艦娘にハグしてみる (大葉景華)
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紹介の場合

今回はストーリーではなく各キャラの紹介となります。
新キャラが出る度に更新する気がするのでたまに見返してくだされば幸いです。なお、このキャラのこういう部分をもっと知りたいなどがあればコメントして頂ければこちらも追加で書かせていただきます。
メインを張った人物と特に出番が多いメンツだけを書かせていただきます。


提督︙本名 未定(下の名前は帝都にする予定)

一人称は俺。

今作の語り部。

若葉をこよなく愛し、若葉にこよなく愛されている。女の子にハグをするのが好き。決して変態ではない。

 

若葉︙一人称は若葉、信頼している人の前のみ私と素が出る。

提督の事は提督、二人きりの時や甘えたい時にはあなたと呼ぶ。

提督の嫁。寧ろ提督が嫁。提督がハグ魔であることを知っているし、その事を容認している。

 

叢雲︙一人称は私。提督の事はアンタと呼び捨てにする。提督の初期艦。最初の右も左も分からない状態から一緒にいて、姉のような感じであったが、色々あって恋愛感情こじらせてもう1回こじらせてお姉さんポジに戻った。提督の事は好きではあるけど恋愛感情とかでは無い。

 

時雨︙一人称は僕。提督の事は提督と呼ぶ。

忠犬1号。提督が好きだけど若葉の事を思って遠慮していたが提督のハグ魔が原因で暴走。後に和解して忠犬シグ公が完成する。提督大好き(性的に)

 

夕立︙一人称は夕立。提督の事はてーとくさんと崩した言い型をする。

忠犬2号兼狂犬。白露型、特に時雨のことが大好きでてーとくさんのことも大好き。でも、恋愛感情とかはよく分かってない。いつも時雨と行動するか執務室で昼寝してる。

 

青葉︙一人称は青葉。素の姿は私。提督の事は司令官と呼ぶ。ところで司令官って呼ぶの駆逐艦が多いイメージ。

パパラッチ。実は喜怒哀楽の感情が欠損していて提督の事を好きになったとこで感情が芽生える。感情豊かな人を観察することで感情を学ぼうとしている。なんだかんだ提督ラブ勢最強候補。

 

第六駆逐隊︙暁︙一人称は私。提督の事は司令官と呼ぶ。第六の中で1番まとも。普通にレディー。あんまり見ない暁希少種。提督の事はライクな意味で好き。

響︙一人称は私。提督の事は司令官と呼ぶ。

不思議ちゃんと言うか常にぼんやりとしていてフワフワとどっかにいってしまいそう。提督の事は好きでも嫌いでもない。姉妹が好きだからまぁ好きくらい。

雷︙一人称はワタシ。提督の事は司令官と呼ぶ。

空回り系ママ。大体中途半端なミスをするが、電と暁にフォローされて致命的なミスにはならない。提督の事は母性愛的なラブ。

電︙一人称は私、電。どっちか提督の事は司令官さんとさん付けちゃんとする。

雷のストッパー役。誰もまだ彼女の本気を見たことがない。

 

不知火︙一人称は不知火。提督の事は司令と呼ぶ。

忠犬3号。提督の手伝いをするのが好き。と言うか最早存在価値とすら思ってそう。提督に褒めてもらうとめっちゃ喜ぶ。キラ付け簡単そう。提督の事は信頼的な好き。

 

曙︙一人称は私。提督の事はクソ提督と愛をもって叫ぶ。

素直に慣れない乙女な提督ラブ勢。ハグされるのは好きだけど、漣の視線が気になる。通称ボノたん。

 

山城︙一人称は私。提督の事は普通に提督と呼ぶ。

時雨ラブ勢。姉様大好き。提督の事は時雨を奪ったから嫌い。でも姉様が信頼してるから……まぁ……でも時雨……姉様……時雨……姉様……

 

大井︙一人称は私。提督の事は提督と呼ぶ。

修羅型……球磨型の四女。北上さんラブ勢通り越して崇拝して北上さん教くらいは作りそう。

実は2人目で前の大井は北上さんを庇って轟沈。それ故に提督と北上さんにちょいちょい気にされてる。

提督より北上さん。北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん北上さん

 

北上︙一人称はアタシ。提督のことはダルそうにてーとく。

ハイパーである。以上。自由人。最古参の一人。

提督の事はまぁ好き。

 

大和︙一人称ほ大和、私。提督の事は提督と呼ぶ。

大和撫子である。戦闘から事務作業までそつなくこなす。提督を異常にお世話したがる。ちょっと怖い。

好きでは無いはず?

 

阿武隈︙一人称はアタシ。北上のアタシよりちょっと声高い。提督の事は提督と呼ぶ。

北上のイジリの被害者。普通に優秀ではあるがいかんせん被虐的な性質。

提督の事は好きでも嫌いでもない。

 

龍驤︙一人称はウチ。提督の事は気さくにキミと呼ぶ。

まないt……ぺったんk……胸が控えめな軽空母。最古参の一人で鎮守府最強クラスだが過剰リンク(艤装と過剰に接続してしまい体に負荷がかかりすぎる)が原因で最前線に出れなくなった。そのため後輩の育成を担当してくれている。提督との飲み仲間。提督の事は酒を奢ってくれる日は大好き。

 

加賀︙一人称は私。提督の事は提督と呼ぶ。

龍驤ラブ勢。龍驤が絡まなければ優秀。一番のお気に入りの後輩はやっぱり瑞鶴。

 

赤城︙一人称は私。提督の事は提督と呼ぶ。

龍驤ラブ勢その2。やっぱり龍驤が(ry。加賀より取っ付きやすいから空母以外にも慕われる。

 

磯風︙一人称は磯風。提督の事は司令と呼ぶ。

すごい厳しい。でも自分にも厳しいからいい人。

提督の世話をやきたがるが家事はできない。料理は特に下手。最近鳳翔の元練習中。

 

世界観設定

 

艦娘について︰人間の中から適正のある人が妖精の力で艦娘になる。故に同じ艦の艦娘も複数存在する。普通の人間よりも数段身体能力があり、艤装を付けることで100パーセントの力を発揮できる。

 

深海棲艦と艦娘の関係︰海に沈んだ艦船の陽の魂が艦娘となり、陰の魂が深海棲艦となる。沈められた艦娘は元の港に戻りたいという思念から深海棲艦となり、陽の力によって一旦沈められた深海棲艦は艦娘となって引き上げられる。



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若葉の場合

「提督。そろそろ休憩にしたらどうだ?」

「ああ、そうするよ。若葉、一緒に昼飯でもどうだ?」

「ありがたい。いただこう。」

俺の横をトコトコと歩いているのは俺が提督になった時すぐに秘書官になった叢雲の次の秘書官。若葉だ。

駆逐艦なのに落ち着いた雰囲気。仕事も的確にしてくれるし、さっきみたいにナイスなタイミングで休憩を勧めてくれる。叢雲は遠征で忙しいし、ずっと秘書官は若葉に頼みっぱなしだ。そんな事から、うちの鎮守府は若葉が1番手練だ。

「提督。今日は何を食べるんだ?」

「うーん。今日は軽く蕎麦でも食べるかな。」

「なら、若葉もそうしよう。」

「いいのか?せっかくだから奢るし、なんでも食べていいんだぞ?」

「いいんだ、若葉は提督と同じものが食べたい。」

「そうか。」

若葉は俺と同じものを食べたがるし、非番の日も俺と一緒に過ごしたがる。俺の思い上がりではないのなら、多分そうなのだろう。俺自身も自分の気持ちに気がついている。練度が最大になったら、指輪を送ろうと思っている。

「提督、午後の予定はどうするつもりだ?」

「そうだな、帰ってくる遠征組を迎えて、午後の演習をやったら今日はもう暇だな。」

「そ、そうか・・・な、なぁ、提督。」

「うん?どうした?」

「迷惑で無ければいいのだが・・・その・・・今日の執務が終わったら若葉と海岸を散歩でもしないか?」

「ああ、もちろんいいぞ。」

「ほんとか?ああ、悪くないな!」

うん。可愛い。尻尾があるならぶんぶんと扇風機状態になっていただろう。

よし、張り切って午後の執務を終わらせるか。

......................................................

「う〜〜〜ん。やっと終わったー!」

「お疲れ様だ、提督。」

「ああ、ありがとう。よし!それじゃあ散歩にいくか!」

「ああ!」

うん。やっぱり可愛い。少し大人びた雰囲気なのにこういう時は見た目相当の振る舞いになるところとかも可愛い。

.....................................................

「毎日見てるはずなのになんだか少し違う気がするな。」

「ああ、そうだな。改めて見ると綺麗な景色だな、提督。」

「ああ、そうだな。綺麗だ。」

いい雰囲気だ。せっかく向こうから誘ってきたのだ。少しあの話をしてみよう。

「なあ、若葉?」

「どうした?提督?」

「俺はあまり言葉が上手くない。だからハッキリと言う。お前は俺の事をどう思っている?」

「・・・いきなり唐突だな。そうだな。そうだな、仕事もきっちりするし、とても優秀だと思うぞ。」

「その点はありがとう。ただ、俺が聞きたいのはそんな事ではない。」

「・・・・・・」

「もう一度聞こう。お前は俺をどう思っている?」

「・・・・・・最初は提督としての知識もないし、仕事も遅いし、こんな人が提督で大丈夫かとよく叢雲から愚痴を聞かされた。だが、若葉が秘書官になった頃から提督は、よく勉強してくれて、若葉達の事をとても思ってくれている。若葉はそんな所に惹かれたのだろうな。提督。若葉、いえ、私はあなたが好きです。愛しています。」

「ああ、俺もだ。若葉。愛している。」

そう言って俺は若葉をしっかりと抱きしめた。ほんのりと暖かく、柔らかかった。あんまりいいものだからつい若葉の真似をして「悪くないな。」と言ってしまった。

「ふふっ、提督、それは若葉の真似か?」

「ああ、似てなかったか?」

「ああ、全然似てないぜ。」

「ははっ!そっちこそ全然似てないぜ。」

......................................................

夜になってきたから俺達は執務室に戻った。今日は夜の執務もないからゆっくり若葉と喋れる。

「ただなー、改めて何かこう、話そうとすると案外話すことが無いな。」

「若葉は提督のそばに居るだけで十分だ。」

「そ、そうか。」

「それより提督。」

「どうした?」

「こうやって結ばれた仲になったから言うが、提督は若葉や叢雲以外の艦娘に少し距離を置いてないか?」

「ああー、それか、うん。叢雲やお前にはもう慣れたんだが、他の人とはイマイチ距離感が掴めなくてな、今更仲良くなるってのも何かなぁって感じになってしまってな。」

「そうか、若葉はもっと他の人とも関わりあって欲しい。」

「俺としてもそうしたいのだが、いいのか?」

「大丈夫だ。若葉を提督の1番近くに置いてくれるなら。それに・・・」

「それに?」

「いや、何でもない。ここから先は本人に聞いてみた方がいい。」

「そうか?それでも、やっぱり若葉や叢雲以外と話すのは少し緊張してしまうな。」

「簡単な話だ。まずは叢雲と話してみればいい。」

「え?叢雲も俺と話したがっているのか?」

「ああ、叢雲は秘書官を離れていてからも提督の事をずっと気にしているぞ。そうだ、明日は叢雲を秘書官にしてみたらどうだ?」

「そうだな。秘書官を若葉に変えてからほとんど変えたことなかったからな。明日からは色んな人を秘書官にしてみるよ。」

「そうしたらいい。だが、提督。忘れないでくれよ?提督の一番はこの若葉なのだよ?」

「ああ、勿論分かっているよ。」

明日からは叢雲が秘書官だ。久しぶりに話すからお互い緊張するだろうな。

「不安か?提督。」

「少しな、慣れているとはいえゆっくり話すのは久しぶりだから。」

「大丈夫だ。何かあったら若葉にした事をして見ればいい。」

「若葉にした事?ああ、ハグしたことか?」

「ああ。提督のハグは気持ちが落ち着く。困ったら叢雲や、ほかの人にもしてみるといい。ただし、その分若葉にもしてくれよ?」

「分かったよ。ありがとう。さあ!今日はもう寝ようか。」

「ああ、そうだな。」



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叢雲の場合

[本日より秘書官を叢雲とする]

その通達が青葉により鎮守府全体に届き、即座に初春型がなだれ込んで来た。

「提督!なぜじゃ!なぜ若葉を秘書官から外したのじゃ!」

「子日驚き怒りの日だよー!提督ー!なんでなの!」

「そうですよ!なんで若葉ちゃんを外したんですか!」

「お、落ち着け、お前ら。これは若葉が提案したんだ。」

「「「へ?」」」

「お前達の言いたいことは分かるが、お前達の危惧しているようなことは無い。若葉に俺はもっと色んな人と関わる方がいいと言われたんだ。」

「なんじや、そうじゃったのか。焦らせよって。」

「悪いな、そういう訳で今日も1日よろしく頼むぞ。」

「うむ。任せておくのじゃ!」

パタン

「お前は愛されているな。」

「ああ、素晴らしい姉妹だ。」

「そうだな。さて!そろそろ叢雲が来る。今日からお前には暫く休暇を出す。秘書官に、なってから休みが無かったからな、好きに休んでくれ。」

「分かった。だが、毎晩様子を見に来るぞ。」

「分かった。」

......................................................

コンコン

「叢雲よ。入るわよ。」

「ああ、入ってくれ。」

ガチャ

「あんた、なんで今更私を秘書官に戻すのよ?」

「あー、それは、その、あれだ、気まぐれだ。」

「はぁ!?気まぐれ!?そんな事で私が秘書官になったの?」

「あ、ああ。そうだ。たまには若葉以外の人も秘書官にしてみたらどうだ?って若葉に言われてな。」

「ふーん、そうなの。ま、いいわ。さあ!今日も仕事が沢山あるわよ!ちゃっちゃと終わらせるわよ!」

「ああ、分かっている。頼むぞ?」

「ふん!誰にものを言っているの?あなたが何も知らないペーペーの新米の時に秘書官を務めたのはどこの誰だったかしら?」

「ははっ!心配無用だったな。」

......................................................

カリカリ・・・カリカリ・・・ペラッ

コンッ

「はい、お茶よ。そろそろ休憩しなさい?」

「ああ、助かるよ。しかし、若葉といいお前といいお茶を出すタイミングや休暇を勧めるタイミングが完璧だな。」

「あら?知らないの?若葉が秘書官になった時に私が色々と教えたのよ。」

「へぇ、そうだったのか。でもお前は相当上手いけど、どうやって学んだんだ?」

「相手の事をよく見ていれば自然と分かるわよ。」

「なるほど。叢雲、ありがとうな。」

「ふふっ、秘書官として当たり前のことをしたまでよ。さあ!お昼にしましょ?」

(まずいな・・・叢雲と会話は出来ているが、核心的な話は出来ていない・・・どうしようか?)

「どうしたのよ?何か悩み事?」

「いや、何でもない。さ、食堂に行こうぜ。」

「あ、今日お弁当作ってきたのよ。あなたの分も作ってきたのよ。食べましょ?」

「お、マジか。助かる。」

「若葉に味見してもらったから味は保証するわよ。」

「どれどれ・・・ほう!ホントに美味いな!」

「当たり前よ!それ食べて午後の執務も頑張りましょ!」

......................................................

カリカリ・・・カリカリ・・・カリカリ・・・

「よし!終わったー!」

「お疲れ様。はい、お茶」

「おう。助かる」ズズ-

「なぁ、叢雲。」

「何よ?」

「少し散歩にでも行かないか?」

「あら、珍しいわね。」

「嫌か?」

「いいえ、行きましょ。」

......................................................

(ホントにまずいな・・・どうやって切り出すか?)

「・・・っ!・・・てば!ねえってば!」

「あっ!すまん。どうした?」

「どうしたじゃないわよ!ずっと呼んでいたじゃない!ホントに今日はどうしたのよ?」

「ああ、すまん。ちょっと考え事していた。」

「何を考えていたのよ?ちょっと言ってみなさい。」

(どうする?正直に話すべきか?)

「ちょっと、何黙っているのよ?そんなに話しにくいことなの?」

(話してみるか・・・)

「・・・叢雲。お前のことを考えていたんだ。」

「ふぇ?/////」

「若葉にお前の事が心配だと言われてな。だから今日もお前も秘書官にしたんだ。」

「そう・・・なのね。ああやっぱりあの子にはお見通しだったのね。」

「お前こそ、何か悩みがあるんじゃないのか?」

「・・・・・・」

(話してくれないか・・・そうだ!)

俺は叢雲に歩みよると、ギュッと抱きしめた。

「えっ?/////ちょっと!何してるの!?」

「いいから」

「・・・もう。なによいきなり・・・」

キュッと叢雲も俺に腕を回してきた。

......................................................

無言のまま少しの間抱き合っていた。

「・・・・・・ねぇ」

「どうした?」

「私の事・・・どう思ってるの?」

どう思っている・・・か。最近この質問ばかりな気がするな。

叢雲の事は好きだ。ただし、それは若葉に向けているような感情ではない。理由は無いが叢雲も同じことを思っていると確信している。ここでも俺の気持ちを伝えるには・・・

「・・・親友だと・・・思っている。」

「・・・親友・・・ね。」

「ああ・・・親友だ。掛け替えのない俺の親友。」

「そうね。私もそうよ、あなたは私の大切な親友。」

ああ、そうだ。俺と叢雲は友人だ。

それが正しい距離なんだ。

「・・・・・・ふふっ。なんだかスッキリしたわ。」

「そうか。」

「若葉と出会った時にあなたは若葉に一目惚れしたでしょ?」

「ば、バレていたか。」

「それから秘書官が変わって、あなたと話す機会もちょっとずつ減っていったのよ。それからなんだか、自分の事が分からなくなってきちゃった。」

「なんか、悪かったな。」

「いいのよ、もう。終わったことだから。うん、スッキリしたわ。これからもまた宜しくね。親友!」

「ああ、これからもよろしくな、親友!」




提督と叢雲との関係は難しいけど大切。
リアルでもこんな人が欲しいです


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時雨の場合

叢雲と仲直り?をしてから数日。この2人の本音を知れたのはいいがほかの人と話すのはまだ少し勇気がいる。

「提督、大丈夫か?」

「あんたのその性格治ってないのね・・・大丈夫かしら・・・」

「う、うるせぇよ。こっちだって好きでコミュ障やってんじゃないんだよ。」

ちなみに若葉の休暇が終わってからずっと2人が執務室にいる。秘書官が2人に増えたみたいだ。だが2人とも優秀で仕事がやりやすくなったから嬉しい限りだ。

......................................................

コンコン

ドンッ!

「てーとくさーん!遠征終わったっポイー!」

「提督、戻ったよ。」

「ぐふぉ!?ゆ、夕立。飛びつくのはやめてくれ。」

俺の腰に抱きついてってかしがみついてポイポイしてるのは白露型の夕立。そして後ろに控えてるのは同じく白露型の時雨だ。

「提督さーん!夕立遠征頑張ったからご褒美欲しいっぽい!」

「夕立、あんまり提督を困らせちゃダメだよ。」

「いや、いいんだ。これで間宮さんのところでアイス食べてきていいよ。」

といって間宮さんアイスのチケットを2枚渡した。

「ありがとうっぽい!ぽい?2枚っぽい?」

「ああ、お前と時雨の分で2枚だ。」

「て、提督。僕の分はいいよ。」

「いいよいいよ、姉妹2人で仲良く食べてきなさい。」

「じゃあ・・・お言葉に甘えるね。提督、ありがとう。」

「ああ。」

パタン

「全く。夕立はちょっと激しすぎるな。」

「悩みとか無さそうね。」

「ああ。」

「寧ろ悩みがあるのは・・・」

「時雨の方っぽいな。」

「提督。口癖が移ってるぞ。」

「マジっぽい?」

「移ってる移ってる。あんたホントに大丈夫っぽい?・・・あっ/////」

「叢雲・・・お前もか・・・」

「ち、違うわよ!/////」

......................................................

「ねぇ、時雨?」

「どうしたの?夕立。」

「夕立は知ってるっぽいよ?時雨が毎晩「提督。提督。」って言ってるの。」

「ど、どうして知ってるの?/////」

「ルームメイトだから当たり前っぽい。」

「ううっ・・・」

「提督さんの事が好きならもっと提督さんに近づけばいいっぽいのに。」

「無理だよ。提督の周りには若葉ちゃんと叢雲ちゃんがいるもん。僕なんて見てくれないよ。」

「ポイー!時雨は引っ込み思案過ぎっポイー!」

「夕立はもっと大人しくしなよ。毎晩ベットから落ちかけてるよ。」

「ぽい!?なんで知ってるっぽい!?」

「ふふっ、ルームメイトだからね。」

「むー、とにかく!時雨はもっと自分を出すべきっぽい!」

「ううん。僕じゃダメなんだ。僕は・・・」

「ぽい?」

「ううん!何でもないよ。」

......................................................

(時雨・・・いつも姉妹の夕立と一緒にいるのを見るな・・・あいつの悩み・・・か・・・うーん。やっぱり俺は頭を使うのは苦手だ。どうしたものか・・・)

「提督?どうしたの?」

「お、時雨か。1人か?夕立はどうしたんだ?」

「廊下を走っていたら叢雲にぶつかっちゃってね。その時に叢雲が持っていた書類をダメにしちゃったからお仕置きを兼ねて書類を書かされているみたい。」

「あいつ・・・何やってんだよ・・・」

「ところで提督、さっき何か悩んでいたみたいだけど、どうしたの?」

「あ、いや、何でもない。大丈夫だ。」

「そう・・・」

(う、ションボリされた・・・)

「提督、何かあったら僕になんでも相談してね?僕でよければ力になるよ。」

「ああ、ありがとう。」

「これからお昼?僕も一緒に行ってもいいかい?」

「ああ、勿論いいぞ。」

「ありがとう。じゃあ、行こうか。」

(うーん。やっぱり時雨の悩みが分からない。)

......................................................

「ご馳走さま。」

「ふぅ。美味かった。」

「提督はいつもお昼はお蕎麦だね?」

「ああ、蕎麦好きだし、すぐ食べ終われるからな。」

「ふーん。・・・・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、時雨。」

「どうしたんだい?提督。」

「お前。最近悩みとかないか?」

「え?」

「いや、最近お前の事が気になってな。」

「ぼ、僕の事が気になって・・・」

「あ、いや。やましい意味は無いぞ。」

「そう・・・・・・僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。今日の演習僕の番だから行ってくるね。」

「ああ、演習だからと言って気を抜くなよ。」

「分かっているよ。」

......................................................

(提督への思い・・・・・・・・・分かっているいるけど、提督の周りには若葉や叢雲がいる・・・そして僕・・・僕だからダメなんだ・・・僕がダメなんだ・・・提督・・・)

「ぽい!?時雨!危ないっぽい!」

「え?うわぁ!?」

「ぽいー!時雨が大破したっぽいー!」

......................................................

「・・・ううん・・・ここは?・・・」

「ここは医務室だ。お前は演習中に砲撃を受けて大破判定。ダメージが酷かったからこうして休んでいるんだ。」

「て、提督!?どうしてここに?」

「お前が心配になって見に来たんだ。」

「そう、そうだったんだ。ありがとうね、提督。」

「・・・時雨。」

「どうしたんだい?」

「お前やっぱり何か俺に言ってないことがあるだろ?」

「・・・・・・・・・どうしてそう思うんだい?」

「お前は真面目な性格だから演習中に気を散らして砲撃を食らうなんてこと無いはずだからな。」

「僕の事を買いかぶりすぎだよ。」

「いや、そんな事は無い。お前はいつも、どんな任務でも俺のためと言って全力を尽くしてくれた。だから今度は俺がお前の力になりたい。だから、話してくれないか?」

「・・・・・・・・・僕の悩みはね、提督。君の事なんだ。」

「俺の?」

「うん。提督はかっこよくて、僕らの事を気にかけてくれて、いつも最善の指揮を取れるように頑張ってくれて・・・僕はそんな提督の事が大好きだったんだ。でも、提督にはいつも叢雲がいて提督を手助けしていた。その次は若葉だ。彼女はあまり喋らないけど。やっぱり提督の事を思ってくれて行動で示す。僕はあの2人には勝てないよ。だから提督に言われたことは何でもしてきた。演習頑張ったり、出撃もこなした。提督のために。提督に喜んでもらえるために・・・そう思っていた。それでも、提督は僕の事を見てくれなかった。いつも若葉がいて、叢雲も最近また一緒にいる。正直言うとね?僕はあの2人が羨ましい。それどころか、嫉妬すらしているよ。醜いだろう?自分の好きな人をとった人を殺しそうなくらいに嫉妬している。妬んでいる。だから、僕じゃダメなんだ。こんな僕じゃ、いつか提督も傷つけるかもしれない。だから、もういいんだ。もう・・・」

・・・俺は提督失格だな。周りを見ていなさすぎて、こんなに思いつめてる人に気づかなかった。俺の事を思って、俺のために自分を殺してまで献身的に戦ってくれる人の事を・・・気づかなかったなんて。

「時雨・・・」

俺はそう呟いてベットの上の時雨を抱きしめた。

「提督!?ダメ!やめて!」

「どうして?俺の事を思ってくれているんだろ?」

「ダメなんだ!今日の事で提督の事を諦めようって思っていたんだ!こんな事されたら、君のことを諦めたくても諦めないんだよ!」

「いいんだよ、それで。」

「え?」

「お前の尊敬する叢雲と若葉はそんな事では挫けない。お前の愛する俺はそんな事でお前を嫌いにならない。大丈夫だ。もっと周りを頼っても。もっと周りに助けてもらっても。その分誰かを助けてくれれば。」

「提督・・・」

時雨が俺の襟をキュッと握ってくれた。

「・・・僕・・・提督の役に立ちたい。」

「ああ。」

「もっと強くなって提督に頼られたい。」

「なら時雨の演習の量を増やそう。頼むぞ?」

「それから・・・それから、提督の生活を支えたい。毎朝ご飯作って起こしたり、お弁当作ってあげたりしてあげたい!」

「それは助かる。」

「提督・・・提督・・・うわあああああん!」

「よしよし、今までずっと頑張ってくれていたんだな。ありがとう、本当にありがとうな、時雨。」

......................................................

コンコン

ガチャ

「てーとくさーん!夕立頑張ったっぽいー!褒めて褒めてー!」

「提督!僕、ボスを倒してMVP取ったよ!」

「お、そうか!よく頑張ったな!お疲れ様!」

あれから時雨は夕立と共によく執務室を訪れて仕事を手伝ってくれる(時雨だけ)。

時雨は宣言通りに毎日朝食を作ってくれて、弁当も作ってくれようとしてくれたのだが、流石に叢雲と若葉がダメだと言った。話し合いの結果、3人の当番制になったようだ。

それにしても・・・時雨がこうなってから、犬が2匹いるみたいだなー。



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青葉の場合

「あ、そうだ。今日は昼飯いらんぞ。」

とある日の朝。今日の食事当番である叢雲に俺はそう言った。

「あら?珍しいじゃない。何かあるの?」

「ああ。青葉から昼飯の誘いがある。どうせ奢る代わりに取材を受けろというだろうな。」

「へぇ、何を聞かれるのかしらね?」

「さあ?俺も思い当たる節がないんだよ。」

......................................................

「いやー、今日は青葉のお誘いに乗ってくれてありがとうございます!」

「いや、昼飯奢ってくれるって言うからな。」

「もちろん、奢らせてもらいますよ!ささ!こちらへどうぞ!」

青葉が用意したのは鎮守府の近くにあるちょっといい感じの料理屋だ。

「へー、結構いい感じの店だな。」

「ですよね?青葉もよく利用するんですよ。」

「ここで賄賂を送って取材を受けさせると。」

「あはは、バレてましたか。」

「お前が考えていることなんてお見通りだよ。わかりやすいからな。」

「いやー光栄です。」

「褒めてねぇよ。」

と、言ったところで料理が運ばれ、しばらくの間、2人は無言で料理を堪能した。

「美味かったな。」

「はい。そりゃもう青葉のオススメですからね。」

「青葉は情報通だからな。ところで、お前はどうやってそういう情報を集めているんだ?」

「そりゃあもう、足で稼いでますよ。」

「ほう、そりゃまた殊勝な。」

「ですよね!?と、言うわけでそろそろ取材の方に入らせていただきたいのですが?」

「何がと、言うわけでだ。まあ、美味い料理食わせてくれたからな。いいぜ。何が聞きたいんだ?」

「ズバリ!最近の提督の艦娘ハーレム計画について!」

「・・・・・・・・・は?」

「最近若葉さんを筆頭に艦娘を執務室に集めていますよね?そして、執務室で提督という立場を利用してあんなことやこんなことを・・・」

「おいばかやめろ。若葉はともかくほかの連中は向こうが好きでやってくれているんだよ。」

「ほうほう。」

「若葉は秘書官だし、叢雲は親友。時雨は俺の世話をしたいで、夕立にいたっては何もせずにただゴロゴロしてるよ。」

「それはそれは。つまり、噂されている様にエッチいことはしていないんですね?」

「ぶっ、そんな事してねぇよ!てか、そうな噂たってるのかよ!?」

「ええそりゃあもう。」

「まぁいいや。で、聞きたいことはそれだけか?」

「はい、もう大丈夫です。取材協力ありがとうございました!」

......................................................

「・・・て事だったんだよ。」

「へー、あんたもそんな噂立てられて大変ね。」

「全く・・・」

「で?あんたはしたくないの?エッチ?」ニヤニヤ

「お前までからかわないでくれよ。」

「ふふっ冗談よ。」

「提督!その・・・エッチなことなら・・・僕が!」

「あんたはちょっと遠慮しなさい」デュクシ

「あうっ」

「やれやれ・・・」

......................................................

「ふぅ。今日の仕事終わりっと。」

「お疲れ様だ。提督。お茶でも飲むか?」

「ああ。頼む。」

「しかし・・・」

「ん?どうした?」

「提督が取材をうけてから1週間がたつが、その事が書いてある新聞がなぜ出ないのだろうな?」

「まだ編集中とか?」

「昨日の事は記事になっていたぞ。」

「あれ?そうなんだ。じゃあ記事にするのやめたのかな?」

「かもしれないな。」

......................................................

(青葉か・・・青葉は来た時からあんな賑やかな奴で戦闘より取材の方が好きって奴だったな。最初こそは戸惑ったが根はいいやつだ。ただまあ、もうちょいゴシップは減らしてほしいがな・・・)

などと俺が考えていたら・・・

「あれ、提督じゃん。」

「加古、提督に失礼だよ。提督こんにちは。」

「ああ、加古に古鷹。よう。」

「提督どうしたの?なんか悩み事ー?」

「もう!加古!」

「いいんだよ。気楽にしてくれて。」

「そ、そうですか?」

「ああ、皆が気楽にしてくれた方が居心地もいいしその方が俺も気が楽だ。」

「ならこのままで、で?提督。なんか悩んで無かったの?」

「あ、そうそう。青葉の事なんだけどな。」

「青葉のことですか?」

「ああ、あいつ最近なんか悩んでないか?」

「いつもどんな記事を載せるか悩んでる。」

「そういうのじゃなくて・・・その・・・プライベートのことで。」

「プライベート?」

「ああ。なんか知らないか?」

「うーん。どうだろうね?」

「アタシも知らないなー。青葉に悩みなんて無さそうだけどなー。」

「そうか。ありがとう。」

......................................................

2人と別れてから俺は海岸を散歩しながら考えていた。そしたら・・・

パシャ

「お!いい表情ですねー!もう1枚!」

「青葉か、丁度いいや。ちょっと話さないか?」

「ええ!勿論いいですよ!」

(とは言ったもの・・・何を話そうか・・・今回は直接言ってもはぐらかされそうだし。)

「さあて!今回は何を取材しようかなー?」

「また取材か・・・本当に取材が好きなんだな。」

「そりゃあもう!取材しているとされている人のいろんな反応が見れるので取材は大好きです。」

「そうか・・・そうやって俺たちを気にかけてくれていたのか。ありがとうな。」

「いえいえ、元は青葉の取材から始まった事ですし。」

(青葉・・・本当にみんなの事を気にしてくれているんだな・・・)

「なあ?カメラ今あるんだろ?どんな写真があるかちょっと見せてくれないか?」

「勿論いいですよ!どうぞどうぞ!」

と言って青葉は俺にカメラを渡してくれた。

そこには色んな人が写っていた。俺をはじめ、若葉、叢雲、白露型が雨の中はしゃいでいるしゃしん。扶桑と山城が夕立や時雨に絡まれている写真。皆笑って楽しそうだ。

「へー、よく撮れてるじゃないか。」

「そりゃあもう!このカメラは青葉の体の一部と言っても過言ではないですよ!」

「そうなんだ。ところで、青葉はなんで写真を撮り始めたんだ?」

「・・・・・・・・・いつだったでしょうかねぇ?忘れてしまいましたよ。」

「そ、そうか・・・」

(こいつ・・・なにか隠してる。)

「な、なぁ青葉・・・」

「さて!提督。そろそろ戻りましょか。今日は時雨ちゃんの当番の日でしてよね?遅れたら心配されますよ。」

「あ、ああ・・・」

(なんだ?この感じ・・・明らかに何かを隠されている。でも、その何かが分からない・・・)

......................................................

「で、結局青葉の悩みは分からない。と。」

「ああ、なーんか隠しているとは思うんだけどなー。」

「そもそも、それが間違いじゃないのかい?」

「間違い?」

「うん。本当は青葉は僕達みたいに悩みはなくて、ただ提督の思い過ごしだった。て事は無いのかい?」

「あー、うーん。どうだろうな?でも。なんか・・・こう・・・言葉では言い表せない何かがあるんだよ。」

「そう・・・提督。何かあったら何でも僕に相談してね!」

「ああ、頼りにしているよ。」

「うん!」

(とは言ったものの・・・本当に青葉の悩みが分からない・・・うーん。)

しかし、写真をとったり取材をしている青葉は本当に楽しそうだ。本当に俺の思い違いか?

......................................................

「えー、本日はお日柄もよく・・・」

「提督ー!そんな堅苦しい挨拶はいいクマー!早くご飯食べたいクマー!」

「そーだよー、気楽に行こー。」

「そうですよ提督!北上さんがそう言っているんですから早くしてください!」

「わ、分かったよ。じゃあ、皆!今日は楽しんでくれ!以上!」

うちの鎮守府は月に1回こうして宴会を開いている。艦娘達の数少ない楽しみになっているようだ。

「おおー!皆いい表情ですねー!はーい!皆さん!撮りますよー!はーいチーズ!」

と、料理そっちのけで写真を撮ってる青葉。

「おい、青葉。写真もいいが、料理も食えよ?」

「大丈夫ですよ!写真撮っている方が楽しいですし。」

「そういう問題じゃないだろ?ほら、こっち来い。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。失礼します。」

と、意外とすんなり横に座ってくれた。

「もぐもぐ・・・おお!このお刺身美味しいですね!」

「そうだろ!俺も好きなんだよ。」

「ほうほう。ちなみに提督の好きな料理とかって何ですか?」

「俺か?蕎麦とか、あっさりしたものが好きだな。たまにガッツリ肉食うけど。」

「なるほどなるほど。お!それならこれなんかどうですか?」

「お!タコの唐揚げか。いいね。酒が進む。」

「提督、お酌しようか?」

「時雨か、お願いするよ。」

「お酒、お好きなんですか?」

「ああ、あんまり強くないけどな。」

「ふむふむ・・・」

「と言うか、さっきから質問されてばかりだな。お前はどうなんだ?青葉。」

「青葉ですか?」

「ああ、好きな料理とかそういうの。」

「青葉は何でも好きですよ!強いて言うなら・・・皆さんの笑顔ですかね!」ドヤァ

「ははっ!青葉らしいな。」

「提督!僕が好きなのは提督だよ!」ギュ-

「分かってる分かってる」ポンポン

「・・・本当に皆さん提督のことが好きなんですね。」

「ああ、皆本当にいいやつだ。」

「・・・・・・そう・・・ですよね・・・」

「青葉?」

「ん?何ですか?提督。」

「いや、今ちょっと様子がおかしかったから。」

「いやー、ちょっと飲みすぎましたかね?これ以上はちょっとやばいのでちょっと自室に戻りますね!」

「大丈夫か?運ぼうか?」

「大丈夫ですよ。それでは」スクッ、スタスタ

(青葉・・・)

「悪い皆!ちょっと今日中に終わらせないといけない仕事を思い出した!」

「「「えー!」」」

「悪い!後は俺抜きでやってくれ!それじゃあ!」

......................................................

[青葉のお部屋]

コンコン

「青葉、俺だ。いるか?」

返事はない。中に人の気配はない。どこかに出かけているのか?

と、ふと窓の外を見ると、青葉が海岸に向かって歩いているのを見た。

(あいつ・・・どこに行くんだ?)

と、こっそり後をつけてみた。

......................................................

(見失った・・・青葉、どこだ?)

と、キョロキョロしてると。

(!?青葉・・・なの・・・か・・・?)

そこには俺の知る青葉はいなかった。海岸の方を身動きせず見ていて。無表情で涙を流していた。無表情?いや、無感動?いや、どんな言葉でも言い表せない顔を、青葉はしていた。

俺が立ち尽くしていると、青葉がこっちに気づいた。すると、すぐにいつもの顔になって

「おや、提督!心配になって見に来てくれたのですか?いやー、嬉しいですねー!」

「あ、青葉・・・お前・・・今の顔・・・」

「顔?顔に何か付いていますか?」

「いや・・・今の、表情・・・」

「どうしたんですか?青葉の顔に何か付いていますか?」

有無を言わせない拒絶。だが、怯んではいけない。俺は1歩近づいて

「青葉、話してくれ。」

「何をですか?」

「何もかもをだ。」

青葉は笑顔のまま無表情だ。俺は青葉と見つめ合いながら。じっと待った。

「・・・・・・提督は、若葉ちゃんの事をどう思いますか?」

「愛している。」

「即答ですね。」

「ああ、ついでに叢雲の事は親友だし、時雨と夕立は俺に懐いてくれる大切な人だ。勿論。お前を含めた他のやつも全員大切だ。」

「・・・そうですか。」

と、青葉は黙っている。

「・・・・・・・・・青葉には・・・そうゆう気持ちが分かりません。青葉は、人の気持ちが分かりません。青葉は、他人の思いが理解できません。周りの人が怖くて、ずっと笑顔で皆を騙していました。カメラ越しにしか人を覗けませんでした。ずっと、ずっと・・・」

何も言えない・・・俺は・・・何も言えなかった。

すると、青葉が俺に抱きついてきて

「大丈夫です提督。もう慣れちゃいました。提督は優しいから理解してくれようとしてくれるでしょうね。でも、理解してもらっても、青葉に感情が宿るなんてことはないんですよ。でも、お願いです。青葉の事・・・知っといてください。覚えといて下さい。忘れないで・・・下さいね?」

青葉はあの無表情の笑顔のまま泣いていた。

俺は・・・無力だ。俺には・・・この娘を助けることが出来ない。この夜の事を覚えておくことだけが。俺に出来る唯一の事だった。

そう思いながら、俺は青葉を抱きしめた。




長い上に思い話です。


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第六駆逐隊の場合

「はぁー。」

青葉の事があってから3日。俺は誰にも言えずにいた。

あの日からも青葉は相変わらず元気に写真を撮っている。いや、違う。青葉は今もあのカメラの裏で苦しんでいるんだ。

だが、俺には何も出来ない・・・

などと思っていたら

「司令官!どうしたのよ?何か困ったことがあったの?私に相談してみて!」

「雷か。いや、何でもないよ。大丈夫だ。」

「だめよ。司令官。あなた何か悩み事があるわ。私達に出来ることなら何でもするから言ってみてくれない?」

「そうなのです。私達、精一杯頑張りるのです!」

「私達に話してみてくれないか?司令官。」

「おまえら・・・」

そこにいたのは雷の姉妹である暁、電、響だ。暁はレディーを目指しているらしく。日頃から周りに気を配ってくれる四姉妹の長女だ。

電はすこしおっちょこちょいだが、精一杯頑張ってくれるいい子。

電は誰かに頼られるのが好きらしい。誰かに頼られると元気になる。

響は大人しいが、周りのことをよく見てくれている。よく暁と一緒に雷の暴走を止めてくれる。

4人ともいい子なんだが・・・

「いや、本当に大丈夫だから・・・」

あの話は誰彼構わず話すものじゃない。特にしっかりしているとはいえこの子達はまだ幼い。

「そうなのね・・・」

「すまない、そうだ!せっかくだから4人で秘書官をやらないか?」

「「「「え?」」」」

「俺も若葉は叢雲以外にも色んな人と関わらないといけないからな。だからやってみてはくれないか?」

「お願いね!任せて!司令官。」

「そうね、面白そうだし、やらせてもらうわ。」

「頑張るのです!」

「分かったよ。やってみるよ。」

......................................................

[本日より暁、響、雷、電の4名を秘書官とする]

「4人とは、思い切ったな。」

「ああ、もっとお前達の事を知らないとな・・・」

「・・・提督、何かあったのか?」

「どうして?」

「いつもより元気がないからな。若葉にはお見通しだ。話してくれ。」

「・・・青葉の事だ。」

「青葉?」

「ああ、あいつは・・・」

と、青葉の事を若葉に話した。

「・・・という訳だ。」

「にわかには信じられないな。」

「だが、本当の事なんだ。」

「それで悩んでいたのか。」

「ああ、なんとかしてアイツを助けてやりたい。」

「そうか・・・」

と、話していたら

コンコン

「司令官、暁、響、雷、電4名到着したわ。」

「ああ、入ってくれ。」

ガチャ

「さあ!司令官、お仕事は私に任せて司令官はお茶でも飲んでおいて!じゃあまずはお茶をいれるわね!」

「雷、いきなりはレディーじゃないわ。ごめんなさいね?司令官。この子そそっかしいから。」

「いや、大丈夫だ。4人とも、楽にしてくれ。」

「じゃあ若葉はこれで。」

「ああ。」

トコトコ

ガチャ

パタン

「さて、とりあえず今は特に忙しくもないからのんびりだな。」

「そうね、急いで攻略しなきゃいけない海域もないし、とりあえずは演習と遠征の手配かしら?」

「流石だな暁。」

「これくらいレディーとして当然よ。」

「それじゃあ雷と電はこのリストにいる奴を呼んできてくれ。暁と響は演習の手配を頼む。」

「まっかせて!」

「分かりましたのです。」

「了解。」

「分かったわ。」

うん。なかなか皆テキパキと動いてくれて本当に俺のやることはなくなったな。まあ、書類は溜まってるからそれでもするか。

......................................................

コンコン

「司令官、入るわよ。」

と言って暁と響が帰ってきた。

「ああ、お帰り。どうだった?」

「無事に向こう側に本日ヒトヒトマルマルから演習を開始すると連絡してきたよ。」

「そうか、お疲れ様。」

「電と雷はまだなの?」

「ああ、全員に連絡するのに手間取ってるみたいだ。」

「まあ、あの子達なら大丈夫でしょ。」

と、話し、少し書類を手伝ってもらっていたら。

コンコン

「司令官。雷、電、戻ったわ。」

「お疲れ様、入って休んでくれ。」

ガチャ

「司令官。ただいま戻りましたのです。」

「ああ、助かったよ。」

「司令官。他にすることは無いかしら?もっと頼っても良いのよ?」

「そうだな・・・じゃあ、全員分の紅茶を入れてもらえるかな?そこの戸棚にある。」

「分かったわ!雷に任せて!」

「皆いい子だな・・・」

「自慢の妹達よ。」

「そうだな。」

「司令官?」

「どうした?暁。」

「・・・いえ、何でもないわ。」

......................................................

その日の夜、俺はまた青葉のことを考えていた。

(青葉・・・どうすれば・・・クソッ!)

