかと言われれば答えはノーである。

 

更に、そんな人々の気持ちを煽るかの様に問題となったのが、去年の全国大会での出来事である………

 

あの事件の後、しほがみほを呼び出し、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』と言ったという情報が漏れたのだ。

 

天親のリークを裏付けるこの恰好の情報を掴んだマスコミが、動かないワケがなかった………

 

黒森峰や西住流に対し、有る事無い事を含めた記事が世間に出回り………

 

結果、黒森峰と西住流は世間の非難を一身に受ける事となった。

 

無論、黒森峰側や西住流の関係者も、流通している情報に対する否定の記者会見を行ったりしたのだが………

 

元々戦車道が斜陽となっていた事で、現代の人々は戦車道に明るくなく、それ等の会見は、只の身内の庇い立てにしか聞こえなかった。

 

皮肉な事に、大洗とグロリアーナ&ブリティッシュの試合で、軍艦道の選手達が試合を放り出して人命救助に当たり、人々に感銘を与えていた直後な事もあり………

 

黒森峰や西住流の『犠牲有りき勝利』と言う思想は、大いに否定される事となった。

 

今や黒森峰や西住流は、人々にとって戦車道の名門・日本戦車道の代表流派では無く………

 

人命軽視の学園と殺人流派として見られ、連日の様に非難を浴びていた………

 

 

 

 

 

「不幸中の幸い………と言って良いか分かりませんが、西住への非難が無いのは安心しました」

 

「寧ろ英雄視されてるからね~、ウチの西住ちゃんは」

 

桃と杏がそう言い合う。

 

当初は、西住の人間と言う事もあり、みほへの非難も予想されたが………

 

寧ろマスコミは、みほの事を『西住に生まれながら西住流に反旗を翻した英雄』………

 

『黒森峰の犠牲有りきの風潮に異議を唱えた常識人』などと言った具合に、同情や英雄視する様な報道を行った。

 

プラウダ&ツァーリとの試合後の遣り取りや、去年の決勝戦に於いて、黒森峰戦車部隊の中で唯一救助に動いた者として知られていたからである。

 

これまでみほの事を批判していた評論家達も、掌を返してみほを称賛し始めてる。

 

そんな評論家気取りの連中を見た弘樹が、思わずテレビ画面を叩き割ったのは記憶に新しい。

 

ともあれ、次の決勝戦では、大洗を応援する声が高まっている。

 

黒森峰は負けて当然だと言う様に………

 

「肝心の西住さんは大丈夫なんですか?」

 

「うん、取材とかは皆シャットアウトしてあるし、舩坂くんやあんこうチームの皆が付き添ってくれてるから」

 

みほのメンタルへの影響を心配する逞巳だったが、柚子がそう返す。

 

「西住さんの場合、黒森峰の皆さんの事を心配していそうですけどね………」

 

「だな………」

 

「何を言うか。鉄の掟と鋼の心で纏められた黒森峰だぞ。こんな世間の風評など、気にも留めてないだろう」

 

清十郎と俊の会話を、十河が否定する。

 

「いや、そうとも限らないよ………」

 

すると迫信が、窓の外を眺めながらそう言う。

 

「会長?」

 

「如何言う事ですか?」

 

「硬い物ほど、衝撃に対して脆いものさ………」

 

迫信は意味深な顔でそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻………

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園………

 

総隊長室前………

 

「総隊長………」

 

「ん? 如何した?」

 

総隊長室に入ろうとしていたまほは、5人居た機甲科の隊員の内の1人に声を掛けられ、振り返る。

 

「………コレを」

 

声を掛けた機甲科隊員は、一瞬躊躇った様な様子を見せた後、申し訳無さそうな表情で1枚の封筒をまほへ差し出す。

 

その封筒には『辞意表明書』と言う文字が書かれていた。

 

「「「「…………」」」」

 

他の4人も同じ様に、『辞意表明書』と書かれた封筒を取り出し、まほへと差し出す。

 

「………そうか。君達も辞めるのか」

 

「ゴメンナサイ! 総隊長!!」

 

「本当は私達、辞めたくなんかないんですっ!!」

 

「でも、駄目なんです………もう耐えられないんですよ!!」

 

「毎日毎日非難され………正直もうおかしくなりそうなんです!!」

 

「私ももっと戦車道を続けたかったのに………親が許してくれなくて!! もう転校まで決まってるんです!!」

 

まほが残念そうな表情を浮かべると、5人は堰を切った様に泣き出す。

 

「良いんだ。元は私の実家………西住流が撒いた種だ。本当に申し訳無い」

 

するとまほは、泣いている5人に向かって深々と頭を下げる。

 

「! 総隊長っ!!………」

 

そんなまほの姿を見て、更に泣き出す5人。

 

「………コレは私の方で受理しておく。今日はもう帰ってゆっくり休め」

 

「スミマセン………スミマセン、総隊長………」

 

まほがそう言うと、5人は泣きながら、何度もまほに謝罪しながら去って行く。

 

「…………」

 

5人が居なくなった後、まほは改めて5人の辞意表明書を見て表情に影を落とす。

 

そして、その足で総隊長室に入ると………

 

デスクの上に山の様に置かれた辞意表明書が目に入る。

 

「………ハア」

 

その山の中に先程の5枚の辞意表明書を入れると、まほは重々しい溜息を吐いた。

 

黒森峰と西住流が非難を受ける様になって以来………

 

機甲科の隊員達は連日連夜の様に辞めて行っている………

 

鉄の掟と鋼の心を持つとされた黒森峰と西住流だが、その鉄の掟や鋼の心自体を否定され、機甲科の隊員達は嘗てない程に打ちのめされていた。

 

更に、これまで戦車道の王者として、常に余裕の有る試合を行って来た黒森峰と西住流故に………

 

絶体絶命の危機に陥ると言う様な事は全く無かった。

 

つまり、黒森峰や西住流の人間は、逆境に対して耐性が殆ど無いのである。

 

自分達が追い込まれていると言う状況に慣れていない彼女達は、次々とその状況に耐えられず、辞めて行った………

 

また、彼女達はまだ学生………高校生である。

 

学園の評判が悪くなれば、当然将来にも影響が出る………

 

黒森峰も名門だけあり、グロリアーナ程ではないが、良い所のお嬢様が多い。

 

そして、そう言った人種は世間体や家の名に傷が付く事を極端に気にする傾向が有る。

 

先程の5人の様に泣きながら辞意表明書を渡してくる者などまだ良い方で、悪評の立った黒森峰に用は無いとばかりに、辞意表明書だけを残し、とっとと黒森峰自体から去って行った者達も居る。

 

「…………」

 

改めて山の様に積まれた辞意表明書を見て、ガックリと肩を落とすまほ。

 

とそこで、総隊長室のドアがノックされた。

 

「! 誰だ?」

 

途端にまほは気を張り直して、ノックの主に問い質す。

 

「僕だよ、まほ」

 

「都草か………入ってくれ」

 

しかし、相手が都草である事が分かると、再びガックリと力を抜いてそう言った。

 

「失礼するよ………また辞めた子が出たのかい?」

 

入室して来た都草が、デスクの上に山の様に積まれている辞意表明書を見てそう言う。

 

「ああ………コレでもう、機甲科の隊員の人数は半分を割ったよ………そっちは如何だ?」

 

「似た様な状況さ。幸い話の分かる子は多かったから、説得して何とか思い留まって貰えているけどね」

 

「そうか………」

 

「まほ………」

 

と、覇気の全く見えないまほの姿を見て、居た堪れなくなった様に、都草はまほを正面から抱き締める。

 

「…………」

 

そんな都草に、まほは縋る様に抱き付く。

 

「まほ………いっそ逃げ出すかい?」

 

「えっ?………」

 

「黒森峰も西住流も忘れて、何処か遠くへ行くんだ。僕が手助けしてあげるよ」

 

「…………」

 

都草からの思わぬ提案に、まほは逡巡する様子を見せた。

 

しかし………

 

「ありがとう、都草………」

 

「まほ………」

 

「けど、私は黒森峰の総隊長であり、西住流だ………逃げるワケには行かない」

 

「…………」

 

「まだ残ってくれている隊員達の為にも………私はまだ、戦わなければならない………例え称賛が無く、罵倒されたとしてもだ………」

 

そう答えるまほだったが、やはりその顔に覇気は無く、弱々しい。

 

「まほ………」

 

そんなまほを、都草は更に強く抱き締める。

 

(そうだね、まほ………君はそう言う人だ………なら僕は………最後まで君の味方で居よう)

 

その胸に、決意を抱きながら………

 

だが、そんな2人の決意を嘲笑うかの様に………

 

黒森峰と西住流の状況は刻一刻と悪くなって行っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰・戦車格納庫内………

 

「ちょっとっ! 何よ、コレッ!?」

 

そう金切り声を挙げているのはエリカであり、彼女の手には補給品のリストが握られている。

 

「今度の補給品のリストです………」

 

「燃料と弾薬が必要な量の3割しかないじゃない! オマケに整備用の部品も殆ど入って無いわよ!!」

 

「スポンサーや業者の方が………もう黒森峰相手に商売は出来ないって」

 

「何よソレッ!?」

 

憤りを隠せないエリカ。

 

そう………

 

黒森峰と西住流への非難により………

 

コレまで黒森峰に対し、燃料や弾薬、整備用の部品を卸していた業者やスポンサーが取り引きを打ち切ったのである。

 

両者に浴びせられている非難は相当なレベルであり、下手をすれば黒森峰や西住流相手に軍事道関係の商売をしている業者にまで影響が出かねないと言うのが理由である。

 

企業や業者というものは、イメージや信頼が第一であり、今や世間から人殺し学園だの殺人流派などと呼ばれている黒森峰や西住流相手に商売や支援をする事など出来る筈もない。

 

無論、支援者の中には黒森峰出身のOG会に所属する者達も居たのだが………

 

これまた黒森峰と西住流への非難により、黒森峰の出身と言うだけで勤め先から解雇されるという事態まで発生していた。

 

コレによりOG会の者達も自分達の事でいっぱいいっぱいな状態であり、黒森峰を支援する事など出来なかった。

 

「………足りない分は、使わない戦車から抜き取って、使う戦車の方に回すしかありませんね」

 

「共食い整備か………惨めなモノね………全員、取り掛かりなさい!」

 

「「「「「「「「「「了解ッ!!」」」」」」」」」」

 

エリカの号令で、機甲科の隊員達が其々の戦車の元へ向かい、僅かな整備員達の指示の元、整備を始める。

 

何故整備員の数がコレ程までに少なく、機甲科隊員達が整備の作業をしているのか?………

 

実は、辞意表明者が出ていたのは、機甲科の隊員ばかりでなく、整備科の生徒達もだったのである。

 

黒森峰自慢のティーガーやパンターと言った旧ドイツ軍の高性能な戦車達。

 

しかし、それ等の戦車は機械的信頼性が極端に悪かった。

 

戦時中は、敵に撃破されたよりも、故障して爆破処分された数の方が多かったと言う物も有る。

 

更に複雑な機構により、整備性にも難を抱えている。

 

その為、黒森峰では其々の車両に専門の整備士のグループを付けると言う贅沢な処置を行っていたが、先述の通りにその整備士達が辞めて行ってしまった為、機甲科の隊員達は自分達で整備を行うしかなくなってしまった。

 

只でさえ信頼性が低く、整備性の悪い戦車達を、専門的な整備に慣れていない機甲科の隊員達が、碌な交換部品も無く共食い整備で整備していて、真面に動かせる筈も無い。

 

現在、黒森峰の戦車の稼働率は、5割を切ろうとしていた。

 

(明日は近くの港への入港日………そこでその街の業者に頼み込んで、補給と整備をお願いしてみるしかなさそうね)

 

顔を油塗れにして自分の乗るティーガーⅡを整備しているエリカが、明日学園艦が港に入港するのを思い出しながら、僅かな期待を込めてそう考える。

 

だが………

 

その僅かな期待さえも………

 

裏切られる事となる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

黒森峰女学園・総隊長室………

 

「入港を………拒否された?」

 

「そんな馬鹿なっ!!」

 

まほが愕然とし、エリカが声を張り上げる。

 

「………市長さんが、現在市街で黒森峰学園艦入港反対のデモが起きており、学園艦と生徒、甲板都市の住民の安全が確保できない為との事です」

 

船舶科の生徒が、申し訳無さそうにそう報告を続ける。

 

「要は私達を入れたくないって事でしょっ! だったらそう言えば良いじゃないっ!!」

 

「ココまでとはな………」

 

エリカは更に声を張り上げ、まほは頭を抱える。

 

まさか港に入港する事まで拒否されるとは………

 

最早、世間に黒森峰と西住流の味方をする者は居ないのか………

 

「分かった………先方には了解したと伝えてくれ。学園艦は近場の入港出来そうな港へ回してくれ」

 

「! 総隊長!」

 

「すみません………」

 

まほがそう言うと、エリカが驚きを露わにし、船舶科の生徒は申し訳無さそうにしたまま敬礼し、退室して行った。

 

「………入港まで拒否されるとはな」

 

「クソッ!!」

 

まほがガックリと項垂れ、エリカが悪態を吐く。

 

黒森峰や西住流に対する非難は、最早魔女狩りと言って良いレベルにまで到達していた。

 

中には、黒森峰と西住流はナチス・ドイツの再興を目論むカルト集団であると言う、突拍子も無い話まで出ている。

 

今回の入港拒否も、そんな噂話に踊らされた一部の人々の暴挙だと推測される。

 

「総隊長! 大丈夫です! 他の港なら、きっと………」

 

「何でこんな事になってしまったんだろうな………」

 

「! 総隊長………」

 

虚空を見上げながらそう呟くまほを見て、エリカが固まる。

 

それは決して………

 

まほが人に見せる様なモノでは無い………

 

弱々しい顔だった………

 

 

 

 

 

その後………

 

エリカの期待も虚しく………

 

黒森峰は第2、第3の港にも入港を次々と拒否され………

 

結局その日の上陸は延期となってしまった………

 

この事が切っ掛けで………

 

甲板都市からの引っ越しを検討し始める黒森峰学園艦住人が出始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本県・某所………

 

西住家………

 

由緒正しき、日本戦車道の代表流派西住流の総本山………

 

だが、その格式が高そうな日本の伝統家屋の家の壁には………

 

スプレー缶で書かれたと思われる落書きや『人殺し流派』、『殺人戦車道』と言う文字が汚く書かれている。

 

更に、敷地内には投げ込まれたと思われるゴミも散乱している。

 

何とも無残な有り様だ………

 

「クリ~ン、クリ~ン、お出かけですか? レレレのレ~」

 

その庭で、竹箒を手に、お約束な台詞を言いながら掃除をしている常夫の姿が在った。

 

「旦那様! その様な事は私がやりますから!」

 

それを見た菊代が、慌てて駆け寄って来て常夫から竹箒を奪おうとする。

 

「ハハハッ! 良いの良いの! 綺麗にするのって気持ちが良いじゃない!」

 

「ですが! こんな時こそ、旦那様が奥様の傍に居てあげなくては!!………」

 

常夫にそう言う菊代。

 

現在、西住家には連日抗議や非難の電話、手紙、ファックス、メールetcが届いており………

 

当初は今までと同じ様に毅然とした態度を執っていたしほだったが………

 

止む事の無い非難の前に、ここ最近は目の下に隈を作るなど、露骨に疲れを見せる様になっていた。

 

非難は本家だけに留まらず、各地の西住流の分家や道場も、同様な状態に陥っている。

 

中には耐え切れなくなって、夜逃げ同然に姿をくらました親戚や、道場を畳み、戦車道から完全に退いた一族の者達も居た。

 

今や西住流は、空中分解寸前なのである。

 

「しほは今試されてるのさ………」

 

と、菊代がそう言ったのを聞いた瞬間、常夫は急にシリアスな雰囲気になったかと思うと、菊代にだけしか聞こえない様に小声で言った。

 

「!?」

 

「あ! そうだ、菊代さん! 今日の夕飯は久しぶりにだご汁が良いな~! アレ美味しいんだよね~!」

 

しかし、菊代が驚いた顔をした瞬間には、何時ものスーダラ親父に戻って馬鹿笑いしながらそう言う。

 

「………畏まりました。失礼します」

 

菊代は一瞬考える様な素振りを見せた後、常夫に向かって深々と頭を下げ、屋敷に戻って行った。

 

「♪~~~♪」

 

常夫は音程を外した歌を歌いながら掃除を続ける。

 

「………西住師範、全然出て来ないな」

 

「オイ、もう行こうぜ。さっきからあの親父の下手な歌を散々聞かされてもう限界だぜ」

 

と、そんな西住邸の事を覗き見ている者達が居た。

 

パパラッチである。

 

黒森峰や西住流への非難の波に乗っかり、金になりそうなネタを狙っていた様だが、常夫にすっかり毒気を抜かれてしまった様だ。

 

「あの親父の写真とって記事にしねーのか?」

 

「アイツの無責任っぷりならもう誰もが知ってるっての。1円の金にもなりゃしねえよ」

 

そう言って、常夫に気づかれない様に去って行くパパラッチ達。

 

(………行ったみたいだね。あ~、良かった。コレで視線を気にせずに昼寝が出来るや)

 

そして実はそれには最初から気づいていた常夫であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に翌日………

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園………

 

いよいよ決勝戦が迫る中、まほとエリカは生徒会長である揚羽に呼び出され、生徒会室へ向かって居た。

 

「天河会長、西住、逸見両名参りました」

 

生徒会室の前まで来たまほが、ドアをノックしながらそう言う。

 

「………入って頂戴」

 

すると、ドアの向こうから、揚羽のやや覇気の無い声が返って来る。

 

「? 失礼します」

 

「失礼します」

 

その事を疑問に感じながらも、ドアを開けて生徒会室へと入るまほと続くエリカ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

先ず視界に入って来たのは、生徒会長の机に付いて難しい顔をしている揚羽と、その背後に控える様に立っている紫染達だった。

 

「? 何かあったのですか?」

 

「西住 まほさんに逸見 エリカさんですね」

 

その様子に、まほが何事かあったと察してそう尋ねるが、それを遮る様な男性の声が聞こえる。

 

見れば、来客用の椅子に座っていたスーツ姿の男が立ち上がり、まほ達に声を掛けていた。

 

「貴方は?」

 

「コレは失礼。私は文科省の学園艦教育局の局長、『辻 廉太』です。以後お見知りおきを」

 

エリカが尋ねると、文科省の役人………『辻 廉太』が笑みを浮かべながらそう言う。

 

だが、その笑みは………

 

とても嫌な感じのする笑みだった………

 

「文科省の? それが一体何故?」

 

「ハイ、実は………」

 

まほが疑問を呈すると、役人の口からトンでも無い言葉が飛び出した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒森峰学園艦は、今学期いっぱいを持って、廃校処分とする事を伝えに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

無事にカンプグルッペからまほは救出されましたが………
天親の最後の仕掛け………
マスコミによる黒森峰と西住流へのバッシングが開始されます。

原作ガルパン本編での黒森峰に居たみほが、水没車両の救助に向かった事を非難された事について、『世間から見ればみほの行動は称賛されて、それを非難した黒森峰や西住流の方こそ非難されるんじゃないのか?』と思って居まして。
その事をちょっと私なりに掘り下げてみました。

戦車道では強豪でも、こういう世間からの非難とか言う事態には耐性が無さそうな黒森峰はボロボロに………
そんな中、何と!
あの役人が廃校の通知に!

事の詳細につきましては次回で明らかにして説明します。
果たして黒森峰の運命は!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第189話『黒森峰の誇りです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第189話『黒森峰の誇りです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンプグルッペ学園の戦車道教官・天親の最後の仕掛けにより………

 

世間から非難を受ける事となってしまった黒森峰と西住流………

 

連日連夜の非難の嵐に、黒森峰も西住流も段々と弱って行った………

 

そんな中………

 

文科省の学園艦教育局の役人から………

 

黒森峰学園艦の廃校処分が告げられたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰学園艦・黒森峰女学園………

 

生徒会室………

 

「なっ!?………」

 

「廃………校………?」

 

役人の言葉にまほは絶句し、エリカも理解が追い付かずに呆然となる。

 

「その通り。廃校です」

 

そんな2人に向かって、役人は淡々と無感情にそう言い放つ。

 

「! ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 廃校って如何言う事よっ!? 仮にも全国大会9連覇を誇る黒森峰よっ!!」

 

と、逸早く我に返ったエリカが、役人に噛み付く。

 

「理由は………アナタ方が1番理解しているのではないですか?」

 

「! そ、それは………」

 

しかし、役人にそう返されて言葉に詰まる。

 

「………揚羽」

 

「………今、黒森峰に対し入学願書を出している子は先月時点と比べて100分の1まで落ち込んでいるわ」

 

まほが何処か縋る様に揚羽に声を掛けたが、揚羽は苦い顔でそう返して来た。

 

そう………

 

黒森峰は、在校生のみならず………

 

来年度に入学しようと願書を出していた人達さえも離れて行っているのだ。

 

前年度は12倍と言われた黒森峰の倍率は、今現在は0.12倍………

 

定員割れどころではない目も当てられない数字だ………

 

「黒森峰の過去の功績につきましては非常に素晴らしいモノだと思います。ですが、現実として生徒が居なくなっている、入学希望者が減っている学園を存続させておく事が出来ません」

 

またも役人が、まほ達を更に失意の底へ落すかの様に淡々と告げている。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

その場に居た全員が言葉を失い、打ちひしがれた様子を見せている。

 

「………ですが、存続を検討しても宜しいかと思います」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

するとそこで、役人がそれまでの態度を一変させてそう言い、まほ達は一斉に役人を見やる。

 

「我々としましても、コレだけ素晴らしい功績を残している黒森峰を廃校としてしまうのは忍びないと考えています………」

 

「では!………」

 

「しかし、条件が有ります」

 

揚羽が思わず席から立ち上がるが、役人はそれを制する様に言葉を続ける。

 

「条件?………」

 

「次の決勝戦で大洗を破り、優勝する事………それが条件です」

 

「そんなの当たり前じゃない! 今年こそ黒森峰は王者に返り咲くのよ!!」

 

優勝するのが条件と聞き、元よりその積りだったエリカがそう声を挙げる。

 

「では、そう言う事で………男子校の方には既に伝えてあります。女学園側の決定に従うとの事です。では、よろしくお願いします」

 

役人はもう話は終わりだと言う様に、生徒会室を後にした。

 

………去り際に、まほ達に見えない様に薄ら笑いを浮かべながら。

 

「逸見ちゃん………今ウチがどんな状態なのか分かってるの?」

 

「え?………あっ!?」

 

そこで、揚羽にそう言われて、エリカはハッとする。

 

今、黒森峰機甲部隊の人員は戦車部隊・歩兵部隊共に半数まで減っており、戦車の稼働率は50パーセントを切り、燃料や弾薬の備蓄も尽きようとしている………

 

正に大戦末期のドイツ状態である。

 

正直に言って、真面に試合が出来るかも怪しい。

 

「ん?………あ、お母様からだ」

 

とそこで、まほの携帯が鳴ったかと思うと、相手が母・しほからであるのを確認したまほが、揚羽の事を見やる。

 

「良いわよ、出ても」

 

「失礼します………ハイ、お母様。私です」

 

揚羽にそう言われると、まほは電話に出ながら部屋の隅の方へと移動する。

 

「ハイ………ハイ………えっ!? そんなっ!?」

 

すると、突然まほは声を荒げる。

 

「し、しかし『アレ』は幾ら何でも!!………! それは!!………分かり………ました………」

 

やがて苦渋の決断をしたかの様な表情で電話を切った。

 

「総隊長、如何しました?」

 

「………お母様………いや、師範からの御達しだ………決勝戦に………『アレ』を全て投入する」

 

エリカに尋ねられて、まほは言い難そうにそう答える。

 

「!? 『アレ』を!?」

 

「「「「!?」」」」

 

「正気なのっ!?」

 

途端に、エリカ達の表情が驚愕に染まる。

 

信じられないと言った様子だ。

 

「確かに、『アレ等』は全て強力無比よ。いや、無敵と言っても過言じゃないわ………けど! ルール上は問題無くても、幾ら何でもやり過ぎになるわっ!!」

 

「師範が言うには………今の世間のイメージを吹き飛ばす為にも、今度の決勝戦では黒森峰は今まで以上に力を見せつけなければならないとの事だ………」

 

「逆に引かれる気がしますけど………」

 

「えげつなさ過ぎだな………」

 

紫染と斑が、困惑した顔を見合わせながらそう言い合う。

 

「………もう師範は正常な判断能力を失っているんじゃないのか?」

 

「アンタ! 師範に向かって………」

 

しほへの悪態を吐く竪刃にエリカが怒鳴ったが、彼女にも思う所があるのか、語尾が尻すぼみになる。

 

「………エリカ」

 

「! ハ、ハイ!!」

 

「部隊の皆を集めてくれ………私から説明する」

 

「わ、分かりました!」

 

まほにそう言われて、エリカはすぐに黒森峰機甲部隊の隊員達へ召集を掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

現在の黒森峰機甲部隊のメンバー全員が、女学園の戦車格納庫へと集合した。

 

その人数は大分多い様に見えるが、それでも全国大会開始時の4割程度となっている………

 

更に言えば、居なくなった隊員の殆どが3年生や2年生と言った上級生であり、残っている殆どのメンバーは経験の浅い1年生ばかりであった。

 

「………諸君、良く集まってくれた」

 

集合した面々を前に、まほがそう挨拶する。

 

「今日は皆に重大な話が有って集まって貰った。黒森峰と諸君等の将来に影響を及ぼす事だ。心して聞いて欲しい」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

重大な話であると言う事と、まほにしては珍しく言い難そうな様子で話している事に、黒森峰機甲部隊の隊員達に沈黙が走る。

 

「先程、文科省の学園艦教育局の役人の方が参られた………その方によれば………」

 

そこで黙り込むまほ。

 

そんなまほの様子に、黒森峰機甲部隊の面々は困惑する。

 

「………黒森峰学園艦は、今学期を持って………廃校となる事が決定した」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

やがて、絞り出すかの様にまほがそう言うと、今度は一斉に驚愕の表情を浮かべた。

 

「しかし! まだ望みは有る! 決勝戦にて我々が大洗を破り、優勝する事が出来れば、廃校の撤回を考えてくれると言っていた!」

 

「それ、本当ですか!?」

 

続くまほの言葉に、戦車部隊員の1人が思わずそう声を挙げる。

 

「確かにそう言っていた………」

 

「けど、今の部隊の状態じゃ………」

 

まほはそう答えるが、今度は別の戦車部隊員がそう声を挙げ、皆の表情で沈んだものとなる。

 

現在の黒森峰機甲部隊の状態は十二分に分かっているだけに、幾ら相手が部隊規模が小さい大洗と言えど、不安を隠せない様子だ。

 

「それについてなのだが………西住師範より、『アレ等』を投入せよとのお達しが来た」

 

「!? 『アレ等』っ!?」

 

「そんな!? 『アレ等』を使うんですかっ!?」

 

まほが『アレ等』の事を口にした瞬間に、戦車部隊員だけでなく、歩兵部隊員達も動揺を露わにする。

 

「今度の戦いで絶対的な力を示す事で、黒森峰と西住流の栄誉を再認識させると仰られた」

 

「逆効果ですよ!」

 

「ドン引きされますよ………」

 

黒森峰機甲部隊の隊員達からは、先程生徒会メンバーからも言われた言葉が挙がる。

 

「………そうだ。例えこの戦いに勝ったとしても、黒森峰に残るのは汚名だけだ」

 

「!? 総隊長っ!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

(! まほ………)

 

そこで、まほがそんな言葉を漏らし、エリカと黒森峰機甲部隊員が驚愕し、都草も内心で驚くが、表面上は冷静を装う。

 

「降りたい者は降りてくれ………沈む船に態々残る必要は無い」

 

今までに見た事の無い影の有る顔でそう言うまほ。

 

最早彼女にも限界が来ていた………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんなまほの姿を見て、黒森峰機甲部隊の面々も只々困惑するばかりである………

 

………と、その時!

 

「~~♪~~♪」

 

突然歌が聞こえて来た。

 

しかもそれは、黒森峰の校歌だった。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

「!?」

 

途端に、黒森峰機甲部隊員とまほの視線がその歌声の主へ注がれる。

 

「! 久美っ!?」

 

エリカが驚きの声を挙げる。

 

歌っていたのは久美だった。

 

「~~♪~~♪」

 

陽気に、明るく歌う久美。

 

乗って来たのか、足踏みでビートを刻み始めている。

 

「………♪~~♪」

 

すると、それに続く様に別の隊員が歌い出し、足踏みを始める。

 

「~~♪~~♪」

 

「~~♪~~♪~~♪」

 

「~~♪~~♪~~♪~~♪」

 

やがてまた1人、また1人と歌い始める者が出始めて、遂には全員での大合唱に発展した。

 

格納庫内に響く、黒森峰機甲部隊員の歌声と足踏みの音。

 

「お前達………」

 

そんな隊員達の姿を見て、まほは思わず目尻に涙が浮かんだが、すぐにそれを振り払う。

 

「~~♪~~♪~~♪~~♪」

 

そして自分も大声で歌い始め、足踏みし始める。

 

バラバラになり掛けていた黒森峰が、今再び1つに纏まった………

 

(………ん?)

 

かに思えたが、ふとエリカが違和感を覚える。

 

全員で揃って歌っている筈なのに、何故か不協和音気味なのだ。

 

(………!? まさかっ!?)

 

とそこで、エリカはハッとなって久美を見る。

 

「~~♪~~♪~~♪~~♪」

 

そこには、何時の間にか黒森峰の校歌から、『哀戦士』を歌っている久美の姿が在った。

 

「久美~っ!!」

 

途端にエリカは久美に駆け寄り、ヘッドロックを決める。

 

「ゲロォッ!?」

 

「アンタ、ドサクサに紛れて、何『哀戦士』歌ってるの!!」

 

「エ、エリカ殿! ギブギブ!!」

 

「大体それ、駄目なBGMじゃない! 『お、降りられるのかよぉっ!?』って言いながら、ジャブローに散る積りっ!?」

 

「………詳しいんですね、逸見副隊長」

 

久美をヘッドロックで締め付けながら、エリカがそう言うと、戦車部隊員の1人がやけにガンダムの哀戦士が流れた場面を解説するのに気づいて、そう指摘した。

 

「!?」

 

その指摘を聞いたエリカが思わず固まる。

 

「副隊長、ひょっとして………」

 

「ち、違うわよ! 私は別にアナハイムよりジオニック系のモビルスーツの方が好きだったり、ゾックが可愛いな、なんて思ってないんだからね!!」

 

「副隊長………それ、自爆してます」

 

「!?!?」

 

ガノタの可能性を指摘されそうになったエリカが慌ててそう言ったが、逆に自爆してしまう。

 

「いや~、エリカ殿がそこまでガンダムに興味を持っていてくれたとは………嬉しいでありますなぁ~」

 

とそこで、ヘッドロックを掛けられたままの久美がそう言う。

 

「!! アンタが無理矢理勧めて来るもんだから、遂に頭に入っちゃったんでしょうが~っ!!」

 

「ノオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!?」

 

それを聞いたエリカが、更に久美の頭を締め上げる。

 

久美の顔がドンドン青くなって行く。

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

その2人の様子を見て、黒森峰機甲部隊の面々から笑い声が挙がる。

 

まるで今の状況を忘れるかの様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

黒森峰がそこまで追い詰められているとは露知らず………

 

大洗学園艦の大洗男子校の作戦会議室では………

 

決勝での黒森峰との試合に向けた会議が進められていた………

 

「決勝戦での使用可能車両は100両か………」

 

「当然黒森峰は100両を投入して来るだろうねぇ」

 

磐渡の呟きを聞き、杏がそう言う。

 

「車両編成はティーガー、パンター、ヤークトパンターにヤークトティーガー………ラングやエレファントの投入も有り得ます」

 

「やはり戦車の本場ドイツの強力な戦車が揃っているな………」

 

「普通に考えれば、絶望的な戦力差ですね………」

 

みほが、黒森峰時代を思い出しながら、出してくるであろう車両の予測を立てると、カエサルと勇武がそう言い合う。

 

更に、大洗機甲部隊にとっての逆風も存在する。

 

「航空支援が事実上不可能か………」

 

「地上戦力が勝敗の決め手になるのね………」

 

ハンターが呟くと、みどり子が表情を険しくする。

 

そう………

 

決勝戦では航空支援が不可能なのである。

 

理由は、決勝戦の試合会場に在った。

 

準決勝までの試合会場は、毎度連盟がルーレットによってランダムに決めているのだが………

 

決勝だけは伝統的に、毎年自衛隊の総火演でお馴染みの『東富士演習場』で行われる事になっている。

 

つまりは、富士山の傍である。

 

その立地条件こそが、航空支援が不可能な理由である。

 

富士山の辺りには『山岳波』と呼ばれる特殊な乱気流が発生するのである。

 

過去、この乱気流により、イギリスの旅客機が空中分解して墜落。

 

乗客・乗員全員が死亡すると言う痛ましい事故も起こっている。

 

この乱気流は、晴れた日に発生し易く、現時点の天気予報では、試合当日は快晴となっている為、乱気流の発生確率は極めて高い。

 

そして、ジェット機よりも低い高度を飛ぶレシプロ機ではより巻き込まれる確率は上がる。

 

これにより、真面に機体を飛ばせないのと、もし空中分解などすれば、安全装置が働かない可能性も有る為、決勝戦では航空支援が使用不可能となっている。

 

東富士演習場は内陸に位置するので、当然洋上支援も不可能………

 

つまり、決勝戦は必然的に陸上戦力同士のぶつかり合いとなるのだ。

 

元々寡兵な大洗機甲部隊には不利な要素である。

 

しかし………

 

「言うてもしゃあないやんけ」

 

「そうですよ! それならそれで、戦い方を考えれば良いんですよ!」

 

「数の上で不利なんて、今までずっとそうだったしね」

 

「だな」

 

「過酷な戦いこそ、小生の求める戦! 我が世の春が来たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

大河、典子、聖子、白狼、月人がそう言い放つ。

 

他のメンツも、臆している様子は微塵も感じられない。

 

コレまで様々な過酷な戦いを勝ち抜き、修羅場を潜り抜けて来た大洗にとって、例え100両の黒森峰戦車部隊であろうと、ビビる程の事では無かった。

 

「「…………」」

 

そんな一同の姿を見て、みほは頼もしそうな微笑を浮かべ、弘樹も黙って頷く。

 

「それで、総隊長。何か具体的な作戦は有るんですか?」

 

とそこで、既に副隊長の風格を漂わせている梓が、みほに向かってそう尋ねた。

 

「うん。一応、対黒森峰機甲部隊用の作戦は一通り組み上げてあるよ。状況を見ながら、どの作戦で行くか臨機応変に決めるから、皆さんも其々の作戦を良く覚えて下さい」

 

みほはそう言い、一通りの作戦戦術の書かれたプリントを戦車チームのリーダーと随伴分隊の分隊長達に配る。

 

「それから、対黒森峰機甲部隊の為のプランとして、歩兵部隊の皆さんには特別訓練を受けて貰います」

 

「特別訓練?」

 

「とある学園の戦術を使わせて頂こうと思っています。それは………」

 

エースが疑問の声を挙げると、みほが答えようとした瞬間………

 

室内にカンテレの音色が響いた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「やあ、こんにちは………」

 

それに反応して一同が視線を向けた先には、何時の間にか入り込んでいたミカが、涼しげな様子でカンテレを鳴らしている。

 

「おお、ミカ!」

 

「ミカさん、良く来てくれました」

 

シメオンが声を挙げると、みほがそう言う。

 

「風に吹かれただけさ………歩兵の皆は、もう演習場で待機してるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「総隊長。とある学校とは、継続高校の事ですか?」

 

ミカとみほがそう言い合っていると、清十郎がそう尋ねて来る。

 

「ハイ。継続高校の戦術………特に、歩兵部隊の戦術を覚えて欲しいんです」

 

「成程………あの戦術か。確かにアレを使えば、理論上黒森峰とも互角以上に戦える様になるね」

 

それを聞いていた迫信が納得が行った様な表情となる。

 

「では、会議はココまでとして、訓練に移ります。全員、演習場まで移動して下さい」

 

みほがそう言うと、大洗機甲部隊の一同とミカは、継続歩兵部隊が待つ演習場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗と黒森峰………

 

其々が相手の事情を知らぬまま………

 

いよいよ決勝の日が近づいて来るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

廃校を告げられた黒森峰。
しかし、何と役人の方から優勝を条件に廃校を取り下げると言う提案が。
果たして一体何を企んでいるのか?

しかし、今の黒森峰はそれに縋るしかないのも事実。
残ったメンバーを集め、事の次第を伝えるが………
ボロボロの黒森峰機甲部隊の姿を改めて確認したのと、しほからの指示に従わざるを得ない状況に、遂にまほも諦めかける………
だが、それを繋ぎ止めたのは何と久美だった。
彼女の持ち前の明るさで、如何にか繋ぎ止められる黒森峰。

一方、そんな黒森峰の事は知らずに決勝戦での作戦を練る大洗の面々だったが………
使用可能車両100両と、航空支援使用不可と言う制約が立ちはだかる。

以前感想にて、『富士山』の傍では乱気流が発生し易く、ソレで事故も起きていますので、低い高度で飛ぶレシプロ機は危ないんじゃないかと指摘され、調べてみたところ、コレは危ないと思い、この様な措置を取りました。
しかし、航空部隊の出番が無くなるワケではありません。
如何言う事かは、決勝でのお楽しみです。

そしてその決勝に向けて、継続校からレクチャーを受ける事に。
一体継続校の何を学ぶのか?
ヒントは、継続校のモチーフがフィンランドと言う事です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第190話『決戦前夜です!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第190話『決戦前夜です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世間からの非難の声に、評判がガタ落ちした黒森峰は………

 

生徒数と新入予定生の大幅な減少により、廃校を言い渡される………

 

しかし、全国大会で優勝すれば廃校を撤回すると言う役人の言葉に縋り………

 

しほの介入も受けて、ギリギリのところで踏み止まる………

 

一方、そんな黒森峰の事情を知らぬ大洗は………

 

継続高校の歩兵達を招き………

 

対黒森峰戦に向けた特別訓練を開始した………

 

其々の思惑が交錯する中………

 

全国大会・決勝戦の日が迫る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茨城県・大洗町………

 

アクアワールド茨城県大洗水族館・入り口………

 

そこには、弘樹、みほ、地市、沙織、飛彗、優花里、白狼、楓、了平の姿が在った。

 

「麻子、遅いなぁ………」

 

「色々あんじゃねえのか? 何せ、お祖母さんがやっと退院なんだからよ」

 

麻子を待っている様子の沙織がそう言うと、地市が口を挟む。

 

そう………

 

1回戦の後に倒れて、入院していた麻子のお祖母さんである冷泉 久子が漸く退院となったのである。

 

病状自体はすぐに安定したのだが、迫信が厚意で神大コーポ―レーションの系列の病院を紹介してくれたので、今までそこで本格的な治療とリハビリを受けていたのである。

 

お蔭で久子は漸く退院となった今、前よりも元気になったと麻子は言っていた。

 

「良かったですね、冷泉さん。お祖母さんが元気になって」

 

「ハイ。冷泉殿、神大さんに物凄く感謝していましたよ」

 

「…………」

 

飛彗の言葉に優花里がそう返すと、白狼も思う様なところがある様な顔をする。

 

と、その時………

 

水族館前のバス停に、バスが停まる。

 

ブザー音がして扉が開くと、風呂敷包みを携えた麻子と、その後ろを気だるげに付いて来る煌人の姿が在った。

 

「待たせたな………」

 

「あ、麻子! お祖母さん、如何だった?」

 

「すっかり元気だよ。アレは後100年は生きるぞ」

 

沙織が尋ねると、麻子はドヤ顔気味の笑顔を浮かべてそう返す。

 

「それで………何でアインシュタインまでそのお祖母さんに呼ばれたんだ?」

 

とそこで、白狼が何故が久子に呼び出された煌人の事について尋ねる。

 

「前に1度話した事があってな………退院する時に連れて来いと言われていた」

 

「煌人さんを? 何でまた?」

 

麻子がそう答えると、飛彗が首を傾げる。

 

「如何も彼氏だと思われたらしくてな。全く面倒な事この上ない」

 

煌人は頭を掻きながら気だるげにそう答える。

 

「そりゃ大変だったな」

 

「全くだ………ファ~~」

 

白狼がそう言うと、煌人は欠伸を漏らす。

 

(ね、麻子。実際のところは如何なの?)

 

とそこで、沙織が耳打ちする様に小声で麻子にそう尋ねる。

 

(? 何がだ?)

 

(何って、平賀くんとだよ! 本当は付き合ってるの!?)

 

麻子が首を傾げると、元々恋愛好きな沙織は、親友の恋路に興味津々な様子でそう言う。

 

(………お前の頭は常にピンク色か?)

 

(何ソレ、ヒドーイッ!)

 

(別に付き合うとか、付き合わないとかは如何でも良い………)

 

(もう~、ハッキリしないんだから~)

 

曖昧な態度の麻子に、沙織はやきもきする。

 

(ただ………)

 

(?………)

 

(アイツと一緒に居るのは………嫌いじゃない)

 

ふとそう零した麻子。

 

その顔には、本人も分からぬ内に笑みが浮かんでいる。

 

(………ま、心配なさそうかな)

 

それを見た沙織はそう判断し、自分も笑みを浮かべるのだった。

 

「ぐぐぐ………周りは皆リア充になって行くのに………如何して、俺だけ………」

 

「了平………もういい加減ツッコミを入れるのも面倒臭いんですけど」

 

そんな沙織と麻子の様子を見ていた了平がお馴染みの血の涙を流し、楓は最早ぞんざいなツッコミを入れる。

 

「ところで麻子さん。その風呂敷包みは?」

 

「ああ、忘れるところだった………おばあから皆に渡してくれって頼まれた」

 

とそこで、みほが麻子が抱えていた風呂敷包みに付いて尋ねると、麻子はそう言って、風呂敷包みを皆に見せる様に開けた。

 

「ほう、おはぎか………」

 

中から出て来た物………おはぎを見た弘樹がそう呟く。

 

「麻子のおばあのおはぎ、とっても美味しいんだよ」

 

「そりゃ楽しみだな」

 

「後で五十鈴殿も一緒に食べましょうね」

 

沙織がそう言うと、地市と優花里が嬉しそうな声を挙げる。

 

「じゃあ、そろそろ行きましょうか………華さんが活けた花を見に」

 

「うん、行こう」

 

飛彗がそう言うと、みほが返事を返し、一同は水族館の中へと入って行く。

 

その入り口には、『華道展覧会、開催中』と言う看板が立てられていた。

 

そう………

 

実は今日、生け花の展覧会が開かれており、華が活けた花も展示される事になっており、みほ達はそれを見に来ていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクアワールド茨城県大洗水族館内・生け花展覧会場………

 

「わあ~、素敵~」

 

「お花の香り~」

 

会場内に所狭しと置かれた色取り取りな生け花達と漂って来る香りにみほと沙織が感嘆の声を漏らす。

 

「いつも鉄と油の臭いばかり嗅いでますからね、私達」

 

「俺達は硝煙と炎と火薬の臭いだな」

 

「むせる………」

 

優花里がそう言うと、地市もそんな言葉を漏らし、了平がそう呟いた。

 

「華さんのお花は………」

 

「あ! アレじゃない!」

 

と、みほが華の生け花を探していると、沙織がそれらしき作品を発見する。

 

「「「「「わあ~~っ!」」」」」

 

「コレは………」

 

「凄~いっ!」

 

その華の生け花を見て一同は感嘆の声を漏らし、弘樹も目を見開き、沙織が改めてそう口にする。

 

「戦車にお花が………」

 

「コレは………笠間焼だな」

 

みほが花を活けている花器が戦車の形をしている事に気づき、煌人がその花器が茨城県笠間市周辺を産地とする陶器『笠間焼』である事を見抜く。

 

「来てくれてありがとう」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、着物姿の華が姿を見せた。

 

「華さん!」

 

「うおおっ! コレぞ正に和服美人!!………!? ぐえっ!?」

 

「了平、ココでは大声を出さないで下さい」

 

みほが声を掛けると、和服の華に興奮した了平が叫び声を挙げるが、すぐに楓に取り押さえられる。

 

「このお花、凄く素敵です! 力強くて………でも、優しい感じがする」

 

「そう………まるで華さんそのものですね」

 

「…………」

 

みほと飛彗がそう言うと、華は照れた様子を見せる。

 

(………被弾して爆発したみたいだな)

 

(か、神狩殿! しーっ! しーっ!!)

 

一方、空気が読めていない発言をしそうになった白狼を、優花里が慌てて押さえる。

 

「この花は、皆さんが活けさせてくれたんです」

 

「えっ?」

 

「俺達が?」

 

とそこで、華がそう言うと、みほ達は首を傾げる。

 

「そうなんですよ」

 

するとそこで、そう言う台詞と共に、華の母親である百合が姿を見せた。

 

「あ………」

 

「…………」

 

みほが思わず声を漏らし、弘樹が学帽を脱いで頭を下げると、他の面々もそれに倣う。

 

「この子が活ける花は纏まっているけど、個性と新しさに欠ける花でした………こんなに大胆で力強い作品が出来たのは………戦車道のお蔭かも知れないわね」

 

「! お母様………」

 

百合の口から戦車道を認める様な言葉が出た事に、華は軽く驚く。

 

「私とは違う………貴方の新境地ね」

 

「! ハイ!」

 

笑顔で百合がそう言った瞬間、華も笑顔を浮かべた。

 

「おめでとうございます、華さん」

 

それを聞いていた一同の中で、飛彗がいの1番にお祝いの言葉を送る。

 

「ハイ! ありがとうございます、飛彗さん!」

 

華は笑顔のまま、飛彗にお礼を言う。

 

「………華、ちょっと」

 

「あ、ハイ………」

 

とそこで、百合は華の手を引くと、一同から少し離れて、後ろを向いたまま小声を話し始める。

 

(貴方もやっぱり私の娘ね………)

 

(えっ?………)

 

(良い人じゃないの………若い頃のあの人にソックリだわ)

 

飛彗の事を覗き見ながら、華にそう言う百合。

 

(えっ? お父様に?)

 

(ええ………若い頃のあの人は絵草子からそのまま抜け出してきた王子様なんて言われてて、とってもモテたのよ。お母さんは必死になってアピールしたんだから)

 

(ええっ!? そうだったんですか!?)

 

百合と父親の意外な馴れ初めを聞き、華は驚きを露わにするのだった。

 

華のアクティブを求める根底には、案外意中の男性を必死になってものにした母親にあるのかも知れない。

 

「…………」

 

一方、勘当の事など無かったかの様にすっかり仲良さ気に話し合っている華と百合を見て、みほは心の中で華を自分、百合をしほの姿へと置き換える。

 

何時か自分も、あんな風に母親と笑い合える日が来る事を夢見て………

 

と、そのみほの肩に、弘樹の手が置かれる。

 

「あ………」

 

「…………」

 

みほが弘樹の事を見やると、弘樹は無言で頷く。

 

まるでみほの心中を察しているかの様に。

 

「…………」

 

そんな弘樹の姿を見て、みほは安堵の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた日が経ち………

 

いよいよ決勝戦が明日へと迫った………

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「さあーっ! いよいよ決勝戦だよ~っ!! 目標は優勝だからね~っ!!」

 

訓練を終え、集まった大洗機甲部隊の一同を前に、杏がそう言い放つ。

 

「大それた目標なのは分かっている。だが、我々にはもう後が無い。負ければ………」

 

大洗女子学園は廃校になる………

 

改めてその事を確認した一同の表情が引き締まる。

 

「じゃあ、西住ちゃんも何か一言」

 

「へっ?」

 

突然杏にそう振られて、みほが軽く驚く。

 

「舩坂くん。序に君も頼むよ」

 

「小官もでありますか?」

 

更に迫信も、弘樹にそう命ずる。

 

「こういう事は会長がなされた方が………」

 

「確かに纏めるのは私だが、引っ張るのは君の役目だ………皆も待っているぞ」

 

「弘樹くん、お願い出来るかな?」

 

断ろうとする弘樹だったが、迫信に加えてみほもそう言って来る。

 

「………分かった」

 

仕方なく、弘樹はみほと共に一同の前に出た。

 

「明日対戦する黒森峰機甲部隊は………私が居た部隊です」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほがそう話を切り出すと、全員の注目が集まる。

 

「でも、今はこの大洗女子学園が大切な母校で、皆さんが大切な仲間です。勿論、黒森峰の皆にも負い目はあります………でも、それは試合で清算しようと思います。それが私なりの責任の取り方です」

 

(みほくん………)

 

そう言うみほの姿を横目で見やる弘樹。

 

「私も一生懸命落ち着いて、冷静に頑張ります。だから………皆さん! 頑張りましょうっ!!」

 

「大洗の興廃、この一戦にあり! 各員一層奮励努力せよっ!!」

 

「「「「「「「「「「大洗バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

みほがそう締めると、弘樹も日本海海戦にて東郷 平八郎が言った言葉を捩り、それに合わせて、一同は万歳三唱をした。

 

そして、決勝に向けての最後の訓練が開始された………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

日が傾き始めた頃、明日の移動に備えて、学園艦が大洗の港に入港。

 

そして、大洗女子学園・戦車格納庫前では、訓練を終えた大洗機甲部隊の一同が再度集合していた。

 

「訓練終了! やるべき事は全てやった! 後は各自、明日の決勝に備える様に!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「もうココまで来たら、後は運を天に任せるだけだ」

 

桃が訓練の終了を宣言し、一同が返事を返すと、俊がそう呟く。

 

「では、解散!」

 

そして、桃が解散を宣言すると、一同は其々に散って行く。

 

「ねえ、みぽりん。舩坂くん」

 

「うん?」

 

「何だ?」

 

とそこで、みほと弘樹に、沙織が声を掛けた。

 

「舩坂くん家でご飯会やらない? 良いよね?」

 

そして、みほと弘樹に向かってそう提案をしてくる。

 

「あ! 沙織さんの御飯、食べたいです」

 

「前夜祭ですね」

 

それを聞いた華と優花里がそう口を挟む。

 

「祭りじゃないだろう」

 

「物の例えですよぉ」

 

麻子がそうツッコミを入れると、優花里がそう返す。

 

「分かった。ちょっと待ってくれ。湯江に連絡する」

 

弘樹はそう言い、皆から少し離れると、携帯を取り出して湯江に連絡を入れる。

 

「なあなあなあ、当然俺達も良いよな!?」

 

「うん、良いよ」

 

「よっしゃあーっ!!」

 

とそこで、了平がそう割り込んで来て尋ねると、沙織は了承し、了平は全身で喜びを露わにする。

 

(地市さん………万が一の時は手伝って下さい)

 

(ああ、任せとけ)

 

一方、楓と地市は、了平が不埒な真似に及んだ時に止める相談をしていた。

 

「か、神狩殿! 神狩殿も如何ですかっ!?」

 

とそこで、優花里がやや上ずった声で白狼の事を誘う。

 

「いや、俺は………」

 

察しの悪い白狼は断ろうとするが………

 

「ええやないけ、白狼!」

 

「ぐっ!? 豹詑っ!?」

 

そこで豹詑がそう言いながら、凭れ掛かる様に肩を組んで来た。

 

「そうだぞ、白狼! 偶には付き合えってんだよ!!」

 

更に反対側の肩にも、同じ様に海音が凭れ掛かって来ながら肩を組む。

 

「白狼、如何ですか?」

 

「飛彗………お前まで」

 

飛彗までもが半ば強引に誘って来ると、白狼は呆れた顔になる。

 

「………アインシュタイン。お前は行かねえよな?」

 

最後の願いを込めて、煌人にそう問う白狼。

 

「いや、行く積りだ」

 

「!? ホワイッ!?」

 

だが、煌人からそう返され、思わずインチキ英語で返してしまう。

 

「僕は君よりは社交性はある方なんでね」

 

「裏切り者っ!!」

 

シレッとそう言い放つ煌人に、白狼は恨みがましい目を向ける。

 

「神狩殿~………」

 

とそこで、優花里が捨てられた子犬の様な眼差しを白狼に向ける。

 

「うっ!………ハアァ~~~、分かった。行きゃあ良いんだろ行きゃあ」

 

「わ~い! やったであります~っ!!」

 

白狼が観念したかの様にそう言うと、優花里は満面の笑みを浮かべて、両手を上げて全身で喜びを表現する。

 

「…………」

 

そんな優花里の姿に何となく腹が立った白狼は、優花里の頭を両手で掴んでワシャワシャと犬でも撫でるかの様に撫で回す!!

 

「!? うわあっ!? な、何をするでありますかぁ、神狩殿ぉっ!!」

 

「うるせえっ! 黙って撫でられてろっ!!」

 

優花里の抗議の声を無視して、更に撫で回す白狼。

 

(………結構気持ち良いな)

 

そして、優花里のフワフワヘアーの触り心地に内心でそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰との決勝戦を明日に控え………

 

大洗機甲部隊のメンバーの夜は更けて行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗の決戦前夜です。
何か、久しぶりに原作にあるシーンのある話をやった気がします(笑)
さて、決戦前夜編ですが………
今回の前編以後、中編、後編と続きます。
中編では、あんこうチームと弘樹達以外のメンバーの決戦前夜をお送りする予定です。
ホントを言うと1人1人細かくお送りしたいのですが、それだと文章量も作業量もとんでもない事になるので、原作での各戦車チームの決戦前夜の様子に歩兵達を加えた感じとダイジェスト気味にお送りしたいと思います。
御了承下さい。

そして後編はあんこうチームと弘樹達の決戦前夜となりますが………
遂に弘樹とみほが………
おっと、コレ以上は見えてからのお楽しみです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第191話『決戦前夜です!(中編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第191話『決戦前夜です!(中編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ明日へと迫った戦車道・歩兵道の決勝戦………

 

大洗機甲部隊の前に、最大の敵………

 

黒森峰機甲部隊が立ちはだかる………

 

そして、その夜………

 

大洗の面々は様々な思いを抱きつつ………

 

決戦前の夜を過ごすのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・甲板都市の一角………

 

とんかつレストラン『Cook Fan』の店内………

 

そこには、杏、桃、柚子、蛍、迫信、熾龍、逞巳、俊、元姫の姿が在った………

 

「明日は勝つてよー! コレ、奢りねっ!!」

 

オーナーの男性がそう言って、杏達に前に戦車を模したとんかつを置いて行く。

 

大洗機甲部隊の快進撃を見て、オーナーが考案したメニューで、かなり好評らしく、日に必ず何度も注文が入る品らしい。

 

「今日はカツカツ食べて、明日頑かつてーっ!!」

 

「ありがとうございます」

 

「頑張るよー」

 

オーナーの台詞に、柚子と杏がそう返事を返す。

 

「おお~、カツこ良いね~」

 

「………カツカツ言えば良いモノじゃない!」

 

と、オーナーが余りにカツに掛けたダジャレを言うのに辟易したのか、桃がそう声を挙げる。

 

「河嶋、そうカツカツするな」

 

「会長まで!………!? もがっ!?」

 

「黙って食え………」

 

それを杏が諌める様に言い、桃が食い下がった瞬間に、熾龍が桃の口にとんかつを押し込んだ。

 

「!??!?!」

 

揚げ立てアツアツのとんかつをいきなり口の中へ突っ込まれた桃は、椅子から転げ落ち、口を押えて転げ回り、悶絶する。

 

「お約束だな~」

 

「ハイ、俊、あ~んして」

 

「あ~ん」

 

そんな桃を冷ややかに見ながら、ナチュラルに元姫とイチャついている俊。

 

「こんなところでイチャつかなくても………」

 

「逞巳くんもやってみる?」

 

「何ですとぉっ!?」

 

そんな俊と元姫の様子に呆れていた逞巳だったが、柚子からそう振られて、思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。

 

「…………」

 

一方、そんな中で1人、真剣な表情をして、手にしているスマホを弄っている迫信。

 

「迫信様? 如何しました?」

 

「迫信~、食事中にスマホは行儀悪いよ~」

 

その様子に気づいた蛍が声を掛け、杏もそう言い放つ。

 

「ああ、すまない。では、食事を楽しむとしようか」

 

言われた迫信はスマホを仕舞い、食事を始める。

 

直前に消したスマホの画面には、『調査報告書』と書かれた画面が映っていたが、気づいた者はいなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・体育館………

 

「ハイッ!」

 

「ホッ!」

 

「ハッ!」

 

「そーれっ!!」

 

まだ明かりが点いて居る体育館内では、典子、妙子、あけび、忍のバレー部が、バレーの練習をやっていた。

 

「良いのか? 大事な試合前にこんな疲れる様な事していて………」

 

「典子ちゃん達の場合、ああやって身体を動かしている方が落ち着くみたいだからね」

 

その手伝いをしていた秀人がそう言うと、武志がそう返す。

 

「それにアイツ等の体力は底無しや。これぐらいで明日に差し支えたりはせえへんって」

 

「否定出来ないところが恐ろしいな………」

 

続いて大河がそう言うと、大詔がそうツッコミを入れる。

 

「皆の衆~。夕飯を買って来たでござるよ~!」

 

「コレを食って明日も勝つぞ! ガハハハハハッ!!」

 

とそこで、夕食の買い出しへ行っていた小太郎と明夫が帰って来る。

 

彼等が持つビニール袋の中には、大量のカツサンドが入っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦舷の公園………

 

「明日が決戦だな………」

 

「関ヶ原の戦いか………」

 

「いや、戊辰戦争ぜよ」

 

「坊ノ岬沖海戦だ」

 

「「「それだっ!!」」」

 

ベンチに腰掛け、かつ丼を頬張りながら、何時もの調子を見せているカエサル、左衛門佐、おりょう、エルヴィンの歴女チーム。

 

「いや、それ特攻作戦じゃないですか」

 

「ハハハハ! 良いじゃないか、盛り上げれば!!」

 

同じくベンチに腰掛け、かつ丼を食していたエグモントがそうツッコミを入れると、ハンネスが豪快に笑いながらそう言う。

 

「お~い、飛鳥~。お茶くれぜよ」

 

「あ、ハイ。只今」

 

とそこで、おりょうがそう言うと、飛鳥が食事を中断しておりょうの紙コップにお茶を注ぐ。

 

「すっかり尻に敷かれてますねぇ」

 

「当然ぜよ。乙女にあんな真似をしたんだぜよ」

 

エグモントがそう指摘すると、おりょうはしたり顔でそう言い放つ。

 

「うう! だから何度も謝ってるじゃないですか!」

 

「文句あるぜよか?」

 

「………無いです」

 

抗議の声を挙げる飛鳥だったが、負い目と罪悪感もあるので、強くは出れないのだった。

 

「よろしいぜよ。序に肩でも揉んでもらおうかぜよ」

 

「ええっ!? そ、それは………」

 

「ハハハ! 冗談ぜよ! 何本気にしてるぜよ!」

 

「お、おりょうさ~ん」

 

何とも情けない声を挙げる飛鳥。

 

(((………年下の彼氏をからかってるみたいだな)))

 

そんなおりょうと飛鳥の様子を見て、そんな感想を抱くカエサル、左衛門佐、エルヴィンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車格納庫内………

 

「テメェ等ぁっ! 明日はいよいよ決戦だぁっ!! いつも以上に念入りに整備しておけっ!! 適当な事やってる奴は、海に叩き込んで、鮟鱇の餌にしてやるぞぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイ! 副部長っ!!」」」」」」」」」」

 

藤兵衛の号令の元、明日に向けていつも以上に入念な戦車や武器の整備が行われている。

 

「張り切ってるね~、志波くん」

 

「明日が決戦だからね」

 

「そうそう」

 

その様子を見ていた、ポルシェティーガーの整備を行っていたナカジマ、スズキ、ツチヤがそう呟く。

 

「君達ももう休んだら如何だい? 後は我々が引き受けよう」

 

そんなナカジマ達に、敏郎がそう声を掛ける。

 

「いやいや、自分達が乗る戦車ぐらいは自分達で整備したいからね」

 

「この子、私達が見てやらないとすぐにグズるからね~」

 

「自動車部の意地ってヤツ~?」

 

しかし、ナカジマ、スズキ、ツチヤはそう返す。

 

「そうか………」

 

それを聞くと、敏郎は何も言わず、ナカジマ達の整備を手伝い始めるのだった。

 

「お~い、買って来たよ~」

 

「一息入れましょうか」

 

とそこで、買い出しに出ていたホシノと速人が戻り、カツカレー弁当を皆に見せる。

 

「おお~! 待ってましたっ!!」

 

「やっぱりこういう日はカツだよな~」

 

それを見た整備部員達が寄って来て、一同は一旦休憩に入る。

 

「浅間くん。君も休んだら如何かね?」

 

「…………」

 

敏郎は格納庫の片隅で、ラハティ L-39 対戦車銃を整備していた陣に声を掛け、陣は整備の手を止めて、一同に加わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習場………

 

月明かりだけが照らす演習場に停められている三式中戦車改とBT-42。

 

「…………」

 

BT-42の砲塔の上にはミカが腰掛け、カンテレを鳴らしている。

 

「相変わらず良いな。ミカのカンテレは」

 

その隣に腰掛けているシメオンが、その音色を聴きながらそう漏らす。

 

「ふふ、そうかい?」

 

何時もと変わらぬ調子でそう返すミカだったが、カンテレの音色の方は僅かに変化する。

 

「…………」

 

だが、シメオンはそれを指摘する様な真似はせず、只黙ってミカの演奏に耳を傾けている。

 

「…………」

 

そしてミカも、シメオンの方へと身体を預けながらも、演奏を続ける。

 

「「…………」」

 

カンテレの音色が響く中、2人の間に穏やかな空気が漂う。

 

一方、三式中戦車改の方でも………

 

「ねこにゃーさん、すまない………」

 

「えっ!? な、何がですか?」

 

砲塔の上に腰掛けていた六郎が突然謝り、ねこにゃーが困惑する。

 

「決勝の舞台には、我々は出る事が出来ない………無念だ!!」

 

心底無念そうにそう言い、拳を握り締める六郎。

 

「し、仕方ないですよ。山岳波があるんですから」

 

「それでも! 只見ている事しか出来ぬと言う歯痒さは抑えきれんっ!!」

 

「六郎さん………」

 

そんな六郎の姿を見て、ねこにゃーは如何すれば良いかと困惑する。

 

「…………」

 

すると、何かを思い付いたかの様な表情となったかと思うと、六郎の事を見ては視線を反らすと言う行為を数回繰り返した後………

 

六郎の手に自分の手を重ねた。

 

「! ねこにゃー殿!」

 

「だ、大丈夫ですよ。僕達は必ず勝ちます。だから、六郎さんは信じて見守っていて下さい」

 

驚く六郎に、ねこにゃーは精一杯の事を伝える。

 

「…………」

 

六郎は暫し、ねこにゃーの事を見つめていたかと思うと………

 

やがて不意を衝く様にねこにゃーを抱き締めた!

 

「!? ふええっ!?」

 

「抱きしめたいなぁ、ねこにゃーっ!!」

 

「も、もう抱き締めてます~っ!!」

 

そう叫ぶ六郎に、ねこにゃーは顔を真っ赤にして、頭から湯気を吹き出しながらツッコミを入れるのだった。

 

「ねこにゃーもすっかりリア充ナリ」

 

「羨ましいだっちゃ」

 

そんなねこにゃーと六郎の姿を見て、ももがーとぴよたんが串カツを頬張りながらそう漏らす。

 

「お互いお熱い友達が居ると苦労するね~」

 

「ミカったら、私達とシメオンとで露骨に態度変えるんだから………」

 

そんなももがーとぴよたんに同意の声を漏らすミッコとアキ。

 

「さあ、ドンドン食べてね~」

 

「私と弁慶くんの特製串カツだ。存分に堪能してくれたまえ」

 

そしてそんな一同に、次々とその場で串カツを調理して差し出す弁慶とゾルダートだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・風紀委員詰所………

 

「応援の心得………ヤジは飛ばさない………フラッシュは焚かない………被り物禁止………」

 

「そど子~、まだやるの~?」

 

「もうその辺にしようよ~」

 

決勝戦での応援のルール作りをしているみどり子に、モヨ子とパゾ美がそう言う。

 

「何言ってるのっ!? 何時如何なる時であろうと風紀を取り締まる! それが私達風紀委員よっ!!」

 

だが、みどり子はそう言って、応援のルール作りを続ける。

 

「それで明日の試合に支障が出てしまっては元も子もないのではないか?」

 

「!?」

 

とそこで、そう言う声が聞こえて来て、みどり子が驚きながら振り返ると、そこには紫朗、十河、鋼賀の姿が在った。

 

「十河さん!」

 

「鋼賀さんも」

 

「やあ、パゾ美ちゃん」

 

「差し入れだ。遠慮無く食べてくれ」

 

モヨ子とパゾ美が声を挙げると、鋼賀と十河がそう言い、トンカツバーガーと飲み物の入った袋を差し出す。

 

「さ、みどり子くん。君も………」

 

紫朗もそう言い、みどり子にトンカツバーガーと飲み物の入った袋を差し出すが………

 

「い、要らないわよ! アンタからの差し入れなんて!!」

 

みどり子は意地を張り、そんな事を言う。

 

「そど子~、遠慮しない方が良いよ~」

 

「そうだよ。お腹空いてるんでしょう?」

 

既にトンカツバーガーに手を付けているモヨ子とパゾ美が、みどり子にそう言う。

 

「あ、貴方達! 貴方達には風紀委員としてのプライドが………」

 

と言い掛けた瞬間、みどり子の腹の虫が鳴いた。

 

「!?」

 

途端に、みどり子は真っ赤になって縮こまる。

 

「………風紀委員たるもの、規則正しい生活をするものだ」

 

「な、何よ、突然!?」

 

そこで、不意にそんな事を言い出した紫朗に、みどり子は困惑する。

 

「なら夕食をキチンと食べる事も風紀を守る一環じゃないのか?」

 

そう言って、改めてトンカツバーガーと飲み物の入った袋を差し出す紫朗。

 

「…………」

 

そう言われてみどり子は、暫し紫朗の事を見つめる。

 

「そ、そうね! コレは飽く迄風紀を守る為よ! そうなんだからね!!」

 

やがて誰に言うでもなくそう言って、そっぽを向いたまま紫朗からトンカツバーガーと飲み物の入った袋を受け取る。

 

((素直じゃないな~………))

 

そんなみどり子の姿に、内心で呆れるモヨ子とパゾ美だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェームズ邸………

 

その1室では、梓、あゆみ、紗希、桂利奈、優季、あやに、家主であるジェームズを初めとした勇武、光照、竜真、清十郎、正義、圭一郎の面々が戦争映画の鑑賞会を行っていた。

 

明日の決勝戦で、何か使えるアイデアがないか、映画からヒントを得ようとしているのである。

 

「「「「「う、ううう………」」」」」

 

「…………」

 

その最中、映画の内容に感動したウサギさんチームの面々が、紗希を含めて思わず涙を流し始めている。

 

尚、ウサギさんチーム全員の手には、駄菓子のカツが握られている。

 

(今の映画にそんなに感動出来る場面、在ったっけ?)

 

しかし、勇武は見ていた映画がどちらかと言うとコメディーよりな作品だった為、ウサギさんチームの泣き所が分からず、困惑している。

 

「今更だけどよぉ、戦争映画で戦うヒントが掴めるのかねぇ?」

 

そこで圭一郎が、今更ながらその点を指摘する。

 

「気持ちが纏まると言う点なら大成功じゃないですか」

 

その圭一郎に、感動しているウサギさんチームの様子を見ながら清十郎がそう返す。

 

「ゴメンよ、ジェームズ。いきなりこんな事したいって、上がり込ませて貰っちゃって」

 

「ナニ言ってるデスか。僕達はフレンズです。気にしないで下さい」

 

竜真は、急にジェームズ邸に転がり込む事になった事を家主のジェームズに詫びるが、ジェームズは気にしていないと返す。

 

「泣いても笑っても、明日がエンドです。なら、後悔しないよう、やりたい事をやっておきまショウ」

 

「ジェームズ………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

ジェームズがそう言うのを聞いて、他の一同もその表情を引き締める。

 

それは紛れも無く………

 

1人前の戦車乗りと歩兵の顔だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・講堂………

 

「ワンツー! ワンツー! ワンツースリーッ!!」

 

聖子の掛け声に合わせ、ステージ上でステップを踏んでいるサンショウウオさんチームの面々。

 

「よーし! 今のところをもう1回だ!」

 

「「おうっ!!」」

 

磐渡、鷺澪、重音のバックバンドメンバーも、傍でチューニングを行っている。

 

「ハイ、ココで決めッ!!」

 

と、聖子がそう言ってポーズを決めると、サンショウウオさんチームのメンバーも揃ってポーズを取る。

 

「里歌さん! 如何かなっ!?」

 

「………完璧ね。非の打ち所が無いわ」

 

聖子が尋ねると、里歌は笑いながらそう言う。

 

「やったーっ!!」

 

「初めてだねえ。里歌が褒めてくれたのは」

 

「それも非の打ち所が無いだなんて………結構な評価ですわね」

 

満里奈が思わず声を挙げると、郁恵と早苗がそう指摘する。

 

「失礼ね。私だって褒める事ぐらいあるわよ。それに………本当に非の打ち所が無かったんだもの」

 

「な、何か照れるな、オイ」

 

里歌がそう言葉を続けると、唯が照れ臭そうにする。

 

「いよいよ明日は決勝のステージですからね」

 

「お、お客さんも大勢居る筈です」

 

「もう私達も立派なスクールアイドルですからね」

 

静香、さゆり、明菜もそう言い合う。

 

「幻と消ゆ………今へ溶けゆく運命の森羅万象全てを破壊し得るケッ=ショウ大崩壊後のライブアライブでは、フラッグシップモデルのパフォーマンスを発動戦闘兵器としての完成度………すなわち、闇へと葬られた真実なのです!(訳:明日の決勝戦後のライブでは、最高のパフォーマンスを披露出来ます!)」

 

今日子も、相変わらずの中二病言葉でそんな事を言う。

 

「何だか、3人で始めた頃が凄い昔の事みたいだね」

 

「ホント………ほんの数ヶ月前だと言うのにですね」

 

伊代と優は、聖子と組んで3人でスクールアイドルを始めた頃が遠い昔の様に思えて、懐かしさを覚える。

 

「最初は廃校を如何にかしたいって思いで始めたのに………何だか随分と遠くまで来ちゃったなぁ」

 

聖子もそんな事を言いながら、講堂の天井を見上げる。

 

「じゃあ、最後に全体合わせをやってみましょうか」

 

とそこで、機材のチェックをしていた灰史が、そう言って来る。

 

「おう! コッチは良いぜっ!」

 

「うん! それじゃあ、行ってみ………」

 

「HEーY! 今帰ったネ!」

 

「コレで全員分か?」

 

と磐渡と聖子が返事をした瞬間に、講堂内にジャクソンとシャッコーが姿を見せた。

 

その両手には、買い物袋が握られている。

 

「わ~い! 御飯~っ!!」

 

途端に、聖子はステージから飛び降りて、ジャクソンとシャッコーの元へと向かう。

 

「ちょっ! 聖子っ!?」

 

「あらら~、聖子ちゃんったら、相変わらずだね~」

 

そんな聖子の姿に、優と伊代が苦笑いする。

 

「けど、あの方がウチラのリーダーらしいだろ」

 

「良し、先に夕飯にするか」

 

唯がそう言うと、磐渡がギターを置き、一同は夕食の『味噌カツ弁当』に手を付け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他にも、エースが野球場でピッチング練習をしており………

 

弦一郎は今まで出会ったダチに連絡を取り捲り………

 

月人が剣道場で只管素振りをし………

 

誠也が実家の農作業を手伝って居たり………

 

拳龍は同じく実家の道場で只管座禅を組み………

 

竜作は自室で仏像やらマリア像やら様々な神や仏の像に祈りを捧げており………

 

ハンターは月を見上げながら物思いに耽っている。

 

その誰もが、とんかつ料理を口にしている。

 

一見バラバラに見えて、大洗機甲部隊は1つに繋がっていた。

 

そして………

 

我等が弘樹達とみほ達は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

決戦前夜中編、あんこうチームと弘樹達以外の様子をお送りしました。
ホントは1人1人描写したかったのですが、作業量が膨大になり過ぎるのと、この後にメインである弘樹達とみほ達が控えているので、一部メンバーはダイジェストでお送りさせていただきました。
御了承下さい。

さて、次回はいよいよみほ達と弘樹達。
そして注目のメインカップル、弘樹とみほが………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第192話『決戦前夜です!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第192話『決戦前夜です!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に明日へと決勝戦が迫った中………

 

勝利を願い、カツ料理を食べながら、其々の夜を過ごす大洗機甲部隊の面々………

 

そして………

 

我等があんこうチームと弘樹達も…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・舩坂家………

 

「「「「「「「「「「頂きま~すっ!」」」」」」」」」」

 

弘樹の家で、大きなちゃぶ台を囲んでご飯会を開いているみほ達。

 

献立は………やっぱりとんかつである。

 

「あむ………美味しい~!」

 

「カラッと揚がってますね~」

 

「何時でもお嫁に行けますよ~」

 

とんかつに口を付けたみほ、華、優花里が、料理を作った沙織に向かって舌鼓を打つ。

 

「…………」

 

すると、当の沙織は箸を置いたかと思うと、真剣な表情になる。

 

「重大な発表が有ります」

 

「「「えっ?」」」

 

それを聞いたみほ、華、優花里が困惑の表情を見せる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

弘樹達も何事かと沙織に注目する。

 

「実は私………じゃーん! アマチュア無線1級に合格しましたぁっ!!」

 

そこで沙織はそう言って、アマチュア無線技士1級の免許証を皆に見せる。

 

「まあっ!」

 

「ええっ!? 1級ですかっ!?」

 

「1級だなんて、凄く難しい筈じゃ!?」

 

途端に、華、優花里、みほから驚愕の声が挙がる。

 

「おおっ! スゲェッ!!」

 

「良く分からへんけど、凄い事だけは分かるわぁ」

 

「何時の間にそんな資格を………」

 

「凄いですね、武部さん」

 

海音、豹詑、楓、飛彗からも感嘆の声が漏れる。

 

「…………」

 

弘樹も無言で拍手を送る。

 

「いや~、大変だったよ~。麻子と平賀くんに勉強付き合ってもらって」

 

「教える方が大変だった」

 

「全くだよ。元々僕は人に教えるタイプじゃないのに」

 

沙織が照れ臭そうにそう言うと、麻子と煌人からそうツッコミが入る。

 

「アインシュタイン、ご苦労さんだな」

 

白狼はそう言って、煌人を労う。

 

「凄~い! 沙織さん!」

 

「通信士の鏡ですね!」

 

「明日の連絡指示は任せて。どんなとこでも電波飛ばしちゃうから!」

 

そう言って沙織は胸を張る。

 

「まさかそんな免許を取ってたなんて………重大発表がそんな事だとは思いませんでした」

 

「うん。てっきり石上さんと付き合い始めたとかだと思ってたから」

 

「あ、それならもうとっくだよ」

 

「「「「………えっ?」」」」

 

沙織がサラッと言った言葉が理解出来ず、間抜けた声を挙げてしまうみほ、優花里、華、麻子。

 

「地市、お前………」

 

「ひょっとして………」

 

「ああ………沙織と正式にお付き合いしてるぜ」

 

弘樹と楓も、軽く驚きながら地市に問い質すと、当の本人から割とアッサリとした返事が返って来た。

 

「「「「!? えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~っ!?」」」」

 

途端に、みほ、優花里、華、麻子は仰天の声を挙げる。

 

「ほほう、こりゃあ魂消た」

 

「何時の間にそないな事に?」

 

海音と豹詑もそんな声を挙げる。

 

「地市いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

「うおわっ!?」

 

とそこで、了平が血の涙を流しながら、地市の襟首を掴んで来る。

 

「貴様ぁ! 親友であるこの俺を差し置いて! 1人だけ! 1人だけ!………リア充になるたぁ、如何言う了見だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「ぎゃああっ!? 気持ち悪いぃっ!!」

 

更に血涙を流しながら、鬼気迫ると言った表情の了平に詰め寄られて、地市は慌てふためく。

 

「…………」

 

すると、弘樹が不意に立ち上がり、縁側に繋がる障子と、縁側の窓を開ける。

 

「了平………」

 

「何だぁ! 弘樹っ!! 俺は今この裏切り者に………」

 

「人の家で見苦しい真似をするなぁっ!!」

 

そして、地市に掴み掛っていた了平を引き剥がしたかと思うと、背負い投げの要領で空いていた障子と窓を通して、庭へ投げ飛ばした!!

 

「!? ブベラッ!?」

 

投げ飛ばされた了平は、頭から庭の地面に叩き付けられ、バタリと倒れると動かなくなった。

 

「全く………」

 

「で? 結局、何時から付き合い始めてたんだい?」

 

弘樹が呆れた声を漏らすと、煌人がそう問い質す。

 

「あ、ああ………準々決勝が始まる前辺りか?」

 

「そんなに前から付き合い初めてたんですか!?」

 

地市が気を取り直してそう言うと、楓が驚きの声を挙げる。

 

「ど、如何して仰ってくれなかったのですか!?」

 

「いや~、何か気恥ずかしくって………」

 

「別に改まって言う事でもねえかと思ってよぉ」

 

華がそう尋ねると、沙織が照れ臭そうに、地市がごく普通にそう返す。

 

「沙織………人に散々恋だの恋愛だの言って於いて………」

 

「呆れたな………」

 

そんな2人の姿に、麻子はジト目になり、煌人は呆れた様子を露わにする。

 

「夏休みにはお父さん達に挨拶に行ってくれるんだよね~」

 

「あ~、今から緊張して来たぜ………」

 

その2人の言葉も気にせず、沙織と地市は若干ピンク色のオーラを出しながら、楽しげに談笑する。

 

「まあ、何はともあれ………おめでとう、沙織さん」

 

とそこで、みほが沙織に向かって祝福の言葉を述べる。

 

「おめでとうございます、武部殿」

 

「やれやれ………コレでお前の恋愛談義を聞かされずに済むワケか」

 

優花里と麻子も、彼女達なりに祝いの言葉を送る。

 

「ありがとう、皆」

 

「沙織さん、おめでとうございます」

 

沙織が礼を言うと、華も祝いの言葉を述べて来る。

 

「ありがとう、華………華ももう良いんじゃないの?」

 

「? 何がですか?」

 

不意に沙織にそう言われて、華は何の事か分からず、首を傾げる。

 

「もう~! 宮藤くんとの事だよぉ~! お母さんにだって認められたんだし、そっちこそ次のステップを踏み出しても良いんじゃないの~!」

 

「!? ええっ!?」

 

「なっ!?」

 

沙織の爆弾発言に、華は真っ赤になり、飛彗も狼狽する。

 

「さささ、沙織さん! 如何してそれを!?」

 

「ふふ~ん、この恋愛マイスターの沙織さんを甘く見ない事ね」

 

「ワケが分からんぞ………」

 

動揺しながら華がそう問い質すと、沙織はドヤ顔でそう言い、麻子がツッコミを入れる。

 

「…………」

 

一方、最初に狼狽していた飛彗は、何かを考え込んでいる表情になっていた。

 

「? 飛彗? 如何した?」

 

「………決めました」

 

それに気づいた白狼が声を掛けると、飛彗は何かを決意したかの様な顔となる。

 

「華さん」

 

「あ、は、ハイ?」

 

そして、華に呼び掛けると、華は戸惑った様子を見せる。

 

「武部さんの言う事も最もです。もう曖昧な関係は止めにしましょう」

 

「えっ?………」

 

「華さん………僕は貴方の事が好きです。お付き合いして頂けませんか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

飛彗がそう言うと、一同に沈黙が流れる。

 

「………!? え、ええ~~~~っ!?」

 

最初に我に返った華が、真っ赤になって湯気を吹き出しながら声を挙げる。

 

「はわわわわっ!?」

 

「こここここ、告白ですっ!?」

 

「いや、まさか、そんなすぐにするなんて………」

 

「…………」

 

一方、みほも赤くなってオロオロとし、優花里は混乱、沙織はまさかと言う表情をし、麻子は唖然となっている。

 

「かあ~、飛彗の奴、やるじゃねえか!」

 

「こんな中で告白なんて、度胸あるやんけ!」

 

「恥ずかしい奴だ………」

 

「全くだ………」

 

海音と豹詑は親友の度胸に感嘆し、白狼と煌人は呆れた様子を見せる。

 

「………御返事、頂けますか?」

 

とそこで、飛彗が重ねて華にそう言う。

 

「え、ええと………ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」

 

すると華は、飛彗に向かって深々と頭を下げてそう返事をした。

 

「五十鈴さん、それでは嫁入りの挨拶みたいですよ」

 

とそこで、新しい御櫃を持って来た湯江が、華にそう指摘する。

 

「あ、アラ、やだ! 私ったら!!………」

 

「「「「「アハハハハハッ!」」」」」」

 

そこで慌てる華の姿を目にして、誰からともなく笑い声が挙がり、皆で笑い合うのだった。

 

「………リア充………爆発しろ………」

 

一方、庭に倒れたままの了平は、気絶したままそう呟く。

 

最早意地である………

 

「…………」

 

と、飛彗の告白を目にしたみほは、何かを考え込む様な様子を見せていた。

 

「…………」

 

そして一瞬だけ………

 

弘樹の姿を見やったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから小1時間後………

 

色々と有りつつも、ご飯会はつつがなく終了し………

 

皆は其々の寮や家へと帰る事になった。

 

皆が外へ出ると、弘樹もみほを送る為に玄関にて靴を履こうとする。

 

「お兄様、ちょっと宜しいですか?」

 

と、その弘樹に湯江が声を掛けた。

 

「? 何だ、湯江?」

 

「本来ならば、御2人の問題と思い、敢えて口を出さずに居りましたが………先程の宮藤さんと五十鈴さんの遣り取りを見て、考えが変わりました」

 

「? 何の事だ?」

 

湯江の言っている事が分からず、弘樹は首を傾げる。

 

「お兄様………お兄様はみほさんの事を………女性として如何思っているのですか?」

 

「………はっ?」

 

しかし次の瞬間に湯江から思わぬ質問を受け、呆気に取られる。

 

「お前、何を言って………」

 

「ですから! お兄様はみほさんの事を好きなのですか!? 如何なのですか!!」

 

「うおっ!?」

 

何を言っているんだと言おうとした弘樹の言葉を遮り、湯江がそう怒鳴る様に言った為、不意を衝かれた弘樹が一瞬たじろぐ。

 

「………みほくんは我々の総隊長であってだな」

 

「私が聞きたいのはそんな事ではありません」

 

「………彼女の事は大切に思っている。それではイカンのか?」

 

「では、それをみほさんにお伝えになって如何ですか?」

 

「………別に小官でなくとも、彼女にはもっと相応しい相手が居る筈だ。戦う事しか出来ない小官よりも………」

 

「お兄様!」

 

そこで湯江は弘樹に詰め寄る。

 

「………良く考えて下さい。お兄様はそれで宜しいんですか?」

 

「…………」

 

黙り込む弘樹。

 

その脳裏にはみほとの思い出が過る………

 

トラックに危うく轢かれそうになったのを助けた事………

 

ナンパされていたところを助けた事………

 

友達の為にトラウマを抱えていた戦車道を再びやる事を決めたのに感動し、彼女を守ると誓った時の事………

 

学園祭で主役とヒロインを演じた時の事………

 

「…………」

 

どれもが鮮明に思い出され、弘樹は更に黙り込む。

 

やがて途中だった靴を改めて履くと立ち上がる。

 

「湯江………帰りは少し遅くなるかも知れん」

 

「承知致しましたわ。ごゆっくりと………」

 

その言葉だけで全てを察した湯江は、玄関を出る弘樹に向かって深々と頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

「遅れてすまない」

 

「あ、ううん、大丈夫だよ」

 

弘樹が玄関を出ると、待っていたみほがそう返す。

 

「じゃあな、弘樹」

 

「明日は頑張ろうね」

 

そこで、弘樹が出て来るまで待っていた他の一同の中で、地市と沙織が最初に帰路に着く。

 

「僕達も行きましょうか」

 

「ハイ、飛彗さん………」

 

続いて帰路に着く飛彗と華。

 

先程告白したばかりだから、仲良くを手を恋人繋ぎで繋ぎながら。

 

「確り掴まってろよ」

 

「ハ、ハイであります!」

 

愛車に跨っている白狼とその後ろに跨って白狼にしがみ付いていた優花里も帰路に着く。

 

「コレで帰るまで寝ていられる………」

 

「やれやれ………」

 

同じく愛車のAEC装甲指揮車の運転する煌人に便乗した麻子がそう言い、煌人は仕方が無いなと言う顔をする。

 

「御馳走さん」

 

「ほな、おーきに」

 

「リア充なんて皆死んじまえば良いんだ………」

 

「ホラ、了平、サッサと帰りますよ」

 

海音と豹詑、了平と楓も其々に帰路に着いた。

 

「では、小官達も行くか」

 

「…………」

 

弘樹もみほにそう呼び掛けるが、みほは黙ったままである。

 

「? みほくん?」

 

「あ、あの! 弘樹くん!!」

 

弘樹が再度声を掛けると、みほはやや上ずった声を挙げる。

 

「ちょ、ちょっと寄り道して行っても良いかな?」

 

「えっ?………」

 

みほからの提案に、弘樹は一瞬驚いた様な顔をしたが………

 

「………ああ、構わない」

 

それを了承。

 

2人はとある場所へと向かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園艦・艦首公園………

 

2人がやって来たのは、学園艦の艦首部分にある公園だった。

 

今夜は満月であり、雲1つ無い夜空からは、月明かりが惜しげも無く降り注いでいる。

 

「「…………」」

 

その月明かりに溢れた公園で、弘樹とみほはお互いに水平線を見やったまま沈黙していた。

 

「「………あの」」

 

やがて2人同時に口を開き、ハモってしまう。

 

「ひ、弘樹くんから先にどうぞ!」

 

「いや、みほくんから先に言ってくれ」

 

お互いにお先にどうぞと譲り合う。

 

「「…………」」

 

それを何度か繰り返した後、両者は再び沈黙してしまう。

 

「…………」

 

ふと、みほは横目で弘樹の事を見やる。

 

「…………」

 

何時も通りの仏頂面な弘樹。

 

だがみほは、その表情に僅かに緊張の様子が浮かんでいるのを見抜く。

 

「…………」

 

再び視線を水平線の方へと移す。

 

そこで脳裏に、弘樹との思い出が蘇って来る………

 

エクレールでエリカから庇ってくれた時の事………

 

アンチョビの言葉で動揺した自分に、最後まで味方で居てくれると言われた時の事………

 

大洗水族館でデートした時の事………

 

自分の為に、しほへ真っ向から立ち向かってくれた事………

 

(弘樹くんは何時も………私の事を守ってくれた………私の味方で居てくれた………)

 

そう思うと同時に、胸に湧き上がって来るある思い………

 

(ああ………やっぱり私………弘樹くんの事が好きなんだ)

 

弘樹への好意を改めて自覚するみほ。

 

「…………」

 

そして再び、弘樹の事を横目で見やる。

 

「…………」

 

弘樹は仏頂面のままだ。

 

「…………」

 

それを確認すると、みほは少し下を向き、気合を入れる様にグッとガッツポーズをした。

 

「(よし!) あの、弘樹く………」

 

「みほくん」

 

「あ、ハイッ!?」

 

いよいよ覚悟を決めて言おうとした瞬間に、それを遮る様に弘樹が声を掛けて来たので、みほは出鼻を挫かれる形となる。

 

「(うう~~、タイミング悪いよ~)な、何かな、弘樹くん?」

 

タイミングの悪い弘樹に少し怒りながらも、やや上ずった声で問うみほ。

 

「…………」

 

しかし、当の弘樹は何時になく言い辛い様な様子を見せている。

 

「? 弘樹くん?」

 

そんな珍しい弘樹の姿に、みほが首を傾げる。

 

するとそこで、弘樹は夜空を………月を見上げた。

 

「………『月が綺麗ですね』」

 

そして、月を見たままみほにそう言う。

 

「えっ? ああ、うん、今夜は満月だから、本当にお月様が綺麗………!!」

 

と、みほはその言葉にハッとする。

 

 

 

 

 

かの小説家・夏目 漱石は、英語教師を務めていた時………

 

生徒が訳した言葉を、「日本人はそんな事を言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と言ったと言う。

 

その言葉とは………

 

『 Ⅰ love YOU 』………

 

 

 

 

 

「ひ、弘樹くん!………」

 

「…………」

 

みほが驚きながら弘樹の事を見やると、弘樹は被っていた学帽を目が隠れるまでに目深に被り直している。

 

若干赤面している様に見えるのは気のせいではないだろう………

 

「…………」

 

少しの間、呆然としていたみほだったが………

 

「………『私、死んでもいいわ』」

 

微笑みながら、弘樹に向かってそう言った。

 

それは、同じく小説家・二葉亭 四迷がロシア文学を翻訳した際に、 『Ваша…』 =『yours(あなたに委ねます)』を訳したものだった。

 

「…………」

 

みほの方へと向き直る弘樹。

 

「…………」

 

みほも、弘樹の方へと向き直る。

 

「「…………」」

 

少しの間、お互いに見つめ合っていたかと思うと………

 

「…………」

 

みほが弘樹に抱き付いた。

 

「…………」

 

弘樹は抱き付いて来たみほを優しく受け止め、その背に手を回す。

 

「「…………」」

 

2人は暫しそのままの状態となり、夜の公園は波と海風の音だけが響く様になる。

 

 

 

 

 

………かに思われたが!

 

 

 

 

 

「うおおおおおおっ! リア充爆発しろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

呪詛の言葉と共に、血の涙を流している了平が、抱き合っている弘樹とみほに向かって突っ込んで来た!

 

「!? わ、綿貫くんっ!?」

 

「!!………」

 

慌てるみほとは対照的に、弘樹は冷静に、みほを少し離すと、突っ込んで来た了平の襟首を掴んで足を払い、背負い投げの要領で投げ飛ばした!

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

投げ飛ばされた了平は、落下防止の柵を飛び越え、そのまま海へと落ちて行った。

 

「了平っ!?」

 

「落ちたぞ、オイ!」

 

「たたた、大変っ!!」

 

すると続いて、地市達や沙織達が現れ、すぐに柵の下の海を覗き込む。

 

「た、助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!」

 

すると、学園艦の外壁にしがみ付いている了平の姿を目撃する。

 

「ああ、良かった………」

 

「こういう時だけしぶといな、アイツは………」

 

「み、皆!? 如何して此処にっ!?」

 

その姿を見て、安堵の声を漏らす地市達と沙織達だったが、みほはこの場へと姿を現した一同に驚く。

 

「あ~、いや、その………」

 

「ひょっとして………」

 

「ゴメンナサイ、みほさん………全部見てました」

 

「!? えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

沙織が口籠っているとみほがまさかと言う顔になり、華が正直にそう答えた瞬間に、悲鳴の様な声を挙げて真っ赤になる。

 

「沙織の奴が怪しいって言うから付いて来てみれば………」

 

「まさか出歯亀をする事になるとはな………」

 

麻子と煌人が呆れた様子でそう呟く。

 

「西住殿! 申し訳ありませんっ!!」

 

「そう思うんなら、付いてくんなよ………」

 

謝罪する優花里にそうツッコミを入れる白狼だが、この場に居る時点でそう言う資格は無い。

 

「オーイッ! 早く助けてくれええええっ!!」

 

とそこで、了平の叫びが挙がる。

 

「ああ、忘れてました」

 

「すぐにロープをっ!!」

 

「全く………」

 

楓と飛彗がそう言い合う中、弘樹とみほも済し崩し的に了平の救助活動に加わるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂に翌日………

 

決勝の日が訪れた………

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

明け方の舩坂家にて………

 

「…………」

 

戦闘服姿の弘樹が、仏壇の前に姿勢を正して正座をしている。

 

その視線の先には、祖先・舩坂 弘の写真が在る。

 

「…………」

 

ジッとその舩坂 弘の写真を見やる弘樹。

 

「………行って参ります」

 

やがて、その写真に向かって頭を深く下げてそう言い、家を後にしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗駅………

 

鹿島臨海鉄道の協力で、試合会場までは列車を使って移動する事になっており、駅では大洗戦車部隊の戦車の積み込みが行われている。

 

「固定完了!」

 

「Ⅳ号、積み込み終わりました!」

 

「よし、コレで最後だな」

 

鉄道職員達によって、今最後だったⅣ号の積み込みが終わる。

 

「積み込み、完了しました」

 

「ありがとうございます」

 

「それでは行こうか………」

 

報告を聞き、みほがお礼を言うと、迫信がそう呼び掛け、作業を見守っていた大洗機甲部隊の一同は客車の方へ乗り込もうとする。

 

と、その時………

 

「お兄様! みほさん!」

 

「! 湯江」

 

「湯江ちゃん!?」

 

突然湯江が姿を現し、弘樹とみほは軽く驚く。

 

「ハア………ハア………間に合いました………」

 

湯江の方は走って来たのか、若干息が切れている。

 

「如何したんだ、湯江。見送りは良いと言ったろう」

 

「湯江ちゃん、私達に何か?」

 

弘樹とみほが傍によると、そう言う。

 

「御2人に………コレを」

 

すると湯江は、着物の袂から、ある物を取り出し、弘樹とみほに差し出した。

 

「! それは!………」

 

「御守り?………」

 

そう………

 

湯江が取り出したのは、大洗磯前神社と鹿島神宮の御守りだった。

 

「渡すのを忘れておりました。どうかコレを持って、武運長久を」

 

「湯江ちゃん………ありがとう」

 

「感謝するぞ、湯江」

 

湯江がそう言うのを聞くと、みほは大洗磯前神社の、弘樹は鹿島神宮の御守りを取り、其々に懐にしまう。

 

「じゃ、行って来る」

 

「行ってきます、湯江ちゃん」

 

「ハイ………いってらっしゃいませ」

 

そして、いよいよ客車に乗り込み、出発した。

 

「大洗機甲部隊、バンザーイッ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!! バンザーイッ!! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

すると、大洗町の住人達が現れ、女子学園と男子校の校章が入った旗を手に、大洗機甲部隊の出発を万歳三唱で見送る。

 

それを見て大洗機甲部隊の面々は、一瞬驚いた様な顔ををしたが、すぐに手を振り返したり、敬礼したりして答える。

 

「…………」

 

みほも、見送ってくれた住民と湯江の姿を見えなくなるまでジッと見ていた。

 

「みほくん………」

 

「弘樹くん………」

 

そこで、隣に座っていた弘樹が声を掛けると、みほは弘樹の手に自分の手を重ねる。

 

「………絶対に勝って戻って来ようね」

 

「ああ………」

 

みほのその言葉に、弘樹は力強く頷く。

 

必ず勝って戻る………

 

大洗女子学園の為に………

 

応援してくれている人々の為に………

 

そして何よりみほの為に………

 

弘樹の胸中は、その思いでいっぱいだった………

 

(愛………かつて小官が、愛の為に戦っただろうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

決戦前夜も遂にクライマックス。
注目の弘樹達とみほ達の様子です。
何だかんだ言いつつ、1番進んでいるのがこのカップル達ですね。

なお、沙織の免許が1級になっているのは、原作より試合数が増えて日数が経過していたので、勉強期間が長くなって取得出来たという設定です。

そして、何時の間にやら付き合って居たり、目の前で告白なんかをした親友達に触発される様に、遂に弘樹とみほも告白し合ってお付き合い開始です。
ストレートに好きだとか言うのはこの2人には似合わないなと思い、2人揃って有名な逸話を使っての遠回しな告白にしてみました。
この2人はこんな感じが似合うかと。

さあ、いよいよ決勝戦。
ですが、焦らす様で申し訳ありませんが、次回はコレまで戦ったライバル達との遣り取り。
その次は黒森峰との遣り取りになるかと。
試合は次々回くらいから始まります。
原作より関係者が増えたり、関係が変化したりがあるので、その辺の兼ね合いです。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第193話『好敵手と戦友達です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第193話『好敵手と戦友達です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の日が訪れた………

 

大洗機甲部隊と黒森峰機甲部隊………

 

両者が、お互いの事情を知らぬまま、雌雄を決する時が来たのである………

 

今、両者は決戦の場へ集っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

試合開始の時刻が刻々と迫る中、会場内は凄まじいまでの熱気に包まれていた。

 

様々なドラマが繰り広げられた今大会………

 

それも最大のダークホースと言われる大洗機甲部隊と………

 

逆風に晒されている王者・黒森峰機甲部隊の試合とあって、観客の動員数は過去最高を記録したらしい。

 

そんな中で………

 

我が大洗機甲部隊は、試合前の最後の整備に勤しんでいた。

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・野営地………

 

専用の格納庫に入れられている大洗の戦車達が、其々のチームや随伴分隊の手で整備されている。

 

「とうとう此処で試合が出来るんですね~。感激です」

 

「そんなに凄い事なんですか?」

 

「戦車道と歩兵道の聖地です!」

 

戦車道と歩兵道の聖地と言われる東富士演習場での試合に、優花里が興奮している様子で華にそう語る。

 

「西住総隊長。エンジンチェックが完了しました。問題ありません」

 

「うん、分かったよ」

 

エンジンのチェックをしていた弘樹がそう報告し、みほはチェックリストに印を付ける。

 

「む?………」

 

「うん?………あ!」

 

そこで弘樹が何かに気づいた様な様子を見せると、みほもそれに反応して振り返る。

 

「御機嫌よう………」

 

そこに居たのは、アールグレイとオレンジペコを伴ったダージリンだった。

 

「ダージリンさん! オレンジペコさんも!」

 

「アールグレイ………」

 

「いよいよ決勝ですわね、みほさん」

 

「正直、あの時の貴方達の印象から、決勝まで進むなんて全く思ってませんでした」

 

ダージリンがそう言うと、オレンジペコが練習試合の時の大洗の事を思い出してそう言う。

 

「私も正直驚いてます」

 

「貴方達はココまで毎試合、予想を覆す戦いをしてきた。今度は何を見せてくれるか、楽しみにしているわ」

 

「ハイ、頑張ります」

 

笑顔でダージリンにそう返すみほ。

 

「…………」

 

そして、アールグレイは、弘樹に向かってイギリス陸軍式敬礼を送る。

 

「…………」

 

それに対し、弘樹もヤマト式敬礼で答礼するのだった。

 

「みほー!」

 

「あ、ケイさん!」

 

とそこで続いてやって来たのは、ナオミが運転し、助手席にアリサが乗ったジープの後部座席に乗るケイだった。

 

ケイの隣には、ジョーイの姿も在る。

 

「またエキサイティングでクレイジーな試合、期待してるからね。ファイト!」

 

「ありがとうございます!」

 

「OKOK!………ところで、小太郎は?」

 

みほへの激励が済むと、小太郎の所在を問うケイ。

 

「葉隠、お客さんさんだぞ」

 

「ハッ、此処に………」

 

そこで弘樹が、後ろを向いてそう言うと、音も無く小太郎が姿を現す。

 

「小太郎ーっ!!」

 

「!? アイエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!?」

 

途端にケイは小太郎に飛び付き、小太郎は嬉しい悲鳴を挙げる。

 

「ケケケ、ケイ殿! 前から言っているでござるが、女性はもっと慎みを………」

 

「小太郎も頑張ってね! 応援してるから! ん………」

 

「!?!?」

 

ケイにそう言おうとした小太郎だったが、それを遮ってケイはそう言い、そのまま小太郎の口にキスする。

 

「!? はわわわっ!?」

 

「まあ………」

 

「…………」

 

それを見て、みほは赤面し、ダージリンは愉快そうな笑みを浮かべ、オレンジペコは無言で視線を反らす。

 

「…………」

 

一方の小太郎も、余りの出来事に爆発四散する間も無く、全身真っ赤になってフリーズしてしまうのだった。

 

「やれやれ………」

 

その小太郎の姿を見て、弘樹は呆れる様に呟く。

 

「舩坂 弘樹………」

 

と、その弘樹の隣に、何時の間にかジープから降りて来ていたジョーイが立つ。

 

「ジョーイ・ミヤギ………」

 

「…………」

 

ジョーイは弘樹に向かって、拳を握った右手を突き出す。

 

「…………」

 

それに対し、弘樹も右手で拳を握り、ジョーイの拳に軽く打ち合せる。

 

フィストバンプである。

 

「じゃあね、みほ! グッドラックッ!!」

 

そこで、ケイがジープの後部座席へと戻ったかと思うと、ジョーイも戻り、サンダース&カーネルの面々は去って行った。

 

「ミホーシャ」

 

「あ、カチューシャさん」

 

続いて現れたのは、相変わらずノンナに肩車されたカチューシャとデミトリ、そして見慣れないロシア人と思われる女性の居るプラウダ&ツァーリの一団である。

 

「このカチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんて、バグラチオン並みにボッコボコにしちゃってね」

 

「アハハ、頑張ります」

 

相変わらずの高飛車な態度に、みほは苦笑いしながらも返事を返す。

 

「その調子よ」

 

「…………」

 

とそこで、カチューシャが来たのを察したのか、陣が姿を見せる。

 

「あ、陣!」

 

「! カチューシャッ!?」

 

すると、カチューシャはノンナの肩の上に立ち上がったかと思うと、陣の方に向かってジャンプした。

 

「…………」

 

そのカチューシャを受け止めると、陣は自身の右肩へと腰掛けさせる。

 

「アンタも頑張りなさいよ。この私の同志なんだから」

 

「…………」

 

カチューシャがそう言うと、陣はサムズアップして応える。

 

「…………」

 

「ノンナ、その………余り気を落とすな」

 

自分の肩車から陣の方へと移ったカチューシャの姿を見て落ち込むノンナを、デミトリが励ます。

 

「ところで、そちらのお嬢さんは?」

 

そこで弘樹が、ロシア人と思われる女性について尋ねる。

 

「ああ、紹介が遅れました」

 

「ロシアからの留学生でな。『クラーラ』だ」

 

そこでノンナは気を取り直し、デミトリと共にロシア人の女性………『クラーラ』を紹介する。

 

『初めまして、クラーラと申します』

 

紹介されたクラーラは、流暢な本場のロシア語で挨拶をする。

 

「むっ、当然と言えば当然だが、ロシア語か………」

 

余りロシア語には明るくない弘樹だが、取り敢えず挨拶をされた事は分かれるので、お辞儀をする。

 

『やっと会えました………』

 

するとクラーラは、弘樹に近づく。

 

「うん?………」

 

『お会いしたかったです………キリコ・キュービィー』

 

「何?」

 

ロシア語は分からないが、クラーラが確かにキリコ・キュービィーと言ったのを聞いて、弘樹は戸惑う。

 

「えっ? ちょっ………何でクラーラまでボトムズの事を言い出してるの?」

 

その様子を見ていたカチューシャが驚きの声を挙げると………

 

「あ、私が勧めました」

 

「ノンナーッ!?」

 

シレッとそう言うノンナに、カチューシャは思わず絶叫を挙げる。

 

と、そこへ………

 

「みほ」

 

「「みほちゃん!」」

 

そう言う声と共に、エミと2人の少女が姿を見せる。

 

「! エミちゃん! ひーちゃん! ちーちゃん!」

 

3人を見た途端、目を輝かせるみほ。

 

エミの他の2人の少女はひーちゃんこと『柚本 瞳』、ちーちゃんこと『遊佐 千紘』

 

共にみほの幼馴染だった。

 

「久しぶり」

 

「私達は此間ぶりだけどね」

 

「あの時はゆっくりお話し出来なかったからね~」

 

千紘がそう言い、エミと瞳がカンプグルッペの事を思い出してそう言う。

 

「あの時は本当にありがとうね。エミちゃん、瞳ちゃん」

 

「………ねえねえ、みほちゃん」

 

するとそこで、千紘がみほの耳元でヒソヒソと話し出す。

 

「? 如何したの、ちーちゃん?」

 

「あの人が噂のみほちゃんの彼氏?」

 

千紘が一瞬だけ視線を弘樹に向けてそう言う。

 

「えっ!? あ、あの、その………う、うん」

 

「へえ~、そうなんだ~」

 

「ちょっと、みほ! この前聞いた時、違うって言ってなかった!?」

 

「何時告白したの?」

 

「え、えっと………昨日の夜に」

 

「昨日っ!?」

 

「それは詳しく聞きたいね~」

 

「か、勘弁してよ~」

 

幼馴染達からの恋バナトークにタジタジになるみほ。

 

「おう、弘樹」

 

とそこで、弘樹の元に、バーコフ分隊の面々が現れる。

 

「分隊長、ゴダン、コチャック、ザキ。来てくれたのか」

 

「ま、一応な」

 

「へへ、感謝しろよ」

 

「弘樹! 負けんじゃねえぞ! 黒森峰だって、お前の敵じゃねえ!」

 

弘樹がそう言うと、ゴダン、コチャック、ザキがそう言う。

 

「「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」」

 

と、そんな弘樹とバーコフ分隊の面々を見て、ノンナとクラーラが………

 

むせる

 

「やっぱり………」

 

「ハア~………」

 

そんなノンナとクラーラの姿を見て、カチューシャとデミトリは呆れる。

 

「おう、弘樹」

 

「お、何だ、懐かしい顔も居るじゃねえか」

 

「ふん………」

 

するとそこで、グレゴルー、バイマン、ムーザの3人が姿を見せる。

 

「グレゴルー、バイマン、ムーザ」

 

「よう! そっちも久しぶりじゃねえか!」

 

「噂は聞いてるぜ。タンカスロンとバトリングで稼いでるみたいだな」

 

「へっ、如何だかな」

 

弘樹が反応すると、バーコフ達もグレゴルー達に気づき、ゴダンの言葉にバイマンがクールに返す。

 

「「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」」

 

そして、グレゴルー達の姿を見て、またもノンナとクラーラが………

 

むせる

 

「そう言えば、鶴姫 しずかは一緒じゃないのか?」

 

弘樹が、しずかの姿が無い事に気づいてそう指摘する。

 

「ああ、お姫さんだったら………」

 

「「ハハハハハハハッ!!」」

 

とそこで、女性2人のものと思われる笑い声が響いて来る。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚きながら、その声が聞こえて来る方向を見やった一同の目に飛び込んで来たのは………

 

「気に入ったわ、貴方! 家へ来て妹と寝ても良いわよ!!」

 

「それは上々!」

 

肩を組んで仲良さ気に歩いて来るクロエとしずかの姿だった。

 

「「…………」」

 

その後ろには、呆れた様子の鈴とジャンゴが続いている。

 

「!!」

 

クロエの姿を見たみほが、すぐさま弘樹の後ろに隠れる。

 

「よう、舩坂 弘樹」

 

「ジャンゴ………そっちの2人は何があったんだ?」

 

ジャンゴが声を掛けて来ると、弘樹は相変わらず肩を組んだままのしずかとクロエを見てそう言う。

 

「いや~、それがクロエの奴、あのお姫さんと意気投合しちまってよぉ………」

 

「今時いないわよ、こんな戦いに命を賭けてる子なんて。そりゃ気に入るわよ」

 

「クロエ殿も戦車道をさせておくには惜しいお人ですな」

 

ジャンゴがそう説明する横で、クロエとしずかがそう言い合う。

 

「本当に意気投合してる………」

 

「当然!」

 

「何故なら我等はっ!!」

 

と、弘樹の背後に隠れたままだったみほがそう言うと、突如クロエとしずかはそう叫び………

 

「神に会うては神を斬り!」

「悪魔に会うては、その悪魔をも撃つ!」

 

「戦いたいから戦い!」

 

「潰したいから潰す!」

 

「「我等(私達)に大義名分など無いのさ!!」」

 

「「我等(私達)が、地獄だっ!!」」

 

まるで打ち合わせでもしていたかの様に、阿吽の呼吸で地獄公務員の様な口上を決めた!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いたみほ達は唖然となる。

 

「何か、すいません………」

 

「やれやれ………」

 

「お姫さんも相変わらずだな」

 

「全くだ」

 

鈴、バイマン、グレゴルー、ムーザもそう漏らす。

 

「オイ、クロエ。その辺にしておけ。本来の目的を忘れてるぞ」

 

「おっと、そうだったわ。みほちゃん」

 

「ハ、ハイ!」

 

そこでジャンゴがそう言うと、クロエはみほに声を掛け、みほは弘樹の背に隠れたまま返事をする。

 

「遂に決勝ね! 私を熱くさせてくれる最高のバトルを見せて頂戴! 期待してるわよ!!」

 

「我も期待しておりますぞ………軍神殿の奮戦を」

 

クロエとしずかが、オリジナル笑顔ばりの狂気の笑みを浮かべてそう言う。

 

「は、ハイィ………」

 

すっかり萎縮した様子で、みほはやっとそう返す。

 

「じゃ、そういう事で!」

 

「御健闘をお祈りしております」

 

そしてクロエとしずかは、自分達の話は終わったと、サッサと去って行く。

 

「じゃ、俺も行くぜ。ま、精々頑張ってくれよ」

 

それに続く様に、ジャンゴもヒラヒラと手を振りながら立ち去る。

 

「お姫さんも行っちまったし、俺達も行くか」

 

「お騒がせしました」

 

「なら、そろそろ俺達も御暇するか」

 

「じゃあね、みほ」

 

「応戦してるよ!」

 

「頑張って」

 

グレゴルー達、鈴、バーコフ達にエミ、瞳と千紘もその場を後にする。

 

「ありがとう、エミちゃん、ひーちゃん、ちーちゃん」

 

「感謝する………」

 

みほが手を振り、弘樹が頭を下げて見送る。

 

「弘樹」

 

「よう、まだくたばってなかったみたいだな」

 

すると今度は、2枚目な男と大柄な体躯の男が現れる。

 

「! 『ポタリア』! 『キデーラ』もか!」

 

弘樹は2枚目の男『ポル・ポタリア』と大柄な体躯の男『ブリ・キデーラ』を見てそう声を挙げる。

 

「「ゲホッ! ゴホッ! ガホッ!」」

 

2人の姿を見たノンナとクラーラがまたまた………

 

むせる

 

「「…………」」

 

そんな2人に呆れ果て、最早ツッコミも入れないカチューシャとデミトリ。

 

「お前が全国大会に出場していると知った時は驚いたよ。元気そうで何よりだ」

 

「そっちも変わりない様だな」

 

「ところで、弘樹。あのカン・ユーに会ったってホントか?」

 

ポタリアと弘樹がそう言い合っていると、キデーラがそう口を挟む。

 

「ああ、カンプグルッペでな。逮捕されそうになって逃げ出したらしい」

 

「あの男、まだそんな事を………」

 

弘樹がそう返すと、ポタリアは不快そうな顔をする。

 

「感謝してるぜ、弘樹。お前がアイツを追い出してくれたお蔭で、クメン校は平和そのものさ」

 

「一求道者として、奴の事が許せなかっただけだ」

 

「皆君に感謝してるよ。今日は総出で応援させてもらうよ」

 

「無様に負けたりなんかしたら承知しねえぞ」

 

「肝に銘じておく」

 

「では、弘樹。またな」

 

「頼んだぜ。お前達が勝つ方に賭けてんだからな」

 

「ああ………」

 

そう言って、弘樹はポタリアとキデーラを見送る。

 

「ホラ、ノンナ、クラーラ、そろそろ行くわよ」

 

「大丈夫か?」

 

「「ゲホッ! ガホッ!」」

 

カチューシャとデミトリも、まだ若干むせているノンナとクラーラを連れて去って行く。

 

「ちわーすっ! アンツィオ学園っす!」

 

そこで現れたのは、コック姿で何故か岡持ちを携えたペパロニが姿を見せた。

 

「あ、アンツィオの………」

 

「コレ、ウチの姐さんからっす! どうぞ!」

 

みほが気づくと、ペパロニは岡持ちの中から鉄板ナポリタンを出して、みほに差し出す。

 

「あ、ありがとうございます………」

 

「それと姐さんから伝言っす。あ、舩坂の旦那にもフォルゴーレから伝言っす」

 

「えっ?」

 

「フォルゴーレから?」

 

「アレ? え~と………何だったっけ?」

 

アンチョビとフォルゴーレからの伝言と聞いて軽く驚くみほと弘樹だが、肝心の伝言をペパロニは覚えていない様だ。

 

「あ~と、そうだ! メモ渡されたんだっけ! え~と………」

 

しかし、予防策でメモを渡されていた様であり、ペパロニはそれを取り出すと、みほと弘樹に向かって読む。

 

「『勝てよ』………『健闘を祈る』………だそうです」

 

「! ハイ! アンチョビさんに、ありがとうって言って於いて下さい!」

 

「フォルゴーレにもな」

 

「承ったっす! それじゃあ、鉄板は後で下げに来ますんで! アリヴェデールチ!」

 

ペパロニはそう言い残すと、空になった岡持ちを持って去って行った。

 

「みほちゃん、弘樹」

 

更に姿を見せたのは、絹代だった。

 

「! 絹代さん!」

 

「西総隊長!」

 

みほは絹代の方に向き直り、弘樹はヤマト式敬礼をする。

 

「遂にココまで来たわね。もう後は優勝するだけよ。頑張りなさい」

 

「ハイ! 勿論、その積りです」

 

「フフ、言う様になったじゃない」

 

「色々有りましたから」

 

絹代が笑うと、みほも笑みを浮かべる。

 

「頑張りなさいよ。きっと頼もしい味方も現れるから」

 

「頼もしい味方? 西総隊長、それは………」

 

「それはお楽しみよ。出番が無ければそれで別に良いんだから」

 

弘樹が、絹代の言った頼もしい味方と言うのを気に掛けるが、絹代はそれには答えず、只笑うだけだった。

 

「それじゃあね。応援してるから」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとうございました。西総隊長」

 

みほが頭を下げ、弘樹がヤマト式敬礼をして見送る中、絹代は応援席へと向かって行った。

 

「貴方達は不思議ね」

 

とそこで、今まで事の成り行きを見守っていたダージリンがそう言う。

 

「戦った相手皆と仲良くなり、頼もしい戦友達に恵まれている」

 

「それは………皆さんが素敵な人達だから」

 

「小官はただ、己の道を歩んで来ただけです」

 

そう言うダージリンに、みほと弘樹はそう返す。

 

「貴方達にはこの言葉を送るわ………優勢と劣勢には翼があり、常に戦う者の間を飛び交っている。例え絶望の淵に追われても、勝負は一瞬で状況を変える………人、それを………『回天』と言う!」

 

何故か背後から逆光が指し、腕組みをしている状態で2人にそう言い放つダージリン。

 

「は、はあ………」

 

「…………」

 

その言葉に、みほは困惑し、弘樹も首を傾げる。

 

「あの、ダージリン様。それ、何方の格言ですか?」

 

更にオレンジペコも、その格言を言った人物が思い浮かばず、ダージリンにそう尋ねる。

 

「剣狼の導きにより遣わされた正義の使者の言葉よ」

 

そんなオレンジペコに向かって、ダージリンはドヤ顔でそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も………

 

ローリエ、ルウ、ターメリック、キーマ………

 

堅固、琥珀、瑪瑙、瑠璃………

 

ローレライ、ホージロー、カジキ、セイレーン………

 

キングコブラ、ネフェティ………

 

シュガー、カロ、ジャック………

 

冥桜学園の面々に晴風達も現れ………

 

其々に激励の言葉を、大洗機甲部隊に掛けて行った………

 

そして遂に………

 

両雄の試合前の挨拶が交わされようとしている………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に決勝戦の会場、東富士演習場に来た大洗機甲部隊。
試合前の最後の整備中に、戦ったライバル達や戦友達が激励に現れる。

流石に全員やると作業量的にキツイので、決戦前夜と同じく一部巻きでお送りさせていただきました。
御了承下さい。

顔見世で登場したクラーラですが、ウチのノンナに染められています(爆)
そして、ダージリンの格言は、原作のだとこの作品の今の状況にそぐわないので、正義の国語辞典の兄さんの言葉を使わせていただきました。

次回は黒森峰との挨拶。
そこで、ある人物が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第194話『決勝戦、始まります!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第194話『決勝戦、始まります!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に東富士演習場にて、戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦が始まる………

 

黒森峰機甲部隊との戦いに備え、最後の調整を進めていた弘樹とみほは………

 

戦ってきたライバル達、そして戦友達に激励を受ける。

 

そして、遂に………

 

試合の時間が訪れようとしていた時………

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

大洗機甲部隊・野営地………

 

「弘樹っ!!」

 

イザ試合前の挨拶へ向かおうとしていた弘樹の元に、ゴウトが現れる。

 

「! とっつぁん!」

 

「ハア!………ハア!………間に合ったか」

 

走ってきたせいか、若干息を切らせているゴウト。

 

「如何したんだ、そんなに慌てて。もうすぐ試合開始だ。用なら後に………」

 

「遂に連中の尻尾を掴んだぜ!」

 

もうすぐ試合が始まるので、手短に済まそうとした弘樹に、ゴウトはマントの下からA4サイズの封筒を取り出す。

 

「!………」

 

それを聞いた弘樹は、すぐさまその封筒を受け取り、中に有った書類を確認する。

 

「! コレは………本当の事なのか?」

 

その書類の内容を見た弘樹が一瞬驚きを露わにする。

 

「ああ、間違いねえ。文科省の野郎、トンでもない事を企んでやがったぜ」

 

「全くだ………」

 

ゴウトが苦々しげな顔になると、弘樹も不快感を露わにする。

 

「舩坂くん」

 

とそこで、2人の姿を見かけた迫信が近づいて来る。

 

「会長、コレを」

 

すぐにその書類を迫信へと渡す。

 

「ふむ…………」

 

書類を受け取った迫信は、素早く全てに目を通す。

 

「成程………コレで後藤警部補と荒巻課長の捜査に裏付けが取れた」

 

そしていつもの不敵な笑みを浮かべた。

 

「よし、コッチは私がやっておこう。君は挨拶の方へ向かってくれたまえ」

 

「ハッ! 了解しました!」

 

「じゃあな、弘樹。頑張れよ。お前達が勝つ方に全財産賭けてんだからな」

 

迫信にそう言われ、ゴウトからも彼なりの激励を受けた弘樹は、試合前の挨拶の場へと向かう。

 

「じゃ、俺も失礼するぜ」

 

「…………」

 

ゴウトも去って行くと、迫信は改めて書類に目を通す。

 

(………如何やら讃美歌13番をリクエストするか、新宿駅東口の伝言板にXYZと書く必要は無くなった様だね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、いよいよこの瞬間がやって参りました! 第63回戦車道・歩兵道全国大会、決勝戦の開幕です! 実況はやはり私、『ヒートマン佐々木』! 解説には最早お約束の『DJ田中』さんに来て頂いております!』

 

『どうも、宜しくお願いします』

 

いよいよ選手入場の時間となり、お馴染みとなったヒートマン佐々木とDJ田中の熱い実況が響く。

 

『その注目のカードは、ダークホース・大洗機甲部隊と王者西住流・黒森峰機甲部隊!』

 

『ハイ、ですが黒森峰は今、色々な意味で正念場ですね………』

 

DJ田中が、今の黒森峰の状況を顧みてそう言う。

 

『確かに………しかし、そこは試合で払拭してくれる事を期待します』

 

だが、ヒートマン佐々木は、今見るべきものは選手達の試合であって、母校の状況ではないと言う様にそう言う。

 

『………そうですね。両校の奮戦に期待しましょう』

 

そこでDJ田中も、その事は一旦忘れる事にした。

 

『それは、選手達の入場です! 先ず今大会のスーパーダークホース! 大洗機甲部隊っ!!』

 

ヒートマン佐々木がそう言うと、入場門から大洗機甲部隊が試合場へと入場する。

 

大洗の応援席と、一般客席から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。

 

『20年ぶりに戦車道を復活させた大洗女子学園と歩兵部隊を再編した大洗男子校からなる機甲部隊。他校と比べて圧倒的に寡兵でありながら、奇跡とも呼べる逆転劇を繰り返してココまでやって来ました!』

 

『もうこうなったら、優勝も有り得ますね。楽しみです』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中も、何処か大洗機甲部隊に期待している様子を見せる。

 

『では、続きまして! 日本戦車道此処に有り! 西住流の御膝元! 9連覇の王者! 黒森峰機甲部隊の入場です!!』

 

続いてヒートマン佐々木はそう実況し、大洗機甲部隊と反対側の入場門から黒森峰機甲部隊が入場して来る。

 

すると………

 

「「「「「「「「「「ブーッ! ブーッ! ブーッ!」」」」」」」」」」

 

待っていたのは凄まじいブーイングだった。

 

「帰れーっ! 人殺しぃっ!!」

 

「お呼びじゃねえんだよっ!!」

 

「引っ込め馬鹿野郎ーっ!!」

 

ブーイングに交じって汚い野次も飛んで来る。

 

『あ~と………コレは………』

 

『いや~、ココまでとは………』

 

その様子を見たヒートマン佐々木とDJ田中は言葉を失う。

 

大洗の応援席の観客達は静観しているが、一般席に居る観客は、粗全てが黒森峰に対しブーイングを送っている。

 

空席の目立つ黒森峰の応援席は、通夜の様な沈痛な空気に包まれている。

 

「! アイツ等………」

 

「止せ、エリカ」

 

思わずその観客達を睨みつけるエリカだったが、すぐにまほが諌める。

 

「しかし!!………」

 

「お前のやろうとしている事は逆効果にしかならん………全ては試合で決まる」

 

「!!………」

 

まほにそう言われて、エリカは悔しさを露わに黙り込む。

 

「…………」

 

一方、黒森峰側の応援席に居たしほは、俯いた状態でジッと座り込んでいる。

 

「力を見せるのよ………西住流は力の象徴………力を示さなければ………存在価値は………」

 

何やらブツブツと小声で呟き始めるしほ。

 

良く見れば若干目が虚ろである。

 

周りの黒森峰関係者達は、露骨にしほから距離を取っている。

 

と、そこへ………

 

「やっほー、しほちゃん」

 

何時もの様に陽気そうな様子の常夫が現れ、しほに軽い感じで挨拶をする。

 

「…………」

 

だがしほは、そんな常夫を気にする様子を見せず、やはり俯いたまま若干虚ろな目でブツブツと呟き続けている。

 

「隣座るね~」

 

しかし、常夫はそんなしほの様子を気にする事無く、堂々と隣に腰掛ける。

 

「あ、お姉ちゃん、お茶。あとポップコーンも」

 

「ハ、ハイ………」

 

そして売り子のお姉さんからお茶とポップコーンを購入する。

 

「いや~、娘達の試合、楽しみだね~」

 

「…………」

 

「みほ~! まほ~! どっちも頑張れよ~っ!!」

 

リアクションの無いしほに一方的に話し掛けている常夫。

 

しかし、場違いなくらい陽気な彼の登場で、黒森峰側の応援席に僅かながら和やかな空気が流れ始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして程無くして………

 

両部隊のメンバーが整列を終える。

 

「両チーム、総隊長、副総隊長、前へ!」

 

今回の試合の審判長を務めている亜美がそう言い、大洗側からみほと迫信。

 

黒森峰側からはまほと都草が前に出る。

 

「本日の審判長、蝶野 亜美です。よろしく」

 

「副審判長の最豪 嵐一郎だ」

 

とそこで、審判長である亜美と、副審判長の嵐一郎が挨拶する。

 

「両校、挨拶!」

 

「…………」

 

亜美にそう言われて、みほはまほの事を見やる。

 

「…………」

 

その視線を正面から受け止めるまほ。

 

「………よろしくお願いします!」

 

「「「「「「「「「「お願いしますっ!!」」」」」」」」」」

 

そしてみほがそう言うと、両機甲部隊員が挨拶を交わす。

 

「………!」

 

と、礼から顔を上げた弘樹が、都草が迫信の肩越しに視線を向けて来ていたのに気付く。

 

(舩坂 弘樹………今日が黒森峰にとって最後の試合になるかも知れない………だが、私は必ずまほに勝利を捧げる………それが私の使命だ)

 

胸中にそんな思いが過り、自然と視線が鋭くなる都草。

 

「…………」

 

対する弘樹も、何時もの仏頂面のまま、目を細める。

 

「それでは、お互いに開始位置へ」

 

「両軍の健闘を祈る」

 

とそこで、亜美と嵐一郎がそう言って退場し、まほと都草も部隊へと戻る。

 

「行こう、西住くん」

 

「ハイ」

 

迫信とみほも、皆の元へ戻ろうとする。

 

「待ちなさい」

 

「!………」

 

と、そのみほに声を掛ける者が居り、みほが振り返ると、そこには………

 

「…………」

 

1人の黒森峰戦車部隊員を伴って立っているエリカの姿が在った。

 

「あ、あの人!」

 

「まさか! また西住殿に何かをっ!?」

 

その様子を見た沙織と優花里が、以前のエリカの印象から、すぐにみほの元へ駆け寄ろうとする。

 

「待て………」

 

だが、それを弘樹が止める。

 

「!? 舩坂殿っ!?」

 

「舩坂くん!? 如何して!?………」

 

「黙って見ていろ………」

 

優花里と沙織が驚きの声を挙げるが、弘樹は重ねてそう言う。

 

「あ、エリ………逸見さん。それに………」

 

エリカが連れて来た黒森峰戦車部隊員の姿を見て、みほは驚きを露わにする。

 

「ホラ………」

 

「ありがとう、エリカさん………お久しぶりです、みほさん」

 

「小梅さん………」

 

みほに向かって、微笑みながら挨拶をする黒森峰戦車部隊員………『赤星 小梅』

 

そう、彼女こそ………

 

去年の決勝戦にて、みほが救助に向かった水没した戦車に乗って居た隊員の1人なのである。

 

他の乗員はあの試合の後にみほと同様に転校してしまったが、小梅だけは黒森峰に残って戦車道を続けていた。

 

何時かみほが戻って来ても良い様に………

 

そして、みほの行動が間違っていなかった事を証明する為に………

 

「あの時は………本当にありがとうございました」

 

小梅はみほに向かって深々と頭を下げる。

 

「………あの後、みほさんが居なくなって、ずっと気になってたんです………私達が迷惑掛けちゃったから………」

 

「そんな事ないよ。迷惑だなんて、全然思ってないよ」

 

俯き気味になった小梅に、みほは朗らかな顔でそう言う。

 

「みほさん………みほさんが戦車道を辞めないで良かった」

 

それを受けて、小梅は目尻に涙を浮かべる。

 

「………ホントの事を言うと、黒森峰から逃げた時には、本気で辞める積りだったんだ」

 

するとみほはそう語り始めた。

 

「けど、大洗で友達が出来て、支えてくれる人が居て………だから、もう1度やってみようって思えたんだ」

 

「それって………あの人ですか?」

 

そこで小梅は、背後の方に控えている弘樹の事を見てそう言う。

 

「うん………舩坂 弘樹くん。私の………大切な人だよ」

 

若干頬を染めて、照れ臭そうにしながらそう言うみほ。

 

「そうですか………」

 

それに対し、小梅を笑みを返す。

 

「小梅さん………遠慮せずに掛かって来てくれて良いよ。戦車道での事は、戦車道で責任を執る積りだから」

 

と、みほは表情を引き締め、小梅にそう宣言する。

 

「! ハイ! 負けませんよ!」

 

小梅は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに表情を引き締めてそう返す。

 

「………ありがとう、逸見さん。小梅さんに会わせてくれて」

 

小梅を連れて来たエリカにも礼を言うみほ。

 

「この前の借りを返しただけよ………試合じゃ容赦しないからね」

 

だが、エリカは素っ気無くそう返す。

 

「勿論です。全力で戦いましょう」

 

「………フン。行くわよ、小梅」

 

「あ、ハイ。それじゃあ、みほさん。また………」

 

みほがそう返すと、エリカは鼻を鳴らして踵を返し、小梅と共に去って行った。

 

「…………」

 

その姿を暫し見ていたみほだったが、やがて同じ様に踵を返し、弘樹達の元へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

一方、黒森峰側の方では………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

黒森峰戦車部隊員達が全員エリカと小梅………

 

と言うよりも、エリカにニヤニヤとした顔を向けている。

 

「な、何よ、アンタ達!」

 

その様子に困惑するエリカ。

 

「この前の借りを返しただけよ………試合じゃ容赦しないからね」

 

「!?」

 

そこで先程みほへ言った自分の台詞が聞こえて来て、エリカがその方向を見やると………

 

「勿論です。全力で戦いましょう」

 

「………フン。行くわよ、小梅」

 

小芝居でエリカとみほとの遣り取りを再現している久美の姿が目に入った。

 

「久美~~~~っ!!」

 

「いや~、エリカ殿もホント素直じゃないでありますなぁ」

 

「喧しいっ!!」

 

「アイターッ!?」

 

そんな久美を、問答無用で引っ叩くエリカだった。

 

「全く、アイツは何をやってるんだ………」

 

その様子を呆れた様子で見ている、久美が率いる黒森峰女学園第58番戦車隊機動防衛特殊先行工作部隊の随伴歩兵分隊の分隊長の突撃兵・『義炉太(ぎろた)』

 

「フフフ、アレでこそ分隊長殿でござる」

 

逆にその様子に笑みを浮かべている同分隊員の偵察兵・『泥川(どろかわ)』

 

「クック~」

 

心情の伺え知れない不気味な笑いを見せている同じく同分隊員の工兵・『来流矢(くるや)』

 

「あの女~! 僕の部隊長さんに~っ!!」

 

と、久美の愛車であるⅣ号突撃砲の装填手席で、エリカが久美を引っ叩いているのを見て黒いオーラを上げている装填手・『玉枝(たまえ)』

 

「てゆ~か、暴力措置?」

 

操縦手席で、四字熟語でその状況を例えている操縦手・『茂亜(もあ)』

 

「部隊長~! 副戦車隊長~! そろそろ行くよ~!」

 

そして最後に、砲手席の砲手・『冬子(ふゆこ)』がそう言って、その場を収めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊・スタート地点………

 

「相手は恐らく、火力に物を言わせて一気に攻めて来ます。その前に、有利な場所に移動して長期戦に持ち込みます」

 

大洗機甲部隊の面々を前に、みほは対黒森峰機甲部隊への対策を確認する。

 

「試合開始と同時に速やかに207地点へ移動。工兵部隊は先行して事前準備をお願いします。そして………『アッセンブルEX-10』は手筈通りに展開して下さい」

 

「了解」

 

とそこで、弘樹がそう返事を返し、背後に控えている今回のアッセンブルEX-10メンバーも力強く頷く。

 

「では、戦車チーム各員、乗車!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

そしてみほはそう号令を掛け、戦車チームの各隊員達が己のチームの戦車へと乗り込んで行く。

 

「…………」

 

と、みほはⅣ号へと向かう前に、杏達生徒会メンバーの方へと向き直ったかと思うと、一礼する。

 

「「「「…………」」」」

 

それに対し、杏達も頷き返す。

 

「…………」

 

Ⅳ号の前へと移動したみほは、左手をⅣ号の上へと乗せる。

 

「………頑張ろうね」

 

コレまで苦楽を共にして来た『あんこうチーム6人目のメンバー』にそう呼び掛ける。

 

すると、そんなみほの手に、沙織、華、優花里、麻子が自分達の手を重ねる。

 

「皆………」

 

「「「「…………」」」」

 

みほに視線を向ける沙織、華、優花里、麻子。

 

「………行こう!」

 

「「「「おーうっ!!」」」」

 

みほがそう呼び掛けると、沙織達は揃って返事を返した。

 

そして、其々のポジションのハッチからⅣ号へ乗り込む。

 

「…………」

 

みほはキューポラに身体を半分納めると、弘樹を見やった。

 

「…………」

 

その視線に気づいた弘樹は無言でヤマト式敬礼をする。

 

「…………」

 

それを見たみほは一瞬笑顔を見せ、次の瞬間には引き締まった軍神の顔となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊・スタート地点………

 

「取り敢えず、総隊長のフラッグ車であるティーガーⅠだけは完璧に仕上げました。ですが、他の戦車はどれも整備が完全ではありません。正直………何時止まってもおかしくありません」

 

暫定整備主任が、ティーガーⅠに乗り込んでいるまほに向かってそう告げる。

 

「燃料と弾薬も本来の半分ほどしかありません。くれぐれも気を付けて下さい」

 

「分かった。注意する」

 

「御武運を………」

 

暫定整備主任は申し訳無さそうにしながら、その場を後にした。

 

「………これより決勝戦だ。相手は恩の有る大洗機甲部隊だが、だからと言って遠慮する必要は無い」

 

それを確認すると、まほは黒森峰機甲部隊員達に試合前の鼓舞を始める。

 

「先ずは迅速に行動せよ。グデーリアンは言った、『厚い皮膚より速い足』と」

 

「その割には重装甲で足回りの弱い重戦車や駆逐戦車での高火力編制なのでありますな」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

まほの言葉に久美がそうツッコミを入れた瞬間、黒森峰機甲部隊の空気が死んだ………

 

「久美いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

と、最初に我に返ったエリカが、叫び声を挙げながら愛車のティーガーⅡから飛び出し、久美の乗るⅣ突に飛び込んだ!

 

「アンタって奴は! アンタって奴はっ!!」

 

「ゲロオオオオオォォォォォォーーーーーーーッ!?」

 

ドッタンバッタンとしているⅣ突の車内から、エリカの怒声と久美の悲鳴が交互に響いて来る。

 

「………フ………フフフ………ハハハハハハッ!!」

 

「!?」

 

「そ、総隊長っ!?」

 

「まほ?………」

 

しかしそこで、まほが突然大笑いし始め、黒森峰機甲部隊員に動揺が走る。

 

とうとうまほまで狂ってしまったのかと………

 

「確かにそうだな! こんな重戦車編制で速い足も有るものか! ハハハハハハッ!!」

 

だが、まほは狂っていると言うワケではなく、久美の言う事が最もであると思い、笑っている様である。

 

「ハハハ、すまない。各員、今言った事は忘れてくれ。私のミスだ」

 

「総隊長………」

 

明るくそう伝達するまほの声を聴いて、黒森峰機甲部隊員達の間に在った重い空気が、幾らか軽くなる。

 

「では、改めて行くぞ」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

だが、続けてまほがそう言うと、すぐに表情を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に………

 

試合開始を告げる信号弾が撃ち上がった!

 

『さあ、泣いても笑ってもコレが最後の試合です! 最早言葉は不要! 全ては戦う少年少女達を見れば済む話! 大洗機甲部隊! そして黒森峰機甲部隊! 君達に、幸あれっ!!』

 

「パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!」

 

ヒートマン佐々木のお馴染みの台詞と共に、みほと迫信は号令を掛け、大洗機甲部隊は一斉に進軍を開始した。

 

するとすぐさま、弘樹が率いるアッセンブルEX-10と、工兵を中心とした部隊は本隊より先行。

 

其々に、別の場所へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

直前になって遂に陰謀を暴く一手が。
しかし、それによって命拾いしたのは文科省の方だと言う事実(爆)
13か街狩人に狙われたら、それこそ文科省が無くなっていましたね。

遂に黒森峰機甲部隊との試合前の挨拶。
しかし、黒森峰の状況はかなり悪い様子………
それでも最後の誇りを持って試合に臨みます。

そして此処でツンデレを見せてくれたエリカ(笑)
この『借りを返しただけ』と言う台詞はベジータ系ツンデレのお決まり台詞ですね(爆)
それから遂に登場した小梅。
みほが原作より心身共に強くなっているので、遣り取りが若干変化しています。

そして相変わらずの久美。
しかし、彼女が良いムードメーカーになっています。
彼女の率いる小隊員や車両乗員も登場し、いよいよ次回から試合に入ります。
お楽しみに。

これからも、よろしくお願いします。


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第195話『継続戦法です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第195話『継続戦法です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の火蓋が切って落とされた………

 

大洗機甲部隊と黒森峰機甲部隊………

 

共に廃校阻止と言う事情を抱えながら、お互いがそれを知らないという状況で………

 

果たして、両校の運命は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

所々に森林が点在している高原エリアを進軍する大洗機甲部隊………

 

「…………」

 

その隊長車兼フラッグ車であるⅣ号のキューポラからはみほが姿を見せ、随伴歩兵部隊と共に周囲を警戒している。

 

「西住殿」

 

「あ………」

 

「良かったですね。仲間を助けた西住殿の行動は間違ってなかったんですよ」

 

そこで優花里が装填手ハッチから姿を見せながら、先程の事を思い出してみほにそう言う。

 

「………少し前まで、本当に正しかったか分からなかったけど………今なら言えるよ。もし、同じ事が起きたら………私は迷わず同じ行動を取るって」

 

それに対し、みほは一片の迷いも無い顔でそう返すのだった。

 

「コチラあんこうチーム。207地点まで後2キロ。今のところ、黒森峰の姿は見えません。ですが、皆さん。油断せず、気を引き締めて行きましょう。交信終わります」

 

と、沙織が全軍にそう通信を入れる。

 

「アレ? 何か話し方変わりました?」

 

「ホント、余裕を感じます」

 

その沙織の通信の様子を聞いて、優花里と華がそう指摘する。

 

「ホント!? プロっぽいっ!?」

 

「全然プロっぽくない………」

 

沙織が照れながらそう言うと、麻子のツッコミが入る。

 

「ヒドーイ! 何でそんな事言うの!?」

 

「だってアマチュア無線だし………」

 

「「ハハハハハハッ!!」」

 

漫才の様な遣り取りに、Ⅳ号の車内に笑い声が響く。

 

「! 散開っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

だがそこで、迫信の鋭い声が飛び、随伴して居た歩兵部隊がバッと散らばる。

 

直後に、直撃は無かったが、大洗機甲部隊の中に2発の砲弾が撃ち込まれて来た!

 

「!? 何っ!?」

 

「もう来たっ!?」

 

「嘘ーっ!?」

 

桃、典子、桂利奈の慌てた声が挙がる。

 

「…………」

 

しかし、みほは冷静に双眼鏡を構え、砲弾が飛んで来た方向を見やる。

 

そこには、森の木々の中を抜けてコチラに向かって進軍して来る、黒森峰機甲部隊の姿が在った。

 

更なる追加砲撃が、大洗機甲部隊へと撃ち込まれて来る。

 

「いきなり、何コレ!?」

 

「何よ! 前が見えないじゃないの!?」

 

「森の中をショートカットして来たのか!?」

 

「いきなり猛烈ですね!」

 

「凄過ぎる!」

 

「コレが西住流………」

 

電撃戦を仕掛けて来た黒森峰機甲部隊に、梓、みどり子、桃、華、沙織、優花里が驚きの声を挙げる。

 

森の中から迫り来るまほのティーガーⅠ・1両………

 

エリカの乗車を含めたティーガーⅡ・5両………

 

パンターG型・30両………

 

Ⅳ号戦車/70(V)(ラング)・15両………

 

ヤークトパンター・20両………

 

ヤークトティーガー・10両………

 

エレファント・10両………

 

そして久美のⅣ号突撃砲。

 

黒森峰が誇るドイツの重戦車軍団。

 

普通ならば絶望的な光景だ………

 

「全車、ジグザグに動いて、前方の森へ退避して下さい………沙織さん、アッセンブルEX-10に繋げて」

 

「りょ、了解!」

 

それでもみほは冷静に指示を出し、沙織にアッセンブルEX-10へ通信を繋げる様に頼む。

 

「アッセンブルEX-10、応答して下さい」

 

『こちらアッセンブルEX-10。舩坂です』

 

みほが呼び掛けると、すぐに弘樹が返事を返して来る。

 

「黒森峰機甲部隊は森を突っ切って電撃戦を仕掛けて来ました………『予定通り』にお願いします」

 

『了解………』

 

みほの指示に短く返事を返し、弘樹は通信を切る。

 

(………やっぱり………そう来るよね、お姉ちゃん)

 

そしてみほは、迫り来る黒森峰機甲部隊を見ながら、心の中でそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中………

 

「大洗機甲部隊、逃走する模様です」

 

「逃がすな。仕留めろ」

 

砲手からの報告に、まほは即座にそう指示を出す。

 

一糸乱れぬ陣形で圧倒的な火力を持つ戦車軍団の砲撃を喰らわせる………

 

正に西住流が得意とする戦法である。

 

(コチラはどの車両が何時故障してもおかしくない………早々に決着を着ける)

 

また、隊長車兼フラッグ車であるティーガーⅠを除いては整備状態が悪い戦車部隊で確実に勝利する為にも、速攻を行う必要が有った。

 

「これぞ西住流」

 

「我々の出番は無いかも知れませんな」

 

「油断するな。相手はあの大洗だぞ」

 

現在戦車部隊が攻勢に出ている為、少し後方に下がっている黒森峰歩兵部隊の隊員がそう言い合っているのを聞いて、都草がそう戒める。

 

「何でアイツ等、撃ち返して来ないんだ?」

 

「コッチが一斉攻撃しているから反撃の隙が無いんじゃないの?」

 

とそこで、大洗機甲部隊からの反撃が無い事に気づいた1両のヤークトパンターの黒森峰戦車部隊員がそんな事を言う。

 

「良し、もっと接近しろ!」

 

「「「「了解!」」」」

 

車長の命令に従い、そのヤークトパンターは前進する。

 

………その瞬間!!

 

地面が爆発し、前進していたヤークトパンターが炎と煙に包まれた!

 

「なっ!?」

 

「!?………」

 

途端にエリカが驚きを露わにし、まほも何事かと反応する。

 

やがて爆煙が晴れると、その中から………

 

白旗を上げているヤークトパンターの姿が露わになった。

 

「ヤ、ヤークトパンター8号車、やられました!!」

 

車長が動揺しながらも、撃破された報告を挙げる。

 

その瞬間に、またも爆発音が響き渡り、今度はパンター1両が白旗を上げる。

 

「申し訳ありません! パンター3号車、撃破されました!!」

 

「コレは!?………対戦車地雷だっ!!」

 

やられたパンターが報告を挙げると、別の戦車の戦車部隊員が、ヤークトパンターとパンターが撃破されたのが地雷の仕業だと気付く。

 

「地雷だとっ!?」

 

「コッチがココを通る事を予測していたと言うの!?」

 

まるで自分達がこの場所を通る事を想定して仕掛けられていたかの様な地雷に、黒森峰戦車部隊員達が驚きの声を挙げる。

 

「!? イカン! 歩兵部隊! 直掩に!!………」

 

そこで何かに気づいたまほが、即座に歩兵部隊に戦車の直掩に入る様に指示を飛ばしたが………

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

黒森峰歩兵部隊が動くよりも先に、茂みの中や地面に上から迷彩のシートを被せてあった蛸壺、葉の生い茂った木々の上やへこんだ木の幹の中から、弘樹を中心にしたアッセンブルEX-10のメンバーが飛び出して来た!

 

「喰らえっ!!」

 

「コレで如何だっ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びと共に火炎瓶や収束手榴弾を投げつけたり、肉薄して吸着地雷や梱包爆薬を車体に仕掛けるアッセンブルEX-10のメンバー達。

 

「ちょっ!? 火がっ!? 消火器! 消火器っ!!」

 

「もう間に合わないよ!」

 

火炎瓶を叩き付けられた1両のエレファントが炎上し、乗って居た戦車部隊員が慌てて消火器で消そうとしたが間に合わず、エンジンが爆発する。

 

「おりゃっ!」

 

「コレも喰らえっ!!」

 

ヤークトティーガーに肉薄したアッセンブルEX-10の隊員が、側面に吸着地雷を取り付け、エンジンルームの上に梱包爆薬を乗せる!

 

側面とエンジン部で爆発が起こり、ヤークトティーガーは白旗を上げる。

 

「大洗歩兵部隊っ!?」

 

「待ち伏せだと!? そんな馬鹿なっ!?」

 

「何をしている! 戦車を守れっ!!」

 

待ち伏せによる奇襲を仕掛けて来たアッセンブルEX-10の面々に驚く黒森峰歩兵部隊員達に、都草がそう怒鳴る。

 

「ふざけた真似しやがってっ!」

 

と、いの1番に動き出したのは、歩兵部隊副隊長の蟷斬と彼が率いる武装親衛隊の戦闘服に身を包んだ集団だ。

 

手にしているMP40や『ヒトラーの電動鋸』と恐れられたMG42で弾幕を張りながら、黒森峰戦車部隊を攻撃しているアッセンブルEX-10へ突撃して行く。

 

「うわああ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

ばら撒かれる拳銃弾や小銃弾により、アッセンブルEX-10のメンバーが戦死判定を受けて行く。

 

「歩兵部隊が前進して来ました!」

 

「良し! 後退っ!!」

 

すると弘樹は、即座に撤退を指示。

 

折角肉薄の距離まで引き付けていたにも関わらず、アッセンブルEX-10の隊員達はアッサリと後退して行く。

 

「!? 逃げ出したっ!?」

 

「この野郎! 好き勝手やっておいて逃げる気かっ!!」

 

それを見て、黒森峰武装親衛隊員達は即座に追撃を掛ける。

 

するとそこで………

 

「!? おうあっ!?」

 

MG42を携えていた黒森峰武装親衛隊員の1人が、何かに足を取られて転ぶ。

 

「イテテ………何が………」

 

転んだまま何に足を引っかけたのかと確認しようとした黒森峰武装親衛隊員の目に飛び込んだのは………

 

「…………」

 

上から迷彩シートを被せてあった蛸壺から姿を覗かせ、左手で黒森峰武装親衛隊員の足を掴んだまま、右手のS&W M27を向けている俊の姿だった。

 

「へっ?………」

 

呆けた声を挙げてしまった黒森峰武装親衛隊員に、俊は容赦無く.357マグナム弾を叩き込んだ!

 

「ぐあああっ!?」

 

「!? 敵だっ!!」

 

「まだ隠れてやがったのかっ!?」

 

銃声と仲間の悲鳴で俊の存在に気づいた黒森峰武装親衛隊員達が、一斉に俊の方へ銃口を向ける。

 

だが………

 

「!!」

 

俊は即座に蛸壺から飛び出すと、倒した黒森峰武装親衛隊員達が持っていたMG42を奪い、腰撓めに構えて自分を狙っていた黒森峰武装親衛隊員達に向ける!

 

「!?」

 

「イ、イカンッ!!」

 

「ヒトラーの電動鋸………自分達で味わってみろっ!!」

 

俊はそう言い放ち、MG42の引き金を引いた!

 

その独特な音と共に、銃口から銃弾が途切れる事なく発射される!

 

「うわああっ!?」

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「うごわああっ!!」

 

薙ぎ払う様に左右に銃を振っての連射に、黒森峰武装親衛隊員達は次々に戦死判定を受けて行く。

 

「ううっ!?………」

 

その光景に、MP40を持った黒森峰武装親衛隊員が後ずさる。

 

「…………」

 

するとその背後に、何時の間にか弘樹が音も無く立つ。

 

そして、黒森峰武装親衛隊員が持っていたMP40を掴む!

 

「!? なっ!?」

 

「ハアッ!!」

 

驚きながら振り返った黒森峰武装親衛隊員に蹴りを食らわせ、そのままMP40を奪い取る弘樹。

 

「ぐあっ!?」

 

「…………」

 

倒れた黒森峰武装親衛隊員に、弘樹は奪ったMP40を素早く構え、躊躇無く引き金を引く!

 

「ぐあああああっ!?」

 

全身に銃弾を浴びた黒森峰武装親衛隊員は、即座に戦死判定となる。

 

「頂きっ!!」

 

「よこせっ!!」

 

「おっ! パンツァーシュレックッ! ありがたく貰って置くぜっ!!」

 

更に隠れていたり、混乱に乗じて戻って来たアッセンブルEX-10のメンバーが、次々に黒森峰武装親衛隊員達の武器を奪いながら倒して行く。

 

「コイツ等! 俺達の武器を!!」

 

「この戦法は………継続の!?」

 

蟷斬がそう声を挙げた瞬間に、都草が大洗の取っている戦法が、継続高校歩兵部隊が得意としている『鹵獲戦法』である事に気づく。

 

 

 

 

 

『鹵獲戦法』………

 

継続高校は、戦車道・歩兵道は盛んに行われているが、規模が小さく資金に乏しい高校である。

 

その為、戦車部隊・歩兵部隊共に、様々な国の戦車・装備が混在し、戦車部隊員達にはパンツァージャケットすらない有り様だった。

 

そこで編み出されたのが、ルールに在る『敵武器の鹵獲使用』を戦法にまで昇華させた戦法………

 

それが『鹵獲戦法』である。

 

徹底的に相手の武器を奪う事に特化した作戦を立て、それによって奪った武器で試合中に戦力を増強させる。

 

相手からしてみれば、自分達が用意した火力が自分達に向けられ、更には奪還を試みれば即座に破壊されてしまうと言う、非常にいやらしい戦法だった。

 

この戦法により、継続高校は強豪校とも互角に戦える程の実力を持ち、『継続機甲部隊は、相手の装備が良ければ良いほど強くなる』とまで言われている。

 

………余談だが、中には鹵獲した装備を紛失したと偽り、そのまま自校の武器としてしまう事もあるらしく、この戦法は『借りパク戦法』とも野次されている。

 

 

 

 

 

「何故大洗が継続の戦法を!?」

 

「シメオン・ヘイヘ………彼か」

 

黒森峰歩兵隊員の1人がそう声を挙げる中、都草はシメオンを経由して、継続の戦法が大洗に齎されたのだと推察する。

 

「喰らえっ!!」

 

奪ったパンツァーシュレックを、ラングに向かって発射する重音。

 

側面に直撃を受けたラングは爆発に包まれ、一瞬の間の後、白旗を上げる。

 

「クソッ! 近接防御兵器よ! Sマインを喰らわせてやりなさいっ!!」

 

「駄目です! 味方の歩兵が前進して来てるので、巻き込む危険性が有ります!!」

 

その光景を見たエリカがイラつきながら、近接防御兵器のSマインを食らわせろと叫ぶが、装填手が既に味方の歩兵が援護に来ているので使えないと返す。

 

「踏み潰してやる!」

 

とそこで、1両のティーガーⅡがアッセンブルEX-10の隊員をその巨体で踏み潰そうとする。

 

「ヤベッ!」

 

「逃げろっ!!」

 

途端に蜘蛛の子を散らす様に逃げ始めるアッセンブルEX-10の隊員達。

 

「逃がすかっ!!」

 

ティーガーⅡは追い掛けて尚も踏み潰そうとするが………

 

突然、ガキィンッ!と言う何かが壊れる様な音が響いたかと思うと、アッセンブルEX-10の隊員を追い掛けていたティーガーⅡがその場で回転し始めた。

 

「ちょっ!? 如何したの!?」

 

「ひ、左駆動系に異常発生! 履帯が動きませんっ!!」

 

如何やら駆動系の故障らしく、左の履帯が完全に動かなくなってしまい、右の履帯だけが動いている為、その場でグルグルと回ってしまっている様だ。

 

「止めてっ! ストップッ!!」

 

「駄目です! レバーが戻りませんっ!!」

 

更に変速機も故障したらしく、ギアが戻らない為、停める事も出来ない。

 

やがて、エンジンへの負荷が増大し、エンジン部から黒煙が上がり始めたかと思うと、次の瞬間には爆発して炎上!

 

当然ながら、行動不能となり、白旗を上げた。

 

「ティーガーⅡ2号車、エンジンブローッ!!」

 

「何やってるのよっ!!」

 

エンジンブローの報告を挙げたティーガーⅡに、エリカは思わず怒鳴り声を上げる。

 

「舩坂先輩っ! 本隊は無事退避したっす!!」

 

「良し、ココまでだ………撤退っ!!」

 

とそこで、正義から本隊の退避が完了したとの報告を受けた弘樹が叫ぶ。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

途端にすぐさま、アッセンブルEX-10の隊員達は発煙手榴弾や発煙筒を投擲!

 

森の中が濃い煙に包まれる!

 

「うわっ!? 何も見えないっ!!」

 

「全軍停止! 下手に動くと味方を巻き込むぞっ!!」

 

視界ゼロとなった為、まほの指示で黒森峰機甲部隊は防備を固め、煙が晴れるのを待つ。

 

やがて煙が晴れると、アッセンブルEX-10も大洗機甲部隊・本隊の姿も何処にも無かった。

 

「………完全に出鼻を挫かれたな」

 

自軍戦車の状態を顧み、速攻を狙った電撃戦での奇襲………

 

だが、結果は6両の戦車を喪失。

 

しかも内1台は、整備不良による自滅だ。

 

歩兵部隊にも損害を出し、強力な装備も多くが鹵獲されてしまった。

 

アッセンブルEX-10の隊員にも戦死判定者を出したが、明らかに黒森峰機甲部隊が受けた損害の方が大きい………

 

「全員、気持ちを切り替えろ。大洗を追うぞ」

 

黒森峰機甲部隊員達の間に気落ちが走っているのを感じながらもそう檄を飛ばし、気持ちを切り替えさせる。

 

「クソッ! ふざけやがってっ!!」

 

(舩坂 弘樹………如何やら先ずは君の勝ちの様だね………だが、それでこそ倒し甲斐があるというものだよ)

 

悪態を吐く蟷斬と、内心で闘志を燃え上がらせている都草。

 

初手を制したのは、大洗機甲部隊だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ決勝戦の開幕。
黒森峰は自軍の戦車の状態が良くない事もあり、速攻での電撃戦を掛ける。
原作に於いては、コレでアリクイさんチームがリタイヤしてしまいましたが、この作品では原作以上に激戦を潜り抜け、経験値が段違いなみほが、この奇襲を予測。
アッセンブルEX-10を予め森へ潜ませておいて、奇襲にゲリラ戦で対応します。
更に、そのアッセンブルEX-10は、継続校から教わった『鹵獲戦法』で、黒森峰歩兵部隊の強力な武器を鹵獲。
軽微な損害で最大の戦果を挙げました。

初手を制した大洗。
暫くは大洗のペースが続くかと。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第196話『もくもく作戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第196話『もくもく作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道の全国大会決勝戦が始まった………

 

開始直後に森の中をショートカットし、大洗機甲部隊に急襲を掛けた黒森峰機甲部隊だったが………

 

みほはそれを予見し、弘樹が率いるアッセンブルEX-10を森の中に待機させていた。

 

歩兵部隊による奇襲の肉薄攻撃を受け、黒森峰機甲部隊は6両が撃破………

 

更に、継続高校から仕込まれた鹵獲戦法により、黒森峰機甲部隊の強力な武器を数多く入手する事に成功した。

 

先手を取ったのは、大洗機甲部隊だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

黒森峰機甲部隊の急襲をかわした大洗機甲部隊の本隊は、予定通りに207地点に向かって居た。

 

「西住くん。アッセンブルEX-10が合流する」

 

とそこで、迫信がそう報告を挙げた直後に、黒森峰機甲部隊と交戦していたアッセンブルEX-10が合流する。

 

「只今戻りました」

 

「状況は?」

 

「14名が戦死判定。黒森峰側の戦車を自滅1両を含め6両撃破。歩兵部隊にも損害を与え、武器を多数鹵獲しました」

 

そうみほへ報告を挙げる弘樹の手には、黒森峰歩兵から鹵獲したMP40が有る。

 

「了解しました。では、予定通りにこの後は207地点の高地に陣取ります」

 

「凄ーい! いきなり6両も倒しちゃったっ!!」

 

「しかも黒森峰歩兵の装備を多数鹵獲出来ました! コレは大戦果ですよっ!!」

 

みほがそう返していると、黒森峰機甲部隊にいきなり多大な損害を与えた事に、沙織と優花里が歓声を挙げる。

 

「御2人共、喜ぶのは早過ぎます」

 

「相手は戦車だけでまだ90両以上も残っているんだ。まだ全然負けてるぞ」

 

そんな2人を、華と麻子が戒める。

 

「す、すみません!」

 

「わ、分かってるよ!」

 

そう言われて、優花里と沙織は気を引き締め直す。

 

(それにしても、1両が自滅?………整備が行き届いて居なかったと言う事? 今の黒森峰はそんなに良くないの?)

 

一方みほは、黒森峰機甲部隊に自滅した車両が居ると聞いて、そんな事を考える。

 

「! 敵軍、追い付いて来ましたっ!!」

 

「!………」

 

とそこで、最後尾を守っていた大洗歩兵達の1人からそう声が挙がり、みほが振り返ると、コチラに向かって来る黒森峰機甲部隊の姿が目に入る。

 

直後に戦車部隊から砲撃が開始され、近くに砲弾が次々と着弾。

 

舞い上げられた土片が、雨の様に降って来る。

 

「全部隊、『もくもく作戦』です!」

 

「もくもく用意!」

 

みほは考えるのを一旦止め、車内へと引っ込むと、沙織を通じて全部隊に『もくもく作戦』の指示を出す。

 

「もくもく用意!」

 

「もくもく用意です!」

 

優季と勇武が伝令する。

 

「もくもく用意」

 

「もくもくであーる!」

 

静かに伝令する希美とハイテンションに叫ぶ月人。

 

「もくもく用意!」

 

「もくもくだ! 急げっ!!」

 

嬉々として伝令するエルヴィンに分隊員達を急かす磐渡。

 

「もくもく、準備完了!」

 

「コチラも準備完了しています!」

 

「レオポンチームも完了しましたっ!!」

 

「おおかみさん分隊、同じくだ」

 

「アリクイさんチームもOKです」

 

「何時でも行けるぞ」

 

そして、典子と武志、ナカジマと白狼、ねこにゃーとハンターが準備完了の報告を挙げる。

 

「皆OKだってっ!!」

 

「もくもく始めっ!!」

 

沙織からそう報告が挙がるのを聞いて、みほは手元のスイッチを押した!

 

すると、Ⅳ号のスモーク・ディスチャージャーや車体後部から煙幕が放出される。

 

「…………」

 

更に弘樹も発煙筒を焚き、分隊員達が煙幕手榴弾をばら撒く。

 

「「「「「「「「「「もくもく始めっ!!」」」」」」」」」」

 

それに続く様に、他の戦車チームも煙幕を放出し、随伴分隊の隊員達も発煙筒や煙幕手榴弾をばら撒き出す。

 

アッと言う間に凄まじい量の煙が発生し、大洗機甲部隊の姿を完全に隠してしまった。

 

「煙?」

 

「チッ! 忍者じゃあるめえし、小賢しい真似しやがってっ!! 対戦車兵っ! 攻撃用意っ!!」

 

煙幕が発生したのを見たエリカが声を挙げると、蟷斬がイラついた様に声を挙げながら、対戦車兵達に攻撃させようとする。

 

「全部隊、攻撃止めっ!」

 

しかしそこで、まほの攻撃止めの命令が下る。

 

「ああっ!? 何言ってんだっ!? 一気に叩き潰せばそれで済む話だろっ!!」

 

「無駄な弾薬消費は押さえろ」

 

「蟷斬、コチラの弾薬は満足にあるとは言えないんだ。冷静になれ」

 

蟷斬は反論するが、まほと都草にそう諭される。

 

「チッ!」

 

蟷斬は不満そうにしながらも命令に従う。

 

「せめて居場所だけでも………」

 

そこでエリカが、敵の位置だけでも探ろうと、煙幕の中に同軸機銃の銃弾を撃ち込む。

 

………その途端!

 

煙幕の中から、奪われたパンツァーシュレックの物と思われるロケット弾が複数飛んで来た!

 

「なっ!?」

 

「副隊長っ! 危ないっ!!」

 

驚愕するエリカの乗るティーガーⅡの前に、1両のパンターが躍り出る!

 

パンターはそのまま次々にロケット弾の直撃を受け、呆気無く白旗を上げる。

 

「パンター4号車、行動不能」

 

「コチラが撃った射線を即座に解析して反撃して来たのか………何て腕だ」

 

(コレがほんの数ヶ月前まで素人の集団だった筈の者達の戦い方か………みほ、良い部隊を育てたな)

 

やられたパンターからの報告を聞きながら、都草が素直に感嘆し、まほも内心でそう思う。

 

「~~~~!」

 

一方、自分のせいで部隊に損害を発生させてしまったエリカは怒りに震えていた。

 

「………敵は11時方向です」

 

しかし、黒森峰機甲部隊の戦車部隊副隊長として、その怒りを押し殺し、先程の攻撃から割り出した敵の位置をまほへ報告する。

 

「あの先は坂道だ。向こうにはポルシェティーガーが居る。普通とは違う様だが、坂を上るには多少なりとも時間が掛かる筈だ。その間に追い付く」

 

それを受けたまほが、大洗機甲部隊の中にポルシェティーガーが居るのを思い出してそう言う。

 

まほとて大洗機甲部隊のポルシェティーガーが普通でない事は知っていたが、それでも坂を上るには時間が掛かるだろうと踏み、そう指示を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応援席の一角………

 

『さあ、初手を決めた大洗機甲部隊! 現在は煙幕を張り逃走中の様ですが、果たしてココから何を見せてくれるのか!?』

 

「凄い煙幕ですね………」

 

ヒートマン佐々木の実況が響く中、オレンジペコが試合の様子を見ながらそう呟く。

 

「大洗のゲリラ戦術には欠かせない装備だからな………」

 

「さて、初手は取った様ですけど、ココから如何なるかしらね」

 

アールグレイもそう言う中、ダージリンは楽しそうにしながら紅茶に口を付ける。

 

「あ、煙幕晴れて来ますっ!!」

 

とそこで、オレンジペコが煙幕が晴れて来るのを見てそう言う。

 

そこに広がっていたのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び試合の場では………

 

「!? もうあんなところにまでっ!?」

 

エリカが驚きの声を挙げる。

 

その目には、Ⅳ号、M3リー、三突、更に『M31 戦車回収車』、『Ⅲ号回収戦車』によって牽引されているポルシェティーガーの姿が映っていた。

 

「流石に重い………」

 

「レオポン、ダイエットするぜよ」

 

「どっしりしている所がレオポンの良い所だ」

 

慣れない牽引での走行に、麻子、おりょう、左衛門佐がそう言い合う。

 

「M3と三突の予備車体を流用して装甲回収車を作ったのはこの為ですか」

 

「流石整備長だぜ。『こんなこともあろうかと』ってな」

 

一方、『M31 戦車回収車』、『Ⅲ号回収戦車』を操縦している大洗機甲部隊の工兵隊員は、この回収車を用意していた敏郎の用意周到さに舌を巻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席側………

 

『いや~、驚きましたね。まさか装甲回収車両を投入して来るとは。僕も初めて見ましたよ』

 

「そうか~。皆で引っ張ってたのね。ポルシェティーガーを………! オッホンッ!」

 

DJ田中の解説が響く中、カチューシャがみほの戦術に感心し、その後に隠す様に業とらしく咳払いする。

 

「この為に装甲回収車を用意したのか………用意した者は相当な慧眼の持ち主だな」

 

デミトリも、装甲回収車を用意した敏郎の慧眼を褒める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内………

 

大洗機甲部隊・本隊………

 

「『パラリラ作戦です』!」

 

「「「「「「「「「「『パラリラ作戦! 了解っ!!」」」」」」」」」」

 

ポルシェティーガーを牽引して坂を上る中、みほは新たな作戦である『パラリラ作戦』を指示。

 

牽引に参加していなかった八九式とルノーB1bis、車両に乗った歩兵達が蛇行運転を開始。

 

そのまま、またも煙幕を展開し始めた。

 

「何よ、この作戦! 私達、不良になったみたいじゃない!」

 

「終わったら手が腫れてそう~!」

 

作戦名通りに、暴走族の珍走行為の様な動きをさせられ、みどり子が風紀委員として不満を漏らし、操縦を担当しているモヨ子が悲鳴に似た声を挙げる。

 

「お尻が痛い~! 手が攣るっ!!」

 

「頑張って! ワンハンドレシーブの練習だと思ってっ!!」

 

八九式の方でも、操縦手の忍が悲鳴を挙げると、妙子が相変わらずバレーに例えて励ます。

 

「ヒャッホーッ!!」

 

「パラリラパラリラパラリラ~!」

 

一方、大洗歩兵部隊の方は結構ノリノリな様子だった。

 

「こんなに広範囲に煙が広がるとは………」

 

パラリラ作戦によって広範囲が煙幕に包まれ、大洗機甲部隊の姿を完全に見失ったエリカが、愚痴る様に呟く。

 

「全車、榴弾装填」

 

「砲兵部隊も一旦停止。榴弾砲を用意」

 

そこでまほと都草からそう指示が飛ぶ。

 

如何やら、榴弾を使って煙幕を吹き飛ばす作戦の様だ。

 

「後少し………」

 

一方、みほはⅣ号の中で地図を見ながら、207地点………小山の位置を再確認する。

 

「撃てっ!!」

 

とそこで、まほの号令が下り、黒森峰戦車部隊が次々に砲撃。

 

「撃ち方始めっ!!」

 

黒森峰砲兵部隊の榴弾砲部隊も、都草の命で砲撃を開始する。

 

榴弾が、煙幕の中へと吸い込まれ、次々に爆発する!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「やられる前に、有利な場所に逃げ込まないと」

 

大洗機甲部隊の様子を真剣な表情で見つめているオレンジペコ。

 

「貴方も何時の間にか、あの人達の味方ね」

 

するとそこで、ダージリンがそう指摘する。

 

「へっ!? は、はうう………」

 

そう言われると、オレンジペコは照れた様に黙り込む。

 

「………大洗がまた仕掛けるぞ」

 

「「!!」」

 

しかしそこで、アールグレイがそう言い、再び揃ってモニターに注目する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内………

 

大洗機甲部隊を追って進撃している黒森峰機甲部隊を、側面の藪の中から狙う者が居た………

 

「うひひ………」

 

カメさんチームのヘッツァーだ。

 

杏が不敵に笑う中、照準器内に進撃している黒森峰戦車隊のヤークトパンターが1両、飛び込んで来る。

 

即座に発砲すると、ヤークトパンターの履帯部分に砲弾が命中!

 

ヤークトパンターは撃破判定にはならなかったが、履帯が千切れて転輪の一部も吹き飛び、移動不能となる。

 

「装填完了!」

 

「良し! 次はあのパンターだっ!!」

 

桃が装填を終えると、杏は今度は1両のパンターに向かって発砲!

 

またも履帯と転輪の一部を破壊する!

 

「会長! 2両履帯破壊です!」

 

「河嶋ー! 当たったぞ~っ!!」

 

「分かってます!」

 

「桃ちゃん、ホラしっかり!」

 

履帯破壊に喜ぶ柚子と杏に、装填に手間取る桃とそれを助ける蛍。

 

「あのチビィ~っ!」

 

そこでエリカのティーガーⅡがヘッツァーの隠れてた方に方向転換し、他の戦車も数両がそれに続く。

 

「2両が限界か~。後は任せたよ、聖子ちゃん」

 

それを見た杏は、ヘッツァーを後退させる。

 

その直後!

 

「行っけ~~~っ!!」

 

ヘッツァーが隠れていたのと反対側の方向に在った稜線の陰から、サンショウウオさんチームのクロムウェルが飛び出して来た!

 

「!? クロムウェルッ!?」

 

「優ちゃん! 狙いはパンターとヤークトパンターだよ!!」

 

「分かっています!」

 

「行くぜっ!!」

 

黒森峰戦車部隊員が驚きの声を挙げる中、黒森峰機甲部隊の中へと突っ込むクロムウェル。

 

ヘッツァーの存在に気を取られていた黒森峰機甲部隊は対応が遅れる。

 

そして先ず、履帯の損傷していたパンターに至近距離から砲塔基部に砲弾を撃ち込んで撃破!

 

更に続けて、今度は履帯の切れたヤークトパンターの後部に砲撃し、これまた撃破する!

 

「コレで良し! 次はアッチだよっ!!」

 

「任せとけっ!」

 

2両の撃破を確認すると、クロムウェルは黒森峰機甲部隊の合間を縫う様にしながら、先程榴弾砲を撃つ為に足を止めていた黒森峰砲兵部隊へ突撃!

 

「!? 敵戦車っ!?」

 

「う、撃てっ!!」

 

「しかし、榴弾砲ではっ!!………」

 

突然の敵戦車出現に黒森峰砲兵部隊は驚き、中には砲を向けようとした者達も居たが、榴弾砲では戦車に対して大した損傷を与えられないのではと躊躇う。

 

その一瞬の隙が命取りだった!

 

「榴弾装填!」

 

「撃てっ!」

 

「そこです!」

 

伊代からの報告を聞いた聖子がすぐさまそう命じ、優が発砲!

 

黒森峰砲兵部隊の中に榴弾が撃ち込まれる!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

防御手段の無い黒森峰砲兵部隊に多数の戦死判定者が出て、榴弾砲も幾つかが破壊される。

 

「散れっ! 散れっ!!」

 

生き残っていた黒森峰砲兵部隊員達は、止むを得ず榴弾砲を放棄して散らばり始める。

 

「逃がさないよっ!!」

 

そこで聖子はハッチを開けて車外へ姿を晒すと、機銃架のビッカーズ・ベルチェー軽機関銃を掴み、逃げ惑う黒森峰砲兵部隊員達に向かって掃射する!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

銃弾を浴びた黒森峰砲兵部隊員達が、次々に倒れ伏せて行く。

 

「聖子! 前方に無人の榴弾砲がっ!!」

 

すると、クロムウェルの進行方向に、隊員が逃げ出し、無人となっていた榴弾砲が現れる。

 

「構わないよ! 踏み潰しちゃってっ!!

 

「あいよぉっ!!」

 

しかし、聖子はそう指示し、唯はクロムウェルを加速させる。

 

無人となっていた榴弾砲が、バキバキと音を立ててペシャンコになる。

 

「クソッ! 好き放題やりやがってっ!!」

 

「全車、クロムウェルに照準」

 

蟷斬が苛立ちながらそう叫ぶと、まほは全車両にクロムウェルを狙えと指示する。

 

「聖子! 黒森峰が立ち直りつつあるわ!」

 

「ココまでだね………撤退!」

 

それに気づいた里歌が報告を挙げると、聖子は即座に撤退を指示。

 

クロムウェルは離脱して行く。

 

「逃がすかっ!」

 

「待て、深追いするなとっ!!」

 

エレファント1両が、そのクロムウェルに追い縋ろうとしたが、まほに制止を受ける。

 

だが、その直後!

 

ボンッ!と言う音と共に、クロムウェルを追おうとしていたエレファントのエンジンから黒煙が立ち上り、白旗を上げた。

 

「も、申し訳ありません! エンジンブローですっ!!」

 

「クッ! 整備状況がココまで悪いとは………」

 

エレファントの乗員から謝罪が挙がるのを聞きながら、まほは苦い顔を露わにする。

 

初手の急襲で自滅したティーガーⅡも、決して無理をさせたワケではない。

 

にも関わらず故障によって自滅した。

 

それ程までに、黒森峰戦車部隊の戦車達はボロボロだった。

 

「クロムウェル、離脱しました………」

 

「時間を稼がれたな………大洗の本隊を追うぞ」

 

乗員からの報告を聞きながら、それでまほは冷静な様子を取り繕いながら、黒森峰機甲部隊に指示を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココまで、大洗のペースで試合は進んでいる………

 

だが、黒森峰の恐ろしさは、まだコレからであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

黒森峰の追撃を受ける大洗は、原作通りにもくもく作戦とぱらりら作戦を使って逃走。
その最中でも、撃破を挙げます。

特にカメさんチームは、サンショウウオさんチームと組んで原作以上の大活躍。
尚、原作では、ココで履帯を破壊されたヤークトパンターは、所謂『直下さん』が乗って居た車両でしたが、この作品では別のヤークトパンターに乗っており、まだ健在です。
後々に大事な役をやってもらう予定なので。
楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第197話『207地点の激戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第197話『207地点の激戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

207地点………

 

みほ達、大洗機甲部隊が目指していたそこは、土の地面が露出している山だった。

 

「西住総隊長!」

 

「お待ちしておりました! 既に陣地の構築は完了しておりますっ!!」

 

そこには既に、スタート時に先行していた大洗工兵部隊の姿が在り、防衛戦の為の陣地を構築していた。

 

蛸壺や塹壕に、それらを繋ぐ地下を通したトンネル。

 

土嚢を積んだ防壁や、戦車の進行を妨害する戦車壕にジークフリート線に置かれていたとされるコンクリートブロック『龍の歯』や鉄製の『チェコの針鼠』、有刺鉄線も張られている。

 

そして、戦車をハルダウンさせる為の塹壕もある。

 

「ありがとうございます! 全員、配置に着いて下さいっ!!」

 

みほがそう呼び掛けると、大洗歩兵部隊の隊員達は其々に塹壕や蛸壺に入り、対戦車砲や榴弾砲、歩兵砲に山砲と言った砲を設置する。

 

更に、戦車チームの面々も、ハルダウン用の壕に入り込み、トーチカと化す。

 

「…………」

 

みほは双眼鏡で、迫り来る黒森峰機甲部隊の姿を確認する。

 

双眼鏡で覗いた先には、朦々と土煙を上げて迫り来る黒森峰機甲部隊の姿が在った。

 

「守り固めたよ!」

 

とそこで、沙織から配置完了の報告が挙がる。

 

「了解! 全車両並びに全対戦車砲は照準をフラッグ車の前に居る車両に! 歩兵部隊は可能な限り弾幕を張って敵歩兵部隊の前進を阻止して下さい!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほが命じると、大洗戦車部隊は砲塔や車体を動かして照準し、歩兵部隊は銃の引き金に指を掛ける。

 

「全車停止」

 

一方、黒森峰機甲部隊は、山の麓にて一旦停止する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そのまま両軍は暫し、睨み合いとなる。

 

緊迫した様子に、観客席も静まり返る………

 

「想定より早く………しかも堅牢な陣地を構築したな………囲め」

 

双眼鏡で大洗機甲部隊の防御陣地を確認したまほがそう呟くと、包囲指示を下す。

 

黒森峰機甲部隊は、戦車と随伴歩兵分隊ごとに分かれると、大洗機甲部隊の陣地を包囲しに掛かる。

 

「………攻撃始めっ!!」

 

「攻撃始めっ!!」

 

「攻撃始めっ!!」

 

それを確認したみほがそう号令を掛けると、迫信と弘樹の復唱の後、攻撃が開始された!

 

戦車砲や対戦車砲、榴弾砲に野戦砲が火を噴き、歩兵部隊が機関銃や小銃で弾幕を張る!

 

「うわっ!?」

 

「凄い弾幕だっ!!」

 

「歩兵部隊は下がって下さい! 先行します!!」

 

弾幕に晒された黒森峰歩兵達を助ける為、パンターの1両が前に出る。

 

途端に、車体上部に三突が放った砲弾が命中!

 

装甲を穿たれたパンターは、即座に白旗を上げる。

 

「やったっ!」

 

「次、1時のラングだっ!!」

 

「ラングってどれだ!?」

 

「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいな奴!」

 

カバさんチームの面々が歓声を挙げながらも、即座に次の戦車を狙う。

 

「11時方向、距離1500に居るヤークトパンターの上面を狙え!」

 

「了解っ!」

 

紫朗も、得意の空間認識能力で的確な狙いを付け、ヤークトパンター1両を撃破する。

 

そしてあんこうチームも、1両のパンターを狙い、砲塔を旋回させる。

 

「大洗フラッグ車、砲塔此方へ指向中!………!? キターッ!?」

 

狙われたパンターの砲手が報告するものの、その瞬間には発砲され、為す術も無く命中弾を喰らう。

 

一瞬の間の後に、命中弾を受けたパンターは白旗を上げる。

 

「五十鈴殿! やりましたね!!」

 

「いよっ! お嬢~! 日本一っ!!」

 

優花里が歓声を挙げ、大洗側の応援席に百合と共に居た新三郎も歓声を挙げる。

 

近くに居る淳五郎と好子も嬉しそうな表情をしている。

 

「………ヤークトティーガー隊。正面へ」

 

するとそこで、まほはそう指示を下し、9両のヤークトティーガー達が、黒森峰機甲部隊の前面へと展開する。

 

「重戦車を盾に使うのね………けど、そう上手く行くかしら?」

 

黒森峰機甲部隊らしい作戦に観客席のダージリンはそう呟くが、次の瞬間には不敵に笑った。

 

展開したヤークトティーガー達に、大洗戦車部隊と砲兵部隊の砲撃が集中する。

 

しかし、その全ての砲弾は弾かれ、明後日の方向に飛んで行く………

 

「堅い………」

 

「正面が全て100ミリ以上の装甲だからな………大戦当時の連合軍に、奴を正面から撃破出来る火砲は存在しなかった」

 

華がそう呟くと、煌人からの情報が入る。

 

ヤークトティーガーの盾を頼りに、進軍する黒森峰機甲部隊。

 

「コレが王者の戦いよ」

 

その中に居たティーガーⅡに乗るエリカは、勝ち誇る様にそう言う。

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「何だよ、黒森峰の連中。戦車の性能を頼りにゴリ押しかよ」

 

「只の脳筋戦法じゃねえか」

 

「こんなの俺でも出来るぜ。西住流も大した事ねえな」

 

その黒森峰機甲部隊の圧倒的な力の様子とは裏腹に、観客席から飛ぶのは野次ばかりである。

 

敵よりも優れた戦力を有し、完全に統制された状態で攻撃するのは戦術の基本であるが、一般人には理解し辛い要項である。

 

「…………」

 

「おお~、凄いね~」

 

そんな観客の野次に、黒森峰側の応援席のしほは拳を握り締め、対照的に常夫は呑気そうにモニターを眺めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内・207地点………

 

徐々に、大洗機甲部隊の陣地内へ撃ち込まれる砲弾の数が増して行く。

 

「折角ココまで来たのに………このままだと撃ち負ける!」

 

「流石黒森峰………」

 

至近弾の振動を感じながら、典子とあゆみがそう呟く。

 

「マルタの大包囲戦の様だな」

 

「あれは囲まれたマルタ騎士団がオスマン帝国を撃退したぞ」

 

エルヴィンがそう例えると、カエサルからそうツッコミが入る。

 

「だが、我々にそれが出来るか………」

 

「大丈夫です」

 

「!!」

 

と、エルヴィンがそう呟いた瞬間、みほが全部隊に向けて通信を流し始めた。

 

「私達には………『不死身の分隊長』が付いて居ます」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほがそう言い放った瞬間、大洗機甲部隊のメンバー全員が………破顔する。

 

その間にも、ヤークトティーガー隊が接近して来る。

 

と、その時………

 

1両のヤークトティーガーが通り過ぎた横の地面が捲れ上がる………

 

いや、捲れ上がったのは地面と同じ迷彩をしていたシートであり、その下に空いていたトンネルの中から………

 

「…………」

 

吸着地雷を手にしている弘樹が飛び出した!

 

そのまま、横を通り抜けようとしていたヤークトティーガーに肉薄し、側面に吸着地雷を張り付ける!

 

「!! ヤークトティーガー2号車! 側面に敵兵だっ!!」

 

「えっ!?」

 

それに気づいた都草が声を挙げた瞬間に、弘樹が伏せると吸着地雷が爆発!

 

ヤークトティーガー2号車は爆煙に包まれたかと思うと、次の瞬間には白旗を上げた。

 

「な、何だっ!?」

 

僚車がやられたのを見て、1両のヤークトティーガーが動きを止める。

 

するとその瞬間………

 

「貰ったぜ!」

 

先程と同様に、地面に見立てた迷彩シートを引っぺがして現れた地市が、手にしていたパンツァーファウストをヤークトティーガーの車体下部へ撃ち込む!

 

爆発が起こった後、パンツァーファウストを受けたヤークトティーガーから白旗が上がる。

 

「て、敵だ! 敵が居るっ!!」

 

それを見たまた別のヤークトティーガー1両が、地市に主砲を向けようと旋回する。

 

「! 馬鹿! 敵の目の前で旋回するな! 側面を曝してるわよっ!!」

 

「頂きっ!!」

 

しかし、旋回をすると言う事は山の頂上付近に陣取っている大洗戦車チームや大洗砲兵部隊に側面を曝すという事であり、エリカの怒声が飛んだ瞬間に、ポルシェティーガーの主砲が火を噴いた!

 

砲弾は旋回していたヤークトティーガーの側面に命中!

 

ヤークトティーガーは敢え無く撃破判定となった。

 

「こ、後退っ! 後退しろっ!!」

 

更に別のヤークトティーガーは、ギアをバックに入れると、正面を向けたまま後退しようとする。

 

だが、その瞬間!!

 

ガコンッ!と言う鈍い音がしたかと思うと、後退していたヤークトティーガーは突然動きを止めた。

 

「ちょっ!? 如何したの!?」

 

「駆動系に損傷! さっきの急なギアチェンジがいけなかったみたいです!」

 

車長が慌てながら操縦手に尋ねると、操縦手は手応えの無くなったレバーをガチャガチャ動かしながらそう答える。

 

「その隙は見逃しませんっ!!」

 

するとそこで、そう言う台詞と共に、またもや偽装シートを剥がして露わになったトンネルから竜真が飛び出して来て、手にしていた梱包爆薬を拉縄を引きながら放り投げる。

 

梱包爆薬はヤークトティーガーの上部に乗っかり、一瞬の間を於いて大爆発!

 

当然、ヤークトティーガーからは白旗が上がった!

 

「イカン! 歩兵部隊、前進っ!!」

 

とそこで、都草の指示が飛び、黒森峰歩兵部隊が前進する。

 

「黒森峰歩兵部隊、前進して来ます!」

 

「引けっ!!」

 

それを確認した大洗歩兵の1人から報告が挙がると、弘樹は即座にそう号令を掛ける。

 

ヤークトティーガーに肉薄していた大洗歩兵達が、再びトンネル内へと姿を消す。

 

「逃がすかっ!」

 

数名の黒森峰歩兵が、それを追ってトンネル内へと飛び込もうとする。

 

「止せっ! 深追いするなっ!!」

 

しかし、都草の制止も間に合わず、黒森峰歩兵数名が入り込んだ瞬間に、トンネルが爆発!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

爆発によって吹き飛ばされてきた黒森峰歩兵達が斜面を転がり、戦死判定となる。

 

更に、爆発が急造のトンネル内を走った事で、トンネル自体が崩落し、斜面の一部がへこみ始める!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

数10名の黒森峰歩兵達はそれに呑み込まれてトンネル跡の中へと落ち込む。

 

「クッ! 何たる様だ!」

 

その光景に、思わず都草からも苦々しい台詞が漏れる。

 

「………そろそろ限界か。ココから撤退します!」

 

とそこで、コレ以上の防衛戦は不可能と判断したみほが、撤退を指示する。

 

「でも、退路は塞がれちゃってます」

 

次弾装填をしようとしていた優花里が、みほにそう意見する。

 

『西住総隊長! コチラ配置に着きました!』

 

『西住ちゃん! 例のアレやる?』

 

するとそこで、別働隊として動いていたサンショウウオさんチームの聖子とカメさんチームの杏からそう通信が入る。

 

「ハイ! 『おちょくり作戦』、開始して下さいっ!!」

 

それを受けたみほは、新たな作戦・『おちょくり作戦』の発動を指示する。

 

『了解!』

 

『準備良い?』

 

『『『ハイ!』』』

 

『おちょくり開始ッ!!』

 

すると、麓に待機していたクロムウェルとヘッツァーが、黒森峰機甲部隊の後方から突撃を開始した!

 

「突撃ーっ!!」

 

干し芋片手にそう指示する杏。

 

「バンザーイッ!!」

 

聖子も万歳と叫ぶ。

 

「こんな凄い機甲部隊の中に突っ込むなんて………生きた心地がしない」

 

「今更ながら無謀な作戦だな………」

 

あの黒森峰機甲部隊の中へと突っ込む事に、柚子と桃は気後れを感じる。

 

「大丈夫! 西住総隊長を信じようよ!」

 

「西住総隊長の作戦なら、きっと上手く行くよ!」

 

しかし、蛍と聖子はみほを信頼し、一片の恐れも見せない。

 

「敢えて突っ込んだ方が安全なんだってよぉ」

 

そして杏も、いつもの調子でそう言い放つ。

 

「………ん?………!? 後方に敵っ!!」

 

とそこで、黒森峰歩兵の1人が、後方から迫って来るクロムウェルとヘッツァーの姿に気づく。

 

「!? 何っ!?」

 

すぐさま黒森峰歩兵達が振り返るが………

 

「撃つよ!」

 

「カ・イ・カ・ン!って奴だね!」

 

ハッチを開けて、聖子と杏が姿を晒したかと思うと、機銃架のビッカーズ・ベルチェー軽機関銃とMG34を掃射する!

 

「「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「!? 何事っ!?」

 

歩兵部隊員の悲鳴を聞いたパンターの車長が慌てた瞬間、車内に振動が走る。

 

「こんちは~」

 

そこで、パンターの左横に接触する様に停まった杏が、呑気そうに挨拶する。

 

「! パンター11号車! エレファント5号車! 脇にヘッツァーが居るぞっ!!」

 

慌ててるのか、砲手の子の肩を何度も蹴りながらそう通信を送るパンターの車長。

 

それを受けた他の黒森峰戦車達が、ヘッツァーの方を向こうとする。

 

「バイバ~イ」

 

するとヘッツァーは前進。

 

低い車高と小回りを活かして、黒森峰戦車部隊の中を走り回る。

 

「クソォッ!」

 

「同士討ちになるから撃てないっ!」

 

射線が重なってしまい、ヘッツァーを攻撃する事が出来ない黒森峰戦車部隊。

 

「行っけえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

更にそこへ、サンショウウオさんチームのクロムウェルが突っ込んで来る!

 

「うわっ!? もう1両っ!?」

 

「このっ! チョコマカと!!」

 

ヘッツァーによって只でさえ攪乱されていた黒森峰戦車部隊が、更に掻き回される。

 

「此方ラング7号車! 自分がやりますっ!!」

 

とそこで、黒森峰戦車部隊の中からやや前進していたラングが、自分がヘッツァーとクロムウェルを仕留めようと旋回を始める。

 

しかし、側面を山頂側に晒した瞬間、三突の砲撃が命中!

 

旋回しようとしていたラングは白旗を上げる。

 

「申し訳ありません! やられましたっ!!」

 

「私が!」

 

「待て! 三突、向かって来るぞっ!!」

 

撃破されたラングの車長が謝って居ると、今度はパンターの隊員が動こうとしたが、三突を始め大洗の戦車隊が前進して来るのを確認したエレファントの隊員が制する。

 

「敵は混乱している! この機を逃すな! 砲兵部隊! 撃って撃ちまくれっ!!」

 

そして、迫信の指示が飛ぶ中、大洗砲兵部隊と前進して来た大洗戦車部隊が、黒森峰機甲部隊に次々と砲撃を見舞う!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

激しい砲撃に晒された事で、黒森峰機甲部隊の混乱は更に加速するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

プラウダサイド………

 

「面白~い! 次から次へと、良くこんな作戦考えるわね!………!? わっと!」

 

「今のところ、大洗のペースですね」

 

黒森峰を混乱に叩き込んでいる様に、カチューシャが燥いでノンナの上から落ちそうになり、ノンナは冷静にそう戦況を見る。

 

「黒森峰からしてみれば悪夢だな」

 

『黒森峰は大洗に地獄へ付き合わされています』

 

デミトリもそう呟き、クラーラがむせそうな事をロシア語で言い放つ。

 

 

 

 

 

サンダースサイド………

 

「あんなに混乱した黒森峰を見たのは初めてです」

 

「黒森峰は、隊列を組んで正確に攻撃する訓練は積んでるけど、その分突発的な事に対処出来ない」

 

「マニュアルが崩れて、パニックになってるワケですね」

 

アリサとケイが、黒森峰の様子をそう評する。

 

「それに、彼女達が頼みとする西住流………完全無欠の戦車道と知られる流派だが、1つだけ弱点が有る」

 

するとそこで、ナオミがそう口を挟む。

 

「えっ!? 弱点っ!? あの西住流にっ!?」

 

驚愕の声を挙げるアリサ。

 

西住流と言えば、島田流と並ぶ日本戦車道の代表流派。

 

それに弱点が有るなど、俄かには信じられなかった。

 

「意外と知られているんだが、その弱点を衝こうと言う連中は皆無に等しかったからな」

 

「何なの、その弱点って!?」

 

「………攻勢に出る時、歩兵が後方に回りがちと言う事だ」

 

「歩兵が?」

 

「そう………西住流の考えでは、歩兵は飽く迄戦車の活動を支援する存在と捉えているらしい。その為、攻勢時には戦車部隊が歩兵部隊より前に出る傾向が有る」

 

「しかし、それは歩兵に守られていない戦車が前に出ると言う事であり、敵歩兵からすれば、護衛の無い戦車を攻撃出来るチャンスでもある」

 

ナオミとアリサが話し合っていると、ジョーイがそう口を挟んで来た。

 

「でも、黒森峰の戦車は!………」

 

「そう………高性能なドイツ戦車だ。普通の神経なら、護衛歩兵が居ないとは言え、歩兵戦力で迎え撃とう等と考える奴は居ない」

 

「だからこそ、この西住流の弱点は今まで衝かれる事は無かったのだ」

 

アリサにそう言うと、ナオミとジョーイは再び試合の様子を見やる。

 

(しかし………幾らマニュアルが崩れているとは言え、黒森峰の動揺が大き過ぎるな………何か有ったとしか思えん)

 

と、ジョーイはそこで更に、今の黒森峰機甲部隊の動揺の具合に違和感を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内・207地点………

 

「如何すれば良いの!? ヘッツァーとクロムウェルを狙うの!?」

 

「それとも、そっちは無視して、山頂側からの攻撃に備えれば良いの!?」

 

「こんな場合のマニュアルなんて無かったよ!?」

 

「総隊長! 指示を! 指示を下さいっ!!」

 

ヘッツァーとクロムウェルに引っ掻き回され、更に山頂から大洗戦車部隊と大洗砲兵部隊の砲撃に晒されている黒森峰戦車部隊員達の悲鳴の様な声が通信回線に響き渡る。

 

現在の黒森峰戦車部隊員の殆どが経験不足の1年生達であり、補給もままならない状況だった為、碌な練習も出来ず、決勝までの訓練を粗座学に費やしていた。

 

その座学で習ったマニュアルが通用しなくなり、彼女達は只々まほへと指示を請うばかりだ。

 

「落ち着け! 冷静に対処するんだっ!!」

 

まほも必死になってそう呼び掛けるが、黒森峰戦車部隊員達の動揺は収まらない。

 

(クッ! やはり訓練不足か………)

 

そんな戦車部隊員達の様子を見て、まほは苦い顔を浮かべるのだった。

 

「右側がグチャグチャだよ!」

 

「右方向へ突っ込みますっ!!」

 

とそこで、右翼の陣形が崩れたのを見た沙織が声を挙げ、みほの指示が飛ぶ。

 

「全員車両に乗れっ!!」

 

「余分な装備や動かせない装備は全て爆破放棄しろっ!!」

 

大洗歩兵部隊も、すぐさま移動の態勢に入る。

 

そして、ポルシェティーガーを先頭に、大洗機甲部隊が一気に斜面を下って移動を開始した!

 

それに気づいた黒森峰戦車部隊のヤークトパンターとラングが、大洗機甲部隊に向かって発砲する!

 

しかし、先頭を行っていたポルシェティーガーが、その堅牢な装甲で弾き飛ばす!

 

そのまま大洗機甲部隊は、混乱の続いている黒森峰機甲部隊の中を悠々と擦り抜けて行く。

 

御丁寧に、最後尾を行っていたルノーB1bisと歩兵部隊が煙幕を張り、視界を塞ぐ。

 

「ヤッホーッ!」

 

「やりましたっ!」

 

「やれやれ………スリル満点だな」

 

無事離脱出来た事に、ツチヤと優花里が歓声を挙げ、麻子が呆れる様にそう呟く。

 

「逃げられました!」

 

「何やってるのっ!!」

 

「態勢を立て直せ!!」

 

戦車部隊員の1人から報告を受けたエリカが叫び、まほが更に指示を飛ばす。

 

「総隊長! 私が追いますっ!!」

 

「お供しますっ!!」

 

とそこで、エリカが混乱の続く黒森峰機甲部隊の中から抜け出し、別のティーガーⅡを1両率いて、大洗機甲部隊を追う。

 

「何処へ向かう気なの?」

 

「面白くなってきたわね~」

 

観客席では、アリサと特大のポップコーンを頬張っているケイがそう呟く。

 

と、離脱している大洗機甲部隊の中で、ポルシェティーガーから変な音が鳴り始め、エンジン部から煙が出始める。

 

「レオポンがグズり出したぞ!」

 

「ちょっと宥めて来る」

 

すると、ナカジマがハッチを開けて、走行中の車外へ出ると、そのままエンジンルームの上へ移動し、エンジンルームを開ける。

 

「はいは~い、大丈夫でちゅよ~」

 

そして走行したまま、ポルシェティーガーのエンジンを修理し始める。

 

「壊れたところを走りながら直してる………」

 

「流石自動車部ですね」

 

みほと優花里はその光景を見て、改めて自動車部のスキルの高さを思い知るのだった。

 

とそこで、追撃を仕掛けて来ていたエリカ車ともう1両のティーガーⅡが距離を詰めて来る。

 

「逃がさないわ。目標、1時フラッグ車っ!!」

 

エリカの指示で、彼女のティーガーⅡがⅣ号へ照準を合わせる。

 

しかし………

 

突然ガクリとエリカ車の車体が揺れたかと思うと、車体が左へ流れ始める。

 

「ちょっ!? 如何したのっ!?」

 

エリカが声を挙げた瞬間に、彼女のティーガーⅡは溝へ落ち込み、動きを止める。

 

「何やってるのっ!?」

 

「左動力系に異常っ!」

 

「操縦不能ですっ!?」

 

「何ですってっ!?」

 

乗員の報告に、エリカはハッチを開けて車外へ姿を晒す。

 

見れば、彼女の乗るティーガーⅡの左の履帯が完全に千切れ、転輪の一部も脱落していた。

 

「クッ!」

 

「私達が追いますっ!!」

 

するとそのエリカのティーガーⅡの横を擦り抜けて、もう1両のティーガーⅡが大洗機甲部隊を追う。

 

だが、その直後………

 

ボンッ!と言う音がしたかと思うと、もう1両のティーガーⅡのエンジンが爆発して炎上。

 

そのまま白旗を上げた。

 

「も、申し訳ありません! エンジンブローですっ!!」

 

「コレが………こんな情けない姿が………黒森峰機甲部隊の姿だと言うの………」

 

次々と整備不良によって脱落する車両や、練度不足な隊員の操縦で力を発揮出来ない様に、エリカは悔しさを滲ませる。

 

「副隊長!」

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

「工兵っ!! 応急修理だっ!!」

 

とそこで、追い付いた黒森峰機甲部隊の歩兵隊員達が、擱座しているエリカのティーガーⅡに駆け寄って来て、工兵達が応急修理を始める。

 

「駄目です! 駆動輪が完全に割れてます! 応急修理じゃ如何にもなりません!」

 

すると、エリカのティーガーⅡは駆動輪が完全に割れており、応急修理だけではどうしようもないと言う報告が挙がる。

 

「仕方が無い………そこのティーガーⅡの部品を使おう」

 

工兵隊長が、白旗を上げているティーガーⅡを見てそう言う。

 

「共食い整備で騙し騙しでやってたのを、今度は廃品利用ですか」

 

「ホント、惨めですね………」

 

そんな様に、黒森峰機甲部隊の士気も低下する。

 

(クッ! 短期戦を試みて損害を増やしてしまったのが完全に裏目に出たか………)

 

まほの表情にも、最早余裕は無くなっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

黒森峰機甲部隊を引き離した大洗機甲部隊は、川の手前で一旦停車していた。

 

「大分引き離しましたね」

 

「この後はどのルートを?」

 

華がそう言うと、優花里がみほにそう尋ねる。

 

「この川を渡ります」

 

「川を渡る?」

 

「上流にはレオポン、下流にはアヒルさんが居て下さい」

 

「成程! 軽い戦車が流されない様に渡るんですね!」

 

みほの意図を察した優花里がそう補足する。

 

「歩兵部隊は後方を警戒! 戦車の渡河を確認後に渡河する!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして歩兵部隊は、川岸に展開し、万が一黒森峰機甲部隊が追い付いて来た時の防御線を張る。

 

皆が緊張している中、大洗戦車チームは渡河を開始する。

 

順調に川の中を進んで行くかに見えた大洗戦車チーム。

 

だが、川の中頃まで差し掛かった瞬間………

 

悲劇は起こった………

 

突如ウサギさんチームのM3リーからエンジン音が消えたかと思うと、その場で停止してしまう。

 

「ア、アレッ!?」

 

桂利奈が慌ててアクセルを踏み込む。

 

しかし、反応は返って来ない………

 

「う、動かないっ!!」

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

桂利奈の叫びを聞いた梓が思わず声を挙げ、あや達も驚愕する。

 

「! みぽりん! ウサギさんチームがっ!?」

 

「!?」

 

沙織からの報告を聞いたみほの脳裏に………

 

また、去年の黒森峰での出来事が過るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に山地での戦いです。
先行させていた工兵部隊により、原作より強固な防御陣地を築いて戦ったので、正に硫黄島の擂鉢山です。

そして、原作で猛威を振るったヤークトティーガー。
この作品では既に1両撃破しているとは言え、まだ9両が健在。
しかし、此処へ来て一気に4両を撃破。
他にも自滅を含めて多数の戦車を撃破しました。

この作品独自設定で、西住流に弱点を付与しました。
この弱点は、黒森峰が原作通りの戦法を取ると、如何しても歩兵部隊が後衛に回りがちになってしまうので、ならいっそ西住流の弱点にしてしまおうと考えまして。
前回の決勝で敗退した時、歩兵部隊の活躍が感じられなかったのも、実はこういう理由があったからと思えば納得出来るんじゃないかなとも思いまして。

さて、次回はあの渡河の場面。
勿論みほは助けに向かいますが、それを助ける為に『アイツ』が決死の行動に出ます。
アレンジされたあの名言も飛び出しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第198話『灰色の狐です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第198話『灰色の狐です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西住流が率いる黒森峰機甲部隊に対し………

 

大洗機甲部隊は得意とするマニュアルに囚われないゲリラ戦により………

 

多数の黒森峰戦車を撃破する事に成功する。

 

だが、次の戦場へと向かおうとしていた渡河の最中に………

 

ウサギさんチームのM3リーがエンストを起こすと言うアクシデントに見舞われた………

 

果たして、この事態に………

 

みほはどんな決断を下すのか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場………

 

その中に在った川にて………

 

「ウサギさんチームがエンストッ!?」

 

報告を受けたみほが、若干動揺を見せながらそう言う。

 

「! オイ! M3が停まってるぞっ!!」

 

「何っ!?」

 

「!?」

 

川岸に防御線を張っていた大洗歩兵達も、その様子に気づいて声を挙げる。

 

「全然エンジン掛からないよ~っ!!」

 

エンジンの再始動を試みる桂利奈だったが、全く反応が無い。

 

「このままだと、黒森峰が追い付いちゃう~!」

 

優季が若干涙目になりながらそう言う。

 

「………私達は大丈夫です! 隊長達は早く行って下さいっ!!」

 

「後から追い掛けますっ!!」

 

そこで梓とあやは顔を見合わせると、みほ達に先に行く様に進言する。

 

だが、エンジンの停まったM3リーは、川の流れに負けて車体が傾き始める。

 

「危ないっ!」

 

「このままだと横転しちゃう!」

 

その様子を見た優花里と沙織が声を挙げる。

 

「モタモタしていると黒森峰が来るぞ」

 

「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら………」

 

「…………」

 

麻子と華もそう言うのを聞きながら、みほは俯いて両手を膝の上で握り締める。

 

このままでは黒森峰機甲部隊に追い付かれてしまう………

 

だからと言って、ウサギさんチームを見捨てる決断なぞ、みほには出来る筈も無い。

 

もしまた同じ事が起きれば、自分は同じ行動を取る………

 

そうは言ったものの、イザその場面に遭遇し、みほの心には迷いが生じる………

 

如何すれば良いのか………

 

みほがそう思っていると………

 

「行くぞっ!」

 

「「「「「「「「「「せーのぉっ!!」」」」」」」」」」

 

「!?」

 

勇ましい声が聞こえて来て、みほはペリスコープ越しにM3リーを見やった。

 

「押せーっ!!」

 

「引っ張れーっ!!」

 

「大洗魂を見せてやれーっ!!」

 

「今こそ男を見せる時だーっ!!」

 

大洗歩兵達がM3リーの元へ集まり、その車体に取り付いて押したり、兵員輸送車やポルシェティーガーを牽引した戦車回収車とワイヤーで結んで引っ張ろうとしたりしていた。

 

しかし、泥濘に嵌り込んでいるのか、M3リーは中々動かない………

 

「電気系統に異常はありません!」

 

「なら次は油圧だ! すぐチェックしろっ!!」

 

M3リーの車体の上には数名の大洗工兵が乗り、エンストの原因を調べている。

 

誰1人として、ウサギさんチームを見捨てよう等とは微塵も思っていない。

 

「皆………」

 

「みぽりんも行ってあげなよ」

 

その光景にみほが驚いていると、沙織がそう声を掛けて来た。

 

「沙織さん………」

 

「コッチは私達が見るから」

 

「ありがとう、沙織さん………優花里さん! ワイヤーにロープをっ!!」

 

「! ハイッ!」

 

みほに言われて、すぐさま優花里はワイヤーとロープを用意する。

 

「戦車チームの皆さん! 少しだけ待っていて下さいっ!!」

 

「えっ!? 何する気なのよっ!?」

 

車外へ出ると、ワイヤーにロープを結び、更にロープの反対側の方を自分の腰に巻いたみほがそう言うと、みどり子が戸惑いの声を挙げる。

 

「…………」

 

それを余所に、みほはルノーB1bisと三突を挟んだ先に居るM3リーを見やる。

 

「! 西住総隊長っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで、M3リーの救助作業を行っていた大洗歩兵の1人がみほの姿に気づき、他の大洗歩兵達も注目する。

 

「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶ………西住さんならそうするだろうな」

 

「それでこそ、みほさんです」

 

「だから皆、西住殿に付いて行けるんです。そして私達は………此処まで来れたんです!」

 

「そうだね」

 

みほが居なくなった車内で、麻子、華、優花里、沙織がそう言い合う。

 

「私、この試合………絶対に勝ちます! みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも、絶対に勝ちます!」

 

「無論、負ける積りは更々無い」

 

「その通りです」

 

「勿論だよ!」

 

「ハイ!」

 

再びそう言い合っていると………

 

「!!」

 

みほが、Ⅳ号の隣に並んでいるルノーB1bisへと跳躍!

 

更に続けて、ルノーB1bisの上から、三突の上へ跳躍!

 

「流石ね、みほさん」

 

「ワンダフルッ!!」

 

「それがお前の戦車道か………西住 みほ」

 

「カチューシャにはあんなこと出来ないなって思ってるんでしょう」

 

「ち、違うわよ!」

 

その光景に、各機甲部隊の総隊長も称賛の声を挙げる。

 

観客席からの歓声も、一層大きくなる。

 

「西住ちゃん、跳んでるね~」

 

「皆と勝つのが、西住さんの西住流なんですね~」

 

「ああ、もう~! 急げ~っ!!」

 

「頑張って! 西住さんっ!!」

 

攪乱部隊として残っていたヘッツァーの中で、カメさんチームもそう声を挙げる。

 

「うんうん! それでこそ西住総隊長だよ!!」

 

「そうだね………」

 

「それが私達の総隊長ですから」

 

「甘いわね………でも、嫌いじゃないわ」

 

「アタイ等の大将は最高だぜっ!!」

 

同じくクロムウェルの車内でも、聖子、伊代、優、里歌、唯が興奮気味にそう言う。

 

そして遂に、みほは三突からM3リーの上へと跳ぶ!

 

だが、M3リーに片足が乗ったかと思われた瞬間!

 

バランスを崩し、後方へ仰け反る!

 

「!?」

 

思わず目を瞑るみほだったが、そのみほの手を誰かが掴んだ!

 

「!!」

 

「…………」

 

目を開けたみほが見たのは、見慣れた仏頂面の弘樹だった。

 

「…………」

 

弘樹はそのまま、みほの手を引っ張ってM3リーの上へと誘う。

 

「………ありがとう、弘樹くん」

 

「当然の事です」

 

みほのお礼に、弘樹はそう返す。

 

「総隊長~!」

 

「総隊長!」

 

そこで、M3リーの車内から、ウサギさんチームが飛び出して来る。

 

「皆でコレを引っ張って下さい」

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

みほの命令で、ウサギさんチームはワイヤーの繋がれたロープを引っ張る。

 

「我々も手伝うんだっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

更に弘樹の号令で、M3リーの救助に当たっていた大洗歩兵部隊員達も、ワイヤーで戦車同士を繋げる作業に掛かる。

 

「良し、俺達も行くぞっ!!」

 

そこで、まだ川岸の防御線に残っていた大詔が、残存メンバーにそう呼び掛ける。

 

「待て」

 

だが、それを同じく残っていたハンターが制止した。

 

「! ハンター! 何故止める!」

 

「見ろ。黒森峰が追い付いて来た。このままでは大洗は一網打尽だ」

 

大詔がそう問い質すと、ハンターは土煙が上がる丘の向こうを見ながらそう言う。

 

「コレ以上救助に時間を掛けるのはナンセンスだ」

 

「! ハンター! 貴様っ!!」

 

ハンターの言葉に思わず怒声を挙げる大詔だったが………

 

「だから、誰かが黒森峰機甲部隊を止めねばならん」

 

「! 何っ!?」

 

続くハンターの言葉を聞いて、今度は驚きを露わにする。

 

「そしてそれは俺の役目だ」

 

右手にマチェットを構え、迫り来る黒森峰機甲部隊を見据えながらそう言い放つハンター。

 

「ハンター!」

 

「大詔、良く見ておけ………コレがディープ・スロートからの最後のプレゼントだ!」

 

そしてそう叫ぶと………

 

「俺が黒森峰を止めるっ!!」

 

敢然と黒森峰機甲部隊に向かって、駆け出した!!

 

「ハンターッ!!」

 

大詔の声が、試合会場内に木霊した………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんな事など露知らず、黒森峰機甲部隊は………

 

「やっぱり………アンタはそうするのね」

 

双眼鏡で大洗機甲部隊の様子を見たエリカがそう呟く。

 

「その甘さが命取りだってんだ! 全軍、前進! 丘を越えたら川に沈めてやれっ!!」

 

だが、蟷斬はみほの行動をそう切って捨て、全軍にそう言い放つ。

 

「………後方7時、敵。パンター11号車、やれ」

 

一方まほは、攪乱部隊として残っていたヘッツァーとクロムウェルを見つけると、冷静にそう指示を出す。

 

「よ~し………」

 

「! 会長! 狙われてる!!」

 

杏が黒森峰機甲部隊に狙いを定めようとしたが、聖子が狙われているのに気づいてそう声を上げる。

 

「ありゃ?」

 

思わず杏が間抜けな声を漏らした瞬間に、1両のパンターが放った砲弾が、近くに着弾する。

 

「ひゃああ~~~っ! 流石に3度目は無いか~!」

 

「気づかれてちゃ奇襲は無理だ! 撤退するぞっ!!」

 

杏がそう言ってヘッツァーが下がると、唯もクロムウェルを後退させた。

 

逃げたヘッツァーとクロムウェルには目もくれず、黒森峰機甲部隊は大洗機甲部隊の方へと進撃する。

 

「ん? 隊長! 前方から敵歩兵!」

 

とそこで、黒森峰歩兵部隊員の1人がそう報告を挙げる。

 

「数は?」

 

「それが………1人です」

 

「1人?………」

 

その報告を受けた都草は、すぐに双眼鏡を構えて前方を確認する。

 

「…………」

 

そこには、マチェットを片手に土煙を上げながら自分達に向かって走って来るハンターの姿が在った。

 

「たった1人で、何の積りだ?」

 

「囮………にしても妙ですね」

 

「自棄の特攻でしょうか?」

 

ハンターの意図が読めず、黒森峰歩兵部隊員達の間に困惑が広がる。

 

「構わねえ! 相手は1人だ! 蜂の巣にしてやれっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

だがそこで蟷斬の声が飛び、MG42を装備していた黒森峰歩兵部隊員達が前へ出る。

 

「射撃始めっ!!」

 

そして号令一下、一斉射撃を浴びせる!

 

毎分1200発の発射速度を誇る複数のMG42の弾幕………

 

当然ながら、ハンターは銃弾の豪雨に晒される。

 

「…………」

 

だが、ハンターは足を止めるどころか、更に速度を上げて突っ込んで行く!

 

「!? な、何で止まらないんだっ!?」

 

「頭がイカれてるのかっ!?」

 

幾ら歩兵道用の人が死なない弾丸とは言え、豪雨とも言える弾幕の中を走り抜けるなど正気の沙汰ではない。

 

黒森峰歩兵部隊員達に動揺が走り、弾幕が途切れる。

 

「怯むな! 撃ち続けろっ!!」

 

慌てて都草がそう叫ぶが………

 

「…………」

 

その瞬間には既にハンターは黒森峰機甲部隊の中へと突入!

 

手近に居た、パンツァーファウストを持った黒森峰歩兵の1人を、マチェットで斬り付けた!

 

「!? ぐああっ!?」

 

斬り付けられた黒森峰歩兵が戦死となると、ハンターはそいつが持っていたパンツァーファウストを強奪!

 

そのまま腰打めに構えると、近場のラングの側面目掛けて発射した!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

パンツァーファウストが命中したラングの傍に居た黒森峰歩兵数名が、爆風を浴びて戦死判定となる。

 

そしてラングからも白旗が上がる。

 

「貴様っ!!」

 

1人の黒森峰歩兵が、ハンターに怒りの声と共にMP40を向ける。

 

「!!」

 

するとハンターは、その黒森峰歩兵に向かって、撃ち終えたパンツァーファウストを投擲!

 

「! ぐはっ!?」

 

真面に喰らった黒森峰歩兵が仰け反った瞬間に、ハンターは懐に飛び込む!

 

「!!………」

 

そしてマチェットで腹を横一文字に斬り裂く!

 

「がふっ!?………」

 

斬り付けられた黒森峰歩兵が腹を押さえて倒れ、戦死判定となる。

 

「このぉっ!!」

 

とそこで、1両のパンターが、ハンターを轢き潰そうと突っ込んで行く。

 

「………!!」

 

だが、いざ轢き潰さんとした瞬間に………

 

ハンターの姿が忽然と消えた!

 

「!? 消えたっ!?」

 

ペリスコープ越しに、パンターの車長はハンターの姿を探すが発見出来ない。

 

「パンター9号車! 上だぁっ!!」

 

「上?」

 

黒森峰歩兵の1人からそう報告が挙がり、パンターの車長がハッチを開けて上空を見やると………

 

「…………」

 

マチェットを逆手に構え、落下して来るハンターの姿が目に飛び込んで来た!

 

「!?」

 

パンターの車長が驚愕していた間に、ハンターは落下しながら、マチェットをパンターのエンジン部分へと突き立てた!

 

すると何と!!

 

落下速度まで加えたマチェットの1撃が、最も薄いエンジンハッチを貫通!!

 

エンジンを損傷させ、パンターに白旗を上げさせた!

 

「!? 嘘っ!?」

 

まさか刃物で撃破されるなど夢にも思っていなかったパンターの車長が驚愕の声を挙げる。

 

「!!………」

 

その間にハンターは、突き刺さったままのマチェットを手放し、撃破したパンターの上から跳躍!

 

アクロバティックに錐揉み回転をしながら吸着地雷を投擲!

 

投擲された吸着地雷は、別のパンターの側面に張り付き、爆発!!

 

爆発したパンターからも白旗が上がった!!

 

「コイツッ!」

 

「調子に乗るなっ!!」

 

コレ以上はやらせんとばかりに、2人の黒森峰歩兵が、MP40とMG42をハンターに向かって発砲する!

 

「!!………」

 

だが、ハンターは着地と同時に連続後転を繰り出し、MP40とMG42の弾丸をかわして行く。

 

「手榴弾っ!!」

 

そこで、別の黒森峰歩兵がM24型柄付手榴弾を、ハンター目掛けて投擲する!

 

「………!!」

 

しかし、ハンターは後転の勢いを利用してバック宙の様に跳び上がったかと思うと、飛んで来たM24型柄付手榴弾を蹴り返す!

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

手榴弾を蹴り返された黒森峰歩兵は、周りの黒森峰歩兵数名を巻き込んで自爆する。

 

それを確認しながら着地を決めようとしたハンターだったが………

 

「喰らえっ!!」

 

そのタイミングを見計らったかの様に、ヤークトパンターの1両が榴弾を発砲!

 

「!?」

 

着地のタイミングを狙われ、ハンターの姿が爆煙に包まれた!

 

「やったっ!」

 

手応えは有ったと、思わずガッツポーズをするヤークトパンターの車長。

 

だが、次の瞬間!!

 

「………!!」

 

その爆煙の中から飛び出して来たハンターが、ヤークトパンターの側面に回る!

 

「!? しまったっ! 側面にっ!! 旋回、急げっ!!」

 

慌ててヤークトパンターをハンターの居る方向へ旋回させようとする。

 

だが、その瞬間!

 

ガキィンッ!と言う甲高い音がして、ヤークトパンターの動きが止まる。

 

「!? 如何したのっ!?」

 

「わ、分かりません! 履帯に何かが絡まってて!!」

 

「何ですってっ!?」

 

操縦手の報告に、ヤークトパンターの車長が、慌ててハッチを開けて車外へ姿を晒すと、履帯を確認する。

 

「!? ピアノ線っ!?」

 

そこで、履帯と転輪や駆動輪にピアノ線がガチガチに巻き付いているのを目撃する。

 

「アクセル全開! 引き千切って!!」

 

「駄目です! コレ以上アクセルを踏んだらエンジンが壊れますっ!!」

 

そう指示するヤークトパンターの車長だったが、整備が完全でないヤークトパンターは、コレ以上の出力アップに耐えられないと操縦手が返す。

 

「!!」

 

そのヤークトパンターに向かって、火炎瓶を投げつけるハンター。

 

「!? ヤバッ!?」

 

ヤークトパンターの車長が慌てて車内に引っ込んだ瞬間に、火炎瓶がヤークトパンターに命中!

 

ヤークトパンターの車体が炎上したかと思うと、一瞬間を置いて爆発!

 

撃破を示す白旗が上がった………

 

「!!………」

 

ハンターは続いて、近くに居たティーガーⅡを狙おうとする。

 

………と、その瞬間っ!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

1両のパンターが、半ば恐慌状態でハンターに向かって突っ込んだっ!!

 

「!? 何っ!?」

 

恐慌した黒森峰戦車部隊員達の思わぬ行動に、ハンターは意表を衝かれ、退避が遅れた!

 

「!? グアアアッ!!」

 

そして何と!!

 

そのままパンターに追突され、パンターはハンターが狙っていたティーガーⅡの側面に衝突!!

 

ハンターの身体はティーガーⅡとパンターに挟まれてしまう。

 

「ちょっ!? な、何すんのっ!? 履帯が切れたじゃないっ!!」

 

「ハッ!? ゴ、ゴメン! つい我を忘れて………」

 

ティーガーⅡの車長の抗議の声で我に返ったパンターの車長が、慌てて謝罪する。

 

「でも、コレであの歩兵も………」

 

そう言葉を続けようとしたパンターの車長が、挟まれているハンターの姿を確認して絶句した………

 

何故ならそこには………

 

「…………」

 

ティーガーⅡとパンターの2両に挟まれながらも、鬼気迫る表情で収束手榴弾を取り出しているハンターの姿が有った。

 

しかも、その収束手榴弾は、通常の3倍の量を収束させている特注品である。

 

「追い込まれた狐は虎や豹よりも凶暴だっ!!」

 

ハンターはそう叫び、特注収束手榴弾の安全ピンを、躊躇無く引き抜いた!!

 

途端に………

 

巨大な爆発が、パンターとティーガーⅡ。

 

そしてハンターを飲み込んだ!!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

余りに凄まじい爆発で、近くに居た黒森峰歩兵達が戦死判定を喰らう程だった。

 

やがて、朦々と上がって居た黒煙が晴れ始めると………

 

その中から白旗を上げているパンターとティーガーⅡ。

 

そして、その2両に挟まれた状態で、やり切った顔で気絶し、戦死判定となっているハンターの姿が露わになった。

 

「クソッ! 何てこったっ!!」

 

「全軍! 被害状況を報告しなさいっ!!」

 

蟷斬が悪態を吐き、エリカが全隊員に報告を求める。

 

「………たった1人の歩兵がコレほどまでの被害を………」

 

一方まほは、ハンターが黒森峰機甲部隊に与えた被害の大きさを見て、若干の戦慄を覚えていた。

 

「見事だ。舩坂 弘樹以外にもコレ程の歩兵が居たとは………やはり、大洗侮りがたしだね」

 

そして都草は、衛生兵に扮した大会運営委員によって自軍の戦死判定者と共に運ばれて行くハンターに敬礼を送りながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗機甲部隊は………

 

M3リーを、ワイヤーで各戦車に繋ぎ、牽引しながら対岸に向かってゆっくりと進んでいる。

 

「良し! コレで応急処置はOKな筈です!」

 

「坂口さん! エンジン再起動を!!」

 

「あいっ!!」

 

とそこで、漸く大洗工兵がM3リーのエンジンの応急処置を追え、桂利奈が再び再起動を掛ける。

 

「動いて~っ!!」

 

祈る様な思いでイグニッションを操作する桂利奈。

 

すると………

 

祈りが通じたのか、エンジンが再起動した!

 

「! 動いたーっ!!」

 

息を吹き返したM3リーが、再び動き出す。

 

「皆! ウサギさんチーム、動き出したよっ!!」

 

「良かった~」

 

「全車両、ウサギさんチームと歩調を合わせて進んで下さい」

 

沙織がそう報告を挙げると、優花里が安堵の声を漏らし、みほは即座に指示を出す。

 

「西住総隊長………」

 

「! 弘樹くん」

 

とそこで、弘樹から通信が入る。

 

「黒森峰機甲部隊の足止めに向かったハンターが………戦死判定です」

 

「!!」

 

それを聞いたみほの顔が一瞬強張る。

 

「ですが敵戦車部隊の戦車を6両撃破。歩兵部隊にも損害を与えました。彼は………勇敢な歩兵でした」

 

「………キツネさん分隊の指揮は、以後上田さんが執って下さい」

 

「了解。指揮を引き継ぎます」

 

弘樹がそう報告を続けると、みほは辛そうにしながらも、キツネさん分隊の指揮を紫朗に引き継がせるのだった。

 

「川を渡り切るぞ………」

 

とそこで、麻子が報告した通り、大洗戦車隊は対岸へと辿り着く。

 

「此方カメさん。コッチも渡河完了だよ~」

 

「サンショウウオさんチームもです」

 

更に、別行動をしていたカメさんチームとサンショウウオさんチームも別の場所で渡河を終えたとの報告が入る。

 

「歩兵部隊も渡河完了だよ、西住くん」

 

そして、M3リーを助ける為に川に飛び込んでいた大洗歩兵部隊も、無事に渡河を完了した。

 

「カメさんチームとサンショウウオさんチームとの合流地点へ向かいます。その後は予定通りに市街地へ向かいます」

 

「ちょっと待って下さいね………」

 

と、みほが新たな指示を下すと、灰史がそう言って、工兵達と共に、兵員輸送車からジェリカンを取り出して、中に入っていた液体を川に流し始める。

 

「下がって!」

 

やがてジェリカンの液体が全て無くなると、灰史は工兵達を下がらせ、信号拳銃の照明弾で水面を撃った。

 

すると忽ち!

 

川の水面が激しい炎に包まれた!!

 

「………コレ大丈夫なのか?」

 

「環境に影響を与えない可燃物質を使っています。足止めの為ですよ」

 

余りの炎に了平が思わずそう呟くと、灰史は笑いながらそう返した。

 

「急ぐぞ」

 

そこで弘樹がそう言い、大洗機甲部隊はカメさんチームとサンショウウオさんチームとの合流地点へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊………

 

「クウッ! アイツ等! 何て真似をっ!!」

 

漸く態勢を立て直し終わった黒森峰機甲部隊の中に居たエリカが、炎上している川へと差し掛かってそう声を挙げる。

 

「止むを得ん。迂回するぞ」

 

「チイッ! トンだ時間のロスだっ!!」

 

都草がそう指示すると、蟷斬がまたも悪態を吐く。

 

(………市街地へ向かう積りか。だが、コレ以上はやらせんぞ)

 

そんな中で、まほは試合会場の地図を見ながらそう思いやるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

エンストしたウサギさんチームのM3リーの救出に奮戦する大洗機甲部隊。
誰1人として見捨てようと等とは考えていない………
これが大洗流です。

だが、刻々と迫り来る黒森峰に対し………
ハンターが決死の突撃を敢行!
戦死となったが大きな損害を与えて足止めに成功する。

『追い込まれた狐は虎や豹よりも凶暴だっ!!』
この台詞を言わせたいが為にハンターと言うキャラを作ったと言っても過言ではありません。
あの名場面を思い出していただけたら嬉しいです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第199話『超重戦車です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第199話『超重戦車です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンターの捨て身の決死攻撃によって黒森峰機甲部隊が足止めされ………

 

無事にウサギさんチームを救出して渡河に成功した大洗機甲部隊………

 

更なる足止めとして川を炎上させ、大洗機甲部隊は市街地を目指す………

 

だが………

 

そこには、トンでもないモノが待ち受けていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・森林地帯………

 

黒森峰機甲部隊を振り切った大洗機甲部隊は、森の中に在る苔や蔦の纏わりついた古い石橋の前で、別行動中のカメさんチームとサンショウウオさんチームを待っていた。

 

「お待たせ~」

 

「只今戻りました」

 

そこで、当のカメさんチームのヘッツァーと、サンショウウオさんチームのクロムウェルが合流する。

 

「橋を渡ります」

 

「承り~」

 

「気を付けるんだ。石橋とは言え、古い橋だ。崩落の危険が無いとは言えない」

 

みほがそう指示すると、杏が返事を返し、迫信がそう注意する。

 

そして、大洗機甲部隊はⅣ号と随伴のとらさん分隊を先頭に、石橋を渡り始める。

 

「…………」

 

その様子を、茂みの中に隠れた3両のⅢ号戦車J型が見ていた。

 

黒森峰戦車部隊の、偵察チームだ。

 

大洗機甲部隊の様子を、逐次に報告する偵察チーム。

 

その間に、大洗機甲部隊は橋を渡り切ろうとしていた。

 

「良し! ポルシェティーガーが渡り終えたら、橋を爆破しますよ!」

 

最後尾に居たポルシェティーガーが橋の中間まで差し掛かったのを見て、勇武が爆薬を用意しながら工兵達にそう呼び掛ける。

 

「その必要は無いよ~」

 

「えっ?………」

 

しかし、ポルシェティーガーからナカジマの間延びした声が聞こえて来て、思わず呆けてしまう。

 

すると………

 

「ココが腕の見せ所~!」

 

ツチヤがそう言ったかと思うと、ポルシェティーガーのモーター音が甲高くなって行き………

 

ポルシェティーガーの車体が僅かにウイリーしたかと思うと、一気に加速!

 

その衝撃で、ポルシェティーガーが渡り終えた後に、石橋が崩れ落ちた!!

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

その光景に、勇武を初めとした工兵メンバーが驚きの声を挙げる。

 

「ああ………」

 

みほも、加速した勢いでⅣ号の横を凄いスピードで追い抜いて行ったポルシェティーガーに唖然としていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊・本隊………

 

「橋がっ!? クッ! また迂回なのっ!!」

 

「コソコソ逃げ回りやがって………イラつく連中だぜっ!!」

 

偵察チームからの報告を受けたエリカと蟷斬が苛立った様な声を挙げる。

 

漸くの事で炎上した川の迂回を終えたと言うのに、また迂回しなければならないのである。

 

「分かった。橋は迂回する。お前達は先行して『アレ等』と合流しろ」

 

そこでまほは、偵察チームにそう指示を下す。

 

『了解』

 

「…………」

 

偵察チームからの返事を聞いた後、まほは渋い顔となった。

 

「まほ………」

 

とそこで、まほの乗るティーガーⅠの隣に並んだキューベルワーゲンTyp 87の助手席に座っていた都草が声を掛けて来る。

 

「………出来れば『アレ等』を使う事をしたくなかった」

 

「同意見だね」

 

ポツリと漏らしたまほの言葉に同意する都草。

 

「だが、正直に言って今の黒森峰で確実に勝てる手段は『アレ等』だけだ………今回は本当に負ける事は出来ない………負ければ黒森峰は廃校になってしまう」

 

吐露する様に語るまほ。

 

大洗と同じく、黒森峰機甲部隊の活躍にも母校の命運が掛かっている………

 

最早この試合は黒森峰や西住流の威光を取り戻す以前に、母校を守る戦いなのだ………

 

故に勝たねばならない………

 

その思いが、まほに禁忌としていた『アレ等』の使用に踏み切らせた………

 

例え更なる汚名が残る事になっても、母校が残って居なければ如何にもならない………

 

まほはそう判断したのだ………

 

「君の決断は正しいよ。僕が君の立場でも、きっと同じ決断をするだろうさ」

 

「………ありがとう」

 

都草にそう慰められ、まほは弱々しい笑顔を浮かべるのだった。

 

(だが、もしかしたら………大洗は………『アレ等』を破るかも知れない………そんな予感がしてならない)

 

しかし、都草は内心でそんな予感を感じていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

大洗機甲部隊は………

 

とうとう森林地帯を抜け、目的地である市街地へ突入しようとしていた。

 

野道が舗装された道路になり、右手に団地らしき建物が並び立っている場所へと差し掛かる大洗機甲部隊。

 

「何とか時間が稼げた………コレで市街戦に持ち込める」

 

漸く市街地へと辿り着き、得意のゲリラ戦を仕掛けられる様になったみほがそう言う。

 

………と、その時!!

 

砲撃音が聞こえて来たかと思うと、大洗機甲部隊の中に砲弾が着弾!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

運悪く直撃を貰ってしまった兵員輸送車が爆発し、搭乗していた大洗歩兵達は吹き飛ばされて戦死判定となる。

 

「!!」

 

すぐにその砲弾が飛んで来た方向を見やるみほ。

 

そこには、3両のⅢ号戦車J型の姿が在った。

 

1両は、まだ砲門から硝煙を上げている。

 

「Ⅲ号だよ! Hかな? Gかな?………つか、一目で戦車の種類が分かっちゃう私って如何なの?」

 

沙織がⅢ号戦車を見てそう言い、何時の間にか戦車に詳しくなっていた自分にセルフツッコミを入れる。

 

「よくもやってくれたわねっ!!」

 

とそこで、やられた大洗歩兵達の仇だと言わんばかりに、ルノーB1isが副砲を発射。

 

47ミリ砲弾が、1両のⅢ号の車体側面に命中!

 

命中したⅢ号戦車から、白旗が上がる。

 

その直後に、残る2両のⅢ号戦車は、団地の敷地内へと退却を始める。

 

「逃げるぞっ!」

 

「Ⅲ号なら突破出来ます! 後続が来る前に撃破しましょうっ!」

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

挟み撃ちを警戒したみほは、逃げたⅢ号への追撃命令を出す。

 

団地の敷地内を逃走するⅢ号2両を、大洗機甲部隊全軍が追撃する。

 

途中、八九式とヘッツァーが発砲。

 

至近弾がⅢ号達の車体を揺らす。

 

「唯ちゃん! 速度上げて!」

 

「おうっ!」

 

と、大洗機甲部隊で1番の俊足であるクロムウェルが速度を上げ、Ⅲ号達に追い付こうとする。

 

すると、片方のⅢ号が停車。

 

反転したかと思うと、追撃して来るクロムウェルに向かって発砲する。

 

「! 唯ちゃん!」

 

「任せろっ!!」

 

しかし、聖子の声が飛ぶと、クロムウェルは当て舵を入れて大きく左に曲がり、砲弾をかわすとそのまま横滑りしながら発砲したⅢ号の側面を取る。

 

「撃てっ!!」

 

「!!」

 

聖子の号令で優が引き金を引き、主砲が火を噴く!

