このお話の題名?? それは─── (ゼッケンマン)
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いちわめ!

気付いたら書いてた…
勢いと思い付きで書いてくんで、暇つぶしに読んでみてください、よろしくお願いします!


「人生って一体なにが起きるか分かんないよね~」

 

僕は最後に、そう女神さまに言って手を振った。

視界が薄れてく中、女神さまも笑顔で手を振り返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから。

あっっっっという間に、15年の月日が経った!

この15年間はめちゃくちゃ濃かったなぁ、何て柄にもなく思っちゃうよね~。

あ、そうそう。

せっかくだから僕の事を簡単に自己紹介しないとね?

──コホンッ、僕は織斑桜(おりむらさくら)、4月1日生まれの15歳!

兄は一つ上の一夏(いちか)兄、そして9歳離れている姉、千冬(ちふゆ)姉の3人家族。

……両親は僕が生まれて何年後かに蒸発しちゃったんだって。

だから僕がここまで成長できたのは千冬姉と一夏兄、そして近所の人たちのおかげ!

本当に心から感謝してるんだ……!!

……えーと。

思わず熱くなっちゃったけど、この世界はIS(インフィニット・ストラトス)っていう僕の前世にあった作品らしいんだ。

らしいって言うのは、僕自身がその作品を知らなかったからね!

そもそも何で僕が転生なんてさせて貰えたのか?

それは女神さまによると‟運”! なんだって。

前世で僕が死んで、魂も消滅する寸前に一般人だった僕に能力が開花した。

それが幸運を司る能力。

そのお蔭で僕は女神さまに出会い、それこそ運(勿論、女神さまの温情もある)よく転生させてもらった。

転生先はお任せでこの世界に産まれたけど、それだけじゃなかった。

何と特典もいくつか貰ったんだ!!

元からある僕の幸運を司る能力は横に置いといて。

まず1つ目が、前世の記憶を引き継ぐ能力。

それで、2つ目が転生先の主人公の家系に産まれる。

この二つは女神さまからのプレゼントって言われた!

そしてこのくじ引きから3つ引きなさいって言われたんだ。

その時、僕の幸運を司る能力が発動しているなんて思わなかった……。

だって……万物を操る能力、読心する能力、無敵能力なんてのを引き当てちゃったんだから。

女神さまも綺麗な笑顔を引き攣らせてたなぁ……。

けど確かにこの能力が僕の体に入り込んだ瞬間、それぞれの能力の効果、性能、存在がバカげているのが分かった。

まぁ少なくとも任意で発動出来るっていうのは凄く助かったけど!

……最後に欲を言えば、幸運を司る能力君も任意発動できたらなぁって時々考えるんだ。

だって、いつ発動するか分からないって中々の恐怖だよ??

 

「……それにしても」

 

現在我が家は僕以外居ない。

……正確に言えば一夏兄は女子高に入学して寮生活、千冬姉はその学校の教師──あれ? もっとややこしくなった?? それならもっともーっと詳しく簡潔に!

──僕が小さな頃に千冬姉の親友にして一夏兄と僕の幼馴染のお姉ちゃん、篠ノ之束(しのののたばね)姉の開発したIS──通称、インフィニット・ストラトス。

束姉が夢見る宇宙生活活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツ。

開発当初は注目されてなかったけど、束姉が引き起こした‟白騎士事件”によって今までの兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡って、……宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まっちゃって、各国の抑止力の要がISに移っていったんだ。

それも含めて、束姉は姿をくらまして世界中を逃げてるんだって!

 

「ね、束姉(たばねえ)?」

 

「むふぅ~~!! 相変わらずさーくんはちっさくて可愛いね~!!」

 

と、世界中に追われている筈の束姉が僕の背中に抱き着く。

 

「あぁ~~久しぶりのさーくんの匂い! くんかくんか♪」

 

「……えーっと? 久しぶりも何も3日に一度は必ず家に来てるよね?」

 

「束さんにとってさーくんに会えない3日間は1年より長いんだぜい!!」

 

なんて束姉は言いながらも僕から離れてくれた。

改めて束姉に振り返る。

……うん、やっぱり普段通りの頭にウサミミを装着していてそれはそれは独特なファッションだね。

 

「──とりあえずお茶用意するね?」

 

僕は椅子から立ち上がり台所に向かう。

 

「はーい! お構いなく~!」

 

と言いながらも、既にテーブルの椅子に座りスタンバっている束姉。

この人といると楽しいなぁ、何て思いながらお茶を淹れる。

 

「──そーいえばさー、いっくん(一夏)はISを起動させちゃったけど、さーくんは何回してもダメだったね~」

 

束姉は難しい顔でそう言う。

……ISは、束姉にも予想外なことに女性しか乗れないものだった。

そんな訳で世界のパワーバランスが一気に崩れちゃって……女尊男卑が当り前の世の中になっちゃった。

だから一夏兄はISの事を学ぶ唯一の学園、IS学園に強制入学させられちゃったんだよね~。

まぁ千冬姉も教師としているんだし、あんまり心配してないけどね!

 

「それは大して気にしてないよ? それよりも一夏兄がISを起動させた翌日から今日まで、僕は身内だからってずっと家の中で軟禁状態。……流石に飽きたな~、学校にも行ったらダメだって言うしさ」

 

「……さーくんはISを起動できなかった。つまりは一般的な可愛い男の子だよ?? 頭がおかしい愚図共がさーくんを攫って人質にして、いっくんとちーちゃんを脅している間にッッ!!!」

 

「束姉、妄想に本気でキレないでよ…」

 

「や~、ごめんね~。つい束さんさーくんの事になるとすーぐ頭に血が上っちゃうんだよね~」

 

へらぁと恥ずかしそうに笑う束姉。

僕の事を本気で心配してくれてるのは本当に嬉しんだけど、時々暴走しちゃうんだよね。

……あっ!

 

「よーし、決めた! 今からIS学園に行こう!!」

 

「な、なんだって~?!」

 

こうして僕はひっさしぶりの外出に挑むのだった。

束姉がオーバーリアクションしてるのにはちゃんと反応してから、ね?

 

 

 

 

 

 



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にわめ!

「──わぁ! ここがIS学園か~!!」

 

僕は束姉にお願いして念願の外出、そしてIS学園に連れてきてもらった。

さっき千冬姉からメールがきてて、ホントは一週間くらい自宅から通う予定だった一夏兄だけど大人の事情で今日から寮生活らしい。

それならなおさらIS学園に行くしかない!!(使命感)

 

「(あまりの可愛さについ連れてきちゃったけど……ちーちゃんにバレたら束さん死んじゃうのかな?)」

 

束姉が遠くを見つめて微笑んでるけど……どうしたんだろ?

 

「束姉? 何か向こうにあるの??」

 

「えへへ、何でもないよ? それよりもこれからどうするの??」

 

束姉は僕の頭を優しく撫でてくれながらこれからの行動を聞いてきた。

そんなこと決まってるよね?

 

「そりゃあ当然、一夏兄と千冬姉に会いに行く!!」

 

「」

 

僕の宣言に絶句している束姉。

僕は束姉の手を掴んで、まず僕は一夏兄が在籍している教室を探すことから始めた。

 

 

 

 

 

隠れる必要など全くなく、どうどうと一年生の教室がある場所までたどり着いた!

それも、

 

「たったた~、透明化シ~ル~!」

 

束姉が得意気にそう言いながら、シンプルなシールを掲げた。

このシールは名前の通りでシールを張ると、張った物質が目視できなくなるんだって!

しかも一枚張ればOK! つまり僕は着ている服すら透明になってるんだ!!

そんな束姉ならではの発明品のおかげで、苦も無く一夏兄がいる1年A組に着いたんだ。

こっそーり、こっそーり、束姉と一緒に扉の硝子(がらす)越しから覗き見る。

するとそこには一夏兄を始め真面目に授業を受ける生徒たちと、千冬姉が何やら教えている様子が窺えた。

──ふむふむ、何やらクラス代表をこれから推薦で決めるらしい。

あぁ、ものの見事に皆が一夏兄を面白半分、興味半分で推薦してるよ…。

一夏兄はどんどん青ざめてるし。

にしし! そんな一夏兄にアウェーなこの雰囲気を壊してあげちゃおう!!

 

「あ、さーくん……?!」

 

束姉が僕を小声で呼び止めるけどそんなのお構いなしに、ドアの前に立ち自動で開いた。

おぉ、この扉は自動ドアなんだ?!

なんて一瞬思っちゃったけど、そのまま教室に入る。

誰も居ないのに勝手に開いたドアに皆が注目してる。

 

「……誰だ」

 

千冬姉も警戒した口調でドアの先を呼びかける。

それも一旦スルーして、ちょっと行儀が悪いかもしれないけど思い切って教壇に上って腕を組むように立つ。

──準備は整った!

いつもは率先してこういう悪戯をする筈の束姉は何故か一夏兄とは違った青ざめ方をしてる……?

僕は勢いのままおでこに張っていたシールを剥がして、

 

「一夏兄! 初日早々から大変そうだね!!」

 

と、僕は笑顔で呼びかけた。

クラスの人達は当然、一夏兄は口を大きく開けて固まっていた。

 

「──桜ッ?!」

 

すると横から千冬姉が珍しく驚いた声で僕を見ている。

 

「千冬姉久しぶり! 退屈だったから遊びに来ちゃった!」

 

お~、千冬姉も固まってる。

にしし! どうやら悪戯成功みたいだね!!

 

「お、おい! 桜?!」

 

「そーだよ? 桜だよ??」

 

「あ、いやそりゃあ見たら分かる! それよりも一体どうやってここに……?」

 

「え? それは束姉のおか──」

 

僕がドアを指さしてそう言いかけた時、千冬姉が恐ろしいスピードでドアに向かい、

 

「にゃああああああああ?! 痛い痛いギブギブちーちゃん?! これは今までとはシャレにならいたたたたた!!」

 

「……なあ束よ。久しぶりに親友同士、朝から語り合わないか??」

 

氷よりも冷たい声で束姉に語り掛ける千冬姉は、そのまま束姉と一緒にどこか行っちゃった。

束姉の断末魔にも似た悲鳴が徐々に遠ざかっていくのが何よりの証拠だね!

それにしても束姉には悪いことしちゃったなぁ。

後でちゃんと謝らなくちゃ……!

 

 

 

 

 

それからすぐに戻ってきた千冬姉に僕も手を引かれて束姉が居る部屋に連れてこられちゃった。

……束姉は目を回しながらピクピク痙攣しながら倒れていた。

 

「はぁ、まずはそこに座ってくれ」

 

千冬姉はこめかみを押さえながら僕に指示する。

言われるがままに座った僕の正面に、テーブルを挟む形で千冬姉も座った。

 

「あらかたそのアホ兎に聞いたが、改めて桜、お前からも話を聞くとしよう」

 

「うーん、話すことってあんまりないよ? ただ一夏兄がISを起動したのが確か二月の中旬だったよね? そして今は四月。……だいたい二カ月間ずーっと家に居るのは流石に飽きちゃうよ。 むやみに近所に出歩くとそれこそ面倒事になるんだろうしって考えた結果、ある種の独立国家になりつつあるIS学園に行くのが無難かなぁって思ってさ」

 

「……一概にはお前を責めることは私にはできん。家族として、何より姉としてはお前には本当に窮屈な生活を()いていると思っている。しかし、せめて……せめて、ここに来るのなら事前に連絡してその日に来てほしかったぞ!!」

 

「事前に言ってればここに来ること自体は良いんだ……」

 

「本当なら当然駄目なことだが、桜を拒絶する者が居るのなら私は鬼となろうッ!!」

 

「………あはは、僕が言うのもなんだけど、公私混同はほどほどにね?」

 

良くも悪くも相変わらず千冬姉は平常運転だった。

一旦会話が途切れ、ちょうど良いタイミングで、

 

「──う、う~ん……ハッ?! あ、頭!! 頭はあるよね?!」

 

束姉は起き上がるやいなや、僕に詰め寄り涙声で確認してくる。

 

「う、うん、ちゃんとあるよ?」

 

「流石に今回は死んじゃうかと思った~。……そ、それなら束さんは一度お(いと)しようかな~」

 

グッと伸びをして大きな山脈を揺らしながらそう呟く。

束姉にはやるべきことが沢山あるんだろうし、今ここで(とど)めても迷惑になるよね…。

 

「束姉? 今度はいつ会えるの??」

 

「すくなくとも一週間以内にはまた会いに行くぜい!! なら、またねさーくん! ちーちゃん!」

 

すると華麗に窓を開けダイビングした束姉は、多分屋上に行ったんだろう。

 

「まったく、いつもいつも嵐のようにかき乱しおって」

 

「ねーねー千冬姉? この学校探検していい??」

 

「無論ダメだ。……と、言いたいところだがそのうるうる瞳を潤ませるのはやめてくれ……! 分かった、分かったから。……はぁ、少しの間だけ待っていてくれ」

 

そう言うと、千冬姉は席を立ち部屋から出て行っちゃった…。

千冬姉には迷惑掛けてるのは分かってるけど、(たま)には盛大に甘えても……いいよね?

 

 

 

 

 

 



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さんわめ!

千冬姉が部屋から出て行ってから暫くして、

 

「──は~い、織斑桜(おりむらさくら)くん♪」

 

と、千冬姉じゃない人がウインクしながら部屋に入ってきた。

水色の短髪に、千冬姉や束姉とはまた違った容姿の整った人が僕の名前を呼ぶ。

 

「えっと……あなたは?」

 

「ふふっ、私はこの学園の生徒会長、更識楯無(さらしきたてなし)よ♪ 楯無でいいわ、よろしくね?」

 

綺麗な扇子をバッと開いて、それには一期一会て書かれてる。

 

「楯無さんか。……もう僕の名前は知ってるようですけど、織斑桜! 桜って呼んでください!──それで? 千冬姉は?」

 

「あぁ、織斑先生なら私に君のことを任されて教室に行っちゃった。あ、それとこれ」

 

そう言いながら、首に掛けるタイプのゲストカードを渡された。

 

「それを首に掛けてれば桜くんはこの学園にいても良い証になるから、失くさないようにね?」

 

「はい!」

 

早速カードを首に掛けて、僕は最初に行ってみたいところを楯無さんに伝えてみる。

 

「今日は朝からなーんにも食べてないから、学食に行ってみたいです!」

 

「りょーかいよ♪ なら行きましょうか」

 

どんな料理があるんだろうとワクワクしながら僕は楯無さんの後をついて行った。

 

 

 

 

 

「さあ、ここよ」

 

道中は楯無さんと他愛もない話しをしながら食堂に着いた。

やっぱり見た目通りこの学園は広いんだな~って歩いてて思ったね!

 

「この食券機で食券を買って、あそこで受付をしてる人に渡すの。そうしたらすぐに料理が渡されるわ」

 

「よ~し」

 

沢山ある料理に少しだけ迷ったけど今日はオムライスにしてみた!

一夏兄のオムライスは絶賛だけど、ここのオムライスはどうかな??

楯無さんはまだお腹は空いてないから食べないって。

 

「おぉ~! 美味しそう!」

 

オムライスが乗ったお盆を持って近くの席に座って早速、

 

「いただきま~す! ──あむっ」

 

っ?! 美味しい~!!!

 

「ふふ。桜くんが本当に幸せそうに食べるからお姉さんも小腹が空いてきちゃった」

 

「ぅん、ごくんっ。……食べかけで良ければだけど、食べますか?」

 

物欲しそうな瞳でオムライスを見つめていた楯無さんに僕は提案してみた。

 

「え? ……ふふ、私はいいから桜くんが食べなさい」

 

と、楯無さんは断った。

確かに初対面の人の食べかけなんて食べたくないよね。

……けど、キュ~って楯無さんのお腹から可愛い音が鳴った。

あ、ちょっと顔が赤くなってる。

僕は横に置いてあった綺麗なスプーンを手に取って、まだ食べていない場所を掬う。

 

「──はい! あ~ん」

 

「え?! 流石にそれはお姉さんも恥ずかしいかな~」

 

「にしし、早く食べちゃわないと僕が食べちゃうよ?」

 

「むぅ~……。あ、あ~ん」

 

楯無さんはさっきよりも顔を赤くして、意を決したように──パクっと食べた。

 

「どーお? 美味しい??」

 

「ごくん。……うん、そうね、美味しいわ(さ、桜くんは無自覚なのかしら?? 恥ずかしさと緊張で全然味が分からなかった……)」

 

……?

なんで楯無さんはもじもじしてるんだろ?

もしかして楯無さんまだまだお腹空いてるのかな?

この流れで、それからは楯無さんも僕にあ~んってしてくれて、オムライスが無くなるまで交互に食べさせあった!

ふぅ~、美味しかったな! オムライス!!

 

 

 

 

 

オムライスを食べ終わった後は、僕が行っていい場所は一通り連れてってくれた!

……食堂を出てから楯無さんの言動や雰囲気が他人行儀じゃなくなったけど……やっぱり美味しい料理って凄いね!!

そして楽しい時間はあっという間に過ぎちゃって、もう放課後になっちゃった!

あ、そう言えばずっと疑問に思ってたことがあったんだ。

いくら生徒会長でも、授業もあるのに何で僕なんかを案内できたのかな~って。

楯無さんが言うには千冬姉からの頼みでもあるけど、来客を案内するのは生徒会長の仕事なんだって。

そして何よりも、今習っている授業内容は既に予習済みらしい!

しかもしかも、この学園の生徒会長は誰よりも強いことが条件なんだって!!

僕のせいで授業が受けられていないことに申し訳なさがあったけど、ホッとしてるのは内緒だよ?

 

「ふふふ~ん♪」

 

楯無さんとはさっきさよならした。

放課後からは生徒会の仕事があるんだって!

別れ間際にメールアドレスと電話番号を交換した。

やった!! また一人、大切な友達ができた!

──そして僕は一番最初の部屋に移動中。

……うん? 

 

「おーい! 桜!!」

 

と、向こうから一夏兄が走ってきた!

それに……あっ?!

 

「ほ、箒ちゃん??」

 

「さーくーらー!!!」

 

「へ? ──むぎゅッ?!?!」

 

「会いたかったぞ桜!! そうだ! この抱き心地こそ桜だ!!」

 

「ちょ、箒?! 桜がもがいてるぞ?!」

 

久し振りに会った束姉の妹、そして僕と一夏兄の幼馴染の篠ノ之箒(しのののほうき)ちゃんは、相変わらず元気そうだった!

 

「久しぶりだね! 箒ちゃん!!」

 

「うむ、久しいな!」

 

今度は優しく僕の頭を撫でてくれる。

うん、箒ちゃんに撫でられると何でか心がほっこりするんだよね~。

 

「しかし桜、私も一夏と同じクラスだったというのに、気づいていなかったな?」

 

「え?! ご、ごめんね! 一夏兄と千冬姉に悪戯仕掛けるのに集中してたから……」

 

「ま、とりあえず積もる話は部屋に行ってからにしようぜ」

 

そう一夏兄が提案する。

僕も箒ちゃんもそれには賛成で、懐かしさを胸に部屋に向かった!

