牌に愛されし少年 (てこの原理こそ最強)
しおりを挟む

プロローグ





 

死後の世界。そんなものは果たして存在するのだろうか…?この疑問は様々な人が一回は考えただろうと思う。オレも()()()()()()()考えたことがあった。でもそれは天国か地獄かのどっちかであって、まさかそんな自分がその二つとは違うところに来るとは想像できなかった

 

「どうじゃ?整理はついたかのぉ?」

 

「…オレはホントに死んだんですね」

 

「残念ながらの…」

 

オレに声をかけてきたのは神様らしい。この会話を聞いていればわかる通りオレは死んだ。死んでしまった。まだ大学生で親もばあちゃんじいちゃんも、ましてやひいばあちゃんも生きていた中でだ

 

ある日、オレは家族と海外旅行に出かけていた。オレは大学で外国語を専攻していただけに英語はそこそこできたから普通の家庭よりは最初から楽しく旅行ができた。しかしそのときの情勢が悪かった。その行った国でテロがあったのだ。オレ達家族も危険に見舞われ必死に逃げた。でもそのテロリストはオレのたった1人の弟に銃を向けたのだ。オレはとっさにその前に出て弾を受けてしまった。これがオレの死因だ

 

「やはり悲しいか?」

 

「そりゃあな…特に家族には申し訳ないよ」

 

死に方も死に方だけに、特に弟はオレの後を追いそうで怖い

 

「オレの家族はどうなったんだ…?」

 

「そこは安心せい。あの後無事に救助されたわ」

 

「そうか…」

 

とりあえず助かったのならよかった。だがやっぱり家族と離れ離れになるのは悲しいな…

 

「それでお前には二つの選択肢がある」

 

「二つ?」

 

「そうじゃ。このまま天国に行くか、転生して第二の人生を歩むかじゃ」

 

転生か…

 

「一応聞くが元の世界には戻れるのか?」

 

「申し訳ないがそれはできん」

 

「そうか、わかった」

 

「すまないの」

 

「いいって。うぅん…やっぱ転生で頼むわ」

 

「わかった」

 

死んでしまったのは仕方ない。家族のみんなには悪いけど第二の人生を歩ませてもらおう

 

「それで転生先なんじゃが…これもすまんがこちらにしか決定権がないんじゃ」

 

「そうなのか。できれば戦闘とかがない世界がよかったんだがな」

 

「でもわしの権限でお主が生前に好きだったアニメの中からランダムで選べるようにした」

 

「それは助かる」

 

これはホントにあるがたい。原作を知ってるのとそうでないのの差はすごいからな

 

「では決めるぞ」

 

神様がそう言った瞬間、人生ゲームに使うようなルーレットが現れ、そこにはオレが知っているアニメの名前がずらりと書いてあった。そしてルーレットは回りだし数回転してから止まった

 

「ほほう。お主の転生先は“咲ーsakiー”じゃな」

 

「そうか。平和な世界でよかった」

 

咲ーsakiーの世界は戦闘のようなものは皆無の世界だ。あとは原作の人達と知り合いになれるかかな

 

「では転生先も決まったようじゃし、今回は特別にわしから特典を授けよう」

 

「えっ、いいのか?」

 

「今回は特別じゃ。お主は家族を命に代えて守ったのじゃ。これぐらいさせてくれ」

 

「神様…ありがとう」

 

ホントにこの神様はいい人だな。あ、人じゃなくて神か…まぁいいや

 

「何個までいける?」

 

「制限はなしじゃ。あまりに過度なものは抑えるがの」

 

「マジか…少し時間をくれ」

 

何個でもいいっていってもあまり貰いすぎても悪いしな…

 

 

 

 

 

ー数分後ー

 

「決まった」

 

「では伺おう」

 

「一、麻雀のセンス。二、頭の回転のよさ。三、原作で主要選手と知り合いにしてくれ。以上だ」

 

「それだけでよいのか?」

 

「あぁ。これ以上だと申し訳ないしな」

 

「そうか。では転生を始めるぞ。特典の方はお主が向こうに着いた瞬間に身につくようにしとくわ」

 

「了解だ」

 

いよいよ転生だな。みんなオレも新しい人生頑張るからな

 

「では良き第二の人生を送るのじゃぞ」

 

「おう!神様もありがとな」

 

オレの足元が光オレはその光に飲み込まれた

 

「ふぅ…しかしあの男は謙虚じゃのぅ。制限がないと言ったのに三つだけとは…少しサービスしとくかの」

 

こうしてオレの第二の人生が始まる

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生まれ〜小学生
第1話


ー5年後ー

 

オレはてっきり中学生ぐらいに転生されるのかと思っていた。でも…でもまさか、()()()で転生させられるとは思わなかった。体は赤ちゃんでも中身はこの前まで大学生だったんだぞ!?授乳のときとかオムツ変えられるときとか恥ずかしくて死にそうだったよ!

 

オレの名前は“菊池 翔(きくち しょう)”と名付けられ、兄弟はなし。父さんと母さんは共働きだ

 

転生先は岩手にある山奥の小さな村だった。そこは生前に住んでいたところとは全然違い静かで人口も少ないから村のみんなが知り合いみたいになった。特にそこにはオレと同年代の人は少なくて、隣の家に住んでいる二つ上の女の子とよく遊んでいた

 

『しょ〜お〜ちゃ〜ん!あ〜そ〜ぼ〜!』

 

噂をすればその女の子が遊びの誘いにきた。少しいたずらするか

 

「…」

 

『あれ〜?しょうちゃ〜ん!あそぼ〜!』

 

「…」

 

『いないのかな〜』

 

玄関の外で端から端を行ったり来たりしている影を見てオレはおもしろく感じる。でもそろそろ返事してやろうかな

 

ガラガラ

「あー!しょうちゃんいたー!」

 

「おっす豊ねぇ」

 

そこにいたのは白のワンピースに身を包み長い黒髪をした小学生にしては身長が高い女の子、姉帯 豊音(あねたい とよね)だ。会った初っぱなで弟に任命されてしまい、それ以来“豊ねぇ”と呼んでいる

 

「しょうちゃんヒドいよ〜。なんですぐでてきてくれなかったの〜?」

 

「ごめんごめん。少し意地悪してみたくて」

 

「むぅ〜。いいも〜ん。しょうちゃんのおかあさんにいいつけるも〜ん」プクッ

 

豊ねぇは頰を膨らまして怒ってしまった

 

「あぁ…それはしないでほしいかな…ほら、これで勘弁して」ナデナデ

 

「ん〜♪もう、しょうがないな〜♪」

 

機嫌は治ったようだ。豊ねぇは怒ってもこうすれば大概はどうにかなる

 

「じゃああそぼ!」

 

「いいよ。今日は何しようか?」

 

「そうだな〜」

 

この村にはゲーセンみたいな娯楽場がないので、遊ぶとしたら公園や学校の校庭、あとは家の中でしか遊ぶところがないのだ

 

その後豊ねぇが「きょうはおうちのなかであそぼ!」って言ったので家でトランプやかくれんぼをして遊んだ。結果は豊ねぇの惨敗。てか一回も勝っていない。オレは転生の特典で頭の回転がバカみたいによくなっちゃってるから、トランプでは相手の目線からどこにババがあるか分かっちゃうし、かくれんぼはころころ隠れる場所を変えていたのでまったく見つからなかった。最終的に見つからなくて豊ねぇが泣き始めたからかくれんぼは中止になった

 

「ただいま〜」

 

「あ!しょうちゃんのお母さんだ!おかえり〜」

 

「あら豊音ちゃん。いらっしゃい」

 

「おかえり」

 

「翔もお出迎えありがとう」

 

遊びがひと段落したところで帰ってきたのはこの世界でオレを生んでくれた母さんだ

 

「急いで夕飯作るね。豊音ちゃんも今日は食べていきなね」

 

「やった〜!」

 

「ボクも手伝うよ」

 

オレは今は5歳だけど生前でも料理はやっていたので全然できる。最初はまだ危ないからとなかなかやらせてくれなかったけど、このごろは包丁以外はやらせてくれるようになった

 

「ならわたしもおてつだいする〜」

 

「あら〜嬉しいわ〜」

 

オレに続いて豊ねぇも手伝うと言い出し、今夜はみんなで料理をした

 

その後父さんも帰ってきて、姉帯家のご両親も一緒に夕飯を食べた

 

 

 

夕飯を食べ終わった後は恒例の()()が始まった。最初はうちの父さんと豊ねぇのお父さんと近所のおじちゃん達がやっているのを外から見ているだけだったが、今は大人に混じって入っている。ちなみに豊ねぇもだ

 

「じゃあ今日は誰から入る?」

 

「私片付けあるからお先どうぞ」

 

「ボクもお母さんの手伝うから後ででいいや」

 

「そうか?じゃあ先にやらせてもらおうかね、豊音ちゃん」

 

「うん!しょうちゃんありがとう!」

 

オレと母さんは夕飯の後片付けをやるため、最初は父さんと豊ねぇ、豊ねぇのお母さんとお父さんでやることになった

 

「ポン!」

 

食器を洗っていると豊ねぇのそんな声が聞こえてきた

 

「豊ねぇ始まったかな?」

 

「そうね。豊音ちゃんのあれは厄介なのよねぇ…」

 

「ポン!」

 

豊ねぇは既に原作の能力に近いものを持っていた。まだ全部ではないがその中の“友引”はよく使っている

 

「チー!」

 

友引はポンやチーをしまくって裸単騎をわざと作りツモって和了るというものだ。最初見たときの親達の反応は余裕そうなものだったが何回もになるとそれはそれは表情は一変していた

 

「チー!」

 

オレと母さんは豊ねぇがちょうど裸単騎になったところでその場に戻った

 

「ぼっちじゃないよ〜」

 

この言葉もこのころからあったのか。そして次に豊ねぇが山から牌をツモると

 

「お友達が来たよ〜。ツモ!1000・2000」

 

「やられた〜」

 

豊ねぇが友引をやり遂げ、どうやら父さんが親っかぶりらしかった

 

「さて、誰が抜けようか」

 

「しょうちゃん入っていいよ!わたしちょっとトイレ!」

 

「わかった」

 

「じゃあ奥さんはこっちに。わたしが抜けますから」

 

「すいません」

 

豊ねぇとオレが、豊ねぇのお母さんと母さんがそれぞれ変わった

 

「さて、今回は負けないぞ?翔くん」

 

「悪いけど今回もボクが勝つよ、おじさん」

 

豊ねぇのお父さんがオレにそう言ってきたのでオレも言い返す

 

「でもマジで天和とかはやめてほしいな…」

 

「ほんとよね〜。どんな確率よ…」

 

オレの両親が言っているのは事実で、オレは麻雀をやり始めてからなぜか役満で和了る確率がめちゃくちゃ高い。これも転生んお特典のおかげなのか…でもオレ麻雀の能力に関しては何も言ってないんだけどな…

 

ルール確認をして最初の親が決まり勝負が始まる

 

「じゃあオレの親からだな」

 

最初の親は父さんからだ

 

ちなみにオレの配牌はこうである

{一筒一筒一筒九筒九筒一萬一萬九萬九萬九萬一索一索東}

わぉ…清老頭(チンロウトウ)まっしぐら…

 

父さんは 西 を切って次がオレの番だ

 

オレは山から牌をツモる。ツモったのは{一索}……みなさんごめんなさい。オレはそう思いながら{東}を切る。もちろんダマだ

 

オレの次は豊ねぇのお父さん。牌をツモって手牌から一つ切った。それを見たオレはすかさず宣言する

 

「ロン」

 

「「「っ!」」」

 

オレの声に3人はビックリする。そりゃそうか

 

豊ねぇのお父さんが切ったのは{一萬}だった

 

「清老頭で32000ね。おじさん飛び」

 

「…マジか」

 

「翔…お前ってやつは…」

 

「私一回もツモってないんだけど…」

 

3人は驚いている。母さんはその感想でいいの?

 

「ただいま〜。あれ?お父さんどうしたの?」

 

そこへ豊ねぇが帰ってきた。豊ねぇは愕然としている豊ねぇのお父さんに声をかける

 

「ははは…お父さんまた負けちゃったよ」

 

「そうなの?かったのはしょうちゃん?」

 

「そうだよ」

 

「そっか!やっぱりしょうちゃん強〜い」

 

「うわっ!」

 

結果を聞いてなぜかご機嫌になった豊ねぇはオレに抱きついてきた

 

「豊音は本当に翔くんが好きね」

 

「うん!わたししょうちゃんだ〜いすき!」

 

子どもは純粋だと思いながらも内心嬉しいのは秘密だ

 

その後交代しながら何局か打ったところでお開きとなった。ちなみにオレは全勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー2月ー

 

年も明け雪も降っている今日、オレは父さんの仕事の都合でこの村から離れることになった。1ヶ月ほど前にこのことを聞かされたときは悲しかったけど、親の都合じゃ仕方ない。それよりもこのことを豊ねぇに話したときの方がヤバかった。もうワンワン泣いちゃって…宥めるのにすげぇ時間がかかった

 

そして今、家具とかはもう引越し屋さんが持って行ってしまったので家の中はもぬけの殻だ。その家を外から眺めている

 

「長い間、お世話になりました」

 

父さんがそう言った。オレも5年間だけではあるがここに住んでてよかったと思う

 

家に挨拶し終えて呼んでおいたタクシーに乗ろうとするとそこには村中のみんなが集まっていた。そこには豊ねぇの姿もあった

 

「しょうちゃん!また会えるよね!?」

 

「あぁ。必ず会えるよ」

 

「わたしのことわすれないでね!」

 

「忘れるわけないじゃんか。オレの姉さんだぞ?」

 

オレはまた泣き始めた豊ねぇの頭を撫でながらそう言う

 

「翔ー。行くよー」

 

「はぁい」

 

母さんに呼ばれ一度振り向き、最後の挨拶をするために豊ねぇの方を向こうとすると

 

チュッ

オレの頰に柔らかい感触がした

 

「またね!しょうちゃん!」

 

「…あぁ!またな、豊ねぇ!」

 

目元に涙を浮かべながらも笑顔でそう言ってくれる豊ねぇ

 

そしてオレはタクシーに乗り、父さんの転勤地の“鹿児島”へ向かった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

鹿児島は岩手とは違って日差しが強く、まだ2月なのに暖かく感じる。オレ達家族は岩手から飛行機に揺られ約3時間、長い空の旅からようやく降り立ち鹿児島に着いた

 

オレ達の二つ目の家は鹿児島県内じゃ有名な″霧島神鏡″という大きな神社がある町の近くらしい。

 

オレは今その霧島神鏡にやって来ている。普通は霧島神鏡という場所は一般の人ははいれないのだが、母さんがどうやらこの神社に関わる一族の親族だそうだから、オレもここに入れるらしい。しかし入るにさしあたって一つ問題があった。ここには女性しかいないらしい。そんな中に男のオレが1人で入るのはいかがなものかと思うが、そんなオレの気持ちとは裏腹に母さんはスイスイと長い階段を登っていく

 

「な〜に〜?翔緊張してるの?」

 

「当たり前だよ」

 

「ま、そりゃそうよね」

 

なら聞くなよ!と言いたかったがオレは心の中に我慢した

 

もう何段登ったか忘れたぐらいの階段を登りきったそこには大きな鳥居があり、1人の女性とその人の子供なのか1人のメガネをかけた女の子が立っていた

 

「まみちゃん!久しぶり!」

 

「京香ちゃん!ようこそ!」

 

京香とはうちの母さんの名前だ。そして母さんが呼んだ名前の人、まみさんと手を取りながら再開を喜んでいるようだ

 

「それでこの子が?」

 

「えぇ。うちの息子」

 

「菊池 翔です」

 

「狩宿(かりじゅく) まみです。よろしくね。そしてこっちが私の娘の」

 

「狩宿 巴(ともえ)です」

 

メガネをかけた女の子の巴さんは礼儀正しくお辞儀をした

 

「じゃあ京香ちゃんはこっちね。翔くんは巴について行って」

 

「わかりました」

 

いきなり親と離れてしまうことに緊張は増すが、それが悟られないように顔には出さないようにした

 

「では翔さん、こちらへどうぞ」

 

「あ、はい。あと多分ボクの方が年下なんで敬語とか大丈夫ですよ?」

 

「ふふっ、優しいのね。ならこれからは翔って呼ぶわね」

 

「はい。狩宿さん」

 

「私のことも巴でいいわよ」

 

「わかりました。巴さん」

 

少し距離が縮まった気がしたところで巴さんに案内される

 

案内された早にはまたもや2人の女の子が今度は座っていた

 

「巴ちゃん、その子が?」

 

「今日からここでお世話する子ですか〜?」

 

「うん。菊池 翔くんよ」

 

「菊池 翔です」

 

オレは座っている2人にあいさつをする

 

「薄墨 初美(うすずみ はつみ)です〜。よろしくですよ〜」

 

「滝見 春(たきみ はる)。よろしく...」

 

「私とはっちゃんが新三年生ではるるが新一年生」

 

「あ、ボクはも次小学一年です」

 

「そうでしたか〜。じゃあ私達がお姉さんですよ〜」

 

薄墨さんは小学生だとわかるが、巴さんと滝見さんは落ち着きすげてて小学生っぽくない

 

「あのー?それでお世話って...」

 

「あら?聞いてないの?あなたは学校後の放課後と休日はほとんどここで過ごすのよ?」

 

「えっ?」

 

「ご両親が共働きで家に一人にするのは心配だからって聞いてるけど」

 

「何も聞いてないです...」

 

母さん!何でこんな大事なこと話さなかった!

 

「まぁあとお二人紹介したい人がいるから、その方達が来るまでここで待ってて」

 

「わかりました」

 

オレは巴さんにそう言われてその場に座った。するといきなりオレの掻いたあぐらの間に薄墨さんが入ってきてチョコンと腰をかけた

 

「あのー、薄墨さん」

 

「初美お姉ちゃんでいいですよ〜」

 

「...薄墨さん」

 

「初美お姉ちゃんですよ〜」

 

「...初美姉さん」

 

「はい♪何でしょうか〜?」

 

「何でそこに座ってるんですか?」

 

「お姉ちゃん特権です〜」

 

豊ねぇもそうだっけど、今は姉ブームなのか?

 

どうやらどいてはくれなさそうだ。まぁ力づくでどかすのはなんかあれだし別に辛くはないしこのままでいいか。だが問題が一つ。巴さんや滝見さんはきちんと巫女の装束を着ているのだが初美姉さんは着崩している。いや、気崩しすぎている。袖が長く広がっていて、袴は短い。それはもう袴というよりミニスカートのようだ。しかも肌蹴ているので目のやり場に困る…

 

「私のことははるるって呼んで?」

 

「へ?」

 

なぜかそんな状況の中滝見さんはそんなことを言い出した

 

「ちょっと、滝見さん」

 

「...」

 

「...滝見さん」

 

「...」

 

何度呼んでも滝見さんはこっちをジーっと見てくるだけで何も言わない

 

「...はるる」

 

「よろしい」

 

何の承認だ!

 

「翔はモテモテね」

 

「こんな状況で何言ってるんですか巴さん。もしや楽しんでますか?」

 

「そんなことないわよ。さて、翔。あなたは麻雀ができると聞いたのだけど」

 

「えぇ、できますよ?」

 

「本当ですか〜!?」

 

初美姉さんが驚いた声で聞いてきた

 

「はい」

 

「じゃあこの四人でできますよ〜」

 

「巴さん達もできるんですか?」

 

「えぇ。私達は巫女の力を制御する訓練の一環で麻雀をしているの」

 

「そうなんですか」

 

「早くやりますよ〜」

 

初美姉さんは立ち上がって待てない子供のようにはしゃいでいる。だか雀卓は?と思ったらどこからともなくはるるが雀卓を出していた

 

「姫様達が来るまで」

 

「姫様?」

 

「あとで紹介する。今はこれやろう」

 

はるるも表情は全く変わらないがやる気満々のようだ

 

それぞれが決まった位置に座り親は巴さんからになった。位置的にはオレの上家にはるる、対面に初美姉さん、下家に巴さんとなった。ということは初美姉さんが()()である

 

(ん?なんか場の空気が...)

 

オレは現実に起こっていることを知ってはいても現に受けるのとはわけがちがうことに気がついた。でも麻雀の神様はオレにも運を与えてくれている

 

オレの手牌は

{一萬一萬一萬二萬三萬四萬五萬六萬七萬八萬九萬九萬九萬}

となっていた。既に九蓮宝燈(チューレンポウトウ)を聴牌していた

 

「翔。あなた何者?」

 

「はい?」

 

対局がまだ始まっていないときにはるるがオレに問うてきた

 

「はっちゃんに負けないくらいの気を感じる」

 

「はるるも気づいていましたか〜」

 

「もしかしたら姫様よりもすごいかも…」

 

三人はどうやらオレの手牌がすごいことになっているのを感じ取ってすごく驚いているようだ。オレも最初はこの力にビックリした。神様もすごい能力をくれたものだよ…まぁその力に慢心はしないけどね

 

「何者と言われても…ただの5歳児だよ」

 

「…その辺は姫様達が戻られたら詳しく聞かせてもらいましょう」

 

「詳しくも何も…」

 

「今はこっちに集中」

 

「元はと言えばはるるが言い出したんだけど」

 

「細かいことは気にしてはいけませんよ〜」

 

「はぁ…」

 

なんともマイペースな方々の相手をするのは大変なものだ

 

さて、気をとりなおして対局に集中しますか。親の巴さんはいきなり切る牌を悩んでいた。数秒して決まったのか、{九筒}を切った。次の初美姉さんは最初から何を切るか決めていたのか、すぐに{白}を出した。はるるは初美姉さんに合わせて 白 を切った。そしてオレの番。オレは山から牌をツモる。ツモった牌は{東}だった。これを切ったらどうなるか分かっていたが、あえてそれを切ることにした

 

「ポン!」

 

すかさず初美姉さんがポンを宣言し、オレの切った{東}の取り代わりに{發}を切った。そしてはるるは一度オレを見てから山から牌をツモった。そして{九筒}を切った。今度はまたオレだ。オレはさっきと牌をツモり、それを確認すると{北}だった。オレは勝負と思いながらその牌を切った

 

「またポンですよ〜!」

 

初美姉さんはさっきと同じようにオレの捨てた 北 を取って、今度は{九索}を切った。これで初美姉さんの小四喜(ショウスーシー)への準備が整った。あとは初美姉さんが{南}と{西}を揃えるのが先か、オレが和了るのが先かだ。当然巴さんとはるるももう揃っているかもしれないから、警戒はする。

 

そしてまたはるるの番。今回もオレを一度見てから牌をツモった。その視線にはどういう意味があるのだろうか?そう考えていると春ねぇは 發 を捨てた。そんでオレの番で山から牌をツモる。オレは指の感触でその牌が何かわかった。オレはその牌を表向きに起き、直後に自分の手配をみんなに見せるように倒す

 

「ツモ。8000・16000です」

 

「うわ〜」

 

オレのツモった牌は{二萬子}で九蓮宝燈を和了った。オレの宣言を聞き巴さんが驚愕の声をあげた。確かに役満の親被りはキツいな

 

「負けたのですよ〜」

 

「まだ終わってませんよ?」

 

「そういうことじゃないと思う」

 

まだ対局は続いているのに初美姉さんが負けた宣言をしたのでオレはそれを指摘すると、今度ははるるに注意された

 

その後オレは早々と巴さんに倍満をお見舞いして対局は終了した。どうやらさすがに役満二連続はなさそうだ。それでも倍満できたけど…

 

「あらあら、楽しそうね」

 

対局が終わったところである1人の女の子が入ってきた。その子は初美姉さんよりも背丈は小さいがとても大人っぽい子だった

 

「霞さん。お疲れ様です」

 

「お疲れ様ですよ〜」

 

「お疲れ様」

 

巴さん達はその子に労いの言葉をかけた

 

「ありがとう。それでその子が?」

 

「あ、菊池 翔です」

 

オレは一度立ち上がり一礼しながら名乗った

 

「これはご丁寧に。私は石戸 霞(いわと かすみ)と申します。よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ」

 

初美姉さんよりも背丈は小さいが初美姉さんよりも礼儀正しい人だ

 

「霞さん。姫様は?」

 

「ふふふ、翔さんがいるからなのか緊張して入ってこれないみたい」

 

「あぁ」

 

「姫様は恥ずかしがり屋さんですよ〜」

 

それを聞いて襖の方を見てみると入るのを躊躇っている女の子が目に入った

 

「ほら小蒔ちゃん」

 

石戸さんが小蒔ちゃんと呼んだ子の手を引いてきた

 

「は、初めまして…じ、神代 小蒔(じんだい こまき)です…」

 

「菊池 翔です」

 

「私ははっちゃんと巴ちゃんと、小蒔ちゃんは一つ下よ」

 

すごい区切れ区切れで自己紹介してくれた神代さんのあとに続いて霞さんが付け足した

 

「ならお二人共ボクより年上なんですね。ならボクのことは翔でいいですよ」

 

「あらそうなの?なら翔くんと呼ばせてもらうわね」

 

「わ、私も…翔くんで…」

 

「はい。これからよろしくお願いします」

 

原作の六女仙とも会い、これからオレはここでどうなっていくんだろうか



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

ー2年後ー

 

あれから2年の歳月が経った。オレは小学三年生となり身長も伸びた。2年前にこの地に来て最初は戸惑ったが人間慣れるもので今はこの生活に楽しんでいる

 

最初に巴さんに言われた通りオレは学校終わりの放課後と親のいないときの休日は霧島神鏡で過ごしていた。まぁ六女仙のみんなにも瞑想やら舞やらとオレにはよくわからないことの練習があるのでそのときは一人で宿題とかまぁ何かしらやっていた

 

六女仙のみんなもこの2年で変わった。初美姉さんよりも背の小さかった霞姉さん(最初に会ったとき以来姉さんと呼ぶようになった)は背も高くなりすごく大人っぽくなった。巴さんは髪が長くなって腰まで伸びていた。初美姉さんは前と全然変わっていない。背丈も性格も…小蒔姉さん(仲良くなってから姉さんと呼んでほしいと言われ、こう呼ぶことになった)は前より距離が縮まりたまに昼寝の時間にオレの膝枕を所望するぐらい親密になった。はるるはあまり表情が変わらないのはいつものことだが、二人でいるときはたまに笑顔を見せるようになった

 

また新しい出会いもあった。オレの一個下で霞姉さんや小蒔姉さんと血縁である石戸 明星(いわと あきせ)と同じく一個下で明星の親友の十曽 湧(じっそ ゆう)に懐かれるようになった。最初は六女仙がみんないないときに勉強を教えたり遊んだりしていたらいつの間にか「兄様!」と呼ばれるくらい懐かれていた

 

「「兄様!」」

 

噂をすればなんとやらで、その二人がこっちに駆けてきた。オレは二人を抱き止め何があったのか聞いてみる

 

「どうしたんだ?二人とも」

 

「んん〜♪兄様の香り〜♪はっ!聞いてください兄様!湧ちゃんが!」

 

「兄様〜♪いい匂い♪はっ!兄様!明星のやつが!」

 

なぜか一度オレにくっついて匂いを嗅いだ二人がそれぞれ相手の名前を叫んだ

 

「落ち着け。何があったんだ?」

 

「兄様は明星の方が好きですよね!なのに湧ちゃんが!」

 

「何言ってるの!兄様は湧の方が好きだよ!ね!兄様!」

 

何の話だよ。でも二人は答えてくださいとでも言うかのような眼差しでこっちを見てくる

 

「オレは二人とも好きだぞ。でもオレはそれよりケンカしている二人を見るのはイヤだな」ナデナデ

 

「兄様…///」

 

「えへへ〜♪」

 

二人の機嫌は良くなったようだ。よかったよかった

 

「兄様!遊ぼ!」

 

「でも二人はこれから舞の稽古じゃなかったか?」

 

「そうですよ、湧ちゃん」

 

湧は忘れていたのかオレを遊びに誘ったがこの後二人は予定があるのをオレが指摘する。湧は明らかに残念そうになる

 

「今日はオレも見学に行くから、二人とも頑張れよ」

 

「「本当ですか!!!」」

 

「えっ、あぁ」

 

二人のテンションが急上昇した

 

「絶対ですよ?兄様!」

 

「今日は最高の舞を見せてあげる!」

 

「あぁ。楽しみにしてるよ」

 

明星と湧は舞の稽古の場所に走っていった

 

「まさか明星達まであぁなっちゃうとわね」

 

「霞姉さん。瞑想はもう終わったの?」

 

「えぇ」

 

明星と湧が走っていったのを見届けるとそこに霞姉さんがきた

 

「早く行ってあげて。小蒔ちゃんが待ってるわ」

 

「え、昨日もしなかった?」

 

「今日もしてほしいそうよ」

 

「マジか」

 

霞姉さんが言っているのは週一のオレの仕事(?)の小蒔姉さんに膝枕をするのだ。昨日したはずなんだけどな…

 

「はぁ…じゃあ行ってくる」

 

「えぇ。よろしくね」

 

「わかった」

 

霞姉さんはいつも通りの笑顔であるが、少しいつもとは違う気がした

 

「霞姉さん」

 

「何かしら?」

 

「霞姉さんもたまにはわがまま言っていいんだよ?」

 

「っ!」

 

霞姉さんは六女仙の中でも一番のお姉さんだ。姉妹でいう長女的な存在だ。だからいつも自分は我慢して他人を優先するんだ

 

「姉さんもまだ子どもなんだからさ」

 

「ふふふ、年下の子に言われてしまったわね」

 

「あ、それもそうか。ごめん、忘れてくれ」

 

「いいんですよ。ですが、そうですね…少し甘えてみましょうか」

 

「ん?」

 

霞姉さんはいきなり腕を組んできた

 

「姉、さん?」

 

霞姉さんは高学年になって、その…他の人より、体の発達が早すぎ。だから今や豊満になった胸に腕が埋もれてオレの理性が!!

 

「どうしたの?」

 

「い、いや…」

 

「ふふふ、じゃあ行きましょう♪」

 

この人絶対わかっててやってるだろ!

 

「姉さんも?」

 

「あら、わがまま言ってもいいのでしょう?」

 

「いいけど、何するの?」

 

「私も小蒔ちゃんと一緒に膝枕してもらおうかしら」

 

「…マジで」

 

オレの膝、耐えられるかな

 

そしてオレは霞姉さんに引っ張られて小蒔姉さんのいる部屋に連れられた。そこに着いて小蒔姉さんはオレを見るや目をキラキラさせて早く早くとせがんでくる。オレはそこに座り右足に小蒔姉さんの頭を、左足に霞姉さんの頭を乗せてそのままの状態を約三時間続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー八月ー

 

オレはまた父さんの転勤で引っ越すことになった。それを聞いて仕方ないとは思いつつも小学校で友達になったやつらや何より霞姉さん達と離れることになるのが豊ねぇのときと同じぐらいとんでもなくツラかった

 

そしてそのことを六女仙のみんなと明星と湧の妹組二人に伝えるときがきてしまった

 

「みんな…話があるんだ。オレは来月、引っ越すことになった」

 

『っ!!』

 

オレの言葉を聞いたみんなは驚いた表情をする。そして妹組二人は泣き出してしまった

 

「そう。寂しくなるわね…」

 

「悲しいのですよ〜」

 

「あーもう。二人とも泣かないの」

 

「翔くん…行ってしまわれるのですね…」

 

「…」

 

オレは泣いている明星と湧の頭を撫でる

 

「まだ一ヶ月いるから…なっ?」

 

泣いている二人にそう声をかける

 

「じゃあ今日は二人を泣かせたお詫びとして翔くんにご飯を作ってもらいましょうか」

 

「えっ?」

 

「賛成ですよ〜」

 

確かに明星と湧が泣いたのはオレのせいかもしれないけど…でもまぁ事実だし、やりましょうかね

 

「わかりました」

 

オレはまみさんに許可をもらい厨房に入ってみんなに感謝を込めて料理を作った

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそのときが来てしまった。オレは霧島神鏡に顔を出さず朝から荷作りをしていた。大きなタンスやベッドはもう既に送っているので、あとは昨日まで使っていた歯ブラシやらシャンプーやらをカバンに詰めていた

 

「翔、挨拶に行くから用意して」

 

「わかった」

 

荷物も全部用意が終わって母さんから声をかけられた。どうやらご近所さんやお世話になった人達に挨拶しに行くみたいだ

 

近所の方々やオレの通っていた小学校関係、そして次がいよいよ霧島神鏡のみなさんだ。もう登り慣れた長い階段を登りみんな待つ部屋を目指した。母さんの後に続いて部屋に入った。そこにはここでお世話になったみなさんが勢揃いしている。その中には霞姉さん達もいた

 

「みなさん、これまで大変お世話になりました。特に翔のことは」

 

「いえいえ。翔くんのことはこちらとしてもいい刺激となりました。こっちこそ感謝していますよ」

 

オレはその言葉にビックリして霞姉さん達の顔を見る。霞姉さんと巴さん、初美姉さんの年長組はいつも通りの笑顔で、はるるもいつも通り無表情。でも小蒔姉さんと明星と湧の妹組は顔を赤くして俯いていた

 

「翔くんだけでも置いていって構わないのですよ?」

 

「それはご勘弁を。この子は私達の大切な子ですから」

 

「そう。それは残念ね」

 

冗談交じり…冗談だよね…?まぁその問いに真面目に答えた

 

「さて、私達はこの辺で失礼します。本当にありがとうございました」

 

「お世話になりました」

 

「えぇ。霞、お見送りお願いね」

 

「はい、お母様」

 

霞姉さん達六女仙と明星と湧が見送りをしてくれるのか、オレと母さんについてきた。そして鳥居の前でオレは振り返りみんなに体を向ける

 

「みんな、ホントにありがとう」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

「また来るのですよ〜」

 

「体に気をつけつけて」

 

「翔くん。お手紙書きますね」

 

「…元気で」

 

「「兄様〜!」」

 

妹二人は最後にオレに抱きついてきた

 

「私、兄様のこと忘れません!」

 

「兄様も湧達のこと忘れないでね!」

 

「あぁ。忘れるもんか」

 

そしてオレは母さんと長い階段を下り、父さんと合流して次の地、“大阪”に向かった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

 

大阪は生前でも行ったことがなかったためどんなところかはテレビや噂でしか知らなかった。だから着いた瞬間から驚いた。そこら辺では大阪弁が飛び回っていて、何と言ってもおばちゃん達のテンションが高い。これまでは岩手も鹿児島も静かな所で過ごしていたため、この人混みにはちょっとツラいな…

 

新居に着くと既に荷物が運び込まれていたのでそれぞれダンボールから自分の物を出してはタンスなどにしまっていった。二回目ともなれば慣れるもので、前のときより早く片付けを済ませられた

 

片付けを終えたオレは時計を確認すると四時半と微妙な時間だった。夕飯の支度にはまだ早すぎるからオレは散策がてら町を散歩することにした。

 

「思い切って電車乗ってみるか」

 

近所はそのうち母さんと回るだろうから。それに路線覚えとけば何かと使えるかもしれないしな。オレはそう思って駅に行き、電車に乗って二、三駅で降りた。そして駅の周りを歩いていると前を一人の少女がふらついて歩いていた。しかも街灯に手をついてなんか苦しそうだ。オレはすかさず声をかけた

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「…あぁ、いつものこと…やし…大丈夫、大丈夫…」

 

本人はそう言うが明らかに顔色も悪いし呼吸も安定していなかった。オレは余計なお世話かもと思いながらもこの前買ってもらったばかりの携帯を取り出す

 

「すいません。心配なので一応救急車呼びますね」

 

「…すまんなー」

 

「大丈夫ですよ」

 

119をダイヤルして繋がった先にここの位置情報を伝える。丁度近くにあった電柱にここの情報が書いてあってよかった。救急車は十分くらいで来るそうだ

 

「もう少しで来るので、頑張ってください」

 

「…せやな。ありがとう」

 

オレはその少女の手を握り勇気付ける声をかける

 

その後時間通りに救急車が到着し、オレも一応同伴した。救急隊の人からは「ご姉弟ですか?」と聞かれたが違うと答えた。すると救急隊の人は酸素マスクをつけられた少女に親御さんの連絡先を聞くとその少女は持っていたポーチを指差した。どうやらその中の財布の中に親御さんの電話番号が書いてある紙が入っていたようだ。少女はカバンを指した手をオレの方に差し伸べてきた。オレはその手を取ると少女は病院に着くまでその手を離さなかった

 

病院に着くやいなや少女は緊急オペ室に運ばれていった。オレは祈るように手を組みその手に顎を乗せて目を瞑ってソファに座っていた。その途中で誰が駆けてくる足音が聞こえたので目を開いた。そこに来たのは少女の母のようだった。オレは立ち上がって一礼した

 

「あなたが…娘をありがとうございました」

 

「いえ。でも、それを言うのはまだ早いと思います」

 

「そ、そうね」

 

やはりその人は少女の母親だった。彼女はオレに感謝の言葉をかけてきたがそれは少女がホントに無事とわかったときに言ってもらいたいと思ってそう答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう何時間経っただろうか…オレはオペ室のライトが消える音で目を開ける。そこには先程の少女の母親ともう一人、父親と思われる男性が立っていた。オレはその人が来たのを気付かないくらい祈りに集中していたらしい。そしてオペ室から先生一人マスクを外しながら出てきた。少女の母親と男性は先生に詰め寄る

 

「先生。娘は…?」

 

「もう心配はいりません。呼吸、脈拍ともに安全域に達しました」

 

それを聞いた瞬間母親は口を押さえ、涙を流しながら崩れ落ちた。男性も母親の肩を支えながら涙を浮かべている。先生はどこかに行く前にオレの前に来て、オレの肩に手を置いて『君のおかげだ。ありがとう』と声をかけて行ってしまった

 

その後すぐにオペ室からベッドに横になったまま規則正しい寝息を立てた少女が看護師さんに引かれて出てきた。母親と男性はその少女に付き添うように行ってしまった。オレはその背中に一礼して病院を出た

 

家に帰って母さんと父さんに遅くなった事情を話した。すると二人はオレを抱きしめて『よくやった(わね)』と言ってくれた。そこでオレは疲れがきたのか意識が切れてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

ー翌日ー

 

オレが目を覚ましたのはもうお昼を過ぎていた。母さんが作ってくれていたお昼を食べて母さんと父さんと一緒に昨日の病院へ向かった

 

病院に着いたはいいものの少女の名前も知らないのを今思い出したので、受付の人に事情を話してその子の病室を教えてもらった。その病室のドアの横の壁にその子の名前が書いてあるプレートがあった。そこには“園城寺 怜”とあった。そこでオレは驚く。まさかオレが助けた子があの園城寺 怜(おんじょうじ とき)さんだったとは…

 

中には昨日会った母親と男性、そして園城寺さんの友達か、一人の女の子がいた

 

コンコン

「失礼します」

 

父さんが開いているが扉をノックして入る

 

「君は!」

 

「どうも。娘さん助かってホントに良かったです」

 

園城寺さんの母親がオレに気づいたのでオレはそう言って一礼する

 

「昨日急にいなくなってしまって…名前も連絡先も聞き忘れたからどうしようかと思ってたのよ」

 

「すみません。あ、菊池 翔といいます」

 

「その父です」

 

「母です」

 

「そうですか。翔くんのおかげでうちの娘が命を落とさずに済みました。本当にありがとうございました!」

 

やはり父親だった男性が腰を九十度に曲げて頭を下げてお礼を言ってきた。それに続いて母親の方も立ち上がり頭を下げた

 

「頭を上げてください」

 

「そうです。助かって良かった。今はそれでいいではないですか」

 

父さんと母さんがそう言うと二人は頭を上げた。すると園城寺さんの母親と父親は大人だけで話がしたいと父さんと母さんを連れてどっかに行ってしまった

 

「調子はどうですか?」

 

「おかげさんでバッチリや〜」

 

「それは良かったです」

 

ベッドに横になっている園城寺さんに声をかけると間の抜けたような返事が返ってきた。でも最初に会ったときよりも全然ましになっていてなんか安心した

 

「あの!」

 

「っ!はい…」

 

ベッドの横でずっと静かに座っていた子がいきなり大声で立ち上がったのでビックリしてしまった

 

「怜を助けてくださって、ほんまにありがとうございました!!」

 

「あ、いえ。頑張ったのは園城寺さんです」

 

「ん?なんでうちの名前知っとるん?」

 

「外にプレートがあったので」

 

「あぁ。まぁ改めて自己紹介させてぇな。うちは園城寺 怜や。助けてくれてほんまありがとうな」

 

「さっきも言いましたが菊池 翔です。これもさっきも言いましたが頑張ったのは園城寺さんですよ」

 

「自分、優しいな〜」

 

園城寺さんは笑顔でそう言った

 

「う、うちは清水谷 竜華(しみずだに りゅうか)いいます!」

 

「うちの親友や」

 

「そうですか。菊池 翔です」

 

「うちのことは怜でええよ」

 

「オレのことも翔でいいですよ」

 

オレがそういうと怜さんは布団から手を出しオレの手を握ってきた

 

「あの、怜さん?」

 

「呼び捨てでええよ」

 

「…じゃあ怜。この手は何?」

 

「何て、握ってるだけやん。やっぱずっと側にいてくれたんは翔やったやな。なんか竜華の太ももと同じくらい安心するわ〜」

 

「ふっ!太もも!?」

 

「ちょっ!怜!」

 

怜のいきなりの発言にオレは驚き、清水谷さんも大声を上げてしまった。でも当の本人は…

 

「…すぅ…すぅ……」

 

オレの手を握ったまま眠ってしまった

 

「もう…翔くんごめんな」

 

「いえ。なんか安心しました」ニコッ

 

「ー!///」

 

オレは笑顔で清水谷さんにそう言うと清水谷さんは頰を赤くした

 

「翔くんは今いくつなん?」

 

「小三ですね」

 

「ほんま!?」

 

「えっ、はい」

 

「身長高いし大人っぽいから年上かと思ったわ」

 

確かに身長は中学生ぐらいあるけど、大人っぽいかな…

 

「うちと怜は小五なんや」

 

「そうなんですか」

 

「あ、うちのことも名前でええよ」

 

「はい、竜華さん」

 

「…呼び捨てにはせんのね」

 

「なんとなく…すいません」

 

「謝らんでええよ」

 

その後も父さん達が返ってくるまでオレは竜華さんといろんなことを話した。オレの引っ越しのことや竜華さんと怜のこととか。すると二人も麻雀ができることを知った。まぁ知ってたけど。オレも麻雀できるのを竜華さんに話したら「今度しようや!」と誘われた。もちろんオーケーしたよ

 

そして三十分したぐらいで父さん達が戻ってきたので、オレは怜を起こさないようにそっと手を離し家に帰った。帰り際に竜華さんと連絡先を交換して、怜の親御さんから再度お礼を言われた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

怜の事があってからもう二ヶ月ぐらい立ったかな。怜の容態は順調によくなっているみたいだ。竜華さんが怜にオレの連絡先を教えたみたいで、怜からのメールの数がありえないほど増えていた。日中オレが学校に行っている間でもやたら「暇〜」だの「退屈や〜」だのとたったそれだけの文字で送られてくる。

 

怜だけならよかったんだが、なぜか竜華さんともメールのやり取りが増えた。しかもたまに電話をかけてくる。まぁその話の内容はほとんどが「怜がなー」で始まる。やれ今日こんな話をしただの、やれ昔はこんなことをしただのと怜との仲良しさを一、二時間聞かされる

 

さて、オレは今母さんと近くのスーパーに買い物に来ていた。しかし今日はもう二人ついてきている

 

「今日は何食べようかね」

 

「肉で決まりやな!」

 

「何言うてんねん、お姉ちゃん。今日は魚やろ!」

 

姉妹仲良く言い争ってるのは姉の愛宕 洋榎(あたご ひろえ)と妹の愛宕 絹恵(あたご きぬえ)だ

 

オレも最初は驚いた。怜の事もあってバタバタしてて全く気づかなかったんだが、母さんとご近所回りをしていたらなんと向かいの家の表札に“愛宕”とあったのだ。オレはまさかなと思いながら母さんについて行った。母さんが呼び鈴を鳴らして出てきた人を見て確信に変わった。だって完全に雅恵(まさえ)さんなんだもんよー!

 

雅恵さんは今はまだ現役のプロ雀士で家に帰れないときにうちで二人をみることになったのだ。なぜなら近くで同じぐらいの年がいる家がうちだけだったかららしい

 

そして今日も雅恵さんは遠くで試合があって、今日中に帰ってこれそうにないとの連絡があったので二人はうちにきた

 

「絶対肉や!」

 

「魚!」

 

まだやってるよ

 

「「翔(くん)はどっちやと思う!?」」

 

「オレ?オレはどっちでもいいかな」

 

「どっちでもて何や!男ならバシッとと決めんかい!」

 

「翔くん、お姉ちゃんみたいに男らしくな!」

 

「せやせや...って!うちは女や!」

 

普通の言い合いから漫才に発展してしまうのが愛宕家クオリティだ

 

「はぁ、洋姉も絹姉も譲る事を知らないのかよ」

 

「「譲らん!」」

 

「ハハハハ!相変わらず二人はおもしろいね!」

 

オレにはわからんが母さんには二人の漫才はお気に召しているようなんだ

 

「じゃあ笑わしてくれた御礼にどっちも作ってあげる」

 

「ほんま!?」

 

「京香さん太っ腹!」

 

「どうせ片方はオレが作るんだろ?」

 

「あらバレた?」

 

「バレバレだ」

 

まぁいつもの事だからいいけどね

 

 

 

 

家に帰るとオレは早速夕飯の用意を始めた。その間、洋姉と絹姉は母さんと一緒に三麻をしている。雀卓は愛宕家の物を借りている。うちも全員麻雀やってるんだから買えばいいのに…まぁこんな感じでオレがが料理しているときは母さんが、母さんが料理しているときはオレが二人の相手をしていた。ちなみに洋姉も絹姉も料理はからっきしダメだ。洋姉なんか「うちはキッチンには立たん!」と日本男児みたいなことを言っていたな

 

「くるでぇ!1発くるでぇ!って!なんでここで 西 やねん!」

 

一人で料理しているとそんな一人漫才みたいな声が聞こえた。あのテンションにはついて行けんわ…

 

「それや!ロン、3900(ザンク)おおきに」

 

「あちゃー…またお姉ちゃんかい」

 

だが最終的には洋姉は和了るんだからすごいよな。今回は、いや今回も絹姉が振り込んだみたいだな

 

「母さ〜ん。いいよ〜」

 

「ん。わかったわ」

 

ちょうどその対局が終わったあたりで声をかける。オレは母さんと入れ替わりに席に座る

 

「洋姉はまた調子良さそうだな。さすが」

 

「せやろ〜!さすがやろ〜!でもな、いつもうちの一番持ってく翔には言われとうないわ!」

 

「二人とも強すぎるわ〜。京香さんもやけど…」

 

オレ達との対局中絹姉はトップになったことがあまりなかった

 

「絹には覇気が足らんねん!」

 

「いきなりの精神論かよ。もうちょいマシなアドバイスしてやれよ」

 

「…翔くんは優しいな〜」

 

全く役に立たないようなアドバイスを送った洋姉にオレは呆れていると絹姉が涙目になりながらそう言ってきた

 

「さて、始めようか」

 

「おっしゃー!」

 

「今度は負けん!」

 

二人ともやる気は十分。全自動ではないので三人で牌を混ぜ山を作る。そこからはいつも通り親のオレからから順々に牌を混ぜ取る。三麻は普通のより牌を多くツモるので役ができやすい。当のオレは

 

{一萬九萬二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒八筒八筒西}

 

となっていた。うまくいけば親の三倍満いけるな

 

オレは山から牌をツモり、それは{二筒}だった。オレはそれを手牌に加え{西}を切った

 

次に絹姉がツモり、切った牌は{北}だった。その次の洋姉も切ったのは{北}だった

 

今オレの手牌は

 

{一萬九萬二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒八筒八筒}

 

こうなっている。オレは{二筒五筒七筒}を考えながら牌をツモった。それは{七筒}だった。オレはその代わりに{一萬}を捨てた

 

次の絹姉は{西}を捨てて洋姉は{白}を捨てる

 

{九萬二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒八筒}

 

今の手牌はこのようになっている、次に狙ったのが来ればリーチかけるか。そんな事を思いながらツモった牌は{赤五筒}だった。オレはすかさず{九萬}を横向きに起き「リーチ」と宣言した

 

たった三巡目の親リーチに驚いているのは絹姉で洋姉は変わらない表情をしていた。絹姉は元物の{一萬}を捨てて洋姉も元物の{九萬}を切った

 

{二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒赤五筒六筒七筒八筒八筒}

 

オレは最初からロンで和了れるなんて思っていなかったので、さっきと全く変わらない思いで牌をツモる。その牌の感触でオレはその牌を表に向けて置く

 

「ツモ」

 

同時に自分の手牌を二人に見せる。そして役を宣言する

 

「立直、一発、ツモ、断么九、一盃口、清一色、ドラ1。36000だ」

 

予想通りの結果で和了れた。この結果に絹姉は驚きすぎて声が出ないようだった。洋姉も顔には出ていないが汗をかいている

 

その後も二、三局やって母さんから呼ばれたのでそこで終了となった

 

「そういえば絹姉、メガネ変えた?」

 

「えっ!そ、そうなんよ。よく気づいたな〜」

 

「そりゃあこんだけ毎日のように会ってたら気づくだろ」

 

絹姉のメガネが黒縁から赤の光沢がかったものに変わっていた。夕飯を食べている最中にオレはふと思い出したので聞いてみた。するとそれは事実でなぜかそれを指摘された絹姉は頰を赤らめる

 

「絹のやつ、張り切って選んでたんやで?」

 

「お、お姉ちゃん!それ以上はあかん!」

 

「…?メガネって張り切って選ぶもんなのか?」

 

「翔はもうちょっと女心を知った方がいいわね」

 

女心?女心とメガネに何の関係があるんだ?オレはう〜んと唸りながら考えたが全くわからなかった

 

「よくわからんが、絹姉のそれはよく似合ってるよ」

 

「あ、ありがとう…」

 

絹姉の顔はさっきよりも赤くなっていった。この部屋そんなに暑いかな

 

「あ、そういえば翔。言い忘れてたんだけど、再来週に家族で旅行に行くからね」

 

「旅行?どこに?」

 

「“奈良よ”」

 

その瞬間オレは「あ、これフラグかな…」と思ってしまった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

フラグは完全に当たってしまった。だって旅行で泊まる旅館が完全に“松実館”て書いてあるし…

 

なぜ奈良に旅行に来たのかというと父さんがせっかくだから有名なお寺や神社には行っときたいだろとのことで来たのだ。なぜ旅館かというと風情ある奈良に泊まるならホテルより旅館だろと言われた。だからってよりにもよって松実館とは思わなかった

 

「いらっしゃいませ!」

 

「予約していた菊池です」

 

「ようこそおいでくださいました!」

 

「あらあら、これはこれはまた可愛い女将さんだね」

 

オレ達が玄関にある暖簾を潜るとそこにはいきなりお出迎えをしてくれた松実 玄(まつみ くろ)本人がいた。オレの記憶が正しければまだ小四のはずなんだがもう接客が板についているようだった

 

「ありがとうございます。ではお部屋に案内いたしますのでこちらへどうぞ」

 

言葉遣いも丁寧でホントに小学生とは思えない様子だった。オレ達家族はそんな松実さんに部屋に案内される

 

「こちらが菊池様のお部屋となります」

 

「ありがとう」

 

「私は松実 玄と申します。何かお困りの事があればお呼びください」

 

「玄ちゃんていうのか〜。今いくつなんだい?」

 

「十歳です」

 

「なら小学四年生か。翔の一個上だな」

 

「そうなんですか!?」

 

父さんがオレの方を向いて言ってきたことに松実さんは驚く

 

「何か変ですか?」

 

「い、いえ…大人っぽいですね」

 

「よく言われれます」

 

松実だんは恥ずかしくなったのか頰を少し赤くして聞いてきた。オレってそんなに大人っぽいのか?自分ではわかんないものだな

 

「そうだ!玄ちゃん、翔にこの辺を案内してあげてくれないか?」

 

「えっ?」

 

「は?」

 

父さんの言葉に松実さんもオレも戸惑いってしまった

 

「私は構いませんけど…」

 

「父さんと母さんはどうするんだ?」

 

「父さん達は疲れたから少し休むよ」

 

「母さんも同じく」

 

父さんが行ったことにあくびをしながら同意する母さん

 

「はぁ…わかったよ」

 

父さんと母さんは「じゃ」と言ってオレの荷物も持って部屋に入っていった

 

「松実さん。無理しなくていいですから。オレは一人で散歩でもしてきますから」

 

「いえ!この松実 玄、精一杯案内させていただきます!」

 

松実さんは手を前に出してグッとしながら張り切って言った

 

「じゃあお願いします。改めて菊池 翔です。翔でいいですよ。年は松実さんの一個下です」

 

「松実 玄です。私のことも玄でいいですよ。よろしくお願いします、翔くん」

 

「はい、玄さん。あ、敬語もいいですよ。オレの方が年下ですし」

 

「わかった!じゃあ行こっ!翔くん!」

 

いきなりテンションが上がった玄さんはオレの手を取り歩き出した。でもすぐ止まってオレの方に向き直った

 

「そうだ翔くん。ついてきて」

 

「さっきから手を引かれてる時点でついていってますよ」

 

「あ、そうだね」

 

でも玄さんはオレの手を離そうとはしなっかった

 

玄さんに案内されたのは旅館の二階にあり誰かの部屋だ

 

コンコン

「お姉ちゃん、入るよ」

 

『玄ちゃん?どうぞ〜』

 

お姉ちゃんってことは。まさか…

 

「玄ちゃんどうしたの〜…ってえ〜!その子誰〜…」

 

「こっちは今日泊まりに来ていただいたお客様のお子さんの翔くんで〜す!」

 

「ども」

 

その部屋にはまだ九月の半ばなのにもうコタツとヒーターが出してあって熱気で包まれていた

 

やっぱり松実 宥(まつみ ゆう)さんだったかー

 

「それでこっちが私のお姉ちゃんの松実 宥お姉ちゃんで〜す!」

 

「ど、どうも…初めまして…」

 

「お姉ちゃんはすっごい寒がりなんだ」

 

「確かに涼しくはなったけど、まだ九月の半ばだけど」

 

「お姉ちゃん外出るときもほとんどマフラー巻いてるんだよね」

 

「はわわわわわわ」

 

お姉さんはいきなり見ず知らずのオレが来たことでめちゃくちゃパニくってて、コタツの布団を顔に覆っている

 

「でもこうしてコタツ見てると入りたくなりますね」

 

「えっ?あ、えっと…どうぞ?」

 

「何で疑問形?じゃあ少し失礼して」

 

オレも暖房とかよりコタツで丸くなる派だ。だからそこにコタツがあったら入りたくなるのは仕方ないよな

 

「あぁ〜、でもやぱっりまだ暑いかな」

 

入ったはいいけどオレにはまだ暑いと感じてすぐに出てしまった

 

「お姉ちゃん、私今から翔くんを案内してくるけど一緒に来ない?」

 

「えええええ!?外寒いよ〜」

 

「ちょうどいい気温だと思うんだけど」

 

これで寒いとか真冬どうしてんんだろ…

 

「無理強いはしないので、でもたまには外歩いた方がいいですよ。何なら手繋ぎます?オレ体温高いのであったかいかもしれないですよ?」

 

オレは冗談で手を出したが、お姉さんはその手を取った

 

「ホントだ。あったかい…なら私も行こうかな」

 

「…マジっすか」

 

オレは完全に冗談で言ったつもりだったので驚くしかなかった

 

「とりあえず二人とも着替えた方がいいですね。オレは玄関で待ってますから」

 

オレはそう言って部屋を出て旅館の玄関に移動した

 

それから十分しないうちに二人も来た。さっき玄さんが言ったようにお姉さんはマフラーを巻いてきた

 

「お待たせ〜」

 

「うぅぅぅぅ。やっぱり寒い」

 

お姉さんは体をブルブルいわせながらオレの手を取ってきた

 

「松実さん、本当に繋ぐんですか…?」

 

「えっ?ダメなの…?」

 

「…うっ!いえ…」

 

オレから言い出したことだから何も言えねぇ

 

「そうだ。松実さんだと玄ちゃんもそうだから私も宥でいいよ〜」

 

「わかりましたよ、宥さん」

 

繋いでみるとわかったが、宥さんの手はひんやりしてて本当に寒がりってことがわかった

 

「じゃあこっちの手は私がもらいます!」

 

「えっ!ちょっ!玄さん!?」

 

なんか宥と繋いだ手の反対の手を玄さんに握られた

 

「じゃあ出発しましょう!」

 

「お〜」

 

「えっ、マジでこのまま…?」

 

オレは何やらヤバい状態のまま何の抵抗もできずに出発してしまった

 

 

 

 

 

 

旅館に帰ったオレは昼間の疲れでうつ伏せ簿状態で倒れた。玄さんは何かテンションが高すぎてめちゃくちゃ引っ張り回された。宥さんはあまり変わらなかったが焼き芋とかあったかいものを食べているときはすっごい笑顔だった。楽しかったけどめっちゃ疲れた。最後に玄さんと宥さんと連絡先を交換して解散となった

 

「どうしたんだ?翔」

 

「女子って活動力がすごいんだなって思って」

 

「あぁ、母さんも昔はすごかったぞ?やれどこかに行きたいだ、やれここで遊びたいだともう休むときがなかったな」

 

「姉も妹もいなくてよかった」

 

「何言ってんだ。妹は知らんが姉ならたくさんいるだろう」

 

「あぁ、そうでした…」

 

父さんの言ったことに一瞬考えて、そういえば()()()()はいたわ…と思い出す

 

「そういえば母さんは?」

 

「今温泉に行ってるよ。翔も行くか?」

 

「そうだな。行こうかな」

 

オレは着替えと風呂用具一式を持って部屋を出た

 

温泉には露天風呂があって、ちょうど目の前に紅葉した山が見えたのでいい景色だった。つい長風呂してしまった

 

風呂上がりに涼むために旅館内をうろうろしていたら、とある部屋に麻雀が行われていた。興味を持ったオレはその部屋に入るとおじちゃん達と一緒に売っている玄さんを発見した。家族麻雀ならまだしも、知らない人たちの対局中に話しかけるのはマナー違反なので黙って見ることにした。そしてオレは玄さんの手牌を見てビックリした。マジでドラが集まってる

 

その対局は最後に玄さんが倍満を和了って終了となった

 

「玄さんすごいな。何でそんなにドラが弾けるんだ?」

 

「ん〜。自分でもよくわからないんだよね。昔おばあちゃんにドラは大切にしなさいって言われて以来、ドラを切らなかったからかな」

 

「そうなんだ」

 

「翔くんも麻雀できるの?」

 

「まぁ人並み程度には」

 

「本当か坊主!」

 

玄さんと話しているのが聞こえたのかおじさんの一人がオレを坊主と呼んだ

 

「麻雀できんのか?」

 

「まぁ…」

 

「なら入れ!」

 

オレは半ば強制的に入れられた。まぁその対局はそのおじさんに大三元食らわして終わったけどね

 

「翔くんすごいね!」

 

対局が終わってすぐ玄さんが駆けてきた

 

「ありがとう、玄さん」

 

玄さんはとにかくすごいを連呼していた

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、奈良の名所を回って一度旅館に戻り、温泉に再度使ってからチェックアウトした

 

「翔くん、また来てね!」

 

「今度はあったかくなってからでいいよ〜」

 

「宥さんのあったかいの基準はどれくらいなんです?」

 

オレは最後に「また来ます」と言って車に乗った。車が出発して姿が見えなくなるまで玄さんと宥さんは手を振ってくれていた

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

麻雀牌ツールというものに苦戦してて投稿が遅れました。すいません!

お気に入りが100人を超えてました!ホントにありがとうございます!これからも宜しくお願いします!



ー二年後ー

 

小三のときに大阪に来てもうオレは小五になった。ということは洋姉や怜、竜華さんは中学生になるのだ。その人達だけではなく岩手の豊ねぇや鹿児島の霞姉さんや初美姉さん、巴さんも奈良の宥さんも中学生になるんだ。オレはお祝いの伝えるため豊ねぇには手紙、他の人達にはメールで「おめでとう」を言っておいた。洋姉には直接言ったけど

 

するとみんなから返事が返ってきた。霞姉さんからは

 

『ありがとう。一足先にお姉さんになるわね。来年は小蒔ちゃんにも言ってあげて』

 

と中学生になっても他人のことを考えるのは変わらないみたいだ

 

初美姉さんからは

 

『ありがとうですよ〜。早く中学生の私を翔に見せたいです〜。だから早く来るのですよ〜』

 

と中学生になっても初美姉さんの性格は変わらないらしい。巫女さんなんだからもう少しお淑やかになんなくていいのか…?

 

巴さんからは

 

『私にもわざわざありがとう。こんな文面じゃわからないだろうけど霞さんもはっちゃんも翔のメールを見てから笑顔がすごいのよ?またこっちにも顔出してね』

 

巴さんも変わらず優しいお姉さんやってるみたいだ

 

怜からは

 

『なんや直接言ってくれんの〜?悲しいわ〜』

 

と来たから今度は行くよと返信しておいた。週一ぐらいで電話してんのんな…

 

竜華さんからは

 

『ありがとな〜。めっちゃ嬉しいわ!でも怜が直接言ってほしかったみたいやから会いに来てあげてな。私も…会いたいし……』

 

とまさか竜華さんが怜と一緒にいすぎて怜の性格が移ってしまったかと思った。でも同じ大阪にいるのにこのごろ会えてないからいい機会かなと思った

 

宥さんからは

 

『ありがと〜。また泊まりに来てね。いつでも歓迎するから〜』

 

と文面からでも宥さんのほんわかした感じが伝わってきた

 

手紙だからみんなから少し遅れたけど豊ねぇからも返事がきた

 

『翔くん!ありがとう!でも私は早く大好きな翔くんに会いたいよ〜。だから早く会いに来て〜!』

 

と豊ねぇは自分の好意を隠さず伝えてくるからすごいと思いつつも恥ずかしいからやめてとも思う。でも嬉しいな

 

洋姉は直接言ったときに

 

「おぉ!翔、見とき!これから中学生になったうちは絹よりもないすばでーになるで!」

 

洋姉は妹の絹姉の方が胸が…だからなのか自分の体型がコンプレックスになっているみたいだ

 

 

 

 

 

そしてオレは約束通り怜に会いに怜の家に行こうとしている。実を言うとあれから家族ぐるみで食事するのが増えた。たまに竜華さんがそこに加わることもある

 

約束の時間より早く着いてしまったのでオレは駅の近くにあるデパートに入った。するとそこの一階で小さな麻雀教室のようなものが開かれていた。そこには老若男女様々な人が集まっていた。中には本格的に対局している卓もあるようだ。そう思ってその卓に近づいて行くと…

 

『おー!』

 

『対局が終了しました。今の対局を制したのはなんと小学生!』

 

 

ちょうど対局が終わったようで、進行の人がアナウンスしている。

 

(それにしても大人に勝てる小学生か…どんな子なんだろ…)

 

オレは人の隙間からその卓に座っている子を見てみる

 

「ナース…?」

 

そこにいたのはなぜかナース服を着た可愛らしい女の子だった。進行の人はその子にインタビューしようとしている

 

『おめでとうございます!お名前は何ですか?』

 

『荒川 憩(あらかわ けい)です』

 

「っ!マジか…」

 

その子はなんと高校二年で全国個人戦で二位になる荒川 憩さんだった

 

『何年生かな?』

 

「小学六年生です」

 

『そうなんだ。麻雀はいくつから始めたのかな?』

 

「小学二年生の時です」

 

『強いね〜。では皆様!次が最後の対局となります!最後はこの荒川 憩ちゃんに挑みたいという方は卓に入ってください!』

 

進行の人はそう告げる。オレはそれを聞いた瞬間前に出た

 

『おっと、今度は中学生か!?』

 

「いえ、まだ小五です」

 

『えっ…』

 

進行の人も含めてそれを聞いた観客の人も驚く声をあげた

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくな〜」

 

オレはそんな人達には目も触れず荒川さんに挨拶をして卓に座った。その後年配のおじさんが二人も入って対局が開始された。荒川さんはオレの下家になった

 

最初はオレの上家のおじさん1が親となった。そしてオレの最初の手牌は

 

{一萬三萬四萬三筒[⑤]九筒二索[5]六索發發發東}

 

ドラは{東}だし赤ドラ二枚あるからなかなかいい感じだな。親のおじさん1が{西}を出したのを確認してオレは山から牌をツモる。それは{四索}でオレは{九筒子}を切った下家の荒川さんは{南}を出して対面のおじさん2は{西}を切った。

 

そして二巡目、おじさん1は{北}を切ってオレは{三索}を引いて{一萬}を出した。続いて荒川さんは{一筒}を出しおじさん2は{西}のツモ切り

 

今のオレの手牌は

 

{三萬四萬三筒[⑤]二索三索四索[5]六索發發發東}

 

となっていた。うまくいけば三色のるな

 

三巡目、おじさん1は{九索}を切りオレがツモったのは{四筒}だ。オレは三色を目指すため{六索}を切った。荒川さんはにっこり笑顔を見せながら{七萬}を出しおじさん2は{一索}を切った

 

四巡目、おじさん1は{二筒}を切りオレは山から牌を取る。それは{五萬}だった。オレはすかさず{二索}を横にして立直を宣言した。するとおじさん2が一発を消すためか手を早めるためかポンを宣言。その後おじさん1がオリるように元物の{二索}を切った。一発は消えたがそれでもオレには関係ない。オレは手触りでツモった牌が{東}だと確認し、それを表に向けて置く

 

「ツモ。三色同順、役牌、ドラ…」

 

今回のドラ表示牌{北}だったのでオレの手牌には既にドラが四つのっている。オレはさらに裏ドラを確認して続ける

 

「…五。4000・8000です」

 

裏のドラ表示牌は{二筒}だったのでドラがまた一つのって倍満を和了った

 

『なんとたった五巡目にして倍満ツモ!これはすごい!』

 

とアナウンスがあったがオレはそれよりも気になることがあった。確か原作での荒川さんの能力は“他家が和了ると次の手牌が良くなる”みたいなことだった気がする。だから今度の局は気をつけないと…

 

「ロン!」

 

すると案の定荒川さんが和了った。しかしオレよりも点数の低い満貫で和了ったのでまだ完全には出来上がってないのかと思った

 

その後オレと荒川さんが一回づつ和了っておじさん二人が飛び終了となった

 

『終了!なんとなんと先ほど一位だった荒川さんを抜いて新たな小学生が一位です!お名前を教えていただけますか?』

 

「菊池 翔です」

 

『ありがとうございます。では皆さん、菊池くんに盛大な拍手をお送りください!』

 

\パチパチパチパチ/

 

オレは大袈裟だなと思いつつもその拍手を心地よく受け取った

 

そして時間も時間だしそのデパートから出ようとすると

 

「菊池くん!」

 

後ろから誰かに呼び止められた。その声の正体は荒川さんだった

 

「何か用ですか?荒川さん」

 

「いや、用って訳でもないんやけどな。君めっちゃ麻雀強いなぁ」

 

「ありがとうございます。荒川さんも強かったですよ?」

 

「嬉しいこと言ってくれるやん!ありがとな!」

 

嬉しくなったのはいいんだがお礼を言いながら背中をパンパン叩かないでほしい

 

「せや!私と友達にならへん?」

 

「えっ?」

 

「私の周りの麻雀強い人がおらんねん。だからたまにでええから一緒に麻雀してほしいんよ!お願い!」

 

荒川さんは手を合わせてお願いしてきたので、そんなことされたら断れるわけないわけで…

 

「…わかりました。いいですよ」

 

「ほんま!?やったー!」

 

腕を上に伸ばしてピョンピョンしている。そんなに嬉しいのかね

 

「じゃあ翔くん。あ、翔くんて呼んでもええ?」

 

「いいですよ」

 

「そんなら翔くん、携帯持っとる?」

 

「持ってますよ」

 

「ならアドレスと番号交換しよ!」

 

オレはポケットから携帯を出して荒川さんの携帯と赤外線で交換した

 

「ほんまありがとう!私のことは憩でええで!」

 

「わかりましたよ、憩さん」

 

「ほなまた連絡するわ!」

 

憩さんは「ほなな」と言って走って行ってしまった。オレは元気な人だなと思いながら怜の家に向かうのであった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

ー三月ー

 

小五の最後の冬休み、オレは父さんから三度目の転勤を言い渡された。慣れとは怖いものでもう驚きはしなかった。でもこの大阪で知り合った人達と離れるのはめちゃくちゃ悲しい

 

お正月、オレ達家族は怜の家族と竜華さんの家族と一緒に過ごしていた。この三年間一番親しくしてもらっていたのはその人達だった。最初は洋姉や絹姉と一緒に過ごすと思っていたが、今年は雅恵さんが家にいるということで家族水入らずで過ごすことになったらしい

 

そして年が明けた新年にうちの親から怜と竜華さんのご家族に転勤のことを報告した。怜は顔には出ていなかったが竜華さんは涙を流していた。しまいには「うちも長野行く!」と言い出したのには驚いた。竜華さんは普段はおとなしいんだけどたまにアグレッシブになるんだよな

 

その後、愛宕家の人達やオレ個人だけど憩さんと松実姉妹にもこのことは話しておいた。みんなからは共通して「また会いにきてね!」と言われた。オレはその言葉だけで嬉しかった

 

さて、オレは今度の新天地の“長野”に新幹線で向かうため駅に来ている。見送りはいいと行ったのだけど愛宕家族がついてきてくれた

 

「短い間でしたがお世話になりました」

 

「何を言うてはるんですか。世話になったのはこっちのほうですよ」

 

母さんの挨拶に雅恵さんがそう返す

 

「私が留守の間、この子達の面倒を見てもらってほんまにありがとうございました」

 

「いえ、二人のおかげで楽しかったですよ」

 

「ほら絹、泣かんと翔にあいさつしいや」

 

洋姉は変わらない、いつも通りの姿なんだが絹姉の方は雅恵さんに抱きついて涙を流している

 

「翔!麻雀続けるんやぞ!それでまたこっちに来たときはうちがボコボコにしたる!」

 

「辞めないよ。んでそうならないようにオレも強くならないとな」

 

「翔く〜ん!」

 

「おわっ!絹姉」

 

洋姉にそう言い終えた瞬間絹がオレに抱きついてきた

 

「絶対……ぐすっ…絶対、また会いに来てや!」

 

「あぁ、また来るよ」

 

「うぅ…うえぇぇぇぇん!!!」

 

「き、絹姉!?」

 

泣き止んでくれたかと笑顔を見せながらそう言うと絹姉はまた泣き始めてしまった

 

「では愛宕さん、私達はそろそろ」

 

「そうか。お元気でな」

 

「そちらも」

 

父さんの言葉にオレも絹姉の頭を一撫でして父さんと母さんに続いて改札をくぐった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪を出て二時間、長野の地に足を踏み入れた。電車を乗り継ぎ最寄りの駅に着いて、駅から歩いて十分ぐらいのところに新しい家があった

 

毎度同じく家具やらは全て運び込まれていた。オレは母さんから指定された自分の部屋で荷物を整理する。だがその片付けの最中にアルバムを見つけてしまいそれを懐かしく見ていたら母さんから呼び出された

 

「翔〜、ご近所さんに挨拶に行くよ〜」

 

「わかった〜」

 

時計を見るとなんと一時間も経っていた。部屋の中はまだダンボールで一杯のままオレは母さんと挨拶回りに行った

 

「父さんは?」

 

「会社に行ったわよ。なんか急に呼び出されたんだって」

 

「大変なんだな」

 

「まぁね。でもよほどのことがない限りは最低でも三年はここに留まるつもりだって言ってたわよ」

 

「そっか」

 

確かにオレももう来年は中学生になるわけだから、まぁ最悪一人暮らしも考えるかな…

 

「じゃあお隣さんからね」

 

「あいよ」

 

母さんについて行ってお隣さんの表札を見てみると、“福路”と書いてあった。あぁまたこのパターンか…

 

ピンポーン

『はーい』

 

母さんがチャイムを鳴らすと中から返事があり、そのドアが開いた

 

「こんにちは、今日隣に越してきた菊池です。えっと、ご両親の方はご在宅ですか?」

 

「あ、はい。今呼んできます」

 

そこへ出てきたのは右目を閉じてもう原作の雰囲気を醸し出している福路 美穂子(ふくじ みほこ)さんだった。そして今度は一緒に呼ばれた両親の方々が出てきた

 

「どうも、隣に越してきた菊池です」

 

「どうも福路です」

 

「あ、これつまらないものですが…」

 

「これはありがとうございます。立ち話もなんですから、中へどうぞ」

 

「いえ、まだご挨拶の途中なので」

 

「そうですか。ではまた改めてお誘いします」

 

「ありがとうございます」

 

福路(母)さんのありがたいお言葉に母さんはお礼を言う

 

「それでその子は…」

 

「あ、うちの息子の翔です。翔」

 

「菊池 翔です。よろしくお願いします」

 

「どうもご丁寧に。中学生かな?」

 

「いえ、次小学六年です」

 

「あらそう。じゃあ美穂子よりも年下なのね」

 

オレは中学前にして身長が175cmになっていた。そのせいかよく間違われる

 

「じゃあそちらの子が」

 

「娘の美穂子です。今年中二です」

 

「よろしくお願いします」

 

福路さんのお母さんに紹介された福路さんは行儀よくお辞儀をする

 

「ではまた改めてお伺いします。話はまたそのときにでも」

 

「そうですね。あ、よろしければ夕飯ご一緒しませんか?」

 

「いいですね。では主人が帰ってきたらお邪魔させていただきますね」

 

「はい。お待ちしていますね」

 

どういうわけか夕飯を一緒に食べることになった。そして去り際に福路さんと目が合うとなぜか顔を赤くして目をそらされてしまった

 

 

 

 

 

 

 

ー夜ー

 

父さんが帰ってきて母さんからの説明を受けて三人で福路さん家を再び訪れた。そしてリビングに案内されてソファに座らせてもらった

 

「昼間はご挨拶に来れずすみませんでした」

 

「いえいえ」

 

「では夕食の支度をしますね」

 

「あ、手伝いますよ」

 

「いえ、お客様にそんな…」

 

「美穂子ちゃんでよかったかしら。そんな気遣いはしなくていいわよ?それに翔はある程度の家事はできるから安心して」

 

「それなら」

 

「ていうか、母さん達が家事やらなくなったんだろ?」

 

「あら、そうだったかしら」

 

オレの指摘に母さんはとぼける。オレはまぁいいやと思って福路さんと一緒にキッチンに入った

 

夕飯の支度をし始めて数分後、親達はお酒が入ったからなのかバカ笑いが聞こえ始めた。特にうちの親から…

 

「まったくあの人達は…」

 

「ふふっ、楽しそうですね」

 

「そうですかね。ただうるさいだけですよ」

 

「でもうちの親も楽しそうです」

 

「ならよかったですかね…」

 

そんな親に呆れていると福路さんが声をかけてくれた

 

「それにしても菊池くんは本当に手際がいいですね」

 

「翔でいいですよ。まぁ毎日のようにやってますからね」

 

「そうなんですか。では翔くんと呼ばせてもらいますね」

 

「あと敬語もいいですよ。福路さんの方が年上なんですから」

 

「ふふっ、優しんだね。私のことも美穂子でいいわよ」

 

「じゃあ美穂子さん、次は何をすればいいですか?」

 

「あ、なら次は…」

 

美穂子さんとの仲は少し縮まったかな

 

その後夕飯を作り終わってリビングに運ぶと案の定父さん達は呑んでいて、軽く酔っている状態だ

 

「父さん…母さん…」

 

「あ、翔〜。ご苦労さ〜ん」

 

「迷惑かけてないだろうな…?」

 

「あら大丈夫よ。いろんなこと聞かせていただいて、すごく楽しいですよ」

 

「そうですか。ならよかったです」

 

美穂子さんのお母さんにそう言ってもらってようやく安心できた

 

「とりあえずご飯できたから」

 

「ありがとう」

 

「美穂子〜、なんか新婚さんみたいね」

 

お母さんにそう言われて顔を真っ赤にして恥ずかしがる美穂子さん

 

「お母さん…!」

 

「うぅぅぅ…美穂子もそのうち嫁に行ってしまうのか…」

 

そして新婚という言葉を聞いて想像してしまったのか美穂子さんのお父さんが泣き出してしまった

 

「お父さんまで…」

 

「よかったな、翔」

 

「なにが?」

 

「またお嫁さん候補が増えたな」

 

「人聞きの悪いこと言うな!別に集めとらんわ!」

 

父さんがニヤけながら言ってきたのでオレは絶対的に否定した

 

「まったく…早く夕飯食べるぞ」

 

夕飯のときでもうちの親はニヤてるし、美穂子さんは顔真っ赤で俯いたままだし、美穂子さんのお母さんは「あらあら」と笑顔のままどんどんお酒飲むし、美穂子さんのお父さんはずっと泣いてるし…そのとき改めて酒が入った大人はめんどくさいと思った

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

長野に引っ越して来て二週間ぐらいがたった。今日はなんか父さんの友達が近くに住んでるみたいだから一緒に行くことになった。先にその父さんの友達はなんて名前の人から聞いてみたら“宮永”と聞いたときはやっぱりと思ってしまった

 

自宅から歩いて十五分くらいのところにその宮永家はあった。生前に見ていたアニメとそのまんまの通りに建っていた

 

「よぉ!久しぶりだな!」

 

「あぁ。よく来たな」

 

家の前には既に宮永さんのお父さんが立っていた。父さんは興奮気味に手を上げながら呼びかけた

 

「まぁとりあえず上がっていけよ」

 

「あぁ、邪魔するよ」

 

「お邪魔します」

 

父さんに続いてオレも家に上げてもらった

 

「お父さん、お客さん?」

 

「あぁ」

 

「っ!」

 

そう声をかけながら二階から降りてきた二人にオレは驚いた。宮永 咲(みやなが さき)さんがいるのはわかっていたが、まさかまだお姉さんの照(てる)さんがいるとは思っていなかったからだ

 

「うちの娘達で姉の照と妹の咲だ」

 

「こんにちは」

 

「…こ、こんにちは」

 

照さんの方は笑顔で挨拶してきて咲さんの方は人見知りを発動しているのか一応挨拶はするが照さんに隠れている

 