 

至近距離からの75ミリ砲弾に、Ⅲ号が耐えられるわけも無く、敢え無く白旗を上げた。

 

だが、その間に残った1両のⅢ号は距離を離す事に成功する。

 

「待てーっ!!」

 

「敵に背を向けて逃げるなど! 黒森峰のやる事かああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

典子が叫ぶと、月人が逃げ腰なⅢ号に不満をぶつける様に吼える。

 

「………西住総隊長、コレは」

 

「うん、誘い込まれてる………」

 

そんな中で、弘樹とみほが、Ⅲ号が自分達を何処かへと誘い込もうとしている事に気づく。

 

(市街地に既に別働隊が? でも、あのⅢ号を含めると、残っているのは5両………一体何を?)

 

黒森峰機甲部隊との戦闘で、戦車の数を把握していたみほは、市街地に居る別働隊の戦車が多くても5両であると推理し、それが何なのかと考えを巡らせる。

 

「! Ⅲ号が停まりました!」

 

「!!」

 

しかしそこで、大洗歩兵の1人からそう報告が挙がり、前方を見やる。

 

そこには、十字路となっている先の団地の間で、コチラに背を向けたまま停車しているⅢ号の姿が在った。

 

「よ~し!」

 

大洗機甲部隊が停止すると、先頭に居たルノーB1bisが、Ⅲ号に狙いを定める。

 

すると、その時………

 

大洗機甲部隊から見て左手の十字路から、停まっているⅢ号を隠す様に、巨大な『何か』が現れる。

 

「壁? 門?」

 

余りの巨大さに、みどり子は壁か門かと思ったが、それは3色迷彩に塗られた巨大な………

 

「戦車ぁっ!?」

 

………だった。

 

「『マウス』です! 凄い………動いているところ、初めて見ました」

 

その巨大な戦車を見た優花里が思わずそう呟く。

 

「来ちゃった………『マウス』」

 

「史上最大の………超重戦車」

 

観客席でも、カチューシャとダージリンが若干戦慄しながらそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マウス』………

 

第二次世界大戦末期に完成したヒトラーの狂気の産物とも言うべき超重戦車である。

 

全長10メートル以上、重量200トン近くと言う、正に怪物と言うべき戦車だ。

 

128ミリの主砲に加え、75ミリの副砲を装備。

 

殆どの部分の装甲が100ミリ以上………

 

砲塔正面に至っては250ミリ近いと言う、動く要塞であった。

 

しかし、当時の技術力でこんな戦車が真面に動かせる筈も無く………

 

結局、実戦投入はされたものの、戦わずに破損・燃料切れを起こし、爆破処分されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、その世界最大の超重戦車が、大洗機甲部隊の敵となって、目の前に立ちはだかっている。

 

マウスは主砲を大洗機甲部隊に向けようとしたが、その巨大さ故に建物に引っ掛かり、結局十字路を更に下がって、車体ごと大洗機甲部隊の方へと向ける。

 

「退却して下さいっ!!」

 

みほが叫ぶよりも早く、ルノーB1bisを除いた大洗機甲部隊の一同は退却を開始していた。

 

その直後っ!

 

凄まじい爆音と共に、マウスの主砲が火を噴いた!

 

発射された砲弾は、ルノーB1bisの横を擦り抜け、ヘッツァーの傍に着弾!

 

ヘッツァーに損傷は無かったが、余りの衝撃波で、ヘッツァーの車体が一瞬大きく浮き上がった!

 

「やーらーれーたーっ!!」

 

「やられてません!」

 

「近くに着弾しただけです!」

 

「どっちにしろ凄いパワーだね」

 

「一瞬本気で死ぬかと思ったよ………」

 

車内のカメさんチームの面々も、戦々恐々な様子だった。

 

「クウッ! デッカイからって良い気にならないでよ! こうしてやるっ!!」

 

とそこで、退却していなかったルノーB1bisが、マウスに向かって主砲と副砲を見舞った!

 

だが、かなりの至近距離からの砲撃にも関わらず、副砲弾は元より、主砲弾も装甲を貫通出来ず、甲高い音を発して弾かれる!

 

その間に、マウスは主砲をルノーB1bisへと向ける。

 

「カモさんチーム! 下がるんだっ!!」

 

紫朗がそう叫んだ瞬間………

 

轟音と共にマウスの主砲が再び火を噴いた!

 

ルノーB1bisは車体前面に直撃を受け、その余りの威力の前に、縦回転して引っ繰り返り、底部から白旗を上げた!

 

「みどり子!」

 

「モヨ子!」

 

「希美ちゃん!」

 

紫朗、十河、鋼賀から思わず声が挙がる。

 

一方、ルノーB1bisを撃破したマウスは、車体と砲塔を正位置に戻し、大洗機甲部隊に向かって前進して来た!

 

その後ろからは生き残っていたⅢ号が続いて来る。

 

そして、3度目となる砲撃が、マウスから放たれる!

 

八九式の近くに着弾したが、直撃ではなかった様で、後退を続行。

 

大洗戦車隊の砲撃が、次々にマウスへ叩き込まれる。

 

しかし………

 

その全てが甲高い音を立てて弾かれ、明後日の方向へ飛んで行く。

 

大洗戦車隊最大の火力であるポルシェティーガーの砲撃も、マウスの装甲を貫通出来ない。

 

「駄目だ! 全部弾かれちまうっ!!」

 

『奴の装甲は殆どが100ミリ以上………正面に至っては200ミリ以上有る。残念だが、コチラの戦車の火力では歯が立たないな………』

 

海音がそう叫ぶと、煌人が珍しく気落ちしている様な声でそう通信を入れて来る。

 

「と言う事は、俺達の対戦車砲も役に立たないって事かよ!」

 

砲兵の鷺澪がそう言い、大洗砲兵部隊にも絶望の色が浮かぶ。

 

「カモさんチーム! 怪我は有りませんか!?」

 

「そど子、無事です!」

 

「ゴモヨ、元気です!」

 

「パゾ美、大丈夫で~す」

 

沙織が撃破されたカモさんチームに怪我人は居ないかと問い質すと、カモさんチーム全員が無事に返事を返して来る。

 

「皆、ゴメンね!」

 

「オノレッ! カモさんチームの仇っ!!」

 

と、みどり子が謝罪の言葉を述べると、左衛門佐がそう叫び、三突がマウスに向かって発砲する。

 

だが、三突の砲弾は有ろう事か、潰れて跳ね返って来た。

 

その直後にマウスが発砲!

 

砲弾は三突の左履帯に直撃!

 

転輪と履帯が全て吹き飛び、三突は横倒しの状態となって、側面部から白旗を上げた!

 

「2両撃破された………これで残り、7両………」

 

流石のみほも、圧倒的なマウスを前に戦慄を隠せずにおり、嫌な汗が頬を伝う。

 

「!!………」

 

一方弘樹は、果敢にも肉薄攻撃を仕掛けようと、吸着地雷を手にする。

 

しかし………

 

その直後に、マウスの背後から左右に広がる様に、武装親衛隊の戦闘服に身を包んだ黒森峰歩兵部隊が姿を現した!

 

(………流石にあのデカブツを護衛の歩兵無しに潜伏させているワケはないか)

 

弘樹は吸着地雷を仕舞うと、ポーカーフェイスのままそう思う。

 

「武装親衛隊の戦闘服………アイツの部下か」

 

白狼が、マウスの随伴歩兵が全て武装親衛隊の戦闘服なのを見て、蟷斬の顔を思い浮かべながらそう呟く。

 

「うおおおっ! 負けるかぁっ!!」

 

「何とか歩兵をかわしてあのデカブツに取り付けば!」

 

「分隊長達に続けぇっ!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

とそこで、状況を打開しようと、磐渡が収束手榴弾、重音がパンツァーファウストを手に突撃し、ワニさん分隊の半数の歩兵隊員達がそれに続く。

 

「待て! 迂闊だっ!!」

 

迫信の制止の声が響いた瞬間………

 

マウスの後ろから現れた武装親衛隊を追い越す様に、3人のドイツ国防軍の戦闘服に身を包んだ黒森峰歩兵が前に出た。

 

「…………」

 

その内の1人………日本刀を携えていた黒森峰歩兵が、鞘から刀を抜き放つと、蜻蛉の構えを執る。

 

「喰らえっ!!」

 

その黒森峰歩兵に、磐渡が収束手榴弾を片手に持ったまま、鹵獲していたMP40を発砲しようとした瞬間………

 

「チエエエエエエェェェェェェェストオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!」

 

独特な掛け声と共に、黒森峰歩兵は構えていた日本刀を一瞬にして振り降ろした!

 

「!? ぐはあっ!?」

 

磐渡はMP40の引き金を引く事も敵わず、斬撃を真面に浴びて、戦死判定となった。

 

「! 磐渡っ!?」

 

それを見た重音が思わず足を止めた瞬間………

 

「!!」

 

両手にサーベルを持った黒森峰歩兵が突撃して来て、独楽の様に回転しながら重音を連続で斬り付けた!!

 

「! ギャアアアッ!!」

 

全身を斬り付けられた重音は、敢え無く戦死判定となって倒れる。

 

「狗魁さんっ!!」

 

「コイツ等ッ!!」

 

それを見たワニさん分隊の面々が、怒りを露わにしつつも距離を取り、銃撃で応戦しようとする。

 

だが、またしても………

 

「ハアッ!!」

 

残った1人の国防軍戦闘服の黒森峰歩兵が頭上高くまで跳躍!

 

「なっ!?」

 

「あの跳躍力………まさかっ!?」

 

その様にワニさん分隊員の1人が驚きの声を挙げ、小太郎がある可能性を考える。

 

「トアアアッ!!」

 

すると次の瞬間!

 

跳躍した黒森峰歩兵が、ワニさん分隊員達に向かってまるで気功波を放つ様なポーズを執ったかと思うと、そこから鉄の糸で編まれた網が放出される!

 

「!? うわあっ!?」

 

「何だコレッ!?」

 

鉄製の網を被ってしまい、動きが取れなくなるワニさん分隊員。

 

「ソラソラソラソラァーッ!!」

 

すると、跳躍していた黒森峰歩兵は、今度はクナイの様な物を連続で鉄の網に捕らえたワニさん分隊員達に向かって投擲する!

 

そのクナイの様な物は、ワニさん分隊員や地面に刺さると、次々に爆発した!

 

「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

一瞬にして、磐渡と重音に続いて行ったワニさん分隊員達も戦死判定となった。

 

「甘いぞ、大洗!!」

 

着地した黒峰歩兵が、大洗機甲部隊に向かってそう言い放つ。

 

良く見ると、その黒森峰歩兵は、ドイツの国旗の色と同じ、目だけを露出している覆面を付けていた。

 

「間違い無い………彼奴、『ゲルマン忍法』の使い手でござる!」

 

「『ゲルマン忍術』!? と言う事は、ニンジャか!」

 

「フフフフフ………」

 

小太郎は、その黒森峰歩兵がドイツの忍術・『ゲルマン忍法』の使い手である事を見抜き、大詔がそう言うと、覆面の黒森峰歩兵………『千霞 蜂一(せんか ほういち)』は不敵に笑う。

 

「我が名は剱! 『甲鎧 剱(こうがい つるぎ)』!! 我こそは! 黒森峰の剣なりっ!!」

 

とそこで、日本刀を構えた黒森峰歩兵………『甲鎧 剱(こうがい つるぎ)』が名乗りを挙げる。

 

「来たか………友よ」

 

その剱の姿を見たゾルダートが、そう呟く。

 

「…………」

 

そして、二刀流の黒森峰歩兵………『双刃 顋(ふたば あぎと)』も、無言のままに両手のサーベルを構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に牙を剥いた黒森峰機甲部隊の秘密兵器・超重戦車マウス………

 

手練れの黒森峰歩兵達に守られたこの怪物に………

 

大洗機甲部隊は………

 

如何立ち向かうのか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に市街戦。
しかしその前に立ちはだかったのは、原作通りにマウス。
そして、黒森峰のエース歩兵達だった。
ココから黒森峰の反撃が開始されます。

更にお気づきだと思われますが、みほは残っている戦車は5両と予測していましたが、現れたのはマウス1両………
では、残り4両は?
原作通りにマウスを撃破出来ても油断できません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第200話『激戦です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第200話『激戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最強と謳われた黒森峰機甲部隊を相手に………

 

大洗機甲部隊は奮戦………

 

序盤から大打撃を与えた………

 

だが………

 

得意のゲリラ戦に持ち込もうと市街地に突入した大洗機甲部隊の前に………

 

超重戦車マウスと黒森峰エース歩兵達が立ちはだかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

その巨体を見せつけるかの様に、ジリジリと大洗機甲部隊との距離を詰めて来るマウス。

 

武装親衛隊の戦闘服に身を包んだ随伴歩兵達と、蜂一、剱、顋にⅢ号戦車も続く。

 

「我等の………」

 

「歴史に………」

 

「今………」

 

「幕が下りた………」

 

その後方に見える撃破された三突の車内では、エルヴィン、カエサル、左衛門佐、おりょうが悔しそうに呟いている。

 

「何よ! あんな大きな図体して何がマウスよ!」

 

「残念ですぅ」

 

「無念です~」

 

同じく、引っ繰り返っているルノーB1bisの中でも、みどり子、希美、モヨ子が無念さを露わにしている。

 

「冷泉さん! 後は頼んだわよ! 約束は守るから!」

 

「! おお~っ!」

 

と、みどり子から通信を受けた麻子が、珍しく歓声を挙げる。

 

「如何すりゃ良いんだ、あんな化け物………」

 

「…………」

 

そして、迫り来るマウスを見ながら呟いた地市の声を聞きながら、弘樹はポーカーフェイスで打開策を思案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「流石マウス………大洗機甲部隊は土壇場ですね」

 

マウスの前に手も足も出ない大洗機甲部隊の姿を見て、オレンジペコがそう呟く。

 

「土壇場を乗り切るのは勇猛さじゃないわ………冷静な計算の上に立った、捨て身の精神よ」

 

それに対し、ダージリンが大洗機甲部隊の姿を見据えてそう言い放つ。

 

「! ハイ!」

 

(さあ、如何する?………舩坂 弘樹)

 

それを聞いたオレンジペコが返事を返すのを聞きながら、アールグレイは弘樹の活躍に期待していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、試合会場内では………

 

T字路へと差し掛かったマウスに、大洗戦車チームと大洗砲兵隊による一斉砲撃が加えられる。

 

次々と砲弾が命中し、マウスの姿が爆煙に隠れる。

 

しかし………

 

爆煙が治まると、全く無傷のマウスの姿が露わになる。

 

マウスは主砲を旋回させ、物置らしき物の傍に居たヘッツァー、M3リー、八九式を狙う。

 

「ふわっ!?」

 

「コッチ来る!」

 

「身を隠せーっ!!」

 

桃が叫ぶと、ヘッツァー、M3リー、八九式は物置の陰に隠れる。

 

だが、マウスの主砲が発射されると、物置は1発で跡形も無く吹き飛ばされてしまう。

 

「戦術的退却ーっ!!」

 

再び桃が叫ぶと、ヘッツァー、M3リー、八九式は撤退。

 

マウスがそれを追って狭い道へ入ると、その先で再び待ち構えていた大洗戦車チームと大洗砲兵部隊の一斉砲撃を再度喰らうが、やはり貫通している弾は1発も無い。

 

「何してるんだ、叩き潰せっ! 図体だけがデカいウスノロだぞっ!!」

 

「砲身を狙って下さいっ!!」

 

桃が焦る様にそう叫ぶと、みほは冷静に砲身を狙えと指示する。

 

しかし、幾ら相手がデカいとは言え、細い砲身に命中させるのは至難の技だった。

 

「お前達の火力で装甲が抜けるものかぁ! アッハッハッ!!」

 

マウスの背後に隠れているⅢ号は、その光景に気を良くし、煽るかの様に蛇行運転をする。

 

「馬鹿者! 油断するなっ!!」

 

そんなⅢ号に、蜂一の叱咤が飛んだ瞬間………

 

Ⅲ号の砲塔正面に砲弾が命中。

 

Ⅲ号は白旗を上げて静止した。

 

「お前の装甲は余裕で抜けるつうの!」

 

Ⅲ号を撃破した8.8 cm PaK 43に付いて居た鷺澪がそう言い放つ。

 

「! 鶏越! 狙われているぞ! 逃げろっ!!」

 

とそこで、紫朗がそう叫ぶ。

 

見れば、マウスの主砲が鷺澪が付いて居る8.8 cm PaK 43に向けられていた!

 

「!? ヤバいっ!!」

 

そう叫ぶ鷺澪だったが時既に遅し!

 

マウスの主砲が火を噴き、12.8cm砲弾が直撃っ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

鷺澪は同じ砲に付いて居た砲兵諸共に吹き飛ばされ、戦死判定となる。

 

「鶏越さんがっ!!」

 

「後退だっ!!」

 

清十郎の声が挙がると、迫信がそう叫び、大洗機甲部隊は再度撤退する。

 

「市街戦で決着を着けるには、やっぱりマウスと戦うしかない………グズグズしてると主力が追い付いちゃう」

 

その中でみほは、市街戦で黒森峰機甲部隊の本隊と戦うには、先にマウスを潰さなけれなならないと思案する。

 

「マウス凄いですね! 前も後ろも何処も抜けません!」

 

「航空支援さえ使えれば、あんなの只の鉄の塊に過ぎませんのに」

 

優花里が敵ながらマウスの性能に感嘆し、華は航空支援が使えない歯痒さからか口調が荒くなる。

 

「幾ら何でも大き過ぎ………こんなんじゃ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!」

 

そこで、戦車のカタログスペックが乗ったデータ本を見ていた沙織が、マウスのスペックを見てそんな事を口走る。

 

「!?」

 

するとその瞬間!

 

みほの脳裏にある考えが浮かんだ!!

 

「ありがとう、沙織さん!」

 

「へっ?」

 

「神大歩兵隊長! 敵歩兵部隊を暫くマウスから引き離して下さい!」

 

何故お礼を言われたのか分からない沙織を余所に、みほはハッチから車外へ姿を晒すと、近くに居た迫信にそう言う。

 

「了解………西住総隊長が何か作戦を思い付いた様だ! 敵歩兵部隊をマウスから引き離すんだ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

即座にみほが何か作戦を思い付いた事を察した迫信は、即座に大洗歩兵部隊に指示を飛ばす。

 

やがて、後退していた大洗機甲部隊が十字路に差し掛かると………

 

大洗戦車チームが十字路を前進したのに対し、大洗歩兵部隊は左側の方へと曲がった。

 

「! 歩兵部隊が分かれたぞ!」

 

「マウスの後方へ回る積りか?」

 

「無駄な事を………だが、念の為にマウスの後方を固めろ」

 

それを見た黒森峰武装親衛隊員達は、マウスの後方へと下がり、防備を固める。

 

「剱、如何見る?」

 

「マウスは貴重だが有名な戦車ではある。そのスペックを把握していないとは考え難い………」

 

しかし、蜂一と剱は、その動きに違和感を感じ取る。

 

と、その時………

 

黒森峰武装親衛隊員達の耳に、風切り音が響いて来た。

 

「!!………」

 

顋がそれに反応して空を見上げた瞬間!

 

迫撃砲の物と思わしき砲弾が、黒森峰武装親衛隊員達が居た場所の両脇の団地へと着弾!

 

「!? 迫撃砲だっ!」

 

黒森峰武装親衛隊員の1人がそう叫ぶと、更に風切り音が響き、新たな迫撃砲弾が飛んで来る。

 

しかし、またしても迫撃砲弾は黒森峰武装親衛隊員達が居る場所の両脇に在った団地へと命中する。

 

「何だ、また外れたぞ?」

 

「フッ、決勝まで勝ち残って来たとは言え、所詮は素人の集団だな。着弾観測も出来ていないらしい」

 

迫撃砲の攻撃が、一向に直撃どころか至近弾すら出さないのを見て、そんな言葉が漏れる黒森峰武装親衛隊員達。

 

「! イカンッ! 急いでマウスに合流しろっ!!」

 

だがそこで、蜂一は何かに気付いた様にそう叫ぶ。

 

その瞬間に、またも迫撃砲弾は団地へと命中。

 

すると………

 

団地が崩落し、瓦礫が道へと降り注ぎ、マウスと黒森峰武装親衛隊員達を分断した!

 

「!? 瓦礫がっ!?」

 

「しまったっ!!」

 

思わず声を挙げる黒森峰武装親衛隊員達。

 

「!? 歩兵部隊がっ!?」

 

一方、マウスの方でもその様子に気づき、車長が声を挙げる。

 

その瞬間に、マウス内に次々と金属音が鳴り響く!

 

「!? アイツ等ッ!!」

 

車長が確認すると、距離を開けて再度コチラに向かって砲撃して来ている大洗戦車隊の姿が目に入る。

 

「行けっ!」

 

「し、しかし、随伴歩兵部隊と分断されていますが………」

 

「構わん! どうせ相手にも随伴歩兵は居ない! 戦車同士の対決ならコチラが負ける要素は無い!!」

 

操縦手がそう意見するが、大洗の戦車ではマウスを撃破する事は不可能だと考える車長は構わず追撃を指示する。

 

「りょ、了解………」

 

基本、立場が上の者からの命令を順守する様に訓練されている黒森峰戦車隊員は、余り強く意見する事も出来ず、車長の命じた通り、マウス単独で大洗戦車隊へと向かうのだった。

 

「! マウスが遠ざかって行くっ!!」

 

「イカン! 急いでマウスと合流しろっ!! 敵は何かやる積りだぞ! 私は先に行くっ!!」

 

と、マウスの音が遠ざかって行くのを聞いた森峰武装親衛隊員がそう声を挙げると、蜂一はそう指示を飛ばし、ニンジャ跳躍力を駆使して、崩れていなかった団地の屋上へと跳躍!

 

そのまま団地の上からマウスの元へと向かおうとしたが………

 

「………!!」

 

殺気を感じた蜂一が横へ転がる様に飛び退くと、先程まで蜂一が居た場所にスリケンが突き刺さる。

 

「来たか………」

 

「Wasshoi!」

 

蜂一がそう呟いた瞬間、団地の屋上の一角に在った貯水タンクが破裂し、お約束の掛け声と共に、小太郎が飛び出して来て、蜂一の前に着地した。

 

「ドーモ。葉隠 小太郎=サン。千霞 蜂一です」

 

しかし、先んじてアイサツを繰り出したのは蜂一の方だった。

 

「! ドーモ。千霞 蜂一=サン。葉隠 小太郎です」

 

それに一瞬驚きながらも、小太郎も両手を合わせてオジギするお馴染みのアイサツを決める。

 

「イヤーッ!!」

 

オジギ終了から0.02秒。

 

小太郎は無数のスリケンを蜂一目掛けて投擲した!

 

後悔はやられてからすれば良い。

 

今は目の前の敵を倒さねばならない!

 

蜂一へと迫る無数のスリケン。

 

「イヤーッ!!」

 

だが、おお、見よ!

 

蜂一が両腕を背中に回したかと思うと、次の瞬間にはトンファーが装着された状態で現れる。

 

しかも、只のトンファーでは無い………

 

長い部位がギラリと鈍く光る刃となっているトンファー………『ブレードトンファー』だ!!

 

「そらそらそらそらそらぁーっ!!」

 

そして気合の声と共に、蜂一が腕を鞭の様に撓らせて振るうと、小太郎が放ったスリケンが全て叩き落されてしまう。

 

「ぬうっ!!」

 

「只のスリケンの投擲なぞ! 何になるーっ!!」

 

思わず声を挙げた小太郎に向かって、蜂一が両腕を合わせて掌を向けたかと思うと、そこから鋼鉄製の網………『アイアンネット』が発射される!

 

「! イヤーッ!」

 

後ろ腰に携帯していた忍者刀を一閃し、アイアンネットを切り払う小太郎。

 

だが、その瞬間には、蜂一が懐に飛び込んで来ていた!!

 

「!! イヤーッ!!」

 

小太郎は反射的にポン・パンチを繰り出す。

 

「フッ………」

 

だが、蜂一は涼しげな顔でブリッジ回避。

 

「イヤーッ!」

 

「! グワーッ!!」

 

そのまま蜂一は、ブリッジの勢いを利用してバック宙を決めながら、小太郎の顎を蹴り上げる。

 

アレは伝説のカラテ技! サマーソルトキックだっ!!

 

真面に喰らった小太郎の身体が宙に浮かび上がる!

 

「そらそらそらそらそらぁーっ!!」

 

その小太郎に向かって、蜂一は容赦無くクイナ型の爆弾『メッサーグランツ』を投擲する!

 

「! イヤーッ!!」

 

すると小太郎は、独楽の様に高速で回転!

 

蜂一が投擲したメッサーグランツは、回転の風圧で阻止され、本体に到達した物も、高速の回転によって弾かれる。

 

そのまま小太郎は、蜂一目掛けて突撃する。

 

「ほう? この私に回転で挑む積りか………笑止千万っ!!」

 

だが、蜂一はそう言い放つと、両腕を交差させて、トンファーブレードを左右に突き出す様に構えたかと思うと、バレエの様に片足立ちとなり、高速で回転を始めた!

 

「シュツルム・ウント・ドランクウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

ドイツ語で『疾風怒濤』と叫びながら、同じ様に高速回転している小太郎と衝突する蜂一。

 

まるでベーゴマの様に鈍い音を立てながら激突を続ける両者。

 

衝突している部分からは火花さえ飛び始めている!

 

暫くその状態が続いていたかと思うと………

 

「!? グワアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

 

小太郎が悲鳴の様な叫びと共にブッ飛ばされた!!

 

「ぐあっ! がはっ!!」

 

団地の屋上の床を数回バウンドした後、更に暫く転がって漸く止まる小太郎。

 

奇跡的にも戦死判定は下されていないが、戦闘服は粗全身が斬り裂かれており、誰が如何見て瀕死状態だった。

 

「う、うう………」

 

ダメージを受けた戦闘服が鉛の様に重くなり、動く事もままならない。

 

「最早真面に動けまい。だが、後顧の憂いは確実に断っておく必要が有る」

 

そんな小太郎に、蜂一は容赦無くトドメを刺そうと、右手のトンファーブレードを展開しながら歩み寄って行く。

 

(無念………ココまででござるか………)

 

小太郎の心にも諦めが過り、その瞬間に意識が遠のいて行き、騒がしい筈の試合会場内の音が聞こえなくなって行く………

 

だが、そんな中で………

 

小太郎の耳に何かが聞こえて来る………

 

(? コレは?………)

 

その聞こえて来た音に反応し、小太郎はギリギリのところで意識を繋ぎ止める。

 

(………ケイ………殿?………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「小太郎ーッ! ファイトーッ!!」

 

試合会場の方に向かって、声の限りに叫んでいるケイ。

 

「た、隊長………」

 

「ケイ………」

 

「…………」

 

そんなケイの姿にアリサは唖然とし、ナオミとジョーイは只見守る。

 

「小太郎ーっ! 頑張れーっ! 頑張………!? ゲホッ! ゴホッ!!」

 

更に大声で声援を飛ばすケイだったが、叫び過ぎたのかむせてしまう。

 

「隊長! 駄目です! それ以上は危ないですよっ!! それにこんな所から幾ら叫んだところで聞こえませんよっ!!」

 

既に声が枯れ始めているのを聞いて、アリサがケイを止めようとする。

 

「小太郎ーっ!!」

 

だが、ケイは喉に激痛が走るのにも構わず、小太郎に声援を送り続ける。

 

「小太………!!」

 

そしてとうとう声が出なくなる。

 

「隊長っ!!」

 

「!!………!!………」

 

アリサが慌てるが、それでもケイは声にならない声を挙げて、小太郎への声援を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内………

 

市街地・とある団地の屋上………

 

(聞こえる………聞こえるでござるよ………ケイ殿………)

 

その声援は、確かに小太郎に届いていた。

 

物理的な距離など関係無い………

 

確かに小太郎は………

 

ニンジャソウルで、ケイの声援を聞き取っていたのである!!

 

遠ざかっていた意識が急激に覚醒する小太郎!

 

「………スーッ………ハーッ………スーッ………ハーッ………」

 

そして、『チャドー』の呼吸法により、無理矢理体力を回復させようとする。

 

「! させんっ!!」

 

だが、その様子に気づいた蜂一が、一気に駆け寄り、トンファーブレードを小太郎の首目掛けて振り下ろす!

 

しかし、トンファーブレードは小太郎の首ではなく、コンクリートの床に突き刺さる!

 

「!?」

 

蜂一が驚きを露わにしていると………

 

「Wasshoi!」

 

「!!」

 

ボロボロの状態で上空へと跳躍していた小太郎の姿を目撃する。

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎は再び身体を高速で回転させ、蜂一に向かって落下する!

 

「馬鹿め! その技は通じんと言った筈だ! シュツルム・ウント・ドランクウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

蜂一は再びシュツルム・ウント・ドランクを繰り出し、小太郎を迎え撃とうとする。

 

だが、小太郎が蜂一へと接触するかに思われた瞬間!!

 

「イヤーッ!!」

 

何と!!

 

小太郎は身体を横にし、シュツルム・ウント・ドランクを繰り出している蜂一の上を転がった!

 

ゴウランガ!!

 

これぞチャドーの奥義『グレーター・ウケミ』を昇華させた小太郎独自の防御術………

 

『アンブレラ・スピン』だ!!

 

「!? 何とっ!?」

 

蜂一は初めて驚愕して見せる。

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎はそのまま更に回転の速度を上げる!

 

すると、おお、見よ!

 

その回転によってシュツルム・ウント・ドランクの回転が更に高速化し、余りの早さに支点となっている蜂一の足が団地の屋上の床を抉り始めたではないか!!

 

「イ、イカンッ!!」

 

慌てる蜂一だったが、小太郎によって回転させれているシュツルム・ウント・ドランクを止める事は出来ない!

 

そのまま蜂一の身体はドリルめいて団地の屋上の床へと沈んで行く!

 

「ぬおおおおっ!?」

 

そして遂に!!

 

蜂一の身体は、頭だけを残して屋上の床に完全に沈んだ!!

 

「イヤーッ!!」

 

その瞬間に小太郎は再び跳躍。

 

そして、頭だけとなっている蜂一に向かって、自身も頭から垂直落下する。

 

捨て身技、ドラゴン・ヘッドバットだ!!

 

そのまま蜂一の脳天に、己の脳天を叩き付ける小太郎。

 

「!? グワーッ!!」

 

蜂一の悲鳴が響き渡ると、技を繰り出した小太郎も、バタリと床に倒れる。

 

「サヨナラッ!!」

 

断末魔を挙げると、爆発四散したかの様なアトモスフィアで戦死判定を受ける蜂一。

 

「…………」

 

だが、倒れた小太郎もそのまま戦死判定を受けたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

黒森峰武装親衛隊員達は………

 

「クソッ! コッチも瓦礫が!!」

 

「そこを曲がれっ!」

 

マウスへの合流を目指しているが、所々の通路を瓦礫が塞いでおり、何度も迂回をさせられ、中々合流出来ずに居た。

 

「おっ! この通路は行けるぞっ!!」

 

とそこで、漸く瓦礫で塞がって居ない通路を発見する黒森峰武装親衛隊員。

 

しかも、その通路はマウスが向かった先へと続いており、正に絶好の道だった。

 

「コレでマウスと合流出来るぞ!」

 

「そしたら一気に片を付けてやる! 見ていろ、大洗めっ!!」

 

散々迂回させられた黒森峰武装親衛隊員達は苛立っており、やっと通れる通路を見つけた事で勝負を急ごうと一気に全員で通路を進む。

 

「………!!」

 

「! 待てっ!!」

 

だが、最後尾で後方を警戒していた顋と剱が、何かに気付いた様に声を挙げて立ち止まる。

 

………その瞬間!!

 

黒森峰武装親衛隊員達の先頭を行っていた者達が、何かを踏みつける。

 

「うん?………」

 

何だと、踏みつけた物を確認しようとした瞬間に、踏みつけた物………地雷が爆発!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

先頭を行っていた者達が纏めて吹き飛ぶ!

 

「! 地雷っ!!」

 

「せこい真似をっ!!」

 

残っていた黒森峰武装親衛隊員達は立ち止まり、工兵達が地雷撤去を始めようとしたが、そこで………

 

何と、地雷の爆発があった場所から、地面に亀裂が入り始める!

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

何だと黒森峰武装親衛隊員達が声を挙げる前に、亀裂はその足元まで到達し………

 

そのまま一気に、黒森峰武装親衛隊員達の足元の地面が崩落したっ!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

崩落した地面の中に、一気に飲まれる黒森峰武装親衛隊員達。

 

更に駄目押しと言わんばかりに、通路の両脇に在った建物が爆破され、瓦礫が崩落で出来た穴の中へと降り注いで来た!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

穴の中へと瓦礫が降り注ぎ、黒森峰武装親衛隊員達は全滅する。

 

「ぬう………!!」

 

「!!」

 

その様子に、剱が一瞬苦い顔を見せたかと思うと、顋と共に抜刀して後ろを振り返る。

 

「「…………」」

 

そこには、無言で佇むゾルダートと熾龍の姿が在った。

 

「ガーバインか………」

 

「友よ………今こそ雌雄を決する時」

 

「お前と一戦交える事になろうとはな………」

 

そう言いながら剣は、刀を蜻蛉に構える。

 

「フッ、それはお互い様だ………」

 

ゾルダートはそう返しながら、両手にモーゼルC96を9x19mmパラベラム弾を使用出来る様に改造したモデル『モーゼル・ミリタリー 9mm』を握る。

 

「1つ聞かせろ、ガーバイン………大洗にお前の求めた歩兵道は有ったのか?」

 

「ああ、確かに有った」

 

「そうか………」

 

それを聞いた剣はそっと目を閉じ………

 

「ならば問答無用っ! 我は黒森峰の剣として、貴様を斬るっ!!」

 

カッと見開いたかと思うと、闘気と共にそう言い放つ。

 

「承知した! 行くぞっ! 甲鎧 剱っ!!」

 

「来いっ!! ガーバイン・ランゼンッ!!」

 

かつての親友同士が激突する。

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

一方、熾龍と顋はお互いに無言で睨み合っている。

 

サーベルを抜き放って構えている顋に対し、熾龍は煉獄を鞘に納めたまま、居合いの構えを取っている。

 

「「…………」」

 

両者に言葉は無い………

 

有るのは只………

 

目の前の敵を排除すると言うシンプルな思考である………

 

「…………」

 

と、熾龍が居合いの構えを取ったまま、摺り足で1歩踏み出す。

 

「…………」

 

それを見た顋は、同じ様に摺り足で1歩前進する。

 

「…………」

 

再び熾龍は、摺り足で1歩前に進む。

 

「…………」

 

同じ様に顋も、摺り足で1歩進む。

 

両者は摺り足で、1歩1歩ジリジリと距離を詰めて行く。

 

そして、お互いが一足一刀の間合いへと入り込む。

 

「………!!」

 

その瞬間!

 

先に仕掛けたのは熾龍だった!!

 

自慢の神速居合いを、顋に向かって繰り出す!!

 

光の如き速さの斬撃が、顋の身体に襲い掛かる………

 

………かに思われた瞬間!!

 

ガキィンッ!と言う甲高い音がして、煉獄が止まった!

 

「………!」

 

煉獄を止めた物を見て、熾龍は一瞬眉を動かす。

 

それは、まるで鋏の様に組み合わされた、顋の2本のサーベルだった。

 

「………面白い剣だな」

 

「…………」

 

熾龍の皮肉にも然程反応を示さず、顋は受け止めていた煉獄を力任せに弾き飛ばす!

 

「………!!」

 

そして、鋏状になったサーベルで、熾龍の胴体を挟み込もうとする!

 

「!!」

 

だが、熾龍は一瞬にしてスライド移動の様に後退。

 

鋏状のサーベルは、何も無い空間を切って乾いた音を立てる。

 

「…………」

 

そして再び、居合いの態勢を取る。

 

「…………」

 

対する顋も、鋏状のサーベルをチョキチョキさせながら、熾龍を威嚇するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、ゾルダートVS剱の対決は………

 

「頂く!」

 

そう言い放ち、両手のモーゼルの二挺拳銃で、剱に向かって次々と弾丸を放つゾルダート。

 

「チエアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

だが何と!!

 

剱は飛んで来る弾丸を刀で斬り落としながら、ゾルダート目掛けて一直線に突撃する。

 

「ぬうっ!」

 

剱が目の前まで迫ると、ゾルダートは横っ飛びに回避する。

 

「甘いぞ! ガーバインッ!!」

 

だが、剱は振り降ろすと思われた剣筋を、強引に横薙ぎへと変更。

 

「! むうっ!!」

 

ゾルダートは上半身を仰け反らせ、スウェーの様に回避。

 

「!!」

 

そしてその状態で、剱の頭に向かって右手のモーゼルを発砲した。

 

「!?」

 

しかし、剱は眼前まで迫ったかに見えた弾丸を、身体を回転させる様にして回避!

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

そして、2撃目の横薙ぎを見舞って来た!

 

「クッ!!」

 

対してゾルダートは、今度は左手のモーゼルを、横薙ぎに振られた剱の刀の横腹に発砲!

 

弾丸が横腹に当たった事で、刀の軌道が僅かに浮き上がり、鼻先を掠めながらも再度の回避に成功する。

 

「グッ!………」

 

そしてそのまま、背中から地面に倒れ込んで一瞬呻き声を挙げながらも、再度両手のモーゼルを剱に向かって発砲!

 

「ぬううっ!!」

 

剱は刀で銃弾を弾きながらも飛び退いて後退。

 

両者は距離を取った。

 

「………腕は衰えていない。いや、寧ろ上がった様だな」

 

「お前こそ………前よりも恐ろしい斬撃だ」

 

そこで剱とゾルダートは一瞬笑い合った。

 

「………長引かせるのはお互いに得策では無かろう。次で最後だ」

 

「流石だな、友よ。私もそう思っていたところだ」

 

しかし、すぐに表情を引き締めると、勝負に出るべく、剱は再び蜻蛉の構えを取り、ゾルダートもモーゼルを構える。

 

(………残り1発ずつ………さて如何する?)

 

だが、既にゾルダートのモーゼルは、両方とも残り1発となっていた。

 

剱に対し、馬鹿正直に撃ったとしても先ず当たらない………

 

虚を衝く攻撃でなければ、勝てない………

 

相手が親友だからこそ、ゾルダートにはそれが分かっていた。

 

(………賭けに出るか)

 

そしてゾルダートは、博打を打つ覚悟を決める。

 

「チエエエエエエェェェェェェェストオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!」

 

だがその瞬間に、剱は今日1番の踏み込みで、ゾルダートに斬り掛かって行った!!

 

それを見たゾルダートは、何と!!

 

左手のモーゼルを、剱に向かって投げつけた!!

 

「!!」

 

だが、剱は動揺せず、投げつけられたモーゼルを弾き上げ、突進を続行!

 

「友よ! 覚悟っ!!」

 

と、剱は斬り掛かろうとした瞬間!!

 

ゾルダートは右手のモーゼルの最後の1発を発砲した!

 

超至近距離で発砲!!

 

普通ならば先ずかわせない距離だ………

 

そう、普通なら………

 

「!!」

 

何と剱は、目の前の迫った弾丸を、驚異的な反応速度で首を反らしてかわした!!

 

「シエアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

そして独特の気合の雄叫びと共に、ゾルダートに向かって刀を袈裟懸けに振り降ろした!

 

その1撃は、ゾルダートの身体を左肩から右脇へと走った!!

 

歩兵道の試合でなければ、先ず身体が真っ二つとなっている斬撃だ。

 

当然ながら、ゾルダートは戦死と判定された………

 

………しかし!!

 

「………見事だ。ガーバイン」

 

剱がそう言ったかと思うと、彼の戦闘服が戦死した事を告げるブザーを鳴らす。

 

良く見れば………

 

剱の戦闘服の背中側………

 

丁度心臓の位置に、銃弾が命中していた!!

 

そこで、銃口から硝煙を上げ、引き金部分に罅が入っているモーゼルが、地面に落ちた………

 

何と!!

 

ゾルダートは最初に投げつけて弾かれたモーゼルの引き金に、右手に持ったままだったモーゼルの銃弾を当て、剱の背中に命中させたのである!!

 

信じられない神業だ!!

 

「博打だったがな………フフ」

 

ゾルダートはそう言って不敵に笑い、その場に座り込んだ。

 

「…………」

 

剱も刀を納刀すると、その場に座り込む。

 

「「…………」」

 

その後2人は、言葉も無くその場で座り込んで、収容役の運営委員が来るまで、向かい合っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、熾龍VS顋の戦いは………

 

「「…………」」

 

お互いに得物を構えて睨み合いを続けている熾龍と顋。

 

この2人の剣技は、どちらかと言えば共に剛剣。

 

力量は粗互角。

 

故に決着は一瞬で着く。

 

長引く事は無い。

 

今はお互いが必殺のタイミングを見計らっているのである。

 

「「…………」」

 

只々睨み合った状態で静止し続けている熾龍と顋。

 

凄まじい緊迫感が、両者の間を支配する。

 

………と、その時!!

 

急に突風が吹いて、砂埃が舞い、両者の姿が一瞬見えなくなった。

 

「「!!」」

 

その瞬間!!

 

熾龍と顋は全く同時に踏み込み、一瞬光が走ったかと思うと………

 

互いに背を向ける形で、お互いの位置が入れ替わっていた。

 

良く見れば、顋の手にあの独特な鋏状のサーベルが無くなっている。

 

「………ガフッ!」

 

すると、熾龍が吐血した様な声を漏らして跪く。

 

良く見ると、何と!!

 

熾龍の戦闘服の腹に、顋の鋏状のサーベルが挟み込む様に突き刺さっていた!

 

「ぐうっ!………」

 

煉獄を支えに、何とか立ち上がろうとした熾龍だったが………

 

その瞬間に、無慈悲にも戦死判定が下った!

 

「………オノレ」

 

熾龍の口からそんな言葉が漏れた瞬間………

 

「…………」

 

顋の身体がグラリと揺れ、そのままバタリと地面に倒れ、戦死判定となった。

 

良く見ると………

 

顋の戦闘服の腹には、横一文字に深く斬り裂かれた跡が出来ている。

 

そう………

 

熾龍と顋の戦いもまた………

 

相討ちであったのである。

 

「決勝でこの体たらくとは………」

 

相討ちであったのが納得が行かない様で、熾龍は不機嫌な顔となるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃………

 

マウスを惹き付けていたみほ達は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

マウスを相手に苦戦するみほ達だったが、沙織の一言で思いついた作戦を実行する為、黒森峰武装親衛隊を引き離して欲しいと歩兵部隊に依頼。

それを遂行した大洗歩兵部隊。
そして、小太郎、ゾルダート、熾龍が黒森峰エース歩兵と対峙。
結果は全員が相討ち………
敵の排除に成功しながらも、手痛い打撃を受ける。

次回、いよいよ『アレ』が登場です。
その圧倒的な力の前に、大洗は絶体絶命。
だが、その時………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第201話『号砲一発です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第201話『号砲一発です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超重戦車マウスを撃破する為………

 

随伴歩兵として付いて居た黒森峰武装親衛隊員達を………

 

大洗歩兵部隊は、小太郎、ゾルダート、熾龍の犠牲を払って退ける………

 

そして、今………

 

マウスに対してみほの作戦が炸裂する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

大洗戦車隊を追うマウスは、団地エリアから離れ、住宅エリアと団地エリアを区切っている片側2車線、計4車線となっている道路へと差し掛かる。

 

すると、左手の方に大洗戦車隊が横隊を作って停まっているのを発見する。

 

マウスはすぐさま、大洗戦車隊に向かって行く。

 

対する大洗戦車隊も、マウスに向かって前進を開始する。

 

正面から挑んでも勝ち目が無い事は明らかである。

 

一体如何する積りなのか?

 

向かって来る大洗戦車隊に対し、マウスが発砲!

 

大洗戦車隊は散開してかわすと、砲弾は後方の道路に着弾して派手に爆発を起こす。

 

直後、カメさんチームのヘッツァーだけが、マウスへと突撃する。

 

迫り来るマウスに対し、速度を上げながら突っ込んで行くヘッツァー。

 

「まさかこんな作戦とは………」

 

「やるしかないよ、桃ちゃん!」

 

「燃えるね~」

 

「神様………」

 

その車内で、桃は不安を漏らし、柚子と杏は覚悟を決めた顔を見せ、蛍は神に祈っている。

 

段々とマウスとヘッツァーの距離が縮まって行く………

 

そして遂にっ!!

 

ヘッツァーは正面からマウスへと衝突した!!

 

「!?」

 

「わおっ!?」

 

その様子に、観客席の各校の総隊長達は驚愕を露わにする。

 

ヘッツァーは衝突した状態から更に前進。

 

すると、マウスがヘッツァーの低い車体の上に乗り上げ始めた!

 

「何だっ!?」

 

マウスの車長は何が起こったのか分からないが、操縦士は反射的にマウスを後退させようとする。

 

しかし、既にヘッツァーは深く車体下へと入り込んでおり、履帯が浮いて接地圧が下がり、抜けられなくなる。

 

とそこで、マウスの右側面に、M3リー、ポルシェティーガー、三式、クロムウェルが陣取る。

 

「撃てるもんなら!」

 

「撃って見やがれっ! おりゃあっ!!」

 

そして、あゆみとあやの掛け声で、機銃も合わせて一斉攻撃を浴びせる。

 

その全てがマウスの装甲を貫けずに弾かれるが、うっとおしく思ったマウスは砲塔を右側へと向ける。

 

「来た来たっ!」

 

「逃げろーっ!!」

 

だが、発砲の瞬間にM3リー達は退避し、マウスの砲弾は道路に大穴を開ける。

 

とそこで、今度は八九式がマウスに向かって突撃する!

 

「さあ、行くよ!」

 

「「「ハイッ!」」」

 

「「「「ソーレッ!!」」」」

 

そして何と!!

 

ヘッツァーを踏み台にして、マウスの車体の上へと駆け上がった!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

驚くマウスの乗員達。

 

八九式はそのまま、僅かなマウスの車体上のスペースで向きを変え、砲塔と並列になる様に位置取る。

 

マウスは主砲を旋回させようとしたが、八九式に阻まれて止められる。

 

「良し! ブロック完了しました!!」

 

「了解! 頑張って何とか踏み止まって下さいっ!!」

 

典子からの報告を聞いたみほが、Ⅳ号をマウスの左側面へと向かわせる。

 

「オイ、軽戦車っ! そこを退けっ!!」

 

と、マウスの車長がハッチから乗り出し、八九式に向かってそう叫ぶ。

 

「嫌です。それに八九式は軽戦車じゃないし」

 

「中戦車だし」

 

それに対し、八九式の砲塔の覗き窓から顔を見せていた典子とあけびが言い返す。

 

「クソッ! 振り落してやるっ!!」

 

すると、マウス車長は車内へと戻り、八九式を無理矢理振り落そうと砲塔旋回のパワーを上げる。

 

「何のーっ!!」

 

だが、八九式も振り落されまいと耐える。

 

その間にも、ヘッツァーは更にマウスの下へと潜り込んで行く。

 

しかし、200トン近いマウスの重量は、安全用の特殊カーボンを持っても完全に防げるものではなかった………

 

「落盤だーっ!!」

 

車内に細かい破片が降り注ぎ始め、桃が悲鳴を挙げる。

 

「車内ってコーティングで守られてるんじゃあ………」

 

「マウスは例外なのかもね」

 

「他人事みたいに言わないでよ、杏!」

 

杏以外の柚子と蛍も冷静では居られなくなる。

 

と、そこでⅣ号が、マウスの左側面側に在った斜面を斜めに登り始める。

 

そして、マウスの後部部分まで来たかと思うと、車体ごと砲塔を垂直に向け、斜面に停車し、主砲を最大仰角まで上げる。

 

「後ろのスリットを狙って下さい!」

 

「ハイ」

 

みほが華にそう指示する。

 

それは砲塔が横を向いている状態だから露出している、マウスの数少ないウィークポイントだった。

 

「もう駄目だーっ!!」

 

「もう持ち堪えられない!」

 

だが、ヘッツァーにはいよいよ限界が迫っていた。

 

「根性で押せーっ!!」

 

「ハイィッ!!」

 

「気持ちは分かるけど、意味無いですから!」

 

一方、砲塔をブロックしている八九式の車内でも、典子とあけびが少しでも手助けになればと車内から砲塔の当たっている方向を押すが、妙子にそう突っ込まれる。

 

「撃てっ!!」

 

その瞬間に、みほの号令が響き渡り………

 

Ⅳ号から放たれた砲弾が、見事マウスのスリット部に命中!

 

爆発が起こると、一瞬の間が空いて………

 

マウスから白旗が上がった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「奥様! お嬢がやりましたーっ!!」

 

文字通りのジャイアントキリングに観客席、特に大洗側の応援席の面々は歓声を挙げ、百合と共に観戦していた新三郎も興奮を見せる。

 

その近くには秋山夫妻も居り、淳五郎がカメラでしきりに写真を撮っていた。

 

「凄い! マウスを仕留めましたっ!!」

 

「私達も今度やろうかしら。Mk.VIで」

 

「やめておけ」

 

グロリアーナ&ブリティッシュの席でも、オレンジペコが興奮した様子で言うと、ダージリンがそんな事を言い、アールグレイにツッコミを入れられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

撃破されたマウスの下にめり込んだままのヘッツァーを、ポルシェティーガーがワイヤーで牽引して引っ張り出す。

 

そして八九式も、特徴の後部・尾体を使って、マウスの上から降りる。

 

だが、直後………

 

引っ張り出されたヘッツァーが黒煙を吹き出し、白旗を上げた。

 

「ああ!………」

 

「良くやってくれたな、ココまで」

 

「うん」

 

「生きてるって本当に素晴らしいね」

 

「我々の役目は終わりだな」

 

みほが声を挙げると、動かなくなったヘッツァーの車内から桃、柚子、蛍が這い出してくる。

 

「西住総隊長」

 

「すみません」

 

「謝る必要無いよ」

 

「良い作戦だったよ」

 

「後は任せたよ」

 

「頼むぞ!」

 

「ファイトッ!!」

 

申し訳無さそうな顔をするみほに、杏達は次々に激励の言葉を飛ばす。

 

「ハイッ!!」

 

と、みほが返事を返したところで………

 

「西住総隊長!」

 

黒森峰武装親衛隊の相手をしていた大洗歩兵部隊が合流する。

 

「神大さん! 状況は!?」

 

「マウスに付いて居た随伴歩兵部隊は全て排除した。だが、葉隠、ファインシュメッカー、熾龍が全員戦死判定だ」

 

「! 分かりました! 間も無く黒森峰の本隊も到着します! 態勢を立て直して迎撃します!」

 

迫信からの報告に、みほは一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに気を取り直して指示を飛ばす。

 

「それにしても………」

 

とそこで、地市が撃破されたマウスの方を振り返る。

 

「黒森峰もトンでもねえ化け物を出して来やがったな」

 

「全くですね………あの戦車1両に全く歯が立ちませんでしたから」

 

地市と楓がそう言い合う。

 

「もう1両コイツが出て来たら、今度こそ俺達は全滅だな」

 

と、了平がそう言った瞬間………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何か巨大な物が動いている音が聞こえて来る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?………」

 

「何?………」

 

それを聞いたみほはおろか、迫信も驚愕する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々も、戦慄して絶句する。

 

その音は、大洗機甲部隊の方へと近づいて来る………

 

やがて………

 

団地エリアへと続く道から………

 

新たなマウスが姿を現した!

 

「!? マウスッ!?」

 

「そんなっ!? 1両だけじゃなかったのっ!?」

 

梓と沙織が悲鳴の様な声を挙げる。

 

「了平! テメェッ!!」

 

「お、俺のせいじゃねえよっ!!」

 

思わずフラグ染みた事を言っていた了平を、地市が怒鳴る。

 

「落ち着くんだ! 冷静に………」

 

迫信が皆を落ち着かせようとするが………

 

「オ、オイ! ちょっと待てよ!? 更にもう1両来やがったぞっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで海音がそう叫び、大洗機甲部隊の面々が驚愕と共に視線を向けると、そこには………

 

新たに現れたマウスの後に続く様に………

 

マウスと同じくらいの大きさの戦車が現れていた。

 

「!? 『E-100』!? あんな物までっ!?」

 

その超重戦車………『E-100』の姿を見た優花里がそう叫ぶ。

 

とそこで、E-100のハッチが開いたかと思うと、中から車長………『揚羽』が姿を現した。

 

「! 揚羽っ!?」

 

「あ~、あ~………チェックチェック! マイクのチェック中」

 

白狼が驚きの声を挙げる中、揚羽は拡声器を取り出し、チェックを行う。

 

「………大洗機甲部隊の諸君。直ちに降伏しなさい」

 

そして、大洗機甲部隊に向かって、降伏勧告を行って来た。

 

「もう貴方達に勝ち目は無いわ。コレ以上無駄な争いはしたくないわ。降伏しなさい」

 

大洗機甲部隊に向かってそう言い放つ揚羽だが、その顔は苦い。

 

如何やら、この降伏勧告は大洗機甲部隊を屈服させたいと言うよりは………

 

コレ以上、この様な化け物を使いたくないと言う思いからの様だ。

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

「戦わずして降伏する武人などおらんわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「貴様たちこそ! 明日の朝日は拝ませねえぇっ!!」

 

それに対し、明夫、月人、竜作と言った血気盛んな面々が反論する。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それに触発されたかの様に、大洗歩兵部隊の面々も武器を構え、大洗戦車隊の一同も表情を引き締める。

 

「………そう。分かった」

 

すると、揚羽が残念そうにそう呟いた瞬間………

 

地面が揺れた!!

 

「うわっ!?」

 

「じ、地震かいなっ!?」

 

突然の揺れに飛彗が思わず片膝を着き、豹詑もそんな声を漏らす。

 

と、その時………

 

突然団地エリアの団地が崩れ始めた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

団地エリアの方に視線が向く大洗機甲部隊。

 

すると、何と!!

 

団地を押し退ける様に………

 

巨大な………

 

いや、巨大過ぎる2両の戦車が姿を現した。

 

「!? そ、そんなっ!? アレはッ!?」

 

優花里は驚愕を通り越し、愕然となる。

 

現れた戦車は、かつてナチス・ドイツが計画し………

 

そのまま計画だけに終わったとされていた狂気の産物………

 

「………『P-1000 ラーテ』………『P-1500 モンスター』………実在したなんて………」

 

『P-1000 ラーテ』………

 

そして『P-1500 モンスター』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『P-1000 ラーテ』………

 

重量約1,000トン、全長35m、全幅14m、高さ11m………

 

最早戦車を通り越し、『陸上戦艦』とまで呼ばれた怪物である。

 

その主砲は、シャルンホルスト級戦艦の主砲塔である28cm 3連装砲から中砲を省いた2連装砲塔………

 

装甲は最大350ミリ。

 

正に陸上の戦艦とも呼ぶべき代物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『P-1500 モンスター』………

 

そのラーテを上回る重量約1,500トン、全長42m、全幅18m、高さ7m………

 

装甲は最大250ミリとラーテよりは劣るが………

 

最大の特徴は、あの世界最大のカノン砲である80cm列車砲を主砲としている事である。

 

コレを超える戦車砲は絶対に存在しない………

 

正真正銘の化け物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会運営委員会席………

 

「『計画のみに終わった車両でも、その学園の技術と財力で製造可能ならば認める』………局長さん。貴方まさか、黒森峰がアレを持っていると知っていてこのルールを認可したんですか?」

 

戦車道連盟の理事長『児玉 七郎』が、左隣に居た廉太に渋い顔をしながらそう問い質す。

 

「まさか………偶然ですよ」

 

ニヤリとした意地の悪い笑みを浮かべながら、役人はそう返す。

 

そう、実は決勝戦が始まる僅か数日前に戦車道のルールが改定され………

 

『計画のみに終わった車両でも、その学園の技術と財力で製造可能ならば認める』

 

………という1文が付け足されたのである。

 

黒森峰機甲部隊が、計画のみで終わったラーテやモンスターを投入できたのはこのお蔭である。

 

「しかし、あの様なモノを………」

 

「考え方次第ですよ………」

 

七郎は食い下がるが、役人は全く取り合わない。

 

「局長はん………1つゆうてええですか?」

 

するとそこで、七郎の右隣に居た人物………

 

見るからに大阪のおばちゃんと言う感じの女性………

 

日本歩兵道連盟の理事長『登坂 妃美子(のぼりさか きみこ)』が、役人に声を掛ける。

 

「? 何ですか?」

 

「あんまり子供達を甘く見ない方がええでっせ」

 

「如何言う事ですか?」

 

「そのうち分かるわ………飴ちゃんいるか?」

 

役人の言葉にはハッキリと返さず、代わりに飴を差し出す妃美子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

団地エリアを完全に崩壊させたラーテとモンスターは、マウスとE-100の背後に陣取る。

 

その余りの大きさで、マウスとE-100が小さく見えてしまう。

 

と、ラーテの28cm2連装砲と、モンスターの80cm砲の俯角が下がる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊員達が戦慄に包まれた瞬間!!

 

まるで火山が噴火したかの様な音と共に、ラーテとモンスターの主砲が火を噴いた!!

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「!? くうっ!?」

 

発砲の際の爆風だけで、大洗歩兵達が木の葉の様に吹き飛ばされ、大洗戦車隊の戦車も全車が一瞬宙に浮かんだ!

 

そんな大洗機甲部隊の遥か頭上を、ラーテとモンスターの砲弾が通り過ぎて行く。

 

巨大過ぎて俯角が取れなかったのか、或いは威嚇だったのかは不明だが、ラーテとモンスターの砲弾は外れ、市街地の一角に落ちる。

 

途端に、着弾地点は数キロの範囲の建物が爆風で根こそぎ吹き飛ばされ、爆煙が晴れると巨大なクレーターが露わになる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

何とか立ち直った大洗機甲部隊の面々が、その光景を見て絶望を露わにする。

 

と、そこで………

 

鈍い金属音を立てながら………

 

マウスとE-100………

 

そしてラーテとモンスターが前進を始めた!

 

「! 撤退! 撤退です! 皆さん! 逃げてーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこで漸く我に返ったみほが慌てて叫ぶと、大洗機甲部隊の一同は一斉に市街地に向かって撤退を開始した!

 

「言った筈だよ………もう大洗に勝ち目は無いって………」

 

そんな大洗機甲部隊を見送り、揚羽はそう呟く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客席………

 

「な、何だよ、アリャ………」

 

「あんなのアリかよ………」

 

試合会場内に姿を現した超重戦車軍団に、観客席が一瞬静まり返る………

 

「卑怯だぞっ! 黒森峰っ!!」

 

「あんなの反則じゃねえかっ!!」

 

「そこまでして勝ちたいかっ!!」

 

「恥知らずっ!!」

 

しかし、即座に黒森峰に向かったブーイングが飛び始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

黒森峰側の応援席の面々は、只々黙り込むしかなかった………

 

「勝つのよ………勝たなければ駄目よ………そうでなければ………私なんて………」

 

そしてしほは、相変わらず俯いた状態でブツブツと呟き続けている。

 

「…………」

 

一方、常夫は頬杖を付き、微笑を浮かべながら試合の様子を見守っている。

 

まるで全てを悟っているかの様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市街地内へと撤退した大洗機甲部隊は、廃倉庫らしき場所を見つけ、全員でその中に退避していた。

 

「黒森峰の本隊がモンスター達に合流しました!」

 

高所で双眼鏡を構え、黒森峰機甲部隊の様子を窺っていた楓がそう報告を挙げる。

 

「合流されてしまったか………」

 

「クッ! 本来であれば、市街地に入って来た黒森峰機甲部隊をゲリラ戦で仕留める筈だったのに………」

 

「あんなのが居たらゲリラ戦どころじゃねえな………」

 

それを聞いた大詔、十河、俊がそう呟く。

 

と、その時!!

 

ラーテとモンスターが主砲を発砲した爆音が響く。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

発見されたのかと、大洗機甲部隊員達の顔に絶望が走るが………

 

砲弾は何処か別の場所に着弾し、爆発音と地響きが大洗機甲部隊を揺さぶる。

 

「西地点に砲撃が着弾!」

 

楓がそう報告を挙げた瞬間、再び発砲音が響き渡り、続いて爆発音と地響きが鳴る。

 

「今度は北地点です!」

 

「チイッ! 市街地ごとワイ等を吹っ飛ばす気かいなっ!!」

 

再びの楓の報告に、大河がそう叫ぶ。

 

「西住総隊長! 如何したら良いんですかっ!?」

 

「何か作戦は無いんですかっ!?」

 

「西住総隊長!」

 

「西住さん!」

 

梓、典子、聖子、ねこにゃーはみほへそう尋ねる。

 

みほならばこの状況を打開出来る手を思い付ける………

 

そんな期待を込めて………

 

だが………

 

「………ゴメンなさい、皆さん」

 

「「「「「「「「「「………えっ?」」」」」」」」」」

 

みほからそんな言葉が返って来て、大洗機甲部隊の面々は思わず硬直する。

 

「ずっと色々と考えたんだけど………如何しても逆転の手立てが思いつかないの………ゴメンなさい」

 

心底、そして悔しそうにしながら、みほは吐露する様にそう呟き、俯いた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々は絶句した………

 

あのみほが………

 

大洗の軍神が何も策を考えつかない………

 

それは大洗機甲部隊にとって、最も絶望的な事だった………

 

「そ、そんな………」

 

「万策尽き果てたか………」

 

「ココまでかよ………クソッ!」

 

勇武が狼狽し、十河は諦めの色を浮かべ、白狼が悪態を吐く。

 

「折角ココまで来れたのに………」

 

「いやあ、もう十分じゃないかな………」

 

「学校は救えなかったけど………ココまで来れただけでも、良い思い出です」

 

梓、ナカジマ、ねこにゃーは既に悟った様にそう言い合う。

 

「ゴメン………ゴメンね、皆」

 

「みほさんが気に病む事はありませんよ」

 

「西住殿に付いて来た事に、この秋山 優花里! 一片の悔いもありませんっ!!」

 

「まあ、良くやったな………」

 

みほが謝り続ける中、華、優花里、麻子も諦めムードに入る。

 

「私達………頑張ったよね?」

 

そして沙織が、自分………そして皆に言い聞かせるかの様にそう言う。

 

決定的な敗戦ムードが、大洗機甲部隊を支配していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そう言う声が響き、大洗機甲部隊の視線が1人の歩兵………

 

舩坂 弘樹に注がれる。

 

「弘樹くん………」

 

「敵本隊が合流したと言う事は、フラッグ車も居ると言う事だ。例えどれだけの戦力差が有ろうとも、フラッグ車さえ叩けばコチラの勝ちだ」

 

みほが呟くと、弘樹は皆に向かってそう言う。

 

その目には、一片の諦めの色も無い………

 

この状況に於いて………

 

弘樹はまだ勝てると信じていた。

 

「全戦力で一点突破を計り、敵フラッグ車を叩く………諦めるのはその後でも遅くは無い」

 

皆に向かってそう言う弘樹。

 

だが、弘樹の言う作戦は、未だに50両以上の戦車と多数の歩兵部隊を有し、剰え超重戦車部隊を従えている黒森峰機甲部隊に対し、正面切って挑むと言う事である。

 

ハッキリ言って無謀でしかない。

 

しかし………

 

「それしかねえか………」

 

「上手く行けば確かに逆転出来るな」

 

「どうせやられるなら、アイツ等を1人でも多く道連れにしてやるぜ!」

 

地市、俊、海音がそう言い、得物を構え直す。

 

「総隊長! やりましょう!」

 

「座して死を待つよりも打って出るか」

 

「総隊長!」

 

やがては全員が士気を盛り返し、みほに向かってそう呼び掛けた。

 

「皆さん………」

 

そんな一同の顔を見回した後、みほは弘樹に視線を向ける。

 

「…………」

 

弘樹は只、何時も通りの仏頂面で力強く頷いた。

 

「………コレより大洗機甲部隊は、黒森峰機甲部隊に対し、最後の攻撃を敢行します! 皆さん………私に付いて来て下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「大洗バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

それを受けたみほがそう命じた瞬間、大洗機甲部隊の面々は万歳三唱を始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊………

 

「! 大洗機甲部隊、来ます!」

 

「!………」

 

黒森峰偵察兵からそう報告を受けたまほが、双眼鏡で確認すると………

 

隊列を整え、コチラに向かって一直線に突っ込んで来る大洗機甲部隊の姿を目にする。

 

その中心には、Ⅳ号が居り、キューポラからみほが姿を晒している。

 

「みほ………」

 

「一点突破でフラッグ車を狙う積りの様だね………」

 

まほが呟くと、都草がそう推測する。

 

「へっ! それしか出来ねえからな………だが、コレでチェックメイトだ!!」

 

「各員! フラッグ車の防備を固めなさいっ!!」

 

蟷斬がそんな大洗機甲部隊の姿を鼻で笑い、エリカがそう号令を飛ばすと、黒森峰機甲部隊の一同はフラッグ車を防御する陣形に展開。

 

「僅かな希望に掛けて突っ込んで来るか………その志は好きだよ………でももう終わりにしましょう」

 

更に、揚羽のE-100を含めた超重戦車部隊も大洗機甲部隊に照準を合わせる。

 

「黒森峰機甲部隊が防備を固めました!」

 

「超重戦車部隊もコチラを狙っています!」

 

「構わんっ! 突っ込めっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、大洗機甲部隊は一瞬たりとも怯む事無く、黒森峰機甲部隊への突撃を敢行する。

 

あわや、大洗機甲部隊の命運もとうとう尽きたか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………に、思われた瞬間!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『海軍としては陸軍の提案に反対である』

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如、大洗機甲部隊の通信回線に、そんな声が響き、大洗機甲部隊員達は驚く。

 

「! 新代先輩っ?」

 

そして弘樹は、その声が護のものである事に気づく。

 

『弘樹、待たせたな。コッチは準備万端だ。支援要請を出せ』

 

「!?………」

 

支援要請を出せ………

 

その言葉に弘樹は驚きを露わにする。

 

ここ東富士演習場は海から遠く離れている。

 

艦艇による砲撃支援が出来る場所では無い筈である。

 

しかし………

 

弘樹は、護が決して適当な事を言わない男である事は重々承知していた。

 

「………支援要請! 砲撃支援、願いますっ!!」

 

そして弘樹は、護を信じて支援要請を行う。

 

『了解したっ!』

 

と、護の返事が響き渡ったその瞬間………

 

風切音が響き渡って来る。

 

「? 何………」

 

だ、とまほが言い切る前に………

 

突如モンスターに複数の巨大な砲弾が降り注いだっ!!

 

降り注いだ砲弾は、分厚いモンスターの装甲に深々と突き刺さって爆発!

 

乗員保護用の特殊カーボンが無ければ、貫通して内部まで到達したものと思われる。

 

「!? なっ!?」

 

まほの驚愕の声が挙がった瞬間に、モンスターから白旗が上がる!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その衝撃的な光景に、大洗・黒森峰双方の動きが止まる。

 

「! 今のはっ!?」

 

みほが声を挙げた瞬間に、再び風切音が聞こえて来て、飛来した複数の巨大な砲弾が、今度はラーテに次々に命中!

 

装甲厚だけならばモンスターよりも有る筈のラーテにも、その砲弾は次々と突き刺さって爆発!

 

ラーテは呆気無く、白旗を上げる。

 

「い、一体何が起こってるのっ!?」

 

「………艦砲射撃だ」

 

沙織が声を挙げると、弘樹がその降り注いでいた砲撃が、艦砲射撃であると言う。

 

「艦砲射撃っ!?」

 

「何処からだよっ!? この辺に海はねえぞっ!?」

 

飛彗が仰天し、了平がそう指摘する。

 

「砲弾が飛来した方向からして………恐らく駿河湾、そして相模湾からだ」

 

「そんなっ!? どちらもこの東富士演習場から遠く離れた海ですよ! 幾ら戦艦でも、そんな距離から砲撃なんて………!?」

 

弘樹がそう推察すると、優花里がそんな距離から砲撃なんて不可能だと言おうとして、途中で黙り込む。

 

「ゆかりん!? 如何したのっ!?」

 

「………あります。その距離から砲撃出来る戦艦が………」

 

沙織が尋ねると、優花里が悟ったかの様な表情でそう返してくる。

 

『おっと~! コレは艦砲射撃だぁ!! しかし、一体何処からだぁっ!?』

 

『方角から推察するに、駿河湾に相模湾じゃないでしょうか?』

 

そこで、謎の艦砲射撃についてヒートマン佐々木が実況し、DJ田中が推察を述べる。

 

『何とっ!? そんな遠くから艦砲射撃を行えるとは!? その戦艦は一体!?』

 

ヒートマン佐々木が実況を続けると、観客達も謎の艦砲射撃の正体を知りたがる。

 

『! おっと! 如何やら砲撃が行われていると思われる駿河湾と相模湾に中継機が到着した様ですね。コレより、モニターに映像を流します』

 

するとそこで、中継用の航空機が駿河湾と相模湾に到着した様であり、その中継機からの映像が観客席の巨大モニターに映し出される。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その瞬間、観客席に居た全ての人間が驚愕に包まれた!

 

『!? ア、アレはああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』

 

『えっ!? ちょっ!? ホントですかっ!?』

 

ヒートマン佐々木も叫び声を挙げ、DJ田中も動揺を露わにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに映っていたのは、250メートル以上は有ろうかと言う巨大な戦艦であり………

 

3連装の巨大な砲塔を3基………

 

副砲と思われる巡洋艦の主砲並みは有る3連装砲塔を2基………

 

まるで城の天守閣を思われる高く美しい艦橋………

 

その艦橋を守る様に、ハリネズミの様に施された多数の高角砲と対空機銃………

 

そう………

 

日本人ならば誰もが知っている、世界最大最強の超弩級戦艦………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『や、『大和』と『武蔵』だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』

 

『大和型戦艦1番艦・大和』

 

そして、『同2番艦・武蔵』であった。

 

駿河湾上の大和と、相模湾上の武蔵が………

 

揃ってその46cm主砲を、東富士演習場目掛けて景気良くブッ放していた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作同様の作戦で、マウスを撃退したみほ達。
だがそこで、もう1両のマウスと揚羽の駆る『E-100』が現れる。
そして更に、黒森峰の切り札………
『ラーテ』と『モンスター』までもが現れる。

圧倒的な敵を前に、みほは作戦を思い付けず、絶望に沈む大洗機甲部隊。
だが、弘樹の言葉で、玉砕覚悟の最後の攻撃に出る。
その命運も風前の灯火………

………かに思われた瞬間!!
号砲の1撃と共に………
『大和』と『武蔵』が参上したのだった!!

散々洋上支援不可とか言っておりましたが、その解決方法は至ってシンプルで………
『富士演習場まで届く主砲を持った戦艦で砲撃すれば良い』というものでした。
次回は時を遡って、大和の出航シーンから始めます。
大和はやっぱり発進シーンから始めませんと(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第202話『復活! 戦艦大和です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第202話『復活! 戦艦大和です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カメさんチームと言う犠牲を払いながらも………

 

マウスの撃破に成功した大洗機甲部隊………

 

だが、その前に………

 

もう1両のマウスと、揚羽が駆る新たな超重戦車『E-100』………

 

そして幻の怪物『P-1000 ラーテ』と『P-1500 モンスター』が現れた………

 

その圧倒的な存在の前には、みほも作戦が思い浮かばず………

 

大洗機甲部隊の命運も尽きたかに思われたが………

 

そこへ、号砲の轟きと共に………

 

『大和型戦艦1番艦・大和』、『同2番艦・武蔵』が現れたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は遡り………

 

決勝戦が始まる暫し前………

 

広島県呉市のとある港にて………

 

かつて旧日本海軍の呉鎮守府が置かれ、現在は海上自衛隊の呉基地が在るこの港の一角に入港している巨大な学園艦………

 

それは、護の在学している『呉造船工業学校』の学園艦だ。

 

その学園艦が入港している港の傍に………

 

1つの巨大な屋根付きのドックが在る。

 

学園艦と比べれば小さく見えるが、それでも全長300メートル近い大きさのドックだ。

 

そのドック内に在るのは、1隻の戦艦………

 

そう、『大和』だ。

 

呉造船工業学校が総力を持って復活させた世界最大の戦艦………

 

まだドック内の為にその姿は窺えないが、既に乗組員達が乗り込んで出航準備を進めており、その登場を待ちわびている人物が居た。

 

「いよいよ大和の出番か………」

 

「この呉から、大和が再び出撃する光景が見れるとは、感慨深いですな」

 

呉造船工業学校の校長と教頭である。

 

学園艦の艦橋から、大和の入っているドックを見下ろし、発進を心待ちにしている。

 

「かつての大和はその力を存分に発揮する事無く沈んだ………」

 

「今度こそ………世界最大の戦艦としての矜持を見られそうだな」

 

と、教頭と校長がそんな会話を交わした瞬間………

 

虚空から、奇妙な音が聞こえて来る。

 

「?」

 

「何の音だ?」

 

校長が首を傾げ、教頭がそう声を挙げた瞬間………

 

「!? レーダーに感有り! 未確認飛行物体が高速で接近っ!!」

 

レーダー手の船舶科の生徒が、突如レーダー上に未確認物体を捉え、それが物凄いスピードで向かって来ている事を報告する。

 

「!? 何っ!?」

 

校長が驚きの声を挙げた瞬間………

 

独特な音と共に、艦橋の真上を何かが飛び越えて行った!

 

「!? 『V1飛行爆弾』っ!?」

 

その物体を微かに視認した教頭が驚愕の声を挙げる。

 

それは、大戦末期にドイツ軍が開発して現代の巡航ミサイルの始祖と言われる報復兵器………

 

『V1飛行爆弾』だった!

 

パルスエンジンの独特な音を響かせながら、V1エンジンは大和のドックへ直撃!

 

ドックから巨大な爆発が上がる!!

 

更に、2発目、3発目、4発目とV1飛行爆弾が飛来!

 

次々に大和のドックへと直撃!!

 

ドックの屋根が崩落し、遂には完全に崩壊する。

 

「ああ! 大和がっ!?」

 

「クッ! 黒森峰か西住流の強硬派か!?」

 

教頭が悲鳴の様な声を挙げ、校長はV1飛行爆弾を繰り出して来たのが黒森峰か西住流の強硬派ではないかと推測する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

崩壊したドック内、当の戦艦大和の艦橋では………

 

「………収まったか」

 

「クソッ! コチラの動きが漏れていたのか!?」

 

「落ち着け、晋(すすむ)。各所、被害状況を報告」

 

爆発が収まったのを感じて、航海長がそう呟くと、護の弟である戦術長の晋を護が諌め、各所へ被害報告を挙げる様に達する。

 

『各主砲及び副砲、損傷ありません!』

 

『対空機銃、並びに高角砲も無事です!』

 

『此方機関室、異常無し!』

 

『格納庫も問題ありません!』

 

「流石大和ですね。ドックが崩壊しても無傷とは」

 

各所から問題無しの報告が入るのを聞いて、副長がそう呟く。

 

「………出航用意」

 

すると護は、そう命令を下した。

 

「ええっ!?」

 

「出航っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

護の命令に、艦橋要員だけでなく、艦内各所の持ち場に居る乗組員達にも衝撃が走る。

 

「敵の攻撃はコレで終わりとは限らない。再び攻撃を受ければ出航出来なくなる可能性も有る。幸い、ドック内への注水は終わっている。今ならばまだ出航可能だ」

 

「しかし艦長! 大和はコレが初めての実戦投入です! 主機のテストもまだの状態でいきなり出航するのは………」

 

護の言葉に、副長がそう意見するが………

 

「今動かなければ全てが無駄になる! 出航だっ!!」

 

そんな副長の目を見据え、護は毅然とした様子でそう言い放った。

 

「! 了解しました!………達すーるっ! コレより大和は出航する! 総員配置に付けっ!!」

 

それを受けて、副長は覚悟を決めた様な表情となると、全艦にそう通達。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさま全乗組員が出航の準備に入る。

 

その機関室では………

 

「補機、準備完了!」

 

「主機、接近完了!」

 

「エネルギー注入、100パーセント完了!」

 

先ず補機の準備が整い、続いて主機の起動準備に掛かる。

 

「よし、主機を作動させます」

 

機関員の1人が、主機を作動させようとしたが………

 

「待て」

 

「!?」

 

他ならぬ護から待ったが入った。

 

「主機の始動は1発でしなければならない。万が一失敗したら取り返しがつかなくなる」

 

「兄さん! そんな悠長な事を言ってる場合じゃ………」

 

「任務中は艦長と呼べ、晋戦術長」

 

「! も、申し訳ありません、艦長」

 

晋が意見するが、一喝される。

 

「機関長、エネルギーは目一杯注入するんだ」

 

「了解」

 

護からの指示で、機関長が主機へ回すエネルギーを更に上げる。

 

「呉校の艦橋から入電。大和に向かって上空から飛来する物体多数有り。『V2ロケット』の可能性大。直ちに退避せよと」

 

そこで通信手が、呉校からの通信を受信する。

 

「V2だってっ!?」

 

「クソッ! 何て物を持ち出して来るんだ!!」

 

V2ロケットが接近中との報告を受けた艦橋要員達が騒ぎ出す。

 

「………呉校へ返信。コレより発進すると報告しろ」

 

「えっ?………あ、ハイッ!」

 

だが、護は発進作業の続行を命じ、通信士は呉校に返信する。

 

その間にも、V2ロケット群は迫って来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉校学園艦の艦橋………

 

「V2ロケット群、到達まで後600秒!」

 

「後10分しかないぞ! 大和から乗員は退避したのかっ!?」

 

「それが………発進作業を続行すると」

 

「何だとっ!?」

 

呉校艦橋の通信士から報告を受けた教頭が驚愕する。

 

「…………」

 

一方で、校長の方は、只ジッと瓦礫の山と化しているドックを見据えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和・艦橋………

 

『エネルギー120パーセント』

 

「よし、補機スタート」

 

『了解! 補機始動!!』

 

護の命令で、先ず補機がスタートする。

 

『補機出力100………200………300………600………1200………2000………2500………2900………3000………』

 

ドンドン上がって行く補機の出力と共に、大和の艦内に低い音が鳴り響き始め、細かな振動が走る。

 

『主機、接続!』

 

そして遂に、主機が接続される!

 

だがその瞬間に、鳴り響いていた音が小さくなって行き、振動も消えて行く。

 

やがて音も、完全に止まってしまう………

 

「「「「「…………」」」」」

 

艦橋要員が言葉を失う………

 

『艦長! 動きませんっ!!』

 

始動を担当した機関員から焦った声で報告が入る。

 

「………もう1度点検せよ」

 

しかし、護は冷静にそう返した。

 

『ハ、ハイ………』

 

『補機、再スタート』

 

すぐさま機関員達が総出で点検に掛かる。

 

すると………

 

『艦長! 申し訳ありません! 連動装置がオフになっていましたっ!!』

 

機関員からそう報告が挙がった。

 

「何をやってるんだ! しっかりしてくれっ!!」

 

晋からそう怒声が飛ぶ。

 

その間に、再び艦内に低い音と細かな振動が走り始める。

 

『補機出力3000………主機接続!』

 

そして再度、主機の始動が行われる。

 

だが、またしても接続した瞬間に音と振動が消えて行く………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

艦内と艦橋を重い空気が支配する………

 

「動かないじゃないかっ!」

 

「黙れっ!!」

 

晋が思わず声に出すが、すぐに護が怒鳴り付ける。

 

すると………

 

再び艦内に低い音と細かな振動が走り始めた。

 

いや、それどころか………

 

音は徐々に大きさを増し、振動に至っては艦全体を揺るがすばかりに膨れ上がった!

 

「や、やったーっ!!」

 

「動いたぞっ!!」

 

『主機、始動っ!!』

 

「接続!」

 

『接続っ!』

 

そして遂に、大和の心臓が躍動を始める!

 

「V2ロケット、呉まで後5分で到達!」

 

そこで、電探員がV2ロケットをキャッチし、そう報告する。

 

『出力、パワーアップ』

 

「発進準備!」

 

「発進準備っ!!」

 

護の号令で、航海長が発進準備を整える。

 

「主砲発射準備!」

 

「主砲発射、準備」

 

続いて、戦術長の晋が主砲発射の準備を進める。

 

「大和! 発進っ!!」

 

「大和、発進します!」

 

そして、遂に………

 

大和が発進する!!

 

瓦礫の山と化していたドックが振動を始める。

 

そして、その瓦礫を突き破る様に、先ず艦橋が姿を見せる!

 

出現した艦橋を中心に、次々に瓦礫が剥がれ落ちて行く。

 

主砲の砲身が上がり、瓦礫を払い除ける。

 

遂には菊の紋章をあしらえた艦首が、瓦礫を押し退けて現れる!

 

そのまま大和はドックから前進!

 

遂に、海原へとその船体を浮かべた!

 

と、そこで空の一角がキラキラと瞬く………

 

V2ロケット群だ!!

 

「面舵15!」

 

「面舵15!!」

 

護の命令で、面舵を切る航海長。

 

迫り来るV2ロケット群に対し、大和は右舷を向ける様に位置取る。

 

「主砲旋回!」

 

「測的完了!」

 

「三式弾、装填完了!」

 

そして、全主砲と副砲が迫り来るV2ロケット群へと向けられる。

 

「誤差修正右1度、上下角3度!」

 

「目標、大和の軸線に乗りました!」

 

護と晋の声が響いた瞬間、V2ロケット群が目と鼻の先まで迫る。

 

「発射ぁっ!!」

 

「発射っ!」

 

その瞬間に!!

 

遂に大和の主砲と副砲が火を噴いた!!

 

発射された三式弾が、V2ロケット群と擦れ違うかに思われた瞬間に炸裂!

 

そのままV2ロケット群を巻き込んで大爆発を起こした!!

 

その爆発の爆煙は大和にまで襲い掛かる!

 

爆発地点には、巨大なキノコ雲が上がった!!

 

「大和はっ!?」

 

「アレ程の爆発です………幾ら大和と言えど………」

 

校長が叫ぶと、教頭が無念そうにそう呟く………

 

 

 

 

 

 

だが、その次の瞬間!!

 

キノコ雲の中から、大和が黒煙を散らす様にして姿を現す!!

 

 

 

 

 

「大和! 健在っ!!」

 

「おお、大和が行く………」

 

呉校学園艦艦橋要員からの報告が挙がる中、教頭は感激に打ち震える。

 

(………沖田の教え子達が行く)

 

そして校長は、出航する大和に敬礼を送りながら、心の中でそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての戦艦大和は、その力を存分に発揮する事無く………

 

沖縄への水上特攻の果てに、九州・坊ノ岬沖へと沈んだ………

 

そして、歴史の流れは大戦艦から航空機へと移り変わり………

 

史上最大と言われた大和は、最早過去の遺物となった………

 

だが、今大和は再び蘇った!

 

大洗女子学園を廃校から救う為、敢然と立ち上がったのである!!

 

今こそ史上最大の戦艦としての威力を見せる為、戦艦大和は今一度海原へと繰り出した!!

 

「瀬戸内海を離脱します」

 

「巡航速度へ切り替えろ」

 

瀬戸内海を抜けた大和は、太平洋へ入ると巡航速度を維持。

 

駿河湾を目指し、波を蹴立てて突き進む。

 

と、その隣に………

 

大和と同じ形状をした戦艦………

 

2番艦の武蔵が並び立つ。

 

「佐世保港から来た武蔵、合流しました」

 

「大和型2隻揃っての航海か………何とも豪勢だな」

 

佐世保の分校からやって来た武蔵を見て、護はそんな事を呟く。

 

そして更に、その周囲に護衛の水雷戦隊が布陣する。

 

呉校始まって以来の大艦隊が、海原を行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在………

 

駿河湾上の大和と、相模湾上の武蔵は、東富士演習場に向かって艦砲射撃を行っている。

 

最初の斉射にて、既に黒森峰機甲部隊の切り札で有った筈のモンスターとラーテを呆気無く葬っていた。

 

「砲撃命中! ラーテとモンスターを撃破しましたっ!!」

 

「続けて砲撃! 黒森峰機甲部隊に思い知らせてやれっ!!」

 

「了解っ!!」

 

護の声が艦橋内に響き、大和の砲撃がドンドン東富士演習場に向かって放たれる!

 

相模湾上の武蔵からの砲撃と合わさり、市街地の彼方此方で火柱が上がる!

 

「す、凄い………」

 

「コレが大和型戦艦の艦砲射撃か………」

 

その威力の前に、みほだけでなく、迫信も驚きを露わにしていた。

 

「西住総隊長! 風向きが変わりましたっ!!」

 

「!!」

 

とそこで、弘樹がみほに向かってそう言い、みほはハッと我に返る。

 

「全部隊、一時撤退します! 艦砲射撃が止むのを待ってから再度黒森峰に仕掛けますっ!!」

 

「「「「「「「「「「! 了解っ!!」」」」」」」」」」

 

するとみほは、黒森峰機甲部隊への突撃を中止し、一時撤退するのだった。

 

「! 待てっ!! 逃がすかっ!!」

 

それを見た黒森峰機甲部隊のパンター1両が追撃に入り、それに続く様に別2両のパンターと、ヤークトパンターとラングが1両ずつ続く。

 

「! 待てっ!!………」

 

と、慌ててまほが叫んだ瞬間………

 

その追撃部隊の中に、大和と武蔵からの艦砲射撃が着弾!!

 

巨大な爆発が起こり、追撃に入っていた黒森峰戦車隊の戦車達の姿が完全に炎の中に消える!

 

「クッ!?………」

 

凄まじい爆風に襲われながらも、目を凝らして炎の中に消えた黒森峰戦車隊の姿を確認しようとするまほ。

 

やがて、爆煙が別の艦砲射撃の着弾で吹き飛ばされると………

 

装甲の表面が黒焦げになり、全車が白旗を挙げている黒森峰機甲部隊の姿が露わになった。

 

と、その瞬間にまたも艦砲射撃の着弾音が聞こえて来たかと思うと、不意にまほに影が掛かった。

 

「?………!?」

 

何だと思ったまほが上を見上げて驚愕の表情で硬直した!

 

何故なら、まほの頭上には………

 

横回転しながら宙に舞っているエレファントの姿が在ったからだ!!

 

至近距離に複数の46cm砲弾が着弾し、吹き飛ばされた様である。

 

ヤークトティーガーに次ぐ65トンのエレファントが玩具の様に宙に舞っている………

 

俄かには信じがたい光景に、流石のまほも思考が追い付かずにフリーズを起こす。

 

その間に、吹き飛ばされていたエレファントは、そのまま住宅の2階へと上部を下にして突っ込み、住宅を押し潰して地面に叩き付けられ、底部から白旗を上げる。

 

「「「「「「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

戦車でコレなのだから、歩兵部隊の方は更に阿鼻叫喚だった。

 

1発の砲弾で、100人単位の歩兵が吹き飛ばされ、戦死判定となって行く。

 

そして砲弾は次々と降って来る………

 

「コチラ梶! 航空支援、並びに洋上支援を要請するっ!! 駿河湾と相模湾の敵艦を排除せよっ!!」

 

そこで、都草は歩兵総隊長権限で航空支援と洋上支援を要請。

 

艦砲射撃を浴びせて来ている大和と武蔵の排除を命じた。

 

「まほ! しっかりしろっ!!」

 

「!!」

 

そして、フリーズしていたまほを怒鳴りつける様にして覚醒させる。

 

「君が呆然となって如何する! 君は黒森峰機甲部隊の総隊長なんだぞ!!」

 

「! 全部隊、散開!! 固まって居ては被害が大きくなる! 兎に角バラバラに逃げるんだ! 可能ならば、頑丈な建物内か地下などへ避難するんだっ!!」

 

都草に叱咤され、まほはすぐさま指示を飛ばす!

 

「全員退避っ! 兎に角退避よっ!!」

 

「クソッ! 大洗めぇっ! ふざけやがってぇっ!!」

 

エリカと蟷斬が叫ぶ中、黒森峰機甲部隊は散らばる様に退避するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

駿河湾上の大和では………

 

「撃てぇーっ!!」

 

護の号令と共に、東富士演習場に向けられている大和の主砲が一斉に火を噴く!

 

「流石に46cm砲の一斉射は腹に来ますね………」

 

副長が、全身を駆け巡る46cm主砲の一斉射の爆音と振動にそんな感想を漏らす。

 

「! 艦長っ! 御前崎方面から艦影多数接近! 黒森峰の支援艦隊と思われますっ!!」

 

するとそこで、晋がそう報告を挙げる。

 

その言葉通り、御前崎の方から駿河湾内へ侵入して来る旧ドイツ軍の艦艇で編制された艦隊の姿が在った。

 

更に、その頭上には、航空支援のものと思われる航空機部隊の姿もある。

 

「旗艦らしき艦影確認! ビスマルク級戦艦1番艦・『ビスマルク』です!!」

 

そこで見張り要員が、黒森峰艦隊の中に旗艦と思われる戦艦………『ビスマルク』を発見してそう報告する。

 

「相模湾の武蔵から入電! 相模湾にも黒森峰艦隊と航空部隊が出現! 艦砲射撃を中止し、応戦に入るとの事です!」

 

更に通信士が、相模湾の武蔵の方にも敵艦隊と航空隊が現れたと言う報告を挙げる。

 

「良し! 我々も応戦に入るぞ! 砲雷撃戦用意っ!! 一航専に航空支援を要請っ!!」

 

「了解! 此方呉校艦隊の大和! 一航専へ! 航空支援を要請!!」

 

そこで護も艦砲射撃を中止し、黒森峰艦隊への応戦に入る事を決め、一航専に航空支援を要請した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駿河湾内・江浦湾………

 

江浦湾に待機していた一航専の学園艦上の滑走路から、次々と航空機が飛び立って行く。

 

「坂井 六郎! 出るぞっ!!」

 

六郎の乗る烈風も、プロペラ音を響かせながら離陸する。

 

烈風が高度を上げ、ギアを収納したかと思うと、そこへメビウス1の紫電改とラーズグリーズ隊の疾風が合流する。

 

「出番は無いかと思ってたが、そうでもなかったな」

 

「ええ、存分に腕を振るわせてもらうわ」

 

「コレが我々の決戦だ」

 

「頑張りましょう! 分隊長!」

 

「ハイ………」

 

「…………」

 

ラーズグリーズ隊の面々が士気を上げ、メビウス1も何時も以上に冷静さを保つ。

 

「! 敵機視認っ!!」

 

とそこで、六郎が黒森峰航空部隊を捉える!

 

「全機、交戦開始っ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして、六郎の声と共に、駿河湾上空で激しい空中戦が展開するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

時を遡って大和の発進シーンをお送りしました。
………ハイ、分かってます。
どう見ても『宇宙戦艦ヤマト』の発進シーンです!
本当にありがとうございました!(爆)
やっぱり大和出すんならこの発進シーンはやらないとと言う使命感に駆られまして………

そして出番が無いと思われた一航専の面々は、洋上支援の援護で登場です。
こちらはサブなのでそれほど詳しくは描写しませんが、書ける範囲で盛り上げて行く予定です。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第203話『あとには退けない戦いです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第203話『あとには退けない戦いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊の超重戦車軍団を前に、絶体絶命の危機に陥った大洗機甲部隊を救ったのは………

 

呉校艦隊が復活させた超弩級戦艦『大和型戦艦1番艦・大和』と『同2番艦・武蔵』だった!

 

46cm主砲弾の雨霰が黒森峰機甲部隊へと降り注ぎ………

 

頑強なドイツ重戦車達を紙細工の様に撃破していく………

 

大きなダメージを負った黒森峰機甲部隊に対し………

 

大洗機甲部隊は最後の勝負に打って出る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

「………砲撃が止んだ?」

 

「如何やら、支援艦隊と航空隊が到着した様だね」

 

団地エリアまで後退し、団地を盾に砲撃を凌いでいたティーガーⅠのキューポラから姿を晒していたまほと、その傍に待機していた都草がそう言い合う。

 

「全部隊、被害状況を報告しろ………」

 

まほはすぐに、黒森峰機甲部隊の被害状況を確認する。

 

『総隊長! 逸見、健在です! ですが、ティーガーⅡはもう私の車両だけです!』

 

『此方パンター1号車、赤星です! パンターは私を含め、6両が健在です!』

 

『ラング2号車です! 生き残りは私を含めて2両です!!』

 

『ヤークトパンター1号車! 残り3両です!!』

 

『此方ヤークトティーガー9号車! 残ったのは私だけですっ!!』

 

『エレファント5号車! コチラも生き残りは私だけです!!』

 

『此方毛路山小隊! 我が小隊は全員が健在であります!!』

 

『揚羽よ。E-100も撃破はされていないけど、至近弾をしこたま喰らったから所々調子が悪いわ。正直何時停まってもおかしくない状態よ』

 

エリカや小梅、久美や揚羽達から次々にそう報告が挙がる。

 

漸く艦砲射撃は収まったものの、被害は甚大だった………

 

どの戦車達も逃げる途中で直撃、或いは爆風・衝撃波で被害を受け………

 

建物を盾にしたと思いきや、アッサリと建物ごと吹き飛ばされたり………

 

酷いモノでは逃げ回っている間に元々の整備不良が祟って自滅した者達も居る。

 

「残存車両は16両か………マウスばかりかラーテやモンスターまで………」

 

「まほ」

 

とそこで、都草がまほに声を掛ける。

 

「歩兵部隊は半数以上がやられた。砲兵部隊に至っては全滅だ。必死に砲を運ぼうとして逃げきれなかったらしい」

 

『クソッタレがッ!!』

 

都草が報告すると、歩兵部隊の通信回線に蟷斬の怒声が響く。

 

「…………」

 

報告を受けたまほは拳を握り締める。

 

今までずっと西住流を信じて戦車道を続けて来たまほ。

 

カンプグルッペの1件で、その闇を見たものの、心の何処かでは西住流は最強の戦車道だと信じ続けていた………

 

だが、その最強だと信じていた戦車道は………

 

戦艦と言う更に強大な力の前に、呆気無く崩された………

 

一瞬にして戦力の大半を失った黒森峰機甲部隊………

 

「………全部隊に告げる。これより大洗機甲部隊に対し、最後の攻勢に出る」

 

やがて、まほはポツリと呟く様にそう言った。

 

『! 総隊長!?』

 

「まほ………」

 

最後のと言った事に、エリカが驚きの声を挙げ、都草もまほに視線を向ける。

 

「認めるしかない………みほは………大洗は………我々の戦術が通じる相手では無い」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そしてまほがそう言葉を続けると、黒森峰機甲部隊の全隊員に衝撃が走る。

 

「だが、我々は黒森峰だ。敵に背は向けん。この上は各員の決死の覚悟を持って戦って貰いたい………すまない」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

まほの言葉に、黒森峰機甲部隊には沈黙が流れる………

 

すると………

 

『ジーク・黒森峰っ!!』

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

誰かがそう叫び、まほと黒森峰機甲部隊員がハッとする。

 

『! 久美っ!!』

 

エリカが驚く。

 

その声を挙げたのは、またも久美だったからだ。

 

『『『ジーク・黒森峰っ!!』』』

 

そこで更に、義炉太、泥川、来流矢が続く。

 

『ジーク・黒森峰っ!!』

 

『ジーク・黒森峰っ!!』

 

『ジーク・黒森峰っ!!』

 

やがて1人、また1人と広がって行く。

 

「………ジーク・黒森峰っ!!」

 

そして最後には、まほがそう叫び、敬礼をする。

 

「行くぞっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

最後の士気を振り絞り、黒森峰機甲部隊は最後の攻勢に出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、大洗機甲部隊は………

 

「黒森峰機甲部隊再集結。進軍を再開しました!」

 

「残存車両は、ティーガーⅠが1両、ティーガーⅡ1両、パンター6両、ラング2両、ヤークトパンター3両、ヤークトティーガー1両、エレファント1両、四突1両、それにE-100です」

 

「歩兵部隊は半数が健在! しかし、砲兵は全滅した模様です!」

 

高所に陣取っていたM3リーのキューポラから双眼鏡で黒森峰機甲部隊を偵察していた梓と、同じくM3リーの車体の上に乗って偵察していた清十郎と楓がそう報告する。

 

「E-100が残ったか………厄介だな」

 

残存敵戦力の中にE-100が居るのを聞いて、大詔が渋面を作る。

 

「だが、アレだけの艦砲射撃だ。巨体のE-100が衝撃まで防げたとは思えん。何かしらの損傷を抱えている筈だ」

 

しかし、あの艦砲射撃の中で、E-100が無傷であるとは考え難いと十河が言う。

 

「神威さんの言う通りです。E-100は何らかの損傷を抱えています。敵の規模は我々よりまだ多数ですが、決して如何にか出来ないワケではありません」

 

そこでみほが、大洗機甲部隊の面々にそう言い放つ。

 

絶体絶命と思われた危機を乗り越えた事により、最早恐れる事にも飽きてしまったと言う様な感じだ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それは大洗機甲部隊の面々も同じ様で、誰もが一片の恐れも見せていない。

 

「向こうは16両。ですが、フラッグ車はお互いに1両です。敵の狙いは、フラッグ車である私達あんこうチームです。皆さんは相手の戦力を出来るだけ分散。可能であれば撃破を狙って下さい」

 

「皆ー! 敵を挑発するよーっ!!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

典子に威勢の良い返事を返す忍、妙子、あけび。

 

「あんこうは敵フラッグとの1対1の機会を窺います。レオポンチームの協力が不可欠です」

 

「心得た」

 

「燃えるねー」

 

ナカジマが頼もしい返事を返し、ツチヤが楽しそうに笑う。

 

「E-100も当然ですが、ヤークトティーガーやエレファントの火力にも注意して下さい」

 

「総隊長。ヤークトティーガーとエレファントは私達が引き受けます」

 

残った黒森峰車両の中で、E-100以外で特に火力が高いヤークトティーガーとエレファントを引き受けると梓が名乗り出る。

 

「お願いします」

 

「「「よっしゃーっ!!」」」

 

「やったるぞーっ!」

 

「…………」

 

みほから信任を得ると、あや、あゆみ、優希、桂利奈が叫び、紗希も表情を引き締める。

 

「総隊長。E-100は私達が引き受けます」

 

「僕もサンショウウオさんチームのサポートに回ります」

 

「頼みます」

 

「大丈夫! アイドルに不可能は無いんだからっ!!」

 

「例え超重戦車でも、戦い方によって勝てる筈………」

 

聖子の方はE-100を引き受けると言い、ねこにゃーは援護に回ると志願する。

 

「麻子さん。袋小路に気を付けて、相手を攪乱して下さい」

 

「おっけー」

 

「沙織さん。互いの位置の把握、情報を密にして下さい」

 

「了解」

 

「華さん、優花里さん。HS0017地点までは、極力発砲を避けて下さい」

 

「「ハイ!」」

 

あんこうチームの皆にも呼び掛けると、麻子、沙織、華、優花里から返事が返って来る。

 

「そして歩兵部隊の皆さん。砲兵以外の皆さんは、ココからは各自の判断で行動して下さい。ゲリラ戦の主力は歩兵の皆さんです」

 

「了解した。砲兵部隊は予定通りにHS0017地点へ先んじて移動。他の者はコレよりゲリラ戦に入る。各自の判断にて交戦せよ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして、歩兵部隊には独立遊撃を承認し、完全なゲリラ戦を決める。

 

「それではコレより最後の作戦、『フラフラ作戦』! 略して『フ号作戦』を開始しますっ!!」

 

斯くして、大洗機甲部隊の対黒森峰作戦の最終策・『フラフラ作戦』略して『フ号作戦』が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、再び………

 

黒森峰機甲部隊は………

 

舗装された土手に挟まれた幹線道路を進んでいた。

 

と、その目の前に在ったT字路の交差点をⅣ号、ポルシェティーガー、八九式が横切って行く。

 

「敵発見!」

 

戦車隊員の1人からそう報告が挙がると、黒森峰機甲部隊はT字路を左折してⅣ号達を追撃する。

 

1発砲撃が行われたが、行進間射撃だった為か外れる。

 

最後尾の八九式が、挑発も兼ねて、蛇行しながら射撃し、反撃する。

 

そのまま釣られる様にドンドンⅣ号達を追って行く黒森峰機甲部隊。

 

「………よし、行くよ」

 

と、部隊の最後尾までが行ったのを確認すると、都市迷彩シートを被っていたM3リーが、シートを外して背後から黒森峰機甲部隊を追い掛ける。

 

逃げていたⅣ号達は、やがて住宅街へと続く細い通路へと入り込む。

 

「クッ! E-100でこの道を行くのは無理ね………総隊長、私達は迂回します」

 

「了解した」

 

通路の幅が狭い為、E-100は追撃出来ず、通れる道を回り道する。

 

住宅を踏み潰しながら進むと言う手も有るが、損傷を抱えているE-100でそんな無茶をすれば、自滅の恐れも有る。

 

揚羽は迂回を選択した。

 

「コチラ梓。予定通り、E-100が市街地を迂回します。やはり損傷している模様です。サンショウウオさんチーム、アリクイさんチーム、後はお願いします」

 

『『了解!』』

 

E-100が市街地を迂回するのを確認した梓が、サンショウウオさんチームとアリクイさんチームへ通信を送り、自身も市街地内へと続く通路に入って行く。

 

一方、Ⅳ号達を追撃する黒森峰機甲部隊だったが、通路が狭い為、1両ずつに随伴歩兵分隊を付けての進撃となる。

 

Ⅳ号達はそれを分かってるかの様に、細い通路ばかりを選び、右折や左折を繰り返す。

 

最後尾の八九式は、相変わらず蛇行を続けている。

 

「邪魔よっ!!」

 

そんな八九式のすぐ後ろを走っているティーガーⅡの中で、エリカが苛立った様に声を挙げる。

 

ティーガーⅡの火力の前では、八九式などブリキ缶の様なものだが、ココで八九式を撃破してしまうと通路が塞がれ立ち往生してしまう為、下手に攻撃出来ずに居た。

 

と、そこで………

 

またも分かれ道に差し掛かったかと思うと、Ⅳ号だけが右折し、ポルシェティーガーと八九式は直進した。

 

エリカのティーガーⅡはポルシェティーガーと八九式を追ったが、後ろのパンターはⅣ号を追う。

 

そのまま、戦力を分散させて両方を追う黒森峰機甲部隊。

 

「コチラあんこう。448ジャンクション、左折します。レオポン372左折。アヒルさん373右折して下さい」

 

そこで沙織が通信を送り、その指示通りに、ポルシェティーガーが差し掛かった交差点を左折、続く八九式は右折した。

 

両者を追い掛け、黒森峰機甲部隊は更に戦力を分散させる。

 

「373の先、後3つ直進」

 

「ハイ」

 

妙子から指示された通りに八九式を進ませる忍。

 

「最後尾発見。あや、準備良い?」

 

「OK」

 

一方、M3リーは、黒森峰機甲部隊の最後尾に居たエレファントを捉える。

 

「柳沢くん達も、手筈通りにお願いね」

 

「了解です! 任せておいて下さいっ!!」

 

梓が更に、勇武達にも通信を送ると、M3リーが十字路の横から、直進していたエレファントの前に躍り出た!

 

「えっ!?」

 

「おりゃあっ!!」

 

驚いて動きを止めたエレファントに、M3リーは副砲を発砲する。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

放たれたのは榴弾だったらしく、エレファントに命中したものの損傷は与えられなかったが、破片と爆風で周囲に居た随伴歩兵分隊に多数の戦死判定者を出した!

 

それを確認する間も無く、M3リーは再び発進。

 

「このぉっ! よくも随伴歩兵をっ!!」

 

随伴歩兵分隊をやられたエレファントは、M3リーを追撃してしまう。

 

追い掛けて来るエレファントに向かって、M3リーは副砲塔を後ろに向けて、再び発砲!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

砲弾はまたも榴弾だったらしく、エレファントに損傷は与えられなかったが、随伴歩兵分隊員達に戦死判定者を出す。

 

反撃にとばかりに発砲するエレファントだったが、M3リーは難なく回避する。

 

「クソッ! 随伴歩兵分隊は後方に回って! コレ以上の被害は看過出来ないわっ!!」

 

「了解っ!!」

 

そこで、コレ以上の随伴歩兵分隊への被害を防ごうと、エレファントの車長は随伴歩兵分隊に後ろに回る様に指示。

 

黒森峰随伴歩兵分隊は、エレファントの陰に隠れる様に後ろに回る。

 

「随伴歩兵分隊が後ろに回った! 今だよっ!!」

 

するとそこで、優希がそう通信を送ったかと思うと………

 

黒森峰随伴歩兵分隊の面々が進んでいる通路に、両脇の住宅街の塀を超える様にして、次々と火炎瓶が投げ込まれて来た!

 

「!? アチッ! アチチチチチチッ!!」

 

「うわっ! 火がっ!!」

 

突然の炎に、慌てふためく黒森峰随伴歩兵分隊。

 

「射撃開始ーっ!!」

 

すると次の瞬間には、塀からハムスターさん分隊を中心とした大洗歩兵部隊の面々が現れ、手にしていた銃を黒森峰随伴歩兵分隊に向けて発砲した!

 

「! 大洗歩兵っ!?………!! ぎゃあっ!!」

 

「マズイッ! 挟まれて………!! ぐああっ!!」

 

左右からの挟撃に加え、塀を盾にしている大洗歩兵部隊に対し、黒森峰随伴歩兵分隊は真面な反撃も出来ぬまま全滅する。

 

「! しまったっ!?………!? ギャッ!?」

 

それに気づいたエレファントの車長が声を挙げたが、その瞬間にまたもM3リーの砲弾が命中。

 

今度は徹甲弾だったらしく、相変わらずダメージは無いが、衝撃が車内を走り、ドラム缶に入れられて叩かれた様な音が頭痛を引き起こす。

 

「ええいっ! 向こうが先だっ!!」

 

大洗歩兵部隊より先にM3リーを仕留めようと、砲撃しながら速度を上げるエレファント。

 

M3リーも、エレファントからの砲撃をかわすと更に速度を上げる。

 

「怒ってる、怒ってる」

 

「桂利奈ちゃん、次右折ね」

 

「アイ!」

 

「その次も次も次も右折!」

 

「アイアイアイーッ!!」

 

自分達のM3リーよりも遥かに強力な駆逐戦車に追われながらも、ウサギさんチームは怯まない。

 

「昨日徹夜で研究した作戦を実行する時が来たよ! 名付けて………」

 

「「「「「戦略大作戦っ!!」」」」」

 

そこでウサギさんチームは、前夜に見ていた戦争映画………『戦略大作戦』からヒントを得た作戦を実行。

 

エレファントを引き付けながら、Y字路を右折。

 

スピードを上げながら、その先のT字路を右折。

 

狭い通路を出来るだけスピードを落とさずに右へと曲がり続け………

 

とうとうエレファントの後方へと回り込んだ!

 

「回り込まれた! 信地旋回っ!!」

 

回り込まれたエレファントは、信地旋回でM3リーの方を向こうとしたが………

 

車幅がギリギリの路地でそんな事が出来るワケが無く、車体の角を塀にぶつけてしまう。

 

「アレッ?」

 

更に、引っ掛かってしまったのか、そのままエレファントは微妙にしか動けなくなる。

 

その隙を見逃さず、M3リーはエレファントの真後ろまで接近!

 

後部に向かって主砲と副砲を放つ!

 

しかし、副砲はおろか主砲弾もエレファントの後部装甲を貫けず、明後日の方向へ弾かれてしまった。

 

「堅過ぎるー!」

 

「零距離でも倒せないなんて、もう無理じゃない………」

 

あやが苦い声を挙げると、梓も頭を抱えながらそう漏らす。

 

すると、そんなあやの肩を叩く者が居た。

 

「? うん?」

 

「薬莢………捨てるとこ」

 

紗希だ!

 

何と彼女は、エレファント後部にある排莢用ハッチを指差し、そう『言った』!

 

「凄い! 紗希ちゃん、天才!!」

 

「よーし! せーので、で撃とう!!」

 

「分かったっ!!」

 

「「「「「せーの、でっ!!」」」」」

 

そして、紗希が言った弱点に、M3リーは主砲弾と副砲弾を同時に叩き込んだっ!!

 

2発も砲弾の至近距離砲撃を受けたエレファントの排莢ハッチから巨大な爆発が上がり、やがて黒煙を吐き出すと、車体上部には白旗が上がる!

 

『決まったーっ!! 大洗ウサギさんチーム! エレファントを撃破だーっ!!』

 

『いや~、M3リーでココまでやるなんて、素直に驚きですね』

 

そのジャイアントキリングに、ヒートマン佐々木とDJ田中の実況にも熱が籠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊………

 

『此方エレファント! M3にやられましたっ!!』

 

『何やってるのよっ!!』

 

「フラッグ車だけを狙えっ!!」

 

撃破されたエレファントからの報告にエリカが怒りの声を挙げる中、まほは冷静にⅣ号を追う。

 

だがその直後に、後方に続いていたパンターの側面が爆発!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

爆発の余波で黒森峰歩兵数名が戦死判定となると、パンターも白旗を上げる。

 

「!?」

 

まほが確認すると、撃ち終えたパンツァーファストを捨てて、路地裏へと退避する海音の姿を目撃する。

 

「クッ! 構うなっ!!」

 

舌打ちをしながらも、損害を無視する様にⅣ号を追うよう指示するまほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

艦砲射撃から逃れたかに見えた黒森峰機甲部隊でしたが、その被害は壊滅的………
まほは腹を括って最後の攻勢に出ます。

一方、大洗も遂に最終作戦『フラフラ作戦』を発動!
歩兵部隊が遊撃に周る中、フラッグ車であるまほのティーガーⅠの誘導に掛かります。
いよいよ佳境です。
激戦をお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第204話『フ号作戦、遂行中です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第204話『フ号作戦、遂行中です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉校艦隊の支援砲撃により、壊滅状態に陥る黒森峰機甲部隊………

 

そこでみほは遂に………

 

黒森峰機甲部隊に対する最終作戦………

 

『フラフラ作戦』、略称『フ号作戦』を発動する………

 

得意のゲリラ戦に持ち込みながら、ウサギさんチームが最後のエレファントを撃破。

 

そして、敵フラッグ車を誘導に掛かるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

幹線道路に出た八九式が、2両のパンターと1両のヤークトパンターに追われている。

 

「挑発に乗るな、落ち着け!」

 

チョロチョロと蛇行をしながら発砲して来る八九式に対し、ヤークトパンターの車長がそう言うが………

 

その瞬間に八九式が急減速し、ヤークトパンターの左側面に張り付き、零距離砲撃を行う。

 

「このーっ!」

 

「八九式のくせにっ!!」

 

砲撃は装甲を貫通出来なかったものの、非力な戦車に良い様にされたのが癪に障ったのか、ヤークトパンターの車長は激昂し、脇に居たパンターと共に車間距離を詰めて八九式をサンドイッチにしようとする。

 

しかし、八九式は減速して抜け出す。

 

そしてそのまま、左側の歩道へと入ると、道路より1段高くなっていた部分へと入り込み、再びヤークトパンター達の側面に付ける。

 

反対車線側に居たパンターに砲撃を見舞い、そのまま追い越そうとする。

 

すぐさま近くに居たパンターが主砲を旋回させて発砲したが、八九式は読んでいた様に一旦減速。

 

パンターの砲撃は外れ、奥の塀を破壊する。

 

八九式はすぐに速度を上げると、ヤークトパンター達を追い越し、再びその正面に出る。

 

「やーいやーい!」

 

「待てーっ!!」

 

そこで典子が、ハッチを開けて車外へ姿を晒すと、追って来るヤークトパンター達を煽り、それに更に激昂したヤークトパンター達は、ムキになって八九式を追う。

 

「おーい! 待ってくれーっ!!」

 

「進軍スピードをもっと考えろ!」

 

と、追撃に夢中になる余り、後方に置いてけぼりにされてしまった黒森峰随伴歩兵分隊がそんな声を挙げる。

 

すると………

 

「!? うっ!?………」

 

その随伴歩兵分隊の先頭を走っていたキューベルワーゲンの運転手が、側頭部に衝撃を受けたかと思うと、ガクリとハンドルに凭れ掛かる様にして動かなくなる。

 

当然、キューベルワーゲンはコントロールを失い、そのまま横転した!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」

 

同乗していた黒森峰歩兵達が車外へ投げ出され、そのまま横転したキューベルワーゲンの下敷きになって戦死判定を受ける。

 

「!? 狙撃だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

即座にそれが狙撃だと察した黒森峰歩兵達は車両を停め、弾丸が飛んで来たと思われる方向から陰になる部分へ身を隠す。

 

「何処から撃って来たんだっ!?」

 

「………! アレです! あの高圧電線の鉄塔の上に!」

 

黒森峰分隊長の声に、黒森峰偵察兵が双眼鏡を覗きながら僅かに顔を出して弾丸の飛んで来た方向を確認すると、かなり離れた場所にある鉄塔の上に人影を認める。

 

と、その瞬間!

 

「!? ガフッ!?」

 

双眼鏡を覗いていた黒森峰偵察兵が、僅かに出していた頭に弾丸を受けて倒れ、そのまま戦死判定となった。

 

「なっ!? あの距離からこの精密狙撃だとっ!?」

 

「白い死神かっ!?」

 

黒森峰歩兵の1人が、僅かに出していた黒森峰偵察兵の頭を正確に撃ち抜いた狙撃兵の腕に驚愕していると、黒森峰分隊長がそう叫ぶ。

 

「…………」

 

その予測通り、鉄塔の上で狙撃を行っていたのはシメオンだった。

 

しかも、スコープを使わず、肉眼で確認している。

 

とんでもない視力である。

 

「クソッ! コレじゃ迂闊に動けんっ!!」

 

黒森峰歩兵の1人がそう声を挙げる。

 

「自分に任せて下さいっ!!」

 

すると、狙撃用にカスタマイズされたKar98kを構えた黒森峰狙撃兵が、シメオンを狙う。

 

如何やら、カウンタースナイプを狙う様だ。

 

「頼むぞ」

 

「…………」

 

黒森峰分隊長の言葉を聞きながら、意識を集中させる黒森峰狙撃兵。

 

「…………」

 

そしてその集中が極限まで達した瞬間に、息を止めて手ブレを押さえる。

 

スコープの照準に、シメオンの姿が重なる。

 

(貰ったっ!!)

 

そう確信した黒森峰狙撃兵が引き金を引く!

 

しかし、その直後!!

 

シメオンが立て続けに2発発砲!

 

最初に撃たれた弾丸が、黒森峰狙撃兵が撃った弾丸に命中!

 

共に潰れて、落下した。

 

「なっ!?」

 

そして、驚いて頭が上がってしまった黒森峰狙撃兵の眉間に、2発目の弾丸が命中!

 

黒森峰狙撃兵は倒れ、戦死判定となる。

 

「ば、馬鹿なっ!?」

 

「バケモンだ、アイツはッ!!」

 

その光景に、黒森峰歩兵達の間に戦慄が走る。

 

すると、その瞬間っ!!

 

「今やぁっ!! 一気に畳み掛けたれぇーっ!!」

 

「野郎共ぉっ! 突っ込めーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

シメオンが居る鉄塔の方向とは丁度反対側の方向から、大河と武志を先頭に、大洗連合とラクビー部メンバーの大洗歩兵達が突っ込んで来た!

 

「!? 大洗歩兵っ!?」

 

「しまったっ! スナイパーに気を取られ過ぎたっ!?」

 

シメオンの超人的狙撃にばかり注意が行ってしまった黒森峰歩兵達は、反対方向から突っ込んで来た大河と武志達への対応が遅れる!

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「!? ガハッ!?」

 

武志が、黒森峰歩兵の1人に、文字通り殺人タックルを食らわせる。

 

「くたばれぇっ!!」

 

「ゴハッ!?」

 

更に、別のラクビー部の大洗歩兵が、ラクビーボールを蹴る様に1人の黒森峰歩兵の頭を蹴っ飛ばす!

 

「「「「「ギャアアアッ!?」」」」」

 

蹴っ飛ばされた黒森峰歩兵は、他の黒森峰歩兵数人を巻き込み、戦死判定となる。

 

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「ク、クソッ! 止めろっ!!」

 

「「「「「おおおおおーっ!!」」」」」

 

数人纏めて突っ込んで来たラクビー部の大洗歩兵達に対し、黒森峰歩兵達も数人固まり、そのまま組み合ってスクラムの様になった。

 

「「「「「ガッデムウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

しかし、ラクビー部の大洗歩兵達はどこぞの黒のカリスマの様な叫びを挙げると、力任せに黒森峰歩兵達のスクラムを押して行く!

 

「「「「「う、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

押し切られた黒森峰歩兵達はそのまま転び、挙句にラクビー部の大洗歩兵達に次々に踏まれ、戦死判定となる。

 

「おりゃあっ!!」

 

「ゴハッ!?」

 

捕まえた黒森峰歩兵の顔面を、停めてあったキューベルワーゲンのボンネットに叩き付ける大洗連合の大洗歩兵。

 

「そりゃあっ!!」

 

「ゲバッ!!」

 

駄目押しとばかり、ボンネットとキスしてる黒森峰歩兵の後頭部に拳を叩き込む。

 

「寝てろっ!!」

 

「ガボッ!?」

 

そしてオーバーキルに、地面に転がった黒森峰歩兵の顔を踏み付けた!

 

「おりゃあっ!!」

 

「ゲボシャアッ!?」

 

別の大洗連合の大洗歩兵は、黒森峰歩兵の1人に組みついたかと思うと、そのままブレーンバスターの様に肩に逆さまに抱え上げ、その背中をガードレールに叩き付けた!

 

コレは痛いっ!!

 

「おらあぁっ!!」

 

更に、また別に大洗連合の大洗歩兵は、路肩に在った配電盤を地面から引っこ抜き、掲げる様に持ち上げた。

 

「ちょっ!? 嘘だろ、オイッ!?」

 

「おりゃああっ!!」

 

「ゲバハッ!?」

 

そしてそれを叩き付ける様に黒森峰歩兵に向かって投げつけ、ペシャンコにしたのだった。

 

「!? ちょっ!? 歩兵部隊がやられてるよっ!?」

 

「!? 何時の間に! クソッ! 榴弾装填っ!!」

 

とそこで、パンターの車長がその光景に気づき、ヤークトパンターの車長が榴弾を装填させて援護しようとする。

 

「!? 八九式、来ますっ!」

 

「何だとっ!?」

 

しかし、その瞬間に八九式が反転し、ヤークトパンター達へと向かって来た。

 

「クッ! 撃てっ!!」

 

「しかし、今装填されているのは榴弾ですっ!!」

 

「構わん! あんな化石みたいな戦車、榴弾で十分だっ!!」

 

戸惑う砲手を押し切り砲撃を指示するヤークトパンターの車長。

 

「佐々木! タイミングを逃すな! チャンスは1度きりだっ!!」

 

「ハイ、キャプテンッ!!」

 

一方、八九式の車内では、典子とあけびが何かを狙っている。

 

「照準良しっ!!」

 

「撃てっ!!」

 

「! 今だぁっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

そして、ヤークトパンターが発砲しようとした瞬間に、一瞬早く八九式が発砲!

 

すると、八九式が放った砲弾が、ヤークトパンターの主砲口から砲身内へ飛び込んだ!!

 

飛び込んだ砲弾は、今まさに放たれた榴弾と衝突!!

 

衝撃で榴弾が砲身内にて爆発!

 

「「「「!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

カーボンで保護されている戦闘室内に激しい振動が走り、根元から吹き飛んだ砲身が脱落したかと思うと、ヤークトパンターは白旗を上げる。

 

「なっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「良し、撤退っ!!」

 

残ったパンター達の車長が驚愕の声を挙げる中、八九式は再び逃走に入る。

 

「よおし! こっちも引き上げやっ!!」

 

「撤退っ!!」

 

それを見た大河と武志も撤退指示を出し、大洗連合とラクビー部メンバーの大洗歩兵達は撤退する。

 

「クッ! コチラ随伴歩兵分隊副隊長! 分隊長が戦死判定となった為、指揮を引き継ぎました! 我が分隊は半数以上が戦死判定です!!」

 

とそこで、分隊長戦死判定で指揮を引き継いだ副分隊長がそう報告を挙げる。

 

「クウッ! 態勢を立て直して追撃を続行する! 急いでっ!!」

 

残ったパンター2両の片方の車長がそう言い、パンター達は態勢を立て直しつつ再び八九式を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ウサギさんチームは………

 

「撃てぇっ!!」

 

追っているヤークトティーガーに向かって発砲するM3リー。

 

主砲、副砲弾は共に弾かれたが、狭い路地の為、背を向けている駆逐戦車のヤークトティーガーは反撃出来ない。

 

「クッ! 随伴歩兵分隊、何をやってるのっ!?」

 

『コチラ分隊長! 敵歩兵の攻撃を受けている! 現状での援護は不可能っ!!』

 

ヤークトティーガーの車長は随伴歩兵達へ通信を送るが、既にハムスターさん分隊達により引き剥がされて交戦中な為、援護出来ないと言う返事が返って来る。

 

「ええいっ! 兎に角急げっ!!」

 

すると、ヤークトティーガーは速度を上げ、M3リーから離れて行く。

 

「逃げたぞーっ!」

 

「追えーっ!!」

 

M3リーも速度を上げ、ヤークトティーガーに追い付こうとする。

 

すると、前方に十字路が見えて来て、ヤークトティーガーはそこを右折した。

 

M3リーもそれを追って十字路に入ろうとしたが………

 

「! 停止っ!!」

 

「! ええーいっ!!」

 

嫌な予感を感じた梓が即座に停止を命じ、桂利奈が慌ててブレーキを掛ける!

 

すると、M3リーが止まった瞬間!!

 

車体前面装甲を掠めて、128ミリ砲弾が通り過ぎた!

 

十字路の左右へ続く道は道幅が広く、ヤークトティーガーは右折した瞬間に反転し、M3リーを待ち構えていたのだ!

 

後僅かに進んでいれば、間違いなく直撃を貰っていただろう………

 

「! 外したっ!? 次弾装填、急げっ!!」

 

外した事にヤークトティーガーの車長は驚きながらも、すぐに次弾装填を指示する。

 

「後退っ!!」

 

一方、M3リーは通って来た路地をバックで後退する。

 

ヤークトティーガーはそれを追撃。

 

今度はヤークトティーガーがバックで走るM3リーを追う形となった。

 

「ちょっと! 128ミリ、超怖いんだけどっ!!」

 

主砲の128ミリ砲を向けながら追撃して来るヤークトティーガーに、あやが悲鳴の様な声を挙げる。

 

「桂利奈ちゃん! そのまま真っ直ぐバックね!!」

 

「て言うか、如何すんのコレッ!?」

 

ペリスコープ越しに後方を確認しながら桂利奈に指示を飛ばす梓だが、絶体絶命の状況にあゆみがそう叫ぶ。

 

「あ、そうだ! くっ付けば良いんだっ!!」

 

そこで、桂利奈がそう思い付いて、迫り来るヤークトティーガーにぶつかる様にM3リーを前進させた!

 

途端に、ヤークトティーガーの長砲身はM3リーの上に位置する形となり、砲撃不能となる。

 

「凄ーい、桂利奈ちゃん! 頭良いーっ!!」

 

優希がそう言うと、ヤークトティーガーは減速して距離を取ろうとする。

 

「あ、離れるっ!」

 

「そうは、させるかぁっ!!」

 

あやが声を挙げると、桂利奈は即座に距離を詰める。

 

すると、ヤークトティーガーは今度は前進して、M3リーを押し潰そうとする。

 

「今度は押されてるっ!!」

 

「1年舐めんなっ!!」

 

「舐めんなぁっ!!」

 

負けじとM3リーの主砲と副砲が火を噴くが、200ミリ以上あるヤークトティーガーの装甲は貫けない。

 

更に速度を上げてM3リーにぶつかって来るヤークトティーガー。

 

「うわあっ! 怖いーっ!!」

 

「この通路の向こう、ちょっとヤバいかも………」

 

「何がっ!?」

 

地図を見ている優希がそう言うと、桂利奈が余裕が無い様子で聞き返す。

 

「ヤークト、ココで仕留めないと駄目………皆! 命を賭ける時が来たよっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

とそこで、梓が決意した顔でそう言うと、他のウサギさんチームの一同も、覚悟を決める。

 

やがて、通路の出口であるT字路へと差し掛かる。

 

T字路の先は、水の無い舗装された川になっている。

 

「合図ですぐ左に曲がってっ! 衝撃に備えっ!!」

 

梓がそう言った瞬間に、M3リーはヤークトティーガーから離れて左へ曲がろうとする。

 

「! 今だっ!!」

 

だが、その一瞬を見逃さずにヤークトティーガーは発砲!

 

128ミリ砲弾を真面に喰らい、M3リーは横転しながらT字路の左へと弾き飛ばされ、側面から白旗を上げる。

 

しかし………

 

「やったっ!………!? うわあああっ!?」

 

勢いのついていたヤークトティーガーは停まる事が出来ず、ガードレールを突き破って、川へと落下!

 

砲身が川底に接触したかと思うと圧し折れ、そのまま逆さまに引っ繰り返ってエンジンブロー。

 

情けない姿で、底部から白旗を上げたのだった。

 

「………コチラ、ウサギチーム。撃破されましたが、ヤークトティーガーは片付けました。後はお任せします、先輩」

 

『皆! 大丈夫っ!?』

 

梓がそう報告を挙げると、沙織の心配そうな声が通信回線に響く。

 

「ハイ、私達は無事です。先輩達は試合に集中して下さい………幸運を祈ります」

 

『! 分かったっ! 後は任せてっ!!』

 

だが、梓がコチラは気にしないでくれと返すと、その意志を汲み取り、交信を終了した。

 

「梓さんっ!!」

 

とそこで、清十郎を加えたハムスターさん分隊の面々が、横転しているM3リーに駆け寄って来る。

 

「清十郎くん、皆………」

 

「うわっ!? ヤークトティーガーが………」

 

「コレ、あゆみさん達が?」

 

梓がハッチを開けて清十郎の姿を確認すると、勇武と光照が、川に落っこちて白旗を上げているヤークトティーガーを見て驚きの声を挙げる。

 

「うん、コッチもやられちゃったけどね………」

 

「いやいや! ヤークトティーガーと相討ちになったってだけでも大戦果ッスよ!」

 

あやがそう言うと、正義がそう返す。

 

「黒森峰の随伴歩兵分隊は?」

 

「さっき急に撤退して行きました。多分、随伴して居たヤークトティーガーがやられたんで、他の部隊との合流に向かったんだと思うよ」

 

そこで梓がそう尋ねると、勇武がそう返す。

 

「分かった。私達は大丈夫だから、皆は戦闘に戻って」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして続けてそう言うと、ハムスターさん分隊の面々はヤマト式敬礼をし、再び市街地の方へと舞い戻るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

フ号作戦継続中。
原作では逃げ回っていただけの八九式も、この作品では更に高められた練度と歩兵部隊との連帯を活かし、何とヤークトパンターを撃破です。

そして大洗の首狩りウサギの本領、ヤークトティーガー退治も原作通りに遂行。
ますます戦力を削られる黒森峰。

そして次回では、原作にはなかったみほとエリカの対決が実現します。
しかも、エリカの不用意な一言のせいで………
みほがマジギレ!?
あの作品をオマージュしたシリアスな笑いのバトルをお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第205話『因縁、学校を超えてです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第205話『因縁、学校を超えてです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊に対する最後の作戦………

 

『フラフラ作戦』、略称『フ号作戦』が決行され………

 

みほはフラッグ車の陽動に掛かり………

 

大洗機甲部隊の面々は、得意のゲリラ戦で市街地へ入り込んだ黒森峰機甲部隊を攪乱する………

 

八九式が歩兵部隊との連携で1両を仕留め………

 

ウサギさんチームのM3リーも撃破されたものの、ヤークトティーガーを道連れにする事に成功………

 

そんな中で………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

フラッグ車であるまほのティーガーⅠ、エリカのティーガーⅡ、そしてパンター1両に追われているみほの大洗フラッグ車Ⅳ号。

 

その目的は、フラッグ車のティーガーⅠの誘導にある。

 

現在のところ、その目論みは上手く行っている。

 

だが………

 

『こちらレオポンさんチーム。トラブル発生』

 

「! 如何しましたっ!?」

 

作戦の要であるレオポンさんチームからトラブル発生の報告を受け、みほに緊張が走る。

 

『駆動系の異常だよ。今隠れて随伴歩兵分隊に護衛して貰って修理中。ちょっと時間が掛かるよ』

 

「分かりました。出来る限り急いで下さい」

 

『やってみるよ』

 

ナカジマはそう答えて通信を切る。

 

「ココへ来てトラブルなんて………」

 

「まあ、ココまでが上手く行き過ぎたとも言えるがな………」

 

沙織が焦った様子を見せると、麻子がいつもと変わらぬ調子でそう返す。

 

「………一旦敵を引き離します! 優花里さん! 煙幕をっ!!」

 

「了解っ!!」

 

しかし、みほは冷静に対処。

 

一旦まほ達を引き離す為、スモークディスチャージャーから煙幕を発射。

 

「! 停止っ!!」

 

Ⅳ号が煙幕を噴き出したのを見て、まほは警戒して停止指示を出す。

 

煙幕は一瞬にして広がり、ティーガーⅠ達を覆い尽くす。

 

「歩兵部隊! 防御陣形で展開っ!!」

 

「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」

 

煙幕に紛れての攻撃を懸念した都草が、随伴歩兵部隊を戦車の周辺に盾として展開させる。

 

そのまま待ち構えるが、何も起きない………

 

やがて、煙幕が完全に晴れると、そこにはⅣ号の姿は無かった。

 

「………逃げたか? 各員、連携を密にして捜索を………」

 

「西住総隊長! 逸見戦車副隊長が居ませんっ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

そこで、パンターの車長からそう報告が挙がり、まほが驚きながら振り返ると、その言葉通りエリカのティーガーⅡの姿が無かった………

 

「逸見戦車副隊長、まさかっ!?」

 

「エリカ! 何故だっ!?」

 

みほを追って行ったのだとパンターの車長が推測すると、まほは困惑を隠せずにそう声を挙げる。

 

沸点が低く、嫌味なところの有るエリカだが、決して無能では無い。

 

戦車隊の副隊長と言う立場に居るだけあり、黒森峰の中では自身で考えて判断する事が出来、更に総隊長のまほの命令は順守する。

 

正に副隊長としてはうってつけな人物であった。

 

そのエリカが命令無視をした………

 

まほには到底信じられる行為ではない。

 

一体何が彼女を突き動かしたのか?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、逃走したⅣ号は………

 

「煙幕から出るぞ」

 

麻子がそう言うと、Ⅳ号が展開させていた煙幕の範囲外へと出る。

 

そこは丁度住宅街を抜ける交差点であり、正面には巨大スーパーマーケット跡と所々に街灯が建っている広い駐車場が広がっている。

 

「右折して下さい。また市街地に入って時間を………!?」

 

一旦抜けた後、再び市街地内へ侵入しようとしたみほだったが、そこで嫌な予感を感じる。

 

「停止っ!!」

 

「!!」

 

みほが叫んだ瞬間に麻子は反応。

 

Ⅳ号が若干前のめりになりながら急停車!

 

その直後!!

 

煙幕の中から砲弾が飛び出して来て、停車したⅣ号のすぐ目の前に着弾した!!

 

あのまま進んでいたら、間違いなく直撃していただろう。

 

「!?」

 

すぐに砲弾の飛んで来た煙幕の方を確認するみほ。

 

その瞬間!!

 

煙幕の中から、ティーガーⅡが現れる。

 

そのキューポラからは、エリカが姿を見せている。

 

「!? エリ………逸見さん!」

 

「意外そうね………そりゃそうよね。私も何で自分がこんな事してるのか疑問に思ってるもの」

 

驚くみほに向かって、エリカは何処か自嘲する様に笑いながらそう言う。

 

「黒森峰戦車部隊の副隊長ともあろう者が命令違反で独断専行………下手したら副隊長解任ね」

 

「…………」

 

「けどね………私は今此処でアンタを倒さなきゃならない………そんな気がしてならないのよ」

 

「逸見さん………」

 

「だから………西住 みほ………私と戦えっ!!」

 

叫ぶ様にそう言い放ち、みほを睨みつけるエリカ。

 

対するみほは………

 

「麻子さん、バックでティーガーⅡを捉えながら駐車場の方へ………隙を見て店内を突っ切って逃げます」

 

「良いのか?」

 

「今優先すべきは、作戦の遂行です」

 

「分かった………」

 

飽く迄フ号作戦を遂行する為、エリカの隙を衝いて逃走を計ろうと、Ⅳ号をバックのまま駐車場へと侵入させる。

 

「なっ!? 逃げる積りっ!? ふざけるんじゃないわよ! 私と戦いなさいっ!!」

 

当然、エリカは怒りを露わにⅣ号を追撃する。

 

「このまま後退! 砲撃をかわしたら、再装填中の隙を衝いて………」

 

「また逃げる積り! あの根暗なむっつり男と付き合い出して、更に性格が暗くなったんじゃないのっ!!」

 

と、口の悪いエリカは深く考えもせず、そんな事を口走ってしまう。

 

「………(ビキッ!)」

 

「!? ひいっ!? に、西住殿っ!?」

 

その瞬間、優花里は確かに見た………

 

みほの米神に………

 

怒りの青筋が浮かぶのを………

 

「………撃てっ!!」

 

「えっ!? あ、ハイッ!!」

 

突然砲撃命令が走り、華が一瞬戸惑いながらも反応し、Ⅳ号が発砲。

 

「!? ガフッ!?」

 

その砲弾はティーガーⅡの砲塔左前側面に当たり、明後日の方向に弾かれたものの、不意を衝かれた事でエリカの反応が遅れ、対ショック姿勢が出来ていなかった為、砲塔上部装甲とキスする。

 

「~~~~~ッ!」

 

予想外の痛みに少し悶絶しながらも、すぐに身体を起こし、顔を手で押さえながらみほを再度見やる。

 

「…………」

 

するとみほのⅣ号は何時の間にか停まっており、そのキューポラから姿を見せているみほは顔を伏せている。

 

「逸見さん………さっき根暗なむっつり男とか言ってたけど………まさか弘樹くんの事を言ったんじゃないよね?」

 

穏やかな口調でそう問い質すみほ。

 

「あわわわ………」

 

「み、みほさん………」

 

「み、みぽりん………」

 

「…………」

 

だが、車内のあんこうチームは気が気でない。

 

何故なら、今のみほからは凄まじい怒気が溢れていたからだ………

 

「それ以外に誰が居るって言うのよっ!!」

 

しかし、距離が離れていた為、その様子に気づかなかったエリカはそう言ってしまう。

 

その瞬間!!

 

「………絶対に許さないっ!!」

 

みほは鬼の形相を浮かべた顔を上げ、エリカを睨みつけた!!

 

「!? ヒイイッ!?」

 

その表情を見たエリカは情けない悲鳴を挙げて狼狽する。

 

いつも穏やかで、決して人に対して敵意を向ける様な事など絶対にしないみほ………

 

そのみほが、黒森峰時代はおろか大洗に転校してからも決して見せた事が無い怒りの表情………

 

それは、まるで普段の穏やかさに反比例するかの様に凄まじいモノだった。

 

「う、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

その恐怖を振り払う様に、エリカは雄叫びを挙げてティーガーⅡを突撃させる!

 

「このおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

それに対し、みほもⅣ号を突撃させた!!

 

Ⅳ号とティーガーⅡが高速で擦れ違う!

 

その後、Ⅳ号は砲塔を後ろに回して砲撃!

 

だが、ティーガーⅡは超信地旋回で正面を向け、Ⅳ号の砲弾を弾き飛ばす!

 

「いつもいつも私にばかり噛み付いてきてぇっ! 骨にでも噛み付いてれば良いんだっ!!」

 

そこで、Ⅳ号は横へと移動を始める。

 

「! 何ですってっ!!」

 

ティーガーⅡもそれを追う様に移動し始め、両者は同航戦の様な状態となる。

 

「お正月行事の時のチキンレースだって! 私が勝ってたのに、エリカさんがイチャモン付けたからぁっ!!」

 

やがて、Ⅳ号がティーガーⅡとの距離を詰め始める。

 

「先にブレーキ踏んだのはアンタでしょうっ! 昔の事まで捏造するわけっ!?」

 

するとティーガーⅡの方も距離を詰め始め、両者はマニューバのシザーズの様に交差する。

 

「私が貸したCD! 未だに返さないのはエリカさんでしょっ!!」

 

やがて、小回りの利くⅣ号が、ティーガーⅡの後ろを取る!

 

「アンタが勝手に黒森峰から居なくなったからよっ!!」

 

「クウッ!………食堂で2回、御飯奢ったよぉっ!!」

 

そして、ティーガーⅡに向かって、優花里による素早い装填による2連射をお見舞いする。

 

だが、ティーガーⅡは急減速したかと思うと、Ⅳ号が予測進路上に向かって放った砲弾は外れ、更にⅣ号がティーガーⅡを追い越してしまう。

 

「私は13回奢るハメになったぁっ!!」

 

エリカの怒声と共に、ティーガーⅡの主砲が火を噴き、砲弾がⅣ号へと向かう。

 

「勝手に賭け試合して、負けた結果でしょうーっ!!」

 

しかし、Ⅳ号は右の履帯を停止させると、左の履帯から火花を散らせながらの信地旋回を行い、紙一重でかわす。

 

そしてⅣ号はティーガーⅡへと突撃を行い、ティーガーⅡはそれから逃れる様に移動を始め、戦闘機のドッグファイトの様になる。

 

「「わああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」

 

すると、熱くなっているのか、みほとエリカは、互いに効果・意味が無いと分かっていながらも、機銃架の機銃を相手の戦車に向かって発砲する。

 

互いの装甲表面で、機銃弾が火花を散らして弾かれる。

 

その内、両者は再びシザーズに突入する。

 

「学園祭の時、私が乗る予定だった戦車のトランスミッション壊したのもアンタでしょうっ!!」

 

「知らないよっ!!」

 

「惚けるなぁっ!!」

 

再びエリカの怒声と共に、ティーガーⅡが発砲!

 

砲弾は外れ、お返しにとⅣ号が発砲するが、砲塔の装甲で弾かれる。

 

「全く! アンタって奴はっ!!」

 

するとそこで、ティーガーⅡは地面に向かって発砲!

 

放たれたのは榴弾だったらしく、派手に爆発して粉煙と爆煙を巻き上げるっ!!

 

「!!」

 

その粉煙と爆煙で一瞬ティーガーⅡを見失うみほ。

 

すると、左側面側の煙が僅かに揺らいだ。

 

「! 後退っ!!」

 

それに気づいたみほが空かさず叫ぶと同時にⅣ号は後退。

 

次の瞬間には、煙を吹き飛ばす様に突っ込んで来たティーガーⅡが、先程までⅣ号が居た場所を通過する。

 

戦い自体はハイレベルなものの、両者の言い合いが非常に低レベルな為、観客席からも時折笑い声が挙がっている。

 

「アンタは何時だって! 私の大切なモノをブチ壊すっ!!」

 

「はあっ!?」

 

「私の、大切なモノをぉっ!!」

 

すぐさま砲塔を旋回させるティーガーⅡだったが………

 

「煩いっ!!」

 

その前にⅣ号が放った榴弾が命中!

 

「!? わっぷっ!?」

 

爆風に晒されたエリカは、略帽が吹き飛び、顔中が煤だらけになる。

 

「このっ!!」

 

反撃にと撃ち返すティーガーⅡだったが、Ⅳ号は榴弾を撃ち終えた時点で移動しており、砲弾は虚しく空を通り抜けた。

 

「去年のあの決勝戦だって! アンタさえ! アンタさえ居なければぁっ!!」

 

Ⅳ号を追うティーガーⅡ。

 

その時、エリカの脳裏には、走馬灯の様に自身の過去が浮かんで来る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逸見 エリカは子供の頃から戦車道を嗜んでいた………

 

だが、当時の彼女に求道精神などは無く、只自分の強さを見せつける、自分が勝って良い気持ちになりたい………

 

そして勝つ事によって皆に認められたい………

 

そんな思いで戦車道をしていた………

 

しかし、小学生の頃、率いていたチームは連戦連勝………

 

向かう所敵無しだった………

 

当時の担任は、彼女に中学生までの本格的な戦車道クラス・『ユースチーム』への参加を進めた………

 

そして、そこで初めて出会った、当時中学1年だったまほに、完膚無きにまで打ちのめされた………

 

納得が行かなかったエリカは、自分が得意なルールでの再戦を申し込む………

 

だが、結果は同じだった………

 

2度の敗北を晒したエリカを待っていたのは、チームメイト達の嘲笑だった………

 

今までエリカのお蔭で勝てていたと言うのに、敗北した途端にチームメイト達は掌を返し、陰でエリカを愚弄した………

 

エリカは何も言い返せなかった………

 

負けたのは事実であるから………

 

けれでも、そんなエリカを救ったのが他ならぬまほだった。

 

陰口を叩いていたチームメイト達を一喝。

 

『これから先、お前達が戦車道を続けるなら、自らに求道精神を持て!! そしてお前達も本気で足掻いて見せろ! 逸見の様に!!』

 

それをコッソリと聞いていたエリカは、まだ短い人生だが、かつてない感動を受けた………

 

そしてそれが、彼女がまほに憧れ、尊敬し始めた切っ掛けであった………

 

『強さ』の意味………

 

自分自身の『戦車道』………

 

それがまほとなら見つけられる………

 

エリカはそう確信していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、中学生になった彼女は………

 

猛勉強の甲斐あり、見事に黒森峰学園の中等部へ進学………

 

憧れのまほと同じ戦車チームへと入る事になった………

 

そんなエリカの前に現れたのが、みほだった………

 

まほの実の妹でありながら、毅然としている彼女と違い、いつもオドオドとしていて頼りない………

 

だが、戦車道の実力は姉譲り………

 

いや、西住流と言う縛りが無ければ、姉以上かも知れない………

 

そんな彼女が即座に副隊長となったのは当然だったかも知れないが………

 

エリカは納得が行かなかった………

 

尊敬するまほの妹でありながら、まほとは何もかもが違い過ぎる………

 

にも関わらず、彼女の隣に立てる実力を持っている………

 

それがエリカにはどうしても納得出来なかった………

 

彼女は、事ある毎にみほと衝突した………

 

そして、高校へと上がり、あの決勝戦で………

 

10連覇を掛けた試合で負けた………

 

みほが水没した戦車の仲間を助ける為に、フラッグ車の指揮を放棄して………

 

そして彼女は、黒森峰から去った………

 

かと思いきや、大洗と言う無名のチームの総隊長となって再び現れ………

 

剰え、決勝まで勝ち進んで、黒森峰と………

 

自分と対峙した………

 

今、自分達の黒森峰は没落の一途を辿っていると言うのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在………

 

「アンタさえ………アンタさえ居なければぁっ!!」

 

エリカの叫び声と共に、ティーガーⅡが発砲!

 

「!?」

 

その砲弾が、Ⅳ号の後部に迫ったかと思うと、Ⅳ号が煙に包まれた!!

 

「停止っ!!」

 

即座にティーガーⅡを停車させるエリカ。

 

煙は辺りに充満する。

 

(エンジン音は聞こえない………やったの?)

 

Ⅳ号のエンジン音が聞こえない事から、仕留めたのだと思うエリカ。

 

「…………」

 

しかし、その瞬間にエリカに込み上げて来たのは、虚無感だった………

 

遂に憎い相手を討ち取り、黒森峰に再び勝利を齎した………

 

その筈なのに………

 

虚しかった………

 

試合開始当初、100両と言う大部隊だった黒森峰機甲部隊………

 

しかし、みほの策にまんまと嵌り、大洗の8両を撃破出来ず、逆に次々に撃破されていった………

 

超重戦車軍団の投入で漸く撃破を奪ったかと思いきや、大洗を助けにやって来た者達により、黒森峰は一気に壊滅状態………

 

そう………

 

この試合………

 

黒森峰は、西住流は、そしてエリカは………

 

何1つとして勝ってなどいない………

 

只々力押ししただけだ………

 

(コレが………私の求めた戦車道だって言うの………)

 

虚無感を抱えたまま、エリカは天を仰ぐ。

 

………と、その時!!

 

ティーガーⅡの左側の煙が揺らめいた!!

 

「………えっ?」

 

呆けた声を挙げたエリカの前に現れたのは………

 

横滑りしているⅣ号だった!!

 

「!?」

 

「撃てっ!!」

 

エリカがハッとした瞬間に、Ⅳ号は発砲!

 

放たれた砲弾は、ティーガーⅡの後部・エンジンルームへ吸い込まれる様に命中!

 

爆発と振動がティーガーⅡを揺さぶり、そして砲塔上部から白旗が上がった!!

 

それを確認し、横滑りしていたⅣ号は、ブレーキを掛けて停まる。

 

「…………」

 

車内にずり落ちていたエリカが這い出る様に再びキューポラから姿を見せる。

 

「…………」

 

そして、自分のティーガーⅡに上がっている白旗を見た後、Ⅳ号を………みほを見た。

 

「………エンジンを切って、惰性で動いていたワケね。この煙も着弾煙じゃなくて煙幕だったのね」

 

悟ったかの様な笑みを浮かべて、エリカはそう言う。

 

「…………」

 

そんなエリカを正面から見据えるみほ。

 

「分かってたわよ………私がアンタに噛み付いてたのは只の妬みだって事ぐらい………でも、そうでも思わなきゃやってられなかった………」

 

吐露する様にポツリポツリと語り出すエリカ。

 

「アンタも私の事、恨んでるでしょ? 散々嫌味なこと言って、勝手な思い込みの理想像を押し付けられて………私は」

 

「………中学の時、エリカさんが乗る筈だった戦車の駆動系壊したの、私なんです」

 

「えっ?」

 

突然みほがそう言って来て、エリカは驚く。

 

「あの戦車、昔っから乗ってみたくて………ちょっとだけ試し乗りしたら、勢い余って………」

 

「アンタ………」

 

「過ぎた事は忘れましょう」

 

「…………」

 

「………ゴメンなさい」

 

そう言って頭を下げるみほ。

 

「………まだ有るんじゃないの?」

 

するとエリカは、意地悪そうな笑みを浮かべてそう返す。

 

「………エリカさんって、ホント嫌な人だね」

 

「知ってるでしょう?」

 

「「…………」」

 

無言で見つめ合う2人。

 

「ふ、ふふふ………」

 

「ハハハハ………」

 

「「アハハハハハハッ!」」

 

やがて、どちらからともなく笑い合った。

 

「………何だかんだ言って、結局仲が良いんだね」

 

「ですね」

 

「ハイ」

 

「ん………」

 

そんなみほとエリカの様子に、沙織、優花里、華、麻子の面々も、自然と笑みを浮かべる。

 

「………行きなさいよ。けど、総隊長に勝てるなんて思わない事ね。あの人は最強よ」

 

「それは私が良く知ってるよ」

 

そして、最後にそう言い合うと、みほはⅣ号のエンジンを再スタートさせ、その場から離れて行った。

 

「…………」

 

それを見送り、エリカは再び天を仰ぐ。

 

しかし、先程とは違い、充実した気持ちで………

 

「総隊長………申し訳ありません………後は宜しくお願い致します」

 

そして空に浮かんだまほの姿に向かって、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

予告していたみほVSエリカの戦い………
如何見ても『マクロスプラス』です!
本当にありがとうございました(笑)

いや~、YF-19(イサム)VSYF-21(ガルド)見ていたら、『このシーンをみほとエリカに置き換えてみたい』と思い至りまして。
何かと因縁の深い2人ですが、やはりこういう事に決着を着けるには、少年漫画的ですが腹の内を曝け出しながらとことんやり合うのが良いと思いまして。
最後に2人で笑い合ったシーンは我ながら書いてて満足度が高かったです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第206話『白狼VS蟷斬です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第206話『白狼VS蟷斬です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとエリカが、学校を跨いだ因縁にケリを着けていた頃………

 

市街地を迂回していたE-100は………

 

「揚羽ちゃ~ん、何かエンジンから煙出て来たよ~」

 

操縦手を担当している紫染がそう報告する。

 

その報告通りに、E-100のエンジンはまだ動いているものの、黒い煙を上げ始めていた。

 

「もう持たないんじゃないの?」

 

砲手を務めている瀬芹が、揚羽にそう言う。

 

「それは百も承知よ。それでも持たせて………どうせ果てるなら………戦って果てたいわ」

 

「揚羽………」

 

そう返す揚羽を、通信手の竪刃が心配そうな表情で見上げる。

 

「オイ、生徒会長! 馬鹿な事言ってんじゃねえぞっ! 俺達が、黒森峰があんな木っ端部隊に負けると思ってるのかっ!!」

 

と、そんな弱気とも言える揚羽の態度が気に入らなかったのか、随伴して居る残存黒森峰武装親衛隊の中に居た蟷斬が怒声を挙げる。

 

「ちょっと! お前は如何してそうデリカシーが無いんだ! もうちょっと良い台詞があるだろうっ!!」

 

そんな蟷斬の態度にカチンと来た斑が、15センチ砲弾を抱えたままハッチから顔を出し、蟷斬に向かって怒鳴る。

 

「何だとっ!!」

 

「何だっ!!」

 

忽ち雰囲気が険悪になるが………

 

「止めなさいっ!!」

 

「!!」

 

他ならぬ揚羽が2人を一喝する。

 

「私達が争っても利敵行為になるだけよ。もっと冷静になりなさい。そして認めるのよ………私達黒森峰は、今負けかけてるってね」

 

「揚羽………」

 

「チッ………」

 

斑は黙り込むが、蟷斬は面白く無さそうな顔をする。

 

と、そこでE-100と随伴の残存黒森峰武装親衛隊が、片側がコンクリートで舗装された崖の広い道路へと差し掛かったその時!

 

無数のオートバイのエンジン音が聞こえて来る。

 

「「「「「!!」」」」」

 

険悪な雰囲気だったとしても、そこは天下の黒森峰機甲部隊員達。

 

すぐさま臨戦態勢となる。

 

「行くぜええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこへ、白狼と先頭にした大洗オートバイ兵部隊が突っ込んで来る。

 

「! 白狼!」

 

「ARE YOU READY GUYS!?」

 

「「「「「「「「「「イエーイッ!!」」」」」」」」」」

 

「DO THE GOES ON!!」

 

「「「「「「「「「「イヤーッ!!」」」」」」」」」」

 

揚羽が驚きの声を挙げる中、白狼はどこぞの奥州筆頭の様な英語で喋りながら、何と腕組みをしてハンドルから手を離しているバイクで突撃して来る。

 

良く見れば、率いている大洗オートバイ兵達も、着剣した小銃を振り回したり、地面に擦らせて火花を散らしたりしている者達が居る。

 

「チイッ! チンピラ共めっ!! 撃て撃てっ!!」

 

蟷斬がそんな白狼の率いる大洗オートバイ兵部隊を見て悪態を吐きながら命令を飛ばす。

 

すぐさま残存黒森峰武装親衛隊は、MG42やMP40で弾幕を張る!

 

「うおっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

命中弾を受けた大洗オートバイ兵部隊員がバイクから落ち、地面を転がって戦死判定を受ける。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、戦死判定者を出しても怯まず、大洗オートバイ兵部隊は津波の様に残存黒森峰武装親衛隊へと襲い掛かる!!

 

「うおおっ!?」

 

「わああっ!?」

 

突入した大洗オートバイ兵部隊は、残存黒森峰武装親衛隊員達を跳ね飛ばして行く!

 

「クソッタレがぁっ!!」

 

悪態を吐く蟷斬。

 

その目の前に、1台のバイクが停車する。

 

「!!」

 

「…………」

 

白狼のツェンダップK800Wだ。

 

「…………」

 

蟷斬の事を見据えながら、ゆっくりとツェンダップK800Wから降りる白狼。

 

「テメェ………」

 

対する蟷斬も、刺す様な視線で白狼を見据える。

 

「「…………」」

 

周りで残存黒森峰武装親衛隊員達と大洗オートバイ兵部隊員達が入り乱れて戦っている中、2人の間には緊迫した空気が流れる。

 

「ヘッ、やっぱりテメェと戦う事になったな」

 

「そうみたいだな………」

 

殺気の様な闘気を向ける蟷斬に対し、白狼は何処か気だるげにそう返す。

 

「思えば出会った時からテメェの事は気に食わなかったんだ………良い機会だ。ココで叩き潰してやるぜ」

 

そう言うと蟷斬は、両手にナイフを握った。

 

「叩き潰されるのはどっちかな?」

 

対する白狼も、拳法の構えを取る。

 

「「…………」」

 

再び睨み合う2人。

 

「「………!!」」

 

たが、すぐさま互いに距離を詰め、激突するのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、E-100の方は………

 

「こんなに入り乱れてたんじゃ、援護は無理ね………」

 

残存黒森峰武装親衛隊員達と大洗オートバイ兵部隊員達が入り混じって戦っているのを見て、揚羽はそう呟く。

 

「後退して。接近戦に持ち込まれたらコッチが圧倒的に不利よ」

 

「了解」

 

そしてE-100を後退させる。

 

通常の戦車以上に、歩兵に取り付かれた場合の対処が効かないE-100では、歩兵に近寄られるだけでも脅威の為である。

 

と、その直後!!

 

砲撃音が響いたかと思うと、E-100に衝撃が立て続けに走る!

 

「!?」

 

揚羽は驚きながらも、衝撃を感じた後方を振り返る。

 

そこには、砲口から煙を上げているクロムウェルと三式改の姿が在った。

 

「クロムウェルに三式か………反転して」

 

揚羽は冷静に、E-100を反転させる。

 

「やっぱり後面でも駄目か………」

 

「聖子さん、如何する?」

 

後面を狙って撃った砲弾が弾かれるのを見た聖子がそう呟き、ねこにゃーが尋ねて来る。

 

最初に出現したマウスは、カメさんチームと言う犠牲を払い、大洗の残存戦車チーム達が全員協力する事で撃破出来た。

 

そのマウスと同等の堅牢さを誇るE-100を、三式改とクロムウェルだけで如何にかしようと言うのが無理の有る話であった。

 

「兎に角、やるしかないよ。倒せなくても、時間さえ稼げれば、西住総隊長が何とかしてくれるよ」

 

「分かりました。兎に角、時間を稼ぎましょう」

 

だが、別に無理をしてE-100を倒す必要は無い。

 

撃破出来ればそれに越した事はないが、今重要なのはフ号作戦の為、みほがまほと対決し、決着を着けるまで、他の黒森峰機甲部隊を足止めしておく事にある。

 

「向こうは時間を稼ぐ積りよ。コッチの状況的にも、そうはさせるワケには行かないわ。一気に踏み潰すわよ」

 

しかし、揚羽はその狙いを察し、また自車の状況が悪い事もあり、速攻でケリを着けようとするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、再び………

 

白狼と蟷斬は………

 

「オワタァッ!!」

 

蟷斬に向かって跳び蹴りを繰り出す白狼。

 

「ケッ!!」

 

だが、蟷斬は繰り出されてきた飛び蹴りを、左腕で防ぐ。

 

「!?」

 

と、白狼は蹴った蟷斬の腕に違和感を感じる。

 

「オラァッ!!」

 

「!!」

 

だがそこで、蟷斬が右手のナイフを振って来たので、跳び蹴りの反動を利用して空中に跳び、バック宙を決めて着地する。

 

「フンッ………」

 

その白狼に向かって構えを取る蟷斬。

 

先程白狼が蹴った左腕は、ダメージを受けている様には見えない………

 

「………硬気功か」

 

「武術気功が得意なのが自分だけだと思ってたのか?」

 

白狼がそう呟くと、蟷斬は小馬鹿にする様に笑う。

 

先程、白狼が蟷斬の腕を蹴った際に感じた違和感………

 

それは、蟷斬の腕がまるで鉄骨の様に硬かった事である。

 

気を高めて身体を鋼鉄の様に堅牢にする武術気功・『硬気功』である。

 

「テメェの貧弱な拳法の技なんざ、俺には通用しねえぜ」

 

「言ってろ………」

 

尚も馬鹿にする様な態度の蟷斬に対し、白狼は興味無さ気に腰を深く落とした構えを取る。

 

「………!!」

 

と、その次の瞬間には、コンクリートの地面に罅が入って、欠片が宙に舞い上がる程の力強く速い踏み込みで、一瞬にして間合いを詰める。

 

「セリャアアッ!!」

 

そして、蟷斬の鳩尾に向かって、気を練った拳を叩き込む!

 

「無駄だっつてんだろっ!!」

 

しかし、蟷斬はまたもや全く応えず、白狼に向かって右手のナイフを逆手のままに振り降ろす。

 

「!!」

 

僅かに身を反らしてかわし、今度はハイキックを見舞おうとした白狼だったが………

 

「!? がっ!?」

 

そこで、何時の間に振り降ろしていた左手の逆手に持ったナイフが、白狼の左肩に上から突き刺さる。

 

「なろうっ!!」

 

反射的に諸手突きを繰り出し、蟷斬の事を吹き飛ばす白狼。

 

「グウッ!………」

 

そして、戦闘服の左肩に突き刺さったままだったナイフを引き抜く。

 

途端に、左腕が鉛の様に重くなる。

 

「ククク………」

 

一方、諸手突きを真面に喰らった蟷斬は、やはりダメージが無い様子で、新たなナイフを左手に今度は順手で握っている。

 

「クソッ!………サンドバックでも殴ってる気分だ」

 

その蟷斬の姿を見て、白狼は皮肉めいた悪態を吐く。

 

「安心しろ。コレからサンドバックになるのはテメェだ」

 

しかし、蟷斬はそう言い放ち、ゆっくりと距離を詰めて来る。

 

「…………」

 

ゆっくりと向かって来る蟷斬に対し、白狼は摺り足で徐々に後ずさるが、その距離はドンドン詰まって行く。

 

「チッ! セリャアアッ!!」

 

と、不意を衝く様に、白狼は空中回し蹴りを繰り出す。

 

「ヘッ!!」

 

しかし、その蹴りが当たるかと思われた瞬間に、蟷斬の姿が消える。

 

「!?」

 

「上だっ!!」

 

「!!」

 

そこで上から声が振って来たので白狼が見上げると、自分よりも高く跳躍していた蟷斬の姿を確認する。

 

「そらぁっ!!」

 

そして蟷斬は、回し蹴りを繰り出した白狼の右足を斬り付ける!!

 

「!!?!」

 

右足に鋭い痛みを感じ、白狼は態勢を崩し、地面に叩き付けられて転がる。

 

「ッツゥッ!」

 

斬られた部分を右手で押さえながら身を起こす白狼。

 

当然、右足の動きも鈍くなっている………

 

「良い様だな、ベオウルフ………」

 

着地を決めた蟷斬は、そんな白狼を見下ろしながらそう言い放つ。

 

「お前を倒せば俺の名も上がる。後はこの試合に勝ちさえすれば黒森峰の栄誉も復活する。そうすれば次の歩兵隊長はこの俺だ。俺が最強の黒森峰を復活させるんだ!!」

 

気を良くし始めたのか、何やら語り出す蟷斬。

 

「テメェなんざ所詮は通過点に過ぎねえっ! 俺は何れ黒森峰、いや歩兵道の歴史に名を残す男となる! それに必要なのは邪魔者を全て叩き潰す力だ! 圧倒的な力こそ強者の証だ!!」

 

「………ゴチャゴチャ煩いぞ」

 

「! 何ぃっ!?」

 

と、不意に白狼がそう言い、蟷斬は一転して怒声を漏らす。

 

「さっきから何を聞いてもねぇ事をベラベラとくっちゃべってるんだ………俺はテメェの事になんざ、全く興味がねえ」

 

そう言いながら、鈍い手足を半ば無理矢理に動かして立ち上がる白狼。

 

「貴様あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

忽ち激昂する蟷斬。

 

(コイツにだけは………死んでも負けねえ)

 

一方、白狼の方はそう考えながらも、心は驚く程に落ち着いていた。

 

「………スーッ………ハーッ………スーッ………ハーッ………」

 

やがて、深呼吸を繰り返し始める白狼。

 

「貴様だけは許さん! くたばりやがれえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

そこで蟷斬が、激高したまま白狼へと襲い掛かる。

 

「………スーッ………ハーッ………スーッ………ハーッ………」

 

しかし白狼は、深呼吸を繰り返し、動こうとしない………

 

そして次の瞬間!!

 

「ジークハイルッ!!」

 

勝利万歳の掛け声と共に、蟷斬は右手のナイフを白狼の首筋、左手のナイフを脇腹へと突き刺した!!

 

「!?!?」

 

目を見開き、ピクピクと痙攣する白狼。

 

歩兵道でなければ凄惨な光景だ。

 

「ヘッ………大口を叩いておいてコレか………ざまぁねえな」

 

ナイフを白狼に突き刺したまま、またも蟷斬は馬鹿にする様にそう言い放つ。

 

………と、その時!!

 

蟷斬の腹に、何かが勢い良く当たった!!

 

「!?」

 

驚きながら蟷斬が自身の腹を見やると、何と白狼の右拳が叩き込まれていた!

 

「グ………ア………」

 

何と!!

 

白狼はまだ戦死判定となっていなかった。

 

致命傷ではあるが即死ではなかったのか、呻き声を漏らしながら僅かに身体を捩る。

 

「テメェ!? しぶとい野郎だぜ! けど最後の1撃も無駄だったみたいだなっ!!」

 

「………浸透勁って知ってるか?」

 

「ああん?」

 

「打撃の際に生ずる衝撃を全て相手の体内に炸裂させる秘技だ………多くの気を使う武術で奥義とされている」

 

「!? テメェッ! まさかっ!?」

 

「幾ら硬気功でも、内臓までは堅く出来ねえだろう………」

 

「やめっ………」

 

と、蟷斬がそう言い掛けた瞬間!

 

白狼の拳が当たっている部分から、まるで体内で爆弾が爆発したかの様な衝撃が襲い掛かった!!

 

「!? ゴバァッ!?」

 

溜まらず嘔吐し、その吐瀉物の中へと倒れ込み、気絶する蟷斬。

 

その瞬間に、戦死を告げるブザーが鳴った。

 

「………敵を通過点だなんて考えてる時点でお前は負けてたんだよ。そんな考えで、本気の俺に勝てると思ってたのかよ」

 

そんな蟷斬を見下ろしながら、白狼はそう言い放つ。

 

「やれやれ………こんなマジになるなんて………アイツ等から何か変な影響受けたか………」

 

しかし、白狼もそこで限界が来たのか、バタリと倒れ込んで気絶。

 

戦死判定のブザーが鳴る中、闇に落ちる白狼の意識に………

 

一瞬優花里の顔が過ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

E-100と対峙している三式改とクロムウェルは………

 

「「撃てっ!!」」

 

ねこにゃーと聖子の掛け声で、三式改とクロムウェルが発砲。

 

放たれた砲弾は、全く同じ場所に続けて着弾したが、E-100はビクともしない。

 

「………撃てっ!!」

 

お返しとばかりに、E-100の150ミリ主砲が火を噴く!

 

「! 後退っ!!」

 

「下がってっ!!」

 

再びねこにゃーと聖子が叫ぶと、三式改とクロムウェルが後退。

 

直後に、先程まで2両が居た場所に、E-100の主砲弾が着弾!

 

「「「「「きゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

直撃でないにも関わらず、衝撃波で三式改とクロムウェルの車体が一瞬浮かび上がる。

 

着弾した道路には、大穴が空いている。

 

「だ、駄目ぴよ! とても時間を稼ぐどころじゃないっちゃっ!!」

 

「このままじゃ押し潰されて終わりなりっ!!」

 

その光景を見て、ぴよたんとももがーが悲鳴の様にそう叫ぶ。

 

「クウッ!」

 

ねこにゃーも苦い顔を浮かべるが、打開策は見いだせない。

 

「如何すれば………」

 

一方聖子は、何か手は無いかとペリスコープ越しにE-100の様子を窺う。

 

(うん?………)

 

とそこで、自分達から見て、E-100の左手側が、コンクリートで舗装された崖である事を再度確認する。

 

そしてその次に、みほがマウスを撃破した時の事を思い出し………

 

最後に、子供の頃に見て夢中になり、今でも何度も見返しているアニメの事を思い出す。

 

「! コレだっ!!」

 

「わあっ!? 聖子ちゃん!?」

 

「いきなりなんですかっ!?」

 

そこで聖子は大声を挙げ、伊代と優が驚く。

 

「何か思いついたのか?」

 

「………何か嫌な予感がするんだけど」

 

唯は打開策を思い付いたのかと尋ね、里歌は何か嫌な予感を感じる。

 

「唯ちゃん、里歌さん、こう言うのって、出来るかな?」

 

そこで聖子は、操縦技能の高い2人に思いついた作戦を伝える………

 

「なっ!? 正気かよっ!?」

 

「聖子ちゃん、それは………」

 

「幾らなんでも無理ですよ」

 

それを聞いた唯は唖然となり、伊代と優も出来ないと言う。

 

「や、やっぱり無理かな?………」

 

聖子自身も弱気になるが………

 

「………いや、行けるかも知れないわ」

 

何と嫌な予感を感じていた里歌がそう言って来た。

 

「! 本当っ!?」

 

「オイオイ、マジかよっ!?」

 

「クロムウェルの速度なら可能性は有るわ。エンジンブローも覚悟で出力を挙げれば成功率は高まるわよ………どっちにしろ、一か八かの賭けになるのは変わらないけどね」

 

途端に目を輝かせる聖子と、驚く唯に、里歌はそう言う。

 

「要はやるかやらないかでしょ! じゃあやろうよっ!!」

 

「………ま、そう言うとは思ってたわ」

 

「しゃあねえな………腹くくるか」

 

「全く………貴方はどうしても何時もそうなんですか」

 

「でも、聖子ちゃんらしいよね」

 

聖子が即座にそう返すと、里歌、唯、優、伊代は全員が覚悟を決めた表情となる。

 

「良し! それじゃあ………行くよぉっ!!」

 

そして聖子がそう叫んだ瞬間!

 

クロムウェルが今までに見た事の無い速度で、E-100に向かって突っ込んで行った!!

 

「!? 聖子さんっ!?」

 

「!? 何っ!? あの速度はっ!?」

 

ねこにゃーが驚き、揚羽もクロムウェルの限界を超えたスピードに僅かに動揺する。

 

「(けど、後ろに回ったとしてもコチラの装甲は抜けない筈………)砲塔を旋回っ!!」

 

だがすぐに冷静に、E-100の砲塔をクロムウェルが後ろに回り込むと予測し、旋回し始める。

 

しかし………

 

クロムウェルはその速度のまま、何と舗装されている崖の方へと距離を詰めて行った。

 

「!? 何をする気っ!?」

 

揚羽がそう言った瞬間、クロムウェルの左側面が崖に接触。

 

激しく火花を散らし始める。

 

「エンジン、出力オーバーだっ!!」

 

「行っけええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

唯の声が挙がる中、聖子は叫び、そして………

 

何と!!

 

崖に接触していたクロムウェルが、そのまま垂直の崖を走り始めた!!

 

「!? なっ!?」

 

「せ、戦車の壁走りだっ!!」

 

揚羽が驚愕し、ねこにゃーが叫ぶ。

 

クロムウェルは壁走りをしながら、E-100の頭上を取る。

 

「! マズイッ! 後退っ!!」

 

揚羽は慌てて後退の指示を飛ばすが………

 

「! させないっ!!」

 

ねこにゃーがそう言った瞬間に、三式改が発砲!

 

砲弾がE-100の履帯側面に命中。

 

すると、如何やら榴弾であったらしく、砲弾が派手に爆発!

 

細かな破片が、転輪や駆動輪の隙間に入り込む!

 

途端に、E-100の履帯が鈍い音を立てて止まる。

 

「!? しまっ………」

 

「名付けて! 『カリオストロの城作戦』っ!!」

 

揚羽が言い切る前に、聖子の声でクロムウェルが発砲!

 

砲弾は、砲塔を動かしてしまったので露出していた装甲の最も薄い車体上面部に命中!

 

派手な爆発がE-100から上がる!

 

直後に、クロムウェルも砲撃した事でバランスを崩したのか、崖から落下し、道路に叩き付けられる!

 

一瞬の間の後、E-100、クロムウェル双方から、白旗が上がった。

 

「………まさか戦車に壁を走らせるなんてね………流石はみほちゃんのチームメイトね」

 

燃え尽きた様に車長席に座り込んでいた揚羽は、ペリスコープ越しに地面に叩き付けられて白旗を上げているクロムウェルを見てそう呟いたのだった。

 

「聖子さんっ!!」

 

と、そのクロムウェルの傍に、三式改が付ける。

 

「アイタタタ………ヘルメットしてて良かった」

 

「もう、ホントコレっきりにして下さいよ」

 

「生きてるって素晴らしいね」

 

「相討ちか………悪かぁねえな」

 

「全く………無茶苦茶よ、ホント」

 

そこで、クロムウェルの脱出用ハッチが開いて、聖子達が這い出る様に抜け出して来る。

 

「はあ、良かった………無事だったんですね」

 

「うん、でもゴメン………私達はココまでだよ」

 

「分かりました! 聖子さん達の分まで僕達が………」

 

頑張りますとねこにゃーが言おうとした瞬間………

 

三式改に衝撃が走り、爆発が上がった!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

聖子達とねこにゃー達が驚いた瞬間………

 

三式改から白旗が上がる。

 

「えっ?………」

 

「や、やられたっちゃっ!?」

 

「そんなっ!? 一体何処からなりっ!?」

 

信じられないと言った様に呆然となるアリクイさんチーム。

 

周辺に撃破したE-100以外の戦車の姿は無く、残存黒森峰武装親衛隊員達も、大洗オートバイ兵部隊員達と交戦を続けている。

 

しかし、三式改のエンジン部には確かに砲弾が突き刺さっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三式改が居る場所から数キロの地点に在る立体駐車場の屋上………

 

そこには、真っ赤に染まり、巨大なブレードアンテナを装備したⅣ突………

 

久美の愛車の姿が在った!

 

何と!!

 

Ⅳ突の主砲の射程ギリギリであるこの距離から、正確に三式改のエンジン部を撃ち抜いたのだ!

 

「…………」

 

まだ砲門から硝煙の上がって居るⅣ突のハッチからは久美が腕組みをした状態で姿を見せており、その顔には不敵な笑みが浮かんでいたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

因縁の対決、白狼と蟷斬も決着です。
拳法や気を駆使した格闘になりましたが、最後は人の為に頑張ると言う事を覚えかけた白狼が信念差で勝ちをもぎ取りました。

そしてアリクイさんチームとサンショウウオさんチームはE-100と対峙。
名作『カリオストロの城』からヒントを得た作戦で勝利します。

しかし、生き残っていたアリクイさんチームをまさかの久美が撃破!
いよいよ彼女も動き始めます。

そして次回、小梅がまた危機に!?
それを助けるのは、やはりあの男!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第207話『赤星 小梅さんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第207話『赤星 小梅さんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

「いけない、逸れちゃった………総隊長達は何処だろう?」

 

ラングとパンター、そして黒森峰随伴歩兵分隊を率いていたパンター・小梅車のキューポラから、小梅が姿を覗かせ、辺りを見回している。

 

如何やら、分散している内に本隊から逸れてしまった様だ。

 

「「「「「あっ!?」」」」」

 

と、その前に、数名の大洗歩兵達が現れる。

 

「! 大洗の歩兵っ!?」

 

「ヤバイッ!」

 

「逃げろっ!!」

 

黒森峰随伴歩兵が声を挙げると、大洗歩兵達は一目散に逃げ出す。

 

不意な遭遇であったのだろうか?

 

「待てっ!」

 

「逃がすかっ!!」

 

すぐさま黒森峰随伴歩兵分隊が追撃に入る。

 

「! 待って下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかし、小梅は罠の気配を感じ、黒森峰随伴歩兵分隊を制止する。

 

と、その瞬間!!

 

回転しながら飛んで来た火炎瓶が、黒森峰随伴歩兵分隊から離れたラングに命中!

 

忽ち炎上させる!

 

「うわあっ!? 火炎瓶だっ!!」

 

「しょ、消火器っ!!」

 

車内の黒森峰戦車隊員達が慌てて消火器を取り出そうとしたが………

 

1歩間に合わず、エンジンが炎上したかと思うと爆発。

 

ラングから白旗が上がる。

 

「!? しまったっ!? 狙いは戦車の方!?」

 

それを見た小梅が、慌てながらもすぐに火炎瓶が飛んで来た方向を見やる。

 

「へへっ!」

 

すると、狭い路地でバイクに跨ったまま得意気な顔をしていた弦一郎が、素早くターンして、路地の中へと消えて行く。

 

「追わないで下さい! 随伴歩兵分隊の皆さんは防御陣形で展開! 周辺の建物の陰や狭い路地をクリアリングして下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

小梅はそう指示を出し、黒森峰随伴歩兵分隊は残ったパンター2輌の周辺に展開しながら、周囲の物陰等をクリアリングする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その小梅達が居る場所から少し離れた位置………

 

「随伴歩兵分隊、文月くんを追撃して来ません。戦車の周辺に展開して、辺りの物陰をクリアリングしています」

 

「慎重な相手だ………手強いぞ」

 

火の見櫓の上で双眼鏡を構えて小梅部隊の様子を窺っていた楓の報告に、弘樹はそう呟く。

 

「如何する、弘樹? 分散させなきゃ各個撃破は無理だぞ?」

 

「…………」

 

地市がそう尋ねると、弘樹は顎に手を当てて思案する。

 

「俺迫撃砲持ってるけど、コレで狙ってみるってのは如何だ?」

 

そこで、M2 60mm 迫撃砲を持っていた了平がそう提案して来る。

 

「ふむ、迫撃砲の支援下で突撃を掛けてみると言うにも有りか………相手の戦車がどちらも旋回砲塔なのは懸念事項だが、危険は承知でやるしかない」

 

それを聞いた弘樹が、危険だが迫撃砲の支援下で突撃を行う事を決める。

 

「どの道後はねえんだ。兎に角攻めて攻めて攻めまくろうぜ!」

 

「せや! そうすれば後は西住総隊長はんが如何にかしてくれるわ」

 

海音と豹詑も賛成の意志を示す。

 

「良し、迫撃砲を持つ者は砲撃用意! コレより敵部隊に対し、突撃を敢行する! 腹を括れ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

そして弘樹がそう指示を飛ばすと、大洗歩兵達が自らを鼓舞するかの様に万歳三唱を行うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び小梅達の方では………

 

「周辺のクリアリング、完了しました」

 

「敵の姿は有りません」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

周辺のクリアリングを終えた黒森峰随伴歩兵達が小梅に報告を挙げる。

 

(コチラが警戒していると知って一旦退いた? だとしたら、次に取って来る手は………)

 

小梅がそう思案していると、風切り音が聞こえて来た!

 

「! 迫撃砲です! 注意して下さいっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すぐさまそれが迫撃砲であると見抜いた小梅は、周辺に展開していた黒森峰随伴歩兵分隊にそう叫び、随伴歩兵達は姿勢を低くする。

 

直後に、迫撃砲弾が小梅隊の中へと降り注いで来る。

 

「恐らくコレは突撃の為の火力支援と思われます! 随伴歩兵の皆さんは備えて下さいっ!!」

 

そんな砲爆撃の中でも、小梅は車外へ姿を晒し続けながらそう指示を飛ばす!

 

「赤星さん! 危険ですから車内へ入って下さいっ!!」

 

しかし、そんな様子を心配した装填手からそう声が飛ぶ。

 

「でも、状況が………」

 

「周辺の状況把握は我々が務めます! 戦車隊員に弾が当たる事はありませんが、万が一もあります!!」

 

みほの様に状況を把握し易いと返そうとした小梅だったが、今度は黒森峰随伴歩兵分隊員の1人からそう声が挙がる。

 

「………分かった。お願いね」

 

結局小梅の方が折れ、車内へ引っ込むとハッチを閉じる。

 

その瞬間!

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹の号令と突撃ラッパの音色の元に、小銃に着剣したり、軍刀を手にした大洗歩兵部隊員達が、小梅隊に向かって突撃して来た!

 

「! 来たぞっ!!」

 

「返り討ちにしてやれっ!!」

 

それを確認した黒森峰随伴歩兵分隊は、MP40やMG42を構え、弾幕を張った。

 

「うわあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

バタバタと倒れて行く大洗歩兵部隊員達。

 

「怯むなっ! 突っ込めっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、元より戦死判定覚悟な大洗歩兵部隊員達は、怯まずに突撃を続ける。

 

「! と、止まらないっ!!」

 

「クソッタレめっ! 大洗の連中は皆狂人かっ!?」

 

その光景に、一部の黒森峰随伴歩兵分隊員は戦慄する。

 

そしてそのまま、大洗歩兵隊員達は、黒森峰随伴歩兵分隊員達の中へと雪崩れ込んだ!!

 

「うおおおっ!」

 

「ぎゃあっ!!」

 

1人の大洗歩兵隊員が、小銃に着剣していた銃剣をMP40を構えていた黒森峰随伴歩兵分隊員に突き刺す。

 

「しえあああっ!!」

 

「ぐふっ!!」

 

別の場所では、軍刀を振るい、MG42を持っていた黒森峰随伴歩兵分隊員を斬り捨てている大洗歩兵隊員の姿も在った。

 

「ココまで近づけば!………」

 

と、パンツァーファウストの射程まで近寄る事に成功した地市が、小梅のパンターに向かってパンツァーファウストを構えたが………

 

「!!」

 

小梅はすぐさまその地市の姿に気づき、同軸機銃から弾丸を見舞った!

 

「! うおおおっ!?」

 

地市は全身に銃弾を浴びて倒れ、戦死判定となる。

 

「! 地市っ!!」

 

「舩坂 弘樹! 覚悟ぉっ!!」

 

その光景を目撃した弘樹が声を挙げると、1人の黒森峰随伴歩兵分隊員が着剣したKar98kで突きを繰り出して来る。

 

「!!」

 

だが、弘樹は手にしていた英霊を、突きを繰り出して来た着剣したKar98kに向かって振り降ろす!

 

Kar98kが斬り裂かれ、着剣していた銃剣ごと地面に落ちる。

 

「なっ!?」

 

「せええやぁっ!!」

 

驚く黒森峰随伴歩兵分隊員に向かって、弘樹は燕返しの様に勢いの衰えぬ斬り上げを繰り出す!!

 

「ぎゃああっ!?」

 

斬り上げを喰らった黒森峰随伴歩兵分隊員は一瞬宙に浮かび上がり、そのまま地面に叩き付けられて戦死判定となる。

 

「銃だ! 銃を使えっ!!」

 

と、接近戦では不利だと思った黒森峰随伴歩兵分隊員達は、サブウェポンとして携帯していたルガーP08やワルサーP38を次々に抜き、弘樹に向ける。

 

「!………!!」

 

それを見た弘樹は、周囲を見回し、地面に転がっている2丁のMP40を発見する。

 

「撃てぇっ! 撃てぇっ!!」

 

直後に、黒森峰随伴歩兵分隊員達が拳銃を弘樹に向かって発砲。

 

「!!」

 

だがその瞬間に弘樹は地面に向かって跳び、転がりながら2丁のMP40を回収し、それを構えながら再び立ち上がる。

 

「なっ!?」

 

「………!」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員の1人が驚きの声を挙げた瞬間に、弘樹は両手のMP40の引き金を引く!

 

爆音と共に、パラベラム弾が辺りにばら撒かれる!

 

「ぎゃああっ!?」

 

「ぐあああっ!?」

 

瞬く間に黒森峰随伴歩兵分隊員達が戦死判定を受けて行く。

 

「…………」

 

弘樹は両手のMP40の引き金を引いたまま、黒森峰随伴歩兵分隊員達の中を走り回る。

 

反動が強い為、本来は1丁を両手で保持して撃つ筈の短機関銃を片手で保持して撃ちまくり、尚且つ走り回るなど人間業では無い………

 

だが、その瞬間に、弘樹の傍に榴弾が着弾して爆発!

 

「!!」

 

幸いにも直前に気づき、地面を転がって破片と爆風を避けたが、MP40を2丁ともロストしてしまう。

 

「バケモノめぇっ!!」

 

まだ地面に転がっていた弘樹を踏み潰そうと、パンターが車長の恐慌気味な叫びと共に突撃して来る。

 

「………!!」

 

直前のところで再度地面を転がり、履帯と履帯の間に伏せて、突撃をかわす弘樹。

 

「このぉっ!!」

 

するとパンターの車長はハッチを開けて車外に出て来たかと思うと、機銃架のMG34を弘樹に向ける。

 

だが、そこで銃声が響いたかと思うと、パンターの機銃架のMG34の薬室が撃ち抜かれた!

 

「なっ!?」

 

「…………」

 

驚くパンターの車長を、ラハティ L-39に装着していたスコープ越しに見据えている陣は、リロードを澄ますと、続けて履帯を撃ち抜く!

 

甲高い金属音と共に、パンターの履帯が切断される。

 

「! 履帯がっ!?」

 

「良し、今だっ!!」

 

それを確認した鋼賀が、吸着地雷を手に突撃する!

 

「やらせんっ!!」

 

しかし、すぐにそれに気づいた黒森峰随伴歩兵分隊員が、鋼賀に向かってワルサーGew43半自動小銃を向ける。

 

「させませんっ!!」

 

だが、すぐさま楓がその前に飛び出し、至近距離からウィンチェスターM1912の散弾を浴びせた!

 

「! ぐああっ!」

 

「ナイスアシストッ!!」

 

鋼賀がそう言い、吸着地雷を肉薄したパンターの砲塔側面に仕掛ける!

 

そして転がって離れて地面に伏せると、吸着地雷が爆発!

 

パンターは白旗を上げる。

 

「やったっ!」

 

「よっしゃあっ! 残りは1輌やっ!!」

 

それを見た海音と豹詑が、歓声を挙げながら、残る1輌のパンター………小梅車に向かって突撃する。

 

すると、小梅車の周辺に展開していた黒森峰随伴歩兵分隊員が、まるで道を開ける様に散開する。

 

「! 待て! 2人共っ!!」

 

それに気づいた弘樹が叫ぶが、直後に小梅車の上部ハッチ付近から何かが発射される。

 

発射された何かが、突撃していた海音と豹詑の傍に落ち、爆発する!

 

近接防御兵器による擲弾攻撃だ!

 

「「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

破片を諸に浴びた海音と豹詑は、共に戦死判定となる。

 

「キャニスター弾! 発射っ!!」

 

「ハイッ!」

 

続けて小梅が命じると、砲手が発砲!

 

キャニスター弾が発射され、無数の弾が大洗歩兵達を襲う!

 

「「「「「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

数名の大洗歩兵達が、悲鳴を挙げて戦死判定を受ける。

 

「随伴歩兵部隊は本車の両脇へ展開して下さい! 機関銃で弾幕を張りつつ前進をっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこで再度小梅の指示が飛び、黒森峰随伴歩兵分隊が小梅車の両脇に広がる様に展開する。

 

(やはりあのパンターの車長、かなり出来る………)

 

『舩坂分隊長! 迫撃砲の砲弾が無くなりますっ!!』

 

弘樹が改めてそう思っていると、迫撃砲で援護している大洗歩兵達からそう通信が入る。

 

「分かった………撤退っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた弘樹は、すぐさま撤退を指示。

 

大洗歩兵達は一斉に小梅隊に背を向け、逃走を始める。

 

「逃げるぞっ!」

 

「追撃します! 但し、距離を一定に保って下さい! 罠の可能性も有ります!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それを見た小梅は追撃を命じるが、十分に距離を取る様に促す。

 

「黒森峰部隊、距離を保ちながら追撃して来ます」

 

「………良し、『予定通り』だ」

 

飛彗からの報告を聞いた弘樹がそう呟く。

 

大洗歩兵達は、小梅達に背を向けながら、徐々に分散して狭い路地へと入って行く。

 

「路地へ逃げた歩兵は追わないで下さい。今狙うべきは敵歩兵部隊に指示を出している分隊長です」

 

だが、小梅は路地へと入って行った大洗歩兵達は追わず、全員でまだ弘樹が居る本隊を追い続ける。

 

「何で皆で一斉に路地へ逃げないんだ」

 

「大人数で突撃して来たから、路地へ入り切れないんだろう」

 

すぐに分散せず、徐々に路地へと姿を消して行く大洗歩兵達の様子を、黒森峰随伴歩兵分隊はそう推測する。

 

(何だろう?………嫌な感じがする)

 

そんな中で、小梅は何か嫌な予感を感じる。

 

やがて一同は、歩道橋の掛かった交差点へと差し掛かる。

 

「………良し! 反撃しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

すると弘樹達は、交差点の向こう側に、建物が崩れて散乱したと思われる瓦礫の陰で突如足を止めて踵を返し、小梅隊へ銃撃する。

 

「! 反撃して来たぞ!」

 

「戦車を前へっ! 随伴歩兵部隊は戦車を盾に応戦を! 敵の対戦車兵には注意して下さいっ!!」

 

そこで小梅は、自車を前に出し、黒森峰随伴歩兵分隊を敵の銃弾から守りつつ、対戦車兵を警戒させる。

 

「榴弾装填完了!」

 

「撃てっ!!」

 

更に、主砲に榴弾を装填すると、瓦礫に隠れていた大洗歩兵達に向かって発砲した!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

隠れていた瓦礫ごと吹き飛ばされ、戦死判定となる大洗歩兵達。

 

「喰らえっ!!」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員の1人も手榴弾を投擲し、数人の大洗歩兵達を戦死判定とする。

 

「怯むな! 攻撃を続行せよっ!!」

 

しかし弘樹は、攻撃続行を指示する。

 

(逃げない? トラップを設置しているの? でも、地雷は無い様に見えるけど………)

 

大洗歩兵達が逃げないのを見て、小梅はトラップを警戒するが、地面に地雷を設置している様子は無い。

 

と、そこで………

 

小梅隊が歩道橋の下へと差し掛かったかと思うと………

 

「! 今だっ!!」

 

「爆破っ!!」

 

弘樹が声を挙げ、灰史が何かのスイッチを押す!

 

途端に、小梅達の頭上に在った歩道橋が爆発に包まれる!

 

「!?」

 

「しまった!? 歩道橋を落とす気かっ!?」

 

小梅が上を見上げ、黒森峰随伴歩兵分隊員の1人がそう声を挙げる。

 

しかし………

 

歩道橋からは僅かに瓦礫が落ちただけだった。

 

「な、何だ! 驚かせやがってっ!!」

 

「爆薬の量を見誤ったみたいだな! 凡ミスしやがってっ!!」

 

「ふう………このまま前進を」

 

黒森峰随伴歩兵分隊員達がミスを罵る中、小梅隊は一気に進撃しようとする。

 

すると………

 

「今です! 第2爆破っ!!」

 

灰史がそう叫んだかと思うと、再び手元のスイッチを押す!

 

すると、歩道橋が再び爆発!

 

今度は小梅隊目掛けて崩れて来た!

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「しまったっ!? 最初の爆発はフェイクかっ!?」

 

そう、最初の爆破はトラップが失敗したと思わせる為の偽装爆破だったのである。

 

なす術無く、崩落した歩道橋の下敷きとなる小梅隊。

 

その際に舞い散った粉煙が辺りを覆い尽くす。

 

「撃ち方止めっ!!」

 

そこで弘樹は一旦射撃を中止させる。

 

粉煙はまだ漂っており、小梅隊の様子は確認出来ない。

 

「…………」

 

弘樹は四式自動小銃を構えながらゆっくりと粉煙の方へと接近する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の大洗歩兵達も、其々の得物を構えながら、警戒しつつ接近する。

 

と、大洗歩兵達が間近に迫った瞬間………

 

粉煙内からエンジン音が聞こえて来た!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

弘樹達に緊張が走る。

 

しかし、そのエンジン音は徐々に遠ざかって行く様に聞こえる………

 

「!!」

 

「あ、舩坂分隊長!?」

 

それを聞いた弘樹が、即座に粉煙の中へと突入!

 

歩道橋の残骸を踏み越えて、粉煙の中を抜けて再び道路へと立つと………

 

そこには、エンジン部から僅かに黒煙を上げながらも、遠ざかって行く小梅車の姿が在った。

 

「分隊長! 随伴歩兵の連中は全員下敷きとなって戦死判定ですっ!!」

 

とそこで、粉煙が漸く収まり、歩道橋の残骸を確認していた大洗歩兵の1人がそう報告を挙げて来る。

 

「残りの1輌が逃走した! だが損傷を受けている様だ! 追撃するぞっ! 少しでも敵の戦力を減らすんだっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹がそう命じると、大洗歩兵達が小梅車を追い始める。

 

「! 追って来たっ!!」

 

「車長! 如何するんですかっ!?」

 

小梅がペリスコープ越しにその様子を確認すると、操縦士が悲鳴の様な声を挙げる。

 

小梅のパンターは先程の事での損傷に加え、元々整備状態が良くない事もあり、既に悲鳴を挙げている。

 

逃げ切るのは難しい………

 

「えっと………! そこの土手の向こうへっ!!」

 

必死に考えながら、前方側のペリスコープを覗いた小梅の目に、土手が目に入り、それを越える様に指示する。

 

如何やら、土手で一旦大洗歩兵達の視界から外れる積りらしい。

 

だがこの時、ペリスコープ越しの為に小梅は気づかなかった………

 

今から登ろうとしている土手の彼方此方に………

 

何かがめり込んでいる様な跡が多数在る事に………

 

そして、パンターが土手を昇り始めたその瞬間!!

 

突然大爆発が起こった!!

 

「!!………」

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹は咄嗟に伏せたが、何名かの大洗歩兵が爆風を諸に喰らって吹き飛ばされて地面を転がる。

 

凄まじい爆発で、弘樹達の頭上からは舞い上がった土片が霰の様に降って来る。

 

「な、何だぁっ!?」

 

「恐らく、艦砲射撃で着弾したが不発弾だった砲弾が爆発したんだろう………」

 

鋼賀の声に、弘樹がそう推測を述べる。

 

その推測通り、先程の爆発は、大和と武蔵による艦砲射撃の不発弾が今になって爆発した物だった。

 

やがて、爆煙が収まって行くと、そこには………

 

土手が完全に消し飛び、巨大なクレーターとなっており………

 

その中心に、小梅のパンターが装甲の表面が黒く焼け焦げた状態で横倒しとなっていた。

 

当然、白旗が上がって居る。

 

「何か呆気無い最期だな………」

 

「経緯は如何あれ、撃破した事には変わりない。良し、次に目標を………」

 

了平が小梅車が呆気無い最期で終わったを若干不満そうに呟いたが、弘樹はすぐに気持ちを切り替えて、別の目標を探そうとするが………

 

そこで地鳴りの様な音が聞こえて来た。

 

「? 何だ?………」

 

と、弘樹がそう声を挙げた瞬間………

 

土手の向こう側に在った川と接していたクレーターの端が崩れ、クレーター内に水が流れ込み始める!

 

当然、横たわっているパンターは水没し始める………

 

「! 舩坂さん! 乗員は脱出したんですかっ!?」

 

「いや、まだだ………」

 

飛彗がハッとして叫ぶと、弘樹はそう返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのパンターの車内では………

 

「………う、う~~ん」

 

46センチ砲弾の爆発の衝撃を受けてしまった為、カーボン装甲こそ無事なものの、気を失ってしまっていた小梅が呻き声を挙げる。

 

「ア、アレ?………何が?」

 

ぼんやりとながら意識が覚醒し、焦点の合わない目に薄暗い車内の様子が入って来る。

 

すると………

 

「! 冷たっ!?」

 

手に何か冷たい物が辺り、急激に意識が覚醒!

 

狭い車内でぶつからない様に身を起こしたかと思うと、自車が横倒しになっている事に気づく。

 

そして、手に当たった冷たい物の正体を確かめると………

 

それは、ハッチや様々な隙間から車内へと侵入して来ている水だった。

 

「!? み、水っ!? まさか、水没しているのっ!? 皆! 起きてっ!! 早く起きてっ!!」

 

小梅は慌てて同じ様に気絶していた他の乗員に呼び掛ける。

 

「う~ん………!? 水っ!?」

 

「嘘っ!? 浸水っ!?」

 

それによって意識が覚醒した乗員達も、車内へドンドン侵入して来る水を見て一気に青褪める。

 

「脱出します! 急いでっ!!」

 

小梅がそう言って、キューポラのハッチを開けようとする。

 

しかし、ハッチは僅かに隙間が出来たところで動かなくなってしまう。

 

「!? 開かないっ!?」

 

「赤星車長! コッチも駄目ですっ!!」

 

「コッチのハッチも開きませんっ!!」

 

小梅が叫ぶと、他のハッチを開けようとしていた乗員からも、悲鳴の様な声が挙がる。

 

如何やら、爆発のショックでハッチが歪み、開閉出来なくなってしまった様だ。

 

更に運が悪い事に、パンターはトランスミッションの構造上、第二次世界大戦中では多くの戦車に見られた下部の脱出用ハッチも無い。

 

その間にも、水はドンドン車内へと溜まって行く。

 

「や、やだ! 溺れちゃうっ!!」

 

「救助はっ!? 救助は如何したのっ!!」

 

「誰か助けてーっ!!」

 

「死にたくないよーっ!!」

 

パニックを起こし、泣き叫ぶ乗員達。

 

「ぐうううううっ!」

 

一方小梅は、僅かに動いたキューポラのハッチを開けようと力を入れるがビクともしない。

 

寧ろ隙間が空いたせいで、浸水が速まっている節さえある。

 

「こ、コレじゃあ、あの時と同じに………」

 

小梅の脳裏に、去年の決勝戦で自車が水没した時の事が思い起こされる。

 

(やだ………やだよ………助けて………みほさん………)

 

迫る死の恐怖に、小梅は涙を浮かべ、みほの顔を思い浮かべる。

 

………と、その時!!

 

キューポラのハッチに空いていた僅かな隙間に、何かが挿し込まれた!!

 

「!!」

 

工兵用のスコップだ!!

 

「良し! 抉じ開けろっ!!」

 

「「「「「「「「「「せーのっ!!」」」」」」」」」」

 

車外から大洗歩兵達の声が聞こえたかと思うと、スコップが動いて、梃の原理でハッチを抉じ開けようとする。

 

「もっと土嚢持って来いっ!! 水を塞き止めるんだっ!!」

 

更に、川の水が流れ込んでいるクレーターの端部分でも、大洗歩兵達が土嚢を作ってクレーター内に流れ込んでいる水を塞き止めようとしている。

 

その場に居た大洗歩兵達全員が、一丸となってパンター小梅車の救助作業に当たっている。

 

やがて、スコップの梃で、ハッチが更に僅かに動くと、一旦スコップが抜かれ、誰かが車内を覗き込む。

 

「! みほさん!!」

 

一瞬、覗き込んで居る人物に、みほの姿が重なる小梅。

 

「待っていろ、今助ける」

 

だが、実際に覗き込んで居たのは弘樹である。

 

「! ハ、ハイッ!」

 

小梅が返事を返すと、再びスコップがハッチの隙間に差し込まれ、更に抉じ開けようとする。

 

「もっと力を入れろっ!」

 

「駄目だ! 人力じゃコレ以上は動かないぞっ!!」

 

しかし、抉じ開けようとして更に歪んだ事で、ハッチが一層硬くなり始め、徐々に隙間が出来なくなって行く。

 

「泣き言を言うなっ! 大和魂を見せろっ! 日本男児だろっ!!」

 

泣き言を言う大洗歩兵達を一喝し、全身の力を込めてハッチを抉じ開けようとする弘樹。

 

すると、そこで………

 

「居たっ! 大洗歩兵よっ!!」

 

1輌のヤークトパンターが現れ、弘樹達を発見する。

 

「! 舩坂分隊長! ヤークトパンターが!!」

 

「救助が先だっ!!」

 

それに気づいた大洗歩兵の1人がそう声を挙げるが、弘樹は救助作業を続行せよと言う。

 

「! あのパンターは、赤星の………」

 

一方、ヤークトパンターの車長も、大洗歩兵達が小梅車の救助を行っている事を確認する。

 

「車長! 撃ちますかっ!?」

 

「今なら舩坂 弘樹を仕留められる絶好の機会ですよっ!!」

 

「!!」

 

砲手と装填手からそう声が挙がり、ヤークトパンターの車長は苦悩する。

 

確かに、この状況は大洗のエース歩兵である弘樹を仕留められる絶好のチャンスである。

 

しかし………

 

彼等は今、水没しそうになっている敵である筈の小梅車の乗員をそれこそ命懸けで救助しようとしてくれている。

 

ココで攻撃すると言う事は、去年と同じ事を繰り返す事になってしまう………

 

だが、この試合に負ければ、黒森峰は廃校になる………

 

勝つ為には敵のエース歩兵である弘樹は何としても排除したい………

 

けれども………

 

「う、ううう………」

 

苦悩するヤークトパンターの車長。

 

と、その時………

 

「助けてーっ!!」

 

「!!」

 

小梅車の乗員と思わしき、助けを求める声がヤークトパンターの車長の耳に届く。

 

「照準良し! 何時でも撃てますっ!!」

 

そこで、砲手から砲撃準備完了の報告が挙がる。

 

「! ワイヤーを用意してっ!!」

 

「了か………!? えっ!? ワイヤーッ!?」

 

「私達も救助に参加するよ!!」

 

驚いた砲手に、ヤークトパンターの車長はそう言い放つ。

 

「し、しかし………」

 

「責任は私が取るわ! 操縦手! クレーターの端まで行って! 早くっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

そしてそこで、ヤークトパンターは丁度パンターのハッチが向いている方向のクレーターの端へ移動すると、車体後部にワイヤーの片方を結び、もう片方をクレーター内の弘樹に向かって投げた!

 

「!!」

 

「ワイヤーをハッチに結んでっ!!」

 

「協力感謝するっ!!」

 

そう返すと、すぐさま弘樹は、ワイヤーをパンターのハッチに巻き付ける!

 

「全速前進っ!!」

 

そこでヤークトパンターが発進し、ワイヤーで引っ張ってハッチを引っぺがそうとする。

 

「車長! エンジンが危険ですっ!!」

 

「構わないからアクセル踏み込んでっ!!」

 

整備状況の良くないヤークトパンターのエンジンからは黒煙が上がり始めたが、ヤークトパンターの車長は更にアクセルを踏む様に指示。

 

ヤークトパンターのエンジン音が更に大きくなったかと思うと………

 

『バキャッ!!』と言う金属を引き裂いた様な音が響いたかと思うと、横転していたパンターのハッチが引っぺがされた!

 

そして直後に、ヤークトパンターのエンジンは爆発し、車体上部から白旗を上げる。

 

「開いたぞっ!」

 

「引っ張り出せっ!!」

 

すぐさま大洗歩兵達が、ハッチの引っぺがされたキューポラの搭乗口から、小梅を含めた乗員達を引っ張り出す。

 

「弦一朗! 頼むっ!!」

 

「おうっ! 任せろっ!!」

 

弘樹によって引っ張り出された小梅が、弦一朗に託される。

 

「ちょいとゴメンよ」

 

「えっ?………!? キャアッ!?」

 

弦一朗は小梅をお姫様抱っこで抱き上げると、クレーターを一気に駆け上る。

 

「良しっ! もう大丈夫っ!!」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

爽やかな笑顔で弦一朗がそう言うと、小梅は頬を染めてやや視線を反らしながらお礼を言う。

 

「あ、あの………私、赤星 小梅と言います。お名前をお聞きしても宜しいですか?」

 

「ああ、俺は文月 弦一朗! 全ての学校のヤツと友達になる男だっ!!」

 

「文月………弦一朗さん………」

 

そう語る弦一朗に、小梅は熱っぽい視線を向けるのだった。

 

「良し! 救助完了だっ! 全員、クレーターから離れろっ!!」

 

そこで、パンターの乗員全員の救助が終わり、弘樹がそう言い放つと、大洗歩兵達は一斉にクレーターから脱出する。

 

直後に川の水を塞き止める為に積み上げていた土嚢が崩れ、クレーター内に一気に水が浸入。

 

パンターはアッと言う間に水の底へと姿を消した………

 

「ふう~、紙一重でしたね………」

 

「今回はいつもと別の意味で冷や冷やしましたよ」

 

その様子を見ていた飛彗と楓がそう呟く。

 

「良かった………皆無事で」

 

一方、白旗の上がったヤークトパンターから出て来た乗員の中で、車長が小梅達が無事なのを見て安堵の息を吐く。

 

「ありがとうございました。貴方方の協力のお蔭です」

 

とそこで、弘樹がやって来て、ヤークトパンターの車長達にヤマト式敬礼をする。

 

「気にしないでよ。私は只………去年と同じ過ちを繰り返したくなかっただけだから」

 

「…………」

 

「さ、早く行きなよ。一応、敵同士なんだからね」

 

「………撤収っ!!」

 

弘樹がそう声を挙げると、大洗歩兵達は一斉にその場から撤収を始めた。

 

「………直したばっかりだったんだけどなぁ」

 

そこでヤークトパンターの車長は、まだ黒煙を上げている自車を振り返り、何処か達観した様な顔でそう呟いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

弘樹が率いている歩兵部隊と交戦になった小梅隊。
しかしその最中………
小梅の車両が去年と同じ様に水没の危機に!
当然、弘樹達は救助活動を決行する。
ヤークトパンターの車長の協力もあり、無事小梅達の救助に成功するのだった。

もう小梅はみほと弘樹に頭が上がりませんね。
将来子供が出来たら2人の名前を付けるとか言い出しそうです(笑)

そして、最後に協力してくれたヤークトパンター車長は、台詞からお分かりになった方もいるでしょうが、所謂『直下さん』と呼ばれている子です。
劇場版でも登場しましたので、ひょっとしたら最終章で公式に名前が付くかも知れないので、敢えて直下さんとは呼びませんでした。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第208話『毛路山分隊です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第208話『毛路山分隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

『こちらレオポン。お待たせしました。修理完了です』

 

「了解しました。引き続きHS地点へ向かって下さい」

 

ポルシェティーガーの修理が終わったと聞き、みほはそう指示を飛ばす。

 

『了解~』

 

「みぽりん! 正面に敵フラッグ車っ!!」

 

「!!」

 

そこで沙織がそう報告を挙げ、みほが顔を上げると、パンター1輌と都草を含めた黒森峰随伴歩兵達を連れ立ったまほのティーガーⅠが視界に入る。

 

「麻子さん! 敵フラッグ車の前を掠める様にして左の路地へ!」

 

「任せろ………」

 

すぐさまみほの指示が飛ぶと、麻子はⅣ号を加速させる。

 

「敵正面!」

 

「撃てっ!!」

 

即座に砲撃を命じるまほ。

 

だが、ドンピシャのタイミングでⅣ号は左折し、砲弾はⅣ号を掠める様に外れる。

 

そのまま、左の路地へと突入するⅣ号。

 

まほのティーガーⅠとパンター、都草を含めた黒森峰随伴歩兵達もそれを追撃する。

 

再びフラッグ車をHS地点へと誘導する任務が始まった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

パンター2輌に追撃されていた八九式は………

 

「撃てっ!」

 

追って来るパンターに向かって発砲する八九式。

 

しかし、砲弾はアッサリと弾かれる。

 

「クソーッ!」

 

「もっと火力をっ!!」

 

典子の悔しそうな声と、あけびの切実な叫びが車内に木霊する。

 

「ええいっ! コレ以上あんなブリキ缶に構っている暇は無い!! パンター2号車! 挟み撃ちにするぞっ!!」

 

「了解っ!!」

 

とそこで、痺れを切らしたかの様に片方のパンターの車長がそう言うと、もう1輌のパンターが左側に見えた路地へ左折。

 

そのまま左折した先の道路を右折したかと思うと加速し、姿を隠したまま別のパンターに追われる八九式を追い越す!

 

そして十分に距離を取ったかと思うと右折し、そのまま八九式の前に躍り出た!

 

「! キャプテンッ! 回り込まれましたっ!!」

 

「何っ!?」

 

妙子がそう声を挙げ、典子も先回りしたパンターの姿を確認する。

 

「終わりだ! 八九式っ!!」

 

先回りしたパンターは進路を塞ぐ様に停止しており、主砲を向かって来る八九式に向ける。

 

「コレでチェックメイトだっ!!」

 

更に、追って来ているパンターの主砲も八九式へと向けられる。

 

「! 忍っ! 合図したら壁に突っ込んでも構わないから思いっきり右へ切れ!!」

 

「! ハイ、キャプテンッ!!」

 

とそこで、典子は何かを思い付いた様な顔になり、即座に忍はそれに賭ける。

 

「喰らえっ!!」

 

「撃てぇっ!!」

 

その瞬間!!

 

前と後ろのパンターの主砲が同時に火を噴く!

 

「! 今だっ!!」

 

「ええいっ!!」

 

すかさず典子の指示が飛び、忍は八九式を思いっきり右に切る!

 

八九式はそのまま右手に在った民家の塀を破壊し、更に民家にまで突っ込んだ!

 

そして、パンター達の撃った砲弾は擦れ違い、そのまま対角線上に居たお互いへのパンターへと向かう。

 

「!? あっ!?」

 

「し、しまっ………」

 

た、と言い切る前に、砲弾はパンター達に命中!!

 

爆発が起こると、パンター達は白旗を上げる。

 

「やったぁっ! 同士討ちだっ!!」

 

「流石です! キャプテンッ!!」

 

民家から脱出している八九式のハッチからその姿を晒しながらその様子を見て、典子が歓声を挙げると、あけびも歓声を挙げる。

 

『コチラあんこう! 間も無くHS地点へ突入します! 作戦を最終フェイズへ移行させますっ!!』

 

するとそこで、あんこうチームの沙織の声が通信回線に響き渡る。

 

「! キャプテンッ! 作戦が最終フェイズに入りますっ!!」

 

「いよいよか………よし、私達も………!?」

 

妙子の報告を聞き、典子も最後の踏ん張りに入ろうとしたところ、視界内に粉煙を上げながら向かって来る真っ赤なⅣ突………久美車の存在に気づく!

 

「Ⅳ突! 敵だぁっ!!」

 

「ええっ!?」

 

「こんな時にっ!!」

 

典子が叫ぶと、妙子が驚き、忍も愚痴る様に言う。

 

「牽制しますっ!!」

 

と、あけびが牽制にと、Ⅳ突へ主砲を旋回させ、発砲する。

 

だが………

 

八九式の砲弾がⅣ突に命中するかと思われた瞬間………

 

Ⅳ突の姿がスッと消えてしまう………

 

「!? 消えたっ!?………!? うわあっ!?」

 

典子が驚きの声を挙げた瞬間、八九式に衝撃が走る!

 

何と、消えたと思われたⅣ突が、八九式に体当たりを見舞って来たのだ!!

 

「忍ーっ!!」

 

「ぐうう!!」

 

軽々と弾き飛ばされた八九式だったが、忍の操縦テクニックで如何にか立て直す。

 

「あけび!この際撃ち捲くれっ!!」

 

「ハイ! キャプテンッ!!」

 

そこで典子は車内へと引っ込むと、あけびが撃つのに合わせて次々に砲弾を装填!

 

まるで拳銃の様に、八九式が次々に主砲を発砲する!

 

だが、この連続砲撃も、Ⅳ突は急停止、急発進、急旋回の連続で全て回避してしまう!

 

「何っ!? あの動きっ!?」

 

「通常の3倍の速さで動いていますっ!!」

 

その凄まじい機動に、あけびと妙子が思わず声を挙げる。

 

と、その瞬間………

 

突然Ⅳ突が動きを止める。

 

「「「「!?」」」」

 

典子達が身構えると………

 

「…………」

 

Ⅳ突のハッチが開いて、久美が姿を現した。

 

「! アイツ………」

 

典子がそう言った瞬間………

 

「………フッ」

 

久美は、コレ以上無いくらいのドヤ顔を決めて見せた!

 

「! 忍っ! 突っ込めっ! 車体が小さい分、接近すれば小回りの利くコッチが有利だっ!!」

 

「! 了解っ!!」

 

それに挑発されたかの様に、八九式はⅣ突に向かって突撃する!

 

「見せて貰おうでありますか! 大洗の八九式の性能とやらをっ!!」

 

久美がそう言い放つと、Ⅳ突も八九式に向かって突撃する!

 

「! 右だっ!!」

 

「ハイッ!!」

 

と、典子の合図で忍がレバーを入れ、八九式が右へ切れる。

 

そして同時に、Ⅳ突の左側面に主砲を向ける。

 

「撃てっ!!」

 

至近距離からⅣ突に向かって放たれる八九式の砲弾。

 

だが、Ⅳ突は左の履帯をストップさせると、勢いで八九式の方へと向き直り、砲弾はⅣ突の脇を擦り抜ける様に外れる。

 

「当たらなければ如何と言う事はないであります!」

 

そう久美が言い放つと、今度はⅣ突が発砲!

 

極めて至近に着弾し、八九式の車体が一瞬浮かび上がった!

 

「うわあっ!? 撃て! 撃てぇっ!!」

 

「ハイッ!」

 

一瞬怯みながらも典子は指示を飛ばし、あけびがまたも発砲。

 

だが、Ⅳ突は後退し、八九式の砲弾は地面に突き刺さる。

 

「戦車の性能が戦力の決定的な差ではない………しかし、良く見ておくのであります。実戦と言うのは、ドラマの様に格好の良いものではないのであります」

 

久美が某赤い彗星の台詞を連発する中、再度八九式に向かって発砲するⅣ突。

 

「忍っ!!」

 

「!!」

 

だが、間一髪のところで八九式は発進し、難を逃れる。

 

「我輩もよくよく運の無い女であります」

 

そう言いながら、八九式を後ろから追い縋る久美。

 

「来るぞっ!」

 

「そこぉっ!!」

 

典子が叫ぶと、あけびが砲塔を後方に向け、発砲する。

 

「見える! 我輩にも敵が見えるでありますっ!!」

 

しかし、久美はアッサリ回避すると、反撃に発砲する。

 

「うわっ!?」

 

至近弾で八九式が一瞬浮かび上がり、忍が声を挙げる。

 

「固定砲塔なのに機動戦も問題無いなんて………」

 

「砲塔など飾りです! 偉い人にはそれが分からんのですよ!!」

 

戦車の意義を否定しながら更に発砲する久美。

 

「クッ! 如何すれば………! そうだっ! 妙子! 煙幕の残り! まだ有っただろうっ!!」

 

「! ハイッ! 有りますっ!!」

 

「噴射しろっ! 奴の目を眩ませるんだっ!!」

 

「了解っ!!」

 

典子がそう言うと、妙子が煙幕放出のスイッチを押す!

 

八九式から残っていた煙幕が放出され、辺りを煙が覆い尽くす。

 

久美のⅣ突の姿も、煙の中へと消える。

 

「良し! この間に一旦距離を取って回り込むんだ!!」

 

「了解っ!!」

 

典子が続けてそう言うと、忍が八九式をⅣ突の背後へと回り込ませようとする。

 

「………停車」

 

一方久美は、何を思ったか煙が充満している中でⅣ突を停車させる。

 

「…………」

 

そして一瞬周囲を見回したかと思うと、静かに目を閉じた………

 

周辺からは八九式のエンジン音は聞こえない………

 

しかし、久美はまるで意識を集中させるかの様に目を閉じ続ける。

 

と、その時!!

 

久美の額の辺りで、スパークが走った様に見えた!

 

「! 右35度っ!!」

 

「てゆ~か、予感的中!」

 

そして久美の指示が飛ぶと同時に、茂亜がその方向へⅣ突を旋回させる。

 

「撃つよっ!!」

 

車体が静止した瞬間に冬子が発砲!

 

砲撃が煙幕を切り裂く!!

 

そして、飛翔する砲弾によって切り裂かれた煙幕の先には………

 

八九式の姿が在った!!

 

「「「「えっ!?」」」」

 

アヒルさんチームの驚きの声が挙がった瞬間………

 

Ⅳ突の砲弾は、八九式の右側面に吸い込まれる様に命中!

 

「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」

 

アヒルさんチームの悲鳴が響く中、八九式は勢い余って横に1回転すると、横倒しとなる。

 

そしてそのまま、上にしている側面部から白旗を上げた。

 

「ゲロゲロリ………戦いは非情であります」

 

「流石です~! 部隊長さ~んっ!!」

 

久美がニヒルな笑みを浮かべてそう言うと、玉枝が手放しでそう褒めて来る。

 

「さてと………コレで大洗の戦車は残り2輌………茂亜殿。例の地点へ向かって欲しいであります」

 

「りょ~かい。てゆーか、先見之明?」

 

とそこで、久美はそう指示し、Ⅳ突をある地点へと向かわせるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

他の場所でも………

 

「ゴ、ゴメン、皆………」

 

「Oh no………」

 

倒れ伏し、戦死判定を受けている弁慶とジャクソンがそう呟く。

 

「クッ………」

 

「エ、エース先輩………」

 

「…………」

 

その光景に、エースが苦い顔を浮かべ、勇武が若干慄き、光照も生唾を飲み込む。

 

「フン………この程度か」

 

その倒れている弁慶とジャクソンの傍に立つ義炉太。

 

その右手にはMG42。

 

左手にはMP40が握られている。

 

更に、パンツァーファウスト、フリーガーファウスト、パンツァービュクセ、ワルサーGew43半自動小銃、収束手榴弾、M41火炎放射器等々………

 

全身にコレでもかと言うくらいに武器を携帯している。

 

「何て重武装なんだよ………」

 

「…………」

 

圭一郎がその姿にそう呟き、陣も僅かに目を見開いている。

 

「俺は黒森峰1の武器のスペシャリストだ。戦場に於いて火力は有り過ぎて困る事など無い」

 

武器と同じく全身に携帯している弾薬やら何やらをジャラジャラと鳴らしながら義炉太はそう言い放つ。

 

「武器は状況に応じて適切に運用出来てこそだ。沢山携行すれば良いというものではないだろう」

 

とそこで、大詔が義炉太に向かってそう言い放つ。

 

「貴様………」

 

途端に、義炉太は大詔を睨みつける。

 

「如何やら貴様とはキッチリとケリを付ける必要が有りそうだな」

 

「同感だな………」

 

「何より………」

 

「?………」

 

「貴様の声が気に食わん! 俺の苦手な兄貴に似ていてなっ!!」

 

「妙な因縁を付けられたものだ………」

 

妙に個人的な因縁を付けられながら、大詔はブローニングM1918自動小銃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、別の場所でも………

 

「ソイヤッ!!」

 

「うわあっ!?」

 

1メートル近く有りそうな巨大な風魔手裏剣を投げつけ、武志を戦死判定にする泥川。

 

「東郷さんっ!」

 

「チイッ! 忍術使いはあの覆面だけやなかったんかっ!!」

 

竜真が声を挙げ、大河が舌打ちしながらそう言う。

 

「千霞先輩を破ったのは見事でござった………しかし、この泥川。易々とやられはしないでござるぞ」

 

泥川は右手に小太刀を逆手に握りながらそう言い放つ。

 

「OH my God………」

 

「黒森峰はニンジャの学園っすか!」

 

その様に、ジェームズと正義が若干の戦慄を見せる。

 

「良かろうっ! 黒森峰のニンジャ! お主の生体反応のデータを取りつつ、神の世界への引導を渡してやるっ!!」

 

しかしそんな中で、逆に闘志を燃え上がらせている月人。

 

アドレナリンの過剰分泌か、手にしている日本刀をブンブンと振り回している。

 

「………奇怪な御仁も居られるでござるな」

 

そんな月人の様子に、流石の泥川もリアクションに困るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして更に別の場所にて………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

十河、清十郎、拳龍、逞巳、秀人、俊の面々を中心にした小隊規模の大洗歩兵達が、何やら空地らしき場所の中心で固まっている。

 

遮蔽物も何も無い空き地の中心でジッとしているなど有り得ない事だが、そうしなければならない理由が有った………

 

良く見れば、全員が緊張した面持ちで冷や汗をダラダラと掻いている………

 

「うわああっ! もう駄目だっ! こんなとこでジッとしていたら気が狂いそうだぁっ!!」

 

と、1人の大洗歩兵が、我慢出来なくなった様に一団の中から走って抜け出そうとする。

 

「! オイ、待てっ!!」

 

慌てて俊が止めようとしたが、その大洗歩兵は一団の中から抜け出し、空き地の一角の地面を踏む。

 

その途端!!

 

地面から竹やり………に見立てた竹が飛び出して来る!!

 

「!? ゴフッ!?」

 

真面に喰らった大洗歩兵はバタリと倒れ、戦死判定となる。

 

更に、その大洗歩兵が倒れた地面がカチリと言う音を立てたかと思うと、空き地を薙ぎ払う様に鉄骨が横薙ぎに振るわれる!

 

「! 伏せろっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

十河の号令で一斉に伏せようとする大洗歩兵の一団だったが………

 

「「「「「ぐあああああああっ!!」」」」」

 

反応の遅れた数名が喰らってしまい、ボールの様にブッ飛ばされる。

 

そして、そのブッ飛ばされた大洗歩兵達が叩き付けられた地面には………

 

何と地雷が埋まっており、ブッ飛ばされた大洗歩兵達は全員確実に戦死判定となる。

 

「クソッ! まんまと敵の術中に嵌っちまうなんて………」

 

『クックック~………来流矢様の特製トラップゾーンは如何だ~? 言って於くが、簡単には抜け出せねえぜぇ~』

 

秀人がそう口走ると、如何にも嫌なヤツと言う感じの声で、何処からともなくそう言って来る来流矢。

 

「脱出出来るでしょうか?」

 

「…………」

 

それを聞いて、不安そうにそう尋ねて来る清十郎だったが、拳龍は返事を返す事が出来なかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にその牙を剥いた毛路山小隊。
久美を始め、分隊員達も猛威を振るいます。

しかし、作戦は最終段階。
フラッグ車さえ撃破すれば大洗の勝ちです。
果たして………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第209話『毛路山分隊、突破せよです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第209話『毛路山分隊、突破せよです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

「そらっ!!」

 

義炉太に向かってブローニングM1918自動小銃を発砲する大詔。

 

「甘いっ!」

 

だが、義炉太は重装備とは思えぬ動きでそれを回避。

 

反撃とばかりに、右手のMG42を発砲する!

 

「クウッ!!」

 

大詔は横っ飛びして瓦礫の陰に隠れて凌ぐ。

 

「隠れても無駄だっ!!」

 

すると義炉太は、左手のMP40をパンツァーファウストに持ち替え、大詔を瓦礫ごと吹き飛ばそうとする。

 

「今だっ! 炎苑っ!!」

 

「うおおおっ!!」

 

するとそこで!

 

何時の間にか義炉太の背後に回っていた光照が、バズーカを義炉太に向かってブッ放そうとする!

 

「!!」

 

だが、何と!!

 

義炉太は少しも慌てず、パンツァーファウストを逆手に持ち替えたかと思うと、そのまま光照目掛けて発射した!!

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

直撃を喰らった光照は吹き飛ばされ、黒焦げになって地面を転がったかと思うと、戦死判定となる。

 

「光照っ!! このぉっ!!」

 

光照の仇を取ろうと、勇武が九九式手榴弾を投げつけようとしたが………

 

「フッ………」

 

義炉太は撃ち終えたパンツァーファウストを捨てると同時に、左手にワルサーGew43半自動小銃を握り、勇武に向かって発砲。

 

弾丸は勇武が投げようとしていた九九式手榴弾に命中!

 

「! うわあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

爆発を諸に受け、勇武はバタリと倒れる。

 

「フンッ、他愛も無い………!?」

 

と、そう言った義炉太がグイッと首を動かしたかと思うと、先程まで義炉他の頭が在った位置を2発の弾丸が通過する。

 

「!? 嘘だろっ!? あのタイミングで避けやがった!?」

 

「………!!」

 

その弾丸の主である、物陰に隠れて機を窺っていた圭一郎と陣が驚きを露わにする。

 

「良いタイミングだったな。俺でなければ倒せていただろう………だが!!」

 

すると義炉太は、2人に向かって多数の収束手榴弾を投擲した!

 

「! ヤベッ!」

 

「!!」

 

すぐさま退避しようと物陰から飛び出した圭一郎と陣だったが………

 

「その判断は誤りだな」

 

義炉太はそう言い、右手の武器をフリーガーファウストに持ち替え、自分が投げた収束手榴弾目掛けて発射!!

 

フリーガーファウストの小型ロケット弾が、次々に滞空していた収束手榴弾に命中!

 

連続した爆発と共に、無数の破片が圭一郎と陣に襲い掛かった!!

 

「!? マジかよっ!?」

 

「!?」

 

なす術なく大量の破片を真面に浴びる圭一郎と陣。

 

2人はそのまま地面に倒れると、戦死判定となる。

 

「伊達っ!! 浅間っ!!」

 

「何と言う男だ………」

 

大詔が叫び、エースは義炉太の強さに戦慄を覚える。

 

「言った筈だ。俺は武器のスペシャリストだとな。残るはお前達だけだ」

 

そう言って、義炉太は再び右手にMG42、左手にMP40を握る。

 

「「!!………」」

 

その様子を見て、エースと大詔は僅かに後ずさる。

 

「喰らえっ!」

 

そんな2人に向かって、容赦無くMG42とMP40を発砲しようとする義炉太。

 

………と、その時!!

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

非常にねちっこく、低音でうねる様な独特な叫びと共に、突如現れた竜作が、義炉太を頭上から強襲した!!

 

「!? 何っ!?」

 

義炉太は驚きながらも、素早く後退。

 

竜作は義炉太が先程まで居た位置に着地する。

 

その途端に、義炉太が手にしていたMG42とMP40の銃身がまるでウォーターカッターで切られたかの様に綺麗に切断された!

 

「!? チイッ!」

 

すぐさまそれが目の前に降りて来た竜作の仕業だと察すると、義炉太はガラクタになったMG42とMP40を捨てる。

 

そして右手にワルサーGew43半自動小銃、左手にパンツァービュクセを装備する。

 

「シィィィイィィイィイイィイィアアアアアアア………」

 

すると竜作は、相変わらず独特な叫びと共に、無数の銃剣(バイヨネット)を一斉に義炉太に投げつける!

 

「!!」

 

だが義炉太は、頭上に在った道路の案内標識の付け根をワルサーGew43半自動小銃とパンツァービュクセで撃ち抜き、落下させる。

 

案内標識が義炉太の目に前の地面に突き刺さる様に落下し、竜作が投擲した銃剣(バイヨネット)を受け止める!

 

「喰らえっ!!」

 

無数の銃剣(バイヨネット)が突き刺さった案内標識を、竜作に向かって蹴り飛ばす義炉太。

 

「ハイヤァアアアアアアアアアアァアアアアッ!!」

 

竜作は両手に銃剣(バイヨネット)を構えたまま後ろに大きく跳び退き、回避する。

 

「我等歩兵は神の代理人! 神罰を執行する地上代行者! 我らが使命は! 我が神に逆らう愚者を! その肉の最後の一片までも絶滅する事! エェェェェェイメェェェェェンン!!」

 

そして、義炉太に向かって独特な構えを取ってそう言い放つのだった。

 

「…………」

 

すると、義炉太はそんな竜作をジッと見やる。

 

「…………」

 

対する竜作も、義炉太を見やっている。

 

「………不思議だな。初対面の筈だが、貴様とは浅からぬ因縁を感じる」

 

「奇遇だなぁ。私もだぁ」

 

やがて、2人揃ってそんな事を言い合う。

 

「ならばその因縁………1撃で何もかも一切合切決着を付けてくれようぞ」

 

「クククッククククク、そうでなくては。そうであろうとも。ユダの司祭(ジューダスプリースト)!!」

 

「フハハハハッ! この俺は他の連中とは同じ様に行かんぞ、赤達磨!!」

 

両者共に臨戦態勢へと移行する。

 

「オイ、太田。奴に因縁を付けられたのはコッチが先だぞ」

 

「手を貸すぞ」

 

するとそこで、大詔とエースが、竜作の傍に並び立つ。

 

「邪魔をするな。コイツは私の獲物………」

 

「俺達は確実に奴を倒さねばならん。西住総隊長の作戦を遂行させる為にもな」

 

邪魔をするなと言おうとした竜作の言葉を、大詔はそう言って遮る。

 

「フン、俺は纏めてでも構わんぞ」

 

「その余裕が命取りになる事もあるぞ」

 

義炉太は纏めてでも構わないと豪語し、エースはそんな義炉太を敵ながら戒める。

 

「お喋りはココまでだ………!」

 

しかし、義炉太はそう言い、会話を強制的に打ち切ると、ワルサーGew43半自動小銃とパンツァービュクセを発砲する!

 

「フッ!!」

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「クッ!!」

 

大詔、竜作、エースは3方向に散らばる様に回避。

 

「ぬえああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

最初に仕掛けたのは竜作。

 

両手の銃剣(バイヨネット)を構えて跳躍し、義炉太に斬り掛かる!

 

「!!」

 

義炉太は左手のパンツァービュクセを仕舞うと、代わりにナイフを逆手に持って抜き、竜作の銃剣(バイヨネット)を受け止める。

 

「俺を銃撃戦だけの男だと思うなよ」

 

そう言い放ち、竜作に蹴りをお見舞いする義炉太。

 

「! ぬううううううううんっ!!」

 

竜作は真面に喰らいながらも、空中で姿勢を立て直して着地する。

 

「うおおっ!!」

 

と、そこで今度は、弾が無くなったのか、ブローニングM1918自動小銃を投げ捨て、右手にM1911A1を握り、左手にナイフを持って突撃する。

 

「ほう、CQCか………どれ程のものかっ!!」

 

その構えがCQCのモノである即座に見抜いた義炉太は、右手のワルサーGew43半自動小銃をワルサーP38に代える。

 

「セエアッ!!」

 

先ず左手のナイフを横薙ぎに振るい、義炉太の首を狙う大詔。

 

「フッ………」

 

だが、義炉太は僅かに身を反らして回避する。

 

「!!」

 

大詔は素早くM1911A1を向けたが………

 

「むんっ!!」

 

義炉太は右手のワルサーP38を一旦ホルスターに納めると、M1911A1の上部を掴み、スライドしない様にして発砲出来なくする。

 

「!?」

 

「そりゃあっ!!」

 

「! ぐああっ!?」

 

そのままナイフを掴んだままの左手で大詔の腰ベルトを掴んだかと思うと、回転させる様に投げ飛ばす義炉太。

 

「むんっ!!」

 

とそこで、エースが背後から義炉太に抱き付く様に掴み掛かった!

 

「!!」

 

しかし義炉太は、バッと屈み込み、エースの拘束からアッサリと抜け出す。

 

「!!」

 

「甘いと言っているっ!!」

 

そしてしゃがんだ状態から回し蹴りの様に足払いを繰り出す。

 

「ぐあっ!?」

 

真面に足払いを掛けられたエースの身体が一瞬宙に浮かび、背中から地面に叩き付けられる。

 

「終わりだ………」

 

倒れている大詔とエースに、義炉太は再び右手にワルサーGew43半自動小銃、左手にパンツァービュクセを装備し、銃口を向ける。

 

「「!!」」

 

2人が思わず目を見開いた瞬間………

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

竜作が再び突撃した!!

 

「ぬうっ!」

 

義炉太はワルサーGew43半自動小銃とパンツァービュクセを竜作に向けたが………

 

「ハイヤァアアアアアアアアアアァアアアアッ!!」

 

その引き金が引かれるより先に踏み込んだ竜作が、ワルサーGew43半自動小銃とパンツァービュクセの銃身を斬り落とす!

 

「!!」

 

「貰ったぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

今度こそ貰ったと銃剣(バイヨネット)を振るう竜作。

 

………だが!

 

「チイッ!!」

 

義炉太が舌打ちと共に、ベルトのバックルに手を伸ばしたかと思うと………

 

何と、バックルが変形して、連結された銃身が飛び出した!

 

ナチス・ドイツの仕込み銃『バックルピストル』だ!!

 

「! 何ぃっ!!」

 

竜作が驚きの声を挙げた瞬間、義炉太はバックルピストルを発砲!