 

 

 

 

 

篠ノ之箒ちゃん。

一夏兄と同い年で僕の一つ上の幼馴染。

小さなころはよく一緒に遊んだんだよね~、懐かしいな!

でも、束姉が起こした“白騎士事件”を切っ掛けに、箒ちゃんは引っ越して行ったんだ……色々な思惑と理由でね。

けどこうしてまた巡り会うなんて嬉しいよ!!

 

「──って、ことになったんだ」

 

と、一夏兄はそれはそれは重い溜息を吐いた。

たった今一夏兄が話してくれたのは、一夏兄がクラス代表に推薦された後のできごとのことだった。

専用機持ちのイギリス代表候補生、セシリア・オルコットさんって人が女尊男卑の思想のタイプだったらしく、一夏兄の推薦を反対、売り言葉に買い言葉、なんと一週間後にオルコットさんと一対一のIS勝負をすることになったんだって!

ISは兵器として軍に使われてるけど、表向きはスポーツの道具として使われてるんだ。

そのスポーツにも世界大会、モンドグロッソがある。

様々な国の代表──国家代表がそれぞれの種目で自分が一番自信がある競技に参加し競い合う(因みに千冬姉は第一回目と第二回目を優勝してるんだよ!!)。

その次期国家代表になる可能性を秘めた人たちが代表候補生!

しかも専用機持ち!!

ISは束姉しか作れないISの心臓部があるらしんだけど、それがこの世に467個しかない。

束姉は政府に作らされてたけど、そこまで作って逃亡開始!

つまり、限られたISを持ってるっていうのはそれだけ知識、努力、そして実力があるってこと!

 

「あぁ……どーするかな……」

 

そう一夏兄はただただ項垂れる。

 

「にっしし~」

 

「……? どうした?」

 

僕が突然笑ったのに疑問をもった箒ちゃん! 

お、一夏兄もいい感じに興味をもってくれてる!!

そして二人の目を交互に見ながら、

 

「織斑桜による! チキチキ一夏兄を一週間で鍛えよう作戦~!!」

 

「……は?」

 

僕の宣言に箒ちゃんはポカーンと呆けてる。

そして肝心の一夏兄は?

 

「」

 

あ、絶句してる?!

……けど、考えてみればそうだよね!

だってこの世界で唯一僕の力を知ってるのが一夏兄だもん!

こうして、今日から早速僕と一夏兄の秘密特訓が始まった!

あ、箒ちゃんには頭を下げて特訓中は二人でするってちゃんと話して了承してくれたよ?

仲間外れはいやだけど、今回は少しだけ力を使うし、ね?

──あ、一夏兄! こっそり逃げ出しても無駄だから!

 

 

 

 

 

 



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よんわめ!

感想、そして誤字報告誠にありがとうございます!


次の日、昨日は千冬姉の部屋で寝た!

部屋は……うん、汚かったなぁ~。

だけど久しぶりに千冬姉と沢山話せて楽しかった!

──あ、そうそう。

それと人に迷惑をかけないっていうのを条件に暫くIS学園に居てもいいんだって!

そして今日から過ごす千冬姉の部屋を片付け終えた今、放課後になるまで一人、一夏兄の特訓について考えてたんだ。

──やっぱりコレが妥当なのかな?

 

 

 

 

 

「よし、覚悟はできたね?」

 

「あぁ、俺も男だ! どんと来い!!」

 

どうやら一夏兄と箒ちゃんは同じ部屋になったらしい。

それで箒ちゃんが部活(剣道部)に行ってる間、この部屋で特訓するってことになった!

 

「……けどさ、特訓ってどんな内容か聞いてないぜ?」

 

「それは今から伝えるから安心して! ──コホン。今の一夏兄の状況をまず最初に整理するよ?」

 

「分かった」

 

「一夏兄は今日を含めて六日後に専用機持ちのイギリス代表候補生とISバトルがある。一夏兄にも専用機が与えられるっていっても、届くのは当日だし……もうこの時点で一夏兄の勝ちは絶望的だって分かるよね?」

 

「……あぁ」

 

「片やISのエリート、片やISのド素人。うん、笑っちゃうくらい絶望的だよね? ──そして次に一夏兄の体力だよ」

 

「ISに体力なんて関係あるのか?」

 

「にしし、そりゃあそうだよ! 確かにメインはISの力だよ? けどさ、結局ISを動かすのは人間! ほら、中学の体力テストでシャトルランってあったの覚えてる??」

 

「そりゃあアレだろ? ドレミファの音楽に合わせて走って往復するテスト」

 

「うん、徐々に音楽が早くなって、自分の走るペースも早くしなくちゃいけない。……昨日千冬姉に聞いたら例えの一つにISバトルは意外とシャトルランに似てるって言ってたんだ」

 

「??」

 

「つまり戦闘ペースは少しずつ速くなっていって(ISの武装や操縦者の行動にもよるけど)、やっぱり高速移動を維持できるだけの体力、あとは集中力と忍耐力、何より根性が必要なんだよ!」

 

「ど、どんどん多くなってるぞ?!」

 

「それだけISバトルには必要なことだし、一夏兄に足りてないもの。──だから、この六日間でなるだけ三つの力、そして一夏兄の一番の武器、根性を同時に鍛えようと思うんだ!」

 

「そ、そんなことができるのか?」

 

と、一通りの説明を終えた僕の心は中々に満足感があった。

だけど本番はこれから! 期待半分、心配半分で僕を見る一夏兄。

 

「うん、できるよ! ……一夏兄しか知らない僕の秘密。僕の力を使うんだよ?」

 

「……ゴクリっ」

 

「──万物(ばんぶつ)を操る能力。この能力で一夏兄に重力をかける!」

 

「……へ?」

 

「言葉の意味そのままだよ! 今日と明日は通常の重力の1.5倍、明後日(みょうごにち)明々後日(しあさって)は2倍、そして、本番前日と本番当日の直前までは2.5倍。二日に一回、プラス0.5倍ずつ増やしていく。……正直、めっちゃくちゃキツイと思うよ」

 

「──それしか方法がないんだろ?」

 

一夏兄の表情がここでキリっと変わる。

覚悟は決まったんだね。

 

「他にも方法はいくらでもあるかも知れない。けど、僕が考えて妥当だと思ったのが重力作戦なんだ!」

 

「おう、それでいいぜ。……早速頼めるか?」

 

シャキッと立ち上がった一夏兄は、軽く体を(ほぐ)しながら僕に言った。

一夏兄には、周りには気づかれないように日常を過ごす集中力と、それをこなしながら生活する忍耐力、ちょっとした動きでちょこっとずつ増える体力、この重力作戦を最後までやり抜く根性。

これらを改めて説明して、一夏兄の特訓が始まった!

 

 

 

 

 

それからあっっっという間に一夏兄とセッシーの勝負の日がやってきた!

……え? 一夏兄の壮絶な六日間?? 何で僕がセシリアさんのことをセッシーって呼んでるのって?

そ・れ・は、また今度話すよ!!

それよりも勝負が終わった一夏兄が戻ってきた!

ギリギリの勝負だったけど何とか勝ててよかったね、一夏兄!!

最後の勝負が終わって二人が握手してたのはお互いが認め合った瞬間なのかな?

千冬姉や箒ちゃんも嬉しそうなオーラを隠しながらも労いの言葉をかけてる。

さーってと、僕も一夏兄に直接おめでとう! って言いたいんだけど……。

遠くから沢山の足音が聞こえてくる。

多分試合を観戦してた人たちが一夏兄に会おうとしてるんだろうなぁ~。

大量の足音がこっちに近づいてきてるのが何よりの証拠だね。

というわけで、一夏兄たちを見捨てて僕は地獄絵図になるんだろうこの場所からスタコラ退室した。

──さてさて~、放課後だからあんまりウロチョロできないんだよね~。

……ん? あれって、

 

「おーい! 鈴ちゃーん!!」

 

遠くに見える見覚えのある背中に確信を持ちながら呼びかける。

すると、ビクッと驚いたように僕の方に振り返った!

 

「……へ? な、何でここに桜がいるのよ?!」

 

目をパチクリさせた鈴ちゃんは、幽霊を見ているかのようなリアクションで声が裏返っていた。

 

「にしし、一夏兄が入学した日からずっとここに泊まってるんだ!」

 

「ア、アンタは相変わらずの行動力ね…」

 

そう苦笑いした鈴ちゃんは、「……ん」、と右手を僕の方に差し出した。

……あぁ、懐かしいな~。

僕はその手を左手で掴んでそのまま歩き出した。

昔もこうやって手を繋ぎながら散歩したな~。

──鈴ちゃんは、凰鈴音(ファンリンイン)って名前で、中学の途中で一夏兄のクラスに引っ越してきた一つ年上の女の子!

鈴ちゃんの両親は中国人で、鈴ちゃんも中国人なんだ!

鈴ちゃんの作る酢豚は最高なんだよね~。

そんな鈴ちゃんも両親のお仕事で中学2年、僕が中学1年の時に帰国しちゃったんだ……。

……その時にした鈴ちゃんとの約束は今でも覚えてるよ!!

 

「鈴ちゃんはどうしてここに?」

 

「それはあたしのセリフよ! ……ま、いいわ。私はこの一年間で中国の代表候補生になったのよ! しかも専用機持ちでね!」

 

鈴ちゃんはドヤ顔で昔と変わらないお胸を張りながら言う。

 

「たったの一年で……?! 凄いって言葉以外見当たらないよ……」

 

当然努力をしてきたのが大前提なんだろうけど、どうやら鈴ちゃんはISに関しての天賦の才があったらしい。

 

「もっと褒めて良いのよ? けどこういう自慢はあんまり好きじゃないから、この話しはおしまい! そうそう、何であたしがここにいるかっていうと、私がこの学園に転校してきたから」

 

「なるほどね~。……少なくとも鈴ちゃんだけの意思での転校じゃないことだけは分かるよ」

 

「ほーんと、代表候補生もかったるいのよね~。あ、そうだ。せっかくだからこの学園の受付窓口がある場所まで案内してよ、ここ広すぎて迷ってたのよね……」

 

「りょーかい!」

 

僕は鈴ちゃんの手を引きながら、懐かしい話しから最近あった話しをのんびりと語り合った!!

なんて言うかここに来てから色んな出会いや再会、ワクワクすることが目白押しでもっともっっとここに居たいなって改めて思ったよ!

 

 

 

 

 

 



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かんわ! そのいち!!

「うぉ?!」

 

一夏兄は驚いたように声を上げて、辛そうに腰が下がってる。

いま僕は一夏兄に1.5倍の重力をかけた。

やっぱり1.5倍って小さいようでとっても大きいよね?

現に一夏兄は体を動かすのに苦戦してる。

 

「その状態を明日の夜まで、だね! ……その次は2倍になるけど大丈夫そう?」

 

「お、おう……っ! 平気だぜ!」

 

「そっかそっか。それなら今から最後に、この重力作戦はあくまで短期間でISに乗るための最低限に必須な能力を荒治療で補うのが目的だからね? 一夏兄ならやり遂げれるって信じてるよ!!」

 

「あぁ! 弟にここまでしてもらったら最後までやりきる!!」

 

──こうして、一夏兄の六日間の特訓が始まった!!

 

 

 

 

 

──一夏兄の重力作戦から三日が経った夜!

僕は千冬姉の部屋で食堂から持ってきてもらった唐揚げ定食を完食したあと、お皿やトレーを綺麗に洗って、束姉から貰った透明化シールをおでこに貼ってから、他の人たちの迷惑にならないようにこっそり食後の散歩をする!

……今頃一夏兄は2倍の重力に頑張って慣れようとしてるんだろうな。

暫く当てもなくぶらぶら歩いて訓練室に近づくと、訓練室の方から重く響く銃声が聞こえた。

この時間帯はちょうどお腹を空かせた生徒たちで混雑する(ここ三日で確認した!)から、こんな時間まで訓練をするなんて中々な努力家さんが居るみたい。

失礼を承知で僕は誰が練習してるのかな~って覗いてみる。

するとそこには、一夏兄とIS勝負をするイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんが訓練していた!

僕は銃には無知と言っていいくらい知識がないけど、それでもこの練習場に置いてある銃を一通り使ってるみたいで、その一発一発が正確に的の中心を射抜く、顔も真剣そのものだった。

……そうだよね。

代表候補生になるには皆が楽しく過ごしている間も、こうやって密かに、地道に練習してるんだ。

この訓練室にはセシリア・オルコットさん以外居ないみたいだし──

 

「こんにちは! オルコットさん!!」

 

訓練が終わったのを確認して、透明化シールを剥がして話し掛けてみた!

 

「ひゃっ?!」

 

背後から話し掛けたのは失敗だったかな?

素っ頓狂な声を上げたオルコットさんは、驚いたような怒ったような顔で、

 

「いきなり誰ですの?! ……って、あなたは織斑先生とあの無知で野蛮な男の弟さん?」

 

と、訝しげに僕を見るオルコットさん。

一夏兄がめちゃくちゃに言われるのは、まぁ、うん、それは僕はノータッチかな?

その評価も今度のISバトルで挽回してくれるのを僕は信じてる!

 

「そーだよ! 改めまして、僕の名前は織斑桜! 桜って呼んでください!」

 

「あら、ただの悪戯好きなあの男の弟かと思ってましたが、ちゃんと礼儀は弁えているんですわね」

 

「にしし、あの時は久しぶりの外だったからテンション上がってたんだよね~。……それでさ」

 

「なんですの?」

 

「うん。僕はオルコットさんのことは全くってほど知らないから何を話していいのか分かんないけど、でも、少なくとも悪い人じゃないなってさっきの練習を見てて思った!」

 

「……」

 

「だから、今度のIS勝負で一夏兄が勝ったらオルコットさんのことをセッシーって呼んでいい?」

 

「何を言うのかと思えば……万が一でも私が負けることはありえませんが、それでも、私が負けたらその呼び名で呼んでもよくってよ」

 

「よーし、約束だよ! それじゃあ僕はそろそろ行くね、練習の邪魔をしたくないし! またね!!」

 

僕はそのままオルコットさんの返事は待たずに訓練室から出た。

にしし、ごめんね一夏兄! セシリアさんを本気にさせちゃったかも!

でもやっぱり、一夏兄が勝つと思うんだ。

だって一夏兄は一夏兄だからね!

 

 

 

 

 

またまた透明化シールを張って、今度は目的ある散歩をする。

それは一夏兄に会いに。

あ、オルコットさんとの約束事を話すわけじゃあないよ?

今日は三日目、重力が2倍になっている一夏兄の様子を見る為に一夏兄の部屋に行く。

部屋まで着いた僕は、扉をコンコンと鳴らして部屋に入った。

 

「お邪魔しまーす!」

 

「お、おう……。いらっしゃい……」

 

一夏兄には無理矢理作った笑顔で出迎えられた。

正直相当無理してるみたいだね。

 

「箒ちゃんは?」

 

「箒ならクラスメイトと飯食いに行ったぜ」

 

「そかそか。箒ちゃんも友達沢山居るのには内心ホッとした~。 ──それでどーお? 2倍の重力は。1.5倍よりも体にくるでしょ~?」

 

「もう立ってるのもやっとってくらいキツイぜ。昨日までは何とか誤魔化しながら行動できたけど、今日は箒や千冬姉に心配されちまった」

 

「にしし、だって一夏兄が2倍の重力に掛かってるって知らないから当たり前だよ。それに本来ならこんなすぐに体が壊れる鍛え方は嫌なんだけどね~。時間もないのも理由の一つだけど、一夏兄はすっごいタフだからね!」

 

「そ、それは褒めてんのか?」

 

「褒めてる褒めてる! じゃないとこの重力作戦はしてないからね! うん、一夏兄も何とか元気そうだし、僕はそろそろ行くね!」

 

「おう。俺ももう寝るから、もし帰り際に箒と会ったらそう伝えててくれ」

 

「おっけー! そしたらまた明日ね、一夏兄!! おやすみ~!」

 

「おう、おやすみ!」

 

一夏兄に軽く手を振って僕は部屋を出た。

さーってと、僕もそろそろ──寝る前に部屋を片付けようかなぁ。

僕が掃除しても一日で散らかり放題になる部屋と今日も戦わなくちゃ!

 

 

 

 

 

一夏兄とオルコットさんがISバトルをする日がとうとう明日となった。

一夏兄曰く、今日まで全くと言っていいほどISの練習をしていないことに対して、仲良くなった人たちから箒ちゃんを筆頭に心配されてるらしい。

唯一皆の前で行動していることとすれば、ISに関しての勉強くらい?

──あと二時間くらいで就寝時間を迎える時間。

僕は今日もオルコットさんが練習してる訓練室に来た。

オルコットさんと約束した夜から、毎夜ここにオルコットさんと軽く談笑してるんだ!

少なくともファーストコンタクトよりは仲良くなった!

 

「いよいよ明日だね!」

 

「そうですわね。……貴方は勿論織斑一夏を応援するんでしょう?」

 

柔軟体操をしながらオルコットさんは言う。

ちなみにオルコットさんは僕のことは貴方としか呼んでくれない……。

やっぱりこれも含めて一夏兄には頑張ってもらわなくちゃ!

けど、

 

「にしし、普通はそうなるのかな? だけど僕は一夏兄、そしてオルコットさん。二人を同じだけ応援するよ!」

 

僕の回答にキョトンと初めて見る表情を浮かべながら、

 

「……なぜですの??」

 

「ん? そんなの簡単だよ! 一夏兄は僕の兄で、オルコットさんは僕の友達だから! 約束はまた別の話しだから。ね? 簡単でしょ?」

 

「──ふふ、貴方は本当に言葉では言い表せない、少なくとも生まれて今まで(わたくし)が出会ってきた人間とは違うような気がしますわ」

 

……今日はオルコットさんの初めてがたくさん見れる日だなぁ!

思わずちょっと見惚れちゃった、オルコットさんの笑顔!!

 

「それじゃあ、オルコットさん。僕はもう行くね!」

 

オルコットさんの返事を聞いて、僕は訓練室を出た。

明日は早いし、一夏兄にはメールで本番前のISスーツに着替えるときに呼んでって伝えてある!

それじゃあ、おやすみ~。

 

 

 

 

 

──それから、本番当日はあっという間の一日だった!

放課後まではいつも通りに過ごして、暫くしてから一夏兄から電話が掛かってきた。

ロッカールームに行くとちゃんと一夏兄はISスーツに着替えてる。

大観衆の前での初戦闘に緊張しているよりも、、2.5倍の重力を解いた一夏兄はめちゃくちゃ元気ハツラツ! やる気満々だった。

色々な原因が重なって、どうやらアドレナリンが爆発してるみたいだね。

その後はすぐに一夏兄たちのクラスの副担任、山田 真耶(やまだ まや)先生と箒ちゃんが一夏兄を呼びに来た。

僕も特等席での観戦に誘われたけど、このロッカールームにあるモニターからでも観戦できるからって断っちゃった!