「どうも。君達のお父さんとは学生のときの知り合いでね。あ、こっちがうちの息子だ」

 

「翔です」

 

オレは丁寧にお辞儀をしながら挨拶を返す

 

「照が二個上で咲が君と同い年だ。仲良くしてやってくれ」

 

「はぁ…」

 

「そういえばお前はまだ打ってるのか?」

 

「麻雀か?あぁ、娘達もできるよ」

 

「そうか。なら翔、二人の相手してくれば?」

 

「いきなりだな。まぁお二人がいいって言うならオレもいいけど…」

 

「なら私も入れてもらおうかしら」

 

そう言いながらキッチンからお茶を持ってお母さんと思われる人が出てきた

 

「そっちも家族でするのか」

 

「まぁな」

 

「えっと、翔くんでいいかしら」

 

「はい」

 

「じゃあ、翔くん。こっちにいらっしゃい。照と咲も」

 

オレは三人について行ってリビングから出た。そして案内された部屋には原作でもあった全自動の麻雀卓があった

 

「さ、始めましょう」

 

まさか小六にして全国一位と魔王とそのお母さんと麻雀を打つことになるとは…

それに不安要素もあった。一つ、二人のお母さんの実力を全く知らない。二つ、二人は原作と同じぐらいの能力をもう持っているか。三つ、咲さんはもうこのころからプラマイゼロをやっているのか、だ

 

まぁあれこれ考えても仕方ないのでとりあえず打ってみることにした

 

一局目、原作通りなら照さんは和了らない。ホントかどうかわからないからとりあえず和了っておきたいかな…

 

「ツモ。2000・4000」

 

今回は和了るのを優先したため満貫を和了った。すると()()がきた。そして始まった

 

「ツモ。300・500」

 

「ツモ。500・1000」

 

「ツモ。2000オール」

 

照さんの能力はもうできているらしい。しかし…

 

「ロン。12000」

 

「…」

 

まだ未完成らしくお母さんにハネ満の直撃を食らった。顔には出さないが動揺しているみたいだ

 

「ツモ。1000・2000」

 

その動揺の合間にオレが上がりトップに立った。そしてオーラス、これまで動かなかった魔王が動いた

 

「カン」

 

咲さんは暗カンをして王牌から嶺上牌を取った

 

「嶺上ツモ。2000オール」

 

咲さんが和了ってその局は終了した。なんと一位はオレで照さんが最下位という驚きの結果になった。しかしそんな結果どうでもいいと言うように照さんとお母さんは咲さんを睨んでいた。オレはそれに気づいて言葉を発する

 

「あの〜」

 

「あ、なんでしょうか?」

 

「少し咲さんをお借りしてもいいですか?」

 

「…えぇ」

 

「どうも。咲さんちょっと」

 

「えっ!」

 

オレは咲さんの腕を掴んで部屋から引っ張り出した

 

「咲さん、あれはわざとですか…?」

 

「……なんのことかな…」

 

()()()()()()ですよ」

 

「っ!君には関係のないことだよ…」

 

「そうかもしれないです。でもそれを見て明らかに場の雰囲気が変わりました」

 

咲さんも自覚しているのか俯いたまま黙ってしまった

 

「なぜこんなことを…」

 

オレはその答えを知っている。でも彼女自身の口から聞かないといけない気がした

 

「……私、家族で麻雀やってるんだけど、負けるとお菓子がもらえなかったから勝とうと頑張ってたの…でも今度は勝ち続けたら怒られたんだ。したらこんな打ち方のなっちゃった…」

 

咲さんは目尻に涙を浮かべながら話してくれた

 

「咲さんは優しいんですね。でも今その打ち方をしてて()()()()()()?」

 

「っ!」

 

「楽しくなければそのうち麻雀が嫌いになっちゃいますよ?」

 

「…………たい

 

「ん?」

 

「私も楽しく麻雀したい!」

 

「ならもう一回やりましょう。今度は楽しく」

 

咲さんには笑顔が戻りまた部屋に入る。そして席替えをするとき照さんがすれ違いに「ありがと」と言ったのが聞こえた

 

そして咲さんが変わったことに気づいた照さんもお母さんもさっきまでとオーラが完全に変わっていた。本番はここからだな…

 

「ツモ。嶺上開花、1300・2600」

 

「ツモ。嶺上開花、2600オール」

 

開始早々咲さんの二連続和了った。さっきとは明らかに感じが違う。和了る度にホントに楽しそうに笑顔を見せている

 

「ツモ。3000・6000」

 

すると次にお母さんが和了った。しかもまたハネ満

 

「ロン。1000点」

 

「ツモ。1300オール」

 

「ツモ。2700オール」

 

また始まってしまった。しかも照さんが親のときという最悪の状況で

 

「ツモ。4000オール」

 

やべぇな。これ以上は…すると

 

「ポン」

 

咲がお母さんから牌を鳴いた。オレはその意図を理解して同じ牌を切る

 

「カン。ツモ。嶺上開花、1500」

 

大明槓からの責任払いでオレが全て払った。しかしそれは照さんを止めるための狙いでありそれは成功した。だがオレが一人沈みであることに変わりはない。なんとかして挽回しないと

 

しかしオレは和了れないままオーラスまできてしまった。オレの点数は既に1000点を切ってるし他の三人は均衡してその差はほとんどないに等しかった。このラス親でなんかしら和了りたい。オレはそんな願いを込めてサイコロを振り山から牌を取っていく

 

最初の手牌はこうなった

 

{一萬二萬六筒七筒九筒東東東北北南南西}

 

これは完全に小四喜か字一色に持ってくしかないじゃん。しかもツモったの{北}だったから{九筒}を切った。ここまではまだ警戒もクソもないので三人もそれぞれ第一打目を切っていった

 

二巡目、オレが引いたのは{發}だったのでとりあえず手牌に加え迷いの末に待ちの多い{五筒八筒}待ちにするため{一萬}を切った。そして未だに字牌が出ていないのに不審に思ったのか照さんと目があった。咲さんは{九萬}を切り、照さんは{九筒}を切った。お母さんは{二索}を切った

 

三巡目、オレの元には二枚目の{西}が来た。これは完全に()()()()。オレはそう思って早く次の番が来るのをウズウズするのを抑え{二萬}を切る

 

四巡目、オレはいらない{七索}をツモってしまった。ホントならツモ切りにするのだがもしかしたら他家がオレの狙っている牌を持っているかもしれないから字牌を出しやすくするために{發}を切った。しかしそれは

 

「ポン」

 

照さんに鳴かれた。やべぇ、やっちまった。しかしその代わりに照さんが切ったのが{南}だった

 

「ポン」

 

オレはすかさず鳴き返す。そしていらなかった{七索}を切って{五筒八筒}待ちの黙聴に取った。照さんもはってるかな。間に合うかな…

 

五巡目、咲さんは{中}を切った。オレはそれに驚いた。{發}が鳴かれてて大三元の可能性もあるのにそれを切ったことに驚いた。すると

 

「ポン」

 

お母さんがそれを鳴いた。そしてオレの番が来た。これを和了れなかったら絶対照さんが和了る。根拠はないがなぜかそんな気がした。オレは絶対これで和了ると願いながら牌をツモった。そして牌はその想いに応えてくれた

 

「ツモ!」

 

{六索七索東東東北北北西西} {五索} {南横南南}

 

「小四喜。16000オールです!」

 

役満和了ってオレが逆転勝利でその対局は終了した

 

「ふぅ〜。ありがとうございました」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとうございました!」

 

「…」

 

緊張の糸が切れたオレの挨拶に返してくれたお母さんと咲さん。照さんは黙ったままだった。咲さんは前の対局とは全く違い、すごく楽しそうな笑顔だ

 

「咲…」

 

「っ!お母さん…」

 

笑顔だった咲さんはお母さんに呼ばれた瞬間表情が強張った

 

「…強くなったわね」

 

「…お母さん」

 

「翔くん、咲をありがとう」

 

お母さんは咲さんの頭を撫でた後にオレに向かって謝った

 

「よしてください。逆に家庭の事情に勝手にを首を突っ込んでしまってすみませんでした」

 

「し、翔くん!わ、私は翔くんのおかげで楽しく打てたの…だから、ありがとう!」

 

「私からも、ありがとう」

 

咲さんに加えて照さんにもお礼を言われてしまった

 

「私達だけじゃあのままだったかもしれない。だから、本当にありがとう」

 

「お姉ちゃん…」

 

「えっと…なら、どういたしまして?」

 

「ふふっ、なんで疑問形なのよ」

 

「え、あ、あははは…」

 

そのときオレは生前も含めて初めて宮永 照さんの営業スマイルではない笑顔を見た気がする

 

「翔!」

 

「は、はい」

 

「お菓子作れる?」

 

「へっ?ま、まぁ…」

 

「じゃあ今度作ってきて!」

 

「わ、わかりました」

 

照さんはオレにお菓子を作れと迫ってきた。これで宮永家の喧嘩騒動は防げたのかな…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話


今回少し短いです



 

「ふぁ〜…ねみぃ…」

 

長野に越してきてから半年ぐらい経っただろうか。こっちの生活にも大分慣れてきた。でも小学生としての時間は残り半年。小六でこっちにきたから最初はクラスの輪に入るのが大変だった。でも幸いなことに咲(仲良くなってから呼び捨てになった)と一緒の学校で一緒のクラスだった。でも咲もそこまで人と話す方ではなかったので休み時間とかはよく二人で図書室に行っている

 

「おはよう、翔くん」

 

「ん?おう、咲〜。おはよう」

 

毎朝通っている道のいつもの曲がり角で咲と会う。このようにいつも咲と一緒に登校している

 

「おーい。翔〜、咲〜」

 

「あ、京ちゃん」

 

「よぉ〜」

 

「翔はいつも眠そうだな」

 

「朝は弱くてな…」

 

二人で歩いているところに後ろから走りながら声をかけてきたのは同じクラスの須賀 京太郎(すが きょうたろう)だ

 

「それにしても今日も夫婦で登校ですか」

 

「ふ!夫婦!!!?」

 

「夫婦じゃねぇよ」

 

まぁ冗談だとはわかってるんだが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている咲の姿を見るとイジるのも程々にしてほしい…

 

「あ、そういえばお前ら聞いたか?」

 

「何を」

 

「うちの学校に幽霊がいるって噂」

 

「えっ!」

 

幽霊という言葉を聞いて今度は怖がる咲。感情豊かだな〜。照さんとは大違い

 

「んなのただの噂だろ?」

 

「でも見たって言う人が何人もいるんだぞ」

 

「う〜ん…その幽霊はどんな姿なんだ?」

 

「聞いた話によると黒髪のオカッパで身長は普通らしい」

 

「それだけじゃわからんな」

 

「だから今日の放課後一緒に探そうぜ!」

 

「えぇぇ!」

 

京太郎の提案に咲は大声をあげる。オレは別にいいんだがオバケの類が苦手な咲にはちと厳しいかな

 

「オレはいいぞ。咲は別に先に帰ってていいぞ?」

 

「…えっと、翔くんが一緒なら大丈夫、かな」

 

咲はそう言いながら手を握ってきた。そしてオレ達三人で放課後その幽霊を探すこととなった

 

 

 

 

 

 

 

 

ー放課後ー

 

授業が終わって幽霊探しを始めた

 

「それで、どこへ探しに行くんだ?」

 

「それが……あてはないんだ」

 

「は?」

 

「なんか見たって人の場所がばらばらでさ…」

 

「帰る」

 

オレは咲の腕を掴んで体の向きを変えて歩こうとする

 

「ま、待ってくれよ!」

 

「そんなあてもないのに付き合ってられるか」

 

「そこを何とか!な!?頼む!」

 

「はぁ…」

 

そこまで言われたら仕方ない。だがあてもないのにどこをどう探すんだ?すると…

 

「きゃっ!」

 

咲がいきなり驚きの声をあげた

 

「どうした?」

 

「そ、そこに今誰かが…」

 

咲は右手で口元を押さえて左手で教室の中を指差した

 

「幽霊か!?なんだ、誰もいねぇじゃん」

 

「え…本当だ」

 

二人に続いてオレも教室の中を覗いてみると、二人はそう言うがオレにははっきりと()()()()()()が目に入った

 

「あれ、東横じゃん」

 

「は?何言ってんの翔。誰もいねぇじゃん」

 

「お前こそ何言ってんだよ。ちゃんといるじゃねぇか」

 

オレと京太郎の言っていることは完全に食い違っている。あぁ、確か東横さんは究極に影が薄くって周りからは認識されにくいんだっけ

 

ガラガラ

 

オレは教室のドアを開けて東横の元に近づいていった

 

「おっす。まだ残ってたのか?」

 

「っ!」

 

オレが話しかけると東横は驚いた顔をする

 

「…私が、見えるっすか」

 

「何言ってんだ?当たり前だろ」

 

「おい翔、誰と話してんだよ」

 

「翔くん?」

 

後からきた咲と京太郎はまだ東横を認識できてないようだ

 

「おいおい、二人とも失礼だろ。ここにいるだろ」

 

オレは東横の肩に手を置いた

 

「うぉっ!いつの間に!」

 

「最初からだ」

 

「えっ、でもさっきまでは本当に…」

 

二人には東横がいきなり目の前に現れたように感じたためすごく驚いている

 

「二人も私のこと、見えるっすか…?」

 

「え、あ…あぁ。今は」

 

「私も」

 

「そ、そっすか」

 

さっきから失礼極まりないことを言われているのにオレらに認識されたってわかった東横はすごい笑顔だ

 

「それで東横はこんな時間までなにやってたんだ?」

 

「なんで私の名前を…?」

 

「なんでって、同じクラスだろ」

 

「そうなの!?」

 

「全然知らなかった」

 

「お前ら…」

 

「私、影薄いっすから」

 

東横はそう言うが顔はすごく暗くなった

 

「二人とも…」

 

「な、なんだよ…」

 

「翔、くん…?」

 

「すぐに東横に謝れ」

 

「菊池くん…」

 

「東横はこう言ってくれたがクラスメイトに名前も覚えられてなくて悲しくないわけないだろ!」

 

「「っ!」」

 

オレの言葉に二人は目を見開く

 

「東横さん…ごめん!」

 

「わ、私もごめんなさい!」

 

二人はオレの気持ちをわかってくれたのか頭を下げて精一杯の謝罪をした

 

「二人とも頭をあげてほしいっす」

 

東横の言葉に咲と京太郎はゆっくりと頭をあげる

 

「菊池くん、須賀くん、宮永さん。私と友達になってほしいっす!」

 

「あぁ、いいぞ」

 

「もちろんだ!」

 

「うん!よろしくね」

 

オレ達の応えに対してさっきよりも一層笑顔になる東横

 

「それと菊池くん、ありがとうっす」

 

「なにが?」

 

「私のことを見つけてくれて。二人に私を見せてくれて」

 

「そんなのお礼するほどじゃない。他にも友達がほしかったら言ってくれ。なんでかわからんがオレが触れたらみんなに見えるみたいだからな」

 

さっきもオレが東横の肩に手を置いた瞬間に咲と京太郎は認識できたからな

 

「それはいいっす。私は私のことを見てくれる友達がいればいいっす」

 

東横はオレ達三人の顔を見ながらそう言う

 

「それと菊池くん。私のことは、その…モモと呼んでほしいっす…」

 

「おう、いいぞモモ。オレのことも翔でいいぞ?」

 

「わかったっす!翔くん!」

 

最後に名前の呼ばれ方を言い出したときだけ頰を赤くしていたが、こうしてオレにも新しい友達ができた

 

 

 

 

それから咲と京太郎にモモも加わって遊ぶことが増えた。咲と京太郎はまだ自分たちだけでモモを認識するのに苦労しているみたいだ。でも意識していれば見れるそうだ

 

そしてオレ達は小六、そろそろ行く中学を決めなきゃいけない時期になってきた

 

「みんなはどこの中学に行くっすか?」

 

「オレは○中だな」

 

「オレも」

 

「私もそこかな」

 

「そうっすか…」

 

「モモは違うのか?」

 

「私は鶴賀学園っす」

 

「そっか…離れ離れになるのは寂しいな」

 

みんな明らかに表情が曇る。短い時間だが一緒にいた友達と離れるのは寂しいことだ

 

「でも一生会えないわけじゃない。お互いどこに住んでのか知ってるんだし、すぐ会えるさ」

 

「そうだね」

 

「そうっすね!」

 

「そっか。中学生になっても遊べるんだな!」

 

咲とモモは笑顔になり、京太郎は嬉しさから腕を振り上げて喜んでいる

 

オレももう中学生…どうなるんだろうな〜

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中学生から原作前まで
第11話



お気に入りは200人を超えてました!ありがとうございます!



 

モモと友達になってから最後の小学生生活はすぐに終わってしまった。移動教室に文化祭、そして卒業式と行事という行事が目まぐるしく過ぎていった

 

そして短い春休みが終わって今日は中学校の始業式。みんなが新しい制服に身を包み校門をくぐっていく。そこをオレも咲と京太郎と一緒にくぐって校舎に入った。そして玄関のところにはクラスわけが表示されていて自分の名前を見つけようと大勢の新入生でごった返している

 

「咲、見えるか?」

 

「う〜ん…難しいかも」

 

「じゃあオレが見てくるよ。京太郎は咲と一緒にいてくれ」

 

「わかった」

 

オレは既に身長が180ぐらいになっていたので普通の中一よりも頭一つ分は飛び出している。だからこんな人混みなんて問題ない。オレは自分達の名前を探してそれが同じ用紙に書かれているのを見て咲達のところへ戻った

 

「どうだった?」

 

「あぁ、三人とも同じクラスだ」

 

「本当か!?よっしゃぁ!やったな咲!」

 

「うん!」

 

「まぁ咲は翔と一緒なのが嬉しいんだろうけどな」

 

「な!何言ってるの!京ちゃん!」

 

「咲はオレと一緒のクラスで嬉しくないのか…」

 

「そ、そんなことないよ!嬉しい!嬉しいよ!」

 

「あははは!冗談冗談。オレも嬉しいよ」

 

「も、もう!」

 

京太郎の言葉に顔を真っ赤にして焦る咲にオレが悲しい表情を作ってそう言うと、咲はまた焦ってるのを見てオレが笑顔で冗談と伝えるとまた顔を真っ赤ににてオレのことをポカポカ叩いてきた

 

「ほら咲、そろそろ体育館行くぞ」

 

「迷子にならないようにな」

 

「な、ならないよ!」

 

咲はこう言っているが結構な迷子の常習犯なのだ。初めて来るところでは必ず迷子になる。一人ではトイレにも行けない悪い意味で天才な子なんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中一になって半年、中学で初めての体育祭や試験をを終えて夏休みになろうとしていた。オレと咲は試験を問題なく通れたんだが、京太郎は中一なのに二つ赤点を出しやがった。何回も三人で(ときにはモモも合わせて)勉強したのにな

 

さて、明日から夏休みにというところでオレに一件のメールが届いた。差出人は照さんだった。内容は『高校の見学についてきてほしい』というものだった。そうかもう照さんや姉さん達は高校の受験生になるのか。ちなみに照さんも咲に引けを取らず迷子の常習犯だ。だからどこかに出かける場合は誰かが同伴しないと目的地に着かない。今回はその付き人の役目にオレが任命されたらしい

 

「それでどこに行くんですか?」

 

「東京」

 

「ということは長野出ちゃうんですね」

 

「うん。私、強い人と麻雀がしたい。そのために行く」

 

照さんは原作通りに白糸台が第一候補らしい

 

「わかりました。ならお伴しますよ」

 

「ありがとう」

 

「いいえ」

 

そして夏休みに入ってすぐにオレと照さんは新幹線で東京へ向かった。照さんの両親や咲はというと照さんが『翔がいるから大丈夫』と言ってついてくるのを断ったらしい

 

「ここですか?」

 

「うん」

 

長野から新幹線で約二時間、目的の高校に着いた

 

「宮永 照さんね?」

 

「はい」

 

「待っていたわ。じゃあ私についてきてちょうだい」

 

「じゃあ照さん、終わったら連絡して。その辺のファミレスで待ってるから」

 

「?翔もついてくれば…」

 

「失礼ですが宮永 照さんの弟さんかしら?」

 

「いえ、ただの付き人です」

 

「そう。申し訳ないけれど宮永さんのご家族以外の方は入れないの」

 

「ほら、照さん」

 

「…わかった」

 

一瞬ムッとした顔をする照さんにオレはそう言って行かせた

 

そしてオレは照さんとわかれどこか時間を潰せるとこがないか探しながらぶらぶら歩いていた。すると結構新しめの雀荘を見つけた。こんな都会の真ん中にもあるんだなと思いながらその店に入ってみた

 

「いらっしゃい。お、初顔だね」

 

「どうも。お邪魔してもいいですか?」

 

「あぁ、いいよ。この店は年齢無制限だからね」

 

「ありがとうございます」

 

ここの店長と思われる男性はいきなり来たのも関わらず心地よく迎えてくれた

 

「君は高校生かな?」

 

「いえ、中一です」

 

「そうなのか!?いやすまないな。身長と雰囲気で決めつけてしまった」

 

「あぁ、大丈夫です」

 

「でも奇遇だな。今日もう一人中一の初めての子が来てるんだ」

 

「そうなんですか」

 

「しかもこれがなかなか強いみたいでね」

 

店長さんは注文があったからなのかコーヒーを入れながら教えてくれる

 

「ロン、5200」

 

「あちゃー!またお嬢ちゃんかよ」

 

「お、ちょうど終わったみたいだね」

 

「そうみたいですね」

 

雀卓の方に目を向けるとそこには長い金髪をした子がこっちに背を向けて座っていた

 

「ん?店長、また新顔かい?」

 

「えぇ、しかもまた中学生ですよ」

 

「そうかい。なら坊主、オレと変わりな」

 

なんでかわからないが楊枝を咥えているおじさんが席を変わってくれた。そして同じ中学生というのに興味を持ったのか女の子が振り向いた。その顔を見てオレは驚く。その子はあの大星 淡(おおほし あわい)さんだった

 

「よろしくお願します」

 

「よろしく〜」

 

「おう、よろしくな兄ちゃん!」

 

「お願いします」

 

大星さんと男性と女性に挨拶をして席に座った。親を決め対局が始まった

 

最初のオレの手牌は

{二萬七萬八萬四筒六筒九筒八索九索北南中白白}

となった。絶対領域もうあんのかよ…大星さんの方をみるとニコニコと余裕の表情だ。その自身へし折ってやる!

 

ドラ:{五萬}

一巡目、親の女性は{北}、大星さんは{南}、オレは{七筒}をツモって{北}、男性は{一索}をそれぞれ切った

 

二巡目、女性は{南}、大星さんは{一筒}、オレは{六萬}ツモって{南}、男性は{二筒子}をツモ切り

 

十巡目、オレの手牌は

{二萬二萬五萬六萬七萬七萬八萬九萬七筒八筒九筒七索八索}

となっていた。点数は低いが大星さんの絶対領域の中で聴牌できたことに心の中でガッツポーズをした。そして

 

「ロン」

 

「えっ…」

 

絶対領域だと安心していたのか大星さんはオレの当たり牌である{九索}を切った

 

「8000」

 

オレは手牌を表に向けて点数申告をした

 

「うそ…」

 

大星さんはまだ信じられないというような顔をして俯いた。しかしすぐに

 

「…いい!イケてんじゃん!」

 

さっきよりも目をキラキラさせていた。そしてすぐに次の局を始めるためにサイコロを回す

 

「リーチ!」

 

その局は親の大星さんのダブルリーチで始まった。でも…

 

「ツモ」

 

「えっ…」

 

「地和、8000・16000」

 

{四萬四萬四萬一筒二筒三筒五筒六筒二索三索四索南南} {四筒}

 

オレは最初の手牌で聴牌していた。そしてツモったのは{四筒}、地和を和了った。大星さんもそうだが男性と女性もこれには目を見開いて驚いている

 

「終局ですね」

 

「え、あ…ありがとうございました」

 

「…兄ちゃん、おめぇとんでもねぇな…」

 

「あははは…たまたまですよ」

 

「……」

 

女性と男性はまだ驚いている中、オレの言葉に一間置いて返事した。大星さんはまだ開いたオレの手牌を見て呆然としていた

 

「あの…」

 

「…う……」

 

「う?」

 

「うぇぇぇぇん!!!!!」

 

「おわっ!」

 

大星さんはいきなり涙を流して大泣きし始めてしまった

 

「あ!あの…!」

 

「ひぐっ…ぐすん…」

 

「あの、とりあえず落ち着いて…」

 

オレは大泣きする大星さんの頭を撫でながる

 

「ぐすん…ありがとう…」

 

「い、いえ…その、ごめんなさい…」

 

「なんで、君が謝るの…?」

 

「えっと、オレが君を泣かせたから…?」

 

「気にしないで。君、名前は」

 

「菊池 翔だ」

 

「ショウ。私は大星 淡。今度は100回倒す」

 

「お、おう…楽しみにしてるよ」

 

泣き止んでくれたら今度は頰をプクッと膨らませてそんな冗談を言ってきた。オレはそれに苦笑い気味に笑顔で返すと大星さんは今度は頰を赤らめた

 

「と、ところでショウはなんでここに来たの?あ、私のことは淡でいいよ」

 

「わかった、淡な。ちょっとある人の付き添いでな」

 

対局を終えたオレと大星さんは店長が出してくれたジュースを飲みながら談笑中だ

 

「そうなんだ。じゃあ住んでるのはここら辺じゃないの?」

 

「あぁ、長野から来たんだ」

 

「長野!?ってどこ?」

 

「…マジか」

 

こいつもバカの部類に入るらしい

 

「まぁ東京より少し遠いとこだ」

 

「ふ〜ん。こっちにはよく来るの?」

 

「いや、当分来ないだろうな」

 

「そっか…」

 

急にテンションが下がり暗い表情になってしまった

 

「で、でもまぁたまに遊びに来よう、かな…?」

 

「本当!?」

 

「え、あ、あぁ…」

 

「じゃあまた麻雀やろうね!」

 

また急に表情が変わり今度は背後に花が咲き乱れるぐらい笑顔になった

 

それから少しして照さんから連絡があったので淡と連絡先を交換して店を出た

 

高校に戻って校門のところで待っていると照さんがやってきた

 

「お待たせ」

 

「大丈夫だよ」

 

「じゃあ帰ろ」

 

そしてオレ達は今日のことを話しながら帰った

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

やはり朝とは辛いものでホントに布団から起き上がるのがツラい…別に夜更かししているわけじゃないのになぜこんなに朝起きれないのだろうか…目覚ましをかけたところでそれを何度も止めてはまた眠りについてしまう

 

「……くん

 

朝に弱いのは死ぬ前からそうだったけど、生まれ変わってまでこんなに弱いとはな…

 

「…くん

 

今や目覚まし三個もセットしてるのに…

 

「翔くん!」

 

「んぁ…あぁ、美穂子さん…?」

 

「もう、やっと起きた。もう朝ごはんできてるよ」

 

「ふぁ〜…ありがと。あれ、でも今日って日曜だよな」

 

「だからって遅くまで寝てることないでしょ?ほら、起きた起きた」

 

「わかったよ」

 

できれば日曜ぐらいゆっくり寝かせて欲しいんだけどね…ってオレはオヤジか!まぁこんな風に美穂子さんがよく起こしにいてくれるおかげで今のところ学校には皆勤賞だ

 

「お、やっと起きたか」

 

「おはよう、父さん」

 

「あぁ、おはよう」

 

リビングに行くとそこでは父さんが本を読んでいた

 

「はい、翔くん」

 

「ありがとう」

 

「美穂子ちゃん、すまないね。うちの息子がいつも迷惑かけて」

 

「いえ」

 

「母さんは?」

 

「福路さんの奥さんと一緒に出かけたよ」

 

「そっか。美穂子さんはどっか出かけたりしないの?」

 

「私はこれから部活」

 

「あぁ、もう最後の大会だっけ」

 

「うん」

 

美穂子さんは学校で麻雀部に入っていてそろそろ最後のインターミドルが始まるんだった。これが美穂子さん達三年生達にとって中学生最後の大会だ。できれば知り合いには多く勝ち抜いてほしいな

 

「そっか。頑張ってな。応援してるよ」

 

「翔くん…うん!」

 

美穂子さんはオレの言葉に満面の笑みを浮かべてキッチンに戻っていった

 

「そうだ、翔」

 

「ん?」

 

「今度父さんお得意さんと話し合いがあるんだ。それについて来てくれないか?」

 

「へ?なんでオレが?」

 

「そこのお嬢さんが麻雀をするそうでな。オレ達が話し合いをしている間、お前にはお嬢さんの相手をしてほしいんだ」

 

「う〜ん。まぁいっか」

 

「すまんな」

 

父さんの言い方からするにそのお得意様は相当なお金持ちの家みたいだ。そんで長野で大金持ちの娘が麻雀するってなると、想像するにあそこだろう…

 

オレは美穂子さんが用意してくれた朝ごはんを食べて自分の部屋に戻った。するとオレの携帯に連絡が入った。その画面には『怜』とあった

 

「もしもし、怜か?」

 

『お〜、久しぶりやな〜』

 

「いや、先週も電話で話したじゃんか」

 

『そうやったかな〜?まぁええわ』

 

相変わらず怜は適当だな

 

「それで?どうした?」

 

『いやな、うちも今年で中学生最後やん?』

 

「そだな」

 

『そんで次は高校生になるんよ』

 

「それぐらいわかるわ」

 

『なのに翔は会いに来てくれへんのかなーって思ってな』

 

確かに最後に会ってから大分経つけど、そんな気軽に行ける距離じゃないんだよ

 

『さらに言うと、竜華がそろそろやばいで…』

 

「竜華さんが?」

 

『この前「翔くんが来ないならうちが会いに行く!」なんて言って、ホントに旅行の用意しとったで』

 

「…マジでか」

 

竜華さんはどうしちゃたんだ…?

 

『だからできれば高校生になる前に一回こっち来てくれへん?そろそろうちも寂しいわ〜』

 

「あぁ〜…そうだな。でも悪いんだがおそらく行くのは年明けになりそうなんだ」

 

『そうか…まぁしゃ〜ないな〜』

 

「すまんな」

 

そして年明けの春休みを使って大阪に訪れる予定を立ててしまった。だが電話はそれだけで終わるわけもなく、それから小一時間電話を続けた

 

 

 

 

そして次の週の日曜日、オレは父さんと共に超豪邸のめちゅくちゃでかい門の前に立っている。そしてそのめちゃんこおっきい門が少し開いてそこにはタキシードに身を包んだ一人の男性が立っていた

 

「お待ちしておりました、菊池様とそのご子息様。私はこちらで執事をしております、萩原と申します」

 

「どうも、菊池です」

 

その人は背も高く気品に満ちた雰囲気を醸しだている。その人は萩原と名乗り、原作でも出てきたあのハギヨシさんと同じ名字である。どうやらハギヨシさんのお父さんらしい

 

「お待ちしておりましたわ!」

 

すると萩原さんの後ろからそんな甲高い声が聞こえてきた。そこには日傘をさしてもう片方の手を腰に当てて立っている女の人がいた

 

「こちらはこちらのご当主のお嬢様、龍門淵 透華(りゅうもんぶち とうか)お嬢様でございます」

 

「あなたが菊池 翔さんですわね?」

 

「え、は、はい…」

 

「ようこそ、菊池 翔さん。わたくしはあなたを歓迎しますわ」

 

「ど、どうもです」

 

さすが龍門淵 透華さん、原作でも見てたのと全く変わらないな

 

パチン!

「ハギヨシ」

 

「はっ!」

 

「おわっ!」

 

龍門淵さんが指を鳴らすとどこからともなくこれまたタキシードに身を包んだ萩原さんに比べると背は低い、原作に出てくるハギヨシさんが姿を現した

 

「翔さんをご案内してさしあげて」

 

「かしこまりました、透華お嬢様」

 

オレは父さんと別れてハギヨシさんに着いていった

 

なんか高そうな花瓶やら壺が左右にある長い廊下を進み案内された部屋、部屋というよりもう大広間と言った方がいいかもしれないところには龍門淵さんの他に四人いた

 

「へぇ〜、そいつが」

 

「純くん、そいつとか言っちゃダメだよ」

 

「ようこそ」

 

オレの記憶が正しければ井上 純(いのうえ じゅん)さん、国広 一(くにひろ はじめ)さん、沢村 智紀(さわむら ともき)さんだ

 

「遥々大義」

 

そしてその隣では腕を組んで仁王立ちしているちっちゃ…小柄なひとが天江 衣(あまえ ころも)さんだ。やはりオーラでわかる…天江さんは別格か…

 

「ではまず自己紹介をしましょうか。わたくしは龍門淵 透華と申します」

 

「沢村 智紀」

 

「国広 一だよ」

 

「俺は井上 純だ。そんでこっちのちっこくて子供みたいなのはのが天江 衣だ」

 

「こどもじゃない!ころもだ!それにころもがいちばんお姉さんなんだ!」

 

「ど、どうも…菊池 翔です」

 

オレは頭を下げて挨拶をした

 

「さて、自己紹介も済んだことですし、さっそく始めましょうか」

 

龍門淵さんはそこにある麻雀卓に片手を置いてそう言った

 

「そうだな」

 

「誰から入る?」

 

「公平にじゃんけん」

 

「ころもははいるぞ!」

 

「じゃ、じゃあオレが抜けますよ」

 

「何をおっしゃいますか!あなたと打つために来てもらっているのにあなたが抜けてどうしますか!あなたは交代禁止ですわ!」

 

「え…」

 

麻雀とは一局やるだけで相当な集中力を使う。なのにこれから何局やるかわからないのに交代なしときた…しかも相手はあの龍門淵高校に入る方々だ。疲れそうだな

 

「じゃあ僕が抜けるよ」

 

「私も」

 

最初は国広さんと沢村さんが抜けるようだ

 

「いいのか?」

 

「それではお先に」

 

「さぁ!楽園の境地を楽しもうぞ!」

 

原作を見たときも思ったが天江さんの言ってることはわかりづらいな

 

「よろしくお願いします」

 

オレも三人に続いて卓についた

 

 

 

 

 

 

「うわぁ」

 

「異常」

 

対局が終わると後ろでオレの打牌などを見ていた国広さんと沢村さんがそんな声をあげた

 

「ころもの…まけ…」

 

「…マジかよ」

 

「ありえませんわ…」

 

対局していた三人もそんな覇気のない言葉を発する

 

「ふぅ〜」

 

「菊池くん、すごいね」

 

「翔でいいですよ、国広さん。みなさんも翔と呼んでください」

 

「そっか。僕のことも一でいいよ」

 

「わかりました」

 

「わたくしのことも透華でよろしくてよ?それよりも、一体なにをしましたの?」

 

「いえ、何もしてませんよ」

 

「なら、ころもの力は通じないのか?」

 

「そんなことなかったですよ。でも今回は井上さんがいてくれたのでうまく回避できました」

 

「純でいいよ。だからか、なんか今日はよく鳴ける牌が多いと思った。なんだよ、いいように使われてたのか」

 

最初の対局はオレが制した。まぁ原作からみんなの能力は分かっていたから天江さんの海底コースなら純さんが鳴けそうな牌を推測してズラし、その間にオレは和了りを連発した。まぁまだ昼間だから天江さんも本気ではないだろうし、それに透華さんが()()()()()()よかった

 

「しょーは…」

 

「ん?」

 

「しょうはころもとまーじゃんを打てて楽しいか?」

 

「もちろん!」

 

少し不安そうな顔をする天江さんにオレは笑顔でそう答えた

 

「じゃあ次は僕も入れてもらおうかな」

 

「私も」

 

「ころもはここだ!」

 

天江さんはオレの膝の上に勢いよく飛んできて座った

 

「天江さん…?」

 

「衣!翔さんがご迷惑でしょう!」

 

「ころもの方がおねえさんだからいいんだ」

 

どんな根拠だよ…まぁ軽いからいいけど

 

「透華さん、オレは大丈夫ですから」

 

「翔さんがそうおっしゃるなら」

 

「うむ。しょー!ころもはしょーよりお姉さんだからころものことはお姉さんと呼ぶのだ」

 

「はぁ…じゃあ衣姉さんと呼ぶな」

 

オレはそう言いながら衣姉さんの頭を撫でた

 

「な、撫でるな〜」

 

「いいじゃないか。姉義弟(きょうだい)のスキンシップだよ」

 

「そ、そうか。ならば致し方ない♪」

 

その後衣姉さんは撫でられるのが気に入ったのか他の人の番のときは自分でオレの手を頭に乗せていた

 

それから三、四局したところで父さんがきた。時間は既に六時を過ぎていたので夕飯に誘われたのだが母さんが家で待ってるから今日のところは変帰えることになった。衣姉さんは泣きそうな顔をしていたが頭を撫でながら「また来るから」と言ったらパーッと笑顔になり手を振って見送ってくれた

 

「どうだった?」

 

「ん?楽しかったよ。ちょっと疲れたけど…父さんは?」

 

「あぁ、バッチリだ」

 

「ならよかった」

 

父さんも成功しオレも楽しかった1日が終わった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

中学生の夏休みなんてものはなかなかすぐに終わってしまうもので、夏休みの宿題なんてものは生前大学生だったオレにとっては朝飯前だ。ただ理科はほとんど頭から飛んでいたので少しヤバかった…ただ自分の宿題をしている時間よりも咲や京太郎、モモに教えてた時間の方が長かった気がする

 

しかも龍門淵にお邪魔してからというもの衣姉さんからのお呼び出しが頻繁で何度も透華さんの家に通い詰めていた。だって行かないと衣姉さんが不機嫌になって部屋に閉じこもっちゃうって透華さんが言うんだもんよ

 

学校の方は楽しく過ごすことができいている。友達も多くはないが増えた。文化祭では劇で主役に抜擢された。なんでオレが?とも思ったのだが、クラスの女子全員からの指名だったので断ることもできずに劇に出た

 

そして年が明け新しい年になった。年末は美穂子さん家と過ごし、年始は咲達と過ごした。悲しいことに三月に照さんが高校進学で東京に行ってしまう。いや、悲しいというより向こうに行って迷子にならないか心配の方が強いかな…

 

冬休みが明けて学校に行ったがみんなこんな短時間で変わるやつはおらず、話すことと言えば新年何食べただの初夢は何を見たのだのとやはり中学生という会話をしていた

 

さて春休みに入ってオレは今新幹線の中にいる。この前怜と約束していたように大阪に向かうのだ。交通費とか宿泊費はどうしようかと父さん達に相談しいていたらなんと交通費は怜の両親が出してくれるしそれに怜の家に泊めてくれるらしい。実質タダで大阪旅行できるのだ

 

新幹線と電車を乗り継ぎオレも見知った駅に着くとそこには既に二人が迎えに来てくれていた

 

「あ!翔くん!」

 

「ぐはっ!」

 

オレが改札を出た瞬間竜華さんが飛びついてきた

 

「りゅ、竜華さん…痛いです」

 

「あ、ごめんなさい…でも、嬉しくって」

 

「顔を見せないですいません」

 

「ううん、こうやって来てくれたから大丈夫」

 

抱きついたまま顔だけをあげてオレの顔を見上げる竜華さん。てか竜華さんいろいろ成長していて、オレの理性が!!!

 

「なんや〜、うちは空気かいな…」

 

「あ、ごめん!翔くん!」

 

「あ、あぁ」

 

怜の声で今の状況に気づいたのかオレからパッと離れて顔を赤くする

 

「怜も久しぶり」

 

「その言い方だとうちは竜華のついでみたいやな〜」

 

「そんなことはないぞ。怜がお願いしてくれたから来れたんだからな」

 

オレは怜のおかげで来れたことを怜の頭を撫でつつ伝えた

 

「そうか〜、ほなそういうことにしとこか〜」

 

怜はそんなことをそうは言いつつも顔はめっちゃ笑顔だ。でもそれに伴って竜華さんの頰はどんどん膨れていく

 

「ほな行こうか〜」

 

「お、おい。腕を組むなよ」

 

「ええやん。長い付き合いなんやし」

 

「関係ないだろ」

 

「怜だけズルい!私も!」

 

「りゅ、竜華さん!?」

 

怜がオレの右腕に、竜華さんが左腕を組んできた。恥ずかしいし歩きずらいからやめてほしい…

 

 

 

怜の家に着いたら怜お母さんがいた

 

「翔くん、お久しぶり」

 

「お久しぶりです。これ、つまらないものですがどうぞ」

 

「あら、ありがとう。さすが翔くんね」

 

なにがさすがなのかわからないままオレはニヤついている怜のお母さんを見ていた

 

「翔、部屋に案内するわ」

 

「あぁ、頼む」

 

どうやら泊めてもらうときに使わせてもらう部屋に怜が案内してくれるようだ

 

「と〜き〜、そっちはあなたの部屋でしょ〜?」

 

「…あ〜、せやったせやった。こっちや」

 

お母さんの指摘に対してすかさず体の向きを変える怜。しっかりしてくれよ

 

「ここや」

 

「おう、ありがとな。ところで…」

 

「ん?」

 

「その荷物はなんですか…?竜華さん…」

 

「なにて、うちも泊まるからや」

 

「なんでこの部屋に…?」

 

「うちもここで寝るからや」

 

そんな「何言ってんの?」みたいな顔しないで。オレが間違ってるのか!?いや、そんなはずはない

 

「ダメです」

 

「なんで〜?」

 

「健全なる男女が同じ部屋で寝るのはダメなんです」

 

「うちは気にせーへんよ?」

 

「オレが気にします」

 

「りゅーかがここで寝るならうちもここで寝るわ」

 

「怜まで何言ってんだよ」

 

「ええやん」

 

「よくない」

 

一つ屋根の下でもダメな気がするのに同じ部屋でしかも二人となんて、ダメだダメだ!絶対ダメだ!

 

「ぶ〜、翔くんのイケず」

 

「翔ノリ悪いな〜」

 

「こんなノリはいらん」

 

「仕方ないな〜。じゃあうちは怜の部屋で寝よ」

 

最初からそれでいいじゃないか。まったくいつからこんな慎みのない子になってしまったのか…

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「どうしたん?」

 

オレはハッと思い出し、バッグの中から綺麗にラッピングされた袋を二つ取り出した

 

「まだちょっと早いけどこれ。二人とも中学卒業&高校進学おめでとう!」

 

「お〜」

 

「しょ、翔くんが…うちに…」

 

「気に入らなかったらごめん」

 

二人は袋を開けて中を確認する

 

「これ」

 

「かわいいやん!」

 

「二人は親友って知ってるからな。お揃いのブレスレットにしてみた」

 

「ありがとう、翔。嬉しいわ」

 

「翔くんありがとう!これから毎日つける!」

 

「いや、高校につけて行けないでしょ…」

 

まぁでも喜んでくれてよかった

 

その後怜が変な力に目覚めたとかで麻雀を打った。すると怜は原作通り一巡先を見れるようになったらしい。でもあんま使いすぎると危ないからそれとなく注意しておいた

 

いつの間にか夜になっていて怜と竜華さんが今日はオレの料理が食べたいと言い出したから買い物に行って夕飯を作った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、オレは午後の今出かけている。目的地は愛宕家。怜や竜華さんが高校進学ということは同い年の愛宕家の洋姉もそういうことだ。だから洋姉にもお祝いをと思って家を訪ねることにした

 

最寄りの駅に着いてすごく見慣れた道を進み、前に住んでいた家を見つける。今はもう他の人が住んでいるみたいだ。ということは振り返った先が愛宕家である。オレはその家のチャイムを鳴らす

 

ピンポーン

 

「はい」

 

「おっす、絹姉。久しぶり」

 

「え、うそ…翔くん…?」

 

「あぁ、オレだよ」

 

チャイムの音から少しして出てきたのは絹姉だった。前に見たときよりも大人っぽくなっている。メガネは変わらないけど

 

「うぅぅ…翔くん!」

 

「おわっ!絹姉!?」

 

「翔くん!翔くん!」

 

絹姉は昨日の竜華さんみたいにオレに抱きついてきた。しかも涙を浮かべながら。オレは絹姉の頭を撫でながら泣き止んでくれるのを待つ

 

「落ち着いた?」

 

「…うん。ごめんな〜」

 

「こっちこそ、全然会いに来なくてごめん」

 

「それはいいんよ。でも今日来るのなんで知らせてくれなかったん!?」

 

「わりー」

 

「もう!でもまた会えて嬉しいわ〜」

 

「オレも嬉しいよ」

 

ようやく泣き止んでくれた絹姉は今度は笑みを浮かべる

 

「絹を泣かすんはどこのどいつやー!!!」

 

「おぉ、洋姉。久しぶり」

 

絹姉の鳴き声が聞こえたのか家の中から飛び出てきた洋姉

 

「なんや自分、うちは絹を泣かす弟なんておらん!」

 

「違うのお姉ちゃん!私が勝手に泣いちゃったんよ!」

 

「へ?そうなんか?お、翔やないか!久しぶりやな!」

 

「どうも洋榎さん」

 

「…なんでそんな他人行儀やねん」

 

「さっき弟じゃないと言われたので」

 

「あれは、言葉の綾や!」

 

さっき言ったことをよほど気にしているのか洋姉はおどおどしながら言ってくる

 

「翔くんもお姉ちゃんのこといじめんのやめて〜な」

 

「絹姉がそう言うんなら仕方ないな」

 

二人とも元気そうでなによりだ

 

「それで?今日はなんでまた急に」

 

「ちょうど大阪に来る予定があってな。洋姉に高校進学のお祝いをね」

 

「ほぉ〜、一丁前に気使うやん」

 

「オレももう中二になるからな」

 

家に上がらせてもらいカバンから取り出したものを洋姉に渡す。洋姉にはいろんな種類の髪留めをプレゼントした

 

「なぁ、翔くん。うちには〜?」

 

「絹姉は高校進学来年だろ?」

 

「そやけど〜」

 

「心配しなくても来年何か送るよ」

 

「直接はくれへんの〜?」

 

「そんな頻繁に来れるとこじゃないからな…ごめん…」

 

「む〜…しゃ〜ないな〜。なら来年期待しとくわ〜」

 

長野から大阪まででもなかなかお金がかかる。今回はほぼただで来れたけど、来年はおそらく違うとこの姉さんのとこに行かないといけなくなるだろうから、申し訳ないが絹姉には我慢してもらおう

 

「せや、今日お母ちゃん帰ってくんねん。翔、今日は夕飯うちで食うてき」

 

「え、でも…」

 

「さすがお姉ちゃんや!翔くん!久しぶりに一緒に食べようや!」

 

「…じゃあお言葉に甘えて」

 

「よっしゃ!!」

 

「よかったな〜、絹」

 

絹姉そんなガッツポーズしなくても…怜に連絡入れとくか。帰ったらブツブツ言われそうだな

 

そして雅恵さんが帰ってきてから四人で夕飯を食べ、遅くなる前にお暇した。怜の家に帰ると予想通り怜も竜華さんも不機嫌になっていて機嫌直しにとても時間がかかった

 

ちなみに他にも豊ねぇや霞姉さん、初美姉さん、巴さん、宥さんにもお祝いは送っておいた。照さんにも東京に出発する前にプレゼントを渡しておいた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

春休みも終わって新学期となった。新しいクラスを確認すると嬉しいことに咲とはまた同じクラスになれたが残念なことに京太郎とは違うクラスになってしまった

 

「また同じクラスだね、翔くん」

 

「あぁ、またよろしくな」

 

新しいクラスで自分の席に座っていたところに咲がやってきた。オレが笑顔で返すとなぜか頰を赤くした

 

「…でも京ちゃんが」

 

「そうだな。さらば京太郎」

 

「おい翔!死んだみたいに言うな!」

 

「あ、いたのか」

 

「ひでーな…まぁもう戻るけどよ」

 

「さらば」

 

「だから!!」

 

「ふふふ」

 

オレと京太郎のやり取りをみて咲は笑っている。咲は照さんがいなくなってから少し寂しいのかよくうちに来たりオレが咲の家に行くようになっていた

 

そして家の方ではこんなことが起きていた

 

「高校入学おめでとう、美穂子さん」

 

「ありがとう、翔くん」

 

「でもすごいじゃん。麻雀の名門のあの風越女子に特待生で入学なんて」

 

「たまたまだよ」

 

「んなわけないでしょ。美穂子さんの実力だろ」

 

「…」

 

オレの本心を伝えると美穂子さんは顔を見られたくないのか後ろを向いてしまった

 

「あ、ありがと…」

 

「頑張ってな」

 

「うん!」

 

美穂子さんは振り向いて笑顔で返事した

 

遠くにいる高校進学する人達には祝い物をあげたんだが、美穂子さんにはまだ渡していなかった。どうせ隣に住んでるんだから当日に渡した方が喜ぶと母さんに助言されたからだ

 

美穂子さんは原作通り風越女子に進学した。しかも高校側からの推薦で特待生として入ったそうだ。でも一つ悲しいことがあったらしい。インターミドルで対局した美穂子さんを苦しめたある人が風越に来ると思ったけどいなかったらしい。それが原作通りならおそらく竹井 久(たけい ひさ)さんだろう。その人と会えなかったのが残念だったと聞いた

 

そして中二になったオレは今年やろうとしていることを書き落としていた。するとそこでオレの携帯がなった。画面には『姉帯家』と出ていた

 

「もしもし」

 

『翔ちゃ〜ん!!!』

 

「おわっ!豊ねぇ…声抑えて」

 

『あ、ごめん。届いたよ!』

 

「お、予定通りについてよかった」

 

『うん!ありがとう!とっても嬉しいよ〜!』

 

「気に入ってもらえてなによりだ」

 

『もう翔ちゃんだと思って毎日抱きながら寝るよ!』

 

「いや、マフラーなんだからもっと普通に使って欲しいかな…」

 

「うぅぅ…わかったよ」

 

豊ねぇは今は珍しい携帯を持っていない女子なんだ。だからいつも家にある固定電話でかけてくる。そして岩手は一年のほとんどは寒いと思ってマフラーを送った。喜んでもらえてよかった

 

それから何分か話をして豊ねぇは名残惜しそうだったけどなんかさっきから何回かキャッチが入っていたので終わりにした。そして電話を切った瞬間に別に人から連絡が入った。画面には『はるる』と書いてあった

 

「もしもし」

 

『あ、出た』

 

「珍しいな。はるるから電話がくるなんて」

 

『…翔、くん……?』

 

「…か、霞姉さん…?」

 

『えぇ、そうよ。本題に入る前に、なんで春ちゃんの電話にはでたのかな…?』

 

なぜかわからないが霞姉さんはすごく怒っている…めちゃくちゃ怒っている…電話のすごくドスが効いている声だ

 

「あの、霞姉さん…怒ってます…?」

 

『うふふ…怒ってないわよ。なんで春ちゃんの電話に出・た・の・か・な…?』

 

「え、えっと…」

 

『…あ、翔?』

 

「巴さん?よかった。霞姉さんどうしたんですか?」

 

『さっきからみんながずっと電話してたのよ?』

 

「すいません。他の人と電話してたので」

 

『そうだったの。でもそのせいで霞さんは笑顔でなんで翔くんをずっと連呼してるし、はっちゃんと姫様は泣きながら翔、翔くんを連呼してるし、明星と湧なんて兄様なんで!って泣いてるのよ。逆に電話に出てもらえたはるるは見たこともない満面の笑みでいるし』

 

「そうなんですか…?」

 

『とりあえぜ私以外のみんなに電話かけて一言言った方がいいかもよ?』

 

「そうですね。では一旦切ります」

 

『ええ』

 

そこで電話を切る。まさかこんなことになっているとは知らなかった…そして最初に霞姉さんにかける

 

「霞姉さん?」

 

『あら、なにかしら翔くん』

 

「えっと、さっきは電話に出れなくてごめん」

 

『…気にしてないからいいのよ』

 

「でも…」

 

『本当に、気にしてないからいいのよ?』

 

「…今度、オレが鹿児島に行くときに神鏡内を一緒に散歩しない?」

 

『えっ…』

 

「だから、一緒に散歩…」

 

『それは、二人きりかしら…?』

 

「えっ、あぁ…そうだね。二人きりで行こう」

 

『そ、そう。うふふふふ、そう…二人きりで。うふふふふ』

 

これは機嫌をなおしてくれた、のかな?あんまり時間もないし、今度は初美姉さんかな

 

「もしもし、初美姉さん?」

 

『どちらさまですか〜…?』

 

「え、オレだよ。翔だよ」

 

『お姉さんの電話に出ない義弟なんて知りませんよ〜』

 

いや、完全に義弟って言ってるし

 

「そうですか。じゃあもう膝の上に乗せてあげられませんね」

 

『えっ…』

 

「一緒に遊べないし、お菓子も作ってあげられないですね」

 

『…』

 

「それに麻雀もできないですね」

 

『…う……』

 

「う?」

 

『うぇぇぇぇぇん!!!』

 

「えっ!?は、初美姉さん!?」

 

『うぇぇぇぇぇん!!!翔がイジメるのですよ〜!!!』

 

「ちょっ!嘘!嘘です!!今度そっち行ったらたくさん膝の上乗ってもいいから!」

 

『…本当ですか〜?』

 

「あぁ!たくさん遊ぶしたくさんお菓子作ってあげる!」

 

『やったのですよ〜!』

 

危なかった…でもこのままいくと今度鹿児島行くとめちゃくちゃ疲れそうだな…次は小蒔姉さんだな

 

『…』

 

「こ、小蒔姉さん…?」

 

『つーん』

 

「へ?」

 

『私は今翔くんを無視してる最中でーす』

 

どういうことだ。それに電話に出てる時点で無視になってない気が…

 

「そうですか。じゃあ神代さんと楽しくおしゃべりすることができないんですね」

 

『え…』

 

「膝枕で寝かせてあげることもできないんですね」

 

『…』

 

「…さっきは電話に出なくてすいません。許してもらえるならオレなんでもするからさ」

 

『なんでも…ですか?』

 

「おう!オレにできる範囲だけど…」

 

『…じゃあ今度膝枕に、撫で撫でを追加してください!』

 

「そ、そんなんでいいのか?」

 

『はい!』

 

「…承った」

 

『ふふふ』

 

これで小蒔姉さんも大丈夫かな…あとは明星と湧か

 

「明星か?」

 

『兄様ぁ〜』

 

「ごめんな、電話出なくて」

 

『兄様がお忙しいのはわかってました。ですが…』

 

「ホントにすまん」

 

『でも兄様から電話してくれて久しぶりに兄様の声が聞けて明星はとても嬉しいです。やっぱり明星は兄様が大好きです!』

 

「ありがと。オレもいい子な明星が好きだよ」

 

オレはこんないい義妹がいて誇りに思うよ

 

「湧か?」

 

『兄様!なんで明星の方が先なの!?』

 

「え、それはたまたま…」

 

『ひどい!兄様は湧のことが嫌いになったの!?』

 

「んなわけねぇだろ!」

 

『兄様…?』

 

湧がバカなことを言い出したので少し怒鳴ってしまった

 

「オレの義妹は明星だけじゃねぇ。お前だってオレの大切で大好きな義妹だ」

 

『兄様ぁ…』

 

湧ももう大丈夫そうなので電話を切った。これで全員の機嫌が治せたと思いたい…

 

それからまた再度巴さんに電話してみると全員さっきとは段違いに明るくなったみたいだ。逆に笑みが明るすぎて眩しいとなんだかよくわからないことを言っていた

 

それからオレは夏休みか冬休みの長期の休みのときに神鏡の方に顔を出すよう約束した

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

お気に入りが300超えてました!!!読んでいただいてありがとうございます!!

この頃麻雀の描写が少なくてすみません。おそらく次回で原作に入るので麻雀の描写を増やしていくように頑張ります!!





中二生活もそそくさと過ぎていき、今回の年末と年始は鹿児島で過ごした。中二の夏休みかぐらいから一度行くと約束していたからちょうどよく、小蒔姉さんの進学お祝いも兼ねて鹿児島を訪れた

 

鹿児島にいたのは五日間だが、毎日大変だった…まぁ前に約束したことをやっていっただけなんだけどなぜかみんな集まってるときよりもオレと二人きりでいる方が上機嫌だったし

 

鹿児島にいる間オレはずっと初美姉さんの椅子となり、小蒔姉さんの膝枕となり、明星と湧の遊び相手となっていた。確かに久しぶりに会えて嬉しいが、限度ってもんがあるだろう。あれじゃオレが何人いても足りんぞ。あ、ちゃんと霞姉さんやはるるの言うことも聞いたぞ?巴さんは「私はいいからみんなの言うこと聞いてあげて」って言ってたけど、ホントによかったのかな…?

 

あ、ちなみに今度高校生になる小蒔姉さん、絹姉、玄さん、憩さんにはお祝いの品を送っておいた。みんなからは後日感謝の言葉をそれぞれ電話越しに聞いた。絹姉と玄さんはお礼に長野まで行くなんて言い出したときはマジでビビった…

 

さてオレは中三となり受験生となった

 

「翔と咲はどこの高校に行くか決まってるのか?」

 

「私は“清澄”かな」

 

「オレもかな」

 

「そうなの?翔くんならもっと上のとこ行けるんじゃない?」

 

「咲はオレと同じ高校じゃ嫌なのか…」

 

「そ!そうじゃないよ!翔くん私なんかより全然頭いいから…」

 

「ははは!冗談冗談」

 

「もう!」

 

確かにオレはこの学校で一番の成績だ。でも特にしたいこともないしどうせなら家から近いとこに通いたいからな

 

「二人も清澄なんだな」

 

「ということは京ちゃんも?」

 

「あぁ」

 

「…大丈夫なのか?」

 

「どういう意味だよ!?」

 

「今のままの頭でも大丈夫なのかってことだよ」

 

「うっ…」

 

京太郎はオレとは真逆で成績が校内で下から数えた方が早い位置にいる。オレと咲、モモと一緒に勉強してたのにどうしてこいつだけこんな風になってしまったのか…ちなみに咲は毎回十番以内には入るぐらいの成績だ。モモも向こうの学校内では頭のいい部類に入るらしい

 

「頑張らねぇと難しいぞ?」

 

「頼む!翔!勉強教えてくれ!」

 

「いつも教えてるはずなんだけどな…わかった、毎週土曜はうちに来い」

 

「恩にきるぜ!」

 

「咲はどうする?」

 

「私も行こうかな」

 

「わかった」

 

こうして京太郎にとって毎週土曜の地獄の勉強会が始まったのである

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は過ぎて夏休み、中三のやつはそろそろ志望校を決めそれに向かって勉強に励んでいることだろう。うちも例外ではなく毎週土曜の勉強会は続いていた。そのおかげか夏休み前のテストではオレは学年で一位、咲は八位、京太郎はなんと八十位と学年の半分にまで登ることができた。京太郎に関しては担任の先生からも褒められていた

 

そして咲と京太郎だけではなく勉強を教える機会が増えた。夏休みに入ってからよく淡か電話が来るようになった。要件はいつも「勉強教えて!」だ。まぁその度に東京に行けるわけじゃないから電話越しに教えてたけどホントに理解できてるかはすこぶる不安だ

 

そして今日は龍門淵邸に来ている。用はこれから高校生になるみなさんへのお祝いと衣姉さんに呼ばれたからだ

 

「よく来た、ショー!」

 

「衣姉さん、出迎えに来てくれたのか?」

 

「あぁ!」

 

「そっか、ありがと」

 

感謝の意味も込めて衣姉さんの頭を撫でると姉さんは気持ちよさそうに見える

 

「やぁ、翔。ようやく来たね」

 

「一さん。ん?ようやくとは?」

 

「今日朝から衣がずっと玄関のところで君が来るのを待っていたんだ」

 

「そうだったのか。遅くなってごめん」

 

「でもこうしてちゃんと参じてくれたのだ。衣はそれだけで嬉しい」

 

「ありがとう。じゃあ待たせたお詫びとしてこれ」

 

オレはそう言って持っていた紙袋の小さな袋を取り出してそれを開けた

 

「おぉ!」

 

「作り過ぎちゃって。衣姉さんと一さんにあげるよ。透華さん達には内緒な」

 

前に出したのはクッキーでそれを二人にあげた

 

「いいのかい?」

 

「はい。お口に合えばいいんですが…」

 

「ふふっ、前にもそう言って美味しさのあまり透華に雇われそうになったのはどこの誰だっけ?」

 

「はははは…そんなこともありましたね」

 

「あぁ!衣!ボクにもちょうだいよ!」

 

オレと一さんが話してる中衣姉さんはずっとクッキーをモグモグ食べていたらしく、もう四分の三ぐらいなくなっていた。よく喉が乾かないなと思ったら姉さんの後ろにいつの間にやらハギヨシさんがジュースを片手に立っていた

 

「翔くん、透華お嬢様がお待ちですよ」

 

「わかりました。これ、預かってもらってもいいですか?」

 

「かしこまりました」

 

オレはハギヨシさんに持ってきた荷物を預けていつもの部屋に向かおうとすると衣姉さんがオレの体をよじ登り肩車状態となった

 

「ではショー!トーカ達の元にいざ参じよう!」

 

「はいはい」

 

オレはそのまま姉さんを肩車したまま中に入っていった

 

廊下を歩いている最中にあることに気づいた

 

「そう言えば一さん」

 

「ん?なにかな?」

 

「今日は違うタトゥーシールなんですね」

 

「えっ」

 

いつも一さんは左頰に星のタトゥーシールをつけているんだが今日はなぜかハートのシールに変わっていることに気づいた。指摘された一さんはなぜわかったみたいな顔をして驚いている

 

「…よくわかったね」

 

「いつも見てますからね」

 

「…」

 

そこで一さんは黙ってしまった。いや、実際にはなんかすっごい小さな声で喋っているが衣姉さん担いでるから後ろ見れないしよく聞こえない

 

「一さん?」

 

「な!なんだい!?」

 

「いえ、急に黙ってしまったので何か気に触ること言っちゃいましたかね…?」

 

「いや、いいんだよ!」

 

「そうですか」

 

「でも…」

 

そして一さんは横からオレの顔を覗き込むように出てきた

 

「気づいてくれて嬉しいよ」

 

「そうですか」

 

「む〜…なぜハジメとショーだけで娯楽の一時を過ごしているのだ!衣が仲間はずれみたいではないか!」

 

「あ、ごめん姉さん」

 

「そんなつもりじゃなかったんだけどね」

 

「む〜」

 

おそらくというか見なくてもわかるがふくれっ面をしているだろう衣姉さんを乗せて廊下を進む

 

部屋に着くと透華さんが腕を組んで仁王立ちして待っていたんだ

 

「翔さん!遅いですわよ!って衣!どこに乗っていますの!」

 

「すいません、透華さん。姉さん、着いたから降りてもらえるか?」

 

「んん…もう着いたのか…?」

 

声でわかるがなんとこの短時間のうちで衣姉さんは寝てしまっていたらしい

 

「朝早かったから寝ちゃったんだね」

 

「はぁ…まぁいいですわ。しかし!翔さんが遅かったのは事実。罰としてお茶を淹れなさいな」

 

「えっ、でもお茶はハギヨシさんの方が美味しいですよ」

 

「ボクも飲みたいかな。翔のお茶」

 

透華がなぜか罰としてオレにお茶を淹れろと言ってきたことに一さんが同意する

 

「わかりました。ハギヨシさん、キッチン借りてもいいですか?」

 

「はい、もちろん」

 

「じゃあ衣姉さん寝かせたら淹れてきます」

 

「よろしくってよ」

 

そう言ってまだオレの頭を枕に寝ている衣姉さんをベッドに寝かせるべく部屋を出た

 

 

 

 

 

衣姉さんはどれくらい寝ていたかな。オレが来てからに二時間ちょいぐらい寝てたかな。その間はみんなで麻雀してたけど

 

「さて、衣姉さんも起きたことだし。ハギヨシさん、お願いします」

 

「わかりました」

 

オレは最初にハギヨシさんに預けておいたものを出してもらった

 

「みなさん遅くなりましたが高校進学おめでとうございます!」

 

そして一人一人に持ってきたプレゼントを渡していった

 

「衣姉さんにはこれな」

 

「おぉ!」

 

「透華さんにはこれを」

 

「あら、ありがとうございますわ」

 

「一さんにはこれね」

 

「ありがとう」

 

「智紀さんにはこれ」

 

「ありがと」

 

「純さんにはこれだよ」

 

「お、すまねぇな」

 

みんなに渡し終わるとそれぞれラッピングを外し中の箱開け始めた

 

「可愛らしいティーカップですわね」

 

「…これはなかなかいいメガネケース」

 

「なら嬉しそうな顔しろよ。俺のは、おぉ!いつも使ってるヘアーワックスか」

 

「リボンだ。この色は持ってなかったな。よく知ってるね」

 

「なんだこれは!巨大なエビフライだ!」

 

「それクッションだよ」

 

みんな一応喜んでくれたようでよかった

 

「衣姉さん、最後に一緒に麻雀打たないか?多分あと一局やったら帰んないといけないから」

 

「衣と遊ぶのか!?ならば今度こそ地へ伏させてやろう!」

 

「望むところだ!」

 

最後に衣姉さん、透華さん、智紀さんと一局打って帰宅した



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作開始
第16話


受験生としての一年は早かった。というか小学校に比べて中学校の三年間はあっという間に過ぎてしまった気がする。よく中学や高校は小学校と比べて時間が経つのが早いと言うがその通りだった

 

オレは無事に清澄高校に推薦で入学が決定している。それは咲も一緒だった。京太郎の勉強に付き合ってたらいつの間にか咲は学年主席のオレに続いて学年次席になるまで頭がよくなってしまった。京太郎はというと勉強会の甲斐があり今は学年でも50位以内に入れるようにまで成長した。残念ながらオレや咲のように推薦を取ることはできなかったがこのままなら一般でも大丈夫だろう

 

オレは別にこれと言ってやりたいこともないから最初から家から近い清澄を選んだが、それをみんなに伝えたら「東京に来てお世話をして」だの「大阪に戻ってうちらを養って〜」などと高校進学に全く関係のないお誘いを受けていた。まぁ丁重に断ったが…透華さんや衣姉さんからも龍門淵高校への特待生として入学しないかというお誘いもあったが友達と一緒の高校に通いたいと言ったら納得してくれた

 

「どうしたの?翔くん」

 

「ん?あぁ、京太郎の番号あるかな〜って」

 

「急に不安なこと言うなよ…」

 

「だってお前の番号42番だろ?42(しにん)なんて不吉以外の何者でもないだろ」

 

「やめろよ!一気に不安になってくるじゃんか!」

 

「まぁ番号なんて関係ないけどな」

 

「じゃあなんで言ったんだよ!」

 

「翔くん?あんまり京ちゃんいじめちゃダメだよ」

 

「はいよ、お姫様」

 

「ふぇ!?」

 

咲は変な声をあげて顔を真っ赤にする

 

「そう言えばモモは無事に進学だってな」

 

「あいつはエスカレーター式だから、もしかしたらオレ達より楽かもな」

 

一週間ぐらい前に連絡があったがモモも無事に鶴賀学園の高等部に進学が決まったらしい

 

「あとはお前だけだな」

 

「あぁ!」

 

「オレと咲は推薦で決まったけどな」

 

「なんでお前はそういうこというかな!」

 

「照れるぜ」

 

「褒めてねえよ!」

 

「…お姫様…翔くんが私の…お、王子様…!?」

 

「お〜い、咲〜」

 

「えへへへ♪」

 

ダメだ。咲は現実の向こう側に行ってしまったようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜も満開になった春、オレと咲、京太郎は無事に“清澄高校”に入学した。こうして仲のいいやつとまた一緒の学校に通えるのは普通に嬉しい

 

高校入学が決まったらたくさんの人から「おめでとう!」を言ってもらった。でも小蒔姉さんから届いたA4サイズの用紙三枚のお祝いの手紙には驚いた

 

そして入学から二週間が経った今、オレはこの二週間で見つけた読書に最適な場所に咲と二人でいた

 

「ねぇ、翔くん」

 

「ん?」

 

「今の子、見た?」

 

「今の子?いや、本読んでたから見てなかった」

 

「すごく綺麗な子がそこ歩いてったよ!目が合っちゃった…」

 

「へぇ、どんな子だったんだ?」

 

「リボンが同じ色だったから同じ一年生だと思う。でもなんか…すごく大人っぽかった」

 

咲はなぜか自分の胸を見ながらその見た子を説明する。すると

 

「咲、翔」

 

「うわっ!」

 

「京太郎」

 

「もう!おどかさないでよ!」

 

「あぁ、わりーわりー」

 

「何か用?」

 

「…なぁ、咲…」

 

「な、なに…?京ちゃん…」

 

なんか大事な要件そうだ。京太郎がズボンのポケットに手を突っ込みながら後ろを向く

 

「オレ、席外そうか?」

 

「ま、待って!ここにいて」

 

オレは立ち上がってその場から去ろうとすると袖を咲に掴まれた。そして京太郎は振り返ってこう言った

 

「学食行こうぜ!」

 

「は?」

 

「えぇ!」

 

「な、なんだよ」

 

「いや、なんか今の状況と言い方からして告白かと思った」

 

「オレが?咲に?ないない」

 

「私だって嫌だよ!私には好きな…あっ!」

 

「ん〜?咲〜?お前好きな人いんのか〜?」

 

咲が余計なことまで言ってしまったのだろう。京太郎がそのことについて詰め寄る。そしてオレは顔を真っ赤にしている咲と目が合ってしまった

 

「ん?はは〜ん。さては咲、お前…」

 

「京ちゃんのバカ!!!」

 

咲は大声で京太郎を怒鳴りつけ早足で行ってしまった

 

「あ、待てよ咲!学食!」

 

京太郎は急いで咲を追っかけた

 

「今日も平和だな」

 

オレは晴天の空を見上げながらそんなことを呟いた

 

 

 

 

 

 

「はい!レディースランチ!」

 

「おぉ!サンキュー!」

 

「まったく、これを注文するためだけに食堂に来いなんて」

 

「だって、今日のレディースランチめちゃめちゃ美味そうだったから」

 

「本当、京ちゃんって人使い荒いんだから」

 

結局食堂に来た理由はそんなことだった。付き合わされたオレはなんなんだ…当の京太郎は携帯を片手に何かし始めた

 

「京太郎、食事中に行儀悪いぞ」

 

「メール?」

 

「いや…」

 

京太郎は携帯の画面を隣に座った咲に見せた

 

「麻雀?京ちゃん、麻雀するんだ」

 

「やっと役を全部覚えたとこだけどな」

 

「へぇ、お前が麻雀ね」

 

「麻雀っておもれぇのな」

 

「…私、麻雀嫌い…」

 

「お前麻雀嫌いなのか!?」

 

「…だった。今は好きだよ。翔くんのおかげで」

 

「翔が?」

 

「大袈裟だ」

 

前に宮永家のいざこざを出しゃばったオレがたまたま解決できただけだ

 

「てかお前ら、麻雀できんの?」

 

「人並み程度には」

 

「ふふっ、そう言って翔くん負けたこと何回かしかないじゃん」

 

「へぇ、いないよりはマシかな」

 

京太郎はそう呟くとすごい速さでランチを食べ尽くし、勢いよく立ち上がる

 

「ついでに付き合ってよ。メンツが足りないんだ」

 

「メンツって?」

 

「麻雀部」

 

「ほう、部があるのか」

 

「あぁ、旧校舎の屋上に部室があるんだ」

 

そしてオレと咲は本校舎から少し歩いたところにある旧校舎に連れて行かれた。古くて木でできた階段を登って曲がった先に部屋があった

 

「カモ連れて来たぞ〜」

 

「はぁ…」

 

「どうする?翔くん」

 

「まぁ来ちまったしな。一局ぐらいいいだろ。それに咲に勝てるやつなんてそういねぇよ」

 

「〜♪うん♪」

 

咲の頭を撫でながら言うと咲は気持ちよさそうにして主人に懐く犬のようだった

 

「お客様?」

 

そして中には一人のピンクの髪をツインテールにしている少女がいた

 

「あ、あの時の」

 

「なになに、お前和のこと知ってるの?」

 

「あぁ、先ほど橋のところで本を読んでいた」

 

「じゃあさっき咲が言ってた子って…」

 

「うん、この子」

 

「へぇ、あんた原村 和(はらむら のどか)だろ?」

 

「え、えぇ…でもどうして」

 

「そりゃ去年の全国中学生チャンピオンなんだから、知ってて当然だろ?」

 

「翔は知ってたのか」

 

「まぁな」

 

「ねぇ翔くん。それってすごいの?」

 

「すごいじょ!」

 

咲の質問に答えたのはオレではなくドアから入ってきた茶髪こっちもツインテールにしている少女だった。清澄一年生トリオと呼ばれるうちの一人の片岡 優希(かたおか ゆうき)さんだろう

 

「学食でタコス買ってきたぜ」

 

「またタコスか」

 

「やらないぞ!」

 

「とりゃしねぇよ」

 

「お茶淹れますね」

 

原村さんがお茶を淹れるとその場を離れた

 

「のどちゃんはほんとにすごいんだじぇ!去年の全国大会で優勝した最強の中学生だったわけで」

 

「は、はぁ…」

 

後から入ってきた子の熱弁に咲は少し引き気味だ

 

「しかも!ご両親は検事さんと弁護士さん!男子にはモテモテだじぇ!」

 

「それ関係あるか?」

 

「あのぅ…」

 

「ん?」

 

「お茶できました」

 

「部長は?」

 

「奥で寝てます」

 

「それじゃうちらだけでやりますか。翔と咲はどっちが入る?」

 

「咲が入るよ」

 

「え、でも…」

 

「大丈夫。まぁ初対面の人達とだし、最初は“優しく”な」

 

「ふふっ♪わかった」

 

オレは咲のカバンを預かり、咲は空いている席に座る

 

「25000点持ちの30000点返しで順位点はなし」

 

「はい」

 

「タコスうまー」

 

オレは咲の背後で見守る。さて、インターミドルチャンピオンのお手並み拝見

 

「チー!」

 

局が進んで咲の上家の片岡さんが

{三筒横二筒四筒子}

{北北横北}

{六筒横五筒七筒}

の三副露。そして咲が切ったのは{三筒}

 

「ローン!混一色2000点!」

 

「えぇ!振り込むか?普通。筒子集めてるの見え見えでしょう」

 

咲の出した点棒をニヤけた表情でいる片岡さん。初心者とか思ってんだろうな

 

「よーし!リーチだ!」

 

「ごめん、それロン」

 

「なんですと!三色捨ててそれってどうなん!?素人にも程があるよ!」

 

「終わりですね」

 

その局は原村さんが一位となった。ちなみ咲は()()()()()の三位、京太郎は最下位だ

 

二局目は原村さんが大躍進

 

「また和がトップか」

 

「ありがとうございます」

 

そして咲は二回目の()()()()()。順位は二位

 

「よーし、次行くじぇ!」

 

「しかし、咲の麻雀はパッとしないな」

 

「点数計算はできるみたいだけどね」

 

咲の実力がわからないお前らはやべぇぞ

 

ゴロゴロ

「ん?雷」

 

窓の外は暗く、雨が降っている音がする

 

「降ってきましたね」

 

「ウソ!傘持ってきてないわよ!んん…」

 

奥のベッドから一人の女性が起き上がる

 

「あれって、生徒会長」

 

「咲、学生議会長な。入学式のとき言ってただろ」

 

「そうだっけ…」

 

「今日のゲスト?」

 

「俺の小学校からの幼馴染です」

 

「宮永 咲です」

 

「菊池 翔です」

 

「竹井 久よ」

 

「麻雀部の部長なんですよ」

 

「そうなんですか」

 

その竹井先輩は「どれどれ」と咲の手牌を覗き込む。そして今日の対戦成績を確認するためかパソコンの方に向かった。咲の結果に驚くことになるであろう

 

「ロン、1000点です」

 

「えー!」

 

また京太郎が咲に振り込んだ

 

「1000点!?」

 

咲の和了った点数に驚いたような声をあげる竹井先輩。そうだろうな、最低でも7700は和了れたんだから

 

「これで終わりですね」

 

「点数申告な」

 

「はぁ、今回ものどちゃんがトップか」

 

「宮永さんのスコアーは!?」

 

「プラマイ0ぽん」

 

片岡さんが言った通り咲は()()()()()()()()を成し遂げた

 

「じゃあ部長さんが起きてメンツも足りたようだからオレ達は帰るか、咲」

 

「そうだね。じゃあ抜けさせてもらいますね」

 

「え、おい」

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「図書室に本返さなきゃ」

 

オレと咲はドアに向かって歩いていく

 

「菊池くんは打たないの?」

 

「オレですか?咲の実力がわからないような連中相手じゃ東一局で全員飛びますよ」

 

そして部屋の方を向いて一礼して帰路についた

 

「どうだった?」

 

「う〜ん…」

 

「正直に言っていいよ」

 

「…弱かった、かな。お姉ちゃんやモモちゃんよりも弱いと思ったよ。あれじゃ翔くんは退屈だと思う」

 

「マジで正直に言ったな…まぁそれはオレも思ったかな」

 

雨の中を歩いていると後ろから走る音が聞こえてきた

 

「原村か?」

 

「原村さん?」

 

傘もささずに走ってきた原村をとりあえずオレの傘の中に入れる。そして咲の方を向いた

 

「三連続プラマイ0、わざとですか?」

 

「はい」

 

「なんでそんな打ち方、してるんですか…?」

 

「それは翔くんが“優しく”って言ったから」

 

「あぁ」

 

「優しく…?」

 

原村は意味がわかっていないようだ。まぁどうでもいいことだがな。オレは傘を原村に渡して咲の傘に入り階段を下る

 

「宮永さん!もう一回…もう一局私と打ってくれませんか!?」

 

「…」

 

咲は黙ってオレを見上げてくる

 

「咲のしたいようにすればいいさ」

 

「…考えておきますね」

 

咲はその場ではそう言って帰った



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

次の日の朝には雨は止んでいた。朝から咲と図書室に来ているところに竹井先輩が現れた

 

「何が貸出中だって?」

 

「生徒会長!」

 

「学生議会長」

 

「こまいのぅ」

 

竹井先輩の後ろには緑のリボンをしたメガネの人もいた。染谷(そめや) まこ先輩だろう

 

「どれどれ」

 

「覗くなよ」

 

竹井先輩は本来図書委員の人だけしか見てはいけないだろうパソコンを覗き込み、咲が借りようとしている本を確認しているようだ

 

「あぁ、この本持っとるよ。全集もある。なんなら貸そうか?」

 

「え、いいんですか?」

 

「その代わり、宮永さんと菊池くんに一つお願いがあるの」

 

「オレもですか?」

 

「えぇ」

 

竹井先輩から言われたお願いとは今日の放課後もう一度麻雀を打ってくれってことだった。オレは打ってないが

 

そして放課後オレは咲と昨日の旧校舎に赴いた

 

「待ち人来たる。須賀くん、優希呼んできて」

 

「あぁ、はい」

 

「おぉそうか、この文学少女が例のプラマイ0子か」

 

「今頃気づくか」

 

「じゃあ君はなんなんじゃ?」

 

「知りませんよ」

 

そりゃ昨日打ったのは咲だけだから会話の中にオレが出なくても仕方ない。そして京太郎が片岡を連れてきた

 

「宮永さん、和、まこ、優希」

 

「咲ちゃんだ」

 

「この四人で二回戦を戦って」

 

「会長やらないんですか?」

 

「あたしが入ったらみんな飛んじゃうでしょ」

 

「ははは」

 

「言ってんさい」

 

「今回は東風戦、赤4枚ね」

 

「やった!」

 

「って、それどう意味っすか」

 

「わりゃそれでも麻雀部員なんか?」

 

「最近の麻雀は東四局と南四局からなる半荘戦が主流だが今からやる東風戦はその半分、東一局から東四局までのたった四局での勝負となるんだ。わかったか?麻雀部員の京太郎くん」

 

「なんでお前は一言多いんだよ、翔。ということは時間が半分になるってことか?」

 

「まぁ簡単に言うとな。そんで赤ってのは赤く塗られた五の牌の赤ドラな。今回はこれが4枚入るってことだ」

 

「えっ!ドラが8枚になる!そんな恐ろしいことが〜!」

 

よくわからんが説明を聞いた京太郎がムンクの叫びみたいにクネクネしだした

 

「25000点持ちの30000点返しね」

 

「はーい」

 

そんな京太郎はどうでもいいかのように対局は始まった

 

「咲、お前の自由にやっていいぞ?」

 

「わかった」

 

「咲ちゃんはまたプラマイ0にするのか〜?」

 

さてどうなるかな

 

ー東一局ー

 

「きたー!親リーチ、行っくじぇー!」

 

早いな。まだ二巡目だぞ

 

「ドン!立直、一発、自摸、ドラ3親ッパネ!」

 

それに点数も高い

 

「いきなりかよ」

 

「これ、見てみそ」

 

竹井先輩がパソコンの画面を京太郎に見せる

 

「優希の過去の平均獲得点数のグラフ。東場では強いけど南場では失速して弱くなるタイプね」

 

「天才なんですけどね。集中力が持続しないのだ」

 

「飽きっぽいの間違いでは?」

 

「それだ!」

 

ー東一局 一本場ー

 

「ロン、8300です」

 

「今染谷先輩が捨てた牌だじぇ…?」

 

「直撃狙いです」

 

今度は原村が片岡から満貫直撃を食らわす

 

ー東二局ー

 

「それだ!1000点」

 

「なぬ!」

 

「さくさく行くじぇー」

 

「逃げる気ですね、優希のやつ」

 

「そうね、おもしろい展開ね」

 

おもしろい?それはどういう意味のだ?

