私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。超絶美少女で戦闘も強く、頭脳明晰な上に性格も良いウルトラスーパーハイテクガールラビットなの。そんな私の悩みのタネは師匠、八意永琳。とっても頭が良い私よりも頭がよく、超強い私よりも強い天才であり、なんかすごいセンスをしている。
私はそんな師匠を尊敬しているんだ。
だって師匠ってばすぐに難事件を解決してしまうしなんか色々すごい。権力もあるし強いしすごい。私も師匠みたいに色んな人の上に立ちたい。崇められたい。
だから私は師匠を倒します。実質永遠亭のトップに君臨する師匠を倒してその座を私のものにするの。そう言ったら酷い目に遭うことは経験済み。本当は穏便に解決したかったけど、師匠がそういう“
話し合いで師匠に勝てる見込みは限りなく低いので私は奇襲をかけることにした。でもそれだとフェアじゃない。私はちゃんとしたルールの元で師匠に勝って、正式に永遠亭のトップに立ちたいのだ。だから師匠には『これから奇襲をかけることがある』っていう旨は伝えてある。何て健気なんだろう。私の株がまた上がってしまう。
私は「フフ」と不敵な笑みを浮かべると廊下をそっと歩き出した。長年の訓練のせいで足音を消すのは癖になっている。気配を失くすのも無意識だ。
師匠の研究室はすぐそこまで迫っていた。その部屋に好んで近付く者は私くらいだ。まあ、こんなところに来ようと思うだけでも“異端”だろう。なんてったって、師匠の研究室は常に怪しげな
研究室に近付くにつれて、私は底知れぬ不安に襲われていることに気付いた。心拍数は急上昇し、額からは汗が滲んでくる。逃げ出してしまいたい気分だ。
しかしそうしなかったのは、自身の鋼の意思が足の裏を廊下にくっつけてくれたからにある。鋼の意思は堅いので、一歩足を進めるのにも少しだけ苦労した。別の言い方をすれば金縛りに遭っているようだった。
私は研究室のドアノブに手をかけるとゆっくりとドアを開けた。僅かに開けた隙間から中の様子を伺う。
中には師匠がいた。ピンと真っ直ぐな背筋に緩く編んだ三つ編みが垂れている。窓から射し込んだ光を反射しながら、時折動かされる手の動きに連動してキラキラと輝いていた。
私はチャンスだと思った。幸い、師匠がこちらに気付いている様子はない。寧ろ集中しているようにも見受けられる。
私は静かに部屋へ忍び込んだ。ダダッ! と師匠に駆け寄ると、師匠が「あら」とこちらを振り返る。その動作は緩慢だ。
(遅いッッ!!)
私はほくそ笑んだ。これで永遠亭は私のもの――――!!
私は上部へぴょ~んとジャンプすると、合わせた両手を後頭部へと振りかぶった。そうして気付く。
「まだまだね」
スッと細められた瞳。師匠は立ち上がると拳を握った。
落下する体。
剣を持っていないことに気付いた頭。
迫る暴力。
逃げ場のない焦燥。
「――っぅぐ!!!?!」
鳩尾に強烈なパンチが突き刺さると私の体は後方へ吹き飛んだ。ガンッ! と少し後ろの床に叩きつけられながら、鈍い痛みと受け止めきれない痛覚に悶える。
どうして素直に能力を使わなかったのだろう、と後悔して、視線だけで師匠を見上げて、その異様な雰囲気にヒュウと咽頭が鳴った。
恐怖で痛みが吹き飛んだのは幸いだった。
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