そしてそして!!

二人のISバトルは圧巻の一言だった!!

オルコットさんは勿論、一夏兄も素人ではできない動きで戦ってたのを見て、千冬姉がISに乗ってた頃の動きと重なっちゃったなぁ~。

接戦の末、最後は一夏兄の一撃で勝負はついた!

アリーナで観戦してた人たちは皆立ち上がって拍手してたし、勝負が終わった後、少しだけ一夏兄とオルコットさん──セッシーは話してて握手してた!

うん! 最初から最後まで気持ちの良い勝負だったな~!

僕は最初に一夏兄のところに行ったけど、遠くから沢山の足音が聞こえたから逃げてきちゃった!

 

 

 

 

 

そして夜、さっきはビックリしたな~!

中学からの友達、鈴ちゃんと廊下で会ったからね。

話しを聞けば、この学園に転校してきたんだって!

懐かしい話しをしながら、学園の受付窓口にまで案内して今日はバイバイした。

一夏兄は明日改めて会いに行くとして、今日はセッシーに会いに行ってみた。

……確かこの部屋で合ってるよね?

僕の記憶を信じて、扉をノックノック!

 

「──はい、どちら様でしょう? ……って、“桜さん”?」

 

「こんばんわ! そして今日はお疲れ様、セッシー!!」

 

「ふふ、ありがとうございます。こんなところで立ち話しもアレですから、お部屋で話しましょう?」

 

「え、いいの? やった! お邪魔しまーす!」

 

セッシーに案内されて椅子に座り、その後は美味しい紅茶を淹れてもらったり、就寝時間までいっぱい喋った!

やっぱりこうやって新しい友達も出来るし、この学園に遊びに来て正解だったな~何て思いながらセッシーと別れて、千冬姉の部屋に戻って寝る間に幸せな気持ちに満たされながら、僕は眠りについた。

──意識が遠のくちょっと前に、千冬姉が優しく頭を撫でてくれてたような気がした。

 

 

 

 

 

 



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ごわめ!

【今更だけど、織斑桜の簡単キャラクター紹介】

 

織斑桜(おりむらさくら)

男。

15歳。

原作主人公である織斑一夏とその姉である千冬の弟。

誕生日は4月5日であり、中学3年生。

4月生まれだという事で、桜と名付けられた(本人は気にいっている)。

身長は千冬より若干低い。

容姿は一夏と千冬と違って、中性的なおっとりのんびりした性格。

 

実は転生者だが、IS世界の事は一切知らない。

転生前はただの人間だったが、死に、魂が消滅する寸前、奇跡的に幸運を司る能力を発動した。

幸運を司る能力のおかげで女神さまに出会い、転生させてもらい、無数ある特典の中から能力を3つ手に入れた。

 

0.幸運を司る能力

 

1.前世の記憶を引き継ぐ

 

2.主人公の家系に産まれる

 

3.万物(ばんぶつ)を操る能力

 

4.読心(どくしん)する能力

 

5.無敵能力(ワンパンマンのサイタマみたいな能力)

 

 

【0】は、前世で手に入れた能力。

何に対して幸運と呼び、いつ発動するかは主人公すら謎。

 

【1】と【2】は女神さまが最初からつけてくれた特典。

【3】・【4】・【5】は無数にある特典の中から選ばれた能力。

 

 

3.万物を操る能力は、そのままの意味である。

一例として、死にかけの存在でも瞬く間に癒す。

任意発動。

 

 

4.読心する能力は、相手の考えてる事が解る能力。

任意発動。

 

 

5.無敵能力は、実際この能力さえ持ってさえすれば寿命以外で死ぬことはまずない。

任意発動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──一夏兄とセッシーの試合の翌日、放課後!

僕は今一夏兄と箒ちゃんの部屋に、鈴ちゃんと二人で話していた。

箒ちゃんは剣道部、セッシーはテニス部、そして一夏兄は普段から二倍の重力で生活する、体を鍛えに校庭を走ってくるんだって。

 

「……ねえ、桜。あの時の約束……覚えてる?」

 

雑談の途中、鈴ちゃんは僕の目を真っすぐ見ながらそう言った。

僕は当然と大きく頷いて、

 

「うん、勿論! 今度鈴ちゃんと会ったときは一緒に遊園地に遊びに行こう! ……だったよね?」

 

僕の言葉に鈴ちゃんは嬉しそうに(うなず)いてくれた!

 

「良かった~、ちゃんと覚えててくれてたのね! もし忘れてたりしてたらいくら桜でもあたし怒ってたわよ?」

 

悪戯顔でニッカリ笑う鈴ちゃんは、鼻歌を交えながら立ち上がった。

どしたんだろ?

 

「ふふふ~ん♪ そうそう、桜。酢豚食べたくない?」

 

酢、酢豚?!

 

「食べたーい!」

 

鈴ちゃんが作る酢豚はさいっこうに美味しいんだよね!!

 

「もう一夏には許可貰ってるから、早速ここで作るわよ~」

 

「やったー! 鈴ちゃんの酢豚大好き!!」

 

「だ、大好きッ?! ……コホン、ほ、ほら、この濡れたタオルでテーブル拭いときなさい! あたしは料理に集中するから!」

 

「らじゃー!!」

 

急にテキパキと行動し始めた鈴ちゃん。

僕はただただ指示されるまま行動する。

早く食べたいな~♪

 

 

 

 

 

「できたわよー!」

 

「はーい!」

 

酢豚は勿論、白ごはんに中華スープと皿に盛っていく!

二人分の皿を盛ったら、テーブルに置いっと、

 

「ねえねえ! 食べていい??」

 

「いいわよー」

 

「いただきます!」

 

もぐもぐ、酢豚と白ごはんをバランス良く取って食べる。

──っ?! 

僕はそのままただただ食べることだけに集中した。

だってそれくらい美味しいんだ!!

僕の食べる姿を鈴ちゃんは自分のご飯をそっちのけで嬉しそうに観察する。

そして、

 

「ねぇ、桜の都合が合えばだけど……今度あるクラスリーグマッチが終わってからさ、次の休日に遊園地に行かない?」

 

「ごくんッ……うん! 僕はいつでも行けるよ? それとクラスリーグマッチって?」

 

「クラスリーグマッチっていうのは、一年の各クラスごとの代表同士がISでバトルするイベントよ。一組だったら一夏がクラス代表よね? 私は二組のクラス代表だった子にお願いされて私もクラス代表になったけど、そんなことより、遊園地に行くときは改めて伝えるわね!」

 

へぇ、そういう大会ね。

 

「わかった!」

 

それからの時間は、遊園地に行ったらどんなアトラクションに乗るかなんてことを話しながら楽しい晩御飯を過ごした!!

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした!」

 

「どうだった? 向こうでも料理はきちんとしてたから味は変わってないと思うけど……」

 

「にしし、昔も美味しかったけど、今日のはもっと美味しかった!! またご馳走してください!」

 

「あ~もう、アンタはホント何て言うかっ──」

 

「──むぐゅ?!」

 

当然鈴ちゃんが近づいてきたと思ったら、ギュッて抱きしめられちゃった?!

箒ちゃんとはまた違った温かさに、何だか……眠くなってきた……。

 

「ん? 眠たいの?? それなら一夏たちが帰ってきたら起こしてあげるから、それまで寝ちゃいなさい」

 

「……なら言葉に甘えちゃうね……」

 

僕はそのまま鈴ちゃんに膝枕される形で意識を自然に手放した──

 

 

 

 

 

──翌朝!

目が覚めて起きたら、なんといつも寝ている千冬姉の部屋だった?!

どゆこと??

確か最後は、鈴ちゃんに膝枕してもらいながら寝ちゃって……

 

「む? 起きたか桜。おはよう」

 

すると既にスーツ姿の千冬姉が居た。

 

「うん、おはよ! ……それで、僕は何でここに? 一夏兄と箒ちゃんの部屋で寝ちゃったのは覚えてるけど……」

 

「就寝時間前になって一夏がお前をおんぶしてここまで連れて来たんだ。お前にいくら呼びかけても起きないからって理由でな」

 

千冬姉は微笑ましそうに笑いながらそう言った。

 

「そっか……後で一夏兄たちにちゃんとお礼言わなきゃ!」

 

「あぁ、礼儀は大事だ。親しき中にも礼儀ありとも言うしな」

 

「うん! ……話しは変わるけど、今日は土曜日だよね? この前は休みだったけど、今日はお仕事??」

 

「……そうだ。ま、教師も中々に大変な職業だからな、だからこそやりごたえもあるんだが」

 

そう言って千冬姉は部屋から出て行った。

……とりあえず、一夏兄たちと会おうかな?

何て考えてるとコンコンコンと扉をノックする音が。

一夏兄たちかな? と扉を開ければ、

 

「おはよ~ございま~す」

 

おっとりふわふわした女の子が立っていた?!

うーん、少なくとも僕は見たことないけど……?

 

「私はおりむーと同じクラスの布仏本音(のほとけほんね)っていうんだ~。本音でいいよ~? よろしくね~、さっくん!」

 

「……あ、うん! よろしくね! 本音ちゃん! それで僕に何か用事だった?」

 

おりむーって一夏兄のことなのかな?

 

「むっふっふ~、おりむーからもさっくんをよろしくって言われてたからね~。さっくんも暇だろうし、お姉ちゃんが遊びに来たんだよ~!」

 

「それはすっごく嬉しいけど、本音ちゃんはせっかくの休日なのに僕と遊んでも大丈夫?」

 

「そんなのはもーまんたいだよ~! ほらほら~、早速行くよ~」

 

そう本音ちゃんはほんわかオーラで僕の手を掴み、流されるままに身を任すことにした。

 

 

 

 

 

「着いたよ~!」

 

本音ちゃんはそう言って立ち止まった。

道中どこに行くのか聞いても答えてくれなかったけど……着いたってここ?

 

「本音ちゃん? ここって生徒会室って書かれてるけど……」

 

「うん~書かれてるね~。私は生徒会役員でもあるから入ってもいいんだよ~?」

 

ドヤァと胸を張る本音ちゃん。

 

「流石に部外者の僕が入るのはいけないんじゃないかな?」

 

「むっふっふ~、そこはちゃ~んと会長には許可貰ってるよ~! だから大丈夫~、ほらほら、ジュースやお菓子もあるから入った入った~」

 

本音ちゃんに背中を押されながら生徒会室に入ると、確かに高そうな机の上には沢山のお菓子が置いてあった!

しかもジュースまで!!

──それにしても、

 

「……楯無、さん?」

 

「さ、桜くん!!」

 

「むぎぁッ?!」

 

山積みになっている書類の中に、目を充血させてブツブツ呟いていた楯無さんに声をかけたら怖いくらいの速さで抱き着かれた?!

目視できないスピードで抱き着かれるのは今までに何度か経験したけど、ここまでホラー感があるのは何とも言えない恐怖があった!

 

「あぁぁ~! 私のもう一人の天使っ!!」

 

「た、楯無さんが壊れた?!」

 

楯無さんが落ち着くまで暫く、僕はなされるがままになるしかなかった……。

だってこの時の楯無さんには何だか逆らっちゃダメな気がしたんだ!

そしてようやく楯無さんが落ち着いて来た頃、ガチャリと誰かが入ってきた──

 

 

 

 

 

 



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ろく話目!

感想、投票等ありがとうございます!

それと題名は仕様です。




ガチャリと生徒会室の扉が開いた。

 

「……何をしているんですか? 会長」

 

そこには、眼鏡をかけたヘアバンドに三つ編みの真面目そうなお姉さんが、楯無さんに呆れ顔で言った。

 

「えっと……?」

 

「あぁ、ごめんなさい。私は本音の姉で生徒会会計の布仏虚(のほとけうつほ)と言います。虚でいいですよ?」

 

「僕は織斑桜! 桜って呼んでください、虚さん!」

 

「桜くんですね。……ほら、会長。桜くんから離れて仕事してください」

 

「うわぁ~ん!」

 

僕に抱き着いていた楯無さんを掴んで、虚さんはニコニコ微笑みながら引きずる?!

 

「あはは~、私たちはそこでお菓子でも食べてよ~?」

 

「本音ちゃんはお仕事しなくてもいいの??」

 

「私がいないほうが(はかど)るんだって~」

 

と、のほほんと笑いながら本音ちゃんに僕はふかふかの座り心地が良いソファーに座らされて、オレンジジュースを淹れてもらった。

ここまでおもてなしされたなら、僕も遠慮なく甘えさせてもらおっと!

僕は本音ちゃんと、楯無さんの悲鳴と虚さんの檄をBGMにのんびりと親睦を深めたと思える時間を過ごした!

 

 

 

 

 

夕日も完全に落ちた頃!

楯無さんたちとメアド、電話番号を交換した僕は生徒会室をあとにして一夏兄たちにお礼を言いに行った!

それから僕は今、移動用にんじん型のロケット? の中に居る!

気づいたら束姉が居たんだよ?!

ビックリしたよ~。

 

「それでいきなりどうしたの、束姉?」

 

さっきから束姉は僕のことをムスッと頬っぺたを膨らませたまま、私、怒ってますってしてくるんだよね~……。

う~ん、束姉がこんなに頑固に怒ってるのは初対面以来……かな?

懐かしいな~、初めて会ったときは肌がピリピリするくらい殺気全開だったからね……。

だけど、今日はまた違うベクトルの怒り方なんだよね。

 

「う~ん、束姉。何をそんなに怒ってるのか話してくれないと伝わらないよ?」

 

「……この映像」

 

不貞腐れた声で渡された一枚のメモリーカード。

それと一緒に束姉専用パソコンを渡された僕は、意味分からず、けどこの映像にヒント、もしくは答えがあるのは確かだと思う。

早速、僕はその映像を観てみた──けど、思わず途中でストップさせた。

……それにしても、

 

「束姉、何でこんな映像を持ってるの? 束姉の態度を見るに最近手に入れたんだろうけどさ」

 

「さーくんこそ、何で今まで黙ってたの??」

 

ひんやりと冷たい声が束姉の口から零れる。

……ほ~んと、無表情の束姉は恐ろしいくらい美人なのもあって尚更怖いよね……。

 

「……それよりさ、さっきも聞いたけどその映像はどうや──」

 

「──話し逸らさないでよっ! さーくんあの時言ったじゃん? いっくんが誘拐されたとき、さーくんはひたすらいっくんを“探してた”ってっ!! その時私はさーくんの言葉を信じたんだよ? 現にドイツの軍がいっくんを見つけて救出したのも事実だった……でも、あの時ドイツ軍が言ってた。いっくんを誘拐した連中は既に見当たらなかったって」

 

そしてバッと映像を指さして、

 

「この映像。全身黒いコートに手袋、ブーツ、フードを深く被ってる人物がISを難なく倒してる。これって明らかにさーくんだよね? 映像を拡大して私が作った分析ソフトでその人物のデータを調べた結果、99%さーくんと一致したんだ。それだけじゃないよ。実際にいっくんに聞いてみたんだ、流石に誘拐されたときの話しを今になって蒸し返すのも嫌だったよ? でもやっぱり、この映像の人物がさーくんだったら話しは別、別なんだよ!!」

 

「一夏兄が……?」

 

僕が呟いたタイミングで、申し訳なさそうに奥の部屋から一夏兄が出てきた。

 

「桜、ごめん。お前との約束だから喋らないように頑張ったんだけど……束さんの迫力に負けちまった……」

 

と、頭を下げた。

 

「頭上げてよ一夏兄。……しょうがないよ、一夏兄は悪くない。結局は僕が嘘をついたのが原因で、僕が悪いんだから……!」

 

「……」

 

「──それじゃあ、認めるんだね?」

 

束姉は事実を確認するように僕に問いかけた。

……まさかこんなタイミングで知られちゃうとはねぇ。

──四年前、ISの第二回世界大会、モンドグロッソが行われていた時。

当時千冬姉は日本代表で、第一回の優勝者でもあったから日本中から応援されていた。

千冬姉は強かった、刀一つで順調に決勝戦まで勝ち上がったんだ。

だけど決勝戦が始まる直前に一夏兄が誘拐された。

その時束姉も変装して傍にいたことから、結論、千冬姉には教えなかった。

その際にドイツ軍の協力もあり一夏兄を救出できたんだ。

──表向きはね?

僕も人間だ。

兄が誘拐されたと知った時、居ても立っても居られなかった。

だから、束姉たちには周辺で一夏兄を探すと伝えて……、

 

「……うん、そうだよ。その映像の黒コートの人間は僕。──今まで黙ってて、嘘ついてごめんなさい、束姉」

 

僕はせめてもの誠意を込めて束姉に謝罪し、頭を深く下げた。

どんな理由であれ、親しい人に嘘を言うのは悪いこと。

それもいつも支えてくれる人になら尚更だよね。

……束姉は静かに黙ったまま。

僕は今も頭を下げている。

だからこそ、ある資料が目に入った。

そこにはドイツにある極秘実験の内容が書かれていた。

遺伝子強化試験って大きく。

その資料の周りにも各国の極秘試験資料が散らばっていて、ほとんどが赤色でバツって書かれてた。

流し読みで確認できる範囲を素早く読み上げる。

……これって、

 

「束姉? その散らばってる資料って、ISに関する道徳に反した実験が行われている、行われていた内容の資料?」

 

束姉は僕の問いかけにハッと我に返り、高速で資料を回収し始めた。

見るからに焦ってるのが分かる。

……うん、多分だけど、

 

「そのバツ印がついた資料に書かれてる実験場は既に束姉が消したってことでいいのかな?」

 

この言葉でビクッと動きが止まった。

 

「……束姉が僕たちの知らない所でどんなことをしてるのかはこの際聞かないよ。僕も一夏兄が誘拐された時のことを今まで嘘ついてまで黙ってた訳だからさ……。それにその実験場での実験内容は確かに……消すべきっていうのは分かる」

 

そう伝えて僕は当時と同じ全身真っ黒な格好に万物を操る能力で変身した。

──これで人生二回目の変身だね。

 

「さ、桜??」

 

一夏兄の戸惑う声が静かな室内によく響いた。

その声に釣られて、束姉も僕を見た。

 

「──っ?! さ、さーくん?? 何で今その格好になるのかな???」

 

「自分自身の罰、そして束姉にせめてもの罪滅ぼし。これは自分の勝手な我儘だから、束姉は気にしないでね? 勿論、一夏兄も」

 

「ま、待って!! もしかしてさーく──」

 

途中で束姉の言葉を手で遮る。

ホント束姉は気づくのが早すぎるよ……。

 

「──これからちょっと、まだバツ印がついてないドイツの実験場に行ってくる。もう開き直っちゃったっていうのもあるけど、実際にこの力、使うなら今かなって思ったから。当然いくつか理由もあるんだ。さっきも言った自分勝手な束姉への嘘ついちゃったことへの罪滅ぼし。そして束姉の夢へ繋ぐISをふさげた理由で悪用する人たちに制裁を。……最後は、うん。僕も一夏兄と千冬姉の弟なんだなって改めて思うよね。その実験場、まだ被害者が生きてるんだよね? ……どんな理由であれ、助けれる時に、助けられる力があるなら、知っちゃった今、僕は助けに行くよッ!!」

 

「待ってくれ、桜! 行くんなら俺も一緒に行くぞ!! 一緒にお前の秘密を黙ってた俺にも非はあるし、何より弟一人をんな危険な場所に黙って見送れるかよッ!!!」

 

「え?! いっくんも?!」

 

一夏兄は今にもISを装着しそうな勢いだった。

一夏兄の気持ちは嬉しいに決まってるよ? けどさ、

 

「はぁ……いい? 一夏兄は今や世界で一番有名な人間なんだよ? それはなんでかわかるよね??」

 

「……ゆ、唯一男でISに乗れるから」

 

「その通り! だから一夏兄がISに乗ってそんなところに行ったら、色んな意味でまずいことになるんだよ??」

 

「た、確かに……」

 

「うん。だから一夏兄の気持ちだけで十分だから!」

 

僕の言葉に冷静になって、自身の危うい立場を理解してくれた一夏兄。

最後に、チラッと束姉と見る。

すると、束姉にも予想外な展開だったのか、とにかく涙目で僕を睨んできた。

 

「それじゃあ、また後で」

 

僕はそう二人に言い残し、この場から去った。

そして、

 

「『無敵能力、発動』──あぁ。やっぱこれ慣れねえわ」

 

この時だけは性格が変わる。

それも含めて知られたくなかったが、俺はそんな気持ちを即座に押し殺し、さっさとここから移動した。

まぁアレだ。

束さんに叱られんのは、帰ってきてから沢山受けるからさ。

 

 

 

 

 

 



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七わめ!