 

ー東三局ー

 

十巡目、咲が聴牌した

 

「張っとる?」

 

「はい」

 

染谷先輩は咲にそう確認して牌を切り出す

 

「ロンです」

 

「あぁぁぁぁ」

 

「タンピン、ドラドラ、11600(ピンピンロク)です」

 

「あー、いたたたた」

 

ー東三局 一本場ー

「これで連荘」

 

「今回のルールでは100の位を五捨六入で計算する。だからプラマイ0は29600点から30500点の僅かな範囲だけ」

 

竹井先輩が京太郎にそう説明していると

 

「ツモ!面本自摸、中、ドラ1。3000・6000の一本付けじゃ!」

 

「いやー!そんな長い呪文聞きたくないじぇ!」

 

染谷先輩のハネ満で咲の親被り。まぁでも5200点なら狙いやすいか

 

ーオーラスー

 

九巡目、今度は咲が面本聴牌。出和了り5200でちょうどプラマイ0だな

 

「うりゃ!」

 

「…」

 

咲は片岡が切った和了り牌の{五筒}をスルー

 

そして次の原村が切った山越しの{赤五筒}もスルー。まぁ咲の自由に打てって言ったのはオレだからな。今回も勝ちには拘らないらしい

 

「なぁ翔」

 

「ん?」

 

「咲はなんで和了らないんだ?」

 

咲の打ち方に疑問を持った京太郎がオレにこっそりと聞いてきた

 

「それはだな、片岡の{五筒}で和了ればプラマイ0完成だがトップで丘が付くし、原村の{赤五筒}で和了ったらプラマイ0じゃなくなる。今日の咲もプラマイ0しか見ていないからかな」

 

オレは卓から目を離さないで京太郎に説明した。すると

 

「リーチ!」

 

立直棒、そう来たか。原村は何が何でも咲にプラマイ0をやらせない気だな。だけどそれで止められるほど咲は弱くねぇ

 

「これって場に1000点増えたってことですよね?」

 

「そ、こうなるとプラマイ0にするには4100から5000点まで…つまり、70符の2翻のみ」

 

「70符って!」

 

京太郎は驚いてホワイトボードにある点数表を見る

 

「部の記録を見る限り、70符なんて1000局に一回出るかどうか」

 

「役満以上の役ですか」

 

「それを2翻で作るとなるともっと難しい」

 

立直棒を出した原村はコーヒを飲みながらそんな役出るわけがないかのように余裕の感じだ

 

「大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

「咲ならその不可能を可能にしますよ」

 

オレはそう言って全く心配せずにその局を見守る。そして

 

「カン」

 

「「っ!」」

 

「ふぇ!」

 

まぁ70符2翻なんて滅多に出ないもので上がるなんて運も必要だ。それもこの空間を支配するだけの超人的な強運がな。だが咲にはそれがある!!

 

「嶺上ツモ。70符2翻は1200・2300」

 

オレはその結果に笑顔が出る。70符2翻を和了っただけではなく嶺上開花というこれもまた滅多には出ない役出る和了った先に原村は呆然とその手配を眺めている

 

「すげぇな!」

 

「さすがだな、咲」

 

「うん。ありがとう、翔くん」

 

咲はなぜかオレをジーっと見上げてきたのでオレは頭を撫でてやると少し頰を赤くして顔を緩める

 

「咲ちゃんはまたプラマイ0。昨日のを入れて四連続、ありえないじぇ…」

 

「宮永さん」

 

「あ、はい!」

 

「麻雀は勝利を目指すものよ?」

 

「はぁ…」

 

「次は、勝つための麻雀を打ってみてくれないかしら」

 

「う〜ん…翔くん、どうする?」

 

「さっきも言ったがお前の好きに打っていいぞ」

 

別にオレに一々確認取んなくていいのにな。何でか昔からオレに指示を仰いでくるんだよね

 

「…わかりました」

 

「えっ!」

 

「わかりましたって!」

 

「うちらには確実に勝てるっちゅうことか」

 

咲はそんなこと思ってないだろうが、まぁその通りだな。実際咲が勝つ麻雀を打ったら、全員()()()()()んじゃないか?

 

ー東一局ー

 

「リーチ」

 

いきなりの咲の先制ダブル立直

 

「ダブリー!」

 

「はい!?」

 

そりゃ驚くよな。でもこんなんで驚いてたら後々持たないぞ?

 

「ダブル立直、一発、自摸。2000・3900」

 

「そそそそういうのはうちのお株なんですけど!」

 

「積み込みか!?」

 

「全自動卓です」

 

原村はこれを一時の運だとか偶然とか思ってんだよな

 

ー東二局ー

 

「カン」

 

「ツモ。嶺上開花、4000オール」

 

ー東二局 一本場ー

 

「カン」

 

「もう一個、カン」

 

「カン」

 

「れ、連槓!」

 

「ツモ。嶺上開花、清一色、対々和、三暗刻、三槓子。8100オール」

 

ー東二局 二本場ー

 

「カン」

 

「また!?」

 

「おい、まさか!」

 

「ツモ、四暗刻」

 

「や、役満!」

 

そこで全員が飛んで終了となった。手も足も出てなかったな

 

「あ、ありえないじぇ…」

 

「そんな…」

 

「ふぅ」

 

「お疲れ、咲」

 

「うん、ありがとう。翔くん」

 

そこで原村が部屋から走り去ってしまった

 

「またですか!」

 

「また?」

 

「でも咲ちゃん強すぎるじぇ…」

 

「あははは…」

 

「そうそう、宮永さん。本はここにあるから。待ち時間に読むようだから部に入れば読み放題」

 

「勧誘下手っすか」

 

本をダシに咲を部に引き入れることがバレバレだ

 

「さて、今度は君の番だね」

 

「オレもやるんすか?」

 

「当然!彼女にだけやらせる気?」

 

「か!彼女!?」

 

「咲はそんなんじゃないですよ。ただの幼馴染ですよ」

 

「あら、そうなの。ずっと一緒にいるからてっきり」

 

「咲は目を離すとすぐ迷子になるからな」

 

「つうことです」

 

オレの代わりに京太郎が言ってくれた

 

「まぁいいわ。卓についてちょうだい。和の抜けたとこにはわたしが入るわ」

 

「はぁ…わかりました」

 

オレは拒否権はなさそうだと思いながら席についた

 

ー東一局ー

 

今気づいたがさっきの局もその前も昨日もずっと始まりの親は片岡からだ。原作通りだな。これもある意味すげぇな

 

「翔くん…」

 

「言うな。オレのせいじゃねぇよ」

 

手牌をキレイに並び替えたら背後の咲が呆れた声で言ってきた。なぜなら

{九萬九萬七索八索白白白中中中發發發}

だからだ…

 

そしてそれを知らない染谷先輩が何の疑いもなく{九索}を出してしまった

 

「ロン」

 

「なっ!」

 

「じぇ!?」

 

「…っ!」

 

「大三元。終了ですね」

 

「マジかよ…」

 

「翔くん、それはさすがに酷いよ…」

 

「仕方ねぇだろ…牌達に言ってくれよ」

 

全自動の卓だし完全に運だろ。なのにオレが悪いみたいに見てくるのやめて、咲

 

「まいったわね…」

 

「こが無理じゃ…」

 

「人間じゃないじぇ…」

 

「失敬な。ちゃんと人間だ」

 

失礼すぎるだろ

 

「でもこれはぜひ部に入ってもらいたいわ!」

 

「はぁ…どうする?翔くん」

 

「咲に任せるよ。入ったとしても男子は個人戦だけっぽいしな」

 

「申し訳ないけどそうなるわね。今の所男子部員は須賀くんだけなんよ」

 

「でも咲が入れば女子は五人揃って団体戦が出れるってわけですね」

 

「その通りよ」

 

「だから咲が決めな」

 

「う〜ん」

 

「まぁ実際全国には強い人もいるし、もしかしたら照さんとまたできるかもよ?」

 

「そっか」

 

「待って、照ってあの宮永 照のこと…?」

 

「?そうですよ?」

 

「まさかあの全国チャンピオンと知り合いなの…?」

 

「えぇ、まぁ。てか全国に出てる何校かの強豪校には知り合いがいますけど」

 

「そうなの!?例えば!?」

 

「う〜ん。永水女子の神代 小蒔さんとか姫松高校の愛宕 洋榎さん、あとは個人戦二位の荒川 憩さんとかですかね」

 

「有名人ばっかじゃない!どうして!」

 

「翔くん、小さいころからお父さんの都合で引っ越しを繰り返してたんです」

 

「そういうことです」

 

「そうだったのね。それで、入ってくれるかしら」

 

「…はい。よろしくお願いします」

 

「てことはオレも入ることになったんで、よろしくお願いします」

 

「えぇ、ありがとう。歓迎するわ」

 

こうしてオレと咲も“清澄高校麻雀部”に入ることになった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

一週間が経ち高校生活にも慣れてきた今日この頃、今日も今日とてちゃんと開いてくれない瞼を閉じないように必死に抗いながら学校への道を歩いている

 

授業の方はまだ高校に入ったっばかりなのでそこまで難しくはない。そこまで苦労せずに勉学に励んでいる

 

そして放課後には今までとは違い部活に行くようになった。特に緊張とかはしていないんだが果たして今のままで衣姉さん達、龍門淵に勝てるのであろうか…

 

授業が全て終わってオレは部室のある旧校舎に向かおうとしたが、先生に職員室に呼ばれてしまったので咲に先に言ってるように言ったがいつものところで待ってると言われたので今そこへ向かっている。そこでは木に寄りかかって眠っている咲がいた。そして傍らには一冊の雑誌が置いてあった。開いているページには“全国高校生大会覇者 宮永 照”とあり、照さんの写真も載っていた

 

「…翔、くん」

 

「あ、わりー。起こしたか?」

 

「ううん、平気」

 

「照さんすげぇな」

 

「うん。さすがお姉ちゃんだよ」

 

「じゃあ今年は咲、お前が照さんを倒すのはどうだ?」

 

「私が、お姉ちゃんを…?」

 

「あぁ。でもまぁまずは全国に出るために県予選を勝ち抜かないとな」

 

「そうだね」

 

「さ、そろそろ行くか」

 

「おーい!咲ー!翔ー!」

 

「京ちゃん」

 

改めて部室に向かおうとすると京太郎が走ってきた。そして三人で歩き出す

 

「部活に入って一週間だが、もう慣れたか?」

 

「うん、楽しいよ?翔くんには負け越してるけど…」

 

「そこまで変わんねぇだろ。それにオレも負ける気はないからな」

 

「お前らは強すぎなんだよ!オレなんか…」

 

「お前は初心者なんだから仕方ねぇだろ」

 

小さいころから麻雀を打ち続けているオレや咲とは違い、京太郎は高校から始めたんだからまだ勝てなくて当たり前だ

 

「でも…」

 

「ん?」

 

「原村さんて私のこと嫌いなのかな…私、麻雀部に入ってから原村さんとほとんど話してないよ」

 

「複雑なんだろ」

 

「複雑?」

 

「和はここに入るまでは中学生のチャンピオンだったんだ。同学年では最強だったわけだし、雑誌にもバンバン載って天才とか書かれてたみたいだし」

 

「まぁそんなやつの前にポッと現れたやつに勝つより難しいプラマイ0をされて、悔しくて仕方ないんだろ」

 

「でもあれは翔くんが…」

 

「あ、あははは…」

 

「ま、今はプラマイ0狙いで打ってるわけじゃないんだろ?」

 

「それはそうなんだけど…」

 

そう言うオレもあんまり原村と話してないな。オレも嫌われてるんかな

 

「そこの三人、止まれ」

 

「んあ?」

 

「優希ちゃん」

 

「優希か」

 

「私も一緒に行こう」

 

そこには塀の上でタコスを片手に座っている優希がいた。部に入ってから優希が「自分のことは名前で呼ぶのだ!」と言ってきたから名前で呼ぶことにした

 

「なぜそんなところでタコスを食っとる」

 

「タコスが切れると私は人の姿を保てなくなるんだ」

 

「何になる気だ…」

 

「私自身がタコスになる!」

 

「誰も食わなそうだな。ほら、優希と京太郎の夫婦漫才はほっといて行くぞ、咲」

 

「あ、待ってよ!」

 

「誰が夫婦だ!」

 

「そうだじぇ!こいつは犬だ!」

 

「犬でもねぇよ!」

 

息ピッタリじゃんか

 

部室には既に原村が来ていた

 

「よぅ!のどちゃんだけか?」

 

「はい」

 

「お茶淹れるの手伝いな」

 

「はいはい」

 

優希に言われて京太郎も一緒にキッチンに入っていった

 

「何してたんですか?原村さん」

 

「これは、全ての山を開いて四人分を一人で打っていたんです。全ての牌をわかっていたとしてもほぼ毎回プラマイ0で終わらせるなんてそう簡単にできることではありえません」

 

「何が言いたいんだ?」

 

「そ、それは…」

 

「そりゃできないって思うやつの方が多いのは事実だろう。だが現に起きたことを否定するのはおかしいんじゃないか?」

 

「…」

 

原村は下を向いてしまった。さすがに言いすぎたと思い彼女の頭に手を乗せる

 

「悪い、言いすぎた。でもそんな回りくどい言い方しなくてもいいだろ。ただ悔しい、そうなんだろ?」

 

「…はい」

 

「ならそれでいいじゃねぇか。負けたからってお前を笑うやつはここにはいねぇよ」

 

「…菊池さん」

 

ようやっと顔を上げてくれた原村の目には涙が浮かんでいた

 

「だから、次勝てばいいじゃないか。それでも負けたらもう一回やればいい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「おう。あと、オレのことは翔でいいぞ」

 

「…!はい、翔さん。わ、私のことも…和と、呼んでください」

 

「わかった。改めてよろしくな、和」

 

「はい」

 

オレの顔を見て一度顔を赤くした和は最後は笑顔になってくれた

 

「宮永さん、すみませんでした」

 

「えっ!わ、私の方こそすいませんでした」

 

二人はお互い頭を下げて謝り合った。これで少しは仲良くなればいいんだけど

 

「お茶淹れたじぇ〜」

 

「部長と染谷先輩は用事で遅くなるって」

 

「んじゃ、特打ち開始だじぇ」

 

「誰が抜ける?」

 

「あ、オレ最初抜けるわ」

 

「いいの?」

 

「いいんですか?翔さん」

 

「あぁ」

 

「じぇ〜?のどちゃんはいつから翔のこと名前で呼ぶようになったのかな〜?」

 

優希がそう言ってニヤけながら和の顔を覗き込んだ。その和は恥ずかしくなったのか顔が真っ赤だ

 

「えっ!いや、その…うぅぅぅ…」

 

「こら優希、和が困ってるだろ」

 

「なぬ!翔までのどちゃんを呼び捨てか!?いつからだ!」

 

「たった今だよ。和が呼んでいいって言うから」

 

「ちょっ!翔さん!」

 

「はは〜ん、さてはのどちゃん…」

 

「もう!早く始めますよ!」

 

またもや優希にニヤけられながら見られた和は顔を真っ赤にして卓についた

 

「(ジー)」

 

「な、なんだよ…」

 

「別にー……翔くんのバカ

 

顔を横に向けると頰をプクッと膨らませてこっちを見ている咲がいた。最後に何やら言われたような気がするが何を言ったかは聞こえなかった

 

そしてその局は咲と和の1、2で終わった

 

「終わりー」

 

「終わった、じぇ。後のことは頼みます、京太郎には一日三回ご飯をあげてください。私はもうダメだ…」

 

優希はこの対局では調子結果が悪かった。終わったら卓にひれ伏した

 

「しかし、和と咲は強いな」

 

「二人がいると勝てないからつまんないじょ〜」

 

「おいおい…」

 

「次は勝ちましょ」

 

「優希、お前がそんなになってたら京太郎なんてどうする。死んじゃうぞ」

 

「なんでだよ!」

 

「…」

 

優希を心配そうな目で見ている咲。オレはそれで咲が次、何をするのか察してしまった

 

「咲」

 

「っ!な、なに…?翔くん」

 

「今お前が考えてることは優希にも他の三人にも失礼だ」

 

「っ!なんで…」

 

「オレがどんだけお前と一緒にいたと思ってる。咲が考えそうなことは大体わかるぞ」

 

「そっか。そうだね…うん、わかった」

 

「それでよし」

 

おそらく次はわざと優希を勝たせようとするはずだ。そして咲自身はプラマイ0で。それは優希にも咲自身にもいいことではない

 

「リーチ!調子が出てきたじぇ!」

 

調子が戻ってきたのか三巡目という早い段階で優希がリーチをした

 

「それだ!ロン!」

 

「なに!」

 

やっぱり京太郎はまだまだだな

 

「そういえば部長達はどこ言ったんだ?」

 

「試合の抽選ですよ」

 

「そっか」

 

なら美穂子さんやモモもいたかな

 

「それがどうされました?翔さん」

 

「ん?いや、なんでもないよ」

 

そういえば龍門淵の代表って誰なんだろうな。透華さんかな。衣姉さんは……ないな

 

「でも本当に翔と和は仲良くなったよな」

 

「えっ!」

 

「だって昨日までほとんど口きいてなかったじゃんか」

 

「そ、それは…」

 

「もう!また翔くんは!京ちゃん、翔くんと変わって!昨日の続き!今度は私が勝つからね!」

 

「なんだよ!いいぜ、今度も勝つのはオレだけどな」

 

「忘れないでください!今回こそは私が勝ちます!」

 

「私も負けないじぇ!」

 

「なんで俺が…」

 

その後、何局か打ってもちろんオレは全てのトップだった。でも何局か咲に抜かれそうで危なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部活が終わり家に帰ると美穂子さんがいた

 

「あ、翔くん。おかえりなさい」

 

「ただいま、美穂子さん」

 

「おかえり、翔。その会話聞いてるともう結婚してるみたいね」

 

「茶化すなよ、母さん」

 

この言葉はもう何回聞いただろうか。どうせ冗談だし気にすることないんだろうが美穂子さんに迷惑だからやめてほしい。それを聞く美穂子さんは毎回顔を真っ赤にするんだから。ほら、今もそうだよ

 

「そう言えば、今日抽選会だったんでしょ?」

 

「う、うん。よく知ってるね」

 

「うちの部長も言ったからな」

 

「え、翔くんの学校も大会に出るの?」

 

「あぁ。今年は女子が五人集まったからね。男子は無理だったけど」

 

「そう…でも個人戦には出るんでしょ?」

 

「そのつもり」

 

「翔くんに勝てる人なんているのかしらね」

 

「それは大袈裟だよ。オレより強いやつなんて五万といるさ」

 

美穂子さんが冗談を言うなんて珍しいな

 

「安心して。情報を聞き出すなんてマネはしないから」

 

「ふふっ、翔くんはそんなことしないわよ」

 

「その根拠は?」

 

「女の勘、かしらね」

 

「ははは、それで納得しちゃうオレがいるよ」

 

「ふふふ♪さ、ご飯にしましょ」

 

「本当に新婚さんみたいね。美穂子ちゃん、うちの子貰ってくれる?」

 

「へっ!?あの、京香さん!!?」

 

「母さん、美穂子さんイジるのも大概にしなよ」

 

「はいはい。でも美穂子ちゃん、考えといてね」

 

「まったく…美穂子さん、ごめんね。気にしなくていいから」

 

お嫁さん……翔くんの…私が…でも、そんな……

 

「…美穂子、さん?」

 

「ひゃい!」

 

「大丈夫…?」

 

「だ、大丈夫!」

 

顔を真っ赤にしている美穂子さんは、大丈夫じゃなさそうだ…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

お気に入りが400人を超えてました!!ありがとうございます!!!


これからも不定期ながら更新していくのでよろしくお願いします!!!!!!



翌日、オレは一人でして校門をくぐったところで声をかけられた

 

「翔、おはよう」

 

「おぉ、京太郎」

 

「今日は咲と一緒じゃないんだな」

 

「毎日一緒ってわけじゃねぇよ。それにいくら咲でも学校の道ぐらい覚えただろ」

 

「それもそうか」

 

その人物は京太郎であり、いつも咲と一緒に登校してたから一人でいるのを不思議がられた。そして玄関に入ったところでは

 

「おはよう。翔くん、京ちゃん」

 

「おう、おはよう」

 

「お、おはよう」

 

咲と和が一緒にいた。京太郎は何を見てか頰を赤らめた

 

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよう。和」

 

「それじゃあ」

 

「うん。お昼、一緒に食べようね。あ!翔くんも一緒にどう?」

 

「は?」

 

「っ!あの!宮永さん!?」

 

「オレがいたら迷惑だろ」

 

「ううん。そんなことないよ。ねっ?原村さん」

 

「え、えっと…はい…ご、ご一緒しません、か…?」

 

「…じゃあ、お言葉に甘えて」

 

咲の提案でオレも一緒にお昼に誘われる。和がそれを聞いて焦るような言動を見せたから迷惑かと思って断ろうとしたんだが、咲も和にも了承されたので一緒することにした。返事を聞いた二人はパーッと明るい笑顔になった

 

「それでは、また後で」

 

「うん。私達も行こ?翔くん」

 

「はいよ。じゃあな、京太郎」

 

「おい待て!俺も同じクラスだろ!それと、俺もお昼ご一緒させてください!」

 

「…なんで敬語?」

 

和を見送った後にオレらも教室へ向かった

 

 

 

そしてお昼、オレ達は和と合流してから外で待ってる優希の元へ向かった

 

「遅い!もうお腹ぺこぺこだじょ!」

 

「なんだ、タコスもいるのかよ」

 

「なんだとはなんだ!タコスわけてやらねぇぞ!」

 

「いや、いらんし…」

 

そこでは優希がシートを広げて待っていた。こいつは毎食タコスなのか?

 

オレはカバンから二つもお弁当を出し、その一つを咲に渡す

 

「ほらよ」

 

「ありがとう!」

 

「翔、咲の弁当もお前が作ってるのか?」

 

「ん?まぁな。昔作ってあげたらそれ以来オレに弁当を頼むようになった」

 

「だ、だって〜…美味しいんだもん」

 

「それはそれは、ありがとな」

 

まぁその代わりにたまに咲がオレの弁当の分まで作ってくれることがあるがな。咲はおっちょこちょいだけど意外と家事ができる

 

「翔!あれは持ってきたか!?」

 

「あぁ、はいはい。持ってきましたよ」

 

「なんだ?」

 

「この前タコス作れるって言ったらなら作ってこいって言われてな」

 

オレはカバンから紙袋を出しながら京太郎の質問に答える。そしてそれを優希に渡す

 

「あ、あの…翔さん」

 

「ん?どうした?和」

 

「えっと…よろしければ、私の作ったお弁当食べていただけませんか…?」

 

「え、いいのか?」

 

「…はい」

 

「それじゃあ、少しだけ」

 

和に言われてオレは和が出したお弁当から一つ拝借する

 

「おぉ、美味いな」

 

「本当ですか!?」

 

「あぁ。美味しいだろうなとは思ってたけどこれは想像以上だ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「和はいいお嫁さんになるな」

 

「っ!そ、そんな…」

 

「よ、嫁!!」

 

オレの言葉に恥ずかしいのか顔を赤くする和。そして嫁という言葉に極端に反応した京太郎

 

「むー…」

 

「さ。咲…どうしたんだよ」

 

「別に」

 

「なんか怒ってる?」

 

「怒ってなんかないよ!」

 

咲は反対にオレを睨みながらふくれっ面になっている。怒っているのは目に見えて明らかなのになぜか怒ってないと言い張る。なぜだ…?

 

「あ、そうだ。じゃあオレの弁当少しやるよ」

 

「え、でも…」

 

「いいのいいの。お返しってことで」

 

「では、少しだけ…」

 

和はオレが出した弁当に箸をやって掴んだおかずを口に頬張る

 

「んっ!」

 

「どうだ?」

 

「お、美味しいです」

 

「それはよかった」

 

「少し、自信をなくしました…」

 

「え、なんで?」

 

「わかるよ、原村さん!」

 

「咲まで?」

 

わけのわからんことに二人が結託した

 

その後自分の肉まんを優希に取られた京太郎が優希を押し倒したり、それをオレ達三人が笑ったりなど平和な昼を過ごした

 

 

 

そして放課後。いつも通り部室に集まるといきなり部長がホワイトボードに何かを書き始めた。書き終わってホワイトボードをバンッ!と勢いよく叩いたそこには“目指せ!全国高校麻雀大会 県予選突破!!”とあった

 

「というわけで、十日後の来月頭に県予選があります。予選には団体戦と個人戦があります。今年からうちも県予選に出場することにしました。目標はもちろん!県予選突破です!あ、そっちのは県内の主な強豪校の牌譜ね。それからこっちは予選のルール。パソコンにも入ってるから、各自目を通しておくように」

 

「パソコン使うじぇ〜」

 

「全員で100000点持ち?」

 

「五人で交代?なんだこれ」

 

咲は今まで団体戦なんてやったことないし、京太郎はそもそも初心者だし、わからないのは当然か

 

「それは団体戦のルール。詳しいことは後でまとめて教えるから、各自確認しといて」

 

「団体戦と個人戦」

 

「あっ!男女別だから、オレが出れるのは個人戦だけか…」

 

「オレもだけどな」

 

「えっと、去年の団体戦の優勝は…龍門淵?」

 

優希はパソコンで去年のデータを確認しているみたいだ

 

「ちょっ!ありえないんですけど、この人!」

 

「あぁ、龍門淵高校の天江 衣か」

 

「咲ちゃんより変だじょ…」

 

「そうね」

 

「それまで六年連続全国を行っていた風越女子が去年の決勝でその天江 衣を含む龍門淵に惨敗したんだ」

 

「へぇ〜」

 

「あら、菊池くんは知ってたの?」

 

「えぇ、まぁ」

 

だってその両校に知り合いがいるからな。話は聞いてる。するとオレの携帯が振動した

 

「ん?すいません、部長。電話きたんで少し外します」

 

「えぇ」

 

オレは部長に断って部室の外に出て携帯の画面を確認する。そこには『透華さん』とあった

 

「もしもし、翔です」

 

『しょー!』

 

「衣姉さん!?どうしたんだ?」

 

『しょーに呼ばれた気がしたのでな!』

 

「そっか。さすがだな姉さんは。ちょうど姉さんの話が出たところだったんだ」

 

『やはりそうか。だが衣の相手はしょーだけだ!』

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、気をつけなよ?姉さん」

 

『?なにをだ?』

 

「まぁいいよ。ごめん、これから部活だから。またお菓子でも作ってお邪魔するよ」

 

『おぉ!待っているぞ〜!』

 

オレはそこで電話を切った。だがすぐには部室に戻らなかった。壁にもたれかかってこれからのことを考えてみる。オレや京太郎は個人戦だから個人個人の実力アップでいい。だが女子はそうはいかない。お互いを助け合う必要がある。まぁ部長が考えているだろう。だがやはり衣姉さんは別格に強い…唯一戦えるとすればオレか咲ぐらいだろう。となると必然的に咲が衣姉さんの相手をしなければいけなくなる。とまぁ考えも仕方ないと思って部室へ戻った

 

「あら、もういいの?」

 

「はい」

 

「あれ?そういえば、染谷先輩は今日は来ないんですか?」

 

「おぉ、忘れてた。まこの家は喫茶店をやってるんだけどね、掻き入れどきのうえに店の人が病欠で人手が足りないらしいのよ」

 

「んじゃあ染谷先輩もウェイトレスを?」

 

「というわけでね、和と宮永さん、まこの家を手伝ってくれる?」

 

「「えっ!」」

 

「部長は行かないんですか?」

 

「えっ!?あ、あぁ…私、歳だから!それに、学生議会の仕事もあって…!」

 

「歳ってまだ十七歳なんじゃ…」

 

「とにかく!社会勉強だって麻雀に強くなるには必要よ。これも県予選に向けての一環ということで」

 

「「はぁ…」」

 

それは無理がありますよ

 

「あ、菊池くんも行ってね」

 

「え…」

 

なぜかオレも行く羽目になった

 

 

 

そして部長から言われた喫茶店へと向かっている

 

「うまく丸め込まれちゃったね」

 

「うまくなんでしょうか…」

 

「喫茶店で本当に勉強になるのかな」

 

「部長のホントの意図はなんなんだろうな」

 

そして少し歩いて行くと

 

「おーい!こっちじゃ」

 

「あれ?」

 

「これは?」

 

「よぉ来たのぅ」

 

「なんでそんな格好を?」

 

「コスプレ?」

 

「これはのぅ」

 

すると外に出ていた立て札に手を置いた。そこには“本日メイドデー”と書かれていた

 

「メイド…」

 

「喫茶…」

 

「よろしくな!」

 

どうやら二人はメイドの格好をさせられるらしい。ん?オレは…?

 

「先輩、オレは?」

 

「あぁ、お主はこれじゃ」

 

そう言ってどこに持っていたのか執事用の服を出した

 

「マジっすか…」

 

「大マジじゃ」

 

オレは諦めて更衣室へ行った。前に一さんに着させられたときにハギヨシさんに着方を習ったのでスムーズに着る

 

咲と和はオレが終わってから少しして出てきた

 

「お、二人とも似合ってるじゃないか。可愛いぞ」

 

オレの言葉を聞いた二人はモジモジしながら顔を真っ赤にした

 

メイド姿の二人は大盛況で、来るお客さん(主に男性)はみんな二人に注文する。最初は二人とも恥ずかしがっていたが和はすぐに順応した。咲はまだ少し恥ずかしいみたいだ

 

オレはというとまぁ慣れてるから…

 

そしてその喫茶店には麻雀卓があった

 

「いらっしゃい」

 

「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

 

「お、空いてるじゃん。打てる?」

 

「はいはーい。お二人様麻雀卓にご案なーい」

 

どうやら今来たお客さん二人と咲と和は打つみたいだ

 

「あの、よろしく…」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくな、お嬢さん達」

 

「じゃあ始めますか」

 

じゃあオレは観戦…

 

「菊池く〜ん」

 

…できないようだ。オレはお客さん(女性)に呼ばれる。しかも指名だ

 

「ツモ。2000・4000」

 

「今度はこっちの嬢ちゃんがトップか」

 

「んじゃ、切りのいいところでオレは帰るよ」

 

「あぁ」

 

お客さんの一人が帰ってしまった

 

「いやー、強いねお嬢ちゃん達」

 

「そうですか?」

 

「そんなこと…っ!」

 

それで咲は立ち上がって入口のドアを睨む。そしてドアが開いて入って来た女性は来ていたコートを染谷先輩に投げ渡す

 

「いらっしゃい」

 

「あら、今日のバイトは可愛らしい子だね」

 

この人がプロの藤田 靖子(ふじた やすこ)か。確かに強者の貫禄だ

 

「いつもの、特盛りで」

 

「はい、いつものですね」

 

常連なのか注文を早々と終わらせ麻雀卓に近づいていく

 

「よろしく。さぁ、始めようか」

 

和や咲にとって初めてのプロとの対局。おそらく二人はその人が誰だかわかっていないようだが、さて、どうなるかな…

 

 

対局中藤田プロは注文したカツ丼をバクバク食いながら打っていた。序盤は咲と和がそれぞれ1、2位で進んでいる

 

「ごち!」

 

藤田プロが食べ終わったか。これまではほとんど和了ってないからこれからどうなるかな?

 

「リーチ!」

 

藤田プロに気をとられていたらお客さんが親リーチをかけた

 

「カン!」

 

「っ!」

 

親リー相手に藤田プロはカン。そして続いて和の切った{二筒}が狙われた

 

「ロン!断么九、ドラ1、60符の3900(ザンク)

 

「なっ!?」

 

藤田プロが二巡前に切ったのは{七索}。{一筒}{四筒}{七筒}待ちを捨てて{二筒}待ちにしてたのか。最初から狙ってたか

 

「まくった」

 

さすが“まくりの女王”。その打ち方は和には理解できないだろう。でも…

 

「カン!」

 

「っ!」

 

「ツモ、嶺上開花」

 

その程度じゃ咲には勝てない

 

その後も終始トップは咲がかっさらってった。和は調子が戻せず、実力の半分も出せていなかった

 

「ふぅ〜」

 

「お疲れ、咲」

 

「ありがと、翔くん」

 

「和もな」

 

「ありがとうございます…」

 

オレは対局の終えた咲と和にお茶を出す

 

「あんたプロだろ?」

 

「ほぅ、知ってたのか」

 

「「えっ!」」

 

「あぁ。でもなんでプロなんかがこのタイミングでここに来た?」

 

「ふふっ、偶然さ」

 

「ははっ、そういうことにしときますよ」

 

咲と和をここでバイトさせたのは部長だ。ということはそういうことだろう

 

「どうだった?咲」

 

「うん、強かったよ。でも…」

 

「ん?」

 

「翔くんの方が強かったよ」

 

「…そっか」

 

「ふふふふ、ははははは!そうか!これでもプロなんだがな」

 

「笑ってるあんたはどうだったんだ?二人の実力」

 

「あぁ、そっちの短髪の子は結果が物語っているよ。もう“強い”部類に入る」

 

「だろうな」

 

「だが、そっちの胸の大きい子は別だ。てんでダメだな。筋はいいがまだまだ甘い」

 

「…」

 

和はそう言われて悔しいのだろう、スカートの裾を思い切り掴んで俯いている

 

「だがお前は別格だろう」

 

「ん?オレとは対局してないでしょう?」

 

「しなくても経験上わかるんだよ、強いやつってのは。お前は強い。それこそプロの中でもやっていけるほどにな」

 

「それはどうも」

 

「だが女子二人には悪いが、今のままではあの天江 衣には勝てない」

 

「どうだろうな」

 

オレは堂々と藤田プロの前で言い返す

 

「ふふっ、精々頑張りな」

 

藤田プロはそう言い残して店を出て行った

 

「さて二人とも、あんなこと言われたままでいいのか?」

 

「そんなわけない!」

 

「はい!もっと強くなって今度は倒します!」

 

「その粋だ。どうせ部長がなにか企んでるんでしょう?染谷先輩」

 

「ははは…バレとったか」

 

その後、実力向上のために合宿を行うことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーおまけー

 

「…」

 

原村 和は喫茶店でバイトして帰った後、ベッドに横になってひたすら携帯の画面を見つめていた

 

「…」

 

誰に電話をかけるでもなく、誰かからのメールを待っているわけでもない。ただひたすら携帯の画面を見て頰を赤らめていた

 

「…カッコいい……」

 

ふと口から出た言葉で顔をさらに赤くして携帯をその発達しすぎている胸に埋めてベッドを転がる。そして携帯の画面を見ては転がり、画面を見ては転がりを繰り返す

 

携帯の画面には“執事姿の菊池 翔”が写っていた

 

「…翔さん……」

 

その行為は三十分以上続いた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

 

いよいよ合宿日当日、バスの中は緊張と楽しみでとても静か……んなわけがなかった

 

「はいあなた、あ〜ん」

 

「あなたじゃねぇ!」

 

「いやん、怒っちゃや〜よ。あ・な・た」

 

今日も優希と京太郎の茶番は始まっていた

 

オレはというと…

 

「…」

 

「…zzz……」

 

「…すぅ…すぅ……」

 

手に本を持ってはいるが右には咲が、左には和に寄りかかられていて二人とも眠っている。朝早かったから眠いのはわかるんだが、何もオレによりかからなくてもいいじゃないか

 

「おぉおぉ、翔はモテモテじゃな」

 

「からかわないでくださいよ」

 

この様子を見て染谷先輩がニヤけながらからかってきた。オレはそれに軽く答えて本に目を戻す

 

「見えたじぇ!」

 

優希の声とともにまだ寝ている咲と和以外のみんなの目線は見えてきた合宿所に向いた

 

 

 

 

「着いたじぇ!」

 

「お、重い…」

 

今回泊まらせてもらえる部屋に行き、それぞれ荷物を降ろした。朝も思ったが京太郎はなぜか大きいリュックサックを背負っていた。様子を見る限りすごく重そうだ

 

「…」

 

「どうした?咲」

 

「すごいな〜って思って。学校の合宿所なのに旅館みたい」

 

「そうですね」

 

「人気あるけぇ、夏が近づくとスケジュールいっぱいになるんよ?」

 

「さて、着いて早々だけど…」

 

「早速特打ちか?」

 

部長が何やら始めるのか肩を回し始めた

 

「まずは…やっぱり、温泉よね!」

 

「誰に言っとるんじゃ…」

 

昔の芸人さんとかならここでずっこけるんだろうか…でもまぁ温泉好きだし、ありがたいな

 

「あ、須賀くんと菊池くんには残念だけど、ここには混浴はないわ」

 

「別に期待してないのでいいですよ」

 

「混浴!うへへへへ」

 

「このバカは…」

 

混浴という単語を聞いた瞬間京太郎は鼻の下を伸ばす。オレはそれを見てこれが幼馴染だと思うと頭を抱えてしまう

 

「あの、翔さん…」

 

「ん?どうした?和」

 

「さっきはすいませんでした」

 

「さっき?あぁ、いいよ。朝早かったもんな」

 

「は、はい…」

 

みんなが温泉に向かう中、突然和がオレに謝ってきた。おそらくバスの中でのことだろう。気にしなくていいのにな

 

「ほら京太郎。そんなバカ面してないで、オレ達も行くぞ」

 

「の、和の…うへへへ」

 

「ダメだこりゃ」

 

体を揺すっても帰ってこない京太郎はほっといてオレ一人で温泉に浸かりにいった

 

 

 

 

温泉はめっちゃ気持ちよかった。それに温泉と言えば松実館を思い出す。玄さんと宥は元気かな…今度電話してみるか

 

「ただいま戻りました〜」

 

お風呂の後だからなんとなく語尾が伸びてしまうな

 

「おかえり」

 

「翔!よくも俺を置いて行ったな!」

 

「何度も呼んだのに返事しなかったお前が悪い」

 

「うるせぇ!そのせいで俺だけ風呂入れなかったし、麻雀卓運ばされるし!」

 

「それはオレのせいじゃねぇだろ」

 

京太郎は全てオレのせいにするがオレは軽くスルーする

 

「それで、和のなんかあったのか?のぼせた?」

 

「うぅぅぅ…」

 

「しょ、翔くんは気にしなくていいの!」

 

「そ、そうか…」

 

和の顔が赤いことに気づいて聞いてみたら咲に止められたので聞けなかった

 

「さぁ!始めるわよ!」

 

そして部長の声とともに本格的に合宿が始まった

 

まずは特打ちで全員交代交代で打ちまくった。初日は特に部長からの指示もなく特打ちで終わった。ちなみにオレと京太郎は女性陣と寝るわけにもいかないので別室で寝た。ていうか普通に用意されてた

 

 

 

 

次の日、いつの間にか枕元に置かれていた目覚まし時計の音で目を覚ました

 

「…あん?こんなのあったっけ…」

 

「ほら!朝よ!早く起きなさい!」

 

まだ寝ぼけ状態のところに部長がやってきた。そしてその状態のままランニングをしに行った。それから帰ってきて朝風呂と朝ごはんを堪能し部屋に戻ってきた

 

「今回の合宿のテーマは新一年生の実力の底上げ。あなた達には今度の大会で活躍してもらう必要があるの。いい?」

 

「はい」

 

「わかったじぇ」

 

「は、はい」

 

「もちのろんです」

 

「あ、オレもか」

 

今日からはそれぞれにあったメニューをこなすみたいだ

 

「じゃあまず、優希はこれ」

 

「何これ?」

 

「算数のドリル」

 

「えーーーーー!!!!」

 

「これを一日一冊読み終えること」

 

「えー、なんでこんなものを…?」

 

「あんた、点数移動計算ダメすぎるけんね」

 

「団体戦では互いの点数の把握が重要だからね」

 

「う〜…」

 

麻雀の特訓ではなく計算ドリル、しかも小学生用のを渡された優希はやる気が一気に下がったみたいだ

 

「それから、和」

 

「はい?」

 

「あなたはネット麻雀では長期スパンで高いトップ率を取る理詰めの打ち方ができてるわ。でもリアルの対局ではネットほどの成績を出せていない…その場の勢いに流されたり、ミスが目立ったり…」

 

「そう、でしょうか…」

 

「この前のうちの店でもそうじゃった」

 

「はぁ…」

 

「いくらプロが相手だからって普段の和ならもっと善戦できたはずだ。和はそれだけの実力を持ってる」

 

「そう、ですか…」

 

和は頰を赤くして前に向き直した。今照れるとこか?

 

「これは私の推測だけど、ネットにはないリアルの情報に惑わされてるのかも」

 

「情報?」

 

「そ、麻雀だけじゃない麻雀以外の情報。否応無くあなたの精神を揺るがせるもの」

 

「例えば、咲や翔の存在とかな」

 

「えっ!」

 

私は染谷先輩の言葉に驚いてオレと咲の方を向く

 

「そ、そんなことありません…」

 

だから照れる要素ないだろ

 

「だからこの合宿中は誰かとずっと対局すること。リアルにまず慣れることね」

 

「はい…」

 

「それから、大会まで毎日一時間杯をツモって切る練習を繰り返してみて?」

 

「それって、素振り?」

 

「そ、それにどんな意味が…?」

 

「ネットにはない、雀卓での動作が思考を鈍らせてるのかも。だからとにかく牌をツモって捨てる動作に慣れて思考を鈍らせないようにするのが狙い」

 

「適当な思いつきのような気がする」

 

「にゃは、のどちゃんは牌より自分のパイの使い方を覚えるべきだじぇ」

 

「へっ!」

 

「なぜ、オレを見る…?」

 

今日和がオレの顔を見て赤くしているのを見るのは何回目だろう

 

「逆にそんなリアルな情報を読み取ってるからこそ強人もいる。宮永さんや菊池くんなんかは多分そうね」

 

「なんかって…」

 

「あははは…」

 

「普通じゃないものまで見えてそうね。そうだからなのかはわからないけど宮永さんはプロに勝った」

 

「そうじゃね」

 

「でも、もしかしらそんなリアルの情報が役に立たないときが来るかもしれない。だから宮永さんには本当の牌を使わないネット麻雀を打ってみたらどうかしら」

 

「なるほど」

 

そういえば咲は普通の麻雀しか打ったことないし、こいつがパソコンをいじってる姿なんて見たことなかったな

 

「ネット?」

 

「そう、牌の情報以外見えない相手と戦うの」

 

「でも私、パソコンとか持ってなくて…」

 

「えー!」

 

「ほんま!?」

 

「大丈夫。ほら、須賀くん」

 

「ふふふん、やっと俺の出番ですね。どうだ!」

 

京太郎は持ってきたでっかいリュックサックから部室にあったパソコンを出した

 

「すごっ!持ってきたんだ!」

 

「ノートでいいのでは?」

 

「うぅぅ、部にノートでないし!ていうか、重かった…」

 

「よしよし、偉いぞ〜!」

 

「これを使ってやってみなさい。打ち方は須賀くんが教えてあげて」

 

「はい。ほら咲、やるぞ」

 

「は、はい…」

 

そして咲はパソコンの前に座りやり方などを京太郎に教わっている

 

「そして菊池くん」

 

「はい」

 

「……」

 

「…?」

 

部長はオレの名前を呼んだだけで何も言わない

 

「…菊池くんの特訓は、ないわ!」

 

「…はぇ?」

 

「だってしょうがないじゃない。あなたに特訓なんて必要ないと思ったのよ」

 

「マジっすか」

 

「まぁ、強いて言うならみんなとずっと対局してもらいましょうかね。その方が強敵を相手にする練習になるからね」

 

「そんな人を道具みたいに…」

 

「んん〜、じゃあ菊池くんは常に和の対面で打ってもらうわ」

 

「えっ!!」

 

「その方が和の特訓になるわ」

 

「はぁ、はいはいわかりましたよ。今回はみんなのサポートにまわりますよ」

 

「悪いわね」

 

だってオレの特訓がないって言ったのは部長じゃないか。ないならサポートにまわってみんなの役に立つしかないだろ

 

そして咲はパソコンに向かい優希はドリルを、他のメンツは特打ちでそれぞれの特訓が始まった

 

『ロン』

 

「へっ!?ダメ…どうして…いつもだったらもっと牌が見えてるのに、全然見えない…」

 

咲はいつものようにいかないようだ。まぁ現実とネット上では違うってことだな

 

「苦戦してるみたいね」

 

「あいつがネット麻雀どころかパソコンをいじってるところさえ見たことないですからね」

 

「ま、苦戦ちゃぁあっちもひどい状況みたいじゃが」

 

その目線の先には計算のしすぎで目を回している優希がいた

 

「すごいことになってんな」

 

「合宿中になんとかなるんかいね」

 

「今はダメでも先に活きればいいわ。さ、続けるわよ」

 

四人は卓の目を戻す。その前にオレは和と目が合ってしまった。それに気づいた和は顔を赤くして急いで目線を下にやった。そしてそのまま{中}を切った

 

「その{中}、ポンよ」

 

「はっ!」

 

「ここでドラの三元牌切り。またリアルの情報に惑わされたのかしら?」

 

「ち!違います!」

 

「あれ、ところでオレ部長からなんの特訓の指示受けてないんすけど…」

 

「あぁ、須賀くんの特訓はないわ」

 

「えぇ!なんで!?」

 

「わりゃ覚えたてで下手すぎて手のつけようがないけんね」

 

「そんなー!」

 

「お前はとにかく多く打って麻雀に慣れろ。あ、部長、それロン」

 

「え…」

 

「24000。部長こそ気合が足らないんじゃないですか?」

 

「…いいわ、やってやろうじゃない!」

 

「受けて立ちますよ」

 

部長にも火がついたところで特打ち組はまだまだ打ち続ける

 

 

 

 

「終わったじぇ〜」

 

優希がドリル一冊がやっと終わったみたいだ

 

「なんとか埋めとるね。じゃけどえらいまちごうとる」

 

「もう限界だじぇ…」

 

優希は今にも口から魂が出て行きそうな感じで倒れ込んだ

 

「いいわ。それじゃあ優希は卓に入って。それと宮永さんも」

 

「は、はい!」

 

咲はようやく現実の麻雀を打てるとウキウキな顔をする

 

「それから和。あなたに一つお願いがあるの」

 

「はい?」

 

「今からペンギンを抱きながら打ってちょうだい」

 

「えっ!」

 

ペンギン?ペンギンってなんだ?どいうこと?

 

「エトペンを、抱いて…?」

 

「あなたは自宅でやるネット麻雀ではとても強い。ペンギンを抱くと自宅と同じように眠れるのなら、ペンギンを抱いて麻雀をやれば自宅と同じように打てるかもしれないわ」

 

「そんな〜…」

 

「私はタコスを抱くじょ!」

 

「とにかく試してみて?」

 

そういえばペンギンを持ちながら試合に出てたな。もうこっちに来てから大分立つから忘れてきてやんの…

 

「恥ずかしくて逆に落ち着かないですよ」

 

「県予選までにそれに慣れること」

 

「まさか!これを抱いて大会に!?」

 

「上手くいけばそのまさかで」

 

「えー!」

 

「正気か!」

 

「さ、始めましょう」

 

「へぇ、かわいいじゃん」

 

「なっ!み、見ないでください!」

 

「あ、わりー」

 

無意識に口から出てしまった言葉に和の顔は蒸気が出るんじゃないかってぐらい真っ赤になった

 

そのまま対局が開始され、部長と優希はそうでもないが咲の目線はその和&ペンギンに向いていた

 

「咲の番よ」

 

「あ、すいません。カン」

 

「ツモ。嶺上自摸、ドラドラ。2000・4000です」

 

『っ!』

 

「また嶺上!」

 

「これでまた咲と和の1、2か」

 

さっきから何局かやっているがほとんどが咲と和の1、2で終わっている。それに対して優希は最下位が多い

 

「ダメだー!この三人がいると得意の東場なのに全然勝てないじょー!咲ちゃんはいつの間にか槓材持ってて嶺上で和了るし、ありえない!のどちゃんはおっぱいでいかさましてるし!」

 

「…してません」

 

「私…麻雀向いてないのかな…」

 

それを聞いた部長は立ち上がる

 

「向いてないかもね」

 

「えっ!」

 

「そういうこと言って立ち止まっちゃう人はあまり向いてないかも…二年前、私が清澄に入ったころなんだけど。当時、清澄の麻雀部は廃部寸前だったわ。私が入ったとき麻雀部は幽霊部員が数人いるだけだった。いくら勧誘しても長続きしなくってみんな辞めていっちゃってね…風越に行ければよかったんだけど、そのころうちには私立に私を通わせるだけのお金はなかったの。でも今、こうやって麻雀部にはあなた達がいる。もしかしたら全国大会にも出られるかもしれない」

 

突然部長の昔話が始まった

 

「もし二年前、私がめげていたら今このときはなかった…状況が悪いとか才能がないとか、そんなことを思ったときがあったとしても立ち止まらずに一歩一歩進んでいけば、きっといつか違う景色が見えてくるものよ?」

 

部長の話はみんなの心に届いただろうか

 

「優希ちゃん、頑張ろ?」

 

「さぁ、続けましょ?」

 

「のどちゃん…咲ちゃん…」

 

「それに、あなた達は一人じゃないしね」

 

「うん!私やるじぇ!」

 

みんないい笑顔をしている。優希ももう大丈夫なようだ

 

「つまりはこうっすね?『私が部活を作って今まで残してたんだから黙って言うことを聞け!』ってことですね!?部長!」

 

『台無しだよ!』

 

オレはふざけてそんなことを言ったら全員からのツッコミをいただいた

 

「さぁ、大会まで時間がないよ?やらないんなら私が入ろうか?」

 

「やるわよー!特打ちよー!」

 

『おぉ!』

 

全員の気持ちが全国に向いたところで特打ちが再開された

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

合宿も今日で最終日。オレは朝早く目が覚め外に散歩に来ている。朝風呂とどっちか迷ったけどどうせならどっちもしようとの決断に至り散歩に出ている

 

そして少し歩いてきたところに後ろから優希の声が聞こえてきた。その後からは咲と和も続いて来た

 

「お、三人も散歩か?」

 

「翔くん、おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはようだじぇ!これから滝に行くんだじぇ!」

 

「へぇ〜、そんなとこがあるのか」

 

「よろしければご一緒にどうですか?」

 

「そうだな。ならお言葉に甘えて」

 

三人が滝を見に行くと言うので僭越ながらお供させてもらうことにした

 

また少し歩いたところにその滝はあった

 

「うわー!すっごいじょー!」

 

「すごいね」

 

「えぇ」

 

「こりゃいいもん見れた」

 

「うぉー!冷てー!」

 

滝は重いのほか大きく、その水しぶきを優希は全身に浴びている

 

「合宿、また来たいな」

 

「え?」

 

「私、部に入ってみんなと合宿してどんどん麻雀が好きになってきた気がする。でも大会が終わったら三年生の部長は辞めちゃうんだよね。少しでも長くみんなと一緒にいたい。もちろん!原村さんとも、翔くんとも!」

 

「県予選に勝てば全国前にもう一度合宿があるみたいだぞ?」

 

「じゃあ!また来られるんだ!」

 

「そうですね」

 

「出るだけじゃないじょ!」

 

優希が岩の上に立って腰に手を当ててこっちを見下ろしていた

 

「当然!全国優勝するんだじぇ!」

 

「そうだね!」

 

「えぇ!そうですね!」

 

「やるじぇー!」

 

オレも頑張りますかね。そういえば他の県の県予選はいつからなんだろう?あとで調べてみよう

 

そしてその日の夕方に合宿所を出た

 

 

 

 

 

 

家に帰ったオレは早速他の都道府県の予選の日程を調べた。いつだかの電話のときに聞いたんだが、今年は豊ねぇが岩手の高校に入って全国を目指すらしい。それに玄さんと宥さん高校でもうなくなっていた麻雀部を復活させて全国に挑むらしい。まずは県予選突破と気合が入っているようだった。それにそれにあの淡が東京で照さんと同じ高校に入ったらしい。淡から「テルーがすんごい強い!でも絶対負けない!ショウにも絶対勝ってやるんだから!!」と既に照さんをライバルとして見ているようだった

 

さて一応みんなに頑張れの一言ぐらいいれとかないと後で怖い…

 

PLLLL…

『もしもし!翔ちゃん!?』

 

「あ、豊ねぇ。久しぶり…でもないか」

 

『そんなことないよ!毎日でも連絡して欲しいくらいだよ!』

 

「それは嬉しいんだけど…ほら、電話代とかね…」

 

『うぅぅ〜…そだね〜。我慢する』

 

「ごめんな。そうだ、県予選そろそろだろ?」

 

『うん!すっごい楽しみだよ〜』

 

「豊ねぇらしな。頑張れよ。こっちから応援してるから。全国で会おう」

 

『翔ちゃん…うん!頑張るよ〜!絶対!会いに行くからね〜!』

 

豊ねぇは岩手の宮守女子高校で全国を目指す

 

 

 

PLLLL…

 

『はい、もしもし。神代です』

 

「小蒔姉さん?翔です」

 

『…』

 

「?小蒔姉さん?」

 

『しょしょしょしょ、翔くん!!!!』

 

「え、あ、おう…」

 

『ちょっと待っててください!!』

 

小蒔姉さんに電話したら最初の返しから一瞬応答がないと思ったらなにか慌てたように声を荒ぶる

 

『お、お待たせしました』

 

「うん。大丈夫・・?」

 

『大丈夫です!翔くんからの電話で少し舞い上がってしまって…』

 

「そっか。えっと、もうすぐ県予選だよね?だからその前に一言と思って電話したんだけど…迷惑だったかな?」

 

『そんなわけありません!!!ありがとうございます!!』

 

「ならいいけど。頑張れ!小蒔姉さん」

 

『はい!頑張ります!!!』

 

小蒔姉さんは去年団体戦ではベスト4、個人戦でも5位になるほど活躍した。今年はどこまで行けるだろうか

 

 

 

PLLLL...

 

『もしもし、翔くんかしら』

 

「はい、霞姉さん」

 

『さっきの小蒔ちゃんの電話はあなただったのね』

 

「?なんかあったのか?」

 

『電話に出たと思ったらいきなり身だしなみ整えてたから』

 

「あぁ…」

 

『ふふふ、それで?要件はなにかしら?』

 

「そろそろ予選だろ?激励をと思ってな」

 

『あら、嬉しいわね。ありがとう。頑張るわね』

 

「おう!初美姉さんいる?」

 

『えぇ、目をキラキラさせながら横で正座しているわ。春ちゃんもさっきからずっと携帯を握りしめて待ってるわよ』

 

「あらら…とりあえず初美姉さんに代わってくれ」

 

やっぱりお姉さんだけあって霞姉さんは落ち着いてるな

 

『翔ですか〜?』

 

「初美姉さん?オレだよ〜」

 

『本当に翔なのですよ〜!お久しぶりですね〜!』

 

「そうだな。あんまり連絡できなくてごめんな」

 

『お姉ちゃんなので許してあげますよ〜』

 

「ありがと。県予選頑張ってな」

 

『お任せですよ〜!』

 

初美姉さんは今日も元気いっぱいだな。でもやっぱり巫女さんなんだからお淑やかになってほしいと思うんだけどな…

 

 

 

PLLLL...

 

『もしもし』

 

「はるるか?」

 

『遅い』

 

「わりーわりー」

 

『でも嬉しい』

 

「ホントはるるは昔に比べて素直になったよな」

 

『…うるさい』

 

「まぁ予選頑張れ。はるるの崩れない打ち方はチームに必要だからな」

 

『うん、ありがと。頑張る』

 

「巴さんはいる?」

 

『巴ちゃんは今、明星と湧のお稽古中』

 

「そっか。じゃあ頑張れと伝えておいてくれないか?」

 

『わかった。伝えとく』

 

はるるは声のトーンが変わらないから伝わりずらいけど、昔よりは素直に思ったことを言うようになった。巴さんに伝えられないのは残念だけど、稽古じゃあ仕方ないな

 

霞姉さん、初美姉さん、巴さん、小蒔姉さん、はるるは永水女子高校で全国を目指す

 

 

 

 

PLLLL...

 

『もしもし、翔?』

 

「おう、怜」

 

『どないしたん?珍しいやん、翔から連絡くるなんて』

 

「まぁな。体調とか大丈夫か?」

 

『問題あらへんよ。このごろはあんま崩れんわ』

 

「そらよかった。そろそろ予選だろ?」

 

『知っとったん?』

 

「調べた。まぁ怜なら大丈夫だとは思ったけど、一応言っとこうと思ってな。頑張れよ」

 

『おぉ、ありがとな〜。めっちゃ嬉しいわ〜。応援には来てくれんの?』

 

「行きたいのは山々なんだけどな。なんせこっちも始まるからさ。お互いに全国に行ったら会えるっしょ」

 

『絶対全国行ったる!』

 

「お、おう…」

 

全国前に怜の体調が心配だったが大丈夫そうだ。しかし全国で会えるって言ったからってそんな気合入るもんかね

 

 

 

PLLLL...

 

『もしもし!翔くん!?』

 

「うおっ!竜華さん、声抑えて…」

 

『あ、ごめん…でも、翔くんの方から連絡があるなんて!もう死んでもええ!』

 

「物騒なこと言うなよ。それだけ元気なら大丈夫そうだな」

 

『ん?なにが〜?』

 

「さっき怜とも話したけど、必ず全国で会おう!」

 

『翔くん…うん!絶対全国に出るで!そんときはいろいろ付き合ってもらうで!?』

 

「はははは…考えておくよ」

 

竜華さんも気合十分みたいだけど、気合の入れるベクトル間違ってないよな?

 

怜と竜華さんはともに北大阪の強豪、千里山女子高校で全国を目指す

 

 

 

PLLLL...

 

『翔くん!!!!!』

 

「うわっ!絹姉声大きい…」

 

『あ、ごめん…でも、全然連絡くれない翔くんが悪いねんで!』

 

「そんな理不尽な…まぁいいや。大会の予選そろそろだろ?頑張ってな」

 

『…翔くん』

 

「ん?」

 

『翔くんが今いるのって長野やったよね』

 

「?そうだけど?」

 

『今からそっち行くわ』

 

「は!?何言ってんの!」

 

『だって!そんなこと言われたら会いたくなったんやもん!』

 

「もん、じゃねぇ!いいから大人しくしてなさい!」

 

『うぅぅぅ……』

 

まったく絹姉は…昔から運動が得意でよく外で遊んでたアグレッシブな性格が今にも継続しているのはいいことなんだろうけど、いくらなんでもアグレッシブすぎるのはおさえてほしいな

 

「あ、洋姉いる?」

 

『え、うん。ちょっと待ってて』

 

それで絹姉は洋姉を呼んでくれたのだろう。うしろから『お姉ちゃ〜ん』というのが聞こえる

 

『なんや、翔。せっかく気持ちよく寝てたっちゅうのに』

 

「寝るの早いだろ!」

 

『ん?もう六時やん。よい子はもう寝る時間やで?そんなんも知らんのか?』

 

「それにしても早すぎでしょ!はぁ、もういいよ。洋姉も予選頑張ってな。応援してるよ」

 

『おぉ!任しとき!』

 

洋姉は特に心配していない。なぜなら洋姉が対局でマイナスで終わったとこを見たことないからだ

 

洋姉と絹姉は南大阪の強豪と言われている姫松高校で全国を目指す

 

 

 

 

PLLLL...

 

『もしもし、翔くん?』

 

「久しぶり、憩さん」

 

『ほんまに久しぶりやな〜』

 

「なんか怒ってる…?」

 

『ぜ〜んぜん。電話が三週間ぶりやからってうち全く、微塵も、これっぽっちも怒ってへんで〜』

 

「…ごめんなさい」

 

『ふふふ、冗談や。ほんま翔くんはからかい甲斐のある子やね〜』

 

「オレは子供か!話変わるけど、憩さんも全国目指すんだろ?」

 

『もちろんや!』

 

「そっか。頑張れよ!」

 

『おう!とは言いつつ、団体戦はちと厳しいんよ…』

 

「なんで。憩さんらしくないじゃないか」

 

『うちん地区にはあの千里山女子がおんねん。個人戦ならともかく団体戦で勝った試しがないんよ…』

 

「そっか。でもやってみなきゃわかんないだろ?」

 

『翔くん…』

 

「オレの意見としては個人戦でもいいから憩さんの活躍が見たいよ」

 

『…うん!絶対見したげる!楽しみにしとき!!』

 

憩は不幸なことに怜や竜華さんのいる千里山女子と同じ地区だ。でもそんなことでめげる憩さんじゃない。大丈夫だ

 

憩さんは三箇牧高校で全国を目指す

 

 

 

 

PLLLL...

 

『はい』

 

「あ、宥さん?」

 

『翔くん?』

 

「はい。お元気ですか?」

 

『うん、元気だよ〜。少し寒いけど』

 

「そろそろ夏ですよ…?」

 

『そうだっけ〜?それで?どうしたの?』

 

「あぁ、奈良の方も予選そろそろだと思って」

 

『そうだよ。よく知ってるね』

 

「調べたんで。頑張ってくださいね?奈良にはあの晩成がいるんで」

 

『今日翔くんの声聞けたから大丈夫だよ〜』

 

この間延びした声は変わらないな。すると電話の奥の方から『お姉ちゃん!翔くんって聞こえたけど!!』と玄さんの大きな声が響いてきた

 

『もしもし!翔くんですか!?』

 

「うん、玄さんも久しぶり」

 

『うぅぅ…やっと翔くんの声が聞けました〜。ってお姉ちゃん、大丈夫!?』

 

「ん?宥さんがどうした?」

 

『お姉ちゃん、すっごい笑顔で倒れちゃった』

 

「大丈夫か?」

 

『顔赤いけど大丈夫みたい…』

 

「そっか。そうだ、玄さんも県予選頑張ってな」

 

『うん!お任せあれ!』

 

宥さんは大丈夫だろうか…まぁ玄さんがついてるから心配いらないだろう

 

宥さんと玄さんは阿知賀女子で十年ぶりの全国を目指す

 

 

 

PLLLL...

 

あれ?

 

PLLLL.,.

 

出ない。仕方ない、後にしよう

 

 

 

 

PLLLL...

 

『ショウ?』

 

「おう、オレだ」

 

『ショウだ!どうしたの?』

 

「全国に向けて気合入ってるかなと思ってな」

 

『当たり前だよ!早くショウと打ちたいよ!』

 

「いやいや…男女では試合ないからな?」

 

『そうなの!なんだ〜…』

 

「でもオレと同じぐらい強い人なんて何人もいるからな」

 

『本当!?』

 

「あぁ」

 

淡はホントに強い人と打ちたいんだな。その心がけは立派だな

 

「そうだ、照さんいない?」

 

『テルー?ちょっと待ってね』

 

そして淡は『テルー』と言いながら呼びに言ってくれたみたいだ

 

『もしもし?』

 

「あ、照さん?」

 

『翔?』

 

「さっき電話したんだけど」

 

『あ、携帯忘れた』

 

「はははは、照さんも相変わらずだな」

 

『バカにしてる?』

 

「そんなんじゃないさ。嬉しいんだよ」

 

『そう』

 

「そんであんま心配はしてないけど、予選頑張ってね。オレらも必ず全国に行くから」

 

『うん、待ってる』

 

 

待ってる、か…やっぱりさすがだな照さんは

 

照さんと淡は二年連続全国覇者の白糸台高校で全国を目指す

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

 

月末、いよいよ長野での県予選当日となった。麻雀は一局やるだけでも長い時間を要するため、大会ともなると朝がとてつもなく早い。朝の弱い人間には地獄だ…

 

しかし今日は絶対に寝坊してはならないと思い、目覚ましを合計三つ用意した。枕元とベッドの下とドアの前だ。これだけあればさすがのオレでも起きれた

 

そしてまだ眠いまま集合場所の駅に向かっている途中で咲と会い、二人で歩いていると和と会った。そんなわけで三人で駅に到着した。そこには既に部長と染谷先輩がいた

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「おはよう…ふぁ〜…ございます」

 

「でっかい欠伸じゃない。お、持ってきとるね」

 

「はい…」

 

合宿で行ったペンギン戦法は継続して行われた。よって今日も和は持ってきている

 

「どう、もう慣れた?」

 

「ま、まだ慣れません」

 

「おーい!」

 

声がする方に目を向けてみると手を振りながら近づいてくる京太郎がいた

 

「おっはよー!」

 

「うりゃー!うりゃりゃりゃりゃりゃー!」

 

「うおっ!」

 

その後ろからは優希が自転車ですごい勢いでやってきて、振り向いた京太郎の目の前寸前で停止した

 

「おっはよー!」

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「さて、全員揃ったわね?」

 

『はい!』

 

「合宿から六日、やるだけのことはやった。さぁ!行こうか!」

 

『はい!』

 

全員が集まり、これより全国への第一歩に向かう

 

 

 

 

 

会場には物凄い数の人がいた

 

「うわー、すごい人だな」

 

「年々増えてるみたいね」

 

「あれ?」

 

「?どうかしましたか?」

 

「咲ちゃんがいないじょ」

 

「え…」

 

「やべっ…」

 

あー、朝早くてまだ完全に起きれてないから油断してた。咲の能力、“迷子”が発動してしまった

 

「逸れたか。相変わらずどこか抜けてるわね」

 

「あちゃー、あいつこんな人混み慣れてないからな」

 

「あいつ、携帯とか持っとらんけぇのぅ」

 

『おー!!』

 

するといきなり周りが騒ぎ出した

 

「風越女子だ」

 

「去年は準優勝」

 

「部員八十名を擁する強豪」

 

「キャプテンの福路 美穂子だ」

 

ん?あ、美穂子さん

 

「去年、団体戦を絶やした汚名を返上できるのか?」

 

いくら美穂子さんが強くても他の選手がダメならあの人達には勝てないからな

 

「ちょっと行ってきますね」

 

「えっ?ちょっと、菊池くん!?」

 

オレはまっすぐ美穂子さんの元へ向かう

 

「美穂子さん」

 

「あ、翔くん」

 

「いよいよですね。お互い頑張りましょう」

 

「えぇ、負けないわよ」

 

いつも家が隣同士の付き合いで会っているときの美穂子さんとは明らかに雰囲気が違う

 

『わー!!』

 

風越が来たときよりも大きなざわめきが起こる

 

「龍門淵高校が来たぞ!」

 

「前年度県予選優勝校!」

 

「井上 純!」

 

「沢村 智紀!」

 

「国広 一!」

 

「龍門淵 透華!」

 

衣姉さんはいないのか。寝坊かな?でもなんで透華さんだけそんな決めポーズしてんの?

 

「皆さん」

 

「ん?お、翔じゃん」

 

「あら、もういらしてたのですね」

 

「一、鏡いる?」

 

「な、なんでさ!智紀!」

 

そうは言っても智紀さんから鏡を借りて髪を手櫛で直している

 

「衣姉さんは来てないんですね」

 

「え、えぇ…おそらく寝坊ですわ」

 

「あはははは…大変ですね」

 

「しょ、翔…」

 

「一さん?あれ、またシール変えました?」

 

オレは一さんの左頰についているタトゥーシールが変わったのに気がついて、自分の左頰を指差して尋ねる

 

「え、う、うん…どう、かな…?」

 

「よく似合ってますよ。リボンもオレがあげたの使ってくれて嬉しいです」

 

「そりゃ!翔からもらったもの、だから…」

 

いつも冷静でいる一さんが珍しくあたふたしている。なかなかレアなものが見れた

 

「それではみなさん、お互い頑張りましょう!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「よろしく」

 

「もちろんですわ!」

 

オレは軽く礼をして部長達のところに戻った。そこには額に汗をかきながら驚いた表情をしている部長と染谷先輩の姿があった

 

「あなた…いったい何者…?」

 

「失敬な。ちゃんとした高校一年生ですよ」

 

「そがん普通なやつが強豪校に知り合いがおるか!」

 

「たまたまですよ」

 

そう、みなさんと会えたのはホントに偶然だ

 

「あ、咲ちゃ〜ん!こっちこっち!」

 

「みんなー!探したよ〜」

 

「なに逸れてんだよ」

 

「えへへへ」

 

「女装した須賀くんか菊池くんを出すところだったわよ」

 

「はい?」

 

「プフー!」

 

部長の冗談に京太郎は飲んでいたコーヒーを吹き出す。オレも一瞬思考が停止した

 

「そりゃ制服の都合がつかんわ」

 

「そっちの心配っすか!」

 

「あれ?原村さんは?」

 

「確か取材に捕まっとったはずじゃけど」

 

するとすごく疲れた表情をした和が戻ってきた

 

「おかえり」

 

「やっと取材から解放されました」

 

「おつかれ」

 

「すごいよ!原村さん!翔くん!」

 

「ん?」

 

「強そうな人達がいっぱいいてワクワクするよ!早くあの人達と打ちたい!」

 

「全国に向けてこれが最初の試合です。気合い入れていきましょう!」

 

『はい!』

 

みんなは改めて気合を入れ直す。残念ながら男子はまた後日だけど…

 

 

 

 

そしてオレ達はでっかいスクリーン画面の前に行った。その画面にはこれから試合をする部屋の卓が映っていた

 

「これが対局室。対局室には対局する四人が入り、携帯なんかの持ち込みは不可。電波も届かない。複数のカメラが設置されてそれを観戦室で見るの」

 

「応援の声が届かないのは辛いっすね…」

 

「まぁね。では登録したオーダーを発表します。先鋒、優希。次鋒、まこ。中堅、私。副将、和。大将、咲」

 

「私が最後ですか」

 

咲は驚きつつもその表情はしっかりしている

 

「合宿での成長と戦果を見て、この順番がベストだと判断したの。これには菊池くんも同意見」

 

「翔くんが?」

 

「あぁ」

 

「各校一名ずつ出して四校で卓を囲む。100000点スタートで半荘が終わるたびに次の対局者と交代。点数は引き継がれて五人が終了した時点でトップの校が勝ち抜ける。ウマやオカはなし。後半になると点差のせいで自由に打てなくなる。飛び終了もあるしね」

 

「そうですか…」

 

団体戦で大変なのは後ろの方だからな。でもほとんどの校のエースと言われている人達はほとんどが先鋒に入ることが多い。照さんとか怜とかな。だから意外と優希の役割が重要になるな

 

「ということは強いのを添えるのがセオリー。すなわち、我最強!!」

 

「あんた、点数移動計算ができんからじゃ」

 

「えー!!あんなにドリルやったのにー!!!?」

 

「半分以上間違ってたじゃねぇか」

 

「なにぃー!」

 

優希は自分の腕を見込んで先鋒にしてもらったと思っていたらしいが、実際は後の方にすると点数の計算ができないからという理由だからと知って驚いている

 

「そしてこれが今年のトーナメント表。参加校数は五十八。それが午前の一回戦で一四校に午後の二回戦ではシードニ校が加わって四校に絞られるわ。そして残った四校で明日の決勝というわけ」

 

「あ!うち見っけ!」

 

「たくさんいるね」

 

「中学のときよりずっと多い」

 

「ま、激戦区の大都市圏に比べれば三分の一もないけどね」

 

「東京は西と東、大阪は北と南に分けられても激戦区と言われてるほど参加校の数が多いからな」

 

それでもここの数年はそんな激戦区でもほぼ同じ学校が全国にあがってきてるけどな

 

「今日の試合ぬるいなー。清澄、東福寺、千曲東だって。楽勝じゃん」

 

「清澄ってあれっしょ?原村なんとかがいる初出場の」

 

「あぁ、さっき記者相手に全国とか言ってたの見た!ありえないって!ちょっと胸が大きいからってちやほやされてるだけっしょ」

 

後ろからそんな無神経な会話が聞こえてきた

 

「気にすんな、和」

 

「翔さん」

 

「言いたいやつには言わせとけ。それに人それぞれ価値観が違うが、胸の大きいのも一つのアドバンテージだ。自信持て」

 

「…!さ、最後のは言わなくていいです!」

 

「菊池くん、それヘタすればセクハラよ?」

 

「あ、わりー」

 

少し口が滑った。確かにこんな人のたくさんいるところで言うことじゃなかった。和を見てみると顔を赤くしてこっちを睨んでいた

 

「…やっぱり

 

「咲…?」

 

「やっぱり翔くんも胸の大きい方がいいの!?」

 

「わっ!咲!声大きい!!」

 

「そうなんでしょ!?翔くんは原村さんみたいなのがいいんでしょ!?」

 

「だから声大きい!だからさっきも言っただろ、人それぞれ違うって」

 

「じゃあ翔くんは私と原村さんのどっちがいい!?」

 

「はぁ!?」

 

「どっち!?」

 

さっきから話がどんどん変な方向にいっている。それになぜかは知らんが咲が興奮で言っていることがおかしい。そこでオレが返事を困っているときにちょうどよくアナウンスが流れた

 

『間も無く一回戦が始まります。各校の先鋒の選手は所定の対局室に入室してください』

 

「ついに主役の出番だじぇ!」

 

「ほら、オレ達は観戦室んい行くぞ」

 

「む〜…」

 

「じゃあ私達は観戦室で応援してるから。頑張って、優希」

 

「頑張ってください」

 

「頑張って」

 

「おぉ!任しとけ!」

 

こうして県予選の第一回戦が開始される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとでちゃんと話してもらうからね、翔くん」

 

「…」

 

そのとき初めて咲に恐怖した

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

お気に入りが500を超えてました!!そしてたくさんの方から感想を言ってもらえてとても嬉しいです!!!

評価の方はいいのか悪いのかイマイチわかりませんが、これからも不定期ながら更新していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします!!!!



変な汗をかきつつ隣にいる咲に恐怖しながら観戦室の席に座る。そこでも隣には咲が座り、汗は絶えることなくこれでもかってほど出ていた

 

「翔さん、大丈夫ですか?」

 

「へ?だ、大丈夫でござんす」

 

「ござんす?」

 

もう和の方を見ずに自分が何を言ったかさえわからない…

 

「…翔くん」

 

「ひゃい!」

 

そんな中、咲がオレのことを呼んだ

 

「もう大丈夫だから。ね?」

 

「そ、そうか」

 

その言葉を聞いて安心したオレは背もたれにもたれかかる

 

「ふふっ、翔くんすごい汗」

 

「仕方ないだろ」

 

「でも、原村さんだけじゃなくて…私のこともちゃんと見てね?」

 

咲は肘置きに置いてあるオレの手の上に自分の手を乗せてオレの顔に自分の顔を近づけてきた

 

「咲?」

 

咲の顔はどんどん近づいてくる。ダレカタスケテー!

 

「何をしているんですか…?宮永さん…?」

 

「え…わっ!ごめん、翔くん!」

 

「お、おう…」

 

和が声をかけてくれたおかげで咲は正気に戻った。よかった…

 

「咲も意外と大胆ね」

 

「うぅぅぅ…」

 

咲は顔を真っ赤にして俯く

 

「ほら、対局が始まるよ?」

 

染谷先輩の声でみんなは画面に目をやる。既に他の三校は来ていて優希が最後に宅に座った

 

ビー!

『県予選団体戦第一回戦、開始です』

 

『ついに戦いの火蓋が落とされました。東家は清澄高校の片岡 優希』

 

合図のブザーとともに対局が開始され、実況の人も熱が入る。さて合宿の成果は出るかな?

