聖女(性女)様と一緒 ~悠々自適の一人旅が、波瀾とエロに満ちた珍道中に~ (ぐうたら怪人Z)
しおりを挟む

第一部 第1話 聖女エルミア
① 出会い


 

 

 青々と茂る森の中、腰に剣を携えた一人の青年が街道を歩いていた。

 背は高く、黒い髪は手入れされずぼさぼさで、瞳はやや鋭いが――それ以外に目を引く特徴は無い。

 身に着けているものも典型的な旅人の装いだった。

 

 “王国”の外れに位置する辺鄙な場所であるためか、他に行く旅人はほとんど見られなかった。

 そのことに青年は少々の寂しさを感じる。

 行き交う人々との他愛無い触れ合いも、旅の醍醐味と考えているからだ。

 

(……天候に恵まれているのが救いだな)

 

 昨日から天気は快晴だった。絶好の旅行日和だ。

 青年は、舗装されていない道を、力強い足取りで歩き続ける。

 

(この分なら、明日には宿場町に辿り着けそうだ)

 

 悪天候による足止めが少なく、思ったよりも旅程が早く消化できそうだ。そのことが、青年の脚をさらに軽くさせていた。

 

「――ん?」

 

 そこで気付く。前方から、黒い煙が立ち上っていた。

 

「……きな臭いな」

 

 地図によれば、この一帯は全て森林。

 木が燃えたところで、“黒い”煙などそうそう上がらない。

 アレは、油が燃える色だからだ。

 

 ということは、あの辺りで油などが燃えているということであり、そこに高確率で人がいるということも想像に難くない。

 そして、真昼間から油を燃やす事態というのは、程度の差や方向性の違いはあれ、緊急時である場合が多い。

 

「少し急ぐか」

 

 その考えに思い至ってしまった以上、見過ごすのは寝覚めが悪い。青年は、街道を駆け出した。

 

 

 

(――“当たり”だ!)

 

 現場は青年の想像通りの有様だった。

 馬車が――かなり高級そうな馬車だ――横たわり、黒煙を上げて燃えている。

 御者らしき人物が口から血を流して倒れており、その近くで乗客と思しき人物も胸を抑えて蹲っている。

 

 そして、その周りを覆面で顔を隠した集団が取り囲んでいた。

 人数は7、各々が短剣などで武装している。

 

(様子見の時間は無い!)

 

 青年は、一気にその場へ飛び出した。

 

「待てっ!!」

 

 集団の注意を向けるべく、大きな声で叫ぶ。

 思惑通り、覆面達は一斉に青年の方を向いた。

 青年は彼らに向かい、言葉を投げつけた。

 

「多勢に無勢。

 勝手だが馬車の御仁に義があるとみなすぞ。

 異論があるなら言ってくれ」

 

 返答はすぐに来た。

 一斉にナイフを投げつけられる、という形で。

 

(刃に何か塗ってあるな)

 

 跳んでくる短剣を見て、思う。

 金属の光沢とは少々異なった。

 

(十中八九、毒か)

 

 彼らの装備から見ても、その予想は妥当なものと思われた。

 だとすれば、掠るだけでも致命傷となりうる。

 青年は腰の剣を抜き放つと、一振りで7つのナイフ全てを叩き落とした。

 

 

 「――っ!?」

 

 

 その様を見て、覆面達に一瞬動揺が走る。

 青年は彼らに告げる。

 

「それが返事か。

 では、こちらも相応の(・・・)対応をさせて貰おう」

 

 抜き身の剣を構え、集団へと斬りかかっていった。

 

 

 

 

 

 

「――ぐっ!?」

 

 小さな悲鳴と共に、覆面の一人が倒れた。これで6人(・・)

 

「お前で最後だな。

 そろそろ降伏したらどうだ?」

 

「………くっ」

 

 青年の勧告に、最後の覆面は僅かにたじろぐ。しかし、降参をする様子はなく――

 

「む?」

 

 ――ナイフを投げてきた。

 全部で6つ。

 だがそれは、青年を狙ったものでは無く。

 

 くぐもった呻きが6つ聞こえる。

 

「仲間をやったのか」

 

 それは、倒れた覆面達に止めを刺すものであった。

 そして。

 

「――ふっ!」

 

 覆面は、自身の喉元にもナイフを刺した。

 力なく、倒れる。

 

(……自害したか。

 見事な手際だ)

 

 死ぬことに何の躊躇いも無かった。

 尋問を受けることを危惧してのものだろう。

 余程訓練された者達のようだ。

 

「まあ、仕方ない。

 それよりも――」

 

 青年は生存者である乗客の下へ向かう。

 

「おい、大丈夫――じゃ、ないな」

 

 後半の台詞は、尻すぼみ。

 改めて見た乗客らしき壮年の男性は、どう見ても“手遅れ”だった。

 

 覆面達に切りつけられたであろう胸の傷は毒でどす黒く変色し、おそらく臓腑に至っている。

 最早、解毒も間に合うまい。

 

 男は苦し気に表情を歪ませながら、口を開いた。

 

「……た、助かりました、旅の方」

 

「いや、すまない――到着が遅れてしまったようだ」

 

 青年は頭を下げる。

 もう少し早ければ、彼を助けられたかもしれないのだ。

 

「気に……なさらず。

 それよりも……エルミア様は、エルミア様は、無事、ですか――?」

 

「エルミア?」

 

 響きからすると、女性だろうか。

 軽く周囲を見渡す。

 見える範囲に、そのような女性の姿は見られない、が。

 

「……安心しろ。

 無事だとも」

 

 嘘をついた。

 この男の命は、あと数分も保たないだろう。

 死ぬ間際に、敢えて不安にさせる言葉を告げなくともいいはずだ。

 

「ああ――それは、良かった。

 本当に、良かっ、た……がはっ! げほっ、げほっ!」

 

 男が大量の血を吐いた。

 

「おいっ! しっかりしろ!」

 

「はぁっ、はぁっ――旅の方、勝手を――申し上げます。

 どうか……エルミア様を、王都へ……王都へ、お連れ下さい……」

 

 掠れる声で、そう紡いだ。

 青年は男の手を握り、強く頷く。

 

「承知した。

 俺で良いのなら、力になろう」

 

「あ、あり、がとう……

 どうか、エルミア様を、お願い、します……お願――――」

 

 ……息が絶える。

 どこの何者かも分からないその男は、最期まで自分以外の誰かの身を案じ、死んでいった。

 青年は、彼の瞼をそっと閉ざす。

 数秒、冥福を祈ってから、

 

「……エルミア、か」

 

 もう死んだ人物との約束である。

 無視したところで、誰からも咎められない。

 しかし青年は、故人との約束だからこそ、できる限りのことはしたいと考えた。

 

 馬車の反対側――森の奥を見る。

 

「もし、馬車が転倒する際に投げ出されたなら――」

 

 例えば、襲撃者に気付いた目の前の男が、そのエルミアという人物を馬車から脱出させたなら。

 

「そう遠くない場所にいるかもしれないな」

 

 呟いてから、そちらへ足を踏み入れた。

 

 

 

 またもや青年の想像は的中する。

 少し進んだところの木の陰に小柄な少女が倒れていた。

 すぐに容態を確認する必要があるのだが――

 

「――綺麗だ」

 

 少女をじっと見つめたまま、青年は思わずそんな言葉を零してしまった。

 こんな時に不謹慎であることは分かっている。

 だが、思わずにはいられなかった。

 それ程その少女は美しかったのだ。

 

 さらさらと流れる長い銀色の髪。

 芸術品のように整った容貌は、まだ幼さを残しながらも楚々とした印象を見る者に与え。

 纏っているのは簡素な、しかし上品さを感じさせるドレス。

 そこから垣間見える肌は染み一つなく、白磁にさえ例えられる。

 服の上から見ただけだが、プロポーションも――

 

(いや、それは失礼だろう!)

 

 青年はかぶりを振って、自らの邪な視線を止める。

 頭を切り替え少女へと駆け寄った。

 顔を覗き込み、息を確認する。

 

「……っ!」

 

 鼓動が、どくんと高鳴った。

 やはり、美しい。

 可憐だ。

 このままずっと眺めていたい欲求に駆られる。

 

「だから!

 そういう場合ではないと言ってるだろうが!!」

 

 声に出して、自分に言い聞かせた。

 己が高潔な人物だと考えていたわけでは無いが、ここまで卑俗な男だとも思わなかった。

 湧き上がる劣情に蓋をし、再度少女を見やる。

 

「――すぅ――すぅ――すぅ」

 

 小さな呼吸音。

 

「これは……」

 

 ほっと胸を撫で下ろした。

 少女は生きている。

 身体の方も見るが、外傷も無い様だ。

 馬車から落ちた、或いは何者かに襲われたショックで、気絶したというところだろうか。

 念のため頭部の傷が無いかもう一度確認してから、青年は少女を揺さぶる。

 

「おい、大丈夫か?

 目を覚ませ」

 

「―――――ん」

 

 程なくして、彼女は目を開いた。

 そのガラスのように澄んだ瞳を見て青年は、

 

「……っ!」

 

 感嘆の声が出そうになるのを、どうにか押し殺す。

 ただでさえ幻想的だった美貌に双眸が揃うことで、心臓を射貫かれる程の衝撃を受けたのだ。

 そんな青年を戸惑いを少女が知るはずもなく、

 

「貴方、は――?」

 

 耳に心地よいソプラノの声。

 少女が一つ動く度に、青年の心は搔き乱される。

 

「あ、ああ。

 怪しい者じゃない――と言って、信じられないかもしれないが。

 決して、君に害を与える気はない。

 その、なんだ。

 今の状況を、説明すると、だな――」

 

 動揺を隠しながら(多少漏れていたが)、青年は少女へと語り始めた。

 

 

 

「……ギリー」

 

 先程、青年と約束を交わした男の遺体を前にして、少女はぽつりと呟いた。

 彼の名前なのだろう。

 事情を説明してから――とはいえ、青年も大したことを分かっていないのだが――少女の頼みで、この男性のもとへと彼女を連れてきたのだ。

 

「この人は、君の――」

 

「私を育ててくれた者です。

 幼い頃から、ずっと一緒でした」

 

「……そうか」

 

 教育係だったのだろう。

 少女の身元はまだ分からないものの、とてもではないが平民だとは思えなかった。

 高貴な身分なのだろうと、青年は勝手に予想している。

 

「――あの」

 

 少女が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「私の事情をお話する前に、まず彼を弔わせて頂けないでしょうか?」

 

 断る理由などあるはずもない。

 青年も、墓ぐらいは作ってやろうと考えていたのだ。

 “この国”の作法で送られるならば、それに越したことは無い。

 

「ああ、勿論だ。

 俺も手伝おう」

 

 青年は、彼女の言葉に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

「天におられる我らが父よ――

 地におられる我らが母よ――

 この者の魂を――」

 

 青年が作った墓の前で、祈りを捧げる少女。

 実に堂に入った振舞だった。

 

(教会の修道女なのだろうか)

 

 彼女くらいの歳で、これだけの所作を身に着けているのならば、そうとしか考えられない。

 もっとも、ただの(・・・)修道女に教育係などつくわけが無いが。

 

(詳しくは、彼女に聞くしかないな。

 話してくれれば、だが)

 

 少女が“訳アリ”であるのは明白だ。

 いきなり現れた、自分のような男にどこまで事情を説明するか――怪しいところである。

 青年としても、無理に話を聞くつもりはないが。

 

「――お待たせしました」

 

 そんな考え事をしていると、少女から声がかかった。

 弔いが終わったらしい。

 

「改めて、私のことをお話させて頂きます。

 私は、エルミア・ウォルストンと申します。

 “聖女”として『勇者の一団』に参加するため、王都を目指していました」

 

「――聖女?」

 

 単語を反芻した。

 

 聞いたことがある。

 かつて、“王国”が、その南に隣接する“魔王領”と戦争をしていた頃の話だ。

 長きに渡る戦いだったが、神の加護を受けた一人の“勇者”が“魔王”を倒し、戦争を集結させた。

 その“勇者”の仲間の一人――卓越した治癒魔法の使い手が、聖女と呼ばれていたはず。

 

「待ってくれ。

 “王国”と“魔王領”との戦争はとっくの昔に終わっているだろう。

 何故、また勇者の話が出てくるんだ?」

 

「……貴方は、“帝国”出身なのですか?」

 

 エルミアが尋ねてくる。

 

 “帝国”。

 この“王国”の西隣に位置する国。

 国同士の仲が悪いわけではないのだが、国境に険しい“中央山脈”がそびえているため、交流は少ない。

 青年は、そこの産まれだった。

 

「ああ、そうだ。

 そういうわけで、こっちの知識は余り無い」

 

「分かりました。

 では、その事情も説明いたしましょう。

 かつて“勇者”の活躍で“王国”と“魔王領”の戦争は終結しました。

 しかし、決して友好的な関係が築けたわけではないのです」

 

 ――エルミアは語る。

 

 戦争が終わった後も、“王国”と“魔王領”は小さな諍いを繰り返していた。

 永い時間をかけて出来上がった両国の溝は、そう簡単に埋まるものではなかったのだ。

 しかし、戦いを拒む声、平和を求める声も、決して少なくはなかった。

 戦うだけでは、いたずらに国力が消耗されるだけなのだから。

 

 そこで考え出されたのが、“勇者の戦い”の再現(・・)だった。

 “王国”は、国中から代表を選別し、『勇者の一団』を結成する。

 “魔王領”もまた精鋭を集め、かつて魔王に付き従っていたという『四天王』を揃える。

 『勇者の一団』と『四天王』の戦いを、“王国”と“魔王領”の代理戦争としたのである。

 

「戦いは5年に一度行われます。

 勝った国は、次の戦いが始まるまで負けた国に対し有利な条件で国交を行える、という条件で」

 

「それはまた――」

 

 ある意味、合理的だ。

 戦争という大量消費を行わずに互いの優劣を決めるのだから。

 ただ、停戦してから数十年が経つというのに、未だ原始的な手段をもとに交流しているというのが、時代錯誤のように感じたが。

 

「ということは、君が襲われた理由は」

 

「はい、私が聖女となるのを疎んだ者の仕業でしょう」

 

「なるほど」

 

 聖女とはつまり国の代表者。

 当然、戦いに勝利した暁には、莫大な名誉を得られるだろう。

 そして古今東西、名誉には権力と金が付随する。

 それを狙う者達もまた、後を絶たない。

 その中に、エルミアが聖女となることに不都合を感じる連中がいた、ということだ。

 

「君の事情は大よそ把握した。

 それで、この後のことなのだが――」

 

「はい。

 そのことに関して、一つお願いがあります。

 どうか旅にご一緒頂けませんでしょうか?

 私は聖女に選ばれておきながら――まだ、このようなことに不慣れでして。

 貴方のような方がいれば、心強いです。

 勿論、お礼はいたします。

 ……その、手持ちの関係で今すぐには無理なのですが」

 

 その申し出は、願ったり叶ったりだった。

 これで、つい先ほど亡くなった男との約束を果たすことができる。

 だが――

 

「いいのか?

 今さっき出会ったばかりの男を信用するなんて。

 俺が、君を襲った奴らの仲間だとは考えないのか?」

 

「これでも、人を見る目には自信があります。

 それに、貴方が私を殺すつもりであったのなら、とっくに私は主の元へと旅立っていたことでしょう」

 

「……それもそうか」

 

 いや、別に狙われるのは命とは限らない。

 女性であれば、その肢体を狙われることだってあるのだ。

 ましてやエルミアは人並み外れて端麗な容姿の持ち主。

 寧ろ、命の危機より貞操の危機に晒されることを警戒した方がよいだろう。

 

(藪蛇なので、指摘はしないけれども)

 

 青年にそのつもりは全く無いので、この場においては問題ない。

 女性を無理やり手籠めにするなど、男として最も唾棄されるべき行為だ。

 ……絶世の美少女と共に旅をしたいという下心が、無いとは言い切れないが。

 

「君が良いと言うのなら、俺から異論はない。

 実のところ、ギリーという男からも君のことを頼まれていてね」

 

「本当ですか!?

 ありがとうございます!」

 

 満面の笑みを浮かべるエルミア。

 

(――っ!!!)

 

 青年は、危うく卒倒しそうになった。

 これまでの仕草でも大分頭をくらくらにやられてきたのだが、エルミアの笑顔の愛おしさと来たら!

 彼女の華奢な体を抱きしめたい欲求に駆られるが――

 

(止めろ!!

 何を考えているんだ、俺は!!

 情けないにも程がある!!)

 

 精神力で、卑しい欲望を吹き飛ばした。

 その葛藤の中、エルミアが話しかけてくる。

 

「そういえば。

 貴方のお名前を、教えて頂けませんか?」

 

「え?

 あ、そうか、まだ名乗っていなかったな」

 

 とんだ失態だった。

 これだけ相手のことを聞いたというのに、まだ自分の名前も教えていなかったとは。

 

「俺は、ヴィル。

 家名は特にない。

 ただの、ヴィルだ」

 

「……ヴィル」

 

 エルミアは目を閉じ、青年の名を繰り返した。

 

「では、ヴィル様――」

 

「様付けはよしてくれ。

 そんな柄じゃない。

 ヴィルと呼んでくれればいい」

 

「……分かりました、ヴィル。

 貴方も、私のことはエルミアと呼んで下さいね」

 

「ああ、そうさせて貰おう。

 じゃあ、早速出発しようと思うが――準備はいいか、エルミア?」

 

「――はい!」

 

 エルミアの元気な返事を受け、ヴィルは街道を歩きだした。

 その後を少女が――

 

「――ん?」

 

 着いてきていなかった。

 エルミアは動くことなく、先程と同じ場所に居る。

 

「どうした?

 身体でも悪いのか?」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

 心配になって聞いてみたが、ニコニコと笑みを浮かべてエルミアは否定した。

 

「そ、そうか、それならいいんだ。

 じゃあ、改めて行こうか」

 

 再び、ヴィルは出立する。

 ――が、十歩ほど歩いたところで踵を返した。

 少女はまたしてもじっとしている。

 

「なんだ?

 本当に、大丈夫か?

 まだここに何か用があるのか?」

 

「いいえ?」

 

 少女はまたしても否定する。

 否定はするが、しかし動かない。

 

「…………」

「…………」

 

 じっと見つめ合う。

 ヴィルは怪訝な顔で。

 エルミアは、微笑んで。

 

 そのまましばし。

 少女はようやく笑顔を消し、きょとんと不思議そうな表情をして、呟いた。

 

「――あれ?

 ひょっとして私、自分で歩かなくちゃいけないわけ?」

 

「はぁ?」

 

 突然の豹変に、ヴィルは素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 本性(H)

 

 

「だるーい。

 足疲れたー。

 おんぶー。

 だっこー」

 

「……黙って歩きなさい」

 

 駄々をこねる少女――エルミアを宥めながら。

 青年――ヴィルは、自分の中の少女像が脆くも崩れ去っていくのを感じた。

 

 彼女は、さっきからずっとこの調子だ。

 数歩歩いては泣き言を漏らし、数歩歩いては我が儘を言う。

 そこに、出会った当初(本当に最初だけだったが)の面影は残っていない。

 

(俺のときめきを返して欲しい……)

 

 勝手にときめいたのだから、彼女に責任は無いとはいえ。

 それでも、この変貌っぷりはあんまりだった。

 誰が、あの“聖女”然とした姿から、この有様を想像できるというのか。

 

「あー、もう足が棒になっちゃった。

 ねえ、困ってる女の子を放っておいてもいいのー?

 少しは助けてあげようって思わないのー?」

 

「……黙って歩きなさい」

 

 ヴィルの口調には大分疲れがでてしまっていた。

 

 ちなみに散々文句を言われているが、彼女の荷物が入った大袋はヴィルが持たされている。

 いったい何が入っているのか深く詮索するつもりはないが、結構な量と重さだ。

 いま彼女が持ってるのは、愛用しているという杖一本だけ。

 しかし、荷物持ちだけではエルミアを満足させるに足らなかったようだ。

 

(……そういえば、墓を作った時も働いてたのは俺だけだったような)

 

 思い返す。

 あの時は特に気にしなかったが、エルミアは指示を飛ばしていただけだった。

 まあ、指示というよりお願いに近い形ではあったが。

 

(力仕事だし、親しい人が亡くなったショックもあるだろうからと、俺一人でやることに異論はないが)

 

 その時既に、“このこと”の片鱗を見せていたのかもしれない。

 

(まさか、あの覆面連中が義の勇士で、エルミア達が聖女の利権を欲していた、なんてことは無い、よな)

 

 不安がよぎる。

 

 無い。

 いくら何でも、それは無い。

 奴らはいきなりヴィルを殺そうとしたのだから。

 

 きっと無い。

 無い、はず。

 

(無いと、いいなぁ)

 

 最後の方は希望を込めて、そう願う。

 そうこうしてる間にも、エルミアの愚痴が耳に入ってくる。

 

「ていうか、考えてみればこんな可愛い女の子を背負えるとか、ご褒美と言ってもいいんじゃないかしら?

 ほら、報酬の前払いってことで私を背負ってよー」

 

「 黙 っ て 歩 け 」

 

 ここのやりとりだけ切り取ると、まるでいたいけな女の子を無理やり歩かせている冷血漢に見えるかもしれない。

 弁解しておくと、別にヴィルとて“本当に”エルミアが疲れているのであれば、ちゃんと配慮するつもりなのだ。

 しかし様子を伺い見るに、あれこれ文句を垂れているものの、彼女はまるで疲れている様子は無かった。

 足取りもしっかりしているし、顔色も良い。

 つまりエルミアは、“ただの我が儘”で駄々をこねているというわけで。

 

(……我が儘に付き合う気にはなれない)

 

 仮定の話だが。

 もし、エルミアが“最初のまま”であったならば、むしろ喜んで背を貸していたかもしれない。

 ヴィルとて健全な男性である。

 合意があるのであれば、多少そういう“恩恵”に預かりたい気持ちだってある。

 

 ――ただ。

 今の彼女相手にそれをしてやる気持ちは、失せ果てていた。

 

(猫を被り過ぎだろう、この女)

 

 そして猫被りを終わらせるのが、早すぎだった。

 いっそ、ずっと猫を被っていて欲しかった。

 そうであったならば、彼女を王都は届けるという目的へもっと意欲的に取り組めただろうに。

 

 

 ……この時、ヴィルは知らない。

 エルミアはこれでもまだ、自分の本性を明かしていないのだ、ということを。

 

 

 

 

 

 

「……今日はここで一休みするとしよう」

 

 荷物を降ろしながら、ヴィルはエルミアに話しかける。

 ここは、簡易な休憩所だ。

 そんな大層なものではなく、雨風がなんとか凌げる程度の、安い作り小屋といったところ。

 この国の街道にはところどころ、こういう建物が設置されている。

 まだ明るくはあるのだが、ここより先の休憩所には日が暮れるまでにたどり着けないだろう。

 

「結局おんぶするんだったら、最初からしてくれればよかったのに……」

 

 横ではエルミアがぶーたれている。

 そう、ヴィルは最終的に根負けし、彼女を背負うはめになったのだ。

 やはり男という生き物は女に勝てないものなのか。

 

(……まあ、ひょっとしたら。

 ひょっとしたら、俺が気づけなかっただけで本当に歩けない状況だったのかもしれないし)

 

 そうやって、自分を誤魔化す。

 背負った時の彼女の感触が、未だ鮮明に残っているのも内緒だ。

 ……実に柔らかく、すべすべして、暖かい手触りだった。

 

(忘れろ! 忘れろ! 忘れろ!!)

 

 エルミアに気付かれぬよう、心の中だけで自分を叱咤し、必死にその時の“思い出”をかき消す。

 彼は邪なことを目的に少女に随行したわけではないのだから。

 

 心を落ち着かせる意味も込めて、ヴィルはテキパキと宿泊の準備をする。

 休憩所は余程人通りの多い街道にある物を除いて、メンテナンスなんてされていない。

 埃塗れなのは当たり前。

 下手するとよく分からない――分かりたくない(・・・・・・・)“汚れ”があちこちについていることもある。

 ヴィル一人であれば気にしないのだが。

 

(今は、女の子がいるからな)

 

 ベッドも布団も用意されていない場所だ。

 箱入り娘(明言されたわけではないが、そうとしか思えない)のエルミアには、かなり辛いはず。

 せめて、清掃くらいはしておこうと考えたわけで。

 

 ヴィルは道具袋の中から掃除に使えそうな布切れ等を取り出しながら、エルミアに告げる。

 

「今から掃除をする。

 少しの間外で待っていてくれ」

 

「ん? 別にそれ位なら私も手伝うわよ。

 これから寝るところだしね」

 

「……そうか?」

 

 打って変わって、エルミアは協力的だった。

 汚いところで寝ることへの嫌悪感が、掃除の面倒くささを上回ったのか。

 

(……まあ、女の子だからなぁ)

 

 男である自分とは、感覚が違うのだろう。

 寝床の清潔さには譲れないものがあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 日が沈みかけ、そろそろ辺りが暗くなり始めた頃。

 元々小さい小屋であったため、そう時間はかからず掃除は終了した。

 それでも、辺りは大分暗くなってしまっていたが。

 小屋には簡易な暖炉のようなもの(暖炉と断言するにはお粗末過ぎる)があったので、そこに火をくべて灯代わりにしている。

 

「こんなものでいいか?」

 

「うん、まずまずね」

 

 エルミアからも許しが出た。

 2人でやった甲斐もあってか、それなりに小奇麗にすることができた。

 根本的におんぼろなのは直しようが無かったが。

 

「さて、適当に寝床を用意するか」

 

 ヴィルは道具袋を探り、毛布を取り出す。

 これを床に敷けば、寝床の完成だ。

 

 エルミアが眉をしかめた。

 

「何それ、薄いしぼろっちぃし」

 

「ほっとけ。

 これがあるだけでも大分違うんだ」

 

「ふぅん」

 

 生返事をすると、エルミアはエルミアで自分の荷物を漁り出す。

 取り出したのは、直方体の白い物体。

 それを床に置き、何やら呪文を唱えると、みるみる物体が膨らんでいく。

 そして、見るからにふかふかとした、マットが出来上がった。

 

「……なんだそれ?」

 

「何って、マジックアイテムの携帯用ベッド」

 

「そんなものが入っていたのか……」

 

 高価な魔法の品で、寝具を用意しているとは。

 流石、聖女様といったところか。

 

(色々物申したいところだが――まあ、寝る場所にもアレコレ注文つけられるよりましか)

 

 夜が更けてきたこともあり、ヴィルは自分の敷いた毛布に腰を下ろすと、

 

「さて、そろそろ休もう。

 早朝から出立しなければ、次の街に着けないからな」

 

 就寝をエルミアに促す。

 彼女は驚いた顔をして、

 

「え、貴方、そっち(・・・)を使うの?」

 

「ん?」

 

 ヴィルは聞き返す。

 

「おいおい、まさか、君はこっちの毛布を使いたいとでも言うのか?」

 

「まっさかー。

 私は断然こっちよ」

 

「そうだろう」

 

 だったら、ヴィルは毛布を使うしかない。

 話を終わらせて寝そべろうとした彼に、しかしエルミアはなお食い下がった。

 

「ヴィルは、ベッドを使いたくないの?

 凄く寝心地いいのよ、これ」

 

「使いたいかどうかと言われれば、そりゃ使ってみたいが」

 

 柔らかいベッドというものには、ここ最近まるで縁がない。

 久々にそれを味わってみたいという思いは一応ある。

 

「だが、それは君が使うんだろう?」

 

「ええ」

 

「だったら、私は毛布だ。

 何の問題もない」

 

 言い切る。

 だが、彼女は不思議そうに疑問符を浮かべる。

 

「どうして?」

 

「いや、どうしてって」

 

 どうにも話が嚙み合わない。

 結論はとうに出ているはずなのだが。

 

「君は、ベッドを使う。

 俺は、毛布を使う。

 お互いそれに不満がないのだから、この話はこれで終わりだ」

 

「でも、ヴィルはベッドの方がいいんでしょ?」

 

「ベッドは君のだろう」

 

「2人で使えばいいじゃない」

 

「…………は?」

 

 一瞬、エルミアの言ったことが理解できなかった。

 一方で彼女はベッドをぽふぽふと叩いて、

 

「貴方と私で使っても、狭くは無いでしょ、これ。

 毛布とか窮屈でしょうがないんじゃない?」

 

「……大きさだけで見ればそうだが」

 

 エルミアのベッドは大人が2人寝ても十分な広さだった。

 それこそ、毛布で寝るよりもスペース的には大きい位だ。

 しかし――

 

「だ、駄目だろう、それは!」

 

「なんで?」

 

「なんでって!

 ほら、あれだ、年頃の男女がだな、同じ寝床で寝るというのは――」

 

 言ってて、恥ずかしくなる。

 まさかこんなところでこんな内容の説教をすることになるとは思わなかった。

 

 ヴィルの言葉を受けて、エルミアは少し俯き――

 

「――私と一緒が、嫌ってこと?」

 

「そんなわけないだろう!――――あ、いや、違う」

 

 つい、本音を漏らしてしまった。

 そりゃあ、こんな可愛い美少女と一緒に寝られるなんて、男として嬉しいに決まっている。

 嬉しいんだけれども、そこは大人として踏みとどまらなければならないのだ。

 しかし、エルミアにその理屈は通じないようで。

 

「だったら、いいじゃない」

 

 笑いながら、そんな言葉を投げかけてきた。

 

「……うっ」

 

 その笑顔に、ヴィルは何も言えなくなってしまう。

 この一日で散々我が儘言われて振り回されたとはいえ、一度は本気で恋に落ちかけた少女の微笑みだ。

 どうしたって、心が高鳴ってしまう。

 

(――ひょっとして、俺が気にし過ぎなのか?)

 

 エルミアは、“男女の関係”についての知識が無いのかもしれない。

 彼女の境遇から見れば、ありうる話だ。

 教会では、淫らな行為を厳しく制約されていると聞く。

 男と一緒に寝るということの意味自体が分からず、ただ純粋な厚意で自分にベッドを勧めているのか。

 

(彼女からしてみれば、俺は無碍に厚意を断っているように見えているのかも)

 

 だとすれば。

 一緒に寝た方がいいのだろうか。

 

(実際問題として、そうしたところで彼女に危険は無いわけだし)

 

 当然である。

 ヴィルは、指一本エルミアに触れようとは思わない。

 いや、彼女を背負った時にはあちこちに触れてしまったが、アレは不可抗力だ。

 自分からそんな卑猥なことをすることなど無い。

 ヴィルは、それ程愚かな男では無いのだ。

 

「……分かった。

 じゃあ、お言葉に甘えて俺も使わせてもらおう」

 

「はいはい。

 全く、面倒な男ね。

 素直じゃないんだから」

 

 呆れた口調で言い放つエルミア。

 ヴィルはそれに肩を竦めつつ、ベッドの上に座る。

 すると、ベッドは彼の身体を包み込むように優しく変形した。

 

「おお。

 確かに、いい塩梅だ」

 

 寝心地もさぞかしいいことだろう。

 早速、ごろんと横になってみる。

 

(……ほう)

 

 案の定、全身がふかふかの感触に包まれる。

 これで寝れば、一日の疲れなどすぐに取れそうだ。

 

「どう?