「司令官?」

「誰だ!」

「わっ!急に大声出さないでよ。私よ。暁よ。」

「ああ、暁か・・・すまないな。どうしたんだ?こんな所で。」

「夜のお散歩よ。」

「流石、レディーだな。」

「今はそんなこと関係ないわ。」

「ん?」

「目の前の悩んでいる人1人助けられなくて何がレディーよ。今の私はただのおこちゃまよ。」

「そうか・・・・・・」

暁は俺のことが心配で様子を見に来てくれたらしい。だが・・・

「・・・すまない」

これは拒絶だった。俺の事を本気で気にしている暁に向かってこの返答はもはや失礼だ。だが、俺自身まだ整理が付いてない。そんな話は暁達には出来ない。

「そう・・・分かったわ。もう寝るわね。お休み、司令官。」

「ああ、お休み。明日も4人だから頼むな。」

「ええ、任せて頂戴。」

......................................................

(今日のやることは・・・あれとあれと・・・後あれもするか・・・)

と考えながら執務室を開けると

「司令官!遠征の準備と演習の手配は出来てるわよ!他になにか頼りたいことはある?」

「今電が皆に連絡事項を伝達しているよ。司令官はそこで休んでて。」

「お、おう・・・?」

「司令官。今日中に提出する書類終わらせておいたわ。後は司令官のハンコだけよ。」

「あ、ああ。・・・よし、これでいいぞ。」

「はい、ありがとね。」

ガチャ

「司令官。皆に連絡事項を伝達してきましたのです。」

「あ、ああ。ご苦労。」

「他になにかすることはあるかしら?」

「いや、遠征組が帰ってくるまで暇だが・・・」

「それじゃあ海に行かない?気分転換になるわよ。」

「わ、分かった。」

......................................................

「・・・なあ、皆。」

「何?司令官?何かして欲しいことがあるの?」

「いや、そうじゃなくて・・・今日はどうしたんだ?」

「最近司令官が元気なかったからね。私達で出来ることを探したのさ。」

「そうか・・・」

「司令官さん・・・最近時々とても怖い顔して悩んでいるのです。電達は司令官が笑っているのが好きなのです。」

「そうか・・・皆、心配かけたな。」

「これくらいレディーとして当然よ。ところで司令官。今夜暇かしら?お部屋にお邪魔してもいいかしら?」

「ああ、構わないぞ。」

......................................................

コンコン

「司令官、暁よ。」

「入ってくれ。」

ガチャ

「お邪魔するわね。」

「あれ?1人か?」

「あんまり大勢でお邪魔するのは迷惑だと思ったのよ。」

「そうか、気遣い感謝するよ。」

「このくらいレディーとして当然よ。」

「そうか。そうだ、ちょっといい酒を手に入れてな・・・飲むか?」

「ええ。戴くわ。」

......................................................

「・・・・・・ねぇ。司令官?」

「どうした?」

暁は酔ったのか俺の膝の上で酒を飲んでいる。

「司令官は1人で背負い込み過ぎなのよ。雷じゃないけど、もっと周りを頼っていいのよ?」

「・・・・・・」

どうやら、暁には何から何までお見通しらしいな。

「司令官。私達には荷が重いって考えているでしょ。」

「・・・ああ、そうだ。」

「そこよ。その話、若葉には話したんでしょう?」

「本人から聞いたのか?」

「女のカンよ。」

「ふっ、そうか。」

「同じくらいの若葉は信頼しているから話すの?私達は信頼できないから話さないの?私達だけじゃダメなの?私達だけじゃない。他の皆もあなたの事が大好きよ。後はあなたの気持ち次第。皆あなたを待っているのよ。」

そう言いながら俺にもたれてきてくれた。

「ありがとうな、暁。」

そういいながら俺は、後ろから暁を抱きしめた。

「俺・・・色んなものが見えなくなっていたな。これからはお前らにもっと頼らせてもらうな。その分。もっと頼りがいのある司令官になってみせるよ。」

そう言ったら

バンッ!

「そうよ!司令官!もーっと私に頼っていいのよ!」

「電も本気で頑張るのです!」

「私も、司令官のために全力を尽くすよ。」

「お前ら・・・ありがとうな。俺、もっと頑張るよ。」

「まだ話したくないなら、それでもいいわ。でも、ずっと私達は待っているわ。それだけ覚えておいてね。」

「ああ。もう大丈夫だ。」

そう、俺だけじゃない。皆で青葉を救ってやる。

俺はそう心に誓った。




更新遅れて申し訳ございません
暁を立派なレディーにしたら、バブみ感じるいい子になった。まぁいいか。


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青葉の場合 2

皆で青葉を救うとは言ったが、すぐにどうにかなる問題ではない。とりあえず、解決策が思いつくまでは通常業務をしなければならない。

「提督。この書類に判子をくれ。」

「ああ。・・・よし、と。」

「助かる。」

「いや、助けてもらってるのは俺の方だしな。ありがとうな。若葉。」

「大丈夫だ。提督のためなら何でもできる。」

「ああ、助かるよ。」

コン

「はい。お茶が入ったわよ。」

「ああ、ありがとう、叢雲。」

「ふふっ、どういたしまして♪」

「今日はやけに機嫌がいいな。」

「アンタがそこまで人の事を気にかけるなんてなかったからね。成長したじゃない。」

「お前は俺の母さんか?」

「失礼ね。お姉さんにしなさい。」

「はいはいっと・・・よし、午前の分の仕事終わり!」

「お疲れ様だ。」

「ああ。ちょっと歩いてくるよ。」

......................................................

「あ、提督じゃん。おはよ〜」

「あら提督。おはようございます。」

「北上……それに、大井か。おはよう。」

「……今日はどうしたの?サボり?」

「いやいや、午前の分を終わらせたから散歩だよ。」

「いいね〜」

「ああ、2人とも午後の演習に出てもらうから準備を宜しくな。」

「了解〜。」

「分かりました。行きましょ、北上さん♡」

「二人共、気をつけてくれ……」

「……大丈夫だよ。提督」

......................................................

「司令官、こんにちは。何か頼ってほしいことは無いかしら?何でも言ってね!」

「司令官、こんにちはなのです。」

「ああ、おはよう。今日は大丈夫だ。雷、ありがとうな。」

「いいのよ、司令官!もっともーっと頼っていいのよ!」

「ああ、ありがとうな。電も頼らせてもらうぞ。」

「はい。頑張るのです!」

......................................................

「あら司令官。こんにちはなのです。」

「やあ、司令官。」

「暁、響、よう。」

「雷を見なかったかい?あの子はまた誰かに頼られようと暴走しそうなんだ。」

「電がついていたよ。大丈夫そうだった。」

「あら、いい子ね。」

「お前らは全員いい子だよ。」

「レディーだからね、当たり前よ。」

「スパシーバ。ありがとう、司令官。」

「遠征いつも助かっているよ。これからも頼むな。」

「任せてちょうだい。」

......................................................

「てーとくさーん!ポイー!」

「ごふっ!ゆ、夕立。もうちょい優しくしてくれ。」

ギュ-

「提督、こんにちは。」

「ああ、時雨。2人とも今日は非番だったか。買い物か?」

「2人でお洋服見てたっぽいー。」

「て、提督。僕らの服、どう思う?」

「とても良く似合っているよ。可愛いよ、時雨。」

「あ、ありがとう/////」プシュ-

「自分で言わせといて自爆してるっぽいー。」

......................................................

「おや、提督。息災じゃの。」

「提督、こんにちは。」

「提督ー!今日は何の日?」

「子日だな。」

「ありがとう!提督!」

「提督、若葉が迷惑をかけてないかの?」

「ああ、大丈夫だ。むしろ俺が世話を焼かれてしまってる。」

「それは何よりじゃ。」

「お前らも若葉を支えてやってくれよな。」

「任せておいて下さい!」

......................................................

「ふぁ〜。あ、提督じゃん。」

「こら、加古!すみません提督。」

「いいよいいよ。そんなに固くならなくて。」

「そうですか?良かった。」

「・・・ところで、青葉は?」

「青葉?またずっと取材ー!って叫んでいたよ。」

「そうか。」

「あ、でも。最近夜に出かけることが多くなりました。夜にしか見えない顔を撮りに行くって言ってました。」

「夜・・・か・・・分かった、ありがとうな。」

「いえ、提督の役に立てたなら何よりです。」

......................................................

青葉はまたあの海岸にいるのだろう・・・しかし、俺に何が出来る?その思いだけが交錯している。

「・・・提督。」

「おわっ!若葉か、びっくりしたな。どうした?」

「また1人で抱え込むのか?」

はっとした。俺はまた1人で何でもやろうとしている。

「・・・本当になんでもお見通しだな。」

「当たり前だ。若葉は提督を愛していて、提督もまた若葉を愛しているからな。」

「・・・そうだな。そして、皆は俺のことを思っていてくれて俺のまた皆のことを思っている。・・・そうだろ?叢雲。いるんだろ?出てこいよ。」

「・・・気づいていたのね。」

「当たり前だ。俺はお前の親友だからな。」

「はぁ、ほら!皆もう出てきなさいよ。」

「提督。僕達も青葉さんを助けたい。」

「ぽいー!夕立も頑張るっぽい!」

「私達も手伝うわ。レディーとして当然よ。」

「まぁ、私達も業務が滞ると困りますので、北上さんがいいと言うのなら手伝いますよ。」

「教えてください、提督。青葉に、私の大切な妹に何があったんですか?」

皆、俺のことが心配で、青葉のことが心配なのだろう。

「ありがとうな、皆。でも、ここは俺1人に任せてほしい。」

「何か考えがあるの?」

「いや、正直ノープランだ。」

「あのねぇ・・・」

「なるようになるさ。いつもそうだった。」

「ま、いいわ。頑張りなさい。」

「ああ、頑張る。」

......................................................

(青葉・・・どこだ?)

俺は皆と別れた後、1人で青葉を探していた。すると

パシャ

「お!いい顔ですねぇ!もう1枚!」

「青葉・・・ちょうど良かった。探していたんだ。」

「青葉をですか?いやー、光栄ですねー」

「今晩、あの海岸に来てくれないか?」

「勿論いいですよ!」

「ああ、じゃあ、また。」

......................................................

深夜、海岸、俺は、1人で待っていた。正直まだ何を話そうか思いついていない。あるのはただ何とかして見せるという決意だけだ。

「お待たせしました!いやー、提督の方から取材を受けてくれると言ってくれるなんて幸運ですね!」

「青葉」

「今日は何の取材にしますか?最近北上さんと大井さんのスキンシップが激しいらしいからそこら辺りかなお話でもしましょうか?それとも、陸奥さんのお人形さんコレクションのお話ですか?駆逐艦の子がMVPとったらご褒美にあげるんだって言ってましたよ。それとも・・・」

「青葉!」

「はい?何でしょか?」

また、あの時の無表情の笑顔。あの時、俺は恐怖した。こんな顔ができる人はどんな事を考えているのだろう?そう思って青葉に、無表情の笑顔に、恐怖した。だが、今は違う。今ここにはいないが、若葉が、叢雲が、夕立と時雨が、暁、響、雷、電が。皆がついている。だからもう俺は怖くない。皆と一緒に青葉を救うと決めたから。

「提督?どうしたんですか?大声出したきり、黙り込んじゃって。」

「分かっているだろう。」

「分からないですよ。人の気持ちなんで・・・分からないですよ。」

「青葉、お前はあの時俺には救えないと拒絶したな。」

「ええ、しましたね。」

「あの後、若葉や叢雲達に話し、皆がお前を助けたいと、そう思っている。」

「・・・・・・・・・」

「青葉、話してくれ、お前の話には、まだ続きがあるんだろ?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

沈黙の音だけが木霊する。青葉は押し黙ったまま喋ろうとはしない。

「加古や古鷹、衣笠も心配してるぞ。」

「・・・あの子達には・・・分からないです。」

「ああ、分からない。俺にも、ほかの誰にも、お前のことが分からない。だから話してくれ。全てを。」

「・・・・・・提督。私は艦娘になる前からずっと人の心が分からなかったんです。生まれた時からずっと周りの人が怖かったんです。だから、家族や、学校のクラスメイトを観察して、同じ事をしていました。だから、今まで死ななかったんです。艦娘になったのは、何となくです。適性があったからって感じですね。特にやりたいことも無かったので、轟沈して死ぬまでここで道化をしていようと、そう思っていました。でも、提督。貴方に出会ってしまった。何故か貴方は貴方のことを周りのただの人とは思えないんです。貴方の事が忘れられなくて、ずっと貴方の事を考えてしまったのです。その時、私は気づいてしまいました。私に心が芽生えたのを。貴方の事を思う恋愛の感情が。でも、ダメなんです。私はもう、心なんて要らない。私にはあっちゃいけないものなんです。それなのに、貴方を見るだけで心が叫ぶんです。提督を愛してる。提督のそばにいたい。そこに私を置いてほしい。って。心のない私はどうする事も出来ません。心の暴走を止められないのです。だから、提督。私を・・・・・・殺して。」

そう言いつつ、青葉は俺を押し倒し、首を締めながら殺して、殺してと叫んでいる。自分の感情がコントロールできず、自分が何をしているか分かっていない。

(やばい!このままだと・・・)

艤装を付けていないとはいえ、艦娘は通常の人より力がある。青葉のような女の子の腕でも、大の大人を絞め殺すことが出来るくらいに。

段々意識が薄れていく中、俺は首を絞められながら最後の力で青葉を抱き寄せた。

「っ!?提督?」

「かはっ!・・・青葉・・・話してくれてありがとう。だが、その願いは却下だ。お前は、いつもそんなに辛い思いをしながら俺たちを助けてくれた。戦闘で、取材と言いながら皆の様子を気にかけてくれた。最後は皆のために己を殺そうとする。そんな人を殺すわけにはいかない。死なせはしない。」

「提督・・・」

「泣きたければ泣けばいい。叫びたければ叫べばいい。ここには俺とお前しかいないのだから。」

「・・・大丈夫です。青葉は、大丈夫です!」

「そう・・・か・・・よかっ・・・・・・た・・・・・・・・・」

「提督?提督!?」

......................................................

この後のことはあまり覚えてない。後で青葉に聞いたところによるとあの後俺は気絶し、青葉に運ばれたらしい。

青葉はあれから、表面上は何ら変わりなはい。ことの顛末は古鷹型には話したらしいが、3人ともに偉く心配され、また、たいそう怒られたらしい。暫く青葉はガチ凹みしていた。ただし、スッキリした顔をして、もうあの顔になることは無かった。

「提督!また私とデートしましょうよー!」

ただ、俺への思いを伝えたことで吹っ切れたらしく、ずっとこの調子で絡んでくる。

「お、おい!仕事の邪魔はするなって!」

「じゃあ私も手伝いますから!」

「お前仕事全然出来ないじゃないか・・・」

「大丈夫です!青葉におまかせ!」

やれやれだぜ・・・




こんにちは、KeyKaです。今回はちょっとあとがきを書かせていただきます。
今回、前回の青葉の話は非常に苦労しました。最初はただ単に隠れ提督LOVE勢だったり、こっそり皆を気遣う優しいお姉さんキャラの予定でした。そのはずが、書き進めるうちにこんな事に・・・ただ、このように終わることが出来て良かったです。
さて、青葉の場合で割とシリアスだったので、次回からはのんびりとやらせて頂きます。これからも「艦娘にハグしてみる」を宜しくお願いします


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不知火の場合

青葉の1件も無事に終わり、鎮守府にいつもの賑やかさが戻ってきた。

「……よし、今日の分終わり」

「提督、お疲れ様」

「ああ、ありがとう」

今日は仕事も終わったし、若葉を散歩に誘おうかと思っていたら……

コンコン

「叢雲よ。入るわよ」

ガチャ

「叢雲か、どうした?」

「いえ、暇だから来ただけよ。最近アンタがまた秘書艦変えてないと思ったのよ」

「そう言えば……ふむ、なら明日は他の人に頼んで見るかな」

「心当たりはあるの?」

「いや、全然だ。誰かアテがあるから俺に言ったんだろ?」

「ええ。不知火よ」

「へえ、不知火か……あんまり喋った事無かったな」

「だからじゃないのかしら?あの子、雷程じゃないけど結構頼られたがるのよ」

「なるほど、じゃあ明日は不知火を秘書艦にしてみるかな」

「ただ……あの子、実はね……」

「何かあるのか?」

「……いえ、やっぱりいいわ。その方が面白いし」

「え?」

「何でもないわ。それじゃあ、私は部屋に戻るわね。お休み」

「ああ!お休み」

パタン

「不知火か……若葉、何か不知火の事知ってるか?」

「不知火か?いや、若葉もあまり話さないからな」

「そうか、ありがとうな」

(不知火か……俺もあんまり話したことないが、冷静そうな子だった気がするな)

......................................................

[本日より不知火を秘書艦とする]

コンコン

「司令。不知火、入ります」

「ああ、入ってくれ」

ガチャ

「不知火です。ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします」

「そんなにかしこまらなくていいよ」

「いえ、不知火はこのままで大丈夫です」

「そうか。さて、お前をなぜ秘書艦にしたのかはな……」

「大丈夫です。不知火は分かっています」

「お、そうか」

(色んな子を秘書艦にする話が結構広まっているのか?)

「それでは早速今日の仕事に取り掛かろうか」

「はい、不知火にお任せ下さい」

......................................................

「……ふぅ。今日の業務はこれで終わりだ」

「司令、お茶です」

「あ、ありがとう……」

ゴクッ

(う、薄い……絶望的に味が薄い……)

今日1日で不知火のイメージが大きく変わった。仕事ができるようではあったが、それは大きな間違いだったようだ。書類は間違え、お茶はこぼし、緊張しすぎて顔が怖くなり、遠征から帰ってきた暁達を怖がらせる始末。

「司令、お味はどうですか?」

「あ、ああ。美味しいよ……」

「……そうですか……」

(やばい……多分無理してるのがバレてる……)

「不知火に……なにか……落ち度でも?」

「い、いや。大丈夫。大丈夫だ。助かるぞ、不知火」

「そうですか!それでは、失礼します」

ガチャ

パタン

「……ふぅ」

「クスクス……大変だったわね?」

「叢雲……お前、知っていたな?」

「ええ、陽炎とたまに話すからね」

「恨むぞこの野郎」

「今回は別に深刻じゃないからいいじゃない?」

「まぁ、ダメージがあるのは俺と不知火本人だけだからな。さり気なく不知火にさとらせればどうにかなるかな?」

「まぁ、頑張りなさい。私は部屋に戻るわね」

「ああ、お休み」

(ただし……ミスする度に涙目で「何でしょうか?不知火に落ち度でも?」って言われたら、どうしようもないじゃないか……)

......................................................

次の日も、不知火は秘書艦の仕事を頑張ってはいたが、予想通りにミスの連発だった。

「不知火に何か落ち度でも?」グス

「だ、大丈夫。不知火は本当に良くやってくれているよ。ただ、ちょっと秘書艦は初めてだから勝手がわからないだけだよ」

「……お気遣い。ありがとうございます」グス

(うーん。このままではまずいけどな……そうだ!)

......................................................

[本日より秘書艦を叢雲にする]

「結局不知火のことは諦めるのか?」

「いや、そうじゃない」

「ではどうするのだ?」

「こうするんだよ」

[本日より不知火を秘書艦補佐とする]

「補佐?そんな役職あったのか?」

「俺が今日作った」

「職権乱用だな。そんなことをして大丈夫なのか?」

「まあなんとかなるだろう」

......................................................

「へぇ、考えたじゃない」

「ああ、親しいお前と一緒にいるから緊張も和らぐだろうし、基本は叢雲の仕事を手伝うくらいだからな。これならミスも減るだろう」

コンコン

「司令。不知火、入ります」

ガチャ

「不知火。お前には今日から通達通りに叢雲の補佐をやってもらう。それをしながら仕事を少しづつ覚えていってくれ」

「…………」

(あれ?なんか怒ってる?なんか不味かったか?)

「司令!司令は不知火の事をそこまで考えて下さったのですね!感激です。これからも不知火が司令の世話をし続けます!」

俺の服の裾を掴みながらキラキラしてそう言う不知火はどこか夕立や時雨に似た何かを感じた。

「お、おう。これからもよろしく頼む……」

俺は不知火の頭を撫でながらそう言った。

......................................................

それから不知火は少しづつ叢雲と共に仕事をこなしつつ、自分で出来る仕事を増やしていった。根はやはり真面目な性格だったようで慣れたら正確に仕事をこなしてくれる。ただ、仕事一つ終わる度にキラキラして俺に褒めてもらいに来る……犬4匹目だな。




なんか今回手抜き感半端ない(今回も全力ですよ?)
ちなみに、不知火に恋愛感情はありません。忠犬的な感じです。


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曙の場合

「今日は暇だなー……」

「そう思うなら仕事しなさい。まだ残ってるのよ」

「提督!暇なら青葉とお散歩に行きましょう!」

「青葉、暑い……抱きつかないで……」

「がーん!」

「何やってるのよ2人とも……」

今日は特に猛暑日らしく鎮守府全体が阿鼻叫喚の地獄絵図になってる。かく言う俺も暑さにやられて仕事が思うように進まない。

「しょうがない。さっさと仕事を終わらせて海岸でも行くか……」

「そうね、ならさっさと終わらせるわよ」

「青葉も手伝います!」

「よし、3人でやればそこそこ早く終わるだろ」

......................................................

「…………よし!終わったー!」

「お疲れ様」

「結構早く終わりましたねー」

「そうだな。よし!海岸に散歩に行こう!」

「あ、せっかくだけど私は遠慮しとくわ」

「え?どうして?」

「ちょっと今読んでる本が面白くて、続きが気になるのよ」

「そうか、じゃあ青葉。二人で行こうぜ?」

「はい!是非是非!」

「そう言えば若葉はどうしたのかしら?」

「今日は初春型は全員非番で皆で若葉を愛でているらしい」

「…………ちょっと興味あるわね」

「青葉も気になりますね。姉妹3人に撫でくりまわされる若葉さん……」

「俺もだ、まあ感想は明日聞けばいいさ。青葉、行こう?」

「はい!」

......................................................

「こうして二人で歩くのも久しぶりだな」

「そうですねー」

「最近書類仕事が多めだったから青葉がずっと暇ー!暇ー!って叫んでたからな」

「わ、私はそんなこと言ってません!」

「くっくっくっ。そうだったな」

「もう……」

「怒るなよー」

「怒ってはいませんよ。むしろ、私は嬉しいです。人間をやめた私が、愛する人と共にこうやって心の底から笑いながら散歩出来るなんて思ってもみませんでしたからね」

「そうだな」

と、言いつつ俺は青葉の頭をくしゃっと撫でた

「わわっ!びっくりしました!」

「これでいいんだよ……これで……」

「そう……ですね……」

......................................................

翌日、俺は若葉に昨日のことを聞きながら仕事をしていた。

「昨日はゆっくり出来たか?」

「いや、初春姉達に一日中頭を撫でられた」

「それは……大変だったな」

「だが、悪くはなかった」

「そうか……よし!今日も一日頑張るか!」

「ああ、今日はまず演習からだな」

......................................................

「艦隊が帰投したぞ」

「了解だ。若葉、皆を連れてきてくれ」

「分かった」

......................................................

コンコン

「曙よ、入るわよ」

ガチャ

「皆、お疲れ様。遠征は無事に成功したようだな」

「当たり前よ!私を誰だと思ってるの?」

「曙だな」

「そんなことを聞いてるんじゃないわ!このクソ提督!」

「悪かったよ、冗談だ。それじゃぁ皆休んでくれ」

「ふんっ!失礼するわ!」

バタン!

「忙しいやつだな」

「いや、今のは提督が悪い」

「最近曙と喋ってなかったから接し方を忘れてな、場を和ませようとしたんだがな」

「逆効果だったか」

「あいつちょっと怖いんだよなー。口調きついし」

「叢雲も口調はきつくないか?」

「うーん。叢雲はなんというか、トゲがない罵倒って感じ?曙はとにかくグサグサくる」

「そうなのか」

......................................................

「失敗したー!」

「大丈夫?曙ちゃん?」

「全然大丈夫じゃないわよ!せっかく提督が褒めてくれたのに私ったらまた緊張してクソ提督なんて言っちゃった!もうー!ほんとにどうしよう」

「いっそそのキャラを貫くのは?」

「ダメよ!絶対提督に負担をかけているんだからこんなんじゃダメなのよ!」

(曙ちゃん、乙女してるねー)

(しかしこの声。絶対部屋の外まで聞こえてるよね。ご主人のとこまでコレが聞こえるのが一番楽なんだけどなー)

「グス……グス……」

「ああ、曙ちゃん!泣かないで!大丈夫だから!」

「ここままじゃほんとに提督に嫌われる……」

「ご主人はそんなことでボノたんを嫌いにならないよ」

「ボノたん言うな……グス……」

「あ、そこはきっちり反応するんだ」

......................................................

「ふーん。曙、そうだったのね。でも今回はアイツ自身で気づかないとね」

......................................................

あれから数日が経ち、特に何事も無かった。

「あ、ご主人!おはようございます!」

「漣か、おはよう」

「今日は私達が演習する日でしたよね?」

「ああ、全員よろしく頼むぞ」

「お任せ下さい!あ」

「うん?どうした?」

「ボノたん、出ておいでよ。お話しようよー」

「曙いるのか?」

「誰がボノたんよ。べ、別に私はクソ提督と話したいことなんてないし」

「おや?私はただお話しようと言っただけで別にご主人とお話しようとは言ってないですよ?」

「な/////なにを言ってるのよ!」

「ま、まあまあ2人とも。漣も曙で遊ぶなよ」

「はーい」

「ふんっ!もう行くわよ!」

「ああ、演習、頑張れよ」

「アンタなんかに言われなくてもやってやるわよ!」

(うーん、曙の悩みかー……)

「なあ、曙」

「なによ?」

「お前最近悩んでることないか?」

(どストレートに、しかもご主人本人から聞きますか!?でもこれでボノたんが正直に話せば楽になるんだけどなー)

「……何も無いわよ……」

(ほらこうなったー)

「嘘だな。何か悩んでる顔をしてるぞ」

(お!ご主人から攻めてきましたか)

「何も無いってば」

「俺じゃ役者不足か?話してみてくれよ」

「何もないってば!ウルサイわよ!このクソ提督!……あ!」

(やっちゃったー)

「……そうか、余計な詮索して悪かったな。曙」

「あ……ち、違……」

「それじゃぁ演習、頑張れよ」

スタスタ

(ボノたん……)

「……………………」

......................................................

曙にこっぴどく言われた俺はちょっと凹みながらも執務室に向かっていた。

「あら?今から仕事?」

「叢雲か、おはよう。ああ、ただ、ちょっと凹むことがあってなー」

「へー、何があったの?」

「曙の事なんだが……」

と今朝あったことを話した。

「あー」

(コイツ、そんなことがあってまだ気づいてないの?ホンットに鈍感。若葉も苦労するわね)

「なあ、俺やっぱり曙に嫌われてるのかな?」

「さあ?そこんところは本人に聞いてみないと分からないわ」

「そうだよなぁ、でもやっぱり曙本人にグサッと嫌いって言われるのはなんかやだなー」

「やっぱり女の子にはモテたいからねー?」

「そんなんじゃねぇよ。曙は……いつも俺の事を思って遠征や演習を頑張っているんだと思ってたけど、あそこまでボロクソに言われたらちょっと自信無くなってきてな」

「あらら……」

(これは曙のツンデレが逆効果になってるじゃない…)

「……気にしてもしょうがないよ。さ、仕事に取り掛かろうぜ」

......................................................

「艦隊が帰投したしたわ」

「分かった。戦果を報告してくれ」

......................................................

「そうか、MVPは曙か」

「ええ、そうよ」

「曙、よく頑張ったな、お疲れ様」

「……ええ」

「…………それじゃあ各自この後は自由だ、解散」

「失礼します」

(ボノたん……)

......................................................

「……グス……ヒック……ヒック……」

「曙ちゃんどうしたの?」ヒソヒソ

「ご主人と色々あったんですよ」ヒソヒソ

「もうダメ……もう絶対提督に嫌われた……無理……」

「ああっ!曙ちゃん!大丈夫だよ、きっと」

「もうご主人も許してくれますよ」

「だって……だって……グス……」

「相当落ち込んでるね」ヒソヒソ

「今回のは大分応えたみたいですね」ヒソヒソ

「もうイヤ……提督と話したいのに……仲良くしたいのに……いつも口が悪いせいで、もう提督とお話できない……」

「ああっ!曙ちゃんー!」

......................................................

「あ、曙」

「…………提督……」

「今日はクソはつかないんだな」

「…………いいでしょ、別に何でも……」

「まあ、そうだな。なあ、曙」

「何?」

「ちょっと海岸まで散歩しないか?」

「…………いいわよ」

......................................................

「………………」

「曙の悩んでいることは俺に関することでいいんだよな?」

「え?」

「あれだけ露骨に凹まれたら嫌でも分かるさ」

「……」

「だが、俺はその内容までは分からない。曙、話してくれないか?」

「……私は、もっとアンタと一緒に話してみたい。良くやったと褒めてもらいたいのに、アンタの前に立つといつも緊張していつもクソ提督なんか言っちゃうの。それで提督のことを傷付けちゃうと思って……」

「そうか……よく話してくれたな」

「いつも……ひどい事言ってごめんなさい。許してちょうだい。私はもっとアナタと一緒にいたいの。お願い!」

「許すも何も、俺は最初から怒ってないさ」

「え?」

「別に罵倒されたくらいじゃ怒りはしないさ、こうやってボノたんの本音を聞けたしな」

「ボノたん言うな」

「はは!そうそう、曙はその口調が一番似合うよ。曙の本音は俺が分かってるからゆっくりと変わればいいよ」

そう言って俺は曙の頭をそっと撫でた。

「……この、クソ提督……」

といいながら曙も俺に抱きついてきた。

......................................................

「今日のMVPは曙だ」

「最近調子いいじゃない、曙」

「当たり前よ!私を誰だと思っているの?」

「ボノたんだな」

「ボノたん言うな!この、クソ提督!」

こうして、曙の罵倒はあんまりグサグサ来なくなった。そして

「ちくしょー、通り雨なんてついてないぜ」

「て、提督!」

「曙?どうしたんだ?」

「あ、あの、その、か、傘!傘持ってきたわ!」

「お!ありがたい。助かるよ。ありがとうな、曙」

こうやって少しづつ、自分の思いを行動でしめしてくれるようになった。




投稿がだんだん遅れていく……!
それはそうと梅雨グラのボノたん可愛いですね


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山城の場合

「……て事があったんだよ」

「へー、そんな事があったんだな」

とある日の午後。俺は今日の秘書艦の時雨と散歩しながら雑談をしていた。時雨は俺に聞いてほしいことが多いらしくずっと元気に喋ってくれる。あんまり話す子がない俺にとっては聞き役はありがたいし、時雨の話はどれも面白いから退屈しない。

「あら、提督。こんにちは」

「……こんにちは、提督。と……時雨」

「山城!扶桑!」

「山城に扶桑か、よう」

「二人きりのところをお邪魔でした?」

「ううん!山城と扶桑なら大丈夫だよ!」

「ああ、特に二人がいてはできない話じゃなかったしな」

「……じゃあ今は偶然だとしても、私達がいてはまずい話があるんですか?」

「え?」

「こら、山城。そんな事提督に言ってはダメよ。ごめんなさい提督」

「あ、いや。大丈夫だ」

最近話してなかったけど、山城ってこんなキャラだったか?と思った。今までは確かに少し無愛想ではあったが、礼儀正しくはしていたし、敬愛してる扶桑の前ではあんな事絶対に言わなかったはずだ……どうしたんだ?

「山城?何かあったのかい?」

「……いいえ、何も無いわ」

「じゃあどうして提督に対してつっけんどんな態度をとるんだい?」

「別に、これでいつも通りよ」

「嘘だね。僕と山城の仲だよ。隠し事なしで話してみてよ。山城?」

「…………ホントに何もないの……」

「…………そう。分かったよ。じゃあ提督。僕もう行くね」

「あ、おい!時雨!……行っちゃった」

「……それでは私達もこれで。姉様、行きましょう」

「あ、ちょっと。山城!すいません提督。失礼します」

「……………………」

......................................................

山城達と別れた後、俺は海岸に向かった。

「やっと見つけたぞ、ここにいたのか」

「提督」

「隣、いいか?」

「うん」

と、俺は時雨の横に腰を下ろした。

「……ねぇ、提督。僕、何かしたかな?」

「いや、俺にはお前が何かをしたようには見えなかったし、思えなかったぞ。」

「……じゃあ僕は無意識のうちに山城を……親友を傷つけていたんだね」

「…………大丈夫だ。あの時言っただろう?お前の周りの人はそんなにヤワじゃない。大丈夫だ」

「ホントに?」

「ああ!今日はたまたま虫の居所が悪かったんだろう」

「そうだね、うん!元気でた。ありがとう、提督」

......................................................

しかし、その日から山城の時雨に対する接し方が日に日にぎこちなくなっていっていた。

「グス……て、提督……僕……どうしたらいいの?……グス……グス……」

時雨はすっかりまいってしまい、ここ数日ずっと俺に抱きつきながら泣いている。

俺は叢雲と若葉を応援に呼んで対策を考えることにした。

「私達はその現場を見てないからなんとも言えないけど……」

「当事者ではない若葉達から見ても少し山城の態度は気になるな」

「だよなぁ……うーん。これは流石にまずいな……青葉!」

「はい!お呼びですか?」

「うわ!アンタどこから湧いてきたのよ!?」

「川内に通じる何かを感じるな……」

「まぁまぁ、それは置いといて。山城さんの事ですよね?」

「ああ、調べてもらえるか?」

「もちろんです!調べ終わったら褒めてくださいね!」

と叫ぶや否や、どこかに走り去って行った。

「青葉……だんだん忍者になってきたわね……」

「そうだな。本人はどう思っているんだ?提督?」

「青葉はアレで満足してるらしいぞ。俺に頼まれて色んなことをするのが嬉しいらしい。」

「犬ね」

「まあ、アイツに任せておけばなんで山城が怒っているのか分かるだろ」

と、タカをくくっていたが……

......................................................

「ダメでした……」

「そうか……」

「部屋の外では時雨さんや提督以外にはいつも通り接しているし、部屋の中に盗聴器をしこんでも絶対にバレて壊されるんですよー!」

「盗聴器なんて物持ってるのかよお前。まぁいいや。しかし、盗聴器使っても分からないなんて……」

「ごめんなさい……」

「いや、青葉はよくやってくれているよ。ありがとうね」

「ホントですか?恐縮です!」

(うん。犬3匹目だな)

「ん?今なにか失礼なこと考えませんでした?」

「気のせいだ」

「ならいいですが……」

「で、結局どうするの?」

「いっそ山城に直接提督か時雨が聞いてみるか?」

「うーん。最終それしかないかなー?」

「流石にそれは山城さん話してくれないと思いますよ」

「だよなー。うーん。どうしたものかなー?」

などと俺達が悩んでいたら

コンコン

ガチャ

「提督。失礼しまーす」

「北上か。どうした?」

「いやね。最近青葉っちがいろいろ山城っちのことを探ってるみたいだからねー」

「気づいていたのか」

「うん。ついでに何で山城っちが怒っているのかも」

「ホントか!?」

「ここで嘘言ってどうするのさ。ホントだよ〜」

「頼む!教えてくれ!」

「お願い。北上さん。僕が山城に何をしてしまったの?」

「う〜ん。これは私から言うべきことじゃないんだよな〜。とりあえず、一つ言えることは、時雨っちが悪いわけじゃないからそこん所は安心して」

「え?そうなの?」

「…………」

「そうだよ。私から言えることはここまで。それじゃ。提督」

「ん?どうした?」

「情報料として間宮さんアイスちょーだいな?」

「お前なぁ……まあいいや、はい。2枚だろ?」

「分かってんじゃーん。ありがとね♪」

「どうして2枚なの?」

「……大井の分だ」

「……じゃ、私もう行くね〜それじゃあ、頑張ってね」

パタン

「提督……何かあるのか?」

「いや、今はその事より山城だ。あいつはあんな奴じゃないはずだ」

「提督。どうするつもりなの?」

「俺がサシで話し合う」

「直球ね」

「山城は何かを隠してる。だけど、時雨は悪くない。なら、多分俺が原因だろう」

「またそうやってほかの女の子を誑かしたの?いい加減にしないと若葉が泣くわよ?」

「若葉は大丈夫だ。提督の一番が若葉なら」

「あ〜らら。お熱いわね」

「その事は置いといて……」

「提督。何か心当たりはあるの?」

「無い」

「いつもの事だな」

「ああ、いつも俺は全力でお前達と話してきた。だから今回も全力でぶつかる」

「そう、頑張ってね」

「お願い、提督。僕も連れていって。何故山城が怒っているのかただ待ちぼうけを喰らうなんて僕にはできないよ」

「いや、山城は多分時雨がいたら話さないだろう。だから、ここは俺1人に任せてほしい」

「…………そう……分かったよ。でも、山城を……お願いね?」

「任せろ」

......................................................

(とは言ったもののなぁ……青葉が言った通りに外では扶桑と四六時中一緒にいるし、部屋まで行っても多分門前払いされるだけだろうしな。さて、どうしたものか……)

「提督?どうしたのですか?」

「お、扶桑か。山城は?」

「あの子最近1人で悩みこんでるから無理やり休ませているのですよ」

「そうか……なぁ、扶桑」

「何でしょう?」

「その山城の悩みについてなんだが、何か心当たりは無いか?どんな事でもいい」

「そうですねぇ……山城が悩み始めたのは丁度提督が色んな子を秘書艦にし始めた頃ですね」

「そうなのか?」

「ええ。ですから提督と関係があるとは思うのですが……そこからは私には分かりません」

「いや、十分だ。ありがとう」

「いえ、提督。山城をお願いしますね?」

「任せろ!」

......................................................

そうして扶桑と分かれ、俺は山城の部屋の前までついた。

コンコン

「山城、俺だ。いるか?」

「…………はい」

と言いながらドアを開けたのは辛そうな表情をしている山城だった。

「少し話したいことがある。入ってもいいか?」

「…………どうぞ」

と、部屋に入れてくれた。

「それで?話ってなんですか?」

「単刀直入に言う。何故時雨を避ける?」

「……別に提督には関係ないです」

「と、言う訳は時雨には関係あるんだな?」

「……………………」

「時雨のためにも教えてくれ。なんでお前は時雨を避けるんだ?時雨のことが嫌いになった訳では無いんだろう?なら何故なんだ?」

「……あなたには、あなたには分からないでしょうね!」

普段声を荒げない山城が叫ぶように話し始めた

「私には姉様と時雨しかいないの!それなのに、時雨があなたに気持ちを打ち明けてから時雨は変わってしまった!毎日、あなたの所に行って話をするようになった!私には、私にはそれが耐えられなかった……自分の世界の半分を取られた気持ちよ……でも、本当に嫌いなのは、時雨の事を素直に応援できないで醜い嫉妬をしている私自身よ。私なんかがいたら、時雨は私に気をかけてしまう……私なんかに……時雨の大切な時間を割かせてしまう。それが耐えられないのよ……だから、もういっそ私の方から身を引こうって思ったのよ。お願い提督。この事は時雨には話さないで。そして、時雨には私の事を忘れるように言ってちょうだい。」

「そんなのやだ!」

と叫びながら、時雨が部屋に飛び込んで山城に抱きついた。

「時雨!?ダメ!」

「嫌だ!僕、山城ともう一緒にいられないなんてやだ!僕は、確かに提督のことが好きだよ。でも、それと同じくらいに山城の事が好きなんだよ!勝手に自分のことだけ考えていなくなろうとするなよ!バカ!」

時雨は山城に抱きつき、泣きながら叫んだ。

「時雨……ごめんね。私。あなたのこと、分かってなかったわ。自分のことだけ考えて、あなたの事を考えていたかったわ。完全に独りよがりになっていたのね」

「ううん。僕の方こそ、山城にそんな事思わせちゃっていてごめんね」

(さて、俺は退散しますか)

と、こっそり俺は部屋を抜け出し、執務室に戻って若葉達にことの顛末を話した。

......................................................

それからは時雨が秘書艦の日は山城も執務室にいるようになった。

時雨には届かない位置にある物を取ったり、時雨の書類を半分持ったりといろいろ手伝っている。俺の分は少しも手伝ってはくれない。解せぬ




投稿遅れてしまい申し訳ございません。リアルの用事とシャドバが原因です。
さて、次回の話のために少しだけ今までに投稿させた話を手直しさせて頂きます(話の内容が変わるほどではないです)そして、また長くなりそうなのでまた投稿期間が空いてしまいそうです。どうか生暖かい目で見守っていてください。


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大井の場合

「あ、提督。おはよ〜」

「提督、おはようございます」

「北上と……大井か。ああ、おはよう」

「?提督。どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

「そうですか、ならいいですけど」

「……………………」

「そ、それより。2人とも、今日は演習の日だったよな?」

「はい。」

「そうだよ〜」

「くれぐれも気をつけてくれよな」

「提督、演習ですよ?どんなに攻撃を食らっても大破までですむじゃないですか。私としては北上さんが傷つかないように全身全霊で守るつもりですよ」

「「それはダメ(だ)!!」」

「ふ、2人とも、声を荒らげてどうしてんですか?」

「あ、えっと、その……」

「あ、あれだ!北上の方が練度が高いんだからその必要はないぞと言いたいんだよ!」

「そ、そうそう!むしろ、私が大井っちを守ってあげるよ」

「北上さんが私を守ってくれるんですか?ありがとうございます!」

「うん。それじゃあ、提督。私達はもう行くね。大井っち、行こ?」

「はい!提督、また」

「ああ……」

(大井……………………)

......................................................

「北上さん。さっきの話ですけど……」

「大井っちは気にしなくていいよ」

「いえ、私ももう改二です。そろそろ北上さんを守れるくらいには強くなったつもりです。それに、北上さんが私を守ってくれるように、私も北上さんを守りたいんです」

「大井っち……」

「私を北上さんの隣にいさせて下さい。お願い!」

「…………大丈夫だよ。大井っち」

「北上さん……」

「……そろそろ演習始まるよ。行こ?」

「はい……」

......................................................

(北上さんと提督は何かを隠してる……それはずっと気づいていた。でも、何を?)

「大井っち!危ない!」

「え?きゃあ!」

「くっ!大井っち!」

......................................................

「う……ん……ここ……は……?」

「目が覚めたか」

「提督……?そうだ!北上さん!北上さんは!?」

「落ち着け…………命に別状はない」

「そうですか……よかった」

「ただし、不安定な格好で攻撃を受けたからダメージが酷く、まだ意識を戻さない」

「そんな……!」

「お前もこれから精密検査を受けてもらう。それから2人には当分の間休暇を言い渡す」

「分かりました」

「……それだけだ。じゃあ、俺はもう行くぞ」

「待ってください」

「どうした?どこか痛むのか?」

「いえ、提督に聞きたいことがあります」

「……今はダメだ。安静にしていろ」

「今じゃなくてはダメなんです」

「…………何だ?」

「提督と北上さんは何か私に隠していますね?」

「何のことだ?」

「とぼけないで下さい!2人ともずっと私に気を使っている。特に戦闘に関することで」

「俺は全員に対して気を使っている。北上はお前の事を気に入っているからな、当然だろう」

「いえ、提督は絶対に何かを隠しています私に関する何かを。教えてください!」

「……ダメだ」

「提督!」

「これ以上は体に触る。もう休むんだ」

「……はい」

......................................................

「「「提督が隠し事?」」」

「はい。私に関する何かまではわかるんですが、それ以上は分からないんです。提督と親しい3人なら何か分かると思ったのですが……」

「ふむ……提督が大井に隠し事か……」

「私は知らないわ」

「青葉も知らないですねぇ」

「そうですか……」

「……もしかしたら」ボソツ

「あの事か……?」ボソツ

「ん?2人とも、今何か言いました?」

「いや、何でもない」

「そうですか……青葉達3人ですら知らないって事は大井さんの気のせいでは?」

「それは無いです!提督と北上さんは何かを隠しているんです!」

「お、落ち着いてください!分かりました!青葉が調べておきますよ。だから安心して体を休めてください」

「はい……お願いします」

......................................................

