貞操逆転世界の腐女子の日常 (月詠之人)
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case1
我輩は腐女子である。名前はまだない……いや、あるけど、この物語を読むにあたっては、私の名前など些事に過ぎないので割愛したい。不満のある方は
話が盛大に逸れた。ついつい話が脱線してしまうのは私の悪い癖だ。私の名前の話だったか? では、仮に
さて、簡易的な自己紹介も済んだところで、私の置かれている状況を説明するとだ。私は今、貞操観念が逆転した世界に来ている。別に、「そうだ、京都に行こう」的なノリで来てしまった訳ではない。早い話が異世界転生である。普通ならここから私の独白による私の過去が語られるわけだが、語るべき重要な過去を持っているわけでもないので割愛。なんか死んだ→転生した→おまけにアラサー独身派遣社員だったはずが、JKになっていた。この程度の認識を持っていてくれれば大丈夫だ。初めは、「転生物ktkr! 俺tueeeできんの!?」と思ったものだが、残念ながら何の特典も貰ってないらしく、特殊能力も神器もなければ、スペックも私のJK時代のままだった。まあ、若返っただけでもよしとしよう。そもそも、見た感じ普通の現代日本で、俺tueeeをしても微妙だ。
普通とは言ってみたが、この世界、普通とは違うところが一つある。前述の通り、貞操観念が逆転しているのだ。なるほど分からんという方は「貞操観念逆転世界」でググってみよう。ビックリするくらい男性向けエロマンガが出てくるから。……私も最初はビビったよ。簡単に説明すると、文字の通りとなってしまう。普通の世界だと童貞がクラスの女子に鼻息荒くするのに対して、こちらは処女がクラスの男子に対して同じ反応をする。他にも、男子がみだりに肌を見せたりしないとか、風俗は女が金を払って男を買ったりとか、女子が男子をいやらしい眼で見て「これだから女子は……」とか男子が言ったりとか、コンビニのエロ本コーナーに男の裸の表紙が並んでいたりとかそんな感じだ。男性向け作品の内容としてはそんな世界でビッチになって、女共と
遠回しになったが、私が言いたいのはこの世界は転生したところで、性欲旺盛な、一定基準値を満たす外見の男子でないと楽しめないのだ。という事だ。
ただし、
みんな大好き閑話休題。
つまり、何が言いたいのかと言うと、その辻褄合わせの結果、
case1:クラスの男子
今日も今日とてお昼休みに男子をウキウキウォッチング……若い子通じるかな? ビッチ的な意味ではない、あんな発情した雌共と一緒にしないでいただきたい。男とニャンニャン(意味深)したいのではない、男同士がニャンニャン(意味深)しているところが見たいだけなのだ! ……こっちのほうが
「都! 昨日のアニメ見た? 主人公のバニーボーイ姿、エロかったよね」
ぐふふと気持ち悪い笑みを浮かべながら深夜アニメの話題を振ってくる我が友人。うん、エロかった。だけど、私としては狙いすぎかなとも思ったよ。製作者側は、もう少しチラリズムの良さを知った方が良い。最近の私の推しは褌チラ。浴衣や法被が翻った瞬間に見える褌と、鍛え上げられた大腿筋。受けだと良し、CP相手が年下だとなお良し。是非とも宗三左文字さん辺りにやってほしい。その辺りをふまえて友人に話すと、
「流石は都……あたしの上を行く変態淑女だね」
と言われた。それは誉めているのか? 普通だろ褌チラ。そんなこんなでアニメの男性キャラのエロスについて語っていたら、近くでお弁当を食べていた男子が、気持ち悪い物を見るような眼で見てきていることに気付いた。例えるならば、台所付近によく出る
「……まったく、これだから女子は品がない」
……テンプレ頂きました。本人としては小声で言ったつもりだろうけど、私の
しかし、品がないときましたか。お坊ちゃん感がある台詞ですね。結構いいとこのご子息様なのかしら。
「あはは、女の子だもん、しょうがないよ」
そういって笑うのは彼の隣にいる藤見野君である。ふわふわと柔らかそうな茶髪に、柔和な顔立ち。あれでいてバスケ部のホープというなかなかのスペックを持っている。ずいぶんと対照的な二人だが、だからこそカップリングというのは萌えるものだ。……藤鶴か鶴藤かそれが問題だ。
さて、突然だけども、ここでパーソナルスペースについて話をしたい。パーソナルスペースというのは人に近付かれると不快に思う範囲のことで、一般的には女性よりも男性の方が広いとされている(Wikipediaより抜粋)。つまりは、男性よりも女性の方が他人との距離が近いのだ。……しかし、この世界では違う。貞操観念の逆転により、このパーソナルスペースに関しても変化がある。ようは、男子同士の距離が近い! あの二人、顔がかなり近い! 内緒話をする距離感、後ろからちょっと押されれば唇が触れ合ってしまいそうである。というか、してしまえよキス!