 いいでしょ、このベッド」

 

「ああ、最高だ」

 

 嘘偽りなく、そう思う。

 

「うんうん。

 じゃあ――」

 

 エルミアはヴィルの言葉にこくこく頷いてから。

 彼の上に(・・・・)その小さな身体を(・・・・・・・・)乗せてきた(・・・・・)

 

 

 

 

「…………はい?」

 

 状況が理解できない。

 ヴィルは今、ベッドの上に仰向けで寝ている。

 その()に、エルミアがうつ伏せで寝そべってきた。

 互いに見つめ合いながら、身体を密着させている。

 

 絹糸のような銀髪がヴィルの顔にかかり。

 澄んだ瞳が間近に迫り。

 瑞々しい唇が、すぐ傍にある。

 女性特有の甘い匂いが、鼻孔を刺激した。

 

 身体全体に、彼女の“柔らかさ”が伝わってくる。

 胸の、お腹の、腰の、太ももの。

 ベッドの感触とは、比較もできない“気持ち良さ”。

 

 ヴィルの心臓が、どくんどくんと音を立てる。

 頭に血が集まり、顔がぐんぐん熱くなっていく。

 

「お、おい、エルミア。

 何の、つもりだ……?」

 

「何って……分からないの?」

 

 分からない。

 いや、違う。

 ここから想像できることは、ある。

 だがそれは、通常ありえないことなのだ。

 

「ば、馬鹿なことは、止めて――早く、どきなさい。

 お、俺を、からかうのも、ほどほどに、しろよ?」

 

 窘めようとするも、言葉が上手く出ない。

 彼女の吐息が顔にかかる程、接近しているのだ。

 しかし、エルミアの方は実に平然としていて。

 

「何よ、本当に素直じゃないのね。

 したいんでしょ、セックス」

 

「セッ――!?」

 

 いきなり出た単語に、心底度肝を抜かれた。

 

「き、君はいったい何を言って――!?」

 

「はいはい、皆まで言わなくとも分かってるって。

 貴方が、私の身体目当てにしてるってことは」

 

 小悪魔めいた笑みを浮かべて、少女はそう言った。

 

「ち、違う、俺は――」

 

「へえ、違うんだ?

 だったらさ――」

 

 彼女はヴィルの上で、もぞもぞと動いた。

 

「どうしてここ(・・)は、こんなにも固いのかなー?」

 

 股間を、エルミアが触ってくる。

 青年のそこは、言い訳不可能な程に強く勃起していた。

 

「うわぁ、ズボンの上からでも熱くなってるのが分かっちゃう。

 私を犯したくて仕方ない、って感じ?」

 

 優しい手つきで愚息を擦る少女。

 ヴィルは、掠れた声でどうにか言葉をひねり出す。

 

「エルミア、何で、急に、こんなことを――?」

 

「んー?

 ほら、私って教会育ちだから禁欲生活が長いの。

 エッチなこととか、ぜーんぶ禁止にされちゃってんのよ?

 せっかくその束縛が無くなったんだから、この機会にそれを堪能しなくちゃ損でしょ」

 

「そ、損って――!?」

 

 急に喋れなくなる。

 エルミアの唇が、ヴィルの口を塞いだのだ。

 

「んっ…んっ…んんっ…ちゅっ…んぅう…」

 

 激しく吸い付いてくる。

 瑞々しい感触が口周辺に広がる。

 さらに彼女は、口の中に舌を潜り込ませてきた。

 

「ん、んっ…ちゅるっ…れろ…ん、んんっ…」

 

 ディープキス。

 ヴィルの舌が、エルミアの舌と絡まる。

 凄く繊細で、滑らかだ。

 2人の唾液が混ざり合い、ぴちゃぴちゃと音を立てる。

 それが、数十秒、続く。

 

「……んふぅ」

 

 ようやく彼女は、口を離した。

 満足げに、舌で唇を舐める。

 その姿は、酷く妖艶だった。

 

「どう? その気になった?」

 

 言いながら、エルミアはヴィルのズボンに手をかけた。

 慣れた手つきでベルトを外し、彼の股間を露出させる。

 

「あはっ、おっきぃー。

 何よ、こんなに興奮しちゃってたの?」

 

 直に剛直を触りながら、エルミアはにんまりと笑う。

 ――そこが、我慢の限界だった。

 

「――きゃっ!?」

 

 身体をブリッジし、無理やり彼女を除ける。

 マウントを取られていようと、所詮は少女の体格。

 行為の実行は、いとも容易いものだった。

 

「ちょ、ちょっと――」

 

 戸惑うエルミアをベッドに転がし、両手で彼女の身体を抑えつけ、上に覆いかぶさった。

 先程とは、上下が逆になった形だ。

 ヴィルは、少女の目を覗き込みながら、言う。

 

「……そっちから、誘ってきたんだからな」

 

「――あ」

 

 彼女が何か言うよりも早く。

 ヴィルは、エルミアの唇にしゃぶりつく。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 誘われて(H)

「んんっ!?」

 

 再度行われる口づけ。

 先程との違いは、互いに(・・・)求め合っている(・・・・・・・)ということだろうか。

 

「んっ! んちゅっ! んんっ! あっ! あふっ! んんっ!」

 

 ヴィルも、エルミアも。

 少しでも相手を味わおうと、懸命に舌を動かした。

 青年の舌が少女の口内を、少女の舌が青年の口内を、それぞれ蹂躙していく。

 

「んっ! れろ、れろっ――んんっ! んっ! んっ!!」

 

 エルミアの顔が、たちまち蕩けていった。

 彼女の身体から力が抜けていく。

 

「あ、あふっ! あっ! れろ、えろっ――んふっ! んんっ! ん――っ!!」

 

 十分にキスを堪能したヴィルは、標的を変更する。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――あ?」

 

 エルミアが身に着けているドレスをずり下ろし、胸を露わにする。

 純白のブラジャーに包まれたおっぱいが、姿を現した。

 あどけなさのある顔立ちに反して、“そこ”は十分に育っている。

 

「……綺麗だな」

 

 一言零してから、ヴィルはブラジャーを力任せに外した。

 ひょっとしたらどこか壊れてしまったかもしれないが、それに気遣う余裕はもう無い。

 

 下着を無くしてなお、エルミアの胸は綺麗な形を崩さなかった。

 先端は、薄い桜色。

 初雪のような白さを持つ肌との対比が、実に美しかった。

 

 ヴィルはその双丘の片方を揉み、片方を舐める。

 

「あっ! あ、ああっ! あぁああんっ!」

 

 喘ぎ始めるエルミア。

 

 彼女のおっぱいは柔らかく、それでいてしっかりとしたハリを持っていた。

 まるで、手に吸い付いてくるような感触。

 

 同様の感覚が、舌にも伝わってくる。

 突けばプルンと揺れ、しかしすぐ元に戻る。

 極上のデザートを味わっているかのように錯覚してしまう。

 

「気持ち、いい…! あ、ああっ! 気持ち、いいよぉ…! ああんっ!」

 

 うっとりとした少女は口調で呟く。

 

「ヴィル、乳首も――あっあっ――乳首も、弄ってぇっ!」

 

 言われるまでも無かった。

 胸の先端を、指で抓み、口で吸いだす。

 

「はぁああああんっ! あっ! ああっ! ああぁあぁああっ!!」

 

 エルミアはさらに甲高い嬌声を上げた。

 乳首は既にコリコリに固くなっており、彼女が感じていることを如実に表している。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 ――ああぁああああああっ!!!?」

 

 艶声が大きくなる。

 ヴィルが、乳首を噛んだからだ。

 さらに増した刺激に、彼女の性感は昂っていった。

 

「あっ! あっ! 凄いっ! あっ! あっ! 凄いのっ!

 もっと! もっと! 気持ち良くしてぇっ!!」

 

 故意なのか、無意識なのか。

 エルミアは自らの股間を、青年の身体に擦り付けてくる。

 その“意図”が分からない、ヴィルではなかった。

 

 おっぱいへの責めは続けたまま、空いている手を彼女のスカートの中へ突っ込むと、そのまま股間を弄ってやる。

 

「――ああぁああっ!!!」

 

 欲していた快感を与えられ、エルミアは嬉しそうに喘ぐ。

 彼女の股は、もう愛液でびちょびちょだった。

 少し弄るだけで、水音がたってしまう程に。

 

「はぁんっ! ああっ! ああっ! んぁあああっ!!」

 

 胸と股間を同時に責められ、感極まった声を出すエルミア。

 このままいけば、すぐに絶頂するだろうが――

 

(――駄目だ!)

 

 それではヴィルが満足できない。

 もう彼の男根はどうしようも無くそそり立ち、早く女へ入りたい(・・・・・・・・)と訴えかけてきているのだ。

 コレを突き立てる前に、彼女にイかれてしまう訳にはいかない。

 

 ヴィルは、一旦彼女を責める手を止めた。

 身体を少しだけ彼女から離す。

 そうした方が、“作業”しやすいからだ。

 

「あ、ん―――?

 はぁっ……はぁっ……ど、どうしたの?」

 

 訝しむ彼女を無視して、スカートを捲り上げた。

 ブラジャーに同じく、純白のショーツが視界に入った。

 高級そうな、シルクの下着だ。

 

 だがそれを鑑賞する暇は、ヴィルに無かった。

 股間は痛い程に勃起し、彼をせっついてくる。

 今、用があるのは、その中身(・・)なのだ。

 

 ショーツを、乱暴に脱がす。

 

「――んぅっ」

 

 ヴィルが何を求めているのか、エルミアも分かっているのだろう。

 彼女は促されるまでも無く、股を開いてきた。

 

 濡れそぼった女性器をじっくりと見る間も無く、青年は再びエルミアの上にのしかかる。

 数秒でも早く、彼女を感じたいのだ。

 少女の耳元に口を近づけ、そっと囁いた。

 

「――挿れるぞ」

 

「――うん、来て」

 

 それを合図に。

 ヴィルは自らの愚息を、一気に膣内へと侵入させた。

 彼の股間が、暖かい感触に包まれた。

 

「―――――あっっっ!?」

 

 エルミアの身体が硬直する。

 直後、ビクッビクッと小さく痙攣しだした。

 

(……これは、まさか)

 

 ヴィルの頭に、ある可能性が浮上する。

 

「……イっちゃったのか?」

 

「あ、うっ――ご、ごめんっ――こ、これ――凄くって――」

 

 涙を流しながら、息も絶え絶えに答えるエルミア。

 本当に挿入しただけで、絶頂してしまったらしい。

 

(そういえば、禁欲生活が長いと言っていたな)

 

 久しぶりの快感で、あっという間に気をやってしまったのだろう。

 ただ、彼女がイったからと言って、ここで止まるわけにはいかなかった。

 

「動くからな」

 

「――え?」

 

 聞き返してくるエルミアに何も答えず。

 ヴィルは、腰を振り出した。

 

「あ、あぁあああああっ!!!」

 

 絶頂したばかりで敏感になっているのか、叫んでいるかのような喘ぎが彼女から飛び出す。

 表情が歪み、苦しいような、それでいて気持ちが良さそうな、絶妙な顔つきとなる。

 それがまた、素晴らしいほど淫猥であった。

 

「あっ!! あっ!! あひっ!?

 ヴィルっ!! 待って!! あぅっ! ああっ! ちょっと待ってぇっ!! あぁあああんっ!!」

 

 懇願されるが、止まらない、止められない(・・・・・・)

 最早、ヴィルの意思でもこの行為を中断できなくなっていた。

 

(……なんだ、これは!

 この、快感は……!!)

 

 エルミアの膣は絶品だった。

 男根全体に絡みつき、締め付け、扱きあげてくる。

 気を抜けば、あっという間に絶頂へ導かれてしまいそうだ。

 

 ヴィルの思考と無関係に、彼の身体は快楽を求めて動いていた。

 

「あぁああっ! ああっ! やぁあああっ!!

 私、イクっ!! また、イっちゃうぅううっ!!!」

 

 どうしようもない悦楽を与えられているのは、エルミアも同じの様だ。

 イったばかりだというのに――いや、イったばかりだからか――もう次のオーガズムが押し寄せてきているらしい。

 

 彼女の表情から、“苦しさ”はもう抜け落ちていた。

 ただただ恍惚と喘ぐ、女の顔だ。

 “聖女”が決してしてはならない、雌の顔だ。

 

「ああ、いいぞ。

 イケっ! エルミアっ!

 また、イクんだっ!!」

 

 彼女の嬌声が、ヴィルのピストン運動を加速させる。

 早く動かせば動かす程、エルミアの膣はより強い快楽を与えてくれた。

 

「あぁあああああっ!!

 凄いっ!! 凄すぎるのっ!!

 ヴィルのおちんぽ、おっきすぎて――深いぃっ!!

 あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 エルミアが抱き着いてくる。

 止めどなく与えられる快感に堪えきれないのか、抱きしめる腕には強い力がかかっていた。

 

「叩いてるぅっ!! ヴィルが、私の奥、ガンガン叩いてるぅっ!!

 も、ダメっ! イクっ! イクのっ! 私っ! イクっ!!」

 

「ああ、イケっ!!

 俺も、イクぞっ!!」

 

 絶頂に達しそうなのは、ヴィルも同じこと。

 女性器による快感は股間から脳に伝わり、我を忘れさせていた。

 今の青年は、ただの腰振り人形だ。

 

 ――そして、享楽を貪る2人は、同時に“終わり”を迎えた。

 

「さあ、イケっ!! イケっ! イケっ!! イケぇっ!!」

 

「あうっ!! あっ!! あっ!! イクっ!! イクっ!!

 イク、イク、イク、イク、イクぅううううううううううっ!!!!!!」

 

 エルミアは、全身を仰け反らせ、硬く強張る。

 ヴィルは、彼女の最奥へ精を解き放った。

 

「あっ――あっ――あっ――あっ――」

 

 オーガズムの余韻で、彼女は白目を剥きながらビクンッビクンッと大きく震える。

 そしてエルミアが痙攣する度に、膣は強く締まり――

 

「……う、ぐっ」

 

 ヴィルの精液を、一滴残らず搾っていく。

 まるで、連続で射精しているかのようだ。

 

「あっ――あっ――あっ――あ――――――――」

 

 幾度目かの痙攣を終えたところで、エルミアは脱力し、動かなくなる。

 

「…………」

 

 ヴィルもまた、疑似的な連続絶頂で体力を奪われ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めて。

 

「……やってしまった」

 

 ヴィルは、頭を抱えた。

 

 日はもう高く上がっている。

 出発の予定時間は、とっくに過ぎていた。

 

(まさか、あんなに熱中してしまうとは――)

 

 仕方がない。

 心が高鳴る程に好みな外見の女の子と、致したのだ。

 時が経つのを忘れてしまうのも、仕方がないことなのである。

 

「と、とにかく、エルミアを起こさなければ――」

 

 横で寝ている彼女を揺さぶる。

 その時。

 

「あーーーーーっ!!!?」

 

 絶叫する。

 あり得ないモノを、見てしまった。

 

「ふぁあああ……

 おはよ、ヴィル。

 どうしたの、大きな声出して?」

 

 その叫びで、エルミアは起きたようだ。

 だが、ヴィルはそれどころでは無かった。

 

「き、君っ! 君は――っ!!」

 

 見つけたモノを指し示しながら、

 

「――しょ、処女、だったのか!?」

 

 ……ヴィルが見たモノ。

 それは、ベッドに付いた“血”の染みだった。

 ちょうど、昨夜“行為”をしていたところに付いている。

 それが意味するもの。

 つまり――彼女は、“初めて”だったということ。

 

 昨夜、イチモツを挿入した際、彼女が震えたのも、涙を流したのも。

 ――絶頂したからではなく、破瓜の痛みに耐えてのものだったのだ。

 

 しかし、動転するヴィルをよそに、エルミアは涼しい顔だ。

 

「そうよ。

 分からなかったの?」

 

「分からなかったって――分かるわけないだろう!?

 そっちから誘ってきたんだし、やたらと手慣れてたし!!」

 

「本とか読んで練習してたの。

 あとはこう、杖を使って、こんな感じに――」

 

「おい止めろ!?

 仮にも神聖な代物使ってナニしてんだ!!」

 

 エルミアが杖で“実演”しようとしだしたので、慌てて止める。

 

「だいたいね、私は聖女なのよ?

 ただでさえ教会はエッチなことにうるさいし。

 “そういうこと”する自由なんて無かったんだってば」

 

 あっけらかんとした物言いだ。

 

「いやー、でも、私の才能も大したもんよね。

 処女だってことに気付かれなかったんだから」

 

「……そ、そういう問題じゃなくてだな」

 

 ただ自分が慌てているだけの現状に、脱力を感じながら。

 しかし、ヴィルは彼女に問い質す。

 

「君は、初めてが俺なんかで、良かったのか」

 

「――貴方だから、良かったの」

 

「っっっっ!!?」

 

 その言葉は。

 青年を一瞬で撃沈させるに十分な破壊力だった。

 しかし、

 

「貴方のちんぽ、凄く気持ちよかったからねー。

 オナニーとは偉い違い!

 もう、オナニーじゃ満足できないかも♪」

 

「いきなりはしたない話になるなよ!!」

 

 頬を染めて身体をくねらせるエルミアに、ツッコミを入れる。

 なんかこう、色々とダメだ、この女は。

 

「ねぇ――私の、“初めての男”になった気分はどう?」

 

「――っ!?」

 

 いきなり聞かれ、言葉に詰まってしまう。

 

「あはははは、わっかりやすーい!

 そんなに嬉しそうな顔しなくったって♪」

 

「や、やかましい!!」

 

 怒鳴る。

 怒鳴って、誤魔化す。

 

「と、と、とにかく!

 もう予定時刻は大幅に過ぎているんだ!!

 すぐ、出発するぞっ!!!」

 

 気恥ずかしさや、情けなさ――そして、“嬉しさ”を隠すため、敢えて大声で宣言する。

 

「ええー、もう?」

 

「今から行けば、宿場町は無理でも次の休憩所には無理なく到着できるんだ!」

 

「休憩所だったら、ちょい余裕があるんじゃない?

 処女卒業の記念に、もう一回くらいヤっときましょうよ。

 昨日は、最後の方わけわかんなくなっちゃったから」

 

「するかぁっ!!!」

 

 申し出を一蹴する。

 するとエルミアは、急にしおらしくなって――

 

「――私を抱いては、下さらないのですか?」

 

「っっっっ!?!!?」

 

 “聖女”の顔だった。

 出会った最初に見た、ヴィルが本気で一目惚れした、あの少女の顔だった。

 その少女が、自分を抱いて欲しいと、潤んだ瞳で懇願している。

 

「…………………する」

 

 ヴィルは、陥落した。

 

「あはは、この正直者め。

 じゃ、時間も無いことだし早速ヤりましょ!」

 

 笑顔でエルミアが抱き着いてくる。

 その肢体の柔らかさに、青年の愚息は勝手に勃起し始めた。

 

「……畜生。

 畜生ーーーーっ!!!」

 

 そんな叫び(敗北宣言)と共に。

 ヴィルは、エルミアを押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず。

 日が暮れる前に、次の休憩所には辿り着けたことを、最後に記しておく。

 

 

 

 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定
登場人物紹介※


■ヴィル

 一人、自由きままな旅を続ける青年。

 黒いぼさぼさの髪に、少し鋭い目つきが特徴と言えば特徴の、極々平凡な男。

 性格はやや冷めた部分があるものの、弱きを見捨てず、悪を見過ごさぬ、強い正義感の持ち主でもある。

 聖女エルミアに一目惚れし、彼女と共に王都を目指すことになる。

 しかし、彼女の本性は見抜けなかった……

 

 ちなみに、3年前に悪竜ベルトルを斃し、“魔竜戦役”を終結させた大英雄ヴィルバルト・グルムバッハ将軍に瓜二つの容姿をしているが、ただの他人の空似(本人談)。

 

 

・ステータス

 性別:男

 身長:185cm 体重:78kg

 Lv:99

 職業:将軍(ジェネラル)

 装備可能武器:全種類

 使用可能魔法:全系統

 

 

 

 

■エルミア=ウォルストン

 

【挿絵表示】

 

 

 神に仕える“王国”の聖女。

 幼き頃より聖女となるための教育を受けており、やや世間の常識に欠けるところがある。

 しかし、誰もを惹きつける美貌に、清楚な雰囲気纏い、その立ち振る舞いは“聖女”そのもの。

 ヴィルも、一目で彼女に惚れてしまう。

 現在、聖女として『勇者の一団』へ加わるため、王都へ向かっている最中。

 

 一見して清らかな超美少女だが、その実態はエロが思考の大部分を占める変態女。

 常日頃からヤりたくてヤりたくて仕方がない。

 教会での禁欲生活の賜物である。

 

・ステータス

 性別:女

 身長:155cm 体重:秘密♪

 Lv:25

 職業:聖女(セイント)

 装備可能武器:杖、メイス

 使用可能魔法:広範囲攻撃魔法

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ヴィルバルト・グルムバッハ

 “帝国”の将軍。

 西方山脈に巣食う竜が一斉蜂起した“魔竜戦役”を終わらせた、誰もが認める英雄。

 部下の面倒見が良く、分け隔てなく誠実であり、我欲は無く、一心に国へ忠義を尽くす。

 その生き様から、“生まれついての英雄”とまで評された。

 “魔竜戦役”の最終局面におけるヴィルバルト将軍と悪竜ベルトルとの一騎打ちは、“帝国”の住人なら誰もが知る英雄譚となっている。

 ただ、“王国”は西方山脈に接していないため魔竜戦役の被害を受けていないこと、“帝国”と“王国”は中央山脈の影響で交流が少ないこと等の理由で、“王国”での知名度は低い。

 

 なお、1年ほど前から公の場で姿を見せていない。

 その理由は、“国からの密命を受け、今なお巨悪と戦っている”“政権争いに巻き込まれ、暗殺された”“息抜きのため自由気ままな旅に出た”などと噂されているが、どれも推測の域を出ない。

 

 ――色々書かれているが、本編とは無関係な人物である。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 宿場町へ
① 性女の理由


 

 ――例え話をしよう。

 

 ある少女が、恋をしたとする。

 相手は、隣の国の“王子様”。

 会ったのは、幼い頃に一度だけ。

 たったそれだけの出会いで、一目惚れしてしまった。

 

 だが、少女は王女様ではない。

 貴族ですらない。

 とてもじゃないが、“王子様”とは釣り合わない。

 “王子様”も、自分と会ったことなど覚えていないだろう。

 

 でも少女は、諦められなかった。

 少しでも“王子様”に近づこうと、必死に努力した。

 毎日毎日、また“王子様”に会える日を夢見て、ずっと努力を重ねてきた。

 

 そして、少女は国の“代表”に選ばれた。

 

 ――これで“王子様”に会えるかも。

 

 そう喜んだのも、つかの間。

 成功した少女を、周囲が妬みだしたのだ。

 

 少女を亡き者にしようと、放たれる刺客。

 小さい頃から自分の世話をしてくれた“先生”が殺され、次は自分の番。

 少女の人生は、ここで終わり。

 今まで努力は、水の泡。

 

 そんな時。

 全てを諦めきった、その時。

 

 “王子様(・・・)”が助けに来てくれたら。

 悪い奴らをやっつけて、少女を優しく介抱してくれたら。

 

 

 

 きっと、頭がぶっとんでしまう(・・・・・・・・・・)に違いない。

 この千載一遇のチャンスをものにしようと、なりふり構わず、我武者羅に動くに違いない。

 例えば、既成事実とか?

 

 

 

 ――勿論、これはただの例え話だ。

 現実に“王子様”へ憧れる少女など、いない。

 

 ただ。

 ただ、少し。

 

 

 流石に“突っ走り過ぎた”ような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩所での一夜から、さらに1日が経った。

 ヴィルとエルミアの2人は無事、宿場町に――辿り着いていなかった。

 

(……なんでこんなことになってるのかしら?)

 

 エルミアは胸中で愚痴る。

 順調に行っていれば――いや、ある程度もたついていたとしても、今日くらいには宿場町に到着する予定だったのだ。

 なのに、2人はまだ街道に居る。

 何故ならば。

 

「うーむ、数が多いな」

 

 ヴィルのぼやきが聞こえた。

 彼は、呑気にため息をつきながら、襲い掛かる巨狼(バーゲスト)を斬り伏せていた。

 体長が自分の2倍はある、怪物を。

 

 今、彼女達は魔物に取り囲まれているのだ。

 その数、ざっと100は下らない(・・・・・・・・)

 バーゲストの大群である。

 

 バーゲストとは、“王国”に広く分布する魔物だ。

 姿形は黒い毛並みの狼で、しかしただの狼に比べると遥かにでかい。

 まだ子供の頃で1m、成長すれば3,4mにもなる。

 

「……普通、軍隊案件よね、これ」

 

 何となく、声に出して言ってみた。

 

 バーゲストは単体であれば、そこまで強力な魔物というわけではない。

 装備と注意を怠らなければ、一般的な兵士で対処可能だ。

 しかし、奴らは群で行動し、集団で狩りを行う。

 群れた時のバーゲストの危険度は、上位の魔物に匹敵する。

 

 100匹を超えるともなれば、1つの自治体での対処は不可能な程だ。

 領主、或いは国が軍を動かす必要さえでてくる。

 ひょっとしたら、既に討伐隊が組まれているかもしれない。

 何せ、街道を歩いていたらいきなり“こんなの”に出くわしたのだから。

 他にも被害は出ているに違いない。

 

 しかし、そんなバーゲスト達を、ヴィルは――

 

(――気持ちいいくらい、サクサク倒しちゃってるのよねー)

 

 彼が負けるわけ無い(・・・・・・・・・)と分かっていたエルミアであっても、その光景は圧巻だった。

 周りを囲われているというのに、まるでバーゲストの攻撃は当たらない。

 

 振り下ろされる爪を、襲い来る牙を、のしかかる巨体を。

 躱し、流し、受け、捌く。

 そして狼の隙を見ては、剣の一閃で両断する。

 

 吟遊詩人が謡う英雄譚もかくやという活劇っぷりだ。

 ただ――

 

(なんかね、分身とかされるとね、現実感薄れるのよね)

 

 その様は、人間が戦っているように見えないのが玉に瑕だった。

 

 普通、人は2人に分かれたりしない。

 空中で方向転換なんてできない。

 空を走るなんて、もってのほかだ。

 あと、剣の長さより斬った“断面”の方が大きいのはどういうことなんだろう?

 

 たぶん、余りに早く動いているため、残像とか衝撃波とか真空波とか、そういうもののせいでそんな感じに見えているのだと思うのだが。

 

(マジックアイテムも装備してないし、魔法による補助も受けてないし。

 素でアレやってるとか、ありえなさすぎない?)

 

 根本的な話として、残像や衝撃波や真空波を発生させること自体がまず人間離れしてる。

 使っている剣だって、安物ではないものの普通に市販のものだ。

 

 そんな怪物じみたヴィルを見て、エルミアは――

 

(………………格好良い♡)

 

 ――顔を赤く染めていた。

 

 ヤバかった。

 ヤバすぎた。

 今すぐ歓声を上げてしまいたいくらい、感激していた。

 

 “あの人”が戦うところを、こんな間近で見れるだなんて。

 

(――でも)

 

 少し、寂しくもあった。

 やっぱり、“あの人”は自分なんかとは住む世界が違うのだと。

 その現実を、見せつけられているようで。

 

(やっぱり、エッチしかないわね!)

 

 改めて決心する。

 彼をモノにするには、既成事実では足りない。

 英雄色を好むというし、子供の一人や二人で縛ることはできないだろう。

 

 エロだ。

 エロなのだ。

 徹底的にエロエロな目に遭わせて、もうエルミアの身体じゃなきゃ満足できないまでにしなければ!

 

(やってやろうじゃないの……!)

 

 握り拳を作る。

 彼は奥手のようだから(背負って貰ったとき、背中におっぱいを散々押し付けたのに、全く襲ってくる気配が無かった)、自分から徹底的に行くしかない。

 王都へ辿り着くまでに、必ず自分へ嵌らせてみせる!

 

 

 ……とまあ、それはそれとして。

 

 

「まだ、終わらないのねー」

 

 圧倒的な戦力で敵を蹴散らすヴィルであったが、バーゲストの数はそれ程減っていなかった。

 

 理由は明白。

 彼が、エルミアを守りながら戦っているからだ。

 狼を少女に近づかせないことを、倒すことよりも優先している。

 だから、なかなか数が減らない。

 

(それは、凄く嬉しいんだけど)

 

 もう、結構な時間、奴らのために足止めを食らっている。

 バーゲストに出会う前にも、彼らの痕跡を見つけてはルートを迂回していたため、かなり大回りしてきたのだ。

 ……結局こうして遭遇してしまったのだから、いっそ何も考えずに直進してしまっていた方が良かったのかもしれない。

 

 このままでは、今日中に宿場町へ辿り着けない可能性がある。

 

(ただでさえ、昨日は大して進めなかったのに)

 

 その原因の大半はエルミアにあるのだが。

 いや、ヴィルも乗ってきたのだから、半々か。

 

「……私も、手伝おうかな」

 

 幸い、彼女は今だいぶ手隙だ。

 これなら、詠唱に時間のかかる魔法を使うこともできるだろう。

 

「そうと決まれば早速!」

 

 エルミアは目を閉じ杖を掲げ、呪文を唱え始める。

 詠唱が進むにつれ、うっすらとした光が彼女を包みだした。

 

 それに気づいたバーゲストが、エルミアを襲おうとするが、すぐにヴィルに止められる。

 青年もまた、少女が何をしようとしているのか、察したようだ。

 より堅牢に、エルミアを守りだす。

 

 少女の周囲に風が渦巻く。

 放つ光がさらに強さを増す。

 

 ――そして、呪文は完成した。

 

「――<烈火爆撃弾(ブレイズ・バースト)>!!」

 

 結言と共に杖を振り下ろす。

 同時に、天空から一筋の赤い火線が落ちる。

 それは、バーゲストの群れのど真ん中へ着弾し――

 

 爆発。

 

 炎が、風が、瞬く間に拡散し、巨狼達を飲み込んでいく。

 成す術も無く、彼らは焼き焦がされ、吹き散らされる。

 

 そして。

 

「あーーーーーーーーっ!!?!!?!?」

 

 ついでに、バーゲストと戦っていたヴィルも飲み込む。

 青年もまた、爆炎の中へ消えていった。

 

「――あれ?」

 

 きょとんとした顔になるエルミア。

 

「ちょ、ちょーっと、思ったより範囲が広かったような?」

 

 冷や汗を垂らしながら、そう零す。

 やはり、いきなり実戦で初めての魔法を使うのは危険だったようだ。

 

「いやー、怖いわー。

 私の才能が怖いわー」

 

 現実逃避を図るかのように、明後日の方をむいてうんうん頷くエルミア。

 確かに、ぶっつけ本番で最高難易度の魔法発動に成功し、しかも予想より遥かに高い破壊力を叩きだしたのだ。

 少女に才能があるのは間違いない。

 

 ただ、明後日の方を向いていたせいで――

 

「……おや?」

 

 ――少女は、自分にも爆風が迫っていることに、ギリギリまで気づけなかった。

 

 

 戦場にいる者、その全てを、炎は焼き払っていく。

 

 

 

 

 

 

「……ぷはぁっ!!!」

 

 瓦礫を払いのけ、エルミアは立ち上がった。

 けほけほと咳き込みながら、身体を確認する。

 ――どうやら、目立った怪我は無いようだ。

 埃だの塵だので、服や肌が真っ黒になってしまったが。

 

「――ふぅ。

 死ぬかと思った」

 

「それはこっちの台詞だぁああああっ!!!」

 

 エルミアから離れたところで、地面をぶち破りヴィルが姿を現す。

 彼は少女に詰め寄ると、

 

「君はアレか!?

