Emilio (つな*)
しおりを挟む

原作開始前
Emilioの軌跡


エミーリオは出会う。




ちゃおっす、俺はエミーリオ。

突然で悪いんだが、俺にはいわゆる前世の記憶があるんだ。

前世は日本人だった。

まぁ残念なことに殆ど曖昧な記憶になってるんだがなーアッハッハ。

え?何でかって?実は俺もう500歳くらいなんだわ。

いや自分で驚いたんだけど、何か年取らないらしくてさぁ?

前世の記憶思い出すと同時にそれまでの記憶すっぽ抜けてたから本当の年齢はもっといってると思われ。

でもまぁそこまで悲観してないよ、だって500年も生きてたらもう、なんていうかね、ね?

あ、因みに俺今居酒屋を経営してんのよ。

結構繁盛しててさ、そこはまぁ薄れすぎてる前世の記憶を引き出してなんとか頑張りましたよ、ええ。

今でこそ政治やら経済やらが安定してきて、料理に需要が出てきた時代だったけど、この間までは戦争とかでそれどころじゃなかったってーの。

戦争とか徴兵令あったし、ほんと泣きながら戦争に行ったのは今でも懐かしい思い出だ。

まぁ今もスラム街とか孤児とか餓死する子供の死体とかよく見かけるけど、前よりは幾分もマシになったといえよう。

あ、でも何か最近友人が自警団作るって意気込んでたから、そのうち治安もよろしくなるのでは?と思ってる。

ていうか聞いてくれよ、俺の友人イケメンなんだけど。

なんていうかね、金髪で目の色がオレンジっていう人外みたいなイケメンなんだよ。

そいつがこの間紹介してくれた、赤毛の右頬に入れ墨いれてる青年もイケメンだったな。

なんだよ、イケメンにはイケメンが寄ってくるってか?

こいつら見てると何かを思い出せそうな気がするんだけど、最近は気のせいだと思い始めてる。

それとこいつらとは別に、プラチナブロンドのイケメンお兄さんがよく来るようになってる。

何か俺の店の酒が気に入ったとのこと、とても嬉しいこと言ってくれるのでとりま酒をいつも奢りで一瓶追加してあげてる。

たまに友人の金で祖国(?)日本に遊びに行く。

そこで烏帽と狩衣を着ていた公家の出の日本人!みたいな奴に会った。

語尾がござるなので、ござる丸と呼んでいる。

それでこのござる丸はとても温厚で音楽を嗜んでいるらしい。

すっげぇ笛吹くのうめぇ、思わず息を飲んだね。

その後めっちゃ仲良くなった、多分あと数百年後だったらLINE交換してたね。

最近の出来事はこれくらいかね、あ、違う、まだあった。

いやこれ最近じゃないんだけど、300年前くらいから何か手のひらから炎出るようになったんだよね。

普通の炎よりも熱いし、水で消せないわでひと悶着あったけど今じゃ使いこなせてるので大丈夫だと思う。

戦争の時もコイツあったお陰で頭に矢が刺さってもしななかったし。

でも戦争のなくなった今の時代でこれを使う機会はもうないだろうと思い、最近は全く使っていない。

 

 

 

よっす、俺エミーリオ。

なんか友人が自警団作ったらしい。

まさか本当に実現しちゃうとは、驚きの天元突破だよ。

何かめっちゃくちゃ自警団に来ないかとか言ってるけど、何で居酒屋の店主に自警団させようとしてんの?あんさん…

曰く、俺達の専属料理人になってくれだの。

曰く、お前の酒しか飲めない、いつも飲ませてくれだの。

曰く、お前の作る肉じゃがもどきに惚れた、毎日食べたいだの。

いやお前らそれ誰でも大丈夫だろ、嬉しいけど…嬉しいんだけど!

ぶっちゃけ俺不老だから一緒にい過ぎるとマジで疑われて実験室へ拉致られる未来しか思い浮かばない。

最近じゃ不老だけじゃなく、不死なのでは?とさえ疑っているというのに!

何度も断り、俺にはこの店に命掛けてんねん‼的なこと言えば渋々引いてくれた。

それでもよく来るけどね。

因みに自警団の名前を決める際に、俺の店で夜通しで考えていたらしく、その時徹夜してて疲れてそうな彼らに俺がアサリのスープを出して、それをいたく気に入ったことから、自警団の名前はアサリになったらしい。

おい待てや、それは早計ではなかろうか…入ってくる部下になんて言うんだよ。

知り合いの作ったアサリのスープが美味しかったから、だなんて言ってみろ?幻滅されんぞ⁉

あーあー、マジでアサリの名前にしやがった、俺しーらね。

しかも、何かプラチナの兄ちゃんといつ仲良くなったんだよ。

その後も友人は何人も知り合いを俺に紹介していった。

貴族でパイナップルヘアのイケメンや、大地主の御曹司なわがまま坊ちゃんや、元ボクサーの神父とか、侯爵の美人娘とか…

取り合えずお前の人脈は一体どこから?と思えるほどキャラの濃ゆい奴ばっかり気まくる。

私的にはパイナポーが結構気に入ってる。

だって髪の毛のこと弄るととってもいい反応が来るんだもん。

とまぁ結構皆でバカ騒ぎを俺の店でするのは、いいんだけどさ。

いいんだけどさぁ……毎回屋根やら壁を壊すのはやめようか。

いつも請求書を友人に送るのも心辛いのよ?察しろよ。

今日もまた平和です。

 

 

 

やっほー俺エミーリオ。

そういえば先日、友人が赤毛で短髪の子を紹介してきていた。

名前はすまん、少しお酒入った席で紹介されたから覚えてないんだけど、シナモンみたいな名前してた。

それを本人に言って、もう一度聞いてみると爆笑されて教えてくれた。

だが俺の中ではシナモンが定着してしまい、あだ名はシナモン君になっている。

あれから自警団はどうよ?と友人に聞いてみたところ、敵が多くて疲れるとだけ返って来た。

敵?ああ、テロ集団ね、最近過激派とかいるもんね、疲れちゃうよね。

自警団も大変だよね、仕方ない俺の秘蔵の酒を飲ませてやるよ。

おいおい涙ぐむなよ、頑張れよ!

そんなに参っていたのか…ふむ、俺に出来ることもないしなぁ…。

あ、でもこの間数名の男集団がひそひそと密会みたいなことしてたなぁ。

暴走族とか最近多いから、そういう密会は他所でやって欲しかったんだけどね。

取り合えず、その集団の会話から聞き取れた場所を友人に教えて、そこへは行っちゃダメだぞとだけ忠告する。

本当に暴走族だったら危ないし…

友人が帰った後で、気が付く。

そういえば友人が自警団してんじゃん、警察じゃん…いや行っちゃだめだぞ~よりは行ってはよ捕まえてこ~いって言った方が良かったわ。

あらら、にしても最近はここもガラの悪い奴等多くなってきたなぁ…

昔の農家の人達が集まる酒場は何処へ…

よく来るナッポー君に、試作の食べ物を与えることが最近の趣味とかしている。

彼は貴族だったから舌肥えててね、よく指摘してくれて助かるんだよね。

よく美人ちゃんと一緒にいるから、もしかしてホの字なのかな?と思って聞いてみると、めっちゃ顔を赤くしてたので取り合えず酒を奢ってやった。

チキショー俺も彼女ほすぃ…だけど不老不死の彼氏なんて欲しくないだろうよ。

………はぁ

 

 

 

 

 

やぁ、俺はエミーリオ。

何か最近テロが過激化しててさぁ凄く忙しかったんだ。

だって友人の顔とかいつもガーゼばかりだったし、入れ墨の赤毛君も怪我だらけで煙草をいつもの倍くらい吸ってるし、プラチナブロンドの兄ちゃんも目の下に隈あったし、神父さんは孤児が最近増えてるって嘆いてたし、わがまま坊ちゃんは………まぁいいとして、一番気になってるのはナッポー君だった。

凄くいい関係だった美人ちゃんが亡くなったらしい、なんていうか落ち込みようがパない。

酒を煽りにくる毎日にとても心配である。

いつの日か、胃に優しいものをと雑炊を作って食べさせる。

最近イタリアが日本と貿易を強化したお陰で、日本のものが流通しやすくなったお陰だね。

料理の幅が増えて万々歳ですな。

じゃなくて、ナッポー君だよ、今は。

毎日酒を飲み続けて最後は嘆くばかりで、見てられないっていうか…うん。

多分いつもは平静を装ってるから酒が入った時だけこんなになってんだろうなぁと思う。

背中を擦って泣き止むまで言葉を待ってあげるのがコツだ。

懺悔?の中で自警団をもっと強くして弱者を守れるようになりたい!って意気込んでたのでお前なら出来る!って背中を押してやった。

それから漸くナッポー君は持ち直したみたいで、いつもみたいに皮肉交じりで酒を交わすようになった。

よかったぁ、静かなナッポーなんてただのナッポーだって言ったら殴られた。解せぬ。

因みに南国から取り寄せたパイナップルを見せたらもっと殴られた。解せぬ。

 

 

 

 

よ!俺エミーリオ。

何だか友人がとっても深刻そうな顔で相談しに来た。

え?何々、仲間が裏切ったというか謀反起こしそう、どうしよう…と?

そりゃおま、お前…叱れよ。

ふむふむそいつは結構実力あって、友人の親友を殺そうと企てていると。

なんということだ!それアカンって。

俺に相談する前に阻止する算段を立てろよおま……え、何算段は立ってる?

もうそこまでいってんならお前の心行くままに行動した方がいいのでは?

投げやりに助言をすると、友人はお前に相談してよかったとか言って晴れた顔で店を出て行った。

ええ…、もうちょっと真剣に聞いてあげるべきだったな。

にしても相談だけして何も頼まないってお前…まぁいいけどさぁ。

数日立った頃に、再び来た。

今度も重たい顔をして入店するもんだから、酒を取り出した。

取り合えず飲め!と命令口調で飲ませて、酔っぱらった頃に色々と吐き出してくれましたよええ。

やっぱり沈んでる奴には酒飲ませて胸の内を吐かせるのが一番だと思うの。

ええと何々?

うん、親友は守れたと、よかったジャマイカ。

だけどこのまま親友は死んだことにして?ほほう、それで離れた無人島で過ごしてもらうことにしたと。

ええー、いやまぁ残党とか残ってまた狙われても困るし、だけど無人島っておまえ…

島流しじゃないんだからさぁ、え?二度と会えないの?一生?

何そこまでの覚悟だったの?マジかーその思い重すぎるわー

秘密裏に会うくらいならいいと思うけどなぁ…あ、バレる恐れがあると。

ていうかその謀反おこした奴はどうなったん?え、そのまま?

このままにしておくのが一番ベターだと…ふむふむ、何か複雑ね、お宅の組織。

そんな疲れた時は酒飲んで一時だけ忘れとけ。

うんうん、はいはい、愚痴なら何でも聞いてやるって。

待て、泣くのは待て、蒸しタオル持ってきてやるからって、あーイケメンが台無しだよおま。

一体どこからこうなってしまったか分からないって言われても、人間関係の不和なんて誰もが未然に防げるもんじゃないしね。

そこはもう潔く諦めた方がいいのでは?

まぁ頑張ったって出来ないこともあるもんだろ、お前は頑張り過ぎなんだって。

今回のことは気に病むなよ、組織となればいつかは衝突が起こるもんなんだから。

え?結局何が言いたいかって?あれだよ、おま……過去ばっか見てないで、前見ろ前。

おーおーやっといつものお前に戻ったかぁ、よかったなー。

また酒飲みに来いよー、今度は他の奴等連れてだぞ

頑張れよー

 

 

 

 

うぃ、俺エミーリオ。

友人が急に日本に帰化するって言いだした。

マジかよー寂しくなるなー。

余生を日本で過ごしたいとか言ってるけどお前十分に若いからな?マジで。

え?俺も一緒に日本行かないかって?

あー悪いけど、無理無理、いや凄く魅力的な話なんだけどね、うん。

でもやっぱり俺の不老不死はちょっと知られたくないな、うん。

ゴメンネー、俺イタリア好きだからさー。

まぁあと数年したら出ていく気満々だけどな、ちょっとここに留まり過ぎたと思ってる。

全然老いない俺が怪しまれそうなのであと数年でどっかの国に違法入国する予定であります。

日本で奥さん作って大往生しなよー!ってすっごい笑顔で送り出した。

友人も満面な笑みで手を振ってくれた。

その後、ナッポー君が良く来るようになった。

最近お前機嫌いいなーと思って髪の房を弄り出すと殴られた、解せぬ。

どうやら内輪もめしてたけど、邪魔者がいなくなって清々したようで。

うん、まぁお前最近悪人面になってるけど、お前がそれでいいならよかったなー。

入れ墨の青年もたまに酒を飲みに来る。

上司が変わって、疲れてるって言っていたので秘蔵の酒を奢ってやった。

今の自警団は少し方向性が変わりつつあるらしい、マジか。

こんなことの為に俺は強くなったじゃねぇのに…って遠い目をしてる入れ墨君の頭を撫でてあげる。

お前は頑張ったよ、だからさ、少し休めって。

大丈夫俺は誰にも言わねぇし、今日はもう店仕舞いしてやるから。

すると入れ墨君が小さな声でお礼を呟いたので、思わず吹き出したら殴られた、解せぬ。

いやだってお前がしょげてるのって珍しくて、あー拗ねるなって悪かったよ。

ほら愚痴って重たい肩軽くしとけ?な?

んで明日からまたがんばりゃいいさ。

日本のサラリーマンなんてブラック企業をそうやって生き抜いていくんだからさ。

どうやら入れ墨君は頭を撫でられることが好きなようだ。

素面の時にやったらぶん殴られた、解せぬ。

 

 

 

 

ハロー、俺エミーリオ。

最近、揉み上げとしっぽ髪が特徴的なあだ名二代目君が最近よくお酒やおつまみを食べに来てくれる。

何か初対面ですごく威圧してくる人だったけど、こちとら伊達に500年も生きてないんだよ。

普通に接しているとすごく慣れ慣れしくなったので、やっぱり最初は委縮しとけばよかったと思うこの頃。

それと、友人が日本へ帰化してから数年経ってんだけど、ちょっと最近物騒なマフィア集団が出来あがったらしい。

てなわけで、ちょっとイタリアとはおさらばしようと思う。

どのみち長く居続けられないし、元々出る気ではあったんだけどね。

本当に贔屓のお客さんには悪いんだけどね、これからは弟子をここに置いて俺は自分探しの旅()に行くことにするよ。

ナッポー君とか入れ墨君や神父さんにプラチナブロンドのお兄さん、あとわがまま坊ちゃんに挨拶しに行く。

凄く惜しまれた。

嬉しい、正直嬉しいんだけど、すまんこれ以上いるわけにはいかなんだー。

取り合えず、ハグだけして皆とはお別れした。

ナッポー君が最後まで渋っていたけど、弱者を守れるような組織が出来あがったら呼んでくれ!とだけ言い残して彼を振り切ってイタリアを出た。

出来れば今過激的になってるマフィア集団を潰してから呼んでほしい。

お前一応自警団なんだし…。

ってなわけでイタリアを出た俺は世界を転々としていった。

 

 

あーあいつら元気でやってるかなぁ…

 

 

 

 

 




衝動的に書いた。
後悔も反省もしていない。
続くか分からない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの追慕

エミーリオは思われる。

原初の大空に

原初の霧に




ジョットside

 

俺には昔から親しい友人がいる。

いや親友と言ってもいいほど、俺はあいつに心を開いていた。

まぁあいつが俺をどう思っているかは分からないが、親友だと思ってくれていたら嬉しい。

そいつの名前はエミーリオ。

俺がまだ12歳の頃に出会って、当時あいつは21歳だった。

よく俺の遊び相手にもなってくれた奴だった。

俺が20歳の時に自警団を作ろうと思い、エミーリオに相談しようとした。

 

「え?自警団?お前になら作れると思うよ、にしてもやっと治安が改善されるのかぁ」

 

さも当然のように俺が自警団を作れると思っているあいつの態度に悩んでいた俺が馬鹿見たく思えた。

俺は相棒のGと共に自警団を作ることにした。

だが最初の頃は、資金を集めたり、守護者を集めたりでとても苦労していた。

エミーリオの酒場で飲むのが唯一の楽しみだった時期すらあった。

まぁ今でもあいつの出す飯は美味いがな。

ある日、Gと共に自警団の名前を考えていた。

色々最近は忙しすぎて徹夜が続いていたのもあったし、そんな疲れていた時にエミーリオがスープを作って持ってきてくれたのはとても有難かった。

そのスープを飲んでいたら、ふと味が気になった。

 

「エミーリオ、これは何を使ったんだ?とても美味しいが」

「ああ、それはボンゴレだよ…とれたてを使ったから美味しいんじゃねぇの?」

「そうか……また作ってくれ、気に入った」

「そうかいそうかい」

 

俺はボンゴレを思い浮かべる。

すると目の間のGが呟く。

 

「二枚貝……なぁ、これから自警団でイタリアを守りながらこの組織を代々受け継いでいけるように、ボンゴレにしないか?ほら、二枚貝って重なってるってことだろ?」

「ふむ、いいかもしれないな」

「よし、じゃあボンゴレで」

「ちょ、ちょっと待て」

 

Gと俺の会話にエミーリオが入ってくる。

 

「どうしたエミーリオ」

「いやそんな単純でいいのか、お前ら…」

「ああ、単純なくらいが丁度いい」

 

何故エミーリオが苦い顔をしていたのかは分からなかったが、自警団の名前はボンゴレになった。

その後ボンゴレが出来て、俺はGやD、ランポウ、ナックルを酒場に連れて行ってはエミーリオを紹介していった。

エミーリオも仲良くなっていたので俺はある提案をエミーリオに出した。

 

「エミーリオ」

「ん?どうした?」

「ボンゴレに入らないか?」

「え?無理」

 

即断られて、一瞬動揺したがもう一度ゆっくり問う。

 

「ボンゴレに入って専属料理人になってくれ、頼む」

「ええ?」

「お前の飯は美味いし、他の奴等もお前を気に入ってる…是非来てほしい」

「えー……あー……悪い、俺はこの店を空けるつもりはないんだ…アハハ」

「そうか、だがもう少し考えてみてくれ」

 

その日から他の守護者らが押しかけていくことは想像に難しくはなかった。

だがエミーリオも粘っているようで、仕方なく今回は諦めた。

ボンゴレの名前が広まっていくと同時に、エミーリオにコザァートを紹介した。

コザァートもエミーリオを気に入り、直ぐに仲良くなったので俺は微笑ましかった。

後日、コザァ―トのことをシナモン君と呼んで本人のツボに入ったらしく、爆笑していたのは今でも覚えている。

少しすると名前が広まったせいで、ボンゴレを目の敵にする犯罪組織やマフィア組織が出てきた。

そしてその処理に追われていて疲弊していた日々に、酒を飲んで少しだけ気を休めたくなった。

だからエミーリオの酒屋へ行くと、エミーリオは直ぐに俺の疲れた様子に気付いたらしく心配してくれた。

 

「おいおい、どうしたんだ?お前…んな死にそうな面しやがって」

「ふっ、これでもGにも気付かれなかったんだけどな」

「あっそ、で、何かあったのか?」

「少し…敵が多くてな」

「なんか忙しそうだなぁ…ほら飲め、秘蔵の酒だから言い触らすなよ」

「ああ、ありがとう」

 

深くは聞いてこない辺りが、俺にはとても楽で、ついエミーリオには本音を漏らしてしまう。

 

「…疲れた……」

「……」

 

エミーリオは何も言わず、俺の頭をゆっくりと撫でてくれた。

昔からエミーリオは誰かが落ち込んでいると取り合えず頭を撫でる癖があるのを知っている。

だけど何故かエミーリオの手は落ち着く。

俺は今までの疲労が耐えきれず、目の前がボヤケていく。

何とか泣くことは耐えたけど、エミーリオは苦笑してタオルを俺の目元に投げつけてきた。

俺は少し心が軽くなった。

まだ頑張れるよな…

その後少しだけ酒を飲んで帰ろうとしたら、エミーリオが真剣みを帯びた声で俺に言い放った。

 

「暫く○○区域の××には行くなよ」

 

俺は理由を聞こうとしたが、その前にエミーリオは店を閉めてしまった。

エミーリオが教えた場所は、今度資金調達で取引のある場所だったからだ。

俺は、考え込み、その取引を行かずに様子見していると、それが罠であったことがGから聞かされた。

ボンゴレを敵視していたマフィアと組んでいたらしい、そいつらはあの場所に多くの人員を潜ませていたのだ。

Gは俺の超直感を頼もしいと言っていたが、違う。

これはエミーリオが忠告してくれなければ俺は行っていただろう。

何故エミーリオがこのことを知っていたのかは分からないけれど、恐らく酒屋をやっているから情報が集まるのだろうなとその時は思っていた。

エレナが亡くなった。

俺は守ることが出来ず、自責の念に襲われた。

だがその前に、Dが気掛かりだった。

あれから意気消沈気味のDが見るに堪えなくて、励まそうかとも思ったがどうやらエミーリオの所へ夜な夜な行ってるらしい。

エミーリオに聞いてみたところ、もう少し時間が必要だと言われた。

Dもエミーリオには心を開いていたから、Dのことはエミーリオに任せることにした。

ようやくDが落ち着いて、元の彼に戻ったと思った矢先だった。

Dがコザァートの殺害を計画していた。

俺はそれを先回りする為にD以外の守護者に言い伝えた。

頭の中は何故の二文字がぐるぐると駆け巡っていて、一度整理しようとエミーリオの元へ行くことにした。

 

「なぁエミーリオ……俺はどうすれば…」

 

初めて見せる弱音だったのかもしれない。

エミーリオはグラスを拭く手を止め、ただ無言で俺を見つめていた。

 

「お前は…その親友を助けたいんだろ?」

「ああ…」

「ならまず助けてからだ。それから考えろ…命があればいくらだって考えることは出来る」

 

心行くままに進め、とエミーリオはそれだけ言うと再びグラスを拭き始める。

 

「あ……ああ、お前の所へ来てよかった…行ってくる」

 

頭の中がスッキリして、俺はDを掻い潜りコザァートを救うよう守護者に伝えた。

結果、コザァートは救えた。

だけれど、コザァ―トはこれからも自身を死んだことにするために無人島に身を隠すことを選んだ。

俺は反対したが、コザァートの決意は固く、俺も最終的にはそれを認めた。

だが後になって、それが正しかったのか分からなくなった。

いっそのことDを追放すれば全てが収まるとすら思った。

ぐちゃぐちゃになりそうな思考の中、無意識にエミーリオの酒屋の前にいた。

エミーリオは俺の顔を見ると、店の中へ入れて扉を閉めて鍵を掛ける。

すると、椅子に座らされ、酒を飲まされた。

気が付くと、俺は泣いていた。

何を言ったかあまり覚えていなかったけれど、コザァートのことを言ったような気がする。

ただ悲しくて、遣る瀬無くて、自身の無力さに打ちひしがれることしか出来なくて。

他に道はあったんじゃないかとだけ思い続けていた。

エミーリオに渡されたタオルで目を押さえながら、胸の内を吐き続けた。

 

「一体どこからこうなってしまったんだ……何故……」

「人間の本心なんか本当に理解出来るやつなんてこの世にはいねぇ…不和はどこにでもあるもんだ、気にするな」

「だけど、だけど………俺が無力なばかりに…」

「いやお前は頑張ってるし、無力じゃぁねぇだろ。むしろお前は頑張り過ぎだアホ」

「他に道があったかもしれなかった……やっぱり認めるべきじゃなかった……」

「ジョット」

 

エミーリオの凛とした声がやけに胸に入って来た。

 

「苦しくても悲しくても前見て歩け、後悔したまま歩くな、後悔のないように生きろ」

 

いつものように俺の頭を撫でながら快活に笑う。

 

「悩め悩め青年、悩み続けて出した答えに、反省はしても後悔はすんなよ」

 

俺は本当に恵まれていたと思う。

いつだって俺の心を支えてくれる人が周りに沢山いるのだから。

 

「……ああ…分かった…」

 

多分今までで一番情けない声だったけれど、今までで一番重たい言葉だった。

 

「ありがとうエミーリオ」

「気にすんなって、今度は他の奴等も呼んでこいよー」

 

背中をぽんぽんと軽く叩いてくるエミーリオに自然と微笑みながら手をあげて別れた。

 

それから数年後、俺はボンゴレボスの座を退いて、日本に帰化しようとしていた。

既に後継者は見つけていた。

これ以上内部での争いは望むところでもないし、これからは後の時代に意思を継いでいって欲しかった。

既に俺が引っ張っていく時代は終わった。

自身の立ち上げた組織を去ることに悔いはない。

悩み続けて出した答えに悔いなどない。

帰化する直前に、エミーリオに共に日本へ行かないかと誘ってみたけど案の定断られた。

 

「日本で奥さん作って大往生しろよー!」

 

酒場の入り口から送り出すときに、エミーリオは大声で、笑顔で、俺に向かってそう言った。

 

 

お前と言葉を交わすのはこれで最後だろう

お前の顔を見るのはこれで最後だろう

 

ありがとうエミーリオ 

俺の親友でいてくれてありがとう

 

「またな、ジョット!」

 

 

その言葉に、一瞬だけイタリアを去ることを後悔しそうになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D・スペードside

 

最初の印象は優男だった。

本人はこれで30手前だと聞いたときは、まさか、と疑うほど若作りだった。

プリーモの褒めるだけあってとても料理は美味で、貴族の出である私でさえ褒めるべきものがあった。

エミーリオは様々な種類の料理を出すことでも人気を得ていたらしく、地元の者からは好かれていた。

かくいう私も彼の人間性に惹かれていった。

よく私の髪形を弄るが、本人曰く使命感だそうで、毎度殴っているにも関わらず弄り続ける根性は称賛に値する。

エミーリオの言葉には不思議な力があった。

プリーモのようなカリスマではないが、何故か心の中に落ちてくるような言葉を投げかけてくれる人だった。

 

「おいナッポー、これ食べてみてくれ」

「ヌフフ、ナッポーではありません」

 

頭を殴るが、負けずに新作を私の口に放り込むエミーリオに呆れながらも、新作の味を吟味する。

 

「ふむ、もう少し塩気が欲しいですね…あとオリーブオイルが強すぎるのでは?」

「やっぱそうかぁ…おっけ、オリーブオイルは少し減らす」

「ですがここまで味に拘る者もいないでしょうに」

「完璧主義なんだよ俺は」

 

毎度エミーリオから与えられている新作の食品で、最近は昼を開けてしまうことが多く不規則な食習慣になりそうだ。

だが、エレナと共に入る時はよくおしゃれな酒を出したりとエレナを楽しませてくれているので無下にも出来なかった。

 

「そういえばナッポー、お前もしかしてエレナ好きなのか?」

「ぶっ」

 

エミーリオの言葉に飲んでいたワインを盛大に吹き出し、そんな様子の私にエミーリオが何か納得したような表情をしていた。

 

「あなたには関係ないでしょう」

「なるほど、まだ告白してないのか」

「エミーリオ!」

「アッハッハ、頑張れよ~」

 

応援してくるのか茶化してくるのか分からない態度で言うエミーリオに顔が引き攣る。

悪い気はしなかった。

エレナのような女性が来るときの為にと、小奇麗にリフォームしたことで、女性にも人気の出始めた酒場に以前よりもエレナを連れてくることが増えた。

ボンゴレの勢力拡大で、プリーモと揉めはしていたもののこの酒場でのひと時は私にとって安らぎだった。

あの時が来るまでは。

プリーモが平和路線に切り替え、戦力を減らした直後、手薄になった縄張りで私たちを狙っていた敵対勢力に襲撃を受けた。

 

「く…罠か……!エレナ!」

「デイ…モン……私はもう…ダメ…」

「あなたは弱きものの為に…ボンゴレと共に…D…あなたなら出来るわ…」

「エレナ!エレナ!」

 

私はエレナを失った。

途方に暮れた日々だった。

ボンゴレを強くすることを誓いはしたものの、エレナを失った悲しみは大き過ぎた。

エレナとよくいった酒場に顔を出して酒でこの虚無感を忘れようとしていた。

毎日、毎日、誰も客が来なくなった時間帯に来ては、エミーリオは店仕舞いして中に入れてくれた。

そして酒ばかり飲んでいた私に時折、リゾットのような胃に優しいものを出してきては私を心配してくれていた。

その優しさが今では冷え切った心に沁み渡るように胸が苦しくなった。

胸の内をただただ吐き出したくて、何も知らないであろうエミーリオに喚き散らしていた。

 

「何がボンゴレだっ、私は愛した女性一人救えやしなかった!」

「エレナ……エレナ…お前の愛したボンゴレを……弱者を守るボンゴレを強くしてみせる…」

「私が創ってみせる!名を聞いただけで震えあがるほどのボンゴレを‼」

 

涙と共に悲痛に塗れた私の叫びに、悲鳴に、エミーリオはただただ何も言わずに聞いていた。

漸く酒が抜けてきて、店を出ようとした時にエミーリオに背中を軽く叩かれた。

 

「強いボンゴレ作るんだろ?頑張れよ!応援してるぜ!」

 

その言葉にどれほど救われたか。

ああ、創ってみせる。

私は、私はっ!

最強のボンゴレを!

 

その日漸く私はエレナの死から立ち直り、大きな目的の為に次の一歩を踏み出した。

私には背中を押してくれる者がいる。

エレナ!見ていてくれ!

それから私の顔色が良くなったことに安心したのか、エミーリオが弄ってくるようになった。

 

「あーやっと立ち直ったか、静かなナッポーなんてただのナッポーだぜ」

「誰がナッポーですか、沈めますよ?」

「どこにとは聞かないから!怖い発言やめろって!あ、それとこれ南国から取り寄せたナッポー。よかったな同族がいたぜ!」

「ヌフフ、ふ!」

「ナッポーーーーー!」

 

エミーリオの持ってきた南国の果実を炎で木っ端微塵にしてやり、酒を煽る。

 

その後、シモン・コザァートを始末出来て満足になった私は、そのままプリーモをボンゴレから追放する段階へ移った。

プリーモの小さな抵抗の中、水面下での計画は緩やかに進んでいき漸くプリーモがボスの座を退くことになった。

ああ!この日を待ちわびていた!

Gがそのまま守護者を続けるのは少し予想外だったが、まぁいい。

このままセコンドが勢力を拡大してくれればボンゴレはさらに強くなる!

気分が高揚していた私はエミーリオの酒場へ足を向けた。

 

「あれま、機嫌いいね、何かあったの?」

「少し職場でいいことがあったんですよ」

「そっかぁ、何かお前が笑うと悪人面だなぁ」

「ふざけてないでワイン持ってきなさい」

「はいはい、赤?」

「何でもいいですよ」

「そ」

「にしてもあなたはいつまでこんな店を営むつもりなんですか?ボンゴレで雇うことも出来ると言っているのに…」

「えーだけどさー…俺はこんなこじんまりした場所が性に合ってんだよ」

「あなた確かそろそろ35でしょう?早く相手見つけないといけないのでは?」

「い、痛いところ突くなよ!俺の魅力に気付いてくれる女がいないだけだっての」

「他力本願ですか」

「あー自分探しの旅にでも行こうかなー」

「あなたなら数週間で戻ってきそうですね」

「えー」

 

今となっては私からすればこうやって気の置けない友人は彼しかいなかった。

何も知らないエミーリオだからこそ、警戒せずに気楽に話すことが出来た。

軽いやり取りをするのはエミーリオくらいだった。

だがそれも直ぐに終わりが来た。

 

「あ、ナッポー!」

「ナッポーではありません」

 

いつもの挨拶のように私はエミーリオの頭を殴る。

 

「あ、そうそう、俺明後日イタリア出ていく予定なんだー」

「は?」

 

誰が?彼が?どうして?

 

「いやー自分探しの旅っつーか、料理の幅広げたいから、色んな国回ってみることにしたわ」

「そう…ですか……でも何故今になって?」

「いやな、ここにずっと居続けるも良かったんだけど、やっぱり自分から動かないとなー…ほら他力本願な男じゃ女も寄ってこないだろー」

「…」

 

軽く言い放つ彼を見て、私は戸惑った。

エレナを失くし、友人をも失うのではないかと忌避してしまった。

それから彼がイタリアを出るまで引き留めようとしたがどれも彼を引き留めるだけの言葉にはならなかった。

 

「別に、イタリアでも出来るのでは?」

「本場の方が断然いいだろ?」

「………」

 

何も言えなくなり、どうやって引き留めようかと考えていた時にエミーリオが呟く。

 

「強くて頼もしいボンゴレ作るんだろ?」

「え、ぁ……はい」

「ならそんなボンゴレが出来上がったらさ、呼んでくれよ」

「…」

「お前のいるボンゴレなら安心してイタリアに戻ってこれるだろうからさ」

 

笑顔で言い放つ彼を引き留められず、彼はイタリアを出て行った。

去り際の彼の言葉が私の中でずっと消えることはなかった。

 

「待っていて下さい、エレナ、エミーリオ……私がボンゴレを…最強のボンゴレを…」

 

 

誰もが平伏すボンゴレを創ってみせます。

 

 

その数年後、エミーリオの旅だった国が大規模のテロで多くの犠牲者を出したと報道され、エミーリオとの音信が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




DのSAN値が………。

やっべー、まだメインの小説終わらせてないのに、こっち書きたくなってしょうがない…
ただの出来心だったんだよぉ…







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの旅路

エミーリオは出会う。




やほ、俺はエミーリオ。

イタリア出て数年は近くの国にいたんだけどさ、その国がテロにあっちゃったお陰で俺の全財産がパーだぜ。

折角開いた店は爆破されちゃうし、お金なくなっちゃったし、治安一気に悪くなったしで、仕方なく別の国に行こうと思う。

ナッポーとは文通してたんだけど、この際死んだことにしておこう。

いつまでも帰らないのも怪しまれるし、その上次あったら不老であることがバレちゃうし。

ってなわけで今ロシアにいます。

不法入国だったけど無問題。

それで最近また店を出したけど、イタリア出てから何年経ってんだろ…10年くらいかな?

それよりも、常連に透明のおしゃぶり付けた赤ちゃんがいるんだが…これツッコんじゃダメなのかな?

まずどうして赤ちゃんがそんな滑舌いいんだろ、あと語彙力が凄いんだけど。

初対面でこいつ俺に酒頼んできたからね?

身分証提示をお願いしたら、ちゃんと出してくれた。

何か長い名前だったので包帯君と呼んでいる。

包帯君はよく俺の店に来ては、果実酒を飲んで帰っていく。

曰く、俺の店の酒はどれも美味しすぎるらしい。

嬉しいこというけど、見た目が赤ちゃんなんだよなぁ。

これ警察にバレたらしょっ引かれちゃう…トホホ。

包帯君はたまにチャッカマンみたいな名前の人物の愚痴を言ってる。

あまりにも悲壮に嘆くもんだから事情を知らない俺も同情する。

いつも顔に包帯を巻いているから、多分顔に大きな傷跡でもあるのかと思って新品の上質な包帯をプレゼントした。

本人も喜んでくれたので良かった。

そういえば風の噂で、イタリアでとっても大きなマフィア集団が出来たと聞いた。

おいおいナッポーよ、あいつの自警団どうなってんだろ。

無事だといいんだけど…

また別の日に、包帯君とは別のおしゃぶりをした赤ちゃんが来た。

身分証の提示をお願いしたらちゃんと出してくれたので、果実酒を出す。

何だろう、赤ちゃんの中でおしゃぶりって流行ってんのかなぁ。

その赤ちゃんは髪が逆立っていて舌がとっても長く、口からはみ出していたのでべろんちょ君と呼んでいる。

べろんちょ君は俺の店の料理が気に入ったのか、仕事でロシアに来たときは必ず足を運んでくれる子だ。

なにこの子、良い子だなぁ。

でも突然来なくなったのでそれきり会っていない。

また数年後べろんちょ君と同じ色のおしゃぶり付けた別の赤ちゃんが来た。

やっぱり赤ちゃんの間でおしゃぶりって流行ってるのか、なるほど。

皆腕っぷしが強いらしく、仕事自慢をしていた。

最近の赤ちゃんって仕事出来るのかな?そんなわけねぇよ。

早く親御さんのとこ帰って安心させたげなよぉ…。

それからまた数年経過…どうやらロシアの経済状況が悪いらしい。

お客さんも少なくなってるし、輸入する食材が高くなっている。

仕方なくロシアで店は閉じて、別の国へ移ることにした。

その際、包帯君にもそれを教えてお別れを告げた。

ざっと見積もって20年ほどロシアに滞在していたけど、中々楽しかった。

 

 

 

お久、俺はエミーリオ。

あれから数十年経った。

各国を渡り歩いていたんだけど、特にこれといって教えることはないかな。

あーでも途中で拳法家にあって、少しだけ拳法教えてもらった。

やっぱり各国渡るから自衛の手段とか身に付けたいよね。

そういえばおしゃぶり付けた赤ちゃんが何人か俺の店に来た。

今までに見たおしゃぶりの色は8種類で、今のところ透明色は包帯君だけのようだ。

透明ってレアなのかな?

それより色んな国回ってるお陰で料理のレパートリーが凄いことになってる。

メインはお酒だけど、おつまみの方も大人気ではある。

そろそろ不法入国が厳しい時代になりつつあるんだが、これからどうやって生きればいいのやら…

不法入国する際に一度だけ銃で頭ぶち抜かれたのに死ななかった。

わーい、不老不死だったね。

じゃないよ!自分の体だけどくっそ怖いわ!

これ本当に政府関係の人に見つかったらアウトじゃん!

だからこそ逃走手段とか身に付けなきゃいけないし、いっそ殺し屋とかに教わろうかなぁ。

俺の店って何故か裏社会の奴らがめっちゃ集まるんだよなぁ…なんでだろ。

今度話しかけやすかった人に頼んでみよう。

そういえば風の噂で、イタリアにある巨大なマフィア集団が全国に勢力を伸ばしているみたいだ。

こっわ!おい友人の作った自警団マジで生きてんの⁉

これ本当に大丈夫⁉怖くてイタリア帰れないわ!

 

 

 

ちゃっす、俺はエミーリオ。

あれから数十年経った。

そろそろ友人やナッポーは寿命で死んでる頃だろう。

少し寂しいが、今までもそんなんだったし時の流れって早いよね。

今はアメリカにいます。

そういえば聞いてくれ、酒屋に来る常連さんに頼んで稽古付けてもらえた。

お陰で国家相手にしても逃げ切れるくらいの実力は付いたと思う。

まぁ逃げるだけでそれ以外には使わないんだが。

アメリカに店を移しても何故か来る包帯君。

どうやってこの場所見つけてるのだろうか、是非とも一度は問い詰めたい。

それより包帯君はもう何十年前からの顔馴染みなんだが全く姿が変わらない。

こいつ人外じゃないだろうか…

いや俺も人のこと言えないけどな!

でも不老不死以外はそこらの人間と変わらない俺と違って、包帯君赤ちゃんの姿のままだし。

もしかして同族かな?

赤ちゃんの時点で成長が止まった不老不死だったりして。

まぁ自分の身の安全上怖くて聞けないけど。

ああ、そういえばこの前一人で600歳の誕生日パーティーしたんだわ。

ケーキ炎上したけど、楽しかった。

昨日、400年前に突然変異みたいに手の平から出た炎の色に変化があったんだけどこれ如何に。

最初は橙、青、赤、黄、紫、藍、緑と七変化していた。

首を傾げてたが別にこれと言って不便になるわけでもなかったから使ってたんだけど。

昨日いきなり真っ黒になったんでビックリした。

んでアメリカにいたはずなのにイタリアにいるという謎現象に会う。

これも黒い炎のせいかなと思い、もう一度出す為に炎を灯し続けた。

28時間の格闘の末漸く黒い炎が出て、アメリカに戻ることが出来た。

なるほどこの黒い炎は他の炎と性能が違うのか。

にしてもワープはツライ。

暫く使わないようにしよう。

でもこれ使いこなせたら不法入国する時めっちゃ楽やん。

仕方なく、店を数日閉めて黒い炎を出す練習をしていた。

あまりにも使いこなせないので、ちょっと本格的に店仕舞いして、練習に励もうと思う。

山の奥に籠って修行すること数年。

漸く黒い炎がある程度操れるようになったところで、時間間隔全く分からなくなったので、人里に降りることにした。

俺不老不死だから、何も食べなくても死ななかったからさ…ずっと山に籠ってる間は何も食べなかった。

なので久々に手に取るフライパンに感無量。

年代を見るとあらビックリ10年以上も山に籠っていた。

やっぱり600歳にもなると時間の流れが分からなくなるもんだね、うん。

アメリカでまた店を開くのも良かったんだけど、また一から作り直すのもいいかと思って国を移動することにした。

さてここで10年以上かけて修行した俺の炎よ唸れぇぇぇぇええ!

 

 

 

よぉ、俺はエミーリオ。

日本に飛ぶつもりが中国に飛ばされた。

まぁ中国でもいいんだけどね。

とある村で店を開き始める。

地元の人も沢山来てくれるし、皆俺の作るつまみと酒は美味いと言ってくれてとても嬉しい。

何故か包帯君には居場所が直ぐにバレる。

中国で久々に出会った時にこの10年以上の間何してたんだとめっちゃ問い詰められたけど、料理の修行で山籠もりしてたとめっちゃくちゃ矛盾しそうな回答したらあっさり引き下がってくれた。

移るなら移る前に教えてくれと言われたので今度からちゃんと教えることにする。

思っていたよりも俺の作る酒に嵌まったらしい。

中国に住み始めて早10年。

店の隣に住んでいる夫婦が子供を産んだらしく、祝いの為にお酒を持って行ってあげた。

俺と10年の付き合いでめちゃくちゃ親しい夫婦は、俺に赤子の名前を付けてほしいと言い出した。

ええ、俺が?マジかよ…

赤子の名前ねぇ…中国人らしい名前っつってもなぁ。

俺が考えいると夫婦にあげた酒、吟風(ぎんぷう)の文字が目に入った。

よし、(フォン)にしよう。

全く捻りのない名前だったけど、夫婦はとってもお礼を言ってきた。

風君はめっちゃ逞しく育ちまくってる。

隣が俺の店ってのもあって、よく手伝いにきてくれるし、俺も何だか孫みたいに思えてきて沢山食べさせた。

ある日、拳法を教わりたいと言い出して、俺に頼んでくるので数十年前に教わった拳法をそのまま教えてあげた。

ぶっちゃけ初心者の拳法だから、出来ればプロとかそこらの師範代に教わって欲しかった。切実に。

教えられる程度で全部教え切ったけど、彼はもっと力を探究すると言って村を出て中国を回ることにしたとか。

まじかー、孫の旅出がツライ。

まぁ可愛い孫には旅をさせろとか言うしね、夫婦ともに泣きながら送り出していた。

俺もそろそろ国を移るかな…。

風の噂で、イタリアの巨大なマフィア集団が温厚派になったと聞いたので、久々に母国に帰ることにする。

夫婦には母国に帰ると言ってお別れを、風君にもお手紙を書いた。

ちゃんと包帯君にも教えると、いざイタリアへ行こうと黒い炎を出した。

 

 

 

 

ちわっす、俺はエミーリオ。

イタリアに行くまでに4か所経由した。

未だに黒い炎がちゃんと扱えないツライ。

久々に帰って来たイタリアに感無量。

俺の店どうなってるかなーと思って、記憶を辿って地元に行くと、なんとまだ残っていた。

しかもすごく有名の店になってるじゃないの。

お偉いさんとかが来る店のようなレストランにまで昇格していて、支店をいくつか持つ有名レストランにまでなっていた。

なんてこった…弟子よ、お前何したんだ。

何かお店の従業員に詳しく聞いていると、どうやらこのレストランは40年ほど前にある企業が買い取ったらしい。

まじかー俺の店…

んで企業の名前を聞くと、ボンゴレと。

んん?どっかで聞いたような…あ!友人の自警団の名前!

同一組織かな?

一時どっかのマフィアが巨大化してたから、自警団潰れたのかと思ってた。

あぁ別の組織の可能性もあるよな、うん。

取り合えず何か自分の店じゃなくなったっぽいし、仕方なくまた新しく作ることにした。

敷居が高くない地元向けの店をオープンする。

各国から取り寄せた酒と、これまでの経験で作ったつまみは瞬く間に人気になった。

あまりの人気に調子乗って昼もオープンして、ランチメニューを作ったらバ・カ・売・れ。

一生楽して過ごせるくらい金が溜まったけど、俺の一生って一体どのくらいだろうか。

まぁ昔みたいにイタリアのこじんまりとした店を営み続けてたんだが、昼は普通に地元の客が来るんだが、何故か夜になると裏稼業の人が多くなる。

イタリアだからマフィア多いのかな?

でもどの国でも俺の店って裏稼業の出入り多くね?

んー、まそういうもんなのだと割り切る方が早いか…

それよかイタリアに移住して1年ほど経った頃に、すごく温厚そうなおっさんが訪ねてきた。

ものっすごい高そうな服を身に纏っているので、多分こいつ社長さんだなと思った。

そのおっさんは俺の噂を聞きつけたのか、私の仕事場で専属料理人になって欲しいと言われた。

またかよ!もういいよ!

俺は断るが、食い下がるこのおっさん。

かなり良い待遇なんだがやはり俺はこの店がだなぁ…。

因みに初任給だけでも数万ユーロ(数百万円)だった。

幾多の交渉の末、10年間という契約期間を設けた。

仕方なく弟子を持って、そいつに技術を教えてその店は継がせた。

おっさんはやっぱりなんていうか富豪だった。

すっごいでかい屋敷に案内されて、最新技術のキッチンを与えられた。

わーい、やったね!

キッチンに見惚れていると、おっさんが子供を俺に紹介してきた。

私の子供とか言って紹介してるけど、血縁関係が全く見えない親子だな、おい。

子供の方は眼つき悪すぎ、何で眉毛割れてんの?つかこいつ二代目君に似てるし。

俺はこのおっさんの子供の専属の料理人ということになっている。

やっぱり断っておけばよかったと思っても後の祭りだった。

勤務して初日で眉毛君が俺の出した料理にいちゃもんつけてきた。

肉出せ、肉出せってお前栄養偏るだろうが。

生意気な眉毛君の言うことは大半無視して、野菜を出すと無視して捨てようとする有様。

苛ついて、眉毛君に拳骨をお見舞いした。

俺はご子息なんだぞーとか言ってるけど知るか、と言ってもう一発拳骨をお見舞いする。

とにかく野菜食え、何?マズいから嫌だと?

ふざけんなてめぇは社会出たら、嫌でも野菜食わないといけないんだから無理してでも飲み込め!

なんか久々に俺式の教育を施した。

一週間後にはちゃんと野菜も食べてくれるようになったので、お肉を追加してあげた。

お肉が出た時の眉毛君の顔が若干嬉しそうにするのがつい可愛く見えて、最近はそれを見るのが癒しになっている気がする。

眉毛君は何かと俺に突っかかってきて俺に成敗されている。

まず仕事している人間の邪魔をしてはいけないだろう。

孫を見ているような気持ちになる。

いくら金持ちの御曹司だからってなぁ…屑人間に育っちゃダメだろうと思い、マナーを徹底的に教えた。

おいこれ家庭教師がやることだろう、何故俺がするんだか…

今日も眉毛君は俺の足を蹴って来たので俺は眉毛君をジャイアントスイングして窓の外に放り投げた。

大丈夫、俺も何度かナッポーに窓から投げられたけど無傷だったから。

数年も眉毛君と過ごしていると、これまた中々懐いてくれた。

俺に手を出すと三倍返しにされることを流石に覚えたのだろう、今では落ち着いている。

そろそろ15歳かな?

この前誕生日したから15歳だな。

茶化して誕生日ケーキをウェディングケーキみたいに派手なのを作って送ってやった。

若干の苛つきと呆れた顔されて、ウェディングケーキの一番上の段のスポンジケージを顔に投げつけられた。

仕返しにと二段目のケーキを眉毛君の顔に投げつける。

大乱闘の末、事態を聞きつけた常に声がうるさい銀髪君の顔に三段目がクリーンヒットして事態は収束した。

もう二度と作ってやらん。

そういえば眉毛君の部下で藍色のおしゃぶりを持った赤ちゃんがいたな。

藍色のおしゃぶりはこれで3人目だなぁ…

そのフードを被った鼻炎の赤ちゃんが俺におしゃぶりについて問い詰めてきた。

何か知っているのなら教えてよ!って言ってきたんだけど、お客様のプライバシーは漏洩しちゃダメっていうポリシーがだな…。

渋る俺に、マジック教えるのを条件に情報を渡してくれと言われた。

情報ってたかがおしゃぶりで…ああ、そうかこのおしゃぶり赤ちゃんの間で流行ってるから全色コンプリートしたいのか。

にしてもマジックって……おおおおおお、なにこれ何もないところで氷とか出てきたすげー。

これは凄い、教わりたい。

数か月の末、俺もマジック覚えた。

その代わりに、おしゃぶりの色の種類と同じ色のおしゃぶり持ってる子3人くらいいたよーと言っておいた。

このマジックで金儲け出来ないかなー、まぁ金あっても使いどころに困るけど。

少し時間が流れて、明日は眉毛君の16歳の誕生日だった。

だがしかし、俺の契約期間は今日までだった。

仕方なくおっさんに一週間だけ伸ばしてもらった。

それで眉毛君の誕生日ケーキを作ってあげた。

勿論意地張って食べないと思ったので、口に突っ込んだ。

めっちゃ怒ってたけど、美味しかったのか最後まで完食してくれた。

その後に退職することを伝えて、その職場を出た。

最後まで素っ気無かったけど、ツンデレなの知ってるからなこの野郎。

10年過ぎるの早かったけど、中々楽しくて刺激的だったぜ。

あ、そういえばあのおっさんって社長に見えたけど、結局のところ何してたんだろう。

まぁ俺には関係のないことかな。

さて今度はどこに行こうかな。

そういえば風君元気にしてるかなぁ…

顔見に行きたいけど、俺の年が一向に老いないのバレるのもあれだしなぁ。

ということで日本に行くことにした。

あっちは安全な国そうだし、行くか。

 

 

 

 




特徴をあげまくったつもりだ!
一応分からない人の為に↓
包帯君→バミューダ
べろんちょ→後の復讐者。確かスモールギアだったかな(41巻)
チャッカマン→チェッカーフェイス
おっさん→九代目
眉毛君→ザンザス
銀髪君→スクアーロ
鼻炎の赤ちゃん→マーモン


っていうかこれ書いてる暇ないじゃないかwwww
早くメイン終わらせなきゃ…(泣
でも思いついたネタを早く消化したいwwwww


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの親愛

エミーリオは思われる。

復讐の夜に

最強の嵐に

再来の憤怒に


バミューダside

 

それは本当に気まぐれであり、偶然だった。

鼻についた甘い香りが気になって、その店に入った。

すると中にいた店主は僕の姿を見ると目を丸くした。

そりゃそうだろう、包帯塗れの赤子がこんな酒場に来ること自体異常だ。

 

「あー……身分を確認出来るものはありますか?」

「え?」

「えっと、運転免許…いや、保険証?」

 

僕は店主の言葉に驚いて、無意識に表社会で使用している身分証を出してしまった。

我に返って、何やってるんだと思い身分証を取り返そうとする前に、店主が返してきた。

 

「おっけー、何か飲む?」

「え…」

「あー、ソフトドリンクもあるにはあるけど…」

 

店主は僕にメニュー表を渡してきたので、僕はそれに目を通した。

殆どが果実酒であったが、カクテル、蒸留酒、醸造酒もあった。

店長のオススメと書かれていた、果実酒に目が行ってそれを頼んだ。

店長も果実酒を頼んできた赤ん坊に対して何も思うことはないような態度で、ワイングラスに注いでいく。

 

「ほい、デザートワイン。本当は食後が一番美味しいんだけどね」

「へぇ、原料は?」

「マスカット、フランスから取り寄せたんだ」

 

一口飲んでみると、甘さが口の中に広がっていき、久々に感動した。

いつもは果実酒なんて飲まずに、ウィスキーばかりだったけれど、これはこれでまた…

それからだった、僕がこの店を訪れるようになったのは。

 

「ああ、また君か。包帯君」

「君の店のお酒はどれも美味しいからね」

「そりゃ嬉しいや、今日はこの赤ワインはどうかい?いい味してると思うよ」

「じゃあそれを頂くよ」

 

僕の外見に対して何も問い詰めてこないし、何も気にしないスタンスの彼の接客はとても僕には有難かった。

いつも笑顔で僕の話を聞いてくれる彼を気に入っていた。

またアルコバレーノの被害者が出て、復讐者が一人増えた。

時が過ぎるごとに増えていく復讐者を見ていると、チェッカーフェイスへの憎しみが溢れ出していく。

早くあいつを殺して僕は復讐をやり遂げるんだ。

だけれど復讐を誓って既に百年以上経った今でも、チェッカーフェイスについて居場所が分かることはなかった。

何年も燃え滾る復讐心に知らぬうちに心が摩耗していっていた。

 

「チェッカーフェイスめ……殺してやる」

「今日は機嫌悪いね」

「また奴の被害者が増えたのだ!こんな呪いなんてっ」

 

彼は僕の話を本当だとは思っていないのか、それとも詮索をしない主義なのかは知らないけれど、ただ僕の言葉を聞いては相槌を打つだけだった。

でもそれだけでよかった。

ただただ悲鳴を上げたかった。

この怨念を、怨讐を、怨嗟を。

誰か聞き取ってはくれないかと。

まるで乞う様に僕は吐き出した。

彼はただ僕の言葉を聞いているだけで、何かを返してくることはなかった。

でもそれでも、少なからず救われた部分はあったのだろうと思う。

 

そういえば僕は彼の名前を知らない、と気づいたのは彼の店に通い始めて2年目の頃だった。

 

「君の名前はなんて言うんだ?店主さん」

「俺か?エミーリオってんだ、そういえばまだ名前教えてなかったか」

 

アハハと快活に笑う彼が纏う雰囲気は復讐に燃えて摩耗していく心の安らぎにさえなった。

エミーリオは元々イタリア出身のようだ。

いつの日か、彼が僕にプレゼントをくれた。

とても上質な包帯だった。

その布ボロボロだから、肌が荒れるだろう?と言って渡してきた彼に僕は泣きたくなったのだ。

うん十年も生者との交流をしていなかった僕はそれがとても嬉しかった。

それからずっとその包帯を巻くようにした。

その後、別の国に移ることにしたと言って店仕舞いをしてしまったエミーリオに、僕は落胆を隠せなかった。

もう店は開かないのかと聞けば、別の国で開くと言ったので移る国を教えてもらう。

そして彼は近くの国へ移っていった。

数年後、彼の店を見つけて店の中へ入ってみると、彼は入店してきた僕に目を丸くさせながらも笑いながら迎えてくれた。

何年も赤子のままの僕に何も聞かずに、友人の様に接してくれた。

僕を生きている人間として接してくれた。

それから数年経って、僕はようやく彼の異常を分かってしまった。

彼は年を取らないのだ。

ずっと二十歳頃の外見で、老いる気配はないし、幻術でもなかった。

それでも、彼との関係を壊したくなかった僕は終ぞ彼に聞くことはなかった。

でも彼が何故僕を受け入れてくれたのかが分かった。

これからも彼とは良き関係でありたかった。

なのに、ある日彼は姿を消した。

何も僕には教えずに、店は無くなっていた。

世界中を探しても彼を見つけることは出来なかった。

彼に何かあったのだろうか、と心配する日々が続くがどれだけ探しても彼が生きている情報は何一つ出てこなかった。

それから十数年、マフィアの間で真しやかに流れる噂を耳に入れた。

とても酒の美味い店がある。

中国の端っこの小さな村で、他の組織の者もよく出入りしたりしているらしい、と。

マフィアの間では有名で、密会所とまで言われていた。

僕はそれが彼の店なのかもしれないと思い直ぐに中国へ向かった。

すると、彼がいた。

僕は形振り構わず彼に怒鳴った。

 

「お、包帯君久しぶり~」

「なっ、君!今までどこに行ってた⁉探してたのだぞ!」

「え?あ、ごめんなぁ、ちょっと山籠りしてたんだわ」

「はぁ⁉」

「ほら、自然にある食べ物で何が出来るかとか、何が作れるかとか知りたくてさ」

「今度からはどこか行くなら僕に一言かけてから行ってくれないか⁉」

「え?お、おう……何か心配かけて悪いな」

「全くだ!」

 

彼は最後まで呑気に謝っていた。

僕も彼の態度と出されたお酒に怒っていたことも直ぐに忘れてしまった。

中国で二十年ほど営んだ後、再びイタリアに戻ると彼は言って、中国を出た。

そしてイタリアで開いた彼の店にも足を運んだ。

彼はやっぱり僕を笑顔で入れてくれた。

それから数年した頃、店を弟子に譲ると言って来た。

 

「ちょっとな…あるところで専属のシェフとして働いてくる、だから少しの間店は出さない」

「そうか…寂しくなるな」

「ま、10年の契約期間だからな、10年後にまた店を開くさ」

「なるほど、じゃあまた10年後に会おう」

「おお」

 

それ以来彼を見ていない。

ただ風の噂で、ボンゴレの料理人が規格外な奴で、そいつの作る酒が一級品だと耳にした。

彼はどこに行っても分かりやすい。

 

「バミューダ」

「ああ、行こうか…イェーガー…」

 

イェーガーの言葉に、僕は再び掟を破った者達を牢獄に引きずっていく。

牢獄はとても暗く、寒い場所だった。

 

エミーリオ、君の隣がどれだけ暖かかったのかが分かるよ。

僕には復讐しかない。

復讐しかないんだ……

生に縋りつき、復讐に燃えた僕の本当の姿を見れば君はどんな顔をするんだろうか…

気味悪がるだろうか…

怖がるだろうか…

それともいつも通り受け入れてくれるだろうか…

 

こんな  こんな僕でも

 

 

君を友人と言ってもいいだろうか―――――…

 

 

鎖の引き摺る音を聞きながら僕はワープゲートを潜った。

 

 

風side

 

物心つく頃には既に彼はいた。

小さかった頃は本当の兄だと思っていたエミーリオ。

 

「エミーリオ兄さん」

「お、風!今日もおつかいか?偉いな!」

 

後から両親から聞いたところによると、私の名前は彼がつけてくれたとのこと。

私の地元は風の強い地域で、風のように強く、そして涼やかな心を身に付けてほしいという意味で付けられたらしい。

エミーリオはいつだって私にとって憧れだった。

笑顔で、誰にでも優しく、そして強かった。

私が5歳になった時に、私はエミーリオに弟子入りを願い出た。

最初は渋っていたが、私の真剣さに折れて武道たるものを教えてくれた。

数年の年月が経ち、彼がこれ以上教えることはないと言い出した。

自分の教えられることは教え切った、と彼は言った。

そういった彼に一度も勝てたことなどなかったのに。

私はエミーリオのように強く優しい男になりたかった。

 

「エミーリオ兄さん」

「ん?」

「私は、もっと力を極めたい……だから中国の各地を回り、色んな武術を学ぼうと思う」

「ほう、いいんじゃないか?お前にはお前の人生があんだ、お前が決めた道をどうこういうつもりはねぇよ」

「だが私はあなたの弟子であることをやめるつもりはありません!」

「弟子って…おま……まぁいいけどさぁ、自分で決めた道に後悔はすんなよ」

「はい!」

「うん、その意気やよし。お前なら最高の武道家になれるだろ」

「はい!ありがとうございます!」

 

エミーリオは私の背中を押してくれた。

私は必ずあなたに誇れるような男になってみせます、エミーリオ。

あなたの名付けてくれたこの名のように、強く、涼やかな志で、武道を極めて来ます。

今までありがとうございます。

あなたは私の憧れで、目標です。

これまでも、これからも。

どうか健在で…

 

そして私が実家を出て数年後、エミーリオがイタリアに帰ったという知らせを貰った。

会うことが難しくなったことに寂しさを覚えた。

だが私から彼の元へ行けばいいと思った。

だからもう少しあなたに誇れるような男になってから、会いに行こうと思います。

そんな矢先だった。

アルコバレーノの呪いにかかった自身の体を見下ろした。

小さな手を見ながら絶望さえ感じた。

そんな……

一時これからどうしようかと悩み続けた。

実家に帰ろうにも、この身をどう説明すればいいのか分からなかった。

そんな時にエミーリオの言葉を思い出した。

 

『エミーリオ、私は強くなりたい……あなたのように』

『俺は強くなんかないよ』

『だがあなたは私よりも強い』

『……あのな風、強さってのは人それぞれだ……』

『…』

『俺の友人には、辛くても悲しくても前に進み続けた男がいた。どれだけ悩もうが最後には前に進み続けた男がいた…』

『その人は強かったのですか?』

『ああ、俺はそいつが強いと思った…立ち止まらずに前に進む奴は強いと思ってる、いや違うな…立ち止まっても最後はちゃんと前に進む奴を俺は強いと思ってるんだ』

『前に…』

『俺の強さとは別に、お前にとっての強さを見つけるのもまた一つの方法ではあるぜ』

 

懐かし気な顔をしていたエミーリオを今でも覚えている。

私は今こそ前に進むべきなのだろうか。

あなたは言った、後悔はするなと。

後悔しないように沢山悩んでから自分の道は選べと。

だから、まだ私は悩むことにします。

悩んだ末に後悔のないように。

進んだ先で後悔のないように。

 

親愛なるエミーリオ、私はあなたの言う強い者になれているでしょうか。

 

 

 

 

ザンザスside

 

「ザンザス、今日から彼がお前の専属のシェフだ」

「エミーリオだ、よろしくー」

「……」

「ザンザス君ね、了解」

 

何だこいつ…

最初の印象は気に入らない、だった。

俺は次期ボンゴレボスになる男だぞ…敬意の欠片すら見当たらなそいつに苛つく。

次の日の料理に肉が少なく、野菜が多めに入っていたので食えるか!とそいつに喚き散らした。

だがそいつはあろうことか、俺の言葉を無視して野菜を出して来やがった。

ぶち切れて捨てようとすると、いきなり頭に痛みが走った。

 

「いっ」

「おい、食べ物を粗末にするな!こちとら苦労して作ってんだぞ」

「うっせぇな!肉出しやがれ!」

「あ?栄養偏るから却下!」

「俺は次期ボスだぞ?んな口聞いてんじゃ…」

「ボスもなにもお前まだガキだろ!このクソガキ!」

 

そいつはまた俺の頭を殴って来た。

スラム街での取っ組み合い以来の拳は、久々に痛みを思い出した。

反撃しようとしても何故かそいつには当たらずに、結局腹の虫は収まらず部屋に戻った。

翌日もそいつは野菜を多めに出してきた。

 

「今日は食えよー」

「んなまずいもん食えるか!」

「はあ?お前野菜も食えないのかよ!社会に出たら嫌でも食わなきゃいけねぇんだ!黙って食え!」

「ざけんな、カッ消すぞ!」

「その前にお前の捻くれた好き嫌いをカッ消してやるわ」

 

それから一週間の死闘の末、俺は折れた。

あいつなんであんなに強ぇんだ…くそっ。

一撃も入らないことに苛つきながらも、出された夕食を不服ながらも残さず食べる。

食べてみて分かったが、あいつの作るサラダは不味くねぇ。

俺が野菜を食べたことを知ると、翌日から肉の量が増えていた。

最初から肉出しとけってんだクソッ

 

「おい、ハンバーグは嫌だ、ラム肉出せ」

「あ?我儘いってんじゃねぇよ、ジャイアン」

「あ?ジャイアンって何だ」

「調べろ、日本のアニメ文化で調べりゃ一発だわこの野郎」

 

調べてみた。

ふざけんな!俺がこんな奴と一緒だとでもいうのか!

一度絶対にあいつカッ消してやる!

 

「カッ消えろ!」

「あっぶね!仕事中だから邪魔すんな!ガキか!」

「うぉっ」

 

殴ろうとしたら躱されて頭を殴られた。

ある日、あいつに銃をぶっ放したら避けられた上に殴られた。

くっそ、あいつ一体何者だ…普通のシェフは銃弾なんか避けれるわけがねぇ…

また別の日に、あいつが料理中に厨房に入り、あいつの足を思い切り蹴る。

痛がるあいつの顔に満足するのもつかの間、あいつは包丁を置き、俺の足を掴んで来やがった。

 

「このクソガキ!俺の料理の邪魔をするな!」

「うおおおっ」

 

俺の足を掴んだまま回転し、遠心力で窓の外に飛ばされる。

殺す気か⁉

二階から投げ飛ばされた俺は、なんとか着地するが、回転させられたことで三半規管が狂って、数分動けず蹲る。

あの野郎、カッ消す!

回復した俺はすぐにそいつの元に行き、背中を蹴り倒す。

 

「あだっ」

「ざまぁみろ!このカス!」

「だぁもう!懲りねぇガキだな!」

 

そいつは立ち上がり、俺に手を伸ばすが俺は距離を取り、銃を取り出す。

その瞬間、俺の顔の横を物凄いスピードで何かが通り抜ける。

 

ダン

 

と、何かが突き刺さる音とともに、視線をズラすと、壁にナイフが綺麗に刺さっていた。

 

「人様に銃口を向けるなって教わらなかったのか?ん?」

「てめぇこそナイフ出してんじゃねぇか!」

「お前が銃口向けるからだろ!アホ!」

「んだとこのカス!」

 

今度は今までの比じゃないほどの重い拳で殴られた。

よろめく俺の顔を両手で挟み、言い放った。

 

「いいか、厨房はガスを使うところだ、火器類の暴発は危険だ。それとナイフとか包丁もある、アルコール類だって使ってる…だからな今度、厨房で暴れてみろ、この屋敷の天辺から落とすからな」

 

俺は一瞬だけ背筋に寒気が通り過ぎた。

だがあいつは直ぐに呆れたような顔に戻り俺の頭をぐしゃぐしゃに搔きまわした。

 

「厨房以外…ていうか仕事外でなら遊んでやるから、厨房には入んなよ…入った分だけ拳骨喰らわすからな」

「ッチ、カスが!」

「口が悪いんだよ」

 

軽く頭を叩かれた。

何で俺がてめーの言うこと聞かなきゃいけねーんだよ。

その後、俺は何度か厨房に入るが、殴られて意識のない間に自室に運ばれることを数回繰り返し、いつしか厨房には入ることは少なくなった。

それから俺が15歳になった頃に、あいつは誕生日だなんだとケーキを持ってきた。

しかもでけー三段重ねのだ。

思わず天辺の段をそいつの顔に投げつけた。

するとそいつも俺に二段目を投げつけた。

一瞬の間、直ぐにお互い投げつけ合いに発展した。

 

「う”お”ぉい!どうしたぁ”!」

「うるっせぇ!」

「うるさい!」

「ぶっ」

 

途中で入って来たカス鮫に最後の段を投げつけて、もう投げるものがないと分かり投げ合いは終了した。

顔についたケーキを拭きながら、少し口に含んだ。

認めたくないが、あいつの作るものは美味ぇ。

他のレストランで出された飯が不味く思えるほどで、あいつのばかり食ってるとそれこそ他のは食べられなくなるんじゃないかとすら思う。

それから一年後、あいつは契約期間が切れてボンゴレからおさらばだ。

っは、清々する。

だがあいつは契約期間を一週間だけ伸ばして、俺にケーキを持ってきた。

くそがっ、早く消えろっての。

出されたケーキは普通のサイズのホールだった。

 

「んー、お前甘すぎるのあんま好きじゃないから、少し砂糖減らしたから食えると思うぜ」

「ふん、カスが」

「あーあー、最後までその口癖直せなかったかぁ…不良児のまま育っちゃって…おじさん悲しい」

「あ”あ”⁉んぐっ」

 

俺が口を開いた瞬間に、あいつはケーキをフォークごと突っ込んできた。

一瞬ぶん殴ろうかとすら思ったが、仕方なくそのままケーキを平らげた。

不服だが、こいつの飯は美味かった。

少しだけ施しを与えてやろうと思った。

 

「おお、全部食ってんじゃん。なになに、俺の飯は美味すぎてこれからが心配だって?」

「カスが!まずかったわ!」

「そうかそうか、美味しかったか、嬉しい限りだぜ」

「てめぇ耳腐ってんのか⁉」

 

やはり、施しなんぞ与えねぇ!

そいつは一週間後、ボンゴレを去っていった。

去っていく背中を窓から横目で眺めていた。

 

「エミーリオ……」

 

あいつが路頭に迷ったら、ボンゴレで雇ってやるくらいの施しは与えてやろうと思った。

 

 

 

それから半年後、俺はクーデターを起こした。

全身が凍っていくのを感じながら何故かあのカスの顔を思い出した。

 

ズキリ…

 

殴られていない頭に痛みが過ぎったような気がしたのを最後に、俺の意識は遠ざかっていった。

 

 

 

 

 




多分エミーリオがずっといたらザンザスはクーデター起こしていなかったね。
愛の鉄拳制裁があるし(笑)
本当はマーモンside入れようと思ったけど、諦めた。
多分後ほど出すかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの会遇

エミーリオは出会う。







ちわっす、俺はエミーリオ。

まだイタリアにいる。

本当は日本へ飛ぼうとしたんだが、イタリアの別の場所に飛ばされた。

いやまだそれだけなら、また飛んで日本に着くまで飛びまくればいいだけなんだが。

今回はなんていうか、…飛んだ先で一般人にぶつかってしまったのだ。

しかも子供。

思い切りぶつかったので、お互い痛みで悶えた後、俺はぶつかった子供に謝った。

ここまでは良かったんだ。

謝ってそのまま別れて俺は日本へ行けると思ってたんだが、ぶつかった子供が足を挫いたらしく俺がその子供を家まで送ることになったんだ。

まぁ俺の過失だったから、その子には申し訳ないと思っている。

その子の親はどうやら放任主義のようで、親はたまに帰ってくるくらいでいないときはヘルパーを呼んでいたらしい。

俺は少し可哀そうに思えてきて、その子の足が治るまで飯は作ってやることにした。

本当はこんな得体のしれないおっさんを家に入れちゃダメなんだがな!

でも白いウニみたいな髪形をした少年は喋れる相手が出来て大層喜んでいたので、気にしないことにした。

流石長年腕を磨いた俺の料理だけあって、白髪君は大層お気に召したようだ。

甘いものを出してみると、思いのほか気に入ったようなので他にもスイーツを作ってあげた。

プリンアラモードやモンブラン、クレープ、マカロンと何から何まで作ってあげると、目を輝かせていてめっちゃ可愛かった。

でも最終的に気に入ったのは何故かマシュマロというね。

オーブンに160℃で20分焼いて、15分放置した後に冷蔵庫に寝かせて作ったマシュマロクッキーをいたく気に入ってくれたらしい。

それから3日間、マシュマロ君の足が治るまで一緒に過ごしていた。

いつ親が帰ってくるか分からずハラハラしたけど、無事親とは出会わなあったので良かった。

じゃあなーと別れを告げるとすごい勢いでしがみ付いてきた。

なんてこった、そんなにマシュマロが気に入ったのか。

仕方なくマシュマロを箱詰めで買ってあげて本人に渡した。

ん?違う?

どうやら親も帰ってこなくてとても寂しようだ。

仕方ないので親の帰る頃を確認してもらい、それまではマシュマロ君の家に居候することに。

マシュマロ君は頭が賢過ぎて、周りの同世代とは少し話が合わないのだと。

ふむふむ、羨ましい悩みだなぁおい。

ゴーイングマイウェイを勧めてみると何か納得してくれたみたい。よかったね。

世界は広いんだし、いつか楽しいこと見つかるよと言えば理解してくれたような?

それから数週間ほど、マシュマロ君と過ごしたけど、親が帰って来るらしいので退散する。

最後に僕の将来の夢みたいなことを語っていたので、とりあえず応援してみた。

また会おうねと言われたので、会えたらなとだけ返しておく。

どうせ俺世界中回ってるから見つからないと思うけどねー。

手を振って見送ってくれるマシュマロ君に俺も手を振り返す。

いい子だったな、うん。

よし今度こそ日本行くか!

 

 

 

 

ちゃお、俺はエミーリオ。

途中で無人島にいったりしたけど何とか日本に辿り着いたよ。

日本来て直ぐに変なジジイに会ったりした。

本当に道端を歩いていただけなのに急に話しかけられてジジイの家に連れてかれるという。

どっかの民族の衣装を着たモヒカンジジイは俺に何か言って来ていたけどあまり頭に入っていない。

ぶっちゃけ目に布巻き付けてて前が見えるのは何故だろうか。

それと体に巻き付けてる布からすごいガッチャガッチャなってるんだけど、一体何が入ってると言うの。

色々な謎仕様に首を傾げるもここは考えたら負けだと思ってる。

俺の血が欲しいとかなんとか、お前プリーモのなんとかかんとか…

いやいやプリーモって誰だよ。

プリンアラモードの略かと思ったよ一瞬…

取り合えず宗教勧誘みたいなことを言いだしたのでお暇することにした。

最後まで何か言っていたけどこういう人種には耳を貸さないことが一番だな。

ジジイ、あなた年じゃないかな。

とまぁやっと自由に動けるようになり、店を出すことにした。

戸籍からなんやらは俺は持ち合わせていない。

なんせ大昔の人だからな。

鼻炎の赤ちゃんから教えてもらったマジックで戸籍と印鑑を出して、不動産屋に向かう。

目についた不動産に入り、物件を出してもらう。

人当たりの良さそうなおばあさんが出てきて物件を一つずつ見せてくれたので、手ごろな金額の物件を選んだ。

少し中学校に近いけど、昼から夕方にかけてランチやスイーツ、サンドイッチを出すのも考えてみようかな。

まぁメインは居酒屋だけど。

ってなわけで、店をオープンした。

一か月で繁盛した。

結構色んな人が来てくれて嬉しい。

中には近くの寿司屋さんの店主とか来てくれて、魚を持ってきてくれる。

毎度その魚を捌いて酒のつまみにして一杯やってるのが最近の楽しみである。

たまに子供を連れてきてはソフトドリンクを飲ませてる。

野球が好きらしいので、少し前にどっかの国で貰った誰かのサイン入りの野球ボールをあげた。

すごく喜んでくれてたので良かった。

ぶっちゃけ俺野球のルールとか知らんから持ってても邪魔だったんだよね。

それから野球少年は昼頃に店に顔を出すことが多くなった。

可愛いけど営業妨害しないか少し不安である。

とある日に寿司屋の店主が泥酔するほど飲みまくっていた時があって、俺が店主を家まで運んであげた。

グレた消炎龍とかなんとか意味わからないことばっかり言ってて、めちゃくちゃ絡んできたのでこれから泥酔する前に注意しようと思った。

どうやら寿司屋は息子に継がせる気満々らしい。

ちゃんと息子の意見も聞かないと喧嘩になるぞと忠告してあげた。

そういえば子供といえば、何かトンファー持った男の子がよく来るんだが。

群れがどうのこうのって…ぶつぶつ文句言いながらスイーツを頼んでくる姿は何気に可愛い。

ランチで出されるハンバーグがいたく気に入ったようで結構な頻度で来ているんだが、一体その金はどこから来るんだよ…

何か他人がいる空間が嫌いなようだったので、端っこの若干孤立してた席に案内させたらご満悦の様だった。

だが客がお喋りしているのを、うるさいからとクレームをつけるのは頂けない。

やめるように言い聞かせたが一向に直してくれないので、他の客を威圧する度に軽く拳骨を下している。

トンファーで威嚇ってお前……

それも咬み殺すってお前…

すみませんね、この子コミュ障なんです。

正直この子の将来が心配だ。

 

 

 

 

よぉ、俺はエミーリオ。

開店してから約2年半が過ぎた。

売上は上々、これならあと10年ちょいは日本にいられるかな。

この前包帯君が来てくれた。

今度は店を出す国を言っていなかったなと思い、それを謝る前に頭を叩かれた。

解せぬ。

果実酒ばっかり飲んでるから別のものを飲ませてみた。

美味しいと言ってくれて、原料は何かと問われたのでハブと答えると吹き出していた。

面白い反応もするんだなぁ。

殴られた。解せぬ。

俺の顔の広さを見込んでだろうか、顔に仮面被ってる全体的にチェック柄が目立つ男を見たら教えてくれと言われた。

なにその変人。

取り合えず首を縦に振ると包帯君は帰っていった。

また別の日に丸眼鏡をかけた和服の青年が店に来た。

何か初対面名前を言われたけど、どうやら口コミや広告から来たようだ。

メニュー表を読んで、そばか酢鶏で悩んでいたのに結局ラーメンを頼むという謎の行動をしてきた。

まぁ頼んでくれさえすれば俺はそれでいいんだけどね。

それからだろうか、めっちゃくちゃ来る。

しかもラーメンしか頼まない。

何故かラーメン君は俺のことを聞いてくるんだが、あっち系の人じゃないだろうな…

悪いが俺はノーマルだ。

よく酒も飲んでくれる人で、お得意様だから面には出さないけど、気色悪い。

でもこの前鬼殺しを勧めたら見事に酔っぱらってくれた。

鳥の設定が…とかおしゃぶりさえ…とかぶつぶつ言ってるけど大丈夫かな?

おしゃぶりって赤ちゃんの中で流行ってるアレじゃないよな………

取り合えず慰めた。

元はと言えばお前がうんたらと意味の分からない逆切れしてきたので、酒を継ぎ足して泥酔させて沈めた。

この人絡み酒かぁ…、酒を飲ませたのはアカンかった。

その二日後、再び店に訪れて、ラーメン食べに来ていた。

どうやらこの前酔っぱらっていたことはスッカリ忘れている様で…左様か。

因みにあまりにもラーメン君の来訪数が多いので、ラーメンの種類を一品増やした。

まぁ最近の出来事はこれくらいかなぁ。

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

あれから2年経った。

多分2年。

あの野球少年は今もよく俺の店に来てくれている。

最近出た新商品のランチメニューがお気に入りらしい。

ただ、遊びすぎて勉強を疎かにしているようで俺の店に溜まった宿題持ってきて、ドリンク頼みながら処理している姿をちらほら見ている。

たまに教えてくれと言われてて困る。

でも俺は学ないし、何か教えろと言われても…

日本の歴史は全く覚えてないしなぁ。

ただイタリアとの貿易情報ならまだ記憶に残ってると思うよ、って言ったらそれは要らないと言われてションボリ沈殿丸だった。

一応算数や理科は教えたけどそれ以外は無理。

あーあー俺も学校行ってみようかなぁと思うけどまず小学校からやり直さないと無理な気がしてきた。

虚しい。

トンファー君は学ランを着ていたので、中学生だと思う。

腕に風紀って書かれてる腕章のついた学ラン着てたけど、あの学校は学ランじゃなかった気がするのは俺だけか。

まぁまぁ結構な不良に育ってくれちゃって…

今も尚トンファーでお喋りしている客を威嚇しようとするので、拳骨を下す。

たまに説教をする俺にイラついたのかトンファーで殴ろうとするけど、正直眉毛君の方がやんちゃだと思った。

勿論躱して拳骨をお見舞いする。

ヒートアップして営業妨害になりそうだったので、意識狩りとってトンファー君の友達に回収させてる。

トンファー君の友達は強面のいかにも年齢詐欺してそうなリーゼントの奴だった。

お前中学生なの?って本気で問いただしたかった。

とりまリーゼント君にトンファー君を預けていつも呼んじゃってごめんねーって言っておく。

何故かリーゼント君の顔は引き攣ってるんだけど何でかな?

あ、やっぱ迷惑だったかな…

でもこっちもトンファー君の横暴っぷりには迷惑してるのでお相子だな。

あの子見てると眉毛君を思い出す。

元気にやっているだろうか、あの不良児は。

ってなわけで営業に戻る。

そうだ、この間買い出しの時にチワワに追われていた男の子を助けたんだ。

チワワに対して異常に怯えていたので少しの間眺めてたけど、ちゃんと助けてあげた。

チワワにビビっている小学生を見れて少し面白かったと思った。

その子は俺の顔を覚えていたのか、俺の店に一度だけ親を連れて昼を食べに来ていたことがあった。

まぁそれだけならいいんだけど、親の方に見覚えがあるような…

イタリアの眉毛君とこで働いていた時にチラっとどこかで見たことあるかも?

ダメだ、俺は人の顔を覚えるのが得意じゃねぇから思い出せない。

そういえば最近とてもビックリすることがあった。

また炎が変色した。

水・黄緑・紅・桃・淡黄・山吹・氷色の炎に変色した。

今度はなんだよ…既に投げやりな気分で炎を点けたり消したりする。

結果、店が潰れた。

何でだ!

待てよ、おい、俺の店ぇぇぇぇええええ!

何これ、重力でも操ってんの?

1㎜とも要らない、本当に要らない、切実に。

あああ、それよりも俺の店ぇぇ。

ダメだ、また作り直してもあの炎が灯ったら潰れる恐れがある…

ってことで、数年店を閉める。

そしてまた炎を扱えるよう修行をしに森へ行くことに。

それから3年を要した。

ほんと、この炎不便だなぁ…

周りの木を重力でばったんばったん倒していっちゃうんだもん…

あと夏場に森中を凍らせてしまうという事態に。

あれは焦った。

頑張って橙色の炎で溶かしたけど、途中で黒い炎が出てしまってトルコに飛ばされた。

チクショー…本当にストレス溜まるなぁ…

猛特訓のお陰で漸く炎の出し消しが出来た。

二度と出すかあんな炎…

俺の店ぶっ壊しやがって。

はぁ…

街に戻って店を再び作る。

寿司屋のおっさんが一時なくなってたけど、どうしたのと驚きながら聞いてきた。

潰れたんだよ、物理的に。とは言えなくて、ちょっと遠出してましたーと言い訳をする。

遠出する為に店を壊すことないだろう、心配したんだぞと言われた。

仰る通りです、ええ。

三年ぶりに開いた俺の店には色んな客が寄ってきてくれた。

トンファー君に野球少年、ラーメン君、包帯君、色々顔馴染みが俺の店を覚えていてくれて嬉しかった。

因みに包帯君からは殴られた。解せぬ。

もうこれ以上面倒事に関わるものかと炎は暫く使わないことにした。

これ以上語ることもないので、もう少し時間を進めよう。

 

 

 

 

よ!俺はエミーリオ。

あれから1年経った。

多分1年。

野球少年は中学生になってる。

何故かトンファー君は未だ中学生だ。

何でだ。

待て、お前もう高校生に上がる頃だろ。

何でまだ中学生なの?

しかも俺お前がこの前リーゼント集団から敬礼されてたの見たからな。

完全にグレちゃってるよ、これ。

てか何よ、リーゼントって流行ってんの?

お前の友達も確かリーゼントだよな。

あとお前流石にトンファーで遊ぶのやめなさい。

いい年にもなってトンファーなんぞ振り回して恥ずかしい。

それを本人に言ってみると、何か思案顔してた。

これを機にトンファーを持ち歩くのをやめてくれればと思う、切実に。

あと俺をストレス発散代わりに殴ろうとするのやめろ。

意識のないお前を家まで運ぶの誰だと思ってんだ。

俺じゃねぇよ、リーゼント君だよ。

可哀そうに完全にパシリじゃねぇか…

そういえば最近久々に包帯君に会った。

酒をいつもより暴飲していたので機嫌が悪そうだった。

何か言ってるけどあんま聞き取れなくて相槌だけ打つこと数時間、まさかの包帯君が潰れた。

俺も長年の顔馴染みではあるけれど、包帯君の家とか知らんがな。

どうしようと考えていると、ふいに店の扉が開いて、顔に包帯巻いて黒いコート来てる人が入って来た。

俺は直感したね。

こいつが包帯君の親だ。

俺はそりゃもう、助かったとその親に包帯君を預ける。

何か鎖とか手に巻いてるけど、ファッションにしては少しダサいと思ったのは内緒である。

ある日、チワワに追いかけられて泣いていた少年が店に入って来た。

とても落ち込んでいたので、事情を聴いてみた。

え、上半身全裸で好きな子に告白した?

それはおま、ただの変態だろ…

え?死ぬ気で告白しようとしたって?

何故それで上半身全裸に思い切ったのか。

これイタリアでやったらビンタものだよね。

えーと、これから挽回しとけばいいじゃんとだけ言って励ましてあげた。

絶対に嫌われたと落ち込んでいる。

まぁ確実に嫌われているだろうなぁ…

取り合えずその子からしたら、いきなり同じクラスの男の子が上半身全裸で詰め寄って来たようなもんだろ。

恐いわ。

同情の余地はない。

水だけ置いて、俺は厨房に戻る。

世の中広いなぁ…

俺は窓から見える夕焼けを眺めながら切実に思った。

 

 

 

 

 




わーい、日間ランキング1位だったー。
まさか衝動的に書いたのがこんなに人気出ると思わなかった(震え声)
ようやく原作スタートですな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの思慕

エミーリオは思われる。

白羽の大空に

囚われぬ雲に



白蘭side

 

別に不満は無かった。

ただ何故かその日常が少しつまらなかったんだ。

周りの友人との会話はレベルが合わないも純粋に楽しいし、あまり帰ってこない親が恋しかった。

でも帰ってきたらいなかった分遊んでくれる。

この前も両親と遊園地に行った。

本当に不満なんてなかった。

でも少し、どこでか漠然とこの日常に飽きてたんだ。

だからエミーリオとの出会いは僕の渇きを潤すには十分だった。

道端でいきなり空から降って来たエミーリオ。

足を挫いて歩けなかった僕を家まで送ってくれたエミーリオは、僕の両親があまり帰ってこないことを知ると、夕飯を作ってくれた。

本当はヘルパーさんがやってくれるけど、と思いながらもエミーリオのご飯を食べるとそんな考えも吹っ飛んだ。

美味しい。

いつもと同じ食材でこれほど美味しい料理が出来るんだ。

エミーリオに、僕の足が治るまではここで料理を作って欲しいと言ってみると、案外すんなりと首を縦に振った。

僕はそれが嬉しくて、ヘルパーさんには数日来なくていいと電話をした。

それからエミーリオは数日僕の家に滞在していた。

会話はもっぱら僕のその日の出来事とかだったけど、そこまで多くもなかったのでエミーリオのことを聞いてみた。

エミーリオの話は楽しかった。

エミーリオは居酒屋を開いていて、国をあちこち転々しているらしい。

だから色んな国で起こった出来事を話してくれた。

とても綺麗な景色のある場所や、危なかった出来事を沢山教えてくれた。

 

「ブラジルには確か白い砂漠とかあったかなぁ……ん?あれブラジルだっけ…」

「他には?」

「あー…ニュージーランドのホタルが生息していた洞窟とか?神秘的だったなぁ」

「写真とかないの?」

「あの時代に写真なんかなかったんだよ…まぁ人生長いんだからおっきくなったら行ってみろ」

「うん」

 

エミーリオの料理はとても美味しかった。

僕も一緒に手伝って作るけど、どれも手順が多すぎるし複雑すぎて覚えきれないものばっかりだった。

料理を初めてする僕の不器用な様子にゆっくりとコツを教えてくれた。

そんな中で、エミーリオの作ってくれたマシュマロクッキーが僕の中では一番大好きなものになった。

あんなふわふわのお菓子からどうやってこんなにカリカリになったんだろうと思いながら、それを頬張る。

一人で作れるように作り方も教わった。

大して難しい作業が要らないものでよかったと思う。

エミーリオがいた日は確かに充実していた。

僕の知らないことばかりの日々で、僕の知らないことばかりの話。

だから、心の底では足が治らなければと思ってた。

 

「よし完治したな、じゃあ俺は今日で帰るからなー」

「え、ヤダ」

「え」

「いかないで」

 

無意識に出た言葉だった。

引き留めようとは思わなかったのに、気付いてたらエミーリオの袖を掴んでいた。

 

「白蘭?」

「……いかないで」

 

エミーリオの袖が皺だらけになっていて、知らないうちに袖を握っていた手に力が入ってたらしい。

エミーリオは何を思ったのか、一緒にお店に出かけようと言い出した。

状況が分からない僕はただエミーリオについて行った。

するとスーパーでマシュマロを大量に買って、箱詰めにしたソレを僕に渡してきた。

 

「クッキーの作り方は覚えたろ?ちょっとやってみろ」

 

エミーリオの言葉に戸惑いながらも、教えてもらった手順でクッキーを作ってみた。

するとエミーリオが作ったソレと同じものが出来て、エミーリオは満足そうだった。

 

「ちゃんと作れるな、じゃあ俺がいなくても大丈夫だろ」

 

そう言って荷物を持とうとするエミーリオに、僕はマシュマロクッキーの入っていた皿から手を離しエミーリオにしがみついた。

 

「うおっ……と、え、白蘭どうしたんだよ…」

 

勢いよくしがみついた僕を抱きとめたまま、混乱していたエミーリオは僕の背を撫で始める。

 

いかないで いかないで いかないで

 

訳の分からない気持ちがぐるぐると体中を回っていく。

必死にしがみ付く理由すら分からずに僕は泣いた。

 

分からないけど、エミーリオがいなくなることがとても怖いんだ

世界に一人だけ取り残されようで

自分の感情についていけなくて、ただただ流れる涙の止め方すらも分からなかった

 

どれほど泣いてたのか分からないけど、途中でエミーリオが出ていくのを諦めたのにも関わらず泣いてた。

やっと泣き止んだ僕にほっとしたような顔をして慰め続けるエミーリオに何だか安心した。

でもやっぱりずっといるわけにもいかず、両親が帰ってくるまでの間と約束をした。

 

「にしても何か悩みとかあったら相談には乗ってやるぞ?」

 

先ほどの僕の泣き方にどうやら悩みがあるのではと思われたらしい。

さっきのは本当に自分でも分からないくらいに泣いてただけで、普段は悩みというほどのものはなかった。

でも最近感じ始めていた感情を吐き出すことにした。

 

「つまんないんだ」

「ん?」

「友達との会話は楽しいし、親と仲が悪いわけでもないのに……ただの毎日がつまんないんだ」

 

漠然とつまらない毎日だった。

誰かと昨日のTV番組の話をするたびに、どこか既視感を覚えてたり、誰かの行動にどこかで飽きていた。

自分の行動一つにも新鮮ながらもつまらなく感じていた。

初めて行った場所、初めて行ったこと、初めて喋ったこと

全てが新鮮であり、退屈だった。

 

「まぁ人間の人生なんてそんな長くないし、早めに楽しみは見つけておきたいよなぁ…」

「エミーリオはつまらないと思ったことあるの?」

「んー……いや、俺は自分の道を勝手に開いてくスタイルだし」

「?」

「つまりあれだよ、自由気ままに自分勝手に、自分の好きなように生きてるって感じだなぁ」

「学校とかは絶対行かなきゃいけないじゃん」

「俺学校行ったことねぇよ」

「え」

「でもなんだ…学校ってのは楽しいこと見つける手段にはなると思うぜ、多分」

「手段…」

「そそ、白蘭は賢いからもっと知識をつけて、自分で楽しいこと作りそうだけどなぁ」

「作る………」

 

僕が、自分で作る…

どこかで腑に落ちたような気がした。

そうだ…つまらないのなら楽しいことを作っちゃえばいいんだ…

でもどうやって?

まだ僕には圧倒的に知識が足りない。

知識を……知識を集めなきゃ。

 

「きっと、お前にも楽しいことが見つかるよ」

「絶対?」

「おお、絶対だ」

 

エミーリオの言葉で安心する僕がいた。

その後数週間程、エミーリオは僕と一緒にいてくれた。

沢山のことを教わった。

昔のイタリアはどうだったなど、どうなったなど、エミーリオが歴史に詳しいことは少し意外だった。

楽しかった。

エミーリオとの時間に退屈なんてなかった。

だから、過ぎていく時間を思うと無性に遣る瀬無かった。

とうとう親が帰ってくる前日になり、エミーリオが帰る日になってしまった。

 

「短い間だったけど楽しかったぜ、元気でなー」

「エミーリオ」

「ん?」

「楽しいこと見つけてみる……というか作ってみる」

「おう、お前なら出来るだろ」

「だから……出来たらエミーリオに見せに行くね」

「おーわかった、楽しみにしてんぞ」

 

エミーリオは快活に笑って僕の頭を豪快に撫で回す。

 

「また…また会おうね!」

「会えたらな」

 

エミーリオはこちらを振り向かずに片手だけ上げて振っていた。

寂しかったし、辛かったけど、また会えるならばと僕はエミーリオの背中を見送る。

その後帰宅してきた両親には、箱に詰まったマシュマロは何だと驚かれたりしたし、僕がマシュマロクッキーを作っている姿にとっても驚いていた。

エミーリオのことは言わなかった。

エミーリオとの思い出は僕だけのものだ。

他でもない僕だけの宝物だ。

 

その十数年後、目の前にチェルベッロという者達が現れた。

どうやら僕はマーレリングの適合者だったようだ。

それからパラレルワールドの自分と知識を共有出来るようになった。

ああ、なんて楽しいんだろう。

エミーリオの言っていた通りだ。

楽しいことが見つかった。

やりたいことが見つかった。

 

❝――――――自由気ままに自分勝手に、自分の好きなように――――❞

 

 

だから僕はトゥリニセッテを集め、全パラレルワールドの扉を開けて全ての創造主になりたいと思い始めた。

物凄く素晴らしい世界になるんだろうなぁ

だけどどのパラレルワールドのトゥリニセッテを集めても僕の予想以上の力を得ることはなかった。

だから最後の世界である今の僕の世界に賭けていた。

世界を手にしたくて。

そしてその世界をエミーリオに見せてあげたかった。

白く美しい砂漠よりも、ホタルの生息する幻想的な洞窟よりも、あなたの見てきたどの絶景よりも素晴らしい世界を見せたかった。

僕が作った世界を。

全ての世界を手に入れたら、あなたを呼ぼうと思ってた。

だからせめて居場所だけでも今のうちに見つけようと思って、パラレルワールドの僕と情報を共有してエミーリオの居場所を割り出そうとした。

 

 

だけれど、どの並行世界にもエミーリオという人物は存在していなかった。

 

 

 

 

 

雲雀side

 

最初は目についただけだった。

入ってみるとまだ営業時間直後だったから誰もいなくて、これならと思い注文した。

頼んでたのは葛饅頭だった。

それを一つ、口の中に入れると目を見開いた。

美味しい。

純粋に美味しかった。

それからこの店によく出入りするようになった。

店主の作る和食はどれも僕の舌に合っていて、他のレストランよりもこっちが美味しいと思っていた。

特に和風ハンバーグは頻繁に頼むほど気に入っていた。

だけどその店が段々と人気になっていき、人も増えていった。

群れてる…

僕の機嫌は悪くなっていくばかりだった。

ある日、僕がハンバーグを食べに来た時も、数名の客が既に店の中にいた。

群れを見るのすら嫌いな僕に、店主が端の誰もいない場所に誘導してくれた。

ようやく静かな場所で食べられると思ったら、別の群れが入ってきて席に着くと喋り出した。

僕はイラついてトンファーを取り出し、うるさい群れの方へ歩き出す。

 

「君たちうるさいよ、咬み殺―――」

「あーあー、何してんの」

 

群れに対してトンファーを構えようとした時に、うしろから襟を捕まえれて持ちあげられた。

咄嗟にトンファーを振りかざすと躱されて先ほどの席に座らされた。

 

「何するの…」

「いや何するのじゃなくてだな……人にトンファーなんて向けちゃダメだろ。てか何でトンファー?」

「なに、僕に逆らう気?咬み殺すよ」

「はいはい、早くハンバーグ食わないと冷めるぞ」

 

彼は呆れながら僕が注文したハンバーグを出してきた。

僕は仕方なくトンファーを収めて出されたソレを食べ始める。

僕への態度は気に喰わないけど、料理の腕は認めてるだけだから。

自分にそう言い聞かせる。

あれから4年経っても、彼の店は開いていた。

そして僕も頻繁に訪れていた。

あれからいくつかメニューが変わっているけれど、僕が良く食べる和風ハンバーグのセットメニューだけはずっと変わらずにあった。

少し前に、僕が並盛中学に入学した時、彼が入学祝だと宇治金時味の大福を作ってくれた。

 

「にしてもお前がもう中学生かぁ…あんなに小さかったのに」

「いつの話してるんだい?」

「っていうか学ランってお前どこの中学行ってんの?並盛中だと思ってたのに」

「何言ってるの?僕は並盛中だよ」

「あれ?…………まぁなんだ、入学出来て良かったな」

「祝われても嬉しくないよ」

「そうか、じゃあ宇治金時味の大福は要らないのか…」

「……」

「嘘だって、そんなムスっとすんなよ、ハッハッハ」

「別に要らないよ」

「拗ねるな拗ねるな、ほら」

 

彼は笑いながら大福を僕の前に出してきた。

僕の機嫌が悪くなったの揶揄う彼を何度も咬み殺そうと思ったけど、未だに彼に攻撃が入ったことはない。

目の前の大福を無言で掴み口の中に放る。

 

「フン、味だけはいいよね」

「クク、そうかよ」

「なにさっきから笑ってるの、咬み殺すよ」

「あーあー悪かったって、店の中で暴れるなー」

「あなたが悪い」

 

僕はトンファーを構えて、彼に振り上げた。

だけど彼は軽く躱してトンファーを僕から片方取り上げた。

それにイラついて残った片方で彼に攻撃を繰り出す。

 

「お前いつまでトンファー持ってんだよ…もうガキじゃあるまいに…」

「僕の勝手だよ!」

「いやまだガキならまだしもお前くらいの年になってくるとトンファーも武器になるんだぞ」

「それが何?武器として使ってるんだよ!」

「あーもう……日本って治安いいんじゃなかったのかよぉ…」

「いいからさっさと本気出しなよ!」

「おいおいおい、そこ暴れるなって!リフォームしたばっかなんだぞッ、てああ…」

 

僕の攻撃を彼が躱したことで、そのまま棚の方にトンファーがぶつかり、上にあった酒の瓶が一つだけ割れる。

 

「本当にあいつもお前もクソガキだな」

 

溜息を吐きながらそんなことを呟く彼に僕は顔面目掛けてトンアファーを振りかざした。

 

「……ん…」

「あ、委員長…起きましたか」

「草壁?」

「先ほどエミーリオさんから連絡がありまして委員長が気を失われたと聞いて…」

「降ろして、咬み殺すよ」

「し、失礼しました」

 

草壁の背中から降ろしてもらい、地面に足を着ける。

若干頭が痛み足がふらついたが、直ぐに収まりそのまま歩き出す。

また負けた…

 

「今度こそ咬み殺す…」

 

毎度どこでどの攻撃を喰らって気絶しているか分からないけど、頭がズキズキと痛むので頭部を殴られたことは分かっている。

だからいつも頭部への攻撃を警戒しているにも関わらず、いつも知らないうちに気絶して、起きた時に痛むのは頭部だった。

無意識に歯を食いしばり、草壁の声を無視して帰路につく。

まだ強くならないと彼を咬み殺せない。

屈辱だけど彼は僕よりも強い。

眉間に眉が寄っている自覚はあるが、直す気はない。

でもまだ彼を咬み殺す間は僕は楽しめるってことだね。

そんな僕の考えを裏切るかのように彼は突然消えた。

何の前触れもなく、店は無くなっていた。

結構な人気もあり、急になくなった彼の店の噂は一時話題にもなっていた。

僕はそれからあの店の跡地にはいっていない。

ただ感じるのは虚無感と苛立ちだった。

彼以上の骨のある輩もおらず、ただ草食動物を葬っていた日々に飽き飽きしていた。

彼がいなくなったと同時期に、並盛にある森で不可思議なことが起こっていた。

夏場に急に凍り出したり、調査しようと警察が出ようとした翌日には何事もなかったように普段の森に戻っていたり。

一年ほどで不思議現象はなくなってはいたが。

そしてとある日、僕は帰路で彼の店の跡地の前を通った。

今も尚何も建たない空き地になっているそこを眺める。

急に消えた彼の顔を何故か思い出した。

この苛立ちはなんだ。

失望に似たこの感情はなんだ。

無意識に奥歯を強く噛んでいた。

 

「なに……勝手にいなくなってるの……エミーリオ」

 

初めて認めた僕の―――――…

 

 

それから一年と数か月が経った頃、再び彼は現れた。

一周間前まではなかったはずの店がそこに建っていて、クローズと書かれた看板を無視して、入口を開ける。

すると鍵が掛かっていなかったのかすんなりと扉は開いた。

カランカランと音がした後、奥の方からドタバタと足音が聞こえてきた。

 

「ちょ、まだ開いてませ――…って何だ恭弥か…っていうかお前クローズってあっただろ」

 

昨日までそこにいたかのような錯覚に陥った。

今までの3年がなかったかのような、そんな様子の彼に僕の中でぐるぐると渦巻いていた苛立ちがスーっと消えていった。

 

「おーおー、前よりもでかくなったなぁ」

 

慣れ慣れしく頭に手を置いてくる彼をひと睨みする。

 

「ハンバーグ」

「ん?」

「ハンバーグ作って」

「ええー……まぁそろそろ開こうとしてたからいいけどさぁ…今度から開店内で来いよー」

「フン、それは僕が決めることだよ」

「いや俺が決めることだよバカヤロー、ほら座れ」

 

僕はカウンターの方に座りながら店の中を眺める。

昔とは少しだけ変わっているが、雰囲気は一緒の店の中に、3年間の空白が感じられなかった。

10分ほど待つと、彼は厨房から出てくる。

 

「ほらよ、いつもの」

「ふん」

「いつまでも可愛げねぇな」

「要らないよそんなの」

「ほら早く食べろよ、お前が食べ終わるまでは店閉めといてやるから」

 

そう言って彼は僕の目の前で空きグラスを拭いていた。

僕はスプーンを持ってハンバーグを口に入れると、その味に懐かしさを覚えた。

 

そういえばハンバーグ自体食べるのは3年ぶりかもしれない…

彼の作る味を覚えると他が不味くなって仕方なく食べるのやめたんだっけ

 

「ほんと、味だけはいいよね」

「おい、味だけはってどういうことだよ…コノヤロー」

 

僕はハンバーグを平らげて、店を出る。

そのまま学校に戻ると、風紀員の執務室には既に草壁が待機していた。

 

「おはようございます委員長、報告があります」

「何」

 

そのまま草壁から報告を聞いていると、報告の終わった草壁が僕を見て少し意外そうに呟く。

 

「委員長、何か良いことでもありましたか?とても機嫌が良さそうですが」

「僕が?」

「は、失礼しました」

「下がって」

「失礼しました」

 

バタンと扉の閉まる音を聞きながら窓から外を眺めた。

運動場とその周りの民家が覗ける中、視界の端に彼の店が見えた。

うん、確かに機嫌はいいね。

だって彼ならまた本気が出せるから。

 

「漸く君を咬み殺せるよ…エミーリオ」

 

 

でもまぁ…本気で咬み殺すのは、君の料理に飽きた後でもいいかな。

 

 

 




楽しいこと:後のチョイスやトゥリニテッセコンプの遊び
エミーリオ:白蘭の恐ろしい発想の元凶の一端を植え付けた男
また会おうね:(並行)世界の果てまで追いかけることの意訳
雲雀:胃袋を掴まれた人
エミーリオの作ったハンバーグ:雲雀の寵愛を受ける絶対無二な存在
店:幻術を駆使して、一週間で作り上げたエミーリオ曰く最高傑作、なお時々雲雀に破壊される



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作開始
Emilioの遭逢


エミーリオは出会う。




よぉ、俺はエミーリオ。

最近野球少年が陽が落ちてから来るようになった。

あんなに爽やかで誠実そうな男子だったのにグレちゃったかなー

一応聞いてみよう。

とまぁ聞いてみたんだが、ただ単に部活の練習してて帰宅時間が遅くなっただけとか。

んでもって帰りに腹が減り過ぎて我慢出来ず俺の店に来てちょっとだけ腹に入れてると。

良かった、これで不良児になってたら俺泣くわ。

何で俺の周りには野球少年の様な純粋な子供はいないんですかね。

一人は銃ぶっ放してくるし、一人はトンファー振りかぶるし…。

あ、でもマシュマロ君は不良児じゃあなかったな…ただあんなにマシュマロを食べてたから将来糖尿病になってないといいんだけど。

にしても野球少年がここ数週間ずっと帰宅時間が遅いので心配だ。

一応練習も程ほどになと念を押して忠告する。

実際に子供のうちに鍛えすぎたりすると急な体の変化と多大な負荷に細胞の再生が追いつかずに壊れる可能性がとっても高い。

まぁ今の青春時代が一番影響力の高い時期だから体壊したら損だぞと言っておいた。

分かったと笑顔で頷いてたけどありゃ聞いてねぇな。

絶対に近いうちどっか壊しそうだわ。

挫折は経験しとくべきだけど、小さい頃から見てきた子だから心配だ。

ふぅ…今日もお客さんが多いなぁ。

あ、ラーメン君だ、今日もラーメンですかそうですか。

最初は塩と味噌しかなかったのに今じゃ醤油、とんこつ、担々麺、魚介、和風と味の種類が大幅に増えた。

ほぼあんたがぐちぐちと種類が少ないことを遠回りで訴えてくるせいだけどな。

数日後に並盛中の放課後の時間頃に野球少年がもう一人の男の子を連れて店に入って来た。

しかも腕に包帯巻いて。

あっちゃー言わんこっちゃない。

やっぱやっちゃってんじゃん…俺知らねーよ?

ん?忠告無視してごめんなさい?いや別にいいんだけどさ…

怪我作ったの君であって俺じゃないから。

でもこんなことにまで謝ってくるとか本当に純粋でいい子なんだなぁ。

怪我も早く治るように今日は奢ってやるよ。

え?連れの子も?いいよー、何食べたい?

あ、これね分かった。

って、あれ?連れの子ってこの前の上半身全裸で女子に告白しちゃったっていう子じゃね?

友達は選べよって言いたい……。

まぁ不良児じゃないだけマシか。

二人の会話に聞き耳立てながらパスタを作ってるけど、待って、お前屋上から飛び降りようとしたの?

殴っていいかな?いいよね?

よし。

パスタを出すと同時に野球少年殴った。

まだこれからって時期に馬鹿なことした罰だ。

甘んじて受けろコラ。

お前が死んじまったら、寿司屋のおっさんショックで俺の店に入り浸る未来しか見えない。

止めてほしい、切実に。

もう大切な人を失くした人のやけ酒とか見るに堪えないし。

そんなんナッポーだけで十分です。

あと少し腹が立った。

俺が戦争に無理に行かされたときなんて、死にたくなくても死んでいった者達を間近で見たんだ。

それを知ってる分、自殺とか何考えてんだよってなるわクソ。

説教を長々としても子供の頃はちゃんと聞かないの分かってるから、短めに言って終わった。

厨房に戻ろうとしたら野球少年が泣き出したので慌てて奥の方から蒸しタオルを持ってきてあげた。

な、泣くなよ…そこまで強く殴ってないだろ。

いや、トンファー君のせいで加減分からなくなってたかも。

こぶになってないよね?

野球少年の頭を触って確認したけどなかった、よかった。

ぐずぐずと鼻を啜る音が聞こえるけど、そのまま隣の男子に丸投げしてきた。

そういえば野球少年がその子のことマグロっていってたけど、何で?

マグロ君もマグロ君で凄く焦ってるっぽいけどすまんな、任せた。

それより今気付いたんだけど、野球少年ってござる丸に面影が似てるな。

そういえば風とトンファー君も似てるよなぁ…

世の中には似てる顔が三人くらいいるっていうし、強ち間違いでもないのかな。

それから野球少年はいつも通りの元気な彼に戻ってた。

よかったよかった。

そして俺の店には包帯君が来てた。

ん?うんうん、ほうほう、へぇ…

どうやら包帯君はどっかの刑務所で働いているらしい。

それで最近極悪人がいるらしくて、そいつを捕まえようと探してるけど見つからないと。

んでまだその極悪犯罪者は15歳と。

うわー、その年齢で極悪犯ってマジかよ…。

でもって強い?包帯君苦労してるねー

仕方ない、俺のとっておきの酒を飲ませてあげよう。

うんうん、美味しいだろ、あたぼーよ

 

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

今ちょっとイタリアにいます。

数年前にイタリアと日本の貿易でいざこざあったらしくて特定の酒の輸入量が大幅に制限されたらしい。

それで俺の店ちっせーから取引出来なくなってさぁ…

仕方なく現地調達してこようと思って。

本当は炎なんぞ使いたくない。

コンロトールが下手くそなのもあるんだけど、最近じゃ防犯カメラとかがどこにあるか分からないから容易に出せないんだよな。

黒い炎での飛ぶ地点をイタリアに定め、放出するもフランスに飛ばされた。

ぐぬぬぬ

次でなんとかイタリアに飛べた。

いつも取引してる企業へ行こうとしたら迷子を発見した。

こんな道端に、昼間と言えど女の子がウロウロしてるのは頂けない。

警察に保護してもらおうと思って女の子に声を掛けてみた。

ふむふむ、母親と一緒にいたけど途中ではぐれてしまったとか。

取り合えず一緒に探してやんよ。

目の下に痣というか、花形のタトゥー?を入れてるけどおしゃれかな?

