新「艦娘グラフティ2」(第13部) (しろっこ)
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舞鶴の大井
「……いつか、分かる時が来るよ」
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新「艦娘」グラフティ2
(第13部):舞鶴の大井
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今日も負け戦だった。私たちは、やっとのことで戦場から帰還した。かろうじて轟沈は免れたが、ほとんどが中破に大破だ。
舞鶴の埠頭に到着して状況確認をしていたけど……新人艦娘たちの要領を得ない堂々巡りの返答に私はついカッとなった。
「あンたたち! そんなに死にたいのなら、もう勝手になさいっ!」
突き放すように言ってしまった。埠頭の駆逐艦娘たちは凍り付いた。
しまった……と思ったときには、もう目に涙をためている艦娘たち……ああ、見てらンない。余計イライラする。
私は他の艦娘に慰められて泣き崩れる駆逐艦を放って、サッサと埠頭を離れた。
「ああ、今日もまた同じことの繰り返しか」
最近、どうも戦況が芳しくない。
イラつくから艤装もギシギシと壊れそうな音を立てて、いくつかの部品がポロポロと転げ落ちている。
私は大井。最近、重雷装艦に改装されたばかりだ。せっかく『あの人』とまた同じ戦場でペアを組んで戦えるかと思ったのに、その目論見(もくろみ)は見事に崩れ去った。
私が尊敬し敬愛する『あの人』はここ舞鶴鎮守府の第一防衛隊だ。ところが私は新しく作られた第二防衛隊となって新人の駆逐艦たちの面倒を見る羽目になった。
自分自身の艤装も不慣れなのに、その上、新人を押し付けられたのだ。
「イライラもするわよ」
しかも私の直接の指揮官が、これまた着任したばかりの新人作戦参謀だ。
別にクソ提督にヘボ参謀なんて掃いて捨てるほど見てきたから構わない。ただ今度の新人参謀は、やること成すことすべて頭にくる。なぜだろうか?
「今日の作戦だってそうよ」
もっとバランスを考えて欲しい。新人相手に四苦八苦している私に、いきなり実戦は無理だって。
工廠で艤装を外し技師から修理箇所の確認を受けた後、書類に署名をする。頭に来ているから鉛筆の芯が折れるほどの勢いで署名をした。書類が半分グチャグチャになる。
「チッ!」
思わず舌打ちした。余計イラつく。
そんな私の剣幕に工員がビクビクしていた。また私の変な噂を流されるんだろうけど……そんな事は吹っ切るように私は呟く。
「構わないわ」
私は自分のロッカーで着替えと洗面用具一式を掴むと、再び風を切る勢いで廊下へ歩き出す。すれ違う職員や他の艦娘たちが私を避けるのが分かる。
「勝手にしろ」
何か強い口調で話していないと負けそうになる。そのまま工廠施設へと向かう。
今日は、いつもより早く入渠施設に到着したので空いていた。ただ、あまりにも頭にきているから脱衣所でも周りがほとんど見えなかった。
そのままタオルだけ掴んで施設の中へ入り空いている湯船に思いっきり飛び込む。
「はぁ……」
施設内の大きな窓からは植え込み越しに舞鶴の、まだ明るい海が見えた。
「水平線か」
それを見ていると、ちょっと落ち着いてきた。余裕が出た私は考える。思えば、あの新人参謀が来てから、ろくな事がない。
フッと呟く。
「一生懸命にやっているのは分かるわ……むしろ並みの新人よりは的確だし言葉遣いも丁寧で、そこンとこは認めるわ」
なのに……なぜか頭にくる。その存在自体が。
「バカバカしい」
アレコレ考えるのが面倒になってきた。モヤモヤした考えを吹っ切るように改めて首まで湯船に浸かった。
ガラガラの施設内。そっか……私は帰還した新人たちを放ったらかして来たんだ。
「工廠の確認まで、すっ飛ばして真っ先にここに来たから」
ついカッとなって大人気(おとなげ)なく突っ走ってしまったかも知れない。そこは、ちょっとだけ反省。
ふと見上げるとタイマーもカウントダウンを始めている。入渠に必須な残り時間も意外と短いようだ。
「それほど被害は無かったか」
あの新人たちは私に恐れをなして多分、ワザと遅れて、この入渠施設に来るだろう。
「彼女たちには悪かったけど」
……それなら逆に鉢合わせする心配もないか。
「やれやれ……面倒だから作戦参謀への報告は明日にしてやろう」
そう思っていたら横から声を掛けられた。
「へえ、作戦参謀への報告を引き伸ばして大丈夫なの?」
この声は……
「あ、はい!」
私は、それまでの不満タラタラの態度から真面目モードに切り替えた。自分自身で切り替えの早さに呆れるくらいだった。
「新人相手で艤装も不慣れでサ、おまけに参謀とも上手くいかないんだ。大変だねぇ」
この声は……だめだ!