「ねえ、若葉?」

「叢雲、やはり気づいていたか……」

「あいつ……まだ気にしているのね……」

「提督はアレから変わったのだ。もう、誰も提督の事を責めないというのに……」

「当事者の北上すら許しているのにね」

「自分で自分を許せないんだろう」

「大井には……」

「言えないだろうな。提督は大井を見ているつもりでも大井を見ていないのだから」

......................................................

それから数日が経ち、北上も回復し、大井の休暇も明け、2人は戦線に復帰した。

「北上さん!私のせいで!本当にごめんなさい!」

「いいって〜、もう過ぎたことだし。でも、これからは気をつけてね?」

「はい!」

「北上、大井、おはよう」

「あ、提督。おはよ〜」

「……提督。おはようございます……」

「2人とも、今日からまた復帰だな。早速今日の演習に出てもらうから、頼むぞ」

「はいよ〜もう、大丈夫だよ。提督」

「ああ……」

(やっぱり提督と北上さんは何かを隠してる……でも何を?)

「大井っち?大丈夫?」

「は!はい!」

「体調が優れないのか?」

「いえ、大丈夫です。」

「そうか、なら頼むぞ」

と、言って俺は二人と別れた。

......................................................

俺自身、頭では理解している。だが、どうしても大井を見ているとあの時の光景が蘇ってしまう……この鎮守府であの事件のことを知っているのはもう北上、叢雲、若葉、そして俺だけになった。もう、誰も、北上ですら俺の事は憎んでない。いや、最初から誰も憎んではいなかった……あれは事故なのだから。唯一、許していないのは俺自身だ。

大井……お前は……俺を……許してくれるのか?

......................................................

「提督、艦隊が帰投したぞ」

「ああ、入ってくれ」

ガチャ

「若葉以下5名。帰投した」

「ああ、お疲れ様。どうだった?」

「にひひ、なんと!ハイパー北上様がMVPだよー!」

「そうか、良くやった」

「…………」

「それじゃあ若葉達は補給をしてくるぞ」

「ああ、手配はしてあるからゆっくりしてきてくれ」

パタン

ふぅ、とため息をついて、椅子にもたれかかった。すると

コンコン

と、ドアをノックする音が聞こえた。

「誰だ?」

「大井です」

「…………どうした?」

「お話があります」

「まだ補給がすんでないだろう。それに演習の疲れもあるはずだ。ゆっくり休んでからにしてはどうだ?」

「もう……待てません」

「……………………入れ」

「失礼します」

ガチャ

「何の用だ?」

「いい加減にはぐらかすのはやめて下さい。話してください。全部を」

「何回も言っているだろう。お前に話すことは無い。と」

「……………………」

「……………………」

「……何で……私には……話してくれないのですか……?私ではダメなのですか!?私は!強くなりました!北上さんを……この鎮守府の皆を……提督を……守るために……。それでも!私はまだ未熟ですか?頼りないですか?」

「別にお前にだけ話さない訳では無い。その事を知っているのが北上と俺、後は若葉と叢雲なだけだよ。他の人には話すような内容じゃないから……」

「教えて下さい」

「断る……と言ったら?」

「話してくれるまでここにいます」

「……………………」

「……………………」

「…………分かったよ。場所を変えよう」

と言って、俺と大井は海岸まで向かった。

「さて……どこから話したものか、俺の初期艦が叢雲なのは知っているな?そして、2人目が若葉。3人目は北上。そして……4人目は……大井だったんだよ」

「私?でも……私は、もっと遅くに」

「ああ、お前じゃない。もう1人の大井だ。艦娘のシステムは知っているか?大昔に海に沈んだ軍艦の魂を艤装に載せ、適合者とリンクする。つまり、お前以外にも大井はいるんだよ」

「そこまでは、以前聞かされました……」

「そして、何故か、同じくタイプの艦娘は、容姿や性格が似ている……お前は……もう1人の大井にそっくりなんだよ。」

「そうだったんですか……」

「話を戻すぞ。俺達は資材の関係から4人だけでこの鎮守府をやりくりしていた。叢雲がしきり、若葉の冷静な判断で危機を乗り越え、北上、大井の2人の強力な魚雷で敵を倒していった。だが、とある海域で戦闘を終えたあと、4人は疲弊しきっていた。その時、新手の深海棲艦がやって来たんだ。しかもその時初めての戦艦が……4人ともパニックになり、俺自身どう指揮していいか分からなかった。そのせいで逃げる時に北上と大井が遅れてしまったんだ。その時を相手の戦艦は見逃さなかった……戦艦の標的は北上。闇雲に打った魚雷がかすったのがお気に召さなかったらしいな。その時大破していた大井をかばいながらの北上には回避する術が無かった。だが、その時に大井が……北上を庇って砲撃を受けた。丁度演習で北上がお前にしたように………………結果。北上と後のふたりはなんとか帰り着くことが出来た。だが、大井はそのまま……。あの時こうすればよかった、こう言う指揮をすればよかった……今でも思い出すよ……」

「…………」

「俺は、ずっとお前とあの時の大井を重ねていたんだ。今度こそもう誰も沈めないって決めた。だから、お前には無茶して欲しくなかったんだ。それに、この話はお前への侮辱である事は分かっている。お前を見ずに過去の人を見ているだからな……」

「…………たしかに私は怒っています」

「…………」

「でもそれは、あなたが私を過去の大井に重ねていたからではありません」

「え……?」

「私が怒っているのは、そんな事で私が怒ると、傷つくと思っていることです。私達は艦娘です。兵器です。そのために殉職することも少なくありません。ですので、私たちのために必死になってくれたあなたを怒るはずがありませんよ」

と言いながら大井は俺を抱きしめてくれた。この言葉と抱擁で俺はあの時のことを許されたような気がした。

「聞けば提督が変わったのはその後なのでしょう?失敗を教訓にあなたなりの戦いをしてきてくれました。それで十分です」

「大井……ありがとう……俺を……許してくれて……ありがとう……」

気づけば俺は大井を抱きしめながら泣いていた。

......................................................

「あ、提督。おはよ〜」

「提督、おはようございます」

「北上と……大井。ああ、おはよう」

「ん?どしたの?今日は?やけに機嫌いいじゃん?」

「ふふっ、おはようございます」

「ぬぉっ!?大井っちまで上機嫌!ホントにどうしたの?」

「いや、別に何も無いぞ。それより、2人とも今日の演習、頼んだぞ?」

「まぁいいや、任せておいてよ!このハイパー北上様がMVPサクッととってくるよ!」

「はい!精一杯北上さんをお守りします!」

「私も大井っちを守ってあげるよ〜」

「…………2人とも、頼んだぞ」

「……提督、もういいんだ?」

「……ああ。……さて!もうそろそろ時間だぞ。それじゃ」

と言って、2人と別れ、執務室に向かった。

「提督、遅かったではないか」

「アンタがクヨクヨしてる間にやるべき仕事が溜まっているわよ!ほら!ちゃっちゃとやる!」

俺はもう迷わない。何があってもこの鎮守府の仲間達と突き進む。そして、もう誰も犠牲者を出さない。そう心に刻んだ。




お久しぶりです。KeyKaです。
この話は一部本当です。と、言うのも俺が唯一沈めてしまった艦娘が大井ただ1人なのです。
まだ左も右も分からないままで突き進んでいた時に慢心で強行突破しようとした結果です。本気で泣きました。強いキャラがいなくなったと言うより、大切な仲間が死んだと思うと涙が止まりませんでした。だからあの時から誰も死なせないという思いを込めて、この話を書きました。
閑話休題
これからも色んな艦娘にハグしたいと思いますので、良ければコメント等でリクエストがあれば俺の知っている艦娘をハグしてみようかと思っています。この子がいいなどがあれぱコメントよろしくお願いします


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大和の場合

「提督、お早う」

「ああ、若葉。お早う」

今日の秘書艦は若葉。秘書艦補佐は不知火でまだ来てないらしい。まぁ、不知火も真面目な子だからすぐに来るだろう。と思っていたら……

コンコン

「司令官。不知火入ります」

ガチャ

「お早うございます。司令官」

「ああ、お早う」

さて、今日中に終わらせなければいけない仕事もないし、のんびりしたい所だが……

コンコン、コンコン

ああ……今日もアイツが来てしまった……

「…………入っていいぞ……」

「提督?どうしたのだ?」

「…………………………………」

ガチャ

「提督、お早うございます、今日もいい天気ですね。さぁ!お仕事ですね?大丈夫!私も手伝いますよ。この大和型一番艦。大和が全身全霊で提督の事をお支えしますよ!」

「…………ああ……よろしく頼むぞ……」

「提督?どうかされました?お気分が悪いのですか?大丈夫!今日のお仕事は大和にお任せ下さい。提督はお部屋で休んでて下さい」

「いや、大丈夫だ。それに今日の秘書艦と補佐は慣れている2人だから手伝いも要らないだろう。それに今日は大和は非番の日だろう?今日は1日ゆっくり休んだらどうだ?」

「提督……!そこまで大和の事を気にかけてくださっているのですね!大丈夫です!提督にお使えすることが大和の喜びなのですから。さぁさぁ、お仕事しましょう?」

「……大和」

「ああ!ごめんなさい!若葉さん、不知火さん。まずはあなた方に挨拶と今日のお仕事を手伝う意思を伝えなければなりませんでしたね!うっかりしていました。改めて、お早うございます若葉さん、不知火さん。本日は大和も2人と提督のお手伝いをしようと……」

「大和!」

「はい?何でしょうか?」

「提督が困っている。少し落ち着け」

「あら、失礼しました」

「…………少し、外の風に当たってくる。若葉、ついてきてくれ。不知火、少しの間頼むぞ」

「お任せ下さい」

「あ、大和も……」

「いい」

「あっ……分かりました」

「行くぞ、若葉」

「分かった」

......................................................

「と、言うわけだよ」

「なるほど、そう言えば提督はコミュ障だったな」

「コミュ障って言うな、誰だって初対面で毎日あんな感じのテンションで話されたらこうなる。大和も悪いやつではないし、今後の大きな戦力になるのは間違いないのだがな」

「ああもグイグイ来られると提督は使えなくなるし、大和も無自覚でやっていると」

「お前最近俺に対して酷くないか?」

「気のせいだ。とにかく、大和の態度をどうにかしないといけないな」

「ああ、とにかくどうにかして大和に大人しくしてもらわないとこっちの身が持たない」

「大和を大和撫子に……」

「…………………………………」

「…………………………………すまない、提督」

「いや……いい」

......................................................

「よう。陸奥」

「あら提督。こんにちは」

「すこし大和について聞きたいことがあるんだがいいか?」

「いいわよ。立ち話もなんだしどこかで座って話しましょ?」

......................................................

「で?大和についでだったかしら?まぁ、大体話の予想はついているわ」

「そうか、なら話は早い。大和ってのはあんなグイグイ来るキャラなのか?」

「そうねぇ……私のイメージではそんなことないんだけどねぇ」

「確か大和が建造された時立ち会っていたのはお前だけだったっけ?」

「そうねぇ、その時忙しくてあなたの挨拶も建造された日から何日が後になるくらいだったからねぇ」

「その俺のあってない数日のことはわかるか?」

「ええ、分かるわあなたの指示で大和のお世話係してたからね」

「その時の様子はどうだった?」

「とくに今みたいな様子は見られなかったわ。大人しくて。ああ、でも、今みたいに元気ではあったわねぇ」

「元気なのは素の性格であの頼ってもらいたい性格は何かがあったんだろうな」

「その言い方だと雷ちゃんみたいね」

「雷よりもグイグイくるけどな」

「司令官!私を呼んだかしら!?頼りたいことね!大丈夫!私に任せて!」

「よう、雷。いまはとくに頼りたいことは無いかな。ありがとうな」

「そう……頼りたいことがあったらいつでも私を呼んでね!」

「ああ!またな」

「じゃーねー!」

「……嵐のような子ね」

「大和はここで下がらずに手伝いをゴリ押ししてくるんだよ……」

「大変ねぇ。雷ちゃんは姉妹がストッパーになっているってのもあるかもねぇ」

「あー、たしかにそうかもな」

「と、言うわけで……大型艦建造……やってみる?」

「勘弁してくれよ……別の悩みが生まれるだけだ」

......................................................

「おや、提督。今日は少し遅いですね。何かあったんですか?」

「提督、お早う」

「てーとくさん。おはようっぽい!」

「青葉、時雨、夕立、お早うちょっとそこで陸奥と話していたんだよ」

「ほほう!陸奥さんと提督の2人きりで話す内容とは?青葉気になります!」

「いや、大したことじゃないよ。……いや、そうだな。青葉、少し来てくれるか?」

「分かりました!」

「時雨、夕立、少しの間2人でやってもらえるか?すぐ戻る」

「分かった。早く帰ってきてね」

「お仕事夕立に任せるっぽい!」

「頼んだぞ、じゃ」

......................................................

「なるほどなるほど。つまり、大和さんが何故そこまで雷さん病になったのかを調べればいいんですね?」

「なんだよ雷病って……まぁそういう事だ。頼めるか?」

「もちろんです!青葉におまかせ!」

......................................................

青葉に調べてもらっているうちにも大和の雷病が進行し、ほぼ毎日執務室に来ては仕事の手伝いをしている。悪気は無いし、仕事はキチンと出来ているのだが、いかんせん距離感が近い。いっそやめてくれと言えればいいのだが、別に悪いことをしている訳では無い…………どうしたものか……

「提督、今日の仕事はもう終わりだ。少し散歩に行かないか?」

「ああ、若葉。ありがとう」

若葉も気を使ってくれて仕事が早めに終わると散歩に誘ってくれる。丁度いい気分転換になってありがたい。

「司令官。おでかけ?」

「暁か、今日の仕事は終わったし若葉と少し散歩に行ってくるよ」

「そう、行ってらっしゃい。今夜司令官のお部屋に遊びに行ってもいいかしら?」

「ああ、もちろんいいぞ」

......................................................

「…………っは!……寝てたのか……」

「ようやく起きたか、大部長い間寝ていたぞ」

「若葉か、すまなかったな」

「いや、提督の寝顔を堪能できて悪くなかった」

「それは上々。俺も若葉が隣にいたからゆっくり休めた」

「……休めた……か。なぁ、提督?」

「どうした?」

「大和の事だ。正直な気持ち、大和の事をどう思う?」

「悪いやつではないが……もう少し距離感を覚えてほしいな」

「……私は提督を守るためなら何でもする。愛する人をこの手で守るとあの時に誓った。それはあなたも知っているはずだ。なのに何故、あなたは私に相談してくれなかった?大和が悪気はなく、別に自分以外は不快に思っていないから?大方そんな所だろう」

「ああ、そうだ。実際に今日も大和がいてくれたからこうして時間を取れた……皮肉だな」

「自分以外は不快に思っていない?提督、馬鹿か!言っただろう!私はあなたを愛していると言うのに、その愛している人のそんな姿を見てなんとも思わないとでも!ふざけるな!それはただの自己犠牲だ!自己満足だ!大和と波風立てたくないから妥協して!闘争を放棄して!ただ今のこの現状に甘えているだけだ!」

「若葉……」

「あなたは優しすぎだ!甘すぎるんだ!何故一言、迷惑だ、もう少し落ち着けと言えないんだ!私だけではなくもう鎮守府の皆はあなたと大和のことは知っている。だから暁もさっき心配して部屋に様子を見に行くと言っていたのだ」

「そうか、俺は若葉だけじゃなくて、他のみんなにも迷惑かけていたのか」

「そうだな。ただ、別に大和が悪いやつだとは思っていないぞ。これからの戦闘で大いに活躍してくれるだろうし、仕事の手伝い自体は本当に感謝している。」

「…………」

「もうあなたは大丈夫だ。さあ、戻ろう。暁はともかく、雷がそろそろ飛んでくるぞ」

「ああ、戻ろう」

......................................................

「あ、司令官!お帰りなさい。遅かったじゃない、心配したわ。」

「司令官!心配したわ!大丈夫?何かあったの?何かあったらすぐに私を頼ってね!」

「司令官さん。お帰りなさいなのです」

「司令官、もう少し早く帰ってきてくれないと、雷が困るよ」

「ああ、皆、ただいま。心配かけたな」

「大丈夫!もーっと頼っていいからね!」

「言っただろう?皆、提督の事が大切で大好きなのだから」

「ああ。……皆、俺はまだまだ未熟だから迷惑かけるかもしれないけど、これからも宜しく頼む」

「任せて、レディーとして当然よ」

「そうよ!もーっともーっと頼ってくれていいのよ!」

「司令官さん、電にも頼ってくれてもいいのです」

「私もできる限りのことをするよ」

「提督。若葉も提督に全てを捧げるよ」

やっぱり俺はまだまだだな。だが、それでも皆がいるなら大丈夫だ。

......................................................

ちなみに、後日大和と話した。

「大和。その、悪気はないと思うんだが、大和は少し、俺と距離が近いと思う。だから、もう少し、距離感を持って接してはくれないか?」

「あら、そうだったのですか。申し訳ございません。そうとは知らずにグイグイと、これからはもう少し大人し目に。そう、大和撫子みたいにしますね!」

と、あっさり了解してくれた。若葉が見込んだ通りに別に無能ではないようだ。この後も軽く手伝いをしてくれるくらいになってくれた。

......................................................

「提督。大和さん聞いてみたところ、理由が分かりましたよ。」

「お、そうか、で、何でだったの?」

「大和は前世で国の期待を一心に背負う船でした。だから、誰かに頼られる。誰かを助ける事が無意識のうちに好きだったのでしょう。らしいですよ」




皆さん。お久しぶりです、KeyKaです。
だいぶ長い間投稿期間が空いてしまいましたが生きています。
この小説を待っていてくれる人がいるのなら申し訳ありませんでした。
誰かにキチンとものを伝えるというのは大変ですが大切です。皆さんはめんどくせーとか、これ意味ねーだろって思ってもそのままにしてはいませんか?
自分の考えは喋らなければ伝わりません。言葉にして初めて自分の考えは生まれ、他人に伝わるのです


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阿武隈の場合

ここしばらく大きな出来事もなく、あの後大和もちょくちょく来ては仕事を手伝ってくれる。他の人達とも仲良くやれているようで良かった。特に同じ戦艦の陸奥と仲がいいらしい。練度が低いから主力としてはまだだけど今日も演習に行ってもらってるし、大和がウチの鎮守府で最高クラスの戦力になる日は遠くはないだろう。

 

「提督。演習に出ていた艦隊が帰投したぞ」

「そうか。戦果はどうだった?」

「完全勝利らしいぞ」

「それはめでたい。MVPは?」

「大和だ。彼女は本当に頑張っているぞ。提督と後で話したがっていた」

「そうか。とりあえず皆を呼んでくれ」

「分かった」

 

「提督。旗艦阿武隈以下5名。演習より帰投しました」

「お疲れさん戦果は聞いたよ。よく頑張ったな。補給がすみしだい各自自由にしていいよ」

「提督!大和、MVPを取りましたよ!」

「それも聞いたよ。頑張ったな、大和」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ解散。お疲れ様」

 

「さて、それじゃあ俺達も昼食べに行こうぜ」

「分かった」

「何にしようかな…」

「やーめーてーくーだーさーいー!」

「ん?何だ?」

「喧嘩か?ちょっと見てくる」

「若葉も行くぞ」

 

俺達が食堂に駆け込むと阿武隈が北上に髪をワシャワシャされていた。

「北上さん!やめてくださいってばー!」

「え〜?いいじゃ〜ん?阿武隈っちの髪の毛すっごいさわり心地いいよ?」

「アタシの前髪崩れやすいんですよー!」

「いいじゃんかよ〜。あ、提督。やっほ〜」

「…北上、何してるの?」

「見りゃわかるでしょ?阿武隈っちと遊んでるの」

「提督ー!助けてくださいー!」

「北上、流石に阿武隈が可哀想だ。やめてやれ」

「ちぇー、まぁいいや。じゃーねー阿武隈っち。また遊ぼうね」

「ふんっ!北上なんて嫌いです!」

「子供か…阿武隈、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です。多分あれが北上さんなりのスキンシップですから」

「随分激しいスキンシップだったな」

「アタシはまだ新人だから北上さんがきっと気を使ってくれているんですよ」

「そうかー?あいつただ構いたいやつに構ってるだけだぞ」

「どうなんでしょうね?じゃあアタシもう行きますね」

「おう、演習お疲れ様。ゆっくり休んでな」

「はーい」

「阿武隈はポジティブだな」

「そうだな。ポジティブってか明るいな」

「提督は明るい子と大人しい子はどっちが好きか?」

「若葉が好きだ」

「……そうか/////」

......................................................

阿武隈の事は当人達でどうにかするだろうし、今回は俺も出しゃばる必要は無いだろう。そう思って海岸を散歩していたら、大井を見つけた。一人でいるなんて珍しいし、ずっと海を見つめて座っているだけで微動だにしない。流石に少しおかしいし、話しかけてみた。

 

「よう。大井、どうした?」

「あっ、提督」

「隣、いいか?」

「どうぞ」

隣に腰を下ろしながら

「なんか悩み事か?」

「いえ…」

「うそつけ、そんなにしょぼくれていて悩みなんてないですは流石に嘘だ。どんな事でもいいから話してみてくれないか?」

「本当に私事なんですけど…北上さんが…」

「北上?北上がどうかしたのか?あいつは最近阿武隈をいじるのに忙しそうだけど…」

「それなんです!北上さんが阿武隈さんに構っているせいで私とあんまり二人っきりになってくれないんです!」

おう……これまた凄い悩みだな。まぁ、当人にとっては深刻な問題なんだろう。

「本人に言ったのか?」

「いえ、独占欲が強いと思われるのが嫌で…」

「安心しろ、相手はあのハイパー北上様だぞ?その程度でお前を嫌うわけない」

「本当ですか?」

「それがホントかどうかはお前のほうがよく分かるだろ?」

「そうですね…私はあの事があったから、少し北上さんに遠慮しているところがあるのかも知れませんね…」

「大丈夫だ。ここの皆は強い。安心して甘えていいぞ」

「…」

「それに、言葉にしないと相手には届かない。はっきりと自分の言葉で相手に伝えないといけないぞ」

「…少し、気分が晴れました。ありがとうございます提督」

「いいよ、それじゃあもう行くな」

「はい」

......................................................

「ひゃあああああああ!」

ここ毎日聞きなれた声。阿武隈が北上に弄られている声だ。

北上は結局こりてないのかと思っていたら

「うわあああああああ!?」

と北上の悲鳴も聞こえてきた。

俺が食堂に入るとそこには珍妙な景色が飛び込んできた。

北上が後ろから大井に抱きしめられたまま阿武隈をホールドし前髪をガシガシと撫で回して阿武隈はそれをジタバタと抵抗し、大井はひたすら北上に抱きつき「北上さん、北上さん」と連呼していた。

 

「……どゆこと?」

「北上さん!本当にやめてくださいー!ていうか!なんでそんな状態でもこんなに力強いんですかー!?」

「むっふっふー。これが練度の差とハイパー北上様の真の力だよってひゃあ!大井っち〜、変なとこ触るのやーめーてーよー」

「北上さん♪北上さん♪北上さん♪北上さん♪北上さん♪北上さん」

 

どうやらこれで落ち着いたらしい。大井が北上に構い、北上は阿武隈に構い、阿武隈は北上に弄られる。この変な一方通行の関係が崩れることはないだろう。

 

ちなみに俺は阿武隈の助けを求める目を受けて、持っているスプーンを全力で投げ捨てた。




今回あんまり阿武隈出てないですね…申し訳ございません。
最後のスプーンのくだりは匙を投げるという意味のギャグです


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若葉の場合2

「最近若葉の様子がおかしい」

 

とある昼休み、今日の秘書艦の叢雲と昼飯を食べながら俺はそう言った。

 

「……はぁ」

 

叢雲はいきなり言われた事で面食らったらしく、ぼんやりと返した。

 

「今までは調子が悪かったら理由をきちんと話してくれていた。なのに、今回は明らかに調子が悪いのに、何も話してくれないんだよ」

「嫌われたとか?」

「ありえん」

「……あっそう。じゃあ本人に聞いてみたら?」

「そうしたいんだけど、若葉が言いにくそうなことだったらどうしようかと思ってな。だからお前に相談してるんだよ」

「……相談に乗る前に一つ質問があるわ」

 

叢雲が今までぼんやりと聞いていたけど、急に真面目な顔をして言ってきた。

 

「なんで相談相手に私を選んだの?姉妹艦の初春達じゃなくて」

 

叢雲の勢いに押されながらも俺は

 

「当たり前だろ?お前は俺の親友だからだ」

 

と返した。

叢雲はその答えを聞くと少し表情を和らげ

 

「そ。ならいいわ」

 

と答えた。

 

今の受け答えは正解だったのか?

「ともかく、若葉が心配なんだよ、助けてくれ」

「……まぁいいわ、手伝ってあげる。私はあんたの親友なんだからね」

「恩に着る」

「で、具体的にどうすればいいのよ?」

「そこなんだよ、俺から動いたら若葉も遠慮してしまうかもしれない。そこで、お前だ。それとなく若葉に近づいて話を聞いてくれないか?そこで済むような悩みならそこで解決して欲しい。」

「なるほどね。分かったわ。」

 

そう言いながら叢雲は食べ終わった皿をまとめて立ち上がった。

 

「もう行くのか?」

「ええ、もう食べ終わったし、先に戻っておくわ。若葉には今夜にでも話してみるわ」

「分かった」

 

......................................................

 

そのまま今日の仕事が終わり、若葉の部屋にたどり着いたわ。最近訪ねてなかったし、様子がおかしいって聞いたから少し緊張するわね。

とりあえず、ノックしてみましょうか。

コンコン

 

「叢雲よ。若葉、いる?」

「叢雲か、今開ける」

 

ガチャ

 

「叢雲、久しぶりだな」

「ええ、なんとなくお喋りがしたくてね」

「叢雲はそんな性格ではないだろう?おおかた、話の検討はついている。入って話そう」

 

と、私を中に招き入れてくれたわ。

相変わらず中には私物がほとんど置いてない殺風景な部屋。でもどこか若葉らしい色使いに通いなれた頃を思い出して安心する。

 

「座ってていくれ。紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「コーヒーをお願いするわ」

「了解した」

 

相変わらず堅苦しい話し方。でも、本当は中身はただの女の子。アイツの事を相談している時はあたふたして本当に可愛かった。

そんな事を思っていたら若葉がコーヒーを二つ持ってやってきた。

 

「さて、若葉に話だったな?」

「ええ。……あら、このコーヒー美味しいわね」

 

そう言うと若葉は目を細めながら少しわらって

「提督がコーヒーを毎日飲むからな。自然と腕も上がったのだろう」

と言った。その表情はアイツの事を考えているらしいくてどこか嬉しそうだった。

 

「お熱い事ね。ご馳走さま。」

「お粗末様だ。ところで、話をそらそうとしてもダメだぞ。」

「バレていたの?」

「当たり前だ。若葉と叢雲の仲だぞ?」

「そこまで言ってもらえるなんて嬉しいわ」

「提督に頼まれたな?」

 

いきなり確信をついた言葉に私は少しびっくりして黙った。でもすぐに調子を取り戻し

 

「どうしてそう考えるのかしら?」

「最近の提督を見ていれば分かる。若葉の事をずっと気にかけているからな。それに、若葉も自分の異変に気が付かないほど落ちぶれていないつもりだ」

「そう…なら話は早いわ。最近のあなたは様子がおかしいらしいわ。いったいどうしたの?なぜアイツに相談しないの?」

「…………」

 

若葉は押し黙ったまま動かない。少し言いすぎたかしら。そう思ったら。

 

「……怖いんだ」

「怖い?」

 

あの若葉が何を怖がることがあるのか?この鎮守府で一番の練度を誇り、常に冷静沈着のあの若葉が?

 

「何が怖いの?」

「若葉にも分からない。何に怯えているのか、若葉に分からないのだ。理由が分からないから対処の使用がないから提督にも相談していなかったのだ。あの人は私のことになるとすぐにあたふたしてしまうから」

 

艦娘が戦闘が原因で精神面に影響が出ることは珍しくない。しかし、最近は若葉は大きな被弾もしていない。戦闘が原因では無いと思われる。

 

「本当に思い当たる節はないの?」

「ああ……」

 

今日のところはこれまでかしらね。

また日を改めていくしかないわね

 

「今日のところは帰るわね、コーヒーありがとうね」

「ああ、心配してくれてありがとう。提督に心配しないでと言っておいてくれ」

「ええ、それじゃあおやすみ」

 

......................................................

 

「そうか……若葉がそんな事を…」

叢雲に今日あった話を聞いて俺自身考えてみたがやはり若葉が何かを怖がるようになる出来事はなかったように思える。

そう思っていたら。丁度大和が通りかかった。なぜか大和もここ数日仕事の手伝いを申し出てこなかった。

まぁ、強制ではないしな。とりあえず挨拶だけでもしておこうと思っていたら大和の方から俺達に気がついてよってきてくれた。

 

「提督。今日は」

「よう、大和」

 

そう挨拶をしてから大和の服装がおかしいことに気がついた。いつもの紅白の服ではなく。全身真っ黒の服を来ていた。

 

「その服装どうしたんだ?大和にはもっと明るい色が似合うぞ」

「ありがとうございます。この服は喪服のつもりなんです」

「喪服?」

「はい。今日は私の妹、大和型戦艦二番艦武蔵の沈没した日です」

「そうだったのか……」

「この鎮守府に武蔵は来てないのですが、それでも私の大切な妹。今日1日は喪に服していたのです」

「……戦没日…!そうか、そうだったのか…」

 

俺がブツブツ呟いていると叢雲が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

 

「どうしたの?」

「分かったんだ。若葉の不調の原因が」

「ホントに?」

「今から若葉に会ってくる。大和!」

「はい!」

「お前のおかげで助かった。ありがとう」

「いえ、お役に立てて光栄です」

 

俺は二人に別れを告げ、若葉の部屋まで走った。

 

......................................................

 

若葉の部屋の前に着いたが入れずにいる。勢いでここまで走ってきたが何を話すかまだ何も考えついてない……言いたいことはあるのに言葉に出来ない。

とりあえず落ち着くために煙草を吸っていたら若葉がこっちに歩いてきた。どうやら風呂上がりらしい。

 

「提督?どうしたんだ?」

「若葉、お前に話したいことがある」

「今日は来客が多いな。入ってくれ」

 

若葉はドアを開けて俺を部屋に招き入れてくれた。

 

「さて、私に話したいことだったか?」

「ああ。ただ、まだ何を話すか決まってないんだ」

「いいさ、いくらでも待つよ。コーヒーを入れてくるさ」

 

と、俺の前に灰皿を出してくれながらキッチンに向かった。

俺はその後ろ姿を眺めながら何を話すか悩んでいた。

若葉の不調の原因は前世の記憶が理由だ。しかし、それを言ったところで俺はもちろん若葉にもどうすることも出来ない。理由を言っても若葉を困らせるだけかもしれない。どうすればいい……

 

「提督?どうした?」

 

いつの間にか若葉が戻ってきたみたいだ。コーヒーを俺の前において自分は対面に座る。

 

「いや、どう話そうかとな」

「まだ決められてないのか。別に今日じゃなくてもいいのではないのか?」

「いや、だめだ。今日じゃなきゃダメなんだ。」

「そうか、ならいくらでも悩んでくれ。私はいくらでも待つ」

 

そう言って若葉は微笑んだ。前世の記憶が無意識に自分を傷つけているというのに……俺の事を思ってそんな素振りも見せずに待っていてくれる。

くそっ!どうしたらいいんだ!若葉がこんなに尽くしてくれるのに!

そう思っていたら若葉が俺の隣にやって来て体を俺の方にもたれかかりながら

 

「提督、無理しないでいい。話というのは私の事なのだろう?私は大丈夫だ。この不安も提督がいれば時期に消えるだろう。心配ない」

 

と言ってきてくれた。

俺は思い切って

 

「若葉、お前の不安の理由が分かったんだ」

 

と言った。

 

「本当か?」

「ああ、ただ……」

「大丈夫だ。言ってくれ。」

「…お前の前世の記憶。それが無意識にお前を蝕んでいるんだ。」

「前世の記憶?確かに練度が上がり、艤装とのリンク率も上がり魂の記憶が戻ることも多々あったが、なぜそれが私を蝕むのか?」

「…今日はお前が沈んだ日なんだよ……」

「!……そうだったのか」

「多分、沈んだ時のお前自身の悲しみや悔しみ、敵への憎しみ、共に沈んだ船員の気持ちまでもを思い出し、お前を蝕んでいるんだ。お前の言う通りに時期にこの症状はおさまる、この時期限定だからな。だか、毎年お前はこの時期この症状に苛まれることになる」

「そうだったのか……。提督、私は大丈夫だ。原因が分かっただけでも一安心だ。気遣い、感謝する」

「違う!そういう事を言いたいんじゃない!」

 

いつもの頼りがいのある若葉では無い、今にも消えそうなくらい儚い姿の若葉。

その時、一つの案を思いついた。だが、こんな時にしていいのかと考える。そんな事をしている時ではないし、何しろ、弱っている女の子にすることは若干卑怯な気がする。だが、俺にはそれしか思いつかない。

意を決して俺は若葉の小さな肩にてをおいた。

 

「提督?どうし…」

若葉の言葉を塞ぐように若葉の唇を俺の唇で塞いだ。

 

「ーーーーーーーーーーーー!?」

若葉が声にならない悲鳴をあげるが構わず続ける。お互いに耳まで真っ赤になっていたが次第に若葉も力を抜いて、俺に抱きつきながら瞳を閉じて身を預けてくれる。

どのくらいの時間がたったのだろうか。実際には10秒程度だっただろうが俺達には永遠に感じる時間だった。

どちらがともなく同時に唇を離した。

お互いに息があがったハッハッと息をしている。

 

「……初めてだったんだぞ」

 

若葉が唇を手で抑えながらこちらを睨みながらそう呟いた。

 

「……俺もだよ」

 

俺もそう返した。

 

「……提督、煙草くさい…」

「さっきまで吸っていたからな」

「銘柄はなんて言うんだ?」

「わかばだ。」

「ん?何を言っているんだ?」

「わかばっていう銘柄なんだよ」

「なにかの当てつけか?」

「いや、そうじゃない。……この煙草な、最初吸った時すっげぇキツかったんだよ、それで誰が吸うんだよこんな奴!って思っていた。だけど、この味になれると時々でてくる甘みや若草の青々しい匂いが癖になるんだよ。少し、お前に似ててな」

「私に?」

「そう、いつもは冷静沈着を絵に書いたようなやつなのにたまに仲間に見せる笑顔がすごく眩しくて惹かれたんだ。あの顔をもっと見たい。もっと近くで見たいって思うようになってな。気がついたらお前に惚れていたんだよ。もう一度いう。若葉、お前を心から愛している」

 

一気にまくしたてたら若葉が俺の胸に飛び込んできた。耳まで真っ赤になって照れている。

 

「……提督、今夜はもう仕事はないか?」

「……!ああ、もう今日は仕事は終わっているぞ」

「一つだけ、私にの我儘を聞いてくれるか?」

「ああ、一つと言わず、いくらでも聞いてやるよ」

「確かに今は提督のおかげで収まったかもしれない。だが、また記憶が蘇り、不安に押しつぶされるかもしれない……だから……その、今日は一緒に寝てくれないか?」

「ああ、もちろんいいぞ」

 

......................................................

 

「提督……もう寝てしまったのか?……提督、あなたを心からお慕い申しております」

 

......................................................

 

あの日から数日。すっかり調子も戻った若葉はあの日からずっと秘書艦をしてくれている。

 

「おはよう、叢雲」

「あら若葉、おはよう。もう調子はいいの?」

「ああ、心配かけた。もう大丈夫だ」

「そう良かったわね」

「迷惑かけたな。お詫びと言ってはなんだが今度食事にでも行かないか?もちろん食事代は私がだそう」

「あら、ありがとう。あら?私?一人称変えたの?」

「いや、いつもは今まで通りにするつもりだ。提督と二人きりの時だけ使っていたが、今度からはあなたにも使おうと思う。改めて、これからよろしく頼む」

 

やっぱりこの子は本当に可愛い。でも、だからこそ、私はダメなんだ……




お久しぶりです、KeyKaです。
今回は若葉の戦没日という訳で若葉の場合2を書かせていただきました。頑張って昨日出したかった……!
非力な私を許してくれ……
と、言うわけで色々と書き方を変えてみましたがいいがでしたか?コメントお待ちしております


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若葉の場合 3

今日も1日何もなく、仕事ももうすぐ終わり後は帰るだけなのだが……

 

「叢雲。コーヒーを入れてくれ」

「アンタの手にあるコップの中の黒い液体は何かしら?そしてこのやり取りはさっきから5分おきにやってるわ」

「そ、そうだったか?」

「落ち着きなさい」

「これでも落ち着いているつもりだ」

「どこがよ……まぁ、気持ちはわかるけどね」

 

机の上にある書類と一つの指輪。そう、ケッコンカッコカリの書類だ。

数日前に若葉がついに最高練度になりケッコンカッコカリの条件を満たした。後は指輪を渡して書類を書くだけなのだが、当の俺たちはここ数日顔を合わせていない。初春達が準備がいる!と言って若葉とともに休みを取りどこかに出かけてしまった。

 

「戻ってきた時若葉にどうやって渡すか悩むんだよ」

「簡単よ。膝ついて俺と結婚してください!って言えばいいじゃない」

「うーん……ポーズというかなんというか……心構え?が出来てないんだよ」

「さいで。若葉は幸せ者ねこんなに思ってもらえるなんて」

「お前にはいないのか?」

「酸素魚雷をぶち込むわよ」

「わ、悪かった……」

「ったく……」

「不安なんだよ……」

「……」

「俺は若葉を幸せにできるのか?若葉は俺の事を永遠に思ってくれるのか?と」

「……はぁ。バッカじゃないの!」

「なに?」

「アンタそんな事でウジウジ悩んでたの?」

「そんな事とはなんだよ!俺は若葉の事を思って…」

「それが若葉を信じきれていないって言ってんのよ!そうやって若葉の愛を疑うこと自体が若葉を信用していない証拠じゃないの!?」

「なっ!?……」

「…………今日の仕事はこれで終わりよ。後は自分でどうにかしなさい」

 

と叢雲は俺に書類を押し付けて出ていった。

 

......................................................

 

「…………しっかりしなさいよ。私の…する司令官」

 

......................................................