地域差の発音のせいで、その子の名前が聞き取りづらかった。

ウニって聞こえたんだけど…

もっかい教えてもらってやっと聞き取れた。

で、女の子と手を繋いで街を歩き回ってた。

どうやらここら辺ではぐれたらしい。

んじゃあお母さんが探しに来るまで待っておこうかというと素直に頷いてくれた。

暇なので近くの店でソフトクリームを買って一緒に食べた。

俺はチョコで、女の子はミルクを頼んだ。

女の子は嬉しそうに頬張っているのでこちらまでほっこりするな。

そこで一時間ほどお喋りをしていると、遠くから女の子を呼ぶ声が…おや?母親かな?

母親だった。

母親の方も目の下にタトゥー入れてるんですが、これ如何に。

別に個人の自由だけどタトゥーを顔に入れるか?普通。

なんか娘を見てくれていたお礼に食事でもと言われたった。

お言葉に甘えて近くの店に入る。

下心なんてないよ。

それから少しお喋りしながらご飯食べた。

どうやら父親はいないようだ、未亡人ですか。

とっても感じのいい親子だったなぁ…

携帯番号聞かれたので、ちょっと迷ったけど教えてあげた。

因みにこの携帯包帯君から貰った。

俺の言葉はあまり信用していないようで、俺がまた行方不明になった時にGPSで見つけてやると。

俺が携帯ごと置いていくことを考えてないのだろうか。

でも便利だから一応ありがたく使っている。

別れる際に女の子の方がぎゅーって抱き着いたので背中をぽんぽんしてやった。

いつの時代も子供って可愛いなぁ。

にしても俺って本当のところいくつなんだろ。

最後の記憶からだけでも600年以上あるんですが。

それもずっとこの年だったから多分子供時代はもっと昔だろうな。

軽く四桁いってそうで怖い。

まぁあまり興味ないんだけど。

それよりはよ酒買って日本に戻ろう。

 

 

 

 

ハロー、俺はエミーリオ。

日本に帰って来たよー数日開けてたけど店は大丈夫だろうか。

よし空き巣とかいないな。

野球少年がマグロ君ともう一人連れてきていた。

え、灰色の髪…沢山のアクセサリー…ふ、不良だ。

それも典型的な方の。

うわぁ目付き悪っ!

友達は選べよ野球少年…

不良少年は俺の飯が美味しかったのか凄い勢いで完食してた。

まぁここで不味いとか言われたらブレーンバスターしてそう。

そいつはイタリアからきた転校生のようだ。

なるほど、まぁ顔立ちからして日本人ではないとは思ってたけど、転校生か。

日本語達者だな、おい。

それからというもの、この不良少年は一人暮らしなようで俺の店で飯を食べに来ることが多くなった。

たまにあれ食いてぇとか言ってくるから時間がある時だけリクエストに応えて作ってやってる。

わざわざイタリアから一人暮らしで日本に転校してくるとか結構勇気いるよね。

見た目は不良少年、中身も不良少年。

ごめんやっぱり不良少年だ。

でも苦労してそうだから多めに見てあげるこの頃。

口の悪さが気になるので、度々注意すると素直に俺の前では直してくれた。

多分あれだろ、リクエスト料理とか出してあげてるからだな。

よくマグロ君と一緒にいるけど、何で十代目って呼んでるの?

もしかしてマグロ君ってどっかのヤンキー集団のトップとか言わないよね?

でも上半身裸で女子に告白した子でしょ?

まぁ呼び方は気になるけど、はぐらかされそうだし聞かなかったことにしよう。

ああ、この間帽子被った赤ちゃんが来てた。

なんていうかやっぱり黄色のおしゃぶり付けてた。

もう喋る赤ちゃんの中じゃおしゃぶりは流行りなんでしょ、知ってます。

つか百年以上も昔からずっと流行ってるおしゃぶりすげぇな。

黄色か…5人目くらいかね。

銃取り出してきたけど、どう見てもそれ玩具だよね。

銃口を人に向けちゃダメって親に教わらなかったのかな?

眉毛君もそうだけど、銃口を人に向ける危険性をもっとこう自覚してほしい。

肌がヒリヒリする、最近虫刺され多くて肌を掻くことが多かったからかな。

取り合えず赤ちゃんが何か言ってたけど、すまんあまり聞いてなかった。

っていうか赤ちゃんの方何も頼まずに出てったんだけど、何故に?

あと袖を捲ってみたら案の定腕の虫刺されを無意識に掻いてたらしく真っ赤になっていた。

ムヒ塗るか。

また数日が経つと、目を疑う客がいた。

ナッポーだ。

あの顔にあの房…ナッポーじゃないか。

これ絶対にナッポーの子孫だろ。

アカン、ちょっと初対面で吹きそうになった。

取り合えず注文してきたチョコパフェを出す。

どうやらチョコ類が好きなようでとてもご満悦のようだ。

にしてもナッポーに本当に似てる。

ただ何か右目がおかしい、色がまず違う。

オッドアイってやつか?若者の間で流行ってるのか?

ぶふっ、ちょ、待って、クフフ、っておま…

笑い過ぎてお腹痛い。

こいつ絶対ナッポーの子孫だろ、そうとしか思えないわ。

こちとら笑いを堪えるの限界です。

よし彼を二代目ナッポーと名付けよう。

ん?持ち帰り?出来るよ、待ってね。

また来てねー。

また来てくれた。

今度はチョコケーキを頼んできた。

どうやら隣の黒曜中に通っているそうだ。

わざわざ並盛まで来てくれて嬉しいなぁ

学校は楽しい?ん?行ってないのか、不良だな。

思わず頭を撫でてしまった。

ちょっと、嫌そうな顔しないで、ごめんって。

君がすごく友人に似てたんだと弁解しておいた。

また来ますと言って出て行ったからまた来るんだろうな。

その夜、夢を見た。

ナッポーの夢だった。

あれだよ、初代ナッポーの方だよ。

ああ久しぶり、お前あの後どうしてたんだー?

って夢だから俺の脳が作り出してんのか。

どうしてたって、自警団の方だよ。

ほら友人が日本に帰化しちゃってお前と入れ墨君くらいしかそのまま自警団にいなかったろ?

でも俺はイタリア出て行っちゃったし、お前のこと気にはなってたんだよね。

何か風の噂で、イタリアに巨大なマフィア組織が出来たとか聞いたし。

お前の自警団潰れたのかと思ってたけど本当のところどうなったんだ?

え、潰れた?マジ?

うっそ、えー…や、まぁ…予想はしてたけど。

そっかぁ

でもお前頑張ってたもんな…

お嬢さん死んでも頑張ってたもんな…

急に黙ってどうしたんだよお前らしくない

おーいナッポー!

いって殴るなよ、手が出るのは相変わらずかよ。

でもまぁ夢でもお前が元気そうで良かったよ。

あの後のお前を知らない俺が言えることなんて少ないかもしんねーけどさ

お前よく頑張ったなぁ

俺の夢になんか来てないで早く成仏してこいよ

久々に会えて楽しかった

ああ、お疲れさん

 

我ながら変な夢だったな。

ナッポーの顔が若干ぼやけてたけど、まぁ100年以上昔の友人の顔なんて鮮明に覚えてないもんな。

それから度々夢に出てくるようになったナッポー。

お前一体どうしたのよ

寂しいのかな?

まぁ俺の脳が勝手に作り出してるんだろうけど、正直言って何でナッポー?

会話の内容はもっぱら俺の話。

どの国行ってどこどこ回ったかとか、まだイタリアにいたときの話とか。

ナッポーは自分のことを語ろうとはしなかった。

多分言いにくい人生だったのかな…

それか音信不通になった後直ぐに死んじゃったか?

なぁナッポー

この前お前に似た中学生を見たんだ。

名前は知らないけど、お前にそっくりでさぁ…

まぁ昔過ぎてお前の顔あんま覚えてないけど。

クフフだぜ?お前確かヌフフじゃなかったか?

めっちゃ似てるじゃん

あー…少し懐かしんじまった

過ぎたことは気にしないし、懐かしんだりしない性格なんだけどなぁ

ん?だって俺には出会った人が多すぎて懐かしもうとしたら何年も使っちまうよ

それに……悲しいだけだろ、そんなん。

だって皆最後は俺を置いて死んじまうんだし…

ってあれ?おーいナッポー?

いなくなっとる。

一体なんで来たんだあいつ…

いや俺の脳、しっかりしろよ。

って出来事が一週間前で、あれからナッポーは夢に来ない。

漸く成仏したのかな。

代わりに二代目ナッポーが店に来るようになったね。

しかもちゃんと名前まで教えると言う…

漢字の名前だったからナッポーの子孫って線は薄くなってしまった。

でも名前が何かDQNネームなんだよな。

よく市役所で通ったな

あ、そうだ

そろそろ桜の舞う時期に店に買い物行った帰りに男の子とぶつかった。

曲がり角だったし、俺は歩いてたから今回は俺に過失はないな

尻もちついた男の子に手を差し伸べる。

男の子は立ち上がって俺を見ると驚いていた。

占い?俺を?いいけど?

何か男の子の髪が重力に逆らってきてるんですけど、これ何?

もしや彼も重力の炎とか出せるのかな?

あ、戻った

でもなんか驚いてるっぽい

え?占えなかった?そりゃ仕方ないね

元気出しなよ、今度は成功するはずさ

なんかオカルトチックな男の子だったなぁ…

あ、早く明日の仕込みしよう

 

 

 

よっす、俺はエミーリオ。

花見の時期です。

レジャーシートを片手に花見しようと桜の多い花見場へ行く。

なんかリーゼント集団がいるんですけどー

あれトンファー君関連だよな絶対

まぁいいや早く場所取りしよう

止められた

はぁ?風紀委員の?なんなの馬鹿なの?

ここは公共の場ですぅぅぅぅうううう

あ、トンファー君の友達が現れた。

何かめっちゃ焦ってるけど何で?

っていうか皆リーゼントで分かりにくいんだけどこれ如何に

あ、入っていいの?

っていうかここ公共の場だからね、占領しちゃダメだよ

はぁ?トンファー君が?あいつ……

何かトンファー君で困ってたら俺の店に愚痴りにきていいよ

愚痴を聞くのは慣れてるからな

っていうか一般人に迷惑行為するほどの問題児なのかあいつ…今度注意しとこう

レジャーシートを敷いて花見してると何だか近くが騒がしい

覗いてみるとあらやだトンファー君が暴れてらっしゃる。

これは大人として止めるべきか…

ってあれ?トンファー君がいきなり膝ついた…

でもってトンファー君どっか行っちゃったけどあの分なら大丈夫そうだね

よし花見に戻ろう。

桜って風流だよなぁ…

後ろでナンパしててうるさい男がいなけりゃもっと良かったのに…

結構他の人にも迷惑になっていたので殴って気絶させて、そこらへんに放置した。

そういえば最近二代目ナッポー来なくなったな

また来てくれるといいんだけど…

彼ちゃんと俺に敬語使ってくれるから他より好感度高いんだよね…

にしても桜が散るって綺麗だね。

 

 

 

 

 

 




大体こいつのせい:エミーリオの代名詞
二代目ナッポー:クフフのフ~僕と契やk(殴


一応漫画の方を基準に書きました。
ここら辺アニメと原作の乖離が激しかったので間違ってたら教えてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの欽慕

エミーリオは思われる。

鎮まりの雨に

大空の親子に

廻り巡る霧に



山本side

 

子供の頃、親父が連れて行ってくれた居酒屋でエミーリオと出会った。

子供の俺にカルピスを出してプリンも出してくれたからその時からとってもいい人だと思った。

その時、エミーリオは俺に野球ボールをくれた。

それは丁度世界でも有名だった選手のサインが入ったボールだった。

俺は興奮してエミーリオに抱き着いたりお礼を言ったりしてはボールを眺めていた。

それからそのボールはずっと机の上に飾っている。

俺が小学中学年になっても、エミーリオの店には顔を出していた。

いつも笑顔で俺もつられて笑顔になるのがとても好きだった。

宿題をエミーリオの店でやってても怒りもせずに、逆に宿題の内容を覗き見ていた。

 

「なぁ…この昆虫の腹ってどこなんだ?」

「え?知らんよ、俺学ねぇもん」

「がく?」

「学校いったことないって意味、だから理科とか知らん…まぁその昆虫って塩振って揚げたら美味しかったぞ」

「え!?エミーリオ学校行ったことないのか!?」

「おう、学校楽しいか?」

「ああ、友達がたくさんいるのな!」

「そりゃよかったな」

 

エミーリオは学校行ったことがないことに驚いた。

じゃあ給食も食べたことないんだろうな。

エミーリオのご飯食べたら給食じゃちょっと物足りなくなったぜと言ったら笑顔でありがとうと言ってた。

俺が小学校高学年の頃、エミーリオが突然消えた。

店ごとそこに最初から無かったかのように。

俺はとても悲しかった。

悲しくてずっと部屋で泣いてた。

父さんが心配して部屋に来てくれたけど、悲しいのは治らなかった。

どうしてエミーリオはいなくなったんだ?と聞いてもわからないと言われるだけだった。

警察はエミーリオを探してはくれなかった。

頻繁にエミーリオの店のあった場所に行っていた。

でもそれで何かが変わるわけでもなく、結局俺は家に帰るだけだった。

それから数年経ち、俺は中学生になった頃だった。

エミーリオの店が建っていた。

ドアにはオープンの看板が掛けられていて、俺は無意識に扉へ手を伸ばしていた。

夢なのかとすら思ってた。

だってこの前まで何もなかったのに。

扉が開くと、カランコロンと音が鳴り響き、店の中に入る。

店の中はあまり変わらなくて、本当にこれは夢なのかと思った。

すると足音が聞こえた。

 

「いらっしゃーい……ん?ああ、武か…顔馴染みが連チャンで来たかー」

「……え」

「ん?久しぶり、大きくなったなぁ武。もう中学生かぁ、あーすげぇ身長伸びたなお前」

「エミー…リオ…?」

「お?おお…久しぶり過ぎて俺の顔覚えてない?ほら、3年前の―――」

「エミーリオ!」

 

俺は何を言っていいか分からなくなり、形振り構わず大きな声を出した。

 

「何でっ、どこに……どうしていきなり消えたんだよっ!」

「え?あ、ああ……何かすまん…急な都合で、えーと…」

「悲しかったんだぞ」

「ぁ…ああ」

「今度はちゃんと教えてくれ…」

 

数年ぶりに見たエミーリオの顔は全く変わってなくて、本当に3年も離れてたのかと思うほどだった。

記憶と全く同じのエミーリオを見て、夢じゃないのかと不安になり頬をつねる。

 

「痛い…」

「何してんのお前…」

「エミーリオがいるから、夢かと思って」

「あー、なんだ、何か凄く心配してくれてたみたいで申し訳ない」

「無事でよかったのな」

「ああ…何か食うか?」

 

それから俺はまたエミーリオの店に頻繁に来た。

中学一年生に上がった時に俺は部活に精を出していた。

部活帰りというのもあってお腹が空きまくるのでよくエミーリオの店でちょっとだけ食べて帰るようにしていた。

部活終わりの自主練で帰宅時間がいつも遅くなっていて、エミーリオにはどうしてだと聞かれたことがある。

 

「お前最近帰り遅いけど何やってんだ?」

「え、部活だけど…」

「いや野球部って大体7時半ごろには終わるだろ」

「ああ、その後自主練してんだ、だからいつも遅くなってんだ」

「あー…なるほど、お前が不良児になったんじゃないかと思ってた…よかったぁ」

「ハハハ、なんだそれ」

「でもあれだ、こんな毎日やってっと体ぶっ壊すぞ。子供の頃はまだ成長途中だから過剰なトレーニングは多大な負荷にしかならないからな。無理した分だけ体に出るから自主練もほどほどにな」

「分かったのな」

「伸び悩み中みたいだけど、青春時代なんてあと4年はあるんだし焦んじゃねぇぞ」

 

そう言って俺の頭を撫でててくれたエミーリオの言葉を俺はどうしてちゃんと聞かなかったんだろう、と後に死ぬほど後悔した。

数日後、俺は自身の包帯の巻かれている折れた腕を眺めた。

医者が言うには過度な自主練で腕にかかる負荷が許容量を超えてしまったらしい。

それからぐるぐるとエミーリオの言葉が頭を巡っている。

どうしてあの時の忠告を聞かなかったんだろうと後悔しても後の祭りだった。

これじゃ野球も出来ないし、近いうちにある試合も出れない。

目の前が暗くなる気がした。

俺から野球を取ったら一体何が残るんだ?

重い足取りで登校すると、誰もが驚いた表情をしていた。

そして、沢田がとくに俺を心配してきていたけど今の俺にはそれに応える余裕はなかった。

何よりも最近になって活躍を果たしている沢田を見ていると嫉妬してしまうから見たくなかった。

授業中ずっと折れた腕でどうしようかと考えていた。

勉強も運動も出来ない。

どうしよう、どうしよう、どうしよう

もう俺には残ってるものなんてないじゃんかよ…

俺は屋上へ行きフェンスを乗り越えた。

結局、俺は死ねなかった。

沢田に救われたんだ。

屋上から落ちた時、純粋に怖かった。

とても怖かったのを覚えてる。

その後ツナと一緒に帰り道を歩くことになって、途中でエミーリオの店が視界に入る。

エミーリオの忠告を無視してこんなことになってしまったから、エミーリオにも謝りたかった。

それをツナに伝えると喜んで一緒についてきてくれた。

どうやらツナもこの店には一度だけ訪れたことがあるらしい。

店に入るとエミーリオと目が合い、エミーリオは俺の腕を見て目を丸くしていた。

 

「え、腕どうしたの」

「自主練のし過ぎで折れちまった…」

「あー…まぁあんま気負うなよ、挫折も経験してりゃ次に活かせるだろ」

「あのさ、エミーリオ」

「ん?」

「えっと…忠告無視してごめん……」

「あ?あー……うん、ま、これで反省してるならいいんじゃねぇの?」

 

エミーリオは困った顔をして席に誘導してくれた。

するとエミーリオが今日は奢ってやると言って来たので、パスタを頼んだ。

 

「あの人エミーリオって言うんだね」

「ああ、俺が子供の頃から知ってる人なんだ…近所の兄さんみたいな感じなのな」

「へぇ、優しい人そうだね」

「そうなのな、俺はエミーリオが怒ったところなんて見たことないし」

「そうなんだ」

「にしてもツナ、今日は本当にありがとな」

「え?いや別に…」

「ツナがいなきゃ俺は死んでた」

「山本…」

「俺屋上から落ちた時思ったんだ…怖ぇって。だからツナが助けてくれて本当に感謝してるぜ」

「うん…でも山本が怪我増やさなくて本当によかったよ…」

 

エミーリオがパスタ片手に俺達のテーブルに来た。

パスタを徐にテーブルに置くと、俺の頭に強い衝撃が襲う。

 

「え…」

「え、エミーリオさん!?」

 

ツナの焦った声が耳に入り、俺は漸くエミーリオに殴られたことが分かった。

 

「もう二度と自殺なんて馬鹿な真似すんじゃねぇぞ」

「エミーリオ…」

「まだお前には時間があるんだ、躓く時間があるなら前見て考えて死ぬ気で生きろ」

 

エミーリオは静かに、だけど怒気を隠さず俺にそう言った。

俺はエミーリオが怒っているのを見たのはこれが初めてだった。

頭の痛みと心の苦しさから、涙が出てくるけどどうしようもなくて、ただこの痛みが嬉しかった。

エミーリオからタオルを渡されて、泣き止もうと目に押し当てていたが、今までの悩んでた分のストレスが一気に押し寄せてきて涙が溢れ出す。

苦しくて、何考えていいか分かんなかった。

腕も心も痛くて、立っていることさえ億劫だった。

もう何していいか分かんないし、何も出来ないしで本当に死にたかった。

でも屋上から落ちた時、怖かった。

死にたくないって心の底から思った。

苦しくて、辛くて、痛くて、怖かった。

 

「頑張ったな」

 

ふいに頭に手が置かれ、ゆっくりと撫でられた。

それにもっと涙が溢れ出してどうしたらいいか分からなかった。

ツナの言葉で思い止まって、エミーリオの言葉で救われた。

 

「ご…めんなさっ……」

「おうおう、ちゃんとそれ食って元気出せよ」

 

エミーリオは厨房に戻っていって、目の前にいたツナは泣いてる俺におろおろしてるのが分かって何だか笑えてきた。

その後泣き止んだ俺はツナと一緒にパスタを頬張った。

今までで食べてきたものの中で一番美味しかったと思った。

帰り道をツナと一緒に帰っていたら分かれ道でツナが俺に呟いた。

 

「俺達の会話聞かれてたね」

「そうだな」

「山本が羨ましいよ」

「ん?」

「だってあんなに思ってくれる人がすぐそばにいるじゃなか」

「ハハ、まぁそうだな」

「じゃあ俺はここで」

「ああ、またなー!」

 

ツナと別れて、家まで歩く。

 

❝頑張ったな❞

 

やっと息が吸えたような気がした。

 

 

 

 

ユニside

 

「お嬢さん、どうしたんだい?」

 

お母さんとはぐれて街の中で途方に暮れていた私に一人の男の人が声を掛けてくれた。

知らない人には気を点けなさいとお母さんに言われていたけど、目の前の人には何故か何も思わなかった。

何故かこの人は大丈夫だと思ってしまった。

 

「お母さんとはぐれたんです」

「あー、おっけー、どこではぐれたの?」

「あっちです」

「んじゃそっち行こうか、君の名前は?」

「ユニです」

「え?ごめんもっかい」

「ユニ」

「あ、うん。俺はエミーリオ」

 

それからエミーリオとはぐれた場所に行き、お母さんが来るまで待っていようねと言われて、その場で待っていた。

ただ待つだけは暇で、エミーリオはソフトクリームを買って来てくれた。

私にはミルク味をくれて、とても美味しかった。

何だろう、エミーリオの隣は暖かいなぁ。

一時間くらいすると、お母さんが来た。

 

「ユニ!」

「お母さん!」

 

お母さんが見えて私は駆け付けて、お母さんに抱き着いた。

 

「ああ、もう今度から勝手にどっか行っちゃダメよ」

「ごめんなさい」

「娘がお世話になりました」

「いいえ、よかったなー見つかって」

「はい!」

 

エミーリオとそのまま別れようとすると、お母さんが引き留めた。

一緒にご飯食べに行くみたい。

近くの店で一緒に昼ご飯を食べて、そのあとはちゃんとお別れをした。

お別れする際、何故か胸の奥が痛くなってエミーリオに抱き着いた。

すると胸の痛みが消えていって、どこかホッとした。

どうしてエミーリオの隣はこんなに落ち着くんだろう。

分からなかったけど、私はエミーリオと別れた後お母さんに聞いてみた。

 

「お母さん」

「ん?なに?」

「エミーリオと別れる時、とっても胸が痛かったの」

「あらユニも?」

「お母さんも痛かったの?」

「痛かったというより、寂しかったわ」

「どうして?」

「分からないわ、ただエミーリオには不思議な力があるのかもしれないわね」

「私たちみたいに?」

「そうね……」

 

それ以上お母さんはその話をしなかった。

そして直ぐにお母さんが亡くなってしまった。

悲しみに暮れた日々を送っていた。

γも悲しいはずなのに私をずっと励ましてくれてる。

頑張らなきゃ、前に、進まなきゃ…

涙を拭いてお母さんの死を克服した頃だった。

 

予知夢とは違う、何かを見た。

崖の様な場所で、景色を眺める一組の男女。

何かを話しているけど、声は聞こえなくてただ二人が会話をしている場面だった。

すると場面が変わり、女性に男性が花の形をした石の塊を渡している場面だった。

男性の口が開いたり閉じたりするのを呆然と眺めていたら、そこで夢は途切れた。

あれは一体……

男性の顔はぼやけて見えなかった。

あれは予知夢ではない、と何故か確信出来た。

声も顔も会話も何も分からなかったけど、彼の隣はとても、とても暖かかった。

それだけは何故か感じることが出来た。

 

10年という長い月日が経った頃に、白蘭という男が私に同盟の話を持ち掛けた。

私は彼の人の好さを信じ、同盟を飲んだ。

だけどそれが間違いだと気付くのは直ぐだった。

予知夢で彼がよからぬことを企んでいるのが分かり、逃げ出そうと試みたがその頃には既にミルフィオーレの勢力は大きくなり過ぎていた。

だから私は遠くの世界に魂だけでもと避難した。

それからはただ心細かった。

あの世界は今頃どうなっているのだろう…

心配ではあったけど、私には確かめる方法もなく、ただ時を待っていた。

すると再びあの夢を見た。

崖の上に座り込む男との会話、そして石の塊を渡す場面。

だけど以前とは一つだけ違うことがあった。

男の顔がハッキリと見えたのだ。

そして私はその男の顔には見覚えがあった。

でもどうして彼なのか私にはわからなかった。

 

「どうして……あなたが夢に出てくるのですか………エミーリオ」

 

分からないことだらけだったけど、その夢を見た日から心細さは無くなった。

 

 

 

 

六道骸side

 

並盛を偶然歩いていた時に、気まぐれで入った店だった。

人の好さそうな店主を横目にメニュー表を覗き見る。

ほう、これはなかなか…

メニューに張られている写真に惹かれ、チョコパフェを頼む。

 

「はい、チョコレートパフェ」

「クフフ、ありがとうございます」

「っ……どういたしまして」

 

何故か店主が顔を勢いよく逸らしたけど気にせずに、チョコパフェを平らげた。

ふむ、なかなか美味でしたね。

またここに来ますか。

店主にもそう伝え、数日後に再び訪れた。

 

「いらっしゃーい」

「クフフ」

「ああ、ナッ………この前のチョコパフェの子か」

 

最初に言いかけた言葉が気になりますが、聞かなかったことにしておきましょう。

今日は前に気になっていたチョコレートケーキを注文した。

値段が学生向けであるにも関わらず、味がこの上なく上品だ。

クフフ、これは中毒性のある味ですね。

 

「っふ…」

 

視界の端で店主が笑いを堪えているのが見え、眉を顰める。

 

「何故、笑っているのですか?」

「え?ああ、すまんすまん、君があまりにも美味しそうに食べるから嬉しくてな」

「クフフ、確かにあなたの料理の腕は称賛に値します」

「嬉しいこといってくれるねぇ、君中学生か?」

「ええ、黒曜中ですよ」

「おいおい、隣町からわざわざ来てくれたのかぁ、学校は楽しいか?」

「あんな低レベルな教育受ける気にはなれません」

「アハハ、さぼりか」

 

彼の手が徐に伸びて、僕の頭に乗った。

あまりにも自然な動作で一瞬反応が遅れてしまう。

直ぐに振り払い眉を顰める。

 

「何ですかその手は」

「あ、すまん、つい癖で…友人に君に似てるやつがいてな、アッハッハ」

「二度はありませんよ」

 

あなたのチョコレートケーキの味に免じて今回は許してあげますよ。

まだ食べていないデザートがあったので、また来ると言い店を出た。

その夜、僕は寝る直前にふとあの店主を思い出した。

そして気まぐれで彼の精神世界を探して潜り込もうとした。

本当に気まぐれであり偶然だった。

 

彼の世界を見た時の僕は恐らく間抜けな顔をしていたでしょう。

何せ彼の世界は確固たる基盤がなかったのだから。

森の中だと思った瞬間に海の中、氷の上、土の上と次々と変化していく。

若干、変わりゆく景色に酔いつつも、精神世界の主を探した。

こんな精神世界は初めてだ…

彼には軸というものがないのだろうか。

荒れ果てた荒野、白い砂漠、透明な海、死体が転がる街

次々と変わっていくこと数十分、漸く景色がぐらつきながらも一つの場所で固定される。

どうやらどこかの店の中のようだ。

扉を開くと、カウンターの奥に彼がいた。

ふと彼が視線をあげ、僕と目が合うと驚いた表情をする。

 

「あれ?ナッポーじゃん。何でここに?」

「は…?」

 

一瞬彼の言葉が分からなかったが、理解した途端殺意が沸く。

僕が何かを口走ろうとする前に彼が言い放つ。

 

「でもお前死んでんだろ…なに幽霊?…つか何で俺イタリアの時の店にいるんだ?」

 

周りをキョロキョロと見てる彼に僕は、人違いをしているのだと分かった。

そういえば私に似ている友人がいると言っていましたね。

 

「まぁいいや、お前俺がイタリア出た後どうしたんだよー」

「…………どうしたというのは?」

 

少し遊んでやろうと、彼に会話を合わせることにした。

 

「どうしたって、あれだよ、自警団だよ」

 

どうやら彼の友人は自警団にいたようだ。

 

「俺がイタリア出た後気になってたんだよね…お前手紙には自警団のことあんま書いてなかったし。ジョットも日本に行っちゃったし、Gとお前だけ自警団に残ってたじゃん。んでもって風の噂でイタリアででっけーマフィアの組織あるって聞いたんだけど、自警団潰れたの?」

 

イタリアに自警団なんて存在ありましたっけ…いやマフィアがのさばっている時点で自警団などあるわけがない。

 

「潰れましたよ…とうの昔に」

「あらら………あー…まぁちょっとだけそうなのかなぁとは思ってたけど…そっかぁ…」

 

曖昧な笑みを浮かべる彼に何故か僕の方が悲しくなるような錯覚を覚えた。

 

「でもお前頑張ってたもんなぁ…」

「エレナが亡くなっても、ずっと頑張ってたもんなぁ」

 

彼の声が遠く離れていくような感覚に陥て、彼が反応のない僕を訝しむ。

 

「おーいナッポー!」

「誰がナッポーですか!」

「いって!」

 

彼の言葉で我に返ると同時に無意識に手が出た。

 

「手が出るのは相変わらずかよお前……幽霊のくせに」

「うるさいですよ」

 

どうやら彼の友人も殴っていたらしい。

なるほど、私に似ているようなのは認めましょう。

 

「なぁ…あの後のお前を知らない俺が言えることじゃないけどさ……」

「お前よく頑張ったなぁ」

「俺の夢になんか出てこないで早く成仏しろよ…でも久々に会えて楽しかった」

 

「………では…もう行きます」

「ああ、お疲れさん」

 

その言葉と同時に僕は精身体を実体に戻す。

そして目を開けて、まだ日が上がっていない窓の外を眺めた。

 

「何故………楽しかったと言いながらそんな顔をしてるんですか…」

 

僕が干渉されるほどの感情とは何だというのか。

そしてあの不安定な世界は何だというのか。

彼は異常だ。

正常を偽った異常者だ。

それからも度々彼の夢に潜り込んでは会話をしていた。

僕は友人の記憶を持ち合わせていないので彼の話を一方的に聞いていただけだが。

正直こう言ってはなんですが、友人の顔と他人の顔くらい見分けられないのだろうか。

相当私とその友人は似ているのだろう。

彼は色んな国へ行き、色んな景色を見ては店を開いていたようだ。

見た目は20代前半に見えるが、もしかしたら30代かもしれませんね。

 

「なぁナッポー」

「ナッポーではありません」

「この前お前に似た中学生見たんだ」

 

その言葉に僅かに反応する。

 

「名前は知らないけどお前にそっくりでさぁ」

「ほう?」

「その子クフフって言ってたけど、お前確かヌフフじゃなかったっけ?」

 

似てるよな、と彼は言う。

なるほど確かに口癖と外見が似ているようだ。

ならば彼が見間違っても無理はない。

 

「あーあー、昔のこと思い出したら何かセンチメンタルになってきた」

「あなたがセンチメンタル?」

「おい笑うなよー、俺は今を生きるタイプだから過去は振り返らない派だったんだよ」

「懐かしむくらいならばいいのでは?」

「あ?だってんなの悲しいだけだろ…」

 

瞬間世界が揺れた。

 

「!?」

 

急な精神世界の歪みに、空間に亀裂が入り出す。

辺りを見渡したと同時に急に胸が締め付けられるような痛みが走る。

次に愛惜に似た感情が僕を襲う。

まずい―――…!これ以上いれば彼の感情に飲み込まれる!

 

「どうせ皆、最後は――――――――――…」

 

世界の変化に気付いていない彼は何かを呟こうとしていたが、僕は耐えきれず精神をその場から切り離し、実体に戻る。

地面に叩きつけられた感覚と共に、瞼を開けた。

 

「っは……」

 

そこはソファの上だった。

ようやく痛みから解放され、深く息を吐く。

何だ今のは…!

この僕が怯んだだと!?馬鹿な!

そんなハズはない…そんなハズは………

だが僕は認めてしまった。

世界が崩壊し始めたような景色を前に純粋な恐怖を感じたことを。

あれは、何だ…。

抗いようのない自然現象の襲われたような感覚だった。

 

「クフフ、一体あなたは何者なんですか………」

 

一度根付いた恐怖は収まることを知らず、僕はそれから彼の夢に潜り込むことはなくなった。

だが彼に興味はあったので、彼の店に訪れるようになった。

 

「いらっしゃーい、ってチョコの子か」

「何です?その名前は…僕には六道骸という名前があります」

「むくろ?骸君ね、俺はエミーリオ、今日は何頼むんだい?」

「チョコレートムースを所望します」

「了解」

 

平然と過ごしている彼がとても滑稽だった。

彼の内包する異常な世界にとても興味を惹かれた。

それ以上に、僕を通して友人を見ていることが許容出来なかった。

 

僕を見て下さいエミーリオ。

あなたのその世界を僕ならば必ず理解してみせる。

 

 

あなたを見ていると何故だかとても…遣る瀬無いのです。

 

 

 

 




二代目ナッポー:エミーリオをロックオン
山本:こぶは出来てなかった、良かったね
エミーリオ:400年ほど前に食糧不足の際、虫に塩振って揚げて食した男
ユニ:白蘭の二股ストーカーの被害者
初代ナッポー:多分どこかでくしゃみしてる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの逢着

エミーリオは出会う。


よお、俺はエミーリオ。

そういえば最近並盛中学の生徒が襲われる事件が多発しているらしい。

皆下校時はまっすぐ帰るから中学生のお客がパッタリと来なくなった。

ぐぬぬ…はよ捕まれ

翌日トンファー君が来て、黒曜中の制服の写真を見せられてこれ着てる人見なかったかと聞かれた。

ん?これ二代目ナッポー君が着てたやつじゃね?

素直に首を縦に振ると、どんな奴と聞かれた。

うーん…とりあえずオッドアイのナッポーとだけ言っておいた。

伝わるといいんだが。

トンファー君はそれだけ聞くと出て行った。

おい注文してけよ

そういえば二代目ナッポー君来ないなぁ

まさかあの子が最近並盛中の生徒を襲ってる人だったりして…んなわけないか。

ちゃんと敬語使える良い子だったしな。

学校さぼってるけど。

最近物騒だし昼は閉めようかなぁ、ん?あ、いらっしゃーい

おや?何やら様子が…

入って来たのは気弱で大人しそうな女の子なんだが、なんだろう…こう……すごく、目が死んでます。

待て待て、子供がしていい目じゃない。

その子は店の中に入ったはいいけどお腹空いてるわけではなかったらしい。

でも見るからに何か思い詰めてますみたいな表情をしてるわけで…こりゃどうしようか。

なんだか可哀そうだったのでカウンター席に座らせてココアを出してあげた。

当人は驚いていたけどな。

本当にただ足が向いて入って来ただけで手持ちはないので直ぐ出ていきますと立ち上がろうとしてたけど、おいおいそりゃねぇぜお嬢さん。

こんな可哀そうな女の子を放っておくなんざイタリア人の風上にも置けねえぜ。

ココアはただだから飲み終わるまで居座りなよと言えば、おずおずと座り直す様は中々可愛らしかった。

孫娘みてるみたいだな。

それより何か思い詰めてるみたいだったけど、話してみなよ。

ん?ほう……なるほど……うーん…

なんというか、重い。

ええと、どうやら少女は女優の母親とその母の再婚相手である父親との三人家族のようだ。

でも母親は全く自分と目を合わせてくれないし、父親も無関心だと…うおぉ…

愛情の反対は無関心っていうけど、まさにそれだね。

何で自分を産んでくれたかも、何で生きているのかも分からないと。

おっも…久々にヘビーな内容だな。

しかも少女は見るからにまだ中学生だろうに…

何だか泣きそうなくらい目の中に涙溜まってるんだけど、これ我慢するより一度出させた方がいいかな。

蒸しタオル、蒸しタオル…あ、あった。

蒸しタオル片手に少女の背中を摩り出す。

愛情を知らずに育つと爆発するか、鬱々と塞ぎこむかの二択だよなぁ。

まだ爆発するなら誰かが気が付いてくれるけどさ、塞ぎこむと誰にも気付いてもらえなくなるかもしれない。

それ考えると俺の店に入ってきたは運が良かったのかもしれない。

直ぐに吐き出せ吐き出せと背中を摩りながら施すと、まぁわんさか出てくる出てくる。

これ育児放棄で警察沙汰なったって可笑しくないよね。

なんだっけ、ネグレクトだっけ…

こないだの野球少年より重症の様な気がする。

蒸しタオルで目元を押し当ててやって、泣き止むまで待ってあげる。

にしてもこういう場合ってどうすればいいのやら…

俺がここで慰めたって根本的な問題が解決するわけじゃないし。

取り合えず慰めて、泣き止んだら一緒に考えてみるか。

まさか少女が泣き終えるまで一時間も要するとは…。

既に冷めてしまったココアを入れ直し、暖かいココアを飲ませてあげる。

少女にはまず生きる理由を見つけてみようと言ってみた。

ので、暇なときはこの店に来ていいよと言ってみる。

親から少しでも離れて違う場所で新しいことをやらせてみるべきだ。

というかこういう子には楽しさを見つけさえすればいいのだ。

この店には沢山の人種が来るから、沢山人を見てこういう人もいるんだと知って欲しい。

それに親じゃなくても君を必要としてくれる人は絶対にいるハズだ、うん。

まぁ俺の場合いつここを離れるか分からない以上、バイトとして雇えないのがネックだが。

少女は何だかさっきよりも元気になった気がする。

これからも店には顔を出すと言ってくれたので、暫しの間は様子見しようかな。

少女の精神状態が改善されなかった場合は警察に相談すればいいし。

少女を見送った後、俺は居酒屋に切り替えた。

夜の方は割と結構客が出入りする。

寿司屋のおっさんが魚持ってきてくれたので、それをおつまみにして酒盛りをし出す。

今日はもう店仕舞いでいいや。

あー日本酒うめー

あれから少女は店に来てないからめっちゃ気掛かりだ。

どっかで事故にでも会っちゃっただろうか…

まぁ名前も聞いてないから探しようもないけどね。

ん?電話…?包帯君からかな?

うぇぇぇええ?何でトンファー君?

俺お前に電話番号教えた覚えないんですけど?

え?何?俺が料理中に勝手に番号盗んだ?

お前後でちょっと覚えてろよ

で、なに?はぁ!?入院?何で!?

ハンバーグ?いやそれより何でお前入院して…切りやがった。

まぁ昔から面倒見てる子だし、お見舞いに行ってあげるか。

俺優しいなぁ…あんな不良児心配するなんて。

なんやかんやあって、ご飯作って病院行ったんだけどまずロビーの前で学ランリーゼントの男子が数名いる時点で帰りたくなった。

相手側が俺に気付くと、駆け付けてトンファー君の病室まで案内してくれた。

親切なのはいいんだけど、周りの視線が痛い。

病室に入るとトンファー君があちこちにガーゼから包帯やらをしていて、一目見て喧嘩で作ったと分かった。

正直呆れたけど、子供の頃は少しくらいやんちゃなくらいでいいのかなーと思い始める。

ぶっちゃけこいつ眉毛君と同じ性格してるから、注意しても聞きそうにない。

俺にだけ迷惑をかけなければ大目に見てあげよう。

まぁ喧嘩は良くないから一応叱るけどな。

散々叱りまくったので拗ねてるトンファー君にハンバーグランチをあげた。

ふん、仏頂面してるけど嬉しがってるの知ってんだからな。

ほんと眉毛君と似てんな、こいつ。

ん?ナッポー?ああ、この前の二代目ナッポーの話か。

うんうん、何お前あの子と喧嘩したの?

へぇあの子ってそんな強かったんだ。

で、え?あの子について何か知ってるかだって?

あーそうだな……チョコが好きらしいぜ!

おいそんな残念な奴を見るような目をするなよ…本当にそれしか分からなかったし。

ハンバーグランチを完食したらしく、とてもご満悦のようだ。

そろそろ学年が変わる頃だけど、トンファー君はちゃんと高校生になるんだろうか。

聞いてみた。

やっぱり並盛中にいるようだ。

おいどうなってやがる…それも3年生とかそんな次元じゃなかった。

何年生でもないよとか言い出す始末。

大人になりたくない一心で中学に居座ってんのか?動けよ教師。

まさかここまで不良児だったなんて…

今年限りで高校に上がれとしつこく言ってみた。

誰の指図も受けないよとか言ってるけどこれそういう問題じゃないから。

お前恥ずかしくないのかよ、ずっと中学に留まるとか。

並盛中学校は僕のものとか言ってる場合じゃないからね、現実見ろよお前ぇ…

そんなに並盛大好きーならいっそのこと並盛の財団か何か作ったら?

まぁ冗談だけど。

校長とかにでもなったら並盛中とかお前の支配下みたいなもんだろ。

お前のこれからが心配だよ。

え?宇治金時味の大福?また食べたいの?

ならまず中学卒業してくれ。

ほら、いやいや言わないでさぁ…

よし、じゃああと一年だけ在籍したらちゃんと卒業するでどうだ?

約束してくれたら宇治金時味の大福とハンバーグランチと…和菓子作ってやる。

な?別にお前が威張れる場所が中学だけってわけじゃないだろ?

おお!約束してくれた!結構物分かり良いな。

トンファー君の答えにも満足したし帰るか。

怪我治ったら俺の店に来いよー。

 

 

 

 

 

おっす、俺はエミーリオ。

野球少年が二年生に上がったと報告してきたので祝いで何か奢ってあげた。

たくさん食べる野球少年にこっちも嬉しいくなるねぇ。

あ、不良少年君も来てたのか、うむお前にも奢ってやる。

あとそこのマグロ君もな。

不良少年の方は結構な頻度で来るから結構親しくなれたと思う。

敬語こそないけれど、汚い口調は直してもらったしね。

というより暴言吐くたびに鉄拳制裁してたからだな、うん。

マグロ君が驚いているのを見ると、こいつ学校では絶対に口悪いな。

教師達の手を煩わせてるんだろうなぁ…トンファー君といい不良少年といい、並盛中の教師を同情するわ。

いや俺もこの問題児達の相手してる時点で同情してもらいたい、切実に。

お前たちちゃんと2年生になっても勉強頑張れよー

三人が出て行った後、夕方になってたから居酒屋に替える。

すると久々に包帯君が来てくれた。

おー!ひっさびさに見るねえ。

何か機嫌よくない?え?例の極悪犯捕まえられた?良かったじゃん。

うんうん、じゃあ俺からの祝いだ、飲め飲め。

にしてもお前果実酒本当に好きだね。

え?俺のだから?嬉しいこと言ってくれるねぇ。

おおう、飲んだら酔ってまた愚痴り出した。

ええ?また犠牲者?どっかの殺人犯追ってるのかな?

あ、チャッカマン?まだ探してたのか!

仮面付けてくる人なんて俺の店にはいないよ、うん。

ぶっ殺したいとか言ってるけど物騒だなぁ。

にしても包帯ボロボロだ、また買ってあげよう。

水飲ませて酔いが醒めたらしく帰っていったけど、大丈夫かね。

日本の包帯は質が良いし、今度渡そう。

そういえば二代目ナッポー君来ないな…あの少女も来ないし何かあったかな

あー……何にもないし少し時間飛ばすか。

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

現在フランスにいます。

っというのは、最近ベルモットが人気で俺の店で扱ってる量が底を尽きそうだったからだ。

甘味果実酒のベルモットの材料である香草やスパイスはまだストックがあるからいいんだが、ニガヨモギという多年草が足りなかったので原産地であるヨーロッパへ行くことにした。

イタリアでも良かったんだが、何故かよくイタリアで飛ぼうとするとフランスに着くからそのままフランスで収穫することに。

収穫にベストな時期だったので良かった。

崖を登ったところの滝が近くにある畑へ行ってみた。

人気がないので盗み放題だと思い、こっそりと収穫する。

まぁある程度取れたので、帰り際に滝見て帰ろうとした。

おや?子供がいる。

小さな7歳くらいの黄緑の髪色をした男の子が滝で遊んでた。

暇潰しで遊んでいるようなので、少し付き合うことに。

水の掛け合いとかそんなんでいいかな…

っと思ってたらいきなりぶどうやら犬やら出してきた。

うぉぉぉぉぉお、こいつもマジック出来やがる。

俺も出来んだぞ!っと自慢すると凄い勢いで喰いついてきた。

取り合えず鼻炎の赤ちゃんから習ったことそのまま教えてみた。

泊まっていってと言われたけどすまん、フランスに長居するつもりないんだ。

おばあさんと二人暮らしのようだったので、夕飯だけ作ってあげてそのまま帰る。

結構引き留められたけど、ちゃんと説得して納得してもらった。

駄々こねそうなので、何かプレゼントしようとマジックでてきとーに被り物を作ってあげた。

おおう、間違えた。

何か凄くでかいリンゴの被り物出来てしまった。

捨てようと思ったけど、少年はいたく気に入ってるご様子だったからそのままあげた。

リンゴの被り物に満足したようだ。

また会いましょーと気の抜けた声が背後から聞こえた瞬間俺は飛んでしまった。

あわわ、炎見られたかもしれない、やっべー。

今更戻るわけにもいかないし、そのまま飛ばされた場所を確認する。

日本にちゃんと戻れたようだ。

さて店に帰るか。

開店したと同時に、学ランの中学生が入って来た。

茶髪で眼鏡をかけていて、如何にも気が弱そうな少年だった。

確かこの眼鏡君以前にも俺の店に来たことがあるような…

ああ、そういえばギターの練習が上手くいかないって愚痴ってた子か!

ミュージシャンになりたいって言ってたから頑張れ!って応援してあげたけど、あれから頑張ってるのかな?

なにやら真剣そうな顔してるけど、何があったし。

取り合えずカウンターに座らせて、注文を聞く。

ソフトドリンクを持ってくると、眼鏡君は俺に質問してきた。

未来が分かったらどうするかって、ええ?

今頃の中学生の悩みは分かんねーなぁ。

未来が分かったってどうにもなんねーのに。

んと、なになに?ふむふむ

10年後の世界ではとある人物のスパイをしてて?このままじゃ世界は破滅に向かうと。

そんな未来の自分から手紙を託されて、手紙に書かれている助っ人を未来に飛ばしてほしいと頼まれた。

ふーん、創作小説かな?

とある人ってのは世界を征服しようと企んでるらしい、と…ほうほう。

世界征服ねぇ、そんな世界は弱くないと思うけどなー。

でもまぁやってみたらいいんじゃないかなぁ…。

やらないよかマシでしょ。

まぁ小説の内容にここまで入り込んでる時点で現実を思い出させてあげなきゃダメなのかな?

決心がついたとかなんとかでお金払ってそのまま店を出て行ったけど、大丈夫かな…

ていうかミュージシャンどうしたの?

数日経つと、不良少年が弁当を作ってくれと頼みに来た。

何故に。

どうやら自分の力不足を嘆いて、修行で山籠もりするらしい。

山籠もり……中学生が、山籠もり…ふむ。

俺もたまに炎の修行で山籠もりするし、最近じゃそれが主流なのかな?

お金さえ払ってくれればいいよーと言えば感謝された。

頑張れよ!不良少年!

何か不良少年が出ていくのとすれ違いで金髪のお兄さんが入って来た。

入店すると同時にこけたんだけど大丈夫かな?

手を貸して立たせてあげる際顔がよく見えたんだけどイケメンだった。

しかも昔の友人並みの。

イケメンは取り合えず酒を注文し出したので、注文通り注いでいく。

会話を進めていくと、どうやら俺に用事?というかまぁ聞きたいことがあったらしい。

トンファー君のことで、と言われた瞬間頭が痛くなった。

また何かしたのかなーと思い聞いてみると、どうやらトンファー君の師匠…というか家庭教師を務めるらしい。

ってことはトンファー君よりも強いのかな?っていうか何で家庭教師?

ッハ、俺との約束守るために高校受験に向けて勉強し出したとか!?

違うようだ、辛い。

どうやら鍛えるみたいだ。

あいつあれでも強いのにこれ以上強くしてもどうしようもないでしょ。

つーか強くしたらいつも殴られてるリーゼントの友達君が可哀そうだ。

ん?なになに?今度決闘があるからそれに向けて強くするって?

中学生の決闘…あの子不良だから有り得るなぁ

あ!だから不良少年も修行しに山籠もりしてんのか!

うへー…日本って安全な国じゃなかったのかよー…

ああ、ごめん、で…ふむふむ、トンファー君の家庭教師をする際に俺のことを聞いたと。

トンファー君が俺のことを認めているらしい。

俺の何を認めてるのかわからんけど、嬉しい…のかな?

それでトンファー君をどうやって懐柔したかって?

えーと…ええ?ていうかあいつ懐いてるのか?わっかんねー

だってお説教と拳骨した記憶しかない。

イケメン君顔引き攣ってるけどどうしたの?

あー…でもそうだなぁ、やっぱハンバーグじゃないかな?

そう、和風ハンバーグ。

あいつ大好きだよね、よく食べに来るし。

やっと糸口が掴めたぜ!とか言ってるけど、大丈夫かな?

店から出る時も転んでたけど心配だ。

また来るぜー!と言って度々転びながらどこかに消えて行ってしまったイケメン君。

あれ絶対トンファー君より弱いだろ、ぶっ飛ばされる未来しか思い浮かばない…

にしても決闘かぁ

今頃の子供ってどんな喧嘩してんだろう…

今度覗き見てみようかな。

ああ、いらっしゃーい、空いてる席ならどこでもいいですよー

トンファー君が全うな子になるのを祈るか。

 

 

 

 




少女:凪
少年:フラン(小)
残念なイケメン:ディーノ
眼鏡君:入江正一



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの心象

エミーリオは思われる。

霧の少女に

未来へ渡る少年に

跳ね馬の青年に


凪side

 

理由もなく生きていた毎日だった。

お母さんは女優の仕事が忙しくてほぼ顔を合わせなかったし、お父さんは声を掛けられたことすらない。

まるでそこに私がいないかのように。

窮屈で息苦しい毎日に、何の為に生きてるんだろうとずっと自問自答していた。

でも答えは分からなくて、誰にも必要とされない自分にまた悲しくなった。

私は要らない子……お母さんも望んで私を産んだんじゃないハズ…

だって私を見る目がとても冷たいから。

学校の同級生に相談できる内容でもないし、自分の思いを伝えられる勇気もないからずっと耐えてきた。

でも年を重ねるごとに重くなっていく心が痛くて仕様がなかった。

家に帰りたくなくて街を放浪していると、隣町に来てしまったと後から気付いた。

ぼーっとしながら歩いてたから帰り道も分からなくて、ただ歩いてた。

カランコロン、と綺麗な音が鳴るので足ばかり見ていた顔を上げる。

少し先の方に男の人が店の扉にオープンの看板を下げるのが見えた。

男の人が中に入ってくるのにつられて私もその店の扉を押してしまった。

無意識に入ってしまって、どうしようと困惑してたら店主さんがこちらに向かってきた。

 

「いらっしゃい、カウンターでいいですか?」

「あ、は、はい」

 

笑顔で声を掛けてくる店主さんに押されてはいと言ってしまったけど、どうしよう私何も持ってない。

私が座ると店主さんは中に入っていって、ココアを片手に出てきた。

 

「え、あの…ごめんなさい、私お金持ってないんですっ…だから、か、帰ります」

「え?ああ、別にいいよ、ココアくらい飲んできなよ」

「え?ぇ…」

「どうせ入れちゃったし、飲まずに帰られるとそれこそ勿体ないだろ?」

「は、はい…」

 

店主さんに押し切られた私は椅子に座り直してココアに口をつける。

あったかい…

あったかいものを口にしたのはいつぶりだろう。

帰ってきてもご飯がないことが多いし、あっても冷めてたから久々の温かいものにほっとする。

 

「なんか悩んでる様子だったけど、どうしたんだい?」

「え…」

「悲しそうな顔して店に入って来たんだ、少し気になってね」

 

無理にとは言わないけどね、と優しく掛けてくれた声に口が開いた。

母親と父親が私に無関心であることを。

自分の生きる意味が分からないことも。

誰にも必要とされない自分に価値なんてきっとないんだ。

 

「今までよく一人で耐えてきたね」

 

背中に伝わる温かい感触が溜まってた涙を揺さぶった。

 

「本当に頑張ったね」

 

もう限界だった。

何の施しようもなく傷ついていく心の悲鳴にこれ以上耐えられなかった。

渡されたタオルで顔を隠して、必死に言葉を絞り出していた。

声が喉につまるのに、心が吐き出したいと言うことを聞かなかった。

苦しい 辛い 嫌だ 悲しい 疲れた 

もう無視しないで

私はここにいるの

どうして私を産んだの?

ねぇ聞いてよ

私は何で生きてるの?

どうして どうして どうして どうして

誰か 誰か 誰か 誰か 誰か 誰か

誰か助けて

初めて喉を通った悲鳴を

窒息しそうなくらい苦しかった毎日に壊れかけた心がようやく叫んだ悲鳴を

悲鳴を 私の悲鳴を

誰か――――――…

 

「大丈夫」

 

気が付くと時計の針は12時を刻んでいて、一時間もいたのだと分かった。

どうしてお客さんが来ないんだろうと思っていると、扉の方にクローズの看板が下げられていた。

店主さんの方を見ると、私が漸く顔を上げたことに気付くと微笑みを浮かべた。

 

「ココア冷めちゃったね…入れ直してくるから待っててね」

 

遠慮の二文字が出てきたけど、私が口を開く前に店主さんはキッチンに行ってしまう。

タオルを顔から外すと、息をするたびに突っかかっていた胸の重たさが無くなっていた。

少しするとココアを持ってきてくれた店主さんにお礼を言ってココアに口を付けた。

 

「あのね…君は重く考えすぎだ」

「だから肩の力を抜いて、一旦視野を広げてみよう」

「そうすれば、生きる理由なんてこれからいくらでも見つけられる」

 

「視野を広げる…?」

「そう、君が暇な時でいいからこの店においで」

「ぇ…」

「何を生きる糧にしているかは人間の数だけある。この店には色んな人が来るからね、まずは誰かと交流すれば自ずと見つかるはずだ」

「いい…の?」

「ああ勿論、時間さえあれば料理の仕方も教えてあげるよ」

 

初めて誰かとちゃんと目を合わせて会話したかもしれない。

 

「生きる理由も、必要としてくれる人もこれから見つけて行けばいいんだ」

「まだ諦めるな」

 

力強い言葉だった。

ゆっくりとした温かい言葉だった。

こんな私でも必要と言ってくれる人がいるのなら…

会ってみたい。

 

「ま、正直君みたいな可愛い子が店にいるだけで看板娘になるから俺としてはすっごい嬉しいんだけどね!」

「か、可愛い…?」

「料理覚えたら絶対にモテるぞ君」

「え、っと…」

「大丈夫、君を必要としてくれる人は絶対にいる」

 

恥ずかしくなってきた。

 

「あの、えっと…また、来ていいですか?」

「ああ、勿論、沢山おいでおいで、待ってるよ」

 

これ以上私のせいで店を閉めるわけにもいかないから、帰ることにした。

 

「また、来ます」

「ああ」

 

店を出る足取りは軽くて、頬にあたる風が気持ちよかった。

 

「あ、名前……」

 

あの人の名前を聞くのを忘れてた。

でもまた今度聞けばいいかな…

 

 

店を出た帰りに私は交通事故にあった。

右目と内臓を失った。

両親は私を見捨てた。

私はただ茫然としていた。

漠然と近づいてくる死にどこか安堵する自分がいて、でもどこか後悔する自分もいた。

意識が薄れていく中、思い出すのは店主さんのことばかりだった。

温かいココアと背中を摩ってくれる手と、ゆっくりと諭す声が頭を過ぎる。

目の奥が熱くなる。

 

❝生きる理由も、必要としてくれる人もこれから見つけて行けばいいんだ❞

 

まだ、私は見つけていない…何も…

嫌だ…そんなの…嫌だ……

 

❝まだ諦めるな❞

 

死にたくない――――――――――…

 

 

「クフフ、凪」

 

気付けばそこは草原のような所だった。

 

「こっちです」

「え?」

 

振り返るとそこには同じ年頃の男の人がいた。

 

「あなたは誰…?どうして私の名前…」

「凪…僕にはあなたが必要です」

「え―――…」

「どうか、僕にその身を――――」

 

私は彼の手のひらに自身の手を伸ばした。

私はこれからどうなるのかな……

触れた手の平に温度はなく、何かが私の中に入っていく感覚に襲われた。

融ける――――――――

 

「怖がる必要はない」

 

段々と体の感覚がなくなる。

何かが私の中に浸透する。

 

「私はあなたであり、あなたは私であり…必要不可欠な存在だ…覚えておきなさい、私の名前を――――…」

 

❝大丈夫、君を必要としてくれる人は絶対にいる❞

 

「六道骸という名を―――――」

 

むく……ろ……様…

私の……希望………

 

見つけた……私の生きる理由―――――…

 

 

そして、私はクローム髑髏となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

入江正一side

 

机の上に置かれた手紙に僕は悩んでいた。

手紙の主は未来の僕で、今の僕宛に書いたものだった。

未来はどうやら殆ど白蘭という人物によって滅ぼされているらしいこと。

僕のいる世界が唯一まだ無事なこと。

だけどこのままではどのみちこの世界も白蘭という人物の手に落ちるだろうこと。

だから、これからいう人達を同封してある装置をぶつけて、過去に飛ばしてほしいこと。

その人たちは未来を救える唯一の存在なのだと。

僕は悩んだ。

元々人見知りの僕がこんなこと出来るわけ……

それもリストの中には並盛の支配者である雲雀恭弥の名前がある。

無理だ…僕に出来るわけがない。

それにこれが嘘だったとしたら僕は彼に殺される!

出来っこない、でもこの手紙が本当で、未来で世界が白蘭って人の手に落ちたらどうしよう…

僕はただ迷っていて、少し前に相談してもらった店に行くことにした。

でも相談に乗ってくれるのだろうか?

少し前はミュージシャンになる為の相談だったけど、今回は規模が違う。

それに未来の話だなんて、笑われて終わりだ。

でも、一人で抱え込むには大きすぎた。

学校のない休日に、開店直後に店に入ると、エミーリオさんが僕に気付いた。

 

「いらっしゃい、君確かこの前ミュージシャンの話してた子だよね」

「あ、はい…この前はありがとうございます」

「いえいえ、んじゃこっちの席でいいかい?」

「はい……」

 

他の客が来る前に相談したかったので、飲み物を頼んで直ぐに本題に入った。

 

「エミーリオさん」

「ん?」

「もし…未来が分かってしまったらどうしますか?」

「は?………み、未来?」

「はい」

 

僕はエミーリオさんに手紙のことをそのまま伝えた。

ただの妄想や夢だと思われてもよかった。

でも心のどこかでエミーリオさんは真剣に聞いてくれると何故か思ったんだ。

 

「それで過去に飛ばさないといけない人の中に怖い人がいるのか…」

「僕……怖くて…」

「なるほど」

「でも手紙が本当ならこのままじゃ未来は……」

「正一君はどうしたいの?」

「そりゃ何とかしなきゃって思うじゃんないですかっ」

「ならやってみれば?」

「でも、」

「未来の話…君が何もしなきゃ世界はそのまま破滅に向かうんでしょ?」

「はい…」

「それ知ってるの君だけなんでしょ?」

「……はい」

「じゃあ君だけにしか出来ないってことだろ」

 

真剣に僕に向かって言い放つエミーリオさんの言葉はすんなりと僕の中に入って来た。

僕にしか出来ない――――…

 

「それに、やらないよりはマシじゃない?だって運が良けりゃ君は世界を救ったヒーローになれるんだから」

「ヒー…ロー…?こんな僕が?」

「そう、ヒーロー。君がその世界征服を狙ってる悪者を実際倒しにいくわけじゃないけど、君がいないと世界がそいつの手に落ちるってんなら、君は重要なピースの一部ってことなんだろ」

「重要な……」

「今君が勇気をもって行動すれば、それで世界が救えるかもしれないんだろ?それで世界が救えたら君はヒーローじゃないか」

 

僕が動かなきゃ…でもそれで世界が救えなかったら?

反逆者として殺されるの?

確か未来の僕は白蘭って人のスパイをしてるんでしょ?

 

「逃げてもいいと思うよ」

「え…」

「別に、それが君の悩んだ末の答えならそれでいいと思う」

「……逃げ…」

「だけど悩んだからには後悔しちゃダメだよ」

 

エミーリオさんはただただ真顔で僕の顔を見て言い放つ。

 

「後悔ほど…悲しいものはないからね」

 

僕は手に持っていた飲み物を全部飲み干すと、財布から千円札を取り出してエミーリオさんに渡す。

 

「え?あ、待っておつり出すから」

「要りません」

「え?」

「相談に乗ってくれてありがとうございます!僕……決めました!」

 

それだけ言って僕は店を飛び出した。

やってやる…!僕にしか出来ないんだっ……やってやる!

家に帰った僕は机の上の手紙をもう一度読み直した。

 

 

 

 

「ふぅ…今頃、過去の僕は手紙を読んだかな…」

 

デスクに突っ伏した僕はこれからのことを考えていた。

多分過去の僕なら一か月くらい時間与えないと、パニックで塞ぎ籠るかもしれないから早めに過去に送ってみたけど…心配だな。

それに白蘭さんの目を欺いて過去の自分と連絡を取るのは、もうやめた方がいいな。

これ以上は危険すぎる。

 

「あ、白蘭さんに用事あったんだった…あー…疲れたけど行かなきゃ…」

 

僕は重たい足を引き摺って、白蘭さんのいる場所へ向かう。

自動ドアが開き、マシュマロの甘ったるい匂いが鼻につく。

 

「あれ~?正ちゃんどうしたの?」

「少し話しておきたいことが……ってマシュマロじゃないって珍しいですね」

 

ソファに座っていた白蘭さんが食べていたのは平ぺったい白いクッキーのようなものだった。

 

「これはマシュマロクッキーだよ、とっても甘いんだ」

「へぇ…こんなのも売ってあるんですね」

「何言ってるの?僕が作ったに決まってるじゃないか」

「え⁉白蘭さんが料理!?」

「ま、僕が出来るのはこれだけだけどね~」

「い、意外ですね…」

「でしょ、僕がマシュマロ好きになったのはこれを食べたからなんだ」

「これを?」

「そう、まだ僕が小さかった頃にね、作ってくれたんだ」

「親がですか?」

「違うよ」

「?…友達ですか?」

「んー…友達って言葉じゃ表現出来ないなぁ……そんな陳腐な言葉で表現できるような人じゃなかったからね」

「え?白蘭さんにそんな人がいたんですね」

「うん、今も尚探し続けてる人なんだ………僕の大切な…大切な人」

「……行方不明なんですか?」

「中々見つからなくてね、困っちゃうよ」

「どんな人だったんです?僕も探すの手伝いましょうか?」

「要らない」

「え…」

 

一瞬凍えてしまうほどの冷気が僕を襲う。

息を忘れそうになるような冷たい殺気に言葉を失う。

白蘭さんは一瞬だけ真顔になったあと、普段の笑みを作り僕に告げた。

 

「やっぱり僕が自分で見つけたいから、手伝いは要らないかな~」

「そ……そう、ですか」

「うん、ありがとね、それとこの話は他言無用ね」

「は、はい…」

「じゃあ本来の要件を聞こうか」

 

それから何を喋ったのかあまり覚えてない。

でも一つだけ分かることがある。

白蘭さんはその探している人物に対して異常な執着心を持っている。

何だろう……その人が重要な何かを握っているような気がする。

 

「白蘭さんの……大切な人……」

 

でも…あの時の白蘭さん……なんだか寂しそうな顔をしてたような気がした―――――…

 

 

 

 

 

 

 

 

ディーノside

 

リボーンに頼まれてヴァリアーとのリング争奪戦に向けて恭弥の家庭教師をするために日本へきた。

恭弥はリボーンの言う通り手の負えない凶暴な生徒で、平和な日本でこれだけの力を身に付けたのは純粋に褒めるべきものだった。

俺と何回か打ち合うも、恭弥は一向に心を開く様子はない。

 

「なぁ恭弥…お前いつになったら俺のこと名前で呼んでくれんだよ」

「あなたを名前で呼ぶ気はないよ」

「えー、俺お前に認められるほどの実力はあるつもりだぜ」

「ふん、僕が認める人なんてエミーリオだけで十分だよ」

「エミーリオ?誰だそれ」

「何であなたに言わなきゃいけないの、これ以上聞けば咬み殺すよ」

「どのみちこれから修行するんだし少しくらい生徒とお喋りしてもいいだろー」

「君の生徒になったつもりはないよ」

 

その後いつも通り恭弥と数時間やり合って、体力が尽きて切り上げた。

だがその後恭弥の口から出てきたエミーリオという人物が気になってリボーンに聞いてみた。

 

「なぁリボーン」

「なんだ?」

「エミーリオって知ってるか?」

「ああ、あいつか…」

「知ってんのか?」

「ああ、あいつは強ぇぞ」

「お前が言うほどかよ」

「俺の殺気に動じない精神と、何よりも雲雀を余裕で鎮圧出来る実力を持っている」

「え⁉恭弥を!?」

「ああ、結構前に雲雀がそいつの営んでいる店の中で大暴れした際に殴って気絶させたからな」

「嘘だろ……あの恭弥を…」

「お前も会ってみろ」

「お、おお」

 

リボーンに言われるがままに俺はエミーリオって奴の店を訪れた。

中には数名の客がいて、談笑していた。

 

「いらっしゃーい」

「あ、一名で」

 

その後を言おうとする前に、つまずいて思い切り転ぶ。

 

「大丈夫ですか?」

「あいてて、ハハハ何だか今日はやたら転ぶぜ」

「気を付けてくださいね」

「悪ぃ」

 

初対面での印象は思っていたよりも若いだな。

リボーンの調べじゃ少なくとも8年前にはもう開いていたって聞いてるから、大体30くらいだろ?

どう見ても20前後にしか見えない。

まぁそれよりも、こいつの内面の方が気になるな。

 

「何飲みますか?この時間からだと酒とつまみしかないですよ」

「ああ、じゃあオススメの酒で」

「了解です」

 

数分後に出てきたのはベルモットだった。

一口飲んで、今まで飲んできたベルモットって何だったんだろうって思った。

美味い、純粋に美味かった。

何だこれ…………何だこれ。

飲んでる間に我に返り、エミーリオに話しかける。

 

「そういえばあんたエミーリオってんだろ?」

「え?ああ、口コミで来たんですか?」

「敬語は要らねぇよ、恭弥からあんたのこと聞いて興味があってな。俺はディーノってんだ」

「ああ……また恭弥が何かしたのか?」

「え?い、いや…俺は今あいつの家庭教師やってんだ」

「家庭教師?」

 

何か恭弥のことを問題児として見てるらしいけど、雰囲気はまるっきり保護者みたいだな。

 

「まさか、高校受験に向けて…」

「い、いや…あいつを強くするためにもっぱら修行でやりあってるだけなんだ」

「あ、そっち……」

 

凄く落ち込んでるエミーリオの姿は俺の予想してたものとはかけ離れていて意外だった。

恭弥に認められているくらいだからもっと逞しい奴かと思ってたんだが。

 

「今度とある組織との決闘があるからそれに向けての修行なんだが、恭弥の身勝手さには骨が折れるよ」

「決闘……ああ、なるほど…まぁ恭弥相手に苦労すると思うけど、ついでに性格も矯正してくれると助かる」

「無理だろ…ていうかあいつをどうやって懐かせたんだ?あんたのことすげー認めてるっぽかったけど」

「えええ?恭弥が俺を?何で…?」

「何でって…あんたいつも恭弥に何してんだ?」

「えっと…主に説教と拳骨だな、この前も中学にずっと在学するって言いだしたから説教してどうにか来年は高校に入ってもらうように約束したし」

「はぁ!?」

「俺あいつの親じゃないんだけどなぁ…何やってんだろ」

「ハハ…」

 

マジかよ!あの恭弥に要求を飲ませるだと!?

それに拳骨って…俺でさえ武器持ってないと勝てないってのに…化け物かよ

でも要求した内容じゃとてもまともな人間に見えるんだが何でリボーンはこいつを警戒してんだ?

分かんねーな、素直に良い奴だと思うけどな。

 

「あ」

「ん?」

「もしかして、ハンバーグじゃないか?恭弥、和風ハンバーグ大好きだぞ」

「ハ、ハンバーグ?」

「おう、よく俺の店に来て食べるからな…あと和菓子とか」

「な、なるほど…もので釣れるのか?あいつ…」

「さぁ…少なくとも俺はいつもハンバーグランチを所望される」

「へぇ、これでようやく糸口が掴めたぜ」

 

ベルモットを飲み干して、勘定した俺は店を出た。

 

「また来るぜー!」

 

別に怪しむべきところはないと……いや恭弥より強い時点で警戒する対象なのか?

俺は別に何とも思わないんだけどな。

エミーリオの酒は美味いし、またリング争奪戦が終わったら寄ろうかな。

翌日、俺は恭弥と再び修行していた。

そして昼時になって一流シェフに頼んで作ってもらったハンバーグを恭弥に手渡した。

これで少しは好感度が上がってくれるかな、と思ったが何故か恭弥が凄く機嫌悪くなった。

 

「なにこれ」

「え、ハンバーグ…お前好きって聞いて…」

「誰に?」

「エ、エミーリオ…」

「彼の店にいったわけ?」

「おう、恭弥はハンバーグが好物だって教えてくれたんだが」

「嫌いだよ」

「え?」

「僕、ハンバーグなんて嫌いだよ、今度持ってきたら咬み殺す」

 

凄く機嫌を悪くしながらどこかに行ってしまった恭弥に俺は唖然とする。

 

「ロ、ロマーリオ…」

「何だボス」

「恭弥って俺のこと嫌いなのかな…」

「いや、まぁ嫌っているが…多分今回のは違うと思うぞ」

「え?」

「自分で考えてくれやボス」

「えええ?」

 

恭弥はハンバーグが嫌いで、でもエミーリオはよく恭弥がハンバーグ食べにくるって……

 

「あ」

 

あー……なるほど………これは……

恭弥に実力を認められたのは単に力だけじゃないってことか。

 

こりゃ予想以上に手強いなぁ

 

 

 

 

 

 

 




・クロームの骸への依存度が原作より2割減。
・白蘭のSAN値測定中…
・マシュマロクッキー、君に罪はない
・ディーノがどう足掻いてもエミーリオ以上に認められることはない

エミーリオの理解者が欲しいけど、全く思いつかないねwwww



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの再会

エミーリオは再び出会う。


やっほー、俺はエミーリオ。

さっき金髪の青年が店に入って来た。

学校はどうしたんだろうと思ったけど、外国から旅行?で来たみたい。

前髪長すぎて目が覆われてるけど、これちゃんと前見えるのかな。

あと頭にティアラみたいなの付けてるけどファッションかな?

どうやらイタリアから来たようだ。

酒ないの?って言われたから身分確認した。

本当は昼から居酒屋はやってないけど、折角イタリアから来てもらったし、一番奥の席でならと酒を出すことに。

オススメって言うからジンをベースにしたオレンジ・ブロッサムを作って出してみた。

ふふふ、聞いて驚け、俺の店で扱っているジンはなんと…俺がわざわざ原料から作り上げたものなんだ!

大麦・ライ麦・ジャガイモ・トウモロコシを日本ではなくイタリアの方で収穫して、そのまま知り合いの所で蒸留作業する。

ここから草や根、実で香りをつけていく作業であるスピーティングは全て俺の自己流だ。

まぁこんなこと言っても知ってる人あんまいないから、もう自慢はしてないけどな。

その努力の結晶であるジンをベースにしたオレンジ・ブロッサム…オレンジの方はアメリカから輸入したネーブルオレンジを使用してる。

その青年がカクテルを口に含んだ瞬間、唖然とした表情に俺はいつみてもこの反応は嬉しいなぁと思った。

凄い勢いでカクテルを飲み干しちゃったけど、大丈夫かね…

え?君の使用人に?

違う?君の仕事場の使用人にしたい?

ああ、ゴメンネ、そういうのお断りなんだ。

凄く拗ねてるけどそんなへそ曲げないでよ、ほらもう一杯飲んで機嫌直して。

また別のカクテル与えたらそれをぐびぐび飲んでいく青年。

自分のこと王子って言いだしたけど、痛い子かな?

本当に貴族だったら申し訳ないけど。

なんかおつまみのメニュー欄覗き込んで、全部って言いだした。

これ全部食べる?絶対無理。

なので仕方なく食べれる分だけ作ることに。

料金はその分だけ請求すればいいし。

サーモンとアボガトのサラダやツナとトマトのクレープを作って出す。

凄く喜んでる…ていうか、頭の周りに花が散ってる気もする。

んー…ここまで露骨に喜ばれると、凄く、嬉しいです。

他のつまみも次々と出していくと、あれよあれよと夜に。

他のお客さんもいる中、その青年は昼からずっと飲んでるせいで今じゃベロンベロンである。

二日酔いなると可哀そうなので、薬をつまみと一緒に出す。

何の抵抗もなく飲むくらいには酔っぱらっていたとだけ言っておこう。

いきなり眠り出すもんだから仕方なく、厨房の横にある俺の部屋のベッドで寝かせる。

寝かせた後はまだ店に来る客を相手にする。

深夜2時頃に漸くお客さんが全員帰り、店仕舞いをしようとした時に部屋の方から物音がした。

バタバタと音がすると、勢いよく扉が開いて青年は焦ったように今何時って聞いてきた。

正直に時計を指差して2時って答えたらうわーって焦った顔されたけど大丈夫かな?

門限でもあるの?

あ、二日酔い大丈夫?なんともない?

なんか不貞腐れてまた飲み始めようとしてたけど、やんわり止めて帰らせた。

翌日また来た。

でも今夜大事な用事あるからって言ってアルコール度数の低いものを飲んでた。

おつまみを大層気に入った王子君は、何度も俺の職場の専属シェフならない?って言ってくる。

だからならないって。

もう専属シェフなんぞこりごりだ。

でも王子君が俺を強制的に連れて行くって言いだした。

この店買い取る気か。

どんだけ積まれても売らねーぞ。

いやだから…あのね……

ナイフ出して脅したって俺にとっちゃそれまち針みたいなもんだからね。

世界にはトンファーや銃口を向けてくる奴いるからね?

そんなごねられても…

いつまで日本に滞在するの?ん?一週間くらい?

なら一週間だけならいいよ。うん。

勿論日本にいる間だけね。

最近近場で謎の爆発事件あったせいで、テロとか噂されて来客数減ってるし。

なんとか納得してもらった後、夜までちょくちょく話し相手になってあげた。

夜の10時半頃に店を出て行った。

翌日も来た。

それも至る所に包帯と松葉杖をしてだ。

ビックリした。

門限破って親に怒られたのかな?

いやこれ怒られたってレベルじゃねぇよ絶対に。

事故にあったのかな…

まぁ本人は機嫌良さそうだからいいけどさ…でもけが人に酒はダメだと思う。

のでノンアルコールを出した。

ぶーぶー言ってるけど、チーズリゾットを出すと静かになった。

病人に良さそうなもの作ってみたけど気に入ったみたいで良かった。

え?デザートまで?

あー…ケーキの残りがあったからそれ出すか。

決して余ってて処理が面倒だったわけじゃないからな。

ケーキもお気に召したらしい。

にしても怪我大丈夫かね…

って心配してた矢先、立ち上がる拍子に松場杖が滑ってテーブルに思い切り額ぶつけてるし。

あーあ…血が出てる。

額の怪我って小さい傷でも出血量が多いんだよなぁ。

でもこれ多分頭の傷口開いたな。

ポケットにあるハンカチをそのまま額に押し付ける。

あ?王子の血が何?おい暴れるな、止血出来ないだろ。

えーっと…取り合えず押さえつけとくか?

って、ん?急に静かになった。

情緒不安定かよ。

まぁいいや応急処置しとこ。

ちゃんと後で病院行って来いよと念を押すのも忘れない。

水飲ませて落ち着いたらそのまま途中まで送っていった。

次の日、不良少年が全身包帯塗れで俺の店に来た。

君何でそんな怪我負いながら俺の店来てんの!?

療養しろよアホ。

王子君といい君といい最近けが人多すぎない!?

溜息しか出ない、違う、溜息すら出ない。

なんだか店の入り口で立ったままなんだけど、座れば?

他の客もビックリしてるよ⁉

ととと取り合えず、これはアカン。

こんな奴普通に客席に案内したらそれこそ他のお客さんに迷惑だわ。

色んな意味で。

仕方ないので俺の部屋に案内する。

ちゃんとクローズの看板を掛ける。

既に中にいるお客さんには注文の品は出してるから、会計の時にカウンターの鈴を鳴らしてくれと頼んだ。

あわばばばば、それよか不良少年だ。

何でそんなふらふらの状態で来るのかな?

馬鹿なの?

部屋に入れてベッドに座らせた。

悪いね、俺の部屋は椅子とベッドが一つずつしかないんだよ。

これ病院から抜け出したパターンじゃないよね?

何だろう、物凄く落ち込んでるっていうか、我慢してる様子なんだが。

え?修行?負けた?

ああ、そういえば君この前まで修行してくるからって俺に弁当頼んでたよね。

決闘の為の修行だったけどその決闘に負けたと。

そんな傷負うまでやる決闘って…不良の間だと当たり前なのかな?

殴り合いで負けたから慰めろってのも可笑しい気がする。

でも多感な年頃だし無下にも出来ない。

頭撫でて次頑張れー的なこと言って放置した。

すっごい部屋の中から鼻を啜る音するんだけど、シーツに鼻水つけてないよね?

お客さんの追加注文がないか待機してると、10分ほどで客は皆食べ終わり勘定していった。

これ絶対気を遣われたね。

そろそろ泣き止んでるだろと思って部屋に戻ったらこいつ寝てやがるし何なのもう…

俺の店っていつから駆け込み寺になったんだろうと思うこの頃。

不良少年は深夜になる前に起こして帰した。

スッキリしてるから、多分愚痴りたかっただけかと思われ。

とっても意外だったが、不良少年が礼を言って来た。

ぐぬぬ、営業妨害だが許してやる。

次の日に、眼帯してる少女が来た。

二度見してしまった。

あれ?この子あれじゃね?この前の人生詰まってた子だよね?

あるぇ?なんか眼帯してる…髪がナッポーになってる…丈が短いスカート穿いてる…お腹が若干見えてる…

何だか間違った方向にはっちゃけてるんですがこれ如何に。

あ、でも態度とかそういうのは前と同じか。

これで中指立てられて金せびられたら本気で泣く自信しかなかった。

割と本気で。

俺の店出た後に事故にあったとかなんとか。

うっわ、じゃあその右目は失明したの?

可哀そうに。

あ、でもそれで少女を必要としてくれる人が見つかったとか何とか。

騙されちゃいないだろうなぁ…そんな奴いたらぶっ飛ばしたる。

あーでも、君が本気でその人が好きなら俺は何も言わないけどさ。

何かあったらちゃんと周りに頼りなよ?うん、俺のとこ来てもいいよ。

ココア飲む?

あ、名前教えてなかった。

漸く少女の名前教えてもらったけど、なんかもう一つの名前も教えてもらった。

そんな不良のような名前にしちゃって…とは思う。

あとその髪やめない?

ナッポー思い出すんだけど。

あの子が笑顔で帰っていったけど、ぶっちゃけ衝撃的過ぎた。

まぁ内面があまり変わってないことに心底安心した。

 

 

 

よぉ、俺はエミーリオ。

また王子君が来た。

専属シェフの話を本気にしてたのか、めちゃくちゃ要求してくるよこの青年。

ホテルの飯よりこっちがいい、って言いだして朝から来る始末。

鍵掛けてたはずなのに何故か中にいるという。

もう苦笑いするしかないよね。

ちゃんと給料払えよーって言ったら経費で落とすから大丈夫って言いだした。

ダメだろ普通に。

今日も夜の10時半に出るらしい。

これから何かあるのかな?

ん?ボス?えーと職場の上司のことかな…の対決があると。

対決って一体何するのさ…取引的な?

楽しいことになるとかなんとか…見に来い?いやダメじゃね?

俺無関係の人だし、店とかあるから出れないよ。

ぇー…我侭言わないでよ王子君。

んー…んー…ぶっちゃけめんどい。

上司に俺を紹介したい?

それ絶対に俺のこと雇う算段なんでしょ。

夜の11時に並盛中に来いと念を押されて言われたけど何で?

いや行かないよ⁉

普通に営業真っただ中だから!

え?そんな必要はない?いやお前が決めることじゃないからね?

いやそんな期待しながら帰らないで…って聞いてねぇ

王子君帰っちゃったけど、俺行かないからな。

と、思ってた時期が俺にもありました。

仮面被ってる男の人達が数名押しかけて来た。

客がいなかったから良かったけど、軽く悲鳴ものな気がする。

え?並盛中に連れてこいって命令された?

王子君に?嘘だろ、あいつ…

このままいられても困るし、行って直ぐ見て帰ろう。

二秒ぐらい見て帰ろう。

服を着替えて、男たちの後をついて行く。

正直並盛中学校なんて俺の店から目と鼻の先だ。

もうすぐ着くと言う頃に、いきなり何か降って来た。

なにあれ。

もう一度言う、なにあれ。

右頬に傷のある眼つき悪い男が鉄球振り回してきてんだけど。

最近の不良ってあんな感じなの?

あれもろに当たったら痛いヤツですよね⁉

周りにいた奴等が次々と飛ばされていくんだけど、これ警察に通報した方がいいよね。

ってなわけで通報します。

あ…

鉄球男の投げた鉄球が携帯に当たってぶっ壊れた。

これ包帯君からの貰い物なんですけど。

ちょっと弁償して貰いたいのでその鉄球仕舞ってくれない?

割と怒ってるのよ?俺。

拳骨と蹴りお見舞いした。

若干強めに蹴ったので数m飛ばされていったけどあんな大きな鉄球振り回すんだし体も頑丈だろ。

おいおい、仮面の男たちも全員伸びてるじゃねぇか。

でも誰も重症らしい奴いないし、救急車呼ぶ程じゃねぇな。

そこら辺に並べて放置しておこう。

これ帰っていいかな…店…

帰って店開けたけど、明日絶対に王子君怒ってそう。

朝になってやっぱり来た王子君。

ん?あまり何も言われない、っていうか意気消沈してるみたい…何があったんだよ。

それよりも上司が入院したから飯作れと?

え?怪我で入院?肉沢山?

いいけど、金払えよ。

待ってろ今作るから、は?先行っとく?

いやいや持って行ってくれないと困るんだけど。

俺が持って行けと?

お前それ絶対に上司に紹介する気満々じゃん!

って人の話聞けよぉぉぉぉお。

マジで帰りやがった。

しかもちゃんと病院名と病室の番号書いた紙置いていきやがって。

くそー…ちゃんと金払っていきやがったし………後で拳骨喰らわしてやる。

今、冷蔵庫にラム肉と…フィレ…くらいだな。他は店で使うし。

肉ばっかじゃダメだから野菜も入れねば。

作ったはいいけど、どうやって会えばいいんだ?

出前のフリっていうか、出前だよねコレ。

んで病室前なう。

開けようとしたら後ろから声が掛けられた。

あ、王子君、丁度良かった。

はいこれ、じゃあ俺帰るわ、ていうか帰らせてくれ。

あああああ、紹介しなくていいからぁ!

無遠慮に上司の個室の扉開いちゃ失礼だろ!って………ん?

んんんんん?眉毛君じゃね?

え?上司……王子君の上司って眉毛君!?

あっちも驚いてるんですけど、でもって王子君も驚いてるんですけど、俺も驚いてるんですけど。

あ、眉毛君俺の名前覚えてたのね、若干嬉しい。

にしてもお前全然成長してないな、何で?

いや俺が言える立場じゃないけどね。

眉毛君が王子君外に出しちゃったけど、これ二人で何を話せと?

つかお前何で日本いるの?あと怪我したって聞いたけど大丈夫なの?

銃口を人に向ける癖は治ったかな…

ま、いいや、取り合えず飯作って来たから食え。

食べながら話せばいいし、お前ラム肉好きだったろ。

それでお前あの後何してたんだ?元気にやってたか?

何か辛気臭い顔してるけど、何かあったかのかな。

ん?血が繋がってなかった?

わー、やっぱそうだったんだ、似てなかったもんねお前ら。

んで親父殺そうと…ごめん何て?

え、血が繋がってないことを隠されてただけで殺したくなるほど嫌いになったの?

いやまぁお前ら親子って凄く距離間遠かったけどな。

へぇ…マジかー…

曰く、ちゃんと血の繋がった奴がいるからそいつを後継者にするつもりだった、と。

うわーそれはショックですな。

んーお前の怒りは分かる。

もう話し合えばいいんじゃないかな。

嫌だ?これは相当根に持ってらっしゃる。

眉毛君は結構長い間見てきたこともあって、凄く贔屓したくなる。

でも実力行使はどうかと思うけどな!

つい癖で頭撫でるけど、睨むだけで払いのけないあたり精神的にかなり参ってるのかな?

あ、おい野菜は食え。

毎日お前に言ってただろ!野菜食えって。

怪我人だから拳骨するわけにもいかないので、軽く頭を叩いた。

一応渋々野菜食べ始めたけど、あれからまた野菜食べなくなったとか言わねーよな。

何か複雑そうにしてるけど、食べる元気あったら大丈夫だな。

イタリアに帰る前に一度店に来いとだけ言って、病室を出た。

あー開店準備終わってねー。

子供の相談って酒飲ませて吐かせること出来ないから、面倒だったけど、眉毛君もう成人だからじゃんじゃん飲ませてやる。

あわよくば色恋沙汰聞き出してみよう。

何だか店の前で人だかりが…んんん?

野球少年やマグロ君、不良少年じゃないか。

え?打ち上げしたい?ここで?

いいけどあんまりはしゃぎすぎるなよー。

あ、黄色のおしゃぶりの赤ちゃんじゃん。

え、今度は青色のおしゃぶりの子まで連れてきたんだ。

まぁいいや、どーぞどーぞ入ってね、まだ準備前だけど。

あ、トンファー君も?

珍しい、誰かと一緒にいるなんて…え?俺の店に来ただけでこの集団とは偶然鉢合わせしただけ?

デスヨネー。

凄くわいわいやっててとても微笑ましいです。

にしても何だか昔こんな光景見たことあるような。

ああ、そうだ。

確かあれは150年くらい昔だよな。

友人やプロチナブロンドのお兄さんに神父やらが集まってよく酒盛りしてたなー

ああ、懐かしいこと思い出したわ。

んでもってよく店の至る所壊してたな。

待って、おい不良少年その右手に持っている爆弾はなんだ。

トンファー君、どうしてトンファーを構えてるの⁉

おい誰か止めろってあああ、もう!

この後むちゃくちゃ拳骨した。

 

 

 

 




ナイフ:≒まち針
ランチア:とばっちりにあった被害者、携帯の弁償代を財布から抜き取られた


ヴァリアー編で進行を物凄く悩んでたので遅くなりました。
ぶっちゃけ大空戦で乱入させるのが難しすぎた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの信頼

エミーリオは思われる。

爆破の嵐に

切り裂く嵐に


獄寺side

 

俺にとってエミーリオは嫌いな大人連中の中で、数少ない頼れる大人の一人だった。

年が近そうに見えるのもあってか砕けた口調で話せるから、リボーンさんよりも距離が近かった。

最初は警戒したが、あいつの作る料理の腕前に警戒するのをやめた。

姉貴の料理の酷さを知っている俺からしたら人の作る飯は恐怖しかなかったが、エミーリオの料理はそれすらも黙らせるほどの腕前だった。

ただ意地で突っぱねるような態度を取っていたけれど、エミーリオが気にした様子はなかった。

俺は一人暮らしだったから、料理は作るか買うかだった。

だからスーパーやコンビニで弁当を買ったが、エミーリオの飯を食べた後じゃ不味く感じるようになった。

それからエミーリオの店に夕飯を食べに行くことがぐんと増えた。

エミーリオも独り暮らしだった俺の食生活を察してか、メニューにない料理も出すことがあった。

 

「おいこれメニューにあったか?」

「ああ、それはお前が栄養偏らないように作ったサラダだよ、余りもので作ったからメニューにはねぇぞ」

「そーかよ」

 

おい、あんた、てめぇでしか声を掛けなかったことにエミーリオから注意された。

いつもの俺ならば反抗的な態度を取っていたが、いつも作ってくれる飯の温かさに名前くらいならと、そのまま名前を呼び始めた。

決してあいつの拳骨が怖かったからじゃねぇ、絶対だ。

 

「なぁニョッキかポレンタが食いてえ」

「え?ポレンタ?あー、材料あったかなぁ…ニョッキは作れるぜ、客の邪魔にならねぇように隅っこの席座ってろ」

「あ、ああ…」

 

久々に食べたくなった母国の料理を口にすると、アッサリと作り出すエミーリオに少し間の抜けた声がでた。

懐かしい匂いと共に出てきた料理に少しだけ安堵した。

味も何もかも子供の頃食べたそれよりも美味しかった。

毎日10代目の護衛を務めることで張りつめていた警戒心が解かれていくようだった。

料理にそこまで頓着する性格ではなかったが、エミーリオの店に頻繁に来るのは心のどこかで安心を求めていたからなのかもしれない。

死んでもそれを奴には言わねぇが。

ヴァリアーが10代目の命を狙ってきた。

偽物のリングを持ち帰りイタリアに去っていったヴァリアーが再び日本に来るまでの間俺達は各自修行に励んだ。

俺はシャマルに頼んだがシャマルの野郎は首を横に振るだけだった。

俺は山籠もりで修行するつもりで、エミーリオに弁当を作って欲しいと言ってみると快く承諾してくれた。

 

「頑張れよ修行」

「…おう」

「焦ったって何にも身につかねーぞー」

 

シャマルに断られ続けることに焦っていた俺は、エミーリオの言葉で少し冷静になる。

漸くシャマルから技術を教わることが出来、俺はヴァリアーとの対決に向けてボムを開発し出した。

それからボンゴレリングを掛けて決闘が始まった。

嵐の守護者の対決の日が来て、俺は時間ギリギリまで技を完成させようとしていた。

そして開戦ギリギリで到着し、ヴァリアーの嵐の守護者であるベルフェゴールと対峙した。

 

 

 

「嵐のリングはベルフェゴールのものとなりましたので、勝者はベルフェゴールとなります」

 

チェルベッロの声が耳に届く。

結局俺は勝利を捨てて自身の命を優先した。

10代目の言葉に思い止まり、あの爆発から逃げた。

10代目は、重症ながらも意識のある俺に安堵していた。

 

「10代目、リング取られるってのに…花火見たさに戻ってきちまいました」

「獄寺君、良かった……本当に良かった…」

「俺負けたんですよ…」

 

10代目はただ安堵するばかりで、俺は複雑な思いで一杯だった。

次の日の雨のリングの対戦では、軋む体に鞭打って観戦しに行った。

野球バカの勝利に終わり、相手側は鮫に喰われて死んだ。

ヴァリアーの連中に仲間意識なんぞこれっぽっちもねぇことなんか分かっていたが、嫌悪感は募るばかりだった。

翌日になると、漸く誰の手も要らずに歩けるようになった。

シャマルにはまだ安静にしておけと言われたが、病室でずっと横になっていると俺は消化不良の感情にヤキモキしていた。

少しでも外に出て気持ちを切り替えようとした。

だけど中々切り替えられず、痛む体で並盛を歩いていた。

並盛中の近くを歩いていると、視界の端にエミーリオの店が入る。

どうせこのまま歩き続けても傷が悪化するだけだと思って中で休もうとした。

エミーリオのことだから金なくても居座るだけなら許してくれそうだしな。

軽い気持ちで入った俺にエミーリオは目を丸くして、そんなエミーリオに俺は今自分が包帯塗れであることに気付いた。

こっちこい、とエミーリオの言葉に反応して、俺はエミーリオの後ろをついて行った。

案内された場所はあいつの部屋だった。

そりゃそうか、こんな病人を客席に座らせられないよな…

ベッドの上に座らされたことで、漸く足の痛みから解放される。

 

「何かあったのか?」

「………」

 

エミーリオの言葉にどう言おうか迷ったけど、結局そのまま自分が負けてしまったことを話した。

 

「…俺は…自分の命惜しさに…負けたんだ…………」

「10代目は…良かった…って言ってたが………そんなハズねぇ…」

「リングが3つも取られた……後がもうねぇんだ……良かったハズがねぇ」

「今日…野球バカが勝ちやがって…初戦で芝生頭も勝ちやがるし…」

「唯一負けたアホ牛は戦力外だったんだ……俺が他よりも劣ってるってことじゃねぇか!」

「俺だけがフェアな戦いで負けちまった!実力で負けたんだっ」

「くそっ……何でだよ!くそ……」

「あんなに修行したのに……何でだよ……」

 

そんな時にふと頭に重さが加わった。

んな慰め必要ねぇと頭の上に乗っかった手を振り払おうとした。

 

「悔しいよな」

 

そう 悔しいんだ

この怒りの名を声に出されて改めて身に染みた。

悔しいんだっ……

10代目への申し訳なさもあった。

右腕の名に対する遣る瀬無さもあった。

野球バカや芝生頭に対する妬みが多からずもあった。

自分の力に対しての不甲斐なさもあった。

でも一番は悔しかった

ただ、ただ悔しかったんだ

 

「負けた奴には二つの可能性がある…」

「負けを次に活かして強くなる奴と、そのままずるずる引き摺って負け続ける奴だ」

 

エミーリオの手がゆっくりと動く。

頭部にも怪我があるはずなのに痛みはなく、ただ心地よさだけが残ってた。

 

「まぁ俺はお前が強くなる奴だって知ってるけどな」

 

俺の頭を軽く叩くように撫でると、エミーリオは店の方に戻っていく。

俺は力を込めてた手をゆっくりと開いていくと、同時に視界がぼやけていった。

包帯がどれだけ塗れようが構わず腕で顔を隠す。

 

悔しい

くそっ…くそ!

……悔しい……悔しすぎんだよクソが…

 

涙も鼻水も出てきて、サイドテーブルに置いてあったティッシュで鼻をかむ。

元々重症の体で出てたことで体力が限界だったこともあって、そのままベッドに気絶するかのように意識を手放した。

 

「……やと…」

「ん…」

「…い、隼人、起きろ」

「あ?」

「おい、起きろ…もう夜だぞ」

「は…?」

 

エミーリオの言葉に数秒してやっと意味を理解する。

勢いよく起きた拍子に、体が痛んだがそんなことはお構いなしにエミーリオに時刻を聞きだした。

 

「おい!今何時だ!」

「あ?今確か11時前…」

「マジかよ!」

 

今日は霧の守護者の対決だ!

エミーリオの店を焦って飛び出す。

 

「おーい、お前怪我してんだから走るなよ!」

 

エミーリオの声が後ろから聞こえ、俺は足を一旦止めて振り返る。

 

「……ありがとな」

 

目を丸くするエミーリオに恥ずかしくなり再び走りだす。

一歩踏み出す足は軽くなっていた。

俺をガキ扱いする大人は嫌いだ。

 

でも 

 

エミーリオの手はどうしても嫌いにはなれないと思った。

 

 

 

ベルフェゴールside

 

次期ボンゴレボス候補を殺す為に日本に来た。

直ぐに八つ裂きにしようとしたけど門外顧問が邪魔してきて、守護者同士の決闘になった。

一番最初は晴の守護者の対戦で、俺は早く自分の番が来ればいいのにと思った。

夜に対戦するから昼は暇になり、俺は街をぶらぶら歩いていた。

ッチ、マーモン連れてこれば良かった。

何にもない街に飽きてきてホテルに帰ろうとした時に他の店と雰囲気が違う店を見つけた。

店の外見はまるでイタリアのそれに似ていて、興味本位で中に入る。

店員が来て席に案内され、メニューを渡される。

 

「へぇ、酒場なの?ここ」

「夜から居酒屋にしていて、昼は普通の飲食店になってるんですよ」

「ふーん…あんたがマスター?」

「そうですよ」

 

随分と若い奴だなと思った。

そのあとオススメの酒を注文して、出されたのはオレンジ・ブロッサムだった。

俺カクテルそこまで好きじゃねーなーと思いながら一口飲むと、グラスを落としそうになった。

 

「なにこれ…」

「ネーブルオレンジ使ってるから甘くて若い人にとっても人気なんですよ、特に女性に」

「いや、甘いけど…」

 

甘いだけじゃない、確かにネーブルオレンジの甘さもあるけど、ベースのジンの味が今まで飲んできたものとは違う。

酒の原料なんて知らねーけど、このジンはヴァリアー本部で飲むものよりも断然に美味しかった。

ヴァリアー本部にある酒だっていいとこのものだ。

俺は舌が肥えてる自覚はあったが、酒で驚く日が来るとは思わなかった。

 

「これどこの?」

「それは自家製ですよ」

 

マジかよ……シシッ、こいつ欲しい。

ぜってーボスも気に入る。

 

「おいあんた気に入ったよ」

「ありがとうございます」

「敬語はいらねぇ」

「ん、分かった」

「なぁ俺んとこで働かねぇ?」

「ん?」

「つか来い、専属で雇ってやる」

「あ、ごめんそういうの断ってるんだ、俺はちまちまと自分のペースで働くのが性にあってるんでな」

 

即断られたが、知るか、俺が決めたからにはぜってー連れて行く。

何度も拒否するこいつに苛立つが、それを察したのか宥めてくる。

 

「あ、サード・レールもオススメだぜ、ほら飲んでみな…これは俺の奢りでいいよ」

「なにこれ」

「ベルモット、ラム、オレンジのカクテルだな…若干甘めに作ったものだ」

「ふーん」

 

認めたくないがすげぇ美味い。

途中でサイドも頼んだ。

酒がこれだけ美味しいとサイドメニューも期待してしまう。

サラダとクレープが出てきたがどれも美味しかった。

 

「やっぱあんたぜってーに雇う」

「えー…諦めてくれない?」

「王子の言うことは絶対なんだよ」

「王子………そういえば王子君の名前って何だい?」

「あー?ベル…ベルフェゴール…そういうあんたはー?」

「俺はエミーリオだ、日本に滞在中はいつでもおいで」

「ぜってぇーイタリアに連れて行くかんなーシシッ」

 

気付けば夜で、俺は全くリング戦のことを忘れていて、エミーリオの店で飲みまくってた。

んでいつの間にか眠ってたらしく、起きるとエミーリオの部屋で寝かされてた。

そこでリングのことを思い出して、時間を確認すると既に夜中。

あちゃー…隊長うるさそー…

どうせこのまま帰っても怒鳴られるだけだしーと思いエミーリオに酒頼もうとしたら帰された。

ホテルに戻ったら観戦さぼってんじゃねぇとスクアーロにくっそ怒られた。

どうやらオカマは負けたらしい、ダッサ。

次は雷ってことはレヴィか。

相手はガキだ、負けるわけねぇだろ。

その日はホテルで暇を潰して、夜に並盛中に行った。

結果レヴィの辛勝だった。

あんなガキ相手に手こずるとか意味わかんねー…

相手の大空の奴が乱入して大空のリングはヴァリアー側のものになってヴァリアーの勝利だったけど、ボスが相手を徹底的に潰したくてそのまま続行された。

目の前の会話を他所に明日の昼はどう潰そうか考えてた。

あーあーどのみち昼間は暇だからエミーリオんとこ行こう。

次の日にエミーリオの店に行って酒とつまみを頼んだ。

今日は嵐の対戦だったからアルコール度数低めの酒ばかり飲んでた。

 

「やっぱあんたイタリアに連れてく、絶対に、拒否権なし」

「まだ諦めてなかったかー…」

「シシッ、ボスに頼んでも連れてくし」

「えー…困る…」

「ま、抵抗したら腕斬り落としちゃうけどね」

「それは本末転倒なのでは」

 

俺はナイフを取り出してエミーリオに刃先を向けて揶揄いだす。

だけどエミーリオがそれを怖がる素振りは全くなかった。

むしろ呆れてるような様子すらあった。

へぇ、でもこんくらい肝据わってなきゃヴァリアーで働けないよな…。

ボスも絶対気に入るな。

 

「あー…王子君はいつイタリアに帰るの?」

「あ?一週間ぐらいじゃね?」

「そう……んーなら一週間限定でお試し期間でどうだい?」

「は?」

「君の職場の待遇とかも考慮したいからね、一週間で俺を納得させられるような条件出せたら就職考えたげるよ」

「何その上から目線、ムカつく」

「ごめんごめん、ほらこれ食べて機嫌直して」

 

その後11時前まで入り浸り、そこから並盛中まで歩く。

嵐の守護者対決では腹も満たされて、ほろ酔い状態でテンションがハイになってたこともあり、初っ端から全力で切り掛かっていった。

だけど途中で予想外にもしぶとい相手側の攻撃に怪我を負う。

最終的に血を見て興奮して、取っ組み合いになったところを制限時間が過ぎて爆発に巻き込まれて終わった。

俺の手には嵐のリングがあり、勝利したことに酔いしれていた。

あの後ホテルに戻り簡易的な治療が終わってそのまま眠った。

起きると朝になってて、足も歩く程度なら松場杖だけで十分になるほど回復してた。

だからまたエミーリオの店に行ってきた。

包帯塗れの俺に心底驚いてたけど、まぁいいや。

ノンアルコール出されたし、ふざけんな。

チーズリゾットも一緒に出たから仕方なく許してやった。

デザートも所望したらちゃんと出してくる。

くっそ美味かった。

やっぱりこいつヴァリアーの専属シェフにしてぇ…

帰り際に席から立ち上がろうとしたら松場杖が滑って俺は体勢が崩れ、テーブルの角に頭をぶつけた。

いってぇ…くそ…

苛立ちながら立ち上がろうとした時に、痛む額から液体の様なものが伝った。

そしてまつ毛にかかった赤を視界に捉える。

 

あ……王族の…血……

 

瞬間全身が沸騰するような錯覚に陥った。

急に何かを額に押し付けられたが、煮えたぎった興奮を抑えきれずに額を押さえつけられているそれを跳ねのけようとした。

 

「お、おい!暴れるな、コラ!」

「ぁぁぁぁああああ、王子の血がぁぁぁあ…」

 

ああ、邪魔だ、どけ、死ね

お前なんか死んじまえ、死んじまえ、死ね、死ね

憎いあいつを、早く、早く、この手で、殺して、殺して

俺が、俺の方が王に相応しいんだ、俺の方が優れてるんだ、お前なんて、早く、死んでしまえ

刺して、嬲って、斬って、裂いて、殺して

 

「ベル―――――ル!」

 

殺した?―――――――――殺した。

埋めた?―――――――――埋めた。

楽しかった?――――――楽しかった。

気持ちよかった?――気持ちよかった。

 

もうあの憎たらしいあいつはいない――――――…

俺が刺して、裂いて、埋めて……

殺した。

 

「ベルフェゴール」

「……は……ぁ…あ…血ぃ…」

「うん、ちょっと静かにしてろ」

「流しちゃったぁ……」

「ちょ、前髪邪魔」

 

ゆっくりと前髪があげられたのと同時に視界が晴れる。

あ……目の前にいる奴……あいつじゃない……

………エミーリオだ…

そうだ、あの憎たらしいあいつはもう死んだんだ…

それを自覚すると、まるで冷水を浴びせられたかのように急に体が冷めきった。

それからハンカチについた自分の血を見ても何も感じなくて、少し困惑していた。

 

「ベル、少し傷開いてるから後で病院行けよ」

「……」

「ベル」

「わ、分かった…」

 

あの後エミーリオに途中まで送ってもらい、ホテルに戻った。

自分の手を見るが先ほどの感覚が何だったのか分からなかった。

それから、スクアーロもマーモンもゴーラ・モスカも負けた。

でもモスカの中身が九代目で、ボスの狙いはこれだったのだと分かった。

なにこれ面白そう…あのガキ殺されたな。

明日が楽しみで、俺は明日の惨殺劇をエミーリオに見せたくなった。

これでボスの凄さも分かってもらえるし、それで専属シェフになってくれるで一石二鳥じゃん。

次の日の朝、早速エミーリオの店に行く。

今日の大空戦をどうしても見てほしくて、エミーリオに来るよう命令したが、ずっと断ってくる。

明日はボスの銃捌き見れるかもしれないんだから、見るべきでしょ、シシッ。

最後まで首を縦に振らなかったので、小部隊の奴等に夜時間になったらエミーリオをグランドに連れてくるよう命令してた。

大空戦が始まって、デスヒーターの毒で動けなくなった。

でも何とか解毒して色々あったけど、結局ヴァリアー側は負けた。

ボスが本当は九代目と血が繋がってなくて、ボンゴレリングがボスの血を拒んだ。

衝撃的だったけど、俺はボスについて行くことをやめようとは思わなかった。

だってあんな友情ごっこしてる奴等よりもボスの下の方が絶対に良いに決まってる。

でも何だろう…隠されてたことは正直面白くない。

あの後、ボスは病院に運ばれたしヴァリアーは解体されるだろうなぁと思った。

でもボスのことだしまた何らかの組織作りそうだから今は上の判断待ちしか出来ない。

どうやらヴァリアーはお咎めなしのようだ。

九代目がボスの心情を汲み取っただか何だか知らないし、興味もないけどまだヴァリアーは存続するらしい。

どこか安心した自分がいた。

そんな時にエミーリオのことを思い出した。

あいつ来なかったじゃん!いや別に今回は逆に来なくて良かったとすら思ったけど。

まさかボスが負けると思わなかったし。

んー、でもどうせヴァリアーが存続するならあいつ専属シェフに欲しい。

やっぱりボスにエミーリオ紹介しておかなきゃ。

そう思って、エミーリオの店に行った。

 

「おいエミーリオ!」

「げ、王子君…昨日は行けなかったよ」

「それは別にいいや、それよりボスが入院してるから飯作って」

「ん?病人食?」

「怪我なだけ、肉沢山入れろよ!」

 

エミーリオに全部丸投げして、先に病院へ行く。

エミーリオを絶対にヴァリアーに入れたいし。

一時間くらいボスの個室で暇潰してたら、窓からエミーリオが見えた。

お、きた!