私は観念して小声で釈明をする。
「北上さんには……すべてお見通しだったのね」
「だって大井っちサァ、思っていること全部、喋ってるんだもン。そりゃ誰でも分かるよ?」
……すごく、すっごく恥ずかしくなった。
私は思わず声のするほうとは反対側に顔を背けて湯船に顔を半分沈めた。カニのように口から泡を吹き出すと湯船にゴボゴボと水泡が弾ける。
北上さんは浴槽のヘリに手をかけて言った。チラッと横目で見ると、お湯で黒髪がワカメのように、ぺったりと張り付いているのが艶(なまめ)かしい。
「いいよ、恥ずかしがらなくても。そこが大井っちらしいから……でもさ、いつまでもそれじゃあね」
「ええ、それは分かってます!」
自分で赤面しているのが分かる。
「言われなくても分かっているんです!」
ムキになったように釈明する私に北上さんは笑ったようだ。
「そうだよねぇ、分かっているのにサ、どうしようもない事ってあるよ。そうそう」
あれ? もっと突っ込まれるかと思ったのに。
「良いんだよ、それで。アタシもさぁ最初はそうだったよ。あの参謀とだってバトルしたこともあったっけ」
「え!」
思わず振り向いてしまった。湯気の向こうに彼女の笑顔があった。
北上さんは長い髪の毛を毛筆のように弄(もてあそ)びながら言った。
「でもさぁ、お互いに似た部分があるから……ぶつかるって事もあるらしいよ」
「そうなの?」
よく分からない。
「まぁ、少なくとも同じ艦隊の艦娘も参謀も、アタシたちの敵じゃないからさ。早く一つにならないとね」
「だから……って」
急に何かが私の中で、こみ上げてきた。
「分かってます! 分かっているんですけど……」
ついに私は立ち上がってしまった。壁のタイマーが一瞬停止する。
「ほら、時間は貴重だから。ちゃんと浸かって」
北上さんに、そう言われた私は改めて湯船に浸かった。
彼女は私を見ながら表情を変えずに続ける。
「一応、参考までに言っとくけどさ。あの参謀は、あんたのこと実は、すごく心配しているんだよ」
「えぇ! まさかぁ」
私は信じられなかった。
「……」
彼女は私より遥かに能力が高くて、いつも冷静だ。そして作戦参謀や自分が率いる第一防衛隊の艦娘たちとも上手くやっている。
「羨ましい」
思わず呟いた。すると北上さんが私のほうを見たので視線が合って……思わず顔が火照った。赤面しているのだろう。
「今は信じなくても良いけど……いつか、分かる時が来るよ」
そう言った彼女は何事も無かったように再び正面を向いて湯船に深く浸かった。
私は、ちょっと混乱していた。本当に分かる時が来るのかしら?
「いつの日か……」
でも今は、その言葉を信じるしかない。あのタイマーのように私の心の隙間も少しずつ埋まる日が来ることを願って。
「そうそう、私は大井っちを信じているからサ」
「はい」
最後の言葉が心に響いた。
「ありがとう、北上さん」
私も素直にそう言えた。
「うん、その意気だよ大井ッチ」
彼女は微笑んだ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
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