タイトルは仕様です!



一言でまとめると呆気なかったとしか言いようがなかった。

正直、危なげな実験場だからISの一機や二機くらい来るんじゃないかと思ってたんだがそれも杞憂に終わった。

そして油断も隙も与えず研究員共を口では言えないような方法で始末した。

それには同情も容赦も無い。

んな愚図の肉塊は無視して、俺は実験場の奥にある研究室、更に奥にある厳重に閉ざされた扉の前にまで来た。

ちまちま鍵開けんのもめんどくせーし、さっさとぶち壊す。

ドガンッ!! と人間大が入れるくらいの穴を開けて遠慮なく侵入する。

 

「──ッ」

 

残虐、残酷の言葉以外見つからない有様だった。

大きな試験管に保管された百桁を超える人工胎児。

 

「チッ。胸糞悪ぃ」

 

俺は一通り一周した後、この施設の電気を全て落とし、爆破させようと考えていた。

だが、

 

「……あれは、ラウッ……いや、別人か?」

 

奥の奥にあるこの部屋で一番大きな試験管の中には、一人の少女が静かに眠っていた。

見る限りは、息をして生きている。

流れるような銀髪、可憐な姿が一瞬だけとある友人と重なった。

 

「まさか」

 

俺は遠慮なく、だけど少女には傷を与えぬよう試験管を破壊した。

この際、水に濡れることなどはどうでもよかった。

俗に言うお姫様抱っこで改めて息をして生きていることを確認した俺は、すぐに大きなタオル状の物を少女に巻く。

最後にもう一度この部屋を素早く確認して。

俺はそのまま電気を落とし、ここら一帯を爆破させた。

 

「……」

 

せめて安らかにと、頭を下げてここを去った。

 

 

 

 

 

──それから。

俺は少女の負担にならないギリギリの速度でIS学園に帰ってきた。

当然行きも帰りも姿が見えないように透明化になってだ。

IS学園の屋上には、束さんのにんじん型のロケットを(ステレスタイプだが)、今の俺には苦も無く認識する。

俺が屋上に降り立ったタイミングで、束さんもロケットから慌てて出てきた。

 

「──束さん」

 

「言いたいことはいぃぃぃぃっぱい!!! あるけど!! 今はその子の治療が先!! 説教は後でこってりやるからね?!」

 

「わかってるよ」

 

流石の束さんも優先順位はちゃんとしている。

束さん直々の治療だから少女も死ぬことはないだろう。

けど、少なくとも時間は掛かりそうだった。

俺も束さんの後ろに続いてロケットの中に入ったが、兄貴はもう居ない。

束さんに言われて部屋に戻ったんだろう。

ソファーに座りやっと落ち着ける。

 

「──性格が変わるのは勘弁してほしいよね……」

 

無敵能力を解除した僕は、ゴローンとソファーに寝っ転がる。

そして忘れない内に、千冬姉にメールで今日は束姉の家に泊まるって連絡しておく。

 

「束姉のことちゃんと待っとかないといけないのに……」

 

うん、眠い……。

ちょっと、五分だけ仮眠とろうかな……。

 

 

 

 

 

「──?!」

 

「おはようございます、桜さま」

 

目が覚めたら、目の前に見覚えのある女の子がいた!

 

「お、おはよう」

 

僕はなぜかこの女の子に膝枕されてるみたい……。

 

「き、君はもう大丈夫なの?」

 

「はい、お陰様でこの通り健康体ですよ?」

 

そう女の子は穏やかに笑う。

僕はこれ以上女の子の負担にならないように体を起こした。

……何で寂しそうな顔をしてるんだろ??

 

「そっか、よかった~! これで一安心かな!」

 

「本当に桜さま、私などを助けてくださりありがとうございました」

 

「にしし、気にしないでよ! うん、君が無事でよかったよ」

 

そう言えば、

 

「えっと、君の名前は何て言うのかな?」

 

僕の名前を知ってるってことは、束姉に聞いたんだと思うけど。

だけど、この子の名前を僕は知らないから。

 

「──私には名前と呼べるものがないんです。……強いて言えばシリアルナンバーですね」

 

「……っ」

 

「ですから。……桜さまさえ良ければ──私に名前をくれませんか……?」

 

そう女の子は不安そうな感情を隠し切れない、そんな眼差しで僕を見る……。

 

「──うん、僕でよければ!」

 

 

 

 

 

「──クロエ……クロエ・クロニクル」

 

「どう、かな?」

 

「クロエ、クロエ・クロニクルっ。……はい、ありがとうございます!」

 

一生懸命考えた結果、クロエ・クロニクルにした。

古代ギリシアの恋愛物語に出てくる、自分の愛を信じ、神様に愛された少女の名前からクロエ。

これからは当たり前の人生を穏やかに歩めるようにと、クロニクル。

昔に図書館で見つけた絵本に出て来たお姫様の名前、そして由来をクロエちゃんを見てるとふと思い出したんだ。

 

「うん、これからよろしくね? クロエちゃん!」

 

「……桜さま、ちゃんは不必要ですよ?」

 

「あ、それなら僕のこともさまは要らな──」

 

「──それはできません」

 

言葉を被せるほど?!

 

「う~ん。……なら僕もちゃんづけで呼ぶね?」

 

「むぅ……」

 

と、頬っぺたを膨らますクロエちゃん。

けど、何とかこのままの呼び方で納得したみたい!

 

「そう言えば束姉は?」

 

さっきから束姉の姿が見当たらないんだよね~?

 

「束さまでしたら私を治療して下さったあと、仮眠すると言ってご自身のお部屋に行ってしまわれましたよ?」

 

「あぁ、なるほどね」

 

流石の束姉も専門外のことで疲れちゃったのかな?

まぁ、起きてきたら改めて謝らなくちゃね。

 

「そうだ、クロエちゃん! お腹空いてない?」

 

まだお腹は鳴ってないけど、僕はお腹減っちゃった!

僕の問いかけにクロエちゃんもコクリと頷いた。

 

「よ~し、それなら今からご飯作っちゃおうか! クロエちゃんはそこで待ってて」

 

「いえ、私も手伝いします!」

 

「……料理はしたことある?」

 

「……いえ」

 

「おっけ~。それなら簡単な料理を一緒に作ろうか! こういうのも含めてこれから出来るようになれば良いんだから!」

 

僕はクロエちゃんの手を引き、新品キラキラなキッチンに移動した。

さーてと。

冷蔵庫の中には、一通りの食材があるんだね~。

……束姉が一人で料理してる姿は想像しにくいなぁ。

 

「それなら、卵と鶏肉をメインにした雑炊を作るよ?」

 

「はい!」

 

僕は一生懸命食器を洗ったり、恐る恐る食材を切るクロエちゃんに和みながら、着々と完成に向けて作っていった!

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした!」

 

「ご馳走様でした」

 

無事に完成した雑炊はとっても美味しかった!

うん、一夏兄に教えてもらったレシピはどれも最高だね~。

それにクロエちゃんは途中から手際良く料理をこなしてた!

あの吸収力だったらすぐに料理上手になると思うんだ。

……それはそれとして、これからどうしようかな?

束姉はまだ寝てるしクロエちゃんも眠っちゃった。

お腹がいっぱいになって……安心したのかな?

ソファーでスヤスヤと眠るクロエちゃんにタオルケットをかける。

そして椅子に座って、とりあえず二人が起きてくるまで待ってることにした!

──アイスコーヒーを淹れて飲みながら暫くすると、携帯がブルブルと震える。

どうやらメールみたい。

 

「誰からだろ?」

 

受信ボックスを開くと。

差し出し主は一夏兄の親友の妹、僕にとっては中学からの友達、五反田蘭(ごたんだらん)ちゃんからだった!

蘭ちゃんからメールって久しぶりだなぁ~。

電話は時々掛かってくるんだけどね。

えーっと、なになに?

 

『今日の昼に私の家に来て!』

 

だけの文面だった……。

相変わらず、なんと言うか……。

周りには猫を被ってるけど、僕には真っすぐだなぁ。

 

「まぁ、それが蘭ちゃんだし素の方が嬉しいけどね~」

 

僕は時計を確認して、今からここを出たら良い時間に着くかな?

……一応、白い紙とペンを手にして、少し出かけてくる! ってちゃんと書いてテーブルの上に置いて行こっと。

そしてちゃんと変装もするよ!!

世界唯一の男性操縦者の弟だって自覚はあるんです!

っていうかね、そういう理由で中学には行けない状態だからね~。

それに蘭ちゃんが僕と関わりがあるって悪い人達に知られると色々とまずいことになるから……。

 

「……それじゃあ、行ってきま~す」

 

約一週間ぶりくらいに、僕はIS学園から出た!

久しぶりの一人だし、のんびり行こうかな~。

 

 

 

 

 

 




この話を書いてるとき、初めて五反田(こたんだ)って読み方だと知った……。
今までは五反田(こだんだ)って読んでたんだよなぁ。


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はちわめ!

こんにちは! そしていつもより短いです!(色んな意味で)



「それで? 最近どうなの?」

 

寝不足なのか蘭ちゃんは欠伸をしながら僕に聞いてくる。

蘭ちゃんの家(蘭ちゃん家は定食屋を営んでる!)に着いた僕は、少なくとも部屋着じゃなさそうなお洒落な服を着た蘭ちゃんに案内されて部屋に入った。

あ、それと結局変装はせずにそのまま来ちゃった。

っていうのも、透明化シールがあれば何の心配も要らないことに気づいたからね!!

当然、家に入る前にシールは剥がしてるよ?

 

「その言い方はアバウト過ぎない?」

 

思わず苦笑いしちゃうよ……。

だけど最近は色々な出会いがあったから、僕はそのまま簡単に今日までのことを話した!

 

「へぇー……IS学園で暮らしてる、ねぇ……」

 

あれ?

 

「えっと、蘭ちゃん? 顔が少し怖いかな~……──や、嘘です! 冗談です!! ……そ、それにしても蘭ちゃんからいきなりメールが来たから驚いちゃったよ」

 

「桜、いっつも言うけど話しの逸らし方下手すぎ……。はぁ、今日は久しぶりに暇だったからね。せっかくの日曜日を怠惰で過ごすのもねって思ったら、アンタを呼ぶ結論についたのよ」

 

「そっか~」

 

蘭ちゃんは有名な私立の女子校に通ってる中学生で生徒会長!

頭は良いし、運動もできるし、コミュニケーション能力もバッチリな、それに家事もできる女の子なのだ。

けど、それでも中々出会いがないらしくて、恋愛話はタブーになりつつあるんだよね~……。

前にポロっと口に出しちゃった時、すっごいジト目で睨まれたもん。

 

「だからって僕を呼んでもそんなに暇つぶせるような案はないよ?」

 

「……でも、一人より二人の方が楽しいでしょ?」

 

「──うん! 確かに!」

 

 

 

 

 

──それから。

僕は蘭ちゃんに作ってもらった焼きそばを食べ終わったあと(蘭ちゃんの作る料理も美味しいんだよね~)、久しぶりにゆったりと話した!

改めて現状は中学に通えないこと。

一夏兄がISを動かしてから、一週間くらい前まではずっと家で過ごしてたこと。

流石に家の中も飽きたから、IS学園に遊びに行って今も過ごしてること。

蘭ちゃんも知ってる鈴ちゃんのことや、新しく友達になったセッシーの話もした!

そして蘭ちゃんからは、来年はIS学園を受験するっていう話しを聞いた!

色々とビックリしたけど、僕は応援するよ!!

──一通り話し終わった頃には既に夕日が落ちかかっていた。

流石にそろそろお(いとま)することに。

 

「それじゃあまたね!」

 

「はいはい、またねー」

 

僕は蘭ちゃんに手を振って、暫く普通に歩く。

ぶっきらぼうに言う蘭ちゃんだけど、さり気なく手を振り返してくれるのが嬉しい!

それから人気のない場所に行って透明化シールを張ってIS学園に帰った。

──着いて、屋上に行ったら束姉のにんじん型ロケットは普通にあったから中に入った。

すると……、

 

「お・か・え・り。さーくんッ」

 

「お帰りなさいませ、桜さま」

 

「た、ただいま……」

 

満面な笑顔で仁王立ちで出迎えてくれた、束姉とクロエちゃん。

この日の夜は正座のし過ぎで暫く足が動かなかったよ……。

僕が嘘ついてたことに関してのお説教は当然聞くけど、一人で外出することは許してほしいなぁ……。

そして何だかんだと話し合った結果、束姉が僕の携帯に特製GPSを内蔵することになった?!

それくらい僕のことを心配してくれてるんだな~って思うと……いや、ちょっとだけ過保護すぎだと思うのは贅沢なのかな?

 

 

 

 

 

──あれから数日が経った!

時間は放課後、一夏兄はクラスの代表として今日もセッシーや箒ちゃんに協力してもらいながらISの特訓をしてるんだ。

クラスリーグマッチももうすぐだし、今も2倍の重力作戦は続いてるし、着実に一夏兄は強くなっていってる!

でも逆に言えば、一夏兄以外の人たちも特訓してるし強くなってるのは事実。

それは当然、僕の右腕に撓垂(しなだ)れ掛かってぽけ~っと殆ど落ちた桜の木を眺めてる鈴ちゃんも同じ……なはず?

 

「一夏兄は今日もISの特訓してるけど、鈴ちゃんはしなくて大丈夫なの?」

 

「あたしはあたしのペースがあるからね。今日はお風呂上りに軽く柔軟するくらいかしらね」

 

「そっか~。……それでさ? 話しは変わるけど、ちょっと距離が近いかな~って」

 

人が居ない良い感じの日向ぼっこスペースを見つけた僕たちはそこに座って話していた。

けど、なんかさっきより鈴ちゃんが近いような気がするんだよね……。

すると僕の言葉に、もっと体を押し付けてきた……?!

 

「ふ~ん、あたしが近いと何か問題でもあるの?」

 

ニヤニヤと悪戯顔で笑う鈴ちゃん。

 

「いや、問題はないんだけど……」

 

「なら良いじゃん」

 

あっけらかんとそう言って笑う。

鈴ちゃんのニッカっと笑う仕草が、何だか猫みたいなんだよね。

 

「ニャー」

 

?!

 

「え、えっと鈴ちゃんが今言った?」

 

「何でそうなるのよ?! そこの木の上から聞こえてきたわよ?」

 

「なるほど」

 

ビックリした~。

猫のこと考えてたら、ホントにすぐ近くに居たんだ。

 

「でも、珍しいわね~。IS学園って結構なセキュリティで囲まれてるんだけど……」

 

鈴ちゃんは猫が登っている木に近づき、

 

「にゃ~ん」

 

と、猫の鳴き真似をした?!

あ、けど鈴ちゃんって猫大好きだったよね。

 

「にゃ~ん、にゃう~──あっ……」

 

猫の鳴き真似も空しく、猫はスタっと地面に降りて足早に去っていった。

白色の猫か~、可愛いね~!

 

「逃げられちゃったわね~」

 

「にしし、猫は気まぐれ屋さんだからね。鈴ちゃんみたいに!」

 

「むむ、それはどういう意味かしら~?」

 

「あ、あははははっ! く、くすぐらないで~?!」

 

「ほらほら~、もっと鈴さまを敬いなさい~!」

 

鈴ちゃんは手を休めてはくれず、そのあと暫くくすぐられた!

鈴ちゃんと遊ぶのは楽しいけど、からかったら倍で返ってくるんだよね~。

こうして日が落ちるまで思い出話も交えて沢山話した!

……でも、この前蘭ちゃんの家に遊びに行った話しをした時、鈴ちゃんの笑顔……怖かったなぁ。

 

 

 

 

 

 



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きゅうわめ!

とある日。

今日も今日とて僕は校内を透明化シールをおでこに貼って散歩してた。

時間はもう放課後。

僕の活動時間は基本放課後からなんだよね~。

一夏兄たちが授業を受けている間、僕は千冬姉の寮長部屋(ここで寝泊まりしてる)で待機。

部屋に居てもすることがないから、万物(ばんぶつ)を操る能力を上手く扱えるように暇つぶし感覚で練習してるくらいかな?

勿論部屋で家事を一通りやってからだよ?

じゃないとすーぐ部屋が汚くなっちゃうんだよね~……。

それと、束姉とクロエちゃんはお互いに目標? が見つかったって旅に出ちゃった!

突然だったけどいつかはこうなるんじゃないかって思ってたから驚きはしなかったな。

 

「はぁー……」

 

と、前の方から溜息をつく楯無さんが歩いて来た。

素早く周囲を確認して、曲がり角で透明化シールを剥がす!

 

「──どうしたんですか? 溜息なんかついて」

 

流石に透明化シールのことはまだ内緒にしないとね~。

 

「あぁ、あぁ!!」

 

「へ?! どうしたんですか……? 僕を見るなりいきなり声を上げむぎゅっ?!」

 

「私の第二の天使ッ!!!」

 

意味が分からないよ?!

っていうか、最近楯無さん壊れ気味じゃない?!

 

「ぶはぁ?! た、楯無さん落ち着いてください! 僕でよければ話し聞きますから?!」

 

「ほ、ほんと??」

 

「こんなので嘘ついてどうするんですか……」

 

「なら、早速付いてきて!」

 

ぎゅむっと、楯無さんは僕の右腕に体を押し当てるように腕を組んできて、生徒会室がある方に向かっていった!