ボスには事前に新しいシェフ雇いたいって教えている。

俺は病室を出て、エミーリオが来るのを待ち、エミーリオが病室の手前に来た時に後ろから驚かしてそのまま病室のドアを開けた。

 

「ちょ、そんな勢いよく開けるなよ…病院内だぞ」

「いいのいいの、それよりボス!こいつがさっき言った奴!」

「おいベル、うる…………は?」

「あ」

「え?」

 

三人同時に素っ頓狂な声をあげた。

 

「あれ?ザンザス?………待て、王子君の上司ってザンザス!?」

「え?」

「何でてめーがここにいんだ、エミーリオ」

「はぁ?ボス!こいつと知り合いなの!?」

「うわー…ザンザスが俺の名前覚えてる…」

「ッチ、おいベル外せ」

「え?……え、うん……」

 

正直混乱してたけど、ボスの言葉に従って病室を出る。

そしてルッスーリアとスクアーロのいる病室に駆け出す。

 

「おいオカマ!隊長!」

「ちょっと、オカマはやめてよん!」

「ぅ"お"ぉい!どうしたぁ!」

「エ、エミーリオって知ってる?」

「あら?懐かしい名前ね」

「あ"?んでそいつの名前が出てくんだ?」

「え、待って、ボスとそいつどういう関係なわけ!?」

 

二人が知ってるという事実に俺は心底驚いた。

 

「あー……そうね、ベルちゃんは彼と入れ違いだったものねぇ」

「は?あいつ元ヴァリアー隊員?」

「違うわよ、専属シェフだったのよ、ボスの」

「はぁぁぁあ!?」

「ザンザスが5歳の頃からいた世話人みたいな奴だぁ」

「嘘………」

「マジだぁ…あのザンザスを叱れる奴がいるとすればあいつだけじゃねぇのかぁ?」

「は⁉嘘でしょ!?」

「ボスの顔にケーキ投げつけてたことあったわねぇ」

「最終的に俺まで被害にあったけどなぁ!つか何でそいつの名前が出てくんだぁ」

「あ、そ、そいつ今ボスの病室にいる…っていうか……分からずに俺が呼んじゃった…」

「「え」」

「これってヤバイ?」

「「…………」」

「俺暫くボスの病室に近寄らない」

「それが賢明だろうなぁ"」

 

にしてもボスの世話係……ねぇ。

ナイフ向けてもそりゃ微動だにしないハズだ。

 

んー…でもやっぱり、エミーリオにはヴァリアーに来てほしいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 




エミーリオがアップを開始しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの後会

エミーリオは再び出会う。


ちゃお、俺はエミーリオ。

少年たちの打ち上げが終わった後に包帯君が来てた。

俺と連絡が付かないことを不審に思ったらしい。

変質者に襲われて、携帯壊されたことを話すと納得してくれた。

まぁ撃退して金ふんだくったけど。

新しい携帯買うから、また来てくれた時に番号教えるとだけ言っておいた。

えー、眉毛君と数年ぶりの再会から早3日。

すっかり元気になった眉毛君が俺の店に来てくれました。

眉毛君来た時点で店を閉じたから、不慮の事態になっても大丈夫。

にしても本当に何も変わってないね、君。

いや俺が言える立場じゃないけど。

取り合えず赤ワインであるネグロマロを出して、一杯目。

こいつがどれだけ酔うか分からんが、取り合えず近況を聞いてくしかないな。

つまみも出すと、飲むスピードが桁違いに上がった。

にしてもお前と酒を飲める日が来るとは…なんていうか凄く感動するなぁ。

子供の世話なんてこいつが初めてだったし。

いや風もいたけど、あれは夫婦が基本育ててたまに夫婦が手が外せないときに俺が面倒見てた感じだったから、こうがっつりと説教したり躾けたりしたのは眉毛君だけだよな。

まぁ最後まで口の悪さは直せなかったけど。

俺が何度注意しても厨房に入ってくる眉毛君をジャイアントスイングで何度も窓の外に放り出したこと覚えてるのかな…

聞いてみた。

覚えてるっぽい、凄く不機嫌そうな顔してる。

あと何かあったっけ…

あー…一回本気で怒ってお前を屋敷の天辺から落としたことあったよな、お前が14の頃くらいに。

あれ何で怒ったんだっけ。

あんなやんちゃなガキだったけど今は大人しくなってるかなと思いきや、父親とおもっくそ喧嘩してるし、波乱万丈だな。

そういえばお前親父さんと喧嘩したのいつぐらいからよ。

え?16!?今お前24ってことは、もう8年も喧嘩中?

なっが。

すごい拗らせてそうだな。

ていうか16って俺が出て行ってから直ぐとか…マジか。

王子君がボスって言ってたけど、お前子会社の社長なんだろ?

その年で年収凄そうだよな。

ん?うん、うん、うわー…うわー…

ヤバイ、本気で親父さんと修復できない程拗らせてる。

これはもういっそのこと絶縁すればいいとさえ思うけど、会社を全部自分のものにしたいんだと。

お前欲張りなやつだな、ジャイアンめ。

おい殴るな、拗ねるなよ、悪かったって、アッハッハッハ。

にしてもお前の会社の名前もうちょっとマシなもんなかったの?

アサリって………

どっかの友人思い出すんですけど。

え?ふむふむ、うんうん、ほう…

裏切られた気持ちだったと。

許せなかったと。

まぁそこまでなら分かる、俺でもそうなる。

だから殺そうと思った、と。

うん、思考回路ぶっ飛びすぎだぜお前。

え、そこは話し合いに持ってくるとこじゃない?

過激すぎやしないか?お前…

何だか犯罪者の事情聴取してるみたいだぜ。

お前の親父さん今どうしてんだ?は?入院?

殺そうとしたって、既に実行した後だったんかい!

意外とタフだった、じゃねぇよ!

育ててくれた親に対してなんちゅーことしてんだこの子は…

いや確かにお前を育てたの親父さんじゃないけど、俺だけど。

それでもこう、金銭的な面じゃお前凄くこう…金掛けられてたんだぞ?

っていうかさっきから焦点合ってないんだけど、お前酔ってるの?

全然顔に出ないから分からなかった。

確かにもう何時間も飲んでるもんな、酔ってないと逆におかしいレベルだよ。

ああ、なんか今までの比じゃないくらい愚痴りだした。

しかも俺の愚痴まで入ってるし、目の前に本人いるのにお構いなしってどういう神経してんだ。

いや酔っぱらいの思考回路なんぞ分かるわけないか。

ん?何で俺の拳骨が痛いのかって聞いてきたんだけど、本当に唐突だね。

まぁ痛い場所を的確かつ集中的に狙ってるからな、そりゃ痛いだろ。

どんどん酒に溺れて行ってるんだけどこれそのまま爆睡しそうだな。

最後らへんはほぼ俺の愚痴で埋まってるんだがこれ如何に。

色恋沙汰聞こうと思ったけど、なんだか親子間での問題が重すぎてそれどころじゃないっぽいし。

あ、落ちた。

眠っちゃったっぽいし、そのままにしておこうかな。

瓶があちらこちらに散乱してるから取り合えず片付けして、食器も洗わなきゃね。

翌日になって眉毛君は出て行った。

店を出る時にマグロ君や野球少年、不良少年と鉢合わせして何だか喧嘩一歩手前までなったんだけど…何でだ?

銃口をあの子たちに向けるもんだからビックリした。

引き摺って離したけどあいつ等面識でもあんのかな。

そのまま眉毛君を見送って店に戻ると、入り口付近で三人が待機してたっぽい。

関係を聞かれたので昔の顔馴染みだと伝えると凄く驚いていた。

そりゃそうか、あいつ強面だもんな。

初見じゃマフィアか暴走族にしか見えないよな。

いやでも不良少年やトンファー君も店に出入りしてる時点でそこまで驚くことか?

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

あれから数日だったある日、男子中学生数名が行方不明というニュースが流れていた。

勿論あの子達だ。

何やらトンファー君までもが行方不明なことに首を傾げたが、あまり心配していない。

ただ寿司屋のおっちゃんがすんごく心配していたので同情する。

そういえばこの前ね、眼鏡君が来てた。

未来が救えるよう頑張ってるようで何よりだが、これは現実逃避以外の何物でもないような気がする。

うん、まぁ頑張れ。

あれから3日経つと少年たちが帰って来たらしい。

キャンプしてたら道に迷っていたと言ってるけど、トンファー君が君たちと一緒にいるわけないよなぁと思ったりしてる。

多分トンファー君は別件でいなかっただけかな。

数日経つけど、どうやら少年たちは多忙のようで暫くは店来れないらしい。

最近じゃテロや行方不明の件もあって不審者とかうろついてるのではないかと噂されて、夜は殆ど人通りがない。

俺も不審者に見られたら堪らないので早く買い物済ませて帰ろうとした矢先に声掛けられたんですけど。

何だか久しぶり的なこと言われたんだけど。

んでもって凄く見覚えのある金髪で黒いマント着てる奴なんだけど。

いやいやいや……お前いつの時代の奴だったか覚えてないけど、もう死んだやつだろ。

この前の夢の中の初代ナッポーといいこの友人といい、最近昔の奴等とよく出会うな。

じゃない。

そうじゃない。

こいつ幽霊じゃね?だって透けてるもん。

死人に口なしって言うけどめっちゃ喋ってるよね、何で?

錯覚かと思ってそのまま店に帰ったけど、あらやだまだいる。

本人曰くただの思念体だとか言ってるけどそれ普通じゃないからね。

思念体って何?つかお前やっぱ死んだんだよね、そうだよね。

酒出したけど、触れられないらしい。

取り合えず店は閉めて、この幽霊をどうにかせねば。

話し始めようとしたら率直に俺の体質をズバッと言われた、これはもう誤魔化せませんわ。

そりゃ君死んでから軽く三桁超えてるのに俺変わらないもんね。

俺に教えてくれれば良かったのにと言ってるけど、そんな勇気はない。

政府の研究コースまっしぐらルートは怖いんで。

お前がそんなことするような奴じゃないのは分かってんだけどね。

気を遣われるのは何かと好きじゃないから黙ってたんだって言えば何だか苦い顔をされた。

だよね、自分老いるのにてめぇだけ若いままじゃねぇかってなりそうだもんね。

もう不老であることはバレちゃったわけだし、正直に話せと言われたのでまぁ覚えてる範囲で教えてみた。

多分650くらいだよ、と言えばめっちゃ驚いていた。

どうしてそんな体質になったんだと聞かれた。

知らん、ぶっちゃけ気付けばこの年齢で固定されてイタリアにいたなーくらいしか覚えてない。

何だか考え込んだ友人を置いといて自分の夕飯を作り出す。

そういえば何でこいつ今になって幽霊になって出てきてんだろう。

聞いてみると、どうやら複雑なことになってるらしい。

頼まれて蘇ったとか子孫の手助けとかなんとか、あんま聞いてないゴメンネー

俺が日本に帰化した後のこと聞かれた。

あ、こいつ自警団潰れてること知らないのか。

俺も最近知ったばかりなんだけど、いやあれ夢の中の出来事だから事実とは言えないんだった。

一応自分もあの後数年してイタリアを離れたから他の奴等のその後とか知らないとだけ言っておく。

世界を転々としていたと言えば、俺の体質を思えば考えられなくもないという顔をしていたので納得はしていると思う。

俺のことは置いといて、友人のことを聞いてみた。

どうやらイタリアを離れ日本へ帰化した後、ちゃんとお嫁さん出来て大往生したらしい。

それを聞いてよかったなぁと言えばお前のお陰だとか言ってくる、俺何かしたっけ?

他の奴等も思念体となって一週間程いるらしい。

ゴメン何て?

え、お前ら集団で蘇ってんの?

マジかよ。

今度連れてくるからって…おいやめろ、ここは幽霊店じゃないんだぞ。

と、断れるはずもなく曖昧に頷いてしまった昨日の自分を殴りたい。

結構前に行方不明になった男子中学生たちが全員帰って来たというニュースが流れていたけど、それと同時に何故か俺の昔の友人も還ってきたらしい。

客のいる前でポルターガイスト起こされては敵わないので、夜の居酒屋は休みにする。

一週間だけのようだしまぁ許容範囲内だ。

その夜に、プラチナブロンドのお兄さんや入れ墨君が友人と共に現れた。

久々に見るその顔は既視感があった。

あ、そうだ、こいつらあの子達に似てるんだ。

どうやら俺の体質を友人から教えてもらったらしく、何故教えてくれなかったんだと不満気な顔をされた。

いやこれからも誰にも教えないからね。

まぁ包帯君辺りは絶対気付いてらっしゃるけど、お互い様だし言ってこないから放置してる。

二人は俺がイタリアを去った後、自警団がどうなったか知ってるようで教えてくれた。

何だか自警団自体は実質潰れたらしい、つらぁ。

凄く一生懸命に頑張って作ってたもんね君たち…

若干落ち込んでる友人を励まそうとするも止められた。

どうやらそこまで悲観していないようだ、ふむ。

入れ墨君が俺に、イタリア出た後の国でテロなかったか?と聞いてきた。

うんあったね、俺の店爆破されたの今でも覚えてる。

ふむふむ、あれで俺のこと心配してたと、死んだと思っていたと言われた。

まぁ俺も死んだと思われててくれればラッキーと思ってたし、ある意味計画通り?

俺死んでねーよー、っていうか不死身だぜ。

教えないけど。

本当は他の連中も呼ぼうと思ってたんだが、お互いの居場所が分かるわけではないらしい。

でもござる丸は神社の方にずっといるから会いに行ってやれと言われた。

地縛霊かな?

その日は結構夜遅くまでこの幽霊たちは俺の店に入り浸っていたわけで、めちゃくちゃ質問攻めされまくった。

もう既に昔のことは記憶が薄れていて思い出せないので曖昧に笑って過ごしたけどね。

だって本当に印象に残ってないことは次々と忘れていくスタンスなんで。

翌日の夜に牧師とわがまま坊ちゃんと会えた。

二人とも昨日ぶりに会ったかのような態度取られたので意外だった。

俺の体質は知らないようなので、そのまま昨日ぶりに会ったね感を出して喋る。

二人と別れた後に、最後まで何も突っ込まないこいつらが馬鹿だったことを思い出した。

神社に行ってみると、ござる丸がいた。

わー、久しぶりだー。

手を振るとござる丸凄く驚いてた。

どうやら俺のことを聞いていなかったらしい。

輪廻転生とかだと思われてるけど、否定しない方がいいよな。

ござる丸の音楽気に入ってあれから少しだけ練習してた時期あったなと思い出して、口笛吹いてみたらござる丸もノッてくれて歌いだした。

ぶっちゃけ口笛吹くので精一杯過ぎて、全く歌詞に意識が行かなかったんだけどね。

あ、やべ、店の鍵閉めてない。

一曲終わると、ござる丸と別れて急いで帰る。

またなーと言ったけど、ござる丸が何も返してくれなかった、辛い。

聞こえなかったのかな。

ナッポーとかどこにいるんだろうね、全く見かけないんですが。

ぶっちゃけ俺が一番気になるのってナッポーなんだよね。

あいつ死んだ恋人のこと忘れられずに一生独身貫いてそうだし。

俺の店の客の中で一番入り浸る客だったこともあって友人並みに気に入ってた奴だったんだよね。

最後までナッポーって言ったら殴られてたけど。

友人に聞いてみるとナッポーもいるらしいけど、並盛にいるかは分からないらしい。

並盛の外だったら無理だな、そこまで探す気になれねー。

まぁ会えなかったらそれでいいか。

元々死んだやつと再会できること自体がおかしいもんな。

一週間経つ頃に、友人がそろそろいなくなるって言って来た。

ああ、やっと成仏するのか、達者でなー。

いや死人に達者も何もないか。

友人と別れた後に、ござる丸とも別れの挨拶ぐらいしようと思って並盛神社へ向かうと案の定いる。

しかもナッポー以外全員揃ってるんですが何故に。

ナッポーお前もしかしてハブられてんの?と思っていたが、どうやら先に成仏しちゃっただけっぽい。

コンビニで買った酒取り出して、飲みながら皆と別れた。

あいつ等が成仏した後も、少しだけその場で飲んでたら寝落ちた。

まさか神社の祠の中で一泊する日が来るとは思わなかった。

俺すんげー罰当たりなことしてるよね。

どうやら外の方で声がするので、人が数名いるようだ。

世間体気にして出ることも出来ずに、外の声を聞いてると何やら違和感を覚える。

この声どっかで聞いた様な…

あ!これ少年たちの声じゃん!

と思って祠を開けて、外に出た瞬間少年たちの驚いた声と共に目の前が真っ白になった。

気が付くと全く別の場所にいるんですが、これ如何に。

え?ココドコーっと思って周りを見ると、先ほどの少年たちと金髪の飴加えてる作業服の男性がいた。

何だか皆俺の方を向いてすんごく驚いてるんだけど、俺の方が驚きたいわ!

集団の中をよく見ると、眼帯少女とイタリアで出会った目の下にタトゥー入れてる少女もいるではないか。

えええ、これ一体何の繋がりがあんの?

っていうかここどこなの状態の俺と、何であんたがいるのーで混乱してる周り。

数十分の末漸く落ち着いたところで、マグロ君が説明し出す。

ふむふむ、ここ10年後なわけね。

いやそんなわけないやん、もう少しマシな嘘つけよ。

と辛口対応したかったけど、一生懸命なマグロ君見てると言えなくて…そのまま信じ込んだフリをする。

にしてもここ本当にどこだろう。

意外と冷静な俺に帽子を被ってる赤ちゃんが話してくる。

何ですんなりと信じるんだと言ってくるけど、ゴメンネ正直全く信じてない。

冷静なのはただ単によくワープするから別の場所に飛ばされるのは慣れてるだけだ。

でもそんなこと言えないので、てきとーに思いついたことスラスラ言ったら一応納得してくれた。

マグロ君が凄く焦ったように状況説明してるんですが、これは信じたフリを続けるべきか?

未来に来て今悪い奴と戦ってる途中で、そろそろ最終決戦みたいな雰囲気らしい。

ふーん、でもまぁ俺何かすることあんのかなーと思ったら非戦闘員にされたし。

何でや、いやまぁ俺はただの調理人だけど、折角巻き込むんなら戦闘員にしたっていいだろ。

少女たちを守ってくれー的なこと言われた。

ま、それでいいやと思って役に成りきろうと思う。

そっから思い出して修理から帰って来た携帯を取り出してみると日付がおかしい。

電波拾って正確な日付を受信しているハズなのに、10年後の日付になってる。

んんんん?

試しに電話帳の相手に電話してみると、イタリアの取引先の人と繋がった。

それで日付を確認させてみると、やはり10年後。

これはもしやマジで10年後なのか?マジで?

その後数名に連絡を図るが、全員が10年後と返ってきたことでようやく確信した。

ここ未来なのか。

まぁ時間が行ったり来たりしたところで、たかが10年だしなぁ。

自分の案内された部屋に戻ろうとしたら、別の部屋を開けてしまった。

閉めようとしたら、どうやら見覚えのある子が目に入る。

あれ?あの子眼鏡君じゃね?10年後の眼鏡君じゃね?

すんごい重症っぽいけど、どうしたのかな。

あっちも俺の存在に心底驚いてるんですが。

俺もこの状況あんまり理解出来てないから説明難しいけど取り合えず10年前から事故的に来てしまったと言っておいた。

ってことは10年前に眼鏡君の言ってた未来の話って本当だったのかー。

うわぁ、疑ってすまん。

直ぐに遠くに避難してくれと言われたけど、女の子守るって言った手前で逃げるのはちょっと…。

え?何でここでマシュマロ君の名前が出るの。

ふむふむ、ほう、は?……えー……えええ………

…………なるほど。

取り合えずこれだけ言わせてくれ。

 

何があったんだマシュマロ君。

 

 

 

 




お前のせいだエミーリオ(笑)


初代達と会わせたかったのでアニメの方を取り入れました。
エミーリオの未来編への関わり方をちょっと悩んでいたんですが、重役出勤ということで。

この小説にあげる料理を自分で作ってみると久々に料理にハマってしまい、小説そっちのけでニョッキとか作ってました。
美味しかったです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの親身

エミーリオは思われる。

再来の憤怒に

原初の大空に


ザンザスside

 

ベルが雇って欲しい奴がいると言い出した。

俺は機嫌が最悪だったこともあり、そいつが少しでも気にくわなかったらカッ消そうと決めていた。

だがそんな思いに反して開かれた扉から入って来た奴に目を見開いた。

 

「あれ?ザンザス?………待て、王子君の上司ってザンザス!?」

「え?」

「何でてめーがここにいんだ、エミーリオ」

「はぁ?ボス!こいつと知り合いなの!?」

「うわー…ザンザスが俺の名前覚えてる…」

「ッチ、おいベル外せ」

「え?……え、うん……」

 

久しぶりに見た奴の顔は俺の記憶と寸分違わぬ姿だった。

待て、俺は8年間凍らされてたから変わってなくて当たり前だが、こいつは違う。

今思えば初対面の時から18年も経っているハズなのにこいつは全く変わってないような気がする。

幻術か?いやだが、こいつはマフィアのことを知らないハズだ。

俺が内心訝し気にしているとエミーリオは手に持っていたものを差し出してきた。

 

「飯、作って来たから食え」

「俺に命令すんじゃねぇ」

「相変わらず可愛げねーな」

「カッ消すぞ」

「口も悪いままかよ…」

 

俺は飯の入った袋を奪い取り、袋から飯の入っている箱を取り出し開け始める。

中にはラム肉やフィレ肉が入っていたからそれにフォークを刺して口に運ぶ。

ちゃんと野菜食えよ、と言ってくるカスの言葉を無視して食べ続ける。

 

「そういえばお前あの後元気にしてたか?」

「…」

「親父の跡継ぐって言ってたけど、もう継いだのか?」

 

その言葉にカッとなった。

近くにある銃を取り、エミーリオの額に押し当てた。

エミーリオは目を丸くし、次の瞬間頭に衝撃が走った。

 

「いっ」

「人に銃口向けんなって何度言ったら分かんだ、今度向けたらアイアンクロー掛けるからな」

 

頭を叩かれたのだと分かり、久々の痛みに眉を顰めた。

だが怒りは収まらず、目の前のエミーリオにイラつきをぶつけた。

 

「……じゃねぇ…」

「あ?」

「あんな血の繋がりもねぇクソジジィ、俺の父親じゃねぇよ!」

「……は?」

「…………くそっ、いつか必ずぶっ殺してやる………あのクソジジィ」

「おい待て、何でんな物騒な考えになんだよ…別に血が繋がってなくとも会社くらい継げるだろ」

「あの老いぼれは俺よりもチビのカスガキを選んだ!ただ血が繋がってたってだけでだ!死んで当然のクソジジィじゃねぇか!」

「一回面と向かってだな…」

「ふざけんな!誰があの老いぼれとっ……次こそカッ消してやる」

「少し落ち着けって」

 

あの老いぼれを思い出せば出すほど腸が煮えくり返るほど苛立った。

同時に頭に覚えのある重さが乗っかかる。

頭に手を置かれているのだと分かった途端、払いのけようとした。

 

「ザンザス」

 

❝ザンザス❞

 

俺の名前を呼んだその声は何一つ変わらずにそこにあった。

勢いを失い途方に暮れた手に構わず俺の頭を撫で始めるエミーリオを睨みつけるが、止める気配はない。

 

「おい野菜残ってんぞ」

「るせぇ」

「残すなバカ」

 

軽く頭を叩かれて、これを無視したら次は拳が来ることを知っていたから渋々口に含む。

 

「んじゃ俺はもう帰るが、お前イタリア帰る前に一度俺の店寄って来いよ」

「誰が行くかカス」

 

俺の言葉を聞かずに扉が閉まる。

その後ベルがあのカスの店の場所を教えてきていたが、行く気なんぞなかった。

だがベルがあいつの酒は美味いだのなんだの捲し立てるから仕方なく足を向けた。

店に入ると俺に気付き、あいつは最後の客が出ていくまで待っていろとテーブルを指差すのでそこで座っていた。

数分して人っ子一人いなくなった店の扉に鍵を掛けると、漸く目を合わせる。

酒を数瓶持ってきて、グラスに入れ始め、俺もそれを煽っていく。

 

「にしてもお前変わってねー」

「ふん」

「お前と酒が飲める日が来るなんてなー…あんな小さかったのに」

「いつの話をしてやがる」

「さていつだったか…ああ、確かお前を窓から放り投げた時があったような気がする」

「さっさと忘れやがれドカス!」

「あれ結構頻繁にあったような…」

 

何でよりによってそれを出してきたんだこのドカスが。

 

「そういえば親父さんと喧嘩したのいつ頃だ?」

「……」

 

一瞬手に力が入り、グラスに罅が入ったのが分かったが、それにエミーリオは気付いていなかった。

 

「…………16…」

「ん?16って……俺が出て行った直ぐ後かよ…じゃあ8年も喧嘩中なわけ?」

 

やはりこいつカッ消してやろうか…

呑気な顔をしているエミーリオに若干殺意が沸く。

 

「つかお前王子君がボスって言ってたけど、子会社の社長なんだろ?」

 

こいつはボンゴレがマフィアだということを知らない。

何年もボンゴレに仕えていながら本当の姿すら知らない料理人が滑稽に思えた。

殺しのこの字も知らなさそうな能天気な顔をしている目の前のカスに、今の自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

こいつにどれだけ怒りをぶつけたところでこいつが何一つ分かるはずがないことなんて、最初から分かっていた。

 

「つーかお前子会社だろうが、社長だろ?ならもういっそ絶縁すりゃ楽じゃね?」

「ざけんな、あの老いぼれジジイからボンゴレ全てを奪ってやらねぇと気が済まねぇ」

「ジャイアン」

 

思わず手が出る。

だがそれを軽々と躱すそいつに更に苛立ち、手元にある酒を一気に飲み干す。

段々と体温が上昇していくのが分かるが、室温が低めなおかげか暑いとは思わなかった。

 

「そこまで親父さんのこと嫌いか?」

「んななまっちょろい言葉で表せるか」

 

裏切られたんだ

あの老いぼれは俺を10代目にする気など端からなかったんだ

許せるものか 許すものか

必ずその身を塵にしてやる

俺の炎で

あの8年を忘れるものか

長い時を得ても尚俺の中に渦巻くこの怒りを恨みを憎しみを

 

既に俺は何を言っていたか覚えていないが、回らない頭でただあの老いぼれへの瞋りを言葉にしていたような気がする。

 

「ううん、お前と親父さんの復縁は無理なことは分かった。つかお前の親父さん何してんの?今」

「ふん、どっかで死にかけてんじゃねーか」

「ん?」

「どのみちあの傷じゃぁ長くねーだろうな…あれで死ななかったのは誤算だったが」

「はい!?お前……それ、」

 

絶句してるそいつの顔が何故か気に入らなかった。

 

「育てた親殺そうとするか?普通」

「あの老いぼれジジイに育てられた覚えなんぞねぇな」

「そういうわけじゃなくてだな…」

 

それに、俺は普通じゃねぇ。

既に何人もこの手で葬ってきた。

 

「あの老いぼれジジイも、てめーも全部がイラつく」

「おい、本人の前でいう奴があるか」

「昔からそうだ、知ったかぶって、俺を見下しやがって」

「いやそれ、単にお前のが身長が低かっただけじゃ…」

「るせぇ!カッ消すぞ!」

 

その余裕めいた顔をぶん殴ればこの怒りは収まるのか。

あのクソジジイを殺せばこの怒りは収まるのか。

あのカスチビを嬲ればこの怒りは収まるのか。

 

「くそっ…全員カッ消してやる」

「お前飲みすぎだろ…」

 

 

ずっと昔に一度だけ、本当に一度だけ

エミーリオを本気で怒らせたことがあった。

あいつの注意を無視していつもの様に厨房に入っていった俺は腕がフライパンの取っ手にぶつかったのを気にせずに進もうとした。

 

「おいザンザス!」

 

後ろから包丁を片手に駆け付けてきたあいつに構えると、あいつの腕が俺の顔の横を通ってそのまま押しのけられた。

地面に尻もちをついたと同時に金属が地面に落ちた音と何かが焼けるような音がした。

それが先ほど隣に置いてあったフライパンだったことが分かると共に、エミーリオは俺の所まで駆け寄り体のあちあこちを見回していた。

 

「この馬鹿!火傷は?油飛んで行ってないか?」

「ね、ねぇよ…」

 

エミーリオは溜め息だけ吐き、フライパンを洗い場に持って行ったが、俺はほんの僅かだけ見てしまった。

あいつの腕の皮膚がただれていたのを。

その日は何も言わずに厨房から追い出されたが、翌日包帯を巻いた手で来たあいつに首元を掴まれてそのまま屋敷の最上階から落とされた。

何度も落とされてたから既に着地は慣れていたし、たかが数m高い場所から落とされただけで傷を作ることはなかった。

 

「ザンザス、俺が何で怒ってるか分からんか?ん?」

「…るせぇ」

「俺言ったよな?厨房は油やガス使ってて危険だから入るなって」

「……」

 

違う、本当は悪かったと、一言謝りたかっただけなのに、ただその一言が中々出てこなかった。

仏頂面した俺に、先にエミーリオが痺れを切らせた。

 

「お前は馬鹿じゃないから二度もやらないとは思うけど、次やったらアドリア海に沈めんぞ」

 

そう言って、エミーリオは俺の頭を軽く殴って厨房の中に入っていった。

包帯を巻いている方の手で殴ったあいつよりも俺の方が痛くなったような気がした。

 

 

10年も昔のことを思い出して、眉間に皺を寄せては目の前の奴を一睨みする。

ああ苛つく、何も知らないような顔しやがって。

 

てめぇは知らねぇだろ。

俺がマフィアであることを

 

てめぇは知らねぇだろ。

この身を焦がす怒りを

 

てめぇは知らねぇだろ。

老いぼれたジジイの炎よりも

妄執に取りつかれたクソババアの恨み辛みよりも

初代のチンケな技を放つあのカスチビの氷よりも

 

てめぇの拳の方が何十倍も痛かったことなんて

 

 

てめぇは知らねぇだろ―――――…

 

 

 

 

 

ジョットside

 

 

永きに渡りリングに眠っていた俺達が呼び起こされたのは、俺達の時代からおおよそ150年ほど経っていた頃だった。

どうやら俺達の継承が必要らしく、現時点のアルコバレーノ達の協力と契約を得て守護者に値する人間かどうかを見極めるべく試練を行った。

俺は守護者の試練をデーチモがどのように見守るかを見ようとした。

俺達が顕現した当日は各守護者の前に現れるだけで終わる。

どうやら皆継承を認める気にはなれないようだ。

既に夜になり、デーチモとその守護者達が寝静まった時に、俺は150年ぶりの現世を眺めていた。

すると既視感を覚える後ろ姿を捉える。

イタリアで別れて以来一度も会うことのなかったあいつの後ろ姿にとても似ていて無意識に声が出ていた。

 

「エミー…リオ…?」

「は?」

 

忘れたことなど一度たりともなかったあいつの声に、目の前のそれは幻覚なのではとさえ思った。

だが俺の直感が、そいつは本人だと告げていた。

 

「あれ?ジョット………?」

 

確信した、こいつはエミーリオなのだと。

 

「やはり………エミーリオだったのか……何故…この時代に……」

「………」

 

俺の言葉を無視して、何事もなかったように歩き出すエミーリオに困惑するもその後をついていくと、一軒の店の中に入っていった。

俺も中へ入ると漸くエミーリオが目を丸くして手を口元に持って行く。

 

「え、マジでジョット?幻覚とかじゃなくて?」

「ああ」

「ええー…俺幽霊とか初めて見るんですけど」

「幽霊ではない、思念体だ」

 

エミーリオは店の鍵を閉めると、深呼吸をして席に座り俺の方を向いた。

 

「久しぶりだな、ジョット…」

「ああ、久しぶりだ、エミーリオ」

「ええっと……」

「にしてもお前が年を取らない体質だとは…いやはや驚いたな」

 

口では軽々しく言いはしたが、内心穏やかじゃなかった。

 

「何故、教えてくれなかったんだ…」

 

ボンゴレへの雇用を断った理由も、誰かと一定以上の関係を持たなかった理由も、全て分かってしまった。

その体質を誰にも悟らせまいとずっと偽って来た事実を突きつけられて、胸が苦しくなった。

 

「気を遣われるのは慣れないんだ」

 

困ったように言ったエミーリオの顔を見ると、俺は恐る恐るエミーリオに問う。

 

「本当の年齢は…いくつなんだ?」

「もういい訳も出来ないし教えるけどさ…んー…正確には知らないけど650歳くらいだな」

「ろっ…」

 

言葉が出なかった。

650年……途轍もない時間をエミーリオは一人で生きていたのか?

俺達の生まれる遥か昔からずっと今まで……こいつは…

 

「いつからだ」

「え?」

「いつからそんな体質になった…」

「さぁ…気付けばこの外見でイタリアにいたからなー…詳しいことは知らん」

「そうか…」

 

何故教えてくれなかったと…言ってしまった自身の言葉に後悔した。

言わなかったんじゃない…言えなかったんだ。

幾人と知己を看取ったハズだ。

苦しくないわけがないじゃないか!

俺も例に違わずエミーリオを置いて死んだのだから。

エミーリオは俺が呼び出された理由を知りたがっていたが、関係者ではない彼に本当のことを言うことも出来ず濁して伝えることしか出来なかった。

 

「それよりもエミーリオ、俺が日本へ帰化した後のことを知っているか」

「え?あの後?………まぁ数年くらいなら。でも俺もイタリア出たしあんま教えることもないと思うぞ」

「イタリアを?」

「ああ、あれから移動技術が発達したお陰で世界を回って店開いてたんだよ、んで今は日本ってわけ」

「なるほど」

 

永くそこに居続けば居続けるだけ疑われるから、一つの場所に留まれないのか。

 

「つか俺のことよりお前日本に帰化してちゃんと大往生したか?嫁は?」

「ああ、日本人女性と結婚し大往生した」

「そっかぁ…良かったな」

「お前のお陰だ」

「ん?お、おう」

 

俺がこうやって過去のボンゴレを引き摺らずに死ぬことが出来たのはお前の言葉があったからこそだ。

だから、俺の死を安堵するエミーリオが痛ましかった。

 

「ああ、そうだ、俺以外にも他の守護者達も呼び出された」

「え?あいつらも?軽く同窓会じゃん」

「お前がまだ店を開いていると聞いたら喜んで来るだろうな」

「あはは…」

 

俺には継承の為にデーチモを見守っていなければならないから、俺のいない間は誰かと一緒にいて欲しかった。

少しでもお前の孤独を和らげることが出来るように。

だからそんな辛い顔をするなエミーリオ…

俺は店を出ると翌日の夜にGとアラウディを呼んだ。

そして二人にエミーリオがまだ生き永らえていることを教えると、二人は驚愕して直ぐにエミーリオの元に行くと言い出した。

二人を連れてエミーリオの元に行けば、エミーリオは目を丸くして結局は笑いながら出迎えた。

二人からどうして教えなかったのかと問い詰められていたが、エミーリオはただ曖昧に笑うだけで、やはり別れが相当辛いのだと悟った。

 

「俺の話よりも、あれだ!自警団の方どうなったんだ?」

 

話題を変えたエミーリオに二人は渋い顔をし出した。

 

「潰れたも同然だ…ありゃ…」

「そうだね…」

 

Dがボンゴレを巨大にし、自警団とは程遠い真逆のものへと変貌させてしまった。

人を傷つける為に、俺はボンゴレを創った訳ではなかったんだがな…

これも全て俺が至らないばかり…か。

 

「おいジョット、大丈夫か?」

「ああ、全ては過ぎた過去だ…俺は既に過去の存在だ…それに、俺自身の人生に後悔などない」

 

そう、お前が教えてくれたように、後悔のない道を歩んだ。

だから後悔などするものか。

 

「つかおいエミーリオ、お前イタリア出て移った国で直ぐに大規模なテロなかったか?」

「あ?……あ、あったあった!あれはビビったね、うん」

「お前な……こちとらお前が死んだんじゃねぇかって心配してたんだぞ!音信不通になりやがって…死んだと思ってたんだぞ」

「それは僕も少し君に苛立ちを覚えていたんだ」

「え⁉わ、悪かったよ…でもあのテロで無一文になっちまって連絡の仕様がなかったしなぁ」

「ったくよ…」

 

違う、と俺は直感的に悟った。

エミーリオはそのまま死んだように思われたかったんだ。

人との繋がりを一定以上持ちたくなくて、距離を詰めてほしくなくて。

初めて、あいつの薄暗い部分に触れたような気がした。

そのあとエミーリオに雨月に会いに行ってくれと頼むと、分かったと言っていた。

エミーリオと別れた後、ナックルとランポウを呼ぶ。

エミーリオが今も尚生きていることを教えると二人とも驚いて会いに行こうとした。

 

「待て、お前たち…エミーリオには、その体質について何も聞いてやるな……何も言ってやるな…」

 

信頼うんぬんの話ではないし、俺達が問い詰めたところであいつの体質が改善されるわけでもない。

逆にあいつが苦しむだけだ。

だから何も言わず、何も聞かず、ただ久しぶりに会ったように接してやってくれ、と頼むと二人は頷いてくれた。

雨月にも同じ忠告をすると、俺はDにも知らせようとしたがそれをGが止めに入った。

 

「あいつには教えるな」

「何故だ」

「あいつはエレナとエミーリオに執着していた男だぞ……それに、エミーリオと音信不通になった後テロ集団とその関係者の女子供まで殺した…」

「何だと」

「あれからだ…ボンゴレがそれまでと比べ物にならないくらい巨大になってしまったのは」

「D…」

「今のあいつがエミーリオが生きていることを知ってみろ……何をするか分からない、今は継承を優先することが重要だろ」

「そうだな…」

「Dがああなったのはお前のせいじゃねぇぞジョット、元々考え方が合わなかったんだ」

「だが、あいつは俺の守護者だ…俺の責任でもある。なぁG」

「何だ」

「遣る瀬無いな…」

 

Dがああなってしまったのは俺の力不足であり、エミーリオの闇を知ることが出来ても救うことすら出来ないなんて、遣る瀬無いな。

Gとこれからの継承の試練を話しているとどこからか口笛のような音が聞こえた。

 

「これは…雨月の…」

「どうやらあっちも会えたようだな」

 

Gが神社に向かいだしたので俺もそれを追う。

神社が見えるというところで、足を止めた。

雨月の唄う声が耳に届く。

 

 

あるはなくなきは数そう世の中に あわれいづれの日まで(なげ)かん

 

世の中し常かくのみとかつ知れど 痛き心は忍びかねつも

 

 

棘が突き刺さるような痛みが胸を過ぎった。

雨月の唄が終わると、エミーリオは店の鍵をかけ忘れていたといい早々に立ち去っていく。

エミーリオが見えなくなったところで俺はGと共に雨月へ近寄った。

 

「ジョット……エミーリオは……孤独でしかないのでござろうな」

 

雨月の顔は険しく、そしてとても悲しげだった。

あれから数日、Dの思わぬ反逆がありながらも試練は無事終え、デーチモとその守護者に継承を認めた。

そして俺はDと共に神社の前に佇んでいた。

 

「まだそれを持ってくれているのだな…裏蓋に刻んだその言葉…」

 

Dの手には懐中時計があり、Dは俺の言葉に嘲笑する。

 

永久(とわ)の友情を誓う…ですか」

「その気持ちは変わっていない」

「あなたはいつまで経っても愚かですね…だからこそ私は貴方に失望したのです」

「……エミーリオはお前の所業を知っていたのか?」

「何故彼の名がここで出てくるのかいささか疑問ですね」

「Gから聞いた、エミーリオは他国のテロに巻き込まれたと」

 

その言葉を皮切りにDから重く濃い殺気が襲って来た。

 

「もう一度その名を口にしてみなさい、あなたをリング共々破壊して差し上げますよ」

「D!俺は――」

「お互いの道が再び重なることはないでしょう…さらばです、プリーモ」

 

Dはそう言い放つとリングへと戻っていった。

すると背後から他の守護者が現れ俺は懐中時計を閉じる。

 

「皆ご苦労だった、さぁ、リングへ戻ろう」

「ジョット!」

 

リングに戻ろうとした直前だった。

遠くの方からエミーリオの声がし、守護者達は皆そちらに視線を移した。

 

「エミーリオ」

「よ、つか皆揃ってんの?ナッポーは?」

「Dは一足先に行ってしまった」

「ああ、そうなのか…」

 

エミーリオは酒瓶を片手にもう片方で手を振って近寄って来た。

 

「もう行っちまうのか」

「すまない、またお前を一人にしてしまう」

「いや別に蘇ってまで会いたくないから、切実に。ちゃんと成仏しろよ」

「僕たちは幽霊じゃないと言ったが最後まで聞き入れてくれなかったようだね」

「思念体ってやつだろ、幽霊じゃねぇか」

「もうそれでいいんだものね」

「究極にどうでもいいがな」

 

エミーリオの言葉にGが呆れていて、雨月が微笑んでいた。

 

「エミーリオ」

「ん?」

「俺の親友でいてくれてありがとう」

「てめぇの料理は好きだったぜ」

「究極に美味しかったぞ」

「僕も君の料理は気に入っていたよ」

「俺もエミーリオの店は好きだったんだものね」

「私もエミーリオの酒は好きでござったな」

「おお、ありがとなー」

「皆時間だ、エミーリオ…さらばだ」

 

俺は次こそリングに戻ろうと顕現を解こうとした。

 

「またな」

 

もう二度会わないだろう俺にさえそれを言うのか、エミーリオ。

イタリアを去るあの時だって、お前はさようならを言わなかった。

 

 

何故だろうな…お前のその言葉に、もう一度会える気がして仕方ない…

 

 

そして俺はリングへと還った。

 

 

 

 

 

あるはなくなきは数そう世の中に あわれいづれの日まで(なげ)かん

(生きている人は亡くなり、亡くなった人は数を加える、この世のなかに、私はいつの日まで生きて嘆くのであろう)

 

世の中し常かくのみとかつ知れど 痛き心は忍びかねつも

(世の中は、いつもこのようになると、薄々は知っていたけれど、それでも辛い心は耐え難いことだ)

 

 

 

 

 




ザンザス:思いっきり地雷を踏みぬかれた被害者
D:あと10秒でも留まっていたらエミーリオと出会っていたかもしれない男。テロリストをモザイク掛けるほどオーバーキルした。
エミーリオ:地雷を無意識で踏み抜いた男、なお友人たちが死後同窓会していることに戸惑いを隠せない。
G:エミーリオとDのエンカウントを回避し、Dの暴走を未然に防いだ英雄。だが残念、数日後にエンカウントする予定である。

因みに唄の方は、小野小町と万葉集の歌です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの際会

エミーリオは再び出会う。


ハロー、俺はエミーリオ。

あんなに小さかったマシュマロ君が今や世界征服を狙うラスボスみたいになってて戸惑いを隠せない。

あのマシュマロクッキーが大好きだった子だよね?

入念に確認しても本人だと証言されるばかりか、写真まで見せてくれる始末。

うわーい、マシュマロ君じゃないか。

マジか、何があってそんな風になっちゃったの…

眼鏡君は何だか唖然としてるっていうか、固まっているというか。

それからマシュマロ君の悪事を細々と聞かされて正直どうしていいか分からない。

これが眉毛君やトンファー君だったらまだ納得しようがあっただろうに。

だってあのマシュマロ君だよ⁉

あの子は誰かを傷つけるような性格じゃないと思ってたけど、やっぱ20年かそこらで人って変わるもんなのね。

眼鏡君がマシュマロ君にとって俺が大事な人とか言ってるけど、そんなわけないじゃない。

だってあの子と会ったの20年くらい前だよ?覚えてるわけないじゃん。

俺の名前以前に出会ってること自体覚えてるか怪しいレベルだよね。

確か何か悩み抱えてたけど、全く覚えてないや。

マシュマロが大好きだったことくらいしか覚えてない。

まさか昔会った子がラスボスなってたなんて思わなかったけど、長生きしてるとこういう状況に出会うもんなのかね。

じゃない、現実逃避しないでこれからどうするか考えよう。

眼鏡君と話が終わり、俺は厨房へ行く。

そこには何度か俺の店に来てくれた女の子たちとイタリアで会った子と眼帯の女の子がいた。

俺が料理人だということで、四人の作業にアドバイスをしながら作ることになったけど、やっぱり女の子だからかな、すっごく静かだ。

味の仕込みだけ教えて後は自分達でやると言ったので退散することにした。

あ、そういえば少女の胸におしゃぶりあったけど、あれ赤ちゃんの間で人気の奴だよね。

今度それ何なのか聞いてみたいな。

自分の部屋に行こうとしたら銀髪のおっさんに出会った。

うおおおお、髪ながっ!

あれ?でもこの大きな煩わしい声って…

ザンザスの友達の銀髪君だった。

何でお前がいると聞かれたので経緯を話すと、頭抱えてどこかに案内してくれた。

モニター室のような場所に連れてかれて、銀髪君が何やら機械を弄っていると画面が明るくなる。

画面の向こうでこれまた懐かしい眉毛君の部下がいた。

オカマもオカマで俺を見るなり固まってたけど、銀髪君が状況を説明すると納得してくれた。

銀髪君が眉毛君を呼び出せと言うも、どうやら食事中らしく出れないと言われた。

すると銀髪君が俺の方を見て一瞬の間が空き、オカマにコイツの名前を出せと言えば1分後に眉毛君が出てくれた。

おお、10年後の眉毛君髪伸びてる。

34歳か、おっさんだな…でも全然老けてないな、言うならば今が丁度24歳ってくらいに見える。

にしてもその年でまだ肉肉言ってんのかあいつ。

俺の顔を見て黙り込む眉毛君に、銀髪君がとにかく日本に来いとか言ってるんだけど、ここが日本であることを初めて知ったんですが。

通信切れたというか、切られたことに銀髪君がぶち切れて耳を塞ぎながら落ち着くの待った。

こいついつか血管ブちぎれるんじゃなかろうか…

眉毛君にはちゃんと部下を大切にと会った時に注意してやろう。

そういえばいつ敵と戦うんだろうか。

銀髪君に聞けばそろそろと言われたが、ぶっちゃけ何がどうなってるのかさっぱり分らん。

と思ってた傍からいきなり警報が鳴り響いたので二人で部屋を出る。

銀髪君と話しながら周囲を見渡していて、マグロ君達が見えたと同時に背後の壁がぶっ壊れて赤髪のおっさんが現れた。

銀髪君がぎゃーぎゃー言ってるのを聞いてるとコイツは敵のようだ。

赤髪のおっさんのことは銀髪君に任せて俺はマグロ君達と一緒に逃げることになり、アジト出た瞬間に色んなところから爆発音が聞こえるんだけどコレ本当に大丈夫なのかな。

どうやら不動産屋に逃げるようでそこに向かえばまさかのラーメン君が出てきた。

君不動産屋だったのか。

ラーメン君も俺がいることに少なからず驚いている。

何だか皆がラーメン君怪しんでいたけど、敵が来たから仕方なく隠れることになった。

つかさっきと同じ赤髪のおっさん来たんだけど銀髪君やられちゃったの?弱っ

赤髪のおっさんはどっかに行ってしまい、もう大丈夫だと思った矢先に少女が敵側に拉致られた。

もじゃもじゃ頭の子牛に化けてたらしい、気付かなかったわ。

にしても少女涙目だよ、助けなきゃね。

と思ってマント着てる仮面野郎を1発ぶん殴って少女を助けてみたら何故か皆俺を凝視してるんだけど……いやお前ら固まってないで早く敵を倒せよ。

つーか何でこいつら平然と空飛んでんの?

いやその前に俺と同じ炎使ってるのが気になるんだけど、あれ俺だけじゃなかったのか。

後でこの炎何なのか聞いてみようかな。

女の子って繊細だから横抱きのままだと失礼だよなと思って降ろそうとすると違う方向からまた何か増えた。

金髪オールバックの兄ちゃんとゴリラとサルみたいなやつらで、なんだか少女が嬉しそうに名前呼んでたから多分味方だろ。

初っ端からサルとゴリラがやられたんだけど、めっちゃ弱いな。

金髪の兄ちゃんも立ち向かおうとしてて、あれやられるなーっと思ってたらマグロ君が助けに入って来た。

俺の中のマグロ君って野球少年と不良少年の金魚の糞みたいなイメージあったけど、撤回するわ。

オレンジ色の炎がグローブから出てるけど、あれヤバくない?

一歩間違えれば火傷もんじゃないか…いやその前にマグロ君も炎出せたのかよ!

なにここ炎のオンパレードじゃねぇか!

いやそれよりも少女達を安全な場所に連れて行かないと。

この中で最年長すぎる俺が焦ってどうする。

少女を地面に降ろした瞬間に体が地面から浮き出して、すげービビった。

なにこれ、すげーとか言ってる場合じゃねぇ。

なにあの蛾みたいな奴…さっきお面被ってたマント野郎だよな…あ、消えた。

さっきから皆苦しそうにしてるけど、何で?

えーと……取り合えず少女達を避難させようと一歩踏み出したと思えば無重力が切れたみたいに元の感覚に戻った。

見掛け倒しかよ!

いやでも他の奴等まだ苦しんでるんだけどこれ如何に。

一応少女達3人と子供2人を避難させたかったんだけど、頭が痛いようで立つどころじゃないらしい。

眼帯の少女の方を見てみると左目にどでかいレンズが浮かんでた。

あれ突っ込んだ方がいいのかな。

皆苦しんでるのは分かるんだけど、俺から見ると皆地べたに這いつくばりながら唸っててどこぞの宗教団体にしか見えない。

なにこれ怖い。

知らぬうちに皆回復してて、一気に敵に立ち向かっていったはいいんだけど、なにあれ。

もう一度言う、なにあれ。

何でカンガルーが空飛んでんの?何でイルカが空飛んでんの?可笑しいよね⁉

あれ俺の目が可笑しいのか?

隣の少女達に聞いてみるとおろおろされて、近くにいた不良少年が後で説明するから取り合えず離れろと言って来たので離れることに。

後ろからすんごい音がなったから振り向くと、蛾がマグロ君によって殺虫されてた。

何だあのグローブ、まるでガスバーナーじゃねぇか。

どうやら敵は一旦引き上げるらしい。

何やら周りが話し合ってるようだけど、何々…ん?森に逃げるの?マジで?

不良少年が(しき)りに腰を押さえてるから痛いのかなと思って聞いてみると少し間があった後に否定してきたので、軽く叩いてやったら凄く痛がってくれた。

というわけで俺が説得して、不良少年をおぶることに。

居た堪れないのだろうか、肩を縮こまらせている不良少年を無視して森に入っていった。

 

 

 

 

よっす、俺はエミーリオ。

森を歩いている間に不良少年から一通りの知識を教えてもらった。

なるほど、これ死ぬ気の炎って言うのか。

なんだか名前に反して活用方法がガスバーナー代わりだったから、もう少し使いどころは改めようと思った。

生命エネルギーねぇ…覚悟がないと使えないらしいけど、俺何か覚悟するような出来事あったかな。

いやその前に炎出たの何百年前だと思ってんだ、覚えてねぇわ。

うん、うん、そっか、お前たちマフィアだったのか………はいぃいいい!?

マフィア!?それもイタリアン?お前まだ子供だろ!?

頭が痛くなってきた。

どうやらマフィアの頂点であるファミリーらしく、トンファー君も野球君もボクサー君も眼帯少女も同じファミリーで、ボスはマグロ君だと…なるほど、聞きたくなかった。

んでもってこの場にいるのは少女二人を除く全員がマフィアか殺し屋だよ、って辛い。

野球少年を純粋だった子供の頃から見てる分辛い。

っていうかこの流れだと銀髪君も眉毛君もマフィアってことになるんじゃ…なにそれ辛い。

割と本気でショックを受けてる俺を気遣ってか、マグロ君が声を掛けてくれるけど、お前本当にマフィアのボスなの?

まだナッポーに実は私マフィアだったんです、って言われた方が納得出来たわ。

戦争時代ならまだしも、この平和になりつつある時代、それも安全な国と言われる日本でこんなマフィアの抗争が起こってることに対して物凄く不安なんですが。

俺のマフィアのイメージって銃撃戦なんだけど、今じゃ炎使って戦うのが最先端らしい。

これが所謂ジェネレーションギャップという奴か、ってそうじゃねぇ。

悶々としている間に少し広がった場所に来て、今夜はここで過ごすとのこと。

不良少年を誰かに任せ、俺は森を散策する。

こう見えても数百年前に森でサバイバルしてたから木の実くらいなら何とか集められるなと思って辺りを探し回ること数時間、両手に収まりきらないので上着の端を引っ張り、出来た空間に木の実を溜めまくる。

山菜とキノコ、それにドングリやトチの実を探し出し、それを先ほどの広場まで持って帰る。

両手に沢山の食糧を持って帰って来た俺に皆驚いていたが、これだけで驚くと思うなよ。

俺の料理の腕を忘れちゃ困るぜ。

時間がないのであまり味に拘ることもできなかったが、まぁ中々美味しく出来上がった。

スープにしたそれを皆で飲んでいると、お礼言われた。嬉しい。

眼鏡君が思い出したように俺にマシュマロ君のこと聞いてきたら他の人まで食い付いてきた。

いやほんと会ったの20年も昔だからマジで全然覚えてない。

マシュマロクッキー作ってあげた記憶しかない。

何だか残念そうにしないでよ、俺が悪いみたいじゃないか。

なんだかマシュマロ君について少女が語り出したんだけど。

ふむ、ふむ…どうやら並行世界と意識を共有するというファンタジーな力を持っているらしい。

いや俺もワープ出来る時点で十分ファンタジーなんだけどね。

なんやかんやとわいわいしてるけど、大丈夫なのかなこの子達。

集団とは少し離れて俺は眠ってたけど、夜明け前に起こされた。

俺は非戦闘員なので広場で待機して、他の人達は森の中に行ってしまったけど、どうみてもこれ一番守らないといけない場所が一番手薄だよね。

いやマグロ君がボスっていうからにはそれなりに強いのか?

って考えてたら夜明けと同時に爆発音が聞こえたんですけど、最近のマフィアって過激すぎない?

爆発が次々に起こってるけど、イタリア戦争時代を思い出すね。

何度か爆発した後一際大きな爆音が鳴り響いて、これヤバくね?と思ったけど、マグロ君の通信機から生存確認出来たらしい。

ん?眉毛君が助けに?あの子が他人を助けるなんてっ…ヤバイ、感動してる場合じゃない。

何やらもう一方の戦闘が苦戦してるようだが、助太刀があったお陰で助かったようだ。

思ってたより都合のいい方へ進んでるようにも思うけど、まぁ勝ってるからいいのか。

いきなりマグロ君が焦り出したんだけど、なに?幽霊出たの?

俺幽霊なんて最近見たばっかだから驚かないけどさ、幽霊が何で戦力になるのかな。

凄い苦戦してるから行ってくる!って言い残して飛んで行ったマグロ君を呆然と見送ったけど、ここ守りゼロ?

なんだか物凄い戦いを繰り広げて……ん?………あれ、なんだかいきなり眠くなってきて………

 

 

 

 

 

やっほ、俺はエミーリオ。

どうやらいきなり倒れたらしい。

俺からすれば何百年ぶりかの眠気に襲われてそのまま眠っちゃっただけなんだが。

なんだか懐かしい夢を見た気がしたんだけど、全く覚えてない。

いやそんなことよりも今は目の前の状況が分からない。

抉られた地面と、何故か俺の枕替わりになっていた少女の服らしきものと近くに置かれてた黒いスーツ。

んー?何があったし。

マグロ君がボロボロで、皆もボロボロなところを見ると戦い終わったのかな。

え、まさか寝てる間に全部終わったの?うわ、恥ずかしい。

近くにいたオカマが傷はないかと聞いてきたけど、爆睡かましてただけなんて言えねー。

どうやら本当に戦いは終わったらしい。

最終巻だけぶっ飛ばしてしまったような気分だな、コレ。

そういえば少女はどこにいったんだろうか…

聞いてみると、死んだらしい。

うわぁ、ショック。

んー…まぁ死んだのは悲しいけど、俺人の死に慣れ過ぎて感覚とか麻痺してるとこあるもんなぁ。

マシュマロ君も死んだらしい、マジかぁ…

あ、二代目ナッポーだ。

あっちも俺に気付いて近寄ってくるけど、ますます初代ナッポーに似てきてるよ、ヤベぇよ。

もしや二代目ナッポー君もマフィアなのかな?と思って聞いてみると激しく否定された。

どうやらマフィアぶっ潰すのを目標に活動しているテロ集団だそうで。

普通に危険人物だった。

それと眉毛君が視界に入ったので、そちらにも声を掛けてみた。

おいお前マフィアだってな、聞いたぞこの野郎。

そんな子に育てた覚えはありません、切実に悲しい。

眉毛の不仲の親父さんがマフィアのボスだったようで、彼がマフィアになることは決定事項だったらしい、辛い。

めそめそしてると間延びのある声を掛けられた。

蛙の被り物してる緑色の髪の少年がいて、どっかで見たことがあるような気がしたらやっぱりどっかで会ってたらしい。

フランス?ああ!リンゴの被り物あげた少年か!

どうやら眉毛君の下で働いてるらしく、先輩の後輩いびりが酷いらしい、可愛そうに。

少年とお喋りしているとマグロ君の悲痛な声が聞こえてきた。

何名か死んでしまったことにマグロ君が落ち込んでると、いきなり声が聞こえてきて、赤ちゃんが5人出てきた。

五人も…って、ん?あの赤いチャイナ服着てる子……風じゃね?

待って待って待って、何で風がここに、っていうか何で赤ちゃん!?

あっちも俺に気付いてすんごく驚いてるけど、俺も驚いてるよ!

駆け寄って、腕に抱いてみる。

うん、こいつは風だ。

オムツ時代から抱っこしてた風以外ありえねぇ。

説明しろよ、と言うと観念したみたいで、過去に戻ったら話すと言質を取った。

まぁ俺が年を取らないことも話さなきゃいけなくなったけど、こちとら赤ちゃんに逆戻りしてるコイツの方が気になって仕方ない。

もしかして俺が今まで会って来た赤ちゃんって本当は成人だったんじゃなかろうな。

取り合えず過去に帰ってから整理しよう。

いや過去で未来の記憶あるわけないじゃん、と気づいたのは過去に戻った後だったのを今の俺は知らなかった。

あー、ヤダヤダ、最近色んなことが起こり過ぎだよ。

俺の平穏は何処(いずこ)

 

 

 

 

 




Xバーナー:今話では殺虫剤として役立った沢田綱吉の大技。
沢田綱吉:エミーリオからの好感度が上がったことを知らない。トリカブトの交戦後ピンピンしているエミーリオに関して疑問すら浮かばない。既にエミーリオに対して感覚が麻痺しているようだ。
エミーリオ:クライマックスを見逃した男。( ˘ω˘)スヤァ
平穏:来ない。
風:逃げ場はない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの愛惜

エミーリオは思われる、

貝の大空に

虹の大空に

海の大空に



沢田綱吉side

 

「一晩祠の中で寝てて、起きて扉を開いたら君たちがいたんだ…アッハッハ」

「やっぱエミーリオは面白いのな!」

「いや笑って済む話じゃないよ山本!」

 

俺は心の底から山本に突っ込んだ。

事故でエミーリオさんが一緒に未来に飛ばされてしまい、俺は一般人を巻き込んだことに頭を抱える。

しかも白蘭との闘いが迫ってるって時にぃぃぃぃ!

俺は、エミーリオさんがスパナ以外この場にいる者全員と面識があることに驚きを隠せなかった。

少し前も、ザンザスと鉢合わせしたところをエミーリオさんが仲裁に入って事なきを得たことを思い出し、ザンザスともそれなりに面識があったことを思い出した。

エミーリオさんにはここが未来であることをザックリ説明した。

本当は笑って相手にしないだろうと思っていたけど、真剣に聞いてくれたことが予想外だった。

だからだろう、リボーンがエミーリオさんの態度に疑問を持ち、問い詰めてた。

 

「おいおめぇ」

「あ、また会ったね、君」

「単刀直入に聞くぞ、何で疑う素振りすらねぇんだ」

 

そういったリボーンは銃口をエミーリオさんの頭に押し付けて、高圧的に問いただしているのに対して、エミーリオさんは全くそれを意に返さない様子で答えた。

 

「綱吉君は分からないけど、少なくとも武や隼人がこんな嘘つくとは思えないし、恭弥がそんなごっこに付き合うとは到底信じがたいからなぁ…あ、あと人に銃口を向けるのはやめようね」

 

確かにそうだ、と思っているとリボーンも納得したようで銃を仕舞う。

にしてもこの人リボーンの殺気にものともしないなんてどういう神経してんだ。

エミーリオさんには一先ず、マフィアのことを伏せて状況を把握して貰い、非戦闘員として京子ちゃん達の側にいて欲しいと頼むと快く承諾してくれて俺はホっとした。

それからは皆解散となって、敵の出現に備えて休むことになった。

俺は正一君の元に行き、今回の継承のことを話しに行き、それが終わると自分の部屋で休んでいた。

数時間すると、ユニ達がご飯を作ってくれていて美味しかった。

どうやらエミーリオさんに味付けを教わったらしい、なるほど。

 

「あれ?エミーリオさんは?」

「先に食べてたから今は部屋に戻っていると思いますよ」

 

ユニの言葉に納得して、そのまま食べているとふと思い出したようにユニに話しかけた。

 

「そういえばユニって、どこでエミーリオさんに出会ったの?」

「ああ、それは10年ほど前にまだ私が小さい頃、イタリアの街で母とはぐれてしまった時に、声を掛けてくれたんです」

「え?イタリアで?」

「はい、彼と一緒に広間の方でアイスを食べながら母を待っていたのを今でも覚えています、とても優しかったのが印象的だったので…」

「確かにエミーリオさんらしいね」

「そういえば皆さんもエミーリオを知っているようでしたが…」

「それは、エミーリオさんの営業してる店が並盛では有名だからだよ、エミーリオさんの料理は美味しいし」

「俺は子供の頃から話し相手になってくれる奴だったしな。近所の兄ちゃんみたいだよな」

 

山本と俺の言葉に京子ちゃんとハルも入ってきて、エミーリオさんの話が続いた。

食事を食べ終わった俺達は部屋に戻ろうとした時に、ジャンニーニから作戦室へ収集を受けた。

そちらへ行くと、白蘭の転送システムが戻って来たとスパナがいうと、モニター画面がいきなり赤く染まる。

 

「な、今度は何!?」

「これは……敵が侵入してきました!」

 

ジャンニーニの言葉に驚いたけど、直ぐにユニの元に行く為にアジトを駆け出した。

ユニを見つける前にスクアーロとエミーリオさんが視界に入り、無事を確認して安堵した瞬間、彼らの背後の方の壁が壊れた。

そこには真6弔花の一人であるザクロという男が現れた。

だけどスクアーロが一人で戦うと言い出し、その他はアジトを出た。

爆発の絶えないアジトを見ながら、ハルの提案した川平不動産に避難すると、そこには白髪の丸眼鏡をしてラーメンを啜っている男性が出てきた。

 

「早く入んなさい、追われてるんでしょ?」

「な、何でそんなことを…」

「ほらほら、真6弔花はおじさんが何とかするから、ささ早く」

「「「「「!?」」」」」

「あれ?川平君じゃないか」

 

何でこの人が真6弔花のことをっ、と思って聞こうとする前にエミーリオさんの声がそれを遮った。

 

「おやエミーリオさん、あなたもここにいたんですね」

「んー、何か面倒なことに巻き込まれちゃってね、ま、匿ってよ」

「いいですよ、さぁこちらへ」

「お邪魔しまーす」

 

陽気な彼の態度に我に返り、引き留めようとするも川平という男に中に引き込まれた。

 

「エ、エミーリオさん!この人知ってるんですか⁉」

「ん?ああ、こいつ俺の店の常連」

「ええええ⁉」

「少し静かにしてもらえません?ザクロが追ってきます」

 

怪しいが、時間もなかったので取り合えず男のことを信じて物陰に隠れていた。

ザクロにかなり怪しまれたが、男が何かをしたお陰でバレずに済んだ上、ディーノさんからの連絡で雲雀さんがデイジーを倒したことを知り、漸く肩の力を抜く。

 

「ありがとねー川平君、助かったよ」

「いえいえ、じゃあ僕はこれから旅に出ますので後は好きに使ってくれていいですよ」

「え、もう店には来ないの?」

「エミーリオさん!今そんなこと聞いてる場合じゃなくてっ」

 

俺が言い終える前にその男は出ていき、その後山本やビアンキ、スパナにジャンニーニはアジトに戻ると言って二手に分かれた。

俺達もこれからのことを話さないといけないと言うときに、真6弔花のトリカブトがランボに化けて既に侵入してユニを奪われてしまった。

 

「ユニ!」

 

トリカブトが入口に突っ切っていき、京子ちゃんのお兄さんと獄寺君、バジル君の守備を突破してしまい、上空に逃げようとした時だった。

 

「おい、この仮面野郎」

 

低い冷静な声と共にトリカブトが盛大に吹き飛ばされた。

俺は一瞬何があったのか分からなかったが、直ぐにエミーリオさんがトリカブトを殴り飛ばしたと気付いた。

そしてエミーリオさんの腕の中にはユニもいて、俺はあの一瞬でそれをしたエミーリオさんに驚いた。

 

「誰ですか?彼は…白蘭様の情報にはありませんでしたが」

「ああ?何か知らんが女の子を奪いに来る奴等に名乗る名なんぞねーよ」

「ハハン、どのみちあなた諸共葬り去るだけですが、やりなさいトリカブト」

 

桔梗の一言でトリカブトがエミーリオに向かっていくが途中で思わぬ方向からの攻撃がトリカブトを襲った。

 

「姫!」

「γ!……野猿に太猿!」

 

γに野猿、太猿もやってきて加勢してきたが、既にこの三人も戦闘データは白蘭経由で真6弔花に伝わっていて、直ぐに不利に追い込まれた。

そこに俺は乱入し、トリカブトと対峙しようとすると、トリカブトが修羅開匣をした。

強力な幻覚に苦戦していると、ふとトリカブトの様子が可笑しくなった。

 

「どういうことだこれはっ!」

 

急に幻覚が不安定になり、そこを突こうと攻撃するが気付かれて回避され、幻覚をもう一度張り直された。

くそっ、どうすれば…

 

「ボス!大空の子の右側!」

「!」

 

クロームの言葉に従いユニの方まで一気に近づき、右側を攻撃すると何もなかった空間で拳が何かにぶつかった感覚と共にトリカブトが現れた。

だが直ぐにトリカブトが消えると、再びクロームから指示が飛ぶ。

 

「下!ずっと下!」

 

数度の攻撃がトリカブトに入ると、トリカブトの幻術は消え、獄寺君達が漸く苦痛から解放された。

トリカブトが不利と悟った桔梗のサポートをリボーンやバジル君が妨げ始める。

そして俺は幻覚の解けたトリカブト目掛けてXバーナーを浴びせ、トリカブトを退治した。

こちらが不利と悟ったのか桔梗とブルーベルはトリカブトを抱えて去って行ってしまった。

超死ぬ気モードが解けた俺は仲間の無事を確認し出す。

数名の重軽傷者を出したが死者は出ず、最悪の事態は免れた。

その後、森の方に逃げることになり、森の中を歩いている時にエミーリオさんが獄寺君と会話をしているのが聞こえた。

体を強く打ち付けたことで歩くのが辛そうな獄寺君をエミーリオさんが説得して背負っているが、獄寺君はそれが恥ずかしいらしく顔を隠しながらエミーリオさんに死ぬ気の炎のことを教えていた。

確かに先ほどの戦いを忘れて下さいとは言えないので自分たちがマフィア間の戦いをしていることを教えることになった。

 

「死ぬ気の炎ってのは人間の生体エネルギーが圧縮して視認できたもののことで――…」

「ああ、なるほど、あれって誰でも出来んの?」

「誰でもっつーか…覚悟なりなんなり必要だが、それなりに訓練を受ければ出せるもんだ、因みに現代のマフィア間の戦いではこの炎を使って戦うのが基本になってんだよ」

「ん?マフィア……?」

「ああ、俺達の所属してるのはボンゴレファミリーってマフィアで、伝統・格式・規模・勢力すべてにおいて別格といわれるイタリアの最大手マフィアグループだ」

「はい?イタリアンマフィア!?…待て、俺❝達❞ってどういうことだ」

「野球バカも芝生頭も、雲雀の野郎もアホ牛もクロームも同じファミリーの所属で、10代目はそのボスだ」

「……ファミリー…」

「この場にいる奴等はそこの笹川とバカ女除いたら他のファミリーの奴等か、殺し屋だ」

「殺し屋……」

 

多分両手が塞がっていなかったら頭を抱えているであろうことは予想に難しくない顔をしていたエミーリオさんに申し訳ない気持ちになった。

そういえばエミーリオさんは山本が子供の頃から世話を焼いていたのを思い出すと更に気まずくなった。

 

「すみません、山本をこちら側に連れてきたのは俺なんです…この戦いが終われば殴ってもいいので今は我慢してください!」

「じゅ、10代目!あいつはあいつの意思で守護者になったんです!」

「…」

「エミーリオ!10代目は悪かねぇ!それにマフィアっつっても略奪や殺しを率先してるマフィアグループじゃねぇんだ!」

「……隼人、少し黙れ」

「っ!」

「綱吉君、俺は別にマフィアやめろなんて言うつもりはないよ」

「え?」

 

俺は一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

「誰かを殺すにも、誰かを守るにも、全ては君の判断であり君の人生だ…俺が関与するところではない」

「エ、エミーリオさ…」

「だけど、その選択に後悔するなよ」

「え…」

「お前の判断を信じて従った奴等がいるんなら、その判断に後悔して立ち止まんじゃねぇぞ」

 

「自分の決めた道くらい、胸張って進めよ」

 

俺はその言葉が途轍もなく重く感じた。

背中には沢山の人達の希望と信頼が乗っていて、それを涙目で受け止めていた俺に掛けられたその言葉に、いつもなら嘆いてただろう、悲観していただろう、荷が重いと肩を縮めていただろう。

でも、でもエミーリオさんの言葉は、リボーンのように叱責の言葉でもなく守護者達の励ましの言葉でもなかった。

でも、どの言葉よりも俺の心に突き刺さる言葉だった。

 

「は…い……」

 

掠れた声だったけど、エミーリオさんは何も言わずに再び歩き出した。

ああ、皆がエミーリオさんを好きな理由がなんとなく分かった。

優しいけど、厳しくて、心配してくれるけど、叱ることもあって、時には安心させてくれる言葉を持っていて、誰よりも筋を通してる人なんだ。

沢山の信頼と希望と命が掛かってる肩の苦しさを、本当の意味で受け入れられたような気がした。

 

 

その後、エミーリオさんは森の食材でスープを作ってくれたりと、凄く助かり頭が上がらない思いだった。

そんな時に正一君の一言で周りの空気が固まる。

 

「エミーリオさん…あなたは白蘭さんと面識があると言っていたが、まだ詳しい記憶は思い出せないですか?」

「ん?白蘭の?」

「「「「「なっ!?」」」」

 

その場に居た者は談笑や雑談を止め、エミーリオさんの方に視線を固定していて、俺もエミーリオさんの方を凝視していた。

 

「記憶っつったって、10年くらい前のことだからなぁ…まだあいつがこんくらいちっこい時に一か月ぐらいあいつの家で過ごしたことしか覚えてねーよ」

「白蘭さんはマシュマロが好物だけど、それは知っていますか?」

「ああ、だって俺がマシュマロクッキー作ってあげたのがキッカケですんごい気に入りだしたからな…当時は糖尿病にならないかヒヤヒヤしてた」

「待てエミーリオ!あんた白蘭と知り合いなのか!?」

「知り合いっていうか……んー昔少しだけ一緒にいただけで、あっちは俺の顔すら覚えてないと思うぜ」

「どこで出会ったんですか?」

「イタリアだぜ、まぁ普通の裕福な一般家庭で育った無邪気な子供って感じだったけど、人間20年も経つと変わるもんだよな」

「いや変わり過ぎでしょ!」

「白蘭にも子供みたいな時期あったのか…」

 

獄寺君と俺はエミーリオさんの言葉に反応するが、その後ユニが白蘭の力について話し始め、それを他所にエミーリオさんはそのまま少し離れた場所で木に凭れ眠り始めた。

その後暴れる匣兵器を仕舞って漸く一息ついたところでユニが何か思い詰めたような顔で口を開いた。

 

「白蘭は……何かを探している様子でした」

「探す?それはトゥリニセッテじゃないの?」

「違います、それとは別に…彼は頻繁に力を行使して何かを必死に探していた様に見えたんです」

「ええ?並行世界の知識を使っても見つからないものなの!?」

「恐らく……凄く焦っている様子でしたので」

「でも白蘭が必死になってまで探してるものって一体…」

 

正一君なら何か知っているんじゃないかと思ってそちらを見てみると、傷の具合が悪いのか眠ってしまっていて起こすのは忍びなかった。

そして夜明け間近になり、寝ていた人たちを起こし真6弔花を迎撃する為に配置に付き始めた。

そして夜明けと同時に真6弔花との戦闘が始まり、離れた場所にいる俺達でもその過激さが伝わって来た。

獄寺君のところは不利な状況だったが、ザンザス率いるヴァリアーが援護に入り形勢を持ち直した。

そして京子ちゃんのお兄さんとランボ、バジル君が戦っているところは桔梗の攻撃に苦戦しているようだったが、こちらも骸と雲雀さんたちの加勢でどうにか乗り切った。

そこからは集まった戦力同士で戦闘を始め、爆発が目に見えて激しくなった。

京子ちゃんやハルが心配そうに森の方を眺めていると京子ちゃんのお兄さんから通信が入った。

 

「ゴースト!?…炎を吸い取る!?」

『そーだ!奴にはリングも炎も匣兵器も通用しない!危険すぎる相手だ!一刻も早くユニを連れて逃げろ!』

 

皆が死んじゃう――――!

 

「沢田さん、行ってください」

「ユニ…!」

「私にはリボーンおじさまやエミーリオがついています」

「………行ってくる」

 

俺は死ぬ気丸を飲み込み、超死ぬ気モードになると仲間の元に向かった。

 

 

 

 

 

ユニside

 

「行ってくる」

 

そう言い残して、沢田さんは仲間の元に飛んで行った。

沢田さん、ファミリーの皆を助けて――――…

 

「ツナ君なら大丈夫だよ…私は信じてる」

「ハルもそう思います!ツナさんはすっごく強いですから!」

 

京子さんやハルさんの言葉に私もそう祈るしか出来ず彼の背中を見送った。

戦闘が激しくなるにつれ木々が揺れていき、私は皆の無事を案じていた。

 

「ん……」

 

ドサリ、と何かが倒れる音を聞き、振り向くとエミーリオが地面に横たわっていた。

 

「エミーリオ!」

「エミーリオさん!?」

 

近寄って声を掛けるも起きる気配はなく、死んだように目を閉じていた。

私はエミーリオの肩を触ろうとした瞬間、胸元のおしゃぶりを覆っていたガラスの膜が割れ、中のおしゃぶりが輝き始めた。

 

「ユニちゃんどうしたの⁉」

「この音は何!?」

「おしゃぶりが鳴ってる!」

「わ、私にも分かりません…あ、大空のおしゃぶりが沢田さんと白蘭の大空のリングに共鳴してる…?」

「トゥリニセッテの大空同士が呼応してんのか?」

 

すると、オレンジ色の膜のようなものが私をエミーリオごと包み込み、浮かび上がる。

 

「体が勝手に!」

「ユニちゃん!」

「ユニ!」

「リボーンおじさま!」

 

リボーンおじさまが飛んで膜に触ろうとするも弾かれて、そのまま皆と離れていく。

 

「結界だ!大空の炎が強力な結界を作っている!」

 

私は足元に横たわるエミーリオを必死に揺する。

 

「エミーリオ!起きて、お願い!」

 

だが起きる素振りはなく、焦りが募るばかりだった。

 

「エミーリ…」

 

いきなりだった。

急に意識が引っ張られるような感覚に襲われた。

 

 

 

私は崖の上に座っていて、そこから見える景色を呆然と眺めていた。

目の前には虹が掛かっていて、とても綺麗で目から涙が零れた。

ああ、この体は私じゃない…。

あの夢の中の女性だ、と不思議と分かってしまった。

私は彼女の視点から見ているのだと気付く。

 

『ああ、ここにいたのか』

 

背後から声を掛けられ、彼女は振り向いた。

そこには顔のボヤけて見える人型が立っていた。

 

『あの色のついたものが気になるのか?あれは虹だよ』

『に…じ……』

『ああ、虹だ……さぁ行こう、他の者達も君を探していた』

『あなた以外にも……いるの?』

『君で14人目だ。そういえばまだ君の名前を教えてなかったね』

『なまえ…?』

『君の名前は―――――――――』

 

 

 

 

そこで途切れ、私は我に返る。

 

「今のは……」

 

まるで白昼夢のような出来事に一瞬思考が止まるが、今の状況を思い出すと周りを見回す。

視界の端に同じ結界が見え、白蘭と沢田さんがいるのだと分かり、更に焦り出す。

 

「エ、エミーリオ…お願い…起きて……」

 

私の声も届かず死んだように眠るエミーリオに怖くなって片膝をつくような姿勢でエミーリオの頭を抱え込む。

すると結界の外から声が聞こえてきた。

 

「見ろ!向こうから同じ炎の玉が!」

「炎の玉の中にいんのってっ」

「ユニ!?それに…」

「僕と綱吉君に呼ばれて―――――…」

 

私を覆う結界はそのまま目前の二つに重なっていき、結界は巨大なドーム状になった。

私はエミーリオを庇う様に抱き寄せ、白蘭の様子を覗う。

だが白蘭は目を見開き、こちらに視線を固定したまま固まっていた。

その白蘭の異常な様子に結界の外にいる者達も何事かと騒ぐ。

 

「……ハハッ」

「?」

「ハ、ハハハハハッ…ハハハハハハハハ!」

 

急に狂ったように笑いだす白蘭に周りは困惑する。

 

「やっぱり僕は運がいい!なんせ最高のおもちゃと宝物があっちから来てくれたんだ!」

「え?」

 

おもちゃ、と宝物?

 

「ぐあっ」

 

白蘭が沢田さんの首を絞め付け、沢田さんが苦し気なうめき声を出す。

 

「やめて!」

「んー?今更やめてなんて、どの口が言ってるのかな?」

 

白蘭の次々吐き出す言葉が私の胸に刺さり、無意識にエミーリオを抱えていた腕に力が入る。

一際大きく骨の折れる音がなり、沢田さんが倒れ私は体が冷めるような感覚に襲われた。

 

「この頑丈な結界の中にはもう誰も来やしないよ、これで君は僕のもの…泣いても叫んでも無駄だよ」

「…!」

「でもそうだなぁ…僕の宝物、一緒に連れてきたお礼に痛くないように使ってあげるよ♪」

 

その言葉で白蘭の目線がエミーリオだと気付き、私は一歩引き下がる。

 

「何故…エミーリオを…」

「彼がいなきゃ僕はとっくの昔に退屈に殺されてたからね、彼は僕の恩人だよ」

「おん…じん……」

「そ、僕にとってこの既知の世界でただ唯一の存在なんだ。まぁ、君には分からないだろうけどね」

 

白蘭が私に近付こうとすると、リボーンおじさまが沢田さんに向かい声を掛けた。

それに白蘭が笑い飛ばすも最後によろけながら沢田さんが立ち上がり、再び白蘭と向かい合う。

だが既にボロボロの沢田さんに動ける力はなく、覚悟と意思のみで再びリングに炎を灯した時だった。

 

「ハハハ!いい気分のところ悪いけど、何の解決もしてないよ綱吉君!結局僕と君の力の差は君が倒された時から何も変わってない!」

『どうだろうな』

「「!?」」

 

その声はボンゴレリングに宿る初代ボンゴレの思念体だった。

そしてボンゴレリングの枷が外されたことにより、炎の出力が今までにない程跳ね上がり白蘭を圧倒していった。

私は今こそと思い、両膝をつきエミーリオの頭を膝の上に乗せると、自身の炎をおしゃぶりに込め始める。

段々と体から力が抜けていくのが分かり、死に近づいていく感覚が分かった。

ああ、怖い――――…死ぬのが、怖い…

目から涙が溢れ、両手で自身の体を抱きしめる。

そんな時、パリンと何かが割れる音がし、顔を上げるとγがボロボロで結界の中に入って来た。

 

「よぉ姫」

「γ」

 

どうして…

 

「あんたを一人にはさせない」

「!」

「いつかの返事…まだだったよな」

 

γが耳打ちしてくれた言葉に涙が溢れ出した。

 

❝ユニ、嬉しい時こそ心から笑いなさい❞

 

お母さん――――…

 

もう死ぬのは怖くない、だってγがいるから…

自身の体から力が完全に抜け、実体が消えていくのが分かった。

静かに目を瞑ると、段々と意識が薄れていく。

 

 

そこは崖だった。

ああ、またあの夢なのだろうかと私はただ茫然と彼女の視点でそれを眺めていた。

彼女の手にもう一人の手が重なる。

 

『君の名前はーーーだ』

『---?』

『ああ、歓迎するよーーー……14人目の俺の家族』

『あなたの名前は?』

『俺?俺はーーーーー』

『-----…』

 

そして彼女の腕が目の前の男に伸ばされ、視界がボヤケて行く。

泣いてるんだ……

嬉しくて、彼女は泣いてるんだ

 

彼女の泣き声が木霊した。

薄れていく私の意識の中で聞こえたそれは、紛れもない産声だった。

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

ユニが消え、服のみが地面に落ちた。

エミーリオの顔の横にはおしゃぶりが転がっていく。

ああ、ユニが!僕のおもちゃがっ

 

「ねぇ、ちょっと…なにしてくれてんのさ?やっと見つけた最後のピースが死んじゃったよ…」

 

どうしよう、どうしよう…

 

「これじゃあ、エミーリオに見せられないじゃないか………全部全部全部全部おじゃんじゃないか………」

 

折角エミーリオに会えたのに

 

「この意味が…分かってるのか‼」

 

僕はこの途方もない怒りと絶望を目の前の沢田綱吉にぶつけようとした。

だが沢田綱吉から発せられた炎圧に踏み込もうとした足を止める。

 

「誰がユニを殺したと思ってるんだ…お前がこんな世界にしたからユニは死んだんだ!俺はお前を許さない!白蘭‼」

「んー?許さない?」

 

そんなの僕が言いたいくらいだよ…

僕は右手にありったけの炎を溜め込む。

 

「まったく無意味なことしてくれた‼あのおしゃぶり付きの人形は僕の夢を叶えるための最高のオモチャだったのに‼」

「それ以上ユニを侮辱するな!白蘭お前だけは‼」

 

そして僕たちは同時に最大出力の一撃を放った。

 

「らあああああ!」

「うおおおおお!」

 

炎の塊が衝突し、反動が僕を襲い、足に力を入れる。

均衡するも、視界の端に一瞬だけ横たわる彼が入り意識がズレた。

再び集中する間もなく、炎は僕を包み込んだ。

 

「あああああああああああああ!」

 

 

 

❝白蘭❞

 

別に人間が嫌いなわけじゃない…

人と接して胸がくすぐったくなったり、ジーンと熱くなったりも出来るんだ…

でも……なんかこの世の中はしっくりこないんだ……

ただ唯一エミーリオを除いて

エミーリオといるのは新鮮で楽しくて、僕が人間であることに違和感がなくなるんだ

だから、彼の側があまりにも心地よかった

君がいなくなって直ぐは大丈夫だったのに、段々と時間が過ぎていくごとに違和感に押し潰されそうになったんだ

そんな時いつも君の言葉を思い出しては、違和感を覆い隠そうとした

だから並行世界の存在を知ると、ああ…やっぱり、って他の人間と明確な一線が引かれたんだ

 

ねぇ、並行世界のどこにも君がいなかった時の僕の気持ちわかる?

世界にひとりぼっちになったように凄く苦しかったんだ

もう一人は嫌だよ、エミーリオ……

 

 

一瞬だけ、横たわるエミーリオの瞳が見えたような気がして涙が溢れた。

 

 

❝また…また会おうね!❞

❝会えたらな❞

 

 

ねぇエミーリオ…次があったら―――――――…

 

 

 

僕の意識はそこで途切れた。

 

 




エミーリオ:空気。おいそこ替われ。
γ:結界の外で密かに膝枕されてるエミーリオに対してギリイってなってた。
ツナ:エミーリオの面識の広さに驚きを隠せない。
トリカブト:エミーリオの拳を喰らって、若干カブトに罅が入りこの上なく焦っていた。
白蘭:エミーリオ>ユニ>>>その他。ユニも大事だけど所詮はオモチャ認識、エミーリオのみ唯一同じ世界の人認定してる。
ジョット:枷を外しに来たら予想外の人物がいて驚いた人。なお持ち前の冷静さでなんとか枷を外して退場。多分エミーリオに意識があったら顔に出るほど驚きまくってたハズ。
初代守護者:一部を除く皆が結界の中にいたエミーリオに遠すぎて気付いていなかった。
一部:おや?Dの様子が…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの逢着

エミーリオは出会う。


よぉ、俺はエミーリオ。

昨日やっと過去に戻って来たんだが、一つ誤算があった。

過去ってことは風にあの赤ちゃんの姿を説明させるの出来ないじゃん。

この時代の風は赤ちゃんなの?それとも普通に成人なのだろうか。

まぁ過ぎちゃったことはどうにもならねぇよな、と潔く諦めようとしたところこの時代の眼鏡君が店に入って来た。

未来が救えたよと笑顔で行ってきたので、はて?と首を傾げて何故過去のこの子が知っているのかと問い詰めてみたところ、どうやら未来で関わった関係者には記憶が引き継がれているようだ。

これなら風も思い出してるだろうと思い、安心して聞くことが出来ると思った矢先に俺は崩れ落ちた。

俺、あいつの居場所知らねー…

え、あいつ今中国いるの?待って中国探すにも広すぎるし、どのみち会えないじゃん!と落ち込んでいた。

取り合えず眼鏡君にはお祝いとして一品だけ料理を作ってあげた。

その日の夜に、包帯君が来てた。

何やら大きな地震があったようだけど、大丈夫だったかというものだった。

心配してくれるのは嬉しいんだが、この子本当は大人じゃないのだろうか…

包帯君に聞いてもいいけど、未来に関わってないからどこで知ったのか!的なこと聞かれたら困るなぁ。

まぁこの話は風に聞くまで保留にしておいて、包帯君には今回新しくメニューに追加しようとしているカクテルの試作を飲んでもらった。

美味しいと言ってくれる包帯君が、一番マナーの良いお客かもしれないと思ったね。

携帯番号教えろって言われたから、素直に教えると満足げに酒飲んで帰っていった。

これは新商品として入れようかな、うん。

ラーメン君も来ていたので未来でのお礼にラーメンを一玉だけ奢ってあげた。

翌日になると、野球少年や不良少年、マグロ君が店にやって来た。

今回は巻き込んですまなかったと謝罪してきたのと、本題はマシュマロ君のことらしい。

どうやらマシュマロ君は俺のこと恩人だと思っていたらしい、マジか。

そういえば俺の眠ってた間ってどうなってたのかな…

ほう、へぇ…ああ、うん

予想以上にマシュマロ君がラスボスっぷりを発揮してた。

でもまぁ過ぎたことだしな。

それから数日経つと、マグロ君が何か暗い男の子連れてきた。

転入生?ああ、あの地震で学校潰れたりしたもんな、お気の毒に。

ふむ、にしてもこの顔…既視感あるな。

どっかで見たような顔なんだが、如何せん思い出せないので諦めて料理を出した。

どうやらオムライスが気に入ったようで暗い顔が少しだけ明るくなった。

またおいでと言うと、小さく頷いてマグロ君と一緒に帰っていった。

少し時間をおいて、またチャラそうな茶髪の男の客が入って来た。

あご髭にハットってお前…いかにもナンパが大好きですという顔の男は店に入ると固まったまま入口で立ち尽くしていた。

ん?どうかしたのかと声を掛けると漸く我に返ったのか、空いてる席を案内してあげた。

といってもこの時間帯だとそろそろ混むし、君一人客だからカウンターに座らせるけどな。

メニューを渡して、俺は空いたグラスを拭いていると、チャラ男が声を掛けてきた。

注文かなと思い、返事をすると出身国聞かれた。何故に。

別に秘密にしてるわけじゃないので、イタリアと答えると再び黙り込んだ。

一体どうしたのだろうか。

コーヒーとサンドイッチを注文してくると、チャラ男が食べながら話しかけたので、俺もグラスを拭きながら会話をする。

あれ?思ってたよりチャラくない?

すんごい理知的な会話をする男だなーと思うも、外見と中身が合わなさ過ぎて気持ち悪い。

結構話してると中々面白い奴だと思い、会話が発展していく。

えーと…ジェリー君だっけ、名前は最初に聞いたけどジェリーだった気がする。

とまぁジェリー君とお喋りをしていると、どうやらジェリー君はイタリアに何度も行ったことあるらしい。

んでもって俺と似た顔を見たから驚いてたと言って納得した。

イタリアには頻繁に行ってるから、多分どっかで会っちゃったんだろうなぁ。

ん?両親?何で両親の話になってんだ?

いやその前に俺に両親っているのだろうか。

俺って数百年生きてるけど、両親いたらそいつらはもっと生きてるってことか?

そもそも俺何で不老不死なんだ?

遺伝系じゃないと思うけど、って思考が脱線しすぎた。

両親の顔知らねーと言えばジェリー君は暗めの顔でコーヒー飲んだ。

あーこれ俺が暗い過去持ってると思われてる、いや違うから。

でも戦争経験してるから暗いっちゃ暗いのか?いやでも親関係ないじゃん。

そういえば親の顔を見たいとすら思ったことないな。

これはこれで何故だろう。

まぁそんなことよりもなんとかジェリー君のどんよりした空気を払って、会話をはずませた。

聞くところまだ中学三年生のようだ、お前の様な中学生がいて堪るか。

また明日も来ると言い残して帰っていった。

翌日あの暗いヘタレ少年が一人で店に来た。

どうやらオムライスがお気に召したようだ。

何が好きか聞いたら猫と言って来たので、ケチャップで猫を描いて出してあげた。

あ、これいいかも、今度からオムライス頼んだ子供にはケチャップサービスやろうかな。

ヘタレ君はとっても嬉しそうにオムライスを眺めているから、冷めないうちに食べてくれと言うと、やっとスプーンを持って食べ始めた。

ついでに顔に貼っていたガーゼが取れそうだったので、つけ直してあげた。

にしてもこの子、いかにもいじめられてますって雰囲気醸し出してるけど、大丈夫なのだろうか。

怪我どうしたのと聞いても別に、としか返ってこないし。

我慢は良くないとアドバイスすると、少し考えた後に納得してくれた。

ヘタレ君が食べていると、昨日のチャラくないチャラ男が店に入って来た。

二人して驚いていたから、知り合いかと聞けば同じ中学の友達と返って来た。

にしてもおいチャラ男、お前俺と他人とじゃ態度全然違くないか?

何そのチャラい口調は…あれか、キャラ作ってんのか。

翌日になるとチャラ男が来た。

やっぱり昨日とは全く別のキャラになってるんだけど、突っ込んだら負けな気がする。

そういえばお前中学生だろ、今日は平日だけど学校いいのかな。

それから毎日来るんだけど、どうやら俺の料理が気に入ったようだ。

中々嬉しい。

なんだか最近強面のおっさん共の出入りが多くなった気がする。

会話を聞いてる限りじゃ、継承式うんたらが近日行われるらしい。

顔に傷がある奴等やおもっくそ骸骨みたいな顔の奴とかいるけどこれマフィアじゃないよね?

確かマグロ君ってイタリアの大きなマフィアのボスなんだっけ…

何か嫌な予感するから、暫くあの子たちに極力関わらないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

ちゃお、俺はエミーリオ。

数日後にチャラ男から俺の別荘に来ないかと言われた。何故に。

どうやら数日後、私有の無人島に七泊ほど泊まるらしく、一緒に行く奴等に俺の料理を食べてもらいたいと。

んー…一週間かぁ…ちょっと長いなぁ。二泊とかなら大丈夫だったんだが。

食い下がるチャラ男に折れて、シェフとして行くことに。

店を一週間も閉めるのは嫌だが、最近面倒なことに巻き込まれっぱなしだから一旦並盛から離れてリフレッシュするのもいいかもしれないと思った。

俺以外にはチャラい性格で通してると言われたが、正直言ってチャラくない方のが絶対いいと思うんだけどな。

一応店にの前には数日間だけ閉店することを掲示する。

材料は島にあるとのことで必要な調理器具と、俺の愛用の包丁だけ持っていくことにした。

いざ島へチャラ男君に連れて行ってもらうと何だか見たことあるような島に到着した。

あれ?ここ、俺がワープ間違った時に数回来た島じゃね?

ああ、ここの地形なら大体分かるわ。

なんせ数日くらい住んでたことあるし…じゃない、ここ私有地だったのか。

バレなくてよかった。

何やら館のような場所に連れてかれて、厨房へ案内された。

既に友達には俺の存在を教えていると言われたので遠慮なく作っていこうと思う。

館の中で女子とヘタレ君にバッタリ会った。

あ、チャラ男の友達ってヘタレ君のことだったのか。

にしても最近の女の子って発育早いね。どこがとは言わなけど。

ヘタレ君の好きなオムライス作ってあげたら暗い表情のまま嬉しそうにしていた。器用だな。

7人で泊まりに来てるらしいので、7人分作ってキッチンテーブルの上に準備しておいた。

チャラ男君からは飯作る以外はどこ行ってもいいって言われてるし、この島散策しようかな。

翌日になると眼鏡のインテリっぽそうに見えて馬鹿だった男の子がいなくなってた。

聞いてみるとサバイバルしに森の中入っていったから彼の分は作らなくていいと言われた。

まぁ彼らしいなと思う。

翌日になると太った大柄の男の子がいなくなってた。

彼も偽インテリ君にサバイバルに連れていかれたらしい、南無。

地震が昼頃にあったから危ない目にあってないといいんだけど。

翌日になると今度はあの謎生物のような女の子がいなくなっていた。

まさかあの子までサバイバルに?と思ったけど、単にいなくなっただけだとか。

でもあだ名で呼ばないと反応しなかったり、いきなり奇行に走りだす彼女の行動を考えたところで分かるわけないかと思った。

あとヘタレ君がいなかったから聞いてみると体調を崩しているようだ。

仕方なく、おかゆを作って持って行ってあげるように女の子に頼むと頷いてくれた。

翌日、皆帰ってきてた。

サバイバル楽しかったかと聞けば偽インテリ君だけが頷いていた。

ヘタレ君も元気になってたから良かった。

この宿泊も5日目だけど、この子達この何もない無人島で何やってんだろう。

リゾート気分つったってあるの森と海だけだし。

まぁ自然を楽しむとかそんなもんなのかなぁ…

昼食作るかと厨房へ戻ると、なんだかすんごい地震があったんですが。

皆大丈夫かと思い広間行くと誰もいないし、遊びに行ったのかな?

数分迷ったけど、さっきの地震結構酷かったから何か危ない目にあってるかもしれないと思って館から出て彼らを探した。

のはいいんだけど、さっきから余震が続いててこれ本格的に津波とか二次災害警戒した方がいい気がする。

面倒なことに巻き込まれたくなくてこっち来たのに、おもっくそ巻き込まれた。泣きたい。

取り合えず子供達探し出して、地震収まったら並盛に帰ることを提案しよう。

うぉ、なんだか一際でかい地震きたけど何か崩れた音が聞こえたような…

滝の方を横断しようとしたら、滝の水が凍ってた。

まるで氷河みたいになってて、昔炎のコントロールする際に森一面凍らせたことを思い出した。

っていうか何でここだけ氷河みたいになってんだろう。

しかも氷の所々が砕けてるし、もしかしてあの子達ここで遊んでたのかな。

ずっと探し続けていると町の様な場所に入った。

何だろう、かなり老朽化してる昔のイタリアの家が並んでた。

多分これ100年以上昔の建物じゃないかな…友人と過ごしてた町もこんな感じの家多かったし。

一部爆発で壊れてるような場所があったりしてて、昔戦争に使われたか、植民地にされていたかだと思う。

森の中をもう少し進むと、落とし穴に落ちた。

もう一度言う、落とし穴に落ちた、

何でここにこんな落とし穴あんだよ!予想外に深くてビビったわ、作った奴張り倒してぇ。

それよりもどうやってこれ登るの?

登るのに数時間要したわ、くっそ。

ワープしてもよかったんだけどあれ極力使いたくないし…

地上に出れたので、一旦館戻ろうと思う。

あの子達帰ってきてるかもしれないし。

帰る途中で階段状になっている道があったから進んでみると人ひとりが通れるほどの大きな洞窟があったけどなにこれ面白そう。

欲に負けて中に入ってみると、地下屋敷みたいなのがあった。

ぉぉおおおお、ちょっと興奮するわ、これ。

少し周りの壁が剥がれかけてるけど、侵入してみると中には誰もいなかった。

広間みたいな場所見つけたはいいけど、色んな場所が抉れてたり瓦礫で埋まってる。

でもこれ最近っていうかほんの数時間前のものだと思うんだけど…さっきの地震のせいで崩れたのかな。

来た道を戻り地上に出ると、爆発音が遠くで聞こえた。

何事かとそっちに走っていくと、いきなり炎が俺に直撃した。

直撃っていうかもう森ごと焼き尽くすぐらいの広範囲の炎がいきなり来るもんだから、正直ビビりまくった。

あつつつつつつ、あああっつい!

これ一般人だったら絶対死んでる!絶対に即死してる!

手の平から氷の炎だしてどうにかやりすごしたけど、若干火傷した。

目の前見ると数百mに渡って木々と地面が大きく抉られていて、絶句したわ。

あー、くっそ…服とか所々焦げてんじゃん。

そのまま歩いてるとさっきの爆発のせいでか拓けた場所が見え、そちらに歩いていった。

何かが爆発したのだろうか、ここって本当に私有地の島なの?本当は軍用の核兵器実験してますって言われても疑わないんだけど。

数分歩いていくと、数名の人影が…おや?

あれは…ヘタレ君とマグロ君では…?それに黄色のおしゃぶりの赤ちゃんと眼帯少女もいるじゃないか。

ぇ、ちょっと待て、何か陰みたいなのがいるんだけど、あれ何…

んー?よく見ると人の上半身のような……あ、あのパイナップルのような髪形…ナッポー?

あれ?眼帯少女の隣で倒れてるのって二代目ナッポーじゃね?

じゃあこっちの黒い靄みたいなのは初代ナッポー……?

どっちのナッポーか分からなかったので取り合えず声掛けてみると、こっち向いた。

やっぱりナッポーだった。多分あれ初代の方だな

にしてもお前下半身ないホログラムみたいになってんだけど、また化けて出てきたのかよ。

集団で来られるよかマシだけど。

ていうか何でマグロ君ここにいんの?お前ら知り合いなの?

つーかナッポーの上半身が徐々に無くなって行ってんだけど成仏間際なのかな。

あー……もう化けて出てこないように完全に成仏してもらいたい。

ナッポーと言えば、いつも殴ってくるのに泣き出したんですけど、なにゆえ。

え?アサリがどうしたの…?あ、自警団の方か、はいはい、お前そういえば自警団に残ってた組だったな。

んでもって嬢ちゃん死んでから自警団強くしようってめちゃくちゃ頑張ってたな、自警団潰れたらしいけど。

とりま頑張ったねーと褒めたら消えたんだけど。

あるぇ?何でだ。

いやまぁ成仏出来たんならそれに越したことはないんだけど。

マグロ君ボロボロだし、ヘタレ君に至っては倒れてるしでちょっと状況が理解出来ない。

さっきの爆発みたいな奴大丈夫だったのか聞こうとする前にマグロ君に遮られたし。

え?ナッポーと知り合いなのかって?まぁ…友達だな、あいつは良い奴だったよ。

本当の年齢聞かれた、そりゃそうなるか。

他言無用を条件に教えてあげるとすごく驚かれた。

体質については何とも言えないから、答えなかったけど。

マグロ君とヘタレ君、あと赤ちゃん、眼帯少女に口止めしていると、遠くの方から別の一行が来た。

あ、あの子達だ…あと何で野球少年や不良少年もいるんだよ…。

もしや今回もマフィア関係じゃないだろうなと、マグロ君に聞けば凄く申し訳なさそうに頷いてくれやがった。

くっそ、俺の周りがマフィアだらけになっていく。

ん?おい、そういえば何でナッポーいたのかと聞けば、詳細は後で教えてくれるとのことで取り合えず島の外にいる救護班を呼ぶことになった。

何やら背後でぐずぐず泣く声がしたので振り返ると、眼帯少女が目元を押さえてた。

何があったのかと思い近寄ると、二代目ナッポーがボロボロで倒れてた。

わー久々に会ったら凄く男前になったねと言えば皮肉を返された、辛い。

何やらチャラ男君、ナッポーに取りつかれていたらしく俺との会話全部忘れているらしい。

えー…あ!だから中身と外見がちぐはぐだったのか。

でも何日も憑りつくとか、あいつ何の未練があったのやら…

俺を島に呼んだ理由も分かんないし。

どれもこれも成仏しちゃった後だと分かんないけど、取り合えず帰りたい。

船が島に到着すると、眉毛君の親父さんに会った。

事情はマグロ君が話してたから納得してたけど、何で俺ってこうもこの組織に巻き込まれるのかな。

船の中でマグロ君の説明を受けてると、何度頭を抱えて船から飛び降りたくなったことやら…

まさかナッポーが友人の創った自警団をマフィアに進化させてるなんて思いもしなかった。

つーか友人の言ってた裏切り者ってあいつかよ!なに友達泣かしてんだあいつは。

ああ、数時間前に戻って一度ナッポーを殴りたい。

ぐぅ、満足げに成仏しやがって…

黄色のおしゃぶりの赤ちゃんに透明のおしゃぶりのこと聞かれたけど、やっぱり透明はレアなのかな。

名前?やっべ覚えてない。

包帯君の本名ってすんげー長い名前だった気がするんだけど。

はぐらかしたけど、追及されるのも面倒なので少し離れた場所まで移動する。

何だか皆に遠巻きにされてるんだけど何でだ。

大人はハブるってか?別に悲しくなんかないけどな!

船の先端で海に落ちそうな場所に座りながら、船が日本列島に着くのを待っていたけど、船酔いしてきた。

うぷ……吐きそう。

なんとか我慢してたけど、もう二度と船には乗りたくない。

 

 




加藤ジュリー:原作読んでて途中まで本気でジェリーだと思われていたキャラ。
リフレッシュ:出来ない。
XX(ダブルイクス)バーナー:服を焦がす程度。
二代目ナッポー:本当はムクロウの姿でエミーリオの年を聞いていた。
エミーリオ:取り合えずこれからも巻き込まれる。
風は次回に後回し。

やべぇ次の別視点の文字数が………(汗)
分けて出すと中途半端になってしまうので仕方なく一気に一話にまとめたんですが、文字数が余裕で一万超えちまった…。

友達のEmilioの人物像をうpしてたらウンバボ族の強襲さんが塗ってくれました。
気に入ったので公開することに。
ps:あくまでEmilioの人物像は各自のご想像にお任せしています。

【挿絵表示】




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの友愛

エミーリオは思われる。

復讐の大地に

原初の霧に

最強の暗殺者に


古里炎真side

 

転入初日だった。

いきなりヤンキーに絡まれてしまった僕はただ殴られるのが終わるのを待っていた。

僕は何も出来ないから、こうして何もせず相手が飽きるのを待ってることしか出来なかった。

なのに、沢田綱吉君が乱入してきた。

だけど彼は直ぐにやられて、一緒に彼らの気が済むまで殴られ続けた。

ボロボロになった僕は沢田綱吉君を放って先にその場を離れた。

その後裂けたズボンを縫っている時に教科書を持ってきてくれたり、そのまま川に一緒に落ちてしまったりしたけど第一印象ではアーデルの言う酷い人には見えなかった。

逆に僕の様に自信の無さそうな人種に見えた。

また別の日に放課後ばったり会ってしまい、帰り道一緒に帰っていると、綱吉君はとある店を指してそこへ入ろうと提案してきた。

僕はお金をあまり持っていなかったからあんなおしゃれな店入れないと思ったけど、断る前に綱吉君があまり手持ちがなくとも大丈夫だよと言ってくるので、首を縦に振ってしまった。

その店に入ってみると、イタリア風の内装をしている綺麗な店で、店主は若く気さくな男性だった。

 

「いらっしゃい」

「こんにちわエミーリオさん」

「あ、綱吉君か。そちらの子は友達?」

「あ、えっと……はい。至門中学校からの転入生です」

「そっか、じゃあ奥のテーブル席ね」

「はい」

 

僕たちは奥のテーブル席に座り、メニュー表を覗く。

綱吉君の言った通り、一品ずつが学生でも手の出せるような料金で、綱吉君曰く数か月ごとに人気メニュー以外がごっそりと変わったりするらしい。

僕はオムライスを頼んで、それを口にする。

今までに食べたことないくらい美味しかった。

目の前で笑う綱吉君を見て、やっぱり悪い人じゃないのかなって思い直した。

別の日に一人で店に行くと、店主さんは僕の顔を覚えてた。

 

「あ、この前の子か。」

「あの…オムライス…」

「ご注文承りました。あ、君…何か好きなものある?」

「え?えっと…猫…」

「了解」

 

数分後、出てきたオムライスにはケチャップで猫の絵が描かれていた。

それをずっと眺めていると店主さんに冷めないうちに食べてねと言われて、漸くスプーンを掴んだ。

 

「あ、ガーゼ取れかけてるよ」

 

店主さんは屈むと、僕の頬のガーゼを外して、テープを新しく替えてくれた。

 

「この怪我どうしたの?」

「………別に」

 

前の学校では教師ですら無視をしていたから、この人もどのみち助けてはくれないのだと思ってた。

大人に、守ってもらえたことなんてなかった。

 

「頼れる人はいるのか?」

「………いる」

「そっかそっか、一人で抱え込むなよ」

 

そんな言葉何度だって聞いたよ。

教師から何度だって言われて、誰も改善すらしなかったじゃないか。

 

「な、何で…僕のことなんか放っておけばいいだろ」

「怪我した奴放っておく人になりたくないからな。それに、君がずっと悩んでるような顔してるからさ…」

「悩んでる?」

「ここ夜は居酒屋なんだけど、君みたいな顔してる人は少なからずいたし…皆苦しそうだった」

「…」

「俺が改善出来る問題がなかったわけじゃないけど…少しでも吐き出せる場所があるだけで人間楽になることだってあんだぜ」

 

陽気に笑う目の前の男がひどく眩しく感じた。

 

「…………逃げ出すことばかり、しょっちゅう考える…」

「逃げることの何が悪いんだ?」

「え…」

「立ち向かえばそれだけで良いだなんて、そんなルールねぇんだから、逃げることもまた一つの手なんだろ」

「でも…友達は、皆…いつも逃げてばかりって呆れてる…」

「まぁそれはお前が惨めに見えて仕方ないんだろうな…でもな、俺はそれでも構わないと思うぜ。だってお前の人生なんだから」

「僕の…」

「友達の言うことを聞いて自分を変えるのもまた一つの手だ。ただな、後悔のある選択なら捨てとけ」

「後悔…」

「おう、後悔しないようにあの手この手使って悩んで選べ、その選択に誰も文句言わせないぐらいの自信は付けとけよ」

「………」

「人生なんて、自分が決めるからこそ意味があるんだ。その為ならいつでも相談には乗ってやるからな、ほれオムライス冷めんぞ」

「う、うん…」

 

初めて言われた言葉だった。

軟弱だの、積極性だのそんな言葉よりも、ただ考える場所をくれたのは初めてだった。

悩むことしか出来なくて、決断するのもあやふやで、でもそんな僕でもそれでいいって言ってくれた。

口に広がる卵とケチャップは今までで一番美味しかった気がする。

 

「あれ?炎真?」

 

ふと知っている声に顔をあげると、ジュリーがこちらに向かって来た。

僕は反対席に座るジュリーに目を丸くした。

 

「お前もここの店来てんのか?俺チンここの料理気に入ってんだよね」

「うん、オムライスが美味しいから…」

「相変わらず子供舌だな、あ、エミーリオさん俺コーヒーとツナサンド」

 

厨房から聞こえる返事に、ジュリーはあの店主さんと仲がいいみたいだった。

 

「あの人、エミーリオって言うんだ…」

「おう」

 

その後は他愛もない話をしながら、食べ終えると一緒に帰宅することになった。

ただ店を出る際、エミーリオさんが僕に声を掛けてきた。

 

「炎真君」

「?」

「助けてほしい時は叫んでみろ…絶対にその手を掴んでくれる人がいるハズだ」

「……分かった……」

「えー何々?炎真、お前エミーリオに人生相談でもしてたのかよ」

 

僕としてはもう少しエミーリオさんと話がしたかったんだけど…また今度来てみようかな。

次の日、また不良たちに殴られたり蹴られらりして、痛みが治まるまで神社で休んでたら綱吉君が独り言を喋りながら寄って来た。

 

「あー!マフィアのボスとか絶対ヤダ!」

「逃げちゃえば」

 

無意識に、声を掛けていた。

逃げることだって悪くないのだと、エミーリオさんは言ってくれた。

だから悩んでる綱吉君にもそれを伝えてみると、納得したような様子をしてて、やっぱり逃げたっていいのだと思った。

だけど彼の家庭教師に止められて、その後ボンゴレの反対勢力の奴等に襲われた。

でもツナ君が助けてくれた。

僕の中でもうツナ君は悪い人には見えなかった。

継承式の二日前に護衛でツナ君の家に泊まることになって、ツナ君は僕に継承式のことで相談してきた。

何で僕に相談するのか分からなかった。

 

「マフィアなのにマフィアが嫌いだって分かってくれるのエンマ君しかいなくて」

「一緒にしないで」

 

僕らの苦しみの何が分かるって言うんだ。

どれだけ他のファミリー達から嫌がらせを受けてきたと思ってるんだ。

少し棘のある言い方でツナ君を突き放した。

 

「ご、ごめん」

「でも……ツナ君となら友達になれるかもって思うときがある………ツナ君は他の怖いマフィアの人達とはちがうから」

「お、俺は!もう友達だと思ってるよ!継承式のことがなくっても君たちと知り合えて本当によかったって思うよ!」

 

その言葉を信じていいのか分からなかったけれど、嬉しかったんだ。

彼を信じたくて、ツナ君の机の上に手紙を置いた。

彼を信じたくて、工場地あとで待っていたけれど、終ぞツナ君が来ることはなかった。

僕の中からボンゴレを潰すことへの迷いは消えていた。

継承式前日に、カオルがリングを見られて山本を重症に追い込んだ。

ボンゴレ側は犯人を捜そうと飛躍になっていたけれど、僕たちであることは誰も疑っていたなかった。

当日になると、大勢のファミリーが顔を出していて、ついにツナ君が継承を受けると言うところで僕たちは反逆を起こした。

 

「『罪』は返してもらうよ。この血は僕らシモンファミリーのものだから」

 

そう、僕たちの誇りを今こそ…

復讐を…誇りを取り戻すための復讐を…

僕の言葉に驚いて目を見開いていたツナ君は直ぐに怒りを露わにしてきたけど、リングの封印を解いた僕たちの力の前では手も足も出せずにいた。

ああ、こんなに脆くて弱いボンゴレなんかに、僕たちは今まで苦しめられてきたなんて…

直ぐに殺してやるものか、じわじわともがき苦しませながら殺してやる。

僕はシモンの所有していた孤島に行き、ボンゴレを待っていた。

するとジュリーが連れてきた少女を抱きながら思い出したかのように言い放った。

 

「もう飯にしようぜ…そういえば、俺が一流のシェフ連れてきたんだぜー」

「待て、貴様無断で他人をこの島に入れたのか!?」

「別にいーじゃねーか、何も知らねー奴だぜ?」

「ジュリー…その人ってまさか…」

「ん?ああ、炎真は知ってるだろ。エミーリオだよ」

 

憤慨するアーデルの横で僕はエミーリオを思い出していた。

そういえば彼はツナ君達と仲が良かったな…いっそのこと彼も人質の役割を担ってもらおう。

 

「アーデル、エミーリオは人質にする価値はある」

「………分かったわ、ジュリーも勝手なことはやめなさい」

「へいへーい」

 

その日の食卓に並べられた料理はとても美味しくて、ついツナ君と最初に彼の店で食べた時のことを思い出してしまったが直ぐに首を振り迷いを切り捨てた。

翌日、総出でツナ君達を出迎えた後、復讐者が現れた。

 

「この戦いで力尽きた敗者は我らの牢獄に永遠に幽閉する」

 

ああ、ボンゴレの末路には持って来いじゃないか。

復讐者が消え、僕らも一旦引くことになり、彼の前から姿を消した。

その後紅葉が笹川了平と対決し、引き分けとなり両方とも復讐者に連れていかれてしまった。

僕はショックだったが、それよりも先ほどの記憶が気になった。

迷うな、僕はただボンゴレを潰せばそれでいいんだ…

翌朝、らうじとランボが対決し、らうじが負けてしまい復讐者に連れていかれてしまった。

らうじが負けたうえに、脳裏に映ったボンゴレⅠ世と初代シモンのやり取りで、本当は僕の勘違いだったんじゃないかと思い始めた。

でもジュリーの持ってきた情報に迷いなど一切消えて、残るのは怒りだけだった。

僕の妹を…両親を……殺したのは沢田綱吉の父、沢田家光だったなんて…

ああ、憎い…仲間を傷つける奴が、僕の家族を殺した男の血が流れている奴が…

 

「沢田…綱吉……」

「あれ?綱吉君がどうしたの?」

「!?」

 

怒りのあまり周りが見えなかったのか、直ぐ横には飲み物を持ってきてくれたエミーリオさんがいた。

 

「エ、エミーリオさん…」

「ああ、勝手に入ってごめんな、何度もノックしたんだけど返事なかったからさ」

「いえ…」

「はいこれオレンジジュース、何だか怒ってるように見えたけど綱吉君と喧嘩でもしてんの?」

「いえ…あ……えっと…う…ん」

「許せないの?」

「うん」

「なら、仕方ないね」

「え?」

「それが君の選んだ道なら、きっとそれでいいんだと思うよ」

「僕の…選んだ……」

「君がそう選んで自分の意思を貫きとおした最後に、きっと何かを得られるものがあるんじゃないかな」

「得られる…」

「おう、だけどその意思を見失っちゃダメだぜ…いつだって心に留めておけよ」

 

エミーリオさんが出て行った後も、僕は彼の出て行った扉を見つめていた。

意思……僕の……誇りを…仲間を守りたいんだ…

そうだ、あの記憶はきっと何かの間違いだ。

僕はボンゴレに復讐しなきゃいけないんだ…妹の為にも両親の為にも…仲間の為にも。

SHITT・Pと獄寺隼人が対決して、SHITT・Pが負けてしまい僕は我慢の限界だった。

仲間を傷つける沢田綱吉に怒りが頂点に達して、アーデルの静止を無視して沢田綱吉と対峙した。

 

許さない!今ここで、お前を!お前を殺してやる!