 

4発の22口径5.65ミリ弾が、竜作に襲い掛かる!

 

「! ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

4発全ての弾丸が命中し、竜作はバタリと倒れる。

 

「! 太田!!」

 

「しっかりしろっ!!」

 

と、その間に立ち上がって大詔とエースが、すぐさま倒れた竜作を両脇から抱えて、義炉太から距離を取る。

 

「俺にコイツを使わせるとはな………」

 

義炉太はそう言いながらバックルを閉じ、右手にワルサーP38、左手にナイフを握った。

 

「大丈夫か、太田!?」

 

「ぬううう、身体が思う様に動かん………」

 

大詔にそう返しながら、重くなった身体を何とか動かす竜作。

 

奇跡的に急所を外れた為、戦死判定は免れた様だが、重傷判定で身体の動きが著しく制限される。

 

「強い………コレ程までとは」

 

エースからそんな言葉が漏れる。

 

武器の多くを使用不能にしたが、義炉太自身はまだ何のダメージも受けていない………

 

状況は大詔達が圧倒的に不利だった………

 

「………太田、エース。最後の勝負を掛けるぞ。3人で同時に跳び掛かる。もうコレしかない」

 

と、大詔は最早玉砕覚悟の特攻しかないと、覚悟を決める。

 

「それしかないか………」

 

「西住総隊長の為に果てるのは大洗歩兵の本懐………」

 

それを受けて、エースと竜作も覚悟を決める。

 

「………行くぞっ!!」

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

そして大詔の掛け声で、一斉に義炉太に躍り掛かる!!

 

「最後の抵抗か………だが、無駄な事だ!!」

 

義炉太はそう言って、ワルサーP38とナイフを構えて迎撃しようとする。

 

………が!!

 

「!?」

 

足を動かそうとした義炉太だったが、何かに引っ張られ、動かせない。

 

「油断………しましたね」

 

「!!」

 

何と!

 

勇武が義炉太の足を掴んでいた!

 

手榴弾の爆発を至近距離で受けたが、奇跡的にも戦死判定を免れていたのだ!!

 

そして義炉太が大詔達との戦いに気を取られている隙に、這ってコッソリと近寄り、絶好の機会に最後の力を振り絞って足に掴み掛かったのだ!!

 

「ナイスだ、柳沢っ!!」

 

大詔の声が響く中、遂に3人が義炉太を捉える!

 

………だが!!

 

「チイッ! コレまでかっ!!」

 

義炉太がそう言って、戦闘服の上に来ていた軍用コートを脱ぎ去ると………

 

何と、大量の爆薬が至る所に括り付けられた身体が露わになった!

 

「!? 何っ!?」

 

「「「!?」」」

 

大詔達が驚愕した瞬間!!

 

「黒森峰の歩兵は只ではやられんっ!!」

 

義炉太はそう言って、躊躇無く爆薬の起爆スイッチを押した!!

 

その瞬間!!

 

巨大な爆発が、辺り一帯を包み込んだ!!

 

遠方からでも確認出来る巨大な爆煙が立ち上り、やがてそれが晴れたかと思うと………

 

クレーターとなっていた爆心地の中に戦死判定となって倒れ伏せる、義炉太、大詔、竜作、エース、勇武の姿が露わになったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

「我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

お馴染みの絶叫と共に泥川に突撃して日本刀を振り降ろす月人。

 

「フッ!………」

 

だが、その刃が当たるかと思われた瞬間、泥川の姿が煙の様に消えてしまう。

 

「ぬうっ!?」

 

「消えたっ!? 一体何処に!?………」

 

月人が怪訝な顔をし、正義が泥川の姿を探してキョロキョロとする。

 

「!? 桑原ぁっ!! 後ろやぁっ!!」

 

「えっ?………」

 

そこで、突然大河からそう声が挙がり、正義が思わず間抜けた声を挙げてしまうと………

 

その首筋に、冷たい刃が付き付けられた。

 

「!?」

 

「血祀御免っ!」

 

正義の顔が驚愕に染まった瞬間、泥川は躊躇無く、刃を引いた!!

 

「ガッ!?………」

 

バタリと地面に倒れ、アッサリと戦死判定になる正義!

 

「! 正義っ!!」

 

「ヨクモッ!!」

 

すぐさま竜真とジェームズが、泥川に向かって突撃する。

 

「ソイヤッ!!」

 

それを見た泥川も駆け出し、竜也とジェームズは後を追うが………

 

「! は、速いっ!!」

 

「お、追い付けまセンッ!!」

 

大洗切っての俊足を誇る2人を持ってしても、忍者走りで走る泥川には追い付けなかった。

 

「ソイヤッ!!」

 

更に何と!!

 

泥川は近くに在ったビルの壁に向かって跳躍したかと思うと、そのまま垂直の壁を駆け上がり始める!

 

忍者の十八番・壁走りである!

 

「ソイヤッ!!」

 

そして、屋上付近で跳躍し、竜真とジェームズの頭上を取る!

 

「「!!」」

 

「乱れ手裏剣っ!!」

 

そのまま、2人の頭上から無数の手裏剣を跳躍する。

 

「! このぉっ!!」

 

「Fire!!」

 

だが、竜真はPPS-42、ジェームズはウィンチェスターM1912を構え、連続発射される拳銃弾と散弾で、降り注ぐ手裏剣を撃ち落とす。

 

「フッ!………」

 

手裏剣を撃ち落とされた泥川は、そのまま2人から少し距離を開けた背後に着地する。

 

「着地の瞬間は!」

 

「見逃しまセンッ!!」

 

すぐさま着地の瞬間の隙を衝こうと、竜真とジェームズは振り返りながら距離を詰めようとする。

 

と、その瞬間!

 

「!? イダダダダダッ!!」

 

「アウチッ!!」

 

足の裏に鋭い痛みが走って悶絶する。

 

「!? コレはっ!?」

 

「しまった!? 撒菱っ!?」

 

2人の周囲は、撒菱が埋め尽くしていた。

 

如何やら、先程の手裏剣と同時に撒菱も放っていた様である。

 

「ソイヤッ!!」

 

動きが止まった2人に向かって、泥川は跳躍しながら振り返り、右手に出現させた巨大手裏剣をフリスビーの様に投擲する!

 

「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」

 

撒菱によって動きを封じられた2人は為す術も無く直撃を貰い、そのまま戦死判定となった。

 

「モンロー! 疾河! おんどれぇっ!!」

 

大河がその光景に怒りを露わに、トンプソン・サブマシンガンM1928A1を発砲する。

 

「ソイヤッ!!」

 

だが、泥川は残像を残す程の反復横跳びの様な高速移動で距離を詰め、大河を肉薄する!

 

「! チイッ! オリャアアッ!!」

 

近寄られた大河は、M1928A1を投げ捨て、泥川に両手を組んだハンマーパンチを振り降ろす!

 

「左手は………添えるだけ」

 

しかし、そのハンマーパンチを泥川はアッサリと受け止め、そのまま大河を投げ飛ばす!

 

「! おうわっ!?」

 

「御覚悟をっ!!」

 

そして、倒れた大河の首を狙って小太刀を突き下ろそうとしたが………

 

「小生を忘れて何をしておるかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

月人がまたも絶叫と共に突撃して来て、刀を振り降ろす!

 

「! ソイヤッ!?」

 

「!? うおおっ!?」

 

慌てて飛び退く泥川と、月人が振り降ろした刀が目の前で止まり、一気に冷や汗が噴き出す大河。

 

「ふぅん………やるなぁ!」

 

「やるなぁやないで! 危うく斬られるとこだったわぁっ!!」

 

月人が唸ると、大河が起き上がりながらそう抗議する。

 

「フハハハハハッ! 同士討ちなど、戦場の常よっ!!」

 

「それで済ますなっ!!」

 

余り反省の様子の見えない月人に、大河は怒鳴る。

 

「………本当に妙な御仁でござるな」

 

泥川もそんな月人にまたも呆れる様な様子を見せる。

 

「チッ! まあええわい………もう残りは俺等2人だけや。一気に行くでぇ」

 

と、何時までも内輪揉めは出来ないと、大河は若干無理矢理に切り替え、泥川に向かい合いながら月人にそう言う。

 

「良かろう! 神の国への引導を渡してやるっ!!」

 

月人がそう言って日本刀を構えると、大河も無手のまま構えを取る。

 

「「「…………」」」

 

そして3人は睨み合いとなる。

 

緊迫した空気が、3人の間に流れる。

 

と、そこで………

 

何処かで起こった爆発の音が、静寂を破った。

 

「「「!!」」」

 

その瞬間に、3人は一斉に動く!!

 

「うおおおおおっ!!」

 

先ず仕掛けたのは大河!

 

両腕を広げる様にして泥川を掴まえようとする。

 

「ソイヤッ!!」

 

しかし、泥川は高く跳躍して、大河を飛び越える!

 

「行ったでぇっ!!」

 

「逃がすかぁ!」

 

だがそこで、大河の背後に居た月人が、大河の背中を踏み台にして跳躍し、泥川に追い縋り、刀を振るう!

 

「!? ぬうっ!!」

 

泥川は驚きながらも、月人の刀を小太刀で受け止める。

 

が!!

 

月人の余りのパワーの前に、小太刀には罅が入ってしまう!

 

「! 何とっ!!」

 

「絶・好・調であるっ!!」

 

驚愕する泥川に、月人の2撃目が振り降ろされる!

 

「ぬあっ!?」

 

その2撃目を防ぎ切れず、小太刀はバラバラに砕けてしまう!

 

「ソイヤッ!!」

 

だがそこで、泥川は月人に向かって分銅鎖を投げつけた!

 

「!? むおおおっ!?」

 

分銅鎖が身体に巻き付き、簀巻き状態にされてしまう月人。

 

「油断したでござるなぁっ!」

 

そう言いながら着地の姿勢に入ったか泥川だったが………

 

「貴様がなぁっ!!」

 

「ムンッ!!」

 

月人がそう言い放ったかと思うと、簀巻き状態の月人を、大河がまるで寺の鐘を鳴らす撞木の様にキャッチする。

 

「!? 何っ!?」

 

「やれぇっ! 兄弟ぃっ!!」

 

「全く! アンタも大概やなっ! ホンマッ!!」

 

泥川が驚きの声を挙げると、月人と大河はそう言い合い………

 

「喰らええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

大河が、着地しようとしていた泥川に向かって、撞木に構えた月人で頭突きを食らわせに掛かった!!

 

「!? ぐはあっ!?………」

 

真面にその攻撃を喰らう泥川。

 

「よかろう………もう戦いは満喫したぞ、フハハハハ!」

 

一方月人は、武器として扱われた為、衝撃が大きかったのか、戦死判定となる。

 

だが、地面に落ちた泥川も、戦死判定となった。

 

「よっしゃあっ! 絃賀! ようやったで………!?」

 

月人を労う大河だったが、そこで足元に黒い球体………

 

『焙烙火矢』が落ちていた事に気づく!

 

「! アカンッ!………」

 

と、大河が叫んだ瞬間に焙烙火矢は爆発!

 

「ぬおおおっ!!」

 

真面に爆風を喰らって吹き飛ばされた大河は倒れ、そのまま戦死判定となる。

 

「クソッ! 油断したわ………」

 

そう呟いて、大河は気絶したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

毛路山分隊との戦闘開始。
先ずは義炉太戦と泥川戦。

どちらも多大な犠牲を払いながらも撃破に成功したかに見えましたが………
最後の最後で両者共に道連れにして行きました。
ある意味、黒森峰で勝つ事に最も貪欲なのは毛路山分隊の歩兵かも知れません。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第210話『最終局面です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第210話『最終局面です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

その一角の空き地にて………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

相変わらず動くに動けない十河、清十郎、拳龍、逞巳、秀人、俊達。

 

周りには、既に戦死判定を受けて倒れ伏す大洗歩兵達の姿が在る。

 

『クックック~………如何だぁ? 今の気分は?』

 

そんな十河達を文字通り嘲笑う来流矢。

 

「ええい! こうしている間にもフ号作戦は進行しているというのにっ!!」

 

「でも、動けないんじゃどうしようもないですよ」

 

苛立った声を挙げる十河だが、逞巳の言う通り、現状で打てる手は無い。

 

「…………」

 

すると、拳龍が何やら右の拳を見つめながら、何かを思い付いた様な様子を見せる。

 

「………皆、一か八かだけど、やってみたい事があるんだ」

 

そして、皆に向かってそう提案する拳龍。

 

「? 何ですか、杷木さん?」

 

「どの道、手が無いんだ。思い付いた事は試してみろ」

 

「構わねえからやっちまいな」

 

首を傾げる清十郎に、後押しをする秀人と俊。

 

「うん………皆、出来る限り寄り添って固まっていて」

 

拳龍がそう言うと、十河達は更に密集し、スクラムの様に肩を組み合う。

 

『あん? 何をする気だ?』

 

その様子に、来流矢も怪訝そうにしている様子を見せる。

 

「ハアアアアアアァァァァァァァ~~~~~~~~………」

 

そこで拳龍が、目を閉じて構えを取り、気と精神を集中させ始める。

 

そして………

 

「龍・鉄・拳っ!!」

 

必殺の鉄拳を、地面に向かって振り降ろした!!

 

途端に、殴った場所から地割れが辺り一面に広がり始める!!

 

『!? 何っ!?』

 

来流矢が驚きの声を挙げた瞬間に、その地割れによってトラップが次々に作動!

 

爆薬系のトラップまで発動し、周囲のトラップを巻き込みながら大爆発!!

 

空き地一面が、爆煙に包まれ、見えなくなった。

 

「チイッ! まさかトラップを一気に発動させて相殺を狙って来るとはなぁっ!!………けど」

 

とそこで、実は空地の片隅に在った土管の中に隠れていた来流矢が姿を現すと、爆煙が晴れ始め………

 

地面に倒れ伏せ、戦死判定となっている拳龍、十河、秀人、俊の姿が露わになる。

 

「相殺し切れなかったみたいだなぁ………呆気無い幕切れだぜ、クック~」

 

その光景を見て、来流矢は皮肉る様に笑う。

 

と、その時!!

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

まだ晴れ切っていなかった爆煙の中から、着剣したスプリングフィールドM1903小銃を構えた清十郎と、スコップを振り被った逞巳が飛び出して来る。

 

「!?」

 

来流矢は驚きながらも素早く後退!

 

2人の攻撃は空を切る。

 

「クウッ!」

 

「しまったっ!!」

 

「クック~、生き残ってた奴が居たとは驚きだぜ~。けど、奇襲は失敗みたいだな」

 

苦い顔をする清十郎と逞巳に、来流矢は嫌な笑みを見せながらそう言う。

 

「オマケに、態々銃剣やスコップなんかで掛かって来たところを見ると、さっきの爆発で銃器が故障したみたいだな」

 

「「!!………」」

 

来流矢にそう言われて、更に苦い顔になる2人。

 

実際来流矢の推測通り、2人の銃器は先程の爆発で全て故障してしまい、止む無く近接武器で斬り掛かったのである。

 

「さ~て、お次は如何する? 言って於くが、まだトラップは残ってるんだぜ、くっく~」

 

「えっ!?」

 

「アレで全部じゃなかったんですかっ!?」

 

トラップが残っていると言われて、清十郎と逞巳は若干焦った様な様子を見せる。

 

ブラフと言う可能性も有るが、『有るかもしれない』と言うだけで、2人は再び動けなくなってしまう。

 

「クッ! これじゃあさっきと何も変わってないじゃないか………」

 

「無念です………」

 

再び動けなくなってしまった逞巳と清十郎が悔しそうに呟く。

 

「ク~ックックックック~」

 

それを見た得意そうに嫌な笑いをする来流矢。

 

………と、その時!!

 

「見つけたぁっ!!」

 

そう言う声と響いて来た爆音と共に現れたのは、ジープに乗った速人だった。

 

「!?」

 

「玖珂先輩っ!?」

 

「んだよ、またかよ………」

 

突然の速人の登場に驚く逞巳と清十郎に、うっとおしそうな顔をする来流矢。

 

「大は小を兼ねるのか速さは質量に勝てないのか! いやいやそんなことはない! 速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い塊であろうと砕け散るゥゥッ!!」

 

お馴染みの早口でそう叫びながら、速人はジープを空き地に向かって突撃させる。

 

「く、玖珂先輩! 駄目ですっ!!」

 

「この空地にはトラップがっ!!」

 

清十郎と逞巳が慌ててそう叫ぶ!

 

「くっく~、そう言うこった。お前も大人しく止まって………」

 

と、そう来流矢が言い掛けた瞬間………

 

「止まるっ!? この俺が止まるだぁっ!? 断じてNO~~~~~~~~~っ!!」

 

何と速人は更にアクセルを踏み込み、加速して突っ込んで来た!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「ちょっ!? 玖珂さんっ!?」

 

止まるどころか更にスピードを上げて突っ込んで来た速人に、来流矢、清十郎、逞巳が驚愕する。

 

「ハッハッハッ、ハー!」

 

だが、速人はそのまま、3人の元へ突っ込んだ!!

 

その途端!!

 

速人のジープが突っ込んだ地面が大爆発!!

 

「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」

 

その爆発に巻き込まれる来流矢、清十郎、逞巳。

 

とそこで、爆炎の中から何かが飛び出し、来流矢へと向かう!

 

「!?」

 

「衝撃のぉっ! ファースト・ブリットッ!!」

 

そして爆発で空中に浮かび上がっていた来流矢に、跳び蹴りを叩き込む!

 

「ぐげえっ!?」

 

真面に喰らった来流矢は、地面に叩き付けられたかと思うとバウンドし、再び地面に落ちた!

 

戦死判定を告げるブザーが鳴り響く。

 

「ドラマチーック! エスセティーック! ファンタスティーック、ラーンディーングー!!」

 

速人の方はトリップしたかの様な台詞を吐きながら着地を決める。

 

そしてその瞬間に戦死判定が下る。

 

「イカンイカン………世界を縮め過ぎてしまったか」

 

「何がですか………」

 

「もうやだ………こんな生活」

 

まるで他人事の様にそう呟く速人に、同じく戦死判定となった清十郎がツッコミを入れ、逞巳がさめざめと涙を流す。

 

「後先考えねえ………ああ言う馬鹿が1番厄介だぜ………ガクッ」

 

一方来流矢は、そんな恨み言にも似た事を呟いて気を失ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その頃………

 

みほの総隊長車兼フラッグ車であるⅣ号は………

 

「間も無くHS地点。レオポンさん、今何処ですか?」

 

『此方レオポン、HS入りました』

 

間も無く目標のHS地点に入ろうとしたところでみほはレオポンさんチームにそう問い、ナカジマから既にHS地点に入ったとの報告を受ける。

 

『西住総隊長、神大だ。歩兵部隊も既に配置完了している』

 

更に続けて、歩兵部隊の総隊長である迫信からもそう報告が入る。

 

「了解しました。最終段階に入ります。レオポンさんチームは007地点に入って下さい」

 

『ハ~イ』

 

みほの指示に従い、レオポンさんチームがある地点へと向かう。

 

HS地点………

 

それは、学校と思われる建物が建っている場所だった。

 

その敷地の中を走っていたⅣ号は、ある建物に開いていた入り口へと入り込む。

 

それを追って、黒森峰機甲部隊の総隊長車兼フラッグ車であるまほのティーガーⅠも、建物内へ侵入する。

 

「! まほ! 待てっ!!」

 

少し遅れていた随伴歩兵分隊の都草がそう叫び、すぐに自分達も建物内へと突入しようとしたが………

 

「撃ち方始めっ!!」

 

そこで迫信の号令が響き、建物の各階に姿を隠していた大洗歩兵部隊員達が一斉に姿を見せ、窓から黒森峰機甲部隊に対し弾幕を繰り出した!

 

「「「「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」

 

1番先を走っていたキューベルワーゲンに乗って居た黒森峰歩兵隊員達が、キューベルワーゲンごと蜂の巣にされ、戦死判定となる。

 

「撃てっ!」

 

更に駄目押しとばかりに、建物の1階の一部を崩し、簡易砲座として据え置いていた野戦砲を水平射撃して、キューベルワーゲンを吹き飛ばす!

 

「! 後退っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

都草が叫ぶと、まほの随伴歩兵分隊は後退して距離を取る。

 

その直後に、現れたレオポンさんチームのポルシェティーガーが、その車体を使って、建物の内部へと繋がっている通路の入り口を塞いだ!

 

「!? しまったっ!?」

 

都草がそう声を挙げた瞬間に、ポルシェティーガーが発砲!

 

「! キャアッ!?」

 

砲弾はまほに追従して来ていたパンターの至近に着弾し、パンターがその動きを止める。

 

「総隊長が孤立したぞ!!」

 

「そんなっ!?」

 

「コレが大洗の狙いか………」

 

黒森峰機甲部隊に動揺が走る中、都草は苦い顔でそう言い放つ。

 

「全員、この場を死守せよ! 西住総隊長が敵フラッグ車を撃破するまで鼠1匹通すなっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その場の指揮を取る迫信がそう叫び、大洗歩兵部隊とレオポンさんチームは、みほがまほを撃破するまでの時間稼ぎを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そのみほは………

 

Ⅳ号が突入した通路は、校舎の様な建物の中庭へと続く通路であり、車輌が通れる出入り口は先程レオポンさんチームが塞いだ場所しかない。

 

この場所で1対1となり、まほとの一騎打ちに持ち込み、撃破する事こそがフラフラ作戦の最大の狙い………

 

………の筈だった。

 

(お姉ちゃんと1対1………不安が無いって言えば嘘になるけど、皆が私を信じてココまでやってくれたんだ………必ず勝つ!)

 

尊敬する姉との一騎打ち………

 

様々な思いを抱えながらも、自分を信じてくれている大洗機甲部隊皆の為に勝つ事を誓うみほ。

 

そしてその決意を抱えたまま、四方を建物に囲われた中庭へと突入する。

 

そこで………

 

「!? 停止っ!!」

 

「!!」

 

みほが慌てて叫び、麻子もすぐさまブレーキを掛けた!

 

急制動で停止するⅣ号。

 

そのキューポラから姿を晒しているみほの目には、信じられないモノが映っていた。

 

それは………

 

「ゲロゲロリ………やはり此処に来たでありますか、みほ殿」

 

まるで自分達が来る事を分かって居たかの様に、中庭で待ち構えていた久美のⅣ突の姿だった。

 

「久………ちゃん」

 

「! 久美っ!?」

 

みほが驚きを隠せない様子で居ると、Ⅳ号に続く様に中庭へと侵入して来たティーガーⅠのまほも、久美の姿を認めて驚きを示す。

 

完全に遂行出来たかと思われた『フラフラ作戦』………

 

だが、久美はみほの作戦を読んでいた………

 

一騎打ちの筈が、2対1の状況となり………

 

大洗機甲部隊は一気に窮地に立たされた………

 

………かに思われたが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗の支援校である一航専と呉校の戦っている駿河湾と相模湾………

 

その駿河湾の上空では………

 

「貰ったっ!!」

 

六郎がそう言い放ち、操縦桿の引き金を引くと、烈風の翼の機銃が火を噴く。

 

その機銃弾がハインケル He111に次々と命中。

 

「クソッ! 駄目だっ!!」

 

パイロットの悪態が響くと、強制離脱装置が作動し、ハインケル He111は戦場となっている空域から離脱して行く。

 

「…………」

 

「オラオラッ! 落とすぞぉっ!!」

 

「そこっ!」

 

「もらったっ!」

 

「チャンスは逃さんっ!!」

 

メビウス1とラーズグリーズ隊も、次々とJu88やDO 217を撃墜して行く。

 

「クッ! やはり雷撃機でなければ、艦船に効果的な攻撃は出来んのか!?」

 

次々に強制離脱して行く友軍機を見ながら、1機のHe111のパイロットがそう声を挙げる。

 

通常、第二次世界大戦中の軍用機で………

 

艦船攻撃に最も有効な機体とされるのは、魚雷を搭載出来る『雷撃機』である。

 

喫水下に魚雷を叩き込めば、どんな艦船でも大ダメージを受ける。

 

しかし、航空魚雷に力を入れていなかったドイツでは雷撃機の開発もそれほど行われず、一部の爆撃機に魚雷も装備出来る様に改造を行ったぐらいである。

 

それ等の機体は皆双発の大型機であり、機動性は悪かった。

 

ならばと通常の爆撃機で艦船攻撃をと考えた黒森峰だったが、爆撃は一定高度を取らなければ行えない。

 

その為、黒森峰航空部隊の攻撃部隊は、一航専の戦闘機部隊の前に次々と屠られて行く。

 

「オノレェッ!!」

 

「好き勝手をしやがってっ!!」

 

対する黒森峰校戦闘機部隊の『メッサーシュミット Bf109』や『フォッケウルフ Fw190』も、一航専の戦闘機部隊を叩き落そうと躍起になるが………

 

「敵機接近!」

 

「良し! 高度を下げろっ!!」

 

戦闘機部隊が襲って来ると、一航専の戦闘機部隊は必ず高度を下げる行動に出た。

 

それは………

 

「クソッ! またかっ!?」

 

「アイツ等は全員イカれてるのか!?」

 

黒森峰校戦闘機部隊員達がそんな声を挙げる。

 

高度を下げた一航専の戦闘機部隊の周りには、敵味方艦隊を問わずに撃ち上げられてる対空砲火の弾幕が煌めいている。

 

格闘戦を得意とする日本軍機を使用している一航専に対し、黒森峰戦闘機部隊の両機は一撃離脱戦法を得意としていた。

 

その対策として一航専が取ったのは、何と敢えて対空砲火の中を飛ぶと言う狂気の沙汰だった。

 

例え一撃離脱が得意であったとしても、攻撃の際には機銃の射程まで接近しなければならない。

 

だが、対空砲火がバンバン撃ち上げられている空域に突入すれば、どんなベテランであっても動きが鈍る。

 

にも関わらず、一航専戦闘機部隊はまるで自分達には弾は当たらないとでも言う様に、機体のトップスピードを維持して飛び続けている。

 

本当に正気の沙汰では無い。

 

「ええいっ! 奴等に出来て我々に出来ぬ筈があるかっ!!」

 

と、1機のBf109が痺れを切らした様に、対空砲火の中の一航専戦闘機部隊へと向かった!

 

「! ま、待てっ!!」

 

編隊長が止めるが、既に突っ込んだBf109の周辺は、無数の対空砲火の弾幕が包み込んでいる。

 

「わ、わわっ!?」

 

そんな状態で平静で居られる筈も無く、操縦が荒くなるBf109。

 

「その隙は逃さんっ!!」

 

直後に、六郎の烈風が捻り込みでBf109の後ろを取った!

 

「!? しまっ………」

 

た、と言い切る前に烈風の機銃が火を噴き、穴開きチーズにされたBf109の脱出装置が作動し、パイロットの居なくなった機体は火を噴きながら錐揉みして墜落して行く。

 

「各員、現状を維持して、敵の攻撃機を優先的に狙えっ! 我々の任務は艦隊防空だっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

隊員達から返事が返って来るのを聞きながら、艦隊防空に徹する六郎。

 

と、その時………

 

1機の零戦が、機銃らしき攻撃を受けて蜂の巣にされる!

 

「うわっ!? だ、脱出っ!!」

 

パイロットが脱出した直後に、蜂の巣にされた零戦が空中で爆散する。

 

「!!」

 

その様子を見た六郎の視線の中を高速で飛行する複数の物体が通り過ぎて行く。

 

「!? アレはっ!?」

 

「! ヤバイッ!!」

 

その物体を見て、一航専戦闘機部隊員達に戦慄が走る。

 

「来たか………『メッサーシュミット Me262』」

 

六郎がその物体………旧ドイツ軍が、世界で初めて実戦投入し、戦闘したジェット戦闘機と知られる『メッサーシュミット Me262』を見てそう言う。

 

「無理を通して引っ張り出して来た機体だ!」

 

「コレで貴様等に勝ち目は無いぞっ!!」

 

母校の状況が良くない中、色々と手間と金が掛かるジェット戦闘機まで引っ張り出して、正に背水の陣の黒森峰戦闘機部隊。

 

「………それは如何かな?」

 

だが、六郎が不敵にそう言い放ったかと思うと………

 

戦闘空域に、新たに2機の機影が接近して来る!

 

「! 一航専の増援かっ!?」

 

「あの機体は………Me262!?」

 

その2機に気づき、更にそのシルエットがMe262にソックリな事を確認して驚きの声を挙げる黒森峰戦闘機部隊。

 

だが、その機体はメッサーシュミット Me262では無く………

 

それを参考に日本海軍が開発してジェット戦闘機『橘花』だった!!

 

「よし、相棒! 花火の中に突っ込むぞっ!!」

 

2機の橘花の内、右の翼を赤く染めた機体のパイロットがそう言い、各翼端を青色に染めた方と共に対空砲火が咲き乱れる空域へと突っ込んで行く!

 

「頼むぞ………『ガルム隊』」

 

六郎は突っ込んで来た2機の橘花………

 

尾翼に冥府の番犬『ガルム』のエンブレムを描いた『ガルム隊』に向かってそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

来流矢のトラップゾーンで動けない清十郎達だったが、拳龍の賭けと、速人の後先考えない行動で如何のか来流矢を撃破するがまたもや全員戦死判定。

一方、遂にまほとの一騎打ちに漕ぎ着けたかに思えたみほだったが………
何と、久美の待ち伏せに遭う。
しかし、久美は思わぬ行動に出ます。

一方、空の戦いもお互いにジェット機を投入しての一大航空戦に。

次回の冒頭で海戦の様子をチラッと記述し、久美のとる行動を明らかにします。
そしてその後に………
いよいよみほVSまほの戦いとなります。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第211話『毛路山 久美ちゃんです!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第211話『毛路山 久美ちゃんです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駿河湾………

 

「う~む、やはりドイツ艦に攻撃すると言うのは複雑な気分だな」

 

「既に12隻も轟沈判定させといて言う台詞ですか、ソレが」

 

気が乗らない様な事を言いながらも、既に複数の黒森峰艦艇に急降下爆撃を加え、轟沈判定を下させているハンネスに、エグモンドはそうツッコミを入れる。

 

一方………

 

「撃てぇーっ!!」

 

護の号令と共に、大和の主砲が全門火を噴く!

 

飛翔する46センチ砲弾が、次々にアドミラル・グラーフ・シュペーに命中!

 

大爆発が一瞬アドミラル・グラーフ・シュペーの姿を包み込み、やがて爆煙が晴れると、白旗を上げたアドミラル・グラーフ・シュペーの姿が露わになる。

 

「アドミラル・グラーフ・シュペー、轟沈判定!」

 

「艦長! Z1からZ16までは、敵艦載機の攻撃を受けて轟沈! 若しくは航行不能ですっ!!」

 

「プリンツ・オイゲンが潜水艦の魚雷にやられました!!」

 

「我が方の潜水艦隊は、例のモビーディックに攪乱されています!!」

 

黒森峰側の旗艦であるビスマルクの艦橋では、味方艦が戦闘不能になった等と言う報告が次々に挙がる。

 

「クッ! コレが一航専と呉艦隊か!!」

 

ビスマルクの艦長は、彼方此方で黒煙を上げている友軍艦の様子を見て、そう呟く。

 

そしてビスマルク艦長は、視線を大和へと向ける。

 

その大和は再び主砲を発砲!

 

放物線を描きながら飛んで行った砲弾が、デアフリンガーに命中!

 

デアフリンガーの艦橋上部に白旗が上がる。

 

「デアフリンガー、轟沈判定っ!!」

 

「凄まじい………流石は46センチ主砲だ」

 

その様子を見ていたビスマルク艦長は、大和の46センチ主砲の威力に改めて戦慄する。

 

「だが、我等も黒森峰! 後退の文字は無い!!」

 

「大和! 本艦に向けて発砲っ!!」

 

と、ビスマルク艦長がそう言った瞬間に、見張り要員から悲鳴の様な報告が挙がる。

 

「慌てるな! 機関全速! 面舵一杯っ!!」

 

「機関全速! 面舵一杯っ!!」

 

ビスマルク艦長がそう叫び、副長が復唱する中、ビスマルクが全速で面舵を切り始める。

 

急な加速と面舵で、艦体が若干傾くが、ギリギリを維持して面舵を続ける。

 

直後に、大和の主砲弾が、艦尾付近の海に着弾!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

46センチ砲弾は、至近弾でもビスマルクに巨大な振動を走らせる!

 

「被害報告!!」

 

「艦尾Cブロックに浸水発生! しかし極めて軽微! 応急修理完了していますっ!!」

 

ビスマルク艦長が問い質すと、艦尾で浸水が発生したが、既に応急修理を終えたとの報告が入る。

 

「火力と装甲は向こうが圧倒的に上だ! 機動戦に持ち込め! アレだけデカい主砲だ! 取り回しは悪い筈だっ!!」

 

「了解っ!!」

 

ビスマルクはそのまま、大和の主砲が旋回し切る前に、反航戦になる様に位置取る。

 

「主砲! 撃てぇーっ!!」

 

そして、大和目掛けて主砲を斉射する。

 

大和の周辺で次々に大きな水柱が上がる。

 

そして2発の砲弾が、大和の左舷側に命中した!

 

「左舷被弾っ!!」

 

「第三艦橋大破っ!!」

 

「そんな場所無いだろ」

 

「いえ、何か言わなきゃいけない気がして………」

 

大和の艦橋で、艦橋要員達の冗談交じりの報告が響く。

 

「流石に旗艦を務めるだけあって一筋縄では行かないか………総員、気を引き締めろ! ココからが正念場だぞっ!!」

 

そんな中で護は、ビスマルクの乗員達の腕を褒めながら、自艦の乗組員達を鼓舞する。

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

それに対し、大和の乗組員達は勇ましい返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

HS地点・学校跡にて………

 

みほのⅣ号を追って、まほのティーガーⅠが突入した中庭へと続く通路を塞ぐレオポンさんチームのポルシェティーガーに対し、黒森峰戦車部隊の攻撃が加えられている。

 

「ココから先は行かせないよ」

 

しかし、ナカジマがそう言うと、ポルシェティーガーが発砲!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

放たれたのは榴弾だった様で、爆発で黒森峰歩兵達が数人纏めて吹き飛ばされる。

 

「だ、駄目だ! 火力が足りないっ!!」

 

パンターの車長がそう叫ぶ。

 

現在黒森峰戦車部隊の残存車輌は、パンター、ラング、ヤークトパンターが其々1輌ずつ。

 

ティーガーⅠと同等の装甲を持ち、更に敵に対して車体を斜めに傾ける事で避弾経始の効果を作り出す『食事時』を取っている事で、更に防御力の増しているポルシェティーガーを撃破するには若干火力不足であった。

 

「クッ! このぉっ!!」

 

ならばと、対戦車兵の黒森峰歩兵が、パンツァーシュレックを構えるが………

 

「そうはさせないよ………」

 

「!? ガハッ!?」

 

迫信が撃ったスプリングフィールドM1903小銃の弾丸を頭に受け、戦死判定となって倒れる。

 

砲兵が全滅している中、対戦車戦闘で最も頼りになる歩兵は対戦車兵である。

 

大洗側もそれは十分に分かっており、対戦車兵を優先的に狙って弾幕を張っている。

 

戦況は膠着状態だが、それこそが大洗の狙いである。

 

「クッ! まほ………早まるんじゃないぞ」

 

StG44に新たな弾倉を装填しながら、都草はそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

まほ、そして久美と対峙していたみほは………

 

「…………」

 

苦い顔で、嫌な汗を流しているみほ。

 

前方に久美のⅣ突。

 

後方には、まほのティーガーⅠの姿が在る。

 

正に前門の虎、後門の狼である。

 

………この場合、後門の方が虎とも言えるが。

 

「西住流に逃げると言う道は無い。2対1と言うのは多少気が引けるが、この場にて決着を着ける」

 

やがてまほが、みほに向かってそう言い放つ。

 

「!………」

 

その言葉に反応する様に、振り返ってまほの姿を確認するみほ。

 

「ゲロゲロリ………こんな時でも西住流でありますか………まほ殿は相変わらずお堅いでありますな」

 

久美はそんなまほの様子を見て、そんな事を呟く。

 

「私は生まれながらに西住流だ。他の生き方を知らない………だから私は何があろうと西住流でなければならないんだ」

 

そう言い放つまほだったが、その顔には僅かに哀しみの様な表情が浮かんでいる。

 

「お姉ちゃん………」

 

そんなまほの顔を見て、みほも複雑そうな表情を浮かべる。

 

………と、

 

「西住流でなければならないでありますか………割とそうでもないのではないでありますか?」

 

不意に久美は、そんな事を口にした。

 

「? 如何言う意味だ、久美?」

 

「??」

 

久美の思わぬ言葉に、まほもみほも首を傾げる。

 

「いや~、だって、身も心も西住流だってお方が、まさか総隊長室で梶殿とあんな事を………」

 

「!?!?」

 

と、久美がそう言葉を続けた瞬間、まほの顔が一瞬でトマトの様に真っ赤になった!

 

「なななななっ!? 何故それを知っているっ!?」

 

明らかに動揺を露わにしながら久美に問い質すまほ。

 

「ゲロゲロリ、我が分隊にはそう言った事情に詳しい奴が居りますのでなぁ」

 

「! 来流矢かっ!! シャイセッ!!」

 

まほは思わずドイツ語で『チクショウッ!』と叫んでしまう。

 

「否定しないって事は事実なんだ………」

 

「ええ、まさかあのお堅い西住総隊長が………」

 

「意外………」

 

「ヒューヒュー、お熱いですね~」

 

と、話を聞いていたまほのティーガーⅠの乗員達が、まほの意外な一面を知り、驚いた様子を見せたり、囃し立てて来る。

 

「お、お前達!!………」

 

「えっと、お姉ちゃん………その………別に都草さんとの恋愛に口出しする気は無いよ………寧ろお似合いだと思うし………けど、その………学校で、そ、そう言う事するっていうのはちょっと………」

 

何か言い返そうとしたまほだったが、そこでみほがモジモジとしながらそう言って来る!

 

「! 違う! 違うぞ、みほ! 別に総隊長室で事に及んだワケではなくて、チューしてただけ! 大体、アレは都草がせがむから!」

 

「西住総隊長………それ自爆です」

 

「!?!?」

 

誤解を解こうとして逆に自爆してしまった事をティーガーⅠ乗員に指摘され、更に顔を赤くするまほ。

 

「他にも実はブラックコーヒーが超苦手で、皆が見ていないところでは砂糖とミルクをたっぷり入れてカフェオレにして飲んでたり………」

 

「ええっ!? 総隊長! 言ってくれれば良かったのに!!」

 

「うわああ~~~っ!!」

 

まほは頭を両手で押さえてブンブンと降る。

 

半ば錯乱状態である。

 

「それからレトルトの作り方が分からなくてそのまま食べたり、ご飯を炊こうとしておじやにしてしまったり、袋麺をそのままバリバリ食べたり………」

 

だが、久美の暴露話は止まらない。

 

「………変わってないなぁ、お姉ちゃん」

 

「あ、ホントの事なんだ………」

 

そんな久美の暴露話にみほが頷き、沙織が呆れた様に呟く。

 

「極め付けは、ご実家で飼われているペットのワンちゃんと戯れている時、赤ちゃん言葉になって………」

 

と、久美が更に暴露話を続けようとした瞬間!

 

砲撃音が響き渡り、みほのⅣ号を通り越して、久美のⅣ突に砲弾が命中した!

 

「ゲローッ!?」

 

正面装甲に真面に着弾したⅣ突は宙に浮かび上がりながら引っ繰り返り、車外へ姿を晒していた久美は車外へ投げ出される!

 

「ゲエッ!?」

 

そして文字通り蛙が潰れた様な声を出しながら地面に叩き付けられると、Ⅳ突も完全に引っ繰り返った状態となり、底部から白旗を上げた!

 

「ハアーッ! ハアーッ! ハアーッ! ハアーッ!………久美………お前と言う奴は………」

 

羞恥と怒りで顔を真っ赤にして、肩で息をしているまほ。

 

彼女の乗るティーガーⅠの砲門からは煙が上がって居る。

 

「あ、あの………総隊長………御命令でしたから撃ちましたけど、本当に良かったんですか?」

 

とそこで、照準器から顔を離した砲手が、まほを見上げながらそう尋ねて来る。

 

「? 何がだ?」

 

「いや、思いっきりフレンドリーファイヤな上に、折角の2対1の状況を潰してしまったのですが………」

 

「………あ」

 

思わず間抜けた声を挙げるまほ。

 

如何やら、衝動的にやってしまった様で、後先の事を全く考えてなかった様である。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

中庭に奇妙な沈黙が流れる………

 

「………フ、フフフ………アハハハハッ!!」

 

やがて、みほが耐え切れなくなった様に大笑いし始めた。

 

「! み、みほ! そんなに笑う事ないだろう!!」

 

「だって、お姉ちゃん! アハハハッ!! お姉ちゃんがこんなミスするなんて!! ハハハハッ! あー、お腹痛いっ!!」

 

「わ、笑うなーっ!!」

 

腹筋が痛くなって泣きながら笑うみほと、子供の様に手を振って泣き顔で抗議するまほ。

 

((((((((え? 何、この空気?………))))))))

 

西住姉妹の間に流れている和やかな雰囲気に、あんこうチームとティーガーⅠの乗員達は若干疎外感を感じながら置いてけ堀にされる。

 

「ハハハハッ!!」

 

「酷いぞ、みほっ!!」

 

まだ笑うみほに、まほは更に抗議する。

 

「ゴ、ゴメンね、お姉ちゃん………あ~、お姉ちゃんとこんな遣り取りしたの久しぶり」

 

「!!」

 

とそこで、みほがそう呟いた事にまほはハッとする。

 

先程までの雰囲気は、『あの頃』のみほとまほの雰囲気だった。

 

 

 

 

 

幼少時のみほとまほは、とても仲の良い姉妹だった。

 

幼少時から礼儀正しい品行方正なまほに対し、幼き日のみほは活発な少女であったが、2人は何時も一緒に遊んでいた。

 

しかし、西住流の後継者として教練を受ける中、みほは徐々に今の様な内気な性格へと変わって行った。

 

対するまほは特に変わる事も無く、徐々に西住流の後継者としての地位を固めて行く。

 

やがて、内気な性格になったみほと、元来不器用な性格のまほとの間には、僅かな擦れ違いが生じる事となる………

 

そして、みほが黒森峰を去ったのを契機に、2人の関係は完全に気まずいモノとなってしまった………

 

以前、カンプグルッペ学園にまほが拉致された時も真面に会話する事は出来ず、今の今までその関係が続いていた。

 

しかし、久美の暴露話に、まほが思わず衝動的な行動を取った事で、2人は昔の雰囲気を思い出す。

 

 

 

 

 

「………そうだな。確かにこんな風に話し合うのは久しぶりだな」

 

まほは何時の間にか穏やかな顔になり、みほにそう言う。

 

「お姉ちゃん………」

 

久しぶりに見た姉の穏やかな顔に、みほも笑みを浮かべる。

 

「ゲロゲロ………漸く2人で笑い合えたでありますな」

 

するとそこで、何時の間にか起き上がっていた久美が、2人に向かってそう言った。

 

「久ちゃん………」

 

「久美………お前、まさか態とあんな事を………」

 

久美の方を振り返るとみほと、久美が狙ってあんな事をやったのかと勘繰るまほ。

 

「………全校生徒諸君には申し訳無いでありますが、我輩には今の学校の事など然程重要な事では無いであります。例え何処へ行っても誇りさえ有ればそれで黒森峰であります」

 

すると久美は、何処か達観したかの様な顔でそう語り始める。

 

「我輩はみほ殿とまほ殿が普通の姉妹の様に仲良くなって欲しかった………それだけであります」

 

「如何して………」

 

「決まってるであります。我輩はみほ殿の『友達』でありますからな」

 

「! 久ちゃん………」

 

久美の友情に、みほは震える。

 

「………皆、すまないでありますな。付き合わせてしまって」

 

「気にしないでよ、部隊長」

 

「部隊長さんの為なら何だってやるですぅ!」

 

「てゆ~か、一蓮托生?」

 

そこで久美が引っ繰り返っているⅣ突に向かってそう言うと、冬子、玉枝、茂亜が這い出して来ながらそう言う。

 

「………まほ殿」

 

「! あ、ああ………」

 

「もう気負う必要も無いであります。ココからは西住流でも黒森峰の総隊長でも無く………みほ殿の姉の『まほ殿』として戦うであります」

 

「!!」

 

そう言われた瞬間………

 

まほはスーッと肩が軽くなった様な感覚を覚える。

 

「久美………感謝する」

 

「ゲロゲロリ………我輩は只勝手にやっただけであります。さて………後は若い者同士でごゆっくりであります」

 

久美に向かって敬礼するまほと、何処か惚けた様にそう言い返し、仲間達と共に退避する久美だった。

 

「「…………」」

 

久美達が居なくなった後、改めて対峙するみほ。

 

「お姉ちゃん………」

 

「みほ………お前も私も、色々な物を背負ってココまで来た………そうだな」

 

「うん………」

 

「だが、今この瞬間、私はその全てを忘れる!」

 

「えっ!?」

 

「来い、みほ! 昔みたいな戦車道をしようじゃないかっ!!」

 

まほは無邪気に笑い、そう言い放つ!

 

「!………負けないよ! お姉ちゃんっ!!」

 

それに対してみほも、無邪気に笑ってそう返した!

 

「………すまない、皆。私の我儘に付き合ってくれ」

 

そこでまほは、みほを見据えながらティーガーⅠの乗員にそう声を掛ける。

 

「構いませんよ、総隊長」

 

「って言うか、総隊長はもっと我儘になっても良いですよ」

 

「そうそう。何だかんだ言っても、結局は私達と同じ、花の女子高生なんですから」

 

「私も吹っ切れましたよ。もう勝っても負けて恨みっこ無しです」

 

と、まほとみほの空気に当てられたのか、ティーガーⅠの乗員達も笑いながらそう返して来る。

 

「………感謝する」

 

そんなティーガーⅠの乗員達に、まほは心から感謝した。

 

「お姉さんと気まずくなくなって良かったね」

 

一方、Ⅳ号の方では、沙織がみほにそう言って来る。

 

「うん………ココからは、私とお姉ちゃんの純粋な勝負だよ」

 

「お付き合いさせていただきますね」

 

みほがそう言うと、華が照準器を覗いたまま笑顔でそう返す。

 

「この秋山 優花里の命は元より西住殿に預けてあります!」

 

「まあ、勝つ事には変わりはないんだ………やるぞ」

 

優花里と麻子も笑顔でそう言う。

 

「………コレがフ号作戦の最終段階………最後の勝負だよ」

 

そしてそこで、みほは軍神の顔となり、そう宣言したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほとまほ………

 

今、蟠りも柵も超えて………

 

姉妹による、純粋な勝負が始まる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

海戦でも激戦が続く中………
みほとまほの一騎打ちに割って入る形になった久美。
しかし何を思ったのか、久美はまほの暴露話を始める。
羞恥の余り、思わず久美のⅣ突をフレンドリーファイヤしてしまうまほ。
そんなまほの姿を見てみほは笑い、西住姉妹の間に、幼少期の様な懐かしい穏やかさが芽生える………
そして2人は今、全てを忘れ………
純粋に姉妹として、戦車道の対決に臨む!

久美にとってまほは総隊長である前に、友達であるみほの姉。
2人が気まずい関係になっているのに我慢ならなかった彼女は、黒森峰を犠牲にしてでもその仲を修復しようとこんな行動に出ました。
ある意味、究極の友情です。

さて、そんな西住姉妹がいよいよ対決。
次回が最終決戦になりますが、またもや予想外の事態が?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第212話『お姉ちゃんと勝負です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第212話『お姉ちゃんと勝負です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

HS地点の中庭にて………

 

「「…………」」

 

みほのⅣ号とまほのティーガーⅠが、正面を向き合って睨み合っている。

 

2人の車輌は共にフラッグ車………

 

つまり、この戦いを制した方が勝利………優勝となる。

 

正に最終決戦であった。

 

「「…………」」

 

ジッとお互いを見据えているみほとまほ。

 

「「!!」」

 

やがて粗同時に、両者は動き出した!

 

時計回りに相手の戦車を追い始める両者。

 

中庭の開けた場所を1周したかと思うと、みほのⅣ号がそこから離脱。

 

それをまほのティーガーⅠが追う。

 

ティーガーⅠが後ろに付けると、すぐにⅣ号は中庭内の建物に挟まれた通路を右折。

 

「…………」

 

一瞬振り返ってティーガーⅠの姿を確認しながら、その先のT字路で左折。

 

ティーガーⅠに射線を通らせない様にする。

 

その先のT字路で更に左折し、再び開けた場所まで戻るⅣ号。

 

「…………」

 

その姿を見失わない様にしながら追うまほのティーガーⅠ。

 

すると、みほが正面に向き直ったのを確認し、ティーガーⅠの砲塔が左へ旋回。

 

続いて発砲音と爆発音が響いた。

 

「! 榴弾………」

 

爆発音が聞こえた事から、発砲されたのが榴弾である事を察するみほ。

 

「停まってっ!!」

 

すると、みほはⅣ号が再び建物に挟まれた通路に左折した所で停止を指示。

 

その先は、先程ティーガーⅠが発砲した榴弾で建物が崩れ、瓦礫に埋まっていた。

 

「後退して下さい」

 

みほが指示すると、Ⅳ号がゆっくりと後退を始める。

 

「………!!」

 

だがそこで、みほは迫り来るティーガーⅠのエンジン音と履帯が地面を打つ音を耳にする。

 

「全速後退っ!!」

 

すぐさまみほは全速での後退を指示!

 

するとそこで、砲塔を左側に向けたままだったティーガーⅠが、T字路に飛び出して来る!

 

急速後退したⅣ号は、ティーガーⅠの左側面前方に後部から衝突!

 

直後にティーガーⅠが発砲!

 

Ⅳ号の車体左側面前方のシュルツェンが吹き飛ばされる!

 

ティーガーⅠが砲塔を旋回させている間にⅣ号は素早く離脱。

 

一旦車内へ退避していたみほとまほが再び姿を現す。

 

接戦だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

西住姉妹が激戦を繰り広げている中庭への道を護るレオポンさんチームと大洗歩兵部隊は………

 

「クソッ! 弾切れだっ!!」

 

「手榴弾、コレが最後だっ!!」

 

「榴弾が無くなりました! 後は徹甲弾だけですっ!!」

 

長期に及ぶ戦いの後の防衛戦で、弾薬が底を付き始めていた。

 

「歩兵総隊長! 弾切れですっ!!」

 

「コッチもですっ!」

 

しかし、それは黒森峰歩兵部隊も同じである。

 

「うわっ!」

 

「そろそろ持たないよ!」

 

「承知の上だよ」

 

「やれるところまでやるよ」

 

そして、護りの要であるポルシェティーガーにも限界が近づいていた。

 

既に左側の履帯は千切れ、車体の彼方此方には被弾痕や焦げ痕が残っている。

 

「このままでは埒が明かないな………」

 

StG44にまた新たな弾倉を装填しながら、都草がそう呟く。

 

「クソッ! 砲弾が無くなったっ!!」

 

するとそこで、ヤークトパンターの車長からそう声が挙がる。

 

如何やらとうとう砲弾が全て尽きてしまった様だ。

 

「ヤークトパンター、後退してくれ。後は我々が如何にかする」

 

砲弾の尽きたヤークトパンターに、都草がそう呼び掛けるが………

 

「………いえ、私は黒森峰戦車部隊の隊員として、最後の義務を果たします」

 

ヤークトパンターの車長は、何か覚悟を決めたかの様な声でそう言って来た。

 

「何?………」

 

「梶歩兵隊長! 後はお願いしますっ!!」

 

都草が疑問の声を挙げた瞬間!

 

ヤークトパンターが突撃する!

 

「! 待つんだっ!!」

 

都草が叫ぶが、ヤークトパンターは止まらずにポルシェティーガーへと向かって行く。

 

「!? 突っ込んで来るよっ!!」

 

「まさか特攻っ!?」

 

「させないよっ!!」

 

スズキが声を挙げると、ナカジマが驚き、ホシノが特攻してくるヤークトパンターを迎撃しようとする。

 

しかし、何とっ!!

 

ポルシェティーガーへと向かうと思われたヤークトパンターは、直前で急旋回っ!!

 

「えっ!?」

 

「! イカンッ! 上田くん! 退避しろっ!!」

 

ナカジマが驚きの声を挙げると、迫信がヤークトパンターの狙いに気づいて声を挙げる。

 

ヤークトパンターの狙いは、建物の1階部分に陣取った大洗砲兵部隊だった!

 

「! 退避っ!!」

 

紫朗が退避命令を下したその瞬間!

 

ヤークトパンターは建物の1階部分へと突っ込んだっ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

大洗砲兵数名がブッ飛ばされ、火砲の1部も潰される。

 

だが、重装甲とは言え、鉄筋コンクリート製の建物に思いっきり突っ込んだヤークトパンターも無事とは行かず、衝撃で内部機器が破損し、白旗を上げた!

 

「! 突っ込むぞっ! 付いて来れる者は付いて来いっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

とそれにより、大洗側の防御に僅かな隙が生じたのを都草は見逃さず、付いて来れる者達だけを引き連れて、ヤークトパンターが開けた穴から内部へ突入した!

 

「しまったっ!」

 

「突破されたぞっ!!」

 

誠也と明夫からそう声が挙がった瞬間………

 

今度は爆発音が響いたっ!!

 

「「「「「!!」」」」」

 

大洗歩兵達が視線を向けると、そこには白旗を上げたポルシェティーガーの姿が………

 

とうとう限界を迎えた様だ。

 

「今だ! 中庭へ突入よっ!!」

 

すぐに、残っていたパンターとラングが中庭への突入を試みる。

 

しかし………

 

「! だ、駄目ですっ! ポルシェティーガーの残骸が邪魔してっ!!」

 

そう、ポルシェティーガーは中庭への入り口を目一杯塞いで陣取っており、撃破された後もその場に在る事で、突入を妨害していた。

 

「クッ! 回収車はまだなのっ!?」

 

「「「「ゆっくりで良いよ~」」」」

 

焦る黒森峰戦車部隊員達に向かって、レオポンさんチームはそう言い放つ。

 

「クッ………ラングよりパンター! 我々を踏み台に使って下さいっ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

するとそこで、ラングの車長からパンターの車長へそう通信が送られ、ラングがバックでポルシェティーガーの後部・エンジン部へ接触したかと思うと、砲身を下げて文字通り踏み台になる。

 

「早くっ!!」

 

「! すまないっ!!」

 

急かすラングの車長に詫びながら、パンターはラングを踏み台にしてポルシェティーガーを乗り越えようとする。

 

「我々も歩兵部隊、突入だ!! 歩兵である我々なら抜けられるっ!!」

 

残っていた黒森峰歩兵達の方も、ポルシェティーガーを越えての突入を試みる。

 

「水谷くん!」

 

「ハ、ハイ!………レオポンさんチームの皆さん………申し訳ありません」

 

『気にしないで。コレも作戦なんだから。やっちゃって』

 

「…………」

 

するとそこで、迫信が灰史に呼び掛けたかと思うと、灰史はレオポンさんチームに謝罪しながら持っていたスイッチを押した!

 

その瞬間!!

 

ポルシェティーガーが塞いでいた通路の天井部分が爆発!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

瓦礫が、ポルシェティーガーを乗り越えようとしていたパンターと黒森峰歩兵部隊へと降り注ぐ。

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そのままパンターと黒森峰歩兵部隊は瓦礫に押し潰され、中庭への入り口は完全に埋もれてしまうのだった。

 

「良し、後は突入して来た歩兵部隊を………」

 

「小官が行きます………」

 

迫信がそう呟くと、傍に控えていた弘樹がそう言い、突入して来た都草達の迎撃へ向かった。

 

「弘樹、俺も!」

 

「お供します!」

 

「僕も行きますっ!!」

 

それに了平、楓、飛彗が続き、更に数名の歩兵達が続いた。

 

「………頼むぞ」

 

そんな弘樹達の背に向かって、迫信がそう言い放つのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、中庭内では………

 

ティーガーⅠが発砲するが、砲弾は僅かに逸れてⅣ号右側面のシュルツェンの後ろ半分を破壊。

 

続けて発砲するティーガーⅠだったが、今度はⅣ号から外れたシュルツェンを踏んだ事で照準が微妙にズレ、Ⅳ号の砲塔右側のシュルツェンを吹き飛ばすに留まる。

 

ティーガーⅠからの3発目の砲撃は、Ⅳ号が角を右折しようとしたところで放たれたが、みほはコレを読み、右折する直前に一瞬だけ停車して回避。

 

すぐに再発進して右折する。

 

ティーガーⅠも右折し、更にその先の角も右折。

 

再度捉えたⅣ号に向かって発砲するが、コレも外れる。

 

直後にⅣ号が砲塔を後部に向けて発砲して来たが、ティーガーⅠは回避。

 

すぐさまⅣ号はT字路を左折。

 

ティーガーⅠはそのまま前進し、両者は一旦互いに見えなくなる。

 

Ⅳ号は砲塔を今度は右側へと向けながら、次のT字路を右折。

 

そのままT字路を直進したかと思うと、通路越しにティーガーⅠを発見して発砲。

 

ティーガーⅠも発砲して来たが、砲弾は両者共に外れる。

 

真っ直ぐ進んだⅣ号は、砲塔を正面に向けながら角を右折。

 

正面にティーガーⅠが現れ、真っ向から発砲して来たが、ギリギリまで引き付けてかわし、そのまま擦れ違う。

 

ティーガーⅠが左、Ⅳ号が右へと砲塔を向けると、再び通路越しに今度はⅣ号だけが発砲。

 

砲弾はティーガーⅠの車体左側面前部に命中したが、分厚い装甲の前に弾かれてしまう。

 

その際の通路で、今度はティーガーⅠが発砲して来る。

 

Ⅳ号は急減速し、砲弾はⅣ号の正面僅かな距離を掠めて地面に命中。

 

再び加速すると、両者は再び中庭の開けた部分へ突入。

 

お互いの姿が見えた瞬間に、両者共に発砲するが、コレも外れる。

 

「「…………」」

 

そこで両者は、開けた場所の対角線上に位置取り、再度正面を向け合って睨み合いとなる。

 

粗互角の戦いである。

 

しかし、車両スペックとしてはまほのティーガーⅠの方が勝っており、このままでは何れⅣ号の方が追い詰められてしまう。

 

『コチラは神大。黒森峰歩兵部隊の一部が防衛戦を突破した。そちらに向かって居る。注意してくれ』

 

とそこで、迫信から防衛戦を突破されたとの報告が入る。

 

「みぽりん! 敵が近づいてるから急いでっ!!」

 

報告を受けた沙織が、みほへとそう呼び掛ける。

 

「やっぱり1撃をかわしてその間に距離を詰めるしか………優花里さん、装填時間更に短縮って可能ですか!?」

 

「ハイ! 任せて下さいっ!!」

 

みほの指示にやってみせると返す優花里。

 

「行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でも良いので停止射撃の時間を下さい。確実に撃破して見せます」

 

すると華も、プロさながらの台詞を言い放つ。

 

「麻子さん! 全速力で一気に正面から後部まで回り込めますか!?」

 

「履帯切れるぞ」

 

「大丈夫! ココで決めるから………」

 

「分かった………」

 

そして何時もの様に無茶なオーダーにも平然と出来ると返す麻子。

 

遂に、この長い戦いにも決着が着けられようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、建物内へ突入して来た黒森峰歩兵部隊の迎撃に向かった弘樹達は………

 

「撃てっ! 撃ちまくれっ!! 弾薬を使い切っても構わん! 何としても食い止めるんだっ!!」

 

室内に残されていた机やら椅子やらを積み上げて簡易バリケードを作り、中庭へと続く通路を押さえ、弾の続く限り弾幕を張っている弘樹達。

 

「突破しろっ!!」

 

「奴等さえ撃破すればもう中庭だっ!!」

 

だが、黒森峰歩兵部隊も最後の意地とばかりに、取り外した防火扉を数人で支えて押しながら、強引に突破を図って来る。

 

「クソッ! 誰か爆発物はねえのかよっ!?」

 

「もう皆使ってしまいましたよ!」

 

得物の弾薬を撃ち尽くし、二十六年式拳銃で応戦している了平が叫ぶと、飛彗がそう返す。

 

と、そこへ………

 

「兄さんっ!!」

 

そう言いながら、パンツァーシュレックを携えた隆太が現れる。

 

「! 隆太かっ!!」

 

「まだパンツァーシュレックがあったんですか!?」

 

「ハイ! コレが正真正銘最後ですっ!!」

 

楓の問いにそう返す隆太。

 

「何でも良いからブッ放してくれっ!!」

 

「任せといて下さいっ! 行くぞっ!!」

 

了平がそう言うと、隆太がパンツァーシュレックを構え、防火扉を押している黒森峰歩兵達へ向ける。

 

と、そこで………

 

『コチラは神大! 緊急事態だ!!』

 

珍しく焦った様子の迫信から通信が入る。

 

『先程撃破したと思われたパンターが息を吹き返した! 中庭へ突入された! 至急迎撃せよっ!!』

 

「!? 何だってっ!!」

 

「完全に瓦礫に埋もれていたと思ったが………まだ動けたのか」

 

隆太が驚きの声を挙げると、弘樹も苦い顔をする。

 

「隙有りっ!!」

 

と、その隙を見逃さず、防火扉の陰から僅かに姿を見せた1人の黒森峰歩兵が、隆太に向かって発砲した!

 

「!? うわあっ!?」

 

頭に直撃を受け、倒れる隆太。

 

「! 隆太っ!!」

 

すぐに助け起こす弘樹だったが、隆太には戦死判定が下る。

 

「す、すまない、兄さん………コレを………」

 

隆太は申し訳無さそうにしながら、パンツァーシュレックを弘樹に差し出す。

 

「!………」

 

それを受け取る弘樹だったが、まだこの場を離れるワケには行かない………

 

(如何する?………)

 

弘樹が逡巡したその瞬間………

 

掃除用具入れと思われるロッカーが、砲弾の様に飛んで来て、黒森峰歩兵部隊が防壁として使っていた防火扉に命中する。

 

「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

一瞬倒れかけるが、何とか持ち直す黒森峰歩兵部隊。

 

「!!」

 

「………行け。此処は引き受ける」

 

弘樹がロッカーが飛んで来た方向を見やると、そこには同じロッカーを肩に担いでいるシャッコーの姿が在った。

 

「………頼む」

 

パンツァーシュレックをベルトで肩に担ぐと、すぐに突入したパンターの撃破へと向かう弘樹。

 

「…………」

 

それを見送ったシャッコーは、再びロッカーを黒森峰歩兵達に向かって投げつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HS地点・建物内………

 

パンターの撃破へと通路を急いで走る弘樹。

 

と、上へと続く階段が在る場所まで差し掛かると………

 

「………!!」

 

何かを感じて足を止める。

 

「………漸く会えたね。舩坂 弘樹くん」

 

そう言う台詞と共に、教室への入り口から、都草が現れた。

 

「梶 都草………」

 

「待ちわびていたよ。遂に君と戦える日が来た………さあ、存分に戦おうじゃないか」

 

都草はそう言い、StG44を弘樹に向ける。

 

「…………」

 

対する弘樹は、四式自動小銃を手にしているはいるものの構えない。

 

まるで都草の隙を窺うかの様に………

 

「如何した? 来ないならば此方から行くぞっ!!」

 

都草はそう言うと、StG44をフルオートで発砲!

 

「!!」

 

弘樹は素早く階段の陰に身を隠す。

 

「………!」

 

そして、その近くに消火器が在るのに気づく。

 

「…………」

 

一方都草は、リロードを済ませると、慎重にStG44を構えながら弘樹の居る場所に接近する。

 

その瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹は、消火器を両手で掲げ、都草に向かって投げつけた!

 

「むっ!?」

 

咄嗟にStG44で消火器を撃ち抜く都草。

 

すると消火器が破裂し、辺りに白煙が立ち込める。

 

「むうっ! しまったっ!!」

 

都草はそう言いながらも、すぐに壁を背にし、背後からの奇襲を防ぐ。

 

(何処だ? 何処から来る?)

 

神経を研ぎ澄まし、弘樹の気配を察知しようとする都草。

 

しかし、一向にその気配は感じられない………

 

(? 如何言う事だ?………!? しまった!?)

 

一瞬首を傾げた都草だったが、すぐに何かを思い至った様な顔になるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再度、中庭にて………

 

遂にみほとまほの姉妹対決に終止符が打たれようとしていた………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

既に撃破された大洗機甲部隊のメンバーも、固唾を呑んで試合の様子を映しているモニターを凝視している。

 

「この1撃は………皆の思いを込めた1撃………」

 

と、照準器を覗き込む華がそう呟いた瞬間………

 

「前進っ!!」

 

みほの叫びが木霊し、停まっていたⅣ号が前進を始める!

 

まほのティーガーⅠも、それに呼応するかの様に前進する。

 

「練習試合の時は失敗したけど、今度は必ず………」

 

迫るティーガーⅠを見据えながら、そう呟くみほ。

 

やがてⅣ号は、ティーガーⅠの右側へ回り込む様に動き始める。

 

それに対しティーガーⅠは一旦停止し、超信地旋回でⅣ号に対し正面を向け続ける。

 

大きく右旋回を続けるⅣ号。

 

やがてその車体が、ティーガーⅠの方へと向き直り、横滑りを始める。

 

「撃てぇっ!!」

 

その瞬間にみほの指示が飛び、Ⅳ号は発砲!

 

砲弾はティーガーⅠの車体正面左側に命中。

 

ティーガーⅠの超信地旋回が止まる!

 

「撃てっ!!」

 

とそこで今度はティーガーⅠが発砲!

 

だが、被弾の衝撃もあってか、ティーガーⅠの砲弾はⅣ号の砲塔右側面の残っていたシュルツェンを吹き飛ばすだけに終わる。

 

そしてⅣ号は履帯から火花を散らしながら横滑りを続けてティーガーⅠに接近!

 

ティーガーⅠも再び超信地旋回。

 

やがて、Ⅳ号の急激な横滑りに付いて行けなくなった右履帯が千切れ、シュルツェン諸共吹き飛んだかと思うと、転輪までもが脱落を始める。

 

だが、残る左側の履帯だけで、Ⅳ号は横滑り移動を続けながらティーガーⅠに接近。

 

と、その時!

 

「総隊長っ!!」

 

何と、防衛戦を突破したパンターが、中庭へと姿を現した!

 

そして、ティーガーⅠの後方へと回り込もうとしているⅣ号の姿を認める。

 

「! やらせるものかぁっ!!」

 

すぐさま主砲をⅣ号へと向けるパンター。

 

「撃………」

 

て、とパンターの車長が言い放とうとした瞬間!

 

飛来したロケット弾が、パンター車体上部へと命中!

 

「!? うわあっ!?」

 

爆風に煽られ、車内へと落下するパンターの車長。

 

次の瞬間には、パンターから白旗が上がる。

 

そしてその間に遂に、Ⅳ号はティーガーⅠの後部へ回り込む!

 

だが、その時には………

 

ティーガーⅠの砲塔も、後方へと向けられていた!

 

両者は同時に発砲!!

 

爆煙がⅣ号とティーガーⅠを包み込んだ!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

会場に居た全ての人間に緊張が走る。

 

被弾の瞬間は確認出来なかった………

 

一体どちらが勝ったのか?

 

全ての人間がそう思っている中、徐々に爆煙が晴れて行く………

 

そして、左側面の装甲が僅かに抉られているⅣ号と………

 

車体後部に大穴が空き、エンジンから炎を上げているティーガーⅠの姿が明らかになる。

 

「…………」

 

「………強くなったな、みほ」

 

ジッとまほの事を見据えるみほと、微笑みながらそう言い放つまほ。

 

白旗が上がって居たのは………

 

まほのティーガーⅠの方だった。

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能! よって………大洗機甲部隊の勝利っ!!』

 

「「「「「「「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

亜美のアナウンスが流れた瞬間、会場内は割れんばかりの歓声に包まれた!

 

「勝った………のか?」

 

「そうだよ、桃ちゃん!」

 

「優勝だ!」

 

「うがっ!!………」

 

「桃ちゃん?………!? 気絶してる!?」

 

そして、誰よりも喜んでいるのは、生徒会メンバー達だった。

 

コレで大洗女子学園は廃校を免れたのだと………

 

「やったよー! みぽりんっ!!」

 

「わっ!」

 

キューポラから姿を晒したまま暫し茫然としていたみほに、通信手席から飛び出した沙織が、感極まった様に抱き付く。

 

「勝ちましたー!」

 

「私達! 勝ちましたーっ!!」

 

「うん………」

 

華、優花里、麻子も顔を出し、其々に喜びを露わにしている。

 

「勝ったん、だよね?」

 

「うん!」

 

「…………うふっ!」

 

改めて沙織にそう問い、みほも笑顔を浮かべる。

 

「…………」

 

そして、そのまま建物の屋上へと顔を向ける。

 

そこには………

 

「…………」

 

砲煙を上げているパンツァーシュレックを構え、屋上の縁に立っている弘樹の姿が在った。

 

そう………

 

あの時、乱入して来たパンターを仕留めたのは………

 

弘樹だった。

 

もしあのままパンターに攻撃されていれば、試合の結果は変わっていただろう………

 

「…………」

 

みほは笑顔のまま、弘樹に向かって大きく手を振る。

 

「…………」

 

それを見た弘樹は、漸くパンツァーシュレックを降ろし、静かに頷いた。

 

「おめでとう、舩坂くん。君達の勝ちだ」

 

「!………」

 

そこへ背後からそう言う声が聞こえて来て、弘樹が振り返ると、そこには自嘲気味な笑みを浮かべた都草の姿が在った。

 

「梶 都草………」

 

「全く持って不覚だ………この梶 都草、歩兵道の中に於いて歩兵道を忘れた………君との勝負の固執する余り、歩兵の本分………随伴する戦車を護ると言う使命を疎かにしてしまった………」

 

「…………」

 

「勝負に固執した私………飽く迄歩兵であった君………それが勝負を分けた様だね………」

 

皮肉気味にそう言い放つ都草。

 

「決着は付いた………優勝は大洗機甲部隊だ………だが」

 

しかしその瞬間………

 

再び都草に覇気が溢れる。

 

「!………」

 

その覇気を感じた弘樹は、自然と臨戦態勢になった。

 

「私はどうしても………君と戦い………決着を付けたい」

 

と、そこで都草は左手の手袋を外すと、弘樹に向かって投げつけた!

 

「!!」

 

その手袋をキャッチする弘樹。

 

「舩坂 弘樹! 私は、黒森峰機甲部隊・歩兵部隊総隊長として! 歩兵道求道者として!………いや! 1人の男として! 君に決闘を申し込むっ!!」

 

「!!………」

 

「私と戦え! 舩坂 弘樹!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に………

 

大洗機甲部隊は………

 

悲願の優勝を果たした………

 

だが………

 

弘樹と都草………

 

この2人、男と男の決着は………

 

コレから付けられるのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にみほとまほとの戦い………
決勝戦のクライマックスです。
歩兵部隊の攻防も続く中、両者1歩も退かない戦いを見せます。
だが、最後は………
弘樹の助けを受けたみほが、まほを撃破………
大洗の優勝が決まります。

悲願達成………
しかし、都草は弘樹との個人的な決着を着ける為、決闘を申し込む。

この2人の戦いも完全決着にしたかったので、この様な延長戦的な形をとりました。
メタルギアで、最後はスネークとリキッドが殴り合うみたいな感じです。
今回が戦車戦の最終決戦なら、次回は歩兵戦の最終決戦です。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第213話『舩坂 弘樹VS梶 都草です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

第213話『舩坂 弘樹VS梶 都草です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に………

 

長く苦しい戦いの末に………

 

大洗機甲部隊VS黒森峰機甲部隊の戦いは………

 

みほのⅣ号が、姉・まほのティーガーⅠを打ち破り………

 

大洗機甲部隊の勝利………

 

優勝が決まった………

 

だが、しかし………

 

弘樹と決着を付ける事が出来なかった都草は………

 

最後に雌雄を決すべく………

 

弘樹に対して、男として決闘を申し込むのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

陸上自衛隊の東富士演習場・市街地………

 

HS地点・廃校の屋上にて………

 

『お~っとぉっ!? コレは予想外の事態が起こりました!!』

 

『いや~、まさかの延長戦ですか』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の戸惑っている様な実況が響く。

 

「「…………」」

 

一方、当の2人は距離をとって睨み合いをしている。

 

『都草! 何を言っているんだっ! 試合はもう終わったんだぞっ!!』

 

とそこで、都草の通信機から、まほの声が響いて来る。

 

「分かっているさ、まほ。だからこれは………個人的な戦いだ」

 

『駄目だ! 今すぐ武装解除しろっ!! コレは黒森峰機甲部隊総隊長としての命令だっ!!』

 

飽く迄個人的な戦いに臨もうとする都草を止めるまほ。

 

しかし………

 

「………すまない、まほ。コレばかりは君の命令でも聞けないな」

 

『!? なっ!? 都草っ!?』

 

都草は命令を拒否すると、通信機のスイッチを切った。

 

「………舩坂より西住総隊長へ」

 

一方、その遣り取りを見守っていた弘樹は、逆に通信機のスイッチを入れたかと思うと、みほへ通信を繋ぐ。

 

『………西住です』

 

一瞬の間の後、みほの声が返って来る。

 

その語気は重い………

 

「西住総隊長、今の小官の状況は御存じですか?」

 

『うん………』

 

「………交戦許可を下さい」

 

『!!………』

 

弘樹からの交戦許可要請に、みほの身体は一瞬硬直する。

 

「みほ! お前も止めてくれっ! こんな戦いに意味は無いっ!!」

 

と、都草に通信機を切られた為、みほを通して弘樹にも戦いを辞める様に言って来るまほ。

 

「…………」

 

みほは目を閉じ、ジッと何かを考える様な様子を見せる。

 

『………西住より舩坂分隊長へ』

 

やがて目を開くと、弘樹へと通信を送り始める。

 

『交戦を………許可します』

 

「!? みほっ!?」

 

「ありがとうございます………」

 

そして交戦を許可し、まほが驚愕の声を挙げる中、弘樹はみほに感謝する。

 

『けど、1つ約束して下さい』

 

「ハイ………」

 

『………負けないで』

 

「!………了解」

 

みほからそう言われ、弘樹は一瞬驚いた様な様子を見せたが、すぐにいつもの仏頂面になる。

 

「みほ! 何て事をっ!!」

 

「止められないよ、お姉ちゃん………例え神様だって、あの2人の勝負を止める事なんて出来ないよ………」

 

食って掛かって来るまほに対し、みほは何処か悟っている様な様子でそう返すのだった。

 

「「…………」」

 

一方、当の弘樹と都草は………

 

お互いに得物の四式自動小銃とStG44を携えて、相手の事を睨む様に見据えながら、平行に横へ移動している。

 

「先ずは私の果し合いを受けてくれた事に礼を言うよ、舩坂 弘樹」

 

と、横への移動を続けながら、不意に都草がそう言い放つ。

 

「…………」

 

対する弘樹は、いつもの仏頂面で黙り込んだままである。

 

「相変わらずだね………昔、人から聞いた話だが、無口な人間は気持ちを溜め込んでるから感情が強いそうだが、如何なんだい?」

 

「…………」

 

「無口だから答えないか………いやぁ、当然だね、ハハ」

 

そう言って笑う都草。

 

「!!」

 

だがその次の瞬間には、StG44を弘樹へと向け、発砲した!!

 

「!!………」

 

しかし、弘樹は都草がStG44を向けて来た瞬間に走り出していた為、回避に成功する。

 

「!………」

 

そして、角型のクーリングタワーを飛び越えて、一旦向こう側に姿を隠したかと思うと、またすぐに姿を見せ、都草に向かって四式自動小銃を発砲する。

 

「! クッ!!」

 

四式自動小銃の弾丸が頬を掠めながらも、都草は傍に在ったコンクリート製の通風孔の陰に隠れる。

 

「………!」

 

都草が物陰に隠れたのを確認した弘樹は、自分もクーリングタワーの陰に隠れると、四式自動小銃のリロードに入る。

 

(………コレが最後か)

 

しかし、長期戦により弾薬は消耗し尽くしており、今込めたのが最後の弾丸だった。

 

だが、それは相手も同じ事………

 

寧ろ、補給が滞っていた黒森峰の弾薬は、下手をすれば大洗よりも少ない可能性もある。

 

「…………」

 

勝機は有る………

 

そう思いながらゆっくりと頭を上げて、都草の様子を確認する弘樹。

 

その瞬間に目の前で火花が散るっ!!

 

「!!」

 

慌てて頭を下げると、銃だけを向けて牽制で射撃する。

 

すると、反撃の銃撃が撃ち込まれ、弘樹の頭の傍で激しい火花が散る!

 

「クッ!!………」

 

すぐに銃を下げる弘樹。

 

しかし、程無くして不意に銃撃が止んだ………

 

「?………」

 

如何した?と弘樹が怪訝に思うと………

 

「弾切れだ」

 

「!?………」

 

そう都草が告げて来て、弘樹は一瞬驚くものの、すぐにブラフだと考え、そっと都草の方を覗き見る。

 

「…………」

 

しかしそこには、マガジンの外れたStG44を片手で無造作に持っている都草の姿が在った。

 

「…………」

 

弘樹が見ているのに気づくと、都草は不敵に笑ってStG44を捨てる。

 

更に、腰のホルスターに在ったワルサーP38を抜くと、それも放る。

 

「!………」

 

それを見た弘樹は一瞬目を見開いた後、やがてクーリングタワーの陰から出て来た。

 

「…………」

 

その姿を見た都草は、嬉しそうにダガー状のナイフを逆手で右手に握る。

 

「…………」

 

対する弘樹は、四式自動小銃を床に置き、更に腰のホルスターに入っていたM1911A1も抜いて、同じ様に床に置く。

 

「…………」

 

そして、英霊を鞘から抜き放ち、正眼の構えを取る。

 

「良いね………そう来なくては」

 

「…………」

 

軽口の様に言う都草に、無言の弘樹。

 

両者はそのまま睨み合いとなる。

 

「「…………」」

 

弘樹が摺り足で1歩間合いを詰めると、都草も摺り足で1歩前に出る。

 

「「!!」」

 

その次の瞬間には、両者は弾かれた様に一気に突撃した!!

 

「ハアアッ!!」

 

先手を取ったのは弘樹!

 

振り上げた英霊を、都草目掛けて振り下ろす!

 

「ぬうっ!!」

 

しかし都草は、右腕に左手を添えたダガーで受け止める!

 

「ハッ!!」

 

そして、弘樹の腹に前蹴りを入れて来た!!

 

「!! グッ!!………」

 

咄嗟に腹筋を締めてダメージを減少させたものの、数メートル後方にズラされ、片膝を付く弘樹。

 

「シエエアッ!!」

 

すぐに立ち上がるが、その瞬間にはダガーを順手に持ち替えた都草が突撃して来て、ダガーを持つ右手を伸ばした突きを繰り出して来る!

 

「!!」

 

高速で繰り出されたその突きに対し、弘樹は何を思ったか首を下に曲げて、頭を突き出す様な姿勢を取った!

 

すると、都草のダガーの突きは、弘樹が被っていたヘルメットに当たり、火花を散らして反らされる!!

 

(!? ヘルメットでっ!?)

 

一歩間違えれば即死判定も有り得る様な回避の仕方に都草が驚愕し、一瞬動きが止まる。

 

「!!」

 

その一瞬を見逃す弘樹ではない!

 

素早く都草の首を英霊から放した左手で鷲掴みにする!

 

「!? ぐっ!?」

 

「うおおおっ!!」

 

そして何と!!

 

そのまま片手で都草を投げ飛ばした!!

 

喉輪落としならぬ喉輪投げである!

 

「! ぐあっ!?」

 

空中で1回転して、背中から地面に叩き付けられる都草。

 

「トオアッ!!」

 

その都草に向かって、弘樹は逆手に構えた英霊の刃を振り降ろす!

 

「!? クウッ!?」

 

しかし、都草は床の上を転がり回避。

 

英霊の刃は、屋上の床に突き刺さる!

 

更にそのまま、ブレイクダンスの様な動きを見せ、突き刺さった英霊に蹴りを入れる!

 

衝撃で英霊が弾かれ、離れた場所に転がった!

 

「!!」

 

「貰ったっ!!」

 

都草は素早く立ち上がり、武器の無くなった弘樹にダガーでの突きを繰り出そうとしたが………

 

「! シュッ!!」

 

弘樹は反射的に、右の水平チョップを繰り出す!

 

チョップはダガーの横腹に当たり、ダガーを弾き飛ばす!!

 

「! 何とっ!?」

 

またも弘樹の捨て身とも取れる攻撃に、都草は驚く。

 

「!!」

 

その都草の横っ面に、そのまま返す刀での右フックが炸裂する!

 

「! ゴフッ!!」

 

「!!」

 

怯んだ都草に、弘樹はすかさずボディーブローを叩き込む!

 

「グッ!?」

 

「ハアアッ!!」

 

そのまま連続でボディを殴りつける弘樹!

 

「グウウッ!!」

 

「うおおっ!!」

 

そしてそのまま都草の戦闘服の両肩部分を掴むと、振り回す様にして背後に在った配電盤に叩き付ける!

 

「がっ!!」

 

「おおおっ!!」

 

更にそこから振り回すと、そのまま右腕を両腕で掴み、一本背負いの様に投げ飛ばして背中から床に叩き付ける。

 

「ぐはっ!!」

 

「!!」

 

グロッキーになってきたかに思われた都草の肩口を掴んで立ち上がらせ、更に追撃を見舞おうとした弘樹だったが………

 

「むんっ!!」

 

そこで都草が不意打ちの様に頭突きを弘樹の顔に叩き込んだ!

 

「!?」

 

思わぬ1撃に弘樹が怯んで離れた瞬間………

 

「ハアアッ!!」

 

何と都草はジャンプしながらその場で横に一回転して振り回した蹴り………ヘリコプターキックを弘樹の横っ面に叩き込んだ!!

 

「ぐうっ!?」

 

強烈な1撃で、弘樹は立っていられずにその場に仰向けに倒れ込む。

 

「如何したっ! 何を寝そべっているっ!!」

 

そんな弘樹に向かって、アドレナリンが過剰分泌され始めたのか、興奮状態の都草がコレまでとは違った荒い口調でそう言って来た。

 

「さあ、立てっ!!」

 

「望み通りっ!」

 

立てと言われ、すぐさま立ち上がる弘樹。

 

「ハアッ!!」

 

「!!」

 

だがその瞬間に、またもヘリコプターキックが決まり、倒される!

 

「また寝てるのかっ!」

 

「うおおっ!!」

 

都草がそう言い放つと、弘樹は膝立ちまで立ち上がると、そこから都草の腰目掛けてタックルの様に組み付く!

 

「ぬうっ!?」

 

そのまま押し倒され、弘樹に馬乗りになられる都草。

 

「おおっ!!」

 

弘樹はそのまま、都草の顔に拳を見舞う!

 

「ガッ!?」

 

「うおっ!!」

 

1撃目が決まると、更に2撃目、3撃目と続ける!!

 

「おおっ!!」

 

「チイッ!!」

 

しかし、4撃目の左の拳を、都草は両手で掴んで止める。

 

そしてそこから、両足を弘樹の首に絡ませる!

 

「!?」

 

「ハアッ!!」

 

そのまま弘樹を倒し、腕挫十字固めを掛けた!

 

「グウッ!」

 

完全に決まり、脱出出来ない弘樹。

 

「降参しろ、舩坂 弘樹! コレは外せんぞっ!!」

 

もがく弘樹に向かってそう言い放つ都草。

 

だが………

 

「ぬがああっ!!」

 

何と弘樹は全身を使い、都草を技を掛けられている腕ごと持ち上げる!

 

「なっ!?」

 

「おおおおおっ!!」

 

驚く都草をそのまま更に身体を捻って床へと叩き付ける。

 

「ガッ!!」

 

「!!」

 

溜まらず都草が技を解くと、弘樹は床の上を転がって距離を取り、立ち上がる。

 

「………無茶をするじゃないか」

 

叩き付けられた時にやられたのか、鼻血を払いながら起き上がった都草が弘樹に向かってそう言う。

 

脱出される際に、都草は弘樹の左腕からバリバリと言う音………靭帯が断裂する音を聞いていた。

 

「…………」

 

何時も通りの仏頂面で、左腕も何にも無い様に上げている弘樹だが、相当な激痛が走っているらしく、僅かだが脂汗が垂れている。

 

「セエアッ!!」

 

と、その弘樹に向かって突進する都草!

 

「おおっ!!」

 

対する弘樹も呼応するかの様に突進!

 

そのまま、お互いの戦闘服の肩口を掴み合って組み合う!!

 

(右っ!!)

 

弘樹は右の拳を繰り出して来ると予想し、都草は左腕でガードを取る。

 

が!!

 

「ふうあっ!!」

 

「ガッ!? 左っ!?」

 

何と!!

 

弘樹は靭帯が断裂している左腕で躊躇無く拳を繰り出した!

 

「おおおっ!!」

 

クリーンヒットしてフラついた都草は、弘樹は更に左腕で殴りつける!!

 

「グウッ! このぉっ!!」

 

だが、都草は若干意識が朦朧としながらも、弘樹の左脇腹に右膝蹴りを叩き込む!

 

「!?………」

 

只でさえ左腕の激痛に耐えているところへ、更なる激痛に襲われ、弘樹は一瞬怯む!

 

「おおおおおっ!!」

 

そこで都草は、そのまま弘樹の左脇腹へ連続で右膝蹴りをお見舞いし始める!!

 

「!! うおおおおおおっ!!」

 

だが弘樹も負けじと、今度は右腕の拳で都草の左こめかみの辺りを連続で殴りつける!!

 

そのまま、お互いノーガードでの殴打の応酬となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手控所………

 

「うわぁっ!」

 

「まただよ………」

 

「慣れませんね、こういう光景は………」

 

「夢に出て来そうだ………」

 

既に戦車ごと回収され、控所まで連れて来られていたあんこうチームの優花里、沙織、華、麻子が、モニターに映し出されている弘樹と都草の決闘の様子を見て、飛鳥の時の事を思い出しながらそう言う。

 

2人の戦いには、華麗さや優雅さなど一切無く………

 

ただ目の前の敵を叩き倒すと言う純粋な闘争本能による泥臭い戦いだった………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

同じ様にモニターを見ている観客達も言葉を失っている。

 

しかし、誰1人として、モニターから目を離そうとする者は居なかった………

 

「クッ! やはり駄目だっ! 皆手伝ってくれ! 都草を止めるぞっ!!」

 

だが、まほはそんな光景に耐えられなくなった様に、黒森峰機甲部隊の隊員に呼び掛ける。

 

「総隊長っ!?」

 

「いや、しかし………」

 

けれども、黒森峰機甲部隊員達の反応も何処か鈍かった。

 

「みほ! お前も舩坂くんを止めるんだっ!!」

 

まほはそれに構わずにみほにもそう呼び掛けるが………

 

「…………」

 

「み、みほ………」

 

決してモニターから目を反らそうとせず、両手を血が出んばかりに握り締めながらも、みほはジッと2人の戦いを見守っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HS地点・廃校の屋上にて………

 

「セエッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

最早何発目とも分からぬ拳と膝蹴りを繰り出し合う弘樹と都草。

 

その周りの床には、2人が吐いた血反吐が彼方此方にこびり付いている………

 

「グッ!………」

 

「ガッ!………」

 

と、何度目とも知れぬ拳と膝蹴りが叩き込まれた瞬間、弘樹と都草は組み合いを解き、お互いによろけながら後ずさって膝を付いた。

 

「ゴホッ! ガホッ!………」

 

「ハアーッ………ハアーッ………」

 

むせかえる弘樹と呼吸の荒い都草。

 

最早共に血反吐すら出なくなっている様だ。

 

するとそこで………

 

「「………!!」」

 

両者の傍らには、手放してしまった英霊とダガーが在る事に気づく。

 

「………そろそろ決着を付けようか」

 

都草がそう言って、ダガーを手に取って最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「………ああ」

 

すると同じ様に、弘樹も英霊を右手で握り、杖代わりにしながらも立ち上がる。

 

「…………」

 

そして弘樹は、英霊を片手大上段で構える。

 

(片腕の大上段………いや、さっきまでの行動を見ていると、左腕が使えないとは考え難い………)

 

靭帯の断裂している左腕で何の躊躇も無く殴りつけたりして来た弘樹の行動を思い出し、都草は警戒する。

 

(上段は攻撃の構え………防御は考えられていない………かわして懐に飛び込めば得物の短い此方が有利………かわせるか?)

 

自問自答しながらも、都草は神経を研ぎ澄まし、弘樹が仕掛けて来るのを待つ。

 

「………!!」

 

やがて、弘樹が不意を衝く様に都草に突撃!

 

更に突撃した瞬間には、左手でも英霊を握った!!

 

(やはりかっ!!)

 

だが、神経を研ぎ澄ませていた都草は、弘樹の太刀筋を完全に見切っていた。

 

「!!」

 

(かわせっ!!)

 

振り降ろされた英霊を、右へと身体を反らしてかわそうとする都草。

 

神速とも言えるスピードで英霊を振り降ろした弘樹だったが………

 

それでも都草の方がコンマ数秒速かったらしく………

 

英霊の刃は、都草の身体の僅か5ミリ横を擦り抜け………

 

屋上の床へと叩き付けられて、火花を散らした!

 

「貰ったぁっ!!」

 

英霊を振り切った弘樹に対し、ダガーを握った右手を突き出す都草。

 

「!!」

 

弘樹は都草を見やりながら英霊を再度振り上げようとするが間に合わない!

 

「私の勝ちだ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

勝利を確信した都草からそう声が挙がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………と、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァーンッ!!と言う乾いた音………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『銃声』が、屋上に響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

銃声が鳴り響いた瞬間………

 

弘樹と都草はお互いに固まっていた………

 

弘樹は英霊を床に突き刺したままの状態………

 

都草は、ダガーを弘樹の首筋僅か1センチにところで止めて固まっている………

 

「まさか………そんな事が………」

 

驚愕の表情で都草がそう言ったかと思うと、その身体がグラリと揺れ………

 

うつ伏せにバタリと倒れた。

 

その戦闘服の背中の中心、心臓の辺りには………

 

『銃弾』が命中していた。

 

その銃弾は、九九式普通実包………

 

四式自動小銃に使われている弾丸だった。

 

更に、弘樹が刀を振り降ろした床の傍には九九式普通実包の空薬莢が転がっており、都草の背後のクーリングタワーの側面には銃弾が当たって弾かれた跡が在った。

 

実は都草とノーガードで打ち合っていた時………

 

コッソリと戦闘服のポケットに残っていた1発の九九式普通実包を床に転がしていたのだ。

 

そして、先程英霊を振り降ろした瞬間に、切っ先で九九式普通実包の底部に衝撃を与えた。

 

火花が散ったのはこの為である。

 

そして、衝撃で弾丸が発射され、都草の背後に在ったクーリングタワーの側面で跳弾。

 

都草の背中に命中したのだ!

 

「…………」

 

倒れている都草を見下ろしながら、弘樹は英霊を腰の鞘へと納める。

 

「………!」

 

その瞬間に一瞬フラついたが、気合で持ち堪えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手控所………

 

「やったーっ!!」

 

「弘樹の勝ちだっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊から歓声が挙がる。

 

「…………」

 

みほも、今までの険しい表情から一転し、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「梶歩兵隊長………」

 

「梶さんが負けた………」

 

一方、黒森峰機甲部隊の面々は、大半が信じられない様な顔をしている。

 

(………都草………良く戦ったな)

 

だがまほだけは、みほと同じ穏やかな笑みを浮かべている。

 

今度こそ本当に全ての戦いが終わった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、HS地点の一角で大爆発が起こった!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「!!」

 

「!? 何だっ!?」

 

突然モニター越しに聞こえて来た爆発音に、両機甲部隊隊員達とみほ、まほは驚愕の表情を浮かべて固まる。

 

直後に、更に次々と爆発が起こる。

 

如何やら、呉校の艦砲射撃の不発弾が、HS地点付近にも残っていたらしい。

 

凄まじい爆発の衝撃波が廃校の廃墟にも襲い掛かり、元々脆くなっていた建物全体に罅が入り始める。

 

「!? 都草! 逃げろぉっ!!」

 

と、まほがそう叫んだ次の瞬間!!

 

HS地点の廃墟は音を立て崩れ始め、弘樹と都草は瓦礫の波に埋もれて行った!!

 

「!! 都草ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

まほの悲鳴の様な声が木霊する中、廃校の廃墟は完全に崩落し、後には瓦礫の山が残るばかりだった………

 

「そ、そんな………都草が………」

 

顔を真っ青にして、震え始めると、立っていられなくなったのかふら付くまほ。

 

「! 総隊長っ!!」

 

慌ててエリカが駆け寄ろうとしたが………

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

それよりも早く、みほがまほの腕を取って支えながらそう言った。

 

「!? みほっ!?」

 

動揺を露わにしているまほとは対照的に、みほは至って普通にしている。

 

「だって………」

 

みほがそう言って再びモニターを見やると、まほも視線をモニターに向ける。

 

すると………

 

瓦礫の山の一角が、僅かに動いた!

 

「!?」

 

まほが驚いた瞬間!!

 

瓦礫が押し退けられ………

 

「…………」

 

都草に肩を貸しながら立ち上がる弘樹の姿が露わになった。

 

「弘樹くんが居たんだもん」

 

「…………」

 

ニッコリと笑ってそう言うみほだったが、まほは唖然とした表情になっている。

 

「………アイツ………本当に人間なの?」

 

出番を奪われたエリカも、連盟が救助に派遣したヘリに、都草に肩を貸したまま乗り込んで行く弘樹の姿を見て、信じられない様な表情でそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終回につづく




新話、投稿させていただきました。

遂に男と男の戦い………
弘樹VS都草が開始されます。
只々相手を倒そうとする泥臭い戦い………
しかし、これこそがある意味、歩兵道の神髄です。

2人の決着も終わり、いよいよ最終回。
文科省の企てが明らかに。
そして更に、思わぬ人物も登場します。

最終回とは言っていますが、その後にはエピローグのエンカイ・ウォーが入ります。
そしてそれが終わると劇場版………
………の前に、リボンの武者で行われた大洗戦をベースに、劇場版の前のエピソードに当たるOVAエピソードを入れます。
リボンの武者ベースですので、同作のキャラ達が多数登場する予定です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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最終回『大洗機甲部隊、優勝です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

最終回『大洗機甲部隊、優勝です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第63回戦車道・歩兵道全国大会………

 

長い長い戦いの末に………

 

遂に大洗機甲部隊は………

 

優勝の栄光を掴み取った!!

 

だが………

 

まだ倒すべき敵が残っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

黒森峰側の応援席………

 

「負けた………」

 

「勝った勝ったぁーっ! 凄いぞみほー! まほも頑張ったなぁーっ!!」

 

愕然としているしほの隣で、常夫は無邪気に喜んでいる。

 

「そんな………黒森峰が………西住流が負けるなんて………こんな………こんな事………」

 

かなりのショックを受けている様子で、頭抱えてガタガタと震え出すしほ。

 

「そんな震える事じゃあるまい。人生は勝ったり負けたりの繰り返しだよ」

 

するとそこで、女性のモノと思われる声が聞こえて来た。

 

「!?」

 

その声に聞き覚えを感じたしほが、驚きながら声の聞こえた背後を振り返る。

 

「如何やら娘達に完全に乗り越えられたみたいだね、しほ」

 

そこにはしほと同じ様に、スーツに身を包んだ年配の女性が居た。

 

しかし、年配ではあるものの、女性は普通にしているにも関わらず、凄まじい覇気を感じさせる貫禄を持っていた………

 

例えるなら、『女王様』、『魔女』、『女帝』………

 

そんな言葉の似合うお方だった………

 

「せ、先代様!? どうしてコチラに!?」

 

「あ、どうも、お久しぶりです」

 

女性の事を『先代様』と呼び狼狽するしほと、至って普通に挨拶をする常夫。

 

「相変わらずだね、常夫。まあ、それがアンタの良い所だがね」

 

そんな常夫の様子に女性は笑みを零す。

 

「さて………それじゃ、行くとするかね」

 

「えっ!? い、行くって、どちらにっ!?」

 

「決まってるだろうが」

 

動揺し続けているしほに、女性は悪戯っ子の様にニヤリと笑って見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手控所………

 

日が傾き、辺りがオレンジ色に染められた頃………

 

弘樹と都草を乗せた救助ヘリが、選手控所の傍に着陸する。

 

「気を付けて」

 

「問題ありません………」

 

注意して来るヘリの乗員にそう返し、弘樹は都草に肩を貸したままヘリを降りる。

 

「弘樹くーんっ!!」

 

「弘樹ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「舩坂分隊長ーっ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、控所に居た大洗機甲部隊の面々が、みほを先頭に駆け寄って来る。

 

「都草ーっ!!」

 

「梶歩兵隊長ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「歩兵隊長ーっ!!」」」」」」」」」」

 

同じ様に、黒森峰機甲部隊の面々も、まほを先頭に駆け寄って来る。

 

そのまま両機甲部隊の面々は合流すると、黒森峰歩兵隊員達が、弘樹から都草を受け取る。

 

「都草っ!!」

 

「ああ、まほ………すまない、負けてしまったよ」

 

「何を言うんだ………良い戦いだったぞ」

 

心配そうに寄り添って来たまほに、都草は申し訳無さそうにそう言うが、まほは目尻に涙を浮かべながらも笑顔でそう返す。

 

「………西住総隊長。舩坂 弘樹、只今帰還致しました」

 

一方、弘樹は生真面目に気を付けし、みほに向かってお馴染みのヤマト式敬礼を取ってそう言う。

 

「お疲れ様、弘樹くん………」

 

それを笑顔で迎えるみほ。

 

「「…………」」

 

そのまま見つめ合う2人。

 

それ以上言葉は無かった………

 

まるで2人共分かっていると言う様に………

 

「完敗だな、舩坂 弘樹」

 

とそこで、都草がそう声を掛けて来た。

 

「…………」

 

都草の方に向き直る弘樹。

 

「私は全力を持って君に立ち向かった………だが君は私に勝っただけでは無く、その後のアクシデントから動けなくなった私を助ける活躍までしてみせた………君こそ歩兵道の体現者だよ」

 

「………勝負は時の運です」

 

「皮肉にしか聞こえないよ………」

 

弘樹がそう返すと、都草はフッと笑う。

 

集合していた両機甲部隊の間に、和やかな空気が流れ始める。

 

………と、

 

「いや~、おめでとうございます。大洗の皆さん」

 

そんな雰囲気をブチ壊す様に、何処か気の抜けた拍手の音と共に、役人が姿を現した。

 

「!? 文科省の!?」

 

「ななな、何をしに来たっ!?」

 

途端に表情を強張らせる杏と、思いっきり動揺を見せるまほ。

 

「いえいえ、別に何だと言うワケではありませよ。ただ、優勝校になった大洗の皆さんに祝福をと思いまして、ハイ」

 

役人は丁寧な様子でそう言うが、その態度は慇懃無礼そのものであり、欠片も祝福している様子は見えない。

 

「………約束は果たしましたよ。そうですよね?」

 

杏は警戒しながらも、そもそも大洗機甲部隊が優勝を目指していた理由………

 

大洗女子学園廃校の撤回の件を問い質す。

 

「ええ、勿論ですよ。大洗女子学園は存続ですね」

 

しかし役人は、サラリとそう返す。

 

(? 何だ? 随分とアッサリしているな?)

 

そんな役人の態度に違和感を覚える杏。

 

「いや~、黒森峰の皆さんは残念でしたねえ」

 

しかし、役人はそんな杏には目もくれず、黒森峰機甲部隊員達の方を見やる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを聞いた黒森峰機甲部隊員達は沈痛な面持ちになる。

 

「えっ? 何っ?」

 

「如何したんだ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然沈痛な雰囲気に包まれた黒森峰機甲部隊の様子に、大洗機甲部隊員達は困惑する。

 

「本当に残念ですが………約束通り、黒森峰は今学期いっぱいで廃校とさせていただきます」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そして、役人の口から黒森峰の廃校が伝えられると、一斉に驚愕の表情を浮かべる。

 

「う、嘘っ! 廃校って………」

 

「そんな、まさかっ!?」

 

「黒森峰にも廃校の話が?………」

 

沙織、優花里、華が驚愕の表情のままそう呟く。

 

(………黒森峰の状況はそこまで悪かったのか)

 

黒森峰の状況を推察していた麻子も、そこまで追い詰められていたとは予想外だった様である。

 

「お、お姉ちゃんっ!」

 

「良いんだ、みほ。気にするな………お前は戦車乗りとして戦い、その義務を全うした。何も責任を感じる必要は無い。全ては私の責任だ」

 

「そ、そんな………」

 

諦めた様な顔で力無く笑うまほの姿を見て、みほは動揺する。

 

(やはりショックは大きい様ですね………このショックを引き摺れば、大洗は来年は1回戦負けも有り得る………そうすれば前年度の優勝はまぐれと理由づける事は簡単だ………精々来年までの学校生活を楽しみなさい)

 

一方で役人は、計画通りに事が運んで、思わず下衆な笑みを浮かべる。

 

この様子を見る為に、態々出向いた来た様子である。

 

しかし………

 

天はその悪事を見逃さなかった………

 

黒森峰に続いて大洗も沈痛な雰囲気に包まれ、すっかり優勝ムードではなくなった控所に、けたたましいサイレンの音が響いて来た!

 

「? 何だぁっ?」

 

地市のそう言う声が挙がった瞬間………

 

数台のパトカーが、控所の傍へ乗り付けた。

 

「? 警視庁だと?」

 

そのパトカーの側面に書かれていたのが、東富士演習場の在る静岡県警ではなく、警視庁の文字である事に、十河が首を傾げる。

 

何故東京が管轄の警視庁のパトカーが来たのか?

 

困惑する一同。

 

すると、乗り付けたパトカーから、スーツ姿の刑事と思われる警察官達が降りて来る。

 

そして、良い気になっていた役人の前に立つ。

 

「な、何ですか? 貴方達は?」

 

突然現れた刑事達に、役人は僅かに動揺の色を見せる。

 

「警視庁捜査二課です」

 

「同じく、捜査一課です」

 

「公安部の者です」

 

それに対し、3名の刑事が其々の部署ごとに名乗りを挙げる。

 

「文部科学省学園艦教育局長の辻 廉太さんですね」

 

「そ、そうですが………」

 

「貴方に逮捕状が出ました」

 

そう言うと、刑事の1人が、スーツの懐から1枚の書類………

 

『逮捕状』を取り出し、役人に見せつけた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

逮捕状と言う言葉に、両機甲部隊の隊員達は一斉に驚愕して役人に注目する。

 

「なっ!? 何をっ!? 何かの間違いだっ!!」

 

「惚けるな! 証拠は挙がって居る! お前の秘書が全部吐いたぞっ!!」

 

「貴様が学園艦を売り飛ばそうとしたN国の工作員もな」

 

何かの間違いだと言う役人に、捜査二課と公安の刑事がそう言い放つ。

 

そして、そのまま刑事達の口から………

 

役人の恐るべき悪事が語られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、文科省が進めている『学園艦の統廃合計画』………

 

理由は学園艦の維持費による経費圧迫だが………

 

何と廃校をしなくても予算は十分に足りていたと言うのだ。

 

では、何故学園艦を統廃合しようとしたのか?

 

全ては、文部科学省学園艦教育局長である役人に、N国と言われる国の工作員が接触したのが始まりだった………

 

N国は所謂独裁国家であり、自国民から搾り取った高い税金で軍備拡張を進めており、拡張した軍事力で、周辺諸国と領土問題を起こし、国際的な非難を集めていた。

 

遂には安保理で制裁決議が可決され、あらゆる国との全ての取引が禁止される。

 

徐々に国力が衰えて行ったN国は、反省するどころか更なる軍備増強の為に、空母を保有しようと企てる。

 

だが、制裁によって衰えた国力では、空母を建造する事は叶わない………

 

そこでN国が目を付けたのが、『学園艦』である。

 

形状は正に空母であり、通常の空母よりも遥かに巨大な学園艦………

 

それを戦闘用に改造すれば、正に動く軍事基地となる。

 

そして学園艦は通常の船舶扱いをされており、コレまでも様々な国で多くの中古学園艦が他国へ払下げされている。

 

無論、軍事転用は国際法によって禁じられているが、既に制裁を受けているN国にとっては知った事ではない。

 

そしてN国は、世界でも有数の学園艦保有数を誇る日本に工作員を送り込み、役人と接触させた。

 

言葉巧みに役人を抱き込み、更に役人が学園艦解体業者や文科省の他の役人や官僚、挙句に大臣をも抱き込んで学園艦転売の隠れ蓑である統廃合計画を立ち上げた。

 

そのままN国に売る事は出来ないので、密かに裏でN国と繋がっていたC国を経由すると言う方法を取りながら………

 

しかし、そのC国経由と言うルートが仇になった………

 

C国の人間は総じて金に汚いと言われており、政府の高官であっても、金さえ渡せばアッサリと汚職に手を染めると言われている。

 

そのC国のN国への学園艦転売に関わっていた人物へ、『金さえ出せばクレムリン宮殿だって持って来てやる』と豪語する友人を通じ接触に成功したのが、ゴウトである。

 

秘密の話を金を握らせた事でアッサリと自白。

 

その話を元に証拠を集めた。

 

決勝戦直前に弘樹から迫信に渡した、あの書類である。

 

迫信はすぐにその書類をデータ化して後藤警部補と荒巻課長へ送った。

 

そして、今に至ると言うワケである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事が!?」

 

「文科省が国際犯罪だなんて、前代未聞だぜ」

 

「何たる事を………」

 

文科省の巨悪を知った両機甲部隊の隊員達は、皆憤りを露わにする。

 

「嘘だっ! コレは私を嵌める罠だっ!!」

 

「見苦しいぞっ!!」

 

「貴様には他に、カンプグルッペ学園とつるみ、奴等のせいで敗退した学園に廃校を通達したり、西住流の強硬派にV1、V2を横流しした容疑も有る!」

 

「廃校を取り消してやると嘯き、女学園の生徒と淫らな行為をしたという、児童買春の容疑もな!」

 

尚も言い逃れようとする役人に、刑事が新たな罪状を突き付けた!

 

「ええっ!?」

 

「うわぁ………」

 

「最低………」

 

児童買春と言う言葉を聞いた両機甲部隊の戦車部隊員達の役人を見る目が、忽ち汚物を見る様な目に代わる。

 

「逮捕するっ!!」

 

そして遂に………

 

刑事の手によって、役人の手に手錠が掛けられた。

 

「や、止めろっ! コレは陰謀だっ!!」

 

「言い訳は取調室で聞いてやる! 来いっ!!」

 

喚く役人を、刑事達はパトカーに乗せようとする。

 

「い、嫌だぁっ!!」

 

が、そこで!!

 

役人は最後の力を振り絞って刑事達の拘束から脱出し、手錠を掛けられたまま逃走しようとする。

 

「あっ!? 待てっ!!」

 

「捕まってたまるかぁ! 私は! 私は!!………」

 

必死に逃げようと走る役人。

 

と、その前に、人影が立ちはだかる。

 

「!?」

 

「むんっ!!」

 

立ちはだかった人影………弘樹が、突っ込んで来る形になった役人の顔面に、思いっきり拳を叩き込んだ!!

 

「!? ゲバハッ!?」

 

メガネが粉々に砕け、錐揉みしながら地面に叩き付けられる様に倒れる役人。

 

「見苦しいぞ! 貴様も日本男児ならば、潔く裁きを受けろっ!!」

 

殴った手から血を滴らせながら、倒れている役人にそう言い放つ弘樹。

 

「弘樹! 俺にもやらせろっ!!」

 

「コイツ、許せねぇっ!!」

 

するとそこで、大洗歩兵部隊の一同が役人を取り囲む。

 

「今日ばかりは紳士である事をかなぐり捨てさせてもらおう………」

 

「私達も我慢出来ません!」

 

更にその輪に、都草を初めとした黒森峰歩兵部隊員達も加わる。

 

「オラッ! コノヤロウッ!!」

 

「テメェ、コイツゥッ!!」

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま一斉に役人を袋叩きにし始める両歩兵部隊員達。

 

「ちょっ! 皆っ!! 駄目だよっ!!」

 

「幾ら何でも、警察の目の前で袋叩きにすると言うのは!?」

 

沙織と優花里がそう言いながら、刑事達の方を見やると………

 

「いや~、しかし、夕陽に照らされている富士山と言うのは美しいな」

 

「全くですね」

 

何と刑事達は態とらしくそんな事を言いながら、全員が富士山の方を見ていた。

 

((((((((((ええ………))))))))))

 

そんな刑事達の様子に心の中で呆れる両戦車部隊の面々。

 

「フン! 思い知ったかっ!!」

 

「今日はコレぐらいで勘弁してやる」

 

やがて気が晴れたのか、落ち着く両歩兵部隊メンバー。

 

その中心には………

 

「…………」

 

最早声も出ず、人なのかボロ雑巾なのか分からない状態になっている役人の姿が在った。

 

「ああ、コレは酷い!? 誰がやったんだーっ!? お前達、何か見たか?」

 

「見てません」

 

「何かあったんですか?」

 

「本官のログには何も無いです」

 

態とらしくすっとぼけてそう言い放つ刑事達。

 

「まあ良い。逃亡は防がれたんだ。連行しろ」

 

「「ハッ!!」」

 

そしてそのまま、ボロ雑巾………もとい役人をパトカーに放り込み、刑事達は去って行った。

 

「………コレで文科省の学園艦統廃合計画も白紙だね」

 

それを見送り、迫信がそう言い放つ。

 

 

 

 

 

迫信の言葉通り………

 

この後、文科省がN国と結託していた事が白日の元に晒され………

 

全国民が怒りの声を挙げた!!

 

事は内閣の総辞職にまで及び、政治的混乱を避ける為にすぐさま行われた総選挙では、政権が交代。

 

新政権は直ちに文科省を徹底的に弾劾。

 

大臣を初めとした実に9割の官僚・幹部の首が飛び、逮捕されると言う、後に『戦後最大の大粛清』と言われる厳しい処分が行われた。

 

無論、N国も加担していたC国にも世界各国から批判の声が挙がり、C国にも制裁が科せられる事になる。

 

そして更に厳しい制裁を科せられたN国はとうとう暴走。

 

周辺各国へ宣戦布告し、戦争状態に突入。

 

しかし、すぐさま国連で多国籍連合軍の結成が採択され、世界各国の軍が派遣される。

 

元々制裁で国力は0に等しい状態にまで落ち、更に無駄に戦線を彼方此方に広げたN国軍は忽ち各個撃破されて壊滅。

 

直後にとうとうN国民が革命を起こした。

 

これにより遂にN国の独裁政権は崩壊。

 

今後は国連の元に民主化が進められる事になったのだった………

 

 

 

 

 

「良かったね、お姉ちゃん」

 

黒森峰も大洗も廃校から免れ、一安心したみほが、笑顔でまほにそう言う。

 

「あ、ああ………」

 

しかし、まほは何処か浮かない顔である。

 

「? 如何したの?」

 

「確かに廃校の危機は無くなったが、今の黒森峰に立ち直る力が残っているか如何か………」

 

と、まほがそう言っていると………

 

「黒森峰機甲部隊の総隊長が、何を弱気な事を言ってるんだい」

 

「えっ?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

不意に聞こえて来た声に、まほを初めとした両機甲部隊のメンバーが、その声が聞こえて来た方向を見やると、そこには………

 

「久しぶりだね、まほ、みほ………大きくなったじゃないか」

 

スーツ姿の年配の女性の姿が在った。

 

その後ろでは、常夫に連れられ、借りてきた猫の様に大人しくしているしほの姿が在った。

 

「? 誰?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

年配の女性に見覚えの無い、みほを除いた大洗機甲部隊メンバーが首を傾げる。

 

「! お祖母ちゃんっ!!」

 

「お、お祖母様っ!?」

 

「「「「「「「「「「せ、先代様!?」」」」」」」」」」

 

しかし、みほとまほ、黒森峰機甲部隊メンバーは仰天の様子を露わにして固まる。

 

「えっ? お祖母ちゃん?」

 

「みほさんの………お祖母様ですか?」

 

「にににににに、『西住 町子』様っ!?」

 

沙織と華が漠然とそう言うのとは対照的に、見た事も無いくらい動揺した様子で優花里がそう声を挙げる。

 

「如何した、秋山さん?」

 

「ああああ、あのお方は、西住流の先代の家元にして師範!! そして西住流の歴史に於いて最強と謳われた生ける伝説のお方!! 『西住 町子』様ですっ!!」

 

麻子が尋ねると、優花里は相変わらず動揺を露わに、年配の女性………『西住 町子』について語り始める。

 

 

 

 

 

『西住 町子』………

 

西住 しほの実母で、まほ、みほの祖母。

 

西住流の先代師範・家元であり、現在は日本戦車道連盟の親善大使として、世界中の戦車道連盟と交流をしている。

 

その為、日本に居る事は少ない。

 

現役を引退しているとは言え、戦車道の腕はまほやみほ、果ては現師範・家元であるしほよりも遥かに上。

 

しほが引き継ぐまで、黒森峰女学院の戦車道の担当教師を務めており、当時無名だった同校を、当時の戦車道の強豪校であった『電子高校』、『太陽高校』、『恐竜高校』、『魔法高校』と渡り合える程に強くした。

 

当時を知る者からは、『戦車女王』または『戦車魔女』、『戦車女帝』等と呼ばれ、恐れられている。

 

噂では、Ⅰ号戦車1両で、ティーガーやパンターから成る1個機甲師団を全滅させたと言う話もある………

 

 

 

 

 

「マジかよ………」

 

「トンでもねえな、オイ………」

 

優花里の話を聞いた大洗歩兵隊員達に戦慄が走る。

 

「そ、そんな人が何の用だろう?………」

 

「わ、分かんないよ………」

 

戦車チームでも、あやと梓がそんな会話を交わす。

 

「…………」

 

町子は無言でみほとまほの元へと向かう。

 

「「…………」」

 

緊張した面持ちで固まっているみほとまほ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

両機甲部隊メンバーも、町子から発せられている気迫で動けない。

 

「…………」

 

只1人、弘樹だけが、ジッと町子の姿を見据えている。

 

「…………」

 

とうとう町子は、みほとまほの目の前に立つ。

 

そして………

 

「あ~、会いたかったよ~! 私の可愛い孫達~っ!!」

 

徐に2人を抱き締めると、2人に頬擦りを始める。

 

「キャッ!?」

 

「お、お祖母様っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

思わず声を挙げるみほとまほに、仰天して固まる両機甲部隊メンバー。

 

「ホントにもう、美人になったじゃないかい。私の若い頃にそっくりだよ」

 

「あわわわっ!?」

 

「もう~、お祖母ちゃん。くすぐったいよ~」

 

完全に狼狽しているまほとは対照的に、みほは嬉しそうな様子を見せる。

 

「あ、アレが生ける伝説?」

 

「只の孫バカなおばあだぞ」

 

「いや、コレは………」

 

「良いお祖母様みたいですね」

 

沙織と麻子が戸惑いながら、困惑している優花里に尋ねる中、華だけは笑顔でそんな台詞を言うのだった。

 

「さて、孫分も補給したし、本題に入ろうかね」

 

と、みほとまほの事を存分に堪能した町子は、すぐに真面目な表情になる。

 

「…………」

 

「うふふ、お祖母ちゃんたら」

 

そのギャップに若干付いて行けなくなっているまほと、笑いを零すみほ。

 

「先ずは黒森峰機甲部隊、それに大洗機甲部隊の諸君」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで町子が両機甲部隊メンバーに呼び掛けると、一同に緊張が走る。

 

「………今回の件、本当にすまなかったね。許しておくれ」

 

だが次の瞬間に町子は、そう言って深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

町子の思わぬ行動に、両機甲部隊メンバーに衝撃が走る。

 

「お祖母ちゃんっ!?」

 

「お祖母様!? 何を………」

 

みほとまほも戸惑っていると………

 

「全ては私が娘の教育を間違っちまったせいさ」

 

町子はしほの方を見やってそう言う。

 

「!?」

 

視線を向けられたしほは、一瞬ビクリとする。

 

「えっ?」

 

「それは一体?………」

 

「そもそも『勝利こそ絶対』、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』なんて考えは西住流には無かったんだよ」

 

「「!? ええっ!?」」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

告げられた衝撃の事実に、みほとまほ、黒森峰機甲部隊メンバーは驚愕する。

 

「それはあの子自身が言い始めた事なんだよ」

 

しほに視線を向けながらそう言葉を続ける町子。

 

 

 

 

 

曰く………

 

生きる伝説とまで言われるくらいの凄まじい功績を遺した町子

 

だが、それは………

 

娘であり、次期後継者であるしほにとって重荷として降り掛かった………

 

町子が立てた功績故に過剰な期待を抱かれてしまい、それに十分に答える事が出来なかった結果………

 

しほは勝利至上主義者へと変貌してしまったのである。

 

『勝利こそ絶対』、『勝つ為の犠牲は止むを得ない』を新たな教訓として、西住流を、黒森峰の戦車道をより強固なものにして行った。

 

無論、町子もその姿勢を咎めたが………

 

『お母様に私の気持ちは分からない!!』

 

そう言われてしまい、何も言えなくなってしまった。

 

やがて、自分に賛同する一族の者達の支持を集め、しほは西住流の師範代・家元に就任した。

 

町子は隠居へと追いやられ、その後しほへの口出しはしなくなった………

 

だが、今回の1件を受け、事態の収拾を図る為に急遽帰国したのである。

 

 

 

 

 

「そう言うワケさ………全ては私の責任だよ。だから………今回の件の後始末は全て任せてもらうよ。安心なさい。黒森峰と西住流は必ず立て直してして見せるから」

 

そう言って、力強く、安心感を感じる笑みを浮かべる町子。

 

「お祖母ちゃん………」

 

「お祖母様………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その笑みを見て、みほとまほ、そして黒森峰機甲部隊メンバーは確信する。

 

きっと大丈夫だと………

 

(コレが先代の西住流家元か………)

 

弘樹もそんな町子の姿に、尊敬の念を覚える。

 

「…………」

 

とそこで、町子の視線が弘樹に向けられる。

 

「!!………」

 

弘樹は自然と姿勢を正し、ヤマト式敬礼を執っていた。

 

「…………」

 

そんな弘樹の姿を見て、町子は満足そうな笑顔を浮かべる。

 

「さ、みほ。行きな。優勝旗の授与が始まるよ」

 

「あ、うん!」

 

そこで、優勝旗の授与が迫っている事を町子が言い、みほは大洗機甲部隊メンバーの元へと向かう。

 

「………お姉ちゃん! お祖母ちゃん!」

 

と、その途中で立ち止まると、まほと町子の方を振り返る。

 

「やっと見つけたよ! 『私の戦車道』っ!!」

 

「!………ああ!」

 

「…………」

 

まほは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔になり、町子の終始満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

『優勝! 大洗機甲部隊っ!!』

 

壇上の上に集合した大洗機甲部隊メンバーの前に立ったみほが、優勝旗を掲げる。

 

「うわっ!? とっ!?」

 

と、優勝旗の重さでよろめくが………

 

後ろから伸びて来た手が優勝旗の竿を掴んで支える。

 

「!………」

 

「…………」

 

振り向いたみほが見たのは、微笑を浮かべている弘樹の姿だった。

 

「…………」

 

それを見てみほも笑顔を浮かべて、正面を見やる。

 

観客達の惜しみない歓声と拍手が、大洗機甲部隊を祝福する。

 

こうして………

 

第63回戦車道・歩兵道全国大会は………

 

幕を閉じた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

茨城県大洗町・大洗鹿島線大洗駅にて………

 

「帰って来た………」

 

優勝旗を手に、堂々の凱旋を果たしたみほ達。

 

「総隊長、何か言え」

 

するとそこで、杏の無茶振りが振られる。

 

「えっ!?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

戸惑うみほに、大洗機甲部隊メンバー全員の視線が注がれる。

 

「え、ええっと………」

 

「みほくん。『アレ』で良いだろう」

 

戸惑うみほに、弘樹がそうアドバイスする。

 

「あ! うん!!………パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレード!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、みほと弘樹からお馴染みの掛け声が掛けられると、ガッツポーズと共に跳び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま、大洗機甲部隊は学園艦に向かって街中を行軍。

 

その途中で、町中の人々から大歓声の祝福を受けた。

 

地元のマーチングバンドの演奏が響き………

 

百合に新三郎、淳五郎に好子、久子、湯江と言った家族達にも見守られ………

 

一航専の航空機が上空でアクロバット飛行を披露し………

 

洋上で呉校艦隊が祝砲を盛大に撃つ中………

 

大洗機甲部隊は、自らが守り抜いた母校の在る………

 

『大洗学園艦』へと帰還するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグへつづく




新話、投稿させていただきました。

遂に明らかになった文科省の陰謀。
何と国際的な犯罪でした。
コレは公安も動きます。
しかし、暴露された事で学園艦統廃合計画自体が無くなり、大洗も黒森峰も存続出来る事になりました。

そして登場した先代の西住流師範で家元………
みほ達のお祖母ちゃん、『西住 町子』
モデルは、特撮界の永遠の女王様である魔女である『曽我 町子』さんです。
先代と言う事で、あのしほを超える様な人物を想像していたところ、特撮で多くの悪の女王を演じられた曽我さんのイメージが来まして。
人当たりが良いのは、普段の曽我さんのエピソードなんかから来てます。
彼女の下に、黒森峰と西住流は再起を行います。
具体的にどんな感じに風評を払拭したかは、黒森峰組の出番もあるOVAのリボンの武者エピソード内で語ります。

何はともあれ、遂に大洗機甲部隊の優勝です。
優勝旗を引っ提げて大洗に凱旋。
そして、自分達の守り抜いた学園艦へと戻ります。

次回はエピローグとなる『エンカイ・ウォー』
その後にショートエピソードの『勲章授与』を挟み、OVAとなるリボンの武者エピソード………
そしてその後に劇場版です。
まだまだお使いの程をお願い致します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『エンカイ・ウォーです!(前編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

エピローグ『エンカイ・ウォーです!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い戦いが終わり………

 

遂に優勝の栄誉を手にした大洗機甲部隊………

 

文科省の陰謀が明らかになった事で、黒森峰も廃校を免れ………

 

町子の下に、西住流と共に新たな体制が作られるだろう………

 

そして、今………

 

大洗機甲部隊のメンバー達は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・一航専学園艦・呉校学園艦が一同に会し………

 

それ自体が1つの建造物となっている都市艦………『お屋敷艦』に接舷している。

 

迫信が『個人的に』所有している都市艦だ。

 

そのお屋敷艦の1室………

 

3校の生徒達が一同に会しても、尚余裕なスペースがある特大宴会場にて………

 

「あ~、決勝戦はホントにご苦労だった。皆の素晴らしい活躍で、我が部隊は見事優勝する事が出来た」

 

壇上スペースに陣取る浴衣姿の両校生徒会メンバーの内、桃が同じく浴衣姿の皆に向かってマイクで演説していた。

 

「戦車道・歩兵道で無名の我が部隊が、並み居る強豪部隊に打ち勝つとは、誰が予想しえたであろうか。コレは高校戦車道・歩兵道史に残る快挙である。コレも一重に………」

 

「能書きがなげぇぞぉっ!!」

 

「とっとと始めろやーっ!!」

 

と、余りに長い桃の演説に痺れを切らした様に、海音と豹詑を初めとした大洗歩兵隊員達からそんな野次が飛ぶ。

 

「! き、貴様等ぁ! 副隊長に向かって………!? ぐえっ!?」

 

「能書きは良いと言っているだろう………」

 

桃が怒鳴り返そうとしたところ、背後に立った熾龍に、後頭部からアイアンクローを喰らい、持ち上げられる。

 

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

ミシミシと言う骨が軋む音と共に悲鳴を挙げる桃。

 

「え~、では、祝賀会を開催します。会長、お願いします」

 

「良かったね~、廃校の件が無くなって。では、乾杯ーっ!!」

 

「みじかっ!?」

 

「アレくらいで良いって」

 

だが、それらは一切無視され、柚子、杏によって祝賀会が恙なく開始される。

 

「か、乾杯~」

 

「乾杯~!」

 

「乾杯ーっ!!」

 

「お疲れ様でした」

 

「お~」

 

其々の個性が感じられる乾杯を挙げるあんこうチーム。

 

「「「学園の風紀に乾杯っ!」」」

 

相変わらず風紀命のカモさんチーム。

 

「戦車とバレー部に!」

 

「「「「乾杯ーっ!!」」」」

 

同じくバレー命のアヒルさんチーム。

 

「プロ―ジット」

 

「チンチン」

 

何故かカエサルがドイツ語、エルヴィンがイタリア語で乾杯と言うカバさんチーム。

 

「「「「「レッツラゴーッ!!」」」」」

 

キャンプ合宿で気に入ったのか、レッツラゴーを乾杯の音頭にするウサギさんチーム。

 

「「「「イグニッションッ!!」」」」

 

「「「シークエンス、スタートッ!!」」」

 

自動車用語で音頭を取るレオポンさんチームと、ゲーム用語で音頭を取るアリクイさんチーム。

 

「「「「「「「「「「「「レッツダンスッ!!」」」」」」」」」」」」

 

アイドルらしい音頭を取るサンショウウオさんチーム。

 

「「「「「「「「「「乾杯ーっ!!」」」」」」」」」」

 

そして、皆で揃って一斉にグラスを掲げる大洗歩兵部隊員達。

 

「「「「イエーイッ!!」」」」

 

「フフ………」

 

杏達カメさんチームもノリノリで乾杯し、迫信も笑いを零す。

 

「しっかし、スッゲー花輪だなぁ」

 

「ホント、所狭しと並んでますね」

 

地市と飛彗が、特大宴会場の壁際にズラリと並んでいるお祝いの花輪を見てそう言い合う。

 

「え~、大洗の商工会、及び町内会。それに神大コーポレーションとその関連会社からは花を頂いている」

 

とそこで、漸く熾龍から解放された桃が、頭を押さえながらそう説明する。

 

「拍手ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~っ!!」」」」」」」」」」

 

杏がそう言うと、大洗機甲部隊員達は一斉に拍手する。

 

「成程、神大コーポレーションとその関連会社からもですか………」

 

「けっ、ブルジョワめ………」

 

楓が納得した様子を見せ、了平が悪態を吐く。

 

「やめーっ!!」

 

とそこで、再び杏の声で拍手が制される。

 

「それでは、祝電を披露する」

 

そして桃が、壇上に祝電を持って現れ、柚子と蛍が読み上げ始める。

 

「コングラチュレーション! ネクストはミーがウィンするからね! P.S………小太郎、愛してるわ!!」

 

「!? ブーッ!!」

 

「うわっ!? きったねぇなぁっ!?」

 

P.Sの一文を聞いた小太郎が、飲んでいたお茶を吹き出し、傍に座っていた重音が狼狽する。

 

「サンダース大学付属高校、ケイ様からでした!」

 

「サンダースっぽい」

 

「でも日本語か英語に統一して欲しいよね」

 

「却って分かり難いよね」

 

「それにしても、愛してるなんて………大胆………」

 

蟹にかぶりつきながら、優希、あや、あゆみ、梓がそう漏らす。

 

「おめでとうございます。私からはこの言葉を贈らせてもらいます。『夫婦とは互いに見つめ合うものではなく、1つの星を見つめ合うものである』。聖グロリアーナ女学院、ダージリン代理オレンジペコ」

 

続いて蛍が、オレンジペコからの祝電を読み上げる。

 

「結婚式じゃない」

 

「どなたの結婚式だと思ってらっしゃるんでしょう?」

 

「ううん………」

 

まるで結婚式の様な祝電に、麻子、華、みほが困惑する。

 

「でも私の心の名言集に入れておきます。何時か使えるかも知れないし」

 

「私と地市くんの結婚式に使って使ってー!」

 

「さ、沙織………」

 

しかし優花里の心には響いた様子で、こういう話が大好きな沙織はそんな事を言い、地市が照れる。

 

「………裏切り者のリア充め」

 

そしてそれを見て、相も変わらず血の涙を流す了平だった。

 

「モスクワは涙を信じない。泣いても負けたって現実は変わらないから。もっと強くなる様に頑張るわ! 身長だって陣に追い着いて見せるんだからっ!! プラウダ高校、カチューシャさんからでした」

 

「だとよ、陣」

 

「…………」

 

柚子がカチューシャの祝電を読み上げると、名指しされた陣に明夫が声を掛けるが、陣は無言で刺身を食べ進めていた。

 

「後藤 又兵衛も次勝てば良しと言っていたな」

 

「世に生を得るは事を成すにあり」

 

「部下に必勝の信念を齎せる事は容易だ。勝利の機会を沢山経験させれば………」

 

「「「それだーっ!!」」」

 

「アンタ達もブレないねぇ………」

 

相変わらず歴史談義に花を咲かせるカバさんチームに、鷺澪がツッコミを入れる。

 

「他にも知波単学園の西様。継続高校のミカ様。天竺女学園のローリエ様。パシフィック高のセイレーン様。クレオパトラ高校のネフェティ様。西部学園のクロエ様。ナイトウィッチ女子学園のシュガー様。冥桜学園の長門様」

 

「その他からも祝電を頂いておりますが、時間の都合上省略させていただきます」

 

「イエーイッ!!」

 

「尚、アンツィオ高校からは、全員分アンチョビ缶が届いている」

 

と、桃がそう言うと、大洗機甲部隊員全員にアンチョビ缶詰が配られる。

 

「コレ、セール品だよ」

 

「あの学校、お金無いからね」

 

「お金は正直だね~」

 

「言ってやるなって………」

 

そのアンチョビ缶に半額値引きのシールが貼られたままなのを見て、桂利奈、あや、優希が小声でそう言い合い、察してやれと磐渡が諭す。

 

「ああ、そう言えば舩坂。お前個人宛で電報が多数届いてるぞ」

 

するとそこで、俊がそう声を挙げた。

 

「小官に?」

 

「それがまるで示し合わせたみたいに皆同じ内容なんです」

 

「………『次は勝たせてもらう』………だそうです」

 

弘樹が反応すると、逞巳と清十郎がそう言う。

 

「…………」

 

それを聞いた弘樹は、納得が行った様な表情になるのだった。

 

「よ~し! じゃあ、座も温まった事だし、そろそろ始めるかね~」

 

「拍手~!」

 

「「「「「「「「「「うわあ~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

柚子が促すと、大洗機甲部隊員達から拍手が挙がる。

 

「止めーいっ!!………それでは、コレより………各戦車チームと歩兵分隊による隠し芸の披露を行う」

 

それを桃が制すると、この祝賀会で最大のイベント………

 

各戦車チームと歩兵分隊による『対抗隠し芸大会』が始まる。

 

「今回は其々得意な物は禁止だぞ。レオポンチームは自動車ネタ禁止。アリクイはネトゲネタ禁止。カバチームは歴史ネタ禁止。アヒルチームはバレーネタ禁止。サンショウウオチームはアイドルパフォーマンス禁止。あんこうチームはあんこう踊り禁止」

 

「それから、歩兵の皆さんは人数が多いので、各分隊ごとに数名の代表者を選抜してとなります」

 

「勿論、得意な事は禁止だよ」

 

桃、柚子、蛍が隠し芸大会でのルールを説明する。

 

「私達からネトゲを奪ったら何が残るんですかぁ!」

 

「同じく、我々から自動車を取ったら!」

 

「歴史を取ったら!」

 

「バレーを取ったら!」

 

「そんな~! 私達スクールアイドルなのに~!!」

 

得意な物を禁じられた戦車各チームからは抗議の声が挙がるが………

 

「あんこう踊りを!………取られても全然平気だね」

 

「寧ろ禁止して欲しい………」

 

あんこう踊りを禁止されたあんこうチームだけは、安堵の笑みを漏らしていた。

 

「優勝チームには豪華賞品も用意しているからなぁ」

 

「因みに3位は大洗商店街のサマーセールの福引補助券。2位は学食の食券500円分。1位の賞品は10万円相当の………」

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」

 

10万円相当と聞いた大洗戦車チームから歓声が挙がる。

 

「詳しくは後で発表する。以上!」

 

「現金かな?」

 

「10万円あればティーガーの履帯が1枚買えます!」

 

「いや、有りもしないティーガーの履帯を1枚だけ買って如何するんだ?」

 

優花里が興奮してそう言ったのに、煌人がツッコミを入れる。

 

「私、ボコのぬいぐるみ買っても良いかな?」

 

「良いよ。ボコの何処が良いか分からないけど」

 

「皆で温泉に行きましょうよ」

 

「単位が欲しい………」

 

10万円と言う金額に、あんこうチームの面々も興味津々な様子である。

 

「10万円相当の賞品だろ? 現金って決まったワケじゃないよね?」

 

「金券ショップで売れば良い」

 

換金する気満々のツチヤとホシノ。

 

「優勝したい~」

 

「10万有れば大分良いアイテムやカードが買える~」

 

ネトゲに注ぎ込む気満々のももがーとぴよたん。

 

「別に欲しい物無いけど………」

 

「他のチームに渡ると風紀が乱れそうよね」

 

「風紀を守る為に勝とう!」

 

「君達は相変わらずだな」

 

こんな時でも風紀優先な希美、モヨ子、みどり子にの様子に、紫朗がツッコミを入れる。

 

「10万円ってどのくらい?」

 

「どのくらい?」

 

「沢山だよ!」

 

「沢山………」

 

「凄~い」

 

「絶対に勝とうっ!!」

 

「「「「「おおーっ!!」」」」」

 

そして純粋に燥いでいるウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々。

 

「10万円か~。何に使おうか?」

 

「聖子。まだ獲得出来ると決まったワケじゃないんですよ」

 

「そ、それに………アイドルとしてはステージに立てないって………」

 

聖子が既に賞品を貰った気で居ると、優がそうツッコミを入れ、さゆりが不安そうにそう言う。

 

「大丈夫、大丈夫! 何とかなるって!!」

 

「また根拠の無い事を………」

 

「でもそれが聖子ちゃんだよね」

 

「よおし! やってやるかっ!!」

 

しかし、聖子は笑ってそう言い、里歌が呆れるが、伊代は笑ってそう言い、唯は気合を入れる。

 

大いに盛り上げる大洗機甲部隊員達。

 

しかし………

 

「オイ、そっちの会長の事だから、干し芋とか言わねえよな?」

 

そこで白狼が、女子学園生徒会メンバーにそんな野次を入れる。

 

「!? な、何故それを!?」

 

「………マジかよ」

 

「「「「「「「「「「ああ~………」」」」」」」」」」

 

桃が狼狽すると、大洗機甲部隊の一同は途端にやる気を無くす。

 

「オイ、干し芋の何が悪いんだ?」

 

その様子を見た杏が不機嫌になる。

 

「まあまあ、杏………よし、ではこうしよう。3位までの賞品とは別に、審査員である我々生徒会の支持を集めた優れた芸を披露した者・チームに、私個人が使える権限を全て活用した賞品を出そう」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

するとそこで迫信がそう言い放ち、途端に大洗歩兵隊員達のボルテージが最大までアップする。

 

「マジかよ! 会長閣下からの賞品だってよっ!!」

 

「神大コーポレーションの御曹司様や! こりゃどんなもんでも望みのままやでっ!!」

 

秀人と大河が興奮したままそう言い放つ。

 

爪楊枝から人工衛星までと言うキャッチコピーを謳い、世界のあらゆるシェアの70%を握っており、政治方面にも多大なコネと権限の有る神大コーポレーション。

 

その御曹司にて次期総裁候補である迫信の権限をフル活用しての賞品………

 

言ってしまえばどんな事でも望むままである。

 

「…………」

 

「杏、そう不貞腐れるなって。ココは盛り上がりが大事だ」

 

ハイテンションになった大洗機甲部隊員達の様子を見て、更に不機嫌になる杏の頭を、迫信が撫でながらそう慰める。

 

「………まあ、良い。それじゃあ、改めて! 優勝したいかーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

それで如何にか機嫌の直った杏は、改めて大洗機甲部隊員達にそう問い質し、威勢の良い返事を大洗機甲部隊員達が返す。

 

「それでは、各チームに渾身の1芸を披露して頂きま~す」

 

そして柚子の言葉で………

 

大洗機甲部隊員達の隠し芸大会が開始されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

エピローグのエンカイ・ウォーです。
前編と有りますように、原作の内容が濃いのと、原作より人数が増えているので、3部構成になります。
エピローグなのに3部構成って………

ともあれ、歩兵側が人数が多いので、作中で言った様に代表者を選抜してという形になります。
また、やる気を出させる為、迫信から個人的な賞を出すと言う改変を行いました。
いよいよ次回から目玉の隠し芸大会。
キャラ崩壊などもあり、カオスになるので、御注意下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『エンカイ・ウォーです!(中編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

エピローグ『エンカイ・ウォーです!(中編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優勝の祝賀会が、迫信のお屋敷艦の特大宴会場にて行われる中………

 

最大のイベントである隠し芸大会が開幕する………

 

果たして、迫信の権限をフル活用する事が出来ると言う賞品は、誰の手に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お屋敷艦・特大宴会場………

 

「では、トップバッターは………風紀を取り締まったら大洗1。厳しさの中に厳しさが滲む。地震、雷、火事、風紀委員。カモさんチームです」

 

「「「「「「「「「「わあああ~~~~っ!」」」」」」」」」」

 

柚子のナレーションと、大洗機甲部隊員達の歓声と共に、特大宴会場のステージの幕が上がり、トップバッターのカモさんチームが姿を現す。

 

「「「私等強気な風紀委員娘♪ 皆言ってる陰口を♪ カモさんチームのお名前は♪ そど子、ゴモヨ、パゾ美とは随分ね♪」」」

 

「ほう………○しまし娘か」

 

「分かる奴は少ないんじゃないのか?」

 

みどり子が三味線、モヨ子と希美がギターを弾きながら登場すると、ゾルダートと大詔がそんな事を言う。

 

「それでは御覧に入れます! 奇妙、奇天烈、摩訶不思議! 分身の術!!」

 

と、みどり子がそう言うと、何時の間にかその後ろに隠れていたモヨ子と希美がバッと姿を現す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

途端に、大洗機甲部隊員達が一斉に静まり返る。

 

「只3人居るだけやないけ………」

 

「分身なら拙者も出来るでござる」

 

「君の場合は本当にね………」

 

大河、小太郎、武志がそんな事を言う。

 

「瞬間移動!」

 

しかし、みどり子は聞こえていないのか気にしていないのか、芸を続ける。

 

モヨ子が近くに在った台の陰に隠れる。

 

「消えたと思ったら!?………あんなところに!?」

 

「あ………」

 

そしてみどり子がそう言うと、希美が優花里の近くのテーブルの下から出て来てギターを鳴らす。

 

「いや、単に希美さんが隠れてただけじゃ………」

 

「まさか、ずっとこの調子が続くのか?」

 

鋼賀がそう指摘すると、弦一朗がそんな事を呟く。

 

「幽体離脱~」

 

しかし、そのまさからしく、カモさんチームは今度は小太りな双子の芸人の持ちネタを披露する。

 

「「…………」」

 

「あ、杏! 柚子ちゃん! しっかりしてっ!!」

 

余りの酷さに、杏と柚子の目からハイライトが消えてしまい、蛍が慌てる。

 

「酷過ぎるな………」

 

「幾らなんでも、コレで笑う人は………」

 

十河が酷評し、逞巳も困惑の様子を露わにしていると………

 

「ク、クフフフ………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然耐え切れず吹き出した様な笑い声が挙がり、大洗機甲部隊員達は驚愕に包まれる。

 

「ひ、弘樹くんっ!?」

 

みほが驚きの余り声を挙げる。

 

そう………

 

笑っていたのは弘樹だった。

 

「フフフフ………面白いな。なあ、みほくん」

 

「えっ!? え~と………あはは」

 

静かだが、ハッキリと笑っている弘樹を見て、みほは困った様に笑う。

 

「長い付き合いだが、アイツの笑いのツボだけは未だに分からんな………」

 

「ですね………」

 

そんな弘樹の様子を見て、シメオンとエグモンドがそう言い合う。

 

「それでは皆さん!」

 

「「「さ~よ~う~な~ら~」」」

 

みどり子達がそう言い残し、幕が下りると、弘樹只1人が拍手を送る。

 

「え~、では気を取り直しまして………カモさんチーム随伴歩兵分隊であるマンボウさん分隊の代表の方。お願いします」

 

と、柚子がそう言い、幕が開いて現れたのは………

 

「絶・好・調であるっ!!」

 

「うわっ!?」

 

「ハウリングがっ!?」

 

余りにも大声を挙げた為、スピーカーからハウリングの甲高い音を鳴り響かせる事になった、最早見慣れたテンションの月人である。

 

「マンボウさん分隊の代表は絃賀先輩か………」

 

「意外デスね………」

 

こんな隠し芸大会などには参加しないだろうと思っていた竜也とジャームズが意外そうな顔をする。

 

「フハハハハハッ! 小生は声優演技再現を披露させてもらおうっ!!」

 

しかしそんな2人の様子など気にせず、月人は高笑いしながらそう宣言する。

 

「声優演技再現?」

 

「何でも小生の声がとあるアニメのキャラに似ていると伊達が言って居ったのでなぁっ!! それを完璧に再現してやろうではないかぁっ!!」

 

「えっ!? アレ、マジでやる気かよっ!?」

 

月人がそう言うと、圭一郎が若干焦った様な様子を見せる。

 

「? 圭一郎、如何した?」

 

と、鋼賀がそんな圭一郎に尋ねた瞬間………

 

「聞け! 聞くが良い! オーバーデビル!! 片腕だけとは言わぬ! 我が目的の為に、欲しい! お前が欲しいのだぁぁ!! 私の、絶望に満ちた魂をお前に捧げる! だから! アスハムというこの哀れな男の声を聞いてくれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

月人の絶叫の名演技が炸裂。

 

その台詞は正に絶望に満ちた男の魂の叫びと言えるものだった。

 

「おお、スゲェ演技力!!」

 

「絃賀の奴にこんな才能が有ったとはな………」

 

そのハイレベルな演技に、秀人と俊が舌を巻く。

 

と………

 

「!?………」

 

突然月人がバタリと倒れた!

 

「!? 先輩っ!?」

 

「!!」

 

誠也が叫ぶと、医者の卵であるエグモンドがすぐさま駆け寄って調べる。

 

「!? いけません! 過呼吸を起こしてしますっ!!」

 

「「「「「「「「「「ええええぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

何と、演技に熱を入れ過ぎた余り、過呼吸となってしまった様である………

 

月人は直ちにお屋敷艦内に在った病院へ運ばれた。

 

幸いにも一命は取り留めたそうである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~、ちょっとハプニングがありましたが………続いては、汗はオイル。心はエンジン。カーブでもアクセルは緩めない。トップスピードで人生を駆け抜ける自動車部、レオポンさんチーム」

 

柚子がそう言うと、幕が開いて派手な衣装に身を包んだレオポンさんチームが現れる。

 

「「「「イッツ、ショータイムッ!!」」」」

 

「ジャジャーンッ!!」

 

「ジャジャジャンッ!!」

 

そして、ホシノが身を反らしながら腕から花束を出現させ、ツチヤが被っていたシルクハットから鳩を出現させる。

 

「お~っ!」

 

「手品ですか」

 

「ナイトウィッチ校を思い出しますね」

 

優花里が拍手を送っていると、勇武と光照がナイトウィッチ女子学園の事を思い出してそう言い合う。

 

「それでは最後の大ネタ!!」

 

と、ナカジマがそう宣言したかと思うと、ステージ上にアヒルさんチームの89式中戦車が現れた。

 

「「ああ~~~っ!?」」

 

「八九式がっ!?」

 

「何時の間にっ!?」

 

突然自分達の戦車が現れ、アヒルさんチームからは困惑の悲鳴が挙がる。

 

「此処に有ります八九式を見事変身させてみせます」

 

ナカジマが更にそう言うと、レオポンさんチームと八九式が敷居で隠される。

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

機械音が響く中、アヒルさんチームの絶叫が挙がる。

 

「ちょっと待ってー」

 

途中、スズキがそう言うのを挟み、やがて敷居が外されたかと思うと………

 

何と八九式の姿は無く、代わりにポルシェティーガーの姿が露わになった!!

 

御丁寧に、砲塔横のマークはアヒルさんのままである。

 

「凄いっ!」

 

「ポルシェティーガーですよ!」

 

「何コレ、イリュージョンッ!?」

 

みほ、優花里、沙織から驚きの声が挙がる。

 

「ふざけるなーっ!」

 

「ウチの八九式に何するのよぉっ!!」

 

「返せーっ! ウチの戦車返せーっ!!」

 

一方、アヒルさんチームの面々からは非難轟々である。

 

「コッチの方がぁ強そうだけどなぁ」

 

「優希さん、それは言わない方が………」

 

優希がそう呟くと、竜真が言わぬが花であると言う。

 

「あ~、落ち着いて、落ち着いて! ほいっ!!」

 

と、ナカジマがアヒルさんチームを宥めながら号令を掛けると………

 

ポルシェティーガーが2つに割れて、元の八九式の姿が現れる。

 

「書き割りだったんだ………」

 

「凄くリアルだったね」

 

拳龍と弁慶がそう言い合う。

 

「「「「「「「「「「あ~………」」」」」」」」」」

 

「皆何でガッカリしてるのよっ!?」

 

「ウチの八九式を馬鹿にするなっ!!」

 

と、八九式に戻ってしまった事にガッカリしている様子の大洗機甲部隊員達に、アヒルさんチームが不満をぶつける。

 

「そうだぞ。今までアヒルさんチームの八九式戦車にどれだけ助けられたと思っている。そもそも………」

 

するとそこで弘樹も説教を始めてしまい、場の空気が悪くなって行く………

 

「ひ、弘樹くん! お祝いの席だから! その辺で………」

 

「む………スマン」

 

何とかみほに諌められ、引っ込む弘樹だった。

 

「え~、ではレオポンさんチームの随伴歩兵分隊、おおかみさん分隊の代表、どうぞ~」

 

そこで続けて、おおかみさん分隊の番となり、幕が開くと………

 

「「イエーイッ!!」」

 

何と、セーラー服とブレザー姿に女装した海音と豹詑が現れた。

 

「うわぁっ! キモッ!!」

 

「目が! 目が腐る~っ!!」

 

「ふざけんなーっ!!」

 

「引っ込めーっ!!」

 

途端に、歩兵隊員達を中心に罵声が飛ぶ。

 

「アイツ等、何やってんだ………」

 

「完全に文化祭のノリだな………」

 

そんな親友の姿に頭を抱える白狼と、他人事の様にそう言いながらウーロン茶を煽る煌人。

 

「まあ、待て待て待て」

 

「ワイ等は前座や。大トリは………コイツやっ!!」

 

するとそこで、海音と豹詑が左右に広がる様に移動し、スポットライトが照らされたかと思うと………

 

「…………」

 

無言で佇む謎の美女?が居た。

 

「うわっ!? すっごい美人っ!?」

 

「えっ!? ひょっとしてアレも女装っ!?」

 

「誰だよ、アレ!? 美人過ぎるだろっ!?」

 

低クオリティな海音と豹詑の女装を見た後だけに、謎の美女?のクオリティの高さに驚く大洗機甲部隊員達。

 

「………飛彗さん?」

 

するとそこで、華が謎の美女?を見てそう言った。

 

「え………!? ええっ!? 宮藤くんっ!?」

 

その言葉で、謎の美女?の事をよくよく見て、実は飛彗であった事に気づき、驚きの声を挙げる沙織。

 

「宮藤っ!?」

 

「マジかよっ!?」

 

「俺、アレなら行ける………」

 

途端に大洗歩兵部隊達からも、少々危ない台詞を含んだざわめきが挙がる。

 

「だ、だから嫌だって言ったじゃないか~!」

 

途端に、飛彗は海音と豹詑に訴えかける様にそう言う。

 

「まあまあ」

 

「コレも経験やで」

 

「何処がですか~」

 

それを一切気にしていない様子の海音と豹詑に、飛彗は只々弄られるばかりだった。

 

「こ、コレ以上は色々と危ないので、終了っ!!」

 

と、危ない空気が漂い始めていたのを感じ取った蛍が強制的に幕を下ろし、おおかみさん分隊の出番は終了する。

 

「ハイ、それでは次のチームは、2次元の戦いに命を燃やし、クリック、エンター、キー操作! 指の動きは天下一品! アリクイさんチームです!!」

 

柚子がそう言うと、幕が上がってアリクイさんチームが姿を見せる。

 

珍しくねこにゃーがメガネを外している。

 

そしてそのまま、3人でかえるの合唱を輪唱し始める。

 

「コレだけ?」

 

「コレだけっぽいよ」

 

「ええっ?」

 

まさかの輪唱だけと言う芸に、ウサギさんチームからは困惑の声が挙がる。

 

「ああ、ねこにゃー殿………君は美しい………抱きしめたいなぁっ!!」

 

「ハハハハハハッ! 相変わらずだな、六郎っ!!」

 

六郎だけはお馴染みの調子でおり、その隣でノンアルコールビールを煽っているハンネスは呵呵大笑する。

 

「誰か止めてー」

 

「もう良いよー」

 

「終わり終わりー」

 

溜まらず大洗機甲部隊員達からは野次が飛び始める。

 

すると………

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「!??!」」」」」」」」」」

 

突如ステージの上方から、竜作が独特な非常にねちっこく、低音でうねる様な声の叫びと共に落下して来て、アリクイさんチームの背後に着地を決めた。

 

「お、太田くん!? キツネさん分隊の出番はまだ………」

 

「お楽しみはコレからだぜっ!!」

 

蛍の声を無視し、竜作は神父服の懐に両手を突っ込んだかと思うと、丸い物を取り出した。

 

「………メロン?」

 

それは見事なアンデスメロンだった。

 

「そう! 鉾田市産のアンデスメロンだ! 因みに、茨城県はメロンの生産量が日本一だぁっ!! 勿論っ!! 味も天下一品よぉっ!!」

 

と竜作はそう言いながらメロンを頭上に放ったかと思うと、お馴染みのバイヨネットを取り出し、落下して来たメロンを一瞬で切り分ける。

 

そして、切り分けたメロンが、アリクイさんチームと自分に行き渡ったかと思うと………

 

「ぶるぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

またもあの叫びと共に『ベリーメロン~私の心をつかんだ良いメロン~』を、アリクイさんチームと共に歌って踊り始めた!

 

「コレ、宣伝か?」

 

「いや、只のネタだろう………」

 

その光景に、了平と地市がそうツッコミを入れるのだった。

 

「え、え~と………あ、ありがとうございました!」

 

と、コレ以上はカオスになり過ぎると判断した柚子が、強制的に幕を下ろす。

 

「それでは次は、出来ない~、無理~、分からない~、年下だから許される。若い若いも今の内。1年生、ウサギさんチーム」

 

そして続けてそう言うと、再び幕が開いて、体操着姿のウサギさんチームが姿を現した。

 

梓が笛を一定のリズムで吹き始めたかと思うと、ウサギさんチームが動き出し………

 

「サボテン!」

 

組体操のサボテンを披露した。

 

「「「「「「「「「「おお~~っ!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊の面々から、感心の声と共に拍手が挙がる。

 

更に梓が笛を吹くと………

 

「扇!」

 

今度は扇が披露される。

 

「頑張れー」

 

「体育祭みたい」

 

心配そうにウサギさんチームを見守る沙織と、微笑ましそうに笑っているみほ。

 

「戦車やれー! 戦車ーっ!!」

 

とそこで、突然優花里が大声で騒ぎ始めた。

 

「!? 優花里さんっ!?」

 

「顔が赤いですよ?」

 

「酔ってる………」

 

「オレンジジュースで!?」

 

「んなワケあるか、只の場酔いだ」

 

突然ハイテンションになった優花里に、みほ達が困惑していると、白狼がそう言って来る。

 

「神狩殿ぉーっ!!」

 

「おうわっ!? またかよっ!!」

 

そして優花里は、そのテンションのまま白狼に抱き付く。

 

「………リア充なんて皆死ねば良いんだ」

 

「…………」

 

その光景にお馴染みとなった血の涙を流す了平と、祝いの場でまでツッコミをしたくないのかスルーしている楓。

 

「ピラミッド!」

 

一方ステージでは、最後のピラミッドが披露されている。

 

「やったーっ!!」

 

見事に技が決まった事を我が事の様に喜ぶ沙織。

 

まるで我が子の学芸会を見る母親である。

 

「沙織さん、お行儀悪いわよ」

 

そんな沙織に、華がこれまた母親の様に注意するのだった。

 

「やったー!」

 

「「わーい! わーい!」」

 

「練習した甲斐あったね!」

 

見事に隠し芸披露が終わり、大満足な様子のウサギさんチーム。

 

「うふふふ」

 

「つまらん………」

 

笑いを零す柚子とバッサリ切って捨てる桃。

 

「貴様よりは面白いぞ………」

 

「!? 何だ………!? ぐえええっ!?」

 

そんな桃に熾龍が毒を吐き、桃が食って掛かろうとした瞬間に問答無用でアイアンクローをお見舞いするのだった。

 

「では続けて、ハムスターさん分隊の登場です」

 

と、蛍がそうアナウンスすると、一旦幕が下りて、再び上がったかと思うと、袴姿の勇武と光照が現れる。

 

「行きますよ~!」

 

そこで勇武が、手に持っていた番傘を広げて差す。

 

「ハイッ!!」

 

その傘の上に、光照が持っていた升を投げたかと思うと………

 

「よいしょーっ!!」

 

勇武が番傘を回転させ、升を傘の上で転がした!

 

「いつもより余計に回しております!!」

 

「これを見た人、今後ますますご発展」

 

「「おめでとうーございますっ!!」」

 

そしてそう台詞を決める2人。

 

「「「「「「「「「「おーっ!!」」」」」」」」」」

 

見事な技に、これまた大洗機甲部隊からは歓声と拍手が挙がる。

 

「まだまだ行きますよ~」

 

「ハイ! ハイ! ハイ!」

 

とそこで、光照が次々と鞠を傘の上に投げる。

 

その全てを受け止め、升と同様に傘の上で回す。

 

「「コレで景気が、跳ね上がります~!!」」

 

「「「「「「「「「「おーっ!!」」」」」」」」」」

 

再度大洗機甲部隊からは歓声と拍手が挙がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盛り上がりを見せて来た隠し芸大会………

 

果たして次はどんな芸(カオス)が展開されるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に始まった隠し芸大会。
今回は前半戦として、カモさんチーム+マンボウさん分隊からウサギさんチーム+ハムスターさん分隊までお送りさせていただきました。
アリクイさんチーム+キツネさん分隊のところは規約の関係で歌詞付きでお送りできないのが残念です。
歩兵側は声優ネタが多いかもです。

さて、ココまで前半戦なので割と大人しめ。
後半戦から一気にカオス度が増します。
御注意下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『エンカイ・ウォーです!(後編)』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

エピローグ『エンカイ・ウォーです!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お屋敷艦・特大宴会場………

 

「次は、復活掲げて幾星霜。どんな苦労もレシーブし、野次や嘲りブロックし、アタック道を切り開く! バレー部アヒルさんチーム!」

 

続いて幕が開き、ステージ上に現れたのはアヒルさんチームの面々だった。

 

「それではモノマネやりまーす! 分かった人は手を上げて答えて下さーいっ!!」

 

「面白そうですね」

 

「五十鈴殿、何でそんなにワクワクしてるんですか?」

 

典子がそう宣言すると、華が楽しそうな様子を見て、優花里が尋ねる。

 

「私、当てるの大好きなんです」

 

「砲手だけに………」

 

「ああ………」

 

華がそう答えると、麻子がツッコミを入れ、沙織が納得した様な顔になる。

 

「「ズズ………」」

 

とそこでアヒルさんチームのモノマネ披露が始まり、先ず妙子と忍がティーカップを手に紅茶を嗜み始める。

 

「分かりました!」

 

「いや、まだモノマネしてませんから!」

 

その時点で華は誰のモノマネか察したようだが、典子からそうツッコミを受ける。

 

「ねえ知ってる? 優秀な将とは根の様なもので、そこから勇敢な兵士が枝の様に現れるのよ」

 

「はいぃ?」

 

と、妙子がそう格言を決めると、忍が呆けた様な返事を返す。

 

「ダージリンさんとオレンジペコさん! 当たってますよね?」

 

「コレ、当てられない方が如何かしてるよ」

 

華が若干興奮した様子でそう問うと、沙織がツッコミを入れる。

 

「けど、そっくりだったぜ」

 

「レベル高いですね」

 

一方、地市と楓は、2人のモノマネが結構高いレベルな事に若干驚く。

 

「じゃあ、次行きます」

 

典子がそう言うと、あけびが右目に片メガネを掛ける。

 

「分かりました!」

 

「すみません、五十鈴さん! モノマネの後にして下さいっ!!」

 

またも華が早くも察し、典子に注意される。

 

「良いか! 下手な芸をした奴は絶対に許さん! 厳罰に処す!!」

 

「河嶋の真似かぁ。似てるよな、小山」

 

「うふふ………ですね」

 

そしてあけびが桃のモノマネをすると、杏と柚子が似ていると評価する。

 

「全然似てないっ!!」

 

しかし、当の桃は不満タラタラである。

 

「桃ちゃん。そんなに怒らないで」

 

「桃ちゃんと呼ぶな!!」

 

あけびが続けて柚子のモノマネをすると、再び桃が喚く。

 

「もう駄目だよ~、柚子ちゃ~ん」

 

「アハハッ!!」

 

「そっくりっ!!」

 

「完全に一致っ!!」

 

「「「「「「「「「「ハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

続けて泣き叫んでいる時の桃のモノマネが披露されると、磐渡、重音、鷺澪を中心に大洗機甲部隊員達から爆笑が挙がる。

 

「笑うな! 何故笑うっ!!」

 

「フッ………」

 

「! 貴様~! 貴様に至っては鼻で笑ったなぁっ!!」

 

桃が更に喚くと、熾龍が鼻で笑う。

 

「や、止めて下さいっ! 皆チームメイトなんですから! 戦うのは味方でなく、敵となんです!!」

 

「みほさん!」

 

「えっ!? 私っ!?」

 

するとそこで典子がみほのモノマネでそう言い、華が言い当てると、みほが驚く。

 

「確かにソックリだ………何かの欺瞞作戦に使えないか?」

 

そしてこんな時でも戦いの事を考えてしまう弘樹。

 

「んん~~………西住殿の言う通りです」

 

続いて、髪の毛をボサボサ状態にして優花里のモノマネをする典子。

 

「秋山さん!」

 

「ぐー………」

 

更に今度はステージ上に寝て寝息を立てる。

 

「麻子さん!」

 

「女子はねえ、下手にスペックが高いより、低い方がモテたりするの。ちょ~とポンコツな方が可愛いでしょ?」

 

そして典子は、今度はモテトークを言う。

 

「沙織さん! 全部合ってますよね?」

 

「華、皆も分かってるから」

 

1人で盛り上がっている華に、沙織がそうツッコミを入れる。

 

「弾は1発で十分です。絶対に命中させます」

 

「コレは何方でしょう?」

 

「「「「ええ………」」」」

 

典子は最後に華のモノマネをするが、当の本人が分からず、みほ達は困惑する。

 

「華さん、貴方ですよ」

 

するとそこで、飛彗がそう指摘した。

 

「えっ? 私あんな風でした?」

 

「ハイ。戦車道中の凛々しい華さん、そのものでしたよ」

 

「や、やだ、飛彗さんったら………」

 

飛彗がそう言葉を続けると、華は照れた様子を見せる。

 

「「「「以上で~す」」」」

 

とそこで、アヒルさんチームの芸の披露が終わる。

 

「あ、もう終わりですか………」

 

「いや、ガッカリしてるの華だけだよ」

 

華が残念そうにしていると、沙織がそうツッコミを入れる。

 

「続いては、ペンギンさん分隊です!」

 

柚子がそう言うと、幕が開き………

 

「…………」

 

忍び装束姿で佇む小太郎が現れた。

 

「お、小太郎か」

 

「何をやるんだろう?」

 

速人と弁慶がそう言うと………

 

「………ミュージック! スタートでござるっ!!」

 

小太郎がそう言い、備え付けられたスピーカーから音楽が流れ始める。

 

「あ、コレ………『手裏剣戦隊ニンニンジャー』のエンディング、『なんじゃモンじゃ!ニンジャ祭り!』じゃねえか」

 

特撮好きの地市が、そのBGMが何であるかを察する。

 

「~~~♪~~~♪」

 

そしてステージ上では、小太郎が歌いながら、その曲のダンスを完コピと言えるレベルで披露している。

 

「凄~いっ!!」

 

「驚いたわね………プロ並みよ」

 

そのダンスに真っ先に反応する聖子と、そう漏らす里歌。

 

「近藤さんが手放しで褒めるなんて………」

 

「凄いね~、葉隠くん」

 

里歌が絶賛するのに驚く優と、感心する伊代。

 

「まさか、完コピの術とか使ってるんじゃねえだろうな」

 

と、唯がおどけてそう言うと………

 

「………!!」

 

小太郎の動きがピタリと止まった。

 

「えっ!?」

 

「まさか………」

 

明菜と満里奈がもしやと言う顔をすると………

 

「コレにて御免っ!!」

 

小太郎は懐から煙玉を取り出して、床に叩き付ける!

 

途端に煙幕が特大宴会場を包み込む!

 

「うわっ!?」

 

「ゴホッ! ゴホッ!」

 

突然の煙に驚き、咳き込む大洗機甲部隊員達。

 

やがて煙幕が晴れると、小太郎の姿は何処にも無くなっていた………

 

「図星だったみたいだね」

 

「全く………得意なモノは駄目と仰ってましたのに」

 

郁恵と早苗がそう言い合う。

 

「で、では、気を取り直して………ゲホッ!………未来は見ない、過去を見る! 浪漫求めて成りきって! カバさんチーム!!」

 

柚子がまだ若干咳き込みながらも続いてそう言い、幕を開ける。

 

そこには演劇のステージが出来上がっており、衣装に身を包んだカバさんチームの姿が在った。

 

「そんな事したって、鼻は高くならないわよ、エイミー」

 

「そんな事ないわ、ジョー」

 

鼻に洗濯バサミを挟んでいる左衛門佐に、カエサルがそう言うと、左衛門佐が反論する。

 

「エイミーは今のままでも可愛いわ」

 

「ベスは優しいのね」

 

「メグお姉様の方がお優しいわ」

 

今度はピアノを弾いているエルヴィンと椅子に座っているおりょうがそう会話を交わす。

 

「若草物語だぁ!」

 

「何それ~?」

 

梓が若草物語の演劇である事に気づいてそう言うが、あやは知らない様で首を傾げる。

 

「ああっ!?」

 

するとそこで、ピアノを弾いていたエルヴィンが突然倒れる。

 

「べス!」

 

「如何したのべス! しっかりしてっ!!」

 

「早くベッドへ!」

 

左衛門佐、おりょう、カエサルがそう言うと、一旦幕が下りて場面が転換。

 

幕が上がると、エルヴィンの寝るベッドの周りに座り込んでいるカエサル達が露わになる。

 

「お願いべス。助かって」

 

「私良い子になるから!」

 

「ああ、お父様が居て下さったら………」

 

「ふむ、良い演技だ………」

 

カエサル達の演技を見て、ゾルダートがそう漏らす。

 

「お父様は1861年から始まった南北戦争で、立派に戦っていらっしゃるのよ」

 

「南軍がサムスター要塞を砲撃したのが切っ掛けだったのよね」

 

「歴史ネタ禁止と言ったろー!」

 

と、エルヴィンと左衛門佐から思わず歴史ネタが出ると、即座に桃から怒声が飛ぶ。

 

「分かってます分かってます」

 

「ああ! お父様が居て下さったら………」

 

カエサルが手を振ってそう返すと、カバさんチームは演技を続ける。

 

「お父様は立派に戦ってらっしゃるのよ」

 

「戦争が長引くからいけないんだわ!」

 

「第一次ブルランの戦いの戦いで、南軍が激しく抵抗するから!」

 

「ロバート・エドワード・リーは、アメリカ史上屈指の名将だから!」

 

「お前達~」

 

尚も歴史ネタが飛び出すカバさんチームに、桃は更に怒りを募らせる。

 

「分かってます分かってます」

 

再度カエサルが手を振ってそう返すと、カバさんチームの演技が再開する。

 

「苦しい………」

 

「しっかりしなさい、べス!」

 

「死なないでぇ! 私良い子になるから!!」

 

「リンカーンが大統領に就任したら戦争は終わる!」

 

「そうしたら、お父様が帰っていらっしゃるわ!」

 

「でもリンカーンは、ロバート・エドワード・リー将軍が降伏した6日後に暗殺されてしまう!」

 

「フォード劇場でね………」

 

「ボックス席に座っていたところをデリンジャーピストルで撃たれたの!」

 

「1865年の事よ」

 

「その年は日本でも色々有ったわ。雷門が焼けたり、長崎で蒸気機関車が走ったり………」

 

「お前等! 歴史禁止だと言っただろう!! 退場っ!!」

 

しかし、またも歴史ネタが入ってしまい、堪忍袋の緒が切れた桃により、カバさんチームの演劇は強制終了となった。

 

「え~と、では次はワニさん分隊………」

 

「あの~………すみません、小山さん」

 

続いてワニさん分隊の出番だと言おうとした柚子に、舞台袖から灰史が声を掛けて来た。

 

「? 水谷くん? 如何したの?」

 

「実はその………ワニさん分隊の芸はカバさんチームから続く形になっていたんですが、カバさんチームが強制終了になってしまったので………」

 

蛍が代わって返事をすると、灰史は申し訳無さそうにそう言う。

 

「あ、そうなの………じゃあ、仕方ないね」

 

「ハイ、それじゃあワニさん分隊は棄権となりましたので、続いてのチーム………廃校阻止に立ち上がった麗しの乙女達。強さと美しさを兼ね備える鋼鉄の偶像。スクールアイドル、サンショウウオさんチームです」

 

そこで蛍がそう言うと、柚子がワニさん分隊を飛ばし、サンショウウオさんチームに出番を告げる。

 

すると現れたのは、旧日本軍らしき軍服に身を包んだサンショウウオさんチームの面々だった。

 

「♪~~~♪~~~~」

 

その中で、信号ラッパを持っていた優が、起床ラッパを掛ける。

 

「!!」

 

それを聞いた弘樹が、すぐさま浴衣を脱いで、傍に在った荷物の中から戦闘服を取り出して着替える。

 

「ひ、弘樹くんっ!?」

 

「ん?………あ、すまない。反射的に………」

 

「訓練され過ぎだろ」

 

みほが驚くと、着替え終わった弘樹は我に返り、了平がツッコミを入れる。

 

一方で、ステージ上のサンショウウオさんチームも、服装を整えて整列する。

 

「総員、起床ーっ!! 休めっ!! 気を付け!!」

 

優がそう号令を掛けると、サンショウウオさんチームの面々はそれに従う。

 

「番号っ!!」

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

「10!」

 

番号の号令で、自分に振り当てられた番号を言うサンショウウオさんチームの面々。

 

「? 番号復唱ーっ!!」

 

しかし、何かが引っ掛かった優が再度番号の号令を掛ける。

 

「1!」

 

「2!」

 

「3!」

 

「4!」

 

「5!」

 

「6!」

 

「7!」

 

「8!」

 

「9!」

 

「10!」

 

「11番は如何したーっ!!」

 

再び番号を繰り返すサンショウウオさんチームの面々だが、優は1人足りていないのを聞いてそう問い質す。

 

「「「「「「「「「「知りやせーんっ!!」」」」」」」」」」

 

全員が一斉にそう返したのを聞いて、優はステージの片隅でまだ寝ている1人………聖子の元へ行く。

 

「ZZZzzz~~~~………」

 

「♪~~~♪~~~~」

 

まだ寝ている聖子の姿を認めると、優は再び起床ラッパを吹き鳴らす。

 

「ZZZzzz~~~~………」

 

しかし、聖子はまだ寝たままだ。

 

「! ♪~~~♪~~~~」

 

再度ラッパを吹き鳴らす優。

 

「ZZZzzz~~~~………」

 

だが、やはり聖子は起きない。

 

「!! ♪~~~♪~~~~」

 

業を煮やした優は、寝ている聖子の耳元でラッパを吹き鳴らす。

 

「ZZZzzz~~~~………」

 

それでも尚、聖子は起きない!

 

「!!………♪♪♪~~~」

 

するとそこで、優が吹くラッパの音色が、ペレス・プラード楽団が演奏したバージョンの『タブー(Taboo)』………

 

所謂、『淫靡な曲』になる。

 

更に、聖子にピンク色のスポットライトが当たり始めた。

 

「………ちょっとだけよ」

 

すると聖子が飛び起き、軍服を肌蹴させ始める。

 

「おおおっ!?」

 

「アンタも好きねえ~」

 

了平が興奮した様子を見せると、聖子は更に生足を曝け出す。

 

「来た来た!」

 

「待ってました大統領!」

 

サンショウウオさんチームの他のメンバーも囃し立てる。

 

「やめなさいバカ!」

 

とそこで、優が何処からか取り出した黄色いメガホンで聖子の頭を引っ叩いた!

 

「「「「「「「「「「「優ちゃんに、あ、おこられたっ!! ハイ! 優ちゃんに、あ、おこられたっ!!」」」」」」」」」」」

 

すると、優を除くサンショウウオさんチームがそう唱和し始める。

 

そして最後は、全員の頭にタライが直撃!

 

間抜けなBGMが響いたかと思うと、幕が下りた。

 

「ド〇フのコントかよ」

 

「今時の若い奴は分からんぞ」

 

俊と十河がそう言い合う。

 

「え~、続きましてはタコさん分隊です。どうぞ」

 

とそこで、柚子がそう言うと幕が上がり………

 

「…………」

 

シャッコーと、その目の前にシャッコーの腰の高さ辺りまで積み上げられた瓦の塔が有る。

 

「………この瓦を頭を使って割ってみせる」

 

皆に向かってそう言うシャッコー。

 

「頭を使って?」

 

「一体如何やってだ?」

 

シャッコーの言葉に、俄かにざわめき立つ一同。

 

「行くぞ………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

準備が整ったシャッコーにジッと注目する大洗機甲部隊員達。

 

そして………

 

「………むんっ!!」

 

シャッコーは積まれていた瓦の塔に、頭突きをかました!!

 

瓦が全て真っ二つに割れる!!

 

「………割ったぞ」

 

「頭を使うってそう言う意味ですかぁっ!?」

 

若干額から血を流しながらそう言い放つシャッコーに、逞巳のツッコミが飛ぶ。

 

「え、え~と………ありがとうございました~」

 

蛍が強引に締めて、舞台に幕が下りるのだった。

 

「それでは皆さんお待ちかね! まさかの戦い繰り広げ、戦車道史に新たな歴史を刻んだ優勝の立役者! あんこうチーム!」

 

そしていよいよあんこうチームの出番が訪れる。

 

幕が上がり、姿を見せたのは………

 

「野行き、森行く! オリーブドラブッ!!」

 

「海は任せろ………ネイビーブルー」

 

「黒い森行く………ジャーマングレーッ!」

 

「砂漠に咲く花! デザートピンクッ!!」

 

「錆から守る! オキサイドレッドッ!!」

 

ヒーロースーツに身を包み、ポーズと共に名乗りを挙げるあんこうチームの面々だった。

 

「5人の力で戦車が動くっ!」

 

「「「「「我等! パンツァーファイブッ!!」」」」」

 

そして、みほの号令で、全員が一斉にポーズを取って名乗りを決める。

 

「良しっ! 完璧だっ!! 指導した甲斐があったぜっ!!」

 

「地市の仕込みですか」

 

五星戦隊ダイレンジャーのBD片手にそう言う地市に、楓が呆れた様にそう言う。

 

「「ガーハッハッハッハッ!!」」

 

とそこで、ホタテの着ぐるみを来た柚子と、カジキマグロの着ぐるみを着た桃が、やや棒読みな笑い声と共にステージ上に登場する。

 

「あー! あそこに敵がーっ!!」

 

「悪の組織! セイトカイだぁっ!!」

 

若干棒読みな華と、ノリノリな様子の優花里。

 

「大洗は我々が支配した!」

 

「此処は悪の本拠地になるのよー」

 

またも棒読み気味に台詞を言い放つ桃と柚子。

 

「そうはさせない!」

 

「私達がお前達を倒す!」

 

「行くわよ! セイトカイッ!!」

 

「正義の拳を受けてみろっ!!」

 

「行くぞっ!」

 

そんな桃と柚子に、敢然と立ち向かう事を宣言するパンツァーファイブ。

 

「わーいっ!!」

 

「良いぞーっ!」

 

「頑張れーっ!!」

 

そしてアクションシーンが展開されると、ウサギさんチームとハムスターさん分隊から歓声が挙がる。

 

「うわ~ん」

 

「クソーッ!」

 

パンツァーーファイブがポーズを決めている前で動けなくなっている柚子と桃。

 

「パンツァーファイブ! このあんこう怪人が相手だーっ!!」

 

するとそこで、あんこうの着ぐるみを着た杏が、リフトに乗って現れた。

 

「今度はお前等が鍋になる番だぞ………」

 

「トオォーッ!!」

 

「アーレーッ!!」

 

まだ台詞の途中と思われたところで、みほがワイヤーアクションでの蹴りを杏に食らわせ、ステージ上に倒す。

 

「あんこう倒せっ!!」

 

「「「「「あんこう倒せっ!!」」」」」

 

「「「「「「「「「「あんこう倒せっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、大洗機甲部隊員達からあんこう倒せのコールが挙がる。

 

「む………むむむむ!………うがーっ! そうはいかない!! おりゃーっ!!」

 

「「「「キャーッ!?」」」」

 

すると、そのコールにムッと来た様子を見せた杏が、起き上がるがいなやパンツァーファイブを蹴り倒した!!

 

「会長!!」

 

「段取りが違いますっ!!」

 

「やられる筈だろう」

 

途端に、優花里、華、麻子から抗議の声が挙がる。

 

「煩ーいっ! 大洗は………あんこうが守るっ!!」

 

何時の間にか立場を入れ替えてしまっている杏。

 

と、その瞬間………

 

杏の足元に、日本刀………英霊が突き刺さったっ!!

 

「!??!」

 

「申し訳ありません………手が滑ってしまいました」

 

仰天する杏に向かって、弘樹がそう言い放つ。

 

………M2重機関銃を向けながら。

 

「えっ!? ちょっ!? ふ、舩坂ちゃ~ん、冗談キツイって~」

 

狼狽しながらも、如何にかいつもの調子で弘樹にそう言う杏だったが………

 

「…………」

 

弘樹は無言でコッキングレバーを引いて、薬室に弾丸を装填する。

 

「………ぐああ、やられてたぁ」

 

身の危険を感じた杏は、何も無いのにその場に倒れ、そう宣言した。

 

「え、え~と………パンツァーファイブの活躍で大洗の平和が守られた! しかし! 何時またどんな敵が襲ってくるか分からない! 戦え! 負けるな! 我等のパンツァーファイブッ!!」

 

進行に残っていた蛍がそう言って締め、幕が下りるのだった。

 

「それでは、続いてとらさん分隊の出番です」

 

何時の間にか浴衣に着替え直して舞台袖に戻っていた柚子がそう言う。

 

「アレ? そう言えば、ウチは誰が出るんだ?」

 

するとそこで、自分隊からは一体誰が出るのかと首を捻る地市。

 

「了平が居ないみたいですけど………」

 

楓が了平の姿が無い事に気づく。

 

「了平が?………猛烈に嫌な予感がするぞ」

 

「それでは、どうぞー」

 

地市がそう言った瞬間に、ステージの幕が上がる。

 

しかし、そこには誰の姿も無かった………

 

「アレ? 綿貫くん?」

 

柚子が首を傾げたその瞬間………

 

会場内にBGMが流れ始める。

 

「何だ?」

 

「コレは………布〇寅泰の『ス〇ル』?」

 

ざわめきが起こると………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

上半身裸に黒スパッツ姿の了平が、宴会場の襖をブチ破って現れる。

 

「!・? うわあっ!?」

 

「!?!?」

 

「うおおっ!?」

 

突然の事に仰天する大洗機甲部隊員達。

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、了平はそんな事にはお構いなしに、両腕を振り回しながら会場を走り回って大洗歩兵隊員達を次々と突き飛ばして行く!

 

「ぎゃっ!?」

 

「ぐえっ!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びを挙げたままステージへと向かったかと思うと、舞台袖に居た俊と逞巳も突き飛ばす!

 

「あだっ!?」

 

「ぐええっ!?」

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

そして舞台上に立ったかと思うと、意味もなく、ただ左右に倒れるように飛び跳ねる芸………左右狂い跳ねを繰り出す。

 

「いよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更にそこから顔を地面に付け、両足を揃えて上に向けて三点倒立する・シャチホコを披露する。

 

「江〇2:50かよ………」

 

「何でよりによってそれをチョイスしやがった………」

 

秀人と地市がそう言い合う。

 

「ドーンッ!! ドーンッ!!」

 

しかし、周囲のドン引きの様子など全く気にせず、まるで本物の様にドーンを披露する了平。

 

「大洗機甲部隊ーっ! お前等に一言物申すーっ!!」

 

と不意に了平は、大洗機甲部隊員達を指差してそう言い放つ。

 

「? 何だ?」

 

「大洗機甲部隊は初めて出場した全国大会で見事に優勝した! コレは凄い快挙だぞっ!!」

 

戸惑う大洗機甲部隊員達に向かってそう言う了平。

 

「まあ、それはそうだな………」

 

「だがなぁっ! お前達は1つ大切な事を忘れているっ!!」

 

「? 大切な事?」

 

「何だろう?」

 

「聞き流した方が良いですよ。きっと碌な事じゃありませんから」

 

大切な事を忘れていると言われて、みほと沙織が首を傾げるが、楓からそうツッコミが入る。

 

「それはっ! 功労者である俺への感謝だぁっ!!」

 

「やっぱり………」

 

そして了平が予想通りの事を口にして、溜息を吐く。

 

「知ってるぞぉっ! お前等大会の最中からファンレターとか貰ってたそうじゃないか!!」

 

「それは………」

 

了平の言葉通りに………

 

大洗機甲部隊員の一部には、大会を見た者からのファンレターが届いていた者が一部居るのだ。

 

「なのに何でこの俺には1通も来ないんだぁっ!!」

 

「日頃の行いだろう………」

 

了平の魂の叫びをバッサリと切って捨てる地市。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! 俺だってもっと美味しい思いして良い筈だあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、再び魂の叫びを挙げたかと思うと、了平はバッとみほの方へ視線を向けた。

 

「ふえっ!?」

 

突然了平に視線を向けられ、みほの身体に悪寒が走ると嫌な汗が流れる。

 

「みほちゃああああああんっ!! 俺を労ってえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

そして了平は、舞台上から勢いを付けて、みほに向かって跳んだっ!!

 

「!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

みほのガチの悲鳴が響き渡る。

 

と、その瞬間!!

 

「!? ブッ!?」

 

みほに向かって跳んだ了平の顔面を、鷲掴みにした者が居た。

 

「…………」

 

弘樹だ。

 

何時も以上の仏頂面が、却って怒りの度合いを感じさせる。

 

「あ、あの、弘樹さん………コレはほんの冗談で………」

 

「…………」

 

忽ち顔面蒼白になって言い訳をする了平だったが、弘樹は全く耳を貸さず、了平の顔面を鷲掴みにしたまま引き摺って、宴会場から出て行こうとする。

 

「ちょっ!? 弘樹さん!? 弘樹さーんっ!?」

 

「…………」

 

了平の声が悲鳴の様になって行くが、弘樹はそのまま宴会場から退出した。

 

そして………

 

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

この世のものとは思えない了平の断末魔が聞こえて来て、大洗機甲部隊員達は一瞬固まる。

 

「…………」

 

そこで、弘樹だけが宴会会場内へ戻って来る。

 

「オ、オイ、弘樹。了平は?」

 

「………聞きたいか?」

 

地市がそう尋ねると、弘樹は無感情な瞳を向ける。

 

「あ、いえ、やっぱ良いです………」

 

それを見て聞くのが怖くなり、黙り込む地市だった。

 

「え~と………では、トリとなります、悪知恵猿知恵働かし、花も嵐も踏み越えて、どんな苦境も乗り切った、御存じ生徒会・カメさんチーム」

 

「ノリノリですね、華さん」

 

華が出演する生徒会チームに代わってアナウンスし、飛彗がツッコミを入れる中、幕が上がり………

 

バレエのクラシック・チュチュ姿でお辞儀をしている柚子の姿が現れる。

 

「生徒会は『白鳥の湖』ですね。此処でバレエに詳しいバレー部の佐々木さんに解説をお願いしたいと思います」

 

「ややっこしい言い方やな………」

 

「と言うより、バレエにも詳しかったのか………」

 

それを見て典子がそう言うと、大河と大詔がそうツッコミを入れる。

 

「コレは、オデットが小山さん。王子が会長と言う配役ですね」

 

あけびがそう言うと、王子衣装姿の杏が現れ、踊りながら柚子との距離を詰め………

 

杏が柚子を持ち上げた。

 

「見事なリフトが決まりました!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

華麗なリフトが決まり、大洗機甲部隊員達から歓声が挙がる。

 

そこで、黒鳥の衣装姿の桃が現れる。

 

「恋敵役の黒鳥が河嶋さん。次が見せ場です」

 

と、あけびがそう言った瞬間………

 

桃はその場で高速回転を始めた!

 

「「「「「「「「「「おお~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

「コレは素晴らしい! 32回転フェッテッ! 軸足が全然ブレずに見事に決まりました!!」

 

再び大洗機甲部隊員達から歓声が挙がる中、あけびが解説すると幕が下りる。

 

しかし、すぐにまた上がり………

 

今度は何かのアニメキャラらしき衣装に身を包んだ蛍が現れた。

 

「行くわよ! 『禁断のレジスタンス』!!」

 

そしてそのまま、マイク片手にそのアニメの主題歌を熱唱し始めた!

 

「うおおっ! スッゲェッ!!」

 

「上手いなっ!!」

 

その圧倒的な歌唱力に、大洗機甲部隊員達は舌を巻く。

 

「驚いたわ………今度こそ本当にプロ並み………いえ、それ以上の歌唱力よ」

 

「マジかよ!?」

 

「近藤さんがそこまで言うなんて………」

 

「蛍さんにこんな才能が………」

 

「これこそまさに隠し芸ですわね」

 

「蛍ちゃん、凄~いっ!!」

 

歌って踊るが専門のサンショウウオさんチームからもそんな声が挙がる。

 

「カッコイイ………」

 

みほも、歌っている蛍の姿をキラキラとした目で見ている。

 

そうこうしている内に、曲が終わる。

 

「ありがとうーっ!!」

 

拍手喝采が響く中、蛍は手を振り、幕が下りる。

 

「さて、我々は審査員だからね。コレで演目は全て終了だ」

 

「では、結果発表に移る」

 

審査員の為、参加しない男子校生徒会メンバーの中で、迫信と十河がそう言い、ドラムロールが鳴り響き始める。

 

「先ず第3位。3位は………ウサギチーム!!」

 

「「「「「やったーっ!!」」」」」

 

歓声が挙がるウサギさんチーム。

 

「続いて第2位は………あんこうチーム!!」

 

「わーいっ!!」

 

沙織とみほが笑顔になり、優花里と華がハイタッチを交わす。

 

「では、1位! 栄えある優勝は………生徒会チーム!!」

 

「出来レースだな………」

 

そして優勝が生徒会に決まると、白狼が悪態の様にそう言い放つ。

 

「1位の賞品は、10万円相当の最高級干し芋です!」

 

「やっぱり………」

 

そして1位の賞品が干し芋である事が明かされ、大洗機甲部隊員達はやっぱりと言う顔になる。

 

「さて………では、私からの特別賞の授与に移らせてもらう」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

迫信がそう言うと、大洗機甲部隊員達の目の色が変わる。

 

何せ皆コレを貰う為に頑張っていたのである。

 

神大コーポレーションの権力とコネを使える………

 

コレ以上に無い魅力的な賞品だった。

 

「特別賞の受賞者は………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

固唾を呑んで迫信の言葉を待つ大洗機甲部隊員達。

 

「………舩坂くんだ」

 

「「「「「「「「「「!? えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

「はっ?」

 

まさかの弘樹が選ばれた事に、大洗機甲部隊員達はおろか当人も困惑する。

 

「会長閣下、自分は隠し芸大会に参加は………」

 

「何を言ってるんだい。見事な技を披露してくれたではないか」

 

弘樹が身に覚えが無いと言おうとしたが、迫信はそれを遮る様にそう言い、扇子を広げて『御見事』の文字を見せる。

 

「芸?………」

 

「サンショウウオさんチームが起床ラッパを吹いた時………君は一瞬にして戦闘服姿となった。見事な早着替えだったよ」

 

「ああっ!」

 

迫信がそう言うと、みほがサンショウウオさんチームの芸が披露されていた時、一瞬で戦闘服に着替えた弘樹の事を思い出す。

 

「因みにタイムを測定してみたんだが………僅か0.05秒だったよ」

 

「ギャバンかよっ!?」

 

俊がそう言うと、地市がまるで宇宙刑事ギャバンがコンバットスーツを蒸着する並みのタイムで着替えた事に突っ込みを入れる。

 

「さあ、舩坂くん。何でも望みを言ってくれたまえ」

 

「………では、折り入ってお願いが有ります」

 

迫信がそう言うと、神妙な面持ちとなる弘樹。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊員達も、弘樹が何を頼むのかと気になり固唾を呑む。

 

「………家の洗濯機が古くなって最近調子が悪いみたいなので、新しいのを貰えませんか」

 

「「「「「「「「「「だああああ~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

しかし、いざ告げられた内容は極めて庶民的であった為、ズッコケてしまう大洗機甲部隊員達。

 

「良し、分かった。すぐにでも届けさせるよ」

 

「ありがとうございます。湯江の奴、喜ぶぞ」

 

「アハハハ………」

 

満足そうな顔をしている弘樹に、みほは苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

舩坂家に、神大コーポレーション系列の家電メーカーが開発した最新の洗濯機が届けられ………

 

湯江がとても嬉しそうにしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショートエピソードにつづく




新話、投稿させていただきました。

カオスの祭典………
エンカイ・ウォーもこれにて終了となります(笑)

ちゃっかりと優勝を掻っ攫って行った弘樹。
しかし願いは何とも庶民的だった。

さて次回はショートエピソード………
『勲章授与』になります。
本当は書く積りはなかったのですが、強いご要望を受けて執筆に至りました。
ショートエピソードの名の通り、非常に短い話で、箇条書きに近い感じになります。
しかし、リボンの武者編に続く予告もありますので、お見逃しなく。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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ショートエピソード『勲章授与です!』

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』

 

ショートエピソード『勲章授与です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全国大会から数日後………

 

東京都・墨田区………

 

両国国技館にて………

 

「では、只今より………第63回戦車道・歩兵道全国大会の勲章授与式を開催致します」

 

勢揃いしている大会出場校の生徒達を前に、壇上に立った戦車道連盟理事長の七郎がそう宣言する。

 

戦車道・歩兵道の全国大会に於いては………

 

優秀な成績を納めた人・チームに勲章等が授与される事になっており………

 

本日はその授与式なのである。

 

「先ずは、『士魂徽章』の授与です。大洗女子学園の皆さん、どうぞ」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

七郎がそう言うと、みほを除いた大洗戦車チームの面々が壇上に上がる。

 

更に続いて、今年度から全国大会に出場した学校や、初めて大会に出場した1年生の女子達も壇上に上がる。

 

『士魂徽章』………

 

戦車道の求道者である事を現す徽章である。

 

全国大会へ出場した事への証でもあり、みほも昨年、黒森峰に居た時に貰っている。

 

 

 

 

 

「続いては、『火の国の宝剣』の授与です。大洗男子校の皆さん、どうぞ」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

続いて今度は妃美子がそう言い、大洗男子校の面々………

 

そして先程と同じ様に、今年度から全国大会に出場した学校や、初めて大会に出場した1年生の男子達が壇上に上がる。

 

『火の国の宝剣』………

 

こちらは歩兵道の求道者である事を現す勲章である。

 

同じく全国大会へ出場した事への証でもある。

 

 

 

 

 

「続いては、『傷ついた獅子勲章』の授与となります。名前を呼ばれた歩兵、戦車チームの方は壇上にお上がり下さい」

 

『傷ついた獅子勲章』………

 

所謂、戦傷章やパープルハート章に当たり………

 

試合中に重傷判定を受けたり、重大な損傷を受けながら、或いは戦死判定や撃破される事も厭わず、最後まで義務を果たした歩兵や戦車チームに贈られる勲章である。

 

今大会での受賞者は………

 

戦車チームが、レオポンさんチーム、ウサギさんチーム、アヒルさんチーム、アリクイさんチーム、他多数………

 

歩兵が、弘樹、了平、小太郎、竜真、ジェームズ、正義、ハンター、白狼、他多数………

 

常にギリギリの戦いを繰り広げていた大洗機甲部隊から多数の受賞者が出た。

 

 

 

 

 

続いて授与されたのは『深紅のスカーフ』

 

各機甲部隊の総隊長職限定の記念品であり、指揮官として一定以上の能力を見せた者に贈られる。

 

この能力と言うのは戦術・戦略指揮能力のみに留まらず、隊員達を上手く纏めているか、普段士気を如何維持しているか、隊員達から慕われているかなど、普段の様子や人格面なども含めて総合的に判断される。

 

今大会での受賞者は………

 

みほ、ダージリン、ケイ、アンチョビ、カチューシャ、まほ、ミカ、瑪瑙、ローリエ、シュガーとなった。

 

 

 

 

 

続いての授与は『銀剣突撃徽章』

 

1試合で一定以上の戦果を挙げた者に贈られる勲章である。

 

今大会での受賞者は………

 

戦車チームが、大洗の全チーム、まほチーム、ナオミチーム、ローリエチーム、ダージリンチーム、ネフェティチーム、瑪瑙チーム、ノンナチーム、ローレライチーム、クロエチーム、シュガーチーム、ミカチーム、他多数………

 

歩兵が、弘樹、大河、熾龍、小太郎、ゾルダート、竜真、ジェームズ、正義、シメオン、ハンター、竜作、白狼、飛彗、拳龍、シャッコー、都草、アールグレイ、ジャスパー、ジョーイ、フォルゴーレ、カジキ、ホージロー、堅固、ターメリック、ジャンゴ、ピューマ、キングコブラ、アナコンダ、ジャック、カロ、デミトリ、他多数………となった。

 

 

 

 

 

更に続くは『黄金剣突撃徽章』

 

大会を通しての戦果が一定値を超えた者に贈られる勲章だ。

 

今大会での受賞者は………

 

戦車チームが、ナオミチーム、ローリエチーム、アンチョビチーム、ネフェティチーム、ノンナチーム、ローレライチーム、クロエチーム、シュガーチーム、他多数………

 

尚、みほ、まほ、ケイ、ダージリン、カチューシャ、ミカ、瑪瑙は前回の大会終了時に既に受賞している。

 

歩兵が、弘樹、小太郎、シメオン、ジャスパー、フォルゴーレ、カジキ、ホージロー、ピューマ、アナコンダ、カロ、他多数………

 

同じく、都草、ジョーイ、アールグレイ、堅固、デミトリ、ジャック、ジャンゴも、去年の時点で受賞済みである。

 

 

 

 

 

そして最後は『黄金剣翼突撃徽章』

 

黄金剣突撃徽章の上位に位置する勲章であり、受賞出来る者はそう多くない為、戦車道・歩兵道求道者にとって栄光の証とも言える勲章だ。

 

今大会での受賞者は………

 

戦車チームが、あんこうチーム、まほチーム、ケイチーム、ダージリンチーム、カチューシャチーム、ミカチーム。

 

歩兵が、弘樹、都草、ジョーイ、アールグレイ、デミトリ。

 

初めて参加した大会で黄金剣翼突撃徽章までの戦績を挙げたあんこうチームと弘樹は特に快挙とされた。

 

そして全ての勲章の授与が終わった………

 

………かに思われたが、

 

「え~、では最後に………皆さんに大事なお知らせがあります」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

七郎がそう言うと、全国の機甲部隊員達は僅かにざわめく。

 

「私達は本日………伝説を目の当たりにする事になりました」

 

すると今度は、妃美子がそう言って来る。

 

「今大会に於いて………『絢爛舞踏章』の受賞者が出ました!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

再び七郎がそう言うと、全国の機甲部隊員達は一斉に驚愕を露わにした!

 

『絢爛舞踏章』………

 

戦車道・歩兵道の最高栄誉となる勲章である。

 

黄金剣翼突撃徽章よりも更なる戦果を挙げた者に贈られるが、その値は高く………

 

長い日本戦車道・歩兵道の歴史の中でも、まだ6人しか受賞者が居ないと言う、人呼んで『幻の勲章』である。

 

尚、その6人の内、最初の受賞者は、弘樹の祖先………『舩坂 弘』である。

 

そして、今回の受賞者は………

 

「受賞者は………大洗機甲部隊! 舩坂 弘樹くん!!」

 

「!!」

 

妃美子がそう告げると、弘樹が僅かに驚きを露わにし、一瞬間が有って、各機甲部隊員達から拍手喝采が巻き起こったのだった。

 

「勲章は後日、『陛下』より直接授与されます。準備を整えておいてください」

 

「………ハイ!」

 

弘樹は一呼吸於いて、しっかりと返事を返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後………

 

東京都千代田区のあの場所にて………

 

大勢のマスコミが見守る中………

 

弘樹は陛下より、『絢爛舞踏章』を授与された………

 

流石の弘樹も、やんごとなきお方を前には大分緊張の様子を見せていたが………

 

授与の際、陛下に握手を求められると、感激に打ち震えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、大洗機甲部隊が………

 

全国大会で優勝を決めた日にまで遡る………

 

 

 

 

 

戦車道・歩兵道全国大会の決勝戦の試合会場………

 

観客席にて………

 

「おめでとうーっ!」

 

「やったな、弘樹」

 

「遂に優勝か。めでてぇな」

 

「アイツならコレぐらい当然だ」

 

優勝の決まった大洗機甲部隊に拍手を送っている鈴、グレゴルー、バイマン、ムーザ。

 

「…………」

 

だがそんな中………

 

しずかは1人、腕組みをしてジッと大洗機甲部隊を見据えている。

 

いや………

 

正確には、みほと………

 

弘樹を見据えている。

 

「? 姫?」

 

「如何した、お姫さん?」

 

そんなしずかの様子に気づいた鈴とグレゴルーが声を掛けて来る。

 

「………ずっと考えていた。他の者達よりも圧倒的な寡兵で数多の強敵達を打倒して来た大洗の強さとは何かとな」

 

するとしずかはそう語り始める。

 

「それは、西住 みほさんの指揮能力が凄いからじゃないの?」

 

「確かに、私も最初はそう思っていた………だが、今日の戦を見て、漸く分かった」

 

鈴がそう言うと、しずかは大洗機甲部隊………

 

弘樹に視線をやった。

 

「大洗の………西住 みほの強さの源は………『舩坂 弘樹』に在り!!」

 

そう言い放ち、狂気の笑顔を浮かべるしずかだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、あの重々しき歌に送られた戦士達

 

母校を守る誇りを、厚い戦闘服と装甲に包んだ機甲部隊の、ここは………墓場

 

無数のカリギュラ達のギラつく欲望に晒されて、大洗の町に引き出される強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングの剣闘士

 

魂無き戦士達が、ただ己の生存を賭けて激突する

 

『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

回る砲塔から、弘樹に熱い視線が突き刺さる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OVAにつづく




ショートエピソード、投稿させていただきました。

勲章の授与式となります。
以前より要望をいただいていたので、急遽製作致しました。
ショートエピソードと有る通り短く、箇条書きの様な内容となります。
御了承下さい。

そして授与された勲章ですが………
分かる方もいらっしゃるでしょうが、PS1の名作ゲーム『ガンパレード・マーチ』の物を使わせていただきました。
何処か特定の国の勲章だと、国際色豊かな今作のキャラ達には似合う人と似あわない人が出ると思いまして。
尚、一部は仕様が変更されています。

そして次回からリボンの武者編………
OVA『ボーネシュラハト』が始まります。
意味は、ドイツ語で、『ボーネ』が『豆』、『シュラハト』が『戦い』
豆戦車が中心の強襲戦車競技(タンカスロン)と、ボトムズOVAの『ビックバトル』からインスピレーションを受けて命名しました。

しずかに目を付けられてしまった弘樹………
OVAではこの2人のバトルが中心になります。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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OVA・ボーネシュラハト
チャプター1『強襲戦車競技(タンカスロン)です!』


『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

チャプター1『強襲戦車競技(タンカスロン)です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強襲戦車競技(タンカスロン)………

 

それは、戦車道連盟非公認の10トン以下の戦車のみが参加を許される戦車競技の一種である。

 

重量制限以外はルール無用の野試合であり………

 

試合への乱入、助っ人参戦、即席の同盟や裏切り、戦車以外の携行兵器の使用………

 

更には戦車道連盟が定めた適合品から除外されるような部品を使っての車輌強化までも認められている。

 

公式の戦車道の陰に隠れて、細々と行われてきたものであったが………

 

第63回全国大会が、史上最大の白熱戦を幾度も繰り広げた事で………

 

強襲戦車競技(タンカスロン)界隈も盛り上がりを見せており、戦車道の強豪校の参戦も相次いでいる。

 

そんな強襲戦車競技(タンカスロン)にて………

 

ここ数年、頂点に君臨している機甲部隊が居た。

 

それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日………

 

日本・某所………

 

この日行われていた強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングの試合には、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々が参加していた………

 

次の戦車道・歩兵道の全国大会に向けた練習と資金稼ぎの為である。

 

一進一退の攻防戦の末………

 

遂にはフラッグ車同士の一騎打ちへと縺れ込んだが………

 

突然アンツィオ&ピッツァ機甲部隊のフラッグ車であるアンチョビ車が、別勢力から攻撃を受け、撃破された。

 

そのアンチョビを撃破した、単砲塔の7TP戦車を駆る者………

 

「! ヤイカ!!」

 

「あ、あの7TP!?」

 

「今季強襲戦車競技(タンカスロン)王者の!?」

 

「『騎士団長』ヤイカ率いる………『ボンプル高校』!!」

 

アンチョビの声に、観戦していたギャラリーがそう声を挙げる。

 

そう………

 

その人物は強襲戦車競技(タンカスロン)に王者として君臨している機甲部隊の総隊長………

 

『ボンプル高校』の『ヤイカ』だった。

 

「フフ………」

 

7TP上のヤイカは不敵に笑う。

 

「テメェッ! アンチョビ姐さんにぃっ!!」

 

と、突然乱入してきた上、アンチョビを不意打ちしたヤイカに、ペパロニのCV33が怒りのまま突撃する。

 

「! ペパロニ! 後ろだっ!!」

 

「!?」

 

だがそこでフォルゴーレの声が挙がり、振り返ったペパロニが見たのは、自車に砲口を向けている7TP(単砲塔)の姿だった!

 

「!? うわあっ!?」

 

真後ろから1撃を喰らい、CV33は引っ繰り返り、ペパロニは車外へ投げ出された!

 

「ペパロニッ!」

 

慌てて地面に転がったペパロニの元へ駆け寄るアンチョビ。

 

「ふ、伏兵っ!?」

 

「哀れな子………自らキルゾーンに入って来るなんて………周辺警戒、敵情把握能力がなってないわね」

 

気を失っているペパロニを見下ろしながら、ヤイカはそう断じる。

 

「乱入した挙句、卑怯だぞ! ヤイカッ!!」

 

アンチョビはヤイカにそう非難の声を飛ばすが………

 

「戦の最中に第3勢力に介入されないと思った? 味方が裏切らないと思った? 3つ巴、4つ巴の泥沼の戦が無いと思った? ああ、来て良かった! やっぱり貴方達、何にも知らなかったのね!? コレが強襲戦車競技(タンカスロン)! 闘争の見世物! 野蛮人の暇潰しよ!!」

 

ヤイカは狂気の笑みを浮かべてそう言い放つ!

 

「公式戦では辛酸を舐めさせられたが………戦車の差さえなければ、ボンプルが最強なのよっ!!」

 

アンチョビ達を見下ろし、ヤイカは狂気の笑みを浮かべたままそう宣言するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・現在………

 

大洗町の一角にて………

 

「………と思っていた時期が私にもありました」

 

ヤイカは、愛車7TP(単砲塔)のハッチから上半身を晒し、天板の上に頬杖をついて遠い目でそう呟く。

 

その愛車のエンジン部には被弾痕が有り、エンジンが大破して白旗を上げている。

 

「ヤイカ隊長! お気を確かにっ!!」

 

副官である『ウシュカ』が慌てて駆け寄る。

 

その彼女の背後でも、彼女の車両が白旗を上げており、周辺には無数の7TPとTKSが同じ様に白旗を上げて擱座しており、ボンプルのバトリング選手達も倒れ伏している。

 

と、直後に爆発音が鳴り響く!

 

「!!」

 

ウシュカが爆発音がした方向を見やると………

 

「うわああっ!? 来るなっ! 来るなぁっ!!」

 

半狂乱の状態で悲鳴の様な叫びを挙げている車長がハッチから姿を見せている7TP(単砲塔)の姿と………

 

「…………」

 

その7TP(単砲塔)に向かって、奇妙なブーツを履いて足元から火花を散らしながら、キュイイイィィィィィンッ!と言う甲高い音を立て、『地面の上をスライド移動して来る』弘樹の姿が在った!

 

「! わあああっ!!」

 

恐怖に駆られるままに、弘樹に向かって発砲する7TP(単砲塔)。

 

「!!………」

 

だが弘樹は、冴えているターンピックを使って回転する様に躱し、そのまま勢いに乗って7TP(単砲塔)の横を取る。

 

そして、右手に握っていたラハティ L-39を発砲!

 

20ミリ弾が、7TPのエンジン部に命中すると貫通し、エンジンを爆発させた!

 

「!!………」

 

更に弘樹は、ラハティ L-39を背負っていたMG42に持ち替えると、近くに居たボンプル歩兵達を薙ぎ払う!

 

「「「「「「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「!………」

 

全滅を確認すると、新たな標的を求めて、『ローラーダッシュ』で移動する。

 

「推して参るっ!!」

 

と、別方向でも、何故か水着姿のしずかが上半身を見せているテケが、TKSに肉薄!

 

「! うわっ!?」

 

乗員が驚いている間に、主砲を発射!!

 

37ミリ砲弾が装甲に突き刺さり、TKSは白旗を上げる!

 

「このぉっ!!」

 

と、テケがTKSから離れようとした瞬間を狙い、7TP(単砲塔)が発砲する。

 

「!!」

 

「ひゃんっ!?」

 

しかし、すぐさましずかが、同じく水着の鈴の背を蹴ると、テケはフルブレーキ。

 

改造により、90式戦車並みの制動力を持つテケはピタリと止まり、砲弾はテケの目の前を掠める様に外れる!

 

「あっ!?」

 

「遅いっ!!」

 

7TP(単砲塔)が慌てて逃げようとしたが、その前にテケの砲撃が炸裂!

 

砲塔基部に砲弾を叩き込まれた7TP(単砲塔)は白旗を上げる。

 

それを確認したテケが再発進すると、その隣にローラーダッシュしている弘樹が並ぶ。

 

「相変わらず良い腕だな………」

 

「舩坂殿こそ………恐ろしきお人よ」

 

短くそう言い合うと、2人は再びボンプルの戦車と歩兵達を狩って行く。

 

「………ウシュカ」

 

「! ハ、ハイッ!!」

 

その光景に呆然となっていたウシュカに、ヤイカが声を掛ける。

 

「世の中には………何があろうと敵に回してはいけない者と言うのが居るのね………私も青かったわ」

 

「…………」

 

全てを悟ったかの様な穏やかな顔でそう言うヤイカに、ウシュカは何も言い返せなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、弘樹とムカデさんチームが共闘しているのか?………

 

全ての始まりは、数日前までに遡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗機甲部隊が劇的な優勝を決め………

 

文科省の大不祥事が明らかになり、黒森峰が新体制となって動き始めた日から少しの月日が流れ………

 

長かった夏休みも終盤に差し掛かろうとしていた………

 

全国大会の優勝により、大洗女子学園は廃校を免れ、大洗学園艦には平穏が訪れていたが………

 

この大会を通じ、様々な戦友・ライバル達と出会った大洗機甲部隊の面々は………

 

すっかり戦車道・歩兵道に目覚め、夏休み中も全員が自主的に訓練を続けていた………

 

来年度の大会でもまた優勝を目指し………

 

そんなある日………

 

学園艦が大洗町に帰港すると、丁度町では風物詩の『大洗八朔祭』が開催されようとしていた。

 

その八朔祭の実行委員会より、大洗機甲部隊にある提案が挙がった………

 

それは、『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』………

 

詰まる所、祭の日に街中で戦車戦をやってもらえないかと言う提案だった。

 

地元の提案とあり、当然引き受けようと考えた大洗機甲部隊だったが、1つ問題が有った………

 

それは、優勝記念で行われるエキシビションマッチが、八朔祭より僅か数日後に行われる予定になっている事である。

 

幾ら何でも、短期間に2度の試合を行うと言うのは、スケジュール的に厳しかった。

 

だが、全国大会の時は町を挙げて応援してくれた地元の人々の願いを無下にする事は出来ない………

 

如何したものかと、女子学園と男子校の生徒会は頭を捻らせたが、そこでお馴染みの迫信からの一計が挙がった。

 

大洗八朔祭での磯前神社奉納戦車・歩兵戦は、強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリング形式で行ってはみてはと。

 

大洗機甲部隊から志願チームを作り、他校やフリー戦車乗りや歩兵を集い、強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングの一大大会を開催するのだと。

 

コレならば、大洗からは小戦力を出撃させるだけで済み、尚且つ多数の強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリング選手を集えると。

 

無論、予算面は神大コーポレーションで全面サポートするとの事である。

 

このプランに、八朔祭実行委員会と大洗機甲部隊首脳部は賛成。

 

すぐさま、強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリング選手達の募集が行われた。

 

小戦力とは言え、あの大洗機甲部隊と戦えるとあり、すぐさま凄まじいまでの参加応募が集う。

 

ココに、『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』は動き出したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・大洗港に停泊している大洗学園艦………

 

周囲の港や沖合の方には、今回の『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』に参加する為に集った他校の学園艦の姿も在る。

 

多数の学園艦が集結しているのは、中々迫力の有る光景だった。

 

 

 

 

 

そんな中で、大洗女子学園の戦車格納庫にて………

 

「よ~し、こんなもんかな」

 

「総重量………OK、クリアだ」

 

ナカジマとホシノがそう言い合う。

 

その視線の先には、後部の橇やら何やら、様々な部品を外され、軽量化された八九式の姿が在った。

 

「これで八九式は中戦車じゃないしー」

 

「軽戦車だしー」

 

軽量化された八九式を見て、典子とあけびがそう言い合う。

 

今回の試合形式が強襲戦車競技(タンカスロン)となっている為、唯一のルールである『10トン以下の戦車である事』を守る為、大洗機甲部隊の戦車の中で最も軽い八九式に軽量化を施したのである。

 

「すみません。アヒルさんチームには負担を掛けてしまう事になってしまって………」

 

みほが申し訳無さそうにアヒルさんチームの面々にそう言う。

 

前述のルールの為、大洗機甲部隊から出せる戦車は八九式1輌だけだった。

 

つまりアヒルさんチームは、八朔祭の後には続けてエキシビションマッチにも出場しなければならないと言う中々ハードなスケジュールになっているのだ。

 

「大丈夫です! 気にしないで下さい!」

 

「そうですよ、総隊長! 体力には自信が有るから大丈夫です!」

 

だが、妙子と忍が笑ってそう返す。

 

元々大洗戦車チームの中では唯一のアスリート出身と言うだけあり、体力面ではアヒルさんチームは大洗戦車チーム1と言えた。

 

更に、一世代前の骨董品とも言える八九式で、10校以上もの強豪校との戦いを潜り抜けて来た事も有り………

 

練度面でも、大洗戦車チーム1と言える。

 

「それよりも総隊長。私達の事は良いですから、舩坂分隊長の方に行ってあげて下さい」

 

「どっちかと言うと、舩坂分隊長の方が大変ですから」

 

「あ、うん、ありがとう。それじゃあ………」

 

と、妙子と忍にそう促され、みほは戦車格納庫から出て行く。

 

格納庫から出てすぐのグラウンドでは………

 

「…………」

 

戦闘服姿の弘樹が、奇妙なブーツを履いた足元から火花を散らし、土煙を上げてスライド移動で走り回っている。

 

やがて緩やかに方向を変えながら、戦車格納庫の方へ向かおうとする。

 

そして戦車格納庫の壁が近づくと、右足のブーツの外側の杭………ターンピックが下がり、急展開しようとする。

 

「………!!」

 

しかし、ターンピックの刺さりが甘く、弘樹はターンし切れず、戦車格納庫の壁に激突した。

 

「あっ!!」

 

すぐさま弘樹の元へと向かうみほ。

 

「大丈夫か、舩坂くん」

 

しかし、みほよりも先に、最初から様子を見守っていた敏郎が辿り着く。

 

「ターンピックが冴えないですね………それに制御系もおかしいようです」

 

余りダメージのない様子で弘樹はそう答え、奇妙なブーツ………『ローラーダッシュアンクル』を外す。

 

コレは先程の通り、ローラーダッシュを行える様になる特殊ブーツである。

 

見た目に反してかなり安価な製品であり、個人での参加が主な為、金銭的な理由で移動用の車両を保有出来ない様なバトリング選手が使用している事が多い。

 

その為、バトリングの試合ではこのブーツを履いた選手同士が高機動戦闘を行うのが見所の1つとされている。

 

「そうか。まだ調整が必要だな………良し、少し弄るからちょっと待っててくれ」

 

「ハイ………」

 

敏郎はそう言ってローラーダッシュアンクルを受け取ると、調整の為に戦車格納庫内へと戻る。

 

「弘樹くん。怪我は無い?」

 

「みほくんか。問題無い。頑丈なのが小官の取柄だ」

 

と、その敏郎と入れ替わる様にみほが弘樹に声を掛け、弘樹はそう返す。

 

「良かった………弘樹くん、やっぱり他の歩兵の皆にも出て貰った方が………」

 

「いや、今回の戦いは多数の豆戦車や軽戦車が入り乱れた機動戦になる。人数が多いと却って動きが取り辛くなる」

 

そう言って来るみほに、弘樹はそう返す。

 

実は今回………

 

アヒルさんチームの随伴歩兵として参戦するのは、弘樹只1人だけなのである。

 

前述した様に、大洗機甲部隊の皆にはエキシビションマッチが控えており、体力に自信の有る弘樹が今回のこの磯前神社奉納戦車・歩兵戦に自ら志願。

 

更に、他の歩兵達は参加しない様にと呼び掛けたのである。

 

無論、乱戦になる事が予想される為、歩兵人数は少ない方が良いと言う戦術・戦略的判断もあるが………

 

先程弘樹が使っていた、敏郎が『こんなこともあろうかと』取り寄せていた装備品『ローラーダッシュアンクル』も、今回単独で戦う弘樹の為に用意した物である。

 

納得が行かない者達も居たが、杏と迫信が説得した。

 

「…………」

 

と、弘樹の言わんとする事は分かっているみほだが、それでも不安は隠せない。

 

やがて、弘樹の右手を取ると、両手で包み込む様に握り締めた。

 

「うん?………」

 

「お願いだから………無理だけはしないでね」

 

一瞬戸惑った弘樹に、みほは念を押す様にそう言う。

 

「………ああ」

 

少し間を開け、弘樹はそう返す。

 

「…………」

 

やがてみほは、弘樹に抱き付いた。

 

「…………」

 

弘樹はそんなみほの背に手を回し、優しく抱き返す。

 

「「…………」」

 

抱き合う2人の周りには、優しい空気が満ちている。

 

と、その時………

 

パシャリッ!と言う、カメラのシャッターが切られた様な音が鳴り響いた。

 

「!?」

 

みほがすぐさまその音がした方向を振り返ると、そこには………

 

「「…………」」

 

優しい笑顔を浮かべた沙織と、ニヤニヤとしている地市が、共に携帯電話を構えている姿が在った。

 

「さ、沙織さんっ!?」

 

「ねえねえ、皆~っ!!」

 

「お~いっ! 弘樹の奴が総隊長とイチャついてるぞ~っ!!」

 

途端にみほが真っ赤になると、沙織と地市は先程撮影した光景を、携帯電話の画面に表示させて、そう言いながら格納庫内へと戻って行く。

 

「ま、待って~っ!!」

 

弘樹を振り解くと、慌ててその2人の後を追うみほ。

 

「やれやれ………」

 

一方で、まるで他人事の様に肩を竦める弘樹。

 

結局、その後2人は大洗機甲部隊の面々から散々からかわれる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、遂に………

 

『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』の日が………

 

やって来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回よりOVA『ボーネシュラハト』が開始です。
位置づけ的には原作のアンツィオ戦ですに当たるので、長くなる予定は無く、チャプター4か5ぐらいで終わりになる予定です。
その後には遂に劇場版に入ります。

で、OVAのチャプター1は………
ヤイカファンの皆さん、ゴメンなさい!
出オチにしてしまいました(爆)
リボンの武者原作だとラスボスポジションですが、このOVAの主は弘樹VSムカデさんチームなので、賑やかし役になってしまいました。
フォローさせていただくと、劇場版に登場させる為のフラグでもありますので………

で、対決と言いながら共闘している弘樹とムカデさんチームですが、その理由は後程彰になります。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター2『チーム集結です!』

『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

チャプター2『チーム集結です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地元・大洗町の『大洗八朔祭』のイベントで………

 

『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』が開催される事となった………

 

スケジュールが詰まっていた大洗機甲部隊だったが、迫信の提案により………

 

その試合を『強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリング』形式にする事で参加人数を絞り………

 

更には参加校を募っての開催となった………

 

大洗機甲部隊から参加する軽量化を施された八九式のアヒルさんチームと、バトリング用装備の『ローラーダッシュアンクル』を装備した弘樹………

 

そして遂に………

 

大洗八朔祭の日が訪れたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茨城県・大洗町………

 

大洗町の商店街一帯が歩行者天国となり、各商店が出店を出す中、神輿や山車が巡行している。

 

正にお祭りムード一色である。

 

そんな中………

 

目玉である『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』に参加する選手達が………

 

大洗文化センターの駐車場に集合していた。

 

 

 

 

 

大洗文化センター・駐車場………

 

「かなり集まったな………」

 

様子を見に来たあんこうチームと弘樹達の中で、地市が所狭しと集結している各校の強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングチームを見てそう呟く。

 

「如何やら、我々の優勝は思わぬ所にも影響を及ぼしていた様だね………」

 

一方迫信は、何時もの様に広げた扇子で口元を隠してそう言う。

 

そう………

 

参加を希望して来た各校の強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングチームは、謝礼の他に………

 

『あの大洗のチーム』と戦える機会を得られる………

 

血の気が多い強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングチームには、それが目当てで参加して来た輩も多い。

 

「ん?………」

 

するとそこで、弘樹が何かを見つけた様な顔を見せる。

 

「弘樹くん? 如何したの?」

 

「………知り合いが居た。ちょっと声を掛けて来る」

 

みほが尋ねると、弘樹はそう言って、とある強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングチームの元へと向かった。

 

「良いざますか! 今回の戦いの最大の目的は大洗との勝負に有りざます!」

 

「正直言って勝てる見込みは低い………けど、0じゃない! やれるだけの事はやろうじゃないか!!」

 

集結している『BC自由学園』の強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングチームを前に、総隊長である『アスパラガス』、副官の『ボルドー』がそう言う。

 

「「「「「「「「「「ダコールッ!!」」」」」」」」」」

 

2人に対し、姿勢を正して返事を返すBC自由機甲部隊。

 

と、そこで………

 

「暫く見ない間に随分と真面な部隊になったじゃないか」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

弘樹がBC自由機甲部隊へ声を掛けると、アスパラガスとボルドーを筆頭に、BC自由機甲部隊の面々がビクンと反応する。

 

「「「「「「「「「「舩坂キャピテーヌッ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、BC自由機甲部隊員達は、一斉に姿勢を正し、弘樹に向かって敬礼する。

 

「そう畏まらんでも良いぞ。小官はもうお前達の指南役じゃない」

 

「いえ! 今日の我々があるのは舩坂キャピテーヌのお蔭ですっ!!」

 

そう言う弘樹に、ザマス口調も忘れたアスパラガスが背筋をピンッと伸ばしたままそう返す。

 

「と、言っても………この前の強襲戦車競技(タンカスロン)の試合で、相手の策略に嵌って、また仲違いして負けちゃったんですけどね」

 

「!? ちょっ!? ボルドーッ!?」

 

と、ボルドーがボソリとそう言うと、アスパラガスが焦った様子を見せる。

 

「何だ、相変わらずか………まあ、長年の問題だ。そう簡単には行かんだろうな」

 

「お、お恥ずかしい限りです………」

 

かなり恐縮している様子のアスパラガス。

 

「ところで………その君達を負かした連中と言うのはどんな奴等だったんだ?」

 

「ハ、ハイ! ムカデのマークが描かれた真っ赤な九七式軽装甲車に乗った大きなリボンを付けた武者の様な女です」

 

「レッドショルダーと思わしき歩兵を3人も引き連れてました」

 

弘樹の問いに、アスパラガスとボルドーがそう答える。

 

(アイツ等か………)

 

すぐにそれが鶴姫 しずかのムカデさんチームと、旧友のグレゴルー達であると気付く弘樹。

 

「兎も角、今日の試合は期待しているぞ。存分に来い」

 

「ハイ! 胸を借りさせて頂きますっ!!」

 

「よろしくお願いしますっ!!」

 

そう弘樹が言うと、BC自由機甲部隊はまた一斉に敬礼するのだった。

 

「…………」

 

軽く手を上げて返すと、その場を後にする弘樹。

 

「弘樹くん。BC自由学園の人達と知り合いだったの?」

 

戻って来た弘樹に、みほがそう尋ねる。

 

「ああ。中学の頃に、まだ中等部に居た彼女達と試合をした事があってな………だが、試合中に向こうが仲違いを始めてな。結局無効試合になってしまったがな」

 

「BC自由学園の仲の悪さは有名ですからね」

 

弘樹がそう言うと、優花里がそう口を挟む。

 

「で、試合が終わっても責任の擦り合いをしてな。耐えかねて、当時の戦友達と総出で叩き直してやろうって話になってな………」

 

「そりゃ御愁傷様だなぁ………」

 

絹代達や弘樹達に扱かれるBC自由機甲部隊員達の姿を想像して、地市が同情する様子を見せる。

 

と、そこで………

 

「弘樹!」

 

「! ポタリア! キデーラも来ていたのか!」

 

「へへ、この試合は出るだけで賞金が貰えるからな。飛び付かない方がおかしいぜ」

 

以前、全国大会の決勝戦でも姿を見せた旧友、ポタリアとキデーラが姿を見せた。

 

その背後には、黒髪で小麦色の褐色肌に、顔に白いフェイスペイントの様な物をした少女が控えている。

 

「?………」

 

「ああ、彼女は『竪琴高校』の戦車道チームの隊長で、『アウンさん』だ」

 

「は、初めまして! 『アウン』です!! 舩坂 弘樹さんに西住 みほさんとお会い出来てとても光栄ですっ!!」

 

弘樹がその少女に気づいて視線を向けると、ポタリアがそう言い、『アウンさん』がかなり緊張している様子で自己紹介する。

 

「『竪琴高校』?………確か昔は相当な強豪校として知られているな。しかし、大分前に戦車道を廃止していたと聞いていたが………」

 

「最近復活させたのさ。と言っても、まだ部活という形で、彼女も含めて隊員は全員素人で戦車は全て払下げ品………」

 

「オマケに歩兵部隊はまだ解散状態と来たもんだから、交流が有った俺達クメン校に合同部隊編成を持ちかけて来たってワケさ」

 

そう指摘する弘樹に、ポタリアとキデーラがそう返す。

 

「最初はもうヒデェもんだったぜ。試合どころか、真面に戦車を動かす事さえ出来なかったんだからな」

 

「キ、キデーラさん! それは言わないで下さいよぉっ!!」

 

「何だか、大洗と似てるね………」

 

キデーラが思い出す様に笑いながらそう言うと、アウンさんが軽く狼狽し、みほが親近感を感じて笑う。

 

「ところで………その模様はフェイスペイントか何かですか?」

 

とそこで優花里が、アウンさんが顔に塗っている白い模様について尋ねる。

 

「あ、いえ、コレは『タナカ』です」

 

「『タナカ』?」

 

「ミャンマーの伝統的な化粧品だね」

 

アウンさんがそう答えると、優花里は首を傾げ、迫信がそう説明する。

 

「ハイ、ウチはコレが名産でして………宜しければ、どうぞ」

 

とそこで、アウンさんはタナカをあんこうチームの皆に配り始める。

 

「まあ、ありがとうございます」

 

「どうもであります」

 

「ん………」

 

「やだも~! コレ気持ち良い~!」

 

受け取ったタナカを、早速顔に塗りたくり始める沙織。

 

「沙織さん、気が早いですよ」

 

「ねえねえ、地市くん! 如何かな、コレ?」

 

華がそう言うが、沙織は気にも留めず、タナカを塗った顔を地市に見せて、感想を伺う。

 

「ああ、良いぜ。可愛いぞ、沙織」

 

「やだも~~っ!」

 

「最近バカップルぷりに磨きが掛かって来たな………」

 

「全く、目の毒だ………」

 

正にバカップルな遣り取りをする地市と沙織を横目で見ながら、麻子と煌人が呆れた様子を見せる。

 

「宜しければコレからも御贔屓にお願いします。今日からセールで特価販売させて頂きますから」

 

「ちゃっかり商売してやがる………」

 

「まあまあ、神狩殿。竪琴高校の貴重な資金源になるんですから」

 

商売を始めるアウンさんに白狼がそうツッコミを入れると、優花里がフォローする。

 

すると………

 

「失礼。私にも1つ頂けるかな?」

 

何とそこで、迫信がアウンさんにそう言った。

 

「えっ!? あ、ハイ、どうぞ………」

 

男性から声が掛かると思っていなかったアウンさんは戸惑いながらも、迫信にタナカを1つ渡す。

 

「ふむ………」

 

受け取ったタナカを、ジッと見つめたり、指に取ったりして、何やら確認している様子を見せる迫信。

 

「あ、あの………」

 

「やはり思った通りだ。コレは素晴らしいな」

 

アウンさんが戸惑っていると、迫信はタナカを見ながらそう言った。

 

「如何だね? 我が神大コーポレーションの化粧品会社と契約しないかね?」

 

「えっ!?」

 

何と!!

 

竪琴高校のタナカは、迫信の御眼鏡に敵った様である。

 

「取り敢えず、前金としてコレだけ渡しておこうか」

 

と、迫信がそう言うと、懐から小切手を取り出し、サッと金額部分にペンを走らせると、破いてアウンさんに手渡す。。

 

「一、十、百、千、万………!? 億ぅ~~~~~っ!?」

 

「おお、スゲェッ!!」

 

そこに掛かれていたトンでもない大金を目の前にして、思わず悲鳴の様な声を挙げるアウンさんと、思わず唸るキデーラ。

 

「足りなければ後で幾らでも用意しよう。是非、契約してくれたまえ」

 

「ハハハ、ハイ! 喜んでぇっ!! あ、ありがとうございま、しゅ~~~………」

 

「! アウンさんっ!!」

 

迫信が重ねてそう言うと、アウンさんは頭から湯気を噴き出して、気絶して倒れそうになり、ポタリアが慌てて支える。

 

如何やら、余りの出来事に脳の処理が追い付かなかった様である。

 

「ああ、コレはすまない。私とした事が、つい気が急いてしまった様だ。申し訳無い」

 

「いえ、とても嬉しい話です。ありがとうございます」

 

「こりゃ思わぬ儲け話だぜ。竪琴高校の連中も腰を抜かすぞ、きっと」

 

迫信が謝罪すると、気絶しているアウンさんに代わってポタリアがお礼を言い、キデーラがそんな事を口にする。。

 

「では、皆さんに伝えて来ますので。コレで………」

 

「あんがとよ、会長さん。コレで竪琴高校も安泰ってワケだ」

 

そう言い残し、ポタリアとキデーラは気絶したままのアウンさんを連れて、自軍の元へと戻って行くのだった。

 

「何か凄い事になっちゃったね………」

 

「ア、アハハ………」

 

間の前で繰り広げられた光景に、沙織が唖然としながらそう言い、みほは乾いた笑いを漏らす。

 

と、そこへ………

 

「お待たせしましたーっ!」

 

典子の威勢の良い声と共に、軽量化された八九式が、待機所へと入って来た。

 

「あ、磯部さん………えっ?」

 

それを見たみほが、典子達に声を掛けようとして思わず、固まる。

 

「あの………何で水着姿なんですか?」

 

飛彗がアヒルさんチームに向かってそう尋ねる。

 

そう、何故か全員が水着姿だったのである。

 

「いや~、実は………」

 

「来る途中でビーチバレーの試合をやってるのを目にしちゃって………」

 

「それで思わず我慢出来ずに………」

 

妙子、あけび、忍が申し訳無さそうにそう答える。

 

「勿論! 勝ちましたよっ!!」

 

典子だけが分かって居ない様でそう返す。

 

「うへへへ、溜まらんです、ハイ………」

 

「鼻血を止めなさい、了平」

 

そんなバレー部チームの艶姿に、了平が鼻血を垂らし、楓に嗜められる。

 

と、そこで………

 

「お、何だ? 今日は強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングの試合だって聞いて来たんだがな………」

 

「グラビアの撮影だったとは知らなかったな」

 

「フン………」

 

そう言う台詞と共に、グレゴルー、バイマン、ムーザが、弘樹達の前に姿を見せた。

 

「グレゴルー! バイマン! ムーザ! やはり来たか」

 

旧友の登場に、弘樹が真っ先に反応する。

 

「まあな。こんだけ大がかりなイベントとなりゃ、参加しない方が無理ってもんだぜ」

 

「だろうな」

 

「それより、弘樹。御愁傷様だな」

 

すると不意に、バイマンが弘樹に向かってそんな事を言って来た。

 

「? 何の事だ?」

 

「そいつは………」

 

バイマンの言った言葉の意味が分からず、弘樹が首を傾げたのを見て、グレゴルーは説明しようとしたところ………

 

「久方ぶりであるな………」

 

そう言う台詞と共に、砲塔のハッチからしずか、操縦席のハッチから鈴が顔を覗かせている状態の真っ赤なテケが現れる。

 

「鶴姫 しずか………」

 

「あんこうチームの皆さん! 舩坂さん! ご無沙汰です!!」

 

弘樹がしずかの姿を確認している中、操縦手席から出て来た鈴が駆け寄って来る。

 

「全国大会優勝! 改めておめでとうございます!! 私、ずっと見てました!!」

 

「ありがとうございます、松風さん」

 

興奮している様子の鈴が、改めて大洗の全国大会優勝を祝い、みほは笑顔でそれに応じる。

 

「…………」

 

しかし、しずかの方は何やら弘樹を睨む様に見据えていた。

 

(コレは………殺気か?)