 俺を殺す気なのか!?」

 

「かすり傷一つ付いてないじゃない」

 

 それはそれで信じられなかったが。

 あれだけの破壊を撒き散らした魔法を食らっておいて、青年には傷らしい傷が見当たらなかった(汚れは酷いが)。

 爆心地からかなり離れていたエルミアはともかく、ヴィルはかなり勢いのある炎に巻き込まれたはずなのに。

 ちなみに、バーゲスト達は今ので全滅している。

 

「そういう問題じゃない!!」

 

 彼女の疑問は一瞬で却下された。

 

「君は聖女だろう!?

 もっと、こう、他にあるだろう!!

 俺をサポートする魔法とか!!

 敵を追い払う魔法とか!!」

 

 確かに。

 聖女――というか、教会に使える僧侶は、支援系魔法やら非殺生の魔法やらを得意とする。

 

「あー、うん、支援魔法ねー。

 私、それ嫌いなのよ。

 ほら、どうせ支援魔法使ったところで、敵をどうこうしなくちゃいけないことに変わりはないでしょ?

 だったら、そんなのより攻撃魔法唱えて直接敵倒しちゃった方が早いじゃない」

 

「戦いの多様性を否定するな!!

 一辺倒の戦法は行き詰まりやすいんだよ!!

 そもそも、そういうことは魔法使いがやるだろう、魔法使いが!!」

 

「いや、でもね。

 これはちょっと自信あるんだけど。

 ――そんじょそこらの魔法使いより、絶対、私の方が攻撃魔法上手いわ」

 

「聖女がする自慢じゃないぞっ!!?」

 

「それに私、攻撃魔法以外使えないし」

 

「……はぁっ!?」

 

 ヴィルが目を見開いて驚く。

 口もあんぐりと開け――相当にショックだったのか、そのまま動かなくなる。

 

 しばしの後、真顔で質問してくる。

 

「Are you a saint?(貴方は聖女ですか?)」

 

「Oh, Yes! I'm a saint!(はい、私は聖女です!)」

 

 思わず不思議な言語を使う2人。

 

「ふざけるな!!?」

 

「ふざけてきたのはそっちじゃない!!」

 

 どっちもどっちな言い合いである。

 

「…………はぁ。

 とんだ聖女が居たもんだ」

 

 がっくり肩を落としてヴィルはため息をつく。

 直後、ふと何かを思いついたようで、

 

「――君。

 まさか、いくらなんでも回復魔法が使えないとかは、ないよな?」

 

「…………えへ?」

 

 エルミアは、首を傾げてにっこりと笑った。

 図星だった。

 

 ヴィルが激高する。

 

「お前のどこが聖女だっ!!?」

 

「ちゃんと聖女に選ばれたんだもん!!

 寧ろ、今の聖女のトレンドは私なのよ!!

 時代が私を求めているの!!!」

 

「どうなってんだよ、この国はっ!!!!」

 

 そんなことを言われても知らない。

 エルミアが“攻撃魔法の腕を買われて”聖女になったのは、紛れも無い事実なのだから。

 

「選考した人間の頭が腐ってたんじゃないのか。

 もしくは、脳が筋肉でできていたか」

 

「酷い言いぐさねー。

 私に魔法を教えてくれた師匠も、『君の考え方は間違ってない。どうせ癒しの腕を磨いても君程度の才能じゃ聖女になれないし』って言ってくれたのよ?」

 

「それは――蔑まれていたんじゃないのか?」

 

 何故か、憐れんだ目をしてくるヴィル。

 その理由に気付いてしまうとなんだか悲しい気持ちになりそうだったので、エルミアは話題を変えた。

 

「んー、私も貴方も、かなり汚れちゃったわね。

 町へ向かう前に、水浴びでもしていかない?」

 

「また露骨な話題転換を。

 まあ、いい。

 俺がとやかく言う話じゃないな」

 

「うんうん、そうそう♪」

 

「……二度と俺を巻き込むなよ?」

 

「ぜ、善処します」

 

 睨み付けられ、目を反らしながらぼそぼそ言葉を紡ぐ。

 その態度に思う所が無いわけではなかろうが、言っても仕方無いと思ったのかヴィルは肩を竦めるだけだった。

 

「さ、ささ。

 早く行きましょ!

 急がないと、今日中に町へ行けないわよ!」

 

「ああ、分かってる分かってる」

 

 エルミアに背中を押され、ヴィルも歩き始める。

 

「あ、それと――」

 

 青年の背に額をこつんと付ける。

 

「なんだ?」

 

「――あの、ホントに、ごめんなさい。

 ちゃんと反省してます」

 

「…………」

 

 その言葉に、青年は少し沈黙した。

 今更の謝罪に呆れた――わけではなさそうだ。

 ヴィルは、優しい口調で、

 

「……反省しているっていうのなら、それでいい。

 俺も、それ程気にしちゃいない」

 

「――ありがと」

 

 そう、小さく呟いた。

 

 

 地図によれば、この近くに川が流れていたはず。

 エルミアとヴィルは、そこを目指して動きだすのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 水浴び(H)

 

 

 

「あ、いい感じの深さね。

 水浴びにちょうどよさそっ」

 

 目的地に到着し、エルミアの一言目がそれだった。

 

 確かに、流れが緩やかで、水は透き通っている。

 彼女の言った通り、実に水浴びに適した川と言えるだろう。

 

 ついさっき狼と遭遇したばかりなので、ヴィルは軽く周囲を警戒してから、

 

「ああ、そのようだな。

 それじゃ、俺が見張っているからその間に身体を洗ってきてくれ」

 

「貴方も一緒に洗わないの?」

 

「洗わないぞ!?

 俺は適当にタオルで拭くだけで十分だからな?」

 

「えー、こんなにきれいな川なのに」

 

 彼女はぶつぶつと文句を言うが、取り合わない。

 周囲に人影や危険な動物の気配は無いが、油断は禁物だ。

 

 いや、野生の動物がヴィルを襲うことなど、まずないが。

 野生の動物は、自分より強い相手(・・・・・・・・)を襲わない。

 先程の魔物は慢心していたのか注意が欠けていたのか――いずれにしても、危機管理能力の低い連中だったのだろう。

 

「ほら、余り時間は無いのだから。

 早く水を浴びて来い」

 

「仕方ないなぁ。

 まったく、この変態さんめ!」

 

「……?」

 

 何故自分が変態呼ばわりされるのか。

 その理由を言わないまま、エルミアは服を脱ぎ、川に入っていく。

 

「――っ!?」

 

 慌てて反対側を向くヴィル。

 

「別に見てもいいのに。

 っていうか、私の裸は昨日散々見たでしょ?」

 

「ま、周りを警戒してるんだ!」

 

 少しどもりながら、返す。

 実際の所は、彼女の裸を見たらそれに目を奪われて(・・・・・・・・・)、他に注意が向かなくなることを危惧したからだが。

 

「ふーん?

 ま、そういうことにしておきましょ」

 

 ふふーん、と鼻をならして、エルミア。

 何か、見透かれているような気がする。

 ここで何か反論しても逆効果なように思えたので、ヴィルはただ沈黙を守るのだった。

 

 

 

 その後、パシャパシャ水が跳ねる音を聞きながら、青年はじっと前を見続けていた。

 決して、後ろは振り返らない。

 

「――ところでさ」

 

 後方から、エルミアの声。

 そちらの方は見ずに、ヴィルは返す。

 

「なんだ?」

 

「さっき、バーゲストと戦ってるの見て思ったんだけど、やっぱりヴィルってすごく強いのね。

 どこかで剣習ってたの?」

 

「いや、別にそこまででも無いと思うが。

 そもそも、奴らにトドメを刺したのは君だろう?

 剣だって、昔父親から習っただけだし」

 

 嘘ではない

 習ったのは(・・・・・)、子供の頃だけだ。

 

「へ、へー?

 わ、私はその辺よく分かんないのよねー。

 鍛えれば皆、あんなことできちゃうものなの?」

 

 何故か彼女の声はちょっと震えている。

 見ずに濡れて身体が冷えてしまったのだろうか。

 そんな寒い気候ではないのだが、無理はしないで欲しいものだ。

 

「皆が皆できるってことはないだろうが、まあ、やれるんじゃないか?」

 

 質問の方にはあっさりと回答。

 きっちり(・・・・)と鍛錬すれば、できないということも無いはず。

 

「……………………嘘こけや」

 

「何だ?」

 

「う、ううん、何でもない!」

 

 エルミアが何か呟いた気がしたのだが、気のせいだったようだ。

 

 そこで会話は一旦中断。

 また少しの間、水の音を聞いていると、

 

「はーい、お待たせー」

 

「ああ、意外と早かったな――っておい!?」

 

 目の前には、裸体があった。

 

 しっとりと濡れ、日差しでキラキラと輝く銀髪。

 整った眉毛、すっと通った鼻、瑞々しい唇――それらが集まった、愛らしい顔立ち。

 

 程よく育っている、上綺麗でハリのある胸。

 その先端にある桜色の乳首は、ツンと上を向いている。

 

 腰はきゅっとくびれて。

 腰から太ももにかけては、いい塩梅に美肉がついている。

 

 華奢であるにも関わらず、凄く柔らかそうな肢体。

 

「…………ごくっ」

 

 ヴィルは思わず生唾を飲みこむ。

 

 一度目にしたら、そこから視線を外すことが叶わない、そんな裸体。

 当然、ヴィルもその誘惑に逆らえない。

 身体を重ねたことすらあるというのに、この体たらくだ。

 それ程、日の光の下で見るエルミアは、彼女の肢体は、美しかった。

 

 青年は、それでもどうにか声を出す。

 

「な、なんで、裸なんだ……?」

 

「だって、この後セックスするでしょ?

 だったら裸のままの方が都合いいわよね」

 

「だ、誰がセックスをすると――!?」

 

「えー、だって貴方、さっき水浴びしないって言ったじゃない」

 

「それがどうしてセックスに結び付く!?」

 

「アレって、“汗で蒸れ蒸れになったちんこを舐めて貰う”っていう意思表示だったんじゃないの?」

 

「なんだそのイカれた発想は!!?」

 

 常人の思考ではない。

 聖女として認められた、愛らしい美少女がそんなことを言うとは、世の誰も信じないだろう。

 

「はいはい、御託はいいから。

 さっさとちんこ出しなさいって」

 

「誰が出すかぁ!?

 お、おい、止めろっ!!」

 

 ズボンを脱がそうとするエルミアに、抗うヴィル。

 2人はもつれあって――

 

「――きゃっ!」

 

「っ!! だ、大丈夫か!?」

 

 少女は転んでしまった。

 心配げにエルミアを覗き込む青年だったが、

 

「……なるほど。

 ちんこの前に、まず足を舐めろと」

 

 倒れたまま、したり顔で頷く彼女。

 

 まったくもって大丈夫じゃなかった。

 

(……これはもう、手遅れか?)

 

 早急に医者が必要だ。

 具体的には、頭の。

 

「――あ、こら!」

 

 一瞬物思いをしてしまった隙をつかれ、ヴィルのブーツが脱がされた。

 かなりの手際だ。

 

「なんでそんな素早く!?」

 

「こんなこともあろうかと練習しておいたのよ!」

 

「どんな想定してんだ!!

 ――って、おい、やめろっ!!」

 

 四つん這いになって、青年の足を舐めようとするエルミア。

 さっき転ばせてしまったこともあって、強く抵抗できないでいると、

 

「あはっ、すっごい臭い♪」

 

 そんな言葉と共に、舌を足に這わせてきた。

 

(―――うわっ!?)

 

 柔らかく、滑らかな感触に、背筋がぞわっとする。

 不快ではない。

 むしろ、快感が足から脳へ駆けあがっているのだ。

 

「あー、くっさい!

 ホント、くっさいわー」

 

「そ、そりゃそうだろう!

 皮のブーツなんだ、汗が籠るんだよ!」

 

 だが台詞とは真逆に、少女は笑顔で足を舐め続けた。

 もしここで、少しでも嫌がる素振りを見せたなら、ヴィルは無理やりにでも彼女を止めたのだが。

 

「ぺろ、ぺろぺろ――もう、少しは綺麗にしときなさいよね。

 んっ、れろ――ぺろ、れろ――女の子に嫌われちゃうわよ?」

 

 エルミアは、まるで極上のアイスでも食べているかのように、美味しそうに青年の足を舐める。

 その姿は実に淫猥で。

 

(…………あ)

 

 ヴィルの愚息は、たちまち勃起を始めてしまった。

 エルミアはそれに気づかず、なおも舌を動かし、

 

「ん、ん――ちゅぱっ――ちゅるっ――ちゅぱっ――」

 

 今度は、足の指を口に含んだ。

 暖かい感触が足の先端を包む。

 

「ちゅぱちゅぱっ――ん、う――れろっ――んんぅ――」

 

 キャンディみたいに、口の中で指を転がす少女。

 指先が、ひどくこそばゆい。

 

(――なんだ、この気持ち良さ!?)

 

 初めて味わう感覚に、ヴィルは戸惑っていた。

 快楽の波が、下から上に押し寄せてくる。

 

「んんぅぅぅ――ぺろぺろっ――ちゅぱっ――れろれろっ――」

 

 丹念に丹念に。

 親指から始まって、小指へと。

 一本ずつ指をしゃぶっていく少女。

 

 ――もう、我慢の限界だった。

 

「エルミア――その、なんだ」

 

「なぁにー?

 ……あー、そういうこと?」

 

 顔を上げたエルミアは、すぐに理解したようだ。

 彼女はヴィルの股間に、そっと手を添えてくる。

 

「ふふ、もうこんなに大きくしちゃって。

 そんなに私のベロ、気持ち良かった?」

 

「…………ああ」

 

 “証拠”を見つけられては、青年としても肯定するしかなかった。

 少女は悪戯っぽく笑うと、ズボンに手をかけてくる。

 もう、ヴィルにはそれへ抗う気は無かった。

 

「――おっきぃ」

 

 股間のイチモツを見ながら、うっとりと少女は言う。

 

「き、昨日も見ただろ」

 

「んー、そうだけどね?

 明るいところで見たら、また迫力が違うなって」

 

「そ、そういうもん、か?」

 

「そういうもんよ。

 ……ふむふむ、こっちは思ってたより綺麗かな?

 もっとチンカスとか付いてると思ったのに」

 

「チンカ――って君はまたそういう……

 だいたい、昨日君と――その、ヤったばかりだろうに」

 

「ああ、私の処女まんこ使って綺麗にしてたわけね。

 もう、酷い男♪」

 

「……なんとでも言ってくれ」

 

 この話題に関して、彼女に口喧嘩で勝てる気がしなかった。

 ヴィルが黙っていると、エルミアは早速彼の愚息を口に咥える。

 

「んっ――ん、ん、んっ――太くって、顎外れそう。

 ん、ちゅっ――れろれろっ――長すぎて口に全然入んないし」

 

 文句を言っているのか、褒めているのか。

 エルミアは一度、男根から離れると、

 

「ちゅ、ちゅっ――れろ、れろれろ――んー、ぺろっ――あふ、んんぅ――」

 

 今度は、竿を舌でゆっくりと舐めまわしてきた。

 亀頭に対するものより刺激こそ少ないものの――

 

(エルミアに、こんなことをさせている……)

 

 自分より年下の少女に、とびっきりの美少女に、イチモツをしゃぶらせている。

 その事実がある種の征服感に繋がり、何とも言えぬ幸福感に浸る。

 

「んんっ――ちゅっ――れろっ――ふふふ、気持ちいい?」

 

「あ、ああ」

 

 上目遣いにこちらを見る彼女に、思わずドキっとする。

 エルミアは、そんなヴィルを見て微笑むと、本格的に男性器を咥え込んだ。

 

「あ、ん――れろ、ぺろぺろっ――んふ――あ、ん――」

 

 じゅぽじゅぽと音を立てて、少女の口が青年の剛直を扱く。

 

「んっんっんっんっ――あふっ――んっんんんっ――れろっ――んんっ――」

 

 エルミアの頭が前後に動く。

 その度に、ヴィルの股間には快感が走った。

 

(うっ――もう、出そう、だ――)

 

 一気に、射精感が高まる。

 少女は目敏くそれを察したようで、

 

「ん、んんっ――んふふ、ヴィル、もう出そうなの?

 ん、ちゅっ――ちゅぱっちゅぱっ――いいのよ、私の口に出しちゃって」

 

 挑発的な言葉を投げかけつつ、フェラを激しくしていく。

 彼女の唾液に塗れたイチモツは、おびただしい快楽を青年の脳へ送ってくる。

 我慢など、できるはずもなかった。

 

「う、あ、あ――――で、出るぞっ!!」

 

 そう宣言すると、ヴィルはつい反射的に(・・・・・・)エルミアの頭を掴み。

 それに向かって、腰を押し付けた(・・・・・・・)

 

「んぐっ!? んんん――――っ!!?」

 

 喉の奥にまで性器が挿し込まれ、彼女が苦悶を漏らす。

 だが、青年はそれに気づかない。

 気づけるだけの余裕は、もう無い。

 

 ヴィルはそのまま、エルミアの喉の中(・・・)へ、直接(・・)精子を注ぎ込んだ。

 

「んんんん―――――っ!!!?

 んがっ――おごっ――うぐっ――ごっ――お、お、おおおっ―――っ!!!?」

 

 流れ来る精液に、少女は窒息しそうになっている。

 だが、それから逃れることはできない。

 がっちりと、青年に掴まれているからだ。

 

「んっ――んっ――んっ――んっ―――!!!」

 

 エルミアの苦痛は、射精が終わるまで続いた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ――――あっ!?

 す、すまない、エルミアっ!!」

 

 ようやくヴィルは我に返り、自分がしたことに気付く。

 慌てて彼女の顔から手を離すと、エルミアはその場に崩れ落ちた。

 

「――けほっ。

 げほっけほっけほっ!」

 

 口元を抑え、咳き込む少女。

 しばしえずいた後、

 

「ば、バカ――っ!!

 死ぬかと思ったじゃない!!

 精液で窒息死とか、末代まで笑われちゃうっての!!」

 

「申し訳ない!!

 気持ち良くてつい――じゃなかった、本当に、すまんっ!!」

 

 土下座(東方の国より伝わる最上級の謝罪方法だ)で謝るヴィル。

 エルミアはそんな彼を一瞥してから、平坦な声で尋ねてきた。

 

「…………本当に、気持ち、よかった?」

 

「そりゃ、まあ」

 

「あんなこと、しちゃうくらい?」

 

「……あ、ああ。

 凄く、気持ち良かった」

 

「そう――じゃ、許してあげる」

 

 笑顔で、そう言ってきた。

 

「でも、次はやるならやるって言ってからにしてよね。

 私にも心構えってのが必要なんだから」

 

「……すみません」

 

 最後にもう一度、額を地面に擦りつけてから、ヴィルは頭を上げた。

 エルミアの口元や手は、彼の精液でべたべたになっている。

 

「あーあ、せっかくの精液、吐きだしちゃった」

 

 彼女は残念そうにそう呟くと、

 

「――じゅるっ――ぺろっ――」

 

 付着している精液を、舐め取り出した(・・・・・・・)

 

「お、おいっ!?」

 

「何? 文句あるの?」

 

「い、いや、そうじゃ、無くて……」

 

 文句を言いたいわけじゃなかった。

 ヴィルは、エルミアが甲斐甲斐しく自分の精子を舐めとる光景を見て――

 

(ま、また勃起してしまった……)

 

 ――元気になってしまったのだ。

 彼は立ち上がると、少女に近づき。

 

「え、エルミア。

 あ、あのな――」

 

「んんー?

 もう、セックスは駄目よ?

 私にこんな酷いことしたんだから、今はお・あ・ず・け♪」

 

「そ、そうか。

 そうだよな」

 

 仕方がない。

 許してくれたことが奇跡のようなものなのだ。

 この処罰は、当然と言えた。

 

「そんなしょげなくても。

 続きは、宿でしてあげるから、ね?」

 

「――っ!

 ……わ、わかった」

 

 反応が少し遅れて、返事。

 艶やかな視線で見つめられ、心が揺さぶられてしまった。

 

 

 

 一先ず、水浴びはここで終了。

 2人は用意を整え、宿場町へ歩き出す。

 

(今からなら、日が沈む前に到着できるだろう)

 

 ヴィルはそんな目算を立てながら、横目で少女を見る。

 るんるんと浮かれながら歩く、エルミアを。

 

(そういえば、昨日からはおんぶやらだっこやら、言ってこないな)

 

 今更ながら、気づく。

 つまるところ、初日のアレはただの気紛れだったということか。

 そういうのも色々と含めて――

 

(……掌で転がされているなぁ、俺)

 

 今の自分を、そう評し、肩を落とすのだった。

 もっとも――嫌な気分では、無かったのだが。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 到着(H)※

 

 日が暮れる、寸前。

 予定通り、ヴィルとエルミアは宿場町へ辿り着いた。

 

「……ん?」

 

 町に入ったところで、青年は立ち止まる。

 

「どうしたの、ヴィル?」

 

「いや、妙に人が多いと思って――あれは、兵士か?」

 

「え?」

 

 訪れた宿場町は、そこまで大きな規模ではない。

 だというのに、町の中には多くの武装した人々――兵士達が居た。

 何か事件でも起きたのか、と不審に思っていると、

 

「――あっ! 君達!!」

 

 1人の男性兵士が2人に気付き、話しかけてくる。

 

「無事にここまで来れたんだな、良かった!」

 

 やや砕けた口調だ。

 自分達に警戒心を抱かせないためだろうか。

 

「無事、とは?」

 

 ヴィルが返す。

 

「知らないのか?

 ――あ、いや、知らないからこの道で来たんだな。

 実は、君達が通ってきた街道で、“バーゲストの群”が出没するという報告があってね」

 

「……ほほう」

 

 なんとなく心当たりがあった。

 

「それも数匹程度の群じゃない――正確な数はまだ把握していないのだが、数十を超える大群だそうだ。

 既に被害報告もかなりの数がなされている」

 

「なるほど。

 そうでしたか」

 

 十中八九、ヴィル達が途中で出遭ったあのバーゲストだろう。

 今日まで通ってきた街道にほとんど通行人がいなかったのは、辺鄙な場所という以前にバーゲスト達のせいでもあったのか。

 

「いや、君達は本当に運がいい。

 バーゲストに襲われず済んだのだから。

 ――ところで、もしよければ話を聞かせては貰えないか。

 その“群”に関する情報を集めているんだ。

 姿を見たでも、痕跡を見かけたでも、何でもいい」

 

「構いませんが――貴方達はいったい?」

 

「おっと、申し遅れた。

 我々は、その群を退治するために派遣された討伐隊なんだ。

 私はその隊長を務めさせて貰っている」

 

 隊長と名乗った男は、そう言って一礼する。

 こんな得体の知れない旅人(ヴィル)にも丁寧な対応を見せる辺り、この隊長、なかなか“出来る”男の匂いがする。

 

 見れば、他の兵士達もきびきびと、規律の取れた動きをしていた。

 おそらく、討伐のための食糧調達や聞き込みをしているのだろう。

 全員が姿勢よく、だらけている者は一人もいない。

 

(なかなか教育の行き届いた隊だな)

 

 隊長は被害が多いと言っていたが、ここまで来る間にそれらしき痕跡は少なかった。

 

(つまり、被害が出始めた初期段階で動いたということだ)

 

 その迅速な動きもまた、ヴィルは高く評価した。

 総じて、彼らは高い練度を持ち、賢明な判断が下せる――又は賢明な上官を持つ――部隊と推測できる。

 

「討伐隊――では、これから出発をするのですか?」

 

「いや、もう日が暮れ始めている。

 今から動いたのでは、みすみすバーゲスト達の餌を増やすだけさ。

 明日の朝を待って、出発する予定だ」

 

「――その必要はありません」

 

 唐突に、エルミアが会話に加わった。

 

(――おぉっ!?)

 

 振り向いて、ヴィルは驚く。

 いつもの彼女ではなかった。

 凛とした表情に、品格のある佇まい――“聖女”のエルミアだ。

 一瞬疑わし気な視線を向けた隊長だが、そんな少女の姿を見て、あっさり疑惑の態度を解消した。

 

「……お嬢さん、それは、どういう?」

 

「バーゲストの群れは、私達が既に退治しました。

 勿論、残党が居ないとは限りませんが――早急に対処せねばならない危険は、もう無いでしょう」

 

「――なっ!?」

 

 隊長が目を見開く。

 だがすぐに顔を綻ばせ、

 

「はっはっは!

 お嬢ちゃん、冗談を言っちゃいけないよ。

 そういうのはもっと――――のわぁああああっ!!?」

 

 今度は全身で驚きを表現する。

 

「そ、それは! その聖印はっ!!」

 

「――はい。

 私は、エルミア・ウォルストン。

 此度、“聖女”に任命された者です」

 

「な、なんと!!」

 

 エルミアが見せたのは、教会の聖印。

 しかし、それはヴィルが知るものよりは遥かに美麗で、煌びやかな光を纏っていた。

 彼女が“聖女”であることを示す証なのだろう。

 

(ああ、そういうのを持っていたのか)

 

 考えても見れば、当然である。

 聖女は国が定める大役なのだから、それを証明する物があって然るべきだ。

 

 何故、ヴィルと会った時に証を見せてくれなかったのか疑問はあるが……

 帝国の生まれであるヴィルに聖印を見せても、その意味が理解できないと考えたのか。

 

(ん? すると、エルミアは俺が帝国出身だと最初から気付いていた?)

 

 彼女にそれを説明したのは、紹介の少し後だったように記憶しているが。

 

(まあ、単に慌てていただけかもしれないしな)

 

 あの時は、状況が状況だ。

 エルミアに完全な対応を求めるのは酷というものだ。

 

 考え事をしている最中にも、エルミアと隊長の会話は続いている。

 

「し、失礼しました!

 よもや、聖女様がいらっしゃるとは――」

 

「構いません。

 寧ろ、こちらこそが失礼をしました。

 身分を明かさず、お話を始めてしまいまして」

 

「そ、そんな、私のような者に頭を下げないで下さい!

 ――で、では、お話を繰り返してしまいますが、聖女様がバーゲストの群を討伐したということでよろしいのですか?」

 

「はい。

 私と、こちらの――私の守護を任せられた騎士(・・)とで」

 

「………ん?」

 

 いきなり自分を指され、きょとんとするヴィル。

 

(きゅ、急に何を言うんだ!?)

 

 唐突に話を振られても、困る。

 そもそも、ヴィルの出で立ちで騎士と主張するのは、かなり無理があるだろう。

 鎧なんて着ていないし、剣だって安物。

 ただの旅人以外には見えないだろう。

 

 しかし、ヴィルの心配をよそに、

 

「そうか、君は聖女の守護騎士だったのか。

 ははは、人が悪いな、最初からそう言ってくれていれば」

 

 隊長は、あっさり信じてくれた。

 人が良いのか、何なのか。

 

「あ、ああ。

 すみません、自分の独断で話していいものか分からなかったので」

 

「いや、別に責めているわけじゃない。

 そう考える気持ちはよく分かる。

 しかし――流石、守護騎士だな。

 一見して、只者でない(・・・・・)ことはすぐに分かったよ。

 君のような騎士が傍にいるのであれば、聖女様も安心だろう」

 

 とりあえずそれっぽく返事をしておいたが、特に疑問は持たれなかったようだ。

 ヴィルと隊長の話に区切りがつくと、エルミアが話を戻してきた。

 

「隊長様、こちらに遠見の魔法を使用できる術者はおられませんか。

 お手数を取らせてしまいますが、確認をして頂きたいのです。

 地点は、こちらで指定いたします」

 

「承知しました。

 すぐに手配します」

 

 そう言うと、隊長は自分達に敬礼してから走り去っていく。

 

 

 ――程なくして、バーゲスト達の壊滅が確認された。

 

 

 

 

 

 町は、あっという間に祝勝ムードとなった。

 宴会があちらこちらで開かれ、飲めや歌えやの大騒ぎだ。

 2人も当然誘われたのだが、疲れを理由に断らせてもらった。

 エルミアはともかくヴィルの方は、飲みの席でアレコレ質問責めにあい、ボロが出ないか心配だったのだ。

 

「――――ふぅ」

 

 通された部屋で腰を落ち着けると、一つ息を吐く。

 そう大きくない宿場町の宿にしては、かなり立派な造りをしている。

 おそらく、最上級の寝室を貸してくれたのだろう。

 勿論、エルミアとは別室だ。

 

「急に身分を明かしだした時はどうしたものかと思ったが」

 

 仮にも、エルミアは命を狙われている身なのだ。

 自分の所在をばらすのは如何なものだろう。

 

「……黙っていても、そう大差ないか」

 

 頭を振って、思い直す。

 

 ヴィルは、余り隠蔽工作が得意な方ではない。

 彼女を狙う者が本気になって追手を差し向けてきたなら、隠れとおすことはまず不可能と考えるだ。

 ならばいっそ、自分達が聖女一行であることを知らしめた方が、周りを味方にできる分有利になるかもしれない。

 エルミアも、そう判断したのだろうか。

 

「……それはどうだろうか」

 

 少女と旅を始めて3日になるが、まだ彼女の人となりを把握しきれていない。

 聖女とはとても思えない程ふしだらな素振りを見せたかと思えば、先程は突然“聖女”然とした振舞をしだした。

 しかも、どちらも実に自然体なのだ。

 

(2つの人格を使い分けているようにすら見える)

 

 二重人格なのだと言われたら、信じてしまうことだろう。

 いや、それを否定する要素も、実のところなかったりするのだが――

 

「……ん?」

 

 外の廊下を、誰かが歩く気配があった。

 その気配はヴィルの部屋の前で止まり。

 直後、扉が軽くノックされる。

 

「――ヴィル」

 

 ドアの向こうから声が聞こえた。

 エルミアだ。

 

「ああ、君か。

 別に鍵はかけてないぞ」

 

 ヴィルはそう告げる。

 すると、ゆっくりとドアが開けられた。

 

「――――っ!!?」

 

 その“人物”を見て、青年の呼吸が止まりかけた。

 

 部屋の入り口に立っているのは、エルミアだ。

 それは間違いない。

 間違いなくエルミアなのだ、が。

 

「そ、その、格好、は――?」

 

 彼女は、“白銀のローブ”を纏っていた。

 

 清廉な雰囲気を纏わせ、神々しさすら感じさせる装い。

 高級感のある、薄手の白い生地を基調とし、ところどころに銀色の刺繍やアクセサリが施されている。

 銀色の髪と白い肌を持つエルミアに、この上無く似合う装束だ。

 過度な修飾は無く、それがさらにエルミアの魅力を引き立たせていた。

 スカート部分にスリットが入り、彼女の脚がチラリと見えるのだが、それもまた下品ではない。

 おそらくだが、聖女としての正装なのではないだろうか。

 

 エルミアはヴィルの質問に答えず、部屋の中に入ってくる。

 彼女の顔は、つい先刻も見せた“聖女”のもの。

 そして、青年へと恭しく頭を下げる。

 

「此度は、本当にありがとうございました。

 貴方が居てくれなければ、こうしてこの町へ辿り着くこともできなかったでしょう。

 正式な感謝が遅れてしまったこと、まず深くお詫び申し上げます」

 

「え? あ、うん。

 そんな、別に、気にしなくて、も」

 

 しどろもどろに答える。

 思考が上手く働かい。

 “聖女”なエルミアの言動と服装に、頭をやられてしまっていた。

 

「貴方のような方があの時あの場所に居合わせてくれたことは、正しく奇跡だったのでしょうね。

 貴方を遣わせてくれた神の思し召しと、何よりも私を見捨てず救って下さった貴方の優しさに、感謝を」

 

「……俺は、当然のこと、を、したまで、で」

 

 心臓がバクバクいっている。

 初めて会った時と同様、いや、それ以上に可憐で清楚なエルミアの姿に、心を奪われていた。

 

「あの行いを、“当然のこと”として捉えられる者が、どれ程いるでしょうか?