 

そんな僕の怒りのせいでか、シモンリングの覚醒が始まって激痛が体を襲った。

アーデルに背負われたのを最後に僕の意識は途切れた。

 

『お兄ちゃん!エンマお兄ちゃん!助け―――――――』

 

妹も両親も仲間も全部ボンゴレが…沢田綱吉が……許さない、殺してやる、殺してやる…絶対に僕がこの手で……

沢田綱吉をさわだつなよしをサワダツナヨシを…コロス……

 

❝意思を見失っちゃダメだぜ❞

 

誰かの声が脳裏を過ぎりズキリと頭が痛くなって、その拍子に思考が戻りかけた。

僕は一体何を考えてっ…

すると、一気に初代シモンとボンゴレⅠ世の記憶が頭の中を駆け巡った。

ああ、ボンゴレⅠ世は裏切ってなんか…なかったんだ………

でもそうなら僕はこれからどうすればいいの?

ボンゴレへの復讐の為に今まで必死に生きてきたのに、何もかもなくなったこれからはどうすればいいの?

僕にはもう…何もない…

仲間も、家族も…全部全部…零れ落ちていった…

誰も…いない……

一人は嫌だ 寂しい 誰もいない 僕は一人だ 寂しい

 

………助けて…

 

 

❝助けてほしい時は叫んでみろ❞

 

 

「………けて」

「聞こえるか!エンマ!」

 

 

「………たすけてっ…!」

 

 

「俺がいる!ここにいる!」

 

鉛の様に重たかった思考が一気に晴れた。

 

「ツナ……君…」

「エンマ……助けに来た」

 

❝絶対にその手を掴んでくれる人がいるハズだ❞

 

涙が溢れた。

ああ、僕は救われたんだ……

 

制御出来ずに暴走し出した僕の力をツナ君は大空の調和で僕ごと助けてくれた。

勘違いして、ボンゴレを襲ったことを謝るとツナ君も、その守護者達も僕を責めようとはしなかった。

そして復讐者の言いつけに従って、僕たちはD・スペードと六道骸の対決を見届けるべくその場から移動した。

ジュリーの中身がボンゴレ初代霧の守護者であることを聞いた時に、ふと小さな疑問が過ぎったけれど、時間も限られていた状況の中でその疑問を口にすることはなく、頭の隅に追いやった。

 

D・スペードは何故エミーリオさんをこの島に――――――――――――?

 

 

 

 

D・スペードside

 

 

それはまさしくあの男の横顔だった。

 

Ⅰ世の言葉など耳に入らず、大空のアルコバレーノの膝の上で穏やかに眠っていたあの男をただ眺めていた。

ボンゴレリングの枷を外す僅かな時の中、私の思考はただその男に向けられていた。

いっそ、夢でもいいと…幻でもいいと伸ばした手すら消え入りそうな思念体である自らを呪いたくなる。

リングに戻るその時まで私の視線がズレることはなかった。

 

エミーリオ…

 

 

 

「え…」

 

リングに宿した思念体を通して見たそれに、思考が止まった。

 

「ジュリー!聞いているのか!」

「……っ、ああ、えーと何だっけ?」

「全く!これから並盛への転入手続きをするから書類を書けと言っているだろう!」

「お、おう…」

 

アーデルハイトの言葉に我に返り、動揺する自身を必死に取り繕う。

あれは…エミーリオなのか

これだけが頭の駆け巡り、私の手は小刻みに震えていた。

漸く並盛中学校への転入手続きが終わると、同時に私はエミーリオと類似する人物を探し出した。

未来では日本にいたことから、日本を中心に探すと直ぐに身元が知れた。

私の目の前にはイタリア風の店があり、それはあの頃の酒屋を想起させた。

高鳴る心臓の音を無視して、入口の扉を開くと声がする。

 

「いらっしゃい」

 

記憶と一寸も違わぬその声に頭の中は真っ白になり、彼が再び声を掛けるまで体が固まって動けなかった。

動揺を抑え、カウンター席に案内してもらい、他の客の対応をしているその男を暫くじっと観察していた。

声も姿も口調も全てが同じであるあの男は、エミーリオだとでもいうのか?

だが彼はあのテロに、巻き込まれ死んだはずでは…

あの頃、あの国で開いていた彼の店は爆弾の被害で無残にも全壊していて、店内には目も当てられぬほど原型を留めていなかった者達が数名いた。

喪失感と、絶望と…それから虚無感と…既に言葉にするには失ったものがあまりにも大きすぎた。

エレナに続き大切な者を失った私が冷静さを取り戻したのは、テロ集団の亡骸と、そいつらの縁者の肉片を目の前に、血に濡れた自身の手を眺めていた時だった。

ああ、嫌な記憶を思い出してしまったと思考を切り替え目の前の男の観察を続ける。

 

「すみません、あなた、出身はどこですか?」

「はい、出身…ですか?イタリアですけど…」

 

イタリア…彼と同じ…彼の縁者の可能性が大いにありますね。

 

「コーヒーとサンドイッチをお願いします」

「日替わりサンドでいいですか?」

「ええ、それで」

 

注文が来る時には客も片手で数えるほどしかおらず、私はグラスを拭いている彼に話しかけた。

 

「先ほどはすみません、私は加藤ジュリー。お名前をお伺いしても?」

「ああ、俺はエミーリオですよ」

 

持っていたコーヒーを危うく落とすところだった。

その名に、血縁ということは疑いようがなかった。

 

「そうですか、あなたに似ている方をイタリアの方で見かけたもので、少し驚いてしまったのです」

「あーなるほど、まぁ世界には自分とそっくりさんは三人いるって言いますしね」

「ええ、全く…それと、敬語は不要ですよ」

「え?そう?じゃあ遠慮なく、君も敬語は要らないよ」

「私のは癖なので」

「マジか、君見た目と中身が凄くミスマッチしてるね」

 

その言葉に、漸く私は自身の言葉遣いに気が付く。

加藤ジュリーとは程遠い、本来の自分の素で話してしまっていたことに内心驚いていた。

今からいきなり変えても不審に思われるだけで、仕方なくそのままにすることにした。

そう、まるであの頃に戻ったかのように。

 

「そうだ、ジェリー君」

「ジュリーです」

「君舌は肥えてる方かい?」

「?…ええ、まぁそれなりには…」

「今新作考えてるんだけど、味見してくれないか?」

「私でよければ」

 

目の前の男がかつての友人であるかのような錯覚に陥りながらも、そこに嫌悪はなく罪悪はなく困惑はなく、ただ懐かしかった。

あの小さく小奇麗な店で酒を飲みながら交わした会話をひどく懐かしく思った。

 

「そういえばあなたは日本人のようには見えませんがハーフかイタリアの血筋ですか?」

「ん?あー、純イタリアだな多分」

「多分?ご両親の出身はどこで?」

「俺両親の顔知らねーし、知らないうちからイタリアいたから、多分イタリア人かなーって思って生きてただけだし」

「失礼しました」

「いやいや別にいいって、自分の生い立ちを悲観したことなんて一度もねーさ」

「そう、ですか…」

 

エミーリオがどこぞの娼婦にでも手を出して孕ませた子の子孫の可能性が高いが、彼がそんな節操のないことをするとは思えない。

であれば、エミーリオは子孫がいることすら知らずに亡くなったのですね……

エミーリオに顔も名前も同じこの男はさしずめ彼の先祖返りのようなものだろう。

同一人物のように思ってしまうのは、彼の性格故か。

その日は、また来ると言ってその店を出た。

次の日も来ては彼との会話を楽しんでいた。

別の日に古里炎真と店で鉢合わせし、男に口調を変えていることがバレたが、彼が問いただしてくることはなかった。

人の抱える事情の重さを見抜き、入り込むか否かの絶妙な加減を知っているような彼の態度が更にかつての友人を想起させた。

あの頃のボンゴレがもっと強ければ、私は変わっていただろうか?

エレナを、エミーリオを死なせずに済んだだろうか…

ああ、早く今のボンゴレを潰して、次世代に完璧なる後継者を据えなければ。

これからの計画に差し支えるといけないので、ちゃんとシモンの方にも意識は向けている。

まぁ私が何もせずともアーデルハイトが進めてくれるだろうが。

そこで私はふと思いつく。

彼を今回の喜劇に呼んでみようかと。

エミーリオとここまで似通っているのならば、私の創る強きボンゴレも理解できるはずだ。

何せ、私の背中を押したのはエミーリオなのだから、私の唯一の理解者である彼の子孫であれば、分かってくれるはずだ。

であれば必ず私の力となり支えになってくれるはずだ。

調べてみると、どうやら彼はボンゴレの者達と繋がりがあるようだし、傷つける気はないが人質の役割も果たしてくれるだろう。

そう決まればと、私は彼を継承式の当日から一周間ほど私用に付き合って欲しいと掛け合った。

最後まで渋っていたが、取り合えず首を縦に振ったことから私は満足した。

それから順調に進んでいった。

古里炎真もアーデルハイトも、全て私の予想通りに動いてくれて、ニヤける口を隠すのに苦労するほど滑稽だった。

継承式当日になると、幻術で加藤ジュリーを作り、先に島に案内させて本体である私は継承式に参加していた。

そして古里炎真がシモンリングの枷を外しボンゴレに反逆する。

シモンリングの能力は私の知る当時の初代シモンとはまだ比べ物にならないほど弱かったが、これもあと数日で完成するだろう。

私はクローム髑髏を表向き人質として攫い、孤島に着いた後空き部屋に寝かしていた。

その後厨房へ行くと、既に食事の用意を始めている彼が視界に入り周りに誰もいないことを確認し、声を掛ける。

 

「もう準備をしているのですね」

「あ、ジェリー君」

「ジュリーです」

 

彼の意地でも名前を覚えようとしないところは果てしなく受け継いで欲しくなかった。

 

「皆が到着しました、まあ挨拶はいつでもあなたの好きな時にすればいいでしょう」

「りょーかい、じゃあ飯持って行くときに挨拶でもするさ」

 

その後彼は皆に軽く挨拶をすると、再び厨房に戻っていった。

どうやらあくまで仕事で来ているので、必要がない限りこちらに接触する気はないとのことだった。

翌日、ボンゴレとの決闘が始まり、最初に森の守護者である青葉紅葉がボンゴレ晴れの守護者笹川了平とぶつかった。

結果、引き分けとなり復讐者に囚われてしまう。

フン、腐ったと言えどボンゴレか…

次の決闘では、山の守護者である大山らうじと雷の守護者であるランボが戦い、大山らうじの敗北に終わる。

ッチ、使えぬガキめ。

私はクローム髑髏の様子を見て、その体を明け渡すよう言い放つが、彼女はそれを断固と拒んだ。

仕方なく洗脳することにし、部屋の中で待機させた。

古里炎真の方が仲間を失なったこと、そしてボンゴレⅠ世と初代シモンの記憶に迷いが生じ始めている。

頃合いかと思い、沢田家光の名前を出し古里炎真を焚きつけた。

次の決闘での沼の守護者SHIT―Pと嵐の守護者獄寺隼人の戦いを古里炎真がアーデルハイトと共に観戦しに向かう。

私も付き添いながら試合を見届けていると、ボンゴレ側の勝利で終わり、復讐者に囚われた仲間を見た古里炎真が憤慨した。

そして沢田綱吉とぶつかるが、あと少しで沢田綱吉を殺せると言うところでシモンリングの覚醒が進行し古里炎真が戦闘不能になり引き返すことになった。

それから古里炎真を屋敷に残し決闘に向かったアーデルと、その戦いを見ると出て行った水野薫を見送り、私は古里炎真を地下にある屋敷へと移動させた。

既に屋敷の広間にある椅子に座らされた彼は意識を失っていて、これから理性も失い始めるだろう。

さぁ覚醒はもう戻れぬところまで来ていますよ…ヌフフ、早く沢田綱吉を殺しなさい…古里炎真

私は屋敷の方にシモン全員の幻術を作り、あの男に怪しまれぬようにしていた。

幸い彼は厨房以外は部屋か海辺のどちらかにしかいない。

私は最終段階へ移ろうと思い、アーデルハイトの元に洗脳済みのクローム髑髏を連れて向かう。

戦いが始まっているであろう滝へ赴き、観戦していると幾何か期待していたアーデルハイトが敗北し、内心期待外れだと一蹴する。

 

「ジュリー、炎真のことは…頼めるわね」

「ああ、まかせとけ。お前はよくやったさアーデル」

「ジュリー…」

「これでオレちんもキレイさっぱりシモンに見切りをつけられる」

「「「「!?」」」」」

 

そこでその場にいる者に正体を明かす。

 

「挨拶をしたほうが良いですね。腐った若きボンゴレ達よ」

 

そして、私は真実を話した。

Ⅰ世を騙し初代シモンの暗殺を企てたこと、ボンゴレを自身の理想に当て嵌める為長年画策していたことを、シモンファミリーを騙して操っていたことを。

アーデルハイトは泣き崩れ、それを見下ろしていると水野薫が奇襲しに来た。

騙されていたことに噴気していたが、所詮は子供の攻撃…幻術を駆使する私には何も効きはしなかった。

その後水野薫と対峙していると山本武が乱入し、復讐者によって第5の鍵、初代シモンとボンゴレⅠ世との記憶が渡された。

だがそこには私の予想外の出来事が起こっていた。

 

バカな!Ⅰ世に私の策が見透かされていただと!?

おのれⅠ世!!コザァートの死を偽装するとは!

 

煮えたぎる腹の内をどうにか落ち着かせ、未だ真の目的を果たしていない私はクローム髑髏と共に一旦退避することにした。

屋敷から少し離れた場所でクローム髑髏の洗脳を解き、六道骸を呼び出した。

出てきた六道骸にわざと負け、加藤ジュリーの体を捨てる。

そして念願の復讐者の牢獄に拘束されている精神の入っていない空っぽの六道骸の体を手に入れた!

 

「感謝するぞ六道骸!!お前の肉体を頂いた!」

 

人間の領域を凌駕した私は、第八の夜属性の炎で孤島にワープし、屋敷の方へ向かう。

これから行われる蹂躙劇を彼に見せようと屋敷の中を探すも目的の男は見当たらず、仕方なく彼らを殺した後にボンゴレに引き込めばいいと後回しにし、沢田綱吉の元へ向かう。

さぁ、腐った若きボンゴレよ……今ここで終止符を打ってあげましょう。

これからは強きボンゴレの時代だ!

他の守護者を幻術世界に誘い込み、私は沢田綱吉と古里炎真を相手取る。

圧倒的な力の差の前では、彼らの一撃も私から見れば赤子のソレだった。

何度も立ち上がる彼らを幾度も踏みつぶし、嬲り、吹き飛ばした。

古里炎真が死を覚悟してまで私の動きを押さえ、沢田綱吉の大技を喰らう時は内心冷や汗をかいたが、それまでだ。

生き延びた私は沢田綱吉の骨を隅々まで折り、もがき苦しみながら死ぬのを待っていると、復讐者から第7の鍵が渡された。

それにより再び復活し覚醒した沢田綱吉に、手も足も出ない私は遂に六道骸の体を捨てて逃げに徹する。

だが復讐者が夜の炎を奪い取り、私は為すすべもなく沢田綱吉によって霊体を大幅に吹き飛ばされた。

もはや霊核を壊された私に残された時間は僅かで、私の懐から落ちた懐中時計が気になっている沢田綱吉に手向けとして過去を語った。

エレナのことを、今の私の原点を……そしてそれを支えてくれた男のことを。

 

「エレナの死した後、彼女の死に大きな喪失感に襲われていた私を…ひたすら支えてくれていた者がいた……」

「いつも小さく小奇麗な店に佇んでいるあの男が……死して尚も私の心の拠り所となっていた」

「彼は争いごととは無縁の者でした」

「私たちのいる影などではなく、光の届く場所で笑い続けるような者でした」

「だから、だから許せなかった……テロに巻き込まれ死んでしまったことが……」

「エレナに続いて彼までも失った私に残ったのは、ただボンゴレを強くすることだけだった」

 

私の言葉に沢田綱吉が疑問を口にする。

 

「その人は…懐中時計の写真に写っていない人のこと…だよな?」

「ええ、彼はただの居酒屋を営んでいた一般人ですよ…だが誰よりも人の心に寄り添うことの出来る人でした」

「その人って…」

「彼の名前は………ぐあっ」

 

そう言おうとすると同時に霊体の消滅が進み、口を開くのさえ億劫になり、意識が朧げになり始めた。

そんな時だった。

 

 

「ナッポー?」

 

懐かしい声がした。

 

「おー、やっぱナッポーじゃん。久しぶりだな」

「ヌフフ、ナッポーではありません…エミーリオ」

 

その呼び方をするのは世界で唯一彼だけだと、確信めいたそれに心の底から笑いがこみ上げる。

ああ、これが幻でも、それでもいいと、心から祈った。

目の端から零れているであろう涙に気にも留めず、ただ目の前のボヤけた視界の中でエミーリオの顔を見ていた。

それは、記憶のそれと変わらずに、ただずっと私の側にいたかのように

 

「エミーリオ」

「んー?」

「私は…あなたの言う…安心出来る…ボンゴレを…作れたでしょうか………?」

「そうさな、イタリアは前よりもずっとずっと住みやすくなったぜ」

「そう…ですか………」

「お前ずっと頑張ってたもんな。エレナが死んだ後も、俺がいなくなってもずっとボンゴレを存続させるの頑張ってたもんな」

「は…い……」

「ありがとう、よく頑張ったな」

 

ああ、私はただその言葉が欲しかったんだ。

百四十年余りの妄執から漸く解放され、鉛が抜け落ちたかのように息をするのが楽になったような気がした。

 

「デイモン」

 

日差しが精神体であるこの身にきつく差し込む。

 

「お疲れさん」

 

緩やかに、口元に笑みを作り

 

 

「あの世でエレナちゃんと仲良くな」

 

 

私は旅立った。

 

 

 

 

 

リボーンside

 

 

 

「あの世でエレナちゃんと仲良くな」

 

エミーリオの言葉と同時に、D・スペードは笑みを浮かべながら消えた。

漸く脅威がなくなり、休みたいのは山々だが目の前の出来事がそれを許さなかった。

最初に問い詰めたのは俺ではなく、ツナだった。

 

「どうしてエミーリオさんがD・スペードと!?知り合いだった!?でも彼は数百年も前の人物のハズじゃっ」

「あー……そっかぁ……んー」

「おい、てめぇ…本当の年齢はいくつなんだ」

 

ツナの問いに曖昧に返事をする奴に俺は問いただすと、奴は深いため息をした。

 

「他言無用を約束してくれたら教えるよ」

 

その場の者達は皆頷くのを確認すると、エミーリオは重い口を開いた。

 

「正確な年齢は知らないが、俺が覚えてるだけで最低でも650年以上は生きてるよ」

「「「「!?」」」」

 

衝撃的だった。

しかもコイツの場合はD・スペードと違い、不老不死という体質的なものだと言う。

それをD・スペードは知っていたようには思えない、実際奴はこいつが死んだと思い込んでいた様子だった。

 

「でもなんでそんな体質に…」

「さぁ俺も分かんねーし、別に悲観するようなことでもないからなぁ」

「えぇぇえ⁉」

「そんなことより…って」

 

エミーリオが何かに気付いたようにある一点に視線を固定していたので、そちらの方を振り向くと、守護者達がこちらへ向かっていた。

 

「なぁ綱吉君……もしかしてこれもマフィア関連だった感じ?」

「え?あ、あはは……す、すみません」

「マジかー……」

 

頭を抱えている奴に、俺はとある疑問が頭を過ぎった。

奴に聞こうとしたが、既に他の守護者達が近寄っていたので後ほど聞けばいいかと思い口を紡ぐ。

その後ボンゴレの救護班と船が到着し、無事俺達は孤島を出ることが出来た。

今回の黒幕はD・スペードであったと九代目に報告し、シモンファミリーには謝罪以上のお咎めはなかった。

俺は今頃ツナに今回の説明をされているであろうエミーリオの元へ向かう。

案の定、顔に皺が刻まれていて複雑な表情をしているエミーリオと、それを見守るツナがいた。

 

「なるほど……ジョットの創った自警団は今や巨大なマフィアっていうわけか…」

「あ、えっと……」

「やっぱりそれは知らなかったのか」

「リボーン!?」

「まぁ俺はイタリアを出て100年くらい帰らなかったからな…情勢なんて噂程度でしか知らんかった」

 

なるほど、だから自警団のボンゴレと、マフィアであるボンゴレが繋がらなかったのか。

 

「まぁ過ぎたことをとやかく言う気はねぇよ」

 

深いため息を吐いたエミーリオはその場を離れようとするが、俺が引き留める。

 

「待て」

「あ?」

「一つ聞きたいことがある」

「?」

「俺と同じおしゃぶりをした赤ん坊を見たことはあるか?」

「おー、何人か見たことあるぜ」

「その中に透明のおしゃぶりはいたか?」

「まぁ、いたな」

「そいつの名前は憶えてるか?」

「わりーがそれは個人情報だ、教えるわけにゃいかねーよ」

「……そうか」

 

不死であるこいつが脅しなんぞ効かないと分かってしまった以上、聞き出す方法がないと諦める。

エミーリオは少し船の先端の方で座り込んで、海を眺め始めていた。

 

「あのさ、リボーン…」

「何だ」

「俺には分からないんだけど……皆に置いてかれるのってすごく、すごく苦しいと思うんだ」

「……そうだな」

「なぁ、エミーリオさんのあの体質…治す手立てとかあるかな…?」

「さぁな…だが、ちゃんとあいつの意思も聞かねぇ内に決めることじゃねぇぞ」

「ああ、分かってる……ただ、エミーリオさんの背中、凄く悲しそうなんだ」

 

 

❝誰よりも人の心に寄り添うことの出来る人でした❞

 

 

それでもおめーが救われなきゃ、意味がねぇだろが

 

 

「ッチ、胸糞悪ぃ潮風だな」

 

 

 

 

 




D:エミーリオをエミーリオの子孫だと思い込み、現実逃避を図ることでSAN値直葬を免れたラッキーボーイ。旅立ったはいいが、君の行先は地獄だ。頑張れ。
エミーリオ:Dの暴走要因その1。Dはこいつを殴っていいと思う。
エレナ:Dの暴走要因その2。だがほとんどエミーリオのせいなので君に罪はない。
加藤ジュリー:ただの被害者、取り合えず被害者、果てしなく被害者。
アーデル:巨乳にしか目が行かないキャラであり、全会一致であると信じたい。
リボーン:センチメンタル発動中。

※原作ではDが消滅した後、復讐者が手土産にもう一つの鍵を渡すんですが、エミーリオいたのでちょっと鉢合わせを避けて、省きました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの側杖

エミーリオは巻き込まれる。


ちゃお、俺はエミーリオ。

さて、あれから漸く平穏が訪れて来そうなこの頃。

トンファー君が壁に穴開けたり、不良少年がダイナマイトで壁を吹き飛ばしたりそんなの見てない、見てない。

…………取り合えず一発殴るか。

ヘタレ君とマグロ君は仲直りしたらしく、一緒に店に来るのをよく見かける。

未だにヘタレ君はオムライスばかり食べているが栄養が偏らないか心配である。

そういえばこの前包帯君が珍しく愚痴が多かったな。

亡霊如きに牢獄ぶっ壊されたってぷんすこ怒ってたけど、刑務所って幽霊出るのか。

カクテル飲みまくって潰れてたから相当怒ってらっしゃるな、アレ。

久々に新しい包帯をあげたら酔っていたせいもあり、凄く舞い上がってた。

最近、俺の店に来る奴等を整理してみたら、あらビックリ3割がたマフィア関係者だった。泣きたい。

一般人が来い。

と、そんなこと考えてると店の玄関が開いた音が聞こえたので席案内してくる。

…………風だった。

それも赤ちゃんの姿の。

開店直後とあって、客は誰もいなかったから直ぐに閉めて、風を尋問しようと思う。

さて、その姿はどういうことなのだろうか。

ふむふむ、ほう……ん?んー……なるほど?

曰く、呪いとか何とかで、とある人物にこんな姿にされてしまった。

呪いの解く手がかりすら見つからない。

おしゃぶりを持ってる者は皆風みたいに呪いの掛かってる人である。

本当は成人であるが、呪いに掛かった時から年を取らなくなってしまった。

なるほどねぇ、薄々気づいてはいたけど包帯君ってやっぱり大人だったんだ。

まぁ別にいいけどさ。

善良なお客さんの一人だし、多分これまでで一番付き合い長いし、知ったところで何がどうなるわけでもないし。

それよりも目の前の風を抱っこしてみると、オムツ替えてた頃を思い出した。

本人に言うと恥ずかしがって拗ねるので言わないけれど、ふむ、呪いねぇ。

こればっかりは気長に待つしかないんじゃないかなー。

と思ってたら風に俺のこと聞かれた。

ですよね、若作りの域超えちゃってますもんね。

正直に不老不死の体質なんだと言えばあっさり納得してくれた。

アッサリしすぎではないだろうか…

ん?でも待て、おしゃぶり持ってる赤ちゃんって一体何人いるんだ?

俺の知ってる限りじゃ両手で数えられないくらいにはいんぞ、おしゃぶり持った赤ちゃんって。

風に聞けば自分を合わせて7人って言ってるがどういうことだ?

えーと…黄、橙、青、赤、紫、藍、緑の7人らしいんだけど、透明は?

包帯君ハブられてるのかな。

じゃなくて、その前に俺同じ色の赤ちゃん沢山見てんぞ、おい。

風にそう言えば凄く驚かれた。

風と同じ赤色のおしゃぶりなんて確か100年くらい前に見かけた気がするし。

透明はいないのかと聞くと、これまた驚かれて逆に問い詰められた。

透明のおしゃぶりを持った赤ん坊を知ってるのかって焦ったように聞いてきたけど、包帯君何したのやら。

この店の常連さんにいるよ、と言えばあんぐりと口開けてて可愛かったのでほっぺをツンツンした。

どうやら透明のおしゃぶり持った赤ちゃんがいることは知っていたけど、ほんの数日前に得た情報だったらしい。

まぁそれを俺が昔から知ってたらそりゃ驚くか。

連絡?あー…とれるとは思うけどあいついつも忙しそうだからなぁ…

一応アドレス帳にある包帯君の携帯番号に掛けてみたけど、案の定出なかったし。

風はちょっと落ち込んでたけど、またいつか店に来るさと言ってあげた。

 

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

あれから数日経ったけど、今日は定休日なのでベランダでまったりと新メニューの考案をしてる。

平穏っていいね。

これが俺の求めてたザ・平穏だよ。

あ、誰か来た。

玄関開けると、マシュマロ君だった。

さらばだつかの間の平穏。

未来であったことは過去にも反映されてるのは眼鏡君やマグロ君で分かってるし、それはマシュマロ君もそうであって、こりゃピュアなマシュマロ君じゃなくてラスボスに上り詰めた方のマシュマロ君だな。

だって手首や首にトゲトゲ嵌めてるし、全体的にグレてるし。

でも何だろう、ちょっと涙ぐみ始めてるんだけど。

え、待って、ちょっと待って!

涙腺崩壊3秒前のマシュマロ君に困惑するも、ここはもう経験だよね。

直ぐに中に入れて、椅子に座らせて、タオルとココア持ってきて。

なんて早業だ。

自分でも驚くぐらい泣いたやつへの対処を体が覚えてやがる。

でも何でマシュマロ君が泣くんだ?

久々の再会だったけど泣く要素なかったろ。

あー、マシュマロ君がマシュマロ君たる所以であるマシュマロを忘れてた。

マシュマロがゲシュタルト崩壊しそうなこと考えながら棚の方からミニマシュマロ持ってきて、ホットココアの中に入れてあげる。

お前マシュマロ好きだったろ、うん。

ナイスチョイス俺。

結果、めっちゃ泣き出した。なにゆえ。

んん?うん、うん……えー……え?

ちょっと泣いてるせいで聞き取りづらいけど、要するに俺を探してたのにどこにもいなかった、どこに行ってたの?ってことか。

日本にずっといたんだけどなー。

逆に並行世界手に入れちゃったマシュマロ君が何で俺を見つけられなかったのか。

このまま泣かれるのもあれだし、ごめんなーって謝ったけど中々許してくれそうにない。

あれ?何で俺こんなに謝ってんだろう。

そろそろ泣き止んで欲しいので、ココア持たせたらそのまま飲み始めた。

飲み終えてやっと落ち着いたマシュマロ君、何やらぐちぐち俺に不満ぶつけてきた。

やれ見つからなかっただの、やれ目の届く範囲にいろだの、やれ寂しかっただの。

なんたる理不尽。

でも世界征服は案外楽しかったって言ってるんだけど、こいつ殺されても全く反省してねぇ。

はい?並行世界を統治した後の世界を見せたかった?

なにそれ世紀末じゃん、見たくねーわ。

それ言ったら絶対こいつまた泣き出しそうだから、心の中に仕舞っておくけど。

鳥の設定集めたらなんとかかんとか言ってるけど、鳥の設定って何だ。

ラーメン君もそれ言ってたなーと思いながらマシュマロ君を慰めてたら漸く上機嫌になり始めて、マシュマロクッキー作りたいと言って来た。

ふむ、俺も久々に作ろうかなーと思ったので一緒に厨房に籠り始める。

ただのマシュマロじゃあ面白みないし、チョコいれたりジャムいれたりしてアレンジしてやった。

私的にチョコが一番好きだな。

マシュマロ君はスタンダードな味が一番らしく、普通のマシュマロクッキーが既に食べつくされてた。

んー…にしてもこれ結構保存効くから商品にしちゃっても問題なさそうだな。

原価も安いし、アレンジの幅も広いし、うん、ちょっと試作でレジの方に出してみよう。

試作用に作っていくと、端からマシュマロ君に食べられていた。

つらい。

でもこの子マシュマロ食べる時すごくおいしそうに食べるからついついあげてしまうが、これで糖尿病になったら申し訳ないので、そろそろストップを掛ける。

てか今頃なんだけど、何で日本いるの君。

ゲーム?チーム戦のゲームが日本であるから来たらしい。

チーム戦だから大人数で別荘に泊まってるらしいので、余ったマシュマロクッキーを皆で食べてくれと言って袋に詰めてマシュマロ君に渡した。

マシュマロ君がすごく喜んで帰っていったけど、ありゃ一人で全部食べるな絶対。

にしてもゲーム……ゲームねぇ…マシュマロ君が参加してるってことは普通のゲームではなさそうだけど、果てしなく関わりたくない。

あれだ、触らぬ神に祟りなしってやつだな。

翌日に、橙色おしゃぶりの少女と一緒にマシュマロ君が店に来た。

おいお前ら未来で、鬼ごっこやってた面子だよな、何でそんなに仲良さげなのだろうか。

危機感持てよ。

そういえば未来ではこの子の死に目に会えなかったなぁ。

何か爆睡しちゃってすまんかった…

そういえばこの子もゲーム参加者らしい。

やっぱりマフィア関連な気がするぜ。

取り合えず普通にお客として来たみたいだし、席に案内してあげる。

ポロネーゼとラザニア頼んできたので厨房へ。

待っている間の二人を少しだけ盗み見したけど、普通に談笑してる。

仲直り…?した感じなのかな。

また新しい客が来たと思ったらマグロ君達だった。

野球少年と不良少年、マグロ君のトリオがマシュマロ君みて驚いてたけど、普通に会話してた。

あれ?お前らこの間まで殺し合いしてたよな?

この間は殺そうとしてゴメンネーで済まないレベルでやり合ってたけど、何があったのさ。

注文品持って行くついでに仲直りでもしたの?って聞いてみた。

どうやらそろそろ始まるゲームの同盟チームらしい。

なるほどー、そう来たかー。

これはもうマフィア案件だな。

聞かなかったことにしよう。

彼らと入れ違いで二代目ナッポーと連れの四人と緑のおしゃぶりの赤ちゃんが入って来た。

いかにも科学者です!って恰好の赤ちゃんに気を取られていると二代目ナッポーが声を掛けてきた。

久々感がないのは、多分数日前に孤島の方で会ったからだろうけど。

一瞬ナッポーと言おうとして寸での所で飲み込んだ。

席に案内しようとしたら腰に何かがダイレクトアタック。いったい!

何だこのリンゴの被り物……どこかで見たことあるような。

あ!フランスの少年か。

あっちも俺を覚えてるらしく、リンゴの被り物はお気に入りになっているだとか。

一回抱き上げると、結構重くなってた。

子供の成長って早いなー…。

それからナッポー達を席に案内して注文決まったら声掛けてくれと言ってカウンターのお客さんの皿を下げに行く。

そういえば眼帯少女はどうしたんだろうと思って、お勘定の時にナッポーに聞いてみた。

どうやら喧嘩中らしい、ふむ、青春してるなぁ。

あの子あんなにお前のこと大好きだったんだからちゃんと戻ってくるだろ、うん。

背中軽く叩いて応援してやった。

その夕方に、ヘタレ君がヘルメット被った紫色のおしゃぶりの赤ちゃんと一緒に店に来た。

これまた初めて見るタイプの赤ちゃんだな。

すごく態度でかいけどこういう奴に限ってチキンだよな。

お子様メニュー出したらテンション上がってて、マジで赤ちゃんかと思った。

いやよく考えろ、赤ちゃんはあんな流暢に喋らんし、歩けん。

あとヘタレ君、さっきからお子様メニューがん見してるけど、頼んだりしないよね…。

赤ちゃんの方が子分にしてやるとか言ってるけど、何だろうね、イラつくよりむしろ微笑ましい。

隣近所の小学生見てる気分だ。

そろそろ暗くなってきたので帰り道は気を付けるよう忠告して見送る。

さて、そろそろ居酒屋にしますか。

外に置いてあるメニュー板を居酒屋のものと交換して、厨房で皿洗いをする。

お客さんもちらほら来て、ちょっと賑やかになっていた頃、新しいお客が来た。

金髪のごつそうな男性を筆頭に、これまた未来でチラっと見たヘアバンドしてる青色のおしゃぶりを持った赤ちゃんと、濁ったおしゃぶりの赤ちゃん、とその他数名。

また赤ちゃんかよ!多いなぁ!

少し大人数だったが、同時に帰る客がいたので座ることが出来た。

ていうか赤ちゃんってことはこいつらマフィアかー。

にしても最近おしゃぶり持った赤ちゃん多いな…風もそうだし、これからあるゲームでも関係してんのかな。

さっきの集団に酒出して厨房の方に戻ろうとしたら、青いおしゃぶりの赤ちゃんに呼び止められた。

ん?俺が風の師匠?風から聞いた?

待って、あの子俺が師匠って言いふらしてんの?なにそれ恥ずかしい。

あんな初心者の、それも拳法入門編みたいなこと教えただけなのに師匠にされてる。

もう苦笑いしか出来ねーよな。

そういえば風って強いのかなと思って聞いてみると、なんと中国一の武道家として名を馳せているらしい。

これ絶対俺が師匠なんて言いふらしちゃダメなやつでしょ!

恥ずかしい。

取り合えず風には後日きっちりと言っておこう。

集団がほろ酔いで帰っていった後、包帯君が来た。

何だか今日は知り合いがよく来るなぁ。

朝方電話があったけど何かあったのかと聞かれたので、正直に答えてみた。

包帯君がすげー焦ってる。

大丈夫、携帯番号は教えてないから。

そうじゃなくて、包帯君と繋がりがあると知られた俺が狙われちゃうかもしれない、と。

そんなことする奴には見えねーけどな、あいつら。

まぁ大丈夫大丈夫、俺一応護身術は齧ってるし。

取り合えずこれからは、誰にもそれ言っちゃダメだよ!って念押されたけど、もうバレてるから無意味なのでは。

今気づいたけど、包帯君の顔に巻いてる包帯が新しくなってる。

俺のあげた奴使ってくれてるのかー。

何だか説教をくどくど言ってる包帯君を他所にそんなことを考えていると、酒頼んできた。

ピニャ・コラーダを飲んでる包帯君は先ほどと違ってなんだか上機嫌になってるけど、もう酔ったのかな。

何か良いことあったの?って聞けば、念願の機会が訪れた!って言ってた。

念願……包帯君の念願って何だろう。

結構昔に酔いつぶれてた包帯君が、自分に呪いを与えたとある人を殺したいだとか、呪いを解きたいだとか、ぶつぶつ言ってるのを思い出したわ。

あれって赤ちゃんの呪いだったのか、あの頃はさっぱりだったけど、なるほど。

まぁいいや、とにかくその呪いとやらが解けたら祝ってあげるか。

さっきから目の前で包帯君があいつをぶっ殺してやるって息巻いてるけど、大丈夫なのかな。

あいつって誰。

いやその前に君、刑務所の看守でしょ。

色々と包帯君が道外れそうで不安しかないんだが。

待って、君まで非常識な人になったら俺が困るんだけど。

店壊したり、マフィアの抗争したりでほんと騒がしい子しかいないから、君みたいな静かな客層が減るのは辛い。

さっきからぶつぶつ復讐がなんたらって呟いてるけど、冗談に聞こえなくて顔が引き攣りそう。

ああ、かつての友人が創ったような自警団を誰かまた創ってくれないかな。

いやそれをナッポーが変えちゃったんだけど。

マフィアに変えちゃったんだけど。

もうほんとあの子何したらあんな過激思想になったのやら…

包帯君が帰るらしい。

何やらテンションが落ち気味だけど、飲み過ぎて気分悪くなったのかな。

最後に少しだけ水飲ませて帰らせた。

 

 

 

 

 

 

よう、俺はエミーリオ。

今日はちょっと店閉めて隣町の調味料専門店に行ってきた。

二か月に一度しか品物を入荷しないこの店の調味料はマイナーなものばかりで、マニアには喉から手が出るほどのものを時々出してくるので、入荷日に品を調べるのが癖になっている。

丁度欲しかった調味料が売ってたので、すごく満足だ。

チーズを発酵した後でいくつかの加工を経て出来たもので、キューブ状の固形のそれは1キューブ1000円と言えばどれほどそれがレアなのかが分かる。

それともう一つ結構高額なやつも買ってみたから、早く店に帰って使ってみたい。

意気揚々と帰り道歩いてたらいきなり目の前の壁がぶっ壊れた。

驚きを越して何だか既視感に見舞われるんだけど。

取り合えず煙を散らしてみると、銃声が聞こえた。

あ、これヤバイと思ったら脇腹が痛くなった。

首を傾げて視線を下げると、あらビックリお腹が真っ赤になってた。

じゃない、これ撃たれたわ、くっそ痛ぇ。

でもまぁ動けるぐらいの痛さでよかった、どうせ数時間後には塞がってるだろうし、もうこの場から逃げよう。

これ絶対マフィア絡みにしか思えない。

帰ろうと思って振り返ると持ってた袋から買ったばかりの調味料がバラバラと。

あ、被弾して袋に穴が開いたのかな。

おいこれ高額なうえにとてもレアなものばかりなんだよ

お腹押さえながら落ちて行った調味料に手を伸ばして、あと少しで届くという時にいきなり襟元引っ張られた。

え、と思って振り返ったらヘ黒いスーツ着た男性に担ぎ上げられて拉致られた。

えええええええ、待って、何この状況。

ちょ、調味料っ!

それうん十万したやつだからあああああ

涙目で調味料を見送り、がっくりと項垂れた。

もうやだ、こいつらほんと…一般人巻き込んで楽しいか、この野郎。

ちょっと落ち着いてきたら、撃たれた腹思い出した。

あー、じくじくする、痛ぇ。

つーか今更なんだけど、このイカついおっさんは一体どこまで俺を連れて行く気だ…

え、これマジで拉致られてんの?

拉致られた先は無人の倉庫みたいな場所で、俺の他にも怪我人が数名いる様子だった。

眼鏡かけてる亜麻色の髪の女性が傷の手当をしようと近寄ってきたが、他の怪我人優先してやってよ。

おれよりも重症が何人かいるよね、うん。

一応服めくって傷確認したら、貫通しててぽっかり穴が開いてた。

んー…まぁ押さえてたら直ぐ治るだろ。

ちょっと休んでたら十分動けるまで回復したので、その場の人達の意識が俺から逸れてる時に抜け出した。

店に戻る頃には傷塞がってた。

調味料がパーになっちまったけど、明日また出向いてみよう。

ふむ…少し物騒な並盛から離れたいし、そのまま隣町の方でぶらぶらして明日買いに行くか。

ってなわけで少しの荷造りを終えて並盛を出る。

あ、携帯忘れた。

まぁ滅多に掛かってこないから大丈夫か。

 

 

 

 




さてさて、誰のSAN値がピンチになっているのかなぁ!?(歓喜)


エミーリオ:今回は物理的な被害者、無防備な脇腹を小突かれた時並みにダメージを喰らう。
平穏:平穏なんてなかったんだ…
風:「エミーリオだから」で全てを悟る武道家。一部とはいえ唯一エミーリオの強さを知っている人。
タオル・温かい飲み物(または酒):エミーリオの最大の技であり、武器であり、この世全てのありとあらゆる人々を無力化できるであろう力を内包している(と思う。)
調味料:買われるだけ買われて使われずに道端にぶちまけられた可哀そうな有機物。


次回予告

SAN値「別に、ゼロにしてしまっても構わんのだろう?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの友誼

エミーリオは思われる。

復讐の夜に

白羽の大空に

大空の乃父に


バミューダside

 

腐敗していく体中が激痛と熱さに襲われ頭が狂いそうになる中、僕はただひたすら生にしがみつく様に手を伸ばした。

そしてゆらりと手の平に炎が灯り、瞬く間に自身を包み込むと先ほどまで瀕死の状態であった自身の体が徐々に形を取り戻す。

腐敗によって爛れた皮膚も、腐りきっていた骨も、飛び出た眼球さえもが細胞を再構築していき復元する。

そして動けるようになる頃には、背丈は縮み、筋力が低下し、赤ん坊の姿となっていた。

それはまさしく先ほど、死へのカウントダウンが始まる前の己の呪われた姿であった。

だが己が手に宿すは深淵を覗き見るような暗く黒い炎であり、この腹の中で煮えたぎるほどの憎悪を表すかのようにそれは揺らぐ。

 

「……てやる……殺してやる……チェッカーフェイスをっ、殺してやる!」

 

第八の人柱として、復讐者(ヴェンディチェ)として、復讐の怨嗟をここに。

 

 

 

 

ふと視界に映る天井を見て、意識が明瞭になる。

やけに昔の、…久しぶりにあれ(原点)を見たと思った。

簡易なベッドから起き上がると、サイドテーブルの上に置いている携帯が点滅していて、首を傾げる。

僕の携帯番号を知っているのは片手で数えられる程であり、ここ最近はこの携帯に誰かから掛かるような要件はないと思っていた。

コップに入れた水を口に含むと同時に携帯の画面を覗いた。

 

『エミーリオ』

 

「ぶっ」

 

予想だにしていなかった名前に口の中に含んでいた水を盛大に吹き出してしまい、顔に巻いていた包帯が濡れて肌に張りつく感覚が伝う。

彼からの連絡は今までに一度すらなく、僕からの現状報告でしかこの番号は見かけなかったのだ。

一先ず落ち着いて今の時刻を確認すると既に日を跨いでいた。

直ぐに折り返し掛けようとしたが、彼は今も働いているから出ないだろうことに気付き、直接赴くことにした。

夜の炎で並盛にあるエミーリオの店の前まで移動し、扉を開けた。

 

「いらっしゃい、あ、包帯君」

「久しぶり…ではないね、この前会ったばかりか」

「そうだね、何かあったのか?」

「それは僕の台詞だ、エミーリオ。今朝僕の携帯に電話しただろう…」

「あ、あれか」

 

思い出したような彼の声に、まさか間違って掛けたのかと思いながら彼の手前のカウンター席に座る。

 

「あれは俺のこう…甥っ子みたいな子っていうか…まぁ知り合いがだな、君のこと探してる様だったから連絡してみたたけだよ」

 

一瞬何を言ってるのか分からなかったが、次第に頭がそれらを飲み込む。

 

「は!?き、み…何してるんだ!?」

「え?あ、お前の番号は教えてないから大丈夫大丈夫」

 

そうではない、僕を探しているのはアルコバレーノか僕に恨みを持つマフィア達しかいない。

周囲のマフィア達から忌避されていることも自覚しているから、今のエミーリオの発言がどれほど重い事態であるかを悟る。

 

「いいかい、僕を恨んでいる奴は何人もいるんだ、君と僕が接点があるということを知られる事自体が危険なのだ!」

「ん?おう…でも俺はこう見えて護身術くらいは身に付けてるから大丈夫だぜ」

「そういう問題ではない!君に迷惑が掛かると言っているんだ!」

 

僕のせいで君が傷付くのは嫌だ。

僕のせいで君に迷惑がかかるのは嫌だ。

僕のせいで君まで嫌われるのは嫌だ。

 

君に嫌われるのが怖いのだ。

 

「大丈夫、俺は大丈夫だから。な?そんなことお前が一番知ってんだろ?」

 

ああ、知ってるとも。

君が死ぬほどお人好しで、優しくて、絶対に僕を見捨てないことくらい、知っているとも。

泣いたって喚いたって罵ったって傷付けたって、君は困った顔で笑うことくらい知っているとも。

 

君が傷付くのは嫌だ。

君に嫌われるのは嫌だ。

でも君が耐えながら笑うことの方がもっと嫌だ。

 

彼に被害が行かぬよう今ここで縁を切るのが賢明なのだと分かっているのに

 

「それに、あの子には口止めしとくから、そう怒んなって…」

 

それでも、この縁を切れないのは僕の弱さだ。

ああ、僕にとってエミーリオは弱さだ。

弱さだなんて…そんなもの復讐には不必要じゃないか。

捨てる、べきなのだと…分かっているのだ。

 

「もう…これ以降誰にも口外はしないでくれ…」

「分かった、約束する」

 

けれど心が選んだのは弱さだった。

 

 

重ね重ねで、注意を施すと酒を頼み出す。

意識を切り替えてチェッカーフェイスのことを考え出す。

数十年に1度しか現れない奴が人柱であるアルコバレーノの代替で近いうちにここ並盛で現れるだろう。

代理戦争だなんて、次期人柱を選ぶにはもってこいのゲームではないか。

今回のアルコバレーノには、大変興味深い人物がいるし、チェッカーフェイスの首を取れなくともそいつが仲間に加わればと思いながら、今後のことを思案する。

はやく、早く奴を引きずり出してその喉仏を引き裂いてやりたい。

 

「何だか嬉しそうだな」

「…宿望の機会がやっと訪れたのだ」

「そりゃよかったな」

「まぁね」

 

奴が現れる機会が漸く訪れた。

自身の中に巣食う禍々しい黒い感情に高揚感すら覚える。

アルコールが理性を奪い段々と思考が緩くなり、いつものように目の前にいるエミーリオに言葉を漏らす。

 

「ああ、はやく………元の姿に……あの男を……殺して…もがき苦しませて……」

 

呂律が回っていない自覚がありながらも、それは口から零れだす。

そしてふと思った。

 

自分が元の体に戻ったらその後のエミーリオはどうなるのだろう、と。

 

呪いが解ければ、この不老体質は消え同じように歳を取るだろう。

だが、エミーリオは?

彼はずっと同じだ。

僕が年老いて、死んでいったとしてもエミーリオはずっとそのままあり続ける。

僕だってこの呪いを受けて、周りが死んでいく中僕だけが取り残されたことがあった。

その名状し難い虚無を失望を絶望を孤独を、今でも覚えている。

置いて逝かれることの辛さを僕は十二分に味わった。

呪いが解ければ、今度は僕が彼を置いて逝くことになるのだ。

初めて僕はこの純粋なまでの復讐心に霞が掛かった。

ああ、ダメだ、曇らせてはだめだ。

僕の存在意義を曇らせてはだめだ。

迷うな、僕は復讐者だ。

 

❝大丈夫、俺は大丈夫だから。な?そんなことお前が一番知ってんだろ?❞

 

ああ、笑い話にもなりやしない…

彼の言葉を免罪符に僕は彼を傷付けるのだ

 

一気に酔いが冷め、これ以上ここに居ればいるほど居た堪れなくなり帰ると言って店を出た。

出る直前にエミーリオが水を持ってきて、それを飲み干して容器を返す。

 

「またなー」

「…ああ……」

 

彼の笑顔を最後に、彼は店に戻っていく。

僕はワープゲートを開き、足を入れる。

 

僕は復讐者だ。

一時の迷いで他の者達の願望を、切望を、裏切ることは出来ない。

そう、僕は復讐者だ。

だから、復讐が成され、この呪いから解放されたその時は

 

どうか、どうか僕を…恨んでくれ

 

エミーリオ、君の笑顔ほど残酷なものはないのだから

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

 

それは紛れもない記憶だった。

僕の未来の死に際であり、末路であり、消滅だった。

無と成り果てた僕が未だその自己を保っているのは、単にエミーリオとの言葉があったからだ。

また会えると…信じているからこそ、この孤独感に見舞われる既知の溢れる寂しい世界でその時を待っていた。

でも待ち続ける日々に不安に押し潰されそうな時、あの子が精神世界に訪れた。

 

「白蘭…ここにいたのですね」

「ユニちゃん……?」

 

未来の僕に命を狙われていた少女を見る。

 

「白蘭……あなたに頼みがあるのですが、聞いてくれないでしょうか」

 

その顔はとても未来の彼女とは結び付かないほど穏やかだった。

 

「内容次第だね」

 

そして、ユニちゃんから聞いたことはアルコバレーノの呪いのことだった。

どうやらこれから開かれるであろう呪いを解く為の代理戦争に、僕を彼女の代理人としてそのゲームに参加してほしいらしい。

ハッキリ言って正気の沙汰じゃないと思った。

 

「ユニちゃんは忘れたのかな?僕が君の魂を欲しがって追い詰めたこと…」

「ええ、それを忘れることはありません…ですが、この戦いには白蘭、あなたの力が必要なのです」

「僕の能力を買ってくれてるようで嬉しいけど、僕にメリットがないね」

「なので、お礼と言ってはなんですが…あなたの望みを叶えましょう」

「僕の望み?君がかい?」

 

何を言っているんだこの小娘は。と一蹴しようとしたがユニちゃんの放った言葉に固まった。

 

「エミーリオの居場所を」

 

 

 

ユニちゃんの言葉の衝撃が大きくて、暫く呆然としたままユニちゃんから教えてもらった住所を頭の中で繰り返していた。

直ぐに行かなきゃと思ったが、ふとユニちゃんの言葉で思い止まる。

代理戦争…

既に参加するか否かは僕の中では決まっていて、メンバーを集めなきゃと行動に移った。

並行世界の知識と未来での知識を使って、真6弔花のメンバーを集めて日本へ向かった。

皆を別荘の方に先に行かせると、僕はユニちゃんの言葉を頼りにとある店に足を進めていた。

住宅街の真ん中に佇む一軒の店の前に立ち、扉に引っ掛けられてるCLOSEの文字を見て少し考え込んだ末に、扉を数度ノックする。

どれだけ探したところで見つからなかった探し人がこの扉の先にいると思うと、息を吐きだす唇が震えた。

扉の向こうで足音がして、鍵が開けられる音と共に扉がゆっくりと開いた。

 

「はい、どちらさ……白蘭?」

 

その姿は僕の記憶のそれと何一つ変わらずにそこにあった。

それと同時に、懐かしい感情が込み上げてくる。

原点だ。

この人は僕の原点だ。

どうしてか分からないけれど、漠然と、そして茫漠たる唯一の原点だと思った。

 

「エミー……リオ…」

 

そこからは感情の枷が外れたように泣き出した。

あの頃の様に、自分の感情の抑制が出来ずただ訳の分からない朦朧たる感情の波に流されることしか出来ずにいた。

気付けば店に中に入れられて、顔に少し温かいタオルを押し当てられていた。

するとエミーリオがマシュマロを入れたココアを近寄せたら、別の感情が込み上げてきて涙が溢れ出る。

ああ、これは未来の僕の感情だ。

エミーリオが見つからなくて、ひたすら絶望して、焦って、辛くて、苦しかった僕の感情だ。

 

「白蘭、大丈夫か?」

「エ″ミーリオっ……ぼく…ずっと、ずっと…探してたのにっ…でも、エミー…リオどこにも、いなくてっ…」

「おう…」

「また会おうねって……言った、のにっ……」

「ああ…えっと……すまん。取り合えずこれ飲んで落ち着け」

 

未来の僕の感情に飲まれそうになると、エミーリオが重みのあるマグカップを僕に渡してくる。

エミーリオが持たせたマグカップの中身を確認せずに口に運ぶ。

少し熱めの液体が口内に流れ、甘い香りと味が口の中に広がる。

全部飲み干すと漸く気持ちが幾分か落ち着き、心の中に溜めてたものを吐き出した。

ゆっくりと、未来の僕の溜め込んできた感情を解く様に、そして今の僕が抱えている不安を零した。

 

エミーリオのいない世界はただ、色褪せていて、つまらなくて、気持ち悪かった。

退屈は段々と積み重なっていき、気付いた時には漠然とした不安と恐怖になってた。

一歩引いた場所から見える世界は、僕を隔離する檻の様に思えるようになってからは、ここを抜け出したくて仕方なかった。

だから新たな世界を、この檻から出られる術をとトゥリニテッセに縋った。

きっと、これを集めれば全ての並行世界を統治しうる力を手に入れ、僕は新世界の創造主になれると思っていた。

そしたらこの既知の世界を抜け出せると、本当に思ってたんだ。

だから、僕の原点に、起点に感謝した。

君だよ、エミーリオ。

エミーリオはありとあらゆる世界で唯一の存在だったんだ。

だからきっとエミーリオも僕と同じでヒトの外側に排他された存在なのだと思って、君を僕の創るであろう新世界に連れて行きたかった。

君が今まで見てきたどの幻想的な光景よりも素晴らしく神秘的な世界を見せてあげようと思ったんだ。

でも君はいなかった。

探しても、探しても、どこにもいなかった。

焦りは不安へ、不安は恐怖へ、僕は日に日に胸の内に積もるソレを嫌でも見ないようにしていた。

エミーリオが生きていることだけを信じながらただ時間と労力を費やすことしか出来なかった。

君を見つける前に、退屈で、気持ち悪くて、不安で、恐ろしいこの世界を早く壊さなきゃってただそれだけだった。

まぁそれも全部全部綱吉君に阻まれちゃったけどね。

だけど、未来の僕の行動を反省する気なんてないよ。

今思えばあれは一種の自己防衛のようなものからきた行動だって思ってるからね。

 

「それに、正直楽しかったし」

「お前な……もう人様に迷惑かけるなよ」

「エミーリオがどこにも行かないなら、大丈夫だよ」

「えー……俺ずっと日本いたぜ?」

「そういう問題じゃないよ」

 

もう一人は嫌なんだ

全てのものから線引きされて外側に排他されるのは思ってるより苦しいんだ

ねぇ、君なら分かるでしょ…エミーリオ

この世界は、やっぱり気持ち悪いって。

僕はエミーリオの瞳を覗き見るが、そこには何もなかった。

綱吉君と違って、エミーリオは分からないや…

短く息を吐きだして、意識を変える。

 

「ねぇエミーリオ…」

「ん?」

「マシュマロクッキー…作りたい」

「おお、いいぞ」

 

ここでぐちぐちエミーリオを責めてもしょうがないもんね、うん。

エミーリオと再会出来たことは純粋に嬉しかった。

その後エミーリオとお菓子を作ったりし時間を潰していて、夕方になる頃に、思い出したかのようにエミーリオが僕に聞いてきた。

 

「そういえば何で日本いるんだ?」

「ああ、それね。近々開かれるゲームの舞台が日本なんだ」

「ふーん、ゲームねぇ…ま、楽しめよ」

「うん」

 

色々喋っていると直ぐに時間は過ぎて行って、僕は別荘に帰ろうと店を出る。

 

「また、明日来るね」

「おう」

 

そう言って僕は帰り道を歩きながらエミーリオから貰ったマシュマロクッキーを頬張る。

ねぇエミーリオ……

僕はね、未来の僕がしたことを反省なんかしないし、する気はないよ。

 

だって、またエミーリオがいなくなったら、今度こそ僕はこの世界を壊そうと本気になるだろうから…ね。

 

 

鼻歌を歌いながら僕は別荘へと帰った。

翌日、ユニちゃんが日本に来ると報せがあったから、その前に綱吉君達のチームと同盟を組もうかなと思って綱吉君の家まで押しかけた。

そして同盟の勧誘を告げると、綱吉君の家を離れてエミーリオの店に向かう。

 

「やぁ、ユニちゃん」

「白蘭。その顔だと、ちゃんと会えたようですね」

「うん…君には大きな恩が出来ちゃったや」

「ふふ、やはりあなたをエミーリオに会わせてよかったです」

 

向かう途中に日本に到着したユニちゃんと合流して、エミーリオの店に行くと、彼は僕たちが一緒にいることに目を見開いていたけど直ぐに席を案内し始めた。

二人で注文した料理が来るのを待っていると、カランと入口の扉が開く。

 

「やっぱ作戦会議ときたらこの店だよな!」

「あはは、ここしか思いつかないよね」

「そうッスね、十代目」

「あれ?綱吉君達じゃないか」

「え?びゃ、白蘭!?それとユニも!」

「お久しぶりです、沢田さん」

「お、白蘭!あの時はありがとな!」

「ん?ああ、あれはマグレだよ。絶対失敗すると思ったのに偶然治っちゃった」

「ええええ⁉」

 

驚く綱吉君達は僕たちの席の隣に座り出す。

 

「それで、同盟の話…どーなったの?」

「白蘭、あなた沢田さん達に同盟を持ちかけていたのですか?」

「うん、まぁ勝率は高い方がいいでしょ」

「えええ!ユニに黙って同盟持ち掛けてきてたの!?」

「そんなことよりさ、同盟の話受けるの?受けないの?」

「う、受けるよ。リボーンもその方向で進めてたし…」

「そっか、ならよろしくね」

「え、っと…うん」

 

少しだけ同盟について話していたら、エミーリオが料理を持ってきた。

 

「はい注文の品、そっちのトリオは注文決まった?」

「えっと、まだです」

「そっか、なら決まったら呼んでくれ」

「は、はい」

「ああ、それと…君たちこの間まで敵対してたのに、仲直りでもしたの?」

「仲直りだなんて、エミーリオらしい言葉選びだね。ゲームで同盟組んでるだけさ」

「あ、そうだったんだ。白蘭、お前ちゃんとこの子達に謝ったのか?」

「んー、そのうち謝るかな」

「お前なぁ…」

 

溜め息を吐きながら厨房に戻るエミーリオを見送って僕はフォークを掴むと目の前のユニちゃんが視界に入る。

 

「何笑ってるの?ユニちゃん」

「いえ、あなたがとても嬉しそうで」

「まぁね、それ早く食べないと冷めちゃうよ」

「そうですね」

 

無意識のうちにニヤけてたかなって思って少し恥ずかしくなったけど、気にしても仕方ないからそのまま料理を食べ始める。

食べ終えると別荘の方でγ君が先に行っていると聞いてユニちゃんと一緒に帰ることにした。

多分真6弔花と揉めてそうだなぁ。

別荘に戻れば案の定、揉めていて、ユニちゃんが仲を取り持っていた。

γ君が僕の方にも突っかかってきていたけど、全く相手にしてなかったらもっと怒ってて楽しかった。

翌日、漸く代理戦争一日目となり、いつ戦闘開始になるか分からないので僕はユニちゃんから離れずに側にいた。

すると、夕方頃になると時計が鳴り出して、他のメンバーがユニちゃんの所に駆け付けた。

僕はユニちゃんの護衛をブルーベルに任せると、チームメンバーを連れて他のチームを探しに出た。

さて、相手をするメンバーが視界の端に見えそちらに向かう。

 

「クフフ、初日はあなたですか、白蘭」

「やぁ骸君」

 

『戦闘開始です。制限時間は10分です』

 

その合図と共に僕は白龍を出して骸君に攻撃を仕掛ける。

他のメンバーもそれぞれが戦いだしていたら、いきなり横から別の攻撃が入って来た。

 

「クフフ、どうやらあなた達だけではないということですか」

「消去法でコロネロチームのCEDEF達かな」

「そのようです、ね!」

「おっと」

 

骸君の槍を軽く躱すと、四方から炎を纏うブーメランと銃弾が襲ってくるがそれもなんなく避ける。

ふぅん?乱戦は趣味じゃないけどまぁ楽しそうだね。

それから戦闘が激しくなっていくと、制限時間が残り3分となった頃に、僕の攻撃が壁を吹き飛ばした。

盛大に煙が立ち籠り、それに乗じて煙の中に人影が浮かび上がる。

僕がその影に攻撃する前に、骸君が幻術で作った()()の拳銃で影に撃ち込んでいく。

意識がそちらに向かっている骸君に白龍を放つが、幻術で防がれた。

既に僕らのチームでウォッチを破壊された者が出ている。

ならば少しでもヴェルデチームから敗者を出しておきたいな、と思って炎を多めに溜めようとした時だった。

 

「大丈夫ですか⁉ターメリック!彼を運んでっ」

「分かった!」

 

一般人にでも被弾したかな?

目の前の骸君にもその会話が聞こえたのか、視線がそちらに固定されていた。

その隙に骸君を殺そうかなと足を一歩踏み出そうとした時だった。

骸君の顔が驚愕に染まり、震える唇がゆっくりと動く。

微かな声だった。

だが、その放った言葉が手に溜めていた炎を紛散するには十分だった。

視線を移した先には、既に血痕のみしかなく、直ぐに周りを見渡すと少し先にCEDEFの者が何かを抱えて撤退しているのが視界に入る。

 

「エミー……リオ……?」

 

そこには口から血を溢す僕の大切な、大切な――――――…

 

気を失い項垂れるエミーリオに、黒い何かが内側から溢れ出る感覚に襲われた。

僕が覚えてるのはここまでだった。

 

 

気付けばベッドの上だった。

 

「白蘭様、お目覚めになりましたか!」

「………桔梗…?あれ、僕何で……」

「覚えておられないのですか?六道骸との戦闘時に急にご乱心になられて――――」

 

桔梗の言葉に記憶が蘇り、僕は起き上がる。

 

「エミーリオっ!桔梗!エミーリオは!」

「は、エミーリオとは…巻き込まれた一般の者のことでしょうか?」

「そう!エミーリオはどうなったの⁉」

「申し訳ありません、あの者はCEDEFの者達に連れていかれてしまったので…」

「な、ら……生存確認でも今すぐにっ……」

「分かりました、私が確かめてくるので白蘭様は落ち着かれるまでお休みになられて下さい」

「僕も行く……今すぐにでも…僕の目で確かめたい」

「お待ちください白蘭様。冷静さを見失われている白蘭様では時間外戦闘に発展しユニ様の敗退になりかねません…私が直ぐにでも確認しに参りますので、どうか…どうかお待ちになっていて下さい」

「…………ぁ……で、も…」

「私はこれから確認に行きますので、報告をお待ちください」

 

桔梗はそれだけ言うと、急ぎ足で部屋を出て行った。

誰もいない部屋には静寂だけが存在し、僕は言い知れぬ不安が胸の中に残る。

 

 

 

「あ……ぁぁ……っ」

 

エミーリオ…エミーリオ………

 

「あ"あ"ぁぁぁぁああああああああっ」

 

 

恐怖に震えて叫んだ声を、救える者など誰もいなかった。

 

 

 

 

 

沢田家光side

 

コロネロからアルコバレーノの呪いを解く為の代理戦争を頼まれて快くそれに承諾した。

それから精鋭メンバーを集めた俺は日本へ飛び、久方ぶりのわが家へと帰った。

奈々は俺を見ると嬉しそうに迎え入れるが、息子のツナは驚愕と困惑ばかりで迎え入れるような感情を抱いていなかった。

それはツナの多感な時期に俺が家を空けていた時期が長すぎたこともあるが、俺がボンゴレ門外顧問機関のボスとしてマフィアに属していることも関係しているのだろう。

どうしたものかと頭を掻きながら、奈々にはバジルとコロネロを家に泊めると言い伝える。

その後家に白蘭が訪れた。

 

「白蘭!?」

 

数日前にボンゴレの監視を抜けて逃げ出した白蘭をオレガノが拘束しようと試みるが、俺が手を上げてソレを止め、そのままツナと奴の会話を続けさせる。

 

「白蘭、お前何でここにいるんだよ⁉」

「ユニちゃんの代理だよ、ちょっと恩があってね」

「ユニは生きてるの⁉」

「まぁね、さっき日本に着いたって言ってたからこれから落ち合う予定だよ」

「よ、良かった…」

 

その後、同盟を組もうと誘って来た白蘭にツナは動揺するも直ぐに冷静に対応していた。

ふむ、直ぐに動揺を抑えるとは…成長したな、ツナ

そして夜になり、子供達が寝静まった頃に、コロネロが作戦会議をしたいと言い出し、バジルを起こすのは忍びなかったのでそのまま寝かせて、他の精鋭メンバーを集めた。

ただ寝静まった家のでやるのも申し訳なく、近場で探そうとしたら、コロネロが気になる店があるとそちらに向かうことになった。

そこはかつて俺がツナと奈々を連れて入った店だった。

コロネロ曰くどうやらここの店長はあの嵐のアルコバレーノ、風の師匠だという人物が経営しているらしい。

中へ入ると若い男性が出てきて、丁度空いたらしい席へ案内された。

 

「あいつが風の師匠っていうエミーリオだな、コラ」

「あの男性がか?随分と若く見えるが…」

「いや、風の話だとあれで40は超えてるぞ」

「そんなまさか」

 

えらく若作りな男であると思うと同時に、どこかで見たような既視感を覚えるも、それが何なのか分からず頭の隅に追いやった。

そして、ちょっとばかしの酒を頼むと、先ほどの店主が注文した酒を持ってきていてコロネロが声を掛けた。

 

「おい、おっさん。あんたエミーリオって名前か、コラ!」

「ん?あ、はい」

「風から聞いてるぜ、お前風の師匠だってのは本当か、コラ」

「え」

 

コロネロの言葉に目を見開くその男性は、頬を掻きながら苦笑いをした。

 

「風の過大評価じゃないかな…俺は基礎を教えただけだ」

「ふん、どうだかな」

「君から見て風は強いかい?」

「当たり前だ、中国で最強の武道家の名は伊達じゃないからな、コラ」

「そっか、それなら余程大成したんだろうね…あ、伝票はここに置いておきますね」

 

それだけ言うと男は厨房の方へ戻っていった。

 

「風があいつに代理を頼んだ可能性もあったが、あいつの両手首には時計はなかった…少し警戒しすぎたか、コラ」

「だが相手も警戒されていることは気付いているようには見えなかった、本当にあの風の師なのか?」

「風からも確認は取れてる…だが、未来での態度を考えてみれば一般人の域を超えない程度だとは思っていた……そこまで警戒する必要はねぇな」

「同感だ」

 

コロネロとラルの会話を聞きながら、エミーリオという男を横目で眺める。

一般人…にしちゃ少しマフィアに関わり過ぎな節があるが、今回の代理戦争とは無関係であることは分かったな。

漸く思考を戻し、作戦会議を始める。

 

「明日、代理戦争一日目だが、俺とコロネロはツナの方を当たる」

「ならば私達はヴェルデ、そしてユニチームを…」

「ユニチームは白蘭がいる限り、チームの戦力を分散させるのは逆効果だ」

「であれば―――――…」

 

気付けば一時間ほど経っていて、これ以上は明日に障ると思い、作戦会議はここまでにして、解散する。

翌日、代理戦争一日目となり、俺とコロネロは並盛中の近場で過ごしていた。

常に部下とは通信機で位置を把握し合いながら過ごしていると、放課後になった頃に時計が鳴り出した。

 

『バトル開始一分前です』

 

すぐさま通信機越しに向こう側の部下たちが慌ただしくなり、俺もコロネロとアイコンタクトして並盛中学校へ向かった。

 

『バトル開始です 制限時間は10分』

 

そして俺はツナと対峙した。

強くなったハズの息子は父親である俺に手を上げることに動揺していて、本来の力を出せずにいた。

そんな息子に一発お見舞いして、意識を刈った上で通信機を耳元に当てる。

 

「ツナは抑えた、他はどうなっている?」

『交戦中です、相手はユニチーム、ヴェルデチーム…ですが、両チーム敵対関係のようです』

「三つ巴か、直ぐに向かおう」

『はい…っ!ターメリック!後ろ!』

「どうした」

『――――――っ、―――――!』

 

通信機にノイズが走り、不審に思ってコロネロを呼び、部下の所へ向かう。

すると通信が回復し、俺は耳に手を伸ばす。

 

「オレガノ、状況は」

『一般人を巻き込んでしまいました、現在その者を連れて撤退しています』

「分かった」

「あっちはどうなってやがる、コラ」

「一般人を巻き込んじまったらしい、治療班は既に呼んでいるから大丈夫だとは思うが」

「こんな街中でどんぱちやれば誰かしら巻き込んじまうな…くそ、やりにくいぜ」

 

内心、賛同しながら余め撤退場所として指定した場所へ行くと、既に部下たちが数名いたが肝心の一般人の姿が見えなかった。

 

「お前たち大丈夫か」

「「親方様!」」

「おい、巻き込んだ一般人は………」

「そ、それが我々が目を離している隙にどこかに逃走してしまって…」

「あー…そりゃ探さねぇとな。どんな容姿をしてたんだ?それとそいつの怪我の状態は…」

「一般人は昨夜作戦会議をしていた店の店主です。それと、怪我の状態は……」

 

オレガノの表情が段々と苦々しいものへと変わる。

 

「ちらりと一瞬でしたが、腹部に銃弾が…相当深いそうでした。歩けるレベルではないハズなのは間違いないのですが本人は痛がっているようには見えなかったので、痛覚の麻痺を起こしているかもしれません…どちらにしろ、あの出血量では命に関わるかと」

「分かった、早急に見つけ出さなきゃな……」

 

あの男は、一般人というにはマフィアに関わり過ぎな部分はあれど、今回の騒動は完全にとばっちりだ。

巻き込んで死なせる事態は避けたい。

怪我人を部下に任せたまま、俺はその場を立ち去り、コロネロと共にエミーリオを捜索し始めた。

一度あの男の店に行くが、鍵が閉まっていて中に侵入したが、人の気配はなく無人だった。

 

「ここに戻ってきていないとなると、あの男どこに行きやがったんだ、コラ」

「まずいな、このままだと本当に野垂れ死にさせちまう…」

 

俺達はそのまま、日が暮れるまで並盛中を探したが男の行先はおろか痕跡すら見つけることが出来なかった。

 

 

 

 




白蘭:SAN値ピンチ、だが安心しろ。まだ追い打ちをかける予定である。
骸:SAN値ピンチ、拳銃トラウマ待ったなし
バミューダ:SAN値がゴリゴリ削られていく人、復讐と友情の板挟みである。泣いていい
エミーリオ:(調味料を失ったあまりショックで気を失ったように)項垂れた男
やったね!多方面のSAN値を削れたぜ!(笑顔)


活動報告でも言いますが、ちょっと二週間ほど忙しくなるかもしれないので、次話の投稿は結構遅くなります。
なるほど、これが放置プレイ……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの波及

エミーリオは巻き込まれる。


よぉ、俺はエミーリオ。

並盛から離れたはいいけど、泊まる場所がないと気付いたのは隣町に着いてからだったぜ。

宿泊施設探したけどどこも満室だった、なんてこった。

しょうがないので、野宿するか。

と思って、ベンチのある公園に行く途中でしわくちゃの、今にもご臨終しそうなジジイに声を掛けられた。

なんだろう、このチャラチャラした装飾品付けまくってるジジイどっかで見たことあるような…

あ、あれだ、宗教勧誘のジジイだ。

また何か言ってるけどまだ宗教勧誘続けてんのかな。

どうせ野宿するだけの予定だったし、話を聞く代わりに泊まらせてくれたら儲けものかなと思って交渉してみたら、快く承諾してくれた。

やったぜー

まぁ森でサバイバル生活してた頃あったから、公園で野宿とか全然イケるけど今日は雨降りそうな雲してるし出来れば屋内で寝たい。

そのままジジイについて行ったらすごいでかい家に案内された。

こいつ金持ちかよ。

家政婦の人が夕飯の準備をしてたみたいで、夕飯まで出してくれた。

このジジイめっちゃ良い人だ、話くらいは聞いてあげよう。

と思って飯食べながらジジイの話聞いてた。

あの頃は意味分からなくてまっったく聞いてなかったけど今なら若干理解出来る。

どうやらジジイは死ぬ気の炎とやらに詳しい、いわゆる専門家みたいなもんらしい。

そこでなんか色々炎がごちゃ混ぜになってる俺見てビックリして声掛けてきた、と。

なるほど…宗教勧誘とか疑って正直すまんかった。

俺もこの炎には悩まされてたからな、聞いて損はないだろ。

ふむふむ、うん、なるほど、へぇ…

この炎って基本的一人一色なのか。

炎の色で効果が変わってくるのは知ってたけど、具体的なもの知らなかったから為になるね。

俺の生命エネルギーって規格外なのか、まぁ不老不死である時点でなんとなく分かるけど。

ん?なにこのリング、くれるの?

でもこんなゴツいリング嵌める趣味持ち合わせてーよ?

ていうか料理の邪魔にしかならない。

でもなんだ、折角貰ったし首に掛けるぐらいなら別にいいか。

ジジイが満足げに頷きながら昔話を始めたんだけど、これも聞かなきゃダメ?

っく、宿の礼もあるしげんなりしながらもちゃんと聞いておく。

何で子供時代の頃まで遡ってんだよ…

知らねーよ、あんたの過去なんぞ。

つか知りたくねーよ。

うん?どうやらこのジジイがまだ小さかった頃に俺と会ったことあるらしい。

マジか、いや子孫とかと思われてんだろーな…

にしても100年以上も前だと本当に覚えてないわ。

友人やらナッポーやら結構キャラ濃ゆい奴等は覚えてるけど、それ以外はあんまり覚えてない。

にしても目の前のジジイは一体いくつなんだ?

話聞いてるとますます年齢が分かんねーけど、年取ってるらしいし一応人間だよな。

小一時間年寄りの昔話聞かされて、そのまま部屋に案内されてそこで寝た。

気付いたら目の前に二代目ナッポー君がいた。

目の前にいるのに俺の存在に気付いていないっぽい、何故に。

そんなナッポー君だが、すっごく憔悴してるみたいで目の下に大量の隈を(こしら)えてる。

大丈夫かコイツ。

慰めようにも俺の声がナッポー君に届いてないし、まず俺の存在が見えてない。

肩を掴もうとしたらすり抜けていくし、なにこれ夢?

リアルな夢だな。

あ、ナッポー君が消えた。

気付いたら朝だった。

なんだか妙な夢だったなぁ…

そういえばナッポー君って確か眼帯少女と喧嘩中だったっけ…それでかな?

朝ご飯まで出してくれたジジイに感謝を述べると、血を数滴欲しいと言われた。

どうやら色んな色の炎出せる俺の細胞を研究したいらしい。

一泊止めてくれたし、承諾して数滴だけ試験管に入れて渡した。

ジジイの家を出て、当初の目的だった調味料専門店へ向かった。

良かった、まだ在庫があったようだ。

昨日買ったものと同じ調味料を同じ数量分買ったので満足だ。

そろそろ店に戻ろうと思う。

明日からはちゃんと店開けなきゃいけないしな。

 

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

帰る途中でこの前店に来てたごついおっさんと鉢合わせした。

ん?腹の怪我?ああ、そういえば昨日撃たれたんだった。

もう治ったって言ったけどめっちゃ怪しまれた。

念の為に医者に見せるって言って引き摺られた、マジか。

待て、もう掠り傷一つないすべっすべの肌になってるから、見られたら見られたでヤバイ。

どうにかして逃げねばと思ったけど、いつの間にか仲間呼んでくれやがったらしく、数名の黒スーツ着てる奴が現れた。

何やらどこからに案内されるらしい、帰りたい。

医者に見せるとかいうのは建前で、あれか、お前も俺達の正体知ったからにはそのまま帰すわけにはいかねぇとかそういうやつか。

どうやって逃げようかなぁと思ってたらどうやら目的地へ着いたらしい。

普通の一般的な一軒家にしか見えないんだが。

え?あんたの家?マフィアのくせしてすっげー普通の家に住んでるのかコイツ。

中に入ると女性が現れて挨拶されたので、挨拶を返す。

どうやら奥さんのようだ、若い。

リビングに通されて、医療班?呼んでくるからここで待ってるよう言われた。

取り合えず暇だったので奥さんとお喋りするか。

子供が沢山いるっぽいので、短時間で大量に作れる料理法を教えてあげたら感謝された。

そろそろ夕方になりそうだったので、奥さんの夕飯作りの手伝いを率先してあげる。

そういえばさっき写真立てに写ってた子ってマグロ君じゃね?

ここマグロ君の家なのかな、多分。

だってこの夫婦の顔を足して2で割ったらマグロ君になったし。

にしてもマグロ君の母親ってすごく、こう……天然っていうか……能天気だなぁ。

夫が危ない仕事してるって知ってるのか?まぁ俺には関係ないけど。

夕飯作ってたら子供たちが帰って来たのか、騒がしくなってきた。

よく見ると子供の中にマグロ君はいなくて、何時ぞやで会った占い少年がいた。

あとは中国語喋ってる子と、もじゃもじゃ頭の牛柄の服を着てる子共…結構騒がしい子だった。

子牛君が遊んでほしいのか絡んできたので仕方なく相手をしてあげる。

そういえばゴツイおっさんがいなくなってるけど、どこにいったんだろう…

帰ってこられる前に帰りたい。

帰ろうにも子牛君が中々離してくれない。

夕飯の手伝いをしたお礼にと、食べていくことになったけど、出来れば今すぐ帰りたい。

占い少年と子牛君が一緒にお風呂入るって言いだして風呂場に引っ張られていった。

待って、待って、着替えが!着替えがマジないからやめてっ、ぁぁぁあ!

シャワーかけられた…それも冷水のまま……くっそ冷てぇ

無理にでも振り払って帰るべきだった。

風呂場の外で何故かマグロ君の母親が着替えを用意してる。

面倒みさせる気満々じゃねぇかチクショー。

諦めて全部脱いで占い少年と子牛君の頭をシャンプーで洗う。

暴れまわる子牛君を押さえて、お風呂に入れること十数分、格闘の末に漸くドライヤーまで終わった。

こ、子供ってここまで疲れるっけ……

俺が子牛君達をお風呂に入れている間にゴツイおっさんが帰ってきてたらしい、そのままバレずに帰りたい。

水色のおしゃぶりを持った赤ちゃんに捕まえられて、リビングに連れていかれた。

どうやら俺に聞きたいことがあるらしい。

ん?マシュマロ君と俺の関係?何でここであの子が出てくるの?

いや、もう…ツッコまない。

どうせマシュマロ君が人様に迷惑かけたに違いない。

なんせこの前まで世界征服してたぐらいだしな。

あれ?これ俺共犯者として疑われてる?うっそだろおい。

小さい頃ほんの一か月一緒にいただけだと弁解しておいたけど、絶対信じてない目してるぜ。

何かいきなりマグロ君と同じくらいの年齢の少年が入ってきて、ごついおっさんと一緒にベランダに走っていったんだけどどうしたん。

うお、何か家が壊れた音したんだけど。

あ、子牛君がベランダの方に花火ーって叫んで走っていった。

ついでにマグロ君の母親までもが花火かしらとベランダに向かっていったけどあれ絶対花火じゃねぇから!

んな大きな音出す花火を至近距離で上げる場所ねぇだろ!

危ない気配を察知したのでベランダに出た子牛君と母親の方を取り合えず家の中に待機させようと一歩踏み出してマグロ君の母親の腕引っ張ったら、何かが俺の方に刺さったんだけど。

刺さった衝撃でそのまま後ろに吹き飛ばされたわ、くっそ痛ぇ。

キッチンの所まで吹き飛ばされて洗面台に頭撃った。

起き上がって刺されたところ見たら、昨日ジジイから貰ったリングが少しだけ凹んでた。

うわっ、首にぶら下げておいてよかった!

俺の所に慌てて駆けつけてくれた少年がピンピンしてる俺に驚いてたけど、俺もこれは驚きだった。

何だかゴツイおっさんが重症らしくて、皆忙しそうだった。

だから誰も俺が密かに帰ったこと気付いていないと思うんだ。

どうせおっさん以外は皆無傷なんだろ、なら俺要らないじゃん。

帰宅一択だわ。

正直俺巻き込まれるだけ巻き込まれただけだよな。

すっげー被害者じゃん。

マフィアって本当に迷惑しかかけねーよな…

 

 

 

 

よっす、俺はエミーリオ。

あれからちゃんと店に帰れましたよ、ええ。

ちょっと警戒して、普段は歩かないめちゃくちゃ人通りのある所から遠回りしてやったぜ。

でも何か店の中に誰かが侵入したような形跡があるんだけど、空き巣かな?

色々とあり過ぎて、並盛が危険過ぎると再確認出来た。

ちょっと並盛から移動しようかなぁ…今度はスイスとかでいいかもしれない。

いや安全面でいけばニュージーランドか?

さてと、店開けるか。

メニュー版を扉に立てようと店の外に出ると、マグロ君が店の前にいた。

あ、ごめん、扉が額に勢いよくぶつかったけど大丈夫?

怪我?一昨日の?……何で君知ってるのソレ。

もう全然平気だよ、うん。

マシュマロ君に会ってくれと?

別にいいけど、これから店だし…ああ、ちょ、待って

腕引っ張られて連れていかれたのは、昨夜逃げ出したマグロ君の家だった。

またここかよ。

入ってみたら入ってみたで、皆驚いてるよ…いや俺が驚きてーよ。

何かの集会っぽいけど無関係の人入れていいの?

あまりの大人数でちょっと引いてたら、マグロ君にマシュマロ君とナッポーの間に座らされた。

ねぇ何でこの二人の間なの?そこら辺の隅でいいじゃん!

マグロ君がいきなり大衆に説明始めたんだけど、なにこの疎外感…アウェー感!

ん?包帯君のこと話してね?…………包帯君も今回のゲームの参加者だったのかぁ…

しかも沢山のチームと同盟組んで包帯君のチーム袋叩きにするみたいな作戦なんだけど、人としてどうよソレ。

ちょっと詳しく聞いてみたら、どうやら赤ちゃんの呪いを解く為のゲームだったそうで。

なのに本当は呪いなんか解けずに死ぬってことが分かって、取り合えずこのゲームの主催者を引き摺り出す為にも一旦ゲームを終わらせると、なるほど、要は詐欺られてガチギレ状態ってことね。

包帯君のチームもその主催者を引き摺り出すのが目的らしい。

なるほど、長年零してた殺したい相手ってその主催者なのか。

何だか聞いてるこっちが引く内容なんだけど…

作戦が終わったようで何よりなんだが、マシュマロ君、笑顔で俺の裾を強く握りしめないでくれないかな?帰れない。

ナッポーお前もか。

あ?傷は大丈夫かって?だから何でお前らがそれ知ってんの?それどこ情報よ。

もう本当に大丈夫だから!店に帰っていいですか!?

と数分前まで考えてた俺は今、マシュマロ君に連れられて大きな別荘にいる。

どうしてこうなった。

中に入ると橙色のおしゃぶりの子もいて歓迎してくるから一層帰り辛い。

取り合えずマシュマロ君の気が済むまで相手してあげるか。

まさか泊まらせられるとは思ってなかったけど。

夕飯作るの手伝って、汗かいたからお風呂入って、知らないうちに部屋に案内されて、知らないうちにベッドに誘導されて、知らないうちに朝日を拝んでたぜ、ちくしょう。

朝ご飯まで作ってから帰ろうと思ってたら、何故か昼まで作らされた。

途中でマシュマロ君がゲームの時間になったからと出ていった。

俺もそれに乗じて帰ろうかなーと思ったけど橙色のおしゃぶりの女の子が見るからにションボリしてるので、帰りますとは言えなかった。

あとな、君の隣にずっといる青年が俺を睨みつけてるんだけど。

そろそろ2時だな、おやつ作ってあげようと思って厨房に籠る。

パウンドケーキだと少し時間かかるし、普通にスフレチーズケーキでいいかな。

あ、ティーバッグもある。

所要時間大体1時間ほどかかったけど、まぁ綺麗に焼けた。

少し冷やそうと思って冷蔵庫にケーキを入れて後片付けをしてたら、いきなり橙色のおしゃぶりの女の子が勢いよく厨房の扉開けてきたんだけど。

どどどうしたんだよ、そんな泣きそうな顔して…

皆が危ないって言ってるけど…皆ってゲームの参加者のことだろうか。

んなゲームに危ないもクソも………いや危ねぇわ。

この前おもっくそ被弾したばっかだ俺。

ええっと、取り合えずこれはどうすれば。

ゲームを止めてって言われても俺部外者だけど大丈夫なのか?ソレ。

分かった、分かったから泣くのはやめてくれ。

少女を抱き上げて、皆が要る場所を案内してもらいながら向かうことに。

時間がないと急かしてくるので、結構本気で走ってる。

本当はワープ使いたいけど、この子抱きながらは怖いから使えないんだよなぁ。

あれは…公園?の広場みたいなところだけど。

ん?何だか人影が…げ、皆血だらけじゃん。

えええあんなグロい場所に俺投入しようとしてたの?この子、うっそだろオイ。

うわぁ、マシュマロ君も倒れてるし、眉毛君に至っては片腕ないし…なにこの地獄絵図。

止めるったって、今戦ってるマグロ君と………………誰だアレ。

鼻が潰れてて目がクリクリしてるマジシャンみたいな恰好してる上半身裸の少年がマグロ君と交戦中なんだけど、マグロ君が若干優勢っぽいし、これ俺が何もせずとも決着つくのでは。

あれ?黒い炎だ………ってことは包帯君の仲間かな?地面に包帯散らかってるし多分そうだよな。

そんでもって散らかってる包帯の横に転がってるのって透明のおしゃぶり…だよな。

まさかあれ包帯君のキャストオフの姿なのか?

じゃない、そんなこと考えてる場合じゃない!

すごい大技使います!みたいな雰囲気になってるけど、あれ絶対止めた方がいいよね。

だって物凄いスピードで空中を加速し出してるもん包帯君。

取り合えず少女を地面に降ろして、と。

あ、やば、あれはやばい、絶対人死ぬ、というかマグロ君が死ぬ。

と思ったのでそろそろ仲介しに行こうと思う。

二人の間に入って、ぶつかりそうだった拳止めてみたはいいけど、これどうしたらいいんだろう。

いきなりの乱入者に驚いてるね君たち。

だけどな、小さな女の子を泣かせるのはダメだと思うんだよ俺は。

んで包帯君や、長年の悲願をこんな形で妨害したのは本当に申し訳ないんだけども、別の方法探してみようや。

あ、いやそんな怒った顔しないで、めっちゃごめんって!でもな、周りにここまで尋常な被害出てるわけじゃん?

ちょっとこれはどうかと思う……かなー…アハハ、あー…取り合えず後で何度でも謝ってやるから今はちょっと諦めて欲しいんだけど。

アカン、包帯君の顔がくっそ怖い、逃げたい、切実に。

いきなり心臓殴られた、痛い、めっちゃ痛かった、痛すぎて涙出そう…つか出たわくっそ。

これはかなり怒ってますわ、だって泣いてるもん。

さっきの一撃必殺そうだったもんな、それ妨害されて泣くほど悔しいんですね、分かります。

謝ったら謝ったで、いきなり顔上げて復讐止めるって言いだした。

マジか…そこまであの攻撃止められたの傷付いたの?

も、申し訳ないことをした…。

いやまぁ復讐なんてろくなもん生み出さないし、結果的に良かったのかな。

いきなり包帯君が自分の時計壊したんだけど、ご乱心だな。

草むらから変な恰好した男が出てきたんだけど、何だコイツ。

優勝者が決まったらしい。

男が皆からブーイングされてるところ、こいつが主催者なのかなーと思ったら別の男性が現れた。

…チャック柄の顔面に、仮面付けたスーツ………これ包帯君が探してた奴じゃん。

包帯君が吠え出した、どうやら当たってたらしい。

でも何だろう、そこまで悪い奴には見えないんだけどなぁ。

言い合いを眺めてたら、いきなり男が仮面を外しんんんんんん?

ラーメン君じゃん!え、もしかしての悪の黒幕てラーメン君だったの!?

えー、この子めっちゃ俺の店でラーメン啜ってたじゃん。

いきなり暴風が吹いたんだけど、何今の…つーかラーメン君がいきなり地球人宣言したんだけど。

皆地球人だよ?

話についていけない。

んーと…つまり地球には元々人類よりも先に別の種族が存在してたってことかな?

何だか壮大な話になってるなぁ。

あ、包帯君が赤ちゃんに戻った。

腕に抱えながらラーメン君の話聞いてるとジジイが現れた。

何やら鳥の設定とやらを保つ装置がうんたらかんたら…専門用語過ぎて分かんないんですけど。

つまりそれがあれば呪いは解けるってことね。

何やらラーメン君が考え込み始めた。

んでもっていきなり俺を指差して地球人宣言したんだけど…マジで?

でも俺が純粋な地球人ってことには納得するわな、なんせ不老不死だし。

ええっと皆が俺の方見つめてるけど、俺も今知ったから。

ラーメン君が弁護してくれた、この子良い子。

ん?記憶取り戻せるの?……………………………マジで?

 

 

 




ナッポー:SAN値がまだほんの僅か残ってる
マシュマロ:SAN値ゼロ→発狂後若干回復
ジジイ:エミーリオの血ゲットだぜ!今後使うかはその時の気分次第。
エミーリオ:色々ブーメランがあるが、本人は気付いていない。
被害者:お前が言っていい言葉ではない
ニュージランド:エミーリオにロックオンされた。逃げたい。
ティーバッグ:見直すまでティーバックと打っていたことに気付かなかった。
全力疾走:時速200㎞くらい。



駄文↓
毎回エミーリオ視点とその他視点なので、二話ずつ一気に書かないと辻褄合わせが出来ないんですよね。んでもって他視点がエミーリオ視点の約2倍くらい文字数あるんですよ。
何が言いたいっていうと、二話書くだけで一万五千字行くので三週間ぶりの執筆は本当に疲れました。
久々すぎて内容が朧げだったのもあって、書くの時間かかりました。
長らく待たせてしまい申し訳ないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの渇望

エミーリオは思われる。

廻り巡る霧に

貝の大空に

復讐の夜に


六道骸side

 

「あれ?そういえば凪ちゃんはどうしたんだ?骸君」

 

代理戦争が始まる前日に、エミーリオの店に訪れ、去り際に彼から投げかけられた疑問に一瞬詰まってしまう。

 

「あの子は今沢田綱吉達に預けています」

「え?なに、喧嘩?」

「違います」

「まぁあれだ、そんな落ち込むなよ。あの子お前のこと大好きだから絶対帰ってくるだろ」

「フン」

 

今のクローム髑髏は僕の幻術を受け入れられず、内臓を補えないまま死ぬだろう。

だから応急措置としてあの子とは距離を置いたのだ。

あの子自身が確固たる自分を確立し、僕の前に現れるのをただ待っていた。

だからエミーリオの言葉に、当たり前だという様に鼻で笑った。

だが、その言葉と同時に背中に伝う温かな体温に安堵した。

クロームという半身と距離を置いたことで無意識に張りつめていた神経が緩み、口から零れた息は僅かに震えていた。

認めるのは癪だが、やはりエミーリオの体温は心地よい。

アジトに帰る頃には僕の中での不安は全て消えていた。

 

代理戦争初日、僕たちのチームは雷のアルコバレーノであるヴェルデと共に、他のチームと交戦していた。

ヴェルデは、幻術を本物の物質に変えてしまう装置を開発した。

その装置と僕たちの高度な幻術をもってすれば、どんなチームをも蹴落とせると踏んでいた。

ユニチームとコロネロチームの者達と乱戦していた時に、ヴェルデの装置を使い本物の拳銃を作り出し、コロネロチームに向けて数発発砲した。

晴れた煙の先に横たわるCEDEFの者達を想像し、口元に笑みを浮かべていた。

だがその予想は最悪な形で裏切られた。

 

何故……あなたが……そこに―――――…

 

「エミー……リオ」

 

小さく震える声が零れ、空気に飲まれる。

拳銃を握っていた右手の力がすっと抜けていき、心臓が急激に冷めていく感覚に襲われる。

右手から零れ落ちる拳銃に意識すら向けれず、僕はただ口から血を吐くその男を眺めることしか出来なかった。

 

「骸様!」

 

千種の声で我に返ると、既にエミーリオはCEDEFの者に運ばれてその場にはいなかった。

直ぐに、撃たれた場所を幻覚で塞ごうと思い、一歩前に出ようとしたその時だった。

凄まじい炎圧に辺りが飲まれ出し、僕はその場から距離を取る。

炎圧の元は白蘭だったが、どこか様子がおかしかった。

 

「ぁぁ……っ…あ"あ"ぁ"ぁぁぁああああ!」

 

悲痛な叫びだった。

顔を両手で覆い、ただただその体から凄まじい炎の量が溢れ出していく。

彼の部下の何人かが声を掛けているが、全く反応を示さないことからどうやら理性を失っているようだった。

彼の背中からどす黒い炎の羽根が生え、それは未来で起こった決戦の時のものよりも確実に黒く、禍々しく、(おびただ)しかった。

焦点の合わない目で辺り一面を覆いつくそうとする炎に危険を察知し、仲間に離れるよう命じた。

すると炎が電柱に触れた途端、電柱が灰へと変わる。

あれは危険だ、ただ感情に飲まれて暴走している。

 

「千種!引きますよ、あれは危険すぎる」

「分かりました、骸様…」

 

皆が白蘭の放つ炎圧に押し潰されそうになり、顔を歪ませている。

息苦しいのか体が思う様に動かない様子の犬や千種、フランを見て焦り出す。

そして炎が僕たちに迫り来るというところで、いきなり形を潜めた。

炎が消えた跡を目を追うと白蘭が部下に凭れかかる様に気を失っていたのだ。

どうやら炎の抑制が出来ぬまま辺りにまき散らしていたせいで、体力を根こそぎ使い果たしたようだった。

今のうちに潰しておこうかと考えていると、戦闘終了の合図が鳴り響く。

僕は槍を収めて他の者達が動けることを確認すると、アジトへ去っていった。

 

 

「ちょっと、なによ白蘭の奴、化け物じゃない!」

「死ぬかと思ったぴょん」

 

アジトへ着くと皆体力を予想以上に消耗したのか、疲労が伺えた。

かくいう僕も、今回の初戦で予想以上に疲労した。

一番の原因はエミーリオであることはいわずもがな、今になって彼を撃ちぬいた右手が小刻みに震えだす。

私が、この手で………

その日は誰も必要以上に喋ることはなく、僕も喋る余裕はなく足を引き摺りながら自室に籠った。

未だ残る心臓が冷える感覚に、唇が震える。

彼が不老不死であることは知っている…だから死んではいないと分かるが、それでも痛みはあるのだ。

口から吐き出された血と、激痛に歪む顔、そして失望した表情を思い出すたびに地に足が付かない感覚に陥る。

早く切り替えねばと思う反面、彼の安否が気になって仕方なかった。

これでは埒が明かないと思い、彼の精神世界を探して様子を見ようとした。

 

「何だ…これは……」

 

だがそこにあるのは、空白の世界だった。

かつての不安定でありながらも存在していた世界がもぬけの殻と成り果てていた。

今になって不安と焦燥が自身を襲う。

手が汗ばんでいることすらも気にする余裕もなくただ周りを見渡す。

だがかつてのここの住人はどこにもいなかった。

 

「何故………」

 

途方に暮れるだけしか出来ない自身がただただ遣る瀬無かった。

 

「エミーリオっ……」

 

クロームもエミーリオも失ってしまうかもしれないという事実がただひたすら怖かった。

 

 

 

 

沢田綱吉side

 

代理戦争初戦が終わり、リボーンの元で作戦会議が行われた。

俺は父さんにやられたことが思いの外ショックで、全然集中出来なかったけど。

雲雀さんがまさか風チームにつくとは思ってなくて驚きだったけど、もうこのメンバーでのし上がっていかなきゃならないと腹をくくった。

父さんに負けて俺が気を失ってる間にリボーンがボスウォッチを守る為にコロネロチームと同盟を組んでたらしい。

その日は家に帰る気にはなれなくて、山本の家に泊めてもらった。

次の日に学校帰りユニのところへ向かう。

リボーンがユニと連絡をしてたらしく、あっちはあっちで大分危ないらしいって教えられて俺は驚いた。

あの白蘭がいるにも関わらず危ない…それほどヴェルデチームが危険だということが分かった。

そしてユニのいる別荘へ顔を出すと、そこに白蘭の姿はなく首を傾げる。

 

「ユニ、白蘭は?」

「………それなんですが…」

 

ユニから事のあらましを聞いていて、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「エ、エミーリオさん巻き込んじゃったの!?」

「はい、それで傷付いたエミーリオに動揺してしまった白蘭が暴走を起こしてしまって…今、漸く落ち着いて休んでいます」

「暴走って……」

「直ぐに体力が尽きて気を失われたが、あのままいけば町一つが灰と化すところでしたよ」

「びゃ、白蘭は大丈夫なの!?」

「傷もありませんし体力も直ぐに戻るでしょうが、精神的ダメージが大きすぎて現状何とも言えませんね」

「エミーリオさんはどうなったの!?」

「その者の居場所を特定して安否を確認しようとしたが、現在行方不明で安否も分かりません」

「そ、そんな……」

 

ユニと桔梗の言葉にこの場にいる者が沈黙する。

流石の山本もこれはショックだったのか顔色が悪い。

ここでエミーリオさんが不老不死だったのを思い出した。

でもあれはエミーリオさんとの秘密だから皆に教えるわけにもいかなくて、もどかしかった。

 

「で、でも何となく生きてる気がするんだ」

「俺もそう思うぜ」

「リボーンおじ様…」

「おめーらも、あいつが直ぐにくたばるような男だとは思ってねーだろ…なんせあいつは強ぇーからな」

 

リボーンの言葉で皆が安心したように頷く。

 

「それよりも白蘭をどうにか持ち直さないと…どうしよう…」

「…おいツナ、お前が白蘭を元気づけてやれ」

「え?」

 

どうやって、という前にリボーンに引きずられて白蘭が籠ってる部屋に無理やり投げ飛ばされた。

 

「時間がねぇ、白蘭にはあれのことを話せ」

 

小さくそう呟くと部屋の扉を閉められた。

俺は唖然として、扉を見つめていると、後ろから何かが動く音がして振り返る。

 

「誰…」

「お、俺だよ…白蘭……えっと、大丈夫?」

「綱吉君か…これが大丈夫に見えるかい?」

「ご、ごめん…」

 

未来で戦った時に、白蘭にとってエミーリオさんがどれだけ大切なのかは既に知っていたから余程ショックだったんだろうなって予想はしてたけど、目の前にいる白蘭は布団に包まり今にも死にそうな顔をしてて見てるこっちも辛くなった。

このままじゃ絶対に今日の二戦目は無理だと分かって、リボーンに言われたようにエミーリオさんの秘密を教えようと思った。

 

「白蘭…落ち着いて聞いて欲しい」

「…なに…」

「エミーリオさんのことについてなんだけど……絶対に誰にも教えないって約束してくれないか?」

「エミーリオの…?」

 

白蘭のか細い声にまるで親を失った子供を見ているようだった。

 

「俺が知ったのは本当に最近なんだけど――――…」

 

それからエミーリオさんの不老不死の体質を白蘭に喋っていると、白蘭は静かに無表情で俺の話を聞いていて、なんだかとても怖かった。

話し終えると、白蘭は布団に顔を押し付けて声を出さずに泣き始めた。

涙は見えなかったけど、泣いてるって…そう思った。

 

「多分エミーリオさん…驚いて隠れてるだけだと思うんだ…だから時間が経てば絶対に会えるよ」

 

確証のない精一杯の言葉だった。

でも俺の直感が、絶対に近いうちにエミーリオさんと会えるって訴えているんだ。

だから、元気を出してほしかった。

 

「今は君の言葉を信じるよ…」

「本当!?良かったっ…」

「綱吉君は嘘が下手だからね…それにユニちゃんや皆に心配掛けすぎちゃったから…」

「お、俺そんな嘘つくの下手なのかな…はは…それより皆リビングの方にいるから元気出たら顔出してよ」

「そうするよ」

 

漸く明るい声が聞けて、心底ほっとしたんだ。

白蘭の部屋を出て、皆のいるリビングに戻ると獄寺君や山本が声を掛けてきた。

 

「お、ツナ!白蘭大丈夫だったか?」

「じゅ、十代目!ご無事でしたか!」

「う、うん…一応持ち直したっぽいから、数時間後には顔出すと思う」

「ありがとうございます沢田さん…」

「お礼言われるほどのことしてないよ!それに…俺も白蘭があんなショック受けてるの見てると辛かったし…」

 

1時間後に漸く白蘭がいつものように笑みを浮かべて顔を出した。

それからヴェルデチームへの対策案を練り始めた。

幻術を本物にしてしまう装置があるって聞いて苦戦しそうだなって思ったけど、こっちも白蘭が正一君を呼んできてくれた。

夜になると、戦闘時間開始前の合図が鳴った。

二戦目は30分だった。

奇襲をかけてきたヴェルデチームの骸たちとぶつかる。

桔梗から聞いた話だと、エミーリオさん撃ったのって骸なんだよな…

白蘭が骸を殺す勢いで攻撃仕掛けていってるのって確実にそれのせいだよね。

数分ほどするといきなり予想だにしてなかった方向から攻撃があって、白蘭や骸たちが負傷した。

一体誰だと思っていると、攻撃源はコロネロチームだった。

俺は父さんに攻撃を止めるように言ったが、聞き入れてもらえなくて同盟を破棄して、父さんと応戦する。

最初は一方的に押されていると、途中で知らない人に助けられた。

その後にまた父さんと戦ったけど時間が来てお互い退くことになった。

直ぐに別荘に戻ると、先ほど俺を庇ってくれた白蘭の腕から夥しい血が流れていて、ボスウォッチも壊されていた。

ユニチームが脱落してしまったことにショックを隠せなかった。

だけどそれだけじゃ終わらなかった。

クロームの体調不良に加えて、復讐者の参入と奇襲が同時にきて、色んなチームが大ダメージを喰らった。

既にチーム戦なんて言ってる場合じゃなくなってて、これからどうなるんだろうって不安だらけだった。

3日目になった直後の00:00に戦闘開始一分前の合図が鳴り響いた。

 

「そんな!!もう戦闘開始!?」

「たしかに理屈としては日が変わったけど、夜中の12時ってなあ…」

「チェッカーフェイスのクソオヤジ!休ませねえつもりかよ!」

 

そう不満を言いつつも、直ぐに外にでて広い場所に向かう。

そこで骸と鉢合わせして、交戦になるかと思ったら新勢力である復讐者も現れて、骸と共闘することになった。

復讐者は一体だけでも強くてそれが三体となると勝敗が全く分からなくなってしまった。

何よりも復讐者の首に掛けられている石化したようなおしゃぶりが気になった。

そこにクロームが現れて、突き放すような骸の言葉も全てクロームの為だったのだと知った。

クロームは骸の為に戦うという意思を宿し、自分の内臓を自力で補い戦力として前線に立ちあがったお陰でなんとか復讐者にダメージを喰らわせることが出来た。

復讐者を倒すと、ボスウォッチを持ってる復讐者と透明のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、バミューダがリボーンを勧誘し出した。

それを断ったリボーンがバミューダの謎の力で黒い空間に吸い込まれて行き、俺もそれを追って一緒に吸い込まれていった。

そこで知ってしまった事実にショックを隠せなかった。

今回の代理戦争は、アルコバレーノの呪いを解く為じゃなくて、次期アルコバレーノを決める為だったなんて…

しかも、おしゃぶりを外されればリボーンは死ぬ。

そして復讐者はおしゃぶりを外されても死から逃れたアルコバレーノの末路。

色んなことが一気に溢れ出して何を言っていいか分からなかったけれど、それでもバミューダに優勝させるわけにはいかないと思った。

別の方法を探さなきゃって思ったんだ。

だから共闘の話を蹴ってイェーガーという復讐者と対峙したが、相手が強すぎて手も足も出なかった。

負けると思っていると、バミューダが考える猶予を与えて、次の戦闘時にもう一度聞くと言って退いていった。

 

「僕の誘いを受けようが断ろうが どちらにせよ君の行く末は地獄だ」

 

その言葉が頭から離れることはなかった。

思考回路がめちゃくちゃになっていた時に、リボーンの言葉で一度家に帰ると怪我を負った父さんがいて無性に不安になった。

このままだと本当にバミューダに負けちゃう…

そんな時に、ランボの言葉でアルコバレーノの呪いが解けるかもしれないと思った。

だから直ぐに九代目に電話をして、何とか解決出来そうなタルボとかいうお爺さんに協力してもらおうと思っていたら日本にいることが分かってすぐさま会いに行くことにした。

 

「バミューダか…奴もしぶといのう」

「知ってるんですか!?」

「ふぉっほっほっ、わしも伊達にⅠ世の時代から彫金師をしとらんぞ」

 

俺は自分の考えをタルボのおじいさんに教えると、おじいさんは考え込み何とか作ってみようと言ってくれた。

 

「バミューダチームに勝ってみせい、お前にしか出来ぬ事じゃ」

「はい!」

 

俺は家に帰る途中リボーンと会って、話をした。

リボーンは諦めてるような口調だったけど、そんなもの許すもんか。

絶対に俺が助けてやる。

 

「オレ…お前を絶対に死なせないから」

 

俺の決死の言葉を前に寝てるコイツに脱力して、その場を離れた。

そして昨夜バミューダ除く全てのチームに同盟を提案していて、今日これからその説明がある。

家に帰ろうとした直前に思い返した。

 

「エミーリオさん…」

 

あの人は今どこにいるんだろう。

探したいのは山々だけど、今はそんなことしてる余裕ないし…

そういえばエミーリオさん関係で白蘭と骸の仲がすこぶる悪いんだった。

これ同盟どころじゃないよ、あいつら絶対に顔合わせた時点で殺し合いしそうだもん。

俺はどうやって二人に納得してもらおうか悩みながら、帰り道の曲がり角を曲がっていると視界の端にあった悩みの種である人物の経営している店が入った。

しかも扉にはオープンの看板が掛けられていて、自分の目を疑った。

二、三度目を擦ってもオープンの文字はそのままで、俺は慌てて店の扉を開こうとしたと同時に勢いよく扉が内側から開き、顔面に直撃した。

 

「あれ?綱吉君…大丈夫?」

「いったぁ……じゃない!エミーリオさん!?無事だったんですか!?」

「ん?無事って?」

「あの、この前拳銃で撃たれたって聞いて…皆探したけどいなかったんで心配してたんですよ!」

「え、何で知ってんのソレ…ていうか君俺が不老不死なの知ってるでしょ」

「知ってますけど!心配するじゃないですか!」

「ああ、まあこの通り平気だよ」

「ならよかった!今から白蘭に会ってもらっていいですか!?すごく心配してたんですよ!」

「白蘭に?いいけど、みせ――――」

 

エミーリオさんの次の言葉を聞かずに、俺は自分の家までエミーリオさんを引っ張っていった。

これで多分白蘭は何とかなるかもしれない!