 

俺は一人執務室にで暖炉にあたりながら指輪の入った箱を見ながら考え込んでいた。

叢雲の言ったことは正しい。恐らく、いや絶対に若葉を俺を永遠に愛してくれる。俺のもちろんそのつもり。だが何かが足りない。その何かが分からない……。誰かに相談はできない。叢雲は自分でどうにかしろと言った。すなわちこれは俺一人の問題なのだ。

そう悩んでいたが、どうやら時間のようだ控えめにドアをノックする音が聞こえた。

 

「提督?私だ、若葉だ。」

「あ、ああ。今開ける」

 

そう言ってドアを開けて若葉を部屋に招き入れる。

若葉は服こそいつもの制服だが、シャツのボタンもキトンととめ、ネクタイもしめてある。

 

「……似合ってるぞ」

「初霜にやられたんだ。あいつは私の世話を焼きすぎる」

「いいじゃないか、それだけ愛されているんだよ」

 

俺が「愛」と言った途端に若葉の顔から火で出るほど赤くなりモジモジと照れてしまった。それで俺も意識してしまい。二人の間に妙な時間が流れた。

 

ゴーンゴーンゴーンゴーン

 

と時計が12時を知らせる金を鳴らした時に二人は文字通りに飛び上がるようにし、ぎこちないまま俺は若葉を暖炉の前に座らせた。

 

「……」

「……」

 

しかし、相変わらず沈黙のみが流れる。

 

「そ、そう言えばこの数日何をしていたんだ?」

「初霜たちに連れられていろいろ買い物だ。式場を見に行ったりもした」

「し、式場……」

「あとはウエディングドレスとかな」

「見てみたいな」

「正式な結婚はまだだ。この戦いが終わってからだから。私はまだここで止まるつもりは無い。今の先、明日の先に向かいたい」

 

そう言われて俺はハッとした。

 

「そうか、そうだったんだな……」

「提督?どうしたんだ?」

「若葉はケッコンをただの儀式でその先を見ていた。戦いが終わり、その先を……。俺は、今しか見ていなかった。ケッコンの事を気にして、若葉は俺の事を愛してくれるかなんて下らないことを気にしていた。分かっていたんだ。若葉がケッコンの事をあまり気にしていないことを。」

「提督……」

「いや、大丈夫だ。若葉の姿をみてふっきれた」

「そうか、ならもう心配いらないな」

 

俺は若葉のシャツのボタンをいつものところまで外し、ネクタイも緩めた。

そして若葉の前で膝をつき指輪を取り出した。

 

「若葉、その格好。いつものその格好で聞いてくれ。俺は若葉のそのままの姿を愛する。若葉も俺のそのままの姿を愛してくれ。お互いを大きくも小さくも見ない。ありのままの姿を愛し合おう。そして、ともに明日のその先に向かおう。その為に、この指輪を受け取ってほしい」

「提督、そのまま。そのままで聞いてください。私はあなたの全てを愛します。あなたは私の全てを愛してください。周りなんて見ずにお互いの全てを愛し合いましょう。そして、あなたと共に明日のその先に向かいたい。その為にあなたからその指輪を受け取ります」

 

「若葉」「提督」

「「ケッコンしてください」」

 

俺は若葉の左手の薬指にケッコン指輪をはめて若葉を抱きしめた。若葉も俺の背中に腕を回してヒシと抱きしめてくれた。

 

どのくらいそうしていただろうかどちらともなく離れて見つめあっていたら……

 

「いけ!そこでキスするのよね!」

「ハラショー。それは見てみたいね」

「はわわ。や、やめた方がいいのです……」

「でも気になるじゃない!」

「ポイー!よく見えないっぽいー!部屋の中に突撃っぽい!」

「夕立。だめだよ。そっとしておかないと」

「青葉見ちゃっています!」

「あ、青葉…怒られるよ?やめなよ」

「ちょっと、不知火。やめなよ!」

「そういいながら陽炎もバッチリ見ていますよ?」

「いいねーわびさびだねー」

「北上さん、流石に若葉さんに悪いんじゃないですか?」

「ご主人!そこでベッドに押し倒すのです!」

「ちよっと漣、やめなさいよ!流石にクソ提督が可愛そうよ」

 

と、隠す気もないような奴らが扉の前でひしめき合いながらこちらを除いていた。

 

「…………あいつらはあれで隠れているつもりなのか?」

「さあ?」

「まぁ…いいか」

 

と言いながらドアを勢いよく開けると暁、響、雷、電、夕立、時雨、青葉、衣笠、陽炎、不知火、北上、大井、漣、曙が雪崩のように倒れ込んできた。

 

「……………し、司令官?もしかして怒っちゃってたりします?」

「……………いや、怒ってないよ」

「おや?意外ですねてっきり青葉は覗きのお仕置きを食らうと思っていましたのに」

「……………まぁ、それについてはちょっと怒ってるけど。今日はめでたい日だからな。ちょっとくらいは許すよ。夕立、時雨、不知火、3人はパーティの準備をして来てくれ」

「はーい」

「ぽーい」

「了解」

「暁達は皆を呼んできてくれ。せっかくだから皆で祝おう」

「任せといて!」

「青葉、記念に写真を撮ってくれ」

「了解です!青葉におまかせ!衣笠、ちょっと手伝って?」

「分かったわ」

「北上!お前も手伝わないとパーティの飯抜きにするぞ」

「え〜、めんどくさい…」

「北上さん?一緒に準備しましょう?」

「ま〜大井っちが言うならしょうがないか〜」

「後の皆は食事の用意を手伝ってくれ」

「「「はーい」」」

 

と、おおまかな指示を与え皆がめいめいに動いていたら若葉が俺の袖をキュッと掴んだ

 

「うん?どうした、若葉?」

「提督。私はいまとても幸せだ。月並みの言葉だがそれしか思い浮かばない。とても、悪くない。いや、とても、いいものだな」

「ああ……そうだな。仲間がいるというのはこんなにもいい事なんだな」

 

俺は若葉をもう1度抱きしめて

 

「若葉、これからもよろしくお願いする」

 

若葉も俺も抱きしめ返して

 

「提督、これからもよろしくお願いします」




お久しぶりです、keykaです。生きてます
今回も非常に投稿が遅れてしまい誠に申し訳ございません。理由としては、実は11月には若葉とケッコンカッコカリはしており、その時の達成感で一時的に艦これ自体もやめていて(今もリハビリ状態でやっています)そのまま小説のモチベーションも途絶えてしまったという始末です
モチベーションが維持出来ないならこれで最終回でもいいかなと思いましたが、まだまだ抱きしめたい娘がいっぱいいるのでやめられませんね(笑)
さて、辛気臭い話はここまで!友人から「お前はまだ若葉の話ばっかり書きすぎだ」と怒られたのでまたいろんな娘の話を書いていろんな娘に抱きついてやろうと今からワキワキしています。
それでは次回もよろしくお願いします。
コメント、マイリスト等々をして頂けると作者は尻尾を降って喜びます。また、Twitterでもボソボソ進捗をあげていますので(Twitterでkeykaと調べていただければ若葉マークの人が出てきます。9割近くはくだらない雑談をしていますが)そちらも是非。


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龍驤の場合

「司令官!新しい青葉月報が出来ましたよー!」

 

といいながらドアを開け部屋に飛び込んできたのは今日の秘書官補佐の青葉。俺と今日の秘書官の北上(仕事はほぼしていない。大抵は一緒に来ている大井と阿武隈が手伝ってくれている)は驚きながらも青葉月報を手に取る。

ちなみに青葉月報とはその名の通り青葉が毎月発行している鎮守府内での出来事を新聞形式で出しているものだ。その月にあった事や毎月のコラム。全星座1位のいい加減な星座占いなどが有り結構評判は良い。

 

「仕事サボってこんな事していたのか」

 

と、俺が文句を言っても

 

「いやー、今日の秘書官は北上さんですよね?じゃあ大井さんと阿武隈さんが来ているから私と北上がサボっても手伝いは足りてるしいいかなー?って思いましてね…」

 

と、この有様だ。まぁ、実際そうだしそこまで仕事が忙しい訳では無いからいいんだけど…なんだろう、この丸め込まれた感…

 

「とにかく!今回のコラムは結構人気高いんですよ!青葉自身も頑張って取材しましたし、見てください!」

「へー、どれどれ?……最強の艦娘特集ねぇ…」

 

そこに書いてあったのは最強の艦娘特集という、捻りのないわかりやすいものだった。

 

「若葉さんがケッコンカッコカリをすませさらに強くなれたところで!この鎮守府内でだれが一番強いのか?艦種別と全体でまとめてみました!」

 

「へぇ…面白そうだな。どれどれ?駆逐艦は若葉、時雨、夕立か。まぁ妥当だな。」

「皆さんあまりばらつきもなく正直あまり面白くないアンケートでしたけどね」

「ぶっちゃけたな。」

「ところで若葉さんはどうしたのですか?」

「若葉は今日は非番だ。非番の日は昼まで寝てるぞ」

「良く知ってますね」

「まぁな。軽巡は…北上、大井、阿武隈か」

「お〜?やったじゃん、大井っち。私ら3人がランクインしたよ〜」

「私は北上さんが1位だと思っていましたよ♪」

「あたし的には神通さんだと思いましたけどね」

「神通はまだ改二じゃないからな。」

「木曽っちは?あの子は改二になってるよ?」

「木曽は改二になってから日が浅いからな」

「重巡は結構意見が分かれたんですよー」

「ほう?どれどれ…加古、古鷹、熊野か」

「妙高型の人達や利根型姉妹も結構多かったんですけどね」

「青葉はどのくらいなんだ?」

「0票ですよ?」

「…なんか…ごめん…」

「気にしてないからいいですよ。青葉は戦闘より取材の方がいいですし」

「そうか。で、空母は…軽空母とまとめてあるのか」

「はい。その方が集計が楽でしたので」

「へ〜。大鳳、赤城、加賀か〜意外だねー」

「ああ。意外だな」

「あれ?そうなんですか?あたしはこの3人だと思っていましたけど…」

「阿武隈っちには分かんないんだよ。うりうりー!」

「きゃあ!北上さん!ここぞとばかりにあたしの前髪いじらないで下さいー!」

「ほらそこ二人、大井がものすごい目で見てるからやめとけ。さて、戦艦は…大和、山城、武蔵か。まぁ、これも順当だな」

「金剛型の四姉妹はまだ練度も足りませんしね。山城さんは最近結構頑張っていますしね」

「ま、こんなもんだな。あれ?潜水艦は?」

「あの人はら全員でオリョクルしてるだけなので」

「あー…なるほどね」

「総合ではどうなっているんですか?」

「ちょっとまってろ…大和、若葉、北上だって」

「おー。私が3位かー」

「北上さん。おめでとうございます♪」

「総合ではあんまりばらつきはみられませんでしたねー」

「へ〜」

「……意外だな」

「そうだね〜意外だね〜」

「ほほう?ではでわ!お二人は誰がランキングにのると思いますか?」

 

そう青葉が聞いて、俺と北上は同時に答えた

 

「「龍驤だな(ね)」」

 

その答えに青葉、阿武隈はぽかんとした。

 

「り、龍驤さんですか?確かに彼女は鎮守府でも十指に入る練度ですが…最強の3人になるとはとても思えないんですけど…」

「いやー、龍驤さんは強いよー。私でもサシで勝てるかどうか怪しいねー」

「そ、そうなんですか?いつもは駆逐艦の人らと遊んでるイメージが強いんですが」

「阿武隈っちは知らないんだね。あの人はヤバイよ。戦闘能力はそこそこだけど…なんて言うの?うーん…センス?そんな感じ」

「正直この鎮守府最強は龍驤だと思ってる」

「提督もそう思ってるんですか?」

「ああ、最近は駆逐艦や若い奴らと遊んでるばっかだからイメージ違いっぽいが…あいつを本気で怒らせるとやばい」

「へー青葉、勉強になりました!」

「なんだか意外ですね…普段はあんなにのほほんとしてるのに」

「まぁ…能ある鷹はなんとやらってやつだよ」

「へー。ところで!今の話を聞いて思ったんですけど、皆さんはこの人とは戦いたくないって人いますか?」

「私は北上さんとは絶対に戦わないです!」

「それはなんかちがうだろ…」

「あたしも北上さんかなー」

「お?じゃあ阿武隈っち。こんど私と演習やろうよ?」

「いやですよー!」

「北上はいないのか?戦いたくないやつは?」

「ふふん♪どんな奴が来てもハイパー北上様はギッタンギッタンにしてやりますよ!」

「北上さんかっこいい!最高!」

「でしょでしょ?もっと褒めていいんだよー?」

「北上さーん!」

 

また北上と大井がイチャつきだしたと思ったら阿武隈が所在なさげにしている…ちょっとはかまって欲しいのか?

 

「さて!休憩も程々に、仕事にもどるぞ。北上!青葉!わかってると思うけどサボるなよ?」

「え〜しょうがないな〜」

「ちぇー。まぁ司令官の側にいられるなら青葉頑張っちゃいます!」

 

と二人がダラダラ、シャキシャキと対照的に動きながら残りの二人も手伝ってくれながら今日の仕事を片付けていった。

 

......................................................

 

夜も更け、夜の散歩がてら、いつもの海岸に来ていた。

コートをしっかりと襟まで止めていても突き刺さる様な寒さだが、夜の散歩はそこがまたいい。

だか今日は若葉もいないから寒さが応える。今日はもう帰ろうかと思っていたら、なんの偶然か、龍驤が煙草の煙を燻らせながら夜の海をじっと見つめていた。いつもの恰好なのにまったく寒さを見せていない。

俺は驚かさないようにそっと近づいたが、流石龍驤。俺の足音に気づいたようで振り返りもせず

 

「やぁ、どうしたん?キミ」

 

と向こうから声をかけてきた。

 

「流石、俺の足音に気づくとは」

「キミのはわかりやすいんよ。で?どうしたん?」

「いや、折角会えたんだから、一服付き合おうと思ってな」

「そら嬉しいわ。今日は冷えるからな、誰かが一緒にいてくれると温いから助かるわー♪」

 

と、飄々と答える。

俺も龍驤の隣に腰を下ろしながら煙草に火をつける。

 

「今月の青葉月報見たか?」

「ああ、見た見た。最強の艦娘特集やろ?相変わらずあの子はおもろい事するなぁ。天龍がランクインしてないって怒っとったわ」

「あいつも大概だな。流石に重雷装艦に勝てないだろ」

「せやなー。あの二人もえらい強なったなー。木曽も改二になったし、阿武隈もや。軽巡組はもう十分やから次は重巡やな?」

「重ね重ね流石だな。重巡は熊野と利根を中心的に育てる予定だ」

「せやなぁ、飛行機飛ばせるあの子らおるとウチらも助かるわぁ」

「…なぁ?また前線に戻る気はないか?」

「無いね、ウチより強い子らはおる。人手が足らんかったらちゃんと出るよ?でも一航戦の二人や、瑞鳳、大鳳、二航戦や五航戦の子らが頑張ってる。鳳翔とウチらみたいなロートルはもう隠居や」

「頑固だなぁ…」

「悪いとは思ってるで?でも、ウチがもう戦場で戦うのは疲れたから解体してもう休ませて言うた時に残るだけ残って言うたんはキミやで?」

「その点は感謝してるよ…ホントに」

「…せや、ウチの検診結果出たで」

「どうだった?」

「良くはなってるみたいやで。でも、あの時みたいに戦い続けたらまた体がすぐにボロボロなるらしい」

「艤装との過剰リンク…」

「感覚神経や単純に運動性能が上がる代わりに艦娘の体にえらい大きな負担がかかる…ウチより鳳翔の方が大変や」

「アイツはもう、弓が…」

「稽古場で普通の弓を引くことは出来るらしいから趣味として弓は続けるらしいで。それに鳳翔は料理も楽しい言ってるし」

「…そうか」

「……あんなぁ!この事は別にキミが悪いんやない。鳳翔も、ウチもずっとそう言ってるやろ?」

「それはそうなんだけどな…」

「それでも自分が許せへん言うなら…今後もう同じような子を作ったたらアカンで?それでええよ。あと、若葉を大切にしてあげーよ?」

「分かってるよ」

「…司令官。キミはいっつもウチらの事を最優先に考えてくれてるな…ありがと」

 

といいながら龍驤は俺を背中からそっと抱きしめてくれた。

 

「……胸が無…」

「キミは余程死にたいらしいな?」

「いててててて!ギブ!ギブ!悪かったから!首絞めんのやめて!」

「はぁ…折角いい気分やったのに君のボケのせいで台無しやで…」

「悪かったって」

「まぁええわ。それより、キミ、あえてあの子の事無視ってるやろ?」

「ああ。あいつの事は俺じゃダメだ。ましてや若葉がいってら悪化するかもしれない」

「せやなぁ…ウチもあの子とはあんま話さんかったしなぁ…」

「あれ?そうなのか?」

「昔から顔はよー合わせるけど何だかんだでサシで話すことは無かってんよ」

「へー。ともかく、あいつの事はどうしようもないんだよ」

「あの子の事を分かってあげれる子がいればなぁ」

「待つしかないよ」

「せやな。さて!そろそろ戻ろうか」

「そうだな。そうだ、秘書官とかはやる気ないのか?」

「あはは、戦闘よりもっと無理やな。あんなめんどいの誰がやるねん!」

「だと思った」

 

そうして俺たちはゆっくりと鎮守府に戻っていった。




どうも、今回は珍しくやる気が湧き、連日投稿が出来たkeykaです。
今回は龍驤の場合なんて言いながら龍驤の登場機会の少さ…
ちなみに、艦娘特集の強さランキングは作者自身の艦これの中のデータと作者の偏見に基づいて作られています。
ではまた次回お会いしましょう。
コメント等お待ちしております。


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叢雲の場合 2

夢を見る…あいつの夢だ。夢の中では私はあいつの隣にいる。私はあいつの秘書官であいつのケッコンカッコカリの相手。そして、夢の最後はいつもあの子が私をじっと見ている…

 

......................................................

 

「……………またあの夢…」

 

気がついてしまった。私はあいつの事が好きだったんだ。でも、それに気づいたのはいつからだろう?

気がついたらあいつの事を考えてる。あいつの周りに他の子がいるだけで気分が落ち込む。出撃で戦果をあげた時に褒めてくれた時は丸1日は上機嫌だった。そして、秘書官としてあいつの隣にいる時が一番好きな時間だった。

でも、もうそれは叶わない…あいつは私にとっても大切なあの子と結ばれたし、なによりお互いに愛し合っている。私にどちらかを選ぶ事なんて出来ない。

親友と愛する人が被る。小説ではありきたりだけど現実では早々ないものだと思っていた。私の趣味は小説を読むことで恋愛小説を読んでいるとそういう場面に遭遇して主人公やその周りが苦悩する場面も多かった。私はその時どう思っていたっけ?私はどうすればいいの?

「分からないわよ…。……けてよ」

 

......................................................

 

「艦隊が帰投したわ」

 

近海警備の任務についていた曙、時雨、夕立、そして叢雲が帰ってきたようだ

 

「はいよ、ボノたん旗艦お疲れ様。成果はどうだった?」

「ボノたん言うな!クソ提督!…ふん。全員無傷よ、敵も全滅させたわ」

 

ボノたんと言われてもそこまで嫌そうではないな…

 

「了解、じゃあ後で報告書書いといてね、補給済ましてきていいよ、解散」

「てーとくさん!夕立今日頑張ったぽい!ご褒美が欲しいっぽい!」

「提督、僕も頑張ったよ?僕にもご褒美が欲しいな?」

「分かったよ。4人とも、間宮さんから羊羹もらってきていいよ」

「ぽーい!提督さん大好きっぽいー!」

「ありがとう提督!大好きだよ!」

 

犬2人はご機嫌な様子で出ていった

 

「…………」

 

それと対象的に叢雲は無言で出て行き、時雨、夕立とは逆の方向に向かっていった。

 

「……提督」

「どうした?曙。なにか相談か?」

「うん。叢雲の事なんだけど。…叢雲、なんか最近様子がおかしいのよ。なんか、いつも考え事してる」

「…その事は俺も気づいている」

「じゃあ!なんで助けてあげないの?あたし達にしたみたいに」

「今回の件は俺じゃダメなんだ」

「…そうなのね。でも、このままじゃあ叢雲が壊れちゃう!」

「分かってるよ!だから俺もどうすればいいか考えてるんだよ…」

「…ごめん、提督も考えてるんだね」

「いや、こっちこそありがとうな、曙。叢雲の事はきっとどうにかするさ。さぁ、お前も羊羹食べて来い」

「うん…」

 

......................................................

 

「司令官…見ちゃいました…」

 

......................................................

 

私は間宮で何かを食べる気分でもなくあてもなく歩いていた。ふと気づいたらあいつがいつも散歩に来ている海岸だった。私は何かを期待していたのだろうか?ここに来れば何時ぞやみたいにあいつが来てくれて私の悩みを解決してくれるとでも思ったのかしら?ダメ、あいつはもう…あの子の人なのだから…私はもう、隣にはいられないのだから…

そう考え込んでいたから私は後から誰かが来ていたことに気づかなかった。

「叢雲さんっ!」

「きゃあ!?」

 

と私を驚かしながら私の顔を撮ったのは、青葉だった。

 

「なんだ…青葉じゃない。こんな所にどうしたの?」

「そっちこそ。こんな所にふらふら1人で来ている叢雲さんが気になりましてね、ちょっと後をつけさせてもらいました」

「全然気づかなかったわ、川内より忍者に向いているんじゃない?」

「それはそれは!ありがとうございます!で、どうしてこんな所に来たんですか?」

「……別に、ただの散歩よ」

「おや?叢雲さんのいつもの散歩ルートはこっちじゃないですよね?」

「いや、あんたまさか全員の散歩ルート覚えているんじゃないでしょうね?」

そこまでだったら流石に少し引く。

「いやいやー。流石に全員ではありませんよ。何人かだけですね。例えばここは司令官の散歩ルートですね」

 

あいつの名前が出た途端、私の心臓は跳ね上がるようにドクドクと言い出した。

耳まで届く心臓の音を無視しながら私は平静を装って答えた。

 

「…ええ、そうね。知ってるわ」

「そりゃ知ってるでしょうね。叢雲さんは司令官の事が好きなんですから。自分の好きな人のいつも行く場所くらい知ってるでしょうね?」

 

! 心臓がまた跳ね上がった。

 

「…どうして…」

「どうして分かったかですか?簡単ですよ。青葉は色んな人が好きだから色んな人の事を見ているんですよ。もちろん、あなたの事も好きですし、司令官の事も好きですよ」

 

司令官の事が好き

 

その言葉を聞いた途端私は全身の力を失った。足がガクガク震える。私は声までもが震えないように絞り出すように言った。

 

「あいつの事が好きって、あいつには若葉がいるじゃないの!」

「ええ、いますね。それが何か?」

「なっ!」

 

絶句した。ソレガナニカ?私がずっと悩んでいた事をそれが何か?そんな一言で一蹴したのか?

 

「あ、あんたねぇ!」

「落ち着いてくださいよ。別に若葉さんや司令官の事を何も考えずに言ってる訳ではないですよ」

「それでも!あの二人は…愛し合っているのよ!?それなのに…あの二人の間に割って入ろうっていうの?」

「うーん。どうなんでしょうねぇ?あなたはどうしたいんですか?」

「いい加減ししなさいよ!何でそんなにいい加減なの!ふざけないでよ!」

「ふざけてなんていませんよ。青葉はいたって真面目ですよ?」

 

話にならない。私がいくら激昂しても青葉はのらりくらりとはぐらかすだけ。

 

「何でそんなに叢雲さんが怒るんですか?この事は司令官と若葉さん。そして青葉の問題ですよね?」

「そっ、それは…」

「…司令官の事が好きなんですね?」

「…違うわ」

「いいえ、違わないですね。叢雲さんは司令官のことが好きで、それを心の中では分かっていても、頭が若葉さんの事を立てて身を引こうとしてる、それなのにぽっと出の青葉が飄々と司令官のことが好きなんて言うから怒っている。そうでしょう?」

 

全部その通りだ。ずっと若葉の事とあいつの事で板挟みにあっていて、苦しくて。でも、自分が身を引けば全て収まるなら、と考えて…それなのに!いつも何考えてるか分からないこいつに!

 

「あんたに…あんたに私の何がわかるのよっ!」

 

言ってしまった…自分の心の中を見破られて1人で勝手にキレて…最低だ、私。

そう思って自己嫌悪していたら…

 

「分からないですよ」

 

今の…誰?確かに青葉の声だし、そもそも今ここには私と青葉しかいないから青葉が言ったはずなのに、理解できない!今の声は何?さっきまでの明るい青葉の声とは似ても似つかない、あの無感動で無表情な声の主は何者なの?

 

「あ、青葉?」

「分からないですよ、あなた達の考えていることなんて若葉さんがどうして司令官の事が好きなのか、司令官はどうして若葉さんが好きなのか。叢雲さんはなにを悩んでいるんですか?好きならさっさと言えばいいじゃないですか?」

 

淡々と話しているのにえも知れぬ迫力に押されて声が出せない。

 

「わ、私は」

「私は感情がないんですよ。皆さんの行動を真似て、こうゆう時はこうゆう感情であるかと言うように見せることは出来ます。でも、私の心の奥底には何も無いんですよ。それでもう、死んじゃいたいって思っていた時に司令官が助けてくれたんですよ。あの人のおかげで少しは私の心ってものが分かるようになってきたんですよ。だから私は司令官の事が好きなんです」

「……そのこと、若葉は?」

「知らないですよ。この事を知っているのは司令官とあなただけです」

「どうして私に話したの?」

「…何ででしょうね?分かりません」

「…そう」

「私は司令官の事が好きですけど、若葉さんみたいに結婚したいとか、一生一緒にいたいとかは考えていないんですよ。ただ、私はあの人を見ていられればそれでいいんです」

「それじゃあ、あなたはあいつに見てもらえないじゃないの。…辛くないの?」

「全然平気ですよ?司令官もその事に気づいてたまに構ってくれますし」

「……」

「でもそれはあなたの幸せではないですよね?あなたはどうしたいのですか?」

「わ、私は…」

 

私はどうしたいのだろう?あいつのそばにいたい、でもそれは恋人としてはいられない、いたくない。じゃあ、どうしたら?

そう思っていたらふと気づいた。

「あっ…そっか…そうだったのね」

「分かったみたいですね。でもそれはあなたにとってとても辛い事になるでしょう。だから、私の勇気を分けてあげます」

 

そう言って青葉は私をそっと抱きしめてくれた。意外と私より大きくて暖かい。

私は無意識に青葉に両手を回して抱きつき青葉の中で大声を上げて泣き続けた。

 

......................................................

 

その後私が泣き止むまでずっと青葉は隣でいてくれて、私の背中をずっとさすってくれた。

私はあいつのいる扉の前に今いる。さっきまでの私だったら開けることはできなかった。でも、今は出来る。今までみたいにコンコンっと軽く2回ノックしてあいつの声を聞いてから扉を開く。

 

「はい。どうぞって…叢雲」

「ちょっといい?話があるわ」

 

そう言ってまたさっきの海岸まで2人で歩いた。もうそこには青葉はいないが、もう大丈夫。あとは私の想いを伝えるだけだから。

 

「ねぇ?司令官」

「どうきた?叢雲 」

「あんた…私の事どう思っているの?」

「………今までと変わりないさ、お前は俺の親友で俺もお前の親友だ」

 

ああ…一番いって欲しくて、一番いって欲しくなかった言葉。でもその事を知っていてもこいつは言うんだろうなって分かっていた。

 

「そう…ね、親友ね。ねぇ?司令官」

 

そう言って私は司令官に抱きついた

「私、あなたの親友でいれてよかったわ」

「俺も、お前の親友になれてよかったよ」




こんにちは、KeyKaです。今回は叢雲の2回目ですね。最後の最後まで叢雲は側室(愛人枠)になるか親友のままなのか悩みました。でも、多分叢雲は親友のままだろうなっと思って今回はこういうオチになりました。
さて、今回のテーマは意外とシンプル「親友をとるか?愛する人をとるか?」です。皆さんはどう考えますか?
では、また次回でお会いしましょう


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大井の場合2

あれから1年…この鎮守府も大きくなり皆強くなった。

そこらの海域では敵無しだし、年に4回ほどある大規模作戦でもそこそこの戦果を出している。

だが、それも最近になっての話。昔は物資も人手も足りなく本当に大変だった。俺自身も提督としての仕事以外にも雑用をこなしていた。今ではいろんな子が当番制でこなしてくれる。

忙しくも皆いい子で仲良く楽しく…そんな時に訪れた一年前の大型作戦。その時に…大井は…

 

「提督〜何してるの?」

 

と、いきなり後ろから飛びつかれながら声をかけられた。

 

「うおっ!?…なんだ北上か。大井と阿武隈はどうした?」

 

彼女は球磨型軽巡洋艦三番艦の北上。大井の姉でいつもフワフワと言うか、のほほんと言うか、とにかくのんびりしてる奴だが、若葉や叢雲とともにこの鎮守府の最古参の1人で最強の1人だ。

 

「阿武隈っちは駆逐の子らの勉強見るって。大井っちは木曽っちと料理。今日は2人で作るらしいよ〜」

「そうか、それは楽しみだな」

「え?2人が作るのは球磨型だけであとはみんな普通だよ?」

「え?…ちくしょう、大井の料理美味いから楽しみだったのに」

「そうだね〜、ところで提督はこんな所で何してるの?話をそらそうとしたってダメだよ〜?」

「バレていたか」

「バレバレだよ。提督、嘘下手だから。あ、煙草頂戴?」

「球磨と大井にバレたら怒られるよ」

「そん時は提督も一緒だよ?」

「え〜」

「…ふ〜。提督は煙草どれくらい吸ってるの?」

「一年前くらいに吸い始めたな。」

「…一年前」

 

見透かされたような目で見られて少しドキッとする。が、表に出さないように努めて平然を装う。

 

「北上が隠れて煙草を吸い出したのはいつくらいなんだ?」

「…アタシも一年前からだよ…。一年前のあの時から」

「……」

 

一年前…大規模作戦の中、まだ新米で右も左も分からない俺は指示をミスして艦隊を危機にさらしてしまった。その時に北上が敵の戦艦に狙われ、命の危険に陥った時に大井が庇い、そのまま単騎で敵艦隊と交戦。結果北上達は助かったが、大井はそのまま轟沈。今いる大井はその後建造された2人目の大井なのだ。

 

「…」

「提督は気にしすぎだよ。第一今の大井っちとあの時の大井っちは違う人なんだよ。アタシはどっちの大井っちも大好きだし、どっちも大切。だからもう沈めない。もちろん、アタシも沈まない。でしょ?」

「…ああ、そうだな…」

「……提督の時間はまだ動いてない。あの時で止まっているんだよ。それを動かすことが出来るのは初期艦の叢雲でも、提督のお嫁さんの若葉でも、アタシでも、大井っちでもなく、提督なんだよ」

「……」

「今の大井っちも気にしてないし」

「…そうなんだけど…なんかまだ自分の中で納得してない部分があるんだ。」

「若葉には話した?」

「いや、まだだ。今夜話してみる」

「案外人に話したら簡単に解決法が見つかるかもよ〜?じゃ、アタシもう行くねー。煙草ありがと」

 

と、言って北上は行ってしまった。

実際に俺は何を悩んでいるのだろう?以前に大井と話し、俺は吹っ切れたはずなのだ。確かに大井も気にしていない。ならこれは完全に俺のひとり相撲だ。俺はまだあの時のことを引きずっているのか?分からない…

 

そんなことを考えていて、2人目の来訪者の存在に気がつかなかった。

 

「提督」

「…大井か」

「北上さんから聞きました。なんでも私を探しているとか?」

 

北上、手伝わない素振りだったのに…

 

「提督?どうかしたのですか?」

「…ああ、一年前の事を考えていた」

「一年前…前の『 大井』が沈んだことですか?」

「ああ…以前にお前と話した時に踏ん切りはついたと思っていたが、どうやらまだらしい」

「…それで提督はどうしたいのですか?前の『 大井』を忘れて、前に進みますか?それともこのままここで腐り落ちるのですか?」

「………」

「…反省は弱者の媚薬ですからね。そうやってウジウジしてるのが一番楽でしょう。」

 

大井のキツい言い方にいつもならカチンと来ただろう。だが、今回は的を射る物言いに反論もできない。反省。そう、反省してる態度で自分を慰めたいだけなんだ。誰かに自分は間違ってないと言ってほしいだけなんだ…

 

そう思っていたら大井が俺の前に来て俺を抱きしめてくれた。いつかにしてくれたみたいに。

 

「私も、北上さんも、神様さえももうあなたを許しています。あなたを唯一許していないのは提督、あなた自身ですよ」

 

俺は知らず知らずのうちに大井にしがみつき、ワンワン泣いていた。大井は慈愛の表情で俺が泣き止むまでずっと抱きしめてくれた。

 

しばらくして俺はやっと泣きやみ、大井から離れた。大井の制服は俺の涙でクシャクシャになってしまった。

 

「ありがとうな。また助けられた」

「恩に感じているのなら、今後も私達を素晴らしい指揮で導いてくださいね?」

「ああ!任せろ!もう、誰も沈めたりしない」

 

と、そこで大井が自分の制服の事を気にしだした

 

「制服、悪かったな」

「いえ、洗えば済みますし、大丈夫です」

「でもそれじゃあ帰れないだろ?」

「ええ、そうですね…。そうだ、提督の上着を貸してください」

「俺の?いいのか?」

「ええ、時雨さんや夕立さんがたまにくるまっていて少し興味はあるのですよ」

 

時雨…夕立…アイツらには後で話しておこう。

 

「じゃあ、はい」

 

と言って上着を脱ぎ大井に渡す大井はそれに袖に腕を通し俺の上着にくるまった。

 

「…どうなんだ?」

「…どうでしょね?分かりません特に匂いとかもしませんし」

「なんだそりゃ」

「でも」

 

大井は俺の服を抱きしめながら続けた

 

「暖かくて、安心します」

「そうか」

 

俺は大井の気が済むまでそうしていた。

 

「はい、満足しました。帰りましょう」

「そうだな、帰ろう」

 

2人で並びながら鎮守府へと向かう

 

「そう言えば木曽と作っていた料理はどうだったんだ?」

「結局木曽が失敗しちゃって…今日は私が作りました」

「そうか」

「少しいりますか?」

「いいのか?」

「ええ、多分余りますし。若葉さんの分と合わせて二人分でいいですか?」

「ああ、頼む」

 

そんな事を話しながら俺達は歩いて行く。




お久しぶりです。KeyKaです。
今回は失敗と反省がテーマ(のつもり)です。誰でも失敗はする。問題はそれを反省し、次に繋がるかです。月並みですがそれをできる人は以外といないです。


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一航戦の場合

冬もすぎ、年度が変わり忙しくなりつつある時期。書類が溜まり気味だったから今日の業務は秘書艦の龍驤、そして暇だからと秘書艦補佐をやりたいと駄々をこねた島風の3人で丸一日書類と格闘する日となった。

夕方にやっと終わり俺たちは疲れ果てて机に突っ伏していた。すると島風のお腹がキュルルと可愛くなった。しかし、疲れ果てている島風はそれを恥ずかしがる様子もなく

 

「提督ー、お腹すいたー」

 

と突っ伏したまま死にそうな声を上げた。

 

「俺たち昼もそんなに食べてなかったからな……」

「ウチもやー、提督。なんかこの部屋お菓子とか無いん?」

「あったけど昨日秘書艦した北上に全部とってかれた」

「あんの……!まぁええわ。提督、そろそろ演習組が帰ってくるからそれ迎えたらウチらもご飯食べよーや?」

「はいよ、島風!迎えにいつまてあげてくれるか?」

「えー、今日は島風遅くてもいい……動きたくない」

「アイデンティティ崩壊するような事言ってないで……行ってきてくれたら今日はなんでも奢ってあげるから」

「ほんと!?じゃあ行ってきマース!」

 

言うが早いか、もう島風は港に向かって走っていった 。

 

「速いなー」

 

仕事終わりの一服にと紫煙を燻らせながら俺が呟くと

 

「駆逐の管理するんは軽巡の役目やっけ?」

 

と龍驤も暇なのか雑談を降ってくる。

 

「そうだな。川内型の3人が主でやってくれてる」

「川内型なら大丈夫やろ。川内と神通怖いし」

「本人に聞かれると怖いぞ?」

「キミこそ怖い言うとるやん?しかし……ええなぁー軽巡は駆逐の監督役で」

「どうして?」

「ウチは正規空母の監督役やろ?」

 

出撃を重ねて体がボロボロになり、出撃が出来ない龍驤は後任の指導係として鎮守府にいる。

 

「何か問題があるのか?」

 

と聞くとうーんと龍驤は腕を組みながら

 

「問題ってほどじゃないんやねど……皆さ……いい子やねんけどウチの事をお子様みたいに扱うんよ……」

「まぁ……龍驤は体型がねぇ」

「誰がツルペタや!……まぁそうなんよ。みんな先輩として扱ってはくれるねんけど…特に一航戦の2人がなぁ」

「赤城の加賀か?あの二人がどうかしたのか?」

「それがなぁ」

 

と龍驤が言おうとするがトントンとドアのノックする音。

そして島風が元気に飛び込んでくる。

 

「提督ー!演習組が帰還したよー!だから早くご飯!」

「分かった分かった。分かったから先に報告をさしてやれ」

 

と言うと素直に引いてくれる。

島風が引いたところで演習組の加賀、赤城、山城、大和、加古、青葉が入室する。

 

「旗艦、加賀。以下5名帰港しました」

「はいお疲れ様。結果は?」

「全勝よ。問題ないわ」

「了解。全員補給を済ましたらあとは自由でいいよ。解散」

 

と言うと一航戦以外の4人は部屋を出ていく。

赤城と加賀は部屋に残り龍驤のそばに行く。

 

「龍驤さん!私やりました!MVP取りましたよ!」

「赤城さん。龍驤さんが困っています」

「ああ!ごめんなさい……つい」

「ええよええよ!2人とも、よう頑張ったな!」

 

と言いながら龍驤が2人の頭を撫でようとするが身長差のせいで届かない。それでも頑張ってぴょんぴょんと跳ぶ姿はどちらが先輩か分からなくなる。

すると赤城がニヤリと笑ったかと思うとしゃがんで龍驤を抱きしめたかと思うと勢いよく立ち上がって龍驤を持ち上げた。俗に言う「高い高い」だ。

 

「なななななななな!ちょ、ちょっと!赤城!やめてー!」

「うふふふふふふふふ。龍驤さん、可愛いですよー♡」

 

完全に遊ばれてる終いには赤城が龍驤を抱きしめたままクルクルと回り出した。

 

「いーやー!ちょちょちょい!キミ!見てないでたーすーけーてー!」

 

ふむ……もう少し見てみたいが……。しょうがない。助けるか。

しかし、俺が助けに行く前に加賀が赤城から龍驤を奪った。

 

「か、加賀!助けてくれたんか?おおきになー!」

「…………………………」

 

加賀は龍驤を持ち上げたまま降ろそうとせずに龍驤をじっと見ている。

龍驤もなにか不穏な空気を感じ取ったのか降りようともがくが、如何せん体格差が大きい。

すると、加賀までもが龍驤を抱きしめはじめやがった。

 

「わわわわわわ!加賀もか!もーなんやねん!?なんで2人はそんなにウチを持ち上げたがるねん!?」

「………………………………………」

 

加賀がひたすら無言で龍驤を抱きしめる。なんだか少しシュールな光景だが、よくよく見れば加賀の顔が心なしか嬉しそうだ。赤城に至ってはニッコニコだ。

2人とも、龍驤の事が大好きなのだろう。加賀と赤城は龍驤の次に来た空母。2人が1番龍驤と付き合いが長いし、1番龍驤から戦い方を学んだからだろう。

と、俺が1人でうんうんと納得していると龍驤がついに怒りの矛先を俺に向けだした。

 

「キミィ!いい加減に助けてーや!」

「はいはい。赤城、加賀、もう満足だろ?離してやれ」

 

と言うが、加賀は龍驤を離すつもりは無いらしい。赤城も加賀に後ろに並んでワクワクとしている。

ダメだこりゃ……さて、どうしようかな……。

俺が諦めかけたその時、丁度18時を知らせる時計の鐘が部屋に響いた。

その音にビックリした加賀がつい手を緩めてしまったスキを狙って龍驤が脱出。素早く俺の後ろに回って2人をシャー!っと威嚇する。

なるほど……龍驤も大変だな。と俺が労うつもりで龍驤の頭をポンポンと撫でてやるも龍驤のお気に召さなかったらしい。ウガー!と怒りを露わにする。

 

「キミまでウチをお子様扱いするんか!」

「そういうつもりじゃないけど……」

「提督!私にも変わってください!」

「提督、私も希望します」

「いややー!」

と叫びながら部屋中を逃げ回る。それを一航戦の2人が追いかけるせいで部屋中ドッタンバッタンと大騒ぎだ。

あぁ……平和だなあ……

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

俺も龍驤の事が少しは気になるから今日の秘書艦、秘書艦補佐は赤城、加賀にした。そしてなぜか龍驤もついでとばかりに付いてきた。

 

(龍驤はここに来たら抱きしめられるって分かってないのか?芸人魂?)

 

と俺が悶々と悩んでいたら赤城が俺の顔を覗き込んできて

 

「提督?どうかしましたか?」

 

と聞いてくる。加賀もしっかり仕事してくれるし、2人とも龍驤が絡まなければしっかりしているのに……

 

「いや、なんでもないよ」

「そうですか。なんだか少し考え事をしているようでしたから」

「今日の昼飯を考えているくらいだよ」

「お昼の前に仕事がまだ残っていますよ」

 

と加賀がツッコミを入れてくる。

 

「分かってるよ。龍驤も手伝ってくれてるし、すぐに終わるだろ」

「ふふん♪ウチのありがたみがようやく分かったようやな!」

「はい!流石龍驤さん!」

「うわわわわわわ!ちょっとまてまてまてーい!今は勤務中やで!仕事しぃや!」

 

そこあたりは赤城もわきまえているらしい。龍驤の頭に一撫でして仕事に戻った。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「やったー!やっと終わったでー!」

 

昼前にはなんとか終わり、今日一日はゆっくり出来そうだ。

と思っていたら赤城が後ろから龍驤を思い切り抱きしめて持ち上げた。

 

「うわわわ!またか!ええ加減にせぇよ!とぅ!」

 

と叫びながら龍驤が赤城のホールドから脱出。龍驤もだんだん手慣れてきている。

しかし、赤城を警戒しすぎて加賀の存在を忘れていたようだ。気配なく龍驤の後ろに忍び寄り、またも龍驤捕獲。加賀に無言で抱きしめられる。

龍驤も諦めて2人にされるがままになっている。

 

「もうそこまでにして、昼飯食いに行くぞ」

 

と3人に言うと、龍驤が(抱きしめられたまま)

 

「お昼ならウチが作ったるで!いいのが手に入ったんや!」

 

と言う。

そう言うならとお願いすると龍驤が自室から巨大なたこ焼きセットを持ってきた。あいつこんなものを自腹で購入してるのか……

 

「今日の遠征組がでっかいタコさん拾ってきてな?せやからタコパしよ思うてんよ!」

 

と言いながら手馴れた様子で次々とたこ焼きをクルクル回している。

確かに美味そうだ。だけど一つ問題がある。

 

「なぁ?龍驤」

「んー?どないしたん?」

「タコ、デカくないか?」

 

そう、龍驤が持ってきたタコはおよそ10キロはあろう巨大ミズダコ。いくら赤城や加賀が良く食べると言っても限度があると思うのだが……

しかし、龍驤はふふんと笑って

 

「大丈夫やって!心配せんとき」

 

と言いながらクルクルしている。

赤城と加賀に流石にこの量はキツくないか?と聞こうとしたのだが、2人がいない。どこに行ったのだろう?