 

ー東一局ー

 

優希の配牌は

{二索五索七索九索四筒赤五筒八筒八筒七萬七萬九萬東東北}

となった

 

「うわー、あいつすげぇな」

 

「いけそうね」

 

確かに配牌からいい手ができそうだ。ホントに東場には好かれてんな

 

「ポン」

 

{東東横東}

優希はいきなり下家の切った{東}を鳴いた

 

『おっと、清澄。いきなり鳴いてきましたね』

 

『えぇ』

 

今の声は藤田プロか。そういえばここの解説者だったな

 

「カン」

 

優希は二巡目にツモった{東}でカンした。槓ドラは{八筒}で優希にドラが二つのった

 

「チー!」

 

そして上家が切った{六筒}を鳴く。三巡目にして親ッパネ確定だ

 

「ロン。親ッパネで18000だじぇ!」

 

下家が切った{八索}で和了った

 

『いきなりの親ッパネ炸裂。清澄高校、幸先のいいスタートですね』

 

『えぇ、まぁ。まだ始まったばかりなので』

 

『そ、そうですね』

 

解説する気あんのかね

 

その後も優希の快進撃は続いた

 

ー東一局 一本場ー

 

「ツモ!2100オール」

 

ー東一局 二本場ー

 

「ロン!8300」

 

『これは驚きました。清澄の猛攻です』

 

「はぁ、ノッてきたな。優希のやつ」

 

「ああなると私でも止めるのは苦労するのよね」

 

「えぇ!ほんま!?」

 

「オレも苦労しますよ」

 

『はい、それ嘘!』

 

部長のときとは違い、オレの言ったことは全員のツッコミで一掃されてしまった。とほほ…

 

ー東一局 三本場ー

 

「リーチ!」

 

優希は七巡目で{四筒}を切ってリーチをかけた。それに対して他の三人はベタおり気配

 

「きたじぇー!一発、自摸!メンタンピン、三色、ドラ1。8300オール!」

 

「うわー…相手に同情してしまう」

 

「これは、私の布陣がうまくはまってるわね」

 

「最悪じゃ…」

 

「よし!」

 

「その調子!頑張って!」

 

「調子良さそうだな」

 

観戦室では優希の快走劇を暖かく見守っている

 

ー東四局ー

 

「ロ、ロン。断么九のみ」

 

優希は先ほどまでの勢いはなくなり、その優希の序盤の勢いに飲まれて他の三校の先輩も安てばかりで和了ってしまう

 

ビー!

『E卓先鋒戦、終了です』

 

「うぉっしゃ!」

 

先鋒戦終了で清澄の点数は149600点。先鋒戦は優希の一人歩きの状態で終わった

 

「さてと、他校がセオリー通り強い人を先鋒にしてたのならもうキツいはず」

 

「次はわしの出番かの」

 

「守る必要はないから。突き放して」

 

「もちろん!そのつもりじゃ!行ってくる!」

 

しかし次鋒戦が始まって染谷先輩は大打撃を受けてしまった。南一局までで−13000点となっている

 

「染谷先輩、危なくないっすか?」

 

「まこが何年麻雀打ってると思ってるの?誰だっていい手が入らないときだってある。でも見ててごらんなさい」

 

心配した京太郎が部長に聞くが部長はなんの心配もしていないようだ

 

「あぁ、わかります。いい手来ないときありますよね」

 

『はい、それ嘘!』

 

またもや全員に否定されてしまった。

 

南二局に突入して染谷先輩がメガネを外した

 

「勝負手が来たみたいよ?ほら」

 

「あ!」

 

「ローン!16000!」

 

ー南三局ー

 

「ロン、3900!」

 

ー南四局ー

 

「ツモ!3000・6000!」

 

ビー!

『E卓次鋒戦、終了です』

 

次鋒戦が終わって清澄は168500点。

 

『間も無くE卓中堅戦が始まります。出場メンバーは対局室に集合してください』

 

「さて、行ってくるかな」

 

「頑張ってください!」

 

「うん。和と咲は二階の喫茶室で何か食べてきたら?」

 

「え、でも…」

 

「バナナと乳製品を同時に摂ると脳が活性化するんですって」

 

「またテレビの雑学番組ですか」

 

「菊池くんは咲がまた迷子にならないか見といて」

 

「要するに付き添いですか?」

 

「なははは、そうとも言うわね」

 

「はぁ、わかりましたよ」

 

部長はオレらに自分の対局を見てほしくないのか、はたまた普通に気をきかせたのか。いやいや、気をきかすならオレはいらないはず

 

「部長の応援、しなくてもいいのかな…」

 

「大丈夫ですよ。あの人に任せて悪くなったことなんて、今までありませんから」

 

「へぇ〜、そうなのか」

 

特に心配してはいないし、大丈夫であろう。オレ達は喫茶室に向かうため廊下を歩く

 

「おい、そこの」

 

すると突然、背後から聞き慣れた声がした

 

「って翔じゃないか」

 

「純さん。一さんも、どうしたんすか?」

 

「翔くん、知り合いなの?」

 

「ちょっとな」

 

「お前が原村 和か?」

 

純さんは咲を見ながらそう言ってきた

 

「いや、こいつは…」

 

「原村は私ですが」

 

「「はっ!」」

 

「こっちか!」

 

「そうです」

 

二人はどうしたんだ?しかも一さんの目線は和の胸に釘付けだ

 

「透華はなんでこんなの意識してるんだ?」

 

「こんなのとか言っちゃダメでしょ」

 

「じゃあ、お前はなんなんだ!」

 

「純さん。人に指ささない。どうしたんですか?」

 

咲は純さんの外見と身長で少し怯えたのだろう、オレの手を握ってきた。すると…

 

「…翔。その手は、なに…?」

 

「え、は、一さん…?」

 

「なんでその子と手を繋いでいるのかな…?」

 

「国広くん!?」

 

一さんの雰囲気はさっきの先に似たものとなっていた。やべぇ、泣きそう…

 

「翔…?黙ってちゃわからないよ…?」

 

「は、一さん…落ち着いて…」

 

「翔!ちょっと来い!」

 

そう言われて純さんに腕を引かれた。そしてその勢いで一さんに密着してしいまった

 

「す、すいません!一さん!大丈夫ですか…?」

 

「…」

 

一に反応はなくより怒らせたかと思ったら、顔をオレに押し付けてなんかスースーって聞こえる

 

「…あの、一さん?」

 

「はっ!だだだ大丈夫だよ!うん!」

 

離れてくれた一さんは両頬に手をやって顔を赤くする。しかし今度は背後からすごい視線を感じる

 

「翔、くん…」

 

「翔さん…」

 

なんと今度は咲と和がヤバい雰囲気をまとっていた。しかしそこで

 

ビー!

『E卓中堅戦、終了です』

 

「ほ、ほら!部長終わったみたいだし次は和だろ?戻るぞ!純さん、一さん、また!」

 

「お、おう…」

 

「またね、翔」

 

一さん!可愛らしいんだけど今はそんな笑顔しないでー!

 

「仕方ないですね」

 

「出ないわけにはいかないもんね」

 

ふぅ…二人とも大丈夫かな

 

「「でも」」

 

ガシッ!!

 

「ふぁ?」

 

「「あとでO・HA・NA・SHIだよ(ですね)」」

 

「…は、はい」

 

お父さん、お母さん、ごめんなさい。僕の命は今日まで見たいです…

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「早かったですね」

 

「安い手ばっかり、速攻で六回も和了りおった」

 

「そうそう、六回もだぜ!」

 

中堅戦が終わって清澄は183000点

 

「あら?菊池くんはどうしたの?」

 

「…」

 

「知りません!」

 

「自業自得だよ!」

 

オレはもう女性恐怖症になりそうだ

 

ビー!

『E卓副将戦が始まります。出場選手は対局室に集合してください』

 

「さ、あなたの番よ」

 

「はい」

 

「私より早く終わらせてきなさい」

 

「はい!」

 

「原村さん、はい」

 

咲はペンギンのぬいぐるみを和に渡す

 

「頑張れ、のどちゃん!」

 

「和、頑張ってな!」

 

「ほら、あんたもなんか言ってあげんさい」

 

「あ、あぁ…頑張れよ、和。信じてるよ」

 

「頑張ってね!原村さん!」

 

オレはこのとき何を言ったか覚えていない

 

「行ってきます」

 

ようやく意識がちゃんとしてきたところで室内を見回してみると続々と人が入ってきた。おそらく全員和目当てだろう

 

「あれ?ハギヨシさん?」

 

「ん?どうしたの?翔くん」

 

「ん?あぁ、和の人気はすごいなって」

 

「そうだね」

 

ハギヨシさんがお茶を渡しているのは透華さんだろう。サングラスをしているだけで変装できてるとでも思ってるのかな…でもなぜ透華さんが?

 

「原村だ!」

 

「全中覇者の!」

 

和が画面に現れた瞬間、室内はドッと湧く

 

『さぁ、いよいよ原村 和の登場ですね』

 

『えぇ』

 

実況の人も和には注目しているようだ。また実況も含めて和の持ってるぬいぐるみが気になるようだ

 

『ん?原村が持っているのは何でしょうか』

 

『ぬいぐるみのようだが』

 

『ただいま、検査が行われています』

 

まぁインターミドルチャンピオンがいきなりぬいぐるみを持って登場したら驚くわな

 

『問題ありません』

 

『ただのぬいぐるみ、のようですね。藤田プロ、なぜペンギンなんでしょうね』

 

『私に聞くなよ』

 

そりゃそうだ。ただのうちの部長の入れ知恵だし

 

『さぁ原村選手、今卓につきました』

 

「え?持ったまま打つの?」

 

「可愛いんじゃね?」

 

「くくっ!ウケてるウケてる」

 

「ウケ狙いだったんすか!?」

 

「ま、合宿で試した結果だけどね。半分ぐらいはネタのつもりだったけど」

 

「ネタっすか…」

 

「恐ろしい女じゃ…」

 

「でも多かった和のイージーミスがペンギン挿入後は激減しましたよね。これは成功と言っていいのでは?」

 

合宿前はネットとリアルの差でイージーミスが多かった和だが、ペンギンを抱いて打つようにしてからそのミスが減った

 

「そうね。和はネット麻雀のときが一番強かった。ハンドルネーム“のどっち”は伝説とまで言われたもんよ。つまり、最強の原村 和は今初めて人々の前に、降臨するのよ」

 

「あぁ、確かにネット上での和は強かったですよ。オレも負けましたもん」

 

『はい、それ嘘!』

 

みなさんはとことんオレにツッコミを入れるのが好きらしいな

 

『さぁ始まりました、副将戦』

 

『おー!!』

 

『前年度の全国中学生大会の覇者、原村 和の高校デビュー戦です』

 

ー東一局ー

 

和の最初の配牌は

{三筒五筒赤五筒六筒一萬二萬四萬七萬九萬九索東白北}

となり、一巡目でツモったのは二索

 

「失礼します」

 

それから数秒だけ間を置いて{北}切った

 

「一打目で悩んでたぞ?」

 

「何も考えずに{北}か{九索}だろー」

 

外野うるせぇな。あれが今の和なんだよ

 

「ネット麻雀ののどっちは最初だけ少し考えるのよね」

 

「そうなんですか」

 

「そう言うても四、五秒程度じゃけどね」

 

「だが二巡目以降は悩んで手が止まることはない」

 

「そう。相手が打っている間に考慮が終わっていて、何がきたら何を切るか全てのパターンに答えが出てる」

 

部長の言った通り二巡目に入った和はツモってから切るまでがノータイムだった

 

そして八巡目、和の手牌は

{三筒四筒五筒赤五筒六筒一萬二萬二萬四萬五萬七萬八萬九萬}

となって、ツモったのは{五筒}。そしてここもノータイムで{六筒}を切る和

 

「なんだ今の{六筒}切り!」

 

「{一萬}切りの方が待ち広くない?」

 

確かに{四筒}{七筒}の残りが少ないのを考えても和了るだけなら{一萬}切りだな。だけど和は一瞬で一通の目を残した

 

『藤田プロ、今の{六筒}切りは…』

 

『二回に一回貰える1000点と三回に一回貰える2000点、長く戦うならどっちを狙う?』

 

『2000点の方が効率がいいですね』

 

『それと同じこと。原村 和は一瞬でその判断をした。和了率しか考えない人と期待値まで計算に盛り込む人とでは結果にかなりの差が出る』

 

「和は普段なら一通なんて狙わないけどね」

 

「他家の捨て牌見て{三萬}がまだ残ってるちゅうことじゃろか?」

 

「っ!入った!」

 

そこで和に{三萬}が入った

 

「リーチ」

 

『原村 和、先制リーチです。チームは断トツなのにここでリーチですか?』

 

『守るより突き放す方がいいというチームのためなのか、それともチーム戦関係なしにスタンドプレーに走っているのか』

 

んなわけねぇだろ。和は誰よりもチームのことを考えてるさ

 

そして次に和がツモったのは{四筒}だった

 

「裏目った…」

 

「八巡目に{一萬}切っときゃ一発ツモじゃったのぅ…」

 

「咲ちゃん、タコス食う?」

 

全くその通りだが、優希はタコス食ってないでちゃんと観戦しろよ

 

『一局目、流局です』

 

「原村 和、パッとしねぇな」

 

「そうね」

 

まだ一局だろ。お前ら急かしすぎだよ。横ではなんか透華さんがガッツポーズしてるし

 

ー東二局ー

 

ここで少し危ない感じになってきた。五巡目に対面の選手が大三元を聴牌しようとしていた

 

「やばっ!」

 

「大・三・元!」

 

まぁ、今の和なら心配いらんだろ

 

「チー」

 

「ポン!」

 

和が鳴いたときの捨て牌{白}を対面に鳴かれる

 

「ポン」

 

しかしその対面の捨て牌{三萬}を鳴き返す

 

「ロン。断么九、ドラ1。2900は3200です」

 

対面が二枚目の{發}をツモってしまったが、和が喰いタンで往なす

 

「ロン。三色、ドラ2。12000は12600」

 

『千曲東、これは痛い』

 

「千曲東は終わったな。さすが原村 和」

 

「でも、原村が出る前からめちゃくちゃ点差ついてなかったか?」

 

「そういえば…もしかして清澄って強いのかな…」

 

それからというもの点差だけに高い手を狙う他校は誰も和の速さについていけなかった

 

ビー!

『副将戦、終了です。清澄高校副将の原村 和、圧倒的な速さで勝利です』

 

最終的に副将戦が終わるときには清澄は208100点で終了した

 

「清澄の一回戦突破は確実だな」

 

『藤田プロ、原村 和の試合をご覧になっていかがでしたか?』

 

『う〜ん…正直驚いた。以前の彼女とは次元が違う』

 

『そのきっかけはなんでしょう』

 

『ペンギン…かな…』

 

『あはは、まさか…』

 

ある意味あってるけどな

 

「さて、次は咲の番ね」

 

「はい!」

 

「咲」

 

「ん?」

 

「他家、飛ばして終わらせてこい!」

 

「うん!わかった!」

 

そして和だけでなく咲の高校でのデビュー戦も幕を開けた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話

一回戦が終わり今清澄のメンバーは昼ごはんで食堂に来ている。席はあらかじめ京太郎が取っといてくれた

 

「では清澄高校麻雀一回戦突破を祝し、そして二回戦突破を目指して、乾杯!」

 

『乾杯!』

 

「さぁ、食おうぜ!」

 

みんな女子なためかパスタやサンドイッチが多い。優希はタコスだが。その中朝から観戦だけで何にもしなかったにも関わらずやはりオレも男子だ、女子の倍は食ったな

 

「しっかし、咲ちゃんにはおったまげだじょ!東福寺を飛ばして終わらせちゃうなんて!」

 

「原村さんまでのみんながたくさん削ってくれたっていうのもあるけど、翔くんと約束したからね」

 

「東福寺の大将戦開始時、46800点残っていました。それを東場だけでなんて…」

 

「あ、あははは…」

 

「でも、お疲れ様」

 

「さすがだな、咲」

 

「うん!知らない人とで緊張したけど楽しいよ。もっと強い人と打ちたい!」

 

「そのうち打てるさ」

 

決勝に行けば衣姉さんがいるからな。そういえば姉さん来たんかな?

 

「やぁ。二回戦進出おめでとう」

 

「藤田プロ!」

 

「カツ丼さん」

 

「いつか倒します…!」

 

「解説の有名人がこんなところで油売ってていいの?」

 

「ん?そこの二人にちと興味がね。特にそっちの原村 和はこの前会ったときとは別人じゃないか。この十日間でどんな魔法を使ったんだ?」

 

「はてさて、誰かさんにヘコまされたのがよっぽど効いたんじゃないかしら。それにここにいる全員約一名にコテンパンにやられたしね」

 

「あぁ」

 

部長の言ったことでそれが誰か気づいたのかオレの方を見てきたのでそっと目をそらした

 

「だが午後の二回戦に勝って決勝に進出したとしても龍門淵と風越に当たることになるだろう。龍門淵の天江はとんでもなく強い。風越も今年はベストメンバーだ。初戦のようにはいかないと思うがね」

 

「そんなに手強いんですか!?その二校!」

 

「咲、早く打ちたいのはわからんでもないけど少し落ち着け」

 

「あ、ごめん」

 

「まぁ楽しみにしててくださいよ、藤山プロ」

 

「藤田だ」

 

「あ、こいつは失敬」

 

なんという失態だ。人の名前を間違えてしまったー(棒読み)

 

『間も無く二回戦を開始します。各校の先鋒は所定の位置についてください』

 

アナウンスが入りこれから二回戦だ

 

「よし!さぁ、行こうか!」

 

『はい!』

 

「失礼します」

 

咲は丁寧に藤田プロに一礼してみんなの後を追った。藤田プロはその咲の背中を見つめる

 

「咲を甘く見ないでください」

 

「っ!また君か」

 

「はい、オレです。衣姉さんも確かに強いです。でも咲だって姉さんと肩を並べるくらい強いですよ。なんてったってその天江 衣を()()()()()()とずっと打ってたんですから」

 

「なっ!」

 

オレはニヤり顔でそう言うと藤田プロは驚きの表情を隠しきれていなかった。そしてオレは「失礼します」と挨拶をしてからみんなの後を追った

 

二回戦を戦うD卓の観戦室はガラーンとしていた

 

「うわー、ガラガラ」

 

「そりゃそうじゃ」

 

「午後はうちの試合なんて誰も見に来ないわよ。ほとんどの人は二回戦から出てきたシードの二校、龍門淵と風越の試合を見に行ってるんだから」

 

龍門淵のみなさんも美穂子さんも決勝で会いましょう!

 

 

 

 

 

 

 

そして二回戦は全員が思った通り風越と龍門淵は勝ち上がった。そして残りの二つはうちの清澄と初出場の鶴賀学園となった。ん?鶴賀学園?ということは…

 

「翔くん!お久しぶりっすー!」

 

「おわっ!モモか、久しぶり。てか離れい!」

 

「え〜、いいじゃないっすか〜」

 

「モモちゃん!」

 

「モモ!」

 

「あ、咲ちゃんと京太郎くんもお久しぶりっす!」

 

帰ろうとしたところにいきなり抱きついてきたのは今ちょうど考えていた敦賀学園の麻雀部でオレ幼馴染の一人の東横 桃子だった

 

「しかし、相変わらず影が薄いんだな。翔が言うまで気がつかなかったぞ」

 

「京ちゃん、それ失礼だよ?」

 

「いいんすよ、咲ちゃん。私を見てくれるのは私自身を見つけてくれる人だけでいいっすから」

 

その言葉とともにモモはオレの顔を見上げてくる

 

「おーい!モモー!」

 

「ん?ほら、呼ばれてるぞ?」

 

「あちゃー…もう少し翔くんに抱きついていたかったっすけど、もう時間っすね。じゃあ三人とも、また」

 

「おぉ、じゃあな」

 

「またね」

 

「やべっ!もういねぇ!」

 

オレからパッと離れた瞬間には京太郎と咲にはもう見えなくなってしまってるようだ。オレにはさっきモモの名前を呼んでいた人の方にスタスタと走って行くモモがはっきりと見えている

 

「そろそろ行くわよ!」

 

『はい』

 

部長に言われ帰路につく

 

外は既に暗くなっている。電車の中では今日は朝も早くお昼休憩があったとは言え一回戦、二回戦と連続だったから疲れが出たのか、咲と和はオレにもたれかかりながら寝てしまっている。向かいっ側でも優希と京太郎が口を開けてだらしなく寝ている

 

夕飯は最寄駅の近くに出ていた屋台ラーメン屋さんでみんなで食べることになった

 

「ほい、チャーシューあがり」

 

「わーい!」

 

「さ、遠慮しないで食べて食べて。おかわりしてもいいわよ?今日は私の奢りだから!明日の決勝に向けてたっぷり食べてね」

 

「マジっすか!よし!優希、京太郎!部長の財布からにするぞ!」

 

「「おぉ!」」

 

「あんたは少し自重しなさい!」

 

「冗談すよ」

 

「まったく…」

 

オレや京太郎は今日見てただけだしな。すると隣の和がなにやらキョロキョロしているのに気がついた

 

「和、どうした?」

 

「いえ、あまりラーメンというものを食べたことがないので…どうやって食べたらいいのか…」

 

「あぁ、さすがお嬢様。だが別にラーメンにテーブルマナーがあるわけじゃない。ただ麺を箸で掴んで啜るだけだ」

 

「それくらいわかります!もう!バカにしすぎです!」

 

「はははは、失礼しました」

 

そして和も麺をを数本掴んで食べ始めた

 

「あ、美味しい」

 

「ぷは〜!オヤジ!おかわり!」

 

「あいよ!煮卵とネギチャーシューお待ち!」

 

「おぉ、来た来た!」

 

部長と染谷先輩のラーメンも出来上がった。あと来てないのはオレのみ

 

「ん、美味しい」

 

「口にあってよかったわ。なんせこの時間に開いてる店ってここだけなのよね」

 

「田舎じゃけぇのぅ」

 

「あいよ、ネギチャーシュー大盛りネギ増し増し!」

 

「ようやくか〜」

 

ようやくオレの元にもラーメンがやってきた

 

「翔くんのそれ、すごいね・・」

 

「麺が見えません…」

 

「これぐらいじゃないとな、男は」

 

「オヤジ!タコスラーメンを作れ!」

 

「タコはねぇよー」

 

ラーメンとタコスを一緒にするんじゃねぇ。そんな具合でみんなでの夕飯は終わった

 

「ふー、満腹満腹」

 

「よく三杯も食うな」

 

「奢り無限」

 

「だよな」

 

「翔くんも三杯だったね。しかも全部大盛りで」

 

「軽い軽い」

 

するとオレ達が歩いてるう横を電車が通る

 

「登り最終じゃ」

 

「もうそんな時間」

 

「ごめんね〜。ここは試合会場から遠いから。明日も早朝集合なのにね」

 

「いえ、全然平気ですけど。どちらかと言うと、翔くんが明日起きれるかの方が心配です」

 

「…」

 

オレはあからさまに目をそらす

 

「翔さんは朝弱いですもんね」

 

「低血圧なんだよ」

 

「それでどうやって起きてるんだ?」

 

「あぁ、毎回起こしてくれる人がいるんだよ」

 

「羨ましいじぇ」

 

そしてそれぞれわかれて帰った

 

 

 

 

オレは咲を家に連れて行ってから家に帰った

 

「ただいま」

 

「おう、翔。どうだった?」

 

家に着くと父さんがまだ起きていた

 

「あぁ、とりあえず決勝には進出したよ」

 

「ま、当然だろ。なんたって宮永んとこの咲ちゃんがいるんだから。そうそう負けないだろ」

 

「まぁな。でも決勝には衣姉さん達がいるんだよな。しかも美穂子さんもいる」

 

「あらら…お前には複雑か?」

 

「応援するのは清澄なんだけどな」

 

龍門淵のみなさんにも美穂子さんにもお世話になってるから応援したいのは山々なんだけど、オレは今清澄麻雀部の部員だ

 

「そういえば美穂子さんとこ電気ついてなかったけど、誰もいないのか?」

 

「あぁ、そういえば福路さんとこのご両親は出かけてていないらしいな」

 

「美穂子さんは…あっ、電気ついた。美穂子さん帰ってきたな」

 

「行ってやれば?」

 

「は?なんで?」

 

「こんな夜遅くに女性一人は心細いだろ。美穂子ちゃんが寝るまでうちには帰ってくるな!いいな!」

 

なんなんだよ。父さんの言っている意味がわかりません。でも一応顔見とくかな。そんで隣の家に向かった

 

ピンポーン

「はい。こんな遅くにどちらさ、ま…翔くん?」

 

「よっ!美穂子さん。試合、お疲れ様」

 

「あ、ありがとう。とりあえずあっがて?」

 

「じゃあ失礼します」

 

インターホンを鳴らすとすぐに美穂子さんは出てきた。少し疲れてる様子だった

 

「どうしたの?こんな時間に」

 

「ん?美穂子さん今日は一人だって聞いたからね」

 

「…そう」

 

「疲れてるな、美穂子さん。っ!美穂子さん!その頰どうした!!?」

 

「えっ?あぁ…ちょ、ちょっとね…」

 

「確実に誰かに叩かれただろ!?どこのどいつだ!オレが殴り込みに行ってくる!」

 

「えっ!ちょっ!ちょっと、翔くん!落ち着いて!」

 

「美穂子さんがビンタ食らってるのに黙っていられるか!!」

 

「大丈夫だから!大人しくしないと翔くんの携帯弄るよ!?」

 

「っ!わ、わかりました」

 

「これで止まってくれるのもなんか複雑…」

 

美穂子さんは根っからの機械音痴なんだ。昔から携帯やらパソコンやら何機もお釈迦にしてきた前科がある。パソコン使おうとするだけでどうやってコードが体に絡まるのか…

 

「まぁ美穂子さんがいいって言うならいいか」

 

「うん」

 

「あぁ、とりあえず二人決勝だな」

 

「そうだね」

 

「そっちの調子はどうだい?」

 

「うん。万全だよ」

 

「そっか。あんまり詮索するとルール違反になりそうだからここまでにしとこうか」

 

「そうだね」

 

「美穂子さん、食事は?」

 

「部のみんなで食べてきたわ」

 

じゃああとは寝るだけだろうし、オレはもう帰るかな

 

「ならオレはもう帰るよ。つっても隣だけどな」

 

「え…行っちゃうの?」

 

「え?だって美穂子さんももう寝るだけだろう?もう遅いし、明日も早いだろうし」

 

「そ、そうだよね…」

 

美穂子さんさんは明らかに寂しいような顔をする。いつもは頼れるお姉さんみたいな人だけど、やはり女の子だし家に一人だけでは寂しいのかな

 

「しょうがない。寝るまでならいるよ」

 

「本当!?」

 

「あぁ。ただし早く寝ること!オレは出ないからいいかもしれないけど美穂子さんさんは明日大事な決勝なんだから」

 

「うん!」

 

さっきとは打って変わって満面の笑みになってオレの腕を引っ張って自分の部屋に連行した。それからはまぁ少しの間話をして気がつくと美穂子さんはオレの手を握りながら眠った。オレは起こさないように手を抜き下に降りたんだが、美穂子さんが寝てしまって家の鍵がかけられないのに気づいて、仕方なく美穂子さん家のソファーで寝かせてもらった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話

 

 

美穂子side

 

「んん……」

 

私はいつもの時間に目が覚めた。昨日は一試合しかなかったからそこまで疲れてはいない。そして昨日は夜遅いのに翔くんがわざわざ来てくれた。そういうちょっとした気遣いができるところに、私は…惚れてしまったのかな……

 

「…さすがに帰ったよね」

 

まだ起きたてだし、少し頭が働いていない中でそんなことを考えてしまって恥ずかしい…多分だけど顔赤くなってる。翔くんがいるんじゃないかと思って部屋を見渡したがさすがに帰ったようだ

 

「よかった」

 

こんなだらしない姿を見せては年上としての威厳がなくなっちゃう…ふぅ…顔洗わないと。私はそう思って寝間着のまま階段を降りて洗面所へ向かった

 

「あれ?お母さん達帰ってるのかな?」

 

下に降りたところで気づいたんだけど、リビングのドアが開いている。お母さん達はまだ戻ってきてないだろうし、私の閉め忘れかな…私は開いてるドアから中を確認してみた

 

「っ!」

 

そして驚いた。そこには帰ったはずの翔くんがソファーで眠っていた

 

「しょ、翔くん!?な、なんで!?はっ!」

 

私はとっさに声を抑える。起きてないよね…?

 

「...zzz……」

 

「ふぅ〜」

 

どうやらまだ起きてはいないみたい。でも本当にどうして?私はそう考えながらも無意識にリビングに入って翔くんの顔を覗き込む

 

「…zzz…zzz…」

 

「ふふっ」

 

背丈は変わってしまったがその寝顔は昔から変わらない私の知っている顔だった

 

「ふふふ、なんだかあの時みたい」

 

そこで私は昔のことを思い出した…

 

まだ私が中学生のとき、風邪を引いてしまって寝込んだときがあった。運が悪くそのときも今と同様に親がいないときだった。意外と熱もあって苦しかったとき、ふと私の額に何か冷たいものが乗っかったと思って目を開けてみたら、そこには翔くんがいた。翔くんは「ごめん、起こした?」なんて言ってたけど、一人で少し不安だった私としてはすごく嬉しかった

 

そのとき翔くんは一晩中私の面倒を見てくれて、その日のうちに熱は下がってくれた。その日の夜遅くにトイレに行ったときにリビング見たら、そのときもこうやってこのソファーで寝てたよね

 

「…あのときはちゃんと言えなかったけど…ありがとね、翔くん♪」

 

私はそう言い残して立ち上がりリビングを出ようとしたんだけど…もう少しだけと思ってまた座り直して翔くんの寝顔を見つめた

 

美穂子side out

 

 

 

 

 

「…、…

 

オレは誰かに体を揺らされる感じがして目を覚ました

 

「翔!起きな!今日も大会でしょ!」

 

「んあっ!…あぁ、母さん…おはよう〜」

 

「おはようじゃないわよ、まったく」

 

オレはまだ半開きの目で周りを見渡してみた。そこはいつも見るオレの部屋ではなかった

 

「あれ…?あ!オレ美穂子さん家で」

 

「そうよ。さっき美穂子ちゃんがうちに知らせてくれたのよ」

 

「そっか」

 

「早く支度しないと遅れるわよ?朝ごはんはほら、美穂子ちゃんが用意してくれてるから」

 

母さんが指差した方にはテーブルの上におにぎりが三個、ラップに包まれて置いてあった

 

「あとでちゃんとお礼言っとくのよ?」

 

「わかってるよ」

 

オレは心の中で美穂子さんに感謝しつつおにぎりを手にとって美穂子さんの家を出た。家に戻ると父さんがニヤニヤして「昨日帰ってこなかったけど、なんかあったのか?」なんて聞いてきたときはそのニヤけ面をすげぇ殴りたくなった。

 

そして支度をして待ち合わせの駅に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅に着くとみんなはもう着いていてオレを待ってる状態だった。みんなが揃ったところで試合会場に向かった

 

『ついにこの日が来ました、県予選決勝戦。泣いても笑っても全国に行けるのはこの中の一校のみです。今年はどんな戦いを見せてくれるのか!間も無く試合が開始されます!』

 

会場は既に多くの人で溢れていた。オレ達は一回戦、二回戦のときとは違い控え室で待機している

 

「そろそろ試合開始よ?先鋒の優希は準備して。決勝戦は昨日と違って一人半荘二回ずつでトータル半荘十回。そしてやはり点数は引き継ぐわ」

 

「えー!」

 

優希はなにに驚いたのかそんな声をあげる

 

「一人半荘二回…一回分のタコスしか持ってきてないじょ…」

 

「合宿でもミーティングでも話したじゃない」

 

「………。京太郎!タコス買ってこい!」

 

「はぁ?こんな朝早くに店開いてっかな?」

 

そんな店あんのか?普通の店は十時から開店だぞ

 

ピンポンパーン

『あと十分で先鋒戦が開始されます。各校先鋒の選手は対局室に集合してください』

 

「と、とにかく頼んだじょ!」

 

「わ、わかった」

 

「よーし!行ってくるじぇ!」

 

優希は対局室へ、京太郎はタコスを買いに部屋を出た

 

『先鋒の選手達です。快進撃中の新鋭、清澄高校からは一年生、片岡 優希』

 

戦いの模様は控え室にあるテレビで見れるようになっている。もちろん解説や実況も聞こえる

 

『今年は王座を取り戻せるか。名門風越女子からは、三年生にしてキャプテンの福路 美穂子』

 

美穂子さん…優希や純さんには悪いけど先鋒で一番強いのは美穂子さんだろう

 

『無名校ながら今大会予想以上の大善戦。鶴賀学園からは二年生の津山 睦月』

 

鶴賀学園に関しては完全に未知だろう。どんな打ち方をするのか

 

『今年も再びその力を見せつけるのか。龍門淵高校二年生、井上 純』

 

純さんは優希にとって最悪の相手だろう。相性が悪すぎる。優希、頑張れ!

 

『選手達が対局室に入ってきました。間も無く先鋒戦、開始です』

 

実況の人が知らせる中、四人は席を決め座った。しかしそこでなんと純さんが優希のタコスを食べてしまった

 

『おや、これはなにかトラブルでしょうか?』

 

「ありゃ」

 

「これはやったわね…」

 

『清澄の選手が泣いていますが』

 

タコスを食われて泣いてしまった優希を頭を撫でて優しく慰める美穂子さんがテレビに映っている。さすが美穂子さんだな

 

「…京太郎は、間に合わないですよね……」

 

すると一度戻った美穂子さんがお弁当のようなものを持って戻ってきた。そしてそれを食した優希が座った

 

「優希!」

 

「よかった」

 

はぁ…美穂子さんにはなにからなにまで感謝だな

 

「部長、オレ一度出ますね」

 

「?どうかしたの?」

 

「京太郎が間に合わなかったときの保険と、さっきの風越さんへのお礼を作ってきます」

 

「そんなことできるの?」

 

「大丈夫です」

 

「…そうね。お願い」

 

オレは部長に許可を得て控え室を出た。そして携帯を出しある人に電話をかけた

 

『もしもし』

 

「もしもし、ハギヨシさん!?」

 

『おや、翔くんですか。いかがされました?』

 

「包丁やらナイフやら持ってませんか!?」

 

『あるにはありますが、はて、どうされたのですか?』

 

「突然すいません!それ貸してもらえませんかね。至急必要なんです!」

 

オレが電話をかけた相手は透華さんの執事であるハギヨシさんだ。あの人なら今ここに来てるだろうし、なんでも持ってるからと思って連絡した

 

『…透華お嬢様からご了承をいただきましたのでお貸しできます』

 

「ありがとうございます!では入り口にいます」

 

『では…』

 

「…どうぞ」

 

「うぉっ!」

 

どこからともなく現れたハギヨシさんにオレは飛び跳ねるくらい驚いてしまった

 

「…ありがとうございます!透華さんにもお礼を言っておいてください!」

 

「承りました」

 

「じゃあ!」

 

オレはハギヨシさんからナイフを借りてそれをポケットにしまい、近くのコンビニに急いだ。そしてそこでタコスの材料とお弁当のおかずになりそうなものを買った。そして急いで会場へ戻り、役員の人に事情を話して給湯室を貸してもらった。このままいけば最初の半荘終了時には間に合うかな

 

実況のアナウンスを聞いていると東場でも優希は和了れず純さんに流れを完全に掴んでいるみたいだ。美穂子さんはまだ動いてないようだ

 

そして作り終えたところで京太郎が帰ってきたところに出くわした

 

「京太郎!買えたのか?」

 

「翔か。なんとかな。物知りな人に開いてる店教えてもらった」

 

「そっか。ならこれはいらなくなったな」

 

「お前それ!作れたのかよ!」

 

「保険で作ってただけだ。ほら、行くぞ!」

 

「お、おぉ!」

 

オレと京太郎は対局室に向かう。その途中で

 

ビー!

『決勝前半戦終了。圧倒的。龍門淵の井上 純がまずは最初の半荘を圧倒しました』

 

終わったか。ちょうどいいな

 

『強豪の風越は安定した打牌で二位をキープ。一方、初出場の二校にはこの先鋒戦は厳しい洗礼となるのでしょうか』

 

大丈夫だ優希。お前のナイト様の到着だぞ?

 

「おい、なにショボくれてんだよ」

 

「そうだぞ?お前らしくない」

 

「京太郎?翔?」

 

「遅くなってすまん」

 

「そ、それは…タコス!」

 

京太郎が見せた袋にがっつく優希

 

「お前は使える犬だ!」

 

「い、犬?」

 

「とにかく偉いぞ!京太郎!」

 

「ま、まぁ俺もタコスは嫌いじゃないからな」

 

「ん?お前もタコス好きの呪われた血族なのか?」

 

「呪われてねぇよ。メキシコの人に謝れ…」

 

袋からタコスを出して勢いよく食べ始める優希。何やってんだか…

 

「美穂子さん。さっきはありがとな。優希にお弁当くれて」

 

「ううん。困ってるときはお互い様」

 

「代わりと言っちゃものが悪いけど、これ」

 

「これ、お弁当?」

 

「さっき即興で作ったやつだから変かもしれないけど、よかったら」

 

「翔くん…ありがと」

 

美穂子姉さんはにっこり笑顔で返してくれた

 

「おい、翔!俺には」

 

「純さんは勝手に人のもの食べるからありません!」

 

「そ、そんな…」

 

「翔くん、お知り合いだったの…?」

 

「ん?あぁ。ちょっとした縁でね」

 

純さんがオレに話しかけてからなのか美穂子さんが聞いてきた

 

「そうなんだ」

 

「あぁ。あぁ!もう!純さん、明からさまに気落としすぎですよ!はい!」

 

「お!サンキュー!」

 

オレは優希にあげるはずだったタコスの一個を純さんに渡す

 

「あの、残り物なんですけど…よろしければ」

 

「え、えっと…どうもです」

 

一人だけ除け者なのはかわいそうなので一応鶴賀の人にもあげといた。その瞬間

 

「っ!」

 

オレはカメラの奥からとんでもない視線を感じた。しかも複数…

 

ピンポンパーン

『先鋒戦後半戦を始めます。選手はのみなさんは所定の位置についてください』

 

アナウンスでオレは外に出ようとして美穂子さんとすれ違ったときに

 

「後でいろいろ聞かせてね」ボソッ

 

「ーっ!」

 

超小声で、しかもドスの効いた声でそう言われた

 

 

 

 

 

 

控え室に戻ると咲と和がなにやらものすごいオーラをまとっていた

 

「…翔くん」

 

「…翔さん」

 

「わー!後でちゃんと説明するから!今は優希の応援しろ!!」

 

「…わかりました」

 

「ちゃんと聞かせてもらうからね」

 

はぁ…なんとか一難さった

 

タコスを食べた優希はいつもの調子が戻ったのか配牌からいい手になっていた

 

「リーチ!」

 

たったの二巡目にしてリーチをかける優希。しかし

 

「チー」

 

優希の上家の鶴賀の人が出した{六萬}を純さんが鳴いた

 

「なんですか?今の鳴き」

 

「でも前半戦はあの鳴きで優希の親倍を潰してたわ」

 

「偶然ですよ」

 

「それが偶然じゃないんだよ」

 

オレの言葉にみんながオレの方を向いてきた

 

「純さん、龍門淵の先鋒の人は流れを読み取るのに長けるんです。証拠に、ほら」

 

全員がテレビに向き直ると鶴賀の人が優希の和了り牌である{發}をツモった

 

「なっ!」

 

「あのチーがなければ一発ツモだった」

 

『龍門淵の井上選手はたまに不可解な鳴きをしますね』

 

『う〜ん…そうね。相手の手の進みが好調か否か雰囲気から察してるようなふしがあるわ』

 

『そんなことが可能なんですか?』

 

『私はムリ』

 

『えっ…』

 

『できたとしてもあの鳴きはわけわからん。まるで流れが存在していてそれを操っているようにも見える』

 

実際その通りなんだけどな

 

「ロ、ロン。発のみ、1300です」

 

リーチをかけたせいで手を変えられない優希が鶴賀に振り込んでしまった

 

「そんな…」

 

「あぁ、これで東場も終わりじゃ…」

 

「タコスを食べた優希ちゃんが、東場で和了れないなんて」

 

「このまま立ち直れなければ前半戦の二の舞になるわ」

 

やっぱり優希には純さんは相性が悪かったな。でもそろそろあの人が動くだろ

 

「大丈夫だろ」

 

「え?」

 

「翔、くん?」

 

「優希は合宿中、一回折れかけた。でもどうだった?」

 

「「はっ!」」

 

「あぁ、だから優希は諦めない。それは和が一番わかってるんじゃないのか?」

 

「…はい!優希はまだ大丈夫です!」

 

優希もそんなやわじゃない。でも、一番怖いのはこれまでなりを潜めてる美穂子さんだな…

 

「失礼!」

 

優希は椅子を回転させた。そして止まった後の目はいつもの優希に戻っていた

 

「気合!入れ直したじぇ!」

 

「菊池くんの言う通り。あの子、気合入れ直したみたいね」

 

「えぇ!優希ならきっとやってくれます!」

 

それから優希の手はドンドン伸びていってる。しかも純さんは鳴けない。これなら…

 

そして優希は七対子、ドラ3で聴牌にとらずより高目を狙ってドラの{七筒}を切った

 

「リーチ」

 

しかし純さんが{八筒}をリーチで切ったためドラの{七筒}が切りにくくなった

 

「また苦しい展開」

 

「ドラ残して七対子の方がよかったんじゃないですかね」

 

「個人的には染め一択じゃ!」

 

それぞれ意見はあるだろうが吹っ切れた優希が選んだ選択だ。成功してほしい。すると今まで動かなかった美穂子さんが()()()()()()

 

「ここでかよ…」

 

「え?」

 

オレはつい口に出してしまった言葉に部長が反応した。だがもうこれで美穂子さんに隠し事はできなくなった。その証拠に美穂子さんが切ったのは{七筒}だ。これでドラが切れると優希もわかっただろう

 

「リーチ!」

 

優希はドラが切れることを確認してリーチを宣言。純さん、しくったな。しかも優希の和了り牌の{六萬}を一発で摑まされた

 

「ロン!立直、一発、面清、平和、ドラ一つ!裏がのれば三倍満だじょ!」

 

しかし裏ドラはのらず

 

「残念。親倍24000点」

 

「十分でけーっての」

 

それからというもの美穂子さんが優希に鳴かせるように牌を切っている

 

ー南一局 一本場ー

 

一巡目

「ポン」

 

二巡目

「チー」

 

そして三巡目

「ロン。東、ドラ2。5800は6100」

 

純さんの切った{北}でまた和了る優希

 

美穂子さんのおかげで大分立て直せたな。だけど優希、そのお姉さんは決して()()じゃないぞ!

 

ー南一局 二本場ー

 

「ポン!」

 

「ロンです。2000の二本場は2600です」

 

今度は純さんの鳴いた余り牌で美穂子さんが和了った。そして優希の最後の親が流された

 

ー南二局ー

 

「ツモ。1300・2600です」

 

気づかないのか?美穂子さんは誰の味方でもない、最初からこれを狙ってたんだぞ。しかもすげーな、美穂子さん()()()()()()()()()()()()

 

「すごい、あの人…」

 

「あーらら、完全に持ってかれたわね…」

 

ー南三局ー

 

「ロン。1300です」

 

『風越三連続の和了り!ここへきて火がついてきたか』

 

圧倒的だな…

 

ー南四局ー

 

「ロンです。8300」

 

『止まらない!風越の勢いが止まらない!』

 

 

 

ー南四局 四本場ー

 

「えっと、ロン。2600の四本場で3800です」

 

ビー!

『先鋒戦終了。なんと、なんと終わってみれば圧倒的かつ一方的!先鋒戦を制したのは名門、風越女子の福路 美穂子!』

 

終わってみれば美穂子さんは+44000点も稼いでいた。しかも他家はみんなマイナス…

 

先鋒戦はリードを許したがまだまだこれからだ!

 





初めて〇〇sideというものを使ったので変だったらすいません…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話

 

 

先鋒戦は予想通り美穂子さんのぶっち切りで終わったな。やはり三年生、優希や純さんとは経験が違った。しかし一回も振り込んでないってすごいよな…

 

「ふぁ〜」

 

「あら、お眠?」

 

「今朝早かったうえに昨日あまり眠れなくて…」

 

「う〜ん、それは困ったわね…咲の出番まで七時間以上、和の出番まで五時間はあるから、二人とも仮眠室で寝てきたら?」

 

「えっ?」

 

「そんな!先輩達の応援もしないで寝るなんて、とてもできませんよ」

 

「和、応援よりも眠くて集中力に欠けたぬるい麻雀する方が先輩達にとってイヤなんじゃないか?」

 

「そうね。菊池くんの言う通りよ」

 

ガチャ

そこに対局室から優希が帰ってきた

 

「た〜だいま〜。今帰ったじぇ…」

 

「おかえり。頑張ったの」

 

「…」

 

今の優希にその言葉は逆効果ですよ?染谷先輩…

 

「…咲、和。仮眠室行くぞ」

 

「え?」

 

「わかりました」

 

咲にオレの意図は伝わっていないようだが和は理解したようだ。そしてオレと和で咲を引っ張り部屋を出た

 

「原村さん。仮眠室には行かないんじゃ…?」

 

「優希は気が強い子だから同い年の私達の前では大泣きできないと思ったんです。ですよね?翔さん」

 

「まぁな。オレ達がいなくなればあそこには先輩しか残らないしな」

 

「そっか。そうだね」

 

美穂子さんと純さん相手に二位フィニッシュしただけでも大健闘だ。自信を持っていいぞ?優希

 

「でも…」

 

「ん?」

 

「なにか忘れてる気がするけど…」

 

「寝る前のトイレか?」

 

「違うよ!」

 

仮眠室の前に着くと同時にアナウンスが聞こえた

 

ピンポンパーン

『間も無く次鋒戦を開始します』

 

「始まりますね」

 

『さぁ!リードを維持できるか?風越女子二年、吉留 未春(よしとめ みはる)』

 

『巻き返しなるか?鶴賀学園二年、妹尾 佳織(せのお かおり)』

 

『前年度優勝校、龍門淵高校二年、沢村 智紀』

 

『清澄高校二年、染谷 まこ』

 

『間も無く試合開始です!』

 

次鋒戦は全員が二年生の対決となった。鶴賀学園の人は知らないけど智紀さんは基本的なうち手出し風越女子の人も牌譜を見た限るじゃ特にわけのわからない打ち方をしているわけではなかったから染谷先輩には手頃な相手だろうけど、さてどうなるかな

 

オレは仮眠室に入って咲と和の布団を敷いてやった

 

「じゃあ中堅戦の後半ぐらいに和は起こしにくるよ」

 

「え?一緒にいてくれないの?」

 

「は?まぁオレは寝る必要ないしな」

 

「そうなんですか…」

 

二人は露骨に残念な顔をする

 

「二人の分もちゃんと応援しとくさ」

 

「…ホントに行っちゃうの?」

 

涙目になってもダメなものはダメだ。こんな一つの部屋に思春期の男女が一緒に寝るなんて言語道断

 

「寝るんだったら最低でもスカートは脱ぐだろ。オレがいたんじゃあ脱げんだろ?」

 

「?私は気にしないよ?」

 

「幼馴染のお前はそうかもしれんが、ここには和もいるだろ。な?和?」

 

「へっ!?わ、私は…その、翔さんがよろしければ…」

 

おいおい、顔を赤くして何を言おうとしてるんだい?原村さん?

 

「とにかくダメだ。じゃあな」

 

オレは埒があかないと思って強引に話を切り上げ部屋を出た

 

『さぁ、四人が卓につきました。間も無く次鋒戦が始まります』

 

そして

 

ビー

『試合開始です』

 

次鋒戦がちょうど始まった。オレはそのアナウンスを聞きながら控え室へ戻った

 

 

 

「戻りました〜」

 

「おかえり」

 

「おかえりだじぇ」

 

どうやら優希は泣き止んでいるようだ

 

「染谷先輩はどうですか?」

 

「それが…」

 

部長は言葉が出ないようでどうしたのかと思ってテレビの画面を見てみると清澄の点が−16000と表示されていた

 

「役満、誰か出したんですか?」

 

「鶴賀の子よ。それにその子、素人みたい」

 

「そうなんすか?なのに役満和了るって、よっぽど運のいい人なんすね」

 

「翔にだけは言われたくないじぇ…」

 

優希がなんか言っているようだがスルーして、相手が素人だとプロとかよりも手牌とか読みづらいだろうから染谷先輩には逆に難敵かな

 

 

 

 

 

それから次鋒戦は終了し、京太郎が買い出しから帰ってきた。京太郎の存在忘れてた…

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり」

 

「買い出しご苦労じゃったね」

 

「あのぅ、聞きづらいんですけど…次鋒戦何があったんですか…?」

 

「まこの親番四回中三回もツモられたのよ。しかも一つは役満」

 

「不甲斐のぅてすまんの…」

 

まぁ今回はホントに相手が悪かったですからね。次鋒戦が終わって清澄はなんと最下位になってしまっていた

 

「勝った鶴賀の子は京太郎より初心者だったじぇ」

 

「マジで!?お、タコス買ってきたぞ」

 

「よし!よくやったぞ、犬!」

 

「誰が犬か!」

 

こいつらはホントに仲良いな

 

「まさか最下位でバトンを渡すことになるとはのぅ…」

 

「ま、昼休みが終わったら私の番だから、なるべく取り返すように努力するわ」

 

「ということは少しは部長の本気が見れるんすかね」

 

「あら、どうかしらね」

 

オレは嫌味ったらしく部長にそう言ってみると素っ気なく返されてしまった。するとそこでオレの携帯が振動した。オレは外に出て画面を見てみると『透華さん』と出ていた

 

「もしもし、透華さん?」

 

『えぇ』

 

「対局中の相手校に電話してくるなんて、マナー違反じゃないですか?」

 

『承知していますわ。ですがあなたは男子、大丈夫でしょう』

 

どういう根拠で大丈夫なんだろう

 

「それで?どうしたんです?」

 

『そうでしたわね。実はまだ衣が来てないのです』

 

「衣姉さんが?また寝坊ですか?」

 

『いえ、この会場には来ているようですわ。ですが控え室の方に来ていないのです。ここまで言えばあなたなら言いたいことがわかりますわよね?』

 

「姉さんを探して連れてこいってことですか?」

 

『物分かりがよくて助かりますわ。ではお願いしますわ』

 

「えっ!?ちょっ!」

 

オレの返事を聞かずに透華さんは電話を切ってしまった。仕方ない…いつもお世話になってるしな

 

オレは後でトイレに行ってたとか言えばいいかと思って控え室には戻らずに衣姉さんを探しに行った

 

「さてと、衣姉さんはどこにいるのやら。人に聞いて回るって言っても容姿のこと言ったら姉さん怒るしな…」

 

そんなことを考えながら廊下を進んでいると赤いリボンを頭につけた少し背丈の小さい後ろ姿を見つけた。オレはその後を追った。すると自販機の前あたりで藤田プロと出会っていた

 

「…美味なる匂いがする」

 

「今は昼休みだからな。この匂いはカレーか?」

 

「違う!衣が食らう生贄達の匂いだ!」

 

「ん〜…可愛いなお前は!こんな子供がほしい!」

 

「私は子供じゃない!衣だ!抱きつくな!」

 

「お〜。ヨシヨシ」

 

「な、撫でるな〜」

 

藤田プロは衣姉さんを抱き上げて頭をヨシヨシし始めた

 

「あまり衣姉さんをいじめないでくださいよ、藤田プロ」

 

「お前は!」

 

「あ!ショ〜」

 

「はいはい、怖いお姉さんに捕まったんですか?」

 

藤田プロの腕から脱出した衣姉さんはオレの元にヨタヨタと近づいてきた。それをオレは片膝をついて慰める

 

「姉さんって…お前ら姉弟なのか!!?」

 

「いや、姉さんが呼べって言ってるから呼んでるだけです。血は繋がってません」

 

「衣を撫でていいのはショーだけだ!この親善試合で衣に負けたゴミプロ雀士!」

 

「なんだと!あの試合は変則的で直接対決はなかったからな!」

 

「直接やれば勝ってたと言いたいのか!?三流に相応しいおめでたい脳ミソだな!片腹大激痛」

 

「あの試合はアマもプロも本当に強いやつは来てなかったんだ。粋がるな」

 

「そう言って己が弱者なのを認めてるのでは?」

 

「なにをー!」

 

まったく、二人とも大人気ないな。そんな公式じゃない試合なんてどうでもよかろうに

 

「二人ともストップ。衣姉さん、いくら自分が勝ったからってゴミなんて言ったらダメですよ。いいですか?」

 

「…わかった」

 

「なら藤田プロに言うことがありますよね?」

 

「うぅぅぅ…すまなかった」

 

「よくできました。オレは衣姉さんを誇りに思いますよ」

 

「そ、そうか!衣はお姉さんだからな!」

 

「そうですね」

 

オレは素直に謝った衣姉さんをよくできましたの意味で頭を撫でると姉さんは気持ちいいのかまるで子供のようにいい笑顔をしている

 

「藤田プロも衣姉さんで遊ばないでください」

 

「遊んでるつもりはない。ただ愛でているだけだ」

 

「それにもやり方ってものがあるでしょ」

 

「…すまなかった」

 

藤田プロも反省しているようでよかった

 

「ん?おいそこの!ここは決勝進出校以外立ち入り禁止だぞ!」

 

「あれは藤田プロ!」

 

「やっばー!」

 

藤田プロは仮眠室から出てきた二人の女子高生に注意した。そしてその一人があるものを落としていった

 

「なんだありゃ」

 

「ペンギン?」

 

「清澄高校の原村 和が持っていたものにそっくりだな」

 

「よし!なら衣が連れて行ってあげよう!」

 

「というかそこに清澄の生徒がいるじゃないか」

 

「確かにそれは和のですね」

 

なんで今出てきた人達が和のぬいぐるみを?オレが今受け取って仮眠室に戻すのが手取り早やそうなんだが、万が一和や咲が起きたら…いや、咲はねぇな。万が一和が起きたら悪いしな

 

「…じゃあ衣姉さん、それ預かっててよ。あとで返してもらうタイミングで連絡するから」

 

「本当か!?よし!このペンギンは衣に任せろ!」

 

「おう、任せた」

 

オレが受け取ってもよかったんだが衣姉さんにも他にも友達を持ってほしい。その先駆けが和や咲だったら嬉しいな

 

「あ、そうだ!衣姉さん、透華さんが呼んでたぞ?」

 

「トーカが?わかった。衣はトーカ達の元に行こう」

 

「姉さんなら一人で行けるか?」

 

「愚問だ!衣はお姉さんなんだぞ」

 

「じゃあよろしくな。会えそうだったらまた後で顔を出すよ」

 

「本当か!?待ってるぞ!」

 

オレはぬいぐるみを衣姉さんに任せてその場を離れ控え室に戻った

 

「戻りました」

 

「遅かったのぅ」

 

「少しトイレに」

 

「まったく。部長の試合が始まる前でよかったぞ」

 

「悪かったよ」

 

部長は腕を捲り髪を両肩のところでゴムで止めていた。そこでアナウンスが入る

 

ピンポンパーン

『間も無く中堅戦が始まります。出場選手は対局室に集合してください』

 

「それじゃあ、あとはお願いね」

 

「頑張ってください!」

 

「お願い!」

 

「任せたけんね!」

 

染谷先輩と優希は明るく振舞ってはいるが二人の目は心配と懇願の目をしていた

 

「まっかせなさい」

 

そして部長はドアを開ける

 

「部長」

 

「ん?」

 

オレの声で一旦開けるのを止める

 

「一位、取っちゃっていいっすよ?」

 

「言われなくても」

 

オレの言葉に答えて今度こそ部屋を出た

 

『県予選決勝中堅戦。折り返しを制するのは一体どの高校か?試合開始です!』

 

さて、部長の…三年前に美穂子さんを苦しめた人の実力を拝見させていただきましょうかね

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話

次鋒戦が終わり、今清澄は最下位。まぁ部長がなんとかしてくれるでしょう

 

昼休みが終わって対局室には続々と選手が入っていった。風越と鶴賀は知らないけど龍門淵からは一さんが出場するようだ。そこで対局室に入った一さんはカメラに向かって睨んでいる。それがカメラの外のオレに向いていること何を意味しているのかオレにはわからなかった

 

『県予選決勝中堅戦。折り返しを制するのははたしてどの高校か!』

 

全員が卓について中堅戦が始まった

 

ー東一局ー

 

部長の手牌は

{二萬五萬三索八索九索九索一筒五筒五筒七筒八筒發北} {五筒}

となっていた。どうもイマイチの手配でスタートとなった

 

七巡目、部長は{三萬}をツモる。だが五巡目にドラ側の{二萬}を切ってしまっていた

 

そして次の八巡目、ドラの{一萬}を引いて完全に裏めった状態となってしまった。普通はそこで即座に切るのだが部長は手牌に加えた

 

その後の九巡目に{四萬}を引き

{一萬三萬五萬九索九索九索四筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒}

となった

 

「リーチ!」

 

部長は五面張を捨ててドラ単騎でリーチをかけた

 

『え、えぇと…清澄高校竹井 久、中堅戦最初の先制リーチです!』

 

『ドラ単騎、地獄待ちか…』

 

この五面帳を捨てての単騎待ちは実況の人も驚いているようだ

 

「ドラ切った方が待ち多いんじゃ…」

 

「ヤオチュー牌のドラ単騎自体はわりと普通はだじょ」

 

「部長はここぞというときは悪い待ちが多いけぇ」

 

「え?」

 

「初めて聞いたじぇ」

 

「そういやぁ、和が入部したばっかりの四月ごろ部室のパソコンで部長の牌譜を見つけて、えらい噛み付いとったのぅ」

 

「和的には理解できないし意味不明な打ち方でしょうからね」

 

和には考えられない待ちだからな。どうせこのことも偶然やら錯覚やら言うんだろうな。まぁ今では嶺上開花ばっかで和了る誰かさんを見てるせいで少しはその異常現象も考えるようになったがな

 

『さぁ、清澄高校竹井 久のリーチに対して他校はどう出るか。龍門淵高校国広、現物を処理』

 

さすがは一さん、ムリだと思ったら即降りるその感じ、嫌いじゃないです

 

そして次の風越の人は{五索赤}をツモった。これでもし聴牌をとるならいらない{一萬}を切らないといけない。だがそれは我らが部長の当たり牌である。さぁどうする?

 

「通らばリーチです!」

 

「…通らないな、ロン!」

 

部長はわっるそうな笑顔を見せてから手牌を見せ裏ドラも確認する。それは{九萬}裏ドラも乗った

 

「立直、一発、ドラ4。12000」

 

他家の三人は揃ってありえないとでも言いたげな顔をしている。だがそのありえないが部長にとっての普通なんであろう

 

『龍門淵と鶴賀の手牌を見る限り、もし多面帳を選んでいたら確かに和了れそうにはなかったかもしれませんね』

 

『先々鶴賀が{九筒}を振るかもって程度だな』

 

『しかし、それにしても驚くべきチョイスです。一気にアドバンテージがなくなりました、風越女子!そして龍門淵はいきなりの最下位!』

 

最下位といってもこのまま終わるわけじゃないだろ?一さん

 

ー東二局ー

 

十二巡目

 

今回も部長は聴牌していた。今度は黙で。するとこれもまた風越の人が{赤五筒}を切ってやってしまう

 

「リーチ!」

 

「ロン。断么九、三色、ドラ3。18000(インパチ)

 

今度は部長の親番でまたも風越の人がそれに振り込んでしまった。これで風越は二位に転落、鶴賀が一位となった

 

ー東二局 一本場ー

 

「聴牌」

 

「聴牌」

 

「不聴」

 

「不聴」

 

一本場は流局となった。しかしながら部長は今回も四面帳を捨てての単騎待ちで張っていた

 

ー東二局 二本場ー

 

「ツモ」

 

十巡目、部長はツモった牌を指で弾いて上に飛ばし、手牌を開いて飛ばした牌をおもいっきし卓に叩きつけた

 

「4200オール」

 

マナーは悪いがこれで…

 

『ひっくり返ったな』

 

『こ、これで清澄高校が一位に!中堅戦開始早々竹井 久による怒涛の反撃です』

 

「あっという間じゃ!」

 

「さすが部長だじぇ!」

 

やりますね、部長

 

「そしてそして龍門淵高校がまさかの離された展開」

 

実況はそう言うがこのまま終わる一さんじゃない。そのうち本性を現すな

 

ー東二局 三本場ー

 

九巡目、一さんは一度カメラに目を向けてからツモった気がしてが気のせいかな。というかこの対局でテレビ越しで一さんと何度も目が合ってる気がする

 

「リーチ!」

 

そして一さんは気合の入ったリーチを宣言する。部長はそれに対して現物を処理。あんなめちゃくちゃな打ち方してても降りるときはきっちり降りるみたいだ

 

「ツモ!3300・6300!」

 

一さんにも火がついてきたかな。いきなりのハネ満はすごい

 

さて、そろそろ和を起こしに行くかな

 

「そんじゃ和を起こしに行ってきます」

 

「おう、よろしく」

 

染谷先輩に一言言ってから部屋を出た

 

 

 

『中堅前半戦終了。前半の獲得点数は清澄高校の圧勝だと思われましたが、龍門淵高校が少しずつ追い上げ現在四校の点数はほぼ横並び。試合はまるで降り出しに戻されたようです』

 

前半が終わったか

 

『しかし風越女子はこれまでの圧倒的優位をあっという間に吐き出してしまいました!』

 

この休憩で美穂子さんが部長のことを教えるだろうから後半は前半戦ほどうまくはいかないでしょうな

 

そうだ。衣姉さんにペンギン預けてたんだった。オレは透華さんに電話をかけた

 

『もしもし』

 

「あ、透華さん?」

 

『あら、対局中に相手校に電話するなんて、マナー違反なのではなくて』

 

「うっ…そりゃぁないですよ」

 

『ふふっ、冗談ですわよ』

 

「はぁ…ところで衣姉さんは戻ってますか?」

 

『えぇ、先ほどなぜか原村 和のペンギンを持って帰ってきましたわ』

 

「そっか。それで?」

 

『今から返しに行くとそのペンギンを持って出て行ってしまいましたわ』

 

もうか!?連絡するって言ったのにな

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

『こちらこそ』

 

オレは電話を切って仮眠室に急いだ。するとその途中で和がこっちに歩いてくるのを見つけた

 

「おーい、和」

 

「あ、翔さん」

 

「起きてたんだな」

 

「はい」

 

「それ、もう受け取ってたのか」

 

「はい?あぁ、今さっきそこで小さな女の子が持ってきてくれました」

 

ならまだそこにいるかな?

 

「そっか。和、悪いが先に戻っててくれ」

 

「?わかりました」

 

「すまんな」

 

オレは和が戻ってきた道を戻っていった。そして階段を下りたところに衣姉さんはまだいた

 

「姉さん」

 

「ショーか」

 

「ありがとな。わざわざ届けてくれて」

 

「あぁ。でも友達にはなれなかった…」

 

「ん?和が断ったのか?」

 

「いや、衣がお願いする前に行ってしまった」

 

「そっか。大丈夫、また機会があるさ」

 

「うん…」

 

衣姉さんは明らかに残念そうな顔をしている。どうすればいいか。オレはとりあえず頭を撫でる

 

「…ショー?」

 

「そんな顔するなよ。別に友達になりたくないなんて言われてないだろ?」

 

「そうだが」

 

「なら大丈夫だよ。それとも義弟(おとうと)の言うことは信用できないか?」

 

「そんなことはない!」

 

「なら信じてくれよ。それよりも衣姉さんはこれからの試合だろ?」

 

「衣の相手になるのはここにはショーしかいなかろう」

 

「そうかな?」

 

「っ!」

 

姉さんはオレのニヤけ顔を見て表情を変えた

 

「いるのか…?」

 

「あぁ。保証する」

 

「そうか!」

 

オレの言葉でテンションがあがったのか衣姉さんはいつもオレや透華さん達と麻雀をやるときみたいな笑顔をする

 

「じゃあ、また後でな。ちゃんと透華さん達のとこに帰るんだよ?」

 

「わかっている!」

 

オレはピョコピョコと走っていく衣姉さんを見てから控え室に戻った

 

 

 

「戻りました〜」

 

「どこ行っとんたん?和はもう帰ってきとるぞ」

 

「すいません。部長はどうですか?」

 

「前半ほどには和了れんようになっとる」

 

やはり前半で部長の打ち方はわかっちゃったからみんな現物で降りるようになったかな

 

「リーチ」

 

そこで部長ではなく一さんがリーチをした。親だからみんな少し警戒するかな

 

「リーチ!」

 

『清澄高校竹井 久、{七索}ツモ切りで振り込むかと思いきや、三色を捨てて追っかけリーチ!し、しかしこれは!』

 

『{四萬}は三枚切れてるから和了れないな』

 

『空テンリーチです!悪待ちにもほどがあるぞ!』

 

確かに和了れない。でもそれが()()()()()のリーチだとしたらだけど…

 

『流局。南二局は流局です』

 

そしてその局は部長の狙い通りだろう、流局となった

 

「聴牌」

 

「っ!」

 

部長が見せた手牌を見て一さんは驚いたのか身を乗り出した

 

ー南二局 一本場ー

 

『南二局、連荘です。先ほどの局は他家の清澄がうまく下ろすことに成功しましたが、今度はどうなるか』

 

鳴いて低い点数で親リーを止めたり親より先に和了る戦法はよくあるけど、空テンリーチで止めるなんて芸当そうできない。やはり部長も只者ではなかったか

 

このままならうちと龍門淵が抜け出すかな

 

「じゃあ今度は咲を起こしに行きますね」

 

「え?もう少し寝かせておいてあげてもよろしいのでは?」

 

「和。お前は優しいな。でも内心はお前の試合、見てほしいって思ってるだろ?」

 

「っ!」

 

「咲も寝起きでいきなり試合なんてことになる方がヤバいからな」

 

オレはそう言い終えて仮眠室に向かった

 

 

 

 

『中堅戦終了!各校の順位は中堅戦開始とはまるで真逆。上位と下位の交代劇。特に清澄高校竹井 久の活躍には眼を見張るものがありました!』

 

ヤベッ!中堅戦終わっちまった!早く咲を起こさねば!

 

仮眠室では咲が情けない姿で眠っていた

 

「お〜い、咲〜」

 

「んみゅぅぅぅ」

 

「なんだそれ。ほら、咲!和の試合始まっちまうぞ?」

 

「ほぇ…?」

 

ようやく起きた。だがまだはっきりとは起きれていないようだ

 

「ほら、和に最後の激励に行くぞ」

 

「はっ!うん!」

 

和という言葉で咲はようやくしっかりと起きたらしい。そして対局室に向かう

 

「うぉっ!咲!下!下!」

 

「え?下って…きゃっ!!」

 

咲は勢いよく起き上がったのでスカートを履いていないまま立ってしまった。それをオレの視界に入ってしまった

 

「…もう、翔くんのエッチ……」

 

「今のはオレのせいじゃないだろ!」

 

「ふふっ、冗談だよ。翔くんにならいくらでも見せてあげる♪」

 

「バカ言ってないで早くスカートを履け!!!」

 

まったく…オレはこんな子に育てた覚えはないぞ!オレはスカートを履いた咲とこれから和が対局する対局室に急いだ

 

『全国高校生麻雀大会県予選決勝、ついに副将戦に突入します』

 

オレ達が廊下を進んでいるとアナウンスが入った

 

『圧倒的トップで入った中堅戦からまさかの最下位。逆襲はなるか?名門、風越女子二年、深堀 純代(ふかぼり すみよ)』

 

『順位は三位ながら上位とは僅差。健闘中の無名校、鶴賀学園は一年の東横 桃子』

 

お、ようやくモモのお出ましか。どんな打ち手になってるかな?

 

『そして、ここにきて順位がランクアップ。実力を出し始めたのか、前年度県優勝校。龍門淵高校二年、龍門淵透華』

 

今思ったら透華さんの打ち方って和に似てるよな。デジタルというかなんというか

 

『そして、トップの清澄高校は昨年の中学生大会優勝者、一年生の原村 和。この力は高校でも通用するのか?』

 

ヤベッ!急がねぇと!対局室はすぐそこだ

 

「原村さん!」

 

「和!」

 

「っ!宮永さん!翔さん!」

 

危ねぇ…間に合った

 

「頑張って!原村さん!」

 

「思いっきりやってこい」

 

「原村さん!意気込みは!?」

 

和はオレと咲に応えるかのように腕を振り上げた

 

『副将戦開始三分前です』

 

「対局者以外は退出願います」

 

アナウンスと同時に係の人に退出を促された

 

「はい。じゃあ戻るぞ、咲」

 

「うん」

 

出る前にもう一度和を見てから部屋を出た

 

「あら、翔さんではありませんか?」

 

「あ、透華さん」

 

「原村 和、楽しみですわ」

 

「オレも楽しみにしてますよ」

 

対局室の外で透華さんに出会った。そして一言ずつ交わして透華さんは中へ入っていった

 

「…翔、くん」

 

「ん?おぉ、モモ。モモも副将なんだな」

 

「え?モモちゃん?」

 

オレ達が進もうとしている咲からモモがやってきた。オレに触れているわけではないから咲は気づいてないらしい

 

「…そんなことより、風越の先鋒さんとは…どんな関係っすか…」

 

「え…」

 

「…どうなんすか」

 

「た、ただのご近所さんだ。別にこれという関係じゃないぞ」

 

「ねぇ、モモちゃんどこ?」

 

咲はキョロキョロと見渡しているがオレにははっきり見えている。なんだか黒いオーラを纏ったモモが目の前にいるのを…

 

「…怪しいっすね」

 

「はぁ…まったく…」

 

「あっ…」

 

「あ、モモちゃん…ってなんで頭撫でてるの、翔くん!」

 

「なんか機嫌が悪そうだから」

 

「こ、こんなこと、されたって…嬉しくな…えへへ♪」

 

「モモちゃん、すっごい顔緩んでるよ…?」

 

オレがモモに触れたことによって咲にも認識できるようになったらしい

 

「今のところはこれで勘弁してくれ、な?」

 

「しょ、しょうがないっすね〜♪」

 

モモの機嫌はどうやら治ったようでルンルンと部屋に入っていった。代わりに咲が頰を膨らませている

 

「もう!翔くんはいつもそうやって!」

 

「な、なんだよ…」

 

「罰として戻るまで私の頭撫でて!」

 

「なんでそうなる!」

 

「撫・で・て!」

 

「はぁ…わかったよ」

 

オレは控え室に戻るまでの間咲の頭を撫で続けた。その間咲は眩しいくらいの笑顔であった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話

控え室にはもう部長は戻っていた

 

「戻りました〜」

 

「ただいま♪」

 

「おかえり」

 

「お目覚めか、咲ちゃん。ってなんでそんなに笑顔なんだじぇ?」

 

「ん〜?えへへ〜♪」

 

戻っても咲の笑顔は戻らなかった

 

「あんたぁ、咲になにしたん?」

 

「あははは…」

 

「咲?」

 

「は、はい部長」

 

「はい!」

 

「え?」

 

部長に呼ばれてようやく元に戻った咲に部長はバナナを渡した。咲はそれの意味がわからないようで頭には?マークがいくつも出ていた

 

『副将戦前半戦、開始です!』

 

さて、和に透華さん、モモのいるこの副将戦はどうなかな?

 

東一局も始まり四人とも堅実に打っていく

 

『もったいないな』

 

『はい?何がですか?』

 

『この試合だよ!今年のルールは運の要素が強すぎる。さらに試合数が少ないのも偶然性を高めている』

 

『しかし、プロみたいに年2000試合数なんて学生には無理ですよ?』

 

『去年までは地味な競技ルールだったが今年のルールはまるで一万人の中からより優れた者を選り分けるシステムにも見える。今あそこで戦っているのは堅実に実力を高めた選手なだけに半荘二回で結果を出すのは惜しいのだ』

 

確かにな。デジタルな選手は堅実ではあるが逆に早々崩れたりしない。そんな選手は長期で数多くの戦いをもできるからな。それがたった半荘二回で決まってしまうのは確かに惜しい

 

「リーチ」

 

藤田プロの話に賛同していると風越の人がリーチをかけた

 

「ノータイムでベタおりか」

 

「のどちゃんぽいじぇ」

 

まぁ和だったら二向聴(リャンシャンテン)から親リー相手に勝負はしないだろ

 

透華さんもおりたか。さすがデジタル派。でもたまにだけど透華さん()()なるよな。あの状態になった透華さんは手強かったし、今回は大丈夫なのかな?

 

『流局。風越の一人聴牌となりました。それにしても、堅いメンツですね』

 

『デジタル的には黙にする基準を調整する必要があるな』

 

ー東一局 一本場ー

 

「ロン。1000は1300です」

 

『副将戦、最初の和了りを決めたのは清澄高校原村 和。しかしなんとも地味な和了りです』

 

「地味だじぇ」

 

「ボロボロの配牌から即座に喰いタンとか和らしいけどね」

 

「リー棒供託もあったしのぅ」

 

とりあえず和は一回和了ったな。それに和らしいからこっからエンジンかかってくるかな?

 

ー東二局ー

 

『東二局。親は原村 和です』

 

東二局で和の対面の透華さんの配牌がいきなり両面(リャンメン)十分でいい感じの二向聴となっていた

 

「ポン」

 

これで二副露(ツーフーロ)。連荘狙いか?

 

「リーチですわ!」

 

『龍門淵高校龍門淵 透華、先制リーチだ!このリーチに対し他家はどう出るのか?』

 

三巡目にして透華さんのリーチ。和はどうするか

 

『三人ともベタおり気配。またしても堅い』

 

二副露したのにベタおりを選択するその決断力はマジですげぇな。だが、だからこそ和は強い

 

「聴牌」

 

「「「不牌」」」

 

その局は全員がおりに成功し透華さんの一人聴牌となった

 

ー東三局 一本場ー

 

「リーチ」

 

十巡目に風越の人がリーチをかけた

 

「聴牌」

 

「「「不聴」」」

 

『またもや流局。回し打ちした鶴賀も和了れずに終わりました』

 

モモはまだなんの動きも見せないな。リーチもかけないし。モモもデジタルな打ち手だっけか?

 

ー東四局 二本場ー

 

「チー」

 

「ロン。1300は1900」

 

和は緊張はしているがいつも通り打ててるようだ。合宿での特訓の成果かな

 

ー南一局ー

 

南場に突入して最初の和の手牌は

{一萬一萬六萬四筒四筒六筒九筒四索六索六索北北} {九筒}

となった

 

「対子が五つ、鳴いて対々和(トイトイ)かな」

 

「対子五つは七対子の一向聴(イーシャンテン)暗刻(アンコ)がないこの場合なら対々和より七対子だじょ」

 

「役牌もドラもないからね」

 

「わしゃぁ染めやすそうなら鳴いてくがのぅ」

 

「オレなら暗刻になるまで待ちますかね」

 

「あんたん打ち方は参考にはならん」

 

染谷先輩の指摘に咲以外のみんなに『うんうん』と頷く

 

「ポンですわ!」

 

いきなり和の捨てた{六萬}を鳴く透華さん

 

「おー!」

 

だがそのおかげか和が{六筒}をツモって聴牌

 

『清澄高校原村 和、二巡目にして七対子聴牌です。一方食い仕掛けの龍門淵は断么九(タンヤオ)、ドラ4の一向聴』

 

「なんでリーチしないんですか?」

 

「七対子は待ちを変えやすいからね」

 

「じゃあここで初心者の京太郎に問題だ。七対子の待ちとして{六索}よりよさげな牌は何種類ある?」

 

「えっと、一、二、八、九、字牌だとして既に使ってるの除くと…十五種類か?」

 

「正解だ」

 

「牌の種類は全部で三十五種類だから二回に一回くらいで待ちがよくなるじぇ」

 

「おぉ!算数ドリルの成果出てるな!」

 

「えへん!」

 

高校一年生にもなって算数ドリルって…やっぱりおかしいよな

 

「リーチ!」

 

そして和がリーチをかけた

 

『清澄高校原村、風越女子深堀の捨てた{六索}を見逃してツモってきた一枚切れの{西}単騎でリーチだ!』

 

『あぁ!そのうちの一枚を龍門淵 透華が一発で摑まされました!』

 

『最悪だが、これはおりるだろう』

 

透華さんが切ったのは和の元物である{四索}

 

『おりたー!これはまた流局か?』

 

「なんでさっきの{六索}で和了らなかったんだろう?」

 

「それじゃあたったの1600点。でもリーヅモで裏のれば12000点だじぇ!」

 

「のれば、だろ?」

 

そらから回って回って八巡目

 

「ツモ」

 

和が和了る

 

「1600・3200です」

 

裏は残念ながらのらなかった。そしてそれを和了った瞬間、和は熱を出したように顔が赤くなった

 

「あぁぁぁ!!」

 

「原村さん!」

 

「のどちゃん発熱!相手は死ぬ!」

 

「勝手に殺すなよ」

 

「合宿のときでも何度かあったわね。普段からクールな和がペンギンを持つとさらに冷静に、まるで機械のように無表情になっていくんだけど…」

 

「ある点を超えると急にのぼせたように表情が柔らかくなりましたね」

 

「こうなったのどちゃんは手がつけられないじぇ!」

 

「そうね」

 

覚醒したかな。化けた和はまるで神の化身。あの場に天使が舞い降りる。そういえばネットのアイコンも天使みたいだったな

 

「でも和ってオレが対面にいるときはずっと顔赤かったような…」

 

「それは今のとは別物じゃぁ」

 

オレはなにが違うのかさっぱりわからなかった。てかさっきから透華さんずっとニヤけ顔になってるから、むっちゃ気味が悪いですよ…

 

『南二局も流局!風越女子深堀、またしても和了れず。この膠着状態から抜け出すのは一体どの高校か』

 

ー南三局 一本場ー

 

和の配牌は

{一萬二萬二索五索六索八索八索六筒八筒九筒中西白} {中}

 

「ドラが二つ。でももう親が捨ててるじぇ」

 

ドラは{中}だが親が既に一枚捨てていた

 

「ポン」

 

風越の人がモモから鳴きを入れる

 

「リーチっす」

 

『鶴賀学園東横 桃子、リーチです』

 

モモもようやくリーチか。この試合初めてじゃね?