そこには既に何人か集まっていて、リビングに行けば白蘭と骸が武器を片手に睨み合っていた。

 

「む、骸!白蘭!ここで戦うのはやめてくれよ!」

「黙っててくれないかい、綱吉君…僕今彼を殺さないと怒りが収まらないんだ」

「エ、エミーリオさんの前だよ!」

 

俺の言葉に剣呑としていた両者の雰囲気が紛散する。

白蘭はいわずもがな、骸もザンザスも…ていうかほぼ全員が目を見開いてエミーリオさんに視線を向けていた。

 

「エミー…リオ?」

「おう、なんだか心配かけて悪いな…もう怪我治ったから気にすんな」

 

異様な雰囲気の中、本当にいつも通りのエミーリオさんに俺は乾いた笑みしか浮かべられなかった。

エミーリオさんの前で骸が居心地悪そうにしていたのが少し意外だったけど、もう時間も押してるし強引に話し合いを始めた。

代理戦争の詳細を知らないエミーリオさんからすれば迷惑だっただろうけど、あの人いなかったらここは戦場と化していそうなので、ずっといてもらった。

少し一悶着あったけれどなんとか明日の最終戦に向けての配置やメンバーが決まると、その場は解散になった。

解散になったと同時に、白蘭がエミーリオさんを質問攻めしている声を聞きながらこの場を離れる人たちを見送る。

ただ骸までエミーリオさんのこと気に掛けてたのは驚きだったけど。

本当にエミーリオさんってどこまでも顔広いし、皆からの好感度高いなぁ。

その後リボーンと再び話し合い、今回の代理戦争を破棄すると言い出したリボーンに怒った。

仲間の為に死ぬ気になれない奴は10代目失格だ!絶対にお前を助けてやる!

俺の意思を言い洩らさぬように全てリボーンへ叫んだ。

リボーンはゆっくりと口を開いた。

 

「いつ死んでも悔いはねえつもりだったが…もうちっとお前の成長を見てえって欲がでてきちまった。だから生かしてくれ、ツナ」

 

泣きそうになるのを歯を食いしばって耐えて、リボーンを見つめた。

 

「もっと…生きてぇ」

 

 

この時俺は絶対にバミューダに勝つと誓った。

 

 

 

 

 

バミューダside

 

 

「すまない、バミューダ……あの男があの場にいるとは思わなかった」

 

それはあまりに急で、あまりに残酷だった。

 

 

代理戦争二日目に、僕はスカルチームからウォッチを奪い取って参入すると同時にウォッチを付けていない者達に他のチームへの奇襲を命じた。

だが帰って来たうちの一人が沈痛な声でそう言った。

 

「沢田家光の元にバミューダの友人がいた、誤って攻撃をした………罰は覚悟している…」

 

視界が暗くなりそうだった。

光が、僕の光が……崩れ去った音がした。

いくらエミーリオでも復讐者(ヴィンディチェ)の攻撃を喰らって無事であるはずがない、最悪死んでいるかもしれない。

僕は他の者の言葉に聞く耳を持たずに、直ぐにエミーリオの店に向かった。

店は閉まっていて、中には誰もいなかった。

そして携帯は彼の寝室のサイドテーブルの上にポツンと置かれていて、ゴミ箱の中には大量の血が付いた服が入っていた。

漠然とした恐怖がこの身を支配する。

僕はエミーリオが行きそうな場所や、よくいる場所を手あたり次第探したがエミーリオを見つけることは出来なかった。

 

「エミーリオ………す、まない………こんな…こんなことになるなんて……」

 

誰もいない彼の店の中でポツンと呟いた震えた声は誰にも聞かれずに消えた。

 

まだ日付の変わらぬ時刻に

 

エミーリオは僕の前から消えてしまった

 

 

復讐者の元に戻って来た僕を皆が一様に様子を伺っていた。

中でもエミーリオを傷つけた者は頭を垂れて今にも殺してくれと言っているようで、僕はその場に居る者に告げた。

 

「復讐を………チェッカーフェイスへの復讐を……僕たちの復讐を果たそう……」

 

そうだ、復讐に友情など要らないではないか。

友情もあの笑顔もあの暖かさも、全て失った今なら分かる。

僕の居場所は、ほの暗い復讐の炎に照らされたこの冷たい場所だけなのだと。

分かっていたじゃないかじゃないか。

だから、この引き裂かれたような胸の痛みに封をして、もう二度と光の当たらぬ所に仕舞うべきなのだ。

 

体を焦がすは復讐の炎であり、心は全て復讐の怨嗟へと。

 

分かっていたじゃないか。

 

僕は死人だと。

 

分かっていたじゃないか。

 

 

 

僕は復讐者(ヴィンディチェ)だと――――――

 

 

 

 

代理戦争三日目に沢田綱吉を襲うが、リボーン君の言葉に鼓舞された彼らは復讐者たちに勝利を収めた。

リボーン君には以前から興味があり、この機に勧誘するも断られ、アルコバレーノの真実を教えるためにワープホールに吸い込んだ。

一緒に付いてきてしまった沢田綱吉は計算外だったが、こちらにはイェーガー君がいるのであまり気にしてはいなかった。

そしてリボーン君にアルコバレーノの呪いの真実を、代理戦争の本当の意味を、復讐者の正体を、全てを余すことなく語った。

だから共にチェッカーフェイスに復讐してやろうと共闘を持ちかけたが沢田綱吉が批判し、リボーン君もそれに賛同し出した。

それからイェーガー君と沢田綱吉が対峙するがイェーガー君が圧倒的過ぎてこのままでは沢田綱吉が死んでしまいリボーン君が手に入らなくなると危惧し、イェーガー君を一旦退かせる。

そして今度の代理戦争時までもう一度考える猶予を与えて僕たちは彼らの前から姿を消した。

代理戦争四日目、この日が恐らく最終決戦となるだろうことは誰もが気付いていた。

午後3時直前になると試合開始1分前の合図が鳴り、僕たちは彼らの出す炎を辿ってバラバラにワープする。

ワープした先には人形の囮がいて、僕たちは一つずつ潰していると、僕たちの前にあちらの精鋭が現れた。

ザンザス、ディーノ、骸、白蘭、スクアーロと彼らの中では凄腕を集めたようだけど、イェーガー君の前では雑魚同然だ。

そこからイェーガー君の蹂躙が始まった。

腕を切り落とし、心臓を貫き、足を切り裂き、命を次々と葬っていく蹂躙劇を僕はただ眺めていた。

これはチェッカーフェイスへの嫌がらせにもなっている。

折角の次期アルコバレーノ候補が全員死ねば、あいつの二度手間になるに違いないと。

包帯の内側で密かに笑みを作る。

だが、沢田綱吉と雲雀恭弥、六道骸の共闘でイェーガー君が敗北する。

ボスウォッチを壊されておらず、まだ彼は若干息をしていて、これ以上ダメージを与えないようにと僕はプレゼントを使い、本当の姿に戻った。

3分しかないからな、早くこいつら全員殺さなければ。

僕は本気で沢田綱吉を殺しにかかった。

沢田綱吉が第8属性の炎を宿した時は彼の成長に驚かされたが、それよりもイラつきが勝りこの手で葬り去ろうと最終奥義で沢田綱吉を殺そうとした。

 

「夜の炎のワープホールを連続で通過し推進力を無限に加算することによって光速となる‼終わりだ、沢田綱吉‼」

 

光速の拳を奴の顔面に叩きこもうとした刹那

 

互いの間に何かが割り込んできて、僕の拳が受け止められた。

 

「なっ!?」

 

加速し続け、蓄積されたエネルギーが行き場を失い辺り一帯に紛散し、暴風が荒れ狂う。

そして温かい何かが僕の拳を包み込んだような感覚が伝う。

 

この温かさを僕は知っている。

僕が捨てたはずの、切り捨てたはずの、失ったはずの…大切な、大切な―――――…

 

 

「バミューダ…」

 

 

友の体温だ。

 

 

「……エミー…リオ………」

 

エミーリオは沢田綱吉を一旦引かせて、僕と向き合った。

 

「あー……っと…今回の代理戦争だっけ……の内容は知ってる…バミューダがずっと復讐を望んでたことだって知ってる……」

「えっと…いきなり邪魔してごめん……だけどさ、俺…お前にも綱吉君にも…誰にも傷付いて欲しくないしさ……」

「他の方法はないのか?……いや違う、俺の言いたいことはそうじゃなくて……」

 

僕はただ彼の言葉を待っていた。

何も言わず、ただ待っていた。

 

 

「何度だって謝る……いくらでも謝るから…………諦めて、ほしい…」

 

 

やり場のないこの感情をエミーリオの心臓へ向けてぶつけた。

 

その言葉だった。

僕が求めてやまなかったのはその言葉だった。

涙で視界がボヤケていく。

 

 

一緒に生きて欲しいと

 

独りは嫌なのだと

 

置いて逝かないでくれと

 

 

誰の言葉でもなく、君の言葉が聞きたかったのだ

 

縋って欲しかった

我慢せずに怒鳴って欲しかった

泣いて欲しかった

 

不安だったのだ

親友だと思っているのは僕だけではないのかと

僕の勝手な思い込みではないのかと

ただ上辺だけの友情を百年余りも続けているのではないかと

 

だから聞きたかったのだ

 

君の本心を

 

心からの願いを

 

 

「ごめん……バミューダ……ごめんな…」

 

 

気付けば涙が零れ出す。

 

「愚か者め……どうしてもっと早く言わなかったのだ」

 

喉から出た言葉は震えていて、僕はゆっくりと顔を上げてエミーリオを見据える。

 

 

 

 

「君が望むのなら復讐などとうの昔にやめていたというのに……」

 

 

 

僕は泣いていたし、エミーリオも泣いていた。

ああ、どうして僕たちはここまで黙っていたんだろう…

君の一言さえあれば、僕の一言さえあれば…違う未来があったハズだ。

 

 

 

(おもむろ)に左腕に嵌めていた時計を破壊する。

 

 

 

額をエミーリオの心臓にあてて、友の拍動を聞きながら僕は目を閉じた。

 

 

 

そして復讐者(ヴィンディチェ)は消えた。

 

 

 




友情():泣けるね。
エミーリオ:取り合えずバミューダに殴られた心臓が痛いらしい。内心バミューダの顔が予想以上に怖くてビビってた。
バミューダ:擦れ違ってます。多分一生気付かない方が彼の幸せである。呪いは諦めてくれ→死なないでくれ。と解釈している為に起こった大事故。
白蘭:エミーリオの不老不死を知って少し優越感に浸ってたけど、直ぐにチェッカーフェイスによってバラされた。許さんチェッカーフェイス。エミーリオがいないと骸絶対殺すマンになってた。
イェーガー:多分今話の被害者。復讐の為に頑張ってたらバミューダがアッサリと復讐諦めたせいで行き場のない感情に襲われる。彼を救えるものはいるのだろうか。


分かりずらそうなので時間軸+α解説↓

バミューダがエミーリオの店に安否確認の為に不法侵入していた
→エミーリオは沢田家を出ていたとこ

ゴミ箱に捨てられた血の付いた服
→一日目に骸に撃たれてシミになってしまったので捨てた服

バミューダがエミーリオの行きそうな場所を探していた
→エミーリオは厄介事に巻き込まれないようにいつも通らない道を通って、遠回りで帰宅

バミューダがエミーリオを見つけられなくて友情を切り捨てる時
→エミーリオ帰宅

わぉ、すっごい擦れ違ってる(笑)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの真実

エミーリオは遡る。


気が付けばそこにいた。

ここがどこなのかはまだ分からない。

全てが愛おしく、全てが恐ろしく、全てが美しかった。

 

ただ動くこともなく呆然とその美しい景色を眺めていた。

どれ程経っただろうか…気付けば生き物は死に絶えていた。

空を飛ぶ翼をもつものも、地面を駆け抜け咆哮するものも、全てが死に絶え土に還った。

 

あらゆるところから火が噴き出し、草木を、土を、海を、生命を、全てを飲み込もうとしていた。

 

  星が   死んでいく

 

 

守らねば 星を この美しい奇跡の結晶を 守らねば

 

初めて動かした体は途轍もなく重たかった。

一歩ずつ地を踏み進め、段々と広がる視界がただ美しかった。

 

 この星を 守らねば

 

 

「ま…も…らないと……」

 

 

この溢れ出るものは何だ

絶えず瞳から流れ出る透明で美しいこれは何だ

胸の内からせり上がるこれは何だ

 

重い体を引き摺り、必死に地を踏んだ

そこにあるのは死に逝く星のみ

体の奥底から何かが込み上げる

湧き出る何かが 渇望が 力が

 

「守らないと」

 

この身のうちから燃え上がるそれは

 

まるで

 

轟音と共に轟く雷のような 

荒れ狂ったように吹く嵐のような 

自由気ままに浮き広がる雲のような

ありとあらゆるものを隠し通す霧のような

眩く照らし続ける太陽のような

何もかもを洗い流す雨のような

全てを包み込む大空のような

 

 

   まるで

 

 美しい炎のようだった

 

 

 

白亜紀末期、星は生き永らえた。

 

 

 

 

この星は一命を取り留めた。

星を守る時にこの身から溢れ出た、ゆらゆらと揺れるそれはいつしか透き通った7つの石になっていた。

それは星を守る為だけに生まれた、意思の結晶。

今までずっと佇んでいた場所を離れ、この星を歩き回った。

神秘的で美しい星であった。

どこまでも広がる海が、どこまでも連なる大地が、どこまでも生い茂る草木が、美しかった。

 

あれからどれほど経っただろうか

まだ独りだった。

ある日、同じ種と出会った。

それは生まれて間もない個体だった。

 

「なまえを付けようか」

 

相手が前触れもなくそう告げた。

 

「なまえ…」

「今思えば私たちは名前がない」

「それもそうだ…もう少し呼びやすくしたいな」

「だから私達で自分の名前をつけよう」

「…名前か……どんなのがいいかな?」

「私はそうだな…君が付けてくれよ」

「俺が?…………そうだな、シェリックなんかどうだ」

「ああ、それはいいね……君の名前はどうするんだ?」

「俺の名前……俺は……」

 

 

「エ、ミー、リオ………俺はエミーリオだ」

 

 

それから何度か同じ種と巡り合った。

気付けば13人にも増えてて、少し前に14人目を見つけた。

 

「君の名前はセピラだ」

「セピラ?」

「ああ、歓迎するよセピラ……14人目の俺の家族」

「あなたの名前は?」

「俺?俺はエミーリオ」

「エミーリオ…」

 

それから同じ種を見かけることはなくなった。

 

俺は七つの結晶を家族に預けた。

 

「これはこの星を守る意思の結晶だ………どうか、皆で守っていきたい…」

「この星は一度滅びかけた…今も尚こうして存在しているのは一重にこれのお陰なんだ」

「まだこの星はあの時の傷が癒えていない…いつ癒えるか分からない」

「この結晶が炎を灯さぬ石ころになったその時に、再び星は滅び逝くだろう」

「俺は…共にこの星を守りたい…美しいこの星を守ろう…」

 

誰もが異を唱えることはなかった。

ある日、セピラが興奮気味に声を掛けてはとある場所へ指を指していた。

 

「エミーリオ、あれ!私たちと同じ種じゃないですか?」

「ん?……あれは違うよ」

「そうなんですか?」

「あれはヒト…俺達より生命力がないから直ぐに死んじゃう種だ…でも繁栄力に長けてる種族だよ」

「死ぬって何です?」

「さぁ、俺にも分かんないや…」

 

 

ある日、家族が一人死んだ。

足を滑らせ高い崖から落ちて死んでしまった。

初めて死を身近に感じ、皆恐怖し、悲しみ、涙した。

長い年月の中、次々と家族が死んでいった。

ある者は炎が灯せず衰弱死し、ある者は津波に飲まれ…気付けば家族は俺を入れて10人となっていた。

 

それからヒトは文明を発展させていき、数を増やし、ついには土地を開拓し始めた。

俺はヒトと共存することを提案した。

だがヒトという種を危険視した反対意見もあり、俺はヒトの手を借りねば俺達の種族の存続は厳しいのだと説得しようとした。

終ぞ彼らが首を縦に振ることはなかった。

それから数千年が経った頃、既に一族は俺を入れて7人にまで減っていた。

だから俺は人間との共存の重要性をどうにか他の者に分かってもらいたかった。

 

「セピラ…」

「どうしましたかエミーリオ」

「俺は、少し君たちの元を離れようと思う」

「…そう、ですか…」

「俺がこう告げることも…見通していただろう」

「ええ、見通していました……あなたに何を言おうが行ってしまうことも」

「俺は少しの間ヒトが安全かどうかを確かめてくるだけだ…ちゃんと君たちの元に帰ってくる」

「私はあなたを信じています…私もヒトとの共存は遅かれ早かれ必要なのだと思っていました」

「そうか…暫く会えないとは思うが、どうか他の者のことを頼む」

「分かりました、他の者には私から説明します…」

「最後に、一つだけ見通して欲しい未来がある」

「あなたの死…ですか?」

「ああ、俺はいつ死ぬのか…それが知りたい。酷なことを頼んでいるとは分かっている」

 

今にも泣きだしそうなセピラを抱きしめ、もう一度頼むと、セピラはゆっくりと口を開き俺に告げた。

 

 

 

 

「この星が滅ぶその瞬間(とき)に」

 

 

 

「辛い思いをさせた、すまないセピラ……どうか待っていてくれ」

「愛していますよエミーリオ…どうか怪我の無いように」

 

 

 

泣いていたセピラと、七つ結晶を置いて俺は皆の前から姿を消した。

 

なんとなく、俺はこの星と共に生き、共に死ぬのだと思っていた。

だからセピラの言葉はすんなりと受け入れることが出来た。

 

この結晶は俺の意思だ

この星を守るときに生まれた意思だ

それに星は応えたんだ

 

星は守りびととして俺を選んだ

 

忘れてはいない

この星を守ると決めたあの瞬間を

(おびただ)しい滅びの中に垣間見えた恐怖を

忘れてなどいない

 

 

『守らねば』

 

この星と共にある運命を嘆いたことなどない

 

けれど

星を守ることをやめれば俺にも死が訪れるのだろうかと

考えたことはあったんだ

 

 

 

 

 

あれからおよそ数百年という月日が経った。

ヒトは繁栄し、どこもかしこもヒトがわんさか見えるようになった。

数千年の間にヒトの文明は予想以上に発展していた。

俺のいた国は比較的、戦争を起こさない平穏な国だった。

そこで国境付近の方にぽつりとあった村に住んでいた。

人口がそれほど多くないこともあって、皆顔見知りであり、団結力は強く、貧困な生活ではあったが皆生き生きと暮らしていた平和な村だった。

俺は数百年前にこの村に来た。

最初は普通のヒトとして接されていたが、俺が歳を追わないことに薄々気付き始めたころからなんとなく、俺を神聖視し始めた。

一度狩り中に死にかけた村人の子供を炎で治してあげると、俺への神聖視は村全体へと広がった。

俺は困り果てた。

俺はヒトでもなければ、神でもない。

どれだけ村人たちにそう言い聞かせても、彼らの神聖視が止まることはなかった。

そして今日という日が来る頃には、俺は既に村に奉られるだけの存在となり、広い祭壇に閉じ込められた。

こんなことを望んでいたはずではないのに。

ヒトとの共存は難しいのだろうか…

そんな時に、一人の女の子が俺の元に現れた。

 

「ねぇ、あなたが村の神様って人?」

「……君、誰だ?」

「私?私はエリアーデよ。あなたの名前は?」

「俺はエミーリオ。エリアーデ…俺は神様ではないよ、ただ少し他の者と違うというだけだ」

「あらあなた神様ではないのね、村の人達は皆あなたのことを神様っていうからどういう人なのか気になってただけなの」

「君はどうやってここに入ったんだい?」

「馬鹿ねぇ、潜り込んだ以外何があるのよ!ここ立ち入り禁止なんだから」

「バレては君が危ないんじゃないか?帰った方がいいよ」

「やーよ、大丈夫、秘密の裏口があるからね」

 

エリアーデはやんちゃな子供だった。

何度も俺の所へ来てはお喋りだけして帰っていく子だった。

俺へ普通に接してくれる彼女が好きだったから、彼女が来るのを楽しみにしていた。

彼女は成長するにつれて俺の今の現状を打開しようとしてくれるようになった。

 

「エミーリオ…あなたここから逃げられるのに、どうして逃げようとしないの?」

「もう少し君たちヒトを信じてみたいんだ……あとは、そうだね……俺が帰ったら君に会えないじゃないか」

「……でもねエミーリオ、このままじゃダメよ…その力はもう使わない方がいいわ」

「うん、それは俺も思っていたんだ…これは君たちヒトには少し、神秘的過ぎた」

「それならいいわ、また来るわね」

「ああ、また」

 

エリアーデの言う通り、俺は暫く何もしなかった。

村を襲う暴風も、豪雨も、台風も、雷も、竜巻も、自然に沿う様にと何も手を出さなかった。

祭壇の入り口では人々が祈りを捧げていたが、俺は神ではないと一蹴した。

これで村人は目を覚ますのだろうか…

かれこれ一年ほど何もしていなかったらエリアーデが一年ぶりに顔を出した。

俺は嬉しくてすぐさま彼女の元へ駆けつけたが、彼女の面影は一変していた。

頬がこけ、髪は痛み、目の下の隈が目立っていて、この一年で何があったのだろうかと疑った。

 

「エリアーデ…だよな……どうしたんだ、そんな…」

「久しぶりね、エミーリオ…」

 

エリアーデは薄く笑い、階段状になっている場所に座るとぽつぽつと喋り始めた。

暴風で作物がやられ、豪雨で土砂崩れが起こり家が巻き込まれ、台風で吹き飛ばされたものが父にあたり、亡くなってしまった、と。

今じゃ一日を生きていく為だけでも精一杯で、他の村人も同様で誰もが苦しいのだ、と。

俺はこの時初めて、後悔した。

彼らを苦しめたのは俺ではないのだろうかと、彼らの助けを一蹴した俺ではないのだろうかと…苦しくなった。

 

「ごめんね、全然来れなくて」

「いやいい……それよりも…君は休んだ方がいいんじゃないか?起きているのも辛そうだ」

「大丈夫よ、まだこれからすることもあるし…今日は久しぶりにあなたの顔を見に来ただけなの」

 

それだけ言うと、エリアーデは帰っていった。

俺はやはりこの力を使い、この村を助けるべきなのだろうか。

いやそれでは今までと変わらないではないか。

セピラ、俺は一体どうすれば………

それからまた数週間後、大きな飢饉が村を襲った。

既に祭壇に供えられる食べ物はなく、皆生きるのに精一杯のように見えた。

食べることを必要としない俺は、人々の苦しんでいく様をただ眺めていた。

 

「ヒトは…脆いな……」

 

やはり共存は難しいのかもしれない

そう思っていた矢先だった。

エリアーデが沈んだ様子で訪れた。

 

「エミーリオ」

「エリアーデ…どうした」

「…お母さんがっ」

 

泣き始めたエリアーデに困惑しながらも、話を聞くと今回の飢饉で母親が死んだと分かった。

何も言えなかった。

 

「もう…この村を出ていくわ」

「エリアーデ…」

「ここではもう生きていけない…もっと豊かな土地を探すわ」

 

エリアーデはそういうと、俺の手を握りしめて呟いた。

 

「だからお願い……私とこの村を出て、エミーリオ」

 

 

俺はエリアーデの手を握り返した。

今度はうまくいくと信じて。

エリアーデの後を追い、森の入り口へ向かっていた。

森を二人で進むに連れて、波の音がした。

 

「エリアーデ、この先は海崖だ…道を外したか」

「いいえ、道は当たっているわ」

「?この先に道なんかあったか」

 

そう言ってエリーアデは進んでいくので、俺も首を傾げつつも後ろをついて行く。

だが森を出たところはやはり海崖だった。

 

「エリアーデ…やっぱり道を間違えたんだ、一旦もど―――――」

 

言葉が途切れた。

否、声が出なかった。

エリアーデの両手が俺の腹に押し当てられていた。

次に鋭い痛みと、赤い何かが滴り落ち、腹部からズルリと鋭利な刃物が抜かれる。

 

「っ……」

「カルミアの猛毒…直ぐに楽になるわ」

 

状況が分からず、体の内から広がる激痛と息苦しさに、視界が反転する。

 

「ママが死んだのは嘘よ」

「エリ、アーデ…?」

「村の人達がね…あなたのこと疫病神って言いだして、殺そうとしてたの…」

「……っ…」

「でもね、あなたが何もしなくなったのが私の言葉のせいだなんて知られちゃったら、それこそ私が袋叩きにされちゃうと思って、私があなたを殺すって進言したわ」

 

俺は声を出そうとしたが、喉からは血しか溢れずただ彼女を見つめていた。

 

「あのね、エミーリオ」

 

うすらぼんやりと見える視界のうちに、痩せこけた彼女の笑みが映る。

 

 

「パパが死んだのはあなたのせいだとは思ってない」

「でもね」

「もう、あなたは私達の村にはいらないわ…」

 

「むしろ邪魔よ」

 

冷たい声だった。

痺れて動けない俺を彼女が崖へ引きずっていく。

 

「さよなら、エミーリオ」

 

俺は崖から落とされた。

海に落ちた俺はそのまま波に飲まれていく。

 

息が苦しい…眠い………

 

そして意識は深淵に落ちていった。

 

 

 

 

『守らねば』

 

 

 

 

 

自己防衛だった。

意識のないまま、黒い炎が身体から溢れ出して空間を抉じ開け、汚染された内臓を、筋肉を、血を、骨を全て転移させて排出した。

だが排出された後の空白を何で埋めたのか。

それが、ヒトだ。

結果、エミーリオは咄嗟にヒトの身体を取り込んだ。

 

そしてそれは天文学的確率で起こった。

取り込んでしまった身体が、偶然にもエミーリオと性質が全く同じで、偶然にも時を超えた時代のものであり、偶然にも人格までもがエミーリオと同化してしまったのだ。

だがこれだけ留まらなかった。

人格が同化したことにより記憶の喪失という弊害を生んだことであり、存在意義を忘れてしまったことだ。

 

分離が出来ないほど癒着してしまった性質は、新たな個として地球に誕生した。

 

 

 

 

目を開くと、そこは視界一面の大空だった。

そして体がひどく冷たいなと思い、重ったるい頭を動かし目線を移動すると、自身の下半身が海に浸かっていた。

 

「…は?」

 

目の前の光景が分からず混乱するも、すぐさま体を動かして起き上がる。

うん、濡れている。

髪の毛もパサついてて、顔には若干砂が付いている。

顔の砂を落とし、一旦立ち上がればそこは美しい海岸だった。

 

「ここ…どこだ………」

 

辺りを見回しても知っている景色はどこにもありはせず、夢なのだろうかと思い込む。

海を眺めながら呆然としていると急に意識が飛びそうになった。

 

『守らねば』

 

「……そうだ…何か、を…守ってたんだ…………何だったか…」

 

ふと思い出したかのように、ぐるぐるとその言葉が頭を回り続けるが、一体何を守っていたのかが思い出せずにいた。

暫くすると、遠くの方で人声が聞こえた。

お、人がいるのか…ならここどこなのか聞かなきゃ…

俺は人の声がする方向へ歩いていくと、そこには数名の欧州人と思われる人たちが何やら喋っていた。

ここがどこなのか聞こうと声を掛けたが、相手の言語が分からず少し手間取っていると、相手側が俺を漂流者だと思ったらしい。

自分でも漂流者なのかが分からないけれど。

何やら身振り手振りで俺を助けてくれると言ってくれてるように思えて、俺は安堵して彼らについて行こうと思った。

相手が手を差し伸べてきて、握手なのだと思い俺はその手を握った。

その時だった。

 

ゾクリ

 

かつてないほどの悪感に襲われ、眩暈を起こした。

それが一体何からくるのか分からなかったけれど、目からは次々と涙が溢れ出す。

そんな俺に相手も困惑していたけれど、俺はそれどころじゃなくて、ただ悲しかった。

何をされたわけでもなく、何をしたわけでもないのに、ただ苦しくて、寂しくて、怖かった。

ようやく涙が収まった俺に、相手も安堵して手を引いてくれた。

彼らの家に案内してもらう途中で彼らが自身を指して、繰り返し単語を発していて、俺はそれが名前だと分かる。

ああ、自己紹介かと思い俺も自身を指差して口を開こうとしてふと気付いた。

 

「俺の名前なんだっけ………」

 

思い出せそうなんだが…えーと……あ

 

エ、ミー、リオ…

 

何故だかそうだという確信があった。

確か俺は日本人だったハズだが、何故この名前だったのかなんて疑問に思う余地すらなかった。

俺の名前はエミーリオなのだと、何かが俺の中で訴えていた。

 

 

 

「俺はエミーリオだ」

 

 

 

 




ドシリアスでしたね。

エミーリオ(初期):多分ジュラ紀くらいが誕生日。ちゃんとシリアスが出来てた時代のエミーリオ。でも人間大嫌いに進化した。
セピラ:ユニの先祖。結構長生きする。
シェリック:→chereck→checker→チェッカー
っていうめちゃくちゃ適当なアナグラム、ぶっちゃけ発音とかは感覚。あれだよ、古代は発音違ったんだよきっと(白目)現在のチェッカーフェイス。
エリアーデ:本来は純粋な子だった。エミーリオと出会ったのが運の尽き。
エミーリオ(進化版):皆の知っている殴られるべき自動SAN値直葬機。

なんだったかな、宗教関連の本読んでたらエリアーデって出てきて、すごくビビっときたので使ってみた。というか使いたかった。


エミーリオの自己防衛について、てきとーな解釈↓

『空間とは時間と一体となって伸び縮みをするものであり、膨張したり歪んだり、変移したり、慣性や重力環境ごとに別の時間経過や長さがある。』

という情報を基に、第八属性の炎(空間移動)の自己解釈をしてみただけなので、矛盾点あって指摘されても多分私の要領の悪い頭じゃ理解出来ないと思いますね(自嘲)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの至情

エミーリオは思われる。

原初の種に。

大空の虹に。



チェッカーフェイスside

 

 

 

『今思えば私たちは名前がない』

 

『エ、ミー、リオ………俺はエミーリオだ』

 

『俺は…共にこの星を守りたい…美しいこの星を守ろう…』

 

冴え渡る青空のもと、彼は凛とした表情でそう語った。

私はその声を、瞳を、笑みを…一度たりとも忘れたことなどなかった。

 

 

ふと意識が戻る。

そこは寝起きしている部屋だった。

ああ、少し眠っていたようだ。

にしてもまた、懐かしい夢を見た。

なんだって一族を捨て人間に(うつつ)を抜かしたあいつの夢など…

(おもむろ)に手で垂れる前髪を後ろへと撫で上げる。

さぁ、今日もこの星を見守らねば。

 

たまたま住処の一つである日本で活動していた頃だった。

最近近所の者達から耳にする店に興味を持ち、気まぐれにそちらへ訪れただけだった。

扉を開くと、カランコロンという音と共に奥から人が出てくる。

 

「いらっしゃい、一名様ですか?」

 

一瞬、思考が止まった。

何故、の二文字が頭の中を回る。

 

「あのー…?」

「っ、一人です」

 

いち早く我に返り、返事をして席に案内してもらった。

目の前の店の者を穴が開くほど眺めるが、どこをどうとってもエミーリオにしか見えなかった。

声も瞳も容姿も、何からなにまでもがエミーリオであり、私は困惑した。

 

「君…名前はなんて言うんです?」

「俺はエミーリオ…まぁこの店の店長やってますよ」

「………そうですか」

 

ここまでくると確信せざるを得なかった。

だが何故、こんなところで、こんなことを…一族の使命はどうしたというのだ。

やはり一族を捨て人間の真似事などをしていたというのか。

変装時ということもあって彼は私に対して何の反応もなかった。

一度、彼に声を掛けて目を覗いてみたが、そこに既知への感情はない。

その日は何もせずに帰り、今度本当の姿で彼の店に現れた。

一度、あいつとは話さねばならん。

そう決意し、最悪喧嘩別れをすることも覚悟していた。

だが予想は裏切られ、エミーリオは私に関して何の反応も見せなかった。

目を覗いても、そこにあるのは赤の他人への反応ばかり。

正直言って相当ショックだった。

こいつは人間に(うつつ)を抜かすばかりでは飽き足らず、一族の顔すらも忘れるような男であっただろうか?

それからだった、私がエミーリオの店に足を運び始め出したのは。

何度も彼の身辺、経歴を調べ上げたがどこにも痕跡はなく、彼自身から聞き出したものも市役所のデータベースには記録されてはいなかった。

何故だ、その気になれば直ぐに他人の記憶の改ざんをして住民票などを作ればいいのに、と疑問を抱いた。

今までの経歴をさりげなく聞いたところ、子供のころの記憶がないと言っていた。

最初は嘘だと分かって一蹴していた情報だったが、まさか本当に記憶が欠損しているのだろうか?

何度か際どい単語を会話中に並べても無反応であり、嘘すらついていなかった。

ああ、こいつは記憶を失くしているのだと確証を得たのは、私がひどく酔い、彼に本音をぶつけた時だった。

何かを考えていたわけもなく、ただアルコールを過剰摂取した脳が理性を奪われ、今まで沸々と余り続けた鬱憤を吐き出していた。

 

「何故……お前は一族を離れて人間の元にいってしまったんだっ」

「皆死んでしまった………みんな…死んでしまったぞ」

「人間に現を抜かしたせいで!我が一族は滅亡の一途を辿ったんだ!」

「ふざけるな………使命などと、あんな呪いを私たちに縛り付けて自分だけ行方を暗まして……」

 

エミーリオがいなくなってから今まで保たれていた一族の雰囲気が一変した。

皆が皆の主張を頑なに曲げず、まるで空中分解しているような感覚だった。

ヒトを受け入れろだの、滅ぼせだの、隠れて生きるなど、各々が自分の考える方向へと進み、遂には道を違えた。

私はただ不甲斐なく、遣る瀬無かった。

 

「お前の……せいでっ……」

 

違うだろう、私はそんなことが言いたいんじゃないんだ。

行方を暗ましたお前をどれだけ探したと思ってるんだ。

セピアから自発的に行方を暗ましたと聞いても、それを信じずただ探し続けていた。

でも、見つからなかった。

どれほど絶望したと、苛立ったと、怒り、悲しんだと思っているんだ。

なのに数百年ぶりに会えば私の顔も声も存在すらもサッパリと忘れているなんて。

どうしてっ……

 

「どうして…」

「悲しいことでもあったのか?んなの忘れるに限るよ、ささ飲んで飲んで」

 

悲しい…そうだ、私は悲しいのだ。

エミーリオに忘れられた事実がひどく、虚しく、悲しいのだ。

私の名前を呼んでくれるあの声はもうないのか?

お前が私につけてくれた…本当の…名前を………

 

どんどんアルコールが思考力を奪って行き、意識が朧げになった頃うっすらとボヤけた視界の中で、エミーリオが口元に笑みを浮かべているのがチラリと見えた。

それはまるで、あの時、使命を…一族の使命を掲げた時のソレのように。

 

 

お前にとって私達一族はただの重荷だったのか?エミーリオ…

 

 

その夜の会話はほとんどを忘れていて、断片的にしか思い出せないソレは彼が私のことを覚えていないと分かるには十分すぎるものだった。

 

数年という年月、私にとっては短すぎるその時の流れの中、私は出来るだけエミーリオの店に顔を出すようになっていた。

いつか、私のことを思い出してはくれるんじゃないだろうか、と淡い期待だけを持っていつも彼の店の扉を開いていた。

未来でエミーリオが白蘭達との決戦に巻き込まれトゥリニセッテの共鳴の影響を受けて意識を飛ばしていた時も、もしかしたら記憶が戻ったかもしれないと思い眺めていた。

だが彼は欠片も思い出すことはなく、アルコバレーノの世代交代の時期がやってきた。

今回も、次期アルコバレーノ候補を見つけて、アルコバレーノという責務を押し付け、私の役目は終わりだ。

そう思い、アルコバレーノの一行を夢の中へと呼び出して声を掛けたのだ。

そして呪いの解呪を仄めかし、代理戦争を始めた。

暫くはエミーリオの前に現れまいと思い、私は独自の空間に尾道と共に代理戦争を観戦していた。

初日、エミーリオがまたも巻き込まれ負傷した時は肝が冷える思いをした。

私達一族は不老であっても不死ではないのだ。

傷を負えば、人間よりも回復速度は早くとも時間は必要であるし、心臓や脳を潰されれば即死ではないものの、数分で死に絶える。

だがエミーリオは違った。

彼の腹部を貫通していた傷跡がおよそ1時間もしない内に完治していた。

そこで私はエミーリオの異常性に気付いた。

傷を負った場所からすぐさま空間転移で死細胞のみを排除し、生細胞を他人から補完していた。

それも自己防衛機能のような働きをしているから無意識に完治、復元している。

一族の中で唯一特殊な力が無いと思われていたエミーリオの最大の特徴的能力はその身体能力の自己防衛力だったのだと分かった。

予想外の事実を知る最中、代理戦争は続いていき、二日目の夜になった頃それは起きた。

バミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインがスカルチームを奇襲し、代理戦争の参加権を奪取した。

尾道は焦っていたが、私からしては何ら問題はなく、そのまま続行という形を取った。

三日目の戦闘が終わり、各チームがウォッチを外しながら監視外での行動をし始めた。

バミューダの良からぬ影響に嘆息したが、どのみち四日目で全てが終わると思い、手出しはしなかった。

四日目の午後3時、決着になるであろう戦闘が始まり、私の予想外の事態となった。

エミーリオが戦闘に仲介し、バミューダが自身のアルコバレーノウォッチを破壊した。

あの二人が懇意であることは意外であったし、何よりもエミーリオの涙に目を見開いた。

どこまでも、人間の様になっているあいつに僅かな苛立ちを感じたまま私は彼らの前に姿を現した。

 

「彼を責めてはいかんよ、尾道は本当に何も知らぬのだ」

 

私の声にその場に居る者達が一斉に反応し、警戒を表した。

特にアルコバレーノからの殺気は尋常ではなかったが、私にとっては苦でもなんでもなかった。

 

「この顔に見覚えがあるだろう?」

 

そう言って私は仮面を剥がす。

すると私の仮面の下の偽りの顔にも目を見開き同様する周りを眺めていた。

 

「川平君じゃん……」

 

唯一エミーリオだけは、動揺ではなく純粋な疑問であったが。

周りの殺気が膨れ上がったのを見て、仕方なく抑制しようと炎圧を上げて辺りに放つ。

 

「ぐあっ、炎なのか!?」

「ああ、ざっと君の炎の数十倍…私にとっては呼吸をする程度だよ」

 

息苦しそうに爆風を凌ぐ者達の中で、エミーリオだけが何食わぬ顔で佇んでいた。

単なる気まぐれで私の正体を明かした。

 

「貴様は宇宙人だとでも言うのか?」

「むしろ生粋の地球人だよ。そして我が種族で現在生きているのは私を入れて三人だけだ…その中の一人はユニ、君だ」

 

それから昔のことを懐かしむ老いぼれになったかのように、数万年も昔の話を彼らに語った。

7³の役割も、私達一族のことも、話せる範囲を教える。

そして現アルコバレーノからおしゃぶりを返してもらおうと一歩足を進めると沢田綱吉がそれを阻む。

次期アルコバレーノとなる覚悟を見せると、老いぼれた老人が現れた。

そいつは人柱を不要としながら7³を維持するための装置を作り上げたとのたまった。

戯言とは思ったが、構造は理論上正しく、それにバミューダが賛同し自身が維持する役割をと名乗り出る。

私はふとそこで思い出した。

これで我が一族の使命を人間に引き渡し、7³は私の手から離れることが出来る。

ならば…すべての原点である彼が……エミーリオがケジメをつけねばいけないのではないか

 

「では、バミューダに任そうか……だがその前にしなければいけないことがあるのだ」

「「「!?」」」

「先ほど言ったように今現在で我が一族は既に三人しかいない…私もユニも賛成した。ならばあと一人…彼の同意が欲しい」

「もう一人の…地球人…?」

「ああ、彼だよ」

 

私は迷わず、バミューダを抱き上げている彼を指差す。

目を見開く彼を見据え、私はその名を呟いた。

 

「エミーリオ」

 

 

さぁ…終わりにしよう、我が一族の使命を

 

私たちは人間にこの意思の結晶を明け渡すときが来たのだ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

 

「エミーリオ」

 

チェッカーフェイスの言葉にその場の者は全員目を見開いた。

かくいう私も驚愕し、エミーリオを凝視した。

 

「…俺?」

 

エミーリオは目を丸くし、素っ頓狂な声を出した。

そんなエミーリオの反応に周りが更に困惑する。

 

「おいてめぇ!嘘ついてんじゃねぇぞ!チェッカーフェイス!」

「待って、獄寺君!」

 

獄寺さんがチェッカーフェイスに食って掛かろうとするのを沢田さんが止める。

 

「エミーリオさん……あなた昔の記憶ありませんよね。何か心当たり無いですか?」

「なっ、君記憶がないのか!?」

「ちょ、バミューダ落ち着け…あーっとな…まぁ心当たりしかないっちゃないけど、いやまさか種族違うだなんて思わねーだろ…何かの呪いでこんな体質になっちゃったのかと思ってたし」

「体質?君の不老のことか?」

 

バミューダの言葉に私は驚愕した。

不老、だからエミーリオは私の小さい頃の記憶にあるあの姿と全く変わっていなかったのだと分かる。

そして、夢に出てきていたあの男性がエミーリオであることにも漸く納得出来た。

 

「あー、まぁ不老もそうだけど…俺不死身体質でもあんだよ…なんか傷が直ぐ塞がっちゃって。これも地球人ってやつの体質なのかなー」

「え」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

今度こそバミューダも驚きの声を上げる。

沢田さんやリボーンおじさまが何故か冷静にしているところを見て、もしかして彼らは知っていたのではないかと思った。

案の定、沢田さんは以前彼の体質のことを知ってしまったらしい。

皆の驚きが冷めぬうちにチェッカーフェイスが口を開いた。

 

「彼はどうやら記憶失っているようでね…いつの時代から覚えている?」

「え?あー…600年くらい前…かな?多分」

「一族の前から消えていった後ということか、道理で私のことも覚えてないわけだ」

「えっと、すまん…何か家族っぽいのに忘れてしまって」

「いやいい…どのみちこれから思い出させる」

「は?」

 

チェッカーフェイスの言葉にエミーリオを含めたその場の者達が目を見開く。

 

「私の術でエミーリオ、お前の精神だけを逆行させ、その記憶の時代へと時間を遡る…勿論私もお前が皆の前から消えた後のことは気になるので共に過去へ行くがな」

「あ、はい…待って記憶取り戻せんの?マジで?」

「取り戻したくないのならば強制はしない…お前の過去が幸せだったものとは限らないのでな」

「あーまぁそれはいいんだけど、うーん…今ここで?」

「7³の維持を人間に任せる今だからこそだ」

「ならお願いするよ…つか人類誕生より前って、記憶取り戻すの結構時間かからねぇ?」

「全てを一つずつ見るのではないし、時間間隔の調整はするから現実では30分ほどで済ませる」

「なるほど、じゃお願いします」

 

二人だけで会話が進み、取り残されるというところでバミューダと私が割り込んでいった。

 

「待ってください!私も見ます!私も一族であるならば出生を明らかにしたいのです」

「僕もみるぞ、エミーリオ…異論は認めん」

「えー…まぁ別に減るもんじゃないけど」

「え、じゃあ俺も――――――」

 

沢田さんに続き、全員がエミーリオの記憶を共有したいと願い出た。

当のエミーリオは別段拒むわけでもなく、チェッカーフェイスはエミーリオの意見を尊重するということで、彼の記憶を共有することになったが、全員を連れていけるほどの炎は持ち合わせていないということで代表して4人が選ばれた。

沢田さん、バミューダ、私、リボーンおじ様

 

「言い忘れていた、エミーリオを除く私たちはそれを第三者の視点からしか見ることは出来ない」

「分かった」

「では行くぞ、エミーリオ……お前の、起源を…しかと思い出せ」

 

チェッカーフェイスの言葉と共に、炎が私達を包み込む。

瞬きをすると一気に目の前が暗くなり、少しすると明るくなった。

周りにエミーリオ以外がいて、目の前にはどこかの崖が見えた。

上空を何かが通り過ぎたと思い視線を上にあげて私は悲鳴を上げた。

何故ならそこには絶滅したハズの生物がいたのだ。

 

「きょ、恐竜!?」

「あれは…プテラノドン!?」

「なるほど、あいつはこの時代から生きていたのか」

「チェッカーフェイス…その言葉ではあなたがもっと後に生まれてきたかのように聞こえますが…」

「ああ、私は古第三記…白亜紀の後に生まれた、一族でも二番目の方だと記憶している」

「ならエミーリオは最古のヒト型生命体ってことか」

「そうなるだろうな、崖の方にある洞窟を見ろ…何かがいる」

 

チェッカーフェイスの言葉に全員がそちらを向くと、崖の途中にある洞窟に人型が横たわっていた。

 

「あれは………エミーリオ!」

「何でずっと動かねぇんだ」

「動くという概念がなかったのか、はたまた別の理由か…こればかりは私でも未知の領域だ」

 

時間が早送りされたように、時代と共に景色が移ろいゆくのを目に焼き付けた。

すると大きな爆音が響き渡り、辺り一面が炎の海となった。

焦って、近くにいた沢田さんにしがみ付く。

 

「これはっ……隕石」

 

恐竜は死に絶え、草木は枯れ、海は干上がり、大地はひび割れていく。

そんな中リボーンおじ様が声を出す。

 

「おい、エミーリオが動いたぞ」

「「「「!」」」」

 

そちらへ視線を移すと、エミーリオが涙を流しながら滅んでいく景色を眺めていた。

そして彼の体からゆらゆらと漏れ出したそれに皆が目を見開き驚愕した。

 

「死ぬ気の……炎……」

「それも凄まじい量だ」

 

炎はどんどん辺り一面を覆う。

それは神秘的で、まさしく神話の体現のようだった。

先ほどまで枯れていた草が、干上がっていた海が、ひび割れた地面が、嘘のように元通りになっていた。

そして炎は段々と凝縮し、7つの石としてエミーリオの手のひらに残る。

 

「7³の原点だ」

 

それからまたときは流れ、漸く一人の男性とエミーリオが出会い、種を集めていき、集団となっていった。

 

「あ!あの人ユニに似ている。多分あの人がセピラじゃないかな?」

「あれが……私の先祖…」

 

沢田さんの指さした方角に、私に似ている女性を見つけて私は懐かしさが込み上げる。

ああ、あれだ…夢の中で何度も出てきた女性は…あの人だ。

人類が誕生し、進化し、文明を築いている様子はまさに映画を見ているような感覚だった。

そんな時、エミーリオの一族の一人が亡くなった。

それから一人一人と、段々と数は少なくなっていき、10人になったところでエミーリオが人間たちと共存することを提案していた。

だが反対意見が多かったためそれは叶わず、そのまま時は流れる。

一族が7人に減ったところでエミーリオが人との共存に積極的であったセピラにだけ一族の元から離れることを伝えた。

 

 

「この星が滅ぶその瞬間(とき)に」

 

 

セピラのその言葉にその場の誰もが言葉を失くした。

エミーリオは死ぬことはない…と、彼女は見通してしまったのだ。

セピラが泣いていて、私も涙が溢れる。

隣にいたリボーンおじ様がハンカチを差し出してきたが、この涙が収まる様子はなかった。

置いて逝かれるだけの生に、一体どれほどの絶望が詰まっていただろうか。

エミーリオは泣いていたセピラを置いて、彼らの目の前から姿を消した。

 

目の前の景色は変わり、とある一つの村に移る。

どうやらエミーリオはここで人間と共存していたようだ。

だけど、エミーリオの不老性が徐々に噂になっていって、村の子供を晴の活性の炎で治療したことで村人たちが神聖視し出してエミーリオを祭壇に閉じ込めてしまった。

私はただ口元を覆いながら涙を堪える。

数十年も祭壇で暮らすエミーリオはずっと人々に神ではないと訴えていたが、村人は聞き入れてはくれない。

 

「どこにでもありそうな昔話だな……」

「そんなっ、エミーリオさんはずっとここに閉じ込められてたの?」

「扱いが悪くないどころか逆に崇められてたからエミーリオの抵抗心を抑制してんだ…悪けりゃ村人全員殺しておしまいだしな」

「だからエミーリオさん…無理に逃げられないんだ」

 

リボーンおじ様の言葉に沢田さんが沈痛な面持ちで返事する。

エミーリオの元に少女が現れ、二人は段々と距離を詰めて仲の良い友人という関係にまでなっていた。

だがある日、少女の言葉の後押しもありエミーリオは村を襲う自然災害に手を付けることは無くなった。

それから村は大きな災害に襲われた。

村人の願いの声をエミーリオは耳を塞いで助けることはなかった。

それから数年ほどで、村は見るも無残な荒れた土地と成り果てた。

父親を失った女性はエミーリオの元に顔を出し、その翌年に母を亡くした。

それがエミーリオに大きく響いたのか、共に村を出ると決意して二人は村のすぐそばの森へと入っていった。

 

「嫌な………予感がする」

 

沢田さんの言葉にその場の誰もが眉を顰める。

沢田さんのその言葉は裏切られることはなかった。

 

「そんなっ」

「エミーリオさん!」

 

女性がエミーリオを、毒を塗ったナイフで刺して崖から落としてしまった。

これにはチェッカーフェイスも動揺を露わにしていたが、私はそんなことを気にする余裕はなく、ただ沢田さんにしがみ付いていた。

エミーリオは海の中に落ち、波に飲まれていった。

私は我慢できず泣き出し、バミューダと沢田さんは呆然とし、リボーンおじ様は帽子を深く被っていた。

 

「だから…ヒトとの共存など危険だと……言ったではないか…エミーリオ…」

 

チェッカーフェイスの声は悲痛にまみれていた。

エミーリオは海岸に打ち上げられ、数日後に目を覚ました。

 

『……そうだ…何か、を…守ってたんだ…………何だったか…』

 

目が覚めたエミーリオは海に下半身が浸かっていることに驚きながらも、立ち上がり周りを見渡しそう呟いた。

 

「ここだ…エミーリオが記憶を失くしてしまったのは…ここなのだ」

 

バミューダがそう呟く。

エミーリオは彼を漂流者だと思った近くに住んでいた住人に保護された。

エミーリオが人と触れ合った時に見せた涙は見るに堪えなかった。

見覚えのない恐怖、悲しみ、苦しみ。痛みをエミーリオはずっと感じていたのだろうか…?

 

「俺の名前…何だっけ…」

 

エミーリオが考え込み、数秒の沈黙後思い出したかのように口を開いた。

 

 

「俺はエミーリオだ」

 

 

 

全ては自分を守るためだったんだと

 

とてもか細い悲鳴が聞こえた気がした。

 

 

 




うわー、シリアス2連続って辛い(笑)

チェッカーフェイス:SAN値が…
ユニ:SAN値が結構削られた、幼女が見ていいものではないね
ツナ:SAN値が結構削られた
リボーン:内心を取り繕う余裕は若干ある
バミューダ:SAN値直葬。親友が本当は人間大嫌いかもしれないという事実に打ちのめされている。というか記憶戻った時点で大嫌いになりそうだと内心白目向いている。

多分今回の勘違い要素は普通に、ラストだけですね。
第三者視点だから、エミーリオの体で何が起こったのか分からない。
だからエミーリオの内面が変質しているのは記憶喪失だからだと思い込んでしまう。
だが残念、ぽっとでの人格が6割がた、元々のエミーリオの人格が4割がたで混ざっただけである。これが後の自動SAN値直葬機に変貌するんですから、人間(?)何が起こるか分かりませんね。
要はあれですよ、混ぜるな危険(笑)


と、まぁここまでドシリアスでした。


 _人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
<※安心して下さい、次回からドシリアルです>
  ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioの日常

エミーリオはいつも通りに戻る。


やっほー、俺はエミーリオ。

何だかラーメン君の力で過去の記憶を追体験してきた。

んで一言。

俺めっちゃジジイじゃん。

何で恐竜の時代からいんの?え、誕生日ってジュラ紀なの?俺。

まさかそこまで長生きしてるとは。

あと俺が記憶失う前が何かと酷過ぎた。

なにあれ辛い。

村人許すまじ。

つーか、記憶を取り戻すっていうか、なんていうか、記録を見たような感覚だ。

あのエミーリオは、今の俺とは何か違う気がして、正直言って同一人物のように感じない。

多分あの海に溺れてた時に手違いあったんじゃないかな…人格的に。

だからかな、全く思うところがない。

いや流石にエミーリオ(昔)は可哀そうだと思ったよ?

でも何だろう、結局は他人にしか思えないから、可哀そう止まりというかなんというか。

俺個人では別に人間が嫌いとかそういう感情全くないんだよな。

むしろ好きな方じゃないかなぁ。

元々一人はあまり好きじゃないし、誰かと喋っていたい性格…だったような気がする。

でも誰かと暮らしたり特定の人と距離を詰められるのがなんとなく苦手だから、妥協点として居酒屋開いた覚えが。

ん?これ誰の性格だろう。

ダメだ、何か年月経ちすぎてもう昔のこと思い出せないわ。

まぁなんだ、今回昔の俺が知れて良かった。

にしても俺恐竜時代から生きてたのかー。

あれ?待てよ…記憶見るからして、俺最後まで死なないじゃん。

めっちゃ不老不死じゃん。

これマジで死なないパターンか…

それに関して自分でも不思議ってくらい、何も感じない。

まぁ皆に置いて逝かれるのは辛いけど、何だろう…こう…絶望した!って感じではない。

多分これ記憶にある俺の感情なんだろうなぁ。

何で過去と今でこんなに物事に対する捉え方が違うんだ?

考えても仕方ないか、もう終わったことだし。

それよりもさっきから腕の中にいる包帯君がピクリとも動かないんですけど。

もう過去の記憶鑑賞は終わってるよね。

マグロ君やおしゃぶりの少女も泣いてるんだけど。

あれは子供には少しショッキングな映像だったんだろうな。

軟禁されるし裏切られるし、海に落とされるしで散々な記憶だったし。

ラーメン君がちょっと無言になってる。

き、気まずい。

何か気の利かせた台詞で場を明るくしようとしたら失敗した。

さっきよりも空気が重くなった。

本当に気にしてないんだけどな。

とりま、今回のえーと何だっけ…トゥリニセッテだっけ…あれ俺一人で維持出来るのでは。

元は俺が作り出したようなもんだし。

結局炎をずっと灯せばいいんだろ?

提案してみたら即効で却下された。

しかも包帯君に怒られた、痛い、殴るこたないだろ。

んー、まぁ君たちがこれ維持したいなら別に反対する理由もないし、任せて問題ないと思うよ。

単に俺が信用出来ないだけか。

ってなわけで、トゥリニセッテを包帯君に一任した。

あとさっきから無言のままなんだけど、大丈夫?ラーメン君。

大丈夫か聞いてみたら、人間ぶっ殺すって言いだした。

やめて。

ああ、でもラーメン君からしたら家族が辛い目にあって記憶もなくしたと思われてるのか。

いや思われてるって言うか、実際そうなんだけど!

ぜんっぜん自覚ないんだ、すまん。

別に辛くないよって言ってみたけど睨まれた。

いや忘れたことはごめんって、不可抗力じゃん。

でもほら、ちゃんと名前思い出したぜ。

ちゃんと思い出したよってアピールでラーメン君の本名言ってみたら、少し涙ぐみながらさっきの三割増しで睨まれた。

何でだ。

ラーメン君が人間とはやっぱり一緒に暮らすべきではないとかなんとか言いだしたんだけど。

いやでも俺はこれからも居酒屋続けるつもりだから。

さっきから何も喋らない少女の方を気に掛けてたら、どうやらその場の人達と記憶を共有していたらしい。

やだ、なにこの公開処刑。

今になって少し恥ずかしくて肩震えてきた。

だって俺の過去丸裸じゃん。

不良少年やら野球少年、ナッポーが顔を歪めて俺を見てるけど、あれ絶対同情されてるわ。

子供に同情される、およそ2億歳のジジイの絵面がひどくシュールだ。

何だろう、場を和ませようとして皆から心配される。

本当に取り繕ってなんかないんだけどなー。

まぁ、これ以上擦れ違いしてもあれだし、今日はもう帰りたい。

誰もいない場所でぐっすりと寝たい。

気付いたら包帯君が俺の腕から脱出していた。

温もりがいきなりなくなって、少し冷えた。

うー肌寒ぃ、早く帰って寝よう。

 

 

 

 

おはよう、俺はエミーリオ。

朝だ。

それも早朝の4時ちょっと前。

昨夜は夜の9時頃に爆睡したから、結構早めに起きた。

何もすることがないので、ちょっと料理して暇でも潰すか。

流石に昨日の今日で店を開く気にもならないし、店は明日から開こう。

おや、イタリア産の調理酒が切れてる…。

これは忌々しき事態だ。

これ結構使い勝手いいけど、日本に輸入されてない奴だからわざわざ現地行って買わないといけないんだよなぁ。

…………仕方ない、買いに行くか。

財布から札を数枚抜き取り、黒い炎でイタリアへワープした。

久々のイタリアだ。

丁度イタリアは夜の9時前で、居酒屋が賑わってる。

いつもお世話になってる商売先の店を回って、目的の調理酒が売ってる店にいった。

するとそこの店主さんが丁度店閉めようとしてた。

あっぶね、セーフ。

調理酒買って帰ろうとしたら、店主さんに‪引き止められた。

え?飲む?今から?俺寝起きなんだけど…

しかも日本戻ったらただの朝っぱらから酒飲むダメな奴じゃん。

食い下がるので、頷いたらまさかの大人数での飲み会に連れていかれた。

マジか。

ちびちび飲んでたら、もっと飲まんかい!みたいなノリでめっちゃ注ぎ足された。

やめてぇ。

段々とテンション上がってきて、現地の人とダンス踊ったり唄を歌ったり遊んでたら、既に夜になってた。

待っておい、調理酒買うだけで俺8時間も時間かけてらぁ。

日本ではえーと…まだ昼か…。

そろそろ帰ろうかな、明日の店の仕込みもあるし。

んじゃお先に失礼しますよっと、え、ちょ、帰してくれない?

ちょ、ま…っ

 

 

 

 

やぁ、俺はエミーリオ。

気付いたら朝日拝んでた。

現在イタリアは朝の8時…日本は夜の1時………

ほぼ丸1日イタリアで酒飲んでただけとか…やべぇ、ダメ人間じゃん!

アカン、足もつれてるけどもう帰らないと。

ふわふわした感覚のまま居酒屋抜け出して、人気のないところで、ワープした。

まぁ素面であんなにコントロール下手くそな俺が、酒に酔ってる時に成功できるのかなんて誰でも分かるわけで。

海に落ちた。

ワープミスって海の上に移動したらそのまま落ちて海ぽちゃした。

お陰でくっそ目が覚めたわ!

さっむ!!

速攻で海から上がったはいいけど寒い。

果てしなく寒い。

あーもう早く日本へ帰るか。

日本へ飛んで、店の近くの人気の少ない場所にワープする。

店の位置が中学校に近いから人気のないところがあまりないのがネックだけど、もう日本じゃ夜中だし大丈夫だろ。

寒いし早く店に戻ろうと足を一歩進め、ふと両手を見る。

あ、調理酒……

イタリアの酒場に忘れてきたのか?いや抜けるときに持ってたよな。

ってことは海に落としたのか…ショック。

んー…あの海が海底どれくらいあるかわかんないけど、もう海の底に沈んでるよな絶対…。

また、イタリアに行かなきゃいけないの?

寒い。

ダメだ、もう疲れた。

諦めて帰ろう。

マジで酒飲み過ぎたから、帰って眠りたい。

そんなこと思ってたらいきなり後ろの方から音がした。

は?って思って振り向いたらおしゃぶりの少女がいて俺の方に走ってきてるんだけど。

え、何…ちょ、まっ……

体当たりの容量で抱き着いてきて泣き始めた少女に俺絶賛困惑中。

どうしたの…辛いことでもあったのかな。

それとなく聞いたらもっと泣き出したよー…なんでだよ。

ていうか君、まだ子供でしょ…こんな夜中に町を徘徊しちゃダメだろ。

あれだぞ補導されるぞ。

少女以外の声がしたから視線を上げたらラーメン君までいたよ。

うお、いきなりラーメン君の顔が剥げた。

と思ったら中からこれまたイケメンな男性がこんにちわした。

あれ?でもこの顔一昨日見た記憶の中にいた男だ……ってことは、これラーメン君の本当の姿ってやつかな。

おおう、少女ごと俺を抱きしめてきたんだけど、これ何事なの?

え、え、俺一体どうすればいいの。

いやまぁさっきまで寒かったから暖取れて良かったー…じゃない、お前らも濡れんぞおい。

ラーメン君が人間とは距離を取ろうって言いだしたよ、お前本当に人間嫌いだな。

俺は居酒屋続けるんだってば。

説得しようとしたらまた人が増えた。

マグロ君や野球少年、不良少年…赤いおしゃぶりの赤ちゃんも来たけど、お前ら今夜中だから!なに未成年が徘徊してんだよ、危ねぇな。

少女とラーメン君がやっと離れてくれた、のはいいけどやっぱり寒い。

何やらマグロ君が真剣かつ深刻そうにこちらに近づいてくるんだけど、これ一体何なの。

俺達はあの人たちとは違うって言ってるけど、あの人たちって誰。

お悩み相談なら別の日にやってくれ、いや俺はお前らの駆け込み寺になった覚えもねぇんだけどな。

もう一度信じてって何を信じたらいいんだよ、本当、正直、何の話してんだよ。

トンファー君がいきなり割り込んで、俺をボコボコにする発言だけ残して帰っていったんだけど。

なにあれ怖い。

ナッポーが眼帯少女と一緒に来て、何だか物騒なこと言い出したよ。

最近の子供って何考えてるか分からんな。

わあ、マシュマロ君や眉毛君もきたぁ…んー…お前ら重症なんだから病院で大人しく寝てろよ。

眉毛君に至ってはまた俺をカスって言いやがった。

あいつ後で…いや怪我治ったらジャイアントスイングしてやる。

マシュマロ君、泣いてるとこ悪いけど俺店閉める気ないから。

ああ、でも日本での経営はそろそろ終わりかな。

赤ちゃんがゾロゾロと出てきた。

風が俺のことを師匠って言ってんだけど、それ本当にやめませんかね。

すっげー俺恥ずかしいの。

あれ、包帯君…君いつのまにいたの。

俺のこと親友と思ってくれてたのか…いやそれは嬉しいんだけど何でこのタイミングで言うの?

俺の悩み相談してくれって…特に悩みなんてねーよ。

いやあるとしたらお前らの当人ほっぽいて物事進めるクセをどうにかして欲しいんだけど。

もう駄目だ…寒い。

もうほんと帰らせてください。

ていうか君たちの話は店で聞くから取りあえず場所を移動しよう。

立ち上がって人混みかき分けて店の方向に歩き出したらマグロ君が焦ってついてきた。

口ごもるマグロ君に痺れを切らして一言二言声を掛けて取りあえず黙らせた。

本当に何の話か分かんないけど、こいつら人のことお構いなしで物事進めるなぁ。

少し静かにしてもらいたいもんだぜ。

つーかお前ら……今夜中なんだけど、これから俺の店来て話し合いとやらをするつもりか、おい。

休ませてくれ。

 

 

 

 

 

ハロー、俺はエミーリオ。

結論から言って話し合いはなかった。

店に帰って、風呂入って体温まったころに風呂出たら、未成年どもは殆ど夢の中だった。

だけど大人組は全員起きてて、酒を所望してきた。

こいつら…

あと大人に混じってナッポーが起きてることには触れないであげよう。

ほら大人ぶって頑張って起きてるんだよきっと。

おっとお前には酒出さねーからな、お前はパイナップルジュースで十分だ。

不機嫌な顔してたが変える気はない。

そういえば何でお前ら俺があっちにワープする時、直ぐ近くにいたの?

え、俺を探してたの?うわ、それはすまん。

めっちゃイタリアで酒飲んでたわ。

言ったらぶっ殺されそうなので言わないが。

久々に開いた携帯画面にはいつの間にか30人以上登録されてた。

おかしいな、一昨日くらいまで絶対に4~5名だった気がしたんだけど。

ところで皆そんなぐびぐび飲んで、二日酔いなっても俺助けないからね?

本当に、マジで。

あれから数時間後、そろそろ夜明けが見える時間帯に俺は店を見渡した。

皆清々しいほど沈没してることよ。

ぐーすか寝やがって片付けんの俺なんだぞ。

この様子だと今日も店開くのは無理かな。

さて、ガキ共が起きた時のために朝ごはん作っておくか。

俺は厨房へと入っていった。

扉が開いた音したから厨房から出たらトンファー君がいた。

どうやらハンバーグを食べに来ただけのようだ。

材料あるし、ハンバーグから先に作ることに。

トンファー君はハンバーグを平らげると満足げに帰っていったけど、ほんと俺の店ってドライブスルー感覚で来るとこじゃないからな。

しかもあいつハンバーグの横に置いてるニンジンだけは食わないんだよなぁ。

ガキじゃないんだから食えよ。

今度は食べきるまで監視しておこう。

日が明けて、そろそろガキどもの朝食を作り終えるって頃にマグロ君が起き出した。

一番最初は君だったか。

挨拶した後、食器を並べるの手伝ってもらった。

食器並べ終えたあたりから次々と皆が起きてくる。

酒飲んでたやつらはぐーすか寝てやがるが。

久々においしいって興奮気味に言われて、嬉しい。

俺の本分は料理だからな!

あ、そうだ俺今度店をニュージーランドに移そうかと思ってるんだけど…

ってマグロ君に言えば白目向いた。

何でだ。

 

 

 

 




エミーリオ:通常運転。今日も殴られない。そしてお前の本分は星の守護者である。
調理酒:君のことは忘れない。
ニュージーランド:逃げ切れなかった。


エミーリオの感性が人間とかけ離れているので、不死≠絶望。
死を沢山見てきているけれど、理解していない。
多分これからも理解することはない。
エミーリオが本来の性格のままだったなら人間の本能的感情は全く理解出来なかった。
人間の部分が混じっちゃったから若干理解出来てる節がある。
勘違いの理由の一つに、種族の違いもある。
まあ主な原因は彼の性格のせいではあるが。

そろそろEmilioも終わります。
番外編やIFルートも書く予定です。
一応活動報告でリク募集しておきますね。
※感想欄にリクエストは書かないでください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilioへの愛情

エミーリオは愛される。


沢田綱吉side

 

 

エミーリオさんの記憶を見て、俺は何も言えなかった。

村人たちにされた仕打ち、友人の裏切り…そして彼自身の宿命を知って、言葉が出なかった。

俺がエミーリオさんに出来ることは何もないと直感で理解してしまった。

 

「えっと……俺気にしてねーよ……?ほら…やっぱ……俺、人間じゃねーし」

 

彼にこんなことを言わせたくて、俺は過去の記憶を見たわけじゃないんだ。

そう言いたくても言葉が喉につっかえて何も言えなかった。

 

「そ…れと……トゥリニセッテはやっぱり俺が持ってた方がいいと思うんだ」

「ほら、それ作ったのって俺だし、俺一人で多分維持出来るわけだし……」

 

一人で全てを背負うと、孤独のまま生き続けると言っているようにしか聞こえなくて、俺はすかさずその提案に口を挟もうとしたが、その前にバミューダがエミーリオさんを殴っていた。

 

「馬鹿者!そんなことさせるものか!お前ひとりに全てを任せるものかっ」

 

バミューダの声は悲痛にまみれていた。

流石の俺もエミーリオさんの意見には怒っていた。

俺たちを頼ってほしい。

逃げないでほしい。

そんな思いばかりが頭を過るだけで、口に出ない自分にも腹が立った。

 

「エミーリオさん…トゥリニセッテを…俺達に任せてはくれませんか?」

「…………君たちのその意見に反対するつもりはないよ…ただ、少し…そう思っただけなんだ…」

 

歯切れの悪いエミーリオさんの言葉に少しだけ安堵すれば、エミーリオさんはチェッカーフェイスの方へ視線を向け声を掛けた。

 

「大丈夫か…?辛そうだけど」

「ふん、よく言えたものだな……この場の人間を殺してもこの怒りは収まらないだろうことくらいお前が一番知っているだろう、エミーリオ」

 

チェッカーフェイスの不穏な発言にその場の人たちに緊張が走る。

 

「俺は気にしてない…」

「お前のそういうところが嫌いなんだ」

「…シェリック」

「……」

 

その言葉にチェッカーフェイスはエミーリオさんを睨み、黙ったまま片手で顔を覆う。

きっとチェッカーフェイスも取り繕うだけで精いっぱいなんだ。

俺だって家族が酷い目にあったら、多分手を出したやつを許さないだろうから。

それを必死に抑えてるんだ。

 

「やはり人間との共存なんて到底ありえない話だったんだ…」

 

絞り切った声には怒りと悲しみが滲み出ていた。

俺は何も言えず視線を下に向けていると、ふとユニが気になってそっちに意識を逸らした。

ユニは他の人たちに今見た記憶を共有しているようで、目を瞑って集中していた。

エミーリオさんもそれを知ると、困ったような顔をしていた。

皆への共有が終ったのか、獄寺君や骸、雲雀さんに山本が顔を歪ませていた。

ふとバミューダがエミーリオさんの腕から離れるとエミーリオさんに向かって言い放った。

 

「エミーリオ、お前は一旦帰った方がいい」

「え、あ…分かった」

 

エミーリオさんは歯切れの悪そうに、その場から去って行くとリボーンが口を開いた。

 

「バミューダ…お前どうするつもりだ」

「どうする?愚問だね…親友を今更恨むことなんて出来るわけないだろう」

「それが…俺達の呪いの元凶であってもか」

「当たり前だ…まぁエミーリオはどうか分からないがな」

 

バミューダの言葉に疑問が過る。

獄寺君が口を開く。

 

「どういう意味だバミューダ…」

「エミーリオが人間を心底嫌っているかもしれないってことだよ…トゥリニセッテを人間に明け渡したと同時に姿を消すことだってありえるだろう」

「えっ!?じゃあ何で今エミーリオさん一人にしちゃったんだよ!」

「おいツナ、バミューダの判断は正しいぞ」

「はぁ⁉リボーンまで!」

「エミーリオの奴…僅かだが、震えてやがった」

「え…」

「過去を思い出して、途端に人間が怖くなったんだろうな…今は一人にして考える時間を与えた方がいいだろ」

「そんな……」

 

エミーリオさんが震えてたなんて、気が付かなかった。

バミューダは寂しそうにエミーリオさんの去って行った方向を眺めていた。

 

「トゥリニセッテはどうすんだ」

「……今からでもやろう」

 

チェッカーフェイスの言葉は少し予想外だった。

 

「今ここで君たちを殺しても、エミーリオが余計悲しむだけだ…さぁ早く儀式を終わらせよう」

 

タルボのおじいさんの持ってきた装置を真ん中に、皆が囲むように円を作る。

そして炎を灯しだす。

 

「これがうまくいったら俺たちの呪いは解けるんだろうな!?」

「約束しよう」

 

スカルの言葉にバミューダは頷き、俺たちはその言葉を信じて炎を注いでいった。

装置が完成した頃には既に夕日は暮れていて、皆その場で脱力する。

 

「まだその装置が完全という確証がないので、私は暫く川平不動産の方に居座っている」

 

そういってチェッカーフェイスは皆の前から消えていった。

俺はあたりを見渡して、最後にリボーンを見た。

 

「被害がなかったわけじゃないけど、死人が出なくて良かった…」

「これでまだ生きられる…ありがとなツナ」

「ううん…でも、まだエミーリオさんのことが残ってる」

「ああ、あいつの問題が片付かなきゃ終わらねぇ」

「エミーリオさん…大丈夫かな」

「まぁ大丈夫ってことはねぇだろ、最悪俺たちの前から去ることも頭に入れておけ」

 

リボーンの言葉で俺は何とも言えない不安に襲われた。

折角アルコバレーノの呪いが解けたけど、まだエミーリオさんの問題が残っている。

どうにかしてエミーリオさんに信用してもらいたいし、ずっと並盛にいてほしい。

どうすればいいんだろう。

何の案も出ないまま夜になって、俺たちは一度各自家に帰って、翌朝また集まることになった。

今までのエミーリオさんを見ていたら、またいつもみたいに何食わぬ顔で笑って俺たちを受け入れてくれるんだろうって思うんだ。

だってエミーリオさんはいつだって、俺たちの助けになってくれる優しい人だから…

俺は不安を覆い隠して、目を閉じた。

朝になると、俺は待ち合わせ時間に待ち合わせ場所へと向かっていった。

場所は勿論エミーリオさんの店だ。

店の前には既に皆いて、俺が最後だった。

 

「ひ、雲雀さんも来てくれたんですか!」

「勘違いしないでくれる?僕はただ彼に言いたいことがあって来ただけだよ」

「は、はい…」

「10代目、全員揃いましたし開けましょう」

「うん、そうだね」

 

店をノックしたが、反応はなかった。

痺れを切らした雲雀さんが扉を蹴破って中へ入っていった。

 

「エ、エミーリオさーん………」

 

店の中には人の気配はなく、カウンターの方には財布と携帯が置かれていた。

店のどこを探しても誰もいなくて、偶々出かけているだけだと淡い期待を持ちながらエミーリオさんを待っていた。

雲雀さんはエミーリオさんがいないと分かると、その場から去って行ってく。

数分、数時間と待っていたけど、彼は帰ってこなかった。

既に昼過ぎになっていて、俺たちは誰もが口を開かなかった。

カランと扉の鳴る音で誰もがそちらを振り向いた。

 

「何故貴様らがいる…」

 

そこにいるのは怪訝な面持ちをしたバミューダだった。

バミューダは俺たちの顔を見て、何かを悟ったように自嘲気味に笑みを作り店をぐるりと見渡した。

 

「やはり、僕たちの前から消えたか…」

「やはりって…」

「エミーリオは一人を選んだ…彼にとって我々は不要なのだよ」

「不要って、お前はそれでいいのかよバミューダ!」

「それでいいだと?これ以上エミーリオを追い求めるなど、それこそ彼にとっては迷惑以外の何物にもならん」

 

俺は引き下がれなかった。

今ここでエミーリオさんを探さないと、二度と会えないような気がして。

そんなの嫌で、絶対に嫌で、エミーリオさんにはやっぱり皆と一緒に笑ってほしいんだ。

 

「お前それでもエミーリオさんの親友かよ!」

「何だと…っ」

「親友なら!追いかけて元気付けろよ!誰もお前を傷付けないんだって、安心させろよ!」

「先ほどから抜け抜けと…」

「傷ついたエミーリオさんを放っておいて何が親友だよっ、それはただの逃げだ!」

「っ…」

「俺は探すからな…探し出して…エミーリオさんが笑って暮らせるような場所を守るんだ」

「まも…る……だと…」

「皆エミーリオさんから笑顔を貰ったんだ、今度は俺たちがエミーリオさんを笑顔にさせるんだ!」

 

俺はそう言い放ち、店を出た。

行く当てなんかなかったけれど、とにかく体を動かしていたかった。

我武者羅に意味のない行動を続けるしかなくて…獄寺君の声で足を止める。

 

「10代目!」

「……」

「10代目……一先ず入江と白蘭に会いに行きましょう」

「獄寺君…?」

「あいつらなら人工衛星の監視カメラへのハッキングとか出来るはずです…あとボンゴレ9代目にも協力してもらいましょう…」

「…うん、うん!そうだよ、そんくらいしなきゃエミーリオさんは見つからないよ」

 

獄寺君の言葉に漸く突破口が開けたかのように思えて、段々と沈んでいた気持ちが落ち着いていった。

山本も京子ちゃんのお兄さんも、クロームも骸も…リボーンやほかの人たちも全員が手伝うと言ってくれた。

それから俺は白蘭がいる病室へ行って、白蘭のもつコネを使ってどうにか探せないか聞いてみようとした。

白蘭にはユニが記憶を共有させたみたいでエミーリオさんの過去のことは既に知っているらしい。

 

「僕はね綱吉君…エミーリオに大きな、大きな恩があるんだ…だから今は君に協力してエミーリオを探すけど、最終的にはエミーリオの希望を優先するつもりだよ」

「まぁ何も言わずに僕たちの前から消えちゃったのは…悲しいね…」

「うん、すごく…辛いや……」

 

泣きそうな顔で困ったように笑った白蘭に、俺は無性に悲しくなった。

 

「エミーリオさんはきっと迷ってるだけなんだよ…俺達が手を引いてあげなきゃ」

「……そう、だね………正ちゃんには僕から話しておくよ」

 

そういって白蘭は未だ治っていない体でベッドから起き上がりだした。

俺は引き留めたけれど、云うこと聞かずに真・6弔花を連れて出て行った。

病室を出て、エレベーターに乗ろうとすると、いきなり横に何かが音速で過ぎていく。

よく見ると壁に穴が開いていた。

俺は目を見開いて、振り返るとザンザスが銃をこちらに向けて佇んでいた。

 

「ザ、ザンザス!?」

「おい、ドカス」

「な、なな何だよ…」

「てめぇらエミーリオを探してんだろ」

「え、あ、ああ」

「早くあのカスを探し出せ、ぶっ殺してやる」

「え⁉」

 

ザンザスはそれだけ言うと病室に戻っていく。

俺がザンザスの言葉を理解出来ずに固まっていると後ろから声がした。

 

「ありゃ、相当怒ってやがるぜぇ」

「ス、スクアーロ!」

「よぉ"、沢田綱吉」

「お、怒ってるってどういうことだよっ」

「見てのとおりだろぉ"、ボスさんはエミーリオの飯気に入ってるから、食べれなくなって相当怒ってんぞ」

「は?」

「ああ見えてボスはエミーリオのことえらい気に入ってやがるからなぁ"、何も言わずに消えていったのが気に食わねぇんだろ」

「ザンザスって胃袋捕まれてんの!?」

「それもあるが、エミーリオはボスの世話係みたいな奴だったからなぁ…単に寂しいだけじゃねぇのかぁ"?」

「ええええ…」

「あーあー…またあのクソボスの機嫌が悪くなるぜぇ"…おい沢田ぁ!早くエミーリオ探し出せぇ!」

「わ、分かってるよ!」

 

俺はスクアーロに言われるがまま病院を出ていく。

途中でシモンファミリーの皆に会い、彼らもエミーリオさんを探すのを手伝ってくれると言ってくれた。

九代目に事の経緯を話して、ボンゴレの総力を挙げてエミーリオさんを探すことになった。

エミーリオさんがどこに行くか少しでも手がかりになるものはないのかなと思い、もう一度エミーリオさんの店に行く。

そこにはバミューダがまだいて、俺は少し戸惑う。

エミーリオさんは過去の記憶通りなら黒い炎、ワープも使えるはずだ。

それだと今どこにいるかなんて検討つけられない。

やっぱり、バミューダの協力は必要なんだと思い直し、もう一度会えないか考えていた時だったんだ。

だからバミューダに協力してもらえないかお願いしようと口を開く前にそれをバミューダが遮った。

 

「エミーリオは孤独だ…」

「お前も、僕も…誰もが最後にはあいつを置いて逝くのだ」

「今ここであいつを引き留めてまた仲良しごっこを続けるのは、あいつにとってこの上ない残酷な仕打ちだとは思わないか?沢田綱吉…」

 

俺はその時初めて自分のしてることが正しいのか迷った。

俺たちは短い人生をただ一生懸命に生きているからこそ、今のこの一瞬の大切さを知っている。

だから後悔のないように今も精いっぱい生きている。

でもエミーリオさんにとって俺たちの人生は、ただの100年もしない短い時間の中のほんの少しの茶番なんだ。

だから、今ここで必要以上にエミーリオさんの内側に入っていくのは、ただ無意味にエミーリオさんを傷付けるだけなんじゃないかって思った。

ボンゴレ一世も…D・スペードもエミーリオさんを置いて逝ったように、俺達もいつかはエミーリオさんを置いて先に死んでいくんだ。

なら、今のうちに…傷つかないうちに離れた方がエミーリオさんにとっては良かったんじゃないか。

でもそんなのただ悲しいだけじゃないか。

辛いことから目を逸らすのと変わらないじゃないか。

 

「確かにお前の言うことも一理ある…けど、そんなの嫌だ…」

「こんな、皆が悲しむだけの結末なんて認めない…俺が認めないっ」

「置いて逝かれるのが悲しいなら、それ以上に楽しい時間を作ればいいじゃないか!」

 

 

「お前たちと一緒にいて楽しかったって笑って別れることが出来るくらい思いっきり生きればいいじゃないか!」

 

 

俺は震える拳にさらに力を入れて握りしめ、バミューダを見据えた。

 

「逃げるなよバミューダ……エミーリオさんから、逃げるなよ…」

「……」

 

バミューダは俺の方に視線を移すことなく、その両手に黒い炎を灯してワープゲートを作る。

 

「エミーリオの位置は僕ですら掴めないから手探りでしか探す方法はない」

「………イタリアの首都、ローマに繋いでおく」

 

それだけ言うとバミューダはそのゲートを潜って姿を消した。

俺はバミューダが消えた数秒後にその言葉を理解し、直ぐに携帯で皆を呼び出した。

そしてエミーリオさんを探すために、並盛組とイタリア組に分けて探し出すことにした。

他の国は各地にあるボンゴレ支部の人たちにお願いしている。

 

「皆、エミーリオさんを見つけたら声を掛けずにまず俺たちに連絡すること……じゃあ行こう!」

 

俺はワープゲートを潜った。

こうしてエミーリオさんの大捜索は始まった。

 

 

大捜索が始まって既に8時間以上経ち、日本では既に夜になっていた。

日が落ちて今日はもう断念しようという意見が出始めた頃、イタリアを探していた俺に着信が入る。

 

「はい」

『沢田さん!』

「ユニ?」

『はい、あの…エミーリオの未来の居場所が分かりました』

「!…どこなの!?」

『並盛の…エミーリオの店の直ぐ近くです…彼はそこに深夜、現れます』

「分かった!」

 

それから全員にその情報を回し、夜の11時頃からエミーリオさんの店の近くに数人待機させる案となった。

ユニにお礼を言いたくて、一度ユニに会いに行こうと別荘に向かうと、ユニの隣には川平のおじさんの姿をしたチェッカーフェイスがいた。

 

「チェッカーフェイス!?何でここに!」

「また会ったようだ」

「落ち着いて下さい沢田さん、私が呼んだのです」

「ユニが?」

「はい…エミーリオが今苦しみ迷っているならば、それを心配しない家族はいないでしょう」

「…」

「エミーリオに、私たちは今までもこれからも、ずっと味方であることを家族として、一緒に伝えたかったのです」

「そっか…うん、その方がいいよ」

 

俺はユニの笑みに安心して、笑い返す。

 

「エミーリオが現れるまで、私は彼と共に待っています」

「分かった」

 

俺はそれを聞くと、二人に頭を下げて別荘を出て皆と落ち合った。

 

それからまた数時間後、既に辺りの住宅は暗く、月の光だけがある頃だった。

俺は獄寺君と山本、京子ちゃんのお兄さん、リボーンと共にエミーリオさんが現れるのを待っていると、日を跨いで少しすると急に背中にゾクリと何かが駆け抜けた。

 

「この感覚っ!」

「バミューダの使っていた第八属性の炎と似ている!」

「ああ、多分直ぐ近くでエミーリオさんが現れたんだ!」

 

辺りを見渡していると、急に泣き声が聞こえた。

俺は嫌な予感がし、その泣き声のもとへ走っていく。

目の前の角を曲がるとそこには、ユニに抱きしめられて呆然としているびしょ濡れのエミーリオさんの姿があった。

びしょ濡れのそれを見て俺は直感したんだ。

海に…落ちたんだ……自分から

今度こそ死ねると、そう期待して

でも死ねずに無意識にこの場所に戻ってきた

きっと……絶望したまま

 

「ユニ……?どうして、泣いてるんだ……」

「エミーっ…リオ……」

 

ユニはエミーリオさんの名前を絞り出すと、さらに抱き締めていた腕に力を込める。

焦点の合わないエミーリオさんのその瞳が、どれだけ彼の精神が追い詰められていたのかを物語っていた。

 

「エミーリオ…」

 

ユニの隣にいたチェッカーフェイスがエミーリオさんに近づき、ゆっくりと顔を覆っていた仮面を剥がしていった。

その顔は過去の記憶で見た中にもいて、それがチェッカーフェイスの本当の姿なのだと確信した。

そしてチェッカーフェイスはユニごとエミーリオさんを抱き締めた。

 

「あれから考えていた……そして私たち一族を誰よりも想っていてくれたのはお前なのだと…気付いた…」

「でももういい……少し休め」

「人間から距離を取って心を休めるのも必要だ」

「今までありがとう、エミーリオ」

 

チェッカーフェイスの言葉にエミーリオさんは目を細める。

俺は慌てて声を出した。

 

「ま、待って下さい!」

「綱吉君…」

 

エミーリオさんは目を見開く。

ユニとチェッカーフェイスがエミーリオさんから少しだけ離れ、エミーリオさんと俺の前にはただ少しの距離だけが残る。

エミーリオさんの方が小さく震えているのを見ると、胸が締め付けられるほど苦しかった。

 

「あ、あのいきなりこんなこと言われても説得力ないし、エミーリオさんを困らせるだけかもしれない…けど、もう一度人間を信じて欲しいんです…」

「俺たちは…今までの人たちとは違う……エミーリオさんを悲しませたりしません!俺たちは笑ってるエミーリオさんが好きなんです」

 

「もう一度…信じてはくれませんか…」

 

エミーリオさんからの返答はない。

数秒の沈黙の後、エミーリオさんが口を開こうとすると、後ろから凛とした声が響く。

 

「ねぇ、邪魔なんだけど」

 

振り返るとそこには苛立ったようにこちらへ足を進める雲雀さんがいた。

雲雀さんは、いきなりの登場に固まっていた俺を押し退けると、エミーリオさんの目の前で止まった。

 

「君がいないとつまんないよ、エミーリオ……僕はまだ君を咬み殺せていないんだから、いなくならないでくれる?」

 

エミーリオさんは目を大きく見開き、口を開け何かを言おうとする前に、雲雀さんは直ぐに立ち去って行った。

 

「クフフ、素直になれない男はただ見苦しいだけだというのに」

 

その言葉に今度は別の方向を振り返ると、骸とクロームがいた。

いつの間に、と思う反面結構切羽詰まってたから気配に気づかなかっただけかって思い直した。

 

「エミーリオ…あなたには少なからず恩義を感じていますので、あなたの前に立ちはばかる外敵くらいは駆除して差し上げますよ…勿論血祭りにして、ね」

「私も…あなたに救われた…だから、今度は私が守る」

「凪ちゃん……骸、君…」

「おい、ドカス…やっと捕まったか」

「ちょっとザンザス君?エミーリオにそんな乱暴な言葉使わないでくれるかい?」

 

クロームが言い終わると同時に、ザンザスと白蘭が割り込んできた。

ふと気づけば、周りには元アルコバレーノも皆揃っていて、バミューダもいた。

 

「次勝手に消えてみろ、カッ消してやる」

「そんなこと僕がさせないけどね」

「フン」

「エミーリオ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「お願い…?」

「僕はエミーリオの意見を優先させるよ、どんなことがあってもそれは変わんないよ」

 

「だからさ…何も言わずにいなくなるのはやめてよ……探せなくなるじゃんか」

 

白蘭は涙ぐみながらそう告げる。

すると元アルコバレーノの風がエミーリオの足元に近寄っていく。

 

「エミーリオ…あなたは私にとって兄であり、師であり、目指すべき者です」

「風…」

「私はあなたの背中を見て育ち、あなたのような優しい強き者になりたいと思い、あなたを目指してきました」

 

そういえばエミーリオさんは風さんの名付け親だったんだ。

 

「だけど今は違います…私はあなたの心の支えとして強くありたい…そう思っています」

 

風さんは満足げな笑みを浮かべると、リボーンの近くへ戻っていく。

 

「エミーリオ」

 

小さな声だった。

エミーリオさんの元に歩み寄るその小さな黒い影は、この間まで俺たちに立ちはだかる強敵だったとは思えないほど小さな背中だった。

 

「僕は君を親友だと思っている」

「どんなことがあってもお前を裏切らないと誓える…」

「だ、から……もう一人で悩まず僕にも相談してくれないだろうか……」

 

するとエミーリオさんが歩き出した。

バミューダや俺、皆の間をかき分けて歩いていく。

 

「エミーリオさん!お願いしますっ、もう一度―――――――」

「店」

「…え?」

「俺、店やめるつもりねーから……定休日の木曜日以外ならいつでも来いよ」

 

その言葉を理解するのに時間はかからなかった。

嬉しさのあまり言葉が出ないってこういうことなんだって思った。

ユニがエミーリオさんに抱き着いて一緒に歩いていて、俺達もそれについていく。

 

「よかったな、ツナ」

「リボーン…」

「これで、一件落着だぞ」

「ああ……皆が笑える最後で本当に良かったよ」

 

夜風に当てられながら、俺たちは皆エミーリオさんの店へと足を運んだ。

 

 

「ふわぁぁぁ~…」

 

知らないうちに寝てたみたいで、起きると既に朝だった。

店のあちらこちらには酒瓶が転がっていて、数名が机に突っ伏しながら爆睡していた。

俺たちが寝た後に飲み始めたのかな…

酒臭さの中、空腹を刺激する良い匂いがして、匂いを辿るとエミーリオさんが料理を作っていた。

 

「あ、綱吉君おはよう」

「おはようございます…何作ってるんですか?」

「君たちの朝食だよ、あ、そこの皿並べてくれないか?」

「え!?朝食までありがとうございます!今並べます!」

「急いで割らないでね」

「はい!」

 

他の人たちも起き出して一緒に朝食を食べた。

久々にゆっくり食べる朝ごはんは美味しくて、自然と笑みが零れた。

 

「おいしいです」

「ありがとう」

 

エミーリオさんは微笑みながらカウンターの方から顔を出す。

それを見てどこからともなく安心感が襲う。

 

ああ、やっぱり

 

 

「エミーリオさんは笑顔が一番です」

 

 

エミーリオさんの周りは皆が笑える最高の場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば日本での店畳んで、ニュージーランドに移そうかと思うんだけど」

 

前言撤回、何だか大波乱の予感がする。

でもまぁ俺たちは騒がしいくらいが一番いいのかもしれない。

 

 

 




次回エピローグ

エミーリオ:酒飲んで帰ってきたら何故か総出で迎えられた孤独()な男。
超直感:エミーリオに関してこの上なくポンコツと化す。
エミーリオの酒場:聖域。ここから争いは始まり、ここで終結する。
バミューダ:やったね、親友関係が公認になった。
ニュージーランド:逃げて、超逃げて。

リクエスト募集を活動報告でしています。
活動報告の返信、またはメッセージでリクお願いします。
※感想欄にリクは書かないで下さい。受け付けません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio~エピローグ~

エミーリオは笑う。


そこはイタリアに在するボンゴレ本部。

晴天の中、マフィアの根城にも関わらずそこには不釣り合いなサッカーボールが転がっている。

男の子が必死にサッカーボールを蹴る姿は一般家庭で見るソレであり、決してマフィアの根城で見るようなものではない。

男の子が蹴り飛ばしたサッカーボールが高く飛び、一人の男性の足元にバウンドする。

 

「パパン、それ取ってよ」

「お前なぁ…宿題は終わらせたのか?」

「でもパパンも子供の頃は宿題しなかったんでしょ?リボーンさんが言ってたー!」

「あいつっ!」

 

転がるサッカーボールを受け止めた男性は、ボンゴレマフィアの頂点に君臨するボス、沢田綱吉である。

 

「そんなことよりこれから食事に行くから、お前も着替えてこい」

「食事?どこで?」

「お前が好きな所だぞ」

「エミーリオ兄さんの店⁉」

 

男の子は顔を輝かせ、若干泥のついている手を服で拭い家の中へ走っていった。

母親らしき女性の声と先ほどの男の子が会話しながらドタバタと騒がしい音がする。

沢田綱吉は苦笑して自らも家の中に入ろうと足を進める。

 

 

 

 

「いらっしゃい、あ、綱吉君」

「エミーリオさん、お久しぶりです」

「エミーリオ兄さん!俺お子様ステーキ食べたい!」

「あ、おいコラちゃんと挨拶しろって」

「注文が早いなーお前…そんなに気に入ってもらって嬉しいけど」

「エミーリオ兄さんのご飯は世界一だよ!」

「ありがとう、じゃあ作るから空いてる席にでも座っていてくれ」

 

沢田綱吉が妻子を連れてやってきたのは、こじんまりとした小奇麗で雰囲気のある店だった。

老若男女誰からも愛されるその店は、沢田綱吉の一等気に入っている店でもある。

ボンゴレに属しているのなら誰もがここを知っているだろう。

また誰もがここでは争いをしてはならないという暗黙の了解があるのを知っているだろう。

それがマフィア間の敵対ファミリーとこの店で鉢合わせしても、だ。

何故かと言われれば直ぐに理解することとなるだろうが。

この店を好んで訪れる者たちが揃いも揃ってマフィア界でこれ以上とない程、名を馳せているからである。

ボンゴレファミリーボスである沢田綱吉を筆頭して、ボンゴレ独立暗殺部隊ボスであるザンザス、ミルフィオーレファミリーボスである白蘭、ジッリョネロファミリーボスであるユニ、キャッバローネファミリーボスであるディーノなど、マフィアの強豪達がこの店を頻繁に訪れるのである。

いつだったか…数年前に、その事実を知ったボンゴレの敵対勢力がその店の店主を人質にしてボンゴレ側に不利な要求をしたことがあった。

しかし、ボンゴレボスの守護者たちがその場に向かい、到着したころには敵対していた勢力の下っ端含めボスもろ共、至る所から血を流し店の外に叩き出されていた。

店の店主であるエミーリオに聞いても首を傾げるだけで、捕縛された者たちを尋問しようにも怯えきって頭を抱えて震えるだけで何も言葉を発することはなかった。

だが一度だけ、度を越えた恐怖により衰弱していった彼らが死に際に小さく呟いたのだ。

 

『黒い……黒い炎が……』

 

それだけで守護者たちは皆全てを悟ったという。

一体何が彼らを怯えさせ、何があの聖域を守っているだろうか。

誰もが口を閉ざし、真実は分からぬまま闇に葬られることとなった。

 

そういう経緯からも、この店で度の過ぎた暴力沙汰は己の命を脅かすものであるとマフィア界では広まっている。

そして今日も一般客も頻繁に訪れるその店は、裏でも表でも噂となって知名度が広まりつつある。

 

 

「エミーリオさん…そういえば白蘭こっちに来ませんでした?」

「白蘭なら昨日来てたよ、ここでマシュマロだけ食べて帰っていったけど」

「ああやっぱり…」

「何かあったのかい?」

「最近ここに入り浸って会議に来てくれないんですよ」

「あー…なるほど、俺から少し注意しておくよ」

「本当にすみません、そうしてくれると助かります」

「俺はあいつの保護者じゃないんだけどな」

「白蘭はエミーリオさんの話しかちゃんと聞かないですから」

「いつまで経っても子供だねー」

「エミーリオさんからしたら誰もがいつまでも子供でしょう…」

「まぁね」

 

エミーリオは笑いながら、彼らの座るテーブルに料理を並べていく。

そして厨房に戻っては、他のお客の料理を作る。

料理を全て食べ終わり、妻子共に車で待たせ、沢田綱吉はエミーリオに挨拶をする。

 

「今日もおいしかったです、また来ますね」

「はいよ、待ってるぜ」

「ではまた」

 

この会話も何十回、何百回目だろうか。

エミーリオの店は衰えることを知らない。

同じ場所に長く留まらないことも一つの要因ではあるだろうが、それ以前に店主であるエミーリオの腕前が素晴らしいの一言では片づけられないほど色々超越しているのだ。

その若さで身に着けた熟練の動きは、まるで何百年もの年月をかけたような錯覚すら覚えるほどである。

実際何百年もの年月をかけたのだ。

 

エミーリオの店は衰えることを知らない。

否、エミーリオ自身、衰えることを知らない。

終わりを知らないのだ。

その言葉の本当の意味を知っている者は世界に何人いるのだろうか。

 

 

エミーリオは終わりを知らない。

 

 

 

それはいつまで続き、いつ朽ち果てるのだろうか。

誰も知らない…本人でさえも知らない。

 

人類が死に絶えるその時か

 

草木が枯れ果てるその時か

 

地面が渇き果てるその時か

 

海が干上がり切るその時か

 

 

星が滅び逝くその時か

 

 

 

誰も知ることはなく、誰も理解することはない。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 

そして今日もエミーリオは笑う。

 

 

 

 

 

fin.




黒い炎:セコムその1、誰とは言わない。
エミーリオの店:聖域。暴力沙汰即ち死。

ご愛読ありがとうございました!

活動報告でリクエスト募集しています。
活動報告の返信、またはメッセージでのリクエストをお願いします。
※感想欄にはリクを書かないでください、受け付けません。



ここから作者の後書き↓

ご愛読ありがとうございます。
最後にシリアス持ってきましたが、まぁ番外編とかがシリアルなのでいいかなーと。
きっちり締められて良かったです。
衝動的に書き始めた小説だったのでエタらなくてよかった…切実に。
まだ文章力が下の上くらいなので、これからも上達出来るよう精進しますね。

コメント、誤字脱字指摘、リクエストしてくれた方々には本当に感謝しています。
感想があったのはモチベーション維持に繋がっていたので本当に凄く助かりました。
まだリクエスト、番外、IFルートを書く予定ですので、それまでお付き合いください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編
Emilio番外編 1


本編のマーモン・風side


マーモンside

 

「あれ?新しい顔だね…新人かい?」

 

初めての出会いはお互い全く興味がなかったんだと思う。

 

僕はヴァリアーに入隊し、入隊試験の成績が最上位だったのもあって、入隊日に即幹部入りをした。

まぁ僕にかかればどこも簡単に入れるけど、やっぱりお金のあるとこが一番だよね。

上司であるザンザスという男はただ者ではないと僕の今までの勘がそう言っていて、実際それを裏切ることはなかった。

前線で見たボスの射撃能力もそうだが何といってもあの憤怒の炎が他を逸脱していた。

火力もありながらスピードもある。

正直、今回の仕事先は我ながら運がいいのかもしれない。

少し、意外だった出来事もあったけれど。

それが今僕の目の前にいる男、エミーリオだ。

最初に会ったのは、ボスに報告書を提出する為に執務室へ赴いた時だった。

扉を開けると、シェフの恰好をしながらソファに座っているこの男を目にした。

第一印象はただのお抱えのシェフであり、ボスの要望を聞きに来たのだと思った。

 

「あれ?新しい顔だね…新人かい?」

「僕はマーモン。これでも幹部だよ…君はボスの専属シェフってとこかい?」

「当たり!俺はエミーリオ、まぁ専属シェフって何だっけって思うことはたくさんあるけどなー」

「ふぅん…ボス、これ報告書だよ」

「そこに置いておけ」

「じゃあ俺はもう厨房に戻るぞ」

 

男はそう言って執務室を出て行った。

こんな組織でよく笑う男だ、と思った。

彼の印象が変わるのに、それほど時間はかからなかった。

僕は鼻炎持ちであり、日々これに悩まされていて、一層酷かった時期だった。

ティッシュを使い過ぎて鼻の皮は剥げるし、痛いしで機嫌が酷く悪かった。

そんな時にあの男に声を掛けられた。

 

「君……マーモンだっけ…大丈夫?鼻炎持ちなのか?」

「…君かい…悪いけど今僕すごく機嫌が悪いんだ…声かけないでくれるかい?」

「鼻炎に効くものでも作ろうと思ったけど、お節介だったか…」

「…いや、あるなら作ってほしいね」

 

今まで治ったことなんてなかった僕の鼻炎を少しでも抑えることが出来るならと、淡い期待を持って彼についていった。

彼は冷蔵庫から数種類の食材を取り出し、鍋を使って調理し出していく。

たった数分でそれは出来た。

 

「しょうがをベースにした雑炊で、しそやねぎ、魚は鼻炎によく効くんだ」

「そうなのかい?知らなかったよ…」

 

彼が出してきた雑炊を冷ましてから口に入れると、目を見開いた。

 

「美味しい…」

「うん、良かった良かった」

 

初めて食べる味であり、今まで食べた中で一番美味しいと素直に思った。

先ほどまでの最悪な機嫌も吹き飛び、僕は無我夢中でその料理を口に入れる。

胃に全てが入ると、ようやく一息つく。

ふと気づけば、食べている最中一度も鼻を啜らなかったし、さっきよりも断然に鼻の通りがよくなっていた。

 

「鼻炎はアレルギーや花粉が主な理由だけど、食生活も原因の一つなんだ…ハムやソーセージ、インスタント食品、冷たいものとかは鼻炎を悪化させるんだ」

「知らないで食べていたよ…今後気をつけなきゃね」

「またきつくなったらおいで、作ってあげるから」

「それは助かるね…君の名前、もう一度聞いてもいいかい?」

 

「俺はエミーリオ」

 

それから、僕は彼のもとによく訪れるようになった。

そして色んなことが分かった。

まず、彼はここに来る前に居酒屋をしていたことや、ボスの幼少期からここに勤めていてボスとはそれなりに気の許せる仲であること。

たまにボスが拳骨をされているところを目撃してからは、本部でのヒエラルキーがなんとなく分かった気がした。

エミーリオは度がつくほどのお人好しだ。

困っている者がいれば声をかけて、悩んでいる者がいればさり気なく解決していく。

本当に何でこんな人殺しの集団にいるのか全く分からなかった。

ボスにそれとなく聞いてみた。

 

「ボス」

「あ?」

「エミーリオを何故雇ってるんだい?ハッキリ言ってあの性格じゃ戦力にすらならないよ…」

「……あいつはここがそういう場所だと知らん」

「は?」

 

僕の間抜けな声を鼻で一蹴し、ボスはどこかへ行った。

僕はそれが信じられなくて、エミーリオに際どい言葉を加えて話してみたけれど、彼がそれに反応することはなかった。

なるほど、だからエミーリオはボスに対してなんの躊躇もなく拳をあげるのか。

一般人というカテゴリーに入れたエミーリオへの印象を180度変えたのはそれから一年たった頃だった。

 

「なぁ、マーモン」

「どうしたんだいエミーリオ」

 

いつものように鼻炎が悪くなって、彼のところへ避難していると、エミーリオが少し考え込んだ後僕に話しかけた。

 

「そのおしゃぶり…赤ちゃんの間で流行ってるのか?」

「…え?」

「いや、何かここに勤める前俺居酒屋って言ったじゃん?そこでそのおしゃぶり付けた子よく見かけたからさ」

「な!?」

 

一瞬言葉を失うが、直ぐに僕はエミーリオを問いただした。

 

「何か知っているのか!?エミーリオ!このおしゃぶりのことを!」

「え、え?知ってるっていうか、よく見かけるなーくらいに思ってただけだよ…」

「よく見かける?」

「おう」

 

よく見かけるということは、他のアルコバレーノはこいつの店に一度は訪れたことがあるということなのか?