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

たこ焼きも焼き上がり、準備も終わったというところでドアをトントンとノックする音が聞こえる。

誰だろう?と思いながら俺が開けると、赤城、加賀の2人。さらに飛龍、蒼龍、翔鶴やその妹瑞鶴。雲龍と葛城、大鳳、瑞鳳の姿がある。

 

「龍驤さん!皆を連れてきました!」

「はいお疲れ様やでー!皆、各自好きにとってなー!」

 

龍驤は何もかもが分かっていたというような顔でそのまま準備をすすめる。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「はい!コレ焼けたで!赤城と加賀はあんまり食べすぎたらあかんで?」

「葛城!瑞鶴にじゃれてないでさっさと食べ!冷めるでー」

「雲龍!なにぼんやりしとるんや?ちゃんと食べてるか?」

「ああ、大鳳。ウチの分とっといてくれたん?ありがとなぁ♪」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

皆が食べ終わり、4人で片付けをしている。

 

「なぁ、龍驤?お前らちょいちょいこんな事してるの?」

「せやで、ウチがなんかご飯作って一航戦がみんな呼んできて皆で食べるんや。楽しいで?皆は戦い頑張ってるのに、ウチはなんも出来へんからね。せめて皆を楽しませようとしたんよ」

 

龍驤の言葉に俺たちは動けないでいた。

龍驤も艦娘だ。戦いのために生まれてきたモノとしての魂に誇りを持っていたはず。本来なら戦えなくなった時点で退役して、残りの時間を過ごすはず。それをせずに龍驤は俺たちのために戦っていてくれたんだ。

俺達は知らず知らずに龍驤を抱きしめていた。赤城と加賀もふざけずに、龍驤も抵抗をせずに俺達を撫でてくれていた。

 

「さて!しんみりはここまでやで!明日からも頑張っていこうな?」

 

と、龍驤が元気よく叫ぶ。その勢いに俺達も知らず知らずに笑顔になり、4人でいつまでも笑いあっていた。




お久しぶりです。だいぶ投稿期間が空いてしまいましたね。もうちょい頑張っていこうと思います。
今回はどう考えてもタイトルは「龍驤の場合2」
の方がしっくりきますね。
それはそうとなろうのほうでもKeyKa名義で「死にたがりの僕と殺したがりの彼女」というタイトルでオリジナル小説を書いているのでそちらもよろしければお願いします。


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非番の場合

「…提督……提督!朝だぞ!」

「…あ?……若葉か、おはよう」

「ようやく起きたか。非番だからと言って遅くに起きていい訳では無いぞ」

「分かってるよ」

「今日はどうする予定だ?」

「若葉も今日は非番だろ?たまには2人でのんびりしようぜ」

「ああ、悪くないな」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あー!提督じゃん。ちーっす!」

「こら!鈴谷、はしたないですわ。提督。ごきげんよう」

「挨拶なんて楽なヤツでいいよ。2人はこの後演習だっけ?頑張れよ」

「提督、聞いて聞いて!熊野ったらコンバート改装出来るって聞いてから提督のお役に立ちたいですわーって毎日言ってるんだよ?」

「す、鈴谷!?何を言っていらしていますの!?提督、私は別に提督のためと申しますか自分がより美しいレディになるためと申し上げ頂きますと言いますか」

「落ち着け熊野、敬語が変なことになってるぞ」

「はうぅ……」

「熊野テンパりすぎ!受ける!」

「ほほぅ……そんな事言ってる余裕があるのか?鈴谷」

「べっつにー?鈴谷さんは何言われても変なことにならないしー?」

「あら?鈴谷こそ嫌いな演習で龍驤さんにわざわざ居残りで特別演習頼んでいませんでしたこと?」

「あ、あれば違うし!鈴谷がドッカーン!って活躍するためにだし!別に提督のためとかじゃないし!」

「あら?別に提督のためにとは言っておりませんよ?」

「ぐぬぬ……」

「ま、2人とも。演習頑張ってくれよな」

「まっかせてー!」

「承りましたわ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あ、提督じゃん。どうしたの?」

「どうしたの?はこっちのセリフだ北上。お前今日は秘書艦補佐だろう?ただでさえ今日は俺がいないから仕事が大変だからサボるなと厳命したよな?」

「大丈夫だってー大和さん仕事早いし、阿武隈っち置いてきたし」

「はぁ……」

「まぁそんな大変な日にあたしを秘書艦補佐に置いた提督の人選ミスってことでね?」

「自分で言うかそれ……後で大和にはチクッとくからな」

「んー多分もうバレてるよ」

「じゃあ尚更だ」

「せいぜい捕まらないように逃げ回るよ。じゃーねー提督、若葉」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あら提督。おはようございます」

「お、大和か、おはよう。どうしたんだ?」

「ええ、この書類を赤城さんに渡すついでに北上さんを探しに」

「やつならあっちに逃げていったぞ」

「ありがとうございます」

「悪いな、大和1人に仕事を全部任せてしまって」

「いえ、阿武隈さんが手伝ってくれていますので」

「阿武隈には今度お礼をしないとな」

「そういう律儀なところ、大和は好きですよ」

「ああ、ありがとう。これ以上引き止めておくのも悪いし、もう行くよ」

「はい!またお話しましょうね?」

「ああ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「司令官!ごきげんようなのです!」

「よう、暁。ひとりか?」

「雷が響とおでかけしてて、電がお昼寝よ」

「そうか、1人で寂しくないか?」

「ちょっと寂しいけど、いつまでも一緒にいられるわけじゃないからね。そういう時のための予行演習よ」

「そうか……いつまでも4人が一緒にいられるように俺は頑張るよ」

「期待してるわ、司令官!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「お?提督やん。どないしたん?今日はお休みやろ?」

「よう龍驤。昼くらいまでは鎮守府の中を散歩しようと思ってな。なんだかんだであんまりこの中をゆっくり回ることもなかったしな」

「ほーん?若葉連れてね〜」

「な、なんだよ」

「いやいやー?ウチからはなーんもないよー。ほんならお家デート、楽しんできてなー♪」

「な……/////そんなんじゃねぇよ!」

「おー、照れてる照れてる♪」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「若葉、昼は外で食べないか?」

「外出許可はとってないぞ?」

「後で俺が書類作っとくよ。提督権限だ」

「まったく……」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「この店、覚えてるか?」

「ああ、忘れるわけがない。2人で初めて出かけた時に寄った店だ」

「あの事は2人ともガッチガチに緊張してたな」

「あと時の提督は見ものだったぞ」

「若葉こそ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「お?帰ってきたんか。おかえりさん」

「龍驤、戻った」

「なぁ若葉?たまには一緒にウチともご飯食べに行かへんか?」

「うむ、ぜひ行こう」

「……若葉、変わったなぁ」

「そうか?」

「今までやったら、『 考えとく』なんてガチガチになってそうやったのに」

「……あまり自覚がないな」

「まぁ良い変化や!ほんじゃ!ウチはもう行くで!また今度な!」

「ああ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あ、若葉さん。ごきげんようなのです」

「暁、それに皆。戻ったか」

「いっぱい寝たからご機嫌なのです」

「いっぱいお買い物したわ!満足ね?響?」

「うん。でも、今度は4人で行きたいね」

「そうね。若葉さん、今度、司令官に頼んでおいてくれないかしら?」

「ああ、伝えておこう」

「ありがとうございます!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「大和……と北上、捕まったのか」

「あ!若葉!助けてー昼過ぎからずっとお説教だよー」

「それはあなたが阿武隈さんに仕事を押し付け、さらに私から逃げたからで」

「分かった、分かったよー」

「……大和」

「若葉様!助けてくれるの?」

「この際徹底的にしごいてやれ」

「はい!」

「うへ〜鬼〜」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「あ、若葉センパイ。ちーっす!」

「こら!鈴谷!すみません。若葉さん……」

「いい、気にしてない。2人は演習帰りか?」

「はい。丁度今終わって報告に行ったんですが……」

「何かあったのか?」

「大和さんも北上さんもいないで阿武隈さんだけがいたんだよー。若葉さん、なんか知らない?」

「一応報告は阿武隈さんにしたんですが……」

「ああ……それなら心配いらない。北上は今大和に捕まって説教されているだけだ」

「あー……北上さんまーた逃げ出したのか」

「そういう事だ。そういう訳だから2人とも今日はもう上がっていいぞ」

「いえ、私たち今から自主訓練いたしますの」

「早くバリバリになってめっちゃ活躍したいしねー!」

「そうか。無理はするなよ?」

「お心使い感謝致しますわ」

「はいはーい!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「今日は疲れたな……」

「でもこうして1日ぼんやりするのも悪くないだろ?提督」

「お前が隣にいるからな。若葉」

「言ってくれるじゃないか」

「普段は甘えてくれないからな。こういう時に思いっきり甘えてほしいんだよ」

「そうか……」

「そうだ!なんだかんだで二人きりの写真撮ってもらったことってあんまりなかったんじゃないか?記念に1枚……」

「断る」

「え……そ、そうか」

「写真はあまり好かない……それに」

「それに?」

「写真を撮られたら魂を取られてしまうかもしれないではないか……」

「…………………………え ?」




今回は新しい試みで会話だけです。ので所々読みづらい所があるかも知れませんがご了承ください


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ジュウコンカッコカリの場合

最近ハグしてないですね……


今日はこの前の非番の時から溜まっていた書類をやっと片付けてのんびり出来る午後になりそうだと思っていた。サボった罰としてここ数日秘書艦をさせていた北上があの発言をするまでは……。

 

「ねー提督?アタシと結婚してくれない?」

 

その瞬間、部屋には俺、北上の手伝いに来ていた大井、秘書艦補佐の龍驤、たまたま遊びに来ていた時雨と夕立がいた。

 

「…………北上さん?今なんて言ったのかな?僕、よく聞こえなかったよ」

 

俺が何か言うよりも早く、時雨が反応した。普段は若葉かいるかると遠慮しているが、未だに俺の事を諦めてはいないらしい。そのため、若葉以外の人には意外と好戦的な態度になる事が多い。

時雨が北上に食ってかかるより前に龍驤が止めに入った。

 

「落ち着きや時雨。提督が見てるで?」

「あっ……ごめん、提督」

「俺は構わない。だけど先に北上に謝りな?」

「うん。……北上さん、ごめんなさい……」

 

北上は気にした様子もなくひらひらと手を振って応える。

 

「いーよいーよ。アタシもちょっと言い方悪かったしね」

「でも、北上さんのさっき言ったことってどういうことなの?」

 

時雨が食い下がる。

 

「結婚じゃなくてケッコンカッコカリのほうだよ。アタシもそろそろ練度が99になるしね?」

 

忘れてた……。北上も若葉や叢雲、龍驤に続く最古参の1人でその性能から最前線には常にいた。その性能から戦艦を差し置いてMVPを取ることも少なくない彼女が若葉に次いで最高練度になるのは分かっていたのに……。

そんな事を考えていたら北上がジトーっと俺の方を見てきた。

 

「提督……もしかしてアタシがもうすぐ99なの忘れてた?」

 

おっしゃる通りです……

 

「い、いや……そんな事ないぞ……」

「提督って嘘下手だよね」

「ぐっ……。ああ、忘れてた。すまん、北上」

 

ここは素直に頭を下げよう。

 

「まぁ〜いいけどね?で、どうするの?ケッコン」

「うーん……どうだろうな……北上はよく最前線に出てるし、ウチのエースメンバーだから練度の上限解放って意味でもした方がいいのかな?でも、資源が最近カツカツなんだよなぁ……」

 

と俺が悩んでいたら北上がやれやれと言いたげなジェスチャーをして

 

「やれやれだな〜。提督〜?」

 

とホントに言ってきやがった。

 

「何がだよ?」

「女の子がねぇ?勇気を出して愛する人に結婚を申し込んだんだよ?それを損得だけで考えられたらねぇ?」

 

…………………………は?

俺が反応するよりも早くまたも時雨が反応し、さらに大井も動いた。

 

「北上さん!私という人がいながらどうして提督なんかに!?」

「北上さん……今なんて言ったのかな?愛する人?北上さんには大井さんと阿武隈さんがいるじゃないか?」

 

龍驤も遅れて2人を止めようとするが2人の圧力に負けてたじろぐ。あと知らないところで阿武隈は北上の嫁になっている。

 

「2人とも落ち着け!北上も、わざと2人を煽るような事はやめろ!」

 

と、俺が叫ぶも2人は聞く耳持たず。北上もヘラヘラして

 

「いやいや〜ホントだよ?」

 

と言い出す始末。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

最終的にたまたま通りかかった青葉と大和に(力ずくで)場を収めてもらった。

しかし、助けてもらった人が悪かった……。よりにもよってあの青葉に知られてしまった……。次の日には鎮守府の全員に広まっていた……。

次の日には俺と特に仲のいい、練度が高めの奴らから今回の件について問いただされる始末。

 

今回結婚を迫ってきたのは時雨、大和、青葉、そして北上だった。

 

若葉に相談しても

 

「好きにすればいい。結婚するのは貴方なのだから」

 

と言われてしまった。叢雲にはこの手の話題はしにくいし……。

なんて思っていたらまさかの叢雲からこの話を振られた。

 

「アンタ今色んな人からケッコン迫られてるんだって?モテるわねぇ」

「嫌味か?そういうお前ももうすぐ最高練度なのにケッコン迫ってこなかったな?」

「……別に、どうでもいいでしょ?アタシの心配をしている暇はあるのかしら?」

「それをお前に相談したくはないんだよ……」

「アタシはもう気にしてないわよ。気にしているのはアンタだけよ」

「相変わらず厳しいな」

「若葉はなんだかんだで甘いからね。アタシは厳しい側よ」

「お手を柔らかに」

 

なんだかんだいつとのやり取りをする俺達。叢雲はあの時の事はもう吹っ切れたらしい。俺もそろそろ切り替えないと。

それより今はケッコンについてだ。

 

「なぁ、叢雲。俺はどうしたらいいんだ?」

 

俺が聞くも叢雲は

 

「そんな事、アンタしか分からないわよ。自分で考えなさい」

 

と、お厳しいお言葉。なんだかんだで若葉と叢雲は少し似ている。

 

「そうだよなぁ……」

「アンタはどうしたいの?それが問題よ。資材はアタシ達がなんとかするわ。あとはアンタの気持ちの持ちようよ」

 

俺の気持ち……か。そんな物、最初から決まっている。

 

「叢雲、ありがとう。吹っ切れたよ」

「どういたしまして」

「やっぱりお前はいい女だよ」

「そういう言葉はあんたを好いてくれてる人に言うべきね」

「だからこそさ」

 

そう言って俺達は別れた。ここからは若葉も叢雲もいない。俺だけの問題だ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「で、最初は私たちってわけですね」

「て、提督……」

「…………」

大和と時雨、そして北上。三人同時というのはどうかと思ったけど、どうせ青葉に言う時点で全員に知れ渡るだろう。

 

「このタイミングで呼び出したって事は、例のケッコンカッコカリの事、提督のお考えがまとまったという事ですね?」

「提督!どうするの?ボク達とケッコンしてくれるのかい?」

「まぁ〜言い出しっぺだからアタシもやっぱり気にはなるね〜」

 

正直、皆にこの事を言うかどうかはずっと悩んでいた。でも、言わない事の方がみんなに対して不誠実のような気がしたんだ。

そう思って俺は口を開いた。

 

「ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「なるほどー。で、最後は青葉の番って事ですね?」

 

青葉はいつもの海岸に呼び出した。青葉とは一体一じゃないと本音が聞けないからだ。

 

「青葉」

「はい!何でしょう!?遂に若葉さんに続く愛の告白2回ですか?マイクもカメラもOKです!ささ!グイッとどうぞ!」

「……青葉。その前に言いたいことがある」

「…………なんですか?司令官?」

「分かっているだろう?俺とお前しかいない時はその道化の仮面を外してくれないか?俺は本当のお前と話がしたい」

「…………司令官は相変わらず厳しいですね。私がこうやって話すの嫌いだって知っているでしょう?」

 

青葉の本当の姿。自分を恐れ、他人を恐れ続けた道化の姿。いつもの陽気の仮面を外した本当の青葉。

 

「惚れた弱みってやつにしとけ」

「……やっぱり司令官は厳しいですよ。せっかく仮面を被って隠していたのに」

「仮面の下はいつか暴かれるのが世の常さ」

「分かりましたよ。で、私にはケッコン指輪をくれるのですか?」

「ああ。だけどお前だけじゃない」

「と言うと、後の三人にも配るのですか?」

「そうだな。だけど、そうじゃない」

「?じゃあ……」

「全員だ。今、最高練度の全員に指輪を配る事にしたんだ。そして、後に最高練度に達したらその時点で指輪を渡す事にする」

「……資材がドカドカ減りますね。叢雲さんに怒られますよ?」

「その、叢雲本人お墨付きさ。後で小言くらいは言われそうだけどな」

「でも、いきなりどうしてそんな事思い立ったんですか?あのコミュ障司令官が」

「お前も存外厳しいな……」

「本音を喋るとどうしてもこうなるんですよ」

「お前の本音が聞けて嬉しいよ」

「……天然タラシめ」

「……ただ」

 

と俺は続ける。

 

「俺は若葉の事が好きだ」

「いきなりどうしたんですか?惚気ですか?新婚自慢ですか?」

「違うよ。時雨やお前達が俺の事を好いてくれてるのは知ってる。でも俺は若葉の事を愛している。皆に優劣を付けたくないから全員に指輪を渡すけど、若葉だけは特別なんだ。それをお前には知って欲しかったんだ」

「……なんで叢雲さんじゃなくて私なんですか?」

「…………どうしてだろうな?」

「……やっぱり司令官は天然タラシですよ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そんな事があり、後日最高練度の北上、時雨、大和、山城、龍驤、叢雲、そして青葉に指輪が渡された。他の人達にも最高練度になれば指輪を渡す旨を通達し、今回は幕を閉じた。

指輪を受け取った6人の反応は様々だった。

恍惚の表情で指輪を見つめる大和と時雨(当たり前のように左手の薬指につけている)。

ニッコニコの上機嫌で指輪をつける北上と龍驤。

嫌々な顔をして付けて、後日自室で指輪をじっと眺める山城。

案外すっと指輪を受け取ってくれた叢雲(ムードも何もないけどねと言われた)。

そして、満面の笑みで受け取った青葉。

若葉にこの事を話すと「あなたらしい。いいんじゃないか?」と言われた。まるで何もかもを見透かされてる様な目で。




お久しぶりです。KeyKaです。今回は提督諸兄が常に悩むケッコンカッコカリについてです。
皆さんはケッコンカッコカリをどのようにしましたか?性能?好きなキャラ?人それぞれですね。
ケッコンカッコカリについてのご意見があればコメントにぜひお願いします。
それ以外のご指摘、ご意見等々も心からお待ちしております。


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磯風の場合

提督の仕事は艦娘への指示を除けば大体が書類関係だ。

世の中の殆どの人がそうであるように俺も書類仕事は好きではない。となるとついついサボってしまうのが世の常である。

そうはならないように秘書艦があるのだが、艦娘にとってもあまりやりたくはない仕事だから、人によって対応は様々だ。

率先して手伝ってくれる人。これは時雨や大和、雷、意外にも山城なんかもそうだ。

なんだかんだ文句を言いながら手伝ってくれる人。叢雲や若葉、龍驤などの最古参組は昔から俺の自堕落を知っているから手伝わないと仕事が終わらない事を分かっている。

サボる人。北上。あとは青葉も結構書類仕事は嫌がる。

なんだかんだで北上以外は手伝ってくれるのだが……。

 

「司令官!まだ仕事は終わらないのか!」

「もうすぐ終わるって……」

「1時間前もそう言ったよな!?それに、書類があまり減っていないぞ」

「相変わらずきついねぇ……磯風」

 

陽炎型の駆逐艦、磯風。おおよそ駆逐艦とは思えない体型と眼差し、そしてこの通りのきつい物言い。しかし、彼女は俺だけにきついのではない。古参の戦艦にも間違っていると思ったらどんどん言うし、新参の駆逐艦の中には厳しすぎると萎縮する人も出ている。

それでも彼女が周りとやっていけているのは彼女が他人に厳しくする以上に自分に厳しく生きているからだ。

早朝に起きてランニングをして演習をした後も自主練を欠かさない。夜は誰よりも遅くに資料室にこもり勉強をしている。そんなストイックな姿を皆は知っているから、磯風の厳しい物言いも少しは見逃されているのだ。

そんな磯風が今日の秘書艦で秘書艦補佐は曙だ。磯風のきつい物言いに曙はオロオロしている。

 

「磯風、曙が怯えてる。少し言い方を考えろ」

「む、そうか。曙、すまなかったな」

「い、いえ……私は大丈夫……です」

 

もうひとつ、磯風はこうやって間違えたと思ったら素直に謝ったり、他人のアドバイスをキチンと受け入れる人だ。反面、自分が正しいと思った方に突っ走る事が多い。

なんやかんやあって午前の業務が終わり、昼飯を3人で食べる事になった。

 

「そういえば磯風は非番の日は何してるの?」

 

俺が卵焼き(瑞鳳作)を口に放り込みながら聞く。

 

「非番はそもそもあまりとらない。司令が入れてくれた休みもすることが無くいつも通りに朝練、昼練、夜は勉強をしている」

 

つまり休み無しって事じゃないか……。どうにかしないと。

 

「なぁ、磯風」

「どうした?司令」

「磯風は趣味とかってあるのか?」

「訓練だな」

「特技は?」

「砲撃よりかは雷撃の方が得意だ」

「…………そうか」

 

処置なし……か。そう思って俺が半ば諦めた時。

 

「あ、あの……磯風、さん」

 

曙がしどろもどろつっかえながら話しだす。

 

「ん?どうした、曙」

 

磯風の眼光は厳しい。本人曰く、悪気はなく、自分でもどうにかしたいとは言っていたが、如何せん直っていない。曙は一層萎縮しながらも意を決して言った。

 

「磯風さんは……その、少し働きすぎな所があります。このままではいつか倒れてしまわないか心配です。」

 

磯風はそれを聞き、ふっと笑いながら答えた。

 

「心配ありがとう曙。だが大丈夫だ。自分の管理くらいは出来ているつもりだ」

 

と答える。そういう所が周りと壁を作る原因じゃないのか?

 

「そ、そうですか……」

 

曙からも意を決して言った言葉も届いてないように感じている様だ。

 

「磯風、今度の俺の非番の日に付き合ってくれないか?」

 

と俺が言うと曙が驚いて

 

「て、提督!?付き合ってってどういう事!あんたには若葉さんが……」

「あ、いや、そういう事じゃない」

「磯風の休日を司令に……か。いいぞ」

 

と磯風も快諾

 

「ま、まぁ……磯風さんがいいって言うならいいけど。あんたの次の休みとかだいぶ遠くない?この間休んだばかりじゃない」

「そこはあれだ。職権乱用だ」

「ダメじゃない!クソ提督!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

待ちに待った(無理やりとった)休みの日。

朝から俺と磯風、そしてなんだかんだでついてきた曙と一緒に散歩をしている。

最初は磯風が走り出そうとしたのだが、俺が一緒に散歩をしようと言うとちゃんと歩いてくれる。

 

「司令、なんで朝から散歩しているのだ?」

「んー、磯風の性格をどうにかしようと思ったんだけど……いい案が浮かばないから。とりあえず一緒に俺のいつも通りの生活を過ごしてみようと思ってな。所で曙。なんでお前まで着いてきてくれているんだ?」

「…………別に何ででもいいでしょ……」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「朝飯作るけど何がいい?」

「あたしトーストと目玉焼き。両面しっかり焼くけど焦がしたら承知しない」

「曙……ズバズバ言うな。磯風は?」

「自分の分は自分で作る」

「うーん……俺が皆の分を作りたいんだよ。流石に鳳翔や間宮ほど美味くはないけどな」

「そうか……なら司令と同じものを頼む」

「はいよっ」

「……その手があったか(ボソッ」

「曙?なんか言ったか?」

「なんでも無いわよ!クソ提督!」

 

結局俺と磯風はトーストとハムエッグ、そしてコーヒー。曙はご要望通りにトーストと目玉焼き、牛乳だった。

磯風はコーヒーを熱そうにすする。

 

「知ってるか?曙、牛乳飲んでもあんまり胸は育たないんだぞ?」

「セクハラ!」

 

同じ駆逐艦とは思えない。

磯風はコーヒーをすすりながらにっこりと笑う。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ご馳走。意外と美味しかったわ」

「お粗末様。意外は余計だ」

「うん。美味しかったぞ。司令」

「ありがと。さてと……何しよっかな?」

「ホントにノープランだったのね」

「いつもは部屋で煙草吸いながら本を読んで気が向いたら昼寝して暇な人らと遊んでってのをしてたからな」

「よく夕立や時雨と遊んでいるものね……」

「…………」

「どうした?磯風」

「あ、いや……こんなに長い時間訓練をしていないのは初めてだから……変な気分だ」

「こりゃ重症だな」

「そうなのか……浦風達からともう少し休めと言われてはいるんだが……ちゃんと休憩時間は作っているのだ」

「そういう休みじゃなくて……心の休息ってやつ?」

「心の……休息……」

「曙がこの前言っていた働きすぎ、いつか倒れるってのは体じゃなくて心の方がを心配していたんだよ」

「そう……なのか?曙」

「はい。磯風さんはいつも皆より頑張っていますけど……どこか危なげなんです。」

「そうか……」

「ま、今色々言われたってすぐには分かんないよ。のんびり分かっていけばいいさ」

「そうだな」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうして俺達三人は街に出て、思うように過ごした。

初めてゲームセンターに入って興奮する磯風。姉妹艦のためにお土産を悩む曙。金をむしり取られる俺。

そうこうしてるうちに夕方になった。

 

「いやー、遊んだ遊んだ!潮たちのお土産も買ったし満足だわ」

「俺の金でな」

「いいじゃない。どうせ煙草買うか皆に甘味を奢るくらいしか使い道がないじゃない。あたし、あんたの煙草の匂い嫌いなのよ。禁煙しなさいよ」

「死んでもやだね」

「司令、やっぱり私の分は私が払うぞ?」

「磯風はそんな心配しなくていいんだよ。今日は磯風が主役だからな」

「あら?浮気?」

「ちげーよ」

「なら、なにか恩返しがしたい」

「恩返し?」

「ああ、私に出来ることなら何でもする。言ってくれ」

「うーん……じゃあ、明日の朝飯を作ってくれないか?」

「り、料理か……?」

「ああ。自分で作るのもいいけど誰かに作ってもらった料理はまた格別に美味いんだよ」

「あ……ああ。任せて……くれ……」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

朝、いつもは若葉の入れてくれるコーヒーの匂いで起きるのだが、今日は違った。何かの焦げる匂いと、浦風、浜風の声。そして、磯風の悲鳴で目が覚めた。

何事かと駆けつけて見れば、そこにあったのはいつものキリッとした姿は全く無く、焦げた料理を前に慌てふためく磯風とそれをフォローするために奔走する2人の姿だった。

 

「し、司令……」

「磯風、どうしたんだ?」

「実は……料理は出来ないんだ……」

「そうだったのか……とりあえず火を止めて、焦げてるから」

 

そうして、浦風、浜風、俺の手伝いでなんとか料理は完成した。

しかし、ご飯は水の分量を間違えてビショビショ。豆腐の味噌汁は煮立ちすぎ、秋刀魚は焦げてしまい。コーヒーは激苦。

磯風はシュンとして。

 

「こんなものは食べさせられない……すまない司令、これは私と浦風と浜風で処分する……」

 

と言うと浦風と浜風がギョッとする。

 

「いや、食べるよ。せっかく磯風が作ってくれたんだろ?」

 

と俺が言うと磯風は少し微笑んだ。

 

「し、司令。どうだ?」

「うん……まぁ、上手くはないね」

「そうか……」

「でも美味いよ」

「え?」

「磯風は1番大切な事を分かってる」

「大切な事?」

「食べるくれる人の事を思って作る。だ」

「食べる人の事を思う……。そうだな、ずっと司令に美味しいって言って欲しくて作った」

「美味いよ。磯風」

 

そういうと磯風が俺に飛びついてきてボロボロと泣きながら司令、司令と泣きじゃくった。

磯風が泣き止んで顔を真っ赤にしながら離れるまでにコーヒーは冷めてしまった様だ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

それから磯風は週に2.3回俺の元に来て料理を教わるようになった。俺より鳳翔の方がいいんじゃないか?と聞いても司令がいいと言って聞かない。

コーヒーだけはどうにか上手くなってきた。



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若葉の場合4

長い間お待たせ致しました。今回も若葉回です。


「さてと……休憩にするか」

「分かりました。お茶を入れてきます」

 

今日の秘書艦は不知火。ようやく仕事にも慣れてきて、1人でこなせるようになってきた。

 

「今日は疲れたから濃いめの頼むわー」

「了解です」

 

事務的に答えてるように見えるが、俺の事を真にしたってくれている不知火の事だ。恐らく尻尾があったら扇風機のように振り回しているだろう。相変わらずの忠犬っぷりだ。

もう梅雨入りし、窓を叩く雨音も連日のものとなり最近はまともな訓練すら怪しくなってきている。元気いっぱいな駆逐達も暇を持て余しているだろうなぁ……。

 

そう思っていたら誰かが扉を控えめにトントンとノックする音が聞こえた。

俺が声をかける前に今度は勢いよくドアが空いてそのまま何かが俺のみぞおちに突っ込んできた!

 

「ごふぅ!?」

「てーとくさん!夕立暇っぽい!」

「夕立!提督、大丈夫?」

「……ああ、大丈夫……だ」

 

俺のみぞおちに突っ込んできたのは白露型駆逐艦の夕立。長く綺麗な金髪をなびかせいつも天真爛漫な元気な犬2号。

俺を気遣ってくれているのは夕立の姉で恐らくノックの主の時雨。黒い三つ編みは丁寧に手入れされている。恐らくこの鎮守府でみんなの事を1番好きな犬3号。

 

そんな事をしていたら不知火がノックの音と共に部屋に入ってきた。

 

「司令。お茶を入れてきました。……時雨、夕立、何をしているのかしら?」

「てーとくさんと遊んでいるっぽい!」

 

俺に体を預けたままみぞおちで頭をグリグリと擦り付けてくる夕立を見て怒り心頭の声を上げる不知火と全く気づかずポイポイしてる夕立。対照的に見えるけどこの2人はたまに一緒にいて遊んでいるのを見かける。案外仲はいいのかもしれない。

 

俺は不知火にアイコンタクトを送ると不知火もキチンと受け取ってくれた。

 

「夕立、来なさい。遊んであげるわ」

「いいの?わーい!不知火と遊ぶっぽい!」

「間宮さんを奢ってあげます」

 

といいながら俺から夕立を引き剥がしてくれる。

パタンと扉がしまり、再び静寂が部屋を包み込む。

 

「時雨」

「なに?提督」

「不知火がせっかくお茶を入れてくれたし、一緒に飲まないか?」

「うん。勿論いいよ」

 

そそくさとお茶を注いで俺に渡してくる。

ありがとうとお礼を言って俺が受け取ってから時雨も自分の分をいれ出す。

 

「雨だなぁ……」

「梅雨だから雨は仕方ないよ。提督は雨は嫌い?」

「いや、嫌いと言う程じゃないな。月並みだけど雨には雨の風情があると思うよ」

「うん。僕も雨は好きだよ」

 

といいながら2人でお茶をすする。特にこれ以上は何を話さなかったが、それ以上に雄弁に雨音が話してくれた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「てーとくさん!ただいまっぽい!」

 

静寂を破ったのはやっぱり夕立だった。後ろから息を切らしながら不知火も入ってくる。

 

「夕立!少し……はぁ、はぁ……待ちなさい……」

 

あの不知火をバテさせるとは夕立は何をしてきたんだろう?

よく見ると夕立と不知火がしっとりと濡れている。まさか……

 

「夕立。お前まさかこの雨の中で遊んでいたのか?」

「違うっぽい!間宮さんからこっち来るのは中庭通った方が早いからそっち通っただけっぽい」

「で不知火もそれを追いかけたと」

「……申し訳ありません司令。夕立と止められませんでした」

「いいよ、ふたりとも風呂はいっておいで、不知火は風邪ひくぞ」

「あれ?夕立は?」

「お前はバカだから風邪ひかないから大丈夫だ」

「酷いっぽい!」

 

といいながら2人で風呂に向かう。

 

すると二人と入れ違いに今度は青葉がニヤニヤしながら入ってきた。

 

「どもー!青葉です!見ましたよー駆逐艦2人をお風呂に誘う司令官!ネタになりますねー♪」

 

青葉のトレードマークとなっている高そうなカメラを構えながらジリジリと近づいてくる。

 

「青葉、誤解を招くようなことを言うな!……で今回は何をご所望で?」

「いやー、最近二人で出かけていないのですんでねー、今度一緒に街に買い物でもと思いましてね」

「買い物?なんか欲しいものがあるなら俺に言えば取り寄せるぞ?」

「あちゃー!司令官は乙女心が分かってないですねー。二人っきりで、女の子が、お買い物に誘っているんですよ?」

 

一単語ずつ区切って言ってくる。少し考えてみると案外簡単な答えだ。

 

「なるほど、お前も素直じゃないなぁ」

「いやー、流石に青葉もNTR趣味とかはないので?一応お伺いを立てようかなと思いましてー」

「NTR言うな!」

「提督?えぬてぃーあーるって何だい?」

「…………………………」

「あれれぇ?司令官、どうしちゃったんですか?ほらほらぁ愛しの時雨さんが聞いているんですよ?知ってるんでしょう?ささ!ずいっと答えてください!」

 

とマイクまで向けてきながら煽ってきやがる。

 

「……川内!」

「何?」

「ぬぉわぁ!川内さん!?」

 

どこからともなく現れたのは川内型の長女軽巡川内。夜戦大好きで動きもどことなく似てるから皆からは忍者と言われる。

 

「川内喜べ、青葉が今から夜戦してくれるってさ」

「ななななななななななななな何をおっしゃって下さっているんですか司令官!?」

 

青葉が全力で否定するの時すでに遅し。川内の夜戦スイッチが入る。

 

「夜戦!?いいの?」

「ああ、存分に青葉と楽しんでこい」

 

青葉は逃げ出そうと部屋から飛び出るが川内も追いかける。これはもう逃げられないだろう。

 

「ふぅ……悪は去った」

「……提督」

 

と時雨が遠慮がちに話しかけてくる。

 

「ああ、時雨。どうした?」

「提督は若葉さんとケッコンしているんだよね?」

「ああ」

「……提督は若葉さんの事が好きなんだよね?」

「当たり前だろ?どうかしたのか?」

「……それなのに提督は他の人とベタベタしすぎじゃないかな?若葉さんに怒られないの?」

 

ああ、といいながらあの時の事を思い出しながら説明する。

 

「そう言えば時雨は知らないのか、俺が若葉に告白した時に若葉が私が1番なら良いって言ったんだよ」

「へー、そんな事を言ってたんだ」

「ああ、あの時の俺は酷かったからな、殆ど若葉と叢雲、あとは少数の事務員くらいしか話さなかったし、若葉がいなかったら俺はまだあの時のままだっただろうな」

 

俺が昔の事を思い出していると時雨はまた俺に話しかけて来た。

 

「提督は本当に若葉さんのことが好きなんだね」

「ああ……心の底から愛している」

「な、なんか急にそう言われると僕の方が照れちゃいそうだよ……あ!じゃあさ、提督」

「ん?どうした?」

「若葉さんの一番好きな所ってどこ?」

 

時雨からすればたんなる雑談の一環だったであろうこの一言。でも俺には思いの外響いた。

…………………若葉の1番好きな所……?

あれ?そう言えば……俺は若葉のどこが好きなんだろう……あれ?……

 

「……提督?どうしたの?」

 

と、時雨に言われてハッとする。

 

「あ……い、いや、なんでもないよ。若葉の好きな所か?そりゃ勿論全部だよ」

 

と言うと時雨は納得したようにウンウンと頷く。

 

「そっかー、若葉さん。愛されているね」

「ああ、勿論だ」

 

と、言いながらも俺の頭のなかはさっきの事が渦巻いていた。

 

「よし、そろそろ今日の仕事も終わにして、引き上げるか」

「うん。あ、ところで、提督」

「ん?どうした?まだ何かあるのか?」

「うん。結局えぬてぃーあーるって何なの?」

「…………時雨、世の中には知らなくていいこともあるんだよ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

俺はまだあの事を考えながらフラフラと鎮守府内をブラついていた。

若葉を愛している。それは勿論だ。全部が好きだ。それもそうだ。でも具体的にどこがどう好きかと聞かれたら答えられる自信が無い……俺が若葉を思う気持ちはそんな程度だったのか?

そう思いながら前もろくに見ずに歩いていたら廊下の角で大井にぶつかってしまった。

 

「きゃあ!」

「うぉっと!」

 

大井が転びそうになるが、何とか腕を掴むことが出来た。

 

「すまない。大丈夫か?大井」

「ええ、こちらこそすみません。少し考え事をしていまして……」

 

そう言いながら別れようとするがふと思いつく。

もう行こうとしている大井の腕をまた掴んで引き止める。

 

「大井!今時間大丈夫か?」

「え、ええ……特には」

 

大井は俺の勢いに押されながらも返事を返す。

 

「ちょっと相談したいんだ。いいか?」

「ええ、それは構いませんよ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

所変わっていつもの海岸……とは行かなかった。残念ながら雨が降っていたからこの前明石に作ってもらったプレハブの喫煙室に向かった。鎮守府の端っこの方だし、喫煙者自体があまり多くないからここなら誰にも邪魔されずに相談ができる。

 

とりあえず落ち着くために煙草に火をつけながら大井にも勧める。

 

「吸うか?」

「いえ、私は大丈夫なのですけど北上さんはあんまり好きじゃないので」

 

今ここにいない北上の事まで気にする……本当に今日北上の事が好きなんだな。

 

「そう、その事なんだよ」

「はい?」

「お前は北上の事が好きだよな?」

「ええ、そうですね」

「北上のどこが好きなんだ?具体的に」

「全部です。具体的に北上さんの全てが大好きです」

 

いきなり結論をズバッと言われて少したじろぐ。

 

「相談したかったことって若葉さんの事ですか?」

「……ああ、さっき時雨と話した時に具体的にどこが好きなんだって聞かれて即答出来なくてな。……ちょっと自分に自信が無くなってきたんだ」

「自信?」

「ああ。……本当に俺は若葉の事を愛しているのかって。ただ、初めからいたから俺は若葉を選んだんじゃないかって思ってな……」

 

そう言って大井の方を見ると、大井は呆れたような顔をして携帯をいじっている。

 

「お、おい、こっちは真面目に相談しているんだぞ!」

「真面目だから呆れているんですよ……はぁーこんな事で私呼ばれたのか……」

「こんな事って……」

「提督、もう一度時雨さんと同じ質問をします。あなたは若葉さんの事が好きですか?」

「……ああ」

「どこが好きなんですか?具体的に」

「…………全部だ。若葉の全てが愛おしい」

「その言葉に嘘偽りはありませんね?」

「ああ」

「じゃあそれが答えなんですよ」

「え?」

 

大井は出来の悪い弟を諭すように慈愛の表情で続ける。

 

「いいですか?恋愛というものは、誰かを好きになるってことは理屈じゃないんですよ。私は大井だから北上さんが好きじゃなくて私が、あの北上だから好きなんですよ。そこに理由なんてありません。それと同じですよ。あなたは若葉さんが好き。若葉さんもあなたが好き。そこに理屈も理由もありません」

 

そうか……そう……なんだな。俺は若葉が好きで、若葉も俺が好き。それでいいんだな。それだけで十分なんだ。

 

そう俺が大井の言った言葉を繰り返していると喫煙室のドアがガチャっと開いて入ってきたのは若葉だった。

 

「若葉!」

「大井からここに来いって連絡が来たんだ」

 

さっきの携帯はこのためか……。

いつの間にか大井はいなくなってる。

 

「……若葉」

「どうした?」

 

俺は若葉を抱きしめながら言った。

 

「愛している。お前の全てが大好きだ」

 

いきなりそう言われた若葉が驚いていたが、直ぐに俺の背中に腕を回してきて

 

「私もあなたを愛しています。あなたの全てが愛おしい」

 

と返してくれた。

俺達の間にはそれだけでいい。

俺達の愛の囁きは雨音に紛れて溶けていった。



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長女の場合

1日2話投稿はしたけどこっちはものすごく短いですね。


雨の日の休日は部屋でのんびり煙草吹かしながら読書に限る。

そう思いながら叢雲に貸してもらった本を読みながらただただ幸せなキルタイムを過ごしていたら。部屋のドアを控えめにトントンとノックする音が聞こえた。

前回のこともあり全力で警戒しながらドアの方を注目していると

 

「司令官、いるかしら?」

 

この声は暁4姉妹長女の暁だ。

安心して扉を開けて暁を招き入れる。

 

暁はトレイにお茶のセットを持っている。

 

「ありがとう。お邪魔していいかしら?」

「勿論だ。いらっしゃい」

 

暁は手馴れた手つきでお茶を入れだす。

紅茶のいい匂いが部屋に漂ってくる。

お茶請けのクッキーを用意していると暁も手伝ってくれた。

 

「ありがとう」

「これくらいはレディーとして当然よ」

「流石だな」

 

お茶の準備も出来て、さあいざと言う時に、またドアをノックする音が聞こえ今度は返事を待たずにドアが勢いよく開けられた。

 

「テートクー!いい匂いがしますねー!」

「金剛……暁がいるんだ。少し静かにしろ」

「oh!sorry暁」

「いえ、気にしないわ、いらっしゃい金剛さん。あなたもどう?」

 

と言いながら金剛の分のお茶を用意しだす。

 

「いいんですか?oh!それはワタシが作ったcookieですネー!テートク、取っといてくれたんですネー!」

 

金剛の頭のアホ毛がブンブン揺れる。そう言えば時雨の髪の毛も嬉しい時に耳みたいに振れていたなぁ。

 

「金剛さん、準備出来たわ」

「thank!」

 

「美味しいわね、このクッキー」

「ワタシが作ったから当然ネー!紅茶もとっても美味しいネー!」

「ありがとうございますなのです」

「どっちもお互いを引き立てていて美味しいよ」

「これからはcookieを作る時は暁も誘うことにするネー」

「是非お願いするわ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

暫く三人でお茶会をした後、少し散歩をしていると初春と白露が談話室で話しているのを見かけた。

 

「よう、二人とも」

「おや、提督、息災じゃの」

「やっほー!」

「二人とも仲良かったんだな」

「うむ。白露型はわらわ達初春型の後に作られたからの、実質妹みたいたものじゃ」

「ははっ!一気に妹が増えて初霜が喜びそうだ」

「今日も一日中若葉の世話をしておるよ」

「むー、でも妹になるとイッチバーンじゃなくなる……」

「何言ってんだよ、お前は白露型の一番艦だ。イッチバーンにかわりないよ」

「ホント!?」

「うむ、白露はイッチバーンじゃ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

二人と別れて散歩を続けて、少し煙草を吸おうと思い喫煙室むかうと、先客がいた。川内型の川内と天龍型の天龍だ。

 

「!おう、提督、お前も煙草か?」

「喫煙室に来たんだ、当たり前だろ?しかし、川内も煙草吸ってたんだな」

「あんまり吸わないけどねー、後は球磨も吸ってたはずだよーアイツはホープだっけな?」

「ふむ……天龍はセッターで川内はラークか」

「提督は何吸ってんだ?」

「色々だな。1番のお気に入りはブラデビだ」

「あれ?でもブラデビって」

「ああ……残念ながらな」

「なになに?どうしたの?」

「ブラデビはもうすぐ販売終了するんだよ」

「あちゃー……」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

今度は古鷹型の古鷹と妙高型の妙高が作戦資料とにらめっこしていた。

 

「お疲れさん。次の作戦についてか?」

「あ、提督。お疲れ様です」

「次の作戦はこちらのルートの方がいいと思いんですけど、提督はどうお考えですか?」

「うーん……正直お前らの好みのルートを参考にしたいからな。皆に相談してみないと決定は出来ないな」

「参考程度でいいので」

「ふむ……じゃあこっちのルートかな」

「ありがとうございます。参考にしますね」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

夜になり、自室に戻ると、若葉はもう既に風呂に入り終わっているようだ。いつもふわふわでサラサラの髪の毛もしっとりと濡れていて、毛先から水滴がポタポタと落ちている。

 

「若葉、ただいま」

「提督、おかえりだ」

 

若葉の髪の毛をドライヤーで乾かしながら今日のことを話す。いつもと変わらない日常が何よりも愛おしい。



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七夕特別編 七夕に願いを込めて

七夕という訳でなんとなくやりたかった学園パロです
主人公は帝翔君(ていと、くん)です。
本編とは全く関係がないです。
男女比が極端に偏っているため、何人かは今回男として作品に登場します。不快に思った方、申し訳ございません。


梅雨もようやく開け、まだジリジリとうだるような暑さもなく。かといって夏の足音が全くないかと言われたらそうではなく、所々からセミの鳴き声が聞こえ始め、雲も夏特有の雄大な入道雲が出始めた。そんな初夏のある日のホームルームの時間。

担任の隼鷹のいつもの連絡事項、呼び出し等を聞き流しながら帝翔はあくびをかみ殺していた。

 

(退屈だなぁ……中間テストは終わったし、期末まではまだちょっと時間もあるから急がなくてもいいし)

 

四月に入学式の準備、五月には新入生歓迎会、六月には定期テストと学園祭と忙しかったために、特にイベントがないこの時期に二ヶ月遅れの五月病がやってきたのだ。

この学園は生徒の自主性を重んじる校風のため学園側からはあまりイベントは主催しない。その代わり、生徒が企画を持ってくれば学園から援助を受けることが出来る。先程の歓迎会も生徒企画のものだ。

 

「じゃあ、これで朝のホームルームは終わりだ。授業の準備しろよー 」

 

そう担任は言って退室する。

 

(やれやれ、やっと終わったか)

 

帝翔も鞄から教科書、ノート、筆箱を出して次の授業の準備を終え、始まるまでSNSでニュースでも見てようと携帯の電源を入れた時、隣の席の友人、北上が恋人の大井を連れて話しかけて来た。

 

「よう、帝翔。相変わらず彼女いなさそうな顔してるな」

北上の軽口は今に始まったことではない。

帝翔は携帯を操作しながら顔を上げずに応える。

 

「北上、余計なお世話だし、この顔は生まれつきだ」

 

そう返すと北上の隣で羨望の眼差しを向けていた大井が口を挟む。

 

「帝翔君。突っ込むところが違うと思いますよ?」

 

「ぐっ……で、北上。どんな用だ?今忙しいんだけど」

 

「携帯でニュース見て時間潰すのは忙しい男がする行為だとは思えないね。いや、そうじゃない。本当の用はお前に頼みがあるんだ」

 

帝翔はここでようやく北上の方を向く。

 

「頼み?珍しいな」

 

「ようやくその使い道皆無な無駄イケメンフェイスを向けてくれたな。頼みってのは、俺が今企画してる事を手伝って欲しいんだよ。その名も『 七夕プロジェクト』!」

 

自慢げにそう語る北上と対照的に帝翔は冷めた態度で返す。

 

「パス」

「何でだよ!?ちょっとくらい話の内容を聞いてからでもいいだろ?」

「内容も何も、分かりきってるじゃないか。どうせ七夕に便乗して、この暇な時期に騒ごうって魂胆だろ?」

 

そう帝翔が言うと、北上は図星だったようで、グッと大げさに仰け反ったが、気を取り直して帝翔の説得を続ける。

 

「でもでもでもでも!参加者はこんなに集まっているんだぜ?可愛い女の子もかなり集めたしさ!今回はお前のためと思って企画したんだぜ?」

 

北上がそう言いながら、リストを帝翔に見せる。帝翔がリストを眺めている間にも、北上の演説は続く。

 

「先ずは1年生の潮ちゃんに、曙ちゃん。いやー苦労したぜ?潮ちゃんはともかく、曙ちゃん引っ張ってくるのは?あとは1年生で生徒会に入ってる吹雪ちゃん!この子は欠かせないね!正統派って感じだな。ま、その子は俺の弟の木曽に頼んでもらったんだけどな。その代わり、あいつが狙ってるC組の天龍も誘う事に成功したんだよ!……まぁついでにあいつの弟の龍田君も参加したみたいだから木曽には少し同情するぜ……。まだ居るぞ!先輩らもにも声掛けて弓道部の赤城先輩に加賀先輩。お!弓道部と言えば隣のクラスの瑞鶴、加賀先輩の事狙ってるらしいから後で声掛けて見ないとな!後は水泳部のゴーヤ、はっちゃん、イムヤ先輩の人魚三姉妹!そうそう!阿賀野の野郎のツテで妹の矢矧ちゃんも引っ張って来れたらしいぜ!」

 

北上が熱演してるのに相変わらず帝翔は冷めている。

 

「ふーん……で、俺に何を手伝えばいいの?」

「参加者は大体揃ってきてるからあとは当日までの準備だな、お前、道路工事のバイトやってるから体力あるだろ?大丈夫!前日までは色々やってもらうけど、当日はしっかりフリーにしてやるから」

 

軽薄だが、相手の事もしっかり考えている。それだから北上は学園でも有名で人気もあり、こんな大掛かりなイベントの主催が出来るのだろう。

 

帝翔も北上の頼みならと了承する。

 

「分かったよ。」

「サンキュー!当日までに絶対お前の好みの子見つけて参加してもらうからな!」

「いいよそう言うのは。所で、参加者ってさっき言った子だけなの?」

「いや?さっき言ったのは俺や俺のダチが参加してくれるように頼んだ子。あとは校内チャットサイトとか、掲示板に張り出して募集してたんだよ」

 

「へー……まぁいいや。で?俺はまず何をすればいいの?」

「お前バイク持ってたろ?ホームセンターまで買い出しに行ってほしいんだよ。俺も持ってるは持ってるけど、現場監督が離れるわけにはいかないからな。勿論、ガス代は経費で落とすよ」

 

帝翔はバイクの鍵を握りながら頷いた。

 

「分かったよ。引き受けた」

「助かるよ。買い出しに行くのはもうちょい後でいいからな」

「オッケーそれまでに欲しいもののリストをメールで送ってくれ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

(まぁ……退屈しのぎにはなるかな?)