 貴方の徳の高さがあったからこそ、私は救われたのだと――そう思います」

 

 真摯な目でじっとヴィルを見つめてくる。

 背筋がピンと伸びる。

 自分でもよく分からない、緊張感のようなものが湧いてくる。

 

「そして、改めてお願いします。

 どうか、私を王都へと導いて下さい。

 未熟者故に貴方の足を引っ張るような真似をしてしまうこともあるかもしれません。

 勿論、そのようなことが無きよう、私も懸命に努力致しますが――」

 

「い、今更、そんなこと言われるまでも無い!

 安心しろ、俺が、必ず、君を王都へ連れて行く!」

 

「――――ありがとう、ヴィル」

 

 少しだけ、その気品のある表情を崩し、微笑むエルミア。

 その仕草の愛らしさに、頭が熱くなっていくのを感じる。

 きっと今、自分の顔は真っ赤であり、当然それを少女は分かっていると思うのだが……

 余りに恥ずかしいので気付かないフリをする。

 

「ただ、何の見返りも無く、そんなお願いをしてしまうなど、許されざることです。

 ――勿論、王都へ辿り着いた際には、相応の報酬が贈呈されるでしょう。

 それは、私もお約束できます。

 でも、その時まで貴方に何もしてあげられないだなんて神がお認めになるはずが無く――他ならぬ私自身もまたそう考えております」

 

「い、いや、そんなもの、俺は気にして――」

 

「いいえ、貴方の優しさに甘えるわけには参りません。

 ですから――」

 

 エルミアは、ローブのスリットを自ら広げた。

 彼女の白い太ももが、露わになる。

 他が神聖な雰囲気を放っている分、実に艶めかしい。

 

 少女は瞳を潤しながら、告げる。

 

「――せめて、この私の身体を、存分に味わって下さいませ」

 

「って、結局いつもと同じかいっ!!」

 

 最終的にソレが言いたかっただけか、と。

 やはりエルミアはエルミアだったと、そう考えて思い切りつっこみを入れたのだが。

 

「…………」

 

 ヴィルの言葉に彼女は表情を硬くし、そのまま動かない。

 まるで、意を決した告白が拒まれたかのようだ。

 

「…………あ、と、その」

 

 予想外の反応に、青年も固まった。

 てっきり、いつものノリに戻ると思ったのに。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに動かないまま、視線を交わし合う。

 沈黙に耐えきれず、ヴィルが先に口を開く。

 

「……あ、あの、エルミアさん?」

 

「そ、そうですね。

 ただ申し出るだけでは、失礼でした。

 私の方からお誘いするべきでしたのに」

 

 そう言うと、彼女は恥ずかしそうに(・・・・・・・)に顔を赤らめ。

 部屋の壁に手を突くと、尻をヴィルに向けて突き出してくる。

 そして、ローブを捲り上げ――

 

(――うぁっ!?)

 

 ヴィルは胸中で叫ぶ。

 

 純白のショーツに包まれた少女のお尻が、彼へ差し出されている。

 小柄な彼女に見合った、少し小ぶりなお尻。

 だが、サイズこそやや小さいものの、その形は美しいの一言だった。

 柔らかく、それでいて弾力のありそうな尻肉が、丸みを帯びた綺麗な曲線を描いている。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「見て下さっていますか、私のはしたない格好を」

 

 エルミアは、お尻をふりふりと横に振りだした。

 間違いなく、ヴィルを誘っている。

 誰が見ても聖女であることに疑いをもたれないであろう少女が、淫らに自分を誘惑してきている。

 

 彼女は、言葉を紡ぐ。

 

「どうか――どうか、私の身体をお使い潰し下さい。

 こんなにも卑しい私めに、貴方の逸物をお恵み頂きたいのです……」

 

「―――!!!!」

 

 ヴィルの中で、何かが切れた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 聖女との夜(H)※

 

 

 ヴィルはエルミアへ駆け寄ると、両手で尻肉を鷲掴みにする。

 

「――ああぁっ!!」

 

 エルミアが声を上げた。

 それに構わず、青年は少女の尻を揉みしだく。

 手のひらには、想像した通りの柔らかい感触が。

 

「――あっ――あぁっ――あっ――あっ――」

 

 喘ぎをBGMに、揉み続ける。

 ヴィルが手に力を入れる度に、形の良い尻が歪む。

 しかし一旦手を離すと、すぐに元通りの姿に。

 そのプルンプルンと動く様が、彼の目を楽しませた。

 

「――はっ――あっ――あっ――あっ――」

 

 ハリが良い。

 尻肉を押し込むと、掌へ強い反発力を感じる。

 こんなにも柔らかい尻なのに、何故こうまで弾力があるのか。

 この尻を味わうだけで、ずっと時間を潰せそうな気がした。

 

 だが、ヴィルの興奮は、情欲は、止まらない。

 

「――――あっ」

 

 エルミアが小さく声を息を漏らす。

 青年が、彼女のショーツを引き下ろしたのだ。

 ヴィルの目の前に、サーモンピンク色の鮮やかな女性器が現れた。

 同時に、蒸れた雌の匂いが鼻孔を突く。

 少女の割れ目からは、既に淫らな液体が滴れている。

 

「……もう、こんなに濡れているのか」

 

「す、すみません。

 貴方のことを想うだけで、私、疼いてしまうんです。

 その上、あんなにもお尻を触られたら――!」

 

「聖女のくせに、こんなにも愛液を垂らして……」

 

「い、言わないで下さい!

 ……あ、ああ、私、淫乱な女なんです!

 本当は、聖女なんかに相応しくない、ちんぽ大好きな雌犬なんです!!」

 

 言いながら、身をくねらせるエルミア。

 ヴィルはじっくりと彼女の花びらを鑑賞してから……そこへ吸い付いた。

 

「あ、あぁああああっ――――そ、そこぉっ!!」

 

 エルミアが歓喜の艶声を上げた。

 

 舌で性器についたラブジュースを舐めとる。

 口の中で、エルミアの“味”で充満していく。

 嗅ぐだけで勃起が始まる、淫蕩な味。

 

(――美味い)

 

 ヴィルにとってソレは、どうしようもなく甘美なモノであった。

 そんな“蜜”が、彼女の花弁を舐めれば舐める程、止めどなく湧き出てくる。

 

「あっ――はぁっ――あっ――あっ――あぁああっ!」

 

 チュルチュルと音まで立てて、愛液をすする。

 嗅覚で、味覚で、少女をもっともっと感じたい。

 永遠にそうしていてもいいくらいに。

 

「あっ――あっ――あっ――

 ああ、ヴィル――豆も、私の豆も食べて下さい!」

 

 要望にお応えして、クリトリスも舐め上げる。

 

「あ、あぁあああああっ!!」

 

 一際高い嬌声が。

 ここは特に気持ちいいようだ。

 

 ヴィルはエルミアの陰核をさらに責める。

 舐める、吸う、転がす――

 

「あっ!――ああっ!――あぁあんっ!――あ、あぁああっ!!」

 

 弄れば弄る程、少女は悶えた。

 膣からは流れるように愛液が溢れる。

 ヴィルはさらに、“豆”は噛みついて(・・・・・)やった。

 

「あっ!!?」

 

 一瞬、エルミアが硬直し、

 

「―――あ、あぁあああああああああっ!!!!!」

 

 大きな絶叫と共に、小刻みに震えだす。

 ……声が途切れると、少女はうつ伏せに倒れ込んでしまった。

 

「――イったのか?」

 

「は、はい、イって、しまいました……

 気持ち、良すぎて……」

 

 倒れたまま、答えるエルミア。

 

「……俺は、まだなんだが?」

 

 彼女にも見えるように、イチモツを取り出す。

 猛々しくそそり立った、自分の剛直を。

 

「…………っ!!」

 

 少女が息を飲むのが聞こえる。

 

「も、申し訳ありません……!」

 

 ふるふると震えながら、少女がゆっくりと尻を上げる。

 そして、ヴィルが挿入しやすい位置に、自分の下半身を持ってきた。

 

「はぁっ……はぁっ……どうぞ、お挿れ下さいませ。

 私のまんこを、貴方のちんこで滅茶苦茶にして――」

 

「いいだろう」

 

 青年は亀頭を彼女の膣口へ添えると、ずぶずぶと棒を埋めていった。

 ぐちょぐちょに濡れているエルミアの入り口は、何の抵抗も無くヴィルを受け入れる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!

 来たっ! 来ましたっ! ヴィルのおっきいちんこがっ! 私の中にぃっ!!」

 

 ぐいっと腰を押し出し、愚息を完全に少女へと収めた。

 膣は、以前にもまして強くヴィルを締め付ける。

 早く精子を注ぎ込んで欲しいと言わんばかりに。

 

「あはぁああああああっ!!

 深いぃっ!! おっきぃいっ!!

 一番奥にっ!! あっ! あっ! 一番、奥にまで、届いてしまってますっ!!」

 

「……動くぞ」

 

 感極まっているエルミアに対し、ヴィルはピストンを開始した。

 自分の腰を、彼女の尻へと叩きつける。

 

「あっ!? あぅっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!!」

 

 互いの身体がぶつかり合う度に、パンッパンッと音を鳴らす。

 エルミアの尻はプルプルと震え、自らの柔らかさをアピールしていた。

 

「あっ! あっ!! あっ! あっ! あっ! あっ!!」

 

 少女は大きく口を開き、目からは涙を流しながらヨガっている。

 意識が飛びかけているのかもしれない。

 しかしそんな状態にあっても、彼女の(なか)は男根を扱くのを止めなかった。

 強い快感が、股間から全身に走っていく。

 

 ヴィルはエルミアの腰をがっしりと掴むと、身体を振る速度を高めた。

 

「あっ!! あひっ!! はっ!! あっ!! あぁあんっ!!

 はげしっ! 激しい、ですっ!!

 あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!

 私、またっ!! あっあっあっ!! また、イっちゃいますっ!! あぁあああんっ!!」

 

 自分の限界を吐露する少女。

 それは、ヴィルも同じだった。

 射精感が昂っていく。

 直に、絶頂へと達するだろう。

 

「――君も、腰を振るんだ、エルミア!」

 

 さらに気持ち良くなるため、青年は少女へと命令する。

 

「ああっ! あぁああっ!!――は、はいっ――あっあっあっ!――分かり、ましたぁっ!!

 ――あっ!! ああぁあっ!! あああっ!! あぁああああっ!!」

 

 エルミアは、自分もイキかけているというのに、ヴィルの言葉に従った。

 快楽に耐えながら、尻を前後に動かしだす。

 

「あ、あひぁああっ!! だ、ダメっ!! ダメですっ!! こんなの、ダメっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!! 私、もうイクっ!! すぐ、イクのっ!!!」

 

 ただでさえ、絶頂寸前だったのだ。

 無理を押して動いたことで、エルミアは――

 

「ああっ!! イクっ!! イキますっ!!

 あっ!! あっ!! あっ!! あぁあああああああああっ!!!!!」

 

 ――あっけなく、果ててしまった。

 彼女がイクのと同時に、膣も締まりが強くなる。

 

「――あっ!!――ああっ!!――ああっ!!――あぁあああっ!!!」

 

 クリトリスを責めた時よりも、さらに激しく少女は身体を痙攣させていく。

 その震えは膣にも連動し、ぎゅうぎゅうと青年を搾りあげる。

 そして、ヴィルは――

 

「まだだっ!!

 まだ俺は、イってないっ!!」

 

 ――その痙攣を、利用した。

 膣が固く絞めつけている状況で無理やり腰を振り、さらなる悦楽を味わおうとしたのだ。

 

「あ、あひぃいいいっ!!!?

 イったっ!! イった、のにぃいっ!!

 おっ!!? おおっ!! んぉおおおおおおっ!!!!?」

 

 達したばかりで敏感になっているエルミアは、ヴィルの強引な責めに悲鳴を上げる。

 しかしその痛ましさと反比例して、青年の股間には激しい刺激が与えられた。

 

「――出すぞっ!!

 お前の、中に!!

 俺の精子を、全部注いでやるっ!!!」

 

 宣言し、エルミアの一番奥にまでイチモツを突き入れた。

 そして、射精。

 

「お、おぉおおおおおおおおっ!!!?

 熱いのがっ!! 熱いのがっ!! 流れてくるのぉおおっ!!!

 お、おっおっおっおっおっおっおっおっ!!!!

 あひゃあああああああああっ!!!!!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 目から涙、口から涎、膣から愛液。

 穴という穴から液体を垂れ流し、エルミアは3度目の絶頂へと至った。

 目の焦点が合わず、歯をガチガチと震わせている。

 そんな彼女へ、青年は子宮が満杯になる程の精液を一気に注ぎ込んだ。

 

「あぁああああああああっ――――――――あ、あ」

 

 ひとしきり叫び終えると、エルミアはまたその場に倒れた。

 彼女の性器からは、収まりきらなかった精子が、どろりと垂れている。

 

「……は、はは」

 

 その様子を見て。

 ヴィルは自分の征服感が満たされたのを感じ、満足げな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「思うんだけどさ、ヴィルってセックスの時だけやたらと饒舌になるわよね?」

 

 夜。

 ベッドの上。

 ヴィルとエルミアは裸のまま、隣り合わせで寝そべっていた。

 

「……言わないでくれ」

 

 少女の言葉に、青年はただ小さくなるばかり。

 

「特に今日は凄かったー。

 私を道具みたいにめちゃめちゃにしてくれて。

 気絶した私の口にちんこ突っ込んで、フェラまでさせてたでしょ?」

 

「……言わないで下さい」

 

 とうとう口調まで変わった。

 正直、あの時はどうかしていたと思う。

 少女の色香に惑わされ、完全に自分を見失っていた。

 

(い、いや、エルミアのせいにしてはいけない!)

 

 全て、理性を保てなかったヴィル自身が原因なのだ。

 しかし、自分がここまで色欲に弱かったとは。

 今までの人生で気付け無かった弱点である。

 自責の念が次から次へと湧き上がってきた。

 

 一方でエルミアは、青年の悩みなどお構いなしに言葉を続けてくる。

 

「で、どうだった?

 今日のプレイ、気に入ってくれた?」

 

「……ぷ、プレイって」

 

「いい感じに聖女様してたでしょー?

 どうなの? ヴィルとしては、あっちの方がタイプ?」

 

 そういう趣旨だったらしい。

 ヴィルは頭をぶんぶんと横に振って、否定する。

 

「い、いや、決してそんなことは」

 

「ホントにー?

 露骨に態度変えてきたように見えたよ?

 そういうことなら、もうアレはやらないけど」

 

「………………偶には、やって欲しいです」

 

 性欲に勝てなかった。

 エルミアはあからさまに大きなため息を吐いてから、

 

「まったく、貴方にも困ったもんね。

 本当に変態さんなんだから」

 

「……うぅ」

 

 返す言葉も無かった。

 少女は、そんな青年に抱き着く。

 彼女の柔らかい感触が、ヴィルの身体に絡みついた。

 

「大丈夫よ、ちゃんと付き合ってあげるから。

 ――約束、しましたからね。

 いつでも、ヴィルの思うままに、私をお使い下さい」

 

 後半は、聖女の台詞だ。

 ヴィルは堪えきれなくなり、少女とキスをする。

 

「――んっ――ん、んんっ――」

 

 唇と唇を重ねるだけの、軽い口づけ。

 それだけで、自分が満たされていくのを感じる。

 互いの顔が離れると、エルミアはにんまり笑う。

 意地の悪い顔だ。

 

「……やっぱり、こっちのが好きなんじゃない」

 

「……すみません」

 

 素直に頭を下げた。

 ただ、誤解をさせないよう、弁解は試みる。

 

「だ、だが、その――いつもの君だって、嫌いじゃないんだ。

 ……魅力的、だとも、思ってる。

 信じてくれないかもしれないが、本当に」

 

「――っ!?」

 

 どうしたことか、エルミアは急にこちらへ背を向けてしまった。

 

「……そ、そう?

 それなら、いいわ、うん」

 

 少女の肩が震えていた。

 泣いている――わけではないようだが。

 ただ、何となくだけれども、その声色から機嫌がよくなっているようにも感じた。

 

「さ、今日はもう寝ましょ。

 明日だって、早いんでしょ?」

 

「……ああ。

 そうだな、そうしよう」

 

 エルミアの提案を受け入れ、ヴィルは目を閉じた。

 隣にいる少女の暖かさを感じながら、心地よい眠りへと落ちていく。

 

 2人の夜は、こうして更けていった。

 

 

 

 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 聖拝の日
① 着替え(H)


 

 

 

 王都への道中を進む、ヴィルとエルミア。

 今日もまた、2人は街道を歩く。

 ただ、ヴィルの方は思案顔で。

 

「…………なあ、エルミア」

 

「なーにー?」

 

「つかぬ事を聞くんだが」

 

「うんうん」

 

「…………あの、宿場町で見せたローブは、もう、着ないのか?」

 

「――ほほーう?」

 

 にんまりと笑うエルミア。

 

(あ、地雷踏んだ)

 

 瞬間、察する。

 欲望に負け、聞いてしまったことを後悔するも、もう遅い。

 

「ヴィルはアレがそんなに気に入っちゃったわけね?」

 

「い、い、いや!?

 印象に残る服装だったから!

 防具としての性能も高そうだったし!!

 普段はどうしているのかと、思っただけだ!!」

 

「ふーん、へー?」

 

 全く納得してい無さそうな少女。

 まあ、実際問題として青年も“そういう目的”で聞いたことを否定できないのだから、どうしようもない。

 

「でも残念でした。

 あのローブは国王との謁見用に授かったヤツだから、そうそう着れないの」

 

「そうか――ってちょっと待て!!

 君は、そんな公の場で使う衣装をあんなことに使ったのか!?」

 

「使ったのは、寧ろヴィルの方だけどねー」

 

「あ、はい、そうでした。

 ――いやいや、確かにそうなんだけれども!!

 しかしそういう国儀で使う礼装をあのような場面で使うなんて――」

 

「――貴方ってさ」

 

 青年の言葉を遮って、少女が喋り出す。

 

ただの旅人(・・・・・)のわりに、そういうとこきっちり気にするんだね?」

 

「――――あ、当たり前だろう。

 仮にもその国に住む者の一人として、国が定めたる規律にはしっかり則らねばならないわけで」

 

「帝国出身で今は王国を放浪している、貴方が?

 てっきり、国のアレコレに縛られるのは嫌いなのかと思ってた」

 

「…………えーっと」

 

 この話は止めよう。

 かなり、喋り過ぎた気がする。

 これ以上は、藪蛇になりかねない。

 

「あー、うん。

 今日も綺麗だな、エルミア」

 

「ろ、露骨過ぎて呆れ返るのすら躊躇われる話題転換……

 まあ、今回はちょっと嬉しかったからここで済ませてあげるけど、次はこんな誤魔化され方しないんだからね!

 ……別に私を褒めることを止めろと言ってるわけじゃないから、そこはちゃんと理解しておくように!」

 

「分かった分かった」

 

「うわー、適当ー。

 恩を売ったのは私の方のはずなのに」

 

 ジト目で睨んでくるエルミア。

 

「いや、なんだ、すまん。

 ……で、何の話だったっけ?」

 

「ヴィルが、私を着せ替え人形にして遊びたいって話でしょ?」

 

「そんなことは一言も言ってないぞ!?」

 

 少女はきょとんとした顔でこちらを見返してくる。

 

「え、見たくないの?

 私のコスプレ」

 

「コスプレって、君はまた言葉を選ばない……

 まあ、見たいか見たくないかで言えば、見たいけれども」

 

「だったら最初から素直に言いなさいよ、このむっつりさん」

 

「むっつ――!?」

 

「はいはーい。

 そんなむっつり男子代表のヴィルのため、実はちゃんと用意があるのでしたー。

 ……私ったら、ちょっとデキる女過ぎない?

 称えてくれていいのよ?」

 

「うわー、すごいなー」

 

「心が全く籠ってない!?」

 

 憮然とするエルミアだが、別にコスプレを止める気にはならないようだ。

 彼女は着ているドレスに手をかけ――

 

「えっ!? おい、待てっ!!

 まさかここで着替えるつもりか!?」

 

 ヴィルが制止するのも聞かず、少女はドレスを脱ぎ捨てる。

 その下から現れたのは、エルミアの下着姿――ではなく。

 

「……なんだ、ドレスの下に着込んであったのか」

 

「まさか、こんな道のど真ん中で素っ裸になるとでも?」

 

「君ならやりかねないと思った」

 

「…………言い返してやりたいけど、説得力が出せない」

 

 日頃の自分への自覚はあるらしい。

 

 それはそれとして、彼女の衣装である。

 ヴィルはざっとエルミアの姿を上から下まで眺めてみる。

 端的に言えば、シンプルなTシャツとスパッツ。

 運動用の服装だ。

 

「ま、単に動きやすい服装にしただけなんだけどね」

 

 言って、その場でくるっと回る。

 別に変なところは無い。

 若干の期待があった分、少々落胆したことは否めない。

 

(普通の格好で助かったと思うべきなのかもしれないが)

 

 ここは旅人行きかう往来なのだ。

 一応、今は人の姿は見えないものの、いつ来るとも限らない。

 故に、派手な姿は勘弁願いたい。

 奇異の目で見られてしまう。

 

(敢えていうなら、ちょっとラフすぎる気もするな)

 

 エルミアの格好は、安全な場所(・・・・・)で運動するには適している。

 しかし、どこに危険が潜んでいるか分からない旅の装いとしては、とても及第点が出せるものでは無かった。

 頑丈な生地を使っている風でもないし――むしろ生地は薄く、少女の凹凸がまるで隠せていない――肌の露出も意外と多い。

 二の腕とか、太ももとか。

 

「…………んん?」

 

 そこで、気がついた。

 一見、何の変哲もないエルミアだったが、どうにも細部に違和感がある。

 

「どうしたのー、ヴィル?」

 

 青年の変化を訝しみ、彼の顔を覗き込んでくるエルミア。

 ただその際、腕をつかって胸を持ち上げ、おっぱいを強調するようなポーズをとる。

 

 ……確信犯である。

 

(――こいつ、下着をつけてない!!)

 

 Tシャツ越しに見える少女の胸は、ブラジャーを付けているにしては妙に柔らかそう。

 その上、双丘の先端には、ぽちっとした“突起”まで確認できる。

 ノーブラなのは間違いない。

 

 下の方も、そうだ。

 スパッツはエルミアの身体に密着しており、彼女のお尻やら太ももやらの形がありありと分かってしまう。

 その時点で実はかなりエロい格好なのだが、特筆すべきは少女の股間。

 股の部分に、一本の“筋”が入っている。

 つまり――ショーツも履いてない。

 

「んんー? どうしたのかなー、ヴィル?

 顔が赤いぞー?」

 

 当の本人はというと、此方へとにじり寄り、胸を擦り付けてきた。

 布一枚隔てた、少女のおっぱいの感触がヴィルへと伝わる。

 それはとても感触の良いものであったが。

 

(こ、この女……)

 

 エルミアは、自分がたじろぐのを見て、楽しんでいるようだ。

 意地悪く顔を歪め、こちらの反応を鑑賞している。

 

(……そう、思い通りにいくと思うなよ!)

 

 ヴィルは決意し、少女に手を伸ばした。

 

「ほらほらー、何とか言ったら――――あんっ」

 

「おや?

 どうしたんだ、エルミア。

 急に変な声を出して」

 

「ど、どうしたって――――あっあっ」

 

 ビクッビクッと身体を震わせるエルミア。

 今度はヴィルが優位に立つ番だ。

 

「何を言っているか分からないな。

 体調が悪くでもなったのか?」

 

「そんなこと――あっ、あんっ――ちょ、ちょっと!

 そんなにいじら――あっあっあっ――いじんないでよっ!」

 

「弄る? どこか、弄られているのか?」

 

「と、とぼけちゃって――あ、あ、あ、あぅっ!

 やば、ちょっと、ホントに――んっあっあっあっ――胸、感じちゃって――あんっ!」

 

 少女は文句を言おうとしつつも、嬌声が抑えられないようだ。

 しかし、ヴィルの手を振り払おうとはしない。

 Tシャツの上から、エルミアの乳首を擦っている(・・・・・・・・)手を。

 

「ん、あ、あぁ――もう、エッチなんだから!

 そんなに――あっあっあっあぁっ――私のおっぱい、触りたいの?」

 

 彼女の胸の先端は、もう固くなっていた。

 コリコリとした感触を指で楽しむ。

 布一枚越しというのが、かえって新鮮であった。

 

「前々から思っていたんだが、君、結構感じやすいよな」

 

「そ、そういうこと今言うっ!?――あっあっ――あ、やばっ。

 ん、あっあっあっあっ――い、イキそう、かもっ」

 

「ほほう」

 

 それはいいことを聞いた。

 今まで片手で擦っていたのだが、両手を使ってやることにした。

 右と左の手で、エルミアの乳首をつまみ上げる。

 

「――あ、あぁああああっ!!」

 

 とうとう、エルミアが大きな喘ぎを上げる。

 快感を堪えることができなくなったのだ。

 

「や、やだっ、そんなに強くしちゃ――あっあっあっあっあっ!

 あ、くっ――ホント、気持ち良く、なっちゃって―――あぅっ!?」

 

「そんな格好してくるからだろ。

 これ見よがしに胸を見せてくるのが悪いんだ」

 

 少女の肌が、うっすらと汗ばむ。

 表情も蕩け、昂ってきているのが見て取れる。

 

「ああっ! んっあっあっあっ!――こんな、外で、なんてっ!」

 

「安心しろ、周りに人はいないよ」

 

「だ、だからって――あっあっあっあっあぁああんっ!!」

 

 拒むような台詞を口にしておきながら、エルミアは身を反らしておっぱいを突き出してくる。

 もっと、気持ち良くなりたいのだろう。

 乳首の刺激で、絶頂を迎えたいのだろう。

 

「あっあっあっあっ! も、イクっ!!

 私、乳首で、イっちゃうっ! ああっあっあっあああっ!!」

 

「そうか」

 

 ヴィルは手を離した。

 

「――――え?」

 

 突然快感が無くなり、不思議そうな、不服そうな顔をするエルミア。

 

「な、なに?

 どうして急に止めちゃうの?」

 

「いや、大した意味はないんだが」

 

 ヴィルは空いた手を少女の股間に伸ばす。

 彼女の胸を弄りながら、ずっと見ていた、その場所へ。

 快楽によってぷっくりと膨らみ、スパッツ越しにも突起が見えるようになった、エルミアのクリトリスへ。

 

 その陰核を親指と人差し指で、思い切り抓ってやった。

 

「あ、あぁああああああああっ!!!!?」

 

 一瞬で、エルミアは絶頂に達する。

 目の焦点がずれ、身体がガクガクと震え、

 

「――あ、ああぁぁぁ」

 

 力なく、その場に崩れ落ちた。

 

「はぁーっ…はぁーっ…はぁーっ…はぁーっ…」

 

 四つん這いになって、荒く息をする少女。

 未だ、絶頂の余韻から覚めないようだ。

 

「…………む」

 

 そんな彼女を、ヴィルは見下ろす。

 正確には、少女の尻を見る。

 

 ピチピチのスパッツに包まれ、その綺麗な曲線美を強調してくるお尻。

 彼の両手に、少女の尻肉の感触が蘇ってくる。

 柔らかく、ハリの良い肉の感触が。

 

 ――あの心地良さをまた堪能すべく、思わず手で触ってしまう。

 

「――ひゃうっ!?」

 

 変な声を出すエルミア。

 

 青年の掌には、むっちりとした肉の触り心地が伝わっていた。

 今回はスパッツ生地のスベスベさも加えられ、いつもとはまた違う触り心地となっている。

 直接肌を触るのとは、異なる趣きだった。

 

「こ、今度はお尻なの?

 もう、今は敏感なのに――あ、あんっ」

 

 絶頂から我に返ったのか、エルミアの声。

 ただ、すぐに尻を揉まれる快楽に酔いしれだす。

 

「は、あ、あ、ああぁぁ……

 ヴィル、こういう服も好きなんだ?

 意外とマニアック――ああぁあぁぁぁぁ」

 

「――ああ、気に入ってしまったかもしれない」

 

 自分の気持ちを正直に吐露する。

 ドレス姿も良いし、ローブ姿も堪らなかったが、こういうのもいい。

 服を着ている状態でも、エルミアのおっぱいやお尻の形が目に見えるというのが、実によろしかった。

 

 そもそもエルミアは美少女なのだから、何を着たって似合う。

 似合うのだから、色んな衣装を鑑賞してみたいという欲求は、どうしようもない男の性である。

 

「んっんんっんっ――じゃあ、今度また別の服を用意してあげる。

 いろんな私を、見せてあげるから――んっあっあっあぅっ」

 

「それは――夢が広がるな」

 

 嘘偽りない、本音である。

 エルミアをモデルとしたファッションショーがヴィルのために開演される。

 それは、まさに理想の世界であった。

 

「ん、んんっ――で、どうする?