僕は疑問が尽きず、続けざまにエミーリオに質問した。

 

「エミーリオ…そのおしゃぶりのことを教えてくれないか?」

「いや…これ個人情報だし…うーん」

「か、替わりに僕が君に幻術を教えてあげるよ!」

「幻術?何それ」

 

そういえばエミーリオはマフィアのマの字も知らない一般人であることを思い出す。

 

「マジック…のようなものさ、利便性は遥かにいいよ…保障しよう」

「んー…マジックねぇ、どんなものなんだ?」

「例えば…」

 

そういって僕はエミーリオの前に氷柱を出す。

 

「おおおお、え、ナニコレ」

「これが幻術さ」

「え、すげー…これすげー!マーモンこれ教えてくれよ!」

「ならおしゃぶりのことを僕にも話してくれるかい?」

「ああ!おしゃぶりが全部で何種類とか、同じ色がいくつとか俺が今まで見たやつでいいなら」

「お、同じ色だって!?」

「おう」

 

これは予想以上の収穫かもしれない!

最初は死ぬ気の炎からだと思っていたが、意外にも彼は直ぐに霧の炎を灯すことが出来た。

覚悟が彼にあるかは分からなかったが、それなりに幻術を会得したいと思っていたのだろうか。

それから幻術を教え始めた。

エミーリオに幻術を教えながら僕が思ったことは一つだけ。

エミーリオはセンスの塊だ。

僕が彼に幻術の基礎中の基礎を軽く教えてみると、彼は見事に有幻覚という超難易度の幻術を使って見せた。

ありえない。

本人は僕の指示に従っているだけであるにも関わらず1を教えれば10を実行するという化け物っぷりである。

僕は彼の才能の上限を知りたいが為にさらに高等な幻術を教えた。

結果、やり過ぎたのかもしれない。

僕が彼に高難度の幻術を掛けすぎたせいで、幻術の耐性が付くという無茶苦茶のキチガイっぷりを発揮し、幻術を無効化してしまった。

これには僕も開いた口が塞がらなかった。

本人はそれがどれ程おかしいことであるのか、理解しているようには見えなかったが。

彼に幻術を教えた対価として、アルコバレーノに関する情報を貰った。

 

「俺が知ってるのは、おしゃぶりの色は8種類であることと…君の持ってる藍色のおしゃぶりを見るのは君を含めて3度目だ…本当にそれだけかな」

「8…種類?」

「おう」

 

馬鹿な、アルコバレーノは全員で7人…色も7色のハズ。

いや同じ色を持っている者がいることからして、既に僕の持っている情報は大きく違っている。

これは調べなきゃいけないね。

 

「ありがとう、これは大きな一歩だ」

「そっか、それなら良かったけど」

 

それからもエミーリオとの関係は続いた。

ボスが16歳になるという頃に、エミーリオは退職すると言い出した。

元々契約期間が10年だったこともあり、エミーリオはボスの誕生日の少しあとにヴァリアー本部を去った。

 

 

半年後、ボスがクーデターを画策した。

誰もそれに反対することはなく、クーデターを実行したが敢え無く失敗。

ボスはどこかと知れぬ場所に幽閉されてしまった。

ボスのいないヴァリアー内を見渡すと、隊士達には圧倒的に活気がなかった。

スクアーロはボスが必ず帰ってくると信じて疑っていない様子だったけれど。

そういう僕も、あの男はいつか帰ってくるのではないだろうかと心のどこかで思っていた。

にしてもボスのいないヴァリアーは本当に退屈さ。

ふと誰もいなくなった厨房が目に入る。

 

「君がいれば…少しは違う未来だっただろうね」

 

僕は去る者は追わない主義だ。

 

 

 

でも彼だけは…いてほしかったと思ったよ。

 

 

 

 

 

 

 

風side

 

 

 

「風のように強く、涼やかな心を持ってほしいと付けられた名前よ」

 

 

その時の大層微笑んでいた母の言葉を今でも覚えている。

中国の都市から距離の離れた、山と海に近接している村で私は生まれた。

海からの風、山から下りてくる風とがあり、年中強風のような村で育った。

親は共働きで私は小さい頃、よく隣の居酒屋を営んでいた男性に預けられたいた。

その男性はエミーリオ。

私は小さい頃まで彼を本当の兄だと思っていたし、今でも彼を兄のように慕い続けている。

エミーリオは強く、優しい男であり、笑顔を絶やさぬ男だった。

そんな彼の側で育った私は、いつしか彼を敬い、目標にし始めた。

私が5歳になった頃、武道を嗜んでいた彼に弟子入りを願い出た。

彼は少し迷いながらも私の熱意に折れ、承諾してくれた。

エミーリオは懇切丁寧に一から教えてくれて、私は彼を師として敬うようになった。

 

「殴るだけでも当たり所が悪けりゃ人はあっけなく死ぬ、拳は無闇に人に向けていいもんじゃない」

「泣くな風…犬の寿命は人間より短いし、命あるもんはいつか死ぬ」

 

命の大事さを教わった。

エミーリオがありとあらゆるものを教えてくれた。

ああ、私は恵まれ過ぎただろうか、そうに違いない。

なにせこんなに素晴らしい師であり兄でもある彼と出会えたのだから。

ある日私は武道を極めるために旅に出た。

エミーリオも両親も快く送り出してくれたことは有難かった。

それから武道を極め、今では中国一の武道家という称号を手に入れた。

アルコバレーノの呪いを貰い、体が小さくなってしまっても師の言葉を思いだし、自身を奮い立たせた。

我を忘れずにこれからも今まで通りに修行をしていた。

数年後、エミーリオに会うことが叶わぬまま私は死んでしまった。

原因はノントリニセッテとやらであり、アルコバレーノの私には非常に強い毒であった。

体は蝕まれ、苦しく死んでいく最期であった。

エミーリオに一目でも会い、言葉を交わしたかった。

指一つ動かせぬ体になり、死期がすぐそこまで来ていることを悟ると自然と空を眺めた。

 

 

「エミー……リオ……兄さんっ…」

 

 

私はあなたの言う強き者になれたでしょうか。

 

 

その言葉が彼に届くことはなく、私は瞼を閉じた。

 

 

 

不思議な感覚だ。

死んだはずのこの身が蘇るなどと。

ユニが自身の命と引き換えに私たちを生き返らせてくれたことに感謝した。

だがその反面、一人の幼い少女の命を奪ってしまった事実がただただ悲しかった。

ユニが置いて逝った記憶を受け継いだ。

沢田綱吉の功績に感謝しようと思う前に、声が、久しく聞かぬ声が耳に入った。

 

「…風?」

「エミー…リオ、兄さん」

「お、まえ…風、だよな……」

 

そこにいたのは私の師であるエミーリオだった。

エミーリオは目を見開いてこちらへと駆け寄ってきては、私を抱き上げた。

腕に閉じ込められた私はエミーリオへと目線を固定する。

 

変わって…いない…

馬鹿な

 

あれから既に何年も経っているハズであるにも関わらず、エミーリオは皺ひとつ出来ていなかった。

私の子供のころからの記憶と全く違わぬその様子に、私は疑問が脳裏を埋め尽くす。

向こうも、私の現状に首を傾げていた。

 

「何で赤ちゃんに戻って……え…待って」

 

何度も私の頬を軽く抓っては、両手で私の顔を挟んで凝視してはと、私を確かめるべく忙しなく動いていた。

 

「説明しろよ、風」

 

若干戸惑ってはいるものの、口から放たれる言葉に揺るぎはなかった。

この声のエミーリオには言い訳も、嘘も効かないだろう。

私はすぐさま観念して、すべてを話そうと思った。

 

「過去に戻った時に全て話します…」

「分かった」

 

エミーリオは今日本で店を営んでいるようだった。

彼の店の場所を教えてもらい、エミーリオは過去に帰った。

 

それまでの記憶が過去の私に渡ると、私はエミーリオに会うべく日本へ向かった。

そしてエミーリオの言葉通り彼の店に訪れたが、店の看板には店の都合上閉店と書かれていて、エミーリオは不在であった。

また時間をおいて訪れようと思い、その時は一旦中国へ戻った。

そして二週間ほど経ち、また店に行けばエミーリオはちゃんと店にいた。

 

「エミーリオ」

「風!」

「全てを話しにきました…」

 

私の言葉で何を話すのか悟ったエミーリオは店を閉め、私を店の中に入れた。

 

「それで…何でお前が赤ちゃんになってんだ?」

「…数年前の出来事です――――――」

 

私は全てを話した。

アルコバレーノの呪いにかけられてしまったこと。

不老になってしまったことを。

エミーリオは何を言うでもなく、ただ私の言葉を静かに聞いていた。

全てを話し終えると同時に、ずっと疑問であったことを口にする。

 

「エミーリオ兄さん…あなたは何故今もなお変わっていないのです?」

「やっぱ、そうだよね…うん、あのな風」

「…」

「俺、不老不死なんだ……もう何百年も生きてる」

 

その時私は、エミーリオの辛そうな顔を初めて見たし、自分の言葉を後悔したのも初めてだった。

 

不老不死

 

欲の深いものであるならば追い求めるような破滅しかないであろう無謀な夢。

永遠の生と共に永遠の孤独の象徴。

 

そんな呪いにも等しい不老不死をその身に宿しているのだとエミーリオは告げた。

だけれども、エミーリオはエミーリオだ。

私に武というものを教えてくださった師であり、私を育ててくれた兄であり、目指すべき目標。

恐れ戦く理由はない。

忌避する理由はない。

あるのは尊敬に値する親愛のみ。

 

「そうですか」

「…おう」

「それでもエミーリオはエミーリオです…私の兄さんに変わりありません」

 

目を丸くしているエミーリオが少しおかしく見えて、私が笑うと彼は安堵したように息を吐いた。

そしてふと思い出したように告げた言葉に、今度は私が驚愕した。

 

「そういえば赤色のおしゃぶりって風で3人目…かな?結構見た気がするんだけど」

「なっ!?それは本当ですか!?」

「え?おお、お前が生まれる結構前だな…あと気になったんだけどさ」

「?」

「おしゃぶりの色に透明はないのか?」

「⁉」

 

何故それを、と言おうとしても驚きすぎて声が出なかった。

何せ、透明のおしゃぶりのアルコバレーノはつい最近リボーンからの情報で存在を知ったばかりである。

 

「エミーリオ、その透明のおしゃぶりを持つ赤子を見たことがあるのですか!?」

「ああ、そいつ俺の店の常連さんだし」

 

今度こそ開いた口が塞げなかった。

 

「れ、連絡は取れますか?」

「連絡?ああ、多分今忙しいんじゃないかなー」

 

そういってエミーリオは携帯を取り出し、どこかに電話をかけ出した。

数十秒ほど待っていたが、私にはそれがいつになく遅く感じられた。

 

「あー、やっぱり取らねーな…でもまぁまた近いうちにでも店来ると思うぜ」

 

分かってはいたけれど、私は落胆が隠せずにエミーリオは困ったように笑いながら励ましてくれた。

 

それからすぐに代理戦争が始まった。

私はリボーンやマーモンほど呪いを解くことに執着しておらず、呪いについて少しでも手がかりが得られればと、それくらいの心構えで参加していた。

雲雀恭弥に代理を頼み、承諾してもらう。

そして始まった代理戦争は、予想外の方向へと進行していった。

雲雀恭弥の自主敗退、復讐者の参戦、透明色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ、そしてそれらの奇襲など。

既にチーム同士で戦っている場合ではなくなる状況にまで発展していった。

私は沢田綱吉たちの側で護衛をしながら、代理戦争の行方を見守っていた。

だが、エミーリオの説得によるバミューダの自主敗退という誰も予想だにしていない結果で終わった。

私は瞳から涙を零しているエミーリオを見て、胸がツキリと痛んだ。

 

大切な者たちに置いて逝かれる苦しさ

そしてそれを見送ることしか出来ない辛さ

 

孤独であれと呪いにも似た宿命に、私は視線を落とすしか出来なかった。

 

 

そして勝者がリボーンチームとなり、尾道が現れ、それに続きチェッカーフェイスが現れた。

皆殺気立っていたが、チェッカーフェイスの威圧で委縮し出す。

かくいう私も、彼の放った炎圧に当てられ、拳が震える。

チェッカーフェイスがトゥリニセッテの事実を話し、アルコバレーノの世代交代を始めようとした時、沢田綱吉とタルボという人物がトゥリニセッテの自動維持装置を提案した。

バミューダもそれに賛成し、ユニの後押しでチェッカーフェイスが承諾する。

実行するかと思えた時に、チェッカーフェイスが同じ一族のあと一人に同意を求めたいと言い出して、皆一様に警戒しているとチェッカーフェイスは思いもよらぬ人物を指差した。

 

「エミーリオ」

 

その言葉にその場の空気は凍り付く。

エミーリオは記憶喪失であることが分かると同時に、今から過去を思い出させると言い出した。

記憶の共有をするのは4人までと決まり、沢田綱吉、リボーン、ユニ、バミューダが選ばれ、彼らは過去へ精神だけを飛ばした。

急に意識を失った四人に他の者たちが慌てて支え、横にする。

およそ30分ほどした辺りでエミーリオが瞼を開いた。

他の者たちも起き出したものの、沈黙を貫いている。

一体何があったというんだ…

そんな私の疑問も、ユニの記憶の共有化ですぐに消えた。

共有した記憶は惨たらしいものだった。

私は拳を血が滲むほど握りしめた。

こんな過去を思い出した、当のエミーリオは視線を忙しなく動かせていてまるでこちらを警戒しているように見えた。

バミューダの言葉でエミーリオは晴れない表情で店に帰っていくのを、私はただ見ることしか出来なかった。

 

その時、私にはエミーリオの背中が小さく見えた。

 

エミーリオは翌日、姿を眩ませていた。

誰もがショックを隠し切れない様子であり、私も流石に口を開く余裕さえありはしなかった。

だが沢田綱吉の言葉で、皆がエミーリオを探し出し、説得するという道を選んだ。

そんな時にリボーンが私に声を掛けてきた。

 

「おい、風」

「何でしょうか」

「おめーあいつの弟子だろ、あいつの行きそうな場所分かるか?」

「いえ…エミーリオは自分自身のことをあまり他人に語らぬ者でしたから」

「そうか…おめーも無理すんじゃねーぞ」

「ええ、分かっています」

 

皆が各々エミーリオを捜索し出し、その場には私しかいなくなり漸く重い息を吐きだした。

リボーンには見抜かれてしまったかと苦笑した。

私にとってエミーリオは師だが、それ以前に家族でもあった。

だから、彼が私の前から消えてしまったことはかなり堪えたのだ。

ツン、と鼻の奥が熱くなり、少しだけ視界がボヤけだす。

赤子であるこの身になった頃から、どうにも感情制御が難しい。

 

『泣くな風…』

 

鼻を啜り、視線を足元へと落とす。

 

 

「エミーリオ兄さん…」

 

 

 

いつものように頭を撫でてくれるような温かい手はなかった。

 

 

 

 

そろそろ一日が経つという夜中に、エミーリオが見つかった。

海水でびしょ濡れになり、ユニに抱きしめられているエミーリオを見て私はショックのあまり言葉が出てこなかった。

この世に絶望したような瞳をした彼は見るに堪えなかった。

だからこそ、私達が彼を繋ぎ留めなければ。

私はエミーリオの前まで近寄り、彼と目を合わせた。

 

「エミーリオ…あなたは私にとって兄であり、師であり、目指すべき者です」

「風…」

「私はあなたの背中を見て育ち、あなたのような優しい強き者になりたいと思い、あなたを目指してきました」

 

 

 

『エミーリオ、私は強くなりたい……あなたのように』

『俺は強くなんかないよ』

 

 

ならば

私が守りましょう

私が支えましょう

 

 

「だけど今は違います…私はあなたの心の支えとして強くありたい…そう思っています」

 

 

 

ならば私は大切な人を守れるような強き者になりたい。

 

そうありたいのです。

 

 

 




エミーリオ:マーモンによって魔改造されていた。幻術の使いどころはもっぱら店の修理のみである。
マーモン:やらかした。ボスに知られたらぶっ殺されそうなのでお墓に持っていく覚悟である。
ヴァリアー:エミーリオに逆らうべからずが暗黙の了解となっている。一度、レヴィが嫉妬で突撃して夕飯にゲテモノを食わされていた。だが美味しい。
風:偶々視界に入ったお酒の名前から一文字とって名付けられたことを知らない、今後も知らない方が本人の幸せ。
拳:人に向けていいものではない、エミーリオお前もだ。


【挿絵表示】



垣根帝督様からのリクエストです。
もう一つコロネロ視点があったのですが、ぶっちゃけコロネロとエミーリオとの接点が少なすぎて書けませんでした(笑)
他の番外編で出せたら出します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 2

各々のとある日
時間軸は本編後


骸side

 

 

その日は偶々朝早く起きてしまい、暇を持て余していた。

ふむ、他の者たちもまだ起きるには早すぎる…

僕は目が覚めていて、二度寝は無理だと思うと寝床から出て、少し散歩しようかと外へ出た。

いつもの制服姿ではなく、私服のまま歩いていて、帰り際にチョコを買おうとスーパーへ足を寄せた。

 

「骸君?」

 

背後からかけられた声に反応して振り向くと、買い物カゴを持ったエミーリオが目を丸くしていた。

 

「エミーリオ、何故あなたがここに」

「今日の買い出しだよ、これからずっと店開けるからこの時間帯ぐらいしか来れないんだ」

「なるほど」

「そういえばこれからチョコレート類の新作スイーツ作るんだけどうち来るかい?」

「クフフ、いいですよ」

「よしならもう少し待っててくれ、今買い終わるから」

 

そういってエミーリオはレジへ向かい、僕は店の入り口で彼を待っていた。

エミーリオが買い物を終え、店から出てくるのに合わせ僕も彼の隣まで近寄り彼の店までの帰路を歩く。

 

「そういえば何でこんな時間に歩いてたんだ?」

「いつもより早く起きてしまいまして、少し散歩してたんですよ」

「健康的じゃねぇか」

 

何気ない会話を続け、彼の店に入ると彼は直ぐに厨房へと入っていく。

少し厨房が気になり、中を覗くとエミーリオが僕に気付く。

 

「気になるのか?」

「ええ、少しは」

「なら一緒に作ってみるか?大体1時間くらいで出来上がるけど」

「…偶には僕も料理してみましょうか」

 

ただの気まぐれで厨房に完全に入った僕に、エミーリオは満足げにエプロンを渡してくる。

それを着用し、まな板の前に佇む。

 

「この前チョコレートがとっても美味しかった店見つけてな、そこと取引始めたんだよ」

「へぇ…」

「んじゃ骸君、君はこの板チョコを刻んでくれ」

「分かりました」

「つまみ食いすんなよー」

「しませんよ」

 

僕はチョコを刻み続けていると、隣でエミーリオが生クリームを温め始める。

 

「あ、骸君それもう大丈夫」

「はい」

「それとこのホワイトチョコも刻んでくれ」

 

次にホワイトチョコを渡され今度はそれを刻み始める。

包丁を長く持つのは初めてで少し苦戦するが、段々とコツを掴んでいくと慣れてきて刻むスピードを上げる。

さきほどの刻んだミルクチョコを温めた生クリームに入れかき混ぜ始めるエミーリオを横目で見ては、自分の作業に戻る。

 

「おお、骸君早いね…料理のセンスあるんじゃない?」

「お世辞はいいですよ、次は何をやれば?」

「本当なんだけどなー…えっと次はそこの冷蔵庫に入ってる生クリームをそこの鍋使って沸騰直前まで温めてくれ」

「クフフ、貴方だけですよ、僕をここまでこき使えるのは」

「共同作業なだけだろー」

 

生クリームとチョコを混ぜ合わせた後に、卵を入れる。

それも混ぜ終えると昨夜作り終えていたタルト生地に流し始める。

 

「よし、ミルクチョコの方はこれでおっけーっと…骸君そっちも大丈夫?」

「ええ、出来ましたよ」

「おっけー」

 

エミーリオがオーブンを操作し、170度で20分焼き始めた。

 

「あとは20分待って、粗熱を取って、冷蔵庫で冷やして…うん大体一時間くらいで出来上がるな」

 

そういって冷蔵庫からジュースを持ってきては、カウンターの方で開けてグラスに注ぎこむ。

 

「20分は暇だし、時間潰そうぜ」

「クフフ、いいですよ」

「これはパイナップルのサワードリンク」

「何故僕の頭を見ながら言うんです?殺しますよ」

 

本当に、あなたじゃなければ直ぐにでも槍を出して殺しているところだ。

渡されたそれを口に含めば、パイナップルの甘い香りと炭酸の気泡がが口に広がる。

不覚にも美味しいと、思ってしまうのだ。

 

「どう?最近は」

「どうもこうも、変わったことなどありません」

「えー、凪ちゃんと何もないの?」

「何故そこでクロームが出てくるのです、あの子とはそういう関係ではありません」

「え、マジ?」

 

どうやらこの阿呆は僕とクロームが恋仲であると勘違いしていたようだ。

クロームは僕の半身であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 

「そっかぁ、そういうんじゃなかったのかぁ…」

「フン、D・スペードとエレナを僕たちにでも重ねていましたか?」

 

そう口にした瞬間に、僕は我に返り激しく後悔した。

エミーリオは僕の言葉に一瞬遠い目をすると、苦笑していた。

ごめんな、と言われているようで気持ち悪くなった。

故人を思い返すくらいなら、いっそ幻術で記憶を消してしまおうかと…本気で考えてしまう。

 

僕を…僕を見てください、エミーリオ

 

 

「骸君は骸君だろ…あいつとは違うよ」

「大丈夫、見間違いなんかしないよ」

 

そう笑って僕の頭を乱暴に撫でまわした。

さきほどまで巣くっていた黒い感情が吹き飛んでいった。

 

「子ども扱いしないで下さい」

「つってもお前まだ子供じゃん」

「うるさいですよ」

 

頭に置かれている手をどけようかとも思ったが、もう少しだけこのままでもいいかと思い、目を閉じた。

 

ピーピーピー

 

ウトウトとしていると、オーブンの機械音でハッと瞼を開ける。

 

「あ、出来上がったみたいだ…んじゃ取り出し作業するか」

「え、ええ…」

 

エミーリオはそのまま厨房に入り、僕は少しの間カウンター席に呆然と座っていた。

そして直ぐに自分の身に起こったことを理解すると、顔全体に血が巡る。

 

僕が他人のすぐ隣で本当に眠りそうだったなんてっ!

 

自身の醜態に顔を覆う。

いくら気を許していた相手であろうと、無防備な姿を晒してしまったという事実に羞恥する。

 

「おーい、骸君?やらないのー?」

「…っ、今行きます」

 

ああ、エミーリオの隣は調子が狂う。

 

「あれ?何で顔赤いの?風邪?」

「何でもありませんっ」

「つかこれ見ろよ、すげー綺麗に出来上がってる」

「…」

「半分は持って帰りなよ」

「そう、します…」

 

帰ったらクローム達にも分けてあげましょうか…

 

 

僕は冷蔵庫を開けて、涼しい風を顔に浴びせた。

 

 

 

 

スクアーロside

 

 

「スクアーロ隊長!ボスがまたっ」

「う"ぉぉおおおい!またかあ"ぁぁあああ!」

 

俺の一日は、隊士達からの悲鳴で始まる。

毎朝数名の隊士がザンザスの執務室から吹き飛ばされ重傷を負っている現実に俺は頭が痛くなっていく。

ズカズカと大股でヴァリアー本部を歩き、ザンザスのいる執務室の扉を力任せに開ける。

 

「う"ぉぉぉおいい!このクソボス!何回隊士たちをぶっ飛ばせば気が済むんだああああ!」

「るっせぇ!カス鮫‼」

 

執務室に入った瞬間に酒瓶が脳天にぶち当たるが、そんなもの日常茶飯事だとそのまま酒まみれのままザンザスに近寄る。

 

「毎日毎日、何が不満ってんだぁ!」

「……ぃ」

「あ"?」

「飯がまじぃんだよ‼」

 

そういうなり俺の顔面にザンザスの憤怒の炎が直撃し、俺の意識はここで途切れた。

再び意識を取り戻したのはすぐで、頭を掻きながら起き上がる。

既に誰かに運ばれたのか幹部の集まる会議室に放置されていた。

 

「あ"ーちくしょう…いてぇ」

「アハハ、ほんと毎朝よくやるねー」

「スクちゃんったら毎回貴方運ぶの誰だと思ってんのよ」

 

ルッスーリアとベルが俺が起きたのに気づくと声を掛けてきた。

 

「あんのクソボスめ…飯が不味いからってこれ以上被害出せるかってんだ!」

 

俺は力一杯壁を殴りつける。

 

 

「エミーリオにご飯を作ってもらったらどうだい」

 

その提案は当時、神の存在を信じない俺にさえ神託にすら聞こえた。

当の発言をしたマーモンは後日、幹部全員から胴上げされることを予想だにしていなかった。

 

とまぁそういうわけで、俺は今日本の並盛に訪れていた。

しかもベルとマーモンも連れてだ。

何故かあいつらは自分からついていくと言い出して、ヴァリアーの個人用ジェット機に乗り込んできた。

そして現在、エミーリオの奴の店の前にいるわけだが。

マーモンが先ほどから髪の毛を弄っているが、外見を気遣うほどこいつとあいつは初々しい関係だっただろうか。

あとベル、お前さっきから何ソワソワしてんだ…

一体こいつらとエミーリオの間に何があったんだと思いながらも、店の扉を開く。

 

「いらっしゃい」

「う"ぉぉおおい!エミーリオぉぉお!久しぶりだなぁぁああああ!」

「あれ、スクアーロじゃん…それにベルにマーモン」

「やぁエミーリオ」

「おっひさー」

 

店を見渡すと、客も疎らでこれなら直ぐにいなくなると考え、エミーリオから隠れた位置で扉に下げられているオープンの看板をひっくり返してクローズにする。

全ての客が帰り、俺達だけになったところで本題を挙げる。

 

「う"ぉ"ぉおい、おめぇヴァリアーに再就職しやがれぇ!」

「え、ヤダ」

「「え」」

「あ"あ"!?」

 

即答するこいつに皆一様に反応した。

 

「いや俺個人経営が一番性に合ってるし」

「シシ、スクアーロ振られてやんのー」

「るせぇぞ!ベル!」

 

何とかしてこいつをヴァリアーに、いや、ザンザスの専属シェフに再就職させねーと。

金で釣られるような奴でもねーし…やっぱりイタリアに無理にでも連れていくしか…

 

「エミーリオ…僕鼻炎がまた酷くなってて…君の料理が必要なんだ…」

 

マーモンがこれでもかというほど、泣きそうな勢いで懇願し出す。

それに続いてベルまでもがエミーリオに手を合わせてお願いし出す。

 

「エミーリオの飯が美味すぎてさ!他の奴の作った料理じゃ物足りねーの…ダメ?」

「ええー……でもなぁ」

 

エミーリオは暫く考え込み、ハッとしたように何かに閃いたような顔をした。

 

「デリバリーすればいいんじゃね?」

「「「え?」」」

「ほら、俺ワープ使えるし…食事頃にそっちに飯持ってけばいいんだろ?」

「「「あ」」」

「ちゃんと人件費上乗せするからな」

 

まさに妙案だった。

かくして、エミーリオの店の裏オプションにデリバリーが誕生した。

 

 

「ザンザス、お前野菜もちゃんと食えよ」

「てめぇ…何でいやがんだ」

「スクアーロがお前の好き嫌いに疲労困憊なんだよ、もっと部下を労れアホ」

 

日本にいるはずのエミーリオがいきなりボスの執務室に料理片手に入ってきて、料理を机の上に置いてはボス説教を始めた。

当のザンザスは急に現れたエミーリオに驚いている様子だった。

スクアーロはその様子を扉越しで覗いていた。

 

「あのなぁ、スクアーロから聞いたんだが手間暇かけて作ってるんだから料理を捨てるような行為はあんまり良くねーぞ」

「けっ、くだらねぇ」

「あーもう、親父と仲違いしたか分かんねーけど、性格捻くれまくりやがって…」

「カっ消す」

「銃を仕舞え、この馬鹿もん」

 

エミーリオの拳が凄まじい速さでザンザスの頭目掛けて放たれ、まともに食らったザンザスは痛みのあまりに悶絶している。

それを見ていたスクアーロの横でベルが冷や汗を垂らしていた。

 

「うわあ…ボスのこと殴れるエミーリオって最強じゃん…」

「だから言っただろぉ"、あいつは唯一ボスを叱れる奴だってなぁ"」

「しかもボスの地雷踏み抜いた上であれでしょ?やべぇ」

「ボスの機嫌が手が付けられなくなるほど悪くなったら、取りあえずエミーリオに丸投げしとけぇ、直ぐに収まる」

「シシ、まるでお目付け役じゃん」

「もはやあいつが父親でも違和感ねーぞぉ"」

 

不満たらたらな顔のままエミーリオと口喧嘩をしている様子を見て俺は目を細めた。

あのザンザスが、まるで親父に叱られているような息子にしか見えねぇ。

ザンザスの時間は16の時から8年間止まり、最近になって漸く動き出した。

だから俺達よりもまだ大人になり切れていない部分がある。

ある意味、時間の流れがないエミーリオの側はあいつにとって一種の逃げ場でもあるのかもしれねぇ。

8年は、少し…長すぎたからなぁ"

俺たちにとってエミーリオは何だかんだあっては最後に逃げ込む場所だった。

だがエミーリオがヴァリアーから去り、奴に会わないうちに色々起こり、自力で生きて、自立して今がある。

だがザンザスがどうだ、あいつは8年という年月ずっと眠り続けていた。

あいつにとってエミーリオが去ってからたったの半年ほどしか経ってない感覚だ。

だからまだ、エミーリオを逃げ場として認識してる。

それが悪いことだとは思ってねぇ…

あの性格が捻くれまくってるザンザスに、エミーリオはまさに特効薬みたいなもんだしなぁ"。

ザンザスは気付いてるか知らねーけどな。

 

 

「野菜食えっていってんだろ!ガキかお前は!」

「るっせぇ!俺に命令すんじゃねぇ!カス!」

「口悪いんだよ‼」

 

 

ゴッ、と再び鈍い音が聞こえ俺は声を忍ばせて笑った。

 

 

 

 

バミューダside

 

「今日も、維持装置は作動しているな」

 

その言葉から僕の一日は始まる。

まず起きると、維持装置を確かめる。

その後に身支度をして、牢獄の様子を確かめる。

代理戦争時にたくさんの復讐者が減り、今や両手で数えられるほどしかいなくなってしまい、少人数で掟を犯したマフィア達を閉じ込めている牢獄を監視している。

本当は牢獄の監視はやめてもよかったが、やはり何らかの抑止力がなければという話になり、復讐者のいなくなった今でも牢獄はあり続けている。

復讐の為だけに生きていたのにいきなり生きる目的を失った復讐者たちは狼狽えていた。

死に体で生き永らえながら牢獄を監視するなどただの慈善活動となんら変わりないじゃないかと匙を投げだす者もいないわけではなかった。

潔く炎の供給を止めて、楽になりたいと告げた者もいた。

だがイェーガー君は今後どのようにしたいかと僕に問うてきたことがあり、僕はただ友人の側でトゥリニテッセを守り続けると告げた。

暫く考え込み、何を思ったのかそのまま僕についていくと言い出したイェーガー君に当初は困惑したが、今となっては貴重な働き手である。

ただ彼も最近になって、エミーリオの偏見のない目を気に入ったのか彼の店に訪れるようになっていた。

イェーガー君を見ては目を丸くしたエミーリオは、そっと新しい包帯を彼に渡し、イェーガーはいたく感動していたのは最近の話である。

今日も僕は彼の店に挨拶をと顔を出す。

 

「エミーリオ」

「あ、バミューダおはようさん」

「ああ、おはよう…もう仕込みは終わったのか?」

「今終わったところだ」

 

たまに彼の手伝いとして、皿洗いや皿を並べたりする。

エミーリオはいつも一人でこれをしているのかと思うと気が遠くなりそうだ。

 

「エミーリオ」

「ん?」

「何故バイトなどを雇わないんだ?一人ではきつくないか?」

「いや別に…俺料理してて疲労感なんて感じたことないから」

「そうか、でも辛くなったら言ってくれ…いつでも手伝おう」

「そりゃ頼もしい、でも今は本当に大丈夫だ」

 

エミーリオは笑ってそう言い、僕もエミーリオが大丈夫ならとあまり気にしなかった。

手伝いを終えると、また牢獄の監視に戻ろうと思い店を離れる。

トゥリニテッセの維持装置は最も監視の厳しい場所で保管している。

今日も数名が牢獄に入れられ、悲鳴やうめき声があちらこちらから聞こえてくる。

 

「バミューダ」

「どうしたんだいイェーガー」

「エミーリオはどうしていた…?」

「いつも通りさ、今度夜にでも彼の店に行こうか?」

「そうだな…ほかの者も連れて行ってはどうだ…」

「それもそうだ、考えておこう」

 

イェ―ガー君は他の者たちの様子をよく見ている。

復讐の無くなった彼らが機械のように生き甲斐もなく過ごしているのが見るに堪えないようだ。

エミーリオとの出会いで彼らに活気づくのを期待するしかないのだろうか。

僕は思い溜息を吐きながら維持装置を眺めた。

夜になり、そろそろエミーリオの店が閉まる時間帯だと思い、もう一度彼の店に顔を出す。

そこでは既にラストオーダーが終ったのか、店仕舞いをしているエミーリオがいた。

 

「やぁエミーリオ」

「バミューダ?これから飲みに来たのか?」

「いや単に君の様子が気になって来てみただけだよ」

「そっか」

「もうすることは終わりか?」

「いや、これからまた明日の準備があるからな…別に急ぎではないぜ」

 

その時僕には疑問が浮かんだ。

 

「エミーリオ、君一体いつ寝てるのだ?」

 

一人だけで店を経営して、なおかつ朝からこんな夜中までしている。

仕込み時間も考えると、寝る時間の確保はどうしているのか疑問に思った。

 

「え?いや寝てないけど」

「は?」

「あ、いや、寝てるときは寝てんぞ……暇になれば…」

「エミーリオ、少し話そうか」

「え、ちょ…今から片付けが…」

「エミーリオ」

「アッハイ」

 

この馬鹿は、寝る時間すら削ってまで店を開いていただと?

いや、それに気付かなかった僕も僕だけど…

彼には睡眠を必要としないのは分かっているが、疲労しないわけではない。

睡眠とは体力回復もあるが、記憶の処理、思考能力の回復も含まれている。

こんな生活を続けていたらいつかはどこかで倒れてしまうと心配した。

それからエミーリオに睡眠がどれほど大事かを事細かく教え、営業時間を少し減らすことを約束させた。

そして眠るのを忘れてそのまま活動する姿がちらほらと見受けられ、ちゃんと眠っているのかを交代制で監視することにしたのは直ぐ先のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

白蘭side

 

 

ピピピピピピ

 

 

目覚ましが鳴り、僕は瞼を開ける。

背伸びをしてベッドから起き上がり、顔を洗ったら部屋を出る。

 

「おはようございます白蘭様、朝食のご用意が出来ています」

「おはよう桔梗」

 

桔梗の言葉に頷いて、僕は朝食を食べだす。

すると桔梗の持っていた携帯が鳴り、少し僕から離れて電話を取る。

 

「――――ああ、分かった」

 

ピ、と通話を切った後に僕の方に戻ってきた。

 

「白蘭様、今しがた技術開発局の者たちから報告が」

「んー?」

「昨日打ち上げられた人工衛星が漸く安定し、搭載システムが全て使用出来るとのことです」

「やっとか、じゃあそれPCに繋げてくれる?」

「は、かしこまりました」

 

桔梗はPCを用意し、ディスプレイを僕の前に移動させた。

 

「例の件は?」

「既に完了しています」

「そう、ご苦労さん」

「いえ」

 

例の件とは、今僕が開いた画面に表示されている地図と赤い点のことだ。

 

「GPSはどれに付けたの?」

「彼の携帯、店の至る場所、また彼がよく着用している服装に防水性のものを縫い付けています」

「それじゃぁ心配ないかな」

「色で分けられており、携帯に付けているものが赤色となっています」

「監視カメラまでは流石にしないけど、これくらいならまぁ許容範囲だよね」

「ええ、そうですね」

 

恐らく監視カメラを設置すると、バミューダ辺りが気付いて壊しちゃうだろうからね。

桔梗の同意も聞けたことだし、僕は画面を確認する。

地図は並盛を映していて、赤い点は彼の店に留まっている。

 

「人工衛星の監視カメラの方も精度が上がり、人間も追跡できますが使用なされましょうか?」

「んー、じゃお願いしようかな、並盛外に出たら報告して」

「了解しました、エンターキーで位置情報は更新されます」

「分かったよ」

 

時間からして店が一番混んでる時間帯かな?

ああ、イタリアと日本は遠いなぁ…

 

「ねぇ桔梗」

「は、どうされましたか」

「今度、日本支部の改築作業あったよね」

「はい」

「んじゃ日本支部の中に、僕の部屋と、もう一つ大きな客室を追加しといてくれない?」

「了解しました、今手配します」

「よろしく」

 

桔梗は僕の部屋を出ていき、それを見送った僕は再び画面を見てエンターキーを押した。

 

 

 

朝の内は、資金の流れを確認して、部下の動きを確認するだけで終わる。

うん、明日数名をボンゴレに派遣して…

資料を見ながら頭の中で思考を巡らせていると、携帯の方に通知が来る。

直ぐに位置を確認すれば、彼がイタリアのヴァリアー本部にいた。

ワープで移動したのか…にしても何でヴァリアーに…ザンザス君か。

これなら時間がかかってもいいから盗聴機能も付けておくべきだったかな。

赤い点は数分で日本に戻り、また店の位置で点滅していた。

 

 

夜になり、お風呂に入った後髪の毛を乾かしていると携帯の方に通知が来る。

どうやら彼が並盛の外へ行ったようだ。

赤い点は隣町のスーパーに向かって進んでいた。

ああ、そうかもう彼の店は閉店の時間だ、多分買い出しに行ったんだろうね。

携帯の方をよく見ると、通知が夕方にもあり、場所はイタリアのヴァリアー本部になっていた。

昼と夕方にも彼らのところへ顔を出してるなんて…

 

「ふーん?」

 

僕は携帯で登録先を表示し、彼に電話を掛ける。

コールが数回鳴った後に、通話が繋がる。

 

『もしもし』

「あ、エミーリオ」

『白蘭か、どうかしたか?』

「通話相手の表示はちゃんと確認しなよ」

『バミューダにも同じこと言われたわ、んで何かあったかー?』

「今度日本に行く予定あるんだけど、その日にエミーリオの店予約したいんだ」

『おっけー、いつだ』

「今度の――――…」

 

会話は進み、数分ほどした辺りでエミーリオが店に着いたから切ると言い出す。

 

「うん、じゃあまたね…日本に行ったときに色々話そう」

『そうだな、またなー』

「うん、またね」

 

そう言って通話を切り、僕は欠伸をした。

そろそろ寝ようかなぁ…

 

そして僕は開いたPCのエンターキーを押す。

そのあとにPCの電源を切り寝室へと向かった。

 

 




・エミーリオは骸とDの違いが若干ついてない。どっちもナッポーで覚えてた。
あ、あっぶねー…これから間違いないようにしておこう、オッドアイが二代目ナッポーだなーと見分けを付け始める。
「大丈夫、(これからは)見間違いなんかしないよ」

・エミーリオの店の裏オプション:デリバリー
→後にバミューダにバレて、(元)復讐者がデリバリーを手伝いだす。

・エミーリオがイェーガーに包帯を渡した。
→イェーガーの顔がくっそ怖くて、これで隠していてくださいお願いしますの意味で渡した。

・エミーリオの睡眠時間
→必要ではない、ただ精神的疲労を取り除くのに最も効率が良いだけである。眠気はないが寝ようと思えば寝られる。これからも睡眠を忘れてバミューダの胃を攻めていく。

・人工衛星
→ミルフィオーレの最先端技術で作り出された人工衛星、特定の人物の位置情報がリアルタイムで見れる。


エミーリオは逃げられない。


【挿絵表示】

西藤 奨悟様、はっぴーさん様のリクエストです。
リクエストありがとうございます♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 3

エミーリオは絶望する。


「さよなら、エミーリオ」

 

最期に見えたのは、瘦せこけた彼女のか細い笑みだった。

荒波に飲まれ、息が出来ずにもがき苦しみながら意識は深淵に落ちていった。

 

 

 

「……う」

 

瞼に突き刺さる日差しに意識が覚醒する。

次に、倦怠感と寒気が襲う。

緩やかな動きで起き上がり、海水に浸かっている下半身に眉を顰めながら立ち上がる。

ふらりふらりと覚束ない足取りで海辺から離れる。

 

「ごほっ…」

 

ただ何も考えずに無意識に歩いていて、我に返る。

そして思い出した、否、思い出してしまった。

裏切りを、仕打ちを…すべてを。

 

 

「あ……ぁ…あ"あ"ぁぁぁあああああああっ」

 

 

急に息が喉に詰まり、胸が苦しくなる。

その場に膝から崩れ落ち(うずくま)る。

体が震えだし、指は凍ったように動かない。

目からはただ涙が溢れるばかりで、口から出るのは掠れた吐息のみ。

 

 

何だこれは何だこれは何だこれは何だこれは

 

 

恐怖 苦痛、絶望、憎悪

 

どれもエミーリオには初めての感情であり困惑する。

どれほど経っただろうか、数日もその場で(うずくま)り続けていた。

 

すると耳に、さざ波と虫、風以外の声が入った。

 

「――――…――――…?」

 

それは近づいてくる。

砂を踏む音が耳のそばまで来た瞬間、何かが自身の肩に触れた。

刹那、心臓の底から冷水を被せられたような悪感に襲われ叫ぼうとした。

だが恐怖の為か、震える喉から零れだすは空気のみであり、どうしていいか分からずに瞼をキツく閉じる。

 

「―――――――――――っ!」

 

 

消えろ 消えろ 消えろ 消えろ

 

何かが俺の中で弾けた。

その感覚に瞼を全開に開き、涙が瞳から散る。

 

「■■■■■っ!■■■■■■■■‼」

 

何かの悲鳴とも取れる、声にならない音が耳に入ると同時に、焦げ付いた匂いが鼻についた。

直ぐに視線を横へと移せば、そこには何かの生き物だったであろう肉片の焦げた残骸が無残に残されていた。

 

「……あ…?な、……」

 

これは何だ。

この黒くて焦げ臭いものはなんだ。

 

「ヒ……ト…」

 

これはヒトだったものだ。

 

『ヒトは…脆いな……』

 

「う……ぅ……ぅぁぁああああああああああっ」

 

 

初めてヒトを殺め、俺は涙した。

 

 

数日間、黒い焦げたヒトであったものの側から動くことが出来なかった。

既に涙は枯れ、潮風に吹かれ続けた髪はパサパサになり、俺はただ蹲っていた。

 

「………帰、る……」

 

家族の元へ…安全な家族の元へ…

 

一筋の希望が見え、俺は我武者羅に家族を探した。

ヒトとは異なり、一族の生命エネルギーは一目で分かるほど逸脱している。

だからすぐに見つけて、二度と離れないように―――――……

数日たった頃、(ようや)く家族の気配を見つけ、そちらへ向かう。

森の中の洞窟に潜り、生命エネルギーを元に家族がいるであろう場所へと向かっていった。

漸く家族の後ろ姿を目にし、ホッと安心した。

そして手を伸ばそうとした時だった。

 

 

「エミーリオは見つかったのか?」

 

手を伸ばしきることはなく、それは空中をさ迷った。

 

「いいや…どこにも」

「くそっ……あいつは一体どこをほっつき歩いているんだ!」

「やはり、人間に現を抜かしたのでは…」

「だがセピラは、あいつが人間を見極めに行くと…」

「なら何故100年以上も帰ってこないんだ!現を抜かして我が一族の使命も忘れヒトと遊び惚けているのではないのか!?」

「おい、エミーリオがそんな奴ではないことくらい分かっているだろう…」

「ならば何をしているんだ!誰も奴の行先も知らぬ!あいつは帰って来ぬ!」

「もう少し待とう…」

「ふざけるな!もう7人になってしまったのだぞ!これ以上あいつを待っていられるか!俺は俺の決めた道を進む!」

「おい!待てっ」

 

乱雑な足音が遠ざかっていくのをどこか夢のように感じていた。

安全な場所であると……信頼できる場所であると信じていたソレにひび割れる音がした。

残された者たちは一様に黙り込み、俯いていた。

 

「私も…自分の決めた道を行く……これ以上エミーリオを待つのは、無理だ…」

「だがエミーリオは必ず戻ってくるっ」

「必ずって保障はないだろ……もう何年待ってたと思ってんだ……もう待ちきれないよ」

「お前も…エミーリオがヒトに紛れて、私たちの前から消えてしまったと……思ってるんじゃないのか?」

「いや、そんな……エミーリオに限ってそんなハズは…」

「俺たちは待ってるだけじゃ滅びるだけだ」

 

何人もの遠ざかる足音が聞こえ、俺は足が縫い付けられたかのようにその場にただ静かに立っていた。

 

 

安全な場所……安全な場所へ…

 

 

そこからの記憶はひどく朧気だった。

ただただ縋るように誰もいない場所を探し求めた。

心が求めるままに黒い炎は己を包み、世界を変え続ける。

そして、探し求めたそこは一面真っ白な世界だった。

口から洩れるのは白い息で、辺りにはヒトはおろか生物すらいないただ真っ白な雪と氷しかなかった。

裸足である己の足の裏に冷たさが刺さるのも気にせず空を仰ぎ見た。

 

そこにあるのは青い 青い 空

 

美しかった

 

 

「……星よ…お前はいつだって………美しいなぁ…」

 

 

何かが胸の内側から込み上げてくる。

 

「は…はは……ははははははは…っ…あはははははははははは」

 

可笑しく思えた。

人間の醜さも

一族の愚かさも

 

「あはははははは……は…はっ…ぁ……あ…は…」

 

友人も家族も全てを失った。

 

「あ…あ、ぁ……ふっ……ふぅ……う"っ…」

 

違う 最初からなかったんだ…

 

全部 全部 全部

 

「うぁ"ぁ"あああああああああああああっ」

 

真っ白で空っぽの この美しい景色のように

 

俺には何もない

 

あるのは 紛い物の心と体

 

 

「…いらない……ぜんぶ…いらない…」

 

 

全ては無に帰す。

 

一歩ずつ踏み出した足は、まさにあの瞬間と重なった。

新たに生まれ変わる個を、星はただ見守り続けた。

 

 

瞳から零れるハズの涙は、凍って空へと散った。

 

 

 

 

 

 

あれから数百年という時が経った。

俺はずっとこの真っ白な氷の世界でただ氷河を眺めていた。

星は何も言わず、何も魅せてはくれなかった。

でも、それでもいいと…ただこの星の終わり逝くその時までそこにいようと思っていたんだ。

なのに…

 

 

『あれは人でしょうか!?この絶対零度である-273℃の氷河地帯に人影のようなものが見えます!』

『おい!早く回せ!逃げられる前にカメラに収めて、大スクープにするぞ!』

『にしても微動だに動かないな…死体か?いやまずこんな死地に誰も来れるはずがない』

『ええ、今我々は人が入ることが出来ないと言われている、氷の世界の区域に上空から――――――』

 

ああ うるさいなぁ

 

『人影のようなものがっ…おい、動いた、動いたぞ!生きてる!み、皆さん、今氷の世界での居住者を発見し――』

 

消えろ 

 

『な、なんだ!ヘリがいきなり燃えてっ―――うわあああああああああ!』

 

消えろ

 

『やめっ、嫌だ!熱い!あ"あ"ああああああああああ』

 

 

「人間なんて…消えてしまえ…」

 

 

俺は右手を上げ、空を飛び交う物体を炎で包み込み、それは灰と化した。

その日、異色を放つ生命体に世界が震撼した。

 

 

あの日を境に、各国は氷の世界に軍用機を数台投入し、謎の生命体を捕えようと躍起になった。

だが氷の世界へ向かった兵士が誰一人として帰ってくることはなかった。

事態を重く見た各国の政府が他国と同盟を組み、世界連盟軍を結成し生命体の捕縛を試みた。

だが数百をもあるジェット機を、軍用ヘリを、ミサイルを一瞬で灰に還した。

ある国が恐れ戦き、独断で原子爆弾を氷の世界へと放った。

結果、原子爆弾が被弾する直後、炎のようなものが辺り一面を包み込み原子爆弾はその炎のようなものに触れた瞬間に灰となった。

これには各国もお手上げ状態となり、生命体には近づかないという結論を出した。

だがこれだけでは終わらなかった。

生命体が人類の居住区へと動き出したのだ。

政府は焦り、人類が終るという予見さえ出た。

生命体に対して興味津々になっていたマスコミは、生命体を捕まえられない政府の無能さを叩いていたにも関わらず、生命体が動き出してから政府に対し対処を間違えたなどと責任追及をして叩き出す始末である。

世界は恐れ戦いた。

未だ見ぬ生命体に。

最古の、最強の生命体に。

軍事力を保持していた大国はすぐさま自国の防衛に力を入れ、生命体の捕縛を捨て、生命体の抹殺を企てた。

数国の同盟を組みながら挑んだが、無残にも敗北。

生命体に攻撃が届くまでにすべてが炎に包まれ灰と化す。

科学者たちも、何故氷の世界と呼ばれるほどの絶対零度である地域で超高温の炎が持続しているのかが理解できず匙を投げだした。

人類は手を合わせ神に祈ったが、救える神は存在してはいなかった。

一つ、一つと国が亡びる。

そんな時、各国で少数の組織が名乗りを上げた。

それは普段ならば一般市民から忌避され、糾弾されるであろう存在のマフィア組織であった。

彼らはこう語った。

あの生命体が放っているものは、「死ぬ気の炎」という人間の生体エネルギーを圧縮し視認できるようにしたものであると。

訓練を受けた者や、価値観が大きく変わるような経験、決意など精神・肉体を追い込むことで人間の生存本能で発現することがあるということも。

現在、死ぬ気の炎を発現出来るのは僅かである上、謎の生命体の炎の含有量が人間の数千倍であると推測しているらしい。

そして、あの人型の生命体は人間なのか。

各政府、また各国のマフィアが出した答えはNOである。

人間の範疇を超えた存在として発表した。

神への信仰深い国では、あの生命体を神として崇めるところさえ出てきた。

そして生命体の進行は留まることを知らず、今もなお一つ一つと国が滅ぼされている。

先に攻撃してしまったのは人類であり、まさに今、人類は自業自得で滅亡へと向かっている。

どの国でも避難民が出るほどだが、生命体の瞬間移動の使用が確認されてから再び世界は困惑と恐怖のどん底に落とされた。

誰もが死を悟ったのだ。

いつ来るか分からぬ死に怯え、逃げ出し、ふさぎ込み、理性を手放した。

まさに世界は世紀末を迎えたのだ。

誰がこんな終わりを予想しただろうか。

誰がこんな終わりを望んだだろうか。

 

また今日も国が一つ滅び、海に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『何が目的でこんなことをしてるんだ!』

 

うるさいなぁ

 

『やめろ!これ以上俺達人間を殺すな!』

 

黙れ

 

『もう関わらないから!頼むから怒りを沈めてくれ!』

 

聞きたくない

 

『お前のような奴に仲間は殺させない! XX BURNER(ダブルイクスバーナー)‼』

 

 

 

気が付けば赤い海の上に立っていた。

 

ああ、一体…俺は何をしていたんだっけ……

そうか、人間を消してたんだ。

うるさくて、うるさくて、耳を塞いでも聞こえてくる彼らの雑音がイヤで消したんだ。

一つの種族が消えるだけでこんなに静かになるのか…

俺はまた氷の世界に帰っていった。

一人、誰かが俺の前に現れた。

見た感じヒトではないけれど、誰だろう。

 

 

 

「エミーリオ」

 

誰だっけ……それ…どこかで聞いたことがある気がする

 

「エミー…リオ」

 

ああ、思い出した…俺の名前だ…ずっと昔に捨てた俺の、なまえ…

 

「エ………-オ……」

 

「ああ、思い出した…君、シェリックだ……久しぶり、シェリック」

 

俺は彼の顔を両手で優しく包み込み、微笑んだ。

そうだ、初めて会ったのが彼だったんだ。

俺が名付けた…初めての……初めての……――――――

 

初めての何だっけ……

 

「ごめんね、もう君のことを忘れてしまった」

 

 

その場に彼の首を置いて、俺は再び歩き出した。

 

最近、星に亀裂が出来ている。

何故だろう…

このままでは星が死んでしまう。

 

 

『守らねば』

 

 

あれから数千年という年月が経った。

星を守り続けているハズなのに、星は太陽から地上を雲で覆い隠し、雨を降らせている。

ずっと雨が続いている…

このままでは辺り一面が海になってしまう

俺は炎で海の水を減らし続ける

 

だが雨は止まない

 

 

星よ、何故雨を降らす…

 

「もう…十分…降っているぞ……」

 

 

 

 

それはまるで涙のようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていう夢を見たんだけど…ってあれ?ちょ、何で皆泣いてんの!?」

 

「エミ"-リオの馬鹿ぁ"ぁぁぁぁあああ!」

「待て、白蘭待て、何で泣いてんだ、夢だから!これ夢だから!」

「エ"、エミ"-リオ"……何でっ、ぅー」

「バミューダお前もか!これ夢だから!本当にないから!」

「エミーリオ…俺もちょっと…これ、は…う"っ」

「た、武!隼人に綱吉君もかよ!」

「え、エミーリオ…にいざっ……」

「うわああ、風まで泣いてっ、お前ら一体何で泣いてんだよ‼」

 

 

皆泣いた。

 

 




エミーリオ:皆のSAN値を直葬した自動SAN値直葬機。
皆:「俺こないだ初めて夢見たんだよねー」という一言から、皆が大集合して、エミーリオの初夢を和気あいあいと聞いていたらSAN値直葬された非常に可哀そうな方々。

夢オチ。
エミーリオが本気出したら人類直ぐに終わっちゃうよーってだけの話でした。

ばっふーーー、kenmei、ブラキオ、ゴン様のリクエストです。
記憶喪失無し、闇落ち、ラスボス展開に入るかな?まぁ病んじゃった系エミーリオですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 4

第三者視点


俺の名前は小林。

24歳、普通の公務員だ。

社会人として働きだしてまだ1年、いつも人間関係に悩む日々だ。

上司はうるさいし、同僚は冷たいし、本当に選ぶ職場間違えたなと思う。

そんな俺のストレス解消はとある店に酒を飲みに行くことだ。

今日もまた疲れた俺は彼の店に足を運ぶ。

 

「いらっしゃーい」

「こんばんわ」

「小林君、今日も疲れてるねー」

「あはは…いつものお願いします」

「はいよ」

 

そういってカウンター席に座り、スーツを椅子の背もたれにかける。

店主であるこの男はエミーリオ。

若いはずなのに、一人で繁盛しているこの店を切り盛りしているらしい…大した男だ。

こいつの飯は上手いし、酒もうまいし、聞き上手だし、何をとっても最高だ。

だから俺は辛くなったり疲れたりしたら彼に会って不満をぶちまけて帰る。

 

「はい、ビール」

「ありがとう」

「今日も上司と何かあったの?」

「そうなんだよ、本当にあいつはいつもいつも部下に――――…」

 

いつものように不満をグチグチと吐き捨てる。

まだビールが一杯目とあって全く酔いの回っていないときにそれは訪れた。

 

 

「エミーリオ!」

 

バンッ、と大きな音を立てて店に入ってきた男がエミーリオの名前を大きく呼びながらカウンター席までズカズカと向かってきた。

 

「おお、白蘭、昨日ぶりだな…どうしたそんな焦った顔して」

「どうしたもこうしたもないよ!店移そうとしてるって本当!?」

「え、誰から…綱吉君だな」

「ねぇ本当なの!?」

 

またしても大きくテーブルを叩く白髪の若い男の言葉に目を丸くする。

なん…だと?

この店を移転しようと考えている…?俺のユートピアを…?

 

「まぁまだ決定ではないけど、多分移すだろうなぁっては…」

「ならイタリア来なよ!君の店を経営するだけの土地は確保してあげるし!イタリア本部にエミーリオの部屋も作ってあげるよ?」

「いやいや、そんなんいらねーって…つか移転先はニュージーランドにする予定だし」

 

これまた俺は驚いた。

移転先がニュージランドとは、まず俺には手の届かぬ本当のユートピアとなってしまう!

それはやめてほしいなぁ。

そう思いながら酒を一口飲みながら、白い髪の毛をした若い男を横目で眺める。

白髪…一見老人に見えたが、俺より若い、よな?

あと外人さんかな?いやでも名前が日本人っぽいなぁ

目の下にタトゥー入れてるし…如何にもはっちゃけてますみたいな服装だしやっぱ外人さんかな。

それにこの男さっきの発言からして、結構地位が上の人?それか御曹司?

土地確保とか、イタリア本部とか…イタリアの方に住んでるっぽいけど。

 

「ニュ、ニュージランド……?」

「おう、取りあえず席座れ、立ったままだと何かと邪魔になるだろ」

 

男は呆然と俺の隣の席に座らされ、数秒後に我に返ったように顔を上げた。

 

「ニュージランドに支部はないよ!エミーリオ!やっぱりイタリア来てよ!百歩譲って支部のある国にして!」

「いやなんでだよ、お前まさかまた店に居座る気じゃなかろうな…この前も結構日本に滞在してたし」

「エミーリオが心配なんだよ…君がまたいなくなったら今度こそ僕死んじゃうから!」

「おい不穏なこと言うなよ」

 

おいおい何だか会話の流れが不穏な方向になってきたぞ。

死ぬって…何か精神疾患でもあるのか?この男。

でもエミーリオはそこまで気にしてないっぽいけど、どうなってるんだ?

いやその前にこの男の正体が気になる。

 

「っていうか何でニュージーランド?イギリスとかあるじゃないか」

「平和そうだなーって思って…ほら、並盛最近物騒じゃん」

「え、物騒だから移るの?ならここ一帯にボディーガードとか付けようか?」

「いやいらねぇよ」

「ならイタリアの僕のいる本部に店移してよ、あそこなら世界一安全な場所だと思うよ」

「いやそれ一般人入れねーだろ、ニュージランドがいいんだよ」

「じゃあ僕はニュージーランドに支部作ればいいの?」

「何でそうなるんだよ、お前酒飲んでんのか?」

「飲んでないよ、それよりも店の話だよ、店の」

「何でお前が真顔になってんだ…」

 

先ほどから二人の間に漂う雰囲気が重いものになっていってるんだけど。

いやエミーリオは全然気にしてないっぽいけど、白い方が段々と真顔になっていってる。

正直言って怖い。

酒瓶を持つ手がめっちゃ震えてるんだけど…

つか気が付けば他の客帰ってるし。

皆不穏な空気に気付いて帰ったってのかよ。

俺怖くて動けねーんだけど。

 

「待って、エミーリオ…整理しよう」

「おう」

「エミーリオはニュージランドに、安全そうだからって理由で移るんだよね?」

「そうだな」

「なら!やっぱり!イタリアの本部でいいじゃないか!」

「イタリアはもう結構行ったし、流石に顔割れてるから却下」

「支部のあるフランス!」

「いやあっちってイタリアの次に危険そうだし」

「じゃ、じゃあヨーロッパ圏内で…」

「それなら……あー、ジブラルタルかなぁ」

「何でそんなマイナーな国行くの!?」

「いやだって、ヨーロッパの先進国ってテロ多いじゃん…」

 

白い男、確か白蘭だったか…が撃沈したんだけど。

どんだけエミーリオをイタリアに連れていきたいんだよ。

 

「あ、小林君、はい追加…いつもお疲れだからこれ俺の驕りね」

「え、あ、ありがとう…」

「大丈夫?もう酔った?」

「い、いや大丈夫…」

 

いきなり俺に声かけないでほしかった、切実に。

白い男が俺の方を一瞬横目でちらりと見た後、あ、人いたんだ…的な目で一蹴しやがった。

結構傷ついた。

俺は追加された酒をまたちびちびと飲み始めた。

すると再び店の扉が勢いよく開けられた。

 

「エミーリオ!」

 

入ってきたのは、包帯を顔に巻いた赤ちゃんだ。

もう一度言おう、赤ちゃんだ。

あれ?赤ちゃんってこんな流暢に喋れたっけ?

俺の混乱を他所に、赤ちゃんはカウンター席まで近寄りテーブルを思いっきりバンバンと叩き出した。

 

「君!また僕に内緒で店の移転を考えていだろ!?」

「バ、バミューダ…落ち着けって」

「何で君はいつもいつも勝手にどこかに行こうとするんだ!」

 

あれ、なんかデジャヴ。

白い男が、横でそうだそうだーとか言ってるけど、お前たちエミーリオの何なの?

 

「僕に、まず、言うべきだ!」

「お、おう」

「それともなんだ、親友の僕が信じられないのか?」

「そうじゃなくてー…」

 

幻聴かな?赤ちゃんがエミーリオの親友?まさかな…

エミーリオも先ほどからげんなりしている様子だが、かなり対応が面倒なのかなぁ。

ハッキリ言ってどっちもエミーリオへの過保護っぷりが激しいような。

エミーリオもさっきからすごく困った顔で笑ってるよ。

 

「まず行先はニュージランドで当たっているな?」

「何この事情聴取感……」

「当たってるな?」

「アッハイ」

「僕でさえ君を探し出すのは骨が折れるんだ、勝手にどこかに行かれたら溜まったもんじゃないね」

「えー…」

 

ストーカーかな?

親友という名のストーカーかな?

君を探し出すってまさか世界規模でそう言ってるのかな?

これ警察案件?エミーリオ大丈夫?

 

「でもさぁバミューダ、お前携帯のGPSで直ぐ俺の場所分かんだろ」

「その携帯を置いて出かけるのはどこの誰だろうね!?」

「アッハイ、スイマセン」

 

GPS!?

行動を随一に監視されてんの!?

本当にエミーリオは大丈夫なのか?

 

「君が水浸しで見つかった時の僕の気持ち分かるかい?」

「あー…あれか…いやあれは訳があってだな」

「言い訳は聞かないよ、もうあんなことさせやしないし、させてたまるものか」

「……そこまで迷惑だったか」

「迷惑ってもんじゃないよ!どれだけ君を探したと思ってるんだ!」

「その節は真にスミマセン」

 

あれ?何だか赤ちゃんの方が声が震えてる。

水浸し?どういうことだろう…

探して…見つかったら水浸し…そして周りの過保護っぷり…

もしかしてエミーリオって精神疾患者?

いやいやならこんな居酒屋営んでいるわけないもんなぁ。

多分どっかでドジって危ない目にでも会って皆を心底心配させたりしたんだろうな。

いやなに俺はプロファイリングしてんだよ!

酒を飲みに来たんだよ、俺は。

まだ残りが並々とある酒瓶から少量をおちょこに入れてはちびちびと飲みながら、隣に耳を傾ける。

もう上司の不満とか、同僚の愚痴どかどうでもいい、今はこいつらの正体が気になってしょうがない。

白い男がさっきからイタリアに来てよとせがんでいるけどエミーリオは気にせず赤ちゃんと話してる。

段々と白い男が不満げなオーラを出していると、エミーリオがそいつの頭をわしゃわしゃと撫でまわしたら、即機嫌治った。

ちょろいなお前。

赤ちゃんのマシンガンばりの言葉にエミーリオも段々と言い返さずに、うんうんと頷いていってる。

あれ絶対返事がだるくなっただけだよな。

うわあ、寛容な心を持って人の話を聞いてくれるエミーリオがあれ程なおざりな態度取るとか、ある意味すげーなこいつら。

と、感心していると店の扉が勢いよく壊れた。

もう一度言う、壊れた。

いやネジが外れたとか、一部が穴空いたとかじゃなくて。

文字通り木っ端微塵に、壊れた。

俺は悲鳴すら上げられず、口を塞いで空気になろうと努力した。

だって、入ってきたやつめっちゃ怖いんだもん。

なにあれ………なにあれ。

顔面に大きな火傷みたいな痕が沢山あるし、眼力半端なくヤバいし、体格も結構ごつい。

外人ってすぐ分かるけど、こいつ絶対マのつく仕事してるやつじゃね?

イケメンも度が過ぎればただの恐怖だよ、おい。

もう涙目になるしかないよ俺は。

 

「何で毎度毎度うちの扉壊して入ってくるんだよお前はー…」

「るせぇ、カス」

「口も悪いし…」

 

しかも常習犯だと?嘘だろ、器物損壊罪だろコレ。

何でエミーリオはそんな軽いの?もっと怖がろうよ。

まるで息子が間違って親父のものを壊したときみたいな反応するなよ。

あとこいつ口悪いな、カスっておま…。

 

「ちょっとザンザス君、なにエミーリオの店壊してるの?」

「そうだよ、これ直すのにどれだけ労力かかるか分かってないのか?貴様は」

「それ直してるの俺だけどな」

「うっせぇカス共、おいエミーリオ、酒」

「あーはいはい、つーかその前に扉直させて」

 

ん?直す?どういうことだ?

あ、予備があるのね。

エミーリオが倉庫みたいな場所から付け替え用の扉を持ってきては木っ端みじんにされた扉の替わりに入り口に嵌める。

手慣れてんなぁ…

結構な頻度で壊されていると見た。

同情する。

怖い男が俺の右側に座った。

待って、左には白い人、右には怖い人…逃げられなくね?

ああああ足が震えてきた。

こんなときこそ酒で紛らわさなければ!

 

「ほら、ザンザス…お前にはウォッカが一番舌に合うだろ」

「フン」

「あ、はい小林君」

「え、ああ…ありがと…う」

「あはは、舌回ってないよ、大丈夫?水持ってくる?」

「いえ、大丈夫デス」

 

今水なんか飲んでみやがれ、その場で漏らすわ。

酒を飲みつつ現実を忘れようとしたら、隣の怖い人がウォッカを一気に飲み干した。

うっそだろおい。

流石外人……あんな度の高い奴をロックで飲めるとか、俺なら直ぐに倒れるね。

 

「おい、カス」

「誰がカスだ、誰が」

 

エミーリオが怖い男にチョップを喰らわせた。

そしてそれを間近で見た俺は一瞬息が止まりそうだった。

怖い男はエミーリオを凄まじい眼力で睨みつけるが、エミーリオは気にしていない。

やべぇよ、こいつやべぇよ…。

 

「てめぇ…店移すって本当か…」

「あれ?お前にも情報いってんの?お前らの情報網どうなってんの?」

「ッチ」

「何で舌打ち?」

 

ブルータス、お前もか。

多分そいつもエミーリオを自分の国に連れていきたいんだろうね…。

ただツンデレっぽそうだし、素直になれないから舌打ち、と。

だから何で俺はプロファイリングなんかしてんだよ!逃げろよ!この場から!

 

「でもこれからもお前んとこに行くのは変わんねーだろ」

「フン」

 

あ、あれ…何か嬉しそうにしてる…?

でも他の奴らが皆揃って舌打ちしてるな。

 

「ねぇエミーリオ、やっぱりイタリアに来てよ」

「粘るなーお前も」

「僕は君がどこに行こうが紛争地帯でなければ反対はしないよ」

「まぁお前に距離とか正直意味ないもんな」

 

それはいつどこでも側にいるからということですかエミーリオ。

距離が意味ないってなに。

こいつら自家用ジェット機でもあんの?そんな馬鹿な。

 

「おいカス、てめぇ今度はどこに移る気だ」

「カスっていうなアホ、ニュージーランドだな」

「あ、桔梗?今度新しく支部作りたいんだけど」

「白蘭ストップ!俺の料理ごときで支部作ろうとするな!」

「だったらイタリアに移転してよ!」

「だから顔割れてるって言ってんだろ!」

 

白い男が部下らしき者に電話をして、ニュージーランドに支部を建設しようとしたところにエミーリオがストップを掛けて、携帯を奪い取って通話を切った。

エミーリオの料理は確かに美味しい。

にしてもお金持ちの考えることって分かんねーわ。

 

「エミーリオ、一体いつ頃に移転するんだい?」

「そうさなー、あと1年くらいかなぁ」

 

マジか。

それはツライな。

俺のユートピアがこんなあっさりと移転してしまうのはかなり辛いな。

思い留まってほしい。

口に出したいが、両サイドが怖くて声が出ない。

さっきから白い人が横でぶつぶつと呟いてる。

一年だと移設は少し間に合わないかな…いや急ピッチでなら、とか言ってるけど俺は聞こえてない聞こえてない。

 

「一年か…ではニュージランドの首都に場所をとっておこうか?」

「え、マジで?」

「バミューダ、少し君黙ってくれるかい?」

「ふん、エミーリオの意思すらも優先出来ない奴の誘導に乗せられてたまるか」

「ふぅん?表でなよ、今度こそ跡形もなく消し去ってあげるよ」

「それはこちらの台詞だ」

「おいやめろお前ら、表だろうが裏だろうがここら付近で喧嘩はするな」

「喧しいぞドカス共、纏めてカッ消してやろうか?」

「お前も乗るな!ザンザス!」

 

エミーリオって意外と苦労性なのかな…

こんな身勝手な奴らの相手してて疲れないのだろうか。

にしてもかなり一触即発な雰囲気だな、お互い嫌いあってるのかな。

 

「ここらで喧嘩してみろ、ゲテモノ料理食わせるからな」

 

エミーリオのその一言で皆一様に静かになった。

一番の変わりようは怖い男だな。

少し顔色が悪くなったような…おいエミーリオ、こんな厳つい男に何食わせたんだ。

相当えぐいの食わせたのか…?

にしてもこれまで会話見て思ったんだけど、こいつらの中のヒエラルキーってエミーリオが最上位なのか。

胃袋か、胃袋掴まれたのか。

俺も分かる。

だってこいつの飯美味いもん。

そんなこと思ってると、和服来た丸メガネのお兄さんが店に入ってきた。

 

「久しぶりですね、エミーリオ」

「ああ、シェリック」

「この姿では川平、と呼んでください」

「あ、そうだったそうだった、久しぶり川平君」

「ええ、最近はどうですか?」

「別に何ともねぇけど?」

 

またエミーリオの知り合いか。

にしても最初の方が本名なのか?

いや、川平は日本名とかそんなもんかな。

かなり温厚そうな人だなぁ。

 

「いやぁ、あなたがニュージーランドに移転を考えているという噂を耳にしまして、何か悩みでもあったのではないかと思ったんですよ」

 

お ま え も か!

何だか前の奴らと同じ匂いがする。

 

「いや別に悩みっていう程でもねぇんだけど」

「それならいいんですけどね、あ、芋焼酎下さい」

「おう」

「悩みがないならイタリアでいいじゃないか!」

「お前まだ諦めねーのかよ、ほらこれ飲んで落ち着け」

 

未だ白い男が諦められずに渋ってる姿はまさにダダこねてる子供だな。

眼鏡の男は皆から睨まれてるけど、すっごい嫌われてるみたいだ。

 

「チェッカーフェイスめ、抜け抜けと僕たちの前によく姿を現わせたな」

「ふん、弱い犬ほどよく吠えますね」

 

すごい険悪な雰囲気だなあ。

エミーリオは気付いてないっぽいけど。

 

「あ、そうだ川平君」

「はい」

「川平君は日本にずっといるつもりなのか?」

「いえ、私は各国に私有地を持っているので…それにあなたが移転するならば、そちらに引っ越すのもやぶさかではありません」

「え」

「驚くことでもないでしょう、既に我ら一族は私とあなただけだ…同じ場所にいた方が何かと対処しやすい」

「そういうもんか?」

「そういうものです」

「ならいいけど」

 

あーなるほど、エミーリオと川平って人は遠い親戚か何かなのか。

んでもってもう血縁が途絶えてる状況で、二人だけってことか。

エミーリオってもしかして結構暗い過去持ってんのかな?

今まで愚痴ばっか聞いてきたけど、今度はエミーリオの愚痴でも聞き出してみようかな。

にしても俺何か部外者過ぎるんだけど、ここにいてもいいのかなぁ。

すごいアウェー感。

うーん、帰りたいのは山々なんだが、両サイドが怖くて立てないんだよね。

特に右側の怖い人!

俺は空気、俺は空気、俺は空気、俺は空気。

 

「あ、そうだ…つまみ作ってたんだった、ちょっと盛り付けて持ってくるから5分くらい待っててくれ」

「急がなくていいよ」

「私は長居しますので気長に待ちますよ」

「僕も手伝おう」

「早くしやがれカス」

「いや手伝いは大丈夫だから座って待っていてくれバミューダ」

 

エミーリオが厨房の方に入っていった瞬間に空気が変わった。

 

「で、本当の目的は何だい?チェッカーフェイス」

 

白い人が眼鏡の人に問いかけた。

しかも真顔でだ。

さっきから俺はおちょこ持ったまま固まってる。

だって怖くて動けないんだもん。

 

「君たちに言うとでも?」

「どうせまたエミーリオを僕たちから離そうと企ててるんだろう」

「さぁな、だがまあエミーリオの意思を優先しているだけで、今でも君たちとの接触には反対だ」

「それは僕らも同じさ」

 

赤ちゃんが眼鏡の人に投げ掛けた後に、白い人が片手をあげる。

 

「君らが協力して私に挑んだところで勝敗など分かり切っているだろう、愚かなことを」

「ここじゃやらないよ、エミーリオがすぐ側にいるからね」

 

こわっ、なにこいつらこわっ。

さっきから冷房の掛かってる店の中なのに頬に温かい…ていうか若干熱い熱風が当たるのは気のせいだと思いたい。

何だろう、すぐそばで何かが燃えてるように感じるくらい熱い。

そして怖い。

一触即発なんだけど、早くエミーリオ帰ってきて。

あとこの人たち一旦警察に連れて行った方がいいよ、それか精神科。

 

「ぎゃあぎゃあとうるせーんだよカス共、カっ消えろ」

 

ガチャ、という音と共に俺の目の前に黒い金属片が見えた。

…!?………!?

銃…?ここ日本だよ?銃刀法違反だよ!?

待って、俺ってこんなとこで死ぬの?嫌だ、逃げたい。

俺はいきなりの出来事に動けなくなって、目をかっぴらいたまま固まっていた。

おちょこが若干傾いて中の酒が数滴零れ落ちる。

死にたくなっ―――――

 

 

「お前銃を人に向けるなって何度言ったら分かるんだ!それもここ日本だぞ!?」

 

 

その声と共に鈍い音が耳に響く。

エミーリオの声だ、って分かった瞬間どっと汗が噴き出て息を吐き出した。

 

「ってぇな!」

「ああ?喧嘩するなら拳でしろ、銃は使うな」

「……カスが」

「つ、か、う、な」

「…ちっ」

 

怖い人は舌打ちして銃を懐に仕舞い込む。

すっげービビった。

エミーリオいなかったら絶対に漏らしてた。

エミーリオと目が合った。

 

「うわ、ごめん小林君…こいつ昔からすっげー短気なんだよ」

「い、いえ……」

「ほんとごめん、すっげー怖かっただろ…いや俺も結構前までは銃とか怖かったから」

 

……今なんと?

前までは?………今は?

 

「ほらおめーら今日はもう先客を優先するから帰れ」

「「「「!」」」」

 

待って、やめて。

これ俺がまっさきに抹殺されるじゃん。

本当にありがた迷惑通り越して、悪意があるのではないだろうかとすら思えてくる。

周りの視線が俺に刺さってる。

 

「え、エミーリオ…俺もう酒回ってるから、そろそろ…」

「マジ?なら水でも…」

「いや本当に…ちょっとアルコール回りすぎて足がもつれてて…」

「あ、肩貸すよ…タクシー呼ぶか?」

「ああ、頼む」

 

何とか喋れた。

このままじゃ俺の豆腐メンタルは粉々になっちまう。

にしてもエミーリオの店は行く時間考えよう、絶対に。

燃えつきた俺はエミーリオの肩を貸してもらって店の外へ出ようとした。

 

「今日は本当に愚痴も聞けなくて悪い」

「いやいいんだ……久々に酒を飲むだけってのもいいしな」

「何か作ってほしいものとかあるか?今度奢るよ」

「………」

 

俺は店の外に出ることで恐怖から解放されたせいもあって、少し、舞い上がってた。

あとやっぱりほんの少しだけお酒が回ってたこともあったかもしれない。

だから少し期待してしまったんだ。

 

 

「あんたの料理……好きなんだ……だからまだいなくならないでくれよ」

「俺の、唯一の逃げ場なんだ……頼むよ、エミーリオ…」

 

部下にミスを押し付ける上司が

他の人の足を引っ張るだけの同僚が

陰口だらけの職場が

 

全部 全部

 

嫌で 息が詰まって 苦しい

 

だから だから

 

もう少しだけ、生きる助けが欲しいんだ

 

 

「だからもう少しだけ……いてくれよ…………」

 

「ちゃんと歩けるようにするから………まだ少しだけ待っててくれよ…」

 

 

「頼む…」

 

家族の反対を押し切って実家を出てからは家族とは疎遠になり、俺は職場で孤立した。

社会はひどく冷たく、生き辛くて、泣いた日だってあった。

労う声も励ます声も何もなくて、死にたくなって

偶然出会った店で、君に救われたんだ。

温かいご飯も、人の声も、ただひたすら俺の心の支えになったんだ。

 

「まだ、辛いんだっ……」

 

 

『大丈夫?』

『わあ、まだ若いのに大変だねぇ…ほらこれ飲んで忘れな』

『小林君はいつだって頑張ってるでしょ、そんな卑屈にならずにさ、吐け吐け』

『お仕事お疲れさん』

 

「頼むよ……」

 

 

それからの記憶は朧気だった。

ちゃんと意識が戻ったのはタクシーが俺のマンションの前に着いた頃だった。

ふらつく足で部屋に帰り、シャツを脱いでシャワーだけ浴びてベッドの上へダイブする。

時計を見れば深夜だった。

あー…明日は午後からの出勤だったか。

ならたっぷり寝るか。

 

 

『分かった、君が自力で生きられるまで…並盛から離れないと約束するよ』

 

 

瞼が重い。

意識が段々と遠くなっていくのが分かる。

 

 

『だから、今日はもう寝な………お休み』

 

 

久しぶりに心地よく眠れた気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 




小林君(24):オリキャラ。常識人。社会人一年目で会社で孤立気味の公務員。家族とは疎遠気味で人肌が恋しいこの頃。
白蘭:どうにかしてエミーリオをイタリアに連れていきたい人、最悪ニュージーランドに支部作ろうとしてる。多分入江辺りに低コスト瞬間移動装置を急ピッチで作らせるかもしれない。
バミューダ:別に紛争地帯とか以外であればエミーリオがどこで働こうが黙って見守る。ただ出来れば監視カメラが設置しやすい場所を望んでいる。
ザンザス:デリバリー頼んでるから別にいつでも会えると思ってる為あまり気にしてない。
チェッカーフェイス:人間との共存はやめて、人のいない場所で一緒に隠居したいジジイ。
ニュージーランド:延命に成功
エミーリオ:小林君の言葉に思い留まった。雛鳥を見ている感覚であり、ちゃんと飛びたてるまでは見守ろうと思っている。

花京 様のリクエストです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio IF√1 part1

代理戦争でエミーリオがユニチームのIFルート


よぉ、俺はエミーリオ。

今、俺は困惑している。

それは目の前でマシュマロ君が号泣してるからだ。

未来では世界征服を企んだマシュマロ君であろうとも、一応知り合いだし久々の再会を喜ぼうとした瞬間に泣かれた。

何故に。

まあ色々聞いていると俺を探していたらしい。

なるほど、でもお前なら直ぐ探せるはずなんだけどなー。

泣き止んだマシュマロ君とお喋りして、マシュマロクッキーを一緒に作ってたら機嫌はすっかり良くなったらしい。

最後はすごい笑顔で帰っていったし。

翌日に、マシュマロ君から何やらゲームの勧誘が来た。

代理戦争……なんだかすごく怪しい、というか物騒な名前のゲームだ。

代理ってなんの代理だよ。

とにかくルールはマシュマロ君の嵌めてるような時計を壊されないようにだとのこと。

これ壊すために色々過激的な攻撃が来るのでは…

危ないくないか聞いてみたところ安全ではないってキッパリ言われた。

一般人の俺をそんな危ないゲームに誘うなよ!

それにお前関連って多分マフィアだろ!?

それ命に関わるパターンじゃん、絶対危ないじゃん。

え?守る?俺を?いやそこは時計守れや。

俺だって弾丸をほいほい喰らうほど弱くはないけど、昔頭に弾丸喰らったの未だにトラウマなんだぞおい。

どうやら橙色のおしゃぶりの少女の代理でマシュマロ君はゲームに参加するらしい。

あの子もやってるんかい。

いやでも危ないのやだし、怖いのも嫌だ。

きっぱり断れば、あっさりと引き下がってくれた。

引き下がる替わりに、ゲーム中の間マシュマロ君達の食事を作ってくれとお願いされた。

結構食い下がってくんなコイツ。

すごい必死の様子にこれ以上断るのもなぁ、て思って仕方なく引き受けた。

ゲーム期間は一週間もないとのことで。

マシュマロ君に着いて行って数分すれば、まあまあでかい別荘に辿り着いた。

どうやら日本滞在中はここで寝泊まりするらしい。

玄関に人影が二つ見える。

あ、あいつら未来で不動産屋に押しかけてきたやつらだ。

緑の方が俺の方を見て何だか見定めるように見てきたんだけど。

あ、水色の女の子があからさまに警戒してるわー。

修羅場定番の私とこいつどっちが大切なの、を間近で聞ける日が来るなんて。

ただの子供の嫉妬だからそこまでギスギスしてな、うおーいマシュマロ君!

そんなバッサリと言わなくても。

そこは空気読んで女の子選ぶとこだろうが。

お前それでもイタリア人かよ。

あとお前何でそこまで俺のこと大事なの?

俺そこまで好かれる覚え全くないんだけど。

…料理かなぁ。

俺は気まずいまま案内役の緑の人の後ろに着いて行く。

厨房と俺の部屋を案内してもらった。

部屋っつっても、俺食事時にここ来て作るだけで、それ以外は帰ろうかと思ってんだけど。

後でマシュマロ君に言っておこう。

緑の人が話しかけてきた。

いつマシュマロ君に会っただとか色々聞いてきて、別にそれとなく答えたけど。

さっきから気になってたんだけど、こいつなんでハハンハハンばっか言ってんだ。

どっかのクフフとかヌフフ野郎を思い出すなぁ。

一通りの案内も終わって、リビングにいるマシュマロ君の所へ向かう。

水色の女の子と抱き合ってた。

まさかそういう関係だったの?

え、お前まさかロリコンだったの?

すっげー焦ってる。

これはロリコンですわ。

いや別にロリコンが悪いってわけじゃないが…あのなぁ……ちゃんと健全なお付き合いなら俺も文句はないぜ。

マシュマロ君の肩をポンポンと軽く叩いて、そう言えばすっげー否定された。

別にロリコンを恥ずかしがることじゃないぜ。

え?違う?

でも少女の方はまんざらでもなさそうだけど。

マシュマロ君が緑の人呼んできた。

緑の人の話によれば、元々少女の方はスキンシップがすごいとか。

いやそれを甘んじて受け入れるお前もお前だけど。

これ人前じゃ職質案件にもなるぞ。

夕方ごろにおしゃぶりの少女が日本に到着したという知らせがあった。

そういえば彼女とは未来に行ったとき、死に際に会えなかったからなぁ。

主に俺の爆睡のせいで。

おしゃぶりの少女が別荘の方に到着すると、俺に驚いてた。

おいマシュマロ君、お前言ってなかったのかよ。

あとおしゃぶりの少女の隣にいる金髪の青年が俺のこと睨んできてる。

何でだ。

つーかそろそろ夕食作らないと間に合わねー。

厨房に行って、調理し出した。

ひーふーみー……結構な数いるなぁ。

ほぼ皆イタリア出身だし、イタリア料理でいいかな。

作り終えた料理を夕食に出した。

皆の反応は悪くなく、俺を睨んでた金髪の青年は悔しそうに食べてたな。

んじゃ帰ろうかなと思ってたんだけど女の子達から必死の説得に会って宿泊を承諾してしまった。

何だろう、嵌められた感が…

 

 

 

 

 

やっほー、俺はエミーリオ。

翌日もずっと別荘の方でのんびりだらだらと料理をしてた。

ぶっちゃけゲームはどうした、と言えば開催者から合図があるまで待機らしい。

なるほど、自由にドンパチではないのか。

水色の少女がマシュマロ君にご飯作ってあげたいと夕方に厨房まで来ていた。

快く承諾して、一緒に作っているとマシュマロ君が出かけてくると言ってどっかに言ってしまった。

多分ゲームが始まったのかな。

怪我がなきゃいいんだがなぁ。

俺はフライパンの火を止めて、冷蔵庫から解凍済みの牛肉を取り出した。

水色の少女には野菜を切ったり、スープを混ぜるだけの簡単な作業を手伝ってもらった。

途中でおしゃぶりの少女も厨房に入ってきては、料理を手伝いたいと言ってきた。

人手は多い方が早く終わるもんな、うん。

二人とも身長が足りないので、足元にダンボールや置物を置いてその上に登ってやってもらった。

危ないから出来るだけ油の飛ばないやつを任せる。

数十分後、大体は出来上がったな。

ふむ、味見をしたけれど申し分ない。

これならあとは盛り付けるだけだ。

あ、マシュマロ君達が帰ってきた。

うぉ、数人血だらけじゃん。

おしゃぶりの少女が心配そうに駆けつけてた。

治療して休ませるらしい。

予想以上に物騒すぎた。

流血沙汰が当たり前じゃね?コレ。

マシュマロ君は無傷でニコニコ笑っていやがったけど。

お前服に血がついてるけど、って言えばコレ返り血だからってめっちゃ笑顔で言われた。

こわっ。

そういえば何でこいつらこんな危険なゲームしてんだ?

皆が寝付く頃に、一人になったマシュマロ君に聞いてみた。

どうやらおしゃぶりの少女は短命らしい。

その理由の手がかりが今回のゲームで見つかるかもしれない、と。

なるほどねぇ、にしてもお前よく危ないゲームに参加したなぁ。

どうやらおしゃぶりの少女の母親は最近亡くなったらしい。

昔会ったことある…よな…?あの髪の長い…同じ目の下にタトゥーしてる女性。

当たってた。

まだ幼いのに母親亡くしちゃったのか…可哀そうに。

短命かぁ…俺とは真逆だな。

仕方ねぇ、危なくなったら助けてやるか。

敗退されちゃ後味悪い。

それにまだ幼い女の子が自分の寿命を悟るのって見てて辛いし。

マシュマロ君からお礼言われたけど、本当に危ない限り絶対に手は出さないからな。

 

 

 

 

ちゃお、俺はエミーリオ。

翌日も同様に料理していると、マシュマロ君から夕方にマグロ君達が来ると聞かされた。

これは彼らの分も作った方がいいのかな。

マグロ君達が来て、俺みて驚いていた。

うんうん分かる、俺すっげー無関係者だもんな。

少し後に眼鏡君まで来てた。

何やら代理戦争について作戦会議するらしいので俺は関係ないなと思って厨房に戻る。

そのあと夕飯食い終わって一息ついていたら、皆の付けていた時計が一斉に鳴り出した。

戦闘開始1分前……なるほど、こうして始まってたのか。

取りあえず俺はおしゃぶりの少女の隣で待っておこうかな。

皆外に出て行った。

皆無事だといいなーって言った直後に、外で爆発音聞こえた。

無事は無理かなぁ…血なまぐさい戦場と化してるだろうに。

中にいたいかにも理系…非戦闘組は窓の方を見て落ち着きのない様子だ。

これ屋根壊れないといいけど。

言わんこっちゃない。

少し離れた場所で屋根が壊れる音がした。

中も危ないということで、外に出て距離の離れた場所に行こうということになった。

異論もないしそうしようと、外に出た時にめっちゃ大きな爆音が聞こえた。

戦争時の地雷踏んだ時みたいな音だな。

あれくっそ痛かったな、片足ぶっ飛んだし。

じゃない、それよりもこんな爆発が色んなとこで起きてるけど大丈夫なのか?

屋根の方を見たら金髪の青年がめっちゃ血だらだら流してる。

んー、でも時計壊れてないっぽいな。

マシュマロ君の方を見ればマグロ君庇って血塗れになっている。

このままじゃ負けそうだ。

ふむ、これ助けた方がいいな。

昨日の夜にマシュマロ君にもそう言っちゃったし…なによりもおしゃぶりの少女が短命のままで死ぬのは可哀そうだ。

ってなわけで行ってきます。

まずは時計持ってないから、時計拝借しに行かねば。

おしゃぶりの少女が避難したのを確認してから、屋根の上に登る。

あ、いたいた。

ごめんね金髪のあんちゃん、ちょっと時計借りるぜ。

どのみち君足撃たれて動けないでしょ。

よし、時計は拝借したしマシュマロ君は、っと…いた。

屋根の端っこにいたマシュマロ君が狙撃されそうだったからとりま助けてあげる。

マシュマロ君を脇に抱えて銃弾避けた後屋根から下りた。

大丈夫かな、聞いてみれば無言。

もしかして大丈夫じゃない感じ?

いやまぁいろんなところから血出てるし、これ気絶してもおかしくない怪我だよなぁ。

つーかいくらなんでもやり過ぎじゃね?

マシュマロ君ってまだ未成年だっけ。

あと他の奴らもそうだけど、過激すぎるだろ。

一応ここ日本なんだけど、後処理とかどうしてんだろう。

見た感じ命に別状なさそうだし、応急処置は一旦戦場が落ち着いてからでいいか。

何でここにいるの的なこと言われた。

いやまぁ助けるって約束したし、仕方なく戦ってやるよ。

俺これでも数十年前までは一応、一応紛争地帯でも生きていけるほど鍛えてたんだからな。

銃弾は不意打ち喰らわない限りいける。

………多分。

ん?待てよ、もしここで頭っつーかどっかに銃弾喰らって直ぐに怪我治ったりしたところ見られたら俺研究所コース?

マシュマロ君って世界征服しちゃった系男子じゃん。

不老不死とかめっちゃ興味持ちそうじゃん。

……あれ俺今ヤバい状況?

ヤバいヤバい、一発でも食らえばアウトだコレ。

わばばばば、攻撃きた。

焦って思わず右手出したら、掌に直撃した。

いったぁ!いった、なにこれ痛い!

めっちゃ痺れる…あれだグローブ付けずにキャッチボールした時と同じくらいビリビリする。

あ、でも皮膚は破れてない、良かった。

あああああ、まだ来るのかよ!

後ろにマシュマロ君、前に弾丸…チクショーこれ逃げられないじゃんか。

内心涙目になりながらも銃弾凌いでいたら、後ろの方で緑の人がマシュマロ君を避難させようとしてた。

ストップ、待って、ストップ、今ここで離れられると困る。

今あれだろ、周り見るからに三つ巴みたいな感じだろ。

どこから攻撃くるか分かんないから護衛対象は近くにいてほしい。

爆発音とかでうるさいから大声でそう言ったら、いろんな人がこっち見た。

何故に。

ちょっとしたら、攻撃が止まった。

弾切れかな?今のうちに場所移動するか。

マシュマロ君を肩に担いで、周り確認して森の中に突っ込んだ。

ちょっと離れた場所で余裕そうにこっちを攻撃しやがるチームを少しどついてやろうと思っているのと、森の中が一番狙撃から守れるの一石二鳥で、森の中を走り出す。

マシュマロ君が驚いているけど無視。

次の狙撃来る前に相手側ぶっ潰してやる。

俺の右手は今最高に痺れてるぜ、物理的に。

正直イラついた。

子供相手に銃をぶっ放せる考えが意味分からん。

あと右手がジンジンする。

多分ここら辺から撃ってると思うんだが……あれか。

あれ?マグロ君……?と隣にいるゴツイ男は誰だ。

あと多分あいつが相手チームだな。

取りあえず銃ぶっ放してたのどいつか聞いてみた。

俺だという返事が聞こえた方向を振り向くと迷彩柄の服を来た青のおしゃぶりを付けた赤ちゃんがいた。

……あかちゃん………赤ちゃん……

え、この赤ちゃんが撃ってたの?

親の教育どうなってんの?

待ってこれじゃ殴れねーよ、殴ったら逆に俺が虐待で捕まるわ。

えー……このイラつきはどこに向ければ…。

殴れねーわと思っていると、青いおしゃぶりの赤ちゃんがイタリアの軍人だったんだぞ!って自慢し始めた。

イタリアの軍人とな……ん?待てよ、風から聞いた話じゃおしゃぶり持ってる奴って確か本当は大人なんだっけか。

じゃあこいつも本当は大人なのか。

いやでも見た目赤ちゃんだし、どのみち殴れねーわ。

赤ちゃんを容赦なく殴った男のレッテルを貼られるのは勘弁だ。

…えーとこの赤ちゃんのボスウォッチは…っと、ああ、あのマグロ君の近くにいる男か。

赤ちゃんがまた銃を構えてきたので、その前に失格になってもらおう。

よいしょっとぉぉぉお!

ゴツい男性の右手に嵌められてる時計を蹴り上げて割ってやった。

たーまやーって言いたくなったけど、我慢した。

流石にショック受ける場面で追い打ちかけるのは大人のすることではないな。

蹴りあげられた時計が地面に落ちた瞬間に、終了の合図が鳴った。

え、このゲーム時間制限とかあんの?

開始したら相手を潰すまでだと思ってた。

まぁどのみち倒せたしいいか。

マシュマロ君が起き上がってお礼言ってきたけど、その前にお前は応急処置しに戻ろうか。

戻ろうとしたらマシュマロ君が手で静止させる。

はぁ?歩くから担ぐのやめて、恥ずかしい?

馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ、んな怪我しておきながら動いたらもっと傷口悪化するに決まってんだろ。

んな要望却下だ、却下。

担ぎあげるとマシュマロ君が両手で顔を隠してるけどそんなこと知ったこっちゃねぇ。

マグロ君が慌てて近寄ってきた。

思ったんだけど、君さっき頭から炎出してたけど大丈夫なの?焦げてない?

そういえば死ぬ気の炎だっけ?あれ髪の毛は燃えないの?そこんとこどうなってんの。

結構気になってたんだよね。

じゃなくて、そんなの聞くのは取りあえず戻ってからにしよう。

マグロ君も脇に抱えて崖から飛び降りた。

マグロ君の肩に黄色のおしゃぶりの赤ちゃんがしがみ付いてるのを確認して、別荘の方に走る。

……マグロ君の悲鳴がうるせぇ。

反対にマシュマロ君が静かなんだけど、大丈夫?生きてる?

あ、生きてるね。

別荘に戻って初めて分かったんだけど、俺が時計壊してやった相手ってマグロ君のお父さんだったとか。

親子喧嘩してた途中で俺が乱入しちゃった感じか。

それはすまないことを…した?

いやでも、こっちも被害あったしお互い様だな。

マシュマロ君大丈夫かなー…結構出血してたし。

今回の二戦目?でこっちのチームの戦力が大幅に削られたらしい。

おしゃぶりの少女が金髪の青年を心配してるけど、見た感じ結構重症っぽい。

さっきから俺は戦えるとか言ってるけど、無理でしょ絶対。

あーあー、痛そう。

こればっかりは自分の回復力を感謝する。

いやバレたら実験コースまっしぐらだけど。

マグロ君達は疲れて、今日はもう帰ると言って帰っていった。

こっちも皆疲労してるし休むことになった。

俺は全然疲れてないけど。

厨房に入って後片付けしていたら、おしゃぶりの少女が焦った様子で車に乗ってどこかに行ってしまった。

ん?知り合いが重症で病院に搬送された?

あらら…今回のゲームってどれだけ物騒なんだよ。

やっぱり関わるのは早計だったか。

また厨房に入って皿洗いしていたら窓が割れる音がした。

ビックリして、音の鳴る方に行けば皆が倒れてる。

緑の人も、赤い人も…あとぬいぐるみ抱きしめてたヤンデレっぽい子も、仮面被ってる奴も、水色の少女も…全滅かよ。

真っ黒いなりで包帯ぐるぐる巻いてる人たちいるんですけど。

あれ?こいつら包帯君の仲間っぽい。

げぇ、もしかして包帯君も参加してんの?

会うの気まずいわぁ。

あれ?でも時計は鳴ってないし、黒い集団も時計してない。

つーかマシュマロ君が狙われてる。

思わず庇ったら俺の胸に直撃した。

痛い、マジで。

肺潰されてて呼吸がし辛い。

でもこれくらいなら多分直ぐ治ると思う。

なんとしてでもマシュマロ君の時計守ろうとしたら、黒い集団消えてった。

あるぇ?

ちょっとマシュマロ君から離れようとしたら、マシュマロ君が背中に手を回して傷口押さえつけてきた。

ぐえ。

ちょ、痛い、ストップ、傷口触らんといて。

あだだだだだ。

止めようとしてもパニクってるマシュマロ君に聞こえていないみたいで、めっちゃぎゅうぎゅう押さえ付けてくる。

そいや!

あまりの痛さにマシュマロ君の腹思いっきり殴って気絶させた。

気絶したマシュマロ君から離れて、一息つく。

ふぅ、痛かった…よいしょっと

立ち上がって周り見れば、悲惨な光景が見えた。

取りあえず皆の生存確認だけして、自分の着ている服を捲る。

もう少し時間かかるかな。

若干空洞のせいで穴の向こう側が見える。

口に溜まった血を吐き出してると、遠くからバタバタと足音がしてきた。

うお、誰か来た。

やっば、まだ傷口塞がってない…!

おろおろして、即座に判断した結果、マシュマロ君ごと別荘の外に逃走した。

だって、マシュマロ君だけ俺の怪我見ちゃってるし、起きたら口止めしなきゃ。

あ"-いてぇ。

森の中に入って数分、視界に入った大きな木にマシュマロ君の背中を預けて、俺も隣に座って一息。

えらい目にあったなこりゃ。

にしてもすげー空が綺麗。

並盛にもこんな綺麗な空が見えるのか。

ん…傷口が完全に閉じたな。

あとはマシュマロ君が起きるのを待っとくか。

……あ、流れ星だ。

これ以上何事もなくゲームが終りますように。

 

 

 




流れ星:アカン、こいつの願いは叶えられんへん。
マシュマロ君:どう頑張ってもSAN値直葬。
エミーリオ:久々に体動かしてコロネロに対して無双した。安定の絶対SAN値直葬マン。
コロネロ:攻撃は効かないは、直ぐに脱落されるはでプライドバッキバキに折られた。

エミーリオの、代理戦争ユニチームルート。
元々書こうとしてたIFですが、内容を4回ほど書いては消してで、なんかしっくりくるオチが見当たらず中途半端で終了。続きは書かないと思う。
もう白蘭はどのルートでもSAN値直葬しかないのかなぁとすら思ってきたこの頃。

白蘭sideも書いたので次出します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio IF√1 part2

ユニチームルート 白蘭視点


白蘭side

 

 

「代理戦争…?」

「そう、僕たちがこれからするゲームを一緒にやらないかい?」

 

目の前のエミーリオは訝し気に僕を見ていたけど、僕はそれ以上に期待に胸を躍らしていた。

それは少し時間を遡る。

僕はユニちゃんのお陰でエミーリオの居場所が分かり、エミーリオとの再会を終えて後日、代理戦争のルールが分かるとすぐにエミーリオを勧誘した。

ハッキリ言って、僕はエミーリオと一緒じゃないとモチベーションが上がらないんだ。

仕方ないよね。

 

「ユニちゃんの代理で戦うだけのゲームだよ」

「戦う?また物騒なことしてんのか?お前は…」

「大丈夫、エミーリオはずっとユニちゃんの隣で座っているだけでいいんだ」

「いやそれ完璧な戦力外じゃん」

「ゲームの内容は簡単だよ、この時計を守り抜くだけ」

 

そう言って僕は昨日ユニちゃんから送られてきたバトラーウォッチをエミーリオに見せた。

 

「へぇ…でも危なくないか?そのゲーム」

「ま、少し流血沙汰あると思うけど、僕がエミーリオを守るから安心してよ」

「いや安心出来ねぇよ、ユニ守れよ」

「うーん…そこまで言うならもう誘わないよ」

「おう、そうしてくれ」

「その代わりに僕らのいる別荘でゲーム中の間料理作ってくれない?」

「は?」

 

それから渋るエミーリオをなんとか頷かせて、僕はエミーリオと一緒にユニちゃんの用意した別荘へと向かった。

別荘ではブルーベルと桔梗が出迎えてくれて、エミーリオを見るなり目を見開いていた。

 

「白蘭様、その隣の御仁は…」

「エミーリオだよ、僕の大切な人だから失礼がないようにね」

「は、わかりました」

「にゅにゅー、白蘭はブルーベルとそいつどっちが好きなのー?」

「はは、エミーリオに決まってるじゃないか」

「おい白蘭…お前な……」

 

ブルーベルの質問に僕が笑顔で即答すれば、エミーリオが呆れて、ブルーベルが目を見開いて驚愕しているのが分かった。

ブルーベルが何かを言おうとする前に桔梗がブルーベルの口を塞いぐ。

 

「では客室へとご案内しますので、少々お待ちください」

 

事前に桔梗にはエミーリオのことを少しだけ教えてあった。

大切な恩人に会いに行くためにユニちゃんの代理になったこと、何を置いても彼よりも優先するものはないこと。

だから僕にとってどれだけエミーリオが大事なのかを一番知っている。

あとは未来での記憶で、僕の最期を桔梗だけが知っているってのもあったからかな。

エミーリオは頭を掻きながら桔梗の後ろへ着いていく。

僕は不満げなブルーベルの相手をしてあげた。

 

「むー、白蘭にとってあいつ何なの…」

「んー…少し難しいなぁ…ブルーベルにとって僕って何?」

「にゅ?」

 

ブルーベルが僕の言葉に目を丸くした後、さも当たり前のように胸を張って言い放った。

 

「全てよ!私にとって白蘭が大好きな気持ちは世界一だもん!」

「そっか……僕にとっての世界一はエミーリオなんだ」

「え…」

「今の僕があるのはエミーリオのお陰だし、これから何があろうとそれは変わらないよ」

 

初めて僕の本心をエミーリオ以外に喋ったな、って思った。

誰にも言わなかった僕の宝物。

 

「そっか…白蘭にとってあの男が…」

 

ブルーベルは少し頬を膨らませるだけで何か文句をたらたらと言うことはなかった。

それが少し意外でもう少し不満を言うかと思っていたと正直に言ってみると、ブルーベルは眉を顰めて僕に抱き着いてきた。

 

「不満たらたらよ…でも一番大切な存在の悪口って…一番傷つくって分かってるから……」

 

少し驚いたけど、僕はブルーベルの頭を撫でる。

 

「ねぇ白蘭…」

「うん?」

 

「白蘭は…今幸せ?」

 

「…うん、とっても」

「そっか…ならいい」

 

エミーリオにとって僕が何よりも大事ってわけじゃないこと知ってる。

だから、今のブルーベルの感情も理解出来る。

でも、それでも…本当に大切な人なら…幸せそうな顔を見るだけで十分なんだ。

 

「あ」

「「え」」

 

声がする方へ振り向けば、エミーリオがいた。

 

「白蘭…お前、まさかロリコ「違うよ!」」

 

変な方向へ勘違いしたエミーリオに弁解すると、エミーリオは腑に落ちたような顔して僕の肩に手を置いた。

何か嫌な予感がする…

 

「恋愛は人それぞれだ…だがな、相手が18歳超えるまで手は出すなよ」

「だからブルーベルはそういうのじゃないって!エミーリオ!」

「え、マジ?」

「ブルーベルも何か言ってよ」

「…あんたに白蘭は渡さないんだから!」

「ブルーベル!?」

「アツアツじゃねーか」

「違うってば!」

 

桔梗の助けもあり漸くエミーリオの変な勘違いが解けたのは、既に日が傾いていた頃だった。

ユニちゃんが空港からこちらへ移動しているという連絡が来て、そろそろ着くだろうなと思っているとチャイムが鳴る。

僕が扉を開けようと手を伸ばす前にエミーリオが開けてしまう。

 

「エミーリオ!」

「ああ、ユニか…久しぶり」

「やぁユニちゃん」

 

ユニちゃんはエミーリオがここにいることに首を傾げていたが、僕が説明した。

 

「ってなわけで、エミーリオは代理戦争が終わるまでここに泊まらせるよ」

「なるほど…ですが、エミーリオは一般人です…出来る限り巻き込まないようお願いします」

「エミーリオを巻き込むのは本意じゃない、安心してよ」

「そうですか」

 

まぁ正直巻き込む気満々なんだけどね。

巻き込んで、もう戻れないところまでマフィアに関われば、ミルフィオーレに勧誘しようかと思ってたし。

専属シェフとしてだけど。

ユニちゃんにそれを言えば直ぐに反対しそうだし、黙ってるけど。

γ君が若干エミーリオを睨んでいたけど、今の彼、何言っても聞かなさそうだし放置でもいいかな。

 

翌日、代理戦争一日目を迎えた。

朝からブルーベルとエミーリオは厨房で何か作っていて、僕は代理戦争のこれからの作戦内容を考えていた。

そして夕方頃、皆の付けているウォッチが鳴り始めた。

 

『バトル開始1分前です』

 

僕は直ぐに厨房へ行き、エミーリオとブルーベルに声をかける。

 

「エミーリオ」

「ん?どうした」

「少し用事が出来たから数十分くらい出かけてくるよ、ブルーベルとユニちゃん見ててくれるかい?」

「おう、任せな」

「頑張ってね白蘭!」

「じゃあ行ってくるね」

 

僕は直ぐに別荘を出て、戦いやすい開けた場所で敵チームが現れるのを待つ。

そして目の前に現れたのは六道骸のいるヴェルデチーム。

 

『バトル開始です 制限時間は10分』

 

僕は目の前の敵に向かって炎を放ち出した。

結果を言えば、予想以上に敗退者が出た。

こちらのチームからは3人の敗退者が出て、ヴェルデチームから一人敗退させることが出来た。

総合的に僕らのチームが不利になった。

まああまり気にしてないけれど。

怪我人も出たし応急処置をして帰路に就く。

帰るとエミーリオ達が顔を出して出迎えてくれて僕は機嫌が良くなった。

どうやら夕飯を一緒に作っていたらしい。

夕食を準備するまでの間で僕らはヴェルデチームのことを考えていた。

まさかあんな装置があるだなんてね、流石は天才の科学者ってことか。

ヴェルデチームは先にやっちゃった方がいいね。

その方向で進み、日が完全に落ちた頃に夕飯になった。

やっぱりエミーリオの料理は美味しいや。

ユニちゃんもエミーリオが隣にいるといつもより落ち着いている…というより嬉しそう?

ていうかブルーベルがエミーリオに懐いてるんだけど、意外だな。

今日もブルーベルとユニちゃんがエミーリオを説得して泊まってもらうことにした。

もう寝ようかなーって時間帯にエミーリオが僕に声を掛けてきた。

 

「白蘭」

「ん?」

「お前もう寝るのか?」

「うん、少し眠いしね」

「そうか」

「何かあったの?」

「いや……お前らのやってるゲーム…代理戦争だっけか」

「うん」

「あれって優勝したら何かあるのか?」

「ああ…ユニちゃんの家系って元々短命なんだけど、今回のゲームはそれの解決の糸口みたいなものなんだ」

「え、ユニって短命なのか?」

「そうだね、つい最近彼女の母親が亡くなったばかりだし…このゲームに負ければ、まあ何も変わらずユニちゃんが短命のままってだけかな」

「母親?アリアだったか…髪の長い」

「アリアを知ってるの?」

「少し前にイタリアで会ったことがあるだけだ…そっか、彼女は亡くなったのか」

「ふぅん、にしてもいきなりゲームのこと聞き出して…参加したくなった?」

「いやそういうわけじゃないんだが…まぁお前らがわざわざ日本まで来てやるからにはどんな理由があるんだろうって思ってただけだ」

「そう」

「いざという時には手助けしてやるから、まぁ最善尽くして頑張れよ、おやすみ」

「それは有難いや、おやすみ」

 

知り合いが死んだときの反応が薄いのが少し意外だったけど、まぁ一回会っただけの人間なら誰しもそんな反応かな?