 

と思いながら歩いていたら北上からのメールが届いた。

廊下を歩きながらメールを確認をする。

 

(けっこう買うなぁ……1回でいけるかな?)

 

と考えていたら学校の掲示板に北上の七夕祭のポスターを見かけた。

 

(へぇ……結構しっかりしてるポスターじゃん)

 

と思いながらポスターを眺めていると一人の女子生徒がこちらを見ているのに気がついた。

 

(ん?誰だあれ?)

 

肩までのふんわりとした染めてない故のナチュラルな色合いの茶髪。その金色の双眸は見るもの全てを見通すかのようだ。女子にしても平均より少し小さな体。

 

(知り合い……じゃないよな。腕章は緑だから同級生?)

 

そう帝翔が思っていると女子生徒はこちらに向かって歩いてきた。

帝翔はたじろぎながらも見知らぬ人から逃げ出すのも失礼と思いながらその場にとどまった。

 

「このポスターを見ていたんですか?」

 

女子生徒は前フリもなくいきなり話しかけて来た。

 

「あ、ああ。そうだよ。俺の友達がこの七夕祭を企画していて、それでちょっと気になってさ」

「ふーん……」

 

(あれ?ちょっと機嫌悪そう?)

 

少女は何も言わずにポスターをじっと眺めている。

帝翔は沈黙に耐えきれずにどこかに行こうとしたが隣の謎の少女の圧力に動けない。

 

「そ、そういえばこのポスターの絵、誰が描いたんだろうね?上手いし、この絵俺好きだな」

 

と絵に関して全く知識も才能もないような男の帝翔が場繋ぎの為に言ったこの一言が少女を振り向かせた。

 

「……今なんて?」

「え?」

 

1歩踏み出してくる迫力に押されながらも帝翔は答える。

 

「こ、このポスターの絵上手いなーって」

「その次」

「え?次?……えっと……この絵、好きだなぁって」

 

そう言うと今まで鋭い目付きて睨んできた少女がパァっと花が咲いたような笑顔を見せた。

 

「……嬉しい!」

 

そう言って少女はパタパタも廊下をかけていった。

 

(嬉しい?なんの事だろう……それにあの笑顔……綺麗だったな……)

 

帝翔は北上から買い物の催促のメールが来る30分後までその場でボーッとしていた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ただいまー」

「おー、おかえりー。遅かったなー?」

「悪い悪い、ちょっと寄り道してた」

「なんだー?可愛い子でも見つけてナンパしてたのか?」

 

いつもなら軽口で応戦するのだか、帝翔はポスターの少女を思い出して赤面する。

 

「あれ?……マジで?」

「あ、いや、その……ナンパとかしゃないぞ?ただちょっと不思議な子だったなぁって」

 

帝翔はふとポスターの絵を褒めた時の笑顔を思い出した。

 

「なあ、北上。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「どうした?」

「昇降口の掲示板のポスター。あのポスターの絵って誰が描いたの?」

 

北上は腕組みをして少し考える。

 

「ポスターの絵の子……うーん。あ!思い出した!美術部の若葉さんだよ」

「それってどんな子?」

 

帝翔が聞くが、返答は芳しくないものだった。

 

「いやー、それがよく分からないんだよ。今美術部も作品会が近いからって皆に絵の依頼拒否られてさー。誰でもいいから!って言ったら若葉さんがスッて手を挙げて」

「へー、そうだったんだ」

 

すると北上が周りをキョロキョロとしてから顔をを近づける。

 

「ここだけの話な?若葉さん、美術部の作品会とかにも全く出展してないらしいんだよ。頼めば絵とかは描いてくれるらしいけど、絶対に作品会とか展覧会とかには出さないらしいよ。ウチの学園の美術部は緩い方だから許されてるらしいけど、美術部内でも誰とも話さないし、クラスでも孤立ぎみだって」

 

今度は帝翔が腕組みする番だった。

 

「ふーん……あの子が……」

「あだ名は彫刻って言うらしいぜ?ずっときつい目付きでニコリともしないからって」

「え?笑わない?あの子が?」

「おう。絶対に表情を崩さない美術部員だからってついたらしいぜ」

 

(あの時の笑顔は?)

 

帝翔が考え込んでいると北上は他の人に呼ばれてどこかへ行ってしまった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

次の日の放課後。帝翔は美術部に来ていた。

 

(いやいや、何いきなり来ているんだよ。普通に考えて迷惑だろ?他の部員とかにも……)

 

と思って帰ろうとしたらドアが内側からガラッと開いた。

 

「うわぁ!」

 

と驚いて尻もちを着いてしまう。

そこにいたのは昨日の女子生徒、若葉だった。

 

「……気配がしたから。新入部員かなって思って。いきなりドア開けてごめんなさい」

 

立ち上がりながら帝翔も謝る。

 

「いや、こちらこそいきなり押しかけてごめん」

 

若葉の鋭い目付きが問いかける。

 

「どうしてここに来たの?」

「うーん……よくわかんないんだよ。あの後、友達に君のこと聞いてね。ちょっと興味を持ったって言うか……」

 

とここまで言いかけて帝翔は北上の北上のナンパのくだりを思い出す。

 

(何言ってんだよ俺!これじゃあほんとにナンパじゃないか!)

 

と内心焦るが、若葉は気にする素振りを見せずに

 

「私に興味?面白いね。まぁいいや、入って」

 

と中に招き入れてくれる。

 

「いいのか?他の人は……」

「他の人は皆作品会に作品を出しに行ってる」

 

若葉が言うように中には誰もいなかった。

部屋の真ん中にあるのはこじんまりとした机の上に置かれた鉛筆とスケッチブックだけだった。

 

「今日は気が乗らなかったから落書きしてたの」

 

と帝翔に言うでもなく若葉が独りごちた。

 

帝翔はスケッチブックを手に取って

 

「見てもいいか?」

 

と聞いた。若葉は頷いて椅子を差し出してくれた。

 

「どうぞ、好きにして」

「ありがとう」

 

若葉が差し出してくれた椅子に座って帝翔はスケッチブックをパラパラとめくった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

(凄いな……よく分からないけど、凄いことだけは分かる)

 

帝翔はスケッチブックに描かれた絵をながらながらそう考えた。

 

鉛筆で描かれたその絵の中の人物はスケッチブックの中で生き生きと動いており、背景画ではその世界の気温や音までもが分かるほどだ。

 

熱中してスケッチブックを捲っていた帝翔の頬に冷たいものがピトッと当たる。

 

「うわぁ!?」

 

本日二回目の悲鳴を上げながら顔をあげたらそこにいたのは缶コーヒーを二つ持った若葉だった。

 

「ごめんなさい。あんまり集中してるから声かけるのためらって」

 

と謝りながらコーヒーを手渡す。

ありがとう。と礼を言いなが受け取る。

 

「こっちこそ気づかなくてごめん。絵、すごい上手いね」

 

帝翔が賞賛すると若葉は照れた様子もなくありがとう。と返す。

 

「いいけど、北上君の仕事は手伝わなくていいの?」

「あれ?何で知ってるの?」

「最近話題だよ。あの北上君の使いパシリをしている人がいるって」

 

流石は北上の影響力。使いパシリすら有名にする。

 

「今日は特に運ぶものを無いからいいって言われてさ。明日からまた忙しくなるよ」

「ふぅ……ん。もう来ないのか」

若葉がボソリと呟く。

 

「次来れるとしたら七夕祭後かな?まぁ俺が邪魔じゃないならって話だけど」

 

帝翔がそう言うと、若葉は首をブンブンと振った。

 

「ううん。邪魔じゃないよ」

 

そう言って若葉ほ顔を赤らめる。そこに彫刻と揶揄される姿はなく、年相応の表情をしていた。

 

「あ、あのさ、どうして作品会には作品を出さなかったんだ?」

 

帝翔が聞くと若葉はさっきとうって変わって恐怖の表情を浮かべガタガタ震えだした。

帝翔が驚いて駆け寄ると若葉が吐き出すように叫んだ。

 

「怖いの!……昔はただ絵を描いているだけで楽しかったし、皆が褒めてくれた。でも……中学の時の作品会で知らない人が私の絵を見た時。私の絵を酷評したの。それから大勢の知らない人が私の絵を貶して、ビリビリに破いて捨てるんじゃないかって……そう思うようになったの。だから作品会には絵を出さなくなったの。学校内くらいなら良いと思ったけどやっぱり掲示板を通る度にビリビリ引き裂かれてないかって怖かったの……」

 

(そうか……だから俺の事睨んでいたんだ。自分の作品が壊されないか不安で……)

 

帝翔は若葉の頭にポンと手を置きながら言った。

 

「……俺は若葉の絵好きだよ。大丈夫だ」

 

帝翔に何が出来る訳では無い。だかこの一言が確かに若葉を救ったのだ。

 

「……なぁ、若葉」

「なぁに?」

「七夕祭に、自分の絵を出してみないか?」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「なに?絵を出さして欲しい?お前、絵なんて描けるのかよ?」

 

翌日、北上にそう持ちかけると訝しげな目で見られる。

 

「いや、俺じゃないんだ。若葉の絵を出して欲しい」

 

帝翔がそう言うと北上は腕組みをして考える。

 

「絵かー……出来なくはないけど……その絵以外は多分用意出来ないぞ?」

「構わない。若葉の絵さえあればいいんだ!」

 

北上はにやりとして告げる。

 

「なるほどぉ。お前、そこまであの子に惚れ込むとはなぁ」

 

帝翔が赤面して否定する。

 

「そ、そんなんじゃねぇよ!ただ、彼女の……」

 

言葉に濁らせた帝翔に北上が聞き返す。

 

「彼女の?」

「いや、とにかく頼んだぞ」

 

そう言って帝翔は準備にとりかかる。

 

(七夕祭まであと四日。準備は終わりそうだけど……若葉の絵は完成するのかな?)

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

七夕祭まであと三日。

帝翔は若葉に言った通り、北上の指導の元準備に明け暮れていた。

準備が進むにつれて必要なものも増え、買い出し班も結成され帝翔はそれのリーダーを任されていた。

買い出しから戻った時、水道で女子生徒が話しているのを見かけた。絵の具のついたパレットを洗っているところから、どうやら美術部員のようだ。

 

「ねぇ?知ってる?最近若葉さん、ずっと絵を描いているらしいよ?」

「あの人私嫌いだなー。何考えているか分かんないし。コンクールに絵今まで1枚も出した事がないんだよ?でも部長より絵上手いし……なんかあんたとは世界が違うんですーって言われているみたいでウザイよねー」

 

帝翔の頭に血が上るのが感じれた。買い出しの荷物も足元に落としたがそれも気付かず、帝翔は女子生徒に掴みかかる勢いで叫んだ。

 

「お前らっ!若葉の事を何も知らないで!」

 

女子生徒は冷めきった態度だ。

 

「はぁ?誰あんた?意味わかんないし」

「そーそー、別に彫刻の悪口とか今更みんな言ってるし、何でウチらだけグチグチ言われなきゃいけないわけ?」

「ホントダリーし、彫刻のオトコかなんか知んないけど、ウザったいよ!」

「ウザイもん同士、お似合いだね!」

「言えてる!キャハハハハハハハハ!」

 

そう言って二人の女子生徒は去っていった。

 

(何でだよ!あんな笑顔で絵を描くやつがあんなに苦しんでいて、あんなに簡単に人の事を悪く言えるやつが楽しそうに生きていられるんだよ……)

 

そう思っていたらピトッと頬に何かが当たる感触。

ハッとして顔を上げると若葉が帝翔の頬に手をあてていた。

帝翔の頬に涙が零れ、若葉の手を濡らす。

 

「ごめん……」

「どうして、あなたが謝るの?」

「君の事を……」

「私の事をどうするつもりだったの?」

「それはっ!」

「……やっぱり私は絵を描くべきじゃないのかもしれないわね」

「違う!そんな事ない!君の絵はあんな奴らのせいで失われちゃいけないんだ!」

「それはあなたや私じゃなくて世間が決めるべきよ、そして世間とはああ言う連中が作るものよ」

「……なら世間なんていらない。無くなってしまえばいいんだ」

「だめよ、あなたは世間に愛されている存在。私とは違うのよ」

「……君が居ない世間なんで……君が生きていない世間なんて必要ないんだ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

七夕祭当日。

あの日から二人は会っていなかった。北上経由で話は聞いて絵は完成したらしいが。本人が来るかは分からないらしい。

イベント自体は大成功し、北上も御満悦のようだ。

北上が締めのイベントの説明をしている。

 

「みなさーん!七夕で願いを込める星って何か知っていますかー?」

 

すると群衆から一人の生徒が「織姫と彦星!」と叫ぶ。

 

「正解!十点です!さて!じゃあ織姫と彦星の星の名前は何でしょう?」

 

と言うと流石に即答できる人は少ないらしくしばらくザワザワとした後また別の生徒が「ベガとアルタイル」とさっきよりも控えめに叫んだ。

 

「はい正解!八十五点!つまり、我々はお願いは織姫と彦星、ベガとアルタイルの二つ分お願い出来るわけです!」

 

と北上が言うと周りはざわつきとクスクス笑いが起きた。

 

「さて!第二問!ベガとアルタイルまでの距離はそれぞれどれくらいでしょうか?」

 

流石にこれを答えられる人はいなかった。数十秒ザワついた後北上は答えを待たずに続けた。

 

「正解はそれぞれ二十五光年と十六光年です。つまり!ナンジャモンジャ博士のセッカチピンシャンの定理により、光より速くは動けないので願いは二十五年ないし十六年後に届くというわけなのです!」

 

さぁ!と北上は両手を広げて叫ぶ。

 

「皆さんはこれから何を体験し、何を学ぶのか?それは誰にも分かりません。なのでそんな未来の事なんて分からないと言うちっぽけな野郎どもはほっといて今から何を学んでどう成長していくのか楽しみでたまらないわが校の生徒だけ!未来に願い事を書く権利があるのです!」

 

北上の最早演説となってきた話に賛同する人も多く拍手をしたり、口笛を鳴らして場を盛り上げる人もいた。

帝翔はいたたまれなくなってその場を離れた。北上の最もらしい演説に乗せられて、個人個人の考えを放棄する。まさにこれが世間だ。

ふと見ると若葉が群衆の後ろのベンチで佇んでいるのを見つけた。

一瞬どうするか考えたが、意を決して若葉に話しかけた。

 

「よう。隣、いいか?」

「帝翔君……いいよ」

 

そう言って座っている位置をずらし、帝翔の座れる場所を作ってやる。

 

「…………………………」

「………………何か話に来たんじゃないの?」

「あ、えっと……その……若葉は願いは書かないのか?」

「……書かない。どうせ私一人が願ったってこの世界は何も変わらないから」

「……なるほど。じゃあ俺も何も書かない。俺の願いも俺一人じゃ絶対に叶わないからな」

「………………そう」

「でも」

 

帝翔は立ち上がりながら続ける。

 

「君と俺なら、二人分の願いならきっと織姫と彦星に届くんだ!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

帝翔は若葉を連れて特別コーナーに向かう。そこには若葉の完成させた絵がひっそりと置いてあった。

辛うじて見えるくらいの星空の下の笹の木の下で、二人の男女が願いを吊るしている絵。

 

「この絵に短冊をかけよう?」

「……絵の通りにはならないわよ?」

 

二人はキャンバスに描かれた笹の木の下で一人二組の奇妙な短冊を吊るす。

その頭上には眩いばかりの星空が瞬いていた。




いかがだったでしょか?
七夕をモチーフとかいいながらあんまり七夕をいかせてなのが心残りでしたね。
一昨日思いついて昨日から書き出したこの話。何とか書ききれて良かったです。
さて、帝翔と若葉が吊るした願いは一体なんだったんでしょうか?それは織姫と彦星だけが知るのです。


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球磨型の場合

「球磨型の部屋に?」

 

梅雨が過ぎ、太陽が1年で1番の頑張りをみせ雲も真っ青な空に立体的な絵を描くようになった頃。球磨型の三番艦北上が俺を球磨型の部屋に来ないか?と誘ってきた。

 

「うん。この前の演出でアタシと大井っちと木曾っちがMVPとったじゃん?それで提督がなんでも御褒美あげるって言うからさ〜」

「お前の分はそれでいいなら良いけど、他の二人はどうなんだ?」

「大井っちも木曾っちもそれでいいって言ってたよ」

 

北上の長い三つ編みがふよんと跳ねて答える。

 

「まぁ……遊びに行くだけだろ?それならいいけど……それでいいのか?いい酒とかたまには奢ってやるぞ?」

「多摩姉ぇがあんまりお酒飲めないしさー。大井っちも……」

「大井?あいつこの前の龍田と金剛のバーで酒飲んでたぞ?」

 

最近金剛が昼間は紅茶、夜は酒を出すバーを鎮守府内で開いたのだ。駆逐艦から戦艦まで幅広く人気だ。

そう俺が言うと北上は苦々しい顔をして

 

「う〜ん……飲めない事は無いんだけど……」

「酒癖悪いのか?」

「まぁ……そうだねぇ」

 

要領を得ない返答しか返ってこない。

 

「まぁいいや。で、今夜でいいのか?」

「うん。お酒もちょこっとあるよー」

「それは楽しみだ」

「でも球磨姉ぇが『球磨の部屋では煙草は吸わせんクマ!』って言ってたよー」

「……それは残念だ」

 

そう言って北上は準備をすると言って走って去っていった。さて、なんだかんだ北上とも付き合いが長いけど部屋に行ったことはあんまり無い気がする。五人同じ部屋に住めるようにかつ、五人ともプライバシーを守れるようにと思い結構大きめの部屋にしたはず。内装は最低限のものだけ渡して好きにしろと言ってあるのでどうなっているのかが楽しみだ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

とりあえず夜まで暇だからどうしようかとぶらついていたら、何やら大きな荷物を背負った球磨と木曾に出会った。2人では通常担げなさそうなほどありそうな大きな机を担いでいる。この大きさは流石に艦娘の筋力でも厳しそうだが、流石は武闘派軽巡洋艦球磨型の姉妹だ。艤装のブースト無しでも鍛錬を怠ってないのだろう。

俺の鎮守府で最初の改二になって今でも最強の六人に数えられる北上。それを追って改ニになり北上を助けると誓った大井。通常、適正は無いはずなのに二人の姉を慕い続け、遂には自身の戦闘能力だけで雷巡の適正を手にした木曾。通常では考えられない柔軟な動きで敵だけではなく味方までも翻弄し、最近改ニになって更に自由度(あと猫度)を増した多摩。長女で唯一改二が来てないのに腐らずに己を磨き続け、戦術を学び、仲間を守り、敵を屠り続けた球磨型の長の球磨。

そうしんみり思っていたらテーブルを運んでいた球磨が俺に気づいてにっこり笑って手を振ってきた。

 

「提督!こんにちわクマ」

「おう、提督」

 

俺も2人を手伝いながら返事をする。

 

「よう、二人とも。手伝うよ」

「ああ、助かる」

「アレー?木曾、そこはかっこよく俺に任せろ!位は言うんじゃないのかクマ?」

「出来ないことを見栄を張って出来ると答えるほど俺の器は小さくない」

 

そう言ってよいしょと気合を入れてテーブルを握り直す。

球磨はその答えに満足する様に頭のアホ毛を振り回して喜ぶ。

 

「クマー!それでこそ球磨型だクマ」

「当然だ」

 

何故か褒めれた木曾本人よりも球磨の方がドヤ顔だ。

そう思ってホッコリしていたらニヤニヤしながら北上が現れた。北上がこの顔をしている時は確実にイタズラをしてくる顔だ。しかも内容が自分は手を出さずに他人を使ってくるというもので直接地味に辛いイタズラをしてくる卯月よりタチが悪い。

ジリジリ近づいてくる北上に俺と、恐らく球磨型で一番の被害者である木曾が慌てて北上の機嫌を取ろうとする。

 

「き、北上姉さん……この机は球磨型で選んだやつだろ?使う前に落として疵つけてしまったら事だろう?だから……」

「むっふっふー♪木曾っちー嘘は良くないねぇ……アタシは知っているんだよ〜?実は本気を出したらこの机くらいはギリギリ木曾っちと提督で運べることを」

「え?俺?」

 

いつの間にか巻き込まれている俺。そんなこと言ってる場合じゃない!北上の言う事が正しいならギリ持てるって事は裏を返せば常に全力を出さないと落とすって事だろ?

 

「待て待て待て待て待ってくれ北上、そうだ、後で飯くらいは奢るから……な?」

「ふ〜ん……提督ーアンタも鈍ったねーアタシの懐柔の手腕がねぇ……せっかくの提督のお昼ご飯デートお誘いは嬉しいけどアタシはたった今お昼を済ませちゃったんだよねぇ……いやー残念残念」

 

こいつ絶対に確信犯だ。

 

「じ、じゃあ間宮はどうだ?食後のデザートを俺に奢らさせて欲しい!」

 

北上の三つ編みがピコン!っと揺れる。行ける!あと少しだ!

 

「な?この後間宮で北上にデザートを食べさせるために、金より貴重な北上のデザートを掬うだけの筋力を残させてくれないか?」

「ふーん……提督。アタシにアーンしたいんだー♪」

 

完全に楽しんでいやがる……でも、あと一押しだ!

そう思ったのだが、北上は一際ニヤリと笑うと、球磨に悪魔の様に、神のように微笑んで言った。

 

「球磨姉ぇ……多摩姉ぇがサーモンお昼に焼いたって。一緒に食べに行こ?」

「サーモン!?」

 

やばい

 

「ま、待て!球磨!サーモンなら俺が……」

 

そう言おうとしたら北上が凄い目で睨みつけてきた。

 

戦場で出すような眼力に俺も木曾も蛇に睨まれた蛙だ。

 

あえなく球磨はサーモンを食べに行って俺と木曾の二人ので必死にテーブルを運んだ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

ようやっと部屋まで運ぶとにこやかな笑顔で北上がドアを開けてくれた。

 

「あれ〜?提督、木曾。偶然だね〜」

 

清々しいを通り越してもはやアルカイックスマイルを見せてくれる北上。

「おや、北上出迎えとは殊勝な態度だ。後で何を請求されるか分からない」

「いやいやーたまにはアタシも無償で奉仕の精神って奴をねー」

 

などととぼけていたら球磨が後ろから北上の頭をコツンと叩き

 

「北上、流石に提督と木曾が可愛そうクマよ」

 

と叱った。

北上はやはり球磨型の長、球磨の言う事には逆らえないらしい。おとなしくテーブルを運ぶ手伝いをしてくれた。

部屋の中に運び込み、木曾と二人で背中合わせになってお互いの腰を伸ばし合うストレッチをしていたら北上と目が合った。またイタズラされるかと思ったが意外にも大人しくしていて、俺のストレッチが終わってらチョイチョイと手招きしてきた。

 

「どうした?」

 

と俺が聞くと、んと床を指さす。寝転べって事か?

言われるがまま(と言うか指さされるがまま)にうつ伏せになると、北上が俺の足の辺りに乗っかり腰のマッサージをしてくれた。

そこまで大きくない手で丁寧にやってくれる。ツボも分かってるみたいで気持ちがいい。

 

「いきなりマッサージとはそれこそ殊勝だな、どうしたんだ?」

 

と俺が軽口を叩いても無言。いつもなら皮肉や軽口の応酬になるはずだけど、北上は真剣な顔で腰のマッサージを続ける。

 

「……提督?」

 

と北上がボソリと呟く。

 

「どうした?」

「さっきはゴメンね?重かった?」

 

静かなトーンで聞いてくる。いつものふざけた様子はなく、真面目に俺の事を労わってくれている様だ。

 

「ああ、マッサージのお陰だよ。意外と上手いもんだな」

「アタシ、手先の器用さには結構自信あるんだよ?球磨型の髪の毛、皆切ってるんだ」

「へぇ、凄いじゃないか」

 

素直に感心する。適当に伸ばしっぱなしな多摩と木曾は兎も角、ストレートなサラサラヘアーな大井やどうやってできているか分からないアホ毛ヘアーの球磨の髪を整えているのか。

 

「あのアホ毛はどうやっているんだ?」

「……あれは天然だよ……アタシの敗北の象徴……」

「なんか……すまん」

 

恐るべき球磨のアホ毛。

 

「今度提督もやってあげようか?」

「いいのか?」

 

実は最近伸びてきて鬱陶しかった所だ。

 

「じゃあ、頼む」

「まっかせておいて!」

 

うん、元気になったようだ。しおらしい北上も珍しいが、やっぱりいつものハイパーな北上様のほうが似合っている。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

北上のマッサージで体もほぐれ、気分も良くなり午後の仕事も捗った。

若葉にも話してみたら「今度頼んでみようかな」と言ってた。鎮守府内でミニブームでも起きそうだ。

だいぶ早くに仕事も終わり、若葉と散歩をしていると、五十鈴が木の上に向かって何かを叫んでいるのが見えた。猫でもいたのかと思い、俺と若葉も木の上を見てみると、そこにいたのは猫は猫でも球磨型の多摩だった。

 

「猫じゃないにゃ」

 

地の文に突っ込まないで欲しい。

 

「多摩!危ないから降りてきなさい!降りてきたら猫缶あげるから!」

「五十鈴、それは色々と間違っているぞ」

 

と若葉が冷静にツッコミを入れる。

それでも多摩は降りようとせずに呑気に欠伸をしている。

どうしようかと皆で悩んでいたら、たまたま天龍型の一番艦の天龍が時雨と夕立を連れて歩いて来た。よく駆逐艦と遊んでいる天龍の事だ、時雨と共に夕立と遊んでいたのだろう。夕立のお気に入りのフリスビーを手に持っている。

天龍がどうした?と俺達に声をかけようとしたが、それよりも先に木の上の多摩に気がついた。やれやれと言わんばかりにフリスビーを時雨に渡し、トトトと数歩助走を付けてタンッ!と飛び上がり多摩のいる木の枝にヒラリと着地した!

 

「よう!多摩、何してんだ?」

「……にゃあ」

 

天龍が多摩の顎の下を掻きながら笑顔で聞くと多摩は暫く堪能した後、一声鳴いてピョンと飛び降りた。

 

「……にゃー」

 

といいながら去る多摩。どこまでも猫のような自由人だ。

 

「猫じゃないにゃ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

球磨と木曾、北上に多摩と続いたから次会うとしたら大井かな?と思いながら歩いていたら、次に会ったのは大井ではなく青葉だった。

 

「なんだ、青葉か」

「司令官!?開口一番それですか?」

 

と青葉が本気でショックを受けたような顔をするから頭を撫でてやりながらあやまる。

 

「すまんすまん。次会いたかったのは大井だったからさ」

「あれ?司令官も大井さんに会いたかったのですか?」

「ああ、お前は何の用事だったんだ?」

「いえ、ちょっと取材に」

「そうか、結構皆毎回のコラム楽しみにしているからな」

「恐縮です!ではでは!」

 

と言って走り去って行く。逃げ足以外も速そうだ。

大井には会えないまま宴会の時間が迫る。まぁこの後すぐに大井にも会えるから良いか。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

夕方になり、一旦部屋で身なりを整えていると、トントンと部屋をノックする音が聞こえ澄んだ声で

 

「提督、大井です。お迎えにあがりました」

 

と聞こえる。

ドアを開けると、そこにいたのはいつもの北上と同じの制服ではなく、タキシードに身を包んだ大井の姿だった。

予想外の服装に加え、それが妙に似合っているから咄嗟に声も出せずにポカンと大井を眺めるしか出来なかった。

大井は見られているのが恥ずかしいらしく、北上さんの立案で皆でこれを着ようと言われたことや、多摩姉さんが提督を迎えに行くように言ったとやや早口で言っていたが、呆然としてそれすら耳に入らなかった。

 

「だから、私がしたかったんじゃなく、多摩姉さんがって……提督、聞いていますか?」

 

大井のいつも通りのジトーっと睨む視線が突き刺さりようやく我に返る。

 

「あ、ああ。すまん、ちょっと見とれてた」

 

と素直に言うと、ちょっと顔を赤くしたが、そう。と素っ気なく返しクルンと後ろを向く。

 

「じゃあ、行きますよ?もう姉さん達は準備を終わらせて待っていますから」

「おう」

 

褒められたのに素っ気ない態度を取ったが、大井のサラサラヘアーがフリフリと揺れている。ホントに北上に似てるなぁ

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

流石に扉を弄ることは出来なかったみたいで、扉は普通だ。

大井がどうぞ、と言わんばかりに扉の横でにこやかな笑顔を作っている。

どうなっているのか楽しみだ。いざゆかんと扉を開く。

扉を開けてはじめに飛び込んできたのはひんやりとした冷気だった。次にまさにバーに流れていそうなジャズ?の音楽。そして目に飛び込んできたのはまさしく正しいバーだった。

本日2回目の呆けた表情を晒していると、クスクスと笑いながら大井がポンと背中を押す。押されるがままに入ると大井とお揃いの格好をした北上が出迎えてくれた。

見ると、タキシードなのは北上と大井だけで球磨、多摩、木曾の3人はちゃんとバーテンダーの格好だった。

 

「提督、いかがかしら?あれから数時間で整えたのよ」

「……まさかMVPのご褒美がこうなるとはな……」

「いや〜凄いでしょ?アタシが1回こんなんやって見たくてさー」

「北上がカクテルを作るのか?」

 

まさかと思い訪ねると、北上はヒラヒラと手を振って否定する。

 

「残念ながらアタシは作らないよ。球磨姉ぇが意外と上手いんだよ。で、多摩姉ぇが料理作ってくれて、木曾は二人の手伝い」

「ああ、俺も提督に何か作ってやりたくてな」

「クマー。任せるクマ」

「にゃあ」

 

3人とも気合いバッチリだ。

ふと、俺が北上に訪ねる。

 

「あれ?じゃあ、大井は何をするんだ?」

 

北上が不満そうに声を上げる。

 

「ちょっと〜アタシには聞かないの?」

「お前は俺と飲む係だろ?」

「まあね」

「私も提督と一緒に飲む係ですよ」

 

大井の答えを聞き、えっと声を上げる。

 

「大井は酒飲めないんじゃなかったっけ?」

 

そう聞くと、大井はフルフルと首を降る。同時に髪の毛もフワッと広がり見てて楽しい。

 

「少しなら飲めますよ。それとも何ですか?北上さんとは飲めて私とは飲めないと、そうおっしゃいますか?」

 

姉妹揃って眼力が凄まじい。

降参と言うように両手をあげる。

 

「分かったよ。でも、飲みすぎるなよ?」

「分かってますよ」

 

そう話しているあいだに球磨が作ったカクテルと多摩の料理が三人の前に出される。

乾杯と言うと、三人のグラスがチンと高い音を立てて応えた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

大井が自称するほど大井も酒が弱い訳ではなかった。適度に楽しむ程度の酒は飲めるらしい。

 

適度に酒と料理(北上が絶賛するように、酒も料理も素晴らしかった)を堪能し、気がついたら深夜を過ぎていた。こりゃ朝までコースかなと思っていたが、だんだんと球磨と多摩の瞼が降りていったので北上と俺で二人をベッドまで運んでやった。

それからは俺と北上、木曾、大井の四人で適当に酒を飲みながらだべっていた。

 

「でさー、その時に木曾が意外と頑張っていてねぇ〜」

「ちょっとでも姉さん達に追いつきたいからな!それくらいは当然だ!」

「木曾も頑張っていますね」

「改ニになってからますます努力してるな」

「当然だ。鍛錬を怠るわけにはいかないし、改ニになって艤装の感触も変わるからな」

「そう言えば大井も改ニになったときは結構訓練してたな」

「当然です。少しでも北上さんの助けになろうと思っていましたからね」

「おお〜凄いねぇ」

「呑気なことを言うな北上。お前はどうせ改ニになっても訓練何もしてなかっただろう」

「アタシは最近だからねぇ訓練無しでも思う通りに魚雷も撃てたし?」

 

はぁと俺がため息をついても北上は何処吹く風だ。

何故かそれなのに大井は満足気だ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

遂に木曾も飲みすぎたと一言言い、自分のベッドに引き上げて行って、北上がじゃあアタシもと言ってそそくさとベッドに引き上げて行った。

 

残すところは俺と大井の二人になってしまった。大井もだいぶ出来上がっているようで目がトロンとなっている。タキシードの上着のとうに脱ぎ、ボタンも二つほど外している。谷間が見えて、頭がフーラフーラと揺れている姿は非常に危険だ。

これはマズいと思い、大井をベッドに運ぼうと方に手をかけた途端、大井がバッ!とこっちを向いて、俺に飛びつきながら抱きついてきた!

 

「うぉ!お、大井!」

「むー……提督……うん」

 

完全に酔っ払っている。呂律が回ってない口調で俺に抱きついたまま頬ずりしてくる。

 

「提督……ふにゅー……うーん」

 

他の四人に見つかったらどう勘違いされるか分かったもんじゃない。急いで引き剥がそうとするが、艦娘の全力には遠く及ばない。

 

「提督……うん?提督、どうしてここにいるんですか?」

 

ちょっとは話せるようになったらしい。急いで説得を試みる。

 

「お前が酔っ払って俺に抱きついてきたんだよ、とりあえず離せ!話はそれからだ」

 

俺がそう言うも、大井は離れてくれないどころか、より一層強く抱きついてくる。正直痛いくらいだ。

 

「大井さん!?」

「嫌でふ……離しません……提督……」

 

顔を埋めたまま話してくる。引き離そうとしばらくもがくが、どうにもならないと思い、諦めて大井にされるがままにする。

 

「提督……提督……むにゃ」

 

と満足したのかこの体勢のまま寝てしまった。ようやく終わったかと思いながら引き剥がそうどするが、なんということか離れない。

次第に俺も眠気に負けてトロトロと眠ってしまった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

何やら人の気配を感じて目を覚ますとまだ大井が張り付いていた。

離そうとするが、やっぱり離れない。しょうがないからこの体勢のまま水を探す。飲みすぎたせいで喉がガラガラだ。

 

「水……水……どこだ?」

 

寝ぼけ眼で探すから水が見つからない。

すると、誰かがスっと水の入ったペットボトルを手渡してくれた。

 

「はい、水だよー」

「おお、サンキュー北上。……北上?」

 

水を1口飲み、やっと頭が覚醒し、今自分が置かれている状況を把握した。見渡すと、大井以外起きていて俺の周りでニヤニヤとしている。

 

「あ、いや、これはその……違うんだ。大井が酔っ払って抱きついてきて、大井の力が強くて……」

 

俺がしどろもどろに弁解していたら、北上がぷっと吹き出した。

 

「提督、大井っちはねぇ?飲みすぎると、誰にでも抱きつくんだよー」

 

北上がそう言うと、ほかの三人も頷く。恐らく四人とも被害にあった事があるのだろう。

俺がポカンとしていると、北上が大井を引き離しながら、耳元で呟く。

 

「オイシイ思い、出来たでしょ?」

 

こいつ……知っていやがったな。

俺の非難の目をよそに、北上は楽しそうに笑う。

 

「安心して。大井っちは酔ってた時の記憶飛ぶ人だから」

 

言った通りに数分後に大井が目を覚ました時も、キョトンとしている。だけど何かをやらかしたのは察したようでしきりに俺に謝っている。申し訳なさそうな表情を見ると、どうにも許せてしまう。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

後日、秘書艦大井、秘書艦補佐北上の日。案の定北上が逃走したが、その日の書類は少なかったため、二人で書類整理をしていた。

 

「よし、今日の分はこれで終わりだ」

「はい、お疲れ様です 」

 

丁寧に書類をまとめながら大井が答える。

あの日からも特に態度が変わらないから本当に大井はあの夜の事を忘れているのだろう。

 

「お疲れ様」

「はい、お疲れ様です」

 

そう言って部屋を出ようとする大井に声をかける。

 

「あ、そうだ大井。今日また部屋に行っていいか?」

「はい。構いませんよ。木曾が新しいカクテルに挑戦したいと言っていました」

 

あれから、球磨型の部屋はあのバーのままになっていて、時折遊びに行っている。その度に北上が大井と俺をからかってくるから始末が悪い。思えば、あの時北上がベッドに行った時、北上は何が起こるか知っていたから、ベッドに避難して狸寝入りをしていたんじゃないかと疑ってしまう。

 

大井もあれから少し俺と酒を飲むようにしている。

相変わらず酒は弱いから飲みすぎた時には北上をバリアにしようかと思う。



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質問の場合

今回は暇すぎでSS巡回してた時に見つけた懐かしい奴を提督と若葉にしてもらいます。
勿論、質問者は我らが青葉様です。


「え?俺と若葉を取材?」

「はい!前回ネタをリクエストしてみたら、お二人について聞きたいというのがとても多かったのですよ」

 

いつもの艦娘の制服の上に夏用のセーター(カーディガンか?)を羽織った青葉が午後の仕事が終わった直後に部屋に飛び込んできてそう言った。

今日は若葉が秘書艦で若葉は慣れているから補佐は今日は無し。だからこの部屋にいるのは俺と若葉、そしてたった今乗り込んできた青葉の三人になる。あまりにも良すぎるタイミング、おそらくどっかに監視カメラでもあるのだろう。

 

「俺はまぁ良いけど……若葉は?」

「ふむ……特に構わないぞ」

 

と若葉も書類をまとめながらそう答える。

 

「なら!今夜一室設けましたので、そこに来てもらっても宜しいでしょうか?」

 

青葉が指定した店は、鎮守府の近くにあるちょっとお高い料理屋だ。完全個室制に加え、部屋ごとの距離をかなり広めに取っているから軽くなら騒いでも問題ない。

勿論、そんないい店を断るわけもない。

 

「ああ、いいぞ」

「了解です!それでは、青葉は先に行って準備していますので、お二人も準備が出来次第来てくださいね。店で提督の名前を出したら通してくれるはずです」

「おいちょっとまて、それウチの経費から払う気か?」

「……では!」

 

そう言って島風もびっくりの速さで駆け抜けていきやがった。

 

「ったく……」

「いいじゃないか。どうせ次の青葉の給金から天引きすればいい」

 

可愛い顔してなんて事を言うのだこの嫁は。

 

「まぁいいか、半分くらいは出させるけどあとは俺は出すよ」

「そうか、なら私も出そう」

 

そう言いながら準備をする。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

店に着き俺の名前を出すと、既に青葉は来ているようで部屋に案内してもらった。

部屋に入ると青葉が録音に使うのであろう機材の準備をしている。カメラはないからどうやら口頭のみの取材らしい。

 

「お!お疲れ様です!」

「会社の飲み会みたいなのはいらんよ。まぁまずは料理を楽しもうぜ?」

 

そういう間にも、俺達の前に前菜と食前酒が出される。

 

「まぁまずは」

 

と言いながら青葉がグラスを手に持つ。やはりこの店の料理も狙っていたのだろう。三人ともグラスを取り、チンッと音を立ててめいめい料理に手を付け始めた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふぅ……美味かったなぁ」

「ええ……どれも絶品でしたね」

「美味かったぞ。いい店を見つけてきてくれたな。ありがとう、青葉」

「恐縮です!」

 

では、と言いながら青葉がテキパキと準備をする。だいぶ飲んだはずなのにふらつく様子も見られない。

 

「では、早速最初の質問です!」

 

(ここからは質問と返答になりますが、提督のキャラのイメージはあくまでも読者の想像にお任せしたいため、ある程度省かせていただきます。御容赦と御理解の程を宜しくお願い致します)

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

NO1 お名前を教えて下さい。

 

若葉「若葉だ」

 

NO2 性別、年齢をお願いします。

 

若葉「性別は女。年は……艦娘になるまで17。そこからは艦娘故に体の成長は止まったが、5年たったから、実年齢は22だな」

 

NO3 自分の性格を一言で言ってください。

 

若葉「……どうだろうな……昔は任務のみを達成できていればいいと思っていた。でも今は、提督に会ってからもっと色んなことを知ろうと思うようになった」

 

NO4 では、相手の性格を一言で言ってください。

 

提督「可愛い」

若葉「提督、それは性格ではないぞ」

 

NO5 2人はいつ知り合いましたか?

 

提督「建造だな」

若葉「実は3番目で初期艦の叢雲、次は北上でその次だったな」

 

NO6 その時の、お互いの第一印象を教えて下さい。

 

提督「いやー正直可愛いけどちょっと気難しそうだなって」

若葉「正直適当な性格そうで不安だった。適当という所は当たっていたしな」

 

NO7 それは、その後どのように変わりましたか?

 

提督「気難しいんじゃなくてただのクールビューティだった」

若葉「また変な言葉を……相変わらず適当なのは変わってないな」

 

NO8 付き合い始めたのは、いつからですか?

 

提督「海岸の散歩のあの日からだな。全てはあの日から始まったな」

若葉「ああ、これからもよろしく頼むぞ」

 

NO9 その時、告白はどちらから?

 

提督「俺からだな」

若葉「正直あんまりいい告白じゃなかったけどな」

提督「え、マジで?結構いいと思ったけどな」

若葉「ケッコンの時はときめいたぞ」

 

NO10 ずばり、告白の言葉をどうぞ。

 

提督「なんか言うの恥ずかしいな……」

若葉「若葉も言うのか?」

青葉「勿論です!ささ!」

提督「じゃあ俺から……う゛う゛ん!若葉、その格好。いつものその格好で聞いてくれ。俺は若葉のそのままの姿を愛する。若葉も俺のそのままの姿を愛してくれ。お互いを大きくも小さくも見ない。ありのままの姿を愛し合おう。そして、ともに明日のその先に向かおう。その為に、この指輪を受け取ってほしい」

若葉「提督、そのまま。そのままで聞いてください。私はあなたの全てを愛します。あなたは私の全てを愛してください。周りなんて見ずにお互いの全てを愛し合いましょう。そして、あなたと共に明日のその先に向かいたい。その為にあなたからその指輪を受け取ります」

二人「…………ふふっ!/////」

 

NO11 周りの人は2人の仲を知っていますか?

 

提督「そりゃそうだな」

若葉「ああ。姉さん達や初霜なんかは飛んで喜んでくれた」

 

NO12 連絡手段は、メ-ルですか、電話ですか?

 

提督「一緒に暮らしてるからなぁ」

若葉「口伝えだな」

 

NO13 ではお互いの長所を言い合って下さい。

 

提督「常に冷静な所だな」

若葉「愛情表現がストレートな所だ」

 

NO14 逆に、短所を指摘して下さい。

 

提督「愛情表現がたりないなぁとは」

若葉「人前で抱きついてくる所」

提督「えーだめ?」

若葉「だめ」

 

NO15 人前でも、気にせずイチャつきますか?

 

提督「つく!つきたい!」

若葉「だめ」

提督「ちぇー」

 

NO16 相手のイメ-ジカラ-を教えて下さい。

 

提督「黒かなぁ」

若葉「深緑……か?」

 

NO17 相手に着て欲しい服、つけて欲しいアイテムなどはありますか?

 

提督「ユルユルのシャツにネクタイが好き」

若葉「煙草加えているのは見ていて悪くないな」

 

NO18 嫉妬はしてしまう方ですか?

 

提督「あれは?」

若葉「私公認だから違うだろ」

 

NO19 浮気は許せますか?