 そろそろ、しちゃう?」

 

 少女が、くいっとお尻を上げてきた。

 スパッツの股部分に――股間の“筋”の周辺に、染みができている。

 愛液によるものだ。

 彼女の準備は万端らしい。

 

「ああ、そうする」

 

 拒否する理由は何もなかった。

 エルミアの膣へ挿入するため、ヴィルはズボンを――

 

 

 「大丈夫かね、君達っ!?」

 

 

 ――突然、声がかけられた。

 

「のぁあああああああっ!!!?」

 

「にゃぁああああああっ!!!?」

 

 不意を突かれ、2人とも意味不明な叫びを上げる。

 そして各々、可能な限り素早い手つきで居住まいを正す。

 

「な、ななな、なんだろうか!?」

 

 声がした方へ向きながら、ヴィルは返答をした。

 完全に声が上ずっている。

 

「いや、こんな道の真ん中で倒れていたのでね。

 体調でも崩したのかと思って心配になって声をかけたのだが……」

 

「――そ、そうでしたか。

 それは、ご親切にどうも」

 

 目の前にいたのは、老年の夫妻だった。

 装いを見るに、旅行の身なのだろう。

 ヴィル達に話しかけてきたのは、旦那の方だ。

 

 青年は老人に頭を下げながら、話しかける。

 

「あの、別段彼女の体調に問題はありませんので。

 御心配をおかけして、すみません」

 

「本当に大丈夫かね?

 幾らかの薬なら手持ちにあるから、分けてやることもできるぞ」

 

 老人は、本当に自分達を心配しているようだった。

 善意100%の態度が、ヴィルの心に罪悪感を植え付けてくる。

 

「ああ、いえ、それには及びません。

 ちょっと、こう、休んでいただけなので」

 

「うぅむ、いや、しかし――」

 

「……ちょっと、お爺さん!」

 

 渋る老人に、老婦人が話しかけた。

 

「こちらの方はそう仰っているのですから、これ以上は無理強いですよ!」

 

「う、うん? だがな、旅行中での不調というのは少々のことでも大事に――」

 

「あんまりしつこいと、かえって迷惑をかけますよ。

 年寄りの冷や水には、なりたくないでしょう?」

 

「む、むぅ、そうか」

 

 夫婦だけあってか、老婦人は簡単に老人を説き伏せた。

 老人は再度、ヴィルの方を向き、

 

「どうも、差し出がましい真似をしてしまったようだ。

 すまなかったね」

 

「いえ、我々が誤解させるようなことをしてしまったので……」

 

「そう言って貰えると助かるよ。

 まあ、今回は問題無いようだが、旅中での体調管理はしっかりとな。

 ――では、良い旅を」

 

 にこやかに笑ってから、老人は踵を返した。

 

「主人がごめんなさいね。

 でも、老婆心から注意させてもらうと、“そういうこと”はこんなとこでするものじゃありませんよ?

 危ないし、人に見られちゃうかもしれないし、ね。

 それじゃ、良い旅を」

 

「あ、あはははは」

 

 老婦人の台詞に、ヴィルは空笑いする。

 彼女の方は、正確に(・・・)こちらの事情を把握していたようだ。

 揃って歩き去っていく老夫婦を見送ってから、

 

「……心臓が止まるかと思った」

 

「……俺もだ」

 

 ヴィルとエルミアは、同時にほっと息を吐く。

 

「っていうかね、ヴィル!

 貴方、周りに人はいないって!」

 

「す、すまん。

 夢中になり過ぎていた……」

 

 言い訳をするならば。

 もし、あの老夫婦が少しでも“敵意”のようなものを持っていたなら、いくらヴィルといっても勘付くことはできただろう。

 

(……いや、これじゃ言い訳になっていないな)

 

 エルミアとの“行為”に集中し過ぎて、周りが見えなくなっていたのは事実である。

 これは、良くない傾向だ。

 

(これからは気を付けないと)

 

 しかし、“行為”をするのを止めようとは考えないあたり、青年も大分少女に嵌って(・・・)いる。

 それはともかく。

 

「続きは、夜になってからだな」

 

 こんなことがあって、なおもこの場でセックスをする気にはなれなかった。

 それは、エルミアも同感らしく、

 

「そうねー。

 ちゃんと宿をとって、それから――――あっ!!」

 

 突然、大声を出す。

 

「どうした?

 何か問題でもあるのか?」

 

「――忘れてた、私、明日が聖拝の日なんだった」

 

「また唐突だな、おい!?

 というか、聖女のくせにそれを忘れるってお前……」

 

 呆れ顔で、ヴィル。

 

 聖拝とは、一日をかけて父たる天神と母たる地神へ祈りを捧げる儀式のことだ。

 教会に属する者は月に一度、必ずこれを行わねばならない。

 なお、実施する日は個人毎に定められており、特定の日に僧侶全員が祈るわけではない。

 これは、過去に聖拝の日を狙って魔物に襲われるのを防ぐため、と言われている。

 

「忘れちゃってたもんは仕方ないでしょ!

 ちゃんと思い出したんだからいいのよ、別に!

 とにかくそういう訳だから、今日の宿はしっかり選ばないとね!」

 

「うん?

 聖拝と宿と、どう関係があるんだ?」

 

「だって、一日祈ってなきゃいけないのよ?

 そりゃ、清潔で居心地のいい部屋じゃないと」

 

「我が儘言うなよ!?」

 

「わ、我が儘じゃないわ!!

 祈りに集中したいのよ!!

 そのために、他の雑念をできるだけ排除したいわけ!!

 これは必要なことなのよ!!」

 

「本当か……?」

 

 まあ、一日、食事も摂らずに祈るわけだから、少しでもいい環境を整えたい気持ちも分からなくもない。

 ただ、彼女の主張には致命的な欠陥があった。

 

「しかし、そんな君に悲しい報告がある」

 

「え、何?」

 

「ここから先――しばらく、宿場町は無い」

 

「えーっ!!?」

 

 地図を出して指し示す。

 次の街は少々遠く、とても今日中に辿り着ける距離では無い。

 つまり、今夜は粗末な休憩所に泊まるより他ないわけで。

 

「い、嫌ーーーーーーっ!!!」

 

 街道に、エルミアの嘆きが木霊した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 夫人の家(H)

 

 

「あったーーーーーっ!!」

 

「……あるもんだなぁ」

 

 エルミアは喜び、ヴィルは感慨深げに、声を出した。

 

 もうじきに夕刻へ達するような刻限。

 街道を進んでいた2人は、一軒の家を発見したのだ。

 

「いやー、やっぱ私、持ってるわー。

 神の御加護が降り注いできてるわー。

 うん、今日の宿はあそこに決まり!」

 

「いや、見るからに宿というより普通の家だぞ?

 泊めてくれるかどうかは、まだ――」

 

「何言ってんの?

 私、聖女様よ?

 お願いすれば二つ返事で泊めてくれるに決まってるじゃない!

 最近は運も絶好調だしね!!

 いけるいける!!」

 

 ドヤ顔でうんうん頷く彼女に、青年は半目になって告げる。

 

「運が絶好調って……つい最近、殺されかけたのを忘れてるわけじゃないだろうな?」

 

「え、だって、貴方に会えた(・・・・・・)のよ?

 運が良くないわけないでしょう?

 寧ろ、我が人生の最高潮とすら言えるかも。

 幸運の星が頭上で瞬いている感じ!?」

 

「…………そ、そうか」

 

 皮肉を言ってやろうとしたのだが。

 無邪気な笑顔で、自分と会えたことを嬉しがられると――何も言えなくなってしまう。

 それ以上、少女に何か言うのは止めて、ヴィルは見つけた家を再度確認した。

 

 建屋は小奇麗に掃除されているようで、廃屋というわけでは無さそうだ。

 それは隣に小さな畑があることからも分かる。

 

(自炊をしているのか。

 まあ、ここは街から遠いからな)

 

 交通の便が悪い所で暮らすのならば、必要なものは自前で手に入れる必要がある。

 ただ、誰が見ても不便な場所で暮らしているというのは――

 

(――余程の変人なのではなかろうか)

 

 例えば、犯罪を犯して街にいられなくなった、とか。

 例えば、人が嫌いで街に住みたくない、とか。

 想像は幾らでもできる。

 

 この国における聖女の知名度を鑑みるに、確かに本人の言う通り、エルミアの頼みは普通(・・)断られないだろう。

 しかし、相手が普通ではない――偏屈な人物だった場合は?

 

(存外、難航するかもしれないな)

 

 顔を綻ばせる少女を後目に、青年は不安を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 然して。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 ヴィルの予想は、あっさりと外れた。

 

「――よろしいのですか?」

 

「はい。

 聖女様に泊まって頂けるというのであれば、寧ろ喜んで部屋をお貸しします」

 

 エルミア(聖女モード)と、この家の住人との間で話が纏まった。

 

(こんな美味い話があるのか?)

 

 とんとん拍子で事が進展し、却って不安になる。

 ただ、住人におかしなところは無い。

 

 一軒家に住んでいたのは、セリーヌという、妙齢の女性だった。

 黒髪をロールアップにしてまとめ、泣きホクロが艶をだしている。

 どこか影のある雰囲気を纏っているものの、はっきり、美女と呼んでよい。

 

 ヴィルが確認する限り、身なりはしっかりしているし、言葉遣いも丁寧で、礼節も弁えている。

 どれだけ注意深く気配を探っても、エルミアに対する殺意・敵意のようなものもなかった。

 

(刺客かとも疑ったが、その心配はなさそうだ)

 

 逆に、この女性が何故このような辺鄙かつ治安も決してよくないであろう場所に住んでいるのか、そこが不思議ではあった。

 

 エルミア(聖女ver.)とセリーヌとの会話は続く。

 

「では聖女様――」

 

「エルミア、と呼んで頂けませんでしょうか。

 どうか、様付けもお省き下さい。

 御助力頂く貴女からそう畏まれてしまっては、私の立つ瀬が無くなってしまいます」

 

 機先を制してそう告げる少女。

 

「――そうですか。

 では、エルミアさん。

 早速、お部屋へご案内しましょう。

 ――夫の部屋なのですが、エルミアさんに気に入って貰えますかどうか」

 

「旦那様の?

 失礼しました、セリーヌさんはまだお若いので、てっきり――」

 

「あらあら、エルミアさんはお世辞もお上手なのですね。

 ふふふ、(わたくし)は1年と少し前に、結婚しているのですよ」

 

「そうでしたか。

 それはおめでとうございます。

 遅ればせながら、ご祝福させて頂きますわ。

 しかしそういうことであれば、旦那様にもご挨拶いたしませんと」

 

 よくぞここまで口が回るとヴィルは感心してしまう。

 青年もよく言い負かされているし、基本的に彼女は機転が利くのだろう。

 

 ただ、エルミアの提案はセリーヌに受け入れられなかった。

 夫人は、こう言ったのだ。

 

「いえ、夫は今居ませんわ」

 

「お出かけになられているのですか?

 でも、勝手にお部屋を使ってしまうのは心苦しいですね」

 

「いえいえ、その心配には及びません」

 

「と、言いますと?」

 

「夫は、1年前に死にましたから」

 

「…………え」

 

 流石のエルミアもすぐには二の句が継げなかった模様。

 

「……それは、その、ご愁傷様でした」

 

「ええ、必ず君を幸せにすると、そう約束しておきながら、あっさりと逝ってしまいました。

 結婚して、ほんの数か月で。

 これから羽ばたく2人のための愛の巣だ――とかなんとか言って、こんな辺鄙なところに家まで建てて。

 街から遠いせいで、建てるのにかえってお金がかさみましたのよ?

 おかげで貯金はすっからかん、他へ移ろうにも、まず引っ越しに必要なお金がない有様。

 いったい、(わたくし)にどうしろと言うのでしょうね?」

 

「あの、その、お、お気持ち、お察しいたします」

 

 少女の歯切れが悪い。

 仕方ないことだろう。

 ヴィルだって、こんなこと言われればどう返したものか途方に暮れる。

 

「――でも、そのおかげでこうしてエルミアさんに部屋をお貸しできるのですから。

 夫の死も、無駄ではなかったのでしょう。

 いえ、あの人はこの日のために、こんな訳の分からない僻地に家を建て、さくっと死んだのかもしれません」

 

「えーっと、そういうところに意義を見出されますと、私としても――なんと申し上げたらいいのか――」

 

 エルミアの言葉がつっかえつっかえになる。

 一方でセリーヌはにこやか(・・・・)に笑いながら(でも目は笑ってない)、

 

「とまあ、そんな部屋ですので、何の気兼ねも無く使って頂ければ助かりますわ」

 

「……はい、恐縮です」

 

 少女は神妙な顔で頭を下げた。

 下げるしか、なかったのだろう。

 

(――しかし、何はともあれ)

 

 エルミアは、聖拝に適した環境を手に入れることができたのだった。

 ……当初の予感通り、相手はちょっと普通でなかったが。

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 セリーヌは物音で目を覚ました。

 

(エルミアさん、まだ起きているの?)

 

 彼女は聖拝について詳しくないが、その準備をしているのかもしれない。

 何せ、一日中祈りを捧げなければならないのだから、相応の用意が必要でも不思議でない。

 

(……飲み物でもお出ししましょうか)

 

 そう思ってベッドから起き、寝間着の上に軽くカーディガンを羽織ってから自室を出るセリーヌ。

 キッチンでお茶を淹れ、念のためお供の守護騎士の分と合わせ、2個のティーカップへ注ぐ。

 お盆にカップを乗せると、エルミアへ貸した部屋へと向かう。

 

「――あら?」

 

 部屋から光が漏れていることに気付いた。

 どうやら、ドアが完全に閉まっていないらしい。

 

(……どんなことをされているのかしら?)

 

 それは、純粋な好奇心だった。

 セリーヌは忍び足でドアの前まで進み、そっと中を覗き込む。

 そこには――

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 凄いっ! ヴィル、凄いっ!!

 気持ち、いいっ!! ああっ! あっ! あああっ!!」

 

 

「………っ!!?」

 

 夫人は思わず息を飲んだ。

 部屋の中では、“裸の2人”が抱き合っていた。

 無論、エルミアとヴィルだ。

 仰向けに寝そべった青年の上に少女が跨っている。

 

(う、嘘っ!?

 聖女様が――!?)

 

 セリーヌは目を疑った。

 あの、見るからに貞淑で、物腰も柔らかかった少女が、男の上で腰を振っている。

 

 

「あっ! あぁっ! いいっ! いいのっ!

 もっと、もっと突いてっ!! あぁああんっ!!」

 

 

 嫌々としている訳でない。

 気持ち良さそうに喘ぎ、長い銀髪を振り乱していた。

 顔は恍惚とし、肢体が上下する度に整った乳房がプルンと揺れる。

 

(――なんて――なんて――!!)

 

 ……セリーヌは、ここで憤慨すべきだったのだろう。

 聖女に選ばれておきながら、なんとふしだらな真似を、と。

 聖拝のために借りた部屋で、失礼な行為に及ぶな、と。

 

 しかし、彼女は。

 

(――なんて、羨ましい)

 

 エルミアに、羨望の眼差しを向けてしまった。

 

 いや、セリーヌが注目しているのは、最早聖女ではない。

 少女の下で、彼女を突きあげている――

 

 

「そんなに腰をくねらせて――そんなに気持ち良くなってるのか!?」

 

 

 ――騎士ヴィルの姿から目を離せなくなってしまった。

 

(……凄い……逞しい雄の身体)

 

 久方ぶりに見る殿方の裸。

 しかも相手は、体格良く、無駄な贅肉など一切ない、しなやかな筋肉の持ち主。

 セリーヌの考える、理想的な雄の形だった。

 

 エルミアの嬌声が響く。

 

 

「あ、ああっ! 気持ちいいっ! 気持ちいいのっ!!

 こんなっ強くっ! あっあっあっ! やられちゃったらっ!!

 気持ちよくなっちゃうに、決まってるじゃないっ!!」

 

 

(あんなにも……力強く……)

 

 青年は、少女の重さなど何も感じないかのように軽々と腰を動かしていた。

 幾らエルミアが小柄とはいえ、そのインパクトは絶大で。

 夫人はごくりと唾を飲み込む。

 

(――(わたくし)も――ああやって突かれたら――)

 

 想像して、じわりと身体の芯が疼くのを感じる。

 雌の本能が騒ぎ出した。

 自分もヤられたいと、そう思ってしまっている。

 

 2人の動きが激しくなる。

 

 

「やっ! あっ! ダメっ!!

 ヴィルの、叩いてるっ!! 私の、一番深いとこ、叩いちゃってるよぉっ!!

 あっ! あんっ! ああっ! あっ! あぁああっ!!」

 

 

(そ、そうなのっ!? そんなところに、届いちゃっているのっ!?)

 

 ヴィルとエルミアが繋がっている部分を凝視する。

 青年のペニスは、彼の身体から予想できる通り、立派な一品なのか。

 ドアの隙間からでは、その現物を見ることは叶わなかった。

 しかし、それがセリーヌの妄想をより掻き立てる。

 

「はぁぁぁ……んっ……あ、あぁぁぁ……」

 

 夫人もまた、自然と喘ぎを漏らし始めた。

 無意識の内に、自分で股を弄っていたのだ。

 

(ああ、やだ、(わたくし)――もう、濡れてるだなんて)

 

 指を動かすと、くちゅくちゅ音が鳴る。

 既に愛液が滴っている証拠だった。

 

 

「イ、クっ! 私、イっちゃうよっ!!

 もう、無理だからっ!! イクの、我慢できないからっ!!

 あっ! イクっ! ヴィルっ! イクのっ!!!」

 

「ああ、いいぞ、エルミアっ!!

 俺も、そろそろ、出すっ!!」

 

 

 部屋の中の2人は、ラストスパートに入ったようだ。

 

(イクのっ!? イクのねっ!? 2人同時に、イっちゃうのねっ!?)

 

 彼らとタイミングを合わせるように、セリーヌも手の動きを速めた。

 自分の指によって、長らく感じていなかった刺激が股間から脳へ駆けあがっていく。

 

「あっ――あっ――あっ――ふぁっ――

 あっあっあっあっあっあっ――あぁぁああああっ――!」

 

 快感に表情が蕩け、口が半開きになる。

 もう、自分の意思でも手は止められない。

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 イクっ! イクっ! イクぅっ!!

 イクイクイクイクイクイっちゃうぅうううううっ!!!!

 あぁぁぁあああああああああああああああっ!!!!」

 

「――ぐっ!

 出すぞ、お前の中に、全部っ!!!」

 

 

 ヴィルの腰がいっそう強くエルミアへ叩きつけられると、そのまま2人は強く抱き合った。

 少女の方は、ぶるぶると身体を揺らし、快感に打ち震えている。

 膣内へと射精されているのだろう。

 

 セリーヌも、指を自分の中へ強く突き入れ――

 

「あっあぁぁぁあああぁぁぁぁぁ―――っ!」

 

 ――イった。

 だらしなく喘ぎ、1年ぶりの絶頂を味わった。

 頭が真っ白になり、とても立っていられない。

 静かに、その場へへたり込んでしまう。

 

「――はぁっはぁっ――はぁっはぁっ――はぁっ――」

 

 瞳に涙を溜めながら、絶頂の余韻に肢体を揺らした。

 気付けば、ショーツがびちょびちょになっている。

 まるで小水でも漏らしたかのように。

 

 少しの間、その場にいる3人全員が、動きを止める。

 ……最初に口を開いたのはヴィルだった。

 

 

「エルミア、もう一回、していいか?」

 

 

(――えっ!?)

 

 その台詞に、セリーヌは驚く。

 今、あの青年は射精したばかりのはずなのに。

 まだヤれるというのか。

 

(あの人は、一回終わったらすぐ寝てしまったのに)

 

 いけないことだと分かりつつも、ついつい旦那と比べてしまう。

 

 

「――もう、好きなんだからー。

 いいよ、次はどの体勢でする?」

 

 

 エルミアも、身体を起こした。

 

 

「……バックで」

 

「はいはい。

 じゃ、動くわよ――んぅっ」

 

 

 青年の注文を受け、少女が腰を上げる。

 その時――

 

(―――ああっ!?)

 

 待望していた、ヴィルの男根が見えた。

 一度絶頂を迎えたはずのソレは、しかし未だ猛々しく勃起している。

 

(――お、大きいっ!? 太いっ!? 長いっ!?

 嘘ッ!? あの人のと全然違うっ!!)

 

 記憶の中にある夫のイチモツは、青年のモノと比べ物にならない程に貧相な代物だった。

 ……彼女の中で、亡き旦那への罪悪感など、もう吹き飛んでしまっている。

 

(あ、あんなのを挿れて貰ってたの、エルミアさんはっ!?)

 

 アレを下の口で咥え込んだら、自分はどうなってしまうのか。

 セリーヌには、想像することもできなかった。

 

 その上――

 

 

「あ、やだ、零れてきちゃった」

 

 

 ――エルミアの股から、白い液体がぼたぼたと垂れるのが見えた。

 彼女の膣に入りきらなかった、精子だ。

 

(あ、ああ――いっぱい、いっぱい射精されちゃってる――)

 

 その“量”は、セリーヌを驚愕させるに十分であった。

 子宮の中が、青年の熱い精液で満たされたなら。

 どれだけの幸福感に包まれるか。

 

(――欲しい。

 アレ、(わたくし)も欲しい――!)

 

 そんな情念が、思考を支配していく。

 

 エルミアだけ、ずるい。

 自分だって、あのがっしりとした体に抱かれたい。

 雄々しい肉棒を味わいたい。

 

(……そうよ。

 (わたくし)は、エルミアさんに聖拝の部屋を提供したんだもの。

 それくらいの権利は、あるはず……!!)

 

 部屋の中では、“続き”が始まっていた。

 後ろからヴィルに責められ、嬉しそうに喘ぐエルミアが見える。

 

 だが、セリーヌにとってそれはもうどうでも良かった。

 そんなことより、“明日”だ。

 

(――聖拝をしている間、エルミアさんは部屋から動けない)

 

 つまり、あの青年はフリー(・・・)になる。

 だったら――

 

「――エルミアさん、貴女がいけないのよ。

 聖女の癖に、あんなはしたない真似をするから……!」

 

 自分が悪いわけじゃない。

 これは、エルミアの“行為”を見せつけられたせい――彼女のせいなのだ。

 

 そう自分を正当化すると、セリーヌは“準備”をするため、自室へ戻るのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 仕掛けられた罠(H)※

 

 

 セリーヌ夫人の家で、一夜が明けた。

 日が昇って早々から、エルミアは部屋にこもり、祈りを捧げている。

 凛とした顔で聖言と共に拝み続ける少女の姿は、とても魅力のある光景であったが、何時までも見ているわけにはいかない。

 そんなわけで、ヴィルは居間へと顔を出すことにした。

 

「――あら、ヴィルさん、おはようございます」

 

 入ると、セリーヌから挨拶が。

 そちらの方を向き、ヴィルも挨拶を返す。

 

「おはようございます、セリーヌさっ――ん」

 

 台詞の最後を、上手く言えなかった。

 何故なら、婦人が昨日とはまるで違う出で立ちだったからだ。

 

 ロールアップだった髪は下ろされ、ストレートロングへ。

 鮮やかな黒い髪が、彼女の動きに合わせて流れている。

 顔は薄く化粧が施され、表情も明るく、前に感じた陰鬱な雰囲気が無くなっていた。

 

(別人、とまでは言わないが……)

 

 よく似ている違う人、と言われれば信じてしまうかもしれない。

 それ程までにイメージが変わっていたのだ。

 

(それに――その、服も――)

 

 変化は、顔だけでは無かった。

 服装も、だ。

 いや、服装こそ最も変化が激しかった。

 

 キャミソールにロングスカートという格好なのだが、まず胸元が大きく開いている。

 おっぱいの上半球が丸々見えてしまうくらいに。

 セリーヌのたわわに実った2つの果実が、これ以上なくエロく強調されていた。

 

 それと、生地。

 白色をメインとした服なのだが――透けている。

 結構な勢いで透けている。

 流石にぱっとすぐに分かる程ではない。

 しかし、目を凝らせば本来服に包まれているセリーヌ夫人の裸体を薄っすら見えてしまう。

 

(胸も尻も、エルミアより随分と大きいな――ああ、いやいや)

 

 それでいて、形が崩れていない。

 なかなかのプロポーションだった。

 いや、エルミアはエルミアで均整の取れた身体つきであるのだが、単純なサイズでは婦人に軍配が上がる。

 

(し、下着は黒か――)

 

 ……別に、確認しようとしたわけではないのだ。

 単に、見えてしまっただけ。

 セリーヌが纏う、黒いレースの下着が。

 

(い、色合いの問題でだね)

 

 意味も無く心の中で弁解を試みる。

 肌色の中に黒というのは、コントラストの関係でよく映えてしまうのだ。

 本当に。

 他意は無い。

 

 ――と、こんな具合にヴィルが固まっていると、セリーヌが近づいてくる。

 

「ちょうど良かったですわ。

 今、朝食の用意ができたんです。

 どうぞ、食べていって下さいませ」

 

「あ、ああ。

 ありがとう、ございます」

 

 夫人に手を握られ(・・・・・)、そのまま席へと連れていかれる。

 少ししっとりとした肌が、暖かかった。

 

 

 

 実際、朝食はすぐに用意された。

 ただ――

 

「――あの」

 

「どうされました?

 さあ、召し上がって下さいな」

 

「――はい」

 

 一先ず、ヴィルは気にしないことにした。

 セリーヌが、青年のすぐ隣(・・・)に座ったことを。

 

(ち、近すぎるだろう、これは……)

 

 普通、対面辺りの席にするものじゃないのだろうか。

 この辺りに伝わる風習か?

 

 しかも、ただの隣ではない。

 身体を少し横に揺らせば、触れ合ってしまう(・・・・・・・・)位の“隣”だ。

 息遣いすら、聞こえてしまう。

 

(そ、それにこの位置からだと……見えてしまう……)

 

 チラリと、視線を夫人の胸元(・・)に移せば。

 大きな乳房のその先に、他とは色合いの異なる箇所が。

 ……乳輪が、一部顔を見せてしまっている。

 ちょうど、キャミソールの内側を覗きやすい角度なのだ。

 

「あ、サラダを取り分けますわね」

 

「ど、どうも……」

 

 セリーヌ本人はそれを知ってか知らずか、微笑みながら食事を勧めてくる。

 ……気のせいだとは思うのだが、こちらに見せつける姿勢を多く取っているようにも思えた。

 

(自意識過剰なせい。自意識過剰なせい)

 

 ヴィルは自分に言い聞かせる。

 まさか、彼女が自分を誘惑してる(・・・・・)なんてことは無いだろう。

 旦那が死んでから、まだ1年しか経っていないのだ。

 他の男に色目を使うようなことをしていると、そう考えるのは失礼に当たる。

 

 

 

 ――朝食は、つつがなく終了した。

 途中、食べ物の一部がセリーヌの胸へと落ちることが幾度か(・・・)あったが、それ以外には何もない。

 信じて欲しい。

 何もない。

 

(…………す、少しだけ、ポロリもあったけれど)

 

 胸の谷間に人参が入り、慌てたセリーヌがキャミソールの胸元をさらに広げて。

 その時、彼女の“乳首”がはっきりと見えてしまった。

 柔らかそうな、おっぱいの全体像も。

 

(す、すぐ他を向いたから)

 

 一瞬だけだ。

 ほんの一瞬だけ、見てしまっただけなのだ。

 だから――不問として貰いたい。

 

 誰に対するものか、ヴィル自身分かっていないが、ともかく彼は言い訳を続けていた。

 無論、心の中で。

 こんなこと口に出したら相当やばい。

 

「ヴィルさん、食後のお茶はどうですか?

 うちの畑で採れたもので――自分で言うのもなんですが、良い味ですわよ」

 

「すいません、何から何まで」

 

「いえいえ。

 ナニからナニまで、(わたくし)にお任せ下さい」

 

「…………?」

 

 今、ニュアンスが変だったような。

 ……まあ、些細なことだろう。

 

 セリーヌはキッチンでお茶を淹れると、ヴィルの所まで持ってきてくれた。

 青年の前にお茶入りのカップを置く、その時。

 

「あ、手が滑ってーー」

 

 なんだか棒読みな台詞を口にしたかと思うと、夫人の手からカップが落とされた。

 ヴィルの、腰辺りに向かって。

 

「おっと」

 

 青年はそれを空中で(・・・)キャッチ。

 無論、中身は一滴も零さない。

 この程度の芸当、朝飯前だ。

 ヴィルは改めてカップをテーブルに置くと、

 

「危なかったですね」

 

「………………ちっ」

 

「っ!?」

 

 今の舌打ちは何だ。

 しかし当のセリーヌは、何をするでもなくすぐ頭を下げてくる。

 

「あ、いいえ、すいません、(わたくし)ったら。

 なんだか緊張しているのかも」

 

「緊張、ですか。

 俺は聖女のお供に過ぎないので、そう畏まらなくとも――」

 

「――貴方みたいな、素敵な男性を前にして」

 

「っ!?」

 

 ぼそっと、耳元で夫人が囁いてきた。

 ぞくっとするような、色っぽい声で。

 

(お、お世辞、なのか――?

 いや、お世辞だよな!?)

 

 うん、そうだ。

 そうに違いない。

 

 ヴィルはそんな感じに自己完結すると、ちょっと震える手でお茶をすする。

 言うだけあって、いい味ではあった。

 

 

 

 それからしばし、2人で談笑する。

 セリーヌは、ヴィルのことを色々と根掘り葉掘り聞いてきた。

 青年は、当たり障りが無い程度にそれへ答える。

 騎士らしい活動には事欠かなかった(・・・・・・・)ので、話題には苦労しなかった。

 ただ、少々自分について聞きすぎなのではないか、という疑念も。

 

(……まあ、エルミアのことを聞かれるよりはマシなんだが)

 

 何せ、ヴィルはお供の騎士などでは無いのだから。

 下手なことを言って、それがバレてしまわないとも限らない。

 

(しかし、そんなことは今どうでもいい)

 

 談笑の内容など、現在の青年にとって些細な事だった。

 

(今、問題なのは――)

 

 意を決し、ヴィルはセリーヌに話しかける。

 

「……セリーヌさん。

 流石に、近すぎじゃないだろうか?」

 

「あら、そうかしら?」

 

 恍けた様子で、夫人。

 だがもう、今の状態は誤魔化しの利くものではなかった。

 

 ――密着している。

 2人は、普通に密着している。

 

 セリーヌは、ヴィルの膝に手を、肩に顎を乗せてしな垂れかかってきていた。

 そんなことをすれば、吐息が耳をくすぐる。

 胸だって青年の身体に当たる。

 柔軟な感触が、ヴィルの腕に押し付けられていた。

 

 夫人は、不思議そうな顔で言葉を続ける。

 

「これ位、普通ですわよ」

 

「いや、普通じゃない。

 いくらなんでも、普通じゃない」

 

 気分が追い詰められ、丁寧語からいつもの口調に戻ってしまった。

 セリーヌはさらに、ヴィルの腕へと抱き着いて、

 

「――仮に普通じゃないとして。

 ヴィルさんに、何か不都合がありまして?」

 

 肢体を、青年に擦りつけてくる。

 体のあちこちで、夫人の“柔らかさ”を感じられた。

 

(ふ、不都合も何も!)