僕はその日はそのまま眠った。

 

代理戦争二日目は、夕方に綱吉君達が来ることになっていた。

エミーリオにそれを言えば少し人数多めに夕飯を作り出すと言っていた。

そんなこと別にしなくてもいいんだけどなぁ…

夕方になれば綱吉君達が訪れて、昨日戦ったヴェルデチームの情報を共有した。

綱吉君達はエミーリオがいることに心底驚いていたけれど、未来での僕の様子を見ていたからか納得するような仕草すらあった。

 

「そういえばエミーリオさんは俺達が何してるか知ってるのか?」

「うん、代理戦争のルールとか大まかにはね…でもアルコバレーノのことは教えてないよ」

「そっか…あんまエミーリオさん巻き込むなよ白蘭」

「未来に連れて行った君が言うことかい?まぁ僕としては有難かったけど」

「う"っ」

 

綱吉君もユニちゃんと同じでエミーリオを巻き込むことに難色を示していた。

でも何だろう、ユニちゃんとは違うことを懸念してるみたいに見えるなぁ。

少し気になるけど後で聞けばいいかな…

そんなこと考えてると、正ちゃんとスパナ君が到着して、ユニちゃんが予知した未来を述べた。

 

「次の戦いで2つのチームが脱落します」

 

それ以上の正確なことは分からないと首を横に振るユニちゃんを眺める。

やっぱり未来よりも今の方が予知出来るのかな…

ユニちゃんの言葉を念頭に入れて、これからの作戦会議が始まる。

ウォッチが鳴り出したのは夕飯を食べ終えた頃だった。

 

『バトル開始1分前です』

 

全員の顔に緊張が走ったのが分かる。

視界の内にいたエミーリオもこれから起こることを悟ったようで、ゆっくりとユニちゃんの隣に座りだす。

 

『バトル開始 今回の制限時間は30分です』

 

僕らは綱吉君達と共に外で待ち伏せをしていて、バトル開始の合図が鳴り奇襲をかけられる。

相手はヴェルデチームだ。

昨日のお礼に全員倒してあげようと思って幻術を使う骸君ともう一人の子供を警戒しながら他へと攻撃を繰り出す。

そして中盤にそれは起こった。

予期せぬ方向からの遠距離攻撃での奇襲。

その場にいた人たちの中でユニ・ヴェルデチームを標的とした狙いに、リボーンチームは困惑していた。

綱吉君がなにやら無線機で口論していて、相手はコロネロチームの沢田家光だと分かった。

そして綱吉君はコロネロチームとの同盟を破棄し、コロネロによって射撃の的にされる。

だがそれを僕が身を挺して庇い、綱吉君はコロネロのいるであろう場所へと向かう。

ユニちゃんには恩が…あるからね…今回だけだよ、君を守るのは。

次々と来る射撃に段々避け遅れる。

 

「白蘭様!」

 

桔梗の声に反応して、僕は後ろを振り向けば直ぐ側まで攻撃が迫って来ていた。

躱せないと分かり、少しでも急所を外そうと体をズラそうとした時だった。

急な浮遊感に襲われて、気づけば先ほど僕がいた場所がずっと下の方に見えた。

そして直ぐに小さな衝撃と共に地面に膝からゆっくりと落ちる。

 

「派手に怪我したなお前…大丈夫か?」

 

煙が晴れる

 

「な…んで……」

 

額から流れる血で視界の半分が赤く染まる中、半分の視界で鮮明に映る目の前の男に問いかける。

 

「何でここにいるの……」

 

戦場の真っただ中だというのに、どこか余裕そうな表情をしながら僕の問いに困ったように笑う。

 

「エミーリオ」

 

危ないから、と手を引いて直ぐに安全な場所に行きたかったけれど、驚愕のあまり固まる体は1㎜とも動いてはくれなかった。

エミーリオの掌が僕の頭に軽く静かに乗せられる。

 

「いざという時には助けてやる…って言ったろ」

 

彼の言葉に、心のどこかで安堵した僕がいたんだ。 

 

「ボスウォッチを壊さないようにすればいいってことは、取りあえずお前を守ればいいんだろ」

 

エミーリオの言葉に僕は我に返り、痛む体を無理やり起こす。

 

 

「エミーリオ!君は危ないから中にっ」

「あーはいはい、心配はいらねーよ。ちゃんとγ君から壊れてないバトラーウォッチくすねてきたからちゃんと戦闘には参加出来る」

「はぁ⁉なにやって…じゃなくてっ」

「これでも少し、腕に覚えがあるから」

 

一般人の力量じゃこの場にいる者誰も倒せるはずなんかない。

誰もがそう思うだろう言葉に、僕は気が遠くなるが一刻も早くエミーリオを移動させようとする。

だがその前にコロネロの攻撃が僕たちへと放たれてしまった。

僕はエミーリオへと手を伸ばそうとしたが、その手がエミーリオに届くことはなかった。

一瞬の静寂の後、暴風が襲う。

咄嗟に顔を腕で守り、目を細めながら状況を確認しようとして、今度こそ僕は自身の目を疑った。

エミーリオは右腕を前に突き出したまま微動だにせず立っていた。

そして右手の拳をゆっくりと開くと、カランと金属が落ちる音がして僕は何かが落ちた地面を見る。

そこには弾丸が数発落ちていた。

 

「なんせ、紛争地帯じゃ銃弾が飛び交ってんのなんて当たり前だしな」

 

数発と続いて銃弾が飛んでくるが、全てエミーリオへ届く前に地面に落ちていく。

弾速なんて捉えれるわけもなく、僕は速すぎる目の前の出来事を、脳が処理することで一杯だった。

エミーリオが戦えるという事実に固まる思考回路を必死に動かした。

 

「白蘭様、大丈夫ですか!?」

 

後ろから桔梗が僕を庇いながら移動させようとする。

 

「あ、桔梗君!目が届かない場所にいられると守りにくいからそこで白蘭の周り警戒しててくんない!?」

「は…?」

 

着弾音で声が聞き取りづらいと思ったのか声を大きくしてそう叫んだ彼の声に戦場と化したその場の誰もが視線を移した。

そしてエミーリオが参戦しているという事実に何人が目を見張っただろう。

目の前のエミーリオはただ黙々と飛び交う銃弾を掴むは、叩き落とすは、軌道を変えるはで目まぐるしく動いている。

その顔に焦りはない。

むしろ単純作業かのように涼し気な顔さえしている。

今思い出してみれば、この攻撃は呪いを解除したコロネロの本来の攻撃力を伴う銃弾だ。

素手で捌いていて無事なわけがないハズ…なのに………

誰もがエミーリオの所業に目を見開いている。

数十秒経つと漸く弾丸が止む。

 

「弾切れかな…そら白蘭、今のうちに移動すんぞ」

「え、あ、うん」

 

有無を言わさぬ様子に思わず返事をしてしまい、エミーリオに担がれる。

そしていきなり走り出したかと思えば森に突っ込んでいき、僕は目を見開く。

 

「ちょ、どこにいくつもり!?」

「あ?敵さんのとこだろ」

「は?」

「ったく、銃弾撃ちまくりやがって…お前も血塗れじゃねーか、俺は少し怒ってんだぞ」

「え……」

「いくらゲームといえど限度があんだろ…ちょっとどついてやる」

 

あくまでもいつも通りのエミーリオに僕は唖然とする。

何か突っ込みたくてもエミーリオの走る速さに驚くばかりで全く口が開かない。

まるでバイク並みの速さで森の木々が視界の端を流れていく。

30秒もしないだろう内に、コロネロ達が見える。

そのそばでは綱吉君が沢田家光と戦闘をしていた。

だが双方ともエミーリオを視認すると、動作を止め目を見開く。

エミーリオが崖の上にたどり着き、すぐそばに僕を下す。

 

「エミーリオ、白蘭!?何故お前たちがここに」

 

綱吉君の言葉は最もであるが僕はそれに返事らしい返事も出来ずにいた。

僕も状況をあまり把握していないし、理解すらしていない。

 

「おい家光、エミーリオとかいう男を警戒しろ、あいつは俺の弾を全て叩き落した」

「なっ」

 

解呪時間が終り小さくなっていたコロネロが頬に冷や汗を流し、エミーリオを睨みながら沢田家光にそう告げる。

コロネロの言葉に沢田家光も驚き、警戒し出す。

 

「おい、銃ぶっ放してたやつは誰だ」

「……俺だ、コラ」

「………」

 

エミーリオが静かに言い放った問いにコロネロが緊張気味の顔で答えると、エミーリオが黙り込んだ。

どうしたのかと思い僕はエミーリオの顔を覗き込もうとすれば、エミーリオは重い溜息を吐き出した。

 

「あー…本当は殴るつもりだったけど、んなちっせーガキ殴る程人間落ちてねーよ」

 

困ったように頭を掻きながらそう言い放つエミーリオの言葉を理解したコロネロが怒りだした。

 

「ふざけんな!俺はこれでもイタリアの軍人だったんだぞ!見た目で下に見てんじゃねーぞコラ!」

「あ?あー、そういえばおしゃぶり持ってる奴って本当は大人なんだっけか…」

 

何でエミーリオがそれを知っているのかと不思議に思うが、問いただす雰囲気でもなく僕は口を噤む。

思い出したかのような顔をしたエミーリオが何やら考え事をし出して、数秒後に顔を上げる。

 

「いやでもお前が本当は大人だったとしても見た目がガキの奴を殴んのは抵抗あるし」

「まだ言うかコラ!」

 

コロネロがエミーリオの言葉にキレると、銃を構えだす。

沢田家光がそれを止めようと動く前に、重くゆっくりと言い放ったエミーリオの声がその場に静かに広がった。

 

「まぁ、敗退してもらうけどな」

 

一瞬何が起こったのかなんて僕には分からなくて、側にいたハズのエミーリオが少し離れた場所である沢田家光のすぐ近くに片足を若干浮かべて、蹴り上げる構えをしていた。

パリン、と何かが割れる音が響いた。

 

「な…」

「は、や……」

 

それに反応出来た者はいなかったようで、側にいた綱吉君やリボーン君も驚愕していた。

上空から何かが落ちてきて、目を細めてそれを見る。

落ちてきたのはボスウォッチだと分かると、僕は自分の腕を見やる。

僕のウォッチじゃない…綱吉君でもない…じゃあ、

視線を上げ、目を見開いたまま動かない沢田家光とコロネロを見て漸く理解した。

コロネロチームのボスウォッチを破壊したのだと。

直後、『戦闘終了です』と合図が鳴り響き僕は息を吐く。

 

「え、戦闘って時間制限あんの?」

 

緊張の欠片もないエミーリオの言葉に時間制限あること教えてなかったなーと思いながら心の底から安堵した。

エミーリオが怪我しなくて本当によかった……

後でエミーリオには問い詰めなきゃと思いながら、痛む身体を起こして立ち上がった。

 

「ありがとうエミーリオ、助かったよ」

「おう、それよりも止血しに戻んぞ」

「待って、歩くから担がないで、恥ずかしいから」

「恥ずかしがってる場合か、ほれ、行くぞ」

「あー…はは……綱吉君見ないでくれるかい…」

 

僕の言葉を無視して担ぎ出すエミーリオに、綱吉君が超死ぬ気モードを解きながら近寄ってきて、僕は思わず両手で顔を隠す。

 

「エ、エミーリオさん!何で参加してるんですか!?」

「何でって…白蘭負けそうだったし、つーか怪我してんなら助けんの当たり前だろ」

「そんな理由でー!?で、でもエミーリオさんらしいや…」

「んじゃ話はまず戻ってからな、こいつの応急処置からだ」

「は、はい…」

 

いきなりの敗退のショックから立ち直っていないコロネロチームを綱吉君が横目で見て、気まずそうにしていたが振り向くことはなく別荘の方へ戻っていった。

勿論エミーリオが綱吉君をもう片方の脇に担ぎあげて、だけど。

あまりの速度に綱吉君は始終悲鳴をあげていた。

戻ってきた時は、傷だらけの僕を見て真・6弔花がとても心配そうに駆け寄ってきた。

綱吉君達が帰っていった後に正ちゃんに怪我を治してもらって、皆疲労感がピークで休み出す。

僕らがコロネロと戦闘をしている間にヴェルデチームは撤退していたようだ。

何よりも、今回の二戦目で戦力を大幅に失った。

既に僕らの戦力は、僕の持っているボスウォッチと、エミーリオの付けてるバトラーウォッチだけだ。

γ君がバトラーウォッチを返せと喚いていたけれど、彼の怪我は重症で多分三戦目には間に合わないだろうという理由でエミーリオのままだった。

ユニちゃんは複雑そうに顔を歪めて、エミーリオの参入を快くは思っていない様子だった。

 

「エミーリオ…やはりあなたの参加は賛成しかねます…」

「んなこと言ったってこれ以上ユニのチームが傷付くだけだぞ」

「…」

「んな顔するな、俺が参加したのは白蘭とお前を助けたかったからだ…積極的に戦うわけじゃねーよ」

「約束して下さい…危なくなったら絶対に逃げると」

「分かった、約束する」

 

ユニちゃんは渋々エミーリオの参戦を承諾した。

だけれど、この判断を死ぬほど後悔するのは直ぐ後のことだった。

アルコバレーノであるスカルが重症を負ったという知らせを受けたユニちゃんが病院の方へ出かけた後だった。

 

 

「何で君たちがいきなり来るのかな…復讐者!」

 

突然の復讐者の奇襲に会った。

復讐者はウォッチを持っておらず、ルールの裏をかいたような行為に舌打ちをする。

それならばとウォッチを持っていない桔梗やザクロ、ブルーベルが僕の前で戦闘を始めるが、直ぐに倒される。

真・6弔花があっさりと倒されたことに僕の警戒はMaxになる。

だが、ただでさえ疲れていた僕は復讐者の攻撃に反応することが出来ずに鎖の先についた鋭利な(おもり)が僕の頭を貫こうとした時だった。

 

「白蘭!」

 

エミーリオの声がすぐ側で聞こえた。

 

「え…」

 

僕の頬に飛び散った液体が伝う。

それが血と分かるまでに時間はかからなかった。

ズシリ、と重さのある温かいものが僕の体に寄りかかる。

 

「あ…」

 

僕は身体を痛いほど締め付けられ、それが彼の腕であることに気付く。

 

「な…で……」

 

段々と服が血を吸って重くなっていく。

 

「エ、ミー……リオ…」

「げほっ……」

 

復讐者がすぐそばにいることさえ忘れて、エミーリオの背中に手を回せば、そこにはポッカリと穴が開いていた。

目の前が暗くなっていくような錯覚に襲われ、ただその穴を押さえることしか出来なくて、目から溢れる涙を拭う暇なんてなかった。

 

「エミーリオっ……嫌だ、死なないで……嫌だ…」

「びゃくら…」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

「聞け、白ら、ん……俺はだ、いじょうぶ…だから…げほっ、落ち着け」

「死なないで、やだ……」

 

急に腹部に激痛が走り、意識が遠くなった。

 

やだ…いやだ、エミーリオっ、死なな…で…

 

 

必死の抵抗も虚しく、僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 




白蘭:SAN値直葬。泣いていい。
ブルーベル:エミーリオへの嫉妬は大体初日でなくなった。
桔梗:ハハン
エミーリオ:心臓に穴空いてるけどわりかし無事。どっちかっていうと白蘭が傷口を押さえていた時が一番痛かった。

コロネロ狙撃地点まで約5000mで、エミーリオの全力疾走は秒速約200m…約25秒で着く計算…ですよね?
エミーリオって痛覚が人よりも鈍い気がする。
とまぁユニチームルートIFです。
続きは今のとこ考えてないです。


【挿絵表示】

ブルーベルって可愛いですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 5

数年後の時間軸
沢田綱吉視点


「京子ちゃん…お、俺と!俺と…け、結婚してください!」

 

人生最大に緊張していた俺は、自分が今どんな顔してるかだなんて気にしてる余裕なんてなくて、ただ目の前の一人の女性の口元を凝視していた。

ああ、顔が熱い。

体の中で血が沸騰しているみたいだ。

断られたらど、どうしよう、あ、ヤバイ、緊張と不安で泣きそう。

瞳に薄い膜が張りつめ今にも零れ落ちるというところで、綺麗で滑らかな指が俺の頬を包む。

心臓の鼓動がこれでもかというほど煩い。

 

「ツナ君…」

 

未だかつてない程俺は目を見開いた。

ふと唇に柔らかいものがあたり、それが彼女の口付けであることに気付くまでどれほど時間を有しただろうか。

もう何が何だか分からずにパニックに陥りそうな心を必死に押さえつけ、握りしめていた汗だくな拳を開いて、彼女を背中に手を回す。

 

ドクン ドクン

 

心臓が……うるさい

 

唇が離れ、目線が交差する。

頬を赤らめた彼女は微笑み、その綺麗な瞳に薄い水の膜を張りながら口を開く。

 

「末永く……よろしくお願いします」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、俺は心臓が浮かんだような感覚のまま彼女の腰に手を回して思い切り抱きしめた。

ダメだ…堪え切れない……

じわりと眼尻に涙が滲むのもお構いなしに、胸の内に広がる言い知れぬ幸福感を噛み締める。

 

「フフ…ツナ君の心臓の音……私にも聞こえるよ」

 

ドクン ドクン

 

ああ…心臓が、うるさくてたまらない―――――――…

 

 

 

雪が少しずつ積もってきた冬の頃

いつもと変わらぬ並盛で俺は笹川京子にプロポーズをして、永遠の愛を誓った。

 

この瞬間を何年先でも俺は絶対に忘れないって思ったんだ。

 

 

 

 

 

「結婚おめでとう!」

 

何度目になるか分からないその言葉で、何度目になるか分からない幸福感に顔がニヤける。

一昨日リボーンに顔がうぜぇと言われてお尻を蹴られたのも忘れるほど今の俺は幸せだ。

 

「ありがとうございます、エミーリオさん。」

「いやぁ、あんなちっさかった綱吉君もとうとう結婚しちゃうのかぁ」

「アハハ」

「最初の告白なんて上半身全裸だろ?あれは実らねーなって思ってたのに人生何が起こるか分かんねーな」

「そんなこと思ってたんですか!?」

「それよか酒飲め酒!祝い事には酒って決まってんだ!」

「わわ、ちょ、ちゃんと飲みますって!それよりもエミーリオさんに頼みたいことが!」

「頼み?」

 

本来の目的を忘れそうになったが、ちゃんと酒を飲む前にエミーリオさんに告げる。

 

「4か月後、結婚式を挙げるんですけど、出す料理をエミーリオさんに一任したいんです」

「俺に?結婚式って結構大事な行事じゃん、俺なんかで大丈夫か?」

「エミーリオさんじゃなきゃ嫌なんです!ていうかエミーリオさん以上に料理美味い人見たことないですよ」

「そりゃ嬉しいね、分かった、引き受けよう」

「ありがとうございます!」

 

俺はエミーリオさんに感謝する。

ああ、楽しみで仕方ないよ。

ボンゴレのボスとして、昔のような自警団に戻そうと奮闘する毎日に、俺の地位は確立し周りからの態度も畏まっていった。

守護者の人達や身近な人の態度に変化はなかったけれど、やっぱりボンゴレのボスとしての面子を守る時はそれなりに敬語を使って来たりする時がある。

だけどエミーリオさんはいつでもどんな時でも俺に対して態度も口調も変えない。

それを見ていると俺はいつでも安心するんだ。

時間と共に変わっていく俺らの姿形をすぐ側で見守ってくれるエミーリオさんに。

いつだって変わらずにいることが本人にとってどうあるのかは今の俺でも分からない。

本人が悲観してはいないことくらい分かっているけど、たまに凄く不安にもなる。

だから頻繁に彼の顔を見に、この店に訪れてる。

まぁ高確率でバミューダか白蘭かチェッカーフェイスがいるんだけど。

白蘭に至っては仕事ほったらかしてエミーリオさんの所に行くから困りものだ。

 

「本当はエミーリオさんにも裏方じゃなく客として参加して欲しかったんですけど、皆がエミーリオさんの料理を強く希望してて…リボーンまで……」

「別にいいよ、俺もそっちのが性に合ってる」

「それならいいんですけど…」

「参加人数とかは後日俺の携帯に送ってくれ」

「分かりました」

 

この時の俺は、エミーリオさんをシェフとして雇うことがどんな惨事を招くか分かっていなかった。

 

 

 

 

結婚式当日

 

ウェディングドレスの京子ちゃんを一目見るために、彼女の待機室へ向かっていると何やら外が慌ただしいことに気付いた。

何かハプニングでもあったのかなと思って、不安になっていると獄寺君が俺の元に近寄って来た。

 

「十代目!」

「どうしたの、獄寺君」

「それが……」

「?」

「ザンザスと雲雀が喧嘩おっぱじめそうになってるんです」

「はぁああ!?」

「今、山本とスクアーロがザンザスを、笹川とランボが雲雀を押しとどめてます」

「え、え、ちょっと待って!何であの二人が来てるの!?招待はしたけど絶対に来ないと思ってた!」

「そ、それが…どこから漏れたのか知りませんが、今回の披露宴での料理担当がエミーリオってことが耳に入っちまったようで…」

「うわぁぁぁ、どどどどうしよう!」

 

まさに大惨事になる予感しかしないであろう人物達の鉢合わせに冷や汗をかく。

今すぐ止めようとグローブを持って今にも戦いだしそうな二人の元へ向かおうとした時に声を掛けられる。

 

「綱吉君?どうしたの、そんな慌てて」

「エ、エミーリオさん!」

「それにグローブまで…」

「あ、あの、えっと、ザンザスと雲雀さんが今にも喧嘩しそうな勢いで…」

「あんの二人は全く……」

 

片手で顔を覆いだすエミーリオさんに俺は申し訳なく思い始めるも、早く止めなきゃと思って足を進めようとした時に、エミーリオさんに肩を掴まれる。

 

「あいつらは俺が何とかするから、新郎は待機室で待ってろ」

「え!?でもっ」

「その高い服が焦げちまうぞ」

「うっ」

「ほれほれ、戻った戻った」

「あの!本当に危なくなったら逃げて下さいよ!?」

「はいはい」

 

エミーリオさんが裾を捲りながら一触即発だろう二人の元へ向かっていくのを、俺はただ見送るしか出来なかった。

エミーリオさんなら絶対に傷を負ったりしないことは分かる。

分かるんだけど、もしものことがあればバミューダや白蘭、チェッカーフェイスまで巻き込みかねない火種であることも忘れてはいない。

いやエミーリオさんに何かある前にあの二人が殴られて気絶させられる光景しか思い浮かばないけれど。

焦る気持ちをどうにか落ち着かせてぎこちない動作で待機室に戻ろうとした時だった。

 

「お前ら人様に迷惑かけてまで暴れてんじゃねーよ!馬鹿野郎ども!」

 

怒鳴るような、諫めるような声が聞こえたと共に鈍い音がこちらまで聞こえてきた。

それから静かになった向こう側からカツカツと足音が聞こえる。

そこには冷や汗を掻いている守護者達だった。

 

「やっぱあいつらはエミーリオに丸投げした方が早かったな」

「あ奴はいつまでも極限に強いな」

「もう疲れたもんね」

「アハハ、エミーリオには頭が上がらないぜ…あ、ツナ」

「み、皆大丈夫だった!?」

「はい、エミーリオが二人の仲裁に入ったので誰も怪我人は出ていません」

「そっか…良かった」

「十代目、待機室へお戻りください」

「う、うん」

 

俺は披露宴まであまり時間がないのもあって、京子ちゃんのウェディングドレス姿を見ることなく待機室に戻る。

その後もちゃんと披露宴は始まり、色んな人達が来てくれた。

雲雀さんとザンザスは予想外だったけど。

あれ?でもあの二人の姿が会場のどこにも見当たらない。

さっき獄寺君の言葉じゃヴァリアーも一緒に来てるらしいけど、ルッスーリアくらいしかいない…し。

あ、ユニも来てる。

渋滞で遅れるって言ってたからどうなるかと思ったけど、ちゃんと来れたんだ。

披露宴が始まって数十分後、ケーキ入刀の時間がきて、俺は心臓が破裂しそうなくらい緊張していた。

あ、ヤバイ、手汗が…

京子ちゃんの両手に包み込むように手を乗せて、ケーキに刃を通していく。

昔ビアンキの勘違いでリボーンと結婚式を挙げようとした時を思い出して、リボーンの妨害を警戒していたけれど、杞憂だった。

そもそもあいつはもう赤ちゃんの姿じゃないからこんなこと出来ないか、と思い直す。

歓談と食事が始まり、各々が食べ始めるのを眺めていた。

ボンゴレと関わりのある同盟ファミリーは勿論、表で取引をしている有数の大企業も招いた大規模な結婚式。

最初は一般的な規模でいいとリボーンに言ったけど、即却下された。

ボンゴレボスともあろう男が重大な祝い事にちゃっちい式典を挙げるなんぞ言語道断だ、とキッパリと言われて俺は皆の後押しもあって規模の大きい式を挙げた。

京子ちゃんが大きな会場での結婚式に目を輝かせていたから、これで良かったかもしれないと思う。

まあ未だにボンゴレの敵対組織がいないわけでもないので、警護はしっかりと付けている。

友人のスピーチに移り、京子ちゃんは黒川花にお願いしていたらしく、黒川花がスピーチを始める。

あ、隣で京子ちゃんが涙目になってる…可愛いなぁ。

新郎新婦のお色直しの時間に移り、俺達は一度退席する。

ずっと座ってるのも疲れるなぁ。

会場を出て漸く一息ついていると、目の前に人影が現れる。

 

「やぁ、綱吉君」

「白蘭!いつから来てたんだ?全然気が付かなかった」

「最初からいたよ、まぁ会場の中にはいなかったけど」

「は?それどういう………エミーリオさんのところか…」

「正解、ま、これからはちゃんと会場に行くけど」

「お前あんまりエミーリオさんに迷惑は掛けるなよ」

「僕がそんなことするわけないじゃないか、ていうか問題児達は皆あっちの方行ってると思うよ」

「問題児…って、もしかして」

「もしかしなくてもザンザス君と雲雀君だよ、あとヴァリアー達かな、彼らあっちが目的だろうし」

「だからさっきから見当たらないわけだ…」

「ま、エミーリオの隣だからこれ以上問題は起こさないでしょ」

「そうだといいけど…」

「あ、そうだ、結婚おめでとう綱吉君」

「ありがとう…お前から言われるなんて思ってもみなかったよ」

「僕だって祝い事はちゃんと祝うさ、じゃあまた後でね」

「え、ああ」

 

何だか白蘭ってここ数年で一気に丸くなったような。

いや元々バトルジャンキーな性格でもなかったけど、こう…落ち着いてるっていうか。

心に余裕が出来たって感じがしっくりくるなぁ。

やっぱりエミーリオさんのお陰なのかな。

白蘭と別れて、俺は手洗い場を過ぎ去って待機室へ行こうとした。

あ、エミーリオさんだ。

エミーリオさんがお手洗いから出てくるところをバッタリと鉢合わせする。

 

「エミーリオさん!」

「綱吉君、ああ、今お色直しの時間か」

「はい、また30分くらいで行くんですけどね」

「そっか」

「あ、そういえばザンザスと雲雀さんがそっちに居座ってるって聞いたんですけど……」

「ああ、あいつらならいるぞ、厨房の休憩室にだけど」

「あああ、やっぱり…本当にすいません」

「別にいいけど、式は順調か?」

「はい!」

「それならいいや、数名こっちにいるけど気にせずに式に集中してな」

「本当にすいません!後日ちゃんとお礼に行きます」

「いらねーから、そら、行ってこい」

「は、はい!」

 

式で緊張してた分、エミーリオさんと会話してて一気に脱力する。

直ぐに服を変えて、新婦の準備が終わるのを待っていた。

ぐぅ、とお腹の音が小さく鳴り、そういえば会場では緊張して何も食べてなかったなと思い出す。

少しつまめるものをと獄寺君に頼もうとしたけど、皆丁度出払っていた。

仕方ない、少し外すだけだし直ぐに戻るから大丈夫だよな。

俺はエミーリオさんから何か貰えないかと思って、厨房に行く。

そこでは忙しく動いているエミーリオがいた。

俺は忙しい中話しかけるのが気まずくなって、やっぱり帰ろうと思っていたらエミーリオさんと目が合う。

 

「あれ、綱吉君、何でここに」

「え、あ…あの、少しつまめるものないかなーって…」

「ああ、会場じゃ食べにくいもんな、ちょっと待ってろ」

「忙しい中本当にすみません」

「いいって、はい」

 

残り物の中でさっぱりとして服に付きにくいものを選んで更に盛り付けてくれた。

お礼を言って待機室へ戻ろうとしたら、厨房の休憩室から大きな怒鳴り声が聞こえた。

 

「う"ぉおおおい!ボス!あんたそろそろ会場に行きやがれぇぇぇ!本気で式中ずっとここにいるつもりかぁあああ"!」

「っるせぇカス!」

 

怒鳴り声は聞き慣れたもので、俺はつい遠い目をしてしまう。

ああ、あいつら本当にこっちに行ってたのか。

いや会場にこられてドンパチやられるよりはマシだけど。

 

「ちょっと君たちうるさいんだけど…食事も静かに食べられない野蛮人かい?」

「んだとぉ"!」

「行儀も悪過ぎでしょ、エミーリオも付き合う人間くらい選べばいいのに」

「ドカスが、カッ消す!」

「おいお前らここでドンパチしたら二度と飯作んねーからな!」

「「「………」」」

 

エミーリオさんの声で一気に静かになる彼らの様子に、直接見てはいないものの容易に想像がつくと思い、重いため息を吐く。

休憩室を覗く気力もなくて、厨房から今度こそ離れようと思って扉を開けようとすれば、反対側から開いて扉が俺の顔面に当たる。

 

「いってぇ!」

「あれ?ボンゴレじゃん、何でここにいんだよ」

「ベル、もう忘れたのかい?今回の式の主役はそいつだよ」

「ベ、ベルフェゴール!マーモン!」

「シシッ、そういえばこいつの結婚式だった」

 

ほ、本当にエミーリオさんの料理目当てだけで来てる…

俺は内心呆れながら二人を見やる。

 

「結婚っつったら、あれだ、ボスはしねーのかな」

「ボスが?するわけないだろう…考えられないね」

「だよなー」

 

二人は会話しながら厨房の隣の休憩室に入っていく。

ダメだ、早く休んで披露宴の後半の為に体力温存しておかなきゃ。

新郎の待機室へ戻ると、獄寺君が俺を見て焦ったように近寄って来た。

 

「じゅ、十代目!どこに行ってらっしゃたんですか!?」

「あ、ごめん、ちょっと小腹が空いちゃって、エミーリオさんの所で少しつまめるもの貰って来たんだ」

「そうだったんですか…いきなりいなくなってたので焦りました」

「ごめんね」

 

それから時間が経つと、新婦の方の準備が終わったので、披露宴の後半へと移る。

俺は京子ちゃんの綺麗なドレス姿に目を奪われながら、会場を進んでいく。

そしてそのあとキャンドルサービスや、祝辞、余興などが一気に来た。

何ごともなく着々と終わりに近づいていく披露宴を眺める。

 

何だか色んなことがあったなぁ…

中学生の時にいきなりマフィアのボス候補にされて、襲われて、戦わされて。

一度だって望んで戦ったことなんてなかったけれど、どれも後悔したことなんてなかった。

リボーンに会ったことで俺の人生は波乱万丈だよ、全く。

それでも…リボーンに会わなきゃ京子ちゃんと結ばれることも考えられなかったもんな。

やっぱり…こんな慌ただしい人生でも幸せなことが沢山あった。

リボーンと出会って本当に良かった。

 

そんなこと考えていると、新婦による親への手紙と花束贈呈が終わる。

そして新郎の謝辞の番となり、俺は立ち上がり会場を見渡す。

 

「本日お忙しい中―――――」

 

昨日まで散々獄寺君や他の守護者の前で練習してきたんだ、ちゃんと言い切らなきゃ!

緊張がMaxで周りの音が何も聞こえない中、沢山のヒトの前で喉が一瞬詰まりそうになる。

裏返りそうな声に苦戦していると、視界の端で会場の扉が遠慮がちに開いた。

エミーリオさん……

忙しいハズなのに、ザンザスと雲雀さんを引っ張ってきてまで会場に顔をだした彼を見て笑いが込み上げる。

特にザンザスと雲雀さんの顔…物凄く不本意って顔してるよ。

ああ、おかしい。

先ほどの緊張が吹っ飛び、俺は謝辞を言い淀むことなく喋り続ける。

 

「―――――――これからも今までと変わらず、ご指導ご鞭撻をいただきますよう、お願い申し上げます。

本日はありがとうございます。」

 

盛大な拍手の中、俺と京子ちゃんの結婚式は閉会した。

ゲストを見送り終えると、関係者にはお礼を言って俺達は着替える。

暑苦しいタキシードを脱ぎ捨て、椅子にどっさりと座る。

あ、そういえばエミーリオさんにもお礼を言わなきゃ。

俺はエミーリオさんのいるであろう厨房へ向かえば、皿洗いを会場の裏方のスタッフとやっていた。

 

「エミーリオさん!」

「綱吉君、お疲れさん」

「はい!お疲れ様です!片づけは従業員さんにお願いするのでエミーリオさんはもう下がってもらって大丈夫ですよ!」

「あー…ならお言葉に甘えようかな」

 

エミーリオさんはエプロンを取ると、厨房の休憩室に入っていく。

俺もそれについて行き入っていくと、休憩室は若干散らかっているものの綺麗なままで、誰もいなかった。

 

「あれ?ザンザス達は…」

「ああ、披露宴の謝辞の後そのまま帰らせた」

「何から何まですみません!」

「いや別に苦でもないからいいけど、ほんと今日はお疲れさん」

「ハハ…ありがとうございます。」

 

エミーリオさんが休憩室の窓を開けると、涼しい風が部屋の中に入ってくる。

 

「君の謝辞を聞いてて、人間の成長って早いなーって思ったよ」

「え、あはは…恥ずかしいなぁ」

 

俺の前髪が、入って来た風で後ろに靡く。

風が顔に当たり、目を細める。

 

「本当に、人間の成長って早いな…そう思わないか?綱吉君」

「え、あ、はい…」

「って言っても、君はまだ二十代か…分かんないよね」

 

何だか少しエミーリオさんが寂しそうな、嬉しそうな顔をしている気がした。

 

「少し前までジョットが君くらいの年だったのに」

 

哀愁のある音色で呟いたその言葉に、俺はエミーリオさんの顔を覗こうとしたけれど、窓から差し込む夕陽の逆光で見ることが出来なかった。

 

 

「時が過ぎるのはいつだって一瞬だなぁ…」

 

 

 

俺は何十年先もその言葉を 

 

 

忘れたことはなかった

 

 

 

 




笹川涼子:天然もの。玉の輿、やったね!
沢田綱吉:最初の上半身全裸での告白から約十年、結婚までこぎつけた勇者。
エミーリオ:ただ純粋に子供の成長ってくっそ早いなぁとしか思っていない。
ヴァリアー:エミーリオの料理目的で参加。唯一ルッスーリアだけ会場にいた。
雲雀:エミーリオの(ry


最後にしんみりでした。
中々書き辛いですね…結婚式(ギリイ…
私も結婚したいわぁぁぁぁぁぁああああああ!
ウェディングドレス着たいわぁぁぁああああああああ!
おっと失礼。

流派西方不敗 的場楓 こうや 様のリクエストでした。
※リクエストの順番はランダムで書いてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 6

エミーリオは思われる。

好意とソレは

似て非なる ものなのだ


────side

 

 

 

「いらっしゃい」

 

店に入って直ぐに耳に入った男の人の声は、何故か私の耳にすんなりと入っていった。

ヨーロッパ系統の人かしら?

彼の見てまず最初に目が行ったところは日本人離れしている容姿だった。

店の内装もどこかヨーロッパって雰囲気だ。

私は友達と遊びに行く予定だったのだが、友達が急な熱が出たらしく遊びは中止になった。

時間が余ってしまい、暇な時間を潰そうとしていたらこの店が視界の端に入った。

おしゃれな店の内装に悪かった機嫌も良くなって、メニューを注文していた。

メニューは色んな国の料理があり、私は目を輝かせた。

私は、母がイタリア人、父が日本人のハーフだ。

だからイタリアの料理が目に入って、それが母が偶に作るものだと気付くと直ぐにそれを頼んだ。

待っている時間店を見渡していて一つ、気になることがあった。

ここの客…顔面偏差値高い。

カウンター席に座ってる男性も、白髪なのが気になるけど結構イケメンだし、あっちにいる人も、あの男の子も…私と同年代の子かな…すごくイケメンだなぁ。

客を眺めていると、店員さんが料理を運んできた。

出てきた料理は今まで食べた中で一番美味しかった。

めっちゃいい店見つけちゃったなーと思って、店を携帯で検索してみると、地元ではそこそこ有名な繁盛している店であることを知った。

先ほどの男性が一人で切り盛りしているという要領の良さ。

ルックスも結構いいし、恋人とか絶対いるだろうなぁ…あ、これオリーブオイルかけたらめっちゃ美味しい。

私は友達との遊びが中止になって落ち込んでいた気分なんて吹っ飛んで夢中になって料理を味わっていた。

お腹も満たされ、心も満足したところでそろそろ会計して帰ろうかなと思い、伝票を持ってレジの方へ行く。

今度友達も誘って来ようと決意し、会計を済ませる。

 

「ご馳走様でした、美味しかったです」

「ありがとうございます、またお越しください」

 

その日は上機嫌で家に帰っていった。

そして私は夢を見た。

店の男性とお喋りをしている夢だ。

結構いい雰囲気を出して、お互い笑い合っていた。

朝起きても夢の内容はハッキリと覚えていて、私は胸を鷲掴みされたように苦しくなった。

も、もしかして…こ、恋?

そりゃルックス良し、収入良し、むしろダメなところがないけれど!

私ったら惚れやす過ぎでしょ。

男性はもっと吟味して選ぶべきだ。

あーでもなぁ…今度話しかけてみようかしら。

あんな条件のいい男性が恋人無しって絶対ないだろうし。

一週間後、週末の開店直後に私は胸を躍らせて、店に訪れた。

一番目の客らしく、他にお客さんがいなかったので、今がチャンスだと思い切って聞いてみた。

 

「あ、あの!」

「え、あ、はい?注文ですか?」

「いえ、あの…ちょっと聞きたいことが!」

「…?」

「か、彼女…いますか?」

「恋人?生憎俺は可哀そうな男でね、いないですよ」

「か、可哀そうだなんて!すっごいモテそうなのに!?」

「アハハ、そう言ってくれると嬉しいよ」

「名前…」

「え?」

「名前聞いてもいいですか?」

「あ、俺はエミーリオです」

「あの、私―────です」

「あれ?ハーフですか?」

「そうなんですよ、イタリアと日本のハーフです」

「なるほど、だから名前がイタリアっぽかったんですね」

「はい、あ、あと敬語は要らないですよ」

「ん?そう?ならお言葉に甘えるよ」

「あの、エミーリオさんの料理とっても美味しいです…ファンになってもいいですか!?」

「えー嬉しいこと言ってくれるなぁ…アハハ」

 

まさか彼女がいないとは…内心ガッツポーズしながら距離を詰めていく。

出来れば携帯の番号が欲しい。

何気ない会話をしていると、他のお客さんも来て独り占め出来なくなったので今日はもう帰ろうかなと思った。

会計を済ませて、その日はスキップをしたくなるほどテンションが高いまま帰っていった。

 

 

 

お互い見つめ合っていた。

ゆっくりと距離を縮めていく。

 

『────―…』

『エミーリオ…』

 

「ハッ!」

 

彼の手が私の頬に届こうとした時に、私は目が覚めた。

 

「…………ああああああああ」

 

何とも言えぬ恥ずかしさにベッドの上を転げまわる。

勢い余ってベッドから転げ落ちて、頭を強くぶつけて痛みに悶えていると時計が視界に入る。

 

「やばっ、遅刻!」

 

私は直ぐに制服に着替えて学校へ向かった。

 

「ねぇあんた最近、よく上の空じゃない」

「え?」

「まさか恋でもしたの?」

「はい!?」

 

友達の何気ない一言に予想以上に反応してしまい、友達も目を丸くした。

 

「え、マジ?誰よ!?吐くまで逃がさないわよ!」

「ま、待って!違うから!」

「嘘はいけないわ!さぁ!吐け!」

 

友達の脅迫まがいの尋問に屈しず、私は恋心を守り抜いた。

だって相手は社会人だなんて……言えるわけないじゃない。

相手からしたら高校生の私なんてきっと迷惑だわ。

まぁだからって諦める気はさらさらないんだけど!

あと1年で卒業だし、卒業したら告白すればいいだけよね。

自己解決した私は数日後、再びあの店に訪れた。

 

「あ、―────ちゃん!いらっしゃい」

「あ、ひ、久しぶりです!」

「こっちのカウンター席でいい?」

「は、はい!」

 

私は出来るだけ開店直後に行くようにしている。

なんせ二人だけの時間で、彼を独り占め出来るのだから。

 

「学校はどうだい?」

「アハハ、まあまあです……」

 

彼の声を聞いているだけで胸が飛び上がり、心臓が飛び出て来そうなほど緊張する。

あ、そうだ彼の電話番号聞かなきゃ。

 

「あ、あの…」

「どうした?」

「えっと…その…………携帯番号…とか、交換…できたりしないかなー…って、アハハ…ハ」

「え、いいよ、待ってね今持ってくるから」

「え」

 

死ぬほど緊張して聞いた割にはあっけなく了承してくれた彼に私は、一瞬何て言ったのか分からなかったけれど、彼が携帯を取りに行っている間で漸く状況を理解した。

 

「持ってきたよ、赤外線でいい…って顔赤いけどどうしたの?」

「だだだ大丈夫です!ちょ、ちょっと熱いだけです!」

「あ、クーラーの温度下げようか」

 

これって、え、え、これ脈あり?

だって普通お客さんに番号なんか渡さないよね?ね?

うわわわわわ、ヤバイ、今まで以上に緊張してきた。

 

「はい、これ登録しといてね」

「は、い……」

 

その後の記憶は結構朧気だった。

部屋の中で携帯の画面を見て顔がニヤける。

 

「えへ…えへへへ」

 

好きな男性の携帯番号を貰って浮かれてた私に、イタリアに行っていた母が帰ってくる音がした。

 

「―────!悪いけどこれ片付けるの手伝ってくれる?」

「はーい!」

 

一緒に母の荷物を片付けていると、お土産用の袋から淡いピンク色の花が出てきた。

 

「あ、母さん、この花綺麗!イタリアから?」

「知らないわよ、多分紛れ込んだだけね…花道歩いたからかしら」

「じゃあ貰っていい?」

「いいわよ、別に」

 

明日エミーリオさんに渡してあげよう。

私はその綺麗な花をラッピングして、机の上に置き、その花を眺めながら眠りについた。

 

 

 

 

『私はあなたのこと、好きよ』

『ああ、俺もだ』

 

数秒見つめあい、私たちは思わず笑いだす。

 

『あはは、少し、恥ずかしいわ』

『そうか?』

 

顔中に血が集まってくような感覚になりながら、両手で頬を包み込む。

 

 

 

「あああああああああああああ!」

 

心の雄叫びが漏れ出して、私は目を覚ました。

一瞬の静寂、状況を理解して夢だと気づく。

 

「うっそでしょぉぉおおおお!なんなら最後まで見せてよぉぉぉおおおお!」

 

ベッドの上で何度も転げる私を嘲笑うかのように、目覚まし時計が鳴り出した。

溜息を吐きながら、熱い顔を冷まそうと洗面台まで向かう。

今日は学校も休みだ。

朝から行ってエミーリオさんに花を渡して少しでもいいから喋ろう。

初めてここまで誰かに入れ込んだなぁと思いながらも、彼への熱は冷めることを知らなかった。

 

「エミーリオさん!おはよう」

「ああ、―────ちゃん、おはよう…いつも朝に来るね」

「昼は用事あって」

「そっか」

「あの、これ母がイタリアから摘んできた花なんですけど……綺麗だから少し貰ってきたんです」

「あー…どっかで見たことある奴だ…どこにあったっけなぁ」

「あの、とっても綺麗なんで…その、えっと……」

「…?」

「エミーリオさんにあげます!」

 

数本のラッピングされた花をエミーリオさんへ向けると、彼は少し目を丸くさせて受け取ってくれた。

 

「え?いいの…?」

「はい!」

「そっか、ありがとう」

 

そういってふわりと笑うエミーリオさんの笑顔に私は頭の中が一瞬真っ白になった。

 

「えっと……ごめんなさい、花の名前とか分かんないんですけど、その……あまりに綺麗だったから…」

 

あなたの笑顔が、とは言えなくて…私は口を噤む。

 

「いやいや、嬉しいよ…花なんて貰ったのはいつぶりかなぁ、飾っておくね」

 

そういって花を嬉しそうに眺めていた彼に、私は嬉しすぎて泣きたくなった。

あ、ヤバイ、ちょっと待って…

胸がきゅうっと絞られたように苦しくなる。

 

「え、どうしたの」

「あ、いえ、大丈夫です…何でも……」

 

彼の困惑している声が聞こえて、私は焦って目に溜まる涙を乾かそうとしたけれど、努力も虚しく私の瞳から涙が零れ落ちた。

嬉しすぎて泣いちゃいました、なんて言えなくて両手で顔を隠す。

目の前の彼は慌ててるような困ってるような雰囲気で、私も焦って涙を拭く。

 

「大丈夫か?」

「は、はい…ごめんなさい、いきなり泣いちゃって」

「いや、いいけど…困ったことがあったら誰かに相談しなよ」

 

優しすぎだろ…やばい、カッコいい。

エミーリオさんが私の頭に手を置いて撫でてくれた。

私はエミーリオさんの体温に興奮しすぎて、胸がはち切れんばかりに痛かった。

 

「…ねぇ―────ちゃん」

「は、はい!」

「俺…君とどっかで会ったことないっけ…?」

「え?いや、ないと…思います…」

 

なにこれ口説かれてんの?それとも本当にどっかであったことあるのかな?

 

「イタリアの方に数年いましたけど…エミーリオさんの出身ってどこですか?」

「イタリア…なら多分あっちで会ったことあるかもね」

「ああ、なるほど…」

 

やばい、これ本気で運命の可能性ある?あるんじゃね?コレ

だめだ一度思うと、本当に思い込みそう。

 

「ああああああの!用事思い出したんで、ちょっと帰りますね!」

「え、あ、うん」

 

これ以上ここにいれば私の心臓がもたない!

私は店を出て、ただふらふらと目的もなく歩いてた。

 

「あー……エミーリオ……さん…」

 

ああ、心臓が痛い。

恋ってここまで苦しいものなのか…

数時間も町をぶらぶらしていたら顔の熱も冷めて、私はもう一度店に行こうか悩んでいた。

もうお客さんも入ってる時間帯だからお喋りは出来ないだろうし…

やっぱり違う日に朝一で行こうかな、うん。

 

「よし、来週の日曜日にまたエミーリオさんに会いに行きますか!」

 

私は声に出して意気込んだ。

 

 

 

 

「そんな日、二度と来ないよ」

 

 

鈍い衝撃が私を襲った。

いきなりのソレに私は呆気に取られて、体勢が崩れ膝から地面に倒れこむ。

地面についている右腕で体重を支えながら、私は今起こった出来事が分からず起き上がろうとする。

一瞬遅れて、腹部に激痛が走った。

 

「ぅぐっ……?あ…?」

 

何がどうなってるのか理解できず、痛みに呻きながらお腹を覗き見ると私は自分の目を疑った。

そこには真っ赤になったお腹が見えたからだ。

 

「な、…んで……?げっほ…」

 

息をするのさえ苦しくて、痛くて、私の体は恐怖で動けなかった。

 

「君、―――――だろう……エミーリオに近づく害虫め」

「……っ…」

 

痛みで口すら開けられなくて、後ろから聞こえてくる声に恐怖した。

死にたくない 死にたくない 死にたくない

 

「直ぐには死なせないよ…少しづつ殺してあげよう」

「ぁ…だれ、か………たすけっ……」

 

必死に振り絞った声すら掠れていて、私は絶望の淵に落とされる。

目からは涙が零れ落ちて、左手で宙を搔きむしる。

痛い痛い痛い痛い痛い

いきなり首に鎖のようなものが巻き付き、引き摺られていく。

 

「いやっ、嫌ぁあああああああ!」

 

恐怖で震えあがる体で精一杯叫ぶが、痛みと恐怖で意識が遠ざかっていった。

死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!

引き摺られる身体と共に、私の意識も闇に引き摺られていった。

 

 

 

 

次に意識が戻ったのは病室だった。

すぐ隣にはお母さんが眠っていて、私は自分のいる場所が病室だと理解するまでに数分を要した。

申し訳ないと思いながらお母さんを起こすと、お母さんは泣きながら私を抱きしめた。

何度も私の名前を呼びながら、私はぼんやりと病室の窓の外を眺めていた。

お母さんの話だと、私は一週間も前に事故でお腹に穴が開いちゃったらしい。

手術は成功したけれど、意識が中々戻らない私にお父さんもお母さんも心配していたらしくて、私は申し訳なく思った。

でも私には事故にあった時の記憶はない。

というよりも事故にあう数週間ほどの記憶がない。

記憶のない間はふわふわとして曖昧だったけれど、なんとなく何かに夢中だった気がした。

 

「お母さん……」

「どうしたの?お腹の傷が痛むの?」

「ううん、違うの……」

 

何も分からない…何も覚えていない

 

 

「胸が………苦しいの……」

 

目から零れる涙の理由さえも分からずに、私はずっと窓の外を眺めていた。

 

「ごめ…なさい……」

 

私はただ何かに恐怖し、震えていた。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 

 

 

何に謝ってるかなんて私には分からず、溢れる涙と共に零れだした言葉が病室の中に木霊す。

 

 

『私はあなたのこと、好きよ』

『ああ、俺もだ』

 

朧気で掠れた記憶の中で、とても優しい声がして胸が一層苦しくなった。

悲しくて…怖くて…涙が止まらなかった。

 

胸が……苦しいよ……

 

 

 

『あなたは変わらずそのままでいて、エミーリオ…』

 

 

『ああ、君もそのままでいてくれ、エリアーデ』

 

 

「ごめんなさ…い」

 

 

『さよなら、エミーリオ』

 

 

 

 

「………胸が……苦しいよっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

それは罪悪感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バミューダside

 

 

エミーリオに惚れた女性を見つけた時は、あまり気にしていなかった。

今までだってエミーリオに好意を抱く女性を見てきたが、想いを告げずに去って行くばかりだったから今回もそうだと思っていた。

エミーリオ自身全くその気がなさそうだったし。

女性はエミーリオにぐいぐいと詰め寄っていたが、エミーリオが何も気にしていない様子だったので僕は若干眉を顰めるだけに留まっていた。

 

「この前ファンが出来てさ、すっげー嬉しかったんだよなー」

「何を言ってるのだ、僕は百年前から君の料理のファンだ」

「アハハ、こいつめー」

 

 

女性は週末になると朝一に店に来ては、エミーリオとお喋りをして帰っていた。

明らかにエミーリオに気があるとしか思えないのに、当の本人は全く気付いてすらいない様子だった。

別にエミーリオに恋人が出来ること自体に反感があるわけではない。

だがそう長くないこともしっているから、別れる時が心配ではあった。

エミーリオの店には一通り監視カメラを設置してはいるが、音は聞こえないので彼らの会話までは把握していなかった。

あの女性の身分を調べている頃だった。

女性がエミーリオに何かを渡しているのを監視カメラ越しで見ていた。

流石に花を貰えばエミーリオも彼女の気持ちに気付くのではと思っていたが、エミーリオが気付く気配はなかった。

少し時間が経った頃、僕は維持装置の様子と牢獄の様子を見回って再び監視カメラの方を覗いた。

見ている途中で、イェーガー君に頼んでいた、最近エミーリオの周りをうろついている女性の身辺調査の結果が届いた。

僕はそれを見て目を細める。

 

「…ただの偶然か…?」

 

そこにはエリアーデ、と記されていて、いつかの記憶を思い出す。

エミーリオを殺してくれた女の名前に眉を顰めながら経歴を読んでいると監視カメラの方に動きがあり、そちらに視線を移した。

そこには六道骸が店に入ってくるところで、僕は舌打ちしながらそのまま見ていると、違和感を覚えた。

エミーリオが厨房から出てこない。

料理している音で気付いていないのか?

最初はそう思っていてそのまま眺めていたけれど、画面上の六道骸もいつまで経っても出てこないエミーリオに首を傾げて厨房の中を覗く体勢を取っていた。

そして次の瞬間、六道骸が厨房の中へ走っていった。

僕はそれを見て、直ぐに異常事態だと分かりワープでエミーリオの店に駆け付けた。

 

「エミーリオ!」

「バミューダ!?」

 

エミーリオの名前を呼びながら店の中へ入っていくと、六道骸が僕の方へ視線を向けた。

その様子は焦っていて、彼の足元にはエミーリオが蹲って倒れていた。

 

「エミーリオ!何があったんだ!?」

「彼を動かさないで下さい、恐らく毒です」

「毒だと!?」

「嘔吐に呼吸困難…内傷の回復が遅いので僕の幻術でどうにか紛らわしています、あなたは毒の元でも調べなさい」

 

エミーリオの背中は震え、苦しそうに呼吸していて言葉を発する余裕さえ見られなかった。

顔からは苦しさからか、脂汗が噴き出していて、見ているだけでこっちまで苦しくなった。

六道骸の言葉に若干イラついたが、喰いついている暇などなく、僕は部屋を見渡す。

何が原因だったのか分からず、エミーリオをもう一度観察していると彼の指先に丸い点があった。

 

「……何だ…コレは…血…?」

 

まるで棘のような小さな鋭い先端に刺さったような、ほんの僅かな傷痕があった。

針…?いや包丁でもない…待て、エミーリオは少し前まで何をしていた……

すると幻術でエミーリオの回復を補助していた六道骸がぽつりと零した言葉が耳に入った。

 

「……葉の棘…」

「何?」

「机の上の花瓶に飾られている花…前に来た時にはなかった……いつのものですか」

「え…あれ、は…さっき…」

 

僕の中で一つの花の名前が浮かんだ。

 

「……カルミア…」

 

カルミアの葉の部分に含まれるグラヤノトキシンIという毒物は呼吸困難や嘔吐を引き起こし、最悪死に至るものだ。

あれは…あの女がエミーリオ刺し殺そうと刃物に塗りつけた毒……

最近エミーリオの周りをうろついていた女の名前……

 

「ぅ、ごほっ…ぉえ……」

「エミーリオ!」

 

エミーリオが苦しそうに嘔吐し、腕が痙攣し始める。

それを見た僕は何かが自分の中でプツリと千切れる音を聞いた。

あの女だ…あの女が…エミーリオを………

僕はエミーリオを六道骸に任せて、すぐさまワープで女の居場所を探し出した。

我武者羅に探して数十分たった頃に、あの女の後ろ姿を土手の方で見つけた。

あの女は手を空へ伸ばし、生き生きとした表情で言い放った。

 

「よし、来週の日曜日にまたエミーリオさんに会いに行きますか!」

 

怒りが沸々と腹の底で煮えたぎる反面、頭は冷水を掛けられたように冷め切っていた。

どうやって殺してくれようかと、それだけで一杯だった。

 

「そんな日、二度と来ないよ」

 

その言葉と共に、僕は女の腹に風穴を開けた。

 

「ぅぐっ……?あ…?」

 

女は呆気にとられ、地面に倒れる。

 

「な、…んで……?げっほ…」

「君、エリアーデだろう……エミーリオに近づく害虫め」

「……っ…」

 

その女の瞳は恐怖に濡れ、僕はそれを冷めた目で見下していた。

ああ、早くその汚い生命を捻り潰したいくらいだよ…でも

 

「直ぐには死なせないよ…少しづつ殺してあげよう」

「ぁ…だれ、か………たすけっ……」

 

女の助けを求める声は小さく誰にも届きはせず、必死にもがくソレの首に鎖を巻き付けてワープホールへと引き摺って行く。

何年も、何十年も、何百年も、あの牢獄に閉じ込めてやる。

自殺もさせない、させてたまるか。

死んだ方がマシだと思わせて嬲り続けてやる。

 

「いやっ、嫌ぁあああああああ!」

 

女は悲鳴をあげながら徐々に黒いワープホールの中に引きずり込まれていく。

 

「やめろバミューダ!」

 

女は気絶し、あと少しというところで名前を呼ばれる。

僕はそこへ視線を移せば、そこには沢田綱吉がいた。

近くには誰もおらず、本当に偶然近くを歩いていただけのようだった。

 

「何してんだよ!今すぐその女の人を離せ!」

「彼女はエリアーデだぞ」

「!?」

「ああ、エミーリオを殺したあの女だ……殺されて当たり前のことをした女だ」

「何言って…」

「六道骸の言葉を借りるならば輪廻転生…か」

 

沢田綱吉が僕の言葉に目を丸くした。

 

「こいつは転生してもなお、エミーリオを殺そうと…強い毒性を持ったカルミアの花をエミーリオに送ったのだ」

「なっ」

「許せるものか、この女を許してなるものか…死を望むほどの報いを受けて然るべきだ」

「や、やめろ!エミーリオさんの意思を聞かずに勝手に…」

「エミーリオは許すだろうね」

「!」

「許して何になる!?こいつのように転生しても変わらぬ害虫さえいるのだぞ!罰するべきではないか!」

「お前がすることは罰することなんかじゃない…ただの仇討ちだろ」

「そういわれても構わないさ…こいつには然るべき死を送ってやる」

「ダメだ、それは俺が許さない……その人が本当に意図的にしたのかも分からないうちに決めつけることは許さない」

「それだから貴様は甘いのだ!」

「バミューダ…エミーリオさんが本当に仇討ちを望んでいると思うのか…?」

「…何を分かったような」

「分からない、だけどお前も分からない…誰にもあの人の考えは分からない」

「…」

「エミーリオさんに判断を委ねるべきだ…バミューダ」

「それであいつが殺すと言えば…?」

「反対はしない…だけど、エミーリオさんの答えなんて分かってないようで皆分かり切ってるじゃないか…」

「っは……ふざけたことを……」

 

僕は女を沢田綱吉の方へ投げつける。

殺したくて仕方のない今、あの女を視界に入れることすら耐えられなかった。

 

「僕は、友の復讐すら出来ないのか…?」

 

ポツリと呟いた言葉は酷く弱弱しかった。

 

「エミーリオさん…今どうしてるんだ」

「店で六道骸の幻術で補助されながら回復している」

「そうか…ならお前も戻った方がいいだろ…エミーリオさんの隣にいてあげろよ」

「貴様に言われなくともそうする…」

 

沢田綱吉に背を向けて僕は直ぐにエミーリオの元へ戻った。

店に戻るとエミーリオは普通に動けるほど回復していた。

 

「あ、バミューダ!さっきは驚かせてごめんな」

「エミーリオ…」

「もう大分回復したぜ…まぁ疲れたから今日はもう店開かねーけど」

「そうするべきだ…早く横になって休んだ方がいい」

 

先ほどの脂汗で髪が頬にへばりついた彼を見ていると、いくら回復したからといって気が抜けるものではなかった。

 

「骸君から聞いたんだけど、これの葉の部分に毒があるんだってね」

 

そういってエミーリオが取り出したのはカルミアの花弁だった。

 

「今回は少量だったからあんくらいだったけど、大量だと普通死んじゃうんだってさ…あぶねー」

「エミーリオ…」

「ん?」

「あの女…殺すべきだ」

「女…?」

「エリアーデという最近君の周りをうろついていた女だ、あの女がお前に渡したものだろう」

 

エミーリオは彼女の名前を聞いても何も反応しておらず、600年前のあの女とは別人だと思っているのだろう。

だが、僕の言葉に後ろの方で休んでいた六道骸は顔を歪めた。

 

「多分彼女知らなかったんじゃねーの?」

「そんなハズは」

「だってさ、すっげー笑顔でこれくれたんだぜ?」

 

そういって目を細めて花弁を眺めているエミーリオに、彼女は君を殺したあの女の生まれ変わりかもしれない、とは言えなかった。

 

「俺とっても嬉しかったんだよなぁ…だってすっげー綺麗じゃん、この花」

 

エミーリオが花を眺めながら微笑む姿を見ていると、僕は唇を嚙み締めて拳を血が出るほど握りしめた。

 

「今度彼女が来たら、あの花危ないって教えなきゃな…」

「とっても綺麗な花なのになー」

「今度いつくるか分かんないけど、とってもいい子でね」

 

聞くに堪えなかった。

何も知らぬエミーリオの言葉が、あまりにも健気で、あまりにも残酷で、あまりにも……悲しかった。

これでは…何も…出来ないじゃないか……

 

「バミューダ…?何で泣いてるんだ?」

 

 

君は充分に傷付いた

 

君は充分に悲しんだ

 

君は充分に苦しんだ

 

 

だから今度は僕が君の悲しみを背負おう

 

 

「バミューダ…?」

 

 

 

だから君は何も知らず…笑っていてくれ

 

 

エミーリオ…

 

 

 

 

僕はみっともなく泣きながら、友の傷痕を隠し通した

 

 

 

 

 

 

後日、沢田綱吉の方にあの女のことを聞けば、彼女の記憶はエミーリオに出合った日から全てを消したと言っていた。

エミーリオは彼女が訪れないことに首を傾げていたが、僕はそれでいいと思った。

 

 

「エリアーデちゃん、全然来ないなぁ…」

 

それでいいのだ…

 

 

「とってもいい子だったのに」

 

 

 

エミーリオの言葉に、応える者は誰もいなかった。

 

 

 




ラブコメだと思った?ラブコメだと思った?
残念!SAN値直葬ものでした!
ねぇどんな気持ち?
ねぇどんな気持ち??(^ω^三^ω^)

エリアーデ:転生体。記憶なし。エミーリオに恋()をしてセコムによって殺されかけた。悪気はない。
エミーリオ:好意に全く気付いていないし多分これからも気付かない。毒に関してはあんま気にしてない。ただ今度エリアーデに会った時に注意しておこうと思っていた程度。600年前のあの事件をまるっきりサッパリ忘れていた為、エリアーデの名前を聞いても何も思わなかった。
バミューダ:SAN値直葬からのエリアーデ絶対殺すマン一歩手前までなったが、なんとか押し留まってセルフSAN値減少。安心安定のセコム。
骸:エミーリオの苦しむ姿を間近で長時間見てたので結構SAN値がヤバかった人。
沢田綱吉:偶然セコムによる害虫駆除という名の制裁に鉢合わせした人。内心穏やかではないもののエリアーデを救助。


何だろう…すっごい副産物です。
全然違う内容のリクエスト考えていたら、脱線しまくってこれに収束した副産物。
にしてもお盆ってほんと忙しいデスネー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 7

本編後のチェッカーフェイス、家族休暇
セピラ視点


チェッカーフェイスside

 

「エミーリオ」

「あ、川平君久しぶり」

「誰もいない時はシェリックでいい」

「分かった、にしても今日は木曜日だから店なら開いてねーぞ、こんな朝早くからどうしたんだ?」

「いや、少し家族水入らずで過ごそうかと思ってね」

「あー…まぁいつも誰かしらいるしな」

「と、いうわけだ、付き合ってくれないか?」

「予定もないし別に構わないぜ」

 

そう言って幻術を解いて本来の顔に戻した私は持ってきた服をエミーリオに渡す。

 

「なにこれ」

「いつもそんな恰好で出歩く気か、少しは別の服を着ろ」

「え、これ着ていいの?」

「お前の為に買ったものだ、不満か?」

「いやいやいや、すっげー嬉しいよありがとう」

「ならばいい」

「つーかどこ行くんだ?」

「さぁ…そうだな、お前は行きたい場所はないのか?」

「あー……アイスランドのレイキャビクってとこ行きてーわ、すっげー綺麗な観光地があるんだよ」

「ならばそこに行こう」

「今の時期じゃすんげー寒いだろうから、ちょっと厚めの服…折角だからお前から貰った物でも着ようかな」

 

エミーリオは軽い足取りで部屋に向かうと、数分で着替えて出てくる。

手袋、マフラー、コートといかにも暑そうな服を着ているエミーリオは一見旅行にはしゃぎすぎて行く前から着てしまった人にしか見えなかった。

だがワープを使って現地へ飛ぶので、一気に寒くなると思えばその服装は間違っていないのだろう。

エミーリオが普段着を着ていないことを確認した私は幻術でその場にエミーリオを映し出す。

 

「ん?何で俺?」

「お前がいなくなればうるさい連中が一斉に探し出すだろう」

「バミューダ達のことか?ていうかいつも疑問なんだが、あいつら何で俺に何かあるとすぐ来るんだろうな」

「さぁな」

 

この店に監視カメラ、盗聴器がいくつも隠されていることを知っている身としては、エミーリオの周りのこいつに対する執着心に関してはもう少し警戒してほしいと思うのでそれらの存在を教えたいが、私も人のことを言えないので口には出していない。

偶にあいつらに気付かれずにカメラを壊しているが、次の日には何事も無かったかのように設置されているソレを見て私は諦めた。

エミーリオの服にもGPSがつけられていることを知った時にかなり本気で彼らを消そうか悩んだことは結構最近だ。

今日もエミーリオへの家族旅行ともいえる誘いに、私はこの店に訪れてから全ての会話を幻術を駆使して監視カメラを誤魔化すという面倒な作業を必要とした。

ああ、携帯を忘れていた。

 

「エミーリオ、今回は圏外の場所へ行くんだ、携帯は置いていけ。邪魔になるだけだ」

「あ、そっか」

 

エミーリオはズボンから携帯を取り出し、部屋の方に置いて玄関に戻ってくる。

さて、これで追跡は出来ないだろうな。

精々探し回ってくれ、と内心ほくそ笑む。

 

「んじゃ行こうか」

「そうだな」

 

エミーリオの腕に触れると、エミーリオは私ごとワープした。

一瞬でマイナスの世界に飛び、吐く息は白くなる。

 

「おー!一発で来れた!しかも絶景!」

「前よりも炎のコントロール上手くなってないか?」

「ああ、うん、結構前にバミューダに教わったから」

「そうか」

 

エミーリオから視線を逸らし、目の前の景色を眺める。

そこは人混みからかけ離れた自然の一角である山の頂上だった。

アイスランドではまだ夜中で、夜空一面にはオーロラが現れていた。

 

「お前は…ここによく来るのか?」

「よくって程じゃねぇけど、前は200年くらい前に来たかなぁ…ほら、あっちに小さく見える町あるだろ、あっちの方で少しの間滞在してたんだよ」

「……美しいな」

「だろ?俺はこういう自然の景色を見るのが大好きだから、色んなとこ行って綺麗な場所見つけるの好きなんだよなぁ」

「そうか…」

 

トゥリニセッテの維持ばかりで、景色を見るなんて考えたこともなかった。

そういえばエミーリオはいつだって、景色を見ていたな。

崖の上や山の頂上、何かを見渡せる場所を好んでいた気がする。

まぁ昔のこと過ぎてあまり覚えていないが…

 

「自然は変わらんな」

 

人間は急速に変わるというのに

 

「そんなことねーよ、自然も少しずつ…ゆっくりと変わってる…数千年前はもう少し寒かった気がする」

「それは人間の温暖化のせいだ、やはり星を滅ぼすのは人間だ…あれらは害だ」

「んー…」

「なんだ」

 

私の言葉にエミーリオは困ったように笑って唸る。

 

「俺には難しくて分かんねーけど、地球が無くなる間に人類は何度滅亡して、何度誕生するのかなぁって思って…」

「滅亡…」

「この前テレビでどっかの専門家が言ってたんだけど…太陽での水素爆発には何万年以上の年月がかかろうが限りがあるんだってさ」

「…」

「水素のなくなった太陽は爆発も起こさないから熱を持たなくなるってわけだろ?太陽がないと人は生きていけない」

「だがそうすればこの星も終わる」

「そうだな…でも人がいなくなった後も数万年、数億年はあり続けるんだろうなぁ」

「それも専門家の見解か?」

「いや、勘…かな」

「…セピラの予知したことは本当か」

「ん?」

「お前の最期だ」

 

あの記憶を見て今まで私の中では、あの言葉が何度も脳裏を反芻するのだ。

エミーリオは星と共に生き、共に死ぬ運命であるという、彼女の言葉が今でも私の中にしこりとして残っていた。

 

「さぁね、でも別になんとも思ってねーし…実感もないからなぁ」

「そういうものか」

「おう、なんつーか…それが当たり前って感じなんだよ、説明しにくいなぁコレ」

「お前は一族の中でも特殊だからな、私に理解出来なくても不思議ではない」

「そうかぁ?」

 

首を傾げているエミーリオから視線を外し、再びオーロラを眺める。

星と共に生き、共に滅び逝く運命を背負わされたエミーリオに悲観する素振りは見えなかった。

 

「ああ、でも…そっか……」

「?」

 

 

「最後は俺だけになるのか」

 

ふと思い出したように呟いたエミーリオの言葉。

白い息を吐きながらオーロラを眺めるエミーリオの横顔を、私はどうしても見れなかった。

誰しも終わりを迎える時がある。

永遠などありはしない。

そんな中、永遠とすら言えるような長い時をエミーリオはこれからも歩み続ける。

いつしか独りになるであろう時が必ず来る。

私も、いつしかこいつを置いて逝ってしまうのだな……

 

「私も…」

「ん?」

「長生きしなければな…」

「アハハ、んだよジジィくせーこと言うなよー」

 

それは、随分と……悲しいのだろうなぁ…

 

隣で笑う家族を、独りにしたくないと、心からそう願った

 

 

山の頂上から見える景色は壮大で、優美で、美しく

まるで、悲しみも、苦しみも、虚しさも

雪が、氷が、全てを覆い隠して消し去ってくれるような—————…

 

時の流れを忘れて眺めていたソレに、久しく流していない涙が溢れそうになった

 

 

 

「『美しいなぁ…』」

 

 

あの頃と変わらぬ色褪せない音色で呟かれた言葉が私の耳に届く

 

 

「『そう思わないか?』」

 

 

記憶と重なる声が酷く懐かしい 

 

 

「『ああ、そうだな…エミーリオ』」

 

 

 

お前が私に名をくれたあの頃のように 

 

私は無邪気に微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セピラside

 

「辛い思いをさせた、すまないセピラ……どうか待っていてくれ」

「愛していますよエミーリオ…どうか怪我の無いように」

 

寂しそうに微笑む彼の表情を私は忘れることはないだろう。

涙で滲む視界の中、ハッキリと伝わる彼の体温に瞼を強く閉じて、彼の背中へと腕を回す。

両腕でこれでもかというほど抱きしめ、私は静かに涙した。

段々と離れる体温に奥歯を噛み締める。

目の前には彼の大きな背中があり、私からゆっくりと遠ざかっていく。

彼の背中が見えなくなった途端、体から力がふっと抜け、地面に膝をつく。

一族の者に見つかるまで、私はただ茫然と彼の去っていた方向を眺めていた。

 

「エミーリオは人間を見定めるべく、少しの間一族から離れることを選びました」

 

その言葉を一族の者達が飲み込むまでの時間が途方もなく長く感じられた。

それからは困惑と疑心の声ばかりだった。

それでも最終的には皆私の言葉を信じ、エミーリオの帰りを待ちわびていた。

一年…十年……百年、と時が過ぎれば過ぎるほど、一族の間に流れる雰囲気は不穏なものになっていった。

私がどれ程声をかけても、誰の耳にも届くことはなく、一族の心はバラバラとなった。

ただ一人を除いて。

二番目の子、シェリックだけは私の言葉を最後まで信じようと努力してくれていた。

彼には一族の眼から心を読み取ることが出来るからというのもあったのだろう。

私が嘘をついていないことを、彼だけが知っていた。

それでも共に協力し合い、助け合うだけで、特別仲が良かったというわけでもなかった。

一族の数が段々と少なくなっていき、ついに結晶を維持することが困難になってしまった。

 

「人間の力を借りよう、彼らを人柱にすれば…」

「ならば彼らに納得してもらい、了承を得ましょう」

「何を言っている、人間がこの人柱を快く思うわけがないだろう」

「まさかあなた…」

「強制的にでも押し付けて、人柱にしなければ…この星は終わる」

「だめです!彼らの意思を尊重しなければ!」

「もう既に星は死に向かっているんだ!考えている時間はない!」

「ま、待ちなさい―――――」

 

私の静止を振り払い、彼は結晶を持って我々の前から姿を消した。

数年後、再び姿を現したかと思えば彼の手には星を守るための意思の結晶が姿を変えてそこにあった。

私はあまりの出来事に二の句が継げられなかった。

漸く理解した頭で、震える唇を開いて彼に問う。

 

「何を…したのですか……」

「…」

「何をしたのかといっているのです!答えなさい‼」

 

初めての感情だった。

腹の底がこれでもかというほど熱くなって、私は彼を威圧して問いただした。

 

「結晶をそれぞれ三つに分けた」

「なんてことを……いえ、それよりも3つ?…ですが、そこには……」

 

エミーリオの残した形あるものを変えられて私は悲しみに襲われるが、それよりも彼の言葉に引っ掛かった。

何故なら彼の手のひらには結晶だったであろうそれらは、全て二つずつしかなかったからだ。

最悪な考えが脳裏を遮り、私は彼を見据えた。

 

「ま、さか…」

「既に7人の人柱は出来た……あと14人…適合者を探してトゥリニセッテを維持しなければ」

 

限界だった。

私は手の平で彼の頬を強く叩いた。

大きな音と共に彼の手の平から結晶らが零れ落ちていく。

 

「人間の…彼らの意思を聞かずに無理やり人柱にしたのですね!?今すぐに外しに行かねばっ」

「無理だ、外そうとすれば人柱は死ぬ…そういうふうに作った」

「何故!そのような残酷なっ……彼らの生命エネルギーであの結晶を維持しようとすれば命が直ぐに尽きてしまうことくらい分かっているでしょう!」

「星の為だ…多を救う為ならば小を切り捨てろ…セピラ」

「何か別の方法があったハズでしょう…」

「別の方法だと?エミーリオがいない今、他に何があるというのだ」

「それは…」

「エミーリオはいない、お前もその現実を受け入れて新しく生きる術を模索するべきだ」

「エミーリオは人間を見定めるべく私たちの元を離れただけです、必ず帰ってくると告げたでしょう」

「ならばいつ帰ってくる!?」

「っ…」

「もう何百年経ったと思っているんだ!他の者達は全くエミーリオが戻ってくることを信じてはいない!あいつは人間に現を抜かして我らの前から姿を消したんだ!」

「そんなハズはありません!私の言葉が嘘であるかなどあなたが一番分かっているでしょう!?」

「ああ、知っているとも…君がエミーリオに騙されていなければの話だがな」

 

私は彼の言葉に目を見開いた。

エミーリオが…私に…家族に嘘を、ついたと……本気でそう思って……

そう思った瞬間、言い返そうと口を開いたが、声が喉を通ることはなかった。

出るのは乾いた息だけであり、気付けば頬が濡れていた。

次に悲しさと絶望が我が身を襲った。

私は顔を両手で覆い、ただ涙した。

 

 

「私の前から消えて………今すぐに…」

 

 

怒りも悲しみも苦しさも全てが()い交ぜになって、漸く出てきた声は酷く震えていた。

彼は一瞬の動揺の後、結晶を拾わずに私の前から何も言わず姿を消した。

そこにはただひたすら泣いている私と、足元に転がる14つの結晶だったものが残された。

既に一族はエミーリオを除いて5名だったが、彼が姿を消してからは4名でどうにか維持していた。

私はシェリックによって人柱にされた者達を探し回った。

そして私は、人柱を見つけた。

人柱たちは赤子の姿で形を留めていた。

それが彼らの成長するための生命力を限界までおしゃぶりの形をした結晶に注がせた代償だと分かった。

自らの体を見て、絶望する者達を目にして私は顔を歪めた。

彼らと距離を縮めている最中、シェリックが現れた。

彼は姿形を全く別の者へと変えていた。

彼らのおしゃぶりを奪い取って、どこかに消えようとした彼を引き留めれば彼は足を止め私の方へ振り返った。

新しい人柱に変えなければいけないと、無表情でそう宣う彼に私は怒りに似たものを感じた。

 

「どうしても…その考えを改める気はないのですね……」

「ああ、これも全て星の為だ」

 

もう、戻れぬところまで拗れてしまったのだと悟った。

 

「では…せめて大空のおしゃぶりは私が担い手となりましょう」

「!…お前…」

「人間だけに背負わせるわけにはいきません…あなたの罪を、我が一族の罪を私が担います」

 

本当は怖かった。

私まであのような赤子の姿になってしまうのではと恐ろしかったが、それ以上に遣る瀬無かった。

我が身の無力さに嘆く彼らを、無常にも突きつけられた現実に絶望する彼らを…見ているのが忍びなかった。

せめて彼らの手を引っ張って共に生きることくらいはしなければと、そう思ったのだ。

シェリックは何もいうことなく、私に人柱から奪い取ったおしゃぶりを渡して去っていった。

そして私はそのおしゃぶりを自身の胸へと(かざ)し、自ら人柱へと成り代わった。

人間とはけた違いの生命力を保有していた私は、他の人柱のように赤子になることはなかった。

そしてシェリックによって人柱にされてしまった者達を匿い始めた。

彼らの呪いを解く方法も分からなければ、その苦痛を和らげる方法すら分からなかった。

そんな中、生命力の負荷や人間間で行われた戦争の被害で一族は段々数を減らし、遂には私とシェリックの二人だけになってしまった。

最早私だけでは結晶を維持出来ないと分かり、人間に声を掛けることにした。

最初に声を掛けたのは、イタリアのとある治安の悪い町に住んでいた青年だった。

ジョットという青年で、自警団を成立したいと考えていた彼に私は相談を持ち掛けた。

結晶を守る代わりに、結晶を通して発揮出来るであろう力を貸すことを約束した。

 

「あなたの大切なものを守る力を対価として…どうか私を…いえ、星を守る役目を担って欲しいのです」

「……分かった、約束しよう」

 

これで大切な人の平和を守れるならばと彼は首を縦に振った。

ただ結晶を持つのではいつか失くしてしまうかもしれないと危惧して、形を変えることになった。

そして完成したのは、小さな、指に嵌められるほどのリングへと成った。

 

「他の適合者を探してきます…早く探さねば…」

「セピラ、無理はするな…焦らず探せばいい」

「…はい、分かっています」

 

ジョットにはそう言ったが、私の懸念はそれだけではなかった。

エミーリオ……一体あなたはどこへ消えてしまったのですか…

家族の中でも特別な位置づけにあったエミーリオ、彼だけが異色を放っていた。

星と共に歩み、星と共に滅び逝く、私の愛しい家族。

未だ帰らぬ家族を思い、私は胸の内に潜む不安を押し隠してヒトの中へと紛れ込んだ。

 

私はあれから適合者を見つけ、説得して結晶を託した。

渡す際に、ジョットと同じ方法を用いてリングにして肌身離さず付けられるようにした。

もはや私にやれることはない。

そう悟ると同時に、自身の死期を予知した。

結晶の…トゥリニセッテの維持の多くを私が負担していた為か、既に私の身体は人間の生命力並みに弱くなっていた。

死を身近に感じ取った私がこの橙色のおしゃぶりを継ぐ次世代を必要としていた頃だった。

ヒトとの間に子供を授かった。

その子は他のヒトよりも少し生命力が多く、予知能力を授かった、人間だった。

少し老いにくいだろうけれども、私のように不老の身体でもなければ、桁違いの生命力を保有しているわけでもないただの人の子。

ならば、我が一族はここで忘れ去られた方がいいのだろう。

可愛い我が子に種族の違いという重荷を背負わせたくはない…

病気がちの夫には先に旅立たれ、私はアルコバレーノを見守りながら、我が子を育てた。

そしてついに私の中の灯り火が消えようとしていた。

 

「お母様…」

「ルーチェ……あなたには悲しい思いをさせてしまうけれど、どうか許して」

「いいえ、いいえ!私はお母様の元に生まれて幸せでした!」

「私は少し先にお父様の元へ行きます…あなたはもっともっと後においでなさい」

「はい…待っていて下さいお母様…」

「強く、幸せに生きなさい」

「は…い」

 

段々と眠たくなっていき、瞼が重くなる。

 

「愛しています、ルーチェ…」

「私もですお母様…」

 

瞼から零れる涙が頬を伝うのが分かり、口元には微笑みを作る。

 

 

 

❝セピラ❞

 

 

いつか聞いた声を思い出し、私はあの日を思い耽る。

切なげな顔をして微笑んだ彼と別れたあの日を思い出してはいつも後悔していた。

 

あの手を握って、泣いて縋って引き留めておけば…

 

それとも私も一緒に彼と共に行けば…

 

こんなにも心残りになることはなかったのだろう。

 

 

 

愛しい愛しい私の家族よ

 

あなたを置いて逝ってしまう私を許してください

どうか、あなたは悲しい宿命にも負けずに幸せになって…

 

 

愛しています、エミーリオ

 

 

 

 

私の生は終わりを迎えた。

 




チャッカーフェイス:店内の監視カメラの位置を把握している、家族旅行でSAN値回復、長寿を本気で狙いに行くジジイ。
他のセコム:必死で世界中を大捜索中。「「「「おのれチェッカーフェイスめ!」」」」
セピラ:ルーチェが次のアルコバレーノになることまでは予知出来なかった。まさかチェッカーフェイス(家族)が娘におしゃぶり(呪い)託すなんて思わないよね、うん。最後までエミーリオを想ってくれてた。
エミーリオ:セピラが頑張っている時居酒屋で呑気に笑っていた、誰かこいつを殴ってくれ。

フィガロ様のリクエスト。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 8

一般女性視点


私は佐藤雪江(さとうゆきえ)

少し前にとある男性と結婚した。

子供も出来たしそれなりに幸せの生活を送っている。

 

夫との出会いはそう、私が旅行でイタリアを訪れていた時だった。

道端で肩をぶつけてしまい、私は持っていた焼き立てのパンを落としてしまったのだ。

長い行列の出来る店のパンで、3時間も待ち続けた苦労が、と私は絶望を隠せなかった。

 

「パ、パンが…」

「ごめんね、僕のせいで」

「い、いえ…あ、日本語…」

「君日本人だろう?僕これでも日本語は得意なんだ」

「は、はぁ…」

「僕のせいでソレ落としちゃったし、お詫びとして何か奢らせてよ」

「いえ、たかがパンでそこまで」

「それあそこの行列の出来るパン屋のだろう?結構並んで買ったんじゃない?」

「は、はい……」

「うん、だから僕がどこかでご馳走するよ」

「でも」

「あ、あの店とかはどうだい?女の子が好きそうなデザートが沢山あると思うよ」

「わ、分かりました」

 

少しどころじゃなく結構ショックだった私は男性の言葉に甘えて、彼の提案に頷いてしまった。

一緒に歩いていてやっぱり可笑しい気がすると首を傾げるが、イタリアの男性だから女性への態度も積極的なのかと思うことで自己完結していた。

そこは如何にもデザートを売ってるようなおしゃれなお店で、中の内装も全てが女性向けだった。

店員が私達を見て微笑ましいような顔しているが、決して恋人とかそんなんじゃないと心の中で弁解した。

だって私イタリア語喋れないし…

私と男性はそのまま奥の席に案内されてはメニュー表を眺めていた。

私は値段を見て目を丸くする。

0が一桁多い…なにこれ、私場違いだよ、っていうかこの値段を彼が払うの?

 

「あ、あの…やっぱり私も自分の分は自分で…」

「いいよいいよ、ここって明らかに女性向けだろう?僕一人だと入り辛くてさ、君はパンの腹いせで沢山食べればいいよ」

「た、確かに」

「やっぱりパンのこと根に持ってるじゃないか、君面白いね」

「え!いや今のはえっと、その……実は結構根に持ってました、ごめんなさい」

「別にいいよ」

 

私は顔から火が噴き出そうだった。

お店のデザートは値段相応に美味しかった。

少しカロリーが気になるけど、日本帰って運動すればいいよね、うん。

先ほどから男性が(しき)りに携帯を覗いている。

 

「あの、何かご予定でもありました?なら直ぐに食べますが…」

「いや別に何でもないよ、ただの確認だから」

 

何の、とは聞ける程近しくもなかったので私はそのまま目の前のタルトを頬張っていた。

お互いデザートを食べ終えると腹も満たされ、先ほどの絶望感とは裏腹に満足感で満ち溢れていた。

言葉通り男性が会計を済ませてくれて、私は店を出て頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

「いーよいーよ、それより今度からは道端は気を付けてね、ここは人混み凄いから」

「はい、ありがとうございました…」

 

そのまま男性と別れようとした時に、私はふと思い出したように彼に声を掛けて引き留めた。

 

「あ、あの!」

「ん?」

「お、お名前を…聞いてもいいですか?」

「ああ、そういえば言ってなかったね、僕は白蘭」

「びゃくらん………私、佐藤雪江です…本当にありがとうございました」

「日本人は礼儀正しいって本当みたいだ、またね雪ちゃん」

 

語尾に音が弾むような口調で彼は人混みの中に消えていった。

私は少し舞い上がったテンションのまま宿泊先のホテルへと帰っていった。

それからイタリアで彼と会うことなく、日本へ帰ったら家族にこの話を聞かせようと思った。

日本へ帰国後、私はキャリアウーマンとして再び職場で働きだした。

 

「そういえばこの前並盛の方ですっごい美味しいお店見つけたんだぁ」

「どんなお店」

「基本どの料理もあるよ、ファミレスみたいな…店員さん一人しか見当たらなかったけどよくあれで回せるなぁって思ったよ」

「へぇ、今度行ってみようかしら」

「場所は確か―――――」

 

友人の勧めで私はそのお店に訪れた。

扉を開くと、そこには既視感を覚える背中が見えた。

 

「ねぇエミーリオ、今度イタリアに来るのはいつだい?」

「さぁ…いつだろうな、ユニが学校休みになった時にまた行こうかな」

「エミーリオはいつだってユニちゃんのこと優先で考えるよね」

「大の大人が頬膨らませても可愛くねーぞおい」

「いいんだよ、それなりに僕の顔は需要あるから」

「自分で言っちゃったよコイツ…」

 

店員と思わしき人と談笑している白い髪の男はこの前私がイタリアで出会った…

男の名前を思い出していると、男と目が合う。

 

「あ、雪ちゃんじゃないか」

「びゃ、白蘭さん!?」

「やぁ、偶然だね」

 

彼はあの日と同じ笑顔で私の名前を呼んでくれた。

私は数か月前の、それも道端で出会っただけの私の名前を憶えててくれていたという事実に嬉しさが込み上げてきた。

彼の隣に座り、つい最近まで会っていたかのような彼の口調に笑った。

 

「にしても何で日本に?」

「ここ僕の行きつけのお店なんだ」

「そうなんですか?ならここのオススメとか教えてくださいよ」

「いいよ」

 

快く私にメニュー表を片手に教えてくれる彼にとても好感を持てたのだ。

そして友人の言った通りこの店の料理は美味しかった。

 

「美味しいわ、とっても美味しい」

「エミーリオの料理は何でも美味しいよ」

「うん、ほんとそうだわ!エミーリオさんって凄いのね」

 

いつしか敬語も忘れて興奮している私と、何故か機嫌のいい白蘭さんを、エミーリオさんは微笑みながら見ていた。

その視線に気付いて私は恥ずかしくなる。

 

「白蘭にも(ようや)く春が来たのかぁ」

「あ、あの!エミーリオさん、別に私と彼はそういう関係じゃ――――」

「じゃ、付き合っちゃおうか?」

「は?」

「エミーリオにもそう見えてるみたいだし、案外お似合いかもね、僕ら」

 

はい?

いきなりの白蘭さんの言葉に固まっていると、白蘭さんがゆっくりと私の両手を包み込んできた。

 

「僕と付き合ってくれないかい?雪ちゃん」

「え」

 

笑顔で言い放つ彼に、私の思考はついにフリーズしてしまった。

ハッと我に返った私は顔中が熱くなるのを感じて、つい目線を逸らす。

 

「クスクス、日本人って恥ずかしいと直ぐ目を逸らすよね」

「え、えっと」

「そんなところも可愛いよ、雪ちゃん」

揶揄(からか)わないでよ」

 

何だか店中の視線が私達に向けられてる気がする。

それもそうか、いきなり他の客が告白し出してるもんね、私だって注目するわ。

こんな大勢の前で断りにくい…

いや断ろうとも思わないけど、あれ?私結構白蘭さん好きなの?

優しいし、明るい性格だし……断る理由…なくね?

 

「え、えっと……」

「うん」

 

何かもう何言っていいか分かんない、マジで。

私もあなたのことが好きです、とたったそれだけ言って結ばれてハイおしまいで、恋人になった後はどうすれば、ええと、ええと――――

頭の中がグルグルとしてきて、私は涙目で、取り合えず何かを言わなきゃと思って口を開いた。

 

 

 

「結婚してください!」

 

「「え」」

 

 

あれ?何でそんなに驚いてるんだろう…

目の前の白蘭は目を丸くしてるし、隣のエミーリオさんも驚いている。

一瞬自分が何言ったのか全く分かんなかったけど、段々と自分の発言を思い出して青ざめる。

 

「ち、ちがっ、ストップ!今の無し!待って!」

「アハハハハハッ」

「ぇ…」

 

私がさっきの発言を撤回しようとしたら白蘭さんがいきなり笑い出した。

 

「じゃ、結婚しちゃおっか♪」

「へ?」

 

物凄い笑顔で私の手を握りしめてそう言い放った彼に私は今度こそ何も言えなかった。

隣のエミーリオさんも驚いて手で口を覆ってる。

おい、お前ニヤけてんの見えんぞ。

白蘭は私の手を引き、店の玄関へ向かう。

 

「あ、エミーリオ、今度一緒に払うから」

「いいよいいよ、今日は俺の奢りだ」

「ありがとう」

 

私の手を軽く引っ張りながら彼は携帯を手に誰かと通話しながら道を歩いていた。

一体どこに行くのかも、何をするのかも今の私には何にも考えられなくて…

ただ橋の上から見える夕焼けがとっても、とっても綺麗だった

だからきっと顔が赤いのは、夕陽のせいだ。

 

 

『じゃ、結婚しちゃおっか♪』

 

 

 

私は彼の言葉を思い出しては、繋いでいないもう片方の手を額に押し当てる。

 

 

きっと彼の語尾に音符が付いたのは気のせいじゃない。

 

 

こうして私たちは出会って二回目の会遇で結婚した。

 

 

 

 

 

と、ここまでが私の夫白蘭との馴れ初めである。

 

その後、何故かビルの屋上に連れていかれて頭の中疑問符だった私だが、直ぐにその理由が分かった。

ヘリだ、ヘリコプターだ。

プロペラの音を立てて、私達の前で降り立ったのは一機のヘリ。

私は口が塞がらないまま白蘭さんに手を引かれてヘリに乗り込んだ。

 

「白蘭様、行先はイタリアでよろしいですか」

「うん、本部に向かって」

「了解しました」

 

操縦席の人と白蘭さんが会話をしている横で、漸く我に返った私は焦って白蘭さんに話しかける。

 

「待って白蘭さん本気!?」

「ああ、勿論本気さ、何か不満かい?」

「不満っていうか疑問だよ!あなた何の仕事してるの!?っていうかこれヘリだよね!?何で!?」

「何をそんなに驚いてるか知らないけど、このヘリは僕のものだよ」

「はぁ!?」

 

さも当たり前のように言い放つ彼に私は頭がパンクしそうな勢いだった。

 

「ま、待って…もしかしてあなた相当金持ちなの?」

「まぁ国一個は軽く買えちゃうかな」

「…嘘だ」

「本当だよ」

 

え、え、え、待って、いや、その前に私本当にこの人と結婚するの!?

思考回路が忙しなくあちこち行き来する私の頬をつんつん突いてくる白蘭さんと共に、私はイタリアへ向かったのだった。

イタリアに着いてからもこれまた衝撃の連続だった。

 

「おかえりなさいませ、白蘭様」

「ただいま~」

「白蘭様、その後ろの方はどなたでしょうか…」

「ああ、僕のお嫁さん」

「は?」

「さっき婚約したんだ、この後ちょっと役所行って、あ、指輪も買わなきゃね」

「白蘭さん!その人固まってる!凄い困惑してるから待ったげて!」

「え?あ、本当だ」

 

私だって今さっきまで、っていうか今も困惑してるんだから周りの人間なんて困惑して当たり前でしょ。

普通に優しい人だと思ってたけど、コイツかなりの変人だ!

夫になるであろう人の変人疑惑に次ぎ、白蘭さんはかなりの身勝手さを発揮した。

緑の髪色をしたロン毛、桔梗さんだっけ…桔梗さんが我に返って準備を始めた。

お前順応力たけぇなオイ!

あれよあれよで、翌日に役所に婚姻届けを提出しに行った。

何で国際結婚がこんな簡単に出来ちゃうわけ?おかしいよ!

何か大きな力が加わってる気がするけど、怖くて聞けない。

家族には何も言わずに結婚までスピーディーに終わってしまった私は、結婚2日目で家族を思い出して国際電話で連絡した。

いきなり行方不明になった私を心配していた母に、結婚しましたといえば頭を疑われた。

失礼な母だが、私も聞かされた側ならそう思う。

どこの人?と聞かれて、私はイタリアと答えた後で、あれ?白蘭ってどこ出身だっけと思った。

多分イタリアで育ったと思うけど、名前漢字だよなぁー。

そんな考えを他所に、電話の向こうでは固まっている母を見つけた父が大騒ぎをしていた。

直ぐ両親には国際結婚であることを伝えると、今すぐに夫になった男と会わせろと言って来た。

あまりの剣幕に了承したはいいけど、白蘭さん頷いてくれるかなー。

 

「え、雪ちゃんの両親?あ、忘れてた」

「忘れてたってあなたね…」

「んじゃ今からでも行こっか」

「ストップ、ここ最近疲れっぱなしだから最低あと一日は寝かせて」

「分かったよ、じゃあ僕は君のウェディングドレス見てくるね」

「それ私も一緒に行かなきゃいけないやつじゃん!っていうかもう披露宴考えてんの!?早いよ!」

「え、でも一週間後には挙式だよ」

「はぁ!?」

「いきなりだから来れる人は限られると思うけど、まぁざっと200人は」

「うっそでしょ!?」

「エミーリオにももう報告したから今更却下は無しだよ」

「え、何でエミーリオさん?」

「エミーリオに披露宴の食事頼んだんだ」

「だめだ手に負えない」

「アハハ、もう諦めた方が早いよ雪ちゃん」

 

そう言って笑った白蘭さんに言い返す余裕もなくて、私と彼は翌日日本へ帰った。

日本に帰ったついでに仕事をやめてきた。

多分ここ一年は忙しそうなんで直ぐの復帰が難しそうという理由で辞めた。

その後白蘭さんと二人で私の実家へ赴いた。

両親は至って普通の対応だった。

いうなればいきなりの結婚報告ごめんねーという白蘭の軽い言葉だけ。

父は白蘭さんに対して、ちゃんとした青年で良かったと言っていたが、あなたの眼は節穴ですか?

ちゃんとした青年はいきなり女性をイタリアに拉致まがいのことはしないし、熟考を重ねて結婚します。

母に至っては、玉の輿ね!って思いっきり笑ってた。

コイツらめ……

こうして親公認の中になって一週間後、結婚式を挙げた。

 

「白蘭お前いきなりすぎるだろ!」

「十代目、こいつがちゃんと前もって連絡したことなんてありませんよ、今回は一週間前に報告してきただけマシです」

「そうだけど!本当にそうだけど!」

「にしても白蘭のお嫁さんって日本人なんだな」

「雪ちゃんっていうんだ、可愛いでしょ」

「さ、佐藤雪江です…夫がご迷惑をかけて申し訳ございません」

「ふ、普通だ……白蘭お前一体一般人に何したんだよ」

「酷い言い様だな綱吉君、プロポーズは彼女からだよ?」

「え!?」

「ちが、違わないけど、ちょっと黙っててよもう!」

 

私は恥ずかしさから顔を隠す。

目の前にいるのは、同盟ファミリー?の人達らしい…仲のいい企業さんのことかな?

右から、綱吉君、獄寺君、山本君、らしい、めっちゃ若い。

何だか沢田さんは一番普通そうで、私を見て心底同情している目を向けてきた。

私もこの夫に振り回されまくったから、その目は痛い程胸に沁みる。

 

「白蘭、結婚おめでとう」

「エミーリオ!」

「裏方だからまた直ぐに戻るけどな」

「いいよ別に、ねぇ僕の新郎姿は似合ってるかい?」

「ああ、あんな小さかったお前がこんな立派に見えるなんてな」

「あはは、嬉しいなぁ」

 

どうやら白蘭はエミーリオさんが大好きらしい。

エミーリオさんを相手しているといつもの5割増しで笑顔だし、周りに花が散ってる気がする。

おい新婦を見ろ、このマシュマロ中毒者。

この人マシュマロ食べ過ぎて髪の色はおろか中までマシュマロになっちゃってるんじゃないの?

いやここ数日、白蘭が開けたマシュマロの袋の数を見て眩暈を起こしそうになった、ガチで。

白蘭に両親はいない。

ずっと前に亡くなったらしいけど、本人はそれほど気にしていないらしい。

人としてどうかと思うが、両親の代わりに家族愛を全てエミーリオさんに向けてるような気がする。

本人曰く、エミーリオには大切な恩があって、命救われて、彼がいなかったら今の僕はいない、彼が僕の全てだよと豪語していた。

いやだから新婦を見ろこのマシュマロ野郎。

百歩譲ってあなたの脳内の9割をエミーリオさんで埋め尽くされていても許そう、残りの1割はこっち向けろ。

何だろう、あれだ、格が違い過ぎるというやつだろうか。

エミーリオさんは白蘭にとって神様みたいなものなのかな、それなら仕方ないけど。

これはもう諦めた方がいいのかもしれない。

普通の女にゾッコンだったらコイツの頬を往復ビンタして日本へとんぼ返りするだろうけど、相手はエミーリオさんだ。

あの人すっごく良い人だもん。

人の幸せを心から祝ってくれる彼に不満なんてあるわけないし、白蘭の親だと思えば白蘭がただのファザコンに見えるからギリ許せる。

とまぁすっごい剛速球の如く挙げられた私の結婚式だったが、驚きはこんなもので終わらなかった。

 

 

「妊娠3週間です」

 

結婚式を挙げた一か月後、子を身籠った。

待って、夫婦ライフエンジョイすら出来ないのか私は。

いや子供出来たのは嬉しいんだけど!嬉しいんだけど!

もう少し後が良かったなぁ…

そんな私の隣では、白蘭がすんげーニコニコしてた。

 

「どんな子が産まれてくるんだろうね、男の子かな、女の子かな」

「うーん…女の子がいいなぁ」

「へぇ」

 

あ、今すごい夫婦っぽい会話してる、って思った。

ここ一か月この人といて分かったことがある。

こいつの中では一にエミーリオ、二に家族、三に部下の優先順位があるらしい。

エミーリオさんに至ってはもうツッコむ気にもなれないからいいとして、普通に私が二番目ということが嬉しかった。

ここまでエミーリオさんに入れ込んでるとこ見て、白蘭にとって昔かけがえのない大切なことがあったんだなって思う。

だからまぁ、エミーリオさんなら認められるかな…あの人の料理すんごく美味いし。

あといきなり主婦になった私の料理の腕が微妙だったのでエミーリオさんに付きっ切りで教えてもらっている。

この人イタリアと日本行き来してるらしいけど、店の方は大丈夫なのだろうか。

確か片道で13時間以上かかると思うんだけどなー…

そんな疑問も、そういえばこいつ自家用のヘリあるんだから自家用ジェットもあるかと自己完結した。

それでも数時間かけてまで毎日来てくれるエミーリオさんに頭が上がらないが、彼の料理は大好きなのでいつも喜んで歓迎している。

 

「女の子ならエミーリアかなぁ…男の子なら…」

 

前言撤回、エミーリオさんはもう少し白蘭と距離を置くべきかもしれない。

夫の為ではなく、あくまでエミーリオさんの為に。

 

「じゃあエミーリオさんに名付け親になってもらうのはどうかしら」

「それいいね、そうしよう!」

 

はしゃいでいる夫を見て、遠い目をしている自覚がある。

そしてこの頃それは頻繁に起こっていて、既に私は夫の奇行について悟りきっていた。

数日後、夫のPCにエミーリオさんの店の半径10㎞範囲の地図が映っている画面を見て首を傾げた。

エミーリオさんの店の真ん中に赤い点滅があり、これが何を指すのかすらも一瞬で悟り、私は絶句した。

そのまた数日後、夫の携帯をこっそりと覗いてみると、全く同じ画面が映っていて私は頭を抱えた。

そのまた数日後、夫がよく耳に付けているイヤホンをコッソリ耳に当てて、私は絶望した。

 

私の夫はストーカーだった。

それも重度の。

ネットの検索履歴も、「夫 ストーカー どうする」で埋まっている毎日。

だがしかし、これで終わることなかれ。

 

子供が生まれて数か月後、夫が血まみれで帰ってきたことがあり、私は物凄い慌てて彼をリビングまで連れていって座らせた。

お腹の部分に弾痕だと分かるほどの穴があった。

いっててーじゃないよ!医者!

夫の専属の部下である、桔梗さんに連絡すると夫の部下の一人である、人形を持ったメンヘラ男デイジーさんが部屋の中に入って来た。

私が固まっているとデイジーさんが夫の腹部に何か炎みたいなの押し当て始めた。

目の前の光景が信じ切れず、思考が停止している私を他所に、夫はピンピンしながらベビーベッドの上にいる我が子を抱き上げて笑っていた。

我に返った私は夫に問いただしたところ、私の夫がマフィアであることが発覚。

気の遠くなるであろう単語がずらずらと並び出して、私は夫にビンタ食らわして赤ちゃん抱き上げて日本に逃亡。

マフィアの旦那とかふざけんなよオイ!