「ね、ねえ、俺達、見られてない?」
「む、確かに……」
おや、バレてしまいましたね。そりゃバレるわな、ガン見だもん私。
「聞こえちゃったんじゃないかな? 謝った方がいいかも」
「……ふん、教室であんな話をしている方が悪い」
「でも、陰口は良くないよ、ね」
そういって、笑顔で人差し指を鶴瀬君の鼻に当てる藤見野君。ヨッシャ、キタァー! 内心でガッツポーズをきめる私。ほんわかタイプがしっかり者をたしなめる。王道と言えば王道! しかし、王道こそが正道なのよ! ベタはベターなんかじゃない、ベストだ! そして、さりげない、ちょっとしたスキンシップ。完璧よ、藤見野君。よし決めた。藤鶴だ。エリートタイプの鶴瀬君は押しに弱いだろうし、藤見野君のあのほんわかオーラを断り切れないだろう。……いや、意外と藤見野君が腹黒キャラという線もあるか。どっちにしろ鶴瀬君受けは変わらんけどね。
そんなこんなで、二人のカップリングについて考察を深めていると、件の二人がこちらに向かってきた。
「ゴメンね、聞こえてた?」
申し訳なさそうな表情もgoodですよ藤見野君。まあ、聞こえてましたが、気にもしていません。そう伝えると、二人とも幾分かホッとした表情になる。そして、二人顔を見合わせるとクスリッと笑う。何だ、今の意味深なアイコンタクトは!? 目と目で通じ合う仲なのかい? これまた古いな、若い子どころか私の世代でも通じるか怪しい。
「意外と優しいんだね」
はて? 私が優しい? 何のことやら。二人を、と言うか鶴瀬君の陰口を咎めなかったのは、二人で怪しい妄想をしてしまった罪悪感だ。だから、これは優しさなどではない。自分をクズだクズだと普段から卑下している私でも、流石にこれで彼にいちゃもんをつけるようなことはしない。それをしてしまったらクズ以下だ。腐女子の風上にも置けなくなってしまう。……ただ、意外とは失礼じゃないだろうか。
「まあ、陰口に関しては此方に非があるが、教室で品のない発言は慎みたまえ」
そういって鶴瀬君は自分の席に戻っていく。それを見て、肩を竦める藤見野君。
「もう、拓巳の奴……。ゴメンね、口は悪いけど、良い奴なんだよ」
相方のフォローを忘れない姿勢に愛を感じます。というか鶴瀬君、拓巳って名前なのね。知らなかったわ。
私が気にしていない事を告げると、藤見野君はニッコリ笑ってから鶴瀬君のもとに向かう。素敵なスマイルだけど、向けるのは鶴瀬君にお願いします。そのほんわかイケメンスマイルに、隣にいる友人があてられていたが、気にせず二人の観察に戻る。今度は気付かれないように、横目でチラチラと。二人のイチャイチャを堪能する。近いなあ、心なしかボディタッチも多いし。やっぱデキてるんじゃないか?
――チラ見もバレていたらしく、後で藤見野君にたしなめられたのは別の話。
そもそも、次回があるのか不明です。気晴らし程度に書いた作品なので特に内容という程のものもありませんしね……。
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case 2
やあやあ、随分とお久し振りになってしまいましたとメタ発言。腐の伝道師、みんなの都ちゃんですよ~。……うん、誰だよコイツ。久し振りすぎて完全に自分のキャラを見失ってらっしゃる私。まあ、私のキャラなんてどうでもいいだろう。誰も興味はないだろうし、この
時は放課後。陽は既に西に傾いて、ハーモニカでセルフBGMを演奏しながら、満足を忘れた満足さんが歩いて来そうな茜空だ。そんな教室の中でしばらく雑談を交わす。しかしまあ、会話の下ネタ率の高いこと高いこと。ウブでネンネというわけでもないから、普通に返すけれど、元の世界での高校生男子ってこんな感じなんだろうか? 五回に一回くらいのペースで下ネタが飛び出してるわよこの娘。……いや、コイツが特殊なんだよね。なんなら、それに普通に返答してしまう私も特殊なんだろう。英語で言うとスペシャルだと、某ラノベ主人公は言っていたが、正直誇れる気はしないな、うん。そんな彼は絶対に受け。戸塚きゅん相手でも絶対に受け。ちなみに私は戸部八派。マイナーカプ好きは辛い、主に供給の少なさと言う点において。
そんな変態淑女たる相方と語らい会うのは楽しくもあり、何処か切なくもある。私は知っているのだ。この時間は永遠なんかじゃなく、短く儚く、取り返しのつかないものだと。あと数年もして、社会に出て、仕事に忙殺されるようになればこうして下らないお喋りに興じる時間は少なくなるのだ…………少しおセンチになりすぎたようだ。ほら、相方が怪訝な表情で私を見ている。何でもないと首を振ると、私はカバンをもって立ち上がる。部活に行こう。そう声を掛けると、彼女もまたカバンを手にして立ち上がる。短く儚いものだとは知っていても、楽しまない理由にはならないし、なによりそんなのは私のキャラじゃない。昨日見たアニメのキャラのカップリングを話す方が億倍建設的である。……何を建設するというのだろうか? キマシタワー? いや、あれは元々は百合用語だったかな? ともあれ、新米刑事とベテラン刑事のアニメの話をしながら部室に向かう道すがら、見覚えのある二人組を見つけて足を止める。