 

提督「しないから大丈夫」

若葉「してもいいぞ?」

提督「え?」

若葉「最後は私のところに帰ってくるって知っているから」

 

NO20 もしも、相手が素敵な美女と、町を歩いていたらどうしますか?

 

提督「ショタに間違われてナンパされたのかなと思う」

若葉「ショタってなんだ?」

 

NO21 くだらない理由でしてしまった喧嘩はありますか?

 

提督「喧嘩じゃないけど俺がいつも書類残して怒られる」

若葉「たまに制服で寝ているときに怒られる」

 

NO22 (あるなら)その理由は何ですか?

 

提督「制服のまま寝てもきちんと眠れないから」

若葉「書類残す理由がいつも誰かと遊んでるから」

 

NO23 身長は何cmですか?

 

若葉「154センチだ」

 

NO24 その身長で、困った事はあり

ますか?(あるならどんな時?)

 

若葉「……提督に抱きつく時にうまく身長が合わない」

 

NO25 言われるとドキッとする言葉を教えて下さい。

 

提督「たまに俺が寝ていると思っている時に言ってくれる愛してますが好き」

若葉「き、聞いていたのか!」

 

NO26 相手の好きな食べ物を知っていますか?

 

提督「知ってる」

若葉「まぁ、一緒に暮らしているからな」

 

NO27 それは何ですか?

 

提督「秘密。でも、見ていたら好きなものは無言でモキュモキュ食べるから分かりやすいよ」

若葉「提督も好きな食べ物は最後に食べるからな」

 

NO28 相手と自分、どちらが頭がいいと思いますか?

 

提督「若葉」

若葉「提督」

 

NO29 これだけは相手に負けないという特技を教えて下さい。

 

提督「なんかあったっけかな?」

若葉「提督、最近ダーツハマってるだろ。それは若葉も勝てない」

提督「若葉も始めたら?すぐに追いつけるだろ」

 

NO30 相手の事を、食べ物に置き換えてみてください。

 

提督「食べ物じゃないけど『 わかば』」

若葉「安直な……。提督は……林檎?」

提督「え、何で?」

若葉「分からない。なんとなくパッと浮かんだ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「はい!いじょうです。お疲れ様でした」

 

青葉がそう言うと俺と若葉もふーっと一息つく。改めてそういう質問をされると結構恥ずかしいものだ。

 

「今度の新聞、楽しみにしていてくださいね!」

「ああ、いの一番に俺達の所に頼むよ」

 

そう言って青葉と別れる。

帰り道、若葉と手を繋ぎながら無言で歩く。俺の方が歩幅が大きいから若葉の歩幅に合わせて少し緩やかに歩く。そんな気遣いが出来る相手が隣にいることが何よりも嬉しい。



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ハグの日の場合

知らないけど8月9日ってハグの日ですよね?


8月9日はハグの日。いつも色んな艦娘にハグしているが、やはり今日はいつもよりハグ出来る口実になる!今日はいつも以上に若葉にハグが出来る!そう思っていたのに……

 

「今日?今日は一日中遠征だぞ」

 

そう、遠征任務は最近若葉に管理を頼んでいたのだ。最近ちょっと忙しかったせいでメンバーの確認も出来ず、まぁ若葉に任しているから大丈夫だと……。

 

「わ、若葉!今日は何時くらいに帰ってくるんだ?」

「ん?今日か……だいぶ遠くまで行くからな……夜は遅いから先に寝ていてくれ」

 

夫婦みたいな(実際夫婦みたいなものだけど)やり取りにちょっとホンワカする……けど!違う!

 

「な、なぁ若葉?今日って何の日か知っているか?」

 

俺が聞くと、若葉がちょこっと首を傾げて考える。

 

「今日?……8月9日……?ああ」

 

ポンと手を叩く。分かってくれたか!そう思ったが

 

「針(8)灸(9)の日だろ?帰ってきて、提督がまだ起きていたらやってやろう」

「違うそうじゃない。ていうかなんで俺がされる側なんだよ。やるとしても俺が労う側だろ」

 

若葉はどうやら本当にハグの日を知らないらしい。今日帰ってきたらお互いに満足するまでハグしてやろう。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

今日の秘書艦は時雨、補佐が夕立、ついでに夕立の補佐に大和が来ている。

 

「提督、この書類はどうすればい?」

「ああ、これはあとハンコだけだから夕立にまかせといて」

「分かったよ。大和さん。お願いします」

「はい。承りました」

 

なぜか大和に書類が渡される。まぁ夕立に任せてもなあ。ちなみに夕立は朝に遊びすぎたせいでお眠のようだ。窓際に毛布を集めて即席の布団を作り昼寝している。

 

 

「提督。休憩にしませんか?」

 

大和が提案する。丁度肩がこってきてくらいだし、一休みするとしよう。

 

「ああ、そうしよう。大和、お茶を頼めるか?」

「勿論です」

「時雨、夕立を起こしてお茶菓子の準備を頼む」

「分かった。夕立、起きて、おやつだよ」

「む~……おやつっぽい?」

「ああ、おやつだぞ。ただし、手をちゃんと洗ってからだぞ」

「ぽい~」

 

欠伸をしながら洗面台に向かう夕立。

準備が整い、4人でお茶をする。

 

「大和、最近武蔵はどうだ?」

「ええ、暇さえあれば鍛錬に勤しみ、己を研鑽しています」

「そりゃ頼もしい」

「私、大和共々、大和型をお使いくださいね」

「ああ、期待しているぞ」

 

そう言うと、大和はニッコリと微笑む。その隣で夕立がピョンピョンと跳ねながら自己主張し、時雨もこちらに向かって頬をふくらましながらアピールする。まだまだ見た目通りの行動をするのが愛おしい。

 

「てーとくさん!夕立も頑張るっぽい!」

「そうだよ提督。僕達も頑張るよ」

 

二人の頭をクシャっと撫でながら言う。

 

「勿論だ。二人も頼りにしているぞ」

 

二匹の犬がない尻尾を振って喜んでいる。

 

お茶も終わり、休憩をしている時に、よしっと立ち上がり時雨に声をかける。

 

「時雨」

 

呼ばれると直ぐにクルッと三つ編みを揺らしながら笑顔で応える。

 

「うん?どうしたの、提督」

 

俺は無言で一歩時雨に歩み寄る。時雨は微動だにせずに俺の顔を覗き込んでくる。その信頼しきった目を嬉しく思いながら時雨を思いっきり抱き締める。

 

「わわっ!て、提督?」

 

慌てながらもしっかりと抱き締め返してくる。

 

「今日はハグの日だろ?だから、皆にハグしながら感謝の気持ちを伝えようと思ってな。いつもありがとうな、時雨」

 

そう言うと、時雨も頬擦りしながら気持ちよさそうに言う。

「お礼を言うのは僕だよ。あのどん底から救ってくれたのは提督だからね」

 

その様子を見た夕立が俺と時雨に飛びつきながら叫ぶ。

 

「ぽいー!夕立もてーとくさんと時雨の事が大好きっぽい!」

 

三人で抱き合って笑っていたら大和が後ろから俺達三人とも抱き上げる。

 

「大和も混ぜてください!大和も提督と、提督の全ての艦娘の事が大好きです」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

その後は夕立も仕事を手伝ってくれてかなり早く仕事が終わった。いつものように散歩をしていると、私服で何やら紙袋を持った青葉に出会った。今日は非番だからカメラの道具を買ったり、盗聴の機械を買ってきたのだろう。

青葉がこっちに気づくと笑顔のままチョイと手を振ってくれる。

その様子を微笑ましく思いながら手招きする。

笑顔のままトコトコとやって来る。うむ、青葉も犬の素質があるのかもしれない。

 

「司令官?どうしまし……」

 

青葉の言葉を遮ってギュウと強く青葉を抱き締める。女の子特有の柔らかさに包まれる。青葉が慌てた様子で腕の中で暴れるが、構わずに抱き締める。

 

「ちょちょちょ!司令官!青葉こういうのは横から見る派でされるのは専門外と言いますか」

「青葉」

「はい?」

「……まだなのか?まだ、『 心』は見つからないか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、青葉の顔からあらゆる感情が作られる。不気味の谷を向こう側に越えたような負の感情すら見えない不安になる表情だ。

 

「……まだですね」

「……そうか」

「……でも」

 

俺の背中を強く握りながら続ける。

 

「いつか見つかるといいなって……そう、思い……ます」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

喫煙室で煙草を吸っていたら、北上と大井が入ってきた。二人のために場所を作ってやり、二人を迎える。北上がヒラヒラと手を振って挨拶したと思うと俺の口に引っ掛けてあった煙草を奪い取り、自分の口に咥える。

 

「あってめ」

「いいじゃんいいじゃん♪」

「だ、ダメですよ北上さん!」

「えーだって提督の煙草美味しいもん。大井っちも吸う?」

 

と言いながら自分が加えていた煙草を差し出す。大井は少し躊躇う様子を見せたが、えいと煙草を咥え、思いっきりむせた。

 

「げっほ!げほっ!ごふっごほっ」

「だ、大丈夫か?」

 

背中をさすってやる。大井はむせながらも俺の手を制する。ちなみに北上は机の上の俺のシガレットケースから新しい煙草を出してこれまたこれのライターで火をつけながら大井の背中をさする。

 

「ごめんね、大丈夫だった?」

 

ここ最近北上が素直に謝るようになった気がする。まぁいい変化だし、その事をつついて蛇を出すような愚行はしないに限る。

 

「え、ええ。大丈夫……です」

 

そう言いながらも北上から受け取った煙草は落とすまいと必死にしている。

ようやく落ち着き、大井もおっかなびっくり煙草を咥えている。

 

「で、北上はともかく、大井は煙草吸うっけ?」

「うんにゃ、大井っちはアタシがよく吸うから隣にはいたけどあんまり吸ったことはないんじゃないかな?」

「ええ、北上さんがよく吸いますから匂いとかは慣れましたけど、吸ったことは1度もありませんでした」

 

そうか、と言いながらタールの低めの奴を探す。さっきのはわかばだから大分キツかっただろう。そう煙草を探していたが、北上が先に細めの煙草を差し出した。

 

「それピアニッシモか?意外だな」

「いつもはもっと重いのだよ。木曾が吸ってた奴ちょろまかしたの」

「お前……」

 

俺が呆れていると、北上がそうだ、言いながら俺の前に立ってあのニヤニヤをしながら言った。

 

「そう言えばさっきの提督の煙草美味しかったよ。アレもシガーキスに入るのかな?」

 

キスの単語に反応して大井の目が殺意を持って俺の突き刺す。俺は必死に大井に説明しようとする。

 

「大井!待て!違うんだ、キスと言っても本当にする訳じゃなくて煙草同士を……」

「違うの?アタシとあんなに熱くキスしたのに!?」

「北上は黙れ!」

 

確かにあれ熱いけど!

 

「熱いキスを北上さんと提督が……?」

 

ユラ……と立ち上がりながら大井が迫る。どうしようかと思っていたら北上がいつの間にか大井の後ろに回って大井ごと俺に突進してきた。

 

「きゃあ!?」

「うおっ」

 

北上のする事を見ていたから二人を受け止めることに成功した。

奇しくも三人で抱き合う形になる。

 

「北上さん?」

「大井っち、からかってごめんね?さっきのはキスって言っても本当にチューする訳じゃないんだよ」

 

そう言うと大井も力を抜く。

 

「そうだったんですか」

「所で北上。何で俺たちは抱き合っているんだ?」

「むふふ~今日はハグの日でしょ?だから皆でギューってしようとねー」

 

そっちから誘って来るとは。

俺達は北上が満足するまでそれこそ煙草の火のように熱いハグを続けた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

北上達と別れ、次に会ったのは暁四姉妹だった。

長女の暁が俺に気づき、ペコッと礼儀正しく挨拶する。

 

「司令官。こんにちはなのです」

「やぁ司令官。時雨に聞いたよ、また皆にセクハラをしているんだって?」

「そ、そんな言い方しちゃダメなのです響お姉ちゃん」

「しれーかん!私にももっとハグしてもいいのよ!?」

 

見ると暁もちょっとソワソワしている。大人のようだが、まだまだ子供な部分があるようだ。

膝をつき、四人と目線を合わせながら両手を広げると、四人一斉に抱きついてくる。小さな子特有の高い体温に包まれる。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

次に会ったのは叢雲だった。出会い頭、俺が何かを言う前に叢雲が呆れたような、それでいて嬉しそうな表情で腕を広げてくれた。

俺も何も言わずに大人しく叢雲に抱きしめられる。キツイけど、痛いほどではない程よい感触。

数秒で離れたが、その後もお互い見つめあってそのまま無言で別れた。それは百の言葉を並べるより、お互い雄弁に語り合ったに違いない。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

その後も、ボノたん筆頭の7駆の皆や本気で嫌な顔をした山城等に抱きつき、一通り皆に抱きつき、部屋で若葉を待つ。

時刻はフタサンマルマルを回った頃。部屋のドアがあき、若葉がスッと入ってくる。俺が寝ているかもしれないと気を使ってくれている。

俺がまだ起きているのを見てぱあっと嬉しそうな表情を咲かせ、俺の胸の中に飛び込んでくる。普段は俺から甘えるから若葉からこういう事をしてくれるのは新鮮だ。

 

「若葉?」

「遠征中に初霜から聞いた。今日はハグの日らしいな。それでもって今はフタサンサンマル。まだハグの日は有効だな?」

 

と言って俺の腕の中で目を細める。若葉のサラサラの髪の毛の感触。白い肌の触り心地。少し冷っこい体温。息遣い。俺と同じ時を刻む心音。

 

「若葉」

「提督」

 

「「愛している」」




ちょっと早いけど、ハグの日の日を知ったら書かずにはいられなかった。


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夏ぐだの場合

俺が所属している創作団体「GlasseProject」の「#グラプロ夏ぐだ祭2018」用の作品です。いつも以上に中身のない話です。
テーマはまんま夏ぐだ。夏特有のグダグダ感を感じることが出来れば幸いです。


夏。それは1年で最も太陽が活発になる時期であり、動植物も活動が激しくなる季節。

夏は海へ行ったり山にキャンプへ行き肝試し。特定の人物はお盆の時期になると死にそうになってる。ウチの鎮守府でも秋雲あらためペンネームオータムクラウド先生が何やら頑張っていらっしゃる。そんな夏は通常心踊り、精一杯夏を楽しむのが普通であろう。

 

「……暑い」

 

「……暑い」

 

「……暑い」

 

「……暑い」

 

もう何回言ったかも、どちらが言ったかも分からないほど繰り返されたこのセリフ。俺も若葉も執務室でこの茹だるような暑さに辟易している。

 

「……提督……クーラー……」

 

いつもはクールに話す若葉にも覇気が見られない。そういう俺も上着なんてとうに脱ぎ捨て、窓を全開にしてそこからのぬるい風邪と風鈴の音だけを頼りにしている。

 

「……壊れた」

「知ってる……クーラー」

 

最早何を言っているのか若葉自身よく分かっていないだろう。

海上と言うのは案外暑い。日差しを遮るものがないぶん日光がキツイのだ。そうやっていつも日光を浴び慣れている若葉ですらぐったりしている。

 

「提督……扇風機」

「……元からないだろ……」

 

暖炉やコタツなど、冬の備えは色々とあると言うのにこの鎮守府は夏を舐めすぎている。

 

「……無理!」

 

そう言って俺も今書いている書類を書き終え、机に突っ伏す。見れば若葉もブラウスを脱いで椅子の背もたれにかけている。いつもならはだけたシャツから見える鎖骨なんかにドキッとするものだが、暑すぎてお互いに色気もクソもない。

 

「……提督、海に行かないか?」

 

素晴らしい考えだ。チラッと残りの書類の量を確認してみるが、もうそんなに残ってはない。これなら夜に頑張れば大丈夫だろう。

 

「よし、海行こう。初春達も暇だったら呼んでみるか?」

「ああ、そうしよう。今呼んでくる」

 

そう言ってフラフラと部屋を出ていく。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

しばらくして初春、子日、初霜を連れた若葉が帰ってきた。4人とも水着とタオルが入っているであろうカバンを持っている。

俺も水着等の準備を終わらせ全員で海に向かう。初春がワンピース型にパレオ付き、子日がガッツリスポーツ用の。若葉と初霜がそれぞれ同じビキニで若葉が黒。初霜が白だ。

 

「4人ともよく似合ってるよ」

 

そう俺が言うと四人とも満面の笑みを浮かべる。

よし、と俺も自分の分をとって海に向かう。

 

「ふむ、提督はちゃんと自前の水着があったようじゃな。いや結構結構。水着が無ければ妾が作った水着を着てもらうところじゃった」

「え?初春が作ってくれたのか?じゃあ俺そっちにしようかな?どんなの?」

 

俺がそういうと初春がニヤリと笑う。その瞬間俺はある目を思い出す。北上が俺や木曾にイタズラをする時の目だ!

初春が見せてきたものは、男性諸君を大いに盛り上げるが、決して男性の手に届くことは無かったある意味夢のようなアイテム。そう、マイクロビキニだった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

海にたどり着くと、すでに非番の艦娘らが何人も海に浮かんでいた。

砂浜で遊ぶ駆逐艦や海防艦。沖まで遠泳する空母や戦艦。シャッターが擦り切れそうな程に写真を撮っている青葉。

 

「よっ、青葉。来てたんだな」

「あ!司令官!司令官の写真も撮っていいですか?」

 

そう言いながらも既にシャッターを切りまくっている。青葉もタンキニタイプの水着に着替えている。

一通り写真を撮り終わった青葉は俺の隣で同じく動く気は無くただ資料が欲しかっただけであろう秋雲とのんびりとアイスを食べている。

すると、青葉が思い出したように俺に話しかけてきた。

 

「ところで司令官。今日の格闘大会の司会は青葉がやりますけど、解説は誰がやるんですか?」

 

そう、今日は最近暴れていない組が暴走しないように妥協案として設けられた砂浜格闘大会である。

 

「龍驤だよ。あいつ、今日は裏方に徹するって今は屋台で焼きそば焼いてる」

「あー……似合いますねぇ」

 

そうこう話しているうちに初春型四人も遊び疲れたらしく、休憩に戻ってきた。

 

「ふぅー!今日は何の日海の日ー!」

「姉さん。違いますよ」

「提督、妾も氷菓が欲しいのじゃ」

「初春、アイスは向こうで売ってるはずだぞ」

「ホントかや?ちょっと買ってくる」

 

そういって初春は俺の財布を手に取り龍驤の屋台に駆けて行く。

戻ってきた初春からアイスを受け取りダラダラしていたら、青葉が急に手をパン!と叩いて若葉の肩をガッ!と掴んだ。

 

「そうだ!若葉さん、今日の格闘大会出てみませんか?」

「格闘大会?ああ、そう言えばあったな」

「ええ!青葉としてもやっぱりダークホースと言いますか大穴と言いますか。とにかくドラマが欲しいんですよ!それで、長門さんや武蔵さんのようなオッズがマイク・タイソン対4回のクリーンボーイのような人達ではなく若葉さんのような、当日の飛び入り参加で強い人を探していたんですよ!ね?ね?いいでしょ?」

 

グイグイと来る青葉の迫力に押され、若葉も首を縦に降る。

 

「分かった。出てみるのはいいが、優勝出来なければ興ざめだろ?正直あんまり自信はないのだが……」

 

そう言いながらも若葉の瞳の奥が燃えている。あまり口数の多くない若葉はまさに目は口ほどに物を言う。むしろ目の方が雄弁に心の内を語る。若葉はやる気だ、そして優勝を狙っている。

 

「若葉、頑張れよ、応援している」

 

そう俺が言って若葉の頭をクシャッと撫でる。若葉は俺の手をとってそっと頷いた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「さあー!始まりました!ミス!最強水着決定戦!解説は私青葉!」

「解説はウチ、浜辺の水平線こと龍驤やでー!」

「さあー!龍驤さんの壮大な自虐が入った所で対戦表の発表です!」

 

そういって仮説ディスプレイに映された対戦表を確認すると、参加者は8人。若葉、長門、武蔵、赤城、天龍、川内、加古、木曾の8人だ。

 

「さあ!第1回戦は飛び入りの若葉さん対戦艦長門さん!さぁ、どういう戦いになると思いますか?龍驤さん」

「せやなぁ……やっぱりリーチの長さと体重の差をどうやって埋めるかどうかやな」

「ふむふむ、では!早速一回戦開始!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

開始のコングが鳴らされた瞬間、長門が拳を固め一直線に若葉に向かう。若葉も半呼吸遅れて飛び出す。

長門が大きくスタンスを構え、拳を上段から振り下ろす。若葉は体勢を低くし、長門の拳を避けると、そのまま後ろに回り込む。

長門もそれに反応して、咄嗟に後ろを振り向くが、それ以上の速さで若葉が攻撃に転じる。長門も流石に手慣れている。バックステップで距離を取りつつ、若葉の下からの攻撃を上手く捌く。

 

「おおー!開幕から激しい攻撃ですね!」

「やっぱり長門はリーチを生かした攻撃やな、対する若葉はリーチの有利が逆転する懐。超接近戦に持ち込もうとするけど、長門も狙いは分かっているからバックステップで距離を取るって感じやな」

 

そう言っている間にも二人の攻防は続いている。長門の1発1発の重い一撃を交わしながら絶えずポジションを変えながら死角から多段攻撃を仕掛ける若葉。まさに柔と剛の戦いだ。

しかし、亀甲は一瞬で崩れた。砂浜に足を取られた長門の一瞬のスキを逃さずに若葉が飛び込む。長門が咄嗟にガードを固めた瞬間。長門の前方にフェイクを入れた後、一瞬で後ろに回り込み長門の首を取り、そのまま首を極めたまま後ろに投げ飛ばした!

 

「決まったー!長門さん、ダウーン!」

「一瞬のスキを逃さんかった若葉も凄いけど、その後すぐに対応してガードを固めた長門も流石やったな。まぁ若葉がさらにその上を行ったけどな」

「さあそうこう話しているが長門さん立てるかー?…………立てない!ノックアウトー!若葉さん、勝利ー!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうして、決勝戦。無事に勝ち残った若葉対、自由奔放な動きで戦った川内との戦いだ。

決勝戦に限り武器の使用が認められている。川内はクナイと忍者刀。若葉はグローブをはめただけだ。

 

「さあ!決勝戦!意外と書くのがしんどかったので割愛しました!」

「メタい話するなや。まぁええわ、若葉も川内も動きながら有利なポジションを探るタイプやから、なかなか面白い高速な戦闘が見れると思うで」

「所で龍驤さん。北上さんは出ないんですか?」

「ああ、あいつは魚雷持たんとやる気出さんからなあ」

「なるほど」

 

そうして、ゴングが鳴る。

二人ともゴングと共に反時計回りにダッシュする。

 

「おおっと!?いきなり二人とも反時計回りに走り出しました!龍驤さん、これは?」

「お互い相手の左を取りたいんや。若葉は川内が右手に忍者刀を持ってるからその逆に。川内も若葉の利き腕の逆にって感じやな」

「なるほどー。見た所二人の速力は同じくらいみたいですし、これはこのまま硬直状態が続くのでは?」

「いや、そうやない。川内は両利きや、クナイを投げることも、刀を左手に持ち帰ることも出来る。状況を打破できるのは川内や、これは大分精神的に辛いで、若葉」

 

龍驤の言う通りに一見ただ走っているように見えても実際は違う。微妙に回る円の半径を狭めたり広げたりしてお互いがお互いを牽制している。

川内が左手を背中に隠して止まり、若葉と正面を向いて相対する。若葉も止まり、お互いが一足飛びで届く距離のほんの少し手前で睨み合う。

 

「おお!?川内さんが止まりましたね?」

「川内のプライドが一方的な有利を許さんかったのかな?お互いフェアなら状態で己の力のみで戦おうとする。海上ではなんでもござれのまさに忍者やけど陸上では一介の戦士って感じみたいやな」

 

お互い睨み合いながらジリジリと有利なポジションを探す。すると、川内がふっと肩の力を抜き、若葉に話しかける。

 

「ねぇー若葉ちゃん……このままだとさぁお互い回避の方が強くて攻撃が当たらないじゃん?」

「どうかな、もしかしたら確実に1発当てる方法があるかもしれないぞ?」

 

若葉も軽口で返す。そう話しながらも2人は決して目線を外そうとしない。

 

「まぁそう意地張んないで?それでさぁ……」

 

そう言いながら刀を左手に持ち替え、右手を腰のホルスターにある2本のクナイの内の1本に伸ばす。

 

「若葉ちゃーん……よく西部劇とかである1.2.の3って奴。やってみない?」

 

と川内が話しかける。

若葉は頷くことも首を振ることも出来ずにいる。

 

「おやぁ!川内さんが西部劇のような早撃ちを提案!」

「……へぇ、考えたな、川内」

「龍驤さん、1人で納得してないで解説解説」

「簡単や。お互いの得物の違いやな。若葉は徒手空拳のみに対して川内はある程度リーチもあり、超近距離でも邪魔にならない忍者刀。しかも飛び道具のクナイのオマケや。どう考えても川内が有利。このまま硬直状態が続いてイレギュラーが起こることを嫌った川内の一手やな。さっき戦士言うたんは訂正やな。あいつは骨の髄まで勝ちのみを拘る忍者や」

 

川内は構えを崩さずに再び若葉に問い掛ける。

 

「さぁ若葉ちゃん。どうする?」

 

若葉は無表情のまま構える。

 

「いいだろう。その策、乗ってやる」

 

「おおっと!若葉さんが了承しましたよ!?」

「元から不利な状況や。イレギュラーを期待するより己の持ってる武器で戦う腹積もりやろうな」

 

川内は若葉の返答に満足そうに頷き。放送席の青葉に向かって叫ぶ。

 

「青葉!合図お願い!」

「えっ!あ、はい!」

 

観客どころか海の漣の音すら聞こえない。

 

「1」

 

川内が右手でクナイを抜き、構える。

 

「2」

 

若葉が拳を握り直し、後ろ足でダッシュの構えを撮る。

 

「さ」

 

青葉が最後のカウントをしようとした瞬間。川内が動いた。

右手のクナイを投げ、もう一本のクナイを引き抜きながら猛然とダッシュした!

若葉は川内の奇襲にワンテンポ遅れ、クナイを右手て弾き飛ばす。

すかさず川内が最後のクナイを投げ忍者刀を振りかぶる。

若葉は二本目を下に避けるが、砂に足を取られた体勢を崩す。

 

「もらったああああああ!」

 

そう叫びながら川内が上段から忍者刀を振り下ろす。

 

「若葉!」

 

咄嗟に俺が叫ぶ。すると若葉が一瞬こっちを見たような気がする。

若葉は自分から膝を抜き、一瞬で地面スレスレまで体勢を低くし、下からのアッパーを放つような軌道で拳を振った。しかし、川内はその反撃すら読んでいたようで、若葉の拳が届かない。己の刀がギリギリ届く範囲で切りかかっていた。

 

(勝った!)

 

川内が勝利を確信した瞬間。川内の顔に何かがかかり、視界を塞ぐ。

 

「ぐっ!?」

「忘れたのか?川内。己の勝利を確信した時が1番敗北に近いんだぞ」

 

若葉の声が下から聞こえる。川内は咄嗟に真下に刀を突き刺すが、そこに若葉は居ない。体勢を崩したふりをし、足元の砂を投げ、川内の足元で声によるフェイント。そしてフィニッシュは

 

「これで終わりだ!」

 

川内に顔を両の太ももで挟み、左右に捻って相手の首を極める大技を決め、川内を倒す。

 

最強水着決定戦の勝者がここに決まった瞬間だった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「くっはー!負けたー!」

 

準優勝のメダルを首に下げ、日陰で梅ジュースをあおる川内と、隣で半分スリープモードになっている若葉。

 

「お疲れ様。二人とも凄かったな」

「でしょ?決勝戦までは正攻法でいけたから最後のフェイントは引っかかると思ったんだけどなぁ」

 

早撃ち勝負をすると見せかけてのワンテンポ早い奇襲。その前の攻防全てがそこに向けた布石とは。恐るべきクレイジーニンジャ川内。

 

「若葉が体勢を崩した時に二本目を投げるんじゃなくて忍者刀で切りかかれば良かったんだ。若葉は右手で弾いたから刀を防げなかったぞ?」

 

そう若葉が言うも

 

「ぐぬぬ……足元の砂のせいでダッシュが遅れたの……」

 

と口を尖らせて言い訳をする川内。

 

「ま、いいや!十分暴れたし!夜に向けて準備しないと!」

 

そういってピョンと立ち上がる。

 

「夜?夜はお祭りだろ?屋台もいっぱい出るし、暴れられないんじゃないのか?」

 

そう俺が聞くと、川内が謎のドヤ顔でチッチッチッーと言いたげに指を振る。

 

「夜になれば分かるよー♪」

 

そう言って那珂と神通の所に走っていく。

 

「やれやれ……」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうして夕方。部屋に戻り私服に着替え、若葉を迎えに行く。初春型の部屋をノックすると子日がいいよー!と元気よく叫ぶ。

ドアを開けると、4人がそれぞれに合った色の浴衣を来た光景が俺も目に飛び込んで来た。初春が紫。子日が橙。初霜が黒で、若葉は藍色だった。

水着に続き、本日二回目のいつもと違う装いに声を失う。

初春が自信げにフフんと鼻を鳴らす。

 

「どうじゃ?わらわが選んだ浴衣は?」

「いや……凄いよ」

「ほれ、若葉。余りの事に言葉を失っておるぞ?」

「ふむ……悪くない」

「ふふっ。愛いやつよのぉ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうして夏祭り。初春達は空気を読んでくれて退散。俺と若葉の2人で出店を回る。

 

「お!海軍のお兄ちゃん!とうもろこし焼きたてだよ!」

「アザす!いただきます!」

「はいよ!」

 

そういって屋台のおっちゃんが焼けたてのとうもろこしを二つに割って手渡してくれる。俺が料金を払い。若葉が受け取ってくれる。若葉に礼を言い受け取って遠慮なくかぶりつく。

 

「うまっ!」

 

口に含んだ途端に広がるとうもろこし特有の甘み。焼いたことによる香ばしさ。醤油の香ばしい味付け。どれをとっても最高だ。

隣を見れば若葉もご機嫌にコリコリと食べている。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

その後も射的で空母組と対戦し、型抜きで早霜と競い合い、金魚すくいでは意外と夕立が上手かった。

そうして祭りも終盤。特設ステージに皆が集まる。

スモークと共に出てきたのは川内型三姉妹。センターの那珂筆頭に川内、神通も那珂が用意した浴衣にフリルが付いたような装いになっている。

 

「なるほど、川内はこれに出るつもりだったのか」

「夜に騒げればなんでもいいんだな」

 

そうして祭りは今日1番の盛り上がりを見せ、花火で締めとなった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

祭りも終わり、いつもの海岸まで2人で散歩する。

俺も若葉もいつもの服装に戻り、並んで夜の海を見つめている。

 

「……いつまでも」

「ん?」

「いつまでもこんなんが続けばいいな」

「……そうだな」

 

若葉がコテンと頭を俺の肩に乗せる。僅かな重みと暖かさをいつまでも感じながら夜は更けていった。



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北上の場合

目の前が敵の砲弾で埋め尽くされる。耳は既に砲撃の音で潰れている。硝煙の匂いで鼻はとっくに麻痺している。アタシは死に包囲されている。

敵のいやらしいニヤニヤと聞こえそうな笑いから放たれる砲撃を、避ける術はもうアタシには無かった。

目の前まで死が迫った時、大井っちが何かを叫んでアタシと死の間に飛び込んで来た。

 

あの時大井っちはなんて叫んだのか、アタシはなんて叫んだのか覚えてない。でも、一つだけ覚えている。あの時のアイツの笑い声、アイツへの殺意だけは……

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……ん。……さーん。北上さーん?朝ですよー」

 

朝、いつも球磨型ではアタシか多摩姉ぇが最後に起きる。どっちが最後でも大井っちが丁寧に起こしてくれる。

 

「んにゅ……大井っち……ほはよー」

 

と寝ぼけるふりをする。すると、大井っちは困ったような嬉しいような顔をしながらもう一回起こしてくれる。

 

「北上さん?もう朝ですよ?今日は私達全員非番だから出かけようって言ったの北上さんですよ?」

 

「大井っち〜」

 

ダメだと分かってはいるけどなけなしの抵抗を試みる。だけど大井っちはどこか推しが強い面もある。抵抗虚しくアタシの恋人お布団は剥ぎ取られて行く。

 

「ダメですよ。今日はいい天気なんですからお布団も干します。ほら、敷布団も干すから手伝ってください」

「はーいお母さん」

「妹です」

「大井姉さん。布団干し終わったぞ。後は北上姉さんの分だけだ」

「ほら、木曾も手伝っているんですよ?」

「木曾っちは働き者だねぇ」

「北上さんが働かないだけです。ほら」

 

そういって布団が剥ぎ取られる。文句を言いながらもこんな何ともない会話を出来ることが心の底から嬉しい。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

全員で部屋の掃除をして、布団も干し終わり、5人で外のちょっといいレストランてお昼を食べる。実は球磨姉ぇがマナーにうるさいからアタシ達もマナーを叩き込まれた。

 

「美味しかったねー」

「そうですね。あ、北上さん。ほっぺに付いてますよ。取ってあげます」

「木曾、最近は所属が違うけど調子はどうクマ?」

「心配無い。姉さん達に教えこまれたからな。部隊が変わったくらいでへこたれる球磨型では無い」

「流石だにゃー」

 

店を出た後も適当に街を歩き回り、大井っちがアタシ達の服を見繕ってくれた。大井っち以外はアタシ含めて服に関心が無いから私服を買うのはいつも大井っちが一緒にいる時だ。

 

「木曾、これとか似合うんじゃない?」

「い、いや、姉さん。そういう可愛い系は俺じゃなくて多摩姉さんとかが着るべきじゃないのか?」

「たまにはいいじゃない♪早く着替えて」

 

そういって木曾を試着室に放り込む。服装番長大井っちの時は球磨姉ぇどころか多摩姉ぇすら逆らえない。

 

「大井っち、アタシちょっと外出てるね」

「はい♪多摩姉さんの次は北上さんですからね?」

「……はーい」

 

どんなコーデになるか期待半分怖い半分で外に出る。

夏はすっかり過ぎ、秋を通り越して冬の足音が聞こえそうな程だ。

 

ポケットからシガレットケースとライターを取り出し、煙草を咥える。

 

安タバコに火をつけ、肺に煙を送り込む。

煙草の匂いを嗅いでいるとあの時を思い出す。匂い、音、熱気、そしてあの光景。全て鮮明に覚えてる。

 

そして何より忘れられないのがあの時の恐怖とそれを塗りつぶすほどのドス黒い殺意。今のアタシはそれだけで動いている。大井っちを沈めたアイツを。そしてなにより大井っちを沈められても恐怖で動けずにただ逃げるしか出来なかったアタシ自身を。

 

「北上さーん?次は北上さんの番で……」

 

大井っちがアタシの顔を心配そうに覗き込む。でも絶対に何も言わない。ただ目で「大丈夫?」と聞いてくれるだけ。

アタシは煙草を指で弾き足ですり潰す。そして大井っちにハグしながら応える。

 

「大丈夫だよ。アタシは……大丈夫……だよ」

 

アタシがそう言うと大井っちはやっぱり何も言わずにアタシを抱き締めてくれた。

 

大井っちの選んでくれた服はアタシによく似合っていて、5人とも新しい服に着替えた状態でこのあとのショッピングを楽しんだ。

 

 

 

それでも、アタシの心には怨嗟の炎が燻っていた。

その炎はいつかアタシを焼き尽くすんだと思う。その時には……アイツ諸々……

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

数日後、鎮守府の最高戦力達が緊急招集された。もちろんアタシも招集がかかり、作戦会議室に入ると、珍しく暗い表情をした提督と、若葉。その横には時雨と夕立、空母は一航戦の2人と、もうこういう所には顔を出さないと思っていた龍驤。鎮守府最高火力の大和、武蔵。重巡からは妙高型の4人。そして球磨姉ぇたち4人もいた。どうやらアタシが最後らしい。

 

「北上、座ってくれ」

 

緊張したような声で提督が言う。

 

「どうしたの?こんなメンツ集めて」

 

アタシがいつもの口調で聞いても特に何も言わずに、資料を渡してくる。

受け取ったそれには、とある敵戦艦の情報が書かれていた。

 

「先日、上からコイツの討伐命令が出た。ココ最近また出てきてここ周辺の艦娘を襲うはぐれらしい」

 

はぐれとは、通常の敵のように艦隊を組んでおらず、単独で行動しているやつの事だ。単独でも艦娘達を跳ね返す戦闘力、単独ゆえにできる自由で読めない行動。そしてなによりコイツらにはれっきとした感情がある事が特徴だ。

でも、確かにはぐれ種は強敵だけど、わざわざ上から命令として降りてくることは無い。それほど強敵なのか……

そう思いながら資料をパラパラと捲って、ロングからの写真のアップを眺めていた……。

 

……!この顔!画質は悪いけどそれでも分かるこのニヤケ面!

 

「流石に気づいたか……本当は北上は今回の作戦には参加させたくなかったんだけどな」

 

「……アタシが単独行動して特攻するから?」

 

「……」

 

無言の肯定。でも、アタシもそうすると思う。

写真に写っていたのは、あの時の戦闘でアタシを庇った大井っちを沈めて、突如として消えたあの戦艦だった!

 

アタシは資料を握りつぶしながら笑った。アイツの笑顔みたいに。やっと……やっとだよ!大井っち。やっとアイツを……沈めることが出来る!

アタシはアイツとまた会えることに喜んでいる。アイツを沈めれるとか、大井っちの仇とかじゃない(勿論それもあるけど)。

アイツと怨嗟の炎で作ったダンスフロアで砲撃の旋律で踊ることが出来る。その事に歓喜している自分がいる。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

怪物と戦う時は自らも怪物にならないように気をつけなければならない。

己が深淵を覗く時、深淵もまた、己を覗いているのだから。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

それからは忙しかった。駆逐艦は近海の哨戒任務。工作艦の明石と夕張はアタシ達主力の艤装の整備に忙しいらしい。特に今回はアタシ達球磨型が決戦主力らしくて、アタシ達の艤装に色々手が加えられるらしい。

 

提督も会議室に籠りっぱなしでアイツの予想ルートを計算している。でもアタシはまだ何もしていない。だって……気づいたんだもん。アイツが近くにいるってわかった瞬間から、アイツの居場所が。多分、アイツもアタシの位置が分かっている。アタシとアイツは同じ怪物だから。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

それからまた数日、遂にアイツの補足に成功した。アイツはやっぱりここを目指して真っ直ぐ進んでいる。その時、奇妙な報告が出てきた。どうやらアイツは横に雷巡を連れているらしい。その事を聞いた瞬間、提督の部屋に駆けつけた。

 

「提督!」

 

「北上……」

 

「……アイツが連れている雷巡……あれって……もしかして……」

 

「……まだ決まった訳では無い。落ち着け」

 

「落ち着け!?この状況で?落ち着けるわけないじゃん!アイツは!大井っちを!あんな姿にして縛り付けているんだよ!」

 

そもそも、艦娘はどうやって生まれているのか、深海棲艦はどうやって生まれているのかは定かではない。しかし、起源は分からないが艦娘が沈み、強く戻りたいと願うと深海棲艦に成り、元の居場所に戻ろうとする。深海棲艦が艦娘の強い正の力によって沈むと、禊が終わり艦娘として生まれ変わるらしい。

 

「アイツは……大井っちを……」

 

「分かっている……だけど、それでも落ち着いてくれ」

 

「…………うん。ごめん、取り乱した」

 

「……死ぬなよ。誰一人死なないでくれ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

予定通り、アイツとの戦いには球磨型だけとなった。球磨型での作戦は大まかには雷巡には球磨姉ぇ、多摩姉ぇ、木曾がまず足止め。その隙にアタシと大井っちが戦艦レ級と交戦。その後、雷巡を仕留めた3人と合流して5人で沈める手筈になっている。

 

目的の交戦ポイントまでは若葉率いる初春型が露払いをしてくれたおかげで消耗一切なくたどり着いた。

 

「護衛、感謝するクマ。予定通り離脱、その後周囲の索敵を頼むクマ」

 

「了解…………北上」

 

「うん、分かってるよ若葉。アタシは沈まない。皆も沈まない」

 

「…………武運を」

 

そう言い残して若葉達は下がって行った。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

アイツが目視で確認できる距離まで近づいた。人型の本体による近接格闘。中、遠距離は尻尾の先に付いてる顔からの砲撃。まさにオールラウンダー。遠距離じゃ勝ち目が無いからまずは近づかないと。

そう言うと、球磨姉ぇもそう思っていたらしく、前進して距離を縮める。

 

「……来るニャ!」

 

多摩姉ぇが叫び一瞬遅れて全員が反応する。アタシ達が一瞬前までいた場所に砲撃が撃ち込まれる。

ほっとしたもの束の間、避けた先に雷巡からの魚雷が撃ち込まれ、多摩姉ぇが直撃を受ける!

 

「ちっ!多摩!動けるクマ?」

 

「……何とか中破止まりニャ」

 

「……球磨姉ぇ、アタシ行くよ?」

 

「分かった。木曾!魚雷用意!大井は北上に続け!」

 

「分かりました!」

 

「魚雷発射カウントするぞ!……2……1……今!」

 

木曾っちが魚雷を撃ったと同時にアタシと大井っちが飛び込む。雷巡の横を駆け抜ける時に確かに感じだ。アレは間違いなく大井っち。そして、あの時聞こえなかった一言をやっと聞こえた。

 

「……ありがと」

 

雷巡の横をすり抜け、レ級と対峙する。相変わらずのニヤケ面だ。

 

「アハァ!ヤットココマデ来タンダ!」

 

「あなたが……前の私を沈めた……」

 

「ン?アァ。マタ壁ヲツレテキタンダァ!イイヨイイヨ!ソレデコソダヨ!ヤットココマデ来タンダネェ!」

 

「……………………殺す」

 

「オイデ?オイシクコロシテアゲル!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……木曾。多摩を連れて下がっててくれ」

 

「姉さん?いいのか」

 

「アタシを誰だと思っている。球磨型軽巡洋艦一番艦、球磨だ。そして、今相対しているあの雷巡の姉だ。確かにあの大井よりか生まれたのは後だ。だけどアタシは姉だ。アイツらのケツを拭いてやる必要がある」

 

「……了解。木曾、多摩を連れて撤退する」

 

そう言って木曾は多摩を連れて下がる。

 

「……初めましてだな。雷巡」

 

「……球磨……ねえ……さん」

 

「その姿でアタシの名前を呼ぶな。今のお前はただの深海棲艦。敵だ。球磨型に敵に容赦をするような愚か者はいない」

 

そう言って砲撃をしながら距離を詰める。雷巡も魚雷を装填しながら撃つ機会を伺っている。

 

「北上が……どんな思いでこの場をアタシ達に譲ったと思っている?かつての親友を、愛した姉妹を。それを目の前にして作戦のために動いたアイツの気持ちを!分かっているのかぁ!」

 

そう叫びながら球磨が全速力で突進する。慌てて雷巡が魚雷を撃つが、致命傷になる部分だけを艤装で受けながら構わず突進する。

 

球磨が拳を振りかぶり雷巡を思いっきりぶん殴る。雷巡の頭の装甲が砕け散り、同時に球磨の右手も潰れる。残った左手で雷巡の首を取り持ち上げながら締め上げる。

 

「これで終わりだ。目が覚めたら元に戻ることを祈る」

 

そう言いながら左手に力を込める。ミシッ!と音がした時、雷巡が苦しそうに話す。

 

「今の……ワタシを沈めても……大井にはもう……もどらない……ぞ?」

 

「………………何?」

 

左手は緩めないまま、球磨が問う。

 

「艦娘が……沈むと、元いた場所に戻りたいという思いから……深海棲艦になる。けどワタシは……レ級に深海棲艦にされた。この大井には未練が無かった。良いのか?この体を壊すと、二度とこの大井は海の輪廻に戻ることも出来ないぞ?」

 

雷巡がレ級に似たニヤニヤ面にする。

 

「…………だからどうした?」

 

「……は?」

 

再び球磨に目に火が灯り左手に力を込める。

 

「止めろ!良いのか!大井を、妹を手に掛けるというのか!?」

 

「お前が死んでも元に戻らないのは可能性に考慮していた。大井には未練はないことぐらい、北上は分かっていた。だけど沈める。だから沈める。大井の魂は輪廻から外れなければいけない」

 

「や、やめろ!やめて!ああああああああああああああああああ!あ……。……さん」

 

最後の言葉は首の骨が折れる音で聞こえなかった。

 

「……ふぅ、北上達は大丈夫クマか?」

 

その言葉は届くことは無く、海の漣に溶けていった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

戦いは凄惨を極めた。アイツは尻尾は自立して動けるようで、尻尾を押さえるだけだ大井っちは手一杯。アイツは魚雷を簡単にはくらってくれない。

 

「大井っち!大丈夫?」

 

「はい。でもそっちに加勢には行けそうに無いです」

 

「うん。大丈夫。大井っちも尻尾を倒したら離脱して」

 

「北上さん?」

 

「アレはアタシの獲物だ」

 

自分の口角が釣り上がっていくのが分かる。あぁ。やっぱりアタシは化け物なんだ。これ以上アタシを見ないで大井っち。

 

大井っちはアタシの顔を見て、またあの「大丈夫?」と問いかけるような顔をする。でも、何も言わずに頷いて再び尻尾と戦う。

 

「優シインダネ。壁ヲ逃ガスナンテ」

 

「黙れ」

 

「モウ二度トアタシノ大切ナ人ヲ傷ツケタクナイヨ~ッテトコ?」

 

「黙れ!」

 

「ソレデアッケナクヤラレテハイ!オワリ!」

 

「黙れええええええ!」

 

思わず魚雷を放つけど難なくかわされる。アイツはニヤニヤとコッチに向かってくる。

 

「コレデモウ魚雷ハウチキッタネ?」

 

アタシはまたこいつに殺されるのか……。レ級がゆっくりとアタシの首を掴み締め上げる。首の骨が虚しい抵抗をするけどもうあと数秒で終わる。

 

「ダイジョウブダヨ?シンダラ仲間ニシテアゲルカラ」

 

……もうすぐアタシの人生は終わるのかな……?