 

そこで弘樹は、しずかから殺気にも似た気配を感じ取り、訝しげな顔をする。

 

「………何故そんな気配を小官に向けて来る?」

 

率直にしずかに向かってそう問い質す弘樹。

 

「………舩坂 弘樹殿………我の今日の狙いは貴様ぞ」

 

するとしずかは、『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべて弘樹にそう言い放つ。

 

「何?………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の宣戦布告に、弘樹は僅かに目を細め、みほ達は驚きを露わにする。

 

「大洗機甲部隊の試合を見て、我の中には1つの疑問が浮かんだ。圧倒的に寡兵でありながら、日の本の頂点に立てた強さの源は何かとな………そしてそれが貴様だと確信した」

 

『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべたまま、しずかは弘樹に向かってそう言い放つ。

 

「………随分と過大評価されたものだ」

 

「謙遜する事はなかろう」

 

「小官は飽く迄1歩兵に過ぎない。その小官が大洗の強さの源など、性質の悪い冗談だ」

 

飽く迄自分は1歩兵に過ぎないと言う立場を取る弘樹。

 

「ええ、その通りよ。1歩兵が勝敗を左右するなんて、誇大妄想も良いところね」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

と、不意にそう言う声が聞こえて来て、一同が振り返ると、そこには………

 

「ムカデさんチーム………正直貴方達の事は買っていたのだけど………私の見込み違いだった様ね」

 

ヤイカの乗った7TP(単砲塔)を筆頭とした、ボンプル機甲部隊の姿が在った。

 

「おお! 来たぞっ!!」

 

「強襲戦車競技(タンカスロン)の王者!!」

 

「ボンプル高校の騎士団長! ヤイカッ!!」

 

強襲戦車競技(タンカスロン)の王者の登場に、会場内が一気に沸き立つ。

 

「あの人がヤイカさん………」

 

「噂に聞いていた通り、強襲戦車競技(タンカスロン)では相当有名みたいですね」

 

そんなヤイカの姿を見て、みほと優花里がそう小声で言い合う。

 

「ヤイカ………貴様こそ見る目が無いな。舩坂 弘樹の強さは常識で計り切れるものではない」

 

「フン………戦車の差さえなければ、ボンプルがこそ最強………例え英霊の子孫であり絢爛舞踏であろうと、強襲戦車競技(タンカスロン)で後れは取らないわ!!」

 

しずかはそう言い返すが、ヤイカは一笑に付し、弘樹に向かって教鞭を指す。

 

「…………」

 

しかし、弘樹は無感情な仏頂面でヤイカを見据えている。

 

「あら? 怖くて何も言い返せないのかしら? 英霊の子孫、噂程でもないわね。所詮は歩兵道なんてお遊戯に夢中な男と言う事ね」

 

「…………」

 

更に挑発するかの様な言葉を投げ掛けるヤイカだが、弘樹は無言のままである。

 

「如何したの? ココまで良い様に言われて悔しくないの? そんな事では御先祖様が泣いているのではなくて?」

 

「………1つだけ言わせてもらおう」

 

とそこで、初めて口を開く弘樹。

 

「へえ? 何かしら?」

 

「試合開始はもうすぐだ。早く準備したら如何だ?」

 

「!?」

 

とそこで、ヤイカの方が苦々しげな顔となった。

 

そう………

 

弘樹はヤイカの事など歯牙にも掛けていなかったのである。

 

彼にとっては、彼女は只の参加チームの1つ………

 

その程度の存在だと。

 

「良い度胸ね………なら教育してあげるわ! 本当の戦闘! 強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングと言うものをねっ!!」

 

再度教鞭を弘樹に突き付け、ヤイカはそう宣言する。

 

「話はそれで終わりか?」

 

「!!………行くわよ! ウシュカッ!!」

 

「ハ、ハイッ!」

 

だが、相変わらず弘樹は特に気にしていない様子であり、ヤイカは憤慨した様子を見せながら、自軍の待機所へと向かったのだった。

 

「す、凄い………あのヤイカさんをあしらうなんて………」

 

「フハハハハハッ! 痛快痛快!! 流石は舩坂殿よ!! それでこそ死合うに相応しいっ!!」

 

鈴がヤイカを軽くあしらった弘樹に感心し、しずかは呵呵大笑しながらそう言う。

 

「ちょっと待ったっ!!」

 

「私達を忘れて貰っちゃ困るよ!!」

 

「強襲戦車競技(タンカスロン)なら戦車と戦わないとね!!」

 

「先ずは我等バレー部が相手だっ!!」

 

とそこで、あけび、忍、妙子、典子がそう口を挟んで来た。

 

「あのー………さっきから気になってたんですけど………何で水着なんですか?」

 

すると、鈴が最もな疑問を尋ねる。

 

「あ、いや、その………」

 

「色々と事情が有りまして………」

 

気恥ずかしさからか、曖昧に返す妙子とあけび。

 

「じゃ………取り敢えず着替えてもらって………」

 

「何をしている、鈴! 着替えるは………我等ぞ!」

 

アヒルさんチームに着替えて貰おうとした鈴だったが、それを遮り、しずかがそう言い放った!

 

「えっ!? いや姫! ちょっ待っ………」

 

鈴が止めようとしたが、それよりも早く、しずかはシャツを肌蹴、スカートのチャックを下ろしたかと思うと………

 

「我等も水着で戦うまで!!」

 

一気に両方を脱ぎ捨て、白地にムカデがあしらわれたビキニ水着を露わにする!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

鈴を初めとした一同が唖然としている中、しずかは残っていたパンストも脱ぎ捨てる。

 

「ちょっ!? 姫! こんなところで………」

 

「敵に恥を掻かせるな! 胸を張れ、鈴!!」

 

更にしずかは、止めようとした鈴の制服をも引っぺがし、彼女も水着姿にする。

 

「そんな~~~」

 

「どーせ勝負が終わったら海で遊ぶ積りだったろ」

 

恥かしがる鈴とは対照的に、実に堂々としながらそう言い放つしずかだった。

 

「やれやれ………」

 

「お姫さんも相変わらずだな」

 

「全く、バカンスに来てんじゃねえんだぞ」

 

そんなしずかの姿に、グレゴルー、バイマン、ムーザは呆れる様な様子を見せる。

 

「熱い試合になりそうだな………色んな意味で」

 

「ア、アハハハ………」

 

そして弘樹がそう言うと、みほがまたも乾いた笑い声を挙げるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間も無く………

 

『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』が開始される………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

リボンの武者のキャラ達が大洗に集結です。

弘樹が昔BC自由学園の連中を扱いていたと言う設定は、リボンの武者での描写と今度の最終章でBC自由の様子が余りにも険悪だったもので、ちょっとネタバレですが、劇場版にてBC自由にも出番が有る為、ある意味での布石として設定しました。

そして、資金が増えるよ!
やったねアウンさん!(おい馬鹿止めろ)
彼女はリボンの武者の中ではお気に入りのキャラなのであからさまに贔屓しちゃいました(爆)
アウンさんはもっと報われても良い筈だ。

そして死亡フラグを立てるヤイカ達と、『頑張る女の子の美しい笑顔』が眩しいムカデさんチーム。
早くもカオスの予感が………
そして、先頭を走るのは、いつもアイツ(弘樹)!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター3『磯前神社奉納戦車・歩兵戦です!』

本日は最早恒例のあんこう祭り!

昨年は13万人が訪れただけに、今年も混雑が予想されます。

御来場される予定の皆様は、御注意下さい。

勿論、私も行きます。


『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

チャプター3『磯前神社奉納戦車・歩兵戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個性豊かな選手達が集い………

 

遂に開始された『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』………

 

果たして、勝利を手にするのは誰か?………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町………

 

試合が開始されるや否や、大洗の町のあちらこちらで砲撃音と銃撃音、更には爆発音が断続的に鳴り響いている。

 

黒煙や白煙が町一帯に漂い、硝煙の臭いが漂う。

 

そんな中で………

 

アヒルさんチームと弘樹は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の一角………

 

「うわっ!?」

 

突然砲撃を受けた二式軽戦車が爆発し、砲塔上部から白旗を上げる。

 

「砲撃っ!? 何処からっ!?」

 

「密集陣形! 周囲を警戒っ!!」

 

何処から撃たれたのか分からない強襲戦車競技(タンカスロン)選手達は、各戦車を密集させ、全方位を見渡せる様に陣形を組む。

 

バトリング選手達もその周辺に展開し、警戒する。

 

と、その直後………

 

民家の空いていた窓から、砲弾が飛び出して来て、先程のとは別の二式軽戦車に命中!

 

被弾した二式軽戦車が白旗を上げる。

 

「なっ!?」

 

「ま、窓から砲弾が飛び出して来たっ!?」

 

「違うっ! 家の中を通り抜いて砲撃してきたんだっ!!」

 

強襲戦車競技(タンカスロン)選手達が驚いていると、家と家の隙間から、移動する八九式の姿を捉えた!

 

「! 八九式っ!?」

 

「大洗のアヒルさんチームかよっ!?」

 

「一体どんな腕してるのっ!?」

 

「それよりも早く追ってっ!!」

 

八九式の姿を見た強襲戦車競技(タンカスロン)選手達は慌てるが、すぐに追撃を掛けようとする。

 

「駄目です! この路地は軽戦車でも無理ですっ!!」

 

しかし、八九式が居る方へ通じる路地は狭過ぎて、軽戦車でも走行不能だった。

 

「任せろっ!!」

 

「こういう時こそ歩兵の出番だっ!!」

 

するとそこで、バトリング選手達が動く。

 

1列になってローラーダッシュで路地を通り、八九式に追撃を掛けようとする。

 

「良し! 見てろ、大洗っ!!」

 

だが、先頭のバトリング選手が路地を抜けると思われた瞬間………

 

「………!!」

 

ローラーダッシュ音が響いて、MG42を腰撓めに構えた弘樹が、足元から火花を散らしながら、先頭のバトリング選手の前で静止した!

 

「へっ!?」

 

「…………」

 

間抜けた声を挙げたバトリング選手に向かって、弘樹は躊躇無くMG42の引き金を引いた!

 

「! ぎゃああっ!?」

 

MG42から独特な音と共に吐き出された銃弾を全身に浴びたバトリング選手は、敢え無く戦死判定となる。

 

更に銃弾は路地を通る為に1列になっていたバトリング選手達にも次々と襲い掛かる!

 

「ぐああっ!?」

 

「がああっ!?」

 

何も出来ないまま一方的に全て屠られるバトリング選手達!

 

「ああっ!?」

 

「このぉっ!!」

 

その光景に1人の強襲戦車競技(タンカスロン)選手が悲鳴を挙げるが、別の強襲戦車競技(タンカスロン)選手が弘樹に向かって発砲する。

 

しかし、砲弾は逸れて民家に命中!

 

「…………」

 

爆発が起きて破片が飛ぶ中、弘樹はローラーダッシュで横へスライドする様に移動して姿を消す!

 

「あ、待てっ! 逃がすかっ!!」

 

「こうなったら民家を突き破ってっ!!………」

 

それを見た強襲戦車競技(タンカスロン)選手の二式軽戦車が、民家を突っ切って弘樹を追おうとするが………

 

直後に背後から砲撃を受け、爆発と共に白旗を上げる!

 

「!?」

 

振り返った別の強襲戦車競技(タンカスロン)選手が見たモノは、砲口から白煙を上げている八九式の姿だった。

 

「八九式っ!?」

 

「何時の間にっ!?」

 

残る2輌の二式軽戦車が慌てて反転し、八九式に向かって砲撃する。

 

だが、八九式は急発進すると、スラローム走行の様に左右にジグザグに移動し、二式軽戦車の砲撃をかわす。

 

「!? かわされたっ!? この距離でっ!!」

 

「呆けてないで次弾装填を急がせてっ!?」

 

驚愕する強襲戦車競技(タンカスロン)選手に、もう1人の強襲戦車競技(タンカスロン)選手がそう呼び掛けるが………

 

直後にローラーダッシュ音が響いて来て、家の間の塀の上をローラーダッシュで移動して来た弘樹が、塀の端に到達するのと同時に跳躍!

 

片方の二式軽戦車に、頭上からラハティ L-39の銃口を向ける。

 

「!?」

 

「………!」

 

強襲戦車競技(タンカスロン)選手がそれに気づいた瞬間に、弘樹は発砲。

 

弾丸はエンジン部の開閉口をアッサリと貫通し、エンジンを爆発させる!

 

直後に、二式軽戦車の砲塔上部から白旗が上がる。

 

「うえっ!?」

 

「貰った! 根性ぉーっ!!」

 

最後の二式軽戦車の強襲戦車競技(タンカスロン)が驚愕の声を挙げた瞬間に、典子の雄叫びと共に突っ込んで来た八九式が、擦れ違い様に砲撃!

 

至近距離から側面に砲撃を叩き込まれた二式軽戦車は爆発と共に横倒しとなる。

 

そしてそのまま、側面部から白旗を上げた。

 

「………片付いたか」

 

「ハイ! 全滅ですっ!!」

 

着地を決めた弘樹に、典子がガッツポーズを取りながらそう言う。

 

「つ、強い………コレが大洗の八九式………そして不死身の歩兵・舩坂 弘樹………」

 

煤けた顔で車外へと這い出た二式軽戦車の強襲戦車競技(タンカスロン)が、そんな2人を見て、戦慄している様子でそう呟く。

 

その視線を受けながら、アヒルさんチームと弘樹は、次の目標を探して移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特設観戦ステージ………

 

「凄い! 凄いぞ、アヒルさんチームに舩坂 弘樹っ!! 強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングであっても、その強さは健在だぁっ!!」

 

「いや~、寧ろルールと言う縛りから解き放たれた分、より強くなっているとも言えるかも知れません」

 

特設観戦ステージに設置された超大型モニターの端に設置された実況席で、ヒートマン佐々木とDJ田中がそう実況する。

 

本来、公式大会での実況を担当している2人だが、この磯前神社奉納戦車・歩兵戦にアヒルさんチームと弘樹が参加すると言う話を聞くと、ノーギャラで良いので実況させてくれと願い出て来たのである。(無論、ギャラは迫信がちゃんと払っている)

 

全国大会を通してすっかり大洗機甲部隊のファンとなった2人にとっては、非公式の強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングであっても、その活躍が見れるのなら関係無い様だ。

 

「相変わらず恐ろしい強さだな」

 

「ホント、親友ながら怖くなって来るぜ………」

 

と、関係者席に居た地市と了平が、試合の様子を見てそう呟く。

 

「弘樹も凄いが、アヒルさんチームも大したもんだぜ」

 

「全国大会でも撃破率には恵まれませんでしたが、色々と良い活躍を見せてくれましたからね」

 

更に、俊と逞巳がアヒルさんチームをそう評する。

 

「当然であります! アヒルさんチームは八九式で最も動き回り、最も弾を当てて来たチームであります!」

 

「うん、私もそう思うよ、優花里さん。アヒルさんチームは大洗女子で………最も練度の高いベストチームだって」

 

すると優花里がそう言い、みほが改めてアヒルさんチームの練度の高さを認識する。

 

「しかし、一筋縄で行かないのが強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングだ………」

 

「この後が見ものだね~」

 

そこで迫信が扇子を広げながら、杏がいつもの様に干し芋を齧りながらそう言う。

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そんな2人の言葉を肯定する様に歓声が挙がり、みほ達は再度モニターに注目する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の一角………

 

「アヒルさんチーム! 此処は小官に任せて退避するんだっ!!」

 

MG42を腰撓めに構えて発砲していた弘樹が、僅かに背後を振り返しながら、そちらに居た八九式に呼び掛ける。

 

「で、でもっ!」

 

「急げっ! アイツ等が相手では君達を護りながら戦うのは難しいっ!!」

 

「! わ、分かりましたっ!!」

 

弘樹が強くそう言うと、典子は後ろ髪を引かれる思いを感じながらも離脱して行く。

 

直後に、弘樹の周囲に多数のロケット弾が着弾する。

 

「クッ!………まさかこんなにも早く遭遇する事になるとはな」

 

幸いにも直撃や被害は無かったが、弘樹はロケット弾が飛んで来た方向を見やりながらそう呟く。

 

「へへ………」

 

「フフ………」

 

「…………」

 

そこには、グレゴルー、バイマン、ムーザの元レッドショルダー3人組の姿が在った。

 

「弘樹、オメェの厄介さは良おく知ってるからな」

 

「ココで潰させてもらうぜ!」

 

「喰らえっ!!」

 

グレゴルーとバイマンがそう言ったかと思うと、ムーザがMP40を発砲する!

 

「!!」

 

弘樹はすぐさまローラーダッシュ移動を開始。

 

弾丸が足元に次々に命中して激しく火花を散らすのを見ながらも、全く動揺する事無く、スラローム走行しながらグレゴルー達を引き離そうとする。

 

「相変わらず良い動きだぜ」

 

「如何する、グレゴルー?」

 

「へへっ、ブッ倒せっ!!」

 

それを見たバイマンとムーザ、グレゴルーがそう言い合うと、弘樹と同じ様にローラーダッシュ移動を始め、弘樹を追撃する。

 

(やはり逃げれば狙われるか………ならば!)

 

とそれを見た弘樹は空かさず180度ターン!

 

「突破するのみ!」

 

そして、追撃して来たグレゴルー達に向かって突撃した!

 

「!!………」

 

牽制にとMG42をグレゴルー達に向かって発砲する!

 

「!? うおっ!?」

 

MG42から放たれた弾丸の1発が顔のすぐ傍を掠め、一瞬だが怯むグレゴルー。

 

「!!………」

 

その瞬間に弘樹は更に加速!

 

一瞬にしてグレゴルー達の中へと飛び込んだかと思うと、ムーザに肩口から体当たり!

 

「! おうわっ!?」

 

ムーザが弾き飛ばされて仰向けに倒れると、一気にグレゴルー達を突破する!

 

「野郎っ!!」

 

とそこで、バイマンが弘樹の背に向かってバズーカを放つ!

 

「………!!」

 

間一髪で反応が間に合い、またも180度回転する様に回避した弘樹だったが、バズーカのロケット弾は極めて至近に着弾し、爆風でバランスを崩す!

 

「! クウッ!!」

 

すると弘樹は、MG42を片手で地面目掛けて発砲!

 

その反動で体勢を立て直しつつ、そのまま再度グレゴルー達に発砲!

 

内1発の弾丸がバイマンのバズーカに命中!

 

「! チイッ!!」

 

バイマンがバズーカを放って伏せると、直後にバズーカが爆発!

 

「!!………」

 

その爆煙に紛れて、弘樹はローラーダッシュ移動を再開し、細い路地へと飛び込んだ!

 

「見たかっ!?」

 

「ブースタンドだぜっ!」

 

「あの野郎………バトリングのテクニックをサラリとモノにしやがって」

 

弘樹が消えた後、グレゴルー、ムーザ、バイマンがそう言い合う。

 

「まあ良い。目的は果たしたんだ………うんっ!」

 

しかしそこで、グレゴルーがそう言って、両手で顔を叩いて見せる。

 

と………

 

「敵発見っ!」

 

「お、オイ! あの戦闘服って………」

 

「レッドショルダーっ!?」

 

別の強襲戦車競技(タンカスロン)選手とバトリング選手達が、グレゴルー達と出くわす。

 

「おっと、お客さんみてぇだな」

 

「歓迎してやるか………」

 

「フン………」

 

新たな獲物を発見したグレゴルー達は、嬉々として戦闘を開始する。

 

遭遇してしまった強襲戦車競技(タンカスロン)選手とバトリング選手達にとっては、不幸な事この上なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

路地へと逃げた弘樹は………

 

(………追って来ない? アイツ等らしくもない)

 

追撃を仕掛けて来ないグレゴルー達に違和感を感じながらも、路地を進んでいる。

 

やがて再び、大通りの方へと出る。

 

「………!」

 

すると弘樹は、足元から激しく火花を散らしながら急停止。

 

「………成程。まんまと誘い込まれたわけか」

 

そう言う弘樹の視線の先には………

 

「…………」

 

水着姿でハッチから上半身を曝し、狂気の笑みを浮かべているしずかの姿が在った。

 

「舩坂殿………勝負と居たそう」

 

(ひええ~~っ! よりによって、舩坂さんとタイマンだなんてぇ~~っ!!)

 

心底楽しそうにしているしずかとは対照的に、鈴は戦々恐々である。

 

「貴殿が持つ力………特と見せて貰おう」

 

「買い被り過ぎだと言っただろう。小官は1歩兵として命令を遂行し、役割を果たしたに過ぎない」

 

「その通りだ」

 

「む?………」

 

突然肯定の意を返して来たしずかを、弘樹は訝しむが………

 

「大洗機甲部隊の総隊長である西住 みほ殿は正に軍神。稀代の大将よ………だがそれ故に、西住殿の戦術は常人には理解すら及ばぬものもある。その高い戦術を実行に移せたのは、常に先頭に立ち、皆を引っ張る者が居たからだ」

 

「それが小官だと?」

 

「如何にも。西住殿の困難な戦術を何の躊躇も無く、完全に遂行出来る力………正に大洗機甲部隊の真の要は貴殿なり」

 

「それは………」

 

「何より………その胸の勲章が全てを物語っている」

 

弘樹の戦闘服の胸元に縫い付けられている『絢爛舞踏章』略綬を指差し、しずかはそう言い放つ。

 

「…………」

 

「喋り過ぎたな………コレ以上、言葉は不要………」

 

沈黙した弘樹を見て、しずかは再び『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべる。

 

そして………

 

「やあやあ! 我こそは百足組也っ!! いざ尋常に勝負っ!!」

 

まるで戦国武将の様に名乗りを挙げた。

 

「…………」

 

対する弘樹は、静かに臨戦態勢へと移行する。

 

『おおっ~とっ! ムカデさんチーム! 何と舩坂 弘樹に一騎打ちを仕掛けたぁっ!!』

 

『いやあ、絢爛舞踏相手に一騎打ちを所望するなんて、常識じゃ考えられませんねえ!』

 

間違いなく今大会最大の見せ場な一戦になると予見したヒートマン佐々木とDJ田中の熱い実況が響き渡る!

 

「舩坂 弘樹に300!」

 

「俺も500だ!」

 

「幾ら最近活躍してるムカデさんチームでも、流石に厳しいだろう」

 

「いや、分からんぞ! 強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングは何が起こるか分からないからな!!」

 

「じゃあ俺はムカデさんチームに400だ!!」

 

「俺もムカデさんに賭けるぞっ!!」

 

観客の盛り上がりも更に増しており、あちらこちらで賭けが開始されている。

 

(弘樹くん………)

 

そんなテンションマックスな観客達とは対照的に、みほは両手を祈る様に組んで、弘樹が映っている巨大モニターを食い入る様に見つけていた。

 

「「…………」」

 

両者はそのまま睨み合いへと発展する。

 

緊迫した空気が漂い始め、まるで両者の間だけ重力が増したかの様な威圧感が漂っている。

 

時折海風が吹き抜け、弘樹のヘルメットの下に被っている戦闘帽の帽垂布や、しずかのリボンを揺らす。

 

「「!!」」

 

やがて両者は、互いに履帯と足元から火花を散らし、正面から突撃!!

 

「「!!」」

 

しずかが主砲のトリガーに指を掛け、弘樹がラハティ L-39を構える!

 

「「………!!」」

 

しかし突然、両者は急停止した!

 

………直後に!!

 

両者の間に砲弾が着弾!!

 

道路のコンクリートが爆ぜ、細かな破片が舞い散る!

 

「「!!………」」

 

「コレは好都合………片付けたい相手が纏まって居てくれるなんてね」

 

険しい顔を浮かべた弘樹としずか達の前に、ヤイカの乗る7TP(単砲塔)が姿を現す。

 

更に、露地や交差点からも、ボンプル機甲部隊の隊員達が次々に現れ………

 

あっと言う間に、弘樹としずか達は包囲されてしまう。

 

「この乱戦の最中で酔狂に一騎打ちなんてしている輩共を見逃すほど、私は甘くなくてよ………」

 

不敵な笑みを浮かべてそう言い放つヤイカ。

 

しかし彼女は気づいていなかった………

 

今彼女は………

 

自ら巨大な不発弾を踏みつけてしまった事に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に開始された磯前神社奉納戦車・歩兵戦。
早速戦果を挙げるアヒルさんチームと弘樹にグレゴルー達が襲い掛かる。

しかし、その真の目的は、弘樹はしずかとの対決の場に引き出す事だった。
対峙した弘樹とムカデさんチームがイザ激突かと思われた瞬間に………
ボンプルが乱入。
この後、あの展開に………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター4『赫奕たる異端です!』

『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

チャプター4『赫奕たる異端です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗八朔祭のイベントとして開催された………

 

強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリング選手達による………

 

『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』………

 

戦闘の最中に、遂に弘樹はしずか達ムカデさんチームと会合………

 

壮絶な一騎打ちが始まろうかとした瞬間に………

 

強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングの王者………

 

ボンプル機甲部隊のヤイカ達が介入してきたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特設観戦ステージ………

 

『あ~~っとっ! 壮絶な一騎打ちが開始されるかと思われましたが、ココでまさかの乱入者だぁ~~っ!!』

 

『普通の戦車道や歩兵道なら空気を読んで戦わせるところなんですがねぇ。如何せんコレは強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングですからねぇ』

 

弘樹とムカデさんチームの戦いに突如介入してきたヤイカ達のボンプル機甲部隊の姿に、ヒートマン佐々木とDJ田中も驚きを示す。

 

「オイ、空気読めよ、ボンプルッ!!」

 

「コレから面白くなるって時によぉっ!!」

 

「引っ込めーっ! 馬鹿野郎ーっ!!」

 

弘樹とムカデさんチームの一騎打ちを期待していた観客達からはブーイングにも似た野次が飛ぶ。

 

「流石はヤイカ様だぁっ!!」

 

「普通の戦車道や歩兵道の連中には出来ない事を平然とやってのけるぅっ!!」

 

「そこにシビれる! 憧れるゥッ!!」

 

しかし、ボンプル校のファンからは逆に歓声が挙がる。

 

「マズイよ! 舩坂くんとしずかちゃん達、危ないよっ!!」

 

「完全に包囲されています………コレを歩兵、或いは戦車単騎で抜け出すのは相当厳しいですよ」

 

弘樹としずか達の身を案じる沙織と優花里。

 

「タイマンを邪魔するなんて、何て無粋な」

 

(ヤの付く人の姐さんみたいだな………)

 

一方で華は弘樹としずか達の対決を邪魔したヤイカ達に不快感を露わにし、そんな華の姿を見て内心でそんな事を考える麻子。

 

「…………」

 

そしてみほは、何とも言えない表情でモニターを見やっている。

 

「みぽりん! 大丈夫っ!?」

 

と、弘樹を心配する余りにそんな表情になってしまったと思った沙織が、みほへと声を掛ける。

 

「あ、うん………寧ろ、ヤイカさん達の方が心配かな?」

 

「へっ?」

 

するとみほは、沙織に向かってそう返し、沙織が困惑の表情を浮かべる。

 

「西住総隊長も分かって来ましたね」

 

しかし、シメオンだけは同じ様に分かっている様で、そんな声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の一角………

 

「「…………」」

 

互いに向き合った状態のまま、周囲を取り囲むボンプル機甲部隊の隊員達を見渡す弘樹としずか。

 

「ひいぃ~~~っ! 完全に包囲されてるよぉ~~~~っ!!」

 

テケの操縦手席で1人震えている鈴。

 

「フフフ………」

 

そして、不遜な笑みを浮かべて、持っている教鞭を空いている掌に打ち付けて音を鳴らしているヤイカ。

 

「ヤイカ………貴様」

 

勝負を邪魔されたしずかは、鬼の様な形相でヤイカを睨みつける。

 

「言った筈よ………戦の最中に第3勢力に介入されないと思った? 味方が裏切らないと思った? 3つ巴、4つ巴の泥沼の戦が無いと思った? ああ、来て良かった! やっぱり貴方達、何にも知らなかったのね!? コレが強襲戦車競技(タンカスロン)! 闘争の見世物! 野蛮人の暇潰しよ!!」

 

しかしヤイカは、狂気の笑みを浮かべて、アンチョビにも言い放ったあの台詞を言い放つ。

 

「戦車の差さえなければボンプルこそが最強。例え相手が絢爛舞踏であろうとも、強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングに於いては、我が騎士団の敵ではないわ」

 

そして続けて、教鞭を弘樹に突き付け、そう宣言する。

 

「…………」

 

対する弘樹は無言で返す。

 

「! またその目を………」

 

そんな弘樹を見て、ヤイカが表情を歪ませる。

 

この状況で尚………

 

弘樹はヤイカ達を歯牙にも掛けていない。

 

「強がるのもいい加減にしなさいっ! この状況で豆戦車1輌と歩兵1人! 磨り潰すのは簡単な事よっ!! それとも、現実逃避でもしているのかしらっ!?」

 

若干苛立った様子を見せながら、ヤイカがそう言い放つと、ボンプル機甲部隊の銃口と砲口が、一斉に弘樹とムカデさんチームへと向けられた!!

 

「ひいいいいぃぃぃぃぃ~~~~~~~っ!?」

 

最早顔色が青を通り越して真っ白になって行く鈴。

 

「ッ!!………」

 

一方で、しずかは歯軋りをしてボンプル機甲部隊を睨みつけている。

 

「………鶴姫 しずか」

 

すると不意に、弘樹がしずかへと呼び掛けた。

 

「むっ?………」

 

「………『一時休戦』だ」

 

「!?………承知っ!!」

 

弘樹からのその提案に、しずかは一瞬驚いた様な表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべてそう返したかと思うと、主砲の発射体勢に入った!

 

「!………」

 

更に、弘樹もラハティ L-39を構える!

 

「「!!」」

 

そして両者は同時に発砲っ!!

 

砲弾と徹甲弾は、互いに相手のすぐ横を擦り抜け………

 

しずかのテケが放った砲弾は、弘樹の背後に居た7TP(単砲塔)の砲塔基部に………

 

弘樹が放った徹甲弾は、テケの背後の居たTKSに命中!!

 

7TPとTKSは、白旗を上げた!

 

「!? なっ!?」

 

弘樹とムカデさんチームの意外な行動に意表を衝かれたヤイカが、驚愕を露わにする。

 

そしてそれは………

 

反撃を許すのに、十分過ぎる時間を与える事になった………

 

「「!!」」

 

直後に、弘樹とテケは全速発進!

 

お互いに擦れ違ったかと思うと、弘樹が武器をMG42に持ち替える。

 

そして、片足のターンピックを突き刺したかと思うと、その場で独楽の様に回転しながら発砲っ!!

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ボンプル・バトリング選手達が、瞬く間に蜂の巣にされ、倒れ伏す。

 

「斬っ!!」

 

そしてテケも、1輌の7TPの横を掠める様に動いたかと思うと、擦れ違い様に居合いの様に主砲を発射!

 

7TPが白旗を上げる。

 

「このぉっ!!」

 

そのテケに、TKSが主砲の20ミリ機関砲を向けたが………

 

「フッ………」

 

それを見て、しずかはニヤリと笑うと、TKSに向かって突撃!!

 

「!? なっ!?………!! うわああっ!?」

 

そしてそのまま体当たりを掛けた!!

 

衝撃でTKSの向きが変わり、更に機関砲の引き金を引いてしまう。

 

「「「「「「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

あらぬ方向を向いた機関砲は、味方のバトリング選手達を薙ぎ払ってしまう。

 

「!? しまっ………」

 

た、と言おうとした瞬間に、至近距離のテケから砲弾が叩き込まれ、TKSは横倒しになって白旗を上げた。

 

「…………」

 

と、弘樹がボンプル・バトリング選手達の一団に向かって、手榴弾を投げつける。

 

「! 手榴弾だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを見たボンプル・バトリング選手達が、慌てて手榴弾から離れようと動く。

 

「その隙は逃さん………」

 

すると、その瞬間に僅かに射線が通ったのを見逃さず、弘樹はラハティ L-39を腰撃ちで発砲!

 

弾丸はボンプル・バトリング選手達の間を縫う様に飛んだかと思うと、1輌の7TPのエンジン部へ命中!

 

被弾した7TPがガクリと揺れたかと思うと、一瞬間が有ってエンジンが爆発!

 

白旗を上げる。

 

「!? しまったっ!? オノレェッ!!」

 

すぐさま、ボンプル・バトリング選手達は一斉に弘樹に向かって得物を構えるが………

 

その中に、榴弾が着弾した!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

何が起こったのか分からぬまま、ボンプル・バトリング選手達は戦死判定となる。

 

「フハハハハッ!!」

 

その中へ、高笑いと共に突っ込んで来るしずかのテケ。

 

「!………」

 

と、テケが近くを通り過ぎようとした瞬間に、弘樹は跳躍!

 

何とそのまま、テケの車体の上に乗っかった!

 

「「!!」」

 

そして、しずかがテケの主砲を右方向へと向けたかと思うと、弘樹は反対の左方向へとラハティ L-39を向ける。

 

テケの主砲が7TPを撃ち抜き、ラハティ L-39の弾丸がTKSに命中!

 

両者共に白旗を上げさせる!

 

「「!!」」

 

更に今度は、テケの主砲が後方を向くと、弘樹が車体の前側へと移動し、正面に向かってMG42を構える。

 

直後にテケが発砲し、後方から迫って来ていたボンプル・バトリング選手達に榴弾を見舞う!

 

「「「「「「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

後ろの方からの悲鳴を耳にしながら、弘樹はMG42を左右に横薙ぎに発砲し、正面から来ていたボンプル・バトリング選手達を蹴散らす!

 

「「「「「「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

次々に倒れ伏すボンプル・バトリング選手達。

 

更に駄目押しとばかりに、そのボンプル・バトリング選手達をテケが踏み潰して行く!

 

「ぐぎゃっ!?」

 

「げぶぅっ!?」

 

「きゃああっ!? ゴメンナサイーッ!!」

 

下方から次々と聞こえて来る蛙が潰れた様な声に、鈴が涙目で謝罪する。

 

死なないと分かっていても、人を戦車で踏み潰すと言う行為には慣れない様である。

 

「だ、駄目です、ヤイカ隊長! アイツ等、手が付けられませんっ!!………!? ぎゃあっ!?」

 

弘樹&ムカデさんチームの無双状態に、ボンプル・バトリング選手の1人がヤイカにそう報告するが、直後に流れ弾を喰らって戦死判定となる。

 

「な、何故だっ!? 先程まで一触即発だった連中がこんな連携をっ!?」

 

ヤイカは、直前まで一触即発だった弘樹とムカデさんチームがコレほどの連携を見せて来た事を信じられずに居た。

 

すると………

 

「先程まで一触即発だった連中が突然一時休戦し、手を組んで反撃して来ないと思ったのか?」

 

「!?」

 

弘樹は、ヤイカが言っていた言葉を借りてそう言い放ち、ヤイカが驚愕する。

 

「鈴っ!」

 

「!? ひゃあっ!?」

 

そこで、しずかが鈴の背中を蹴り、鈴が艶めかしい声を挙げながら急ブレーキを掛けた!

 

「!!」

 

途端に、慣性の法則で弘樹がテケの車体の上から弾き飛ばされる!

 

そして、その勢いに乗って、ヤイカの7TPの上を通過するかに思われた瞬間に………

 

ラハティ L-39を真下に向けて構えた!

 

「!?」

 

「…………」

 

ヤイカが真上を見上げ、弘樹と目が合ったかに思われた瞬間に、ラハティ L-39の銃口が火を噴く!

 

20ミリ弾が、7TPのエンジンブロックを貫通!

 

爆発と共に、ヤイカの7TPは大きな黒煙を上げた!!

 

一瞬間を置いて、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「………!」

 

反動で空中1回転を決めながら着地した弘樹はすぐに振り返って、ヤイカの7TPを確認する。

 

「…………」

 

しかしヤイカは、天板の上に頬杖をついて遠い目をしていた。

 

まるで何かを悟ったかの様な………

 

「ヤイカ隊長ッ!!………」

 

「隙有りっ!!」

 

ヤイカがやられた事に、動揺したウシュカが動きを止めてしまうと、即座にしずかが砲撃を見舞う!

 

「!?」

 

悲鳴を挙げる間も無く、砲撃を真面に喰らった彼女のTKSは引っ繰り返り、底部から白旗を上げる!

 

強襲戦車競技(タンカスロン)に於いて最強と謳われていたボンブル機甲部隊が、敗北した瞬間だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特設観戦ステージ………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

先程まで盛んに騒いでいたボンプル校のファン達は、全員が唖然、或いは愕然となっていた。

 

理由は勿論、あのヤイカが撃破された事も有るが………

 

それ以上に、モニター越しにでもヒシヒシと勝負を邪魔された怒りの様子が伝わって来る弘樹としずかの様子である。

 

『『………!!』』

 

「「「「「「「「「「!? ヒイイッ!?」」」」」」」」」」

 

と、カメラがその2人の戦闘中の顔をアップで捉えると、ボンプル校のファン達は思わず悲鳴を挙げた。

 

そんなボンプル校のファン達の様子など露知らず、弘樹とムカデさんチームは、残るボンブル機甲部隊のメンバーを次々に屠って行く。

 

「あ~あ、可哀想に………」

 

「コレは流石に同情を禁じ得ないな………」

 

俊と十河が、次々と片付けられていくボンブル機甲部隊の様子を見ながらそんな言葉を漏らす。

 

「みぽりんが言ってたのって、この事だったんだぁ~………」

 

「あ、あはは………」

 

沙織が唖然としながらそう言うと、みほは予想していたとは言え、凄惨な事になっているボンブル機甲部隊の様子に乾いた笑いを挙げる。

 

「ヒューッ! ヒューッ!!」

 

「良いぞぉ! 舩坂 弘樹っ!! ムカデさんチームッ!!」

 

「こういうカオスこそが強襲戦車競技(タンカスロン)とバトリングの華だぜぇっ!!」

 

一方で、一般の観客達はヒートアップした様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして物語は冒頭部分………

 

現在の状況へと戻る………

 

ヤイカとウシュカを失った残存ボンブル機甲部隊のメンバーを、まるで作業でもするかの様に次々と狩って行く弘樹とムカデさんチーム。

 

「クソォッ! 舐めるなぁっ!!」

 

「我々はボンブル機甲部隊! 誇り高き騎士団だっ!!」

 

だが、腐っても強襲戦車競技(タンカスロン)の王者。

 

残っていた全ての戦力が弘樹とムカデさんチームの前に集結。

 

「「むっ!?」」

 

「行けぇーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弘樹としずかが反応した瞬間、ボンブル残存戦力全て一斉に突撃する!

 

最後の攻勢だ!!

 

「あわわわっ!? 束になって来たよぉっ!?」

 

その様子に鈴が僅かに怯む。

 

「………!」

 

しかし弘樹は、傍らに在った撃破したTKSに目を止める。

 

すぐにその傍へと駆け寄ったかと思うと、主砲の20ミリ機関砲を両手で鷲掴みにする。

 

「? 舩坂殿?」

 

「舩坂さん? 何を?………」

 

その光景に、しずかと鈴が疑問を抱いた瞬間、弘樹は片足をTKSの車体に掛けたかと思うと………

 

「………むんっ!」

 

何と!!

 

気合の声を挙げて、20ミリ機関砲をTKSの車体から『引き抜いた』!!

 

「「!?!?」」

 

コレには鈴も、流石にしずかも驚愕する。

 

「!!………」

 

そんな2人の様子を気にも留めず、引き抜いた20ミリ機関砲を肩に担ぐ様に構える!

 

「!!」

 

そしてその状態で引き金を引いた!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

甲高い音と共に連射される20ミリ機関砲弾が、残存ボンブル機甲部隊メンバーを文字通りに薙ぎ払う!!

 

やがて、乾いた音を立て、20ミリ機関砲弾が尽きるとそこには………

 

最早動くモノは弘樹とムカデさんチームのテケ以外、無くなっていた………

 

「…………」

 

撃ち終えた20ミリ機関砲をポイッと捨てる弘樹。

 

「………邪魔が入ったな。仕切り直しと行こうか」

 

そして、再びラハティ L-39を構えてそう言う。

 

「………望むところなり」

 

『頑張る女の子の美しい笑顔』でそれに応じるしずか。

 

(………お母さん、お父さん………先立つ不孝をお許し下さい)

 

そんな中で鈴は………

 

静かに、己の死を悟るのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

一騎打ちが始まろうとしたところに乱入され、怒り心頭の弘樹とムカデさんチーム。
即座に手を組んでボンプルを返り討ちに。
ヤイカさん………御愁傷様です。

さて、場面がOVAの冒頭に戻り、いよいよメインの弘樹VSムカデさんチームの戦い。
それによってこのOVAは完結となります。

ですので………
いよいよ再来週より、劇場版に突入します!
いや~、長く掛かったなぁ(笑)
もう最終章公開しちゃいますよ。
TV版の時点でストーリーが大分変っているので、劇場版もかなり様変わりしています。
次回のOVA完結編で、劇場版への予告を入れますのでお楽しみ。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター5『トドメの1発です!』

『OVA ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ボーネシュラハト』

 

チャプター5『トドメの1発です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

盛り上がりを見せていた『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』も………

 

いよいよ終幕を迎える時が近づいていた………

 

その戦況は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町………

 

「行け行けぇーっ! 攻めろーっ!!」

 

アウンさんの勇ましい掛け声と共に、竪琴戦車チームの九五式軽戦車達が、次々に突撃を掛ける。

 

「慌てるんじゃないザマス! 落ち着いて迎え撃つザマス!!」

 

それに対し、アスパラガスのBC自由機甲部隊は、バトリング選手達と共に方陣を組んで、突っ込んで来る竪琴戦車チームを迎え撃っている。

 

「キャアッ!」

 

「怯むなーっ! 突撃を続行っ!!」

 

1輌の九五式軽戦車が撃破されて横転するが、アウンさんは突撃を止めさせない。

 

(何故こんな無謀な突撃を? 何を考えているザマス?)

 

だが、一見無謀な突撃を繰り返しているだけに見える竪琴戦車チームの動きに、アスパラガスは何かの企みを感じ取る。

 

「わああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、その間にも、新たな九五式軽戦車が突撃して来る。

 

「また来たぞっ!」

 

「狙えっ!!」

 

それに対し、ルノーAMR35とBC自由のバトリング選手達が照準を合わせる。

 

すると………

 

「オラァッ! 行くぜぇっ!!」

 

突撃して来た九五式軽戦車の後ろに乗っかって隠れていたキデーラがバッと姿を現した!

 

「!? ええっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

思わぬ事態に、ルノーAMR35とBC自由のバトリング選手達は一瞬呆気に取られてしまう。

 

「そらぁっ!!」

 

そのルノーAMR35とBC自由のバトリング選手達に向かって、キデーラは何と片手で3つも保持していた収束手榴弾を投げつける!

 

「「「「「「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

真面に爆風と破片を浴びたBC自由のバトリング選手達は戦死判定となり、装甲の薄いルノーAMR35も白旗を上げる。

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

陣形の一角が撃破された事で、BC自由機甲部隊の注目がそちらに集まる。

 

「今だっ!!」

 

するとそこで、周囲に在った1軒の建物の2階の窓が開け放たれ、姿を見せたポタリアがそう叫ぶと………

 

更に周辺のあらゆる建物の窓、玄関、勝手口、車庫の中からクメン歩兵達が現れ、一斉に得物を向けた!

 

「!? クメン校っ!?」

 

「メルドッ! 建物内を通って包囲網を形成したザマスね! 流石はゲリラ戦のプロザマスッ!!」

 

ボルドーが声を挙げると、アスパラガスが舌打ちしながらそう叫ぶ。

 

「撃てぇーっ!!」

 

その瞬間には、ポタリアの号令で、クメン歩兵部隊の一斉射撃が開始された!!

 

「ぎゃあっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

銃弾を浴びたBC自由のバトリング選手達が次々に倒れて行く。

 

「それっ!!」

 

「「きゃああっ!?」」

 

更に、バズーカを装備した対戦車兵の攻撃で、ルノーR35が1輌撃破される。

 

「この機を逃すなぁっ! 一斉突撃ぃっ!!」

 

そして好機と見たアウンさんがそう叫び、残る竪琴戦車チームで一斉に突撃した。

 

「! 舐めるなザマスッ!!」

 

だがそこで、アスパラガスのM22 ローカストがアウンさんの九五式軽戦車に主砲を向け、発砲する!!

 

「!?」

 

「アウンさん隊長っ!!」

 

硬直してしまうアウンさんだったが、間一髪で別の九五式軽戦車が割って入り、アウンさん車への被弾を身を呈して阻止する。

 

「このアスパラガス! 腐ってもBC自由機甲部隊の総隊長! これぐらいの計略で遅れは取らないザマスッ!!」

 

「ヒュー、カッコイイねぇ」

 

アスパラガスがそう吠えると、ボルドーが茶化す様に呟く。

 

「! 守ったら負ける! 攻めろーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その気迫に一瞬気押されたアウンさんだったが、すぐに気を取り直し、今の勢いに乗るべくそう檄を飛ばし、竪琴戦車チームは突撃を敢行する!

 

「来いザマスッ!!」

 

それをアスパラガスが迎え撃とうとした瞬間………

 

すぐ近くで爆発音が鳴り響いた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

思わず、BC自由機甲部隊メンバーと竪琴クメン機甲部隊メンバーが、その爆発音が聞こえて来た方向を見やると………

 

1軒の民家を突き破る様にして、ムカデさんチームのテケが飛び出して来る!

 

「! 鶴姫 しずかっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

以前交戦経験のあるしずかの姿を確認すると、アスパラガスとBC自由機甲部隊メンバーが身構える。

 

「クウッ!!」

 

しかし、当のしずかの方はアスパラガス達の事など全く気にも留めず、テケを反転させて、突き破って来た家の方を警戒する。

 

その直後!!

 

発砲音が鳴り響いたかと思うと、テケが空けた住宅の穴の中から20ミリ弾が飛んで来る!

 

「!!」

 

「ひゃうんっ!?」

 

即座にしずかが鈴の背を蹴ると、テケが空かさずバック!

 

「!? うわあっ!?」

 

20ミリ弾は竪琴戦車チームの九五式軽戦車の内の1輌に命中。

 

白旗を上げさせる。

 

そのすぐ後に………

 

「………!」

 

路地の合間を縫う様にローラーダッシュで移動して来た弘樹が姿を現す。

 

「! 弘樹っ!?」

 

「オイオイ、こんな時にかよっ!?」

 

ポタリアが弘樹の姿を見て驚き、キデーラが愚痴る様に叫ぶ。

 

「!!」

 

とそこで、しずかが弘樹に向かって榴弾を発砲!

 

「!………」

 

だが弘樹は、ターンピックを使ってスピンする様な動きで躱す。

 

「「「「「「「「「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

テケが放った榴弾は流れ弾となり、クメン歩兵達を数名纏めて吹き飛ばした!!

 

「!!………」

 

すると今度は弘樹が、MG42を構え、テケに向かって発砲する!

 

「!!」

 

「あひゃんっ!?」

 

すぐさま鈴の背を蹴り、テケに回避行動を執らせるしずか。

 

装甲の薄いテケでは、機関銃弾と言えど、至近距離から浴びれば何らかの損傷を受ける可能性も有る。

 

弘樹が発砲したMG42の弾丸は、先程までテケが居た空間を通り過ぎ、BC自由バトリング部隊の面々に命中!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

またも巻き込まれる形で、多数のBC自由バトリング部隊員達が戦死判定を受ける。

 

「覚悟っ!!」

 

反撃にと、再び弘樹に榴弾を見舞うしずか。

 

「!!」

 

だが、弘樹はその場に伏せて榴弾を回避。

 

「!? キャアアッ!?」

 

外れた榴弾がルノーAMR35に命中。

 

当たり所が悪かったらしく、ルノーAMR35は白旗を上げる。

 

「! 鈴! 引けっ!!」

 

「言われなくてもスタコラサッサだよっ!!」

 

と、コレ以上は不利と思ったしずかは撤退を指示し、鈴は必死な様子でテケを離脱させる。

 

「………!!」

 

すぐさま弘樹は、逃げるテケをローラーダッシュで追跡する。

 

如何やら、お互いに相手しか見えていなかったらしく、BC自由機甲部隊と竪琴クメン機甲部隊を巻き込んだ事にさえ気づいていない様だ。

 

「何だったんだ、一体?………」

 

「まるで嵐ザマス………」

 

一方、2人の戦いの巻き添えで、多大な損害を被ったBC自由機甲部隊と竪琴クメン機甲部隊のメンバーは茫然と立ちつくしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げるムカデさんチームのテケを追う弘樹………

 

やがて両者は市街地を抜け、大洗ホテルの在る交差点………

 

大洗磯前神社の大鳥居へと差し掛かる。

 

「………!!」

 

そこで弘樹が、またもMG42を発砲する。

 

「!!」

 

「ひゃうんっ!?」

 

するとテケは、その弾丸を避ける様に、大洗磯前神社へと続く坂道を上って行った。

 

「!………」

 

すぐにそれを追う弘樹は、MG42が弾切れしたのを見て、迷い無く投げ捨てると、ラハティ L-39を構えるのだった。

 

そして、先に坂を上り終えたムカデさんチームは………

 

「姫っ! ココから如何するのかっ!?」

 

テケを神社の境内に止めると、鈴がしずかにそう問い質す。

 

「…………」

 

しずかはグルリと境内を見渡す。

 

「………!」

 

そして、大洗磯前神社の最大の特徴である海岸に立つ鳥居………『神磯の鳥居』の在る海岸へと続いている正面鳥居の階段に目を留める。

 

「フフフ………」

 

階段を見ながらニヤリと笑うしずか。

 

「………あの姫………すっごく嫌な予感がするんだけど………」

 

そんなしずかの笑みに、嫌な予感を感じる鈴。

 

「鈴………海へ向かえっ!!」

 

しずかがそう言った直後に、弘樹が到着。

 

「!………!?」

 

すぐさまラハティ L-39を構えたが、それよりも早く、ムカデさんチームのテケが………

 

何と!!

 

正面階段の真ん中に在った手摺へと突っ込み、それをジャンプ台代わりに、空中に躍り出たのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特設観戦ステージ………

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ムカデさんチームの無謀な行動に、観客達は悲鳴にも似た歓声を挙げる。

 

「な、何て無茶をっ!?」

 

「滅茶苦茶危ないよぉっ!!」

 

優花里と沙織も悲鳴を挙げている。

 

「オイ………」

 

とそこで、地市が何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何したの? 地市くん?」

 

「………続くみたいだぞ」

 

「「「「「「「「「「えっ?…………」」」」」」」」」」

 

沙織が問うと、地市がそう返したのを聞いて、大洗メンバーが再びモニターを見やるとそこには………

 

『…………』

 

テケが破壊した手摺の始まり部分を飛び越えると、手摺の上に着地し、そのままスケボーのストリートレール宜しく、ブーツから火花を散らせて下り始める弘樹の姿が在った!!

 

「舩坂くんも何やってるのぉーっ!?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

沙織が思わずそう叫び、大洗メンバーも唖然となる。

 

「あわわっ!? 弘樹くんっ!?」

 

みほに至っては気が気でない。

 

だが、そんな一同の事など露知らず、弘樹は階段の中腹まで差し掛かったかと思うと………

 

『………!!』

 

そこで一気に跳躍して、ムカデさんチームのテケへと追い付いた!!

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

最早大洗の一同は声も出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗磯前神社・正面鳥居方面の空中………

 

「!?」

 

自分達を追う様に跳躍して来た弘樹に気づき、驚きを露わにするしずか。

 

「…………」

 

そんなしずかのテケに向かって、弘樹はラハティ L-39を空中で構える!

 

「!! 舐めるなぁっ!!」

 

だが、しずかがそう吠えたかと思うと、テケの砲塔が信じられないくらいの速さで弘樹の方に向けられる。

 

「!!………」

 

咄嗟に弘樹は、空中で身を捻りながらもラハティ L-39を発砲!

 

同時に、テケの主砲も火を噴いた!

 

弘樹が放ったラハティ L-39の弾丸は、テケの左履帯を破断!

 

テケの放った砲弾は、弘樹の右足のローラーダッシュアンクルを掠める様に命中!

 

「!!」

 

「ぬうっ!!」

 

両者はバランスを崩し、砂浜に叩き付けられる様に落下した!!

 

「ぐうっ………鈴、無事か?」

 

「信じられないけど、生きてるよ………白旗も上がってないし………けど、テケは動けないよ」

 

頭を押さえながらしずかが問うと、鈴がそう返す。

 

その言葉通り、テケは履帯が破断している事もあり、動けない様子だが、まだ辛うじて白旗は上がっていない………

 

「…………」

 

一方の弘樹も、砂浜に落下した際に受け身を取ったのか無事な様子であるが、右足のローラーダッシュアンクルが壊れてデッドウェイトになった上、負傷判定も喰らったのか右足が全く動かない。

 

それでもすぐにラハティ L-39をテケに向けたが………

 

「………!?」

 

そこで弘樹は、先程撃った弾丸の薬莢が完全に排莢されておらず、薬室内に引っ掛かって残っているのを目にする。

 

弾詰まり(ジャム)だ!

 

「! もらったぞっ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

しずかはすぐさまその様子に気づき、テケの主砲を向けた!

 

「!!………」

 

弘樹には何も出来ない!

 

「舩坂 弘樹っ! 討ち取ったぁっ!!」

 

しずかが吠えた瞬間………

 

発砲音が、『2つ』鳴り響いた………

 

その直後に場が一瞬にして静まり………

 

海風と波の音だけが支配する様になる………

 

テケが撃った砲弾は、僅かに外れ、砂浜に突き刺さっている。

 

一方………

 

「………抜かったわ」

 

そう呟くしずかのテケからは、白旗が上がって居る。

 

良く見れば、エンジン部には弾痕も確認出来る。

 

「嘘………まさか『拳銃』で………」

 

操縦席から出て来た鈴が、弘樹を見ながら唖然とした様子でそう呟く。

 

その弘樹の手には、『拳銃』が………

 

いや、拳銃と呼ぶには余りにも大きな銃………

 

差し詰め『ハンドキャノン』とも呼ぶべき巨大な銃が握られていた。

 

銃身を切り詰めた散弾銃のような外観であり、その口径はラハティ L-39と同じく20ミリは有ろうかと言う大口径だ。

 

「………感謝します、整備長」

 

弘樹は、そのハンドキャノンを『こんなこともあろうかと』用意していた敏郎に感謝する。

 

これぞ『バハウザーM571アーマーマグナム』

 

バトリング選手達の間で重宝されている、『対戦車拳銃』である。

 

全長450ミリ、重量7キロ弱ととてつもなく大きく、銃身が極端に短いために有効射程距離・命中精度も低く、発砲時の反動も大きいので、お世辞にも良い銃とは言えない。

 

しかし、他の対戦車兵器と比べて格段に持ち歩き易く、豆・軽戦車が中心である強襲戦車競技(タンカスロン)・バトリングでは良く使われている。

 

『え~、磯前神社奉納戦車・歩兵戦に参加されている皆様にお知らせ致します』

 

するとそこで、町内放送用のスピーカーからアナウンスが流れ始めた。

 

『只今、ムカデさんチームのテケ車が撃破された事で、残存戦車チームは大洗のアヒルさんチームだけとなりました。よって、大洗チームの優勝が決定致しましたっ!!』

 

『『『『『『『『『『おおおぉぉぉぉ~~~~~っ!!』』』』』』』』』』

 

そう言うアナウンスが流れると、観客席が在るアウトレットの方から歓声が聞こえて来る。

 

如何やら、弘樹とムカデさんチームが激戦を繰り広げている間に、他のチームは殆ど脱落してしまっていた様だ。

 

「…………」

 

それを聞いた弘樹は、アーマーマグナムをホルスターに納める。

 

「舩坂 弘樹っ!!」

 

「!………」

 

そこでしずかが弘樹へ声を掛ける。

 

「此度の戦は我等の負けぞ………やはり貴殿は戦の神であった様だ」

 

素直に弘樹を称賛するしずか。

 

「だが! 次こそはその首を貰い受けるっ!!」

 

だが、次の瞬間には『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべて、弘樹にそう宣言した。

 

「………好きにしろ」

 

そんなしずかに、弘樹は半ば呆れた様子でそう言い放つと、ムカデさんチームのテケ車に背を向け、右足を引きずりながら立ち去り始めたのだった。

 

「…………」

 

(またやる積りなの~、姫~)

 

しずかは『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべたまま見送り、鈴は何れ来る弘樹との再戦に、今から涙を流す………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、様々な人物の思惑が入り乱れた『磯前神社奉納戦車・歩兵戦』は………

 

見事大洗チームの勝利で幕を閉じたのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

OVA・ボーネシュラハト………完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本某所………

 

西洋風の立派なお屋敷………

 

その家の一室に、テーブルを挟んで向かい合って座っている1組の男女の姿が在った。

 

男は外人らしく金髪であり、軍服らしき服を着ている。

 

女の方はかなりの美人であり、名灰白色のロングヘアで貴婦人の様な穏やかな風格を漂わせている。

 

「………西住流は首の皮一枚で繋がった様ですな」

 

軍服の男はそう言い、テーブルの上に置いてあった戦車道・歩兵道の新聞を見やる。

 

「その様ですわね………」

 

貴婦人は落ち着いた雰囲気でそう相槌を打つ。

 

「意外に冷静ですな………てっきり完全な没落をお望みだと思っていましたが………」

 

「ええ、勿論ですわ………だからこそ、最後は我が『島田流』が西住流を破り、トドメを刺してやるのですよ」

 

だが、軍服の男がそう言った瞬間、貴婦人は穏やか雰囲気を保ったまま、目に殺気を露わにそう言い放った。

 

「成程………トドメは『島田流』の手でと言う事ですか」

 

軍服の男は納得したかの様に笑う。

 

 

 

 

 

 

『島田流』………

 

西住流と並んで、日本の戦車道の代表流派と言われる流派である。

 

圧倒的火力と一糸乱れぬ統制で敵を殲滅する西住流に対し、臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使する戦法を得意とする。

 

その為、『ニンジャ戦法』と言う異名を持つ。

 

長きに渡り、西住流とは因縁の戦いを繰り広げているのだ。

 

また、島田流は『歩兵道』の流派でもある。

 

 

 

 

 

 

「島田流こそが最強………私はそれを何としても証明する必要が有るのです」

 

そして、この貴婦人こそが、島田流の現師範・家元である『島田 千代』その人である。

 

「ええ、良く存じております」

 

軍服の男は、『ジャン・ポール・ロッチナ』

 

アメリカ陸軍の情報将校である。

 

とそこで、2人の居る部屋の扉がノックされた。

 

「お母様、『愛里寿』です。只今戻りました。『お兄様』も一緒です」

 

扉の向こうから、幼い少女と思わしき声が発せられる。

 

「あら、お帰り、『愛里寿』、『伊四郎(いしろう)』。入っても良いわよ」

 

「失礼します」

 

「失礼致します、『母上』」

 

千代がそう言うと、ドアが開いて、まだ小学生か中学に上がったばかりと思われる千代と同じ名灰白色の髪をサイドテールに纏めている少女………千代の娘で、島田流戦車道の継承者『島田 愛里寿』………

 

そして、高校生くらいと思われる白髪の男………千代の息子で、愛里寿の実の兄である『島田 伊四郎(いしろう)』、通称『イプシロン』が入室して来る。

 

「試合は………勿論、勝ったわよね?」

 

「ハイ、勿論です」

 

「当然です。最強の島田流戦車道と『父上』のお力を借りている愛里寿が指揮を取り、その愛里寿を島田流歩兵道を使う『パーフェクトソルジャー』たる私が護っているのです。島田流に隙は有りません」

 

千代がそう尋ねると、愛里寿とイプシロンは当然だとそう返す。

 

「そう、その通りよ。島田流こそが最強よ。貴方達がそれを証明するのよ」

 

千代はそう言って立ち上がると、愛里寿の前で屈み込み、視線を合わせて愛里寿を見つめる。

 

「良いわね、愛里寿。イプシロンも。全ては………『あの人』の為よ」

 

「分かっています………全ては『お父様』の為に………」

 

「全ては『父上』の………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「『ワイズマン』の為に………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

千代、愛里寿、イプシロンがそう言い合っているのを見て、ロッチナは不敵な笑みを浮かべるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予告(GloryStoryが流れながら)

 

 

 

 

 

見事全国大会で優勝を果たし………

 

平穏を取り戻した大洗学園艦とみほ達、弘樹達………

 

だが………

 

新たな戦いの火種が………

 

既に燻っていた………

 

 

 

 

 

「貴方もボコが好きなんだね! 私、西住 みほ! 貴方は?」

 

「あ、愛里寿………」

 

 

 

 

 

ある日、みほ達が出会った不思議な少女………『愛里寿』

 

 

 

 

 

「友達?………」

 

「うん! 私と友達になろうよ!………駄目かな?」

 

「………ううん。凄く嬉しい」

 

 

 

 

 

ボコ好きと言う共通点で、愛里寿と友達になるみほ。

 

だが………

 

 

 

 

 

 

「愛里寿ちゃんが………島田流?」

 

 

 

 

 

突然知らされる、愛里寿の正体………

 

そして………

 

 

 

 

 

「私は貴方と戦わなければならない………」

 

「そんなっ!? 如何してっ!?」

 

「それが島田と西住に生まれた者の宿命だから………何よりお母様………そしてお父様の望みだから」

 

みほへと牙を剥く愛里寿。

 

最高の友達は、最強の敵になった………

 

 

 

 

 

更に、弘樹の前にも………

 

「貴様が舩坂 弘樹か………」

 

「………何者だ?」

 

「私は『イプシロン』! 島田流歩兵道の使い手にして、『パーフェクトソルジャー』だ!!」

 

「『パーフェクトソルジャー』………」

 

自らを『パーフェクトソルジャー』と名乗る男・『イプシロン』が立ちはだかった………

 

 

 

 

 

みほVS愛里寿………

 

弘樹VSイプシロン………

 

戦いの最中に明らかになる西住流と島田流の因縁………

 

 

 

 

 

「ボコにはね………私の『初恋の思い出』が詰まってるんだ」

 

そして今明かされる、『みほの初恋』………

 

 

 

 

 

(ココから炎のさだめがサビからフェードイン)

 

平穏は質量の無い砂糖菓子………

 

脆くも崩れて再びの地獄………

 

懐かしやこの匂い、この痛み………

 

我はまた生きてあり………

 

炎に焼かれて、煙にむせて、鉄の軋みに身を任せ………

 

ここで生きるが宿命であれば………

 

せめて望みは、かけがえなき人………

 

今、新たな舞台が整い、暴走が再開する………

 

そして!

 

先頭を走るのは、いつもあの2人!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

コレが歩兵道の戦場だっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版につづく




新話、投稿させていただきました。

弘樹とムカデさんチームのタイマン。
勝負は、取って置きの隠し玉『アーマーマグナム』で、弘樹が辛くも勝利します。
遂に出しちゃいましたよ、コイツを(笑)
豆戦車とのバトルだったら前から出したいと思っていたので。

2人の決着を持って、試合は終了。
OVAも完結となります。
もっと他のチームの描写を入れたい気持ちもあったのですが、グダグダになるのと、早く劇場版に行きたいと思い、思い切ってカットしました。
御了承下さい。

その気になる劇場版ですが………
前々から言っていた様に、西住流と島田流の因縁を私なりに掘り下げて、それに絡む形で新たな戦いが始まります。

気にされていた方も多い『イプシロン』ですが、何と島田の息子!
愛里寿の実の兄として登場です。
以前、友人が愛里寿にお兄ちゃんと呼ばれたいなと言っていたのを聞いて、イプシロンが実兄と言うのも面白いかもと思いまして。
そして、噂されている『長女』の設定も取り入れるかも?

更に、遂に出た!
ロッチナさん!!(笑)
劇場版に向けて考えた展開で、如何しても彼が必要になり、御出演願いました。
私も愛読している『ガールズ&ボトムズ』で登場された時、『しまった、先を越された』と思ってしまいました(爆)

しかし………
まさかコイツの登場までは予測できた人は少ないでしょう………
そう………
劇場版で文科省に代わる黒幕………
それはズバリ!
『ワイズマン』です!!
勿論、古代クエント人の精神体とか、ましてや『神』なんて存在ではありません。
ではこの作品でのワイズマンとは何者か?
島田家の父と呼ばれていますが、果たして………
全ては劇場版で明らかになります。

そして、サブエピソードとして、ボコに纏わるみほの『初恋』の思い出が語られます。
一部でみほがサイコパス扱いされる原因となったボコですが(笑)、何故みほがボコを好きなったかと理由は明らかにされていませんので、そこをこの作品ならではの、初恋の思い出にしてみました。
コチラも楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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劇場版・炎のさだめ
チャプター1『エキシビションマッチです!』


ガルパン最終章1章公開!

私は初日は無理だったので、今日見に行きます。

まだ御覧になれていない方もいらっしゃると思いますので、

感想を書き込む際に最終章に触れる話題はお控え下さるようお願い申し上げます。


チャーチル車内………

 

「………茶柱」

 

車長席に座るオレンジペコが、自分が今右手に持っているダージリンから譲り受けたティーカップに淹れてある紅茶に茶柱が立っているのを見てそう呟く。

 

「そう言えばダージリン様が以前………イギリスの言い伝えで、『茶柱が立つと素敵な訪問者が現れる』って事を言っていましたね」

 

「ペコ。訪問者ならもう来てるわよ………素敵か如何かは分からないけど」

 

オレンジペコがそう言葉を続けると、砲手席のアッサムがそうツッコミの様に口を挟む。

 

直後に、チャーチルの車体が揺れ、甲高い金属音が鳴り響いた。

 

今、彼女達が乗るフラッグ車であるチャーチルは………

 

大洗ゴルフ倶楽部のホール内にて、とあるバンカーを塹壕に見立てて、3輌のマチルダⅡと共にハルダウンしている。

 

バンカーの周りには、ブリティッシュ歩兵達が塹壕を掘って籠っている。

 

そのグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を、大洗機甲部隊のあんこうチームととらさん分隊、カメさんチームとツルさん分隊、アヒルさんチームとペンギンさん分隊、カバさんチームとワニさん分隊、ウサギさんチームとハムスターさん分隊、アリクイさんチームとキツネさん分隊………

 

そして、日の丸と倒福の描かれたティーガーⅠとチハ(旧砲塔)3輌、チハ(新砲塔)3輌を中心とした知波単機甲部隊が包囲していた。

 

『さて! 大洗・知波単連合に包囲されたグロリアーナ&ブリティッシュ!! コレは絶体絶命かぁっ!?』

 

『いやいや、まだまだ分かりませんよ』

 

歓声が仕切りに挙がるアウトレットの観客席で、大型モニター横の実況スペースにてその様子を実況しているヒートマン佐々木とDJ田中。

 

そう………

 

今日は大洗機甲部隊の優勝を記念したエキシビションマッチが行われているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の一角………

 

盛り上がっている観客席エリアとは別の場所にて、荷台に物見櫓が取り付けられたGAZ-AAが在る。

 

その物見櫓の上には、ミカとアキの姿が在った。

 

「…………」

 

試合の様子を見ながら、カンテレを奏でているミカ。

 

「エキシビションって、何かカッコイイねぇ」

 

とそこで、アキがそう声を挙げる。

 

「カッコイイ………それは戦車道や歩兵道にとって大切な事かな?」

 

そのアキの言葉に、ミカは否定的にそう返す。

 

「え~? じゃあ、ミカは何で戦車道をやってるの?」

 

「前にも言ったよ………戦車道は、人生の大切な全ての事が詰まってるんだよ。でも、殆どの人がそれに気づかないんだ」

 

「………何よソレ?」

 

哲学的かつ、難解な返答をするミカに、アキは呆れる様な様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗ゴルフ倶楽部………

 

「やっぱり………私ではまだダージリン様の様には行きませんね」

 

「ペコ。指揮官が弱気な様子を見せては駄目よ」

 

弱気な様子を見せたオレンジペコを、アッサムが叱咤する。

 

「確かに、この状況はスコーンを割る様に簡単には行かないかも知れないわ………でも、私のデータが正しければ、もうすぐチャンスが訪れる筈よ」

 

「分かっています。こんな事で挫けていたら、ダージリン様に会わせる顔がありません」

 

更にアッサムにそう言われると、オレンジペコは表情を引き締めるのだった。

 

「皆さん、後ほんの少しだけ持ち堪えて下さい。必ずチャンスは来ます」

 

「了解しました」

 

「任せておけ、ペコ」

 

「バーッハッハッハッハッ!! 安心しろっ!! 2時間でも3時間でも粘ってやるぞぉっ!!」

 

オレンジペコが全部隊に通信を送ると、塹壕に籠っていたセージ、ジャスパー、オレガノからそう返事が返って来る。

 

「………反撃が散発的だね」

 

一方、包囲網のやや後方に控えていたフラッグ車であるⅣ号からは、麻子を除くあんこうチームの面々が車外へ姿を晒しており、双眼鏡を覗いていた沙織がそう言う。

 

「チャンスを待っている………そんな感じだな」

 

そのⅣ号の周辺に展開しているとらさん分隊の中で、パンツァーファウストを携えた地市がそう言って来る。

 

「若しくは、紅茶を飲んでるんじゃないですか?」

 

「私達は緑茶でも入れます?」

 

「ミルクセーキが良いっ!!」

 

そこで優花里がそう言い、華が口を挟むと、麻子が車外へ姿を晒してくるなりそう声を挙げる。

 

「冷泉さん、幾らなんでもミルクセーキと言うのは………」

 

「卵も牛乳もクーラーボックスに入れて来ましたから、作れますよ」

 

「………作れるんですか」

 

「おお~」

 

「凄いです」

 

楓が麻子にツッコミを入れようとしたが、優花里がそう言ったのを聞いて黙り込み、麻子と華が感嘆の声を挙げる。

 

「で? 如何する、みぽりん?」

 

とそこで、沙織がみほへ指示を仰ぐ。

 

「………攻撃中止」

 

するとみほはそう命じ、大洗・知波単連合の攻撃が一旦止む。

 

「別動隊が此方へ到達するにはまだ時間が掛かります。今の内にゆっくり前進して、包囲の輪を狭くして行きます。安全な地形を確保しつつ、近距離での確実な撃破を目指しましょう」

 

「って事は、俺達は敵の歩兵部隊の戦車への攻撃を阻止すれば言いワケ?」

 

続けてそう指示を飛ばすと、了平がそう尋ねて来る。

 

「ハイ。特に対戦車兵と砲兵には最大の注意を払って下さい」

 

「了解」

 

みほがそう答えると、弘樹がヤマト式敬礼を返す。

 

「カレンさん達も良いですね」

 

「任せておいて」

 

「了解です」

 

更にそこで、みほはⅣ号の隣に並んでいたティーガーⅠに向かってそう言い、キューポラから姿を晒していたカレンと、随伴歩兵部隊の分隊長であるライが返事を返す。

 

「時間は有るので、慎重に………パンツァー・フォーッ!」

 

「アールハンドゥガンパレードッ!!」

 

そして、みほと弘樹がそう号令を掛けると、大洗機甲部隊の面々が包囲網を狭めるべく前進する。

 

それに続く様に、カレンのティーガーⅠと、ライの随伴歩兵分隊も動き出すが………

 

「「「「「…………」」」」」

 

何故か他の知波単機甲部隊のメンバーが動く様子を見せなかった。

 

「………アレ?」

 

「ちょっと、如何したの、皆?」

 

それに気づいたみほが声を挙げると、カレンがすぐに無線で問い掛ける。

 

「西住総隊長殿。ぱんつぁー・ふぉーとは何でありますか?」

 

すると、知波単戦車部隊員の1人『玉田』からそんな質問が返って来る。

 

「ええ………?」

 

「えっと、戦車前進って事です」

 

カレンが呆れる中、同じく通信を繋げていたみほがそう説明する。

 

「成程! そう言う意味ですか! 勉強になりましたっ!!」

 

「………大丈夫か? 知波単のこのメンバーは?」

 

玉田が感嘆した様子でそう返すと、桃が呆れた様にそう言い放つ。

 

実は今包囲網に参加している知波単機甲部隊のメンバーで、カレン達とライ達以外は、とある事情を抱えているのである………

 

「ちょっと変わってるよねぇ」

 

「でも、皆真面目そうだし、勇敢だから………」

 

「紅月さんが上手く纏めてくれるって信じようよ」

 

杏、柚子、蛍がそう言っていると………

 

「戦車前進っ!!」

 

「「「「戦車前進っ!!」」」」

 

玉田がそう掛け声を掛け、知波単機甲部隊も漸く前進を開始する。

 

「全く………アレだけ外来語もちゃんと勉強しておきなさいって言って於いたのに」

 

カレンが頭を抱えながらそう愚痴る。

 

学園艦の中でも日本色が濃い知波単の生徒は、総じて外来語が苦手であるのだ。

 

「アハハ………では、改めまして、パンツァー・フォーッ!」

 

みほは苦笑いを零しながらも、改めて号令を掛け、今度こそ大洗・知波単連合は前進を開始するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター1『エキシビションマッチです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、大洗・知波単連合は、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が籠っているバンカーの至近距離まで包囲網を狭める。

 

「アヒルチーム、砲撃準備完了」

 

「ペンギン分隊、何時でも行けるでぇ」

 

「ウサギチーム、準備OKです」

 

「ハムスター分隊も準備出来てます」

 

「大丈夫だにゃ~」

 

「私は何時でもOKだ」

 

「砲撃準備良し」

 

「御命令を」

 

「始めちゃって良いよ~」

 

「何時でも言ってくれたまえ」

 

そして、典子、大河、梓、勇武、ねこにゃー、ハンター、エルヴィン、磐渡、杏、迫信から次々に攻撃準備完了の報告が入って来る。

 

「知波単部隊もOKよ」

 

カレンからもそう報告が挙がる。

 

「大洗・知波単連合の『攻撃部隊』の準備、整いました。『守備隊』の状況は如何なってますか?」

 

そこで沙織が、大洗・知波単連合の『守備隊』の方へと通信を送る。

 

「ジワジワ来てるよ~。えっと~………」

 

「後5分、ってとこかな?」

 

「後5分だって」

 

それに対し、ナカジマとホシノが返事を返す。

 

「でも、どっちにしてもそんなには持たないからね~」

 

そう返すナカジマが乗るポルシェティーガーは、随伴歩兵分隊のおおかみさん分隊、カモさんチームのルノーB1bisとマンボウさん分隊。

 

そして、チハ(新砲塔)1輌と九五式軽戦車と中隊規模の知波単歩兵達と共に、丘の上に陣取って、防衛戦を展開していた。

 

相手方は相当撃ち込んで来ており、ナカジマの言葉通り、長くは持ちそうにない。

 

「了解」

 

「………攻撃開始っ!!」

 

沙織が返事を返すと、みほが一呼吸置いてそう命じ、大洗・知波単連合の攻撃部隊による攻撃が再開された!

 

戦車部隊が、バンカーに籠っているチャーチルとマチルダⅡ3輌に向かって次々に砲撃。

 

「撃ち方始めーっ!!」

 

そして歩兵部隊も、ブリティッシュ歩兵部隊の行動を阻害する為に攻撃を開始する。

 

バンカーに籠るチャーチルとマチルダⅡ3輌の周辺に次々と砲弾が着弾し、内1発がチャーチルを掠めて火花を散らした。

 

「うおおっ!!」

 

「チイッ! 好きにやってくれるっ!!」

 

「耐えるんだっ! 必ずチャンスは訪れるっ!!」

 

塹壕内に着弾で舞い上がった土片が降り注ぎ、オレガノ、ジャスパー、セージがそう声を挙げる。

 

と、マチルダⅡの1輌が、大洗・知波単連合に反撃しようと、バックで僅かにバンカーから乗り出す。

 

「…………」

 

その隙を見逃す華ではなかった。

 

僅かに見えていたマチルダⅡの車体前方上部に向かって砲撃!

 

砲弾は見事に命中し、マチルダⅡからは白旗が上がった!!

 

「やるわね! コッチも負けてらんないわよっ!!」

 

それを見たカレンがそう言った瞬間に、彼女のティーガーⅠも発砲。

 

別のマチルダⅡにその砲弾が命中すると、アハトアハトの砲弾は分厚いマチルダⅡの装甲を物ともせずに貫通したと判定させ、白旗を上げさせる。

 

「紅月副隊長がマチルダⅡを撃破したぞーっ!!」

 

その様子を見た知波単戦車隊員の『池田』がそう声を挙げる。

 

「おおっ! 聖グロリアーナ撃破ぁっ!!」

 

「快挙であります! 大戦果でありますっ!!」

 

更に『細見』も歓声を挙げ、彼女の車両の通信手である『寺本』は矢鱈と古いカメラでその様子を撮影する。

 

「よおし、この調子で………」

 

「紅月副隊長! 後は突撃有るのみですっ!!」

 

カレンが更に撃破を進めようとしたところ、傍に居たチハ(新砲塔)の『浜田』がそう進言して来た!

 

「えっ?………」

 

「その通り! 突撃は我が校の伝統ですっ!!」

 

「突撃以外、何が有りましょうぞっ!!」

 

戸惑うカレンを余所に、他の知波単戦車隊員達も賛同する。

 

「いや、待ちなさい! 包囲戦で突撃する意味は………」

 

皆を止めようとするカレンだったが………

 

「突撃ーっ!!」

 

「「突撃ーっ!!」」

 

何と知波単戦車部隊は勝手に突撃を開始してしまう!

 

「ちょっ!?」

 

「突撃して潔く散りましょうぞぉっ!!」

 

「いやいやいや! 散ったら駄目でしょうっ!!」

 

「知波単魂を世に知らしめよーっ!!」

 

「勝利は我に有りーっ!!」

 

最早カレンの言葉も届かず、チハ(旧砲塔)3輌、チハ(新砲塔)3輌はバンカーに籠っているグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊目掛けて突撃して行く!

 

全速で駆け抜けながら、次々にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊に砲撃を見舞う知波単戦車部隊。

 

しかし、幾ら撃とうとチハの主砲弾では、弱点部を至近距離で狙わなければチャーチル、マチルダⅡどちらの装甲も貫く事は出来ない。

 

寧ろ、身を隠していない分、知波単戦車部隊は撃破される危機に晒されているだけである。

 

「データ通り、勝手にスコーンが割れたわね」

 

「後は美味しく頂くだけです。お願いします、アッサム様」

 

アッサムとオレンジペコがそう言い合うと、チャーチルとマチルダⅡの砲塔が旋回し、突っ込んで来る知波単戦車部隊に照準を合わせる。

 

「それに、もうすぐサンドイッチも出来る筈よ………」

 

「………砲撃開始して下さい」

 

そしてアッサムとオレンジペコは更にそう言い合うと、チャーチルとマチルダⅡが発砲!

 

空のドラム缶を叩いた様な乾いた金属音が鳴り響いたかと思うと、チハ(旧砲塔)とチハ(新砲塔)が撃破される。

 

更にチャーチルの砲塔が旋回すると、別方向に居たチハ(新砲塔)にも砲撃が放たれ、アッサリと撃破する。

 

「クソーッ!」

 

撃破されたチハ(新砲塔)の車長が悔しそうな声を挙げている間に、更にチハ(旧砲塔)2輌が即座にスクラップにされた。

 

「クウッ! 後一息だと言うのに! 果たして我々はこのままで良いのだろうか?………いや、良くない………いや、良い!」

 

残るチハ(新砲塔)の玉田は粘るが、このままでは撃破されるのは時間の問題であろう………

 

「アチャー………」

 

その様を見たカレンが、両手で頭を抱えて砲塔上に突っ伏す。

 

「カレンさん。知波単は西総隊長さんの下で改革を始めたのでは?」

 

砲手ハッチから顔を出した華が、カレンに向かってそう尋ねる。

 

「そうだったんだけど………あの子は、更迭された前の総隊長の『辻 つつじ』先輩に特に可愛がられてた子達なの。だから、今だに知波単の伝統である突撃を誇示してるの」

 

カレンは顔を上げると、華に向かってそう返す。

 

「何とか矯正させようとしてて、今日の試合も様子を見る意味が有って出場させたんだけど、まさか独断専行するなんて………ゴメンね、みほちゃん」

 

「大丈夫です………第2プランの発動をお願いします」

 

みほに向かって謝るカレンだったが、みほは特に気にした様子を見せず、喉頭マイクを押さえてそう命じた。

 

「えっ? 第2プラン?」

 

と、カレンが思わず呆けた顔を見せた瞬間………

 

風切音と共に上空から降って来た砲弾が、グロリアーナ&ブリティッシュが籠っているバンカーに着弾した!!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

余りの爆発で、塹壕に籠っていたブリティッシュ歩兵数名が宙に舞って、塹壕の外に飛び出して、戦死判定を受ける。

 

そして爆煙が晴れると、白旗を上げているマチルダⅡの姿も露わになる。

 

「!? 今のはっ!?」

 

「ウチの『海軍十二糎自走砲』の砲撃だよっ!!」

 

驚きを示すカレンに、ライがそう言う。

 

 

 

 

 

『海軍十二糎自走砲』………

 

別命『長十二糎自走砲』と言われている旧日本海軍の自走砲である。

 

砲塔を撤去したチハの車体に、『十年式十二糎高角砲』を乗っけると言う、何とも無理矢理な改造車である。

 

小柄なチハの車体では、正面は兎も角、砲を横向きにしての砲撃は不可能であり、実質十年式十二糎高角砲に自走能力を備えさせただけと言える。

 

だが、そのロマン溢れる仕様に、一部のファンからは『キングチーハー』の異名で呼ばれている。

 

 

 

 

 

「西さんが預けてくれたんです。もし玉田達が勝手な事をした時は代わりに使ってくれって」

 

「西総隊長………分かってたんだ」

 

「読みが深いと言うか………信頼が無いと言うか………」

 

みほがそう返すと、カレンとライは複雑そうな表情を浮かべるのだった。

 

「コレでは戦況は振り出しだ。後は我々が………」

 

と、ココは歩兵部隊の出番だと、弘樹が動こうとしたところ………

 

『コチラ西! 『黒い森に雷が落ちた』!! 繰り返す! 『黒い森に雷が落ちた』!!」

 

突如絹代から、暗号通信が入って来る。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その暗号通信を聞いた大洗機甲部隊とカレン達が顔に緊張の様子を走らせる。

 

「全部隊! この場より撤退しますっ!!」

 

そして即座に、みほが全部隊に撤退を指示した!

 

「撤退ですとっ!? 敵に後ろを見せろと言うのですかっ!?」

 

撤退行為を恥と考える玉田が、みほへ噛み付くが………

 

「玉田! 命令よっ!!」

 

「!? ハ、ハイィッ!!」

 

カレンから強い口調でそう言われ、玉田は反射的に従う。

 

そして、大洗・知波単連合がゴルフ場から撤退を開始した直後………

 

「来たわよ、来たわよーっ!!」

 

「撤退撤退ーっ!」

 

チハ(旧砲塔)のハッチから姿を晒している絹代と同じくクロムウェルのハッチから姿を晒している聖子が、三式中戦車改、四式中戦車、五式中戦車とタコさん分隊を含めた大隊規模の知波単歩兵部隊を引き連れて姿を見せる。

 

そして、その背後から………

 

「イエーイッ! 見つけたわよ、みほっ!!」

 

「全部隊、攻撃用意」

 

M4シャーマンを駆るケイと、ティーガーⅠを駆るまほを先頭にした『黒森峰・サンダース連合部隊』が迫って来るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

いよいよ劇場版に突入です!
先ずは冒頭のエキシビションマッチですが………
いきなり大きく様変わりしています。

何故、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の指揮をオレンジペコが執っているのか?
ダージリンとアールグレイは?

更に、黒森峰とサンダースの連合部隊が参加し、三つ巴戦!?
一体如何言う事なのか?
全ては次回で明らかになります。

それから、この作品では西 絹代の性格が異なっている為、原作劇場版の西 絹代のポジションは玉田が代役する形になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター2『連合部隊です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター2『連合部隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町にて開かれた、大洗機甲部隊の全国大会優勝記念のエキシビションマッチ………

 

ゴルフ場にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を追い詰めた大洗・知波単連合部隊………

 

知波単戦車部隊の玉田達が独断で突撃をして次々に撃破されるなどと言うハプニングもあったが………

 

それを予め読んでいた絹代が、みほに預けていたキングチーハーこと『海軍十二糎自走砲』でカバーする。

 

だが、遂にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊に王手を掛けるかに思われた瞬間………

 

『黒森峰・サンダース連合部隊』が現れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰・サンダース連合部隊がゴルフ場に現れる少し前………

 

大洗アウトレットに設置された観客席にて………

 

「………ハア~~」

 

試合の様子を見ながら、深い溜息を吐く少女が居た。

 

 

 

 

 

それはダージリン………

 

ではなく、『西呉王子グローナ学園』の総隊長、『白鳥 霧』こと『キリマンジェロ』である。

 

ファンクラブプラチナ会員を名乗り、自らもダージリンのコスプレをすると言うぐらいのダージリンファンである。

 

彼女の学園『西呉王子グローナ学園』、通称『西グロ』は、みほの幼馴染の親友であるエミが居るベルウォール機甲部隊と少々因縁が有り………

 

以前、実の妹をスパイとして送り込むと言う様な小狡い手を使った事があった。

 

しかし、それをバーコフ分隊の面々に見破られたのが運の尽き………

 

報復の名の元にバーコフ分隊に、危うくトラウマになりそうなくらいの仕置きを受けてしまう。

 

現在、その妹である『白鳥 渚』は、エミの乗車ティーガーⅠの砲手を務めている。

 

一応フォローするなら、彼女は尊敬するダージリン程ではないが、エミをして優秀な指揮官と言わせるだけの実力は持っている。

 

 

 

 

 

「………まさかダージリン様が試合に出られていないなんて」

 

と、そんな言葉が口から洩れるキリマンジェロ。

 

如何やら、大ファンであるダージリンの試合を見に来た様だが、肝心のダージリンが出場して居ない為、ガッカリしている様だ。

 

「ハア~~………」

 

再び重々しい溜息を吐くキリマンジェロ。

 

「失礼致します。お隣に座っても宜しいかしら?」

 

するとそこで、何者かがキリマンジェロにそう声を掛けた。

 

「あ、ハイ、大丈夫………ですうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!?」

 

気の無いまま返事をしながらその相手を見やったキリマンジェロは驚愕の声を挙げた。

 

「アラアラ、いけませんわよ。淑女がそんな大声を挙げるなんて………」

 

そこに居たのは、彼女が尊敬してやまない人物………『ダージリン』だった。

 

「…………」

 

すぐ後ろには、イギリス近衛兵に似た制服に身を包んだアールグレイの姿も在る。

 

御丁寧にベアスキン帽まで被っている。

 

「ダダダダダダダ、ダージリン様っ!?」

 

「如何にも、私はダージリンよ。初めまして………白鳥 霧さん。いえ、キリマンジェロさんとお呼びした方が宜しいかしら?」

 

「!? わ、私の事を御存じで?」

 

「勿論。自分のファンクラブの会員の方ですもの」

 

「きょきょきょきょきょ、恐縮ですぅっ!!(わああっ!? 如何したら良いのっ!?)」

 

いきなり憧れの人が目の前に現れ、完全にテンパってしまうキリマンジェロ。

 

「さて、失礼しますわね」

 

「…………」

 

と、ダージリンがキリマンジェロの隣に腰掛けようとしたところ、アールグレイがスーッと動き、ポケットからハンカチを取り出すと、ダージリンが座る位置に置いた。

 

「ありがとう、アールグレイ」

 

「…………」

 

ダージリンがお礼を言いながらその上に腰掛けると、アールグレイは再びスーッと動き、ダージリンのすぐ傍に立ったまま控える。

 

(わあ、素敵………流石はアールグレイ様。正に紳士………ダージリン様の近衛兵だわ)

 

そんなアールグレイの姿に感動するキリマンジェロ。

 

「………ペコは苦戦してるみたいね。けど、初めての試合にしては悪くない指揮だわ」

 

とそこで、ダージリンは巨大モニターの試合の様子を見てそう呟く。

 

「! あ、あの、ダージリン様! 如何してダージリン様は試合に出ておられないのですかっ!?」

 

その言葉で我に返ったキリマンジェロは、そうダージリンに問い掛けた。

 

「キリマンジェロさんは、今年の全国大会の準決勝の事は御存じで?」

 

「勿論です! あの試合はテレビに噛り付いて見てました! 録画もチャンと4Kでブルーレイにしてありますっ!!」

 

「まあ、うふふ………」

 

あんまりにも熱心な様子に、ダージリンは笑みを零す。

 

「………では、聖グロリアーナ女学園の事情も御存じかしら?」

 

「あ、ハイ………確か、OG会が凄い権限を持ってて、色々と口出しをして来るとか………」

 

「実はね………あの試合で私………OG会の方達の意見を完全に無視して、提供された戦車購入資金を独断で使っちゃったの」

 

「!? ええっ!?」

 

驚きを示すキリマンジェロ。

 

「そのせいでOG会の皆様から大分お叱りを受けてしまったの。まあ、ブリティッシュのOB会や呉校の方達が庇ってくれたお蔭で謹慎処分で済んだのですけど」

 

ダージリンは溜息混じりにそう言い放つ。

 

 

 

 

 

そう………

 

あの第63回戦車道・歩兵道全国大会の準決勝・大洗機甲部隊との試合にて………

 

ダージリンは戦車道用の予算をOG会を通さずに、独断で自分が決めた戦車の購入に当てた。

 

当然、OG会は大激怒。

 

一時はダージリンを機甲部隊から外すなどと言う意見も噴出したが………

 

ブリティッシュのOB会が彼女を庇い、更に話を聞き付けた、その試合で漂流したグロリアーナ&ブリティッシュ艦隊の乗員を救出してくれた呉校の一同も物申し立てて来た。

 

流石に、男子校のOB会の面々に加え、母校の生徒達の命を救ってくれた大恩人達からの意見を受けては、グロリアーナOG会の面々も引っ込まざるを得ず………

 

結局、彼女の処分は戦車道限定の当面の謹慎と言う、非常に軽いモノで済まされたのだった。

 

そしてアールグレイは、そんなダージリンに付き合って自主的に歩兵道を謹慎しているのである。

 

 

 

 

 

「そうだったんですか………」

 

事情を聴いて、キリマンジェロは表情を曇らせる。

 

「でも、私は後悔しておりませんわ」

 

「えっ?」

 

しかし、すぐにダージリンがそう言ったのを聞いて、再び驚きを露わにする。

 

「あの試合、負けはしましたけど………私の生涯に於いて、最高の戦いであったと自信を持って言えますわ。みほさんは私の………最高にして最強のライバルですから」

 

「ライバル………」

 

ダージリンがそう言ったのを聞いて、ふとキリマンジェロの脳裏には、エミの顔が過るのだった。

 

「それに、今グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の指揮を執っているペコは私が次世代の隊長と決めていた子よ。ちょっとばかり、その役目を早く体験出来る機会を得られたものよ」

 

「………羨ましいです。ダージリン様にそんな風に見込まれてるなんて」

 

「…………」

 

若干俯いたキリマンジェロを見て、ふとダージリンは何かイタズラを思い付いた子供の様な無邪気な笑みを浮かべる。

 

「キリマンジェロさん。携帯はお持ちかしら?」

 

「えっ!? あ、ハイ、持ってますけど………」

 

突然の問い掛けに戸惑いながらも、キリマンジェロは自分のスマホを取り出す。

 

「カメラを起動して下さる?」

 

「ハ、ハイ」

 

言われるままにカメラ機能を作動させるキリマンジェロ。

 

「ちょっと借りるわね」

 

そしてその瞬間に、ダージリンはキリマンジェロのスマホを引っ手繰る。

 

「えっ!?」

 

「アールグレイ」

 

「…………」

 

驚くキリマンジェロを余所に、ダージリンはスマホをアールグレイに渡す。

 

「…………」

 

そして、スマホを受け取ったアールグレイは、ダージリンとキリマンジェロの傍に屈み込む。

 

「………えいっ!」

 

「!? ひゃあっ!?」

 

するとその瞬間、ダージリンはキリマンジェロの背に手を回して肩を掴むと、自分の方へと抱き寄せた。

 

「!??!」

 

ダージリンの顔が僅か数センチの隙間を挿んだ傍までより、キリマンジェロは脳がショートしそうになる。

 

「ダダダダダ、ダージリン様っ!?」

 

「ホラ、キリマンジェロさん。笑顔よ笑顔」

 

「…………」

 

混乱するキリマンジェロに、ダージリンは悪戯っ子の様に笑いながら、何時の間にか撮影準備を整えていたアールグレイに向かってピースを決める。

 

「うふ………」

 

そして、シャッターが切られる瞬間には、キリマンジェロと頬合わせをした。

 

「!? はううっ!?………」

 

キリマンジェロは幸せの余り、気絶してしまう。

 

「あらあら? ちょっと悪戯が過ぎたかしら」

 

ダージリンは愉快そうに笑いながら、気を失ったキリマンジェロを膝枕してあげるのだった。

 

後にキリマンジェロは、友人達に引き取られて帰還した後、膝枕の件を聞かされ、暫く放心状態になったそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び試合の方にて………

 

玉田達、知波単旧体制組が独断突撃によって全滅しかけていた頃………

 

守備隊の方でも………

 

「我が知波単第1中隊が突撃を敢行したらしいぞっ!」

 

「良し! 我々も後れを取るなっ!!」

 

「とらいでかっ!!」

 

「突撃ーっ!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

玉田達が突撃したの方を受け、守備隊の中に居たチハ(新砲塔)の名倉が、守備を放棄して突撃を強行する。

 

「うえっ!? ああ、ちょっと待った………」

 

ナカジマが止めるのも遅く、稜線から飛び出したチハ(新砲塔)を敵が見逃す筈もなく、アッサリと撃破される。

 

「あのバカ、何やってんだ………」

 

その様に悪態を吐く白狼。

 

「先輩殿っ!………我々も後に続くであります! 戦車前進っ!!」

 

と、そこで更に、残る九五式軽戦車の『福田』も、突撃を強行しようとする。

 

「ああ、だから駄目だって! 皆無謀過ぎ~!」

 

「カモさんチーム!」

 

「了解」

 

ナカジマが再び声を挙げると、鋼賀がカモさんチームに呼び掛け、ルノーB1bisが九五式軽戦車をブロックする。

 

「行かせて下さい! このままでは皆に会わす顔が有りませんっ!!」

 

「アグレッシブに攻めるのも良いけど、リタイヤしちゃったら元も子も無いんだよ」

 

尚も突撃を続行しようとしている福田を、ナカジマがそう諭そうとする。

 

「しかし、我が知波単学園は!!………」

 

「西住総隊長からこの陣地を守れって言われたでしょう。命令ってのは規則と同じなの」

 

「でもであります!!」

 

「規則は守る為に在るのよ」

 

「うう………」

 

だが、福田は納得する様子を見せず、見かねた様にみどり子からもそう戒めが飛ぶ。

 

「オイ、メガネの嬢ちゃん。ええ加減にしときぃ」

 

「あんまりバカな事やってると、後で絢爛舞踏に取って食われちまうぞ」

 

するとそこで、豹詑と海音が福田に向かってそう言い放つ。

 

「け、絢爛舞踏………舩坂 弘樹殿!?」

 

そう言われた福田の脳裏には………

 

『無表情で戦車をまるで煎餅か何かの様にバリバリと食べている弘樹の姿』が想像された。

 

「ヒイイイイィィィィィーーーーーーッ!?」

 

途端に福田は恐慌状態になる。

 

「………絢爛舞踏を受賞した人間は化け物みたいに思われるって噂、本当だったんだな」

 

「けど、食べるはねえだろ、流石に」

 

圭一郎と弦一朗が、豹詑と海音の冗談に呆れる様な様子を見せる。

 

(アイツの場合、付き合いの長いワシでさえ、時々『こいつ人間か?』と思う時があるからな………)

 

一方で、弘樹と付き合いの長いシメオンは、若干失礼な事を考えていた。

 

『コチラ西住! 『黒い森に雷が落ちました』!! 作戦は中止! 全部隊、直ちにこのエリアより退却します!!』

 

するとそこで、みほからゴルフ場エリアから退却するとの命令が下る。

 

「了解。レオポンチーム、退却します」

 

「ホラ、行くわよ」

 

「な、何をするでありますか!? 撤退など嫌でありますっ!!」

 

すぐにレオポンチームが退却を開始し、カモさんチームも福田の九五式軽戦車を押しながら退却させようとするが、福田は抵抗する。

 

「………舩坂 弘樹が来るぞー」

 

「!? ヒイイッ!?」

 

しかし、鋼賀がそうボソリと呟くと、顔を真っ青して抵抗を止めた。

 

「良し、退却しますっ!!」

 

「引き際を見極めるのもまた戦よっ!!」

 

そして飛彗がそう言うと、意外にもアッサリ退却に応じた月人が退却を始め、随伴歩兵部隊も稜線の防衛ラインより撤退する。

 

その直後………

 

多数のT-34-76とT-34-85、そして1輌のIS-2と共にツァーリ歩兵大隊を引き連れたプラウダ&ツァーリ機甲部隊が稜線を超えて来た!

 

「待たせたわねっ!」

 

総隊長であるカチューシャが、連合を組んでいる相手………グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の総隊長代理であるオレンジペコに通信を送る。

 

『遅いですよ。もう黒森峰・サンダース連合部隊が動き出しちゃいましたよ』

 

しかし、オレンジペコからはそんな返信が返って来る。

 

「仕方ないでしょ! もっと簡単に敵を突破出来ると思ったのよっ!!」

 

「………舩坂 弘樹が居るかもと思って、一気に攻勢に出れなかったんですよね」

 

カチューシャが怒鳴り返すと、ノンナがそうツッコミを入れて来る。

 

「ノンナ! それを言うんじゃないわよ! あの時の事は、未だに………!? ヒイイッ!? 赤い肩の悪魔が来るぅっ!?」

 

と、その言葉で、全国大会にて弘樹によって手痛い損害を受けた際の記憶が蘇り、カチューシャは悲鳴を挙げる。

 

『カチューシャさんっ!? 大丈夫ですかっ!?』

 

無線越しにもその声は聞こえていたらしく、オレンジペコの心配の声が飛ぶ。

 

「だ、大丈夫よ………悪かったわね、取り乱して」

 

「あの姉ちゃんが素直に謝ってるぜ………」

 

「無理もねえさ。俺だって未だにあの時の事は夢に見そうになるぜ」

 

何とか落ち着きを取り戻したカチューシャがそうオレンジペコに言うと、その隣をGAZ-67Bを運転しながら進軍していたピョートルと助手席のマーティンがそう呟く。

 

「兎に角! もうすぐ後続も到着するわっ!! 黒森峰とサンダースはそっちに任せて、先ずは大洗・知波単連合を潰すわよっ!!」

 

『大洗・知波単連合の方が厄介と言う事ですか?』

 

『でしょうね。此処は向こうのホームグラウンドな上に、以前我々と戦った時よりも遥かに強くなっています』

 

カチューシャの命を聞いたクラーラとノンナが、流暢なロシア語でそう言い合う。

 

「ノンナッ! クラーラッ! 日本語で話しなさいよっ!!」

 

『ハイ?』

 

その様子に、ロシア語に余り明るくないカチューシャは不満の声を挙げるが、クラーラは相変わらずロシア語で話すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして漸く時は現在に戻り………

 

黒森峰・サンダース連合部隊の出現を目にした大洗・知波単連合が撤退を開始した時となる………

 

「総隊長、すみません!」

 

「ゴメンね、みほちゃん。もう少し粘れると思ったんだけど………」

 

大洗・知波単連合の本隊へ合流した聖子と絹代が、Ⅳ号を挟む様に位置取ると、みほに向かってそう言う。

 

「いえ、大丈夫です。まだ手の打ち様は有ります」

 

しかし、みほは冷静にそう返す。

 

「それにしても、まさか三つ巴戦になるとは思いませんでした」

 

「仕方ないよ。そう言う風になっちゃったんだから」

 

「軍事道連盟も今必死だからな………」

 

そこで、Ⅳ号の車内にて、優花里、沙織、麻子がそう言い合う。

 

 

 

 

 

そもそも、何故この試合が『大洗・知波単連合』VS『グロリアーナ&プラウダ連合部隊』VS『黒森峰・サンダース連合部隊』などと言う複雑な三つ巴戦になっているのか?

 

全ては軍事道連盟の方針なのである。

 

大いに盛り上がりの様子を見せた第63回戦車道・歩兵道全国大会であったが………

 

一方で、カンプグルッペ学園の不正や、王者・黒森峰のスキャンダルなど、様々な波乱の在った大会でもあった。

 

その為………

 

極僅かながら、一部の国民の間では、軍事道そのものを疑問視する様な声が上がって居た。

 

世界大会誘致を考えている連盟としては、万が一にもそうした議論が広がる事は避けたかった。

 

そこで執った策が、『軍事道のエンタ-テイメント性の向上』である。

 

全国大会の盛り上がりで、俄かに隆盛を取り戻し始めている軍事道だが………

 

そもそも斜陽になった原因は、その特性上何処か閉鎖的なイメージがあるせいでもある。

 

疑問の声を挙げている一部も国民も、軍事道の事を良く理解していない輩達なのだ。

 

なので、コレまでのスクールアイドル支援の活動に加え、普通に戦うだけだった試合形式を多様化させた。

 

砲弾や弾丸を全てペイント弾にし、試合会場内を自分達のペイント弾の色で染めた面積が大きい方が勝ちと言う『スプラトゥーンマッチ』………

 

歩兵は素手による格闘、戦車は体当たりのみを使用すると言う超肉弾バトル『ストライカーマッチ』………

 

燃料と弾薬、そして体力と気力が続く限り、やられても再出撃して戦う耐久バトル『ストロングマッチ』………

 

試合会場内に設置された施設を如何に早く、多く壊せるかを競う『デストロイマッチ』等々………

 

協会も試行錯誤しながら、様々な新しい試合形式を生み出しており………

 

今回の三つ巴戦も、その政策の一環なのだ。

 

 

 

 

 

「私は好きよ、こう言うの。誰をやるか、誰にやられるかのスリルは中々味わい深いわ」

 

「いや、やられたら駄目でしょう、西隊長」

 

嬉々としている絹代に、カレンがそうツッコミを入れる。

 

「西住総隊長。如何致しましょう」

 

とそこで、Ⅳ号の隣に付けて来たくろがね四起の助手席に居た弘樹が、みほへ指示を請う。

 

「恐らく、この後グロリアーナ・プラウダ連合と黒森峰・サンダース連合とで交戦になりますが、どちらも主力部隊は私達を追って来るでしょう」

 

そこでみほは、自らの推察を述べ始める。

 

「ですので、山を下ります。市街戦へ持ち込んで、両部隊の戦力を分散させ、遭遇戦に持ち込みます」

 

「出たわね。お得意のゲリラ戦術」

 

「ココは私達の町です! 遭遇戦なら負けませんよっ!!」

 

そして、大洗の十八番・ゲリラ戦に持ち込むと告げると、絹代と聖子が声を挙げる。

 

「何時もの様に、この作戦の要は歩兵部隊です。各分隊の分隊長の其々の判断を信頼します」

 

「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」

 

更にみほは歩兵部隊にもそう呼び掛け、弘樹を初めとした分隊長達が、勇ましい返事を返すのだった。

 

こうして、第2次大洗市街戦の幕が切って落とされるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ダージリンとアールグレイ不在の理由………
それはあの準決勝の試合でOG会の意見を聞かずに独断で予算を使った事が原因でした。
当のダージリンは、これ幸いとばかりに後進教育を展開させますが。
勿論、2人には後々でちゃんと活躍して貰う予定です。
TV版でカッコイイダージリンを書いたので、今回は少しはっちゃけてて御茶目なダージリンを書こうかと。
お楽しみに。

そして黒森峰・サンダースが参戦している理由は、軍事道連盟のイメージアップ戦略の一環です。
メタ的な理由としましては、廃校問題をTV版で解決してしまっているので、原作劇場版でのサンダースの名シーン・スーパーギャラクシーの場面が無くなってしまうので、その代価として、エキシヴィジョンマッチへの参加を考え、どうせなら黒森峰と組ませてみようと思いまして

古豪の黒森峰からあいてみれば、受け入れがたい様に思えますが、現在改革中の為、その改革戦略の一環として参加した面もあります。
その辺の詳細に尽きましては試合後の場面にて語ります。
更に、改革黒森峰の意外過ぎる新たな対外広報も見れるかも?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター3『第2次大洗市街戦です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター3『第2次大洗市街戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗ゴルフ倶楽部………

 

「大洗・知波単連合が撤退して行くわ」

 

「恐らく黒森峰・サンダース連合が動いたんです。此処に居ては危険です。大至急退避を」

 

大洗・知波単連合が撤退したのを見て、アッサムとオレンジペコはそう言い合うと、チャーチルがバンカーを脱出し、生き残っていたブリティッシュ歩兵達を連れて退避しようとする。

 

「10時の方向! グロリアーナ・プラウダ連合のフラッグ車を発見っ!!」

 

しかしそこで、黒森峰・サンダース連合が到着し、エリカがチャーチルを発見してそう報告を挙げる。

 

「クッ! 間に合わなかったかっ!?」

 

「砲手、狙えるか?」

 

「お任せ下さい」

 

セージが思わず声を挙げる中、まほのティーガーⅠが、チャーチルに主砲を向ける。

 

と、その時!!

 

「そうはさせませんわよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そう言う叫び声と共に、10輌のクルセイダーが、木々の合間を縫う様にしてゴルフ場内へ雪崩れ込んで来た!!

 

「! ローズヒップッ!!」

 

「申し訳ありませんわ、アッサム様! オレンジペコさん! 知波単の連中をからかっていたらすっかり遅くなってしまいましたっ!!」

 

アッサムが驚きの声を挙げる中、ローズヒップ車を含めたクルセイダー部隊は、一気に黒森峰・サンダース連合の中へと突っ込んだ!!

 

「うわっ!?」

 

「危ないっ!!」

 

突然自部隊の中に突っ込んで来て、縦横無尽に走り回るクルセイダー部隊に、黒森峰・サンダース連合は思わず動きを止める。

 

「オーホッホッホッホッ! 決勝戦での大洗との試合は私も拝見させていただいておりますわ! こうすれば攻撃出来ないでしょうっ!!」

 

全国大会の決勝戦で大洗機甲部隊が取った戦法を真似、ローズヒップが得意そうに言う。

 

だが………

 

砲撃音が響いたかと思うと、1輌のクルセイダーが側面に砲撃を受け、横転して白旗を上げる。

 

「アラ?………」

 

思わず間抜けた声を挙げてしまったローズヒップが見たのは………

 

砲門から煙を上げているファイアフライの姿が在った。

 

「…………」

 

外からは窺えないが、その砲手席でガムを噛んでいたナオミが、不敵な笑みを浮かべる。

 

そして再び、ファイヤフライが発砲したかと思うと、また別のクルセイダーが直撃を喰らい、白旗を上げる。

 

「対戦車兵部隊! 攻撃っ!!」

 

更に、ジェイがそう号令を掛けると、カーネル対戦車兵部隊が次々にバズーカを発射!

 

2輌のクルセイダーが白旗を上げさせられる。

 

「馬鹿ね! 何の為に私達、サンダース&カーネル機甲部隊が居ると思ってるのよ!!」

 

「まほ! 細かい奴等はコッチで引き受けるわ! フラッグ車をお願いねっ!!」

 

「感謝する、ケイ………クルセイダーには構うな! フラッグ車を狙え!」

 

アリサとケイがそう言う中、まほの指示が飛び、黒森峰戦車部隊がチャーチルを狙おうとする。

 

「オノレェ! そうはさせんぞっ!!」

 

「オレガノ先輩! 無茶ですっ!!」

 

オレガノが自らの身を呈してチャーチルを庇おうとし、ジャスパーに止められる。

 

「撃………」

 

そして遂に、まほから砲撃命令が下らんとしたその時!

 

黒森峰戦車部隊の砲撃するよりも早く砲撃音が鳴り響き、木々を薙ぎ倒しながら飛んで来た砲弾が、まほのティーガーⅠに向かう!

 

「!?」

 

「総隊長っ! 危ないっ!!」

 

まほが驚きの表情を浮かべた瞬間、ティーガーⅡがその間に割って入り、車体側面でその砲弾を受け止めた!

 

爆発音が響き、ティーガーⅡの側面に砲弾が深々と突き刺さったのが露わになると、白旗を上げる。

 

「! 今のは………17ポンド砲?」

 

そこでナオミが、今の砲弾を撃ったと思われる砲撃音が、自身の乗るファイアフライの主砲と同じ17ポンド砲のものである事に気づく。

 

「オレンジペコ総隊長代理! ご無事ですかっ!!」

 

そう言うのはニルギリであり、彼女の愛車クロムウェル………

 

ではなく、クロムウェルをベースに17ポンド砲を搭載した『チャレンジャー巡航戦車』が、アキリーズ数輌を伴って現れる!

 

「ニルギリさん! 助かりましたっ!!」

 

と、オレンジペコがそう言った瞬間………

 

「真打ち登場よっ!!」

 

カチューシャのそう言う台詞と共に、プラウダ&ツァーリ機甲部隊がその場に突入して来た!

 

「合流されたか………」

 

「全車、砲撃開始」

 

まほがそう呟いた瞬間、ノンナの命令が下り、プラウダ戦車部隊のT-34-76、T-34-85達が、黒森峰・サンダース連合に向かって砲撃を開始した!

 

「アゴーニッ!!」

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

更に、デミトリの声が響くと、ツァーリ砲兵部隊も一斉に対戦車砲での砲撃を開始する。

 

「応戦しなさいっ!!」

 

エリカがそう言い放つと、黒森峰戦車部隊と砲兵部隊も応戦!

 

激しい砲の撃ち合いが、両者の間で繰り広げられる!!

 

『お~とぉっ! コレは凄いっ!! プラウダ&ツァーリ機甲部隊と黒森峰機甲部隊の砲撃戦だぁっ!!』

 

『正に東部戦線………独ソ戦の様相ですねぇ』

 

その凄まじいまでの砲撃の応酬に、ヒートマン佐々木とDJ田中も興奮した様子を見せ、観客達も沸き立つ。

 

「総隊長代理! カチューシャさん! ココは私が引き受けます!! 御2人は大洗・知波単連合を追って下さいっ!!」

 

「えっ!? ですが………」

 

「私の事なら心配無用です! それよりも大洗・知波単連合を!!」

 

ニルギリからの思わぬ意見具申に困惑するオレンジペコだったが、ニルギリは更にシャーマンを1輌撃破しながらそう言葉を続ける。

 

「! 分かりましたっ!!」

 

「中々良い度胸ね! 気に入ったわ! ニルギリだったわね!? その名前、覚えておくわよっ!!」

 

「地吹雪のカチューシャさんに覚えて貰えるとは、光栄ですっ!!」

 

その言葉でオレンジペコが決意すると、カチューシャは惜しみなく称賛を送り、ニルギリは嬉しそうな様子を見せる。

 

「間も無くルクリリさんも来る筈です! 御武運を!!」

 

「行くわよ、ペコーシャッ!」

 

「ハイッ!! ローズヒップさん! 聞いてましたね!? コチラに合流して下さい!!」

 

「畏まりましたわーっ!!」

 

そのニルギリの言葉を聞き、グロリアーナ・プラウダ連合は主力チームを率いて、大洗・知波単連合の追撃に移るのだった。

 

「! 逃がすかっ!!」

 

だが、一瞬の隙を見つけたナオミが、フラッグ車のチャーチルに照準を合わせて発砲した!!

 

17ポンド砲弾がチャーチルに向かって飛ぶ!

 

だが、次の瞬間!!

 

横合いから飛来した砲弾が、17ポンド砲弾に命中!!

 

2つの砲弾は互いに弾かれ、明後日の方向に飛んだ!!

 

「!? 何っ!?」

 

珍しく驚きを露わにしたナオミが、照準器越しに自砲弾を迎撃した砲弾が飛んで来た方向を見やる。

 

そこには、砲口から煙を上げているIS-2の姿が在った。

 

「IS-2………確かノンナとか言う奴か………」

 

その車輌に乗って居るのが、自分と同じくらい腕の立つ砲手であるノンナである事を思い出すナオミ。

 

するとそこで………

 

IS-2のハッチが開いたかと思うと、そのノンナが姿を見せた。

 

「!?」

 

「………フッ」

 

ナオミが再び驚いていると、ノンナは髪を掻き上げながら不敵に笑って、離脱して行った。

 

「…………」

 

僅かな間呆然としていたナオミだったが………

 

「………面白い」

 

やがてプライドを刺激された事で獰猛な笑みを浮かべる。

 

「西住総隊長! ココは私が引き受けます!! 総隊長達は追撃を!!」

 

とそこで、黒森峰・サンダース連合側でも、ニルギリと同じ様に、小梅が敵部隊の相手を買って出る。

 

「分かった。頼むぞ、小梅」

 

「了解っ!!」

 

まほがそれを承認すると、小梅のパンターが、黒森峰のパンター部隊とティーガーⅡ部隊、サンダースのシャーマン部隊の一部、そして両混合歩兵部隊を率いて、敵部隊の方へと向かう。

 

「全部隊に通達! 我々主力部隊は大洗・知波単連合、並びにグロリアーナ・プラウダ連合の主力を追撃する!!」

 

「オーライッ! そう来なくっちゃっ!!」

 

「了解しました、総隊長っ!!」

 

そしてまほの指示が飛ぶと、ケイとエリカがそう返事を返し、黒森峰・サンダース連合の主力部隊は、大洗・知波単連合とグロリアーナ・プラウダ連合の主力部隊を追撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

最初に撤退した大洗・知波単連合は………

 

ゴルフ場を抜け、市街地に出るスーパーマーケット前の通りを進んでいた………

 

「! 後方より、敵接敵っ!!」

 

と、後方を警戒していた歩兵部隊の内、清十郎がそう報告を挙げる。

 

「敵はグロリアーナ・プラウダ連合ですか? それとも黒森峰・サンダース連合ですか?」

 

すぐにみほは、追撃した来たのがどちらの連合部隊なのかを問い質す。

 

「………確認しました! グロリアーナ・プラウダ連合です!」

 

そこで清十郎は双眼鏡を覗き込み、追撃して来ているのがグロリアーナ・プラウダ連合である事を確認する。

 

「先ずは向こうが来たか………」

 

「各員、冷静に対処しろ。本格的な戦闘は市街地に入ってからだ」

 

くろがね四起の運転席に居た地市が、バックミラーでグロリアーナ・プラウダ連合を確認していると、助手席の弘樹が歩兵部隊の皆にそう呼び掛ける。

 

やがて、大洗・知波単連合は交差点に差し掛かると、あんこう・とら、アヒル・ペンギン、アリクイ・キツネ、福田の九五式、カモ・マンボウ、カバ・ワニと玉田のチハ(新砲塔)に知波単歩兵部隊の半数が右折。

 

ウサギ・ハムスター、カメ・ツル、カレン・ライ分隊、三式改・四式・五式と絹代のチハ(旧砲塔)に知波単歩兵部隊の残り半数、そしてレオポン・おおかみが左折した。

 

「こっちこっちー!」

 

「鬼さんコチラ、手の鳴る方へ」

 

最後尾に居たレオポンさんチームとおおかみさん分隊の内、ナカジマと海音がそう挑発の言葉を投げ掛ける。

 

しかし、グロリアーナ・プラウダ連合はそれを無視して、全部隊がみほの居る方へと向かった。

 

みほ達の部隊は、そのまま県道2号を直進。

 

やがて、あんこう・とら、カモ・マンボウ、カバ・ワニが不意に右折したかと思うと、残りのメンバーは県道2号を直進。

 

「57ミリ砲のスパイク! 受けてみよ! そーれっ!!」

 

そこで、最後尾に居た八九式が、追撃して来ていたグロリアーナ・プラウダ連合を挑発する為に発砲。

 

玉田車も続けて発砲する。

 

しかし、またもグロリアーナ・プラウダ連合は無視し、みほの方へと向かう。

 

「アレ?」

 

「如何した、グロリアーナにプラウダ! 臆したかっ!!」

 

その光景に典子が首を傾げ、玉田が吼える。

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊がみほ達と同じ道に入り、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が手前の広い道に入る。

 

「黒森峰戦は良く見てました………戦力の分散を狙っても無駄ですよ」

 

決勝戦の良く研究していたオレンジペコは、大洗機甲部隊を相手に戦力を分散させるのは下策だと十二分に理解しており、挑発に乗らない。

 

生き残っていた6輌のクルセイダーが先行する。

 

「「…………」」

 

その様子を、空地を挟んで目視するみほと弘樹。

 

やがてクルセイダー部隊は、みほ達の正面に回れる道を発見し、侵入。

 

一気に進行方向へと躍り出ようとする。

 

「やはり速い………囲まれるぞ」

 

このままでは挟み撃ちを受けると麻子が言って来る。

 

「カモさん、先行して下さい。加速して一気に突っ切って! 重量差が有るから大丈夫!」

 

「「「ハイッ!!」」」

 

するとそこで、みほの指示でⅣ号が車体右側のシュルツェンをガードレールに擦り付けながら道を開け、カモさんチームのルノーB1bisを先行させる。

 

「カバさんも続いて下さい!」

 

「心得たっ!!」

 

更に、カバさんチームのⅢ突も続く。

 

と、最初に突入して来たクルセイダーが発砲して来たが………

 

「おりゃあっ!」

 

砲弾は外れ、突っ込んで来たルノーB1bisにより弾き飛ばされる!

 

弾き飛ばされたクルセイダーに、残りのクルセイダーが玉突きで激突!

 

動きが止まっている間に、Ⅲ突とワニ分隊、マンボウ分隊も突破に成功する。

 

「そら、お土産だ!」

 

その通り抜け様に、磐渡が収束手榴弾を投擲!

 

クルセイダー部隊の1番先頭に居た、ルノーB1bisに弾き飛ばされた車輌に当たった収束手榴弾は大爆発。

 

爆煙が晴れると、白旗を上げたクルセイダーの姿が露わになる。

 

そして、Ⅳ号ととらさん分隊は、玉突きしていたクルセイダー部隊の横を擦り抜け、逆にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の前に出る。

 

「正面、来るわよ!」

 

「!!」

 

アッサムからそう報告され、オレンジペコの表情が若干強張る。

 

チャーチルの正面に躍り出るⅣ号ととらさん分隊。

 

その瞬間にチャーチルは発砲したが、砲弾は外れる。

 

反撃にとⅣ号も発砲。

 

砲弾はチャーチルの砲塔右側面に当たって弾かれ………

 

るかと思われた瞬間に爆発!!

 

「「「「「!? うわああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

その爆発と共に飛び散った破片を真面に浴びてしまったブリティッシュ歩兵達数名が戦死判定を受けて倒れ伏す。

 

「!? しまった! 榴弾!!」

 

砲弾が榴弾であり、狙いが随伴歩兵であった事に気づいたペコが思わず声を挙げる。

 

「オノレェッ! 小癪なぁっ!!」

 

と、無事だったオレガノが、PIATを構える。

 

「喰らえっ!!」

 

「!………」

 

そして、Ⅳ号目掛けて発射したが、その瞬間に弘樹が四式自動小銃を構えて発砲!

 

PIATから対戦車擲弾が飛び出した瞬間に、四式自動小銃の弾丸が命中!

 

「!? うおわあああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

至近距離での爆発に、オレガノは成す術無く戦死判定となった。

 

「! オレガノッ!!」

 

セージの声が挙がる中、Ⅳ号ととらさん分隊の面々は、混乱していたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の横を擦り抜けて行こうとする。

 

………と、その時!!

 

「真打ち登場ーっ!!」

 

そう言う台詞と共に、脇道からルクリリが姿を見せているマチルダⅡが現れた!

 

「!?」

 

「まだマチルダⅡが居たのかっ!?」

 

「!!………」

 

みほが驚き、地市が声を挙げる中、弘樹が吸着地雷を手にし、ルクリリ車に飛び掛かろうとする。

 

………が!

 

「貸せ、弘樹っ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

何と了平が弘樹の持っていた吸着地雷を引っ手繰り、そして代わる様にくろがね四起から跳躍し、ルクリリ車にへばり付いた!

 

「何っ!?」

 

「了平! 貴方、そこまでっ!!………」

 

ルクリリが驚き、楓が了平の勇気ある行動に感銘を覚えたが………

 

「どーもー! 私、大洗男子校の綿貫 了平と言います! お嬢さん、彼氏とか居ます!?」

 

「………一瞬でもそう思った僕が馬鹿でした」

 

了平がマチルダⅡにへばり付いたままナンパを始めたのを見て、一瞬で失望の溜息を吐く。

 

「な、何だ、コイツ! 気持ち悪いっ!!」

 

そんな了平の姿を見たルクリリは、吐き捨てる様にそう言い放つが………

 

「ありがとうございますっ!!」

 

美少女からの罵倒は御褒美ですと言わんばかりに、了平は大声でお礼を言う。

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その了平の姿に気持ち悪さを通り越して恐怖を覚えたルクリリは、悲鳴の様な叫び声を挙げながら、了平に蹴りを入れた!

 

「ぐええっ!? 更に御褒美!!」

 

了平がそんな事を言いながら道路に落ちると………

 

「くたばれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

大凡淑女が絶対に口にしないであろう罵声を挙げて、ルクリリが機銃架に備えてあったブレン軽機関銃を了平目掛けて発砲!!

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

悲鳴を挙げる了平に、憑りつかれた様に弾丸を浴びせ続けるルクリリ。

 

やがて、弾倉内の弾が全て無くなり、ブレン軽機関銃が乾いた音を立てると………

 

「…………」

 

そこには全身ズタボロで、最早ボロ雑巾と見間違えそうになりそうな様子の了平が、当然戦死判定を受けていた。

 

しかし………

 

気のせいか、その表情には僅かに恍惚の様子が見える………

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

荒くなった呼吸を整えようとするルクリリ。

 

「ルクリリさん、大丈夫ですか?」

 

とそこで、何時の間にか反転して来ていたチャーチルがマチルダⅡの傍に止まり、ハッチから姿を見せていたオレンペコがルクリリに声を掛けた。

 

「! 総隊長代理! 大洗の連中………あ、いえ、方々は!?」

 

そこでハッと我に帰ったルクリリが、オレンジペコにそう尋ねる。

 

「逃げられました。ルクリリさんが射撃に夢中になっている隙に………」

 

「グッ! す、すみません………」

 

オレンジペコにそう言われ、ガクリと頭を下げるルクリリ。

 

「………流石は大洗ですね。コチラの想像の上を行く戦法を取って来ます」

 

しかし、オレンジペコは真面目に勘違いを起こして、倒れている了平を見ながらそんな事を呟く。

 

「いや、アレは違うわ………絶対に」

 

そんなオレンジペコに、アッサムがそうツッコミを入れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

三つ巴戦になっているせいで、戦闘が激しさを増しています。
注目点は、大洗の戦い方を熟知している各校連合部隊がどう動くかですね。

それで、グロリアーナのニルギリですが、オリジナル設定でクロムウェルをチャレンジャーに改造してみました。
やはりサンショウウオさんチームと被るのと、グロリアーナの火力強化の為です。

相変わらずブレない了平(笑)
寧ろ悪化している?
彼に春は訪れるのでしょうか?

中々話が進まなくて申し訳ありません。
最近如何にも書く力が衰えてきている感じがしまして………
ですが、失踪する積りは毛頭ありませんのでご安心ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター4『魔女の婆さんの鍋の様な戦場です!』

今年最後の更新です。

漸く最終章の1話が公開されて、2017年が終了。

果たして、来年中に2話目が見れるのでしょうか?(笑)

来年も『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』をよろしくお願い致します。


『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター4『魔女の婆さんの鍋の様な戦場です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

了平と言う尊い(?)犠牲は出たものの………

 

グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊を振り切ったみほ達………

 

しかし、まだ………

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊が執拗に追撃を掛けて来ていたのだった………

 

 

 

 

 

大洗町・大洗駅へと通じる道………

 

逃げるⅣ号ととらさん分隊を、プラウダ&ツァーリ機甲部隊が追撃している。

 

「良いぞ、弘樹!」

 

「………!」

 

と、くろがね四起の後部座席に移動していた弘樹が、地市の合図で八九式重擲弾筒から擲弾を放った!

 

「「「「「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

プラウダ&ツァーリ機甲部隊の中に降り注いだ擲弾は、ツァーリ歩兵数名を吹き飛ばし、戦死判定にする。

 

「やったわねぇっ!!」

 

カチューシャのT-34-85が、お返しとばかり主砲を発砲する。

 

しかし、Ⅳ号ととらさん分隊は、素早く十字路を左折し、砲弾をかわす。

 

「クウッ!!」

 

それにカチューシャが苦々しげな顔を浮かべながらも、自車を続けて左折させる。

 

と、後続のT-34-76が続けて左折しようと十字路に差し掛かった瞬間!

 

右折方向の路地から砲弾が飛んで来て、T-34-76の車体後部に命中!

 

T-34-76は白旗を上げて、十字路の中で立ち往生する。

 

「!? 停止っ!!」

 

爆発音で気づいたカチューシャが停止指示を出して振り返ると、黒煙を上げているT-34-76の先に、路地を逃げて行くクロムウェルの姿を確認する。

 

「クソッ!!」

 

「やったなぁっ!!」

 

仲間をやられた別のT-34-85とツァーリ歩兵の一部がクロムウェルを追おうとしたが………

 

「待ちなさいっ!!」

 

「!?」

 

カチューシャにそう言われてピタリと止まる。

 

「挑発に乗らないの! フラッグ車だけを狙いなさいっ!!」

 

「「! 了解っ!!」」

 

そして次の命でクロムウェルの追撃を諦め、T-34-76が十字路を塞いでしまったので、角の家屋を破壊してカチューシャに合流する

 

後続もそれに倣い、再びⅣ号を追い始める。

 

「分断作戦に乗って来ませんね」

 

「うん………」

 

「我々の戦い方をかなり研究している様だな。戦力を分散させては危険だなと思っているんだろう」

 

その様子を見ていた優花里とみほがそう言い合うと、弘樹がそう分析を述べて来る。

 

「もう1回、相手のフラッグ車とタイマン張ります?」

 

「周りが多いから危険かも。それにそろそろ黒森峰・サンダース連合も来るだろうし………麻子さん、逃げてるけど、逃げきれない感じで走って下さい」

 

「分かった」

 

華の意見にそう返すと、みほは麻子に高度な操縦を要求し、麻子は事もなげに返す。

 

「弘樹くん。もう少ししたら出番になると思うから、お願い」

 

「了解しました」

 

そして更に、弘樹へそう呼び掛けると、弘樹はみほに向かってヤマト式敬礼を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗ゴルフ倶楽部では………

 

「総隊長代理………申し訳ありません」

 

そう呟きながら、姿を見せていたキューポラから、ガクリと砲塔の天板の上に崩れ落ちるニルギリ。

 

彼女のチャレンジャー巡航戦車は、彼方此方に被弾痕が有り、装甲も黒く煤けた状態で白旗を上げている。

 

そのチャレンジャー巡航戦車の周りでは、多数のアキリーズとT-34-76、T-34-85が白旗を上げて擱座し………

 

バラバラになった対戦車砲の残骸と混じって散らばる様に倒れ伏して戦死判定となっているツァーリ砲兵部隊の姿が在った。

 

「ふう………被害を報告して下さい」

 

それを確認した小梅が一息吐くと、すぐに自部隊の損害報告を求める。

 

「パンター7輌、ティーガーⅡ3輌、シャーマン5輌、シャーマン76ミリ砲型4輌。歩兵部隊も両部隊合わせて中隊規模ほどが戦死判定です」

 

小梅車の隣に並んだ別のパンターのキューポラから姿を見せていた車長が、小梅にそう報告する。

 

「…………」

 

報告を聞いた小梅は一瞬苦い顔を浮かべる。

 

何とか撃退には成功したものの、かなりの損害を出してしまった。

 

不甲斐ない自分に憤りを覚える。

 

「………残存部隊は直ちに体勢を立て直して下さい。本隊に合流します」

 

しかし、反省は後で幾らでも出来る。

 

今しなければならない事は、この試合について考える事だ。

 

小梅はすぐに頭を切り替えてそう命じた。

 

「了か………」

 

い、と隣に並んでいたパンターの車長が返そうとした瞬間!!

 

突如そのパンターが爆発!

 

「!? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

不意を衝かれる形になったパンターの車長は思わず大きく仰け反ってしまい、爆風に煽られて砲塔から地面目掛けて転がり落ちた!

 

「!?」

 

「赤星さん! 12時方向です!!」

 

小梅が驚いていると、1輌のティーガーⅡの車長からそう報告が挙がる。

 

「!!」

 

12時方向を見た小梅の目に、砲門から白煙を上げるIS-2の姿が飛び込んで来る。

 

「! IS-2! ノンナさんの以外にも有ったのっ!?」

 

小梅が声を挙げた瞬間!

 

IS-2が再び発砲!!

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

黒森峰・カーネル歩兵達が纏めて吹き飛ばされる。

 

「! 砲塔旋回!………駄目! 間に合わない! 突っ込んでっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

それでハッと我に返った小梅は、IS-2を狙おうとしたが、今からでは照準を合わせる前に第3射が放たれると判断し、車内へ引っ込むと自車を突っ込ませた!!

 

小梅車はIS-2の左側面に突っ込み、甲高い金属音を響かせる!

 

「離れないで! 122ミリなんて喰らったら即昇天です!! 後方に回り込んでっ!!」

 

激しく揺さぶられる車内でキューポラにしがみ付きながら、そう指示を飛ばす小梅。

 

IS-2は小梅車を引き離そうとするが、小梅車は車体を擦り付けながらも後ろを取ろうとする。

 

と、揉み合っている内に2輌はお互いに並走する様な位置となり、小梅車の主砲照準が、IS-2の砲塔後部に重なった!

 

「撃てっ!!」

 

迷わず射撃を指示し、至近距離からIS-2の砲塔後部に主砲を撃ち込む小梅車。

 

しかし、角度が悪かったのか、砲弾は僅かに被弾痕を残しただけで弾かれてしまう。

 

「チクショウッ! コイツは化け物よっ!!」

 

砲手の子が思わず声を挙げる。

 

「!! 小梅さん! あのIS-2は前期型です!! 車体正面のバイザーブロックを狙って下さいっ!! そこが1番装甲が薄いですっ!!」

 

その時、装填手が相対しているIS-2が前期型である事に気づき、前期型特有の弱点は車体正面の操縦手用の覗き窓であると告げる。

 

「! 敵車輌の正面にっ!!」

 

すぐさま小梅の指示が飛び、パンターは砲塔を旋回させながらIS-2の正面に出る!

 

「そこですっ!!」

 

そして、バッチリと狙いを合わせていた車体正面のバイザーブロックに1発叩き込む!!

 

派手に爆発を起こすIS-2。

 

戦車道の為、車内へ砲弾が飛び込む事は無く、砲弾はバイザーブロックに深々と突き刺さっているが、IS-2はまだ嫌な音を立てて砲塔を旋回させている。

 

「情け無用! フォイアッ!!」

 

小梅は容赦せず、トドメの1撃を叩き込んだ!!

 

漸くIS-2から白旗が上がる。

 

「危なかった………」

 

小梅は額の汗を拭いながら、撃破されたパンターの元へ向かう。

 

「大丈夫?」

 

「車長が!」

 

「う、うう………」

 

小梅が問うと、先程地面に転がり落ちた車長が、腕を押さえて呻き声を漏らしている。

 

如何やら、落下した先で強かに打ったらしい。

 

「!!」

 

すぐさま小梅は、備え付けの救急セットを手に飛び出すと、パンター車長の応急手当に入る。

 

「赤星さん………私の事なんて放って於いて………前線に戻って下さい………」

 

と、パンター車長は自分の事など気にせずに前線へ戻ってくれと言う。

 

「何を言ってるの。私が1人でも見捨てた事がある?」

 

だが、小梅はパンター車長の手当てを続ける。

 

「………良し、コレで何とか」

 

そうこう言っている内に、応急手当を終える小梅。

 

「負傷者は何処ですか?」

 

とそこで、衛生兵を思わせる姿の連盟の救護部隊員達が到着する。

 

「この子です、お願いします」

 

「分かりました」

 

小梅がそう言うと、衛生兵達はパンター車長を担架に乗せて搬送し始める。

 

「赤星さん………ありがとう」

 

去り際にパンター車長は、小梅への感謝を口にするのだった。

 

「………すぐに本隊に合流します」

 

それを聞きながら、小梅はすぐに自車へと戻ると、そう命を下す。

 

「小梅さん。さっきの無茶でエンジンが悲鳴を挙げてますよ」

 

とそこで、操縦手が先程の体当たり戦法のせいで、エンジンから異音が聞こえ始めていると報告する。

 

「構いません。私にはワルキューレの声に聞こえます」

 

しかし、小梅はそんな言葉を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び大洗町の町内では………

 

「! 桂利奈! そこ左折して停止っ!! エンジンも切ってっ!!」

 

「あいっ!!」

 

何かを発見した梓が、すぐにM3リーを家屋の陰に隠し、息を顰める。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

ハムスターさん分隊もそれに倣う。

 

するとそこで………

 

正面に在った2車線の十字路を、黒森峰・サンダース連合の本隊が通り抜けようとして行く。

 

「黒森峰とサンダース………」

 

「向こうも追い付いて来ましたか………」

 

「こうなると乱戦は避けられないですね」

 

梓が呟くと、勇武と清十郎もそう言い合う。

 

(少しでも敵の戦力を減らさないと………となると狙うのは指揮官クラス………)

 

と、梓がそう思った瞬間………

 

目の前をまほのティーガーⅠとケイのシャーマンが通り過ぎようとする。

 

(! まほさんとケイさん………いや、駄目だ! 今の私達の実力じゃ歯が立たない………)

 

一瞬仕掛けようかと考えた梓だったが、実力に差が有り過ぎると考え、思い留まる。

 

消極的な考えかも知れないが、無茶をするだけが戦いではない………

 

彼我の戦力を見極め、冷静に行動する事こそが大切なのだ。

 

すると、今度はエリカのティーガーⅡが通り過ぎようとする。

 

(確か、黒森峰戦車部隊副隊長の逸見 エリカさん………ティーガーⅡ………M3との性能は比べ物にならない………でも!!)

 

意を決したかの様な表情となる梓。

 

「………炎苑くん。お願いがあるんだけど」

 

「えっ? 何ですか?」

 

不意に声を掛けられて、光照がキョトンとしながら返事を返す。

 

 

 

 

 

2車線の通りを進む黒森峰・サンダース連合………

 

「周囲の警戒を怠るな」

 

「此処は大洗のホームよ。何処から飛び出して来るか分からないわ」

 

まほとケイの指示が飛び、両校の戦車部隊と歩兵部隊は周囲を注意深く警戒する。

 

「………うん?」

 

とそこで、エリカが何かに気付いた様な様子を見せる。

 

「停止」

 

「あ、ハイ」

 

不意にエリカは、自車を停車させる。

 

「如何しました、逸見副隊長?」

 

「…………」

 

随伴歩兵部隊の分隊長が声を掛ける中、エリカはジッと通りの右側に在った1軒の家を注視する。

 

そしてその目が、その家の生垣の中に僅かに覗いていた2門の砲門を見つける。

 

「! 砲塔2時! 敵よっ!!」

 

「! 了解っ!! 射線上の味方は退避して下さい!」

 

エリカの指示が飛ぶと、すぐにティーガーⅡの砲塔が旋回し、生垣へと合わされる。

 

それと同時に、その射線上の味方が退避する。

 

「M3リーね。良い感じに隠れてたみたいだけど、残念だったわね………フォイヤァッ!!」

 

そしてエリカの号令で、ティーガーⅡの主砲が火を噴き、生垣を吹き飛ばす!

 

爆発する生垣の中から………

 

炎に包まれた『2つの対戦車砲』が飛び出して来る!!

 

「!? 対戦車砲っ!?」

 

「今だぁっ!!」

 

直後に、吹き飛ばされた生垣の家屋の隣に在った木造家屋を突き破って、M3リーが突撃して来た!!

 

「!? しまった! 偽装かっ!?」

 

「副隊長車を守れっ!!」

 

すぐに黒森峰歩兵とカーネル歩兵達が防御に入ろうとするが………

 

「撃て! 撃てぇーっ!!」

 

M3リーが突き破って来た木造家屋の残骸の中からハムスターさん分隊が現れ、機関銃で弾幕を張る!

 

「うわあっ!?」

 

「ぎゃああっ!?」

 

弾幕を浴びた黒森峰歩兵とカーネル歩兵達が倒れ、戦死判定となる。

 

その光景を横目に、M3リーは更にティーガーⅡに接近する。

 

至近距離からの砲撃で撃破を狙う様だ。

 

だが、そこで………

 

1輌のシャーマン76ミリ砲搭載型が、M3リーの行く手に割り込んだ!

 

「! 撃てぇっ!!」

 

「「発射っ!!」」

 

反射的に梓は砲撃を指示し、あゆみの主砲とあやの副砲が同時に火を噴く。

 

主砲弾は至近距離だったので正面装甲を貫通し、副砲弾は上手く砲塔基部に命中。

 

割り込んだシャーマン76ミリ砲搭載型は白旗を上げる。

 

「桂利奈! 弾き飛ばしちゃってっ!!」

 

「あいーっ!!」

 

そしてそのまま、M3リーは割り込んだシャーマンを弾き飛ばし、再度ティーガーⅡへ向かう。

 

「装填急いで!」

 

「…………」

 

「ちょっと待って~」

 

副砲装填手の紗希が装填を終える中、通信手兼主砲装填手の優希は手間取る。

 

と………

 

「惜しかったわね………」

 

エリカがそう言った瞬間、既に照準と装填を終えていたティーガーⅡの主砲が、M3リー目掛けて放たれた!!

 

「「「「「!? きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

突撃で近づいていた為、威力の上がった71口径8.8 cm KwK 43 L/71を喰らったM3リーは、まるでゴム鞠の様に後ろに向かって弾き飛ばされ、左車線側に在った家のシャッターと電柱に当たり、その反動で反対側に飛ばされると、そこに在った民宿『大勘荘』のポールサインに当たって止まり、横倒しになる。

 

更にその上に、壊れた『大勘荘』のポールサインが乗っかってしまう。

 

「割り込んで来たシャーマンを撃破したのは失策だったわね。かわしてすぐに砲撃すればチャンスは有ったものの………」

 

と、エリカがそう言った瞬間………

 

突然ティーガーⅡが爆発に包まれた!!

 

「!? なっ!?………!? ウオッ! ゴホッ!!」

 

不意に襲い掛かった爆煙を吸い込んでしまい、エリカは………

 

むせる

 

そして次の瞬間には、ティーガーⅡから白旗が上がった。

 

「やったっ!!」

 

「逃げますよっ!!」

 

「!?」

 

そう言う声が背後から聞こえて来て、エリカが振り返ると、路地の隙間から逃げる様に去って行く1輌のジープと、その荷台部分で撃ち終えたパンツァーファウストを持っている光照の姿を目撃する。

 

「撤収っ!!」

 

そこで、弾幕を張っていたハムスターさん分隊の面々も退却する。

 

「まさか………自分達を囮に歩兵に撃破させたって言うの!? こんな捨て身で来るなんて………」

 

エリカが思わず顔を歪める。

 

本来ならば歩兵は戦車を守る盾である。

 

それが逆に戦車を盾に攻撃を敢行して来るなど、戦車道に深くのめり込んでいる者こそ思い浮かばなくなってしまう。

 

そこを衝かれた様だ。

 

「エリカ、大丈夫か?」

 

「西住総隊長………申し訳ありません」

 

心配して下がって来たまほに、エリカは申し訳無さそうに頭を下げる。

 

「………今の一戦から何かを得たか?」

 

「えっ?………」

 

ふとそこで、まほがそんな事を問うてきて、エリカは一瞬首を傾げる。

 

「得られたのならそれはお前にとって大きな糧になる………大事にしろ。次の黒森峰はお前達の時代だ」

 

「! ハイッ!!」

 

そう言われて、エリカは表情を引き締めると、姿勢を正して、まほに向かって敬礼した。

 

「…………」

 

それを見たまほは、今度は撃破されたM3リーに視線を移す。

 

「やられた~」

 

「でも黒森峰の副隊長と相討ちだよ~」

 

「相討ちって言えるのかな~?」

 

「紗希ちゃんは如何思う?」

 

「………ちょうちょ」

 

「もう~、紗希ったら~」

 

撃破されたM3リーから脱出したウサギさんチームの面々が、和気藹々とした様子で居る。

 

(まだまだ削りは荒い様だが………みほも良い後継者を見つけた様だな………何時か彼女達が1人前になったら………戦ってみたいものだ)

 

そんなウサギさんチームの姿を見ながら、まほはそう思いつつ微笑を零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大洗の手を分かっているだけに、戦力分散を避けるプラウダ&ツァーリ。
しかし、それで手を拱くみほではありません。
次の作戦は?

今回の主役1の小梅。
本編ではやや冷遇気味はパンター乗りですが、ガルパンを通じて『黒騎士物語』を知った私はパンターが好きです。
なので、彼女は結構厚遇するかもです。
早速黒騎士ごっこをやってもらいました(笑)

更に今回の主役2のウサギさんチーム。
原作では調子に乗ってノンナにやられてしまいましたが、ウチのウサギさんチームは原作よりも成長の度合いが大きかったので、調子に乗ってやられてしまうのでは何かアレだなと思い、エリカと相討ちになってもらいました。
まほも認める彼女達の実力。
これからの更なる成長に御期待下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター5『突撃せよです!』

何人かには感想へのご返信でご挨拶させていただきましたが、

改めまして、新年あけましておめでとうございます。

今年も『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』をよろしくお願い致します。


『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター5『突撃せよです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウサギさんチームが、エリカと相討ちとなっていた頃………

 

グロリアーナ・プラウダ連合に追われるあんこうチームととらさん分隊は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・町役場………

 

「コレからOY10地点を通過します!」

 

「SIC EST!」

 

「御意!」

 

「ALLES KLAR!」

 

みほがそう言うと、カバさんチームのカエサル、左衛門佐、エルヴィンから、其々ラテン語、日本語、ドイツ語での了解が返って来る。

 

既に大洗町役場の辺りでは、カバ・ワニ、レオポン・おおかみ、アヒル・ペンギン、アリクイ・キツネ、カメ・ツル、カモ・マンボウ、そして知波単の玉田車と福田車にその随伴歩兵分隊が防衛線を展開していた。

 

そして、あんこうチームととらさん分隊が、大洗文化センター脇の道から、大洗町役場の前を通り過ぎる道を通過する。

 

「撃てっ!!」

 

その直後、エルヴィンの掛け声と共に放たれた砲弾が、あんこうチームととらさん分隊を追っていたグロリアーナ・プラウダ連合の先頭に居たT-34-76を撃破する。

 

それを皮切りに、役場前防衛線の全部隊から一斉に砲撃と銃撃が開始される。

 

「弾幕を切らすなっ!」

 

「ツァーリの突っ込みに注意しろっ!!」

 

ブローニングM1919重機関銃やバイポットを立てたMG42で弾幕を張っている大洗歩兵達は、ソ連軍並みのツァーリ歩兵達の突っ込みを警戒する。

 

そこで、三式が放った砲弾が、新たにT-34-76を1輌撃破する。

 

「命中したぴよ!」

 

「撃破数更新ぞなもし!」

 

「上手くなったものだもも!」

 

「油断するな! 相手はまだまだ居るぞっ!!」

 

三式改の車内で、歓喜の声を挙げるアリクイさんチームに、ハンターの注意が飛ぶ。

 

「ええい! 一体突撃は一体何時するのだっ!!」

 

一方で、その三式改と八九式に挟まれる形で陣取っているチハ(新砲塔)では、玉田がそう不満の声を挙げる。

 

「いやいや、だから防衛戦で突撃はしませんって」

 

「コイツ等は死にたがりなのか?………」

 

武志が宥める様にそう言うと、大詔が呆れた様に吐き捨てる。

 

『コチラ西。コチラもゆっくら健康館にて防衛線を展開。再度黒森峰・サンダースの足止め中。それから、ハムスターさん分隊の皆はコチラに合流したわ』

 

とそこで、ゆっくら健康館にて防衛線を形成していた絹代からそう通信が入る。

 

「了解。この間にチャーチルを狙いつつ足の速いクルセイダー部隊を処理します。それまで持ち堪えて下さい」

 

「こちら神大。了解した」

 

『任せておいて』

 

みほがそう言うと、大洗町役場防衛線の指揮を執っている迫信と、ゆっくら健康館防衛線の指揮を執っている絹代から返事が返って来る。

 

「とらさん分隊。コレよりクルセイダー迎撃作戦に入ります。手筈通りにお願いします」

 

「了解。とらさん分隊、一時離脱します」

 

続いて、みほは弘樹に向かってそう言うと、弘樹がそう返して、とらさん分隊の面々がⅣ号の随伴から数名ごとに班を作って分散して行った。

 

「カチューシャさん、如何しますか?」

 

グロリアーナ・プラウダ連合のフラッグ車であるチャーチルは、万が一を考えて後退し、オレンジペコが総指揮官であるカチューシャに問う。

 

「慌てるんじゃないわよ! 前進に決まってるでしょっ!! こんなチマチマしたチビっこい連中! 削って削って削り取って、ピロシキの中の御惣菜にしてあげるわ!!」

 

当のカチューシャは、強気に攻勢に出ようとしている。

 

『Ⅳ号、今の内に回り込んでチャーチルの背後を突くという事はありませんか?』

 

『みほさんならあり得ますね、クラーラ』

 

そこでクラーラとノンナは、みほが背後からチャーチルを攻撃する積りなのではと推測する。

 

「ちょっと貴方達! 日本語で話しなさいよ!! ノンナ! 先鋒!!」

 

とそこで、またロシア語での会話に文句を言いつつ、カチューシャがノンナに前に出る様に命じる。

 

「ハイ」『フラッグ車の護衛、よろしく』

 

『了解』

 

カチューシャへの応答だけ日本語で返すと、ノンナはクラーラにチャーチルの護衛を任せ、前進する。

 

「ローズヒップさん、Ⅳ号の狙いは恐らく私達です。そこを考えて行動して下さい。くれぐれもスピードを出す事にばかり囚われないで下さいね」

 

一方でオレンジペコもみほの狙いを読んでおり、遊撃で動いているローズヒップにそう通信を送る。

 

「勿論でございますわ!」

 

それに対し、相変わらず微妙に間違っているお嬢様言葉で返すローズヒップ。

 

「IS-2が前に出て来た! 各員、警戒せよ!」

 

一方で、ノンナのIS-2が前進して来るのを見て、迫信が大洗町役場防衛線メンバーにそう呼び掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、離脱したⅣ号の方は………

 

「………また来たぞ」

 

再び姿を現したクルセイダー部隊を見て、麻子が若干うんざりした様子でそう呟く。

 

「発見ですわぁ! やっつけますわよぉっ!!」

 

そんな麻子の様子など露知らず、ローズヒップが率いるクルセイダー部隊はⅣ号へと向かう。

 

発見と同時に先頭に居たローズヒップ車が発砲するが、狙いが甘かったので外れる。

 

「クルセイダー部隊、来ました。コレより誘導を開始します。とらさん分隊の皆さん、お願いします」

 

そしてみほは、喉頭マイクを押さえながらそう指示を飛ばすのだった。

 

更に、正面からクルセイダー部隊に向かってⅣ号が発砲。

 

クルセイダー部隊は広がる様にして躱すと、Ⅳ号はその空いた隙間を通ってクルセイダー部隊を突破。

 

すぐさまクルセイダー部隊は一斉にスピンターンをし、Ⅳ号を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗町役場防衛線では………

 

「アゴーニッ!!」

 

「ファイヤーッ!!」

 

プラウダ戦車部隊とツァーリ・ブリティッシュ砲兵部隊から、大洗町役場防衛線の部隊に激しい砲撃が見舞われる。

 

「皆無理しないでねー」

 

「会長は無理して下さいっ!!」

 

「エキシビションだからって、少しはやる気出そうよ」

 

今回は砲手を桃に譲っている為、車長の杏だが、やはり何もしないで干し芋を齧っており、柚子と装填手の蛍からそんな声が飛ぶ。

 

と、前進して来るIS-2の砲塔に砲弾が命中したが、分厚い傾斜装甲の前に弾かれ、IS-2から反撃の砲弾が放たれる。

 

「直線になるぜよ」

 

「1ブロック後退」

 

「全部隊、1ブロック後退だ」

 

と、距離を詰められた為、迫信は全部隊に1ブロック後ろに下がる様に指示する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルセイダー部隊に追われるⅣ号は、狭い路地をクルセイダーからの砲撃をギリギリで避けながら逃げていた。

 

「先頭車、何をやってますの! オレンジペコさんの御紅茶が冷めてしまいますわ!!」

 

中々撃破出来ない上、先頭車を奪われてしまったローズヒップが、若干イラついた様に声を挙げる。

 

とそこで、不意に開けた場所に出たかと思うと、Ⅳ号が素早く反転!

 

クルセイダー部隊の先頭車に主砲を突き付けた!

 

「!?」

 

先頭のクルセイダーが思わず急ブレーキを掛けた瞬間、Ⅳ号は発砲!

 

粗零距離からの砲撃を受け、クルセイダーは若干弾き飛ばされて白旗を上げる。

 

そしてその隙を突き、Ⅳ号は再び細い路地へ入る。

 

「!? しまったっ!?」

 

撃破されたクルセイダーを見て、ローズヒップ車が慌てて停止すると、後続の3輌のクルセイダーも急停止する。

 

「今だっ!!」

 

「コレでも喰らえっ!!」

 

するとその瞬間!

 

民家の塀の向こう側に隠れていたとらさん分隊員が姿を現し、最後尾のクルセイダーに向かって火炎瓶と梱包爆薬を投げつけた!

 

炎上した後、爆発してクルセイダーは白旗を上げる。

 

「!? マジですの!?」

 

「続けーっ!!」

 

「相手に随伴歩兵は居ないぞっ!!」

 

ローズヒップが驚きの声を挙げた瞬間に、更に続々と隠れていたとらさん分隊員達が姿を見せる!

 

「! バニラは後退! グランベリーは私と一緒にⅣ号を追いますわよっ!!」

 

しかし、彼女とて部隊長。

 

素早くそう指示を出すと、後退を指示したバニラ車がバックのまま最後尾の、そしてローズヒップが先頭の撃破されたクルセイダーを押しのけて離脱する。

 

「ゴメンあそばせっ!!」

 

「ああ、クソッ! 逃げられたっ!!」

 

「西住総隊長! 申し訳ありません! 1輌しか撃破出来ませんでした!! 1輌が後退! 2輌が後を追っています!!」

 

地市が悪態を吐く中、楓がすぐにみほへ報告を送る。

 

『分かりました! 任せて下さい!!』

 

みほはそう返すと、Ⅳ号は後退して来るクルセイダーが出てくると思われる路地へと向かわせた。

 

後退したクルセイダー・バニラ車は、バックのまま目一杯飛ばす。

 

そして遂に、露地から飛び出たが………

 

その瞬間をⅣ号に狙い撃ちされ、白旗を上げた。

 

撃破したバニラ車の横を擦り抜けて行くⅣ号を、ローズヒップ車とクランベリー車が追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町役場防衛線………

 

徐々に距離を詰めて来るプラウダ戦車部隊。

 

防衛線は大分後退しており、特に三式改、チハ(新砲塔)、八九式が陣取っている大洗町役場の正面玄関は、砲撃を多数受け、崩壊寸前である。

 

「限界か………総員、撤収準備っ!!」

 

防衛線が持たないと判断した迫信は、大洗町役場防衛線の面々にそう命じる。

 

「そろそろ撤収するよぉ」

 

「「「「「分かりましたっ!」」」」」

 

それをナカジマが中継して皆に伝え、一斉に返事が返って来る。

 

「ん? 何だ? ええい、また不調か………申し訳ありません! 聞き取り難かったのでもう1度お願い出来ますかっ!?」

 

しかし、旧日本軍製故か、通信機の感度が悪い玉田車は命令が聞こえず、復唱を求める。

 

「後退しますっ!!」

 

すると、傍に居た八九式から、砲塔の覗き窓越しに典子がそう叫ぶ。

 

「ハイ?」

 

「後退です!!」

 

「「コ・ウ・タ・イ!!」」

 

後退だと、一言ずつ区切って玉田に伝達する典子とあけび。

 

「ト・ツ・ゲ・キ………! おおっ! その言葉! 待っておりましたぁっ!!」

 

しかし、玉田は何を如何聞き間違えたのか、突撃だと誤解する。

 

そして、玉田のチハ(新砲塔)が防衛線を放棄し、グロリアーナ&プラウダ連合に正面から向かって行く。

 

「うえっ!?」

 

「んなっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「何っ!?」

 

「オ、オイッ!?」

 

「何を考えてんだ、アイツはっ!?」

 

突然単騎で特攻を掛け始めた玉田に、大洗町役場防衛線の面々は仰天の声を挙げる。

 

「突貫っ!!」

 

そんな一同の様子など露知らず、玉田は真正面からグロリアーナ・プラウダ連合に突っ込んで行く。

 

当然、そんな事をすれば………

 

「!? ぎゃああっ!? む、無念っ!!」

 

案の定、玉田のチハ(新砲塔)は、IS-2の砲弾を真面に喰らい、引っ繰り返った後1回転して呆気無く白旗を上げた。

 

「来たぞーっ!!」

 

「逃げるにゃーっ!!」

 

八九式と三式改が、慌てて撤退を開始する。

 

「玉田先輩ーっ! よくもよくもーっ!!」

 

しかし、福田の九五式だけは、玉田の仇を取ろうと突撃しようとする。

 

「ストッープッ!!」

 

だが、八九式がその行く手を遮る様に停まり、止めさせる。

 

「止めないで下さい! このままでは面目が立ちませんっ!!」

 

「今此処でやられちゃったら、それこそ面目立たないよ」

 

「後でキッチリ仕返しすれば良いじゃない」

 

尚も旧知波単精神を発揮しようとする福田を、車体ハッチを開けて姿を見せた妙子と忍がそう説得する。

 

「しかしっ!!」

 

「オイ、福田ちゃんやったかっ!?」

 

とそこで、撤退していたペンギンさん分隊の中に居た大河が足を止め、福田に声を掛けた。

 

「ハ、ハイッ!!」

 

「さっきから潔く散る事ばっか考えとるようやけど、それが美しいとでも思っとるんか!?」

 

「なっ!?」

 

「美しく最後を飾る暇があるなら、最後まで美しく生きてみーやっ!!」

 

「!!」

 

その言葉に衝撃を受けた様な様子を見せる福田。

 

「へえ、珍しく良い事言うじゃない」

 

「愛読しとる漫画から受け売りや! それより撤退や撤退!!」

 

忍が茶化すようにそう言って来るが、大河は気にせずに撤退を急がせる。

 

「~~~♪~~~♪~~~♪」

 

そんな中、ノンナが鼻歌を歌いながら、ポルシェティーガーに照準を合わせる。

 

………歌っている歌が『バイバイブラザー』なのは御愛嬌である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ゆっくら健康館防衛線では………

 

「う~~ん、やっぱり火力的に厳しいわねぇ………」

 

チハ(旧砲塔)のハッチから姿を見せている絹代がそう呟く。

 

現在ゆっくら健康館防衛線は、彼女のチハ(旧砲塔)と知波単の三式改、四式、五式に、カレンのハッピータイガーとサンショウウオさんチームのクロムウェルを中心に大洗・知波単歩兵達によって構成されている。

 

しかし、攻めて来ているのは黒森峰・サンダース連合であり、装甲の厚い黒森峰戦車部隊が前面に出て、盾になる様な陣形を執っている。

 

チハに比べて火力的に優れていると言える三式改、四式、五式ではあるが、相手が分厚い装甲を持つドイツの重戦車部隊とあっては相手が悪かった。

 

チハ(旧砲塔)は当然ながら、三式改や四式、そしてクロムウェルの主砲でも火力不足だった。

 

カレンのハッピータイガーや、88ミリ砲を搭載した五式は対抗出来ているが数が違う。

 

戦況はジリ貧であった。

 

「西隊長! 駄目です! 支えきれませんっ!!」

 

そこで、カレンからそう通信が入って来る。

 

「分かってる。さて、如何したものかしら……?」

 

それに返事を返しながら、絹代は打開策を考える。

 

「こうなったら私達が突っ込んで攪乱を!………」

 

「聖子! 無茶を言わないで下さいっ!!」

 

「決勝戦の時とは状況が違うよ~」

 

聖子が決勝戦の時の様に懐に飛び込んで攪乱しようとするが、あの時とは状況が違うと砲手の優と通信手の伊代が止める。

 

「確かに、飛び込むには数が多過ぎるぜ………」

 

「あ~あ~、『ミハエル・ヴィットマン』なら、これぐらい楽に蹴散らすんだろうなぁ」

 

操縦手の唯と装填手の郁恵もそんな言葉を漏らす。

 

「『ミハエル・ヴィットマン』……?」

 

ふとそこで、絹代は郁恵が口にした旧ドイツ軍の化け物戦車乗り『ミハエル・ヴィットマン』の名を反芻する。

 

「隊長?」

 

「如何しました?」

 

突然考え込む様な素振りを見せた絹代に、カレンとライが首を傾げる。

 

「! そうよ! 『ミハエル・ヴィットマン』だわっ!!」

 

すると、絹代は何かを思い付いた様に、左手の掌に、握った右手を打ち付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゆっくら健康館防衛線の面々から攻撃を受けている黒森峰・サンダース連合の面々は………

 

ティーガーⅡとパンター達が前面に出て、ゆっくら健康館防衛線の面々からの砲撃を自慢の装甲で弾き飛ばしながら、時折応戦しつつ、ジリジリと距離を詰めて行く。

 

「悪いわね、まほ」

 

「いや、気にするな。盾になるのも重戦車の役割だ」

 

ケイにそう返し、まほは黒森峰戦車部隊をゆっくりと前進させて行く。

 

「クックック………このままジワジワと押し潰してやるわ」

 

(ヒッデェ顔だな、オイ………)

 

その様子に思わず下衆な笑みを浮かべるアリサと、そんなアリサの姿に呆れるボブ。

 

するとそこで………

 

突如としてゆっくら健康館防衛線からの砲撃が途絶えた。

 

「?」

 

「砲撃が止んだ?」

 

不意に砲撃が止んだ事を訝しみ、進軍を停止させるまほとケイ。

 

「! まほ! チハが1輌接近して来るぞ!!」

 

「!」

 

そこで都草がそう報告を挙げ、まほはゆっくら健康館の方へと目をやる。

 

「…………」

 

そこには、不敵な笑みを浮かべ、知波単の校章が描かれた旗を付けた竿を右手で掲げ、キューポラから姿を晒している絹代のチハ(旧砲塔)が、ゆっくりと前進して来ていた。

 

「西 絹代………」

 

「ワオッ! コマンダー自らお出まし!?」

 

絹代の姿を見て目を細めるまほと、若干ワクワクしている様な様子を見せるケイ。

 

「…………」

 

すると絹代は、左手に握っていた信号ラッパを口に当てると、徐に突撃ラッパを吹き鳴らした。

 

「突撃ーっ!!」

 

そして、右手に握っていた校旗を、黒森峰・サンダース連合に向かって突き出す様に構えたかと思うと、一気に突撃した!!

 

「! 来るわよっ!!」

 

「何? 知波単の改革者と言われてたくせに、窮したから結局突撃? やっぱり所詮は知波単ね」

 

ケイが声を挙げると、アリサが馬鹿にした様にそう言い放つ。

 

「撃ち方始めっ!!」

 

まほの号令が響くと、黒森峰戦車部隊と砲兵部隊が、突撃して来る絹代のチハ(旧砲塔)に向かって一斉に砲撃を始める。

 

「フフフ………」

 

だが絹代は不敵に笑ったまま、飛来する砲弾をスラローム走行で回避しつつ、更に突っ込んで行く。

 

「! 速いっ!!」

 

「行っけーっ!!」

 

驚きの声をまほが挙げた瞬間、絹代のチハ(旧砲塔)は、その脇を擦り抜けて、一気に黒森峰・サンダース連合の中へ飛び込んだ!

 

「そこまでだっ!!」

 

「後ろから一気にフラッグ車を叩こうって腹の積りだったみたいだが、俺達の存在を忘れていた様だなっ!!」

 

だがそこで、後方に控えていたサンダース&カーネル機甲部隊が、武器を一斉に絹代のチハ(旧砲塔)に向ける。

 

「文字通りに袋の鼠よ! 叩き潰してやりなさいっ!!」

 

(おかしい………)

 

(何故態々コチラの部隊の中へと飛び込んで来たんだ………?)

 

アリサがそう吠えるが、ナオミとジョーイは絹代が何の考えも無くこんな行為に及んだとは思えず怪訝な顔をする。

 

「全車反転」

 

とそこで、まほの号令で黒森峰戦車部隊も反転し、絹代のチハ(旧砲塔)に狙いを定める。

 

絹代車がコチラへ飛び込んで来たので、ゆっくら健康館防衛線からの攻撃は無いと判断したのだ。

 

だが………

 

「今だっ!!」

 

「撃てぇーっ!!」

 

何と!!

 

カレンと聖子の号令が響くと、ゆっくら健康館防衛線からの砲撃が再開された!!

 

「!? 何だとっ!?」

 

「ホワーイッ!?」

 

まほとケイから驚愕の声が上がる。

 

ゆっくら健康館防衛線からの攻撃は、後ろを向けた黒森峰戦車部隊と、絹代車を倒す為に前進して来たサンダース戦車部隊に襲い掛かる!

 

「来たわよ! 腹括りなさいっ!!」

 

「「「了解っ!!」」」

 

そこで絹代は、同乗員にそう発破を掛けると、何と!!

 

味方の砲撃が着弾する敵陣の中を、縦横無尽に走り始めた!!

 

「!? 嘘でしょっ!?」

 

「味方の砲撃が撃ち込まれている中に留まるなんて、何を考えてるんだっ!?」

 

絹代の狂っているとしか言えない行動に、黒森峰・サンダース戦車部隊の隊員達から恐怖の声が挙がる。

 

「そこっ!!」

 

しかし絹代はそんなものは何処吹く風と、1輌のシャーマンに肉薄し、砲塔基部に砲撃!

 

幾らチハ(旧砲塔)の主砲と言えど、戦車の弱点である砲塔基部に攻撃されれば一溜りも無く、シャーマンは白旗を上げる。

 

「このっ!!」

 

と、1輌のパンターが、絹代車を照準器内に捉えたが………

 

直後に背を向けていたゆっくら健康館防衛線の三式改と四式の砲撃を、車体後部に受け、被弾箇所が爆発した後に白旗を上げた。

 

「イッツクレイジーッ!!」

 

「コレが『神風の西 絹代』か………」

 

ケイは絹代の常識外れの戦法に驚きつつも感嘆し、まほは絹代の二つ名を思い出して若干戦慄する。

 

「このぉっ! 『ミハエル・ヴィットマン』のつもりっ!?」

 

とそこで、アリサが絹代車の行く手を塞ぐ様に、主砲を旋回させながら前に出る。

 

「撃………」

 

「撃てっ!!」

 

しかしアリサよりワンテンポ早く、絹代が発砲を命じる。

 

チハ(旧砲塔)の主砲から放たれた榴弾が、アリサのM4A1の主砲身の中へ飛び込むと、発射されたM4A1の砲弾と激突!!

 

砲身内部で榴弾が爆発し、主砲身が砕け散った!!

 

「うわらばっ!?」

 

その際の爆煙を諸に浴びてしまうアリサ。

 

やがてその爆煙が晴れると、砲身が全て無くなって白旗を上げているM4A1と、顔中を煤で真っ黒にしたアリサが姿を見せる。

 

「ブハッ!………あ、あべし………」

 

そして世紀末的な断末魔と共に気を失い、砲塔に力無く項垂れたのだった。

 

「まだまだ勝負はコレからよっ!!」

 

絹代はそう言い、味方の砲弾が次々と撃ち込まれる敵陣の中で爆走を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回は防衛線の場面をお送りしました。
オリジナル展開として、絹代達がゆっくら健康館の方でも防衛線を張り、黒森峰・サンダースを相手取ると言う場面を追加しました。
最後で、絹代が敵陣に飛び込んで、味方が砲撃する中を暴れ回ると言う場面がありましたが、直前の会話で出ていた『ミハエル・ヴィットマン』の話を参照にしました。

何でも、ソ連軍の対戦車砲陣地を叩く為、先ず自分が囮となって対戦車砲の位置を把握し、離脱すると見せかけて味方戦車隊に攻撃させ、ソ連砲兵達が味方戦車隊に引き付けられている間に、陣地の横から突撃して、味方の砲撃をかわしながら蹂躙したとか。
トンでもない話ですね(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター6『エキシビションマッチ、盛り上がってます!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター6『エキシビションマッチ、盛り上がってます!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町役場防衛線が瓦解し、ゆっくら健康館防衛線が激戦を展開している中………

 

クルセイダー3輌を下し、残る2輌に追われているあんこうチームのⅣ号は………

 

 

 

 

 

大洗町・ようこそ通り………

 

スーパーマーケット・ルクス前を通過しながら、Ⅳ号に向かって発砲するローズヒップ車ともう1輌のクルセイダー。

 

Ⅳ号は僅かに左右に移動して躱しながら、砲塔を少し右へ旋回させる。

 

「聖グロ1の俊足からは逃げられないんですのよっ!」

 

そこでローズヒップは勝負に出た様で、自車ともう1輌のクルセイダーでⅣ号を挟み込んで砲撃を見舞おうとする。

 

「撃てっ!」

 

「停止っ!」

 

だが、砲撃のタイミングを見切っていたみほが停止指示を飛ばすと、即座に麻子が急ブレーキ!

 

クルセイダー2輌はⅣ号を追い越してしまい、砲撃も外れる。

 

そしてⅣ号はそのまま、右に向けていた主砲で、右側に居たクルセイダーを撃破!

 

「ゲッ!?」

 

「そこだっ!!」

 

ローズヒップ車が思わず急停車した瞬間に、建物の陰に隠れていた地市が姿を現し、パンツァーファウストを発射する!

 

「! 全速発進ですわっ!!」

 

だが、ギリギリのところでローズヒップ車は再発進。

 

パンツァーファウストの弾頭は、道路に穴を空けるに終わった。

 

「クソッ! 外したっ!!」

 

「でも残り1輌だよっ!!」

 

悔しがる地市を、沙織がそうフォローする。

 

『こちらレオポン。OY防衛線崩壊しました。あとやられちゃった、ゴメンね』

 

「!」

 

しかしそこで、レオポンさんチームから大洗町役場防衛線が崩壊したのと、撃破されたとの報告が入る。

 

「西さん、YK防衛線の方は如何ですか?」

 

すぐにみほは、ゆっくら健康館防衛線の方の絹代に状況を尋ねる。

 

『コッチはまだもう少し持ち堪えられそうよ。ヤバイってんなら救援に行くわ』

 

「お願いします!」

 

絹代の言葉にみほがそう返した瞬間………

 

逃げていたローズヒップ車の前方から、IS-2とカチューシャ車のT-34-85が現れる。

 

「オホホホホホッ! 形勢逆転ですわっ!」

 

素早く反転し、その2輌の後ろに付くローズヒップ車。

 

「見ーつけた!」

 

「左折して下さい」

 

カチューシャが嬉しそうにする中、Ⅳ号は交差点で左折。

 

そのまま狭い路地へと入る。

 

だが直後、建物越しに砲撃を受ける。

 

「!!」

 

すぐにみほが確認すると、隣の通りを走りながら砲撃を見舞って来ていたクラーラのT-34-85の姿を認める。

 

『逃がさないわよ』

 

クラーラは照準器越しにⅣ号を見据えながら、ロシア語でそう言い放つ。

 

「楓! Ⅳ号の傍に行けないかっ!?」

 

「駄目です! 道が狭過ぎますっ!!」

 

一方、Ⅳ号を護衛しようと追うとらさん分隊だが、道幅が狭く、思う様に動けずに居た。

 

やがてクラーラ車は先回りをし、Ⅳ号の正面から砲弾を見舞う。

 

しかし砲弾は外れ、Ⅳ号は十字路を右折。

 

曲がり松商店街へ続く道へと入る。

 

クラーラ車もそれを追って突入。

 

再度Ⅳ号に向かって発砲したが、道路に穴を空ける。

 

Ⅳ号も逃げながら砲塔を後部に向けて発砲したが外れる。

 

直後にクラーラ車がまたも発砲!

 

砲弾は外れ、Ⅳ号の先に在った交差点の信号機の根元に命中。

 

倒れる信号機を躱すⅣ号だったが、クラーラ車は躱せずに激突。

 

衝撃でコントロールを失い、スリップしながら肴屋本店に突っ込みそうになる。

 

しかし、寸前のところでブレーキが間に合い、ギリギリと踏み止まる。

 

「ふう………」

 

ホッと安堵の息をクラーラが吐く中、Ⅳ号は離脱する。

 

と、その直後!!

 

再び追いついて来たローズヒップ車が、交差点に倒れていた信号機を踏み付け、一瞬宙に浮かび、そのままコントロールを失ってスリップする!

 

「おどどどどどどどどどっ!?」

 

ローズヒップが車内で踏ん張る中、彼女のクルセイダーは回転しながら肴屋本店へと向かい………

 

そのまま後部からクラーラ車に激突!

 

すると、クルセイダーの補助燃料タンクが破損し、燃料が漏れ出した!

 

そして、衝突の衝撃で散った火花で火が点き………

 

そのままローズヒップ車とクラーラ車は大爆発!

 

余波で肴屋本店も全壊した………

 

「いやたあぁっ!! よっしゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「またかよ………」

 

「おまえのとこばかり羨ましい」

 

しかし、当の肴屋本店の店主は、補助金がたっぷり出るので万々歳であり、歓喜の声を挙げていた。

 

「そろそろお終いにしてあげる!」

 

そこで、Ⅳ号の追撃を続けるカチューシャ車、IS-2、そしてそこへ合流したチャーチルの中で、先頭を行っていたT-34-85のカチューシャがそう言い放つ。

 

そして、カチューシャ車とIS-2がⅣ号を視界内に捉えると、IS-2が発砲。

 

砲弾は外れ、Ⅳ号が反撃するが、コレも外れる。

 

直後に、今度はカチューシャ車とIS-2が同時に発砲するが、Ⅳ号は上手く射線の間に入り込んで躱す。

 

Ⅳ号はそのままあんばいやの前を通り過ぎて、大洗ホテルの方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃………

 

サンビーチ通りの方では、ルクリリ車とその随伴歩兵分隊に追われる八九式とペンギンさん分隊、九五式の姿が在った。

 

九五式が追って来るルクリリ車に向かって発砲するが、九八式三十七粍戦車砲ではマチルダⅡの分厚い装甲を如何にか出来るワケもなく、甲高い音と共に弾かれる。

 

反撃とばかりにマチルダⅡが発砲!

 

砲弾は九五式の砲塔側面を掠め、九五式が一瞬揺らぐ!

 

「うわっ! アヒル殿! 如何したらっ!?」

 

「広い所は危ないね。だったら!」

 

「あそこやな!」

 

福田がアヒルさんチームに助けを求めると、典子と大河は何かを思い付いた様な様子を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗サンビーチ海水浴場………

 

コチラでは、砂浜をカメさんチームのヘッツァーとツルさんチーム、カバさんチームのⅢ突とワニさん分隊が、T-34-76と随伴歩兵分隊から逃走していた。

 

「オノレェ! 戦車の数ではコチラが勝って居るのにっ!!」

 

「追い駆けっこは固定砲塔不利よね」

 

戦車の数的には自分達が有利の筈だと考える桃だが、柚子の言うとおり、固定砲塔のヘッツァーとⅢ突では、追われていると言うこの状況では限りなく不利だった。

 

(桃ちゃんが砲手だと当たんないから、実質1対1だと思うけど………)

 

一方で蛍は、失礼だが事実な事を考えている。

 

「クソッ! せめて随伴歩兵さえ引き離せれば、我々で撃破可能なものを!!」

 

「世の中は上手く行かない事が多いのさ」

 

十河が悔しそうにする中、余裕の様子を崩さない迫信。

 

「良し! こうなったら、一か八か『アレ』をやってみるぞっ!!」

 

するとそこで、カエサルがそう声を挙げた。

 

「行けー、おりょう! 『ナポリターン』!!」

 

「ぜよぉっ!!」

 

そしてカエサルが叫ぶと、おりょうがⅢ突をその場で180度旋回させ、バックになりつつ射線を確保!

 

そのままT-34-76に向かって発砲!!

 

だが、惜しくも砲弾は外れ、T-34-76はⅢ突の左側面に回り込む。

 

「ああ! そっちは駄目ぜよっ!!」

 

おりょうの叫びも虚しく、Ⅲ突は至近距離から側面に砲撃を受け、フッ飛ばされて白旗を上げ、砂浜の上に引っ繰り返った。

 

「アイタタタ………」

 

「惜しい。もうちょっとだったのに………」

 

ぶつけたのか、頭を押さえながら声を挙げる左衛門佐と、煤けた顔で悔しそうにしているカエサル。

 

「それにしてもカエサル。何故、あの反転攻撃が『ナポリターン』なんだ?」

 

とそこで、エルヴィンがカエサルにそう尋ねる。

 

「いや、『ひなちゃん』がそう言ってたから………」

 

「「「『ひなちゃん』?」」」

 

不意にカエサルの口から出た聞き覚えの無い人物の名前に、おりょう、左衛門佐、エルヴィンは困惑する。

 

「あ、いや………アンツィオ校のカルパッチョの事だ」

 

「アンツィオの?」

 

「何でそいつがひなちゃんなんだ?」

 

「実は………彼女、私が小学校の頃の幼馴染なんだ」

 

「何!? そうなのか!?」

 

意外な事実に左衛門佐が驚きの声を挙げる。

 

「ああ、試合で会った時には昔の記憶と容姿が全く変わってたから気づかなかったんだが………この前、実家に帰った時に近所で偶然出くわしてな。お互いに気づいたんだ」

 

「そうだったのかぜよ」

 

「向こうも、『たかちゃん』も変わったね~って言ってたし………」

 

「「「『たかちゃん』?」」」

 

「あっ!?」

 

思わず口を滑らせ、しまったと言う顔をするカエサルだったが………

 

「た~かちゃん」

 

「カエサルの知られざる一面発見」

 

「ヒューヒュー」

 

すぐさまおりょう、エルヴィン、左衛門佐はからかって来る。

 

「な、何だ! 何がおかしいっ!!」

 

それに対し、顔を真っ赤にして怒鳴るカエサルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、カチューシャ車とノンナのIS-2に追われるⅣ号は………

 

商店街の道を逃走し続け、とうとう大洗ホテル前の磯前神社の大鳥居に差し掛かろうとしていた。

 

そこで、隣の路地を走っていたIS-2が速度を上げて、道路の合流地点で、一気にⅣ号の前に躍り出た。

 

挟み撃ちにされるⅣ号。

 

「麻子さん、右にフェイントを入れながら左の道へ入って下さい」

 

「ほ~い」

 

しかし、みほは慌てずに麻子にそう指示し、麻子がⅣ号をその通りに操縦し、Ⅳ号は磯前神社に通じる坂道を上った!

 

「逃がさないわっ!!」

 

前に出ていたIS-2は停止するが、カチューシャはみほを逃がすまいと、自車も同じ道に入ろうとする。

 

「! カチューシャッ! 危ないっ!!」

 

「!!」

 

だが、何かに気づいたノンナが声を挙げ、それに反応したカチューシャが停止すると、その眼前に砲弾が着弾した。

 

「撃て撃てっ!!」

 

「ココを通すなっ!!」

 

それは、坂の上に土嚢を積んで砲兵陣地を構築していた大洗・知波単砲兵達からの砲撃だった。

 

「! アイツ等、何時の間にっ!!」

 

「姉ちゃん!」

 

「同志カチューシャッ!!」

 

「同志!」

 

カチューシャが声を挙げるとそこで、分散していたピョートルとマーティン、デミトリに猟犬部隊が合流する。

 

「遅いわよ、アンタ達! 早くあの砲兵陣地を如何にかしなさいっ!!」

 

「こんな入り組んだ街中で好き放題動いておいてそれかよ」

 

「ぼやくなピョートル。同志の命令だ」

 

すぐさまカチューシャがそう命じると、愚痴るピョートルの横でデミトリが火炎放射器を構える。

 

だがそこで不意に、大洗・知波単砲兵部隊の砲撃が止んだ。

 

「?」

 

「砲撃が止んだ?………って!?」

 

カチューシャが首を傾げ、マーティンが大洗・知波単砲兵部隊陣地を確認して思わず声を挙げる。

 

何故ならそこには………

 

「…………」

 

2丁のMG42を腰溜めに構えている弘樹の姿が在ったからだ!

 

「ふ、舩坂 弘樹っ!?」

 

カチューシャが戦慄の声を挙げた瞬間………

 

「…………」

 

弘樹は仏頂面のまま、2丁のMG42を発射!

 

毎分1200発×2の弾幕が、猟犬部隊に襲い掛かる。

 

「ギャアアッ!?」

 

「ふぎゃああっ!?」

 

「ぐえええっ!?」

 

次々と戦死判定を受けて倒れ伏して行く猟犬部隊。

 

「うわああっ!?」

 

「チキショーッ! やっぱりアイツは苦手だぁっ!!」

 

「舩坂 弘樹………相変わらず恐ろしい男だ」

 

BA-64の陰に隠れて弾幕をやり過ごしているピュートルとマーティンから悲鳴のような声が上がり、デミトリも若干戦慄を覚える。

 

「いやああっ!? 悪魔よっ!! 赤い肩をした悪魔がぁっ!!」

 

「同志カチューシャッ! 如何かお気を確かにっ!!………ゲホッ! ゴホッ!」

 

そしてカチューシャは思いっきり取り乱し、ノンナは如何にかそのカチューシャに正気を取り戻させようとしながらも、最低野郎の生理現象でむせてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観客達の居るアウトレットでは、思わぬ事態が起こっていた………

 

「どうもで~す」

 

「ズルいぞ! 此処は発砲禁止区域だっ!!」

 

「「知ってま~す」」

 

何と、ルクリリ車に追われていた八九式と九五式が、アウトレット内に逃げ込んで来たのである。

 

観客が居る為、ルクリリ車は発砲出来ず、只2輌を追う事しか出来ない。

 

発砲出来ないのは八九式と九五式も同様だが、元々両車の主砲ではマチルダの装甲を貫けないので、余り意味は無い。

 

「おお、スゲーッ!!」

 

「大迫力だなっ!!」

 

『おおっとぉっ!! 何とアヒルさんチーム! アウトレット内へ侵入して来ましたっ!!』

 

『確かに此処なら発砲は出来ませんからねぇ。いや~、コレは面白い展開ですよ』

 

思わぬ事態に、観客達は興奮し、ヒートマン佐々木とDJ田中も愉快そうな様子を見せる。

 

その間に、八九式と九五式は分散すると、九五式がアウトレットの2階部分へ突入。

 

八九式は1階中庭部分を、ルクリリ車に追われながら走行している。

 

「!? ふわっ!?………くうっ!!」

 

その光景に気を取られたのか、2階通路を進んでいた九五式から姿を見せていた福田が、天井から下がっていた看板に顔をぶつけてしまう。

 

しかし、涙目になりながらも気合で耐え、九五式をアウトレット内の広場に方へ進ませる。

 

そして何と!

 

エスカレーターへと突っ込むと、上手いこと手摺に乗っかり、1階へと向かった!!

 

「!? うわあっ!?」

 

しかし、途中でバランスを崩し、叩き付けられる様に1階に着地する。

 

「アヒル殿! この後はっ!?」

 

だがすぐに立ち直って、広場の噴水の周りをグルグル回りながらルクリリ車と追い掛けっこを続けているアヒルさんチームに問う。

 

「Bクイック試してみるから、取り敢えず従いて来て!」

 

「了解であります! アヒル殿!!」

 

典子がそう答えると、素直に応じる福田。

 

「アヒル殿って、何かやだな………」

 

しかし、その福田からの呼ばれ方に若干の不満を感じる典子だった。

 

「おっちゃん、タコ焼き1つ」

 

「あいよぉっ!」

 

「オイ、何買い食いしてるんだっ!?」

 

「まあまあ固い事いいなさんな」

 

そしてペンギンさん分隊の面々はアウトレット内に出ていた出店で買い食いに興じ、ブリティッシュ歩兵達に呆れられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、サンビーチ通りを国道51号線へ向かう方向………

 

そちらでは、アリクイさんチームの三式改が、T-34-76を2輌引き連れて、国道51号線の方へ向かっていた。

 

「アリクイ、目標地点にもうすぐ到着だぴょん」

 

「コチラ準備OK」

 

「またこんな役か」

 

「良いじゃん、楽で」

 

「ヘッツァーならではの戦法だね」

 

ねこにゃーがそう通信を送ると、カメさんチームの柚子、桃、杏、蛍がそう返す。

 

「行くわよ! スーパー風紀アタックッ!!」

 

「ハイッ!」

 

「ほ~い」

 

更にカモさんチームのみどり子、モヨ子、希美が声を挙げる。

 

アリクイさんチームの三式改は、2輌のT-34-76を引き連れたまま、国道51号線が上を通っている高架橋へ向かう。

 

「まだね、まだまだ………撃てっ!!」

 

そして、アリクイさんチームの三式改が引き連れて来たT-34-76の内、前に出ていた方が高架橋近くまで差し掛かると………

 

ヘッツァーを踏み台に、車体後部を乗せて下向きになっていたルノーB1bisが主砲と副砲を発砲!

 

粗真上から砲撃を受けたT-34-76は撃破され、白旗を上げた。

 

それを見たもう1輌のT-34-76が慌てて停止したが………

 

「撃てっ!!」

 

その瞬間に、ヘッツァーとルノーB1bisのすぐ傍に控えていた紫朗達大洗砲兵の8.8 cm PaK 43が火を吹いた!!

 

アハトアハトの直撃に耐え切れず、もう1輌のT-34-76も敢え無く白旗を上げた。

 

「やったぜ、ベイビーッ!!」

 

その光景を見て、ねこにゃーが歓声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

益々激戦の様子を見せるエキシビションマッチ。
一進一退の攻防が続きます。

それと今回、カエサルとカルパッチョの友達設定について、辻褄合わせてをさせていただきました。
今後の展開を考えると、この設定はやはり取り入れた方が良いと思い、何とか辻褄を合わせてみました。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター7『クライマックスは近いです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター7『クライマックスは近いです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗磯前神社・敷地内………

 

坂を上がり終えたⅣ号は、磯前神社の境内へ進入。

 

そのまま、海へと通じる階段のある鳥居の前で静止する。

 

「舩坂分隊長。状況を報告して下さい」

 

『合流したツァーリ歩兵部隊は半数を排除。しかし、対戦車砲の残弾が尽きます。コレ以上食い止めるのは無理です』

 

みほがプラウダ&ツァーリ部隊を食い止めているとらさん分隊の弘樹に状況を尋ねると、そう報告が返って来る。

 

「分かりました。もう足止めは充分です。撤退して下さい」

 

『了解。とらさん分隊、撤退します』

 

みほはとらさん分隊へ撤退指示を出し、弘樹はそれを受諾する。

 

「如何するの、みぽりん?」

 

そこで沙織が、此処から如何逃げるかと尋ねる。

 

「………此処を下ります」

 

するとみほは、目の前の石段を見下ろしながらそう言い放った。

 

八朔祭での磯前神社奉納戦車・歩兵戦に於いて、しずかのムカデさんチームが破壊した為、中央の手摺が一時撤去されており、Ⅳ号が十分に通る事が出来る。

 

「おう………」

 

「大丈夫なの!?」

 

「麻子さんなら大丈夫」

 

麻子がアッサリとⅣ号を進め、沙織が心配の声を挙げるが、みほは麻子の腕を信頼し、そう言い放つ。

 

そして、Ⅳ号は石段を下り始めた。

 

「追い付いたわ!………ってっ!? バッカじゃないの!! ミホーシャ、無茶しちゃってっ!!」

 

そこで、とらさん分隊が撤退した為、漸く境内に進入して来る事が出来たカチューシャが、石段を下ったⅣ号の姿を見てそんな声を挙げる。

 

「戻って回り込みますか?」

 

「このまま進むに決まってるじゃない! ミホーシャが出来る事はカチューシャにだって出来るんだから!!」

 

ノンナがそう問うが、カチューシャはⅣ号に続くと宣言。

 

「知ってます………」

 

そうカチューシャに答えながら、磯前神社の本殿の方を振り返り、お祈りするノンナ。

 

「悪いけど、俺達はパスするぜ」

 

「最悪、同志の戦車に牽き潰されますからね」

 

しかし、戦車と一緒に石段を下るのは無謀だと判断したピュートルとマーティンは、回り込みを選択する。

 

「………ノンナ」

 

一方、デミトリはノンナと同じ様に磯前神社の本殿に向かって祈りを捧げると、ノンナに呼び掛ける。

 

「ハイ………」

 

「同志カチューシャに怪我が無い様にな」

 

「分かってますよ」

 

まるでやんちゃな娘を優しく見守る父と母の様な雰囲気でそう言い合うノンナとデミトリだった。

 

「行くわよ!」

 

その直後に、砲身を後ろに回したカチューシャのT-34-85が石段を下り始め、同じ様に砲身を後ろに向けたノンナのIS-2が続く。

 

そして、デミトリ達ツァーリ歩兵部隊は一旦引き返し、迂回ルートを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・街中………

 

「クッソ―ッ! 何処へ行ったっ!?」

 

八九式と九五式を見失い、苛立ちを見せるルクリリ。

 

「ルクリリさん、そんなイライラしないで」

 

と、随伴分隊のブリティッシュ歩兵の1人がそう言って宥めると………

 

ブザー音が鳴り響いて来た。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

ルクリリとブリティッシュ歩兵達がそちらを見やると………

 

鳴っていたのはタワーパーキングの開閉ブザーだった。

 

「! アイツ等! また性懲りも無く………砲兵と対戦車兵は私に付いて来い! 他の物は周囲を警戒っ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

準決勝と同じ手を使って来たと思われるアヒルさんチームに、ルクリリは怒りを露わに随伴分隊にそう命令する。

 

そして、自車をタワーパーキングの前に移動させると、砲塔を後方へ回す。

 

その周囲に、対戦車兵と砲兵が前方を向いて陣取る。

 

「馬鹿め! 同じ手は2度も食わないぞっ!!」

 

ルクリリがそう言い放つ中、タワーパーキングの扉が開き始める。

 

だが、その中は空だった………

 

「やはり後ろかっ!!」

 

そう言ってルクリリが背後を振り返ると、立体駐車場が迫り上がって来ている。

 

しかし、そこも空であった………

 

「えっ? いない?………」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

肩透かしを食らい、ルクリリも随伴歩兵隊員達も困惑する。

 

すると………

 

「コッチだぁっ!!」

 

何と八九式と九五式は、タワーパーキングの在る場所から道路を挟んで反対側の路地から飛び出して来た!

 

「!? そんなところに!?」

 

「そーれっ!!」

 

ルクリリが驚きの声を挙げると同時に、八九式と九五式の主砲が火を噴く。

 

けれども、その砲弾はルクリリのマチルダⅡではなく、タワーパーキングの側面に命中した。

 

「馬鹿めっ! 外したなっ!! まあ、当たったところで如何って事はないけどなっ!!」

 

それを見たルクリリは、勝ち誇りながらそう言い放ち、随伴歩兵分隊員達と共に八九式と九五式を狙う。

 

すると………

 

八九式と九五式の撃った砲弾が命中したところから………

 

タワーパーキングの下部が、大爆発を起こした!

 

そして、下部が吹き飛ばされた事で、タワーパーキングの建物が………

 

ルクリリ車と随伴歩兵分隊員達目掛けて倒れる………

 

「へっ?………」

 

間抜け声と共にルクリリが空を見上げると、倒れて来るタワーパーキングの建物が視界を埋め尽くす。

 

「!? ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

淑女らしからぬ悲鳴と共に、ルクリリと彼女のマチルダⅡ、そしてその随伴歩兵分隊員達は………

 

倒れて来たタワーパーキングの建物の下敷きとなった。

 

「う~ん、ちょっとやり過ぎたかな?」

 

「大丈夫ですよ、キャプテン。絶対に人は死なないのが戦車道と歩兵道ですから」

 

「そっか。じゃあ問題無し!!」

 

やり過ぎたかと感じた典子だったが、あけびにそう言われてすぐにその考えを振り払った。

 

「…………」

 

そして福田は、色んな意味で呆然となっていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗磯前神社・正面鳥居の石段………

 

「見辛い………サイドアンダーミラー欲しい」

 

何とか石段を下っているものの、戦車特有の視界の悪さに、麻子の愚痴が零れる。

 

『オーイ、グロリアーナ&プラウダ連合のフラッグ車、見つけたよー』

 

とそこで、杏から姿を晦ませていたグロリアーナ&プラウダ連合のフラッグ車であるチャーチルを発見したとの報告が入る。

 

『現在、サンビーチ通りを大洗ホテル方面へ逃走中』

 

「コッチに来てるよ!」

 

続けての報告に、沙織がみほへそう言う。

 

「分かりました。合流しましょう」

 

みほがそう言うと、チャーチルを追い掛けていたカメ・ツル、カモ・マンボウ、アリクイ・キツネにアヒル・ペンギン、ワニさん分隊と九五式、残存知波単歩兵達の半数が合流する。

 

「沙織さん、西さん達の方は如何なってますか?」

 

「う~ん、通信状況が悪いのかな? 繋がらないよぉ」

 

まだゆっくら健康館防衛線で踏ん張っていると思われる絹代達の状況を尋ねるみほだったが、通信状態が悪いらしく、交信出来ないと返す沙織。

 

「………分かりました。先ずグロリアーナ&プラウダ連合のフラッグ車を仕留めます」

 

絹代達の状況を把握出来ないのは懸念材料だが、今ココでチャーチルを叩かないワケにはいかないと考え、みほは決断する。

 

『ペコーシャッ! 頼れる同志の元に誘き出してっ!!』

 

一方その状況はカチューシャの方にも知らされており、カチューシャは彼女の言う『頼れる同志』の元へ向かう様にオレンジペコに言う。

 

「了解しました」

 

「頼れるかしら?」

 

了解するオレンジペコだったが、アッサムは一抹の不安と疑問を感じていたのだった。

 

そうこうしている内に、Ⅳ号は石段を下り終え、大洗海岸通りを左折。

 

予め待機していたとらさん分隊と合流すると、サンビーチ通りの方へと向かった。

 

通りが合流する大洗鳥居下交差点にて、チャーチルの姿を確認したが、チャーチルは大洗ホテル脇の大洗海岸へと降りる道を下り、大洗海岸へと進入する。

 

大洗・知波単連合もそれに続き、大洗海岸へ侵入する。

 

「………ん? 何だアレ?」

 

するとそこで、ふと海の方を見やった磐渡が、水中を動いている『何か』に気づく。

 

「敵の潜水艦を発見!」

 

「「「「「「「「「「駄目だっ!!」」」」」」」」」」

 

残存知波単歩兵隊員の1人がそう声を挙げたかと思うと、残りの残存知波単歩兵隊員達が一斉に否定する。

 

「お約束だな………」

 

その光景に呆れた様に呟く俊。

 

やがてその『何か』は海岸へと上陸。

 

「!? KV-2ですっ!!」

 

「ゴジラかよっ!?」

 

楓がそう声を挙げると、まるで怪獣の様に海から上陸して来た様に、地市がそうツッコミを入れる。

 

152ミリ榴弾砲の砲身が、チャーチルを追跡する大洗・知波単連合に向けられる。

 

「大丈夫、砲身良く見て」

 

しかしみほは、冷静に対処する様に指示する。

 

そこで、KV-2は発砲!

 

放たれた榴弾は、大洗・知波単連合の頭上を飛び越える様にして、大洗ホテルに直撃!

 

大洗ホテルの一角を完全に吹き飛ばした!

 

その間に、大洗・知波単連合はチャーチルの追跡を続行する。

 

KV-2は、再度大洗・知波単連合に狙いを定めようとするが………

 

「コレでも喰らえっ!」

 

「喰らえっ!!」

 

最後尾側に居た八九式と九五式が、KV-2に向かって発砲。

 

八九式が撃った砲弾が命中して弾かれたが、その衝撃で不安定な岩の上に居たKV-2はずり落ちそうになる。

 

それでもKV-2は再び発砲!

 

今度は大洗シーサイドホテルの一角を吹き飛ばした!!

 

「装填急ぐべ!」

 

「分かってらあ! 装填完了だぁっ!!」

 

KV-2の特徴であるその巨大な砲塔の中では、小柄で東北なまりの話し方をする2人の装填手『ニーナ』と『アリーナ』がKV-2の分離式砲弾を四苦八苦しながら装填している。

 

「砲塔旋回!」

 

「回るの遅っせなぁー!」

 

そして大洗・知波単連合に向かって砲塔を旋回させる。

 

「急げ急げーっ!」

 

漸く大洗・知波単連合の方に砲塔が旋回した。

 

………かに思われた瞬間!

 

「!? うわあっ!?」

 

「ひゃああっ!?」

 

KV-2はバランスを崩し、横転!!

 

砲身が砂浜に突き刺さったかと思うと、白旗を上げた。

 

「あらあら………」

 

「KV-2、あの角度で回せば引っ繰り返りますよね」

 

その様子を砲塔側面のハッチから出て見ていた華と優花里がそう言い放つ。

 

「! 伏せてっ!!」

 

「「!?」」

 

とそこで、みほがそう叫び、華と優花里は反射的に砲塔内へ引っ込む。

 

その直後!!

 

突然正面の『砂浜の中』から砲弾が発射され、Ⅳ号のすぐ目の前に着弾した!!

 

「!?」

 

「えっ!? 今、砂浜の中から砲弾が飛んで来たよっ!?」

 

みほが正面を見据えると、沙織がそう声を挙げる。

 

すると………

 

突如、チャーチルと大洗・知波単連合の行く手の砂浜の一部が弾けた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚きの表情を浮かべる一同の前に現れたのは………

 

巨大なブレードアンテナを付けた真っ赤なⅣ突………

 

毛路山小隊の久美車だった!!

 

「!? 久ちゃんっ!?」

 

「砂の中に隠れて待ち伏せてたのか………」

 

みほが声を挙げると、麻子もそう呟く。

 

「まさか此処で黒森峰・サンダース連合の車輌と出くわすなんて………」

 

一方、チャーチルにとっても、黒森峰の久美は敵であり、挟まれる形になった事にアッサムが苦い表情を浮かべる。

 

「でも、如何して飛び出して来たんでしょう? あのまま潜ったままで射撃出来るチャンスは有った筈です」

 

しかし、オレンジペコはそう疑問を呈する。

 

と、その瞬間!!

 

Ⅳ突は砂を巻き上げ、チャーチルと大洗・知波単連合目掛けて突撃して来た!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

身構えるチャーチルのアッサムとオレンジペコに、大洗・知波単連合の隊員達。

 

だが………

 

Ⅳ突はそんな一同を完全にスルーして通り過ぎた。

 

「「「「「「「「「「………えっ?」」」」」」」」」」

 

一同が困惑しながら振り返ると、何とⅣ突はそのまま海へ突入した!!

 

すると忽ち、ジューッ!!と言う音と共に海水が蒸発し、大量の水蒸気が発生!!

 

やがてエンジンにも海水が入って駄目になり、Ⅳ突から白旗が上がったかと思うと………

 

「「「「あっちゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」

 

Ⅳ突全てのハッチが開き、久美、玉枝、茂亜、冬子がパンツァージャケットを脱ぎ捨てながら飛び出し、ジャケットの下に着ていたであろう水着姿で海へ飛び込んだ。

 

「ああああ~~~~~………生き返ったであります~」

 

「冷たくて気持ち良いです~」

 

「砂の中に隠れるってのは良いアイデアだと思ったんだけど………真夏にやるんじゃなかったよ」

 

「てゆ~か、急速冷却?」

 

海に浮かびながら、久美、玉枝、冬子、茂亜がそう口にする。

 

如何やら、まだ夏の真っ只中の昼間、オマケに快晴の空の下で砂の中に隠れていた為、車内にトンでもない熱が籠り、サウナ状態になってしまっていた様である。

 

そこで、発砲した際の排熱が加わり、とうとう耐え切れなくなって飛び出したのである。

 

「久ちゃん………相変わらずだなぁ」

 

親友の相変わらずの姿に呆れると共に、何処か安堵した様な表情を浮かべるみほ。

 

「! 西住総隊長! 大洗海岸通りですっ!!」

 

「!!」

 

だがそこで、弘樹がそう声を挙げたのを聞いて、すぐさま反対側の大洗海岸通りを確認する。

 

そこには、コチラに砲を向けているカチューシャのT-34-85と、ノンナのIS-2の姿が在った。

 

直後に、カチューシャ車が発砲!

 

砲弾が三式改に命中する。

 

「!? にゃああっ!?」

 

ねこにゃーの悲鳴と共に、三式改は衝撃で引っ繰り返って白旗を上げる。

 

更に続けて、IS-2が同軸機銃を掃射。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その掃射を浴びてしまった磐渡と重音が乗っていたジープが爆発し、同乗員と近くに居た鷺澪を含む砲兵達数名を巻き込む!

 

反撃にと、Ⅳ号、ルノーB1bis、八九式、九五式が次々に発砲。

 

しかし、カチューシャ車は丁度海岸と通りの間に現れた建物の陰に入り、砲撃を躱す。

 

「フラッグ車だけを狙って下さいっ!!」

 

そこでみほは、通りの2輌には構わず、グロリアーナ・プラウダ連合のフラッグ車であるチャーチルだけを狙う様に指示する。

 

「クソッ! 砂地は運転し難いぜっ!!」

 

くろがね四起のハンドルを握る地市がそう愚痴る。

 

機動力が在る歩兵部隊ならばチャーチルに肉薄出来る筈だと思われたが、履帯を持つ戦車なら兎も角、砂浜は想定以上に車輌の運転が難しく、スピードを上げられずにいた。

 

「初撃破………」

 

そんな中、砲手として初撃破を挙げたいと願う桃が、チャーチルに向かって発砲する。

 

しかし何故か、放たれた砲弾は海の方へと飛んで行き、水柱を立てた。

 

「ええい! 何故奴はあんな方向に砲弾を飛ばせるんだっ!?」

 

「コレはもう1つの才能だな………」

 

その光景を見て、十河と俊がそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会運営本部・撃破された選手の控所にて………

 

「私達の分も頑張って下さいっ!!」

 

「河嶋先輩ガンバーッ!!」

 

「ブッ殺せぇーっ!!」

 

「頑張れーっ!!」

 

「当たれーっ!!」

 

リタイヤしたウサギさんチームの梓、桂利奈、あや、優希、あゆみが、モニター越しに檄を飛ばす。

 

「…………」

 

そしてそんな中で、紗希は1人、飛んでいる蝶々を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗海岸………

 

やがてチャーチルは、アクアワールド・大洗の駐車場へと到達。

 

そのまま自慢の登坂能力を活かし、階段と鉄柵を超えて、駐車場内へと進入した。

 

カモさんチームのルノーB1bisがそれを追い、同じ様に駐車場内へ進入しようとするが………

 

「! 危ないっ!!」

 

みほがそう叫びを挙げた瞬間、鉄柵の在る部分に出っ張りで減速したルノーB1bisに、砲弾が叩き込まれた!!

 

「「「うわああっ!?」」」

 

みどり子達の悲鳴と共に、ルノーB1bisは階段を転げ落ち、海岸に引っ繰り返って白旗を上げた。

 

海岸から見て奥側の駐車場内でゆっくりと旋回するチャーチル。

 

現在大洗・知波単連合は、カチューシャ車とIS-2に左右から挟まれ、更にツァーリ砲兵部隊の対戦車砲とブリティッシュ対戦車兵部隊のPIATを向けられていた。

 

「如何やら決着が着いた様ね! 如何する!? 謝ったらココで止めてあげても良いけど?」

 

勝利を確信したカチューシャがそう宣言する。

 

(………小官が突っ込んで隙を作ります。その隙に)

 

(! 弘樹くん!)

 

だが、弘樹がみほに小声でそう言い、突貫の準備を整える。

 

しかし………

 

「ヤバイヤバイヤバーイッ!!」

 

そう言う声が響き渡ったかと思うと、大洗海岸通りを祝町方面から、絹代のチハ(旧砲塔)を先頭に、カレンのハッピータイガーとサンショウウオさんチームのクロムウェル、残存大洗・知波単歩兵部隊が現れた!

 

「!? 西さんっ!?」

 

「!? 知波単の!?」

 

そこでみほとカチューシャは驚きを示す。

 

とそこで続けて………

 

「ワオッ! 大洗・知波単連合だけじゃなくて、グロリアーナ・プラウダ連合まで居るわよ!!」

 

「構わん! このまま乱戦に持ち込むっ!!」

 

「クレイジー気味だね………けど、乗ったよ」

 

ケイのシャーマン、まほのティーガーⅠ、ナオミのファイアフライ、そして黒森峰・サンダース連合歩兵部隊の面々が現れた!!

 

一同はそのまま、アクアワールド・大洗の駐車場へと雪崩れ込んで来る!!

 

「! 今ですっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこでみほがそう声を挙げ、大洗・知波単連合は一気に階段を駆け上がる!

 

「「「「「「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

ツァーリ砲兵部隊とブリティッシュ対戦車兵部隊を文字通りに蹂躙し、駐車場へと突入!

 

戦いは、3勢力による乱戦へと突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作より酷い目にあったルクリリ………
もうタワーパーキングがトラウマになるかも(笑)

そして戦いの舞台は大洗アクアワールドへ。
絹代達と黒森峰・サンダースも加わり乱戦状態へ。
いよいよこの試合も次回で決着となるかと。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター8『エキシビションマッチ、決着です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター8『エキシビションマッチ、決着です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エキシビションマッチも、いよいよ終幕の時が訪れようとしていた………

 

アクアワールド・大洗の駐車場へと逃げ込み、大洗・知波単連合に対し優位に立ったかに見えたグロリアーナ・プラウダ連合であったが………

 

そこへ絹代達と黒森峰・サンダース連合が乱入!

 

その隙を衝いて、アクアワールド・大洗の駐車場に突入した大洗・知波単連合………

 

戦いは、3勢力が入り乱れた乱戦となる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクアワールド・大洗の駐車場………

 

「俺は攻撃を行う!」

 

「バンザーイッ!!」

 

「注意しろっ!!」

 

「射撃せよっ!!」

 

「敵の潜水艦を発見!」

 

「「「「「「「「「「駄目だっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「ネガティブッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「ニェットッ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「ナインッ!!」」」」」」」」」」

 

駐車場内は3勢力の歩兵達が入り乱れ、接近戦を主とした大乱戦となっていた。

 

その中で、元より部隊規模で不利であった大洗・知波単連合であったが、接近戦を得意とする者達が多数居り、戦局を掴み始めていた。

 

 

 

 

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎のニンジャシャウトと共に、右腕が鞭の様に撓り、複数のスリケンが投擲される!

 

「甘いっ!!」

 

「ソイヤッ!!」

 

しかし、蜂一と泥川がブレードトンファーと小太刀を振るうと、全て叩き落される。

 

「ぬうっ!………」

 

その光景に唸りながら構えを取る。

 

「葉隠 小太郎………決勝戦の借りを返させてもらうぞ」

 

「2対1は黒森峰の精神に反するでござるが、貴殿が相手となれば、相応の対応を執らねばならないでござるからな」

 

蜂一と泥川は、小太郎に向かって一気に駆け出す。

 

「!!」

 

小太郎が身構えたその瞬間!

 

「龍・鉄・拳っ!!」

 

そう言う声が響いたかと思うと、駐車場に地割れが走った!!

 

「!? ぬおっ!?」

 

「何とっ!?」

 

地割れが目の前に広がり、思わず足を止める蜂一と泥川。

 

「!………」

 

小太郎も驚きながら、地割れが走って来た方向を見やると………

 

「葉隠くん、加勢するよ………」

 

地面に向かって拳を振り降ろした姿勢を執っていた拳龍の姿が在った。

 

「杷木先輩! 忝いっ!!」

 

「あの男………」

 

「クレオパトラ&スフィンクス機甲部隊の試合で見たでござる。空手道場の息子とは聞いていたけど、ココまでとは………」

 

小太郎が感謝し、蜂一と泥川は地割れを起こした拳龍に若干戦慄していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

「キエエエエエエエエェェェェェェェェェーーーーーーーーーーッ!!」

 

気合の叫びと共に剱と月人は斬り結ぶ。

 

「フハハハハハハハッ! 我が世の春はまだ続くううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

「! ぬうっ!!」

 

やがて月人が相変わらずハイテンションな様子で、剱を無理矢理押し返し、弾き飛ばす!!

 

「絶好調であるっ!!」

 

お馴染みの台詞と共に、弾き飛ばした剱目掛けて突きを繰り出す!

 

「!!」

 

しかし、剱が身構えるよりも早く、鋏状のサーベルが現れ、月人の刃を挟んで受け止めた!

 

「!? ぬうっ!?」

 

「…………」

 

受け止めた鋏状のサーベルを持った顋は、そのまま月人の刀を圧し折ろうとする。

 

が!!

 

「笑止っ!!」

 

何と月人は鋏状のサーベルに挟まれたまま刀を、顋ごと振り回す!

 

「!?………」

 

振り回された顋は、やがてすっぽ抜ける様に月人の刀から鋏状のサーベルを放した。

 

「………!!」

 

そのまま空中で体勢を整えて着地を決める。

 

「人類が万物の霊長と自負するのであれば、文明の灯を恐れるべきではない!」

 

テンションが上がり過ぎたのか、若干訳が分からない事を言い始める月人。

 

「…………」

 

顋はそんな月人の様子を気にする様子も見せず、再び鋏状のサーベルを構えて襲い掛かろうとする。

 

「せえやっ!!」

 

だがそこで隆太が乱入!

 

顋に空中回し蹴りを喰らわせた!!

 

「!?………」

 

ブッ飛ばされ、地面を転がる顋。

 

「お前倒すけど良いよね? 答えは聞かないけど」

 

そんな顋に向かって、隆太はブレイクダンスの様に踊り、最後にステップを決めながらそう言い放った。

 

「…………」

 

顋はやや憮然とした顔を見せると、無言のまま隆太に向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダアアアアアァァァァァァーーーーーーーブレエエエエエェェェェェェーーーーーーーイクッ!!」

 

「ブバアッ!?」

 

叫びと共に、ウイリーさせていたバイク前輪をカーネル歩兵の1人に叩き込む弦一朗。

 

「チイッ! アイツが文月 弦一郎かっ!?」

 

「データじゃみてたが、実際に会ってみて恐ろしさが分かるぜっ!!」

 

その弦一朗に姿を見て、ジェイとボブがそう言い合う。

 

「だが、コレ以上は好きにはさせんぞ! ボブ! 奴の注意を引け! その間に俺が仕留めるっ!!」

 

そこでジェイが、ウィンチェスターM70を構え、ボブにそう呼び掛ける。

 

「任せろっ!!」

 

それを受けてボブは、自身の乗ったバイクを、弦一朗に向かって疾走させた!

 

「文月 弦一郎っ! 俺が相手だっ!!」

 

「おっ! タイマンかっ!? 望むところだぜっ!!」

 

単独で向かって来たボブを見て、タイマンだと思い込む弦一朗。

 

両者は激しいバイクアクションを展開し始める。

 

(馬鹿め! 戦場で態々タイマンなどするか! ジェイッ! 良く狙えよっ!!)

 

だが、ボブはハナからタイマンなどする積りは無く、弦一郎をジェイの射線へ誘導しているに過ぎない。

 

(へへ、勝手に勘違いしやがって、ちょろいもんだぜ………)

 

そのジェイは、スコープに弦一朗の姿が重なるタイミングを見計らう。

 

(ココだ! その顔をフッ飛ばしてやるっ!!)

 

そして遂にスコープに弦一朗の顔が重なり、引き金を引こうとした瞬間………

 

突然、ジェイの構えていたウィンチェスターM70がバラバラになった!!

 

「!? なっ!?………!? がはっ!?」

 

驚いたジェイの眉間に銃弾が命中!

 

ジェイは仰向けに倒れ、呆気無く戦死判定となった。

 

「!? ジェイッ!?」

 

「? 何だ?」

 

突然戦死判定となったジェイの姿に動揺するボブと、何が起こったのか分からず首を傾げる弦一朗。

 

「………そのスタンスを卑怯と言う積りは無いが、今度から狙撃の時は自分も狙われてると思う事だな」

 

ジェイを戦死判定させた者………アクアワールド大洗の屋上に陣取っていたシメオンが、銃口から煙の上がっているモシン・ナガンを手にそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チイッ!!」

 

義炉太が舌打ちしながら、右手のワルサーGew43半自動小銃を構えたが………

 

その瞬間に、ワルサーGew43半自動小銃に矢が飛び込み、詰まらせる。

 

「!!」

 

義炉太は驚きながらもすぐにワルサーGew43半自動小銃を捨て、MP40に持ち替える。

 

「やれやれ、ニンジャくんにリベンジしたいと思っていたのに、先を越されてしまったよ………悪いが君が代わりに相手をしてくれるかな?」

 

右手にロングボウ、左手にクレイモアを握ったジャスパーが、義炉太に向かってそう言い放つ。

 

「人を代用品扱いするとは良い度胸だな………」

 

「それはどうも失礼。だが、そう思うんなら………私をもっと危険な目に遭わせてくれたまえ」

 

不機嫌そうにそう言う義炉太だったが、ジャスパーは狂気の笑みを浮かべてそう返す。

 

「気迫は本物だな………オイ! 来流矢っ!! お前も手伝えっ!!」

 

その気迫に、ジャスパーの強さが本物だと感じ取った義炉太は、傍に居た来流矢に救援を求めたが………

 

『やる気が出ねえ』

 

先程まで来流矢がいた筈の場所には、そう書かれた紙切れが残されていただけだった。

 

「! アイツはぁーっ!!」

 

それを見た義炉太は、真っ赤になって怒りの咆哮を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、弘樹は………

 

「…………」

 

右手に四式自動小銃、左手にM1911Aを握り、緊迫した様子を見せている弘樹。

 

「まさかこんなにも早く再戦の機会に恵まれるとはね」

 

「思ってもみなかったな………」

 

その弘樹の前には、都草とジョーイが立ちはだかっている。

 

何と強敵だった歩兵2人が纏めてやって来たのである。

 

「…………」

 

だが、それで怖気づく弘樹ではない。

 

既に身体は臨戦態勢にあり、何時でも戦闘が行える状態だった。

 

「「…………」」

 

そしてそれは都草とジョーイも同じである。

 

出来れば都草もジョーイも、弘樹は1対1で戦いたいと言うのが本音である。

 

しかし、部隊の勝利を優先する為………

 

何より、弘樹の強さは身を持って知っている為、正直2対1でも不安を感じていた。

 

「「「…………」」」

 

弘樹と都草・ジョーイの緊迫した睨み合いが続く………

 

とそこで………

 

「うおっ!?」

 

弘樹の傍に、声を挙げながら1人の歩兵が転がって来た!

 

「!………」

 

すぐさま左手のM1911Aをその歩兵に向けた弘樹だったが………

 

「馬鹿野郎! 俺だっ!!」

 

転がって来たのは白狼だった。

 

「神狩 白狼………何をしている?」

 

「見りゃ分かるだろ! 厄介な事になってんだっ!!」

 

弘樹が問い質すと、白狼はそう言いながら立ち上がる。

 

するとそこで………

 

「むっ! 舩坂 弘樹か………」

 

「御取込み中のところ、どうも申し訳ありません」

 

そう言う台詞と共に、デミトリとティムが姿を見せた。

 

「………確かに厄介な様だな」

 

「だろう?」

 

デミトリとティムの姿を見て、弘樹は納得が行った様な顔となる。

 

そして、弘樹と白狼は、お互いの相手に対峙している状態で背中合わせとなる。

 

「すまんが手は貸せん。自力で何とかしてくれ」

 

「言われるまでもねえ。と言うか、最初から手を借りる気はねえよ」

 

そしてそう言い合うと、互いの相手に向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、乱戦を繰り広げる歩兵部隊と同様に………

 

戦車部隊も大乱戦となっていた。

 

「右側面へ回り込んで下さいっ!!」

 

みほの指示でチャーチルに向かって突撃するⅣ号。

 

「アッサム様!」

 

「クッ!」

 

チャーチルはⅣ号目掛けて発砲したが躱され、右側面に回り込まれそうになる。

 

「させません」

 

しかしそこで、Ⅳ号の車体正面を掠る様にIS-2の砲弾が通り過ぎ、その衝撃でⅣ号は一瞬弾かれる。

 

その間にチャーチルは逃げに入る。

 

すぐに体勢を整え、それを追うⅣ号。

 

だが、逃げに入ったチャーチルのすぐ目の前に砲弾が着弾。

 

「!?」

 

「…………」

 

オレンジペコが砲弾が飛んで来た方向を確認すると、自分達の方へ向かって来るまほのティーガーⅠの姿が目に入る。

 

「! 西住 まほっ!!」

 

「このタイミングでっ!?」

 

「………!」

 

オレンジペコとアッサムが驚きの声を挙げる中、ノンナが素早くティーガーⅠを狙い、IS-2の122ミリ砲弾を発砲する!

 

しかしそこで、別の砲撃音がしたかと思うと、IS-2の砲弾に別の砲弾が命中し、弾かれてしまう。

 

「!?」

 

驚きながらもすぐに自分の砲弾を弾いた砲弾が飛んで来た方向を確認するノンナ。

 

そこには、砲口から発砲煙を上げるファイアフライの姿が在った。

 

「ファイアフライ………」

 

その瞬間、ノンナは確かに、車内のナオミが不敵に笑っている姿を見た。

 

「………やってくれますね」

 

見事に意趣返しをされた事に、ノンナも攻撃的な笑みを浮かべた。

 

「「!!」」

 

そしてそのまま、IS-2とファイアフライは一騎打ちに突入した!

 

お互いに発砲し合いながら、機動戦を展開する。

 

「装甲は向こうが上だ! 足は絶対止めるなっ!!」

 

「向こうの方が小回りが利きます! 動きに注意して回り込まれないで下さいっ!!」

 

自車と相手車両のスペックを比較しながら、得意な面で優位に立とうとする両者。

 

ハイレベルな砲撃戦が繰り広げられる!

 

「クウッ! ノンナが足止めされるなんて………だったら、私が!」

 

「ヘーイ、カチューシャッ!!」

 

ノンナのIS-2が、ナオミのファイアフライと争っているのを見て、自分がみほとまほを仕留めようとするカチューシャだったが、その前にケイが割り込んで来る!

 

「! 邪魔すんじゃないわよっ!!」

 

「そんな事言わずに相手してよ~」

 

立ちはだかったケイにそう怒鳴るカチューシャだったが、ケイはケラケラと笑いながら、カチューシャのT-34-85に向かって発砲する。

 

「キャアッ!? やったわねっ!!」

 

砲弾は砲塔正面の傾斜装甲に当たった為、アッサリと弾かれたが、それに怒ったカチューシャは、すぐさまケイに反撃する。

 

「アハハハッ! 当たらないよ~っ!!」

 

だがケイは即座にシャーマンを発進させて回避すると、更に煽るかの様な言葉を続けた。

 

「鬼さんこちら~」

 

「待ちなさ~いっ!!」

 

そのままケイとカチューシャは、追い駆けっこに突入するのだった。

 

「面白そうね! 私も混ぜなさいっ!!」

 

更にそこへ、絹代も参戦するのだった。

 

「西住総隊長を援護するわよ!」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

とそこで、残る大洗・知波単連合のハッピータイガー、八九式、ヘッツァー、クロムウェル、九五式が、みほの援護に向かおうと隊列を整えて、一気に突撃を開始した!

 

だが、その直後!!

 

クロムウェルの側面に砲弾が命中!

 

「「「「「!? きゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

聖子達の悲鳴と共にクロムウェルは横倒しとなり、白旗を上げた!

 

「!?」

 

カレンがすぐにクロムウェルを撃った相手を確認すると………

 

「こんな所まで戦場が移動してたなんて………」

 

やや焦った様子を見せている小梅がキューポラから姿を見せているパンターが、県道108号線を疾走して来ていた。

 

「! パンターッ!? こんな時に!!………撃てっ!!」

 

悪態を吐きながらも、カレンはすぐさま砲塔を旋回させ、パンターに砲撃を見舞う。

 

「! 砲塔左35っ!!」

 

だが、それに対し小梅も、パンターの砲塔を左に35度旋回させ、傾斜をつけた装甲でハッピータイガーの砲弾を受け流す!

 

「!? 次弾装填っ!!」

 

驚きながらも、カレンは次弾装填を急がせる。

 

「突っ込んでっ!!」

 

だがその間に、小梅車は一気にハッピータイガーに突撃!

 

そのまま体当たりをして張り付いた!!

 

「クウッ!! コレじゃ狙えないっ!!」

 

張り付かれてしまった為、小梅車を狙う事が出来ないハッピータイガー。

 

「…………」

 

しかし、その状況は小梅車も同じだった。

 

「赤星さん! 無茶ですよ! 忘れたんですかっ!? コッチはエンジンが悲鳴挙げてるんですよっ!!」

 

小梅車の操縦手が、悲鳴の様に叫ぶが………

 

「持たせてっ!!」

 

「ヒドッ!!」

 

その一言で切って捨てる小梅に、操縦手は涙目になる。

 

「絶対に後ろは見せちゃ駄目よっ!! やられるわっ!!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

カレンもそう叫び、ハッピータイガーを小梅車に接触させ続ける。

 

第二次世界大戦中に最強と恐れられたドイツ戦車達が、まるで相撲の様に激しく揉み合う。

 

「コレじゃ援護出来ないっ!!」

 

「くうっ!!」

 

両者がピタリとくっ付いている為、援護する事が出来ずに歯噛みする典子と福田。

 

「初撃破~っ!!」

 

そんな中、ヘッツァーが足を止め、桃がフラッグ車の撃破を試みる。

 

と、その時………

 

「真打ち参上ですわっ!!」

 

そう言う台詞と共に、ローズヒップの黒焦げのクルセイダーが現れた!

 

何と、あの爆発に巻き込まれて、運良くまだ白旗が上がっていなかったのである。

 

自軍フラッグ車を助けようと、アクアワールド大洗の方から回り込もうとしている。

 

「フォイアァッ!!」

 

とそこで、桃の裏返った叫びと共に遂にヘッツァーが発砲!

 

砲弾は物理法則を無視して、アクアワールド大洗の方へと飛び………

 

頭上からⅣ号とティーガーⅠを奇襲しようとしていたクルセイダーに命中!

 

迎撃されたクルセイダーは、フードコート付近へと落ちて、白旗を上げた!!

 

「あ、当たったっ!!」

 

「桃ちゃんが当てたっ!?」

 

「いや、当たったと言うか、敵が当たりに行ったと言うか………」

 

「何にせよ、初撃破だね~。おめでとう河嶋」

 

ありえない奇跡を起こしたヘッツァーの車内では、桃が放心状態となり、柚子が驚愕し、蛍が微妙な顔をし、そして杏がいつもの様に干し芋を齧りながらそう言った。

 

と、その瞬間!!

 

重なった砲撃音と爆発音が鳴り響いた!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その重なった砲撃音と爆発音に、全軍の部隊員達が動きを止め、注目した。

 

その音がした場所には………

 

三角形を描く様に位置取っているⅣ号、チャーチル、ティーガーⅠの姿が在った。

 

3輌全てが、砲門から白煙を上げ、エンジン部を撃ち抜かれて黒煙を上げている。

 

如何やら、Ⅳ号がティーガーⅠ、ティーガーⅠがチャーチル、そしてチャーチルがⅣ号を其々同時に撃破した様である。

 

『大洗・知波単、グロリアーナ・プラウダ、黒森峰・サンダース! 全フラッグ車、走行不能! よって、この試合、引き分けとする!!』

 

上空の銀河から、主審の亜美がその様子を確認し、引き分けによる試合終了のアナウンスを流した。

 

『あ~っと! 引き分けですっ!! まさか三つ巴の戦いで引き分けになるとは、予想だにしませんでした!!』

 

『いや~でも、凄かったですよ。エキシビションマッチとは思えぬ良い試合でしたね』

 

ヒートマン佐々木とDJ田中の締めの言葉の中、観客席の観客達は歓声を挙げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町の一角………

 

「はあ~~、引き分けかぁ~………」

 

「そうだね」

 

「やっぱり私達も出れば良かったのに………何で参加しなかったの?」

 

白熱した試合に、やはり自分達も出たかったとアキがミカに向かってそう言う。

 

「出れば良いってもんでもないんじゃないかな?」

 

しかし、ミカは惚けた答えを返す。

 

「ええっ!? 参加する事に意義が有るんじゃないのっ!?」

 

「人生には大切な時が何度か訪れる。でも、今はその時じゃない」

 

抗議するアキだったが、ミカは笑顔を浮かべてそんな事を言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にエキシビションマッチも決着です。
乱戦の末に引き分けです。
少々駆け足気味の描写だったかも知れませんが、やはり1度戦っている相手だと戦闘の模様が焼き増し気味になってしまうので、このエキシビションマッチは言ってしまえば飽く迄前哨戦ですので、余り長々とやるとグダるかと思い、今回で決着とさせていただきました。

次回は試合後のライブイベントですが………
そこで黒森峰がイメージ回復の為に繰り出した奇策が見れます。
黒森峰の現状と文科省のその後にも少し触れます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター9『ドッタンバッタン大騒ぎです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター9『ドッタンバッタン大騒ぎです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白熱したエキシビションマッチは………

 

全連合のフラッグ車が同時に撃破となり………

 

引き分けに終わったのだった………

 

戦いを終えた各校の隊員達は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクアワールド大洗・駐車場………

 

「まさか引き分けとはな………」

 

「うん、ビックリだね」

 

回収されて行くティーガーⅠとⅣ号を見送りながら、まほとみほがそう言い合う。

 

「まほさん、みほさん」

 

とそこへ、自車のチャーチルが運ばれて行ったのを確認したオレンジペコがやって来る。

 

「オレンジペコさん」

 

「今日はどうもありがとうございました。非常に良い勉強をさせていただきました」

 

そう言って、2人に向かって深々と頭を下げるオレンジペコ。

 

「ううん、コッチこそ勉強させてもらったよ。まさか最後の最後でやられちゃうとは思ってなかったから」

 

「私もだ。流石はダージリンが見込んだ次期隊長候補だな。筋が良い」

 

それに対し、みほとまほはそう返す。

 

「『西住流の新家元』さんにそう言って貰えるとは、光栄です」

 

「止してくれ。飽く迄建前と名目上での事だ」

 

オレンジペコがそう言うと、まほが手を振りながらそう返す。

 

 

 

 

 

そう………

 

実は現在まほは………

 

『西住流の家元・師範』に就任したのである。

 

何故そうなっているかと言うと、事の発端は先の全国大会での例の騒動である………

 

あの決勝戦が終わって程無く………

 

『今回の一連の事態と出来事は、全て自分の責任である』

 

と、西住流の家元・師範であり、黒森峰戦車道の指導教官である西住 しほが記者会見にて表明。

 

そして、家元と師範、更には黒森峰戦車道の指導教官からも退いて隠居すると宣言。

 

事実上の引責辞任である。

 

新家元・師範としては、元々後継者であったまほが就任。

 

無論、彼女はまだ高校生であり、本人が言っていた通り、就任は建前と名目上である。

 

実際の家元・師範の実務は、代理人の立場にある西住 町子が行っている。

 

改革の顔は若者の方が良いと言う町子の案である。

 

この件における西住の親族間での会議では、反対意見は出なかった。

 

と言うよりも、元々しほを支持していた親族達は、例の騒動の煽りを喰らい、発言権を失うか、一族から出奔した為、反対意見を言う者が居なかったと言うべきであろう。

 

そして町子は、コレまでの黒森峰への教導、西住流の教えとされた勝利至上主義を転換。

 

何よりも安全と礼儀を第一とし、戦車道を通して人を高める本来の西住流の教えを浸透させていった。

 

問題とされていた世間からの批難だったが………

 

直後に起こった文科省の不祥事の方が話題として大きくなり、それの影に隠れる形で黒森峰への批難は何時の間にか消えてしまっていた。

 

大きな事件が起こるとその前の大きな事件を忘れると言う、日本人の気質に救われる形となった。

 

 

 

 

 

因みにその文科省の方は、文部省と科学技術庁に再分離され、更に科学技術庁を省に昇格。

 

文部省は庁に格下げされ、特に問題の中心であった学園艦教育局の権限は学園艦の建造や維持運営だけとなり、閑職中の閑職となった。

 

戦車道に関する行政上の業務は、独立したスポーツ庁に移管され、文部庁は一切口出し出来なくなったのだった。

 

 

 

 

 

経営・資金面での問題も、離れて行ったスポンサーに代わる様に、密かに神大コーポレーションが融資を行った事で解決。

 

更に、進学先から退学させられたり、勤め先から解雇された黒森峰出身者達も密かに系列の私立大学・会社へ編入・再就職させた。

 

コレにより、神大コーポレーションは大した労力も掛けず、黒森峰出身の優秀な人材を多数確保。

 

一段とその勢力と権力を増大させた。

 

裏では、今回の騒動で1番得をしたのは神大コーポレーションである等と噂されている。

 

黒森峰を出て行った隊員達も、全員ではないがそれなりの人数が戻って来ており………

 

町子の新たな教導体制と神大コーポレーションからの支援………

 

そして『久美の奇策』により………

 

以前と同等とまでは行って居ないが………

 

黒森峰は立ち直り始めていた。

 

 

 

 

 

「ヘーイッ! そっちも凄かったみたいねっ!!」

 

とそこで、陽気な声と共に、ケイ達が姿を見せる。

 

「あ、ケイさん」

 

「………プッ!」

 

「うふふ………」

 

みほが振り返ってケイの姿を認めたと同時に、『あるもの』が目に入ったまほとオレンジペコが思わず吹き出す。

 

「ちょっとぉっ! 早く降ろしないさいよぉっ!!」

 

「え~、運んで欲しいって言ったのはそっちでしょう?」

 

「カチューシャは肩車してって言ったのよ! 何で抱っこなのよっ!?」

 

それは、カチューシャを抱き抱えている絹代の姿だった。

 

カチューシャの身長と相まって、完全に子供を抱っこしている様にしか見えない。

 

「くふふ………似合ってるぞ、カチューシャ」

 

「ま、まほさん、失礼ですよ………うふふ」

 

笑いを隠そうともしないまほと、堪えようとしているが堪えきれていないオレンジペコ。

 

「ムッキ~ッ! アンタ達粛清よっ!!」

 

「コラコラ~、駄目でしょ~、そんな乱暴な言葉を使っちゃ~」

 

「アンタも悪乗りするんじゃないわよっ!!」

 

カチューシャがまほとオレンジペコに向かって怒鳴ると、絹代がまるで子供をあやすかの様にそう言い、憤慨するカチューシャ。

 

一方、いつも彼女を肩車する役のノンナはと言うと………

 

「………お見事です」

 

「アンタこそ、やるじゃないか」

 

ナオミと固い握手を交わしている。

 

その横では、エンジン部に被弾しているIS-2と、車体正面のど真ん中に命中弾がめり込んでいるファイアフライが運ばれて行っていた。

 

「………そっちも凄かったみたいですね?」

 

とそこで、みほがケイ達の背後で運ばれて行っている彼女達の戦車を見てそう呟く。

 

ケイのシャーマンは、カチューシャのT-34-85に撃破された様である。

 

車体側面にめり込んでいる砲弾からそれが分かる。

 

問題は絹代のチハ(旧砲塔)である。

 

彼女の車輌は、何故かカチューシャのT-34-85のエンジンルームに、垂直に突き刺さる様に衝突していた。

 

T-34-85からは白旗が上がっているが、当然チハ(旧砲塔)からも白旗が上がっている。

 

「一体何を如何やったらああなるんだ?」

 

「知らないわよ! 気づいたらああなってたのよっ!!」

 

「ハッハッハッハッ!!」

 

まほがそう尋ねると、カチューシャは怒鳴る様にそう返し、絹代は呵々大笑する。

 

「??」

 

「まほさん。こう言うのは考えたら負けと言う奴ですよ」

 

ワケが分からず首を捻るばかりのまほに、何処か悟っているかの様なオレンジペコがそう言い放つのだった。

 

「やれやれ………結局倒せなかったわね。やるじゃない、貴方」

 

「いえ、そんな………私なんてまだまだですよ」

 

「謙遜する事ないわよ。私は知波単の紅月 カレンよ。黒森峰さんの名前は?」

 

「あ、私、赤星 小梅と言います」

 

「赤星 小梅ね………メアド交換しない?」

 

「! ハイッ!!」

 

一方、カレンも激戦を繰り広げていた小梅と仲良くなっていた。

 

「まほさ~んっ!!」

 

とそこで、そんな声と共にまほの元へ駆け寄って来る者が居た。

 

聖子である。

 

「まほさん! 会場の方が準備出来たみたいですよ!! 皆待ってるそうですよ!! 早く行きましょうっ!!」

 

「う!………そ、そうだな。待たせてしまっては悪いからな」

 

聖子が何やらそんな事を言うと、若干顔を引き攣らせたまほがそう返す。

 

「じゃあ! 先に行ってますね~っ!!」

 

「…………」

 

まだ若干引き攣った顔のまほを残し、聖子は会場と呼ばれた場所………アウトレットへと向かう。

 

「…………」

 

「あ、あの………お姉ちゃん、大丈夫?」

 

顔を引き攣らせたままのまほに、みほが心配そうに声を掛ける。

 

「だ、大丈夫だ。コレも黒森峰の為だ! そうだ! そうなんだ!!」

 

するとまほは、まるで自分に言い聞かせるかの様にそんな事を言い始める。

 

「………頑張ってね。お姉ちゃん」

 

そんなまほに、みほは只それだけを言うのがやっとであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

大洗アウトレットの特設ステージ上にて………

 

「「「「「「「「「「ありがとうーっ!!」」」」」」」」」」

 

十八番の『DreamRiser』を歌い終えたサンショウウオさんチームが、最高の笑顔で観客達に向かって手を上げる。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

観客達からは雄叫びの様な歓声が挙がる。

 

それに笑顔のまま、手を振って答えるサンショウウオさんチーム。

 

「よ~し、それじゃあ皆! そろそろ今日のゲストを紹介しちゃうよ~っ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、聖子がそう宣言すると、観客達から再び大歓声が挙がる。

 

「紹介します! 黒森峰からやって来た可愛い可愛いお友達っ!!………『ティーアビスクヴィート』!!」

 

聖子がそう言い、サンショウウオさんチームが2手に分かれて左右に広がる様に位置取ると………

 

ステージ奥の壁が左右に割れ、スモークが放出されたかと思うと………

 

「フレンズの皆ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「集まれーっ!!」」」」」」」」」」

 

ケモノの耳や尻尾が付いた衣装を身に付けた黒森峰戦車部隊員達がそう言う台詞と共に次々に姿を現した。

 

そして持ち歌である『ようこそシュバルツバルトパルク』を、ドッタンバッタン大騒ぎしながら歌い踊り始める。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

3度挙がる観客達からの歓声。

 

 

 

 

 

そう………

 

これこそが黒森峰が風評を払拭する為に打ち出した奇策………

 

『スクールアイドルデビュー』である。

 

コレまで伝統的な立場から、戦車道連盟がスクールアイドルを支援している事に難色を示していた西住流と黒森峰女学園だったが………

 

イメージ回復にコレを利用しない手はないと判断した町子により、電撃デビューが決定。

 

更に、久美が知り合いの漫画家に頼んで、コンセプトデザインを考えてもらったところ………

 

黒森峰女学園が使っている戦車が、俗に『アニマルシリーズ』と呼ばれる物が中心な事から、『獣の女の子』との発想に至ったのである。

 

このコンセプトは大当たりし、『ティーアビスクヴィート』は忽ち子供達(と大きなフレンズ)を中心に大人気グループとなった。

 

その人気は、低下していた黒森峰のイメージを一気に持ち直させる程である。

 

 

 

 

 

(こ、コレも黒森峰の為っ!!)