 

 胸中で嘆く。

 もう、いっぱいいっぱいだった。

 ヴィルは、不能でも何でもない、健全な一般男子なのだ。

 身体の“一部”が固くなろう(・・・・・)とする衝動を、必死の思いで抑えていた。

 

 正直なところ、ここで彼女を襲ったとしても“合意”なんじゃなかろうかという考えも浮かんできたが――

 

(エルミアが、居る――!)

 

 彼の脳裏に少女の姿が浮かび、自制する。

 誰かに褒めて欲しいくらいの、鋼の精神力であった。

 

「………………存外に手強いですわね」

 

 またしても、小さくセリーヌが呟く。

 何が手強いというのか。

 そして、チラっと青年の股間を見たのは何故なのか。

 

「そうだ、美味しい茶菓子もありますのよ。

 是非、ご賞味して欲しいですわ」

 

「そ、そうか。

 じゃあ、貰おうかな」

 

 セリーヌが茶菓子を持ってくる=ヴィルから身体が離れる。

 頷かないわけにはいかなかった。

 

 青年の目論見通り、夫人は席を立ち、すぐ近くにあるタンスを探り始める。

 

(――うっ!?)

 

 そして、ヴィルは自分の甘さを痛感した。

 セリーヌは、タンスの中に頭を入れるような姿勢をとりだしたのだ。

 そうなると自然、前屈みになり――夫人のヒップが、ヴィルに向かって突き出される格好となった。

 真っ直ぐ、青年へと尻が向けられる。

 まるで、計算されていたか(・・・・・・・・)のように。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(で、でかいな――しかも、柔らかそうだ――)

 

 目が釘つけになった。

 先述通り、セリーヌの履いたスカートは透けている。

 なので、黒いレースの下着に包まれた丸くて大きいお尻を目の当たりにできた。

 しかも黒ショーツは、尻の割れ目へ食い込んでいる。

 

「あらあら?

 (わたくし)ったら、どこに仕舞ったかしら?」

 

 見つからないのか、セリーヌはなかなか顔を上げない。

 未だ、引き出しの中を探している。

 

(……お、おいおい)

 

 どういう探し方をしているのか、婦人は尻を左右に振り出した。

 ふりふりと、大きなヒップが煽情的に揺れる。

 

(――お、おお)

 

 ヴィルは、股間に血か集まってくるのを感じた。

 むくむくと、イチモツが立ち上がっていく。

 セリーヌの目が無い分、気が緩んでしまい、抑制が効かない。

 

(――ま、まずいぞ。

 早く鎮めなければ!)

 

 精神を集中し、心を落ち着かせる。

 何とか昂りを消そうと、一心に煩悩を払おうとする――のだが。

 

「よいしょっと」

 

 聞こえた、夫人の声。

 ついつい、そちらを見てしまう。

 

(―――おいーーーっ!!!)

 

 心で絶叫。

 何を血迷ったか、セリーヌはスカートを捲り上げたのだ。

 生地越しではない、生尻が姿を現す。

 

「うーん、こっちの方だったかしら?」

 

 さらに、夫人は姿勢を微妙に変え――股を開いた。

 尻だけではなく、恥丘まで丸見えだ。

 そして――

 

(――ぬ、濡れてる……!?)

 

 彼女の股が――ちょうど女性器がある部分が、じっとりと濡れていた。

 セリーヌは、愛液を漏らしていたのだ。

 おそらく、ヴィルと会話している最中、ずっと。

 

(あああああああああっ!!?)

 

 青年の股間は、もう収まりが付かなくなっていた。

 ギンギンに勃起した愚息は、ズボンを大きく隆起させる。

 萎れる気配など、微塵も無い。

 逆に、今すぐにでもあの女へぶち込んでやりたい、という衝動に駆られる始末。

 

(いかん、こんなところを見られては――)

 

 何を言われるか、分かったものでは無い。

 どうにかコレを隠そうとするヴィルではあったが、

 

「お待たせしました、ヴィルさん」

 

 何ともタイミング悪く――見計らったかのような(・・・・・・・・・・)タイミングで、セリーヌは戻ってきた。

 すぐ、青年の“変化”に気付いたらしく。

 

「ああっ!? ヴィルさん、あそこを、そんなに――!?」

 

「い、いや、これはその……」

 

 いい弁解の言葉など思いつかず、あたふたとしていると。

 夫人はヴィルに近づき、彼の股間を覗き込んでくる。

 

「こんな、勃起されているだなんて――」

 

「えー、これはだな、決してやましい気持ちからのものでは……」

 

 一応言葉は口にしてみたものの、説得力がまるで無い。

 セリーヌは、ヴィルの股をそっと手で触れてきた。

 

「――ああ、大きい――なんて、凄い――」

 

「ちょ、待った!!

 セリーヌさん!?」

 

「――ヴィルさん、(わたくし)の身体で、勃起されたんですよね……?」

 

「あーっ、その、なんだ――――――はい」

 

 渋々、認める。

 他に原因らしきものなどこの部屋にないのだから、認めざるを得ない。

 

「では――(わたくし)がコレを鎮めて差し上げます」

 

 うっとりとした、それでいて艶のある声で、夫人はそう宣言する。

 ヴィルは仰天し、

 

「い、いやいや、結構!

 その必要はない!

 少しすれば、治るので!!」

 

「でも、苦しくは無いですか?

 辛くは無いですか?

 (わたくし)の責任ですから、(わたくし)が処理しますわ。

 よろしいでしょう?」

 

「大丈夫! 大丈夫だから!!

 放っておいて下さい!!

 ……そ、そうだ、稽古!!

 そろそろ剣の稽古の時間なので!!

 ちょっとそとで剣振ってこなければ!!

 稽古してれば、すぐ気持ちは静まるから、な!?」

 

 絡みついてくるセリーヌの肢体を、なんとか振りほどこうとするヴィル。

 夫人は青年を潤んだ瞳で見つめ、

 

(わたくし)では、不満ですか?」

 

「そういう問題ではなくて!」

 

「……エルミアさんとは(・・・・・・・・)()()()()()()?」

 

「――っ!?」

 

 一瞬、息が止まる。

 心臓を鷲掴みにされたようだった。

 

「み、み、見ていた、のか?」

 

「はい、昨日の夜、お2人がまぐわっているのを、この目で見ました」

 

「…………」

 

 何たる失態。

 またしてもエルミアに夢中になり過ぎ、察することができなかった。

 

「あの――これは、問題のある行為、ですわよね?

 清らかであることを求められる“聖女”が、殿方と淫行を重ねている、など」

 

「……脅すつもりか」

 

「いいえ、(わたくし)何も見ていませんわ(・・・・・・・・・)

 でも――(わたくし)、聖女様にお部屋を提供するという形で協力をしました。

 それは、貴方も認めて下さるでしょう?」

 

「……ああ」

 

「でしたら。

 多少なりとも、その“見返り”を頂いても、罰は当たらないと――そう、思うのです」

 

 ここで言う“見返り”とは何か。

 今までの彼女の言動を見れば、明らかだった。

 どれだけ物好きなのか、セリーヌはヴィルの身体を求めている。

 

 ……頭に浮かぶのは、エルミアのこと。

 ここで彼女の提案を受け入れるのは、簡単だ。

 しかし、それは少女への裏切りになるのではないか。

 

(別に、俺とエルミアは恋人同士というわけではない、が――)

 

 もう、これまでに何度も肌を重ねている。

 そんな相手を“ただの他人”と、そう断じることは、ヴィルにはできなかった。

 

 一方で、セリーヌの言っていることも分かる。

 ヴィルとエルミアの関係が明るみになれば、彼女の立場が危うくなる可能性は非常に高かった。

 

(言われるまで余り気にしてなかったけれども)

 

 その辺りは惚れた弱みということで許して欲しい。

 

 ともあれ、夫人を抱けば全て水に流れる。

 おそらく、彼女は嘘を言っていないだろう。

 ――ヴィルは、悩んだ末に答えを出した。

 

「分かった、貴女の言う通りにする。

 但し、エルミアが戻るまでだからな」

 

 その言葉を聞いた途端、セリーヌのにっこりと微笑む。

 悦びに満ちた、そして官能的な笑み。

 

「ええ、承知しています」

 

 夫人は、ヴィルへと深く頷いた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 未亡人との情事(H)

 

 

 

「はぁぁぁぁ――お、おっきいぃぃぃ――」

 

 ヴィルの勃起したイチモツを見て、セリーヌはうっとりと呟いた。

 

「こんな――こんなのが、おちんぽなの――?

 今まで、見たことない――」

 

「いや、そこまでのもの、か?」

 

 自身のモノを褒められるのは悪い気はしないが、ちょっと過剰でなかろうか。

 

(他の奴と比べたことはないけれども)

 

 処女だったエルミアだけでなく、未亡人であるセリーヌにまで言われるのだから、多少は大きい部類なのかもしれない。

 妙なところで自分に自信がついた青年であった。

 

 2人はあれから、移動することなく居間にいる。

 夫人の寝室はエルミアのいる部屋に近いので、ここでヤることにしたのだ。

 ヴィルは変わらず椅子に座り、床へ腰を下ろしたセリーヌがその彼の股間へ顔を埋めている(・・・・・・・)形だ。

 彼女は、青年の肉棒へ鼻を近づけ、臭いを嗅ぎだした。

 

「……ああ、いいわぁ――

 男性の、雄の香り――

 たまんなぁい――」

 

 感極まった声で呟く。

 その反応に、嬉しいような、ちょっと引くような、複雑な感情をヴィルは持ってしまう。

 一方でセリーヌは舌を出し、亀頭をペロっと舐める。

 ぬるっとした感覚が、股間を刺激した。

 

「んぅううう――凄い、男の味――久々だわぁ――」

 

 ……この女性は本当に雄が大好きなのだろう。

 そこで堰を切ったかのように、男根へむしゃぶりつく夫人。

 

「んんっ――んふぅうっ――レロ、エロレロっ――んんんんっ――あふぁぁあああ――」

 

 ぴちゃぴちゃと唾液で音を鳴らし、ヴィルの股間に吸い付いてくる。

 

(うおお、なんだこれ!?)

 

 “女”となってから日が長いせいか、セリーヌのフェラは気持ちの良いポイントを的確についてきた。

 男の扱いが、エルミアより大分手慣れている。

 

「んっんっんっんっんっ――おふっ――チュッ、ペロペロ――はぁぁああ――」

 

 亀頭を吸い、竿に舌を這わせ、袋まで舐めてくる。

 そのどれもが青年に快楽をもたらす。

 彼の股間は、セリーヌの唾液でびちょびちょになっていった。

 

「んふっんっんんっ――チュッ、チュッ――んんんんんっ――んんっんんんんぅっ――」

 

 夫人の勢いは衰えない。

 余程飢えていたのか、ご馳走でも味わうかのようにイチモツを咥えていた。

 ただ、ヴィルの方はそれにいつまでも付き合うことはできそうもなく。

 

「う、ぐ――で、出そう、だ――」

 

 射精感が高まる。

 もう、直に達してしまいそうだった。

 

「はぁぁぁ――イキそうなのねっ――いいわ、(わたくし)の口に、出してっ――

 ん、んんっんんんっ――いっぱい、いっぱい出して頂戴っ――」

 

 激しくフェラを続けながら、青年へ語り掛けてくる。

 とても我慢できるような快感ではないため、お言葉に甘えさせてもらうことにする。

 

「――で、出るっ」

 

 ヴィルは、欲望の赴くまま、セリーヌの口内へ精を迸らせた。

 

「ん、んんぅううううっ!!」

 

 夫人は射精に顔を背けるようなことはせず、寧ろさらに強く吸い付いてくる。

 

「――んっ――んっ――んっ――んっ――」

 

 そして、喉を鳴らしながら精液を飲み込んでいった。

 ヴィルの竿から一滴残らず吸い尽くすつもりのようだ。

 

(――これは――気持ち、いいな)

 

 精子を出し尽くしたにも関わらず、絶え間ない刺激でヴィルの股間は勃起を維持していた。

 セリーヌは一旦顔を上げ、恍惚とした声を出す。

 

「すごい――こんな濃いのを――たくさん出しちゃうなんて――」

 

 夫人は唇をゆっくり舐める。

 それは至極蠱惑的な仕草であった。

 

「それに、全然萎えてない――」

 

 続けて、彼女は青年の愚息を優しく撫でた。

 ここでヴィルの中に、

 

(……このまま、されるがままというのは癪だな)

 

 そんな、反骨心が生まれる。

 ――女性上位のプレイが嫌いというわけでも無いのだが。

 そもそも事の発端からしてセリーヌからの脅迫に近いものであったこともあり、彼女の翻弄され続けるのは彼の沽券に係わる――ような気がしたのだ。

 

 というわけで、ヴィルは床に座り込んでいるセリーヌを力任せに抱き上げた。

 

「――きゃっ!?」

 

 思いがけぬこちらの行動に、婦人の口から可愛らしい悲鳴が漏れた。

 

「な、何を――?」

 

「どうせ、下の方にも欲しいのだろう?」

 

 彼女を、自分の腰の上に降ろす。

 対面座位のような格好だ。

 ただし、まだ挿入はしていない。

 その前に、セリーヌの胸元を強引に開けさせる。

 

「――あっ!?」

 

 びりっと、服が破ける音も聞こえたが、気にしない。

 ヴィルの注意は、でかでかとした夫人のおっぱいに向いているからだ。

 下着も剥かれ、完全に露わとなった、彼女の双丘に。

 

「やはり、でかいな、これ」

 

 感想を呟く。

 ただ、大きいからと言って垂れているというわけでもなく、綺麗な形を保っている。

 

「……おおっ」

 

 揉んでみる。

 ――柔らかい。

 ちょっと力を加えれば、ムニムニと形を変える。

 

「あ、ああぁぁっ――」

 

 手の動きに合わせて、婦人が喘ぎを漏らした。

 感度もなかなか良いようだ。

 

「――それに、結構、重い。

 こんなのを付けてたら、動きにくいんじゃないのか?」

 

 ぐいっとおっぱいを持ち上げると、どっしりとした質量を感じられた。

 

「は、はいっ――走ったりすると、揺れちゃって大変なんです――

 あ、あぁぁあああっ――それに、物にもよくぶつかるし――ああっあぁあああっ――」

 

「やはりそうなのか」

 

 言いながら乳首を抓む。

 

「あ、ああああっ!――そ、そこっ! 気持ちいいっ!!――あっあっあっあっ!

 気持ち、いいですっ!――あぁあああんっ!!」

 

 嬌声が大きくなった。

 聞き心地の良い雌声だ。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ――はぁあああんっ!

 ああああっ――いいっ――あぁああああっ!!」

 

 コリコリと乳首を弄る内に、そろそろ挿入したい衝動が。

 それはセリーヌも同じのようで、

 

「あっあっあっ――お、おっぱいだけじゃなくてっ――

 ああ、ああああっ――下にもっ! (わたくし)のおまんこも責めて下さいましっ!」

 

「分かった」

 

 特に拒否することもない。

 ヴィルはもう一度彼女の腰を掴んで抱え上げると、今度は自分のイチモツの上へと降ろしていった。

 

「あぁぁああああああっ!? 来た、来ました!!

 ヴィルのすっごいのが、(わたくし)の中にぃっ!!」

 

 歓喜の子を出す夫人。

 彼女の身体が下がるにつれ、ずぶずぶと膣へ肉棒が刺さっていく。

 

(――熱いな)

 

 夫人の膣内は熱が籠っていた。

 締め付けはエルミアよりやや緩いが、優しく包み込んでくる膣壁は、また新鮮な感触である。

 

「あっあっあっあっあっ!? まだっ!? まだ来るのっ!?

 あはぁあああああっ!? 深いっ! 深いのぉっ!!

 そんなとこ、挿れられたこと無いのぉっ!!」

 

 剛直を押し進めていくと、コリコリした感触に行き当たる。

 これは――

 

「子宮口か。

 大分、降りてきた(・・・・・)んだな」

 

「あっあっあっあっあっ!?

 あ、当たってますっ!? (わたくし)の子宮に、ヴィルさんのがっ!!

 ああっあっあっあああっ!! コンコン、当たってるぅっ!!」

 

 ソコへ亀頭を当てる度に、セリーヌは悶えた。

 だが、まだヴィルのモノは挿れきってない(・・・・・・・)

 完全に挿れる(・・・)ため、上手く“位置”を調整し、

 

「――よっと」

 

 その内側(・・)へ、男根を突き入れた。

 

「あっあひゃああああああああっ!!?」

 

 盛大な艶声が部屋に響く。

 

「う、そっ!? 入っちゃったっ!?

 (わたくし)の子宮にっ!! ヴィルさんのおちんぽがっ!?

 んお、おっおぉおおおっ!! 入っちゃったのぉっ!!?」

 

 信じられない、という口調で叫ぶ夫人。

 しかし、その顔は快楽に蕩けていた。

 ヴィルは、セリーヌの身体を上下に動かし、イチモツを出し入れさせる。

 

「おっ! あっ! あっ! あっ! おおっ!!

 しゅ、しゅごいぃいいっ!!

 子宮っ!! 子宮がっ!! 犯されてるのぉっ!!」

 

 目から涙を零しながら、セリーヌは喘ぐ。

 ヴィルもまた、彼女の肢体を味わっていた。

 竿を膣肉が、先端を子宮口が扱いてくる。

 

「んぁあああああああっ!!! 太いのっ!! 固いのっ!!

 もう、夫のとは全然違うぅうううっ!!!」

 

「……いや、流石に旦那さんと比べるのはちょっと」

 

 倫理的に如何なものか。

 いや、今更だとは思うが。

 しかし、夫人は止まらなかった。

 

「だって、だってぇっ!!

 あの人、こんな力強く突いてこなかったんですものっ!!

 こんな“奥”に届かなかったんですものっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!! あぁあああああっ!!!」

 

「……あー、そういうのは、あんまり言わない方が――」

 

「おっおっおっおっおおおっ!!

 アナタぁ、ごめんなさいぃっ!!

 (わたくし)、もう絶対、アナタのじゃ満足できないのぉっ!!

 こんなのを知っちゃったら、もうアナタの貧相なちんぽじゃ我慢できないのぉっ!!」

 

「……せ、セリーヌさん?」

 

 暴言尽くしである。

 とはいえ、こんな状況でもピストンを緩ませないヴィルにも責任はある――かもしれない。

 

(……気持ち良くて、つい)

 

 快楽には勝てなかった。

 寧ろ、さらなる快感を得るため、夫人をより強く、激しく、揺さぶる。

 

「あっ!! あっ!! ああっ!! あああっ!!

 負けたっ!! 負けましたっ!! もう、(わたくし)、ヴィルさんのおちんぽ様に負けましたっ!!

 あぁあああっ!! あっ!! ああぁぁああんっ!!

 無理っ! 無理ですっ!! 勝てないっ!! 絶対勝てないっ!!

 (わたくし)みたいな雌はっ!! このおちんぽ様に服従するしかないのぉおっ!!!」

 

 セリーヌがヴィルへしがみ付いてくる。

 胸が顔に当たり、おっぱいの感触が顔全体へ広がる。

 

(……いつから勝ち負けになったのだろう)

 

 言っても、もう無駄のようなので口には出さない。

 それに実のところ、ヴィルも限界が近かった。

 

「――また、出すぞ!」

 

「はいっ! はいぃっ!! 出してっ!! 出して下さいまし!!

 (わたくし)の子宮の中にっ!!

 一発で孕んじゃうくらい濃い精液をっ!!

 たっぷり注いで下さいましぃっ!!!」

 

 セリーヌは、自分からも腰を振りだした。

 増幅される快楽の波に、ヴィルは絶頂への階段を一気に駆け上がる。

 

「――出るっ! 出るっ!!」

 

 約束通り。

 彼女の子宮へ精液を直接流し込んでやった。

 

「あっ!! あぁあああああっ!!

 熱いっ!! 熱いぃっ!! ホントに子宮に来ちゃったぁっ!!

 あっあっあっあっあっあっあっあっ!!!

 びゅるびゅる来てるっ! びゅるびゅる来てるぅっ!!!

 孕むっ!! 孕んじゃうわっ!!

 こんなの絶対、孕んじゃうに決まってるっ!!!」

 

「――本当に妊娠したらどうするんだ?」

 

 ぽつっと疑問を口にする。

 

「育てますっ!! ちゃんと育てますっ!!

 ヴィルさんの子供、しっかり育ててみせますぅっ!!

 だからっ!! ああっ!! だからっ!!

 いっぱい、いっぱい、注いで下さいぃっ!!!」

 

(……まあ、そういうことなら)

 

 惜しみなく、射精を続ける。

 

「おぉおぉぉぉぉ――すごいぃぃ―――

 ああぁぁぁ――あ、あぁぁぁぁぁ―――」

 

 セリーヌがぐったりとヴィルへ身体を預けてくる。

 知らぬ間に、彼女の方もイっていたらしい。

 

 そのまま座位の姿勢で互いに抱き合い、余韻を楽しんだ。

 ――そこへ。

 

 

 「な、何をしているのですか?」

 

 

 声が、かけられた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 裏切りの結末(H)

 

 

 

「――え?」

「――へ?」

 

 ヴィルとセリーヌ、2人が一斉に疑問符を出す。

 

 そこに居たのは。

 寝室と繋がる廊下へのドアを開けていたのは。

 ……エルミアだった。

 

「え、エルミア、さん――!?」

 

 顔だけ振り返り、口を開くセリーヌ。

 そんな彼女へ、エルミアは悲しそう顔をしながら問い質す。

 

「なんで、なんで、お二人が、こんな――!?」

 

「ち、違う、違うんです、エルミアさん、(わたくし)達は――」

 

「何が違うっていうんですかっ!!!」

 

 少女が絶叫した。

 

「セリーヌさん――確かに、私は聖女として有るまじき行為をしていました。

 男性と交わるだなんて、ふしだらと罵られても仕方がないでしょう。

 でも、でも――っ!」

 

 エルミアの瞳に、涙が見える。

 

「男性と愛し合うことの尊さを知っている貴女なら!

 愛する男性と共に生きることを誓った貴女なら!

 分かってくれると、信じていたのに――っ!!」

 

「あ、あ、ごめんなさい! ごめんなさいっ!!」

 

 少女の剣幕に、夫人はただ謝った。

 その会話を聞いて、

 

(ん? 話がところどころおかしくないか?)

 

 何となく不自然さを感じるヴィル。

 この場面を見ただけで、“昨夜の行為”に繋がるのはおかしい。

 これだと、“昨夜の時点で覗かれていたことをエルミアは知っていた”ということに。

 

 しかし、セリーヌはそれに気付かず。

 

「ああ、許して、許して下さい!

 なんでもします!

 だから、どうか、エルミアさん――」

 

「ん?」

 

 エルミアの声色が変わった。

 

「今――なんでもするって。

 言ったよね?」

 

「……え?」

 

 セリーヌが戸惑いの声を出した。

 

「あ、あの、エルミアさん?

 なんだか、口調がおかしく――」

 

「なんでもするって、言ったわよね!?」

 

「は、はい! 言いました!!」

 

 結局、少女に押し切られる。

 エルミアはヴィルの方を向き、

 

「ねえ、ヴィル」

 

「――な、なんでしょうか?」

 

 思わず敬語を使ってしまう。

 

「腰、動かして」

 

「え、え?」

 

「だからぁ、セックスの続きをしなさいって言ってんの!」

 

「わ、分かった!!」

 

 ヴィルの拒否権などというものは無い。

 彼女の真意を理解できないまま、ピストン運動を再開した。

 

「ああぁぁああっ!? いきなり、こんな――!?

 エルミアさん、どういうつもり――あっあっあっあっあっ!!」

 

 セリーヌも状況が把握できていないが、女性器への刺激に喘ぎ始めてしまう。

 そんな青年と夫人を見て、少女は意地悪く顔を歪めた。

 

「ふっふっふっふっふ。ふふふのふ。

 ちょっと、ヤってみたかったのよねー」

 

 セリーヌの後ろに立つ、エルミア。

 すると、人差し指を舐めだした。

 

「うーん、これくらいでいいかな?」

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 な、何を――っ!? あ、あぁあああっ!?

 まさか、まさか――っ!?」

 

 セリーヌが、察した(・・・)ようだ。

 少女は、彼女のアナル(・・・)を触り出したのである。

 そして、

 

「えいっ!」

 

 聞く分には可愛らしい掛け声で。

 エルミアは自分の指を――セリーヌの“尻穴”へ、突き刺した。

 

「お、おぉぉおおおおおおおっ!!!?」

 

 夫人の喘ぎ声が、その調子を変えた。

 

「お、お、お、お尻の穴になんてぇっ!!?

 ダメっ!! ダメですっ!! そこは、汚いとこなのっ!!

 おっおっおっおっおっ!!? だからっ!! ほじらないでぇっ!!」

 

「んんー?

 なんでもするって言ったでしょう?

 だったら、なんでもやって貰わないと♪」

 

 セリーヌの嘆きに聞く耳持たず、エルミアは後ろの穴へ挿れた指を動かしだした。

 抜き差ししたり、中を掻き混ぜたり。

 

「おぉおおおっ!! ダメぇっ!! ダメぇっ!!

 まんこもっ!! お尻もっ!! 弄られちゃうだなんてぇっ!!

 こんなのっ!! こんなのぉおおっ!!

 イクっ!! (わたくし)、イっちゃうぅうううううっ!!!!」

 

 前後からの責めに、夫人はあっという間に達してしまったようだ。

 脚がピンと伸び、身体がビクビク痙攣しだす。

 

「ヴィル、止まっちゃダメだからね!

 もっと、激しく、動いてっ!!」

 

「え、えっ!?」

 

「動・き・な・さ・いっ!」

 

「りょ、了解っ!!」

 

 エルミアに命じられ、絶頂したセリーヌを無理やり動かす。

 

「んぉおおおおおおっ!!?

 イった!! イキましたっ!!

 イったのにっ!! どうしてっ!!?」

 

「まだよ。

 どんどんイカしてあげるからっ!!」

 

 少女もまた、菊門への弄りを続行している。

 

「あひぃいいいいいいいいいっ!!!?

 おっ!! おおっ!! おおおっ!!!

 いっ! いっ! いっ! いっ! いっ!!」

 

 敏感になっているところをさらに責め立てられ、嬌声が悲鳴のようになる。

 ほどなくして。

 

「あぁぁあああっ!! あぁぁあああああっ!!

 あぁぁぁああああああああああっ!!!!!」

 

 彼女は、また絶頂した。

 痙攣は膣内でも起こり、ヴィルのイチモツを強く強く締めあげてくる。

 それこそ、剛直を動かすのも困難になる程に。

 

 だが。

 

「ほらほら、休んでる暇はないわよ!?

 まだまだ、ヤれるヤれるっ!!」

 

 少女は許してくれなかった。

 そして、彼女がそう判断する以上、ヴィルも動かないわけにはいかない。

 固くなっている膣の中で、肉棒を強引にピストンさせる。

 

「おぼぉおおおおおおっ!!!?

 あぁぁああああぁああああああっ!!!

 いぎぃいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 喉が裂けてしまうのではないか、と心配になるほどの絶叫。

 セリーヌはもう、白目を剥いていた。

 口からは、泡を噴いている。

 

「がぁああああああああああっ!!!

 あああぁあああああああああああっ!!!!

 ああぁぁぁぁぁあぁあああああああああああああっ!!!!」

 

 喘ぎというより、もう獣の咆哮だった。

 その有様を見たエルミアは、空いている手を彼女の股間へと回し、

 

「じゃ、これで――終わりっ!!」

 

 クリトリスを、思い切り抓った。

 

「―――――――――――あ」

 

 セリーヌの声が消えた。

 

「――――あ――――あ、あ――――あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 

 夫人の肢体が、少しずつ震えだす。

 その震えは、だんだんと、だんだんと強くなっていく。

 

「――――あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!!!!!」

 

「う、うわっ!?」

 

 とうとう、ヴィルが抱きかかえるのも難しくなった。

 セリーヌの変化はそれだけでなく。

 

「あー、すごーい。

 これが、潮吹きってやつ?」

 

 感心したように、エルミア。

 夫人の股からは、透明な液体が噴き出していた。

 

「――あっ――あっ――あっ――――あ――――――――」

 

 じょぼじょぼと潮を垂れ流した後。

 セリーヌは、完全に失神した。

 

 

 

 

 

 

 それから、数時間後。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言のまま街道を歩く、ヴィルとエルミア。

 

 あの後、目を覚ましたセリーヌと互いに謝罪し合い(エルミアも、やりすぎたと頭を下げた)。

 とりあえず全員、このことは口外しないことを誓い合った。

 あと、部屋の掃除にはちゃんと協力した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 しかし、2人の間には微妙な空気が漂っていた。

 経緯を考えれば、当たり前である。

 

「………あの」

 

 この雰囲気に耐えられず、ヴィルは口を開いた。

 

「ど、どうでもいい話なんだがな?

 聖拝、どうしたんだ?

 あの、そんなに時間、経ってなかったよな?」

 

「ああ、そのこと?

 今朝がた、思い出したんだけどね。

 聖女って、“勇者の一団”としての使命が終わるまで聖拝は免除されるのよ。

 ほら、戦いの最中に拝んでなんていられないでしょ?」

 

「そ、そうだったのか」

 

 本当か?、とか。

 忘れるなよそんなこと、とか。

 色々つっこみたい気持ちは湧いたが、それを実行する度胸は無かった。

 

(……ん?

 するとエルミアは、俺とセリーヌとの情事を最初から見ていた……?)

 

 そういう疑問も浮かんだが、とても確認することなどできない。

 

「あのね、ヴィル」

 

 今度は少女の方から話しかけてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「私、別に気にしてないから」

 

 微笑むエルミア。

 ただ、その表情には無理がありありと伺えた。

 

(――最低だな、俺は。

 彼女に、気まで遣わせて)

 

 ヴィルは、決意を固めた。

 もう、少女以外の女性は抱くまい、と。

 

(――少なくとも、エルミアとの旅が終わるまでは)

 

 旅の終わり。

 その言葉に、何とも言えない寂しさを感じながら。

 

 

 

 

 

 一方で、エルミアはと言うと。

 

(やっばい。

 めっちゃ興奮しちゃった)

 

 先程まで見ていた光景を思い返しては、緩む顔を直す作業に没頭していた。

 

(一度見てみたかったのよね。

 ヴィルが、他の女性を抱くところ)

 

 昨夜のセリーヌの態度から、ひょっとしたらそうなるんじゃないかと期待していたところ、ドンピシャだった。

 2人がおっ始めたときには、ガッツポーズすら決めてしまった。

 

(もともとは自分がどんな風にセックスしてるのか知りたいからだったんだけど。

 でもまさか、あんなに昂っちゃうだなんて!)