 

『あぁっと!続いて清澄高校原村 和も聴牌』

 

「これは{二索 八索}待ち?」

 

「{中}もあるじょ?」

 

「さっきの{二索}切りが裏目になった形ね」

 

「あ、そっか!振り聴!あ、でも和って振り聴が多くてもリーチしてたような…」

 

「貴様の目は節穴か!この犬!」

 

「犬は関係ないだろ!」

 

「犬ー!犬ー!」

 

また夫婦漫才が始まってしまった

 

「もう残りは{八索}と{中}が一枚ずつだけね」

 

「しかも振り聴じゃけぇ他家から出ても和了れんわ」

 

「いいな」

 

『ん?』

 

咲のいきなりの言葉にみんなが先の方を向く

 

「原村さんすごく楽しそう。合宿でもこういうときの原村さんはすごかった」

 

「お前も早くあそこに行きたいか?」

 

「うん!早く打ちたい!」

 

「そうか」

 

咲なら大丈夫だとは思うが、衣姉さんに潰されないかは心配である

 

『こ、これは!清澄高校原村の最後の当たり牌が鶴賀学園東横の手に。しかも原村は振り聴のためこの{中}で和了ることはできません!最後の希望が今、絶たれました!』

 

『…違うだろ?』

 

『は?』

 

「ポン」

 

和はモモが出した{中}を鳴く

 

「待ちを変えた?いつもなら{中}を安牌(アンパイ)にしておりるんじゃ?」

 

「鳴いても安牌三枚。しかもこの五面張(ゴメンチャン)はたくさんの和了り牌が残ってるじぇ!」

 

「ツモ。2100・4000です」

 

『原村 和、鶴賀と風越を躱して鮮やかな和了り。さらにリードを広げました!副将前半戦はついにオーラスを迎えます』

 

もうオーラスか。流局が多かったせいか早く感じるな

 

『し、しかもここまで原村以外誰も和了っておりません!原村以外が焼き鳥状態!』

 

そういえばそうだな。全然気づかなかった

 

『このオーラスも原村が制せばパーフェクトゲームとなります』

 

「和、エンジンかかってきたみたいね」

 

これからはこの状態が最初から発揮できるかが課題だな。っ!この感じ!透華さん…

 

『副将前半戦もいよいよオーラス。現在、清澄高校の原村 和がトップ。しかもまだ彼女以外誰も和了っていません。パーフェクトゲーム寸前です!』

 

ー南四局ー

 

『さぁ、オーラス開始です。果たして原村 和のパーフェクトゲームは達成されるのか?』

 

十一巡目がすぎてラス親の透華さんが聴牌

 

『龍門淵 透華、リーチせずに黙聴に取りました。この一撃が原村 和のパーフェクトゲームを阻止してしまうのか?』

 

どうもさっきから和よりな実況なんだよな。確かにパーフェクトゲームになったらすごいし盛り上がるけど実況は中立であるべきでしょ

 

『一方、原村 和は配牌、ツモ共に最悪。まだクズ手の三向聴(サンシャンテン)です』

 

まぁ麻雀だしいい手が来ないときもあるわな

 

『これはベタおりですか?』

 

『七対子なら二向聴。ま、龍門淵の捨て牌から聴牌臭を感じて様子見といったところか』

 

「リーチですわ!」

 

ありゃ?闇で11600(ピンピンロク)あったらデジタルはリーチしないんじゃ?いつもの透華さんなら点数より和了率を優先するよな…どうしたんだろ

 

他家は三人とも現物を処理

 

「ツモ!8000オールいただきますわ!」

 

『お、親倍!しかもこれで原村 和のパーフェクトゲームを阻止した!』

 

あらら、逆転されちったか

 

「さぁ!連荘でしてよ!」

 

透華さんを調子付かせちまったかな

 

「いきなり大物手がきたじょ!」

 

「逆転か。でも勝負が終わったわけじゃないわ。和ならまだやれるはずよ。和なら」

 

「のどちゃん…!」

 

和はデジタルに徹するけど透華さんはたまにデジタルから外れることがあるからな。予測しづらい

 

『龍門淵はオーラスの一撃で清澄高校を逆転。一転してトトップに躍り出ました!』

 

十巡目、今度もまた透華さんが聴牌。今度は闇でいくのかリーチをかけずに{五索}を切った

 

「ロン。メンタン、2600(ニンロク)2900(ニック)っす」

 

モモが初めて和了ったけど、あの透華さんが無警戒でリーチに振り込んだ!?どういうこと!?

 

『鶴賀学園東横 桃子、トップの龍門淵高校から2900の和了り。これで前半戦は終了です』

 

「原村さんなら逆転されて終わり…」

 

「それでも!それでものどちゃんなら…のどちゃんなら後半やってくれるはず!のどちゃんなら!」

 

「う、うん。そうだよね」

 

「そうだじょ!」

 

何回のどちゃん言うねん。まぁ後半期待しましょうか。それよりモモの和了り方、透華さんの振り込み…妙だな…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話


気づいたら既にお気に入りの数が600を超えていました!!とても嬉しいです!ありがとうございます!!!




今回、原作と変わっているところがありますのでご了承ください


 

副将前半戦の最後、和了ったのはモモだがそれに振り込んだのは透華さんだった。しかもモモは和了る二巡目にリーチをかけていたのだが透華さんはそれに振り込む形になってしまった。普段の透華さんならありえないことである。オレがこんなに驚いてるんだから龍門淵の控え室ではどうなっているのやら

 

『この半荘は振り込みがオーラスの一回しかありません。さすがに堅いメンツが揃ってますね』

 

『堅いメンツならあの振り込みはない』

 

『と言いますと?』

 

『倍満を和了ってあまくなった、とも思えないが…』

 

『五分の休憩ののち、後半戦を開始します』

 

今の副将戦でなにが起こってるんだ。モモが何かしたのか?

 

 

 

 

『副将後半戦スタートです』

 

ー東一局ー

 

「リーチ」

 

八巡目にモモが{九筒}を切ってリーチを宣言

 

「リーチですわ!」

 

「いいんすか?それ、ドラっすよ?ロン」

 

透華さんも前半の勢いのまま手牌がどんどんよくなりドラの{九萬}を捨てて追っかけリーチ。しかしそれはモモの当たり牌だった

 

「立直、一発、ドラ1。5200(ゴンニ)っす」

 

また透華さんがリーチに振り込んだ。透華さんにしてはありえないミスだ

 

「龍門淵の人がまた!」

 

「あんなリーチに即振込とか、ありえないじょ」

 

「もしかすると、あっち側ではここで見てるのと違うことが起きてるのかも…」

 

ありえないこと…なんだ、モモがなんかやってるのか…

 

ー東二局ー

 

『副将後半戦はいきなり龍門淵 透華がリーチに振り込むことから始まりました。龍門淵 透華はこれで前半戦に続き二度目となります』

 

『振り込んだ本人も理解できない振り込みだろうな』

 

『はぁ…』

 

ホントに何が起こってるんだ…透華さんが二度もリーチに振り込むなんて。しかも無自覚っぽいし

 

「リーチ」

 

まだなにかあるかと思いきや八巡目に今度は和がリーチを宣言した

 

『原村 和リーチ。前半戦は最後のまくられたものの非常に安定した早い打牌でした。後半戦もこのまま突っ走るというのか』

 

和のリーチに対して風越の人も透華さんもベタおり気配。しかし和はホントに調子いいな

 

「ロン。8000」

 

そして和はこれまであまり振り込むことはなかったモモから和了る

 

「敵さん、危険牌切っておきながらすごい驚きぶりだじぇ!」

 

「彼女の中ではありえないことなのかもしれないわね」

 

「ありえないこと?」

 

「そうね。それをしたのが和だってことになるわね」

 

「どうなの?翔くん」

 

「ん?オレもモモがどんな打ち手か知らないからな。なんとも言えん」

 

確かにモモがどんな手を使ったかはようわからん。だが今の和ならどんな手を使っても無駄だ

 

「私の牌が見える…?見えないんじゃ…」

 

「?見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません。私にははっきり見えます」

 

画面の向こうではモモと和がそんな会話をしていた。見える?見えない?どういうことだ?

 

「どっちがオカルトなんだか」

 

部長は紅茶を飲みながらオレと咲をチラ見してきた

 

「…なんすか?」

 

「?」

 

「いいえ、別に」

 

そしてテレビに目を戻すとモモが目を手で覆って卓に肘をついていた。和になにかを破られたのがそんなに悔しかったのだろうか。しかし手を離したモモの目は決して諦めた目ではなかった

 

『原村 和、後半戦も好調を維持している。さぁ、各校はどう出る?』

 

次の東三局が始まる前にモモがカメラを一瞬見た気がした。そして再び卓に目を戻し牌を取るモモの目にはさっきよりも強い想いを抱いているような気がした

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ。2000・3900(ザンク)です」

 

『副将戦終了!後半戦、鶴賀の東横と清澄の原村、この二人を一騎打ちの様相を呈していましたが中盤近くには龍門淵と風越も応戦、圧倒的な点差がつくまでにはなりませんでした。副将戦をトップで走り抜けたのは清澄の原村 和です。終始安定したデジタルな打ち筋は今大会随一のものでした』

 

副将戦のラストは風越の人が和了って終了した。実況の人が言った通りトップはこの決勝で才能が開花した和。しかしこの副将戦での個人スコアトップはモモとなっていた。去年トップの二校と去年中学生チャンピオンの和がいる中でのこの結果は素直にすごいと思う。あとでおめでとうと一言言っておこう。そんで透華さんの魂が抜けかけてるように見えるのは気のせいだろうか…

 

『昨年トップの二校が無名の二校に抑えられるという番狂わせ!そして勝負は大将戦に突入します!』

 

ピンポンパーン

『十分の休憩の後大将戦を開始します』

 

いよいよ大将戦。咲の実力を衣姉さんに見せつけるときだ!

 

「さ、和が戻ってくるわよ?」

 

「次は咲ちゃんの番だじぇ!」

 

「頑張りんさい!」

 

「咲!」

 

部長、優希、染谷先輩、京太郎の順で声をかけられた咲はゆっくり立ち上がる

 

「頼んだわよ」

 

「はい!行ってきます!」

 

そう言って咲は部屋を出て行く。オレを連れて…

 

「あの〜、咲さん?」

 

「ん?どうしたの?翔くん」

 

「なぜオレの腕を掴んでいるのでしょうか?」

 

「?途中まで一緒に行くからだよ?」

 

なんでこいつは首を傾げて「なに言ってんの?」みたいな顔をするのか…

 

「はぁ、わかったよ。お見送りいたしますよ、お嬢様」

 

「うん!」

 

これから自分の番だというのにこの上機嫌。お嬢様と言われるのがそんなに嬉しいのかね

 

そして対局室へ向かう途中の曲がり角で和と会った

 

「原村さん!」

 

「宮永さん!翔さん!」

 

「お疲れ」

 

そして和と咲はハイタッチ気味に手を繋ぐ

 

「頑張ってください!」

 

「うん!」

 

「ちょっと送ってくるわ」

 

「はい」

 

そしてオレと咲は対局室を目指す

 

『さぁ、大将戦です。現在トップは今回初参加の清澄高校。原村 和からバトンを受けるのは同じく一年生、宮永 咲』

 

『同じく大会目は無名だった二位の鶴賀学園からは三年、加治木 ゆみ(かじき ゆみ)』

 

『そして現在最下位に苦しむ名門、昨年に引き続き風越女子の大将戦を務めるのは二年生、池田 華奈(いけだ かな)』

 

『そしてその池田選手の因縁の相手とも呼べる選手がいます』

 

「っ!翔くん…」

 

「気づいたか?咲」

 

その人の気配を咲は感じ取ったのだろう。強者としての気配を

 

「…これ、翔くんやお姉ちゃんと同じくらいすごいよ……」

 

「怖いか?」

 

「…うん、少し。でも、翔くんが見ててくれれば大丈夫!」

 

「それなら安心しろ。瞬きも惜しんで見ててやる」

 

オレはそう言って咲の頭を撫でる

 

『龍門淵高校二年、神がかりな手牌を見せる昨年のMVP、昨年の全国大会最多獲得点数記録保持者、天江 衣!』

 

衣姉さん油断なんかしてると足元掬われるからな

 

『各校の命運は最後の一人に委ねられました。ついに今大将戦の幕が開こうとしています』

 

オレはそんなアナウンスを聞きながら咲を対局室に連れていく。そしてその対局室には既に風越の人が卓についていた

 

「よろしく〜」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「じゃあ咲、オレはここでな」

 

「あ、うん…」

 

その声を聞いてオレはあからさまに残念がる咲の耳元に顔を持っていく

 

「咲、お前なら大丈夫だ。この何年間、誰と麻雀打ってたんだ?」

 

そう言い終えてオレは顔を離す。咲の表情は頰を少し赤くしているが気合の入った顔をしている

 

「じゃな」

 

「うん!」

 

オレは最後にそう言って対局室を後にした

 

「あ、ショー!」

 

「お、衣姉さん。それに一さんも」

 

「やぁ、翔。さっきぶりだね…」

 

「え、は、はい…」

 

対局室を出たところには衣姉さんと姉さんの付き添いなのかを一さんがいた。でも一の纏う雰囲気はちょっと怖い…

 

「ショー!」

 

「おっと、姉さんも頑張ってな」

 

「もちろんだ!」

 

その笑顔を前に無性に撫でたくなったので姉さんの頭を軽く撫でてやると姉さんは撫でる前よりも数倍の笑顔を見せて対局室に入っていった

 

「さえ、オレ達はそれぞれの控え室に戻りますか、一さん」

 

「翔…」

 

「はい…ひっ!」

 

声のする方を向くとそこには笑顔なんだが目だけは全然笑っていない一がオレのすぐ側まで来ていた

 

「風越の先鋒の人とはどんな関係なんだい…?」

 

「え、いや…」

 

「どんな関係だい…?」

 

「た、ただのご近所さんです!」

 

「ふふふ、嘘はよくないよ…」

 

「嘘じゃないですよ!」

 

「ふふふふ、嘘つく悪い翔にはオシオキが必要かな…」

 

ダメだ。全然信じてくれない。どうしたら!と一さんの背後に智紀さんがいることに気づいた。オレは必死に『助けてください!』と口パクで伝えてみたらなぜか抱きしめるジェスチャーをしてきた。これはオレが一にやれというのか…?すると智紀さんは親指をあげた。good luckってか…ええい!こうなれば一か八か智紀さんを信じる!

 

「っ!!!ちょっ!翔!!!?」

 

「一さん!とりあえず落ち着いて。話だけでも聞いてください」

 

「わ!わかったから!!」

 

「そ、そうですか…よかった」

 

なんとか一さんは正気に戻ったので離れようとすると逆に一さんがオレの背中に手を回して離してくれない

 

「あの、一さん?」

 

「は、話は聞いてあげるよ…でも、このままが条件…」

 

「マジっすか…」

 

「嫌、かな…?」

 

「うぐっ!」

 

一さんまでその上目使い+涙目という能力を身につけたのか!?

 

「わ、わかりました…」

 

「うん♪素直な翔は、僕は好きだよ♪」

 

「それは光栄です…」

 

この後約十分はこの状態が続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま戻りました!」

 

「おかえりなさい」

 

「こら翔!なにやってたんだじぇ!」

 

「ちょっと捕まっててな。試合は?」

 

「よかったわね。ギリギリで間に合ったわよ」

 

「そうですか」

 

よかった。まだ試合は始まってなかったようだ

 

『大将戦開始です。全国に行けるのは残り二回の東南戦を制する一校のみ。中堅戦からトップを維持し続ける清澄高校がこのままインターハイへ勝ち抜けるのか?はたまた昨年のファイナリスト二校が意地を見せつけるのか?』

 

『龍門淵高校の天江がなにもせずに終わるとは思えない』

 

『確かに天江選手はインターハイでも数々の結果を残してますから、今年もどんな戦いを見せてくれるか期待したいところです』

 

『…忘れていたよ』

 

『は?』

 

『他にも愉快な打ち手がいたことを』

 

解説の藤田プロが言ったことが誰なのかはすぐにわかった。さて、咲、この戦いを見ている人の度肝を抜いてやれ!

 

「リーチ」

 

鶴賀の大将戦さんがリーチをかける。しかし和了るのはあなたじゃない

 

「カン」

 

きた!

 

「ツモ。嶺上開花。1600・3200です」

 

『清澄高校宮永 咲、先制。このままリードを広げるか?』

 

衣姉さんはそうでもないが風越と鶴賀の人は驚いてるな

 

『偶然ですが宮永選手は昨日の一、二回戦でも嶺上開花を和了っています。これはすごい確率ですね』

 

『偶然ならよかったんだけどな』

 

そう、偶然ならな

 

ー東二局ー

 

九巡目、風越の人がなかなか高い手を張った。リーチはせずに(ダマ)にとるようだ

 

『風越女子池田、高めで三面張(サンメンチャン)の倍満を黙聴(ダマテン)。最下位からの浮上はなるか?』

 

そして咲の番。咲は

{七索八索五萬六萬七萬八萬八萬八萬三筒五筒七筒八筒九筒} {四筒}

聴牌(テンパイ)

 

『おーっと、清澄高校宮永も聴牌。しかしあまりの{五萬八萬}は風越の当たり牌。これは振り込むんじゃないでしょうか?』

 

んなわけあるか。咲が自ら(カン)材捨てるなんてありえねぇ

 

「リーチ」

 

咲がリーチを宣言して切ったのは{七索}

 

『なっ!{八索}単騎リーチ!清澄高校宮永、両面(リャンメン)にはとらず、しかも{八索}は既に河に二枚切れています!』

 

「地獄単騎とか部長みたいだじぇ!」

 

「あら?一緒にしないでよ?」

 

「そうだぞ優希。咲はちゃんと槓できる待ちを選んでる。部長の賭け満載の悪待ちとはわけが違う」

 

「…その通りなんだけど、その言い方は腹たつわね」

 

オレがテレビから目を離さずに優希に説明すると部長からそんなコメントが返ってきた。だってホントのことじゃないですか

 

「カン。嶺上開花」

 

二連続嶺上開花に風越と鶴賀は完全に驚愕の顔をしている。確かに嶺上開花自体が珍しいのに、それが二連続だもんな

 

『二連続嶺上開花!とんでもないことが起きてしまった!』

 

ここまではいい感じだな

 

ー東二局 一本場ー

 

この局では既に鶴賀の人が鳴いてしかけていた

 

「ポン」

 

そして咲も鶴賀の切った{二索}を鳴く

 

『あれ?鶴賀学園の加治木、字数のドラ暗刻(アンコ)を崩しましたね』

 

『役なし、だな』

 

咲が鳴いた直後に手牌を崩して役なし…もしや

 

画面では咲が四枚目の{二索}をツモっていた。そして槓をしようとして…その手を止めた。どうやら鶴賀の意図に気づいたか。成長したな。伊達に合宿でオレに何回も槍槓(チャンカン)やられてないか

 

不聴(ノーテン)

 

「不聴」

 

「聴牌」

 

「聴牌」

 

そして咲槍槓を躱すという成長を見せたその局は流局となった

 

ここまで咲はいい調子だ。だがまだ動いていない。あの人が…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話

お気に入りが700に達しました!!!感謝の極みです!!!

これからもよろしくお願いします!!!!



大将前半戦は咲による二連続嶺上開花(リンシャンカイホー)という側から見たらありえない和了りで始まった。しかもわかる人にはわかるだろうがもし咲が回避していなければ槍槓(チャンカン)だってきまってたかもしれない。どっちにしろ凡人からみたらありえないことには変わりない

 

ー東三局ー

 

この局で咲は{西}を今度は暗槓(アンカン)していた。流れからするとまた嶺上開花で和了るパターン。しかしその前に咲は目線を河にやってそれを和了るのをやめた

 

「おりたかな?」

 

「宮永さんが、躊躇ってる」

 

「さっきはうまく躱したけどまた槍槓があるかもって思ってるのかな」

 

「咲ちゃんらしくないじぇ」

 

「槍槓なんて狙って出せるもんじゃないんじゃけどな」

 

そんな幻想を植え付けることを考えていたとしたら鶴賀の大将さんもなかなかやるな

 

「カン」

 

およ?おりたかと思ったら次の巡で咲がカンを宣言。これにはオレも少しビックリ

 

「ツモ。嶺上開花」

 

『さ、三度目の嶺上開花!何が起こっているのでしょうか!』

 

「咲ちゃん!」

 

「宮永さん!」

 

「和了りおった!」

 

まだ鶴賀に{一索}が入ってなくてよかった。入ってたら国士で親の役満食らうとこだったな

 

「無聊を託つ。清澄の大将は手強いと聞いてウキウキしてたのに、乏しいな闕望したよ。そろそろ御戸開きといこうか」

 

っ!この感じ…!始まるか…しかも最悪なことに今日は満月…咲、戦いはこっからだぞ…

 

そして次の局、その力は他家(ターチャ)に及んでいた。衣姉さん以外の三人は配牌(ハイパイ)から一向聴(イーシャンテン)止まり。鳴くに鳴けない状態のようだ

 

「チー!」

 

咲の捨てた{六筒}を鶴賀の人が鳴いた。しかしその結果…

 

「リーチ」

 

衣姉さんのラスト一巡でツモ切りリーチ。今の鳴きで完全に|()()《ハイテイ》コースになってしまった

 

「あらら、誰も鳴けないか」

 

『?』

 

「…」

 

思わず口に出してしまったことに部長以外の人が疑問の表情を浮かべる。部長は変わらずテレビを見ている

 

「その役の意味は海に映った月を掬い取る。海底撈月(ハイテイラオユエ)

 

決まってしまった。最後に和了ると役がつく。これが天江 衣

 

ー東四局ー

 

この局も十六巡目まで鳴いてズラすこともできないし、かといって自力で和了ることもできない。しかもこのまま進めばまた海底牌をツモるのは衣姉さんだ

 

「カン!」

 

あちゃー。風越の人がカンして咲が欲しい牌が取られちゃったよ。でも最後の海底牌も王牌(ワンパイ)に取り込まれた。これで海底と嶺上開花を同時に潰したか

 

「ポン」

 

「なっ!」

 

「{北}ポン{北}ポン」

 

衣姉さんが咲の切った{北}を鳴いて海底コースに戻ってしまった

 

「ツモ。海底撈月」

 

今回の和了りは海底のみ。でもカンドラ三枚。風越の人がカンしなかったら海底は防げてたし咲が和了れたかもしれない

 

「失礼」

 

風越の人はカンしたときに王牌に取り込まれた牌を確認した。おそらくカンではなくポンにすればよかったと思っているのだろう

 

『二連続海底ツモ!龍門淵高校天江 衣の二連続海底ツモで再び龍門淵高校がトップに躍り出ました』

 

「ここまで嶺上、嶺上、流局、嶺上、海底、海底だじょ」

 

「偶然にしても酷すぎます」

 

「エニグマティックだじぇ」

 

嶺上の花が咲いて海底の月が輝く、まるで花天月地だな

 

ー南一局ー

 

親は衣姉さんか。まだ海底しか出してないけど、親だしそろそろ打点の高い和了りも出してきそうだな

 

「チー」

 

開始早々風越の人が鳴いて、その後も三連続萬子ツモ。そして…

 

「ポン!」

 

衣姉さんからも鳴く

 

『手の進まない鳴きからその打牌。凡ミスだな』

 

そう。風越の人は鳴きからあまり有効牌の増えない{二萬}を切ってしまった。それからは鳴けず有効牌も来なかった

 

『天江選手は十巡目に平和(ピンフ)を張って以来ずっと(ダマ)ですね。リーチしないのはトップ親だからですか?』

 

『いやいや』

 

「ポン」

 

『えー!』

 

『こうするんだよ』

 

咲から鳴いて平和の黙から役なしに。透華さんや和のようなデジタル打ちには理解できないだろうな。しかもこれで海底牌をツモるのは衣姉さんになった

 

「カン!」

 

咲が嶺上開花で和了るためではなくカンした。でもそのおかげで聴牌。でもカンドラは衣姉さんが鳴いた{六萬}。しかしこれで衣姉さんが海底コースからズレた

 

「チー」

 

また海底コース。しかも{赤五筒}が見えた七対子(チートイ)から直撃なら最低でも12000は持っていかれるな

 

『しかしここ数局、天江以外の手の止まりようが異常ですね』

 

『去年はこんなことなかったな。一向聴地獄だとか手が進まないとかよくボヤくやからがいるが、一人が八巡程手が進まない程度のことならそれなりにあることだ。ボヤくなと言いたい。だがこの状況はなんだ。三人が三人流局寸前まで聴牌できない。それが三局連続で起こっている』

 

そして最後のツモ。咲は和了れなかった。そして鶴賀の人がツモる。{九索}を切れば聴牌のところをなんと切ったのは{五筒}だった

 

「ロ、ロン!2000点です」

 

聴牌を捨てての差し込み。あの状況から聴牌を捨てることと咲の当たり牌を予測した技量はすごいものだな

 

衣姉さんは驚いた様子で立ち上がる

 

『あの局面で差し込みとは、鶴賀の部長なかなかやるな』

 

『鶴賀の部長は加治木ではなく蒲原ですよ?』

 

『え!?蒲原が!マジで!?』

 

その驚きは失礼ではないだろうか…

 

ー南二局ー

 

さっき咲に差し込みを見せた鶴賀の人はいきなり{三筒}を切るというセオリー外から始まった。まぁ普通に打ってもそのうち一向聴地獄、ならセオリーから外れてみるのも一つの手だ

 

「リーチ!」

 

そしてたった八巡目に鶴賀のリーチ

 

「ロン。立直、一発、裏裏。12000」

 

そのリーチに風越が一発で振り込み。これで風越の点数は60000点を切ってしまった

 

そしてこの和了りを機に、衣姉さんは本性を現した

 

「っ!」

 

「?どうしました?翔さん」

 

「いや、大丈夫だ…」

 

やっぱり和は感じていないのか。対局室でも鶴賀の人は立ち上がり咲も驚いた表情で衣姉さんを見ている。風越の人は何が起こっているかわかってないようでキョトンとしている

 

「あの、翔さん…?」

 

「ん?どうした?和」

 

「よ、よろしければ…お休みになりますか…?」

 

和は顔を赤らめながら自分の膝をポンポン叩いてオレに提案してきた

 

「えっと…提案は嬉しいんだが、みんなもいるから…」

 

「そうですか…」

 

「あぁ〜…こ、今度お願いするよ…」

 

「本当ですか!?」

 

「お、おう…」

 

「約束ですよ?」

 

「わかった…」

 

断られたことで残念がったと思いきや今度は期待の笑みを浮かべる和

 

「あら〜?和も随分大胆になったわね」

 

「はっ!え、えっと!今のは!うぅぅぅ…」

 

和は今度は恥ずかしがって顔を赤くしている。てかみんな咲の応援に集中しなよ

 

ー南三局ー

 

さっきの局、鶴賀は衣姉さんの支配に逆らって和了ったと思っているだろう。しかしそれが自力で和了ったのではなく、衣姉さんによって()()()()()()()()()()()()()()()()と誰も考えないだろう

 

「ポン」

 

衣姉さんがいきなり鶴賀から{一筒}を鳴いたおそらくここから姉さんの本領発揮かな

 

「ポン」

 

そう思っていたら衣姉さんが風越から{五筒}を鳴いて二副露(ツーフーロ)。しかも{赤五筒}が二枚見えた

 

そして次の巡で風越が{一索}を切ったそのとき…

 

昏鐘鳴(こじみ)()が聞こえるか?ロン。12000!」

 

きたか。衣姉さんの本質は海底ではなく打点の高い和了りだ

 

「世界が暗れ塞がると共にお前達の命脈も尽き果てる」

 

風越は二連続でハネ満を振り込む形となった。てか相変わらず衣姉さんの言うことはたまによくわかんなくなるな

 

ー南四局ー

 

もう前半戦オーラス。咲は振り込んでないにしても一位の衣姉さんとは大分差がついちゃったな

 

「ポン!」

 

全局同様姉さんによる早い段階での鳴き。しかもダブ南

 

「ツモ。3000・6000!」

 

ビー!

『前半戦終了!龍門淵高校天江 衣、独走状態。他校を一気に突き放しました。勝負はこのまま決着か?それとも他校が巻き返すのか?残るは後半戦半荘一回です』

 

圧倒的とはこのことかな。でもオレ的には咲はもう少し善戦できてもおかしくないんだけど…あ、もしかして…

 

『ただいまより五分間の休憩に入ります』

 

『しかし圧倒的展開となりました。龍門淵の天江 衣、二位の清澄宮永になんと27000点もの差をつけて現在トップ。後半戦、このまま龍門淵が押し切るのか?名門風越は絶望的とも思える点差の壁を超えられるのか?それとも新参二校が龍の尾を掴むのか?』

 

衣姉さんは悠々と対局室を出ていった。風越自身の点数に絶望を感じているのか卓に伏している。咲はなにか慌てた様子で部屋を出ていった。はぁ…やっぱりそういうことか。それに続いて鶴賀の人も出ていった

 

「さてと、ちょっと出てきます」

 

「ん、わかった」

 

「私も行きます」

 

オレに続いて和もぬいぐるみを置いて立ち上がり一緒に控え室を出た

 

「和も気づいてたのか?」

 

「?何にです?」

 

「咲の調子」

 

「はい…なんとなくですが、部活のときや合宿のときとは違って…なんというか、おとなしいと言うか…」

 

「そうだな。なんとなく言いたいことはわかったよ」

 

まぁ今からそれを確かめに行くんだけどな。咲のあの慌てようからしてトイレかな?でもどうせあいつのことだから迷ってんだろうな

 

「こっちかな」

 

「え、そっちは対局室とは逆方向ですよ?」

 

「う〜ん。なんかこっちにいる気がするんだよ。勘だけどな」

 

「そ、そうですか…」

 

ま、信じられないよな。あっ

 

「いた」

 

「え、ホントですね…」

 

「咲ー」

 

「宮永さん!」

 

「…翔くん!原村さん!」

 

咲がいるというオレの勘を頼りに進んだ方にホンに咲はいた。オレもビックリ。だってほとんど適当だったし…

 

「なにしてるんですか!?大将戦の途中なんですよ!?」

 

「まぁまぁ和。どうせ迷子になってたんだろ?」

 

「…う、うん」

 

「また迷子ですか…」

 

和は相当心配していたようで、対局室に戻らずほとんど逆方向のこんなところをうろついている理由がただの迷子と聞いて少し呆れているようだ

 

「宮永さん…」

 

「うん?」

 

「覚えていますか?初めて私達が麻雀を打った日のことを。あのときのあなたは中学生大会チャンピオンだった私のプライドを粉々にしたんですよ!?」

 

「でも、あれは…」

 

そこでオレは咲と目が合ってしまう

 

「確かに翔さんのせいというのは聞きました」

 

あれぇ〜?オレのせいなの?

 

「でも合宿の日のことを忘れたんですか!?あなたは本当に強かった。あの日のあなたはどこに行ってしまったんですか?あの自身に満ちたあなたは!?」

 

あれ?もしかして和はわかってないのか?

 

「は、原村さん」

 

「はい!」

 

「あぁ、和。その、なんだ。咲は別に調子が悪いわけじゃないぞ?」

 

「……え?」

 

「前半戦はその、お、おトイレ我慢するのに集中しちゃって…」

 

「…」

 

「このおバカ。対局始まる前に行っとけよ…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

オレは咲のおバカ加減に頭を抱える。和はそう聞いてさっきの自分のセリフを思い出して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしている

 

ピンポーンパーン

『間も無く大将後半戦を開始します。出場選手は速やかに対局室に戻ってください』

 

「ほら、行くぞ」

 

「急ぎましょう!」

 

「うん!」

 

和は咲の手を握り走り出す。咲もそれに引っ張られて行ってしまった。オレ置いてけぼり……仕方ない、一人で戻るか

 

「翔くんっす!」

 

「のわっ!」

 

控え室に戻ろうと歩き出した瞬間、後ろから大声と共に何かが抱きついてきた

 

「モモ!」

 

「はい!私っす!」

 

「危ないから後ろから勢いよく抱きつくのはやめてくれ」

 

「前ならいいんすか?」

 

「揚げ足を取るんじゃない。前からもダメに決まってんだろ」

 

「えー…翔くんは意地悪っす」

 

「いや、普通だから」

 

そういえばモモはだっから来たのだろう?モモも鶴賀の大将さんのとこにいたのかな?

 

「あ、モモ。副将戦お疲れ。すごいじゃんか、個人点数トップなんて」

 

「えへへ〜♪翔くんに褒められたっす♪」

 

なんともいい笑顔をするモモ

 

「さてそろそろ後半戦始まるし、戻りな」

 

「あ、そうっすね…」

 

「そう残念がるな。会いたかったらいつでも来ればいい」

 

「本当っすか!!?」

 

「あぁ、もちろんだ。咲や京太郎も呼んどくよ」

 

「……」

 

「ん?モモ?」

 

なぜかモモは黙ってしまった

 

「…………

 

「へ?」

 

「翔くんのバカーー!!!!!」

 

「んがっ!!!」

 

何を言ったか聞こえなかったから耳を近づけたら今度は大声でバカと言われた。なぜだ?解せぬ。てか耳痛い…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話


今回前よりもすごく長めです…




 

まだキンキンする耳を抑えながらオレは控え室に戻って来た

 

「戻りました〜」

 

「あら、和と一緒じゃないの?」

 

「置いていかれました」

 

「あらら、かわいそうに」

 

「部長、絶対思ってませんよね」

 

「ん?思ってるわよ〜」

 

ならそう思ってる顔をしなさいよ。なんでそんなニコニコ顔で言うんすか

 

テレビに目を戻すと咲は既に対局室に戻っていた。ということは和ももうそろ帰ってくるな

 

『県予選大会。長きに渡ったこの戦いもついに天王山、ファイナルゲーム!泣いても笑ってもこの戦いが終われば全ての決着がつきます!』

 

バタン!

「はぁ…はぁ…戻りました!」

 

「おかえり」

 

最後の対局が今始まるというところで和が戻って来た。膝に手を置いて息を荒くしている。走って来たのだろう

 

『後半戦、開始です!』

 

ー東一局ー

 

後半戦は風越の親から始まった。しかし風越の点数は前半戦を終えて40000点を切っている。風越を飛ばさずに衣姉さんをまくることが要求されるが咲は大丈夫か?

 

十六巡目までが全員門前(メンゼン)。このままだと最後の海底牌(ハイテイハイ)を掴むのは衣姉さんになっちまう

 

「リーチ」

 

そんなこと思ってたら衣姉さんのツモ切りリーチ。海底といい前半戦の最後に見せたあの鳴きからの速攻の和了りといい速度の緩急が凄まじいな

 

「ツモ。6000・3000!」

 

『さ、三回目の海底撈月(ハイテイラオユエ)!これが全国レベルの力なのか!?』

 

それに加えて風越の親被り

 

「またか…」

 

「十七巡目にツモ切りリーチ…」

 

「ありえません…」

 

染谷先輩も部長も和もこの状況に唖然としている

 

『これで天江選手は三回も海底を和了ったことになります。異常ですよ…』

 

『海底どころか全てが異常だ』

 

『全て?』

 

『天江以外の三人は配牌とツモを合わせても国士無双(コクシムソウ)以外では聴牌(テンパイ)できない。完全に近い一向聴(イーシャンテン)地獄。鳴くチャンスもほとんどないな』

 

『つまり、天江の海底を防ぐチャンスはなかったと…?』

 

『ほぼな。それでも海底を防ぐ方法は一つだけあった。清澄の{四索}』

 

『確かに清澄が{四索}を切れば鶴賀が鳴いて潰せましたね』

 

『だが捨てなかった』

 

『普通は鳴けるかなんてわかりませんよ。それに天江が確実に海底で和了れるわけでもないし』

 

『まぁな…あむっ』

 

咲がそう簡単に槓材切るわけねぇだろ。てかまだ食ってんのかよ

 

ー東二局ー

 

『さぁ、東二局は天江が親です』

 

「わーい!衣の親番だー!サイコロ回れー!」

 

こう見てるとホントに年上には見えないよな〜

 

八巡目

 

「ロン。断么九(タンヤオ)、三色、ドラ2。12000」

 

『風越に龍門淵の親満が炸裂しました!』

 

おいおい、やべぇぞ…風越また振り込んだ。ホントに飛んじまうぞ!

 

ー東二局 一本場ー

 

六巡目

 

「ロン。7700の一本場は8000!」

 

風越の人は今にも鳴きそうで顔を手で覆っている。この点数だけに手を高く仕上げようとしているんだろうけど、それが仇となって衣姉さんには読まれやすい

 

ー東二局 二本場ー

 

「ロン。ダブ東、ドラ2。12000の二本場は12600」

 

前の鶴賀の{東}をスルーしてからの風越への直撃。しかも手を安くしての和了り。ここまで来たら衣姉さんの元物しか安牌わかんないよな

 

「わーい!」

 

風越の点数は()()。つまり対局はまだ終わってない。また衣姉さんの悪い癖が出たかな。全くあれほどやめなさいって言ったのに…でも今回はその悪い癖に感謝かな

 

『な、なんと風越!今の振り込みで持ち点が0になりました!』

 

「風越が0点ぴったりだじょ」

 

「なんじゃ、0点じゃ飛びにはならんのか」

 

「この大会では続行ね。首の皮一枚繋がった感じかしら」

 

「でも誰かがツモ和了りをして0点未満になったら、その瞬間にゲームが終わり」

 

「はっ!」

 

「和は意味わかったよな…?」

 

「…嶺上開花が、できない…」

 

「正解だ」

 

でも姉さん、今風越を飛ばさなかったのを後悔することになるよ。オレはそう思いながら画面の咲に目をやる

 

「…?」

 

「のどちゃん?」

 

「さっき、一瞬映った宮永さんの顔が笑っていたような…」

 

「咲が?」

 

ははは…そりゃこんな強敵。咲も楽しくないわけがないでしょ

 

『大将後半戦、開始直後からとんでもないことになってしまいました!前年度の覇者、龍門淵高校の天江 衣が四連続和了(ホーラ)!前半戦から含めると六連続!まさにラッシュ!その親はまだ継続中!一方、現在最下位の風越女子の点数はなんと0点ジャスト!生きていても死と隣り合わせ!風越が振り込んだり風越以外がツモ和了りしたりし瞬間に龍門淵の優勝が決まります!つまり清澄と鶴賀は風越以外からの出和了りしかできません!点差だけでなくこの状況も苦しい!』

 

「トップとの点差は77400点。しかも龍門淵の天江か鶴賀の加治木から直撃で取るしかない、か…」

 

「キツい露見戦じゃ」

 

「ダブル役満ならツモってもあのお子様をブチ抜けるじょ!」

 

「この大会のルール覚えてないのか?優希。今年の大会にダブル役満はねぇぞ」

 

「マジで!赤ドラ四枚入ってるのにダブルはないのか。変なルールだじぇ」

 

ルールを覚えていない優希の発言にオレが指摘してやると隣の和は何やら渋い顔をしている。おそらく今の会話で役満自体は無理じゃないみたいな会話だとか思ってんだろう

 

ー東二局 三本場ー

 

風越にはもう戦うという正気が見られない。諦めたらダメだぞ。どこかの某バスケ部の監督さんが言ってたじゃないか。”諦めたらそこで試合終了だよ”って

 

そんな戦う気も薄れてしまったような風越に反して手牌は四巡目にしてドラ4聴牌。点棒ないからリーチかけられないし役がないから和了れない。まぁ不聴(ノーテン)罰符で死ぬことはなくなったけど

 

するとその後いきなり衣姉さんがいきなり風越の待っている{六筒}を切った。しかしそれを…

 

「ポン!」

 

咲が鳴いた。そして次の巡

 

「カン」

 

ツモった{四索}でカン。そして王牌(ワンパイ)から取ったのは{六筒}

 

「やったー!嶺上開花!」

 

「何言うとるんじゃ」

 

「え?」

 

「ここで和了ったらうちの負けが確定しちゃうでしょ?」

 

「あ、そっか…」

 

そういうことね。咲は優しいね〜

 

「もう一個カン」

 

咲は今取った{六筒}をカン

 

「えっ!」

 

「なに!」

 

そりゃあ驚くわな。だってカンする意味がないし

 

「ロ、ロン!槍槓(チャンカン)、ドラ7!16900!」

 

風越が点数宣言する前に点棒用意してやがった。やっぱり狙ってやったか

 

『か、風越倍満!風越女子の池田!決勝戦初の和了りで絶体絶命の窮地を脱出!そしてそして、なんとも珍しい槍槓がこの決勝で出ました!』

 

おぉ〜衣姉さん驚いてる驚いてる

 

「うちが三位に…このままじゃ全国に行けないじょ…!東京のスパで私の水着が披露できなくなっちゃうじょ…」

 

「は?水着?」

 

「おっ!食いついたね!私の水着に食いついたね!毎日のどちゃんのおっぱい吸ってるから夏にはすごいことになってるじぇ!?」

 

「そんなことさせてません…」

 

「大体、お前の存在と水着というアイテムの接点がねぇよ。どこで繋がんだよ…?」

 

「なぬっ!私の夏のグラマラスボデイーを見てから言うんだな、小僧!」

 

「はいはい…」

 

二人の夫婦漫才久々に見た気がするな

 

「翔!お前はどうだ!?」

 

「は?オレ?」

 

「あぁ〜、翔は咲ちゃんとのどちゃんがいたか」

 

「はい!ちょっ!優希!」

 

「確かに咲も和も可愛いからどんな水着も似合うと思うが…お前はスク水以外着れんのか?」

 

「〜!!!!」

 

「お前も私をバカにするのか」

 

「ほらほら、その話は後にして咲の応援に集中しなさい。菊池くんも発言には気をつけて。あなたのさっきの言葉で和がこんなんになっちゃったじゃない…」

 

「へ?あ…」

 

そこには耳まで真っ赤になっている私がいらっしゃった

 

「あぁ、わりー。和」

 

「い、いえ…」

 

なんでそうなったかはわからないがなんとなく申し訳ない気持ちになったから謝っておいた

 

ー東三局ー

 

風越がなんとか0点からは脱したものの残りの局数はわずか。風越が全国をまだ狙うならあと一回の親で連荘(レンチャン)するしかないな

 

「にゃーーーーー!!!!!!」

 

突然風越の人が雄叫びをあげた。というかうるさいし迷惑…

 

「誰か牌弄った?」

 

は?んなわけねぇだろ。それやったら反則だしそれに全自動卓だぞ。まぁさっきまでの地獄の時間とは感じが違うのだろう。()()()()でな

 

『突然大声をあげた風越の池田。どうしたのでしょういか…?スポーツでも大声を出すとアドレナリンが出るって言いますよね』

 

『カラオケ、行きたいな…』

 

麻雀関係ねぇな。衣姉さんはさっきから咲のこと見すぎじゃね?

 

十巡目

 

「リーチせずにはいられないな」

 

風越のリーチ。でかいな

 

立直(リーチ)、一発、自摸(ツモ)平和(ピンフ)純全三色(ジュンチャンサンショク)一盃口(イーペーコー)、ドラ3!32000!」

 

『数え役満!』

 

「そろそろ混ぜろよ」

 

『風越が二連続和了りで一気に0点から復活!まだ戦いは終わらないか!?』

 

役満ツモられての親被り。まぁ今の咲なら心配ねぇだろ

 

ー東四局ー

 

「チー」

 

「チー!」

 

親の鶴賀による二副露

 

「ロン。11600」

 

鶴賀が衣姉さんから和了った。点は低いものの衣姉さんから直撃で取れるのはすげぇな。前半戦も咲が躱してなければ槍槓和了ってたかもしれないし、この人も只者じゃないな

 

ー東四局 一本場ー

 

「一本場」

 

今和了った鶴賀が宣言してサイコロを回す。咲はまだ本調子じゃないのか?すると…

 

「あの、脱いでもいいですか?」

 

「えっ!」

 

「靴」

 

「あ、あぁ…靴…?はぁ…」

 

咲が係りの人に尋ねたけどいきなり脱ぐと言われたらそりゃ戸惑うわ

 

『清澄高校宮永選手…いきなり靴を脱ぎ始めました』

 

『あぁ、これはわかる気がするな』

 

『はい?』

 

『新幹線のグリーン車なんかにフットレストがあるだろ?前の座席についてる足を置くあれな。出張のときは私も使うんだが、くつを脱いであそこに足を置くとなんとも楽すぎる。あれがあるとないのでは靴を脱いでいるかないかで快眠レベルで差が生じる。今の清澄はまさにそう!まさに快眠状態!』

 

寝てねぇし!何言ってんの!

 

『まぁフットレストあっても私は足曲げるから疲れますけどね…』

 

『えぇ!ちょっとそれ!私が足短いって意味!?』

 

何の話だよ!全くもってどうでもいい会話だ…でもオレも何で咲が靴を、ましてや靴下まで脱いだのかはわからねぇな…

 

ー東四局 一本場ー

 

「ツモ。500・800です」

 

やっす。でも点差に縛られてたら衣姉さんの支配から逃れられない。何か考えがあるんだな…?

 

ー南一局ー

 

これが風越にとって最後の親番。何が何でも連荘したいはずだ。だけど…

 

「カン」

 

咲による加槓(カカン)

 

「ツモ、嶺上開花。300・500です」

 

またもやゴミ手。普通の人達のは理解ができないだろうな

 

ー南二局ー

 

「カン」

 

またもや咲のカン

 

「もう一個カン!」

 

しかも今回は連槓(レンカン)。ここで和了るかと思いきや

 

「…切りました」

 

「あ、あぁ…」

 

鶴賀の人も咲が嶺上開花で和了ると思っていたのだろう。反応が少し遅れた

 

 

「リーチだし!」

 

しかも咲の連槓のおかげで風越の手牌がドラ1一向聴が断么九ドラ9に化けた

 

「早くツモれよ〜」

 

それを衣姉さんも感じ取ったのか表情が硬くなった

 

「ロン。110符1飜、3600です」

 

和了ったのは風越ではなく咲だった

 

「110符1飜とか珍しい点数じゃのぅ」

 

連風対子(レンプウトイツ)を4符とする今回の特殊なルールならではってところかしらね」

 

「特殊?ってどんなところが?」

 

「今回のルールはいろいろと変わってるんだ。赤ドラ四枚あるのにダブル役満はないときた。それに大明槓(ダイミンカン)からの嶺上開花は責任払いとかもある。連風対子っていうのは東場の親と南場の南場(ナンチャ)、俗に言うダブ東ダブ南の対子のことだ」

 

「へぇ〜」

 

「貴様!それでも麻雀部員か!」

 

「ぐふっ!」

 

オレが丁寧に説明してやったのにそれを知らなかった京太郎に優希が鉄拳を食らわした

 

『勝負はもう南三局。あと二局を残すのみとなりました!』

 

咲は今まで三連続安手。だが衣姉さんの支配の中で三回も和了った。今までが肩慣らしだとしたら、そろそろかな…?

 

ー南三局ー

 

親は咲

 

{二索三索三索三索四索六筒六筒八筒三萬八萬中西北}

 

切ったのは{北}

 

二巡目、ツモったのは{八筒}。切ったのは{西}

 

三巡目、ツモったのは{三索}。切ったのは{中}

 

四巡目、ツモったのは{八筒}。切ったのは{八萬}。そして…

 

「ポン」

 

鶴賀の切った{六筒}を鳴いた。そして切ったのは{三萬}。聴牌に取らないことにみんな驚くかな

 

しかし風越の人も五巡目にして国士無双を聴牌した。あまり目立ってはないけどこの人の引きの良さもすごいものだな

 

『風越の池田!逆転に繋がる国士無双を聴牌!龍門淵の天江が降りたら{北}が出るかもしれませんね』

 

『それはどうかな。それよりも清澄の{六筒}ポン…あれがなければ天江が倍満をツモって和了っていた。この南三局は終わっていたはずなんだ』

 

さすがプロ、いいところに目をつけるじゃん。でもそれは別に衣姉さんに和了らせないためにでも風越に注意を逸らさせるための鳴きじゃない

 

「カン!」

 

「もう一個カン!」

 

『嶺上牌は二連続で{二索}!嶺上開花だ!』

 

ところがどっこい

 

「カン!」

 

『えっ!』

 

『嶺上開花見逃しの三連続カン』

 

やっとか。なかなか待たせてくれんじゃないの。なぁ?咲

 

「ツモ。嶺上開花、断么九、対々子(トイトイ)三暗刻(サンアンコー)三槓子(サンカンツ)。8000オール!」

 

『三連続カンからの嶺上開花!清澄高校宮永選手、なんと親の倍満!2000点の手が24000点に化けた!』

 

「咲!」

 

「咲ちゃんがやったじょ!」

 

「龍門淵との点差が45100点じゃ!」

 

「やっときたわね」

 

控え室のみんなは歓喜の声をあげる

 

衣姉さんは驚きのあまり立ち上がった。どうだい?衣姉さん。咲はすげぇだろ。その子は姉さんが手の届かないところで花を咲かすぞ

 

そして南三局の一本場が始まるというところで、なんとテレビの画面が消え電気も消えた

 

「きゃっ!」

 

「停電ってちょっとワクワクするわよね」

 

「ほうか?」

 

染谷先輩が携帯を開く。オレはというと右腕を和にガッチリホールドされていた。いや、暗いのが怖いのはいいんだよ…?でもな、和ってなかなか、というより結構発達してる部分があるわけよ?それにオレの腕が飲み込まれてるわけで…はっきり言うとオレの理性がヤバい!!!!

 

「の、和…大丈夫だから…離してくれないか?」

 

「ご、ごめんなさい…わ、私…暗いのとかダメで…」

 

なんとも今にも泣きそうな声で、しかも体は震えている。こんな状態の子を無理矢理引き剥がすわけにもいかないので空いてる片っぽの手で和の頭を撫でてやった

 

そして三分もしないうちに明かりがついた

 

「のどちゃん、明かりついたじょ?」

 

「ほら、和」

 

「…はっ!すみません!」

 

和が目を開て上を向くとそこにはオレの顔があって驚いたのか顔を真っ赤にして離れた

 

『停電!館内が停電していましたが、今復旧しました。試合再開です』

 

ー南三局 一本場ー

 

『勝負は南三局の一本場。この点数状況、現在最下位の風越は絶望的。トップの龍門淵から二連続で役満を和了っても優勝することはできません!』

 

対局室にはこの実況は聞こえない。しかしそんな実況をされているにも関わらず風越の人は笑顔を見せていた

 

十二巡目

 

衣姉さん以外はここにきてまた手が進まなくなっているようだった

 

「ポン」

 

衣姉さんが鳴いてこれで海底コース。他家(ターチャ)は全然聴牌できていない様子

 

「ツモ!」

 

『と、四度目の海底撈月!龍門淵高校天江 衣、連荘で追いかけ始めた清澄の親を一蹴!』

 

オーラスか

 

『圧倒的な点差でオーラスを迎えた前年度覇者、龍門淵。二位清澄との点差は63500点。役満直撃以外では逆転不可能。ある意味三位の鶴賀の方が親で連荘し続けれことでの逆転の可能性はあると言えるかもしれません』

 

「言いたい放題言われてるわね」

 

「まぁそうとしか言えんじゃろ」

 

「のどちゃんはどう思う?」

 

「確かに、ここからの逆転するなんて非現実的かもしれません…でも、宮永さんは戦う気持ちを失っていません!」

 

「そうね」

 

咲…衣姉さんは強いだろ。今お前は自分が望んでる人の一人と戦ってるんだぞ?だから、勝ってこい!

 

ー南四局ー

 

{一筒二筒二筒二筒三筒四筒一萬四萬三索八索南發中}

咲の手牌はこうなっている

 

そして八巡目、風越が四暗刻(スーアンコー)単騎自摸を仕上げた。しかし風越はそれを和了らなかった…まだ勝ちを諦めていないようだった

 

『か、風越池田!役満ツモを拒否!』

 

『当然だ』

 

そして次の衣姉さんの番。姉さんは山から牌を掴むとそれを手牌に入れるときに一度躊躇した。自分が狙った牌じゃなかったらしいな

 

咲の手牌はというと

{一筒一筒一筒二筒二筒二筒二筒三筒三筒三筒三筒四筒四筒}

とすごいことになっていた

 

「咲ちゃん、手牌がすごすぎるじょ…」

 

「そんな…」

 

優希と和も驚いた声を出している

 

そしてここまで迷いのない打牌を見せてきた衣姉さんの手がここで()()()()。衣姉さんが迷っている…おそらく自分の感覚と実際の状況で混乱しているのだろう

 

「麻雀って楽しいよね」

 

衣姉さんが迷っている中咲が突然離し出す

 

「今日もいろんな人と打って本当に楽しいよ。私は前は麻雀が楽しくないって思ってたけど、ある人が麻雀は楽しいって思い出させてくれた。だから今は麻雀を打つのが楽しいよ」

 

なんだか咲が姉さんにでなくカメラに向かって言っているように感じるのはオレだけかな…?

 

「楽しい…?ころもと麻雀を打って、楽しい…?」

 

「うん!一緒に楽しもうよ!」

 

衣姉さん。いただろ?オレ以外にも姉さんを楽しませられる、姉さんを負かす人はいるって

 

そして意を決したのか、衣姉さんが{一筒}を切った

 

「和了るか…?」

 

「ううん、それでロンしたら私の負け。でも…」

 

咲はそう言って手牌にある三枚の{一筒}を倒す

 

「カン」

 

{一筒}を大明槓。責任払いか

 

『大明槓からの責任払いって珍しいルールですよね?』

 

『知人が所属するプロの団体では採用していたが私は苦手だな…』

 

「もう一個カン!」

 

「バカな!」

 

連槓。それだけで珍しいものなのに咲は前々局でもそれをしている。対局室でもありえないと思われていることだろう

 

「もう一個カン!」

 

ははっ!咲、楽しそうだな

 

「ツモ…清一色(チンイツ)、対々子、三暗刻、三槓子、赤1、嶺上開花。32000です!」

 

『か、数え役満!!清一色、対々子、三暗刻、三槓子、赤1嶺上開花!32000点の責任払いで清澄高校の逆転優勝!!!』

 

『三連続カンからの嶺上開花。責任払いによって逆転か…ただの連槓からでは四暗刻聴牌止まり。天江 衣の{一筒}を大明槓してこその数え役満。ふっ、久しぶりに見た。あれだけ牌に愛された人間を』

 

『清澄高校、団体戦優勝!全国大会決定です!』

 

控え室では部長と染谷先輩がハイタッチをし、優希が和に抱きつき、京太郎はガッツポースをしている

 

「さて、お迎えに参りますか」

 

「あ、私も行きます!」

 

オレと和は走って対局室に向かった

 

「宮永さん!」

 

「あ!原村さん!」

 

二人は抱きしめ合って喜びを分かち合っている

 

「よっ、姉さん」

 

「しょーか…」

 

「どうだった?」

 

「うむ、しょーの言う通りだった」

 

「だろ?」

 

オレは膝をついて衣姉さんの頭に手を乗せる

 

「麻雀、楽しかったか?」

 

「うん!」

 

「そいつはよかった」

 

そして一撫ですると姉さんは廊下を走って言ってしまった。この対局は咲にとっても衣姉さんにとってもとても価値のある試合になっただろう

 

「翔くん」

 

「美穂子さん」

 

「優勝、おめでとう」

 

「あぁ、ありがとう」

 

風越の大将さんを迎えに来ていた美穂子さんに最後にそう言われた。美穂子さんはそれを言っただけで戻って行った

 

そして後から来た部長達と一緒に記念撮影をしてから既に暗くなった道を帰った

 

こうして県予選女子団体戦は清澄高校の優勝&全国行きで幕を閉じた。次はオレの番だな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、翔くん…勝ったのになんで違う子の方に行ったのかな…?今度詳しく聞かないと…」

 

「翔さん…優勝を決めたのに…どうして何も言ってくれないんですか…」

 

「翔くん…龍門淵の人達との関係、詳しく話してもらうからね…」

 

「翔くんはおバカさんっす…今度会ったときは覚悟しておいてくださいっす…」

 

「翔…衣の頭を撫でてなんで僕にはしてくれないのさ…そういう贔屓は、ダメだよね…」

 

 

はっ!!な、なんか悪寒が…





女子団体戦が終わりました!次は団体戦男女の個人戦なのでようやく主人公も対戦できます!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話

前回個人戦と言ったんですが、プールに行っていたこと忘れていたので個人戦は次回です



 

女子団体戦の県予選も終わり、無事に清澄高校は全国行きを決めたのだった。それは誠に嬉しいことだ。しかし今の状況はなんだ…

 

「…」

 

「…」

 

「あの〜…美穂子さん…?」

 

「なにかな…?翔くん…」

 

「ひっ!!」

 

県予選決勝を終えたオレはそのまままっすぐ帰ってきた。帰り道では咲と和が「翔くん、なんで…」「翔さん、どうして…」と何やら怖い独り言をオレの両サイドで言っていたが、それ以外は何もなく帰ってきたはずだった

 

しかし突然美穂子さんから呼び出しを受けた。なんだろと思って美穂子さんの家に行ってみるとそこにはいつも通り笑顔の美穂子さんがいた。しかしその笑顔の背後には何やらドス黒いオーラのようなものが見えていた。そして美穂子さんの部屋に連れていかれるや否や「そこに正座…」と言われてオレは何も言えず正座すること一時間…今に至る…

 

「あの、何か怒ってらっしゃいます…?」

 

「そんなことないわよ…?どうしてそう思うの…?何か私を怒らせるようなことに見覚えがあるの…?」

 

「ひぃぃ!!」

 

正座はしたものの美穂子さんはなにも言ってこない。怒っているのは確かだろう…しかしその原因がわからない

 

「美穂子さん。美穂子さんを不機嫌にさせたなら謝ります。なので何で怒っているか教えてくれませんか…?」

 

「ふふふ、翔くんはお利口さんですね…でも自分でわからなきゃダメだよ」

 

どうしろってんだ…そろそろオレの足も限界…斯くなる上は!

 

「美穂子さん…ごめん!」

 

「えっ…きゃっ!!」

 

オレは勢いよく立ち上がって美穂子さんを抱きしめた。なぜこんなことをするのかというと、昔にも何かの拍子で美穂子さんがすごく怒ってしまったときに美穂子さんのお母さんからこうすれば素直に教えてくれると言われたからだ

 

「美穂子さん…」

 

「ひゃっ!み、耳元で喋らないで…」

 

「教えてくれよ。何でそんな怒ってるんだ…?オレ何か悪いことしたかな…」

 

「…。しょ、翔くんが私の知らないところで私の倒したかった相手と知り合いだったから」

 

倒したかった相手?あぁ、龍門淵の皆さんのことかな?

 

「それで、私よりそっちの方を応援してるのかなって思ったら不安で…」

 

美穂子さんはそこで涙を流し始めた

 

「…バカだなぁ」

 

「え…?」

 

「オレが美穂子さんのこと応援しないわけがないだろ。実際決勝の先鋒戦でも一番強いのはうちでもなく龍門淵でもなく美穂子さんだと思ってたよ」

 

「翔くん…」

 

「確かに龍門淵の皆さんとも知り合いではあるけど、それよりも付き合いの長い美穂子さんを応援しないっていう選択肢はオレの中にはないよ」

 

抱き締めるのをやめて美穂子さんを見ると手で口元を隠して泣いている

 

「だから個人戦頑張ってよ!日にち的にオレも試合があるから応援行けるかわかんないけど…」

 

「翔くん…うん!頑張るわね!」

 

「おう!」

 

最後にはさっきまでの笑顔とは違う、いつもの美穂子さんの笑顔を見せてくれた

 

「じゃあオレは帰るな。美穂子さんも早く寝なよ?」

 

「あ、翔くん」

 

「ん?」

 

チュッ

 

ドアへ歩き出そうとしたオレは美穂子さんに呼ばれもう一度振り向こうとしたが、その瞬間頰に柔らかい感触が伝わった

 

「!!!!?」

 

「ふふっ♪翔くんも個人戦頑張ってね♪」

 

「え、あ、あぁ…」

 

オレは思考が働かず、その後の記憶が全くなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。普段通り美穂子さんはオレのことを起こしに来てくれた。その美穂子さんのいつも通り具合にオレは昨日のことは夢だったのかと思って家を出た

 

今は学校の授業も終わり部室へ咲と向かっているところだ

 

「あ、原村さん!」

 

「宮永さん!翔さん!」

 

「私達、やったんだよね!?全国出場!これでまだ原村さんと戦えるね!部長やみんなとも!」

 

「えぇ!」

 

「それもいいが、次は個人戦があるんだ。気は抜くなよ?」

 

「は〜い」

 

咲も和も個人戦でも全国を狙える実力の持ち主だ。まぁオレも個人戦で全国行かないとな

 

「あ、そうだ」

 

「なに?翔くん?」

 

「?」

 

「二人とも、優勝おめでとう。副将戦も大将戦もいい戦いぶりだっだぞ」

 

「っ!翔くん…」

 

「翔さん…」

 

二人はそれを聞いて頰を赤らめる。やっぱり一日置いて言ったら恥ずかしかったか?

 

「そ、そういえば今日部長から水着を持って集合って言われてたけど…」

 

「あ、私も…」

 

「オレもだな」

 

「何でだろうね?」

 

「何ででしょうか?」

 

「何でだろうな?」

 

まぁ水着をって言われたらプールぐらいしか思いつかないんだが…

 

「…っというわけで!これからスポーツランドで特訓よ!いいわね?」

 

『えっ?』

 

部室に来たら突然部長が言い出した。ホワイトボードにも“水着で特訓!”と書かれている

 

「それに何の意味があるんでしょうか…」

 

「意味ね〜…なんとなく、じゃダメ?あ、和の水着が見たいから!」

 

「へっ!」

 

「…なぜ、オレを見る」

 

和は顔を真っ赤にしてオレを見てきた

 

「翔くん!」

 

「オレのせいじゃないだろ!」

 

「へっ!だ、ダメに決まってます!」

 

「和の、水着…」

 

京太郎は和の水着姿を想像したのかだらしのない顔になっている

 

「そうかそうか、そんなに私の水着が見たいか。ならば存分に見せてやろう!期待しろ!」

 

「しねぇよ…」

 

「なにを!」

 

「とにかく、みんな県予選団体戦を勝ち抜いたんだし、そのご褒美よ。それから今週末から始まる個人戦への英気を養うってのも兼ねてるわ。さっ!出発よ!」

 

「おー!」

 

ご褒美?なら特訓と書いた意味は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ースポーツランドー

 

オレと京太郎はただ脱いで履くだけなのですぐに着替えを済ませた

 

「お待たせ〜」

 

「はーい。おっ!」

 

少し待ったところで部長達女性組が出てきた。部長は赤のビキニに下には同じ色のパレオを巻いている。染谷先輩は白と緑のボーダーのビキニ。どんだけ緑好きなんすか…優希は学校指定の水着、所謂スク水ってやつにいつもつけている白い猫ののポーチみたいなものをつけている。和は黄色でフリルつきの水着だ。上にはリボンがついていて下はスカートになっている。咲は形はスク水ににているがサイドが水色っぽくて色が分かれている

 

「こ、これは…須賀 京太郎、美味しすぎるぞ!おい!」

 

「バカなこと言ってあんまガン見すんなよ」

 

「とうっ!」

 

「うおっ!な、なんだ!?」

 

「貴様は今からこのボートの動力になれ」

 

「無茶言うな!」

 

優希は準備運動もせずにいつの間にか膨らましてあったボートのような浮き輪を持って飛び込んだ

 

「しょ、翔くん…」

 

「しょ、翔さん…」

 

「ん?どうした?ふたりとも」

 

「え、えっと…」

 

「その、ですね…」

 

二人はもじもじしてはっきりと何を言いたいかを言わない。しかし…

 

「二人とも、その水着似合ってるな」

 

「「っ!!!!」」

 

出てきたときから思っていたが二人ともよく似合っている。でも和はプールにエトペンを持ってきてもいいのだろうか…

 

「そ、それじゃあ私達も行きましょうか」

 

「ん?何か言いたかったんじゃないのか?」

 

「っ!そ、それはもういいです…」

 

「そ、そうか…そういえば咲、お前泳げるようになったのか?」

 

「…」

 

「その様子じゃあまだみたいだな」

 

「そうなんですか?大丈夫!浅いところもありますよ!これ使います?」

 

「ありがとう!」

 

「それ、いつものエトペンじゃないのか?」

 

「?えぇ、これはプール用のエトペンです」

 

和に言われてよく見てみるとそのエトペンはビニール質でできていた。これなら濡れても平気なわけか

 

「じゃあ行くか!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

そしてオレと和、咲の三人は比較的浅いプールへと移動した

 

「ほら、咲」

 

「う、うん。ありがとう、翔くん」

 

オレは咲がこけないようにてを差し伸べる。咲はその手をとってゆっくりと入った。その傍らでは頰をプクッと膨らました和が既に水に入っていた

 

「どうした?和」

 

「なんでもありません!」

 

「?」

 

気になって声をかけてみたがプイッとそっぽを向かれてしまった

 

「翔くん、原村さんの手も握ってあげて?」

 

「み、宮永さん!」

 

「は?なんで?」

 

「いいから!滑ったら危ないでしょ!」

 

「ん〜、それもそうか。ほら、和」

 

確かに滑って怪我でもしたら個人戦にも影響がですかもしれないしな。オレは和にも手を差し伸べる

 

「…いい、んですか?」

 

「もちのろん。ほら」

 

「で、では…」

 

和は恐る恐るオレの手を取った。急に引いたりしねぇから大丈夫だって

 

そして咲が水に慣れてきたのを見計らってみんなでエトペンの飛ばし合いを始めた

 

「それ!」

 

「うりゃ!」

 

「ぐはっ!」

 

『ははははは!』

 

優希のスマッシュが京太郎の腹に直撃。京太郎はダウンした

 

「のどちゃん!いっくじぇー!」

 

「えっ!優希!」

 

「おりゃ!」

 

「きゃっ!」

 

ボヨン

優希は今度はさっきよりも弱いにしても少し強めにエトペンを和に打ってきた。エトペンは和の胸にあたりその衝撃で和は倒れそうになるのをオレは素早く背中を支えて防いだ

 

「大丈夫か?和」

 

「は、はい。ありがとうございます、翔さん」

 

「いいってことよ。でも…」

 

「のどちゃんの胸は反則だじょ!」

 

「あいつには少しお仕置きだな」

 

オレは和にこんな仕打ちをした優希を一度見て、和の胸の反動で宙に浮かび上がったエトペンを見上げる。オレは和を離し落ちてきたエトペンに向かって飛び上がる

 

「うおりゃ!」

 

「なぬ!ぐはっ!!」

 

オレは優希に向かったエトペンをアタック。エトペンは優希の頭にあたって優希も京太郎の隣にノックダウンした

 

「すごいですね」

 

「そうか?たまたまだ」

 

「あの、さっきは助けてくれてありがとうございます…」

 

「気にするな。可愛い子を助けるのは当たり前だ」

 

「そ、そんな…可愛いなんて」

 

「ホントのことだろ?」

 

「翔さん…」

 

可愛いと言われて照れてるのか和は頰を赤らめる。そしてどうしたのんかオレにくっついてきた

 

「の、和…?」

 

「翔さんは、イヤですか?」

 

「そんなん答えられるか」

 

「ふふふ♪翔さん優しいですね」

 

「どこが」

 

和はなぜか背伸びをしてオレの顔に自分の顔を寄せてきた

 

「そこまで!」

 

「咲」

 

「はっ!私ったら、なんてことを!」

 

オレの顔にゴミでもついていたんだろうか。和はそれを取ってくれようとしたのだろうが直前で咲が間に割って入った

 

「翔くんも危機感なさすぎ!」

 

「何のだよ…」

 

なぜか割って入ってきた咲はプンスカと怒っているようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきそっちにVIPルームがあってさ」

 

「そういえばあったな」

 

それは女性組が着替えている間にオレと京太郎が館内に見つけたものだ

 

「へぇ〜。そんなのもあるんだ」

 

「きっとのどちゃんと私用の個室があるんだじぇ!」

 

「何のためにですか…?」

 

「おー!あれあれ!えっ…」

 

京太郎が指差したところからはオレもビックリする方々が出てきた

 

「あの〜、本当に私も泳ぐんですか…?」

 

「ここまできたんだから少しは付き合えよな」

 

「でも私…」

 

「む、無理に泳ぐ必要はないと思いますわ」

 

「とーかは泳げないんだよね」

 

「何をお言いになりますの!庶民と同じ水に入りたくないと言っていますでしょう!!」

 

「あ、透華。前…って!」

 

「あ!しょー!」

 

「姉さん!」

 

そこから出てきたのは龍門淵の皆さんだった。衣姉さんはオレを見つけた瞬間こっちに駆け出してきた

 

「あら、翔さん。ということはあなた達は…」

 

「清澄高校」

 

「龍門淵高校!」

 

京太郎は指を指すな。失礼だ

 

「お前達もVIPルームに遊びに来たのか?」

 

「あ、遊びに!?ここは私の家の所有物ですわ!」

 

「“スポーツランド龍門”か。あぁ、なるほど」

 

「へへ〜ん。すごいだろ」

 

「お前がすごいわけじゃないじょ、ノッポ」

 

「なに〜」

 

「そうでしたか。お邪魔してます、透華さん」

 

「いえ、翔さんは構いませんわ。いずれ招待するつもりでしたの」

 

「それじゃあ私達は行こっか」

 

「そうですね」

 

「お待ちなさい!原村 和!」

 

「はい?」

 

「お〜」

 

「大きい…」

 

なぜか振り向く和に視線が釘づけになる龍門淵の皆さん

 

「な、何ですか!その無駄な脂肪は!」

 

「へっ?」

 

何で透華さんはこんなに和に突っかかるのだろうか

 

「しょー!ころもと遊ぼう!」

 

「この頃遊べてなかったしな、いいよ」

 

「なら僕ともいいよね」

 

「一さん?」

 

いつの間にか一も近づいて来ていた

 

「はらむら ののか!」

 

「あぁ、あのときの!」

 

「ころもだ!ん?これはあのときのぬいぐるみか?」

 

「いえ、これはぬいぐるみではなくビーチボールなんです」

 

「うわ〜♪」

 

衣姉さんはビーチボール版エトペンを受け取ってはしゃいでいる

 

「昨日は楽しかった。決勝戦は楽しかった。こうしてお前に出会えた。あのとき言い忘れていたことがある…」

 

オレはそこで衣姉さんと目が合う。オレは姉さんが言いたいことを理解し頷いた

 

「はらむら ののか、ころもと友達に…友達になってくれないか!」

 

「えぇ!喜んで!」

 

姉さん、よかったな

 

「清澄の大将!」

 

「え?」

 

「昨夜の麻雀は楽しかった!またころもと遊んでくれるか?」

 

「もちろん!」

 

「個人戦に出れば打てますよ?」

 

「ころもは個人戦には出ぬ」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、そうらしいですわ。何度言っても聞きませんの」

 

「ころもは昨日の団体戦で満足した。だからしばらく麻雀はいらない。いつかまた打ってくれるか?しょーも」

 

「うん!」

 

「もちろんだ。いつでもいいよ」

 

「そうか!じゃあ遊ぼう!」

 

「はいよ。ほれ」

 

オレは衣姉さん専用のタクシーになるべく腰を落とした

 

「わーい!」

 

姉さんは背中をよじ登り肩に乗って頭に手を置いた

 

「じゃあ僕はこっちだね」

 

「へ?は、一さん!?」

 

一さんはオレの腕に抱きついてきた

 

「「あぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

急に咲と和が後ろで絶叫した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PLLLLL…

 

「あれ、出ないな〜。ねぇ〜テル〜、ショウ出ないよ〜?」

 

「…じゃあまた今度だね」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話

プールから帰ったオレは携帯を見ると何件もの着信が入っていた。それは全て“淡”からのものであった。オレは部屋のベッドに座り淡に電話をかけ直した

 

PLLLL…

 

「もしもし、淡か?」

 

『あー!ショウ、やっと出たー!』

 

「すまんな。少し出かけててだな」

 

『愛しの淡ちゃんの電話を無視するとは何事か!』

 

「だから悪かったって。それで?要件はなんだ?」

 

『も〜!せっかくの私との電話なんだよ!?もう少しお話するとかないの!?』

 

「はいはい。それで要件は?」

 

『バカ!!!!!』

 

ブチッ!

あの野郎、要件も言わずに切りやがった。なんなんだよ…はぁ、仕方ない…

 

PLLLL…

 

『何さ!』

 

「あぁ、悪かったよ。ごめんよ、愛しの淡ちゃん」

 

『へっ…?ふ、ふ〜んだ…い、今更そんなこと言っても、許してあげないんだから…』

 

「なぁ、許してくれよ。淡に嫌われたらオレ生きて行けないよー(棒読み)」

 

『そ、そうなの…?』

 

「そうだよー(棒読み)」

 

『……な、なら許してあげなくもない、かな…』

 

「ホントか?ありがとう。やっぱ淡はいい奴だな〜」

 

『えへへへ♪』

 

なんとチョロいんだ、お前は…

 

「そういえばそっちは予選どうなったんだ?」

 

『あ!そうだった!それ言いたくて電話したんだった!』

 

ということは東京も終わったのか。まぁ照さんが率いる高校が予選で負けるなんて思ってないけどな

 

『勝ったよ!私達!』

 

「おぉ、おめでとう」

 

『へへ〜ん!私の相手じゃなかったよ!』

 

「淡は麻雀強いもんな」

 

『ぶ〜…私のこと負かしといてよく言うよ〜』

 

「はははは、それもそうだな。とりあえずおめでとう」

 

『ありがとう!』

 

それから三十分ぐらい別に大したことないことを話して電話を切った

 

ちなみに豊ねぇや霞姉さん達、怜と竜華さんや洋姉絹姉、宥さん玄さんも無事に県予選を突破したらしい。残念ながら憩さんは団体戦では全国には行けなかったらしい。でもまだ個人戦は諦めたわけじゃないらしい

 

 

 

そして長野も今日から二日間、男女ともに県予選個人戦が始まる。男子と女子では会場が違かったのでオレと京太郎は男女個人戦の会場に来ている

 

「うわ〜、たくさんいるな」

 

「今の麻雀界は女子の方に傾いているけど男子でもこれだけいるんだな」

 

「緊張してきた」

 

「まぁ初めてだし、そんなもんじゃないか?」

 

『これより対戦表を表示します』

 

そのアナウンスとともにでっかい電光掲示板にA〜Zまでの対局室にそれぞれの高校名と名前が表示された。その中からオレと京太郎の名前を探す

 

「オレは対局室Kか」

 

「オレはSだな」

 

京太郎はKでオレはSとなった

 

「じゃあな京太郎。お互い頑張ろうぜ」

 

「おう!」

 

とは言いつつ京太郎はまだまだ初心者。一回勝てればいいとこかな…

 

『さて、それぞれの対局室に選手が揃いました!県予選男子個人戦、開始です!』

 

さて、初戦の相手はどんなやつかな?オレは他家(ターチャ)の三人の様子を見渡す。オレは今日の朝から考えていたことがあった。それは今日の個人戦、序盤は相手の打ち方を見るために敢えて手を抜くか、最初から他家を飛ばすつもりで全力を出すか。そしてそれは今決めた、飛ばそう

 

ー一回戦ー

 

「ロン。32000」

 

ー二回戦ー

 

「ロン。三倍満」

 

「ツモ。8000オール」

ー八回戦ー

「ロン。32000」

 

『午前の部終了です。お昼休憩を挟んで午後の部を開始しいます』

 

さっきの対局で午前中の八回戦が全て終了した。外の電光掲示板に“一位 清澄高校 菊池 翔”と出ている

 

「ま、こんなもんかな」

 

とはいいつつ正直なところオレは全然満足できていなかった。普段から咲や衣姉さんと対局しているせいか男子は全体的に弱い

 

「はぁ…」

 

「お、おつかれ京太郎」

 

「おう…」

 

「どうだった?」

 

「負けてきた…」

 

「そうか」

 

「清澄の名に泥塗っちまった…」

 

「そう気を落とすなよ。お前の分もオレが頑張るからさ」

 

「翔…そうだな!絶対優勝してくれ!」

 

「おう!任せとけ!」

 

やはり初心者の京太郎はダメだったか。でも京太郎にはまだ来年と再来年が残ってる。その間に強くなればいいだけだ。今回はお前の分までオレが全国もぎ取ってやる

 

「京太郎は女子の方に行ってていいぞ?」

 

「えっ?でも翔はまだ…」

 

「オレは大丈夫だ。オレの分も女子の方を応援してやってくれよ」

 

「そうだな。わかったぜ!」

 

「頼むな」

 

最後にオレと京太郎は互いの拳をぶつけて京太郎は女子の会場へと向かった

 

京太郎を送り出したはいいが午後の部が始まるにはまだ時間あるし、どうすっかな〜

 

「しょー!」

 

「ん?あれ?衣姉さん?」

 

そこに現れたのは衣姉さんだった。ハギヨシさんもいる

 

「どうしたんだ?透華さん達の応援は?」

 

「それは午前中してきた。しょーが一人で寂しいと思って午後はしょーの応援にきたぞ!」

 

「そっか…ありがとな」

 

「ん〜♪」

 

なんとも嬉しい言葉をかけてくれた姉さんの頭を撫でてやった

 

「調子は、良さそうですね」

 

「はい。こう言うとあれですが、衣姉さん達との対局の方がよっぽど楽しいです」

 

「そうですか」

 

ハギヨシさんにホントのことを話すと目を閉じて笑われた

 

「ころももしょーとの麻雀は楽しいぞ!」

 

「ありがとな」

 

ビー!