 

まだ若干恥かしさが垣間見えているトラのフレンズに扮しているまほ。

 

「すっごーいっ!! 貴方達は応援するのが得意なフレンズなんだねーっ!!」

 

存外ノリが良く、すっかりハマり込んでいる豹のフレンズに扮している小梅。

 

「お、大洗にやってきたわにっ!!」

 

ヤケクソ気味に見える、何故かワニのフレンズになっているエリカ。

 

「気を付けーっ! 歯を食いしばれーっ!!」

 

そして1番ノリノリなカエルのフレンズに扮した久美。

 

「まほさ~んっ!!」

 

「小梅ちゃ~んっ!」

 

「エリカーッ!!」

 

「毛路山軍曹ーっ!!」

 

全員が熱烈なコールを受けていた。

 

「お姉ちゃん………」

 

そして、観客の中に居たみほは、まほの苦労を感じ、色々と同情する視線を向ける。

 

「アハハハッ! ナイスだわ、コレッ!!」

 

「可愛いわよー! 黒森峰さーんっ!!」

 

ケイと絹代は、心底楽しんでおり、観客に交じってコールを飛ばす。

 

「コレが新しい黒森峰………」

 

「色々な意味で革新的ですね………」

 

カチューシャとオレンジペコは、色んな意味で唖然としている。

 

「うふふふ………」

 

そして、その一同からやや離れた場所でティーアビスクヴィートのライブを見ていたダージリンは、只管に笑いを零すのだった。

 

 

 

 

 

そんなドッタンバッタン大騒ぎなライブが行われている特設ステージの後方では………

 

全校の歩兵部隊が立ち見でその様子を見ていた。

 

6校もの歩兵部隊が居るので、人数が人数であり、戦車部隊の女子達や一般客に席を譲り、全員が立ち見で見物していた。

 

「えへへへ、控えめに言って堪らんです、ハイ」

 

「了平、貴方はまた………」

 

獣姿の黒森峰戦車部隊員達がドッタンバッタン歌い踊っている姿に、了平が鼻血を垂らしながら嬉しそうにしており、楓がそんな了平に呆れる。

 

「可愛いね、エリカちゃん………」

 

「小梅の奴も似合ってるじゃないか」

 

エリカと小梅に賛辞を飛ばす拳龍と弦一朗。

 

(………今度あの衣装で頼んでみようかな?)

 

そんなまほの姿をちゃっかり自分の携帯のカメラで撮影しながら、何やら考えている都草。

 

「オイ、黒森峰の歩兵隊長さん」

 

するとそこで、白狼が都草に声を掛けた。

 

「オイ、神狩。他校と言えど先輩だぞ。その口の利き方は何だ?」

 

そんな白狼の無礼な言い方を、弘樹が咎めようとするが………

 

「いや、構わないよ。それで何だい? 神狩 白狼くん」

 

都草は特に気にした様子を見せず、改めて白狼に問う。

 

「気になってたんだが、揚羽達と蟷斬の奴は如何した? 今日の試合じゃ見なかったんだが………」

 

白狼は今回試合に参加した黒森峰機甲部隊の中に、揚羽達黒森峰生徒会メンバーと自身と浅からぬ因縁の有る蟷斬が居なかった事を尋ねる。

 

「天河会長達は生徒会の方の仕事が忙しくて欠席だよ。何せ廃校になりそうだったところから盛り返したからね。色々と処理しなければならない案件も多いそうだ」

 

「蟷斬の奴は?」

 

「彼は………実を言うと、私も分からないんだ」

 

「はっ? 何だそりゃ?」

 

都草の思わぬ答えに、白狼は首を傾げる。

 

「決勝の日の翌日に、『もっと心身を鍛え直す』と言って休学届けを出して武者修行の旅に出て粗音信不通なんだよ」

 

「時代錯誤な奴ってのは何処にでも居るんだな………」

 

「最後に来た連絡だと………『アマゾンは制した。次はヒマラヤだ』とだけ言っていたよ」

 

「何やってんだか………?」

 

蟷斬の行動に、白狼は呆れた様に溜息を吐いたのだった。

 

「ん………?」

 

するとそこで弘樹が、自分の戦闘服の袖を引っ張る者の存在に気づく。

 

「…………」

 

そこに居たのは、小学校低学年くらいの少年だった。

 

しかも1人では無く、かなりの人数がその傍に控えている。

 

「………何だい?」

 

弘樹は何時もの仏頂面だが、優しい声色でそう尋ねる。

 

「お兄ちゃん達、試合に出てた人だよね?」

 

子供達を代表する様に、弘樹の袖を引っ張っていた少年がそう尋ねて来る。

 

「ああ、そうだが………?」

 

「僕達にも歩兵道やらせて!」

 

と、弘樹の返答を聞くが否や、少年がそう言って来た。

 

「何っ………?」

 

「僕達も歩兵道やりたいんだ!」

 

「ねえねえ良いでしょう?」

 

困惑する弘樹に、子供達は一斉に群がって来る。

 

「むう………」

 

珍しく困った顔を見せる弘樹。

 

この年齢から歩兵道に興味を持ってくれている事は求道者としては嬉しい………

 

しかし、歩兵道は安全の為の大前提として、戦闘服の着用が義務付けられている。

 

こんな子供達用、しかも大量の戦闘服が、すぐに用意出来るワケがない。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

だが、それを知らない少年達は、期待の眼差しを弘樹に向ける。

 

弘樹は助けを求める様に、他の歩兵隊員達を見やるが、一同も如何して良いか分からず、顔を見合わせていた。

 

すると………

 

「私にいい考えがあるわ!」

 

何処かの司令官の様な、何故か失敗フラグが建っている台詞と共に、空と嵐一郎が現れた。

 

「! 教官っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

2人の姿を見て、大洗歩兵部隊員達は元より、他の歩兵部隊員達も敬礼する。

 

「お疲れ様。今日は皆頑張ったわね」

 

「何を言っとる、まだまだだ」

 

空が歩兵隊員達を労うが、嵐一郎はそう厳しい言葉を投げ掛ける。

 

「もう~、嵐一郎は相変わらず厳しいわね~」

 

「この年頃の連中と言うのは、ちょっとでも甘やかすとすぐ付け上げるからな」

 

「あの、教官方………良い考えと言うのは?」

 

と、話が脱線しそうだったのを見て、楓が軌道修正を図る。

 

「あっと、そうだったね。戦闘服が無くても安全に出来る訓練があるのよ」

 

「我が自衛隊でも行われている伝統的な訓練だ」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

そう言う空と嵐一郎に、一部を除いた歩兵部隊員一同は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして………

 

「や、やっと終わった………」

 

「お疲れ様、お姉ちゃん」

 

途中、ノンナが乱入し、酒に酔っているかの様な色っぽい雰囲気と声で、『たのまれグッバイ』を歌い上げるなんてハプニングもありながら………

 

漸く長いアンコールを終えたまほに、缶コーヒーを差し出して労うみほ。

 

現在特設ステージは、スタッフによって片付けの真っ最中である。

 

「いや~、面白いライブだったよ」

 

「見応え有りましたね~」

 

杏と柚子が、ティーアビスクヴィートの様子を思い出してそう言う。

 

「うう………」

 

それを聞いて只々恥ずかしそうにしているまほ。

 

「ところで、何でアンタはワニなのよ?」

 

とそこで、アリサがワニのフレンズとなっているエリカにそう尋ねる。

 

「そ、それは………」

 

「いや~、実はでありますなぁ。エリカ殿が黒森峰中等部に入学する日に意気込んで言おうとした言葉を………」

 

「久美いいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

「ぐえっ!?」

 

口籠るエリカに代わって、久美が答えようとしたが、エリカはそんな久美の喉を締め上げる。

 

「この事には触れるんじゃないわよ! 良いわねっ!?」

 

「ヒイッ! わ、分かったわよ!」

 

鬼の形相でそう言って来るエリカを見て、アリサはそれ以上の追及を止めたのだった。

 

「………アラ? セージさん達が居ませんね」

 

「ウチの連中も居ないわね?」

 

「と言うより、男子の皆の姿が無くない?」

 

とそこで、男子達の姿が無い事に気づいたオレンジペコ、絹代、沙織がそう声を挙げる。

 

すると………

 

「バーンッ! バーンッ! バーンッ! バーンッ!」

 

「ドドドドドドドッ! ドドドドドドドッ!」

 

「ドゴーンッ! ドゴーンッ!」

 

何やら擬音の様な大声が響いていた。

 

「な、何ですかっ!?」

 

「マリンタワーの方から聞こえるぞ」

 

優花里が驚きの声を挙げると、麻子がその声が大洗マリンタワーの方から聞こえて来ている事に気づく。

 

「行ってみましょう」

 

華の言葉に全員が頷き、マリンタワーの方へと向かう。

 

そしてそこで一同が見たモノは………

 

「バーンッ! バーンッ! バーンッ! バーンッ!」

 

「ドドドドドドドッ! ドドドドドドドッ!」

 

「ドゴーンッ! ドゴーンッ!」

 

小学校低学年くらいの少年達と共に、撃ち合いを行っている男子歩兵隊員達の姿だった。

 

全員、自分の得物を装備しているものの、その全てにマガジンが装填されておらず、口で銃撃音や爆発音を発しながら戦っている。

 

「な、何やってるのっ!?」

 

その光景を目撃して唖然としていた女子戦車部隊員達の中で、逸早く我に返った沙織が、全員が思っている事を口にする。

 

「慌てないで。地元の子供達とのちょっとしたレクリエーションよ」

 

そこで、空が姿を見せる。

 

「藤林教官っ!? レクリエーションって………?」

 

「コレなら戦闘服を着て無くても出来るし、子供達でも安心でしょう?」

 

戸惑うみほに、空はそう説明する。

 

「自衛隊でも、弾が足りない時とかこんな感じで訓練するし」

 

「いや、でもコレは………」

 

あっけらかんとそう言う空を横目に、傍から見ると『てっぽうごっこ』に興じている様にしか見えない男子歩兵部隊員達を見やるまほ。

 

「バーンッ! バーンッ! バーンッ! バーンッ!」

 

「!? プーッ!!」

 

とそこで、真顔でそのレクリエーションに参加している都草の姿が目に入り、思わず吹き出してしまう。

 

「ア、アイツ! あんな真顔で! アハハハハハハッ!!」

 

「そ、総隊長! お気を確かにっ!!」

 

大笑いするまほを見て、エリカが慌てて心配する様に寄り添ったが………

 

「「「「「アハハハハハハッ!!」」」」」

 

みほ達も、弘樹やジョーイ、デミトリまでもが真顔で参加しているのを見て堪え切れずに笑い出す。

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

やがて女子戦車部隊員達全員が大笑いし始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

黒森峰のイメージ回復戦略で、採用したけもフレ案と最終的にどちらにするか悩みボツにしたが、やっぱり書きたいので書いてみた別バージョン………

 

 

 

 

 

 

 

大洗アウトレット・特設ステージ………

 

「よ~し、それじゃあ皆! そろそろ今日のゲストを紹介しちゃうよ~っ!! 黒森峰の赤星 小梅さんと、毛路山 久美さん!!」

 

聖子がそう紹介すると、ステージ袖から小梅と久美が現れ、拍手で迎えられる。

 

「いや~、どうもどうも」

 

「お招きありがとうございます」

 

観客達に向かって何度も頭を下げる久美と、聖子に感謝を述べる小梅。

 

「それでは今日は2人に………」

 

と、聖子がそう言い掛けた瞬間………

 

突如として不穏なBGMが流れ始めた。

 

「へっ?」

 

「何々?」

 

「何事ですか?」

 

突然の事に戸惑うサンショウウオさんチームと小梅、久美。

 

その次の瞬間!!

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

ステージの床を突き破る様に、ワニの怪人………の着ぐるみを来たエリカが現れた。

 

御丁寧に、ワニ怪人の首の辺りには、エリカの顔が露出している。

 

「か、怪人っ!?」

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

聖子が驚きの声を挙げると、ワニ怪人(エリカ)は久美と小梅に向かって突撃する。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「ゲロォッ!?」

 

ワニ怪人(エリカ)は、小梅の前に居た久美を殴り飛ばす。

 

………若干本気の様に見えたパンチを食らい、久美はステージ袖に転がる様に消える。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「! キャアアアアッ!!」

 

そこでワニ怪人(エリカ)は、小梅を捕まえる。

 

「小梅さん!」

 

「聖子! 駄目ですっ!!」

 

助けに行こうとする聖子だったが、優に止められる。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「だ、誰か助けてぇーっ!!」

 

奇声を挙げるワニ怪人(エリカ)を見て、小梅は悲鳴の様に助けを求める。

 

すると………

 

 

 

 

 

「待゛て゛ぇ゛っ゛!!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

力んで言ったせいか、全てに濁音が付いている様に聞こえる台詞が響き渡り、ワニ怪人(エリカ)と小梅、サンショウウオさんチームは驚き、その声の主を捜す。

 

「! あっ! アレはっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこで聖子が何かに気づいた様に指を指し、観客達の視線がその指の先へと向かう。

 

そこには………

 

「やはりゴルゴムの仕業だったか! おのれっ! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

またもや力んだ余り、全てに濁音が付いた様に聞こえる台詞と共に、アウトレットの階段の踊り場に仁王立ちしているまほの姿が在った。

 

「!!」

 

と、そのまほが両腕を身体の右側に持って行き、拳を握る。

 

そしてその握った拳をギチギチと音がするまで更に握り締めたかと思うと、一瞬左腰部分へ持って行ったかと思った次の瞬間には、右腕を肘を曲げて右腰に添える。

 

左腕は身体の前で10時の方向へと伸ばす。

 

「変………身ッ!!」

 

その左腕を円を描く様に2時の方向へと動かしたかと思うと、身体ごと右へとスライドさせながら両腕を右へと伸ばした。

 

何時の間にかまほの腰には、『キングストーン』のベルトが巻かれており、それが激しく光を放ち始める。

 

そして一際な光が放たれたかと思うと………

 

まほの姿が、怪傑ゾロの様な姿に変わった!!

 

「トアッ!!」

 

変身したまほは、階段の踊り場から跳躍!

 

ステージ上に降り立ち、ワニ怪人(エリカ)と対峙する。

 

「!?」

 

ワニ怪人(エリカ)が驚きの様子を見せる中、変身したまほの身体の彼方此方から蒸気が噴き出す。

 

「仮面パンツァーッ! シュバルツッ!!」

 

そこではまほ………否、『仮面パンツァーシュバルツ』は、高らかに名乗りを挙げ、ポーズを決めた!

 

「トアァッ!!」

 

仮面パンツァーシュバルツが跳躍したかと思うと、ワニ怪人(エリカ)の脳天に手刀を叩き込む!

 

「!? ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

ワニ怪人(エリカ)が怯んだ隙に、小梅を引き離す!

 

「逃げるんだっ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

仮面パンツァーシュバルツに促され、小梅はサンショウウオさんチームの方に駆け寄る。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

そこで、立ち直ったワニ怪人(エリカ)が、仮面パンツァーシュバルツに襲い掛かる。

 

「トアァッ!!」

 

ワニ怪人(エリカ)と組み合う仮面パンツァーシュバルツ。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「!? ふあっ!?」

 

だが、ワニ怪人(エリカ)は想像以上のパワーで、仮面パンツァーシュバルツを投げ飛ばす!

 

ステージ上に在った機材にぶつかり、床の上を転がる仮面パンツァーシュバルツ。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

その仮面パンツァーシュバルツに、ワニ怪人(エリカ)は突進する。

 

「! トアッ!!」

 

しかし、今度は逆に、仮面パンツァーシュバルツが突進して来た勢いを利用して、ワニ怪人(エリカ)を巴投げで投げ飛ばす!

 

「!? ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

「トアッ!!」

 

転がったワニ怪人(エリカ)が立ち上がった瞬間に、小ジャンプしてのパンチを脳天にお見舞いする。

 

「トアッ! トアッ!」

 

そのまま左右のワンツーパンチを叩き込む仮面パンツァーシュバルツ。

 

「トアッ!!」

 

更に再度右の拳を繰り出したが………

 

「ワニッ!!」

 

その拳を、腕ごとワニ怪人(エリカ)の左手に掴まれてしまう。

 

「! トアッ!!」

 

「ワニッ!!」

 

すかさず左の拳を繰り出したが、コレもワニ怪人(エリカ)の右手に腕ごと掴まれてしまう。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

そこで何と!!

 

ワニ怪人(エリカ)はその大顎で、仮面パンツァーシュバルツの右肩に食い付いた!!

 

「うわっ!? ぐううっ!!」

 

仮面パンツァーシュバルツが苦悶の声を挙げる中、ワニ怪人(エリカ)はそのまま体重を掛け始める。

 

「ぐううっ!………」

 

その攻撃の前に、仮面パンツァーシュバルツは片膝を着いてしまう。

 

「ああ! 仮面パンツァーシュバルツが危ないっ!!」

 

「! 皆ーっ!! 仮面パンツァーシュバルツを応援してっ!!」

 

聖子が声を挙げた瞬間、小梅がステージ上から観客席に向かってそう呼び掛けた!

 

「行くよっ! せーのっ!!」

 

「「「「「「「「「「頑張れーっ!!」」」」」」」」」」

 

小梅の呼び掛けに答える様に、観客席のチビッ子達から応援の声が飛ぶ。

 

「もっと大きな声でっ! せーのっ!!」

 

「「「「「「「「「「頑張れーっ! 仮面パンツァーッ!!」」」」」」」」」」

 

更にそう呼び掛けると、今度は大人達も交じって大きな応援が飛んだ!

 

「! バトルホッパーッ!!」

 

と、その声援に応えるかの様に、仮面パンツァーシュバルツがそう叫んだかと思うと………

 

ステージ袖から1台のバイク………『バトルホッパー』が爆音と共に現れる!

 

「!? ワニッ!?」

 

そして、驚いていたワニ怪人(エリカ)をそのまま跳ね飛ばす!!

 

「!? ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

ぶっ飛ばされて倒れるワニ怪人(エリカ)。

 

「!!」

 

その瞬間、仮面パンツァーシュバルツは立ち上がり、両腕を広げたかと思うと、キングストーンの上で拳を合わせう様に組む『バイタルチャージ』を行う!

 

そして、変身時の様に両手を身体の右側で構えたかと思うと、ギチギチと音がするまで握り締める。

 

「トアァッ!!」

 

再び両腕を広げたかと思うと、仮面パンツァーシュバルツはワニ怪人(エリカ)に向かって跳躍!

 

「パンツアアアアアァァァァァァーーーーーーーッパアアアアアァァァァァァーーーーーーーンチッ!!」

 

身体の屈伸の反動が加わった必殺パンチ………『パンツァーパンチ』が、ワニ怪人(エリカ)に炸裂!

 

「!? ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

パンチをブチ込まれたワニ怪人(エリカ)は、白い煙を立てながらステージ上を転がり、フラフラと立ち上がる。

 

「パンツアアアアアァァァァァァーーーーーーーッキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

そこへ今度はトドメの屈伸の反動を加えた必殺キック………『パンツァーキック』が叩き込まれる!!

 

「!? ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

ワニ怪人(エリカ)は悲鳴と共に、大きくブッ飛ばされ、ステージ上に倒れる。

 

10割コンボを決めた仮面パンツァーシュバルツは、丈の文字に見える様にポーズで着地する。

 

「ワアアアアァァァァァーーーーーーニイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!?」

 

そして、ふらふらと立ち上がったワニ怪人(エリカ)の姿が、炎に包まれたかと思うと爆発・四散!!

 

跡形も無く消し飛んだ!

 

「やったぁーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

聖子が喜びの声を挙げると、観客席からも歓声が挙がる。

 

「ありがとう、皆! 皆の応援が有ったから勝つ事が出来た! 本当にありがとうっ!!」

 

「「「「「「「「「「仮面パンツァーッ!!」」」」」」」」」」

 

仮面パンツァーシュバルツは観客、特にチビッ子達にお礼を言い、バトルホッパーに跨ると、ステージ袖に消える。

 

『西住 まほ………仮面パンツァーシュバルツは、ゴルゴムにこの平和な世界を破壊させてはならぬと、新たな決意を燃やすのであった』

 

そこで、地市の小〇清志風のナレーションが流れて………

 

黒森峰のアピール戦略………

 

『仮面パンツァーショー』は幕を閉じたのだった。

 

そして、その直後………

 

ステージ上の巨大モニターに映像が映し出される。

 

『ゴルゴムの悪魔博士、来流矢教授の大発明。恐るべきタウリンエキスを注入され、パワーアップした『干し芋怪人』がツインテールを振り回して暴れ回る。勝てるか、仮面パンツァー! エキスの意外な原料とは何か? 変身、仮面パンツァーシュバルツ! 『鮟鱇が消えた日』! お楽しみに!!』

 

………次回予告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボツの理由

 

悪乗りし過ぎ(爆)

 

あとエリカが不憫過ぎた




新話、投稿させていただきました。

試合後のイベントライブ。
サンショウウオさんチームのゲストとして呼ばれたのは………
黒森峰のフレンズ!(笑)
これこそが黒森峰がイメージ回復の為に打って出た奇策です(爆)

最後のオマケはボツ案ですが、ちょっと書いてみたかったので掲載しました。
コレはきっとゴルゴムの仕業です!(爆)

次回はサービスの風呂シーン(笑)からオリジナル展開に入ります。
いよいよ本戦に向けて動き出すかも?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター10『大洗観光記です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター10『大洗観光記です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日がすっかり傾き出した頃………

 

各校戦車部隊員達は、『潮騒の湯』に集まり、試合後の汗を流そうと海水温泉に入浴していた。

 

尚、歩兵部隊員達はゆっくら健康館の方に向かった。

 

その際、何かを企んで結託していた了平と来流矢を、連合歩兵部隊が袋叩きにするという一幕があった事を付け加えておく。

 

 

 

 

 

『潮騒の湯』・入浴場………

 

「本日は皆お疲れだった。先ずは全て部隊の健闘を讃えると共に、参加を快諾してくれた事に感謝を示したい。更には審判団を派遣してくれた日本戦車道連盟並びに歩兵道連盟北関東支部茨城第2管区」

 

湯船に浸かっている桃が長々と演説の様に挨拶をしている。

 

「そして私事ながら、悲願の初撃………」

 

「河嶋ー、長い」

 

とうとう傍に居た杏からそうツッコミが入る。

 

「………では以上! 皆ゆっくりして行ってくれっ!!」

 

1番言いたかった部分を遮られ、若干不満そうにしながらも、桃はそう話を纏める。

 

「「「「「「「「「「は~い!」」」」」」」」」」

 

「ダージリン様、申し訳ありません………折角指揮を任せられたと言うのに、無様な姿を晒してしまって………」

 

「いえ、貴方は十分にやったわよ、ペコ。今回は試合の形が特殊だった事もあるわ。寧ろその中で良く頑張ったわね。勝負は時の運よ」

 

大洗の面々が返事を返す中、合流したダージリンにオレンジペコが詫びるが、ダージリンは良くやったとオレンジペコを褒める。

 

「ダージリン様………ありがとうございます」

 

そんなダージリンに、オレンジペコは感謝を告げる。

 

「後進の育成は順調みたいだな、ダージリン」

 

とそこで、まほがダージリンに声を掛ける。

 

「まほさんの方こそ、改革は順調に進んでらっしゃるみたいね。天下の黒森峰のあんな姿が見られるなんて」

 

「! 言うな………」

 

ダージリンがからかう様にそう言うと、まほは赤くなった顔を背ける。

 

「トラのフレンズさん、とても可愛らしかったわよ………でも、夜は梶さんにニャンニャン鳴かされちゃうのかしら?」

 

「!? なななな、何を言っとるか貴様ーっ!!」

 

「総隊長、動揺し過ぎです」

 

所謂、下な話をして来たダージリンに、まほはあからさまに狼狽した様子を見せ、小梅に突っ込みを入れられる。

 

「アラ、その様子だと図星かしら? うふふ、西住流も恋路の役には余り立たない様ですわね」

 

「煩いっ! そう言うお前は愛しの騎士(ナイト)とは如何なんだっ!?」

 

この手のからかいに慣れていないまほは、ダージリンとアールグレイの事を引き合いに出して反撃を試みるが………

 

「冬にはイギリスに留学するわ。彼も里帰りして一緒にね。卒業したらそのまま現地の大学に進学するわ。大学を卒業したら結婚式を挙げて向こうに住む積りよ。ロンドンの郊外辺りに小さな家を建てて、子供は3人は欲しいわね。男の子が2人で女の子が1人。やっぱり将来的には歩兵道と戦車道をやらせようかしら。子供達が独立したら、日本に帰って来て、片田舎で農業でもしながらのんびりとお茶を………」

 

「スマン、私が悪かった………だからもう止めてくれ」

 

ダージリンはヤケに具体的な将来計画を語り出し、お惚気とも取れるその計画を嬉々として聞かされたまほは、死んだ魚の様な目になって止める。

 

「アラ? コレから良いところなのに………」

 

「まほ殿も恋バナトークではダージリン殿に勝てないでありますな」

 

ダージリンが残念そうにすると、湯船の中を平泳ぎしながら近づいて来た久美が、まほにそう言う。

 

「ちょっと、久美! 湯船で泳ぐんじゃないわよっ!!」

 

それを見たエリカが、久美に注意を飛ばす。

 

「そんな堅い事、言いっこ無しでありますよ~」

 

「アンタももう黒森峰戦車部隊の副隊長なのよ! 少しは副隊長の自覚と言うモノをねぇ………」

 

クドクドと久美に説教を始めるエリカ。

 

 

 

 

 

そう………

 

実はあの決勝戦の後………

 

久美は第2副隊長に昇格していたのである。

 

何やかんやで、あの決勝戦の試合でまほに次ぐ戦果を挙げていたのは久美と彼女の随伴歩兵分隊であり、功績を鑑みれば当然と言えた。

 

適当が服を着て歩いている様な人間と称されるが、人当たりが良く誰に対してもフレンドリーに接する黒森峰らしからぬ性格の久美は、新体制をアピールする意味でも十二分な人材と言えた。

 

彼女が上の立場になった事で、黒森峰機甲部隊の空気は一気に柔和になった。

 

上の者の態度は下の者に伝播するとは良く言ったものである。

 

 

 

 

 

「と、言うワケ! 分かったっ!?」

 

と、漸く長い説教を終えたエリカが、改めて久美を見やるが………

 

「犬神家」

 

「「「「「「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

当の本人は既に聞いておらず、犬神家ごっこをやって戦車部隊員達の爆笑を誘っていた。

 

「! 久美ーっ!!」

 

「ゲローッ!!」

 

そんな久美を引っ掴むと、湯船に沈めようとするエリカ。

 

するとその瞬間………

 

エリカの頭に風呂桶が命中した。

 

「はがっ!?」

 

更にエリカの頭で跳ね返った風呂桶は、久美も直撃!

 

「ゲロッ!?」

 

2人はタンコブを作って湯船に浮かんだ。

 

「湯船で騒ぐんじゃないわよ」

 

その風呂桶を投げた人物・カレンがそう言い放つ。

 

「アハハハッ! クリーンヒットねっ!!」

 

「ゴメンなさいね、黒森峰の西住さん。おたくの副隊長達を」

 

「いや、良く止めてくれた」

 

その様子にケイが笑い、カレンがまほに謝るが、まほは気にするなと言う。

 

(ぐぐぐ………デカけりゃ良いってもんじゃないでしょっ!!)

 

そんな3人の湯船に浮かぶ『ある部分』を見て、密かに羨望と嫉妬を抱くアリサの姿が在った。

 

「ううう………もう出るっ!!」

 

と、温泉の熱さに耐えられなくなったカチューシャが湯船から出ようとする。

 

「長く入らないと、良い隊長になれませんよ。肩まで浸かって100は数えて下さい」

 

するとノンナが、まるで母親の様にそうカチューシャを諭す。

 

「うう………」

 

そう言われたカチューシャは、渋々と湯船に肩まで浸かる。

 

『1、2、3、4………』

 

「日本語で数えなさいよっ!!」

 

そこでクラーラがロシア語でカウントを始めるが、カチューシャにそうツッコミを入れられるのだった。

 

「みほちゃん、ゴメンなさいね。今日は玉田達が迷惑掛けて」

 

「いえ、そんな。一緒にチームが組めて良かったです。色々勉強になりました」

 

玉田達の独断突撃の件を詫びる絹代だが、みほは逆に勉強になったと返す。

 

「そう言って貰えると助かるわ………アンタ達も反省しなさいよ」

 

みほの寛容さに感謝すると、絹代は玉田達の方に向き直り、そう言い放つ。

 

「はい、総隊長! 我々の精神力が足りなかったばかりに、無様な突撃を曝してしまって………」

 

「違う! その突撃が問題なのよっ!!」

 

「何を仰られますか、総隊長! 突撃は我が校の伝統ですぞっ!!」

 

玉田が的外れな反省を示すと、絹代がそうツッコミを入れるが、細見も玉田を擁護する。

 

「別が突撃が悪いと言ってるんじゃないわ。けど、勝手に判断して突撃したのが問題なの。其々が勝手に判断して動いていたら部隊が成り立たないわ」

 

「しかし! 突撃して潔く散る事こそが知波単の………」

 

「あ~、もう良いわ!………後で身体に教え込んであげるわ」

 

堂々巡りな意見に絹代は嫌気が差し、玉田達に見えない様に怒りの形相を浮かべた。

 

(! ヤバッ! 西総隊長が『大魔神』になってる!!)

 

その顔を目撃したカレンが、それが絹代が本気で激怒している時だけに見せる憤怒の形相であり、『大魔神絹代』が目覚めてしまったと密かに戦慄する。

 

「はあ~、後1週間で新学期ですね~」

 

蕩けそうな顔で湯に浸かっている優花里がそう口にする。

 

「あ! 宿題まだ終わってない~」

 

その言葉で、まだ夏休みの宿題が残っていた事を思い出した沙織が、憂鬱そうに呟く。

 

「ハア~………また毎朝起きねばならないのか………学校など無くなってしまえば良いのに」

 

「滅多な事は言うものじゃありませんよ」

 

「そうだよ、冷泉さん。そんなこと言ったら、舩坂さんだって激怒するよ」

 

相変わらず低血圧な麻子がそんな事を口走ると、華と聖子がそう釘を刺してくる。

 

「うっ………!!」

 

その言葉で、完全武装して迫って来る弘樹の姿を想像してしまい、若干顔を青褪めさせる麻子。

 

「あ、そうだ、お姉ちゃん。明日なんだけど、待ち合わせ場所はフェリーターミナルで良いかな?」

 

ふとそこで、みほがまほに向かってそう尋ねる。

 

「ああ、港の傍だったな。大丈夫だ、問題無い」

 

「うふふ、楽しみですわね」

 

「今日は眠れないかも~!」

 

まほがそう返すと、ダージリンとケイが呼応するかの様にそんな声を挙げた。

 

「フッ、小学生じゃあるまいし、何言ってるのよ?」

 

「そう言っても、試合の前から観光案内を熱心に読んでいたではありませんか?」

 

「余計な事は言わなくて良いのっ!!」

 

カチューシャも何やら楽しみにしており、ノンナにそう言われて隠す様にそう返す。

 

「夏の最後の思い出作りだね」

 

そして最後に、沙織が纏めるかの様にそう言い放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

大洗の港には、まだ各校の学園艦が停泊していた。

 

 

 

 

 

大洗サンビーチ海水浴場………

 

「イエーイッ!!」

 

歓喜の声と共に、眩しい星条旗ビキニ姿のケイが、砂浜をダッシュし、海へと向かう。

 

他にも水着姿のサンダースやカーネルの生徒達、そして大洗歩兵部隊員達も、同じ様に海へとダッシュする。

 

「ちょっと! 準備運動くらいしたら如何なのっ!?」

 

そんなケイ達に向かって、水着姿のエリカがそう叫ぶ。

 

その傍では、水着姿の黒森峰機甲部隊員達が入念に準備運動を行っている。

 

「お~い、待てよ~、沙織~」

 

「アハハハ! コッチコッチ~! 早く捕まえて~っ!!」

 

その前を、一昔前のバカップルの様な追い駆けっこをしている地市と沙織が通過して行った。

 

「アイツ等、何時の時代の人間よ?全くもう………」

 

そんな2人の姿に呆れる声を漏らすエリカ。

 

「お待たせ、エリカちゃん」

 

するとそこで、拳龍が現れてエリカに声を掛けた。

 

「ちょっと、遅いわよ! 何やって………」

 

台詞が途中で途切れるエリカ。

 

「如何したの? エリカちゃん?」

 

突然黙り込んだエリカに、拳龍は怪訝な顔をする。

 

(うわっ! 凄い身体! ブ〇ース・リーみたいっ!! 素敵っ!!)

 

エリカは口元を手で覆いながら、某カンフースターの様な拳龍の肉体に見惚れていた。

 

「エリカちゃん? 大丈夫?」

 

そんなエリカに近づくと、顔を覗き込む拳龍。

 

「! だだだだ、大丈夫よ! だから近づかないでっ!!」

 

「あ、ゴメン………」

 

更に間近で肉体美を見せられてテンパるエリカと、ワケが分からないまま謝る拳龍だった。

 

 

 

 

 

一方、海に入っていたケイは………

 

「アラ? 小太郎? 何処ーっ?」

 

近くにいた筈の小太郎の姿が見えなくなった事に気づいたケイが呼び掛ける。

 

「………うん?」

 

するとケイは、すぐ傍で海面から突き出している竹筒に気づく。

 

竹筒の中は空洞になっており、良く耳を澄ますと、呼吸音の様な音が聞こえる。

 

「はは~ん………」

 

それを聞いたケイは、悪戯っ子の様な笑みを浮かべたかと思うと………

 

「そりゃっ!!」

 

竹筒に指を突っ込んで穴を塞いだ!

 

暫くすると、竹筒がグラグラと揺れ始める。

 

徐々にその揺れは激しくなって行き、そして!!

 

「ブハアッ!?」

 

耐え切れなくなった小太郎が、海上に浮上して来た!!

 

水遁の術を使っていた様である。

 

「ゲホッ! ゴホッ! ケイ殿! 酷いでござるよ!!」

 

「折角海に来たのに、そんな事やってる小太郎が悪いんでしょ! もっと楽しみましょうよ、ホラッ!!」

 

むせていた小太郎に、ケイは抱き付く。

 

「ぬおおっ!?」

 

水着姿のケイに抱き付かれ、動揺する小太郎。

 

(クッ! 耐えるでござる、葉隠 小太郎! この程度の事で………うん?)

 

色々とヤバイ事になりそうになりながら、必死に精神力で耐えようとしていた小太郎だったが、そこで密着しているケイの身体の感触に違和感を覚える。

 

すると、そんな小太郎の視界に、波間を漂っていた『ある物』が目に入る。

 

「!?!?」

 

その『ある物』を目にして小太郎は仰天する。

 

何故ならそれは、ケイの星条旗ビキニのトップだったからだ!

 

「ケケケケケ、ケイ殿ぉっ!!」

 

必死に漂っている水着を指差しながら声を挙げる小太郎。

 

「えっ?………アラ?」

 

その指差された先を確認し、水着が漂っているのを確認したケイが、小太郎から離れると、自分の身体を確認する。

 

そこには当然、上半身丸出しのわがままボディが在った。

 

「アッハ、外れちゃったっ」

 

しかしその性格故か、特に恥ずかしがる様な素振りも見せず、サラリと笑いながらそう言い放つケイ。

 

「! サヨナラッ!!」

 

だが、それを諸に見てしまった小太郎は、爆発四散した様なアトモスフィアと共に、盛大に鼻血を噴き出した!

 

その日、大洗の海は赤く染まった………

 

 

 

 

 

そして、浜辺では………

 

最早お約束となった、アヒルさんチームの面々が、ナオミ、アリサのペアを相手にビーチバレーに興じていた!

 

「キャプテン! お願いしますっ!!」

 

「任せろっ!!」

 

忍が上げたボールを、典子がその小柄な身体から信じられない程の跳躍力を見せて、アリサ目掛けて打ち込む!

 

「えっ!? ちょっ!?………!? ブハッ!?」

 

アリサは真面に反応する事さえ出来ず、顔面に直撃を受け、ボールはアリサ達のコートに落ちた。

 

「やりました、キャプテン!」

 

「また1点追加です!」

 

「良いぞー、典子ちゃ~ん!」

 

「忍も頑張れやーっ!!」

 

そんな忍と典子に声援を飛ばす妙子、あけび、武志、大河。

 

「大丈夫か、アリサ?」

 

「アイツ等、絶対人間辞めてるわよ………」

 

倒れているアリサに近づいてそう尋ねるナオミと、恨みがましくそう呟くアリサだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大洗町の海岸近くの道路を疾走する2台のバイクの姿が在った。

 

1台はツェンダップK800W、もう1台は陸王である。

 

共に男女がタンデムしている。

 

「わあ~、海が綺麗だね」

 

「そうだろそうだろ! 綺麗な海は大洗の自慢の1つだからなっ!」

 

陸王の方に乗っている小梅がそう言うと、弦一朗が自慢げに返す。

 

「アイツ転校生じゃなかったか?」

 

「まあまあ、神狩殿。細かい事は良いじゃないですか?」

 

当然、ツェンダップK800Wの方に乗っているのは白狼と優花里だ。

 

如何やら、ツーリングに洒落込んでいる様だ。

 

「よおし! 天気も良いし、那珂湊の方まで行って焼きそば食うかっ!!」

 

「わあ、良いね! それっ!」

 

「そうと決まれば………飛ばすぜ、小梅!」

 

「行っちゃえっ、弦ちゃんっ!!」

 

弦一郎と小梅がそう言い合うと、陸王が加速する。

 

もうすっかりカップルの雰囲気である。

 

「お先にーっ!」

 

「失礼しまーす」

 

そのまま白狼と優花里が乗るツェンダップK800Wを追い越して行く弦一朗と小梅。

 

「あ、文月殿! 赤星殿!」

 

「あの野郎………俺を追い抜いて行きやがったな」

 

優花里が声を挙げると、プロレーサーとして、抜かれた事が気に食わない様子の白狼。

 

「えっ!? か、神狩殿っ!?」

 

「優花里! しっかり掴まっとけよぉっ!!」

 

狼狽する優花里を無視する様に、白狼はアクセルを全開にする。

 

爆音と共に、2人が乗るツェンダップK800Wは一気に加速する!

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

ドップラー効果が付いた、優花里の悲鳴が響き渡る。

 

しかし、そのお蔭で白狼に密着出来て、何処か嬉しそうでもあるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

風呂場でのガールズトーク。
そして、各校メンバーの大洗観光が始まります。
前から他の学校のメンバーが大洗を観光する場面と言うのを書いてみたかったんですよね。
本戦が控えているので、一部メンバーはダイジェスト気味にお送りするかと。
予め御了承下さい。

次回は他のメンバーの観光の様子………
そして遂に、劇場版の『あの迷場面』に行くかと。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター11『ボコミュージアムです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター11『ボコミュージアムです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・磯浜町の『味の店たかはし』………

 

「まあ、美味しい」

 

名物の『みつだんご』を頬張ったダージリンが、舌鼓を打つ。

 

「この美味しさはデータ以上です」

 

同じ様にみつだんごを頬張っていたアッサムも、パソコンを弄りながらそう言う。

 

「みつだんごは大正時代からこの大洗で食べられてきたおやつだよ。たんと食べとくれ」

 

たかはしの女将が、そう言いながら更に追加のみつだんごを出す。

 

「ありがとうございます。う~ん、美味しいです」

 

すぐさまそれに手を付ける華。

 

………その傍らには、既に食べ終えたみつだんごの串が、100本以上は置かれている。

 

「あ、あの、五十鈴さん………そんなに食べて大丈夫なんですか?」

 

その光景に戸惑った様に、オレンジペコが華にそう言うが………

 

「えっ? まだ今日はそんなに食べてませんけど?」

 

華は首を傾げて、不思議そうな様子でそう返して来た。

 

(如何なってるの、この人っ!? この細い身体の何処にそんなに入るのっ!?)

 

その言葉に、オレンジペコは人生で1番の戦慄を覚えたのだった。

 

「君の彼女は随分と食欲が旺盛みたいだね」

 

そんな華の姿を見て、ジャスパーが飛彗にそう言う。

 

「最初の頃は少し戸惑いましたよ。でも、今はいっぱい食べる華さんが好きです」

 

「君も言うねぇ」

 

飛彗がそう返すと、ジャスパーは半ば呆れる様な様子を見せる。

 

「アールグレイ、君も少しは寛いだら如何だい?」

 

「…………」

 

そして、ダージリンの傍に直立不動で控え続けるアールグレイにそう呼び掛けるセージと、それに対しリアクションを見せないアールグレイだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗マリンタワー・展望台………

 

「うわああーっ! たっかーいっ!!」

 

眼下に広がる光景を、満足そうに眺めているノンナに肩車されたカチューシャ。

 

「やっぱり偉大なカチューシャ様にはこれくらい雄大な景観が似合うわね」

 

「ハイ、カチューシャ」

 

ご満悦なカチューシャに同意するノンナ。

 

「…………」

 

そんな2人を優しい目で見ているデミトリ。

 

「………何とかと煙は高いところが好きだな」

 

「止めとけ、粛清されるぞ」

 

そんなカチューシャの様子を寝ながら見てそう呟く麻子と、そんな麻子に膝枕をしながらパソコンを弄っている煌人がツッコミを入れる。

 

「…………」

 

とそこで、陣がミサンガを手にして姿を見せた。

 

「? 陣、何よソレ?」

 

「願掛け用のミサンガだな。夜になるとそこの壁一面がルミライトアートになるんだ。で、そこに在るロープにミサンガを結ぶと願いが叶うと言われている」

 

カチューシャが首を傾げると、煌人が展望台中央部分の壁を指しながらそう説明する。

 

「ロマンチックですね」

 

「願掛けねぇ………まあ、良いわ。記念に結んであげる。別に願いなんてないけどね」

 

ノンナがそう言うと、カチューシャは肩車から降りて、陣からミサンガを取り、壁の前に在ったロープに巻き付ける。

 

(背がおっきくなりますようにっ!!)

 

割と真剣にそう願いながら。

 

「うふふ………」

 

「ふふ………」

 

「…………」

 

そんなカチューシャを見ながら微笑ましそうに笑い、同じ様にミサンガをロープに結び付けるノンナとデミトリ、陣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

鉾田市に近い、海水浴場から離れた大洗町の海岸にて………

 

「と、突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「と、突撃ーっ!!」」」」」」」」」」

 

玉田のやや吃った掛け声が掛かると、これまた吃った叫びを挙げて、知波単の突撃組がチハ(旧砲塔)やチハ(新砲塔)で突撃を繰り出す。

 

その直後!!

 

辺り一面が大爆発し、チハ達は空中高くへと舞い上がったかと思うと、次々に砂浜に叩き付けられて、白旗を上げる。

 

「ブハッ!」

 

「ガハッ!」

 

撃破されたチハ達の中から、玉田を始めとした乗員達が、這う這うの態で抜け出して来る。

 

「ハーイ! もう1回よぉーっ!!」

 

「次の車輌の用意は出来ている」

 

「新しいチハ、持って来たよー」

 

とそこで、やや後方の方でメガホンを手にしていた絹代が、満身創痍気味な玉田達にそう言ったかと思うと、ナカジマと敏郎を始めとした自動車部と整備部メンバーが、新しいチハ達を持ってくると同時に、撃破されたチハ達を回収。

 

そして、撃破されたチハ達を、その場で修理し始める。

 

「に、西総隊長! もう無理ですっ!!」

 

すると、玉田が限界だと声を挙げる。

 

「何言っているの? 貴方達が突撃したいって言うから、好きなだけ突撃させてあげてるんじゃない」

 

「ですが! 相手は海の上に居るのですよっ!!」

 

絹代がそう返すと、玉田は海上を指差す。

 

 

 

 

 

そこには、絹代達が居る海岸に右舷を向け、全砲門を照準している大和の姿が在った!!

 

 

 

 

 

先程の大爆発は、大和の艦砲射撃だった様だ。

 

「そんな事、精神力で如何にかしなさい」

 

「無茶なっ!?」

 

「アラ? 精神力が有れば撃破されなかったって言ってたのは何処の誰だったかしら?」

 

「うっ!? そ、それは………」

 

自分の発言を持ち出され、反論出来なくなる玉田。

 

「分かったら、さっさと新しい車輌に乗って突撃しなさいっ!!」

 

「!? ハ、ハイィッ! 突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「突撃ーっ!!」」」」」」」」」」

 

駄目押しとばかりに、大魔神の憤怒の形相の様な怒りの表情を見せた絹代の迫力に押され、玉田達は新しいチハ達に乗り込むや否や、一斉に大和に向かって突撃する。

 

その直後に、大和の全砲門が火を噴き、玉田達のチハ達はまたもや一斉に吹き飛ばされて白旗を上げた。

 

「ハイ、もう1かーいっ!!」

 

だが絹代は無慈悲にもそう言い、再び自動車部と整備部メンバーが新しいチハ達を運び、撃破されたチハ達を回収して修理し始める。

 

「き、絹代さん………流石に可哀想なんじゃ?」

 

「駄目よ。甘い顔するとすぐ調子に乗るんだから」

 

流石に見ていられなくなったカレンが絹代を止めようとしたが、絹代はバッサリと斬って捨てる。

 

「あの子達には骨の髄まで旧知波単体制の突撃精神が染みついてるわ。だったら、遺伝子レベルで突撃へのトラウマを植え付けてやるしかないわ。突撃精神のせいでウチ等が全滅するのは構わないけど、他校の人達に迷惑を掛けたのは看過出来ないわ」

 

「まあ確かに、あの考え無しの突撃のせいで舩坂さんを始めとした大洗の皆さんには迷惑をお掛けしましたからね………」

 

絹代がそう言葉を続けると、ライがエキシビションマッチでの事を思い出してそう言う。

 

「この際、徹底的に矯正して再教育してあげるわ。護! 手は抜かないでよ!!」

 

『ああ、分かった』

 

絹代が通信機を取り出し、大和の艦橋に居る護に通信を送ると、三度大和が発砲!

 

またも玉田達のチハ達が吹き飛ばされる。

 

「ハイ、もう1かーいっ! 次からは一航専の航空支援による爆撃や機銃掃射も加わるから、一層気を引き締めなさーいっ!!」

 

「「「「「「「「「「もう許して下さーいっ!!」」」」」」」」」」

 

次々に繰り出される絹代からの無慈悲な宣告に、とうとう玉田達は泣きながら許しを乞い始めた。

 

だが結局、絹代の矯正・再教育と言うの扱きは、その日の夜まで続けられ………

 

玉田達は、述べ5000回にも及ぶ無意味な突撃を強要させられ、終わった時にはすっかり精も根も尽き果てていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その他にも、ウサギさんチームとハムスターさん分隊の面々がアクアワールド大洗でイルカショーを楽しんで居たり………

 

カバさんチームが江口又新堂でお目当ての本を探したり………

 

久美がタグチ玩具店でレアガンプラを発見したり………

 

釣りに興味を持ったクラーラが金丸釣具店で釣り具を物色したり………

 

杏が桃達や男子校生徒会メンバーと連れ立って大洗まいわい市場で干し芋を買い漁ったり………

 

曲がり松商店街を歩いていたニーナとアリーナ、ピョートルにマーティンが住人達から矢鱈と歓迎を受けたり………

 

最近体力作りに目覚めたアリクイさんチームが、大洗キャンプ場で筋トレをしていたり………

 

羽目を外し過ぎている者達が居ないかと目を光らせているカモさんチームと、そんなカモさんチームを心配して付き添っている紫朗の姿があったり………

 

ちゃっかりと屋台を出しに来ていたアンツィオの面々を発見し、鉄板ナポリタンを御馳走してくれると言う条件で、ミニライブを開く事になったサンショウウオさんチームと磐渡達など………

 

地元の大洗学園艦の面々は勿論の事、他校の生徒達も大洗の町を堪能し、夏休み最後の思い出作りを楽しんでいた。

 

そして、弘樹とみほはと言うと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・フェリーターミナル………

 

そこに在ったバス停から出た路線バスの最後尾の席にて………

 

「えへへへ………まさかお姉ちゃんとダブルデート出来るなんて、思わなかったなぁ」

 

「ああ、私もだよ………」

 

笑顔でそう言うみほに、まほも微笑を浮かべてそう返す。

 

バスの最後部の席の中心に、みほとまほが並んで座り、その西住姉妹を挟み込む様に、みほが居る側に弘樹、まほが居る側に都草が座っていた。

 

「いやはや、私も君とこういう形で共に過ごす事になるとは予想していなかったよ」

 

「…………」

 

都草の方も弘樹に向かってそう言い、弘樹も無言ながら何やら思うところがある様な様子を見せる。

 

(正直、ちょっと恥ずかしい気もするが………みほと都草と一緒に過ごせる機会なんてないからな。思い切って乗ってみて良かった)

 

余りこういう事に積極的に参加しそうにないまほだったが、かつての様にみほと都草と過ごせるならそれも悪くないと思い、思い切って参加した様である。

 

「ところでみほ。今日は一体何処へ行くんだ?」

 

「そう言えば、私も聞いていないね」

 

とそこで、まほと都草が、まだ行き先を聞いていなかったのを思い出し、みほにそう尋ねる。

 

「凄く良いとこだよ! この前、偶然見つけたんだぁっ!!」

 

するとみほは、いきなりテンションが上がった様子でそう返す。

 

(このテンション………まさか………)

 

(みほちゃんにとって良い所と言うと………もしや『アレ』では………)

 

それを聞いたまほと都草は、ある予感が頭を過ぎり、苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

みほ達が到着したのは、まるでお化け屋敷の様に荒れ果てている建物だった。

 

入り口の看板にはこう書かれていた………

 

『ボコミュージアム』と。

 

「まさか大洗にこんな素敵な場所が在ったなんて! 如何して今まで気づかなかったんだろうっ!!」

 

そんな荒れ果てたミュージアムを前に、見た事がないくらいテンションが上がっているみほ。

 

そう………

 

このボコミュージアムは、みほが愛して止まないキャラクター………

 

『ボコられグマ』、通称『ボコ』のミュージアムなのである。

 

「やっぱり………」

 

「未だにみほちゃんのあの趣味だけは理解出来ないよ………」

 

そんなハイテンションなみほの様子に、苦笑いを浮かべて若干引いているまほと都草。

 

「大人4枚………」

 

そして淡々と入場チケットを購入している弘樹だった。

 

 

 

 

 

ボコミュージアム・エントランス………

 

「おう! よく来やがったな、お前達! おいらが相手してやろう! ボコボコしてやるぜ!」

 

入場した一同を出迎えたのは、このミュージアムの看板キャラ、ボコの可動式の人形だった。

 

「生ボコだぁ! 可愛い!!」

 

「おわっ!? 何をするっ!? 止めろっ!!」

 

みほが歓声を挙げると、ボコは突然殴られている様な動きをし始める。

 

「いや、何もしていないよ………」

 

「やられた………覚えてろよぉっ!!」

 

「だから何もしていないって」

 

何もしていないのに勝手にやられたボコに向かって、都草が呆れた様な声を漏らす。

 

「粋がる割りに弱いんだな………」

 

「それがボコだから!」

 

まほもそう漏らすが、それに対しすかさずみほがそう返す。

 

「如何やら、私達以外に客は居ない様だね………」

 

と、都草がそう言うと、一同はミュージアム内へと歩を進め始める。

 

「おう! よく来やがったな!」

 

「…………」

 

一方、また同じ事を繰り返し始めたボコの人形を、興味深そうな目で見ている弘樹だった。

 

 

 

 

 

その後一同は、『イッツ・ア・ボコワールド』、『ボコーテッドマンション』、『スペースボコンテン』………

 

と言った、色々と危ないミュージアム内のアトラクションを回り………

 

最後に、このミュージアム最大の目玉である『ボコショー』のステージへとやって来ていた。

 

 

 

 

 

ボコショー・ステージ………

 

「オイ! 今ぶつかったぞ! 気を付けろっ!!」

 

ステージ上で、擦れ違い様にぶつかったと鼠、白猫、黒猫にいちゃもんをつけるボコ。

 

「ああ? 生意気だ」

 

「やっちまえっ!!」

 

「おもしれぇ! 返り討ちにしてやらぁっ!! うおおおおっ!? ガフッ!?」

 

「口程にも無い奴め!」

 

勇ましく喧嘩を売ったは良いが、全く歯が立たずに、その名の通り3匹にボコボコにされるボコ。

 

「「…………」」

 

その光景を見て、最早苦笑いで顔が固まってしまっているまほと都草。

 

「…………」

 

そして相変わらず興味深そうにボコを観察している弘樹。

 

「皆! おいらに力をくれっ!!」

 

すると、袋叩きにされているボコが、観客達に応援を求める。

 

………と言っても、客はみほ達4人しかいないが。

 

「ボコ、頑張れ………」

 

「もっと力をぉっ!!」

 

「頑張れっ!!」

 

「もっとだ!!」

 

「が………」

 

「頑張れー、ボコーっ! 頑張れーっ!!」

 

煽られるかの様にそう求められ、みほが大声で応援しようとしたところ、それを遮る様に叫ぶサイドテールの少女の姿が在った。

 

「ん? 私達以外にも居たのか………」

 

(………何処かで見た様な気がするが………)

 

都草がそう言うと、まほはその少女に見覚えを感じる。

 

「ボコ頑張れー!」

 

とそこで、みほからもボコへの声援が飛ぶ。

 

「キタキタキターッ!! 皆の応援がオイラのパワーになったぜっ!! ありがとよっ!!」

 

そこでボコがそう言いながら、勢い良く立ち上がる。

 

「おう! お前等纏めてやってやらぁっ!………あらっ!?」

 

しかし、再び殴り掛かって行ってアッサリと転ばされ、またもや袋叩きにされ始めた。

 

「何だコレは?………」

 

「結局はボコボコにされるんだね………」

 

「それがボコだから!」

 

呆れるまほと都草だが、みほは満足そうな顔でそう言う。

 

「また負けた………次は頑張るぞっ!!」

 

やがてボロボロになったボコがスポットライトに照らされながら、観客席に向かってそう言った瞬間にステージの幕が閉じる。

 

「…………」

 

ショーが終わると、弘樹は拍手を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

みほ達はミュージアム内に行った売店を訪れていた。

 

「凄く頑張ってたね、ボコ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん!」

 

「みほちゃんが楽しそうで何よりだよ」

 

相変わらずテンションが高い様子のみほに、まほと都草は戸惑うばかりである。

 

「…………」

 

そして弘樹は、売店の賞品の中に在ったボコのぬいぐるみを手に取り、やはり興味深そうに見ていた。

 

「あ、残り1つだって!」

 

とそこでみほが、最後の1つとなっている激レアボコのぬいぐるみに気づく。

 

「いやいや、みほちゃん。コレはそう言う商法だって」

 

「でも可愛いし」

 

都草がそう言うが、みほは激レアボコに手を伸ばす。

 

するとその手が、横から伸びて来た別の手と重なる。

 

「「あ………」」

 

「君はさっきの………」

 

みほとその手の少女が顔を見合わせると、まほがそう言う。

 

「あ、良いの良いの」

 

するとみほは、その激レアボコを少女に手渡す。

 

「良いのか? みほ」

 

「うん、私はまた来るから」

 

まほがそう尋ねるが、みほは笑って返す。

 

「…………」

 

と、少女は何かを言おうとした様子を見せたが、やがて逃げる様にレジへと向かって行った。

 

「やれやれ、お礼ぐらい言っても良いだろうに………」

 

「きっと恥ずかしいだけだよ」

 

都草がそう言うが、みほは気にしていない様子でそう返す。

 

「あ、そうだ! もう1回ボコショー見ようよっ!!」

 

「「えっ!?………」」

 

するとそこで、みほからそんな提案が挙がり、都草とまほは思わず固まる。

 

「弘樹くんも良いよね」

 

「ああ、構わない………」

 

みほが弘樹にも尋ねると、何時の間にか購入していた大きめのボコのヌイグルミを手にしていた弘樹がそう返事をする。

 

((に、似合わない………))

 

その姿が余りにも似合っていなかったので、都草とまほはギャグ汗を浮かべる。

 

「じゃあ、行こうっ!!」

 

そこでみほは、都草とまほの返事を待たずに、再びボコショーのステージへと向かった。

 

それに続く弘樹。

 

「………都草………覚悟を決めるしかないな」

 

「その様だね………」

 

そして、何やら悲壮な決意を固め、2人の後を追い始めたまほと都草だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

残るメンバーの大洗観光記。
そして遂に登場!
ボコミュージアムです!!(笑)

原作ではあんこうチームのメンバーと訪れてましたが、この作品では何とまほ・都草とダブルデートで訪れます。
2人の心境や如何に(爆)

そして現れたサイドテールの少女。
一体何田流なんだ?
原作ではこれだけの会合でしたが、この作品ではこの後も更に会合が続きます。

さて、次回は予告でも書いたサブエピソード………
みほがボコを好きになった理由………
『みほの初恋の思い出』です。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター12『初恋の思い出です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター12『初恋の思い出です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各校機甲部隊メンバーが大洗の町を楽しんでいる中………

 

弘樹とみほ、都草とまほはダブルデートに出る。

 

訪れたのは、みほが愛して止まないキャラクター『ボコられグマ』、通称『ボコ』のミュージアムだった。

 

見た事無いテンションで燥ぐみほと、付いて行けずに困惑するばかりの都草とまほ。

 

そして何故かボコに興味を抱いている様子の弘樹と、多様な反応を見せる面々。

 

そんな中、みほ達は謎のサイドテールの少女と出会う。

 

コレが後にあの戦いの切っ掛けとなるとは………

 

この時、誰も予想していなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・ボコミュージアムの入り口………

 

「あ~、面白かった! やっぱり何回見てもボコは良いよね!!」

 

「あ、ああ………」

 

「そうだね………」

 

2回目のボコショーの鑑賞を終え、益々テンションが上がっているみほと、対照的に若干疲れた様子を見せているまほと都草。

 

「…………」

 

そして例によって仏頂面な弘樹だった。

 

「イッテーよぉーっ!!」

 

「「「「………?」」」」

 

とそこで、何か声が聞こえて来て、一同はその声が聞こえて方向に視線を向ける。

 

「イデデデデッ! イッテーよぉーっ!!」

 

「あ~あ~、こりゃ骨が折れてんなぁ」

 

「おうおう、嬢ちゃん。如何してくれんだ?俺のダチが骨折しちまったじゃねえか」

 

「そ、そんな………ちょっとブツかっただけで………」

 

「何だぁ? 俺達が嘘言ってるって言いてぇのかぁ?」

 

「うう………」

 

そこには、あのサイドテールの少女が、3人のチンピラ風の男に取り囲まれている光景が在った。

 

如何やら因縁を付けられてしまった様だ。

 

「アイツ等、あんな子供に………」

 

「許せないね………」

 

すぐにまほと都草が助けに向かおうとする。

 

しかし………

 

「取り敢えず、親を呼んでもらって………」

 

「折れたと言うのはこの足か?」

 

チンピラが少女の親に連絡させようとしたところで、何時の間にか移動していた弘樹が、足が折れたと主張していたチンピラの足を掴むと、持ち上げた。

 

「!? ぐはっ!?」

 

突然足を持ち上げられたチンピラは、当然転倒し、後頭部を地面に強かに打ちつける。

 

「…………」

 

だがそこで弘樹は、持ち上げた足を捻り始める。

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

足が普通は曲がらない方向へ曲げられ、悲鳴を挙げるチンピラ。

 

「コ、コイツッ!」

 

「何さらすんじゃあっ!!」

 

それを見た残る2人のチンピラが、弘樹に襲い掛かろうとしたが………

 

「………むんっ!!」

 

その瞬間に弘樹は、足を捻っていたチンピラを武器代わりに振り回し、向かって来たチンピラ2人に向かって投げ飛ばした!

 

「「「!? ぐはっ!?」」」

 

3人纏めてブッ飛ばされ、地面を転がるチンピラ達。

 

「こ、コノヤロウ! もう許さ………」

 

「!? オ、オイ、待てっ!?」

 

「こ、コイツ!? 舩坂 弘樹だっ!!」

 

チンピラの1人が尚も立ち向かおうとしたが、そこで残る2人が弘樹の正体に気づく。

 

「舩坂って………!? 絢爛舞踏っ!?」

 

「人なんて息をするみたいに殺っちまうって話だぞ!?」

 

「………死にたい奴は前に出ろ」

 

途端にチンピラ達が戦慄すると、態と低いドスが効いた声で弘樹はそう言い放つ。

 

「「「スンマセンでしたーっ!!」」」

 

その瞬間にチンピラ達は土下座し、そして我先にと逃げ出して行った。

 

「…………」

 

そんなチンピラ達を冷めた目で見送る弘樹。

 

「いやはや、君の仕事の早さには感服させられるよ」

 

「君、大丈夫か?」

 

そんな弘樹に都草がそう声を掛け、まほが少女の傍に屈み込む。

 

「う、うん………あ、アレ?………!? な、無いっ!?」

 

するとそこで少女はポケットを探り、何かが無くなった様な様子を見せる。

 

「コレの事?」

 

みほがそう言い、少女の傍に落ちていたあの激レアのボコのヌイグルミを差し出す。

 

「! ボコッ!!」

 

少女はそれを確認すると、嬉しそうな顔をしてボコを受け取る。

 

「良かった………」

 

「貴方もボコが好きなんだね」

 

ボコを大切そうに顔に摺り寄せる少女の姿を見て、みほはそう言う。

 

「うん、大好き!」

 

「そっか! 私と一緒だねっ!!」

 

少女がそう答えると、みほは途端に嬉しそうな様子を見せる。

 

「貴方もボコが好きなの?」

 

「うん! 喧嘩っ早いのに、全然弱くて、何時もボコボコにされて!」

 

「でも、全然諦めないでまた喧嘩してボコボコにされる!」

 

「「それがボコだからっ!!」」

 

みほと少女はガッチリと握手を交わす。

 

如何やらすっかり意気投合した様だ。

 

「「…………」」

 

「…………」

 

そんなみほの様子に苦笑いを浮かべて固まるまほと都草に、何時も通りな弘樹。

 

「えへへ、何か嬉しいな。今までボコの事で話し合える人って居なかったから」

 

「そうなの? 如何して皆分かってくれないんだろ?」

 

しかし、そんな3人を置いてけ堀にして、みほと少女の会話は尚弾む。

 

「あ、そう言えば、まだ自己紹介してなかったね。私、西住 みほ」

 

「姉のまほだ」

 

「梶 都草です。よろしく、お嬢さん」

 

「………舩坂 弘樹だ」

 

そこでみほがまだ名乗って居なかった事を思い出して自己紹介すると、まほ、都草、弘樹も続く様に自己紹介する。

 

「!?」

 

そこで少女は強張った表情を浮かべたが、ほんの一瞬だった為、一同は気づかなかった。

 

(? 何だ、今の反応は?………)

 

弘樹だけを除いて。

 

「わ、私はし………『愛里寿』」

 

少女………『愛里寿』は若干どもった後、自己紹介する。

 

「愛里寿ちゃんか。可愛い名前だね」

 

「そ、そう?………」

 

「うん! すっごく可愛いよ!」

 

「あ、ありがとう………」

 

手放しで褒めて来るみほに、愛里寿は照れた様子を見せる。

 

「ねえ、私と友達にならない?」

 

「友達?………」

 

「うん! 駄目、かな?………」

 

不安そうな目で愛里寿を見やるみほ。

 

「………ううん。凄く嬉しい」

 

だが愛里寿は、柔和な笑みを浮かべてみほに右手を差し出す。

 

「ありがとう! よろしく! 愛里寿ちゃんっ!!」

 

みほはその手を取って、固く握手を交わす。

 

この日みほに………

 

ボコ仲間の友達が出来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

大洗学園艦・甲板都市………

 

舩坂家にて………

 

「………と言う事があってな」

 

「まあ、そんな事があったんですか」

 

夕飯をちゃぶ台の上に並べながら、昼間の出来事を話していた弘樹に、湯江がそう言う。

 

「ああ、みほくんとしても、趣味が合う友達が出来て嬉しかっただろう」

 

ボコミュージアムの売店で買ったボコの大きめなヌイグルミを携えながら、弘樹がそう返す。

 

「うふふ………」

 

と、その姿を見た湯江が思わず吹き出す。

 

「? 何だ?」

 

「いえ、お兄様とヌイグルミと言う取り合わせが何だか可笑しくって………ふふふ」

 

弘樹が首を傾げると、湯江はそう答えながら更に吹き出す。

 

「コレはお前への土産だ」

 

すると弘樹は、そう言ってボコのヌイグルミを湯江に差し出す。

 

「あら、そうでしたか。それにしても………変わったキャラクターですね」

 

ボコのヌイグルミを受け取った湯江は、傷だらけのボコの姿を見て率直な感想を口にする。

 

「…………」

 

そんな湯江の言葉を聞きながら、弘樹はボコの姿を思い浮かべた後、愛里寿の事を思い出す。

 

(………あの時の表情)

 

気になっているのは、自分達が自己紹介した時に、ほんの一瞬だけ見せた強張った表情である。

 

(何故あんな顔を………小官の見間違いか?)

 

愛里寿があんな表情を見せた理由が分からず、見間違いかとさえ思い始める弘樹。

 

「あ、お兄様。始まりましたよ」

 

とそこで湯江が、テレビ番組が始まったのを知らせる。

 

「ああ………(如何にも何かが起こりそうな予感がする………外れてくれれば良いが)」

 

弘樹は一抹の不安を感じながらも、それが杞憂である事を願い………

 

最近ハマっている5人の中年農家兼アイドルが、無人島を開拓する番組を見つつ、夕食を摂り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

大洗女子学園学生寮のみほの部屋では………

 

残っていた夏休みの宿題を片付ける為、あんこうチームの勉強会が開かれていた(麻子は全て終わっている為、付き添い兼家庭教師役)。

 

「それでね、愛里寿ちゃんって凄いんだよ! 私でも持ってないボコグッズを持ってたりして!」

 

勉強を進める中、みほは類友が出来た事が嬉しかったのか、愛里寿と友達になった事を嬉々として語っていた。

 

「へえ~、そうなんだ~」

 

「良かったですね、みほさん。趣味が合うご友人の方が出来て」

 

沙織と華は、自分の事の様に喜んでくれている。

 

「不肖、この秋山 優花里。西住殿の事は理解している積りですが、流石にボコの事はちょっと………」

 

一方、みほへの忠臣ぶりを発揮している優花里だが、ボコの事だけは理解出来ないと語る。

 

「ええ~、ボコ可愛いのに」

 

「いや、全く分からん………」

 

不満そうにそう言うみほだったが、麻子が何処かの猫科のフレンズの様な台詞でツッコミを入れる。

 

「むうう~~………」

 

それを聞いて更にふくれっ面になるみほ。

 

「みほさんは如何してそんなにボコさんの事が好きなのですか?」

 

するとそこで、華がそんな事をみほに尋ねた。

 

「えっ………?」

 

その質問を聞いたみほは、一瞬戸惑う様な様子を見せる。

 

「あ、分かった! ズバリ、恋の思い出があるんでしょうっ!?」

 

沙織はそんなみほの表情を見てそう推理する。

 

「沙織、如何してお前はそうピンク色な方向に持って行くんだ………?」

 

幼馴染の相変わらずの思考に、麻子が呆れる様にそう言ったが………

 

「…………」

 

当のみほは、頬を赤く染めて俯いていた。

 

「えっ? ひょっとして………マジ?」

 

「あらあら………」

 

まさかの直撃弾に、沙織自身は困惑し、華も意外そうな顔をする。

 

「ほほほ、本当なんですか、西住殿!?」

 

「沙織の勘が当たるとは………明日は空から戦車が振って来るかもしれん」

 

何故か動揺しまくる優花里に、唖然とした様子の麻子。

 

「ねえねえ、教えてよ! どんな恋の思い出なのっ!?」

 

物凄い勢いでみほに食い付く沙織。

 

「ふええっ!?」

 

「沙織さん、失礼ですよ」

 

「そそそ、そうですよ!」

 

「親しき仲にも礼儀ありだ」

 

みほは戸惑うと、華、優花里、麻子が制する。

 

「うう~、だって~………」

 

「………良いよ。話すよ」

 

沙織が未練がましい様子を見せていると、みほはそう言って来た。

 

「えっ!?」

 

「みほさん、良いんですか?」

 

華が心配する様にそう言って来るが………

 

「うん。だって………沙織さん達は友達だから」

 

みほは笑ってそう言う。

 

「あ、あはは………ありがと、みぽりん」

 

そんな真っ直ぐなみほの言葉を受けて、沙織は気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「「「…………」」」

 

華、優花里、麻子も、何処か照れた様子を見せている。

 

そこでみほは立ち上がると、ボコのヌイグルミが並んでいる棚から、1つのボコのヌイグルミを取る。

 

それは大分年季が入っている様に見え、元々ボコボコな姿なボコのせいで、かなり古ぼけている様に見える。

 

「それは………?」

 

「大分年季が入っているな………?」

 

華が尋ねると、麻子がそう指摘する。

 

「コレはね………私が初めて出会ったボコ………『初恋の思い出のボコ』なんだ」

 

みほは懐かしむ様な穏やかな笑みを浮かべて、その古いボコ………『初恋の思い出のボコ』を胸に抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほの回想………

 

それはまだ、みほが幼き日の頃………

 

この頃のみほは、今と比べてかなり活発………

 

いや、やんちゃと言っても良いほどの性格であった。

 

西住家が所有していた自家用のⅡ号戦車の上から飛び降りて姉のまほ共々泥だらけになったり………

 

そのⅡ号戦車を水没させ、まほと共に母・しほにこっぴどく怒られていたにも関わらず、猫を見つけて移り気したりと………

 

父・常夫に似たのか、中々の大物ぶりを発揮していた。

 

そんなある日………

 

例によって、稽古をサボらせた常夫が、まほとみほを連れて熊本市の中心街へ繰り出した。

 

見た事も無い数の人で溢れた熊本市に、みほは大興奮。

 

そして、常夫とまほがちょっと目を離した隙に、2人から離れて1人で歩き出してしまったのである。

 

色々な初めてのモノを見て、大満足していた。

 

しかし………

 

イザ戻ろうとした瞬間、初めて自分が迷子になっていた事に気づく。

 

流石のみほもコレには狼狽え、常夫とまほの姿を探して見知らぬ街を走り回った。

 

だが、2人の姿は何処にも見えず………

 

寧ろ動き回った事で余計に迷子になってしまっていた。

 

やがて動く体力も無くなり、道の片隅で座り込んでしまった。

 

「ヒック……ヒック………お姉ちゃん………お父さん………」

 

そのまま泣き出すみほ。

 

だが、都会の無関心か、道行く人は気にも留めない。

 

「ヒック……ヒック………」

 

みほは更に泣きじゃくる。

 

「ヒック………?」

 

だがそこで、何かの気配を感じて顔を上げると………

 

「…………」

 

そこには、国民服姿のみほと同じ歳ぐらいの少年の姿が在った。

 

「…………」

 

何も言わずに、ただみほの前に佇む少年。

 

「…………」

 

みほも黙って少年を見上げる。

 

「………ヒック」

 

だが、やがて沈黙に耐え切れなくなったのか、再び愚図り出す。

 

「………!」

 

そこで少年は動揺した様子を見せる。

 

「………!」

 

そしてキョロキョロと周囲を見回すと、すぐ近くに玩具屋が在るのを発見し、飛び込む様に入店した。

 

数分後………

 

「…………」

 

玩具屋から出て来た少年が、再びみほの前に立つと、何かを差し出す。

 

「………?」

 

それはボコボコにされたクマのヌイグルミ………

 

みほが『初恋の思い出のボコ』と語った、あのボコだった。

 

「…………」

 

戸惑いながら、そのヌイグルミを手に取るみほ。

 

「…………」

 

ジッとそのボコを見つめるみほ。

 

「…………」

 

少年はややハラハラしている様子で、そんなみほの姿を見守っている。

 

「………プッ! 変なヌイグルミーっ!」

 

やがてみほは、目尻に涙を浮かべたまま、そう言って笑った。

 

「………!」

 

その笑顔を見た少年は、漸く安堵した様な様子を見せたのだった。

 

 

 

 

 

その後、落ち着いたみほの手を引き、少年は近くの交番へと向かった。

 

訪れた交番には、丁度常夫とまほが駆け込んでおり、みほが交番に姿を見せた瞬間に、思いっきり抱き付いて来た。

 

交番のお巡りさんが事情を聞くと、みほは少年の事を言ったが………

 

その時には既に少年の姿は何処にも無かった。

 

少年の姿を見ていたのはみほだけだった為、常夫もまほも最初は疑ったが………

 

みほの手には確かに、少年がくれたボコが残っていた………

 

尚、帰宅した常夫が、しほからこっぴどく叱られたのは言うまでもない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在・大洗学園艦………

 

大洗女子学園寮・みほの部屋………

 

「…………」

 

話し終えたみほは、その『初恋の思い出のボコ』を再び棚に置いた。

 

「う~ん! 甘酸っぱ~いっ!!」

 

何とも甘酸っぱい初恋の思い出に、沙織は頬に手を当てながら身を捩る。

 

「素敵な思いでですね」

 

華も聞き入っていたのか、ほんのりと頬を染めてそう言う。

 

「それにしても、その少年と言うのも凄いですね。当時の西住殿と同い年ぐらいでそんな対応を取れるなんて………」

 

「事が終わったら名前も告げずに去って行く………まるで正義のヒーローだな」

 

優花里と麻子も、顔を見合わせながらそう言い合う。

 

「で、後から思い出して、その子の事が好きになってたんだ」

 

「…………」

 

沙織の言葉に、みほは恥ずかしそうに赤面する。

 

「それで、その方は?」

 

「あの後、お礼が言いたくてお父さんと一緒にその子を探してみたんだけど、どうしても見つからなかったんだ………市の小学校とかにも問い合わせてみたんだけど、分からなくて」

 

そこで華がそう尋ねると、みほは残念そうにそう答える。

 

「そうでしたか………」

 

「あ、皆。この話………弘樹くんにはしないでね」

 

するとそこで、みほはそう釘を刺して来た。

 

「? 如何して?」

 

「だって………気を悪くするかも知れないし………」

 

弘樹が気を悪くするのではと心配するみほ。

 

「じゃあみぽりんは、舩坂くんに初恋の人が居たら気を悪くする?」

 

「! そんな事ない!」

 

沙織の言葉に、即座にそう返すみほ。

 

「じゃあ、大丈夫だよ。きっと舩坂くんも同じだよ」

 

「あ………」

 

「舩坂くんなら、その話をしたって、きっと全部ひっくるめてみぽりんの事を好きでいてくれる………そうでしょ?」

 

「………うん」

 

照れながらも、みほは沙織にそう返した。

 

「うふふ、お熱いですね」

 

「ああ~、私も神狩殿とそんな関係になれたら………」

 

華と優花里もそう言い合う。

 

「オイ、そろそろ宿題に戻るぞ。予定を大幅にオーバーしてるんだからな」

 

しかしそこで、麻子が時計を指差しながらそう指摘した。

 

「! わあっ!? もうこんな時間っ!?」

 

「ヤバイよーっ!!」

 

「すぐに終わらせましょう!」

 

「了解です! 電撃戦でありますっ!!」

 

みほ達は大慌てて夏休みの宿題の残りを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作ではお互いに相手の事を知らずに会合したみほと愛里寿でしたが、この作品では少し交友を持つ事になります。
その方がドラマとして盛り上がると思いまして。

そして今回のサブエピソード。
みほの初恋の思い出です。
勘の良い方は気づいているかも知れませんが、そこは言わぬが花でお願いします。

愛里寿も登場した事で、次回から物語が大きく動き出します。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター13『島田流です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター13『島田流です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほ達がボコミュージアムで出会った謎の少女・『愛里寿』………

 

人見知りな愛里寿は、接触を避けていたが………

 

同じボコ好きと言う事で、みほと打ち解ける事に成功する。

 

初めて同じ趣味で語り合える友達が出来て、みほは大いに喜んだ。

 

しかし………

 

彼女との出会いは………

 

新たなる戦いの幕開けでもあったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗町・ボコミュージアム………

 

その日、またボコミュージアムを訪れたみほと愛里寿は、心行くまでボコを堪能する。

 

「ボコ頑張ってたねっ!」

 

「うん! 今日は凄く頑張ってたっ!!」

 

ボコショーを観終わり、興奮冷めやらぬ様子で嬉々と語り合っているみほと愛里寿。

 

「うふふ………」

 

「? 如何したの?」

 

不意に笑いを零したみほに、愛里寿が怪訝な顔をする。

 

「嬉しいんだ。ボコの事で語り合える友達って初めてだから」

 

愛里寿に笑顔を向けながらそう言うみほ。

 

「あ………」

 

すると愛里寿は、何故か気まずそうな様子を見せて、顔を伏せた。

 

「? 如何したの?」

 

「う、ううん、何でも無い………」

 

みほが尋ねると笑ってすぐにそう返した愛里寿だったが、その笑みは無理をしている様にも見える。

 

「愛里寿ちゃん?………」

 

そんな愛里寿の様子に、みほは心配そうな様子を見せるが、そこで………

 

「愛里寿」

 

「あ………」

 

「………?」

 

何者かが愛里寿の事を呼び、愛里寿とみほが反応するとそこには………

 

「そろそろ時間だ」

 

高校生くらいと思われる白髪の男と、その後ろに停まっている送迎用と思われる運転手が乗った車が在った。

 

「お兄ちゃん………」

 

「えっ? 愛里寿ちゃんのお兄さん?」

 

愛里寿がその男の事を兄と呼んだのを聞いて、みほは改めて男の姿を見やる。

 

「…………」

 

そんなみほの視線を受けて、愛里寿の兄は不敵に笑う。

 

「………!?」

 

その笑みに何か底知れぬモノを感じ、みほは思わず身震いする。

 

「みほさん、ごめんなさい。もう行かないと………」

 

と、そこで愛里寿は、兄の方へと歩き出した。

 

「あ、愛里寿ちゃん!」

 

「西住 みほっ!!」

 

みほが思わず呼び止めようとすると、愛里寿の兄がみほの事を呼んだ。

 

「! 如何して私の名前を………?」

 

「…………」

 

愛里寿の兄が自分の名前を知っていた事に驚くが、愛里寿の兄はそんな事は気にも留めず、何かをみほに向かって投げて寄越した。

 

「!?」

 

それは、軍事道の試合の観戦チケットだった。

 

「大学選抜チームと社会人チームの試合のチケット?」

 

「その試合を見に来い………舩坂 弘樹も連れてな」

 

「!? 舩坂くんの事も!?」

 

自分だけでなく、弘樹の事まで知っていた愛里寿の兄に、みほは再度驚きを露わにする。

 

「待っているぞ」

 

「…………」

 

一方的にそう言い放った兄と共に、愛里寿は車に乗り込み、その場から去って行った。

 

「一体………如何なってるの?」

 

残されたみほは、そう呟いて呆然とその場に立ち尽くしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

送迎車の車内………

 

「………お兄ちゃん。やっぱりみほさんと戦わないといけないの?」

 

不意に愛里寿が、兄に向かってそう尋ねた。

 

「何を言っている愛里寿? 当然だ。奴はあの西住だぞ。それも今やは家元となった西住 まほを破ったな」

 

当然だと返す兄。

 

「でも………」

 

「愛里寿、忘れたのか? 母上の悲願を。父上の願いを」

 

「!!」

 

兄にそう言われた愛里寿は、ハッとした様な様子を見せる。

 

「全ては『島田流』の………母上と父上の為だ」

 

「うん、分かったよ………お母様と………お父様の為に」

 

そう言う愛里寿の顔は、何時の間にか闘気に溢れていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その軍事道・大学選抜チームと社会人チームの試合の日………

 

その観客席にて………

 

『さあ、今日の試合は大学選抜チームと社会人チームの戦いです!』

 

『プロリーグ発足に向けて大事な試合ですからね。どちらのチームにも頑張って欲しいものです』

 

お馴染みのヒートマン佐々木とDJ田中の実況が響き渡る。

 

「それでその男は、小官にもこの試合を見に来い、と?」

 

「うん………」

 

そんな中、席に座っている弘樹が、隣に座るみほに尋ねる。

 

周りには沙織、華、優花里、麻子、地市、了平、楓、飛彗、白狼、煌人の姿も在る。

 

「一体如何言う積りなんだろうね?」

 

「さあな」

 

「プロリーグ発足に向けてこの試合のチケットを持っていた事から察するに、軍事道に関わりがある人物だろう………それも相当上の方にね」

 

沙織と地市がそう言い合っていると、ノートPCを弄りながら煌人がそう推測する。

 

『ではこれより、大学選抜チームと社会人チームの試合を開始致します! 両チーム代表者、前へっ!!』

 

とそこで、主審の香音がそうアナウンスし、集合していた両チームの代表者が前へと出る。

 

「!? ああっ!?」

 

「………!」

 

するとみほは、驚きの声を挙げて立ち上がり、弘樹もピクリと眉を動かした。

 

「ど、如何したんですか、西住殿?」

 

「何だよ、ウルセェなぁ」

 

突然大声を挙げたみほに優花里が戸惑い、白狼がうっとおしそうにする。

 

「ア、アレッ!!」

 

みほは動揺したまま、大学選抜チーム側の代表を指差しながらそう言う。

 

そこに居たのは………

 

大学選抜チームのパンツァージャケット姿の愛里寿………

 

そして、第二次世界大戦時のアメリカ海兵隊の戦闘服に身を包んだ愛里寿の兄の姿が在った。

 

「愛里寿ちゃんとお兄さんだっ!!」

 

「!? ええっ!?」

 

「ホントですかっ!?」

 

みほがそう言うと、沙織と華が驚きの声を挙げる。

 

「オイオイ、如何見たって、良くて中学生ぐらいだぞ?」

 

「お兄さんの方は、僕らと同い年ぐらいに見えますが………」

 

「どちらにしても、大学生には見えませんね」

 

了平、楓、飛彗も愛里寿とその兄の姿を見ながらそう漏らす。

 

するとそこで、観覧用の大型モニターに、選手達の名前が発表される。

 

その大学選抜チーム側には………

 

『島田 愛里寿』………

 

そして、『イプシロン(島田 伊四郎)』の名が表記された。

 

「!? 『島田』っ!?」

 

「ええっ!?」

 

愛里寿と兄の名字を目にしたみほ、そして優花里が、再び驚きの声を挙げる。

 

「知っているのか?」

 

「島田………成程、『島田流』か」

 

麻子がそう尋ねると、煌人が何やら合点が行った様な様子を見せる。

 

「『島田流』?」

 

「西住流と並ぶ、日本戦車道、そして歩兵道を代表する流派だ。臨機応変に対応した変幻自在の戦術を駆使する戦法を得意とし、その変幻自在さから『ニンジャ戦法』と称されている」

 

「ニンジャ………」

 

了平が首を傾げると、煌人がそう説明し、ニンジャと聞いて沙織は小太郎の事を想像してしまう。

 

「愛里寿ちゃんが………島田流」

 

(イプシロンか………)

 

呆然とそう呟くみほの隣で、愛里寿の兄………イプシロンの事を見やっている弘樹。

 

『一同、礼っ!』

 

『『『『よろしくお願いしますっ!!』』』』

 

『いよいよ試合開始! 大学選抜チーム! 社会人チーム! 君達に、幸あれっ!!』

 

とそこで、両チームの挨拶が交わされ、ヒートマン佐々木の締めの台詞と共に、遂に試合が開始されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場内………

 

大学選抜チームの陣地………

 

「…………」

 

集合している大学選抜チームの主力である『M26パーシング』と偵察用の数両の『M24チャーフィー』の中で、愛車である後に現代の戦車の主流である『主力戦車』の原型となった戦車………

 

戦車道の規定ルールの中で使用出来る現存車両の中では最も強力である『重巡航戦車A41センチュリオン』のキューポラから上半身を出している愛里寿。

 

その手には、透明なバイザーの様なモノが付いているヘッドフォンが握られている。

 

良く見ると、ヘッドフォンからはコードが伸びており、センチュリオンの車内に置かれているノートPCと繋がっている。

 

「愛里寿。母上からの指示だ………徹底的にやるぞ」

 

「………うん」

 

そんな愛里寿に、イプシロンがそう呼び掛けたかと思うと、愛里寿は一瞬間を開けた後、そのヘッドフォンを装着する。

 

その瞬間、バイザー部分が一瞬だけ発光したかと思うと………

 

「…………」

 

愛里寿の顔から一切の感情が無くなり、目のハイライトも消えていた。

 

「………状況、開始」

 

そして、これまた一切の感情が感じられない冷たい声で、愛里寿がそう言うと、大学選抜チームは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして戦いは………

 

終始、大学選抜チームが社会人チームを圧倒する形で進んだ………

 

大学選抜チームは、社会人チームの行動に対し、常に先手を打ち圧倒。

 

その未来予測能力は凄まじく、社会人チームが戦法・戦術を大きく変更しても、即座に対応策を打ち出すほどだった。

 

そんな大学選抜チームの戦い方に、社会人チームは徐々に士気崩壊を起こして行く。

 

それに拍車を掛けたのが、大学選抜チームの執拗な追撃である。

 

フラッグ戦にも関わらず、相手チームの戦車はおろか、歩兵1人すらも逃がさんとばかりに追撃を掛ける大学選抜チーム。

 

最早、社会人チームは完全に大学選抜チームに恐怖し、部隊としての機能を失い、逃げ回るだけであり………

 

試合会場はそんな壊走する社会人チームを、大学選抜チームが一方的に屠ると言う狩場と化した………

 

結局、最後に社会人チームのフラッグ車が撃破された時………

 

粗無傷な大学選抜チームに対し………

 

社会人チームには、1輌の戦車どころか、1人の歩兵も生き残って居なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合会場・観客席………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

試合は終わったが、誰も歓声を挙げる者は居ない。

 

寧ろ、大学選抜チームの容赦無い戦い方に恐怖で声も出ない様子だ。

 

『コ、コレは………』

 

『こんな試合を見るのは初めてですよ………』

 

実況者であるヒートマン佐々木とDJ田中ですら言葉を失っている。

 

本来ならば試合終了の挨拶が行われる筈だが、社会人チームが逃げ出してしまった為、残された大学選抜チームが黙々と撤収を始めている。

 

「何て試合だ………」

 

「酷い………」

 

弘樹とみほも、凄惨な試合結果に思わずそう呟く。

 

「信じられません………幾ら島田流が西住流に並ぶ流派だからって、こんな一方的な試合が出来るとは思えません!」

 

「………気に入らねえぜ」

 

優花里は信じられないと叫び、白狼も理由の分からない気に入らなさを感じる。

 

「気になるのは、あの島田の娘が着けていたバイザー付きのヘッドフォンだな………」

 

「アレを付けてから明らかに雰囲気が変わったぞ」

 

一方、試合を冷静に観察していた煌人と麻子が、愛里寿が試合開始直後に装着したバイザー付きヘッドフォンを怪しむ。

 

「………弘樹くん」

 

「うん?………」

 

「私………明日また愛里寿ちゃんに会ってみようと思うの」

 

「分かった。同行しよう」

 

みほが何を言わんとするか察し、先んじてそう言う弘樹。

 

「ありがとう、弘樹くん」

 

(………またも嫌な予感が当たってしまったか)

 

感謝の言葉を聞きながら、弘樹はまたも自分の嫌な予感が的中してしまった事に嫌気が差していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

大洗町・ボコミュージアム前にて………

 

「「…………」」

 

ミュージアムに入り口前に佇み、ジッと愛里寿を待つみほと弘樹。

 

「!………」

 

やがて、人の気配を感じたみほが、その方向を見やると………

 

「…………」

 

そこには無言で佇んでいる愛里寿の姿が在った。

 

その表情は険しい。

 

「愛里寿ちゃんっ!」

 

みほはすぐさま愛里寿の元へ駆け寄ろうとする。

 

「来ないでっ!!」

 

「!?」

 

だが、他ならぬ愛里寿から制され、驚愕しながら足を止める。

 

「愛里寿………ちゃん」

 

「まさか君が島田流の人間だったとはな」

 

と、その驚愕しているみほの後ろに弘樹が立ち、愛里寿に向かってそう言う。

 

「そう………私は島田 愛里寿………島田流の人間………そして」

 

そこで愛里寿は、みほを睨みつける様に見据える。

 

「私は貴方と戦わなければならない………」

 

「!? そんなっ!? 如何してっ!?」

 

愛里寿からの突然の宣戦布告に戸惑うみほ。

 

「それが島田と西住に生まれた者の宿命だから………何よりお母様………そしてお父様の望みだから」

 

だが、愛里寿はみほを睨み付けたままそう言葉を続ける。

 

「その通りだ。島田に生まれた者として、私達は西住流とそれに関わる連中を全て叩き潰す」

 

とそこで、そう言う台詞と共にイプシロンが姿を見せた。

 

「イプシロン………」

 

「やっと会えたな………舩坂 弘樹」

 

弘樹を見たイプシロンは不敵な表情を浮かべる。

 

「いよいよ貴様と戦う日が来る………そして貴様に勝利した時! 私は本当の『パーフェクトソルジャー』となる!」

 

「『パーフェクトソルジャー』だと?………」

 

イプシロンの言葉に、弘樹は目を細める。

 

「何れ勝負の詳細は知らせる………」

 

そう愛里寿が言い放つと、もう用は無いとばかりにみほ達に背を向け、立ち去ろうとする。

 

その際、みほに譲ってもらった激レアのボコがポケットから零れ落ちた。

 

「………!」

 

愛里寿は一瞬、落ちたボコの事を振り返ったが、やがて視線を外して再び歩き出した。

 

「! 愛里寿ちゃん! 待ってっ!!」

 

漸く我に返ったみほが、慌てて愛里寿に追い縋ろうとする。

 

「!!」

 

だがその瞬間!

 

イプシロンがみほ目掛けて拳を振るった!!

 

「!?」

 

「!!」

 

しかし、間一髪のところで弘樹が割って入り、みほの代わりにイプシロンの拳を横っ面に受ける。

 

「ガハッ!?………」

 

大きくブッ飛ばされ、地面の上に倒れる弘樹。

 

「! 弘樹くんっ!!」

 

慌ててみほが駆け寄り、助け起こす。

 

「………島田流は女に手を上げるのか?」

 

口内を切ったのか、口の端から流れる血を拭いながら、弘樹はイプシロンにそう言い放つ。

 

「庇うと分かっていたからな」

 

「貴様………」

 

弘樹の怒りを涼しい顔をして流すイプシロン。

 

「西住 みほ………島田と西住は決して相容れん。それは歴史が証明している。貴様と私達は最初から敵でしかなかったのだ」

 

「………!」

 

イプシロンの言葉にショックを受けるみほ。

 

「次に会うのは戦場だ………そしてその日が西住流の最期の日となる………楽しみに待っていろ」

 

そしてイプシロンはそう言い残し、愛里寿の後を追って去って行く。

 

「「…………」」

 

その姿を見送るしかない弘樹とみほ。

 

やがて2人の姿が見えなくなって暫くすると………

 

「…………」

 

みほは愛里寿が落として行ったボコを拾い上げる。

 

「…………」

 

そのボコをジッと見つめ、愛里寿と出会った日の事を思い出す。

 

「………如何して………如何してなの、愛里寿ちゃん」

 

そして、悲しそうな表情となり顔を伏せ、ボコを両手で胸に抱く。

 

「…………」

 

そんなみほを慰める様に、肩に手を置く弘樹。

 

また暫しの間、2人はその状態で立ち尽くす………

 

「………弘樹くん。行こう」

 

「?」

 

ふと、不意にそう言い放ったみほに、弘樹は怪訝な顔をする。

 

「愛里寿ちゃんとイプシロンさんは、島田と西住に生まれた者の宿命って言ってた………きっと私の家………西住流に関係が有るんだと思う」

 

そこで伏せていた顔を挙げるみほ。

 

その表情には決意にも似た覚悟が感じ取れる。

 

「だから………実家に戻ろうと思うの。付いて来てくれる?」

 

そして、弘樹に向かってそう問う。

 

「………例え行く先が地獄であったとしても………小官は君に付いて行く。地獄など、飽きる程に見たからな」

 

弘樹の覚悟は最初から決まっていた。

 

「………行こう。西住流と島田流の因縁を解き明かしに」

 

「…………」

 

みほはそう言い、2人は空を見上げるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

愛里寿との交流を重ねていたみほだったが、愛里寿はその正体………
島田流の娘である事を明かす。
社会人チームを一方的に屠った驚異の実力を持つ彼女と兄・イプシロンは………
みほと弘樹に宣戦を布告。
何故、戦わなければならないのか?………
その理由………
西住流と島田流の因縁を知る為………
みほは弘樹と共に、実家へ向かう事を決意するのだった。

原作劇場版では書類の判子を貰う為だった帰省イベントでしたが、コチラでは島田流との因縁を知る為に向かいます。
更に、原作では無かったしほとの絡みもあります。
ですので、この作品のしほが今如何なっているのかも書かれます。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター14『西住流と島田流の因縁です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター14『西住流と島田流の因縁です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほの初めてのボコ友達・愛里寿………

 

だが愛里寿は、西住流のライバルとも言える戦車道・歩兵道流派『島田流』の娘だった………

 

その兄である『島田 伊四郎』こと『イプシロン』と共に………

 

みほと弘樹は宣戦布告を受ける。

 

それが西住と島田に生まれた者の宿命だと………

 

西住流と島田流の因縁………

 

それを知る為………

 

みほは弘樹と共に、実家に向かう事を決めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本県………

 

迫信の厚意で、神大コーポレーションのプライベートジェットを貸してもらった弘樹とみほは、熊本空港へと降り立つと………

 

そこからは更に神大コーポレーションのプライベートヘリで、直接西住家へと向かった。

 

「「…………」」

 

ヘリの中で、無言で隣り合って座っている弘樹とみほ。

 

ローターの爆音が煩いのも有るが、やはり先日の愛里寿との一件のショックが大きいのも有った。

 

「………あ! 弘樹くん、見えて来たよ」

 

「…………」

 

ふとそこで、みほが窓の外を見てそう言うと、弘樹も窓の外を覗く。

 

眼下には、広い和風の家………西住家が広がっていた。

 

「アレがみほくんの実家………西住流の総本山か」

 

「こんな形で帰って来るとは思わなかったなぁ………」

 

弘樹がそう言うと、みほは複雑そうな表情でそう呟いた。

 

「着陸態勢に入ります。準備して下さい」

 

「「…………」」

 

そこで、ヘリのパイロットからそうアナウンスされ、弘樹とみほはシートベルトをチェックするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西住家・ヘリポート………

 

ヘリポートへと降り立ったヘリの扉が開き、爆風が収まり切らぬ中、西住家の敷地へと足を下ろす弘樹とみほ。

 

「お帰りなさいませ、みほお嬢様。そして舩坂様。ようこそいらっしゃいました」

 

そんな2人を、菊代が出迎えた。

 

「菊代さん、久しぶり」

 

「御丁寧な御挨拶、ありがとうございます」

 

みほが笑みを浮かべ、弘樹が深々と頭を下げる。

 

「みほ!」

 

とそこで、町子が姿を現した。

 

「あ! お祖母ちゃん………!? うわっ!?」

 

「お~良く帰ってきたね~! あたしゃ嬉しいよぉ!」

 

みほが挨拶をするよりも早く、町子はみほに近づいたかと思うと、そのまま抱き締めて頬擦りをする。

 

「お、お祖母ちゃん、くすぐったいよ~」

 

戸惑いながらも嬉しそうな様子を見せるみほ。

 

「お久しぶりです、西住家元代行」

 

一方弘樹は、姿勢を正してヤマト式敬礼をしながら、町子にそう挨拶をする。

 

「おお、舩坂 弘樹かい。何だい? 話が有るって聞いてたけど、結婚の御挨拶かい?」

 

「!? ふええっ!?」

 

と、弘樹の姿を見た町子がそんな台詞を口にし、みほは真っ赤になる。

 

「そうかいそうかい。いや~、まほと梶の方が先だと思ってたけど、お前達が先になるとねえ」

 

「ち、違うよ、お祖母ちゃん! 結婚なんて『まだ』早いよっ!!」

 

「『まだ』?」

 

「!? あ、あうう………」

 

うっかりそう言ってしまい、みほは益々赤くなる。

 

「町子様、その辺で………」

 

「家元代行、本題に入りたいのですが………」

 

そこで菊代が止めに入り、弘樹が冷静にそう言う。

 

「ハハハ、分かってるよ。軽い冗談さ。まあ、取り敢えず上がりなさい。何があったか聞かせて貰おうじゃないか」

 

町子は呵々大笑すると、菊代を伴って、2人を家の方へと案内する。

 

「…………」

 

その間のみほの顔は、終始真っ赤になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西住家・応接間………

 

応接間へと通された2人は、愛里寿とイプシロンとの事を、全て町子に打ち明けた………

 

「そうかい、島田流のが………」

 

話を聞き終えた町子が、苦い顔を浮かべている。

 

「愛里寿ちゃんとイプシロンさんは、西住と島田の因縁って言ってたけど………そんなに仲が悪いの?」

 

「確かに、世間では西住流と島田流は長年のライバル関係であると認識されていますが、あの様子は少々異常ではないかと」

 

みほと弘樹が、そんな町子に向かってそう言葉を続けた。

 

「………まさかこんなところで『ツケ』が回って来るとはねぇ」

 

すると町子は、そんな言葉を漏らした。

 

「? 『ツケ』?」

 

「如何言う事ですか?」

 

その言葉に首を傾げるみほと、怪訝な顔をする弘樹。

 

「確かに、西住流と島田流はライバル関係にあると言って良い………だが、それはお互いに切磋琢磨し合う仲でのライバルさ。決して憎しみ合う様な仲じゃなかった」

 

「では、何故………」

 

「それが変わっちまったのは、しほの代からさ………」

 

弘樹の言葉を遮る様に、町子はそう言う。

 

「お母さんの?………! まさかっ!?」

 

しかし、みほは何か思い当たる節が有る様子を見せる。

 

「今の島田流の師範であり家元………『島田 千代』ちゃんは、しほとは学生時代からのライバルでね。お互いに良くぶつかっていたものさ………」

 

「でも、お母さんは段々と勝利至上主義になっていった………」

 

以前町子から聞いた話を思い出し、みほはそう言う。

 

「そう………只管に勝利を求める戦車道をする様になったしほの前に、千代ちゃんは悉く敗北してね………そのせいで島田流は一時期没落寸前にまでなったのさ」

 

「そんな事が………」

 

「けど、活躍の場を大学戦車道の方に移してからは持ち直してね。今じゃ世界大会の出場候補チームに選ばれるまでになった。しかし、当時を知る者達からはまだ西住流の方が上だと思っている輩も少なくない」

 

「じゃあ、愛里寿ちゃんはお母さんの屈辱を晴らす為に………」

 

それを聞いたみほは、また複雑そうな表情となる。

 

「………家元代行。島田流家元の御主人については何か? 彼女は西住流を倒す事は父親の願いでもあると言っていましたが」

 

とそこで、弘樹が愛里寿の言葉を思い出しながらそう言う。

 

「いや、それについてはちょいと分かりかねるね………常夫と違って、島田の家の旦那は歩兵道をやっていたワケじゃないから、とんと話を聞かなかったからねえ。ただ………」

 

「? ただ………?」

 

「…………」

 

何やら言い淀んでいる様な様子を見せた町子だったが………

 

「島田の旦那は………もう大分前に亡くなっている筈だよ」

 

「!? ええっ!? 愛里寿ちゃんのお父さんがっ!?」

 

「………!」

 

やがてそう口にすると、みほはおろか、弘樹でさえも驚きを露わにする。

 

「元々身体が弱い人だったみたいでねぇ………その愛里寿って子が大分幼い内にポックリとね」

 

「そんな………」

 

「そして丁度その頃からかね………没落寸前だった島田流が一気に隆盛となったのは」

 

「…………」

 

町子の言葉を聞いて、弘樹は考える様な素振りを見せる。

 

(島田の父親の死と、島田流の隆盛………一体如何言う関係が有るんだ?)

 

「………そう言えば」

 

するとそこで、町子は何かを思い出した様な表情を見せる。

 

「? お祖母ちゃん? 如何したの?」

 

「今回の件に関係あるかは分からないけど、風の噂で聞いた話だが………島田の家には、出奔した長女が居るって話を聞いた事が有る」

 

「出奔した?」

 

「飽く迄噂だがねえ。確か、まほと同い年ぐらいだって聞いてるよ」

 

「お姉ちゃんとって事は………今、高校3年生くらい………」

 

考え込むみほだったが、該当者が浮かばず、頭を捻る。

 

「…………」

 

だが弘樹の方は、何かに思い至っている様な表情を見せている。

 

「………取り敢えず、私が話せるのはコレぐらいだよ。役に立てなくてすまないねえ」

 

「ううん、そんな事ないよ。ありがとうお祖母ちゃん」

 

「ありがとうございました」

 

町子がそう言うと、みほと弘樹は町子に向かって深々と頭を下げた。

 

「そう言ってくれると助かるよ………ところで2人共。この後は如何する積りだい?」

 

とそこで、町子が2人にそう尋ねた。

 

「? 如何って………?」

 

「学園に戻って、状況が動くのを待つ積りですが………」

 

「折角来たんだい………しほと常夫の所にも顔を出したら如何だい? 何なら1泊ぐらいして行きな」

 

その質問に2人は若干戸惑いながらそう答えると、町子はそんな事を言って来た。

 

「えっ………?」

 

そう言われたみほは、考え込む様な様子を見せる。

 

「しかし、今の状況を考えると、学園に待機していた方が………」

 

弘樹はそう言って断ろうとしたが………

 

「………弘樹くん」

 

不意にみほが、弘樹の事を呼びながら服の裾を引っ張った。

 

「! みほくん………」

 

「………良いかな?」

 

只それだけ………そう尋ねるみほ。

 

「………了解しました」

 

それを受けて、弘樹はそう返す。

 

「決まりだね。それじゃあ、早速行って驚かしてやりな」

 

「うん、ありがとう、お祖母ちゃん」

 

「…………」

 

みほは笑顔で町子にお礼を言い、弘樹も深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

弘樹とみほは、ヘリのパイロットに今日はみほの両親の所に泊まると告げ、明日の迎えを頼んで帰還させた。

 

そして、西住家から程近い………

 

片田舎の町を訪れていた。

 

その町の一角に在るパン屋………

 

ベーカリー『クロスボーン・バンガード』………

 

そこが今の常夫としほの住居である。

 

「…………」

 

焼きたての香ばしいパンの匂いが漂う店の前で、佇んでいるみほ。

 

「みほくん………」

 

そんなみほを気遣う様に声を掛ける弘樹だったが………

 

「………大丈夫だよ、行こう」

 

みほは弘樹に笑顔を向けてそう言った。

 

「………ああ」

 

それを見て、それ以上は何も言わず、弘樹はみほと共に、ベーカリー『クロスボーン・バンガード』へと入店した。

 

「いらっしゃいませ~………あっ!? みほじゃないか!! 弘樹くんもっ!!」

 

カウンターのレジの前に居た常夫が、みほと弘樹の姿を認めると、嬉しそうな声を挙げる。

 

「ただいま、お父さん」

 

「お邪魔します。ご無沙汰しておりました」

 

笑顔を常夫に向けるみほと、深々と頭を下げて挨拶する弘樹。

 

「わ、何、帰って来たの!? 嬉しいなぁっ!! お~い! しほちゃんっ! ちょっと来てちょっと来て!!」

 

常夫は興奮気味に、挨拶もそこそこで店の奥、作業場の方へと消える。

 

「ホラホラッ!」

 

「ちょっ! 何なの、常夫さん!? 今丁度生地が良い感じに仕上がって来たところで………!? みほっ!?」

 

そして、再び出て来たかと思うと、エプロン姿でバンダナを頭に巻いた、如何見てもパン屋の女主人にしか見えない女性………しほを連れて出て来た。

 

「うふふ、似合ってるよ、お母さん」

 

「~~~~っ!」

 

みほにそう言われて、しほは恥ずかしそうに黙り込む。

 

「御無沙汰しております………」

 

とそこで、弘樹がしほに向かってそう挨拶し、深々と頭を下げた。

 

「舩坂 弘樹………」

 

しほは弘樹の姿を見ると、気まずそうな様子を見せる。

 

すると………

 

「こんちわ~! 常ちゃん、アンパン有る?」

 

そう言う台詞と共に、青い服を来た男が店に入って来た。

 

「あ、青梅さん。ありますよ~。青梅さんが来ると思って、取って置いたんですよ」

 

青梅と呼んだ年配の男にそう言いながら、常夫は再びカウンターに向かうと、その裏に置いてあったと思われる、大量のアンパンが乗ったトレーを出す。

 

「おお、ありがとう! 全部貰うよっ!!」

 

「毎度あり~」

 

青梅が会計に入ると、常夫はアンパンを袋に詰め始める。

 

「ん? 君達は………」

 

とそこで、青梅はみほ達の存在に気づく。

 

「あ、えっと、私達は………」

 

「ああ、常ちゃん達の娘さんかい! 何だい、帰って来てたのかい?」

 

みほが自己紹介しようとしたが、青梅は合点が行った様な様子でそう言った。

 

「成程………町子さんの若い頃にソックリだね」

 

「お祖母ちゃんの事、知ってるんですか?」

 

「勿論さ。現役時代は切磋琢磨し合った仲だからね。この町の人は皆町子さんの現役時代の知人だよ」

 

(そう言う事か………)

 

青梅とみほがそう会話するのを聞いて、弘樹は納得が行った様子を見せる。

 

引責辞任と言う形で責任は取ったが、まだ一部には、しほに厳しい目を向ける者達が居る。

 

そんなしほが、パン屋などと言う商売を始めてて大丈夫なのかと言う考えが頭の片隅を過ぎっていたが、町の住人が皆町子の知人であるならば心配は要らないだろう。

 

先程から店の前を通り過ぎて行っている人々から、歴戦の勇士の様な貫禄を感じていた弘樹はそう思う。

 

「…………」

 

更に弘樹は、店に備え付けられた防犯カメラも見やる。

 

その防犯カメラには、『神大セキュリティーサービス』の文字が在った。

 

如何やら、町自体のセキュリティーは、神大コーポ―レーションのセキュリティーサービスが担当しているらしい。

 

恐らく、神大のシークレットサービス部隊も、町の何処かに駐屯していると思われる。

 

「ハイ、どうぞ」

 

「おう、ありがとう。また頼むよ」

 

とそこで、漸くアンパンを袋に詰め終わった常夫がそう言うと、青梅はベーカリー『クロスボーン・バンガード』を後にした。

 

「さて………立ち話も何だし、今日はコレで店じまいにして、奥でゆっくり話し合おうか」

 

「え、ええ、そうね………」

 

青梅の登場で置いてけ堀になっていたしほにそう言い、常夫は店仕舞いを始める。

 

「みほ、今日は泊まって行くんだろう?」

 

「う、うん、そうだよ」

 

「!!」

 

みほの泊まって行くという言葉を聞いたしほが動揺を見せる。

 

「わあ、ホントかい! お父さん、嬉しいなぁっ!!」

 

そんなしほの動揺を知ってか知らず、無邪気に笑いながら燥ぐ様子を見せる常夫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして店仕舞いが終わり………

 

ベーカリー『クロスボーン・バンガード』居住部分・居間にて………

 

「! 島田流の子がっ!?」

 

「本当かい?」

 

「うん………」

 

みほは、島田流の件をしほと常夫にも話していた。

 

「そう………千代はそこまで私の事を………」

 

責任を感じているのか、しほの表情が曇る。

 

「お母さん、お父さん………私、愛里寿ちゃんと戦うよ」

 

「! みほ………」

 

「みほ………」

 

と、みほがそう言うと、しほは驚き、常夫も珍しく神妙な面持ちとなる。

 

「きっとコレは………私がやらなきゃいけない事だから」

 

そんな2人を見据えながら、みほは迷いの無い瞳でそう言い切った。

 

「みほ………」

 

しほはそんなみほの姿を暫し見つめた後、弘樹へと視線を移す。

 

「…………」

 

先程から弘樹は、いつもの仏頂面で黙り込んでいる。

 

「………みほ。ちょっと舩坂くんと話をさせてくれないかしら?」

 

「えっ?………」

 

そこでしほからそう言う提案が挙がり、みほは思わず弘樹の顔を見やる。

 

「…………」

 

弘樹は仏頂面の表情のまま、みほに向かって頷いた。

 

「………分かったよ、お母さん」

 

「それじゃみほ、ちょっと手伝ってくれるかな? 客間の準備をしないといけないから」

 

みほがそう言うと、常夫がそう言って立ち上がった。

 

「うん、分かったよ、お父さん」

 

そして、みほと常夫は、弘樹を泊める客間の準備に向かったのだった。

 

「「…………」」

 

残された弘樹としほは、お互いを正面から見合ったまま沈黙している。

 

「………舩坂 弘樹くん………あの時は本当に………」

 

「その節は大変な失礼を働きました。誠に申し訳ございません」

 

と、しほがプラウダ&ツァーリ機甲部隊との試合後の出来事について謝罪しようとしたところ、それを遮って弘樹が謝罪を口にし、深々と頭を下げる。

 

「! 舩坂くん! 謝るのは私の方よっ!!」

 

「いえ、小官が西住流の家元であり師範であった貴方に対し無礼を働いたのは事実です」

 

慌てるしほだが、弘樹は頭を下げ続ける。

 

「………貴方も不器用ね」

 

「その様な生き方しか知りませんので………」

 

しほがふっと笑うと、漸く弘樹は頭を上げる。

 

「………みほの事を………よろしくお願いします」

 

そこで今度は、しほの方がそう言って深々と頭を下げる。

 

「…………」

 

弘樹は只無言で………

 

されど力強く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

ベーカリー『クロスボーン・バンガード』居住部分・縁側にて………

 

「「…………」」

 

みほとしほが、縁側の縁に腰掛け、雲1つ無い夜空で輝いている星々を見上げている。

 

「この空も変わってないなぁ………」

 

そんな夜空の姿が、幼き日の記憶に在る夜空と一致し、みほはそう呟く。

 

「そうね………」

 

しほも、何処か懐かしむ様な表情を見せながらそう呟く。

 

「「…………」」

 

そのまま2人は、また暫し沈黙………

 

「みほ………ゴメンナサイ………私の不始末を………貴方に着けさせることになってしまって………」

 

「謝らないでよ、お母さん。そんなのお母さんらしくないよ」

 

自らが行き起こした事態の尻拭いをさせてしまう事になったみほに向かって謝るしほだったが、みほはそう返す。

 

「みほ………貴方、強くなったわね………とても」

 

不意にしほが、そんな言葉を漏らす。

 

「そうかな………?」

 

「ええ、ともて………それに比べて、私はとても弱かったわ………勝敗ばかり気にして、虚勢を張って………」

 

と、そこでしほの目尻に涙が浮かび始める。

 

「! お母さんっ!?」

 

「!!」

 

それにみほが驚いた声を挙げた瞬間、しほはみほに抱き付く。

 

「ごめんなさい………ごめんなさい、みほ………こんな駄目なお母さんを許して………」

 

止めどなく涙を流しながら、しほは只管みほに対して謝罪の言葉を口にする。

 

「………許すも許さないもないよ………だって………『家族』だもん」

 

みほは目を閉じ、優しく笑いながら、しほの事を抱き返す。

 

「みほ………ああ、みほ………」

 

「…………」

 

まだ泣き続けるしほを、みほはしっかりと抱きしめるのだった。

 

「うんうん………良かった良かった………うんうん」

 

そんな2人の姿を、廊下の隅から覗き見ながら、涙を流して頷いている常夫。

 

「…………」

 

そしてトイレに行く途中でそんな常夫を見つけ、無言でその場から立ち去る弘樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

青梅が全く同じ顔をした曙や一条寺と言う人物と話しているのを見て驚いた等と言う一幕もありながら………

 

弘樹とみほは、大洗学園艦へと帰還………

 

だが、そこでは………

 

思わぬ人物が2人を待ち受けていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

実家へと帰還したみほと、それに付き添った弘樹は………
町子から西住流と島田流の確執を聞かされる。

その日は、当の確執の原因であるしほの元に泊まるが………
家元じゃなくなったしほはすっかりしおらしくなっていました。
この2人を親子に戻すにはやはりしほに立場を捨てさせないと駄目だなと思いまして。
母親に強くなったみほの姿を見せたいと言う事もありまして。

新たな謎も生まれましたが、一部の謎は次回『あの男』が語ってくれます。
そして遂に大洗は、大学選抜チームとの戦いに臨む事となります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター15『戦車道の危機です!』

本日は大洗海楽フェスタです。

お越しになる皆さんは混雑に気を付けて下さいね。

勿論、私も行ってきます。


『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター15『戦車道の危機です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本の西住家にて………

 

西住流と島田流の因縁を聞いた弘樹とみほ………

 

しほや常夫との束の間の邂逅を果たした後………

 

急ぎ、大洗学園艦へと帰還した………

 

だが、そこには意外な人物が待ち受けていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦………

 

飛行場へ降り立った弘樹とみほは、迫信が寄越していた迎えの車で、すぐさま大洗女子学園へと向かった。

 

2人に是非会いたい、と言う人物が来ていたからである。

 

 

 

 

 

大洗女子学園・生徒会室………

 

「会長、西住です」

 

「舩坂 弘樹、参りました」

 

生徒会室の前まで来たみほと弘樹が、そう言って扉をノックする。

 

「あ~、待ってたよ~、入って~」

 

「「失礼します」」

 

扉の向こうから、杏の声が返って来ると、2人は生徒会室へ入室する。

 

生徒会長席に腰掛けた杏の傍には、柚子と桃、蛍と言う何時ものメンバーに加え、男子校の生徒会メンバー、そして煌人の姿も在った。

 

「会長、私達に会いたいと言う人が居ると聞いて来たんですけど………」

 

「ああ、そこに居るよ」

 

みほが尋ねると、杏は視線で応接用のソファーを指した。

 

その視線を追って、みほと弘樹が応接用のソファーの方を見やると、そこには軍服を着た金髪の男が、2人に背を向けて座っていた。

 

「…………」

 

2人の気づいたのか、軍服の男は立ち上がり、振り返る。

 

「………?」

 

「…………」

 

誰だと思い、首を傾げるみほと、その男が如何にも好きになれない弘樹。

 

「君達が西住 みほ、そして舩坂 弘樹か………会えて嬉しいよ」

 

そんな2人の心情を知ってか知らずか、男は不敵に笑いながらそう言う。

 

「あの………何方ですか?」

 

「おっと、コレは失礼………私はジャン・ポール・ロッチナ。アメリカ軍の大佐だ」

 

みほがそう尋ねると、男………ロッチナはそう名乗った。

 

「アメリカ軍?………アメリカ軍が一体我々に何の用が有ると言うのです?」

 

ロッチナがアメリカ軍の人間であると聞くと、弘樹は益々警戒感を強めながら尋ねる。

 

「ふふ、そう警戒しなくても良い。今日は君達にメッセージを届けに来ただけだ」

 

しかしロッチナはそう言い、弘樹達の方へと歩いて来たかと思うと、杏の生徒会長用の机の上に、懐から取り出した1枚の封筒を置いた。

 

「コレは………?」

 

「試合の申込状さ。島田流が率いる大学選抜チームから、のね」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉を聞き、迫信と杏、煌人を除く面々が顔色を変える。

 

「弱小チームを率いて全国大会で優勝した西住 みほ総隊長の手腕は学べるものが多い。軍事道の発展の為、是非交流試合がしたい………と言うのは『表向き』の理由だと言うのは既に承知の上だな」

 

ロッチナは業と、試合を申し込んで来た『表向き』の理由を告げる。

 

まるで『本当の理由』は分かっている筈だと言う様に。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

熊本に帰省するのに、事情の説明を受けていた杏達も、『本当の理由』………

 

『西住流と島田流の因縁』こそがこの試合申込みの根底にあると理解する。

 

「ま、待てっ!今の西住流の家元・師範は西住 まほだぞっ!!」

 

とそこで桃が、ロッチナに対しそう言うが………

 

「その西住 まほを決勝戦にて撃ち破ったのが大洗機甲部隊ではなかったのかね?」

 

「ぐうっ………!?」

 

ロッチナにそう言い返され、桃は言葉を失う。

 

「………訊きたい事があります」

 

すると、みほがロッチナに向かってそう言った。

 

「何かね?」

 

「………如何してアメリカ軍のロッチナさんが島田流の挑戦状を?」

 

「島田流はアメリカでも人気の流派だ。企業を始め、我がアメリカ軍もそのスポンサーなのだよ」

 

みほにそう説明するロッチナ。

 

「アメリカ軍がスポンサー………」

 

それを聞いたみほは、大学選抜チームが使っていた車輌がパーシングやチャーフィーを主体にしていた事を思い出す。

 

「…………」

 

だが弘樹の方は、訝し気な表情を見せる。

 

「………それも表向きの理由でしょう?」

 

「アメリカ軍が島田流を援助している理由………『春博士』が関わっているんだろう?」

 

するとそこで、迫信と煌人がそう口を挟んだ。

 

「? 『春博士』?」

 

「フフフ………流石は神大コーポレーションの次期総裁とMITを飛び級で卒業した天才だ。良く御存じな様で」

 

みほが首を傾げると、ロッチナはまた不敵に笑う。

 

「会長閣下、春博士とは?」

 

「『春 敏(はる とおる)』………日本の電子工学の権威だ。殊に人工知能の研究に於いては、世界でも指折りの研究者だった。ある日突然に学会から姿を消してしまったがな」

 

弘樹が尋ねると、代わる様に煌人がそう説明した。

 

「人工知能?」

 

「そう、博士は人工知能の開発に心血を注いでいた。そしてそんな博士の人生を大きく変える出来事が在った………後の島田流家元となる島田 千代との出会いだよ」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その言葉に一部を除いた面々は驚きを示す。

 

「2人は大恋愛の末に結婚したそうでね。それはもう大層な仲だったそうだよ。だが、当時の家元殿は、没落しかけていた島田流を持ち直させる為に必死だったそうでね」

 

「…………」

 

その没落しかけていた原因が母であるしほに有る事を聞いていたみほは、表情を曇らせる。

 

「そんな島田 千代の姿に心を痛めていた博士は、ある事を思い付いた」

 

「ある事?」

 

「………軍事道用の戦略・戦術AIの開発だよ」

 

「軍事道用の戦略・戦術AI?」

 

「そうだ。人間より素早く、遥かに高度な演算、情報処理能力を持つAIにより、桁外れかつ正確無比な戦略・戦術予測を可能とする………正に夢の機械だ」

 

「………!」

 

ロッチナのその言葉に、みほは大学選抜チームと社会人チームとの戦いを思い出す。

 

「まさか、あの試合での戦いは………?」

 

「お察しの通り、島田流と博士の戦略・戦術AIが組み合わさった力だ」

 

「あ、あの………AIを軍事道に使うって、良いんですか?」

 

そこで、柚子がそう指摘する。

 

「AIは飽く迄『私物』だよ。私物の持ち込みは禁止されているワケではない」

 

「拡大解釈だろ?」

 

「見解の相違だな………」

 

ロッチナがそう返すと、俊もそう言うが気に留めない。

 

「高度な戦略・戦術AI………成程。無人兵器の開発に熱心なアメリカ軍としては肩入れしたくなるワケだ」

 

十河が皮肉気味にそう言い放つ。

 

ロッチナが島田流が持つ戦略・戦術AIの軍事利用を狙っていると考えた様だ。

 

「それだけでは無さそうだね………」

 

しかしそこで、迫信が口元を扇子で隠したまま、鋭い目つきでロッチナを見据えながらそう言った。

 

「? 会長………?」

 

「貴方は………『無人戦車道』推奨派ですね?」

 

逞巳が首を傾げると、迫信はロッチナに向かって更にそう言う。

 

「ほう? そこまで調べがついているとは、神大コーポレーションの情報網も優秀な様だな」

 

だがロッチナはそれが如何したと言わんばかりに不敵に笑う。

 

「『無人戦車道』?」

 

「簡単に言ってしまえば、人間と言う要素を排除した戦車道さ………」

 

蛍が聞き慣れない言葉を反復すると、煌人がパソコンを弄りながらそう言う。

 

「! 人間を排除した戦車道っ!?」

 

みほが信じられないと言う様な声を挙げる。

 

だが、そんなモノが在るのも事実である………

 

 

 

 

 

紳士・淑女を育成する目的で始められ、世界中に広がった戦車道………

 

だが、全ての人々がそう思っているのかと言われれば、必ずしもそうとは言えない………

 

『人間が3人いれば2つの派閥が生まれる可能性が有る』という言葉通り、戦車道にも様々な派閥が存在する。

 

その中で、最近活発な動きを見せているのが………

 

『無人戦車道推奨派』である。

 

元々はアメリカの1地方で発祥した極少数な派閥だった。

 

アメリカには様々戦車道が存在し、無人戦車道は戦車は有っても人数が居なかった者達が、ラジコンに改造した戦車で試合を行っていたのが始まりである。

 

やがて同じ様な事情を抱えた人々が、ネット等を通じて交流を始めた。

 

普通、そうなれば集まって実際に戦車に乗る流れになる筈だが、筋金入りのインドア派や引きこもりばかりであったその人々は………

 

人数が増えても、集まって実際に戦車に乗ろう等と考える者は居なかった。

 

彼女達にとって戦車道は、『婦女子を育成する武道』ではなく………

 

『エキサイティングなゲーム』と捉えられていたのである。

 

そしてこの時代………

 

ネット上での繋がりはドンドン拡大して行き………

 

遂には無人戦車道こそ真の戦車道である等と言う事を主張し始めたのだ。

 

戯言を、と一蹴されるかに思われたこの考えだが、一部の人々に受け入れられかけてしまっている。

 

それは、戦車道に於いて最も金が掛かる存在が『人』だからである。

 

戦車道は『金』が掛かる武道である。

 

実際、世界大会を見据えて戦車道を推奨した日本も、様々な補助金で援助を行っている。

 

一見すると、戦車や砲弾等に金が掛かっていると思われがちだが………

 

実際、最も金を食う存在は『人』である。

 

学生が授業でやる程度ならば兎も角………

 

プロ選手ともなれば、数億の年棒は当たり前………

 

そしてそのプロの選手を育てるには、更に膨大な金が掛かる。

 

だが、どんなに金を費やしても、全ての人間がプロの選手に成れるワケではない………

 

当然、成れなかった選手に掛けた金は無駄になる………

 

そんな大人の事情から、無人戦車道に期待を抱く者達が居るのである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦車道には、我がアメリカも莫大な資金を投入している………それこそ、軍事費を削ってな」

 

「だから無人戦車道を推奨していると言うのか?」

 

「いかにも………それこそが真の戦車道となる。何れは他の軍事道からも人間は排除されるだろう」

 

「島田流の人達は………」

 

「知って居るさ。だが、我々の勢力を過小評価している様でね。我々を利用する積りでいる。自分達が利用されているとも知らずにな」

 

「そんなの………」

 

そこでみほが、顔を俯かせ、プルプルと小刻みに震え始める。

 

「? 西住ちゃん?」

 

「そんなの只の『ゲーム』です! 『戦車道』じゃないっ!!」

 

その様子に気づいた瞬間、みほは再び顔を挙げ、ロッチナに向かってそう吠えた!

 

顔は明らかに怒りの形相だった。

 

「み、みほちゃん………」

 

「………(ブクブクブク)」

 

「桃ちゃんが泡噴いてるっ!?」

 

その余りの迫力に、蛍は怯み、桃は泡を噴いて気絶する。

 

「ならば証明してみたまえ………人間が必要だと言う事を」

 

だが、そんなみほの迫力を受けても、ロッチナは尚不敵笑ってそう言い放つ。

 

「!!」

 

次の瞬間には、みほは杏の机の上に置かれていた試合の申込状を引っ手繰る様に手に取った。

 

「………この試合………お受けしますっ!!」

 

「結構………では、私はコレで………」

 

ロッチナは満足そうな顔をすると、生徒会室から退室しようとする。

 

「…………」

 

去り際に振り返ると、弘樹の方を見ながら、また不敵に笑いながら。

 

「…………」

 

そのロッチナを無言で見送る弘樹だった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

ロッチナが居なくなり、生徒会室を沈黙が支配する。

 

「………角谷会長、神大会長さん」

 

「うん?」

 

「何だね?」

 

不意に、杏と迫信に呼び掛けるみほ。

 

「機甲部隊の皆さんを集めて頂けますか………今回の件について、私から話します」

 

「あいよ」

 

「では、すぐに手配しよう………」

 

みほの言葉を受け、杏と迫信は大洗機甲部隊メンバーに非常呼集を掛けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

大洗国際男子校・作戦会議室………

 

集合した大洗機甲部隊隊員達は、みほから説明を受けていた………

 

「大学選抜チームと試合っ!?」

 

「それってこの前のあのチームですよねっ!?」

 

「マジかよ………?」

 

大学選抜チームの試合を直に見ていた楓、飛彗、地市は仰天の声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の一同も、新聞やニュースで大学選抜チームが社会人チームを一方的に破った事を知っていた為、動揺を見せる。

 

「………皆さん!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、みほが不意に皆に呼び掛け、大洗機甲部隊員達の視線がみほに集まる。

 

「………ゴメンナサイ」

 

だがみほは、そんな大洗機甲部隊の一同に向かって深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

みほの思わぬ行動に、大洗機甲部隊の面々は呆気に取られた様子を見せる。

 

「皆さんに相談せず、勝手に試合を受けてしまって、本当に申し訳ないと思ってます」

 

「みぽりん………」

 

「みほさん………」

 

「西住殿………」

 

「…………」

 

そう謝罪の言葉を続けるみほに、沙織、華、優花里、麻子が視線を向ける。

 

「でも………私は如何しても愛里寿ちゃんと戦わないといけないんです。コレは私の………西住に生まれた者の責任なんです」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

再びみほに視線を集める大洗機甲部隊員達。

 

「だから! お願いしますっ!! 私と一緒に………戦って下さいっ!!」

 

みほはそう言って、再び大洗機甲部隊員達に向かって深々と頭を下げた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

暫しの間、沈黙がその場を支配する………

 

「もう! 何言ってるの、みぽりんっ!!」

 

最初にその沈黙を破ったのは沙織だった。

 

「! 沙織さん!」

 

「そんな改まって言う必要なんてないじゃん」

 

座っていた椅子から立ち上がり、みほに向かってそう言う沙織。

 

「沙織さんの言う通りですよ」

 

するとそこで、続く様に華も立ち上がる。

 

「私達はコレまでずっと、みほさんに助けられてきました」

 

「その西住さんが力を貸して欲しいと言うなら………少なくとも、私達に断る理由は無いな」

 

更に麻子もそう言いながら立ち上がる。

 

「この秋山 優花里! 既に西住殿に命を預けているでありますっ!!」

 

優花里も一際勢い良く立ち上がると、敬礼しながらそう言い放った。

 

「沙織さん………華さん………優花里さん………麻子さん………」

 

そんなあんこうチームの姿に、みほが感動を覚えていると………

 

「西住ちゃんには学校を守ってもらったって言う、返しても返し切れない恩が有るからねぇ」

 

「我々バレー部は、西住総隊長に従いますっ!!」

 

「右に同じく」

 

「私達も、西住総隊長のお力になりたいですっ!!」

 

「風紀委員として、西住さんに協力しますっ!!」

 

「もう私達は1つの大きなチームだからね」

 

「ジーク! 西住総隊長っ!!」

 

「西住総隊長の為なら、例え火の中、水の中ですよっ!!」

 

杏、典子、カエサル、梓、みどり子、ナカジマ、ねこにゃー、聖子からもそう声が挙がった。

 

「歩兵部隊の諸君、異議が有るかね?」

 

「「「「「「「「「「有りませんっ!!」」」」」」」」」」

 

歩兵部隊の面々も、迫信がそう問うと、一斉にそう返した。

 

「皆さん………」

 

「西住総隊長………御命令を」

 

最早みほの目尻には涙が浮かび始めていたが、そこで弘樹が立ち上がり、みほに向かってそう言う。

 

「!………これより、大洗機甲部隊は………大学選抜チームとの試合に臨みますっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そして、みほがそう命令を下すと、大洗機甲部隊員達は一斉にヤマト式敬礼をしてそう答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

尋ねて来たのはロッチナでした。
そしてそのロッチナの口から語られた島田流の真実と、ロッチナ自身の野望。

無人戦車道………
所謂、ガンダムWでのモビルドールみたいな思想ですね。
経費面から考えれば理想的なものかもしれませんが………
『エレガント』ではありません。

自ら島田流との因縁に決着を着ける為………
ロッチナの野望を阻止する為………
みほは大洗機甲部隊の力を借り、大学選抜チームに挑みます。
次回では更に援軍も………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター16『連合学園艦隊です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター16『連合学園艦隊です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊本の西住家から帰ってきた弘樹とみほの下に現れた………

 

島田流のスポンサーであるアメリカ軍の情報将校・ロッチナ………

 

彼によって大学選抜チームから試合申し込み状が届けられ………

 

愛里寿が試合で見せた強さの秘密が、愛里寿の父である旧姓・春 敏の開発した戦車道用の戦術・戦略AIによるものである事………

 

そのAIを軍事利用する為にアメリカ軍が島田流を支援している事………

 

更に、『無人戦車道』の確立の為に動いている事を知る………

 

西住流と島田流との因縁を断つ為………

 

戦車道を守る為………

 

何より、友達である愛里寿の為に………

 

みほは、大洗機甲部隊の面々と共に………

 

大学選抜チームとの戦いに臨む事を決めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洋上・一航専の学園艦と呉校の艦隊を引き連れて、海原を進む大洗学園艦………

 

大洗男子校・作戦会議室………

 

大学選抜チームとの試合を決めた大洗機甲部隊は、早速試合に向けての作戦会議に入っていた。

 

「それで、肝心の試合内容は如何なってるんですか?」

 

「うむ………皆、コレを見てくれ」

 

清十郎がそう尋ねると、迫信が大型モニターを起動させた。

 

そこには、巨大な学園艦………

 

否………

 

最早そんなレベルではなく、洋上を動く巨大な『島』が在った。

 

「な、何だこりゃっ!?」

 

「島が動いとるっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

海音と豹詑がそう声を挙げ、一部を除いた大洗機甲部隊の面々も驚きを露わにする。

 

「『メガフロート艦』………次世代の都市艦構想の1つとして考えられていた、新しい都市艦の形だ」

 

「メガフロート艦………」

 

迫信がそう説明すると、みほが大型モニターに移る動く浮島………『メガフロート艦』を見て呟く。

 

「しかし、技術的には十分可能だったものの、予算が掛かり過ぎると言う欠点が発覚してね………結局、1隻だけが完成した時点で計画は凍結されてしまったよ」

 

「その完成した1隻を、島田流が買い取ったってのか?」

 

「ハイ、演習場に使用すると言う名目で」

 

迫信が説明を続けると、俊がそうツッコミ、逞巳が答える。

 

「試合会場はこの場所か………」

 

「現在の状況は不明だが、完成時のデータによれば、湿地帯や平原、森林地帯や山に加え、遊園地も在ったらしい」

 

エースが呟くと、煌人がパソコンを弄りながらそう言って来る。

 

「演習場にはうってつけな地形だな………」

 

「問題は試合の形式だ。どの試合方法で戦うのだね?」

 

俊がそう呟くと、ゾルダートがそう尋ねる………

 

「それが………」

 

「………『フラッグストロング形式』らしいよ?」

 

その質問に、柚子が言い淀む様な様子を見せると、杏が変わる様にそう説明した。

 

「!? フラッグストロング形式っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉を聞いた優花里が驚愕の声を挙げ、大洗機甲部隊の面々も仰天する。

 

「ストロング形式って、アレだよねっ!? 新しく取り決められたルールのっ!?」

 

「確か………燃料と弾薬、そして体力と気力が続く限り、やられても再出撃して戦えると言うルールでした筈です」

 

「つまり、相手のフラッグ車を撃破しない限り、延々と敵が湧き続けて来ると言うワケか………」

 

やがて沙織、華、麻子がそう言い合う。

 

「大学選抜チームの保有戦力はどれ程なのですか?」

 

飛彗が肝心要なところについて尋ねると………

 

「あの………聞きたいですか?」

 

「何て言うか、その………聞いたら心が折れちゃうかも?」

 

逞巳と蛍が、言い辛そうな様子でそう告げる。

 

「どの道戦うんだろ?ならとっとと教えろ」

 

しかし、そんな雰囲気を気にせずに、白狼がそう言い放つ。

 

「………戦車保有数は1000輌」

 

「歩兵は少なくとも、3個師団規模は居るかと………」

 

「航空部隊や支援艦隊も、相当規模が存在している筈です」

 

そして、蛍と逞巳、清十郎は、大学選抜チームの戦力を告げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大学選抜チームの保有戦力を聞き、大洗機甲部隊員達は沈黙する………

 

「駄目だーっ! 絶対に勝てなーいっ!! 1000輌に3個師団だとぉっ!? ふざけるのもいい加減にしろーっ!!」

 

絶望的………と言う言葉さえ生温く感じる戦力差に、早速心が折れた桃が泣き喚き始める。

 

しかし………

 

「聞いたか? 1000輌に3個師団だってよ?」

 

「しかもそれが燃料と弾薬、そして体力と気力が続く限り出て来るんだろう?」

 

「こりゃあ、戦果を稼ぐ良いチャンスだな」

 

磐渡、重音、鷺澪がそう言ったのを皮切りに、大洗機甲部隊員達からどれだけ戦果を挙げられるかと言う話題が噴出する。

 

「我々にも戦果による勲章を賜れるチャンスが巡って来たな」

 

「大学選抜チームには悪いが………」

 

「我々の歴史の礎となってもらおう………」

 

「目指せ、黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章だ」

 

カエサル、おりょう、左衛門佐、エルヴィンの歴女チームなど、既にやる気満々な様子である。

 

「いよいよこの鍛え上げた肉体を試す時が来たにゃ」

 

「乾坤一擲なり」

 

「やってやるっちゃ」

 

筋トレの成果なのか、力瘤を作りながら、文字通り頼もしそうにそう言うねこにゃー、ももがー、ぴよたんのアリクイさんチーム。

 

「絶好調であるっ!!」

 

「ぶるあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「俺に生きる実感をくれっ!!」

 

テンションが高まり過ぎたのか、吼える月人と竜作、ハンター。

 

「大学生だろうがなんだろうが、風紀を乱す輩は風紀委員が許さないわっ!!」

 

「君はいつもそれだな………」

 

相変わらず風紀命なみどり子と、そんなみどり子の姿に半ば呆れている紫朗。

 

「野郎共ぉっ! 俺達の特技は何だぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「この試合の目的は何だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「殺せっ!! 殺せっ!! 殺せっ!!」」」」」」」」」

 

「俺達は歩兵道を愛しているかぁっ!? 大洗を愛しているかぁっ!?」

 

「「「「「「「「「「ガンホーッ!! ガンホーッ!! ガンホーッ!!」」」」」」」」」」

 

「良し! 行くぞぉっ!!」

 

早くもキリングマシーン状態になっている武志を初めとしたラクビー部員達。

 

「ええかっ! 1番戦果を挙げた奴には、ワイが大洗の町で好きなだけ御馳走してやるでぇっ!!」

 

「1番高いのを御馳走になりますっ!!」

 

「大洗万歳っ!!」

 

同じく、大河の鼓舞もあって戦意が高揚している大洗連合。

 

コレまで、幾多の激戦………

 

しかも常に圧倒的に不利な条件で戦い抜いてきた大洗機甲部隊………

 

そんな戦いを何度も経験して来ていた隊員達の感覚は………

 

とっくの昔に狂っていたのだった。

 

「…………」

 

その光景を見て桃が、ピタリと泣き止んで立ち上がった。

 

「!? 桃ちゃんが1人で泣き止んで立ち上がったっ!?」

 

「信じられない………」

 

そんな桃の姿を、あり得ないものを見る様な目で見る柚子と蛍。

 

「………何かもう、泣いて落ち込んでるのが馬鹿らしくなったんだ」

 

それに対し、桃は遠い目で乾いた笑みを浮かべてそう返す。

 

「ア、アハハハハ………」

 

流石の杏も、そんな桃の姿を見て、苦笑いを零すのだった。

 

………と、その時!!

 

突然作戦室内に警報が鳴り響いた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一斉に身構える大洗機甲部隊員達。

 

「コレは………船舶科からの異常発生のサイレンだな」

 

「何事だね?」

 

俊がそう言うと、迫信がすぐさま壁に掛けて在った通信機を取り、学園艦の艦橋に繋げる。

 

『神大会長! 杏会長! 至急艦橋に来て下さいっ!!』

 

すると、通信先の艦橋からは、やや切羽詰まっている様子の船舶科の生徒からの声が返って来る。

 

「分かった、すぐに向かう」

 

「西住ちゃんと舩坂ちゃんも来てもらって良い?」

 

迫信がそう返すと、杏が念の為にみほと弘樹にも同行を求める。

 

「あ、分かりました」

 

「了解」

 

みほと弘樹が承諾すると、4人は大洗学園艦の艦橋へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦・艦橋………

 

「状況は?」

 

艦橋に入るや否や、迫信がそう尋ねる。

 

「あ、神大会長。不明艦が多数接近して来ています」

 

その声を聞いて、双眼鏡を構え、窓越しに水平線を見ていた学園艦の艦長がそう報告する。

 

「………ふむ」

 

それを聞いた迫信が、窓の外を眺めると、水平線に肉眼でも確認出来る大きさの船影を認める。

 

「あの大きさ………都市艦ですね」

 

「でも、1度にあんな数の都市艦が同一海域に集結するなんてあり得ないよ」

 

弘樹がそう言うと、みほがそう口にする。

 

「! レーダーが都市艦と思われる艦艇群の周辺に、多数の艦影を発見っ!!」

 

するとそこで、レーダーを見ていた船舶科の生徒がそう声を挙げた。

 

「「!?」」

 

弘樹とみほが、すぐにそのレーダーを確認すると、確かにそこには大きな影の周りを取り囲む様に、無数の小さな影が映っていた。

 

「ソナー室より入電! 海中に多数のエンジン音とスクリュー音を確認!!」

 

更にそこへ、ソナー室からも潜水艦を多数感知したとの報告が挙がる。

 

「まさか………大学選抜チームが先手を打って来たのか?」

 

そう言うと、杏の表情も険しくなる。

 

アレ程の大艦隊………

 

如何に一航専と呉校艦隊が護衛に居るとは言え、一気に襲い掛かられれば一溜りも無い。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

艦橋を緊張の沈黙が包み込む。

 

「! 不明艦隊の一部が接近して来ますっ!!」

 

とそこで、レーダー員がそう声を挙げる。

 

見れば、不明艦隊の一部が、1隻の学園艦を中心に、大洗学園艦隊との距離を詰めて来ていた。

 

「総員警戒態勢っ!! コレは訓練ではないっ! 繰り返すっ!! コレは訓練ではないっ!!」

 

すぐさま学園艦の艦長が全艦にそう通達する。

 

大洗学園艦の周辺に展開していた呉校艦隊も、大洗学園艦を守る様に第二警戒航行序列に移行する。

 

「一航専より入電! 各機発進準備完了! 何時でも行けるとの事ですっ!!」

 

更に通信士がそう報告を挙げる。

 

「………アレ? ねえ、弘樹くん。あの学園艦って?」

 

するとそこで、みほが窓の向こうの水平線に浮かぶ護衛艦隊に守られた学園艦に見覚えを感じる。

 

「! アレはっ!?」

 

それを聞いた弘樹も、その学園艦を注視して気づく。

 

「アレは………」

 

「グロリアーナ&ブリティッシュの学園艦だね」

 

杏と迫信がそう言っていると、その学園艦………イギリス艦艇の艦隊に護衛されたグロリアーナ&ブリティッシュ学園艦が、肉眼でもハッキリと確認出来る距離まで近づいていた。

 

「! 艦長! グロリアーナ&ブリティッシュ学園艦の艦橋に、大洗の校章の旗が掲揚されていますっ!!」

 

「何っ!?」

 

見張り員の1人の報告に、艦長は双眼鏡を構えて、グロリアーナ&ブリティッシュ学園艦の艦橋を確認する。

 

そこには確かに、聖グロリアーナ女学院と聖ブリティッシュ男子高校に加え、大洗女子学園と大洗国際男子校の校章が描かれた旗が風に棚引いていた。

 

「グロリアーナ&ブリティッシュ学園艦より入電! 『秋の日の ヴィオロンのため息の ひたぶるに 身にしみて うら悲し』………」

 

「ポール・ヴェルレーヌの詩『秋の歌』の冒頭だね」

 

「ノルマンディー上陸作戦開始の合図に使われた暗号でもあるね」

 

通信士がグロリアーナ&ブリティッシュ学園艦からの入電を読み上げると、杏と迫信がそう言い合う。

 

「更に入電! 『我々、グロリアーナ&ブリティッシュは大洗に助力する』………との事ですっ!!」

 

「つまり、友軍と言う事か?」

 

「じゃ、じゃあ、あの艦隊はっ!?」

 

更に入った入電を読み挙げると、今度は弘樹とみほがそう言う。

 

するとそこで、他の艦隊も距離を詰め始めた。

 

やがて、その艦隊の中の都市艦の姿がハッキリと見える様になり………

 

それが黒森峰、サンダース&カーネル、アンツィオ&ピッツァ、プラウダ&ツァーリ、天竺ジョロキア、継続、知波単、マジノ、BC自由、ベルウォール、パシフィック、クレオパトラ&スフィンクス、西部、竪琴&クメン、ナイトウィッチ&ハロウィン、鉱関………

 

日本に所属する、全ての学園艦が集結していた!

 

「各学園艦隊より入電! 内容は全てグロリアーナ&ブリティッシュと同じです!! 我々に合流するとっ!!」

 

「コレは………圧巻だね」

 

全ての学園艦が集結すると言う物凄い光景に、迫信も思わず唸る。

 

「皆さん………」

 

みほの目頭も熱くなる。

 

「いや~、ウチは愛されてるね~。いや、ウチと言うより………西住ちゃんが愛されてるのかな?」

 

「!? ふええっ!?」

 

しかし、杏がそんな事を言うと、途端に顔を真っ赤にする。

 

「…………」

 

そして弘樹は、無言で合流して来る学園艦隊にヤマト式敬礼を取っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

各校より作戦会議要請があり、隊長クラスが大洗学園艦に集まる事となった為………

 

みほ達が出迎えの為に、大洗女子学園の校庭に集合。

 

臨時の空港と化した大洗女子学園の校庭には、ヘリや小型機等が次々に着陸して来ている。

 

「お姉ちゃん!」

 

「すまない、みほ。遅くなった」

 

Fa 223から降りて来たまほを、みほが出迎える。

 

「ううん、そんな事無いよ! とても心強いよっ!!」

 

「ったく、何で私がこんな事を………」

 

「おやおや、いの1番に大洗の救援に向かおうと提案したのは何処の誰でありましたかなぁ?」

 

「う、煩いわよっ!!」

 

「うふふ、エリカさんったら、素直じゃないんだから」

 

とそこで続けて、お馴染みの遣り取りを繰り広げながら、エリカと久美、小梅が降りて来る。

 

「エリカさん! 久ちゃん! 小梅さん!」

 

「か、勘違いするんじゃないわよ! べ、別にアンタを助けに来たワケじゃないからねっ!!」

 

みほから声を掛けられると、エリカが顔を真っ赤にしてそっぽを向きながらそう言い放つ。

 

「ハイハイ、ツンデレ乙」

 

「誰がツンデレよっ!?」

 

「アハハハッ!」

 

久美が茶々を入れるとエリカはいきり立ち、小梅が笑う。

 

「御機嫌よう、みほさん」

 

「イエース! 派手なパーティが始まるみたいねっ!!」

 

「だが、心配は要らないぞ」

 

「私達が来たからにはもう勝ったも同然よっ!!」

 

「義によって助太刀するわ」

 

「風が呼んでいたからね………」

 

「まさか再戦の約束を果たす前に共闘する事になるなんてね」

 

「奇妙な縁ですわね」

 

「さあ、敵は何処っ!? 私の血を熱く滾らせてくれる敵はっ!?」

 

「いざ行かん! 我等が戦場(いくさば)へっ!!」

 

「気が早いよ、クロエちゃんもしずかちゃんも」

 

「喧しい連中が多いのう………」

 

「同感ザマス」

 

「またこんな事で共闘する事になるなんてね」

 

「お、及ばずながら、助けに参りましたっ!!」

 

「今度は力になるよ、みほちゃん」

 

オレンジペコ、ケイ、アンチョビ、カチューシャ、絹代、ミカ、ローリエ、セイレーン、クロエ、しずか、シュガー、ネフェティ、アスパラガス、エミ、アウンさん、瑪瑙が現れる。

 

「皆さん………ありがとうございますっ!!」

 

そんな総隊長の面々に向かって、みほは感謝を示しながら深々と頭を下げる。

 

「………でも、何でウチの学校の制服を着てるんですか?」

 

とそこで、みほはそうツッコミを入れる。

 

その言葉通り、各校のメンバーは何故か全員、大洗女子学園の制服を着用していた。

 

「いや、その、何だ………」

 

「1度着てみたかったのよ、コレ!」

 

口籠るまほに代わって、ケイがあっけらかんとそう言い放つ。

 

「ダージリン様が『きっとこんな日が来る』と言って、密かに集めてらしたんです」

 

「ダージリンさんが?」

 

そしてオレンジペコがそう言うと、みほはそのダージリンの姿が無い事に気づく。

 

「ペコさん、ダージリンさんは………?」

 

「それが………謹慎がまだ解けなくて………」

 

みほがそう尋ねると、オレンジペコは申し訳無さそうにそう告げる。

 

「そう………ですか」

 

(………アイツがそんな事で黙っている玉じゃない………きっと何か企んでいるな)

 

残念そうな表情を見せるみほだったが、付き合いの長いまほは、ダージリンがきっと何かを企んでいると予感するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、各校代表を集めて………

 

改めての作戦会議が開始されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

この作品での大学選抜チームは、1000輌の戦車を保有し、3個師団の歩兵を従えています。
………明らかにおかしいですね(笑)
でも、今までが今までですので、これぐらいいないと劇場版の敵って感じがしないので。

試合形式をフラッグストロングマッチにしたのは、正直この数で殲滅戦を描写し切るのは無理なのと、フラッグ車戦を最後に持って行けば、数の接合性を無視出来るので。
試合会場が島田家が保有する演習場のメガフロート艦というのも、後々の展開を考えてです。

そして遂に結成!
大洗連合チーム!!
オリジナル校が多数出ておりますので、原作の様に試合直前に集合だと無理が生じるので、事前に集まると言う形を取りました。
学園艦が連合艦隊を組むと言う描写もやってみたかったので。
正直、ココからキャラを全員捌き切れるか不安です(汗)………

ダージリンが居ない様ですが、彼女が後ではっちゃけた登場をしてくれます。
お楽しみに。

次回、遂に島田家の長女が登場し、島田家の最後の謎を語ります。
一体誰なんだ?(すっとぼけ)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター17『私達の纏まり方です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター17『私達の纏まり方です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛里寿とイプシロンが率いる大学選抜チームとの試合に臨む為………

 

試合会場である、島田流が保有する演習場『メガフロート艦』へと向かう大洗学園艦………

 

対戦形式は『ストロングフラッグマッチ』………

 

つまり、フラッグ車を撃破しない限りは、相手の戦力が無尽蔵に湧き出して来ると言う絶望的な試合内容だった。

 

だが、しかし………

 

話を聞き付けたグロリアーナ&ブリティッシュ、黒森峰、サンダース&カーネル、アンツィオ&ピッツァ、プラウダ&ツァーリ、天竺ジョロキア、継続、知波単、マジノ、BC自由、ベルウォール、パシフィック、クレオパトラ&スフィンクス、西部、竪琴&クメン、ナイトウィッチ&ハロウィン、鉱関………

 

大洗が今まで戦い、友情を育んだ学園の部隊が、共に戦う為に集結。

 

此処に、日本全学園艦の機甲部隊が一大集結を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗学園艦………

 

大洗男子校・作戦会議室………

 

各校機甲部隊の代表を集め、改めて開催された作戦会議………

 

その中心メンバーは………

 

みほ、まほ+エリカ、オレンジペコ、ケイ、アンチョビ、カチューシャ+ノンナ、絹代、ミカ、ローリエ、セイレーン、クロエ、しずか、シュガー、ネフェティ、アスパラガス、エミ、アウンさん、瑪瑙である。

 

「スッゲェなぁ、オイ………全学園艦の機甲部隊総隊長が顔を合わせてるなんてよぉ」

 

錚々たる顔ぶれが揃っている事に、海音が圧倒された様に言う。

 

「俺としちゃあ、アッチの方が凄いと思うぜ………」

 

するとそこで地市が、その総隊長達が居る所とは別の所を見ながらそう言った。

 

「うん………?」

 

それを聞いた海音が、その方向を見やるとそこには………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

無言で円を描く様に集まり、まるで睨み合いの様に佇んでいる弘樹、都草、ジョーイ、フォルゴーレ、ターメリック、カジキ、デミトリ、堅固、キングコブラ、ジャンゴ、ジャック、レッドショルダー3人衆、バーコブ分隊、ポタリアにキデーラの姿が在った。

 

「怖っ!!」

 

「な、何だか、あそこだけ空気が重い様な………」

 

海音が思わずそう言うと、勇武が冷や汗を掻きながらそんな事を呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それが聞こえているのかいないのか、相変わらず無言のままの弘樹達だった。

 

一方、みほ達の作戦会議の方は紛糾していた………

 

「ココはやはり行進間射撃で行くべきかと………」

 

「楔を打ち込み、浸透突破で行くべきよ」

 

「優勢火力ドクトリンじゃない。1輌に対して10輌で攻撃ね」

 

「二重包囲が良いわ! それで冬まで待って冬将軍を味方に付けましょう! ストロングフラッグマッチは時間無制限だしっ!!」

 

自分達の部隊が得意とする戦術を口にするオレンジペコ、エリカ、ケイ、カチューシャ。

 

「幾ら数が揃ったとは言っても寄せ集めよ。ココは一点突破で、全軍で敵フラッグ車を狙う電撃戦で行くべきじゃない?」

 

「何言ってるの!? 折角の大舞台なのよ! 敵は倒して倒して倒しまくって、最後にフラッグ車を仕留めるのよ!! 戦いはとことんやるものよっ!!」

 

「私もその意見に賛成だ」

 

「何を言ってるザマス!? もっと現実を見て物を言うザマス!」

 

「ならばお主は良いアイデアが有るのか!?」

 

「そう言う貴方こそ如何なのですか!?」

 

ローリエ、クロエ、しずか、アスパラガス、ネフェティ、セイレーンも意見が対立している。

 

「み、皆落ち着いて………」

 

「はわわわ、如何しよう………?」

 

「あ~、纏まりないわね~」

 

「取り敢えず。パスタを茹でるか?」

 

そんな一同を前にオロオロするばかりの瑪瑙とアウンさんに、呆れているシュガーに、何故かパスタを茹でようとするアンチョビ。

 

「…………」

 

ミカはその一同の様子を見ながら、何も言わずにカンテレを弾くだけだった。

 

「やっぱり急造のチームじゃ、いきなり上手く連携が組めるワケないわね………」

 

「みほ、お前が総指揮官だ。一言何か言ってやってくれ」

 

エミも頭を悩ませていると、まほがみほに向かってそう言う。

 

「あ、あっと………」

 

しかしみほは言葉に詰まる。

 

何せ、集まった全学園艦の部隊を合わせると、その数は大学選抜チームと同等の3個機甲師団は有ろうかと言う規模となった。

 

だが、そんな大規模な部隊の指揮を執った経験など、みほには無い………

 

いや、この場に居る全ての人物が無いだろう。

 

今やみほの立場は総隊長と言うよりは、総司令官である。

 

総隊長としての経験は、西住流としての修業時代から積んで来たみほだが、総司令官の経験は無い………

 

果たして、コレほどの大部隊を、自分が纏める事が出来るのか………?

 

みほの胸中には嘗てない不安が渦巻いていた。

 

「別に無理して纏める必要は無いんじゃないの?」

 

するとそこで、絹代がそんな事を言って来た。

 

「? 絹代さん?」

 

「コレだけ別々の機甲部隊が一同に会していて、得意としている戦術も皆違う………だったら、皆の好きにやってもらったら良いんじゃないの?」

 

「オイ、何を無責任な事を………」

 

あっけらかんとそう言い放つ絹代に、まほが何を言っているんだと抗議するが………

 

「………確かにそうですね」

 

「!? 何っ!?」

 

他ならぬみほが同意を示し、まほは思わず驚きの声を挙げる。

 

「ちょっと、アンタ何言ってるのよっ!?」

 

「絹代さんの言う通り、1つのチームとして訓練を受けて来た大学選抜チームに対して、私達は言ってしまえば急造の寄せ集めチームです。今から連携の訓練をやったとしても高が知れています」

 

エリカもそう噛み付くが、みほは気にする事なく、ズバッと現実を突き付ける。

 

「ハッキリ言ってくれるじゃない」

 

そう言うエミだったが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「それに………先程説明した通り、島田流は高度な戦術・戦略AIを投入して来ていると思われます」

 

「まさか大学選抜チームにその様な物があるとはな」

 

「俄かには信じがたいですわね………」

 

みほがそう言葉を続けると、ネフェティとセイレーンがそう言い合う。

 

「それを相手に、付け焼刃の連携なんて意味を成しません………だから、皆さんが皆さんの得意な戦術で挑むんです」

 

「つまり、多種多様な戦術を繰り出して、相手を混乱させると言う事ですか?」

 

そこでオレンジペコが、みほの意図を読み取る。

 

「ハイ、その通りです」

 

「そんな!? 無理よっ!!」

 

「そうザマス。各部隊が好き勝手にやってたら、それこそ部隊としての連携が………」

 

瑪瑙とアスパラガスが、そんな事をすれば余計に部隊が混乱すると言うが………

 

「Oh、成程! 良いわね、ソレ!!」

 

「フッ、お前らしいな、西住 みほ」

 

「誰もカチューシャの上に立たないワケね!? なら良いわっ!!」

 

「良かったですね、カチューシャ」

 

ケイ、アンチョビ、カチューシャ+ノンナからは賛成の声が挙がった。

 

「統率ではなく、自由………互いに勝手気まま………正に私達向きね」

 

「西住殿は人の自由を止められるお方の様だ」

 

特にクロエとしずかなど、素晴らしいと言わんばかりの表情である。

 

「………そうだったな、お前のとこの部隊はいつもそんな感じだったな」

 

そこでまほが、呆れた様に溜息を吐きながらそう言う。

 

「ゴメンね、お姉ちゃん」

 

「いや、良いさ………そうだな。偶には私達も好きにやるか」

 

「総隊長っ!?」

 

だが、みほが謝ると、まほは笑いながらそう返し、エリカが仰天の声を挙げる。

 

何時の間にか、他の面子も納得が行った様な表情となっている。

 

「決まりね」

 

「けど、みほ。アンタにはやらなきゃいけない事が有るわよ?」

 

と、絹代がそう言うと、エミがみほへそんな台詞を言い放つ。

 

「? やらなきゃならない事?」

 

「その島田 愛里寿って子との決着は………貴方が着けなきゃ駄目よ?」

 

「! うん! 勿論だよっ!!」

 

エミが言わんとする事を察し、みほは笑顔で頷いた。

 

「じゃあ、方針は自由。コレで決まりね」

 

「作戦名とか付けますか?」

 

ケイがそう言って場を纏めたが、そこでオレンジペコからそんな声が挙がる。

 

「そうですね………」

 

そう言われたみほは少し考える素振りを見せたかと思うと………

 

「作戦名は………『ボコ友達作戦』で行きます」

 

皆に向かってそう言い放った。

 

「何よ?ソレ。迫力無………」

 

エリカがそう言いかけた瞬間………

 

各隊長達が一斉にスタンディングオベーションした。

 

「えっ………!?」

 

戸惑っているエリカを余所に、各隊長達は拍手を送り続ける。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

やがて、1人拍手をしていないエリカをジロリと見やる。

 

「!! い、良い作戦名ねっ!!」

 

その迫力に耐え切れず、エリカが引き攣った笑みを浮かべて同じくスタンディングオベーションする。

 

「取り敢えず、纏まったみたいやな」

 

「舩坂先輩達の方は………」

 

豹詑がその様子を見てそう言うと、ふと竜真が視線を弘樹達の方へと向ける。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

何時の間にか円陣を組み、全員の右手を重ね合わせている弘樹達の姿が在った。

 

「コッチも何時の間にか纏まってマスッ!?」

 

「1度は銃火を交わした仲の面子が大半だ。歩兵道に於いて、それはどんな語らいにも勝る。今更余計な言葉など必要無かったのだろう」

 

ジェームズが驚きの声を挙げると、エースが謎の説得力がある言葉でそう言い放ったのだった。

 

「では皆さん。後は其々の部隊ごとに準備をお願いします」

 

「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」

 

やがて、みほのその言葉で集結していた各校隊長メンバーは其々の学園艦への帰投準備に入る。

 

「…………」

 

するとそこで、弘樹が密かに、1人の総隊長の後を追って行った。

 

その総隊長とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

島田流が保有するメガフロート艦………

 

その選手控所の一角では………

 

「………学園艦が集結?」

 

「ええ。如何やら大洗に合流して、連合部隊を作り上げた様です」

 

千代に向かって、日本の学園艦が集結したと言う情報を受けたロッチナがそう報告する。

 

「そう………」

 

「宜しいのですかな? コレで大洗側の戦力は我々と同等となったと言えますが………」

 

「例え戦力が同規模になろうと、島田は必ず勝ちます。それに所詮は寄せ集めの烏合の衆………連携もままならぬ部隊を叩くのは簡単です」

 

「そうですか………」

 

淡々とそう言い放つ千代を見ながら、ロッチナは不敵に笑う。

 

「愛里寿、イプシロン………良いわね?」

 

「ハイ、お母様………」

 

「敵が如何なる者達であろうと、私達に敵う筈がありません」

 

そこで千代が、控えていた愛里寿とイプシロンに呼び掛けると、2人も同じ様に淡々と返事を返す。

 

(愚かな一家だ………自分達で軍事道を終焉に導いているとも知らず………まあ、精々頑張ってくれたまえ)

 

そんな島田一家を見ながら、内心でほくそ笑むロッチナだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、大洗学園艦にて………

 

各校隊長メンバー達が帰投して行く中、継続機甲部隊の総隊長であるミカも、自分の学園艦に引き上げるべく、アキとミッコが待つ連絡用の小型艇がある船着き場へと向かっていた。

 

「………何か用かな? 舩坂 弘樹くん」

 

途中、不意にミカは立ち止まると、振り向かずにそう問い掛けた。

 

「…………」

 

その背後から、彼女の言葉通り、弘樹が姿を見せる。

 

そう、弘樹が追って行った総隊長とは、ミカだった。

 

「お尋ねしたい事があります」

 

「その質問に意味が有るとは思えないな」

 

弘樹がそう言うと、ミカは何時もの様に否定的な態度を取りながら、カンテレを弾く。

 

「………『島田 ミカ』」

 

「…………」

 

だが、弘樹がそう言ったのを聞くと、不意にカンテレを弾く手を止めた。

 

「その態度は肯定と受け取って宜しいですね?」

 

「………人違いだよ。私は継続校の名無し。ミカって言うのは皆が勝手にそう呼んでるだけさ」

 

飽く迄『島田 ミカ』ではないと言う態度を取るミカ。

 

「大学選抜チームの試合を見た時、フラッグ車であり隊長車であった島田 愛里寿の動きに見覚えを感じました。それは以前、貴方が見せた戦い方と瓜二つでした」

 

しかし、弘樹は気にせずにそう言葉を続ける。

 

「そして島田の家には出奔した長女が居る………コレから導き出される結論は1つです」

 

「戦い方が似るなんて事は良く有る話さ。もう良いかな? 私も戻って試合の準備をしないといけないんでね」

 

弘樹の言葉に耳を貸さず、逃げる様に立ち去ろうとするミカ。

 

「無礼は承知です。何故貴方は出奔されたのですか? イプシロンや島田 愛里寿が言っていた母と父の願いと言う事が関係しているのですか?」

 

「………!?」

 

だが、弘樹がそう問い質すと、再び足を止めた。

 

「………2人はまだ………そんな事を………」

 

そしてそう呟きながら、微かに肩を震わせる。

 

「………教えて頂けますか?」

 

「………島田流は西住流より格下だと思われて、没落しかけていたのは知っているね?」

 

改めて問い質すと、ミカはそう語り始めた。

 

「…………」

 

弘樹は無言で頷く。

 

「その事を家元は………母さんはずっと嘆いていた。そしてそんな母さんを父さんは見ていられなかったのさ。学会を辞めて母さんの為だけに戦術・戦略AIの研究に明け暮れた………」

 

「…………」

 

「でも、父さんは元々身体が丈夫じゃなかった。無茶な研究に没頭した結果、病魔に侵されてしまったのさ。生きている内に戦術・戦略AIの完成が絶望的だと悟った父さんは………死に際に狂気に走ってしまったのさ」

 

「狂気………?」

 

「自分の頭脳や人格、思考や性格全てを………データ化して戦術・戦略AIに組み込んだのさ」

 

「!?」

 

ミカから齎された驚愕の事実に、弘樹は戦慄する。

 

「では、島田流が保有している戦術・戦略AIは………春博士『そのもの』だと言う事ですか?」

 

「アレは父さんじゃないっ!!」

 

「!!」

 

思わず弘樹はそう言うが、ミカは即座に否定した。

 

「父さんじゃない………あんなモノが父さんである筈がないんだ………」

 

今度はハッキリと肩を震わせながら、ミカは必至な様子で否定を繰り返す。

 

「………失礼致しました」

 

踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったと悟った弘樹は、ミカに謝罪する。

 

「………父さんの頭脳と思考を受け継いだAIは、自ら改良やアップデートを繰り返し、ドンドン自己進化して行った」

 

やがて、落ち着きを取り戻したミカが、話を続ける。

 

「けど、幾ら父さんが天才と言えど、人間の頭脳や人格、思考や性格全てをデータ化してコンピューターに入力するなんて無茶だった」

 

「………バグが発生したと言う事ですか?」

 

「初めは極小さな物だった………だが、コンピューター自身が自分でアップデートや改良を行っている為に、それに気づかずに自己進化を繰り返して行った結果………巨大なバグへと成長した」

 

(外部から人間が操作を行う必要を排除した結果か………)

 

ミカの言葉に、そんな事を思う弘樹。

 

「徐々に狂って行ったAIは………やがて自らを神………『ワイズマン』と名乗り始めた」

 

「『ワイズマン』………」

 

「父さんが死んでしまった事に耐え切れなかった母さんは、そのワイズマンを父さんだと思い込んでいる………私はその狂気に耐え切れなくなったのさ」

 

「何故、イプシロンや愛里寿を連れて行かなかったのですか?」

 

「行こうとしたさ………けど、伊四郎も愛里寿も、母さんを1人には出来ないって」

 

「…………」

 

「結局私は恐ろしさに耐え切れなくなり、2人を置いて島田の家から逃げ出した………こんな私は、島田を………姉を名乗る資格は無いのさ」

 

そう言って、ミカはカンテレを鳴らした。

 

「………コレが私の知る全てさ」

 

「………ありがとうございました」

 

弘樹はそう言うと、ミカに背を向けて立ち去ろうとする。

 

「舩坂 弘樹………私も1つ聞いて良いかな?」

 

「…………」

 

と、そこでミカがそう言い、弘樹はミカに背を向けたまま立ち止まる。

 

「君が戦う事に………意味が有るのかい?」

 

その弘樹の背中に向かってそう問い質すミカ。

 

「………そんな事は考えた事もありませんね」

 

「えっ………?」

 

「ただ、小官が進む道には常に炎が燃えている………それだけです」

 

驚くミカに、弘樹はそう言い残して去って行った。

 

「………進むべき道に炎が燃えているか………それは正に………そう、『炎のさだめ』だね」

 

暫しの間呆然としていたミカだったが、やがてそう言って、カンテレを弾き始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

集結した日本の学園艦の機甲部隊………
コレだけの部隊を即席で纏めるのは無理だと判断したみほは、敢えて各部隊に自由にせよという命令を下す。
この判断が吉と出るか凶と出るか………

そして島田の長女………
継続校のミカと会合する弘樹。
彼女の口から語られた島田家の秘密………ワイズマンの正体。
弘樹は、さだめとあれば心を決め、炎の中へと踏み込んで行くのだった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター18『決戦! 大学選抜チームです!!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター18『決戦! 大学選抜チームです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海原を進んでいた学園艦連合艦隊の前方に………

 

巨大な人工島………島田家所有のメガフロートが現れる。

 

各校の学園艦は、接岸用の港に次々と着けると、陸上部隊を降ろし始める。

 

一航専の学園艦と、呉校を初めとする各校の支援艦隊は、やや沖合に待機している。

 

基本的に支援艦隊と支援航空部隊の出番は、支援要請が出されてからである。

 

その為、一航専以外の学園の航空部隊も、各学園艦の飛行場や沖合に待機させている艦隊の中に居る空母の甲板で待機している。

 

「オーラーイッ! オーラーイッ!」

 

「ハッチ開けろーっ! ゲート開けーっ!!」

 

「モタモタすんな! 急げーっ!!」

 

大洗の学園艦の傍で、整備部の部員が忙しく走り回り、次々と戦車部隊や歩兵部隊の車輌を揚陸して行く。

 

揚陸が終わった各戦車は、其々のチームメンバーが最終チェックを行っている。

 

「エンジン、燃料系もまぁ、異常無し」

 

「無線機異常無し」

 

「照準器、作動機構異常無し」

 

「閉鎖機周り異常無し」

 

「分かりました」

 

麻子、沙織、華、優花里からの報告を受け、チェックリストに印を書き込んで行くみほ。

 

「………アレ? 何だろう?」

 

するとそこで、沙織が怪訝な顔になって無線機を弄り始める。

 

「? 沙織さん? 如何したの?」

 

「何かノイズが………誰かが通信を送って来てるみたい」

 

みほが尋ねると、沙織は通信機の周波数を調節し、受信しようとする。

 

『………初めまして、あんこうチームの武部 沙織さんかしら?』

 

と、やがて周波数が合ったのか、通信機から女性の声が聞こえて来た。

 

「えっ!? えっと………何方ですか?」

 

戸惑いながらも、相手の正体を問い質す沙織。

 

『アラ、ごめんなさい。申し遅れたわね………私は島田流家元、島田 千代よ』

 

「!? 島田流家元っ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

何と、通信先の相手は島田流の家元・島田 千代であり、沙織は仰天の声を挙げ、みほ達の顔にも緊張が走った。

 

『そちらの総隊長さん………西住 みほさんと代わって貰っても良いかしら?』

 

そんなみほ達の様子を知ってか知らずか、千代は更にそう言って来る。

 

「えっ!? みぽりんにっ!?」

 

突然みほを指名され、沙織は戸惑いながら車長席のみほを振り返る。

 

「………沙織さん、繋いで」

 

「う、うん、分かったよ………」

 

みほがそう促すと、沙織は回線をみほへ回した。

 

「………西住 みほです」

 

『初めまして、『西住の娘』さん。貴方の活躍は拝見させて貰っていたわ』

 

みほの事を態々『西住の娘』と呼ぶ千代。

 

彼女の西住流に対する恨みが言葉に表れたのだろうか。

 

「御用件は何でしょうか?」

 

だが、みほはそれを気にせず、千代に向かってそう問い質す。

 

『………正直に言わせてもらうと、貴方には少し同情していたのよ』

 

「えっ………?」

 

『あのしほのせいで戦車道から離れる事になった………しほの犠牲者と言う意味では私と同類だとね』

 

「………私は島田さんとは違います」

 

『その通り。結局貴方は戦車道に復帰し、剰えしほの教えの全てを受けた黒森峰を打ち破った………その時思ったわ。やっぱり貴方も西住の娘なんだって』

 

「…………」

 

『憎い………西住が憎いわ。西住流さえなければ………しほさえ居なければ、島田流が没落しかける事も………あの人が死ぬ事だってなかったのに』

 

「………お母さんがした事は代わって謝ります。でも、こんな事をしても、何にもなりませんよ」

 

『お黙り、小娘っ!!』

 

「うわっ!?」

 

そこで千代はハウリングが起こる程の声を挙げ、みほは反射的にヘッドフォンを耳から外す。

 

『貴方に何が分かるのっ!? あの人がどんな思いで死ぬまで研究に打ち込んだのか!! あの人の意志を無駄にしない為にも! 私は西住を叩き潰すのよっ!! 徹底的にねっ!!』

 

先程までの態度は打って変わり、ヘッドフォンを外した状態でも聞こえる程の声で、激情に駆られるまま叫び続けている千代。

 

「………愛里寿ちゃんと話をさせてくれませんか?」

 

するとみほは、再度ヘッドフォンを装着し、愛里寿と話がしたいと願い出た。

 

『ええ、良いわよ………愛里寿、西住 みほよ』

 

『………島田 愛里寿です』

 

千代に代わって、愛里寿の声がヘッドフォンから聞こえて来た。

 

「久しぶり、愛里寿ちゃん。元気だった?」

 

みほは、まるで友達に語り掛けるかの様にそう言う。

 

『………何を言っている、西住 みほ。私とお前は敵同士だ。西住と島田の者である以上、それは免れない』

 

愛里寿はそんなみほの言葉をそう切って捨てたが………

 

「私は今でも愛里寿ちゃんの事を友達だと思ってるよ」

 

『!?』

 

そうみほが言葉を続けると、驚きを露わに沈黙した。

 

「私には愛里寿ちゃんが背負っているモノがどれだけのものなのか分からない………けど、例え愛里寿ちゃんが私の事を敵だと思っていても、絶対に友達は止めないよ。愛里寿ちゃんの気持ち………受け止めてみせるから」

 

『う………あ………』

 

続けてみほがそう言うと、愛里寿が苦しそうにしている様な声を漏らす。

 

と………

 

『妹を誑かすのは止めてもらおうか、西住 みほ』

 

「! イプシロンさん………」

 

突如通信機からイプシロンの声が響き、みほは僅かに驚きを露わにする。

 

『我々島田にとって西住の名を持つ者は全て打ち滅ぼさねばならん。貴様の戯言に付き合っている暇は無い』

 

「…………」

 

敵意全開なイプシロンの言葉を、みほは黙って聞く。

 

『小癪にも仲間を引き連れて来た様だが、無駄な事だ。今日で西住流の名は地に落ちる』

 

『………随分な物言いだな』

 

「! 弘樹くん!」

 

とそこで、弘樹の声が通信回線に割り込んで来た。

 

『舩坂 弘樹か………いよいよ戦いの時が来たな。パーフェクトソルジャーである私にはお前の悪運も通用せんぞ。真のパーフェクトソルジャーとは悪運では無く力によってなるものだと言う事を教えてやる』

 

『お前の言うパーフェクトソルジャー等と言う称号に興味は無い………小官は小官の前に立ちはだかった者を排除するだけだ』

 

口調こそ穏やかだが、明らかに殺意が籠った言葉に、弘樹はいつもの様に冷静かつ淡々とした様子でそう返す。

 

『ふん、その冷めた態度は長くは続かんぞ………覚悟しておけ』

 

イプシロンはそう言い残し、一方的に通信を切った。

 

「…………」

 

それを確認すると、みほはハッチを開けてキューポラから姿を曝す。

 

「…………」

 

そして視線を横へ向けると、先程まで通信機で会話していた弘樹の姿を確認する。

 

「…………」

 

そのみほの姿を無言で見返す弘樹。

 

「西住総隊長。大洗機甲部隊、出撃準備完了だ」

 

とそこで、迫信が大洗機甲部隊の出撃準備が整った事を報告して来た。

 

「………コレより我々は、大学選抜チームとの試合に臨みます。全員………覚悟を決めて下さい」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

みほがそう言い放つと、大洗機甲部隊員達の顔に緊張が走る。

 

「………パンツァー・フォーッ!!」

 

「アールハンドゥガンパレードッ!!」

 

そして、お馴染みの掛け声と共に、大洗機甲部隊は進軍を開始。

 

他校の機甲部隊も、次々に出撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

大学選抜チーム側の集合地点では………

 

「…………」

 

集結した大学選抜機甲部隊の中心に陣取っていたセンチュリオンのキューポラから姿を見せ、何処か悲しげな顔をしている愛里寿。

 

「…………」

 

ふと下を向き、車内を覗き込むと、そこにはあのノートPCに繋がっているバイザー付きヘッドフォンが在った。

 

「…………」

 

その装置を見た愛里寿の表情が更に曇る。

 

「総隊長、何か悲しそうな顔してない?」

 

「やっぱり、友達になったって言う敵の総隊長の子と戦いたくないんじゃ………」

 

「当然よ。幾ら島田流戦車道の後継者って言っても、まだ13歳。普通なら中学生よ?」

 

そんな愛里寿の様子を見て心配そうにしている3人の女性………

 

グレーのショートヘアで眼鏡を掛けている『ルミ』

 

濃い茶髪のロングヘアーの『メグミ』

 

茶髪のミディアムヘアーの『アズミ』

 

大学選抜機甲部隊の戦車参謀メンバーである。

 

島田流の教えを受けており、島田兄妹の実力を誰よりも理解している優秀な参謀達だ。

 

特に総隊長である愛里寿の事は、島田流の後継者である事とは別に可愛がっており、その心中をも良く察している。

 

「やっぱり、この試合………止めた方が良いんじゃ?」

 

「馬鹿。家元からの直々の命令なのよ」

 

「下手に逆らったりしたら、間違いなくチームから外されるわね」

 

「そうなったら総隊長が孤立しちゃうわよ」

 

「それは………」

 

島田流戦車道の後継者であり、大学へ飛び級で進学している天才少女の愛里寿であるが………

 

それが全ての人間から認められているかと言えば、そう言うワケでもない………

 

大学選抜チームのメンバーは、島田流の門下生の他に、昔から軍事道に打ち込んで来て、実力を持って選ばれ、様々な大学から召集された者達である。

 

故にプライドの高い者達が多く、例え実力が有っても、年端も行かない少女である愛里寿の命令を聞く事に不満を覚えている者達も居た。

 

そんな者達の間に立ち、愛里寿とチームメンバー達の仲を取り持っているのがメグミ、アズミ、ルミである。

 

もし彼女達がチームから外されてしまえば、大学選別チームのチームワークに支障が生じかねない上………

 

大人の悪意が諸に愛里寿に向かう事になってしまう。

 

そう思うと、3人は面と向かって千代に意見する気にはなれなかった………

 

「今更もう手遅れよ。私達に出来る事は只1つ………」

 

「最後の最後まで総隊長を支える………」

 

「そして勝利するのみ………」

 

メグミ、アズミ、ルミは悲壮な決意を固める。

 

「………総隊長から全隊員へ」

 

「「「!!」」」

 

そこで、愛里寿から機甲部隊全隊員に向けた通信が入り、3人の顔に緊張が走る。

 

「コレより作戦を開始する。先ず火力に優れる車輌………特に黒森峰とプラウダの重戦車部隊は優先的に撃破。アズミとルミの部隊は私と共に前進。側面からの強襲に注意せよ。偵察部隊は敵と遭遇しても攻撃するな」

 

「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

愛里寿がそう命令すると、チャーフィーを中心としたM8装甲車とM20装甲車やオートバイに乗った機械化歩兵部隊が大学選抜機甲部隊より先行した。

 

「各車前進」

 

「こちらルミ。了解」

 

「アズミ、了解しました。前進開始」

 

「メグミ、部隊を変針させます」

 

そして遂に、大学選抜機甲部隊が行動を開始した。

 

「愛里寿、何故ヘッドフォンを付けていない?」

 

とそこで、前進するセンチュリオンに随伴していたジープの助手席に乗っていたイプシロンが、愛里寿が例の装置を使っていない事を尋ねる。

 

「………使うまでもないから」

 

愛里寿はそう、やや苦しい言い訳を返す。

 

「そうか………まあ良い。だが忘れるな、愛里寿。今日で父上と母上の悲願が達成されるのだと言う事を」

 

「………うん」

 

イプシロンの言葉に、愛里寿は俯きながら小さな返事を返した。

 

「………むざむざ敵に空をやるワケにも行かんな。こちらイプシロン。航空支援を要請する」

 

とここで、イプシロンは先んじて制空権を確保しようと、航空支援要請を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・上空………

 

西部学園のマークを付けた数機のスチンソン L-5C センチネルが、一定の間隔を空けた編隊飛行を行っている。

 

「! 3番機より1番機へ! 目標発見っ!!」

 

するとその内の1機の乗員が地上で動くモノを発見し、隊長機に報告を送る。

 

その動くモノは、大学選抜機甲部隊だった。

 

「コチラ偵察機隊! 大学選抜機甲部隊を発見! 位置は………」

 

隊長機が、すぐに大洗連合部隊に報告を送ろうとするが………

 

「! 3時方向より敵機来襲っ!!」

 

すぐに敵機来襲の報告が挙がり、3時方向を確認すると………

 

大学選抜機甲部隊のマークが描かれた『F8F-2 ベアキャット』と『P-51 マスタング』の編隊の姿が在った。

 

「来たか! 急速離脱っ!!」

 

直ちに離脱を指示する偵察機隊の隊長。

 

しかし、ベアキャットとマスタングはすぐにセンチネルに追い付いて来る。

 

AN/M3 20mm機関砲と12.7mm重機関銃M2が火を噴き、センチネルが1機撃墜される。

 

「敵機甲部隊の位置! Yの3地点! 北へ向かって進行中!! 尚、現在敵機より逃走中! 戦闘機の支援を請うっ!!」

 

そんな中でも、隊長は冷静に大学選抜機甲部隊の位置と進行方向を大洗連合部隊に報告し、戦闘機の支援を願う。

 

その横で、僚機が火を噴いて墜落して行った。

 

「隊長! もう駄目ですっ!!」

 

「やかましいっ!!」

 

同乗員が弱音を吐くのを一蹴し、自機に回避運動を取らせる偵察機隊長。

 

しかし、その努力も虚しく、遂にP-51のレティクルに捉えられる。

 

「…………」

 

P-51のパイロットがニヤリと笑いながら操縦桿の引き金を引こうとする。

 

だが、その瞬間!!

 

そのP-51に無数の機銃弾が浴びせられた!!

 

「!?」

 

パイロットが驚いている内に射出座席が作動し、脱出。

 

蜂の巣にされた機体は火を噴き、主翼が片方折れると錐揉み回転しながら落ちて行った。

 

「良く頑張った! 後は任せろっ!!」

 

そしてそこで、六郎の声と共に、一航専の戦闘機部隊と大洗連合に参加した各校の戦闘機部隊が現れる。

 

「助かった! 後は頼みますっ!!」

 

偵察機隊長はそれを確認すると、そう言い残して生き残ったセンチネルを引き連れて離脱して行く。

 

「ベアキャットとマスタングか………だが、この『烈風改』とて後れは取らん」

 

六郎は相手となる機体が傑作機と名高い2機である事を認めるが、自身の烈風も改良された物であると言い、引けは取らないと豪語するのだった。

 

「行くぞ! 全機交戦!!」

 

「メビウス1、交戦」

 

「ラーズグリーズ隊、交戦」

 

六郎がそう言い放つと、紫電改のメビウス1、疾風のラーズグリーズ隊を中心に、大洗連合の戦闘機部隊が交戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗連合・大洗機甲部隊………

 

『コチラ六郎! 現在敵戦闘機部隊と交戦中! 制空権は拮抗状態っ!!』

 

「了解しました! 出来る限り早く制空権を確保して下さい!」

 

『善処する!』

 

六郎から報告を受けたみほはそう返し、先程偵察機隊長から入った大学選抜機甲部隊の位置を地図上で確認する。

 

(この位置から北に………交戦場所は………此処になる)

 

地図上のある地点………

 

高地を中心に、右手の森林、左手に湿地帯が広がっている場所を見て、みほはそう思いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に開始された大学選抜チームとの試合。
其々に様々な思いを抱えつつ戦場に向かう両部隊。
制空権争いが拮抗する中、最初の接敵地帯を予測するみほ。
勝利の女神はどちらに微笑むのか?

相変わらず進みが遅くて申し訳ありません。
前にも言いましたが、如何にも筆が進まなくて………
けど、必ず書き上げますので、心配しないで下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター19『地獄戦車道です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター19『地獄戦車道です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に開始された島田流が率いる大学選抜機甲部隊との試合………

 

西住に生まれた者の宿命として………

 

そして何より友達である愛里寿の為に………

 

みほは今までに激戦を繰り広げたライバル達の力を借りて、大洗連合部隊を編成し………

 

島田流へと挑むのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上………

 

平原地帯を進む大洗機甲部隊。

 

他にもグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の姿も在る。

 

『司令官、コチラは黒森峰機甲部隊だ。高地の麓に到達した』

 

『プラウダ&ツァーリもよ!』

 

とそこで、黒森峰機甲部隊のまほと、プラウダ&ツァーリ機甲部隊のカチューシャから、交戦地帯になると予想されている高地の麓に着いたとの報告が入る。

 

「敵の姿は見えますか?」

 

『今先遣隊を送ったところだ。間も無く報告が来る』

 

みほがそう尋ねると、まほは今報告が来ると返す。

 

『コチラ先発隊の小梅。頂上付近に敵影はありません』

 

その言葉通り、先発隊の指揮を執っていた小梅からそう報告が入って来る。

 

『ならとっとと取るべきよ!!』

 

『司令官の判断を請う』

 

カチューシャは即座に高地の奪取を決めるが、まほはみほに指示を求める。

 

「罠の可能性は十分にありますので警戒して下さい。空爆や艦砲射撃等の長距離射撃に晒される可能性も有りますから」

 

みほは高地奪取を決め、罠や空爆、長距離射撃を警戒せよと命じる。

 

「退路を確保しながら、散開しつつ前進。対空火器の配置も十分に行って下さい。敵に遭遇した場合や空襲等を受けた場合は無理をしない様にお願いします」

 

『了解した。交信終了』

 

みほから続けてそう指示を受けたまほは、通信を切る。

 

「…………」

 

そして共に進軍する中で、何やら嫌な予感を感じている弘樹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高地の麓………

 

集結している黒森峰・プラウダ&ツァーリ機甲部隊は………

 

「有利だが、包囲殲滅される危険が有る」

 

「敵からすれば絶好の的になる場所に陣取るワケだからね」

 

まほがそう言うと、傍に居た都草もそう言い放つ。

 

「他のチームとの連携が取れなくなるかも知れない………」

 

「M26なんて登るの遅いし、ココは行くしかないわよ!」

 

「取れば戦術的に優位になりますね」

 

慎重を期するまほに対し、強気に攻めようとするカチューシャとそれに同意するノンナ。

 

「確かに優位だが………態と山頂を空けているのかも知れない」

 

「大丈夫よ! 貴方、何だかんだ言って妹の事信じてないのね?」

 

「…………」

 

飽く迄強気なカチューシャの言葉に、まほは黙り込む。

 

「ノンナなんてどれだけ私の事信じてるか。私が雪を黒いと言えば、ノンナも黒いって言うくらいよ。ねっ!?」

 

「ハイ」

 

「信じるのと崇拝するのは違う」

 

「うっ………!」

 

まほにそう返されて今度はカチューシャが黙り込む。

 

「ウチにも1人、崇拝レベルでまほ総隊長殿を信じている奴が居るでありますが………」

 

とそこで、久美がそんな事を言いながらティーガーⅡのキューポラから姿を曝しているエリカの方を見やった。

 

「なっ!? わ、私は別にそこまで行ってないわよっ!!」

 

心外だと言う様に怒鳴るエリカだったが………

 

「そうか………エリカは私を信じていなかったのか………」

 

それを聞いたまほが、そう言って落ち込んだ様な様子を見せた。

 

「!? そ、総隊長っ!? いえっ! 私は決してそう言う意味で言ったワケでは………」

 

途端にエリカは慌てて取り繕おうとするが………

 

「冗談だ」

 

「ズコーッ!?」

 

途端にまほは真顔になってそう言い、エリカは一昔前のギャグ漫画の様なズッコケを披露する。

 

「ナイスなズッコケであります! エリカ殿っ!!」

 

そんなエリカに向かって拍手を送る久美。

 

「…………」

 

その一連の遣り取りに、カチューシャが唖然とした様子を見せる。

 

「面白くなかったか?」

 

するとそこで、まほが真顔でそう尋ねる。

 

「えっ!? えっと………その………」

 

突然話を振られ、何と答えて良いか分からず、しどろもどろになるカチューシャ。

 

「そんな深刻に考えなくても良い。コレも冗談だ」

 

そこでまほは、またもや真顔でそう言い放つ。

 

「ズコーッ!?」

 

今度はカチューシャが一昔前のギャグ漫画の様なズッコケを披露する。

 

「「!!」」

 

途端に、ノンナとクラーラが、何処からか取り出したカメラでその様子を連写機能を使って撮影する。

 

「じょ、冗談を真顔で言うんじゃないわよ!」

 

「そうか………真顔で言った方が面白いと思ったんだがなぁ………」

 

何とか立ち直ったカチューシャがそう言うと、まほは顎に手を当ててそう考え込む。

 

「アンタ………変わったわね」

 

「肩肘張る生き方にもいい加減疲れたからな」

 

カチューシャがそう言うと、まほはあっけらかんとそう返す。

 

(まほちゃんも良い感じに砕けて来たわね)

 

そんなまほの様子を、ティーガーⅡ(ポルシェ砲塔)のキューポラから姿を見せていた揚羽がそう思う。

 

尚、黒森峰が全国大会で使用した超重戦車軍団は、元々しほの独断で投入された事や、維持費が掛かり過ぎると言う事で、マウス1輌を残して全て博物館へ寄贈された。

 

残った1輌のマウスも、今はまだ黒森峰の学園艦で待機している。

 

「さて………確かに試合が長引くと、経験が多い向こうが有利だ。序盤で戦果を挙げておきたい………行くか?」

 

「ハイッ!!」

 

まほが改めてそう言うと、エリカがいの1番に賛成する。

 

そして、黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、高地頂上を目指して前進を始めた。

 

「さあ、行くわよ! 203高地よっ!!」

 

『203高地ねえ………』

 

『プラウダはどんな戦いか知っているのか?』

 

『負ける気か?』

 

カチューシャが勇ましくそう言うが、203高地の戦いの事を知る絹代、エルヴィン、カエサルからは呆れた声が挙がる。

 

ドンドンと高地を昇って行く黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊。

 

「ちょっと、ニーナ!」

 

「すみませ~ん」

 

途中、その重量故に登坂スピードが遅かったニーナのKV-2に、カチューシャのT-34-85がぶつかると言ったトラブルもあったが、順調に登って行っている。

 

「黒森峰機甲部隊、プラウダ&ツァーリ機甲部隊、高地北上中」

 

「頂上到達まで推定5分」

 

と、その様子をカモフラージュを施した状態で観測している大学選抜チームのM24チャーフィーを中心とした偵察小隊。

 

「攻撃しますか?」

 

『取らせておけ』

 

愛里寿に指示を仰ぐが、愛里寿は高地は捨て置けと返す。

 

『アズミ隊、高地西の森林を全速で前進。敵部隊と遭遇した場合はコレを突破し、高地集団の後方を脅かせ』

 

『了解。全部隊、全速前進』

 

そしてアズミの部隊へとそう指示を飛ばす。

 

『ルミ部隊、麓東方を湿原まで前進。接敵した場合は、突破せず相手を釘付けにしろ』

 

『部隊、隊形を横隊から斜行陣へ』

 

続いてルミの部隊へそう指示すると、ルミが指パッチンをしながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高地西側の森林地帯………

 

その場所をサンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、シャムのT28超重戦車とノーラのシャーマン・カリオペを除いた西部機甲部隊、そしてムカデさんチームとレッドショルダー3人衆が進んでいる。

 

「此方アリサ。前方に異常無し」

 

前衛を務めるサンダース&カーネル機甲部隊の中で、偵察の為に先行していたアリサがそう報告する。

 

「了解。ケイ車より西車へ。そっちは如何?」

 

その報告を受けたケイが、後続の絹代に尋ねる。

 

「コチラ知波単部隊。我が部隊は順調に進撃中………! 3時方向っ!!」

 

返事を返していた途中、絹代がそう叫ぶと、3時方向から砲弾が飛んで来た!!

 

「CQ、CQ! 此方サンダース&カーネル機甲部隊! 高地西側の森林地帯にて敵と遭遇! 規模は不明!」

 

すぐさまケイは、司令官のみほを含めた全部隊に報告を送る。

 

『此方オレンジペコです。敵戦車を発見しました。方位10時、距離240ヤード』

 

すると、大洗機甲部隊と行動を共にしていたグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊のオレンジペコからも報告が挙がった。

 

『各部隊、微速後退しつつ応戦』

 

『11時の方向、パーシング』

 

更に典子も新たな敵戦車を発見し、報告を挙げる。

 

『来た………』

 

『塹壕を掘れっ!』

 

遂に戦闘が始まり、みほの顔に若干の緊張が走り、弘樹がそう指示を飛ばすと、工兵部隊が工作車輌も投入して大急ぎで塹壕を掘り始める。

 

『敵戦力増大中!』

 

『みほさん、如何しますか?』

 

オレンジペコがみほに指示を求める。

 

『司令官より交戦中の各部隊へ。前後に移動を行い、相手の射線に入らない様にして下さい。高地の上に黒森峰とプラウダ&ツァーリが到着するまで耐えましょう』

 

「了解。任せておきなさい」

 

みほからの指示に、絹代が勇ましく答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、いよいよ高地頂上へと到達していた。

 

「コチラ黒森峰。高地頂上に達した」

 

「203奪取よっ!!」

 

「「「「「「「「「「ウラアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

まほが報告し、カチューシャがそう言い放つと、プラウダ&ツァーリ機甲部隊員達が歓声を挙げる。

 

「対空戦車、並びに高射砲を配置! 敵の空襲に備えろっ!!」

 

そこで、都草がそう指示し、対空戦車部隊と高射砲部隊が輪形陣の様に展開。

 

敵機の襲来に備える。

 

『みぽりん!』

 

『やりましたね!』

 

報告を聞いた沙織と優花里が歓声を挙げる。

 

『黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は2手に分かれて、コチラとサンダース&カーネル機甲部隊群への援護をお願いします』

 

「了解」

 

「12時方向より敵接近!」

 

と、まほが返事を返したところ、デミトリからそう報告が挙がり、北方向から向かって来る敵集団を確認する。

 

「北方向に敵集団を確認。警戒しつつ支援に当たる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、サンダース&カーネル機甲部隊群の方は………

 

「攻撃開始っ!!」

 

ケイの号令で、サンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、西部機甲部隊が一斉に攻撃を開始する。

 

大学選抜アズミ部隊は、反撃を受けながらも冷静に対処し、足を止めたサンダース&カーネル機甲部隊達に向かって接近を開始する。

 

「うおっ! こっち来たっ!?」

 

「1歩たりとも通すんじゃないわよっ!! 撃てぇっ!!」

 

玉田が声を挙げると、絹代が吼え、知波単のチハ達が一斉に砲撃する。

 

しかし、新旧どちらの砲塔のチハでも、パーシングの装甲を抜く事は叶わず、アズミ部隊のパーシング達は構わず前進。

 

車輌に乗った大学選抜歩兵部隊も、追従して進軍して来る。

 

「アリサ! ナオミ! カウガールズ! 連中は知波単ズの脇から突破する積りよ! 前へ出て守るわよ!!」

 

それを見たケイは、敵は知波単機甲部隊を突破して高地へ向かう気だと見抜き、そう指示する。

 

「了解。自分が………!」

 

火力に優れるファイアフライのナオミが援護しようとするが、そこへ敵の激しい攻撃が襲って来る。

 

「敵火力集中! 援護不能っ!! 援護不能っ!!」

 

「SHIT!!」

 

ナオミの報告を聞いたケイが、思わずペリスコープを叩き回す。

 

「私が前に出ます!」

 

するとそこで、ブチのシャーマン・ジャンボが前に出る。

 

パーシングや対戦車砲の攻撃が襲い掛かって来るが、自慢の装甲で弾き飛ばす。

 

「皆さん! 私に続いて下さいっ!!」

 

「サンキューッ!!」

 

「歩兵部隊! 対戦車兵を優先して排除しろっ!! ジャンボの前進を支援するんだっ!!」

 

ブチがそう言うと、ケイはお礼を言い、ジャンゴがそう指示して、連合歩兵部隊が大学選抜歩兵部隊の対戦車兵を優先して狙い始める。

 

「オノレェッ! こうなればっ!!………」

 

とそこで、痺れを切らしたかの様に、玉田が突撃を試みようとしたが………

 

その瞬間、脳裏に戦艦大和が砲撃してくる光景が蘇る。

 

「!? ヒイイッ! ゴメンなさいーっ!!」

 

顔面蒼白になって謝り出す玉田。

 

他の面々も同じ様な状態で、何とか突撃は思い留まった。

 

「訓練の成果は有ったみたいね」

 

「って言うか、トラウマになってませんか?」

 

その光景を見た絹代がそう言うと、ライがツッコミを入れる。

 

だが………

 

そんな絹代の脇を擦り抜けて、敵集団に突撃して行く者達が居た。

 

「えっ?………ああ」

 

一瞬驚いた様子を見せた絹代だったが、突撃して行った者達を見て、納得が行った様な表情となる。

 

「各員、ココで敵を全滅させる意味は無いわ。あの日本戦車達をあしらったら、総隊長の命令通りに高地へ向かうわよ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

一方、大学選抜機甲部隊の方では、部隊の指揮を執っているアズミがそう言い、パーシングが知波単機甲部隊のチハ部隊に一斉射を見舞う。

 

放たれた複数の砲弾が、知波単機甲部隊の前に着弾し、派手に爆煙と土煙を立てた。

 

その爆煙と土煙で、知波単機甲部隊の姿が見えなくなる。

 

「全部隊、警戒しながら前進」

 

そこでアズミ部隊は突破を図ろうとしたが………

 

その瞬間!!

 

「「ハハハハハハハハッ!!」」

 

高笑いの声と共に、爆煙と土煙を突っ切って、2輌の戦車が飛び出して来た!!

 

「!? えっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然僅か2輌で飛び出して来た戦車達に、仰天するアズミを始めとする大学選抜機甲部隊員達。

 

飛び出して来た車輌は、M18駆逐戦車・ヘルキャットと、真っ赤に染められムカデのマークが描かれた九七式軽装甲車・テケ………

 

そう………

 

クロエとしずかの車輌だった。

 

当然の様に、2人は車外へ姿を曝し、『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべている。

 

「ファイアァッ!!」

 

先ずクロエが、ヘルキャットの90ミリ主砲を近場に居たパーシングの砲塔基部に叩き込む!

 

砲撃を受けたパーシングは爆発の後、白旗を上げる。

 

「下がれいっ! 下郎共ぉっ!!」

 

更にしずかもそう吠えながら榴弾を発射!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

大学選抜歩兵部隊員達数名が、纏めて吹き飛ばされて戦死判定となる。

 

「な、何なのっ!? この子達っ!?」

 

「たった2輌で突っ込んで来るなんて、気でも狂ってるのかっ!?」

 

大部隊の中に、装甲の薄い駆逐戦車と吹けば飛ぶ様な豆戦車で飛び込んで来たクロエとしずかの正気を疑う大学選抜機甲部隊。

 

「狂っているのか、ですって………?」

 

「笑止っ!!」

 

と、それを聞いたクロエとしずかは………

 

「「正気で戦が出来るかぁっ!!」」

 

さも当然の様にそう言い放った!!

 

「!? ヒイッ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

アズミを始め、大学選抜部隊メンバーに戦慄が走った瞬間………

 

「神に会うては神を斬り!」

 

「悪魔に会うては、その悪魔をも撃つ!」

 

「戦いたいから戦い!」

 

「潰したいから潰す!」

 

「「我等(私達)に大義名分など無いのさ!!」」

 

「「我等(私達)が、地獄だっ!!」」

 

しずかとクロエは、何時ぞやも決めていた台詞を言い放つ。

 

2人は今正に地獄の使い………

 

いや、『地獄そのもの』となっていた。

 

(((((如何してウチの車長はこんなに好戦的なのぉっ!?)))))

 

そして、そんな地獄に付き合わされ、涙目になっている鈴とヘルキャットの乗員達だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大学選抜チームとの序盤の戦いの様子をお送りしております。
原作では大洗は3つに分かれた中隊の分散して配置されておりましたが、この作品では部隊規模が異なっているので、纏まって行動しております。

そして、森林地帯を行っていたサンダース&カーネルと知波単の所に、西部とムカデさんチームを追加。
早速戦闘狂のクロエとしずかがやらかしてくれました(笑)
原作では先制パンチを喰らった大洗連合ですが、この作品では逆に先制パンチを喰らわせます。
次回の地獄姉妹に暴れっぷりに御期待下さい(爆)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター20『最強の戦乙女よ、いざ舞えです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター20『最強の戦乙女よ、いざ舞えです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に開始された島田流率いる大学選抜チームと大洗連合部隊の試合………

 

黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊が高地を奪取した中………

 

森林地帯を進んでいたサンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、西部機甲部隊がアズミ隊と接敵。

 

アズミ隊は3部隊を突破し、高地の黒森峰とプラウダ&ツァーリを脅かそうとする。

 

だが、その前に………

 

『地獄姉妹』が立ちはだかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上………

 

森林地帯………

 

「イイイサアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

クロエの独特の掛け声と共に、猛スピードでアズミ隊の戦車部隊へと突っ込んで行くヘルキャット。

 

「く、来るわよっ!!」

 

戦車部隊員の1人がそう声を挙げた瞬間にヘルキャットが発砲!

 

砲弾は1輌のパーシングの防盾の下部に命中し、ショットトラップして車体上部に命中!

 

そのパーシングは白旗を上げる。

 

「撃て! 撃てぇっ!!」

 

別の戦車部隊員から声が挙がると、パーシングとチャーフィー達が一斉に砲撃する。

 

「フッ………」

 

だが、クロエが不敵に笑った瞬間………

 

ヘルキャットは右側の履帯をロック!

 

途端にヘルキャットは独楽の様に回転!

 

向きが変わった事で、パーシングとチャーフィー達の砲弾は全て外れる。

 

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

 

「イイイサアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

大学選抜戦車部隊員達が仰天の声を挙げる中、クロエはヘルキャットを回転させたまま、アズミ戦車部隊の中へと突っ込む!

 

そして、近場に居たチャーフィーを撃ち抜く!

 

そこから180度回転したかと思うと、反対側に居たパーシングの車体側面を撃ち抜く!

 

そのまま回転を続けながら次々に発砲すると言う離れ業を披露するヘルキャット。

 

「しっかり装填しなさい! しそこなったら、朝までコースよっ!!」

 

「ヒイイッ!!」

 

クロエが装填手に何やら意味深な激を飛ばしながら、ヘルキャットは回転しながらの発砲を続ける。

 

「マズイッ! 歩兵部隊前進っ!! あの駆逐戦車を排除してっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

そこでアズミの慌てた指示が飛び、後方に居た歩兵部隊が車輌ごと前に出る。

 

と、次の瞬間!!

 

1輌の兵員輸送用トラックに榴弾が命中し、爆発!

 

「「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

乗っていた10数名の大学選抜歩兵部隊員達が、炎に包まれた状態で飛び出して来て、そのまま戦死判定となる。

 

「!?」

 

アズミが榴弾が飛んで来た方向を確認すると、そこには………

 

「…………」

 

『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべたしずかが、砲門から硝煙が立ち上っているテケから姿を見せて、威風堂々と存在していた。

 

「この様な大戦(おおいくさ)に参加出来るとは感無量………武人の本懐を遂げんっ!!」

 

「!? ひゃうっ!?」

 

そう吠えて、何時もより強めに鈴に足で指示を出すと、鈴が艶めかしい声を挙げ、テケが大学選抜歩兵部隊の中へと突っ込んで行く!!

 

「向こうも突っ込んで来たぞっ!!」

 

「ハッ! 所詮は豆戦車だろうに!! すぐにスクラップにしてやるぜ!!」

 

それを見たアズミ隊の歩兵部隊副隊長である『星叫(せいきょう)』が、バズーカを構えてテケの前に躍り出ようとする。

 

「星叫、待てっ! 奴はタンカスロン参加者だ! 迂闊に手を出すなっ!!」

 

そんな星叫を、アズミ隊随伴歩兵部隊長である『刃海 泰亭(はかい たいてい)』が制する。

 

「だから何だって言うんですか? あんな戦車とは名ばかりの屑鉄なんて恐るるに足りませんよ!」

 

だが、星叫はその忠告を無視してテケに向かって行った。

 

「あの馬鹿者めっ!!」

 

そんな星叫に向かって、泰亭は吐き捨てる様に言い放つ。

 

突っ込んで来るテケの前に立ちはだかり、バズーカを構える星叫。

 

(ふふ、回避しようとしたところへブチ込んでやるぜ!)

 

しかしすぐには撃たず、回避しようとしたところへブチ当てようと待ち構える。

 

だが………

 

「…………」

 

しずかは『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべたまま、回避運動を取る様子も見せず、星叫に突撃する!

 

「な、何ぃっ!? 突っ込んで来やがったっ!?」

 

そんな事をしてくるとは欠片も思っていなかった星叫が慌ててバズーカを放り出し、横っ飛びする様に回避する。

 

投げ出されたバズーカは、テケに踏み潰されてペシャンコになる。

 

「参るっ!!」

 

そこでしずかは榴弾を発砲!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

固まっていた大学選抜歩兵部隊員達数名が、纏めて吹き飛ばされる!

 

「まだだっ!!」

 

小口径砲の利点を生かし、素早く装填を済ませ砲塔を別方向へ向けると再び発砲。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

2発目の榴弾がM3ハーフトラックの荷台に命中すると、そのままM3ハーフトラックを爆散させ、搭乗していた大学選抜歩兵部隊員達を戦死判定させる。

 

「クソッ! 調子に乗るなぁっ!!」

 

「たかが豆戦車に総崩れとあっては大学選抜チームに存在意義は無いっ!!」

 

しかし、そこは腐っても島田流の教えを受けている大学選抜チーム。

 

数名の大学選抜歩兵達が手榴弾を放ったかと思うと、辺り一面に煙が立ち込める。

 

「むっ!?」

 

「あら? 煙幕?」

 

しずかとクロエが声を挙げ、テケとヘルキャットがお互いに衝突する事を考えて停止する。

 

「エンジン音が止まった! 停止しているぞっ!!」

 

「位置は………そこだなっ!!」

 

だが、大学選抜歩兵部隊員達は、煙幕を張る前の両者の位置から未来位置を割り出し、一斉にその場所へと武器を向ける。

 

「終わりだっ!!」

 

そして引き金が引かれようとした、正にその瞬間!!

 

そのヘルキャットとテケが居ると思われる場所から無数の『銃弾』が飛んで来た!!

 

「!? 伏せろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

泰亭の声で大学選抜歩兵部隊員達が伏せるが、反応の遅れた数名が蜂の巣にされる。

 

直後に、煙幕が揺らめき、3つの赤い点が煙幕の中で激しく動き回る。

 

「お姫さんばっかに良い恰好はさせないぜ」

 

そう言いながら、フリーガーファウストを発射するグレゴルー。

 

「「「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ロケット弾が大学選抜歩兵部隊員達の中へ降り注ぎ、大学選抜歩兵部隊員が宙に舞う。

 

「野郎っ!!」

 

反撃にと、小銃や機関銃を煙幕の中で蠢く赤に向かって発砲する大学選抜歩兵部隊員達。

 

「ケッ! こんなもん、裸のマヌケにしか効きゃしねえ!」

 

だが、ムーザはそう言いながら巧みに銃弾の隙間を縫う様にして接近し、MP40の弾をばら撒いた!!

 

「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

またも蜂の巣にされた大学選抜歩兵部隊員達が量産される。

 

「如何したのっ!? 何が起こってるのっ!?」

 

煙幕の為、随伴歩兵部隊の状況が掴めていない1輌のパーシングの車長が、埒が明かないとハッチを開けて自ら車外を確認する。

 

すると、すぐ近くに歩兵らしき影を認める。

 

「あ、貴方! 如何したの!? 状況はっ!?」

 

味方の歩兵だと思い、状況を問い質すパーシングの車長。

 

「そうだな………取り敢えず、お前さんは撃破ってところか?」

 

「えっ………?」

 

そんな声が返って来て、パーシングの車長が困惑すると、風が吹いて煙幕が流れ………

 

その歩兵が、パンツァーシュレックを構えたバイマンであった事が明らかになる。

 

「!? ヤバ………」

 

パーシングの車長が言い切る前に、バイマンはパンツァーシュレックを発射!

 

ロケット弾がパーシングに命中し、白旗を上げさせた!

 

「クッ! 損害が広がるばかりだわ!!」

 

「部隊長! この際、多少の犠牲には目を瞑り、強行突破する以外に道は有るまいっ!!」

 

アズミが思わず声に出すと、泰亭がそう進言して来た。

 

「………それしかないわね。全員、損害に構わず前進っ!! 強行突破するわよっ!!」

 

その意見を聞き入れ、アズミ隊は損害無視の強行突破に掛かった!

 

「! 一気に動き出したわよっ!!」

 

「強行突破する積りね! そうはさせないわっ!! 撃て撃てぇっ!!」

 

シロミとカレンがそう言うと、サンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、西部機甲部隊は一斉砲撃を始める!

 

徹甲弾と榴弾を交互に撃ち出し、戦車・歩兵双方に損害を与える。

 

カレンのハッピータイガー、アハト・アハトを装備した五式中戦車、ナオミのファイアフライがパーシングを撃ち抜き………

 

シロミのイージーエイト、ケイのシャーマン、アリサのM4A1、三式中戦車改、四式中戦車がチャーフィーを撃破し………

 

ミケのスチュワート、絹代を中心としたチハ部隊、ブチのジャンボが榴弾を放ち、歩兵や兵員輸送車を爆散させる。

 

「構わん! 突き進めっ!!」

 

しかし、泰亭がそう声を挙げ、アズミ部隊は損害に構わず前進!

 

多くの撃破車や戦死判定者を出しながらも、そのまま強引にサンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、西部機甲部隊の脇を擦り抜けて行った!!

 

「おのれっ!!」

 

「逃がすかっ!!」

 

逸早く、知波単戦車部隊の旧砲塔チハの池田車と新砲塔チハの名倉車が追撃しようとしたが………

 

「!? うわっ!?」

 

「ぐわあっ!!」

 

そこは腐っても大学選抜チーム。

 

最後尾に居たパーシングが砲塔を後方へと向けて前進しながらの砲撃で両車を撃破。

 

更に、撃破されたチハで通路が塞がれ、更なる追撃が阻まれる。

 

「チイッ! 突破されたか!?」

 

「チハを急いで回収させろ! すぐに追撃を再開させるんだ!!」

 

ジェイとボブがそう叫び、撃破された池田車と名倉車の回収を急がせようとする。

 

「まあまあ、そう慌てないの」

 

しかしそこで、クロエが何やらノンビリとした様子で通信マイクを手に取りながら言って来た。

 

「総隊長! 何を言っているのです!? このままでは高地の友軍が!!………」

 

と、オセロットがそうクロエに言いかけた瞬間………

 

「………方位24、距離1500って所よ。やっちゃいなさい」

 

『『了解』』

 

クロエが通信マイクに向かってそう言うと、2人の返事が返って来る。

 

そして、風切音が聞こえて来た。

 

「? 何っ?」

 

アズミがそう声を挙げた瞬間………

 

強行突破したアズミ隊の中に、大口径砲弾が着弾!

 

数輌のパーシングとチャーフィーが吹き飛ばされて、地面に叩き付けられると白旗を上げた!!

 

更に続けて、今度は噴射音の様な音が無数に聞こえて来て………

 

ロケット弾が次々にアズミ隊の中へと着弾!!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

戦車部隊も歩兵部隊も纏めて損害を蒙り、悲鳴が響き渡る。

 

「アレって………?」

 

「ウチのT28とシャーマン・カリオペの攻撃だね」

 

「遅れると言うから如何したのかと思えば、こういう事でしたのね………」

 

その光景を見たシロミとミケがそう言い、ブチが納得が行った様な表情となる。

 

「ぬううっ!! よもや長距離攻撃を用意しておるとはっ!!」

 

泰亭が苦々しげにそう言い放った瞬間………

 

その彼の傍にもロケット弾が1発着弾した!!

 

「おわあああああっ!!」

 

「刃海歩兵隊長っ!!」

 

泰亭の姿が爆炎の中に消え、大学選抜歩兵部隊員の1人が悲鳴の様な声を挙げる。

 

「クッ! 駄目だわっ!! 撤退っ!! 撤退よっ!!」

 

コレ以上の損害は看過出来ないと、アズミは遂に撤退を決め、運良く生き残っていた僅かなアズミ隊の面々は這う這うの態で引き返し始めた。

 

「コチラ絹代。襲って来た敵は退けたわ。損害はチハ新旧が1輌ずつ。すまないわね」

 

すぐに絹代が、その報告を総司令官であるみほへと送る。

 

『いえ、十分です。ありがとうございます』

 

しかし、みほからはそう言う返事が返って来る。

 

「お礼は良いわ。この戦いはフラッグ車を倒さなくちゃ終わらない………相手を退けても一時凌ぎよ」

 

『分かっています。慎重に前線を上げて行って、愛里寿ちゃんの居る場所まで攻め入りましょう』

 

「了解。コッチも一旦態勢を立て直すわ。交信終了」

 

そう言って通信を切る絹代だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、一時撤退したアズミ隊は………

 

「申し訳ありません、総司令。損害が嵩み過ぎた為、撤退しました」

 

『問題無い………高地の敵に対してはC作戦を発動する。お前は一旦下がって戦力を補充次第、前線に戻れ』

 

「了解しました」

 

愛里寿への報告を行うと、アズミ隊は一旦補給地点へと戻り、戦力の補充を計る。

 

「泰亭はさっきの戦いで倒れた! 今からこの歩兵部隊のニューリーダーは俺様だ!!」

 

そんな中、先程の戦闘で随伴歩兵部隊の部隊長であった泰亭が戦死判定となったと思い込んだ星叫が、新たな部隊長を自称し始める。

 

「皆、俺様に従えっ!!」

 

意気揚々とアズミ部隊の面々にそう言い放つ星叫。

 

と、その次の瞬間!!

 

「この愚か者めがぁっ!!」

 

「!? うわあっ!?」

 

そう言う台詞と共に、星叫の背に蹴りが入れられた。

 

「!? 泰亭!? 馬鹿な! お前は………お前はやられた筈っ!?」

 

それは星叫が戦死判定となったとばかり思い込んでいた泰亭の姿だった。

 

「愚か者め! ワシがあんな事でやられると思っていたのか!? 今までのお前の態度には我慢に我慢を重ねてきたが、もう今日という今日は許さんぞ!!」

 

そう言って、蹴られて倒れたままだった星叫にM1ガーランドを向ける泰亭。

 

「オ、オイ、お前等! ニューリーダーの危機だぞ!! 助けろ!!」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

慌てて助けを求める星叫だが、アズミ隊の面々は気にも留めず撤退行動を続ける。

 

「おめでたい奴だな、星叫。貴様の様な裏切り者を助ける様な奴が此処にいると思ったのか?」

 

「お、お許し下さい~、泰亭様~」

 

途端に星叫は情けなく命乞いを始めた。

 

「全くお前と言う奴は大馬鹿者もいいところだ! もう良い! 貴様なぞ粛清する気も失せたわっ!!」

 

その姿を見た泰亭は呆れた様にそう言い放ち、星叫から銃口を外した。

 

「オイ、歩兵隊長と副隊長、またやってるぜ」

 

「毎回毎回下剋上を起こそうとする星叫も星叫だが、それを何だかんだで毎回毎回許しちゃう泰亭歩兵隊長も歩兵隊長だよなぁ」

 

一連の流れが日常的な事なのか、2人の様子を見て大学選抜歩兵達がそんな事を呟く。

 

「………ハアアァァァァ~~~~~」

 

そしてアズミも、重々しく溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

地獄姉妹に攪乱され、レッドショルダー3人衆に打ちのめされ、最後は3機甲部隊に総攻撃を喰らい、挙句T28とシャーマン・カリオペの長距離攻撃を喰らう………
良いとこ無しですね、アズミ隊(笑)

勿論、復帰後は猛威を振るってくれると思います。
C作戦なるものも控えていますし。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター21『推参です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター21『推参です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯のサンダース&カーネル機甲部隊、知波単機甲部隊、西部機甲部隊を突破し………

 

高地の黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊を脅かそうとしたアズミ隊は………

 

地獄姉妹とレッドショルダー3人衆を中心としたメンバーの活躍で阻まれた。

 

しかし………

 

愛里寿は即座に、代わる作戦である『C作戦』を発動させる。

 

果たして、『C作戦』とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・湿原地帯………

 

「華さん! 11時方向っ!!」

 

「了解しましたっ!!」

 

みほの指示の方向に発砲する華。

 

前に出過ぎていたチャーフィーが真面に喰らい、白旗を上げる。

 

「…………」

 

更に弘樹が、八九式重擲弾筒で八九式榴弾を曲射。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

八九式榴弾は、大学選抜歩兵部隊が構築していた塹壕の中に正確に着弾し、数名の大学選抜歩兵を纏めて吹き飛ばす。

 

『みほさん! 敵増援を確認っ!!』

 

「!!」

 

とそこで、オレンジペコからそう通信が入り、みほが双眼鏡を構えると、現在相対しているルミ隊の後方から、中隊規模の新たな部隊が向かって来ているのを確認する。

 

「沙織さん! 救援要請をっ!!」

 

「了解! コチラは大洗機甲部隊! 現在、湿地帯にて敵と交戦中! 敵増援が接近して来ています! 救援をお願いしますっ!!」

 

みほの指示が飛ぶと、即座に沙織が近くに居る味方に救援要請を出す。

 

『こちら竪琴クメン機甲部隊! 了解しました!! 5分で到着しますっ!!』

 

『ナイトウィッチ&ハロウィンよ。すぐに向かうわ。後4分だけ持ち堪えて』

 

すると、最も近くに居た竪琴クメン機甲部隊とナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊が答える。

 

「黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊にも火力支援を!!」

 

「黒森峰機甲部隊並びにプラウダ&ツァーリ機甲部隊へ! 火力支援、願います!!」

 

更にみほは、高地に陣取っている黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊にも火力支援要請を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊が陣取る高地………

 

「了解した。火力支援を開始する」

 

「ミホーシャ達を援護するわよ! 蹴り落としてやる!!」

 

まほが了解の返事を返すと、カチューシャ達プラウダ&ツァーリ機甲部隊はすぐに動き始める。

 

「用意は良いっ!?」

 

「準備完了です!」

 

「射点に付きました!」

 

カチューシャが呼び掛けると、小梅達の黒森峰機甲部隊からも返事が返って来る。

 

「マホーシャ! 良いわねっ!?」

 

「攻撃を許可する」

 

「スーッ………撃」

 

カチューシャが大きく息を吸い込み、発砲命令を下そうとした瞬間………

 

巨大な爆発が発生!!

 

立ち上った爆煙が、遠方からも肉眼で確認で来る程のモノだった。

 

「弾着っ!?」

 

「何なのよーっ!?」

 

「如何したっ!?」

 

デミトリとカチューシャが声を挙げると、まほがすぐに状況を確認する。

 

「コチラ黒森峰! 上方から砲撃っ!! 敵の長距離攻撃と思われるっ!! 全部隊、注意せよっ!!」

 

すぐさま都草が、まほへの報告と共に、大洗連合の全部隊に警告を送る。

 

その直後………

 

同規模の爆発が高地地点で次々に発生!!

 

高地の地形が、文字通り変わり始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湿原地帯………

 

「!? アレはっ!?………」

 

「まさかっ!? 艦砲射撃っ!?」

 

湿原地帯からその爆発の様子を確認したみほとオレンジペコが思わずそう言う。

 

『コチラ呉艦隊の新代。現在、洋上に敵艦の姿は見えない』

 

だがそこで、それを否定する護からの通信が入る。

 

「と言う事は、野戦砲、或いは自走砲でしょうか?」

 

「けど、あんな威力の自走砲なんてあるのかっ!?」

 

飛彗が推察すると、海音がそう問い質す。

 

「!? まさかっ!?」

 

するとそこで、優花里が何かを思い出した様な顔になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高地地帯………

 

「姉ちゃん! 今の砲撃で砲兵部隊が全滅だっ!!」

 

「戦車部隊も、SU並びにISU部隊が壊滅状態です」

 

「総隊長! ヤークトパンター部隊が全滅です!!」

 

「高射砲と対空砲火部隊は最早組織的能力を失ったでありますっ!!」

 

漸く爆発が収まったかと思うと、ピョートル、ノンナ、エリカ、久美から次々に甚大な被害報告が挙がる。

 

「全部隊、撤退! 此処に居ては的になるだけだ! 遺憾ながらこの場を放棄するっ!!」

 

コレ以上この場に留まるのは危険だと判断し、まほは撤退を指示。

 

まだ何とか残っていた前方の道を下ろうとしたが、その黒森峰機甲部隊の前に砲弾が叩き込まれて来た!

 

「! 前方の敵、発砲開始っ!!」

 

双眼鏡を構えたエリカが、前方から高地に登って来ていた大学選抜機甲部隊が発砲して来たのを確認する。

 

「後退っ!!」

 

「コッチから行けるわっ!!」

 

まほが指示を飛ばすと、カチューシャがプラウダ&ツァーリ機甲部隊が展開していた方の坂から撤退しようとする。

 

しかし、そのプラウダ&ツァーリ機甲部隊の前にも、別の大学選抜機甲部隊が立ちはだかる。

 

「! 何時の間にっ!?」

 

「マズイッ! 囲まれたぞっ!!」

 

カチューシャとマーティンが思わず声を挙げる。

 

「前方と側面からの半包囲に上空からの謎の砲撃………」

 

地図を手に戦況を確認するまほだが、謎の砲撃が分からなければ手の打ち様が無かった。

 

「このままでは全滅よっ!!」

 

「正面を突破する! 我々が盾となるぞ! 全員続けっ!! 回収し切れない装備は放棄して構わんっ!!」」

 

まほは正面の大学選抜部隊を突破しての撤退を指示。

 

重装甲の黒森峰戦車部隊が盾となって先陣を切り、黒森峰歩兵部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊がその後に続く。

 

直後に、またもや謎の砲撃が再開。

 

撤退している黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊に容赦無く襲い掛かる。

 

「! やられたっ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

運悪く直撃を貰ってしまった戦車部隊が白旗を上げ、爆風や破片を浴びてしまった歩兵部隊員達も吹き飛ばされ、戦死判定となって転がる。

 

「見て御覧なさい! 私には当たらないわよっ!!」

 

そんな中でも、カチューシャは強がる様にキューポラから姿を曝したまま、謎の砲撃の降って来ている空に向かって拳を突き上げる。

 

「パーシング接近!」

 

「!!」

 

そこで、正面に居た大学選抜部隊と接敵。

 

撤退を阻止しようとパーシングが次々に砲撃を見舞って来る。

 

「突破しろっ!!」

 

だが、黒森峰戦車部隊が自慢の重装甲を活かして強引に突破する。

 

そのまま黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊は、正面に居た大学選抜部隊の脇を擦り抜ける様にして坂を下って行く。

 

しかし………

 

突如として、カチューシャのT-34-85がスピードダウン。

 

隊列から落伍し始める。

 

「!? ちょっと、何やってるのよっ!?」

 

「駆動系に異常っ! さっきの砲撃の衝撃でどっか壊れたみたいです! 速度が上がりませんっ!!」

 

カチューシャが怒鳴ると、操縦手が半分泣きながら報告して来る。

 

当然、遅れ始めているカチューシャ車を、追撃して来ている大学選抜部隊は見逃さない。

 

カチューシャ車を狙って、パーシングが集中的に砲撃を見舞い、随伴している車輌に乗っていた対戦車兵達も、バズーカを放って来る。

 

「何よ、狙い撃ちっ!?」

 

『カチューシャ様が危ないっ!』

 

愚痴る様にカチューシャが叫ぶと、その様子をペリスコープ越しに見ていたクラーラがロシア語で通信する。

 

『全員で突破しましょう』

 

ノンナがロシア語でそう返信するが………

 

『全員は無理ね………私達が囮になります!』

 

クラーラは決意した様な表情になると、そう返した!

 

『! 無茶です、クラーラ。そんな事したら、カチューシャに嫌われますよ』

 

それを聞いたノンナは、僅かに動揺を現しながら止めようとするが………

 

『この状況を打破出来るなら嫌われて結構』

 

覚悟を決めている様子のクラーラは揺るがない。

 

「貴方達! だから日本語で喋りなさいって、何度言ったら分かるの!?」

 

その会話はカチューシャにも聞こえていたが、ロシア語に明るくない彼女は2人が何を言っていたのか分からない。

 

とそこで、クラーラのT-34-85が路肩に寄って停まったかと思うと、カチューシャ車を先に行かせる。

 

「えっ………!?」

 

「カチューシャ様、お先にどうぞ。それでは御機嫌よう」

 

驚くカチューシャに向かって、クラーラは『日本語』でそう言うと、自車を追撃して来る大学選抜部隊へ向かわせた!

 

「何っ!? その流暢な日本語っ!?」

 

「クラーラは日本語が堪能なんです」

 

「先に言いなさいよっ!!………!? 何する気っ!? クラーラッ!? クラーラッ!!」

 

驚くカチューシャに、ノンナからそう通信が入って来て怒鳴るが、すぐにクラーラの行動に疑問を抱く。

 

「カチューシャ様、一緒に戦う事が出来て光栄でした」

 

「クラーラッ!!」

 

『プラウダの為に!!』

 

日本語の別れの言葉の後に、再びロシア語でそう言い放ち、クラーラ車は更に大学選抜部隊へ向かって行く。

 

すると………

 

「クラーラ様にだけ良い恰好はさせねえだっ!!」

 

「カチューシャ様には何時も無茶言われたきただ。でも………カチューシャ様はウチ等の総隊長だべっ!!」

 

KV-2のニーナとアリーナがそう言い合い、クラーラの後に続く様に、カチューシャ車に道を譲り、追撃して来る大学選抜部隊へ向かって行った!!