 

 何かに目覚めてしまったエルミアである。

 ちなみに、嫉妬という感情は無かった。

 

(貴族は第二夫人とか第三夫人とか作るって聞くし?)

 

 他の女性を妬んだって、仕方が無いのだ。

 無論、狙うは第一夫人の座だが。

 

(あと――アナルも気持ち良さそうだったなぁ)

 

 前々から、関心はあった。

 ただ、いきなり自分でヤるのは怖かったので、これ幸いとセリーヌに試してしまったのだ。

 

(……セリーヌさんには、悪いことしたわ、ホント)

 

 あんまりにも彼女の艶姿が素敵だったので、途中から無我夢中に弄ってしまった。

 

(女の人が喘ぐ姿も、いいもんよね。

 セリーヌさん、綺麗だったし。

 しかも、潮吹きまで鑑賞させてくれて。

 いつかまたヤらせてくれないかしら?)

 

 いや、潮を吹かせたのはエルミアなのだけれども。

 

(色々やりたいことができちゃったなぁ。

 ヴィルとアナルセックスしたいし、ヴィルに他の女の子も抱かせたいし――あ、潮も吹いてみたい♪

 あー、夢が広がるわー♪)

 

 

 

 ……とりあえず。

 確実に変な方向へ拗らせている、エルミアなのだった。

 

 

 

 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 黒幕現る 第一部 完
① グレッグ司教


 

 

 夫人の家を出立して数日。

 ヴィルとエルミアは、街へと辿り着いた。

 宿場町ではない、多くの人々が生活する、規模の大きい街。

 

 ここで、2人は当面の旅に必要な食料等を買い付けるつもりだった。

 少し位なら、休憩と称して遊んでもいいかと考えてもいた。

 

 しかし、その予定は覆された。

 何故ならば。

 

「いや、よくぞエルミアを送り届けて下さいました、旅の方!

 このグレッグ、心よりお礼を申し上げます!」

 

 にこやかな顔でヴィルへ話しかける壮年の男。

 

(まさか、こんな展開になるとは――)

 

 胸中で呟く。

 青年の目の前に居る人物は、教会の司教だそうだ。

 2人が街に着いた途端、この男が数人の部下と共に出迎えてきたのである。

 

 グレッグの方へと一歩進み、丁寧に頭を下げるエルミア。

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません、グレッグ司教座下。

 まさかお迎え頂けるとは、恐縮です」

 

「うん、無事で何よりだ、エルミア。

 慣れない旅で疲れただろう、教会に着いたらゆっくり休みなさい。

 報告はその後で良い」

 

「ご配慮、痛み入ります」

 

 性女ではなく、聖女モードである。

 ……司教相手に本性を出したら、流石にまずかろう。

 

 司教はヴィルへと向き直った。

 

「旅の方、貴方もご一緒頂けますかな?」

 

「――はい、構いません」

 

 頷く。

 ここで別れさせられたらどうしようかと考えていたので、渡りに船だ。

 

「ああ、それは良かった。

 是非、言葉だけでなくきちんとした謝礼を送りたかったのです。

 ――おお、忘れていた。

 貴方のお名前を伺っても?」

 

「――ヴィル、と」

 

「…………なるほど。

 ヴィル様、ですね」

 

「様付けは性に合わないのですが」

 

「はっはっは。

 それは何卒ご勘弁を。

 貴方は仮にも聖女を救ったのです。

 そんな相手を呼びつけにしてしまっては、私の品性が疑われてしまう」

 

「……そうですか」

 

 まあ、無理強いするようなことでも無い。

 単にそちらの呼ばれ方が好きというだけの話だ。

 

「ささ、立ってお話するようなことでも無いでしょう。

 早速、教会へご案内します」

 

 グレッグは2人を先導し、道を歩き始めた。

 

 

 

 前を行く司教を眺めながらヴィルは悩んでいた。

 

(――どうするかな、この状況)

 

 彼が悩んでいるのは、グレッグという男についてだ。

 

(十中八九、こいつが“犯人”なんだよなぁ)

 

 犯人。

 つまりは、エルミアへ刺客を放った人物。

 ヴィルがは、グレッグ司教がその黒幕だと考えていた。

 それには、3つの理由がある。

 

 一つ。

 対応が早すぎる(・・・・)

 最初の街に着いた途端、出迎えがあった。

 これはおかしい。

 何故なら、自分達は聖女が襲われたことを喧伝していない(・・・・・・・)からだ。

 ヴィルの知らない第三者が伝えたにしても、伝達の速度が速すぎる。

 ――こんなに早く情報を手に入れられるのは、それこそ“襲撃を指示した人物”くらいだろう。

 

 一つ。

 対応が遅すぎる(・・・・)

 前述の理由を覆し、仮に情報が素早く伝わっていたとしよう。

 すると今度は一転して、動きが鈍すぎるのだ。

 何せ、司教まで出てくる(・・・・・・・・)案件である。

 司教は複数の教会を束ねる高位の神官であり、はっきり言ってフットワークのいい立場ではない。

 そんな司教の耳に情報が届き、司教自らが出向くに至るまで、他の神官達が何も動いていないというのは、かなり無理がある。

 途中の宿場町で何らかのアプローチがあっていいはずだ。

 ――グレッグ司教以外には、情報が広がらないようにされていたのでなければ。

 

 最後の一つ。

 勘だ。

 ヴィルの勘が、この男は信用ならないと訴えている。

 今までの人生で、そうそう外れたことは無い。

 

(となると、こいつの意向が問題になるわけだが)

 

 思いつくことと言えば、今度こそ確実にエルミアを殺そうとしているとか。

 しかし、そうだとすれば本人が出てくる意味がない。

 前回のように、配下へ命じれば済む話だ。

 

 上から命令された?

 グレッグもまた、駒の一つに過ぎない?

 ――ありえない。

 司教の上の立場となれば、大司教や教皇となる。

 聖女の認定を行う人間だ。

 エルミアを聖女にしたくないのであれば、最初から選ばなければいい。

 

(どちらにせよ、油断はできないということだ)

 

 そもそも、エルミアが狙われた原因が聖女関連でない可能性だってある。

 

(例えば、彼女の身体が目当てだとか)

 

 少なくとも外面は比類なき美少女なのだ、そういうことも十分あり得るだろう。

 ヴィル自身、彼女の美貌に一瞬でほれ込んでしまったのだ。

 他にもそういう連中がいて、少女を無理やり自分の物にしようと考えたとしても、納得はできる。

 

 もっとも、その場合は――

 

(――八つ裂きにしてやる)

 

 犯人は、この世の地獄を見ることになるわけだが。

 ヴィルは、“死んだ方がまし”と言われる拷問の手法を幾つか知っている。

 そして、不埒な輩にそれを振るうことに、何の躊躇いも無い。

 

(……とにかく。

 可能性を絞り過ぎず、柔軟に対処していかなければ)

 

 注意が緩まぬよう、心に喝を入れる。

 できればエルミアともこの辺りの情報を共有しておきたいところだ。

 上手く2人きりの時間を取れればいいのだが。

 

 

 

 

 

 そんな心配をよそに、2人は教会へ到着した。

 

(……さすがは聖女様。

 待遇が普通じゃないな)

 

 ヴィルは、部屋を見渡してそんな感想を頂いた。

 

 2人が通されたのは、やたらと豪奢な応接室だった。

 部屋は広く、調度品は一級物が揃えらており、テーブルやシャンデリアも美しく飾り立てられている。

 国の重鎮、下手をすれば国王や教皇クラスの人を持て成すのに使われかねない。

 

 そんな場所に、今は青年と少女、そしてグレッグ司教の3人だけ(・・)

 テーブルの片側にヴィルとエルミア、反対側にグレッグが座っている。

 それぞれの前には、最高級の茶葉を使ったと思われる、良い香りのお茶が出されていた。

 他に、人はいない。

 お付きの者さえも。

 お茶を運んできた使用人も、すぐに退室した。

 

(さて、どう出てくるか)

 

 司教の動向を注意深く観察する。

 すると、司教は青年に対し、深々と敬礼してきた(・・・・・・)

 

「お初にお目にかかります、閣下(・・)

 このような場で御尊顔を拝謁できるとは、光栄の至りで御座います」

 

「―――えっ」

 

 隣から、エルミアが息を飲む気配を感じる。

 ヴィルは、グレッグが続きを言う前に、口を開いた。

 

「何のことだろうか。

 俺は、“ただの”ヴィルだと言ったはずですが。

 そんな敬称を付けて呼ばれることに、覚えはありませんね」

 

「…………なるほど。

 そのようなお考えですか」

 

 青年の言葉を聞き、司教は得心がいったように頷いた。

 

「承知いたしました。

 では、そのようにご対応させて頂きます」

 

 そう告げてから、グレッグは視線をエルミアへ送る。

 

「さてエルミア、待たせてしまったね。

 君に何があったのか、話を聞かせてほしい。

 ああ、簡単で構わないよ」

 

「は、はい」

 

 少し緊張した面持ちで、少女が語り出す。

 

「本日より10日前、私は聖女としての務めを遂行すべく、ギリー司祭と共に王都へと出立しました。

 旅は出だし順調であったのですが、出発より3日後、何者かの襲撃を受けました。

 その際、ギリー司祭は死亡、私も危うく命を落とすところでした」

 

 すらすらと、当時に様子を説明するエルミア。

 

「そこを、通りすがったこちらの青年ヴィルに助けて頂きました。

 その後、彼に助力を願い、ここまで同行頂いた次第です」

 

 言われた通り、簡潔に話を終える。

 司教は少し眉をしかめ、

 

「――エルミア。

 自分の恩人に対し、呼びつけをするのは失礼が過ぎるのではないかな?」

 

「あっ! い、いえ、そんなつもりでは――」

 

 珍しく取り乱す聖女だが、ヴィルが助け船を出す。

 

「俺が、彼女に頼んだのです。

 貴方が俺に敬称を付けるのは勝手だが、それを彼女にまで押し付けないで頂きたい」

 

「おお、そうでしたか。

 これは失礼いたしました」

 

 あっさり、前言を取り消すグレッグ。

 彼は青年へ(・・・)謝罪してから、少女へ話しかけた。

 

「報告をさせてしまってからで悪いのだが、実のところ、私もその事情は把握している。

 まあ、把握しているからこそ、こうして君を迎えにきたわけなのだがね。

 加えて言えば、既に下手人も捕らえてある」

 

「――ええっ!?」

 

 エルミアが驚く。

 ヴィルも声が出そうになったが、どうにか抑えた。

 

 司教の語りが続く。

 

「詳しくは省くが、君が襲われたと聞いてから、私はすぐに調査を始めたんだ。

 いったい何者が、聖女殺害などという不敬な行為を企てたのかをね。

 そして、程なく犯人は見つかった」

 

「……ど、どなたなのですか?

 その、私を殺そうと考えた方は?」

 

「それは――ああ、少し待ってくれないか?

 君の疲れを労い、ヴィル様へ謝礼をすると言っていたのに、ただ話をするだけで私はまだ何もしてやれていない。

 今日は、君達のために美味しい食事を用意していてね。

 続きは、それを食べ終えてからにしないか?」

 

「し、しかし、司教座下――」

 

「不安なのかな、エルミア?

 だが安心して欲しい。

 既に、咎人の身柄は抑えてある(・・・・・・・・)

 つまり、もう君の身に危険は無いということだよ」

 

「――え、え?」

 

 畳み込むような流れに、少女は戸惑うばかり。

 

(……段取りがいいな、おい)

 

 その手際に、ヴィルも感心してしまった。

 しかし感心してばかりもいられない。

 青年は、司教へと問いかける。

 

「グレッグ司教。

 その犯人とやらは、どちらにいますか?

 できれば、この目で確認したい」

 

「ご自分で確かめねば、安心できませんかな?

 いえ、お気持ちはご理解できます。

 実は――エルミアを怯えさせてはまずいと控えておりましたが――犯人はこの教会にて捕らえたのです。

 今は厳重に警備された一室に拘束しております。

 ご要望とあれば、この後に面会を手配しておきましょう」

 

「……よろしくお願いします」

 

 ぐうの音もでなかった。

 

(これは――尻尾を掴むのは無理か?)

 

 ここまでされてなお、この司教が黒幕であるという考えは変わっていない。

 寧ろ、ここまでされたからこそ、より疑惑は深まった。

 ただこの男、善人か悪人かは別にして、大した手腕の持ち主なのは間違いない。

 自分が企てたという物証はおろか、疑惑すら排除しているのでなかろうか。

 

 だが、見る限りにおいてグレッグにエルミアへの敵意は無い。

 彼女を殺害しようと考える人間には思えない程。

 心変わりしたのか?

 ならば、その理由は?

 

(……俺、だろうなぁ)

 

 奴は、ヴィルの正体(・・・・・・)に気付いている。

 その上で、露骨すぎない程度に青年へ媚びを売っていた。

 ……エルミアを排除するより、彼女に取り入った方が利があると判断したのだろう。

 

(しかし、グレッグ司教はエルミアの味方になったとも考えられる)

 

 過去はどうあれ。

 現在においてエルミアへ害を及ぼす気がないのなら、放置しても問題ない――かもしれない。

 

(――判断を下すのは性急だな)

 

 そう思わせておいて(・・・・・・・・・)、ということだってある。

 ヴィルは考えを保留し、グレッグの合図で部屋に運ばれてきた料理に手を付け出す。

 ……無論、しっかりと“毒見”は行って。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 決意

 

 

 

 その“少女”の第一印象は、“人形”だった。

 容姿そのものは美しく整っている。

 造られたような印象すら持たせる美しさ。

 しかし、どうにも生気が無く、意思も感じられない。

 そんな女の子だった。

 

「――嘘。

 ロアナ……?」

 

 隣で、エルミアが小さく零した。

 

「知っているのか?」

 

「……一時期ですが、同じ修道院で暮らしていたことがあります」

 

「――そうか」

 

 彼女の知己が、“犯人”として拘束されているわけか。

 それは、複雑な気持ちになるだろう。

 

 同行してきたグレッグが、エルミアへ話しかける。

 

「信じられない気持ちは分かるよ、エルミア。

 私も同じ気持ちだ。

 彼女もまた、優秀な聖女候補だったからね」

 

「――はい」

 

「だが、結局はそれが原因だったらしい。

 ロアナは、嫉妬してしまったんだ。

 自分よりも優秀で、聖女に選ばれた君に」

 

 そういうことになって(・・・・・・・・・・)いる(・・)らしい。

 

 ヴィルは、案内された部屋の中、拘束着を着せられた少女をもう一度見る。

 黒髪をボブカットにした、清潔感を漂わせた小柄な美少女だ。

 

(エルミアよりも小さいな。

 彼女だって、決して大きい方じゃないが。

 ……いや、スタイルは良いんだけれども)

 

 最後の一言が余計であることは自覚している。

 

 ともあれ、そのロアナは瞳を閉ざし、ただじっと座っていた。

 まるで微動だにしない。

 それが、彼女の“人形らしさ”をより顕著にしている。

 

 ヴィルは、司教に話しかける。

 

「あの子と、話をすることはできますか?」

 

「ええ、構いませんよ。

 ただ、万一ということがありますから、これ以上近づくのはお止め下さい」

 

(……とてもそうは思えないが)

 

 危害を加えてきそうな気配が、全く感知できない。

 しかし敢えて司教に逆らう意味も見出せないため、言う通りにする。

 

 青年はロアナへと向き、彼女へ語り掛けた。

 

「君が、エルミアを狙ったのか?」

 

「――はい、そうです」

 

 消えそうな程にか細く、無感情な声だった。

 

「何故、そんなことを?」

 

「――エルミアが、憎かったのです。

 ――わたしを差し置いて、聖女となった彼女が。

 ――エルミアがいなくなれば、わたしが聖女になれると思いました」

 

「エルミアを襲った刺客は、どうやって雇った?」

 

「――教会に盗賊ギルドへ所属する男が懺悔に来たことがあります。

 ――その人に頼み込んで、紹介して貰いました」

 

「金は?

 あれだけ腕のいい暗殺者だ。

 相応の報酬が必要のはず。

 それは、どうやって用意した」

 

「――わたしの、身体を使って(・・・・・・)

 

 ロアナは淀みなく答える。

 横からグレッグが割り込んできた。

 

「その、盗賊ギルドの男にも接触し、確認を取りました。

 彼女は『行方不明になった友人を探すため』と偽り、ギルドと交渉する場を設けて貰ったそうです。

 その男自身は、暗殺者の手配について関知していないとのことで」

 

「……そうですか」

 

 司教の言葉に頷く。

 

 ――ヴィルは確信した。

 このロアナという少女は、実行犯にこそなれ、首謀者になれる類の人間ではない。

 まるで台本でも読んでいるかのような応答にも、それが顕れていた。

 

 司教はさらに、エルミアへと尋ねる。

 

「エルミア、君の方からは何か聞くことはあるかい?」

 

「……いえ。

 質問したいことは、全てヴィルが聞いてくれました」

 

「そうか。

 では、ヴィル様。

 そろそろ――」

 

 グレッグが退去を促す。

 

(……ロアナという少女から、有意義な発言は聞けないだろう)

 

 ヴィルはそう判断した。

 彼女は所詮、黒幕の操る傀儡に過ぎない。

 

「分かりました。

 行きましょう」

 

 司教の提案に従い、2人はロアナの前から立ち去る。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、エルミア。

 こんな時に言うのもなんだが――」

 

 今夜、宿泊する部屋へと進む最中、司教が少女へ喋りかけた。

 エルミアが返す。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「君の“後見人”は、私が担当することになるだろう。

 正式な認可はまだだが、数日のうちに大司教座下の名で通達があるはずだ」

 

「グレッグ司教座下が、ですか……!?」

 

「うむ。

 私では不満かもしれないが――ギリー司祭の代わりとなれるよう、誠心誠意努めよう」

 

「……い、いえ、そんな!

 グレッグ司教座下に後ろ盾となって頂けるのであれば、これ程頼もしいことはありません!」

 

「そう言って貰えると助かるよ」

 

 にこやかの微笑むグレッグ。

 

(……本当に、用意のよろしいことで)

 

 それを見て、ヴィルは胸中で毒つく。

 これでこの司教は、聖女の後見人という名誉を得られるわけだ。

 それに伴う、権力も一緒に。

 

(或いは、ギリーを排除すればそれで十分だったのかもしれないな)

 

 元からあの刺客達は、少女を殺すつもりが無かったのかもしれない。

 最早、ヴィルには預かり知らぬことではあるが。

 

 そこでふと、エルミアが疑問を呈した。

 

「グレッグ司教座下、一つ質問がございます。

 これから貴方が後見となって下さるとのことですが、その場合、これからの私の旅程はどうなりますでしょうか。

 その――ヴィルには、王都までの護衛をお願いしたのです。

 どのような形になるにせよ、できることなら、彼にも一緒に付いてきて貰いたいと――」

 

「ああ、そのことか。

 それは――」

 

 司教が一瞬、意味ありげにこちらを見やる。

 

「――私としても、同行して貰いたいね(・・・・・・・・・)

 報告を聞く限り、非常に腕の立つ人物と聞く。

 ああ、勿論、ヴィル様が納得頂けるということ前提ではありますが」

 

 最後の台詞は、青年に対してのものだ。

 本当に。

 本当に、露骨な申し入れなのだが、残念ながら拒否する理由も無い。

 

 ヴィルは首を縦に振ってから、

 

「願っても無いことです。

 これで、俺もギリー司祭との約束を守ることができる」

 

「おや、ヴィル様がエルミアの護衛となったのは、ギリー司祭の頼みだったのですか?」

 

「はい、彼の今わの際に。

 無論、エルミアをあんな場所で放っては置けないという思いもありましたが」

 

「……なるほど、なるほど。

 故人との約束も反故にしないとは。

 聞きしに勝る(・・・・・・)、ご立派な人物ですな」

 

 どこで自分の話を聞いたというのか。

 まあ、察することはできるので、追及はしない。

 

 ――その後も、グレッグはヴィルを褒め囃す台詞を続けてきたが、全て聞き流した。

 

 

 

 

 

 

「いやー、ラッキーラッキー!

 まさかあのグレッグ司教に協力して貰えるとはねー」

 

 部屋で、猫かぶりを止めたエルミアが、あっけらかんと喋る。

 ご丁寧なことに、青年と少女は同室(・・)だった。

 一応、2人が泊まっても十分な広さではあったが――思惑が透けすぎている。

 

「いいのか?

 司教の思い通りに事が進んでいるようだが」

 

「何か悪いことでもある?

 むしろ、ギリーより後見人としては優秀なくらいよ。

 ぶっちゃけ、あの人の方が権力持ってるから」

 

「そうかもしれないが、しかし――」

 

 ヴィルは、自分の推測をエルミアに言うかどうか迷った。

 彼女の言う通り、この流れは少女にとっても有利なのだ。

 青年の考えは、悪戯に不和の種を撒くことになりかねない。

 

 そんなヴィルを見透かしてか、エルミアは口を開いた。

 

「……分かってるわよ、ヴィル。

 あいつが、“黒幕”なんでしょ?」

 

「――気付いてたのか」

 

「そりゃねぇ。

 グレッグ司教が担当する教区はここじゃないし?

 ギリーとも仲悪かったからね。

 なのに、いち早く私の救助に来ちゃってさ。

 怪しさ満点すぎるって」

 

「……そうだったのか」

 

 エルミアにこれだけ見抜かれているとは。

 存外、グレッグという男、“抜けている”のかもしれなかった。

 

「それが分かっていて君は――」

 

「うん、いいんじゃないかと思う訳よ」

 

 あっさりと少女は返してくる。

 

「だって、損する人誰もいないでしょ?

 私は、より大きな後ろ盾が手に入る。

 貴方は、私と一緒に旅が続けられる。

 司教は、より大きな名声と権力が手に入る。

 ロアナにしたって、被害者である私が――聖女である私が全力で助命を請えば、命までは取られないでしょ。

 こっちが下手に出とけば、司教も敢えてロアナを消そうとは思わないだろうしね。

 ほら、完璧にWin-Winってやつ」

 

「――エルミア」

 

「まあねー。

 ギリーのことは、不幸だったと思うわよ。

 丹念に育てた私が大成するのを見る前に、謀殺されちゃってね。

 でも、あの人は私のことを何より大切にしてくれてたから。

 結果として私が幸せになれるなら、許してくれるんじゃないかなーって」

 

「――エルミア」

 

「うん、これからもよろしくね、ヴィル。

 一緒に王都を目指しましょう。

 へっへっへ、もちろん、夜はちゃーんと相手してあげるから♪

 ムラムラ来ちゃったら、お昼に襲ってもいいのよ?

 こんな美少女に毎日ご奉仕されるなんて――よっ、幸せ者!」

 

「――エルミア!」

 

 そこで我慢ができなくなった。

 ヴィルは少女に詰め寄り、

 

「分かった。

 分かったから。

 ――もう、泣くのを(・・・・)止めてくれ(・・・・・)

 

「――――あれ?」

 

 指摘を受けて。

 ようやく、エルミアは理解したようだ。

 さっきからずっと、自分が涙を流しているのを。

 

「あれ、あれ?

 お、おかしいわね、何で、何で泣いてるんだろ、私。

 あはははは、何もかも順調すぎて嬉しくなっちゃったのかな?

 人って、嬉しい時にも泣いちゃうっていうし」

 

「…………」

 

 ヴィルは、何も答えない。

 エルミアの表情が、哀しみに満ちていることをよく分かっていたから。

 

「あー、もー、何で止まらないかなー!

 待ってね、別に私、情緒不安定な女ってわけじゃないから。

 こんなの、すぐに――すぐに、止められる」

 

 自分の顔を抑えつけるエルミア。

 しかし、泣き止む気配は無かった。

 

「止められる、はず、なのに――」

 

 少女は、膝から崩れ落ちた。

 床の上に、大粒の涙が零れる。

 

「なんで、なんで――」

 

「――エルミア」

 

 身体を震わす少女の肩に、ヴィルは優しく手を置いた。

 

「――ヴィル」

 

 エルミアが顔を上げる。

 表情は泣き顔のままだ。

 そのまま、少女は口を開く。

 

「ねえ、ヴィル。

 少し、話を聞いて欲しいの」

 

「ああ、いいぞ。

 聞かせてくれ」

 

 ヴィルはゆっくり頷いた。

 それを見てから、エルミアはぽつぽつと言葉を紡いでいく。

 

「……私ね、孤児なの。

 親は私が小さいとき死んじゃって、それで色々あって孤児院に預けられた。

 その時に会ったのが、ギリー司祭――私は、先生って呼んでたけどね。

 孤児たちに勉強を教えてたのが、ギリーだったから」

 

 少女が、懐かしむような表情に変わる。

 

「自慢じゃないけど、私、子供の頃は結構な問題児でさ。

 色々やんちゃしちゃって、その度に大人達から怒られて。

 でも、先生は優しくて、なんだかんだ最後は私を許してくれた。

 まあ、私にだけって訳でも無いんだけど。

 子供達、皆に分け隔てなく優しい人だった」

 

 少しずつ、涙が止まっていく。

 

「面倒もいっぱい見てくれたし、子供だからって軽んじることもしなかった。

 私が“聖女になりたい”って言いだした時も、真剣にそのことを考えてくれた。

 他の人達は、笑い話としか見てくれなかったのに。

 聖女になるための勉強を教えてくれるようになったし、先生が教えられない分野については教師を探してくれた。

 ロアナが居た修道院を勧めてくれたのも、先生。

 私がそこで生活を始めてからも、心配になったとか言って、ちょくちょく会いに来てくれたの」

 

「いい人だったんだな」

 

「……うん。

 私が聖女に認められた時も、我が事のように喜んでくれて。

 “これからはエルミア様と呼ばなきゃいけないな”って言われた時は笑っちゃったけど、本当に私のこと様付けしだしたときは驚いたわ。

 止めてって言ったのに、全然聞いてくれないの。

 ギリーは聖女の後見人に指定されたんだから、私にへりくだる必要は無かったのにね」

 

 エルミアの顔に、笑顔が戻っていた。

 

「王都に向けて旅を始めてからも、先生ってばずっとにこにこしちゃっててさ。

 いい加減気持ち悪いって言っても止めなくてね。

 “こんな幸せなことは無い”、“聖女の格好をしたエルミアを見るのが本当に楽しみだ”って。

 あはは、私、変なとこで意固地になっちゃって、王様との謁見まで聖女のローブは着ません、とか言っちゃったのよねー」

 

(……ひょっとして、あのローブか?)

 

 第2話④参照のこと。

 そんな大事な衣装、自分に初お披露目しちゃ駄目だろう!――と考えたものの、状況にそぐわないためヴィルは沈黙を保つ。

 

「――ホントは、私だって嬉しかった。

 これで、少しは恩返しできるって。

 聖女になったら、ギリーの教会にでっかい寄付でもしてやろうって。

 そんなこと考えてた」

 

 少女の表情が曇る。

 

「……そうよ。

 先生は、もっと幸せになれるはずだった。

 もっと喜んでもらうつもりだった。

 それを――あいつが――あいつが――!!」

 

 初めて見る顔だった。

 エルミアは本気で、ギリーを殺した“首謀者”を憎んでいる。

 

「こんなこと、聖女が考えちゃダメだけど。

 神に仕える身で、考えちゃいけないことだけど!」

 

 少女の視線が、青年に向けられる。

 

「私――先生の、仇を取りたい!

 ギリーを殺しておいて、自分はそのお零れに預かろうだなんて、許せない……!!」

 

 彼女の瞳には、再び涙が溜まっていた。

 

「ヴィル。

 私、何でもする。

 私にできることなら、何だってやる!

 だから、だからお願い!!」

 

 エルミアが、青年の手を握った。

 強く、強く、握りしめてきた。

 

「――協力、して」

 

 その懇願に。

 悲しみに暮れる少女の願いに。

 ただ一言、ヴィルは告げた。

 

 

「任せろ」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 修道女ロアナ(H)

 

 

 ヴィルとエルミアは引き続き寝室へ籠り、作戦会議を行っていた。

 

「さて、問題なのは、どうやってグレッグ司教が黒幕であることを証明するか、だ」

 

「普通に倒しちゃだめなの?」

 

「駄目だ。

 そりゃ、真っ向から戦えば勝つのは容易だが――」

 

「――よ、容易なんだ?」

 

 何故か、エルミアが少し引いている。

 やはり、荒事にはまだ慣れていないのだろう。

 

「この教会に配備されている衛兵の数は、それ程多くなく、見たところ練度も低い。

 正面から行っても、苦戦はしないだろうさ」

 

「…………一応、正規の聖堂騎士とかも配備されてるんだけど」

 

「んっ? 何か言ったか?」

 

「な、なんでもない!」

 

 ぼそぼそっと少女が呟いた気がしたのだが、然程重要な内容ではなかったらしい。

 

「しかし、ただ倒しただけでは意味がない。

 グレッグは、凶刃に倒れた司教として生涯を全うしてしまう。

 そして、俺は敬虔な司教を殺した犯罪者として追われる生活が始まるわけだ。

 正直、あまり面白い展開とは言えないな」

 

「……それもそうね」

 

「だから、証拠が必要なんだ。

 何せ、グレッグ司教が犯人というのも、結局のところ推測でしかないわけだからな。

 まず間違いないとは思うが、万一の可能性だってある。

 ただ――そう簡単に証拠を掴ませてはくれないだろうが」

 

 今日一日のグレッグ司教の行動を見るだけで、それは簡単に想像できた。

 やり方はどうあれ、策謀への手腕は一流だ。

 

(――政治家にでもなるべきだな)

 

 そんな思いすら浮かんでくる。

 はっきり言えば、ヴィルにとって不得意なタイプの相手だ。

 

「……証拠ってさ。

 物証とかじゃなくてもいいの?

 誰かの証言、みたいな」

 

「物証があるのが一番だが――証言でもやりようはあると思う。

 この国で聖女の人気は相当高いようだからな。

 第三者の発言に君の同意を添えれば――」

 

 少なくとも、民衆は動くはずだ。

 そして多くの民が騒ぎ出せば、“上”だって無視できない。

 勝機は十分あると考えられる。

 

 ヴィルの考えを聞いて、エルミアはこう続けた。

 

「――だったら、何とかなるかも。

 ねえヴィル、ロアナともう一回お話できないかしら。

 勿論、グレッグ司教の同席は無しで」

 

「ロアナか。

 見たところ、彼女は傀儡としてきっちり仕込まれてる(・・・・・・)

 口を割らせるのは難しいと思うが」

 

「言ったでしょ。

 私、あの子とは結構付き合いがあるから」

 

 友人として、あの少女と話ができるかもしれない、ということか。

 エルミアには、ロアナから証言を得られる勝算があるようだった。

 ならば――

 

「――分かった。

 なんとかしてみよう」

 

 一つ頷いて、ヴィルは行動を開始した。

 

 

 

「連れてきたぞ」

 

「――早っ!?」

 

 戻ったヴィルに、エルミアはそんな言葉を投げかけた。

 

「出てってから一時間も経ってないじゃない!?