ーー藤鶴だ。
おっと失礼、藤見野君と鶴瀬君だった。二人してスマホを片手に何かを話している。一見すればなんてことのない日常的青春の1ページ。だが、私の持つ
case 2:お揃い
皆さんはお揃いの物を身に付けることにどういう意味合いを持つだろうか? 私がまだ少女だったころ、当時の友人とお揃いの小物を買って身に付けたりもしたものだ。端から見れば微笑ましく映るだろうか? そういう仲良しアピールは女子にとっては重要で、私達は仲良しですよと周りに喧伝するのだ。ただ単に仲のよさをアピールするだけなら微笑ましくもあるのだろうが、其処には多くの意味合いが含まれる。友情の所有権や裏切りの防止、気に食わないあの子への牽制などなど理由は様々。一番恐いのは、当人達にその意識はなく、本当に友人との友情の証だと思って身に付けていることである。
さて、女子社会の黒い所は置いといて、やはりお揃いの物を身に付けるということは仲が良くなければあり得ない。つまりはどういう事かと言うと、私の地獄眼は捉えてしまったのだよ、二人のスマホに揺れるお揃いのストラップを。バスケットボールのようなものに手足と顔をくっ付けただけの雑なデザインのキャラクターは可愛いとは言い難く、しかし妙な愛嬌もあって憎めない不思議なゆるキャラ感を演出していた。
そろりそろりと近寄って、二人の会話に耳を澄ませる私を見て、相方が先程とは違う意味で怪訝な表情を浮かべて見せる。……というより不審者を見る眼ですね、わかりません。
「……全く、何処で買ってくるんだこんなもの?」
「とか言いつつも、ちゃんと付けてくれるあたり、拓巳らしいよね」
まさかの藤見野君からのプレゼントらしい。まあ、藤見野君はバスケ部だし、なんとなく分からなくもないか。手にしたスマホに揺れるバスケットボールマンは西陽に照らされて少し赤い。同じく少し赤くなっている二人の間に流れる空気がちょっぴりセンチメンタリズムなのは、季節的にか時間帯的にか人をそういう気持ちにさせてしまうものなのだろう。
「……久しぶりだな、こういう風に同じものを身に付けるのは」
少し眼を伏せながら言う鶴瀬君に、藤見野君が柔らかく微笑む。
「小学校以来かな? いつもなにか同じものを持ってたよね、鉛筆か消しゴムか、キーホルダーか」
まさかの幼馴染み設定に私、大・興・奮! 何処までベタなのだこの二人は! ベタはベストという座右の銘を持つ私は当然ながら幼馴染み物も大好物ですから。……しかし、マイナーカプを好きになってしまう事がちょいちょいあるのはどういう事だろうか? まあ、心の琴線に触れてしまったものは仕方がないだろう、山崎×新八とかもっと増えないかなあ……5年後新八の下克上込みで。などと下らないことを考えていると、藤見野君が楽しそうに笑い、鶴瀬君が奇妙なものを見る眼で彼を見る。
「……どうした急に?」
「いや、お揃いのキーホルダーをなくして、拓巳が泣いちゃった事を思い出してさ」
「な、泣いてなどいない!」
「泣いてたって。一緒に探してさ、見つかったときに二人してまた泣いてさ」
少し遠い眼をした藤見野君がスマホのバスケットボールマンに触れる。彼がなにを考えているのかは私には読み取れなかったが、幼馴染みたる鶴瀬君は何かを察したようで、少しためらいがちに友人の肩に手を置いた。いつもより、少し優しげで、だけど寂しげな表情だ。
「……今度は大事にする。ありがとう……遥」
「……! ……うん、ありがと拓巳」
「何故、お前が礼を言う」
「気にしない、気にしない……ふふっ」
『都、都……!』
小声で私を呼びながら揺さぶる相方によって意識を取り戻す私。いかんいかん、目の前で繰り広げられている光景の尊さに意識が持っていかれていたようだ。いつの間にか出ていた鼻血をハンカチで拭うと、相方に向き直り礼を言う。しかし、彼女の視線は私の後ろに固定され茜空のせいで赤く染まっているはずの顔は妙に青ざめていた。
「…………そこでなにをしている?」
半端ない威圧感を感じる声に振り向くと、額に青筋を浮かべた鶴瀬君が立っていた。イケメンが怒っている姿というのは素直に恐いものである。その後ろには気恥ずかしそうに頬をそめて、困ったような表情を浮かべる藤見野君。なにその表情、エロい。
「盗み聞きとはいい趣味をしているようだな……?」
数秒後、土下座で謝る私と、説教をする鶴瀬君、それを宥める藤見野君と涙目で私と一緒に謝る相方というカオス空間に薔薇色空間は書き換えられているのだった。
ご意見、ご感想、誹謗中傷は随時受付中です。駅前で見かけたお揃いのストラップをつけた見知らぬ男子高校生二人組に感謝しながらお別れです。また会いましょう!
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