怖いというよりも、悲しかった。

結婚して子供まで出来ておいて、肝心な職業、それも家族まで危険に晒す様なことを秘密にしていたことが悲しかったのだ。

いやあの男なら秘密にしていたというよりも、教えるの忘れてたって感じだと思うが。

それでも許せん!と思った私はエミーリオさんの店に訪れては酒をがぶ飲みして愚痴と不満を泣きながら吐き出した。

エミーリオさんはテクニシャンだ。

聞き上手、料理上手、慰め上手…もうエミーリオさんと結婚しようかな。

いややっぱ嫌だ、この人と一緒にいればもれなくあのマシュマロ野郎がついてくるじゃん、ストーカーとして。

子供が出来てから全然飲んでなかった私が、いきなりぐびぐび飲んだら即効潰れるよねって話で。

起きたらイタリアの家に逆戻りしてた。

マシュマロ野郎が迎えに来たのかな?いや部下に迎えに行かせたんだろうなと思いながら起き上がると、部屋の扉が開いて白蘭が入って来た。

起きた私を見て驚いたまま固まったかと思えば、いきなり謝って来た。

どうやらエミーリオさんにこってり絞られたようだ、ざまぁ。

今度からはちゃんと大切なことは随一に報告しますという約束をして、私は安らかに二度寝した。

あの後で分かったことなんだが、どうやら今のマフィアは炎使ってイリュージョンな戦闘をするらしい。

私の両親との顔合わせも幻術とやらで誤魔化していたらしい。

取り合えずどんな姿にしたのか聞いたら、七三分けの黒髪スーツのガリ勉野郎をイメージして見せてたらしい。

父さんの眼がおかしくなくて良かった、じゃねぇよ、こやつめ…

とまぁ色々大波乱があったけれど、娘のカトリーナが3歳になった今も私は幸せに暮らしています。

 

「カトリーナ、これはだーれ?」

「……パパー?」

「正解、じゃあこれはー?」

「………マ、ママー」

「正解、じゃあこれは?」

「エミーリオ!」

「正解だよ!エミーリオだけ即答するなんてやっぱり僕の子だ!」

 

 

刷り込みやめろ。

 

 

私は佐藤雪江。

マフィアで糖尿病予備軍で重度のストーカーで変人な夫を持っている私ですが、子供も授かれて幸せな毎日です。

 

「白蘭」

「ん?どうしたの雪ちゃん」

「今日は、もう仕事ないの?」

「うん、今日は家族デーだからね」

「じゃあカトリーナ連れてエミーリオさんの店にいこっか、それともこっちに呼ぶ?」

「こっちに呼ぼう、あっちじゃバミューダが邪魔をするかもしれないしね」

「それはあなたがバミューダさんとエミーリオさんの時間を邪魔するからでしょー」

「パパー、エミーリオー?」

「ああ、エミーリオ呼ぶんだってさ」

「エミーリオだいちゅきー」

「何言ってるの?僕の方が大好きに決まってるじゃないか」

「子供と張り合わないでよ大人げない、ほら部屋片づけて」

「はーい、一緒に片付けようかカトリーナ」

 

私は携帯を持ってベランダに出ようとすると、娘が私の足を掴んできた。

 

「どうしたのカトリーナ」

「ママ、エミーリオちゅきー?」

 

少し変わった家庭で、少し変わった環境ではあるものの

 

「ええ、ママもエミーリオは大好きよ」

 

私は今のこの生活が気に入っているし

 

夫を愛していることに変わりはないし

 

「パパはー?」

 

夫が私を愛していることに変わりはない

 

「パパはもっと大好きよ」

 

 

 

今のこの瞬間がとっても幸せでとっても愛しいのだ

 

 

 

 

 

 




雪江:家族LOVE、エミーリオさんは家族の次に好き、糖尿予備軍の夫のストーカー行為に諦めを覚える。娘にエミーリオさんLOVEを刷り込むのはやめろ。
白蘭:エミーリオの言葉がきっかけで雪江と付き合おうと思ってたら予想以上に彼女が面白くて結婚した、家族とエミーリオが大好き、安定のセコムという名のストーカー、マフィアということを教え忘れていたことをエミーリオに本気めで叱られたことが結構ダメージ受けた模様、なお今後家族にも気を遣うということを覚える、カトリーナ刷り込み中。
エミーリオ:雪江の愚痴が割と本気で同情する内容だったので結構本気で白蘭を叱った、雪江の料理の師匠。
カトリーナ3歳:エミーリオLOVE、手遅れ、白蘭の思想を色濃く受け継いだであろう次期二代目セコム。

ってなわけで、一般人の女性視点です。

辛口スルメ 様のリクエストの一般人女性視点。
あと、白蘭の嫁という設定はエミーリオ35話での通行人Fさんのコメントで閃いた設定です。

_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
>子孫レベルでセコムする為に結婚しようぜ<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio番外編 9

らんま1/2パロ、女体化
苦手な方はUターン、スキップ推奨


「エミーリオ、久しぶりに私と手合わせしませんか?」

 

とある晴れた日に、彼の店に訪れ私はそう言った。

 

 

「手合わせ?また何で急に…」

「どれ程私が強くなったか見て欲しいのです」

「………いいぜ」

 

…強くなったんだなと、褒められたかったのだ。

エミーリオを独占したいという欲望と、見せびらかしたいという欲求があり、私は葛藤する。

その末、元アルコバレーノの皆にコッソリ手合わせのことを教えたのだ。

皆は興味深そうにしていて、必ず見に行くと言っていた。

私はエミーリオとの手合わせに浮かれ上がり今かと待ちわびていた。

エミーリオの店の定休日である木曜日に、私はエミーリオと共にいつも一緒に修行していた場所へと赴いた。

まだアルコバレーノの呪いを解いて年月が経っていない小さな身体では手合わせすら出来ないと思い、事前にヴェルデに頼んでいた一時的に大人の姿に戻す薬を飲む。

代理戦争以来の自身の元の身体にかかる重力を懐かしみながら、岩山の天辺にある開けた場所へと辿り着いた。

 

「うわぁ…懐かしい」

「ですね、私もここへ来るのは3年振りです」

 

エミーリオは至って普通で、いつもと違うといえば動きやすい服を着ているというところだろうか。

彼が中国に滞在している時によく着ていたチャイナ服だ。

彼の久しい姿に懐かしさを覚える。

 

「んで、手合わせったってルールとかどうすんだ?」

「そうですね…私としては別に何でもありで大丈夫ですよ」

「いや金的は無しにしようぜ」

「フフ、そんなことをお互いするとは思いませんが、いいでしょう…ではルールはそれだけでいいですね?」

「おう」

「では」

 

岩陰に数名の気配を感じることからリボーンやコロネロは既に来ているのだろう。

私は久しく動かす元の身体に僅かばかりの興奮と、師との手合わせに心が躍る思いだった。

静寂がその場を支配する。

そして私は拍動を静め、あらんばかりの力で地を蹴った。

 

手始めにエミーリオの胴体を突こうと拳を作り、中段からの突きを放った。

それをひらりと余裕そうに躱すエミーリオに、私は口角を上げ、回し蹴りで彼の頭を狙う。

 

「!」

 

だがそれもエミーリオが私の足首を掴んだことで不発に終わり、彼はそのまま遠心力を利用して私を放り投げる。

空中で体勢を立て直し、岩の上に足から着く。

視線をあげれば先ほど視界のうちにいたハズのエミーリオはおらず、私は上方から来る気配にすぐさま傍の岩へと飛び移る。

僅差で先ほど私のいた岩が粉々に砕け散るのが視界の端で捉えた。

足場を確保してから、エミーリオへと視線を固定する。

 

「腕は衰えていないようですね、エミーリオ」

「俺に衰えなんてあるわけねーだろ、おら来い」

「ではお言葉に甘えてっ!」

 

私は自分の足元にある岩を蹴り、エミーリオへと急接近した。

右足を大きく下げ、蹴りの構えを取った時だった。

 

『風は最初に右足を出す癖あるよなぁ…』

 

いきなり脳裏に蘇る彼の言葉に、下げた右足をそのまま軸にして左足で回し蹴りをする。

予想と違った動きにエミーリオは目を丸くするも、両腕で脇腹を守る。

衝撃を全て殺すことの出来なかったエミーリオが僅かに地面から離れるのを、私は見逃さなかった。

 

爆龍炎舞‼

 

手の内から舞い上がる炎が龍のように形取りエミーリオへと襲い掛かる。

一瞬にして辺り一面に暴風が荒れ狂う。

少し離れた場所に移り、気配を探っていると全く別の方向から殺気を感じて私は回し蹴りのまま後ろへと振り向く。

嵐の炎を纏った足が衝撃を受けるも、私はそのまま蹴り抜き、目の前に現れた人物に目を細める。

 

「おや、何故あなたがここにいるんですか?ザンザス」

「何やら楽しいことしてんじゃねぇか、混ぜろや」

 

ふむ、大方マーモンあたりが零してしまったのだろうか…

だが私はエミーリオとの一対一を望んでいるので、彼にはお引き取り願いたい。

言葉を探していると、別の方向からも気配が来て、私はそこへ警戒し出す。

すると鎖がこちらへ放たれ、私は隣の岩へと飛び移る。

 

「ねぇ、僕代理戦争の戦い消化不良なんだ、付き合ってよね」

「一体どこから嗅ぎつけてきたのか……雲雀恭弥…」

 

この面子では絶対に退いてはくれないだろう、ならばすぐにでも倒してエミーリオとの手合わせを仕切り直すべきか。

そんなことを考えていると爆龍炎舞の衝撃で立った砂埃が晴れて、エミーリオが土塗れになった服を叩いていた。

そして何故か増えている人数に目を丸くして首を傾げた。

 

「あれ?恭弥にザンザス…お前ら何でこんなとこいんだ?」

「別にそんなことどうだっていいよ、僕は君を咬み殺したくて仕方がないんだ」

「ふざけんな、そいつをカッ消すのは俺だ!」

「え?」

「エミーリオ!危ない!」

 

雲雀恭弥とザンザスの攻撃がエミーリオに向かって放たれる。

私が手を伸ばす前にエミーリオは身を屈めて攻撃をやり過ごした後、足元に転がっていた石を二人に向かって投げ付ける。

二人とも石を容易く砕き、エミーリオは辺りを見渡して口を開いた。

 

「なんだか知らねーけど乱戦ってことか?」

「別に、僕はそれでもいいよ」

「ふん」

「エ、エミーリオ、私はその…正々堂々と」

 

戦いたい、と私が言い切る前にザンザスと雲雀恭弥が攻撃を仕掛けてきた。

私は溜め息を吐き、また後日に先送りだと悟りながら彼らの攻撃を躱していく。

戦意も萎えて、元アルコバレーノ達の元に向かう。

 

「何だ、おめーはもうおしまいか?」

「私は正々堂々と一対一で戦いたいのです、乱闘ではありません」

「カッコよかったですよ風」

「ありがとうございます、ユニ」

「まぁ私はただエミーリオの戦闘データが作れる為に来たからどっちでもいいがな」

「変わりませんね、ですが薬は助かりました…また今度も頼んでよろしいですか?」

「構わん、奴のデータは多いに越したことはない」

「そうですか、コロネロ、エミーリオはあなたの目から見てどうですか?」

「強いぞコラ!代理戦争の時は強そうに見えなかったからな、本当の実力が見れてよかったぜコラ」

「エミーリオは本気ではありませんよ」

「何?」

「あくまで我々が死なないギリギリを理解して力を抑制しています、本気を出せばここ一体は更地になっていますよ」

「確かにな」

 

私の言葉にリボーンが頷き、再び皆で戦いの行方を見ていた。

激しい戦いの中エミーリオは汗一つかかず、二人を相手取っている。

対する二人は三つ巴すらも忘れてエミーリオにのみ焦点を絞り攻撃をしているが、全く攻撃が入らないことに苛立っている様子だった。

 

「エミーリオが仕掛けにいった!」

 

マーモンの声と同時にエミーリオがザンザスへと接近し出す。

ザンザスがエミーリオの顔面目掛けて銃を撃つと共にエミーリオがザンザスの腕を回し蹴りの要領で蹴り上げ、銃弾は上空へと発砲された。

そのまま上に向いた足を蹴り上げた腕に絡め、そこを軸にもう片方の足でザンザスの顔面へと蹴りを入れた。

ザンザスは体勢を崩すも、その場に踏みとどまりエミーリオに向かって発砲する。

それに対してエミーリオは体勢を屈めようとしたが直ぐ横から雲雀恭弥の攻撃が迫るのに気付き、後方へと背中から一回転して回避する。

ザンザスの放った弾丸に付与している憤怒の炎で背中の布が若干焦げていたが、本人は怪我を負った様子はない。

口の中を切ったザンザスが地面に血を吐き捨て、銃を構え直す。

そんな中雲雀恭弥が炎を纏ったトンファーをエミーリオに振りかぶるも、体をズラしたエミーリオがトンファーの軌道を逸らし、そのまま勢いを利用して雲雀恭弥の背後を取り、背を利用して体当たりの要領で雲雀恭弥を叩きつけて吹き飛ばした。

 

「すごい…」

「あれは鉄山靠ですね」

「てつざんこう?」

「ええ、中国拳法の代表的な八極拳の中でも特に有名な技です。背中からの体当たりのようなものですが、見た目よりも遥かにダメージを喰らいます」

 

隣で目を見開いていたユニに私が彼のやった技を解説した。

修行時代、私が何度もやられた技であり、エミーリオの威力がどれほどなのかも知っている。

だからこそ、飛ばされた雲雀恭弥が平然とまではいかずとも起き上がったことには目を見開いた。

息の荒い二人はその後もエミーリオに対して攻撃を繰り出していくが、エミーリオに攻撃が入らない。

そんな中、ザンザスの攻撃が私達の近くまで被弾して、砕けた岩の破片が私達へ降って来た。

まだ大人の姿である私がすぐさま立ち上がり、その岩の欠片を砕こうとした時だった。

ポン!という軽い音と共に私の体がいきなり軽くなる。

 

「薬の効能が切れた!」

「こんな時にっ」

 

岩の欠片は私達の体の倍以上あり、背後は崖だ。

私は空中で体勢を立て直せずに岩の欠片を目の前にして腕で顔を覆い目を瞑った。

だが予想した衝撃も痛みも来なくて、目を薄く開けると目の前にはエミーリオが立っていた。

直ぐに私達を庇ったことを悟り私は申し訳なく思い口を開こうとした直後、エミーリオの額から血がたらりと垂れ始めた。

ふらりと傾いたエミーリオに私は目を見開き、彼の身体を支えようとしたが、その努力も虚しくエミーリオはそのまま体勢を崩して崖から落ちてしまった。

 

「エミーリオ兄さん!」

「きっと岩の欠片が頭部に直撃して意識が飛んだんだ!」

「くそっ、下はどうなってるんだコラ!」

「下は…泉…です」

「ならまだ軽症の可能性が高い、直ぐに引き摺り上げんぞ」

「え、ええ!」

 

流石にこの状況でザンザスも雲雀恭弥も黙り込み、崖の下を眺める。

マーモンがその場の者を全員浮遊させ、崖を降りていく。

 

「無事だといいんですけど」

 

ユニが心配そうに泉の方へと視線を送る。

全員が下に降り切って、いくつかある泉を探し回ろうとした瞬間。

 

「ぶはぁ!」

 

水飛沫と共に近くの泉からエミーリオらしき声が聞こえ、私は安堵の息を溢し振り返って固まった。

 

「げっほ、げほ、くっそ、びっしょびしょじゃねぇか!」

 

水浸しのチャイナ服を纏ったその人物は、エミー……リ、オ……なのか?

いや彼の特徴と一致する点がある前にこの泉に落ちたのは彼だけだ、ならば今目の前にいる人はエミーリオになる。

なる……が、見逃せない点が一つだけ、決定的にあったのだ。

 

「エ、エミーリオ…?」

「あ?何だ風、つーかちょっと待て、あいつら一発ぶん殴ってから……何だよ、お前らまで来てたのかよ…つーか何で皆して驚いてるんだ?」

「エミーリオ…その……それは何ですか…」

「それ?」

 

私は目を疑った。

目の前にいる人物はエミーリオだ。

エミーリオなんだが、いつもよりも高い声、水浸しという理由で片付けられないほどの服の引き摺りよう、普段よりも伸びた髪の毛、そして……そして…

 

「その胸は……何ですか…」

「は?胸?なにそ…はぁぁああああ!?なにこれ!?」

 

誰もが絶句し、誰もが固まった。

あのザンザスと雲雀恭弥でさえ、だ。

どれほど驚愕すべき光景だったのかが分かる。

目の前の水浸しで立っているエミーリオの胸部にはふっくらと浮き出た女性特有の胸があったのだ。

当の本人は目を見開いて、自身の胸を恐る恐る触っては、本物か確認していた。

そして思い出したかのように下半身に手を持って行き青ざめた。

その理由を男性陣は痛い程理解出来た、いやしてしまったのだ。

 

「ぇぇぇぇえええええ!?」

「エミーリオが女性…に」

「これはまた興味深い」

「面白いことになったじゃねーか」

「リボーン!面白がってる場合じゃねぇぞ!コラ!」

 

エミーリオは何度も自分の身体をあちこち見ては、頭を捻っていた。

 

「つか何で女?」

「……どうやらこの泉が原因のようですね…呪泉郷という名前でしたか…」

「仕方ない、私が調べてやろう」

「あー、頼むわ…」

 

ヴェルデの言葉にエミーリオが頭を掻きながら頷き、自らの身体を触っていた。

ああ、折角の手合わせが…

溜息を吐いた私を見てか、エミーリオが私を腕に抱えながら帰路に就いた。

いつもとは違う感触に戸惑うも、体温はいつも感じていたソレと同じで私は安堵した。

 

「そういえば風」

「はい、何でしょうか」

「さっきの技、とってもよかったぜ…すげー強くなったなぁ」

 

いつもより高い声だったけれど、確かに温かさがそこには籠っていた。

まるであなたの元で修行をしていたあの頃のように。

私の十数年は無駄ではなかったのだ。

 

「風が逞しい男になってて俺は嬉しいぜ」

 

師からの言葉なのか

兄からの言葉なのか

 

分からなかったけれど 

 

 

確かに 嬉しかったのです

 

 

 

 

 

 

 

ユニside

 

「エミーリオ、服を買いに行きましょう」

 

それは中国からエミーリオの店に帰り、水で軽くシャワーを浴びた後のエミーリオを見た時だった。

エミーリオの着る服がだぼだぼになっているのが気になった私はそう切り出した。

 

「服?別に今までのでもいいんじゃねえ?」

「ダメです!折角女の子になったんですから少しは楽しみたいです!」

「本音駄々洩れだな…俺変態じゃん」

「今の姿で女性の服を着れば誰も気付きませんよ、さぁ行きましょう」

「あーはいはい、わかったわかった」

 

私はエミーリオの手を引いて、直ぐ近くのデパートに向かい、服を吟味し出した。

γもついてくると言って来たけど今回はダメだとキッパリ断った。

エミーリオの服を下着もろもろセットで沢山買う予定だったからだ。

 

「はひ?ユニちゃん?」

「え?」

「あ」

 

エミーリオと一緒に女性向けのコーナーの前を歩いていると後ろから声を掛けられ振り向いたら、ハルさんと京子さんがいたのだ。

 

「ハルさん、京子さん、奇遇ですね」

「久しぶりだねユニちゃん!」

「久しぶりです!」

「そちらは…」

「あ、こっちはエミー………リア、エミーリアさんです!」

「エミーリオさんに似てるね、兄妹かな?」

「従妹です」

「そうなんですか!だからこんなに美人なんですね!納得です」

 

京子ちゃんの質問に咄嗟に嘘をついてしまった。

でも男の人が女になるなんて普通じゃ考えられないし、元が男だと抵抗感があるかもしれないと思って嘘をついたままにした。

エミーリオも私の意図を汲み取ってか、裏合わせしてくれた。

 

「初めまして」

「初めましてです、にしてもユニちゃんとエミーリアさんはお洋服見に来たんですか?」

「ええ、エミーリアさんに似合う服を沢山買おうと思って」

「じゃあ私達と一緒に回らない?」

「え」

「それいいです!こんなスタイルのいい美人さんなら何着ても似合うと思います!」

「え」

「それいいですね!」

 

一人だけ話について行っていないエミーリオだったが、流れに乗れば嫌とは言えないことを私は知ってるのでそのまま会話を進めて女性コーナーへと入った。

 

「まず下着からですね」

「え、下着も?」

「当たり前です、特にエミーリ…アの胸のサイズだとブラは必須です」

「あ、はい」

 

まいったなぁ、と小さく呟いたエミーリオに内心謝るが、一度はエミーリオとこんな買い物したかったので満足のいくままに行動しようと決心する。

下着売り場でエミーリオが目線のやり場に困っていたり、試着の際ブラの付け方が分からず苦戦したりと色々あったけれど、漸く黒のレース入りの下着に落ち着いた。

上と下は目につくものは全て試着させたりして、数着買ってその中のひとつに着替えてその後を過ごした。

京子さんとハルさんと別れた後カフェで一息つく頃にはエミーリオは虫の息で疲労困憊の様子だった。

 

「女性の買い物ってこんなに疲れるもんなの?やべぇ」

「フフ、でも今のあなたとっても綺麗ですよ」

「いや俺男だから綺麗とか嬉しくねーから」

 

困ったように笑いながらコーヒーを飲むエミーリオの姿はとっても様になっていて、どこからどうみても美人だった。

 

「にしても店の方は暫く閉めるか、これじゃ顔出せないし」

「そうですね、女性の間は私の買い物に付き合ってくれると嬉しいです」

「了解お姫様、そういえばユニの周りに女性ってほぼいないもんなぁ」

 

そうなのだ、毎度ながら下着売り場の外でγを待たせるのはいつまで経っても恥ずかしい。

二人で店を出て並盛を歩いていると再び後ろから声を掛けられる。

 

「エミーリ…オ?」

「え」

 

声を掛けられたと同時にエミーリオの肩をぐいっと後ろへと引っ張られ一回転させられる。

ビックリした私は後ろを振り向いて目を丸くした。

 

「チェッカーフェイス!」

「よ、シェ……川平?」

「エミーリオだな、何故そんな恰好…というか姿になっているんだ」

「あー、色々あってさぁ、お前よく俺って分かったなぁ」

「体内エネルギーを見ればすぐに分かる、それよりも何故そのような姿になっているんだ…」

 

事のいきさつをエミーリオが話していると、段々とチェッカーフェイスが顎に手を持って行って考える仕草をしていく。

 

「ってなわけだ、今ヴェルデが原因を探してるらしいけど…どうしたそんな真剣な顔して」

「…女体…ということは、子を身籠ることも出来るのかと考えていた」

「はい?」

「お前が子を身籠れば、再び我が一族が繁栄出来るんじゃないか、と思ってだな…」

「やだよ、俺男だし…つーかお前が女作って子供作ればいいじゃねぇか」

「人間相手に欲情などするか」

「枯れてんなぁ…」

「子を産んで一族を復興出来れば、これから先人類が滅んだ時もお前が一人にならずに済むかと思ったんだ」

「だから俺は全然気にしてないって…それに俺も今更だけど子供欲しいとか思わないし」

「何故だ」

「多分さぁ…一人でも大丈夫なの、俺だけだと思うし」

 

その言葉に私はエミーリオの顔が見れなかった。

 

「子供を見送るとか…それこそ辛そうだけどな」

「お前がそう言うのなら強いるつもりはない、要らぬ手間を掛けたな」

「いや、別にいいんだけど」

「私からすれば性別など取るに足らない些細なことだ、お前はお前だ」

「さいですか」

 

チェッカーフェイスが私達の横を過ぎ去り、私達は再び歩き出した。

私は先ほどの会話が頭から離れずエミーリオの手を握る。

 

「ユニ?」

「エミーリオ…は…辛くはないのですか?」

「?」

「最後に一人だけになることが辛くはないのですか?」

「ああ…そのことか………」

 

エミーリオは手を繋いでいない方の手で頭を掻きながら、少し言葉を選んでいる様子だった。

 

「そこんとこは正直どうでもいい……多分これは感性の違いとか種族の違いなんじゃねーかなぁ」

「種族の?」

「ほら、ユニは人間の血も流れてるわけじゃん?それに人間と同じように暮らしてきた」

「…はい」

「でも川平君や俺はもう何千年、何万年も生きてるわけだし、今更一人がどうこう言うほどのものでもないと思うんだよ」

「でも、私はあなたを一人にすることが悲しくて、辛くて……苦しいです」

 

目の前が涙でボヤける中、エミーリオが私を抱き上げて抱っこする。

 

「それシェリックにも言われたよ」

「シェリックもユニもセピラも俺を心配してくれてさ…」

「きっと俺達は愛情深い一族だったんだろうなって思うよ」

 

「ありがとうユニ、俺は大丈夫だよ」

 

涙を堪え切れなくて、私はエミーリオの首に腕を回して泣いたけれど、エミーリオは何も言わず背中をリズムよく軽く叩くだけだった。

 

 

愛しい愛しい私の家族よ

 

あなたを置いて逝ってしまう私を許してください

どうか、あなたは悲しい宿命にも負けずに幸せになって…

 

 

愛しています、エミーリオ

 

 

 

何故か心の奥から溢れた出した思いと共にその言葉が脳裏を過ぎった。

これ……セピラさんの……

考える前に私は段々と眠くなって、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

獄寺隼人side

 

一人で何もすることがなく暇だった俺は、たまたまエミーリオの店にいた。

だが玄関先で何やら人影があり、空席待ちかよと思って足をUターンさせようとした時だった。

 

「あれ?ボンゴレの…獄寺君じゃないか」

「あ?」

 

聞き覚えのある嫌な声に振り返って、人影を見つめると、俺はそいつが誰なのか分かってしまった。

 

「てめぇかよクソ」

「人の顔を見るなり酷いなぁ」

「つかてめぇ何でここにいんだよ白蘭」

「エミーリオの顔を見ようとしたんだけど、店が閉まってるんだよ」

「はぁ?今日は木曜じゃねぇぞ」

「そうなんだよね、GPSではずっと店にいたんだけど、いつもと違う服でも着てるのかなぁ」

「はあ!?GPS!?」

「何でエミーリオがいないのが盗聴器の点検で回収してる時だったんだろう…」

「盗聴器!?おい白蘭てめぇエミーリオのストーカーかよ!」

「ストーカー?違うよ、エミーリオは目を離すと直ぐに厄介事に巻き込まれるから守ってあげてるんだよ」

「監視じゃねぇか!」

 

俺は久しく感じなかった恐怖を目の前の白蘭から感じた。

本気でこいつのエミーリオに対する執着心がやべぇ…今度十代目に相談しねぇと!

そんな時白蘭が店から俺の方に視線を移して、俺は一瞬後ずさる。

よく見ると白蘭の視線は俺の後ろだと気付き、俺は振り返る。

振り返ったそこには髪の長い女がユニを抱っこしてこちらに歩いてきていた。

女は俺達を目にすると少し目を開き、考えるような仕草をして直ぐそこの角を曲がろうとした。

俺はただ不良を見て回り道したのか、と思ったがユニもいたし俺達の存在を知らないのはおかしいと思い、直ぐに女の曲がった角に駆け出す。

何故か後ろから白蘭もついてくるが、俺は無視して角を曲がった道を歩く女に声を掛けた。

 

「おい!」

「…はい?」

「おめー怪しいな、ユニのファミリーの奴か?」

「………」

「答えやがれ!返答次第じゃあ」

 

俺がボムを右手に出そうとすると、横を白蘭が通り過ぎ、女の方に近寄っていく。

邪魔だと言おうとしたが、白蘭の次の行動に俺は言葉を失った。

 

「は?」

 

女の素っ頓狂な声と共に、俺の目の前で白蘭が女の髪を軽く持ちあげて自身の口の近くまで持って行ったのだ。

あいつ頭おかしいんじゃねぇのかと思ってた時だった。

 

「やっぱりエミーリオだ、何で女の子になっちゃってるの?ビックリしたじゃないか」

「うぇ?」

「は?」

 

エミーリオは男だ、それは変わらぬ事実で、俺は目の前の白蘭の頭を疑った。

 

「おい白蘭!お前なに頭おかしいこと言ってんだよ!どう見ても女だろコイツ」

「うーん、でもエミーリオの面影あるし、髪質もシャンプーの香も一緒だよ?それにユニちゃんが安心して寝てるし」

「えーと……」

 

俺と女が困惑している最中、白蘭が女の顔に自分の顔を近づけていく。

女も目を見開くが引いてる様子はない。

 

「あと瞳の色彩がエミーリオと一緒だから、絶対エミーリオだよ」

「お、っまえ何で分かんの?」

「ほらやっぱり」

 

女が観念したかのように溜息を吐けば、白蘭は満足そうにして一歩下がる。

俺はエミーリオが女になっているという事実よりも白蘭がエミーリオの瞳の色彩すら覚えているという事実に恐怖を隠せなかった。

いやそれを何でもないかのように流すエミーリオにも驚いたが、こいつの危機管理能力が右に出る者はいない程緩いのを思い出して頭痛を覚えた。

 

「ちょっと中国で事故って女の身体になっちまったんだよ」

「後で詳しく聞かせてよ、それより今から店戻るつもりだったの?」

「いやユニの泊まってるホテルに行こうとしててな」

「なら僕も行くよ、同じホテルに泊まってるし」

 

俺を置いて会話を進めるが、エミーリオが俺の存在に気付き声を掛けてくる。

 

「隼人、お前店に用でもあったのか?」

「え、あ…いや…まぁ」

「ユニ置いたらすぐに店に帰ってくるけど、待てるなら先に店の中で待っててもいいぞ」

「あ、ああ……」

 

頷くしかなかった俺にエミーリオが店の鍵を渡してきて、白蘭と一緒に宿泊先のホテルへと歩いていった。

俺は何も言えずその後ろ姿を眺めていた。

胸……でかかったな……

我に返って自分の思考を振り払い、店の方に戻り鍵を開ける。

カランコロンと扉についている飾りが音を鳴らすのを聞きながら、店の中に入ると目を見開いた。

 

「あ」

「なっ…」

 

黒い物体がカウンターの中でもぞもぞと動いていると思っていたら、それはバミューダだった。

 

「お前何でここにいやがんだ!バミューダ!」

「ふん、君には関係ないだろう!?」

「不法侵入じゃねぇか!」

「違う!エミーリオを取り巻く害虫の駆除だ!」

 

そういうバミューダの手には壊れた機器が乗せられていた。

 

「そ、それ…」

「大方白蘭とチェッカーフェイスの盗聴器と監視カメラだろう、全く油断も隙もありゃしない」

「嘘…だろ…チェッカーフェイスまで……」

 

俺は今更になって、漸くエミーリオを取り巻く周りが危ないこと理解した。

固まる俺の横でバミューダが店の天井角にいそいそと何かを取り付けていて、俺は我に返って問いただした。

 

「お、おい!お前何してんだよ!」

「またあの害虫達が何かしないようにこれで見張ってるんだよ、あとエミーリオの守備も兼ねてだな」

「お前もかよ!」

「失礼な!害虫どもと一緒にするな!僕はエミーリオのプライバシーはちゃんと考慮している!」

「いや監視カメラある時点でプライバシーもくそもねぇからな!?直ぐに外せ!」

「ふん、ならば力づくでそうしたらいいではないか!僕を倒せるのだったらの話だがな!」

「お前それストーカーだからな!?犯罪だぞ!」

「マフィアの君が言えたことじゃないね!」

「ぐっ」

 

悔しいが俺の実力じゃバミューダは倒せない…何かあいつの気を引くものは………ものは……

 

「おいバミューダ…」

「何だ」

「さっきエミーリオが白蘭と一緒にホテルに向かって行ったぞ、止めなくていいのか」

「ホテル!?だがエミーリオも白蘭も異性愛者だぞ!?」

「ふ、甘いな…今のエミーリオは女の体になってんだよ!中国で事故ってな!」

「んなっ!?確かに中国に行っていたのはGPSで確認していたが…」

「お前までGPS付けてんのかよ!」

「エミーリオ!今助けるぞ!」

 

俺の言葉にバミューダがその場でワープを使い消えてしまった。

誰もいなくなった空間で俺は手で頭を押さえ溜息を吐く。

 

「だ、代理戦争よりやばいんじゃねぇのか?コレ…」

 

俺は現状を把握する前に、取り合えず目に入った、無断で仕掛けられた機器であろうものを全て撤去する作業に取り掛かった。

そして獄寺の監視カメラ・盗聴器・GPSをエミーリオに気付かれずに撤去するという日々が始まったのである。

後に彼が潜入の達人になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

お風呂に入って男に戻ったエミーリオが喜んだ直ぐに、雨で女になりショックのあまり五体投地したりと大混乱があったものの、ヴェルデが原因を追究して開発した薬でちゃんとエミーリオは元の体質に戻った。

 

 




獄寺:胃潰瘍予備軍、頑張って、セコム達からエミーリオのプライバシーを絶対守るマン、後で山本も巻き込まれる。

エミーリオ:女になっちゃった、胸が重い、女装してる感覚だった為変態のレッテルを張られるのを恐れて白蘭達にバレないよう迂回したが即バレした。

白蘭:セコムという名の無自覚ストーカー1、エミーリオの瞳の色彩すら覚えてる、現在エミーリオの指紋を覚えようと奮闘中。

バミューダ:セコムという名の無自覚ストーカー2、獄寺の勘違いするであろう言い回しで見事追っ払われた、エミーリオの処女は僕が守るんだ!エミーリオの瞳の色彩は覚えてる。

チェッカーフェイス:セコムという名の無自覚ストーカー3、女体のエミーリオ見てワンチャン狙ってたが、今後のエミーリオの信頼と天秤にかけて、信頼を取った。エミーリオを体内エネルギーで判別している為間違わない。

ユニ:エミーリオを着せ替えしてて一番輝いていた。

風:エミーリオの胸に包まれたラッキースケベ、エミーリオ兄さ……姉さん。

雲雀・ザンザス:THE☆戦闘狂
雲雀とエミーリオの戦闘描写での鉄山靠に関してちょっと戦闘描写下手くそすぎたかなぁと思いはすれど、分かりやすく書き直せるかといわれればNOで、仕方なく図面解説を貼っておきます。

【挿絵表示】



らんまパロだけど、ぶっちゃけ呪泉郷を取り入れただけ。
重要な内容を最後の一文で終わらせるという暴挙を、果たして許容できるのだろうか、いや出来ない(反語)
仕方ない、番外編だもんね。


多分この後沢田綱吉とかにもバレるとは思うけど気力がなかったのでここでおしまい。
女体化は元々直ぐに書く予定だったけど、中々ネタが思い浮かばなくてずっと500文字くらいで放置してて、風との戦闘編書いてたららんま思い出して、これだと思って書いた。
文字数多すぎてやべぇそろそろ切らないとと思いながらも1万超えてしまった、スミマセン。


シオリ ( ̄ー ̄)、理夜 、 天乃カエル Jason ゆるAO様のリクエストです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio 番外編 10

エミーリオは思い耽る。


山本side

 

「社会の宿題?」

「は、はい…ちょっと宿題するスペース欲しくて…」

「まぁ今日は木曜でお店閉めてるし別に構わないよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「いいよいいよ、にしても宿題かぁ…頑張ってるね」

 

この前授業で出された宿題にどこから手を付けていいかも分かんなかったときに、ツナからヘルプがきた。

俺もやってねーから一緒にやろうぜ!ってことになって、いつもの流れでそのまま獄寺が手伝ってくれることになった。

でも肝心のお決まりの勉強場所だったツナの部屋がエアコンが壊れてる理由で使えなくなって、獄寺と俺がエミーリオの店はどうだろうって言ったんだ。

今日は木曜日だし多分エミーリオもオッケー出してくれると思って、三人で筆記用具やノートを持って行きエミーリオの店に向かった。

予想通りエミーリオはオッケーしてくれて俺達はエアコンの効いてる店内でノートを広げて、獄寺が持ってきた参考資料を読んでいた。

そんな時にエミーリオが飲み物を準備してくれて、俺達はお礼を言って少し休憩することにした。

一息ついている時にエミーリオがふと俺達の呼んでいた参考資料を覗いていた。

 

「歴史…か?」

「ああ、気になる国の歴史をA4用紙5枚にまとめてこいって奴だな」

「へぇ…お前らはどの国を調べてんだ?」

「皆イタリアだぜ、将来あっちに行くこともあるだろうしな」

「なるほどね…どこから調べて……」

「エミーリオ?」

 

エミーリオの見ていたページは丁度ルネサンス期の時代だ。

 

「この爺、見たことあるなぁと思ったらめっちゃ知り合いだったわ…あいつ教科書載るほど凄いことしたのか」

「「「え」」」

「だ、誰!?」

「ほれこの爺、こいつと知り合いだったんだよ、年取らないのバレそうだったから引っ越した後一度も会ってねーけど…」

「え……こ、これレオナルド・ダ・ヴィンチじゃねぇか!」

 

獄寺の言葉に俺とツナはお互い顔を見合わせて、次にエミーリオの方を見る。

 

「「えええええええ!?」」

「あいつの絵も上手かったし頭良かったし、色々すごかった爺だったよ」

「お、お前!この人物は生前死後に渡って評価され続けた芸術界の偉人だぞ!」

「マジ?うっわ俺別れ際にコイツから貰った絵画とか質屋に持ってっちゃった…」

「「「はぁぁぁぁああああ!?」」」

「いやだってあの頃は戦争ばっかで貧困層とかすげーヤバかったんだぞ…やけに高く買い取ってくれるなとは思ってたんだが」

「おっまえ!レオナルド・ダ・ヴィンチの作品はどれも数億はくだらねぇのに!」

 

獄寺が興奮気味にエミーリオに語っているのを見ながら俺は教科書のページを捲る。

 

「あーやっぱ持っとけば…いやどのみちイタリア戦争の時に邪魔になってたわ」

「お前レオナルド・ダ・ヴィンチの作品を邪魔って…」

「なぁエミーリオ」

「ん?」

「この教科書読んでて知ってる人とかいるか?」

 

ツナと獄寺、エミーリオが俺の開いたページを眺める。

 

「イタリア戦争時か…フランスが攻めてきたりスペインの支配下に置かれたりで70年くらいあったっけ…」

「やっぱそういうのは覚えてるんですね」

「ああ、この時代は若干曖昧だけど…」

 

ツナの言葉にエミーリオは指で口をなぞりながら文字を読み流していた。

 

「この時代の女性は避妊具もないから多産で、大体3人くらいは産んでたけど半分は7歳の内に亡くなるのが当たり前だったし年齢も40いけばいい方だったぜ……男は殆ど戦争で死んじまうし…あまり覚えてる顔はないかなぁ」

「エミーリオさんはこの時どんな暮らししてたんですか?」

「一時期戦争に参加してたけど、争いが嫌で人里離れて森の方で過ごしてたな」

「え、戦争参加したんですか!?」

「ああ、少しの鎧と槍持たされただけで正直何度刺されたことやら…もう二度とやりたかねーよ」

「えっと…なんか嫌なこと聞いちゃってすみません」

「いやもう昔のことだしいいんだけど、今がどんだけ平和なのかを自覚してる人が少ないってのはちょっと寂しいかな」

 

ツナが気まずぞうに視線を逸らす中、エミーリオはページを捲る。

 

「1600年代から娯楽ってのが少しづつ出てきたな…」

「娯楽…?」

「貴族の間ではオペラとか…ああ、ピアノもここだっけ?」

「あ、じゃあピアノで有名人とかに会いました!?」

「ピアノっつーか音楽家だな…この時代は…えーと誰がいたっけ」

「これ見てみろよ」

 

ツナの質問にエミーリオが思い出す仕草をしていると獄寺が持ってきた歴代の芸術家って本の中の音楽家のページを見せてきた。

 

「んー…あー、こいつは何度か話したことあるな」

「アルカンジェロ・コレッリか…確かヴァイオリン・ソナタを作曲した奴だろ」

「こいつのヴァイオリンがなぁ小さい頃はへったくそでさぁ…よく近所迷惑なガキだなぁとは思ってたんだ」

「へぇ…」

「でも段々と上手くなっていって20歳になる頃には結構有名になってたぜ…ただコイツと会話したのは全部幼少期だな」

「まぁエミーリオは長い付き合いなんぞ出来ねーもんな」

「あとはこのアントニオ・サリエリ…て奴だな」

「そいつは俺でも聞いたことあるぜ、ヨーロッパ楽壇の頂点に立つ人物とまで言われた巨匠だ」

「コイツは小さい頃生意気で頭の良いガキでな…大成してこいつが宮廷楽長(きゅうていがくちょう)に任命された後も偶に地元に訪れる奴だったぜ、偶に会っては少し話してたし」

「へ、へぇ…」

「すごいのなー」

「十代目、この人物はあのベートーベンやシューベルトなどの有名なリストを育てた人です」

「え!?ベートベンって俺でも知ってるよ!」

「まぁ日本での知名度は結構低いので知らなくても可笑しくはないッスね」

 

全く興味のない音楽家の話になって俺とツナが置いてかれそうだったのを獄寺が察して、なんとか俺らでも分かるような人物を出してくれた。

 

「こっから一気に技術発展して、電池とか電話とか無線電信機とか…上流層の生活が変わってきた感じはしたな」

「1800年代…か、ここら辺からはエミーリオにとって最近なんじゃねぇか?」

「まぁな、ジョットやナッ…デイモンが生きてたのもこの時代だしな…俺からしたらすげー最近だな」

「え、あ、そうか…初代達はこの時代の人なんだ」

「ジョットが住んでたとこはすっげー治安悪い場所でな、まぁ俺もそこに住んでたんだけど」

「だから自警団を…」

「デイモンは貴族だったから結構裕福な暮らししてたけど、ジョットはいつも洋服とかほつれたりすると俺のとこ来て縫ってくれって頼んで来たぜ」

「えええ!?」

「俺は居酒屋であって裁縫屋じゃなかったんだけどな…でもこの時代子供が自力で生きるには難しくてさ、俺が色々面倒見てたんだよ……あー懐かしい」

「なぁエミーリオ、あんた」

「つーかお前ら俺の話聞いてないで宿題しろよ、後で終わらないって泣き見るぞ」

 

そう言って資料を閉じて俺達の飲み干したジュースを回収して厨房に戻っていった。

俺達は暫く無言だったけど、ツナが口を開いた。

 

「なんかエミーリオさんって色々経験してるね」

「人里に下りて600年っつっても、あのあたりが一番過激だった時代なんスよ」

「そうなの…?」

「ええ、あの時代は領土拡大が当たり前でしたッスからね」

「なんだろう、凄く血生臭い時代に人里に下りちゃったんだね」

「そうッスね」

「戦争って…あの時代じゃ当たり前だったのな」

「中世ヨーロッパの平均寿命は35…よくて40だ、人が直ぐに死んじまう環境の中あれだけ覚えてるってのも不幸だな」

「確かに…記憶は曖昧っていってるけど思い出そうとすれば結構思い出せてるよね、エミーリオさん」

「思い出したくねー記憶だったらなんか悪ぃことしたな」

「ぅわぁ…ど、どうしよう!」

「お、落ち着いてください十代目っ」

「獄寺も落ち着けよ、指先震えて文字がぐちゃぐちゃになってんぞ」

 

ツナの顔が青ざめて、獄寺も罪悪感はあるみたいで指先が若干震えてた。

俺は手元にある資料のページを数枚捲って、ある文字が目に入り手を止めた。

そこには第二次戦争のことが書かれていた。

確かエミーリオは世界大戦が行われてた時イタリアにいなかったハズだ。

ならどこにいってたんだろう………

戦争の被害がなかった国だといいけど。

漸く落ち着いたツナ達とまた宿題を再開する。

宿題を終わらせたのは夕方頃で、俺達は背伸びをして一息つく。

 

「あー疲れたぁ」

「本当、今回の宿題は面倒だったね」

「そうッスね」

「そういえばエミーリオは?」

「厨房にはいなさそうだな、音聞こえねーし」

「あれ?出掛けちゃったのかな?」

「いや、部屋の方じゃないッスかね」

「そういえば俺エミーリオさんの部屋に入ったことないなぁ」

「何もないとこでしたよ…ベッドとサイドテーブルと…ダンボールくらいで」

「獄寺君入ったことあるの?」

「一度だけ…」

 

俺達は場所を貸してくれたエミーリオを探していると獄寺の言葉で部屋の中も探すことにした。

部屋のドアを開けるとそこにはベッドに寝転がったまま何かの紙を覗いているエミーリオがいて、ドアが開いた音に気付き顔を上げたエミーリオと目が合った。

 

 

「あれ、宿題終わった?」

「あ、はい!ありがとうございます!」

「いや今日中に終わって良かったね」

「はい、今日は場所貸してくれてありがとうございます」

「ありがとなエミーリオ」

「なぁエミーリオ、お前何見てたんだ?」

「ん?ああ、昔の写真だよ」

「昔の?」

 

獄寺がエミーリオの持ってた紙に興味を示し、視線をベッドの上へと向けていた。

俺も少し気になってたしツナもそうだ。

 

「写真とか…まぁ各地で貰った飾りものだな」

「へぇ、見てもいいか?」

「いいぜ」

 

俺がそう聞くとエミーリオは何でもなさそうに頷いた。

俺達はベッドの方に行って、数十枚ある写真とダンボールの中に入っている飾りを見始めた。

 

「これいつのだ?」

「あー……待てよ、それはー…ロシアかな?多分100年くらい前のやつだな」

「これ雪?」

「それもロシアだな、バイカル湖ってとこだ」

「あ、何か聞いたことありますソレ」

「結構有名な観光地だ、その頃はまだ人も入り辛かったから貸し切り状態だったぜ」

 

ツナの持っていた写真は白黒だから分かり辛いが、雪の中から見え隠れする鉱石がある写真だ。

 

「撮ったはいいけど、写真の存在忘れててずっとダンボールに仕舞い込んでたんだよ」

「えええ」

「さっき思い出して見てたんだよ、でも白黒だし凄さが全然伝わんねーよな」

「確かに今はカラーですからね」

「おいエミーリオ、お前これどこだ」

「ん?それはアメリカかな?多分それ第二次世界大戦真っただ中だな」

「はぁ!?マジかよ…」

「徴兵令の時、俺市民じゃねぇから駆り出されはしなかったけどなぁ…色々と凄かった」

「?」

「いやな、国が化学兵器の実験で空から薬品撒くはで市民がバタバタ倒れて商売どころじゃなかったんだよ」

「え!?」

「死亡者自体はそこまでいなかったんだけど、結構地獄絵図だったぞ」

「化学兵器……」

「アメリカはどのみちそれを使わずに核兵器使ったけど、日本は唯一生物兵器使った国だっけ?どっちもどっちだよ」

 

そう言ってエミーリオは手元の写真を眺めていく。

 

「後は店の客と撮った者ばかりだな、まぁ皆戦死しちゃったけど」

「エミーリオさんは何で日本に来たんですか?」

「日本はあれだ…銃刀法違反とか平和主義だろ…だからここが安全なのかなーって思ってたんだけど…な……」

「アハハ…ハ」

「全然安全じゃねぇからニュージランド行こうかと一時期本気で考えてたんだぞ」

「あれ本気だったんですか…」

「ニュージランド!?エミーリオ日本出る気だったのかよ」

「まぁ今はとある理由で日本に暫く居座るけど、長く居過ぎれば年取らないことがバレちまうからな」

「そっか……」

 

その後俺らは写真を全て見終えると、エミーリオがダンボールに詰めていく。

俺らもそれを手伝っていて、溢れ出てくる装飾品を綺麗に並べ始めた。

すると獄寺が大きな紙を広げて再び折ろうとしたが、急に手を止めた。

 

「なんじゃこりゃ…」

「ん?」

 

俺も一緒になって覗いてみたけど、それは海外の新聞紙で俺にはまるっきり内容が読めなかった。

ただ白黒の写真に写されている人物が気になった。

写真には片足がないまま右足だけで立っていて顔を片手で覆っている人物だった。

 

「獄寺…内容読めるか?」

「あー…地雷で片足が吹き飛んでも尚歩き続けた男……痛覚がないのかもしれないとかなんとか……インクがボヤけて見えねぇ」

「片足?……うえっグロ」

 

ツナが獄寺の言葉に反応してこっちに来て、写真を見て顔を逸らす。

 

「あ、それ俺だ」

「「「は?」」」

「間違って地雷踏んじまった所を人に見られて撮られたんだよ…直ぐに逃げたけど」

「ちょ、ちょっと待てエミーリオ!」

「うん?」

「お前地雷踏んで片足吹き飛んだことあるのかよ!?」

「まぁ槍で刺されたこともあれば足吹き飛ばされることもあるだろ」

「ねぇよ!?」

「いやでも不法入国目撃されて頭ぶち抜かれたことだってあるぜ、あれは結構ビビった」

「「「はぁ!?」」」

 

流石に俺も言葉が出なくて冷や汗が頬を伝う。

一生もんのトラウマになってもいいハズなのに、笑いながら話すエミーリオは少し怖かった。

いやエミーリオにとって命って概念さえないからなのかもしれない…それか自分の怪我に対する無関心さなのか。

俺は初めてエミーリオに恐怖した。

純粋な未知への怖さだった。

ヒトの形をした何か、を目の前にしてその怖さを実感した。

それと同時に酷く、悲しくなった。

エミーリオの自身に対する命の無関心さが

痛みへの慣れが

痛がる素振りを忘れてしまった笑顔が

 

俺は悲しくて仕方なかった

 

 

「エミーリオさん!」

 

ツナがいきなり声を張り上げてエミーリオの前まで移動する。

 

「なに?」

「あの…なんて言ったら分かんないけど…」

「…うん」

「痛かったら……ちゃんと…痛いって言って下さい…」

 

「悲しかったら…ちゃんと、悲しいって言って下さい…」

 

「苦しかったら…ちゃんと、苦しいって言って下さい」

 

 

 

「笑ってやり過ごさないで下さい」

 

 

夕陽がツナの髪をいつもよりもオレンジ色にしてて

 

「お、俺……嘘つかれるのが…一番悲しいんです!」

 

ツナの目の前にいるエミーリオの瞳に夕陽が差してて

 

「だから、あの……一人で何もかも背負わないで下さい…」

 

俺は理由もなく

 

 

「あなたは今…一人じゃ、ないでしょう…」

 

 

 

泣きそうになった

 

 

 

 

 

「心配してくれてありがとう綱吉君」

「は、はい…」

「でも過去は過去、今は今だ…当時は痛かったかもしれないけど、今はもう全然痛くない」

「…はい…」

「当時は苦しかったかもしれないけど、今は苦しくないよ」

 

エミーリオはツナだけじゃなくて俺や獄寺にも言い聞かせるような声で、言葉を続ける。

 

「無理もしてないし、一人だって思ったこともない」

「は…い…」

 

「だっていつも俺の周りには君達がいるからな」

 

「こんな賑やかな毎日で逆に一人になる方が難しいな、ハハ」

 

グスリと何かを啜る音が聞こえて隣を見れば、獄寺が涙腺決壊一歩手前みたいな顔してて、ソレ見た俺は思わず笑ってしまった。

 

「ならエミーリオが一人にならないようにこれからも沢山通わねーとな!」

「無銭飲食はやめろよー」

「おう!」

 

俺が明るい声でそういうとエミーリオも笑ったような、呆れたような顔して応える。

 

 

「夕陽が眩しいな、カーテン閉めるか」

 

ベッドから立ち上がって、カーテンに手を掛けるエミーリオの顔に夕陽がきつく差し込んだ。

 

まつ毛も瞳も全てが輝いてるように見えて

 

とっても綺麗で

 

 

俺は暫く その姿が脳裏に焼き付いて離れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃とある場所では…

 

「維持装置の様子はどうだバミューダ?…バミュー…!バミューダ!?」

「どうしたイェーガー!?」

「バミューダが気絶している!敵襲か!?」

 

 

 

またとある場所では…

 

「書類をお持ちしましたびゃくら…白蘭様!?」

「どうした桔梗!」

「白蘭様が!気を失われておられる!」

「なっ、敵襲か!?」

「直ぐに医療班を!そして本部の警備の警戒レベルを最大にしなさい!」

「分かったぜバーロー!」

「白蘭様!大丈夫ですか白蘭様!白蘭様ぁぁぁあああ!」

 

 

 




ツナ:SAN値が大幅に削られた人その1、ダメだこの人なんとかしなきゃ!
獄寺:SAN値が大幅に削られた人その2、レオナルドダヴィンチの作品を質屋に売り払ったと聞いた時は白目向いた。
山本:SAN値が大幅に削られた人その3、トラウマ級の過去を喋りながら笑ってるエミーリオに泣きたい。
エミーリオ:槍で刺されて、毒薬を上空から撒かれて、足吹き飛ばされて、頭ぶち抜かれたけど過去として割り切っている為そこまで気にしてない、流石に頭撃たれた時は怖かったけどな!
バミューダ:SAN値直葬者その1、盗聴器越しで過去を聞いて発狂のち泡吹いて気絶、イェーガーの賢明な介抱によりなんとか一命を取り留めた。
白蘭:SAN値直葬者その2、こいつも盗聴器越しで過去を聞いてて発狂のあまり心停止して意識不明で倒れた、桔梗の発見が遅ければ手遅れだった。
チェッカーフェイス:誰にも見つけられることなく安らかに眠るように気絶、危うくショックで死ぬところだったが根性でなんとか自己蘇生、その後数週間に及び泣きはらした、人間への増悪が大幅に増えた、人間マジ許すまじ…

過去の偉人たち↓
レオナルドダヴィンチ:エミーリオとは10年ほどの付き合いだった、「おい見ろよあのねーちゃん!めっちゃ美人じゃね!?おいレオナルド爺ちょっとあの子描いてみろよ!」と興奮したエミーリオの指さした女性を見てその女性の人物画を描いた作品が後の「モナリザ」である。

アントニオ・サリエリ:ベートベンやシューベルのリストを育てた巨匠であり、幼少期に出会ったエミーリオが印象的で彼の作品にはエミーリオが無意識に吹いていた口笛を元にしたものが沢山ある。

アルカンジェロ・コレッリ:イタリアが生んだ最初のヴァイオリン音楽の巨匠、これまた幼少期に「独りよがりのへったくそなヴァイオリン弾いてんじゃねーよ(要約:音うるさい)」と言われたことがあまりにも衝撃的で、後に調和の為の対位法という伴奏パートが丁寧な特徴を持つ作品を多く作曲した、後世への影響力という点で彼に並ぶ者はいないとすら言われる。


以上、こうや様のリクエストでした。

↓こっから後書きのような報告のような…

最近、エミーリオが私の中でマンネリ化し始めたのでちょっと気分転換で新しい作品書こうかなと思ってます。(まだ内容決めてない)
残っているリクエストに関しては活動報告で詳細を載せているので、知りたい方はそちらを読んで下さい。

ストック残り1話となってきました(笑)

次回『エミーリオ、死す』




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio 番外編 11

エミーリオは眠る。


フランside

 

「エミーリオー遊びに来ましたー」

「ああ、フラン、久しぶり」

「久しぶりですー」

 

僕はエミーリオの店に訪れていた。

頻繁とまではいかないけれど、時間があればよく来るようにはしていた。

 

「聞いてくださいよーこの前堕王子がー」

「またベル君と何かあったのか」

 

苦笑いしながらも、カウンターに座る僕の頭を撫でる。

エミーリオの前では被り物を取っている僕に、この前師匠が驚いてましたねー、とどこか他のことを考えながらあの堕王子の愚痴をたらたらと吐き出していた。

 

「ほんっと後輩イビリが凄いんですよーあの堕王子」

「あはは、またお前ベル君煽ってないだろうな?」

「煽ってませんよー全くこれっぽちも」

 

あれくらい煽るレベルでもないし、あれで怒る先輩もまだまだ子供ですね。

エミーリオに出されたジュースを一杯飲み干すと、再び別のジュースを注がれた。

 

「何ですかーコレ」

「それはパイナップルサワー、結構人気でね」

「うげー、師匠の炭酸付けですー」

「骸君にそれ聞かれたら怒られるよフラン…」

「エミーリオも師匠の頭ナッポーだと思いますかー?」

 

エミーリオは一瞬手を止め、顎に添えると考え出した。

 

「誰にも言わないって約束出来る?」

「約束しますー」

「実はさ、骸君のこと二代目ナッポーって心の中で名付けてるんだ」

「エミーリオもそういうこと思うんですねー……二代目?」

「初代はD・スペードだな」

 

そう言ってへらっと笑うエミーリオに、珍しいと思った。

基本的にエミーリオは本人が嫌がることをしないし、思わない。

師匠が自分の頭の形をパイナップルと言われるのを嫌ってることだってエミーリオは知ってるのに、内心ではそう呼んでることが意外だった。

 

「でも皆内心じゃ師匠のことナッポーだと思ってますよ絶対に」

「そうかぁ?」

 

エミーリオはくすくすと笑ってカウンター越しに僕の向かい側に腰掛ける。

 

「エミーリオ」

「んー?」

「昔のことを覚えてますか?」

「昔…?お前と会った時のことか?」

「そうですー、ミーとエミーリオが会ったあの川でのことです」

「暇そうに川に足を出し入れして遊んでたお前に俺が幻術教えたんだっけ、あとリンゴの被り物あげた」

「そうなんですよー、なのに堕王子がカエルじゃないと落ち着かないって言いだしやがって、またカエル被されてるんですよー」

「蛙嫌いなの?」

「嫌いじゃないですけどリンゴの方が好きですー」

「そういうもんか…」

「エミーリオ、昔みたいに幻術見せて下さいよー」

「ええ?お前の方が上手いだろ」

「エミーリオのが見たいんです」

 

エミーリオは顎に手を添え、何やら考え込むと両手の手のひらを上へと向けた。

すると、手の平から霧の炎がぶわりと大量に流れだしてミーは少しビックリしました。

霧の炎が店内を包み込むと、景色が変わる。

そこは水の中だった。

上を見れば魚が泳いでていて、下を見るとそこには廃れた建物がズラリと並んでいた。

ビルもあれば住宅もある、全てが錆びれ所々に魚が潜んでいたり気泡が出ている。

 

 

「う…わぁ…」

 

無意識に零れたミーの声にエミーリオが微笑む。

 

「水没都市…」

「そうそう、ソレ」

「何でコレなんです?」

「んー………夢で見たからかな…」

「夢?」

「うん、最近バミューダが寝ろ寝ろうるさくてさ、仕方なく眠ってんだがよくこういった夢を見るんだ」

「何度も?」

「ああ、いつも海面から覗いては泳いでここまで潜ったりして時間潰してる」

「…?夢でしょ、現実の時間の感覚とかあるんですか?」

「んー自覚夢じゃないかな多分」

「エミーリオは色々おかしいですね」

「何年も生きてりゃおかしくなるだろ」

 

ミーはエミーリオから視線を外し、水没都市を覗く。

 

夢……本当に夢なんですか…?

 

「エミーリオ、もっと下の方が見たいです」

「ん?分かった」

 

幻術とは分かっているけれど水の中はどうも息が苦しくなりそうです。

水深がどんどんと深くなるにつれ周りが暗くなる。

偶にホタルみたいに光る小さな何かがうようよしてますけど、顔に当たったりしてうっとおしいです。

 

「すぐそこに地下への階段みたいなのがあってそこをもっと下に潜るともう辺り真っ暗だぜ」

「光はないんですか?」

「さぁ…俺はこっから先は暗くて何も分かんねーから見せられねーぞ」

「そうですか…そろそろ幻術解いて下さい、幻術とはいえ水の中は息が詰まりそうですー」

「はいはい」

 

エミーリオがそう言った瞬間、世界が戻った。

重力が身体に掛かるのに懐かしさを覚えるも、ミーは目の前のエミーリオを見る。

 

「エミーリオも上手くなりましたねー」

「いつになく上から目線だな、お前は」

「いつも相手を見下してばっかの職場で働いてるので、毒されちゃいました」

「あいつらは…全く……」

 

ミーは、職場の愚痴をこれでもかというほどエミーリオに愚痴った。

後でボス以外の全員が叱られれば儲けものです。

 

「そろそろ帰らないとロン毛隊長がうるさそうでーす」

「ありゃ、何か仕事でもあるの?」

「多分時差考えてもあと一時間後ですね」

「はぁ!?お前何でそれでそんな余裕面してんだよ」

「エミーリオがいればひとっ飛びじゃないですかー」

「こいつめ……」

 

エミーリオは呆れて僕の頬を両手で挟むと、力を入れてくる。

 

「エミーリオー顔がむにむにになっちゃいます、こねないでくださーい」

「おら、行くぞ」

 

一瞬の浮遊感の後、ヴァリアー本部の目の前にいた。

 

「おおお、やっぱりエミーリオのワープは便利ですねー」

「俺は運び屋じゃねーよ」

「でもエミーリオは今度もやってくれそうですけどね」

「お前なぁ……俺はもう行くからな」

「はーい、また会いましょー」

 

エミーリオと別れる時、ミーはあの水の中を思い出して飛びそうだったエミーリオに声を掛けた。

 

「エミーリオ」

「ん?」

「ま」

「ま?」

 

「また……遊びに行きますね」

 

「おう、待ってるぜ」

 

そう言ってエミーリオは黒い炎に包まれながら消えていった。

足元を見ながら土を靴先で弄る。

 

 

 

「まるで…人が滅んだ後の未来ですね…」

 

 

 

ミーは零れそうで飲み込んだ言葉を吐き出した。

 

恐らくあれはエミーリオの未来視した光景だ…

本人も無自覚に視てる

 

「エミーリオもおじいちゃんですねー…」

 

 

何十、何百、何千、何万年先かは分からないけれど

 

いつかの果てに

 

きっと あの場で  滅んだ人類の残した残骸を

 

 

 

ずっと……ずっと……眺めてるんでしょうね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

「ん?」

「エミ-リオだ」

「は?」

 

イタリアの、何もない路地で目の前を通り過ぎた男を見てふと思い出した。

そしてミーは小さな指を目の前の人物に向けて指差す。

 

「フラン……?」

「そーですよー、フランですー」

「あれ?お前確か200年くらい前に死んだ気が…?あれ?」

「転生しちゃった感じですねー、ミーも驚いてます」

「マジか、転生とか本当にあったのか…何で前世覚えてるんだ?」

「さぁ、ミーに聞かれても…思い出したの今ですー」

「ええー……お前今世もフランス出身なのか?」

「いいえ、ミーはアメリカ生まれですー」

「そっか…名前はそのまま?」

「いえー、全然別ですねー」

「不思議なこともあるもんだなー、何歳?何でイタリアに?」

「6歳ですー、今絶賛家出中です」

「はぁ!?ここイタリアだぞ!?」

「さぁ、てきとーに飛行機に乗ったらここに着きました」

「うわぁ…子供なんだから危ないことするなよ」

「エミーリオはイタリアでまた店でも開いてんですかー?」

「いや、偶々イタリアで買い物があっただけだ、ほらお家まで送ってやるよ」

「いやですーミーの家凄くバイオレンスなのでー」

 

エミーリオとの再会で忘れそうだったけど、今のミーは虐待のヤバイ親から必死で逃げていた状況でしたー。

でも前の記憶思い出しちゃったし幻術使えば逃げ切れるなーと思ったりしてます。

最後に覚えてる目線の高さよりもずっと高いエミーリオを眺めていると、エミーリオは暫く考え込んだ。

 

「じゃあ俺ん家行くか」

「そうしまーす」

 

宿確保ーと思ってたらエミーリオに肩車されて、ミーの目線は一気に高くなる。

 

「にしてもお前見た目全く一緒だなー」

「自分でも驚いてますー、緑色なんてそうそういませんよ絶対」

 

ミーはエミーリオの頭に腕を回して楽な体制で固定する。

 

「他にも思い出した人とかいるんですかねー、コレ」

「さぁ…そういうのにはまだ会ったことねぇな」

 

エミーリオの周りの過激派ストーカーたちは執着心だけでエミーリオを転生後も追いかけて来そうですけどね、とは言えなかった。

今世でミーはとっても大往生出来ましたー。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、エミーリオ」

「うわ、フランか」

「どーも久しぶりです」

「おう、300年ぶり……お前とは何度も会うな」

「ミーも驚きですねーあ、今回も安定の6歳です」

「またか、お前はいつになっても外見変わらねーな」

「何でですかねー」

「さぁな」

 

 

 

 

「あれ?フランじゃね?」

「え?………あ、エミーリオ」

「おう、200年ぶりだな」

「久しぶりですー今思い出しましたー」

「お前は本当に見つけやすいよな…こう、毎回同じ外見だし…」

「ほんと、何でですかねー?」

 

 

 

 

きっとあなたに見つけてもらう為なんです

 

 

 

 

 

 

 

 

チェッカーフェイスside

 

「人類が滅ぶのはこれで何度目だろうな…」

「さぁ、5度目くらいかね…また文明が発達するまで何年かかると思う?」

「前回とそう変わらんだろう」

「だよなぁ…ああ、また新しい言語覚えるのかー」

「お前も彼らと関わることに飽きないな…」

「まぁね、見てて楽しいし」

 

数年前、人類が滅んだ。

そして人間の手で害された環境は長い年月を経て回復していく。

とうの昔にバミューダも死に、今地球上でヒトの形をしているのは私とエミーリオのみであろう。

トゥリニテッセは全てエミーリオが持つこととなり、あいつの負担になってはいないかと隣で私が常に付き添っている。

地球の自転は昔よりも遅くなったことで一日の間隔が伸びて、地球にかかる遠心力が弱まり海の面積は南北半球に向けて広くなっていった。

一時期何かの研究で水陸両用の人間が誕生したが数百年で絶滅した。

人類が絶滅し、再び誕生するまでの間、数万年以上の年月を私はエミーリオと過ごしていた。

 

「そういえばこの前水没都市みっけた」

「また海の方へ行っていたのか」

「綺麗だったぞ……なんだろう、あれが滅びの美って奴か?」

「私には分からん感性だ」

「今度一緒に見に行こうぜ、地下鉄とか魚沢山いたんだ」

「ならば、明日にでも行けばいい」

 

エミーリオは時々一人でどこかにふらっと消えると、数時間後に帰ってくる。

今の地球がどうなっているのかが気になっているらしい。

エミーリオはこの星への興味というものが旺盛だ。

星は雄大で神々しく巨大だ。

それゆえあいつがその生に対し飽きることはない。

独りになろうともそれが変わることもないだろう。

 

 

 

一人で、大丈夫か

 

『それが当たり前なんだ』

 

 

 

 

「俺ちょっと昨日のとこ見てくる、直ぐ戻るから待っててくれ」

 

そう言ってエミーリオが何かを両手に持ちながら飛ぼうとしていた。

 

「エミーリオ」

 

私は思わず名前を呼んだ。

 

「ん?」

 

「一人で…大丈夫か…」

 

「おう!」

 

快活に笑って飛んでいったエミーリオを見送り、私は近くの木の下に座り込む。

 

少し、眠いな…

 

エミーリオのすぐは数時間だ、少し寝ておくか

木に凭れかかり、両手の指を交差させ腹の上に置き、私は瞼を閉じた。

木々から漏れる日差しが顔に差し込み、瞼を閉じているにも関わらず目の前はオレンジ色をしている。

 

 

一人で、大丈夫か

 

『大丈夫だ』

 

無理はしていないか

 

『ああ』

 

本当に?

 

『本当だ』

 

 

 

『だからもう…楽になれ、シェリック』

 

 

 

今まで側にいてくれて ありがとう

 

 

ふわりと、風と共に何かが私の頭を撫でたような気がした

 

 

 

 

 

 

 

エミーリオside

 

 

よぉ、俺はエミーリオ。

最後の喋れる話し相手がいなくなってしまった。

それもいきなり死んじゃうから最初はただのドッキリかと思った。

ビンタしても起きないから流石に気付いたけど。

埋葬でも良かったが折角だし火葬しておきました。

家族が腐るってなんか嫌じゃね?

遺骨を海に撒いてその後も地球を転々と回ってた。

段々と寒くなっていってる気がするなぁ…

若干動物がいるので、この前狼みたいなやつの背中に乗って遊んだ。

正直楽しかった。

 

現在、一人で砂漠のど真ん中歩いてる。

ちょっと前までは氷河期だったのに、いきなり暑くなった。

少しづつ景色が砂漠ばかりになりつつあるこの頃。

やっぱ喋らないと言語をホイホイ忘れていくね。

つーか時間の感覚が全く分からない、太陽が一か月近く出たり夜が一か月以上続いてるんだもん。

後はー……昔よりも海が減っていってる。

これじゃもう人類は誕生出来ないな…だって生きられないでしょコレ。

しかも猿とか哺乳類も見かけなくなっちゃったし、今じゃ魚と昆虫と植物だけだな!

この前でっかい蜘蛛見つけて、めちゃくちゃ逃げた。

俺よりでかかったんだけど、絶対に食われるわ。

…あれから時間が経ったんだけど、太陽が前よりもでかくなった気がする。

海が全部干上がっちゃったよ、どうすんだ。

俺もここまでかなぁ。

 

しぶとく生きてたよオイ。

いやもう何もない場所を永遠と歩き続けるのだりーんだけど!

つーかもう朝夜なくなちゃってるし…

太陽側はずっと朝で、裏側はずっと夜だ……多分自転が止まっちゃったんだろうな。

太陽が眩しいので裏側でしか生活してないけど、めっちゃ暗い。

あ、トゥリニテッセ壊れたし。

何か罅入ってるなーって触ったら壊れたし。

もう守らなくていいってか。

延命治療はもういいので安楽死させて下さいってか。

インフォームドコンセントがん無視かよ。

どうせもうこのままいっても地球が太陽に衝突するの目に見えてるしなぁ…

なんかやっと終わりが見えたな。

長かったー…

漸く終わるのか。

たっくよ、一人が寂しいからって俺まで巻き込みやがって。

満足したか、コノヤロー。

………。

 

 

 

 

「……………おやすみ……」

 

 

 

もう二度とお前のお守なんてごめんだからな。

 

 

 




ねぇ今どんな気持ち?(( 'ω' 三 'ω' ))
エミーリオ死んじゃったけど今どんな気持ち?(( 'ω' 三 'ω' ))

フラン:エミーリオ大好きメンバーの中でまさかの一人勝ち、転生後にエミーリオを見ると記憶を思い出す、本人も何でか分かっていない、転生する度毎度エミーリオと鉢合わしている、バミューダが死んだ後もコイツだけは何度かエミーリオと会っては80年くらいでポックリ逝ってる。
バミューダ:人類が一度目の絶滅を迎えた時に一緒に死んだ、不老メンバーの中で生命力が一番低かった為環境の変化に耐えられなかったのかもしれない、復讐者も大体その頃に死んだ。享年1万歳くらい。
チェッカーフェイス:人類が5度目の絶滅を迎えた頃に死亡、ppk(ピンピンコロリ)、享年約4億歳。(原作終了後から2.5億年後)
エミーリオ:チェッカーフェイスが死んだ後も悠々と星を眺め回っていた、水没都市がお気に入りの観光スポット、もう(星の)子守はうんざりです、享年約30億歳。


【挿絵表示】
シリアス

【挿絵表示】
シリアル



原作時間軸から2億年(チェッカーフェイス死時)経つと人が住めない環境になって一旦氷河期が数億年ほど訪れる。
大体5億年後には太陽が爆発出来る水素が無くなって膨張し出す。
15億年後には海が全て干上がって地球の表面温度は140度前後になる。
その為地上の生物は死んで、地下深くで僅かに微生物らへんが生き残った。
またそれから微生物も生き残れなくなって地球全体が極限サウナ状態になったところで漸く星が死ぬ。
多分そのあと30億年後くらいで、死んだ星は膨張していく太陽に飲まれて原子に戻ります。

あくまで設定ですけどね(笑)



※ここから呼んで欲しい内容↓↓

前話でも申し上げた通り、個人的事情で一旦番外編の執筆は休止します。
詳細は活動報告であげてるので、詳しく知りたい方はそちらを読んで下さい。
なんだか今話が番外編最終話みたいになってしまったけれどあくまで休止です(笑)
ふとネタが閃けば番外編書きますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio 番外編 12

エミーリオは理解することはない。


「ねぇ、聞いた?今ニュースで地球に隕石が近づいてきてるんだって」

「ああ、聞いた聞いた、確か一週間後だっけ?」

「今度の隕石はいつもより大きいんでしょ?」

「そうだっけ?チラっと見たくらいだからそこまで分かんないや」

「あはは、それより今日の宿題でさー」

 

昨夜、惑星防衛調整局が地球に接近している隕石を観測した。

時速4万㎞で接近している隕石は非常に巨大で、現時点での観測結果では、6日後に地球に衝突する予測が立てられている。

この情報をニュースで報じている今、現状の深刻さを理解している者がこの地球上に幾人いるのだろうか。

専門家は次のように言った。

『この隕石が衝突した際、国が何十と消滅し、星に多大な被害をもたらすだろう』

各国の最先端技術を駆使したミサイル兵器ですら、接近中の隕石を破壊することは不可能だった。

未だ現状を理解せず楽観視している者達は今日も平凡な日々を送ろうとしていた。

その中に彼も含まれていたのだ。

 

「いらっしゃいませー」

 

並盛のとある住宅街のご真ん中で洋風の店を営んでいるその男の名はエミーリオ。

人気が段々と出てきているその店ではピークであるお昼時に席が満席になることが当たり前だ。

 

「ちょっとエミーリオさん、知ってます?今ニュースで隕石が近づいてるんだって!」

「ああ、テレビでよく報道されてますよね…」

「怖いですよねー、これが日本に当たっちゃうと思うと…」

「いつもみたいにどっかの海に落ちるんじゃないですかね?」

「そうですよね」

 

地球に接近してくる隕石を楽観視しているエミーリオだが、

 

 

「政府がなんとか頑張ってくれますよ」

「そうだといいんですけど」

 

彼の本業は自営業ではなく

 

「きっと報道が過剰なんですよ」

「それは少し思います、だって普通国の危機レベルだったら避難勧告みたいなの出しますよもんね」

「ですよ」

 

星の守護者である。

 

「エミーリオさんは隕石衝突の日とか何か予定あるんですか?…確か6日後でしたっけ?」

「え、そりゃぁ勿論」

 

そう

 

 

「店で働くだけですよ」

 

 

 

❝星の守護者❞である。

 

 

 

 

 

 

 

「エミーリオ」

 

隕石衝突まで5日、彼の店に顔馴染みの客が現れる。

 

「バミューダ、おはよう」

「ああ、おはよう…最近はどうだ?」

「普通だよ、何か飲む?」

「じゃあカシスオレンジを」

「了解」

 

黒いハットを被り、顔面には黒い包帯を巻いている背丈が子供の彼の名はバミューダ。

頻繁にエミーリオの店に訪れては近況を聞いてくる人物である。

彼がエミーリオの店に仕込んだ監視カメラは数知れず、監視されているエミーリオに至っては全く気付いていないという鈍感っぷりを発揮しており、バミューダの奇行に歯止めがかかることはあるのだろうか。

最近の彼の悩みは、エミーリオが携帯を置いてどこかに出かけてしまうという点だけである。

決して彼とコンタクトを取りたい時に取れなくてもどかしいという理由ではないことをここで明記しておこう。

 

「そういえば昨日からどこもかしこも隕石の話で持ち切りなんだよなー」

「そういえばそうだな、君の本領発揮どころではないか」

「えー…俺の出る幕なんかないんじゃねーか?」

 

依然としてエミーリオには星の守護者としての自覚がない模様で、隕石に対してもあまり関心がない様子だ。

バミューダはそんなエミーリオを見ていて呆れる、なんてことはなくむしろ余裕のある様に関心すらしている。

流石エミーリオ、と彼へのフィルターが故障しているバミューダがエミーリオの本心を知る機会など一生()はしないのだ。

 

「では、また来るぞ、エミーリオ」

「ああ、いつでも来いよー」

 

小一時間程エミーリオと喋ったバミューダは満足げに帰っていく。

そんな彼を見送ったエミーリオは店に戻り、開店時間までの準備を始める。

 

 

 

 

隕石衝突まで4日、彼の店に顔馴染みの客が現れた。

 

「よぉ、エミーリオ」

「エミーリオさん」

「久しぶり、エミーリオ」

「久しぶりだな、トリオ達」

「ト、トリオって…」

「だっていつもお前ら三人一緒だろ」

「そうですけど…」

 

上から獄寺隼人、沢田綱吉、山本武で、彼らは並盛中学の生徒である。

また沢田綱吉はボンゴレマフィアの時期ボスであり、山本武と獄寺隼人はその側近だ。

そんな将来物騒な職につくであろう彼らが手にしているのは筆記用具とノートである。

 

「また宿題か?」

「は、はは…」

「毎回定休日狙ってくるあたり、ここお前らの自習室だと思ってんだろ」

「ご、ごめんなさい!家のクーラーが直ったらちゃんとそっちで勉強します!」

「ならいいけど、あっちのテーブル使ってくれ」

「はい!」

「ありがとなエミーリオ!」

「サンキュー」

「はいはい」

 

木曜日の定休日は必ずといっていい程誰かがエミーリオの店に来る。

その中でもこの三人がよく入り浸ることが多いのだ。

宿題を持ってきては店の中で勉強をする彼らの隣で新メニューを開発しているエミーリオ。

穏やかな時間が過ぎていく中、勉強をしていた三人が休憩がてら喋り出す。

そんな中、獄寺隼人がエミーリオに声を掛けた。

 

「おいエミーリオ、お前地球に接近してる隕石知ってるよな?」

「ああ、お客さんもずっとその話ばかりだからな」

「お前どうすんだよ」

「どうするたって…何が?」

「いや隕石破壊しに行かなくて大丈夫なのかよ」

「あんなちゃっちい隕石でこの星が死ぬわけねーだろ」

「ちっせーたってお前、それでも数か国の国が消滅するかもしんねー規模だぞ?」

「まぁ当たり所悪けりゃそうなるよなー、でも各国対策ぐらいは立ててんだろ」

「対策って、人間頼みか?」

「?……今のところは…?」

 

首を傾げるエミーリオには隕石への関心は微塵もなかった。

 

「エミーリオも何か隕石に関してあんま乗り気じゃねーし、そこまで大したことないんじゃねーか?」

「そう、かなぁ…」

「きっとメディアの過剰報道ッスよ」

 

三人はそう思い込むことで、エミーリオへの違和感を消し去った。

君たちはエミーリオの側にいる為危機感が麻痺しているのだと、指摘する者は誰もいなかった。

当のエミーリオは新メニューのことで頭がいっぱいであったのだ。

三人は宿題を終えると、エミーリオにお礼を言い店を出ていく。

エミーリオは窓を見て既に夕方だと気付き、カーテンを閉める。

 

 

 

 

隕石衝突まであと3日、顔馴染みが店を訪れた。

 

 

「久しぶりですね、エミーリオ」

「骸君に凪ちゃん、久しぶりだね」

「クフフ、あなたから新作のチョコケーキが出来たとのメールを頂き参った次第です」

「私も…食べたい…」

「うん、そこのカウンター席に座って、今持ってくるから」

 

そこには特徴的な髪形をしている男女が二人、男の名は六道骸、女の名はクローム髑髏。

クロームの本名は凪であり、エミーリオは彼女を本名でしか呼んでいない。

その理由はクローム髑髏だとあまりにも不良っぽい、センスなさすぎ、だそうな。

チョコが大好物な骸はカウンター席に座り、エミーリオの出すチョコレートケーキを待ちわびていていた。

 

「はいコレ、新作」

「クフフ、見た目はいいですね」

「美味しそう…」

 

二人が仲良くケーキを食べる様をエミーリオが眺めていると、骸がその視線に気付き何か話題はないものかと考える。

 

「そういえば最近の話題と言えば隕石ですよね」

「あー確かに、どこもかしかも隕石隕石だよなー」

「あなたはどう考えているのです?」

「んー……別に…」

「?」

「なんか皆が怖がる程、今回の隕石ってヤバくないと思うんだよね」

「そうなのですか?大規模であると聞きましたが」

「んー?大丈夫な気がするんだけどなぁ…」

「あなたがそう思うのならそうなのでしょう、何せ何万年もこの星と共に歩んでいるのですから」

「そらそーだ」

 

チョコレートケーキを頬張る六道骸が眉間に皺を寄せているエミーリオにそう言うと、エミーリオは考えるのをやめて再び楽観視する。

クローム髑髏はエミーリオの言葉に疑問を持った。

 

「エミーリオ」

「ん?どした?」

「今向かってくる隕石、エミーリオは何もしないの?」

「え?まぁ俺が手を出す程じゃないかなぁ…」

「そうなんだ」

 

エミーリオに問いかけ、返って来た答えにクローム髑髏の疑問は解消される。

しかし、何かが引っ掛かるのかクローム髑髏は骸と喋っているエミーリオを眺めていた。

引込み思案であまり思ったことを言わないクローム髑髏はこれ以上何かを言うこともなく、ケーキにフォークを差し込んだ。

彼らが帰っていった後、エミーリオは自室に行きテレビを付ける。

するとどのチャンネルも隕石のニュースばかりだった。

エミーリオはそのニュースに飽きて地上波からCSにチャンネルを変える。

するとアニメ映画が放送されていて、エミーリオはチャンネルをそこで固定し見始めた。

全てのチャンネルが見れるが、そのための料金が発生することをエミーリオは知らない。

まずテレビが自室にあることに気付いたのはつい最近である。

当初はあれ?いつからあったんだろうと首を傾げていたものの捨てるのも憚られ、そのまま使用しているのだ。

誰が、何の為に、テレビを置いたかは分かっていない。

だが部屋の至る所に設置されているであろう監視カメラを確認すればすぐ判明するだろう。

まぁエミーリオが監視カメラの存在に自力で気付くことはこれからもありはしないだろうが。

エミーリオに隕石への関心は見られない。

 

 

 

 

隕石衝突まであと2日、顔馴染みが現れた。

 

「エミーリオ」

「シェリック、おはよう」

 

彼の名前シェリック、エミーリオ以外からはチェッカーフェイスと呼ばれているこの男だが、エミーリオの古くからの同種である。

彼もバミューダ同様エミーリオへ過度の監視をしているが、基本エミーリオの行動に関しては傍観主義である。

エミーリオの意思を第一に尊重する彼は密かに人類滅べとすら思っていたりするが、それが言葉になることはない。

隕石衝突まで2日とあり、公共機関は全て休みになり、市民も出来るだけ外出は控えるよう通達された。

ここで漸くことの深刻さに気付いた市民は焦り始めるが、未だエミーリオに隕石への関心はない。

どの家庭も引き籠る中、一応エミーリオの店は開いていた。

だが一般人の客は一人もいなく、シェリックが来るまでエミーリオは一人でテレビを見ていたのだ。

 

「隕石騒動でお客さん来ないし暇だったんだよなー」

「お前は星を守るのが使命だろう…今回は何も手を出さないのか?」

「…?いやだってあんな小さな隕石で星は死なないし…当たり所悪くて軽傷だろ」

「ふむ、そういうものか…如何せん今回の様な大規模な隕石は私も初めてでな」

「大規模…かぁ?」

 

カウンター席で向き合いながら座り、喋り始める二人。

エミーリオはふと思い出したかのようにシェリックに問う。

 

「なぁ、何で皆あんなに焦ってるんだ?」

「隕石が落ちるからだろう、現在の技術だと今回の隕石を完全に破壊するのは不可能だからな」

「でも隕石が落ちてくるのは日本じゃねぇだろ」

「まぁ、そうだが色々影響でもあるんじゃないか?数か国消えるのだから」

「んー…?何で皆俺が隕石破壊担当だと思ってんだろーな…」

「それはお前が星の守護者だからだろう」

「いや、うん……?確かに星は守らなきゃいけないけどさ…」

「ふむ………」

 

エミーリオの疑問にシェリックは考え込む。

そして理解した。

何故エミーリオがここまで不思議がっているのかを。

 

「エミーリオ、恐らくそれはお前と人間との捉え方の差だ」

「ん?」

「お前は()を見ているだろう」

「んん?」

「お前の使命はあくまで星の延命と滅びから守ること…だから今回の隕石が星を傷つけるに値しないものだと判断した」

「そうだな、うん」

「人間からしたらそうではないのだ…星の表面は削れ数億人という人口が一気に消滅する…あらゆる生命体もな」

「あー……なるほど?」

「分かっていない顔だな、お前から見れば今回の隕石は星にとって小粒のようなものだろう?だが人間からすれば自身の生命と生活を脅かす脅威なのだ…いわば人類は銃弾を突きつけられているようなものだ、お前からすれば銃弾は脅威でもないが人間からすれば命を脅かす脅威だろうな」

「そういうことか、なるほどね」

「お前にとって人口が減ることが星の危機と結びつかなかっただけだろう」

「まぁ確かに、人類が滅ぶのと星が死ぬのは無関係だからな…」

「なんとなく理解するもよい、理解せずともよい…私たちは人間ではないのだから」

「それもそうだな、何かスッキリした」

 

エミーリオは人類に関心があるものの庇護対象とは見なしていない。

あくまでホモサピエンスという数千年前から誕生した知能のある個体と認識し、地球上の生命体という括りである。

星を存続するにあたってこれといって必要な生命体であるとは思っていない。

それゆえに、今回の隕石に対して興味や関心が人間とは大きく異なっていたのだ。

漸く他の者達の言葉が理解できたエミーリオは考える。

 

「これは…助けた方がいいのか?」

「それはお前が決めることだ…私はどちらでも構わない」

「えー」

 

シェリックはその後少し喋ると帰っていった。

エミーリオは風呂に入ってその日はテレビを付けずに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

隕石衝突まで1日、顔馴染みが訪れた。

 

「エミーリオ、会いに来たよ」

「今日は白蘭か、久しぶり」

 

真っ白な外見をしているその人物は白蘭。

人の好さそうな外見をしているが騙されること勿れ。

彼は一度は世界を手に入れようとあらゆる並行世界を破壊し尽くした男である。

現在は興味も関心も全てがエミーリオに集中し、危険性が鳴りを潜めているがエミーリオへの依存性が極めて高い人物である。

バミューダ、チェッカーフェイス同様彼もエミーリオを監視している上盗聴も積極的にしている。

彼の奇行に巻き込まれている部下には合掌してもしたりないほどだが、彼ら自身敬愛する上司である白蘭が幸せならばと彼の奇行を黙認している。

白蘭はエミーリオの店、自室あるゆる場所に監視カメラと盗聴器を設置している。

また自室にいつの間にか置いてあったテレビは白蘭が置いたのだ。

テレビとは暇潰しの為の娯楽品だが、はてさて誰の為の娯楽品になるかは誰にも分からない。

いつの日か白蘭がエミーリオに映画を見ようとDVDを持ってくるのは遠くない未来である。

そんな白蘭だが当たり前のように昨日のシェリックとエミーリオの会話を聞いている。

 

「ねぇエミーリオ」

「ん?」

「エミーリオにとって僕って何?」

「俺にとって白蘭?」

「うん」

 

白蘭の言葉にエミーリオは指を口下へ滑らせる。

 

「手のかかる……だけど本当は素直な、気の置けない子…だな」

「友人…ではないの?」

「友人っつーよりも親戚の子みたいな感覚かなぁ、構いたくなる」

「ふぅん…」

 

白蘭はエミーリオに出されたグラスの中の氷を眺める。

 

「ねぇエミーリオ…隕石が落ちて僕が死んじゃいそうだったらどうする?」

「そりゃ助けるけど」

「うん、きっと君ならそうするよね……ただ君の考えが時々分からなくなる時があったんだ」

「白蘭…?」

「エミーリオにとって星が一番大切なことくらい知ってるさ…何を置いても星を最優先で動いていることくらい」

「お、おい…?どうした…?」

「僕にとってエミーリオは一番なのに…」

 

白蘭は不貞腐れた様子で、カウンターに両肘を付けて腕組みしながら、腕の上に頭を乗せる。

そんな白蘭に困惑していたエミーリオは反射的に白蘭の頭を撫でる。

白蘭の髪の毛は思っているよりも柔らかく、それは彼が撫でがいのある髪質を求めたが故の努力の結晶だろう。

 

「エミーリオは…ずるい………」

 

エミーリオの手のひらの温度が心地よく白蘭の瞼は段々と重たくなっていく。

 

 

 

「嫉妬するには…星は大きすぎるよ………」

 

 

 

嫉妬だってさせてくれないくらいエミーリオは平等に皆を愛している、と白蘭は理解していた。

ただそれは星とはまた別の愛情であることも、彼は理解している。

だからこそ彼は行き場のない感情を、エミーリオに吐き出すのだ。

白蘭の執着心は、エミーリオに見捨てられたとしてもあり続けるだろう。

それほどの価値がエミーリオにあるかなど誰にも分からないのだ。

そもそも価値という言葉では表せないのかもしれない。

それでも、一度でもエミーリオにとっての一番でありたいと、彼は心の底で呟きながら静かで心地よさげな寝息を立てた。

エミーリオはいきなり寝始めた彼に嘆息しながらも毛布を彼の背中に掛けて、厨房に籠り始めた。

夕飯を食べた白蘭は手を振って、また明日と告げて帰っていった。

エミーリオの隕石への関心はない。

 

 

 

 

 

隕石衝突まで1時間を切った頃だった。

隕石が原因で電波が妨害されテレビが使用出来ない中、エミーリオは隕石ってどこに落ちるのだろうとふと思ったのだ。

だが携帯も使えず、仕方なく誰かに聞くために店を出た。

 

「おーい、ザンザース!」

「あ"?何でてめぇいやがんだ」

「ちょっと聞きたいことあってさー」

「?」

「隕石っていつ、どこに落ちんの?」

 

エミーリオの言葉に呆れかえった人物はザンザス、ボンゴレマフィア独立暗殺部隊のボスである。

強面で暴力的な性格だが、エミーリオの前だと若干抑えている。

エミーリオの鉄拳制裁を恐れているわけではないと、彼のプライドを考慮して、ここで明記しておく。

そこに銀髪の片腕に剣を括りつけた男性が入って来た。

彼の名前はスクアーロ、ザンザスの右腕だ。

ザンザスからはカス鮫と呼ばれていて、幼少期エミーリオがどれだけ注意してもその呼び名が変わることはなかった。

 

「カス鮫に聞け」

「ってなわけで、教えてくれスクアーロ」

「俺かよ!つーか隕石ならスイスに落ちるって話だぁ"!」

「スイス?めっちゃ隣じゃん、イタリア大丈夫なの?」

「あ"あ"!?隕石なんぞにビビるくれーなら死んだほうがマシだぁ"!」

「いやいやいやいや、逃げようや普通に考えて」

「ボスが動かねぇんだ、俺らが逃げるわけねぇだろ!」

「えー………」

 

エミーリオは暫し考え、シェリックとの会話を思い出す。

 

『これは…助けた方がいいのか?』

『それはお前が決めることだ』

 

 

「んー……でもなぁ………気が進まないというか…うーん……」

「あ"?何のことだあ"?」

「…………ちょっと隕石ぶっ壊してくる」

「「は?」」

「じゃあな」

 

エミーリオはそれだけ言うとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

隕石衝突まであと15分、エミーリオはスイスの山の頂上にいたのだ。

片手には湯気の出ているホットコーヒーを持っていて、服装は普段着だ。

どう考えてもホットコーヒーだけで温まる気温の標高にいないのだが、エミーリオにはあまり気にすることではないらしい。

既にエミーリオの視界の中に隕石が視認出来ている。

 

 

「俺……人類の守護者にまでなった覚えはないんだけどなぁ……」

 

 

ボソリと呟いた言葉を聞き取ってくれる者はいなく、雪がエミーリオのまつ毛に付着する。

吐き出した息は白く、エミーリオは目を瞑る。

 

 

エミーリオの片手から溢れ出る炎の美しさを誰も知ることはなく

 

誰も垣間見ることはない

 

幾色(いくしょく)の炎がゆらゆらと溢れ出て空へと広がっていく

 

それはまさに神秘だった

 

 

炎は隕石を飲み込み、跡形もなく消し去ってしまう

 

呆気なかった

 

なんと呆気ないものなのか

 

エミーリオは僅かに残されていたコーヒーを飲み干し、隕石が消えた跡を暫く眺めていた

 

 

 

 

 

 

その後、世界は混沌に陥った。

突如として隕石が消えた事実に、専門学者も、政治家も、誰もが唖然としていた。

何故、とその文字のみが脳内を支配する。

暫く世界はこの隕石の消失で騒がしかった。

 

それと同時に、自然災害が各地で多発したのだ。

今までに類見ない災害規模に政府もお手上げで、ただ自宅待機という名ばかりの対策のみを勧告する。

誰もが隕石のせいだと、根拠のない理由を叫ぶばかりだ。

 

並盛も一昨日から嵐、雷、豪雨が続いていて店もろくに開けられない状況だ。

エミーリオは店の窓からずっと降り続ける雷に苦笑する。

 

 

 

 

 

「あーあー、これぜってー怒ってるなぁ……怖ぇー」

 

 

瞬間、店の窓のすぐ目の前に轟音と共に雷が落ちる。

エミーリオは目を見開いたまま顔を引き攣らせた。

 

 

ごめんって……」

 

 

 

エミーリオは降り続ける雨の音を聞きながら窓に凭れ掛かる。

そして右手で小さく、僅かな炎を灯した。

 

 

 

「ヒトを守るための炎じゃ……ないもんな……コレは…」

 

 

 

 

 

 

エミーリオは、星の守護者である。

 

 

 

 

 

 

 

 




隕石:うっしゃぁ!ぶつかっ……(チーン

星:星ではなく人類の為に隕石破壊した守護者におこ、ある意味ヤンデレ。

エミーリオ:星>>超えられない壁>原作キャラの優先順位、星の意図を本能で理解していた為隕石を破壊するのを無意識で忌避してた、でも皆助けないとなぁと渋々助けたら案の定星に怒られた。

白蘭:何に嫉妬していいかも分からず拗ね始める、多分エミーリオが人類を助けることはないんだろうなと理解するが納得はしていない、だって僕のこと大事だと思ってるなら守ってくれたっていいじゃん!?

チェッカーフェイス:唯一エミーリオの疑問を理解した人物、チェッカーフェイスは人間嫌いだけどトゥリニテッセを考えると自主的に滅ぼしたいとは思わない様子。


一発書きだったので本当に内容が途中途中で変更しまくって最終的にこれに落ち着いた。


うさぎもち様の「エミーリオの地球人らしい一面」と、
魔トマト ブラキオ様の「巨大隕石衝突」のリクエストです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Emilio IF√2

IF:もし初期エミーリオにリボーンという漫画が存在していた世界の人間が入ってしまっていたら。
時間軸は原作終了後。

他にも転生者あり。
始終転生者視点


あれは、誰だ。

あれを、私は知らない。

アニメにも原作にもいなかったハズだ。

 

あれは、何だ。

 

 

 

 

 

 

私の名前は■■。

モブとしてこの世界に生まれ落ちた。

小学校に上がって直ぐに前世というには奇妙すぎる記憶を取り戻し、この世界が漫画の中の世界であることに違和感を抱きながら今まで生きてきた。

私には前世で死んだ記憶はなかった。

いや前世と言えるかすら微妙な記憶であることは百も承知だった。

だから、多分これも夢なのかなと思いながら生きていくことにしたのだ。

漫画の様な世界で、漫画の様な人達、漫画の様な矛盾の中で、浮き立った感覚の中私はただ無難に過ごしていた。

いや実際漫画の世界なんだが。

何故5歳まであんなにバランスの悪い体型をしているのかなんて、違和感を覚えるのは世界でも私だけなのだろうと思っていた。

全てが夢のようだった。

だがそれも中学に上がって一変した。

都立の中学が一番近いからという理由で親が勝手に入学手続きをしていて、私は中学の名前を聞いた瞬間に絶望したのだ。

 

「都立並盛中学………」

 

原作の舞台中の舞台、並盛中学校。

色んなマフィアが集まる上に爆発沙汰や流血沙汰は日常茶飯事、風紀委員による絶対政権のような恐怖統治。

ふざけるのも大概にしてくれと言わんばかりに私は地に膝をついてこの世の無情を嘆いた。

しかも何の縁かは知らないが、果てしなく私にとっては望ましくない事態に追い込まれるのだ。

まず入学式の隣の席が沢田綱吉、最初のクラスで隣の席が沢田綱吉、担任が組んだ男女二人一組の番号順によるペアが沢田綱吉。

私は呪われているんですかねぇ。

お陰で主人公と何気ない会話をする仲にまでなってしまうという始末。

正直言って、私は原作に関わりたくなどない。

この世界が夢だと思っている割には痛覚あるし、感情もある。

明瞭なこの世界で平凡に生きていたかったのだ。

間違ってもマフィアの抗争に巻き込まれて炎やらなんやらを扱いたいなど一度も思ったことなどない。

前世…というには違和感があるので、前の世界とここでは述べる。

前の世界では平凡な青春の中、健やかに育ち、安らかに生を謳歌していた私にとって、彼、沢田綱吉と関わるということは愚策であり自ら死に急いでいるようなものだった。

主人公の隣にいれば何かあっても最終的には安全とか言ってる奴、これ未来編で確実に抹殺対象にロックオンされるからな?

まず運動も微妙で、成績も微妙な私に彼らの隣で生きていくのは難しすぎると判断した。

なので出来るだけ沢田綱吉と関わりたくなかった。

なかったんだが……

 

「あ、■■さん…また同じクラスだね」

「うん、そうらしいね…今年もよろしく」

「こっちこそ、■■さんがいて安心したよ」

 

何でこうも神様は私に試練ばかりを与えるのだろうか。

中学二年生、フラグをへし折ることの出来なかった私は無難に彼から距離を置く方法を模索する日々を送っていた。

悲しいことに山本武に至っては、私の父親が彼の父親と親友同士らしく、家族同士で交流が合ったりする。

彼とはそのうち疎遠になるだろうと高を括っていた昔の私を殴りたかった。

中学にあがると、完全に従妹か親戚のような関係になっていて頻繁に声を掛けられることも少なくはなかった。

学校では恥ずかしいから出来るだけ話しかけないでと頼めば、メールがわんさか来た。

主に親の話で。

思い出せ、私はこんなことしてる場合ではないのだ。

少しでも早く、主人公勢の彼らから距離を取らなくては。

最初は仲の良い女子友達を作れば、グループで行動するようになって彼らとは疎遠になるかと思っていた。

だが、あれだ………正直女子中学生舐めてた。

既に精神的におばさんに突入している私が彼女たちの側にいると辛くて仕方なかった。

あの子が好きだとか、あの子は嫌いだとか、見えるは見える、女の汚い所。

いや社会に出たら男女問わず結構陰湿ないじめとかあるけれど、女子中学生もまた凄まじかっただけなのだ。

友達を作るのは断念した。

京子ちゃんや花のグループがあるじゃないかとか言ってる奴、それフラグな。

あの子達は原作キャラなわけで、主人公勢から離れるために巻き込まれやすい人たちに近付くのは本末転倒もいいところだ。

まぁ何が言いたいかって言うと、私はいつも通り一人で生きていたのだ。

その言葉は少し語弊があるだろうか。

両親の生活援助は大人になるまであるだろうし、一人で生きているわけはないが、要は心の問題だ。

この世界にはあの世界と通ずるものが何もない。

故に私だけが知っているのだ。

こんな世界はあったのだと、こんな世界があったのだと。

紛れもない孤独感は確かにあったけれど、誰に言うでもなく心の中に押しとどめるくらいには余裕があったのだ。

脱線してしまった、話を戻そう。

私が本格的に彼らと関わりたくないと思い始めたのは、原作が開始したであろうあの日を境とした。

 

「終わった……何もかも、終わった……」

 

昨日、パンツ一枚で笹川京子に告白をしたという隣の席の沢田綱吉を見ていた私の内心は穏やかではなかった。

ついに原作が始まってしまったと焦っていた。

獄寺隼人が転入してくるし、山本武も沢田綱吉と一緒に行動し始めるし、雲雀恭弥の姿を見かけることも多くなった。

最悪だ、と内心嘆いていたけれどそんな嘆きは誰の耳にも届かず、時間は過ぎ去っていった。

並盛生が襲撃にあったと聞いた時は気が気じゃなかった。

いきなり一周間程沢田綱吉含め主人公勢が学校を休みだした時は、ああ、ボンゴレリング…と遠い目をした。

至門中学から転入生が入って来た時は悟り切ったブッタのような目をしていたと後に沢田綱吉から聞かされた。

まぁ私は色々と心配していたが、結果から言えば何事もなかったのだ。

私にまで揉め事が飛来することはなく、無事中学二年を過ごし切った。

あの揉め事をまき散らすリボーンですら始終会話をしなかった。

よくやった私と自分を褒めまくった後に、あれは多分フラグだったんだと悟ったのは中学三年の頃だ。

 

「あはは…また同じクラス、だね……」

「………」

 

ここまでの偶然がはたして許されるのだろうか。

何かの強制力が働いている気がすると思った。

いやだが、原作は終わっているからあれ以上の大ごとはないだろうと思っていた。

だから、少しだけ気が抜けていたのかもしれない。

 

「今度さ、山本の誕生日パーティーをするんだけど、良かったら■■さんも来てくれないかな」

 

まさかプライベートで誘われるなんて。

 

「ほら、■■さん山本とも仲良いって聞いたことあるし」

 

それどこ情報だコラ。

 

「……山本から…」

 

本人からかよ!

ちくしょう、ここで断れば隣にいる獄寺がキャンキャン吠えてくるやつじゃないか。

仕方なく了承するが、絶対にリボーンが運んでくるであろう面倒事に巻き込まれないように安全地帯(沢田奈々)に避難しておこう。

どうせ沢田家でやるんだろう。

 

「あ、会場は知り合いの店なんだけど」

 

なん…だと?

 

「並盛中学で集合でいい?そこから店まで直ぐだし」

「あ、うん」

 

返事をしてしまった後に、仮病で休もうか本気で悩んだものだ。

当日、鬱な気分のまま沢田綱吉と待ち合わせをして店に入った私は驚愕する。

 

「エミーリオさん!」

「やぁ綱吉君、今日は武の誕生日だから腕に()りを掛けて作ったよ」

「大丈夫ですよ、エミーリオさんの料理はいつだって美味しいですから」

「おいエミーリオ、何か手伝うことはねぇか?」

「あー、なら会場のセットを頼む」

 

あの消極的な性格の沢田綱吉がハキハキと喋っていることも、あの沢田綱吉にしか尻尾を振らない獄寺隼人が他人に対して気を遣うことも、私には信じられなかったのだ。

 

「綱吉……君……」

「どうしたの■■さん」

「あの人…誰………」

「え、エミーリオさんのこと?」

「エミー…リオ…?」

「うん、結構並盛じゃ有名な店の店主さんだよ」

 

私の疑問に沢田綱吉はそう答えた。

そんなキャラ聞いたことない。

描写外のキャラなのか?

だが、主人公勢とここまで仲が良いのに原作で出てこなかったのはおかしい。

考え事をしていた私を一層驚かせたのは、エミーリオという男の隣に現れた黒い何か。

 

「エミーリオ、これはどこに運べばいいのだ」

「あー、それはあれだ…イタリアの…確か、ああ、この紙に地図が」

「ここだな、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

バ、バミューッ…!?……!?

何でバミューダがここに!?いやそれよりも何故一般人と仲が良いんだ!

私はこの世界のラスボスとも言えるであろうバミューダがいることに驚きすぎて固まっていた様子を、沢田綱吉がいきなり消えてしまった赤ん坊に驚いていると勘違いをしていた。

 

「ああ、あの黒い赤ちゃんはマジックが得意でさ!しかも瞬間移動のマジックが凄いんだよ!」

 

そんな沢田綱吉の弁解は何一つ私の耳には入ってこなかった。

私の視界にはエミーリオという男性のみが映っていた。

 

この男は…何だ………?

まさかチェッカーフェイスの本来の姿?

いやそんなハズはない、バミューダは彼を心底憎んでいたじゃないか。

じゃあ一体この男は何者なんだ。

バミューダの瞬間移動を見ておきながら何の反応もなかったから、確実にマフィアについて何かしら知っているハズだ。

何故原作で出てこなかった。

 

 

………いや、原作にいなかったとしたら……?

 

 

この男も転生者…なのだとしたら?

そして原作が大きくズレているのだとしたら…?

いや、シモンファミリーとの確執がなくなったことは学校生活で見て取れた。

ならば継承式編はあったハズだ。

あの段階の戦闘は未来編を経ていないと無理だから、恐らく未来編も確実に経験している。

じゃあ、差異があるとすれば……虹の代理戦争編か…?

バミューダの先ほどの様子からしてそうだと思うが…

ダメだ、こんなことを延々と考えたって、頭の悪い私じゃ真実なんか分かりっこない。

この男に…直接聞かないとダメなのだろうか。

そんな私と男の視線が合った。

 

「えーと、俺はエミーリオ…君は?」

「……沢田君の同じクラスメイトの■■です」

「■■ちゃんね、よろしく」

 

握手をしていて、第一印象は普通の人。

演技である可能性も否めないが、本当に普通にしか見えなかった。

 

「エミーリオさんと沢田君は顔見知りのようだったけど、行きつけなの?」

「あ、えっと…よくエミーリオさんには色々お世話になっててさ…沢山助けられたんだ」

 

彼の言葉で確信した。

この男はイレギュラーだ。

原作知識の有無は置いといて、本来いるハズのなかった男だ。

私はこの日、始終エミーリオという男を観察していた。

 

「■■じゃん!お前も来てくれたのな!」

「誘われたから来たの…はいコレ、誕生日おめでとう」

「ありがとな!」

 

山本には余め準備していたプレゼントを渡した。

何ごともなく終わったパーティーに、巻き込まれずに帰るという当初の目的を忘れて、ひたすらエミーリオという男について考えていた。

そして確認したいと強く思った私は、後日彼の店にプライベートで行くことにしたのだ。

 

「エミーリオ、今回は僕2週間は滞在するつもりなんだ」

「毎日入り浸る気かよ」

「当たり前じゃないか」

 

そして、店のドアを開けた私は激しく後悔した。

え、え………びゃくらっ……え?

数多の並行世界を破滅に追いやった元凶であり、生粋の中二病者である白いヤングな悪魔がいた。

気が遠くなりそうだったがなんとか踏ん張り、店の中に入る。

何で白いウニが…いや白蘭がいるんだよ。

まさかこいつまでエミーリオと仲いいだなんてこと…

 

「エミーリオ!今度一緒に温泉行こうよ」

「おうおう考えとく、いらっしゃいませー!」

 

白蘭の発言を一蹴するだと?

っていうか、白蘭の好感度カンスト状態かよ!

一体どうなってるんだ!この男は!

店の店主というありきたりな立場で原作キャラの胃袋でも掴んだっていうのか!?

そんな馬鹿な。

 

「あれ、君は確か…■■ちゃん」

「久しぶりです、あなたの料理美味しかったので、また食べたくなってしまって」

「そりゃ嬉しいや!カウンター席しか空いてないけど大丈夫?」

「は、はい」

 

白蘭の隣かよ!ふざけんな。

無難なメニューを選んで頼むと、エミーリオは厨房に入っていく。

隣の白蘭がずっと厨房の方を眺めてるのが何気に怖い。

これ好感度カンスト一回りしてヤンデレルートいってたりして……アハハ、そりゃないか。

エミーリオが料理を出してきたタイミングで話しかけた。

 

「エミーリオさんって一人でずっとこの店を営んでるんですか?」

「え、うん」

「忙しそうですね…趣味とかに時間費やせそうにないでしょうに…」

「俺の趣味は料理だからね、天職だと思ってるよ」

「そうでしたか」

「■■ちゃんは何か趣味はあるのかい?」

 

その言葉を待っていたのだ。

 

「映画鑑賞…ですかね……」

「へぇ、どんな映画見るんだい?」

「そうですねぇ…ジブ〇知ってますか?」

「あー……待ってよ、何かその名前の映画思い出せそう………あれだよね、アニメの…」

「そうですね、代表作で言えばトト〇とか…ものの〇姫とか」

「あーはいはい、思い出した!あれか!あれ楽しいよね」

「そうですね…」

 

やはりこの男は転生者だったか。

それも私と同じ世界の人だ。

にしてもこの会話で違和感を覚えていないあたり、前の世界の記憶は朧気だったりするのか?

 

「ねぇエミーリオ、ジブ〇って何だい?」

「あ?白蘭知らねーの?すっげー有名なアニメだよ、ほらあーるーこーの奴」

「知らないよ、日本のアニメ?」

「おう」

「今度紹介してよ、とても興味があるや」

 

すまん、この世界にはそのアニメないんだ。

白蘭の関心が存在するはずの無いものに向かっているが、どうしたものか。

にしても転生したという自覚すらなかったらあまり意味ないなぁ。

私としては同じ境遇の人と喋りたかっただけなんだが、いや見つかっただけでも幸いなのかもしれない。

 

「まぁ世界全体で見ればマイナー作品かもしれませんね」

「そうだっけか?すっげー人気だった気がするんだが……………ん…?」

「「?」」

 

エミーリオさんがふと首を傾げ出して、私と白蘭はエミーリオさんの動作を目で追っていた。

 

「あれ……?ジブ〇……だよな……んん?待てよ、あれって向こうの作品だった気が…あれ?思い違いか…?」

「向こうって何のことだい?」

「んー、こっちの話……あれー、ジブ〇だろ?結構昔の記憶っぽいし……向こうのじゃ……」

 

白蘭がエミーリオの言葉に反応するが、エミーリオは素っ気無く返事をする。

 

「向こう、のであってますよ…エミーリオさん」

「やっぱり向こうだったか!………え?」

「私も元は向こうの人なので…」

「え……ええええ!?マジで!?」

「はい」

「うわ、マジか…初めて出会った」

「私も初めて出会いました」

 

「ねぇ!向こうって一体何なのさ!」

 

二人だけの理解出来る単語に置いてけぼりにされていた白蘭がついに痺れを切らす。

 

「いやお前には分かんねー話……ちょっと待って、メールアドレス聞いていい?」

「いいですけど…それよりも隣の白い人、そんな杜撰(ずさん)な扱いで大丈夫ですか?」

「あ?まぁ大丈夫だよ、多分…っとこのメモ帳に書いてて」

「アッハイ」

 

多分ってお前!

いやアカンって!相手は白いヤングな悪魔だから!

こいつ並行世界でいくつか世界潰してる奴だから!

頬を膨らませてる白蘭とかレアだけど、嫉妬が私に向けられているとなると命の危険しか感じない。

 

「温泉一緒に行くから機嫌直せよ、おら」

「…約束だよ」

 

エミーリオすげぇぇぇぇえええ!

あの白蘭を完全に手懐けてやがる!

渡されたメモ帳に自分のメールアドレスを記入して、料理を食べてそのまま帰った。

その夜、私の携帯に一通のメールが来たのだ。

 

『To:■■

 

これから向こう側同士よろしく。

こっちで長く生きてるとあっち忘れちゃってて話について行けないかもしれないけど相談ならいつでも乗るよ

あ、これ俺の携帯番号ね

×××—××××—××××

          From:エミーリオ』

 

なるほど、彼はここに来て長いのか。

見た目からして20歳くらいだと思うが…生後直ぐに記憶取り戻したのかな?

 

 

『To:エミーリオ

 

いえ、こちらこそよろしくお願いします。

私の携帯番号は×××—××××—××××です。

ところで家庭教師ヒットマンという漫画をしっていますか?勿論向こう側です。

          From:■■』

 

 

多分だが、エミーリオさんは原作知識なんてないんだろうなあ、と思う。

白蘭見ても平気そうだったし。

ならある意味、この世界が漫画の中であることを教えない方がいいのかもしれない…のか?

 

『To:■■

 

んー………どっかで聞いたことあるような…?

どんな内容の漫画だったっけ?

          From:エミーリオ』

 

やはり彼に原作知識はなかったか。

 

『To:エミーリオ

 

とある一般人を、殺し屋の家庭教師がマフィアのボスに仕立て上げるって内容です

          From:■■』

 

『To:■■

 

多分忘れてるなぁ…にしても俺の知り合いがまるっきりそんな感じに巻き込まれてるんだけど、すごい偶然。

漫画みたいなことって起こるんだね

          From:エミーリオ』

 

これ絶対沢田綱吉のことだよね。

やっぱり彼はボンゴレを知っているのか。

言わない方が…いいんだろうな…………

 

 

その時の私は少し舞い上がっていた

 

初めての同類に

 

初めての出会いに

 

初めての感情に

 

 

 

私はゆっくりと指を動かす。

 

『To:エミーリオ

 

エミーリオさん、この世界はその漫画の舞台だって言ったら信じてくれますか?

          From:■■』

 

 

送信のボタンを押して数秒後に、いきなり電話が掛かって来た。

私はおかしくて笑いながら通話ボタンを押す。

 

 

 

 

 

私だけしか知らない世界があることに

 

紛れもない孤独感は確かにあったけれど、誰に言うでもなく心の中に押しとどめるくらいには余裕があったのだ

 

 

でも  ほんの少しだけ

 

 

やっぱり

 

 

寂しかったんです

 

 

 

「もしもしエミーリオさん?私、話したいことが…たくさんあるんです」

 

 

 

 




と、原作知識ありの転生者視点のIFでした。
本当は没ネタだったんですが、消すのも惜しかったので取り合えずうpしました。
多分エミーリオは原作知識あったとしても600年の間で絶対に忘れ去ってると思うんですよね。
そんな中で明瞭な記憶を持っている転生者と鉢合わせしただけ。
この後エミーリオの規格外さに転生者が驚いたり、いきなりのぽっと出にエミーリオの関心が集中しだしたことに嫉妬しまくるセコムの視線に転生者が怯えたりするんだろうなぁと思ってます。
因みにバミューダは絶賛アルバイト中です。

「エミーリオ!それはヤンデレルートだよ!何してんだあんた!」
「エミーリオ!おまっ、それおまっ、600年とか人外じゃねーか!」
「エミーリオ!お前のセコムどうにかしてくれよ!主に私への嫉妬を!」

転生者のSAN値が直葬するだけだコレ(笑)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。