『これより県予選男子個人戦午後の部を開始します。選手のみなさんはそれぞれの対局室に入室してください』

 

「よっしゃ!じゃあ行ってくるな!」

 

「うむ!ぶっち切ってくるのだ!」

 

「おう!」

 

そしてオレは指定された対局室に入った

 

ー九回戦ー

 

「ツモ!6000・12000!」

 

「ロン!16000!」

 

ー十回戦ー

 

「ロン!12000!」

 

「ツモ!4000・8000!」

 

「ロン!24000!」

ー二十回戦ー

 

さて、これで一日目最後の対局だ。もう早く終わらせて帰りたい

 

最後のオレの手牌は

{一萬二萬三索赤五筒六筒東東北北西西南發}

となった。しかもなんと北家(ペーチャ)。借りるよ、初美姉さん

 

「ポン」

 

一巡目、{北}を鳴いて{三索}切り

 

「ポン」

 

二巡目、{東}を鳴いて{一萬}切り

 

三巡目、{南}をツモって{二萬}切り

 

四巡目、{西}をツモって{發}切り

 

「ポン!」

 

その{發}を上家(カミチャ)に鳴かれたけど関係ない

 

五巡目

 

「ロン。32000」

 

対面(トイメン)が{四筒}を切ったのでそれで小四喜(ショースーシー)を和了って終局となった

 

オレは早く帰ろうと思って対局室を出たのだがそこを係りの人に止められる。どうやらインタビューがあるらしい。めんどくさい

 

インタビューはいいのだが他の対局が終わっていないため一時間ぐらい待たされる羽目になってしまった

 

『こちらには一日目全戦全勝!しかも全ての試合で他家を飛ばして勝利。しかもしかも大会史上歴代トップの点数と時間の短さで勝ち抜いた清澄高校の菊池 翔選手にお越しいただいてます!』

 

「どうも…」

 

『今日の対局を振り返っていかがですか?』

 

「はぁ…よかったと思います」

 

『そう、ですか。では明日の抱負をお願いします』

 

「頑張ります」

 

『そ、それでは明日も一緒に戦う皆さんに一言』

 

「もし対戦するときはよろしくお願いします」

 

なんとも適当な言葉なのはわかってる。だって見世物みたいで嫌なんだもん。本音なんてもっと言えないし…

 

インタビューを終えたオレは一度女子の会場に向かうことにした

 

「お疲れさまで〜す」

 

「あ!翔くん!」

 

「翔さん、お疲れさまです」

 

「その様子じゃ勝ち残ったようね」

 

「もちのろんです」

 

「さすが翔くん!」

 

「おめでとうございます」

 

「おう。こっちはどうな感じなんだ?」

 

「一日目を終了して一位が優希、二位が咲、三位が風越のキャプテンよ」

 

「そうなんすか。優希が一位ってすごいじゃん」

 

「えっへん!相手にならなかったじぇ!」

 

「そうかい。でもそれは今日が東風戦だけだったからじゃないのか?明日の二日目は東南戦だけど大丈夫か?」

 

「へーきへーき」

 

こりゃあ今日の勢いで調子に乗ってるな。こんなんじゃ明日は痛い目見るぞ

 

 

 

 

 

そして二日目

 

「えー!二日目は東南戦!聞いてないじょ…」

 

「昨日菊池くんが言ってくれたでしょ?そもそもルールは最初に配った紙に書いてあったはずよ?」

 

「これは昨日圧勝した私を妬んだ運営サイドの陰謀に違いないじょ!」

 

優希のなんとも見当違いな考えにみんなは呆れた表情をする

 

「つか、話聞いてないのはお前だろ」

 

「こうなったら試合ごとにタコスを前の二倍食べてパワーアップするしかない!名付けて“タコスバイバイ計画”!」

 

京太郎の尤もな指摘をスルーしてなにやらトンチンカンな計画を立てる優希。その名前だとタコスと別れるみたいだな

 

「京太郎!タコスの仕入れ頼んだじょ!」

 

「それだと十試合目で五百十二個食べることになるぞ」

 

「いくら私でもそんなには食えないじょ…」

 

こりゃ算数ドリルのやり直しかな。さて、オレもそろそろ移動するかな

 

「じゃあオレはこの辺で」

 

「えぇ、悪かったわね。わざわざこっちまで来てもらって」

 

「いいえ」

 

「翔くん!頑張ってね!」

 

「頑張ってください!」

 

「咲と和もな。部長達も頑張ってくださいね。後輩に負けたなんてことになったら恥ずかしいですよ?」

 

「わしらはついでかの」

 

「…言ってくれるわね」

 

「ははっ。それでは」

 

オレは女子の試合会場を出て男子の試合会場に向かった

 

 

 

ピンポンパーン

『ただいまより個人戦二日目、一回戦の対戦表を発表します』

 

さて、昨日は南北に分かれて戦っていた選手達が今日はここに集まって来ている。それも上位陣だけ。全国に行けるのはその中の三人だけだ。オレの場合京太郎が残念ながら昨日の一日目で脱落してしまったから同じ高校同士で対戦する心配はない。それに個人戦には団体戦で出れなかった選手も出場する。つまりダークホースが存在するかもしれないということだ。まぁ今回の大会一番のダークホースはオレだろうな

 

『各選手は指定された対局室に移動してください』

 

掲示されたところからオレの名前を探していると一回戦目は対局室Kとあったのでそこへ移動した

 

『さぁ、県代表選抜戦個人戦も今日で二日目、最終日です!半荘(ハンチャン)十回戦の得点上位三名のみが全国大会に出場する権利を得られるのです』

 

さて、今回は手強いと思える人はいるのだろうか

「ロン。16000」

 

『対局室A、終局。すごい!すごすぎる!圧倒的!清澄高校 菊池 翔選手、全国出場決定!』

 

はぁ…物足りない…すごく物足りない…大会運営の人、今度は男女混合麻雀大会とか開いてくんないかな…

 

オレは早々と試合を終えたので優勝トロフィーを受け取って女子の試合会場に向かった

 

 

 

女子の方はまだ終わっていないらしかった。しかも順位表を見て驚いた。現在一位は咲、二位が美穂子さん、そして三位が南浦 数絵(なんぽ かずえ)という全く名前を知らない人だった。咲や美穂子さんが上位にいるのは予想通りなんだけど、南浦さんという人は上位に食い込むだけの実力の持ち主なのか。ちなみに和が四位でそのあとに透華さん、モモ、部長が続いてるのか。みんな頑張ってるみたいだな

 

これからちょうど最後の対局が始まるようだ。しかも咲と同じ卓には南浦さんも入っているようだ

 

『さぁ、始まりました最終十回戦。誰が全国への切符を手にするのか!』

 

『残っているのは実質一枠だがな』

 

『はい。現在一位の宮永と二位の福路はほぼ全国への支柱を手にしています。残るはあと一枠です!』

 

さて南浦さんの実力を拝見するとしましょうか

 

「リーチ」

 

最初の先制リーチを宣言したのは注目していた南浦さんではなく団体戦で風越の次鋒をしていた人だ

 

立直(リーチ)、一発、自摸(ツモ)断么九(タンヤオ)、ドラ1。4000オールです」

 

『親の風越吉留いきなり先制!』

 

団体戦のときはほとんど見れなかったから実力の程はあまりわからないな

 

『さぁ、対局室Cでは既に東ラスです』

 

咲はここまで一回も嶺上開花(リンシャンカイホー)で和了ってないな。他家(ターチャ)が三人とも順子(シュンツ)中心の手を作っているからか

 

「ロン。断么九、平和(ピンフ)、ドラ1。3900は4500です」

 

今回振り込んだのは南浦さんだ。今のところはそこまで実力を持った選手には言えないが…しかし、南場に入った瞬間場の雰囲気が変わった

 

「リーチ!」

 

リーチを宣言したのは今まで何の動きもしていなかった南浦さんだ

 

「立直、一発、自摸…裏1。2000・3900」

 

南場に突入してから南浦さん自身の雰囲気がガラリと変わった。もしかして優希と同じようにこの人は南浦のときは強いのか?

 

「リーチ」

 

「ポン」

 

南浦さんの切った{白}を咲が鳴いた。しかしまた初牌(ションパイ)切りリーチ。全局もそうだったけど東場では初牌なんてほとんど切ってなかったのに

 

「立直、自摸、断么九…裏3。3000・6000」

 

やっぱりこの人は優希の真逆の人だ

 

「ポン」

 

「カン!」

 

「ツモ、嶺上開花。500・1000」

 

認めよう。南浦さん、あなたはいい打ち手だ。だが…

 

「カン!」

 

「「っ!」」

 

暗槓(アンカン)…!」

 

いい打ち手止まりだ。その程度じゃあ()()は倒せねぇよ

 

「ツモ。嶺上開花、清一色(チンイツ)、ドラドラ。4000・8000です」

 

『対局室C終了。またも清澄の宮永 咲、嶺上開花からの逆転トップです。しかしこれで南浦選手は三位から脱落、原村選手が総合三位となりました』

 

おぉ、和が三位になったか。じゃあこのまま決まりかな。いや、まだ全部の試合が終わったわけじゃなかった

 

『対局室Aは最後に竹井 久が和了り、終了。さぁ、これで全ての対局が終了しました。果たして結果はどうなったのか!……出ました。対局室Aを制したのは清澄高校の竹井。しかし三位までの順位に変動なし!全国出場は総合三位の清澄高校一年、原村 和!二位、風越女子三年、福路 美穂子!そして一位は清澄高校一年、宮永 咲』

 

やったな。咲と和が全国か。美穂子さんも個人戦では全国に行けてよかった。まぁ三人の実力なら驚くことじゃないか

 

それから全国へ出場する三人に対する表彰状授与、そして一位の咲にはトロフィーが贈られた。トロフィー持った咲がこけないか内心ヒヤヒヤもんだった…

 

こうして長野県予選個人戦は終了した

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話

 

県予選は団体戦も個人戦も終了してあとは全国大会の日程が来るのをを待つだけとなった。団体戦、個人戦共に全国出場を決めた“清澄高校”はすぐに注目の的となった。今日は放課後に雑誌のインタビューがあると聞かされている。ちょうど今和がインタビューを受けているところである。そのようすを少し離れたところのベンチに座って眺めているオレと咲であった

 

「おーい、咲ー、翔ー」

 

「京ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「ほれ」

 

こんな暑い中走りながらやってきた京太郎は咲に一枚の紙を渡した

 

「夏祭り」

 

「そ、今週なんだ。期末テストも終わったばっかだし、ちょうどいいだろ?」

 

「うん、そうだね。麻雀部のみんなも誘って行こ?」

 

「もちろん!翔も来るよな?」

 

「あぁ…わりー。先約があるんだ」

 

「えぇ!」

 

「なんだ。それなら仕方ねぇな」

 

「仕方なくないよ!翔くん、私達と行けないの!?」

 

「だから先約があるんだって」

 

「誰!誰と行くの!」

 

「いろんな人とだよ」

 

せっかくなんだからみんなで楽しんでくればいいのになぜか咲はオレが行かないのに納得が行かないらしい。こっちも大変だったんだぞ…都合あわせるのとか時間調整するのとか…

 

 

 

 

 

 

 

ー数日前ー

 

よっしゃ、今日はこんくらいで大丈夫だろ。もうすぐテストだから復習ちゃんとしないとな。まぁ赤点はないだろう

 

PLLLL…

 

そろそろ夏の到来を肌で感じるぐらいの気温の中、まだうちわだけで頑張っているオレの携帯がなった。画面には『モモ』と表示されていた

 

「もしもし、モモか?」

 

『はいっす。翔くん、今大丈夫っすか?』

 

「あぁ、大丈夫」

 

『よかったっす。それでなんすけど、来週末に夏祭りあるの知ってるっすか?』

 

「そういえばポスターが貼ってあったな。それがどうかしたか」

 

『翔くんは、もう一緒に行く人決まっちゃったっすか…?』

 

「いや、特にそういう人h『本当っすか!!』…お、おう…」

 

『じゃ、じゃあ…私と行かないっすか…?』

 

「ん?逆にオレとなんかでいいのか?」

 

『もちろんっす!』

 

そうなのか。まぁこのところモモと遊びに行けてないし県予選とかもあってなるたけ合わないようにしてたからな

 

「う〜ん…じゃあ行くか」

 

『ほ、本当っすか!いいんすか!?』

 

「お前から誘ったんだろ?それともやめとくか?」

 

『絶対行くっす!』

 

「そっか。なら咲とか京太郎も誘っていk『ダメっす!!!』…なんでだよ」

 

本日二度目の食い気味返事。オレを誘ったってことは幼馴染みんなで行きたいってことじゃないのか?

 

『こ、今回は二人っきりで行きたいっす…ダメ、っすか…?』

 

「あぁ…わかった。今回は二人で行こう」

 

『ありがとっすー!!じゃあ時間とかはまた連絡するっすね』

 

「おう」

 

そこで電話は切れた。どれだけ夏祭りが楽しみかわかるくらいの声の明るさだったな

 

コンコン

するとそけへオレの部屋のドアをノックされた

 

「はいはい」

 

『翔くん。今いいかな』

 

「美穂子さん?いいよ」

 

『それじゃあ少し失礼するね』

 

ノックした人の正体は美穂子さんだった。何やら緊張してる感じの声のトーンだけど今更どうしたんだろ。それに入ってきた美穂子さんの頰が少し赤く見えるのは気のせいかな

 

「どうしたの、美穂子さん。今更オレの部屋に入るのにノックとかいらないのに」

 

「い、一応毎朝ノックしてるのよ?翔くんがいつも寝てるだけで」

 

「あぁ。いつも感謝してます」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

「それで?どうしたの?」

 

「あ、実はね…これなんだけど」

 

そう言って見せてきたのはモモが言ってた夏祭りのポスターだった。なんか嫌な予感…

 

「な、夏祭り…」

 

「うん。それでこの日はコーチが休みにしてくれて…」

 

「へぇ〜。風越にしては珍しいな」

 

「うん。だからもし翔くんがよかったら、一緒に行けないかな…って思ったんだけど…」

 

やっぱりかー…う〜ん…もうモモと約束しちゃったしな…

 

「えっと…無理なら、いいんだ…」

 

そんな悲しそうな顔しないでー!!

 

「と、途中からでもいいなら…」

 

「本当に!?」

 

「あぁ。でもたまの休みをオレなんかと過ごしていいの?」

 

「もう。翔くんはもう少し女心を知った方がいいよ?」

 

「いや、オレ男だし…」

 

「私は翔くんと過ごしたいの」

 

「わ、わかったよ」

 

こうしてオレは次の夏祭りを幼馴染の女の子と隣の家のお姉さんとの二段階で行くことになった。モモに言ったらめっちゃブーブー言われたけど全国に行くまでにまたどっか行く約束で事無きを終えた

 

このあと透華さんからも連絡があって龍門淵のみなさんと一緒にと夏祭りに誘われたがさすがに断ったら衣姉さんが大泣きしてしまったらしい。すぐに龍門淵邸に出向いて泣き止むまで衣姉さんの言うことを聞いてたらいつの間にか夜で泊まる羽目になるとは思わなかった…そのときの一さんはなんか呪文のようなものを唱えててちょっと怖かった…

 

 

 

 

 

こんな感じのため咲達とは夏祭りには行けないのだ

 

「夏祭りか!」

 

「うぉっ!」

 

京太郎がニヤニヤしながら何か妄想の世界に浸っているところへ突然優希が現れた

 

「なんだよ突然に!」

 

「祭りなら私にお任せだじょ!」

 

「浴衣からのぞくセクシーな姿でみんなをメロメロにしてやるじぇ!」

 

「また己とは程遠い考えを…」

 

さすがに優希にセクシーという言葉は似合わないな

 

「翔くん!まだ話は終わってないよ!」

 

咲のお説教はまだ終わってなかったらしい…

 

「そ、そういえば優希。何か用か?」

 

「翔くん!」

 

「お!忘れてたじぇ!ビッグニュースだじぇ!部長から聞いたけどまたまた合宿が予定されてるらしいじょ!」

 

「そういえば全国前に合宿があるって和が言ってたな」

 

「その通り!来週末にやるらしいじぇ。しかも部長が言うにはビッグゲストが用意されてるらしいんだじょ!」

 

「ビッグゲスト?」

 

「なんだそれ?」

 

「もしかしたらイケメンカリスマエステキシャンがやってきて咲ちゃんや私のをのどちゃんぐらいのわがままおっぱいにしてくれるかもー!」

 

「誰がわがままおっぱいですか?」

 

「うおっ!のどちゃん!」

 

「原村さん。取材終わったの?」

 

「今、終わりました」

 

「人気者は大変だな」

 

いつの間にやら取材を終えた和が戻ってきていた

 

「翔さん」

 

「ん?」

 

「次は翔さんをお呼びです」

 

「…マジで?」

 

「はい」

 

和や咲ならともかくオレなんかに聞くことなんてないだろ

 

「あの、翔さん…」

 

「ん?どうした?」

 

「このあと優希と勉強しようと思ってるんですけど、もしよろしければご一緒にお願いできませんか…?」

 

「オレがいなくても和の成績で教えられたら優希も大丈夫だろ」

 

実際和は学年でも十番以内には入る学力の持ち主だからな

 

「わかった。勉強場所携帯に連絡しといてくれよ」

 

「わ、わかりました!ありがとうございます!」

 

なぜかこんなことで笑顔になる和の隣を通ってオレは取材陣の元へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

テストも終わり例の夏祭りまであと三日となった今日、麻雀部員はみな部室に集まっていた。しかも一年生はみんな席に座っている優希の周りに集まっている

 

「赤点!?」

 

「あぁ、期末テストの」

 

「そうです。優希ったら全然テストの準備をしないで…結局数学で赤点を取ってしまって。それで今週の金曜日の午後に追試になったんです」

 

「金曜日って…」

 

「夏祭りの日じゃねぇか!」

 

優希はこの前みんなで勉強するってときも初めて五分で寝に入ってしまっていた

 

「そうだ!お祭りの日だから追試はお休みにすればいいんだじぇ!」

 

バンッ!

「ダメです!だいたい追試に通らなかったら今度は補習です!合宿に行けませんよ!?」

 

こんなに強気に怒る和は初めて見たな

 

「まぁまぁ和。優希も怯えちゃってるから…」

 

「あ、はい…」

 

とりあえず和を宥めるために頭を撫でる

 

「でもさ優希。せっかく和が心配して言ってくれてたのにこれで補習にまでなったら優希だけじゃなくて和まで悲しむぞ?」

 

「うぅぅぅ…」

 

すると咲が優希の手を握る

 

「優希ちゃん。私も手伝うから、一緒に追試の勉強しよっ?」

 

和も優希の反対の手を握る

 

「一緒に頑張りましょ?」

 

「咲ちゃん…のどちゃん…」

 

「しゃあねぇな。俺も付き合ってやるよ」

 

「翔くんは?」

 

「翔さん…」

 

咲と和、牽いては優希までが懇願の顔でこっちを見てくる

 

「そんな顔すんなよ。オレも手伝ってやるから」

 

「み、みんな!じゃあ勉強は明日から頑張るとして、今日は麻雀するじぇ!」

 

「ダメです!」

 

「今日から勉強だよ」

 

これでも麻雀を打とうとする優希を咲と和が両腕を引っ張って行く。部屋から出る前に咲と目があった

 

「はいはい。よろしくな」

 

「〜♪うん♪」

 

咲のナデナデを求める表情はすぐわかるようになった。その顔を見てオレは出て行く咲の頭をそっと撫でた

 

 

 

 

 

 

 

オレはその帰りに美穂子さんに出会った

 

「美穂子さん」

 

「翔くん」

 

美穂子さんは手に封筒のようなものを持っていた

 

「それ、うちからの合宿のお誘い?」

 

「う、うん」

 

美穂子さんは何やら悩んでいる様子。なんか長く一緒にいるからだいたい美穂子さんの考えてることがわかる気がする

 

「迷ってんの?」

 

「…」

 

沈黙は肯定とはよく言ったものだな

 

「まったく…美穂子さんは他人のこと考えすぎだ」

 

「翔くん…」

 

「たまには自分のわがままを言ってもいいんじゃないんか?」

 

「…翔くんには何でもお見通しなのね」

 

「そりゃ結構な付き合いだからな。後輩想いないい先輩だと思うぞ?でも後輩のことも考えるならなおさら合宿には参加するべきだと思う。それに美穂子さんの全国前の調整にもなる」

 

「そうね」

 

「美穂子さんも、最後くらい自分のしたいようにすればいいんじゃない?」

 

「…ありがとう、翔くん。おかげで決められたわ」

 

「それならよかった」

 

美穂子さんってどこか霞姉さんに似てるよな。他人を優先するところとか我慢するところとか

 

ギュッ

そして帰ろうと歩き出した瞬間、美穂子さんはオレの腕に抱きついてきた

 

「美穂子さん?」

 

「わがまま言っていいのよね?なら家に着くまでこのままで帰りましょ」

 

なんかデジャブ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は夏祭り当日。ではあるが優希の追試の日でもある。部長以外の部員全員で追試の行われる教室の外で待機している

 

どれくらい待っただろうか、教室の扉が開き先生が出てきた。その後に続いて生気の入っていない優希が出てきた

 

「燃え尽きたじょ…」

 

と思ったらもう立ってる気力すらないのか廊下にうつ伏せに倒れてしまった

 

「優希ちゃん!」

 

「追試どうでした!?」

 

「取り敢えず全部書いたじぇ…」

 

「不安ですね…」

 

「こりゃ補習決定かな」

 

「ま、やるだけのことはやったんじゃ。さて、追試も終わったしみんなで夏祭りに行こうか?」

 

「うぉー!行くじぇ!」

 

さっきまでの姿とは打って変わって一気にキラキラ状態になる優希

 

「追試の結果もわかっていないのにいいんでしょうか…」

 

「えっ?原村さんは行かないの?」

 

「べ、別に行かないとは言ってません!」

 

「よかった!」

 

「よーし!祭りのタコス屋台制覇するじぇ!」

 

「じゃあ行こっ!み・ん・な・で!!」

 

「うっ…」

 

咲はわざとらしくオレの方を向いて「みんな」という語を強調して言ってきた

 

「え、翔さんは来れないんですか…」

 

和もそんな悲しいそうな顔しないでくれ!!

 

「翔くんは!他の人と行っちゃうんだって!!」

 

「悪かったって…」

 

まだ根に持っているらしい…

 

 

 

 

 

 

今日開催される夏祭りは地元の人にとっては夏の一大イベントなのだ。だからここら辺の人はみんなこの夏祭りに参加する。よってなかなかの人混みだ。そんな中オレは入り口付近でモモを待っている

 

「翔くーん!」

 

「お、来たな」

 

浴衣に身を包み手を振りながらカランカランと下駄の音を立てながらかけてくるモモの姿が近づいてくる

 

「お待たせしました」

 

「そんなに待ってないよ。その浴衣、似合ってるな」

 

「ありがとうっす♪翔くんも似合ってるっすよ♪」

 

「モモに着て来いって言われたからな。まだ着れてよかったよ」

 

モモは黒を基調とし白い線で花の模様が描かれている浴衣を着ている。ちなみに今日はオレも浴衣を着ている。本当は着るのめんどくさいから私服で来ようと思っていたらそんなオレの考えてたことをわかっていたかのようにモモから浴衣を着てくるようにと連絡があった

 

「じゃあ行くっすよ!あんまり時間もないことですし」

 

「すまんね」

 

「別にいいっす。こうして一緒に来れただけでも嬉しいっす」

 

「そっか」

 

「はいっす♪」

 

それからはモモに手を握られいろんな屋台を回った。オレと触れたことによりいつもよりかモモの姿は他の人には見えるようになってしまったため屋台のおっちゃんとかに『お、青春だね〜』とか言われるとモモは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた

 

「今日はありがとうございました」

 

「いや、オレの方こそ楽しかった。最後まで付き合えなくて悪かったな」

 

「いいんすよ。でもここまで来ちゃって大丈夫なんすか?」

 

「まだ時間あるから大丈夫。ホントは家まで送ってやりたいんだがそしたら時間的にな」

 

「わかってるっす。駅まで送っていただいただけで大丈夫っす」

 

モモとの夏祭り巡りを終えて今度は美穂子さんとだ。でも暗い中会場から一人でモモを帰らせるわけにはいかないと思って駅まで送ってきた次第だ

 

「じゃあ気をつけてな」

 

「はい。今日は楽しかったっす」

 

「オレもだよ。また来週だな」

 

「そうっすね」

 

来週にはあれが待っている。モモの反応を見るに鶴賀も参加するんだろう。それならまたそこでモモとも会える

 

そうしているうちに電車が来た

 

チュッ

 

電車の扉が開いたのを見てもう一度モモの方を向こうとすると頰に柔らかい感触を感じた

 

「今日のお礼っす♪」

 

そう言ったモモは既に電車に乗っておりすぐに扉が閉まって行ってしまった。まったく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り会場に戻ると美穂子さんはもう着いていた

 

「ごめん美穂子さん。少し遅れた」

 

「ううん、大丈夫」

 

「ありがと。……やっぱ美穂子さんは浴衣も似合うな」

 

「あ、ありがと…」

 

美穂子さんは褒められて恥ずかしいのか頰を赤くして俯いてしまう。美穂子さんは桃色を基調に水色の大きな花が足元に刺繍された浴衣を着ている

 

「じゃあ行こう」

 

「う、うん…」

 

ギュッ

 

「ん?」

 

「あ、甘えてもいいよね…?」

 

この前と同様オレの腕に美穂子さんが抱きついてきた。おそらく今回もずっとこのままであろう

 

「そうだ。今日翔くんのところの部長さんに出してきたよ」

 

「あ、合宿の?」

 

「うん。私達も参加させてもらうね」

 

「おう。歓迎するよ!ん?歓迎であってる?」

 

「ふふふ♪それでいいと思うよ♪」

 

笑われてしまった…恥ずかしい…

 

「さっ、行こっ?翔くん♪」

 

「お、おう」

 

美穂子さん楽しそうだな。それだけで今日来た甲斐があったな

 

「あ、そうだ翔くん。ちょっと耳貸して?」

 

「ん?なんだ?」

 

こんな人混みなら普通に話してても聞こえない気がするんだがな…オレは美穂子さんの口元に耳を持っていく

 

チュッ

するとさっきモモのときと同じような感触が伝わった

 

「今日付き合ってくれるお礼だよ♪」

 

すると再度オレの腕を組んで人混みの中に進んで行った

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話


お気に入りの数が800を超えました!!!これまで読んでいただいて本当にありがとうございます!!!

県予選も終わって合宿に入ります。今回はそこまですごい修羅場はありません。この後もう全国編に入るか合宿のオリジナルを書くかはまだ悩んでいます

これからも読んでいただけたら幸いです!



 

夏祭りも終わって本格的に夏休みに入った。そしてこれからはみんなも楽しみにしていたあの合宿が始まる

 

“清澄高校麻雀部 四校合同合宿”

 

今回は大勢のため県予選前とは別の宿になった。そこの玄関口にはこう書かれた札が立てられていた。今日から長野県予選の決勝を戦った四校が一挙に集まり合宿が行われる

 

我々清澄高校のメンバーを乗せたバスが合宿場に着くとそこには既に他の三校は揃っていた。言い出しっぺが最後に到着とか大変申し訳なく思う。部長の指示でそれぞれの学校の人達は決められた部屋に荷物を置いて大部屋に集合した。なんか全員が集まったときに咲と和、モモと一さん、美穂子さんがお互いを睨み合ってたと感じたのはオレだけかな…気のせいであってほしい…

 

「わーい!」

 

その大部屋には既に麻雀卓が五台セッティングされていた。それを見た衣姉さんは楽しみなのかはしゃぎ出す

 

「すごい」

 

「用意周到じゃのぅ」

 

「雀卓がいっぱいだじぇ!」

 

「さて、着いて早々だけど…」

 

部長が何やら真剣な剣幕で話し出す。それにつられて各校の人達の顔も強張る

 

「まずは……やっぱり温泉よね!」

 

「だから誰に言っとるんじゃ…」

 

はぁ…わかってましたとも。まぁうちの部長はこういう人なんで、みなさんすいません

 

「…てか部長、なんで京太郎は留守番なのにオレは参加なんですか……?」

 

「ん?そういう条件だからよ」

 

「はい?」

 

「私から説明して差し上げますわ」

 

「透華さん?」

 

オレの疑問の説明になぜか透華さんが名乗りをあげた

 

「まぁ翔さんもおわかりになっているんではなくて?我々の場合は衣ですわ」

 

「姉さんが?」

 

「そうです。『清澄とやるのはいいけどショーが来ないなら衣も行かない』と聞かなかったのです」

 

「そうですか」

 

「しょーはころもがいて嬉しくないか…?」

 

「ん?そんなわけないだろ」

 

「そうか!」

 

透華さんの説明を聞いたオレの対応を見た衣姉さんがそんなこと言ってきたので頭を撫でて否定した

 

「うちはキャプテンがそうだって!」

 

「か、華奈!?」

 

「えっ?」

 

「華奈ちゃん…それは言わない約束じゃあ…」

 

「あっ…」

 

今度は風越のえっと…い、池田さん?だっけ…まぁ団体戦で大将やってた人がそう言ってきた。風越のキャプテンて美穂子さんだよな?どういうことだ?美穂子さんに事情を聞こうと美穂子さんの方を向くと頰を赤くしていて目をそらされてしまった…なんか怒らせてしまっただろうか…

 

「私も翔くんに来て欲しかったっす!」

 

「モモ?」

 

今度はモモだ。それにしてもみんなまだ何も始まってないのに気合入れすぎじゃない?てか一さんと咲と和はオレのこと睨まないで…オレなんか悪いことした?

 

「というわけで三校ともからあなたの参加が今回の合宿に参加してくれる条件だったのよ」

 

「ははは…もうわかりました…」

 

「そ。では改めて温泉よー!」

 

はぁ…今頃京太郎は頑張ってパソコンに向かってんのかな…とりあえずオレも温泉行ってこようかな

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、合同合宿に参加してくださってありがとうございます」

 

温泉を終えて全員がさっきの大広間に集まり部長が前に出て挨拶している

 

「これからどうするんだ?」

 

「そうね、まずは…」

 

「ちょっといいだろうか。ひとつ提案があるのだが」

 

「はい?」

 

純さんの質問に答えようとした部長を止めた鶴賀の大将さん、加治木さんだったかな…が立ち上がる

 

「合宿メニューに入る前に参考にしてもらいたいデータがある。聞いてもらってもいいだろうか」

 

「いいわよ。お願いします」

 

「では少々時間をいただいて…これは私が個人的に集めた今年の…」

 

「ちょっと待った!」

 

今度は加治木さんが何やら説明に入るところを優希が止めた

 

「お、おトイレ行ってくるじぇー!」

 

「優希ちゃん!」

 

「優希…」

 

「フルーツ牛乳飲みすぎじゃ」

 

そんなに飲んだのか?オレは風呂上がりは絶対牛乳だ。これだけは譲らん!

 

「あの〜…文堂さんが湯あたりしたみたいで」

 

「しっかりだし!」

 

「大変!」

 

風越の方ではその文堂さん、風越で中堅をしていた人、がのぼせたように顔を赤くして鼻血も出ている

 

「およ?姉さん?」

 

「あらら…」

 

「寝てる」

 

「はしゃぎすぎと翔の膝のせいだな」

 

こっちでは衣姉さんがオレのあぐらの中で小舟を漕いでいた。てか純さん、オレのせいにするのやめてもらえません?

 

「あー、むっきー新部長」

 

「こっちも湯あたりです!」

 

鶴賀の方でも先鋒をしていた人が倒れてしまった

 

「仕方ないわね。長旅の疲れもあるみたいだし、これからは自由時間にしましょう。合宿のカリキュラムは明日の朝からです。じゃあ解散」

 

『はーい』

 

「ほら姉さん。部屋に戻るよ」

 

「む〜、しょ〜」

 

「仕方ないな」

 

オレは完全に寝に入ってしまった姉さんを抱きかかえる

 

「このまま寝かしてきますね」

 

「いつもいつも申し訳ありませんわね」

 

「ごめんね、翔」

 

「いいですよ」

 

オレはそのまま衣姉さんを抱えて龍門淵の部屋に寝かしつけた。その際になかなか手を離してくれなかったから起こさないように神経を尖らせたからすっごい疲れた

 

「あ、菊池くん。ちょうどよかった。あなたも来てちょうだい」

 

「部長」

 

龍門淵の部屋を出て一旦自分の部屋に戻ろうとすると四校の部長達が揃っていた

 

「見るからにこれから打ち合わせっぽいっすけど…」

 

「その通りよ?」

 

「なんでオレも?」

 

「なんとなくよ?」

 

「はぁ…はいはい、行きますよ」

 

部長はいろいろとなんとなくで決めすぎだよ。それでいいのか?

 

そしてそれからオレを加えた部長同士は明日からのカリキュラムについて相談しあった。そしてその帰りのある一室で何人かが卓球しているところに巡り合った

 

「あら卓球」

 

「部長。あと、なんで翔くんまで?」

 

「連行された」

 

「わはは、よーし私も」

 

「卓球?随分と庶民的な遊びですわね」

 

「でも楽しそうですよ」

 

「そうね。それじゃ」

 

鶴賀の部長さんに続いて他の三人も中へ入っていった。いつも思うけど透華さんの庶民的じゃない遊びってなんだろう

 

「わ、わたくしはやりませんわよ…」

 

「ピンポン!」

 

「あれ、姉さん。起きたのか?」

 

「しょー。ころも達もやるぞ」

 

「はいはい」

 

いつの間にか起きてこっちに来ていた衣姉さんに連れられてオレと透華さんも中に入っていく。ちなみに一さんも一緒に来ていた

 

それから数十分後…

 

「はーっ!」

 

「にゅやっ!」

 

「さぁ!次は誰ですの!?」

 

今の池田さんで十人目を倒したのは透華さん。さっきからやってるがすぐに卓球をマスターして十人切りをやってのけた

 

「じゃあみんなの仇を取るとしますか」

 

「あら、今度は翔さんですの?よろしいですわ。あなたも他の方々と同じようにして差し上げますわ」

 

「お手柔らかに」

 

「翔くん、頑張れ!」

 

「頑張ってください!」

 

咲と和からエールももらったし、ボス退治と行きますか

 

それからまた数分後…

 

「はぁ…はぁ…お、おやりになるわね…」

 

「はぁ…はぁ…透華さんこそ…」

 

点数は34vs34でデュースをひたすら続けている

 

「しかし、そろそろ決着といこうじゃありませんの」

 

「そうですね」

 

「「いざ!」」

 

ここまで来たらプライドとプライドのぶつかり合い。そして透華さんがサーブのために球を高く上げる

 

「あの〜。そろそろ夕飯の時間ですけど…」

 

「「へっ?」」

 

そこへ夕飯を知らせに鶴賀の先鋒さんが呼びに来た。はっとして周りを見るとそこにはもう誰もいなかった

 

「…ふふふ、この勝負はお預けのようですわ」

 

「そうですね。またの機会に」

 

オレと透華さんの中に何やらおかしな友情が芽生えていた。そして夕食を終えたオレ達は各自自分の部屋に戻ってそれぞれの時間を過ごした

 

次の日の朝、朝に弱いはずのオレは珍しく早く起きれたので朝の温泉に入ろうと部屋を出た

 

「あ、翔くん」

 

「おはようございます」

 

「お、咲と和も朝風呂か?」

 

「はい」

 

「翔くんも?」

 

「あぁ」

 

「珍しいね。朝が弱い翔くんが早く起きるなんて」

 

「それ、咲には言われたくないからな?」

 

「あははは…」

 

温泉への道で偶然咲と和に出会った。優希がいないのを見るとあいつはまだ寝ているのであろう

 

「ふぅ〜。朝の風呂も気持ちがいいな」

 

『あ、加治木さん』

 

ん?そういえば女子の風呂は隣だったな

 

『私もいるっすよ』

 

『あ、モモちゃん。やっぱりまだ翔くんがいないと見つけられないよ』

 

モモもいたのか。それにしても温泉でもあいつは陰が薄いのか?

 

『そういえば東横さんと翔さんはどういうご関係なんですか?』

 

『私と翔くん、咲ちゃんと京太郎くんは小学校の同級生っす』

 

『そうだったのか。それは私も知らなかったな』

 

『翔くんは先輩みたいに私のことを見つけてくれた人っす』

 

そんな風に思ってくれていたとはな

 

『ふふっ、モモにとって菊池 翔は大切な人ってわけか』

 

『はい!翔くんは私のだい…』

 

『あ、モモちゃん。多分今、翔くんも温泉入ってるから。隣にいると思うよ?』

 

『へっ!?本当っすか!?』

 

「おう、ばっちりいるぞ〜」

 

オレは向こうに聞こえるくらいの声の大きさでいることを伝えた。っすると向こうからは何も聞こえなくなった

 

それから向こうには部長に透華さんと一さん、美穂子さんと池田さんが入って来たようだ

 

『やっぱり九州勢で一番厄介なのは永水女子じゃないかな』

 

『私もそう思います』

 

『なるほど、やっぱり参考になるわね。聞いておいてよかったわ』

 

そのうち全国の強豪はどこかについての話になった。小蒔姉さん達は元気かな

 

『聞いておいてよかった、ですか…しかし全国には聞かなければよかったと思える存在がいましてよ?』

 

『聞かなければよかった?』

 

『えぇ、その代表が全国優勝白糸台の大将だった、宮永 照ですわ』

 

照さん。そういえば一昨年から全国優勝二冠だったっけ。今年勝ったら三冠という快挙を成し遂げることになる。まぁ今年勝つのはうち、だけどな

 

『僕達は決勝に行けなくて外から見てるだけだったけど、あれは異常だよ』

 

『あれこそ本物の魔物、ですわ』

 

照さんが魔物?ははっ!麻雀を打ってるときはそうかもしれないけど普段の照さんは魔物からは程遠い生き物だな

 

『咲、あなたって宮永 照の妹だったわよね?』

 

『は、はい』

 

『彼女は実力はあなたと比べてどのくらいなの?』

 

『う〜ん…もう二年も一緒に打ってないのでわからないですけど、昔は同じくらいの強さでした』

 

『そう…』

 

『でも…』

 

『でも?』

 

『翔くんの方が強かったです』

 

『っ!』

 

おおい!そこでオレを出す必要はないだろ!

 

『当然だよね。翔に勝てるのなんていないでしょ』

 

『そうですね。翔くんは誰にも負けません』

 

『翔くんは最強っす!』

 

『翔さんは、どこまですごい人なんでしょうか…』

 

『翔くんは強いよ。でもいつかは超えたい』

 

一さんも美穂子さんさんもモモも何を言っているのだろうか。オレよりも強い人なんてたくさんいる。まぁ負けるつもりは毛頭ないけど。私はオレのこと過大評価しすぎだ。オレもまだまだ修行が足りないよ。咲、オレも負けねぇぞ!

 

『ふ〜ん。って言われてるけど本人はどう思ってるの?』

 

すると急に部長がオレに呼びかけてきた

 

『あ!翔くんいるの忘れてた!』

 

『そうだったっす!』

 

『えっ!翔くんいるんですか!?』

 

『みんななに慌ててるのさ。別に聞かれてもいいじゃないか』

 

『その割には変な汗が出てますわよ?一』

 

『しょ、翔さん…聞いてましたか…?』

 

これは…ど、どう答えるべきなんだ…?

 

「えっと、みなさんにそう思われてるのはすごく嬉しいです。その気持ちに反しないように頑張ります」

 

オレはそれだけ伝えて外へ出た。さて、牛乳牛乳!

 

 

 

 

 

 

女子Side

 

「ところで、見るところによると何人かの人は菊池くんに好意を向けているようだけど」

 

「「「「「っ!!!」」」」」

 

「一、隠しても無駄ですわ」

 

「モモもだ」

 

「キャプテン?」

 

「咲と和もよ」

 

指摘される五人は顔を真っ赤にする。のぼせたわけではない

 

「あの子はタラシなのかしらね」

 

「翔くんの悪口は止めてください!いくら部長でも怒りますよ!」

 

「そうです!」

 

「僕も翔の悪口は止めてほしいかな」

 

「そうですね」

 

「そうっす」

 

「そ、そうね…ごめんなさい」

 

今のは竹井の失態であった。翔の悪口にすぐ反抗する五人

 

「よっぽど想われてるのね」

 

「「「「「……」」」」」

 

五人は他の四人を見回す

 

「「「「「(他の人には絶対に負けない!!!)」」」」」

 

ここから女子による麻雀とは別に静かな戦いは開始された

 

 

 

 

 

 

そして部長に支持されたカリキュラムの時間が迫っていた。オレは咲と和とともに最初の大広間にやってきた

 

「やぁ」

 

「カツ丼さん」

 

「どうしてここに?」

 

「ビッグゲストがいるって聞いてなかった?」

 

「そういえば…」

 

「Leef Top以来だな。あれからどれほど強くなったか見せてもらいに来たよ」

 

「はい!」

 

「今日は倒します!」

 

咲と和の目はすぐにやる気になった

 

「君とは初手合わせだな。どんなものか見させてもらうよ」

 

「いいですよ」

 

プロだからって舐めてると痛い目みるぞ!

 

「いつまでこの私を待たせる気ですの!?早く始めますわよ!」

 

「早く遊ぼ〜。しょー、はらむら のどか」

 

「さぁ、席についてください」

 

「今日は私が勝つ!」

 

「特打ちじゃ!」

 

「打ちまくるじぇー!」

 

みんなやる気は十分のようだ。オレも気合を入れないとな

 

「さぁ!合宿の始まりよ!」

 

「「「はい!!」」」

 

こうしてようやく“四校合同合宿”が開始された

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話

暑さはどんどん強まるばかり。アウトドアスポーツをする人達はこの炎天下での練習や試合は堪えるであろう。まぁ麻雀部は外でやることはないから快適な室内で行われるけど

 

さて、今は清澄、龍門淵高校、風越女子、鶴賀学園の四校で合同合宿を行っている最中である。一日目は自由行動になったが二日目からは一局一局対戦相手を変えつつの特打ちとなっていた。また清澄のメンバーは完全に全国には素人だ。そのため既に全国を経験した龍門淵の皆さんや美穂子さん達に特訓をつけてもらっている

 

しかも今回の合宿にはスペシャルゲストとして藤田プロが参戦している。なので格上の人を相手にできる数少ないチャンスだ

 

合宿は今日で三日目に入っている

 

「それだじぇ!ロン!立直、一発のみ。2600だじぇ!」

 

「ぶふっ!安い一発もあったもんだな!」

 

「そういうのは私を倒してから言うんだな」

 

「そうそうその意気。もっと強くなってくれ」

 

一方では優希が純さんを相手に鳴かれても調子を崩さないようにする特訓

 

「ツモ!門前、断么九、平和(メンタンピン)、三色、ドラ2!4000・8000!裏は捲らないでおいてやるー」

 

「その形の平和で八翻だと裏のっても点数変わらないからね」

 

「裏ドラサービスだし!」

 

「ほいじゃ2000バックで」

 

一方では染谷先輩のレパートリーを増やすためなるたけいろんな人と打つ特訓が行われているようだ。オレはというと…

 

「おにぎりとサンドイッチ作って来ました」

 

「オレと美穂子さんの合作です。お召し上がりください」

 

「ちょっ!翔くん!」

 

「ははは!照れない照れない」

 

オレはみんなの分の軽食を美穂子さんと作っていた

 

「いただくわ」

 

誰よりも早くそれに手をつけたのはうちの部長だった。それに続いてみんなも一旦手を止めこちらへやって来た

 

「あなたのところのキャプテンはいいわね〜。気が利いて麻雀も料理も上手くて」

 

「あげませんよ?」

 

部長と吉留さんの会話を聞いて美穂子さんは照れている

 

「じゃあ気が利いて麻雀も料理も上手い翔は僕がもらおうかな」

 

「へ?あの、一さん?」

 

いつの間にやらオレの隣に位置取っていた一がオレの腕に自分の腕を組みながら変な発言をする。ていうかお盆持ってるから腕引っ張るのやめてくださいよ

 

「ならうちがもらってもいいっすよね?」

 

「モモまで」

 

「ダメです!」

 

「モモちゃんも何言ってるの!翔くんは私のだよ!」

 

「咲さんのものでもありません!」

 

ん?咲さん?

 

「和はいつから咲のこと名前で呼ぶようになったんだ?」

 

「はい?一昨日からですかね…?」

 

「そっか」

 

「翔くん!」

 

「うおっ!」

 

「翔くんは誰と一緒にいるの!?」

 

咲の一言に一さん、モモ、咲、和、それとなぜか隣にいる美穂子さんまでオレに顔を向けてきた

 

「モテモテね」

 

「部長も変なこと言ってないで助けてくださいよ…」

 

「「「「「翔(くん)(さん)!!!!」」」」」

 

「だぁー!オレは誰のものでもねぇよ!」

 

「さきー!しょー!ころもと遊ぼー!」

 

「ほら、姉さんが呼んでるぞ?」

 

「…」

 

咲は何も言わず頰膨らまして行ってしまった

 

「ふぅ〜」

 

「まだ終わってないよ…?」

 

「へ?」

 

「咲ちゃんは離脱しましたがまだ私達が残ってるっすよ…?」

 

「翔さん…?はっきりさせましょ…?」

 

「…」

 

一さんもモモも怖いし和もいつもとは雰囲気違うし美穂子さんは黙ってるの逆に怖い…

 

「でも、ほら!オレも衣姉さんに呼ばれたし…」

 

「…わかった」

 

「ほっ」

 

これで解放されるかな

 

「今回は、っすよ…」

 

「え?」

 

「後ではっきりさせてもらいますからね…」

 

「…」

 

ダメだ。この合宿が続く限りオレの寿命も削られていく…

 

「うわっ!あの卓すごい…」

 

「入りたくないな…」

 

「じゃっ!私が入って久々に本気だそうかしら!」

 

部長も入ろうとしているが呼ばれたのはオレなわけで持っていたお盆をとりあえず空いているテーブルに置いてオレも衣姉さん、咲、藤田プロが座っている卓に入ろうとする。しかしその前に透華さんがフラフラっとやってきて入ってしまった

 

「とーか!」

 

「お願いしますわ」

 

透華さん?透華さんだよな…でもいつもとは何か違うような…もしかして…

 

「ツモ。4000・8000」

 

やっぱり打ち方もいつもの透華さんじゃない。おそらくあの状態の透華さんになっちゃったんだろう

 

ギュッ

 

「一さん?」

 

「翔…僕、あんな透華嫌だ…」

 

「…わかった」

 

その透華さんを見て一さんがオレの袖を握ってきた

 

「咲、変わってくれるか?」

 

「翔くん。わかった」

 

「悪いな」

 

オレは透華さんを元に戻すべく咲と交代した

 

「姉さん、透華さん、藤田プロ。お願いします」

 

「しょーだ!」

 

「あ、あぁ…」

 

「お願いしますわ」

 

オレはゆっくりと腰を下ろす。藤田プロはまだ今の透華さんに驚いているようだ。そして透華さんとのある意味二度目の戦いが始まった

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

「透華!」

 

「お、目覚めましたか?」

 

「夢?夢落ちですの!?」

 

覚えてないのか…

 

「衣と清澄の人とプロ相手に連荘してた」

 

「夢じゃない」

 

あ、言い忘れてたけどここは龍門淵の皆さんが泊まってる部屋で部屋には今まで寝ていた透華さんと一、智紀さんとオレがいる。そして一さんがさっきの対局の牌譜を透華さんに渡す

 

「牌譜を取っていた人がいたんだ。透華、四ゲーム目で翔に負けて気を失ったんだ」

 

透華さんは何のリアクションも取らず受け取った牌譜をジッと見つめている。ちなみに衣姉さんと純さんは風呂に行っている

 

「こ、こんなのわたくしじゃありませんわ!却下ですわ!」

 

「透華…」

 

すると不意に透華さんは牌譜を床にばら撒いてその結果を完全否定した

 

「これでは原村 和とスタイルが全然違いますわ!」

 

「「そっち!?」」

 

思わずツッコミを入れてしまったら一とハモってしまった

 

「っ!あれは!」

 

「ん?」

 

「なんかあるんですか?」

 

「噂をすれば高遠原中学」

 

「え?」

 

「原村 和のいた中学」

 

「あぁ、それで」

 

「関係ないですわ!」

 

でもなんでこんなところに中学生が?しかも和と同じ学校

 

「じゃあオレはそろそろ戻りますね」

 

「えぇ、わざわざ申し訳なかったですわね」

 

「いえ」

 

透華さんも目が覚めたことだし清澄の部屋に戻ろうと部屋を出ると一もついてきた

 

「どうしました?」

 

「ん?最後にお礼をね。透華を戻してくれて本当にありがとう」

 

「どういたしまして。でもいつもの透華さんに戻ってよかったですね」

 

「うん」

 

と言い終えたところで一さんはオレの肩に手を置いて背伸びしながらオレの頰に顔を近づけた

 

チュッ

 

「これは今日のお礼だよ♪もっとしてほしいならしてあげるけど?」

 

「い、いえ…十分です!」

 

またこのパターンか…結構驚くから控えて欲しいんだけどな…オレはそんなことを思いながらその場を離れた

 

 

 

 

清澄の部屋にはもうさっきの中学生は来ていた

 

「あ、翔くん」

 

「あら、菊池くん。ちょうどいいところに」

 

「はい?」

 

「あなたも入ってあげてちょうだい」

 

そこには既に麻雀を打つべく中学生の小さい子の方と和と咲が卓についていた

 

「オレが入っちゃっていいんすか?」

 

「えぇ。手加減は無用よ」

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

部長に言われて気合を入れる

 

「タコス美味しいじょ」

 

「ありがとうございます!」

 

さて、どんな打ち手なんだろうな

 

ー東一局ー

 

「ツモです!6000オール!」

 

東初(トンパツ)に速攻の高打点。優希みたいだな。もう少し様子を見るか

 

ー東一局 一本場ー

 

「はぁ…今度はまほっちか…」

 

「まほっち?」

 

まほっち?なんだそりゃ?どうやらもう一人の中学生が説明してくれるようだ

 

「こいつ和先輩に影響されてネット麻雀やってて。スーパーまほっちっていう名前でやってるんですよ。でも激弱で。レーティングは1200代なんです」

 

「1200…」

 

う〜ん…ネット麻雀のことはわからん

 

「リーチ!」

 

お、そんなこと考えてたら和のリーチ

 

「「「不聴(ノーテン)」」」

 

聴牌(テンパイ)

 

綺麗に降りたな。まるで和みたいだ。優希は人の胸を揉むのをやめろ

 

ー東二局ー

 

「ロンです!二本づけで8600です」

 

和が振り込んだ?珍しいな。ていうか今度は部長みたいに多面張(タメンチャン)を捨てて単騎待ち。これで確定かな

 

ー東三局ー

 

「あれ?もしかして宮永先輩が待ってるのって{五萬}ですか?」

 

「えっ?」

 

「まほ、嶺上(リンシャン)で和了れるような気がします」

 

なるほど。今度は咲ってわけね

 

「カン!」

 

嶺上開花(リンシャンカイホー)、自摸、ドラ2。2000・4000です!」

 

そういうことね。理解したよ。確かに人のスタイルを真似することは悪いことじゃない。じゃあそろそろオレもやらしてもらおうかな。なぁ、咲?オレと咲の視線がそこで合わさる

 

ー東四局ー

 

「それ、カンです!嶺上…ツモならずです…あっ!これ、完全に役なしになってしまったのです…」

 

いや、別に言わなくてもいいよな

 

「ロン。12000」

 

「ひゃっ!」

 

「ごめんね。ロン。24000」

 

「あぅっ!」

 

「ま、こんなもんだろ。ロン。32000」

 

和がハネ満、咲が三倍満、オレが役満をそれぞれ和了った

 

「安直なカンはしないように教えたはずです」

 

「で、県予選で見た宮永先輩の嶺上開花がものすごくて・・宮永先輩が近くにいると意識しちゃって…まほもああいう風に打ちたいって思っちゃうのです…」

 

まぁ咲みたいにバンバン嶺上開花決められたら羨ましくなるわな

 

「今のはそうでもなかったですけど、全局ではまほ少し嶺上開花で和了れるかなって思ってしまったりもしたです…」

 

「そんなオカルトありえません」

 

それがありえるんですよ、原村さん

 

「まほちゃんはいつもそうでしたね。私や優希の打ち方を真似てもうまくいくのはのは一日に一回あるかないか」

 

憧れが強すぎて模倣に走るのかな

 

「人真似の前に自分自身の底上げした方が…」

 

「うぅぅぅ…」

 

あ、泣きそう

 

「別に人真似が悪いってわけじゃない。でも真似る人は選びな。君は素質は十分だ。でも咲とは次元が違う。だから真似るなら和や優希の方がいい。タコスで縁起を担ぐもよし、ひたすらネットをやるのもよしだ」

 

「先輩…」

 

「和も先輩なんだからそんな否定的なことばっか言ってやるな」

 

「…言いすぎました。あれから四ヶ月どれだけ成長したのか、ここからですね」

 

「…はい!」

 

「いい先輩じゃないか」

 

オレはそう言って和の頭を撫でる

 

「や、やめてください!」

 

「あ、わりー」

 

「あ、別に撫でるのをやめてという意味ではなく…」

 

「お、おう」

 

撫でたのを怒られたと思って手を離したら和が自分でその手を頭に戻した

 

「お前はなんかアドバイスないのかよ、宮永先輩?」

 

「…」

 

「宮永先輩?」

 

「…」

 

「はぁ…これでいいか?」

 

「うん♪」

 

呼びかけても返事をせずにオレの方をジッと見つめてくるだけの咲にも和と同じように頭を撫でてやった

 

「ほら、アドバイスは?」

 

「う〜ん…好きな役を見つけること、かな」

 

お、意外とまとも

 

その後結局まほちゃんは三局やって全部最下位だった。ちなみにオレは全部一位。でもなんで部長はこの子を呼んだんだ?わかんね…

 

「菊池くん、ちょっといいかしら」

 

「はい?」

 

「私と打ってくれない?」

 

「部長とですか?いいですけど」

 

「じゃあ行くわよ」

 

「へ?ここでじゃないんですか?」

 

「他校の人も誘うのよ。ちょっと出てくるわね」

 

そして部長に連れられて再び龍門淵の部屋へ。さっきのことがあったから少し躊躇うな

 

「こんにちは〜」

 

「お客さんだ〜。あ、しょ〜」

 

「よっ、姉さん。風呂はどうだった?」

 

「うむ、快適であった」

 

「やぁ、翔。僕に用かい?」

 

一さんはわざとらしく自分の頰を指差してオレに尋ねてくる

 

「今回は部長の付き添いです」

 

「そっか。それは残念」

 

「いらっしゃいまし」

 

部長は透華さんを見つめて何も言わなかった

 

「何ですの?」

 

「天江さんと麻雀したくてね」

 

「本当か!?」

 

「もち!」

 

「わー!」

 

「よかったな、姉さん」

 

そしてつ次に鶴賀の部屋にやってきた

 

「ゆみー、今日もよろしく」

 

「ななな、なんで下の名前で呼び捨てっすか!?」

 

「昨晩仲良くなってな」

 

「昨晩!?仲良く!?」

 

「落ち着けよ、モモ。別に何かあr「翔くんっす!!!」ぐはっ!」

 

モモの強烈なタックル(抱きつき)がオレの鳩尾にクリーンヒット

 

「も、モモ…お前…」

 

「しょ〜!大丈夫か!?」

 

倒れたオレにモモが跨ってる状態で衣姉さんが心配してくれてオレの上半身を揺さぶる

 

「早く降りろ!」

 

「嫌っす!翔くん全然私に構ってくれないじゃないっすか!」

 

「歳を考えろ!」

 

「モモ、菊池くんの言う通りだ。早く降りるんだ」

 

「…わかったっす」

 

加治木さんのおかげでようやく降りてくれた。しかし正座の状態でシュンとしている

 

「わかった。あとでまた来るよ」

 

「本当っすか…?」

 

「あぁ」

 

「約束っすよ…?」

 

「わかった」

 

とりあえず慰めの意味で頭を撫でてやり後で少し話すぐらいの時間を取ることを約束した

 

そして次は風越の部屋

 

「翔くん」

 

「ごめんな。うちの部長が」

 

「ううん」

 

「ちょっとー、私のせい?」

 

「他に誰がいるんすか」

 

ここには美穂子さんを誘いに来たようだ。なぜか最初は躊躇っていたが池田さんに背中を押されて参加してくれた

 

部長は全国に向けてできるだけ強敵と言える相手と打ちたかったらしい。でかメンツ揃ってんだからオレいらなくね…?

 

終わったあとはキツかった…モモと話してるとこを一さんに見られてなぜか付き合ってる疑惑が浮上しその噂を聞きつけた咲、和、美穂子さんがオレのもとに駆けつけて来て説明しても聞く耳持たないし…当のモモはずっと笑顔でオレの弁護してくれないし…

 

それから何とかわかってもらえて次の日の朝、各々自分の高校への帰路についてとても充実した四校合同合宿はこれにて終了した

 




いよいよ次回から全国です。どんな出会いが待ち受けているんでしょうか!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全国編
第37話


全国編の始まりです!


 

合同合宿が終わった週の金曜に突然携帯が鳴りだした。相手は『玄さん』だ

 

「もしもし?」

 

『あ、翔くんですか?』

 

「うん。久しぶりだね、玄さん。どうしたの?」

 

『うん、久しぶり。あのね、来週の土日空いてないかな?』

 

「ん?特にないけど」

 

『よかった。それでね来週の土日でうちの麻雀部で長野に遠征することになって。そこで翔くんも私達と麻雀打ってほしいの。ダメかな?』

 

「ん〜、多分大丈夫だと思う」

 

『本当!ありがとう!』

 

玄さん達阿知賀女子が奈良県の代表になって全国に出場することになったのは知っていた。まぁ考えるのはうちと一緒か。できるだけ強い人と打つ。そのためにオレに白羽の矢が立ったということだろう

 

玄さんとの電話を切ったと同時に今度は透華さんから電話がきた

 

「もしもし」

 

『ごきげんよう。今よろしいかしら』

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

『来週の土日にうちに奈良県の代表が来ることになりましたわ』

 

龍門淵に玄さん達が?あぁ、遠征先って龍門淵ってことか

 

『そこでぜひ翔さんにもお越しいただきたいと思いまして』

 

「そうですか。わざわざありがとうございます。ではご一緒させていただきます」

 

『そう言うと思っていましたわ。よかったですわね、衣』

 

ん?衣姉さんが近くにいるのか?まぁ衣姉さんは全国区、相手にできるのは好都合だろ

 

 

 

 

ー次の週の土曜ー

 

オレは約束通り朝から龍門淵邸にやってきた。あとは宥さん達を待つだけだ

 

すると十時ぐらいにようやっとその奈良代表の阿知賀女子のみなさんが到着した。ハギヨシさんに連れらえていつもの大広間へやって来た

 

「お待ちしておりましたわ」

 

「こいつらが奈良代表?」

 

「こいつらとか失礼だよ?純くん」

 

「よろしく」

 

と衣姉さん以外の四人が簡単な言葉を発する。そして…

 

「遠路大義」

 

オレの隣で誰よりも強いオーラを放つ衣姉さん。玄さんと顧問の先生?はそのオーラ感じ取っているようだ

 

「あれ!?翔くん!?」

 

「あ、玄さん。宥さんも、長いとこお疲れさま」

 

「あ〜、翔くん〜」

 

宥さんはオレを見るやフラフラとこっちにやってきてオレの手を握った

 

「あの…宥さん…?」

 

「はぁ〜、あったか〜い。翔くんは変わらないね〜」

 

宥さんも昔と全然変わらないねなんとも間伸びするしゃべり方だ

 

「お姉ちゃんずるい!」

 

「く、玄さん!?」

 

なぜか宥さんに続いて玄さんも空いているもう片っ方の腕に自分の腕を絡ませる

 

「えっと…君は?」

 

「あ、すいません。先日玄さんの方から連絡をいただいた菊池というものです」

 

『っ!』

 

松実姉妹に両腕を拘束されたまま一応自己紹介する。オレの名前を聞いた瞬間他の阿知賀のメンバーは驚いた表情となった

 

「この人が…」

 

「長野県男子個人戦代表の…」

 

「県予選全勝…」

 

「あ、こちらこそよろしく。阿知賀女子麻雀部顧問の赤土 晴絵(あかど はるえ)です。龍門淵のみなさんも今回は急なお願いを聞き入れてもらってありがとうございます」

 

「構いませんわ。ではさっそく始めましょうか」

 

いやいや、この状況はなんとかしてから始めさせてくださいよ

 

「あったか〜い♪」

 

「翔くんの匂い〜♪久しぶりだね、お姉ちゃん♪」

 

「こらー!しょーはころもの弟だぞ!」

 

「ふふふ…翔はまた変な虫を作ってきたの…?これはどういうことか後でじっくり聞かないと…」

 

むー…松実姉妹と衣姉さんに引っ張られてて身動き取れないし…一さんはなんか怖いし…ダレカタスケテー!!

 

 

ようやくみんなオレから離れてくれて対局が始まった

 

「うわーい!また衣の勝ちだー!」

 

まぁ予想通りさっきから衣姉さんが連荘しまくっている。一局めはなんかプンスカしていた衣姉さんが親で連荘して他家(ターチャ)3人を飛ばして終局。その後も終始衣姉さんのトップで試合は進んだ。今の局は最後に3連続で海底撈月(ハイテイラオユエ)を和了り終局となった

 

「勝てない…」

 

「あの子、3回も海底(ハイテイ)和了ったよ!?」

 

「異常…」

 

あの子っておそらく君より衣姉さんの方が年上だぞ。今衣姉さんと打ってた阿知賀の唯一ジャージを着ている子は衣姉さんの力の前に卓に伏してしまった

 

「天江さん!」

 

と思ったらすぐ復活して身を乗り出した

 

「むっちゃ強いですね!のどかは、いや清澄は本当に天江さんに勝てたんですか!?」

 

のどか?のどかってあの和か?知り合いか?

 

「いや、ころもに土をつけたのはののかじゃない。清澄の嶺上(リンシャン)使いだ」

 

「それに今の衣は実力の半分も出せていませんわ。月も欠けてて夕方ですもの」

 

「嶺上使い?」

 

「月?」

 

玄さんと宥さん姉妹揃って頭の上に疑問符を浮かべながら首をかしげる。似てるな

 

「何言ってるか全然わかんないけど、もう一勝負、お願いします!」

 

「いいのか?」

 

「はい!」

 

へぇ〜。大方のやつは衣姉さんとやると心が折れて嫌になるんだが、この人は大丈夫みたいだな。こういう人は強くなるんだよな

 

「あたしも次はいるー」

 

「おー!お前もころもと遊んでくれるのか!」

 

「私達も」

 

「私も」

 

ジャージの子に感化されたのか阿知賀の全員のやる気がみなぎる(宥さんはわかんないけど…)

 

「…そっちの子達は僕が相手をするよ」

 

「…一さん?」

 

「翔は黙ってて…」

 

「はい!」

 

玄さんと宥さんの方を向いて一さんがそう宣言するがその姿がめっちゃ怖い…

 

「あ、言い忘れていたがころもよりしょーの方が強いぞ」

 

「うそっ!」

 

「マジ!?」

 

ジャージの子とツインテールの子が同時にオレの方を向く

 

「まぁ、負けるつもりはないよ」

 

オレは全員の前でそう言い放つ

 

「…次、お願いしてもいいですか!」

 

「あぁ、いいよ」

 

その後もメンバーを変えながら打ち続けた。余談だがその日、オレと一さんが負けなしとなった

 

土日にみっちり麻雀しつくした阿知賀と龍門淵の間の仲は良くなっていた。そして阿知賀のみんなが帰るとき見送りをしたんだが、そのときになぜかツインテールの子、新子 憧(あたらし あこ)と連絡先を交換してくれと言われたので交換した

 

「もう!最後の最後まで勝てなかった!」

 

「まぁいい線いってたから」

 

「何それ嫌味!?」

 

「そんなつもりはなかった。わりー」

 

「ふん!覚悟してなさいよ!そのうち倒すんだから!」

 

「あぁ、いつでも待ってるよ。だがそのときはオレも強くなってるからな」

 

「ならあたしはもっと強くなってみせるだけよ!」

 

「その意気だ」

 

気合の入っている憧の頭を撫でる

 

「な、何気安く撫でてんのよ!」

 

「あ、つい癖で」

 

「し、信じらんない!」

 

「悪かったよ」

 

こんなに怒られるとは思ってなかった…気をつけないと

 

「翔くん!私にはないんですか!?」

 

「私もしてほし〜な〜」

 

憧は嫌がるのに玄さんと宥さんは自分からやってほしがる。やっぱ女心ってわかんね。あ、ちゃんと撫でましたよ?

 

そして阿知賀女子一行は奈良へ帰っていった。最後まで憧は顔を赤くして怒っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ全国大会が間近に迫っていた。長野からスーパーあずさに乗って約二時間半、オレ達清澄高校麻雀部のメンバーは全国高校生麻雀大会が開催される東京(まだ新宿だけど)の地に降り立った

 

「ついに来たじぇ!東京!」

 

「新宿だけどな」

 

「えっと…乗り換えは…」

 

「こっちっすよ」

 

オレは以前に照さんの付き添いで来たことがあるから何となくわかる。でも今回は咲が迷子にならないように気をつけないと

 

そして今回の全国大会、オレは女子団体戦、自身の個人戦だけでなく過密スケジュールとなった。それはなぜか。これを説明するには一週間前に遡る

 

 

 

ー一週間前ー

 

四校合同合宿が終わったオレ達はその後も部室でそれぞれの実力アップを目指していた。しかしそんなある日オレは部長に呼ばれて一緒に職員室に出向いた

 

「どうしたんすか?」

 

「ん?あなたにたくさんの依頼よ」

 

「はい?」

 

依頼?特に探偵事務所を開いた覚えはないのだが

 

「あの部長。依頼って?」

 

「試合の申し込みよ。しかもどこも超強豪校」

 

「はぁ…でも全国出場同士の試合ってダメなんじゃないでしたっけ?」

 

「女子同士、男子同士ならね。でも今回の依頼先はどこも女子麻雀部からよ。男女間なら問題ないみたい」

 

「そうですか。自分は構いませんけど交通費とかどうすんですか?」

 

「その心配はないわ。どこも東京でという話になったわ」

 

なるへそ。全国本番前の肩慣らしというわけかな

 

「了解しました。それで?どこなんですか?」

 

「おそらくあなたも知ってるところよ。まず一校めが“奈良代表 阿知賀女子”」

 

この前もやったじゃんか。まだ足りんのか…

 

「次に“北大阪代表 千里山女子”」

 

怜と竜華さん…

 

「三校めが“鹿児島代表 永水女子”」

 

姉さん達にはるる、巴さんか。てか女子校ばっかだな

 

「次が“南大阪代表 姫松高校”」

 

洋姉と絹姉か…

 

「まだあるわよ?“岩手代表 宮守女子”」

 

宮守?ん〜…どっかで聞いたような…あっ、豊ねぇが行った高校か

 

「次が“福岡代表 新道寺女子”」

 

おれ?ここはまったく知らない高校だな。多分面識がある人もいないと思うけど…

 

「最後にここは驚いたわ…“西東京代表 白糸台高校”」

 

照さん、そして淡か…でもここはどうせ淡がオレと麻雀したいだけじゃないのか?

 

「まさか王者からも依頼がくるなんてね」

 

「そうっすね。でもいいんすか?他校と試合なんてやっちゃって。うちも全国なのに」

 

「その心配はいらないわ。相手が強いほど燃えるじゃない」

 

「それならいいですけど。なら全校承知しましたと連絡しておいてください」

 

「わかったわ」

 

 

 

その後それぞれの高校(知り合い)から日付と場所を聞いて手帳を確認してみると今注目のアイドルか!ってほどの過密スケジュールとなっていた

 

さてそんなこんなで今日泊まる宿に着いたのはもう日が落ちかけている時間になった

 

「うぉー!広いじょ!」

 

「やっと着いたね」

 

「京太郎は?」

 

「須賀くんには菊池くんと一緒に隣の棟の二人部屋に入ってもらったわ」

 

「それでオレは荷物持ちっすか…」

 

「いつも須賀くんじゃさすがに可哀想だからね」

 

そうですね。なんとなくいつもの京太郎の気持ちがわかった気がするぜ

 

「さて、今から明日の開会式までは自由時間としましょう。各自羽目を外しすぎず疲れない程度にね」

 

「おー!のどちゃん!咲ちゃん!着いてこい!」

 

「どこ行くんですか?優希!」

 

「そんなの決まってるじぇ!」

 

相変わらずテンション高いな。あれについていく二人はすごいもんだ

 

「そういえば和は髪型変えたんだな」

 

「へっ!?」

 

朝から気づいてたけど和は前のツインテールから左側だけ止めたサイドテールに変えていた

 

「へ、変でしょうか…?」

 

「そんなことないぞ?前より髪を下ろして大人っぽくなったな」

 

「あっ!ありがとう、ございます…」

 

顔が赤くなるにつれて声も小さくなっていく和。最後の方なんてなんて言ったかわからないくらいだ

 

「むぅ〜…翔くん、私にはなにかないの?」

 

「何って、お前はなんも変わらないじゃんか」

 

「それは、そうだけど…」

 

「あ、よく逸れずに来たな」

 

これが今日最大の労いだろう。よくついて来てくれた。それだけでオレは嬉しいぞ、の意味を込めて咲の頭を撫でる

 

「そ、そんな子供あつか、い…えへへ♪」

 

「じゃあ部長。オレも部屋に戻りますね」

 

「えぇ、ご苦労さま」

 

そしてオレも優希達と一緒に部屋を出た。どうやら優希達はこれからお風呂に行くらしい。オレは京太郎のいる部屋に向かおうとすると

 

「おっ」

 

「あら」

 

美穂子さんと出会った

 

「奇遇だな」

 

「ふふふ、そうね」

 

実際東京に出る前に美穂子さん達風越の数人と清澄の女子は相部屋になったことは聞かされていた

 

「ちゃんと来れたんだね」

 

「心配してくれたのは嬉しいけど、私の方がお姉さんなのよ?」

 

「だって美穂子さん電子系ダメじゃん?それで来方とか調べられるのかなって」

 

「ちゃ、ちゃんと調べたもん!」

 

まぁぶっちゃけて言うと心配したオレが事前に調べて美穂子さんのお母さんに渡してもらったんだけどね

 

「そっか。さすがお姉様」

 

「翔くん、このごろ私のことバカにしてない?」

 

「ソンナコトナイヨ」

 

「うそ!」

 

やべっ!美穂子さんが泣きそうだ!

 

「あぁ〜、悪かった。少しからかいすぎた」

 

オレは泣きそうな美穂子さんの頭の手を乗せる

 

「ふふふ、やっぱり翔くんは優しいのね」

 

「あっ!騙したな!美穂子さん!いつそんな技覚えた!?」

 

「内緒♪」

 

美穂子さんの涙は偽りだった。まんまと騙されたぜ。美穂子さんはそのまま部屋に入っていったからオレは再び自分の部屋へと歩き出した

 

 

 

 

 

ー次の日ー

 

今日は朝から女子団体戦の抽選会が行われる。全員で行くためオレと京太郎は指定された時間に玄関で待っている

 

「あら、早いのね」

 

「部長達が遅いんすよ。まぁどうせ咲が寝坊したんでしょうけど」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「ホントか?」

 

「…ごめんなさい」

 

「よくできました」

 

オレの問い詰めに咲は白状した。やっぱり寝坊したのか

 

「あれ?咲。お前はいつもとスカート違くね?」

 

京太郎の指摘にオレも咲の足元に目をやる

 

「あ、ホントだ」

 

「あ〜…」

 

「それはわしのじゃ」

 

「へ?どうして咲が染谷先輩のを?」

 

「そがん咲が寝ぼけて履いたからに来まっちょるやろ」

 

「「あぁ…」」

 

オレも京太郎もそれで納得してしまった。寝坊からの寝ぼけて間違えるとかマジで咲は麻雀以外だと抜けてるよな

 

「ほら、行くわよ」

 

部長の声をかけられてその後をついていく

 

「咲」

 

「なに?翔くん。まだ何かあるの?」

 

もう咲のライフはほとんどないらしい

 

「そのスカート、似合ってるぞ」

 

オレはそれだけ行ってみんなの後を追った。すると後ろから来た咲がオレの隣に来た。その顔には満面の笑みを浮かべている

 

 

地下鉄の乗って日比谷で降り地上へ出た

 

「うぉー!堀と石垣が見える。ここは城か!?」

 

「うん。確かに元はそうじゃね。でも今あそこは公園じゃ」

 

「まじか!?後で行こうじぇ」

 

「時間あったらね」

 

「なんかやっと東京に来たって感じがするじぇ!」

 

「うん!」

 

「昨日は宿泊施設に直行でしたからね。ん?」

 

和が何かに気づいて見上げた先をオレも見てみると青い空の中を飛行機が作った一本の白い線が伸びていた。こういう景色は長野とも変わんないな

 

 

 

 

「到着!わー、広いじぇー」

 

入った大きな講堂のような部屋に前のスクリーンには“第71回 全国高等学校麻雀選手権大会 抽選会場”と書かれていた

 

『間も無く抽選を開始します』

 

「やっぱ長野とは違うな」

 

長野をディスるな!確かに他の都道府県に比べて海はないけどそれでもいいところだぞ!

 

「あれ?咲ちゃんは?」

 

「うぉっ!」

 

「あ、やべっ…」

 

「また迷子ですか!?」

 

やっちまった…これじゃ照さんに会わす顔がないぞ…

 

「ちょっと探して来ますね!」

 

オレは咲の散策のため部屋を走り去る

 

「咲!」

 

「あ、翔くん!」

 

「よかった。わりーな」

 

「ううん、こっちこそごめんね」

 

すぐに見つかってよかった。早く戻ろう。オレは咲の手を引いて会場に戻った

 

『南大阪姫松高校、38番』

 

\わー!!/

 

「おぉ、すごい騒がれようですね」

 

「そりゃあ、姫松がノーシードってのがまずおかしいんじゃ…去年から永水が出て来たおかげでシードから外れたけど元々全国52校の中でも五指に入る強豪じゃ」

 

てか洋姉が部長かよ。なんか笑える

 

「あ、予備抽選の番号的には次が確か…」

 

『長野清澄高校』

 

「部長、カッチンコッチンだじょ」

 

「珍しいですね」

 

舞台の袖からまるでネジがよく回らないロボットのように部長が出て来た。さすがの部長でも緊張すんのかな

 

『33番』

 

シーン

 

まったく騒つかない。さっきの姫松とはえらい違いだな。でもその方が面白い

 

「あれ?33番?ってことは…」

 

あらら、二回戦で洋姉のところと霞姉さん達と当たっちゃった

 

『さぁ!全国高等学校麻雀選手権大会、いよいよ全ての抽選が終わりー!トーナメント表最後のピースが埋まりましたー!!!』

 

実況うるさっ!

 

『さぁこれが!運命なのだー!!!この頂に立つのはどの高校なのかー!!!?48校の暑い夏!!!』

 

あん?48校?全部で52校だぞ。でもこれで清澄の日程も決まったし、これからのスケジュールも立てやすくなっただろ

 

そして全校の試合出場メンバーは一ヶ所に集められ開会式が行われた

 

『これより全国高校麻雀大会、開会式を開始します』

 

たくさんいるな。それもそうか。全部で52校、各校5人ずつということは計260人いるんだもんな。上から見渡すと知り合いがどこにいるかもわかるな。ん?さっきからなんであの子だけオレの方向いてるんだ?てかその子の学校5人中4人が外国人とか。まぁバスケとかサッカーならともかく麻雀なら日本人も外国人も変わらん

 

全国高等学校麻雀選手権大会が今、始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔が咲を見つけて抽選会場に戻るときのこと

 

「あれ?翔くんかな?」

 

「ほんとだ〜」

 

「でもあれ、さっきすれ違った子よね」

 

「宮永、咲!」

 

「手、繋いでなかった…?」

 

「…」

 

「なんで女の子と手なんか繋いでるのよ!」

 

「憧?どした?」

 

「憧ちゃん、もしかして…」

 

「…」

 

「はっ!ち、違うわよ!宥姉もそんな目で見ないで!」

 

「お姉ちゃん…これって…」

 

「…憧ちゃん。翔くんは渡さない」

 

「だから違ーう!!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編1

お気に入りが900人を超えてました!!ありがとうございます!!感想をくれていた方もありがとう御座います!!

コメントでいただいたように麻雀の描写を考えていたら結構間が空いてしまいました。すいません。

感想、意見をいただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします!!!


全国の対決が始まった。オレのスケジュールも今日からスタートである。しかも午前と午後で違う学校との試合と半日刻みのスケジュールである

 

「さて、眠いけど頑張りますか」

 

オレはまだ眠気が取れていない顔をバンッと叩いて気合を入れる。だってまだ朝の5時だよ?早すぎでしょ。一日目の午前は“姫松”だ

 

「あ!翔くん!!!」

 

「ぐはっ!」

 

これはお決まりなのか…

 

「き、絹姉…」

 

「翔くん!翔くん!翔くん!」

 

「あらー」

 

「き、絹ちゃん?」

 

「すごいのよー」

 

「おっ、来よったな、翔。」

 

洋姉もそんないつものことみたいにスルーするのやめて。てか誰も助けてくれない!?

 

「絹姉。とりあえず挨拶したいから離れてくれる」

 

「…仕方ないな〜」

 

でも抱きつくのはやめてくれたけど腕は拘束したままなんだ…

 

「ど、ども。清澄高校一年の菊池 翔です。絹姉、絹恵さんと洋榎さんとは昔近くに住んでて仲良くしてもらってました」

 

「こちらこそこんな朝早くからおーきに。顧問の赤坂 郁乃(あかさか いくの)です」

 

「代行です。あ、姫松高校三年の末原 恭子(すえはら きょうこ)です」

 

「同じく三年の真瀬 由子(ませ ゆうこ)なのよ〜」

 

「同じく二年の上重 漫(うえしげ すず)です」

 

「よろしくお願いします。てか絹姉、そろそろ離さないか?」

 

「嫌や!今日はずっとこのままでおる!」

 

そんなことしたらオレも絹姉も麻雀打てないぞ!

 

「翔がずっと絹のことほったらかしにしとったからやぞ?責任取りーや」

 

「どういうこと?じゃあなんで今日オレ呼ばれたの?」

 

『絹(ちゃん)のコンデションを整えるため』

 

「んなアホな」

 

「翔くん♪」

 

5時に来させられて麻雀打たずにずっと絹姉とこのままなんて…高校生になって絹姉の発達具合が…オレの腕に膨よかな感触が…洋姉とは大違い

 

「なんや翔。今失礼なこと考えてへんか?」

 

「ナ、ナンノコトヤラサッパリ」

 

「なんでカタコトやねん!」

 

はい、洋姉の久しぶりのツッコミいただきました

 

「ん〜♪翔くん♪」

 

え?マジでずっとこのままなの…?