やっぱりIS学園の生徒会長っていうのも大変なんだろうな~……。

 

 

 

 

 

「仕事は山積みだし、虚ちゃんは用事で居ないし、機密情報に等しい重要な書類もあるし……」

 

「えっと、つまり仕事が多いのは勿論、ずっと一人でするのが耐えられないってことですか?」

 

「ぶー、全くその通りなのよね~」

 

僕はなぜか楯無さんの膝の上に座らされて頭を撫でられてる?!

……時折鼻息が荒くなってるような気がするけど、気がするだけで僕の気のせいだよね……?

というよりも、機密情報がある部屋に僕を連れてきて良かったの??

 

「……僕はお仕事のお手伝いはできないかもですけど、せめて時間がくるまでは僕もここに居てもいいですか……?」

 

だけど今の僕にできることは、楯無さんを一人にしないことなんじゃないかなって思うんだ……!

だって楯無さんに会うたびに情緒不安定気味なんだもん……。

だからこの座ってる状態から見上げるように言った。

 

「っっっ~~~!!! 勿論よっ!!」

 

「ふぎゅ?!」

 

今度は背中から思いっきり抱きしめられた?!

楯無さんってもしかして物凄いスキンシップが大胆な人なのかな??

 

「ふぅ……。コホンッ、それじゃあ早速お仕事しちゃいますか。そうだ! 桜くんは冷蔵庫に入ってるジュースやテーブルの上に置いてあるお菓子、食べちゃっていいからね♪」

 

「ほ、ほんとですか! ありがとうございます!」

 

僕は楯無さんの言葉に甘えて、早速ジュースをコップに淹れてお菓子を開けて食べる!

チラッと楯無さんを見てみると、会長椅子に座って静かにお仕事し始めた!

……ああやって静かにしてる姿はまた違った印象を受けるよね?

 

 

 

 

 

──それから3時間は経ったのかな?

無事今日中に終わらせなくちゃいけないお仕事が終わった楯無さんは、晴れやかな顔でごく自然に僕の腕を掴んでまた膝に座らされてるんだ……。

そして僕を後ろからギュッと抱きしめる力が強くなった。

 

「──桜くん。……例えばの話しをしてもいい?」

 

「にしし、ここに来る前にも言いましたけど、僕で良かったら幾らでも聞きますよ~」

 

「あはは、そう言ってくれてたわね。昔々のお話なんだけど……小さな頃にとても仲の良い姉妹がいました。だけど、家が特殊だったということもあり、姉は長女としてどんどんプレッシャーに押しつぶされていきました。しかし妹はそんな姉のために心配してくれていました。……妹のことが一番に大切だった姉も、プレッシャーとストレス……そして妹が大切過ぎるゆえに、これ以上妹に迷惑を掛けない為に──酷い言葉を言って家の重荷は全て背負い、妹は重荷から遠ざけてしまいました。……姉は今でも後悔しています。なぜあの時あんな言葉を言ってしまったのか。特殊な家、プレッシャー、ストレス。結局はその全部が言い訳の理由にしてたことも理解してる。あの時から今日まで一言も話せてない、謝れていない、行動すら怖くてできないそんな甘ったれた姉が居たとしたら──桜くんはどう思う?」

 

……、

 

「そうだね~。……うん、僕だったらその姉には何にも言葉を掛けない!」

 

「っ……」

 

「だって言う必要あるのかな?」

 

「……?」

 

「にしし、そのお姉ちゃんはしっかりと分かってるじゃん! 何が原因で、どんな理由で、妹に酷い言葉を言っちゃったのか。どんな人間でも失敗しちゃうことは怖いことなんだよ? だけど、それでも失敗して間違えちゃうのが人間。当然、本当に間違っちゃいけない瞬間、失敗したらいけない瞬間もある。……でも、行動すれば、行動しさえすればまだギリギリ手を伸ばして掴み取れるかもしれない。自分に非があるって、自分自身で理解してるなら尚更行動しなくちゃいけない。まだ間に合うかもしれないよ? それこそ、行動した結果でいくらでも考えたら良いと僕は思うんだ! もうお姉ちゃんは充分考える時間を得たんじゃないかな? それなら怖くても行動するしかないよね。だってもう考えても答えは同じだし。酷い言葉を言われて傷ついた妹。その傷に比べれば行動する怖さなんて微々たるものじゃな──」

 

「──ッ!!」

 

突然、楯無さんは僕をサッとどけて、生徒会室から飛び出して行った。

 

「……」

 

──僕は何を偉そうに。

この前まで親しい人に嘘をついてたっていうのにね……。

だけど……少なくとも楯無さんに伝えた考えは僕が嘘をついてたことを含めて、僕が“生きていた”、“生きている”今も必死になって得た一つの答えなんだと思う。

にしし、でもやっぱり僕が不思議な力を持っているってことを言う機会があったとしても、女神様から貰ったっていうことは言わないし、言えないし、言ったとしても信じてもらえないかも……ね?

──そのあと就寝時間になるまでジュースを飲みながら楯無さんが帰ってくるのを待ってたけど、予想通り帰っては来なかった。

多分だけど、上手くいったのかな?

もうこの部屋から出なくちゃいけないし、扉を閉めて万物(ばんぶつ)を操る能力を使って鍵を閉める。

 

「お菓子とジュースでお腹がたぷたぷだな~」

 

少し調子にのって飲食し過ぎちゃったみたい……。

誰も見てないことを確認して透明化シールを張り、胃を刺激しないようにゆっくりめに歩いて部屋に戻った!

 

 

 

 

 

──翌日の放課後!

今日も透明化シールを使って探検中~!

生徒たちの噂話で楯無さんと妹さんが急激に距離が近くなって仲が良いって話しが多いね~。

やー、良かった良かった!

久しぶりに妹さんと話せて頭の中も妹さん一色なんだろうね~。

こりゃあ妹さんも大変だね!

それに楯無さんの暴走も目に浮かぶよね~。

 

(今日はこのくらいで切り上げようかな?)

 

僕は来た道をUターンして部屋に戻る。

帰りは特に興味惹かれる出来事もなく部屋に入った。

ちゃんと鍵を閉めて、そこでやっと透明化シールを剥がす。

 

「今日は部屋でのんびり過ごそうかな~」

 

グッと一回伸びをして、冷蔵庫からお茶を出してゆったり過ごすことに決めた!

だけどそれから数十分後。

コンコンと扉がノックされた。

 

「はーい、誰ですかー?」

 

「桜さん。(わたくし)です、セシリアですわ」

 

「え? セッシー?!」

 

僕はバッと起き上がって、鍵を開ける!

 

「わぁ~! セッシーこんにちは! 久しぶりだね!!」

 

「ふふ、こんにちは。桜さんも相変わらず元気ですわね~」

 

「にしし、元気だけが僕のとりえだからね! それよりもせっかく来てくれたんだから、ほら、入って入って~」

 

「あら、もう。桜さんはいつも積極的ですわね」

 

「ん? そんなことはないと思うけど……? それで今日はどうしたの??」

 

上品に正座をして座布団の上に座るセッシーにコップに淹れたお茶を渡しながら聞いてみる!

 

「一夏さんは箒さんと剣道のお稽古をすると言っていたので、今日は予定もなく暇でしたの。ですから、お部屋で簡単にサンドイッチを作ってきたので、ぜひ桜さんにも食べて頂きたく来たということですわ」

 

「あ、もしかしてそのバスケットに入ってるのって」

 

セッシーが持っていたバスケット。

その中身って、

 

「はい、桜さんの予想通りサンドイッチが入ってますわ」

 

「僕も食べて良いの??」

 

「当然ですわ! このサンドイッチは桜さんを想っ──コホンッ。……と、とにかく! この水筒に紅茶も淹れてますから、一緒にティータイムを過ごしませんか?」

 

「う、うん! 僕で良ければ!!」

 

僕はルンルンとテーブルを拭いてコップにお皿を出す。

そしてお皿に置かれた新鮮なハム、卵、レタス、トマトをふんだんに、だけどバランスよく、ふわふわなパンの生地で挟まれたサンドイッチを見て思わずキュ~とお腹が鳴った!

それぐらい食欲がそそるサンドイッチなんだよ……!

 

「ふふふ、それでは召し上がってくださいな」

 

「それじゃあ頂きます!! あ~む、もぐもぐ……?! ごくんっ」

 

こ、これはっ!!!

 

「美味しい~!!」

 

ちょうど良い大きさでもあるから、三口くらいで一つ目を平らげちゃった!

 

「セッシー料理上手なんだね!」

 

「あらあら、料理も淑女の嗜みですわ。それよりも、口に合ったようで何よりですの」

 

「うん! 言葉が出ないくらい美味しいよ!! まだ食べて良い??」

 

「ふふふ。えぇ、勿論ですわ。ちゃんと噛んで、紅茶を飲みながら召し上がってくださいな」

 

それから僕は、ひたすら夢中でサンドイッチを平らげたあと、紅茶を飲みながらのんび~りと就寝時間まで話した!

その時に夏休みはセッシーの家に遊びに行く約束をしたよ!!

 

 

 

 

 

 



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じゅうわめ!

まだまだ、出会いの季節です。


時刻は放課後。

僕は楯無さんの妹、更識簪(さらしきかんざし)ちゃんとアニメ映画鑑賞をしてるんだ!

いや~、ビックリしたよね~。

さっき放課後になってすぐ楯無さんと簪ちゃんが部屋に来たんだ。

そして楯無さんに簪ちゃんと仲直りできたって言う報告? と、ありがとうって言われて(にしし、姉妹の不仲はもしも話しじゃなかったのかな?)、マシンガントークに近い一方通行で簪ちゃんを紹介された!

最後は生徒会の仕事があるからって簪ちゃんを残して台風のように楯無さんは去っていったんだ。

こういう所は束姉と似てるんだよね~……。

あらら、簪ちゃんも恥ずかしそうに苦笑いだし。

それからかる~く挨拶してお互い自己紹介した!

その時に簪ちゃんって呼ぶことになったんだ!

それと簪ちゃんからもありがとうって言われた!

だけど本気で言ってるのが分かったから、楯無さんの言葉も含めて受け止めたよ!

 

 

 

 

 

「う~ん、面白かった!!」

 

「そう言ってくれて、私も嬉しい」

 

簪ちゃんが持ってきた幾つかのDVD。

今観てたのが、曰く人気ロボットアニメが総集編として映画になった作品だったらしんだけど、主人公が熱くてかっこよかったな~!

僕もあんなロボット乗ってみたいな~って思っちゃった!

 

「……とうとう明後日(あさって)

 

ぽつりと隣で簪ちゃんが呟く。

 

「えっと……明後日ってに何かあるの?」

 

「クラス対抗戦。私、四組のクラス代表だから」

 

「そうだったんだ?!」

 

「うん。一応、私は日本代表候補生で専用機も持ってる。だけど、打鉄弐式(うちがねにしき)……この子とは初めての実戦だから」

 

簪ちゃんは緊張した面持ちで右手中指につけてるクリスタルな指輪を優しく撫でる。

ISは待機状態の時はそれぞれの形になるんだけど、簪ちゃんのは指輪なんだね~。

 

「そっか~。ま、僕が言うのもなんだけど……何事も経験! 緊張はするだろうけど、それ以上に楽しむのが良いと思うな!」

 

「……うん、そうだね。ふふ、ありがと、桜くん」

 

そう笑った簪ちゃんは、僕の頭を優しく撫でてくれた?!

けど、僕なんかの言葉で少しでも緊張が(ほぐ)れたなら嬉しいな!

 

「ていうより、僕とアニメ鑑賞してても大丈夫なの? 他のクラス代表、一夏兄たちは今も訓練してるよ……?」

 

「今日はお休み、最後の調整は明日するつもりなの。それに緊張はするけど、でも自信もあるから……!」

 

ギュッと胸元で握りこぶしをつくる簪ちゃん。

 

「にしし、ならもう言わないよ。……次はどんなアニメを観るの?」

 

「えっと、そうだね。──これもおすすめだよ?」

 

「それじゃあ、それを観よっか!」

 

それから千冬姉が帰ってくるまで鑑賞会は続いた!

別れ際、今度上映されるアニメ映画を観に行くことになった!!

 

 

 

 

 

──翌日の放課後、明日はとうとうクラス対抗戦。

さてさて今日は箒ちゃん、剣道部が休みだからご飯を一緒に食べようって誘ってくれたんだ!

一夏兄は明日のクラス対抗戦に向けて最後の仕上げに入ってるんだって!

 

「今日も一夏は訓練で遅くなるそうだ。私は今日は部活も休み、久しぶりに料理を作ってみたのだが……」

 

エプロン姿の箒ちゃんは、そう言いながら僕の分をお皿に盛りつけてくれる。

 

「ありがと! それにしても箒ちゃんはエプロン姿ってすごく似合うよね~」

 

「ふっ。褒めても料理の量が多くなるだけだぞ?」

 

「にしし、それも計算してたり~?」

 

「まったく、お前は本当に相変わらずだな。ほら、肉じゃが多めにしたぞ」

 

「おぉ、ありがと箒ちゃん! 肉じゃが、白ごはん、味噌汁、漬物、新鮮な野菜、もうダメ! 食べて良い??」

 

「よし、では食べるか」

 

僕は箒ちゃんが座ったのを確認して、いただきますしてから肉じゃがを箸で摘み口に運んでいく。

 

「そう言えば、桜はいつまでここに居るんだ?」

 

「う~ん、いつまでだろ? 中学校には行けないし、家にずっと居るのにも飽きちゃったし……」

 

「……勉強はしてるのか?」

 

「え?」

 

箒ちゃんの言葉に思わず目を逸らしちゃった……!

確かに、学校に行けなくなってから懐かしく思ってしまってるくらいには全然してないな~。

 

「うむ、学校に行けないのは現状仕方ないことだろう。しかし勉学を放棄するのはまた別の話しだ。だから私が……ふむ、そうだな。()明後日(あさって)から課題を作って渡そうと思う」

 

「え?! そ、それは箒ちゃんに悪いよ! 学校生活もあるし、部活もあるじゃん? 僕なんかの為にそこまでしなくても──」

 

「──そんなに自分を卑下するなっ。それに私も復習できるし負担などないぞ?」

 

「……そっか。それならお願いしようかな!」

 

「あぁ、任せておけ! そ、その代わり言ってはなんだが、これからはもっと料理のレパートリーを増やそうと思っている。……新しい料理を作ったら、食べてくれるか……?」

 

急に静かに問いかけてくる箒ちゃん!

 

「それこそお願いしますだよ!」

 

「そ、そうか……! ならば、課題も料理もビシバシやるから覚悟するのだぞ?」

 

ニヤリと楽しそうに箒ちゃん笑う!

 

「ど、どっちもお手柔らかにお願いします……」

 

それから残りの料理をゆっくり味わいながら、最近起きた話題を交えて楽しい時間を過ごした!!

 

 

 

 

 

「千冬姉は今日遅いって?」

 

「うん、明日のクラス対抗戦の準備がまだ終わらないんだって~」

 

箒ちゃんのご飯を食べ終わった後は、ちょっとだけ食休みしてから部屋に戻った!

それから暫くして、一夏兄が遊びに来た!

ちゃんとお風呂に入ってご飯も食べてきた一夏兄は、重力が二倍とは思えないほど軽やかにお部屋の掃除を手伝ってくれてる。

 

「もう重力二倍は慣れちゃった?」

 

「おう、お陰様でもう違和感がなくなっちまったぜ!」

 

無理なく笑顔で答える一夏兄の言ってることはホントなんだろうね。

 

「にしし、それなら次は三倍にしてみる??」

 

僕は掃除のお手伝いをしながら、そう提案してみる!

 

「三倍、するとしたらそろそろだよなー。……だけど明日のクラス対抗戦は一先(ひとま)ず重力を解いて出場するつもりだぜ?」

 

「それならもう解いとく?」

 

「おう、頼むわ!」

 

「──解いたよ~」

 

「おぉ!! 体かっる?!」

 

一夏兄は子供のようにはしゃいでる……気持ちは分からなくもないけどね~。

 

「よっし! なんだか自信が湧いて来たぜ……!!」

 

一夏兄はストレッチをしながら体の調子を確かめる。

 

「なんか無性(むしょう)に走りたくなってきた!」

 

「い、一夏兄……。自分の体じゃないような感覚でテンション上がるのはいいけど、明日に備えて今日はもう寝ちゃったら?」

 

「多分このままだと眠れない!」

 

と言って、今まで見たことないスピードで一夏兄は部屋から出て行った。

一夏兄も思い立ったら一直線だよね……。

 

「何だか頭が痛くなってきちゃった……。もう寝ようかな~」

 

布団を敷いて毛布を被る。

さてさて、明日は一体どんな日になるんだろうな~。

一夏兄、鈴ちゃん、簪ちゃんの活躍を楽しみにしながら僕は目を瞑った。

 

 

 

 

 

 



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じゅういちわめ!

感想、お気に入り登録、投票、本当にありがとうございます!
これからもぜひ暇つぶしに読んでみてください!!


クラス対抗戦も無事に閉幕して、お月さまも雲に隠れずランランと静かな闇を照らしてる。

今頃一夏兄含めてどの学年も打ち上げでどんちゃん騒ぎしてるんだろうな~。

──僕は部屋で一人、テレビ番組のニュースをラジオ代わりにしてちょびちょびジュースを飲みながらクラス代表達の活躍を思い出す。

二年のクラス対抗戦は、断トツで楯無さんが一位だった!

簪ちゃんにちょこっと聞いたけど、楯無さんはロシアの代表操縦者なんだって!

 

「そりゃあ強いわけだよね~、まさに圧巻の一言だったな~」

 

そして一年のクラス対抗戦。

運命の悪戯なのか、一回戦で一夏兄と鈴ちゃんのカードだった……!

最初から専用機持ち同士の対戦、他の人たちも盛り上がってたな~。

結末から言えば、二人の勝負は鈴ちゃんが勝った!

いや~、一夏兄も中々食らいついてたんだけどね~。

鈴ちゃんの見えない砲撃、鈴ちゃんが一切油断していなかったこと、そして何よりも経験の差が圧倒的だった!

一夏兄の切り札を出さないように動いて倒す。

 

「……うん、僅か一年で代表候補生になれる訳だよ」

 

鈴ちゃんの戦闘センスは半端ないって改めて思ったよね。

勿論どっちも応援してて鈴ちゃんが勝ったのも嬉しいし、一夏兄が負けたのは僕も悔しい……。

だけど、一夏兄もこの戦闘で得るものがあったんじゃないかな~って思うんだ!

現に試合が終わった後の一夏兄の目、真っすぐ前を見据えてたから。

──そしてそして、一年のクラス対抗戦の決勝戦は鈴ちゃんと簪ちゃんだった!!

鈴ちゃんは二回戦から余裕を持ってトーナメントを勝ち抜いて、簪ちゃんも試合の中で初めて身に纏った専用機を徐々に体に馴染ませながら順当に勝ち上がった。

──二人の勝負の結果は、鈴ちゃんの勝利で幕を閉じた!