まだ何かしなくちゃいけないことが……あった……よう……な……

 

アァ、ソウダ……敵ヲ、コロス

コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

レ級は北上の首をへし折ろうと力を込める。

 

「バイバイ……!?」

 

しかし、どれだけ力を込めても全く折れない。

 

「……コイツ!」

 

再び北上の目に地獄の炎がともりレ級の腕を掴む。

 

「グッ……!?コイツ!ハナセッ!」

 

「黙れ」

 

グシャ

 

北上はレ級の腕を力任せに握りつぶし、そのまま肩から引きちぎった。

 

「ア、ギャアアアアアアアアアアアアガアアアアアアア!」

 

「煩い」

 

レ級を蹴り上げもう片方の腕を掴む。レ級は必死に北上を蹴るが、北上は意に介さず無造作に残った手も引きちぎる。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

声にならない悲鳴を上げのたうち回るレ級。北上が手をかざすと空中から魚雷が生成され手に収まる。

 

「ソノ力……深海の力ヲ!」

 

「深海の?コレ、アンタらの力なんだ……ふぅん」

 

手にした魚雷で何回も何回もレ級の顔を殴打する。その度にレ級から悲鳴が漏れるが寧ろ殴る手に力がこもる。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

最後の一撃とばかりに渾身の一撃を心臓部にめり込ませる。

 

「サヨナラ、楽しかったよ」

 

「オ前ハ……ヤッパリ深海ノ側ダ……同族ゴロシの艦娘……メ」

 

ふぅん……やっぱりアタシはバケモノなんだ。じゃあもっと殺さないとね。もっともっともっと殺して……最後に……死んでやる。

 

魚雷の閃光に包まれて2人の姿が消えた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

帰投したあと、すぐさま精密検査を受けたが、特に異常無し。戦闘データにも大きな変化は見られなかった。

 

でもアタシには分かる。アタシはまだバケモノだ。アタシの中の火はまだ消えていない。

それから、もうあの時の夢は見なくなった。でも、また新しい夢を見るようになった。レ級の格好をしたアタシが、深海棲艦相手に相打ちする夢だ。

 

その夢を見る度に早くその日が来ないかと待ちわびる。

アタシは自分の口角が釣り上がるのを抑えられなかった。

 



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北上の場合2

遅くなってしまい大変申し訳ございませんでした。溢れる北上様への愛を書き連ねたらこのようになってしまいました。


最近北上の様子がおかしい。今までは演習なんかは適当に理由をつけてサボっていたのに積極的に参加しようとする。そして強い。勿論、この鎮守府でも最高クラスの練度を誇る上に重雷装巡洋艦だから強いのは当たり前だ。だけどそれを加味しても強すぎる。相手の艦隊六隻をほとんど一人で倒す程だ。あまりにも異質で異常な強さ。鎮守府最強と噂される龍驤ですら、今の北上には敵わないかもしれない。

出撃の理由を聞いても「いや〜? アタシって艦娘じゃん?じゃあ戦うために存在するし〜? じゃあお仕事しますよ〜」と適当宣う始末。

北上が変になったのも、あのはぐれとの戦闘の後だ。若葉や叢雲に相談してみても分からないらしい。ここは作戦に参加した球磨型の姉妹に頼るしかないだろう。

そう思って大井を呼んでいたのだが……。

 

「で、アタシ抜きで大井っちとどんな話をしようとしていたのかな?」

 

 

まさかのいきなりラスボス登場である。隣には気まずそうな顔で俺を見つめる大井がいる。

 

「ね〜え〜てーとく?いつも教えてよ?アタシを抜きにして二人でどんな話をするつもりだったのかなぁ〜?」

 

「北上……お前……」

 

「てーとくが最近アタシを気にしてるの知ってるんだよ?……ほっといて」

 

あまりにも短くキツイ拒絶の言葉。驚きで言葉の出ない俺を睨みつけながら続ける。

 

「アタシはもう半分深海棲艦なんだよ。あの時の戦闘で死にかけた時に……ね」

 

「……恐らく、はぐれの能力だろうな」

 

「うん……アイツは自分の手で沈めた艦を深海棲艦化させて隷属させる力があったみたいだね」

 

「その力が中途半端に現れて……」

 

「うん。やっぱり提督は気づいていたんだね」

 

そう言って北上は艤装を展開する。

通常、艦娘は提督である俺の許可が無いと艤装の展開ができない。

しかし、深海棲艦は別だと考えられている。明確な指揮官である提督が向こうにはいないため、こちらほど組織的な動きが出来ない変わりに己の意思のみで艤装の展開が出来る。

そもそも、艤装の展開は艦娘なら一人でに出来るはずなのだ。それを提督と契約する事で通常以上の力を発揮出来る代わりに提督の許可無くして艤装の展開が出来なくなるのだ。

しかし、艦娘であるはずなのに若干深海棲艦化してる北上にはその常識が通用しない。艦娘である故に己の能力を限界ギリギリまで引き出せる上に、深海棲艦である故に己の意思のみで艤装の展開ができる。

 

「……北上……お前……もう」

 

俺がようやく絞り出した言葉に北上は泣きそうな笑顔で応える。

 

「うん……アタシはもう提督達の敵なんだよ深海棲艦に侵されて戦いへの衝動が止まらないんだよ……いつか、本能のままに戦う深海棲艦に全てを奪われる。その前に、アタシを解体して。お願い」

 

「……それは出来ない」

 

俺が絞り出すようにそう言うと、北上は予想していたかのように振る舞う。

 

「やっぱりね。アンタは誰も死なせない道を探すと思っていたよ。でも……もうダメなんだよ。深海棲艦の部分がドンドンアタシを奪っていく。もう数ヶ月もすればアタシという人格は無くなって完璧な深海棲艦になる」

 

「それでも……俺は誰かを切り捨てるような事は出来ない……大井に誓ったんだ」

 

「………………なら……その大井っちを沈めたらいいの?」

 

衝撃的すぎる北上の発言に俺も大井も驚愕の表情を隠せない。北上は大井に向きながら虚ろな目をしながら言う。

 

「提督を縛るのが大井っちなら、アタシが大井っちから提督を解放してアタシも旅立つ。その前に一隻でも多くの深海棲艦を沈める。それが今のアタシに出来る唯一にことなんだよ」

 

泣きながらそう絞り出した言葉からは悲壮的な覚悟が伝わる。俺はこのまま何も出来ずに北上が死んでいくのを見届けるしかないのか……?

その時、ふと俺の頭の中に一つのアイデアが浮かんだ。しかし、それは余りにも突拍子でくだらないことだ。だけどこのまま手をこまねいているよりましだ。そう思い俺はそのアイデアを実行に移す。

 

「なぁ、北上。お前麻雀打てるか?」

 

流石に北上もその質問は予想外だったのか、イ級が単装砲食らったような顔をした。

 

「はぁ?麻雀?まぁ……一応打てるけど……」

 

北上のその返事を聞いて俺はよしと手を打った。

 

「じゃあ打とうぜ?なんだかんだ俺たち打ったことなかったじゃん?」

 

そう言って半ば強引に北上を引っ張っていく。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……ロン。タンピンドラドラで満貫」

 

「うわ、それ待ちかいなー読めへんわー」

 

「…………」

 

「なぁ、北上。折角満貫でアガったんだ。もうちょい喜んだらどうだ?」

 

「てーとくが勝手に始めたんじゃない。別に麻雀なんて楽しくないし」

 

俺がそう言っても北上は浮かばない顔をしている。龍驤は北上と打てるのが楽しくてしょうがないと言ったような表情をしている。

 

「いんやー、北上がまさかこんなに麻雀上手いなんてなぁー。お姉さん、ちょっちびっくりや」

 

「……別に普通だし」

北上がそうぶーたれるも、龍驤は気にする様子もない。

 

「またまた〜、提督を見てみ?もうすぐハコテンやで?東場まではもってな?」

 

「くっ、見てろよ!こっからだよ。……よし!リーチだ!」

 

「それロン。チートイドラドラで満貫、トビだよ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「よし、次は街に行こうぜ?麻雀の勝ち分位は奢るよ」

 

俺がそう言うと北上は観念したように言う。

 

「はぁ……分かったよ。てーとくの好きにしていいよ」

 

「よし!決まりだ!じゃあ十五分後に駐車場に集合な!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

非番の時にたまに着る私服に着替えて待つこと五分。パーカーにスタジャンという出で立ちの北上が歩いてきた。

 

「そのかっこ、似合ってるぞ」

 

「褒めても何も出ませんよっと。じゃあ行こっか」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「北上もアクセとか着けるんだな」

 

「球磨ねぇとか木曾っちがたまに着けてるのを真似してみたの。まぁ木曾っちも球磨ねぇを真似したみたいだけどね」

 

「へぇ意外だな、多摩はどうなんだ?」

 

「多摩ねぇはガーリーな格好が多いかなぁ。あ、一回球磨型だけで出かけた時に猫耳パーカー被って「ネコじゃないにゃ」って一発芸してたよ」

 

「ははっ!アイツ言われるのは嫌いなのに自分ではネタにするのか!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ねぇ〜てーとくー?次はどこに行くの?」

 

「次は立ち飲み屋だ。美味いぞ」

 

「え、せっかくの女の子とのデートでそんな所に連れていくの?」

 

「そんなとことはなんだ、俺の行きつけだぞ?」

 

「……おっさん」

 

「ぐっ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「いやー昼間から人のお金で飲むお酒は美味しいねー」

 

「くそう……結構な量食いやがって。まぁいいや。次、どっか行きたいとこあるか?」

 

「アタシ次はゲーセン行きたい」

 

「お、いいぞ」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「よっほっとぉ!」

 

「むっくっっぐぅ…負けた……」

 

「やった!三連勝!」

 

「いやー強いなぁ」

 

「ふっふっふー♪ご褒美が待ってますからねぇ?」

 

「ぐっ、分かったよ。『負けた方がなんでも言うこと聞く』何がいい?一クレか?」

 

「ん……と、その……ね?嫌じゃないなら……一緒に……プリクラをね?」

 

「ああ、分かった一緒に撮ろうか」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「もうすっかり夕方だな。飯、どうする?」

 

「ん……とね?アタシとしてはもうちょいいたいなーって」

 

「ん、分かった。適当なバーでいいか?」

 

「うん」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふぅ……初めて入ったけど結構いい店だな。タバコ吸って良いか?」

 

「うん、アタシにも一本ちょーだい?」

 

「珍しいな。……ん」

 

「ありがと、火頂戴?」

 

「咥えたままで、顔こっち向けてみ」

 

「ん?何をって……ん!」

 

「……っふう。案外綺麗につくもんだな」

 

「てーとくがそんな人だとは思わなかったよ。乙女の唇に何てことを……」

 

「タバコ越しなのに何言ってんだ」

 

「む〜。……ねぇ今日はどうしてアタシを連れ回したの?同情?」

 

「んー何でだろうな?正直よく分からん。でも同情じゃないのは確かだ」

 

「そっか……優しいね」

 

「…………」

 

「もういいよ。そろそろ帰ろうか」

 

「……そうだな」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうして俺達は鎮守府内の海岸まで来た。少し肌寒い時期に加え月が全く見えない新月の夜でタバコの火が一層暖かに光っている。北上は何をするでもなく自分の三つ編みの先っぽを弄っている。

お互いに何も話さない。風も無くタバコに火をつける時のジッポの甲高い金属音が響く。

 

「ねぇ、てーとく?そろそろ良いんじゃない?」

 

北上が沈黙に飽きたと言うように切り出す。俺は加えているタバコをゆっくりと吸い、言葉と共に吐き出す。

 

「……ふぅ。俺が何を言っても聞かんだろう?お前は、自分はもうもどきになって深海棲艦どもを出来るだけ多く道連れにして死ぬことしか考えてない。実際にあの戦場を見ていない提督の俺が何を言っても、言葉は届かないだろう」

 

俺がそう言うと北上は弾けるように俺の胸ぐらを掴み食ってかかる。

 

「じゃあ黙ってろよ!そうだよ!艦娘でもない、深海棲艦でもないアタシの気持ちなんて誰にも分かんないんだよ!」

 

「じゃあお前は!俺やお前の姉妹の気持ちが分かんねぇって言うのかよ!多摩はあの戦いで足でまといになった事を今でも悔いているんだぞ!木曾は多摩を必死に守ってあの海域から戻って来たんだぞ!それこそが自分に出来る最前の手だからって!球磨がどんな思いでお前に自分の妹の敵を譲って、その妹に手をかけたと思っているんだよ!大井は!着任当時からずっとお前のそばにいてお前の事を見守って支えていたんだぞ!それを!その思いすらわからないって言うのか!北上ぃ!」

 

俺が

 

俺はそう言って北上を抱きしめた。

 

「お前ははぐれの深海棲艦なんかじゃない!俺の鎮守府のエースの球磨型軽巡洋艦三番艦北上だ!」

 

俺がそう言うと、北上は何も言わずに俺にしがみつくように抱きつき、ワンワンと泣き出した。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

その後いつも通りの北上に戻り、適度にサボりつつ、のほほんと出撃をこなすようになった。一つ変わったのは、出撃から帰ってくると必ず俺のところに来て、タバコ越しのキスをねだるようになった。



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春眠暁を包む

今回は自分が所属している創作団体「Glassese Project」の企画「春色祭」の話です。テーマは「春の色」
どうぞお楽しみください。


春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。春はどうも昼飯を食ったあとの数時間後、丁度二時から三時にかけて非常に眠くなる。それは常日頃「二十四時間、寝なくても大丈夫」と言っている俺の嫁艦の初春型駆逐艦三番艦「若葉」も例外では無いようだ。お気に入りの椅子を窓際に持って行き、春の麗らかな気温の下、太陽光を一身に浴びて寝ているさまはさながら光合成をしている植物のようだ。しかし、やはりそこは秘書艦の意地が有るのか、俺が小声でも若葉の名を呼ぶと直ぐに飛び起きて眠たげな目を擦りながら仕事をこなす。

 

「なあ。眠いんなら仮眠室で寝てきても良いんだぞ?今日は仕事量もあんまり多くないし」

 

俺がそう言うも、若葉は首を縦に振らない。

 

「そうはいかない。提督が仕事をしているのに若葉がサボる訳には……いか……な……い」

 

前言撤回。若葉は首をこっくりこっくり船を漕ぎ出した。しょうがないから若葉を抱え、俺の仮眠用に備え付けてある布団に寝かせ、代わりの秘書艦を誰にするかとタブレットを操作して今日の全艦娘の予定を調べる。……。ふむ、初春、子日は非番だけど初春は出撃予定は無く、待機となっている。ちょうど良いから彼女に手伝って貰おう。

 

数分後、呼び出しに応じて初春が執務室に到着した。

 

 

「で、若葉の代わりに今日一日秘書艦をして欲しいとな?」

 

「ああ、頼めるか?」

 

俺がそう言うと初春は優雅に扇子を煽りながら言った。

 

「可愛い妹の夫の頼みじゃ。一も二もなく答えるのが姉の役目というもの……。しかし、今日は『長女会』があるから無理なのじゃ」

 

「長女会?」

 

俺が聞きなれない言葉に思わず聞き返すと初春は頷いて説明してくれた。

 

「そう。名前の通りに各姉妹艦の一番艦が集まって情報交換をする会じゃ。と言っても、情報交換なんて物は建前で実際は月一のおしゃべり会みたいな物になっておるし、既に一番艦以外の娘らも参加しておるから『長女』なんてものはとうに無くなっているのじゃがな」

 

「へぇ……そんなもんがいつの間に……」

 

思わず俺が零すと、初春はクスクスと笑った。

 

「おや?この会はそもそもそなたが言い出したのが発端じゃぞ?」

 

無論、俺はそんなこと言っていない。

 

「どういうことだ?俺はそんな会今初めて聞いたぞ?」

 

「会そのものは、確かに。そなたは初耳じゃろうてな。しかし、この会が出来たのは常日頃から言っておる「退役後に文化的な生活が出来るように趣味を持っておくこと」そなたの言葉を聞いて暁や吹雪ら駆逐艦の一番艦が主体に動いて作られたのじゃ」

 

確かに俺は退役後に自由に生きて欲しいと願って趣味を持つことを推奨していた。皆の要望にも出来る限り応え、時雨は大型のカメラを購入。色んな風景を写真に収め、それを姉妹に見せている。写真の師匠が青葉なのが不安だけど……。

それにより驚くべき発見も多かった。夕立なんかは時雨の写真を見てそれを油絵にする事を趣味にしている。普段はやかましく走り回っているのに絵を描いている時は静かで出来も素晴らしい物になっている。

 

「そうだったのか。……ん?」

俺は首を傾げながら再度聞いた。

「その趣味と、長女会にどんな繋がりがあるんだ?」

 

「それはのう……」

 

と、初春が説明しようとした瞬間。執務室のドアがコンコンとノックされた。

 

「開いてるぞ、入ってくれ」

 

開いたドアの先にいたのは、丁度話に上がっていた暁型駆逐艦一番艦の暁だった。長い黒髪に幼い顔つきながらも立ち振る舞いにはどこか大人っぽさがある。常日頃から大人のレディーであろうとし、意識しているが故に身についた所作は堂に入っている。

 

「暁か、ちょうどお前の話をしていたんだ。どうした?何か用事か?」

 

暁はピョコンと可愛く俺に向かって礼をした後に初春に向いた。

 

「司令官。御機嫌ようなのです。今日は長女会っていう集まりがあって。初春さんもいつも参加してくれているから呼びに来たのよ。……もしかして、初春さんは今日は来れないかしら?」

 

机の上の書類を見て察したのか問いかけてくる。まぁ別に今日の書類はそんなに多くないから大丈夫かと思い大人しく初春を解放し暁に渡す。

 

「いや、今日は仕事もほとんど終わってるし、1人でやるよ」

 

そう言って二人を見送ろうとしたら暁が目を煌めかせて詰め寄ってきた。

 

「そうなの!なら司令官、今日は一緒に長女会に参加してみない?皆司令官ともお話したがっているわ」

 

姉妹共々いつも俺を手伝ってくれる暁の珍しいおねだり。……まぁ書類は最悪今夜か明日にでもやればいいか。そう自分に言い訳して暁主催のお喋り会に参加することになった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「なぁ、暁」

 

「なにかしら、司令官?」

 

道すがら、初春にしかけた質問をすることにした。

 

「その長女会は俺が趣味を持った方がいいぞって言ったから出来たんだろ?それがどうしてお茶会に繋がるんだ?」

 

「そうね、最初は私と吹雪ちゃんが吹雪ちゃんのお菓子を一緒に食べるところから始まったのよ。吹雪ちゃんは叢雲さんにお菓子を作ってあげてたら凄く喜んでくれたらしくて、それからいろんな人にお菓子を作って食べてもらうのが趣味になったのよ。で、私の趣味はいろんな人とお話しする事。でも私はお菓子も作れなければ美味しいお茶も入れれない……。そんな時に吹雪ちゃんと白雪ちゃんがお菓子を作ってお茶会をしようって。白雪ちゃんの入れるお茶は本当に美味しいのよ!」

 

珍しく暁が熱く語っている。俺の言い出した一言で色んな人が交流できるなら嬉しい限りだ。

そうこう話しているうちに長女会に着いた。もう皆めいめいに席に着いてお喋りに興じたりお菓子に舌つづみを打ったりしている。

 

「お!今日は提督も来たのか!ここはいいぞー!肴はクッキーがいくらでもあるし酒が美味い!」

 

早速飲んでいやがる隼鷹がそう叫ぶとその声に反応して数人がこっちにやってくる。

 

「おや?司令官がここに来るのは初めてですよね?記念に一枚いいですか?」

 

そう言いながらカメラのシャッターを切るのは青葉。

 

「あら、来たのね。吹雪の作るクッキーは美味しいわよ。アンタも早く食べないと無くなるわよ?特に今日は赤城さんと加賀さんが来ているし」

 

そう言いながらキッチリ自分の皿に大量のクッキーを確保しているのは叢雲。お言葉に甘えて一枚貰い、サクサクとした食感と程よい甘味を堪能しながら適当に歩いていると金剛四姉妹がテーブルで暁達四人と紅茶を飲んでいた。

 

「ネー、そしたら……あ!テートク!来てたのネ!ウェルカムネー!座って座って!」

 

そう招待されたので大人しく座ることにする。

 

「今響が美味しい紅茶の飲み方をレクチャーしてくれるって言うから教えて貰っているんデスよ」

 

「ロシアンティーっていう紅茶にウォッカを入れてジャムを舐めながら飲むというロシアの飲み方だよ。温まるよ、はいこれ、司令官の分」

 

例を言ってジャムをひと舐めしてから紅茶を一口。

 

「お、美味いな。いい感じに体がポカポカする」

 

「スコーンも欲しくなるネー」

 

「スコーンですね?分かりました!次回までに練習しておきます!」

 

ちょうどそこを通りかかった吹雪が金剛のリクエストを聞きつける。そのまま十人の大所帯でお茶会を楽しんだ。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

長女会も終わり、次回も是非参加してくれと皆に頼まれて解放され、執務室に戻ると今起きましたと言わんばかりにぼんやりしている若葉がいた。

 

「ようやく起きたかお姫様?」

 

俺がそう言って茶化すも寝起きの若葉には何も聞こえていないようだ。フラフラと俺の前までやって来て櫛を渡してきて俺の膝の上にストンと座った。

 

「今日な、長女会に行ってきたよ」

俺がいつも通りに寝癖を直してやりながら今日のことを話してやる。

 

「長女会。……ああ、初春姉ぇがいつも言っているあれか。なんだかんだ参加した事無かったな」

 

「そうか、今度は一緒に行くか?」

 

「ああ。悪くない」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

翌日。案の定終わらなかった昨日の書類と今日の分に押しつぶされていたら昨日に引き続きコンコンと控えめなノック音が聞こえる。

 

「入ってくれ!今手が離せない!」

 

「失礼するわ、司令官」

 

そう言って入ってきたの暁。昨日の違って若干眠そうだ。

 

「暁か、昨日はありがとうな。で、どうした?」

 

「えっと……今日は私も仕事を手伝おうと思ってきたの」

 

「そりゃ有難いけど……。今日は確か非番だろ?」

 

「そうだけど昨日私が長女会に誘ったせいで終わらなかった訳だし……」

 

「そうか、ならちょっと手伝って貰おうか。若葉、椅子もう一個用意してくれ。……若葉?ね、寝てやがる」

 

昨日あんなに昼寝してたくせに……。

 

「司令官、大丈夫よ。若葉さんは布団に寝かせてあげてそこでお仕事するわ」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

そう言って暁が若葉を抱き抱えて布団まで運ぶ。抱え方が完全にレスキュー隊員のそれなんだけど……。良いのか?

 

「よいっしょっと。司令官?先ずは何をすればいいかしら?」

 

「あ、ああ。とりあえず若葉がやっていた書類の続きから頼む」

 

「了解なのです」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

数時間にわたる激闘の末ようやっと全ての仕事を終わらせた時には夕方になっていた。

 

「やーっと終わったか。ありがとうな、暁。……暁? 寝ちまっているか」

 

恐らく昨夜は片付けと次回への反省会でもしていて寝不足だったのだろう。労う意味で暁の頭を撫でてやる。

 

「ありがとうな。暁」

 

「司令官。もっと……頼っていいのよ」

 

「それは雷だろうが……案外4人とも似たものなんだろうなぁ……。姉妹……かぁ」

 

春の足音が近づくにつれて太陽が昇っている時間も伸びてきた。もうあと数ヶ月で梅雨になり、夏が来る。まだまだこいつらには世話になるなと思いながら暁を若葉が寝ている布団まで運んでやった。



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ジューンブライド

全てはこの一言から始まった。

 

「提督ってさー。童貞なの?」

 

その一言は雷のような衝撃で、深夜の雨のような静寂をもたらした。事実。今は梅雨で外はこの時期特有のしとしととした静かな雨が降っている。そのため、よく言えば活発。悪くいえば暴れん坊組が暇を持て余して俺の部屋に入り浸っている。クレイジーバトルジャンキー夜戦忍者川内もその一人だった。

余りのことに動けないでいる俺の代わりに動いたのは同じく暇をしていた夕立とその姉妹艦の時雨だった。

 

「てーとくさん。どーていって何っぽい?」

 

「僕も気になるなぁ。ねえ、提督。提督は童貞なの?」

 

無邪気に聞いてくる夕立と瞳孔開いている時雨。正直怖い。

 

「提督。若葉さんと結婚してるんでしょ? なんでヤらないの?」

 

「川内。言い方を考えろ」

 

川内は以前の砂浜での一対一で若葉に敗けてから若葉を慕うようになった。今回の件も若葉の事を思っているが故の行動だろうが、如何せんタイミングが悪い。何故ならここに若葉はおらず、代わりにいるのは若葉の姉妹艦、初春、子日、そして初霜だ。三人とも若葉を溺愛しており、俺のことを認めてくれているが。……ほぼ姑だ。しかも三人も。時雨以上に視線が痛い。最早質量を持っているのかと疑うレベル。

とりあえずこの場を収めないと……。

 

「川内、いい加減にしろ。それは俺と若葉の問題だ。あんまり部外者には突っ込まないで欲しい」

 

俺がそう言って話を切り上げようとするが川内はまだ食い下がる。

 

「ねぇ、若葉さんの事ちゃんと考えてるの? 結婚だってまだカッコカリだけじゃん! 若葉さんもきっと本当の結婚したいって思ってるよ!」

 

若干盲信気味になっている。さて、どうしようかと思っていたら、思考を遮るノック音が響いた。

 

「提督。若葉、入るぞ」

 

幸か不幸か、そこに現れたのは話の中心にして俺の嫁の若葉だ。湿度が高いせいか、いつも以上にだらしない格好だ。俺が言葉を発するより早く川内が飛びついた。

 

「若葉さん! 提督とはなんでヤってないんですか?」

 

突然の質問に若葉は珍しく赤面する。俺が嫁の可愛い一面に見蕩れていたら照れ隠しのボディを川内にめり込ませていた。想像するだけで痛い。

咳き込みながら川内が若葉に説明するとようやく落ち着き、いつものキリリとした表情に戻った。

 

「なるほど……川内。お前が悪い」

 

「ええー!若葉さんまで!?」

 

「それはお前が首を突っ込む話ではない。私たち夫婦の問題だ」

 

若葉がそう言ってくれたおかげでこの場は収束した。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

深夜。俺達の部屋で俺と若葉の二人は部屋でメイメイに過ごしていた。若葉はソファーに座ってハードカバーの本を抱え、時折サイドテーブルに置いてあるコーヒーを舐めている。俺もお気に入りの椅子を窓際に置き適当な本を読んでいるが。内容が全く頭に入らない。

若葉は俺とそういうことをすることを望んでいるのか?もちろん俺は若葉のことを愛している。若葉もきっとそうだろう。でも、俺たちはまだカッコカリで、若葉は昔、本当の指輪は戦争が終わってからだと言ってくれた。しかし、それは建前で本当は結婚したいんじゃないのか?

多分、そんな事を考えていたから。こんなことを口走ってしまったのだろう。

 

「若葉には海に出て欲しくないな」

 

若葉に言ったつもりは無い。単に独りごちたつもりだった。次の瞬間からはあまり覚えていない。バチンと言う音と共に若葉の何かが叫ぶ声。そしてそこに残ったのは梅雨特有の雨音だけだった。

一人部屋に残された俺は呆然とするしかなかった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「提督ー? いるのー? 入るよー? ……って! うわ! どうしたの?」

「ああ……川内か。珍しいな、お前が朝から起きてるなんて」

 

「昨日は疲れたから珍しく……ってそんな事は良いの。どうしたの? ゾンビみたいだよ?」

 

「ああ……昨日。若葉を怒らせてしまってな」

 

「ああ。納得。すぐに謝りに行けばいいのに」

 

「行けたら苦労しねぇよ……」

 

「何言ったの?」

 

「……『若葉には海に出て欲しくないな』って」

 

それを聞いた川内は顔をしかめ、腕を組んで頷いた。

 

「あちゃーそれはダメだよ。艦娘に一番言っちゃいけない言葉だよ」

 

「若葉に言ったつもりは無いんだよ。ただ、ふと口から出たみたいな」

 

俺が弁解をするも、それはただの言い訳でしか無いことを他でもない俺自身が分かっていた。

 

「艦娘は海に出るべくして生まれた存在だからね。存在の否定に近いんだよ。勿論。人間モドキだから個性もあるし、戦いが嫌いな艦もいるよ? でも、若葉さんは違う。この前戦って分かった。あの人は戦うのが好きだよ。提督といつか平和な世界で過ごしたいのも本音だけど、それ以上に現状の戦いがある世界が好きなんだよ」

 

「そう……だったのか」

 

川内は部屋を出る時には笑いながらアドバイスしてくれた。

 

「こういう時はスっと謝って言いたい事お互い言った方が良いよ。まぁ、童貞の提督には難しいかもね? じゃあね!」

 

言いたい事だけ言い、去り際に俺を貶してご機嫌な様子で出ていきやがった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

鎮守府の外れの、ほぼ俺しか利用しない喫煙所に小雨を受けながら向かう。ここなら誰もいないしゆっくりと考える事が出来るだろう。しかし、そこには先客がいた。

 

「やあ、提督。待っていたよ」

 

「……なんで喫煙者でもないのにここにいるんだ?時雨」

 

白露型駆逐艦二番艦時雨。黒い三つ編みをたらしメガネをかけて文庫本を読んでいた。

 

「提督を待っていたのさ。ちょっと話がしたくて」

 

「……悪いが、ちょっと一人になりたいんだ。だから……」

 

「若葉と喧嘩したんでしょ?」

 

その言葉にハッとする。

 

「青葉から聞いたよ。彼女の情報網は凄いね」

 

「……あいつに話した覚えは無いんだけどな」

 

「じゃあ誰かから聞いたんじゃない?」

 

「……川内……あいつ」

 

「あ、川内なんだ。良かった。カマをかけてみて」

 

俺が川内の顔を思い浮かべ、拳を握っていると、時雨がパァっと笑顔になる。どうやら青葉から聞いたのも嘘らしい。

 

「……で? 俺からカマをかけてまで何を聞きたいんだ? お説教なら勘弁だ。丁度川内に食らったばかりだからな」

 

「ううん。僕が言いたいのはそんな事じゃないよ」

 

「じゃあ何だ?愛の告白でもするつもりか?」

 

俺が半ばふざけて聞いたこの質問に、時雨はコクンと頷く。俺は慌てた。慌てたからタバコに火をつけて一息つく。

 

「冗談だろ?」

 

「今ここで僕が冗談を言ったりするように見える?」

 

「いや、見えないな。 じゃあ何だ?これを機に若葉から俺を奪うつもりか?」

 

再びの首肯。再び紫煙を吐き出す。

 

「……理由を聞こうか」

 

「理由? 簡単だよ。 僕が、提督を、好きだから」

 

突然の告白に困惑を隠せない。気がついたらもう一本目を吸い終わっている。二本目に手をかけながら時雨に聞く。

 

「なんで今なんだ?」

 

時雨は俺からマッチをひったくり、俺の咥えてるタバコも奪い答える。

 

「だって、提督は若葉の事だけを見て、僕らの事は見ていないじゃないか? だから、若葉以外を見ることが出来る今なんだよ。ね? だから、提督。あなたの全てを僕に頂戴?」

 

時雨は俺に体を預ける。女の子特有の甘い香りに柔らかい体。若葉より成長してる女性としての魅力。しかし、時雨の言う通り、俺は若葉以外は考えられないようだ。時雨の肩を持って引き剥がす。

 

「時雨……俺には若葉がいる。 俺はどうしても若葉以外考えられない。だからお前のものになる事は出来ない」

 

時雨の目を見てハッキリと言う。時雨も最後まで俺から目をそらさないでいてくれた。俺から奪ったタバコに火をつけ一口吸い、むせる。

 

「ごほっ! ごほっ! ……うう、提督はよくこんなの吸えるね」

 

「まぁ……な」

 

時雨はタバコを俺の口に押し込み、走り去って行った。

まだ、涙雨が降っていた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

ようやく一人になり、タバコを惰性で吸いながら自分の考えをまとめる。一本。二本と吸いながら昔若葉に言われた言葉を思い出していた。 あれは俺達がケッコンカッコカリをするよりも前だった。

 

『提督。提督はタバコを吸いすぎじゃないのか?』

 

『なんかなぁ……一回吸ったら止まらないんだよ。チェーンスモーカーって奴』

 

『体に悪いぞ』

 

『止めるように努力するよ』

 

『……はぁ。提督は長生きしそうにないな』

 

『……お前らより一日長かったら、それで十分だよ』

 

思えばあの時から若葉の事は意識していた。若葉はどうだったのだろう?ここに若葉はいないし、考えをまとめる為と自分に言い訳をしながら三本目に火をつける。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……やはりここにいたのか」

 

「……『待ってた』って言うべきか『見つかった』って言うべきか?」

 

「提督が思うように言えばいい」

 

「じゃあなんも言わない。どっちも思ってないから。 ……『探したぞ』」

 

「探していたのは私の方だが?」

 

「いんや、俺が探してた。 若葉は探されていた」

 

「……そうか」

 

「で? そんな事を言うために探されていたんじゃないだろ?」

 

「……ていと」

 

「若葉、俺は謝らないぞ。謝ったらあの時の言葉は嘘になる。それだけは嫌だ。 若葉や、他の皆が傷ついて欲しくないのは本心だ。でも皆の気持ちを考えてなかったのも本当だ」

 

「それで? どうするつもりだ?」

 

「どうもしないさ。 今まで通りに指揮をする。皆はそれに従って全員無事に帰還する。 それだけさ」

 

「提督……」

 

「好きな人の無事を祈って何が悪い。 愛する人が傷つくのを見るのが嫌で何が悪い。 それがダメってんなら、俺はお前と心中でもしてやる」

 

「提督」

 

「ああ、つまりだ。 つまり俺達はケッコンカッコカリして、お互い好きだぜって言ったはずなのに、本音で話した事が一回も無かったんだ。 もっと溜め込まずに話そう。 多分その度に喧嘩する事になるけど良いじゃないか? 今まで何も言わずに溜め込んで来たからこんな致命的な事になったんだから」

 

「……提督。 それ、誰に吹き込まれたんだ?」

 

「いんや? 今回は完全に一人だぜ」

 

「……提督がそう言うなら。それでいいさ。 私も悪かったなつまらない意地を張った」

 

「ああ、俺もだ。これからはお互い溜め込まずに言い合おうぜ」

 

「……なら早速言いたいことがある」

 

「なんだ?……! ……ん……んう……はぁ……」

 

「……はぁ…………ふぅ……ん……」

 

「…………っはぁ!……これが言いたいこと?」

 

「伝わったか?」

 

「勿論」

 

「なら……続きを」

 

「仰せのままに」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「失礼しまーって! ああ!提督と若葉さん! もう仲直りしたの?」

 

翌朝。俺と若葉が昨日丸々残した書類と格闘していたら川内が喧しく入ってきた。 朝とか夜とか関係なくうるさい。

 

「うるさいぞ、川内。 あとノックくらいはしろ」

 

「ああっ! すみません! って、そうじゃなくて! もう仲直りしたの? どうやって?」

 

「……川内。この事についてはあまり詮索しないでくれと言ったはずだが?」

 

グイグイと来る川内を一睨みで抑える。 川内は先日食らったボティの痛みを思い出したように脇腹を押さえて後ずさる。

 

「ふーん……。 じゃああたしはもう必要ないか。 それじゃあ失礼します」

 

案外素直に立ち去る。どうやら寝不足のようで目にクマが出来ている。ああ見えて気遣いは出来るらしい。

 

「あ、そーだ」

 

と立ち去り際に川内が振り向く。

 

「若葉さん……お赤飯。 いる?」

 

そう言われて顔を真っ赤にする若葉。 川内はイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべ執務室から去っていった。

 

「……あいつ。気づいていたのか」

 

「……みたいだな」

 

若葉はいつもと違い乙女の表情を見せ、まだ扉を睨む。嫁の新たな表情を呆けたように見ていると、今度は俺に矛先が向いてきた。

 

「なんだ?私の顔になにかついているか?」

 

「あ……いや、そんな顔も出来るんだなって」

 

俺が思わずそう言うと、若葉は俺にしか見せない表情を浮かべ

 

「惚れ直したか?」

 

と言う。俺も少し照れくさかったが、真っ直ぐ若葉を見つめ返し言う。

 

「ああ、惚れ直したよ。 改めて、俺はいい嫁を持ったよ」

 

予想外の反撃に再び赤面してそっぽを向く。若葉が「ああ、少し暑いな。 換気でもしよう」と照れ隠しに可愛い行動をする。

窓を開けるとまだ外は梅雨特有の落ち着いた雨が降っている。

 

「……ジューンブライド、か」

 

「気になるのか?」

 

「……気にならないと言ったら嘘になる

 

「……するか。ケッコンカッコホンバン」

 

「……ああ、悪くないな」



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短編の場合

好きなシチュエーション練習詰め合わせ


「ねぇ、提督?提督の吸ってる煙草を僕も吸いたいな?」

 

「ん?煙草?遂に時雨も煙草を覚えるようになったか

……。 ちょっと待ってろ。 コレは重いやつだから軽めのを奴を…… ほら、ん? どうした?」

 

「…………なんでもない。 ……バカ」

 

「???」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「北上。 何してんだ?」

 

「ん? 読書だよ〜。 北上様は見た目通り清楚な文学少女なんだよ〜」

 

「へぇ。 本なんて読むんだ。 意外だな」

 

「提督って失礼だね。 って言っても読み出したのはつい最近なんだけどね」

 

「何読んでるんだ?」

 

「ひみつ〜」

 

「なんだよ。 そんなに恥ずかしい本なのか?」

 

「うわ〜? そういう事聞いちゃう〜? きゃー!てーとくがセクハラしてくるー!」

 

「人聞きの悪いこと言うな!」

 

 

「……だって。 恋愛小説とか柄じゃないじゃん……。ばか」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ん? あそこにいるのはガンビア・ベイか? 何してんだ?」

 

「良い?尊敬する人物は阿武隈先輩ですって言うんだよ?」

 

「尊敬スル人物ハ、阿武隈先輩デス」

 

「オイコラ北上、なに教えてるんだ」

 

「やべ、退散たいさーん」

 

「あっ! クソっ!逃げられた!」

 

「あっ!すみません! すみません!」

 

「あ、いや。 ガンビア・ベイは謝らなくて良いんだよ。 てか日本語上手いね」

 

「えっと、すみません。とりあえず謝っておけば何とかなるかなって」

 

「発想が日本人」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「よう、山城。 どうした? そんな顔して」

 

「……私の可愛い時雨を誑かした挙句フッたクソ提督を目にしたらこんな顔にもなりますよ。 ……不幸だわ」

 

「それを言うと苦しいけど……時雨はいい女だぞ?」

 

「知ってる。 少なくともあんたよりかは知ってる」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……ふぅー」

 

「司令。 またサボりですか?」

 

「馬鹿言え不知火。 ちゃんと午前の分は終わらせてきた」

 

「それは結構。 しかし、最近本数が増えていませんか?この鎮守府のトップに立つ以上能力は勿論、私生活等での威厳が……」

 

「分かった! 分かったよ! 1日五本までにするよう努力する。 これでいいか?」

 

「……三本です」

 

「厳しいなぁ……。 不知火」

 

「はい?」

 

「心配してくれてありがとうな」

 

「……いえ、これも不知火の仕事の内です」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「お、天龍。 木曾。 何してるんだ?」

 

「よう。 今日はもう予定は無いしタバコ吹かそうと思ってるんだが一緒にどうだ?」

 

「いいね、俺も行こう」

 

「提督は何吸うんだ?」

 

「久々にブラデビだ。 最近ご無沙汰だったからな」

 

「あー……。あれか」

 

「嫌か?」

 

「嫌じゃないけど人を選ぶよな」

 

「まぁそうだよな。 でも好きなんだよ」

 

「まぁ……人の趣味はそれぞれだから否定はしねーんだけどよ……」

 

「あれ……臭いんだよな……」

 

「え?」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ただいまー」

 

「提督、おかえり」

 

「若葉、起きてたんだ」

 

「提督が帰ってきてないのに寝る訳には行かないだろう?」

 

「そうか。 ……飲むか?」

 

「少しなら付き合おう」

 

「乾杯」

 

「乾杯」

 

「……ふぅー」

 

「流れるように煙草に火をつけるな」

 

「あっ!返せよ。 今日ラストなんだぞ」

 

「どうせすぐに新しい煙草に火をつけるじゃないか」

 

「不知火に一日三本までって言われた」

 

「ああ……不知火は怒ると怖いからな」

 

「若葉はなんも言ってこないよね?」

 

「自分の体を大切にしない奴には何を言っても無駄だからな」

 

「そうか……。 ん?なら何で今煙草を止めたんだ?」

 

「…………」

 

「……あー。 なるほどね」

 

「なんだ、ていとむぐっ!?」

 

「……ん……」

 

「ちょ……いきなり…………ふぁ」

 

「……若葉がこんなに甘えん坊になるとはね」

 

「……うるさい」

 

「心配してくれてありがとうな」

 

「……」

 

「で? 続き。 する?」

 

「…………。 テーブル片付けてから」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「……クソみたいな寝顔ね。 早く起きなさい」

 

「……んぁ? 叢雲? おはよう」

 

「おはよう。 若葉はもうとっくに出てるわよ」

 

「……腹減った。 朝飯作って」

 

「バカじゃないの? ……はぁ、目玉焼きとトーストでいい?」

 

「おう」

 

「さて、今日も一日頑張るか」



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