 

「カーベーたん!?」

 

カチューシャがまた驚きの声を挙げた瞬間、KV-2が被弾し、火花を散らす。

 

「ああっ!?」

 

「まんだまだぁっ!!」

 

「撃てるだけ撃つべっ!!」

 

悲鳴を挙げるカチューシャだが、KV-2はものともせずに152ミリの榴弾を放つ!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」」

 

直撃を受けた大学選抜歩兵部隊の兵員輸送用トラックが爆発し、戦死判定となった大学選抜歩兵達と共に斜面を転がり落ちて行く。

 

「街道上の怪物を舐めんなよぉーっ!!」

 

「クウッ!!」

 

ニーナがそう言った瞬間、カチューシャ車も足を止め、大学選抜部隊に砲撃を始める。

 

「! マズイ! カチューシャ! 逃げて下さいっ!!」

 

「逃げるなんて総隊長じゃないわっ!!」

 

ノンナが撤退の継続を願うが、カチューシャは逃げないと返す。

 

「お願いです」

 

「カチューシャ様!」

 

「姉ちゃんっ!!」

 

「反転しろっ!!」

 

するとそこで、ノンナのIS-2、デミトリ、ピュートル、マーティンを中心とした一部のツァーリ歩兵部隊も反転する。

 

「来ちゃ駄目よっ!! 皆まで失うワケには行かないわっ!!」

 

「貴方はこの試合に必要な方ですっ!!」

 

来るなと叫ぶカチューシャだが、ノンナ達は止まらない。

 

「貴方はウラル山脈より高い理想と、バイカル湖の様に深い思慮を秘めている!」

 

「だから姉ちゃん!」

 

「同志! 早くっ!!」

 

「撤退をっ!!」

 

そしてそのまま、停止していたカチューシャ車の脇を擦り抜け、大学選抜部隊へと突撃する。

 

すぐさまノンナが、122ミリ砲弾を放ち、パーシング1輌を撃破する。

 

「ああっ!?」

 

「カチューシャ………私達が居なくても、貴方は絶対………」

 

ノンナが次の目標を狙おうとしたところ、照準器越しに自車に狙いを定めるパーシングの姿を目撃する。

 

「………勝利します」

 

覚悟を決めたノンナは、そのパーシングと相討ちになろうとする。

 

「駄目! 絶対駄目ぇっ!! 誰かぁっ!! 誰でも良いっ!! ノンナ達を………皆を助けてぇっ!!」

 

カチューシャは泣き叫びながら、助けを求める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………すると!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何を騒いでいるの? 田舎者』

 

「!?」

 

そんな声が通信回線に響いて来て、カチューシャが仰天の様子を見せる。

 

その次の瞬間!!

 

「突撃(シャルジャー)ッ!!」

 

稜線を超える様に飛びだして来た7TP(単砲塔)と7TP(双砲塔)、TKSを中心とした機甲部隊が、大学選抜部隊に側面から突っ込んだ!!

 

「!? て、敵襲ーっ!?」

 

「馬鹿なっ!? 何処に居やがったんだっ!?」

 

思わぬ奇襲に、大学選抜部隊は浮足立つ。

 

「差し違え上等っ!!」

 

するとそこで、1輌の7TP(単砲塔)が、チャーフィーの側面に体当たりすると同時に砲塔基部へ発砲!

 

重量負けで7TP(単砲塔)からは白旗が上がったが、砲塔基部を撃ち抜かれたチャーフィーも白旗を上げる。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更に歩兵の1人が、ノンナを狙っていたが、突然の奇襲で右往左往していたパーシングに向かって火炎瓶を投擲!

 

火炎瓶は見事エンジン部に命中すると忽ち激しい炎を上げた!

 

「ちょっ!? 火がっ!?」

 

「消火器だっ! 急げっ!!」

 

パーシングの乗員が悲鳴を挙げると、大学選抜歩兵達が消火器を持ち寄って消火を計ろうとしたが………

 

「させないわっ!!」

 

7TP(双砲塔)、TKSが、機関銃と機関砲を発砲し、消火器を持った大学選抜歩兵達を薙ぎ払う!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

武器を消火器に持ち替えてしまった為、大学選抜歩兵達は真面に反撃も出来ず、次々に戦死判定を受ける。

 

炎上していたパーシングも、やがてエンジンが爆発し、白旗を上げた。

 

「喰らえっ!!」

 

更に、稜線の辺りに陣取ったままだった歩兵達が、迫撃砲を放つ。

 

「「「「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

次々に大学選抜歩兵達が吹き飛んで行く。

 

「!?」

 

「アレはッ!?」

 

「な、何だべっ!?」

 

「何が起きたんだっ!?」

 

決死の覚悟で殿を務める積りで居たクラーラ、ノンナ、ニーナ、アリーナは肩透かしを食らい、思わず唖然となる。

 

「アレは………」

 

と、カチューシャが大学選抜部隊を奇襲した機甲部隊に見覚えを感じていると………

 

「昨年の王者プラウダ&ツァーリともあろうものが………随分と無様ね」

 

そう言う台詞と共に、カチューシャ車の横に7TP(単砲塔)が横付けされ、ハッチから姿を曝していた者………

 

『ヤイカ』が薔薇を携えながらそう言い放った。

 

「! ボンプルッ!?」

 

「………まあ、かく言う私も、色々と思い知らされたばかりだけどね」

 

カチューシャが驚きを露わにそう言うと、ヤイカは何処か悟った様子で、遠い目をしながらそう言う。

 

「まあ、それは兎も角………ボンプル校がヤイカ、推参。これより大洗連合に加わるわ」

 

しかし、すぐに『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべてそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

高地に陣取った黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊に襲い掛かる謎の砲撃。
原作ではカールでしたが、この作品では………

そして劇場版の泣き所………
プラウダの撤退シーンですが………
あのシーンは名シーンですが、ちょっと鬱になるシーンでもあるので、鬱フラグクラッシャーに登場願いました。
意外にも、それはヤイカ。
リボンの武者で犬猿の仲となっている両校ですが、それを超えて救援するってシュチュエーションって堪らないですよね。

しかし、残念ながら彼女達だけでは心許無いのも事実。
次回は『本命』が登場します。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。
本日は都合により、感想に返信出来るのは夕方以降になるかと。
御了承下さい。


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チャプター22『かつてと今です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター22『かつてと今です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯を突破しようとしたアズミ隊を退けた大洗連合部隊だったが………

 

高地に陣取っていた黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊が………

 

謎の長距離砲撃を受ける。

 

甚大な被害を出し、高地からの撤退を決めた両部隊だが………

 

マシントラブルにより、カチューシャが遅れ、追撃して来た大学選抜部隊に集中攻撃を受ける………

 

カチューシャを救う為に、クラーラ、ニーナ、アリーナ、ノンナ、デミトリ、ピョートル、マーティンが………

 

自分達の身を盾に殿を務めようとする。

 

自分の為に自ら犠牲になろうとするノンナ達に、カチューシャの涙の叫びが木霊した時………

 

ボンプル校のヤイカが現れた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高地から続く斜面………

 

「ヤイカ………」

 

「如何にも………我が名はヤイカ」

 

驚きを露わにしているカチューシャに、ヤイカは薔薇を携えながらそう言う。

 

「私達に助けられるのは屈辱かしら?」

 

そんなカチューシャに向かって、ヤイカはそう挑発する。

 

「! な………」

 

何かを言おうとしたカチューシャだったが、突然思い留まった様子を見せる。

 

「………ありがとう。ノンナ達を助けてくれて」

 

すると突然、ヤイカに向かって頭を下げながら感謝を現した。

 

「………!?」

 

今度はヤイカの方が驚きを露わにする。

 

「………貴方、本当にあの小さな暴君?」

 

「失礼ね! 私だってお礼くらい言えるわよ!!」

 

思わずそう問い質すヤイカに、カチューシャはそう怒鳴る。

 

と、そこで………

 

「「「キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!?」」」

 

ヤイカとカチューシャの前に、砲撃を受けた7TPが転がって来て、白旗を上げる。

 

「喰らえっ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

荷台にM2重機関銃の機銃架を取り付けて在ったジープからも掃射が行われ、ボンプル歩兵達が薙ぎ払われる。

 

「………やはり装備の差は歴然ね」

 

「冷静に言ってる場合っ!? 助けに来てくれたんじゃないのっ!?」

 

まるで他人事の様にそう言うヤイカを見て、カチューシャがそうツッコミを入れる。

 

「落ち着きなさい、田舎者。少々悔しさは有るけど………私達は『前座』よ」

 

だがヤイカは、薔薇を携えながら落ち着いた様子でそう言い放つ。

 

「? 『前座』?」

 

「そう………『真打ち』は別よ」

 

首を傾げるカチューシャに、ヤイカがそう言った瞬間………

 

その目の前に、ウシュカのTKSが横滑りしながら停止した。

 

「!!」

 

カチューシャは驚きを露わにする。

 

そのTKSにではなく………

 

TKSの戦闘室の上に、仁王立ちしている人物………

 

ラハティ L-39 対戦車銃を2丁拳銃の様に構えている陣の姿に!

 

「陣っ!!」

 

「!!」

 

カチューシャの声が挙がった瞬間に陣は発砲!

 

「! 履帯損傷っ!!」

 

「!? 照準器がっ!?」

 

「わあっ!? 覗き窓がやられたぁっ! 視界不良で操縦出来ませんっ!!」

 

放たれた20ミリ弾は、履帯や照準器、覗き窓と言った戦車の弱点を的確に捉える。

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」

 

更に歩兵が喰らえばまるで人形の様にブッ飛び、他数名の歩兵を巻き添えに、勢い余って斜面を転がり落ちて行く。

 

「クソッ! 調子に乗るなっ!!」

 

と、装甲車の陰に隠れていた大学選抜歩兵の1人が、身を隠したまま狙撃仕様のスプリングフィールドM1903小銃で陣を狙う。

 

スコープの照準の中心に、陣の頭が重なる。

 

「喰ら………」

 

え、と言って引き金を引くよりも早く銃声が鳴り響いたかと思うと、大学選抜歩兵の頭に衝撃が走った!

 

「がっ!?………」

 

大学選抜歩兵は倒れ込み、そのまま戦死判定となる。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぎゃっ!?」

 

更に2発、3発と銃声が鳴り響いたかと思うと、次々と大学選抜歩兵達が戦死判定となって倒れて行く。

 

「! 狙撃手が居るぞっ!?」

 

「クソッ! 何処だっ!?」

 

狙撃だと気付いた大学選抜歩兵達は、双眼鏡等も使って周囲を見回す。

 

しかし、ちょっと前から降り出した雨のせいで視界は悪く、狙撃手の姿は見つけられない。

 

「がばっ!?」

 

だが、またも銃声が響いたかと思うと、大学選抜歩兵が1人、倒れる。

 

「クッ! この雨の中でコレだけ正確に狙って来ているだと!?」

 

「まさか………『白い死神』か!?」

 

大学選抜歩兵達はその狙撃手の腕に戦慄し、それが『白い死神』ではないかと推察する。

 

「…………」

 

その推察は当たっており、1キロ離れた稜線の上でギリースーツを被って伏せ撃ちの姿勢となっているシメオンの姿が在った。

 

「クソッ! 前は如何なってるんだっ!?」

 

「雨で見えないぞ!」

 

と、追撃部隊の最後尾に居たジープの運転席と機銃架に居た大学選抜歩兵達が状況が摑めずにそう言う。

 

すると………

 

機銃架の大学選抜歩兵の後ろに、ヌーッと影が立ち上がる。

 

「…………」

 

それは右手に抜き身の英霊を携えた弘樹だった。

 

「………うん?」

 

漸く機銃架の大学選抜歩兵が気配に気づいて振り返った瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹は英霊を片手で袈裟懸けに振り降ろす!

 

「!? ギャアアッ!?」

 

「!? 如何したっ!?」

 

「!!」

 

戦死判定となった機銃架の大学選抜歩兵の悲鳴に、運転席の大学選抜歩兵が振り返った時には、弘樹は機銃架のM2重機関銃に取り付き、トリガーに指を掛けていた!

 

「! うわっ!?」

 

運転席の大学選抜歩兵は脱出しようとしたが、粗零距離から50口径12.7ミリ弾を浴びせられ、戦死判定となる。

 

「!? 何だっ!?」

 

「如何したっ!?」

 

その発砲音で、他の大学選抜歩兵達が一斉に反応すると………

 

「!!」

 

弘樹はその大学選抜歩兵達に向かって、M2重機関銃を掃射し始めた!!

 

「!? うわあっ!?」

 

「ぎゃああああっ!?」

 

次々に戦死判定にされ、斜面を転がり落ちて行く大学選抜歩兵達。

 

更に装甲が皆無なジープや兵員輸送用トラックにも弾丸が叩き込まれ、蜂の巣にされた後に爆発して行く!

 

「コイツッ!!」

 

「このぉっ!!」

 

大学選抜歩兵側も、弘樹に向かって小銃や機関銃を発砲して反撃する。

 

しかし、取り付けられていた防盾に阻まれ、弘樹にまで弾丸が通らない。

 

「!!」

 

逆に、その発砲のマズルフラッシュを確認した弘樹は、即座にその方向にM2重機関銃を向け発砲!

 

「ぐぎゃあっ!?」

 

「あばああっ!?」

 

次々と薙ぎ払われる大学選抜歩兵。

 

後に、この場に居た大学選抜歩兵の1人は、弘樹の背後に『頭にバンダナを巻いたベトナム帰還兵』の姿が見えたと証言している。

 

「クソッ! 手がつけられねえっ!!」

 

「下がって! 私がやるわっ!!」

 

するとそこで、1輌のパーシングが、弘樹の方に砲塔を旋回させる。

 

「!!」

 

パーシングに狙われている事に気づいた弘樹が、僅かに目を見開く。

 

「捉えましたっ!!」

 

そこでパーシングの砲手が、照準器内に弘樹を捉えたと報告する。

 

「撃てっ!!」

 

即座に車長が命令を下す。

 

だが、次の瞬間!!

 

パーシングはエンジン部に砲弾の直撃を受け、爆発!

 

白旗を上げた!!

 

「なっ!?」

 

「砲撃っ!? 一体何処からっ!?」

 

大学選抜歩兵達が驚きの声を挙げた瞬間………

 

レシプロ機のエンジン音が聞こえて来た。

 

「「「「「!?」」」」」

 

そして、大学選抜部隊の眼前を掠める様に、G-1型のスツーカが、信じられない低空をこれまた信じられない低速で飛行しながら旋回して行った!

 

下手をすれば斜面に激突しかねない飛行である。

 

「! 敵機だっ!?」

 

「馬鹿なっ!? 制空権はまだ拮抗状態の筈だぞっ!?」

 

敵機の襲来を受けた大学選抜部隊が浮足立つ。

 

「ちょっ! 隊長っ!! 近い! 斜面が近いですっ!! 墜落したら如何するんですかっ!?」

 

「安心しろ! 今回は全力出撃だ! 基地へ帰れば幾らでも予備機が有るっ!!」

 

「そう言う事じゃないんですっ!!」

 

「煩いぞ、ガーデルマンッ!!」

 

それは御存じ、ハンネスのスツーカだった。

 

如何やら、単機での超低空飛行で戦場へ侵入して来た様だ。

 

相変わらず気が狂っているとしか思えない行為である。

 

ハンネスのスツーカはそのまま、失速寸前の速度のまま斜面に添う様に旋回しつつ、大学選抜戦車部隊に37ミリ砲を叩き込んで行く。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」」」」

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

狙撃、機関銃掃射、空襲のトリプルパンチにより、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

 

「うわぁ………」

 

「ヘイヘに舩坂軍曹、そしてルーデルの子孫達に一斉に襲われるって、一体何の罰ゲームだよ………」

 

その光景を見て、ピョートルとマーティンが大学選抜部隊に同情する。

 

「…………」

 

カチューシャも、唖然となって声も出せない様子だった。

 

「…………」

 

するとそこで、何時の間にかカチューシャのT-34-85の上に上って居た陣が、カチューシャの肩を指でトントンとする。

 

「! 陣!」

 

「…………」

 

カチューシャがそれで我に返ると、陣は親指で、背後の道を指し示した。

 

如何やら撤退するなら今だと言っている様だ。

 

「! 撤退するわよっ!!」

 

「「! ダーッ!!」」

 

「「! 了解っ!!」」

 

そこでカチューシャが声を挙げ、ノンナとクラーラ、ニーナとアリーナ達は一斉に撤退する。

 

「我々も下がるぞっ! 急げっ!!」

 

更に、デミトリが呼び掛けると、ツァーリ歩兵部隊も撤退して行く。

 

「もう良いわね………我々も撤退よ!」

 

「了解!」

 

ヤイカ達、ボンプル機甲部隊も後退する。

 

「………頃合いか」

 

それを確認したシメオンも、雨の中に溶ける様に撤退して行った。

 

「………!」

 

M2重機関銃の弾を撃ち尽くした弘樹も、ジープの荷台から飛び降りる。

 

「絢爛舞踏っ!!」

 

「せめてお前だけでもっ!!」

 

とそこで、辛うじて生き残っていた大学選抜歩兵達が、弘樹を狙おうとする。

 

「!………」

 

腰のホルスターのM1911A1を抜く弘樹だったが………

 

「弘樹ーっ! 摑まれーっ!!」

 

その瞬間に、ハンネスのスツーカが、更に低い高度で迫って来た!!

 

「「「「!? うわあっ!?」」」

 

余りの低空の為、スツーカの固定脚が当たりそうになり、慌てて伏せる大学選抜歩兵達。

 

「!!」

 

すると、そこで何と!!

 

弘樹が目の前に迫って来たスツーカの固定脚に向かって跳躍し、跳び付いた!!

 

「!? なあっ!?」

 

それを目撃した大学選抜歩兵の1人が仰天の声を挙げる中、ハンネスのスツーカは、弘樹を足にしがみ付かせたまま離脱して行く。

 

ルパン並みの逃走術だ。

 

「な、何て奴だ………」

 

「コチラ高地追撃部隊。敵の襲撃に遭い、被害甚大。一時後退します」

 

『了解した。先に後退したアズミ隊と合流せよ』

 

「了解」

 

壊滅状態となった追撃部隊は、愛里寿へと報告を入れると、一旦補給地点まで後退を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

湿原地帯で戦闘中の大洗機甲部隊&グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊は………

 

「みぽりん! 黒森峰とプラウダ&ツァーリ、損害は出したけど撤退に成功したって! まほさん達やカチューシャさん達も無事だよ!」

 

「ほっ………ありがとう、弘樹くん。皆さん」

 

沙織からの報告を聞き、みほは安堵の息を吐きながら、救援に向かった弘樹達へ感謝する。

 

「突然舩坂殿がシメオン殿と浅間殿を連れて離脱した時には驚きましたよ」

 

「西住さんは分かっていた様だがな………」

 

弘樹達がカチューシャ達の救援に向かった時の事を思い出し、そう言い合う優花里と麻子。

 

「戦闘を中止して黒森峰・プラウダ&ツァーリに合流しますか?」

 

「その前に、頭上からの砲撃を何とかしないと………」

 

華が新たにパーシングを1輌撃破しながら問うと、みほはそう返す。

 

「西住殿! 敵の砲撃の正体は恐らく『カール』です!!」

 

すると優花里が、次弾を装填しながらそう言って来た。

 

「『カール』?………!? って、コレッ!?」

 

優花里の言葉に、自走砲のカタログを見ていた沙織が、『カール』………

 

『カール自走臼砲』のページを発見し、思わず声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カール自走臼砲』………

 

ナチス・ドイツが、フランスのマジノ要塞線への攻撃手段として開発した自走砲である。

 

自走砲と名付けられているものの、最高速は10キロ程度しかなく、自走能力は主に砲の旋回サポートとしての面が強い。

 

また、臼砲の名の通りに射程は短く、運用には多くの人員を必要とする扱い辛い兵器であった。

 

だが、60センチ或いは54センチの砲門から放たれる2トン、1トン以上の砲弾の威力は絶大である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それだけじゃありません。恐らく『列車砲』………それも『80㎝列車砲』も居ます」

 

「『80㎝列車砲』!?」

 

更に優花里がそう言ったのを聞き、沙織が今度は列車砲のカタログを引っ張り出し、『80㎝列車砲』のページを見てまたもや驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『80㎝列車砲』………

 

黒森峰が決勝戦で投入した怪物戦車『P-1500 モンスター』の搭載主砲の元となった兵器である。

 

コチラもマジノ要塞線の攻略を目的に開発されたが………

 

カールですら扱い辛いと言うのに、それ以上の巨大な砲を持つ存在は最早真面に扱える代物ではなかった………

 

だが、現在まで抜かれていない世界最大のカノン砲の威力は凄まじい事は間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オノレェーッ!!」

 

「帝国のクロスム=ウェルシの速度罪多き肉体【コルプス】に霊魂【スピーリトゥス】を閉ざすなら!(訳:このクロムウェルの速度なら)」

 

とそこで、ローズヒップのクルセイダーと車長・今日子、砲手・早苗、操縦手・唯、装填手・静香、通信手・郁恵の編制のクロムウェルが、自慢の速度で敵陣へ斬り込もうとする。

 

しかし、その目の前に上空からの砲撃が次々に着弾!

 

2輌の車体が一瞬浮かび上がる。

 

「ローズヒップさん、戻って下さい」

 

「今日子ちゃん! 無茶しないでっ!!」

 

その2人をすぐに呼び戻すオレンジペコと沙織。

 

「………コチラ西住総司令。アンツィオ&ピッツァ機甲部隊、応答願います」

 

と、みほはアンツィオ&ピッツァ機甲部隊へと通信を繋げた。

 

『アンツィオ&ピッツァだ。如何した、西住 みほ?』

 

総隊長であるアンチョビからすぐに返事が返って繰る。

 

「お力をお借りしたいんです。アンツィオのCV33部隊を偵察に出してもらえますか?」

 

『成程。CV33なら小型で小回りも利き、速度も有るから強行偵察にはうってつけだな………撃破されても大した損害じゃないしな』

 

「! そ、そんな積りは!………」

 

アンチョビがそんな事を言い、みほは慌ててそんな積りは無いと言おうとするが………

 

『冗談だ。只のイタリアンジョークだ』

 

「………ほっ」

 

すぐにアンチョビがそう返して来て、みほは安堵の息を吐いた。

 

『兎に角、強行偵察なら任せておけ。オイ、私にも1輌CV33を回せっ!!』

 

「お願いします、アンチョビさん」

 

そして無線先からアンチョビがP40からCV33に乗り換えている様子を聞きながら、みほは通信を終えた。

 

(けど、本当にカールと列車砲?………まだ他に………何か有る気がする)

 

その直後に、そんな予感を感じるみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

 

 

 

見えてる世界は全てじゃない………

 

 

 

 

 

見えない『モノ』も居るんだ………

 

 

 

 

 

ほら………

 

 

 

 

 

君の後ろの暗闇に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、大学選抜チームとの戦いを終え………

 

島田 愛里寿が大洗から去った後に起こった出来事………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『幽霊戦車』………?」

 

「そうなの! まるで幽霊みたいに、幾ら撃っても砲弾が擦り抜けちゃって、なのに相手の砲撃は物陰に隠れてても絶対に当たるって言う戦車の噂だよ!!」

 

ある日、みほは沙織から、ある噂話………『幽霊戦車』について聞かされる。

 

「やめろ、沙織………私への嫌がらせか?」

 

その手の話が苦手な麻子が顔を青くする。

 

「その話なら私も聞いた事があります。けど、流石に有り得ませんよ」

 

「そうですよ、沙織さん」

 

優花里と華も否定的な意見を述べる。

 

 

 

 

 

だが………

 

 

 

 

 

噂は本当だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛里寿ちゃんの大学選抜チームが壊滅っ!?」

 

「しかもそれをやったのは、たった1輌の戦車だって話なんだよね~」

 

杏から齎された突然の悪い知らせに、みほは驚愕する。

 

「愛里寿ちゃんの話だと………相手の戦車は『まるで幽霊みたいに砲弾が擦り抜け、逆に撃って来た砲弾は物陰に隠れてても命中して来た』って事だよ」

 

「!? それって………!?」

 

それは、先日沙織から聞かされた『幽霊戦車』の特徴と一致していた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、『幽霊戦車』は………

 

黒森峰、プラウダ、アンツィオ、サンダース、グロリアーナと………

 

次々に戦車道のある学校を襲撃………

 

その魔の手は大洗にも迫ろうとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「如何しよう………」

 

「幽霊の戦車なんて、対処のしようがありませんよ」

 

流石の軍神みほも、相手が幽霊とあっては打つ手が無かった。

 

「あ、あの………ネットの噂で聞いたんですけど………『鬼太郎』さんに助けてもらうのは如何かな?」

 

するとそこで、ねこにゃーからそんな声が挙がった。

 

「? 『鬼太郎』?」

 

「不可解な事件が起きたら、それは『妖怪』の仕業で、『妖怪ポスト』に手紙を出すと、『ゲゲゲの鬼太郎』がやって来て、妖怪を退治してくれるって」

 

「その妖怪ポストと言うのは何処に在るのですか?」

 

「さ、さあ? そこまでは………」

 

「ああもう! 肝心ところが分からなければ意味が無いではないか!」

 

桃が地団駄を踏みながらそう言う。

 

「? アレ? 紗希………?」

 

そんな中、ウサギさんチームの中で、紗希が居なくなっていた事に気づく梓。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人気の無い路地の奥………

 

そこに、茅葺き屋根の家を模した不気味なポストがポツンと在った。

 

「…………」

 

その前には、手紙を持った紗希が佇んでいる。

 

「………鬼太郎さん、助けて下さい」

 

紗希はそう言って、ポストに手紙を投函するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に………

 

大洗戦車チームの前に、幽霊戦車が現れた!

 

幾ら撃っても砲弾が擦り抜け、逆に隠れていても命中してしまう相手の砲弾を前に、大洗戦車チームは絶体絶命!

 

その時………

 

 

 

 

 

カランコロン………

 

 

 

 

 

何処からともなく、下駄の音が聞こえて来た。

 

 

 

 

 

「!? 貴方はっ!?」

 

「………ゲゲゲの鬼太郎だ」

 

そして現れた、ちゃんちゃんこを来た小柄な少年………『ゲゲゲの鬼太郎』

 

「鬼太郎! アレは幽霊戦車じゃっ!!」

 

その髪の毛の中から現れる『目玉のおやじ』

 

「「「「「「「「「「!? 目玉が喋ったああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

目玉の親父の姿に、幽霊戦車以上にビックリしてしまう大洗戦車チームの面々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガールズ&パンツァー×ゲゲゲの鬼太郎

 

『妖怪大戦車道作戦』

 

公開予定無し!




新話、投稿させていただきました。

前回、救援本命の事を紅茶仮面と予想されている方が多くいましたが、残念ながら違います。
彼女にはもっと美味しい場面で登場して貰う予定です。
その方が彼女らしいので。

しかし、コチラの救援も豪勢です。
特にヘイヘとルーデルの子孫が、ソ連モチーフのプラウダ&ツァーリを助けるのは面白い運命だったんじゃないかと。

次回、謎の砲撃の正体が明らかに。

そして今回はオマケを付けました。
ゲゲゲの鬼太郎の6期が凄く面白くて、鬼太郎熱が再燃してまして。
やろうと思えば、何とでもクロスさせられますよね、鬼太郎って。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター23『湖上の女王です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター23『湖上の女王です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の上空からの砲撃を受け、高地から撤退した黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊。

 

激しい追撃を受け、プラウダ&ツァーリ機甲部隊があわや壊滅の危機に瀕したが………

 

救援に駆け付けたヤイカ率いるボンプル機甲部隊、陣、ハンネス、シメオン、弘樹により事無きを得る。

 

そしてみほは、謎の砲撃の正体を探るべく………

 

アンツィオ&ピッツァ機甲部隊に強行偵察を依頼する。

 

優花里が砲撃の正体をカール自走臼砲と80㎝列車砲と推測するが………

 

みほはそれ以外の『何か』の存在を予感していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湿地地帯………

 

『こちらペパロニっす! カールを発見っ!! え~と………Cの7地点っす!!』

 

『アマレットだよ。コッチもカール発見。場所はTの9』

 

『ジェラート! Wの2地点で列車砲を発見!! 何か回る台の上に置かれてるよ!!』

 

『パネトーネ、カールを発見! Iの5地点だ!!』

 

CV33を使い、強行偵察を行っているアンツィオ戦車チームの面々から次々に報告が挙がる。

 

「Cの7………Tの9………Wの2………Iの5………」

 

その報告を聞きながら、地図のカールと列車砲が発見された地点に印を付けて行くみほ。

 

「………カールが全部で7輌。列車砲が2輌か」

 

「カール自走臼砲は試作車を含めて7輌。80㎝列車砲は僅か2輌しか生産されませんでしたが、それを全て揃えているなんて………」

 

「島田流、恐るべしだな………」

 

報告が終わると、カールと列車砲の数を確認し、優花里がそう補足する様に言うと、麻子が他人事みたいに言い放つ。

 

(………本当にコレだけ?)

 

だが、みほの何か有ると言う予感は消えなかった。

 

すると………

 

『こちらアンチョビ! 西住総司令! 応答しろっ!!』

 

CV33に乗り換えて、自らも強行偵察に参加していたアンチョビから、焦った様子での通信が入って来た。

 

「! 西住です! アンチョビさん! 如何しました!?」

 

『如何したもこうしたもない! 奴等完全にイカれているぞっ!!』

 

何やら憤慨している様子を見せているアンチョビ。

 

その直後、またも発砲音が鳴り響き、湿地地帯の彼方此方に砲弾が着弾する。

 

「! くうっ!!」

 

『クソッ! また撃ったぞっ!! アイツめっ!!』

 

みほが衝撃を堪えていると、アンチョビからそんな声が挙がる。

 

「アンチョビさん! 一体何があったんですか!? 正確に報告して下さいっ!!」

 

アンチョビを落ち着かせながら正確な報告を求めるみほ。

 

するとアンチョビから、驚くべき報告が返って来た………

 

『戦艦だ! 奴等は湖の上に戦艦を浮かべてそれで砲撃しているぞっ!!』

 

「!?」

 

その報告に、みほも驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習場内の湖………

 

その中心には1隻の戦艦………

 

スリムな長い船体に、3連装の50口径40.6センチ砲を3基搭載し………

 

多数のレーダーや光学機器を搭載したアメリカの戦艦………

 

『アイオワ級戦艦』の3番艦『ミズーリ』の姿が在った。

 

と、その主砲塔が旋回を始め、仰角を上げたかと思うと………

 

轟音と共に砲弾を斉射した!!

 

斉射された砲弾は、大洗機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊が居る湿地地帯へと着弾し、次々に火柱を上げた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湿地地帯………

 

「………!!」

 

再びの着弾を衝撃を踏ん張って耐えるみほ。

 

「戦艦って!?」

 

「まさかこんな手で来るとはな………」

 

「信じられませんよ………」

 

「やってくれますね」

 

湖上に戦艦を浮かべると言う奇想天外な戦法に、沙織、麻子、優花里、華が声を漏らす。

 

「一体如何やって湖上まで戦艦を?」

 

「最初からそこで使う予定で湖岸で建造したのか………或いは試合開始前に何らかの手段を使って輸送したのか………」

 

「何れにせよ、我々にとっては極めて危険な脅威だね」

 

清十郎と十河がそう言い合っていると、迫信がそう口を挟んで来る。

 

その直後に、またも湿地地帯の彼方此方に砲弾が降り注いだ!

 

『コチラ新代! 敵の艦隊が出現! 我が連合艦隊と間も無く交戦距離に入る!! これより交戦を開始する!!』

 

「! 海にも!?」

 

「洋上支援を封じられましたっ!!」

 

更にそこで、対抗手段である洋上支援を潰す様に、護が敵艦隊の出現を知らせて来て、みほと優花里が思わず声を挙げる。

 

湿地地帯に次々と降り注ぐ砲弾。

 

幸運にも、まだ直撃弾を喰らってはいないが、このままではジリ貧である。

 

「如何しよう、みぽりん!?」

 

沙織が悲鳴の様に叫びながら、みほに尋ねる。

 

「………カールや列車砲は地上戦力だけでも何とか出来ない事はない………でも、湖上に居る戦艦は………」

 

みほはブツブツと呟きながら考えを巡らせる。

 

相手は戦艦………

 

戦車であっても立ち向かって行って勝てる相手では無い………

 

戦艦の装甲の前では、戦車砲など豆鉄砲に等しい。

 

そもそも、湖上に浮かぶ戦艦に対し、岸から戦車砲を撃って届くのかもが怪しい。

 

対する戦艦は、主砲を一斉射すれば、戦車などダース単位で吹き飛ばせる。

 

戦艦に対抗出来るのは戦艦か、航空機による空襲である。

 

護衛の駆逐艦等が居ないのであれば、潜水艦による攻撃も有効だが、相手が湖に居る時点でこの選択肢は消える。

 

そして残る選択肢も、コチラの支援艦隊は相手の支援艦隊と交戦中であり、制空権も確保出来ていない為、空襲も無理。

 

ハンネスは単機で超低空飛行で侵入して来たが、如何に一航専と言えど、そんな芸当が出来るパイロットが何人も居る筈が無い。

 

正に手詰まりかに思われた。

 

(如何すれば………)

 

それでも、何かないかと必死に考えを巡らせるみほ。

 

すると、そこで………

 

『西住総司令。コチラはパシフィック機甲部隊ですわ』

 

「!!」

 

パシフィック機甲部隊のセイレーンから通信が入って来た。

 

『事情は把握しておりますわ。戦艦は私共が相手をさせていただきますわ』

 

「! そうでした! パシフィック機甲部隊の戦車と戦闘車輌は全て水陸両用式でした!!」

 

セイレーンがそう言葉を続けると、優花里が思い出した様に叫ぶ。

 

『その通りですわ。我々が攪乱致しますわ。そしてその隙にカジキ達を戦艦へ乗り込ませます』

 

『移乗攻撃か………まるで大航海時代だな』

 

パシフィック歩兵達で戦艦に移乗攻撃を仕掛けると言うセイレーンに、指揮車の煌人が通信に割り込んで来てそう言う。

 

『ですが、私達の動きを察知されては困ります。そこで陽動を掛けて頂きたいのです』

 

「分かりました。カール1輌に部隊を向かわせます」

 

『よろしくお願い致しますわ。オーバー』

 

みほとそう遣り取りを交わすと、セイレーンは通信を切る。

 

「こちら総司令の西住 みほです。聞いての通り、パシフィック機甲部隊が湖上の戦艦に対し移乗攻撃を仕掛けます。それに対する陽動として、カール1輌に部隊を送りたいと思います」

 

『………私がやろう』

 

みほがそう呼び掛けると、1番に声を挙げたのは意外な人物だった。

 

「! ミカさん!」

 

そう、志願したのはミカである。

 

『如何したの、ミカ? 随分と積極的じゃない?』

 

アキがいつものミカらしからぬ積極的な様子に怪訝な声を挙げる。

 

『風は炎を燃え上がらせる………けど、時には炎が風を呼ぶ事もあるのさ』

 

『何それ? 全然分かんない』

 

するといつものミカは何やら意味有り気な台詞を言い放ち、アキは意味が分からないと言うのだった。

 

「ありがとうございます、ミカさん。後は………」

 

「西住総司令! 私達も行きますっ!!」

 

みほはミカに更なる志願者を募ろうとしたところ、Ⅳ号の傍に八九式が傍に寄って来て、キューポラから姿を見せていた典子がそう言って来た。

 

「私達も行くよ~」

 

「会長っ!?」

 

更にヘッツァーも寄って来たかと思うと、杏がハッチを開けて姿を見せ、干し芋を齧りながらそう言い、桃が驚きの声と共に飛び出して来る。

 

『お前達にばかり良い恰好はさせん! 私も行くぞっ!!』

 

そして、通信越しにアンチョビからも志願の声が挙がる。

 

「分かりました。では、ミカさん達、アヒルさんチームにカメさんチーム。そしてアンチョビさん達でC地点のカールに対し、陽動の攻撃をお願いします」

 

「!? ちょっと待てっ!? 部隊と言うのは戦車4輌だけかっ!?」

 

みほがそう命じるが、桃が差し向ける部隊の規模に対してそう声を挙げる。

 

「申し訳ありません。砲撃の規模をを考えると、コレ以上戦力を動かすと的になってしまう可能性が有るので………」

 

「無茶だ! たった4輌だけであの巨大な自走砲を撃破しろと言うのかっ!? 不可能だっ!!」

 

申し訳無さそうにそう答えるみほだったが、桃は無理だと喚き立てる。

 

「小山、行って」

 

「ハイ」

 

しかし、そんな桃の様子を無視して、杏は柚子に呼び掛け、ヘッツァーを発進させた。

 

「!? ちょっ!? 会長!? 柚子ちゃん!?」

 

「桃ちゃん………腹を決めようよ」

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

桃が驚いていると、蛍がそう言い、桃の声がドップラー効果を響かせながらヘッツァーは離脱して行った。

 

「行って来ますっ!!」

 

更にアヒルさんチームの八九式もそれに続く。

 

(………ミカさん達ならカールへの陽動は問題無い………そして、パシフィックの皆さんを信じてないワケじゃないけど………)

 

それを見送った後、再び思案を巡らせ始めるみほ。

 

『西住総司令。コチラは舩坂です』

 

「!!」

 

そこで、黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊の救援に向かっていた弘樹から通信が入った。

 

『今、シメオンに浅間と合流しました。これより部隊に復帰します』

 

如何やら、一緒に救援に向かっていたシメオンと陣に合流したので、コレから大洗機甲部隊に戻るとの連絡の様だ。

 

「弘樹くん、ゴメン! もう1度向かって貰いたい所があるんだけど、良いかな?」

 

みほはそう弘樹に呼び掛ける。

 

『御命令であれば何なりと』

 

即答で答える弘樹。

 

流石である。

 

「大学選抜機甲部隊側は湖の上に戦艦を浮かべて投入して来たの。パシフィック機甲部隊が向かったんだけど、弘樹くんも援護してあげて」

 

『了解しました。これより湖に向かいます。交信終了』

 

みほからの新たな命令を受諾し、弘樹は湖へ向かうと返し、通信を切る。

 

「お待たせ!」

 

「遅くなって申し訳ありません!」

 

とそこで、救援要請を受けて向かって来ていたナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊と竪琴クメン機甲部隊が漸く到着した。

 

「皆さん! 砲火は激しいですが、今暫く此処で踏み止まって下さい! パシフィックの皆さんが戦艦を押さえるまでの辛抱ですっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

一同に向かってみほがそう呼び掛けると、大洗機甲部隊、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊、竪琴クメン機甲部隊の面々から勇ましい返事が返って来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

パシフィック機甲部隊を援護する為の陽動に向かった部隊は………

 

森林地帯の木々の中に隠れる様に、獣道の様な道を進むCV33、八九式、ヘッツァー、BT-42。

 

「ドゥーチェ。ツインテールが邪魔です」

 

と、先頭を行っているCV33に乗り込んでいるペパロニ、アンチョビ、カルパッチョの中で、カルパッチョがそう抗議の声を挙げる。

 

「本来なら2人乗りなのに、これじゃあ前見えないっすよぉ」

 

更にペパロニもそう抗議の声を挙げる。

 

「だったらペパロニ降りろ」

 

「そりゃ無いっすよ~」

 

「だったら耐えろ」

 

「って言うか、戦車チームの主要メンバーの私達全員が部隊から離れて良かったんですか?」

 

アンチョビとペパロニがそう言い合っていると、カルパッチョが最もなツッコミを入れる。

 

「陽動には相当な技量を持った乗り手の乗った戦車が必要だったからな。安心しろ、部隊の方はフォルゴーレが見ていてくれている」

 

「ロマーノじゃないんですね」

 

「アイツは当てにならん」

 

(バッサリ言うわりにいつも気に掛けてますよね………ドゥーチェってダメ男に引っ掛かるタイプだな)

 

心の中で若干失礼なそんな事を考えるカルパッチョ。

 

「外せば良いじゃないっすか、そのウィッグ」

 

「地毛だ!!」

 

「そうだったんすかぁ~」

 

そんなカルパッチョの心など知らず、ペパロニと漫才の様な遣り取りを交わすアンチョビだった。

 

「間も無く目標地点です」

 

「! 良しっ!!」

 

とそこで、蛍からそう通信が入り、アンチョビが車外へと姿を晒す。

 

「! 居たっ!!」

 

そして、森林帯の中に現れた開けた場所………

 

地面が露出している窪地の中央の小高い丘となっている場所に陣取っているカール自走臼砲を発見する。

 

「くう………やはりデカイ」

 

「アレは600ミリ砲のタイプっすね」

 

アンチョビがカールの巨大な砲を見て思わずそう呟くと、ペパロニがそう言って来る。

 

「600!? カルロ・ヴェローチェが8ミリ機銃だから………え~と………何倍だっ!?」

 

「割り算も出来ないんすか? 7.5倍っす」

 

「75倍よ」

 

緊張からか、漫才の様な遣り取りを展開するアンツィオの面々。

 

「パーシングが3輌、カールを守ってるよ」

 

そこで柚子が、その周囲に展開している護衛車輌と思われる3輌のパーシングの姿も確認する。

 

「会長! やはり無理です! 撤退しましょうっ!!」

 

桃が再び臆病風に吹かれ、杏にそう進言する。

 

「………嫌なら降りて良いぞ、かーしま。私は1人でもやる」

 

すると杏は、今までに見せた事の無い様な真剣な表情でそう言う。

 

「なっ!? 何を!?」

 

「忘れたのか? この試合は………私達の西住ちゃんへの恩返しの為の試合でもあるんだぞ?」

 

「!?」

 

杏にそう言われてハッとする桃。

 

「西住ちゃん達には学校を救って貰ったって言う、返しても返し切れない恩が有る………だから私達は西住ちゃんの命令を遂行しなくければならない………何としてもな」

 

「「「…………」」」

 

更にそう言われて、桃、柚子、蛍は神妙な面持ちになる。

 

「しかし如何するんだ? このまま向かって行くのはパスタを生で食べるくらいに無茶だぞ」

 

そこで、アンチョビがそう言うと………

 

「私達に考えが有りますっ!!」

 

アヒルさんチームを代表する様に、典子がそう声を挙げた。

 

「まさか、また戦車の上に乗るのか!?」

 

桃が全国大会の決勝戦で、八九式がマウスの上に乗った事を思い出してそう言う。

 

「良いね~」

 

「違います」

 

「カールに上がれる方法無いですから」

 

「私達が考えたのは………」

 

「『殺人レシーブ作戦』です! 作戦内容は………」

 

杏が同意するが、あけび、妙子、忍は違うと言い、典子が秘策『殺人レシーブ作戦』を口にする。

 

「それ良いね~」

 

「そうですかぁ?」

 

「ハアァ~」

 

「まあ、無茶なんて今まで飽きるくらいして来たからね」

 

杏が改めて同意する中、桃と柚子は不安を抱き、蛍が何処か諦めた様にそう言う。

 

「継続ちゃ~ん、聞いてた? 陽動はお願いね」

 

「…………」

 

ミカ達にもそう呼び掛ける杏だが、ミカは無言でカンテレを鳴らす。

 

「…………」

 

だが、やがてその旋律が、『サッキヤルヴェン・ポルッカ』となる。

 

「やっぱりやる気じゃん、ミカ」

 

「OK! 偶には熱く行こうかっ!!」

 

アキがそう言う中、ミッコは操縦手用の窓を開け放ち、視界を確保するとエンジンを吹かす。

 

「………行くぞ」

 

そして、ミカがそう言い放つと、BT-42がロケットスタートし、先陣を切る様にカール自走臼砲に向かって突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

謎の砲撃の正体はカールと列車砲………
そして何と、湖の上に浮かべた戦艦でした。
エースコンバットというゲームで、戦艦が川を遡って来て、地上部隊に砲撃を浴びせるってシーンがありまして、コレ使えるなと思いまして。

そしてその戦艦はミズーリ。
察しの良いお方なら、この名前を聞いてピーンと来られたでしょう。
まあ、この後、このミズーリを巡って繰り広げられる戦いをお楽しみに。

次回は原作劇場版の名シーンの再現になります。

漸く今日、レディ・プレイヤー1を見に行けます。
感想への返信は午後からになると思いますので、御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター24『殺人レシーブ作戦です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター24『殺人レシーブ作戦です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗連合部隊を襲った謎の絨毯砲撃………

 

その正体は7輌のカール自走臼砲と2輌の80㎝列車砲………

 

そして何と!

 

湖上に浮かぶ、戦艦『ミズーリ』の艦砲射撃だった。

 

水陸両用車輌を多数保有するパシフィック機甲部隊が、ミズーリへの攻撃を仕掛ける為………

 

継続校のBT-42、大洗のヘッツァーと八九式、そしてアンツィオのCV33が………

 

陽動の攻撃をカール1輌に対して仕掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯の一部………

 

カール自走臼砲設置地点………

 

「排莢完了!」

 

「次弾装填っ!!」

 

「次弾装填急げっ!!」

 

撃ち終えた砲弾の薬莢を排莢し、新たな砲弾を込める為、延べ20名以上の大学選抜砲兵達が、慌しくカールの周りで動き回っている。

 

「いや~、凄い威力ね」

 

「何たってこんな化け物を投入したワケ?」

 

その様子を見ながら、護衛のパーシング3輌の車長2人がそう言い合う。

 

「何でも、黒森峰が全国大会の決勝戦でラーテやモンスターを投入したのを見て、対抗したって話よ?」

 

するとそこで、残る1輌のパーシングの車長がそう言って来た。

 

「はあ~、要するに西住流が凄いもん投入したから、自分も投入したってワケね?」

 

「そんな子供みたいな事を………」

 

「そんな子供みたいな人の子供が私達の指揮官やってるんでしょ? やってらんないよね?」

 

愚痴り始める護衛パーシングの車長達。

 

如何やら、愛里寿への忠節心が薄い面子らしい。

 

メグミ、アズミ、ルミと言った部隊長が居ないのを良い事に、好き放題に言っている。

 

「………うん?」

 

だがそこで、護衛パーシングの車長が、何かに気づいた様に窪地の向こう側に在る森の中を見やる。

 

「? 如何したの?」

 

「今、エンジン音が………」

 

と、別の護衛パーシングの車長がそう訊いて来たのに答えようとした瞬間!!

 

爆音と共に、森の中からBT-42が飛び出して来た!!

 

「「「!?」」」

 

護衛パーシングの車長達が驚きを露わにしていると、BT-42はそのまま窪地を飛び越えてカールが居る場所に着地!

 

そのまま独楽の様に回転したかと思うと………

 

至近距離からエンジン部を1撃し、護衛パーシング1輌を撃破!!

 

そして逃げる様に窪地内へ降りて行った!!

 

「クッ! 追うぞっ!!」

 

「何だっ!? 敵襲かっ!?」

 

「貴方達は砲撃を続けてっ!!」

 

カール担当砲兵達にそう言い放ち、残る護衛パーシング2輌は、逃げたBT-42を追い、窪地に降りて行った。

 

「コレは人生にとって必要な戦いなの?」

 

「恐らくね………」

 

次弾を装填しながら問うアキに、ミカはそう返す。

 

護衛パーシング2輌を引き付けるBT-42。

 

その間に、車体後部の上にCV33を乗せた八九式が、ヘッツァーを連れてカールが居る高所に通じている石橋に向かった。

 

「今だっ!!」

 

そして、アンチョビの合図で、石橋を渡り始める!

 

「!? しまったーっ!!」

 

護衛パーシングの片方の車長がそれに気づき、声を挙げる。

 

「大丈夫だ!」

 

「あんな狡い戦車達なんざ、木っ端微塵にしてやるぜっ!!」

 

しかし、カール担当砲兵達は、カールを旋回させ、水平射撃でアンチョビ達を狙おうとする。

 

「う”わ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”~~~~~~~~っ!? こっち見てるぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

60センチの砲門に狙われ、アンチョビが思わず濁声気味な悲鳴を挙げる。

 

その直後にカールが発砲!

 

60センチ砲弾がアンチョビ達に向かう!!

 

だが、咄嗟の事で狙いが甘かったのか………

 

砲弾は外れて、アンチョビ達が通り過ぎた後の石橋に命中した。

 

「うわああっ!?」

 

それでも後方から凄まじい爆風が襲って来て、アンチョビが思わず声を挙げる。

 

するとそこで………

 

カールの砲弾が命中した石橋の下へと、BT-42が向かった。

 

石橋の破片が瓦礫となって降り注いで来る中を、構わず疾走するBT-42。

 

そして、瓦礫と瓦礫の間に僅かに空いていた隙間を通り抜ける。

 

護衛パーシング1輌がその後を追おうとしたが、車幅の違いから引っ掛かってしまう。

 

すぐに後退しようとした護衛パーシングだったが、直後に砲身目掛けて瓦礫が落下。

 

砲身が潰れて圧し折れ、護衛パーシングは白旗を上げる。

 

「残り1輌!」

 

とうとう護衛パーシングが残り1輌となり、アキが砲塔を旋回させながら声を挙げる。

 

「ミッコ! 左!」

 

だがそこで、ミカが叫んだ通り、残る1輌の護衛パーシングが、何時の間にかBT-42の左側から迫って来ていた!

 

「!? いいっ!?」

 

ミッコが思わず声を挙げた瞬間に、BT-42は護衛パーシングに激突!

 

重量差からBT-42の方が弾き飛ばされ、転がって履帯が千切れ飛ぶ。

 

そのまま、窪んでいた場所に落ち込むBT-42。

 

「………やった?」

 

BT-42の撃破を確かめようと、停止する護衛パーシング。

 

だが、その直後!

 

「ふんっ! ふうんっ!!」

 

BT-42の操縦席に居たミッコが、車のステアリング………所謂ハンドルの様な部品を取り出したかと思うと、それを操縦席にセットした!

 

すると………

 

BT-42の起動輪と転輪が回転を始め、再び息を吹き返して走り出した。

 

「!? 何っ!? 履帯無しなのにーっ!?」

 

その様子に仰天の声を挙げる護衛パーシングの車長。

 

「天下のクリスティー式! 舐めんなよぉっ!!」

 

そう言いながらハンドルを切るミッコ。

 

 

 

 

 

彼女達の乗るBT-42は、元はフィンランド軍がソ連軍から鹵獲したBT-7を改造したモノである。

 

そしてこのBTシリーズと呼ばれる戦車は、アメリカの発明家………

 

『ジョン・W・クリスティー』が考案した『クリスティー式サスペンション』と呼ばれる懸架装置が使用されている。

 

この懸架装置の最大の特徴は、最後部の接地転輪と起動輪がチェーンで接続されており、履帯を外しても走行が可能と言う事なのである。

 

 

 

 

 

そして、カールの砲撃を如何にか凌ぎ、突撃を続けていた八九式が………

 

「行っけええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

忍の叫びと共に、前方が浮き上がるまでに加速する八九式!

 

「必殺っ!!」

 

「「「「殺人! レシーブッ!!」」」」

 

そして急ブレーキを踏んだかと思うと、慣性の法則で、後部に乗っけていたCV33が、ボールの様にカールへと飛んだ!

 

「やったーっ!」

 

「賢いねー、私達っ!!」

 

作戦が上手く言った事で、歓声を挙げる妙子とあけび。

 

「今だっ! マズルを狙えーっ!!」

 

そして、空中に文字通り投げ出されたCV33が、カールの砲口を狙って8ミリ機銃を連射する。

 

機銃の弾丸が当たり、火花を散らすカール。

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

何人かのカール担当砲兵にも弾丸が命中し、戦死判定になる。

 

しかし、幾らカールが装甲の薄い自走砲と言えど、8ミリ機銃程度で撃破出来る筈もなく、CV33は石橋の崩れている手前の部分に落ちて逆さまになった。

 

「アレ?」

 

それを見て、典子が首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

一方、BT-42と残る1輌の護衛パーシングは………

 

石橋の橋桁を中心に、その周りを回る様に追い掛けっこを展開していた。

 

「用意」

 

と、砲塔を後方へと向けていたBT-42のハッチから顔を覗かせていたミカがそう言い放つと、護衛パーシングに向かって砲撃が飛ぶ。

 

しかし、護衛パーシングの砲塔正面の装甲を貫けず、火花を散らして弾かれる。

 

直後に反撃にと護衛パーシングが発砲するが、BT-42は素早く橋桁の陰に隠れる。

 

そしてすぐさまバックで、橋桁と護衛パーシングの間の僅かな隙間を擦り抜けて行った。

 

 

 

 

 

再び、橋の上では………

 

「奴等にトドメをさせーっ!!」

 

引っ繰り返ったCV33にトドメを刺そうと、カールが近づいて来る。

 

「折角踏み台になったのにー」

 

「作戦失敗だ、撤退しろーっ!!」

 

「桃ちゃん! 落ち着いてっ!!」

 

妙子が残念そうにそう言うと、桃が喚き散らし、蛍が宥める。

 

「クソーッ!」

 

「チョビ子! 履帯を回転させろっ!!」

 

引っ繰り返ったままのCV33の中でアンチョビが悔しそうにしていると、杏からそう通信が入る。

 

「命令するな! 私を誰だと思って………」

 

「干し芋パスタを作ってやるからさー」

 

「パスタッ!!」

 

「マジっすかっ!?」

 

反抗しようとしたアンチョビだったが、パスタと言う言葉を聞いて一瞬で気を変え、言う通りに引っ繰り返ったままのCV33の履帯を回転させる。

 

「良しっ!!」

 

すると、そのCV33に向かってヘッツァーが突撃する!

 

「飛べーっ!!」

 

そして八九式の脇を擦り抜けると、CV33を踏み台にして、勢い良くジャンプした!

 

「会長! お願いしますっ!!」

 

「任せろ………」

 

桃がそう言う中、不敵な笑みで照準器を覗き込んで居る杏。

 

「! イ、イカン! 装填を中止しろっ!!」

 

「駄目ですっ! もう装填してしまいましたっ!!」

 

慌てて装填中止の指示を飛ばすカール担当砲兵隊長だったが、既にカールの砲門には、新たな砲弾が装填されていた。

 

「………グットラック」

 

その砲弾が装填されているカールの砲口目掛けてヘッツァーが発砲!

 

砲弾は砲口に飛び込み、装填されていた砲弾に命中!!

 

60センチ砲弾が忽ち大爆発!

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

カールはバラバラとなり、カール担当砲兵全員が戦死判定となる。

 

 

 

 

 

BT-42と護衛パーシングの戦いにも決着が着こうとしていた………

 

逃げる護衛パーシングを、BT-42が追う形となっている。

 

いよいよBT-42が、護衛パーシングのエンジン部に狙いを定める。

 

だが、その瞬間!!

 

護衛パーシングが急ブレーキを掛けた!!

 

その速度が仇となり、護衛パーシングを追い越してしまうBT-42。

 

すぐに反転しようとしたが、それよりも早く護衛パーシングが発砲!!

 

BT-42の左側の車輪が全て吹き飛ばされる!

 

………しかし!!

 

何とBT-42は、残る右側の車輪だけで片輪走行!!

 

砲塔を傾けながら護衛パーシングへと向かった!!

 

「トゥータッ!!」

 

そして、ミカのフィンランド語での撃ての号令が掛かると、アキが発砲!

 

放たれた砲弾は、粗零距離で護衛パーシングのエンジン部に命中!!

 

発砲の衝撃で、BT-42の残っていた右側の車輪も全て脱落し、車体が地面に埋まると、白旗を上げる。

 

だが、護衛パーシングからは既に白旗が上がっている。

 

「ふう~」

 

「ああ~、疲れた~」

 

アキとミッコが大きく息を吐きながらそう漏らす。

 

「継続ちゃ~ん。大丈夫?」

 

とそこで、杏が声を掛けて来る。

 

「大丈夫です。私達は回収部隊を待って一旦補給拠点まで後退します」

 

「分かった。後でまたね」

 

「皆さんの健闘を祈ります」

 

ミカは、杏とそう遣り取りすると、カンテレを鳴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

湖上のミズーリでは………

 

ミズーリ・艦橋………

 

「カールが1輌やられました!」

 

通信士が、カールが1輌やられた事を報告する。

 

「やられたのは何処のカールだ?」

 

「Ⅲ号車のオーディンです!」

 

「Ⅲ号車………一番端の位置ですね」

 

ミズーリの艦長の問いに、通信士がそう返すと、副長が地図を広げてやられたカールの場所を確認する。

 

「自走砲と列車砲を潰しに出たか」

 

「そうはさせんぞ。主砲! 砲撃用意っ!!」

 

「主砲砲撃用意っ!!」

 

艦長の言葉を、副長が復唱する。

 

そして、ミズーリの主砲が右舷方向………やられたカールの方角へと向けられる。

 

「まだそう遠くまでは行って居まい。頭上からたっぷりと砲弾を浴びせてやる………」

 

『全主砲! 砲撃準備、完了!!』

 

「良し! 撃………」

 

『コチラ左舷っ!! 敵接近っ!!』

 

「!? 何っ!?」

 

イザ砲撃命令を下そうとした瞬間に、左舷の見張り要員の1人からそう報告が入り、艦長は慌てて双眼鏡を手にして、艦橋から左舷方向を見やる。

 

そこには、パシフィック機甲部隊の水陸両用車輌部隊の姿が在った。

 

「チイッ! カールへの攻撃は囮かっ!!」

 

「主砲旋回、間に合いません! それにこの距離では俯角が足りません!」

 

艦長が苦々しげに言うと、副長がそう報告する。

 

「副砲で攻撃しろ! それから! 対空機銃を水平射撃で機銃掃射だっ!!」

 

「了解っ!!」

 

艦長は副砲に対空機銃を水平射撃しての迎撃を命じる。

 

ミズーリの左舷側に在った38口径12.7㎝砲、56口径40㎜対空砲、70口径20㎜対空砲が、接近して来るパシフィック機甲部隊に向かって発砲される!

 

「! 気づかれたかっ!!」

 

「チキショーッ! せめてもう少し近づきたかったのにっ!!」

 

ミズーリから迎撃が始まったのを見て、カジキとホージローがそう声を挙げる。

 

「戦車部隊に通達! 我々は何としてもミズーリを無力化させねばなりませんわ! コレよりミズーリを攻撃! 歩兵部隊の移乗攻撃を支援致しますわっ!!」

 

「了解っ!!」

 

「任せてっ!!」

 

セイレーンがそう呼び掛けると、水陸両用に改造されているチャーフィー達が、ミズーリに向かって発砲を開始した!

 

「! 撃って来たぞっ!!」

 

ミズーリの乗員の1人がそう声を挙げた瞬間………

 

1箇所の56口径40㎜対空砲が在った機銃座に、榴弾が命中!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

機銃座に居た機銃手と、近くに居た乗員が爆発で吹き飛ばされ、甲板上に落ち、戦死判定となる。

 

「オノレッ! 倍返しだっ!!」

 

お返しとばかりに乗員の1人がそう叫んだかと思うと、1門の38口径12.7㎝砲が火を噴く!

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

運悪く1輌のLVT-3が直撃を貰い、爆発四散して乗員が放り出される。

 

漏れたガソリンで湖面が燃える中、戦死判定となったパシフィック歩兵達が漂う。

 

「このぉっ!!」

 

1輌のLVT(A)-4が、仇を取ろうとその38口径12.7㎝砲にM3 75㎜榴弾砲を放つ。

 

しかし、榴弾は命中したものの、頑強な副砲を破壊するまでには至らず、装甲の表面を焦がした程度だった。

 

「クウッ! 駄目かっ!?」

 

「我々の火力では戦艦の装甲に対抗出来ん! 一刻も早く取り付くんだっ!!」

 

LVT(A)-4の車長がそう叫ぶと、カジキが皆に向かってそう呼び掛ける。

 

果たして、パシフィック機甲部隊は、無事にミズーリに取り付く事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回は原作劇場版の名シーン………
BT-42無双をお送りしました。
元が素晴らしいシーンですので、改変は有りません。
ほぼ再現になります。

そして、その囮攻撃の隙を衝いて、パシフィックがミズーリに仕掛けますが………
やはり戦艦相手に苦戦は必須。
ですので、あの男が再び動きます。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター25『沈黙の戦艦です!(前編)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター25『沈黙の戦艦です!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖上のミズーリを叩く為に、カール自走臼砲1輌へ陽動攻撃を掛けた杏達………

 

陽動に留まらず、カール自走臼砲を撃破すると………

 

ミズーリはまんまとその陽動に引っ掛かり、主砲を撃破されたカール自走臼砲の方向へと向けた。

 

その隙を衝いて………

 

水陸両用車を多数保有するパシフィック機甲部隊が………

 

ミズーリへの移乗攻撃を強行しようとするのだったが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・湖にて………

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

号令と共に、ミズーリに装備されている38口径12.7㎝連装砲が水平射撃され、LVT-3が破壊される。

 

「装填完了っ!」

 

「撃ちなさいっ!!」

 

装填手からの報告を聞くや否や、セイレーンのチャーフィーが発砲する。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

榴弾が1門の70口径20㎜対空砲の銃座に命中し、銃座に付いていた乗組員を吹き飛ばす。

 

だが、その直後に、無数の38口径12.7㎝連装砲の砲弾が、セイレーンのチャーフィーの周辺に着弾し、高い水柱を上げる!

 

「「「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」

 

「クウッ! コレでは近づけませんわっ!!」

 

「マズイわよ、セイレーン! コッチの被害の方が大き過ぎるわっ!!」

 

チャーフィーの乗員が悲鳴を上げる中、ローレライがそう言って来る。

 

「やっぱり火力に差が有り過ぎます」

 

「チキショーッ! やっぱり取り付く前に見つかったのが痛かったぜっ!!」

 

メロウとホージローもそう声を挙げる。

 

「総隊長。ココは一旦撤退も視野に入れるべきだ」

 

「………止むを得ませんか」

 

カジキもそう言って来て、セイレーンは撤退を決めかける。

 

「敵軍の勢いが落ちています」

 

「フッ、幾ら水陸両用の戦闘車輌を保有していたところで、コチラは戦艦だ。力の差は歴然としている」

 

ミズーリ副長の言葉に、艦長はそう返す。

 

「各砲座、一斉射撃用意! 一気にケリを着けてやるっ!!」

 

そこで艦長は、ケリを着けようと一斉射撃命令を下す。

 

各砲座、銃座の動きが一旦止まったかと思うと、一斉にパシフィック機甲部隊の方向へ向けられる。

 

「! 斉射する積りかっ!!」

 

「クソッ!!」

 

カジキが叫ぶと、ホージローが悪態を吐く。

 

「撃………」

 

「! 対空レーダーに反応有り!! 敵機ですっ!!」

 

だが、艦長が砲撃の号令を掛けようとした瞬間に、レーダー手からそう報告が挙がる。

 

「!? 何っ!?」

 

「馬鹿な! まだ制空権は拮抗状態の筈だ! 敵機がココまで来る筈が無い!」

 

「ちょっと待って下さい………何だ、この反射パターンは? 航空機じゃないのか?」

 

副長の声に、レーダー手は反射パターンが航空機とは異なる事に気づく。

 

「航空機ではない? では一体何なんだ?」

 

艦長はそう言うと、双眼鏡を手にし、レーダーが反応を示している方位を見やった。

 

「!?」

 

そして驚愕して固まる。

 

「艦長っ!? 如何なさったのですか?」

 

突然固まった艦長に、副長が声を掛ける。

 

「戦車が………」

 

「は? 戦車が………?」

 

「戦車が空を飛んでいるっ!!」

 

「!? ハアッ!?」

 

そこで艦長はそう声を挙げ、それを聞いた副長も驚愕しながら、双眼鏡で艦長と同じ方向を見やった。

 

そこには、翼を持って空を飛ぶ戦車………

 

『特三号戦車 クロ』だった!!

 

「!? アレはっ!?」

 

「特三号戦車だって!? 何てレア物なんだ!?」

 

パシフィック機甲部隊の方でも、シイラとツナがクロに気づき、そう声を挙げる。

 

「ねえ………見間違いかな? あの戦車の上に人が乗って居る様に見えるんだけど?」

 

するとそこで、メロウが信じられないと行った雰囲気でそう言い放つ。

 

「! アレはっ!?」

 

「舩坂………弘樹」

 

その人物………弘樹の姿を認めたローレライとカジキが驚きを露わにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

滑空するクロの上に膝立ちでしがみ付いている弘樹。

 

クロは一直線にミズーリへと向かう。

 

「舩坂殿ーっ!! いよいよ突貫でありますなぁーっ!!」

 

とそこで、クロに乗っている乗員………知波単の戦車部隊員・車長がそう声を掛けて来る。

 

「協力に感謝する」

 

「何を仰られますか!? 舩坂殿にでしたら喜んでご協力させて頂きますよっ!!」

 

弘樹がそう返すと、今度は操縦手の隊員がそう声を掛けて来る。

 

プラウダ&ツァーリとボンプルの救援を終えた後………

 

弘樹はみほの命を受けて、その足で知波単機甲部隊の元へ向かい、絹代に事情を説明して、ミズーリへの急襲手段として、このクロを借り受けたのだ。

 

本来は牽引して飛行させるのだが、弘樹は本物のグライダーの様に、斜面を猛スピードで駆け降ろさせる事で空を飛ばせたのである。

 

「! 気づかれたか!」

 

するとそこで、ミズーリがクロの存在に気づいたらしく、パシフィック機甲部隊に向けられていた対空機銃が、クロの方へ向けられる!

 

「如何するでありますか!? 舩坂殿っ!!」

 

「翼を切り離せっ!!」

 

車長の問いに、弘樹はそう返す。

 

「了解であります!」

 

それを何の躊躇も無く実行する車長。

 

クロに取り付けられていたグライダーの翼が、爆砕ボルトによって車体から離れる。

 

そして翼の無くなった車体は、重力に引かれて急降下する。

 

「撃てーっ! 撃てぇーっ!!」

 

1箇所の56口径40㎜対空砲が、落下して来るクロと弘樹に向かって弾幕を張る。

 

しかし、航空機とは違う軌道で急降下してくるクロを正確に捉える事が出来ないのか、弾幕はクロと弘樹に掠りもしない。

 

「衝撃に備えろっ!!」

 

「「!!」」

 

そして弘樹がそう声を挙げ、クロの乗員達が身構えた瞬間!!

 

クロは弾幕を張っていた56口径40㎜対空砲と、それに付いていた乗組員達を押し潰す様に着地した!

 

「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」

 

軽量化されているとは言え、重量2.9トンの車体に押し潰されて無事で居られるワケもなく、踏み潰された乗員は全員戦死判定となる。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その様子に、近くの別の56口径40㎜対空砲の銃座と、70口径20㎜対空砲の銃座に居た乗組員達が気付いた瞬間………

 

「!!」

 

「発射ぁーっ!!」

 

56口径40㎜対空砲の銃座には、弘樹が投げた手榴弾。

 

70口径20㎜対空砲の銃座には、クロの榴弾が叩き込まれた!

 

「「「「「「「「「「どわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

銃座が、付いていた乗組員諸共に吹き飛ぶ。

 

一部の乗組員は勢い余り、船外へ投げ出されて水没した。

 

「取り付かれたぞーっ!!」

 

「クソッ! 空から来るなんて予想外だっ!!」

 

まさかの空襲に、ミズーリの乗組員達は浮足立つ。

 

「! 今です! 歩兵部隊の皆さんはミズーリへ移乗攻撃をっ!!」

 

「! 了解っ!!」

 

そしてその隙を見逃さず、セイレーンが命じると、カジキを始めとしたパシフィック歩兵達の乗ったアムトラックが次々にミズーリに強行接舷!

 

「行け行けーっ!!」

 

「GoGoーっ!!」

 

まるで津波の様に、ミズーリへと移乗して行くパシフィック歩兵達。

 

「………良し」

 

「やりましたね! 舩坂殿っ!!」

 

それを確認した弘樹が呟くと、クロの車長が歓声を挙げる。

 

「小官はコレよりこの艦の制圧に向かう。すまないが、君達は自力で生き延びてくれ」

 

「お任せ下さいっ!!」

 

「知波単魂を見せてやりますっ!!」

 

「頼むぞ………」

 

弘樹はクロの乗員にそう言い残すと、ミズーリの艦内へと突入するのだった。

 

 

 

 

 

一方、艦橋は蜂の巣を突いた様な大騒ぎとなっていた………

 

「艦内に侵入されました! 突入して来たのは、舩坂 弘樹です!!」

 

「何っ!? あの舩坂 弘樹かっ!?」

 

見張り員からの報告を聞いて、副長が驚愕の声を挙げる。

 

「すぐに全乗組員を武装させろ! 艦内を隈なく捜索! 艦外もだ! 空調のダクト! パネルの裏! 煙突の上から艦底部まで徹底的に探せ! 何か見つけても決して1人で対応しようとするな! 必ず応援を呼べっ!!」

 

艦長は何とも念の入った捜索を乗組員達に命じる。

 

だが、それも無理の無い話である………

 

弘樹は有害なバクテリア………猛毒を持つ細菌………

 

1度侵入されれば、そのモノに2度と栄光が訪れる事は無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズーリ艦内………

 

「相手はあの絢爛舞踏! 舩坂 弘樹だ!!」

 

「高校生のガキと侮るなよ!!」

 

武装したミズーリ乗組員達が、そんな事を言いながら狭い艦内通路をドタドタと走り回る。

 

「オイ! パシフィックの連中も大分艦内に侵入されたぞ! Bブロックで応援要請だっ!!」

 

「すぐに行くっ!!」

 

と、1人の乗組員がそう告げると、その場に居た乗組員達はBブロックの応援に向かう。

 

「………ん?」

 

すると、最後尾を行っていた乗組員が、何かに気づいた様に足を止める。

 

「? 如何した?」

 

「………食堂の電気って消えてたっけ?」

 

「!? 何っ!?」

 

そう言う乗組員の視線の先には、全ての電灯が点けられている筈なのに、暗闇となっている食堂が在った。

 

「「…………」」

 

乗組員2人は、顔を見合わせると、小銃を構えて慎重に暗闇の食堂内へと侵入して行く。

 

1人が、すぐ傍の壁に在った照明のスイッチを入れるが………

 

「………駄目だ。ブレーカーが落とされているみたいだ」

 

「…………」

 

そう報告すると、もう1人の乗組員は、暗闇の中へ小銃を向け続ける。

 

「「…………」」

 

暗闇の中、小銃を構えたまま移動し続ける乗組員2人。

 

だが2人は、慣れた艦内と言う油断があったのか、徐々に距離を離して、別々に捜索を始める。

 

「…………」

 

それを暗闇の中に潜んでいた弘樹は見逃さなかった。

 

ベルトのレザーホルスターに納められていた銃剣を音も無く抜く。

 

そして、乗組員の1人目掛けて、狙いを澄まして投げつけた!!

 

「ッ!?」

 

投げられたナイフは正確に喉部分に命中。

 

乗組員はガクリッと崩れ、そのまま気絶し、戦死判定となった。

 

「!? オイッ!? 如何したっ!?」

 

異変を察知したもう1人が戻ってくるが、暗がりで状況が確認出来ない。

 

と、次の瞬間!!

 

「………!」

 

弘樹は物陰から飛び出して、乗組員が持っていた小銃を押さえ込む様に組み付く。

 

「ぐおっ!?」

 

「フッ!!」

 

小銃を奪い取り、乗組員を投げ飛ばす弘樹。

 

「ぐああっ!? クッ!!」

 

乗組員は今度は拳銃を抜いて、弘樹目掛けて発砲しようとするが………

 

「!」

 

乗組員が発砲するよりも早く、弘樹が拳銃を持っている腕を摑み、天井へと向けた。

 

「ぐあっ!?」

 

発砲した弾丸は天井へとめり込む。

 

そのまま、腕を押さえたまま反対の手で、乗組員の手首に手刀を打ち込む弘樹。

 

「ぐっ!?」

 

その衝撃で拳銃を落としてしまう乗組員。

 

すると、弘樹は摑んだままだった腕を引っ張り、バランスを崩させると、素早く空いていた手を乗組員の首に回した!!

 

「っ!?」

 

首絞めで拘束したかと思われた次の瞬間!!

 

思いっきり捻った!!

 

悲鳴を挙げる間も無く気絶する乗組員。

 

戦死判定となった乗組員を床の上に置くと、ボディチェックを始める弘樹。

 

その後、乗組員達の武器を奪うと、キッチンにあった物で『何か』を作ったかと思うと、それを電子レンジの中に入れ、スイッチを入れた。

 

そして、食堂から抜け出して行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして………

 

「明かりを点けろ」

 

異変に気づいた乗組員達が食堂に集まり、落ちていたブレーカーを上げ、照明を点けさせた。

 

食堂内が明るくなると、戦死判定を受けて倒れている乗組員2人の姿を認識する。

 

「! クソッ! やられたかっ!!」

 

「装備が奪われていますっ!!」

 

その様を見た乗組員達からそんな声が挙がる。

 

「オノレェ………俺達の艦で好き勝手やりやがってっ!!」

 

1人の乗組員が、そう怒りを露わにすると………

 

突如、食堂内に電子音が響き始めた。

 

「?」

 

何かと思って乗組員の1人が音の聞こえてくる方向を向くと………

 

今まさに加熱が終ろうとしている電子レンジが視界に入った。

 

「!? 伏せろっ!!」

 

それを見た乗組員の1人は、途端にそう叫んで物陰に隠れる。

 

「「「「「!?」」」」」

 

それを聞いた何人かの乗組員は、床に伏せるか物陰に隠れたが、残りの何人かは棒立ちになる。

 

その瞬間!!

 

加熱が終わった電子レンジが、大爆発を起こした!!

 

「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

逃げ遅れた乗組員達が爆風で吹っ飛ばされる。

 

ある者は爆発の際に飛散した破片を浴びて、ある者は爆炎が服に燃え移って火達磨となり、ある者は吹き飛ばされた際に頭部を強打し、戦死判定となった。

 

「ハア………ハア………」

 

「な、何だ、今のは!?」

 

「爆弾だ。電子レンジを起爆剤にしやがった………何をしてる! 早く火を消せっ!!」

 

生き延びた乗組員の1人がそう叫ぶと、他の生き延びた乗組員達が慌てて消火器を手にし、消火に掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

別の通路では………

 

「………!!」

 

「ぐああっ!?」

 

銛の一突きで、乗組員の1人を戦死判定にするカジキ。

 

「オラァっ!!」

 

「がっ!?」

 

ホージローも、自慢の身長を活かした、ハンマーの様に打ち下ろす頭突きで、乗組員1人を戦死判定にする。

 

「「………!」」

 

シイラとツナも、M1903A4とL-39で、次々に乗組員達を撃ち抜いて行く。

 

「クソッ! 高校生のクセしてやるじゃないか!」

 

「階段を降りろ! 下の通路から裏へ回るんだっ!!」

 

その様子をやや後方で見ていた2名の乗組員が、パシフィック歩兵達の後方へ回ろうと、下へ続く階段へと向かう。

 

すると………

 

「………!」

 

その階段の下に居た弘樹が、『何か』を降りて来ようとしていた乗組員に投げつけた。

 

「!?」

 

咄嗟にそれをキャッチしてしまう前に居た乗組員。

 

キャッチした物は………焼夷手榴弾だった!

 

「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

爆発と共に、激しい炎が上がり、火達磨になる乗組員。

 

「! 敵だぁっ!!」

 

残る1人の乗組員がそう言いながら、近くに在った消火器で火達磨になっている乗組員を消火する。

 

しかし、既に戦死判定が下っていた。

 

「クソォッ!!」

 

仇を討とうと階段を下る乗組員。

 

だが、怒りで頭に血が上っていたせいで、階段が濡れている事に気づかなかった………

 

「………!」

 

階段を下りて来る乗組員に向かって、弘樹は通路の壁に在った信号拳銃で、信号弾を発射した!

 

「!? うおっ!?」

 

信号弾は乗組員の戦闘服の胸に突き刺さり、照明用の火花を上げる。

 

バランスを崩した乗組員が階段を転がった瞬間………

 

階段に撒いてあった『油』に引火!!

 

「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そのまま階段を転げ落ち、もう1人と同様に火達磨になる。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

その状態で立ち上がり、火を消そうとするが………

 

「!」

 

それよりも早く、弘樹が火達磨になっている乗組員に蹴りを入れる。

 

「! うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

よろけた火達磨の乗組員は、近くに在った艦外へのドアを潜り、縁に引っ掛かったかと思うと落下し、湖に落ちた。

 

少しして、黒焦げの状態で浮かび上がり、戦死判定となった。

 

「何だ、今の悲鳴?」

 

その断末魔を聞いていたホージローがそう言うと、階段から弘樹が上がって来る。

 

「!」

 

「待て、小官だ」

 

カジキが反射的にコルト・ウッズマンを構えたが、弘樹がそう声を挙げる。

 

「舩坂 弘樹………貴様か」

 

弘樹の姿を確認して、コルト・ウッズマンを降ろすカジキ。

 

「制圧状況は如何だ?」

 

挨拶もそこそこに、弘樹はミズーリの制圧状況を問う。

 

「弾薬庫と居住区、機関室に主砲塔も全部押さえた。後の主要箇所は艦橋とそれに射撃管制室だな」

 

「分かった。射撃管制室には小官が行く。艦橋は任せた」

 

ホージローがそう答えると、弘樹は返事を聞く前に、射撃管制室へと向かった。

 

「さも当然の様に1人で行きましたね………」

 

「やっぱ恐ろしいぜ………」

 

そんな弘樹の姿を見て、ツナとシイラがそう言い合う。

 

「フッ………」

 

只1人、カジキだけが嬉しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

火力に阻まれて、ミズーリへ移譲出来ないパシフィック。
そこで何と!
弘樹が空から急襲!
混乱に乗じ、パシフィック歩兵達も取り付き、いよいよミズーリ制圧戦が始まります。

タイトルの通り、あの無敵のコックが暴れ回る映画のシーンをオマージュした場面が登場します(笑)
続編の暴走特急からのシーンもありますのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター26『沈黙の戦艦です!(後編)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター26『沈黙の戦艦です!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖上に浮かぶ大学選抜チームのミズーリを制圧する為に、移乗攻撃を仕掛けようとするパシフィック機甲部隊。

 

しかし、ミズーリの火力に阻まれ、思う様に作戦が進まなかった。

 

だが、知波単の協力を得た弘樹が………

 

何と、空から『特三号戦車 クロ』で奇襲!

 

ミズーリへと取り付き、大暴れ。

 

パシフィック機甲部隊も遂に移乗攻撃を敢行。

 

今まさに、歩兵の力で戦艦が沈黙しようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖上のミズーリ………

 

「ん………?」

 

射撃管制室へと向かう途中だった弘樹が、ふと艦尾が見える扉を発見する。

 

ミズーリの艦尾にはカタパルトが有り、水上偵察機『OS2U』が乗せられていた。

 

「…………」

 

弘樹は少し考える様な素振りを見せたかと思うと、身を隠しながら艦尾へと向かった。

 

すると、弘樹が隠れている場所の傍を、乗組員の1人が通り掛かる。

 

如何やら、弘樹には気づいていない様だ。

 

「…………」

 

弘樹はジッと息を潜め、乗組員が通り掛かった瞬間に飛び出し、同時に足を払った!!

 

「うわあっ!?」

 

そして、倒れた乗組員の首に向かって手刀を打ち込む!!

 

「ぐえっ!?」

 

潰された蛙の様な声を挙げたかと思うと、乗組員は戦死判定となって気絶した。

 

「良し………」

 

それを見つからない様に湖に流すと、改めてカタパルトのOS2Uを目指した。

 

見張りの目を避け、OS2Uの操縦席を漁る。

 

「………在った」

 

そして、予備の燃料が入ったポリタンクを見つける。

 

それを持ち出すと、艦橋側から見えない艦尾側のOS2Uの陰に隠れる。

 

そのまま、OS2Uの給油口を発見し、蓋を開けたかと思うと、ポリタンクの下部分に銃剣で穴を空け、燃料を注ぎ、給油口から溢れさせる。

 

すると、手榴弾のピンを抜き、ポリタンクを上から被せる様に乗せ、レバーを押さえさせた。

 

ポリタンクの燃料が無くなって倒れれば、手榴弾が爆発すると言う一種の時限装置だ。

 

「良し………」

 

上手い具合に設置が完了すると、弘樹はワザと露骨に姿を晒す様にする。

 

「!? オイ!! 向こうで何か動いたぞ!!」

 

「カタパルトの傍に何か居るぞ!!」

 

案の定、それを見た乗組員は、砂糖に群がる蟻の如く、次々にOS2Uのカタパルトの元へと集まってくる。

 

弘樹はギリギリまで出来るだけ多くの乗組員達を引き付けると、足元に在ったケーブルを1本摑み、艦尾から飛び降りた!!

 

その次の瞬間!!

 

燃料が無くなりポリタンクが倒れ、押さえていた手榴弾のピンが外れ、燃料に引火しながら爆発!!

 

忽ちOS2Uを巻き込んだ大爆発が起こった!!

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

集まって来ていた多数の乗組員が、その爆風の直撃を喰らう。

 

「………上手く行ったな」

 

爆音を聞きながらそう呟く、ケーブルで艦尾にぶら下がっている弘樹。

 

「チキショーッ! やりやがったなぁ!?」

 

「何処行きやがった!?」

 

生き残った乗組員達が、炎を上げているカタパルトを避けながら、艦尾に集まる。

 

しかし、まさか艦尾の装甲にへばり付いているとは思わず、湖面を覗き込む様な事はせず、一通り見回したかと思うと、そのまま行ってしまう。

 

「…………」

 

それを確認すると、思ったよりも間抜けな連中なのかと思いながら、再度甲板へと上がる弘樹。

 

と、そこで………

 

「ん? 何か物音がしなかったか?」

 

その際の音を聞きつけたのか、4人程の乗組員がカタパルトの方へと戻ってきた。

 

「むっ………?」

 

弘樹は、M1911A1を構えて物陰に隠れる。

 

4人の乗組員達は、2人1組を組んで、弘樹が隠れている方へと近づいて来る。

 

と、先に進んでいた2人が、弘樹の視界に入った瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹はバッと飛び出し、1人を後ろから首を絞める様に拘束。

 

もう1人の後頭部にハイキックを見舞って、倒した。

 

「「グアッ!?」」

 

「「!?」」

 

そして、後から来ていた2人の方にM1911A1を向け、其々1発で頭を撃ち抜き倒す!

 

続いて倒れていた1人を撃ち抜き、最後に捕まえていた1人を背中から撃ち抜いた!!

 

この間、僅か6秒!!

 

4人の乗組員を瞬殺した。

 

「!? 何だっ!?」

 

「銃声だぞっ!?」

 

と、その銃声を聞きつけ、他の乗組員達が集まって来る。

 

「…………」

 

弘樹はすぐさま艦内へと逃げ込むと、バルブ式のハッチを閉めて、そこにピンを抜いた手榴弾を置き土産に残して行く。

 

「あそこだぁ!」

 

「逃がすな! 追えぇっ!!」

 

すぐさま乗組員達は、チーフを追って扉を開けようとする。

 

「止せっ! 深追いするな!!」

 

乗組員の1人がそう叫ぶが、時既に遅し。

 

乗組員達がドアのバルブを回した瞬間、手榴弾が床に落ち、爆発!!

 

吹き飛ばされたハッチと溢れ出た爆風が、乗組員達を襲った!!

 

「「「「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」」」」

 

数人の乗組員達が、戦死判定となる。

 

「クソッ! またしてもっ!!」

 

「動くんじゃねえっ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

とそこで頭上から声が降って来て、生き残っていた乗組員達は上を向く。

 

そこにはホージローを中心に、上部デッキから銃を向けているパシフィック歩兵達の姿が在った。

 

「艦橋は制圧した! もう抵抗は無意味だ! 武器を捨てろっ!!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

ホージローにそう言われた乗組員達は、敗北を悟ったのか、潔く武器を捨てると、自ら戦死判定装置を作動させる。

 

「へへ、潔いじゃねえか。そう言うの、好きだぜ」

 

そんな乗組員達の姿を見て、ホージローは不敵に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

再び艦内へと侵入した弘樹は………

 

「…………」

 

遂に射撃指揮所に辿り着き、侵入。

 

しかし、そこには1人の乗組員の姿も無かった。

 

「…………」

 

警戒しながら、弘樹はM1911A1を構えて射撃指揮所内へ入り込む。

 

物陰に敵が潜んでないかをチェックする。

 

「…………」

 

慎重に歩を進める弘樹。

 

だが………

 

「銃を捨てろ」

 

入って来た扉の方からそう言う声が聞こえた。

 

「…………」

 

弘樹は特に動揺する事も無く、素直に持っていたM1911A1、そして背負っていた四式自動小銃も床に置く。

 

「両手を上げろ」

 

「…………」

 

更に指示通りに両手を上げると、声の主の方を振り返る。

 

それは、ミズーリの艦長だった。

 

「そこに座れ」

 

射撃指揮所内に在った椅子の1つに腰掛ける様に命じる艦長。

 

「…………」

 

弘樹は特に抵抗する様子も見せず、素直に腰掛ける。

 

それを見て艦長は、拳銃を突き付けたまま、弘樹の眼前まで近づく。

 

「流石は絢爛舞踏だ。殆どの者がお前1人にやられた………全く、情けない限りだ」

 

「…………」

 

「だが、もうお終いだ。仮にこの状況を如何にか出来たとしても………我が大学選抜チームを率いている島田流を如何にかは出来ん」

 

「………1つ聞かせて貰おう。貴様は今の島田流が正しいと思っているのか?」

 

そこで弘樹は初めて、艦長に声を掛ける。

 

「正しいか正しくないかは関係無い。我々は命令を受け、それを実行する………それだけの存在の筈だ!」

 

やや興奮気味に、更に弘樹に近づく艦長。

 

と、その瞬間!!

 

「!!」

 

弘樹は艦長が持っていた拳銃を蹴り上げた!

 

「うわっ!?」

 

拳銃が手から弾き飛ばされ、隙を見せてしまう艦長。

 

「!!」

 

空かさず弘樹は、艦長に諸手突きを喰らわせる!

 

「ガッ!?」

 

計器に叩きつけられる艦長。

 

「クウッ!!」

 

しかし、すぐに立ち上がると、ナイフを抜いて構えた。

 

「…………」

 

それに対抗する様に、弘樹も敵兵から奪って隠し持っていたナイフを抜いた。

 

「フッ! ハッ! トアアッ!!」

 

艦長は素早い動きで、何度もナイフを振るう。

 

しかし、やはり本職は船乗り。

 

その動きは本場の歩兵と比べると、洗練されていない。

 

「フッ………」

 

「うおっ!?」

 

艦長の悲鳴と共に、戦闘服の一部が切り裂かれる。

 

「…………」

 

「ぐあっ!?」

 

更に今度は、左手の手首を切り裂かれる。

 

左手の手首の先から動きが鈍くなる。

 

「クソッ!」

 

「………!」

 

艦長は1歩下がると、右手に逆手に持っていたナイフを振り被って踏み込んだが、読んでいた弘樹はアッサリと躱し、艦長の背中を押す!

 

「ぎゃあっ!?」

 

コンパネの上を転がって床の上に落ちた艦長だが、素早く立ち上がる。

 

「…………」

 

そんな艦長をナイフを構えて待ち構える弘樹。

 

「ふあっ!!」

 

「!!」

 

と、艦長が再びナイフを持っていた右腕を振り上げると、素早く弘樹が近づき、その右腕を左手で摑む。

 

「!!」

 

「ぬうっ!?」

 

そして右手のナイフを艦長に見舞おうとしたが、コレも艦長が左手で摑んで止める。

 

互いに押し合いの揉み合い状態となる。

 

「ぐうううううっ!!」

 

「………!!」

 

必死な様子の艦長と、僅かに仏頂面が崩れている弘樹。

 

「ぐううっ!!」

 

艦長は無理矢理弘樹を突き刺そうと、右腕に力を入れる。

 

「………!!」

 

すると、僅かに押された弘樹のヘルメットに艦長のナイフの刃が掠り、火花を散らす。

 

そして、一瞬怯んだ様な様子を見せる弘樹。

 

「貰ったっ!!」

 

それを好機と見た艦長が一気に仕掛ける。

 

だが………

 

それは弘樹の誘いであった。

 

「!!」

 

艦長のナイフに噛み付く弘樹!

 

「なっ!?」

 

驚く艦長から、弘樹はそのままナイフを奪う。

 

そして自由にした左手の曲げた人差し指と中指で、艦長に目潰しを見舞う!

 

「!! ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

コレには艦長も堪らず悲鳴を挙げた!

 

「!!」

 

その次の瞬間には、弘樹は艦長のヘルメットの脳天に、ナイフを突き刺す!

 

「!!」

 

そしてトドメとばかりに、コンソールに頭から叩き付けた!

 

艦長はコンソールに頭が突き刺さった状態で気絶し、戦死判定となった。

 

「正しい者は救われる………」

 

動かなくなった艦長を見ながら、弘樹はそう呟く。

 

「舩坂」

 

「終わったみてぇだな」

 

とそこへ、カジキとホージローが姿を見せる。

 

「そっちは如何だ?」

 

ナイフを艦長の脳天に突き刺したままにしてしまったので、代わりに艦長が使っていたナイフを鹵獲しながら尋ねる弘樹。

 

「各所の制圧は完了した」

 

「残っていた乗組員の連中は全員降参したぜ」

 

「そうか………」

 

「けど、如何すんだ? まだ列車砲やカールが残ってんだろ?」

 

ホージローの言う通り、ミズーリは押さえたものの、大洗連合はまだ列車砲とカールの砲撃に晒されている。

 

「………カジキ」

 

すると弘樹は、カジキの方に声を掛けた。

 

「何だ?」

 

「砲術の心得が有る歩兵は居るか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

メガフロート艦上の演習場・とあるポイント………

 

そこには、80㎝列車砲『グスタフ』が陣取っていた。

 

「装填、完了しました!!」

 

「方位、並びに仰角修正!」

 

「方位及び仰角修正っ!!」

 

グスタフの指揮官が叫ぶと、転車台が回転し、主砲の仰角も上がる。

 

「カールが1輌やられたのは想定外だが、まだ6輌もある。それにこの列車砲も健在だ。高校生の連中はさぞ慌てているだろうな」

 

その様子を見ながら、グスタフの指揮官はそう言う。

 

「しかし、先程ミズーリに敵部隊が向かったと言う報告が有りましたが………」

 

そこで、グスタフを任せられている砲兵の1人がそう言って来るが………

 

「心配するな。幾ら奴等でも、ミズーリをどうこう出来はしまい」

 

心配無いとグスタフの指揮官は言い放つが………

 

そこで、風切り音が聞こえて来た。

 

「? 何………」

 

だと言い切る前に、上空から降り注いだ多数の砲弾が着弾!!

 

用意して在ったグスタフの主砲弾にも誘爆し、巨大な爆発が発生!!

 

グスタフはバラバラとなり、付いていた砲兵達も、何が起こったのか分からないまま、全員が戦死判定となったのだった。

 

「な、何なのっ!?」

 

「何が起こったんだっ!?」

 

護衛に付いていた大学選抜機甲部隊の戦車部隊員と歩兵の1人がそう声を挙げる。

 

その直後に、再び風切音が聞こえて来たかと思うと、再び多数の砲弾が着弾!

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

凄まじい爆発が起き、歩兵部隊はおろか、40トン以上のパーシングまでもが軽々と宙に舞い、地面に叩き付けられて白旗を上げた。

 

「コ、コレは………艦砲射撃………まさか………ミズーリが………」

 

辛うじて意識を失っていなかった歩兵の1人がそう呟くと、限界を迎えて気絶。

 

そのまま戦死判定となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その艦砲射撃を行った艦………

 

ミズーリでは………

 

「次弾装填!!」

 

「次弾装填! アイッ!!」

 

「装薬急げっ!!」

 

主砲塔内で、パシフィックの歩兵達が慌しく動き回り、新たな砲弾を装填し、装薬を込める。

 

「1番砲塔、装填完了!!」

 

「2番完了!」

 

「3番も良し!!」

 

「目標、12………04!」

 

射撃管制室で、各砲塔からの装填完了の報告を聞いたカジキが、地図を見ながら射撃位置を指示。

 

それに合わせて、ミズーリの主砲塔が旋回し、仰角と方位角を調整する。

 

「痛いのをブッ喰らわせてやれっ!!」

 

「てぇーっ!!」

 

ホージローがそう言うと、カジキの砲撃指示が飛び、ミズーリの全主砲が斉射される!

 

砲弾は弧を描いて飛び、演習場の一角に在ったカールを、護衛部隊ごと吹き飛ばす!!

 

「ハハハハハッ! 痛快だなっ!!」

 

「まさか自分達が用意した戦艦でやられる事になるなんて………大学選抜チームに同情するね」

 

景気良く主砲をブッ放すミズーリの姿を見て、シイラとツナがそう言い合う。

 

「………分かった。ありがとう」

 

そんな中で、何者からか通信を受けていた弘樹が、そう言って通信機を切った。

 

「カジキ、新たな目標が出来た。そちらも頼む」

 

そして、艦砲射撃の指示を出しているカジキにそう言う。

 

「新たな目標? 何だ?」

 

「それは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

愛里寿とイプシロンの居る大学選抜機甲部隊の本隊では………

 

「何たる事だ! ミズーリを奪われるとは!!」

 

「…………」

 

イプシロンが忌々し気にそう言い放ち、愛里寿も若干苦い顔を浮かべていた。

 

「総司令! 最後のカールが撃破されました! 長距離砲部隊は全滅です!」

 

そこで、センチュリオンの装填手兼通信手から、最後のカールが撃破され、長距離砲部隊が全滅したとの報告が挙がる。

 

「分かった。では………」

 

と、それに対し、愛里寿が新たな指示を下そうとしたところ………

 

爆発音が聞こえて来た!!

 

「「!?」」

 

その爆発音が聞こえた、左後方を振り返る愛里寿とイプシロン。

 

自分達が今いる場所から結構離れた位置で、空高くまで爆煙が舞い上がっていた。

 

「! あの場所は!?」

 

イプシロンが爆煙が上がっていた場所を見て、何かを思い至った瞬間………

 

『こちらアズミ! 総司令! 応答願いますっ!!』

 

試合開始直後に、手痛い目に遭わされて補給地点にまで後退していたアズミ隊のアズミから焦った様子での通信が入る。

 

「! 回して!………アズミ、如何したの?」

 

愛里寿はすぐに装填手兼通信手から通信を回してもらうと、アズミに応答する。

 

『第1補給地点が砲撃されました! 私の隊は間一髪で退避が間に合いましたけど、第1補給地点の機能は喪失しました!!』

 

「!!」

 

アズミから報告を聞いた愛里寿が驚きを示した瞬間………

 

更に立て続けに爆発音が響き、遠方数ヶ所で爆煙が上がった!

 

「! 他の補給地点に飛行場までっ!?」

 

「馬鹿な! 何故奴等がコチラの補給地点の場所を知っている!? 制空権が拮抗している今、偵察機は居ない筈だ!!」

 

それが他の補給地点や、航空機用の飛行場の場所である事を愛里寿が察すると、イプシロンがそう叫ぶ。

 

『総司令。補給地点に居た隊員の話ですが………『歩く段ボール』を見たと」

 

「『歩く段ボール』?」

 

「何だ、それは? ふざけているのか?」

 

そこでアズミからそう報告が挙がるが、愛里寿とイプシロンは困惑するばかりだった。

 

「………第1ラインを放棄。第2ラインまで後退する」

 

しかし、すぐに頭を切り替え、更に後方に在る第2補給ラインまで後退する事を決定した。

 

「おのれ、大洗連合め………この借りはすぐに返すぞ」

 

イプシロンは恨みがましくそう言い放ち、後退する大学選抜機甲部隊本隊の護衛に就く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ミズーリ制圧戦後編。
遂にミズーリを占拠。
そしてそのまま利用して、大学選抜部隊の長距離砲撃部隊を全滅させました。
更に補給地点も攻撃し、大学選抜部隊は後退を余儀なくされます。

いよいよ次回から遊園地跡での戦いに突入します。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター27『遊園地跡へ向かえです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター27『遊園地跡へ向かえです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズーリを制圧した弘樹とパシフィック機甲部隊は………

 

その艦砲射撃を逆に利用し、大学選抜機甲部隊の長距離砲撃部隊を壊滅させた。

 

更に、大学選抜機甲部隊の補給地点と飛行場も潰す事に成功。

 

大学選抜機甲部隊は、第2補給ラインまでの後退を余儀なくされた。

 

しかし………

 

まだ戦いは始まったばかりである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・湿地地帯………

 

長距離砲撃部隊を壊滅させ、大学選抜機甲部隊を一時退かせた大洗連合は、大洗機甲部隊が居たこの場所に集結していた。

 

「只今戻りました」

 

パシフィックと共にミズーリの制圧に向かっていた弘樹が、漸く大洗機甲部隊に復帰する。

 

「お疲れ様、弘樹くん。ミズーリは?」

 

「主砲弾は撃ち尽くして、座礁させた後に機関の火を落としました。試合中に再び使う事は不可能でしょう」

 

みほが尋ねると、しっかりと後処理をしてきたと報告する弘樹。

 

「そう………ありがとう」

 

「いえ。では、部隊に戻ります」

 

みほに向かってヤマト式敬礼をすると、弘樹はとらさん分隊に復帰する。

 

「大活躍だったみたいだな、舩坂」

 

そんな弘樹に、大詔が声を掛けて来た。

 

「いや、敵の補給地点を潰せたのはお前の功績だ。よくあの敵部隊の目を掻い潜って場所を特定したな」

 

「スニーキングミッションはお手の物さ」

 

弘樹とそう会話を交わす大詔。

 

そう………

 

大学選抜機甲部隊の補給地点を調べ出したのは、何を隠そう大詔だったのである。

 

単身、大学選抜機甲部隊の目を掻い潜り、補給地点を調べ上げ、その場所をミズーリに居た弘樹に知らせた。

 

まさか歩兵が単独で部隊を突破して補給地点の場所を調べ上げるなど夢にも思っていなかった大学選抜機甲部隊は、まんまと一泡噴かされたのである。

 

大学選抜機甲部隊の補給地点に居た隊員が見た『歩く段ボール』の正体こそ、潜入していた大詔なのだ。

 

「みぽりん。ココからは如何するの?」

 

とそこで、沙織がコレからの作戦について尋ねる。

 

「………コチラが補給地点を潰したとなれば、大学選抜機甲部隊も報復として補給地点を狙って来る事が考えられます。部隊の半数は、補給地点の防衛に回って下さい」

 

「半数もですか?」

 

みほは補給地点の防衛が必要だと言うが、その為に部隊の半数を回すと言う事に、優花里が思わず声を挙げる。

 

「装備の規格が統一されてる大学選抜機甲部隊に対して、私達は学校ごとにバラバラだから、何処か1つでも補給地点が潰されちゃうと厳しくなる。防衛戦力は多目に出さないと………」

 

「みほちゃん。知波単は防衛に回るわ」

 

するとそこで、絹代のチハ(旧砲塔)がⅣ号の隣に着け、そう言って来た。

 

「お願いします。絹代さん。では、防衛に回る部隊は………」

 

そう返すとみほは、補給地点の防衛に回ってもらう部隊名を挙げる。

 

名乗り出た知波単に、総隊長であるミカが一時離脱してしまった継続、ミズーリとの戦いで部隊にそれなりの損耗を出してしまったパシフィック………

 

それに黒森峰とプラウダ&ツァーリの救援で損害を被ったボンプル、元より防御戦術を得意とするマジノ………

 

更にBC自由、竪琴&クメン、クレオパトラ&スフィンクス、鉱関が防衛に回る様に伝達。

 

黒森峰とプラウダ&ツァーリも、長距離砲撃で損害を受けていたが、元々の部隊規模が大きかったので、被害の程度は軽く、攻勢部隊に残存する事になった。

 

「この戦いはフラッグ車を倒さない限り終わりません。ですが、相手のフラッグ車は部隊の最後尾に陣取って居ます」

 

「フラッグ車を撃破するには、取り巻きをドンドン倒して、痺れを切らさせるしかないって事ね」

 

「カチューシャが良くやられるパターンですね」

 

「そんな事は言わなくて良いのっ!!」

 

みほが今度の方針を口にすると、カチューシャとノンナが漫才の様な遣り取りを交わす。

 

「…………」

 

そんな2人の遣り取りも余所に、みほは地図を広げて次の戦いの場所を思案する。

 

「………次の戦場は此処です」

 

やがて、地図上の1点………

 

『遊園地跡』を示してそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

第2補給ラインまで後退していた大学選抜チームは………

 

『敵部隊、2手に分かれて移動を開始。片方は後退しています。恐らく、補給地点の防衛に回る積りでしょう』

 

「もう片方は?」

 

『進路を北西に取っています。この先には………遊園地跡がありますね』

 

「遊園地跡………そこで戦う積りか」

 

偵察兵からの大洗連合部隊の動きを聞いて、愛里寿はそう推測した。

 

「大洗得意のゲリラ戦を仕掛ける積りか………だが、ゲリラ戦で何時までも頂点に立っていると思ったら大間違いだぞ」

 

イプシロンがそう唸る。

 

元々島田流の戦略・戦術は、みほのそれに近く、ゲリラ戦も得意とするところだった。

 

「………先ず報復も兼ねて補給地点を潰す。そして遊園地跡で籠城している本隊を叩く」

 

「退き先も無く、後詰めが無い籠城を叩くのは簡単ですね」

 

愛里寿がそう指示すると、ルミがそう割り込む。

 

「部隊を2分する。片方は補給地点へ向かえ。もう片方は私と共に遊園地跡へ向かう。メグミ、アズミ、ルミ、一緒に来い」

 

「「「了解っ!!」」」

 

「如何やら漸く相見えそうだな………舩坂 弘樹」

 

そして、部隊を2分させ、片方を補給地点へ向かわせると、もう片方の指揮を執り、バミューダ三姉妹とイプシロンを連れて、遊園地跡に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

遊園地跡へと到着したみほ達は………

 

「ココからの戦いは、皆さん其々の対応能力が問われます。個々の特徴を活かして、チームワークで戦いましょう」

 

欧風な建物が立ち並ぶ、営業時には売店やキャラクターショップであっただろう建物が立ち並ぶ通りを進軍している中で、みほが皆に向かってそう呼び掛ける。

 

「急造チームでチームワーク?」

 

何を言ってるんだとばかりにエリカが冷笑するが………

 

「急造でもチームはチームだ」

 

「ぐ………」

 

まほにピシャリとそう言われて、黙り込む。

 

「あら? 天下の黒森峰さんは、急造チームじゃチームワークなんて出来ましぇ~ん、なんて泣き言を言うの? いや、恐れ入ったわ」

 

するとそこで、クロエがエリカを嘲る様にそう言い放つ。

 

「! 馬鹿にするんじゃないわよ! やってやろうじゃないの! 急造でもチームワークぐらい出来るわよ!!」

 

すぐさま向きになって反論するエリカ。

 

と、その瞬間!!

 

クロエがヘルキャットのハッチから飛び出したかと思うと、エリカのティーガーⅡの砲塔天板上に着地。

 

そのままエリカの眼前に屈み込み、エリカに対してメンチを切る様な仕草をする。

 

「ううっ!?………!!」

 

一瞬気後れしたものの、生来の負けん気でメンチを切り返すエリカ。

 

一触即発かと思われたが………

 

「………貴方良く見ると可愛いわね」

 

「え゛っ!?」

 

クロエが不意にそう言い放ち、エリカが思わず変な声を挙げた瞬間………

 

クロエは、エリカの頬に口付けた。

 

「!? なあっ!?」

 

「頂きま~すっ!!」

 

エリカが仰天して固まった瞬間、クロエはルパンダイブでエリカを押し倒す様にしながら、ティーガーⅡの車内へ突入した!

 

そう………

 

西部機甲部隊の総隊長・クロエは………

 

『両刀』なのである。

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「えっ!? ちょっ!? 何っ!?」

 

「アハハハハッ! 貴方達も纏めて面倒見てあげるわっ!?」

 

「イヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「や、止めてぇっ!?」

 

「だ、駄目! スカートがっ!?………ああ、ブラがっ!?」

 

「良いではないか! 良いではないか!」

 

ティーガーⅡが漫画の様にドッタンバッタンしている中、絹を裂く様な悲鳴が何度も響き渡り………

 

やがてそれが艶っぽい悲鳴に代わる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

思わぬ事態に、みほ達は茫然と固まっている。

 

やがて、ティーガーⅡが静かになると………

 

「御馳走様~」

 

キューポラから、妙に肌がツヤツヤとしているクロエがそう言いながら出て来て、自分のヘルキャットに戻って行った。

 

「…………」

 

その後で、妙にやつれ、着衣が乱れているエリカが、這い出る様にキューポラから姿を見せる。

 

「エ、エリカ………だ、大丈夫か?」

 

まほが恐る恐ると言った具合に声を掛ける。

 

「………アハ…………アハハハハ………ハハハハハ………」

 

しかしエリカは、焦点の合っていない目で、虚ろな表情のまま、乾いた笑いを上げ始める。

 

「エ、エリカ………」

 

その光景に愕然となるまほ。

 

「………他の子も味見しようかしら?」

 

とそこで、クロエがそうボソリと呟いた瞬間………

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

西部の面々としずか以外の戦車チームの車長が、一斉に車内へ引っ込み、ハッチをガッチリと閉めた!

 

「ハハハハハッ! 冗談よ冗談!」

 

「フフフ、英雄色を好むですなぁ」

 

ケタケタと笑うクロエに、只1人愉快そうにしているしずか。

 

「クロエーッ!!」

 

とそこで、西部のT28のシャムが怒声を挙げた。

 

「あ~、ハイハイ。今行きま~す」

 

しかしクロエは、少しも慌てる事なく、今度はT28の方へと向かう。

 

「「「「何かホント、すみません………」」」」

 

そんなクロエの事を、心底申し訳無さそうに謝罪するシロミ、ノーラ、ブチ、ミケ。

 

「彼女の腕は認めるが………アレは如何にかならんのか?」

 

「出来るならとっくにやってるよ………」

 

弘樹の問いに、力無く笑ってそう返すジャンゴ。

 

その後、今度はT28の方がドッタンバッタンし始めたが、もう全員が無視を決め込んだのだった………

 

「ココからが正念場ですね………」

 

空気を変える様にチャーチルの車内でそう呟くオレンジペコ。

 

「けど、ペコ。私のデータによれば、未だに総合戦力比では大学選抜機甲部隊側が圧倒的に有利。想定勝敗率は大学選抜チーム側が80%よ」

 

すると砲手席のアッサムが、私物のノートPCの画面に自身が収集したデータを表示させながらそう言って来る。

 

「運命は浮気者。不利な方が負けるとは限らない………ダージリン様ならきっとそう仰いますよ」

 

だが、そんなアッサムを見返しながら、オレンジペコは堂々とそう言い放った。

 

「………そうね。彼女ならそう言いそうね」

 

それを聞いたアッサムはフッと笑うと、ノートPCを閉じて仕舞うのだった。

 

(………そのダージリン様が居てくれたら、本当に心強いのですが)

 

しかし、オレンジペコの胸中にはふとそんな思いが過る。

 

(………ううん。今のグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊の総隊長は私………私が頑張らないと)

 

けれども、すぐにその思いを振り払い、表情を引き締める。

 

その時、オレンジペコは気づかなかった………

 

「「…………」」

 

そんなオレンジペコの乗るチャーチルを、建物の上から見下ろしている………

 

仮面を付けた男女の姿が在った事に………

 

「…………」

 

そして、遊園地内を進軍する一団の中で………

 

梓がペリスコープ越しに、園内に在る一番高い丘の上に建てられている………

 

巨大観覧車を見つめていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大洗連合部隊の補給地点の防衛に向かった部隊は………

 

「急げーっ! ドンドン積み込めっ!!」

 

「移動したら、すぐに陣地を構築するんだぞっ!!」

 

補給物資が、次々とトラックに積み込まれて行く。

 

大学選抜機甲部隊側が補給地点を後退させたので、逆に大洗連合部隊側は補給地点を更に前線に近づける作業に入ったのだ。

 

装備が統一されている大学選抜機甲部隊側に比べて、様々な学園艦の機甲部隊の混成部隊である大洗連合部隊では、物資の量も桁違いである。

 

しかし、そこは裏方の達人………我等が整備長・敏郎の指揮の元、迅速な移動準備が行われている。

 

「後方支援が勝敗を決める! 迅速に行動しろっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

敏郎の号令一下、次々に物資を運んで行く大洗連合部隊の後方支援部隊。

 

『コチラ西! 来たわよっ!! 大学選抜機甲部隊よっ!!』

 

するとそこで、補給地点の護衛に就いていた部隊の中に居た絹代が、敏郎にそう報告を入れて来た。

 

「来たか………もう間も無く作業は終わる。食い止められるか?」

 

『任せておいて』

 

「頼むぞ………作業を急がせろーっ!!」

 

だが敏郎は冷静に対処するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、遊園地跡のみほ達は………

 

大洗連合が入って来た南正面入り口に黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊………

 

西裏門に西部機甲部隊としずか、ナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊………

 

東通用門にグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、天竺ジョロキア機甲部隊が陣取り、防備を固めている。

 

残りのサンダース&カーネル機甲部隊、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊、ベルウォール機甲部隊、大洗機甲部隊は北側に富士山を象った展望台が在る中央広場に陣取っていた。

 

状況に応じ、各所の応援に向かう積りの様だ。

 

更に空襲を警戒し、各校の高射部隊が園内の各所に配置されており、対空機銃や高射砲が空を睨み付ける様に向けられている。

 

展望台の上に陣取ったⅣ号の上で、みほが双眼鏡、優花里が砲隊鏡を構えている。

 

Ⅳ号の傍には同じ様に双眼鏡を構えた楓や小太郎と言った偵察兵の姿も在り、良く見ると園内の各高所にはカモフラージュを施した偵察兵達が双眼鏡や望遠鏡を構えている。

 

「………来る」

 

やがてみほが、大学選抜機甲部隊の物と思われる土煙を発見し、そう声を挙げる。

 

「大学選抜機甲部隊、接近して来ました。皆さん、十分に警戒して下さい」

 

『『『『『『『『『『…………』』』』』』』』』』

 

沙織が園内に居る全員へ通信を飛ばすと、部隊は緊張に包まれる。

 

「………西住総司令。意見具申、宜しいですか?」

 

するとそこで、梓がみほへそう通信を飛ばした。

 

「? 如何したの、梓ちゃん?」

 

「私に1つ、考えが有ります」

 

「………言ってみて」

 

梓からの提案に耳を傾けるみほ。

 

「………如何でしょうか?」

 

「………今からで間に合う?」

 

みほは梓にそう問い返す。

 

「ギリギリ………いえ! 間に合わせて見せますっ!!」

 

梓は引き締まった表情で、みほにそう返す。

 

「………分かりました。その案を採用します」

 

「! ありがとうございますっ!!」

 

「時間が有りません。すぐに実行に移して下さい」

 

「了解! 梓よりハムスターさん分隊へ! 協力を要請しますっ!!」

 

「こちらハムスターさん分隊。話は聞いて居ました。すぐに取り掛かります」

 

そしてすぐに梓はハムスターさん分隊へ協力を要請し、話を聞いていたハムスターさん分隊の勇武は、直ちに梓の作戦を実行に移す。

 

「…………」

 

梓は、みほへヤマト式敬礼をしたかと思うと、M3リーを発進させ、独立行動に入るのだった。

 

果たして、彼女の作戦とは何か?

 

迫る大学選抜機甲部隊を前に、間に合うのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

大学選抜チーム・島田流との対決も折り返し地点。
遊園地跡での決戦準備になります。

原作では居た知波単が補給地点防衛に回っていますが、コレはとある展開を考えての事です。
それが何かはお楽しみです。

そんな知波単の代わりを務める西部ですが………
クロエが相変わらずフリーダムです(笑)
今回、結構踏み込んだ描写をしてみましたが、問題が有りましたら訂正・削除しますのでご一報下さい。
ギャグとして流していただけると一番幸いです。

そして何やら作戦の準備に入る梓達。
原作よりパワーアップしたミフネ作戦が炸裂しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター28『大学選抜機甲部隊の脅威です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター28『大学選抜機甲部隊の脅威です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上の演習場内に在った遊園地跡での籠城戦を決めた大洗連合部隊。

 

愛里寿は報復も兼ねて、大洗連合部隊の補給地点を襲撃させ、逃げ足を潰そうとする。

 

大洗連合部隊が、遊園地跡内にて大学選抜機甲部隊を待ち受ける中………

 

何かを思い付いた梓が、ウサギさんチームとハムスターさん分隊を連れて、独立行動を執る。

 

果たして、彼女の策とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・遊園地跡内………

 

中央広場………

 

「南正面より、敵多数接近!」

 

南正面入り口を見張っていた偵察兵からそう報告が入る。

 

「敵の詳しい規模は分かりますか?」

 

「土煙が激しく、確認出来ません」

 

敵の詳細について尋ねるみほだが、激しい土煙の為、確認出来ないと返って来る。

 

「………さっき、雨が降って居たな?」

 

「ああ。なのに大規模の部隊が動いているとは言え、土煙が激しく上がるとは………妙だな」

 

と、土煙が激しく上がっていると言う報告に、弘樹とシメオンが違和感を感じる。

 

「何れにせよ、南正面から敵が来ているのは事実です。増援部隊を送ります」

 

しかし、南正面に増援を送る必要が有ると判断したみほは、レオポンさんチーム+おおかみさん分隊、アヒルさんチーム+ペンギンさん分隊、カバさんチーム+ワニさん分隊、カメさんチーム+ツルさん分隊、そしてカモさんチーム+マンボウ分隊が、南正面入り口へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡・南正面ゲート………

 

「来るぞ………」

 

段々と自分達が陣取っている場所に近づいて来る土煙を見て、まほがそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊の面々に緊張が走る。

 

やがて、土煙が両機甲部隊の前まで達すると………

 

「撃てっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

まほの号令一下、戦車部隊と対戦車砲兵隊が一斉に砲撃を開始した!

 

ティーガーⅠやティーガーⅡ、IS-2にKV-2を含めた高火力戦車部隊に、アハトアハトやBS-3 100㎜野砲を備える砲兵部隊の砲撃が、容赦無く大学選抜機甲部隊が存在する土煙の中へ叩き込まれる。

 

だが………

 

土煙の中から聞こえて来たのは、砲弾が何か堅いモノに当たって弾かれる音だけだった。

 

「! 何っ………?」

 

まほが僅かに驚きの声を挙げた瞬間………

 

土煙の中から『妙に角ばったパーシング』の軍団が姿を見せた!

 

「!? 何よ、アレッ!?」

 

「あの砲塔の装甲は、パンターの物であります!」

 

カチューシャと久美がそう声を挙げる。

 

「『スーパーパーシング』ですね………」

 

と、ノンナがその『妙に角ばったパーシング』………

 

『スーパーパーシング』を見てそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スーパーパーシング』

 

ドイツ軍のティーガーⅠやパンターに対抗する為に開発されたパーシングだったが………

 

実戦投入された頃には、ドイツ軍はより強力なティーガーⅡを投入していた。

 

そこで急遽長砲身・大威力の砲を搭載したパーシングを製造。

 

しかし、装甲が通常のパーシングと同じであった為、現地の戦車兵達が撃破したパンターの車体装甲や、ボイラー用の鋼板を張り付けると言った独自の改修が行われた。

 

それが『スーパーパーシング』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「態々パンターの装甲を張り付けたのを投入するなんて………嫌がらせですかね」

 

パンター乗りの小梅が、パンターの装甲を張り付けているスーパーパーシングを見て、不愉快そうな表情を見せる。

 

だが、その防御力は絶大であり、黒森峰機甲部隊とプラウダ&ツァーリ機甲部隊の攻撃は悉く弾かれる。

 

「あの土煙は車両を隠す為の煙幕だったのね。小賢しい」

 

「お待たせー」

 

「敵は何処ですかっ!?」

 

とエリカがそう言ったところで、大洗機甲部隊の増援部隊が到着する。

 

「現在、南正面門から大挙して押し寄せて来ている。装甲を強化したスーパーパーシングだ。一筋縄では行かんぞ」

 

増援部隊に向かって、まほがそう警告する。

 

「良し分かったぁっ!! 撃て撃てぇーっ!!」

 

「分かってないでしょ、桃ちゃん!」

 

そこへ久しぶりトリガーハッピーを発症した桃が叫びを挙げ、柚子にツッコミを入れられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

東通用門に陣取る、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、天竺ジョロキア機甲部隊の方でも………

 

『敵、接近中! 煙幕の為、車輌詳細は不明です!』

 

高所から東通用門を警戒していたブリティッシュ偵察兵から、オレンジペコにそう報告が飛ぶ。

 

「皆さん、戦闘準備をお願いします」

 

「こっちの門は狭いわ。通り抜けられるのはチャーフィーぐらいよ。慌てないで」

 

オレンジペコが皆に呼び掛けると、アッサムがそう言って来る。

 

彼女の言葉通り、東通用門は普通貨物車両の為の門であり、通路自体は5メートルの幅が在るが、門となっているシャッターは3メートルしかない。

 

大学選抜機甲部隊の保有する戦車の内、チャーフィーはギリギリ通れるが、パーシングは無理と言う幅である。

 

その為、彼女は此処から来るのは精々偵察部隊だと踏んでいた。

 

「そうですね………」

 

しかし、オレンジペコは何か嫌な予感を感じている。

 

「お姉ちゃん………何か、首の裏がムズムズする」

 

「貴方がそう言う時って、大抵何か悪い事が起きる時よね………」

 

天竺ジョロキア機甲部隊の方でも、ルウとローリエがそんな事を言い合っていた。

 

とその時!

 

東通用口のシャッターが、爆発と共に吹き飛んだ!!

 

「チャーフィーッ! いざ尋常に勝負ですわっ!!」

 

「ちょっ! ローズヒップさんっ!!」

 

途端にローズヒップのクルセイダーが一番槍とばかりに、単騎で突っ込み、ティムが思わず声を挙げる。

 

そんなティムの事など目に入らず、ローズヒップのクルセイダーは、粉煙の中に居ると思われるチャーフィーに向かって発砲した。

 

しかし………

 

ガキィンッ!と言う甲高い音がしたかと思うと、クルセイダーの放った砲弾は、明後日の方向へ弾かれる。

 

「うん? 弾かれた………?」

 

それにジャスパーが違和感を感じる。

 

チャーフィーで最も装甲が厚い箇所は、防盾で38ミリ。

 

アレ程の近距離ならば、クルセイダーの6ポンド砲でも余裕で貫通出来る。

 

つまり、今ローズヒップが相対しているのはチャーフィーではないと言う事になる………

 

それを証明するかの様に、粉煙の中から、チャーフィーの75ミリ砲よりも明らかに巨大な砲身が姿を見せる。

 

「! ローズヒップさん! 下がって下さいっ!!」

 

「ほ?」

 

すぐさまオレンジペコが叫ぶと、ローズヒップのクルセイダーは車体を滑らせて横に逸れた。

 

直後にそのお化けの様な主砲が火を噴く!

 

その威力は、発射の余波でローズヒップのクルセイダーが僅かに動かされ、オレンジペコの乗るチャーチルが遮蔽物にしていた建物を、1発で跡形も無く吹き飛ばした程だった。

 

「後退ですわーっ!!」

 

それで敵がトンでもない奴である事を理解したローズヒップが慌てて後退する。

 

やがて、粉煙の中からゆっくりと姿を見せるその巨大な主砲の持ち主………

 

迫った東通用門を、その巨体と重量で無理矢理崩して押し広げて侵入して来た様である。

 

パーシングを巨大にしてゴツくした様な見た目のソレは………

 

「そんなっ!? 『T30重戦車』!?」

 

「何て物を持ち出して来やがる………」

 

ニルギリが仰天の声を挙げ、キーマが苦々しげに呟く。

 

するとその後ろから、同じ様な形状の車両が続いて来る。

 

「! 『T29重戦車』と『T34重戦車』まで!?」

 

「千客万来だな………」

 

驚きの声を挙げるルクリリと、ボソリと呟くターメリック。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『T29重戦車』、『T30重戦車』、『T34重戦車』………

 

ドイツ軍のティーガーⅡに対抗出来る戦車を作る為にアメリカが開発した試作車両達である。

 

重戦車の名に相応しい装甲と、T29が105ミリ砲、T30が155ミリ榴弾砲、T34が120ミリ高射砲を装備したアメリカの超重戦車である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらカイエン! 3輌の後ろから兵員輸送車が多数続いています!』

 

「如何やらコッチに来た戦車はあの3輌だけみたいだな」

 

「3輌でも十二分過ぎる脅威だがな………」

 

高所に居るジョロキア偵察兵からの報告に、ガラムとマサラがそう言い合う。

 

直後に、T29、T30、T34が次々に発砲!

 

直撃弾は無かったが、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と天竺ジョロキア機甲部隊の周りには巨大なクレーターが形成された。

 

「! 応戦して下さいっ!!」

 

オレンジペコが我に返った様に指示を飛ばす。

 

グロリアーナと天竺の戦車部隊、ブリティッシュとジョロキアの砲兵達が一斉に砲撃を開始する。

 

しかし、コメットの77ミリ砲どころか、チャレンジャーの17ポンド砲さえT29、T30、T34には通用せず、弾かれてしまう。

 

「コチラは東通用門のオレンジペコです。敵はT29、T30、T34の超重戦車部隊です。我が方の火力では対応出来ません。至急増援を!」

 

それを見たオレンジペコは、すぐにみほへ増援要請を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央広場………

 

「サンダース&カーネルとベルウォールの皆さんは東通用門へ向かって下さい!」

 

みほはすぐさま、サンダース&カーネル機甲部隊とベルウォール機甲部隊を東通用門への増援に向かわせる。

 

「もう向かってるよ」

 

「みほ! 多分、西裏門からも来るわよ! 気を付けなさい!」

 

サンダース&カーネル機甲部隊はケイを先頭に既に東通用門へ向かって移動を始めており、ベルウォール機甲部隊もエミがみほにそう言い残して後に続く。

 

「みぽりん! 補給地点も攻撃を受けてるって!!」

 

「…………」

 

その直後、沙織からそう報告が入り、みほは険しい表情を浮かべる。

 

「大丈夫です、西住総司令。向こうには西総隊長達が居ます」

 

しかしそこで、そんなみほを安心させる様に、弘樹がそう言う。

 

「うん………絹代さん、頼みます」

 

その言葉を聞いたみほは一瞬笑みを浮かべると、虚空に向かってそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その補給地点を守っている絹代達は………

 

「うわあっ! やられました! 申し訳ありませんっ!!」

 

知波単機甲部隊の一式中戦車が被弾し、白旗を上げる。

 

「撃てぇーっ!!」

 

一式機動四十七粍速射砲に付いていた知波単砲兵達が、迫り繰るパーシングに向かって発砲する。

 

しかし、砲弾はアッサリとパーシングに弾かれてしまう。

 

そしてお返しとばかりに、パーシングから榴弾が放たれる。

 

「「「「「バンザーイッ!!」」」」」

 

散り際も勇ましく叫びながら、バラバラになった一式機動四十七粍速射砲の部品ごと宙に舞い上げられる知波単砲兵達。

 

「怯むな! ココは絶対に死守するのよっ!!」

 

だが、嵩む損害にも怯む事無く、カレンがそう叫んで彼女のハッピータイガーが発砲!

 

砲弾は一旦地面でバウンドし、1輌のパーシングの車体下部に命中!

 

爆発の後に、そのパーシングから白旗が上がる。

 

しかし、すぐに別のパーシングが進んで来て、撃破された車両の穴埋めをする。

 

「クッ! 大した物量ね!!」

 

「カレン! 気後れは禁物よ! 先ず気持ちで負けてたら勝てるモノも勝てないわ!」

 

そんな大学選抜機甲部隊の様にカレンが愚痴ると、隣に並んだチハ(旧砲塔)のハッチから姿を見せていた絹代がそう言って来る。

 

「分かってます!」

 

『こちらマジノ機甲部隊! 防衛陣地が限界です! 救援を願います!!』

 

と、カレンがそう返すと、マジノ機甲部隊総隊長であるエクレールから救援要請が入った。

 

「! エクレールッ!?」

 

驚きの声を挙げるカレン。

 

彼女は元マジノの所属であり、エクレールとは親友で在った。

 

「カレン………」

 

「…………」

 

ライが声を掛ける中、カレンは苦悩の様子を見せる。

 

正直に言えば、すぐにでも助けに行きたいのが本音だ。

 

しかし、知波単機甲部隊にとって貴重な重戦車である自分が抜けてしまっては………

 

「行きなさい、カレン」

 

するとそこで、隣に居た絹代がそう言って来た。

 

「! 西総隊長っ!」

 

「友達が危ないんでしょ? 行ってあげなさい」

 

「しかし………!?」

 

「見くびるなっ!!」

 

「!?」

 

絹代にそう怒鳴り返され、カレンが思わず萎縮した瞬間………

 

絹代のチハ(旧砲塔)が、パーシングの軍団目掛けて突撃する!

 

当然パーシング軍団からは雨の様な砲撃がお見舞いされるが………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びを挙げながら、絹代はまるでニュータイプの様に砲弾が通る場所・着弾する場所を先読みし、急旋回・急停止・急発進と、身体に凄まじい負担が掛かる機動を行って回避。

 

やがてパーシング1輌に肉薄したかと思うと、居合い斬りの様に擦れ違い様に、至近距離からターレットリングにタ弾を叩き込んだ!

 

タ弾を叩き込まれたパーシングからは白旗が上がる。

 

「このぉっ!」

 

「よくもっ!!」

 

今度は後方に控えていた兵員輸送車輌から、対戦車兵を中心とした大学選抜歩兵部隊が飛び出して来る。

 

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

それに対し、絹代は機銃架に備え付けられていた九七式車載重機関銃を掃射する!

 

「「「「「「「「「「ごわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」

 

瞬く間に蜂の巣にされて行く大学選抜歩兵部隊。

 

「西総隊長ーっ!!」

 

「総隊長を守れーっ!! 突撃ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

すると、最前線に飛び出した絹代を守る為、知波単歩兵部隊も着剣して万歳突撃を繰り出した!

 

「行けぇっ! カレンッ!!」

 

「! ライ! 付いて来てっ!!」

 

「分かった! 分隊、続けっ!!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

再度絹代が発破を掛けると、カレンはライと彼の率いる随伴歩兵部隊を引き連れて、エクレールの救援に向かうのだった。

 

「よおし! ココは気合の勝負よっ!! 各員の奮戦に期待するわっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それを見送った絹代が、知波単機甲部隊の面々にそう言い放ち、隊員達が雄叫びを挙げる。

 

「西総隊長………!」

 

そんな絹代の姿を見て、自分も力になりたいと思う福田だったが、彼女の九五式軽戦車ではパーシングに立ち向かうには貧弱過ぎた。

 

搭乗員達も、絹代車の搭乗員並みの技量は無い。

 

(自分に出来る事は無いのでありますか………!?)

 

そう思った福田だったが、そこで何かを思い出した様に、補給地点から見えている港に入港している知波単学園の学園艦を見やった。

 

「…………」

 

やがて決意を固めた様な表情となったかと思うと、その知波単学園艦へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話。投稿させていただきました。

遂に遊園地跡での戦闘が開始。
大学選抜チームも遂に主力車両を投入してきます。
そして補給地点にも猛攻が。

果たして、大洗連合はこの攻撃を凌げるか?
梓の作戦は間に合うか?
そして福田は何を?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター29『島田 愛里寿の策略です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター29『島田 愛里寿の策略です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡にて、大学選抜機甲部隊との戦闘を展開させる大洗連合部隊。

 

だが、大学選抜部隊は『スーパーパーシング』、『T29重戦車』、『T30重戦車』、『T34重戦車』と言った主力車輌を投入。

 

更に、自分達の補給地点を破壊されたお返しも兼ねて、大洗連合部隊の補給地点をも強襲する。

 

果たして、この猛攻に大洗連合部隊は耐えられるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

西裏門………

 

南正面ゲートと東通用門で戦闘が開始される中、遂にこの西裏門にも敵が現れる。

 

「撃て」

 

パーシング達が一斉砲撃を行い、西裏門を吹き飛ばす。

 

「南と東は既に交戦中。敵を押してるそうよ」

 

「私達も負けてらんないわね」

 

「待ち伏せしている敵を蹴散らして、一気に攻め立てるぞ」

 

部隊長がそう言うと、1輌のパーシングの車長とその随伴歩兵達がそう言い合う。

 

「前進」

 

そして、まだ粉煙が収まり切らない内に、大学選抜部隊は前進を始めた。

 

「さあ、私達の餌食になるのは誰かしら?」

 

味方が押しているとの情報を聞いたからか、意気揚々と進んで行く大学選抜部隊。

 

しかし………

 

「「待っていたぞ」」

 

そこに居たのは、赤いテケとヘルキャット。

 

そして、『頑張る女の子の美しい笑顔』を浮かべたしずかとクロエだった。

 

「「「「「「「「「「あ………」」」」」」」」」」

 

思わず固まる大学選抜部隊。

 

実はこの部隊のメンバーの大半は………

 

最初にアズミに率いられ、森林地帯で1度この2人と交戦していたメンバーなのである。

 

「「我等(私達)が、地獄だっ!!」」

 

『頑張る女の子の美しい笑顔』のまま、大学選抜部隊へ突撃するクロエとしずか。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

大学選抜の戦車部隊が、悲鳴を挙げながら全速で後退する。

 

「オイ! 逃げて如何するんだっ!?」

 

「怯むな! 怯むなっ!!」

 

随伴歩兵部隊の歩兵達が、慌てて檄を飛ばす。

 

「おのれ、地獄姉妹め! 何時までもやられっぱなしの我々ではないぞ! やれっ!!」

 

とそこで、随伴歩兵部隊の部隊長が通信機に向かってそう言ったかと思うと、風切り音が聞こえて来た。

 

「「!!」」

 

それにすぐさまクロエとしずかは反応し、お互いに離れる様に移動。

 

直後に、先程まで2人とテケとヘルキャットが居た場所に、山形の軌道で飛んで来た砲弾が着弾!

 

「! 間接射撃っ!!」

 

「自走砲ですわ!」

 

シロミとブチがそう声を挙げる。

 

その言葉通り、西裏門のやや後方には、『M40 155㎜自走加農砲』、『M41 155㎜自走榴弾砲』、『M43 8インチ自走榴弾砲』と言った自走砲の部隊が展開していた。

 

威力はカールや列車砲に遠く及ばないが、アレは規格外の代物であり、軍事道の参加規定内の自走砲としてはかなりの大口径砲の部隊だ。

 

クロエとしずかの戦いは接近戦である事を解析した愛里寿が、彼女達の配置先を読み、配備させたのである。

 

如何やら徹底して長距離から砲撃し、近寄らせない・近寄らないと言う戦法を執る積りの様だ。

 

「クロエ、下がりなさい! アレだけの大口径砲! 私のT28だって天板に直撃されれば危ないわ! アンタのヘルキャットの装甲なんて紙みたいなもんよ!!」

 

「姫! ココは一旦退こうよっ!!」

 

シャムと鈴が、クロエとしずかにそう呼び掛ける。

 

「仕方ないわね………」

 

「この屈辱は何れは返す………」

 

真面に戦えないまま後退せざるを得なくなった事に、クロエとしずかは悔しさを滲ませつつも、後退する。

 

「敵部隊、後退して行きます」

 

「良し! 自走砲部隊はそのまま砲撃を続けながら前進! 我々も園内へ突入するぞ!」

 

「ホラ! 何時までビビってるんだ!?」

 

それを確認した大学選抜歩兵部隊は、自走砲部隊にそう指示を出し、未だに怯えている大学選抜戦車チームの尻を叩いて前進させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

独立行動を執っていたウサギさんチームとハムスターさん分隊は………

 

「梓ちゃん! 敵がドンドン押し寄せてるって!!」

 

「分かってる! ローラーコースターはコレで良し………他のアトラクションは如何ですか!?」

 

優季からの報告に、車外に降りていた梓は怒鳴る様に返しながら、ローラーコースターに『何か』を施し、他のアトラクションの所に居るハムスター分隊員達に問い質す。

 

『ゴーカート! OKです!!』

 

『ウォーターライドゾーン! 設置完了!!』

 

『ロードトレインとドロップタワーもOKです!!』

 

すると、彼方此方のアトラクションに散らばっていたハムスター分隊員達から次々に返事が返って来る。

 

「了解! 後は………」

 

それを聞いた梓は、遊園地跡の中に在った丘の上………

 

大観覧車を見上げた。

 

「あの観覧車だけ………全員! 直ちに観覧車へと向かって下さいっ!!」

 

『『『『『『『『『『了解っ!!』』』』』』』』』』

 

梓はM3リーに乗り込みながらそう命じ、ハムスターさん分隊とウサギさんチームは大観覧車へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南正面ゲート………

 

「うわっ! すみません! やられましたっ!!」

 

黒森峰のパンターが1輌撃破され、白旗を上げる。

 

「カチューシャ様ぁ! 申し訳ありませんっ!!」

 

更に、プラウダ&ツァーリのT-34-76が白旗を上げる。

 

「このぉっ!!」

 

それに激昂したかの様に、カチューシャのT-34-85が、1輌のスーパーパーシングに向かって砲撃する。

 

しかし、砲弾はパンターの装甲を纏った砲塔に弾かれ、明後日の方向に飛んで行く。

 

「ああもう! 堅過ぎよっ!!」

 

「駆逐戦車部隊がやられたのが痛いですね………」

 

地団駄を踏むカチューシャを見ながら、ノンナがそう呟く。

 

先の高地での戦闘にて、カールや80㎝列車砲の直撃を受けてしまった黒森峰とプラウダの駆逐戦車部隊は損傷の度合いが酷く、まだ戦線に復帰出来ていないのである。

 

ティーガーⅠ・ⅡやKV-2、IS-2と言った高火力車輌も存在するが、敵の物量を押し返すには数が不足していた。

 

「止むを得ん。一時後退する。我々が殿を務める。損傷を受けている車輌、負傷判定を受けている歩兵達から順に撤退開始」

 

コレ以上、此処で戦闘を続けるのは不利と判断したまほは撤退を決定。

 

命令通りに、損傷を受けている車輌と負傷判定を受けている歩兵達から撤退を始める。

 

その撤退する味方部隊を守る為、まほ達の戦車部隊と随伴歩兵分隊は遅滞行動を執る。

 

「敵部隊、撤退を開始」

 

「了解。フェイズ2へ移行します」

 

すると、何故か南正面から迫って来た大学選抜部隊は足を止めての砲撃を開始した。

 

「? 足を止めた?」

 

「コチラが撤退に入ってるからって狙い撃つ積り? 馬鹿にして」

 

(本当にそうか?)

 

突如進軍を停止し、その場での砲撃を始めた大学選抜部隊を見て、小梅とエリカがそう言い合い、まほは違和感を覚える。

 

その間にも、部隊の撤退は次々に進む。

 

「ニーナ! アリーナ! 貴女達の番よっ!!」

 

「「ハイだぁっ!!」」

 

そして殿を務めていた主力メンバーの中で、ニーナとアリーナのKV-2が撤退に加わり、中央広場への直通通路に入る。

 

「今だっ!! 撃てぇっ!!」

 

するとそこで、南正面ゲート攻略部隊の部隊長から声が響き、スーパーパーシング部隊の上を通り越す様に、何かが連続で飛んで行く!

 

「!? ゲロォッ!?」

 

「アレは!? まさかっ!?」

 

まるで花火の様に炎を上げながら頭上を通り過ぎて行く物体を思わず見上げる久美とマーティン。

 

「マズイッ! ニーナ! アリーナ! 逃げろぉっ!!」

 

「「えっ………?」」

 

ピョートルがそう言った瞬間………

 

炎を上げていた物体………『ロケット弾』は、撤退行動に入っていたKV-2に次々と着弾!

 

更に流れ弾が建物にも直撃し、建物が崩れた通路に瓦礫が降り注ぐ。

 

「! 『M26 T99』!!」

 

「ロケットランチャー装備のパーシング!? そんなものまで用意していたのか!?」

 

そこで都草が、偵察兵から借りた双眼鏡でロケット弾を放った犯人………『M26 T99』を確認し、デミトリと共に驚きの声を挙げる。

 

やがて、立ち上っていた煙が収まると………

 

中央広場への直通通路は、黒焦げになっているKV-2と崩れた建物の瓦礫で埋まり、通行不能になっていた。

 

「ニーナ! アリーナ!」

 

カチューシャが思わず叫ぶ。

 

すると………

 

黒焦げになっていたKV-2の砲塔が、鈍い音を立てながら動き始める。

 

「!?」

 

カチューシャが驚いていると、KV-2の砲塔は大学選抜位部隊が陣取る南正面ゲートへと向けられ、砲がやや上向きになったかと思うと、発射された!

 

放たれた152ミリの榴弾は、弧を描いてスーパーパーシング部隊を飛び越え、たった今ロケット弾をしこたま撃ち込んで来た『M26 T99』に命中!

 

まだ残っていたロケット弾を巻き込み、巨大な爆発を起こした!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

『M26 T99』の随伴歩兵達は、当然その爆発に巻き込まれて戦死判定となる。

 

勿論、『M26 T99』も白旗を上げた。

 

だが直後に、黒焦げのKV-2も白旗を上げた。

 

「せめてもの一太刀だよ………」

 

「すまねえだぁ、カチューシャ様ぁ」

 

そして、ニーナとアリーナから、カチューシャへそう言う声が飛んだ。

 

「………良くやったわ。シベリア送りは勘弁してあげる」

 

だが、カチューシャは珍しく寛大な処置と共にニーナとアリーナを褒めた。

 

「何だよ姉ちゃん。今日は随分と優しいな」

 

「煩いわよ………」

 

からかう様に言って来たピョートルにも、カチューシャは素っ気なく返す。

 

(コレはコレで逆に怖いな………)

 

しかし、そんなカチューシャの姿に、ピョートルは逆に恐怖を覚える。

 

「オイ、ノンビリ話している場合か!? 敵が来てるんだぞっ!?」

 

とそこで、桃がツッコミを入れる様にそう言って来た。

 

「おっと、そうだった」

 

「中央広場への直通通路は塞がれた………止むを得ん。迂回ルートを行くぞ」

 

まほがそう言うと、殿に残っていた黒森峰とプラウダ&ツァーリの主要メンバーは、迂回ルートの通路を移動し始める。

 

「………フェイズ2成功。コレより予定の行動に入ります」

 

だが、そんなまほ達を見て、南正面ゲートから押し寄せて来ていた大学選抜部隊は、まほ達と付かず離れずの絶妙な距離を取りながら追撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、東通用門でも………

 

「キャアアッ!!」

 

ニルギリのチャレンジャーが、T34重戦車の120ミリ砲を真面に喰らい、車体が一瞬浮かび上がって、引っ繰り返った。

 

「! ニルギリさん!」

 

「すみません、総隊長代理………」

 

オレンジペコが声を挙げると、ニルギリの謝罪が返って来る中、引っ繰り返ったチャレンジャーの底部から白旗が上がる。

 

とそこで、今度はT30重戦車の155ミリ榴弾砲が火を噴く!

 

「「「「「「「「「「どわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

ジョロキア歩兵達が、50人ほど一気に吹き飛ばされる。

 

「駄目だ! 完全に押されてるぞっ!!」

 

ルクリリがそう叫ぶ中、マチルダⅡが発砲するが、砲弾はT29に当たったかと思うと、弾かれてしまう。

 

「ペコ。コレ以上は無理よ」

 

「…………」

 

アッサムも車長席を振り返りながらそう言い、オレンジペコは一瞬考える様な素振りを見せる。

 

「………止むを得ません。後退します。部隊は中央広場へ。主力メンバーは敵重戦車部隊を惹き付け、味方の撤退を支援します」

 

やがて、苦渋に満ちた表情でそう言い放つ。

 

「了解。皆、此処は私達に任せて!」

 

「全員、敵を挑発して」

 

それを受けて、ケイとエミからそう指示が飛ぶ。

 

「よっしゃあっ! 任せなっ!!」

 

「挑発すんのは得意中の得意だよ」

 

音子と千冬がそう言って同時に発砲。

 

放たれた砲弾は、共にT34重戦車に命中し、弾かれた。

 

「オイ、冬子! 何同じ戦車狙ってやがんだ!! 別のヤツ狙えっ!!」

 

「ああ? ふざけんじゃないよ。アンタこそ、アタシが狙った戦車を撃つんじゃないよ」

 

「「何ぃ~~~っ!?」」

 

とそこで、音子と千冬はハッチから姿を曝すと、互いにメンチを切り始める。

 

「ちょっと! 内輪揉めしてる場合じゃないでしょっ!!」

 

「「ギギギギギギギギギッ!!」」

 

エミが慌てて注意するが、2人のメンチの切り合いは更に激しさを増す。

 

「オイ、嬢ちゃん達。その辺にしときな。じゃねえと、俺等が無理矢理止めさせるぜ」

 

とそこで、バーコフがそう言いながら、2人のエレファントとヤークトパンターの傍に立った。

 

「「「…………」」」

 

その背後では、ゴダン、コチャック、ザキが睨みを利かせている。

 

「………チッ!」

 

「取り敢えず、この場はお預けだよ」

 

それを見て、漸く音子と千冬はメンチの切り合いを止めた。

 

「流石は舩坂 弘樹の戦友だな………」

 

「一瞬寒気がしましたよ………」

 

その様子を見ていたターメリックとキーマはそう言い合う。

 

「このまま敵部隊を惹き付けつつ後退! 他の部隊との合流を計ります!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

オレンジペコがそう言うと、主力メンバーは勇ましく返事を返し、敵を惹き付けつつ後退する。

 

「………東通用門、フェイズ2クリア。予定通り行動します」

 

しかし、そんなオレンジペコ達を見ながら、東通用門に展開していた大学選抜部隊の部隊長はそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央広場………

 

「南正面ゲート部隊、撤退! 東通用門と西裏門も後退中だって!! 今、主力メンバーが撤退支援で敵を引き付けてるって………」

 

「………おかしい」

 

沙織が各部隊の状況を伝えると、みほはその動きに違和感を感じる。

 

「みぽりん? 如何したの?」

 

「この敵の動きは………!? しまったっ!?」

 

その様子を見た沙織が質問するが、みほはそれには答えず、何かに気づいて慌てた様子を見せる。

 

「西住殿っ!?」

 

「みほさん、如何しました?」

 

「全部隊! 大至急野外劇場へ向かって下さいっ!!」

 

優花里と華の声にも返事を返さず、みほは即座に残っていた全部隊にそう命じる。

 

「敵の狙いは部隊長達か………」

 

そこで弘樹も敵の意図に気づき、そう声を挙げる。

 

そう………

 

今大学選抜機甲部隊は、大洗連合の各指揮官達に目を付けたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

次々と遊園地跡に殺到して来る大学選抜チーム。
そしてその狙いは、大洗連合部隊の各部隊長達。
ジワジワと追い詰められる中、梓達の作戦は間に合うのか?

そして次回………
いよいよ『あの人達』が満を持して登場します。
多分、色々な意味で呆気に取られる登場になるかと思いますので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター30『謎の美少女戦士! その名は紅茶仮面です!』

今回ちょっと、皆様にちょっとお尋ねしたい事があります。

詳しくは、後書きに書きますので、よろしくお願いします。


『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター30『謎の美少女戦士! その名は紅茶仮面です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡にて繰り広げられる大洗連合部隊と大学選抜機甲部隊の戦い。

 

だが、愛里寿の真の狙いは………

 

大洗連合部隊の指揮官・エース達を一網打尽にする事だった。

 

慌てて救援に向かうみほ達。

 

だが、その時………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

南正面ゲート、東通用門、西裏門から侵入して来た大学選抜部隊により………

 

部隊から分断され、誘導される黒森峰、プラウダ&ツァーリ、西部、ナイトウィッチ&ハロウィン、グロリアーナ&ブリティッシュ、天竺ジョロキア、サンダース&カーネル、ベルウォールの隊長陣に大洗のエース達………

 

みほ達は残るアリクイさんチームとキツネさん分隊、サンショウウオさんチームとタコさん分隊、そしてアンツィオ&ピッツァ機甲部隊を引き連れて救援に向かうが………

 

「囲まれたか………」

 

「Oh! Sh i t!!」

 

まほが苦々しく呟き、ケイも悪態を吐く。

 

現在各校主力メンバー達は、ギリシア劇場を模した、円形のステージの周りに半円形の観客席が配置されたすり鉢型の野外劇場に追い詰められていた。

 

彼女達の後方は高く堅牢な遊園地の外壁となっており、すり鉢状の縁には大学選抜部隊が戦車・歩兵部隊共々、等間隔で並んでいる。

 

「漸く追い詰めたわ……」

 

「手古摺らせてくれたわね」

 

「けど、アイツ等さえ潰せば大洗連合部隊は混乱する。そうすれば後はコッチのものだ!」

 

更にそこで、バミューダ三姉妹も到着し、他のメンツと同じ様に、随伴歩兵部隊を展開させ、主砲を向けた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

大洗連合主力メンバー達は、全員が思わず固唾を呑む。

 

「皆さん!………!? キャアッ!?」

 

とそこで、みほ達が到着したが、その眼前に榴弾が撃ち込まれて派手に爆発する。

 

「退がれっ!! T30重戦車だっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

アンチョビの声に、救援メンバーは一斉に遮蔽物に身を隠す。

 

救援メンバーが身を隠している場所の先には………

 

昼飯の角度を執って陣取っている、砲門から硝煙を上げるT30重戦車の姿が在った。

 

すぐ傍には、やはり同じ様に昼飯の角度を執って陣取っているT29重戦車とT34重戦車の姿が在った。

 

更に、その後方にはクロエ達を退がらせた自走砲部隊も居る。

 

救援メンバーを牽制する役目を負った部隊の様だが、それにしては豪勢な戦力である。

 

「コレじゃ近づけないっすよ!」

 

「アレだけ完全に包囲されていては、歩兵部隊だけでは救援出来んぞ」

 

ペパロニとエースがそう言い合う。

 

「に、西住総司令! 如何すれば………!?」

 

「…………」

 

ねこにゃーの問い掛けに、みほは苦い顔を浮かべるばかりである。

 

(梓ちゃん………まだなの?)

 

しかし、その心中ではこの状況を覆せる手立て………

 

梓の作戦の発動を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その梓達はと言うと………

 

丘の上の大観覧車傍にて………

 

「マズイデス! 皆さんが包囲されてマス!」

 

双眼鏡で園内の様子を窺っていたジェームズが、主力メンバー達が大学選抜機甲部隊に包囲されてしまったのを目撃し、そう報告を挙げる。

 

「先輩達がやられちゃうよ~」

 

「ヤバーイ!」

 

優希とあやが、若干場違いな呑気に聞こえる声を挙げる。

 

「梓! 勇武くん! まだなのっ!?」

 

あゆみが大観覧車に何かを仕掛けている梓と勇武達ハムスターさん分隊の面々にそう言う。

 

「待って! 後もうちょっと………もうちょっとなのっ!!」

 

「皆! もっと急いでくれっ!!」

 

梓が切羽詰っている様子の声で返し、勇武が焦った様にハムスターさん分隊員達にそう呼び掛ける。

 

「間に合わないよ~っ!!」

 

だが、桂利奈が挙げた声の通り、大学選抜機甲部隊は何時でも攻撃を開始出来る状態になっている。

 

「後少し! 後少しなのに! もっと時間が有ればっ!!」

 

梓は思わず、そんな弱気な叫びを挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………すると!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ではその時間………私が稼いで差し上げますわ』

 

M3リーの通信機から、凛とした声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? この声っ!?」

 

聞こえて来た声に驚きながらM3リーを振り返る梓。

 

それは彼女にとって、決して忘れられない人物からのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野外劇場………

 

「全車、攻撃用意」

 

メグミの命令で、遂に一斉に攻撃態勢に入る大学選抜機甲部隊。

 

「最早コレまでかしら………」

 

「うわあああぁぁぁぁぁーーーーーーっ! 御終いだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「桃ちゃん、煩い」

 

シュガーが思わずそう呟くと、お約束の桃の絶望に満ちた悲鳴が響き渡るが、もう慣れたものでピシャリとそう返す。

 

「攻げ………」

 

だが遂に号令が掛けられようとした、その瞬間!!

 

突如、野外劇場傍に在った売店が爆発した!!

 

「!?」

 

「何だっ!?」

 

アズミとルミが声を挙げると………

 

『黒い何か』が、爆煙を突き破る様に出現!

 

「えっ!?………キャアッ!?」

 

『黒い何か』は、近くに居たチャーフィーに体当たりを喰らわせる。

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

かなり重量差があったのか、チャーフィーはアッサリと弾き飛ばされ、大学選抜歩兵を数名巻き込んで、建物に叩き付けられると、白旗を上げた。

 

「!? アレはっ!?」

 

「『ブラックプリンス』ですっ!!」

 

みほが声を挙げると、優花里が『黒い何か』………『ブラックプリンス』を見て声を挙げる。

 

と、そのブラックプリンスの砲塔が旋回したかと思うと、野外劇場を包囲していたパーシングの1輌に後ろから砲撃を見舞った!

 

砲弾はパーシングのエンジン部に命中!

 

爆発の後、直撃を受けたパーシングからも白旗が上がった。

 

「くっ! 大洗の援軍っ!? 防衛部隊っ!!」

 

メグミが叫ぶと、みほ達と対峙していた防衛部隊の一部が、ブラックプリンスの方に向き直る。

 

するとそこで、ブラックプリンスのハッチが開いた。

 

そして、そこから『ある人物』が姿を見せる。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

「ええ………」

 

「はっ………?」

 

途端に、大洗連合部隊、大学選抜機甲部隊の両方から、驚きと困惑の声が次々に挙がった。

 

「ダ、ダージリン………様?」

 

オレンジペコがそう呟く。

 

そう、ブラックプリンスの中から現れた人物は。ダージリンだった。

 

しかし、何故オレンジペコは疑問を呈しているのか?

 

それは、ダージリンの恰好に理由があった。

 

何故なら、今彼女は………

 

真っ白な衣装に、裏地が赤の白マント………

 

深緑のブーツと手袋に、赤い羽根の付いた帽子………

 

そして何より目元を隠す赤い仮面………

 

と言った奇天烈な恰好をしていたのだ。

 

「おおっ! ポワトリンだっ!!」

 

特撮好きの地市がその恰好のダージリンを見てそう声を挙げる。

 

そう………

 

彼女の恰好は………

 

如何見ても特撮番組『美少女仮面ポワトリン』のヒロイン『ポワトリン』そのものだった。

 

「愛ある限り戦いましょう。命、燃え尽きるまで。美少女戦士! 『紅茶仮面』っ!!」

 

決め台詞まで決め、ポワトリンの恰好のダージリン………

 

否!!

 

美少女戦士・紅茶仮面は、高らかに名乗りを挙げた!!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その瞬間から暫しの間………

 

大洗連合部隊と大学選抜機甲部隊の時が止まった………

 

「………ハッ!? 撃、撃てっ!! 敵だぞっ!!」

 

しかし、そこは腐っても大学選抜チーム。

 

大学選抜歩兵の1人が逸早く我に返り、そう声を挙げた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた大学選抜対戦車兵部隊が、紅茶仮面のブラックプリンスに一斉にバズーカを向ける。

 

………その瞬間に、大学選抜対戦車兵部隊に影が差した。

 

「?………!?」

 

大学選抜対戦車兵の1人がそれに反応して空を見上げると………

 

自分達に向かって降って来る1人の騎兵の姿を目撃した!!

 

「逃げろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そう声を挙げると、大学選抜対戦車兵達は確認もそこそこに散らばり始めた。

 

「!!」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

だが、逃げ遅れた数名が、騎兵の跨っていた馬に踏み潰され、戦死判定となる。

 

「あの馬は………アールグレイの!」

 

「って事は、アイツはアールグレイ………だよな?」

 

「多分………」

 

その騎兵の跨る馬が、アールグレイの愛馬であった事をセージが指摘するが、オレガノとジャスパーは困惑した様子を見せる。

 

何故なら、そのアールグレイと思われる騎兵の恰好も、ダージリンに負けず劣らず奇天烈だったからだ。

 

戦闘服の上に、胸部に赤い十字架があしらわれた黒いプレートアーマーを着込み………

 

裏地が赤の黒マントを羽織り………

 

極め付けは釣鐘の様な形をした一文字の覗き穴が開いている金色の兜と言った出で立ちである。

 

「うおっ!? 『城忍 フクロウ男爵』じゃねえかっ!!」

 

そんなアールグレイと思われず人物を見て、またも地市が声を挙げる。

 

そう………

 

アールグレイと思われる人物の恰好は………

 

特撮番組『世界忍者戦ジライヤ』に登場するイギリスの忍者・『城忍 フクロウ男爵』だったのだ。

 

「ダージリンの付き合いかしら………彼も大変ね」

 

アッサムが照準器越しにそんなアールグレイと思われる人物………もといフクロウ男爵の姿を見てそう呟く。

 

「うおおおっ! カッコイイですわぁーっ!!」

 

対照的に、紅茶仮面とフクロウ男爵の姿に目をキラキラと輝かせているローズヒップ。

 

「…………」

 

そんなローズヒップの様子を見て、心配そうな表情になるアッサム。

 

「えっ? えっ? ダージリン総隊長とアールグレイさんが如何したんですか?」

 

盲目で有る為、2人の恰好が確認出来ず、困惑するばかりのティム。

 

「ああ、ダージリン様………正体を隠していても、やっぱり素敵………」

 

そして、彼女の乗るブラックプリンスの持ち主であり、操縦手を務めている『西呉王子グローナ学園』の『キリマンジェロ』はうっとりとした視線を向けていた。

 

「あ、あの………ダージリンさん、何やってるんですか?」

 

とそこで、漸く我に返ったみほが、紅茶仮面にそう呼び掛ける。

 

「ダージリン? 何方の事ですか? 私は謎の美少女戦士、紅茶仮面ですわ」

 

しかし紅茶仮面は、短剣状の武器・ベルサーベルの先端から出現させたリボンを新体操の様に回しながらそう返す。

 

「ええ………」

 

リアクションに困り、困惑するばかりのみほ。

 

一方の弘樹は………

 

「「…………」」

 

アールグレイことフクロウ男爵とは一瞬目を合わせたが、お互いに特に何か言う事は無く、敵の方へと向き直った。

 

共にクールな性格が影響している。

 

「あー、もう! そっちのコスプレ集団は放っておきなさい! 大洗連合の主力を仕留めるのよっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

するとそこで、大学選抜戦車部隊員の1人がそう声を挙げ、攻撃部隊が改めて大洗連合主力部隊を狙う。

 

「! いけないっ!!」

 

「大丈夫。時間は稼ぎましたわ」

 

みほが慌てるが、紅茶仮面は冷静にそう言い放った。

 

「えっ………?」

 

「後はお任せ致しましたわよ………ミス・ラビット」

 

そして紅茶仮面は、丘の上の観覧車を見上げながらそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丘の上の大観覧車傍にて………

 

「ダージリン………いえ、紅茶仮面さん! ありがとうっ!!」

 

「全ての準備、完了しました!」

 

M3リーに戻り、キューポラから上半身を出している梓が、野外劇場近くに居る紅茶仮面を見下ろしながらそう言うと、勇武がそう報告する。

 

「良し! ミフネ作戦!! 開始っ!!」

 

「「発射ぁっ!!」」

 

梓がそう号令を掛けた瞬間!

 

あやとあゆみの叫びと共に、M3リーの副砲と主砲が火を噴き………

 

大観覧車の回転軸を撃ち抜いた!

 

大観覧車は台座から落下し、地面に落ちると、そのまま野外劇場の方に向かって転がり始めた。

 

「行けーっ!! 『無人観覧車爆弾』っ!!」

 

正義がそう叫び、観覧車………いや、『無人観覧車爆弾』は大洗連合主力部隊を包囲している大学選抜機甲部隊へ突っ込んで行く!

 

「「「「「「「「「「………えっ?」」」」」」」」」」

 

大学選抜機甲部隊は、一瞬何が起こっているのか分からず、困惑して固まってしまう。

 

それは一瞬の判断が要求される戦場に於いては、致命的なミスだった。

 

とうとう大学選抜機甲部隊の中へと突入した無人観覧車爆弾は、その巨体で大学選抜歩兵を次々に踏み潰す!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

次々と戦死判定になって行き、断末魔にも似た大学選抜歩兵の悲鳴が響き渡る中、遂に無人観覧車爆弾はパーシング1輌に接触!

 

その途端!

 

パーシングに接触した無人観覧車爆弾のゴンドラが爆発!!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

その爆発を受けたパーシング乗員の悲鳴が響く中、爆発を浴びたパーシングから白旗が上がる。

 

更にその爆発で、無人観覧車爆弾が跳ね上がる。

 

回転しながら宙に舞った無人観覧車爆弾は、バランスを崩して横向きになり始める。

 

「今だよっ!!」

 

「爆破っ!!」

 

それを見た梓がそう叫んだ瞬間、勇武が手に持っていたスイッチを押した!

 

すると、無人観覧車爆弾の全てのゴンドラのフレームと繋がっている部分が小爆発を起こす。

 

そして、ゴンドラがまるで豆撒きの豆の様に四方八方に散らばった!

 

散らばったゴンドラは、大学選抜歩兵、大学選抜戦車部隊、建物、地面等々に叩き付けられ、次々に爆発する!

 

「「「「「「「「「「どわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

直撃や破片を浴びる、火に巻かれる、崩れた建物の瓦礫が降ってくる等で次々に戦死・撃破判定を受けて行く大学選抜機甲部隊。

 

先程まで大洗連合の主力部隊を完全包囲していたのが嘘の様な混乱ぶりである。

 

「まだまだ! 畳み掛けるよっ!!」

 

「『無人ゴーカート爆弾』! 『無人ロードトレイン爆弾』! 『無人ジェットコースター爆弾』! 『無人ウォーターライド爆弾』! 全て投入せよっ!!」

 

だが梓は追撃の手を緩めず、勇武が無人爆弾を次々に投入せよと指示を飛ばす!

 

その言葉に従い、通路から『無人ゴーカート爆弾』と『無人ロードトレイン爆弾』が走って来て………

 

更にジェットコースターのレール上を走って来た『無人ジェットコースター爆弾』が安全速度を大幅にオーバーして脱線………

 

同じ様にウォーターライドの『無人ウォーターライド爆弾』も安全速度を大幅にオーバーし水路から飛び出した。

 

各種爆弾類は次々に大学選抜機甲部隊の中へと突っ込んだ!!

 

「「「「「「「「「「わぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化す大学選抜機甲部隊。

 

「クソッ! 下がれっ!! 下がれっ!!」

 

一部の部隊が、その光景の中から逃れようと後退し、近くに在ったドロップタワーの所まで下がる。

 

するとその途端………

 

ドロップタワーの天辺に在った座席が勢い良く降下!

 

その座席には、大量の爆薬が仕掛けて在った!!

 

「「「「「「「「「「!? あべしいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

爆発を真面に浴びたり、飛び散った破片で大学選抜歩兵達に大量の戦死判定者が出る。

 

更に、タワーの根元で爆発が起こった為、タワー自体も倒れ始める。

 

「!? ヤバッ!?」

 

そして倒れたタワーは、逃げる間も無かった大学選抜戦車部隊を複数下敷きにした!!

 

「うわぁ………」

 

「えげつないな、オイ………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その光景に、思わず了平と俊がそう言葉を漏らし、他の面々も絶句するのだった。

 

「何をしていますの。敵は大混乱ですわ。早く脱出なさい」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかしそこで、紅茶仮面がそう声を挙げると、包囲されていた大洗連合主力部隊は、混乱している大学選抜機甲部隊を尻目に、野外劇場から脱出に成功する。

 

「! 皆さん! コレよりプランFで戦います!!」

 

そこでみほ達も、その中に交じりながら、新たな指示を飛ばす。

 

「先程の作戦で園内に侵入して来た部隊の半数は片付けましたが、相手以上にコチラが分散します。見えない仲間の把握に心掛けて下さい!」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

みほがそう言うと、大洗連合部隊は何部隊かを作って分散して行く。

 

「それからアンチョビさん。お願いしたい事があります」

 

「私にしか出来無い事か?」

 

「アンツィオにしか頼めない事です」

 

「………了解した。何をすれば良い?」

 

そして更に、みほはアンチョビに秘密に指示を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

愛里寿の策略で追い詰められた大洗連合。
しかしそこへ満を持して登場のダージリン………
もとい、『紅茶仮面』(笑)
ヒーローの様な登場をさせようと思っていたところ、ふとポワトリンの存在が頭を過ぎり、いっそこれでやってみようと思いまして。
アールグレイも付き合いで、フクロウ男爵に扮して貰いました。
そして、何気に登場していなかったキリマンジェロが、その紅茶仮面の裏方役を務めていたのです。

そして炸裂するミフネ作戦
シン・ゴジラを見て以来、『ミフネ作戦のシーンで宇宙大戦争マーチ流したら面白くないか?』と思い続けていまして、遂に実行できました(爆)

いよいよ分散してのゲリラ戦。
大学選抜側の精鋭も登場します。
お楽しみに。

さて、前書きに書いた件ですが………
実はちょっと、気分転換で別作品の設定なんかを考えていたりしたのですが、その中でコレ書いてみたかもと思ったものがありまして。

その名も『ウルトラ先生オーブま!』
『魔法先生ネギま!』と『ウルトラマンオーブ』とのクロスです。

ただ、ネギま!側の設定をかなり改変する事になるので、果たしてコレは良いのだろうかと思う所がありまして………
そこで、取り敢えず今固まっているだけの設定を活動報告の方へ掲載しますので、そこでちょっとこの作品を見てみたいか如何かと、色々と意見をお伺いしてみたいのです。
もし宜しければ、ご協力ください。
規約違反になるので、くれぐれも感想の方では話さない様にお願いします。

では、長くなりましたが、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター31『大学選抜精鋭部隊です!(その1)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター31『大学選抜精鋭部隊です!(その1)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡にてゲリラ戦を展開した大洗連合の主力部隊を包囲した大学選抜部隊だったが………

 

『紅茶仮面』と『フクロウ男爵』の介入。

 

そして、梓の『ミフネ作戦』によって、大損害を受ける。

 

脱出に成功した大洗連合主力部隊は分散し、ゲリラ戦を展開。

 

だが遂に………

 

大学選抜部隊の精鋭が動き出す………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

「ドゥーチェ~、マジっすかぁ?」

 

「マジだ」

 

ペパロニの不安そうな声に毅然と返すアンチョビ。

 

今、彼女とペパロニ、そしてカルパッチョが乗るCV33は、滑車が無人爆弾に使われて無くなったジェットコースターのレールの上を走っており、1番高い頂上部へ到達しようとしていた。

 

「敵に見つかりませんか?」

 

「タンケッテは小さいから見つかり難い」

 

「見つかったら逃げ場ありませんけど………」

 

カルパッチョが心配そうにそう言うのを無視し、アンチョビはCV33がレールの頂上部に到達すると姿勢を低くしたまま車外に出て、双眼鏡で園内を見回す。

 

「良し。此処なら園内の全てが見えるな」

 

「こう言うのは偵察兵の皆さんに任せた方が良いんじゃ?」

 

「目は多いに越した事は無い」

 

そう言いながらアンチョビは双眼鏡を構えたまま園内を見回すのだった。

 

そしてその目が、昭和時代の街並みを再現した昭和村と呼ばれるエリアへ向かう、大洗連合のある集団を見つける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和村エリア………

 

それは、カバさんチームとワニさん分隊、カモさんチームとマンボウさん分隊、ローズヒップとオレガノにティム、そしてアンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々だった。

 

『お誂え向きの場所が近いぞ! 『例のヤツ』、発動だ!』

 

「「「「「「「「「「Si! ドゥーチェッ!!」」」」」」」」」」

 

アンチョビからの指示が飛ぶと、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊の面々が元気良く返事を返す。

 

「大洗のセモベンテさん! 付いて来なっ!!」

 

「了解。お色直しでござる」

 

アマレットのセモベンテに誘導され、Ⅲ突が昭和村内へ突入する。

 

すると、ピッツァ歩兵部隊の工兵達が、兵員輸送車の中から『ある物』を取り出し始めた。

 

それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして………

 

昭和村の近くに、スーパーパーシング数輌と大隊規模の大学選抜歩兵部隊が通り掛かる。

 

「偵察兵からの報告によれば、このエリアに逃げ込んだ部隊が居ると」

 

「道幅が狭いわね………歩兵部隊は先行。敵歩兵の排除と戦車の位置の確認を」

 

「了解」

 

先ず斥候も兼ねて、歩兵部隊を送り込む大学選抜部隊。

 

大学選抜歩兵達は皆車輌から降りると、徒歩で昭和村エリア内に侵入。

 

警戒しながら大洗連合部隊を探す。

 

「気を付けろ。何処から飛び出して来るか分からんぞ」

 

歩兵大隊長がそう言うと、大学選抜歩兵達は連携を密にする。

 

ふとそこで、大学選抜歩兵達は公園の様なエリアに通り掛かる。

 

公園内には、モニュメントらしき銅像が何体か立っていた。

 

「何か妙なポーズの銅像だな………」

 

その銅像達が、何処かで見た事が有る様なポージングを執っているのを見て、大学選抜歩兵の1人がそう呟く。

 

何と言うか………

 

ゴゴゴゴゴゴゴとか、ドドドドドドドとか言う、文字がハッキリと見える擬音が聞こえて来そうなポージングを執っているのだ。

 

「………ん?」

 

すると、別の大学選抜歩兵が何かに気づいた様な素振りを見せる。

 

「如何した?」

 

「いや………今………あの銅像が動いた様な………」

 

「何っ?」

 

その一言で、大学選抜歩兵達の姿勢が一斉に銅像へと注がれる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そして次の瞬間には、一斉に銅像に向かって武器を構えた。

 

「撃ち方用意っ!」

 

「「「「「「「「「「!!………」」」」」」」」」」

 

歩兵大隊長の号令で、引き金に指を掛ける大学選抜歩兵達。

 

「撃………」

 

だがイザ撃ての号令が響こうとしたその瞬間!!

 

「毎度ぉーっ!!」

 

何故か後部に岡持ちを装備したバイクに乗った弦一朗が、路地から飛び出して来た!

 

「!? しまったっ!? そっちかっ!?」

 

「お待ちどう様ーっ!!」

 

歩兵大隊長が思わず声を挙げた瞬間、弦一朗は前輪にブレーキを掛けてジャックナイフを繰り出し、車体後部を思いっきり振った!

 

すると、固定されていなかった岡持ちが、大学選抜歩兵達に向かって飛ぶ!

 

空中で回転していた岡持ちの蓋が開いたかと思うと………

 

中から大量の手榴弾がばら撒かれたっ!!

 

「「「「「「「「「「!! タコスウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

節分の豆の様にばら撒かれた手榴弾は、多くの大学選抜歩兵達を纏めて吹き飛ばす!

 

「オノレェッ!!」

 

「舐めた真似をっ!!」

 

生き残っていた大学選抜歩兵達が、一斉に得物を弦一朗へ向ける。

 

………すると!!

 

「! 今だっ!!」

 

「撃て撃てーっ!!」

 

「喰らえ喰らえ喰らえっ!!」

 

銅像………否、銅像のふりをしていた磐渡と重音、それにロマーノとピッツァ歩兵部隊員達が、一斉に弦一朗に注意が行っていた大学選抜歩兵達に攻撃を仕掛けた!

 

「なっ!? うわあっ!?」

 

「クソッ! やっぱり銅像じゃなかったのかっ!!」

 

半分気づいていながらも、突如登場した弦一朗に気を取られてしまった為、銅像から注意が逸れてしまっていた大学選抜歩兵達は完全な不意打ちを喰らう。

 

「見たか! 伊達にジョジョ読んじゃいないぜっ!!」

 

「バンドのパフォーマンスでジョジョ立ちは良くするからなっ!!」

 

「因みに俺、5部が好きだぜ」

 

そんな事を言い合う磐渡と重音に、イタリアモチーフ校故か5部が好きだと言うロマーノだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

エリア外で待機していた大学選抜戦車チームは………

 

「さっきから銃声が鳴りっぱなしよ」

 

「交戦中なのかしら?」

 

昭和村エリア内から聞こえて来る銃声で、如何するべきかと判断をしかねている。

 

とそこに………

 

1輌のスーパーパーシングに、機銃弾と砲弾が撃ち込まれた!!

 

「キャアッ!?」

 

機銃弾は元より、砲弾も小口径弾だったので弾かれたが、車内に走った振動で、被弾したスーパーパーシングの車長は思わず悲鳴を挙げる。

 

すぐさまペリスコープ越しに機銃弾と砲弾が飛んで来た方向を確認すると………

 

コチラに硝煙の立ち上っている砲門を向けているルノーB1bisとクルセイダー、それに複数のCV33とM11/39のアンツィオ戦車部隊を発見する。

 

「! 敵発見っ!」

 

被弾したスーパーパーシングの車長がそう声を挙げた瞬間、先ずルノーB1bisとクルセイダーが後退。

 

更にアンツィオ戦車部隊も幾つかの小隊規模の数に分かれて遁走し始めた。

 

「逃げるぞっ!」

 

「如何するっ!?」

 

「追うに決まってるでしょっ!」

 

目の前で逃走され、大学選抜戦車チームはまんまとそれを分散して追ってしまう。

 

「来ましたでございますのよっ!!」

 

自分達を追って来るスーパーパーシング部隊の姿を確認したローズヒップがそう声を挙げると、クルセイダーの砲塔が後方を向いて発砲。

 

一緒に逃げていたカモさんチームのルノーB1bisも砲塔を後ろに向けて発砲するが、どちらの砲弾も強化されているスーパーパーシングの装甲を貫けず、弾かれる。

 

しかし、彼女達の目的は敵を挑発し、誘導する事にあった。

 

「オールコレクト! マスターアーム、オンッ!!」

 

通信回線に響くカエサルの声。

 

その声が響く中、クルセイダーとルノーB1bisは進んでいた通路の突き当りの赤レンガ倉庫前を右折した。

 

スーパーパーシング部隊が追い縋ろうとしたところ………

 

「フォイヤーッ!!」

 

エルヴィンの声が響き渡り、『正面の倉庫の壁』から砲弾が放たれる!

 

放たれた砲弾は、スーパーパーシング正面の唯一の弱点、車体機銃口に命中!

 

アキレス腱をやられたスーパーパーシングは白旗を上げて擱座。

 

後続車の進路を塞いでしまう。

 

「アンツィオ直伝! マカロニ作戦だっ!!」

 

カエサルが自慢げにそう言う。

 

砲弾を放った倉庫の壁は、良く見れば倉庫に良く似た絵を車体正面に張り付けたⅢ突であった。

 

「良し、次だっ!!」

 

Ⅲ突はすぐに移動を開始。

 

発砲煙に気づいて撃って来たスーパーパーシングの砲弾を避けて、次の待機地点へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、別の一角でも………

 

「ああ~、もう! 邪魔よ、豆戦車共っ!!」

 

アンツィオ戦車小隊を追うスーパーパーシングの車長が苛立ち気にそう言う。

 

現在、アンツィオ戦車小隊はM11/39を先行させ、その後ろを複数のCV33が固め、小柄な車体を活かして狭い通路で蛇行運転をして、スーパーパーシングの追撃を遅らせていた。

 

「スパーラッ!!」

 

とそこで、CV33がお得意のナポリターンで一斉に後ろを向き、バック走行に切り替えたかと思うと機銃を乱射して来る。

 

先行していたM11/39も、砲塔を後ろに向けて発砲。

 

「ええいっ! 鬱陶しいっ!!」

 

どちらもスーパーパーシングを撃破・損傷させるには至らないが、車内に走る振動と金属音で、スーパーパーシングの車長はイライラを募らせる。

 

その次の瞬間!!

 

スーパーパーシングは突如、建物が在る筈の両側から砲撃を受けた!!

 

「なっ!?」

 

エンジン部とターレットリングに命中弾を喰らったスーパーパーシングは、呆気無く白旗を上げる。

 

「イエーイッ!」

 

「やったぜっ!!」

 

撃破されたスーパーパーシングの両側の壁………否、脇道を塞ぐ様に偽装の看板を前面に装備していたセモベンテの乗員達が歓声を挙げる。

 

「! このぉっ!!」

 

「おっと! 逃げろーっ!!」

 

それに気づいた後続のスーパーパーシングが、撃破されたスーパーパーシングを押し退けながら発砲しようとしたが、それよりも早くセモベンテ達は偽装の看板を付けたまま後退した。

 

「クッ! 歩兵部隊! 何やってるのっ!? エリア内に偽装された戦車達が隠れてるわよっ!!」

 

『コチラは敵の歩兵部隊と交戦中だ! 手が離せないっ!!』

 

イラつきながら大学選抜歩兵部隊に通信を送ると、交戦中であると怒鳴り返されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その歩兵部隊の方は………

 

「シュトゥルムよ! 今が駆け抜ける時っ!!」

 

「絶・好・調であるっ!!」

 

「狙い撃つぜっ!!」

 

シュトゥルムに乗って駆け抜けながら、モーゼルC96を馬賊撃ちするゾルダート。

 

気合の雄叫びと共に日本刀を振り回し、次々に大学選抜歩兵を斬り捨てている月人。

 

そして、建物の上からウィンチェスターM70で次々にヘッドショットを決めて行く圭一郎。

 

「怯えろ! 竦めっ! 武器の性能を活かせぬまま、戦死判定となって逝けっ!!」

 

「「「「「「「「「「ヒイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

そしてピッツァ歩兵部隊で相変わらず鬼の様な活躍を見せているフォルゴーレ。

 

余りの迫力に、大学選抜歩兵達が悲鳴を挙げている。

 

「今だ! 撃てぇっ!!」

 

「フォイヤッ!!」

 

フォルゴーレの迫力にビビって後退した大学選抜歩兵達の姿を見た鷺澪が、その中に10.5㎝ leFH 18Mを撃ち込んだ!

 

「「「「「「「「「「あべしゃあっ!?」」」」」」」」」」

 

山形の軌道を描いて飛んで来た榴弾が集団の中心に着弾し、大学選抜歩兵達は纏めて吹き飛ばされた!!

 

「良いぞ良いぞっ! この調子でドンドンと………」

 

と、砲兵達が排莢を終え、新たな榴弾を装填する様子を見ながら、鷺澪がそう声を挙げた瞬間………

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

独特な叫び声が響いたかと思うと、10.5㎝ leFH 18Mに付いていた鷺澪達目掛けて、『巨大な何か』が飛んで来た!!

 

「へっ!?………!! ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

飛んで来た『巨大な何か』は、鷺澪と砲兵達はブッ飛ばしたばかりか、何と10.5㎝ leFH 18Mをバラバラのグシャグシャに破壊した!

 

当然、鷺澪と砲兵達は戦死判定である。

 

「! 鷺澪ーっ!!」

 

「何だっ!? 今のはっ!?」

 

親友の戦死判定に思わず声を挙げる磐渡と、突然襲って来た『巨大な何か』の正体を確認する鋼賀。

 

「!? 『鉄球』だとっ!?」

 

シメオンがそう声を挙げる。

 

鷺澪達を戦死判定にし、10.5㎝ leFH 18Mを破壊した物の正体は………

 

直径2メートルは有ろうかと言う、巨大な『鉄球』だった!!

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

と、再びあの独特な叫びが聞こえて来たかと思うと、その巨大鉄球が宙に浮かぶ。

 

良く見れば、鉄球には太い鎖が取り付けられており、それを引っ張って回収している様だ。

 

「よもや高校生にコレほどまでの損害を受けるとはな………認めようではないか! 貴様等は強い! だからこそ戦い甲斐が有ると言うものっ!!」

 

その鉄球の鎖を引いていたのは、信じられない事に1人の大学選抜歩兵である。

 

しかし、その恰好も奇抜だ。

 

全身を鋼鉄製と思われる鎧で包み、頭にはヘルメットではなく巨大な2本の角が生えた兜を被り、顔も鋼鉄製らしきマスクで覆っている。

 

「な、何だ、テメェはっ!?」

 

ロマーノがその異様とも言える風体に若干ビビりながらも問い質す。

 

「俺様は大学選抜歩兵精鋭部隊員! 『アイアンオフィサー』っ!!」

 

それを受けて鎧の男………『アイアンオフィサー』は高らかに名乗り挙げた。

 

「ア、アイアンオフィサー………?」

 

「ふざけやがってっ! 撃て撃てっ!!」

 

灰史が困惑の声を挙げた後、磐渡がそう言い放つと、大洗・ピッツァー歩兵部隊の一斉射撃が、アイアンオフィサーに襲い掛かる。

 

しかし………

 

「フハハハハハッ! 何だ、ソレはっ!!」

 

銃弾はアイアンオフィサーが着込んでいる鎧を貫通出来ず、甲高い音を立てて地面に落ちる。

 

「!? マジかよっ!?」

 

「野郎! コレなら如何だっ!!」

 

重音が声を挙げると、九七式自動砲を持っていた大洗狙撃兵が、アイアンオフィサーに向かって発砲した。

 

だが………

 

「無駄だっ!!」

 

これまた鎧に弾かれ、銃弾は地面に落ちた。

 

「!? 嘘だろっ!? 20ミリ弾を弾きやがったっ!?」

 

「アイツの鎧は戦車の装甲並みかっ!?」

 

「そんな物を着て真面に動けるなんて………」

 

途端に大洗・ピッツァー歩兵部隊に戦慄が走る。

 

「今度はコチラの番だな………ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

アイアンオフィサーはそう言ったかと思うと、何と!!

 

傍らに在った2メートルの巨大鉄球の鎖を引き、片手で振り回し始めた!!

 

「なっ!?」

 

「あの馬鹿デカイ鉄球を片手でっ!?」

 

「正真正銘化け物かよっ!?」

 

更なる戦慄が大洗・ピッツァー歩兵部隊を襲う。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

とそこで、振り回されていた巨大鉄球が投擲された!

 

「「「「「「「「「「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

大洗・ピッツァー歩兵部隊が数10名纏めてブッ飛ばされ、宙に舞った後に地面に叩き付けられて、戦死判定となる!

 

「あ、あんなの喰らったら戦車だって一溜りもありませんよっ!?」

 

「となれば………ココで倒すしかあるまいっ!!」

 

灰史が悲鳴の様に叫ぶと、フォルゴーレが覚悟を決めた様な顔になる。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

そんな様子を知ってか知らず、アイアンオフィサーは再び咆哮を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

原作よりちょっと遅れて、GPSドゥーチェ登場です。
後々の展開を考えると、この役割は必要ですので。

そして最初の戦いは昭和村のカバさんチーム達。
アンツィオ&ピッツァ直伝のマカロニ作戦が見事に炸裂です。
しかしそこへ、大学選抜側の精鋭歩兵………アイアンオフィサーが登場です。
モデルは、仮面ライダーストロンガーに出て来た、デルザー軍団の『鋼鉄参謀』です。
次回もまたデルザー軍団モチーフのキャラが登場しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター32『大学選抜精鋭部隊です!(その2)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター32『大学選抜精鋭部隊です!(その2)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和村で激戦が続く中………

 

ワールドエリアでも戦闘が起こっていた。

 

アリクイさんチームとキツネさん分隊、レオポンさんチームとおおかみさん分隊、そしてカチューシャ達プラウダ&ツァーリ機甲部隊がワールドエリアへのゲートを通過して行く。

 

狭いゲートを順に通り抜けているので、狙いが付け易くなった大学選抜チームからは一斉攻撃が襲い掛かる。

 

しかし、狙われる事は百も承知であったので、ゲートを潜るタイミングをズラしたり、煙幕を張るなどで防御策を行った。

 

そんな中で、部隊の最後尾に付けていたカチューシャのT-34-85が、追って来る大学選抜チームのスーパーパーシングに向かって発砲。

 

だが、砲弾はスーパーパーシングの装甲を貫けず、弾かれる。

 

「おーい、今は逃げる時だよ、カチューシャ」

 

するとそんなカチューシャの姿を見たレオポンさんチームのポルシェティーガーが減速し、カチューシャのT-34-85の傍に寄ると、ナカジマがそう呼び掛ける。

 

「呼び捨てにしないで!」

 

「じゃあカッちゃん!」

 

カチューシャがそう返すと、ツチヤが割り込んで来てそう言う。

 

「何略してんの! 陣にだってそんな風に呼んでもらった事ないのに………ゲフン! ゲフン!」

 

若干ラブコメの様なトークを漏らしてしまい、カチューシャは態とらしく咳払いする。

 

「…………」

 

一方の陣は、相変わらず無表情でだんまりである。

 

「お熱いね~」

 

「良いから、カッちゃん急ぐなり!」

 

ホシノが茶化していると、同じく速度を落として近寄って来た三式改から姿を見せていたねこにゃーもそう言う。

 

「逃げるならアンタ達だけで逃げなさい! 私は戦うっ!! ニーナ達の仇よ!!」

 

そう言いながら、後方から迫って来る大学選抜チームを睨みつけるカチューシャ。

 

高地からの撤退戦や、先程ニーナ達を撃破された屈辱が、プライドの高い彼女には許せない様だ。

 

「力むなよ、カッちゃん」

 

「戦うのは皆でだよ」

 

「煩いわね! 何でそんなに構うのよっ!!」

 

尚も呼び掛けているナカジマとスズキに、カチューシャはそう怒鳴り返す。

 

「友達を気に掛けるのは当たり前もも!」

 

「そうぴよ! そうぴよ!」

 

するとそれに対し、ももがーとぴよたんがそう返す。

 

「! と、友達っ!?」

 

動揺した様子を見せるカチューシャ。

 

「そうそう。僕達、もう友達にゃあ」

 

「その友達の頼みだからさあ、聞いてよ」

 

そのカチューシャに向かって、ねこにゃーとナカジマは更にそう言う。

 

「し、仕方ないわね! 友達の頼みだし、聞いてあげるわっ!!」

 

カチューシャは照れた様子を見せながら、撤退に専念し始める。

 

「カチューシャに友達が………うう」

 

「良かったな、ノンナ」

 

その光景を見ていたノンナが嬉し涙を流し、彼女のIS-2にタンクデサントしていたデミトリがハンカチを差し出す。

 

(完全に保護者だな………)

 

そんな2人の姿を見て、そんな事を考える白狼。

 

『照れているカチューシャ様も素敵です』

 

「アンタは何を言いながら、何を撮影してんだ?」

 

クラーラの方も、照れているカチューシャを写真に取りながらロシア語を話し、近くに居た隆太にツッコミを入れられるのだった。

 

やがて一同は、ワールドランドのウェスタンランドへ到達。

 

地面が剥き出しの路地となり、戦車が通過すると砂埃が舞い始める。

 

その舞い上がる砂埃で、大学選抜チーム側は狙いが付け難くなる。

 

「騎兵隊が襲って来るにゃっ!」

 

「「アワワワワワワッ!!」」

 

ねこにゃーがそう言うと、ももがーとぴよたんがノリノリでテンプレ的なネイティブアメリカンの叫びを挙げる。

 

とそこで、埒が明かないと思った大学選抜チームが、3部隊に分散。

 

1部隊が追撃を続け、残る2部隊が十字路で左右に分かれ、カチューシャ達が進んでいる通りに建物を挟んで並行している通りへ入った。

 

そして、建物と建物の間に隙間が開く度に砲撃を加え始める。

 

「囲まれますぜ、ジェロニモ」

 

「如何しますか、ジェロニモ」

 

ナカジマとねこにゃーが、カチューシャをネイティブアメリカンの有名な戦士に見立てて呼ぶ。

 

「誰がジェロニモよ!? せめて書記長か同志と呼びなさいよっ!!」

 

「物騒だな呼び名だな、オイ」

 

しかし、カチューシャはお気に召さない様でそう返すと、海音が思わず呟く。

 

「オイ姉ちゃん! この辺の建物は皆ハリボテだぜ!」

 

するとそこで、ピョートルが移動する戦車や車輌の振動でユラユラと揺れている建物を見てそう報告する。

 

「! なら突っ切っちゃって! セットみたいな物なら簡単に破壊出来るわっ!!」

 

すぐさまそう閃くカチューシャ。

 

「How! 了解、ジェロニモッ!」

 

「だから誰がジェロニモよっ!?」

 

相変わらずジェロニモ呼ばわりして来るねこにゃーに、そうツッコミを入れるカチューシャ。

 

「良し! ありったけの煙幕を焚けっ!!」

 

紫朗がそう言い放ち、大洗連合歩兵達が一斉に煙幕手榴弾を投げる。

 

大量の煙が辺り一帯に充満し始める。

 

その煙幕の中に紛れ、砲塔を後ろに回したポルシェティーガーが建物のセットに突っ込む!

 

やがて、先行していた2部隊が、カチューシャ達の行く手に先回りし、狙いを定める。

 

しかし、大量の煙幕に遮られて何も見えない。

 

「視界が………!」

 

と、1輌のスーパーパーシングの車長がそう漏らした瞬間………

 

建物の中を突っ切って来たポルシェティーガー、三式改、2輌のT-34-85とIS-2が、逆に大学選抜チームの2部隊を包囲した!

 

「! しまっ………」

 

「遅いよ」

 

慌てて1輌のスーパーパーシングが信地旋回でポルシェティーガーの方を向こうとしたが、それよりも早く接近したポルシェティーガーが、至近距離からエンジンブロックに発砲!

 

エンジンが爆発し、スーパーパーシングは白旗を上げる。

 

「オノレッ!!」

 

「ぶるああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

随伴の歩兵部隊が仇を取ろうと、ポルシェティーガーにバズーカを向けたが、そこへ竜作の投げた無数の銃剣(バヨネット)が殺到する。

 

「「「「「うばああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

銃剣(バヨネット)が身体中に突き刺さり、ハリネズミにされた大学選抜歩兵達が次々に戦死判定となる。

 

「俺に生きる実感をくれっ!!」

 

「「「「「びゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

更にハンターが、マチェットを振り回しながら、大学選抜歩兵達の中を駆け抜ける!

 

「…………」

 

冷静な様子で、スーパーパーシングの砲塔基部に砲弾を撃ち込み、白旗を上げさせるノンナ。

 

『アゴーニッ!!』

 

そしてクラーラのT-34-85も別のスーパーパーシングに発砲。

 

すると、スーパーパーシングの車体前面に命中した砲弾は激しく爆発!

 

「「「「「のわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

飛び散った砲弾の破片が、周囲に展開していた大学選抜歩兵達を戦死判定にする。

 

如何やら、榴弾を撃ち込んだ様である。

 

何故徹甲弾ではなく榴弾を撃ったのかと思われたが、その答えはすぐに分かった。

 

榴弾を撃ち込まれたスーパーパーシングの、外付けされた増加装甲が、まるで糊が剥がれたかの様にズルリと車体から滑り落ちる。

 

「!? 装甲がっ!?」

 

如何やら、榴弾の爆発の衝撃で、溶接付けだった増加装甲を無理矢理引っぺがした様だ。

 

「カチューシャ様! 今ですっ!!」

 

「喰らいなさいっ!!」

 

そして装甲が剥がれたスーパーパーシングの車体下部に、カチューシャのT-34-85から放たれた徹甲弾が命中!

 

一瞬の間の後、スーパーパーシングから白旗が上がった。

 

更に、三式改も砲撃し、チャーフィーを1輌撃破。

 

しかしそこで、背後から別のチャーフィーが現れ、三式改を狙って来る。

 

「ねこにゃーっ!!」

 

だが、三式改の車内ではねこにゃーが、自分達の体力不足を自覚し、ここ最近身体を鍛えに鍛え抜いて身に付けた筋力をフルに使い、砲弾ラックから6キロの砲弾を軽々と取り出し、ぴよたんに投げ渡す。

 

「ぴよたんっ!!」

 

それをぴよたんは片手でキャッチすると、そのまま装填しつつ、砲塔を旋回!

 

「ももーがぁーっ!!」

 

そしてももがーが、固い左操縦レバーを難なく引き、三式改は滑る様に信地旋回。

 

チャーフィーよりも先に狙いを定め、発砲!

 

三式改の常識外れの動きに動揺したのか、チャーフィーが放った砲弾はあらぬ方へ飛び、外れる。

 

一方、三式改の方の砲弾はチャーフィーを的確に捉え、命中。

 

爆発が起こると、チャーフィーから白旗が上がる。

 

「良し! 後は歩兵部隊だけだっ!!」

 

「一気に押したれぇっ!!」

 

戦車部隊を全て沈黙させた事を確認すると、海音と豹詑がそう声を挙げる。

 

「クッ! 円陣防御っ!!」

 

生き残っていた大学選抜歩兵達は背中合わせになる様に円陣を組み、防御態勢を執る。

 

「ココからは俺達の出番だぜ!」

 

「行くぜ、オイッ!!」

 

と、態勢が整う前に速攻しようとしようと考えたのか、一部の大洗連合部隊歩兵達が円陣を組んでいる大学選抜歩兵達に向かって駆け出す。

 

すると、その瞬間!!

 

何処からともなく、小さな四角い白い紙の様な物が連続で飛んで来た!

 

「!? うわあっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

その小さな四角い白い紙の様な物は、突撃を敢行した大洗連合部隊歩兵達に襲い掛かる。

 

小さな四角い白い紙の様な物が戦闘服に突き刺さり、倒れた大洗連合部隊歩兵達は戦死判定となる。

 

「! オイ!!」

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

速人と飛彗が倒された歩兵の傍に駆け寄り、小さな四角い白い紙の様な物の正体を確認する。

 

「コレは………」

 

「『トランプ』………?」

 

思わず目を丸くする2人。

 

大洗連合部隊歩兵達の戦闘服に突き刺さっていたのは、トランプだった。

 

するとそこで!!

 

まるで紙吹雪の様に、無数のトランプが空中からヒラヒラと舞って来た!!

 

「!?」

 

「うわっ!? またっ!?」

 

突然のトランプの紙吹雪に動揺する大洗連合部隊歩兵達。

 

「! 妙だぞ! このトランプッ!!」

 

紫朗が、一見無作為に舞っている様に見えるトランプが、ある物に向かって集まり始めているのを見てそう声を挙げる。

 

そのトランプが集まり始めている物とは………

 

クラーラのT-34-85だった!!

 

『!? コレはッ!?』

 

驚いたと同時に身の危険を感じ、車内へと引っ込むクラーラ。

 

舞っていたトランプは、まるで生き物の様にクラーラのT-34-85へと殺到し、虫の様に表面に張り付いて行く。

 

「クラーラッ!?」

 

カチューシャが叫びを挙げた瞬間に、クラーラのT-34-85は完全にトランプに覆われてしまう。

 

次の瞬間!!

 

張り付いていたトランプが一斉に爆発!!

 

「!?」

 

「うわっ!?」

 

「トランプが爆発したっ!?」

 

カチューシャが目を見開き、ナカジマとねこにゃーが驚きの声を挙げる。

 

やがて、爆煙が晴れて来ると………

 

表面が全て黒焦げになり、白旗を上げているT-34-85の姿が露わになる。

 

『申し訳ありません、カチューシャ様』

 

「コレは敵の攻撃なのかっ!?」

 

クラーラがロシア語でカチューシャに謝罪する中、トランプが敵の攻撃だと思った隆太が辺りを見回す。

 

「! 危ないっ!?」

 

するとそこで、何かに気づいた飛彗が、隆太に飛び付いて共に地面に倒れる!

 

「うわっ!?」

 

その直後!!

 

2人の頭上を人の背丈程も有りそうな『巨大なトランプ』が、フリスビーの様に回転しながら飛んで行った!

 

「!? あべしっ!?」

 

回転しながら飛んでいた『巨大なトランプ』は、別の大洗連合歩兵隊員にぶつかったかと思うと、その歩兵隊員の戦闘服を切り裂き、戦死判定にして倒した!

 

「!!」

 

陣が両手に持って腰溜めに構えたラハティ L-39 対戦車銃を宙を舞っている『巨大なトランプ』に向かって発砲する。

 

だが、『巨大なトランプ』はヒラリヒラリと舞い、弾丸を躱してしまう。

 

やがて『巨大なトランプ』は、撃破されたスーパーパーシングの上に、大洗連合に絵柄の面を見せる様にして降り立った。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大洗連合全員の視線が、そのトランプへと注がれる。

 

次の瞬間!!

 

『巨大なトランプ』がパッと消えたかと思うと、入れ替わる様に白い戦闘服に身を包み、白いマントを羽織って、頭全体を覆う様な透明なヘルメットを被った大学選抜歩兵が現れた!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「何だテメェはっ!?」

 

大洗連合歩兵達が驚きを示す中、白狼は現れた奇怪な大学選抜歩兵に問い質す。

 

「フフフフ………お初に御目に掛かる。私は大学選抜歩兵精鋭部隊員の1人、『影将軍』」

 

すると、白い男………『影将軍』はそう名乗りを挙げ、何処からともなく取り出したトランプの束をスプリングする。

 

「『影将軍』?」

 

「将軍とは御大層な名前やな」

 

「フフフ………」

 

豹詑が嫌味の様にそう言うが、影将軍は不敵に笑い、意にも介さず、今度はトランプをオーバーハンドシャッフルする。

 

そして、その中から1枚のカードを引いて、絵柄を確認した。

 

「ほう………ジョーカーか」

 

そのカードがジョーカーである事を確認した影将軍は感心した様な様子を見せる。

 

「何よっ!? 如何言う意味っ!?」

 

影将軍の余裕綽々な態度が気に障ったのか、カチューシャがそう怒鳴る。

 

「貴様等の未来を占ってやった、ジョーカーは希望の光………運は有る様だな」

 

「! 馬鹿にしてっ!!」

 

その不敵な様子が更にカチューシャを刺激し、彼女の乗るT-34-85から影将軍に向かって砲弾が放たれた!

 

「フッ………」

 

だが、砲弾が影将軍に命中するかに思われた瞬間………

 

トランプが舞い散り、影将軍の姿が忽然と消えた!!

 

「!? 消えたっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

カチューシャと大洗連合歩兵達は驚愕する。

 

「その運が本物か如何か、試してやろう」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

そこで背後からそう声が聞こえて来て、一同が振り返ると、そこには悠然と佇む影将軍の姿が在った。

 

「何時の間にっ!?」

 

「フフフ………」

 

影将軍はまたも不敵に笑いながら、左腰に差していたフェンシングの剣に似た細長い刀身の剣を抜き、大洗連合に向かって構える。

 

「影将軍に続けーっ!!」

 

すると、先程まで戦意を失っていた大学選抜歩兵達も戦意を盛り返し、逆に大洗連合に突撃して来た!

 

「! 迎え撃ちなさいっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

咄嗟にカチューシャがそう言い放ち、大洗連合は乱戦に突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ワールドエリアで戦うアリクイさんチームとキツネさん分隊、レオポンさんチームとおおかみさん分隊、プラウダ&ツァーリ機甲部隊。
順調に敵戦車部隊を撃破して行ったかに見えましたが、そこへ大学選抜精鋭歩兵『影将軍』が参上します。

モデルは、またもデルザー軍団から『ジェネラル・シャドウ』です。
モチーフ通り、トリッキーな戦法を使って来ますのでお楽しみに。

そして次回はいよいよ福田が知波単の最終兵器を持ち出します。
一体それは何なのか?
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター33『発進! 未完の超重兵器です!!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター33『発進! 未完の超重兵器です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学選抜チームの精鋭歩兵達が現れる中………

 

補給地点の防衛に回っていた大洗連合の部隊は………

 

 

 

 

 

大洗連合・第1補給地点………

 

「撃てっ!!」

 

カレンの号令で、ハッピータイガーのアハトアハトが火を噴き、放たれた地面でバウンドすると、パーシングの車体正面下部装甲に命中!

 

爆発の後、そのパーシングは白旗を上げた。

 

「手榴弾、行くぞーっ!!」

 

「伏せろーっ!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

更に続けて、ライが手榴弾を投擲し、味方の知波単歩兵達が一斉に伏せる。

 

「「「「「どわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」」」」」

 

大学選抜歩兵達が纏めて吹き飛ぶ。

 

「粗方片付いたかしら?」

 

そこで周辺に動く敵影が無い事を確認したカレンがそう言う。

 

「そうみたいだね」

 

ライも随伴歩兵部隊と共に周囲を確認し、同じ様に呟く。

 

「カレンさん、ありがとうございます」

 

そこで、エクレールが乗るソミュアS35が、カレンのハッピータイガーの横に並び、ハッチから姿を見せていたエクレールがお礼を言う。

 

「気にしないで良いわよ、エクレール。貴女には色々と迷惑を掛けたからね」

 

「全くです………」

 

するとそこで、マジノ女学院のルノーB1bisがやって来て、ハッチから姿を見せていた『ガレット』がそう言って来る。

 

「ガレット………」

 

「私はまだ忘れていませんよ………貴女がマジノで何をしたのかを」

 

カレンが反応すると、ガレットは露骨に恨みがましい顔をしながら、カレンを睨み付ける。

 

「ちょっ! ガレット!………! アツツツッ!」

 

そんなガレットを咎めようとするエクレールだったが、持病の胃痛が襲い掛かる。

 

「フン、お嬢様とか言っといて、陰湿なイジメする奴等を懲らしめてやっただけよ」

 

するとカレンも、ガレットを挑発するかの様にそう言い放つ。

 

「何ですって………?」

 

「何よ………?」

 

忽ち2人はメンチを切り合い、視線で火花を散らす。

 

険悪な雰囲気が漂い始める。

 

「ちょっ! カレンッ!………」

 

と、ライが止めようとしたその瞬間!

 

「止めんか、この馬鹿者共ぉーっ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

「はわっ!?」

 

突如チハ(旧砲塔)と共に現れた絹代が、急停止の勢いに乗ってキューポラから跳び、先ずカレンに飛び蹴りをかますと、その反動を利用して再度飛び、今度はガレットに跳び蹴りし、またも反動で宙に舞って自分の戦車に戻って砲塔の上に仁王立ちした!

 

「この危急存亡の時にくだらない諍いしてんじゃないっ!! よってこの喧嘩! 私が預かるっ!! 異議は認めんっ!!」

 

「「ハ、ハイ………」」

 

カレンとガレットはその迫力に押され、頷く。

 

(凄い………私に、あんな風に強引にでも纏める力があれば………)

 

そんな絹代の事を、尊敬の眼差しで見つめるエクレール。

 

「! ウッ………!!」

 

そこへまた胃痛が襲って来て、胃の辺りを押さえて苦悶の表情を浮かべる。

 

「大丈夫?」

 

すると、絹代はソミュアS35の横にチハを付け、ソミュアS35の方に移動すると、エクレールを介抱する。

 

「ゴメンなさい、ウチの隊員が」

 

「い、いえ、コレは持病でして………く、薬………」

 

謝る絹代にそう返しながら、エクレールは愛用の胃薬の薬瓶の蓋を開けようとする。

 

しかし、胃痛は深刻なレベルとなっており、手が震え始めて、瓶の蓋が開けられない。

 

(くうっ! こんな時に私は………!)

 

自分の神経の細さに嫌気の差すエクレール。

 

とそこで、横から手が伸びて来たかと思うと、エクレールが持っていた胃薬の薬瓶を引っ手繰る。

 

「あっ………!」

 

エクレールが驚いていると、薬瓶を引っ手繰った絹代は、すぐに蓋を開けると、中の錠剤を適量だけ取り出す。

 

「ホラ」

 

そして、その錠剤を持った手をエクレールの口の前に差し出す。

 

「………!」

 

一瞬戸惑ったものの、すぐに口を開けるエクレール。

 

「ハイ、水」

 

その口の中へ錠剤を流し込む様に入れると、続いて絹代は持っていた水筒を手に取り、これまた蓋を開けてエクレールに差し出す。

 

「んぐ、んぐ………」

 

エクレールは水筒を持つ絹代の手に自分の手を重ね、水を仰ぐ。

 

「ゆっくりとね。焦らないで」

 

甲斐甲斐しくエクレールを介抱し続ける絹代。

 

「プハッ………ありがとうございます」

 

漸く薬を飲めた事で落ち着いたエクレールは、絹代に礼を言う。

 

「気にしなくて良いわ。これぐらい当然よ」

 

それに対し、爽やかな笑みを返す絹代。

 

「…………」

 

マジノでは先ず見ない、正に竹を割った様なサバサバとした性格の絹代は新鮮であり………

 

同性でありながらも魅力的であった。

 

「…………」

 

ボーっとした様子で絹代を見つけるエクレール。

 

「? 如何したの?」

 

そんなエクレールの視線に気づいた絹代が問う。

 

「………お姉様と呼ばせて下さい」

 

次の瞬間には、エクレールはそう言い放っていた。

 

「ハイ………?」

 

しかし、その言葉に要領を得ない絹代は首を傾げる。

 

「アラアラ………」

 

「まあ………」 

 

そして何故か、マジノ女学院の生徒達は、そんな2人の姿を見て何やら頬を染めていた。

 

「………何なの、この空気?」

 

「さあ………?」

 

その光景に、カレンとライは苦笑いを零すしかないのだった。

 

「紅月副総隊長。1度補給に戻りましょう。もう弾も燃料も心許無いです」

 

「足回りもチェックしたいねえ」

 

するとそこで、ハッピータイガーの装填手と操縦手が、カレンにそう意見して来た。

 

「と、そうね。敵の攻撃は凌いだし、一旦………」

 

カレンがそう返していた瞬間………

 

「!? て、敵増援出現っ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

知波単偵察兵の1人がそう声を挙げ、一同に一斉に緊張が走った。

 

その言葉通り、新たな大学選抜部隊が、土煙を上げながら迫って来ていた。

 

「第2波っ!?」

 

「そんなっ!? アレだけの戦力を投入しておきながら、まだ余力があったって言うのっ!?」

 

驚愕の声を挙げるライとカレン。

 

現れた大学選抜部隊は、先程退けた部隊と同等の規模であった。

 

「非常用の戦力まで投入するなんて………コレじゃあ、勝っても大学選抜チームは暫く機能不全になっちゃうよ」

 

その新たに現れた大学選抜部隊の指揮を執っている、チャーフィーに乗る女子大生『アサミ』はそんな事を口にする。

 

「でも家元直々の命令だし………仕方ないか。全部隊、攻撃開始」

 

しかし、割り切る様にそう言うと、攻撃命令を下す。

 

それに従って、大学選抜部隊の戦車部隊が一斉に砲撃を開始した。

 

「くうっ!?」

 

「キャッ!?」

 

至近弾の衝撃に、絹代とエクレールが一瞬たじろぐ。

 

『こ、コチラ竪琴&クメン! 敵の攻撃苛烈! 被害甚大ッ!!』

 

『クレオパトラ&スフィンクス! もう弾薬が足りんっ!! 補給せんと戦闘継続は無理じゃっ!!』

 

『鉱関よ! コッチもコレ以上は持たないわっ!!』

 

そして、補給拠点防衛任務に就いていた各機甲部隊からも次々にそんな報告が挙がる。

 

「マズイわね………せめて補給に戻れさえすれば………」

 

流石の絹代も苦い顔を浮かべていた。

 

するとそこで………

 

轟音が響いたかと思うと、新たに現れた大学選抜部隊の中に、巨大な砲弾が叩き込まれた!!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

数台のパーシングとチャーフィーが纏めて吹き飛ばされ、白旗を上げる。

 

「! 今のはっ!?」

 

「今の内に後退しろっ!!」

 

カレンが驚きの声を挙げた瞬間、その場に巨大な戦車………『マウス』が姿を現した。

 

「! 黒森峰のマウスッ!?」

 

「ココは私が引き受ける! 今の内に後退して補給するんだっ!!」

 

続いてエクレールがそう声を挙げた瞬間、マウスの車長がそう呼び掛けて来る。

 

「車長、良いんですか? 総隊長からの命令は来てませんけど………」

 

「責任は私が取る! ココで動かなかったら何の為に待機していたのか分からん! 命令が無かったから何もしませんでした、はもう黒森峰じゃ通用しないんだっ!!」

 

不安そうに訊いてきた通信手にそう返し、マウスの車長は毅然とした様子を見せる。

 

そして次の瞬間には、マウスの主砲が再び火を噴いた!!

 

「「「「「「「「「「メメタアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

今度は榴弾が放たれた様で、大学選抜歩兵部隊の中に着弾した砲弾は激しく爆ぜ、大学選抜歩兵を一気に数10名纏めて吹き飛ばした!!

 

とそこで、反撃に放たれたチャーフィーやパーシングの主砲弾が、マウスに次々と襲い掛かる。

 

しかし、最大で200ミリ以上あるマウスの装甲を貫通する事は出来ず、火花を散らして弾かれて行く。

 

「そんな物がこのマウスに通用するかぁっ!!」

 

マウスの車長がそう吠えた瞬間、マウスは3度目の発射を行う!

 

砲撃を見舞っていたチャーフィーやパーシングの中に砲弾が着弾したかと思うと、直撃を受けた車輌は一瞬で白旗を上げ、周辺の車輌も着弾時の衝撃波によって引っ繰り返った!

 

「良いぞっ! この調子でドンドン………」

 

と、マウスの車長がそう言おうとした瞬間………

 

マウスの発砲音に負けないくらいの轟音が鳴り響き、マウスの傍に巨大な砲弾が着弾!

 

「!? うおわっ!?」

 

土埃が空高く舞い上がり、マウスにも大きな衝撃が走った。

 

「な、何だっ!?………!!」

 

マウスの車長が砲撃の正体を確認して驚愕を露わにする。

 

そこに居たのは………

 

『T28重戦車』だった!!

 

「『T28重戦車』!? 西部以外にも持っていたのかっ!?」

 

「クソッ! 撃てっ!!」

 

ライがそう叫んだ瞬間、マウスの車長の号令が飛び、マウスの主砲が発砲される。

 

だが、128ミリのマウスの主砲でも、300ミリ在るT28の装甲を貫けず、火花を散らして弾かれる。

 

反撃とばかりにT28が発砲。

 

また幸いにも弾は逸れたが、大きな振動がマウスを襲う。

 

「クッ! 駄目かっ!! 早く後退して補給しろっ!! 奴は私達がこの身に代えても阻止するっ!!」

 

敵わないと悟ったマウスの車長は、せめて当初の目的である部隊の補給の時間を稼ごうと、カレン達に向かって怒鳴る様に言う。

 

「でも………!?」

 

「紅月副隊長! どの道、補給を受けないとコレ以上の戦闘続行は不可能ですっ!!」

 

「だからって………!!」

 

ハッピータイガーの砲手の声に、カレンは分かっているのだが、目の前の味方の危機を目の当たりにして躊躇する。

 

その時………

 

「!? 紅月副隊長っ!!」

 

知波単の随伴歩兵部隊員の1人が突如驚きの声を挙げた。

 

「!? 如何したのっ!?」

 

「我が学園艦の『第7昇降口』が………開いていますっ!!」

 

「!? 何ですってっ!?」

 

その知波単の随伴歩兵部隊員からの報告を受けたカレンは、驚愕を露わに、知波単学園艦の『第7昇降口』を見やった。

 

報告通りに、他の昇降口と比べて分厚い装甲の様で、『封印』と言う文字が書かれていた扉が大きく開け放たれていた。

 

そして、まるで地鳴りを思わせる様な重低音と共に、その扉の奥の暗闇の中から、何かが現れようとしている。

 

それは………

 

マウスにも劣らぬ巨体の………

 

『超重戦車』だった。

 

「あ、アレはまさかっ!? 『オイ車』!?」

 

エクレールがその超重戦車を見てそう声を挙げる。

 

 

 

 

 

『オイ車』

 

大型イ号車、ミト車とも呼ばれる大日本帝国陸軍が開発した超重戦車である。

 

150トン戦車とも呼ばれており、その名前からも分かる様に、マウスと比べると軽い。

 

しかし、全長と全幅はマウスを上回っており、大きさで言えば世界最大の超重戦車である。

 

だが、ドイツ軍のマウスさえ真面に動かなかった超重戦車を、日本に技術力で動かせるワケもなく………

 

結局知らぬ間に開発は止まってしまい、戦後には資料すら存在を危ぶまれた幻の日本製超重戦車だ。

 

 

 

 

 

「いえ、違います! オイ車には車体前部に2門の副砲が在る筈です!!」

 

だがそこで、マジノ女学院の副隊長『フォンデュ』が、オイ車の特徴である副砲が無い事を指摘する。

 

「アレは『五式重戦車』です」

 

するとそこで、ライがそう言って来た。

 

「『五式重戦車』?」

 

聞き慣れない戦車名に、エクレールは首を傾げる。

 

「オイ車の派生型です。計画だけだったそうなんですが………実は本当は密かに作られていたそうなんです。終戦直前にウチの学園艦の奥深くに隠され、厳重に封印されていたんです」

 

「それが如何してっ!? 展示用に引っ張り出そうとはしてたけど………」

 

ライが説明を続ける中、カレンは双眼鏡でその超重戦車………『五式重戦車』を確認する。

 

「!? 福ちゃんっ!?」

 

そして、その砲塔の上で、伝統と信頼と実績の『ガイナ立ち』を決めている福田の姿を目撃する。

 

「クッ! 止めなさい、福ちゃん! 五式重戦車は完全じゃないわっ!!」

 

通信手から通信機を引っ手繰ると、すぐに五式重戦車の福田に通信を送る。

 

『現状で1時間は稼働可能でありますっ!!』

 

だが、福田からそんな返答が返って来た!

 

「けど、機動戦闘は無理よっ!!」

 

『イザとなれば、ぶつけるまででありますっ!!』

 

「! 福ちゃんっ!!」

 

イザとなれば特攻も辞さないと言う福田の言葉に、カレンは思わず怒鳴る。

 

「福田! 目標は飽く迄敵の主力だっ!! 雑魚には目もくれるなっ!!」

 

しかしそこで、絹代がそう言って通信に割り込みを掛けて来た!!

 

『! 西総隊長!………ハイッ!!』

 

「! 西総隊長っ!?」

 

「行けっ!!」

 

福田の行動を認めた絹代に、カレンは驚愕の声を挙げたが、絹代は構わずそう命じる。

 

「戦車っ! 前・進ッ!!」

 

そして福田の号令で、五式重戦車はその巨体を進ませ、荷揚げ用の高架橋を渡り始めた!

 

余りの重量で、通った後の高架橋が崩落して行く。

 

「なっ!? 何アレッ!?」

 

アサミが五式重戦車の存在を確認し、思わず固まる。

 

そしてT28は、狙いをマウスから五式重戦車に変え、主砲を放とうとしたが………

 

「主砲! 撃てえぇっ!!」

 

それよりも早く、再びの福田の号令が響き、五式重戦車の14センチ主砲が火を噴いた!!

 

真面に喰らったT28は、まるでメンコの様に引っくり返され、底部から白旗を上げた!

 

「ヒューッ! やるじゃないか、知波単のっ!!」

 

その光景に、マウスの車長は思わず口笛を吹く。

 

「黒森峰の超重戦車殿! ご協力を願えますかっ!?」

 

そこで福田は、マウスの車長にそう問う。

 

「コッチからお願いするよ! さあ、掛かってきなっ!!」

 

「この福田と五式重戦車が、相手になるでありますっ!!」

 

そしてマウスの車長と福田は、そう言い放って大学選抜部隊の前に敢然と立ちはだかる。

 

「今の内よ! ココはあの子達に任せて補給よっ!!」

 

「! 了解っ!!」

 

絹代達はその場を2人に任せ、補給の為に後退するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

補給地点の防衛に全力を尽くす絹代達。
しかし、敵も本当に出し惜しみ無しの大戦力を繰り出してくる。
黒森峰のマウスも危うくなったその時!
福田が知波単の最終兵器をかって出撃!

恐らく皆さんお分かりでしょうが、発進にシーンは『トップをねらえ!』のガンバスターの初発進シーンのパロディです。
次の知波単を担う福田に、ガイナ立ちとあの遣り取りを是非やってもらいたかったので。

次回からまた、大学選抜の精鋭が登場。
次に登場するのは………超人です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター34『大学選抜精鋭部隊です!(その3)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター34『大学選抜精鋭部隊です!(その3)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡・ラーテゾーン………

 

その名の通り、黒森峰が全国大会決勝戦で投入したラーテをモチーフにした施設である。

 

内部にはエア遊具が所狭しと置かれている。

 

「き、来たぞぉっ!?」

 

「逃げろーっ!!」

 

その中を、大学選抜戦車部隊のパーシングとチャーフィーが、我先にと争う様に逃げ回っている。

 

逃げている相手は………

 

「待てコラァッ!! 戦えやぁっ!!」

 

「それでも武士(もののふ)かぁっ!!」

 

地獄姉妹だ。

 

相変わらず、大学選抜戦車部隊からは恐怖の対象にされている様だ。

 

「ファイヤッ!!」

 

「斬っ!!」

 

クロエとしずかが叫ぶと、ヘルキャットとテケが発砲。

 

ヘルキャットの砲弾は、逃げていたパーシングの後部に命中し、エンジンを大破させ、白旗を上げさせる。

 

一方、テケが放った弾は天井に命中。

 

天井が崩れ、梁に使われていた鉄骨が落下したかと思うと、チャーフィーのエンジンルームに突き刺さった!

 

当然、チャーフィーからは白旗が上がる。

 

「「我等(私達)が、地獄だっ!!」」

 

「「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

それを見たクロエとしずかが『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべて吼えると、大学選抜戦車部隊は悲鳴を挙げて更に逃げ回る。

 

「!? そこ左っ!! 外へ出てっ!!」

 

と、1輌のパーシングが、左手側の壁に戦車が通れる程の出入り口を発見し、すぐさま操縦士にそこへ行く様に命じる。

 

余程焦っていたのか、他の仲間に連絡する事も無く、そのパーシングは単独でラーテゾーン内からの出口へ飛び出す。

 

その途端!

 

車体が前のめりになった!!

 

「へっ………?」

 

思わず間抜けた声を挙げたパーシングの車長は、そこで出口の先が巨大な滑り台になっている事に気づく。

 

滑り落ちる先は砂場である。

 

「! ちょっ!? 砲身が刺さるっ!! 旋回してダメージ回避っ!!」

 

「間に合いませんっ!!」

 

慌てて叫ぶ車長だったが、時既に遅し。

 

滑り台を滑り落ちたパーシングの砲身は、深々と砂場へと突き刺さった!

 

「こ、後退っ! 後退っ!!」

 

すぐにバックして砲身を引き抜こうとするパーシングだったが、かなり深く突き刺さってしまったのか、履帯は空回りするばかりである。

 

すると、そこへ………

 

西部戦車チームとナイトウィッチ戦車チーム、そしてアヒルさんチームの八九式が現れ、砲身が刺さっているパーシングを取り囲んだ。

 

「あ………」

 

パーシングの車長が思わず間抜けた声を挙げた瞬間、一斉砲撃が炸裂!

 

爆煙が収まると、ボコボコになったパーシングが白旗を上げていた。

 

それを確認すると、歩兵部隊も姿を現す。

 

「な~んか、卑怯だなぁ………」

 

「優勢火力ドクトリンよ。戦術の基本でしょ」

 

ミケがそう呟くと、シャムが言い返す。

 

「それにしても………手持無沙汰ですね」

 

ノーラが、先程から砲撃音が鳴り止まないラーテゾーンの建物を見上げながらそう呟く。

 

「殆どの敵はあの2人が相手してるからね………」

 

「もうあの2人だけで良いんじゃありません事?」

 

シロミの言葉に、ブチがそうぶっちゃける。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その言葉に、その場に居た全員が沈黙する。

 

それは、誰もが感じていた事だった。

 

「こういう時こそ根性ですっ!!」

 

しかし典子だけが、相変わらずの根性理論を展開する。

 

「根性とか、スマートじゃねえぜ」

 

そう言うノリが苦手なカロがそんな言葉を漏らす。

 

「まあまあ、兎も角、このまま………」

 

と、シュガーが何か指示を出そうとした瞬間………

 

砲撃音が響き、ミケの乗るスチュワートに砲弾が命中!

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

ミケ達が悲鳴を響かせる中、スチュワートは横倒しになって白旗を挙げる。

 

「! ミケさんっ!!」

 

「今の砲撃はっ!?」

 

マヨネとペッパーがそう言った瞬間、近くに在った建物の陰から、『パーシングらしき』シルエットが現れる。

 

「! パーシングッ!!」

 

「敵の増援かっ!!」

 

ブチのシャーマン・ジャンボと、シロミのイージーエイトが、その『パーシングらしき』シルエットに向かって発砲する。

 

しかし、ジャンボの榴弾は通用せず、イージーエイトの徹甲弾もアッサリと弾かれる。

 

「!? 何っ!?」

 

良い所に当たった筈なのに弾かれた事にシロミが驚きの声を挙げた瞬間、その『パーシングらしき』シルエットの姿がハッキリとした。

 

そのパーシングは、他の車輌と比べ、やや太っている様な印象を受ける車輌だった。

 

「! 『T26E5』!!」

 

「成程………『パーシング・ジャンボ』ね」

 

ソルトが驚きの声、シュガーが納得が行った様な声を挙げる。

 

とそこで、そのパーシング・ジャンボのハッチが開き、黒髪のストレートヘアの後頭部に結ばれた模様と縫い目入りの大きな赤いリボンを付けた大学選抜戦車部隊員が姿を見せる。

 

「…………」

 

その戦車部隊員は、手元に在った手配書の様な書類と典子達を見比べる。

 

「西部とナイトウィッチ&ハロウィン機甲部隊、それに大洗の八九式か………まあまあ良いのが揃ってるじゃない」

 

戦車部隊員『レイミ』は、典子達に向かってそう言い放つ。

 

「オイ、姉さん。ソイツは一体何だい?」

 

一同の疑問を代弁する様に、ジャンゴがレイミが見ている手配書の様な物を示しながら尋ねる。

 

「見れば分かるでしょう。手配書よ。アンタ達をやればこの手配書に書いてある額の金がアタシに入るワケ」

 

レイミはその手配書を典子達に見せながらそう言う。

 

手配書には各戦車チームの登場戦車と乗員、更にエース歩兵達のデータが載っており、更に賞金首よろしく金額が振られていた。

 

「オイオイ、まるで傭兵みたいな事を言うじゃねえか」

 

「似た様な物よ。私はアンタ達を仕留めれば金が貰えるからチームに居るのよ」

 

パンサーがそうツッコミを入れたが、レイミからは身も蓋も無い答えが返って来る。

 

「金って………求道者がそれで良いんですか?」

 

「何言ってるの? 世の中金よ」

 

続くオリバーの言葉もバッサリと斬り捨てるレイミ。

 

典型的な守銭奴の様だ。

 

「さ、無駄話もココまでよ。大人しく私のお金になりなさい」

 

レイミはそう言うと、パーシング・ジャンボの車内へ引っ込んだ。

 

そして、パーシング・ジャンボが再度前進して来る。

 

「冗談じゃねえぜっ!!」

 

「貴様の様な下賤な奴に負ける我々ではないっ!!」

 

スコールとオセロットが、そのレイミのあんまりの態度に腹を立て、いきり立ちながら収束手榴弾やバズーカを構える。

 

と次の瞬間、『パチンッ!』と言う音が聞こえたかと………

 

「「「「「「「「「「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

スコールとオセロットが、周りに居た西部、ハロウィン歩兵部隊員共々ブッ飛んだ!

 

「!? オセロットっ!?」

 

「スコールッ!? 如何したっ!?」

 

ジャンゴとカロが慌てて駆け寄る。

 

だが、2人と共にブッ飛んだ西部、ハロウィン歩兵部隊員達は、全員が戦死判定となっていた。

 

「!? コレはっ!?」

 

そしてジャンゴは、2人と西部、ハロウィン歩兵部隊員達の戦闘服に、まるで鋭い刃物で斬られたかの様な傷が出来ている事に気づく。

 

するとそこで、またもあの『パチンッ!』と言う音が鳴り響いた!

 

今度はノーラのシャーマン・カリオペに振動が走ったかと思うと………

 

何と!

 

シャーマン・カリオペと主砲身が斬り裂かれたっ!!

 

「なっ!?」

 

ノーラが驚愕の声を挙げた瞬間に再度振動が走り………

 

今度はM4A3の車体に目に見える形で切り傷が刻まれ、爆発の後に白旗を上げる!

 

そして3度『パチンッ!』の音が鳴り響いたかと思うと………

 

今度はいきなりシャムのT28が撃破された!!

 

「な、何が起こってるのっ!?」

 

ワケが分からぬままやられたシャムが、唖然となってそう叫ぶ。

 

とそこで………

 

レイミのパーシング・ジャンボの陰から、1人の大学選抜歩兵が不意を衝く様に姿を現した!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一同の注目が、現れたその大学選抜歩兵に注がれた瞬間!

 

大学選抜歩兵は、右手の指を弾いてパチンッ!と言う音を鳴らす行為………

 

所謂『指パッチン』をした。

 

その途端!!

 

マヨネのトータスが爆発し、白旗を上げた!!

 

「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」

 

何が起こったのか分からず、混乱する一同に、大学選抜歩兵は再び指パッチンを行う。

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

すると今度は、オリバーが周囲に居た西部歩兵共々吹き飛ばされ、地面に倒れると戦死判定となった。

 

その戦闘服には、スコールやオセロットと同様に、鋭い刃物で斬られたかの様な跡が残っている。

 

大学選抜歩兵は更に、片腕を背中に回しながら両手で指パッチンを繰り出したかと思うと、そこから今度は両腕を右へと振る様に移動させて再度両手で指パッチン。

 

更に左、右と両手での指パッチンを繰り出したかと思うと、最後は正面に両手の指パッチンを繰り出す。

 

まるで踊っているかの様なその一連の動きが終わったかと思うと………

 

ブチのジャンボ、シロミのイージーエイト、ペッパーのブルムベア、ヴィーネのヴァリアント、ソルトのシュトゥルムティーガーが白旗を上げ………

 

更に、サミー、レオパルド、サーバル、カルカラ、明夫、武志が戦死判定となっていた。

 

他の戦車チームや歩兵部隊員達も多数犠牲となっている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬にして大量の撃破車輌と戦死判定者を出されてしまった事に、典子達は戦慄を露わにする。

 

「オノレェーッ!!」

 

「妙な事しやがってぇーっ!!」

 

しかしそこで、その恐怖からか、或いは仲間達をやられた恨みからか、西部とハロウィンの歩兵達の一部が、指パッチンの大学選抜歩兵に向かって突撃して行った!

 

「! オイ、待てっ!!」

 

ジャンゴが慌てて止めるが時既に遅し。

 

「…………」

 

大学選抜歩兵は再び指パッチンを、突撃して来る西部とハロウィンの歩兵達の一部に向かって繰り出したかと思うと………

 

「「「「「「「「「「!? うぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

突撃して行った西部とハロウィンの歩兵達の一部は宙を舞い、地面に叩き付けられると戦死判定となった。

 

その戦闘服には、やはり鋭い刃物で斬り裂かれた様な跡が残っている。

 

「ええいっ! 名を名乗れぇっ!!」

 

と、辛うじて生き残っていたハロウィン歩兵が、ナイフを手に指パッチンの大学選抜歩兵に斬り掛かろうとした。

 

「…………」

 

「うっ!?」

 

だがそれよりも早く、大学選抜歩兵が指パッチンを出来る様にした手を、そのハロウィン歩兵の眼前に突き付けた!

 

「フッフッフッ………良かろう」

 

すると、その大学選抜歩兵はそう言い、指パッチンをする。

 

「! ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

ハロウィン歩兵の戦闘服に、切り傷が走ったかと思うとブッ飛ばされ、戦死判定となった。

 

「私の名は……『素晴らしきヒィッツカラルド』」

 

その瞳孔の無い白眼と頬から目の付け根辺りまで走る謎のラインに赤髪のカニ頭が特徴的な歩兵………

 

『素晴らしきヒィッツカラルド』はそう名乗りを上げる。

 

「『素晴らしきヒィッツカラルド』!?」

 

その名を聞いた小太郎が、驚きの声を挙げる。

 

「知っているのか、小太郎?」

 

「指パッチンで真空波を発生させ、そのカマイタチで相手を切り裂く達人が居ると言う話を聞いた事があったでござるが………まさか大学選抜チームに居たとは」

 

大詔が尋ねると、小太郎はそう説明する。

 

「いやいや、君達は運が良い。此処で私と出会えるとは」

 

そんな小太郎の言葉を聞きながら、ヒィッツカラルドは不敵に笑う。

 

「皆気を付けてっ! コイツはヤバイわっ!!」

 

シュガーが皆に向かってそう叫ぶ。

 

無理も無い………

 

あの一連の動きだけで、半数以上の味方を壊滅させてしまったのだ。

 

目の前の相手がどれほどの実力者なのかは言うまでもない………

 

「ちょっと、ヒィッツカラルド。余計な事しないでよ。私の取り分が減っちゃったじゃない」

 

とそこで、獲物を取られたレイミが、ハッチを僅かに開けて顔を覗かせ、ヒィッツカラルドの方を見ながらそう言った。

 

「コレは失礼。では君が撃破したと報告しておきたまえ。私は戦績には興味が無いのでな」

 

「そ、なら良いわ」

 

ヒィッツカラルドがそう返すと、レイミは納得した様に車内へ引っ込んだ。

 

そして、再度パーシング・ジャンボが前進する。

 

「フフフ…………」

 

ヒィッツカラルドも不敵に笑いながら、指パッチンを出来る態勢を取って近づいて来る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

嘗て無い危機に、典子達は背中に冷たい汗が流れるのを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ワールドゾーンの出入り口………

 

ニュルンベルクのケーニヒ門を模したゲートの付近では………

 

そのゲートを盾にして、グロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊、黒森峰機甲部隊、そしてウサギさんチームとハムスターさん分隊に、紅茶仮面とフクロウ男爵の姿が在り、全員がゲートを盾にする様に陣取って砲撃や銃撃を行っている。

 

だが、一際大きな砲撃音が響いたかと思うと………

 

ゲートから連なっている頑強さを感じさせる城壁の一部が吹き飛び、バラバラと瓦礫が地面に落ちた。

 

「ゲロ~………貧乏クジを引いたでありますなぁ」

 

その様子を見ながら、愚痴る様にそう呟く久美。

 

そして再び、ゲートの先の方へと視線を向けると………

 

コチラに向かって迫って来る、T29重戦車、T30重戦車、T34重戦車のアメリカ超重戦車達の姿が在った。

 

後方には、中隊規模の大学選抜部隊も控えている。

 

如何やら最も大きい敵部隊が、この場へと押し寄せて来ている様である。

 

「久美! 弱音吐いてんじゃないわよ! 黒森峰機甲隊員は弱音を吐かないっ!!」

 

そんな久美を、エリカがどこぞのドイツ軍人の様な台詞で叱咤する。

 

「………先程はお楽しみでしたなぁ~」

 

すると久美は、クロエとの一件を持ち出して言い返す。

 

「! 言うなぁーっ!!」

 

途端にエリカは形容し難い表情でそう怒鳴った。

 

「最近の黒森峰さんは随分と賑やかですわね」

 

「無駄口叩いてないで、この状況を如何にする方法を考えろ」

 

その様子を見ていた紅茶仮面がまほにそう言うが、余裕の無いまほはそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

ラーテゾーンで相変わらず無双する地獄姉妹。
しかしそこへ、大学選抜の傭兵戦車乗り、レイミのパーシング・ジャンボが出現。
更に前回言っていた超人………
『素晴らしきヒィッツカラルド』が現れる!