簪ちゃんも当然強かった。

あくまで僕の考えだけど、ある意味で結局は経験の差かな~って。

その経験っていうのも、ぶっつけ本番で専用機に乗ったか乗ってないかだと思うんだ。

もしもの話しをしても仕方ないかもだけど、簪ちゃんが鈴ちゃんと同じくらいに乗ってたらまた違った結末になってたかもしれないね?

あーあ、さっきも透明化シールを張ってそろ~りそろ~り打ち上げの様子を覗いてみたけど、みんな楽しそうだったな~!

 

「僕が参加しても誰も気づかないかな~?」

 

「気づくに決まっているだろう……」

 

「?! ち、千冬姉?」

 

ただの独り言だったのに、返事が返ってきてビックリした!!

 

「仕事が早く片付いたんでな。早々に帰ってきた」

 

パンパンになるくらいに缶ビールとおつまみが入った袋を手にした千冬姉は、ドカッとテーブルの上に置いて座る。

 

「一夏兄たちのクラスに顔出さなくて良いの?」

 

「あぁ、山田君……副担任に監督を任せているから大丈夫だ。それに私が居ても妙に盛り上がらないだろうからな」

 

澄まし顔でプシュッと缶ビールを開けながら、

 

「わわっ?!」

 

「ふっ、(たま)には姉弟水入らず、こういうのも良いだろう?」

 

僕を片手で抱き寄せた千冬姉は、そのまま胡坐の上にスポンと座らされた。

 

「ち、千冬姉……。スカートタイプのスーツなのに胡坐はだらしないよ……。それにお酒臭い!」

 

「今日まで色々と仕事が多く、明日からも仕事があるんだぞ?? 私も人間だ。こうしてストレスを発散させないといつか爆発してしまう……!」

 

「た、確かに千冬姉が暴走したら洒落にならないよ?! もう~、今日だけだからね?」

 

「ふっ、何を言っている? これからストレスを発散する度にお前に抱き着くぞ??」

 

ちょっと顔が赤くなってるお酒臭い千冬姉は、普段は出さない楽しそうな意地悪顔で笑う。

 

「千冬姉もしかしてもう酔っぱらったの?!」

 

「私がこんなすぐに酔っぱらうわけがない!」

 

「むぎゅっ?! 抱きしめる力が強くなってるよ?!」

 

「もうこのまま寝る!!」

 

「え~?! ちょっと千冬姉?!」

 

本当にこのままの状態なの……?

 

「すぅー……くぅー……」

 

もう寝息が聞こえるし!!

……まったく仕方ないなぁ、千冬姉は~。

なんだか千冬姉の温もりがちょうど眠気を誘う、お酒臭いけど!

僕もそのまま目を瞑って──

 

 

 

 

 

──翌朝、目が覚めたら既に千冬姉は部屋に居らずお仕事に行っていた。

昨日のビールの空き缶は最低限台所に置かれていて、僕は完全に目を覚ます為に食器も含めて洗う。

そして歯磨きして顔を洗う、ついでにシャワーを浴びて服も着替える。

 

「──よ~し! 目が覚めた!」

 

窓も開けて部屋の換気も忘れない!

さ~て、今日は土曜日! 今から何をしよう?

時計を見るとまだ朝の八時過ぎ。

う~ん、お腹も減ってるし朝ご飯から作ろうかな。

何て軽くストレッチをしながら今日の予定を立てる!

するとブーブーとスマホが揺れる。

 

「……電話だね、誰からだろ? ──ラウラちゃんからだ?!」

 

僕は通話ボタンを押して、

 

「もしもし? ラウラちゃん??」

 

『桜! 私だ、ラウラだ!!』

 

うわ~! 本当にラウラちゃんだ!

ドイツの軍人さんで普段は忙しいから中々連絡出来てなかったけど、まさかラウラちゃんから電話がくるとは!

 

「おぉ、久しぶり! ラウラちゃん元気だった?」

 

『あぁ、私はいつも元気だぞ! 桜は元気だったか? 風邪など引いていないか??』

 

「にしし、心配しすぎ! 普通に健康だよ!! ……それで、突然どうしたの?」

 

『いやなに、ニュースで一夏がISを動かしてIS学園に入学したと聞いてな!』

 

「やっぱりドイツでも話題になってるんだね~! その通り、一夏兄はIS学園で日々頑張ってるよ! 僕は今は中学校に通えないからIS学園で過ごしてるんだ!!」

 

『なん……だと……! それは本当か?!』

 

「え? う、うん。本当だけど……」

 

『IS学園の生徒は皆男に飢えた獣だと聞いている!! 襲われてはないか?!』

 

「お、襲われてないよ?! 平和だよ! へ・い・わ!! 新しいお友達もできたし楽しく過ごしてるよ?」

 

『だがそれも時間の問題かもしれん!! これは機密事項ではないから言えるが、私も近々転校生として通学することになる! だから、私が行くまでは何とか持ちこたえるんだぞ!!』

 

「だからラウラちゃんが思ってるような人たちじゃな──」

 

ツーツーと通話が切れちゃった……。

ラウラちゃん、どうしてあんなに勘違いしてたんだろ……?

ラウラちゃんと会えるのは楽しみだけど、会った時はちゃんと勘違いを解かないと!!

僕はそう決めると、とりあえずはお腹が空いたから朝ご飯を作ることにした!

なんたって、お腹が減っては戦もできぬって言葉もあるからね!

 

 

 

 

 

 



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じゅうにわめ!

皆さまお久しぶりです。
今話は虫が出るので苦手な方や想像力豊かな方は閲覧注意かもです……。



──ラウラちゃんとの電話が終わって予定通りに朝ご飯を食べた僕は今! 一人この部屋で絶望と戦っていた……。

僕をジッと見据えるように、微動だにしない絶望──G(ゴキブリ)は、何処から侵入しているのか分からないまま1匹、また1匹と僕の視界に映る範囲で増えていく……!

 

「じゅ、10匹は余裕でいるんじゃない……??」

 

僕だって曲がりなりにも男だ。

Gの1匹や2匹なら頑張って戦っていたと思う。

だけどこの瞬間にも奴らGはまだまだ数を増やす。

それこそ四方八方にGたちはカサカサとそこら一帯をッ!!

 

「ひゃっ?!」

 

思わず変な悲鳴をあげながらしゃがんでしまった!

だけど仕方ないよね?? 僕の顔面目掛けて飛んで来たんだから!!

不可抗力だよ、本能が体を動かしたんだよ……!

 

「くっ、携帯電話は目と鼻の先にあるのにその数歩すら歩けないくらいに溢れてきてる……っ」

 

10匹なんてとうに超えたG軍団。

もう一周回っても冷静になれるわけがない僕だけど、この状況を打破する方法を必死に考えてみる……。

既に能力は奥の手という選択肢を設けるくらいには切羽詰まっていて、余裕が消えていく心を深呼吸で必死に押さえつけながら考える。

まずはそもそもどうやってこの部屋に侵入したのか。

僕がこの部屋に住み始めてから、きちんと掃除もしてるしGが出る心当たりはない。

……本当はGって、見た目とは裏腹に綺麗好きな虫らしい。

だからってこの部屋に出る心当たりなんてない!

 

「あは、仮に出たとしても1匹……多くて2、3匹だと思うけど。もう100匹は超えたんじゃないかな? この部屋に居るGさんたち♪」

 

なんかもう謎にテンションが上がってきた!!

こんな状況で、いや、こんな状況だからこそアドレナリンが爆発したのかもしれない!

僕はこのチャンス? を逃さない為に、最大限に集中してGを踏まないようにもう神業に近い忍び足で携帯の元まで進み何とか辿り着いた。

こんな数歩もない距離なのに、異様に汗かいてるおでこを袖で拭って、奇跡的に引っ付いていなかった携帯を手に取った。

 

「っ、誰にSOSを送るか……」

 

警戒を怠らず、視界に周囲を収めながら悩む。

僕が助けを求めた相手は、この地獄に巻き込んでしまうのと同じだ。

だけどもう迷ってる時間が無いのも確かだった。

 

「──もしもし?」

 

結局のところ、僕は、

 

「あ、い、一夏兄? ……今大丈夫??」

 

そう。

僕の兄、一夏兄だ!

 

「おう、俺は大丈夫だけど……いきなり改まってどうしたんだ? しかも電話なんて珍しいな?」

 

「あはは、単刀直入に言って部屋から出れないくらいには僕、ピンチなんだよね~……」

 

「なっ……?! お前がピンチって、取り合えず待ってろ! すぐそっちに行くからな!!」

 

そう言って通話が切れた。

確かに僕がこういう風に一夏兄に頼ったことって今まで無かったような気がする。

 

 

 

 

 

「桜ッ!! 大丈夫か?!」

 

それから数分の時間この部屋で何も出来ないままただ一夏兄を待っていた……。

そしてこの部屋唯一の扉からノック音と一夏兄の声が!

 

「一夏兄! その扉は鍵掛かってるから開けれないし、何より開けちゃダメだから、窓側から来て!」

 

「っ、分かった!!」

 

この部屋は一階の一番端っこにある、そして窓からはちょうど外が見える。

……つまりここの窓と外は繋がっている。

もしかしたらGが外から侵入しているのかどうかが分かるかもしれないし、それこそ万が一でも部屋の扉を(あけ)ちゃったら──Gが一斉に廊下に飛び出して学園中が大パニックになる可能性だってある!!

 

「大丈夫か桜ってなんじゃこりゃ?!?!」

 

外に回って窓を覗き込んだ一夏兄は素っ頓狂な声を上げる。

 

「な、何が起きたんだ?!」

 

「僕にもさっぱり見当がつかない! 突然現れたと思ったらこんなあり得ない現象に巻き込まれちゃった!! それよりも一夏兄、窓の近くからGが侵入してる様な痕跡はある?!」

 

僕の言葉にハッと我に返った一夏兄は、キョロキョロ首を動かす。

その間にもまだまだ増え続けるGに対して、もう僕の正体はGが進化した姿なのではないかなんてある種の悟りを開きかけてた時だった!

 

「──あった! あったぞ桜!! ッッ?!」

 

「どうしたの一夏兄?!」

 

この部屋の窓からは外が見える、だけど綺麗な海が見える訳じゃないんだ。

見えるのは自然豊かな森。

そして一夏兄の視線は森の奥に注ぎ込まれていた。

何よりも、一夏兄の顔色がどんどん青白くなっていっている。

 

「……終わった」

 

「何が?!」

 

「くっ! もう俺たちは終わったんだ、桜!!」

 

「だから何が?!?!」

 

あれだけいつも元気で爽やかな一夏兄なのに、今は本物の絶望を覗いた亡者になりつつあった……声すら震えてる。

それだけじゃなかった。

僕の居るこの部屋にも異変が起きた!!

 

「っ?! Gたちがこぞって外に出てる……??」

 

あれだけうじゃうじゃしてたGたちは、1匹残らず森の奥に移動していく。

ここからじゃ一夏兄が見ている光景、そしてGたちがどこに行っているのかが分からないから、窓を開けて一夏兄の隣に立ち──

 

「──なに……あれ……?」

 

「この状況でヤンデレ化か?」

 

「意味分からないよ一夏兄?! ……あれ、僕たちより大きい巨大なGだよね?」

 

真っ青な顔色でおかしなことを言う一夏兄に軽くチョップをし、改めてその正体に視線を移す。

 

「Gの集合体なのか、目を凝らすとうじゃうじゃしてるぜ……」

 

「あんまり直視したくはないよね……」

 

一瞬だけあの集合体の元凶は束姉なのかと考えたけど、流石にないことぐらいは理解してる。

そもそも束姉、G超苦手だし。

 

「どうすりゃあいいんだ? はぁ……IS使うわけにもいかないし」

 

「ほっとくって選択肢は元からないもんね……」

 

箒ちゃん、セッシー、鈴ちゃん、簪ちゃんにあの謎の生命体を見せる訳にはいかないし……。

この学園の生徒会長で生徒最強の楯無さん、それか人類最強の姉、千冬姉に助けを求める?

だけど、僕はふと思った。

なんでこれだけの時間巨大Gはずっとただただこっちを見てるんだろうって。

 

「一夏兄、ちょっと待ってて」

 

「桜?」

 

僕は巨大Gに近づく、恐る恐る。

 

「『読心(どくしん)』」

 

僕はここで一つの能力を発動した。

読心、どんな生物でも相手の考えていることが分かる能力。

人に試したことなんて一度もないこの能力を、G相手にするとは予想してなかったなぁ。

 

『……テンテキ、キタ。テンテキ、キタ』

 

テンテキ……天敵? が来たってことかな?

 

『オマエハ、オレヲミテモ、コロソウトシナカッタ。ダカラ、タスケテ』

 

あぁ、だから僕に一切の危害を与えなかったのか! ……顔目掛けて飛んできたのはこの際忘れてあげよう。

 

「それなら、案内して?」

 

言葉が通じるかは分からなかったけど、

 

『ワカッタ、コイ』

 

そう言って背を向けた巨大Gはカサカサではなくガサガサと森の奥に進んでいった。

その後を僕もついて行く。

 

「ど、どうなったんだ?」

 

呆然と僕と巨大Gを見守っていた一夏兄は、困惑気味に僕の隣に来て尋ねる。

 

「天敵が来たから僕に助けを求めてるらしいんだ」

 

「て、天敵? なんで桜に助けを……?」

 

一夏兄に簡単に状況を説明しながら、僕たちはただ巨大Gの後に続いた。

 

 

 

 

 

「洞窟??」

 

「この島にこんな大きな洞窟があったんだな……」

 

森を抜けて、島の端まで来た僕たち。

そこから崖を降りて、着いた場所は洞窟だった。

しかもある程度の船だったら余裕で入れるくらい大きな洞窟。

 

『ココ、オレタチノスミカ。ダガ、ヤツガキタ』

 

巨大Gはそう言って洞窟を眺めながら立ち尽くす。

あはは、もしかして……

 

「一夏兄、ここからは僕たちだけで行けってことみたい」

 

「ま、マジかよ?! この洞窟に案内無しで進むのか?」

 

僕は頷いて、洞窟に向かって進む。

もう覚悟はできた、何が出てきても大丈夫だと思う!!

 

「しっかしこの短時間で状況が目まぐるしく変わっていくよな」

 

一夏兄も僕の後をついてきてくれて、苦笑いでぼやく。

もうここまで来たら、ただ同じように苦笑いで頷き返すしかできない僕は、意外と明るい洞窟内をどんどん進んでいく。

 

「それよりも、今更だけどごめんね? 昨日はクラスマッチだったし、まだ疲れも残ってるでしょ?」

 

「おいおいなに言ってんだよ。俺は全然元気だし、もしどんな状態だろうと……弟の頼みならそれに応えるのが兄貴ってもんだろ?」

 

そうニカっと笑って僕の頭をポンポンと撫でる一夏兄。

 

「──一夏兄、気づいてる?」

 

「あぁ、これも毎日の特訓の成果の賜物かな」

 

僕と一夏兄は歩みを止め、奥に(うごめ)く巨大でビックでジャイアントなM(ムカデ)を引き攣った頬を指で摘みながら観察する。

 

「なんか、今日は不思議体験の連続でもうお腹一杯かも」

 

「もうこの場所も含めて、ここが地球なのかも怪しくなってくるな……」

 

「にしし、もしかしたらここは異世界だったりしてね!」

 

「冗談はあのムカデだけにしてくれ?!」

 

さて。

現実逃避はこれくらいにして僕は考える。

あのムカデをどうやって追っ払うか……倒すか。

僕は一応、あのムカデにも読心してみる。

 

『ゴギャグギャメギャギギャ』

 

理解不能だった。

少なくとも知能が無いに等しいのが分かっただけでも吉かな?

そのことを一夏兄にも伝える。

 

「そっか。ならここで仕留めるか?」

 

「……うん、じゃなきゃ巨大G以上に巨大ビックジャイアントMが学園に近づいたらB級怪獣映画になりかねないし」

 

「だけど生身でMに勝てるわけないよな。かと言って、IS発動なんてしたらすぐにバレるしさ」

 

「僕の能力使ってもいいけど……はっ?!」

 

良いこと思いついたかも!!

僕はバッと勢いよく一夏兄に顔を向ける。

僕の笑みに何かを察したのか、一夏兄はじりじりと後ずさる。

 

「──一夏兄、クラスマッチで負けた時悔しかったよね?」

 

「っ、あぁ」

 

「もっと強くなるって思ったよね??」

 

「お、おう」

 

「……これはチャンスだよ! 一夏兄!!」

 

僕は壁際まで追い詰めた一夏兄の両手を掴み、ジッと顔を見る。

一夏兄も僕から逃げられないと悟ったのか、溜息を零しながら降参だと肩を竦める。

 

「それで? 大方の予想はついてるが、説明してくれ」

 

「うん。──一夏兄、ISの部分展開って知ってる?」

 

部分展開、それは片腕だけだったり武器だけだったり、ISの一部だけを発動する言葉通りの技術だ。

 

「あぁ、そりゃ知ってるけど……っ、まさか?!」

 

「にしし、そう。部分展開ならISを発動しても信号をキャッチされないよね? だから、両腕と両脚、頭の部分と武器を発動させれば空は飛べないけど戦えるんだよ!」

 

「要するに千冬姉の劣化版か……?」

 

「それは流石に千冬姉に失礼だよ?! コホン。今から2倍の重力を解くから、一夏兄は部分展開して!」

 

一夏兄は不服そうな表情ながらも、僕が異能の力を使ったらオーバーキルになりかねないと思ってるのかもしれない。

だから素直に部分展開してくれた。

そして重力を解いて、

 

「おぉ、なんかいつもと違って新鮮だな!」

 

ぴょんぴょんと絶対に人間では飛べない高さの脚力を余裕で見せてくれる。

スイッチが入ったらしい一夏兄は、

 

「行ってくるぜッ!!」

 

そう言い残し気合の雄叫びを出しながら、奥のMに向かって尋常じゃないスピードで走り出した。

あんなにスピード出して体が持つのかなって、息できるのかなって思ったけど、一夏兄って千冬姉と同じ血を引いてるんだよね(僕もだけど)。

僕はいつでも加勢できるように戦いを、一夏兄と巨大ビックジャイアントMの死闘を見守った。

 

 

 

 

 

──夜。

1時間に及ぶ死闘の末、勝利したのは一夏兄だった!

怪我も無く倒した一夏兄がまた一歩千冬姉に追いついたなってつい感慨深く思った。

Mを討伐後、巨大Gに報告したら一言『アリガトウ』とだけ言われさっさと洞窟に帰って行った。

もう既に息絶えたMはそのままにしたけど、どうやら今日はGたちの宴らしい……聞かなきゃよかった……。

今日のことは僕と一夏兄だけの、兄弟の秘密として皆には話さないことにした!

だって内容が内容だし……ね?