 

 

 

 

 

 

はい、その通りになりました。あれから3時間、オレは絹姉の隣に座らされてみんなが麻雀を打っているところをひたすら見てるだけ。しかも朝早かったからなのだろう絹姉寝ちゃったし…

 

「さて、そろそろ翔もうちらの方に手貸してもらおうかの」

 

「はい?オレは今日ずっと絹姉についてるんじゃ?」

 

「あんなんあめりかんじょーくに決まっとるやないか」

 

「ここは日本だ!」

 

「んぁ…しょぅ、くん…」

 

「あ、ごめん絹姉。もう少し寝てていいよ」

 

「ん…」

 

不注意で大声をあげてしまって起きそうになる絹姉の頭をそっと撫でてもう一度眠りに入らせた

 

「さて、今日は勝たしてもらうで!翔!」

 

「あぁ。オレも負ける気はない」

 

オレは絹を支えながらゆっくりとソファーに寝かせて卓に入った。ようやく打てる

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくなのよ〜」

 

オレと洋姉の他に上重さんと真瀬さんが入ってくれるようだ

 

ー東一局ー

 

「ロン。3900や」

 

幸先良く和了ったのはオレではなく洋姉。しかも九巡目。振り込んだのは上重さん

 

ー東二局ー

 

「ロン。8000です」

 

今回和了ったのはオレ。振り込んだのはまたもや上重さん

 

ー東三局ー

 

{一筒二筒七筒四索八索六萬六萬八萬九萬北南中中}

最近の中で一番引きが悪い手牌となった

 

「リーチ!」

 

しかも五巡目にして洋姉のリーチ。今回は和了れそうにないな。でも和了らせるつもりもない。でもどうするかな…そういえば…試してみるか

 

六巡目、オレー{八萬}切り

 

「ポン!」

 

オレの切った{八萬}を上重さんが鳴いた。これでとりあえず一発は消えたな。でもやっぱりそうなのか?前の二局も上重さんは数が上の牌(七、八、九)を捨てない傾向にあるみたいだ

 

七巡目、オレー{八索}切り

 

「チー!」

 

上重さんが下家(シモチャ)でよかった。そして…

 

「ロン!2000です!」

 

十二巡目でオレの切った{二筒}で上重さんが和了った。洋姉が和了らないですんだ。その本人はオレの思惑に気づいたのかオレの方を睨んでくる。だって調子づかせると止めんの大変なんだもんよ…

 

ー東四局ー

 

{四索五索六索六索八索九索三萬三萬七筒北北中中}

この手牌なら七対子(チートイ)狙いつつあわよくば一気通貫(イッツウ)かな。親だし連荘(レンチャン)しにいくか

 

一巡目、オレー{一索}ツモ{七筒}切り。上重さんー{南}切り。真瀬さんー{北}切り。洋姉ー{北}切り

 

二巡目、オレー{赤五索}ツモ{三萬}切り。上重さんー{西}切り。真瀬さんー{一萬}切り。洋姉ー{南}切り

 

三巡目、オレー{中}ツモ{三萬}の対子(トイツ)落とし。上重さんー{一筒}切り。真瀬さんー{南}ツモ切り。洋姉ー{九筒}切り

十三巡目、オレの手牌は

{一索一索四索四索五索赤五索六索六索八索八索九索九索中}

となっていた

 

十四巡目、オレー{三索}ツモ

 

「リーチ」

 

{中}でリーチをかける。でもこれまで索子(ソーズ)を一回しか捨ててないから他家から和了るのは無理そうか

 

他家の三人はみんな降りみたいだな。元物を切るのが多く見られるな

 

そして十七巡、

 

「ツモ!」

 

待っていた{三索}がオレの元にやって来た

 

立直(リーチ)自摸(ツモ)七対子(チートイツ)清一色(チンイツ)、赤1。12000オール」

 

ドラは乗らなかった。残念。まぁそれでも三倍満を和了ることができた

 

「うわ〜」

 

「やられたのよ〜」

 

「…」

 

そして対局は終了した。今回は東場だけのようでいつもよりも早く終わった

 

「ん〜」

 

「あ、おはよう絹姉」

 

対局がちょうで終わったところで絹姉がようやく起きてきた

 

「やっと起きたんかいなー、絹ー」

 

「お目覚めなのよ〜」

 

「おはよう、絹ちゃん」

 

「もうお昼になりますけど…」

 

「おはよ〜」

 

起きかけで目をクシュクシュしている絹姉に全員が声をかける。その絹姉の行動に少し可愛いと思ってしまったことは秘密だ

 

「おはよう〜…」

 

まだ眠気が残っているようで間の抜けた返事が返ってきた

 

それからは姫松のみなさんと調整&強者への慣れという程で麻雀を打った。そのうち絹姉も起きて一緒に混ざった。絹姉が昔よりも強くなっててビックリした。洋姉は昔と変わらずどんな相手ともプラスで終えるのはさすがだ。まぁトップは譲らなかったけど。末原さんは頭脳派だと思った。相手をよく分析して最善の手を考える。優希や咲は苦手なタイプかもしれない

 

「じゃあそろそろ時間なんでオレはこの辺で失礼します」

 

「えーー!!!!」

 

もう時間もお昼に差し掛かりそうだったので失礼しようと立ち上がった。ただ絹姉は声大きい

 

「もう帰っちゃうん…?」

 

「この後も用があるからね」

 

「そっか…」

 

さっきまでの眠気はどっかへ飛んで行った絹姉は今度はシュンッとなってしまった

 

「ごめんな絹姉。また顔見せるから」

 

「絶対やで!」

 

「おう」

 

「翔!今度は絶対倒したるからな!」

 

「ありがとうございました」

 

「ありがとなのよ〜」

 

「今日はこっちの都合で来ていただいてほんまにありがとうございます」

 

「どうもね〜」

 

「絶対また会いに来てね!」

 

「ありがとうございました」

 

絹姉の頭を撫でてみんなから声をかけられて次の場所へ向かった。でも姫松は監督よりも末原さんの方が監督っぽいし洋姉よりも末原さんの方が部長っぽかったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて午後に申し込みがあったのは“千里山女子”だ。お昼はありがたいことに向こうが用意してくれるらしい

 

そんで千里山から指定された場所に着くと既にメンバーが外に出て出迎えてくれた

 

「翔くん!」

 

「ウグッ!また…この、パターン…」

 

着いた瞬間にさっきの絹姉同様竜華さんの突撃をくらった。そして抱きつかれたまま地面に背中から倒れ込んだ

 

「りゅーか、はよー離してやらんと翔が死んでまう」

 

「えっ、あっ!翔くん!」

 

竜華さんで誰かは見えないがおそらく怜だろう人から声がかかり竜華さんが離れてからオレの方をブンブン揺らす。酔いそう…

 

「りゅ、竜華さん…大丈夫だから…落ち着いて」

 

「翔くん!よかった!」

 

止めてくれた。よかった…あと少しで口から何か出るとこだった

 

「久しぶり、竜華さん。怜も」

 

立ち上がって竜華さんとオレの隣に寄ってきた怜に声をかける

 

「うん!久しぶり!翔くん!」

 

「久しぶりやな〜。今回も最初はりゅーかにとられてもーたわ」

 

「なにが?」

 

「翔へのファーストタッチ」

 

「そんことを競うなよ」

 

と挨拶しているうちに竜華さんと怜に両腕を拘束されてしまった

 

「竜華に怜!うちらにも自己紹介させーや!」

 

「あんな先輩達、初めて見ました」

 

「この人が噂の彼ですか?」

 

「翔、よう来たな」

 

そして後から三人の生徒のような人と一人の女性がやってきた

 

「雅枝さん!お久しぶりです!こんな状態の挨拶ですいません…」

 

「ええよ、別に。そうなったんはその二人のせいやしな。ほら、二人もそろそろ離さんか」

 

「えぇ〜」

 

「私は翔から離れたら死んでしまいます」

 

思った通り二人とも駄々をこねる。しかも怜は何言ってんの?不謹慎だからやめなさい

 

「んなわけあるかいな」

 

「仕方あらへんな〜」

 

「また後でやな」

 

二人は渋々離れてくれた

 

「ありがとうございます」

 

「ええて。さて暑いしとりあえず中に入ろうか。各々の紹介はその後でな」

 

「わかりました」

 

雅枝さんと千里山のみなさんの後ろに続いて中に入る

 

「それにしてもまさか今日一日だけで愛宕家のみなさんに会うとは思いませんでした」

 

「そういや午前は姫松に行っとったな」

 

「知ってたんですか?」

 

「絹から連絡あってな。嬉しそうに電話してきたで。翔が関係したときの喜びより上を見たことないわ」

 

「あはははは」

 

さて、部屋に案内されてそれぞれの自己紹介始まった

 

「初めまして。菊池 翔です。昔少しの期間雅枝さんにお世話になったことがありました。今日はよろしくお願いします」

 

オレは一回礼をして終わらす

 

「相変わらず礼儀正しいな。じゃあ次はうちらの番やな。まぁうちと園城寺と清水谷のことは知っとるからいいやろ。じゃあ江口」

 

「おぉ!うちは三年の江口 セーラや!よろしゅうな!」

 

制服姿ではなく普通にTシャツと短パンという男の子のような格好をしている江口さん

 

「うちは二年の船久保 浩子(ふなくぼ ひろこ)言います。おばちゃ…監督とは親戚です」

 

メガネをクイッと持ち上げて雅枝さんの親戚と名乗る船久保さん。手にはなぜかタブレットを持っている

 

「一年の二条 泉(にじょう いずみ)です。よろしくお願いします」

 

制服なんだろうが怜達とは違って上がノースリーブで丈が短いのかおヘソが見えてしまっている。それにスカートも他の人より短い。オレはどこを見ているんだ…変態か…

 

「さて、自己紹介も終わったことやし、まずは…」

 

お、さっそく打つのかな?

 

『お昼やー!』

 

あ、違った。お昼は用意してくれてるんだよな。なんだろ?楽しみだな

 

「翔くん!」

 

「はい!」

 

お昼は何かという小学生みたいことを考えてたら竜華さんに呼ばれてびっくりしてしまった

 

「はい!」

 

「ん?これオレに?」

 

「もちろんや!」

 

なんとも嬉しいことに竜華さんが見た目から手作りと言えるお弁当をくれた

 

「おぉ!」

 

開けてみると色鮮やかで肉、野菜、果物と栄養面がしっかりと考えられた完璧なお弁当をだった

 

「どう、かな?」

 

「めっちゃ美味しいよ!」

 

「ほんま!?よかった〜」

 

「竜華さんは将来いいお嫁さんになるな」

 

「お!お嫁さ…!」

 

そこで竜華さんはボンッと爆発したように真っ赤になった

 

「でもこの卵焼きは怜が作ったやつだよな」

 

「え…?」

 

「あれ?間違った…?」

 

自信あったんだけど聞いてみたらポカーンとされたから間違ってたかな

 

「…あ、すまんな。そうや。その卵焼きはうちが作ったもんや。やけどよくわかったな」

 

合ってた。よかった

 

「何言ってんの。オレが()()()()()()()()の味ぐらい覚えてるわ」

 

「っ!」

 

そう。今言った通り昔怜から料理を教えてほしいと言われたことがあって、そのときに教えたのが卵焼きだった

 

「…覚えとって、くれたん?」

 

「ん?当たり前だろ?って怜!?」

 

ソファに座っていたオレの隣に腰を下ろしていた怜がこっちを向いて顔を近づけてきていたので驚いた。てかマジで近い近い!

 

「と、怜さん!?」

 

「そんなん言われたら、嬉しくなってまうやん…」

 

そしてどんどんオレの顔に近づいてくる怜

 

「園城寺〜。それ以上やるならさすがに怒るで〜」

 

「「っ!!」」

 

よかった。雅枝さんが止めてくれた。てかみんなに見られてる。江口さんはなんでそんな顔を真っ赤にしてるんだ?意外と乙女なのかな

 

「お嫁さん♪えへへへへへ♪」

 

竜華さんはまだ戻ってきてないのか

 

「よし!腹ごしらえは終えたな?じゃあ始めるで!」

 

「はい!」

 

「えへへへ♪」

 

竜華さんはいい加減戻ってきて!!!

 

一局目はオレ、竜華さん、怜、江口さんの四人でやることになった。ちなみに人選は雅枝さんによるものだ

 

「いきなり三年生組ですか」

 

「そういえばそうやんな」

 

「いつも通りやな」

 

「そうそう!早く始めようや!」

 

竜華さんは戻ってきてくれてよかった。江口さんはやる気満々だな

 

ー東場ー

 

「リーチ」

 

来たか。()()()()()()()()()()()()()()()()、園城寺 怜

 

「ツモ。2000・4000」

 

怜は一発を出す確率が非常に高く、そのうち未来視などと呼ばれるようになった。まぁその原因は本人にもよくわからないらしいが…でもそれは体に与える負担が大きいからできるだけ使わないでほしい

 

ー東二局ー

 

「ツモ!3000・6000!」

 

次に和了ったのは江口さん。怜から聞いてた話だと二年のときから千里山でエースを務めていたらしい。しかも千里山は超強豪で一軍から三軍まであるが江口さんは竜華さんもだけど一年生のときから一軍に参加してたらしい

 

ー東三局ー

 

「ポン」

 

むっ…オレが聴牌(テンパイ)したと同時に怜が鳴いた。先を見てのことなのかただ手を進めるだけなのか

 

「ロン。12000」

 

なんと!振り込んでしまった…和了ったのは竜華さん。ってゾーン入ってんじゃん!ズルだ!チートだ!!(←神様からチート能力もらっといて何言ってんの)

 

午前中の洋姉絹姉のときも思ったけど怜も竜華さんも強くなってるな

 

ー東四局ー

 

オレの手牌は

{一萬二萬八萬七索九筒二索五索西南北東發發} {九索}

となった。これは国士を和了れということなのか…?このメンツ相手に和了れるかな。怜の未来視を視野に入れながらやらないといけないし、{發}が対子だから十三面待ちにできないじゃん!振り聴覚悟で無理矢理十三面待ちに取るか…迷いどころだな。あとは運だな

 

一巡目、オレー{一筒}ツモ{五索}切り。竜華さんー{西}切り。怜ー{南}切り。江口さんー{北}切り

 

二巡目、オレー{三索}ツモ{八萬}切り。竜華さんー{北}切り。怜ー{一萬}切り。江口さんー{西}切り

 

三巡目、オレー{白}ツモ{五索}切り。竜華さんー{九筒}切り。怜ー{七萬}切り。江口さんー{白}切り

十巡目、

 

「チー」

 

またもや怜が鳴いた。これにもまた意味があるのかないのか…

十六巡目

{一萬九萬一筒九筒九索西南北東白中發發}

これであとは{一索}を引けば和了れる。だが怜はまだ二副露(ツーフーロ)しかしてないからまだ鳴くことできる。河にはまだ一枚しか出てないが他家が持ってるかもしれない

 

 

そしてオレは山から牌を取り指で何か確認して確信する

 

 

「ツモ。国士無双。16000オール」

 

取ったのは願っていた{一索}。オレは逆転して一位となり、対局は終了した

 

「はぁ〜…最後にそれはすごいわ〜」

 

「さすが翔くんや!」

 

「ありがと竜華さん。怜は大丈夫か?」

 

「あぁ。今日はなんか平気。翔がいるからかもな」

 

「んなわけないだろ」

 

そんな人がいるかいないかで体調の良し悪しが変わるか。まぁ気分的には良くなるかもしれないけど

 

「さぁ、交代や。翔には悪いけど連続で入ってもらうで」

 

「えぇ。構いませんよ」

 

集中力的にはまだ大丈夫だ。でもあと何局続くかわからないから適当なところで休憩をもらおう

 

それから交代交代で打ち続け、六時を過ぎたあたりで終了となった

 

「今日はありがとな。助かったわ」

 

「いえ。オレも楽しかったです」

 

「しかしすごいな。全局トップとは」

 

「ははは…」

 

雅枝さんがジト目で行ってきたので笑って誤魔化すしかなかった

 

「翔くん!なんで帰っちゃうの!?」

 

「えっ!?それはオレはここの生徒じゃないからですよ」

 

「そうやけど…ほら!もう遅いし今日は泊まってき!私の部屋でええから!」

 

「ダメですよ!」

 

「そ、そんな…」

 

竜華さんは壁に手をついて俯く状態となってしまった

 

「ほんまに泊まって行かへんの…?」

 

「怜までそんなこと言うのか?ダメに決まっているだろ」

 

「昔はよううちの家に泊まってたやん。それと一緒や」

 

「全然一緒じゃないからな?オレらもう高校生だからな!もし間違いが起きたらどうする!?」

 

「間違いって翔はそういうことしたいん?なら今すぐにでも…」

 

そう言って近づいてくる怜の肩に手を置く雅枝さん

 

「園城寺〜。そこまでや。あんま翔を困らすもんやないで。それこそ嫌われてしまうぞ?」

 

「翔。気ぃつけて帰りや」

 

「お、おう…」

 

雅枝さんの笑顔恐っ!えっ…なんでそのままこっちに近づいて、きて…

 

トン

 

「絹のこと裏切ったら…ただじゃおかへんで…」

 

「ひっ!」

 

怜のときと同じようにオレの肩に手を置いて耳元でそう聞かされて思わず身震いしてしまった。マジで雅枝さん恐ぇー…

 

それでようやく一日目が終了した

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編2

大変長らくお待たせしてしまって申し訳ないです!!
私事で投稿できませんでした

間が空きすぎて前の内容忘れっちゃったと言う方は前のものから見直していただけたら幸いです!

これから学校が始まってしまうのでまた投稿に間が空いてしまうかもしれませんが必ず続きは投稿します!!


東京に来て二日目、今日も朝から予定が入っている。まぁやることは昨日とほとんど変わらないけど

 

今日の午前は“宮守女子”だ。豊ねぇに会うのはマジで久々だな。手紙とか電話でちょくちょく連絡は取り合ってたけど顔を合わせるのは何年ぶりだ?

 

さて、宮守の皆さんが泊まっているのは姫松や千里山のようなホテルではなくオレら清澄が泊まっているところに似た民宿のようなところだ。その玄関に入ったところに頭の後ろで髪をお団子にしている一人の少女が立っていた

 

「すいません。もしかして宮守女子の方ですか?」

 

「はい、そうですけど…あ、もしかしてあなたが?」

 

「はい。菊池 翔です」

 

「そう。あなたがあの…」

 

「あの?」

 

「いえ、なんでもないわ。私は宮守女子三年で麻雀部長の臼沢 塞(うすざわ さえ)です。今日はありがとう」

 

「いえ、こちらこそ申し込みをいただいて嬉しく思います。会いたい人もいたので」

 

「そう。じゃあ案内するわね」

 

軽めの挨拶を終えて臼沢さんにつられて部屋に案内される。そして部屋の前につくと臼沢さんが襖を開けようとするのを止める。今までの傾向を考えると今回もだろう

 

「臼沢さん、すいません。おそらくオレが空ける方がいいと思います。それにすこし危ないと思うので離れといてください」

 

「?わかったわ」

 

そして襖の前に立ち気合を入れて一呼吸入れる。それから一応襖の隣の壁をノックして開ける

 

「失礼します」

 

「翔ちゃん!」

 

「グフッ!」

 

わかっていた…わかっていたがやはり辛い。しかし!今回は倒れずに耐え抜いた!

 

「翔ちゃんだ…本物の翔ちゃんだ!」

 

「おう、本物だぞ。全然会えなくてごめんな」

 

「ううん…今日会えて本当に嬉しいよ〜」

 

豊ねぇは変わってないな。こんな優しい義姉を持って幸せもんだ。でもこんな状況でこんなこと思ってごめん。身長負けた!(←現在の翔の身長ー193cm)

 

「豊音、再会できて嬉しいのはわかるんだけど、そろそろ私らにも紹介させておくれ」

 

「あ、ごめんなさい」

 

どこか田舎の婆ちゃんを思い出しそうな優しい声で豊ねぇは離れてくれた、が腕はホールドされるのね…わかってたけど…

 

「今日は来てくれてありがとうね。私は熊倉 トシ。今年からこの麻雀部の顧問になった者だよ」

 

優しい声の持ち主は熊倉監督だったみたいだ。なかなかのお年寄りであるようだが見た目からしてとても優しそうなお方だ

 

「さっきも言ったけど部長で三年の臼沢 塞よ。よろしく」

 

「同じく三年の鹿倉 胡桃(かくら くるみ)よ!」

 

腰に手を置いて立っているのが鹿倉さん。仁王立ちをして威厳を感じさせようとしているのだろうがいかんせん身長が低い。衣姉さんに匹敵するくらいの身長だ。いや、女性を身長などで見てはいけない。先輩は先輩だ、年上として接しなければ!

 

「よろしくお願いします、鹿倉さん」

 

「っ!君は今、なんて…?」

 

「?よろしくお願いします?」

 

「その後!」

 

「鹿倉さん?」

 

「…わかんないことがあったらなんでも聞きなさい!」

 

「え?は、はい…」

 

よくわからないがご機嫌になったようだ

 

「ワ、ワタシハエイスリン・ウィッシュアート、デス…」

 

「あ、はい」

 

金髪で碧眼、ホワイトボードを持って耳に赤いペンをかけているウィッシュアートさんが話しかけてくれた。見たときから思ってたけどホントに外国人か

 

「I'm Syo Kikuchi. Nice to mee you.(菊池 翔です。よろしくお願いします)」

 

「っ!NIce to meet you, too! You can speak English. Awesome!(こちらこそよろしく!英語話せるんだね、すごいね!!)」

 

「Umm... A little. (う〜ん…少しだけね)」

 

通じてよかった。でもなんでオレ英語話せるんだっけ?まぁいっか

 

「エイスリンと話せるなんてすごいね。あ、小瀬川 白望(こせがわ しろみ)。三年、よろしく」

 

立っているみんなとは座椅子にもたれかかってグデーっとしている小瀬川さん。表情もなんだかダルそうだ。あ、ちなみにウィッシュアートさんも三年生らしい。鹿倉さんが教えてくれた

 

「最後は私だね!改めて久しぶり!翔ちゃん!」

 

「うん。久しぶり豊ねぇ。今日はよろしく」

 

「うん!」

 

「あ、みなさん。オレと豊ねぇは…「知ってるよ」…えっ?」

 

オレと豊ねぇの関係の説明の話をしようとすると臼沢さんに止められた

 

「話は豊音から何度も聞かされてるからね」

 

「え?」

 

「毎日のように聞いてたかも」

 

「豊ねぇ…」

 

「That's Toyone looked so happy! (そのときのトヨネすごい嬉しそうだったよ!)」

 

「Really... (そうなんですか…)」

 

「だって〜」

 

みんなの言うことに恥ずかしくなったのかオレの肩のとこに顔を埋める豊ねぇ

 

「さて、話もここまでにしてそろそろ始めようかねぇ」

 

熊倉さんの一言でみんなの表情が変わる。小瀬川さんは変わらずダルそうだけど

 

「でも誰から入りますか?」

 

「う〜ん…じゃあ菊池くんとそうだねぇ…豊音と白、それと我らが部長に入ってもらおうかね」

 

「了解です」

 

「は〜い」

 

「…ダルい」

 

「わかりました」

 

熊倉さんの指名にオレ、豊ねぇ、小瀬川さん、臼沢さんがそれぞれ返事をして席につく。小瀬川さんは返事と言っていいのかわからないが…

 

「今日は何局か回したいから東風戦ね」

 

熊倉さんの言葉に全員が頷く

 

東家:豊ねぇ 北家:オレ 西家:臼沢さん 南家:小瀬川さん

 

ー東一局ー

 

そういえば豊ねぇが得意としてるもの何個あったっけ…

 

「ポン!」

 

豊ねぇ、“友引”か?一回鳴いただけじゃわかんねぇな

 

「チー!」

 

これは確定かな。でもその対策はちゃんと考えてる!

 

「ポン」

 

今度鳴いたのは豊ねぇではなくオレだ。豊ねぇ友引を使っている途中で他家の誰かが鳴くとその後鳴けなくなるはずだ。しかし…

 

「チー!」

 

「っ!」

 

マジか…昔はこれで友引は止められたんだけどな。豊ねぇも変わってるってことか…ヤバいな、止め方分かんねぇ

 

「ポン!」

 

小瀬川さんも臼沢さんも動く素振りを見せず単騎待ちが完成してしてしまった

 

「ぼっちじゃないよ〜」

 

豊ねぇは字牌に残った一つの牌の上に人差し指を置いて次の順番を待っている。そして次の巡…

 

「お友達が来たよ〜。ツモ。2000オール」

 

やられちまったな。こうなるともう昔やってた対策は通じないと考える方がいいんだろうか

 

ー東一局 一本場ー

 

「一本場〜」

 

豊ねぇの連荘。どんな能力があったか覚えていない以上、それに友引の対策が通用しなかった以上今回の対局は速さ重視で行くかな。それに”先負”がある以上誰もリーチはかけないだろうしオレもやたらにかけられないから点数も上げづらい

 

それにしても一本場が始まる前に豊ねぇがオレに向けてやってきたドヤ顔…こんにゃろぅ…

 

それに他の二人がどんな打ち手なのか全くわからない。なら実力を出す前にオレが和了ろう

 

「ツモ。2000・4000の一本付けです」

 

とりあえずこの局は和了ることができた。しかも満貫で。でも今回豊ねぇ友引止めたな。違う能力やろうとしてたのか…?

 

ー東二局ー

 

「う〜ん…ちょいたんま」

 

全員が手牌を取り終えてオレが最初の牌を出したところで次の小瀬川さんが左手で自分の左目を隠すようにして何か考える姿勢を取った

 

「決めた。とりあえずこれで」

 

そう言って最初の牌を切った。何かあるのだろうか

 

「ロン。7700です」

 

でもこの局を和了ったのはオレ。速さを重視しているため点数は低いが親だし連荘狙いだ。でもさっきの小瀬川さんのボヤきはきになるな

 

ー東二局 一本場ー

 

「ツモ。4100オールです」

 

今回も和了ったのはオレ。しかも五巡目という早い段階で。しかもしかもリーチなしで。なんかいい牌ばっか来たんだよな

 

すると臼沢さんがポケットからモノクル(片眼鏡)を取り出し右目にかけた

 

「サエ!?」

 

「塞…」

 

「大丈夫です。無理はしないので」

 

ただモノクルをかけただけなのにウィッシュアートさんは大声をあげて熊倉さんが心配そうに声をかける。でも大丈夫と答える臼沢さん

 

ー東二局 二本場ー

 

「では、二本場です」

 

そう言って点棒を卓の端に並べる。そして顔を上げると臼沢さんに見られていることに気づく。なんだ…?

 

「…」

 

「…ちょいたんま」

 

そして小瀬川さんがさっきと同じ体勢をとった

 

「ポン!」

 

豊ねぇもまた友引か牌を鳴いた。しかしそんな中臼沢さんはオレを見続けている。ホントにどうしたんだ…?

 

それから幾巡目、どうしたというのだ…全く和了れる気がしない。さっきからずっと二向聴から手が伸びない。まるで衣姉さんや淡と打ってるときみたいだ。でもその二人とは違って抜け出せる気がしない…

 

「ツモ。3000・6000」

 

やられた。しかもハネ満の親っかぶり。でもそんなことよりもオレ自身の方が心配だ。なんだ…?何が起きてるんだ…?全く手が進まなかった。有効牌が全く来なかった。手が悪いときなんて何回もあるがここまで有効牌が来なかったのは初めてだ

 

はっ!臼沢さん、か…そう思って臼沢さんの方を見てみると疲れた表情で少し汗もかいている。何やら体調が悪そうだ

 

「臼沢さん。大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ…」

 

全く大丈夫そうには見えない…熊倉さん達もとても心配そうに見ている。オレは今すぐ対局を止めるよう言おうとしたが臼沢さんの目を見たらそれが言えなくなってしまった

 

ー東三局ー

 

「ツモ!1000・2000!」

 

この局は豊ねぇが友引で和了った

 

この局も臼沢さんはオレを見続けていた。そしてオレも和了りに近づけず、それに連れて臼沢さんの顔色は悪くなる一方だった。これに関しては小瀬川さんも豊ねぇも気づいているようだ

 

ー東四局ー

 

この局も臼沢さんはオレを見続けるらしい。でもその目は段々と辛くなっていっているのを物語っている

 

{一萬一萬二萬二萬赤五萬七萬一筒四筒四筒九筒七索白中} {二索}

オレの手牌はこうなった

 

臼沢さんの体調も考えると早く終わらせなくては…

 

「ポン!」

 

「ポン!」

 

「ポン!」

 

オレは三連続で鳴く

 

{赤五萬五萬三筒赤五筒}

{二萬二萬横二萬}

{四筒横四筒四筒}

{一萬一萬横一萬}

 

こうなったのはいい。しかし問題はここからだ。二局連続で臼沢さんのおかげで和了ることができなかった。今回もそれは続いた

 

しかし十一巡目、それは崩れた。オレがツモったのは{五筒}。そして{三筒}を切って聴牌。あとは和了り牌を待つだけだ

 

そして十四巡目、臼沢さんは限界が来たのかオレの元に来てほしい牌が来てくれた

 

「ツモ!2000・4000!」

 

オレは和了ると同時に席を立ち臼沢さんの元に駆け寄った。周りのみんなも同じように駆け寄る

 

「臼沢さん!大丈夫ですか!?」

 

「え、えぇ…大丈夫…よ…」

 

臼沢さんはそう言ってイスから倒れ落ちそうになる。オレはとっさに支え落ちるのを阻止する

 

「あ、ありがとう…」

 

「いえ」

 

意識はあるようだが体力がほとんど切れているみたいだ。一度横にした方がよさそうだな

 

「熊倉さん、臼沢さんを一度横にさせた方がいいと思いますが…」

 

「そうだねぇ」

 

「臼沢さん…すいません」

 

「え…きゃっ!」

 

悪いと思ったが臼沢さんをお姫様抱っこ状態で抱きかかえソファに寝かせる

 

「とりあえず休んでください」

 

「え、えぇ…すまないわね」

 

臼沢さんはそのまま眠りについてしまった

 

「はぁ。菊池くん、迷惑をかけたねぇ」

 

「いえ、大事がなくてよかったです」

 

「翔ちゃん、カッコいい!」

 

「うおっ!あ、ありがと豊ねぇ」

 

「You seemed prince! (王子様みたい!)」

 

「ははは…」

 

「ありがとう!」

 

「ありがと…」

 

熊倉さんから声をかけられ豊ねぇには抱きつかれウィッシュアートさんは目をキラキラさせて王子様の絵が描かれたホワイトボードを見せられ鹿倉さんと小瀬川さんからは感謝の言葉をかけられた。臼沢さんはそれだけみんなから想われているんだなぁ〜

 

「塞は少し寝かせるとして次やる前にあなた達も少し休憩しな」

 

「ならお茶淹れますね」

 

「おや、本当かい?すまないね。なにせうちでお茶を淹れられるのが塞だけでね」

 

「構わないですよ」

 

そして急須の中に茶葉を入れてポッドからお湯を注ぐ。少し置いてから人数分のコップに少しずつ入れていく。一気に入れると最初に入れたのは薄く、後に入れたのは濃くなってしまうからだ

 

「あら、美味しい」

 

「うん!塞と同じくらい!」

 

「さすが翔ちゃん!」

 

「OC〜!」

 

「…」

 

よかった。小瀬川さんはなんの感想も言わないし表情も変わらないからいいのか悪いのかわからないな。不安になる

 

「充電、充電!」

 

お茶を飲んでいる最中鹿倉さんは小瀬川さんの膝の上に乗りっぱなしだ。小瀬川さんは飲みづらそうだ。すると…

 

「ん?」

 

「エヘヘ♪ Charge charge〜♪(充電、充電♪)」

 

「W, what are you doing...?(な、何してるんですか…?)」

 

オレがみんなにお茶を渡して座ると同時にウィッシュアートさんがオレの膝の上に乗ってきた。まるで初美姉さんみたいだ

 

「I imitate Kurumi.(胡桃の真似)」

 

「I...I see.(そ、そうですか)」

 

「あー!エイちゃんズルい!」

 

鹿倉さんの真似と言う割には自分でオレの手を自分の頭に持ってきて撫でるのを要求してくる。ホントに初美姉さんみたいだな。豊ねぇはこんなんで嫉妬しないでよ

 

「さて!そろそろ再開しようかね」

 

『はい(ハイ)!』

 

「は〜い」

 

みんな臼沢さんを起こさないように静かに元気よく返事する。けど豊ねぇだけ不機嫌…

 

それから鹿倉さんとウィッシュアートさんとも対局した。鹿倉さんは全くリーチせずウィッシュアートさんは聴牌率の高さに驚いた。でも一番驚いたのは熊倉さんだ。強すぎでしょ!久々に一位取れなかったよ!

 

こうして二日目の午前中を宮守女子の麻雀部のみなさんと過ごした。最終的に臼沢さんは起きなかったけどこれで体調が戻るならよしとする。最後の帰り際にウィッシュアートさんからファーストネームで呼んでほしいとのことだったのでエイスリンさんと呼ばしてもらうことになった。豊ねぇは別れが辛いのかまた泣いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

塞 side

 

私、どうしたんだっけ…あ、そっか。対局が終わった後で寝ちゃったんだった。ちょっと無理しちゃったかも…でもあの子何者よ。こんなに抑えるのが辛い人なんて初めてよ。豊音だってここまでじゃなかったのに

 

「あっ!塞起きたー!おはよ〜」

 

ソファーから身を起こすと豊音が声をかけてくれた。時計を見ると既に十二時を回っていた

 

「塞、大丈夫かい?」

 

「あ、はい。迷惑かけてすいませんでした」

 

「いいんだよ。でも無理するんじゃないよ」

 

「はい…」

 

監督にもメンバーにも心配をかけてしまった。これじゃ部長失格ね…

 

「それで、エイちゃんはどうしたの…?」

 

「ん?さっきからあの状態のまんま」

 

そこではエイちゃんことエイスリンがすごい笑顔でホワイトボードに何かを描いては消してを繰り返していた。それに気づいた私は聞いて見ると胡桃がよくわからない返答をしてきた

 

「聞いてよ!塞!エイちゃんだけズルいんだよ〜!」

 

「えっ。な、何が…?」

 

すると豊音が頰を膨らまして私に訴えてきた

 

「エイちゃんだけ翔くんの膝の上に座って!なでなでしてもらって!!し・か・も!今日会ったばかりなのに名前で呼ばれるようになっちゃうし!」

 

「へ、へ〜。そうなんだ…」

 

なんだ。ただの嫉妬じゃん、それ。でもエイちゃんすごく懐いてたな。英語で話せるからかな。まぁ菊池くんは優しそうだし気も使えそうだしいい子だろうな…

 

「っ!」

 

「ん?どうしたの?塞」

 

「い、いや!なんでもない!」

 

ヤバい…ヤバいヤバい!そういえば私あの子にお、お姫様抱っこされたのよね…それに助けてもらっちゃったし…あのときの菊池くん、カッコよかっt…って何を考えてるの私ー!!!

 

「塞…顔赤いけど、大丈夫?」

 

「はっ!だ、大丈夫よ!」

 

もう!あの白に気づかれちゃった!どうしよ…と、とにかく落ち着かないと…

 

「もしかして塞…」

 

「な、なに?豊音…」

 

「翔ちゃんのこと考えてる?」

 

「なっ!そんなわけないでしょ!」

 

「あー!やっぱり!!もう!ダメだよ!!翔ちゃんは私のなんだから!!!」

 

「だから違うって言ってるじゃん!」

 

もー、何なのよ…でも男の人にこんな感情持つなんて初めて。やっぱりと豊音の言う通り私菊池くんのことす、好きになっちゃった…のかな…

 

「また、会えるかな…」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編3


お待たせしてしまって申し訳ありません!ようやく投稿できました

そしてなんとお気に入りが待望の1000人に到達していました!!本当に、本当にありがとうございます!!!


 

豊ねぇ達宮守女子のみなさんと別れてオレは午後の目的地、永水女子が泊まっている施設に向かっている。その途中でお土産としてお茶請けによさそうなお菓子とはるるの好きな黒糖も買った

 

永水女子のみんなが泊まっている宿は鹿児島出身の人が経営しているらしく鹿児島の家にすごく似ているらしい。東京に来てからはるるからメールで聞いていた。しかも畳の部屋で霧島心境と似ていてすごく過ごしやすいとも聞いている。外見もホテルではなく松実館みたいに民宿のような作りのため見つけやすいと巴さんから聞いている。それに宿の外ではみんなの応援に来ている明星と湧が待っててくれているらしい

 

「「兄様!!!」」

 

お、噂をすれば何とやらだ。オレの方に巫女姿の二人が走ってやってくる。ん?走って、やって…

 

「グハッ!」

 

案の定二人はオレに特攻を仕掛けてきた。よってオレは轟沈、地面に崩れ落ちた

 

「すぅ〜…兄様ぁ〜♪」

 

「あぁ〜、兄様の匂い〜♪久しぶり〜♪」

 

二人はオレの体に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。暑い中歩いてきて汗かいてるからやめてほしいんだが…

 

「ひ、久しぶりだな…二人とも…」

 

「はい♪明星はずっと待っていました!」

 

「私も私も!あ、兄様!後で宿題教えて!」

 

「とりあえず降りてほしいんだが。それに案内もお願いしたいし…」

 

二人は渋々だが降りてくれた。そしてさっきオレの元に勢いよく走ってきた姿とは別人のように規則正しい歩みの二人の後について中に入っていく

 

玄関で靴を脱ぎ廊下に沿って奥へ案内され突き当たりに差し掛かってところで二人は歩みを止めた

 

「こちらです」

 

「姫様達がお待ちですよ、兄様」

 

部屋の扉は障子の襖になっており明星と湧はその襖の両端に立つ

 

「姫様方、翔兄様をお連れしました」

 

『はーい。入って構わないわよ』

 

「失礼します」

 

明星の声かけに中から返事がして二人が同時に襖を開ける。その中にはソファーで眠っている小蒔姉さんとイスに腰掛けている他の六女仙のみんながいた

 

「お久しぶりです」

 

「えぇ、久しぶりね。翔くん」

 

「お久しぶりですよ〜」

 

「…久しぶり」

 

「お久しぶり。また背伸びたんじゃない?」

 

中へ一歩入ったところで一度軽く頭を下げて挨拶をすると霞姉さん、初美姉さん、はるる、巴さんの順にオレの言葉に返してくれた。巴さんは立ち上がって背伸びをしながらオレの頭に手を伸ばしてくるが届かないようだ

 

「ん…しょう、くん…?」

 

「ん?オレだよ、小蒔姉さん」

 

すると小蒔姉さんがゆっくりとソファーから体を起こしたのでその前に移動する。小蒔姉さんはまだ半寝状態なのか体を起こしただけで目は空いていない。オレはそんな姉さんの頭を撫でながらオレは来たことを伝える。すると姉さんオレの背中に手を回す

 

「翔く〜ん♪本当に翔くんです〜♪」

 

「ね、姉さん…」

 

オレに抱きつきながら顔をスリスリしてくる小蒔姉さん

 

「あらあら、小蒔ちゃんたら」

 

「姫様だけズルいのですよ〜」

 

「…ズルい」

 

「むぅ〜」

 

「兄様ぁ〜」

 

「あらら」

 

霞姉さんは寝起きの妹を見るかのように片方の頰に手を添えてニッコリ笑う。その隣で初美姉さんとはるるがプクッと頰を膨らましているのを見て巴さんは困った表情になる。明星と湧も四人の後ろでプンスカ状態になった

 

「あ、そうだ。巴さん、これお土産です。あとはるるのも入ってるから」

 

小蒔姉さんに抱きつかれながらも買ってきたものを巴さんに渡す

 

「ありがとう。ならお茶を淹れようかしらね」

 

「お願いね、巴ちゃん」

 

「オレも手伝いましょうか?」

 

「ありがとう。でもその状態で手伝えるのかしら?」

 

「あっ…」

 

オレは現在の自分の状態を再確認する。手伝いたいものの小蒔姉さんにホールドされているため抜け出せない。かといって無理に解こうとすると小蒔姉さんの機嫌がエベレストから飛び降りるくらい急降下するのは容易にわかる。ここはお願いしよう…

 

「ふふっ、翔はそのまま姫様についていてあげて」

 

「…すいません」

 

でも巴さんのお茶か。久しぶりに飲むから楽しみだ。てか小蒔姉さん、座らしてくれないかな…

 

「さぁ小蒔ちゃん。巴ちゃんがお茶淹れてくれてるから起きたならこっちへいらっしゃい」

 

「は〜い」

 

霞姉さんの声でようやく小蒔姉さんのホールドから解放されたオレも席に座る。するといつものことでオレの膝の上に初美姉さんが乗ってきた

 

「姉さん…」

 

「姫様だけじゃなくて、私にも構ってほしいのですよ〜」

 

「わかってるよ。これでいいか?」

 

これもまたいつも通り膝の上に乗せた初美姉さんの頭を撫でる

 

「ふふふ♪それでいいのですよ〜♪」

 

言ったら怒られるだろうけど初美姉さんってホントに年に不相応な行動とるよな。ホントに霞姉さんや巴さんと同い年か?するとオレの隣にはるるがイスが合わさるぐらい近づいてきた

 

「はるる?」

 

「これ、ありがと…」

 

「あぁ。口にあったかな?」

 

「うん。美味しい」

 

「それはよかった」

 

そう言ってはるるはまた黒糖を一つ袋から取り出して頬張る。はるるの好物が黒糖だってことは知っていたがそれ以外知らなかったためとりあえず黒糖といえば沖縄産かなと思って沖縄産の黒糖を買ってきたのだが口に合ったようでよかった

 

「それではるる?」

 

「?」

 

「こんなにくっつかなくてもよくないか?」

 

「成分補給中しないとだから?」

 

「成分?糖分なら今摂ってるじゃんか」

 

「それとはまた別なもの。私にとってこれは糖分よりも大事」

 

糖分第一のはるるにとっての糖分よりも上位のもの!?それは一体何だ!?

 

「ふふっ、はっちゃんもはるちゃんも嬉しそうね」

 

「霞さんは行かなくていいんですか?」

 

「私はいいのよ。今はね♪」

 

霞姉さんとお茶をお盆に乗せて戻ってきた巴さんが何やら話しているが何か用事でもあるのだろうか。そして巴さんが淹れてくれたお茶は美味しくいただきました

 

「さて、翔くんとの戯れ時間は一旦終わりにしてやることやっちゃいましょう」

 

一旦ということはやること終わったらまた続くってことでしょうか…お義姉さま《おねえさま》…

 

「じゃあ翔は座っておいて。最初は誰から入りますか?」

 

オレは巴さんに言われて麻雀卓に座る。それに続いて初美姉さん、巴さん、はるるが入った

 

「翔と打つのも久しぶりなのですよ〜」

 

「よろしくね」

 

「…よろしく」

 

「お願いします」

 

「東風戦でお願いね」

 

昨日今日と東風戦、優希が喜びそうな状態で打ってるな

 

さて、この三人か。初美姉さんはわかりやすいけどはるると巴さんは堅実ではあるが型にはまらないその局その局で対応を変えられる。やっかいなのはでっかい一発を出せる初美姉さんよりもこっちの二人かもな

 

北家:オレ 東家:はるる 南家:巴さん 西家:初美姉さん

 

席順よくないな〜オレがラス親のときに初美姉さんが北家とか。役満の直撃と親かぶりは絶対に避けなければ!

 

ー東一局ー

 

「ツモ。3000・6000」

 

うん。幸先よくハネ満和了れたな。でも今までに何回も一緒に打ってるメンバーだからもう驚かれないか。初美姉さんはいつも通り笑顔だし巴さんとはるるに至っては真顔から変わったとこもう見たことないや

 

ー東二局ー

 

よっしゃ!この局も聴牌!

 

「ポン」

 

なぬっ!巴さんが切った牌をはるるが鳴いた。昔からだけどはるる何でそんな聴牌したのわかるんだ?察知能力高すぎだろ

 

「ロン。2000」

 

巴さんが切ったものではるるが和了った。これは連携されたかな。はるるの場合鳴かなければもっと点数上げられるし、巴さんなんか明らかに危険牌切ってたもんな。これはやられました

 

ー東三局ー

 

「ポンですよ〜」

 

この局は最初に初美姉さんが動いた。鳴いたのは索子。そういえばなんとなくだけど永水のみんなが鳴くの索子が多い気がするな

 

おっ!槓材。いけるかな…

 

「カン」

 

こい…こい…こい…

 

「ツモ。嶺上開花。2000・4000」

 

いけた。でも今回はたまたまだろうな。こう思うと咲ってすげぇな

 

ー東四局ー

 

さて…問題の初美姉さんの北家

 

{一萬六萬四筒五筒九筒一索一索六索七索七索白發中} {三筒}

オレの手牌はこうなった。どうしたもんかな…っと考えているとはるると目があった。了解しやした。初美姉さんには悪いけど…

 

「チー」

 

五巡目、はるるが巴さんから鳴いた。でもその余剰牌で切ったのが{東}

 

「ポンですよ〜」

 

あとは{北}か

 

そして八巡目

 

「カン」

 

なんと初美姉さんが{北}を暗槓。これで準備は整ってしまった

 

そしてまたはるると目が合う。はるるはさっき巴さんの{四萬}を鳴いて{五萬六萬横四萬}となっている。河は{一索九筒白三筒七索中一萬八索}

 

この河とはるるの打ち方から見るに高い手ではなさそうだ。高くて満貫。{四萬}鳴いてるのに{一萬}切ってるってことは一通じゃないし清一色もない。初めの方で{三筒}を手牌の一番右から出したってことは筒子はもうないと見るのが妥当かな。そうなると三色もなくなる。なら平和もしくは一、九切ってるから断么九かな

 

今のオレの手牌は

{三筒四筒五筒八筒八筒一索一索六索七索八索發發中}

となった。はるるの当たり牌は{一索}と字牌ではないからその他だな

 

オレは{九索}をツモる。ここか…?そして{五筒}を切った

 

「ロン。断么九のみ」

 

対局終了。少し戸惑った部分もあったけど落ち着いて打てたな

 

「ふぇぇぇぇん!」

 

「ね、姉さん!?」

 

対局が終わった途端初美姉さんが高校生とは思えないほどの大泣きをしだした

 

「また、また和了れなかったのですよ〜!!」

 

「また?」

 

「はっちゃんは今度こそ翔くんから小四喜(しょーすーしー)和了るって意気込んでたのよ」

 

「そうだったんですか」

 

でもわざと手を抜いて姉さんに和了ってもらっても初美姉さんのことだから怒るんだろうな

 

「オレが言うのもなんだけど、次は和了れるよ」

 

「うぅぅ…」

 

まだ泣き止まないで袖で目元を隠している初美姉さんの頭を優しく撫でる

 

「それじゃあ休憩ね」

 

「霞姉さんと小蒔姉さんは入らないのか?」

 

「私は後で入れてもらうわ。でも小蒔ちゃんを今打たせるわけにはいかないのよ…」

 

「?なんで?」

 

あ、これは不躾な質問だったかな…でもみんなは入れるのに小蒔姉さんだけ入れなのは気になるし…

 

「ここで神様が降りちゃったら試合に影響が出る」

 

「神様?」

 

答えてくれたのは霞姉さんではなくはるるだった

 

「そう。だから今、ましてや翔くんみたいな強敵と打たせるわけにはいかないのよ。全国で勝つためにね」

 

「そうですか」

 

「な・の・で!」

 

「…はい?」

 

何やら霞姉さんが深刻な顔で話してくるからそんな雰囲気で聞いていたのに突然小蒔姉さんが声をあげる

 

「きょ、今日は翔くんに…その、私のわがままを聞いてもらいます!」

 

「…」

 

顔を赤らめて何を言い出すかと思いきや全く何を言っているかわからない。オレが小蒔姉さんのわがままを聞く?それいつもじゃね?

 

「しょ、翔くん?」

 

「あ、すいません。それで?わがままって具体的に何ですか?」

 

「え、えっと…まずはこれです!」

 

小蒔姉さんは恥ずかしいのか目をギュッと瞑ってバッと両腕を広げる

 

「へっ?」

 

「だから!ギューってしてください!」

 

「それはさっきもしたのでは?」

 

「さっきはまだ寝起きだったので、よく覚えてなくて…だから…も、もう一回…」

 

オレは一度初美姉さん以外の周りのみんなの顔を見ると全員頷いたので初美姉さんの頭から手を離し腕を広げながらモジモジしている小蒔姉さんの元へ近づきなるべく密着しないように小蒔姉さんを腕で囲む

 

「これで、いいですか…?」

 

「は、はにゃ〜…」

 

いざみんなの前でやるとなると恥ずかしい…それにみんなの目線が…でも小蒔姉さんはそんなんお構いなしに顔をスリスリしてくるし。どうしたもんか…それにそれに密着しないようにしたのに姉さんの方から密着してくるから姉さんの発達したものが!!

 

「でも翔の身長が大きくなったせいかもう一人ぐらいならいけそうに見えるわね」

 

「と、巴さん!?」

 

「うん」

 

「「兄様!」」

 

小蒔姉さんのおかげで理性がヤバいってのに巴さんは何言ってんの!?はるると義妹二人は目をキラキラさせない!

 

「じゃあ翔。霞さんを入れてあげて?」

 

「えっ!ちょっ!巴ちゃん!?」

 

「はい?さっきから羨ましそうに見てたからてっきり一緒に入りたいのかと思いまして」

 

「そ、そんなこと…なくはない、けど…」

 

段々とどもり口調になって俯いていく霞姉さん

 

「そういうことなら、ほら。来なよ、霞姉さん」

 

ホントはすんごく恥ずかしいけども!恥ずかしいけども!霞姉さんは何にも遠慮がちになる。小蒔姉さんだけでも心臓バックバクになりそうだけど霞姉さんまで来たらどうなるか…でもオレも男だ!

 

今にも頭から蒸気が出そうなくらい顔を赤くしている霞姉さんはそれより何も言わずにトコトコとこっちにやって来ては小蒔姉さんの隣に入ってオレに体を預けてきた

 

「ふふっ♪翔くんも緊張してるのかしら♪」

 

「し、仕方ないだろ。こんな近くに美人さんが二人もいたら誰だってこうなるわ」

 

くっそ〜…やっぱり心臓の音聞かれてたか。でも心拍を操るなんて芸当オレにはできないし

 

「へへへ♪翔くんに美人って言われちゃった〜♪」

 

「嬉しそうね♪小蒔ちゃん♪」

 

「霞ちゃんだって♪とっても嬉しい!って顔してるよ♪」

 

「…そうね。幸せだわ♪」

 

ダレカタスケテー!!!

 

「もう!」

 

初美姉さん!助けてくれるのか!?

 

「姫様と霞ちゃんだけズルいのですよ〜!私とも変わってください!」

 

「そうです!お姉様がただけズルいです!」

 

「私も兄様にギュッてされたいです!」

 

オッフ…

 

まぁ初美姉さんが助けなんて出してくれるわけもないか…トホホ…って初美姉さんと義妹二人の発言にはるるもめっちゃ頷いてるし…

 

「あらあら。なら交代しようかしらね」

 

「交代って…霞姉さん?オレに休憩は…」

 

「あると思って?」

 

「ボクガンバリマス…」

 

「ふふふ。素直な弟に育ってくれて私は嬉しいわ」

 

素直って言ってもこんな風に育つつもりなかったよ!まったく…あ、ちゃんとみんな入れてあげました。巴さんだけだ。気を使って遠慮してくれたのは…

 

それから霞姉さんも加わって打っては小蒔姉さん、打っては小蒔姉さん、一回飛んで小蒔姉さんを繰り返した。ちゃんと霞姉さん達の要望も出来る限り受けましたよ

 

あ、あと全部終わった後に明星と湧の宿題を見てあげた。明星はそうでもなかったけど湧は少し…うん、少し勉強が苦手で教え甲斐があった

 

そして夜ご飯を一緒して宿舎へ帰った。みんな別れを惜しんでくれていたのか寂しそうな表情をしていた。義妹達はオレに抱きつきながら「行っちゃヤダー!」と義兄想いのいい子に育ってくれた。でもまた会いにいく約束をしてわかってもらった

 

こうして昨日に続き長い二日目が終わった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話

今回相当なキャラ崩壊が含まれていますが了承ください…



全国大会が始まって今日で三日目。そして今日はいよいよ清澄高校の初陣である。他校や観客のみんなは初出場の高校が勝ち上がれるわけがないと思っているだろうな。まぁ実力の程はみなさんに確かめてもらうとしようか

 

今日の対戦は佐賀県代表ー能古見高校、鳥取県代表ー千代水高校、福井県代表ー甲ヶ﨑商業高校、うち(長野県代表ー清澄高校)の四校である

 

さて、今は朝の6時半である。今日はみんなの応援に専念することにしているオレはというと既に身支度を整え寝具の片付けも終えて女子の部屋に来ている。なぜかと言うと部長からメールがあったからだ。『用意が終わったら女子の部屋に来るように』と。球技系の部活動じゃあるまいし試合に持っていく物の荷物持ちなんてことはないはずだ。なら一体なんだ?悩みながらも女子部屋へ足を進める。ちなみに京太郎は部屋で待機だ

 

女子の部屋の前で一旦足を止め中に声をかける

 

「部長。来ましたよ」

 

『開いてるわよ〜』

 

中から部長の声が聞こえ勝手に入ってくれと言うことだろうか。「失礼します」と言って中に入った

 

「おはようございます」

 

「おはよ。悪いわね、呼び出して」

 

「おはようございます、翔さん」

 

「おはようだじぇ!」

 

「おはようさん」

 

「和も染谷先輩もおはようございます。優希はよく起きれたな」

 

「何をー!」

 

まぁ和の隣でウガーッとなってる優希は置いといて

 

「それで?用はなんですか…」

 

まぁこの部屋の状況を見れば大体わかるけどね。この寝坊助が

 

「申し訳ないのだけれど咲を起こしてくれないかしら…」

 

「やっぱりですか」

 

「あら、わかってたの?」

 

「なんとなくは…」

 

「あらそう。さっきから何度も起こしてるのだけど、なかなか起きてくれなくてね」

 

「了解しました」

 

オレは申し訳なさそうな顔をする部長の横を通って未だに起きる気配もなく布団の中で気持ちよさそうに眠っているお寝坊なおバカの側に座る

 

「ほら、咲。起きな」

 

「ん〜…翔くん…しょんな、ダメらよ〜…えへへ…」

 

どんな夢見てんだよ、まったく…仕方ない…オレは咲の耳元でこう呟く

 

『咲。すぐに起きないと嫌いになるからな』

 

「やだっ!!!」

 

はい、一丁上がり。このやり方なら一発で起きるんだけど、この後がめんどくさいんだよね…

 

「おう、咲。おはよ…「やだよ!」…はぁ…」

 

布団から飛び起きるなりオレに飛びついてくる

 

「翔くん、ごめんなさい!!ちゃんと起きるから嫌わないで!!」

 

このようにすぐ起きるのはいいんだけど、起きた後大人しくさせるのが大変なんだ。オレは倒れないように左手を後ろについて自分を支え右手で抱きつく咲の頭を優しく撫でる

 

「大丈夫だ。オレは咲を嫌いになりなんてしない」

 

「……本当に?」

 

「ホントだとも。それとも咲はオレを信じられないか?」

 

「ううん…私は翔くんを信じてる」

 

「ありがとな。ほら、オレは外に出てるから咲は顔洗って着替えな」

 

「もう少しこのまま〜」

 

咲はそう言って抱き着くのをやめない。すると服の背中の部分がクイッと誰かに引かれた。首だけ後ろを向いてみると俯いていて顔が見えないが和だった

 

「和?」

 

「えっと…咲さんだけ、ズルい…です…」

 

「……ズルい、とは?」

 

「わ、私も…その…」

 

これはもしかしなくても「私もお願いします」の流れなのか…?昨日の初美姉さん達のような負の連鎖が今日もまた続くと言うのか…

 

「菊池くん。お願い」

 

「部長!?そこは止めるとこじゃないんですか!?」

 

「菊池くんに来てもらったのは咲を起こすだけじゃなくて咲と和のコンディションを上げてほしいっていうのもあったのよ」

 

「でも、それはオレじゃなくてもいいのでは…?」

 

「和が()()()をご所望だったのよ」

 

オレは再び和の頭を見つめる。さっきよりも耳が赤くなってる気がする

 

「だから、お願いね」

 

「…」

 

部長の命令(おねがい)にオレは言葉を返せなくなっていた。咲や小蒔姉さんみたいに昔からの顔馴染みなら大丈夫(実際全く大丈夫ではないが)なんだが、和はまだ知り合って三、四ヶ月だ。いくらなんでもこっちの理性が持つかわからん。すると和が顔を上げた

 

「ダメ、ですか…」

 

「うっ…」

 

こ、これは…!女子のみが持つ圧倒的破壊力を有する奥義!”赤らめた顔+涙目+上目遣い”!

 

「…わ、わかった……」

 

これをやられて断れる男子なんてこの世にいるのだろうか…特にを和のような美人からならなおさら断るなんてムリであろう…

 

オレは右手を咲の頭に乗せたまま体勢を変えて和の方に手を広げる。しかし和もまだ恥ずかしいのかなかなか来ない。この状態のままなこっちも相当恥ずかしいんだけど!?

 

「の、和…オレも恥ずかしいから、来るなら早くしてくれ…」

 

「は、はい。では、失礼します…」

 

和がオレに密着してくるにつれてオレの心臓の鼓動はどんどん早くなっていく

 

「も、もういいか…?」

 

「え、えっと…頭も、撫でて…ほしい、です…」

 

「わ、わかった…」

 

もうここまできたらやけくそになって早く終わらせることだけを考えてそっと和の頭に手を乗せて左右に撫でる

 

「む〜…なんか翔くん、和ちゃんにだけ優しい」

 

「何言ってんだよ。てか咲はいつまで抱きついてるんだよ」

 

「和ちゃんが終わるまで!」

 

「お、おう…」

 

咲が頰をプクッと膨らましてオレを見上げてると思ったらいきなり大声を上げるから面食らってしまった。でも和と同じように頭を撫でるとさっきと同じように笑顔になる

 

「お楽しみのとこ悪いのだけれど、そろそろ準備してくれないかしら?」

 

「あっ!ごめんなさい!」

 

「ほっ…」

 

三分ぐらいその状態を続けたらようやく部長から声がかかった。それはいいのだが部長に言われて咲がまだオレが部屋にいるのに寝間着を脱ぎ始めたのでオレは急いで部屋の外に出た。あっぶねぇ〜…

 

オレは部長に先にロビーで待っているようにメールを入れてから一度部屋に戻り京太郎と一緒にロビーに降りた

 

「翔、どうしたんだ?」

 

「あん?あぁ、大丈夫だ。朝から精神面に七割ほどダメージを負っただけだ。気にすんな」

 

「?何言ってるかわからんがムリすんなよ?」

 

「あんがと」

 

ふいに京太郎が声をかけてくれた。そこまでオレはヤバそうな顔をしているのだろうか…

 

「お待たせー」

 

そしてロビーで待つこと五分ほどで部長達はやってきた

 

「ん?咲、お前今日も染谷先輩のスカートと間違えたのか?」

 

「違うよ!これはみんなが似合うって言ってくれて染谷先輩があのまま貸してくれたの」

 

「そっか。まぁこの前も言ったが、よく似合ってると思うぞ。オレも」

 

「えへへ♪ありがと♪」

 

咲が今日も長いスカートを履いてたからまた間違えたと思ったがそういう理由なら大丈夫だな

 

抽選会場と試合会場は別だったなためこの前とはまた違う道を歩んでいく。東京の電車は混雑していると聞いていたがオレ達が乗った電車は違うのかラッシュの時間帯ではなかったのか空いていた

 

会場に入り指定された控え室に足を踏み入れる。そこはせれほど広いという感じはせずなんなら長野の県予選会場の控え室と同じぐらいの広さだ

 

『間も無く、インターハイ一回戦、第七試合から第九試合が始まります』

 

部屋に着いてから一時間くらい経ったところでアナウンスが入った。既に各校の先鋒の選手は対局室に集まっているようだ。もちろん優希も十五分前くらいに気合の入った言葉を残して控え室を出ている

 

さて、試合も始まってその優希はというと絶好調であった。いつも通り得意の東場で荒稼ぎをして南場に入ってからも合宿の成果なのか振り込みはなし。他家のツモ和了りで削られはしたものの大きな失点のないまま先鋒としての役割をしっかりとこなした

 

次に次鋒の染谷先輩だがこちらも直撃はなし。しかし優希ほどの大きな和了りを見せたわけでもない。終始落ち着いて和了るのも高くて満貫。しかし危機回避能力は県予選に比べて格段に大きくなっているようだった。これも合宿の成果だろうか

 

そして今は中堅戦となっている。オレは部長の応援をしつつも他の学校の試合も一緒にテレビで確認していた

 

まずここまでの戦況だが、宮守女子は先鋒の小瀬川さんが二回のハネ満と一回の満貫和了りで点差をつけていた。しかし驚いたのは次鋒のエイスリンさんだ。対局の間全ての場で八巡目には必ず聴牌を取っていた。これは昨日の練習試合でも確認したが改めて見ると脅威である。しかし対策は何通りか思いついていた。一つは()()だ。エイスリンさんが聴牌を取る前に鳴きを入れると最低でも聴牌を遅らせられることは昨日ので検証済みだ。しかしこれを部長達に教える気はない。なぜならフェアーじゃないからだ。そして今の中堅戦、選手は鹿倉さんでやはりこの人はリーチしない。もう南二局になるが三回和了っていてその三回とも黙に取っていた。これも予想しづらいことこの上ない

 

一方姫松はというと、中堅戦に入って50000点のビハインドという結果になっていた。それはどうしてか。先鋒の上重さんがしくじっていた。二回の直撃と何回かのツモで削られまくったのだ。そこで大幅なリードを許してしまったものの次鋒の真瀬さんが少し取り戻し今の中堅戦に至る。しかしこんな状況にも関わらずオレは姫松の勝利を確信していた。姫松には洋姉がいるからだ。根拠はない。だが洋姉がそんじょそこらの選手に負けるわけがない。おそらくこの中堅戦でひっくり返るだろう。しかもその後の副将には絹姉もいる。伊達にいつも洋姉の背中を追っかけていつわけではない。まだまだ詰めが甘いこともあるがそれでも実力は十分だ

 

そんななんの根拠もないただの贔屓にも聞こえることを考えていると洋姉が和了った。しかも清老頭、役満でだ。しかもしかもそれを一位の選手にロン和了り。これで姫松が一位となった

 

さて、気になるうちの中堅はというと

 

『決まったーー!!清澄高校中堅竹井 久!連荘六本場でハネ満炸裂!副将、大将に回すことなく一回戦突破だーー!!!』

 

部長が他家を飛ばして終局。和と咲が打たずして清澄の勝利となった。部長やるじゃん

 

 

 

 

 

 

 

ー姫松Sideー

 

ビシッ!

 

「誰も迎えに来ーへんのかいっ!」

 

「おぉっ!おかえり!お姉ちゃん」

 

「主将、お疲れ様です」

 

先程終わった中堅戦から姫松の主将でエースの愛宕 洋榎がツッコミを入れて戻ってきた。その彼女に反応して声をかけるのは椅子に座りながら足を組んで背もたれに腕を置いている愛宕 洋榎の妹である愛宕 絹恵と同じく椅子に座っている末原恭子だ

 

「わ〜」

 

部長のお戻りともあろうにソファーに座ったまま声もかけないばかりかテレビから目を離さないのは真瀬 由子と上重 漫だ

 

「ん?まだ他の部屋やってるん?」

 

「長野がすごいのよ〜」

 

洋榎がその二人に近づいてテレビに目をやると違う試合の中堅戦はまだ続いているようだった。しかもそれは愛宕 洋榎の最大のライバルが在籍する学校であるため無意識にテレビに目がいってしまう

 

「妙な和了り連発で、親で連荘しまくりよ〜」

 

「場数器用さでね」

 

そのテレビには髪を二つに分けて肩の位置でそれぞれ結んでいる選手が打っている

 

「〜♪」

 

「ん?どうしたんや、絹?なんやご機嫌やないか」

 

「んふふ♪実はさっき翔くんからメール来てん。『がんばって』って言ってくれたんよ!めっちゃ嬉しくってな♪」

 

「主将が試合してるときからこんな感じですよ」

 

「あぁ〜」

 

洋榎は察した。先程説明した洋榎のライバルが絹恵が言う翔くんこと菊池 翔なのだ。絹恵はこのように翔にぞっこんで、何かあるごとに翔のことを話したがる。そんな妹を十年ぐらい見続けている姉はこのごろ少し呆れてきている様子…

 

 

 

 

 

ー永水Sideー

 

「やっぱり清澄ね」

 

「あの龍門淵を倒してきたところですよ〜。それに翔もいるんです。当然ですよ〜」

 

お茶の入った湯呑みを持ちながら清澄の試合をテレビ越しに見ているのは石戸 霞。その霞の言葉になぜか自分のことのように胸を張りながら自慢するように言うのがもはや巫女と思えないほど装束を着崩している薄墨 初美だ。しかし比べて見ると本当に同い年なのか疑ってしまう…

 

「天江 衣ちゃん…」

 

「あぁ。あのちっこい子すごかったね、去年」

 

二人の言葉に去年の龍門淵のことを思い出して語るのは黒糖で糖分を摂取している滝見 春とメガネをかけて髪を後ろで結んでいわゆるポニーテールにしている狩宿 巴だ

 

「一回戦では二校、二回戦では三校をまとめて飛ばしてたものね」

 

「清澄はきっとそれ以上ですよ〜。なんたって私の義弟がいるのですから〜」

 

「あら。はっちゃんだけの義弟じゃないでしょ?」

 

ここでも常に話題に出てくる翔という名前、当然菊池 翔のことだ

 

「でもこの三校じゃちょっと厳しいかな」

 

「学校数が少ない県ばかりですか〜?」

 

ガラガラ

 

「だからと言って侮ってはいけませんよ」

 

初美の言葉に答えるようにして障子の襖を開けて中に入ってきたのは神代小蒔

 

「姫様」

 

「たとえ地区大会が二十校の県だとしても鹿児島であたった方々と同じくらい勝ち抜いてきた、ということでしょう。県予選決勝の三校の中に侮っていい相手がいたでしょうか」

 

当たり前のことを淡々と言っているようにも思えるが、何かおかしい様子なのは部屋にいる全員が気づいた

 

「全ての相手に敬意を持ってあたりましょう」

 

「小蒔ちゃんの言う通りね。でも、小蒔ちゃん…」

 

みんながそれぞれ頷く中霞が口を開く

 

「そんな笑顔でどうしたの?」

 

そう。全員がおかしいと思った理由は小蒔の表情だ。いつも笑顔ではあるのだが、今日は一段と笑顔が輝いている。まるで翔と会ったときのように…そこで他の四人は気づいた

 

「えへへ♪実はさっき翔くんからメールをいただいて…」

 

小蒔がある言葉を発した瞬間、巴以外の三人が一斉に常に落ち着いた巫女とはかけ離れた俊敏な動きで動き出し、それぞれ自分の携帯を確認した。すると三人の顔は段々と緩んでいき小蒔と同じような表情になる。これで携帯に何が入っていたのかは容易に想像できるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

ー宮守Sideー

 

「〜♪〜♪」

 

「今日のエイスリンは調子がいいねぇ。それにすごくご機嫌みたいじゃいか」

 

ソファーに寝っ転がって携帯を見ては抱き締め、見ては抱き締めを繰り返しているニュージーランドからの留学生であるエイスリン・ウィッシュアートを見ながら苦笑を浮かべている宮守女子の監督、熊倉トシ。トシが言うように今日の次鋒戦はエイスリンが大いに稼ぎ、今の圧倒的な差に貢献していた

 

「白は何か知ってるかい?」

 

「話すのダルいです…」

 

監督からの質問だというのに椅子にもたれかかっている、というようもたれかけすぎているのは小瀬川 白望

 

「なら塞はどうだい?」

 

「…」

 

「ん?塞?」

 

「はっ!はい!」

 

「うおっと。そこまで驚かすつもりはなかったんだけどね」

 

「す、すいません…」

 

トシの声かけにも気づかないくらい携帯を見るのに集中していたのは宮守女子の部長である臼沢 塞。しかしその携帯はトシのものだった。ではなぜ自分の監督の携帯を塞はジーッと見つめていたのか。それは送られてきた人が原因だ

 

「はぁ…これは重症だね。豊音もさっきから戻ってこないようだしねぇ」

 

戻ってこないというならば部屋にいないということだろうか。しかし「はぁ…」とため息を出したあとのトシの目線の先にはその戻らない本人がいた。では戻ってこないとはどういうことだろうか。それは…

 

「えへへ♪翔くーん♪」

 

と言いながら椅子に座ってその高い身長を持つ体を左右に揺らしている姉帯 豊音。戻ってこないというのは向こうの世界から戻ってこないという意味らしい

 

「これは、菊池くんに来てもらったのは失敗だったかねぇ…」

 

そうは言うもののあれからチームの雰囲気も良く何より調子が絶好調である。よってこの状況を良し悪しで判断できなでいる監督であった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編4

今回大分短いです。それに麻雀描写がありません。ご了承ください。


我が清澄高校女子麻雀部が一回戦を突破した次の日、女子の全員には休養が命じられた。他校の試合を観戦するもよし、東京見物をするもよし。でも観光をするにしてもちゃんと体を休めとのことだ。

 

しかしそれはオレには適用されなかった。なぜなら今日もオレは練習試合の申し込みで朝から引っ張りだこであるからだ。まぁ了承したのはオレだし試合をした女子達(和と咲以外)よりは疲れはないから問題ない

 

今は六時四十五分。オレは東京に来る前にファックスで位置を送ってもらった“新道寺女子高校”の止まっているホテルへ向かっている。今日も暑いな…

 

時間十分前にホテルに着いた。そのホテルは怜や竜華さん達千里山女子が泊まっているホテルよりは小さいが外見も内面も綺麗と感じた

 

オレが来ることは既にロビーに話してあるとのことだったのでオレはフロントスタッフの一人に声をかけ部屋を教えてもらった。エレベーターに乗り六階まで上がって扉が開くと目の前に自動販売機とその上に何号室までが左で何号室からが右と書いてある案内があった。オレはそれを見て右の道を進む。すると…

 

「きゃっ!」

 

「うおっ!」

 

曲がり角から出てきた人とぶつかってしまった。運の悪いことにその人が後ろに一歩下がる際にオレの足に引っかかってしまった。よって後ろに倒れないように踏ん張る足を出せずにそのまま倒れそうになる。しかし咄嗟にオレはその人の背中に手を回し逆の手を自動販売機と壁の間に入れて壁に手を引っ掛ける。そのおかげでその人は倒れずにすんだ

 

「すいません。大丈夫ですか?」

 

「え、あ、はい…こちらこそ、すいません…」

 

オレはその人がしっかりと立ったことを確認して手を離す。それにしてもこの人なんでこんな袖の長いシャツ着てんだろ。手が全く出てないじゃんか

 

「えっと、何か?」

 

「あ、いえ。何でもないです。すいません」

 

「謝らんとも大丈夫です」

 

やっべ…女の人をジロジロ見てはいけなかったな。反省反省…

 

「では自分はこれで」

 

「あ、はい…」

 

そう言ってオレは行こうとしていた道を改めて進む

 

「あの…まだ何か?」

 

「い、いえ…うちの部屋もこっちなんで」

 

「そうでしたか」

 

こんなホテルで会うってことはここに泊まっていてこの階に泊まってる人だとは思ったが、方向まで同じとは考えてなかった

 

「旅行ですか?」

 

「いえ。部活の試合で」

 

「奇遇ですね。自分もそうなんですよ」

 

「そうなんですか」

 

隣を歩いてはいたがずっと俯いていたので顔をしっかりと見てなかったが、ようやくこっちを見てくれて顔を拝むことができた。そしてロビーで聞いた部屋の前に到着した

 

「「え?」」

 

同時にその人もそのドアの前で止まった

 

「…」

 

「…」

 

少しお互いに見つめ合って二人同時に口角が緩む

 

「これまた奇遇で」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「新道寺の方だったんですね」

 

「そういうあなたは今日来ていただく予定の…」

 

「清澄高校一年、菊池 翔です。午前の間だけですけどよろしくお願いします」

 

オレは体をドアからその人に向き直して軽く一礼する

 

「え…年下だったと…?」

 

「あぁ…よく言われます。そんなに老けて見えます?」

 

「そ、そがん意味じゃなかっけん。背高かし大人っぽいし…」

 

「…ありがとうございます?」

 

「ふふっ、なして疑問形なん?」

 

なんとなくさっきまでの緊張は無くなったかな。新道寺も女子校らしいし男性に慣れてないだろうし

 

「うちは鶴田 姫子(つるた ひめこ)いいます。よろしゅうね、翔くん」

 

いきなり名前…それにしても鶴田さんの方言?新道寺って確か福岡だったよな。ということは博多弁?九州弁?よくわかんないけど怜や絹姉みたいな大阪弁は結構聞いてるけど初めて聞いたこの方言もなんかグッとくるものがあるな…

 

「ん?どげんかしとっと?」

 

「へっ?あぁ、大丈夫です」

 

「そっか。やら、入ろうか」

 

「なら呼んでください。いきなり入るのはよろしくないので…」

 

「了解!」

 

鶴田さんはニコッとしながらシャツの袖から出ていない手で敬礼のポーズをとり部屋に入っていった。そしてすぐに扉が少し開き鶴田さんが顔だけ出して「入ってよかよ」と言ってオレも中に入った

 

中に入ると鶴田さん以外の四人が横一列に並んでいて鶴田さんもオレから見てその一番左に並んだ

 

「よくぞ来てくれました!すばらです!」

 

「す、すばら…?はい、菊池 翔です。よろしくお願いします」

 

列の一番右の人があいさつ?をしてくれたのでさっき部屋の外でしたように自己紹介をして軽く頭を下げる

 

「私は花田 煌(はなだ きらめ)といいます!」

 

何かとすばらっ!と言っている気がする花田さん。口癖なのだろうか。それに髪型もツインテールなのはわかるのだが普通のツインテールではなく後ろから前にカーブするように曲線を描くような髪型になっている。まるでクワガタみたいだ

 

「あ、あの…安河内 美子(やすこうち やすこ)いいます」

 

豊ねぇや純さんほどではないが女子としてはなかなか背の高くメガネをかけている安河内さん

 

「江崎 仁美(えざき ひとみ)。なんもかんも政治が悪い」

 

言ってる意味がよくわからんのだが…とりあえず特徴としてはペットボトルの飲み物にもかかわらずそれにストローを指して飲んでいて、オレの感性だが髪型が羊っぽい

 

「うちは白水 哩(しろうず まいる)。一応部長っちいうことになっちょる」

 

前髪をセンターで分けて右側をヘアピンでとめて後ろも二つに分けてリボンで結んでいる白水さん。この人が一番方言が強そうだ

 

「そんでさっきもちょこっと話したばってん改めて、鶴田 姫子です」

 

そして最後に鶴田さん。う〜ん…なんとも個性がバラバラな人達だな

 

「今日は朝はよから来てもらっていりのっちのう」

 

いりのっち…?ありがとう的な意味でいいのかな…

 

「…い、いえ。大丈夫です」

 

「部長。翔くん、困っちるじゃなかですか。もっと東京弁で喋らんといけんとですよ?」

 

「おぉ、それは悪かけんことしたばい。ばってん東京弁なんて知らんばいね。そんにしても姫子、いつん間にそげん仲良くなりよったと?」

 

「そ、そんなことなかですよ!」

 

なんとなくわかる単語をあてに聞いているがたまにわからなくなるな。大まかな内容は把握できるけど

 

「ごめんなさいね。部長は生まれも育ちも福岡で根っからの九州人なのよ」

 

「そうなんですか。そう言う花田さんは全然訛ってませんね」

 

「私は高校から福岡でそれまではずっと東京だったのよ。それにあなたと同じ部に所属している和ちゃんと優希ちゃんは私中学の後輩なんです!」

 

「そうだったんですか。偶然ですね」

 

初耳だな。確か冊子で出場校とその選手のリストみたいなのがあったはずなんだけど、和と優希は気づかなかったのか?あぁ、無理もねぇか…和は他校や選手がどこだろうと関係ないってタイプだし、優希はそもそもそんなんを見るイメージがねぇしな

 

「ほんやら時間もなかし、始めちゃうかね」

 

『はい!部長!』

 

今のやりとりだけでチームのみんなが白水さんを部長として信頼しているのがよくわかった

 

それから何局かやったが、白水さんがバカ上手ぇ!ビックリした!特に決まった型とかパターンがあるわけではなくその場その場に適した打ち方をしてきた。似ているとすれば千里山の江口さんかな。完全に全国区のエースだったな

 

それに途中で気づいたけど、なぜか鶴田さんは白水さんの後に卓に入っていた。それにその卓には白水さん自身は入らなかった。しかも重要なのはここから。白水さんが和了った翻の数の倍の翻で和了るようだった。でもそれは毎回ではなかった。白水さんが和了った局で鶴田さんが和了なかった局も何度かあった。でも鶴田さん自身も麻雀の実力自体も高いものだった

 

他の三人はというと、花田さんはどんなに和了られたとしてもめげることなくずっと自分の打ち方を貫いた。しかもどの局も絶対に飛ばなかった。オレや白水さんが無双した局でも花田さんだけは一回も飛ばなかった。これはすごいことだと思う。花田さんは先鋒ということだから順当に勝ち上がっていけば白糸台の照さんと対戦することになるだろう。そうなれば絶対に飛ばないというのは相当のアドバンテージとなるだろう

 

安河内さんと江崎さんは特に突飛つした能力やら打ち方をしているはわけではなかったがやはり全国に出てくるだけの学校の選手。実力はあると思った。でも照さんや咲からしてみたら凡人の部類に入るだろうとも思った…お二人には悪いが…

 

そんなこんなでもうオレはお暇する時間となってしまった。みなさんはお見送りのためとロビーの方までついて来てくれるらしい。廊下を二列縦隊で進んでいてオレは最後尾に位置し隣は鶴田さんとなった。てか近い…肩ぶつかりそうだよ

 

「そーいえば君は恋人はいるんかい?」

 

「へっ?」

 

「部長!?」

 

オレが鶴田さんに肩が当たらないように気をつけて歩いていると前を歩く白水さんから急にそんな質問を投げかけられた

 

「残念なことに今まで一度もそういうのができたことがないですね。もちろん今もいないです」

 

今日会ったばかりの人に何言ってんだろ…泣けてきた…

 

「そーか。ちゃかったな、姫子」

 

「ぶっ、部長!何ば言うとですか!!」

 

「ん?どういうことですか?」

 

「な、何でもなかよ!気にせんといて!!」

 

「は、はい…」

 

白水さんの口を押さえながらワナワナ震えている鶴田さんが今日一番の大声をあげる。その光景を見ている他の三人はニヤニヤしている。微笑ましいんだろうな。と先輩後輩の仲睦まじい戯れを終えた鶴田さんがオレの隣に戻ってきた…戻る必要ある?