ハイ、超人とは今川泰宏作品に登場する超人………
所謂、今川超人でした。
スパロボαでコイツにグルンガスト参式を真っ二つにされて唖然としたのは私だけではない筈。
いきなり半数以上の味方を葬り去ってくれましたが、今川だからしょうがない。
流石にコレ以上の今川超人は出ません。
あんまり出すと、戦車とか要らないだろって事になるので。

そしてまほ達はアメリカ超重戦車シリーズの相手をする事になります。

次回もまた大学選抜の精鋭が登場。
歩兵の方がまた特撮からで、かなりの有名かつ強キャラが登場しますのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター35『大学選抜精鋭部隊です!(その4)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター34『大学選抜精鋭部隊です!(その4)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

大きな通路を天竺ジョロキア機甲部隊、サンダース&カーネル機甲部隊、そしてベルウォール機甲部隊が移動していた。

 

「私達は何処で戦いましょう?」

 

「そうね~………」

 

ローリエとエミが、何処を戦う場所をするかと、周囲に点在している施設を見回す。

 

「OH! あそこにしましょうっ!!」

 

するとそこで、同じ様に周辺の施設を見回していたケイが、何かを発見し、それを指差しながら声を挙げる。

 

心なしか嬉しそうな様子で。

 

「えっ………?」

 

「アレ………ですか?」

 

その指し示された施設を見て、ローリエとエミはやや困惑気味な返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

スーパーパーシングとチャーフィーに大隊規模の随伴歩兵を引き連れた大学選抜部隊が、天竺ジョロキア機甲部隊、サンダース&カーネル機甲部隊、ベルウォール機甲部隊が移動していた通りを前進している。

 

その中心には砲身の短いパーシング………

 

主砲を22.5口径105ミリ榴弾砲M4に換装し、砲塔正面、防盾の装甲を増厚した『T26E2』

 

『M45重戦車』の姿が在った。

 

「この履帯跡………かなりの規模の部隊が通過して行ったみたいだな」

 

その車長であり、この部隊の指揮官『シズミ』はそう呟く。

 

「へっ! 上等だっ!! 敵は多けりゃ多いほど良いってもんだぜっ!!」

 

拳を握り、獰猛そうな笑みを浮かべてそう言うシズミ。

 

御覧の通り、彼女は男勝り………

 

と言うよりも、男より男らしい性格をしている。

 

言葉遣いは乱暴で腕っぷしも強く、大学選抜歩兵部隊員達相手に腕相撲勝負をして全員捻じ伏せたと言う伝説を持つ女傑である。

 

愛里寿の事は、『ガキに命令される筋合いは無い』と公言しているが、彼女の実力は認めている。

 

要は彼女は自由と戦いを愛する女なのである。

 

愛里寿も、自分に遠慮せずズケズケとモノを言うシズミの事を気に入っており、彼女に独立行動の許可を与えている程である。

 

なので、バミューダ3姉妹の次に関係は良好である。

 

とそこで、発砲音がしたかと思うと、彼女のM45重戦車に砲弾が命中。

 

しかし、命中した箇所が最も固い防盾だったので、アッサリと弾かれてしまう。

 

「おっとっ!?」

 

被弾の衝撃に耐えながら、砲弾が飛んで来た方向を見やるシズミ。

 

そこには、施設の入り口に半分身を隠す様に陣取り、砲門から硝煙を上げているファイアフライの姿が在った。

 

「不意打ちとはやってくれるじゃねえか! 全軍、2時の方向だっ!!」

 

獰猛そうな笑みを浮かべながら、シズミはそう指示を出し、彼女の部隊はファイアフライへと向かって行く。

 

「良し、食い付いて来たな………」

 

ファイアフライの照準器越しにその様子を確認したナオミは、ファイアフライを施設内へと後退させた。

 

「追えーっ!! 逃がすなーっ!!」

 

シズミの部隊も、それを追って施設内へと突入して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設内………

 

「何だ? この施設は?」

 

突入した施設内の様子を見て怪訝な顔をするシズミ。

 

今彼女が居るのは、まるで巨大なアメリカンショッピングモールの様な場所だった。

 

「隠れられる場所が多いぞ。歩兵部隊、物陰の捜索を徹底しろ」

 

「「「「「「「「「「了解っ!!」」」」」」」」」」

 

シズミがそう命じると、大学選抜歩兵部隊員達は4、5人のチームを作り、物陰等の捜索を始める。

 

と、1つのチームが、トイレへと通じる通路の捜索に入ろうとした。

 

するとそこで、トイレの方から足音が聞こえて来る。

 

「「「「「!!」」」」」

 

すぐさま足音のする方向へ得物を向ける大学選抜歩兵達。

 

足音はドンドン近づいて来る。

 

「来るぞ。出て来たら一斉に撃て」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

リーダーの大学選抜歩兵の言葉に、チーム員の大学選抜歩兵達は返事を返す。

 

そして遂に、トイレの中から複数の人影が現れる!

 

「撃………!?」

 

「「「「!?」」」」

 

発砲命令を下そうとしたリーダーの大学選抜歩兵とチーム員の大学選抜歩兵達は一斉に固まった。

 

何故なら、出て来たのは大洗連合部隊の歩兵ではなく………

 

「「「「「アアアアアアァァァァァァァーーーーーーーー………」」」」」

 

呻き声を挙げる腐った死体の様な外見の人間達………

 

『ゾンビ』だったからだ!!

 

「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

悲鳴を挙げて、トイレへと通じていた通路から逃げ出してシズミの居る本隊に合流する大学選抜歩兵達。

 

「オイオイ、如何したんだ?」

 

突然悲鳴を挙げながら逃げ返って来た大学選抜歩兵達に、シズミは怪訝な顔を向ける。

 

「ゾ、ゾ、ゾ、ゾ! ゾンビがぁっ!!」

 

どもりながらシズミにそう報告を挙げる1人の大学選抜歩兵。

 

「はっ? ゾンビ?」

 

何を言ってるんだとシズミが言い返そうとした瞬間………

 

「「「「「「「「「「アアアアアアァァァァァァァーーーーーーーー………」」」」」」」」」」

 

モール内のあちらこちらから、呻き声と共にゾンビ達が出現した!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「ゾンビだあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーッ!?」

 

「ヒイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!?」

 

途端に阿鼻叫喚となるシズミ隊のメンバー。

 

その間にもゾンビの数はドンドンと増え続け、遂にモール全体がゾンビで埋め尽くされてしまう。

 

「か、囲まれたぁっ!?」

 

「もう駄目だあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

涙目で悲鳴を挙げるシズミ隊のメンバー達。

 

「馬鹿野郎ッ! 狼狽えるんじゃねえっ! こんな奴等はっ!!」

 

しかし、シズミは一切怯んだ様子を見せず、機銃架のM2重機関銃をゾンビ達に向かって発砲した!

 

50口径の12.7ミリ弾が、ゾンビの頭を消し飛ばしたり、上半身と下半身を泣き別れにしたりする。

 

「うっぷっ!」

 

「オゲエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ!!」

 

グロテスクな光景が眼前で展開され、何人かのシズミ隊のメンバーが人目も憚らず吐く。

 

「阿呆っ! 良く見て見ろっ!!」

 

だがそんなメンバーを怒鳴り、シズミは倒したゾンビを良く見て見ろと言う。

 

「!? ロボットッ!?」

 

そこで、大学選抜歩兵の1人がそう声を挙げた。

 

そう、欠損した部分から見えているゾンビの体内には肉では無く、機械が詰まっていたのだ。

 

ココは、『戦場制圧ゾンビ殲滅用人型決戦兵器兼ジャーナリスト』の主人公が、並み居るゾンビ共を千切っては投げ、千切っては投げし、ゾンビ無双をする有名人気ゲームを模した『ゾンビエリア』なのである。

 

「今よっ!!」

 

「Let’s rock!」

 

「行きますわよ!!」

 

とそこで、隠れていたベルウォール機甲部隊、サンダース&カーネル機甲部隊、天竺ジョロキア機甲部隊の面々が一斉に飛び出して来た!

 

「! 敵襲っ!!」

 

「撃て撃てっ!!」

 

「駄目ですっ! ゾンビが邪魔で!!………」

 

迎え撃とうとするシズミ隊のメンバー達だったが、大量のゾンビが纏わり付いて来て、思う様に動けない。

 

「行くぜぇ! お前等ぁっ!!」

 

先陣を切ったのはバーコフ分隊。

 

ザキがMG34機関銃を掃射し、ゾンビごと大学選抜歩兵達を薙ぎ払う。

 

そしてゾンビが居なくなった隙間を縫う様にバーコフとコチャックが突撃し、MP40とM3サブマシンガンで今度は大学選抜歩兵達だけを狙って弾をばら撒く。

 

最後に、随伴歩兵をやられて無防備になったチャーフィー1輌に、ゴダンがバズーカを叩き込む!

 

バズーカのロケット弾が命中すると、チャーフィーは爆炎に包まれ、一瞬の間の後に白旗を上げる。

 

「このぉっ!!」

 

その様子にいきり立った1輌のスーパーパーシングの車長が、バーコフ分隊に榴弾を叩き込もうと砲塔を旋回させる。

 

だが次の瞬間には砲塔基部に徹甲弾の直撃を貰い、白旗を上げた。

 

「…………」

 

その徹甲弾を撃ち込んだ主であるファイアフライのナオミは、何時もの様にガムを噛みながら次の標的に狙いを定める。

 

更に、天竺戦車部隊のチャレンジャー巡航戦車達も、1輌のスーパーパーシングに向かって次々に榴弾を発砲!

 

何発目かが命中した瞬間、衝撃で増加装甲が剥がれる。

 

「今よっ!!」

 

そこでローリエの号令が飛ぶと、彼女の乗るのともう1輌のコメットが発砲!!

 

砲弾が増加装甲の剥がれたスーパーパーシングの車体下部と砲塔基部に命中。

 

爆発の後に白旗を上げさせる。

 

「チイッ! やってくれるじゃねえかっ!!」

 

口では悪態を吐くシズミだったが、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

強敵と出会った事で、アドレナリンが噴き出している様である。

 

「一気に部隊長車を叩くっ!!」

 

とそこで、マサラが愛象のギリメカラと共に、一気に部隊長車を撃破しようとパンツァーファウストを構えて突撃する。

 

「! 来るぞぉっ!!」

 

それに気づき、迎え撃とうとするシズミ。

 

だが、その時………

 

突如、マサラが跨っていた象・ギリメカラが、馬の様に前足を振り上げて咆哮した!!

 

「!? うわっ!? 如何した、ギリメカラッ!?」

 

相棒の突然の行動に困惑するマサラ。

 

しかしギリメカラはそれに応えず、突然踵を返して、シズミ車から遠ざかって行く。

 

「オイ、待てっ!! 何処へ行く、ギリメカラッ!!」

 

慌てて止めようとするマサラだが、ギリメカラはまるで止まらず………

 

とうとうマサラを振り落した!

 

「おわっ!?」

 

何とか受け身を取って着地したマサラだったが、ギリメカラはそのまま何処かへと行ってしまった。

 

「マサラ! 大丈夫かっ!?」

 

「ああ、何とか………だが、一体如何したと言うんだ?」

 

キーマが駆け寄って来て、振り落されたマサラを助け起こすが、マサラは何故何度も訓練を積ませ、発砲音や爆発を恐れなくなった天竺ジョロキアの象が逃げ出してしまったのかと訝しむ。

 

その時………

 

カショッ、カショッと言う、奇妙な音が聞こえて来た。

 

「? 何だ?」

 

「足音………か?」

 

ジェイとボブが、その『足音』と推察した音の主を探す。

 

「この音は………」

 

一方シズミには、その音の主が分かっていた。

 

やがて、一同の前に………

 

銀色の戦闘服に身を包み………

 

刀身が血の様に真っ赤に染められたサーベルを持った………

 

1人の大学選抜歩兵が現れた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

沈黙に包まれるベルウォール機甲部隊、サンダース&カーネル機甲部隊、天竺ジョロキア機甲部隊の面々………

 

その大学選抜歩兵からは異様な雰囲気とプレッシャーが放たれており、只物でない事を全員が肌で感じ取っていた。

 

(ギリメカラが逃げ出したのはアイツが原因か………)

 

マサラが、銀色の大学選抜歩兵の事を見ながらそう思う。

 

その証拠に、他の象達も銀色の大学選抜歩兵を見て、怯え切った様子を露わにしている。

 

「やっぱり『影月』か。何で此処に来たんだよ」

 

とそこで、シズミがその大学選抜歩兵………『影月』に声を掛ける。

 

「………島田総司令の命令だ」

 

「チッ! アイツ、余計な事を………」

 

影月がそう返すと、シズミは悪態を吐く。

 

「命令は絶対だ」

 

「生憎、私はアンタみたいなお堅い頭してないんだよ。まあ、命令を遂行するってんなら勝手にしな。私は私なりのやり方で行かせてもらうぜ」

 

「………そうさせてもらう」

 

シズミに再度そう言うと、影月はバーコフ達、歩兵部隊に向かって歩き出す。

 

その際に、足に装着している奇妙な機械………レッグトリガーが稼働し、先程も聞こえて来たあの独特な音を鳴らす。

 

(コイツ………)

 

(出来る………)

 

影月を前に、流石のジョーイとターメリックも、冷や汗が流れるのを押さえられなかった。

 

「我が名は影月。大学選抜歩兵部隊員の1人だ。この俺が来た以上………貴様等の命運も尽きたと思え」

 

そんな一同を前に、影月は刀身の赤いサーベル………サタンサーベルを構えてそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

我等がみほ総司令と弘樹達は………

 

カメさんチームとツルさん分隊を引き連れ、園内の一角を移動していた。

 

「皆各所で交戦中だってっ! 大学選抜部隊の精鋭歩兵なんかも出て来たってっ!!」

 

沙織が通信機を弄りながら、みほの方を見上げてそう報告する。

 

「とうとう精鋭部隊がお出ましか………」

 

『逆に言えば、敵は自分達が追い詰められている事を自覚し始めたと言う事だな』

 

麻子がそう呟くと、煌人が通信でそう割り込んで来る。

 

「となれば、敵の司令塔である島田兄妹が出て来るのも時間の問題でありますね」

 

「タイマンとなれば遅れは取りません」

 

「うん、その時は頼むね、皆」

 

優花里と華がそう言い合うと、みほは正面を見据えたままそう言う。

 

「! 敵戦車部隊、接近っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

とそこで、弘樹が大学選抜部隊が接近して来るのを発見し、一同はすぐさま戦闘態勢を取った。

 

「! アレは敵のフラッグ車っ!!」

 

「と言う事は総司令の西住 みほね………」

 

「チャンスだわ! 今なら護衛も少ないっ! 私達で仕留めるわよっ!!」

 

現れたのは3輌のパーシング………ルミ、アズミ、メグミのバミューダ3姉妹だ!

 

「へっ! 漸く運が向いて来たみたいだな」

 

「この愚か者め! 今度はドジを踏むんじゃないぞ!」

 

星叫と泰亭に、彼等が率いている随伴歩兵部隊も姿を見せる。

 

「戦車の数は2対3………歩兵部隊は中隊規模と大隊規模か………」

 

「コッチの方が不利じゃないかっ!? しかも総司令車でフラッグ車なんだぞっ!!」

 

蛍が現れた大学選抜部隊と自分達との戦力比を計算していると、毎度同じの桃の喚きが始める。

 

「桃ちゃん………あんまり煩いと対戦車地雷を背負って敵の戦車に飛び込んでもらうからね」

 

と、流石に癇に障り始めたのか、柚子が桃に向かって黒い笑みを見せながらそう言った。

 

「!?!?!?!?」

 

恐ろしさの余り、桃は悲鳴も挙げられずに固まる。

 

(こえぇ~~………)

 

杏も内心で戦慄していた。

 

「彼女達は全て部隊長クラス………撃破すれば大きな損害となるね」

 

「ならばやる以外の選択肢はあるまい………」

 

迫信の言葉に、熾龍が殺気を迸らせながら煉獄の鯉口を切る。

 

「………!」

 

とそこで、弘樹が何かに気づいた様子を見せる。

 

「如何した、弘樹?」

 

「………スナイパーが居る。向こうの建物の上だ」

 

地市が尋ねると、弘樹はバミューダ3姉妹の背後の方に見えていた建物の上にスナイパーが居る事を伝える。

 

「えっ!? マジでっ!?」

 

「西住総司令」

 

了平が声を挙げる中、弘樹はみほに呼び掛ける。

 

「………任せます」

 

それだけでみほは全てを察し、弘樹にそう命じた。

 

「了解………楓、スマンが分隊の指揮を頼むぞ」

 

「分かりました」

 

そして弘樹は、とらさん分隊の指揮を楓に任せ、コッソリと単身敵スナイパーの撃破に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

新たな大学選抜精鋭部隊の登場です。
戦車側のシズミは完全オリジナルです。
書いてて思ったのですが、私こういう男勝りな姐御肌な人物の方が動かし易くて好きみたいです。

そして歩兵の精鋭のモデルは………
皆大好き、仮面ライダーBLACKの宿敵・シャドームーンです。
前回のヒィッツカラルドほどじゃないですが、またもや強敵の出現となりました。

みほ達もバミューダ姉妹と対決します。
いよいよ島田兄妹登場に向けて動き出します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター36『死闘です!(その1)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター36『死闘です!(その1)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に姿を現した大学選抜機甲部隊の精鋭達………

 

大洗連合はこの強敵を前に如何戦うのか?

 

決着の時が迫ろうとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

昭和村エリア………

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

アイアンオフィサーの独特な掛け声と共に、2メートルの巨大鉄球が勢い良く飛ぶ!!

 

「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」

 

「灰史!」

 

「鋼賀っ!」

 

運悪く灰史と鋼賀が直撃を食らい、戦死判定となる。

 

「チキショウッ!!」

 

仇を討とうと、磐渡がアイアンオフィサーに向けて九九式軽機関銃を発砲する。

 

「無駄だ!」

 

だが、やはりアイアンオフィサーの着込んでいる鎧には通用せず、全て弾かれてしまう。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

反撃とばかりに、アイアンオフィサーは鉄球を横薙ぎにする様に振るう!

 

「!? うおおっ!?」

 

咄嗟にその場に伏せた磐渡のすぐ上を、鉄球が通り過ぎて行く。

 

そして、鉄球は建物にぶつかったかと思うと………

 

当たった建物の壁を1撃で粉砕。

 

建物を崩落させてしまった。

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その崩落した建物の瓦礫に押し潰され、多数のピッツァ歩兵部隊員が戦死判定となる。

 

「フハハハハハッ! 一網打尽だなっ!!」

 

その様子を見て、得意そうに笑うアイアンオフィサー。

 

とそこで、遠方で何かが光ったのを目撃する。

 

「!!」

 

すぐさま身体を動かすと、鎧の隙間を狙ったと思われる銃弾が2発着弾し、弾かれた。

 

「!? 嘘だろっ!? 気づきやがったっ!!」

 

「発砲炎を確認した様だな………恐ろしい奴だ」

 

狙撃の主である圭一郎とシメオンは、アイアンオフィサーの勘の良さに戦慄する。

 

「狙撃か。姑息なマネを………」

 

そんな2人は見えてはいないが、狙撃の主に如何報復してやろうかとアイアンオフィサーが考えていると………

 

「助太刀に来たよぉーっ!!」

 

と言う威勢の良い声が響き、アマレットの乗るセモベンテを先頭に、アンツィオ戦車部隊が現れる。

 

「! アマレットッ!!」

 

「そんな奴、アタイ等が片づけてやるよぉっ!! 行くぞ、皆っ!!」

 

「「「「「「「「「「Si!!」」」」」」」」」」

 

ロマーノが声を挙げると、先ずは先陣を切る様にCV33がアイアンオフィサーに向かって行く。

 

「スパーラッ!!」

 

そして誰かが掛け声を挙げたかと思うと、一斉に8ミリ機銃を発射する。

 

「ぬうっ! ええいっ! うっとおしいっ!!」

 

そんな物ではアイアンオフィサーの常識外れな鎧を破壊する事は出来ないが、全方位から射撃されたアイアンオフィサーは足を止める。

 

「今だ! フォーコッ!!」

 

するとその隙を狙って、セモベンテとM11/39、そしてP40が一斉に発砲した!

 

「幾ら頑丈な鎧だからって、戦車砲には耐えられないだろうっ!!」

 

そう確信しているアマレットが声を挙げる。

 

だが………

 

「舐めるなぁっ!! ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

アイアンオフィサーが吠えたかと思うと、鉄球を片手で振り回す!

 

そして何と!!

 

飛んで来た砲弾に横から鉄球を当て、砲弾を全て弾き飛ばしてしまった!!

 

「!? 何っ!?」

 

「砲弾を弾き飛ばしたっ!?」

 

余りの光景に仰天の声を挙げるアマレット達。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

更にアイアンオフィサーは、そのまま鉄球を高速で振り回していたかと思うと………

 

「アイアン・インパクトォッ!!」

 

勢い良く上空へと振り上げたっ!!

 

そのまま、重力による落下の速度も加えて、鉄球を地面に向かって振り降ろす!!

 

「「「「「「「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

鉄球が地面に叩き付けられた瞬間、直撃した車輌は無かったにも関わらず、発生した衝撃波によってセモベンテとM11/39は横転し、CV33に至っては木の葉の様に宙に舞って地面に叩き付けられた!

 

全ての車輌から、白旗が上がる。

 

「!? そんなっ!?」

 

「マジかよっ!? アンツィオ戦車部隊が全滅だぜっ!!」

 

磐渡と弦一朗が、その光景に戦慄する。

 

「オイオイ! 何言ってんだっ!? まだアタシ達が居るぜっ!!」

 

そこで、生き残っていたP40のアンツィオ戦車部隊員がそう声を挙げる。

 

「ドゥーチェから預かったこのP40! そう簡単にやられは………」

 

「! 危ないっ!!」

 

「えっ………?」

 

勇ましい台詞を言っていたところで、フォルゴーレから声が挙がり、P40の車長が正面を見ると………

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

そこにはまるで砲弾の様に飛んで来るアイアンオフィサーの鉄球が在った。

 

「! ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

避ける間も無くP40は直撃を喰らい、まるでバックしているかの様に後ろに大きくブッ飛ばされたかと思うと、施設の壁に叩き付けられて止まる。

 

一瞬間を於いて、砲塔上部から白旗が上がる。

 

「ドゥ、ドゥーチェ………ゴメンなさい………P40、やられちゃいました………」

 

P40の車長が、本当に申し訳無さそうにアンチョビに報告を送る。

 

『怪我は大丈夫か?』

 

「は、ハイ。大丈夫です………」

 

『そうか………うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! 修理から返って来たばかりだったのに~~~~~っ!!』

 

最初に搭乗員の怪我を気遣うアンチョビだったが、やはり直し立てだったP40が撃破された事がショックだった様で、悲鳴の様な泣き声を挙げるのだった。

 

「P40がやられたわ」

 

「コレは我々も迂闊に飛び出すワケには行かないな………」

 

「ですわ~………」

 

一方、ルノー、Ⅲ突、クルセイダーは、近くまで駆け付けていたものの、アイアンオフィサーの常識外れな戦闘を目撃し、迂闊に飛び出せずに居た。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!! 如何した高校生共っ! さっきまでの勢いは何処へ行ったっ!!」

 

対照的に、順調に戦果を挙げているアイアンオフィサーは得意気だ。

 

「チキショーッ! 打つ手無しかよ………」

 

「あの強力な鉄球と頑強な鎧を如何にかしなければ、我々に勝ち目は無い………」

 

磐渡が諦め気味にそう言う中、フォルゴーレは何か手がないかと必死に考えを巡らせる。

 

(鉄球………)

 

するとそこで、ロマーノが何かを思い付いた様な様子を見せる。

 

「ほざいたああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ! 貴様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と次の瞬間、挑発や煽りに耐性が無さそうな月人が、怒りのままに刀を構えてアイアンオフィサーに突撃して行った!

 

「オ、オイ! 分隊長っ!?」

 

「馬鹿めっ! 良い的だ!! ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

弦一郎が声を挙げた瞬間、アイアンオフィサーは月人目掛けて鉄球を投擲する。

 

あわや次の餌食は月人かと思われたが………

 

「絶・好・調であるううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

月人がお馴染みの叫びと共に、迫り繰る鉄球に向かって刀を振るった。

 

そして何と!!

 

「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

刀身が当たった部分から火花を散らしながらも、月人がアイアンオフィサーの鉄球を受け止めた!

 

「!? 何だとっ!? 俺様の鉄球をっ!?」

 

コレにはアイアンオフィサーも驚きを露わにした。

 

「おたくの分隊長、スゲェなっ!?」

 

ロマーノもその光景を見ながらそう声を挙げる。

 

しかし、やはり無理があったのか、月人の刀の刀身に、鉄球が当たっている部分からヒビが入り始める。

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!! 純粋に戦いを楽しむ者こそっ!!」

 

退こうとはせず、押し返そうとする月人だったが………

 

残念ながら叶わず、刀身が砕けて鉄球の直撃を喰らってしまう。

 

「オ・ノーレェェェェェェッ!!」

 

無念の声を響かせながら、月人はブッ飛ばされ、戦死判定となった。

 

だが、それにより鉄球は完全に勢いを失い、地面に落ちる。

 

「! 大洗の! 俺に考えが有る! 手を貸してくれっ!!」

 

「「!!」」

 

空かさずそこで、ロマーノが近くに居た弦一朗とゾルダートにそう呼び掛けた。

 

「ぬううっ! 俺様の鉄球を止めるとは、大した奴だ………だが! 力及ばなかった様だなっ!!」

 

アイアンオフィサーは月人の事を褒めつつも、再度鉄球を引き寄せようと鎖を引く。

 

………その瞬間!!

 

「シュトゥルムよ! 今が駆け抜ける時っ!!」

 

「ライダアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

素早く鉄球へと向かったゾルダートと弦一朗が、シュトゥルムの後ろ蹴りとウィリーしたバイクの前輪でのアタックで鉄球を攻撃!

 

アイアンオフィサーが鉄球を引き寄せる力を合わさって、鉄球は頭上高くまで舞い上げられた!!

 

「ぬうっ! 余計な真似を!! そんな事で俺様が鉄球の操作を誤ると思ったのか!!」

 

しかし、アイアンオフィサーは動じず、改めて鉄球を自分の元へ引き寄せようとする。

 

だが………

 

何故かアイアンオフィサーの考えるよりも速く、鉄球が戻って来る!

 

「!? コ、コレは如何した事だっ!?」

 

アイアンオフィサーが初めて動揺を露わにした瞬間………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

何と!!

 

鉄球に張り付いていたロマーノが叫びを挙げた!!

 

「!? 何時の間にっ!?」

 

驚愕の声を挙げるアイアンオフィサー。

 

如何やら、先程ゾルダートと弦一朗が鉄球を攻撃したのはこの為だった様である。

 

「お前を倒すたった1つの方法! それはお前自身の武器であるこの鉄球だぁっ!!」

 

「うおおっ!?」

 

「ブッ潰れろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

何処ぞの最高にハイな状態になっている吸血鬼の様に、自分諸共鉄球をアイアンオフィサーの頭上へと落して行くロマーノ。

 

「ぬううっ!!」

 

勿論、黙っているアイアンオフィサーではなく、両腕を突き上げて鉄球を受け止めようとする。

 

アイアンオフィサーの突き出した手に落ちる鉄球+ロマーノ!

 

その瞬間に、アイアンオフィサーの足元の地面に罅が入り、アイアンオフィサーの足が少し減り込む。

 

「だ、駄目だぁっ! 支えきれんっ!! ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬拮抗したかに見えたが、落下の速度とロマーノの体重+装備の重量の加わった鉄球を受け止められず、そのまま押し潰れた!!

 

鉄球が地面に到達し、派手に粉煙を舞い上げる!

 

「うおっ!?」

 

「くっ!?」

 

発生した衝撃波に一瞬たじろぐフォルゴーレ達。

 

やがて徐々に粉煙が治まって来ると………

 

そこには、地面に半分まで減り込んでいる鉄球と、その鉄球の上でグッタリとした様子を見せているロマーノの姿が在った。

 

「や、やったぜ………」

 

しかし、何とか上体を上げると、鉄球の下に潰れているであろうアイアンオフィサーの姿を想像し、勝利を確信する。

 

「でかしたぜ! ピッツァの隊長さん!!」

 

「やるじゃねえか! 見直したぜっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

弦一郎と磐渡がそう言い、他の面々も歓声を挙げる。

 

「へへへ、俺だってやる時はや………」

 

だが、ロマーノがそう言い掛けた瞬間………

 

 

 

 

 

埋まっていた鉄球が………

 

少し………

 

持ち上がった。

 

 

 

 

 

「………へっ?」

 

鉄球の上に乗っていたロマーノがそれを感じ取った瞬間!

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

独特な咆哮と共に、アイアンオフィサーが鉄球を持ち上げて地面の中から這い出して立ち上がった!

 

「!? 嘘だろっ!?」

 

と、ロマーノが驚愕に包まれた瞬間!

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

アイアンオフィサーの再度の咆哮と共に、鉄球がロマーノごと投げられる!

 

「!? しまっ………」

 

ロマーノが言い切る前に、鉄球は施設の壁に直撃!

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

施設の壁と鉄球で押し潰されたロマーノは戦死判定となった。

 

「! ロマーノッ!!」

 

フォルゴーレが叫ぶと、鉄球が引き戻され、残されたロマーノは崩落した施設の瓦礫に埋もれてしまった。

 

「やってくれたな………貴様等………」

 

煮え滾る怒りを露わにそう呟くアイアンオフィサー。

 

しかし、やはり彼も無傷と言うワケではなく、その特徴的な兜の角が片方折れ、顔の仮面が半分割れ、鎧にも至る所にヒビが入っている。

 

だが、まだ戦死判定は下っていない。

 

「アイツ、不死身かよっ!?」

 

「そんなワケあるか。不死身なのは弘樹だけで十分だ」

 

狙撃地点からスコープでその様子を見ていた圭一郎がそう叫ぶが、シメオンはそう言い、モシン・ナガンを構えた。

 

そして、アイアンオフィサーの鎧に入ったヒビの部分に向かって発砲する。

 

だが、ヒビ割れた状態にも関わらず、アイアンオフィサーの鎧がモシン・ナガンの銃弾を弾いてしまう。

 

「舐めるな! この特注の鎧はヒビぐらいで防御力が落ちたりはせんっ!!」

 

そう言い放ち、再びアイアンオフィサーは鉄球を回転させ始める!

 

「! 蹄分隊長! 狙われてるぞっ!!」

 

「えっ!?」

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

磐渡が狙われている事に気づいたゾルダートが叫んだが、その瞬間には鉄球が磐渡目掛けて投擲されていた!

 

「!? どわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

避ける間も無く直撃を受け、ブッ飛ばされる磐渡。

 

当然、戦死判定である。

 

「分隊長! クッ!!」

 

「皆! ソイツをそこに暫く釘付けにしてくれっ!!」

 

と、ゾルダートが声を挙げた瞬間、シメオンがそう言い放つ。

 

「! 分かった! 行くぜっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

それに対し、弦一郎を筆頭に、大洗歩兵達は何の躊躇も無くアイアンオフィサーの足止めに掛かり始める。

 

あのシメオンが言って来たのだ。

 

きっと何か勝利のヒントを摑んだ………

 

大洗歩兵達はそう確信していた。

 

「大洗に続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

更にそこへ、フォルゴーレの指示でピッツァ歩兵達も加わる。

 

自慢のノリと勢いが良い方向に作用した様だ!

 

「今更数で如何こうしようという積りかぁっ! ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

だが、アイアンオフィサーも大学選抜部隊の精鋭。

 

「うわああっ!?」

 

「ぎゃああっ!?」

 

手負いの状態にも関わらず、鉄球を振り回して次々に戦死判定者を出して行く。

 

「怯むなぁーっ!!」

 

「押せ押せぇーっ!!」

 

だが、大洗歩兵とピッツァ歩兵達も畳み掛けに掛かる。

 

「「…………」」

 

そんな中………

 

シメオンと圭一郎は、次々とアイアンオフィサーに弾丸を叩き込む。

 

しかし、やはりアイアンオフィサーの鎧は損傷しているにも関わらず、破壊する事が出来ない。

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

アイアンオフィサーも最早気にも留めず、鉄球を振り回して更に戦死判定者を生み出して行く。

 

「「…………」」

 

それでも2人は、撃つのを止めない。

 

(フン! 同じ場所に何度も撃ち込んで鎧の破壊を狙う積りか! だが、言った筈だ! この鎧は並みでは無いとな!!)

 

そこでアイアンオフィサーは2人の狙いに気づくが、自身の鎧の防御力は分かっているので、絶対に破壊はされないと確信していた。

 

「コレで終わりにしてやるっ! アイアン・インパクトォッ!!」

 

とそこで、アイアンオフィサーはアンツィオ戦車部隊を全滅させたあの技の体勢に入る。

 

「うおっ!? またアレかっ!?」

 

阻止しようとする弦一朗だったが、アイアンオフィサーの振り回す鉄球のせいで近づけない!

 

「ステイイイイイィィィィィィーーーーーーールッ!!」

 

そして遂に、アイアンオフィサーの鉄球が頭上高くへ振り上げられる!

 

「終わりだぁっ!!」

 

しかし、アイアンオフィサーがそう吠えた、その瞬間!!

 

鉄球に繋がっていた鎖が………

 

突然切れた!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

驚愕に包まれるアイアンオフィサー。

 

その目の前に、鎖の切れた部分が落ちて来る。

 

良く見ると、その部分には………

 

銃弾が何度も当たった様な痕が在った。

 

「!? コレはっ!? しまったっ!! 奴等の狙いは鎖の方だったのかっ!?」

 

そう声を挙げるアイアンオフィサー。

 

そう………

 

シメオンと圭一郎の狙いはアイアンオフィサーの鎧では無く………

 

鉄球に繋がっている鎖の方だったのである。

 

その狙いに気づかせない為に、態と鎧の方に銃弾を撃ち込み、跳弾させて鎖に当てると言う目眩ましを行ったのだ。

 

鎖の切れた鉄球は、上空高くへ舞い上がったかと思うと、やがて重力に引かれて落ちて、アイアンオフィサー目掛けて落ちて来る。

 

「イ、イカンッ!」

 

逃げようとするアイアンオフィサーだが、先程のダメージは大きく、元々機動力が無い彼は逃げられない。

 

「だ、大学選抜チームに栄光あれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

やがてその断末魔と共に、再び自身の鉄球に押し潰された!

 

「今度こそやったよな?」

 

不安そうにしながら、鉄球に得物を向け続ける弦一朗。

 

しかし、今度は鉄球が持ち上がる事はなかった………

 

「やったか………」

 

「だが、コチラも粗壊滅状態だ」

 

ゾルダートとフォルゴーレがそう言い合う。

 

苦戦の末にアイアンオフィサーを撃破したゾルダート達。

 

だが、その被害は途轍もないものだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

アイアンオフィサーとの激闘。
パワープレイで大洗連合の攻撃を跳ね除けるアイアンオフィサーでしたが、最後はロマーノとシメオン、圭一郎の気転で何とか撃破です。
しかし、損害も大きかったです。

次回は影将軍との勝負。
白狼が一騎打ちへ持ち込みますが、そこへ………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター37『死闘です!(その2)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター37『死闘です!(その2)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

ワールドランドのウェスタンランド………

 

「喰らえぇっ!!」

 

MG42を影将軍に向かって発砲する豹詑。

 

「トランプフェイド」

 

だが、影将軍はベルトのバックルから取り出したトランプをばら撒いたかと思うと、煙の様に消えてしまい、MG42の弾丸は何も無い空間を通り抜ける。

 

「!? 消えたっ!?」

 

「! 豹詑! 背中にっ!!」

 

「えっ!?」

 

飛彗の声に、豹詑が肩越しに背中を見やると、そこには数枚のトランプが張り付いていた。

 

「!? 何時の間にっ!? うわっ!?」

 

「待ってろ、今取ってやる!」

 

トランプを剥がそうとする豹詑だったが手が届かず、海音がフォローに入るが………

 

その海音が手を触れた瞬間に、トランプは爆発した!

 

「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」

 

「豹詑! 海音!」

 

白狼の叫びが響く中、黒焦げになった豹詑と海音は戦死判定となる。

 

「クソッ!」

 

「フフフフ………」

 

舌打ちした白狼の背後に、影将軍が突然出現する。

 

「! オリャアッ!!」

 

驚きながらも鋭い蹴りを影将軍目掛けて繰り出す白狼。

 

しかし、蹴りが命中すると思われた瞬間に、またも影将軍の姿は煙の様に消えてしまう。

 

「!?」

 

「コッチだ………」

 

白狼が驚きを示すと、背後から声がして、やや離れた場所に悠然と佇んでいる影将軍の姿が在った。

 

「コノヤロウ………」

 

その余裕の態度が癪に障り、怒りを露わにする白狼。

 

「白狼、冷静に………」

 

「分かってるって!」

 

飛彗が宥めて来るが、白狼は怒鳴り返す。

 

「コレなら如何だっ!?」

 

とそこで、飛鳥が影将軍目掛けてバズーカを発射した!

 

ロケット弾が影将軍の足元に着弾し、影将軍の姿が爆炎の中に飲まれる!

 

「やったっ!………!?」

 

飛鳥が歓声を挙げた瞬間、背中に衝撃が走り、そのまま地面にうつ伏せに倒れる。

 

そして、戦死判定が下る。

 

「若造………誰をやった積りになっていた?」

 

飛鳥の背後に立っていた人物………影将軍がフェンシングの剣の様な剣・影剣を構えていた。

 

「チクショウ………」

 

無念さを顔に露わにする飛鳥。

 

「!!」

 

そこで今度は陣が、両腕に持って腰溜めに構えたラハティ L-39 対戦車銃を発砲する。

 

「フッ………」

 

だが、影将軍がマントを翻したかと思うと、その姿が巨大なトランプに変わる。

 

そして、まるで風に吹かれる柳の様に、ラハティ L-39 対戦車銃の弾丸をヒラリヒラリと回避する。

 

「!!」

 

陣は怯まず次々にラハティ L-39 対戦車銃から弾丸を撃ち続ける。

 

だが、巨大トランプはやはりヒラリヒラリと舞いながらラハティ L-39 対戦車銃の弾丸を躱しながら、陣へと近づいて行く。

 

そして至近距離まで近づいた瞬間………

 

まるでブーメランの様な高速で回転し始めた!

 

「!!」

 

そのまま突っ込んで来る巨大トランプに対し、陣はラハティ L-39 対戦車銃を立てて構え、防御しようとしたが………

 

巨大トランプはラハティ L-39 対戦車銃をまるでバターの様に易々と切り裂き、陣へと直撃!

 

「!?」

 

2メートル近い陣の巨体が軽々と宙に舞い、地面に叩き付けられた!

 

「!? 陣っ!!」

 

「…………」

 

カチューシャの悲鳴の様な声が響く中、陣はそのまま戦死判定となる。

 

「! よくも陣をっ!!」

 

そこでカチューシャは、怒りのままにまだ宙に舞っていた巨大トランプに向かって、機銃架のSG-43重機関銃を発砲する!

 

SG-43重機関銃から次々と放たれた銃弾が、巨大トランプを蜂の巣にする。

 

しかし、次の瞬間………

 

巨大トランプは、無数のトランプとなって紙吹雪の様に辺りに舞い散った!

 

「うおっ!?」

 

「またコレかよっ!?」

 

大洗連合部隊の歩兵達が身構えた瞬間………

 

舞っていたトランプが、一斉にある人物達の元へと殺到した!

 

「ぬううっ!?」

 

「狙いは俺達かっ!!」

 

竜作とハンターである。

 

まるで土石流の様に、無数のトランプが2人に向かう!

 

「ぶるあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「俺に生きる実感をくれっ!!」

 

だがそのトランプの奔流を、竜作は両手のバヨネット、ハンターはマチェットを振り回して次々と切り落として行く。

 

2人の足元に、次々と切り裂かれたトランプが落ちて行く。

 

やがてトランプは2人から離れ、ある場所で竜巻を作ったかと思うと………

 

「ほほう………出来るな」

 

その竜巻が弾けて、影将軍が姿を現す。

 

「この程度でこの俺を倒そうなど! 片腹痛いわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「戦いの基本は格闘だ! 武器や装備に頼ってはいけないっ!!」

 

そんな影将軍に対し、竜作とハンターはそう吠える。

 

「フフフ、吼えるではないか。だが………俺ばかりに気を取られていて良いのか?」

 

「「何っ………?」」

 

しかし、影将軍がそう言った事で、2人が首を傾げると………

 

足元に手榴弾が転がった。

 

「「!? しまっ………」」

 

2人が、しまったと言い切る前に手榴弾は爆発!

 

破片と爆風を諸に浴び、戦死判定となる!

 

「! 竜作っ! ハンターッ!!」

 

「やったっ! 討ち取ったぞっ!!」

 

速人が叫ぶ中、手榴弾を投げた大学選抜歩兵が歓声を挙げる。

 

「良くやった。お前達も存分に働くが良い」

 

「「「「「「「「「「ハッ! 影将軍っ!!」」」」」」」」」」

 

影将軍がそう言うと、大学選抜歩兵達が一斉に大洗連合歩兵達に殺到する。

 

将軍を名乗るだけあり、カリスマも中々有る様だ。

 

そのまま大学選抜歩兵達は、大洗連合部隊と乱戦に突入する。

 

「マズイですよ! この乱戦中にアイツの攻撃を受けたらっ!!」

 

「フフフ………」

 

飛彗がそう言っている中、影将軍はそれが分かっているかの様に、手の中てトランプをシャッフルしている。

 

「クソがっ!!」

 

するとそこで、白狼が愛車のツェンダップK800Wに跨ったかと思うと、マックスターンを繰り出す。

 

「付いて来い! トランプ野郎っ!!」

 

そして、影将軍に挑発の言葉を吐いたかと思うと、大学選抜歩兵達を突破して走り出した!

 

「!? 白狼っ!?」

 

「ほう? 我を引き離す為に囮になるか………良いだろう。乗ってやろう」

 

飛彗が声を挙げると、影将軍は白狼の考えを看破しつつも、敢えてそれに乗り、再び巨大なトランプへと姿を変えたかと思うと、白狼を追うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動中の白狼………

 

(付いて来てるな………)

 

背後を振り返り、巨大なトランプが追って来るのを確認する白狼。

 

するとその瞬間………

 

ツェンダップK800Wのタイヤを、トランプが切り裂いた!!

 

「!? おうわっ!?」

 

パンクして真面に走れなくなったツェンダップK800Wから投げ出される白狼だが、何とか受け身を取って着地する。

 

「追いかけっこはココまでだ」

 

その近くに、巨大トランプも着地したかと思うと、影将軍の姿へと変わる。

 

「チイッ………」

 

白狼は起き上がりながらヌンチャクを取り出す。

 

「テメェ………何で俺の誘いに乗った?」

 

そこで白狼は、何故自分の考えを看破しながら誘いに乗って来たのかと影将軍に問い質す。

 

「貴様の勇敢な行動に敬意を払っただけだ。島田の家元殿は何やら思惑がお有りの様だが、俺は俺のルールで動く」

 

「へっ、そうかよ」

 

「お喋りはココまでだ………トランプカッターッ!!」

 

そこで影将軍は、無数のトランプを白狼目掛けて投げつける!

 

「ホワタタタタタタァーッ!!」

 

飛んで来るトランプを、ヌンチャクを使って次々に叩き落す白狼。

 

「ホワタァッ!」

 

そしてトランプを叩き落し終わると、影将軍に殴り掛かる。

 

「トランプフェイド!」

 

だが、ヌンチャクが命中するかと思われた瞬間に、影将軍は無数のトランプ撒き散らし、消えてしまう。

 

「! そこだぁっ!!」

 

しかし白狼は、ヌンチャクを右手に持ったまま、左手で流星錘を、近くに在った街路樹の幹へと飛ばした。

 

流星錘が街路樹の幹に命中するかに思われた瞬間、火花を散らして何かに弾かれる。

 

「フフ、良い勘だな………」

 

その街路樹の幹から、影剣を握った影将軍がスーッと出現する。

 

「もう1発喰らえっ!!」

 

そう言って白狼は、再度流星錘を影将軍目掛けて投げつける。

 

だが………

 

影将軍目掛けて飛んで行った流星錘は、飛んでいる最中に真っ二つになり、そのまま影将軍を避ける様に施設の壁に命中した。

 

「!? 何っ!?」

 

驚く白狼。

 

(まさかっ!? さっき弾いた時に既に切断してたのかっ!?)

 

「例え数秒でも、戦場で気を逸らすのは自殺行為だぞ」

 

白狼がそう考えたほんの数秒に、影将軍はそう言いながらトランプを1枚投げつけた!

 

「! ホワタァッ!!」

 

だが、白狼は自慢の反射神経でヌンチャクを振るって叩き落そうとする。

 

しかし………

 

トランプは白狼ではなく、ヌンチャクの棒部を繋げているロープ部分に命中。

 

ロープを切断した!

 

「!? しまったっ!? クソッ!」

 

ロープが切れたヌンチャクを捨てる白狼。

 

(チェーン式のやつにしとけば良かったぜ)

 

そんな事を思うが後の祭りである。

 

速度に劣る為、チェーン式ではなくロープ式のヌンチャクを使っていたのが仇となった。

 

「トランプショットッ!」

 

そんな白狼に対し、影将軍は今度は爆発するトランプを投げつける。

 

「! オワタァッ!!」

 

咄嗟に白狼は、鞭の様に撓った回し蹴りを繰り出す。

 

トランプショットは白狼のその蹴りに弾かれ、地面に突き刺さると、舗装路を爆ぜさせる。

 

「そらそら! 何時まで防ぎ切れるっ!?」

 

影将軍は連続でトランプショットを繰り出す。

 

「アチャーッ!! オワタァッ!! ホワチャァッ!!」

 

独特な気合いの掛け声と共に、次々とトランプショットを蹴りや手刀で弾く白狼。

 

弾かれたトランプが周りの施設の壁や地面に突き刺さる度に爆ぜて行く。

 

(クソッ! 防ぎ切れるかっ!?)

 

白狼は爆発の度に浴びせられる小さな破片の痛みに耐えながら、それでも次々とトランプショットを弾き落として行く。

 

と、その眼前に、1枚のトランプが迫った!

 

「! アブネッ!?」

 

間一髪のところで首を反らしてそのトランプを回避する白狼。

 

だがその直後!

 

別のトランプが、再び白狼の眼前に迫った!

 

(!? 回避の仕方を読まれたっ!?)

 

「終わりだ、小僧」

 

思わず目を見開く白狼に、影将軍はそう言い放つ。

 

(やられるっ!!)

 

そう悟る様に確信した白狼。

 

………しかし!

 

突如横合いから飛んで来た『何か』が、白狼の顔に命中すると思われたトランプに突き刺さり、そのまま壁に張り付けた!

 

「!?」

 

「! 何っ!?」

 

白狼も影将軍も驚きを露わにする。

 

トランプを張り付けた『何か』………

 

それは『ナイフ』だった。

 

「! アレはっ!?」

 

そのナイフに見覚えを感じる白狼。

 

それは、自分にとって因縁深い相手が使っていたナイフだった。

 

「よう、何俺以外の奴相手に苦戦してやがるんだ………」

 

そう言って姿を現す親衛隊の戦闘服を来た黒森峰歩兵………

 

『朽葉 蟷斬』

 

「蟷斬………」

 

「新手か………」

 

意外そうな表情を見せる白狼と、油断無く構える影将軍。

 

「漸く日本に帰って来てみれば、黒森峰は他の学校の連中と一緒に大学選抜のチームと試合中だって言うじゃねえか。この俺を差し置いてそんな大戦だなんてよぉ」

 

「いや、お前が………」

 

勝手に武者修行の旅に出ていたのがいけないだろうが、と言おうとして、嘗て自分も個人的事情で部隊を離れた事を思い出し、言葉を飲み込む。

 

「………まさかお前に助けられるとはな」

 

そして露骨に話題を変えてそう言い放つ。

 

「別に助けたワケじゃねえ。お前を倒すのはこの俺だからだ」

 

「何処のベジータだ、お前は?」

 

テンプレ的な蟷斬の台詞に、白狼はそうツッコミを入れる。

 

「2対1か………別に問題は無いが、念の為だ………影分身!」

 

とそこで、影将軍が動いたかと思うと………

 

何と!

 

その姿が2人になる!

 

「もう何でも有りだな………」

 

その光景を見て、呆れる様に呟く白狼。

 

「神狩 白狼。テメェは引っ込んでろ。俺が2人とも片付ける」

 

そう言って蟷斬が白狼の前に出る。

 

「その自惚れが強い所は変わらねえなぁ。お前こそ引っ込んでろ」

 

だが白狼はそう言って、蟷斬の隣へ並び立つ。

 

「敵を前に内輪揉めか? その隙は見逃さんぞ」

 

とそこで、2人の影将軍の内、1人………影将軍Aが影剣を手にし、蟷斬の方へ斬り掛かる!

 

「来やがれっ!!」

 

蟷斬が右手にナイフを逆手に持って構える。

 

「フフフ、受け切れるか?」

 

押し切る自信の有る影将軍は不敵に笑う。

 

「ヘッ………」

 

だが、蟷斬の方も不敵に笑ったかと思うと………

 

「コオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーー………」

 

蟷斬は、独特な呼吸の仕方を始める。

 

すると、蟷斬の身体に、オレンジ色の電流の様なスパークが発現する。

 

「むっ!?」

 

その様子に軽く驚きながらも、剣を止められず、蟷斬と切り結ぶ影将軍A。

 

すると、その途端………

 

そのオレンジ色のスパークが蟷斬の持つナイフに伝わり、更にナイフから切り結んでいる影剣へと伝わり、そして最後に影将軍の影剣を握る手へと伝わった!

 

「! ぐあああっ!?」

 

手に焼ける様な痛みが走り、思わず飛び退く影将軍A。

 

「!? 何だっ!?」

 

慌てて残りの影将軍………影将軍Bが、蹲る影将軍Aの様子を覗き見る。

 

「!? コレはっ!?」

 

見れば、影将軍Aの影剣を握る手から、まるで焼けているかの様な煙が上がり、オレンジ色のスパークが迸っている。

 

「今のは………」

 

「んぐ………んぐ………」

 

白狼が目を見開く中、何を思ったのか蟷斬は水筒を手に取り、中の水を口に含む。

 

「パパウパウパウッ!!」

 

そして独特な掛け声と共に、含んでいた水を歯の間から押し出す様に吐き出したかと思うと………

 

何と!

 

吐き出した水が、まるで円盤の様になって回転するカッターと化した!

 

「! トランプカッターッ!!」

 

咄嗟にトランプを投げ、その水のカッターを相殺する影将軍B。

 

「お前………今、何をした?」

 

「へっ、本来ならお前を倒す為に見せる技だったんだがな………」

 

白狼が尋ねると、蟷斬は不敵に笑ってそう返す。

 

「コレが俺の身に付けた新たな力………『仙道』………『波紋法』だ!」

 

そして影将軍を見据えてそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

パワータイプのアイアンオフィサーと打って変わって、奇妙な術を駆使するトリックスターの影将軍。
それに翻弄される中、一騎打ちへと持ち込む白狼だったが………
そこへ何と蟷斬が出現。
新たな戦闘技術『波紋法』を披露します。

戦車道は選択授業ですが、他にも忍道や華道なんかがあって、その中に仙道が在ったのを思い出し、仙道と言えば波紋法だなと思って、仙道を取ると波紋が使える→ガルパンの世界には波紋が有るなんて妄想に至りまして。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター38『死闘です!(その3)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター38『死闘です!(その3)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

ワールドランドのウェスタンランドの外れ………

 

「波紋法だと………?まさか未だにそんなモノを修行する奴が居たとはな………」

 

まだ右手から煙を上げている影将軍Aを横目に、影将軍Bは蟷斬を見据えてそう言い放つ。

 

「仙道って、あの選択科目の中に在ったアレか?」

 

一方白狼は、蟷斬が言った波紋法………仙道が必修選択科目の中に在った事を思い出す。

 

「ケッ、授業なんかでやるのと一緒にするな。アレは所詮、真似事だ」

 

しかし蟷斬は心外だと言う様な言葉を返す。

 

「本物の仙道………波紋法は、特殊な呼吸法により、体を流れる血液の流れをコントロールして血液に波紋を起こし、『波紋』………即ち生命エネルギーを生み出す」

 

そして、白狼に向かって得意気に説明を始める。

 

「そのエネルギーは太陽にも匹敵する!」

 

「太陽だぁっ!?」

 

蟷斬の説明に半信半疑な様子の白狼。

 

「フフフ、確かに波紋のエネルギーはそれ程までに凄まじい………」

 

とそこで、右手から白い煙を上げたまま、影将軍Aが立ち上がる。

 

「「!!」」

 

咄嗟に身構える白狼と蟷斬。

 

「だが、それを使えるのは貴様だけでは無い」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

続く影将軍Aの言葉に、蟷斬が驚きを示した瞬間………

 

白煙が上がり、オレンジ色のスパークが走っていた影将軍Aの右手に、より強力なオレンジ色のスパークが奔り、白煙と最初から上がっていたオレンジ色のスパークが掻き消される。

 

「!? アレはッ!?」

 

「波紋だとっ!?」

 

その様子を見て、再度驚きを示す白狼と蟷斬。

 

「フフフ、俺が最早使う者も殆ど居なくなった波紋を知っていた事で気づかなかったのか?」

 

そんな2人に対し、影将軍Aは不敵に笑う。

 

「チイッ! 自分の波紋で俺の波紋を打ち消しやがったのか!!」

 

舌打ちをしながら、両手にナイフを逆手に持って構える蟷斬。

 

「さっきからお前が使っている手品みたいな技も波紋の技か!?」

 

白狼もそう問い質す様に言いながら構えを執る。

 

「それは自分で確かめて見たまえ………」

 

そこで、そう言う台詞と共に影将軍Bが、影将軍Aと並び立つ。

 

「チッ! オラァッ!!」

 

「テメェッ! 抜け駆けすんじゃねえっ!!」

 

白狼が影将軍Bに踊り掛かると、蟷斬も遅れは取らぬと言う様に影将軍Aに斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白狼VS影将軍B………

 

「ホワタァッ!!」

 

「ぬんっ!」

 

繰り出された白狼の飛び蹴りを、左腕で防いだかと思うと、そのまま身体を回転させて受け流す影将軍B。

 

「セアッ!!」

 

そして、その回転の勢いに乗せて右手の影剣で白狼の首を狙って突きを繰り出す。

 

「フッ!」

 

だが、今度は白狼がそれを回転する様に躱し、その勢いに乗せた右の裏拳を繰り出す。

 

しかし、その裏拳が当たるかと思われた瞬間に、影将軍Bの姿が無数のトランプとなって消える。

 

「そいつはもう見切ったっつったろぉっ!!」

 

するとその瞬間!

 

白狼は右腕を振り被って、右の拳を地面に叩き付けた。

 

余程の威力だったのか、右腕が地面に肘の辺りまで突き刺さる。

 

「やるなっ!!」

 

その腕がグイッと持ち上がったかと思うと、地面の中から白狼の右手を摑んでいた影将軍Bが飛び出して来て、白狼を投げ飛ばす。

 

「ハッ!!」

 

後方宙返りをしながら着地を決める白狼。

 

「ムウン…………」

 

その白狼に向かって、油断無く影剣を構える影将軍B。

 

(トランプもだが、あの剣も厄介だな………)

 

白狼も油断無く構えながらも、影将軍Bが持つ影剣への攻略に思案を巡らせる。

 

(………よしっ!)

 

するとそこで、何かにを思い付いた様な顔になったかと思うと………

 

「ホワタァッ!!」

 

何を思ったのか、近くに在った西部劇風の建物の木造施設に蹴りを入れた!

 

「むっ!?」

 

何の積りだと影将軍Bが身構えると………

 

「………コイツが良いか」

 

白狼は壊れて崩れ落ちた施設の木材の中から、丁度良い長さと太さの木材を手にし、まるで演武をする様に振り回し、構えを執った。

 

「ほう? 棒術か」

 

その構えが棒術の構えである事を見抜いた影将軍Bがそう言って来る。

 

「カンフーだけじゃなくて、一通りの武術は齧ったんでね」

 

「そうか………トランプカッターッ!!」

 

白狼がそう返すのを聞いた後、影将軍Bはトランプカッターを投げつける。

 

「ホオオワタアアアァァァァーーーーーッ!!」

 

だが、白狼は飛んで来るトランプを、手に持っていた棒をまるで扇風機の羽の様に回転させ、弾き飛ばす。

 

「トランプショットッ!!」

 

すると影将軍Bは、今度は爆発するトランプショットを繰り出す。

 

「!!」

 

しかし白狼は、その場にしゃがんだかと思うと、下半身のバネを目一杯使って、低い姿勢のまま影将軍Bに向かって水平に跳躍した!

 

「ゼヤアッ!!」

 

そして影将軍Bの懐に飛び込むと、棒を振り被る。

 

「馬鹿め! 懐に入っては棒術の方が不利だぞっ!!」

 

だが、白狼が棒を振り降ろすよりも早く、影将軍Bの振り降ろした影剣が白狼の脳天に向かう!

 

「如何かなっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

白狼は振り降ろそうとしていた棒の機動を変えて地面に柄を付ける様にしたかと思うと、そのまま棒高跳びの要領で身体を持ち上げ、影将軍Bの頭上を飛び越えようとする。

 

「何っ!?………と言うと思ったのか?」

 

一瞬驚いたかの様な様子を見せた影将軍Bだったが、それは見せかけであり、素早く影剣の軌道を変え、白狼が支えにしていた棒を斬り裂いた!

 

「!? おうわっ!?」

 

バランスを崩した白狼は、影将軍Bに向かって落下する。

 

「終わりだ、若造」

 

影将軍Bは、落下して来る白狼に対し、影剣を突き上げようとする。

 

(クソッ! このままじゃ!!………)

 

如何にか体勢を整えようと空中で身体を捻る白狼だが落下位置は変わらない。

 

「トドメだ! 影剣っ!!」

 

そして遂に、影将軍Bの影剣が白狼目掛けて突き上げられる!!

 

「チキショウッ!!」

 

白狼は悪態を吐きながら、自分に向かって突き上げられて来る影剣の刀身を、無意識の内に摑もうとしていた。

 

その瞬間………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

蟷斬VS影将軍Aの様子は………

 

「オラァッ!!」

 

影将軍Aの顔面目掛けて、ナイフを握ったままの拳を繰り出す蟷斬。

 

「フッ………」

 

影将軍Aはスウェーの様に身を反らして避けようとする。

 

が!

 

「!? グッ!?」

 

突如伸び切ったと思われた蟷斬の腕が更に伸び、間合いが伸びた事で影将軍は真面にパンチを喰らってしまう。

 

「ぬうっ! 腕の関節を外してリーチを伸ばしたかっ!?」

 

「コイツも波紋の応用よ!」

 

顔を押さえながら言う影将軍Aに、蟷斬はそう返す。

 

今蟷斬が使った技は『ズームパンチ』と言い、腕の関節を外しパンチの射程を延ばす波紋法の基本技である。

 

関節を外した際の激痛は、波紋で和らげているのだ。

 

「小癪な………」

 

そう呟きながら構えを執り直す影将軍だったが、その瞬間には蟷斬は影将軍の懐に飛び込んでいた。

 

「!?」

 

「おせぇっ! 仙道波蹴っ!!」

 

慌てて防御しようとした影将軍Aだったが、それよりも早く蟷斬が、波紋を込めたひざ蹴りを、再度影将軍の顔面に叩き込む!

 

「ぬおおっ!?」

 

先程のズームパンチのダメージも合わさり、影将軍Aの特徴である頭全体を覆う様な透明なヘルメットに罅が入る。

 

「そらぁっ!!」

 

駄目押しとばかりに、波紋を両手に握っているナイフに流し、切り付けようとする蟷斬。

 

「舐めるなぁっ!!」

 

だが、そこは腐っても大学選抜精鋭歩兵。

 

素早く体勢を立て直したかと思うと、自らも波紋を影剣に流し、蟷斬のナイフを2本とも受け止める。

 

両者の波紋がぶつかり合い、激しいスパークが飛び散る!

 

「ぐうううううっ!!」

 

「ぬうううううっ!!」

 

両者は1歩も引かずに鍔迫り合いを展開する。

 

やがて、2人の波紋エネルギーは相反して爆発を起こす!

 

「ぬあああっ!?」

 

「おおおっ!?」

 

その爆発の爆風で吹き飛ばされる蟷斬と影将軍A。

 

「チイッ!!」

 

背中から地面にぶつかった蟷斬だったが、すぐに後転する様に受け身を執り、体勢を立て直す。

 

すぐさま、影将軍Aの姿を探すが何処にも見当たらない。

 

と、次の瞬間!!

 

蟷斬の事を5枚の巨大トランプが取り囲んだ!

 

「!?」

 

蟷斬が驚いていた瞬間!

 

5枚の巨大トランプから、一斉に火炎放射が放たれた!

 

「! 波紋っ!!」

 

咄嗟に身体の表面に波紋を流し、火炎を防御する蟷斬。

 

だが、巨大トランプからの火炎は絶え間無く出続ける。

 

「フフフ………何時まで耐えられるかなぁ?」

 

「コノヤロウッ!!」

 

何処からとも無く響いてくる影将軍Aの声に、蟷斬は苛立っている様な声を挙げる。

 

(クソッ! マズイッ! 酸素が無くなって来て呼吸が………波紋の呼吸のリズムが乱れる!)

 

しかし、火炎に包まれているせいで徐々に酸素が無くなって行き、呼吸が乱れ始める。

 

波紋のエネルギーは呼吸によって生み出される。

 

逆に言えば、呼吸が乱れると波紋エネルギーは消えてしまう。

 

酸素が徐々に減少して行けば、当然呼吸は出来なくなる。

 

今蟷斬を守っている波紋のバリアーが無くなれば、即座に蟷斬は戦死判定だ。

 

しかし、今の状況で波紋のバリアーを解いても即座に戦死判定になるのは変わりない。

 

正に進退窮まる状況だった。

 

「クソがぁっ!!」

 

「このままジワジワと焼き尽くして………!? むっ!?」

 

悪態を吐く蟷斬に、影将軍は得意気に言い放とうとして、何かに気づく。

 

「分身が倒された………と言う事は」

 

白狼と対峙していた分身の影将軍Bが倒された事を察した瞬間………

 

「こう言う事だぁっ!!」

 

そう言う叫びと共に白狼が姿を現し、巨大トランプの1枚に空中回し蹴りを喰らわせる。

 

その際に、白狼の足からオレンジ色のスパークが発せられる。

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

その蹴りを喰らった瞬間、全ての巨大トランプにオレンジ色のスパークが走り、ボンッ!と煙を発して巨大トランプが消える。

 

「!? テメェッ! それはっ!?」

 

漸く火炎攻撃から解放された蟷斬が、着地した白狼の蹴りを繰り出した方の足に迸っているオレンジ色のスパークを見て驚愕する。

 

「へっ、見様見真似だったが、上手く行ったみたいだな」

 

そう言って不敵に笑う白狼。

 

今彼が使っていたのは、紛れも無く『波紋』だった。

 

(見様見真似だと!? コイツ! アレだけ見ただけで波紋をラーニングしやがったのかっ!?)

 

そんな白狼に対し、蟷斬は内心で驚愕を続けていた。

 

「ぐううっ! オノレェ………」

 

とそこで、本体だけとなった影将軍が舞い散るトランプと共に姿を現す。

 

その全身にはオレンジ色のスパーク………波紋が迸っている。

 

「………むううんっ!!」

 

だが、次の瞬間に気合を入れる様な動きをしたかと思うと、波紋を吹き飛ばす。

 

「貴様の見様見真似の波紋など通用せんっ!!」

 

そう言い放つ影将軍だったが、やはりダメージは有るのか、少し息が上がっている様に見える。

 

「クソッ! ハア………ハア………」

 

「ゼエ………ゼエ………」

 

だが、それは白狼も蟷斬も一緒だった。

 

お互いに残る体力は1撃分………

 

つまり、次の攻撃で全てが決まる。

 

「………オイ、クソ蟷斬………10秒だけ手ぇ貸せ………」

 

「………妥当な時間だ」

 

するとそこで、白狼と蟷斬はそう言い合ったかと思うと、白狼が蟷斬の背後に隠れる様に移動する。

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

そして、その状態で影将軍目掛けて突進した!

 

(1人が盾となり、もう1人が仕掛ける積りか………だが、そう上手くは行かんぞ)

 

2人の狙いをそう読み、影将軍は影剣を構える。

 

「喰らえっ! 波紋疾走っ!!」

 

最初に仕掛けたのは蟷斬。

 

波紋を纏った右の拳を影将軍に繰り出す!

 

「セエアッ!!」

 

それに対し、影将軍は影剣を振るう!

 

蟷斬の波紋パンチと影将軍の影剣がぶつかり合い、激しくスパークを散らす。

 

とそこで、白狼が蟷斬の背後から飛び出す。

 

「馬鹿め! お見通しだっ!!」

 

読んでいた影将軍は左手に持っていたトランプを投擲しようとする。

 

だが………

 

「ハアッ!!」

 

仕掛けるかと思われた白狼は大きく迂回し、影将軍の右背後に回った!

 

「!? 何っ!?」

 

何故態々背後にと思いつつ、自分の身体が邪魔でトランプを放れない為、蟷斬にトランプの標的を変更し、白狼には影剣を振り直して対応しようとする影将軍。

 

しかし………

 

「!? 離れんっ!?」

 

何と!

 

蟷斬の拳とぶつかっていた影剣が、まるで強力な磁石にくっ付いた様に剥がれなくなっていた!

 

「波紋にはこういう使い方も有るんだぜ!」

 

蟷斬が影将軍に向かってそう言い放つ。

 

如何やら、波紋によって影剣を拳に吸い付けている様だ!

 

「!? しまっ………」

 

「うおおおおおっ!!」

 

た、と言い切る前に、白狼の波紋を纏ったパンチが、影将軍の背中に叩き込まれた!

 

「ぬおおおおおおおおおっ!?」

 

「刻むぜっ!」

 

「波紋のビートッ!!」

 

影将軍の悲鳴が挙がる中、白狼と蟷斬は、己の中に残る全ての波紋を、影将軍へと流し込んだ!!

 

2人分の波紋を流し込まれ、更に激しいスパークが影将軍の全身に迸る!

 

「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」

 

白狼と蟷斬の最後の気合の咆哮が木霊した瞬間!

 

巨大な爆発が起こり、3人を包み込んだ!!

 

朦々と立ち込める黒煙………

 

それがやがて晴れた時………

 

「「…………」」

 

お互いに吹き飛ばされて仰向けに倒れている白狼と蟷斬………

 

そして爆心地点で片膝を着いて、影剣を支えにしている影将軍の姿が在った。

 

とそこで、影将軍の懐から1枚のトランプが零れ落ちる。

 

スペードのA(エース)のカードだった。

 

「スペードのA(エース)………ククク、成程………俺の負けは決まっていたと言う事か………」

 

そのトランプを見た影将軍は自嘲する様に笑ったかと思うと、最後の力を絞って立ち上がる。

 

そして………

 

「大学選抜チーム………万歳っ!!」

 

大学選抜チームを称えて万歳をし、そのまま倒れて動かなくなった。

 

やがて、戦死判定を告げるブザーが鳴った。

 

「「…………」」

 

一方、既に倒れていた白狼と蟷斬も動かず、程無くして戦死判定を告げるブザーが鳴った。

 

如何やら、全ての体力を使い果たし、戦死と判定された様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その頃………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

影将軍と蟷斬・白狼の死闘。
波紋を駆使する蟷斬と見様見真似で会得する白狼。
しかし、影将軍も一筋縄ではいかない。
そして最後は2人が力を合わせて相討ちに。
続いての激戦の場は………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター39『死闘です!(その4)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター39『死闘です!(その4)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・大洗連合部隊の第2補給地点………

 

防衛部隊のお蔭で出発する事が出来た補給部隊は、遊園地から少し離れた場所に新たな補給地点を設け、後退して来た部隊の整備・補給を行っていた。

 

「良し! 満タンだっ!!」

 

「砲弾の補給、完了しましたっ!!」

 

「足回りを含め、各部の整備完了ですっ!!」

 

「ふん……悪くない…故に神は全知全能であるのか…? 希望を私たちの光に変えます(訳:ありがとうございます)」

 

補給を受けていた部隊の中にはサンショウウオさんチームのクロムウェルの姿も在り、整備終了の報告を挙げる整備隊員達に、今日子が感謝を述べる。

 

「ふう、流石に疲れましたわ………」

 

しかし、早苗がそう漏らした様に、搭乗していたメンバーには長時間の戦闘で疲労の色が見えていた。

 

するとそこへ………

 

「皆! お待たせっ!!」

 

「ココからは私達の出番よ」

 

そう言う台詞と共に、聖子と里歌を先頭に、残りのサンショウウオさんチームの面々が姿を現した。

 

「悪いね、後は頼むよ」

 

「お任せ下さい」

 

郁恵の言葉に、優がそう返事を返す。

 

そう、クロムウェルに聖子達ではなく今日子達が乗って居たのはこの為なのだ。

 

他チームと違い、余剰メンバーの居るサンショウウオさんチームならではの芸当である。

 

「さあ、行くよ、皆!」

 

疲労したメンバーと交代し、聖子が車長、伊代が通信手、優が砲手、満里奈が装填手、里歌が操縦手としてクロムウェルに乗り込む。

 

と、その時!!

 

「敵襲ーっ! 敵襲ーっ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

補給拠点の防衛に回っていた歩兵の1人からそう叫びが挙がり、聖子達の顔に緊張が走る!

 

「皆!」

 

「照準器、正常!」

 

「駆動系、問題無いわ」

 

「砲弾………確認にゃ」

 

「通信機も感度良好っ!」

 

聖子が呼び掛けると、乗り込んだメンバーは自分の担当部署の機器をチェックし、異常が無い事を確認する。

 

「良し! パンツァー・フォーッ!!」

 

お馴染みの掛け声と共に、クロムウェルは緊急発進した!

 

「敵は………居たっ! アレねっ!!」

 

キューポラから姿を晒していた聖子は、双眼鏡を手に襲撃を掛けて来た敵の姿を探し、やがて激しく土煙を巻き上げながら走っている1輌の戦車を発見した。

 

「!? えっ!? アレって………!?」

 

だが、その戦車を見た瞬間………

 

聖子の顔は、驚愕に染まるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

遊園地跡・ワールドゾーンの出入り口………

 

ニュルンベルクのケーニヒ門を模したゲートの付近………

 

ヤークトパンター1輌が、T34の120ミリ砲の直撃を受け、爆発したかと思うと白旗を上げる。

 

「すみません、総隊長」

 

「気にするな。お前は十分に義務を果たした」

 

申し訳無さそうに報告して来る戦車部隊員に、まほはそう返す。

 

「コレで残るは我々だけですか………」

 

オレンジペコがそう言って辺りを見回すと、そこいら中で白旗を上げている黒森峰とグロリアーナの戦車部隊と、倒れ伏している黒森峰とブリティッシュの歩兵部隊員を見渡す。

 

「けど、敵はコチラの想定通り、大橋まで前進して来てくれたわ」

 

しかし、アッサムが照準器越しにT29、T30、T34を見据えてそう言う。

 

現在その3輌は、随伴歩兵分隊と共に、既にゲートを抜け、そこから繋がっていた大橋へと差し掛かっていた。

 

「それでは皆さん。準備は宜しくて?」

 

そこで紅茶仮面が皆にそう呼び掛ける。

 

「何時でも良いぞ」

 

「同じく」

 

「準備出来ています」

 

「ゲロゲロリ」

 

「どうぞ」

 

まほ、エリカ、小梅、久美、ルクリリが次々に返事を返す。

 

「では、行きますわ」

 

「…………」

 

それを確認した紅茶仮面が、フクロウ男爵へ目配せをしたかと思うと、フクロウ男爵が手に持っていたスイッチの様な物を押した。

 

その途端!

 

橋桁で爆発が起こった!

 

「!?」

 

「しまったっ!! 罠かっ!?」

 

橋を崩す積りかと慌てる大学選抜部隊。

 

しかし、橋には罅が入ったものの、崩落するまでには至らなかった。

 

「何だ、発破に失敗か。驚かせやがって」

 

「そもそもアイツ等もまだ橋の上に居るんだ。爆破出来るワケがない」

 

爆破に失敗したと思った大学選抜部隊からそんな声が挙がる。

 

その言葉通り、大橋の上にはまほ達や紅茶仮面達も陣取っており、今大橋を崩落させれば、漏れなくまほ達と紅茶仮面達も巻き添えになってしまう。

 

それが分かっていて爆破出来るとは思わない大学選抜部隊は、加速して一気にまほ達と紅茶仮面達を肉薄しようとする。

 

すると………

 

「都草! 今だっ!!」

 

「ああ………」

 

今度はまほが都草に呼び掛けたかと思うと、先程のフクロウ男爵と同じ様に、都草は手にしていたスイッチの様な物を押した!

 

再度橋桁で爆発が起こり、今度こそ本当に橋が崩落を始めた!!

 

「!? な、何っ!?」

 

「さ、最初の爆発はコチラを油断させる為の罠だったのっ!?」

 

「馬鹿なっ!? 我々を道連れにする積りかっ!?」

 

一気に前進して、全部隊が橋の上へと移動してしまっていた大学選抜部隊は、全員が崩落に巻き込まれる。

 

しかし、まほ達と紅茶仮面達は………

 

「行けっ!!」

 

「総隊長に続くのよっ!!」

 

「コレはスリリングだね………」

 

「スリリングってレベルじゃないよっ!!」

 

何とっ!!

 

崩落する大橋の破片の上を、まるで飛び石の跳び始めた!!

 

「な、何ぃっ!?」

 

「そんなっ!? 歩兵なら兎も角、戦車にあんな動きがっ!?」

 

目の前の光景が信じられず、驚きの声を挙げる大学選抜部隊員達。

 

「ハイ、ちょっとゴメンでありますっ!!」

 

「!? ギャアッ!?」

 

久美に至っては、瓦礫の代わりにT29を踏み台にして行った。

 

「エキサイティングですわね」

 

「躊躇しないで下さいっ! したら巻き込まれますっ!!」

 

「ヒイイッ! 怖いーっ!!」

 

こんな状況でも紅茶を零さない紅茶仮面と、必死なオレンジペコ。

 

そして泣きながら悲鳴を挙げるルクリリ。

 

やがて、まほ達と紅茶仮面達は次々に岸へと到達。

 

アメリカ超重戦車を中心とした大学選抜部隊は、全員が橋の崩落に巻き込まれ、川へと落ちたのだった。

 

「あんまり良い気分じゃないですね………」

 

去年戦車ごと水没した事を思い出したのか、小梅が川の中で白旗を上げているアメリカ超重戦車部隊を見てそう呟く。

 

「大丈夫よ、この川は浅いから」

 

しかし、エリカの言う通り、川の深さは30センチ程しかない為、崩落に巻き込まれた大学選抜部隊の心配は無用である。

 

「足回りをチェックしたら次の場所へ向かうぞ。我々に休息は許されない」

 

まほはそう言い、工兵達に戦車の足回りのチェックと応急処置をさせ、次の戦場へ向かう準備をさせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

遊園地跡・ラーテゾーンでは………

 

「根性ーっ!!」

 

「撃てっ!!」

 

八九式とバレンタインがパーシング・ジャンボに向かって発砲する。

 

しかし、どちらの砲弾も弾かれ、明後日の方向へ飛んで行く。

 

「撃て」

 

反撃とばかりに今度はパーシング・ジャンボが発砲する。

 

「危ないっ!」

 

「クッ!」

 

しかし、八九式とバレンタインは撃った瞬間には走り出していた為、パーシング・ジャンボの砲弾は地面を爆ぜさせる。

 

そして今度は、パーシング・ジャンボの側面に回って砲撃する。

 

しかし、今度もパーシング・ジャンボの砲塔側面に弾かれ、砲弾が明後日の方向に飛んで行く。

 

「止めなさいよ、弾代が勿体無いわよ」

 

「お金の問題じゃないんですっ!!」

 

「金以上に大切なものがあるかぁっ!?」

 

「!? うわっ!?」

 

レイミにそう言い返した典子であったが、途端にレイミはそれまでの淡泊な態度から一変して、典子に向かってそう怒鳴った。

 

「何かお金で相当苦労したのかしら?」

 

そんなレイミの態度に、シュガーは冷や汗を掻きながらそう推測する。

 

「でも、何かこの人にだけは負けたくありません!」

 

「同感ね………」

 

典子とシュガーはそう言い合い、何とか打開策を見出そうと機動戦を続行する。

 

「ああ、もう。無駄に燃料と砲弾を使わせるんじゃないわよ」

 

そんな2人に向かって、レイミは苛立ち気にそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

そして、歩兵部隊は………

 

「フフフ………」

 

不敵な笑いと共にまたも指パッチンをするヒィッツカラルド。

 

「!? おうわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「親分ーっ!!」

 

直撃を喰らった大河がブッ飛ばされ、戦死判定となる。

 

「チキショウッ! 指パッチンをしたらカマイタチが来るってのは分かるのによぉっ!!」

 

「元々カマイタチ自体が空気の刃だからね………発見が難しい」

 

「やれやれ、物理法則もあったもんじゃねえな」

 

カロ、ジャック、ジャンゴがその光景を見てそう言い合う。

 

「フフフ。私に掛かれば何でも真っ二つだぞ」

 

相変わらず余裕綽々と言う態度でヒィッツカラルドはそう言い放つ。

 

おお、ブッダよ。

 

貴方はまだ寝ているのですか?

 

この様な人外を相手にするなど、ショッギョ・ムッジョ!

 

「さて、一気に終わりにしてやろうか………」

 

そこでヒィッツカラルドは、両手で指パッチンの体勢を取る。

 

ナムサン!

 

両手から同時に放たれるカマイタチの威力は、相乗効果を生み出し、片手で放つ時の威力の約10倍!!

 

喰らえばジャンゴ達は一溜りも無い!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

ジャンゴ達に緊張が走る。

 

「フフフ………」

 

だが、ヒィッツカラルドの不敵な笑いが木霊した瞬間………

 

「Wasshoi!」

 

ニンジャシャウトと共に、1つの影がヒィッツカラルドへ踊り掛かった!

 

殺戮者のエントリーだ!!

 

「むうっ!?」

 

すぐさまその陰に向かって指パッチンでのカマイタチを繰り出すヒィッツカラルド。

 

「イヤーッ!!」

 

だが、再びのニンジャシャウトと共に横薙ぎに振られた忍者刀が、カマイタチを切り裂き、雲散させた!

 

「ぬっ!?」

 

そこでヒィッツカラルドは初めて驚きの表情を見せる。

 

カマイタチを切り裂いた影は、反動で一旦後退する様に後ろに跳び、宙返りを決めながら着地する。

 

「ドーモ。ヒィッツカラルド=サン。葉隠 小太郎です」

 

小太郎は、ヒィッツカラルドに向かって身体の前で両手を合わせると頭を下げて、アイサツと共にオジギをする。

 

「ニンジャか………ドーモ。初めまして、葉隠 小太郎=サン。ヒィッツカラルドです」

 

それに対し、ヒィッツカラルドは当然の様に挨拶を返す。

 

大学選抜の精鋭だけあって、NRSへの耐性もある様だ。

 

「大学選抜倒すべし………慈悲は無い」

 

「それはコチラの台詞と言わせてもらおうか」

 

殺気を溢れさせる小太郎に対し、ヒィッツカラルドは指パッチンの体勢を執る。

 

「小太郎………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その様子に見入る大詔を初めとした生き残りの連合歩兵達。

 

相手は指パッチンでカマイタチを起こす様な超人である。

 

今この場でヒィッツカラルドに対抗出来るとすれば、それはニンジャである小太郎だ。

 

下手に手出しをすれば足手纏いになる。

 

そう思うと大詔達は動けなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ラーテゾーンの内部では………

 

「コレでっ!!」

 

「終いよっ!!」

 

クロエとしずかの声が木霊すると、ヘルキャットの90ミリ砲がパーシングのエンジン部を貫き、チャーフィーに肉薄したテケが粗零距離から砲塔基部に砲弾を叩き込む!

 

パーシングとチャーフィーは爆発を起こし、一瞬の間の後、白旗を上げた。

 

「片付いたわね………」

 

ラーテゾーン内に居た全ての大学選抜戦車部隊の戦車を全て撃破した事を確認し、クロエがそう呟く。

 

「足りぬ………まだ戦い足りぬ………血の滾りが押さえ切れぬわ」

 

だが、まだまだ戦い足りぬと言う雰囲気を隠そうともしないしずかが、『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべたままそう言い放つ。

 

(姫がいつにも増して怖い~~っ! 今私、後ろ振り向けないよぉ~~っ!!)

 

背中越しにしずかの殺気を感じ取り、冷や汗を流す鈴。

 

「そうね………私もまだ全然戦えるわ」

 

((((勘弁して下さい~~っ!!))))

 

クロエの方も、まだまだ戦えると言う様子を見せているが、搭乗員の方は鈴と同じ様に冷や汗を流している。

 

とそこで、内部での戦闘が終わって静かになった事で、外から聞こえて来る爆発音や何かが切り裂かれる様な音が2人の耳に入り始める。

 

「? 何っ?」

 

「外にも敵か?」

 

自分達がラーテゾーン内で戦い、逃げ出した敵を外で待機している部隊が倒す手筈だった事も有り、外の様子を気に掛けていなかった2人は、そこで漸く、交戦中辿り付いたラーテゾーンの屋上から、外の様子を見やる。

 

そこには、何時の間にか残り少なくなっていた連合戦車部隊を追い詰めているレイミのパージング・ジャンボと、指パッチンをしながらカマイタチを飛ばし、それをニンジャ運動神経でかわしている小太郎の姿が在った。

 

「!? 嘘っ!? 何時の間にか全滅しかけてるっ!?」

 

鈴が、大損害を受けている連合部隊の様子を見て声を挙げる。

 

「アヤツ………相当デキるな………」

 

一方しずかは、小太郎と戦っているヒィッツカラルドを見て、そう呟く。

 

「けど、だからこそ戦ってみたいと思わない?」

 

するとそこで、今度はクロエが『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべてしずかに告げる。

 

「………当然!」

 

しずかは、再び『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべてクロエに返す。

 

(((((ああ、やっぱり…………)))))

 

何となくこの光景が予測出来ていた鈴とヘルキャットの乗員は、心の中で溜息を吐いた。

 

「となると、アッチのパーシング・ジャンボが邪魔ね………如何してくれようかしら?」

 

ヒィッツカラルドと戦うにはレイミのパーシング・ジャンボが邪魔だと考えるクロエが、顎に手を当てて思案を巡らせる。

 

「………ん? ねえ、あの戦車の人、さっきから何か言ってない?」

 

するとそこで、鈴が気付いた様にそう言う。

 

「「うん………?」」

 

しずかとクロエは耳を澄ます。

 

そして、レイミが何かにつけて金、金、金と言っている事に気づく。

 

「金に執着している様だな………」

 

「傭兵かしら………?」

 

クロエとしずかはそう言い合ったかと思うと………

 

「「…………」」

 

まるで悪戯を思い付いた悪ガキの様に笑った。

 

(((((あ、超絶嫌な予感………)))))

 

そんな2人の顔に、鈴とヘルキャットの乗員達は、ここ一番の悪寒を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

補給中に何者かの急襲を受けるサンショウウオさんチーム。
果たしてその正体は?

まほ達はアメリカ超重戦車軍団を退けるも、アヒルさん達はレイミとヒィッツカラルドに苦戦。
この場を打開出来るか、小太郎。
そして、しずかとクロエが思いついた策とは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター40『死闘です!(その5)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター40『死闘です!(その5)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡・ラーテゾーン………

 

「「撃てっ!!」」

 

典子とシュガーの掛け声で、八九式とバレンタインが同時に発砲する。

 

しかし、レイミのパーシング・ジャンボは、旋回して装甲に傾斜を付ける事により2輌の砲弾を弾き飛ばす。

 

そして、八九式とバレンタインに主砲を向けると発砲する!

 

「!? うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

幸いにもギリギリで外れたが、どちらの車体も一瞬浮き上がり、典子とシュガーが声を挙げる。

 

「マズイわね………砲弾が残り少ないわ!」

 

「クッ! コッチもだっ!!」

 

そこで残りの砲弾の数を確認したシュガーと典子がそう言い合う。

 

「観念しなさい。アンタ達は私のお金になるのよ」

 

そんな2人に向かって、レイミはそう言いながら、主砲の照準を合わせる。

 

「「!!」」

 

向けられたパーシング・ジャンボの砲門を睨む様に見据える典子とシュガー。

 

「撃………! イタッ!」

 

と、号令を掛けようとしたレイミの頭に、何かが当たった。

 

「何が………!?」

 

何が当たったのか確認したレイミは目を見開いた。

 

レイミの頭に当たったのは500円玉………硬貨だった。

 

「お金っ!!」

 

レイミが思わず声を挙げた瞬間!

 

空から無数の硬貨が降り、更に紙幣が舞い散った!!

 

「な、何っ!?」

 

「お金が降って来てるっ!?」

 

思わぬ出来事に、典子とシュガーも困惑する。

 

「そらそらそら! 大盤振る舞いよっ!!」

 

「銭まくど! 銭まくど! 銭まくさかい、風流せいっ!!」

 

そして、それを撒いていたのは、ラーテゾーンの屋上の縁に陣取ったクロエとしずかだった。

 

しずかに至っては、某傾奇者漫画の最終回の様な台詞を口にしている。

 

「姫ーっ! それ、私達の活動資金ーっ!!」

 

そんな景気良く金をばら撒いている2人の背後では、鈴がムンクの『叫び』の様な表情で青褪めている。

 

その言葉通り、今2人がばら撒いている金は、ムカデさんチームのタンカスロンでの活動資金なのである。

 

野試合であるタンカスロンに於いて、個人チームは大抵自分で活動資金を用意している。

 

ムカデさんチームの場合は、マネージャーのはるかがグッズの販売等をして資金を得ていた。

 

それを今、しずかとクロエは惜しげも無くばら撒いている。

 

「ええい! 最早けち臭い事は言わん! コレも持って行けいっ!!」

 

と、それだけでは足りなくなったのか、何としずかは自分の財布の中に在った金までばら撒き始めた!

 

「おお! やるわね、しずかちゃん! じゃあ、私もっ!!」

 

それを見たクロエも、同じ様に自分の財布の中に在った現金をばら撒き始める。

 

「「「「ちょっ!? 総隊長っ!?」」」」

 

流石にその光景にはヘルキャットの乗員も慌て、止めに入ろうとしたが………

 

「アンタ達も撒きなさい」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

クロエにそう言われて、ヘルキャットの乗員達は固まる。

 

「何をしている、鈴。お前も続け」

 

「ふえっ!?」

 

更にはしずかによって鈴にも飛び火する。

 

「いや、それは………」

 

「姫、流石に………」

 

勿論、躊躇するヘルキャットの乗員と鈴だったが………

 

「「…………」」

 

クロエとしずかは、『やれ』と言う無言の圧力を掛けて来る。

 

「「「「うっ………!?」」」」

 

青褪めた顔を見合わせるヘルキャットの乗員と鈴。

 

「「「「「………ハアア~~~ッ」」」」」

 

やがて諦めた様に深い溜息を吐くと、財布を取り出した。

 

「分かってるじゃないの」

 

「それでこそだ」

 

その様子を見て、満足げな表情になるクロエとしずか。

 

「ああ、もう!」

 

「こうなりゃ自棄よっ!!」

 

「持ってけドロボーッ!!」

 

「銭まくど! 銭まくど!

 

「銭まくさかい、風流せいっ!!」

 

そんな中、ヘルキャットの乗員と鈴は、自棄気味に財布の中の金をばら撒き始めるのだった。

 

「何してるの、あの2人………?」

 

「ねずみ小僧みたい………」

 

ムカデさんチームとクロエ達の奇行に、シュガーと典子は茫然となる。

 

しかし………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! お金ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

突如レイミは奇声を挙げて、パーシング・ジャンボから飛び出した!

 

「!? ちょっ!?」

 

「レイミさんっ!?」

 

「お金! お金! お金っ!!」

 

同乗員が慌てるのも知らず、レイミは散らばった硬貨を拾い集め、舞い散っている紙幣をジャンプして摑み取って行く。

 

「何やってるんですか、レイミさん!?」

 

「試合中ですよっ!?」

 

「知るか馬鹿っ! そんな事よりお金だっ!!」

 

一心不乱に散らばった金を拾い集めるレイミ。

 

心成しか、目がお金を現す¥マークになっている様に見える。

 

「「!! 今だぁっ!!」」

 

そしてそんなチャンスをみすみす見逃す典子とシュガーでは無い!!

 

一気にパーシング・ジャンボとの距離を詰め、肉薄する!

 

「!? ヤバ………」

 

そして左右から挟み込む様に陣取ったかと思うと、同時に砲塔基部へ零距離から砲弾を叩き込んだ!!

 

弱点の砲塔基部に攻撃を受け、パーシング・ジャンボは派手に黒煙を上げたかと思うと、一瞬間を空けて白旗を上げたのだった。

 

「金! 金! 金ーっ!!」

 

だが、それでもレイミは気にせず、落ちている金を集める事に集中し続ける。

 

「「…………」」

 

そんなレイミに、典子とシュガーは憐れむ様な視線を向けるのだった。

 

「上手く行ったわね」

 

「金ほど人心を狂わせるものはないわ」

 

したり顔でそう言い合うクロエとしずか。

 

「「「「「私達の全財産~~~………」」」」」

 

その後ろで、鈴とヘルキャットの乗員達はさめざめと涙を流していた。

 

「「では、行きましょう(行くか)!!」」

 

だが、2人はそれを一切気に留めず、ヘルキャットの乗員と鈴を半ば無理矢理乗車させる。

 

そして、ラーテゾーンを下り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎のニンジャシャウトと共に、無数のスリケンがヒィッツカラルド目掛けて投擲される。

 

「フンッ!」

 

だが、ヒィッツカラルドは指パッチンの真空波で全て叩き落してしまう。

 

「イヤーッ!!」

 

小太郎は再度無数のスリケンを投擲。

 

インストラクション・ワンの教えに従い、100発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、1発の力に頼らず、1000発のスリケンを投げる。

 

「フフフ………」

 

しかし、対するヒィッツカラルドも、連続で指パッチンでの真空波を発生させ、スリケンを叩き落す。

 

そして、スリケンの津波を超えた真空波が小太郎に迫る!

 

「! イヤーッ!!」

 

小太郎は咄嗟に、地面に向かってボン・パンチを繰り出す!

 

すると、パンチの衝撃で岩盤が捲れあがり、真空波を受け止める!

 

「! ぬうっ!?」

 

だが、完全には防げず、小太郎の戦闘服の二の腕部分が切り裂かれる!

 

「クッ!」

 

幸い、腕が動かせなくなる程の負傷とは判定されなかったが、二の腕には痺れる様な感覚が残る。

 

「如何した、忍者くん? 先程から防戦一方じゃないか?」

 

そんな小太郎の姿を見て、ヒィッツカラルドは挑発する様にそう言い放つ。

 

(間違い無い………あやつの技はユニーク・ジツ………恐らく、使う度に血中カラテを消費している筈………)

 

しかし小太郎は、そんな挑発に動じる事無く、ヒィッツカラルドの真空波がユニーク・ジツによるものだと見抜く。

 

(先程から何度も連発しているが………ユニーク・ジツならば、血中カラテが尽きれば使えん筈………)

 

冷静に分析を続ける小太郎。

 

(だが、奴程の手練れ………特定の行動で血中カラテを能動的に生産出来る者も居る………このまま持久戦を続けるか………それとも一気に仕掛けるか………)

 

だが、段々と考えが堂々巡りになり始める。

 

「何をボーっとしている」

 

「!?」

 

とそこで、再度ヒィッツカラルドが声を掛け、小太郎がハッとした瞬間!

 

ヒィッツカラルドの指パッチンが炸裂!

 

真空波が地面を切り裂きながら小太郎へと向かう!

 

ナムサン!

 

「!? グワーッ!!」

 

直撃を受けた小太郎の戦闘服が大きく切り裂かれる。

 

「! 小太郎ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

大詔の叫びが挙がり、連合歩兵隊員達の顔が青褪める。

 

小太郎がやられれば次は自分達の番だと言うのが分かっているのだ………

 

「………ほう? しぶといな」

 

しかしそこで、ヒィッツカラルドがそう言って笑う。

 

「フー………フー………」

 

そこには、息を荒げながらもしっかりと立っている小太郎の姿が在った。

 

如何やら、ニンジャ反射神経で咄嗟に致命傷は避けた様である。

 

「だが、もう立っているのがやっとだろう。良く戦ったと褒めてやるが、ココまでだ」

 

ヒィッツカラルドはそう言い、再度真空波を放とうとする。

 

「…………」

 

最早それを見ているだけしか出来ない小太郎。

 

おお、ブッダよ!

 

貴方はまだ寝ているのですか!?

 

今正に、小太郎に命運は尽きようとしています!

 

貴方はそれを良しとするのですか!?

 

………と、その時!!

 

「「ハーハッハッハッハッハッ!!」」

 

高笑いと共に、『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべたクロエとしずかの乗ったヘルキャットとテケが、ラーテゾーンの中から飛び出して来た!

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

驚愕する小太郎とヒィッツカラルド。

 

ブッダ起きてた!

 

「神に会うては神を斬り!」

 

「悪魔に会うては、その悪魔をも撃つ!」

 

「戦いたいから戦い!」

 

「潰したいから潰す!」

 

「「我等(私達)に大義名分など無いのさ!!」」

 

「「我等(私達)が、地獄だっ!!」」

 

お馴染みの決め台詞をかます2人。

 

「小癪なっ!!」

 

2人の乗るヘルキャットとテケに向かって真空波を放つヒィッツカラルド。

 

しかし………

 

「「!!」」

 

クロエとしずかが一瞬表情を変えたかと思うと、ヘルキャットとテケは回避行動を取り、真空波を躱す!

 

「!? 何っ!? 馬鹿なっ!?」

 

ヒィッツカラルドは驚きながらも、見えない真空波を躱すなど偶然だと思い、 再度真空波を放つ。

 

「「!!」」

 

だが、これまたクロエとしずかが一瞬表情を変えたかと思うと、ヘルキャットとテケは回避行動を取って真空波を躱した!

 

「!? まさかっ!? 奴等には私の真空波が見えるのかっ!?」

 

そう確信したヒィッツカラルドは初めて驚愕と動揺を露わにした。

 

「一体如何やって………」

 

「そんなもの、決まってるじゃない」

 

「ああ………」

 

ヒィッツカラルドの疑問に、クロエとしずかはまたもや『頑張る女の子の素敵な笑顔』を浮かべたかと思うと………

 

「「『勘』だぁっ!!」

 

「!? 何だとぉっ!?」

 

再度驚愕と動揺を露わにするヒィッツカラルド。

 

如何やら、稀代のバトルジャンキーである2人は、野生の直感とも言うべき鋭い勘で、真空波が来るタイミングを見切っている様だ。

 

それも完全に。

 

「フザけるなぁっ!!」

 

そんな2人に激昂し、真空波を連発するヒィッツカラルド。

 

「「ハハハハハハハッ!!」」

 

しかし、クロエとしずかは、そんなヒィッツカラルドを更に挑発するかの様に高笑いを挙げ、次々に繰り出される真空波を回避する。

 

「ぬううっ!!」

 

ヒィッツカラルドはムキになり、更に真空波を連発!

 

ペース配分も考えない真空波の連発は、血中カラテをドンドンと消費させて行く。

 

(! 今でござるっ!!)

 

とそんなヒィッツカラルドの姿を見た小太郎は、最後の力を振り絞る。

 

そしてその振り絞った力をチャドーの呼吸法によりカラテに変換し、愛用の忍者刀………『磁光真空剣』に込める。

 

すると、磁光真空剣の刀身が、虹色の光を帯び始めた!

 

「!?」

 

その光に気づき、小太郎の方を振り返るヒィッツカラルド。

 

「許さんっ!!」

 

小太郎はそう叫ぶと、刀身が虹色に輝いている磁光真空剣を正眼に構える。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

その状態で、ヒィッツカラルド目掛けて突撃する。

 

「!? まだそんな力が有ったかっ!!」

 

ヒィッツカラルドは驚きながらも、素早く身を翻し、小太郎に向かって指パッチンする。

 

しかし、真空波は起こらなかった………

 

「!? し、しまったっ!? 血中カラテがっ………!?」

 

そこで初めて、ヒィッツカラルドは真空波を多用し過ぎたと自覚する。

 

「磁光真空剣ッ!!」

 

そのヒィッツカラルドを肉薄した小太郎は、磁光真空剣を振り被り………

 

「真っ向両断っ!!」

 

ヒィッツカラルドの脳天から、縦一文字に振り降ろしたっ!!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

斬られた場所から、虹色の光が溢れる。

 

そしてヒィッツカラルドは、少し悶え苦しんだ様子を見せたかと思うと、バタリと倒れ………

 

程無く戦死判定が下されたのだった。

 

「…………」

 

しかし、それと同時に………

 

小太郎も全ての力を使い果たし、バタリと倒れ、戦死判定が下ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

スナイパーの排除に向かった弘樹は………

 

スナイパーが陣取っている建物に到着し、屋上への扉の前に立っていた。

 

(………おかしい? 此処へ来るまでの間、敵は1発も発砲していない………)

 

だが、その際に敵スナイパーから妨害を受けなかった事に違和感を感じる。

 

(誘い出されたか?………待てよ………この気配………前にも………!)

 

そこで弘樹は何かに思い至り、四式自動小銃を構えながら、屋上へのドアを蹴破る!

 

「………待っていたぞ、舩坂 弘樹」

 

「フンガアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「ココが貴様の墓場だっ!!」

 

そこに居たのは何と!!

 

ツァーリ校に居た『ラスプーチン』と『ニキータ』

 

オマケに『カン・ユー』の姿が在った。

 

「………何故お前達が此処に居る?」

 

しかし、弘樹が微塵も動揺する事無く、3人にそう問い質す。

 

「知れた事………貴方に復讐する為に大学選抜チームに売り込んだのですよ………まあ、コチラの男はこのメガフロート島に潜伏していた様で、偶々居合わせただけですが」

 

「喧しい! 俺も此奴には恨みが有るんだっ!! 手を出させろっ!!」

 

「まあ、構いませんが………邪魔をしたら如何なるか分かっていますね?」

 

「うっ!?………」

 

ラスプーチンが凄みを利かせて言うと、カン・ユーは黙り込む。

 

「お前達と遊んでいる暇は無い………」

 

そんな一連の流れを、弘樹は何処か冷めた目で見ながらそう言い放つ。

 

「ご安心を………遊ぶ暇も無く、一瞬で片付けてあげますよ」

 

ラスプーチンはそこで凶悪な笑みを浮かべて、ニキータ、カン・ユーと共に弘樹に襲い掛かる!

 

しかし………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ

 

もし、ガルパンの世界に、あの7番目の人が居たら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球は狙われている!

 

今………宇宙に漂う幾千の星から、恐るべき侵略の魔の手が………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第62回戦車道全国高校生大会・決勝戦………

 

黒森峰VSプラウダの試合にて………

 

水没した味方の車輌の乗員を救出する為、フラッグ車の指揮を放棄して、濁流の中へと飛び込んだみほ。

 

如何にか乗員の救出には成功し、後は自分が戻るだけとなっていた。

 

(良かった………皆無事で………)

 

しかし、水没した車輌の乗員が無事だった事への安堵感からか………

 

気を緩めた彼女に、流木が直撃した!

 

「!? ガッ!?」

 

運が悪い事に、濁流の勢いに乗った流木は、彼女の心臓を貫いた………

 

途端に全身の力が抜け、濁流の底へと沈むみほ。

 

(私………死んじゃうの………?)

 

薄れ行く意識の中、みほは水面に向かって手を伸ばす。

 

するとその手が、何者かに摑まれた。

 

(………?)

 

消え行く意識の最後に、みほが見たモノは………

 

銀色の兜の様なモノを被っている様に見える、太陽の様に赤い身体の人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(自らの命の危険も顧みず、仲間を助けに行った………何て勇敢な少女だ)

 

みほを岸へと運んだ赤い身体の宇宙人は、彼女の勇敢な行動に心を打たれた。

 

しかし、そのみほの命は尽きようとしている………

 

(………見殺しには出来ん)

 

その赤い宇宙人はみほの身体に溶け込む様に消えたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、みほは掠り傷1つ無い身体で生還。

 

巷では奇跡だと騒がれた。

 

しかし、あの試合で黒森峰は敗北………

 

前人未到の10連覇はふいになった。

 

その事で、みほへ恨みや僻みをぶつける者達が現れたが………

 

気弱で知られていた彼女は、まるで人が変わったかの様な毅然とした態度でそれを受け止め、自分は間違った事をしていないと言う主張を貫いた。

 

そんなある日………

 

みほは母であり、西住流の師範であるしほに呼び出された………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女も、西住の名を継ぐ者なのよ。西住流は何があっても前へと進む流派。強き事、勝つ事を貴ぶのが伝統………」

 

「お母さん。確かに『僕』は流派の教えに背いたかも知れません。ですが、間違った事をした積りはありません」

 

絶対的な存在である筈の母を前にしても、みほの態度は変わらない。

 

「犠牲無くして、大きな勝利を得る事は出来ないのです」

 

そんなみほに、しほは西住流の心構えを説いてみせる。

 

しかし………

 

それを聞いたみほは、悲しい顔で………

 

「それは………血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」

 

と返した。

 

「「!?」」

 

「そんなものが西住の戦車道だと言うのなら………僕はコレ以上、そんな戦車道をする積りはありません」

 

逆にショックを受けたしほとまほを残し、みほは静かに去って行った。

 

そして翌日………

 

みほは黒森峰から姿を消した………

 

そして黒森峰は、後に暗黒時代と呼ばれる長期の成績不振に陥ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1年後………

 

茨城県立大洗女子学園の学園艦………

 

今、この学園艦にて、人間が一瞬の内に消えてしまうと言う、奇怪な連続蒸発事件が発生していた。

 

遂に学園艦の風紀を守っていた風紀委員までもが蒸発するに至った。

 

此処へ来て、廃校阻止の為に戦車道復活を画策していた生徒会は、余計なトラブルを避ける為、問題の解決に乗り出す。

 

すると、調査へと繰り出した生徒会の小山 柚子と河嶋 桃の前に、1人の謎の少女が立ちはだかった。

 

「待っていましたよ、小山 柚子さんに河嶋 桃さん」

 

「!? 私達の名前をっ!?」

 

「今回の蒸発事件は恐るべき宇宙人の仕業です。奴はこの先で貴方達を待ち構えているんですよ」

 

「宇宙人だと!? ふざけた事を抜かすなっ!! 貴様、一体何者だっ!?」

 

「御覧の通りの風来坊ですよ」

 

「えっと………名前は?」

 

「名前? そうですね………西住、いえ………『諸星 みほ』とでも名乗っておきましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、後に『ウルトラセブン』と呼ばれる様になる、M78星雲から来た宇宙人と大洗女子学園の………

 

宇宙人の侵略を防ぐ為と廃校阻止の為の長い戦いの始まりだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラセブン×ガールズ&パンツァー

 

第1話『姿なき挑戦者』

 

公開予定無し!




新話、投稿させていただきました。

レイミの撃破方法………
何とも豪快と言うか、間抜けと言うか………
ある意味ではインパクトのある作戦だったかと。
ボトムズのウド編で金貨を空から撒くエピソードがあったので、アレは何かの形で使いたいなと考えていたら思いつきまして………
レイミの性格もこの為に設定したと言っても良いでしょう。

そしてヒィッツカラルドも撃破。
久しぶりの忍殺要素でお送りさせてもらいました。
あとジライヤも。

予想された方もいらっしゃいましたが、弘樹が撃破に向かったスナイパーの正体はラスプーチン+αでした。
再戦する為に手段は選ばなかった彼ですが………

オマケはウルトラセブンを最近見直しててふと思いついたネタでして………
しほに向かって、あの名言をぶつけたいと考えて書いてみました。
飽く迄オマケですので、深くは考えないで下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター41『死闘です!(その6)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター41『死闘です!(その6)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡………

 

ゾンビエリア………

 

「おらぁっ!!」

 

「ちょっ!?」

 

威勢の良い掛け声と共に、シズミのM45重戦車が、アリサのM4A1に体当たりをかます!

 

「! 履帯がっ!?」

 

「喰らえっ!!」

 

衝撃でM4A1の履帯が外れ、動けなくなったところへ、M45重戦車は粗零距離で主砲を発射!

 

M67対戦車榴弾がM4A1に叩き込まれ、M4A1は白旗を上げる。

 

だが、超至近距離から撃ったので、M45重戦車のボディも煤けている。

 

1歩間違えれば自車も損傷していたと思われる行為だ。

 

「あ、アンタ………正気?」

 

顔を若干煤けさせたアリサが、シズミに向かってそう問う。

 

「戦いってのは切った張ったよ。自分が傷つく事を恐れて戦う事が出来るか!?」

 

しかし、シズミはさも当然の様にそう返す。

 

「OH! クレイジーッ!」

 

「ウチに居る人達と気が合いそうね………」

 

そんなシズミの様子を見たケイが声を挙げ、エミがクロエとしずかの事を思い浮かべながらそう呟く。

 

「ホラホラッ! 考えている暇が有ったら掛かって来いっ!!」

 

と、そんな2人に向かって、シズミのM45重戦車が主砲を発砲する!

 

「! あぶなっ!!」

 

「わおっ!!」

 

幸いにも外れたが、榴弾の爆発でシャーマンとティーガーⅠは揺さぶられる。

 

「………ッ」

 

とそこで、隙を衝く様にナオミのファイアフライが17ポンド砲を放つ。

 

「! おっとっ!」

 

だが、シズミは素早く反応し、砲塔を旋回させて装甲の最も厚い防盾で弾き飛ばす。

 

「チッ! 後退っ!!」

 

「お返しだっ!!」

 

ナオミは舌打ちをしながらも素早く指示を出し、反撃のM67対戦車榴弾を躱す。

 

「さあさあ! ドンドン掛かって来いっ!!」

 

シズミはそう言うと、ケイやエミ達の戦車部隊の中へ突っ込んで行く。

 

自分が撃たれる事など微塵も恐れずに。

 

「へえ………良い度胸してんじゃねえかよ」

 

「ホント、選抜チームなんてエリートなんざ似合わないねぇ」

 

だがそんな中で、そんなシズミの姿に何処か親近感を覚える音子と千冬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、歩兵部隊の方は………

 

「…………」

 

「ぐわああっ!?」

 

「ガラムッ!?」

 

影月が振るったサタンサーベルで斬り捨てられるガラム。

 

「チキショウッ! よくもガラムをっ!!」

 

兄弟をやられたマサラが、仇を取ろうと、影月に向かってバズーカを放つ。

 

「…………」

 

しかし何と!

 

影月は迫り繰るバズーカのロケット弾に向かって跳躍したかと思うと、ロケット弾を踏みつけて足場にし、マサラに向かって跳躍した!

 

「「「「「! わあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」

 

踏みつけられて軌道の変わったロケット弾を、ジョロキア歩兵部隊に命中させると言う離れ業を繰り出しながら。

 

「!? なっ!?」

 

「………!」

 

驚愕して動きの止まってしまったマサラに、影月は捻りを加えた両足での跳び蹴りを喰らわせる!

 

「!? がばっ!?」

 

まるで戦車に衝突されたかの様な衝撃がマサラの身体を襲い、人形の様にブッ飛ばされるマサラ。

 

ロボットゾンビ達をボーリングのピンの様に次々に薙ぎ倒したかと思うと、ショッピングモールのショーウインドウに激突。

 

ガラスを粉々にし、ショーウインドウをメチャメチャにして戦死判定となる。

 

「野郎っ! 跳ね飛ばしてやるっ!!」

 

すると今度はボブが、バイクで影月にウイリーしながら突撃する。

 

しかし………

 

「…………」

 

何と影月はサタンサーベルを持っていない左手だけで、ウイリーしていたボブのバイクの前輪を摑み、止めてしまう!

 

「!? なっ!?」

 

「…………」

 

そしてそのまま、ボブをバイクごと片手で投げ飛ばした!

 

「!? おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

空中でバイクから投げ出されたボブは、バイクの下敷きになって地面に叩き付けられ、戦死判定が下される。

 

とそこで、銃声が鳴り響いたかと思うと、サタンサーベルの刀身から火花が散り、影月の手から弾き飛ばされた!

 

「!?」

 

「馬鹿め! 油断したなっ!!」

 

サタンサーベルが弾かれた事に、影月は初めて驚いた様子を露わにし、その影月にトドメを刺そうと、M1カービンを構えるジェイ。

 

だが………

 

「シャドーセイバーッ!」

 

影月は素早く、大小二振りの両刃剣・『シャドーセイバー』を抜く。

 

「ハッ!」

 

そして、ショートソードタイプの方を、ジェイ目掛けて投擲した!

 

「そんなモンッ!!」

 

飛んで来るショートソードタイプのシャドーセイバーを叩き落そうと発砲するジェイ。

 

しかし、ショートソードタイプのシャドーセイバーは飛来する弾丸を切り裂き、ジェイへと向かう!

 

「!? うわああああっ!?」

 

そのままジェイの戦闘服の心臓部分に突き刺さるショートソードタイプのシャドーセイバー。

 

当然、ジェイは戦死判定である。

 

「…………」

 

その間に影月はサタンサーベルを回収。

 

ロングソードタイプのシャドーセイバーと合わせて二刀流で構える。

 

「強い………」

 

「バラバラに戦っても駄目だ! 一斉に掛かるぞ!」

 

「了解っ!」

 

ジョーイが冷や汗を流しながらそう呟くと、ターメリックがそう言い、キーマも加わって3人で影月を取り囲む様に陣取る。

 

「…………」

 

影月は冷静な様子で、取り囲むジョーイ、ターメリック、キーマを見回す。

 

(合図で一斉に掛かるぞ………)

 

((…………))

 

ターメリックが目でそう指示すると、ジョーイとキーマは無言で頷く。

 

「…………」

 

するとそこで、影月が右足を1歩引いた。

 

「! 今だっ!!」

 

「「!!」」

 

その瞬間にターメリックの合図が飛び、ジョーイがコンバットナイフ、キーマが飛び膝蹴り、ターメリックが二振りの宝剣で斬り掛かる!

 

だが、その全てが命中すると思われた瞬間に………

 

影月の姿がパッと消えてしまった!

 

「!?」

 

「消えたっ!?」

 

動揺するターメリックとキーマ。

 

「!? 上だっ!!」

 

「「!?」」

 

しかし、ジョーイだけは影月が上空高くに跳躍していたのに気づき、そう声を挙げるとターメリックとキーマも上を向く。

 

そして、頭上高くに跳躍していた影月の姿を発見する。

 

「! このぉっ!!」

 

キーマがそれを追う様に跳躍し、影月に向かった!

 

「! 待て、キーマッ!!」

 

ターメリックが慌てて止めるが時既に遅し。

 

「シャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

空中の影月に向かって膝蹴りを繰り出すキーマ。

 

「………!」

 

だが、それに対し、影月は両足蹴りでカウンター!

 

膝蹴りを繰り出して来たキーマの膝を蹴り付ける!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

膝の皿が割れたのではないかと思う様な激痛と共に失速するキーマ。

 

「…………」

 

そのキーマを、影月は容赦無くサタンサーベルとシャドーセイバーで斬り付ける!

 

「!?」

 

戦闘服を×の字に斬り裂かれ、キーマは地面に墜落!

 

そのまま戦死判定となった。

 

「キーマッ!」

 

「………次はお前達だ」

 

ターメリックが叫ぶ中、着地を決めた影月は、サタンサーベルの切っ先をターメリックとジョーイに突き付けながらそう呟く。

 

「「!!」」

 

そんな影月の姿に、2人は反射的に構えを取る。

 

「「「…………」」」

 

3人の間に緊張が走る。

 

周囲では大洗連合歩兵達と大学選抜歩兵達がゾンビロボット達と三つ巴の戦いを繰り広げているが、その喧騒さえも遠くに聞こえる程だった。

 

(………ターメリック)

 

(………!)

 

そんな中、ジョーイが影月には聞こえない様に小声でターメリックに声を掛ける。

 

(俺が奴の動きを止める。その間に仕留めろ)

 

(本気か!?)

 

(無傷で勝てる相手では無い………コレがベストな判断だ)

 

覚悟を決めた表情でそう言うジョーイ。

 

(………スマン)

 

(気にするな………そうする必要があると判断したからそうするだけだ)

 

「…………」

 

とそこで、2人の会話に気づいたのか、影月がサタンサーベルとシャドーセイバーを構える。

 

「………!」

 

その途端に、ジョーイは影月に向かって突撃した!

 

「!!」

 

コンバットナイフを両手で握り締め、全力での突きを繰り出すジョーイ。

 

「…………」

 

そのジョーイに対し、影月はサタンサーベルでの突きを繰り出す。

 

そして、ジョーイのコンバットナイフと、影月のサタンサーベルの切っ先同士がぶつかり合ったかと思うと………

 

ジョーイの突進がピタリと止められた!!

 

「!?」

 

そんな止められ方をするとは思っていなかったジョーイは思わず固まってしまう。

 

「ムンッ!!」

 

そのジョーイを容赦無く、影月はシャドーセイバーで斬り付けた!

 

「!? グアアッ!!」

 

戦闘服が斬り裂かれるジョーイ。

 

だが、その瞬間!

 

ジョーイは自らに食らわせられたシャドーセイバーの刃を素手で摑んだ!!

 

「!?」

 

「今だぁっ!?」

 

「!!」

 

今度は影月が驚いて一瞬動きが止まると、ジョーイが叫んで、ターメリックが宝剣を構えて突撃する!

 

「貴様っ!!」

 

シャドーセイバーを引こうとする影月だったが、ジョーイは手に激痛が走るのにもお構いなしで、ガッチリと摑んで離さない!!

 

「チイッ! ハアアアッ!!」

 

すると影月は、シャドーセイバーを引く事を諦め、サタンサーベルで突っ込んで来たターメリックに突きを繰り出す!

 

「!? ぐおおっ!?」

 

サタンサーベルの突きが、ターメリックの戦闘服の心臓部分を捉える。

 

「!?」

 

「惜しかったな………」

 

ジョーイが愕然とする中、影月はそう吐き捨てた。

 

しかし………

 

「むんっ!!」

 

ターメリックはその状態で更に更に踏み込んだ。

 

サタンサーベルの刃が、更に深々と戦闘服に突き刺さって行く。

 

「!? 何っ!?」

 

慌ててサタンサーベルを引こうとした影月だったが………

 

その瞬間に、首筋に衝撃が走った!

 

「グアッ!? き、貴様っ!!」

 

「…………」

 

コンバットナイフで首筋を切りつけて来たジョーイを睨む影月。

 

注意が逸れた一瞬の隙を衝いた反撃だ。

 

「ぬおおおおっ!!」

 

更にそこへ、ターメリックの宝剣での突きが、お返しとばかりに影月の心臓部へ叩き込まれる。

 

首筋と心臓………

 

人体の急所を2箇所も攻撃され、戦死判定が下らない筈はなかった。

 

「………見事だ………俺の………負けだ」

 

影月は、最後には2人の実力を認め、力尽きて倒れ伏せた。

 

「「…………」」

 

だが、同時にジョーイとターメリックの2人も倒れ伏せる。

 

程無くして、2人にも戦死判定を告げるブザーが鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

エミ達とシズミの戦いは………

 

「どりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

またも体当たりからの零距離撃ちで、チャレンジャー1輌を撃破するシズミのM45重戦車。

 

「ハハハハハッ! ドンドン来いやぁっ!!」

 

アドレナリン過剰気味なのか、獰猛な笑みを浮かべてシズミがそう言い放つ。

 

「ヤバイよ、アイツ」

 

「凄い人ね………」

 

ルウとローリエが、そんなシズミに戦慄する様子を見せる。

 

「如何する、エミッ!?」

 

「クッ………!」

 

ケイの問いに、エミは有効な戦法が思いつかず、苦い表情を浮かべる。

 

「総隊長。何苦い顔してやがる」

 

するとそこで、音子がそう通信を送って来た。

 

「! 音子っ!?」

 

「そうよ。アイツ自身が言っていたじゃない。戦いは切った張っただって」

 

エミが驚きの声を挙げると、今度は千冬が通信を送って来る。

 

「千冬っ!?」

 

「そう言う事なら………」

 

「私達の得意分野だよっ!!」

 

その直後!!

 

音子のヤークトパンターと、千冬のエレファントが、同時にM45重戦車に向かって突っ込んだ!

 

「!? なっ!? 待ちなさい、2人共っ!!」

 

「方針は自由だろっ!!」

 

「なら私達も自由にやらせてもらうよっ!!」

 

慌ててエミが止めるが、2人は止まらない!!

 

「良い度胸ねっ!!」

 

それに対し、シズミもM45重戦車を突撃させる!

 

お互いがお互いに、全速力で相手に向かって行く。

 

回避する素振りは全く無いっ!!

 

「!?」

 

「ぶつかるっ!!」

 

「ジーザスッ!!」

 

エミ、ローリエ、ケイの顔が驚愕に染まる。

 

そして遂に………

 

M45重戦車とヤークトパンター&エレファントは………

 

全速力で正面衝突した!!

 

「「「撃てええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」

 

更に駄目押しとばかりに3輌が零距離で同時に発砲!!

 

その姿が爆煙に包まれる。

 

「クッ! 如何なったのっ!?」

 

顔を庇いながら、爆煙の中に目を凝らすエミ。

 

やがて、爆煙が晴れて来ると………

 

M45重戦車とヤークトパンターとエレファントの全てが………

 

白旗を挙げて擱座している光景が広がった。

 

「相討ち………?」

 

ローリエがそう呟くと………

 

M45重戦車とヤークトパンターとエレファントのハッチが開き、シズミ、音子、千冬が勢い良く飛び出した!

 

「「「!?」」」

 

エミ達が再度驚いている中、3人は集まる様に歩み寄る。

 

「やるじゃない。高校生にして肝が座ってるわね」

 

「テメェこそ………やるじゃねえか」

 

「ええ、エリートさんよ」

 

3人は獰猛な笑みを浮かべて笑い合っているが、打ち解けあっていると言った様子では無い………

 

「如何する? コッチはまだ戦い足りないんだ。復活なんざ待っていられないよ」

 

「なら、やる事は1つだな………」

 

「そうね………」

 

そして、そう言い合ったかと思うと………

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」

 

そのままリアルファイトに突入したのだった!

 

「!? ちょっ!? 何やってんのぉっ!?」

 

「アラアラ、まあまあ………」

 

「アハハハハ………」

 

エミがツッコミの叫びを挙げ、ローリエは唖然とし、ケイも流石に乾いた笑いを立てるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

施設の屋上でラスプーチン達、因縁の相手と相対した弘樹だったが………

 

「ガハッ………!?」

 

「がああああ………」

 

「ば、馬鹿な………」

 

ノされて積み上げられたカン・ユー、ニキータ、ラスプーチンが、呻き声を漏らす。

 

当然、全員には戦死判定が下っている。

 

「言った筈だ………お前達と遊んでいる暇は無いとな」

 

四式自動小銃に弾を装填しながら、弘樹がそう吐き捨てる。

 

弘樹への恨みから参戦した3人だったが、所詮は恨みの力など過去への執着………

 

例え行く先が地獄であろうと、前へと進む弘樹の敵ではなかった。

 

カン・ユーは分からぬが、ラスプーチンもニキータもそれなりに腕を磨いて来た筈だが………

 

常に戦場に居て鍛えられた弘樹の練度に比べれば天と地ほどの差が有った。

 

「…………」

 

弘樹は既に3人への興味を無くし、すぐにみほ達の元へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

シズミと影月も無事撃破しました。
そして、前回意味有り気に出て来たラスプーチン達でしたが………
申し訳ありませんが戦闘シーンはカットさせていただきました。

激しい再戦を期待されている方が多かったのですが、何回書いてもラスプーチンとの最初のバトルの焼き増し感が消えず、この後に本命のイプシロンとのバトルもあるので、私も泣く泣くながらカットを決断し焼き増しました。
大変申し訳ありません。

次回はいよいよバミューダ3姉妹との対決です。
バミューダアタックを破る方法にご注目下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター42『最終兵器・島田兄妹です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター42『最終兵器・島田兄妹です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・某所………

 

「やれやれ………舩坂 弘樹に恨みが有ると言うから雇い入れたが………とんだ期待外れだったな」

 

モニターに映る、戦死判定にされて積み上げられたラスプーチン達の姿を見て、ロッチナは冷たく吐き捨てる。

 

「いや、寧ろ舩坂 弘樹の戦闘力を褒めるべきかな………フフフ」

 

しかし続いてそう言うと、一転して楽しげな笑みを浮かべた。

 

「『あのお方』が求めるだけの事はある………」

 

ロッチナがそう言うと、モニターの映像がみほ達の元へと戻る弘樹の姿に切り替わる。

 

「戦え、舩坂 弘樹………お前が『異能者』であるなら、この戦い………切り抜けられる筈だ」

 

ロッチナはそう言って、ニヤリと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

バミューダ3姉妹と対峙したみほ達は………

 

「コレ以上の醜態は見せられない!」

 

「何より総司令の為にも!」

 

「西住 みほ………お前を倒す!」

 

鬼気迫ると言った表情で、ハッチから身を曝しているメグミ、アズミ、ルミ。

 

すると、彼女達の乗るパーシングが、縦一列に並んだ。

 

「!?」

 

「何アレ?」

 

その様子に、みほと砲手に専念する杏に代わって車長兼通信手をしていた蛍が顔色を変える。

 

「アズミ! ルミ! ヤツに『バミューダアタック』を仕掛けるわよっ!!」

 

「了解っ!」

 

「おうっ!」

 

メグミが呼び掛けると、アズミとルミが返事を返し、バミューダ3姉妹のパーシングはそのまま、ヘッツァーに突撃して行く!

 

「! 会長っ!!」

 

「!!」

 

みほが慌てて叫ぶと、杏は反射的に発砲する。

 

しかし、ヘッツァーの撃った砲弾が躱されると、バミューダ3姉妹のパーシングは一旦ヘッツァーの脇を通り過ぎ、背後で一斉に旋回!

 

そのまま陣形を横隊へと変える。

 

「小山っ!! 河嶋っ!!」

 

「! ハイッ!!」

 

「そ、装填完了っ!!」

 

珍しく杏が焦った様子で叫ぶと、柚子はすぐにヘッツァーを旋回させ、桃も次弾を素早く装填する。

 

そして旋回を終えると同時にヘッツァーは再び発砲!

 

だが、狙った横隊中央に位置取っていたメグミ車には躱される。

 

すると、メグミ車の左右に居たアズミ車とルミ車がそのまま広がる様に移動!

 

そのまま一気に、トライアングルを描く様な陣形を執って、ヘッツァーを包囲した!

 

「!? しまっ………」

 

た、と言い切る前に、バミューダ3姉妹のパーシングは一斉に発砲!

 

3方向、至近距離から砲撃を受けたヘッツァーは、白旗を上げる。

 

「クッ! やられたっ!!」

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ! もう終わりだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

杏が悔しげな声を漏らすと、桃の絶望に満ちた悲鳴が挙がる。

 

「凄い連携です!」

 

「アレを仕掛けられたらマズイ………麻子さん! 敵の動きに注意して下さいっ!!」

 

「厳しいな………」

 

優花里が思わず感嘆の声を挙げる中、みほは麻子にそう指示するが、珍しく麻子は苦い表情で冷や汗を流していた。

 

「! ヘッツァーがっ!?」

 

「何処を見てやがるっ!!」

 

「!? うおっ!?」

 

一瞬ヘッツァーがやられた事に気を取られた俊に、星叫がBARを発砲するが、何とか躱す。

 

「そうりゃあっ!!」

 

「!? うわあっ!?」

 

泰亭が投げた、モーニングスターの棘付き鉄球を、間一髪で躱す了平。

 

棘付き鉄球は、了平が居た場所の石畳を粉々にした。

 

「ほう? ワシの鉄球を躱すとは中々やるではないか。名うての戦士と見た」

 

「えっ? いや、俺は………」

 

「良かろう! ワシのこの手で捻り潰してくれるわぁっ!!」

 

了平の言葉も聞かず、泰亭は了平に向かって行く。

 

「ヒイイイッ! お助けぇーっ!!」

 

それに対し恥も無く背を向け、逃げ出す了平だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

「………!」

 

「フフフ………」

 

熾龍の居合いを、十束剣を模した右手の宝剣で受け止めるメグミ隊の歩兵隊長。

 

するとその瞬間に、空いていた左手で、何かを放る様に熾龍に向かって振った。

 

その手の中から、黒い塵のような物がばら撒かれる。

 

「………!」

 

瞬時にその黒い塵の正体が、『火薬』であると見抜いた熾龍は、大きくバックステップする。

 

「フッ………」

 

その瞬間に、メグミ隊の歩兵隊長が左手で指パッチンをしたかと思うと………

 

指に填めていたヤスリが擦れて火花が散り、ばら撒かれた火薬が爆発!

 

炎が熾龍の前髪を焦がした!

 

「………良い反応をしているな」

 

爆発で発生した黒煙の中から、優雅に歩いて出て来るメグミ隊の歩兵隊長。

 

「卿からは、そう………『強さ』を貰おうか」

 

「………ワケの分からん事を」

 

意味の分からない事を言うメグミ隊の歩兵隊長にそう返し、再度居合いで斬り掛かる熾龍。

 

「フッ………」

 

するとメグミ隊の歩兵隊長は、再度左手から先程より大量の火薬をばら撒く。

 

そして、ヤスリを付けた指を弾いて火花を散らそうとしたが………

 

「………!!」

 

それよりも早く、熾龍は火薬の粉煙の前で静止したかと思うと居合いを繰り出した!

 

その風圧で、火薬が吹き飛ばされる!

 

「うわっ!? 何だっ!?」

 

「目に入った!」

 

吹き飛ばされた火薬は、メグミの随伴歩兵部隊の方に向かった。

 

「むっ!」

 

驚くメグミ隊の歩兵隊長だが、指パッチンを止められず、そのまま火花を散らす。

 

火薬に火が着き、メグミの随伴歩兵部隊を爆発が襲った!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ボーリングのピンの様に四方八方に飛び散るメグミの随伴歩兵部隊。

 

当然全員が戦死判定である。

 

「………ドジな奴め」

 

熾龍はメグミ隊の歩兵隊長を小馬鹿にする。

 

すると………

 

「………う~~ううう………あんまりだ………」

 

そう呟き、小刻みに震え始めるメグミ隊の歩兵隊長。

 

「………?」

 

熾龍が何だと思った次の瞬間!

 

「HEEEEYYYY! アぁぁぁンマリだぁぁアぁーーーーーーーーーっ!!」

 

突如としてダダッ子のように思い切り泣き喚き始めた!

 

「!?」

 

流石の熾龍も、この行動には困惑し、思わず立ち竦んでしまう。

 

「AHYYY AHYYY AHY WHOOOOOOOHHHHHHHH!! おおおおおおれェェェェェのォォォォォ部下ァァァァァァがァァァァァ~~~~!!!」

 

そんな熾龍の困惑も知らず、更に泣き叫ぶメグミ隊の歩兵隊長。

 

怒り狂われるより却って不気味な姿である。

 

(な、何だコイツは………ふ、普通では無い………)

 

表情にこそ見せていないが、熾龍は内心で激しく動揺する。

 

(とっとと片付けてしまわねば………)

 

不気味さに駆られ、早急に決着を着けてしまおうと、忍び足で泣き叫ぶメグミ隊の歩兵隊長に近づく熾龍。

 

すると………

 

「………!!」

 

突如、メグミ隊の歩兵隊長がピタリと静かになった。

 

「!?」

 

今度は何だと身構える熾龍。

 

メグミ隊の歩兵隊長はゆっくりと立ち上がったかと思うと………

 

「フーー、スッとした。我は元々荒っぽい性格でな。激昂しそうになると泣き喚いて頭を冷静にする事にしているのだ」

 

メグミ隊の歩兵隊長は、先程まで泣き喚いた事が嘘の様にスッキリとした表情でそう語る。

 

「………!?」

 

「では………仕切り直しと行こうか」

 

ドン引きする熾龍に対し、メグミ隊の歩兵隊長………『ヒロシ』はそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に別の場所では………

 

「大学選抜チームの戦闘力はァァァァァァァアアア! 世界一ィィィィーーーーッ!!」

 

「ギャアアッ!」

 

「ぐええっ!?」

 

非常にハイな様子で、両手に持ったBARから銃弾を乱射し、次々に大洗連合歩兵を薙ぎ倒して行く大学選抜歩兵『兼続』

 

「このっ!」

 

楓がその兼続に向かってウィンチェスターM1912で散弾を見舞う。

 

「何のぉっ! 俺は無敵いいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし何と!!

 

兼続はジャンプしたかと思うと、身体の彼方此方をあり得ない方向に曲げ、散弾の僅かな隙間の中を潜って躱す!

 

「!? ええっ!?」

 

「何て奇天烈な動きしやがる………」

 

楓が仰天の声を挙げ、秀人が呆れる。

 

「俺は無敵の主人公ぉっ!! やられはせんっ!!」

 

そんな2人に向かって、今度は武器をトンプソンM1短機関銃に持ち替え、突撃しながら乱射をお見舞いして来る兼続。

 

「うわっ!?」

 

「あぶねっ!?」

 

「ハハハハハハッ!!」

 

高笑いと共に銃弾を見舞うその姿は、正に狂人のそれである。

 

「コイツ、超こえぇっ!!」

 

「良く分からないところが凄く怖いっ!!」

 

そんな兼続の姿に恐怖を覚える大洗連合歩兵部隊員達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんこうチームVSバミューダ3姉妹………

 

(あの方の声、新三郎に似てますね………)

 

照準器越しに兼続の姿を確認し、轟音響く戦車内に居てもハッキリと聞こえて来る声が実家の奉公人に似ている事を感じる華。

 

「また来るぞっ!」

 

「!!」

 

とそこで、麻子から声が挙がり、華は反射的にトリガーを引いた!

 

Ⅳ号の主砲が火を噴き、バミューダ3姉妹のパーシングへ向かう。

 

しかし、バミューダ3姉妹は一斉に左へ移動して回避。

 

そのまま梯形陣を取り、一斉に発砲して来る。

 

「クウッ!」

 

麻子が短く声を漏らしながらも、Ⅳ号をスラロームさせてバミューダ3姉妹の砲撃を回避する。

 

そのまま一旦バミューダ3姉妹から距離を取ろうとするが、バミューダ3姉妹は3輌のフォーメーションを維持したまま追撃して来る。

 

「やはり凄い連携です………」

 

「あんなにピッタリくっ付かれてたら崩しようがないよぉ! まるでバカップルみたいじゃんっ!!」

 

「お前がそれを言うのか………」

 

優花里が冷や汗を流しながら呟き、沙織の喩えに、麻子が呆れた様子を見せる。

 

「あの連携攻撃を破るには………」

 

そしてみほは、バミューダ3姉妹が先程カメさんチームを倒した際に見せた技………

 

『バミューダアタック』の攻略法を、必死に考えていた。

 

すると………

 

『西住総隊長! 俺に考えが有るっ!!』

 

「!!」

 

「地市くんっ!?」

 

地市がそう通信を送って来て、みほと沙織は驚きを露わにする。

 

『頼む! やらせてくれっ!!』

 

「………分かりました。許可します!」

 

『サンキューッ!』

 

みほは地市を信じて許可を出す。

 

そして地市はパンツァーシュレックを担いだ。

 

「対戦車兵が動いてるわ」

 

「なら、先に叩き潰すまでよ」

 

「もう1度バミューダアタックだ!」

 

その姿を確認したメグミ、アズミ、ルミは車内へ引っ込むと、地市に対してもバミューダアタックを仕掛ける態勢に入った。

 

「オイ、ソイツをくれっ!」

 

「一体何をする積りなんですか、石上さん」

 

傍に居た逞巳から吸着地雷を受け取る地市。

 

「へへ、ああいう3で纏まって来る敵への対処方なら、圭一郎の奴から学んでるんだよ」

 

と、地市は逞巳にそう返したかと思うと、向かって来るバミューダ3姉妹のパーシングに向かって突撃した!

 

「!? 地市っ!?」

 

「アイツ、気でも狂ったのかっ!?」

 

その姿を見た楓と了平が思わず声を挙げる。

 

「蜂の巣よっ!!」

 

と、先頭に陣取っていたメグミ車が、同軸機銃を突っ込んで来る地市に見舞う。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、地市は弾丸の中を走り抜け、メグミ車の眼前で跳躍した!

 

「!?」

 

すぐさまメグミ車の主砲が、跳躍した地市へと向けられるが………

 

「そこだぁっ!!」

 

何と地市は、その上がった砲身に足を掛け、ジャンプ台代わりにして跳躍。

 

メグミ車を飛び越えて行った。

 

「!? ああっ!? 私を踏み台にしたぁっ!?」

 

思わず、車内で上を見上げながらそんな台詞を口走るメグミ。

 

「このぉっ!?」

 

「!!」

 

すぐさま後続のアズミ車が発砲したが、地市は空中で屈んで躱すと、アズミ車にパンツァーシュレックを放った!

 

200ミリ以上の装甲も貫通するパンツァーシュレックのロケット弾が直撃し、アズミ車は大きな爆発の後に白旗を上げる!

 

「もう1輌居るぞっ!!」

 

だがそこで、最後尾に居たルミ車が、地市に向かって発砲する。

 

「!!」

 

それと同時に地市も吸着地雷をルミ車目掛けて投擲した!

 

「! ぐああああっ!!」

 

ルミ車から放たれた榴弾が直撃し、ブッ飛ばされる地市。

 

しかし、ルミ車にも地市が投げた吸着地雷が張り付き、爆発!

 

地市が地面の上に転がったのと同時に、ルミ車からも白旗が上がる。

 

「アズミ! ルミ! クッ! 私だけでもっ!!」

 

アズミとルミがやられた事に苦い顔をしながらも、メグミ車は玉砕上等であんこうチームのⅣ号に最後の突撃を掛ける!

 

「!!」

 

それを確認したみほが、Ⅳ号の主砲を指向させたが………

 

直後に、メグミ車のエンジン部が爆発!

 

「!!」

 

みほが驚く中、メグミ車はドンドンと勢いを失って減速し………

 

やがてⅣ号の目の前でピタリと止まったかと思うと、白旗を上げた。

 

「地市!………」

 

撃破した者………戻って来た弘樹が、二式擲弾器を装着した四式自動小銃を片手に、地面に倒れていた地市に駆け寄る。

 

「よう、遅かったな………手柄は頂いたぜ」

 

戦死判定を告げるブザーが鳴る中、地市は弘樹にそう軽口を放つ。

 

「………見事だったぞ」

 

弘樹はただ、短くそう返した。

 

「部隊長3名を撃破か………コレで流れが………」

 

『西住総隊長………聞こえますか?』

 

と、迫信がそう言った瞬間、通信回線に声が響く。

 

「! 聖子さん!? 如何したんですか!?」

 

それが聖子の声である事に気づいたみほが、すぐに応答する。

 

『申し訳ありません………サンショウウオさんチーム、撃破されました………補給地点と防衛メンバーも………全滅です』

 

「!?」

 

「嘘っ!?」

 

「まさかっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

「何があったんだ………?」

 

聖子から齎された驚くべき報告に、あんこうチームの面々は騒然となった。

 

『コチラはアンチョビ! 西住! 聞こえるかっ!?』

 

すると今度は、アンチョビからの切羽詰った様子の声が響き渡った。

 

「! アンチョビさん! 如何したんですかっ!?」

 

『如何したもこうしたもない! 昭和村エリアとワールドランドのウェスタンランド、ラーテゾーン、ゾンビエリアに居た連中が………全滅した!!』

 

「「「「「!?」」」」」

 

またもや驚愕すべき報告に、あんこうチームは最早言葉を失った。

 

先程まで損害を出しつつも健闘して生き残っていた大洗連合部隊。

 

それが一瞬にして全滅したと言うのだ。

 

驚くなと言う方が無理である。

 

『敵は今、黒森峰とグロリアーナ&ブリティッシュの連中と交戦中だ!!』

 

「! アンチョビさん! 敵は! 敵は何ものなんですかっ!?」

 

そこでみほが逸早く我に返り、敵の正体をアンチョビに問い質す。

 

『敵は………敵は………島田 愛里寿のセンチュリオンとイプシロンだ』

 

「!?」

 

「まさかっ!? 戦車1輌と随伴歩兵1人で我々の部隊を全てっ!?」

 

優花里が有りえないと否定の声を挙げる。

 

『信じられんだろうが、事実だ! アイツ等だけで我々の部隊を全滅させやがった!………!? ぬあっ!?』

 

「アンチョビさん!? 如何しました?」

 

『………今、黒森峰とグロリアーナ&ブリティッシュもやられた。これで本当に全滅だ。オマケに、コッチに気づいたらしい。狙われている』

 

「! アンチョビさん! 逃げて下さいっ!!」

 

みほが慌ててアンチョビに呼び掛ける。

 

『………西住。奴等はお前と舩坂 弘樹を待っている。我々の事は気にするな。お前が生き残り、島田兄妹を倒せば我々の勝ちだ………』

 

しかしアンチョビは、まるで悟りを開いたかの様な穏やかな口調でみほへそう返す。

 

「! アンチョビさんっ!?」

 

『お前の健闘と幸運を祈る………』

 

そしてその言葉の直後に、衝撃音が響き、無線にノイズが走ったかと思うと何も聞こえなくなる。

 

「CV33………通信途絶」

 

沙織が通信機を弄っていた手を止め、そう呟く。

 

「「「「…………」」」」

 

みほ達は目の前の現実が信じられず、言葉が出なかった。

 

「………西住総司令。行きましょう」

 

するとそこで、弘樹がそう声を掛けた。

 

「! 弘樹くん………」

 

「恐らく奴等は我々を待っています………今こそ決着を着ける時です」

 

「! うんっ!!」

 

そう言う弘樹に、みほは表情を引き締めて返事を返した。

 

「皆さん! 此処をお願いします! 私達はボコ友達作戦の最終フェイズに突入しますっ!!」

 

「お任せ下さいっ!!」

 

「頼みます! 西住総司令っ!!」

 

みほの言葉に、大洗連合歩兵メンバーは勇ましい返事を返す。

 

「弘樹くん!」

 

「!!」

 

その言葉を背で聞きながら、みほは弘樹をⅣ号にタンクデサントさせて離脱。

 

いよいよ………

 

宿命の対決が開始されようとしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

バミューダ3姉妹との対決。
必殺のバミューダアタックを、地市が見事に破って見せました。
バミューダアタックの元ネタは恐らくジェットストリームアタックなので、同じ方法で破ろうと前々から思ってまして。
歩兵が居るこの作品ならではの手ですね。

しかし………
遂に島田兄妹が動き出しました。
一瞬にして大洗連合部隊が全滅する程の実力。
遂に弘樹とみほ達でのラストバトルに突入します。

少々唐突感もあるでしょうが、コレ以上引き延ばすとグダると思い、次回からラストバトルに突入させて頂く事にしました。
御了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター43『パーフェクト・ソルジャーです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター43『パーフェクト・ソルジャーです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に動き出した島田 愛里寿とイプシロン(島田 伊四郎)の兄妹………

 

その実力は、大幅に戦力ダウンしていたとは言え、大洗連合を壊滅させるまでのものだった。

 

今、あんこうチームと弘樹は………

 

最後の決着へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡内………

 

「みぽりん! 愛里寿ちゃん達が何処に居るのか分かるのっ!?」

 

弘樹をタンクデサントとさせたまま走るⅣ号の車内で、沙織が車長席の方を振り返って見上げながら問う。

 

「最後の報告で、黒森峰機甲部隊とグロリアーナ&ブリティッシュ機甲部隊と交戦していたそうだから、多分………中央広場だよ!」

 

「我々が最初に集結していた地点か………」

 

みほは地図を見ながらそう推測すると、弘樹がそう呟く。

 

「………!」

 

と次の瞬間、何かに気づいた様な様子を見せる。

 

「? 弘樹くん? 如何し………」

 

たの?と言い切る前に、通り掛かった宇宙船を思わせる施設からロケット弾が数発飛んで来た!

 

「「「「「!?」」」」」

 

「………!」

 

あんこうチームの面々が驚く中、弘樹は素早く四式自動小銃を構え、発砲!

 

飛来して来たロケット弾を全て撃墜した!!

 

「うわっ!?」

 

「………!」

 

爆風からみほが顔を庇う中、弘樹はタンクデサントしていたⅣ号の上から飛び降りる。

 

「! 弘樹くんっ!」

 

「行けっ!」

 

「!!」

 

みほが呼びかけると弘樹は即座にそう返す。

 

「麻子さん! 行って下さいっ!!」

 

「一応確認するが、良いんだな?」

 

「ココは弘樹くんに任せるのがベストです」

 

「分かった………」

 

すぐにみほが麻子へ呼び掛けると、Ⅳ号は速度を上げて離脱して行った。

 

「…………」

 

それを見送ると、弘樹はロケット弾が飛んで来た宇宙船の形をした施設に近づく。

 

「…………」

 

慎重に歩を進める弘樹。

 

そして施設が間近まで迫った、その瞬間!

 

突如として施設が爆発した!

 

「………!?」

 

爆風に吹き飛ばされ、仰向けに倒れる弘樹。

 

素早く立ち上がるが、そこへ施設から上がっている爆煙を突き破る様にロケット弾が飛んで来る。

 

「来たか………」

 

横跳びしながらかわすと、爆煙の中へ四式自動小銃を向ける。

 

そこで再度、爆煙の中からロケット弾が飛んで来る。

 

「…………」

 

しかし、弘樹はその場を動かない。

 

やがてロケット弾は、弘樹の左右を抜ける様にして背後の方へ着弾する。

 

如何やら、回避行動を執ったら当たる様に撃たれていた様であり、それを見抜いた弘樹は敢えてその場に立ち尽くした様だ。

 

「………!」

 

弘樹は反撃とばかりにロケット弾が放たれた位置に向かって発砲する。

 

しかし手応えは無く、再度ロケット弾が飛んで来る。

 

「………!」

 

今度は回避行動を執りつつ、再度発砲するがやはり手応えは無い。

 

とそこで………

 

半壊した施設に瓦礫の上に影が現れた!

 

「………!!」

 

すぐさまその影に四式自動小銃を向ける弘樹。

 

「舩坂 弘樹、良く凌いだ。初手で西住 みほ諸共に葬る積りだったが………」

 

「イプシロン………」

 

それは紛れも無く、右肩にバズーカを担いだイプシロンの姿だった。

 

「まあ良い。西住 みほは愛里寿が倒す………そして貴様はPS(パーフェクト・ソルジャー)である私が倒す」

 

「イプシロン、もう止めろ。この戦いに何の意味が有る?」

 

「知れた事! 西住流への雪辱を果たし、島田流こそが真の最強である事を証明する! それが母上、そして父上の願いだ!」

 

「島田 敏は死んだ。お前が父親だと思っているのは只の機械だ」

 

「黙れ! 貴様に何が分かるっ!?」

 

とそこで、イプシロンは左手にM3サブマシンガンを握り、弘樹に向かって発砲した!

 

「!!」

 

弘樹は大きく後ろに跳ぶ。

 

「ツァアッ!!」

 

その瞬間にイプシロンも半壊した施設の上から跳躍。

 

そして、後ろ跳びした弘樹の右肩に跳び蹴りを喰らわせる!

 

「ッ!!………」

 

「!!」

 

仰向けに倒れた弘樹の頭の先に着地したかと思うと、素早く振り返ってM3サブマシンガンを発砲するイプシロン。

 

「………!!」

 

弘樹は地面の上を転がって回避する。

 

「!!」

 

転がる弘樹に発砲を続けるイプシロン。

 

「………!!」

 

すると弘樹は、転がりながら四式自動小銃を発砲!

 

その反動で起き上がった!!

 

「………!!」

 

そしてイプシロンに向かって牽制も含めて射撃する。

 

「!!」

 

通常の人間ならば、弾丸が発砲されるのを確認してから回避するなど不可能だが、超人染みた反応速度を誇るイプシロンは難無く回避する。

 

(恐ろしい程の反応速度だ………身体能力も明らかに高い………コレほどまでの敵と戦うのは初めてだ)

 

この僅かな交戦で、イプシロンの底知れぬ実力を理解した弘樹の頬を冷や汗が伝う………

 

弘樹は今迄に感じた事の無い感情を感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

中央広場へと向かったあんこうチームは………

 

「間も無く中央広場です………」

 

「…………」

 

優花里がそう告げると、みほは無意識の内に、キューポラの縁を握り締める手に力を込めた。

 

「! 停止っ!!」

 

「!!」

 

とそこで、何かに気づいて停止指示を飛ばし、麻子も素早く反応してⅣ号を停止させる。

 

「………!」

 

少し前のめりになったのを踏ん張り、中央広場へと視線を向けるみほ。

 

「…………」

 

そこには、中央広場の中心に陣取っているセンチュリオンの姿が在った。

 

「…………」

 

キューポラからは、愛里寿が姿を覗かせている。

 

あのバイザー付きのヘッドホンも装着されているが、今は作動させていないのか、目に光は宿ったままである。

 

「愛里寿ちゃん………」

 

その愛里寿の姿をジッと見据えるみほ。

 

「………私は」

 

やがて、愛里寿が口を開く。

 

「私は………お母様の悲願と………お父様の願いを………叶える」

 

「…………」

 

「だから………西住 みほ………私は………私は………私は………」

 

私は、の次の言葉が中々出て来ない愛里寿。

 

今彼女の心には途轍もない葛藤が渦巻いている様だ。

 

「愛里寿ちゃん………」

 

しかし、そんな愛里寿にみほが声を掛けようとした瞬間………

 

「私は………お前を倒すっ!!」

 

愛里寿は、覚悟を決めた様な表情となり、みほの事を睨みつけた!

 

「!!」

 

「クッ!」

 

みほがその愛里寿の顔に驚いていた間に、麻子がみほの指示を待たずにⅣ号を発進させる。

 

直後にセンチュリオンが発砲し、先程までⅣ号が居た場所に砲弾が着弾する。

 

「!! 麻子さん! 外周を回って下さいっ!!」

 

「分かったっ!!」

 

すぐにみほはそう指示を飛ばし、麻子はⅣ号を中央広場の外周を回る様に動かす。

 

「…………」

 

その後を追う愛里寿のセンチュリオン。

 

やがてⅣ号の前方に、富士山を象った展望台とその中を抜けるトンネルが現れる。

 

Ⅳ号は速度を上げ、トンネル内に突入する………

 

かに思われた瞬間、横に逸れ、富士山型の展望台の斜面を昇り始めた!

 

一瞬横滑りしたが、麻子の超絶的な操縦テクニックで持ち直す。

 

「…………」

 

だが、それを見た愛里寿のセンチュリオンもⅣ号に続いた。

 

Ⅳ号はそのまま、反対側のトンネルの出口の上からジャンプ。

 

微かにバウンドしながら再度地面に着地する。

 

「後退っ!!」

 

「!!」

 

そしてそこで、全速でバックして、トンネル内へ入り込む。

 

その目の前に、Ⅳ号を追って来たセンチュリオンが着地する。

 

「撃てっ!!」

 

「!」

 

即座に華が発砲する。

 

「…………」

 

しかし、愛里寿は少しも慌てる事無く、センチュリオンを超信地旋回させて装甲に角度を付けて、Ⅳ号の砲弾を弾き飛ばす。

 

「! 更に後退っ!!」

 

みほが即座に指示を飛ばすと、Ⅳ号をトンネル内をバック。

 

直後に、センチュリオンが放った砲弾が、トンネル内に命中し、崩落を起こさせる。

 

バックのまま、逆側の出口から飛び出すと、履帯から火花を散らしながら旋回し、先程とは逆向きに外周を前進するⅣ号。

 

そこへ、センチュリオンからの砲弾が、中央広場に存在する遊具の合間を縫う様に飛来するが外れる。

 

「…………」

 

しかしそれは、Ⅳ号の動きをコントロールする為に放った囮弾であった。

 

Ⅳ号の次の動きを予測し、偏差射撃を掛けようとする愛里寿。

 

「! いけないっ! 麻子さんっ!!」

 

「クッ! 間に合えっ!!」

 

それに気づいたみほが慌てて指示を飛ばし、麻子が慌てて制動を掛ける。

 

(取ったっ!!)

 

的中を確信する愛里寿。

 

………その瞬間!!

 

1輌の戦車が、中央広場の外周に並んでいた食べ物屋の建物を飛び越える様にして、中央広場へ突入して来た!

 

「!?」

 

「トゥータッ!!」

 

愛里寿が驚いていると、その戦車が発砲し、砲弾がセンチュリオンの砲身に命中。

 

砲身を破壊する事は叶わなかったが、衝撃で狙いが微妙にズレ、Ⅳ号の進路を予測した砲撃は外れる。

 

飛び込んで来た戦車は、履帯から火花を散らしながら着地を決める。

 

「! ミカさんっ!」

 

みほが驚きの声を挙げる。

 

それはミカ達、継続校のBT-42だった。

 

「! お姉ちゃん………」

 

「やあ、愛里寿………久しぶりだね」

 

愛里寿の方も驚愕し、ミカはそんな愛里寿に微笑みかける。

 

「! 今更何をしに来たの………」

 

だが、愛里寿はすぐに敵意を剥き出しにし、ミカを睨みつける。

 

「………島田の家を出てから、私はずっと風の吹くままに生きて来た………」

 

そんな愛里寿の顔を見たミカの表情からも、微笑みが消える。

 

「でも気づいたのさ………世の中には………逃れられない『さだめ』ってものが有るって」

 

「「…………」」

 

ミカの言葉に聞き入るみほと愛里寿。

 

「そう、人生に於いて大切な戦い………私にとって、この戦いがそれさ」

 

「ミカさん………」

 

「みほさん、申し訳ないけどこの戦い………介入させてもらうよ」

 

「………ありがとうございます」

 

やがて、Ⅳ号とBT-42が並び立つ。

 

「…………」

 

一方愛里寿は、無表情となる。

 

「私は………お姉ちゃんとは………違う………」

 

と、そう呟いたかと思うとセンチュリオンが発砲する。

 

「「!!」」

 

途端にⅣ号とBT-42は弾かれた様に発進。

 

左右に広がる様に走り出し、センチュリオンからの砲撃を躱す。

 

「………!」

 

対する愛里寿も、すぐさまセンチュリオンを発進させた。

 

「………~~~♪~~~~♪」

 

ふと愛里寿は、何かの歌を口ずさみ始めた。

 

それは彼女が愛するキャラクター………ボコられグマのボコのテーマソング『おいらはボコだぜ!』だった。

 

しかし、陽気な曲調の歌の筈なのに………

 

何故か愛里寿が口ずさんでいると、とても悲しげな歌の様に聞こえた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、弘樹とイプシロンの方は………

 

「………!」

 

イプシロンが放つM3サブマシンガンの弾丸を、大きな瓦礫の陰に隠れてやり過ごす弘樹。

 

そして弾幕が途切れると、素早く身を乗り出してイプシロンに向かって四式自動小銃を発砲する。

 

「甘いっ!」

 

だが、攻撃が来る事を予測していたイプシロンにはかわされる。

 

「喰らえっ!!」

 

そして今度は、弘樹に向かってバズーカを発射する。

 

「………!!」

 

弘樹が後方へと飛ぶと、バズーカから放たれたロケット弾が、弘樹の隠れていた瓦礫を破壊する。

 

「ッ!………」

 

爆風に飛ばされた弘樹は地面の上を転がるが、その状態で手榴弾をイプシロンに向かって投擲する。

 

「!」

 

だがイプシロンは、手榴弾が空中を舞っていた間にM3サブマシンガンを単射で放ち、手榴弾に命中させて撃墜した!

 

「………!」

 

その間に体勢を立て直した弘樹は、四式自動小銃をイプシロンに向けて構える。

 

(弾薬が残り少ないか………)

 

しかし、その残弾数は心許無い。

 

既にココまでの長期戦で、弘樹の方の弾薬は減りに減っている。

 

対するイプシロンはコレまで温存してきた分、余裕は有る。

 

(長期戦はコチラが不利か………)

 

「流石だな、舩坂 弘樹。私と戦ってココまで持ち堪えたのは貴様が初めてだ」

 

そう思っていると、不意にイプシロンがそう言って来た。

 

「…………」

 

弘樹は油断無く四式自動小銃を向けたまま耳を傾ける。

 

「………何故お前なのだ?」

 

「何………?」

 

「私は島田の家に生まれ、幼き日より最強の歩兵………パーフェクト・ソルジャーになる為に己を鍛え上げて来た。いや。そうなる事を宿命付けられた」

 

「…………」

 

「パーフェクト・ソルジャーとは誰もが成れるものではない。最高の訓練とそれを熟せる能力と精神が有って初めて成れるのだ。だが、お前は生まれながらのPSと称された。只祖先が優れた兵士であっただけで、雑多な存在の筈の貴様が!」

 

「言った筈だ。パーフェクト・ソルジャーなどと言う肩書きには何の興味も無い」

 

「憎い………私はお前が憎い。島田の家に生まれた事こそが私と愛里寿の未来を決定した筈だった。戦う事に誇りを持つ事によって!」

 

「戦う事に誇りなど無い」

 

「有る! 私だから持てる! パーフェクト・ソルジャーだからだ!」

 

「そう思い込んでいるだけだ」

 

「違う! 断じて!! 私はPSなのだ! 特別なのだ!!」

 

徐々に語気の荒くなるイプシロン。

 

「お前は元々普通の人間だ。そう思い込む様に教育されてしまっただけに過ぎん」

 

「お前は分かっていない! 私は只の人間を超越した存在なのだ!!」

 

「………哀れだな」

 

と、その瞬間弘樹から漏れたのは憐れみの言葉だった。

 

「何っ!?」

 

「決して超越などしていない。思考能力の一部を排除された切れ味の良い人間でしかない」

 

「私を批判すると言うのか! この選ばれた私を! 普通の人間であるお前が!!」

 

「無意味なプライドに縋っているだけだ」

 

「私はPSなのだ! 敵対する者を倒す事が私の最大の生きる道だ! 名誉なのだ!」

 

「…………」

 

「………フフ………そうだ。貴様と私………たった1つだけ類似点が有った」

 

そこで不意に笑うイプシロン。

 

「PSの私と同等………ある意味ではそれ以上のお前の戦闘力………恐らく意識の無いものだろう」

 

「…………」

 

「だから! 私はお前を必ず倒す! それが私の存在する意味だ!!」

 

「お前は………」

 

「私は戦う事! 勝つ事の為だけに生きている! それだけだ!!」

 

「…………」

 

弘樹とイプシロン………

 

この2人はある意味では同類なのだろう………

 

共に戦いの中に生きて来た者同士………

 

そんな2人の間に有るのは………

 

そう………

 

戦う事だけなのである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

いよいよ島田兄妹と対決。
弘樹VSイプシロン。
そしてみほVS愛里寿………

更に、みほの方にはミカも介入。
島田ミカ説を採用しているので、やはりこの2人は対決させないとと思いまして。
最終的にはみほが決着を着ける事になると思いますが、ミカの存在も後々で重要なファクターになる予定です。
お楽しみに。

これからも、よろしくお願いします。


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チャプター44『一足先に自由になった歩兵の為にです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター44『一足先に自由になった歩兵の為にです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡内………

 

「喰らえっ!」

 

弘樹に向かってバズーカからロケット弾を放つイプシロン。

 

「………!」

 

弘樹は飛んで来るロケット弾をギリギリまで引き付けると、これまたギリギリで爆風の殺傷範囲内から逃れ、イプシロンに四式自動小銃を発砲する。

 

その内の1発が、イプシロンの左肩を掠めた!

 

「! 馬鹿なっ!?」

 

驚きながらもすぐさま左手にM3サブマシンガンを握って反撃するイプシロン。

 

コチラも数発の弾丸が弘樹の身体を掠め、戦闘服を切り裂く。

 

「ッ!!」

 

「!!」

 

回避行動の為、地面の上を転がる弘樹だが、イプシロンは容赦無く銃弾を叩き込んで来る。

 

そして、起き上がると思われた瞬間を狙い、再度バズーカからロケット弾を放った!

 

「!!」

 

弘樹の姿が爆煙の中へ消えた!

 

「やったかっ!?」

 

そう思うイプシロンだが、油断無く弘樹が消えた爆煙の中を睨んでいる。

 

そして、弘樹は………

 

「…………」

 

ギリギリのところで致命傷を回避し、爆煙の中に息を殺して潜んでいた。

 

「…………」

 

爆煙の方へ慎重に歩を進めるイプシロン。

 

立ち上る煙の中に、目を皿の様にして注意を配る。

 

「…………」

 

と、弘樹は足元に在った小石を拾い上げると、左の方向へと投げた。

 

地面に落ちた小石が音を立てる。

 

「!!」

 

その音に反応するイプシロン。

 

「!!」

 

その隙を衝き、弘樹はイプシロンに向かって発砲した!

 

「!? ヌアッ!!」

 

完全に隙を衝かれたイプシロンだったが、持ち前の尋常では無い反応速度で致命傷を避ける。

 

それでも、左の二の腕を撃ち抜かれ、激痛が走る!

 

「!!」

 

その痛みを強引に無視し、バズーカを弾丸が飛んで来た方向へ放つイプシロン。

 

「! ッ!!」

 

躱そうとした弘樹だったが、バズーカのロケット弾が空中で爆発!

 

飛び散った破片が、弘樹の左肩から二の腕に掛けて突き刺さった!

 

「!!………」

 

だが弘樹も激痛に耐えながら、イプシロンに再度発砲!

 

「ッ!!」

 

今度は確実に、イプシロンの右肩を撃ち抜いた!

 

右腕が動かなくなり、バズーカを落とすイプシロン。

 

しかし、被弾の衝撃でブッ飛ばされながらも、反撃にM3サブマシンガンをセミオート撃ちの様に発砲する。

 

内1発が、弘樹の右脛の内側を掠める。

 

「!!」

 

致命傷ではなかったが転倒する弘樹。

 

(弾切れ………!)

 

すぐに立ち上がる弘樹だが、四式自動小銃の弾は先程ので最後であった。

 

手榴弾も使い尽くしており、残る火器はサイドアームのM1911A1。

 

それも1マガジン分………

 

7+1の8発であった。

 

「………チッ!」

 

一方のイプシロンも、舌打ちしながらM3サブマシンガンを捨てた。

 

如何やら動作不良を起こした様である。

 

「…………」

 

するとイプシロンは、『何か』を取り出して残った左腕に握る。

 

それは、まるで鎌の様に歪曲した刃の付けられた槍であった。

 

「! 『バランシング』か!」

 

「ほう? 良く知っているな」

 

僅かに驚きの声を挙げた弘樹に、イプシロンはそう言い放つ。

 

 

 

 

 

『バランシング』………

 

伝統的な槍術の一種だが、謎が多い武術であり、その内容を詳しく知る者は少ない。

 

殆ど使い手も居ないが、クメン校にはこの武術が代々受け継がれている。

 

弘樹が知って居たのも、クメン校出身の友人達の存在が有ったからだ。

 

 

 

 

 

「…………」

 

イプシロンに呼応するかの様に、弘樹は四式自動小銃を地面に置くと、右手に英霊を握り構える。

 

剣道三倍段と言う言葉が有り、一般的に刀剣で長物を持つ相手と戦う場合、刀剣側は長物側の3倍の段位が必要とされる、と言う意味である。

 

それ程までにリーチの差とは埋め難いものなのである。

 

加えて、今弘樹は右腕しか使えない。

 

イプシロンも左腕しか使えないが、コレではリーチの有利不利が更に出て来る。

 

(懐に飛び込むしかない………)

 

そう考える弘樹だが、それは当然相手に読まれている。

 

いや、例え読まれて居なくとも、イプシロンの反応速度では対応されてしまう可能性が高い。

 

状況は手詰まりの様に見えた。

 

「…………」

 

それでも弘樹は、腰を落とし、踏み込む体勢を執った。

 

(来るか。さあ来い、舩坂 弘樹………踏み込んで来た瞬間が貴様の最期だ)

 

油断無く弘樹を見据えるイプシロン。

 

弘樹はジリジリと摺り足でイプシロンとの距離を詰めて行く。

 

「「…………」」

 

凄まじい緊張感が両者の間に漂う。

 

心なしか、周囲の音が小さくなって行っている様に錯覚する………

 

そして弘樹がまた摺り足で1歩踏み込んだかと思われた瞬間!!

 

「!!」

 

摺り足を終えた瞬間に、神速と言える速度で踏み込んだ!

 

(! 来たかっ!!)

 

しかし、イプシロンは動揺無く、超人的な反射神経でそれに対応する。

 

イプシロンに向かって全身のバネを駆使した突きを繰り出す弘樹。

 

「そこだぁっ!!」

 

だがイプシロンはその突きに対し、切り上げを繰り出す。

 

突きを繰り出した英霊がイプシロンの槍に下から弾き上げられ、弘樹の手を離れた!

 

「!!」

 

「今度こそ終わりだ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

そのままイプシロンは、切り上げた勢いを止めたかと思うと、弘樹の脳天目掛けて槍を振り降ろす!

 

「………!!」

 

そこで弘樹は、振り下ろされてくる槍の刃に向かって、自ら頭を突き出した!

 

「! 何っ!?」

 

ヘルメットが刃と接触し、槍の刃が中頃から折れて真上に打ち上げられた。

 

「!? ッ!!」

 

だが、半分になった槍の刃は、弘樹の戦闘服を切り裂く!

 

衝撃でブッ飛ばされる弘樹。

 

「フッ、驚かせおって………!?」

 

勝利を確信したイプシロンだったが、そこでブッ飛ばされた弘樹が、何時の間にか右手にM1911A1を握っていた事に気づく。

 

「!!」

 

普通の人間ならば反応出来ないが、イプシロンは反応し、弾道を即座に予測する。

 

「………!」

 

(躱せるっ!!)

 

直後に弘樹が発砲したが、イプシロンは弾道を見切っており、身を反らす。

 

だが………

 

何と放たれたM1911A1の弾丸が、落下してきた折れた槍の刃に命中!!

 

銃弾に弾かれた折れた槍の刃が、イプシロンに向かった!

 

「!? 何だとっ!?」

 

軌道を見切っていた銃弾は避ける事が出来たが、弾かれて飛んで来た折れた槍の刃は完全にイレギュラーだった。

 

折れた槍の刃は、イプシロンの戦闘服の胸………

 

心臓部分に突き刺さる!

 

「馬鹿………な………」

 

イプシロンがもんどり打って倒れると、ブッ飛ばされていた弘樹も地面に叩き付けられる。

 

「「…………」」

 

そして2人共倒れたまま、少しの間、沈黙が走る………

 

やがて、戦死判定を知らせるブザーが………

 

イプシロンの方から鳴り響いた。

 

「…………」

 

その直後に、弘樹が戦闘服の斬られた部分を右手で押さえながら立ち上がる。

 

如何やら、初めから斬られる積りで居た様で、寸前で致命傷を避けた様だ。

 

「…………」

 

そのまま弘樹は、倒れたままのイプシロンに近づく。

 

「………み、見事だ………舩坂 弘樹………私の負けだ」

 

倒れたままのイプシロンが、呻きながら弘樹を見上げて言う。

 

「フフフフ………だが確信したよ………お前が同類だと言う事をな」

 

「………!」

 

それを聞いた弘樹が、一瞬嫌そうな表情を浮かべた。

 

「………確かに………お前もPSだ………」

 

「………違う」

 

「PSだ………でなければ、倒された私のプライドは………」

 

「…………」

 

「普通の………人間には………こ………の………私が………負ける………わけが………な………い………」

 

そこでイプシロンは体力の限界を迎えた様で、まるで力尽きた様に気を失った。

 

「…………」

 

気を失ったイプシロンを暫し見下ろしていた弘樹。

 

「…………」

 

だが、やがて踵を返すと、地面に刺さっていた英霊を抜いて鞘に納め、背を向けて離れて行く。

 

「…………」

 

しかし、ある程度離れたかと思うと、再びイプシロンの方を振り返った。

 

「………!」

 

そして、M1911A1を抜いたかと思うと、空に向けて発砲した。

 

それは弘樹なりの………

 

一足先に自由になった歩兵の為の行為だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・某所………

 

「そんな………イプシロンが………」

 

モニターに映る、倒れたままのイプシロンの姿を見て、愕然となっている千代。

 

「やはり舩坂 弘樹はPSの様ですな」

 

とそこへ、ロッチナが現れたかと思うと、千代にそう言って来る。

 

「! 違うわ! イプシロンこそがPSなのよっ!!」

 

「その完璧なPSであるイプシロンを倒したのです。それと同等に戦える人間が居ると思うのですか?」

 

「アイツは普通の人間よ! 何の特殊な訓練も受けていないわっ!!」

 

「訓練は絶対条件ではありません。能力こそが問題なのです」

 

弘樹がPSであると言う事を頑なに認めたくない千代に対し、ロッチナは淡々とした様子で語る。

 

「彼の能力は完璧なPSのソレです。既に舩坂 弘樹がイプシロンを倒した事で証明されています」

 

「違う………違うわっ!!」

 

(………家元と言えど、所詮は母親と言う事か)

 

決して弘樹の事をPSとして認めようとしない様子の千代を見て、ロッチナは内心でそう冷めていた。

 

「………愛里寿………そうよ! まだ愛里寿が居るわっ!! 愛里寿が西住 みほに勝てば良いのよ! そうすれば試合はコチラの勝ち! アイツの戦術的な勝利なんて意味が無くなるわ!!」

 

最早言っている事が支離滅裂に成り始める千代。

 

そんな千代の心境を知ってか知らずか………

 

モニターの映像は、みほ&ミカと戦う愛里寿の様子に切り替わるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地跡・中央広場………

 

並走して走りながら、広場の中心を抜けようとするⅣ号とBT-42。

 

しかし、バイキングの横を通り抜けようとしたところ、センチュリオンがバイキングに向かって発砲!

 

被弾の衝撃で、バイキングがⅣ号とBT-42に向かって来る!

 

「! 停車して即座に後退っ!!」

 

「ミッコッ!」

 

Ⅳ号は素早く停車すると同時にバックし、BT-42はバイキングが当たりそうなギリギリの位置を擦り抜ける。

 

直後に、BT-42の方がセンチュリオンに向かって発砲。

 

しかし、センチュリオンはBT-42の砲弾を防盾に当てさせて弾き飛ばすと、そのまま富士山型の展望台へ向かった。

 

「…………」

 

そして、展望台の頂上に位置取り、Ⅳ号とBT-42を見据える。

 

それに対して、Ⅳ号とBT-42は、富士山型の展望台の斜面を回る様にして登りながら、センチュリオンに肉薄しようとする。

 

そこでセンチュリオンも、Ⅳ号とBT-42とは逆方向に回る様に、富士山型の展望台を下り始めた!

 

そのまま、最初にBT-42と接敵。

 

BT-42が発砲して来たが、砲弾は僅かに上を擦り抜け、反撃にとセンチュリオンが擦れ違い様に砲撃。

 

しかし、BT-42はドリフトの様な動きを見せて回避。

 

直後に今度はⅣ号が現れて発砲して来たが、読んでいたセンチュリオンは一瞬停止して回避。

 

そのまま、展望台の階段部分に沿って降り始めた。

 

Ⅳ号とBT-42もその後を追い、左右に広がってセンチュリオンを挟み込んで挟撃しようとする。

 

コーヒーカップとあのイギリスの有名珍兵器『パンジャンドラム』をモチーフにしている回転ブランコの間を擦り抜けると、左から来ていたBT-42の方へ進路を取った。

 

BT-42が発砲したが回避され、反撃にとセンチュリオンが発砲して来たが、BT-42はドリフトで車体を斜めにして躱す。

 

今度はセンチュリオンを追う形で来ていたⅣ号が、エンジン部を狙って撃ち込もうと速度を上げて接近したが………

 

センチュリオンは履帯から火花を散らしながらブレーキを掛け、車体と砲塔を旋回させたかと思うと再度発砲した!

 

幸いにも砲弾は外れ、車体左側前方のシュルツェンが吹き飛ぶだけに終わった。

 

その間にセンチュリオンが退避するが、そのセンチュリオンに向かってⅣ号が発砲する。

 

だが、センチュリオンはⅣ号に背を向けたまま僅かに右へスライドして砲弾を躱したかと思うと、そこから車体を旋回させて再度Ⅳ号へ発砲!

 

今度は砲塔右側のシュルツェンが吹き飛ばされる。

 

センチュリオンはそのまま回転する旋回を続けて、進行方向を戻す。

 

そして再度旋回を始めたかと思うと、メリーゴーランドの陰からチャンスを窺っていたBT-42に向かって発砲。

 

砲弾はメリーゴーランドの柱に当たり、爆粉煙がミカの視界を遮ったが、BT-42は構わずに発砲した。

 

しかし、旋回を続けていたセンチュリオンはまるで駒の様な動きでBT-42の砲撃を回避。

 

と、履帯の負荷を考えて旋回を止めると読んでいたⅣ号が加速してセンチュリオンに肉薄。

 

そのままドリフトで背後を取ろうとする。

 

「…………」

 

だが、その動きを呼んでいた愛里寿は、Ⅳ号の停止位置に砲塔を旋回させていた。

 

背後を取ったかと思われた瞬間に、センチュリオンの砲撃を喰らうⅣ号。

 

幸い掠めただけで済んだ為、被害は車体右側のシュルツェンに留まる。

 

更にⅣ号は、掠めた衝撃でブッ飛ばされたのを利用し、広場の壁に後部からぶつかって一瞬だけ静止すると、センチュリオンに向かって発砲した。

 

しかし、センチュリオンは自慢の超信地旋回で回避する。

 

更に回避の旋回をしたまま迫って来ていたBT-42に向かって発砲までする。

 

BT-42は砲撃を中止して回避機動を取る。

 

「…………」

 

するとそこで、愛里寿が車内の乗員に、後ろ手で拳から人差し指と小指を伸ばしたハンドサインを送る。

 

その指示を受け、センチュリオンの装填手が榴弾を装填。

 

先ず、BT-42が遮蔽物として隠れたゴンドラのアトラクションを破壊。

 

そこでBT-42の援護の為、Ⅳ号が回転ブランコの柱の陰からセンチュリオンに発砲する。

 

けれどもセンチュリオンはそれを意にも介さず、V2ロケットを思わせるアトラクションの後部に位置取る。

 

そして、V2ロケット内に榴弾を放った。

 

ロケット内部で爆発した榴弾の爆風が後部から吹き出し、あたかも本当のロケットの様にV2ロケット型のアトラクションが飛翔!

 

そのままⅣ号が盾にしていた回転ブランコにブチ当たった!

 

回転ブランコが倒壊し始め、上部のパンジャンドラムがⅣ号を潰さんとする。

 

「麻子さんっ!!」

 

「!!」

 

だかそこは天才操縦士・麻子。

 

倒壊位置を見極め、見事にパンジャンドラムの車輪の間にⅣ号を納めた。

 

そのままパンジャンドラムと並走するⅣ号。

 

車輪の隙間から、センチュリオンに向かって砲撃する。

 

そして今度はセンチュリオンの方が発砲して来たかと思うと、砲撃はパンジャンドラムに命中。

 

パンジャンドラムは粉々になり、ブランコが四方八方に飛び散った。

 

そこで抜け出したⅣ号はBT-42と合流。

 

BT-42が先陣を切り、Ⅳ号がそれに続きながら、センチュリオンに航空機のヘッドオンよろしく正面から仕掛ける。

 

しかし、センチュリオンは2つの砲弾の間を縫う様にして回避したかと思うと、またも超信地旋回で回転しながら発砲。

 

Ⅳ号の砲塔後部のシュルツェンを吹き飛ばした。

 

やがて、両者は距離を取って反転すると、お互いに睨み合う様な態勢になる。

 

(凄い………まだあのシステムは使ってないのに………コレが島田流の………ううん、愛里寿ちゃんの強さ)

 

未だにシステムは使っていないと言うのに、粗自分達の方が追い込まれている状況に、みほは内心で戦慄する。

 

「………西住さん。少し良いかな?」

 

「! ハイ………」

 

とそこで、不意にミカが声を掛けて来て、みほは軽く驚きながら返事をする。

 

「私があの子に隙を作る………そこで西住さんが決めてくれ」

 

「! 出来るんですか?」

 

「ああ、コレまでの遣り取りで確信したよ。あの子の癖は変わって居ない………姉の私にはそれが分かる」

 

確信しているかの様な表情でそう言うミカ。

 

「ミッコ。全力でどれぐらい持つ?」

 

「1回壊れたからね。3分………いや、5分は持たせてみせるよ」

 

「流石だね。アキも良いかい?」

 

「ミカの無茶ぶりなんて、今に始まった事じゃないでしょ?」

 

ミカの問いに、ミッコもアキも勇ましい返事を返す。

 

「ありがとう、2人共………」

 

「よせやい。ミカにお礼言われるなんて、背筋がむず痒くなるよ」

 

「言ってる事は良く分からない事が多いけど………ミカの事は信じてるからね」

 

「…………」

 

2人のその言葉に、ミカは笑みを浮かべるのだった。

 

一方、愛里寿は………

 

(!? お兄ちゃんが負けた!?)

 

丁度イプシロンが弘樹に倒されたと言う報告が入って来て、驚愕の表情を浮かべていた。

 

(もし私まで負けたら、お母様が………お父様の願いも………嫌だ………そんなの絶対嫌だ!!)

 

負けられないと言う気持ちが、強迫観念の様に湧いてくる。

 

と、その時………

 

突然、愛里寿の装着しているヘッドフォンにコードが繋がっているノートPCが………

 

独りでに起動したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

弘樹とイプシロンの壮絶な戦い。
最後は、弘樹お得意の捨て身攻撃でイプシロンを撃破。
しかし、イプシロンは最後までプライドに生きたのだった。

一方、みほ&ミカと愛里寿の戦いも接戦。
2輌の強みを活かしてコンビネーションで仕掛けようとしますが、そこでイレギュラーが?………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター45『異能たる者です!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター45『異能たる者です!』

 

 

 

 

 

 

 

 

イプシロンは倒れた………

 

残るは愛里寿のみ………

 

しかし………

 

突如として、愛里寿の持つ戦術・戦略AIシステムが内蔵されたノートPCが………

 

独りでに起動し始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡内………

 

中央広場………

 

「!? えっ!? な、何っ!?」

 

突如としてシステムが起動を始め、愛里寿が戸惑いの声を挙げる。

 

「?」

 

「何っ?」

 

突然戸惑った様な様子を見せた愛里寿に、ミカとみほも困惑する。

 

「システムが!?………勝手にっ!?」

 

「システム………?」

 

「! まさか、あのっ!?」

 

更に愛里寿からそんな声が挙がると、ミカが首を傾げ、みほが社会人チームとの試合での事を思い出す。

 

「! うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

と、愛里寿の装着していたヘッドフォンのバイザー部分が発光したかと思うと、愛里寿が悲鳴を挙げる。

 

「!? 愛里寿ちゃん!」

 

「愛里寿っ!?」

 

みほとミカが思わず叫んだ次に瞬間………

 

「…………!」

 

バイザーの光が消え、愛里寿は糸の切れた操り人形の様に項垂れた。

 

が、すぐに顔を上げたかと思うと………

 

その顔から一切の感情が無くなり、目のハイライトも消えていた。

 

「「!?」」

 

愛里寿のその姿を見たみほとミカに額に冷や汗が流れる。

 

その次の瞬間!!

 

「…………」

 

無表情のままの愛里寿のセンチュリオンが突如として突撃を繰り出して来た!!

 

「「!!」」

 

Ⅳ号とBT-42は左右に分かれる様にして発進し、センチュリオンの突撃を躱す!

 

「…………」

 

すると愛里寿は、無表情のままBT-42の方を見遣ったかと思うと、センチュリオンをそちらへ進ませた!!

 

「!!」

 

「! ミカさんっ!!」

 

すぐにみほのⅣ号が救援に向かおうとしたが………

 

「来るなっ!!」

 

「!!」

 

他ならぬミカが制する。

 

「言った筈だよ! 私達が隙を作る!! 君達はチャンスを待つんだっ!!」

 

「! 分かりましたっ! 華さんっ!!」

 

「お任せ下さい………」

 

珍しく声を荒げてそう言うミカの迫力に押され、みほは華に呼び掛け、狙撃の態勢に入る。

 

「ミッコ! 履帯パージッ!!」

 

「おうっ!!」

 

ミカの指示が飛ぶと、ミッコがステアリングを取り出し、操縦席にセット。

 

同時にBT-42の履帯がパージされ、車輪走行形態となった。

 

一気にスピードが上がり、センチュリオンに肉薄して、

 

背後を取ろうとする。

 

「…………」

 

対するセンチュリオンは、超信地旋回で自車の周りを旋回するBT-42に後ろを見せない様にする。

 

「ミッコ! 速度を上げてっ! アキ! 何時でも撃てる様にっ!!」

 

「あいよっ!」

 

「任せてっ!!」

 

ミカの指示で、ミッコが更にアクセルを踏み込み、アキが発射トリガーに指を掛ける。

 

更に速度を上げるBT-42。

 

それでいて旋回半径が全く変わらないと言う、ミッコの操縦技術の高さが改めて浮き彫りになる。

 

やがて徐々に、BT-42がセンチュリオンの後ろを捉え始める。

 

(あと少し………)

 

凄まじい横Gに耐えながら、車外に姿を曝し続け、発砲のタイミングを窺うミカ。

 

「…………」

 

更に、狙撃態勢に入っていたⅣ号の方でも、華が極限の集中力を見せる。

 

「「「「…………」」」」

 

みほ、沙織、優花里、麻子にもその緊張感が伝わり、黙り込んでいる。

 

「(! ココだっ!)トゥ………」

 

そして遂に、BT-42の照準が、センチュリオンの後部を捉えた………

 

 

 

 

 

かに思われた、瞬間!!

 

 

 

 

 

突如として、BT-42に合わせる様に超信地旋回をしていたセンチュリオンが、突如として逆回転!!

 

「!? 何っ!?」

 

ミカが驚愕を露わにした瞬間!

 

逆回転したセンチュリオンの砲身が、BT-42の目の前に迫る!

 

「! しまっ………」

 

た、と言い切る前に、センチュリオンの砲身がまるでフルスイングしたバットの様にBT-42に直撃!

 

15トンの車体が、宙に舞った!

 

「! 華さんっ!!」

 

「!!」

 

みほも、その攻撃に驚きながらも、すぐさま華に呼び掛け、華が発射トリガーを引こうとする。

 

と、その瞬間!!

 

「西住総隊長っ!」

 

イプシロンを片付けた弘樹が、中央広場に到着した!

 

「! 弘樹くんっ!」

 

みほが弘樹の姿を見遣った、その時!!

 

逆回転したままだったセンチュリオンが、砲身がⅣ号に向いた瞬間に先んじて発砲した!!

 

「!?」

 

「………!!」

 

みほが驚愕の表情を浮かべた瞬間に、弘樹は右手にM1911A1を握り締めて駆け出した!

 

今の弘樹に、有効な対戦車兵器は無い………

 

拳銃如きで戦車を如何にか出来るものではない事は百も承知だ。

 

しかし、それでも………

 

例え無駄だったとしても………

 

弘樹は動かざるを得なかった。

 

センチュリオンが撃った砲弾はⅣ号の砲塔左側面を掠める様に命中!

 

撃破判定に至るものではなかったが、衝撃で砲塔左側面のハッチが吹き飛んだ!

 

「!?」

 

丁度それは、砲手である華のすぐ傍に有ったハッチであり、その出来事で華の集中力が一瞬途切れ、僅かに余分な力が入って狙いが微妙にズレてしまった。

 

だが、トリガーを引く指を停める事は叶わない………

 

「!!」

 

とそこで同時に、弘樹がM1911A1を構えたが………

 

「…………」

 

それも読んでいた様に、無表情の愛里寿が、機銃架のベサ機関銃を弘樹に向かって発砲した!!

 

放たれた機銃弾の1発が、弘樹の左肩を直撃!

 

「!!」

 

バランスを崩し、倒れ込みそうになる弘樹。

 

その瞬間に………

 

弘樹自身も無意識の内に………

 

右手に握っていたM1911A1の引き金を引いた。

 

放たれた弾丸は、床に当たって跳弾。

 

更に、その弾は『巧まずして』センチュリオンの砲身にブッ飛ばされたBT-42の砲塔部分に当たり、また跳弾。

 

そして今度は、『偶々』センチュリオンの砲撃で吹き飛ばされたⅣ号の砲塔左側面ハッチに当たり、またもや跳弾。

 

丁度その瞬間に、華が引き金を引き切ってしまい、Ⅳ号の砲身から砲弾が飛び出す。

 

その飛び出した瞬間の砲弾の先端部分に、『偶然にも』M1911A1の弾丸が命中!

 

まだ飛び出したばかりで勢いの乗って居なかった砲弾は、その衝撃で微妙にズレてしまっていた狙いが修正される。

 

更に更にM1911A1の弾丸は跳弾!

 

センチュリオンの方へと向かったかと思うと、愛里寿が姿を見せていたので開け放たれたままだったセンチュリオンのハッチに命中して何度目とも知れぬ跳弾をしたかと思うと………

 

『奇跡的』にセンチュリオンの車内へ飛び込み、愛里寿が装着しているバイザー付きのヘッドフォンが繋がれたノートPCに命中!

 

ノートPCは粉々になった!

 

「!? あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

バイザー付きヘッドフォンにスパークが走り、愛里寿が悲鳴を挙げる。

 

そしてその瞬間………

 

狙いが修正されていたⅣ号の砲弾が………センチュリオンの防盾下部に命中!

 

そのままショットトラップで、車体上部へと突き刺さり、センチュリオンは派手に爆発!!

 

「「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

あんこうチームと地面に叩き付けられたBT-42のミカ達も驚愕。

 

「………何が、起こった?」

 

当の弘樹は、倒れ込んでいた為、その瞬間を見逃していた。

 

やがて、爆煙が晴れて来たかと思うと………

 

「…………」

 

力無く砲塔の天板に突っ伏していた愛里寿と、白旗を上げているセンチュリオンの姿が露わになったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・某所………

 

「そ、そんなっ!? 愛里寿が!? システムまでっ!?」

 

イプシロンに続き、愛里寿も破れ、更に島田流自慢の戦術・戦略予測システムまで破壊された事に千代は愕然となる。

 

「勝負はあった様ですな………」

 

対するロッチナは、相変わらず淡々とした様子であった。

 

「な、何で貴方はそんなに淡々としているのですかっ!?」

 

その態度が気に障ったのか、ロッチナに向かって怒鳴る千代。

 

「………これこそが我が『神』の望みだからですよ」

 

しかし、ロッチナは不敵に笑ってそう返した。

 

「か、『神』!? 一体何を………」

 

ロッチナが言った『神』と言う言葉に、千代は動揺を露わにする。

 

その瞬間………

 

千代とロッチナが居る場所に、振動が走り始めた!

 

「! キャアッ!?」

 

「始まったか………」

 

よろけて悲鳴を挙げる千代に対し、ロッチナは全てを察している様な表情となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦上・遊園地跡内………

 

中央広場………

 

「愛里寿ちゃん! 愛里寿ちゃんっ!!」

 

「愛里寿! しっかりするんだ、愛里寿っ!!」

 

動かなくなったセンチュリオンから救出した愛里寿に、必死に呼び掛けているみほとミカ。

 

「えっと、一応変な事はしないで下さいね」

 

「捕虜の扱いは条約に則るであります」

 

「別に抵抗はしません」

 

「ココで足掻いたらそれこそ見苦しい真似になるしね………」

 

一方、沙織と優花里達は、センチュリオンの他の乗員達を念の為に見張っているが、既にセンチュリオンの乗員達には抵抗する気は無い様だ。

 

「………大丈夫だ。気を失っているだけだ」

 

とそこで、左腕を押さえながら近寄って来た弘樹が、愛里寿の状態を見て、みほとミカにそう告げる。

 

「良かった………」

 

「愛里寿………」

 

それを聞いて安堵の表情を浮かべるみほと、愛里寿の手をギュッと握るミカ。

 

………と、その瞬間!!

 

突如、中央広場を振動が襲った!!

 

「うおっ!?」

 

「地震でしょうか?」

 

麻子がよろけ、華がそう言って辺りを見回す。

 

しかし、揺れているのは中央広場だけだった。

 

「揺れてるのはこの場所だけ!?」

 

「こんな地震あるのかよ!?」

 

と、アキとミッコがそう言った瞬間………

 

中央広場全体が………

 

ゆっくりと………

 

下降を始めた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」

 

予想だにしなかった事態に、みほ達は驚愕を露わにする。

 

「………この広場自体が巨大なエレベーターで、メガフロート内の設備に繋がっていたのか?」

 

そんな中で、弘樹は只1人冷静に推察を行う。

 

巨大エレベーターはドンドンと降下して行き、とうとう空が見えなくなり、中央広場が暗闇に包まれる。

 

「ど、何処まで降りるの?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

沙織のその声に、誰もが不安な表情を浮かべる。

 

「弘樹くん………」

 

「大丈夫だ………」

 

みほも愛里寿を抱き抱えたまま弘樹に声を掛けるが、弘樹はいつもの調子でそう返す。

 

やがて、一際大きな振動が走り、大きな音が鳴ったかと思うと、エレベーターは静止した。

 

その瞬間に、壁となっていた周りの上部の方で、一斉に照明が点灯する!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

突然の強烈な光に、全員が目を腕で覆う。

 

「………此処は?」

 

やがて目が慣れて来ると、まるで巨大な機械の中の様なメガフロート内の様子が露わになる。

 

とそこで、壁の一角が扉の様に開いた。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

身構える一同。

 

やがて、その空いた場所から足音が聞こえて来たかと思うと………

 

ロッチナと千代が姿を現した!

 

「! 母さんっ!」

 

「ロッチナ大佐………」

 

千代の姿を見たミカが苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、弘樹は警戒感を露わにする。

 

「フフフ………おめでとう、舩坂 弘樹。君は『神』の器となった」

 

だが、そんな弘樹の態度も気に留めず、ロッチナはそう言い放つ。

 

「『神』………?」

 

「ジャン大佐! 一体如何言う事なのです! 貴方は一体何を知っているのっ!? いえ、それ以前に………貴方は一体何者なのっ!?」

 

弘樹が訝しげな表情をした瞬間、千代が捲し立てる様にロッチナにそう言い放つ。

 

「そうだな………『神の国』から来た男………とでも思ってもらおうか」

 

ロッチナは不敵に笑ってそう言う。

 

「『神の国』………?」

 

「何を言っている?」

 

「「「「「??」」」」」

 

華と麻子を中心に、首を傾げる一同。

 

「『神』………『ワイズマン』の事か?」

 

とそこで、そう思い至った弘樹がそう声を挙げる。

 

「えっ!? ワイズマンって………」

 

「あの機械は壊れたんじゃないのっ!?」

 

みほと沙織が驚きの声を挙げ、白旗の上がっているセンチュリオンを見やる。

 

その車体の上には、粉々になっているノートPCだった物が集められていた。

 

「フフ………自らの意志を持ち、高度な能力を持つAI・ワイズマンが、そんなノートPC1台に収まり切ると思っていたのか?」

 

「………このPCは端末の1つに過ぎないと言う事か」

 

ロッチナの言葉に、麻子がそう推察する。

 

「その通り。そしてワイズマンこそが私の真の主………神なのだよ」

 

「!? 何ですってっ!?」

 

「私はその神より眼の役割を与えられ、舩坂 弘樹をズッと観察していたのだよ。ワイズマン自らの力と知識を与えるに相応しい人物か見定める為にな」

 

千代が驚きの声を挙げると、ロッチナは淡々とそう説明する。

 

「力と知識を与えるだと………?」

 

「そうだ。ワイズマンは高度に進化したAI………最早新しい生命と言っても過言ではない。だが、彼には肉体が無い。だから欲したのさ。自分の全てを授けるに相応しい強さと強靭な肉体を持つ者………それこそ『異能者』である者をな」

 

「そ、そんなっ!? 出鱈目だわっ!! あの人は島田流の………私の為にっ!!」

 

ワイズマンの事を亡くなった夫であると思い込んでいる千代は、ロッチナに反論するが………

 

「最早ワイズマンの中に春博士の意志など存在しない。島田 愛里寿やイプシロンに力を貸していたのは、当初は2人の内どちらかを憑代にしようとしていたからに過ぎん」

 

ロッチナは冷たくそう返す。

 

「だが、舩坂 弘樹の存在を知った今、2人はもう用済み。所詮は近似値に過ぎなかったと言う事だ。そして、島田家元………貴方の事に至っては最初から眼中に無かったのですよ」

 

「!? う、嘘よっ! こんなの嘘よっ!! こんな………こんな………いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!………!」

 

千代は絶叫の悲鳴を挙げたかと思うと、やがて糸の切れた操り人形の様にバタリと倒れた。

 

「! 母さんっ!!」

 

「「「島田家元っ!!」」」

 

ミカとセンチュリオンの乗員が慌てて駆け寄るが、千代は完全に気を失っていた。

 

「愚かな女だ………さて、舩坂 弘樹。ワイズマンが待っている。会いに行こうか」

 

そんな千代を冷めた目で見降ろしながら、ロッチナは再び弘樹に呼び掛けた。

 

「………そのワイズマンの力と知恵を受け取ると如何なる?」

 

そうロッチナに問う弘樹。

 

「全てを得られる。神の力を得られるのだ………当然の事だろう。全ての国々を支配する事だって出来る」

 

『その通りだ………』

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

ロッチナが語っていると、突如別の者の声が響き渡り、一同は驚く。

 

「………ワイズマンか」

 

只1人、弘樹だけが虚空を仰ぎながらそう言う。

 

『そうだ、舩坂 弘樹………お前は数々の戦いを経験し………遂には私の力の一部を貸し与えた愛里寿とイプシロンをも退けた………やはりお前こそが我が憑代………』

 

と、ワイズマンのその言葉が響いたかと思うと………

 

先程ロッチナと千代が出て来た場所とは別の壁が開いた。

 

開いた先に続く通路からは光が溢れている。

 

『来い………舩坂 弘樹………お前こそが………この世界の神となるのだ』

 

「ふざけるなぁっ!!」

 

とそこで、ミカが怒声を挙げて、その光が溢れている通路に向かって行った。

 

「! ミカさんっ!!」

 

「そんな! そんな事の為に! 母さんを! 愛里寿を! イプシロンを! 私達、家族をぉっ!!」

 

みほが驚きの声を挙げる中、ミカは見た事も無い怒りの形相で、通路へと飛び込もうとする。

 

だが………

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

途端に、ミカの身体に電流の様な物が走り、吹き飛ばされた!

 

「! ミカッ!!」

 

「オイ、ミカ! 大丈夫かっ!?」

 

慌ててアキとミッコが駆け寄り、助け起こす。

 

「ま、まさかっ!? 電磁バリアッ!? アメリカ軍でさえまだペーパープラン状態の物をっ!?」

 

「ワイズマンの力をもってすればこの程度の事は造作も無い」

 

その光景を見た優花里が、ミカを弾き飛ばした物の正体が電磁バリアである事に驚愕し、ロッチナが不敵にそう言う。

 

『私の元へ来れるのは舩坂 弘樹だけだ………』

 

そこで再度響くワイズマンの声。

 

「…………」

 

ジッと光の溢れている通路を見据えている弘樹。

 

「弘樹くん! 絶対行っちゃ駄目だよっ!!」

 

「そうだよ! こんなの新手の霊感商法みたいなもんじゃんっ!!」

 

みほと沙織が弘樹に向かってそう言う。

 

しかし………

 

「………それがアンタの望みか」

 

弘樹は目を瞑りながらそう呟く。

 

「? 弘樹くん?」

 

そんな弘樹の様子にみほが首を傾げた瞬間………

 

弘樹の口から信じられない言葉が飛び出した。

 

 

 

 

 

「分かった。喜んでアンタの憑代になろう」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

あんこうチームとミカ達の顔が驚愕で固まる。

 

「ひ、弘樹くん? な、何を言ってるの………?」

 

みほが呆然としたままで弘樹に問うが………

 

「今、この瞬間から小官はアンタの肉体だ。その役目を果たそう」

 

「!? そ、そんなっ!?」

 

「そうだ、舩坂 弘樹。それが正しい選択だ」

 

再度驚愕するみほを尻目に、ロッチナは笑みを浮かべてそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小官は………神になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

強制的に発動したシステムにより、マシンと化す愛里寿。
みほとミカのコンビネーションも通じず、駆け付けた弘樹まで倒されたかに思えたが………
またも弘樹の『異能の力』が発揮されます。

そして勝利した弘樹達はメガフロート内部へ………
そこで遂に、ロッチナの真の目的とワイズマンの陰謀が明かされます。
神の力を与えてやると言われ、それを受け入れる弘樹。
彼は神の力の魅惑に魅了されてしまったのか(棒読み)

もう少しで長かった劇場版も完結する予定です。
その後にエピローグになる愛里寿・ウォーを入れて、いよいよこの作品も完結となります。
次は最終章が全て公開されてからになるでしょうか。
………先は長いです(笑)


では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター46『例え神にでも従わないです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプター46『例え神にでも従わないです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・地下空間………

 

「ひ、弘樹くん………嘘だよね?………嘘だと言ってっ!!」

 

「…………」

 

みほが必死な様子でそう問い質すが、弘樹はみほに背を向けたまま何も答えない。

 

「当然の事だ。目の前に神の力がぶら下がっているのだ。飛び付かない人間がいるものか」

 

対する様にそんな事を言うロッチナ。

 

「それに舩坂 弘樹。お前は絢爛舞踏の勲章を持つ武勲者だが………正直、もう戦いだけの日々に飽き飽きしているんじゃないのか?」

 

「…………」

 

弘樹は沈黙を通すが、ロッチナはそれを肯定と受け取る。

 

「さあ、行くぞ。神が待っている」

 

「…………」

 

ロッチナがそう促し、ワイズマンの元へ繋がる入り口へ向かうと、弘樹もそれに倣った。

 

「舩坂くんっ!」

 

「舩坂さんっ!」

 

「舩坂殿っ!」

 

「舩坂っ!」

 

「…………」

 

沙織、華、優花里、麻子が呼ぶが、振り返ろうともしない………

 

「弘樹くんっ!!」

 

とそこで、みほが弘樹を呼びながら、Ⅳ号の機銃架から外したMG34を構えた!!

 

「!? 西住殿っ!?」

 

「み、みぽりんっ!?」

 

その姿にギョッとする優花里と沙織。

 

「…………」

 

弘樹は漸く足を止め、首だけ振り返りながらMG34を構えるみほを見遣る。

 

「………行けば撃つよ」

 

そんな弘樹を真っ直ぐ見返しながら、みほはそう告げる。

 

「…………」

 

「ホントに撃つよっ!!」

 

無言を貫く弘樹に、みほは再度そう言いながら、引き金に指を掛ける。

 

「…………」

 

そんなみほの事を少し見遣っていた弘樹だったが………

 

「…………」

 

やがて興味を無くした様に前に向き直った。

 

「! 弘樹くんっ!!」

 

と、遂にみほはMG34の引き金を引いた!!

 

………かに思われた瞬間!!

 

1発の銃声が鳴り響き、みほの身体が宙に舞う。

 

「「「「「「「!!」」」」」」」

 

沙織達の表情が驚愕に染まる。

 

その銃声は………

 

弘樹が振り向き様に撃ったM1911A1のものだった。

 

そう………

 

 

 

 

 

弘樹はみほを撃ったのである!!

 

 

 

 

 

やがて、宙に待っていたみほの身体が、やがて背中から地面に叩き付けられる。

 

「! みぽりんっ!!」

 

「西住殿っ!!」

 

「みほさんっ!!」

 

沙織が弾かれる様にみほの元へ駆け寄り、優花里と華も続く。

 

「アイツ!………とうとうやりやがったっ!!」

 

一方麻子は、みほを撃つと言う暴挙に出た弘樹に、憤怒の視線を向ける。

 

「…………」

 

だが、弘樹は冷めた無表情で、今自分がした事さえも気に掛けていない様子でM1911A1を腰のホルスターにしまった。

 

『そうだ。それで良い、舩坂 弘樹。全てを敵に回し、かつ自分自身の力で私の下へ辿り着くが良い』

 

響き渡るワイズマンの声。

 

「いよいよ神の誕生だ………」

 

「…………」

 

その声を聞きながら、弘樹は遂に………

 

電磁バリアで守られた入口を、ロッチナと共に潜り抜けたのだった。

 

「舩坂くんっ!」

 

「舩坂さんっ!」

 

「舩坂殿っ!」

 

沙織達が再度呼び掛ける中、弘樹とロッチナの姿は光の中へ消えた………

 

「舩坂くん………」

 

「私、失望しました………舩坂さんがあんな方だったなんてっ!」

 

「舩坂殿………嘘だと………嘘だと言って下さいっ!!」

 

「止めろ………もうアイツは私達に知っているアイツじゃない………」

 

愕然とする沙織に、怒りを露わにする華。

 

信じられないと言っている優花里に、冷たく言い放つ麻子。

 

あんこうチームを嘗てない絶望が襲っていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

弘樹はロッチナと共に、ワイズマンの元へと続く通路を只管に歩いている。

 

やがて、開けた場所に出たかと思うと………

 

その場所には、中央に巨大な円形の機械が鎮座し、そこから放射状に広がる様に箱の様な物が無数に並んでいる。

 

「コレは………」

 

弘樹が近くに在ったその箱状の物を見やる。

 

低い駆動音を立てているそれは、スパコン………スーパーコンピューターだった。

 

「………コレがワイズマンの正体か」

 

『その通りだ』

 

「! ワイズマン!」

 

またも響き渡るワイズマンの声。

 

『お前の覚悟は見させてもらった。お前の意志が固いのは良く分かった、神の器たる者よ』

 

「あんたの………力が欲しい」

 

『では、進め。中央のユニットの上に来い』

 

「…………」

 

そう言われて、弘樹はフロアの中央に有るユニットに近づく。

 

そして、そのままユニットの外壁を登り始めた。

 

「舩坂 弘樹………本当に人を超越した存在となるのだな」

 

その様子を感慨深そうに見つめているロッチナ。

 

「…………」

 

ユニットの外壁を登る弘樹。

 

その顔は苦しそうである。

 

既に数時間以上戦い続け、イプシロンや愛里寿から受けたダメージも有り、流石の弘樹の身体も限界を迎えようとしていた。

 

「…………」

 

だがそれでも脂汗を滝の様に流しながら、ユニットの外壁を登り続けて行く。

 

『登って来い。さあ、早く………登れ!』

 

煽るかの様なワイズマンの声が響き渡る。

 

『既にお前は、私の内部に居るのだ………この保存装置に蓄えられた私の力と知恵は………一瞬にお前に与えられる』

 

「………ぐ………あ………」

 

そして遂に………

 

弘樹がユニットを登り切り、その上に寝転がった。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

『立て、弘樹』

 

息を切らせている弘樹の上に、何かの機械が降りて来る。

 

「だ、駄目だ………もう動けない………」

 

『私の力が欲しくないのか? お前に渡す力はすぐ近くに有る』

 

「げ、限界だ………」

 

『この伝達装置に触れれば、お前は全てを手に入れられる』

 

「だ、駄目だ………」

 

『お前ともあろうものが………弱音を吐くのか?』

 

機械………伝達装置はドンドンと降りて来て、遂には弘樹がすぐに手を触れられるまでの距離に迫る。

 

『後は立ち上がるだけだ。手を触れるだけで良い。私の力と知恵を受け取れ、弘樹』

 

と、その瞬間………

 

 

 

 

 

「………断る」

 

 

 

 

 

弘樹はニヤリと笑ったかと思うと、眼前にまで迫っていた伝達装置に、M1911A1の弾丸を撃ち込んだ!

 

「!? 何だとっ!?」

 

ロッチナが驚愕の声を挙げる。

 

『弘樹………何をした!?………伝達装置が………』

 

「…………」

 

ワイズマンも驚愕する中、弘樹は弾倉の中に在った残り3発の弾丸を、全て叩き込む!!

 

伝達装置は完全に壊れ、スパークを発する。

 

『私にはとても信じられない………お前は………神の座を拒絶すると言うのか!?』

 

「そんなものに興味は無い………」

 

驚愕し続けるワイズマンに、弘樹はそう吐き捨て、ユニットの上から飛び降りた!

 

そして、近くに在ったスパコンの傍に寄ると、カバーを開け放つ。

 

「幾ら貴様でも………剥き出しになった心臓を守る術は有るまい」

 

そう言うと弘樹は、弾の無くなったM1911A1の銃身の方を摑み、グリップの底をハンマー代わりに、内部の基盤や回路を叩き壊し始めた!

 

『私の力が欲しくないのか!? 私が怖くないのか!? 私に逆らうなど、考えられん!! 弘樹!!』

 

「…………」

 

絶叫するワイズマンだが、既に弘樹は興味を無くした様に、次々とスパコンを叩き壊して行く!

 

「や、止めろっ! 止めるんだ、舩坂 弘樹っ!!」

 

とそこで、我に返ったロッチナが弘樹を止めようとする。

 

「邪魔をするな………」

 

「お、お前は自分が何をしているのか、分かっているのかっ!?」

 

「…………」

 

必死に止めるロッチナだが、弘樹はまるで耳を貸さず、スパコンを壊し続ける。

 

「止めろ! 止めるんだっ!!」

 

とそこで、ロッチナは弘樹に向かって銃を構えた!

 

「………!」

 

漸く動きを止める弘樹。

 

「お前は全てを支配する事を心の中で望んでいる! その証拠にお前は西住 みほを撃ったっ!!」

 

「…………」

 

『そうだ、舩坂 弘樹! お前はその事を悔いている筈だ! だが神となればそれは罪とならんっ!!』

 

ロッチナの言葉に、ワイズマンも続く。

 

「さあ! 今すぐに………」

 

と、ロッチナが更に言葉を続けようとした瞬間………

 

「えいっ!!」

 

「!? ぐあっ!?」

 

ロッチナは後頭部に衝撃を受けて、気絶して倒れた。

 

「弘樹くん!」

 

「! みほくん………」

 

それは、Ⅳ号の車体に取り付けられていたスコップを手にした、弘樹に撃たれた筈のみほだった。

 

「コレを壊せば良いんだね………皆! 手伝ってっ!!」

 

「任せてっ!!」

 

「承知致しましたっ!!」

 

「お任せ下さいっ!!」

 

「やってやる………」

 

そこで更に、沙織、華、優花里、麻子も、其々に整備用の大型工具を手に現れ、弘樹に倣って次々にスパコンを叩き壊して行く!

 

「弘樹くん………」

 

「すまない………ワイズマンの目を欺くにはああするしかなかった」

 

「弘樹くんが外した時に分かったよ。だって、あの距離で弘樹くんが外すなんて『絶対に有り得ない』もん!!」

 

そう言い放つみほ。

 

実はあの時………

 

弘樹が撃った弾は、みほに命中していなかったのだ。

 

みほが持っていたMG34に弾かれて、頭上へと消えた弾丸を見て、みほは弘樹の意図を瞬時に理解。

 

撃たれたフリをして、一芝居打ったのである。

 

「………仕上げに掛かるぞ」

 

「うんっ!!」

 

そして弘樹とみほはそう言い合うと、みほがスパコンを叩き壊し始め、弘樹はロッチナが落とした銃を拾い、中央の大型ユニットに向かって全弾撃ち込んだ!!

 

『やめろ! 弘樹! お前は何をしているのか分かっていないのだ。何と愚かな事を………この力が消滅したら………二度と復元不可能………なのだ。この世の………仕組み、知性の………結晶………』

 

徐々にワイズマンの言葉が途切れ途切れになって行く。

 

『やめろ………ひろき………やめろ………ひろき………や………め………ろ………わた………し………は……こわ………い………こ……わ………い………』

 

そして遂に………

 

最後に恐怖の言葉を残して………

 

ワイズマンの声が、耳障りなノイズとなって消え………

 

全てのスパコンと中央のユニットから光が消えた………

 

「………う………!? ハッ!?」

 

そこで漸くロッチナが目を覚ますが、もう全ては終わっていた………

 

「ワ、ワイズマン………止めろ! もう良いっ!! もう奴は死んでいるっ!!」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

ロッチナの叫びに、尚スパコンの破壊を続けていた弘樹達の手が止まる。

 

「遂に………遂にやっちまったかっ! 大変な事を………何て馬鹿な! 何故用意された支配者の座を受け取らなかったんだ! お前は神を殺したんだぞっ!!」

 

と、錯乱した様子のロッチナは、壁際に走って行ったかと思うと、そこに在った何かの装置を起動させた!

 

途端に、施設内に警報が鳴り響き、赤ランプが点滅する。

 

如何やら、ロッチナが起動したのは自爆装置だった様である。

 

「折角の権利を捨てて、卑しい道を選んだのは恐怖からだ! 支配する事の余りの大きな重さに、お前は怯えたのだ!!」

 

「………脱出だ」

 

「! うん!」

 

尚も呪詛の言葉をぶつけるロッチナだったが、弘樹達は聞いてなぞ居られないと言う様に、その場を後にした。

 

「私があれほど望んだ力を、お前は殺したのだ! 私が異能者であったなら………私が異能者であったなら!」

 

錯乱し続けてロッチナが叫ぶ中、遂に自爆装置のカウントダウンが終わり………

 

『ワイズマンだった物』が在る場所は爆発と炎に包まれた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート艦・港………

 

大洗学園艦の昇降口に集まっている大洗機甲部隊の面々………

 

「ちょっ! ヤバいよ!! ドンドン爆発して沈んでるよっ!!」

 

あやがそう声を挙げる。

 

現在メガフロート艦は彼方此方で大小の爆発を挙げ、徐々に沈み始めている。

 

幸いにも、愛里寿達や大学選抜部隊に撃破された大洗連合部隊の面々は、補給地点も潰されてしまっていた為、最初の拠点である其々の学園艦に帰還しており、爆発が始まった時点で出航して居た。

 

大学選抜機甲部隊の面々も、其々の学園艦へと回収している。

 

しかし、まだみほ達と弘樹、それにミカ達に加えて、愛里寿とイプシロンの退避が確認出来ていない為、大洗学園艦だけが港に残り、ギリギリまで待っていた。

 

だが、メガフロート艦から上がる爆発がドンドン激しさを増しており、沈むスピードも上がって行っている。

 

『会長方! コレ以上この場に留まり続けるのは危険です! 大洗学園艦まで沈んでしまいますっ!!』

 

艦橋の航海科の生徒から、迫信と杏にそう悲鳴の様な通信が送られる。

 

「すまない。もう少しだけ待ってくれ………」

 

「西住ちゃん達はきっと戻って来る………きっと」

 

だが、迫信と杏は弘樹とみほ達の帰還を信じ、ギリギリまで待ち続ける。

 

しかし、その思いに反して爆発は更に激しくなって行く………

 

『も、もう駄目です! 出航しますっ!!』

 

限界だと判断した航海科の生徒が、出航を決める。

 

「! 待って下さいっ!!」

 

とそこで、双眼鏡を覗き込んで居た楓が、何かに気づく。

 

「! 来ました! 舩坂さん達ですっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

楓がそう言って指差した方向を、大洗機甲部隊の面々が見遣る。

 

そこには、Ⅳ号と並走するBT-42の姿が在った。

 

Ⅳ号の車体の上には、イプシロンを背負った弘樹と、センチュリオンの乗員。

 

BT-42の方にも、車外に出ているミカに抱えられる形で、愛里寿と千代が乗っかっている。

 

「西住総隊長ーっ!!」

 

「弘樹ーっ! 急げぇーっ!!」

 

その姿を認めた梓と地市が叫ぶ。

 

2人の声が響く中、学園艦の乗り込み口に繋がるタラップを登り始めるⅣ号とBT-42。

 

と、2輌が通過した後に、タラップが崩壊を始める。

 

「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」

 

みほとミカが思わず叫び声を挙げる中………

 

間一髪、Ⅳ号とBT-42は大洗学園艦に上がり込んだ!!

 

直後に、タラップが完全に崩れ、瓦礫が海中へと没した。

 

『出航っ!!』

 

と、艦長の号令と、豪快な汽笛と共に、大洗学園艦はメガフロート艦の港を出港。

 

直後に、一際大きな爆発が起こり、メガフロート艦の艦体にヒビが入って行き………

 

やがてバラバラになって、激しい波飛沫を上げながら海中へと沈んで行った………

 

「………終わったね」

 

「ああ………全てな」

 

その光景をキューポラから出て来たみほが見てそう言うと、弘樹もそう返す。

 

「西住総隊長!」

 

「弘樹ーっ!!」

 

「総隊長ーっ!!」

 

「分隊長っ!!」

 

とそこで、Ⅳ号の周りに大洗機甲部隊の面々が集まって来る。

 

「ホント、心配したぜ! 無事で何よりだ!!」

 

「あはは、ありがとう、地市くん」

 

「お疲れ様です、華さん」

 

「飛彗さんこそ………お疲れ様でした」

 

「やったみてぇだな………ま、頑張ったじゃねえか」

 

「ハ、ハイッ!! 神狩殿っ!!」

 

「お疲れ………カフェオレを入れてあるが飲むか?」

 

「飲む………」

 

地市と沙織、飛彗と華、白狼と優花里、煌人と麻子がそう会話を交わす。

 

「…………」

 

一方弘樹の方は、イプシロンを背負ったままⅣ号の上から降りると、そのまま彼をⅣ号に背中を預けさせる様に地面に降ろした。

 

「ご苦労だったね、舩坂くん」

 

「会長閣下」

 

と、そんな弘樹に迫信が声を掛けると、弘樹はヤマト式敬礼を返す。

 

「………イプシロン。考えてみれば、彼もまた被害者なのかも知れないね」

 

「…………」

 

迫信が気絶したままのイプシロンを見ながらそう言うと、弘樹は振り返る。

 

「愛里寿ちゃん! 愛里寿ちゃん!」

 

「愛里寿! 愛里寿!」

 

とそこで、みほとミカの声が聞こえて来て、今度はそちらを見やると、愛里寿に向かって呼び掛けている2人の姿が目に入る。

 

如何やら、愛里寿が意識を取り戻しかけているらしい。

 

「………う………う~ん………此処は?」

 

遂に目を覚ます愛里寿。

 

「愛里寿ちゃん!」

 

「愛里寿!」

 

「みほさん………お姉ちゃん………! そうだ! 私っ!!」

 

みほとミカの姿を確認すると、バッと跳び起きる愛里寿。

 

そこで、メガフロート艦が爆発しながら沈んで行っている光景を目撃する。

 

「!? メガフロート艦がっ!? 如何してっ!?」

 

何が起こっているか分からず困惑する愛里寿。

 

「愛里寿ちゃん………」

 

「愛里寿………」

 

「みほさん………お姉ちゃん………」

 

「良いかい? よおく聞くんだ………」

 

そんな愛里寿に向かって、みほとミカは、愛里寿が気絶している間に起こっていた事を説明し始めた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな………お父様が………もう………」

 

「愛里寿………」

 

ショックを受けている愛里寿を、ミカが優しく抱き締める。

 

「………私………今まで何の為に………」

 

「愛里寿ちゃん………」

 

とそこで、今度はみほが愛里寿に声を掛ける。

 

「みほさん………」

 

「………過去はどんなに頑張っても消せないし、忘れる事も出来ないよ」

 

「…………」

 

「でも………それでも明日はやって来るから………心を決めて生きて行くしかないよ」

 

「………!」

 

「けど、心配しないで。愛里寿ちゃんは1人じゃないから。私が居るし、此処に居る皆だってきっと助けてくれるから」

 

みほがそう言うと、大洗機甲部隊の面々は力強く頷いて見せる。

 

「勿論、私もだよ、愛里寿。もう逃げ出さないよ………」

 

愛里寿を抱き締めたままのミカもそう言う。

 

「………如何してそこまでしてくれるの?」

 

「友達を助けるのに理由なんて要らないよ」

 

「友達………」

 

とそこで、みほが何かをポケットから取り出した。

 

それは、あの時に愛里寿が落として行った、激レアのボコだった。

 

「! それ………」

 

「受け取って貰えるかな? 今度は私と愛里寿ちゃんの………友情の証として」

 

「………うん!」

 

そこで愛里寿は、涙を流しながらも笑顔を浮かべ、みほからボコを受け取った。

 

「………う………ううう………」

 

「「「!!」」」

 

するとそこで、BT-42に背中を預けさせていた気絶してる千代の方から、呻き声が聞こえて来る。

 

「お母様………」

 

「母さん………」

 

「嫌………嫌よ、敏………私を………置いて行かないで………」

 

亡き夫の事を夢に見ているのか、涙を流しながらそう漏らす千代。

 

「…………」

 

愛里寿はミカの腕の中から抜け出すと、千代に近づき、そのまま自分の胸に抱える様に抱き締めた。

 

「お母様………大丈夫………私が居るよ………お父様の代わりには成れないけど………私が傍に居るから………」

 

「………愛………里………寿………」

 

「私もだよ………母さん」

 

そこでミカも、愛里寿ごと千代を抱き締める。

 

「………ミ………カ………」

 

千代は徐々に落ち着いた様子となって行き………

 

やがて、目から流れていた涙が止まる。

 

「…………」

 

そんな愛里寿達の様子を見据えるみほ。

 

と、その肩に、誰かの手が置かれる。

 

「…………」

 

当然、弘樹である。

 

「…………」

 

弘樹の顔を見たみほは微笑む。

 

「…………」

 

それを見た弘樹も、無言で頷いて見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

一連の騒動の裏で蠢いていたワイズマンは………

 

弘樹達の手により葬り去られた………

 

もしワイズマンが世に出ていれば………

 

事態は無人戦車道の台頭などと言う問題だけでは済まされなかったであろう………

 

神に等しき力を持っていたワイズマン………

 

だが、奴はたった1つだけ………

 

致命的なミスを犯していた………

 

そう………

 

ワイズマンが犯した最大の過ち………

 

それは………

 

 

 

 

 

『舩坂 弘樹を敵に回した』と言う事だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

神の座に着こうとした弘樹………
が、そんなワケがある筈も無く、全てはワイズマンを欺く為の一芝居でした。
神をも恐れぬ男、舩坂 弘樹。
彼の手によって、遂にワイズマンは葬りさられます。

次回はエピローグとなり、それから後日談の愛里寿・ウォーをやって、いよいよこの作品も完結となります。

最終章は全話の公開が終わった後に考えますので、大分先になります。

そこでなのですが………
最終章の全話公開が終わるまでは、執筆を休む積りですが、彼是5年近く連載していたのを読んで頂いていた読者の皆様をそれほど待たせるのも悪いと思いまして、過去に別サイトに連載していて完結させた作品をコチラに再投稿してみようかと思いまして。

それは『天元突破インフィニット・ストラトス』と言う作品です。
題名の通り、インフィニット・ストラトスと天元突破グレンラガンのクロスです。
詳しい作品内容は、活動報告にアンケートと共に記載します。
掲載するかしないかは、アンケートで決めますので、見たいと言う方はアンケートへの回答を、活動報告にお願いします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプターFINAL『いつもあなたがです!』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

チャプターFINAL『いつもあなたがです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイズマンは死んだ………

 

西住流と島田流の因縁を利用し、神として現世に現れようとした壊れた機械は………

 

海底の奥底へと消えたのだ。

 

ワイズマンと共に運命を共にしたと思われたロッチナだが………

 

後に行われた沈んだメガフロート艦の調査では………

 

彼の死体は発見されなかった………

 

しかし、状況からして生存は有り得ないとされ、死亡と判断される。

 

それから暫くして………

 

舩坂 弘樹に関する記録を憑りつかれた様に纏めている者が居ると言う噂が、軍事道関係者の間で囁かれる様になったのだった。

 

 

 

 

 

尚、今回の一件については、日本とアメリカ、世界戦車道連盟、そして神大コーポレーションを交えた交渉の結果………

 

一連の騒動の全ての責任はアメリカが取る事となり、それによって発生する損害は神大コーポレーションが補填する事で合意が交わされた。

 

コレにより、島田流へ責任は回避される事となる。

 

試合自体が非公式であったので、世間には知られず、西住流の様に風評被害を受ける事もなかった。

 

日本としても、世界大会を控えた今、日本の2大流派と言う屋台骨を失う事は避けられ、万々歳であった。

 

因みに、1番損をしている様に見える神大コーポレーションだったが、この件で世界での発言力を強める事となり、結果的に1番得たモノが大きい者となった。

 

 

 

 

 

また、例の無人戦車道推奨の派閥の人々は………

 

主導者だったロッチナの計画が実は詐欺であり失敗した事で、一気に勢力を落として行った。

 

元々ネット上での付き合いと言う希薄な繋がりであった為、主計画が失敗すると、まるでゲームに飽きた子供の様に殆どの人間が熱を失ったのである。

 

所詮は、引きこもりのインドア派が考えた『絵に描いた餅』だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京都多摩地区・立川市の神大コーポ―レーション系列の某病院………

 

「え~と………763………763………」

 

廊下を歩く花束を持った私服姿のみほが、ある病室を探す。

 

「みほくん、此処だ」

 

と、隣を歩いていた同じく私服姿の弘樹が、目当ての病室を発見する。

 

「あ、ホントだ」

 

みほはその病室の扉の前に立つと、ノックする。

 

「ハ~イ、どうぞ~」

 

「失礼します」

 

「失礼致します」

 

室内から女性の入室を許可する声が聞こえると、みほは弘樹と共に病室に入った。

 

「あ、みほちゃんに舩坂くん」

 

「アラ? 貴方達も来たの?」

 

その病室に有ったベッドには、千代の姿が在り、傍にはパイプ椅子に座っている私服姿のしほの姿も在った。

 

「あ、お母さん。来てたんだ」

 

「御無沙汰しております」

 

しほに挨拶しながら、千代のベッドの傍によるみほと弘樹。

 

「コレ、お見舞いの品です。友達が選んでくれたんです」

 

「まあ、綺麗なお花………ありがとね」

 

「花瓶出しとくわね」

 

みほが見舞いの花を千代に渡すと、しほが花瓶を用意する。

 

「もうすぐ退院なされるとの事で、御様子を窺いに参りましたが、本当に御加減は宜しい様ですね」

 

「ええ、もうすっかり………」

 

弘樹がそう言うと、微笑みながら返す千代。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後………

 

精神的なショックの大きかった千代はカウンセリングが必要とされ、神大コーポ―レーション系列の病院に秘密裏に入院となった。

 

当初は完全に塞ぎこんでしまい、ミカや愛里寿達の言葉も届かなかった程だった。

 

そんな中………

 

ロッチナが隠していたと思われる春博士の遺言とも言えるメッセージが発見された。

 

それは千代宛であり、どうやら春博士は、ワイズマンの様な事になる事を危惧しては居たらしい。

 

それでも、人格の移植を決めたのは、やはり千代の為だったそうである。

 

どんな形でも傍に居て上げたい………

 

間違っていたかも知れないが、それは確かに、春博士から千代への愛だった………

 

メッセージを聞いた千代は静かに涙した。

 

それでも回復には時間が掛かるかと思われていたが………

 

ある日を境に急に生気を取り戻していた。

 

看護師によれば………

 

その日、気分転換になればと千代を連れて院外へ散歩に出たらしい。

 

その最中に………

 

パンチパーマの福耳でシッダールタと書かれたTシャツを来た人物と………

 

ロンゲで茨の冠を被ったヨシュアと書かれたTシャツを来た人物と出会い………

 

何やら話をしていたところ、急に生気を取り戻したそうである。

 

その際に、その2人に後光が差していた、動物が集まって来る、自販機のミネラルウォーターが葡萄酒になった等と言う謎の現象が確認されているが、関連は不明である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「退院したら頑張らないと。もうこれ以上ミカや愛里寿ちゃん、イプシロンに迷惑掛けられないもの」

 

「大変ね。手伝える事があったら遠慮無く言ってね」

 

「ありがと、しほ」

 

今では最大の宿敵であったしほともこうして朗らかに会話が出来る程であった。

 

(ホントにすっかり良くなったみたい………)

 

(一安心だな………)

 

そんな千代の姿を見て、みほと弘樹も心の中で安堵する。

 

その後、4人は面会終わりの時間まで、楽しそうに他愛も無い会話を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

迫信の手配したチャーター機で、弘樹とみほは大洗学園艦に帰還。

 

そのまま、みほは寮への帰路に就き、弘樹はそれの送りを兼ねて付き添っていた。

 

やがてみほの部屋の在る寮の前に到着する2人。

 

「では、みほくん。また明日」

 

「うん、また………」

 

と、別れの挨拶を交わそうとした瞬間、みほの心にある欲求が浮かび上がった。

 

「…………」

 

何やら弘樹から目を逸らし、頬を染めながらモジモジとするみほ。

 

「? 如何した?」

 

そんな様子を見せたみほに、怪訝な表情を浮かべる弘樹。

 

「………あ、あのね、弘樹くん………よ、良かったら………」

 

そう言った後に言葉が途切れるみほだったが………

 

「よ、良かったら! 上がってかないっ!?」

 

やがて覚悟を決めた様な表情でそう言った。

 

(うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! 言っちゃたぁーっ!!)

 

内心ドオキドキなみほ。

 

まあ、普通に考えれば彼女が彼氏を部屋に招くと言うのは中々大胆かつ勇気のいる行為である。

 

「いや、こんな時間に女子寮の部屋に男子が入るのはマズイだろう。折角だが遠慮しておこう」

 

しかし、この男は妙なところで生真面目さを披露する。

 

「あ、あうう………」

 

渾身の誘いを断られて落ち込むみほ。

 

(………!)

 

だがそこで、ある考えが浮かんだ。

 

「………そう言えば、弘樹くんに撃たれたお詫び、まだして貰ってないよね?」

 

「えっ? ア、アレは………」

 

その言葉には、流石の弘樹も戸惑った。

 

「まさか何のお詫びも無しに済ませようなんて不誠実な事、弘樹くんはしないよね?」

 

「…………」

 

そう言って微笑みみほの顔を見て、弘樹は黙り込む。

 

「………上がってって」

 

「………お邪魔させてもらう」

 

結局折れる弘樹。

 

神をも拒んだ男が、1人の少女に屈した瞬間である。

 

(………ちょっと強引だったかなぁ)

 

そしてそんな行為にちょっと罪悪感を感じている良い子なみほだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子寮・みほの部屋………

 

「………お邪魔します」

 

やや緊張した面持ちでみほの部屋に踏み込む弘樹。

 

「いらっしゃい………」

 

先に上がっていたみほが、それを笑顔で迎える。

 

「えっと………適当に座っててね。今お茶淹れるから」

 

「ああ………」

 

そう促すと、みほは台所、弘樹はリビングへと移動する。

 

「…………」

 

テーブルの傍に腰を下ろすと、部屋の中を見回す。

 

(………ヌイグルミだらけだな)

 

ボコの並ぶ棚を見て、そう率直な感想を抱く弘樹。

 

(………ん?)

 

すると、その視線があるボコのヌイグルミで止まる。

 

それは、年期が入っていて古惚けているボコ………

 

みほが沙織達に語った『初恋の思い出のボコ』だった。

 

「コレは………」

 

弘樹は立ち上がり、棚に近づくと、そのボコを手に取る。

 

「弘樹くん、コーヒーの方が良いか………! あっ!? そ、それはっ!?」

 

とそこで、台所に居たみほがリビングの方を覗き込むと、弘樹が『初恋の思い出のボコ』を手にしていた為、慌ててやって来る。

 

「………思い出した」

 

すると弘樹は、そんな言葉を口にした。

 

「えっ? 思い出したって………一体何を?」

 

弘樹の言葉に、みほは首を傾げる。

 

「いや、実は………このボコと言うキャラクター、何処かで見た様な記憶があってな………」

 

「えっ? そうなの?」

 

「ああ、しかし小官が大分幼い頃の記憶だからな。中々思い出せなかったんだ」

 

(幼い頃の記憶………)

 

「しかし、このボコを見て思い出せたよ。昔コレと同じ物を人にあげた事があったんだ」

 

「………えっ?」

 

みほの顔が驚きに染まる。

 

「まだ、父と母が生きていた頃に、九州に旅行に連れて行ってもらった事があってな。何処かの街のホテルに宿泊して居た時に、物珍しさで1人で街に繰り出してな」

 

「…………」

 

「その時に、如何やら迷子になってしまって泣いていた同い年くらいの女の子を見つけてな。その子を泣き止ませる為に買ったんだ」

 

「………その街って、熊本市じゃない?」

 

「えっ?………! あ、ああ! そう言えば………」

 

「その時、国民服を着てなかった………?」

 

「何でみほくんがそんな事を………!? まさかっ!?」

 

その瞬間………

 

弘樹の中に有る迷子の少女の顔と、みほの顔が一致する。

 

「あの時の迷子は………みほくん?」

 

「やっぱり! あの時の子は、弘樹くんだっ………」

 

と、思わずみほがそう言いながら、弘樹に近寄ろうとした瞬間………

 

慌てた為か、みほは足を縺れさせてしまう。

 

「!? ふわあっ!?」

 

「!!」

 

転びそうになったみほを慌てて支えようとした弘樹だったが、彼もまた珍しく動揺していた為か、支え切る事が出来ず、一緒に倒れる!

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

音を立てて転倒する2人。

 

衝撃で、棚に飾ってあったボコが床に落ちる。

 

しかし、2人はすぐに起き上がらずに、倒れたままだった。

 

いや………

 

正確には倒れたままではない………

 

仰向けに倒れた弘樹の上に、みほはうつ伏せに倒れ込み………

 

2人の唇が………

 

触れ合っていた。

 

「「…………」」

 

混乱の為、何が起こっているのか理解出来ない2人。

 

「「………!!」」

 

だが、やがて脳が目の前の光景を理解すると、弾かれる様に離れて、慌てて起き上がった!!