 

「今日はありがとね、一夏兄!」

 

僕は親しき中にも礼儀ありの心で、もう一度お礼を言った。

 

「気にすんな。また何かあったら迷わず呼べよ? 何度も言うけど、俺は桜、お前の兄貴なんだからな?」

 

「うん!」

 

最後におやすみと言い、僕は一夏兄と別れた。

……今日から一夏兄の重力は3倍になり、僕は僕にできることを一夏兄にしようと改めて思えた、そんな不思議な一日だった!!

 

 

 

 

 

 



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じゅうさんわめ!

誤字報告ありがとうございました!




「うわぁ~ん! 助けて桜く~ん!!」

 

昨日とは打って変わり、今日は平和な昼下がり。

それは唐突に楯無(たてなし)さんに抱き着かれたのをきっかけに終わっちゃった……!

 

「……えっと、鍵空いてました?」

 

色々と突っ込みどころは満載だけど、ある意味で楯無さんのスキンシップに慣れてきた僕がいる……。

だから自分の頬っぺたを僕の頬っぺたにピタリとくっつけて不気味な笑い声を発している楯無さんの行動はもうスルーだ! じゃないと僕の身が持たないからね……。

 

「流石に私でも勝手に鍵を開けたりしないわよ?」

 

う~ん、千冬姉が出て行ってから閉め忘れちゃってたみたいだね。

結果的にだけど、鍵が開いてても閉まってても僕が楯無さんを部屋に招き入れた時点でこうなることはほぼ確実だったのかもしれない。

現に凄い勢いで、それでいて優しく背中越しに抱き着かれてるのが証拠になるかな?

 

「それでどうしたんです? 今日は日曜日でしかも昼間なのに制服まで着ちゃってるじゃないですか」

 

僕の髪の毛を好き放題弄ってる楯無さんが、重い溜息を吐いた。

 

「今日は生徒会の部屋を大掃除する予定だったの。メンバーは、私と(うつほ)ちゃん、本音(ほんね)ちゃんの生徒会メンバーに、手伝いを申し出てくれた天使の(かんざし)ちゃん!! 最初は四人で掃除する予定だったんでけどね……」

 

「……もしかして」

 

「そうなのよ、虚ちゃんも本音ちゃんも天使簪ちゃんの全員が急遽用事が入っちゃってね~」

 

「そ、それはなんというか……ドンマイです」

 

今まで暗い顔でテンションが下がってた楯無さんがバッと顔を上げる。

その瞳には涙が溜まっていて、なぜだか抱き寄せる力が強くなった気が……?

 

「そ・こ・で。桜くんに頼みがあるんだな~」

 

僕の耳元でぼそりと呟いた。

それもなんでか知らないけど、無駄に息を混ぜるから耳がくすぐったい!

 

「……なんで僕なんですか? 楯無さんはこの学園の生徒会長で生徒からの信頼も多いでしょうし、友達も沢山いるんじゃないですか? それこそ僕よりも掃除が得意なむぐぅ?!」

 

僕の顔ごと抱きしめてきたせいで、これ以上喋れない?!

い、息がしづらい!!

 

「え~、桜くんなら二つ返事に了承してくれると思ってたんだけどな~。掃除を手伝ってくれたらお礼はちゃんとするから、ね?」

 

これはもう断れない流れだろうし、もうそろそろ酸素が欲しい!

僕は精一杯頭を縦に振る。

 

「っ、ん。ありがと~! それじゃあ早速行きましょうか!」

 

「──わ、わかりました」

 

解放された僕は楯無さんの後ろをついて行く。

うーん、僕が頭を振ってた時に少しだけ楯無さんの体が痙攣したような……?

それに楯無さんの頬が少し赤いのは気のせいなのかな??

なんて思考もすぐに切り替えて、掃除をする前は軽くストレッチでもした方がいいかなと思ったりしてみた。

 

 

 

 

 

「──おぉ……! パンパンに詰まった袋や段ボールの山で一杯ですね?!」

 

生徒会室に入ってみると想像以上に散らかっていた。

なんでこのタイミングで大掃除をするのかなどの些細な疑問が吹っ飛ぶくらいに袋と段ボールしか見えない。

 

「四人なら夕方には終わる量だけど、流石に一人だとね……」

 

「今日中に終わらせるには、せめてあと一人は欲しいところですねー」

 

なぁんていつまでも現実逃避ならぬ雑談をしてても時間だけが増えてくだけだよね。

一先(ひとま)ず僕は中々踏ん切りがつかないでいる楯無さんを促し、段ボールを廊下に運ぶことから始めた。

理想は二人でご飯時までに終わるのが理想だけど、最終手段で一夏兄を呼ぶ手段もなくはないんだけど……。

 

「よいしょ、よいしょ」

 

「ん、んっ」

 

だんだん重くなってくると、僕の掛け声と楯無さんの無意識な吐息が静かな部屋に充満する。

──やっぱり楯無さんもこうして見ると普通の女の子なんだなって思うよね。

学園最強、ロシア代表の世界に肩を並べるIS操縦者のスーパー女子高生でも、何回も往復で重い物を運んだりしてると息は乱れてくるし汗もかく。

 

「ふー、暑いわねー……」

 

……ただ、胸元のネクタイを(ほど)いてボタンを開けるのはちょっと頂けないかも。

 

「た、楯無さん。暑いのは僕も一緒ですけど、身嗜(みだしな)みはきちんと整えてください!」

 

「えぇ~、虚ちゃんみたいに固いこと言わないでよ~。……あ! そ・れ・と・も? お姉さんのセクシーな体に興奮しちゃった?」

 

胸元を強調するようにして、ニヤニヤと笑う年相応なスーパー女子高生楯無さん。

 

「はぁ、そんなことする暇あるならちゃっちゃと残りの段ボール運びますよ」

 

「そんなことの一言で流された?!」

 

楯無さんの背後にガーンと石の文字が見えた気がしたけど……きっと気のせいに違いない、うん。

拗ねてますよと言わんばかり頬を膨らませて、また段ボールを運び出した楯無さん。

それでも何だかんだとちゃんと身嗜みを整えてくれた楯無さんは、やっぱり根は素直なんだろうなって勝手ながらに思ったり。

それからは殆ど休憩も挟まずに、黙々とひたすら段ボール、そしてごみ袋を廊下に出し運び終えた。

予想よりやや早めの、その時はもう太陽も沈みかけの時間だった。

最後に掃除機をかけて、あとは後日細々(こまごま)とした作業は生徒会メンバーでするとのこと。

 

「お疲れ様~、桜くん! はいジュース。これからちょっとだけ待っててね~」

 

「はい、楽しみにしてます!」

 

僕は楯無さんに淹れてもらったオレンジジュースを貰う。

そして現在エプロン姿の楯無さんは、鼻歌交じりに生徒会室の別室にある和室で料理をしていた。

その和室にはキッチンを元に料理器具や調味料が一式揃ってるんだって!

今日の掃除を手伝ったお礼にと、楯無さんの提案で手料理を振舞ってくれることになった!

どんな料理かは完成してからのお楽しみなんだって。

料理を待っている間、何気なしに生徒会室を観察する。

すると、

 

「……?」

 

向かい側のソファーの下に一枚の紙が落ちていた。

処分忘れかなとその紙を手に取ってみると──

 

更識(さらしき)……刀奈(かたな)……?」

 

と、楯無さんの顔写真が貼られているプロフィール(しょ)らしきものの名前欄にそう書かれてあった。

 

 

 

 

 

 




それではまた!


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じゅうよんわめ!

皆さまお久しぶりです、そして明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

これからも是非、暇つぶしに読んでくれると嬉しいです!



──何故か楯無(たてなし)さんが一年前に書かいただろう入学願書が向かい側のソファーの下に落ちていた。

その名前の欄には、更識(さらしき)楯無じゃなくて、更識刀奈(かたな)と書かれてる……。

瞬時に様々な考えが浮かぶけど、この書類はこのままにしておいて、何事も無かったかのように元の位置に戻ろうと結論付けた──

 

「──あと少しで完成するからもうちょっと待ってて……って、そんな所で何してるの?」

 

「?! あ、えっと……」

 

タイミングで、奥の部屋で料理をしていた楯無さんが顔をひょっこりと出しながら、不自然な僕の位置に疑問顔で首を傾げる。

咄嗟のことに僕の反応も怪しかったのか、僕に近づいてきて例の書類を発見した様子だった。

 

「……これ、どうしたの?」

 

さっきまでニコニコと笑っていた楯無さんの表情が苦笑いへと変わる。

嘘をつくのは当然ノーだから、

 

「ジュース飲みながら待ってたんですけど、視線をここに向けたらその紙が落ちてたんです」

 

僕の返答にチラッと視線を僕の目に向けて、

 

「……はぁ、ちゃんと保管してた筈なんだけど、掃除のごたごたでここに落ちたようね」

 

楯無さんはそう自己完結してから、やれやれと呟く。

僕はどういう反応をすればいいのか分からず、多分曖昧な表情で楯無さんを見つめた。

 

「……その顔だと、やっぱり見たわよね?」

 

「……はい」

 

「……うーん、そっか。まぁ桜くんになら知られても全然良いんだけどね♪」

 

そう言ってそんなに気にしていない様子の楯無しさんは、その書類をひらひらさせながら笑う。

 

「そんな軽くて良いんですか?!」

 

さっきまで雰囲気も重かったこの生徒会室の空気がガラリと一転した!

それくらい楯無さんはいつもの雰囲気で……いや、何だか普段よりももっとほんわかしたオーラが見えるような気がする……。

 

「ふふ、本来なら極々一部の人しか知らない私の本当の名前。それこそ絶対にバレちゃいけなかったんだけどね~」

 

楯無さんはさっきとは違った……ちょっと大人な笑みを浮かべて、

 

「桜くん、約束とお願いが一つずつあるんだけど……聞いてもらえるかな?」

 

「ぼ、僕で良ければいくらでも」

 

「そう? じゃあまずは約束。私は桜くんが誰かに私の本名を明かすような人じゃないって信じてるけど……一応、ね?」

 

「勿論このことは誰にも言いませんよ?」

 

僕は何度も頷く。

もし約束をしてなくても人の秘密を誰かに漏らすような真似は絶対しない!

楯無さんも僕のことを言葉通りに信じてくれてるのか、確認だけで終わった。

 

「そして……お願い、なんだけど」

 

「……?」

 

「えっと、その……。これからは、二人の時は楯無じゃなくて…………刀奈って呼んでほしいの」

 

最後はボソッと聞こえるくらいの声量で、顔を赤くした楯無さんはそう言った。

緊張してるのか、両手の指先がせわしなく動いてる。

そんな楯無さんを見てると何故だか心が温かくなってきた。

 

「──分かりました、刀奈さん!」

 

僕はこの瞬間の刀奈さんの花が咲いたような笑顔を──生涯忘れないと思った。

それからはすぐに料理を食べた!

ほかほかの白米、温かいシンプルなお味噌汁、新鮮で瑞々(みずみず)しいサラダ、ギュッとお肉の旨味は詰め込まれた唐揚げ! 腹八分で大満足の晩御飯だった!!

 

「どう? 美味しかった?」

 

と、楯無さん改めて刀奈さんは不安げに僕を見ながら言った。

そんなの当然、

 

「うん、美味しかったです! ご馳走様でした!!」

 

と、食後のデザートで作ったらしいオレンジシャーベットを食べながらたわいもない話しで盛り上がった。

 

「──っと、そろそろ就寝時間になりますね」

 

チラッと時間を確認してみればもうそんな時間。

片付けは二人で協力して手早く終わらせ、刀奈さんとは生徒会室の前で別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──次の日!

昨日はあれからすぐに部屋に帰って眠った。

そして今日は月曜日、夜に一時間ほど(ほうき)ちゃんに勉強を見てもらう最初の日。

 

「……今日は転校生、しかも“男の子”が来たって話しで持ち切りだな~」

 

恒例の束姉(たばねえ)から貰った透明化シールを額に張り付けて校内を散歩していたらその話題が耳に届く届く。

どうやらその“二人目”の男性適正者は一夏兄(いちかにい)と同じクラスに配属されたらしんだ。

千冬姉(ちふゆねえ)もたてな……刀奈さんもそんなこと一言も言って無かったから、僕も内心驚きで思わず声に出しちゃうところだった。

もしかしたらその転校生の話、詳しいことは箒ちゃんから聞けるかも?

 

「……よし、そろそろ時間かな?」

 

今日は放課後のクロエちゃんと会う約束をしてるんだ。

夜には箒ちゃんと勉強をする予定だけど、メール曰くあんまり長い時間会うわけじゃないってことで僕も了承した。

千冬姉にはクロエちゃんのことはまだ伝えていないから、出かける理由は束姉に会ってくると伝えたら嫌々ながらも了承をくれたことは今朝の事。

とにかく今から出ればちょうど良い待ち合わせ場所に着くはず!

透明化シールを額に張り付けたら準備完了で、時間を小まめにチェックしながら向かった。

 

 

 

 

 

 



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じゅうごわめ!

天気は昨日の天気予報通りに、雲一つ見当たらない快晴日。

最近はこの透明化シールがあるお陰でちょこちょこ外に出れるようになったのは本当に嬉しいし、本当に束姉に感謝!

だけど完全に透明になる訳じゃ勿論なくて、物や人にぶつかれば普通に接触することになるから、余所見をして歩いていると下手したら幽霊騒ぎになるかもしれない。

そんな事を思いながら歩いていると、

 

(ここかな?)

 

クロエちゃんと待ち合わせ予定の喫茶店に到着した。

当然入店する前に人気のない場所で透明化シールを剥がす。

 

(これで入れるね。クロエちゃんはもう来てるかな?)

 

僕は喫茶店の扉を開けてサッと店内を見渡す。

するとクロエちゃんらしき人、っていうか、クロエちゃん本人の後ろ姿が身に映った。

 

(やっぱり僕が後だったか……)

 

店員さんの案内に、「人と待ち合わせしてるんです」と、一度は言ってみたかった台詞を伝えて、クロエちゃんの元に寄る。

 

「──あ、桜さま!」

 

「お待たせ、クロエちゃん」

 

……ほんの、ほんの少しだけクロエちゃんの後ろ姿によく似た別人だったらどうしようかなって考えも(よぎ)ったけど、そんな不安はクロエちゃんの笑顔で吹き飛ぶ。

 

「いえ、私も先ほど着いたばかりです。……まずはメニューから頼みますか?」

 

「うん」

 

僕はカフェラテ、クロエちゃんは紅茶、食べ物はお互いにサンドイッチをそれぞれ注文し、他愛もない話しで盛り上がりつつ、サンドイッチも平らげた。

ここのサンドイッチは一夏兄よりも美味しいと思ったのは内緒!

 

「それで……僕を呼んだ理由をそろそろ聞いてもいいかな?」

 

話しも食事も一段落したところで、僕はクロエちゃんに本題を切り出す。

 

「──桜さま、デュノア社ってご存知でしょうか?」

 

「デ、デュノア社?? それって何かの会社の名前?」

 

初めて聞いた言葉に僕は首を傾げざるを得ないでいた……何でクロエちゃん頬が赤くなってるの?

 

「コ、コホン! ……デュノア社とは、フランスを代表するISメーカーの会社名です」

 

誤魔化す様に咳ばらいをして、真剣な顔に変わるクロエちゃん。

 

「会社の詳細は省きます──単刀直入に言えば、二人目の男性操縦者、フランスの代表候補生という肩書きで一夏様と箒様が在籍するクラスに引っ越してきた“シャルル”・デュノアという人物。実はデュノア社の社長と今は亡き妾の子、“シャルロット”・デュノアという女の子なんです」

 

……ふむ。

そう言えば今日の学校探検で、確かに二人目の男性操縦者が一夏兄のクラスに転校してきたって話題で持ち切りだったよね。

 

「ごめん、話の意図がわかんないや……」

 

僕は苦笑いでクロエちゃんに先を促す。

 

「束様が集めた情報の結果、シャルロット・デュノアは一夏様のISデータを盗むために学園に送られて来ました。社長の妻でありシャルロット・デュノアの継母が彼女を嫌っているらしく、この計画はデュノア社のこれ以上発展する余地のない未来を打開するための策として、バレてもトカゲの尻尾切りのように、シャルロット・デュノア捨てることができるから……という背景が明らかになりました」

 

「……」

 

「──表向きは、です」

 

「表向き……?」

 

「はい。束様はこの情報までしか集めていませんでした……忙しいという理由と、これ以上の材料は要らないと判断されたのでしょう。一夏様や箒様には千冬様が基本的に傍にいますが、桜さまの場合は少々特殊……よって、あくまで頭の片隅にでもという理由で、この情報をお伝えするために束様の頼みで今日はこの場にお呼び致しました」

 

(束姉も相変わらずだね……)

 

「……なるほど、僕が今日呼び出された理由は分かったよ。それで、クロエちゃんが知った情報は僕に教えてくれるのかな?」

 

今までの話だと、何だか胸がモヤモヤして複雑な気分になる。

 

「勿論です。というよりもここからが私にとっては本題となります。私が得た情報では、デュノア社長は超娘想いですし、継母に至っては超超超ツンデレだということが明らかになりました」

 

「……どゆこと???」

 

「シャルロット・デュノアを男装スパイとして学園に送り込み、一夏様のISデータを盗むというのは表向きで、本当の理由は、デュノア社内でシャルロット・デュノアを暗殺する計画を知ったデュノア社長──アルベール・デュノアは、まず彼女を世界でもっとも保護された存在であるIS操縦者にして、そしてあらゆる組織、国家が干渉することを許されないIS学園に送りこみ──暗殺計画を頓挫させるのが本来の目的だったようです」

 

「それってシャルロットさんは知ってるの? 本当の計画を……」

 

「いいえ、知らないでしょう。デュノア社長と継母はシャルロット・デュノアを守る為にあえて自らが嫌われるように仕向けた計画だった。敵を欺くにはまず味方から──などと言う言葉もありますが……」

 

そう言ったきり、クロエちゃんは黙ってしまった。

僕も浮かぶ言葉が見つからない。

もう殆どないカフェラテを飲み干し、僕たちは喫茶店を後にした。

 

 

 

 

 

「それでは桜さま、私はここで」

 

人気のない寂れた公園で少し気分転換に話した後、クロエちゃんはそう言って束姉の所に帰って行った。

……、

 

「僕も帰ろうかな」

 

額に透明化シールを張って僕はIS学園に向けて歩く。

──シャルロット・デュノア……僕に出来ることって何かあるのかな? そんなことを今日の夜、箒ちゃんとの勉強会が始まるまで、一人で悶々と考えていた。

 

 

 

 

 

 




ちょこっとシリアス? が続いておりますが、シャルロットちゃんとのフラグが立ったかなと思います。

それでは、また!


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じゅうろくわめ!

皆さんお久しぶりです!



──箒ちゃんとの勉強会!

手作り問題集は僕が今まで習った所をピックアップしてくれてたお陰で、ちゃんと理解しながら復習することができた!