 

「翔くんは…?」

 

「はい?」

 

「翔くんは、本当に彼女はおらんと?」

 

「そうですね…泣きたいほどに…」

 

鶴田さん…オレのライフはもう0に近いですよ…

 

「そ、そっか…」

 

なぜに笑顔なんですか!?泣きますよ、ホント!ていうかなぜにオレの袖を掴む…

 

「あの…鶴田さん…」

 

「……めこ…」

 

「?」

 

「…姫子、って呼んで……」

 

「…まぁ、いいですけど」

 

名前呼びくらいならもう大丈夫になったかな…

 

「ありがと…あと、少しこのままで…」

 

「どうしてか聞いても…?」

 

「なんか、安心するけん。お兄ちゃんみたいなんよ」

 

「オレの方が年下なんですけどね…」

 

「細かいこつは気にせんね♪」

 

何だろ。オレも妹に見えてきた…

 

そしてオレ達はロビーに着いて朝の部屋のときみたいにお互い向かい合わせに立った

 

「今日はこげんなとこまでのっちうね」

 

「いえ、楽しい時間を過ごさせていただきました」

 

「和ちゃんと優希ちゃんにもよろしく言っておいてください!」

 

「わかりました」

 

白水さんと花田さんからそれぞれ挨拶をされてオレもそれぞれに返す。でもその中でも姫子さんはずっとシュンとした面持ちだ

 

「姫子、どげんかしたっか?」

 

「い、いえ…」

 

ホントにどうしたのだろう。そう考えていると寂しそうにオレの方を見てくる。この顔は見覚えがある。ていうか昔から何度も見てる

 

「大丈夫ですよ。また会えますよ」

 

「翔くん…」

 

「団体戦が終わってもその後に個人戦がありますよ。だからまだ東京にはいます。それにもし福岡に行く場合は連絡しますよ」

 

「うん!絶対だからけんね!」

 

「はい」

 

姫子さんは笑顔に戻ってくれた。

 

実は既に連絡先は交換済みだった。交換というか勝手に交換されたというか…オレが対局してる最中に勝手にオレの携帯に姫子さんの連絡先を入れたみたいで、対局が終わるとオレの携帯の画面をオレに見せながら「入れといたけんね♪」って言われたときには姫子さんて引っ込み思案かと思ってたけど意外とアグレッシブと思った

 

「じゃあオレはこれで。お互い頑張りましょう」

 

「あぁ」

 

「すばらです!」

 

「は、はい…」

 

「何もかんも…」

 

「翔くん!またね!」

 

こうしてオレは朝よりも強くなった日差しの下、次のところに向かうのであった

 

白水さんの言うこと半分くらいしか理解できなかった…




方言が難しいかったので変だったらすいません!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編5

なんか今回書いてるうちにシリアスになってました。いきなりのシリアスで「どうした!?」ってなるかもしれませんがご了承ください

評価とか下がんないといいな…



新道寺との練習試合からの移動中、さっきまで燦々と照りつけていた太陽は急に雲に覆われ雨が降り出した。まぁ朝の天気予報で午後から雨が降るって言ってたし。折りたたみ持ってきといてよかった

 

その雨の中、オレは指定された建物に近づいていく。午後は“阿知賀”となんだが今日はオレ以外にも他の学校の人にも来てもらうらしく、ホテルではなくその建物に来るよう言われていた

 

中に入ると雨宿りだろうかスーツを着た人が何人もいた。びちょびちょになったスーツの上を脱いでハンカチで顔を拭いている。スーツに限らず着ている服が濡れるとイラッとするよな

 

オレは事前に何階か聞くのを忘れていたのを思い出したので玄さんに電話をかける

 

「あ、もしもし。玄さん?」

 

『うん。もう着いた?』

 

「うん。何階かな?」

 

『三階だよ。エレベーターの前で待ってるね』

 

「わかった」

 

オレは電話を切りエレベーターに乗って③のボタンを押す。三階程度なら階段でもいいと思ったが玄さんがエレベーターの前で待ってるって言ってたしな

 

三階に着いて扉が開くと真ん前に水色のワンピースに青いジャケットを羽織った私服姿の玄さんがいた

 

「あ、翔くん!」

 

「出迎えありがとう、玄さん」

 

「いいのいいの!雨濡れなかった?」

 

「幸い折りたたみ持ってたからね」

 

「さすが翔くん!」

 

「あんがと。そんで部屋は?」

 

「こっち!」

 

折りたたみを持ってるだけで何がさすがなのかわからないんだが…玄さんはオレの手を引っ張って部屋まで連れて行ってくれるみたい。なんか昔を思い出すな。あのときは玄さんと宥さんに連れ回されて大変だったなぁ〜

 

そして目的の部屋に着いたのかドアを開ける

 

「翔くん、着ましたー!」

 

「あ〜、翔く〜ん」

 

「よっ。宥さん」

 

「遅いわよ!」

 

「時間には間に合ってるだろ。それに何階か書くの忘れたの憧だろ?」

 

「うぐっ…」

 

してやったり。中に入ると宥さんや憧といった阿知賀のメンツに加えて全く知らない人もいた。ってあのナース姿の人って…

 

「翔…くん…?」

 

「あれ、“憇さん”?」

 

そこにいたのはなぜか昔のようにナース姿の“荒川 憇”さんだった。

 

「ほんまに翔くん…?」

 

「あなたの言ってるのが昔大阪で会った菊池 翔のことならオレですね」

 

憇さんは口元を両手で隠しオレのことを再度確認してくる

 

「ほんまの、本物の翔くんや…翔くん!!!」

 

「ぐっ…お久しぶりですね、憇さん」

 

なんだ…?大阪の人って突進好きなんかな…

 

「久しぶり!全然会えんし寂しかったんよ!?」

 

「それは、すいません…」

 

「連絡も全然寄越してくれへんし!」

 

「大阪の予選が終わったときにしたじゃないですか」

 

「それっきりやん!!」

 

「…すいませんでした」

 

「ええよ♪許したげる♪」

 

まぁ連絡しなかったのはオレが悪いしオレも久しぶりに会えて嬉しいや。でもそろそろ離してほしい。みんな状況が理解できずにポカンとしてるよ

 

「あ、あの…憇さんと翔は、お知り合いなんですか…?」

 

「ん?そうやで。うちがまだ小学生のときやんな、あるデパートで麻雀のイベントがあってそこで翔くんと知り合ったんよ」

 

状況把握のために憧が憇さんに質問をし、憇さんはオレに抱きついたままそれに答える

 

「そうでしたね。あのときもナース服じゃなかったでしたっけ?」

 

「そうやっけ?翔くん、覚えててくれたん?嬉しいわ♪」

 

「そんな人普通いませんからね。インパクトが絶大でしたから」

 

「それにしても、いつまで抱きついてるんですか…?」

 

おぉ!玄さん、あなたは救世主だ!

 

「そうですよ。そろそろ離れてください、憇さん」

 

「えー…翔くん、昔うちのこと好きって言ってくれたやんかー」

 

「「「えー!!!」」」

 

うるさっ!憧や玄さんならともかく宥さんのそんな大声初めて聞きましたよ…?

 

「それは憇さんと麻雀打ってる時間が好きってことでしたよね?変に言葉を抜かさないでください。誤解されるから」

 

「もう、翔くんは細かいなー」

 

「全く細かくないです。ほら、その方々のご紹介をお願いしますよ」

 

「はーい」

 

憇さんは離れてくれた。しかしその代わりに宥さんがやってきて手を握られる。相変わらず冷んやりしてるな

 

「じゃあ紹介するな…って!翔くん、何してるの!?」

 

「あぁ…宥さん昔から体温低くて寒がりだから、それに比べてオレは体温高いので自然とこうなってしまって…」

 

「ふ〜ん。そうなんやぁ〜」

 

憇さんが目を半開きにして見てくる。そんな悪いことしたかな

 

「もう!後で私の気の済むまでつきおうてもらうかんね!」

 

「マジですか…」

 

「返事は!」

 

「…はい」

 

憇さん何でもこんな怒ってるんだろう…

 

「まったく。じゃあ紹介するな。九州赤山高校の藤原 利世(ふじわら りせ)さん」

 

あぁ。小蒔姉さんと初美姉さんと同じ鹿児島個人戦代表の。和服来てなんか羽衣みたいなの羽織ってる

 

「麻雀始めて五ヶ月で東海王者になったもこちゃんインターハイには団体戦にも個人戦にも出とらんの」

 

五ヶ月でってほぼ初心者。なのにすごいな。それに服装もすごいな。全身ピンク…

 

「その友達で静岡一位の百鬼(なきり)さん」

 

なきりって珍しい苗字だな。それにメガネかけてるけどあれサングラスじゃね?

 

「須和田高校の霜崎(しもざき)さんは千葉MVP」

 

へぇ。千葉って東京の隣だな。来るの楽なんかな?でもなんでチャイナ服みたいなの着てるんだろう

 

「どうも。長野の清澄高校一年の菊池 翔です」

 

「憇ちゃんから聞いてます。それに永水の六女仙のみなさんからも…」

 

「あははは…あの人達、変なこと言ってませんよね…?」

 

「えぇ。とても頼りになる義弟だと」

 

「安心しました」

 

別に変に言われることをしているわけじゃないしな

 

「ちょっとそれどういうこと!?」

 

「なんだよ、憧」

 

「永水!?六女仙!?なんの話!」

 

「は?何の話って…」

 

そこで宥さんと繋いでる手がギュッと少し強く握られるのを感じる

 

「宥さん?」

 

「私もそれ、気になるな〜」

 

するとシャツの背中の部分を誰かに掴まれた。後ろを振り向くと玄さんだった

 

「私も、聞きたいです…」

 

うぐっ…ここにもいたか、女子の最強必殺技を持っている人が…

 

「うちも知りたいな」

 

「憇さんまで。はぁ…」

 

まぁ別に秘密にすることでもないし、いっか。そしてオレは憇さんや阿知賀のみんなに会う前の鹿児島での生活を話した

 

「なーんだ。そういうことだったんだ」

 

「なんや、心配して損したで」

 

「どういう風に思ってたんですか…」

 

話し終えるとみんなは安心のような表情になった。こんな話に興味なかった他の方々には退屈な時間をすいません

 

「もう!早く打とうよ!」

 

麻雀打てないのがもう限界な様子のしず。確かにここには話をしにじゃなく麻雀打ちに来たんだよな

 

「じゃあ入りたい人からどんどん入ってー!」

 

「うぉっしゃー!」

 

しずがようやく麻雀が打てるからなのか気合の咆哮を叫びながら卓に着いた。それに続いて鷺森さんがボーリングをするときにはめるグローブを右手にはめながら席に着いた。残った席には百鬼さんと憇さんが入った

 

オレはソファーに座ってその対局の行く末を見守ることにした。と座ったのはいいのだが右側に宥さん、左側に玄さん、足の間には憧とリバーシならオレも阿知賀になってるし、囲碁でももう一手で取られてしまうてな風に見事に阿知賀勢に囲まれてしまった

 

「そういえば、翔の学校は勝ったの?」

 

「その答えは聞かない方がいいんじゃないか?」

 

「どうして?」

 

憧が清澄の結果を聞こうとしてきたがオレがそう答えると今度は玄さんが理由を聞いてきた

 

「オレの学校、つまり清澄には玄さん達もよく知ってる和がいるんですよ?本人から聞きましたが絶対に決勝で会おうって約束したんですよね。これで仮に清澄が負けたなんて言ったら阿知賀のみんなのモチベーションはどうなると思います?特にしずと憧は」

 

「そっか。そうだね」

 

約束を達成する可能性が0になった瞬間の人間のテンションの急激な下降具合は甚大だ。それに引きずられてこっちまで負ける可能性も出てくる。三人は理解してくれたのだろう、頷いてくれている

 

「てか憧。なんでお前はそこにいるんだ?」

 

「だ、だって…両隣に宥姉と玄が陣取ってるから、ここしか座るとこないじゃない…」

 

「どっちかの隣でもいいだろ」

 

「な、なによ!私がここにいたら迷惑なわけ!?」

 

「いや、迷惑ではないが…」

 

「なら黙って座ってなさい!」

 

「はぁ…」

 

なんともわがままな小娘だ。それにしても憧ってオレに対していつも怒ってないか…?カルシウムが足りないんじゃね?

 

すると右腕に何かがスリスリしてる感触がした。まぁその正体は言わずもがな宥さんだけど…

 

「宥さん…」

 

「ん〜?な〜に〜?」

 

オレに声をかけられたからなのか一旦スリスリをやめてオレの顔を見上げてくる

 

「宥さんは高3でオレももう高1なんですよ?だからそろそろこういうのはダメ、といいますか…」

 

「翔くんは、私のこと嫌いになったの……?」

 

「ぐっ!」

 

だーーー!!!そんな悲しそうな顔しないでーー!なに!?これってオレが悪いの!?オレは常識的な、モラルに沿ったことを言ってるのに!!

 

「嫌ってなんかないですよ」

 

「なら、いいでしょ〜?」

 

「……わかりました」

 

「んふふ♪ありがと♪翔くん♪」

 

そして宥さんのスリスリは再開された。ちゃっかり手は繋いだままだし…

 

「むぅ〜…翔くんはお姉ちゃんばっかり構いすぎです!」

 

「玄さんは何をおっしゃっているのですか…?」

 

「だってだって!翔くんといるときいつもお姉ちゃんの方に行くから!!」

 

「そんなことないですよ。玄さんのこともちゃんと考えてますよ」

 

「ふぇっ!?そ、そんな…想ってるだなんて♪」

 

意味はほとんど一緒だけど、ニュアンスは明らかに違う気がするのは気のせいかな…

 

「それにこれでもメールとかの量は玄さんの方が多いんですよ?」

 

「そうなんだ。お姉ちゃん機械弱いから」

 

「そうですね。『おはよう』を打つのに30秒かかりますからね」

 

「そうそう!お姉ちゃん打つの遅すぎなんだよ」

 

「まぁそんなわけで決して玄さんを放っている訳ではないってのをわかってください」

 

そう言いながら玄さんの頭を撫でる

 

「あ、ありがと…」

 

「?玄さん、顔赤いですよ?」

 

「ふぇっ!?な、なんでもないよ!」

 

「そうですか?」

 

でもやっぱり顔赤いな。あ、年下に頭撫でられて恥ずかしいのかな。と思って玄さんの頭から手を離したら玄さんが無言で離れた手を自分で頭に戻した。顔を見て確認すると口角は上がっているので怒ってはいないと判断しとりあえず撫でるのを続けた

 

「むぅ〜…翔くんと玄ちゃんがイチャイチャしてる〜」

 

これは無限ループかな…てか松実姉妹反応が全く一緒って

 

「翔!わ、私にもしなさいよ!」

 

「あぁ…すまん。オレには手が三本ない」

 

「そんなこと知ってるわよ!」

 

「だったらわかるだろ?」

 

右腕は宥さんに、左腕は玄さんにこき使われている。よって現実的に憧の頭を撫でるのは不可能だ

 

「翔くーん…」

 

「っ!」

 

声がしたのは対局をしているしずの背中のより奥。しずの対面に座っている憇さんから発せられたようだ。その声はいつもの元気で活発な声そのものだった。しかしなぜだろうか…汗が止まらない…

 

「さっき言ったよね…?今日はうちにつきあってくれるって…」

 

「で、でも…今憇さん、対局中で…」

 

「関係あらへんよね?じゃあちょっと待っとき…すぐ終わらしちゃるわ」

 

その笑顔は機嫌のいいときの憇さんのそれではなかった。なんとも汗がとまらない…

 

それからの対局はあっという間だった。憇さんが宣言通り早く終わらすため連荘で和了りまくり終局。そして憇さんは立ち上がりゆっくりとこっちに歩いてきた

 

「憧ちゃん…そこどいてくれへんかな…」

 

「ひっ!はい!」

 

憇さんが今出しているオーラにビビったのか、憧はビクッと体を震わせて勢いよく立ち上がった。でも今にも泣きそうな感じでプルプルと震えている

 

「憇さん!」

 

「ひゃっ!しょ、翔くん…?」

 

いつもり大きめの声で憇さんの名前を呼ぶとさっきまでのオーラは霧散した。それで緊張の糸が切れたのか憧がぺたりと床に崩れ落ちた。オレは憧の顔が見れるように地面に膝をついて憧の頭に手を置きながら顔を覗き込む

 

「憧、大丈夫か?」

 

「翔…うん。大丈夫…」

 

涙目ではあるがさっきまでの震えは止まっている。オレは立ち上がり憇さんに向き直り憇さんの手を取って部屋のドアの方へ向かった

 

「みなさん、少し外します」

 

オレはそう言って憇さんを連れて外へ出た。話が中に聞こえないようにエレベーター付近まで離れた。そして憇さんの手を離し改めて向き直る

 

「さっきは怒鳴ってすいませんでした」

 

「え、いや…うち…」

 

「憧は大丈夫です。でもね、憇さん。オレにはどんなことを言ってもいいですが周りを巻き込むのはいけません」

 

「だって、あれは翔くんが…」

 

「オレが何かしましたか?」

 

「わかっとる!翔くんは何も悪くないって!悪いのは勝手に嫉妬した自分やって!でも抑えられんかった…全然会えなくて、会いたいってずっと思ってた人と今日久しぶりに会えた。やのにその人は他の子と楽しそうに話してるん見て、我慢できんかった…」

 

「…」

 

オレは返す言葉がなかった。憇さんは下を向いて涙を流している。その姿を見てオレにできる行動はもう一つだけだった

 

ギュッ

 

オレは憇さんを優しく抱きしめた

 

「翔、くん…」

 

「憇さん、すいませんでした。憇さんに久しぶりに会えて嬉しくて、それだけで満足しちゃって」

 

「ううん。うちの方こそごめんな。翔くんに迷惑かけて…」

 

「迷惑だなんて思ってませんよ。憇さん、後でたくさん話しましょう。たくさん麻雀打ちましょう。憇さんの言うことなんでも…はさすがに無理なのでできる範囲で聞きますから」

 

「ふふっ、何でもやないんやね」

 

「そこは、勘弁してください…」

 

「ええんよ。ありがとうな」

 

オレは憇さんを離し、憇さんは指で涙を拭う

 

「じゃあ最初のお願い。これからはうちのこと、憇って呼んで?」

 

「無理っすね」

 

「えぇ!!?そこはオーケーするとこちゃうの!?」

 

「オレができる範囲外なので、それ」

 

「もう!まぁええわ。今はこれで許したる♪」

 

と言って腕を組んできた憇さん。結構そのまま部屋に戻ることになった

 

部屋に戻ってから憇さんはみんな、特に憧にさっきのことを謝り麻雀が再開した。ただ唯一しずだけ何があったのか理解できておらず頭の上に?を浮かび上がらせていた

 

それからその日の憇さんのオレへのスキンシップが増えたとか増えたとか…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編6


大変長らくお待たせしました。大まかな流れはできていたのですが細かいところが全然思いつきませんでした


 

大会が始まって既に五日が経った。いよいよ準決勝が明日、明後日に迫っているしその後は遂に日本一の高校が決まる決勝でもある。そんな大事な日が前日にオレの練習試合の依頼も最後の一つなった今向かっているのはオレの練習試合のスケジュール最後の相手である”白糸台高校”だ

 

三年前に照さんの付き添いで一度訪れたときと何ら変わっていない校門のところに白糸台の制服なのか白地に青いラインの入ったセーラー服を着ていえう一人の女性が立っている。長い黒髪にスラーッとしっている姿でその人の凛々しさがわかってしまう。その人はオレに気づいて声をかけてきた

 

「君が菊池くんか?」

 

「はい。菊池 翔です」

 

「私は弘世 菫(ひろせ すみれ)だ。案内するからついてきてくれ」

 

「わかりました」

 

そう言われてオレは弘世さんに続いて校舎に入った。中に入るとすれ違う生徒はみんな弘世さんに道を空けお辞儀をしていた。これが校風なのだろうか。しかし下を向いている顔からはどうしてか鋭い視線を浴びる

 

校舎の中を進んでいき部室に着いたのかある部屋に弘世さんは「戻った」と言って入っていった。オレはそれに続いて「失礼します」と言って入る。すると…

 

「ショウ!!」

 

ソファーに座っていた淡がオレの名前を叫びながらオレに向かって両腕を広げて走ってくる。オレはそんな淡の頭を抑えて止める

 

「ぐぬぬぬ…!」

 

腕をグルグル回しながら止まる様子のない淡。元気だねー

 

「ショウー!なんでー!」

 

「オレの身に危険が迫ってるんだから止めるのが普通だろ」

 

「感動の再会だよ!?私達の愛を分かち合おうよ!」

 

「そんな愛を育んだ覚えはない」

 

淡は止まってはくれたが明らかに機嫌が悪くなった

 

「はぁ。確かに久しぶりだな。元気してたか?」

 

久しぶりに会うのは確かなので悪いことしたと思って淡の頭に置いてある手を左右にスライドさせる

 

「〜♪うん!ショウは?」

 

「元気元気。超健康だ」

 

「そっか〜♪」

 

腕を後ろで組んでさっきとは段違いに満面の笑みを浮かべる淡

 

「そろそろいいか?」

 

「あ、すいません…」

 

「なら改めて、私が「翔…」っ!」

 

「は、はい。これですね」

 

「ん。さすが」

 

おそらく弘世さんから紹介が始まろうとしたときに照さんが割って入った。弘世さんは照さんを物凄い目つきで睨んでいる。オレは急いでリュックから袋を取り出し照さんに渡す。その中身はオレが朝に作っといた照さんへのお菓子だ

 

「おい照。今私が話そうとs「わー!ショウすごい!テルー!私にもちょうだい!」…」

 

今度は淡か!弘世さんすんごい顔になってるけど大丈夫か!?

 

「照…大星…」

 

「ん?なに?菫。聞いてなかった」

 

「ふぁんへふは〜(なんですか〜)?」

 

「…」

 

淡は口ん中に頬張りすぎだから!お前も食べると思って多めに作ってあるから!大丈夫だから!照さんもお菓子に夢中になってないで弘世さんの話を聞いて!!

 

「まったく…すまんな」

 

「いえ…この原因を作ったのはおそらく自分ですから」

 

「だが君が菓子を持ってこなかったらこれの三倍はめんどくさいことになってただろうな」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ。おっと、大分脱線してしまったな。改めて、弘世 菫だ。一応この部の部長を務めている。いろいろ言うこともあるんだがとりあえず自己紹介を済ましてしまおう。渋谷」

 

「は、はい…渋谷 尭深(しぶや たかみ)です…」

 

イスに座ってお茶の湯呑みを持っていたのを一度テーブルに置いて立ち上がり礼儀正しくお辞儀をする渋谷さん

 

「亦野 誠子です。よろしく!」

 

なんとも元気に挨拶する亦野さん。このチームも個性豊かだな〜

 

「菊池 翔です。照さんとは昔住んでた家が近所だった関係で。淡とは照さんの付き添いでこちらに来たときに雀荘で知り合った仲です。よろしくお願いします」

 

照さんや淡との関係を含んだ簡単な自己紹介を終わらして軽く頭を下げる

 

「照や大星から話は聞いている」

 

「変なこと言ってないですよね…?」

 

「大丈夫だ。昔照が負け越してたことや大星がコテンパンに負かされたことぐらいしか私の頭には残っていない」

 

なぜかしてやったかのようにニヤり顔になる弘世さん

 

「でも宮永先輩からはどこかに出かけるときはいつも付いてきてくれる優しい弟分だって聞いたよ!」

 

迷子になるか心配だからですよ…

 

「大星からは勉強教えてくれるし話し相手になってくれる大切な友達とも聞いたね!」

 

だって勉強教えてって泣きながら電話してくるから…でもそんな風に思われて悪い気はしないな

 

「こうして聞かされると恥ずかしいですね…」

 

「恥じることはない。なんなら今からでも照担当を代わって欲しいくらいだ…」

 

「担当?」

 

「こいつの迷子気質は知っているだろう。だからこいつが迷子にならないように入学当初から私が見ているというわけだ」

 

「そうでしたか。照さん、迷惑かけちゃダメですよ」

 

「…翔が言うなら、これから頑張る」

 

お菓子を頬張りながらもきちんと話を聞いてるとこが照さんのすごいところだ。飲み物飲まないで大丈夫かな

 

「あっ。お茶、淹れますね」

 

「お構いなく」

 

「ショウ!ここ座って!」

 

「ん?じゃあお邪魔して」

 

照さんと淡が座ってるソファーの淡の隣のところをパンパンと叩いてオレを呼び寄せる淡。それにした上がってそこに座ると淡が寝っ転がってオレの膝に頭を乗せてきた

 

「えへへ〜♪」

 

「淡?」

 

「んふふ〜♪ショウ♪」

 

オレの膝とお腹にスリスリしながら身悶える淡。淡はオレの知り合いの中でもトップクラスの甘え上手だな

 

「お茶です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

淡の対応をしていると渋谷さんがお茶を渡してくれた。今時湯呑みでお茶を受け取るのも珍しいな

 

「おい、そろそろ始めるぞ」

 

「…」モグモグ

 

「んへへ〜♪」

 

弘世さんの呼びかけに全く応じる様子もなくお菓子をまたお菓子を頬張る照さんとオレから離れる気配のない淡

 

「お前ら…」

 

「く、苦労されてるんですね…」

 

「今すぐ代わってくれるか…?」

 

「遠慮しときます。ほら、淡。やるってよ?」

 

「ふぇ?何を?」

 

「お前…オレが何で今日呼ばれたのか忘れたのか…?」

 

「あ!そうだった!今日こそ勝つかんね!」

 

さっきとは打って変わってやる気に満ち溢れ勢いよく立ち上がりその勢いのまま卓につく淡

 

「照さんも。そんな勢いで食べてたらなくなっちゃいますよ…」

 

「ん、これで最後…」

 

と言いつつまた新しいお菓子に手を伸ばす照さん。オレはその手を掴み止める

 

「ダメです。さっき迷惑かけないって言いましたよね?」

 

「頑張るって…」

 

「照さ〜ん…?」

 

「…わかった」

 

照さんはようやく立ち上がり麻雀卓の席についた

 

「…本当に代わってくれないか?」

 

「やめてくださいよ…」

 

と本気で世話係の交代をお願いされたが弘世さんには申し訳ないがお断りした

 

「そうか…では君も入ってくれ。亦野と渋谷は悪いが最初は見学だ」

 

「わかりました」

 

「(コクッ)」

 

照さんと淡の中に入る弘世さんに続いてオレも席についた

 

「試合を見据えて東南戦で頼む」

 

「ショウ、今日こそ百回倒す!」

 

「…」

 

「お手並み拝見だな」

 

「よろしくお願いします」

 

百回という今日丸一日売ったとしても不可能な数字を言いつつ勝ちに行くと目で訴えている淡に無言だが目だけはこっちを捉えている照さん。そしてそんな様子をなぜか笑顔で伺う弘世さん。オレも気合入れなくては…

 

東家:弘世さん 南家:淡 西家:照さん 北家:オレ

 

ー東一局ー

 

弘世さんがサイコロを回すボタンを押し対局が始まった。その瞬間場の空気、というよりは淡から放たれているプレッシャーがヒシヒシと伝わってきた。昔より格段に強くなってる…

 

そのせいか最初の配牌はクズ手もクズ手、五向聴になっていた。おいおい、マジかよ…

 

手配から顔を上げるとオレの驚きの表情を見たからなのか淡がこっちを向いてドヤ顔をしていた。んのやろう…その顔絶対泣きっ面にしてやる

 

「ロン、3900。へへーん!」

 

回って7巡目で淡が和了った。オレが振り込んでしまった。そんでまたドヤ顔してるし。こいつ絶対泣かす!!

 

すると今度は背後から誰かに見られたような感じがした。照さんの照魔鏡も健在か…マジで厳しいな…

 

ー東二局ー

 

「ツモ、300・500」

 

ー東三局ー

 

「ロン、3900」

 

ー東三局 一本場ー

 

「ツモ、2100・4100」

 

照さんの連荘。これ以上はヤバいな…そこでオレは弘世さんと目があった

 

ー東三局二本場ー

 

「ポン」

 

開始早々オレの切った{發}を鳴いた弘世さん

 

「ロン、8600」

 

「っ!」

 

な、なんだとー!!!騙したなー!!!こういう場合は安手で流すもんじゃないのか!?いや、引っかかったオレのミスか…こりゃマジでヤバいな。()()()()()してる場合じゃないか

 

オレは一度目を閉じ精神を集中する

 

「「っ!!!」」

 

「…」

 

するとそれまでのその場の空気は一気に変わり、それを感じたオレはゆっくりと目を半分だけ開く

 

頭は動かさず他家の3人を見てみると弘世さんは目を見開いてこちらを見ている。淡は一応笑ってはいるが頰は引きつり汗もかいている。照さんは何も感じないように表情は変わってはいない。しかし卓の下でスカートを強く握りしめている

 

そしてさっきまで背中から感じていた視線のようなものもなくなっていた

 

ー東四局ー

 

{七萬八萬赤五索八索三筒九筒東東東北西發發} {九索}

 

次の牌は…

 

一巡目、{三筒}切り

 

次は…

 

二巡目、{赤五萬}ツモって{九筒}切り

 

次…

 

三巡目、{發}ツモって{北}切り

 

次…

 

四巡目、{五索}ツモって{八索}切り

 

「ポン」

 

照さんが鳴いたか。一回リセットされたからまた安手からだからすぐに和了れる手を作ってるな。弘世さんは何かを狙っているのかオレのことをじっと見ている。でも臼沢さんみたいに手が延びなくなるみたいなことはない。ならオレからの直撃を狙っているはず。淡はいつも通り。今回もあれはなかった

 

みんな何かしら狙ってるみたいだけど、今回はオレが貰う

 

五巡目、{西}ツモる

 

「リーチ」

 

{八萬}を切って{六萬}の単騎でリーチをかける。普通なら{赤五萬}切った方が待ちは広いけど、オレには確信があった

 

「ポン!」

 

淡が鳴いたか。まぁ一発はなくなったけど、()()()()()()()()()

 

「ツモ。面前、飜牌、三暗刻、赤2…裏2。12000オール」

 

オレは手牌を開き点数を申告する。照さんはともかく弘世さんは驚きを隠せていない。淡はまだ余裕があるらしく笑顔は消えていない。ただ汗は大量に書いている

 

オレは3人から点棒を受け取りすかさず宣告する

 

「一本場」

 

余韻なんていらない。このまま一気に持っていく。しかしサイコロを回した瞬間、淡から物凄いプレッシャーが襲ってきた。オレは構わず最初の牌を切る

 

「リーチ!」

 

すると淡が最初からダブルリーチをしてきた。ようやく淡も本気になったのかと思ってオレは再び目を瞑りふぅ〜っと一息つく。そして目を開く。今度は普通に

 

3人はオレから発せられていたものがなくなったのを感じたのか同時にオレを見てきた。オレはそれに対して何も言わず笑顔だけ返した

 

「ポン」

 

「チー」

 

「ポン」

 

「ロン。1300」

 

最終的には照さんにオレが1300振り込んで終了となった。淡にとっては奇妙な状態が続いただろう。なぜか。照さんが和了るまで淡に回ってこなかったからだ。もちろん意図的だオレと照さんで鳴きに鳴いて淡に回さなかった

 

「ありがとうございました」

 

「お、おつかれ…」

 

「…」

 

「…」

 

オレの言葉に返答してくれたのは弘世さんだけで、照さんはいつも通りの表情で黙って席を立ちソファーに座った。淡は卓を見続けながら黙り込んでいる

 

オレは席から動こうとしない淡の頭に手を乗せる

 

「ショウ…」

 

「強くなったな、淡」

 

「なに、それ…嫌味…?」

 

「久々に本気を出したよ。前に淡に会ったとき以来だ。この意味わかるか?」

 

「…私がいるときだけ、本気で」

 

「そういうことだ。まぁ今回は照さんもいたし弘世さんも手強い人だと思ったのもあるけど」

 

「ショウ、ショウ!」

 

さっきまでの表情とは打って変わって嬉しそうにオレに飛んでくる淡。やっぱり元気な方がいいな

 

「君は一体何者だ…」

 

「はい?普通の高校1年生ですが」

 

「私ならまだしも普通の高1が照や大星にこんなあっさり勝てるわけないだろ!」

 

な、なんか前に染谷先輩から同じようなこと言われたような…

 

「菫」

 

「なんだ、照」

 

「私は翔に負けて当たり前。翔は私の目標で、倒したい相手の1人だから」

 

照さんにそう言ってもらえて光栄なんですが、照さんには何回も負かされてるんですけどね

 

「ショウ!」

 

「ん?」

 

「今度は倒す!」

 

「おう。オレも負けないけどな」

 

淡はオレに抱きつきながら顔を上げてオレにそう宣戦布告してくる。オレも負けないように頑張らないとな

 

「あのー」

 

「なんだ、亦野」

 

「私と渋谷先輩は菊池くんの後ろで見てたんですけど…最後なんで{六萬}単騎にしたのかなって」

 

「あー、確信があったからですね」

 

「ありえん!ならば君は次にくる牌がわかっていたとでも言うのか?しかもあのときは淡が鳴いて来る牌はズレたはずだ」

 

ごもっともな意見ですね。普通はそんなことありえない。でもあなたたちの対戦相手にいるでしょう。未来をみることができる人が

 

「別に理解してもらわなくても大丈夫です」

 

「菫、翔の言ってることは本当だよ」

 

「照まで!」

 

「ショウはなんでもできるもん!」

 

「なんで淡が自慢げなんだよ」

 

照さんと淡から言われて弘世さんは納得はできないがとりあえず引き下がることにしたらしい

 

「さて、今度は私達も入れてください!」

 

「(コクッ)」

 

「えぇ、もちろん」

 

亦野さん、渋谷さんを入れて次の対局が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつからできるようになったかはわからない。本人曰く「できるかなって思ったらできた」とのこと。なぜこんなことができたのか

 

それは神から受け取った特典のうちの二つ、頭の回転のよさ、麻雀のセンス、そして昔から培ってきたいろんな人との麻雀の経験と記憶。これら全てを掛け合わせてできた菊池 翔の本気のときにしか表に出ない、いわゆる奥義なるもの

 

それは菊池 翔が今まで会ってきた、一緒に麻雀をしてきた人の<麻雀スタイルのコピー>。先程の弘世 菫の疑問にはこれで説明がつく。翔はあのとき一巡先を見ることができると言われている千里山女子の園城寺 怜のスタイルをコピーしていた。しかもそれに加えて大星 淡のプレッシャーに負けないよう天江 衣の威圧までコピーし、普段から持っている自分のものに加えた。そのため来る牌は大星 淡の影響を受けなかった

 

他人からはおそらく理解できない翔の実力。ここではこの力をこ呼ぶことにしよう。《完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)》と…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話

間がだいぶ空いてしまってすいませんでした

とある方からのコメントで心折れまして更新できませんでしたが、これまたとある方からのコメントで元気を取り戻して更新できました

お待ちいただいていた方々には深く謝罪します

久しぶりすぎてどんな感じで書いてたか忘れてしまっていて、少し変かもしれませんがよろしければこれからもよろしくお願いします


今日で大会六日目。今日で準決勝に進める四校が決まる。天気はあいにくの雨になってしまったがみんなのやる気に雲はかかっていない。全員がやる気に満ちている

 

すでにオレや京太郎を含む清澄のメンバーは控え室に到着しており各々リラックスしていた

 

『今日はインターハイ六日目。第三試合と第四試合、まもなく先鋒戦が始まろうとしています』

 

「よし!タコス力フルチャージだじぇ!」

 

「ん?もう行くのか?早くないか?」

 

「ちょっと厠で化粧直しをな」

 

「頑張って」

 

「おう!」

 

「練習通りにね」

 

「気張ってっけー」

 

「お任せー!行ってくるじぇ!」

 

「いってらー」

 

いつも通りタコスを食べて試合会場へ向かうため部屋を出た優希。その手にはなにやら袋を持っていた

 

『さぁ第三試合のAステージでは永水女子と姫松高校が当たるという好カード。本日の実況は私佐藤、解説は昨年新人賞を獲った期待の新鋭、戒能プロです』

 

『グッドモーニング…です』

 

『よ、よろしくお願いします…さ、さて戒能プロの母校、大上院女子もインターハイに出場していましたが残念ながら一回戦で敗退となってしまいました』

 

『超惜しい…クロスゲーム…でした。相手も…エナジェティック…で手強かったです』

 

『エナジェティック…さぁ!先鋒の選手が入場します!』

 

なんともクセのすごい話し方をするプロだな。おっ、選手紹介だ。今日の試合は知ってる人が多いからな、見逃したなんて言ったら後で何言われるか…

 

『鹿児島県代表、永水女子の先鋒は去年団体戦で大活躍したこの選手。神代 小蒔』

 

小蒔姉さん、一体どんだけ強い神様を下ろしてるかで内容が変わるかな。まぁ弱いにしても相当なんだけどね…

 

『宮城県代表は宮守女子。先鋒は小瀬川 白望』

 

小瀬川さんは相変わらずダルそうだな。いや、実際ダルいって思ってんだろうな

 

『春季大会五位の南大阪代表、姫松高校。上重 漫。昨年は副将でしたが今年は先鋒を務めます』

 

上重さんは成績にムラっ気があるからな。今日はダメな日か、それとも…

 

『そして長野県代表、清澄高校。片岡優希』

 

「は?マント?」

 

「おととい買ってきたのはこれか…」

 

画面越しに映る優希の姿は制服の上に真っ赤なマントを装っていた。最初はおふざけかと思ったが、優希の表情を見てそれは思い違いだとすぐに気づいた。今の優希なら大丈夫だ

 

ー東一局ー

 

『ステージA二回戦、第3試合が始まりました。インターハイベスト16、初出場の高校はもはや二校しか残っていません』

 

『強いものが勝ち弱いものが破れるのがインターハイのルール。まさに弱肉強食です』

 

『その内の一校が長野の清澄高校。レギュラーに一年生が三人もいる若いチームです。先鋒を務めるのが一年生トリオの一人、片岡 優希選手。その片岡選手の親家で試合スタートです』

 

優希の親から始まるのはいつも通り。ということはあの場ではまだ何かしたの力は働いてないのか

 

三巡目…

 

「リーチだじぇ!」

 

優希による早い段階でのリーチ。いつも通りだ

 

『清澄の片岡選手、東一局開幕三巡目でいきなりの親リーチです』

 

『これはなかなか早いですね。片岡選手、この聴牌までに無駄ヅモなしでした』

 

『さぁこのリーチに他の三校ははどう対処していくのでしょうか』

 

小蒔姉さんは{八萬}、上重さんは{六萬}と安牌で降り気味。でも小瀬川さんが{五索}で三筋ど真ん中。いつもダルいといいながら打つ麻雀は負けん気が強いのよな

 

「ポン」

 

しかもそれを小蒔姉さんが鳴きかよ。優希が鳴きが効くって知ってるんかな。それか優希の特性を知ってるのか。はたまた強者としての直感か。その証拠に優希に行くはずの当たり牌が上重さんの手に渡った

 

「ツモ!4000オールだじぇ!」

 

ポンなきゃ三色と一発ついて親倍の8000オールだったんだけどな〜。小蒔姉さんに神様が降りてるからなのか。それともポンさせた小瀬川さんの方がスゴいのか…まぁでも鳴かれても和了ることができたな。県予選までの優希を見て研究してたんならちょっと違うことに気づいたかな?

 

それに比べて優希自身は自分の代わり具合をちゃんと把握できてるな。いや、これまでの練習で自信がついたって方がいいかな。清澄での練習、合同合宿、今日までの間で一番変わったのはおそらく優希だろうな

 

「…それもそうだじぇ。よーっし!ここからは私の連荘で終わらせる!」

 

「「…」」

 

「なっ!」

 

「この試合に、東二局はない!」

 

優希の言ってることは全てが強がりではない。まぁ多少はあるかもしれんが…でも今の優希は依然と違ってガチで狙いにくる。できるわけないと思うやつがほとんどだろうが優希ならできる。なによりあいつ自身ができると確信している。それだけの力をつけてきた

 

「サイコロは?」

 

「うわっ!そ、そうだったじぇ…」

 

大丈夫だよな…?急に心配になってきた。やる気の出してる優希に比べて小瀬川さんは相変わらずダルそうだ。いや、優希のせいでもあるかな。ああいうタイプ好きじゃないって言ってたし。でも鹿倉先輩は平気なんだよな〜

 

『さぁステージA第3試合、先鋒前半戦、片岡選手の親満ツモで幕を明けました。戒能プロ、今の局どう見られましたか?』

 

『片岡選手は今までの試合から見ても序盤の集中力が素晴らしいですからね。今回の和了りも彼女にとっては多分当たり前でしょう』

 

『確かに片岡選手の東場での成績は非常にいいいですね』

 

『いずれにせよこの先鋒戦、稼げるときに稼いでおいた方がいいでしょう。他の三人の打撃力も相当高いですからね』

 

『その中でも注目したいのはなんと言っても永水女子の神代 小蒔選手でしょう』

 

『えぇ。個人的にとても注目してます。とても…』

 

ー東一局 一本場ー

 

「天和ならずだじぇー」

 

優希だけで試合を終わらせるための一本場。今度はどんな和了りで次に繋げるのか

 

「チー!」

 

しかし先に動いたのは上重さん。小蒔姉さんの捨てた{二萬}を鳴いた

 

「…」

 

「来い!」

 

小瀬川さんは無言で表情も一切変えずに淡々としている。一々元気な優希とはホントに真逆だ

 

「ポン!」

 

また動いたのは上重さん。優希の捨てた{六萬}を鳴く。そして聴牌。鳴きの速攻。憧もたまにやるな。でも…

 

「ロン!手替りを待つまでもなかったじぇ。8000!」

 

今の優希はそう簡単には止まらない

 

ー東一局 二本場ー

 

「ダブルリーチだじぇ!」

 

「「…」」

 

「っ!」

 

やっぱリアクションするのは上重さんだけか。小蒔姉さんが()()()()()わっかりやすく反応するんだろうけど、今ので確信した。神は降りてる

 

「ロン!一発!7700の二本場は8300だじぇ!」

 

『片岡選手、東発から三連続和了です。そして姫松の上重は二連続での振り込み』

 

「優希ちゃんスゴい…三連続和了だよ」

 

「えぇまぁ…今のところ悪くないですね」

 

「素直に褒めてやらんもんか!」

 

「あの子の場合、いつもここからが問題ですので」

 

「それに最後のは絶対マグレだろうしな」

 

「そうね。相手も優希が東場にだけ強いって知ってるでしょうね。でもね!」

 

ー東一局 三本場ー

 

「…」

 

ヤベーな…小瀬川さんの手が止まった…気をつけろ優希…

 

「ちょいタンマ…」

 

あちゃー。それも来ちゃったか…小瀬川さんが捨て牌に悩んだら高確率で高い手だ

 

「…はっ。ごめんなさい、少し寝てました」

 

「はっ!?今まで目開けて打ってたやん!」

 

へっ?小蒔姉さん、起きたんか…?

 

「点減ってる…すみません、疲れてるとたまに。でも申し訳ないのでこれからは、全力以上で当たらせてもらいます!」

 

あちゃー…マジで起きてるよ。こりゃいいのか悪いのか…強さ的には下がったけど嫌な意味で場が緩んじまった

 

「さてと」

 

「あれ、翔くんどこ行くの?」

 

「ちょっとトイレだ」

 

「ちょっとー、先に行っときなさいよね」

 

「悪かったですよ。和の淹れてくれたお茶が美味すぎて飲みすぎました」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「じゃあすぐ戻ります」

 

「えぇ」

 

優希の試合を観ながら無意識にだけどめっちゃお茶飲んでたみたいだな。めっさ尿意が…!

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・\スッキリー/・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「早く戻んないとな。ん?」

 

トイレを終えて来た道を来たときよりも早めの歩みで戻る。すると目の前をスラッと背が高く、また長い髪に黒いハットを被った後ろ姿に見覚えがあった。話をしてる女子高生の隣を通ると頭二つは高いと感じる。その背の高さに二人の女子も驚いている

 

「豊ねぇ?」

 

「あ、しょーちゃんだー!♪」

 

「よっす。何やってんの?こんなとこで」

 

「ん〜?ちょっと散歩〜」

 

「おいおい、今小瀬川さんが試合中でしょうが。応援しなよ」

 

「白なら大丈夫だよ〜。それよりしょーちゃんに会えて超嬉しいよ〜♪」

 

「そっか」

 

この身長や風貌に合わないほどの子供っぽさ。この前の練習試合でも思ったけど昔と変わんね。でもこの変わらないのが心地いい。豊ねぇの嬉しそうな顔を見るとこっちも無意識に頰が緩む

 

「んふふ♪しょ〜ちゃん♪」

 

「こんなとこでそんなくっつくなよ」

 

「だって〜。この前は久しぶりに会えたけどその前はほとんど会えてなかったんだよ?それにこの前はエイちゃんにばっかり構ってたし」

 

「はいはい。わかりましたよ。いつまで経っても豊ねぇは甘えん坊だな」

 

「えへへ〜、しょーちゃんにだけだもん♪」

 

「まったく。これが姉さんなんだもんな〜」

 

「そうだよ〜。いつまでも私はしょーちゃんのお姉ちゃんだよ〜」

 

豊ねぇに右腕を占拠されながら廊下をさっきよりもゆっくりと進む。すると今度は…

 

「じゅん!早く早く!ゆうきの試合終わっちゃうよ!」

 

「お前がトイレ付き合えって言ったんだろー」

 

「だって一人で行くのこわ…なんでもない!」

 

「ぷっ!子供なのはタッパだけじゃないのな」

 

「ありゃ?衣姉さん?」

 

今度は目の前にち…んんっ!可愛らしい背丈の女の子と豊ねぇには及ばないものの女子としては背の高い、オレ個人としても清澄高校としてもとてもお世話になっている二人がいた

 

「ん?あっ!しょー!」

 

可愛らしい方、衣姉さんがオレを見るやパーッと笑顔が弾けて手を広げこっちに走って来た。オレはとりあえず豊ねぇから腕を解放してもらい地面に片膝をついて出迎えた

 

「こんなところでどうしたんだ?姉さん。純さんも」

 

「よー、翔…ってでかっ!」

 

純さんも後から近づいてきてオレの隣にいる豊ねぇの背の高さに驚いていた。確かに純さんより背の高い女子はあまりいなさそうだもんな

 

「しょー、この人は誰だ?」

 

「この人は…へっ?」

 

衣姉さんに聞かれたので答えようと一度豊ねぇを見上げると頰を膨らましてこっちを睨んでいた

 

「ど、どうした…?豊ねぇ…」

 

「しょーくん!”姉さん“ってどういうこと!?」

 

「しょーは衣の弟だ!だから衣はしょーのお姉さんなんだぞ!」

 

衣姉さんはえっへんと言いたげに腰に手を当てて胸を張った

 

「それよりお前はしょーの何なのだ!」

 

「私はしょーくんのお姉さんですー!」

 

「なにー!しょーはころものだぞー!」

 

「しょーくんは誰のものでもありませーん!」

 

「ほらほら、豊ねぇも衣姉さんも落ち着いて…だからそんなに引っ張んないで…」

 

言い合いをしている豊ねぇと衣姉さんに両腕を引っ張られる。二人身長差がすごいから肩が変な方向に曲がりそう…

 

「翔は揉め事に事欠ねぇな」

 

「そんなこと言ってないで助けてくださいよ…」

 

「それもそうだな。ほら衣。優希の試合見るんだろ?」

 

「豊ねぇもそろそろ控室に戻らないとじゃないのか?」

 

「「うぅ〜」」

 

未だに駄々をこねる衣姉さんを純さんが抱えて持って行った。あとで何かフォローしよう…純さん、ありがとです

 

「さて、豊ねぇも戻んな」

 

「えー…せっかくしょーくんに会えたのにー」

 

「オレも戻んないといけないし。終わったら顔出すから」

 

「…わかった」

 

豊ねぇはその大きな背を屈曲させて歩き出した

 

「豊ねぇ」

 

「なーに?」

 

「ウチの大将…()()()?」

 

「っ!」

 

オレはそれだけ言って戻り遅いから部長怒ってるかな〜、とか思いながら控え室に戻った

 

 

 

 

 

 

 

ー宮守女子 控室ー

 

「戻ったけど〜」

 

「お帰りー豊音。あれ?なんかいいことあった?」

 

「ん〜?ちょっとね〜。それで、神代さんはどんな調子かな?」

 

「敵の選手よりチームメイトの白を気にしようよ…」

 

「いや〜だって〜、神代さんってスゴいよ?去年は九州の赤山高校の藤原 利世を完封してたし」

 

「じゃあサインでも貰えば?」

 

「うん、そうする」

 

「永水を倒して一位通過した後でね」

 

豊音が控室に戻るとすかさず加倉 胡桃がお出迎えをする。その他にもエイスリン・ウィッシュアート、臼沢 塞、さらには監督の熊倉 トシも揃っている。控室だから当たり前だろうが

 

「それで?何があったの?」

 

「ん〜?えへへ〜♪」

 

さっきはぐらかされた豊音の笑顔について胡桃は再び尋ねる

 

「さっきね〜、しょーくんに会ったんだ〜」

 

「っ!」

 

「ホント!?トヨネダケズルイ!」

 

先程勝手にではあるが弟認定している菊池 翔に会ったことを伝えると塞とエイスリンが反応する

 

「この前はずっとエイちゃんに取られちゃってたから〜、たくさんギュってできて嬉しかったよ〜」

 

「ズルイズルイ!」

 

「〜…っ!!!///」

 

豊音の自慢とも言える話にエイスリンは激しく嫉妬し塞は何かを想像して顔を赤くしている

 

「それじゃあ豊音のやる気も好調ってことでいいのかね」

 

「うん!もう今すぐにでも試合できるよ〜」

 

「よかったね、豊音!」

 

「うん!」

 

翔と会えたことになのかこれからやる試合が楽しみなのかわからないが笑みを絶やさな豊音であった。そんな豊音にエイスリンが勢いよく抱きついた

 

「ん〜?どうしたの?エイちゃん」

 

「〜〜〜〜。ショウノニオイ♪

 

「あー!ダメだよエイちゃん!私の特権だよ!」

 

どうやら翔に抱きついたときに豊音の服についた翔の匂いを嗅いでるようだ

 

「塞はいいのかい?」

 

「なっ!わ、私は…別に…」

 

(そういいながら豊音の服から目を離さない。青春だね〜)

 

「白、頑張れー!」

 

宮守女子は今日も平和である

 

 

 

 

 

 

 

 

「菊池くん…今は優希の大事な試合なのよね…?」

 

「はい…すいませんでした…」

 

一方そのころ翔は竹井 久に怒られていたとさ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話


今回ちょっと短いです


 

「リーチ!」

 

長かった優希の東一局が終わってしまい東二局に入った。最初の手牌で一向聴になったものの他家三人に全員{西}を切られてしまい四風連打で流局になるかと思いきや、優希が聴牌を崩して強気に出た。そして九巡目に張り替えが完了してリーチをかける

 

そして一瞬だが小瀬川さんが手牌の右側の{九萬}から左側に移して{一筒}を切った気がした。これは一瞬考えたのかそれとも違うのか

 

「一発ならず」

 

優希が一発で上がれなかった。まだ東場で鳴きでズラされたわけでもないのに…これは流れが優希には来てないということか

 

十一巡目…

 

なかなか当たり牌が出ない優希に対して小瀬川が聴牌。迷えば迷うほど手が高くなる。【迷い家】…遠野の地方の山中に幻の家があったという。その家はへ訪れた迷い者に富貴を授けると言われている。しかし全ての者ではない。欲を持つ者には与えず、持たない者に与えるという

 

「深いとこにいたな。ツモ、3000・6000」

 

『東二局、宮守小瀬川選手がハネ満ツモ。一気にプラスに戻しました』

 

「あっちゃ〜。二回もチャンス潰されたんか」

 

「優希…」

 

そして70分後…

 

ー南四局ー

 

『いよいよ先鋒戦もオーラス!』

 

半荘一回目はあの後も優希と小瀬川さんの上がりで終了。そして二回目も優希は大きなミスなくトップを維持できている

 

六巡目…

 

「あ、やべっ…」

 

「?翔くん?」

 

「どうされたんですか?」

 

「あ、いや…」

 

口に出しちまった。でもこれはやべぇぞ…小蒔姉さんが()()()()()…そしてその瞬間…

 

「リーチ!」

 

優希がリーチ…しかしそれよりも大きな衝撃がオレの中に走る

 

「はっ…!」

 

「咲もわかったか…」

 

「うん…」

 

「ん???」

 

咲の驚いた顔を見ればすぐわかった。それとは反対に和はなんの話だかわかっていない様子だ。首を傾げて疑問の表情を浮かべている

 

『片岡選手、一発ツモとはならず。戒能プロ、片岡選手はトップ目から積極的にリーチ打ってきましたがこの攻めは…戒能プロ…?』

 

『憑いてますね』

 

『はい?』

 

解説者のプロもわかってんのか。ていうことはプロもそっち側の人ってことか…

 

「ロン」

 

「ふぇっ!」

 

「24000」

 

『先鋒戦終了!永水女子がオーラスでトップの清澄高校にの三倍満を直撃。最下位から一気に二位に浮上。現在のトップは岩手県代表の宮守女子。ベスト8をかけた戦いは次鋒戦に突入します!』

 

まぁ最期のあれは仕方ねぇわ。オレらみたいな一般人は逆立ちしたって神様には勝てねんだから。ん?誰だー!!!お前が一般人とか本当の一般の人たちに謝れって言ったの!!!!!オレは正真正銘の一般人だ!!!!

 

そんな心の中で一人芝居をやっていると控室のドアが開いた

 

「おかえりなさい」

 

「おかえり」

 

「ただいま帰ったじぇ…」

 

入ってきた優希の目には涙が浮かんでいた

 

「うぅう…トップなのにリーチしたのは失敗だったじぇ…リー棒分まくられた…」

 

「何言ってんの、大健闘よ。一年生が強豪校の先鋒相手にほぼ原点で帰ってきた。それだけで十分。続きは私達に任せて」

 

優希はまだ悔し涙を浮かべるものの部長の言葉に軽く頷いた

 

 

 

 

 

 

 

ー永水女子 控室ー

 

試合から戻ってきた神代 小蒔は備え付けられているソファに姿勢良く座って目をつむっている

 

「姫様はまだ眠ったままですね」

 

「まさか二度寝がくるなんて」

 

「珍しい」

 

「小蒔ちゃんなりに頑張ったのかもしれないわね」

 

そんな笑顔で眠っている小蒔を見守っているのが薄墨 初美、狩宿 巴、滝見 春、石戸 霞の四人だ

 

「それって姫様が自分で寝ようと思って眠りについたってことですか〜?」

 

「意図してできたことはなかったけど、今まで公式戦で小蒔ちゃんに神様が降りてこないまま試合が終わることはなかった。だから戦い自体は負の状態で終わることはなかった」

 

「じゃあ今回、それを目の前にして恐れた姫様の心が特別な働きを生んだということでしょうか…」

 

「姫様、いつも心境のお屋敷でお付きの六女仙と遊ぶために麻雀を始めたって言ってたのに」

 

「今の本心は別」

 

「勝つこと。少しでも長く私達とこの大会を楽しんでいたいのかも」

 

霞からの話を切った三人は小蒔の方を振り返る

 

「どちらにしても優勝すれば長く遊べるってもんですよ〜」

 

「えぇ、そうね。でももしかしたら、ただ単に翔くんにいいところを見せたかっただけかもしれないわね」

 

「あぁ」

 

「ありえる」

 

ここでも清澄高校の一年、麻雀部所属の男子生徒、菊池 翔が話に上がるらしい

 

「そういえば今日この会場に翔もきてるんですよね〜?」

 

「実際に今清澄と対戦してるのだからいるでしょうね」

 

「あとでこっちに顔出すべき」

 

「そうね。この試合に勝った後で呼び出しましょうか」

 

「賛成ですよ〜」

 

「何してもらいましょうかね〜」

 

「考えとく」

 

次に翔が永水女子の面々に会うときは一苦労も二苦労もしそうである

 

「…翔くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー清澄高校 控室ー

 

「ほいじゃ、そろそろ行ってくるかいね」

 

「頑張ってください!」

 

「よろしくね」

 

「任せときんさい」

 

次鋒戦に向かうため制服のリボンを締め直し後輩や部長から声をかけられるそして出る前に優希の肩に手を置いた

 

「今度こそホンマに仇取っちゃるけぇの」

 

「うん!絶対だじぇ!」

 

県予選ではできなかった後輩の仇を今回は成し遂げると断言する染谷先輩。あ、オレ声かけんの忘れた…

 

『さぁ次鋒戦スタートです!親家は現在トップの宮守女子、エイスリン・ウィッシュアート選手。永水からは次鋒、狩宿 巴選手。永水女子は現在二位につけています』

 

さてさてこの次鋒戦、ほとんどの人は留学生のエイスリンさんに注目するんかね。まぁ咲や衣姉さんみたいに嶺上や海底バンバン和了る人はイヤでも注目するけど、エイスリンさんは目立つ和了りをするわけじゃない。でもこの前の練習試合、ほとんどの曲で門前で聴牌していた。エイスリンさんになんでか聞いてみたけどそのときは「I tell you when we see again(今度会ったら教えるね)」とはぐらかされてしまった。まぁ熊倉さんが「あれはまた会う口実作りだね」なんて呟いてたな…

 

七巡目…

 

「チー」

 

先に動いたのは染谷先輩。それもエイスリンさんの対抗策の鳴きを使ってきた

 

断么九、平和(タンピン)一盃口(イーペー)捨ててチー」

 

「普通はあり得ません…」

 

ま、和じゃなくても普通ならそう思うわな。でも清澄麻雀部、特に染谷先輩と付き合いが長い部長はわかっているのだろう

 

「ツモ。300・500」

 

ー東二局ー

 

七巡目…

 

「ポン。ドラ、たくさんよ〜」

 

染谷先輩が切った{赤五筒}を姫松の真瀬さんが鳴いた。今回も染谷先輩が何か感じ取ったんかな。それにしても玄さんほどじゃないけど真瀬さんもドラ集めるよな

 

十巡目…

 

「ロン。2000」

 

やばっ、染谷先輩の和了り見て全員意味不明って言いたげな顔してる。エイスリンさんに至っては頭の上に10個ぐらい?が見えそう。笑いそう…

 

染谷先輩は卓上を一つの絵として覚えてる。いくら相手が常識の外側にいる人でも染谷さんのイメージから外れる打ち方をしないのであればいくらでも対処できる。でも咲みたいな常識外の人間や、意外にも鶴賀学園の妹尾さんのような初心者には苦戦してしまうが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁついに次鋒戦も後半戦オーラス。次鋒戦開始時に三位につけていた清澄、オーラスを迎えトップに出ています!』

 

四巡目…

 

「チー」

 

エイスリンさんは未だに染谷先輩の不可解極まりない鳴きに対応できていないでいた

 

八巡目…

 

「ポン」

 

染谷先輩が切った牌を巴さんが鳴いた。そして…

 

「ロン。3900。これで終わりじゃの」

 

最後はエイスリンさんが切った{七萬}で染谷先輩が和了って終了した

 

『次鋒戦終了!清澄高校染谷選手、オーラスを3900点で締めてトップで中堅戦へバトンタッチです』

 

「やったじぇー!!!染谷先輩!!!」

 

控室では優希が飛び上がり、咲も拍手で染谷先輩を称えている

 

『宮守女子エイスリン選手、清澄に逆転を許したものの103500点で現在二位。永水狩宿選手は順位を一つ下げ三位に。姫松高校真瀬選手、前後半共に堅実な打ちまわし。順位は変わらず最下位ですが三位との差を詰めています』

 

順位は今アナウンサーさんが言った通り。でも正直この点差ならあってないようなものだとオレは思う。なぜなら、次の中堅戦で出てくる人が出てくる人だから…あの人はオレが知ってる中でもトップ10には入る強者だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー姫松高校 控室ー

 

一方そのころ菊池 翔が考えていた本人はと言うと…

 

「さぁて、場もいい具合にあったまったみたいやし。ここは一つ格の違いっちゅうもんを、見したるで!ほな行ってくるで」

 

翔ほどの実力者(本人は否定するかもしれないが)が強者と呼んでいる愛宕 洋榎は意気込み十分に会場へ向かおうとする

 

「待ってお姉ちゃん…」

 

「なんや絹?心配いらんて。大船に乗ったつもりでウチに任しとき」

 

そんな洋榎を妹である愛宕 絹恵が呼び止める

 

「えっと…今から、お昼休みなんやけど…」

 

「…えっ……」

 

毎日どっかしらでボケが出る。狙ったものもあれば天然で出すものもある。これが愛宕家クオリティだ。すると突然、絹恵の携帯が鳴り出した

 

「ん?こんなときに誰からや?」

 

一ボケかまし洋榎が尋ねる。しかし携帯の画面を見る絹恵の表情で洋榎のみならず控室にいる全員が悟ってしまった。送り主は奴だろうと…

 

「翔くんやー♪」

 

全員「やっぱりか…」と思ったのは秘密である。しかしながら単にメール一本で携帯を高々と上げて眩しすぎる笑みを浮かべる絹恵を見るにその差出人、菊池 翔に対する絹恵の気持ちはすぐにわかってしまう

 

「はぁ…今対戦中やのに…」

 

「そうは言ってもそのおかげで絹ちゃんの気の持ちようが変わるのは事実なのよ〜」

 

「でも本人は全く気づいてないんですよね?」

 

「不憫やわ〜」

 

部長である末原 恭子、先程次鋒戦を戦った真瀬 由子、先鋒戦で失態を犯しデコに落書きされた上重 漫、監督代行の赤坂 郁乃がそれぞれ思ったことを話し合っている

 

「んで?翔はなんのようなんや?激励とかちゃうやろな」

 

「ん〜?♪はい♪」

 

話す言葉一つ一つに♪が出てきそうに意気揚々としている絹恵が携帯画面を洋榎に見せた。そこには…

 

『これ見せて

 

 

洋姉へ

 

この後昼休みだから会場に出ないように注意してな

 

翔より

 

 

P.S. 姫松のみなさん、いつも洋姉がお世話をかけます。絹姉も大変だな…』

 

とあった…弟には全てお見通しであったらしい…

 

「えぇ弟さんに出会いましたね、部長」

 

「さすがなのよ〜」

 

「もう思考読んでるんでしょうね」

 

「ウチに来てくれないかな〜」

 

「翔め…今度痛い目見したる…」

 

「翔くんがウチのことを労ってくれた〜♪」

 

姫松高校のメンバーは今日も平和である

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話


2年ぶりの投稿となりました
そして次回の投稿には間が開くと思われます
申しわけございません


 

未だ雨の降り続く中次鋒戦が終わって昼食タイムとなった。一応絹姉に昼休みってことを洋姉に伝えてって連絡はしたけど大丈夫だろうか...

 

さて、次はいよいよ中堅戦。洋姉に部長が挑む形になるだろう。こう言っては部長に失礼だが実力的には圧倒的に洋姉に軍配があがる。だが別に部長が勝てないなんて思っていない。それに今は団体戦。5人で強いほうが強い

 

「バナナ...よし。トイレ...よし」

 

事前に部長自身が作っておいた『試合前にやっておくことリスト』のすべてにチェックをし終えて最後に紙を結んだ

 

「さーて!そろそろかな!」

 

「もう行くんか?」

 

「まだ昼休み15分ありますよ?」

 

「そうなんだけどね...早く打ちたくて気が急くのよ。行ってくる」

 

そう行って部長は控室を出て行った。気が急く。言い方変えると焦りにも聞こえましたよ、部長...

 

「咲、部長の様子どう思う?」

 

「...いつもの部長ではない気がしたよ」

 

「やっぱりか...」

 

緊張、焦り、プレッシャー。多分人よりそれを感じてるのは部長だ。三年にして初めての全国。一回戦とは違い相手には全大会のベスト5の内2校がいる。それにチームメイトはみんな年下。先鋒戦、次鋒戦を戦った後輩たちは善戦して現在はトップ。でも2位以下との点数は一回戦みたいに大幅に離れてはいない。いろんな思考が今の部長の中で混ざってるんだろう

 

「部長が席に座ったじょ!」

 

「控室を出てから随分とかかりましたね」

 

和が今言った通りあれだけ早く控室を出たはずの部長が席に座ったのは4人中最後。道に迷うわけもない。だとしたらここから会場までの廊下、もしくは会場のカメラに移らない場所で何分も立ち尽くしていたということになる。これがなにを意味するのか...

 

「あ、試合始まるよ」

 

『中堅戦、開始です!』

 

ー東一局ー

 

部長は案の定ばちくそに緊張してるみたいだ。手牌の一番端にあった{三萬}が見えちゃってる。今までの部長なら、ってか普通の雀士ならあるはずない失態だ

 

「出鼻挫きリーチ!先んずれば人を制すや!」

 

5巡目リーチ。相変わらず早いねー。しかもテンション高っ!周りの迷惑とか考えない人だからなー

 

とりあえず他の三人は元物出し

 

「くるでー一発くるでーって何で{六筒}やねん!」

 

一人漫才やってるみたいだよなー洋姉って

 

「それロンや。5200」

 

あらら、{六筒}が見えてからの{三筒}切り。悪くないけど洋姉のひっかけにまんまと引っかかっちゃったねー

 

「後ひっかけサクサク〜。後ひっかけの洋榎とはウチのことやで!」

 

・・・

 

「親流れた」

 

「回すよ〜」

 

「ま、和了れたんは偶然なんやけどな」

 

「うるさいそこ!」

 

「っ!」

 

洋姉のボケが通じないなこのメンツ。はるるは滅多に笑わないし、鹿倉さんは超がつくほどの真面目先生タイプだし。部長はそういうノリ持ってると思うけど今はね〜

 

そして部長が全く和了らないまま南三局に突入した。いつの間にか最下位だし

 

「ロン。18000」

 

「なっ!」

 

「何やその面。微塵も聴牌気配感じ取らへんかったんか?()()()()()()()()()()()()()()()

 

ー南三局 一本場ー

 

おっ、部長の顔つき変わったな

 

「やっとインハイらしい麻雀になりそやな」

 

「親、早くツモって」

 

洋姉も感づいたか。そんでもってやっぱし退屈してたか

 

そして六巡目、洋姉が生牌の{東}を切った直後に部長の下に2枚目の{東}。部長はそれを手牌に残し{九索}を切った。すると次の巡で連続で{東}ツモ。からの{一萬}ツモで聴牌。そして一度は{六萬}を切ろうとする部長だったが止め{赤五萬}を切ってリーチをかけた

 

「そんな!平和と一盃口と{赤五萬}をまとめて捨てるなんであり得ません!」

 

「でもホッとしたよ」

 

「え?」

 

「さっきまで部長らしくなかったからハラハラしたよ」

 

「うんうん!そうだじぇ!」

 

「そういえばそうですね。さっきまではいつもみたいなハラハラする打ちが少なくて安心してましたけど...ってハラハラが逆じゃないですか!」

 

「おー!ノリツッコミとはいつの間に!」

 

そんな会話の中画面内では洋姉が当たり牌の{東}を止めやがった。相手の和了り牌わかるってオカルトでも持ってるんか?美穂子さんみたい

 

「ツモ!4100・8100。ちょっとは調子出てきたかしら」

 

ー南四局ー

 

「さてと」

 

「あれ、翔くんどっか行くの?」

 

「ちょっと差し入れと挨拶にな」

 

まだ対局は終わってないがオレは会場へ向かった

 

『中堅前半戦終了!大きく稼いだ姫松高校。一気にトップに躍り出ました。二位は宮守女子の鹿倉選手。ややマイナスですが二位をキープ。三位も変わらず永水女子。最下位は大きく凹んだ清澄高校。後半の挽回に期待です』

 

とのアナウンスが終わるぐらいに会場に到着した

 

「あ、洋姉」

 

「お、翔やんか。どや?ウチのすんばらしい打ち筋は」

 

「あぁさすがだよ。ま、戦績的にはオレの方がまだ上だけどね」

 

「何や言うやんけ。その内シバき倒しちゃるわ」

 

「楽しみにしとく。ウチの部長はどうよ」

 

「あぁ最初の方は何やこいつって思っとったけど、おもろくなりそや。ま、ウチには敵わんけどな」

 

「そりゃそうでしょ」

 

「あ、菊池くん!」

 

「鹿倉さん、お疲れ様です」

 

「何や翔、知り合いやったんか」

 

「東京に来てから練習試合でね」

 

「この試合終わったらこっちの控え室来てね!豊音もエイちゃんも喜ぶから!」

 

「わかりました」

 

「翔こっちにもやで。ウチだけ会うたなんて言うたら絹に何言われるか」

 

「大丈夫。そっちにも行くから」

 

二人はそれぞれの控え室に向かって行った

 

「はるるー」

 

オレは差し入れを掲げながらはるるを呼んだ。はるるはオレを認知した途端勢いよく立ち上がりこっちへ駆けてきた。ちなみに部長はオレがここにきたこととはるるの行動に二重で驚いているようだ

 

「よっ、お疲れさん。ほいこれ黒糖」

 

「ありがと。でも今は」

 

はるるは黒糖を取るのではなくオレの腕にスルスルッと絡みつき肩に頭を乗せた

 

「はるる?」

 

「翔はいつも姫様やはっちゃんばかり構うから」

 

「そんなことないぞ...いつもはるるの隣に座ってるじゃないか...」

 

「それじゃ足りない」

 

「一応はるるの敵なんだが」

 

「今は休憩中。そんなこと関係ない」

 

離してはもらえないようだ。この位置カメラの死角で良かった〜

 

「最後和了ったのはるるか?」

 

「そうだけど、見てなかったの?」

 

「ここにくる途中だったからな」

 

「じゃあ何でわかったの?」

 

「あの鳴きと手牌見たらすぐわかった。振り込んだのは鹿倉さんだろ」

 

「正解」

 

「やっぱりな。洋姉はぜったいやらねぇだろうから」

 

「翔、あの姫松の人と知り合い?」

 

「あぁ前に大阪に住んでた時にな。でも鹿児島の方が先だから、はるる達に会ったのが先だな」

 

「そう。ふふっ♪」

 

はるるはホントに表情豊かになった気がする

 

「さて、オレはもう戻るよ」

 

「もうちょっと」

 

「だーめ。この試合終わったらそっち行くから」

 

「...わかった」

 

はるるは不本意といった表情で席へ戻って行った。そしてオレが控え室に戻ったぐらいに後半戦がスタートした

 

「リーチ」

 

「ポン」

 

会長の調子はちゃんと戻ったようだ。その証拠に前半戦みたいなミスもないし最初から責められてる。でも...

 

「ロン。1300」

 

「はい」

 

鹿倉先輩の捨てた{四索}ではるるが和了る。安手で他家の勢いを止めたり色々理由は考えられるけど、こうも和了り牌がわかるって鹿倉先輩も相当ヤベーな

 

ー東四局ー

 

気づけば後半戦も南極に入りそうなところ。結局部長は和了らせてもらえず他家のツモ和了りの親被りなどで持ち点は削られる一方。しかも...

 

「リーチしとこか〜」

 

「チー」

 

相手が張ったら安手で流すのがはるるの型。でも...

 

「それや。ロン」

 

やっぱり洋姉には効かないみたいだな。さすがとしか言いようがない

 

「清澄には通用したみたいやけど、一緒にしてもらったら困る」

 

「そういうのいいから点数申告」

 

「はっ、5200です...」

 

それにしても何で洋姉は部長のこと目の敵みたいにしてんの?鹿倉先輩も大変だな

 

「っしゃー!!!」

 

南場に入っても洋姉の気の強さと自信は健在。でも部長も緊張からの硬さはもう見られない。まぁ大丈夫かな

 

ー南四局ー

 

いよいよオーラス

{四萬五萬六萬七萬九萬五筒八筒東東東} {二萬横一萬三萬}

点数少なそうだけど悪くはない

 

「カン」

 

「「「っ!」」」

 

オタ風の{東}を大明槓したことにより全員びっくり。そもそも槓をするメリットはツモを一回増やせることと槓ドラを開けてドラを増やせることとされている。でもタイミングを間違えると役無し+相手の手にもドラが乗るかもしれない。誰もが咲みたいに槓してからすぐ嶺上開花で和了れるわけでもない。でも今回は知ってか偶然か開けられたのは{北}。よって部長がドラ4で最低でも満貫になった

 

その2巡目、部長から初めて赤い牌が川に出る。しかも{赤五萬}。通常赤なら残すため三色だったり一通だったりの線が消えるように思えるが逆にそれを狙うのが部長らしい打ち方でもある。らしくなってきたかな

 

「ツモ。3000・6000」

 

最後は部長は{赤五筒}をツモって跳満を和了って終了となった

それにしても鹿倉先輩の聞き察知能力はすごい。部長が和了る前に鹿倉先輩の手には{赤五筒}がきており一度はそれを切りそうになっていた。しかし踏みとどまり現物で対処していた。洋姉もさすがだな。もう次にどうなるかわかってるかのように部長がツモる前には目を閉じていた

 

『中堅戦決着!名門姫松、最下位から一気に浮上。続いては二位清澄、そして三位は宮守、四位に永水と1つずつ順位を落としています。姫松がトップに立ちましたが二位以下の点数の差はまだ小さい。今後も十分に波乱の可能性をお秘めています』

 

さてさて清澄控え室では長いこと部長の戻りを待っている

 

「部長戻ってこないね」

 

「待っててもしょうがないのでもう行きます」

 

「しっかりのぅ」

 

「頑張って」

 

「ぶちかましだじぇ!」

 

「行ってこい」

 

「何言ってるんですか翔さん」

 

「ん?」

 

「会場までのエスコート、お願いしますね」

 

「え...」

 

「お・ね・が・い、しますね♪」

 

「あ、はい」

 

和ってこんなキャラだったか?それになんか怒ってる?

 

「それじゃあ行きましょうか、お嬢様」

 

「お!は、はい...」

 

あ、戻った

 

「翔くん...」

 

「咲!?」

 

「顔が怖いじぇ...」

 

控え室を出て待っていたのはテレビのカメラや記者だった

 

「出てきたぞ!原村だ!」

 

「おい、あれって」

 

「菊池選手だ!原村と並んでくるぞ」

 

「こりゃいい写真が撮れるぞ!清澄美少女美少年カップル誕生!」

 

記者の方、聞こえてるよー。ほら和照れちゃってんじゃん

 

「だってよ和」

 

「へっ!い、いや私は...でも翔さんがいいのなら...」

 

あーあ

 

ー姫松控え室ー

 

「原村人気なのよ〜」

 

「菊池くんも大人気やな」

 

「絹ちゃんいなくてよかったのよ〜」

 

「本当に...」

 

ー永水控え室ー

 

「翔くん...」

 

「翔...どうしてですか...」

 

「翔、あんたは全く...」

 

霞は笑顔ではいるがかなりご立腹、初美はシュンとしてしまっているカオス状態の中巴は頭を抱えていた。今だ眠っている小蒔の顔も何だか悲しそうに見える

 

「翔くん。どういうことか説明してもらわないとね」

 

「翔...」

 

「ほらほらはっちゃん。これから出番なんだから」

 

「翔くんが原村さんと歩いてるってことは会場に来るのよね。はっちゃん、確かめてきてくれる?」

 

「はっ!お任せなのですよ!」

 

「ちょっ!はっちゃん!?」

 

巴の静止も届かないまま初美は消えてしまった

 

ー宮守控え室ー

 

「むぅ原村さんだけずるい!私だって翔ちゃんとくっつきたいのに!」

 

「Oh...」

 

「はぁ〜ダルい」

 

「あんた達落ち着きなさい」

 

(ここまで人気があるのも大変なことだね...)

 

ー会場ー

 

「じゃあ和、頑張ってな」

 

「はい!」

 

そのまま和は中に入った

 

「あ、翔くん!」

 

「絹姉」

 

後ろからは姫松の副将である絹姉がこっちに駆けてきていた

 

「はいストップ」

 

「えーなんで〜...」

 

「いくら仲良くても今は敵校同士なんだから」

 

「むぅ...なら今からでも清澄に転校する!」

 

「おバカなこと言わないの。期待してくれてる洋姉や姫松の皆さんに失礼でしょ」

 

「期待...」

 

「そうでしょ。特に洋姉にとっては自慢の妹なんだから」

 

「自慢...翔くん、ウチ頑張るで!」

 

「あぁ、でもウチの和も強いぞ?」

 

「望むところや!じゃあ行ってくるね翔くん」

 

「あぁ行ってらっしゃい」

 

会場に入る手前で和を見送りそのまま中を伺っていると和と部長が話す中突然面をつけた巫女服の子が現れた

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それに驚いた和の声が会場中に響渡った。あ、初美姉さん。ってエトペン飛んでったーーーーー!!!!!!!?

 

「翔!」

 

「オフッ!ど、どうした?初美姉さん」

 

エトペンの行方を追ってたら初美姉さんの突進くらった

 

「あれはどういうことですか!?」

 

「あれ...?」

 

待って、飛んでったエトペン気になりすぎて思考が

 

「原村とカップルってどういうことですか!」

 

「カップル?あぁあれか。記者が勝手に言ってるだけな。オレに彼女なんていないから」

 

「本当、ですか...?」

 

「ホントホント。だから変なこと考えてないで楽しんできな」

 

「ん〜♪やっぱり翔のなでなでは気持ちいいのですよ〜♪」

 

「そりゃよかった」

 

「ちゃんと私の活躍見てるんですよ?」

 

「あぁ、バッチリ見せてもらうよ。まぁ勝つのはウチだけど」

 

「ふふっ受けて立つのですよ!」

 

はぁ〜楽しそうだな。オレもあん中で打ちたい

 

「菊池くん」

 

「臼沢さん、お疲れ様です」

 

「いや私これから打つんだけど」

 

「それもそうですね、失礼しました」

 

「相変わらず礼儀正しいね」

 

「そうですかね?」

 

「うん。ねぇ」

 

「はい?」

 

「試合終わったら、こっちに来てくれる?」

 

「こっち?あぁもちろん。試合終わったらご挨拶に伺いますね」

 

「そう...じゃあまた後でね」

 

「はい」

 

臼沢さんまたあのモノクル。大丈夫かな

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。