 

「ゴゴゴゴゴゴ、ゴメンナサイッ!!」

 

「い、いや! そのっ!? こちらこそ!! だから!!………」

 

真っ赤になって頭から湯気を吹き出して両手を左右に振るみほと、これまた珍しくテンパっている弘樹。

 

「「…………」」

 

最後はお互いに俯いてしまい沈黙。

 

「…………」

 

そんな中で、みほは………

 

弘樹の唇が触れた自分の唇に、指を当てる。

 

まるで感触を思い出すかの様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後………

 

弘樹は帰るに帰れず、みほも帰すに帰せず………

 

会話も無いまま時間だけが過ぎ去り………

 

深夜を回ったところで、漸く弘樹は帰宅………

 

翌日、演習に顔を出すと………

 

即座に沙織を初めとした戦友達に何か有ったと悟られ………

 

散々質問攻めにされて、恥かしい思いをした2人だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ・愛里寿ウォーにつづく




新話、投稿させていただきました。

遂に劇場版もコレにて完結です。
精神的なショックが大きかった千代も、春博士のメッセージと聖人御2人の力で無事回復致しました。

最後はラブコメで締めさせていただきました。
ずっと戦闘ばかり書いていたので、久々にラブコメ書いて居たら、何か気恥ずかしくなりました(笑)
そして、この作品の劇場版のサブエピソード『みほの初恋の思い出』のフラグも無事回収です。
バレバレでしたし、ベタですが、やはりこういう展開はラブコメ的に王道ですから。

いよいよ次回はエピローグの愛里寿ウォー。
この作品では愛里寿に加えて、何とイプシロンもやって来ます。
しかし、彼の方はキャラ崩壊が入ります。
純粋なイプシロンのファンの方は御注意下さい。

それから、過去作の『天元突破インフィニット・ストラトス』を掲載するか如何かのアンケートはまだ継続中ですので、どうかそちらにもご意見をお寄せ下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『愛里寿・ウォーです!(前編)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

エピローグ『愛里寿・ウォーです!(前編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世間の人々は知る由も無い軍事道史に残る大激戦………

 

大洗連合部隊VS大学選抜部隊との試合から、幾何かの月日が流れた、とある休日………

 

大洗学園艦の演習場では、今日も今日とて大洗機甲部隊の訓練が行われていた。

 

今年は20年ぶりに冬季の大会が復活すると言う話もあり、大洗機甲部隊員達の訓練に掛ける情熱は高い。

 

そんな中、午前の訓練が終わり、昼食と休憩を挿んだ後に午後の訓練が開始されようとしていたところ………

 

大洗女子学園側の生徒会メンバーより、思わぬ知らせが入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「………本当ですか?」

 

「いや~、急に連絡があってねぇ」

 

杏からの話を聞いたみほが、驚きの声を挙げる。

 

「島田 愛里寿が大洗女子学園に編入を希望………」

 

弘樹も俄かに信じ難いと言う様に呟く。

 

 

 

 

 

そう………

 

あの大学選抜機甲部隊の総司令であり、島田流戦車道の後継者である島田 愛里寿が………

 

大洗女子学園に編入したいと言って来たのである。

 

 

 

 

 

「確か、愛里寿ちゃんって飛び級して大学行ってるんですよね?」

 

「うん。だから高校行ってなくて、是非高校生活を送って見たいそうだよ」

 

聖子の声に、柚子が答える様に返す。

 

「13歳だから中学校に入るのが正しいんじゃないのか?」

 

「島田 愛里寿は人見知りな性格らしい。それで知り合いの多い大洗女子学園への編入を希望したそうだ」

 

海音の疑問には、煌人がノートPCを弄りながら返す。

 

「まあ、そう言う事なら、ウチは大歓迎だけどね」

 

「諸君等には島田くんを存分に持て成して欲しい」

 

皆に向かって杏がそう言うと、迫信も扇子を開いて口元を隠しながら言う。

 

「コレはチャンスだ! 島田 愛里寿に我が校へ入学して貰えれば、西住流と島田流が我が学園艦に揃う事になる! そうなれば向かうところ敵無し! 来年の入学者も増えてウハウハだ!!」

 

取らぬ狸の皮算用を始める桃。

 

「本当に島田 愛里寿が転校してくるんだ」

 

「へえ~、じゃあ1年生になるの?」

 

「同じクラスになれるかな?」

 

「私初めてかも、転校生見るの」

 

「自己紹介とかすんのかな?」

 

梓達、1年生チームも大はしゃぎの様子だ(紗希は何時も通りボーッとしているが)

 

「転校生の島田 愛里寿です。よろしくお願いします」

 

と、桂利奈が愛里寿のモノマネを始める。

 

「「「「良い~っ!!」」」」

 

「この学校の事、まだ何も分からないので、色々教えて下さい!」

 

「「「「教えちゃう~っ!!」」」」

 

「前の学校では戦車道やってたので、この学校でも是非やりたいです! 先輩方とも、早く仲良くなりたいです!」

 

「先輩?」

 

「遅れて入って来るんだし、私達先輩になるんじゃない?」

 

「え~~、私達が先輩って凄くない」

 

学年的に1番下の為、先輩と言う言葉に憧れを抱く1年生チーム。

 

「じゃあ、愛里寿さんじゃなくて、愛里寿ちゃんだね」

 

「愛里寿で良いんじゃない?」

 

「あの島田 愛里寿を呼び捨てにするんだ」

 

「「「「「凄~いっ!!」」」」」

 

「オイ、コラ1年! まだ入学すると決まったワケじゃない! この学校の良さをアピールする、あの手この手を考えるんだ!」

 

と、はしゃぐ1年生チームに、桃が釘を刺す様にそう言う。

 

「………威張ったりする先輩にはならない様にしよう」

 

「すぐパニックになったり」

 

「肝心なところで外したりしない様に気を付けようね」

 

しかし、桃の普段が普段なだけに、逆にそんなヒソヒソ話を展開される。

 

「聞こえてるぞっ!!………!? ぐええっ!?」

 

「本当の事だろうが………」

 

怒鳴る桃の後頭部を、熾龍がアイアンクローで摑んで持ち上げる。

 

「おお、久々のアイアンクロー………」

 

「これ見ると落ち着くね~」

 

そして既に桃への気遣いなど微塵も無くなっている蛍と柚子だった。

 

「絶対バレー部に入ってもらいたいなぁ」

 

「球技好きかな?」

 

「典子ちゃん達はブレないね」

 

相変わらずバレー命の典子とあけびがそう言い合い、武志がそう漏らす。

 

「ちょっと小柄だから、同じ球技でも卓球とかが得意かも知れないね」

 

「じゃあ、私達も卓球やる?」

 

「バレーは?」

 

と、妙子と忍がそんな事を言うと、典子が心配そうな声を挙げる。

 

「卓球………バレー部」

 

「いや、それはバレーじゃないだろう」

 

忍が卓球とバレーを掛け合わそうとすると、大詔からツッコミが入る。

 

「成程! テニスが好きなら、テニスバレー部!」

 

「音楽が好きなら軽音バレー部だし!」

 

「アニメが好きなら、アニメ同好バレー部だ!」

 

「いや、もうバレー関係ねえだろ」

 

全ての部活をバレーに収束させようとするバレー部チームに、今度は磐渡がツッコミを入れる。

 

「ああ! だったら、バレエバレー部は?」

 

「それもう、只のダジャレだろ」

 

「普通にバレーしようよ」

 

最後のあけびの提案には、呆れた様子の海音と典子がツッコミを入れるのだった。

 

「敵将が味方になると言うのは浪漫だな」

 

「我々に敬服したからだろうか?」

 

「西住総司令にだろう」

 

「是非御召し抱え下さいと言う事か」

 

「戦国時代には良く有るケースだ」

 

コッチもコッチでブレていない歴女チームの一同。

 

「彼女は絶対、歴史上の人物で尊敬する人が居ると思う」

 

「やはり、カール・グスタフ・フォン・ローゼン」

 

「いや、優れた仕官先を探し続けた藤堂高虎だな」

 

「江戸城無血開城を主張した勝海舟」

 

「アレクサンドロス大王に娘を嫁がせたオクシュアルテスだろ!」

 

「「「それだ!」」」

 

「いや、全然分からん!」

 

相変わらずマニアックな歴女トークに、秀人がツッコミを入れる。

 

「彼女は校則を守るタイプかしら?」

 

「遅刻とかはしなさそう」

 

「流派の跡取り娘だし、品性方正で間違いないと思うがね」

 

風紀を気にするみどり子とモヨ子に、紫朗がそう言う。

 

「でも、自分がルールだってところがある様に見受けられるけど………」

 

「考え過ぎじゃないか?」

 

「先生に反抗したり、つまらない授業はサボりそう」

 

「頭が良い不良って扱い辛いわね」

 

「オイ、何で私を見る………」

 

そこでみどり子が麻子を見遣ると、麻子は心外そうな表情を返す。

 

「ちょっと練習しておきましょうか」

 

「そうね………」

 

「………プカー」

 

するとそこで、希美がタバコを吹かす真似事をする。

 

「島田さん、授業サボって、そこで何してるの?」

 

「見りゃ分かんだろ」

 

「未成年はタバコを吸ってはいけないのよ」

 

「私は自分のルールに従って生きている」

 

「そんな屁理屈言わないで」

 

「屁理屈ではない………信念だ」

 

「う………」

 

モヨ子が言葉に詰まる。

 

「ココで怯んでは駄目よ、ゴモヨ。良い!? タバコは駄目! 授業をサボるのも駄目! 大洗女子学園の生徒になったのなら、信念を曲げて頂戴。そして校則を………」

 

「こんな学校辞めてやらーっ!!」

 

「入学する前に退学させてしまったわ………」

 

「何だ、この茶番………」

 

一連の若干愛里寿に失礼なみどり子達の遣り取りを見ていた白狼が、呆れる様に呟くのだった。

 

「島田 愛里寿なら、良いドライバーになりそうだな」

 

「戦車の操縦は凄かった」

 

「テクニックは抜群だ」

 

「ドリフトも上手いと思う」

 

「いや、操縦が上手いのは愛里寿ちゃんじゃなくて、センチュリオンの操縦士さんじゃないかなぁ?」

 

やはり自動車の話題な自動車部メンバーに、弁慶がツッコミを入れる。

 

「アレはやはり天性のモノだろうな」

 

「ついに我々は天才ドライバーに巡り合ったんだな」

 

「速人以外に我々のマシンを最大級に活かせるドライバーにな」

 

「御評価頂き、光栄ですな」

 

大洗のプロドライバー、速人が口を挟む。

 

「世界3大レース全てで優勝した、グラハム・ヒルの様な努力家だろうか?」

 

「何でも乗りこなせた天才、ジム・クラークじゃないか?」

 

「いや、コンピューターと言われたニキ・ラウダの様だ」

 

「島田流がスポンサーになってくれたら、F1に出るのも夢じゃないかも知れない!」

 

「女子高生がF1出場!?」

 

(それなら会長閣下に頼んだ方が早い様な………)

 

F1の話題で盛り上がると、誠也が内心でそう考える。

 

「アレ? でも島田 愛里寿は戦車操縦してなかったよな?」

 

「じゃあ! 往年のジャン・トッドの様な監督だ!」

 

「いや、ロン・デニスだろう!」

 

「それはCEO」

 

漸くツッコミが入ったが、今度は監督の話題へ移るのだった。

 

「彼女は子供だから、きっとゲーム好きに違いない」

 

「でも、アイドルになるゲームとか、ちっこいモンスター集めるゲームとか、妖怪集めるゲームとかの方が好きかも」

 

「戦車のネトゲーやらないかな?」

 

(あの歳でネトゲーをやらせても良いモノか………)

 

やはりゲームの話題となるネトゲーメンバーに、ゾルダートが内心で若干ズレた心配をする。

 

「いや、負けず嫌いの様だから、僕がボコボコにすればきっと火が着く」

 

「よし、島田 愛里寿が来たら容赦無く撃破しよう!」

 

(フラグにしか聞こえない………)

 

心の中でそうツッコミを入れる逞巳。

 

「ねえねえ! 愛里寿ちゃんにもスクールアイドルになって貰おうよ!」

 

「そう来ると思ってました………」

 

目をキラキラさせてそう言う聖子に、優が予想通りだと言う顔をする。

 

「けど、確かに彼女は大学選抜チームの広告塔でもあったわ。ビジュアルは文句無しだし、天才少女だからダンスもすぐ覚えられると思うわ」

 

意外にも前向きな様子を見せる里歌。

 

「となると、後は歌唱力がどれくらいかだね」

 

「まあ、唯ちゃんみたいじゃないと思うけど」

 

「ほっとけ!」

 

郁恵と伊代がそう言い合うと、過去を蒸し返された唯が不貞腐れる様な顔をするのだった。

 

「いや~、凄いじゃないですか、島田殿が転校して来るなんて」

 

「思い切った決断をされたんですね」

 

あんこうチームでも、優花里と華が盛り上がりを見せている。

 

「みぽりん、良かったね。ボコ仲間が出来るじゃん」

 

「喜ぶところはそこなんでしょうか?」

 

「まだ決まったワケじゃないみたいだけど………確かに、一緒にボコミュージアム行ったり、ボコのDVDみたり、ボコグッズ見せあったりできるかな?」

 

「みほさんまで………」

 

ボコ仲間が何時でも身近にいる状況となる事に、みほのテンションも高い。

 

「如何やったら入学してくれますかねえ?」

 

「麻子、何か良いアイデアない?」

 

「島田 愛里寿は子供だからお昼寝タイムを入れては如何だ? これを機にシエスタ制にする。若しくは午後から授業開始………愛里寿シフトを布くんだ」

 

「それは麻子シフトでしょう」

 

相変わらず眠気と格闘している麻子の願望に、沙織の容赦無いツッコミが入る。

 

「高校で戦車道がやりたいと言うより、高校生活が送りたいから転校して来るんですよね?」

 

「なら、やっぱり高校生活と言うのがどれだけ楽しいかを伝えるのが1番じゃないですかね」

 

そこで、華と飛彗からそう意見が挙がる。

 

「でも、如何言った点でアピールすれば良いんでしょうかねえ?」

 

「弘樹くん、何か有る?」

 

「うむ………」

 

みほが尋ねると、弘樹は思案する様な様子を見せる。

 

「イテテテテ………では、島田 愛里寿獲得に対する作戦はないか、各チームの意見は?」

 

とそこで、漸く熾龍のアイアンクローから脱出した桃が、大洗機甲部隊員達に向かってそう問い質す。

 

「「「「「ハイハイハーイッ!!」」」」」

 

するとすぐに、紗希を除いた1年生チームから元気良く声が挙がる。

 

「では、ウサギチーム」

 

「ハイ。凄く可愛い制服に変えたら良いと思います」

 

梓がそう言いながら、何時の間に書いたのか、アニメの学校にでも出て来そうなファンシーな制服のデザインが描かれたスケッチブックを見せる。

 

「それは予算的に無理かなぁ………」

 

「今から制服を全て変えたら混乱が起こるぞ」

 

しかし、柚子と十河からそう反論される。

 

「却下。アヒルチーム」

 

「バレーボール大会を開いたら良いと思います!」

 

「却下。カバチーム」

 

「全員、歴史上の人物の仮装をして迎える」

 

「却下。カモチーム」

 

「入学したら、名誉風紀委員に任命する!」

 

「却下! レオポンチーム!」

 

「24時間耐久戦車レースを行う!」

 

「却下! アリクイさんチーム!」

 

「24時間耐久ネトゲ大会!」

 

「却下!! 如何して皆自分の事しか考えないんだぁっ!!………!? ぐええっ!?」

 

「貴様がそれを言うか………」

 

今度は熾龍のバイス・グリップが桃を襲う。

 

「桃ちゃんの頭から変な音してる………」

 

「大丈夫じゃない? 桃ちゃんだし」

 

しかしそれでも止めようとしない柚子と蛍だった。

 

「ハイハーイ! スクールアイドルライブを!!」

 

「あ、それはもうプログラムの中に組み込んでるから」

 

聖子が勇んでそう言うと、蛍がそう返す。

 

「ホントですか!? 頑張りますっ!!」

 

(張り切ってるな~、聖子ちゃん)

 

何時も以上の張り切りを見せる聖子に、伊代は温かい眼差しを向ける。

 

「いや~、個性が有って良いね~」

 

「今更だが有り過ぎじゃねえのか?」

 

杏の言葉に、俊が本当に今更なツッコミを入れる。

 

「あの………普通で良いんじゃないでしょうか?」

 

するとそこで、みほが手を上げながらそう言った。

 

「愛里寿ちゃんは特別でない普通の生活が送りたいからウチに来るんですし………」

 

(ウチの学園艦が普通かって言われたら、それはそれで返答に困りますけど………)

 

そう言葉を続けるみほだが、清十郎は内心でそう思ってしまうのだった。

 

「うん、正論だね」

 

「じゃあ、西住ちゃんに出迎えの仕切りを頼んでも良いかな?」

 

「あ、ハイ。分かりました」

 

迫信が納得が行った様な顔をし、杏がそう言うと、みほが返事を返す。

 

「ところで、男子から何かアイデアは無いのか?」

 

とそこで、俊が大洗歩兵部隊員達にそう問い質す。

 

「………僭越ながら」

 

すると意外にも、弘樹が挙手する。

 

「ほう? 珍しいね、舩坂くん。何かあるのかね?」

 

「ハイ…………」

 

そして弘樹は、自らの考えを発表するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

誠に申し訳ありません。
リアルの事情で執筆時間が執れず、エピローグの愛里寿・ウォーですが、今回は前編の投稿となります。
後編で終わらせる積りではいますが、ひょっとすると中編も挿む事になるかも知れません。
御了承下さい。

原作通りに、高校生活を送る為に大洗への転校を希望してきた愛里寿。
皆があの手この手で愛里寿獲得に動く中………
ご本人は次回からの登場となります。
勿論、以前言った通り、イプシロンも登場しますのでお楽しみに。

それと、以前発表した過去作『天元突破インフィニット・ストラトス』の再投稿ですが………
見たいと言う意見が多数寄せられましたので、再掲載させて頂く事に致しました。
公開時期としましては、愛里寿ウォーが終了………
つまり、この作品が完結した後、次の週からまた1週1話のペースで投稿させて頂こうかと。
まだ何かご意見がありましたら、活動報告までお寄せ下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『愛里寿・ウォーです!(中編)』

『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

エピローグ『愛里寿・ウォーです!(中編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなありつつ、遂に島田 愛里寿が大洗学園艦を訪れる日となった。

 

来航した連絡船から昇降口に降りて来るのを、垂れ幕を下げて待つみほ、弘樹、杏、柚子、桃。

 

「来た来た来たぞーっ!!」

 

そして、いよいよタラップが掛けられる。

 

「「「「ようこそーっ!!」」」」

 

元気良くハッキリと歓迎の言葉を口にするみほ、杏、柚子、桃。

 

「………様子がおかしいぞ」

 

しかしそこで、何やら様子が怪しい事に弘樹が気づく。

 

「「「「えっ?」」」」

 

みほ達が首を傾げた瞬間………

 

ストレッチャーに寝かされ、タラップ上のワイヤーで吊り下げて運搬される形で、愛里寿が降りて来た。

 

「う、うう………」

 

その顔色は明らかに悪い………

 

「! 弘樹くん!」

 

「ああ………」

 

すぐに弘樹は、愛里寿を抱き抱えてストレッチャーから降ろすと、昇降口に在った休憩用の椅子に座らせる。

 

「たたたた、大変だぁっ!! 救急車! 医者っ! いや、病院持って来いっ!!」

 

「桃ちゃん、落ち着いて………」

 

「…………」

 

大騒ぎする桃を柚子が宥める中、弘樹は愛里寿の症状を観察する。

 

「………船酔いだな」

 

「ありゃりゃ………」

 

そして愛里寿に出ている症状が船酔いによるものだと判断すると、杏が声を挙げる。

 

「愛里寿ちゃん、大丈夫?」

 

「申し訳無い………うっぷ………」

 

みほが心配そうに声を掛けると、愛里寿は吐き気を堪えながら返事を返す。

 

「学園艦は中高からだもんね」

 

「飛び級して大学まで一気に行ってしまったから、学園艦への乗艦経験が無い故か………」

 

柚子の言葉に、弘樹は顎に手を当てながらそう言う。

 

「船酔いは、目を瞑ったり、小声で歌ったり、梅干しをおへそに張ったりすると治ると聞いた事がある!」

 

「ココは1つ、大洗の言い伝えでやってみよう」

 

と、落ち着きを取り戻した桃がそう言うと、杏がそう言っていつも食べている干し芋を1つ取り出した。

 

「会長?」

 

(嫌な予感しかしないが………)

 

何をする気だと首を傾げるみほと、内心で嫌な予感を感じている弘樹。

 

「ほい」

 

すると杏は、その干し芋を徐に愛里寿の額に貼り付けた。

 

「ええ………」

 

「…………」

 

みほは困惑し、弘樹は無言になる。

 

「………治った」

 

「!? ええっ!?」

 

しかし、愛里寿からそんな声が挙がると、みほは驚く。

 

「額の干し芋が気になって、船酔いしている事が気にならなくなった………」

 

(一種のプラシーボ効果か………?)

 

愛里寿の言葉に、内心でそうツッコミを入れる弘樹。

 

「流石会長です!」

 

「いや~」

 

「じゃあ、何はともあれ、早速大洗女子学園に向かいましょうか」

 

柚子の言葉で、一同は漸く大洗女子学園へと向かい始める。

 

「………?」

 

とそこで、弘樹が何かの視線を感じて振り返ったが、そこには誰も居なかった。

 

「弘樹くん? 如何したの?」

 

「いや………気のせいだ」

 

みほが声を掛けると、弘樹は疑念を振り払って再び歩き出した。

 

………その後をコッソリと着ける、人影がある事に気づかず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園正門への道………

 

弘樹が運転するSd Kfz 254で、大洗女子学園の正門へと向かう一同。

 

「そう言えば、愛里寿ちゃん。大学選抜チームの皆さんは?」

 

「皆元気だよ。この前の試合での負けが堪えたみたいで、皆一層練習に励む様になったんだ」

 

「大学生が高校生に負けてそのままじゃカッコ悪いもんね~」

 

ふとみほが尋ねると、愛里寿がそう返して、杏がそう口を挟んで来る。

 

「メグミとアズミ、ルミなんかは最近タンカスロンの試合にも足を運んでるみたい」

 

「タンカスロンに?」

 

「あの時、メガフロート艦が沈みそうになって、メグミ達は逃げ遅れそうになったんだけど、大洗連合に参加していたタンカスロンの歩兵の人達に助けられて、その縁でって」

 

「へえ~、一体誰?」

 

「確か………戦闘服の右肩を赤く染めてた3人組だったよ」

 

(………まさか)

 

その愛里寿とみほの会話を聞いていた弘樹の脳裏に、『あの3人』の姿が過った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本州・某所でのタンカスロンの試合会場………

 

ムカデさんチームの陣地………

 

「ねえ~、グレゴルーくんって、ホントに高校生~? そうは思えないくらい渋くてカッコイイわね~」

 

「へへ、実を言うとちょいと留年しててな………」

 

後ろから抱き付いて来ているアズミにそう返しながら、葉巻を吹かすグレゴルー。

 

「………オイ」

 

「ん~? な~に~?」

 

「ベタベタくっ付くじゃねえ、うっとおしい」

 

「いや~ん、そんな媚びない態度も素敵~」

 

「ったく………」

 

メグミに纏わりつかれてうっとおしそうにしながらも無理に振り払おうとはしない根が優しいムーザ。

 

「おたくもああ言うのがお望みで?」

 

「い、いや、私は別に………」

 

「フフフ、照れてる顔もイカすじゃねえか」

 

「なっ! か、からかうなよっ!!」

 

そしてバイマンにからかわれ、良い様に弄られているルミ。

 

「何時の間にかグレゴルーさん達、モテモテだね………」

 

「………色恋沙汰は我には分からん」

 

そしてそんなレッドショルダー3人衆の姿に、微妙に疎外感を感じている鈴としずかだった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ココが我が大洗女子学園だ」

 

と、桃が言った瞬間に、Sd Kfz 254は正門へと到着する。

 

「美味しい美味しいピザ、如何っすかー?」

 

「パスタもありまーす!」

 

「リゾットにビステッカ・アッラ・フィオレンティーナもあるぞー!」

 

そこでは、アンツィオ&ピッツァの面々が、盛大に屋台を開いていた。

 

女子学園の生徒だけでなく、近隣の住民まで集まっている。

 

「アンツィオにピッツァの皆さん?」

 

「何で居る………」

 

みほがそう言うと、桃が身体を小刻みに震わせながらそう呟く。

 

「ようこそ! アンツィオ高校へ! 我々は君を歓迎する!」

 

とそこで、アンチョビがSd Kfz 254の上に攀じ登って来て、姿を見せていた愛里寿に擦り寄る。

 

「どうだ? このトマトソースとオリーブオイルとアンチョビとチーズの香り。我が校に入学すれば毎日食べられるぞ!」

 

「お前達、卑怯だぞ!」

 

如何やら、自校に愛里寿を引き入れる積りで来たらしい。

 

「う………」

 

「ああ、まだ船酔い?」

 

すると、愛里寿の顔色が悪くなり、みほが心配する。

 

「トマトもオリーブオイルもアンチョビもチーズも苦手………」

 

しかし、如何やらアンツィオ&ピッツァ自慢の料理の匂いがキツかった様だ。

 

「お子様かぁーっ!?」

 

(あの位の歳の子なら子供と言えるがな………)

 

アンチョビの声に、運転席の弘樹は心の中でツッコミを入れる。

 

「じゃあ、ウチに転校するのは無理っすね」

 

「そもそも食べ物で釣ると言うのがなぁ………」

 

あっけらかんとそう言うペパロニと、苦言を呈するフォルゴーレ。

 

「では、薔薇の香りは如何かな?」

 

とそこで、何時の間にか薔薇の花束を手にしていたロマーノが、愛里寿に詰め寄った。

 

「えっ?」

 

「君の様な可憐な乙女にはこの薔薇が似合う。如何だい? 宜しければこの後一緒にカプチーノでも飲みながら楽しく語り合わないかい?」

 

何とロマーノは愛里寿をナンパして引き込む腹積りらしい。

 

………犯罪である。

 

「え、えっと………」

 

「カプチーノはお嫌いかな? ならばカフェ・ラッテでも………」

 

戸惑う愛里寿に、ロマーノが更に詰め寄った瞬間………

 

「!? タコスッ!?」

 

突如飛来して来た煉瓦が、ロマーノの横っ面に直撃!

 

ロマーノはSd Kfz 254の上から落ちて、地面に叩き付けられる。

 

(! 今のは………!?)

 

弘樹はすぐに、煉瓦が飛んで来た方向を確認する。

 

そこには誰も居ない………

 

(…………)

 

しかし弘樹は、確信を抱いていた。

 

「イテテテ………何だぁ?」

 

とそこで、倒れていたロマーノが起き上がる。

 

曲りなりにもピッツァ歩兵部隊の隊長。

 

タフさは並み外れている。

 

「ロ~マ~ノ~」

 

「!?」

 

そんなロマーノの前に、怒りの形相を浮かべたアンチョビが立つ。

 

「13歳をナンパするとは、お前そこまで堕ちたのか! この! この! このぉっ!!」

 

何時もの様に愛用の鞭で、ロマーノをしばき始めるアンチョビ。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!!」

 

そして鞭で叩かれる度に笑顔でお礼を言うロマーノ。

 

ドM具合もかなり進行している………

 

「ど、如何してあの人、叩かれて嬉しそうにしてるの?」

 

そんなロマーノの姿に、若干引きながら尋ねる愛里寿。

 

「愛里寿ちゃん………愛里寿ちゃんはそんな事は知らなくて良いんだよ」

 

「一生分からない方が幸せだね」

 

「??」

 

しかし、みほと杏は優しい笑顔を浮かべてそう言うだけで、愛里寿は首を傾げるしかなかった。

 

結局、アンツィオ&ピッツァの面々は、歓迎会から切り替えた残念会を終えると退散して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何やかんや有りつつも、大洗女子学園の制服に着替えた愛里寿は、早速大洗機甲部隊員達の待っている戦車格納庫前へと訪れた。

 

「え~、前に言った通り、島田 愛里寿さんが見学にいらっしゃった」

 

「「「「「「「「「「おお~~っ!!」」」」」」」」」」

 

大洗女子学園の制服姿で居る愛里寿の姿を見て、大洗機甲部隊員達からは歓声が挙がる。

 

「静かに! 自由に見学して下さい。質問が有れば何なりとどうぞ」

 

「うん………」

 

桃が制すると、愛里寿は大洗機甲部隊員達の輪の中へと入って行った。

 

「バレーボールを如何思いますか!?」

 

「ようこそ、オクシュアルテス」

 

「ようこそ、愛里寿!」

 

「これが生徒手帳よ。校則は全部ココに書かれてるから」

 

「コレは我々がレストアした車なんだけど」

 

「この力こぶ、触ってみるにゃ?」

 

「スクールアイドルやろうよ!!」

 

早速戦車チームの面々が纏わりつき、口々に話し掛けて行く。

 

「大人気だなぁ」

 

「愛くるしい子ですからね………皆さん、妹みたいに思ってるんでしょう」

 

「実際、大学選抜チームでもマスコットキャラクターにされている側面があった様だ」

 

流石に割って入れず、その様子を少し離れて見ていた歩兵部隊員達の中で、地市、飛彗、煌人がそう言い合う。

 

「フフフ、人気者だね………」

 

開いた扇子で口元を隠して笑う迫信。

 

「! あ………ちょっとゴメンナサイ」

 

とそこで、愛里寿が戦車チームの輪の中から抜け出したかと思うと、迫信の前にやって来た。

 

「おや?」

 

「神大さん、ありがとうございます。ボコミュージアムのスポンサーになってくれて」

 

迫信が反応すると、愛里寿は迫信に深々と頭を下げてお礼を言う。

 

実は迫信………

 

潰れかけていたボコミュージアムのスポンサーとなり、ミュージアムを再建していたのだ。

 

当初愛里寿は、母・千代にお願いする積りであったが、例の騒動でそれどころでなくなってしまい、途方に暮れていたところに迫信が名乗り出てくれたのである。

 

尚、コレは神大コーポ―レーションの事業の一環ではなく………

 

迫信の完全なる善意で行われており、資金は全て彼自身が株取引で稼いだ金から出されている。

 

因みに資金量は大企業を10年間運営出来る程の予算並みだったとか………

 

「ああ、その事かね。気にしないでくれたまえ。私が勝手にやった事だからね」

 

「いえ、ボコの恩人にはちゃんとお礼しないと………」

 

そう言って愛里寿は再度深々と頭を下げた。

 

「流石は島田流戦車道の後継者、礼儀正しいね」

 

そんな愛里寿の姿に、迫信も高評価である。

 

「あ………」

 

「うん?」

 

と、顔を上げた愛里寿の視線が、今度は弘樹と合った。

 

「舩坂さんもゴメンナサイ。あの時、お兄ちゃんが………」

 

今度は弘樹に、ボコミュージアムでの事を謝罪する愛里寿。

 

「………子供が自分の事で無い事に頭を下げて謝る必要は無い」

 

弘樹は愛里寿から謝罪を受ける様な事は無いと返す。

 

「そうだぜ、愛里寿ちゃん」

 

「ワイ等は勝負を挑まれたから戦った………それだけや」

 

地市と大河が割り込んで来てそう言う。

 

それを皮切りに、今度は歩兵隊員達が愛里寿の前に集まり出す。

 

「好きな音楽のジャンルは何だ? 演奏してやるよ」

 

「ドーモ、島田 愛里寿=サン。葉隠 小太郎です」

 

「今日からお前も俺達のダチだぜ!」

 

「貴女は神を信じますか?」

 

「救い料100憶万円、ローンも化」

 

「アクション映画は好きかい?」

 

「あ、コレ、僕の作ったキャンディー。良かったらどうぞ」

 

「絶・好・調であるっ!!」

 

磐渡、小太郎、弦一朗、竜作、ハンター、鋼賀、弁慶、月人が愛里寿に口々に言う。

 

「オーイ! 俺にも話させてくれよぉっ!!」

 

とそんな中、他の歩兵隊員達の人垣が邪魔をして愛里寿に近づけないで居る了平。

 

「!? ぐはっ!?………ぐえっ?!」

 

すると了平は転倒し、更に踏まれてしまう。

 

「………もうやだ、こんな役」

 

「あ、あの? 大丈夫?」

 

惨めな自分に涙していると、そんな了平に気づいた愛里寿が近づいて来る。

 

「立てる?」

 

そう言って了平に手を指し伸べる愛里寿。

 

「…………」

 

その時、了平の目には、愛里寿の背に天使の翼が生え、後光が差している様に見えた。

 

そしてその瞬間………

 

了平は思った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺………もうロリコンで良いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛里寿ちゅわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!!」

 

気持ち悪い叫びと共に、了平は倒れたままの姿勢が数メートルの高さまで跳躍!

 

「!?!?」

 

驚愕する愛里寿に向かって、ルパンダイブで飛び掛かった!

 

「了平! 貴方とうとう一線を越えてしまったのですかっ!?」

 

「!!」

 

楓の悲鳴の様な叫びが木霊する中、弘樹が英霊を抜き放とうとする。

 

………が、その瞬間!!

 

突如現れた影が、了平に飛び掛かり、そのまま地面に叩き付けた!

 

「!!」

 

「!? アレはッ!?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

大洗機甲部隊員達が驚愕する。

 

「貴様ぁっ! 愛里寿に何をする積りだったぁっ!! この異常性癖者めっ!!」

 

「ぐえっ!? あばっ!? おぼっ!?」

 

了平に圧し掛かり、マウントポジションを取った状態で顔面を何度も殴打している影………

 

 

 

 

 

それは紛れも無く、イプシロンだった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんっ!?」

 

「イプシロンさんっ!?」

 

「やはり貴様だったのか………」

 

驚きの声を挙げる愛里寿とみほとは対照的に、知っていたかの様な反応を見せる弘樹。

 

「このロリコンめっ! カスめ! ゴミがっ!!」

 

しかし、そんな一同の様子など知ったこっちゃないとばかりに、イプシロンは了平をボコボコにし続ける。

 

「チョッ! 待っ………」

 

とうとう了平が反応しなくなり、ピクピクと痙攣するだけの状態になり始める。

 

「………そこまでだ」

 

そこで弘樹が、イプシロンを了平から引き剥がす。

 

「離せっ! 離さんかっ!!」

 

「正直始末して欲しい気持ちは有るが、それは罷り通らんのが世の中というものだ」

 

暴れるイプシロンを押さえる弘樹だが、台詞には当然かも知れないが了平へのフォローは一切無い。

 

「保健室へ連れて行け。治療が済んだら、学内停学用の営倉に入れておけ」

 

「「ハッ!!」」

 

一方既に虫の息な了平は、紫朗の命を受けた男子校風紀委員の手により、運ばれて行ったのだった。

 

「お兄ちゃん! 如何して此処にっ!?」

 

「ひょっとして………ズッと付いて来ていたんですか?」

 

とそこで、愛里寿とみほがそう尋ねる。

 

「当たり前だ! 1度は戦った相手の場所なぞに、愛里寿を1人で行かせられるものかぁっ!! 私の可愛い妹である愛里寿に何かあったら如何するっ!!」

 

それに対し、さも当然の様にそう吠えるイプシロン。

 

「アイツ、相当なシスコンだったみたいだな………」

 

「ギャップが有り過ぎるな………」

 

そんなイプシロンの姿を見て、シメオンと大詔が呆れた様にそう呟く。

 

「お兄ちゃん………」

 

愛里寿も思わず頭を抱える。

 

「それにっ!!」

 

「むっ………?」

 

だが、イプシロンはそれに気づかず、押さえつけていた弘樹を振り解き、向き合う。

 

「舩坂 弘樹! 貴様に再戦を挑むチャンスをみすみす見逃すものか! 今度こそ私が勝つっ!!」

 

弘樹の事をビシッと指差しながら、そう宣言するイプシロン。

 

「…………」

 

しかし、先程のシスコン発言が頭に残っている弘樹は、物凄く微妙な顔を浮かべていた。

 

(うわぁ………弘樹くんが見た事も無い顔してる………)

 

みほも今までに見た事の無い弘樹の表情を見て、思わず冷や汗を流す。

 

「勝負しろ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

だが、イプシロンはお構い無しに再戦を挑んで来る。

 

「………良いだろう。そこまで言うならやってやる」

 

そこで弘樹は、彼にしては珍しく、嫌そうな様子でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くして、舩坂 弘樹とイプシロンの再戦が開始されるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

事前に予告はしていたかも知れませんが、やはり中編を挟んで後編へという展開になってしまいました。
申し訳ありません。

いよいよ転校してきた愛里寿ですが、イプシロンがコッソリと付いて来た。
キャラ崩壊の予告通りに、シスコンぶりを発揮しています。
そんな中でも弘樹との再戦に臨む。
しかし、今回の話は基本ギャグ………
真面な戦いは行われませんので、予めご了承下さい。

そしてロリに目覚めてしまった了平の末路は?(爆)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『愛里寿・ウォーです!(後編)』

今年もあんこう祭りの季節がやって来ました。

御来場になられる皆様は、混雑に御注意下さい。


※注意

今回のお話は飲食の最中に読まれる事はお勧め出来ません。

御注意下さい。


『劇場版 ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース ~炎のさだめ~』

 

エピローグ『愛里寿・ウォーです!(後編)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大洗女子学園に転校を考える愛里寿に、コッソリと従いて来た、実はシスコンだったイプシロン。

 

無論、弘樹を前にして黙っているワケもなく………

 

再び2人の対決が幕を開けようとしていた………

 

その勝負とは………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・戦車格納庫前………

 

「行けーっ! 弘樹ーっ!!」

 

「頑張れーっ!!」

 

弘樹に向かって声援を飛ばす大洗機甲部隊の面々。

 

「お兄ちゃん! ファイトッ!!」

 

愛里寿も、イプシロンに向かって声援を送る。

 

その一同の視線の先では………

 

「ぬおおおおおっ!!」

 

「…………」

 

1つの机を挟んで向かい合って椅子に座っているイプシロンと弘樹が………

 

その机の上に置かれた紙で出来た土俵を指で叩き、上に乗っている力士の紙人形をぶつかり合わせている。

 

所謂『紙相撲』だ。

 

「…………」

 

「負けん! 負けんぞぉっ!!」

 

機械の様に正確なリズムで土俵を叩く弘樹と、全身全霊を掛けて叩いているイプシロン。

 

2人の紙力士は、土俵の中央で激しく組み合っている。

 

すると………

 

「むっ………」

 

弘樹の紙力士が、イプシロンの紙力士に押されて、パタリと倒れた。

 

「勝負有り! 島田の海~っ!!」

 

審判を務めていた紫朗が、軍配をイプシロンの方に挙げて宣言する。

 

「抜かったか………」

 

「いやったーっ!!」

 

椅子を蹴倒して立ち上がり、喜びを露わにするイプシロン。

 

「遂に! 遂に舩坂 弘樹を倒したぞーっ!!………って、違ーうっ!!」

 

歓喜の声を挙げたイプシロンだったが、次の瞬間に我に返り、土俵と紙力士を払い除ける。

 

良いノリツッコミである。

 

「ああ! 折角作ったのに!!」

 

その紙相撲一式の製作を担当した藤兵衛が、慌てて回収する。

 

「誰が紙相撲で勝負するなどと言ったっ! 何をやらせるんだっ!?」

 

「………ノリノリでやってただろうに」

 

喚くイプシロンに、弘樹は冷静にそうツッコミを入れる。

 

「煩いっ! 兎に角勝負だっ!! 武器を取れっ!!」

 

「まあ、待ちたまえ、イプシロンくん」

 

するとそこで、迫信が割り込んだ。

 

「何だ、貴様っ!? 邪魔をするな! コレは私と舩坂 弘樹の………」

 

「イプシロンくん。君はパーフェクト・ソルジャーだったね?」

 

迫信に向かって怒鳴るイプシロンだったが、迫信は気にせずに言葉を続ける。

 

「そうだ! 私はパーフェクト・ソルジャーだ!」

 

「パーフェクト・ソルジャー………つまりは完全なる兵士。ならば如何なる対決であろうと受けて立ち、真正面から捻じ伏せるのが筋ではないかね?」

 

「! そ、それは………」

 

「完全であるならば、何時、如何なる状況で、どんな勝負であろうと勝つ………それこそがパーフェクト・ソルジャーとして正しい姿ではないのかね?」

 

「………そうだ! 私はパーフェクト・ソルジャー! 如何なる勝負であろうと受けて立つ! そして勝つっ!!」

 

「そう来なくては………」

 

イプシロンがそう言うのを聞いて、迫信は不敵な笑みを浮かべる。

 

(上手い具合に会長に乗せられたな………)

 

(理屈だろうが屁理屈だろうが、あの人に口では勝てませんからね………)

 

そしてそんな迫信の姿に、何とも言えない感情を感じる俊と清十郎だった。

 

「さて………では、この勝負、我々が取り仕切らせてもらおう」

 

こうして、弘樹とイプシロンのリターン・マッチは、両校の生徒会の思惑通りに進められる事となった。

 

その勝負内容とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第1回! チキチキ! 牛乳早飲み対決~っ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

マイクを持った杏がそう言うと、大洗機甲部隊員達から歓声が挙がる。

 

その中心には、弘樹とイプシロンの姿が在り、2人の前には其々7本ずつ、牛乳の入った瓶が置かれている。

 

「ルールは簡単! 2人の目の前に用意された農業科が用意してくれた搾りたて牛乳を早く先に全部飲んだ方が勝ちだーっ!!」

 

「「「「「「「「「「オオーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「………何で牛乳の早飲みで対決なんだよ」

 

盛り上がる大洗機甲部隊を尻目に、1人冷静にツッコミを入れる白狼だが、それは喧騒に掻き消される。

 

「フフフ、今度こそ決着を着けてやるぞ」

 

「…………」

 

闘志を燃やしているイプシロンだが、対照的に弘樹は何処か呆れ気味だった。

 

「それでは! 両者! 用意っ!!」

 

「………!」

 

「…………」

 

とそこで、杏が用意の合図を送ると、イプシロンが身構え、弘樹も牛乳を見る。

 

「プレイボールッ!!」

 

「何でやっ!?」

 

何故か開始の合図がプレイボールだった事にツッコミを入れる豹詑。

 

「「………!」」

 

しかし、2人は御構い無しに勝負を開始した!

 

「ングング!………プハッ! ングング!………プハッ! ングング!………プハッ!」

 

「うお! 早ええぞ、アイツッ!?」

 

「尋常ではない速度で飲み干してるな………」

 

物凄い勢いを見せているイプシロンに、重音と鷺澪が思わず声を挙げる。

 

それもその筈………

 

何とイプシロンは1瓶につき2秒と言う、人間離れした速度で牛乳を飲み干して行っている。

 

あれだけあった牛乳瓶が、既に半分近く空いている。

 

「…………」

 

それに対する弘樹は、特段に早く飲んでいる様子は無い………

 

まるで1瓶1瓶味わうかの様に、マイペースに飲み進めている。

 

「オイ! 如何したんだ、弘樹っ!?」

 

「負けちゃうよっ!?」

 

「…………」

 

地市と沙織が叫ぶが、それでも弘樹のペースは変わらない。

 

「ハハハハッ! 勝負を諦めたか、舩坂 弘樹! 不甲斐ない奴めっ!!」

 

そんな弘樹の事を嘲笑いつつ、更にハイペースで飲み進めるイプシロン。

 

とうとうその残りは3瓶となる。

 

「この勝負、貰った!」

 

その3瓶の内の1瓶を飲み干すイプシロン。

 

だが、その時………

 

イプシロンの口の端から、飲み切れなかった牛乳が零れる。

 

「ん?」

 

「オイ、今零れなかったか?」

 

それに気づいた大詔と海音が声を挙げるが、イプシロンは次の牛乳に手を付ける。

 

「!? うっ!?」

 

それを飲み切った瞬間、イプシロンの表情が激変。

 

一瞬にして真っ青になったかと思うと、逆流した牛乳が鼻の穴から噴き出す。

 

「うおっ!? エンガチョッ!?」

 

「きったねぇな、オイッ!?」

 

磐渡と隆太が、そんなイプシロンの姿に1歩退く。

 

「ぬあああっ!!」

 

しかし、イプシロンは構わず最後の1瓶を胃の中に流し込む。

 

………既にキャパを大幅にオーバーしているにも関わらず。

 

「………クッ!」

 

瓶の中の牛乳を全て流し込み、弘樹を見やるイプシロン。

 

「…………」

 

対する彼は、まだ4瓶目を飲み終えようとしているところだった。

 

「勝っ………」

 

勝利を宣言しようとイプシロンが口を開けた瞬間………

 

そこからブバッと、白い液体が飛び出した!!

 

「あ、吐いたっ!!」

 

「吐いたっ! 負けっ!! 負けっ!!」

 

「ぐうっ!」

 

竜真と正義が指摘すると、それが引き金となった様に、イプシロンはその場に後ろを向いて蹲ったかと思うと、飲んだ牛乳を吐き始めた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イプシロン! リバースッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「アッハッハッハッハッハッ!!」」」」」」」」」」

 

その光景に揃って大笑いする大洗機甲部隊員達。

 

「お、お兄ちゃんっ!? 大丈夫っ!?」

 

そんな中で、愛里寿がイプシロンに駆け寄ろうとする。

 

「来るなっ!!」

 

「!?」

 

しかし、他ならぬイプシロン自身がそれを制する。

 

(こんな顔を愛里寿には見せられん………)

 

兄としての最後のプライドか、吐いた牛乳に塗れた顔を見られんとするイプシロン。

 

ハッキリ言って、かなりみすぼらしい………

 

「イプシロンさん………」

 

「大リバースデス………」

 

そんなイプシロンの姿を見て、勇武とジェームズがそう呟く。

 

「頑張り過ぎだよぉ………」

 

「見ていた通りに大分差が有ったと言うのに………」

 

憐れみながらも、イプシロンにそうツッコミを入れる沙織と麻子。

 

「恐らく、大差をつけて勝ちたかったんでしょうね………」

 

「男の方のプライドですか………」

 

「うう………」

 

と、優花里と華がそう話す中、顔を拭き終えたイプシロンが、グッタリとした様子で立ち上がる。

 

「大丈夫か?」

 

「煩い………貴様に心配をされる謂れは無い………」

 

対戦相手である筈の弘樹にまで心配されるが、イプシロンは気丈にそう返す。

 

その顔は牛乳塗れであったが………

 

「兎に角、この勝負………イプシロンが吐いたので、舩坂 弘樹の勝利だ!」

 

「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、審判の紫朗がそう告げると、大洗機甲部隊の面々から歓声と共に拍手が送られる。

 

「勝負あったな………」

 

「………度だ」

 

「うん………?」

 

「もう1度だっ!!」

 

しかし何と!

 

イプシロンは泣きのもう1回を要求して来た!!

 

「ええっ!?」

 

「まだやる気かよ………」

 

「とっくに身体が限界を超えて悲鳴を挙げてますけど………」

 

光照が驚きの声を挙げ、速人と飛彗が呆れた様に言う。

 

「あんな無様を曝して………おめおめと引き下がれるか!」

 

(恥を上塗りするだけだと思うが………)

 

吼えるイプシロンだが、弘樹は内心でそんな冷ややかな事を考えていた。

 

「如何するかね? 舩坂くん?」

 

そんな弘樹に、迫信が尋ねて来る。

 

「………分かった。もう1回だけ付き合ってやる」

 

「それでこそだ! 舩坂 弘樹っ!!」

 

「…………」

 

再度闘志を燃やすイプシロンだが、弘樹は正直ウンザリしていた。

 

かくして………

 

イプシロンの要望による泣きのもう1回が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び両者の前に、7瓶の牛乳が用意される。

 

「…………」

 

「今度こそ………」

 

いつも以上に仏頂面な弘樹と、闘志は燃え滾っているが顔色が頗る悪いイプシロン。

 

「じゃあ泣きのもう1戦! レディ………ゴーッ!!」

 

「「!!」」

 

再び杏の掛け声で勝負を開始する2人。

 

「……………」

 

「んぐ………んぐ………」

 

相変わらずマイペースで飲む弘樹と、ドンドン胃へと流し込んで行くイプシロン。

 

しかし、先程のダメージはやはりデカイのか、明らかにペースが落ちている。

 

「!? ぐっ!?」

 

そして4瓶目を飲んだ瞬間に、呻き声を漏らして動きを止める。

 

「…………」

 

その間に、弘樹が逆転。

 

残り2瓶にまで数を減らす。

 

「ぐがあああっ!!」

 

イプシロンは込み上げる吐き気を我慢して、無理矢理牛乳を体内に入れて行く。

 

だが………

 

「よっしゃあ! 最後の1瓶っ!!」

 

「!?」

 

そう言う声が聞こえて、弘樹の方を見やると、そこには最後の1瓶を正に飲み終えようとしている弘樹の姿が在った。

 

その瞬間………

 

「…………」

 

イプシロンの目が………

 

最高に悲しいものとなる。

 

「………ああ」

 

大量の牛乳にウンザリしながら、遂に飲み終える弘樹。

 

「勝負有り! 舩坂ちゃんの勝利ーっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

杏が弘樹の勝利を宣言すると、大洗機甲部隊の面々からは歓声が挙がる。

 

「…………」

 

一方、負けたイプシロンは、飲み切れなかった牛乳を戻すと、その場に失意のあまり体が前屈した。

 

「やあ~、残念だったねぇ、イプ………」

 

と、そのイプシロンに杏が声を掛けようとしたが、途中で立ち止まる。

 

何故なら、失意体前屈して伏せられているイプシロンの顔の辺りから………

 

白い液体が垂れるのを見たからだ。

 

「お兄ちゃん………?」

 

愛里寿も、イプシロンの様子がおかしい事に気づいた………その瞬間!!

 

「………ううおおええっ!!」

 

イプシロンは飲んだ牛乳を思いっきり吐き出し始めた!

 

「「「「「「「「「「! アハハハハハハッ!!」」」」」」」」」」

 

その光景に最早笑うしかない大洗機甲部隊の面々。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イプシロン!

 

再び!

 

散るっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吐いちゃった………」

 

「物凄い勢いで吐いてるな………」

 

清十郎と俊が言う通り、イプシロンは今飲んだものと、先程飲んでまだ吐き切れていなかった牛乳を纏めて吐き出している。

 

その量、実に2.2リットル!

 

余りの嘔吐量に、シャーッと言う音が聞こえて来て、イプシロンの真下に白い水溜まりが出来始める。

 

「…………」

 

流石に不憫に思ったのか、弘樹がイプシロンの背中を摩ってやる。

 

「う、うう………」

 

「だから止めておけと言ったのに………」

 

漸く吐くのが治まったイプシロンが、牛乳塗れの顔を挙げる。

 

「………私は………あんまり凄くないな………」

 

(ある意味十分凄いと思うがな………)

 

すっかり弱々しくなってしまったイプシロンがそう呟くと、弘樹は心の中でそう突っ込んだ。

 

「では、勝者の舩坂ちゃん。今のお気持ちをどうぞ」

 

「1つも嬉しくないな」

 

「だよね~」

 

杏のインタビューに弘樹はそう返し、ココにある意味で壮絶だった弘樹とイプシロンの再戦は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日が暮れて………

 

とうとう弘樹の提案が実行される時となった。

 

その提案とは………

 

 

 

 

 

大洗女子学園・体育館………

 

「わあ~、良く似合ってるよ、愛里寿ちゃん!」

 

「そ、そう?」

 

今愛里寿は、ボコをモチーフにしたフード付きパジャマに身を包んでいた。

 

愛里寿だけではない。

 

大洗戦車チームの面々も、同じ様にボコパジャマに身を包んでいる。

 

体育館内には人数分の布団が敷かれ、雑魚寝が出来る状態となっている。

 

コレが弘樹が考えた策………

 

『就寝を共にする』である。

 

幼少時より歩兵道に明け暮れていた弘樹は、試合や合宿での先等で、仲間と共に枕を並べる事が多かった。

 

そんな時の会話は弾み、親睦も深まったと言う実体験から、皆で就寝を共にすれば仲も深まり、大洗に転校してくれるのではないかと考えたのだ。

 

「じゃあガールズトークしよ! ガールズトークッ!!」

 

「お前のガールズトークは恋愛の事ばかりじゃないか………」

 

「では、朝まで戦車トークを!」

 

「それもちょっと………」

 

沙織、麻子、優花里、華の会話を皮切りに、大洗戦車チームのパジャマパーティーが幕を開ける。

 

「…………」

 

「? 愛里寿ちゃん? 如何かしたの?」

 

と、そのパジャマパーティーの様子を、羨望にも似た眼差しで見ている愛里寿に気づき、みほが声を掛ける。

 

「うん、何だかとっても楽しくって………」

 

「そう、良かった。やっぱり友達と一緒に過ごせるのが学校での楽しみだよね」

 

「友達………」

 

「勿論、愛里寿ちゃんも友達だよ」

 

「! ありがとう」

 

みほの言葉に、愛里寿は照れながらはにかむ。

 

「転校して来たら、戦車道も一緒だね」

 

「あ………」

 

しかし、続いてみほがそう言うと、愛里寿は何かに気づいた様な様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

男子校の体育館では………

 

「それっ!」

 

「ブッ! やったなぁっ!!」

 

お約束とも言える枕投げが勃発していた。

 

連隊規模のメンバーによる枕投げであり、大盛り上がりを見せている。

 

枕が四方八方に飛び交っている。

 

「…………」

 

そんな中で、昼間の事で少々精神的に疲れていた弘樹は、布団を隅の方に寄せ、喧騒も気にならない様子で眠ろうとしている。

 

「………ん?」

 

「…………」

 

とそこで気配を感じて目を開けると、そこにはイプシロンの姿が在った。

 

「何だ? まだ何かあるのか?」

 

「………昼間の事は悪かった」

 

弘樹が尋ねると、意外にもそんな事を言ったイプシロンは、弘樹に向かって頭を下げる。

 

「………お前がそんな事を言うとはな」

 

「………愛里寿に怒られてな」

 

「成程………」

 

意外そうな顔をした弘樹だったが、続くイプシロンの言葉を聞いて納得が行った表情になる。

 

「………再戦なら受けてやる」

 

「! 何っ!?」

 

「だが、今じゃない………何れまた戦う時が来るだろう。それまでに精々精進していろ」

 

「………何故敵である私にそんな事を言う」

 

「『敵』じゃない………『ライバル』だ」

 

「!!」

 

イプシロンは驚きを露わにする。

 

………が、その瞬間!

 

「!? ブッ!?」

 

イプシロンの後頭部に、枕が思いっ切り直撃した!

 

「やったーっ! 命中ーっ!!」

 

「! 貴様等ーっ!!」

 

すぐさま枕を手にすると、一団の中へと駆けて行くイプシロン。

 

「…………」

 

弘樹はそんなイプシロンを尻目に、今度こそ眠りに就くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

連絡船への昇降口にて………

 

「えっ!? 愛里寿ちゃん、行っちゃうのっ!?」

 

「うん………」

 

驚きの声を挙げるみほに、愛里寿はそう返す。

 

「何故だっ!? 我々の何が気に入らなかったのだっ!?」

 

桃は何か不手際があったのかと大騒ぎする。

 

「ううん、大洗はとっても良い学校。転校しても良いと思えた」

 

「なら!」

 

「でも………そしたらみほさんとは戦えなくなっちゃうから」

 

「えっ?」

 

再び驚きの声を挙げるみほ。

 

「私、みほさんとはもう1度戦いたいの。今度は島田流とか西住流とか関係無く………1人の戦車乗りとして」

 

「!」

 

愛里寿のその言葉を聞いて、みほは納得の行った様な表情となる。

 

「………うん。私も愛里寿ちゃんともう1度戦いたいかな」

 

「だから………その日まで」

 

「うん!」

 

そう言って、みほと愛里寿はガッチリと握手を交わす。

 

「愛里寿、行くぞ」

 

とそこで、既にタラップに足を掛けていたイプシロンがそう呼び掛ける。

 

「あ、うん! 今行くね………それじゃあ、バイバイ、みほさん」

 

「バイバイ、愛里寿ちゃん」

 

そう言って愛里寿を見送るみほ。

 

「「…………」」

 

一方、弘樹とイプシロンの方は、一瞬だけ視線を交差させたかと思うと、お互いに何も言わずに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

島田兄妹の乗る連絡船が、大洗学園艦から遠ざかって行く。

 

「いや~、残念だねぇ」

 

いつもの様に干し芋を齧りつつそういう杏。

 

「でも、愛里寿ちゃんの気持ち、分かります。私も同じですから」

 

「だよね~」

 

だが、みほの言葉に笑顔で同意する。

 

「あああ~~~っ! 大洗の安泰がぁっ!! 盤石の基盤がぁ~っ!!」

 

しかし、桃だけは諦め切れない様子で喚いている。

 

「桃ちゃん、落ち着いて………」

 

柚子が落ち着かせようとするが………

 

「ううー! 西住! お前が何処かへ転校しろっ!!」

 

「!? ええっ!?」

 

桃は感情のままに、みほにそんな事を口走る。

 

「あ………」

 

「桃ちゃん………」

 

「あちゃ~………」

 

途端に、杏、柚子、蛍が頭を抱えた。

 

「えっ?」

 

桃が戸惑っていると………

 

「河嶋広報官殿………」

 

底冷えしそうな冷たい声色と共に、弘樹が桃の肩に手を置いた。

 

「!?」

 

油の切れたブリキの玩具の様な音を立てながら、桃は恐る恐る弘樹の方を振り返る。

 

「…………」

 

そこには、見ているだけで怖くなる様な無表情の弘樹の姿が在った。

 

「!?!?」

 

「ちょっとお話があります」

 

声にならない悲鳴を挙げる桃に、弘樹は無慈悲にそう言い放つ。

 

「ひ、弘樹くん! 私気にしてないからっ!!」

 

「安心しろ、みほくん。小官は女性には手を上げん。さ、コチラへ………」

 

みほが止めようとするが、弘樹は止まらず、桃の肩を摑んだまま連れて行こうとする。

 

「ちょっ!? か、会長! 柚子ちゃん! 蛍ーっ!!」

 

泣きながら杏達に助けを求める桃だったが………

 

「「「…………」」」

 

3人は無言で敬礼を桃へと送る。

 

つまり、満場一致で見捨てられたのだった。

 

「た、助けてくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

桃の断末魔の悲鳴が………

 

大洗学園艦中に響き渡ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………新たな戦いが始まる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「河嶋さんが留年っ!?」

 

「正確には浪人の危機らしい………」

 

大洗機甲部隊に突如降って湧いた『河嶋 桃・留年事件』

 

何やかんやで愛されている彼女を救う為………

 

大洗機甲部隊は、軍事道の冬季大会である『無限軌道杯』への参加を決める。

 

その1回戦の相手は、アスパラガスの改革が行われた『BC自由学園』………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何あの連携!?」

 

「凄いコンビネーション………私がお姉ちゃんと組んでた時並みだよ!」

 

「コレが真のBC自由機甲部隊の力だ! 行くぞ、レナ!!」

 

「任せておけ、ルカッ!!」

 

「さあ、踊りなさい………BC自由機甲部隊の舞曲、『終わらない円舞曲(エンドレス・ワルツ)』を」

 

『押田 ルカ』、『安藤 レナ』のコンビネーションに苦戦するみほ達を見て、不敵に微笑むBC自由機甲部隊総隊長・『マリー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして弘樹の前にも、新たな敵が立ちはだかる………

 

「お探しモンはコレか?」

 

「! 小官の武器を………手癖の悪い奴だ」

 

「ぬほほほ、そりゃそうさ。俺様は『泥棒』だかんな」

 

「『泥棒』だと? 貴様、何者だ?」

 

「ぬほほほ。俺の名は『ルパン13世』!」

 

「ルパン………だと? まさか………」

 

「そう! 俺の祖先は大怪盗! 『アルセーヌ・ルパン』よ!!」

 

それは、世紀の大怪盗の子孫だった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース 最終章』

 

公開予定未定!




新話、投稿させて頂きました。

遂に行われる弘樹とイプシロンの再戦。
その内容は………
牛乳の早飲み!!
そしてリバース!!(笑)
元ネタは勿論、北海道のローカル移動番組です。
そちらの方も確認して笑って下さい。

さて………
5年以上続いたこの作品『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』も今回で完結となります。
最終章は、原作が全話上映してから取り掛かる事になるかと。
取り敢えず、今の時点で決まっているBC自由学園の様子をオマケでお送りしました。
改変点としましては、安藤レナと押田ルカが超仲が良いって点ですかね。
この作品では、前隊長と言う位置づけのアスパラガスが既に登場しているので、仲違い作戦は通用しないと思い、逆に抜群のコンビネーションを見せると言う方向で行こうと思いまして。

そして気になるBC自由の歩兵は、ルパンの3代目がモチーフです。
何故、ルパンかと言いますと、フランス繋がりは勿論ですが………
BC自由学園のメンバーはベルサイユのばらのキャラクターをモチーフにされていますが、実はルパン三世に、ベルばらの主人公であるオスカルが登場した回があるのです。
しかも、コレはベルばらがアニメ化される前の話なのです。
なので、その繋がりで歩兵にはルパンをモチーフにしたキャラを登場させようとかと。
他のメンバーについては、まだ検討中です。

次からは過去作の天元突破ISを掲載しようよ思ったのですが………
つきましては、紹介します!でまだ紹介してない人物が居るとご指摘を頂いたので、紹介しますシリーズを編集し直して纏めようと思います。
なので、次週の更新はそちらになります。
ひょっとしたら2回に分けるかも知れませんので、予め御了承下さい。
何せ、登場人物が多いので(汗)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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紹介します!
紹介します! とらさん分隊編


お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! とらさん分隊編

 

 

 

 

 

分隊データ

 

随伴チーム:あんこうチーム(Ⅳ号戦車)

 

分隊名:とらさん分隊

 

分隊方針:大和魂を胸に!

 

主要メンバー:舩坂 弘樹(分隊長・突撃兵)

 

石上 地市(対戦車兵)

 

大空 楓(偵察兵)

 

綿貫 了平(突撃兵)

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール

 

作者の考案キャラ

 

名前:舩坂 弘樹(ふなさか ひろき)

 

性別:男

 

身長:175㎝

 

誕生日:7月7日

 

血液型:A型

 

好きな武器:九九式短小銃

 

出身:栃木県栃木市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

詳細:本作の主人公。

 

あの伝説の日本兵『舩坂 弘』の子孫。

 

一人称は『小官』

 

妹が生まれた直後に両親が事故で他界し、その後は祖父に育てられた。

 

その後、中学3年の頃に祖父が亡くなり、身寄りが無くなった彼は、祖父が残してくれた遺産で生計を立てながら、妹と共に茨城は大洗に移り住んだ。

 

祖父の教育の賜物か、今時絶滅危惧種の日本男児。

 

成績は優秀そのもので、基礎体力が現代高校生の2倍は有り、体育の成績も良い。

 

また、柔術、剣術を始め、空手や銃剣術など、武術にも精通している。

 

顔はイケメンと言うより、昭和の2枚目スターと言った感じで、若干濃い。

 

心臓に毛が生えているどころではない度胸の持ち主で、戦車に取り付いて最も装甲が薄い上部装甲に吸着地雷をセットして、自分が離脱し切らない内でも爆発させると言う無茶を平然とする命知らず。

 

自称、『クソ真面目な男』

 

大抵の事は何でもそつなく熟し、人に対しては敬意を払って接し、女性に対する礼儀も心得ているが、生き方は不器用かつ無骨。

 

また、日本兵であった祖先の血か、怒ったり興奮したりすると、言葉使いが荒くなり、2人称が『貴様』になる。

 

受講者が減って行っていた大洗男子校の歩兵道を、1年の頃から志願して受講した無骨者。

 

西住 みほが、戦車道にトラウマを抱えているにも関わらず、友の為に頑張っている姿に感動し、何かと彼女を助けようとする。

 

なお、彼の祖先である『舩坂 弘』は、その不死身っぷりが有名であるが、彼自身も『1ヶ月の重傷を1日の入院で完治させた』、『心停止したが、1日後に蘇生した』等と、その血をしっかりと受け継いでいる。

 

祖父が使っていた軍刀を打ち直した日本刀『英霊』を絶えず帯刀している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:石上 地市(いしがみ ちいち)

 

性別:男

 

身長:174㎝

 

誕生日:9月8日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:M18 60㎜バズーカ

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:大の特撮ヒーロー好きの舩坂 弘樹の親友(悪友)

 

正義感の強い熱血漢であり、まるで一昔前の少年漫画の主人公の様な男。

 

その性格故に、トラブルに巻き込まれたり、巻き起こしたりする事も多々有る。

 

運動神経は良いが、成績は中の下辺り。

 

メガネを掛けているが、実は伊達で視力は良好。

 

掛けている理由は、女子は知的な男に憧れる者だと思っているから(メガネ=知的という安易な発想)

 

弘樹と比べて、割と現代っ子であり、当初は彼の事を時代錯誤な男だという第一印象を持っていた。

 

しかし、彼が街で悪さをしていた不良を叩きのめそうとして、逆に数の多さに返り討ちにされそうになり、そこを偶々通り掛った弘樹に助けられた。

 

その後、その事を学校が知り、弘樹は処分を受けそうになったが、それに対して自分の事を言わないばかりか、一切の弁明・反論をしない彼の姿を見て、彼が不器用な男なのだと知る。

 

尚、結局処分は生徒会長が説得と揉み消し(!?)を行ったので立ち消えになった。(しかし、弘樹は自主的に反省文を提出している)

 

それ以来、彼は何かと弘樹に構う様になり、何時しか親友(悪友)となる。

 

沙織とは、似た立場と彼女の性格から仲良くなり、友達感覚で交友を持つ。

 

その後、第2次戦車捜索中に遭難した際、不安がる1年生を勇気づける彼女が、実は自分も不安がっている事を見抜き、そっと手を握りながら、きっと弘樹達が来ると励ました。

 

それ以来、互いに意識する様になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:大空 楓(おおぞら かえで)

 

性別:男

 

身長:172㎝

 

誕生日:3月1日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:AH、FOX

 

出身:滋賀県大津市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:航空会社女社長と有名なスポーツメーカー社長の間に生まれた子息。

 

運動神経抜群で、学年成績も優秀。

 

その文武両道ぶりから様々な部活から助っ人を頼まれている。

 

大洗の貴公子とも呼ばれ、女子校には下級生や上級生にファンクラブが存在するほど。

 

本人はその貴公子ぶりに自由に振る舞えない事から精神的疲労を感じている。

 

だが舩坂との出会いにより、彼とは親友となっている。

 

復活した歩兵道に関して興味を持ち、噂に聞いた世界大会で、現在航空機のパイロットとなっている5歳年上の忙しい兄に自分はここだぞと胸を張れる男に目指す。

 

家でお喋りなオウムを飼っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:綿貫 了平(わたぬき りょうへい)

 

性別:男

 

身長:166㎝

 

誕生日:4月1日

 

血液型:B型

 

好きな武器:

 

出身:愛知県名古屋 

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:エロゲーマニアで無類の女の子好きな船坂弘樹の悪友。

 

ナンパしたのにも関わらずスルーされたり、痴漢呼ばわりされたり、所謂馬鹿だが、運動神経は良い。

 

殺人級の物理突っ込みを喰らって生きているのは、ギリギリで攻撃を受け流しているから。

 

………でもそのせいで突っ込みに手加減が掛かってない事に本人は全然気づいていない。

 

歩兵道で有名になって世界中の美少女にモテモテになる事を目指す。

 

女子が絡むとボケ担当だが、普段はどちらかと言えばツッコミ役。



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紹介します! ツルさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! ツルさん分隊編

 

 

 

 

 

分隊データ

 

随伴チーム:カメさんチーム(38t戦車)

 

分隊名:ツルさん分隊

 

分隊方針:判断は冷静かつ大胆不敵に

 

主要メンバー:神大 迫信(歩兵隊総隊長兼分隊長・突撃兵)

 

神居 十河(工兵)

 

栗林 獅龍(突撃兵)

 

小金井 逞巳(偵察兵)

 

銅 秀人(偵察兵)

 

司馬 俊(突撃兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール

 

作者の考案キャラ

 

名前:神大 迫信(じんだい さこのぶ)

 

性別:男

 

身長:178㎝

 

誕生日:1月26日

 

血液型:O型

 

好きな武器:コルト・ガバメント (M1911A1)

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生・生徒会長

 

詳細:県立大洗国際男子高校の生徒会会長。

 

世界のあらゆるシェアの70%を握っている神大コーポレーションの御曹司であり、高校生の身でありながら次期総裁候補。

 

成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗に絶対的なカリスマを持ち合わせた完璧超人。

 

また、策謀や謀略、権謀等を得意とする策士であり、戦術や戦略にも優れた指揮官でもある。

 

その手腕で、学校職員やPTA、教育委員会、果てには文部科学省や総理大臣をも手玉に取っており、大洗男子校は絶大な権力を得ている。

 

本人曰く、『必要ならばアメリカ大統領だって脅してみせる』との事である。

 

その全ては愛校心から来ており、その権力を私欲に使う事は無く、殆どが生徒の為に使われている。

 

大洗男子校がかなり自由な気風なのは、彼のお蔭と言って良い。

 

生徒からの支持率は高く、その手腕から『閣下』、『元帥』等と呼ばれている。

 

大抵の事は1人でやってしまう生徒会長。

 

と言うよりも、彼の能力が高過ぎて、誰も付いて行けないと表現した方が正しい。

 

角谷 杏とは、彼女が大洗女子学園に入学した時からの付き合いであり、廃校の件も本人達よりも早く察知していた。

 

杏に自分の力で如何にか出来ると持ちかけたが、彼女はそれを拒否。

 

『自分の学校は自分達の力で守りたい』との杏の気持ちを汲み、せめてもの手助けと、廃れかけていた歩兵道に法外な特典を付けて受講者を募り、大洗男子校歩兵部隊を再編した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:神居 十河(かむい とうが)

 

性別:男

 

身長:175㎝

 

誕生日:12月5日

 

血液型:A型

 

好きな武器:S-マイン

 

出身:茨城県日立市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生・生徒副会長

 

兵種:工兵

 

詳細:県立大洗国際男子高校の生徒会副会長。

 

野心家であり、迫信の優秀な参謀として働きながらも、虎視眈々と生徒会長の座を狙っている。

 

かなりの美形で、大洗女子学園には彼のファンクラブが存在する。

 

チェスや将棋と言ったボードゲームが得意で、作戦立案や頭脳戦を得意とする参謀である。

 

成績も優秀だが、迫信には1歩及ばない。

 

また、想定外な事態に弱く、ツメが甘い事もあり、狼狽すると思考が追い付かなくなる。

 

言動が予測できない者や言うことを聞かないものが苦手であり、個性が強い他のメンバーには振り回されっぱなしである。

 

更に体力が無く、100m走っただけで息切れしてしまう。

 

その為、戦闘時には専ら車輌で移動する。

 

それでも、迫信を蹴り落として会長の座に就こうとはせず、自らの力で会長の座に就こうとしているのは、彼なりのプライドである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:栗林熾龍(くりばやし しりゅう)

 

性別:男

 

身長:177㎝

 

誕生日:5月2日

 

血液型:0型

 

好きな武器:桑原製軽便拳銃

 

出身:秋田県

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

詳細:硫黄島の戦いにて有名な栗林忠道の子孫。

 

生身での実力は船坂 弘樹に匹敵する。

 

居合い抜きの素早さは見えない斬撃とも言われ、投げた大根を連続斬りで粉微塵に斬ったり、氷の塊を氷像に削いだりできる。

 

運動神経も常人の2倍以上はあり、反射神経も測定不能との噂である。

 

自分の腕に絶対の自信を持っており、誰が相手でも物怖じしない。

 

冷徹かつかなり冷酷で攻撃的な性格をしており、通行人が避けて通るほど殺伐とした雰囲気を漂わせている。

 

他者を寄せ付けない鋭い眼光を持った寡黙で無愛想な生徒会の用心棒。

 

常に人を見下したような態度をとる。

 

先祖が残した軍刀を打ち直し、刃渡りが長く広い軍太刀『戦獄』を竹刀袋に携える。

 

世界中の武術も学んでおり、全て精通している。

 

髪型はオールバックにし、目つきはヤケに鋭い。

 

成績も学年トップに並び、相手の本質を見抜く、洞察力、推察力が優れている。

 

その上毒舌で、河嶋 桃に対しては特に酷い事を平然と言える。

 

幼い頃から、苦しくも辛く死んでもおかしくない修行を行い、全ての武術を叩き込まれた。

 

それ等を乗り越え、大洗男子高校に入学し、その圧倒的な強さで、生徒会の用心棒として過ごしている。

 

復活した歩兵道に対しては、興味は無かったが、生徒会による要望により受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:小金井 逞巳(こがねい たくみ)

 

性別:男

 

身長:170㎝

 

誕生日:1月23日

 

血液型:A型

 

好きな武器:FN ブローニングM1910

 

出身:埼玉県春日部市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:今年度から入った生徒会の新人。

 

平凡で、運動神経も平凡。

 

成績も平凡な為、クラスメイトから、渾名に『平凡(たいら ぼん)』と名づけられる。

 

生徒会に入って早々と苦労する仕事の山積みで、自分だけ損すると半ば諦め状態。

 

しかし常識的なところもあり、ツッコミが激しい。

 

権力のある生徒会長。

 

どう見ても銃刀法違反としかいえない生徒。

 

ケンカが日常茶飯事で気にも留めない周りの生徒達。

 

等々、最早常識を超えるものばかりで苦労がやっぱり絶えない・・・・。

 

神居とは、一部次元が違うが相談できる相手。

 

復活した歩兵道については、生徒会の企みだと思い、仕方なしにと参加さぜるを得なかった。

 

偵察兵なだけに移動するのも敵から逃げるのも命懸け。

 

それでも無事にやっているのが不思議なくらいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟の考案キャラ

 

名前:銅 秀人(あかがね ひでひと)

 

性別:男

 

身長:150㎝

 

誕生日:1月1日

 

血液型:B型

 

好きな武器:MP40、ブローニング・オート5

 

出身:北海道小樽市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:小柄だが引き締まった体格。

 

基本的に常識人だが非常に短気で感情的になりやすい青年。

 

背が小さい事を気にしており、それを指摘されるとキレる。

 

小柄な体格を活かした狭い所への潜入や相手の懐に潜り込んでの戦闘を得意とする。

 

反動の少ない小型の銃の扱いは得意だが、小柄で体重が軽い為、反動の大きい銃などは撃つと引っ繰り返ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:司馬 俊(しば しゅん)

 

性別:男

 

身長:170㎝

 

誕生日:4月24日

 

血液型:A型

 

好きな武器:M3サブマシンガン、RPD軽機関銃

 

出身:東京都練馬区

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

詳細:県立大洗男子高校に通う生徒で『大洗の司馬昭』の異名を持つ少年。

 

普段は冗談を交え陽気に振舞う温厚な人物だが、制服を一番着崩していたり(けど、会の時はちゃんとしている)バイクの免許も持ってたり、趣味は昼寝で口癖は「めんどくさい」と生徒会役員(広報)のくせに生徒会業務はサボりがちだが、学校愛と歩兵道愛は生徒一ある。

 

私服はワインレッドのジャケットに黒のシャツ・スラックスを着用し、金のネックレスと腕時計のきらびやかさが際立つ装いをしている。バイクに乗る時は、赤のライダースーツとヘルメットを着用。

 

家族構成は、両親と兄(元生徒会長)と姉(角谷の前任)がいるが、両親は海外生活。

 

兄と姉は東京の大学に通いながら歌舞伎町でホスト、銀座でキャバ嬢(二人とも人気・指名数トップだが、ちゃんと仕送りをしてくれてる)中なので学校前のビルで一人暮らし。

 

好物は、学食の洋食Aランチとコンビニスイーツと元姫の手料理。

 

苦手な物は、あんぱん



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紹介します! ペンギンさん分隊

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! ペンギンさん分隊

 

 

 

 

 

分隊データ

 

随伴チーム:アヒルさんチーム(八九式中戦車)

 

分隊名:ペンギンさん分隊

 

分隊方針:足りない分はガッツでカバーせいっ!!

 

主要メンバー:黒岩 大河(分隊長・突撃兵)

 

本多 明夫(砲兵)

 

蛇野 大詔(偵察兵)

 

葉隠 小太郎(偵察兵)

 

東郷 武志(対戦車兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:黒岩 大河(くろいわ たいが)

 

性別:男

 

身長:200㎝

 

誕生日:11月28日

 

血液型:B型

 

好きな武器:MG42

 

出身:大阪府大阪市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年

 

詳細:大洗連合の大将と大洗男子高応援団団長で『大洗の白虎』の異名を持つ大洗高校の番長。

 

性格は、義理人情に厚く涙脆いが、喧嘩は強い典型的な親分肌の不良。

 

子分の数は100人と多い。

 

私服は、超が付くシスコンな為、妹の服代にお金は掛けるが、自身は学ランとサラシしか着ない主義らしい。

 

好物はアンコウ料理全般で特に、アンキモがお気に入り。

 

勉強は苦手(学年中最下位)だが、趣味の喧嘩と歩兵道の強さは尋常じゃない強さを持つ。

 

高3進級前の時に有る事件で両親を亡くし、バイト先の酒屋で年の離れた妹と居候をしながら生活している。

 

その為、同じ境遇の舩坂兄妹と親交を深める。

 

戦闘でも喧嘩の癖が抜けず、素手で殴り掛かって行く事が多々有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟の考案キャラ

 

名前:本多 明夫(ほんだ あきお)

 

性別:男

 

身長:200㎝

 

誕生日:2月8日

 

血液型:O型

 

好きな武器:Kz8㎝短迫撃砲GrW42、九九式小迫撃砲

  

出身:三重県桑名市

 

学園:県立大洗国際男子高校2年(1年ダブり)

 

詳細:筋肉もりもりのマッチョマンな体格で、「がはは」と笑ったり、喋り方がどこかおっさん臭い青年。

 

暇さえあればとにかく筋トレしている筋肉バカ。

 

砲兵用の重たい装備を自慢の筋肉で軽々と運び、接近戦では筋肉を使った素手での格闘戦を行う。

 

「筋肉を鍛えればできないことはない」と自負しており、筋肉任せに常識外れな事を平然と行う変態である。

 

豪放磊落を地で行き、破天荒な行動をしばしば行ったりするが、仲間を気遣ったり冗談を言って場を和ませる等気さくな一面もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:蛇野 大詔(へびの たいしょう)

 

性別:男

 

身長:181㎝

 

誕生日:11月24日

 

血液型:B型

 

好きな武器:ジョンソンM1941軽機関銃

 

出身:茨城県小美玉市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:常に頭にバンダナを巻いていて、高校生とは思えない渋い声の持ち主。

 

サバイバル知識や経験が豊富で、潜入任務を得意とするが、若干天然ボケの気質が有る。

 

動植物を何でもかんでも食べたがる程に食欲旺盛で、動植物についての説明を聞くと、必ず味について尋ねる。

 

また、美味しい物を食べると『美味すぎる!』と絶叫する癖が有る。

 

そして、何故か段ボールをこよなく愛しており、コレを被っていると何故か敵から発見されないという特技を持っている。

 

曰く、段ボールは敵の目を欺く最高の偽装、スニーキングミッションの必需品であると。

 

段ボールを被っていると、居るべき場所に居る安心感、人間はこうあるべきだと言う確信に満ちた安らぎを感じるらしい。

 

秋山 優花里がサンダース校に潜入した際は、彼も葉隠 小太郎と共にカーネル大学附属高校へ潜入。

 

歩兵部隊の情報を収集すると共に、優花里の正体がバレた際には、彼女の撤退を支援している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:葉隠 小太郎(はがくれ こたろう)

 

性別:男

 

身長:174㎝

 

誕生日:6月17日

 

血液型:A型

 

好きな武器:ウィンチェスターM1912

 

出身:茨城県かすみがうら市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:由緒正しい忍術の流派の家に生まれた、第17代目正統後継者であり、現代に生きる忍者。

 

………なのだが、やる事なす事が全て派手で、忍ぶ気………と言うよりも自重する気が有るのか非常に疑わしい。

 

更に、使う技も『忍術』と言うより、フィクション等で使われている『忍法』の様なものが多く、近代兵器も多用している。

 

そんな経緯からか、『忍者』ではなく『NINJYA』と呼ばれる事もしばしば。

 

取って着けた様な一人称の『拙者』や『ござる』口調がそれに拍車を掛けている。

 

しかし、腕は確かであり、蛇野 大詔と共にカーネル大学附属高校へ潜入した際には、敵の重要情報を入手する等、大きな戦果を挙げている。

 

だがその際、ケイに姿を見られ、実は忍者(NINJYA)好きだった彼女から熱烈なアプローチを受ける事になる。

 

戦闘時も、忍者ならではの身軽さを活かした機動戦で、相手を撹乱しての戦闘を得意とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:東郷 武志(とうごう たけし)

 

性別:男

 

身長:190㎝

 

誕生日:2月8日

 

血液型:A型

 

好きな武器:M20 75㎜無反動砲

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:大洗男子校ラグビー部のキャプテン。

 

磯辺 典子とは幼馴染で、古くからの付き合い。

 

彼女がバレーに情熱を燃やすも体格に恵まれなかったのに対し、コッチは恵まれ過ぎた程にガタイが良く、正にラグビーの為に生まれて来たと言える。

 

普段は部員共々礼儀正しく品行方正で、部室棟の修理を行ったり、グランドの整備をしたり、学校で飼っている動物の世話をしたり、地元の子供達と遊んであげたり、孤独なお年寄りを訪問したり等と奉仕の精神に溢れている。

 

正に模範生徒と呼ぶべき存在だが、部員共々所謂コンバットハイになり易い体質らしく、一度ラグビーや歩兵道の試合となると、一言めには『殺せ!』、二言めには『死ね!』が口癖となり、戦闘マシーンと化す。

 

それで付いた渾名が『心優しき殺人兵器(キリングマシーン)』

 

付き合いの長い人間は慣れているが、初めて彼等を見た人は、そのギャップに戸惑う場合が多い。

 

典子がバレー部復活を夢見て戦車道に入ったのを聞いて、それを手伝う為に部員共々歩兵道を受講する。



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紹介します! ワニさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! ワニさん分隊編

 

 

 

 

 

分隊データ

 

随伴チーム:カバさんチーム(Ⅲ号突撃砲)

 

分隊名:ワニさん分隊

 

分隊方針:夢の道を行け!

 

主要メンバー:蹄 磐渡(分隊長・偵察兵)

 

鶏越 鷺澪(砲兵)

 

狗魁 重音(対戦車兵)

 

水谷 灰史(工兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:蹄 磐渡(ひづめ ばんど)

 

性別:男

 

身長:178㎝

 

誕生日:11月27日

 

血液型:O型

 

好きな武器:九二式重機関銃

 

出身:神奈川県横浜市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

詳細:幼い頃からロックが大好きで、特にロックの神様『ジミー・ヘンドリック』を崇拝している。

 

その為ずっとロン毛。

 

小学校の頃、同じ学年同じクラスの鷺澪と重音と出会い、意気投合してバンドを組み、いつか必ず武道館ライブを目指そうと志す。

 

それ以来、ずっとずっと音楽に拘り続けたが、他の子達には見向きにされないまま、中学2年になって遂に挫折した………

 

しかしその後、3人とも大洗男子校に入学し、そこで復活した歩兵道に興味を示す。

 

歩兵道に入れば、女の子にモテモテ、更にはそこで自分達の曲を披露すれば、全国が自分達を認めると考えた。

 

歩兵道に関してはてんで素人だが、それでも前向きに頑張っている。

 

音楽等のライブモードになるとロック気質が迸る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:鶏越 鷺澪(とりこし ろみお)

 

性別:男

 

身長:177㎝

 

誕生日:5月8日

 

血液型:B型

 

好きな武器:The PPSh-41

 

出身:神奈川県横浜市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

詳細:両親は共にワイルド系なロックバンドだが、家庭の方は安泰している。

 

自分の両親がロックバンドである事に誇りを持っている。

 

小学校の頃、同じクラスの磐渡と重音と出会い、意気投合してバンドを組み、いつか必ず武道館ライブを目指そうと志す。

 

それ以来、ずっとずっと音楽に拘り続けたが、他の子達には見向きにされないまま、中学2年になって遂に挫折した………

 

しかしその後、3人とも大洗男子校に入学し、そこで復活した歩兵道に興味を示す。

 

歩兵道に入れば、女の子にモテモテ、更にはそこで自分達の曲を披露すれば、全国が自分達を認めると考えた。

 

歩兵道に関してはてんで素人だが、それでも前向きに頑張っている。

 

音ゲーマニアで、全難易度パーフェクトを狙えるくらい。

 

一旦喋り出すと、マシンガントークを連発する。

 

派手なモヒカンに拘っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:狗魁 重音(いぬかい めたる)

 

性別:男

 

身長:191㎝

 

誕生日:10月9日

 

血液型:A型

 

好きな武器:パンツァーシュレック

 

出身:神奈川県横浜市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

詳細:幼い頃から体が大きかったらしい。

 

父は有名なドラマーで母も同じく有名なピアニスト。

 

小学校の頃、同じクラスの磐渡と鷺澪と出会い、意気投合してバンドを組み、いつか必ず武道館ライブを目指そうと志す。

 

それ以来、ずっとずっと音楽に拘り続けたが、他の子達には見向きにされないまま、中学2年になって遂に挫折した………

 

しかしその後、3人とも大洗男子校に入学し、そこで復活した歩兵道に興味を示す。

 

歩兵道に入れば、女の子にモテモテ、更にはそこで自分達の曲を披露すれば、全国が自分達を認めると考えた。

 

歩兵道に関してはてんで素人だが、それでも前向きに頑張っている。

 

体が大きいことを生かして、バズーカ砲を幾つも担ぎながら、走り回れる。

 

しかも反動すらも耐えるので、その重鎮さが窺える。

 

ワイルドな民族衣装の仮面を付けており、外すのを頑固に拒む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟の考案キャラ

 

名前:水谷 灰史(みずたに はいじ)

 

性別:男

 

身長:160㎝

 

誕生日:12月12日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:U.S.M1カービン

 

出身:千葉県柏市

 

学年:県立大洗国際男子校1年生

 

詳細:少々小柄で線の細い体格、いつもおどおどしている臆病な青年。

 

昔からいじめられてきたせいで、自分に自信がない。自分を変えるため歩兵道を選択した。

 

臆病な性格のため、戦闘の際は見当違いの方に銃をぶっ放したり、味方を誤射してしまうこともしばしばあった。

 

しかし、手先が器用で物作りを活かしたトラップ作成の才能は天才的。

 

また機械の知識が豊富で戦車のメンテナンスも行える。



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紹介します! ハムスターさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! ハムスターさん分隊編

 

 

 

 

 

分隊データ

 

随伴チーム:ウサギさんチーム(M3中戦車リー)

 

分隊名:ハムスターさん分隊

 

分隊方針:勇気を出して頑張ります!

 

主要メンバー:柳沢 勇武(分隊長・工兵)

 

炎苑 光照(対戦車兵)

 

塔ヶ崎 誠也(砲兵)

 

疾河 竜真(突撃兵)

 

ジェームズ・モンロー(偵察兵)

 

竹中 清十郎(偵察兵)

 

桑原 正義(突撃兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:柳沢 勇武(やなぎさわ いさむ)

 

性別:男

 

身長:165㎝

 

誕生日:11月12日

 

血液型:B型

 

好きな武器:九四式拳銃

 

出身:福井県敦賀市

 

学年:大洗国際男子高校1年生

 

詳細:発電所の事故によって両親や弟や妹を失い、天涯孤独の身。

 

それでも決して挫けずに明るい自分を忘れなかったが、内にある恐怖の光景が離れず悪夢に見続けている。

 

その後は、親戚の叔父夫婦の所へ引き取られ、高校生になると、大洗の学園艦で1人暮らしを初めた。

 

歩兵道へと入り、内にある弱虫を克服するべく頑張ろうとする。

 

先輩である舩坂 弘樹を尊敬しており、彼の様になりたいと意気奮闘する。

 

食パンマニアで、パンの上にジャムやバター、蜂蜜はもちろん、目玉焼きを乗せるのに拘っている。

 

逃げ足が異様に早い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:炎苑 光照(ほのぞの ほたる)

 

性別:男

 

身長:158㎝

 

誕生日:9月22日

 

血液型:A型

 

好きな武器:レイジング・M50/55

 

出身:和歌山県白浜市

 

学年:大洗国際男子高校1年生

 

詳細:父は消防庁のエリートであり、忙しくて、中々家に帰って来ない。

 

そして母親に育てられながら、消防士になるのを志す。

 

しかし、そんな夢があるにも関わらず、本人は至って弱虫。

 

銃声や火に恐怖している。

 

そして大洗男子高校に入学し、そこで復活した歩兵道に入り、恐怖を克服する事を目標としている。

 

意外にも指令があれば、迅速に行動する。

 

舩坂 弘を尊敬し、その子孫である弘樹に対しても尊敬する先輩として慕っている。

 

1年の中では腕っ節が強い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:塔ヶ崎 誠也(とうがさき せいや)

 

性別:男

 

身長:176㎝

 

誕生日:1月3日

 

血液型:A型

 

好きな武器:オードナンス QF 6ポンド砲

 

出身:茨城県鉾田市

 

学年:県立大洗国際男子高校1年生

 

詳細:高校進学に伴い、鉾田市から家族全員で学園艦に引っ越して来た。

 

家族は父母の他に祖父母が居り、学園艦の街の外れの方で、誠也を含めた全員で農業を営んでいる。

 

学園艦の土地ながら、昔ながらの自然と一体化した農業を続けており、非常に質の良い作物を育てている。

 

その為、彼の家の作物は、学園艦のスーパーや直売所で非常に人気の商品となっている。

 

本人も、よく学食やクラスメートに、自分で育てた分の作物をお裾分けしたりしており、時には自分で調理した物を皆に振舞っている。

 

性格は優しく穏やかであり、大抵の事は笑って済ませてしまう、大地の様に心の広い青年。

 

しかし、食べ物を粗末にしたり、自然の有難味を知らぬ人間には烈火の如く怒りをぶつける。

 

将来は両親や祖父母の後を継ぐと決めており、歩兵道の授業は体力作りの一環で受講した。

 

普段からトラクターやコンバイン、耕運機を乗り回しているお蔭か、男でありながら戦車を操縦・整備出来る。(本人曰く、農業機械と変わらないとの事である)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:疾河 竜真(はやかわ とうま)

 

性別:男

 

身長:160㎝

 

誕生日:3月17日

 

血液型:A型

 

好きな武器:コルトM1900

 

出身:秋田県鹿角市

 

学年:大洗国際男子高校1年生

 

詳細:脚が凄く速く、自動車に追い付くくらい。

 

足の速さは100mを3秒で走り抜ける。

 

小学校の頃はリレーや徒競走などで1番を手に入れた。

 

中学になってからは陸上部に入り、その脚の速さで県大会に出場したが、三位で留まった。

 

それ以来自分に自信が持てず、弱虫で臆病者となる。

 

しかし、間違った事には決して引かず、真っ直ぐにぶつかる。

 

家族は夫婦そろって養蜂場、林檎、苺などの畑仕事で忙しいため、学園艦で1人暮らしを始めた。

 

親友のジェームズと共に、強くなりたいと思い、歩兵道へと入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ジェームズ・モンロー

 

性別:男

 

身長:159㎝

 

誕生日:7月4日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:S&W M28

 

出身:アメリカ・ワシントン

 

学年:大洗国際男子高校1年生

 

詳細:父はFBI長官、母はアメリカ大統領の間に生まれたご子息。

 

自分の名前の由来は007が大好きな父に付けられたそうである。

 

両親共々忙しい為に構ってもらえず、寂しい日々を過ごしていた。

 

更には自分が大統領の息子である事にコンプレックスを持つ上に、同い年の子供にそれの関係で弄られてた。

 

それがきっかけで感覚が鋭くなり、危険を感じると必ずそれが何処にあると瞬時に分かる。

 

そして中学を卒業し、家出同然でアメリカから離れて、日本の大洗の学園艦へと1人暮らしを始めた。

 

父はジェームズが大洗へと逃げ出したことを知っており、敢えて一月に出す送金も大層なものにしている。

 

親代わりに育ててくれたセバスチャンやメイドのレイチェルに対しては大層感謝している。

 

日本語はカタコトだが、入学早々誰も理解してくれず、弄られてゆくが、そこへ竜真に助けられ、彼とは友達となった。

 

歩兵道に入って、虐めた人達に仕返しするべく強くなる。

 

尚、大洗では彼が大統領のご子息である事は誰1人知らない。

 

日本文化以外は習い事は沢山している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:竹中 清十郎(たけなか せいじゅうろう)

 

性別:男

 

身長:140㎝

 

誕生日:11月28日

 

血液型:B型

 

好きな武器:日本刀

 

出身:茨城県大洗町

 

 

 

学年:県立大洗国際男子高校1年

 

詳細:大洗男子高校所属の剣道部員。

 

現在の情勢を考えて、「歩兵道」を復活させたという大洗男子高校の元へ入学したちびっこ高校生。

 

高校内では生徒会書記も担当している。

 

引っ込み思案だが心根は優しい。

 

最初の頃は砲撃音に対して慌てたりしていたが徐々に慣れていく。

 

頭は賢く体力は普通の高校生位だが、脚力は50メートル走でトップクラスの成績を持つ。(その後、体育教師に陸上部へ勧誘されたが、『歩兵道』と『剣道部』の方がありますからお断りしますと言った)

 

また、意外に負けず嫌いなところもある。

 

司馬とは、入学試験の時に出会った仲で以来、生徒会の仕事で凸凹コンビとしてタッグを組む。

 

戦闘では、北辰一刀流の使い手でその小ささと脚力を利用した攻撃を得意とする。

 

家族は両親と2人の姉と妹が一人いるが、姉達が家事を苦手としていた為、家事全般(特に掃除・洗濯類)は上手。

 

その身長と可愛さから大洗学園や他学校の生徒(主にショタ属性持ちのお姉さま方)によく餌付けされてるのを目撃されてるが、当の本人は同い年の子と恋がしたいらしい。

 

趣味は読書と兵法書を収集することで尊敬する人は、歴史上の人物だと藤堂平助で、リアルだと角谷会長とみほと閣下。

 

因みに、当初は剣道の強い別の学校に進学しようと考えてたが、姉妹の説得を受けて大洗に進学した。

 

好物は、和菓子全般と牛乳。

 

また、現代兵法の研究も熱心に行っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:桑原 正義(くわばら まさよし)

 

性別:男

 

身長:157㎝

 

誕生日:4月22日

 

血液型:B型

 

好きな武器:EMP44

 

出身:宮城県仙台市

 

学年:大洗国際高校1年生

 

詳細:活発で負けず嫌い 気合いを入れるとき口癖で「ガッツ(○○!)」と言い、あらゆる事態を気合いで乗り越える事を信条にしている。

 

父は運動靴会社の社長で、母は婦警をしており、母親譲りの根性さを発揮し、父からプレゼントにもらったランニングシューズで驚異的なスピードで走り抜く事が出来る。

 

挑戦的なチャレンジャーで、勝負を申し込まれると、「おもしれぇっ!」と意気込む。

 

悪い言い方だと勝負バカだが、彼にとっては何事にも挑戦し、気合いで達成し、成長する為の試練らしい。

 

同じ一年生の竜真とジェームズとは初めはお互い競走で競い合う内に、意気投合し、親友同士となる。

 

チビでも最強になれるを決めた竜真の考えを気に入っている。

 

運動神経は抜群で、教官に教えられた戦術で竜真、ジェームズと共に駆使する。



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紹介します!マンボウさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します!マンボウさん分隊編

 

分隊データ

 

随伴チーム:カモさんチーム(ルノーB1bis)

 

分隊名:マンボウさん分隊

 

分隊方針:歩兵道とはこういうものか!

 

主要メンバー:絃賀 月人(分隊長・突撃兵)

 

鎧 鋼賀(突撃兵)

 

文月 弦一朗(突撃兵)

 

伊達 圭一郎(狙撃兵)

 

シメオン・ヘイヘ(狙撃兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール(全員が作者の考案キャラです)

 

名前:絃賀 月人(げんが つきと)

 

性別:男

 

身長:180㎝

 

誕生日:5月5日

 

血液型:A型

 

好きな武器:三八式歩兵銃

 

出身:茨城県水戸市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年・元剣道部主将

 

兵種:突撃兵

 

詳細:先祖代々武門の家柄に生まれた元剣道部の主将。

 

常時異様なまでにテンションが高く、『絶好調である!!』や『フハハハハ、我が世の春がキター!』などと絶叫を挙げている。

 

弘樹とは、彼が何度か剣道部の試合に助っ人として参加しており、顔見知り。

 

傍から見ると怪しいか危ない人にしか見えないが、意外にも普段は言動以外は礼儀正しい。

 

剣道に情熱を全て燃やしていたが、3年となり部活を引退してしまい、生き甲斐を見失いかけていた。

 

しかし、歩兵道・戦車道の試合を見ている内に、本人曰く、闘争本能の目覚めを感じ、弘樹達のスカウトを受けて、新たな生き甲斐としてカモさんチームと同時期に参戦する。

 

腕は立つがその性格ゆえ、すぐに突撃したがる癖がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:鎧 鋼賀(よろい こうが)

 

性別:男

 

身長:174㎝

 

誕生日:4月7日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:RPG-43手榴弾

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:大洗男子校の映画研究部の部長。

 

数々の名作を撮影しており、特にアクション映画では自ら監督兼主演俳優を務め、ハリウッド顔負けの作品を撮影している。

 

『役者が命を懸けてこそ素晴らしい映像が撮れる』と言う事を信条としている。

 

常日頃からアクションシーンのアイデアを考えており、時には思いついたアイデアを自ら実践してたりしている。

 

『学園艦の甲板から海に飛び込む』、『トラックに撥ねられる』、『階段から回転しながら落下する』、『飛んでいるヘリコプターに命綱無しでしがみ付く』など非常に命知らず。

 

しかし、負傷が絶えない身にも関わらず、1度も映画を落とした事無い。

 

そんな姿から『大洗の活劇王』と呼ばれている。

 

戦車道と歩兵道の試合を見ている内に、これは次の映画の良い素材になると思い、カモさんチームと同時期に参入する。

 

自らアクション映画の主演を務めるだけあって、身体能力はかなり高いが、やはり映画部の部長の性で、試合中でも思いついたアクションのアイデアを試したりしてしまう。

 

また、彼は映画を作った際に必ず予告を付けるのだが、その予告内容がかなりブッ飛んでいる事が多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:文月 弦一朗(ふみづき げんいちろう)

 

性別:男

 

身長:177㎝

 

誕生日:5月30日

 

血液型:O型

 

好きな武器:マークⅡ手榴弾

 

出身:東京都

 

学年:県立大洗国際男子高校2年(転校生)

 

兵種:突撃兵

 

詳細:弘樹達のクラスに転校して来た男。

 

短ラン姿にリーゼント、と言った80年代の不良の様な格好をしているが、格好からして個性派揃いの大洗男子校では特別に目立たなかった。

 

しかし、転校初日の挨拶で、『この学校全員の奴と友達になる男だ!』と宣言し、一躍有名になる。

 

その言葉通り、弘樹を初めとして次々と生徒達と友達になって行っている。

 

性格は不良と言うより熱血な性格だが、勉強は少々不得手で、勢いで厄介事に首を突っ込んだりするなど、少々馬鹿っぽい所がある。

 

だが、勘の良さと人に対する観察眼は優れている。

 

白狼程では無いが、かなり高いバイクテクニックを持っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:伊達 圭一郎(だて けいいちろう)

 

性別:男

 

身長:180㎝

 

誕生日:3月18日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:ラハティ L-39 対戦車銃

 

出身:東京都

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:ハンサムで話術が上手く、どこかキザな印象を受ける男。

 

しかし、本来は他人に関わる事を嫌うマイペースなタイプ。

 

街のゲームセンターで射撃ゲームで高得点を出しているのを弘樹に目撃され、狙撃の才能を見い出されて歩兵道へスカウトされるが、前述の性格ゆえ拒否する。

 

だが、弘樹は三顧の礼もかくやの熱意で説得し、遂に折れる形で参入する。

 

『狙い撃つぜっ!』の台詞と共に、対戦車ライフルでの正確な狙撃で、戦車の弱点を狙撃する。

 

また、趣味で八極拳を習っており、接近戦も苦手では無い。

 

意外にもロボットアニメ好きで、その手の話となると普段のキザな態度が嘘の様に熱く語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:シメオン・ヘイヘ

 

性別:男

 

身長:152㎝

 

誕生日:2月28日

 

血液型:A型

 

好きな武器:モシン・ナガンM28

 

出身:フィンランド大公国 ヴィープリ州 ラウトゥヤルヴィ(日本国籍取得済みで帰化している)

 

学年:大洗国際男子校2年(転校生)

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:あのフィンランドの白い死神こと『シモ・ヘイヘ』の子孫。

 

舩坂 弘樹が通っていた国際中学校で同級生で歩兵道仲間の戦友。

 

中学卒業後、弘樹が大洗に引っ越した後は別の国際高校へと通っていたが、西 絹代から弘樹が大洗で活躍している事を知らされる。

 

そして同じく親友の坂井 六郎やハンネス・ウルリッヒ・ルーデル、エグモント・ガーデルマンと共に事情を調べた所、大洗女子学園廃校を阻止する為に戦っている事を知り、彼を助ける為に態々大洗男子校へと転校する。

 

普段は人当たりが良くいつもニコニコと朗らか笑みを浮かべているが、戦闘時には冷酷非情なスナイパーと化す。

 

先祖の狙撃手としての血はしっかりと受け継がれており、小柄の身長で長いモシン・ナガンを自在に操り、スコープ無しにも関わらず、400メートル以内ならば確実にヘッドショットを決める。

 

更には、ボルトアクションのモシン・ナガンを、1分間に21発も撃つ事が出来る。

 

また先祖の血の影響か、ソ連兵に扮した歩兵を見ると、無性に撃ちたくなる。



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紹介します! キツネさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! キツネさん分隊編

 

分隊データ

 

随伴チーム:アリクイさんチーム(三式中戦車)

 

分隊名:キツネさん分隊

 

分隊方針:救い料100億万円、ローンも可

 

主要メンバー:ハンター(分隊長・突撃兵)

 

玖珂 速人(突撃兵)

 

上田 紫朗(砲兵)

 

飛鳥 隆太(対戦車兵)

 

太田 竜作(突撃兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール(全員作者の考案キャラです)

 

名前:ハンター(偽名・本名不明)

 

性別:男

 

身長:180㎝

 

誕生日:1月28日

 

血液型:A型

 

好きな武器:マチェット

 

出身:アメリカ

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:蛇野 大詔のクラスメートで友人。

 

当初は歩兵道に興味は無かったが、友人である大詔が参加している為、『ファンの1人』を名乗って影ながらサポート。

 

サンダース校潜入時にも無線でアドバイスをしている。

 

そして、大会で優勝出来なければ大洗女子学園が廃校になる事を知ると本格的に参戦。

 

銃器の腕は有るが、『戦いの基本は格闘だ』と言う自論を持っており、多くの場合、敵の懐に飛び込んで乱戦に持ち込む。

 

気難しい性格に思われがちだが、意外にもフランクでひょうきん。

 

味方の救援に掛けて『救い料10億万円、ローンも可』などと言ったり、敵軍の戦車の性能を仕切りに褒め、お前はどっちの味方だと言われると『私は常に強い戦車の味方だ』などとギャグを飛ばしたりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:玖珂 速人(くが はやと)

 

性別:男

 

身長:178㎝

 

誕生日:3月27日

 

血液型:A型

 

好きな武器:StG44

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:大洗男子校のスピード狂。

 

父親は陸の大洗の町で、レーシングカーに変形する改造タクシーでタクシードライバーを営んでいる元レーサー。

 

自身も幼い頃から父親にドラテクを仕込まれており、4輪車の操縦テクニックはプロドライバー並み。

 

兎に角乗り物は速く走らせないと気が済まない性格。

 

速さこそが全てであり、有能の証だと信じている。

 

普段は品行方正な模範生徒で文化人だが、一度ハンドルを握ると、スピード狂へと変身する。

 

その際は、口調も早口となる。

 

戦場を猛スピードと駆け抜けるのも面白いと思い、参入。

 

自分が乗る車輌をルールの範囲内でカスタマイズし、戦場を爆走する。

 

前述の通りドライビングテクニックは抜群だが、殆どの人間は彼の運転テクニックに耐えられず、嘔吐してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:上田 紫朗(うえだ しろう)

 

性別:男

 

身長:170㎝

 

誕生日:1月28日

 

血液型:A型

 

好きな武器:M2 107㎜迫撃砲

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校3年

 

兵種:砲兵

 

詳細:県立大洗国際男子高校の風紀委員長。

 

しかし、大洗男子校の風紀など有って無い様なものの為、実際の仕事は目に余る行為をした者の取り締まりや、外部からの侵入者を排除すると言う警備員の様なもの。

 

風紀委員の長と言う事もあり、真面目な性格で、大河はおろか白狼にも度々注意をしていた。

 

だが、人情が無いわけではなく、やむを得ない事情を持つ者には目こぼしをしたりする。

 

空間認識能力が高く、砲撃を狙ったところへ正確に撃ち込める。

 

更には観測手を務めたりし、その援護能力の高さで、大洗部隊の大きな助けとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:飛鳥 隆太(あすか りゅうた)

 

性別:男

 

身長:169㎝

 

誕生日:9月12日

 

血液型:A型

 

好きな武器:試製四式七糎噴進砲

 

出身:不明

 

学年:県立大洗国際男子高校1年(編入)

 

兵種:対戦車兵

 

詳細:ストリートチルドレンで、流れ流れて大洗の学園艦に流れ着き、街で不良を束ねて愚連隊を作っていた。

 

元はそれなりに良い家庭で、両親と妹と共に幸せに暮らしていたが、暴力団絡みの抗争に巻き込まれて、両親と妹を一辺に失う。

 

理不尽な理由で全てを奪われた彼は力に固執する様になり、大洗の街で度々騒動を起こす。

 

警察も彼の率いる愚連隊には手を焼いていたが、その実力を知った弘樹は、歩兵道の才能が有ると確信し、警察の作戦の託けてアジトへと乗り込む。

 

愚連隊の連中をあしらいながら、遂に隆太と対峙。

 

その際に、弘樹に『お前の力には心が無い』と言われ激昂。

 

紆余曲折の末、決闘する事になり、決闘の場で、弘樹と激しい拳闘をかわす。

 

弘樹はトコトン隆太に正面から向き合い、今まで誰も正面から向き合ってくれなかった彼にとっての何よりの救いとなる。

 

結局決闘は、弘樹の勝利で終わり、その弘樹の誘いで、隆太は大洗男子校へ編入し、大洗機甲部隊の一員となる。

 

以後、弘樹の事を『アニキ』、『兄さん』などと呼んで尊敬する様になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:太田 竜作(おおた りゅうさく)

 

性別:男

 

身長:183㎝

 

誕生日:10月18日

 

血液型:A型

 

好きな武器:銃剣(バイヨネット)

 

出身:茨城県牛久市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:とても高校生とは思えない非常にねちっこく、低音でうねる様な声の持ち主。

 

更に奇妙なアクセントの喋り方や、「ぶるぁぁぁぁぁぁぁ」と言った独自の掛け声は、一度聴いたら絶対に忘れられない。

 

神を信じる様な発言を度々しているが、本人は特定の宗教の信徒と言うワケではなく、この世に存在する神全てを認めている。

 

言うなれば全ての神の信奉者。

 

本来は銃の先に装着して使用する銃剣を投擲や手持ち武器として扱い、接近戦のみで敵を圧倒する。

 

普段は礼儀正しく、温和で優しいが、生粋の戦闘狂(バトルジャンキー)であり、その迫力と独特の叫び声で襲われる敵とってはトラウマものである。

 

 



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紹介します! おおかみさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! おおかみさん分隊編

 

分隊データ

 

随伴チーム:レオポンさんチーム(ポルシェティーガー)

 

分隊名:おおかみさん分隊

 

分隊方針:俺達が進むのは自分の道

 

主要メンバー:神狩 白狼(突撃兵・分隊長)

 

宮藤 飛彗(狙撃兵)

 

江戸鮫 海音(対戦車兵)

 

日暮 豹詑(突撃兵)

 

浅間 陣(狙撃兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:神狩 白狼(かがり ほろう)

 

性別:男

 

身長:174㎝

 

誕生日:4月21日

 

血液型:O型

 

好きな武器:Kampf Pistole(グレネードピストル)

 

出身:三重県鈴鹿市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:幼稚園の年少から自転車を乗りこなし、小学校、中級の頃から、ジュニアバイクレーサーとして活躍し、デビューの頃から信じられないくらいの記録を更新し続け、本格的なバイクレーサーとなった。

 

その為、学校にこられるのはたまにだけでそれ以外は、バイクサーキットで何度もバイクを乗り回している。

 

ロードレースだけに留まらず、モトクロス、トライアル、ダートトラック、エンデューロなどなどオートバイ競技では史上最年少で根こそぎ全て制覇しつくした。

 

しかも、バイクスタントにも挑戦し、見事な活躍を見せている。

 

その為つけられた異名が『神速の狼王(ルボール)』

 

しかし大抵は『無敵の怪物狼(ベオウルフ)』とも呼ばれている。

 

更にバイクだけでなく、当時小学生だった頃、バイク整備長から拳法を習っており、かなり強い。

 

現在、そのバイク整備長は黒森峰にいるため、みんなに内緒で黒森峰まで乗船して、拳法の続きを習おうとするが、黒森峰の生徒会長『揚羽』との出会いにより更なる武術を得る。

 

その後、拳法の中で剛の八極拳、柔の八卦掌と生徒会長が開発した『総合格闘術』を極めた。

 

黒森峰の情報は大洗に提出せず、飽く迄自分個人の為にやっている。

 

アインシュタインとは中学の入学試験で出会っており、あるきっかけで親友となり、飛彗がナンパで困っているところへ助けた後、親友となった。

 

それから飛彗に、拳法を少しだけ教えた。

 

因みにアインシュタインと親友となってからは、物理学に興味を持ち、理系で良い成績をとっている。

 

美術では絵心が全く無く、熊の絵かと思えば猫の絵だったりと全然分からない正体不明の生物の絵も描くので、画伯と称号を与えられた。

 

見た目のルックスから女の子からよくモテるが、本人は自覚が無い………

 

しかも、全種目バイクレーサー制覇にて有名になった為、ファンが多い。

 

性格はかなりの皮肉屋で、どんな相手であろうと攻撃的な皮肉を言いまくる。

 

当初は歩兵道に入ることを拒んでおり、理由としてはバイクは交通や競技スポーツの一環の為、それ以外に使う事は許さないと断言する。

 

友達はちゃんと選んでおり、簡単に作ろうとせず、実はかなりの人見知り。

 

バイクスタントでの経験なのか、バイクの上に乗りながらの格闘アクションを得意としており、かなり危険な場所でも披露する。

 

『狼』という異名を持つ者は戦場にて優れた存在、その為、同じ狼の異名を持つものやバイクを駆る者ですらも目を付けられる。

 

彼がどこか行こうとすると絶対に見つけられないため、『一匹狼モード』と呼ばれている。

 

中学の頃は、学園艦には留まらず、鈴鹿から学園艦へと通学する形で登校する。

 

世界中から注目され、中学三年からバイクの仕事で特別待遇生徒という扱いを受けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:宮藤 飛彗(みやふじ ひすい)

 

性別:男

 

身長:171㎝

 

誕生日:1月31日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:モシン・ナガン

 

出身:北海道釧路市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:男性らしからぬ長髪と母親譲りの美貌の持ち主。

 

その為、顔立ちは中性的。

 

北海道に生まれた故か、自然界が大好きで、彼曰く森林浴をしながら昼寝をすると最高に気持ちいいらしい。

 

丘に登り満天の星空をみるのも最高の眺めだそうだ。

 

大自然やそこに生きる動植物達とも会話が出来ると言う。

 

戦闘時はそんな能力を駆使し、草木などの素材を生かして木の上や枯れ葉などに擬装しながら、約5~6㎞までの距離から狙撃できる。

 

だが彼曰く、もっと遠くまで狙えるらしい。

 

白狼とは1年からの親友で、大洗での学園艦に乗る前に、町で女と間違われて複数の男達にナンパされかけた所に、助けられ、右も左も分からない自然界とはかけ離れ苦手な町中を案内しながら、学園艦へと乗り、大洗国際男子校へと入学した。

 

五十鈴 華に対し、彼女の実家での出来事以来、敬愛と尊重を重んじている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:江戸鮫 海音(えどざめ かのん)

 

性別:男

 

身長:182㎝

 

誕生日:7月16日

 

血液型:O型

 

好きな武器:EMP35

 

出身:東京都千代田区

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:江戸っ子気質の、白狼の親友兼喧嘩仲間。

 

握り寿司店と魚屋をやっている店主の息子で、母はTV番組のお料理教室の司会を勤めている。

 

現在生きている祖父は、漁師で現在は遠洋漁業に出ており、父曰く仕事は命懸けだそうである。

 

海音自身はそんな家族に対し、尊重しており、自分もいつか自分の道を探そうと、父の仕事を手伝っている。

 

中学の頃は体が大きい事を生かして親父の拳骨譲りの喧嘩に明け暮れた。

 

そして現在、父の仕事の都合上にて大洗の学園艦へと引っ越し、そこで店を開いた。

 

大洗に来てまで白狼と出会い、喧嘩を繰り返していた。

 

更にこの頃から、飛彗と煌人とも知り合っている。

 

復活した歩兵道に関しては、祖父がかつて歩兵道に参加した事を思い出し、歩兵道に入れば子々孫々尊敬出来る大物になれると思い参加する。

 

魚料理が得意で、握り寿司も出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:日暮 豹詑(ひぐらし ひょうた)

 

性別:男

 

身長:174㎝

 

誕生日:3月15日

 

血液型:A型

 

好きな武器:RPD軽機関銃

 

出身:大阪府道頓堀

 

学年:大洗男子高校2年

 

詳細:大阪の食い倒れで有名な道頓堀のお好み焼き、たこ焼き、串カツなどの多数を揃えている店に生まれた。

 

行列の出来るむっちゃ有名なお店で、TVや雑誌にも何回か出た程。

 

両親の手伝いをしながら喧嘩に明け暮れていた。

 

喧嘩相手は道頓堀のラーメン屋の息子や、焼き肉やの息子など、ライバル店が多い。

 

しかし本人は男と男の拳のぶつけ合いに情熱を燃やし、自身の体を鍛えながら喧嘩するうちに友情が芽生えた。

 

中学3年の頃、食道楽と呼ばれる食べ物関係のイベントにて、全国から集まった食のテーマを元に一番美味しい国はどこかと言う結果により、豹詑のお店とライバル達の店が共に協力し、結果大阪が1位となり、浪速の誇りとなった。

 

だが、中学3年の終わりに、親の都合により茨城へと引っ越す形となった。

 

しかし引っ越し先の高校生生活が大洗の学園艦という事に驚きながらも、そこで1人暮らしを決意する。

 

寮の部屋にはホットプレートとたこ焼きプレートがあり、両親からちょくちょく小麦粉やら送ってくる。

 

大阪でのライバルに影響されたのか、ラーメンも作れる故に秘伝のスープも作れる。

 

高校に入って喧嘩を始めるが、白狼の強さに驚き、海音との拳の友情で、3人一緒に親友となった。

 

更にこの頃から、飛彗と煌人とも知り合った。

 

復活した歩兵道に関しては、興味が沸き、浪速の関西人魂を見せつけたるという意気込みで参加する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟の考案キャラ

 

名前:浅間 陣(あさま じん)

 

性別:男

 

身長:190㎝

 

誕生日:4月1日

 

血液型:A型

 

好きな武器:モシン・ナガンM1891/30、シモノフPTRS1941、サバイバルナイフ

 

出身:長野県軽井沢町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

詳細:高校2年生とは思えない体格の持ち主で、物静かというか会話はすべてボディランゲージで行う寡黙過ぎる青年。

 

喋れないわけではないが、誰も彼の声を聞いたことがない。

 

狙撃兵としての訓練を幼い頃から積んでおり、自身の存在を消すことに長けており、いつの間にか背後に立っていたりする。

 

恵まれた体格のおかげで、対物、対戦車ライフルなどの大型の銃を軽々と扱える。

 

しかしその反面、普通の銃などは彼にとっては小さ過ぎて逆に扱い難い。

 

狙撃兵のため常に冷静な態度を取る様にしている為、冷たい人間だと思われがちだが、守ると決めたものは死力を尽くしても守りきるという熱い一面や仲間思いの一面もある。



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紹介します! タコさん分隊編

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します! タコさん分隊編

 

分隊データ

 

随伴チーム:サンショウウオさんチーム(クロムウェル巡航戦車)

 

分隊名:タコさん分隊

 

分隊方針:正々堂々と勝負だ!!

 

主要メンバー:内藤 英洲(分隊長・突撃兵)

 

杷木 拳龍(偵察兵)

 

白鳥 弁慶(対戦車兵)

 

ルダ・シャッコー(突撃兵)

 

ジャクソン・ダート(偵察兵)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分隊員プロフィール(全員作者の考案キャラです)

 

名前:内藤 英洲(ないとう えいす) 通称・エース

 

性別:男

 

身長:176㎝

 

誕生日:2月7日

 

血液型:O型

 

好きな武器:ガモン手榴弾

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校3年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:元野球部のキャプテンでエースピッチャー。

 

3年になり引退し、現在はOB的な立場を取っていたが、大洗女子学園廃校の話を聞き付け、歩兵道へと参戦する。

 

選手時代は例え相手がラフプレイをしようが、反則をしようが、常に正々堂々と戦い、勝ち抜いて来たと言うスポーツマンシップを体現する男。

 

その熱い魂から生み出される数々の言葉は有無を言わせぬ説得力を以ており、それによってスポーツシップを思い出したり、目覚めたりした選手は数知れない。

 

故に、西住流の武道としての在り方を、真正面から否定した。

 

元エースピッチャーだけあってかなりの強肩であり、手榴弾を野球ボールの様に投げる事が出来る。

 

気持ちが高ぶって来ると、『俺の血潮が沸騰するぜ!』と口走ったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:杷木 拳龍(はき けんりゅう)

 

性別:男

 

身長:173㎝

 

誕生日:2月1日

 

血液型:O型

 

好きな武器:FN ブローニングM1910

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校3年

 

兵種:偵察兵

 

詳細:エースの昔馴染みの親友。

 

実家が空手の道場であり、免許皆伝の腕前。

 

しかし、元々本人が虫も殺せないほど優しく、温和な性格をしている。

 

その為、学校の空手部に半ば無理矢理入れられたものの、特に活躍できずに引退してしまった。

 

だが、一度拳を振るえば、その鉄拳は戦車の装甲をも突き破る程に凄まじい。

 

また、異様なまでにタフで頑丈な身体をしており、戦闘服を着ないで戦車砲の直撃を受けても、平然とした様子で「平気だよ」と言ってのける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:白鳥 弁慶(しらとり べんけい)

 

性別:男

 

身長:173㎝

 

誕生日:5月19日

 

血液型:A型

 

好きな武器:PIAT

 

出身:茨城県大洗町

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:対戦車兵

 

詳細:幼い弟3人、妹3人が居る大家族の長男。

 

両親はどちらも学園艦の機能運営のオブザーバーを務めており、多忙で家に居る事は少ない。

 

なので、弟や妹の面倒は、大抵彼が見ている。

 

そんな経緯のお蔭で家事全般が得意であり、穏やかで優しく礼儀正しい性格。

 

少々ドジなところがあり、話し下手で女性はやや苦手。

 

歩兵道へは以前から興味を持っていたが、前述の家庭の事情があり参加出来ずに居た。

 

しかし、エースの説得を受け、弟や妹達が自分を気遣う姿を見て、その厚意を無下にしない為に遂に参戦する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ルダ・シャッコー

 

性別:男

 

身長:230㎝

 

誕生日:12月2日

 

血液型:O型

 

好きな武器:モンドラゴンM1908

 

出身:スイス

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:2m30㎝と言う身長に加え、熊かと思える程の巨体を持つ男。

 

先祖代々から傭兵をやっている一族の生まれで、両親・親戚は全て神大コーポレーション傘下のPMCに勤めている。

 

本人も傭兵気質で、弘樹から歩兵道への勧誘を受けた際には、報酬を条件に快諾している。

 

しかし、寡黙だが信義に篤い性格をしており、命令に忠実なだけの兵士ではない。

 

みほに対して母親として接せず、西住流の師範として接するしほに対し、『アンタは人間のクズだな!』と言って、大洗部隊の仲間達やまほを仰天させた。

 

その巨体通りにパワーは凄まじく、戦車用の装甲板を盾代わりに腕に装着して、重機関銃を片手で持って銃撃戦を行える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ジャクソン・ダート

 

性別:男

 

身長:187㎝

 

誕生日:9月21日

 

血液型:B型

 

好きな武器:M1928A1

 

出身:アメリカ・テキサス

 

学年:県立大洗国際男子高校2年

 

兵種:偵察兵

 

詳細:アメリカからの留学生。

 

………なのだが、英語交じりの日本語で喋ると言う、インチキアメリカ人口調の男。

 

その言い回しは敵はおろか、味方さえもイラッとさせる。

 

同じアメリカからの留学生であるジェームズ・モンローには、アメリカが誤解されると頭痛の種になっている。

 

腕はそれなりにあるのだが、トリガーハッピーの気があり、1度引き金を引くと敵が全滅するか、弾が切れるまで射撃を止めない困った奴。



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紹介します!サンショウウオさんチーム

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


チーム名:サンショウウオさんチーム

 

使用戦車:クロムウェル巡航戦車Mk.Ⅲ

 

チーム方針:スクールアイドルも戦車道も、やるからにはトップを目指します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:郷 聖子(ごう せいこ)

 

性別:女

 

身長:157㎝

 

誕生日:4月19日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:巡航戦車クロムウェル(つまり、見つけた戦車を好きになった)

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:大洗女子学園2年生

 

戦車チーム:サンショウウオさんチーム

 

詳細:前向きで努力家な上に、決めた事を最後までやり遂げる熱い性格。

 

だが結構天然なおっちょこちょいで、何も無い所で転ぶ事もある。

 

いつも笑顔でとにかく元気が取り柄。

 

直感と思いつきで行動し、一度決めたら猪突猛進の一直線。

 

多少の困難があっても持ち前の超ポジティブシンキングで次々と突破してゆく。

 

周りに対し気配りするほどの優しさを持ち、皆を勇気付けたりする。

 

母校である大洗女子学園が廃校になる噂をいち早く知り、その危機を回避する具体的な術を考える。

 

学校のいいところを幼馴染の伊代と優と一緒に探すが何も無く困り果てていた時、丁度戦車道が復活すると言う話に驚くものの、その時点では興味が無かった。

 

そして、グロリアーナ&ブリティッシュの練習試合があった日、ナイショで本土で久々にクレープを食べてると、町中の誰もが今度の戦車道で優勝するのかを噂しているのを聞き、その中で出て来た誰もが口にする『ジュラシック』という学校の名が妙に耳に残った。

 

その学校を調べてみると、新入生の入学数が大洗の数倍にもあるといわれ興味津々。

 

次の日、1人朝早くから早起きし、ジュラシックと言われる学園艦へと向かった。

 

大洗の学園艦よりも遙かに大きく、学園艦上に出ただけでいつの間にか大都会というありえない学園艦レベルに度肝を抜かれた。

 

学生服姿の高校生を発見し後をつけると、今までの学校とは違うビル式の学校や入校する時に携帯で照合タッチするなど、未来的な光景に益々興味津々となる。

 

その時、学校の外で凄い数の人達が集まり出したのに気付くと、学校にある巨大なテレビの大画面に、自分達と同い年くらいの女子高生達がダンスをしながら歌っている映像に見惚れる。

 

そして、この女子高生(グループ名:ダイノライト)は戦車道をやっており、それと同時にこのスクールアイドルと言うのをやっていると言うのを知る。

 

この時、ある事が閃いた。

 

彼女の目標は大洗の廃校回避。

 

その為に、目指せトップスクールアイドル!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:西城 伊代(さいじょう いよ)

 

性別:女

 

身長:157㎝

 

誕生日:4月19日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:巡航戦車クロムウェル(見つけた戦車を好きになった)

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:大洗女子学園2年生

 

詳細:衣装屋の娘であり、聖子の幼馴染。

 

周囲から天然ボケと言われるドジっ娘。

 

アイドル活動などには自信は無いが、歌ったり踊ったりするのが大好き。

 

絵や裁縫が上手で、衣装も彼女が作っている。

 

アイ活に最初に加わり、優にも参加を勧めた。

 

衣装製作だけでなく、ダンスステップの考案など担当。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:東山 優(ひがしやま ゆう)

 

性別:女

 

身長:160㎝

 

誕生日:7月3日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:歩兵戦車チャーチル

 

出身:埼玉県さいたま市

 

学年:大洗女子学園2年生

 

詳細:日舞の家元に生れており、長年女子校育ちの大和撫子。

 

その為、剣道、柔道、弓道、華道などを習っている良妻賢母。

 

大人しい雰囲気を持ち、当初は聖子の思いつきを非難していた。

 

だがかなり妄想癖が激しく、自分がアイドルになってきゃぴきゃぴしているのを想像し、弓道などに身が入らない事もあった。

 

とはいうものの、いざアイドル活動に加わると、オモチャのマイクを持っては自分がアイドルになっている想像などをしている。

 

心の中では本人は今の自分を情けないと思っている。

 

中学の頃は良くポエムとか詩とか書いていた為、作詞などを担当(お察し下さい)。

 

余りにも真面目過ぎる為、一部の者達から弄られてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:植草 明菜(うえくさ あきな)

 

性別:女

 

身長:157㎝

 

誕生日:3月15日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:戦車については知らない

 

出身:三重県鈴鹿市

 

学年:大洗女子学園1年生

 

詳細:天然で行動派のキュートな女の子。

 

弁当チェーン店の娘だけあって友達からは「歩くレシピ」と称されるほど料理が得意で、お祭り好きで、よく買い食いする。

 

これと言ってテレビなどのアイドルを含む芸能界に興味の無い普通の少女だったが、

 

一歳年上の幼馴染である白狼がジュニアレーサーとして轟くほど有名になったというニュースやそれに関連するレース番組などは欠かさず観ていたが、天地の差である自分と白狼に対し、ちょっとだけコンプレックスを抱くが、静香に誘われ、とあるトップアイドルのライブを見たことで衝撃を受け、更には大洗にて初のライブを見た瞬間、速攻で入隊した。

 

運動やスポーツが苦手だが、それを克服しようと全力で頑張る努力家である。

 

勢い余って失敗する事もあるが何事にも一生懸命に取り組む性格で、スポーツは苦手でも、筋力やスタミナ自体はかなりのものがあるのかもしれない。

 

よく食べる性格で食べる事自体が大好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:玉元 静香(たまもと しずか)

 

性別:女

 

身長:156㎝

 

誕生日:10月1日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:IS-3重戦車

 

出身:群馬県 

 

学年:大洗女子学園1年生

 

詳細:聞き上手だが話しかけるのは苦手な、引っ込み思案な少女だが、やる時はやる意志の強い少女。

 

子供好き。

 

以外にも武術の才能がある。

 

ステーキが大好きで、大洗のステーキハウスの高いお肉が大好き。

 

でも、どんなステーキでも彼女は幸せそうに頬張る。

 

アイドル好きで、マニアックなグッズの情報も網羅している。

 

更にはアイドルに関する知識なら何でも知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:錦織 満里奈(にしきおり まりな)

 

性別:女

 

身長:155㎝

 

誕生日:11月30日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:分からない

 

出身:奈良県奈良市 

 

学年:大洗女子学園1年生

 

詳細:ハードルとサッカーを得意とするスポーツ少女。

 

物事のやり始めが遅く、少し泣き虫だが、元気はあり余っている。

 

料理が得意で、ハンバーグに目がない。

 

サンダース校に勝利した後のデビューライブに遅れながらも来ており、聖子達のライブっぷりに感動し、アイ活に入る。

 

語尾に時々『にゃ』をつけるなど猫を思わせる言動をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:天地 唯

 

性別:女

 

身長:171㎝

 

誕生日:6月9日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:M18 ヘルキャット

 

出身:神奈川県 

 

学年:大洗女子学園3年生

 

戦車チーム:サンショウウオチーム

 

詳細:極道組長とマフィアの間に生れた、コテコテのヤンキー。

 

本土にいた頃は、超がつくほどかなり荒れてる番長であり、千組の暴走族を連れて多くの人達に迷惑をかけるなどしていた。

 

警察に追われても、逆に返り討ちに遭わせたりするため、軍隊でなければ彼女達を止められる者はいないと言われた。

 

恐喝、強盗、はてには暴力など、とにかく悪行の数々をしでかした為、多くの人達からは嫌われていた。

 

更に彼女のバックには組合やマフィアなどの権力もある為、誰も彼女に逆らおうとはしなかった。

 

しかし、ある事件がきっかけで、多くの組合や暴走族が全滅してしまい、更には実家ですらも警察に逮捕され、崩壊してしまい、全てを失う。

 

そして番長である事に疲れ、過去の事を一切忘れようと決心してヒッソリと学園生活を続けていた。

 

だが、その途中でアンツィオ&ピッツァ機甲部隊に勝利し、お客は少ないものの見事なライブステージを披露した聖子達に魅せられ、唯は自分のイメージを変える為にと意気込み、聖子達の仲間に入った。

 

まだまだスクールアイドルとしては未熟で、笑顔を作るのが苦手で、ステップの動きも全然ダメ。

 

その上歌唱力はガラスを割るほど音痴で猫や犬すらも悶えて倒れるほど。

 

自分の欠点だらけに絶望し挫折しかけたりもしたが、聖子達に励まされて活動を続ける決心をする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:黄昏の真祖『レティシア・フォン・ファンタズミク』(本名:諸星 今日子)

 

性別:女

 

身長:161㎝

 

誕生日:12月25日

 

血液型:わが血液は無限の力を秘めておるぞ(AB型)

 

好きな戦車:煉獄の魔戦車(チャリオット)『フォーマルハウト』(戦車を全然知らない)

 

出身:神をも寄せ付けぬ禁断の蜃気楼大陸にそびえたつダークキャッスル(本当は石川県)

 

学年:大洗女子学園1年生

 

戦車チーム:サラマンダーチーム(サンショウウオ)

 

鬼の間に生まれ、人間の環境で育てられた推定666歳。

 

右目は過去や未来を見通す瞳であり、左目は全てを屈服させる瞳の持ち主。

 

全てを蹂躙させし支配力をもっており、桁外れに高い魔力の持ち主。

 

破滅の魔帝の力を右手に宿した少女、悪魔の力を狙う組織や過去の敵の生まれ変わりと戦う運命を背負う。

 

日差しが弱いため手に持つ日傘は、常に常備しているが、魔力を込める事で、魔皇刃『ダークブリンガー』と化し、黄金色に輝く満月の夜は何千倍も高まる。

 

………という設定のキャラクターを徹底して演じており、普段は吸血鬼キャラに則って高飛車でクールな態度で振る舞っているが、素はとても大人しく素直な性格と地味目な見た目の女の子。

 

様は中二病。

 

白狼の事を『信念をも貫く勇敢なる大神』と称す。

 

子供の頃から、吸血鬼に関する小説や少女漫画を読んでいる内に、その魅力にハマってしまい、今に至っている。

 

常に吸血鬼キャラを演じており、ローズヒップティーやトマトジュースしか愛飲しないが、自身の好物はラーメン全般で、その中でもにんにくたっぷりのとんこつラーメンが大好き。

 

更にピアノの演奏がとても上手という特技がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:内海 郁恵

 

性別:女

 

身長:159㎝

 

誕生日:10月4日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:巡航戦車チャレンジャー

 

出身:青森県 

 

学年:大洗女子学園1年生

 

戦車チーム:サンショウウオさんチーム

 

詳細:アメリカから帰国した帰国子女で、大洗女子学園1年生。

 

アメリカ全土でチェーン展開している超高級すし屋の社長令嬢。

 

寿司屋のキャッチフレーズで幼い頃から自社CMに出演してアメリカでは超有名人。

 

アイドル登竜門のテレビ番組キッズクラブのメンバーでもあったアメリカのスーパーアイドル。

 

人を楽しませることが大好きで、タップダンスや手品が得意。

 

ロック音楽が好き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:薬丸 早苗

 

身長:171㎝

 

誕生日:2月9日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:美しく堅牢かつ煌びやかに輝くもの

 

出身:愛知県

 

学年:大洗女子学園2年生

 

詳細:神大コーポレーションに次ぐ富豪・薬丸家の令嬢。

 

その為か、常にお嬢様言葉で喋る。

 

ぱっと見は勝気で強気、一見自分勝手で高飛車な性格に感じられがちだが、根はお人好しで天然ボケなところもあり、憎めない性格。

 

しかし、お嬢様的な価値観が災いして時に無神経な発言をしてしまう事もある。

 

本人は自身を「容姿端麗で頭脳明晰、全てに優れた完璧超人」だと思い込んでいるところがある。

 

聖子達のスクールアイドルの活動に驚き、自身の経験とは全く違う光景に興味を持ち、チームへと入る。

 

ちなみの将来の夢は「お嫁さん」らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:近藤 里歌

 

性別:女

 

身長:168㎝

 

誕生日:4月29日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:なし

 

出身:東京都 千代田区

 

学年:大洗女子高校2年生

 

詳細:性格はとにかく真面目で気が強く、他人に厳しく、生徒会や先生相手でも物怖じせずはきはき言うため下級生から人気がある。

 

委員長をやっており、プライベートにおいてもだらしない風紀を自分から取り仕切りたがる癖がある。

 

ハレンチな事が大嫌いで、そういう事を目の当たりにすると「ハレンチな!」と叫ぶ!

 

真面目ゆえに優と共に非常に弄られやすい傾向にある。

 

空手を習っており、主将級の実力を持ち、コンクリートの電柱に自分の拳を埋め込むくらい。

 

さらには卓越した足技を持ち、標識をへし折るくらい。

 

表向きはきつめな性格が目立つが、先輩や、年上、更にはお年寄りには礼儀正しかったり、子供達に懐かれたりと根はかなり優しい性格。

 

実は彼女は幼稚園の頃からアイドルが大好きで、教育テレビを見ながらダンスを楽しみ、小学校の頃からジュニアダンススクールに通い、アイドル専門雑誌を読みながらアイドルに関することなどを独学し、猛勉強し、猛特訓していた。

 

そして史上最年少で武道館ライブをするのが彼女にとっての夢であり、生きる目標でもある。

 

そして中学になる直前………

 

本土にある超有名なアイドル養成学校へ入学試験を受けるもの、不合格となり落ち込んでしまった。

 

その後、別の養成所に入れたが、自分と同い年・同時期に試験を受け合格した『飛鳥城星姫(あすかじょうきらら)』が、その年中にトップアイドルとなった上、史上最年少で武道館LIVEを決行した。

 

夢だった生きる目標が見事に奪われ、果されてしまい、塞ぎ込んでしまった。

 

自分の夢やアイドルが世界一大嫌いとなり、それとは無関係の法律関係の勉強に精を出す。

 

そして叔母との別れと同時に、大洗へと寮生活を始め、叔母から度々貰う生活費などで何とか生きている。

 

大洗の廃校をいち早く知っており、その運命を受け入れようとする。

 

しかしそれを回避すべく奔走する聖子達に呆れ、その上、彼女のスクールアイドルという提案に、彼女は忌々しくなり、スクールアイドルを辞めさせようとする。

 

生徒会すらも彼女達を味方にするため、周りに対して批判的な態度を取る。

 

プラウダ校戦に勝利した後、聖子は有無を言わさずライブを始め、お客から盛大なアンコールと拍手の様子を見た瞬間、

 

聖子達の懸命な姿に感化されてしまい、かつて自分がつらい努力でアイドルを目指す為の姿を重ねる。

 

そしてとうとう、里歌もスクールアイドルになった。

 

ダンスなどのコーチも担当する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:赤坂 さゆり

 

性別:女

 

身長:155㎝

 

誕生日:9月1日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:M24軽戦車チャフィー

 

出身:島根県 

 

学年:大洗高校1年生

 

詳細:少し内気な性格の下級生で、演劇部に所属しているがあがり症なのが玉にキズ。

 

しかしみんなが見えないところで必死に練習している努力家でもある。

 

「なのです」という口調が特徴。

 

メルヘンチックでロマンチックな性格ゆえ、絵本や神話、更には怖い話などにも興味津々で、UFOなどの超常現象や心霊現象にも関心を持つ。

 

魔法などにも興味があり、ホビットの冒険やハリーポッターシリーズを読みつくした。

 

しかし両親は共に科学関係なため、非科学現象に対しては良い反応をしてくれないため寂しい想いをしている。



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紹介します!『第一航空専門学校の航空部隊』と『広島県立呉造船工業学校』

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


紹介します!『第一航空専門学校の航空部隊』と『広島県立呉造船工業学校』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ハンネス・ウルリッヒ・ルーデル

 

性別:男

 

身長:173㎝

 

誕生日:5月4日

 

血液型:O型

 

好きな航空機:Ju87G-1

 

出身:西ドイツ バイエルン州ローゼンハイム(日本国籍取得済みで帰化している)

 

学年:第一航空専門学校2年生

 

担当航空機:爆撃機

 

詳細:あの『空の魔王』であり、『戦車撃破王』と言われ、『ソ連人民最大の敵』と呼ばれたハンス・ウルリッヒ・ルーデルの子孫。

 

舩坂 弘樹が通っていた国際中学校の同級生で、航空機道で支援を担当していた親友。

 

中学卒業後、弘樹が引っ越した後は、坂井 六郎と相棒のエグモント・ガーデルマンと共に第一航空専門学校へと通っていたが、西 絹代からの連絡で、弘樹が大洗で活躍している事を知る。

 

そして同じく親友のシメオン・ヘイヘや坂井 六郎、相棒のエグモント・ガーデルマンと共に事情を調べた所、大洗女子学園廃校を阻止する為に戦っている事を知り、彼を助ける為に大洗の航空支援部隊を買って出る。

 

祖父の人外の血はしっかり受け継がれており、兎に角3度の飯より出撃する事が大好きな出撃狂。

 

重傷を負っていようが、重病であろうが兎に角出撃しないと気が済まない。

 

戦車を撃破する事を至上の喜びと感じており、特にソ連製の戦車を見ると、即座に撃破したくなる。

 

被撃墜数はかなりのものだが、それ等は全て高射砲によるもので、戦闘機に撃墜された事は1度も無い。

 

また、爆撃機乗りでありながら戦闘機を撃墜した事もあると言う、正にリアルチート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:エグモント・ガーデルマン

 

性別:男

 

身長:172㎝

 

誕生日:6月15日

 

血液型:A型

 

好きな航空機:Ju87G-1

 

出身:西ドイツ ノルトライン=ヴェストファーレン州ヴッパータール(日本国籍取得済みで帰化している)

 

学年:第一航空専門学校2年生

 

担当航空機:爆撃機(後部機銃座担当)

 

詳細:ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの相棒として1番の知名度を誇るエルンスト・ガーデルマンの子孫。

 

舩坂 弘樹が通っていた国際中学校で同級生で、航空機道で支援を担当していた親友。

 

中学卒業後、弘樹が引っ越した後は、坂井 六郎とハンネス・ウルリッヒ・ルーデルと共に第一航空専門学校へと通っていたが、西 絹代からの連絡で、弘樹が大洗で活躍している事を知る。

 

そして同じく親友のシメオン・ヘイヘや坂井 六郎、ハンネス・ウルリッヒ・ルーデルと共に事情を調べた所、大洗女子学園廃校を阻止する為に戦っている事を知り、彼を助ける為に大洗の航空支援部隊を買って出る。

 

本来は医者志望で、航空機道には興味を持っていなかったが、ハンネスに見つかってしまったのが運のツキ。

 

御先祖様同様、無理矢理後部機銃座担当にされてしまう。

 

ハンネスがルーデルの孫と知った際には、全てを諦めた様に相棒となる。

 

ハンネスも人外だが、彼も大概化け物。

 

後部機銃座担当でありながら敵エースパイロットを撃墜したり、ハンネス共々撃墜されて負傷し、救護所に運ばれたところ、ハンネスに「こうしちゃ居られない。行くぞガーデルマン、出撃だ!」と連れて行かれた等の伝説が有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:坂井 六郎

 

性別:男

 

身長:175㎝

 

誕生日:9月3日(乙女座)

 

血液型:B型

 

好きな航空機:零戦二一型

 

出身:佐賀県佐賀郡西与賀村

 

学年:第一航空専門学校2年生

 

担当航空機:戦闘機

 

詳細:『大空のサムライ』こと坂井 三郎の子孫。

 

舩坂 弘樹が通っていた国際中学校で同級生で、航空機道で支援を担当していた親友。

 

中学卒業後、弘樹が大洗に引っ越した後は、ハンネス・ウルリッヒ・ルーデルとエグモント・ガーデルマンと共に第一航空専門学校へと通っていたが、西 絹代からの連絡で、弘樹が大洗で活躍している事を知る。

 

そして同じく親友のシメオン・ヘイヘやハンネス・ウルリッヒ・ルーデル、エグモント・ガーデルマンと共に事情を調べた所、大洗女子学園廃校を阻止する為に戦っている事を知り、彼を助ける為に大洗の航空支援部隊を買って出る。

 

豪放磊落で気さくであり、兄貴肌。

 

礼節を重んじる武人であるが、恋に対しては情熱的。

 

ふとした偶然からねこにゃーの素顔を見てしまい、一目惚れ。

 

それ以来、『君の存在に心を奪われた!』だの『この気持ち、正しく愛だ!!』等と何とも情熱的なアプローチを度々掛けている。

 

第一航空専門学校の戦闘機部隊の隊長を務めており、今までに1度も僚機を失わなかった事が自慢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:新代 護(しんだい まもる)

 

性別:男

 

身長:178㎝

 

誕生日:2月15日

 

血液型:A型

 

好きな軍艦:陽炎型駆逐艦

 

出身:広島県呉市

 

学年:広島県立呉造船工業学校3年

 

所属:駆逐艦『雪風』・艦長

 

詳細:弘樹の中学生時代の先輩。

 

戦車道、歩兵道に並ぶ兵器運用武道、『軍艦道』を嗜んでいる。

 

中学時代は砲撃長を担当し、洋上からの掩護砲撃で、弘樹達を助けていた。

 

その後、軍艦道が最も盛んな広島県の呉造船工業学校へ進学。

 

その能力で、駆逐艦『雪風』の艦長に上り詰める。

 

偶然試合で大洗を訪れた際に、連絡船に乗り遅れて、港で立ち往生していた弘樹とみほを発見。

 

再会を喜びつつ、途中トラブルに見舞われながらも、自分の艦で学園艦まで送り届けた。

 

その後も大洗部隊の応援を続け、最終的には大洗の海上援護部隊を買って出る。

 

そして迎えた決勝戦で、『トンでもない物』を引っ張り出して来て、大洗部隊を大きく助けた。

 

晋(すすむ)と言う弟が1年に居り、同艦の戦術長を務めている。



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紹介します!対戦校の人達1

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


『黒森峰機甲部隊』

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:梶 都草(かじ とぐさ)

 

性別:男

 

身長:179㎝

 

誕生日:6月17日

 

血液型:A型

 

好きな武器:ワルサーPP

 

出身:熊本県熊本市

 

学年:黒森峰男子学院3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:黒森峰女学院の戦車を守る随伴歩兵が所属する黒森峰男子学院の歩兵部隊の隊長。

 

まほ同様、昨年の全国大会ではMVPに選ばれ、国際強化選手にもなった有名人。

 

国際大会にてまほと共にドイツ代表を破り、優勝した経験を持つ。

 

歩兵道を体現する男と言われており、非常に礼儀正しく、対戦相手に対する敬意を忘れない真の紳士。

 

身内や味方でも、無礼な振る舞いをすれば叱り付ける。

 

その為、逸見 エリカが戦車喫茶 ルクレールでみほを嘲笑った際には、戦車道のルールに則って、彼女を処罰しようとした。

 

黒森峰女学院の敗北は、みほの責任では無く、フラッグ車を守る事が出来なかった自分達歩兵の責任だと言っている。

 

弘樹にとってのライバルであり、超えるべき相手となる。

 

まほとは恋人同士で、まるで夫婦かと思う程のツーカーの仲。

 

一見すると、まほが彼を尻に敷いている様に見えるが、実は彼の方が終始イニシアチブを握っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:毛路山 久美(けろやま ひさみ)

 

性別:女

 

身長:154㎝

 

誕生日:12月9日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:ガンタンク(!?)

 

出身:熊本県熊本市

 

学年:黒森峰女学園2年生

 

搭乗戦車:Ⅳ号突撃砲・車長

 

詳細:逸見エリカの幼馴染の親友(エリカ曰く、只の腐れ縁)

 

何かと周囲に対し敵意を振り撒き気味なエリカの衝撃緩和材。

 

エリカ本人は気づいてないが、彼女が居なければエリカは黒森峰で孤立していた。

 

西住流が浸透し、勝利至上主義の黒森峰戦車部隊の中で、唯一楽しんで戦車道をやっている異端児。

 

非常に『適当』な性格で、「行くなと言ったところに行く」「入るなと言ったところに入る」と言う部分があり、更には問題を何かと先送りする。

 

おいしい所だけ持って行く様な腹黒さ・要領の良さを持っており、かなりのお調子者。

 

しかし、本人なりの良心や責任感は持っており、戦友達の窮地は身を呈しても救い、その健康を願ったりと優しい部分もあり、まほとは違った意味で慕われている。

 

その為、みほが黒森峰に居た頃は唯一の理解者だった。

 

1人称は『我輩』で、『であります』口調で喋り、何か企むと『ゲ~ロゲロゲロ…』『ゲロゲロリ』などとカエルの様な笑いを零す。

 

ガンダムシリーズ、特にファーストを中心にした宇宙世紀シリーズとガンプラをこよなく愛しており、自分が作ったプラモを破壊されるとキレて手が付けられなくなる。

 

その偏愛ぶりは、黒森峰の戦車を全てガンタンクやマゼラアタック風に改造しようとして、戦車部隊の全員から顰蹙を買った程。

 

しかし懲りずに、自分が乗るⅣ号突撃砲を真っ赤に塗って大型の通信アンテナを立てるなど、目立つ事この上ない某赤い彗星仕様に改造した。

 

ガンダムシリーズの名言や迷言、またはそれをパロった台詞を良く口にする。

 

意外にも家事・炊事は全てプロ級の腕前で、それ等がまるで駄目なまほやエリカに代わって、彼女達の寮の部屋を掃除する事も多々ある。

 

その瞬間だけは、立場が完全に逆転し、まほ・エリカの隊長・副隊長の威厳がゼロになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:天河 揚羽(あまのがわ あげは)

 

性別:女

 

身長:162㎝

 

誕生日:3月3日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:VK.4501(P)ポルシェ・ティーガー重戦車

 

出身:長野県松本市

 

学年:黒森峰女学園3年生

 

役割:戦車長

 

詳細:黒森峰学園の生徒で、一年生の時から生徒会長を勤め、教師よりも出来が良いと評判である。

 

家事などは一通り得意で、料理の腕前は高く、裁縫の技術レベルも、高すぎるくらい。

 

運動能力も相当高く、体育祭では女子関係全種目に出場し、MVPを連続で獲得する程。

 

成績も超がつくほど良く、何事にも努力を惜しまない努力家であり、苦手な全てを殆ど克服した。所謂完璧超人。

 

エリカは「文武両道、才色兼備、良妻賢母の最強美少女」と評している。

 

……なのだが、実は高所恐怖症。

 

そんな彼女は実は幼い頃からの武術マニアで、一般のスポーツ関係の格闘技にのみならず軍事による近接格闘術、古武術、民族に伝わる格闘技などを会得しており、それ等を合わせた柔と剛を併せ兼ね備えた総合格闘術を完成させている。

 

その為、学園内で揉め事を起こしている男子達をあっという間に締め上げてしまうなど恐ろしいところもある。

 

その、その男より男らしい(=かっこいい)性格の為に、男女問わず憧れられており、バレンタインデーには女の子から毎年部屋の天井に近づく程の大量のチョコを貰っている。

 

本人はその事に悩んでいるも、やはり格闘技好きは変えられない。

 

彼女は当然女の子な為に、その総合格闘術を武術関係の大会では発揮せずに、いつも柔道だけの大会で留まっている。

 

そんな時に白狼と出会い、彼の純真さに惹かれ、彼女が完成した総合格闘術を白狼に伝授した。

 

彼女が一番好きな格闘技は『大東流合気柔術』と『柳生心眼流』であり、揚羽曰くこれらの武術を全て併せ持った格闘術を完成すれば、誰にも負けないであろうとの事。

 

生徒会長だけあって、男子、女子、すべてを纏め上げられるほどで、全校生徒の顔と名前を把握していると見られる。

 

生徒会の仕事が多い上に、一部を除けばお気楽なクラス委員を抱えて気苦労が絶えないが、学校中から絶大な人気を集めている。

 

責任感が強く、筋の通った性格だが、かなりの負けず嫌い(本人は否定している)で、納得が行かない事や勝ち負けに拘る一面も見せる。

 

それが高じて黒森峰にいた頃のみほを困らせた事もあった。

 

成績が良いために、戦車道ですらも極めようとするが、戦車道のMVPに選ばれたまほに対し、劣等感を感じてしまう。

 

怒りっぽい性格で、そのせいかツッコミ役になることが多い。

 

神狩白狼の噂は知っており、実は彼の隠れファン。

 

……なのだがそれを表に出す事は滅多に無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:暁 紫染(あかつき しじみ)

 

性別:女

 

身長:157㎝

 

誕生日:6月21日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:V号戦車パンターⅡ

 

出身:静岡県 

 

学年:黒森峰女学園3年生

 

役割:操縦手

 

詳細:電気企業メーカーの創業者一族である暁家のお嬢様。

 

家は大豪邸で、支払いもカードで行う相当な金持ち。

 

苦手な事は嫌いで、それ以外はみんな大好き。

 

小さい子供の様に純粋な性格で、いつもニコニコ笑って無邪気な口調で話す。

 

「にはは~」という笑いや驚いた際の「ほえ?」「ふへ?」という反応などどこか幼い印象を受ける。

 

生徒会の下っ端の役員でもある。

 

動画研究部の部員。

 

斑、竪羽とは小学校の頃から一緒の仲で、「まーちゃん」「たてちゃん」と呼ぶ。

 

武芸三奇衆の一人で、三人の中では主にパンチ技に特化しており、ボクシングや空手、果ては骨法が得意。

 

ボクシングの歴史にも詳しく、彼女曰く多くのボクサーを翻弄できると言う自信満々なことを言う。

 

百枚ある瓦を指一本で砕いたという都市伝説もあるが、真偽のほどは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:夕霧 斑(ゆうぎり まだら)

 

性別:女

 

身長:167㎝

 

誕生日:7月13日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:Ⅵ号駆逐戦車ヤークトティーガー

 

出身:静岡県

 

学年:黒森峰女学園3年生

 

詳細:生徒会の下っ端の役員。

 

紫染、竪刃とは小学校の頃からの仲で「生徒会3人娘」と呼ばれる。

 

背が高く、4人で並ぶと彼女のみ突出する。

 

包容力とユーモアのセンスがある人が好きで、融通の利かない人が嫌い。

 

やや陰湿なタイプで下ネタの方向に話が行くことが多いが、悪い子ではない。

 

ほぼ常に、何か企んでいそうな笑みを浮かべている。

 

中性的な顔立ち。髪は黒色で瞳は赤色。

 

語尾に「だな?」などを使うことが多く口調は男性的。

 

武芸三奇衆の一人で、三人の中では主にキック技に特化しており、ムエタイ、テコンドー、カポエラー、そしてサバットが得意。

 

本気を出せばサンドバッグを真っ二つに出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:逢真 竪刃(おうま たては)

 

性別:女

 

身長:152㎝

 

誕生日:9月9日

 

血液型:AB型

 

好きな戦車:Ⅳ号突撃戦車ブルムベーア

 

出身:静岡県 

 

学年:黒森峰女学園3年生

 

役割:砲撃手

 

詳細:学級副委員長で生徒会の下っ端の役員。

 

紫染、斑、瀬芹とは小学校の頃からの仲で「生徒会3人娘」の中ではリーダー格で一番揚羽に近い位置にいる。

 

揚羽との仲は、小学生の頃に通っていた塾でイジメられていたのを助けられたことから。

 

揚羽の男らしい言葉に惹かれ、バレンタインデーには毎回チョコを渡している。

 

揚羽を困らせる事を好んで行うが、愛情の裏返しだと思われる。

 

クールで毒舌家。

 

代々政治家の家系の家に生まれ、祖父は内閣総理大臣経験者で、親も政治家である。

 

その縁を使い、情報収集やパーティ開催も得意。

 

特に情報収集については西住姉妹の過去まで把握している。

 

クレジットカードの限度額は108万円とかなりの金持ちである。

 

武芸三奇衆の一人で、三人の中では主に組み技、投げ技などに特化しており、柔道、柔術、サンボ、プロレス、レスリング、ブラジリアン柔術などを得意としている。

 

汗一つ掻かず、1万人も投げたという噂があるが、真偽のほどは定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:東雲 瀬芹(しののめ せせり)

 

性別:女

 

身長:168㎝

 

誕生日:10月11日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:Ⅵ号戦車B型ティーガーⅡ

 

出身:東京都

 

学年:黒森峰女学園3年生

 

役割:通信手

 

詳細:黒森峰高校では生徒会書記を務めており、全国模試ベスト10に入る程の勉強好きな秀才。

 

物事を観察、分析する事が得意。

 

目にした物体や現象の名前、難しい諺を即座に口に出す事が出来るほど知識量が豊富である。

 

落ち着いた性格であり、人の前に出るのが苦手で静かな環境を好むところがあるが、自分の主張を貫き通す気の強さを持っている。

 

観察眼の高さからか慎重であり、自分が納得していない物事は気軽に受け入れない姿勢を保とうとする。

 

生徒会三人娘に頭を悩ませており、仕事を押し付けられ、自分一人で全てこなすなど何かと苦労人だが、揚羽からは十分な信頼を得ている。

 

戦車道の大会では一年の頃から確実な指示を出すなどの能力を発揮し、優勝に導いた。

 

しかし二年の頃、後輩であるみほの予想外の行動に慌てふためいてしまい、結果的に敗北し、揚羽を泣かせてしまった事にショックを受けてしまう。

 

それ以来、予想外の出来事に対しどのような対応、対処をとるか、勉強している。

 

普段は裸眼だが、遠くの物に注目する時や細かい物を見る時などは必要に応じて眼鏡をかけたり外したりしている。

 

武芸などは習っていないが、武術、武道に関する知識は有る様で、それに対抗する術などを助言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●千霞 蜂一(せんか ほういち)

 

黒森峰の忍者。

 

ゲルマン忍術の使い手。

 

 

●朽葉 蟷斬(くたば かまきり)

 

歩兵隊の副隊長で、黒森峰歩兵部隊の中でも突出した体術の使い手で、その動作に追いつく者は数少ない。

 

両手両足が鋼のように研ぎ澄まされており、特に手刀の威力は最強で、いかなる物でも斬り裂くジェノサイドカッターとも呼ばれている。

 

ひと呼んで『斬り裂きのカマキリ』

 

超が付くほどの冷徹かつ冷血冷酷非情な性格で古武術の朽葉流の教えである殺しこそが強さの秘訣と言うのを信条としており、彼の手刀で重傷を負わせた相手は数知れず。

 

 

●甲鎧 剱(こうがい つるぎ)

 

黒森峰歩兵隊のエース。

 

とある事情により、2年前から停学を余儀なくされた。

 

しかし今年にかけて、ついに復学し、懐かしき歩兵道へと戻る。

 

武器は一振りの業物の大太刀、そして己の恐れなき信念と言う不屈の魂。

 

ガーバインとは今でも友。

 

 

●双刃 顋(ふたば あぎと)

 

剱と同じく、とある事情により停学を余儀なくされた。

 

しかし今年にかけて、ようやく復学し、歩兵道へと戻る。

 

武器は二本の刀であり、二つあわせて鋏のようにもする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聖ブリティッシュ男子校』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:アールグレイ

 

性別:男

 

身長:188㎝

 

誕生日:4月9日

 

血液型:A型

 

好きな武器:ブラウン・ベス、スターリング・サブマシンガン、フルーレ

 

出身:イギリス・ウェールズ

 

学年:聖ブリティッシュ男子高校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:聖ブリティッシュ男子高校歩兵道のエース。

 

田舎の村で生まれた為、都会の勝手が分からない性格。

 

騎士道精神が強く、如何なる相手だろうと臆しない強い気概がある。

 

かつての先祖は、フランスにおいて1900年代の初め、名のある豪邸貴族であり、彼の一族の剣技は砦や城砦を崩す随一の大剣豪だった。

 

だが、政府により追い出され、イギリスへと追い遣られてしまい、没落貴族となってしまった。

 

そして現在、一族の誓いを再び立てる為、彼は幼い頃から才能に溢れ、誰よりもずっと剣の修行や死ぬほど辛い鍛錬などをし、いかなる場所や時間でも片時も鍛錬を欠かさず、慢心せずに切磋琢磨する努力する天才であり、求道者である。

 

そして聖ブリティッシュ男子高校にて歩兵道を学び、そこで戦車道との合同にて出会ったダージリンから愛されてしまう。

 

本人は至って寡黙だが、それでも彼女の愛は変わらなかった。

 

成績、運動能力は男子校の中でもトップに出ており、日本の武術も習得している。

 

かつて先祖が古くから愛用したフルーレを鍛え上げた、愛剣『エトワール』を常に帯刀している。

 

大洗との練習試合にて、馬に乗り、戦車を守りながら男子校の歩兵道の選手達を次々に倒した。

 

そして、舩坂 弘樹との一騎打ちにて激しい戦いのなか弘樹の一撃にて、倒されてしまった………

 

かに思われたが実は倒されておらず、ダージリンの窮地に駆けつけ、逆に弘樹を撃破した。

 

決して上背があるわけではないが、スピード、パワーとテクニック、戦術、戦略、メンタル面全てに於いて常人離れしていて、弘樹や熾龍と互角の実力をもつ。

 

また、肉体面だけでなく頭脳も非常に明晰であり、常にベストコンディションで臨むべく、食事は定時に必要量の栄養を摂取するなど体調管理には万全を期している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:セージ

 

性別:男

 

身長:190㎝

 

誕生日:8月22日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:M195銃剣、火炎放射器

 

出身:神奈川県横浜市

 

学年:聖ブリティッシュ男子高校3年

 

兵種:工兵

 

詳細:聖ブリティッシュ男子高校、歩兵道の司令塔。

 

メガネをかけているロン毛な男。

 

工兵らしく、戦車が通れる道などを補助し、豊富なデータを駆使してトラップを仕掛け、『ブリティッシュの参謀』として活躍する。

 

幼いころから自動車事故による足の負傷により、機動力は乏しいがジープなどを運転する。

 

アッサムとは幼馴染。

 

だがその線を越え、交際中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:オレガノ

 

性別:男

 

身長:210㎝

 

誕生日:7月4日

 

血液型:O型

 

好きな武器:ルイス機関銃

 

出身:神奈川県横浜市

 

学年:聖ブリティッシュ男子高校3年

 

兵種:対戦車兵

 

詳細:手の甲と顔が異様に大きい、ブリティッシュ男子高校一の巨漢。

 

自他共にバカと認めている。

 

身体能力が高く、強烈なタックルはハイスクールバスを破壊する、と噂されている。

 

力も強く、重機関銃を持ちながら撃てるが反動が問題なのか、命中率は低い。

 

しかも銃のリロードの仕方も知らないため、よくセージやティムに装填を手伝わす。

 

「ぶわっはっはっはっは」と笑う。

 

偶に真面な事を言う為、セージは驚く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ティム

 

性別:男

 

身長:182㎝

 

誕生日:4月1日

 

血液型:A型

 

好きな武器:8㎜試製南部短機関銃、エンフィールド・リボルバー

 

出身:イギリス

 

学年:聖ブリティッシュ高校3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:聖ブリテッシュ男子高校のエース。

 

アールグレイと同じく、イギリスからの留学生。

 

学園での白馬・ライトニングスターを駆る姿の美しさは、女学院の生徒からは憧れの的。

 

華奢な容姿とは裏腹にかなり頑丈な体つきで、かなり男前だがシャイな性格。

 

その美しき姿から『稲妻の白き天馬』『流星から乗ってきた王子様(プリンス・オブ・ミーティア)』とも呼ばれている。

 

名のあるジョッキーであり、競馬では全ての名馬を巧みな馬術で優勝に導く。

 

その巧みな馬術で相手選手を次々とダウンさせてしまうが、バイクに乗れば本領発揮し、華麗なるバイクテクニックを披露する。

 

彼のシンボルだけは銀色のたてがみに、真っ白な体、そして黄金色のユニコーンの角をしたペガサスの絵。

 

幼い頃、とある事故により両親を失うだけに留まらず、視力を完全に失い盲目となってしまった。

 

後に、世界的に有名な貴族財閥に引き取られ、そこで若くして執事として働く。

 

盲目ながらも護主人術格闘技を習っている。

 

視力を失った代わりに、代償機能が働き、嗅覚や聴覚が凄く優れており、失った視力を補う感性や能力を体得している。

 

嗅覚と聴覚で、遠くにいる狙撃兵などを一撃で仕留める。

 

護主人術格闘技とは、日本にある柔術だけに留まらず、ボクシングやサバットをも取り込み、相手を投げて無防備になった瞬間強烈なパンチやキックを叩き込む。

 

飽く迄も護る為の格闘技であるが、本人はその格闘技を歩兵道へと繋げている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ジャスパー・チャーチル

 

性別:男

 

身長:185㎝

 

誕生日:9月16日

 

血液型:B型

 

好きな武器:クレイモア

 

出身:イギリス・イングランド・サリー

 

学年:聖ブリティッシュ男子校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:本場イギリスからの留学生で、第二次世界大戦で活躍した兵士の中で、風変わりで知られるジャック・チャーチルの子孫。

 

彼も先祖と同じく「士官たる者、剣を持たずして戦場に赴くべきではない」を信条とし、クレイモアを片手にロングボウと矢を携え、バグパイプを吹きながら戦場へ突撃する。

 

戦う事が何より好きで、根っからの戦闘狂。

 

良く言えばブレない、悪く言えば常にマイペースな男。

 

敵も味方も攪乱する。

 

大洗との練習試合時は、自分が率いているコマンド部隊の訓練遠征に出かけていたので、欠席している。

 

帰還後、ダージリンやセージから大洗での試合の事を聞くと、『そんな面白い試合だったのなら、是非とも自分も参戦したかった』とかなり残念そうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天竺ジョロキア機甲部隊』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ローリエ

 

性別:女

 

身長:171㎝

 

誕生日:7月10日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:シャーマン ファイアフライ

 

出身:千葉県鴨川市

 

学年:天竺インド女子高学園3年生

 

役割:砲手

 

詳細:母がインド人で父が日本人のハーフ。

 

両親の都合により共にインドへと渡った。

 

そこで精神を集中する修行と、美容、健康によく効くヨガやそれに関連する食事を学んだ。

 

そして更にはチャクラを学び、相手が撃つ砲撃の弾道を予知する事が出来る。

 

実はこの頃から戦車に乗り、戦車に対する専門知識をも学んだ。

 

やがて帰国し、天竺学園艦へと入学し、戦車道に入門する。

 

乗り込む戦車はコメット巡航戦車で、総隊長及び砲撃手。

 

姉妹揃ってファイアフライが好きだったのだが、手に入れることが叶わなかった。

 

自分達の戦車を命懸けで守るターメリックに深く感謝し、崇拝した。

 

とても穏やかな性格で、あらあらと口ずさむ。

 

インド料理の定番であるカレー料理が大得意で、みんなから好評を得ている。

 

西住みほの迷いを見抜き、彼女にアドバイスした後、全国戦での再戦を誓い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ルウ

 

性別:女

 

身長:170㎝

 

誕生日:7月12日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:シャーマン ファイアフライ

 

出身:千葉県鴨川市

 

学年:天竺インド女子高学園2年生

 

役割:操縦手

 

詳細:ローリエの1歳年下の妹。

 

姉共々、両親の都合によりインドへと渡った。

 

美容健康のヨガだけを学び、後は運動関係などをしていた。

 

その為、彼女と違って活発な性格。

 

学園艦へと入学した後、戦車道へと入り、その見事な戦車ドライブテクニックを駆使しながら、ローリエの指示により砲弾を避ける腕前。

 

パンツァー・ハイになりやすく、人格は暴走状態になる(それでも平然としてられるローリエが恐ろしい………)。

 

乗り込む戦車はローリエと同じ搭乗のコメット巡航戦車の操縦手。

 

キーマとはそれでよく喧嘩になるものの、お互い信頼している。

 

運動が得意なため、あらゆる体育競技で勝るとも劣らぬ成果を見せる。

 

引き分けな結果に納得がいかず、全国戦にて再戦を誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ターメリック

 

CV:梁田清之

 

性別:男

 

身長:195㎝

 

誕生日:6月29日

 

血液型:O型

 

好きな武器:SIG KE7軽機関銃

 

出身:千葉県幕張

 

学年:ジョロキア男子高校3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:ジョロキア高校のエース

 

日本に生れたのにもかかわらず、親の事情により2歳の頃にタイへと引越し。

 

そこで12年間も過ごし、その後ジョロキア高校のある学園艦へと引っ越した。

 

そしてそこで歩兵道を習い、ムエタイ・キックボクシング部を設立、多くの男子生徒にムエタイを教えた。

 

象の育て方も熟知しており、動物愛好飼育部に育て方を教えた。

 

タイにいる間は、タイ語や隣のインドとも行き来していた為、インド語も喋れる。

 

家族と共に過ごしていたり、保育園は日本人経営な為、日本語は忘れていない。

 

立ち技最強の格闘技、ムエタイを体得しており、その腕前は超人クラス。

 

更にはインドの格闘技カラリパヤットをも体得している。

 

天竺インド女子高学園との合同練習にてローリエと出会い、彼女とは深い絆で結ばれている。

 

体全体は灼けており、スキンヘッドな上に、身体中の所々に虎から受けた傷があり、何度も虎と死闘を繰り広げ勝ち続けた為『虎殺しの蛇王』と呼ばれている。

 

二本の宝剣『インドラ』と『カルラ』を用いて戦いながらムエタイで攻撃する戦法し、弘樹や熾龍を圧倒する。

 

だがお互いの武人としての心意気に共感し、全国大会での再戦を誓う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:キーマ

 

性別:男

 

身長:187㎝

 

誕生日:7月1日

 

血液型:B型

 

好きな武器:ルガーP08

 

出身:広島県鞆ノ浦

 

学年:ジョロキア男子高校2年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:ジョロキア高校のもう1人のエース。

 

子供の頃から西遊記が大好きで、天竺がインドである事を知ったキーマはいつか自分もインドに言ってみたいと夢見ていた。

 

中学校の頃、ムエタイに憧れ、テレビを観ながら見様見真似でやれるくらいの腕前だったが高校生になり、天竺学園やジョロキア高校の学園艦に入学し、そこでターメリックのムエタイに師事して、本物のムエタイを修得した。

 

かなりお調子者な性格で、何度かターメリックからの鉄拳を食らわされる。

 

ルウとは喧嘩し合うものの、お互い信頼を感じている。

 

2丁拳銃を使いながらのムエタイ戦法を得意としている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ガラム

 

性別:男

 

身長:188㎝

 

誕生日:8月11日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:Rifle No.5 Mk1 "ジャングル・カービン"

 

出身:岡山県玉野市

 

学年:ジョロキア男子高校2年生

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:マサラとは双子の兄弟。

 

動物が大好きで中でも象が一番だと言う。

 

ジョロキア高校に入ってからは、動物愛好飼育部に入部し、そこで象を育てるという話を聞き弟のマサラと共に象の飼育に力を入れている。

 

兵士と共に象に乗って戦う姿をカッコイイと感じ、愛象『ガネーシャ』と共に歩兵道へと入った。

 

冷静な性格で狙撃の腕前は、象の震動に揺れるにも関わらず、的確明確に命中させられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:マサラ

 

性別:男

 

身長:188㎝

 

誕生日:8月11日

 

血液型:O型

 

好きな武器:パンツァーシュレック

 

出身:岡山県玉野市

 

学年:ジョロキア男子高校2年生

 

兵種:対戦車兵

 

詳細:ガラムとは双子の兄弟。

 

動物が大好きで中でも象が一番だと言う。

 

ジョロキア高校に入ってからは、動物愛好飼育部に入部し、そこで象を育てるという話を聞き兄のガラムと共に像の飼育に力を入れている。

 

兵士と共に象に乗って戦う姿をカッコイイと感じ、愛象『ギリメカラ』と共に歩兵道へと入った。

 

狙った獲物は決して逃さず、かなり興奮気味な性格で、パンツァーファストやパンツァーシュレックを撃ちまくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カーネル大学付属高校』

 

 

 

 

 

名前:ジェイ

 

身長:178㎝

 

誕生日:9月6日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:コルト・ガバメント

 

出身:千葉県旭市

 

学年:カーネル大学付属高校3年生

 

詳細:カーネル大学附属男子高校のエースの1人で、歩兵隊の総隊長。

 

無線傍受の事も知っており、勝つ為にとアリサと協力した。

 

トンファーの警棒で叩き、油断した所へ、拳銃で至近距離から撃つ戦法を得意とする。

 

 

 

 

 

名前:ボブ

 

身長:177㎝

 

誕生日:3月22日

 

血液型:A型

 

好きな武器:M1カービン

 

出身:千葉県袖ヶ浦市

 

学年:カーネル大学付属高校3年生

 

詳細:カーネル大学附属男子高校のエースの1人で、歩兵隊副隊長。

 

バイク部隊のリーダーでもあり、拳銃と小銃を同時に構えながらの攻撃を得意とする。

 

 

 

 

 

名前:ジョーイ・ミヤギ

 

性別:男

 

身長:183㎝

 

誕生日:6月15日

 

血液型:A型

 

好きな武器:M1ガーランド

 

出身:アメリカ・ハワイ

 

学年:2年生

 

所属:独立遊撃部隊・第442連隊戦闘団

 

ヒロイン:ナオミ

 

兵種:突撃兵

 

詳細:日系アメリカ人の留学生。

 

先祖はかつて、あのアメリカ陸軍『第442連隊戦闘団』に所属していた。

 

アメリカからの留学生が数多く存在し、ノリや雰囲気もアメリカンなサンダース&カーネル機甲部隊の中で、かなり真面目な性格をしている。

 

しかし、愛校心は学園の誰よりも強い。

 

祖先が所属していた第442連隊戦闘団の事を誇りに思っており、「Go for broke!(当たって砕けろ!)」、「死力を尽くせ!」、「撃ちてし止まん」を信条とし、

 

自分と同じ日系人の留学生で構成された連隊に、442の名を付けた程。

 

彼と彼に率いる部隊はカーネル歩兵部隊の中で最強と言っても過言では無く、これまでの戦いで実に18000近くの表彰を受けている。

 

しかし、その勇猛果敢さから、負傷率が314%と言うトンでもない部隊でもある。



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紹介します!対戦校の人達2

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


『ピッツァ男子校』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ロマーノ

 

性別:男

 

身長:177㎝

 

誕生日:4月21日

 

血液型:B型

 

好きな武器:カルカノM1938

 

出身:高知県

 

学年:ピッツァ男子校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:ピッツァ男子高校の歩兵部隊の隊長。

 

アンチョビとは高校1年の頃に一目惚れし、彼女の為にこの命投げ出しても構わないと豪語する。

 

しかし本人は超がつく程の軟派野郎で、陽気で女の子好きのラテン気質。

 

他の女の子達に色目を使ったりし、その度にアンチョビに殺されかけてしまう。

 

可愛い女の子には優しく、男にはいたって無愛想で、他のチームの事は毛嫌いしている。

 

銃剣検定を2級合格する腕前で、カルカノM1938を巧みに使いこなす。

 

運動能力も高く、ラテンのロマーノとも呼ばれている。

 

凄まじいまでの自信満々な自意識過剰野郎で、二回戦で戦った無名の大洗に対して、楽勝ムードで居た。

 

だが、弘樹に瞬殺され、アンツィオ&ピッツァ機甲部隊は、アッという間に敗退したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ネロ

 

性別:男

 

身長:176㎝

 

誕生日:5月7日

 

血液型:A型

 

好きな武器:ウィンチェスターM1912

 

出身:高知県 

 

学年:ピッツァ男子校2年

 

兵種:偵察兵

 

詳細:ピッツァ男子高校の生徒で、ロマーノとは幼馴染。

 

幼い頃本物の忍者になろうと訓練した。

 

忍者は暗殺が全てという考えを元に、物陰に隠れながら相手の背後を狙いナイフで攻撃する戦法を得意とするが、

 

ダンボールで隠れている大詔に対し油断したり、本物の忍者である小太郎によりあっという間にばれてしまい、瞬殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ボンゴ

 

性別:男

 

身長:180㎝

 

誕生日:6月27日

 

血液型:O型

 

好きな武器:とにかく狙撃銃全部

 

出身:山梨県 

 

学年:ピッツァ男子校3年

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:ピッツァ男子高校の生徒で、視力が良好な狙撃兵。

 

持ち前の根性で、他の狙撃兵や背中を向けた他の歩兵達を狙撃してダウンさせたり出来る。

 

とにかく狙撃銃が大好きで、狙撃銃を集めるのが趣味であり、実際は撃った事が無く、狙撃銃を扱えたのは1年の頃だが、実はトリガーハッピー状態な性格。

 

飛彗に場所を把握され、陣に瞬殺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:フォルゴーレ

 

性別:男

 

身長:179㎝

 

誕生日:6月21日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:ベレッタ Modello 1938A

 

出身:埼玉県

 

学年:ピッツァ男子高校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:クウォーターで、祖父がイタリア人。

 

しかも自身の名前の由来となっている、あの伝説の『フォルゴーレ空挺師団』の生き残りである。

 

イタリア人の血が流れているとは思えないくらい真面目で、歩兵道も幼少の頃から嗜んでいる。

 

ピッツァ男子高校の歩兵部隊の副隊長を務めており、ロマーノがやられた後は、彼が指揮を引き継いだ。

 

その時には既に戦局は決してようとしていたが、むざむざやられるのは誇りが許さず、単身大洗の部隊へ突撃を敢行する。

 

大洗歩兵部隊を楽々と往なし、嘗て祖父がした様に火炎瓶と地雷で、カメさんチーム、アヒルさんチーム、ウサギさんチームを次々に戦闘不能にする。

 

その際に発した『怯えろ! 竦め! 戦車の性能を活かせぬまま死んでゆけ!!』は大洗の一同を震え上がらせた。

 

最後は、弘樹との壮絶な一騎打ちの末、倒される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地走学園』(全員ドラグナー様の考案キャラです)

 

 

 

 

 

名前 轢田蛙(ひきた かえる)

 

性別:男

 

身長:168㎝

 

誕生日:6月1日

 

血液型:O型

 

好きな武器:7.7㎜二式小銃

 

出身:愛知県名古屋市

 

学年:地走学園3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:蛙の名の通り、体を伏せ、相手の様子などを窺いながら奇襲する戦法を得意とする。

 

名付けて『びっくり箱作戦』

 

かなりの自信家で、3年連続で大会出場している。

 

にも関わらず、準決勝すら行けずに敗退しており、今年こそと意気込み奇襲作戦を決行したものの、向こうの騙し討ちに敗れてしまい、愕然としながら敗れ去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:処歩 美海(ところふ みみ)

 

性別:女

 

身長:164㎝

 

誕生日:6月30日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:九七式中戦車(チハ)

 

出身:滋賀県 

 

学年:地走学園2年生

 

役割:戦車長

 

詳細:地走学園の戦車隊を束ねる総隊長。

 

3年の中に総隊長に相応しい人物が居たのにも関わらず、成り行きで任されてしまう。

 

それでも見事な指揮で、蛙と共に奇襲作戦で勝利に導いて来たが、大洗機甲部隊には敵わず、敗れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鉱関高等学園』

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:金剛崎 堅固(こんごうざき けんご)

 

性別:男

 

身長:173㎝

 

誕生日:1月9日

 

血液型:A型

 

好きな武器:8㎜浜田式拳銃

 

出身:神奈川県 鎌倉市

 

学年:鉱関高等学園3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:鉱関高等学園のエースで、『ダイヤモンドの堅固』と呼ばれている。

 

小学生から歩兵道を習っており、持ち前の強固な身体で他の歩兵達を守りながら行動する頑丈な男。

 

武術を多く学んでおり、中でも柔術や銃剣術に長けている。

 

完璧な基礎と、長年の技術で、並み居る歩兵たちを薙ぎ倒す実力者。

 

そのいぶし銀な魅力から、多くの歩兵達のカリスマ的存在で、深く尊敬され、慕われている。

 

彼が高2の時、練習試合で黒森峰と対決し、負けながらもベストを尽くす戦いで、試合後にみほは感化される。

 

みほにとっては頼れるお兄さんみたいな存在。

 

大洗との対戦を楽しみにしていたが、ダークホースとのパシフィック校に敗れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:榊 琥珀

 

性別:男

 

身長:165㎝

 

誕生日:12月12日

 

血液型:B型

 

好きな武器:7.7㎜九九式狙撃銃

 

出身:群馬県 

 

学年:鉱関高等学園3年生

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:鉱関高等学園のエースで、堅固とはパートナーみたいな関係で、狙撃の能力で堅固の背中を守る。

 

高校1年生の時に堅固と出会い、歩兵道なら狙撃が合うと言われ、戦果を挙げる。

 

堅固から数キロ離れながら迷彩服を利用して自身の存在を消し、狙撃をする姿から『ステルスの琥珀』と呼ばれている。

 

堅固と比べると爽やかな性格で、缶コーヒーを愛飲する。

 

自動販売機の奥には某CMの如く、楽園が広がり、美女がやってくると夢見ている。

 

その度に瑠璃から嫉妬を買われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:鬼瓦 瑪瑙

 

性別:女

 

身長:167㎝

 

誕生日:2月2日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:九七式中戦車 チハ

 

出身:鳥取県 

 

学年:鉱関高等学園3年生

 

役割:戦車長

 

詳細:鉱関高等学園の女生徒で鉱関機甲部隊の総隊長。

 

鬼瓦流戦車道の名家の生まれ、戦車に対する思い入れがかなり深い。

 

昨年の練習試合にて、初めて会ったみほに対し、真剣勝負という名目の下、黒森峰と激戦を繰り広げた。

 

そしてギリギリで黒森峰が勝利したが、誰もが深い溜め息を吐くほど、緊張した戦いだった。

 

まほ曰く、もしあそこで外せば、間違いなく鉱関が勝っていた、と。

 

戦車の技術は幼い頃から身に着けており、お互い幼い頃から技術を身に着けている堅固とは意気投合しながらもお互い想い合った。

 

3回戦で勝利を意気込んだが、パシフィック校に敗北してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:龍宮 瑠璃

 

性別:女

 

身長:162㎝

 

誕生日:2月18日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:軽戦車MK.Ⅶ テトラーク

 

出身:島根県 

 

学年:鉱関高等学園2年生

 

役割:通信手

 

詳細:鉱関高等学園の女生徒。

 

最初はごく普通の女の子だったが、戦車道に憧れを抱き、高校に入ってからすぐに戦車道の科目を選択した。

 

メールのやり取りなどが大好きで、その才能を見抜いた瑪瑙は、彼女を通信手に抜擢する。

 

通信手としての活躍は一目瞭然で、戦況を逐次分析・報告し、勝利に貢献している。

 

みほとは立場を越えた友達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パシフィック高等男子校』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:カジキ

 

性別:男

 

身長:209㎝

 

誕生日:8月15日

 

血液型:A型

 

好きな武器:StG45(M)

 

出身:沖縄県

 

学年:パシフィック高等男子校1年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:海を愛し、海と共に行く心を持つ漁師の息子。

 

父は漁師で、母は水族館のイルカショー等のトレーナーをしている。

 

そんな母親に憧れを抱き、小学1年生のとき海岸で野生のイルカ達と触れ合った。

 

いつしかイルカ達とは友達になり、一緒に泳いだりもした。

 

その時に偶然親から離れたメスのシャチと出会い、友達となった。

 

そして父親の手伝いの為にシャチやイルカと共に漁にて大成功を収めた。

 

母親に催促され、イルカやシャチの特別トレーナーとなっていたが、水族館の経営が上手くいかず倒産となってしまう。

 

母は憤死してしまい、父は遠洋漁業の時に事故死してしまい天涯孤独となる。

 

唯一イルカとシャチ達だけが残ったが、シャチは出産と同時に命を失った。

 

父が遺した頑丈な銛を鍛え上げ、パシフィック校へと入学した後は、歩兵道へと進み、銃と銛を使った戦法を駆使する

 

公式戦にて初出場の為、決して負けられないと決意し、一回戦、二回戦を突破し、三回戦で大洗と南の島で対決する。

 

前述の過去から、泳ぎが得意で、水の中を素早く泳ぎ動ける。

 

弘樹を英霊を継ぐ者とは認めず、彼に対して拒絶的な敵意を見せる。

 

しかし、大洗が勝利した後、英霊としてどこまで通用するかこの大会で最後まで見せ付けてやれと言い残す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様からの考案キャラ

 

名前:ホージロー

 

性別:男

 

身長:210㎝

 

誕生日:12月7日

 

血液型:B型

 

好きな武器:トカレフM1940半自動小銃

 

出身:大阪府

 

学年:パシフィック高等男子校1年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:中学時代に彗星の如く現れた伝説の水泳選手だったが、それ以前はカナヅチで泳ぐのも下手くそだった。

 

しかし、度重なる練習でいつの間にか2日で全ての泳ぎのテクニックをマスターし、水泳大会は中学時代、個人の部で全て優勝を飾っている。

 

オリンピックを目指すと意気込み、勝利を共感しようと度を超した練習量を熟したが、他の部員達は付いて行けずに敬遠され、気付けば1人になってしまった。

 

やがて彼は水泳部を引退し、パシフィック高校に入学。

 

カジキと出会い、歩兵道へと転向。

 

長身と水泳術で、水の中から伏兵戦法で相手を圧倒。

 

その身軽さと敏捷性と天賦の運動量で弱点を克服してきた努力型であり、その為スタミナもかなりある。

 

無神経な性格で、悪意無く他人を見下す言動で性質が悪かったが、自分が見下した光照達に敗北後はあまりしなくなった。

 

しかし、度々身も蓋もないツッコミを天然で入れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様からの考案キャラ

 

名前:シイラ

 

性別:男

 

身長:208㎝

 

誕生日:2月27日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:M1C/Dガーランド・スナイパーライフル

 

出身:静岡県

 

学年:パシフィック高等男子校1年生

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:幼い頃からサーフィンをしており、海だけでなく川でのリバーサーフィンもやっており、その腕前はプロに近いくらい。

 

爽やかな性格かつ、かなりの健康肌で小麦色になっている。

 

視力も良く、スナイパーライフルを持ちながら、サーフボードで波に乗り、見事なバランスで平衡を保ちつつ、狙撃するという荒業を得意とする。

 

勿論陸での狙撃も出来る。

 

女の子が大好きで、自らのサーフテクニックに、黄色い声を浴びているだけで歯を輝かせスマイルをする。

 

カジキを尊敬しており、歩兵道に入った早々、彼の弟子入りをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様からの考案キャラ

 

名前:ツナ

 

性別:男

 

身長:208㎝

 

誕生日:3月1日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:カールグスタフ pvg m/42

 

出身:三重県

 

学年:パシフィック高等男子校1年生

 

兵種:狙撃兵

 

詳細:力が強く、激しい波の中で対戦車ライフルをぶれずに撃つ事も出来る。

 

冷静な性格で、カジキを師と仰ぎ、彼に弟子入りをする。

 

幼い頃から、釣りが大好きで、釣りバカのフィッシングライターを父に持つ。

 

釣りをする間は精神を集中させるというのがモットーで、ライフルを扱う時に、狙いを集中するのと一緒と考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様からの考案キャラ

 

名前:スクイッド

 

性別:男

 

身長:209㎝

 

誕生日:8月21日

 

血液型:O型

 

好きな艦船:ガトー級潜水艦

 

出身:京都府舞鶴市

 

学年:パシフィック高等男子校1年生

 

役職:艦長

 

詳細:海上自衛官の息子で、父を師と仰ぎ、尊敬している。

 

ピアノ弾きが上手く、両腕から別の腕が生えているみたいに素早く動かしその美しい音色を奏でる。

 

高校になり、合奏部に入ってその腕前を披露していたが、カジキから真剣に勧誘され、兵士となった。

 

父からは反対されるが、パシフィック高校が大会を優勝した暁には、ピアニストに戻ると約束して説得する。

 

子供の頃から背が大きく、中学生になると更に大きくなり、高校生になっても大きくなり、『巨人のピアニスト』と呼ばれている。

 

ガトー級潜水艦で大洗機甲部隊を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『パシフィック高等女子校』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ローレライ

 

身長:198㎝

 

誕生日:7月14日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:M2中戦車

 

出身:生まれは沖縄県石垣島だが三歳の頃、東京都 小笠原諸島 母島へと移り住んだ。

 

学年:パシフィック高等女子校1年C組

 

役割:戦車長

 

詳細:M2中戦車(改造車)の戦車長。

 

幼い頃から歌声がとても美しく、容姿もまた1年とは思えないくらいの長身。

 

自分の歌を自分の故郷のみならず多くの人達に聞かせたいと言う願いから、戦車道兼スクールアイドルを志す。

 

島は違えども幼なじみのメロウの説得により、歌唱力が評判のセイレーンと共にアイドルグループを結成した。

 

天然でポケーっとしている所はあるが、戦車に乗ればほんの少しハイになるが、そんなに酷くはない。

 

機転を巧くこなすため、ここぞとばかりに隠れた才能を発揮する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:メロウ

 

身長:199㎝

 

誕生日:8月20日

 

血液型:C型

 

好きな戦車:M4A3E2ジャンボ突撃戦車

 

出身:東京都 小笠原諸島 父島

 

学年:パシフィック高等女子校1年C組

 

役割:装填手

 

詳細:ローレライと同じくM2中戦車の装填手。

 

ローレライとは4歳の頃に出会っており、当時泣き虫な自分を勇気付けられ、友達となる。

 

体が大きく苛められていたが、今となっては力持ちな女の子となった。

 

その為、自分より背の低い男は決まって軟弱と見下す悪い点もある。

 

高校生になり、ローレライと共にスクールアイドルとなるが、本人は抵抗したものの、必死に説得され仕方なしにアイドルとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:セイレーン

 

身長:199㎝

 

誕生日:6月2日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:M6重戦車

 

出身:千葉県 館山市

 

学年:パシフィック高等女子校3年A組

 

役割:戦車長

 

詳細:M24軽戦車の戦車長で、パシフィック機甲部隊の総隊長。

 

幼い頃から芸術の習い事をしており、ピアノ、バイオリン、ソプラノ発声などの技能を習得している。

 

その為、幼稚園から高校2年まで、その高過ぎる技能により友達が殆どいなかった。

 

しかし彼女はめげず、キャラ作りとして、高飛車なお嬢様を演じたが、実は本人はその事に若干疲れている。

 

それどころか誰も彼女に近づこうともしない為、寂しさを抱えていた。

 

そして高校3年になり、友達の事は諦めかけようとしたとき、ローレライ達に勧誘され、スクールアイドルとなる。

 

学生生活最後だという理由の為、決して負ける事は許されないと豪語する。

 

一番の自慢は、この見事な長身とプロポーションだと言い張る。

 

前述通り習い事は芸術系だが、元陸上自衛隊の家庭教師により戦略なども習わされた為、実質上彼女がリーダー。

 

敗北後、涙を流し、大会に負けた悔しさと友達が出来て、共に楽しんだ喜びを分かち合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ツァーリ神学校』

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ピョートル

 

性別:男

 

身長:171㎝

 

誕生日:12月11日

 

血液型:A型

 

好きな武器:PPS短機関銃、ゴールドルガー(装飾のある金色のルガーP08)

 

出身:北海道

 

学年:ツァーリ神学校2年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:神学校高等部二年のエースで、カチューシャの弟。

 

だが、彼の方が身長が上なので、兄と勘違いされ易い。

 

姉弟仲はさほど悪くないが、カチューシャは自身の背丈にコンプレックスを抱いてるのですぐに八つ当たりしてしまう。

 

歩兵道では銃の二丁戦法を得意としており、素早い動きで群れの懐に飛び込み、スライディングしながら撃ちまくるという荒業をもつ。

 

更に斧の二刀流も使いこなす。

 

高校1年生からその素早い動きと、二丁武器を巧みに使い、狙った獲物を追い詰めるため『シベリアの猟犬』『カイザーハウンド』とも呼ばれた。

 

そして『猟犬部隊』を創り上げ、その筆頭として、多くの生徒達を纏め上げている

 

猟犬に例えるならシベリアン・ハスキー。

 

相棒のマーティンとはお互い背中を預けあう仲。

 

ウィンタースポーツが大の得意で、スキーやスノーボード、果てはスケートも出来る。

 

かなりのセクハラ野郎で、事あるごとにノンナのおっぱいやお尻を後ろから揉んだり撫でたりする。

 

その度にノンナとデミトリに制裁を食らっている。

 

 

 

 

 

『猟犬部隊』

 

ピョートルが率いる特殊部隊。

 

猟犬の如く標的である獲物を追い込ませ、攻撃したり、攪乱させ、バラバラにさせた後、1人1人を確実に仕留める。

 

特殊部隊という名だけあって隊員の一人一人がエースに匹敵するほどの実力を持ち、連携術も只者とはいえない。

所属する2年全員が突撃兵であり、1年全員が偵察兵である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:マーティン

 

性別:男

 

身長:172㎝

 

誕生日:11月11日

 

血液型:O型

 

好きな武器:DP28軽機関銃

 

出身:北海道 

 

学年:ツァーリ神学校2年 

 

兵種:偵察兵

 

詳細:ツァーリ神学校2年の生徒で、作戦等の指示を練る参謀的存在。

 

スノーモービルを巧みに操り、見事なテクニックでスピードのある戦車やジープを追い越す事も出来る。

 

親しい者に対して世話焼きで、意外にいいやつだが、敵に対しては腹黒で、毒舌故に容赦がない。

 

しかもかなりのサディストで、抵抗の出来ない相手をいたぶる時には嫌らしい笑みを浮かべたりする。

 

ピョートルやデミトリとも気が合い、三人揃って『黒い猟犬座』とも呼ばれている。

 

別名『ブラックハウンド』『サディスティックガンナー』とも呼ばれている。

 

ピョートルとは相棒であり、お互いの欠点を補っている(本人談)。

 

セクハラなピョートルに対しては呆れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:デミトリ

 

性別:男

 

身長:172㎝

 

誕生日:12月20日

 

血液型:O型

 

好きな武器:火炎放射器

 

出身:北海道

 

学年:ツァーリ神学校2年

 

兵種:工兵

 

詳細:ツァーリ神学校2年の生徒で、作戦実行の班長を務める。

 

両親が宇宙関連の仕事をしており本人も宇宙飛行士になるのが夢で、大会にて優勝したら宇宙飛行士の勉強を始めると意気込んでいる。

 

装備する服装も、他の者とは違い、ソ連製の宇宙服を応用した防火服に身を固め、ロケットブースターで空を飛び、

 

ナパームとガソリンを混合した通常燃料ではなく、ロケット用液体燃料である非対称ジメチルヒドラジンとテトラニトロキシドを使用した特別製の火炎放射器を使う。

 

その威力は通常の数十倍以上。

 

焼夷弾も持っており、炎に関するものなら何でも持っている。

 

極度の宇宙オタクで、宇宙人の存在やUFOなど、宇宙に関するものなら兎に角話し出すと止まらない。

 

それでもピョートルとマーティンは楽しそうに興味津々に聞いている。

 

科学が大得意で、火に関する実験にて、色々な戦略を発見する。

 

『フレイムハウンド』『炎の掃除屋(スカベンジャー)』とも呼ばれている。

 

ピョートルとマーティンとは気が合う仲で三人揃って『黒い猟犬座』とも呼ばれている。

 

ノンナとは幼馴染であり、いつかお前を宇宙へつれてってやると、プロポーズをした事もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ニキータ

 

性別:男

 

身長:260㎝

 

誕生日:2月22日

 

血液型:不明

 

好きな武器:不明

 

出身:宮城県

 

学年:ツァーリ神学校3年

 

兵種:砲兵

 

詳細:ラスプーチンが連れてきた生徒で、力技に長けている。

 

熊の様な体格で、砲を持ち上げるほどの怪力を持つ。

 

ロシア軍人の父からサンボを習っている為、接近戦では見事なコマンドサンボで次々と蹴散らす。

 

赤いモヒカンに鉄仮面をかぶっており、あまりの巨体から、巨大熊、赤カブトと呼ばれている。

 

一撃必殺のダブルラリアートは大木を圧し折る。

 

「うがあああああ」やら「うおおおおおお」としか話せない

 

大洗との試合後に、ラスプーチンと共に姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラグナー様の考案キャラ

 

名前:ラスプーチン

 

性別:男

 

身長:187㎝

 

誕生日:不明

 

血液型:不明

 

好きな武器:シモノフPTRS1941

 

出身:不明

 

学年:ツァーリ神学校3年

 

兵種:突撃兵

 

詳細:ツァーリ神学校3年の生徒で、歩兵道の裏エース。

 

何処からやって来てどうやって入学したのかは誰も分からない、と言う謎の青年。

 

ツァーリの切り札とも呼ばれている。

 

ウェーブのかかった長い灰色髪に、黄金色の蛇のような瞳を持つ。

 

首からは十字架のペンダントを掛けており、常に神の啓示を言い続ける。

 

対戦車ライフルにシャスクを扱い、常に相手兵の視界から見えないほど距離に立ち、狙撃する。

 

弘樹との一騎討ちでは、氷湖の橋の上で戦い、弘樹ですら驚くほどの剣技を披露する。

 

しかし、フラッグ車が敗れると同時に、ラスプーチンも敗れてしまい、氷湖の中へと落ちて行った。

 

そして試合後に、雪化粧部隊とニキータと共に姿を消す。

 

『雪化粧狙撃部隊』

ラスプーチンが率いる、視界の悪い場所や、障害物の多い森の中などの景色に紛れて狙撃する、暗躍部隊。

 

狙撃の腕前はプロスナイパーに劣らないくらい。

 

ラスプーチン、ニキータと共に、試合後に姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黄金スフィンクス男子高等学園』『聖クレオパトラ女学院高校』

 

 

 

 

 

名前:キングコブラ

 

性別:男

 

身長:178㎝

 

誕生日:6月20日

 

血液型:O型

 

好きな武器:ブレン軽機関銃

 

出身:鳥取県 

 

学年:黄金スフィンクス高校2年生

 

兵種:偵察兵

 

詳細:黄金スフィンクス高校2年のエースで、無音の暗殺者。

 

幼い頃からネフェティとはままごとしたりの仲。

 

そうしている内に、お互いを意識し合い、いつも一緒であった。

 

だが、それを許さない家庭の事情により、男女に分かれた学校へと入学させられた。

 

それ以前に、ネフェティが他の子に虐められたりしたのにも関わらず、自分は何もせず隠れてばかりだった。

 

そうとは知らずにネフェティは彼に対しいつも通りに接してきたおかげで、自分の空しさを語った。

 

それ以来、男なら誰もが認める歩兵道の噂を聞き、隠れるのが得意な戦法を生かして足音を無くしながら近づき瞬殺する方法を独学した。

 

そしてそれを得て以来、ネフェティを虐めた子達を無音の移動術で次々と懲らしめてやった。

 

もしもの為と思い、更に自身をも鍛え上げ、誰も気がつかずに、鼓動も心も空っぽにし、瞬殺したのだった。

 

高校生になり、ネフェティと再会し、同じ学園艦へと入学し歩兵道へと入り、ダマスカス鋼で作られた蛇腹剣を使いこなしている。

 

使い方次第では蛇のようにまるで生きているように動いたり、刃がドリルのように回転し突いたり出来る。

 

軽機関銃を使うが、特に拘りを見せず、暗殺こそが戦いに置いて最強の戦術だと言い張る。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:アナコンダ

 

性別:男

 

身長:200㎝

 

誕生日:9月13日

 

血液型:АB型

 

好きな武器:SIG MKMS短機関銃

 

出身:鹿児島県 

 

学年:黄金スフィンクス高校3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:黄金スフィンクス高校3年のエース。

 

蛇の称号の中でも最高位に位置する存在で、自分のソウルネームに誇りを持つ。

 

しかし皆からは愛称として、リキッド(液体の様に静かに流れるような動きが出来る)と呼ばれる。

 

蛇野に対してはあまり期待はせず、彼の事を『スネーク』と呼ぶ。

 

しかしスネークと言っても、地味で最弱な『シマヘビ』。

 

その事で、スフィンクスやクレオパトラ校の生徒達は一斉に大笑いされる。

 

実力はとても高く、蛇野のCQCを返すほど、その上身体能力も高く、相手を一撃でダウンさせる背後からの首絞めが得意。

 

柔道等が得意で、嘗てはオリンピック選手に師事したが、2年後には彼をノックダウンさせるほどの強豪にもなった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:パイソン

性別:男

 

身長:190㎝

 

誕生日:6月14日

 

血液型:А型

 

好きな武器:手榴弾

 

出身:新潟県

 

学年:黄金スフィンクス高校3年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:黄金スフィンクス高校3年のエース。

 

体格も良く、剣と盾で、パワーで押し切る戦術を使う。

 

完全防御で相手の攻撃を防いだ後、タックルで相手を無防備にし、一気に斬り付ける。

 

歩兵にしては珍しく、銃は決して持たず、盾で銃撃を防ぎ、弾切れの瞬間を狙う。

 

唯一手榴弾を持っており、大勢に対しては使うつもりらしい。

 

 

 

 

 

 

 

名前:マンバ

 

性別:男

 

身長:164㎝

 

誕生日:2月22日

 

血液型:B型

 

好きな武器:FN ブローニングM1910

 

出身:島根県

 

学年:聖スフィンクス校2年生

 

兵種:突撃兵

 

詳細:黄金スフィンクス高校2年。

 

細い体躯と長い腕、そして竜真をも匹敵する走力を持っており、見事に捕まえては地面に叩き付け、手に持つ銃で追い撃ちをかける戦法を得意としており、

 

『追撃』という異名を付けられていた。

 

しかし、竜真よりもスピードがあるジェームズには対抗できず、前方不注意なまま曲がりきれず岩にぶつかり自滅してしまう。

 

 

 

 

 

名前:ネフェティ

 

性別:女

 

身長:170㎝

 

誕生日:8月11日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:シャーマン・ファイアフライ

 

出身:エジプト

 

学年:高校2年生

 

役割:戦車長、総隊長

 

詳細:エジプトに生まれたが、家族共々すぐに日本の鳥取へと移り住んだ。

 

父親が褐色系男子なため、褐色を受け継いでいた。

 

そのため昔は内気でいじめられたが、キングコブラと出会い、共に遊んでいたが

 

内気な自分のせいでキングコブラに迷惑をかけたのではないと思っており、自分を変えようと思いキングコブラと離れ離れになった後、中学生になるととても優しく人当たりがよくなる性格となり、友達も多くできた。

 

そして友達から催促された戦車道にも入り、相手の死角から回り込み砲撃するという暗殺術を独自に学び、中学卒業後は自らの意思により、暗殺術に詳しい学園艦へと入った。

 

そして高校になり、そこでキングコブラと再開し、お互い喜び合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『西部学園』

 

 

 

 

 

名前:ジャンゴ

身長:182㎝

誕生日:7月4日

血液型:A型

好きな武器:コルト・S・A・A

出身:埼玉県

学年:西部学園 2年生

兵種:突撃兵

 

 

 

 

名前:レオパルド

身長:184㎝

誕生日:2月1日

血液型:B型

好きな武器:ボーイズ対戦車ライフル

出身:千葉県

学年:西部学園 2年生

兵種:狙撃兵

 

 

 

 

名前:ピューマ

身長:194㎝

誕生日:7月3日

血液型:AB型

好きな武器:なし

出身:埼玉県

学年:西部学園 2年生

兵種:砲兵

 

 

 

 

名前:オリバー

身長:160㎝

誕生日:7月4日

血液型:A型

好きな武器:ウィンチェスター

出身:アメリカ テキサス→ニューヨーク

学年:西部学園 1年生

兵種:偵察兵

 

 

 

 

名前:パンサー

身長:179㎝

誕生日:8月8日

血液型:O型

好きな武器:特にに決まっていない

出身:アメリカ ニューヨーク

学年:西部学園 1年生

兵種:偵察兵

 

 

 

 

名前:サーバル

身長:158㎝

誕生日:8月20日

血液型:A型

好きな武器:日本刀

出身:栃木県

学年:西部学園 1年生

兵種:突撃兵

 

 

 

 

名前:カルカラ

身長:173㎝

誕生日:9月30日

血液型:B型

好きな武器:コルト・ディテクティブスペシャル

出身:福島県

学年:西部学園 1年生

兵種:偵察兵

 

 

 

 

クロエ

 

西部の総隊長。

自他共に認める戦闘狂。

その狂乱ぶりは、あのまほが引く程。

しかし、彼女なりの倫理やルールと言うものがあり、それには従っている。

ジャンゴと付き合っているが、両刀であり、可愛い子を見ると手当たり次第に手を出す。

曰く『同性だから浮気じゃない』だそうです。

専らのお気に入りはシャム。

 

シロミ

 

ノーラ

 

ブチ

 

シャム

 

ミケ

 

 

名前:スコティッシュ

身長:158㎝

誕生日:5月1日

血液型:O型

好きな戦車: ポルシェティーガー

出身: 東京都 浅草

学年:1年生

 

陸上部所属、銭湯『にしの湯』の四姉妹の長女。

ショートカットが似合うしっかり者。

オリバーには恋心を抱いているが、なかなか進展していない。

戦車道を知ったのは、中学の頃からであり、それまでは店の手伝いとかで見ている暇がなかった。

主に操縦士を担当しており、陸上部で鍛えた足でペダルを巧みに操作する。

 

 

名前:ラグドール

身長:165㎝

誕生日:2月28日

血液型:B型

好きな戦車: 九七式中戦車

出身: 東京都 目黒区

学年:1年生

 

弓道部所属。等々力弓道場の箱入り娘。

高校生離れした巨乳とロングヘアがトレードマークのマイペース娘。

オリバーには恋心を抱いているがなかなか進展していない。

戦車道は小学校高学年から知っており、主に砲撃担当を任されている。

弓道で鍛えている為か、狙いは抜群。

 

 

名前:マンチカン

身長:144㎝

誕生日: 3月5日

血液型:A型

好きな戦車: 戦車より食べ物をさらっと言える

出身:東京都 お台場

学年:1年生

 

囲碁・将棋部所属。ポニーテールがトレードマークの元気娘。父親は映画監督で一人娘。

オリバーには恋心を抱いているが、スコティッシュとラグドールに遠慮して気持ちを表に出すことはない。

美味しい食べ物に目がなく、「食欲魔人」の二つ名を持つ。

高級料理や海外の料理素材に詳しく、それ等のものを既に食していたり、とあるAV女優のサイン付き写真集を手に入れられる等、レアアイテムを手に入れる謎のパイプを持つ。

通信手を主に担当しており、囲碁、将棋の経験から戦車長にアドバイスする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナイトウィッチ女子学園』『ハロウィン高校』

 

 

 

 

 

名前:シュガー

 

身長:180㎝

誕生日:11月11日

血液型:A型

好きな戦車:ツァーリ・タンク

出身:アメリカ・ネバダ州

学年:2年

 

両親は、世界的に有名なマジシャンで不可能マジックを成功させたことでその名を広めた。

彼女もそんな両親に誇りを持ち、マジック修行にていくつか習得し、小学校の人気者となった。

そんな彼女は、とある試合でBIG4のとある1学園vsグランドスラムを会得した挑戦者学校との軍事道の試合を見て感嘆し、戦車道に興味を持つ(結果的にはBIG4の勝利)。

中学になり、戦車道が出来る学園艦へと入学し戦車道を始めるが戦略のやり方に面白さを感じ、自分流の戦術で戦車道ミドルリーグで準優勝を手にした。

更に自分を守ってくれた赤い瞳を持つジャックに心酔しており、彼に対して淡い恋心を抱き、彼の為に勝負に勝ちたいと言う気概がある。

母親譲りのブロンドのウェーブヘアやセクシーなナイスバディを持っている。

天然な性格でゆるゆる。

ほぼすべてのマジックを披露できる。

戦車チームの総隊長を勤める。

 

 

名前:ソルト

 

身長:168㎝

誕生日:2月2日

血液型:B型

好きな戦車:五式軽戦車ケホ

出身:長崎県

学年:1年

 

本人は運動系でかなりのアウトドア派。

活発な性格で、やや負けず嫌い。

幼い頃から新体操に属しており、見事な柔軟性やパフォーマンスを見せつける。

バイトもたまにやっており、日曜日や祝日等は本土にある遊園地でヒーローショーを勤めている。

シュガーのマジックに感動し、自分もやってみたいと意気込み、参加するものの上手くいかず落ち込む。しかしシュガーの優しさと励ましに元気を取り戻し、体を張ったマジックをオススメされ、縄脱け、脱出等で成功した。

スポーツ万能と言うだけあって、多くのスポーツ系の部活助っ人(ヘルパー)を兼任しており、その反面、学力は乏しい。

サッカーやフットサルではことあるごとにカロと対峙しており、勝負はほぼ五分五分。

しかしある時、とある理由でカロの蹴りを喰らってしまい、それ以来お互い口をきかない緊迫した関係になってしまった。

しかし本人は仲直りしたいと言うが、素直になりにくい状態だった……。

戦車チームの副隊長を務める。

 

 

名前:ヴィーネ

 

身長:170㎝

誕生日:3月3日

血液型:O型

好きな戦車:M24チャフィー軽戦車

出身:ジャマイカ

学年:2年

 

1年の頃から留学してきた黒人少女。

ラテン系なだけにダンスが得意。

カポエラにも精通しており、そのすらりとした見事な脚に魅了された男子も多くいる。

ソルトとコンビを組んでのマジックを得意としており、お互いに場所を入れ替わる瞬間移動マジック等を披露する。

 

 

名前:ペッパー

 

身長:171㎝

誕生日:5月5日

血液型:AB型

好きな戦車:KV-85

出身:ロシア

学年:2年

 

ロシアからやって来た留学生で、かなり色白。実は 先天性白皮症で、稀にしか見られぬアルビノである。

白い体つきと言うだけで、非常に珍しい。

プラウダ高校のクラーラとは、ロシアにいた頃同じ学校だった為、面識がある。

その為、日本語はたまにでロシア語しか話さない。

占いを得意としており、タロットカードによる色んなジャンルの占いを数件依頼されたこともあり、かなり人脈があるが、本人はいたって物静かな性格。

カードマジックも出来る。

その物静かさからソイソーに暗示を掛ける催眠術を教わる。

日本のコスプレ好きで、色んなキャラのコスプレをblogに載せているが、全部ロシア語。

 

 

名前:ソイソー

 

身長:170㎝

誕生日:8月8日

血液型:AB型

好きな戦車:キャバリエ巡航戦車

出身:日本

学年:2年

 

ナイトウィッチ学園の生徒会長。

超能力を扱い、スプーン曲げや、物体浮遊、透視能力といったマジックを得意としており、主にペッパーとコンビを組んでいる。

その為、彼女に話そうとロシア語を勉強し、話せるようになった。

最初は想像がつかないほどメガネっ娘なお堅い勉強家の読書娘で、シュガーのマジックをインチキだと糾弾した事もあるが、とある事件でシュガーを認め、彼女に感化され、超能力マジックを勉強する。

戦略等も得意で、相手がどんなパターンで攻めて来るか深く予測する。

しかも最悪のパターンすらも予測し、他の作戦をいくつか考え直し、そこから確実に解決すると言う、相手ですらも想定外にくぐる。

 

 

 

名前:安斎 義晴

 

身長:175㎝

誕生日:3月11日

血液型:A型

出身:静岡県

 

ハロウィン、ナイトウィッチ学園の軍事道監督且つ教官。

元・全日本代表の歩兵で、性格は非常に温厚で物腰も柔らかくとても穏やかな性格だが、現役当時は想像もつかないほどの気性の激しい鬼隊長で、指導方法も軍隊のような規律を第一にしたガチガチのシステマチックなスパルタ式だったが、とあるきっかけにより軍事道を引退した。

その後、ハロウィーン学園の軍事道教官に就任し、隊員達や他校の選手を「君」付けで呼び、敬語で話すようになる等、性格は丸くなり元々太めだった体格もさらに丸々と太った。

たまにしか練習に姿を見せず、あまり練習にうるさく口を出さない事や恰幅のいい体型もあいまって、一見お飾りのような印象を与えるが、隊員の能力を見抜き、冷静かつ大胆に構築された的確な戦術の作成能力から、他校の教官や総隊長からも尊敬の意を込めて「安斎先生」と呼ばれている。

あの空すらも、彼のことを深く敬愛している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:ジャック

身長:177㎝

誕生日:11月1日

血液型:A型

好きな武器:US M1918“BAR”

出身:愛媛県

学年:ハロウィン高校2年生

通称『兵隊専門の処刑執行人』『本当の英霊を継ぐ者』

赤髪と赤瞳にサングラスを掛け、両耳にはピアスをしており、ルックスにも優れている。

少し笑みを浮かべただけで一同を驚愕させるほど、普段はポーカーフェイスを崩さない怜悧冷徹な男である。

身体能力はもはや人並みを完全に超えており、体力等は決して息切れをしないくらい。

子供の頃から兄に薦められ読んでいた『アサシン』の小説により『アサシン』を深く尊重し憧れ、アサシンと同じようにパルクールを得意とする。

そして、遥かな昔大戦時代に活躍した舩坂 弘に憧れを抱き、彼のような英雄になるべく、剣術、射撃等を一意専心に学び続け、英霊を名乗ろうとしたこともあった。

しかしそれは、彼自身のイメージである不死身=『最強である』=『絶対に負けない』という覚悟の証の為に名乗っているだけであり、解釈としては少し違うところもある。

中学から軍事道を始め、鋭い大鉈や手斧で戦う。

軍服の上に胸当ての鎧を着け、更にジャック・オー・ランタンの顔をしたマスクを着け、鷲のようなフードが付いた特殊な装束を着用する。

これ等の服装は兄から譲り受けたものであり、二人共アサシン教団ではないが、彼等の信条に心惹かれ、

彼等のようになりたいと心から願っている。

テレビに出てくるヒーロー等を冷たく偽善者と罵り、現実で多くの人達の為に活躍できる者こそ、本当のヒーローだと断言する。

アサシンに憧れるだけあってか、身体能力は高次元であり、葉隠をも凌ぐほどの実力を持ち、攻撃面でも獅子奮迅の大活躍を見せた。

また『縮地』と呼ばれる無音の高速移動法を体得しており、100mを3秒で走り切る驚異的なスピードを有している。

 

 

 

名前:カロ

身長:178㎝

誕生日:12月12日

血液型:B型

好きな武器:ベレッタM1938A

出身:徳島県

学年:ハロウィン高校2年生

通称『蹴撃の灰狼』『キック率100%』

携帯しているクシで髪形を整えるのが癖。激昂するとクシを折ってしまうこともあり、懐には常に櫛がたくさん入ってる。

同じ狼の名を持つ神狩白狼をライバル視している。

熱血漢で、チームメイトのジャックとは反りが合わず衝突することが多い。

キックに関する事に拘りを持ち、テコンドー、ムエタイ、カポエラを全てマスターし、脚技のテクニックをもモノにしていた。

しかも、自分より重いものですら蹴り飛ばす事が可能で、マレット臼砲に使われている砲弾を、サッカーボールの様に蹴り飛ばす化け物染みた脚力をもつ。

 

 

 

 

名前:サミー

身長:168㎝

誕生日:11月13日

血液型:A型

好きな武器:ワルサー

出身:香川県

学年:ハロウィン高校1年生。

通称『存在率0%』『静黙の亡霊(サイレンス・ゲシュペンスト)』

すぐ目の前にいても自分から声を発さない限り気付かれない、いつの間にか傍にいてビビられる、注意していても一瞬気を逸らすだけで見失う等、異常なまでに影が薄いことが特徴。

常に無表情かつローテンション。誰に対しても丁寧語で話し、礼儀正しく物静かな少年。しかし一方で、熱い闘志と強い拘りの持ち主でもあり、「諦めることを知らなさ過ぎる」と作中で評されるほどの大変な負けず嫌い。

また、目立たないだけで実は行動的であり、気付かれない内に誰よりも速く積極的な行動に出る事もある。

ワルサーが好きなのに、狙撃兵を希望する。

これもまた自分が影の薄さを利用して、誰にも気づかれずに、戦死させるという作戦。

そして潜入の時も、声をかけられない限りは、自分の事を最後まで誰にも気づかれない(これは蛇野ですらも羨む才能)。

丁寧な物言いながらも言いたい事はストレートに発言する性格で、真面目で素直な一方、容赦が無いとも言える。

 

 

 

名前:スコール

身長:226㎝

誕生日:5月21日

血液型:A型

好きな武器:重い重火器全般

出身:高知県

学年:ハロウィン高校1年生

通称『甦るフランケンシュタイン』

黒い影のある赤髪として描かれている。眉毛の形が特徴的。

子供の頃から人並み外れた巨体で、やや乱暴なところがあり、頭に血が上り易いが、諫められれば自分の間違いをしっかり反省する等、基本的には素直な性格である。

スポーツ万能でほぼ全てのスポーツが出来る。

信じられないほどの力があり、航空機が使う機関銃 (MK108 2連装30㎜機関砲)を軽々と持ち上げ、それを武器に使える。

ルダのパワーをもモノともしない位にとにかく力が強い。

噂では、ダンプカーに挟まれた子供を助けるべく、ダンプカーを持ち上げたと言うが……本当かどうかは不明。

気合いを入れる時は「ふんがぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」と叫ぶ。

 

 



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紹介します!その他の人達

お詫び

PCがクラッシュしてしまい、しかも運が悪い事にバックアップを取っている最中でしたので………

ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダースの原文・元データが全て飛んでしまいました。

辛うじて一部復旧は出来ましたが、その影響で黒森峰生徒の一部、西部学園、ナイトウィッチ女子学園とハロウィン高校のキャラクターの一部が名前だけや簡易データ、或いは草案の状態となっています。

誠に申し訳ありません。

どうか御理解・ご了承下さい。

天元突破ISは、別の外付けメモリに保存してあったので無事です。

来週から投稿させていただきます。


その他の登場人物紹介

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:舩坂 湯江(ふなさか ゆえ)

 

性別:女

 

身長:130㎝

 

誕生日:12月12日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:Mk.Ⅶテトラーク軽戦車

 

好きな花:桜

 

出身:栃木県栃木市

 

学年:県立大洗小学校3年生

 

詳細:舩坂 弘樹の年の離れた妹。

 

小柄な体格とおかっぱの黒い髪が特徴。

 

祖父と兄の教育により、今時珍しい大和撫子。

 

休日には着物姿で居る事が多い。

 

唯一の身寄りであり、自分を大切にしてくれる兄を慕っており、自分の事には無頓着になりがちな兄の世話を甲斐甲斐しく焼いている。

 

幼いながらも炊事に家事を一通りこなせ、また天性の戦車道素質を秘めており、初めて乗った戦車をマニュアルも見ずに動かした事もある。

 

みほの事を気に入り、彼女に姉の様に接すると共に、何かと不器用な生き方をしがちな兄の支えになって欲しいと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:蛍

 

性別:女

 

身長:180㎝

 

誕生日:不明

 

血液型:A型

 

好きな戦車:38t戦車

 

好きな花:ひまわり

 

出身:滋賀県甲賀市

 

学年:大洗女子学園定時制3年

 

詳細:大洗学園の定時制学科で生徒会長を務める少女。

 

おっとりした温和な性格で、少しそそっかしいところがある。

 

杏とは、学科は違えど、同じ生徒会長として、友好を結んだ中であり、彼女も大洗学園が戦車道で負ければ無くなる事は既に知っている1人である。

 

定時制の為、皆と同じ授業に出る事はできないが、大会においてはカメさんチームの装填手兼偵察兵として戦う。

 

また、甲賀流忍術の使い手でもあり、その性格のせいか忍法も剣術も体術もまったく身に付けることができなかったが、砲術の扱いには生まれつきの才能を備えている。

 

それを活用して、偵察に出ていた優花里をサンダース学園で援護した。

 

昼間は、空教官の下で歩兵道と戦車道を極めるための修業をし、夜は学校で勉強の2足の草鞋の生活を送っている。

 

入学前に駅で通り魔事件にあい、その時のショックで自分の記憶を一部失っているが、本人はそれを気にしていない。

 

また、その時助けてくれた閣下の事を「迫信様」と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:橘 元姫(たちばな げんき)

 

性別:女

 

身長:150㎝

 

誕生日:4月25日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:ポルシェ博士が関わっていた戦車全て。

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:県立大洗女子学園3年生

 

詳細:司馬 俊の幼馴染で恋人であり角谷のクラスメート。

 

プラチナブロンドの髪に琥珀色の瞳、白磁の人形のような白い肌と言う浮世離れした美貌を持つ。(本人曰く「私は、どっかの外国の血を引いてる、って親から聞いた」)

 

身長と体格は、杏と同程度と思われるほど小柄かつ華奢ながら、胸は驚くほど豊満。

 

家族構成は両親との3人家族で、司馬の住むビルで劇中に出てきた戦車カフェを営んでいる。

 

趣味は、司馬の面倒を見ることと言う名の家事全般。

 

特に料理は天才的でカレーとデザート全般を得意とする。(ただし、香辛料や材料に拘ってしまう癖がある……)

 

またあんまり知られてないが、芸術性もあり、大洗機甲部隊の各戦車チーム・随伴分隊のマークをデザインしたのは彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:竹中 愛(たけなか あい)

 

性別:女

 

身長:160㎝

 

誕生日:1月1日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:戦車嫌い

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:大洗女子学園3年生

 

詳細:竹中家の長女で大洗学園コスプレ同好会会長。

 

性格は、超が付くブラ&シスコンでショタコン。

 

趣味でも愛しの弟と妹の為に様々な衣装を作ってる。(ちなみに、劇中で着たアンコウ踊りの衣装は彼女が高1の時に作ったもの)

 

好物は、学食の和定食。

 

また、みほとは違う意味で戦車が嫌い。(幼少時に、戦車に轢かれたが奇跡的に軽傷で済んだ事がある為)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:紅姫(べにひめ) 本名:竹中(たけなか) あかね)

 

性別:女

 

身長:170㎝

 

誕生日:5月1日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:興味無し。艦船が好きで、1番好きなのは大和

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:大洗学園2年生だが、現在とある事情で不登校気味

 

詳細:竹中家の次女で、人気ゴスロリ系雑誌の専属モデル。

 

その為、普段からゴスロリファッションを好んで着ている。

 

性格は、超が付くネガティブだが、覚醒した時は「女神のような美人なのです(愛談)」

 

好物は、悪魔の血(コーラ)

 

趣味は占いで、高確率で当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:竹中(たけなか) レナ

 

性別:女

 

身長:140㎝

 

誕生日:7月7日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:興味なし。好きな物は航空機で、1番好きなのは零戦

 

出身:茨城県大洗市

 

学年:大洗小学校3年生

 

詳細:竹中家の三女で湯江の友達。

 

性格は、超が付く僕ッ子で、私服も兄のお下がりを着ている事が多い。

 

好物は、コンビニのカウンターフーズ(おでんや肉まん、フライドチキンといったカウンターで調理して売ってる商品の事)全般。

 

趣味は、マイカメラで雲の写真を撮る事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:黒岩 遥(くろいわ はるか)

 

性別:女

 

身長:150㎝

 

誕生日:10月6日

 

血液型:B型

 

好きな戦車:Mk.Ⅶテトラーク軽戦車

 

出身:大阪府大阪市

 

学年:県立大洗小学校3年生

 

詳細:黒岩大河の年の離れた妹で、湯江が転校先で出会った初めての友達。

 

小学3年には似合わない、モデルのような体格とロングの黒い髪が特徴。

 

今時の子供だが、趣味は、エロ可愛い下着を集める事とちょっとマセている。

 

休日には地元情報誌(専属契約)の人気読者モデルの仕事をしており、将来はアイドル歌手としてデビューしたいと考えてる。

 

おやつ感覚が少しズレており、板わかめ、煮干、ちからこぶ煎餅など好む(どれも兄の影響)が、モデルのプロフィールには、プチトマト(特に、スイートトマト)と書いている。

 

普段はキツイ事を言いがちだが、彼女も唯一の身寄りであり、自分を大切にしてくれる兄を慕っており、自分の事には無頓着になりがちな兄達の世話を甲斐甲斐しく焼いている。

 

幼いながらも炊事に家事を一通りこなせ、戦車道素質は無いが将来のために勉強する努力家。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:真田 敏郎(さなだ としろう)

 

性別:男

 

身長:179㎝

 

誕生日:6月19日

 

血液型:O型

 

出身:茨城県水戸市

 

学年:県立大洗国際男子高校3年生

 

職種:整備部部長兼武器開発班長

 

詳細:大洗男子校歩兵部隊の武器・車輌等の整備を引き受けている整備部の部長。

 

整備士としてかなりの腕を持っており、高校生ながらも企業からのスカウトを受ける程。

 

また、新兵器開発にも努めている。

 

非常に備えが良く、他校との試合前には『こんなこともあろうかと』と言う台詞と共に、相手校に対し有効な武器を用意している事が多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:志波 藤兵衛(しば とうべい)

 

性別:男

 

身長:170㎝

 

誕生日:2月4日

 

血液型:O型

 

出身:熊本県菊池市

 

学年:県立大洗国際男子高校2年生

 

職種:整備部副部長

 

詳細:大洗男子校歩兵部隊の武器・車輌等の整備を引き受けている整備部の副部長。

 

敏郎に次ぐ、かなりの整備士の腕を持つ。

 

敏郎が新武器開発に専念している時は、代わりに整備部を取り仕切る。

 

コミニカルな人物で、大洗男子校のムードメーカーとして知られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:最豪 嵐一郎(さいごう らんいちろう)

 

性別:男

 

身長:187㎝

 

誕生日:9月18日

 

血液型:A型

 

好きな武器:ブローニングM1918自動小銃

 

出身:静岡県御殿場市

 

所属:陸上自衛隊普通科教導連隊

 

階級:一等陸尉

 

詳細:県立大洗国際男子高校に特別講師として招かれた現役陸上自衛官。

 

2等陸士からの叩き上げで、歩兵時代は数々の武勲から伝説の男と呼ばれていた。

 

戦車道の蝶野 亜美が大雑把で碌な指導をしなかったのと違い、嵐一郎は本物の軍隊さながらの訓練を歩兵道受講者に課した。

 

訓練中は只管に罵詈雑言で罵り、一切の甘えを許さない厳しい男。

 

しかし、努力と成果は素直に認めるという、厳しさに裏打ちされた優しさがある。

 

牛丼が大好物で、食べている時は非常にコミカルなダミ声になる。

 

口癖は「ハイではない! 私への返事は、『ラジャー!』若しくは『了解!』だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:藤林 空(ふじばやし そら)

 

性別:女性

 

身長:181㎝

 

誕生日:7月7日

 

血液型:O型

 

好きな戦車:74式戦車

 

出身:東京都練馬区

 

所属:陸上自衛隊機甲科戦車教導隊

 

階級:一等陸尉

 

詳細:チームのリーダーで戦車道と歩兵道を極めた女性兵士として自衛隊内でもかなりの有名人。

 

専門職は、白兵戦及び基礎トレーニング。

 

特に白兵戦は、レンジャー部隊やアメリカ軍からコーチに来てほしいとスカウトされるほどの実力。

 

噂だが、学生時代は元トップクラスのスクールアイドルとしても活躍していたと………

 

趣味は関東近辺のどインディ―ズプロレス団体観戦で、特技は遠泳(5㎞は泳げる)と柔軟性のある身体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:藤林 みゆき(ふじばやし みゆき)

 

性別:女性

 

身長:165㎝

 

誕生日:6月1日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:90式戦車

 

出身:東京都練馬区

 

所属:陸上自衛隊機甲科戦車教導隊

 

階級:二等陸尉

 

詳細:空の一つ下の妹で陸上自衛隊科学総合研究所出身。

 

砲手を務めているが、本業は戦車道の教育用AI作成計画の主任。

 

姉の頼み(条件として10式改にAIを搭載する事)でチームに入る事を了承。

 

教官の傍ら、真田達と協力して戦車道用教育AIを作っている。

 

専門は、座学・AI工学と通信技能。

 

通信教育で取ったのだが、理科と情報の高校教員免許持ち。

 

最下位クラスの生徒でも優しく丁寧に教えてくれる。

 

オペレーターとしては、ベテラン管制官レベルの腕の持ち主。

 

趣味はゲーム(特に頭を使うボードゲームやオンラインゲームで、十河とチェスで互角に勝負する事も)で、特技はAIの作成及び調整。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:川添 桐野(かわぞえ きりの)

 

性別:女性

 

身長:160㎝

 

誕生日:5月4日

 

血液型:AB型

 

好きな戦車:61式戦車

 

出身:千葉県習志野

 

所属:陸上自衛隊機甲科戦車教導隊

 

階級:二等陸尉

 

詳細:チーム唯一の整備士で、元々みゆきと同じ科総研出身。

 

みゆきの推薦で参加する事に。

 

専門は、整備・開発学と剣道訓練。

 

整備士としての知識を簡単に優しく教える事がモットー。

 

剣道は流石に弘樹には勝てないが、全国大会で優勝できる実力の持ち主である。

 

趣味は機械いじりで、特技は剣道(学生時代に全国大会優勝経験あり)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DaisukeP様の考案キャラ

 

名前:叶 ミカ

 

性別:女

 

身長:180㎝

 

誕生日:5月24日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:フェラーリに関わりのある戦車全般

 

好きな花:深紅のバラ

 

出身:東京都新宿区

 

職業:陸上自衛隊所属・自動車部外部顧問

 

詳細:空達幻影小隊ガールズが陸上自衛隊で見つけてスカウトした教導隊の新人隊員。

 

主に空が乗る試作10式・改の操縦手を担当。

 

元々空に憧れていた為、今回のスカウトは速攻承諾。

 

趣味はドライブで、現役の走り屋でもありその操縦テクから、『キャノンガール』の異名を持つ。

 

ちなみに、愛車はキリノと協力して改造を施した最新モデルのフェラーリ。

 

その為、自動車部の外部顧問としてもスカウトされている。

 

好物は餃子で、特に『餃子の王将』の餃子と札幌研修の時に見つけたみよしやの餃子カレーが大好き!!

 

好きな物は最後まで残す派。

 

少し照れ屋で、『ちゃん』付けで呼ばれるのが嫌い。

 

特訓ではスパルタ肌で、操縦手組達には鬼コーチと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の考案キャラ

 

名前:西住 常夫(にしずみ ときお) 

 

性別:男

 

身長:176㎝

 

誕生日:4月26日

 

血液型:AB型

 

好きな武器:ワルサーP38

 

出身:熊本県熊本市

 

詳細:みほとまほの父で、しほの夫。

 

西住家に婿入りしており、旧姓:平良(たいら)。

 

西住流戦車道の師範であり、厳格で非情のしほとは対照的であり、温和且つ穏健な性格。

 

みほが戦車道から逃げる様に大洗へ引っ越した事や、その後の生活資金を援助していたのは何を隠そう彼である。

 

自他共に認める超無責任であり、女好きでだらしない。

 

実は昔、歩兵道で隊長をやっていたが、歩兵としての能力は全く無く、その上兵法に対する知識もからっきしであった。

 

だが、異常なまでの強運であり、参加した試合では悉く勝利している。

 

そこで付いた渾名が『日本一の無責任隊長・平良 常夫』

 

しほとは、彼女が指揮していた機甲部隊を、持ち前の悪運で撃破した事から馴れ初めが始まったが、しほ曰く『こんな奴と結婚してしまったのが私の人生の唯一の大敗だ』との事である。

 

まほからもあまり良い感情を得られておらず、世間からは『西住家最大の汚点』とまで言われている。(本人にとっては何処吹く風)

 

しかし、立場上厳しい扱いを受ける事が多かったみほからは慕われており、大洗に引っ越した後も細目に連絡を取っていた。

 

常夫もみほを溺愛しており、突然学園艦に居る彼女の元へ土産を携えてサプライズ訪問したりしている。

 

一見すると典型的なダメ人間の様だが、純粋、且つ穏健な心と誰よりも強い信念を秘めており、決して強運だけでない彼の為人が、下手をすれば家庭崩壊しそうな西住家を繋ぎ止めている。

 

色々な意味で腹の内が読めないが、裏表の無い男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名前:西住 町子

 

性別:女

 

身長:165㎝

 

誕生日:3月18日

 

血液型:A型

 

好きな戦車:Ⅰ号戦車

 

出身:熊本県熊本市

 

詳細:西住 しほの実母で、まほ、みほの祖母。

 

西住流の先代師範であり、現在は日本戦車道連盟の親善大使として、世界中の戦車道連盟と交流をしている。

 

その為、日本に居る事は少ない。

 

現役を引退しているとは言え、戦車道の腕はまほやみほ、果ては現師範であるしほよりも遥かに上。

 

黒森峰女学院の戦車道の担当教師を務めていた事もあり、当時無名だった同校を、当時の戦車道強豪校であった『電子高校』、『太陽高校』、『恐竜高校』、『魔法高校』と渡り合える程に強くした。

 

当時を知る者からは、『戦車女王』または『戦車魔女』と呼ばれ、恐れられた。

 

だが、それでしほが後を継ぐ様に黒森峰の講師になった際、町子が立てた功績故に期待を抱かれてしまい、それに十分に応える事が出来なかった結果、しほは過剰なまでの勝利至上主義者へと変貌してしまった。

 

故に、しほがそうなってしまい、西住流が現在の形となってしまったのは自分の責任だと感じている。

 

性格は明るく人好きであり、誰とでもすぐ仲良くなり、誰からも愛され、人との交流を大事にする人物。

 

その為、魔女と言う異名でしか知らない者達からは、そのギャップに戸惑いを覚える者も少なくないが、それでも戦車道求道者からは神の様に崇められている。

 

孫のまほ、みほの事は、常夫と同じく非常に溺愛している。



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