そしてあと何日間かは復習問題を解いて、それから僕が遅れている学力を取り戻す方針だって箒ちゃんが教えてくれた。

 

「──ごちそうさま!」

 

「あぁ、お粗末様」

 

勉強が終わってから、僕は箒ちゃんの料理を食べ終わって幸せな気分に浸っていた。

箒ちゃんもお茶を飲みながら食後の一服を満喫している。

 

「……」

 

だけど。

箒ちゃんのチラッチラッと時計に目を向ける回数が多くなってきた。

──にしし、あー、なるほどね~。

 

「──箒ちゃんは一夏兄に告白しないの?」

 

「ぶふぉ?!」

 

僕は悪戯顔で箒ちゃんにとっての爆弾発言を投下してみた。

するとタイミングが悪かったのか、口に入れたお茶を勢いよく噴き出してしまった。

 

「……箒ちゃんも中々に強烈なカウンター返しができるんだね」

 

と、真正面に座っていた僕の顔は箒ちゃんのお茶でベタベタな状態に。

 

「す、すまん?!」

 

慌てたようにタオルを持ってきてくれた箒ちゃんに、

 

「いやいや、僕が悪いんだから箒ちゃんは謝らないで! 僕の方こそびっくりさせちゃってごめんね……」

 

受け取ったタオルで拭き取ったあと、僕は箒ちゃんに頭を下げる。

 

「私は平気だから気にするな。──しかしなぜ唐突にそんな発言をしたんだ……?」

 

凛とした表情で謝罪を受け止めてくれた箒ちゃんも、先ほどの発言を思い出したのかカーッと顔が赤くなる。

そんな箒ちゃんのリアクションに僕は微笑ましい気持ちになる。

 

「だってさ、小さい頃から箒ちゃんが一夏兄の事を好きって知ってるし、僕は将来の義姉(おねえ)ちゃんは箒ちゃんが良いって思ってるんだよ?(それに箒ちゃんも案外鈍感だから気づいてないんだろうけど、一夏兄は箒ちゃんの事が好きなんだよね……)」

 

それは千冬姉も束姉も気づいてるのに、本人同士だけが気づいてない外から見れば何ともモヤモヤする距離感。

かと言って本人が納得していないのに周りがお節介を焼くのもちょっと違う気がするんだ。

だからこうやってさり気なくさり気なく気持ちを前向きにさせていかないと、いつまで経っても二人が恋人になれる未来は来ないと思う。

一夏兄と箒ちゃんの性格を知り尽くしてる僕と千冬姉と束姉の答えがこれだった。

 

「そ、その言い方だと恋人を超えて夫婦になるぞ?!」

 

「にしし、僕はそういう意味で言ったんだよ? ……一夏兄って昔からモテてるよね? この学園には僕は例外として、一夏兄以外は全員女子。もしかしたら近いうちに勇気ある子が一夏兄にアタックして交際を始めちゃうかもしれない……。僕は一人の友達として、箒ちゃんを応援してるし僕に出来ることがあれば何でもするからさ!」

 

僕は自分の本心をハッキリ伝えた。

箒ちゃんは目を瞑り何かをかみ砕くように一度、大きく頷いた。

カっと開かれた瞳は決意に満ち満ちている。

それからこの話題は一旦幕を閉じ、明日の勉強会の約束をして部屋に帰った!

シャワー浴びないと流石にタオルで拭いただけだとね……?

 

 

 

 

 

──翌日の放課後!

今日も今日とて家事を一通り終えた僕は透明化シールを張って学園内を散歩していた。

話題は昨日と似たようなので、二番目の男性操縦者はまさに貴公子だとか、一夏兄もそろそろ一人部屋になるかも、みたいな話しで盛り上がっている。

……一夏兄が一人部屋に移れば箒ちゃんのアプローチする時間が減っちゃうのが残念だけど、こればっかりは仕方ないのかな。

 

「……あれって」

 

今日は天気も良いし風も気持ち良いから屋上に行ってみた!

するとそこには先約が居たようで、

 

「……はぁ」

 

と。

一夏兄以外に男子制服を着ている、(まさ)しく二番目の男性操縦者が溜息を零しながら一人でベンチに座っていた。

遠目からでも分かるくらいサラサラな金髪を首の後ろで束ねていて、紫の瞳が悩まし気に空を見つめている。

中性的な顔立ちも合わせて──シャルル・デュノアくん、本当に貴公子みたいで絵になるなぁ。

だけど……

 

(女の子、なんだよね)

 

僕は無意識のうちにシャルルくんを見つめていたのか──目が合った。

 

「ッ?!」

 

シャルルくんは幽霊でも見たような反応で僕を凝視する。

 

「……君が一夏が言っていた弟くん?」

 

だけどハッと思い出したかのように恐る恐る僕に言った。

僕も怖がらせる気持ちなんて微塵も無く早く安心させようと、

 

「あ、うん! 僕は織斑桜!! 桜でいいよ?」

 

「桜くんだね? 僕はシャルル・デュノア。僕のこともシャルルって呼んでね?」

 

自己紹介が済んだあと、僕はそのまま手招きされる形でシャルルくんの隣に座る。

暫く無言で気持ちの良い風を浴びながら、どことなく綺麗な空を眺める。

 

(初めて会った人と気まずくならない静かな時間って何気に初めてかも)

 

それぐらい今の時間は心地良かった。

でも……シャルルくんの表情は浮かない。

色々な物をため込んでいる、吐き出したい、そんな幻聴が聴こえるぐらいに、シャルルくんの瞳が揺れていた。

 

「……ん? どうしたの?」

 

僕の視線に気が付いたシャルルくんは、優しくて爽やかな笑みで僕を見る。

……だけどその笑顔は、僕にとっては泣いているようにしか見えなかった。

 

(──知ったからには僕は行動に移す。焼いていいお節介と焼いちゃいけないお節介があるとするなら、今からする僕の行動はシャルルくんにとってどっちなんだろう……)

 

完全な部外者な僕だけど、僕にはシャルルくんの重荷を少しでも減らせるかもしれない。

これは僕のエゴだけど、僕がこう動くことを(わか)っていたからクロエちゃんは細かな事実まで教えてくれたのかもしれないね!

 

「──シャルルくん」

 

「なーに?」

 

「シャルルくん。いや、シャルロットちゃんの両親が男装をさせてまでIS学園に送った本当の理由(しんじつ)、僕が知っているって言ったらどうする?」

 

目を逸らさずに伝える。

シャルロットちゃんの息を呑む音が耳に届き、震えるような声で、

 

「なぜ君が知ってるの……?」

 

至極当たり前な言葉を口にされた。

──さて。

 

「取り合えず僕の話しを聞いてから判断してくれると嬉しいな?」

 

 

 

 

 

 




それでは、また!

※1話から14話までを最新話に近い文章に修正しました。
台詞なども気持ち程度に変わっています。


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じゅうななわめ!

短いですが、是非どうぞ!


「──そうだね。まずは君のお話を聞かなくちゃ、僕も判断のしようがないからね……」

 

シャルロットちゃんは僕にそう言うと、深呼吸を一度して、改めて僕に向き直った。

僕の視線とシャルロットちゃんの視線が交わる。

注がれる瞳からは『嘘は見逃さない』という意志をヒシヒシと感じる……!

 

「──実の父親でデュノア社のアルベール・デュノアさんからの命令で、二番目の男性操縦者としてIS学園に編入。一夏兄のISデータを盗み出せって言われたんだよね?」

 

「……うん」

 

「データを盗む理由はただ一つ。IS開発の発展……その為だけにシャルロットちゃんがここに来た理由」

 

「……」

 

「それじゃあ、どうしてアルベール・デュノアさんは実の娘にそんな犯罪行為をやらせたのか……。それはシャルロットちゃんの義理のお母さんが関係しているから……だよね?」

 

「……っ」

 

「義理のお母さん……継母さんにとってシャルロットちゃんは妾の子。継母さんはシャルロットちゃんにマイナスの感情があった……だから──」

 

「──僕が選ばれた。都合の良い捨て駒……それが今の僕の全てだよッ」

 

シャルロットちゃんは自虐気味に笑みを浮かべて鼻で自分の存在を笑う。

 

「桜くんは本当に僕がここに来た理由(しんじつ)を知ってたんだね」

 

虚空を見つめながらシャルロットちゃんは独り言のように呟く。

 

「──うん。確かに僕は今、シャルロットちゃんがここに来た理由(りゆう)を話したよ。でもそれは理由であって真実じゃないんだ!」

 

「……え?」

 

そう言って僕は自分の携帯電話をシャルロットちゃんに渡した!

 

「こ、これって……?!」

 

「にしし。その電話番号は名前も表示されてるけど、シャルロットちゃんのお父さんの電話番号だよ!」

 

「いやいや……何で桜くんが……??」

 

「それも電話を掛けたら分かるかもよ?」

 

僕はそれだけを伝えて屋上を出た。

 

(僕って突然現れた物凄くめんどくさくてウザったい存在かもしれないね……)

 

だけど……あの様子だと電話を掛けるような気がしたんだ。

僕は階段を下りてその先にあるベンチに座る。

そして昨日の夜を思い出しながら、シャルロットちゃんを待つことにした!

 

 

 

 

 

「わーい! さーく~ん!!」

 

「束姉久しぶぅっ?!?!」

 

ステレス性能バッチリで無音で屋上に着陸したにんじん型のロケットに入った僕は、束姉からのダイナミックな挨拶に一瞬意識が遠のく……?!

 

「束さま、桜さまが困っていますので早くその無駄に大きな脂肪をどけてください」

 

「クーちゃんが辛辣?!」

 

クロエちゃんが何を言ったのかは聞こえなかったけど、涙目になった束姉は渋々僕から離れてくれた。

も、もう少しで窒息するところだった……!

 

「それで桜さま。桜さまが仰っていた相談したいこととは……?」

 

プチカオスな状況でも、至って冷静なクロエちゃんが僕に話しを振る。

 

「そうそうそうだよ! まさかさーくんから相談事があるって電話をしてくれるなんて、『さーくんを守ろう(愛でよう)会』の会長冥利に尽きるよ!」

 

「何その謎の会?!」

 

せっかく本題に入れそうだったのに思わず聞き捨てならない単語に反応しちゃったじゃん!

 

「(……因みに私は副会長です)──……コホン。束さま、そろそろ本題に入りましょう」

 

ん? 気のせいかな?? クロエちゃんボソッと呟いてなかった??

束姉はクロエちゃんの指摘に軽く頷いて僕の顔を見る、距離が近いけど……あ、クロエちゃんが束姉の腕を引っ張って距離が離れた。

 

「──僕の聞いて欲しい相談は、デュノア社についてなんだ」

 

「ふむふむつまり! デュノア社に潜んでる闇をやっつけたいんだね?」

 

「そ、そういうこと!」

 

もう流石と言いようがないぐらいに内容が一言で伝わった……!

クロエちゃんも最初から予想がついてたみたいで、

 

「私がお教えした情報はあくまでも桜さまの身を守る為に伝えたものだったんですが……」

 

そう言いながらもクロエちゃんは戸惑う様子を見せるどころか嬉しそうに笑ってる……何で??

 

「まぁさーくんの頼み事なら束さんが断ることなんて無いに等しいんだけどね!」

 

束姉の心強い了承を得た僕は、改めて僕が考えた安直な作戦を二人に話してみた!

 

 

 

 

 

──“俺”は今、フランスの上空で待機している。

目下に広がるのは……目的地であるデュノア社だ。

 

「──いーい? それじゃあ一分後に作戦開始だからね?」

 

と、右耳にはめている無線機から束さんの声が届く。

 

「了解だ」

 

そう返事をして、俺は自分の姿を改めて確認する。

全身黒いコートに手袋、ブーツ、フードを深く被る『無敵能力』の姿。

俺が提案した作戦は簡単なもので、俺が『無敵能力』を発動し、隠密にデュノア社長夫妻とシャルロット・デュノアを狙う暗殺集団を殲滅する。

それだけだ。

だがやはりクロエはともかく束さんは不服そうだった。

何だかんだと説得した上で、束さんのサポートを前提とした隠密及び殲滅作戦を展開することになった。

 

「万が一の為に私も出撃準備は出来ています」

 

束さん作のISを持っているクロエも保険としてにんじん型ロケットで待機している。

 

「──三、二、一、GO!」

 

束さんのカウントダウンを合図に高速で下に落ちていく。

そしてそのままデュノア社に潜入した──

──そのまま僕は束姉の指示に従いながら悪い人たちをとっちめて、シャルロットちゃんのお父さんと継母(おかあ)さんに報告した!(その時には既に『無敵能力』を解いてた)

……流石に「日本人の子供が何でここに?!」って当たり前の反応をされちゃったけど、束姉の翻訳を聞きながら何とか会話を成立させて、僕とアルベール・デュノアさんは電話番号を交換した!

それがまさか昨日の今日で役目を果たすとは僕の携帯電話も思ってなかっただろうなぁ~。

 

「ふぁ~……。シャルロットちゃんも暫くは屋上に居るだろうし、僕はここで少しお昼寝しようかな……」

 

本能に逆らうべからず!

僕は無意識の内に額に透明化シールを張って、そのまま寝転んで目を瞑った……。

 

 

 

 

 

 



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じゅうはちわめ!

「ぅ……ん……?」

 

僕は首の後ろに感じる柔らかい感触に違和感を覚えて目が覚めた。

欠伸を噛み殺して瞼を開けば、シャルロットちゃんが穏やかな笑みを浮かべて僕を見ていた。

 

「──?! シ、シャルロットちゃん……? 何してるの??」

 

つまり僕は何故か知らないけどシャルロットちゃんに膝枕されてるみたい……!

眠気は一気に消え去り、起き上がりながら僕の頭を押さえつけて膝枕を継続させるシャルロットちゃんに問いかける。

 

「ん? 何って膝枕だよ?」

 

当たり前のように答えられた?! いや、確かに膝枕なんだけどさ!

しかも僕の頭を押さえている手で今度は頭を撫でてきた……?

 

「あ、そうだ。はいコレ。携帯ありがとね」

 

僕が反応を起こす前にシャルロットちゃんは僕が貸した携帯を取り出す。

 

「……話しは終わったんだね?」

 

「うん……。まだ受け入れるのに時間は掛かるし、また〝会った”時に改めて話すことになったんだ」

 

シャルロットちゃんは苦笑いでそう言った。

──それでもそんな表情も重々しい感じじゃないのは僕にでも理解はできた。

 

「……シャルロットちゃんはこれからも男装を続けていくの?」

 

「あれ? もしかしてお父さんから聞いてないの?」

 

「えっと……?」

 

「お父さんが言うには僕の事情を学園には話しを通してるんだって。だからもともとは一定期間が過ぎれば僕は男装を解く予定だったらしいんだ」

 

「な、なるほど」

 

僕は思わず感心した。

最後の最後まで手を抜かずに娘の為に策を講じてたなんて……いや、大企業の社長さんなんだから抜かりはないんだね。

 

「だから僕は明日から男装を解いて生活することに決めたんだ。桜くんが寝てる間に織斑先生や学園長には伝えたよ?」

 

僕はシャルロットちゃんの報告に二重の意味で驚いた。

一つはシャルロットちゃんの行動力!

自分の人生観が変わる出来事を知ってまだ半日すら経ってないのに、それを一度受け入れて、自分の未来への選択を自分自身で進んだこと。

いずれにしてもこれ以上僕に関わる権利も資格も無いから、僕は友達として影から支えていけたらなって心の中で思った!

──そしてもう一つは、

 

「……もしかして僕、結構寝てた??」

 

「うん、もうすぐ20時になるよ?」

 

僕はその言葉に慌てて飛び起きた! 勿論シャルロットちゃんの負担にならないように!!

 

「ど、どうしたの?!」

 

シャルロットちゃんは目を白黒させながら驚く。

 

「ごめんよ、この後予定があるんだ……! ……また明日お話ししない?」

 

「勿論!」

 

僕はシャルロットちゃんと電話番号とメアドを交換した後、急いで箒ちゃんの部屋に向かった!

予定は当然、勉強会のことだよ??

 

 

 

 

 

──翌日!

昨日は箒ちゃんとの勉強会が終わった後、寝るまでシャルロットちゃんとメールでお話ししてたんだ!

その際に確認程度に聞いたけど、シャルロット家を暗殺しようとしていた人たちと僕が関わった件に関しては、千冬姉にも学園長にも伝えてないって。

学園長もそうだけど、千冬姉にバレたらどうなるか……。

千冬姉に秘密にしてるのは罪悪感や申し訳なさで一杯だけど、心配かけたくないからね……。

だけどいつかは千冬姉にもきとんと話さないといけないよね?

 

(今日はシャルロットちゃんとは話せそうにないかな……)

 

恒例の放課後学園散歩をしてるんだけど、今日の話題は何といっても『シャルロットちゃんが女の子だった?!』って話しで持ち切りだよね。

チラッと教室を覗いてみたら楽しそうにクラスメイトたちと談笑してるシャルロットちゃんを確認できて、内心ホッとしたのは内緒だよ?

 

(後は……)

 

『来週にまた一年に転校生が来る?!』みたいな話しもチラホラと耳にした!

……多分だけど、いや100パーセントの確率でラウラちゃんなんだろうな~。

今日の朝メールで『来週からIS学園に通うぞ!』って送られてきたし。

 

(一夏兄たちもISの練習で忙しそうだし、これから何しようかな~?)

 

一通り散歩が終わった僕はそのまま寄り道せずに部屋に戻ることにした。

家事やって、勉強して、それから簡単に能力の練習でもしようかなって予定を建てる!

 

「よし、到着~」

 

部屋の前に着いた僕は、透明化シールを剥がして扉を開けようとした時、

 

「あ、桜ー!」

 

遠くから聞き覚えのある声が僕の名前を呼ぶ。

声がした方に顔を向ければ、

 

「鈴ちゃん!」

 

右手に頭から半分が無い(たい)焼きを持っていて、左手には袋を持っている鈴ちゃんが僕に近づいていた。

 

「桜、これから暇?」

 

猫のような笑顔で笑いながら食べ終わって空いた右手で僕の手を掴む。

 

「う、うん。僕は暇だけど……鈴ちゃんは一夏兄たちとIS訓練しなくていいの?」

 

「前にも言ったけど、あたしはあたしのペースがあるのよ。だから今日はお休み。(たま)にはこういう日もなくちゃ体を壊しちゃうのよね~」

 

そう言いながら自然に僕の手を引いて鈴ちゃんは歩き出した。

 

「今からどこに行くの??」

 

「今日は天気も良いし、外で鯛焼きでも食べない?」

 

鈴ちゃんは袋を僕に見せながらそう言った。

僕も小腹が空いてたし、鈴ちゃんの誘いを断る理由は特に無い!

 

「うん! 食べる食べる!」

 

僕は大きく頷いて鈴ちゃんに連れられるままに中庭に向かう。

中庭に着くまでの道中で、今週の休日に〝約束”した遊園地に行くことになった!

クラス対抗戦も無事に終わったし、鈴ちゃんの予定も今週の休日なら空いてるからってことで、楽しみがまた一つ増えたなぁ~。

 

 

 

 

 

 




それではまた!


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