 そんなに早く、あの子を連れ出す許可がおりたの!?」

 

「許可なんておりるわけ無いだろう。

 勝手に連れ出したんだ」

 

 ヴィルは、肩に担いでいた(・・・・・・・)少女をベッドへと降ろした。

 ロアナは、静かに息を立てて眠っている。

 

「勝手にって、見張りが何人もいたはずだけど……」

 

「全員眠らせた(・・・・)

 

「――こ、交代要員とかもいるんじゃ?」

 

「そっちも眠らせた(・・・・)

 

「……眠らせたって、まさか“永遠に覚めない眠り”とかじゃないわよね?」

 

「はっはっはっは」

 

 ヴィルは朗らかに笑う。

 

「――さ、彼女を起こそうか」

 

「ちょっとー!!!?」

 

「冗談だ」

 

 魔法で少々眠らせただけである。

 明日の朝には起きるだろう。

 

「そんなわけだから、尋問には早朝までという時間制限がある」

 

「それまでに返してこないと大騒ぎってことね。

 ……そ、それにしたって、何て滅茶苦茶な」

 

 ぶつぶつ言うエルミアだが、時間に余裕がないことは理解したようだ。

 ロアナに近づくと、彼女を起こすべく身体を揺さぶる。

 

「――ん、んん――――――っ!!?

 ――え、エルミア」

 

 少女はすぐに起きた。

 そして目が覚めて即、自分の状況を把握したようだ。

 無感情な顔をつくり、ヴィルとエルミアを見返してきた。

 なかなか聡い子である。

 

「――何の御用ですか。

 ――ギリー司祭を殺したわたしを、自ら制裁しようと?」

 

「そんなわけないでしょ、ロアナ。

 私はね、貴女から真実を聞きたいの」

 

 ロアナを前にしても、エルミアは聖女モードには戻っていない。

 この2人の付き合いが内外のは、確かなようだ。

 

「――真実、ですか。

 ――全て、告白した通りです」

 

「嘘をつきなさい。

 貴女がそんなことを考えるわけないじゃない。

 私とロアナ、何年の付き合いだと思ってんの。

 ……ねえ、このままだと、聖女殺しの首謀者として極刑になってしまうかもしれないのよ?

 ロアナは、それでいいの」

 

「――何を言うかと思えば。

 ――わたしは、わたしの“信仰”に従い行動しました。

 ――それが裁かれるというのであれば、わたしは喜んでその裁きを受けましょう」

 

「……相変わらず、頑固というかなんというか」

 

 エルミアが嘆息する。

 とはいえ、この反応はヴィルの想定範囲でもあった。

 簡単に秘密を話すようであれば、自分達の前へ少女を連れてこないだろう。

 グレッグは、ロアナが何も喋らないと確信しているのだ。

 ……よく、躾けられている(・・・・・・・)

 

 ヴィルはエルミアへ声をかけた。

 

「どうする?

 当てが外れそうだぞ」

 

「平気平気。

 私だって、これ位で話してくれるなんて思ってないから。

 尋問は、ここからよ」

 

 言って、彼女はロアナの拘束服を脱がし始めた。

 

「んっと、脱がしにくいわね、コレ」

 

「――な、何をっ?」

 

「何をしてるんだ、君は!?」

 

 ロアナとヴィルが、同時に叫んだ。

 エルミアはきょとんとして、

 

「何って、服を脱がしてんの。

 ほら、ヴィルも手伝ってよ」

 

「え、えー」

 

 青年は、戸惑いの声を上げる。

 しかしエルミアの方は、早く手を動かせと言わんばかりだ。

 

「ほら、口で聞いても分からないなら、身体に聞くしかないでしょ?」

 

「……拷問でもするのか?」

 

「まさか!」

 

 会話してる間にも、エルミアは手際よく服を脱がしている。

 子細は分からないものの、ヴィルもとりあえず手伝うことにした。

 あれこれ議論する時間がもったいない。

 ここは、彼女を信用することにしたのである。

 

 数分後。

 

「んー、いい格好になったわね、ロアナ?」

 

「――え、エルミア。

 ――わたしに、何をするつもりですか?」

 

 ベッドの上には、生まれたままの姿になったロアナが居た。

 ただ、暴れられると困るので手足はロープで縛っている。

 

 少女の肢体は、凹凸の少ないものであった。

 ただ、きめ細かい肌や、小ぶりながらもしっかり存在を主張する胸、そして先端にある綺麗な色合いの乳首、等々、魅力のない身体では決してない。

 髪をボブに切り揃えた、あどけない容貌とも併せ、そっちの趣味(・・・・・・)を持つ人々にとってはエルミア以上に劣情を催すかもしれない。

 

(俺はそういう趣味じゃないがな!)

 

 心の中で言い訳をする。

 ヴィルがロアナの裸を見ているのは、彼女がエルミアに何かしないか、見張るために過ぎないのだから。

 

「さ、もう一度聞くわよ、ロアナ。

 貴女が知っていることを、話して」

 

「――話すことは、何もありません」

 

「そう……残念ね」

 

 エルミアはロアナの胸に手を伸ばすと、その先端を指先で弄り出した。

 

「――あっ――あっああっ――」

 

 途端に、ロアナは喘ぎだす。

 

「ふふ、相変わらずいい感度ねー」

 

「――エルミア。

 ――貴女、聖女になっても――ん、んんんっ――その性格、変わっていないのですか。

 ――あ、ああ、あぁああ――あっああああっ」

 

「喘ぎながら文句言っても説得力ないって。

 どう? 少しは喋る気になった?」

 

「――そんなわけ――あ、あぁああ――な、無い、です――ああ、あぁぁあああ――」

 

 両手で、少女の先端を抓むエルミア。

 彼女の責めで、ロアナは面白い様に嬌声を発した。

 

(……えーっと)

 

 つっこみどころがあり過ぎて、頭が整理できない。

 とりあえず、ヴィルは疑問を一つ、エルミアへ問いかけた。

 

「……なんだか君、手慣れ過ぎてないか?」

 

「そりゃそうよ。

 修道院時代、この子の身体を開発したのは誰だと思ってるの?」

 

「……君だとは思いたく無かったなぁ」

 

 修道院に居た頃の彼女達は、いったい何をして過ごしていたのか。

 ……ナニをして過ごしていたのかもしれない。

 

「昔から、君はその――アレな感じだったのか」

 

「何よ、アレな感じって」

 

「そのままの意味だ」

 

 言って、嘆息する。

 もっと、友情とかそういういモノを使って説得するのかと思っていたのに。

 

「だいたいコレ、拷問だろう」

 

「何言ってんの。

 あくまで身体を使った“コミュニケーション”よ!」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

 ヴィルは頭を抱えた。

 

「――あの。

 ――嘆くのであれば、エルミアを止めて貰えると助かるのですが」

 

 そこへ、ロアナから懇願が届く。

 ヴィルは少女の方へ向くと、

 

「え? ああ、いや。

 俺も最後の手段として拷問は考えていたからな。

 別に、それをする自体に異議は唱えないさ」

 

「――そ、そうですか」

 

 あっさり彼女の希望を打ち砕いた。

 まあ、ロアナにしてみても、手足を斬り落とす(・・・・・・・・)類の苦痛より、快楽による責めの方が受け入れやすいだろう。

 

 少しだけ表情が曇った少女に、エルミアが語り掛ける。

 

「ふっふっふ。

 それじゃ、続きよ。

 ロアナの弱いところ(・・・・・)は、ぜーんぶ知ってるんだから。

 いつまで耐えられるのか、見物ね?」

 

「……なんか、凄く悪女っぽいな」

 

 ヴィルのツッコミは無視された。

 エルミアは、手をロアナの股間に――何も生えていない(・・・・・・・・)ソコへ移すと。

 指を彼女の“中”へそっと挿し込む。

 

「……あー!?

 処女膜、無くなってる!

 誰よ、私のロアナへ勝手に手を出したのは!?」

 

(そこ、驚くところなのか)

 

 基本的に修道女は淫行を禁止されている。

 処女じゃなくなっているというのは、彼女らにとって大変なことなのかもしれない、が。

 エルミアを見ていると、余り実感は湧かない。

 

「――だ、誰が貴女の、ですか――ん、んんっ!

 ――わたしが誰に抱かれようと、わたしの勝手で――あ、ああっ!

 ――ま、待って下さい、そんな、中をかき混ぜられたら―――あっあぁああっ!!」

 

 ヴィルの耳にも、クチュクチュという水音が聞こえてきた。

 言うだけあって、エルミアはあっという間にロアナの身体を支配下に置いたらしい。

 

「――あっあっあっあっあ!

 ――い、いくら責めたって、無駄ですよ――ああっあっあああっ!

 ――わたしは、もう――んんっ!――昔の、わたしじゃないですから――あぁぁあんっ!?

 ――ほ、“本当の愛”を、教えて貰ったんです――あっあっあっあっあっ!?」

 

 短い黒髪を乱し、ビクビクと肢体を反応させているロアナ。

 無表情な人形だった少女は、もうそこに居ない。

 幼さを大分残した可愛らしい顔が、淫らに蕩けていく様子は背徳感で満載だ。

 気を付けないと、ヴィルの股間も反応してしまいそうな程に。

 

「本当の愛、ねぇ?

 あの司教(・・・・)が、そんなものをくれるとは思えないけど?」

 

「――し、司教様は関係無い――ああぁああっ!!」

 

「ふうん、まだ粘るつもりなんだ?

 それじゃ、一番感じちゃうとこ、行ってみようかなー♪」

 

「――あ、ああ――エルミア、まさか――」

 

 ロアナの身体が固まった。

 これから自分の身に起きることに恐怖してか。

 それとも期待して(・・・・)、か。

 彼女の淫猥に歪んだ顔を見るに、後者かもしれない。

 

 エルミアは、少女の股に置いた手を少し動かし。

 快感によって固く勃ち始めたクリトリスへと、指先を移す。

 

「じゃあ、いくわよ?

 思いっきり、鳴いちゃってね♪」

 

 そう言うと、彼女は爪先(・・)で、ロアナの陰核を掻き始めた(・・・・・)

 

「――あっ!!?

 ――あぁぁあああああああああああっ!!!!」

 

 ……甲高い嬌声が、寝室に響き渡る。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 尋問(H)

 

 

 

 エルミアが全力を出し始めてから、1時間近く経過した。

 

「ど、どう!?

 も、もう、言う気になったでしょ!?」

 

「――はっ!――はひゅっ!――ひっ!――ひっ!――

 ――なっなに、もっ――ひっ!――ひっ!――言う、こと、無い、ですっ――はひっ!――はひっ!――」

 

 瞳孔が開き、鼻水や涎が垂れ、股から小水と愛液が流れ、小刻みに肢体を痙攣させ。

 そんな状態であっても、ロアナは口を割らなかった。

 

「そんなっ!?

 私の責めが通用していないの!?」

 

 手足に付いた“液体”を拭いながら、エルミアは驚愕する。

 

「いや、思いっきり通用しているとは思うぞ。

 単に、彼女がそれに耐えきっただけだ。

 大した精神力だな」

 

 或いは、洗脳力とでも形容すべきか。

 司教が施した“躾”はヴィルでも舌を巻く程であった。

 

(修道女と司教だ。

 手も出しやすかっただろうし)

 

 グレッグがその気になれば、いくらでも少女を自由にできたはずだ。

 修道院が比較的閉鎖された場所であることも手伝い、囲い込みは容易だったと思われる。

 そして長い時間をかけ、ロアナを傀儡へ仕立て上げて行ったのだろう。

 彼女自身、そういう“素質”が高かったのかもしれなかった。

 

(命を落としかねない厳しい拷問であっても、耐えきれるかもな)

 

 賞賛混じりの愚痴。

 一応、死ぬよりも辛い拷問というのも知っているが――それをこんな少女に仕掛けるのは、躊躇われた。

 ただ、

 

(方向性を変えてみるのは、一つの手か)

 

 そう考える。

 快楽に堕ち切った今、痛覚に訴えてやれば、少女を揺さぶれるかもしれない。

 

「よし、選手交代だ、エルミア。

 俺が尋問してみよう」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「大丈夫だよ、俺だって、こんな子を酷い目に遭わせようとは思わない」

 

「違うわ。

 私にはまだ、最終手段が残っている!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

 まだあるのか。

 まだヤれてしまうのか。

 あれだけ散々ヤっておきながら。

 ロアナのためにも、ここらで打ち止めということにして欲しかった。

 

「まあでも、選手交代というのは正しいかもね」

 

「……んん?」

 

 訝しむヴィル。

 そんな彼をビシっと指さし、エルミアは告げた。

 

「ヴィル! ちんぽを用意しなさい!!」

 

「君は何を言ってるんだ」

 

 真顔で返答する。

 

「何ってそりゃ、ヴィルのスーパーなおちんぽで、ロアナをめろめろにしてしまおうと」

 

「できるかっ!!?」

 

「できるわよっ!!

 セリーヌさんだって完堕ちしてたじゃない!!」

 

「いや、言っちゃなんだが、アレはあの人が……ちょっと、特殊な人だったからだろ」

 

 失礼にならないよう、最低限言葉は選ぶ。

 

「うーん、でも、私も初めてだったのにやたら気持ち良くされちゃったし。

 やっぱり、ヴィルのは凄いのよ!」

 

「そ、そうか?」

 

 とても信じられないが。

 いや、そもそもからして――

 

「――あのな、エルミア。

 言っておくが俺は、君以外の女性を抱くつもりは無いからな?」

 

「ええっ!?

 どうして!!?」

 

 彼女の反応に、寧ろ青年の方が驚く。

 

「ど、どうしてって。

 そういう不貞な行為は慎むべきであり――」

 

「でもセリーヌさんは抱いてたでしょ?」

 

「反省したんだ!

 心の底から!

 もう、あんなことは二度としない!!」

 

「えー……ヴィルは、女の人とセックスするの、気持ち良く無いの?」

 

「い、いや、そりゃ気持ち良い――ではなくて。

 だいたい、君は――その、気にしないのか!?

 俺が、他の女性を抱いても!」

 

「え? ぜんぜん?」

 

「…………そうか」

 

 エルミアの反応に、気が落ち込んでしまった。

 彼女は、青年が誰と関係を持っても全く気にしないらしい。

 つまり、エルミアにとってヴィルはその程度の存在で――

 

「――そ、それでも!

 君と俺は恋人とかそういう関係ではない(・・・・・・・・・・)が、超えてはいけない一線というものがあるんだよ!!」

 

「――――あ」

 

 今度は、エルミアの表情が沈痛なものに変わった。

 

「……どうしたんだ、エルミア?」

 

「う、ううん、なんでも!

 そ、そうよね、貴方とはいっぱいエッチしてきたけど、それで私達が恋人同士になれるってわけじゃないもんね……

 あはは、私の独りよがりだったんだ……」

 

 彼女の顔が暗くなっていく。

 それにヴィルは慌て、

 

「ち、違うぞ!?

 今のは、君が俺のことをなんとも思っていなくても、という意味であって――」

 

「私が貴方のことを想ってないわけないでしょ!?」

 

 一転、激しい剣幕に。

 

「好きでもない人と、エッチなんてするわけないじゃない!!

 そもそもね、貴方、私の命を救って、その上いろいろ世話まで焼いてくれたのよ!?

 好きにならないわけないでしょ!?」

 

「そ、そうだったのか……?」

 

 思いがけない言葉に、呆然としてしまうヴィル。

 エルミアはなおも畳みかける。

 

「で、ヴィルは!?」

 

「うん?」

 

「貴方は、どうなのよ!

 私のこと、どう思ってるの!?」

 

「す、好きに決まってるだろう!!

 いや、別に下心から君の旅に同行したわけじゃないんだが!!

 はっきり言って、一目惚れだ!!」

 

「…………そう、なんだ」

 

「…………あ、ああ」

 

 言い切ってから、後悔が湧いてきた。

 今、勢いに任せて凄いことを言ってしまった気がする。

 それは、エルミアにしても同じのようで。

 

「…………」

 

「…………」

 

 2人が沈黙する。

 ただ、お互いの瞳を見つめ合った。

 そして。

 

「――エルミア」

 

「――ヴィル」

 

 同時に、相手の名前を呟く。

 青年と少女の顔は少しずつ近づいていき――

 

 

「――あの。

 ――人をこんな状態にしておいて、ラブロマンス展開させるの止めてくれないですか?

 ――貴方達、2人して頭おかしいんですか?

 ――類が友を呼んでしまった感じですか?」

 

 

「おわっ!?」

 

「ロアナっ!? いたの!?」

 

「――そりゃいますですよ」

 

 いつの間にか元の無表情に戻っていたロアナが、痛烈なつっこみを入れる。

 いや、今のは明らかの2人の方の落ち度だが。

 

「んん、おほんっ!

 だから、ヴィルのおちんぽでロアナを落とそうって寸法よ!」

 

「そんな上手くいくのか、それ?」

 

「――あー、そこまで戻りますか。

 ――わたしを解放する流れにはなりませんか」

 

 気を取り直した2人に、諦めたような1人。

 

「――まあ、どうしたところで変わりはしませんよ。

 ――幾らでも、わたしを犯せばいいじゃないですか。

 ――それで気が済むのでしたら」

 

「ほら、彼女もこう言ってる」

 

 エルミアから許可が出たとはいえ、ヴィルはロアナを抱くのに消極的だった。

 やはり、裏切りという文字が頭をちらついてしまうのだ。

 

 だが、エルミアは不敵な笑みを浮かべ、

 

「ふふふ。

 そんな態度をとりつつも――」

 

 手早く、ヴィルのズボンをずり下ろす。

 そこから現れたのは、既に勃起したイチモツ。

 

「――ほーら。

 ちんぽはヤりたくて仕方ないんじゃない。

 ヴィルも好きなんだから♪」

 

「こ、これは、その、生理現象というやつで!」

 

 1時間近く、美少女2人による淫猥な絡みを間近で鑑賞し続けたのだ。

 男なら誰だって、股間を滾らせてしまうだろう。

 すぐに愚息をしまおうとする青年であったが。

 

「――え、うそ、それ、おちんちん?」

 

 その前に、ロアナの呟きが聞こえてきた。

 耳ざとくそれを拾ったエルミアは、ニヤリと小悪魔な笑みを作ってロアナに近寄った。

 

「ええ、そうよ。

 これが、おちんぽ。

 ロアナは、知らなかったかなぁ?」

 

「――そ、そんな。

 ――そんなの、無いです。

 ――だって、だって、あの人(・・・)のは。

 ――もっと、小さくて、皮とか被ってて」

 

「ストップだ、ロアナ。

 それ以上はいけない」

 

 動転して、いらぬ情報を漏らし始めた少女を、ヴィルは止める。

 それは、男として最大級の屈辱に当たる。

 例え敵であっても、そこまでの侮辱をするのは気が引けた。

 

「……デブで、短小で、包茎……最悪ね、あの司教」

 

「エルミアも。

 止めてあげなさい」

 

 より直接的な単語を呟くエルミアを窘める。

 それを聞いて、というわけでも無いだろうが、エルミアは話を戻した。

 

「ふっふっふっふ、ふふふふふ。

 どうやら、ヴィルのコレは大分効果高そうね?

 想像してみなさい? このぶっといのが、貴女のおまんこを貫くところ」

 

「――な、何言ってるんですか。

 ――こんなの、入るわけないじゃないですか。

 ――常識で、考えて下さい。

 ――サイズが、サイズが違いすぎます」

 

 怯えだすロアナ。

 

(そんなに、俺のって怖いのか?)

 

 ヴィルはちょっと気落ちする。

 股間は変わらずギンギンなのだが。

 

「さささ。

 そのままじゃ挿れづらいわよね。

 手足縛ったままヤるなら――やっぱ後ろからかな?

 はーい、ロアナ、ごろんとしましょうねー?」

 

「――や、やめて。

 ――エルミア、やめて下さい!」

 

「聞く耳もたぬ!」

 

 あれよあれよという間に、体勢を整えられるロアナ。

 

「――あ、あ、ああ」

 

 彼女は、四つん這いにされたまま、エルミアに手と頭を押さえつけられている。

 ちょうど、女性器がヴィルに向いていた。

 容姿相応に幼い、ぴっちりと閉じた膣口が、ひくひくと動く。

 

「ほら、お膳立てしてあげたんだから。

 あとはよろしく♪」

 

「む、むう――仕方ないか」

 

 少女のあられもない格好を見て、ヴィルにも彼女の膣を味わいたい衝動が生まれていた。

 ロアナの背後に近寄ると、小さく可愛らしいお尻を掴む。

 

「――あっ」

 

 少女が声を上げた。

 彼女のお尻は余り柔らかくこそ無いもののすべすべで、実に良い肌触りだった。

 さわさわと手を動かして感触を楽しみながら、肉棒をロアナの膣口へとあてがう。

 

「――冗談、ですよね。

 ――分かるでしょう、貴方とわたし、全然大きさが違いますよ。

 ――入りませんからね?

 ――無理ですからね?」

 

 こちらを静止しようとする少女。

 だが、ヴィルはそれを敢えて無視する。

 

「……力を抜いておいた方がいいぞ。

 多少は楽になる」

 

 そう告げてから。

 腰に力を入れ、ロアナの中に剛直を侵入させていく。

 

「――あっ!?

 ――あっあっ!?」

 

「き、きついな、これは……」

 

 イチモツには、強い圧迫感が。

 エルミアの膣のように、絡みつき絞りあげるような感覚とは違う。

 強いて言うなら、膣痙攣を起こしたセリーヌの膣に近い。

 

 ロアナの中は、とにかく狭かった。

 根本的に広さが足りない“道”を、力づくで押し通していく。

 

「――あっ!――かっ!――はっ!」

 

「……これ以上、入らないか」

 

 まだ愚息を挿入しきれていないのだが、どう力を込めても進まなくなっていた。

 亀頭が、少女の最奥にある“壁”の存在を感じていた。

 やり過ぎると、華奢なロアナの身体が“壊れて”しまうかもしれない。

 

「――はっ!――はっ!――はっ!――はっ!――」

 

 過呼吸のように息を繰り返すロアナ。

 顔を苦し気に歪ませ、目は白目を剥きかけている。

 

(……まあ、ここまで入ったのだから、多少は動いても大丈夫だろう)

 

 そう考え、ヴィルは強引に腰を振り出した。

 

「――あぁああっ!?――おうっ!?――おっ!!――おおっ!?――おぉおおっ!!」

 

 雄叫びのような嬌声を出すロアナ。

 ヴィルのイチモツは、窮屈さをものともせずに少女の中を行き来する。

 

(こ、これは――なかなか)

 

 男性器を拒むような強い圧迫が、股間を扱きあげる。

 その快感は、今まで感じたことのないモノだった。

 

「――おっ!――おおっ!――おおおっ!――お、おぉおおおっ!!!」

 

「うん、あそこから血は出てないみたい。

 ほらね、大丈夫だったでしょ?」

 

「――おぅっ!?――おおぅっ!?――おっおっおっおっおっ!!」

 

 気軽いエルミアの台詞を、ロアナは聞いていないだろう。

 そんな余裕があるようにはとても見えない。

 

(俺も、そんなに余裕があるわけでも無いが)

 

 痛みを感じる程の刺激に、ヴィルの股間は昂っていた。

 しかも、ピストンを続けることで愛液が大量に漏れだし、それが肉棒の動きをスムーズにする。

 円滑に出し入れすることで、別種の新鮮な快感へと刺激が変わっていく。

 

「――んっおっおっ!!――あっあっあっああっ!!――あ、あ、あ、あ、ああああっ!!」

 

 気のせいか、ロアナの喘ぎがだんだんと艶を帯びてきた。

 苦悶に満ちていた顔も、心なし蕩けているように見える。

 彼女も、気持ち良くなっているのだろうか。

 

「うん、そろそろこの子、イキそうよ」

 

「……分かるのか?」

 

「もちろん!

 ヴィルの方はどう?」

 

「俺も……もう少しで、出してしまいそうだ」

 

「それじゃ、同時絶頂を狙っちゃいましょ!

 そんで、だくだくと中出ししちゃうの♪」

 

「え、笑顔で言う台詞じゃないと思うんだがなぁ」

 

 エルミアの言動に若干引きながら、腰の動きを速めるヴィル。

 人をどうこう言う前に、自分を戒めた方がいい。

 

(……それは分かっているのだけれど。

 この快楽には抗いがたく)

 

 どれ程綺麗事を口にしても、自分は雄なのだと実感する。

 その衝動に任せ、ヴィルは腰を振り続けた。

 

「――あっあっあっ!!――あぅっ!――あんっあっああっあぁあああんっ!!」

 

 ロアナの声から、“苦しさ”が無くなる。

 完全に、快楽へ喘ぐ雌の鳴き声へと変貌していた。

 表情も、だらしないイキ顔だ。

 

 ぽたぽたと、少女の股間から愛液が垂れている。

 膣も窮屈さがかなり和らぎ、ヴィルの愚息へヒダが絡みつき始めた。

 

「そろそろ、イクぞっ」

 

 青年はラストスパートに入る。

 ロアナの小さな尻に向け、自分の股間を強く、早く、打ち付けていく。

 

「――あぁあああああっ!!?――あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ!!!」

 

 一際大きな艶声が、ロアナの口から漏れた。

 彼女も、もうすぐ絶頂するようだ。

 

「――よし、出すぞっ!!」

 

 宣言すると同時に、イチモツを膣内へ思い切り抉り込ませた。

 “奥”へ到達したところで、射精。

 欲情を解放し、赴くままに少女の中へ精を吐きだす。

 

「――ああぁああぁあああ、あぁあああああああああっ!!!!!」

 

 ロアナも、イキ声を響かせた。

 膣壁が、ギリギリと青年の股間を締め上げる。

 ――痛みが走る程であったが、それはそれでいい刺激でもあった。

 

「―――――あっ―――――あ―――――」

 

 イキ終わったところで、少女は倒れ伏した。

 ただ膣圧は残っており、全身が落ちるのをヴィルの男根が支えるという、不思議な体勢に。

 

「……ちょっと、無理があるな、この姿勢」

 

 ヴィルはロアナの身体を掴んで固定すると、腰をぐいっと引く。

 ずるずると男性器が引き抜かれ――開いた膣からは白濁した液がどろりと流れ落ちる。

 

「――で、どうするんだ?

 この子、完全に気絶しているぞ」

 

 ヴィルはエルミアに尋ねる。

 彼女は一瞬思案顔になってから、

 

「無理やり起こすのも可哀そうだし、しばらく休ませてあげましょうか。

 ふっふっふ、起きた時にはちんぽの虜になっているでしょうね」

 

「……そう都合よくいくものか?」

 

 ヤっておいて酷い話だが、ヴィルは半信半疑だ。

 

「それはそれとして。

 ……まだ、元気そうね、ヴィル?」

 

「ま、まあな」

 

 青年の男性器は、未だ固くなったまま雄々しく反り返っていた。

 エルミアはその棒を優しく握り、

 

「じゃあ、あの子が起きるまで――私と、ヤっとく?」

 

「……いいのか?」

 

「うん。

 ていうか、私もしたい。

 貴方とロアナのセックス見てたら、もうアソコがびちょびちょになっちゃって♪」

 

 エルミアが、スカートを自分で捲り上げた。

 確かに、彼女の股間は見て分かる程に濡れている。

 

「よし、ヤろう」

 

「はい、ヤりましょう♪」

 

 そう言って、2人はまず口づけをした。

 先程、ロアナによって妨げられたキス。

 ――柔らかく、瑞々しい感覚が、唇を通して伝わってきた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 陥落(H)

 

 

 

 深夜。

 容疑者であるロアナを連れ出したヴィルとエルミアは、朝までの間に彼女から情報を聞き出さねばならなかった。

 失敗したとしてもグレッグ司教を追い込めなくなるわけではないが……

 異変を察知した彼が、より確実な隠蔽工作を行い、慎重に動き始めるであろうことは想像に難くない。

 そうなれば、ギリー司祭殺しの黒幕を暴くのは、困難極めることとなる。

 刻々と迫るタイムリミット。

 急がねばならないこの事態に、2人は――

 

 

「――あっ!――んん、あんっ!

 もう、そんなに私のおっぱいが好きなの?」

 

「君だって、乳首をこんなに固くしてるじゃないか」

 

「あ、あっあっ!

 そこ、強く吸っちゃダメぇっ♪」

 

 

 ――思いきり、ベッドの上で乳繰り合っていた!

 ロアナを横に置き、全裸で絡み合う2人。

 

(いや、あの子が起きるまでの間だけ!

 それだけだから!)

 

 心の中で弁解するヴィル。

 

 エルミアの美麗な肢体を前に、彼の理性は崩壊寸前であった。

 程よく育った胸、くびれた腰、肉付きの良い尻や太もも。

 どれも、最高級の形を――男を誘惑する形をしている。

 彼女の身体は、雌としての魅力に溢れていた。

 

 その内の一つ、淫猥な曲線が眩しい双丘へと顔を埋め、青年は少女の乳首を夢中にしゃぶっている。

 

「あ、ああ、あぁああんっ!

 ヴィルってば、赤ちゃんみたい――あっあぁぁあああっ!」

 

 乳首のコリコリした感触を、舌の上に転がす。

 頬にはおっぱいの柔らかさが伝わってきた。

 鼻孔には女性特有の甘い匂いが漂い。

 耳には、喘ぎ声のBGM。

 

 控えめに言って、ここは理想郷である。

 

「はぁっ――はぁっ――あっ――ああぁあんっ!

 私、まだミルクでないんだからね?」

 

 胸の先端を舐められる度に、身体をビクっと揺らすエルミア。

 白銀の糸に見紛うプラチナブロンドが、彼女の動きに合わせてサラサラ流れて行った。

 

 ヴィルは、聞き返す。

 

「……まだ(・・)?」

 

「うん。

 その内、ヴィルが出せるようにしてくれるんでしょ?――あんっ♪」

 

「俺の子を身籠って、聖女の務めを果たせるのか?」

 

「なんとか、なるでしょーーあ、あ、あ、あぁああっ!

 あっあっ――歯でカリカリされるの、気持ち、いいっ――あっああんっ♪」

 

 目を瞑り、うっとりとした表情のエルミア。

 美しく整った顔が恍惚となる様は、至極幻想的であった。

 

 ヴィルは交互に彼女の乳首を甘噛みしていく。

 

「――はぁっ!――あっあぁああっ!――んっんっんっあんっ!」

 

 感じ入っているためか、だんだんと汗ばんでくる少女の肢体。

 青年の口の中に、しょっぱい味が提供された。

 それが、なんとも言えず――

 

(――美味い)

 

 もっと味わうため、胸に、お腹に、肩に、首筋に、舌を這わせる。

 

「やだ、ヴィルってば、くすぐったい――あっああっはぁっああっんっ――

 そんなに私、おいしいの?――んぅっ――」

 

「ああ、極上のデザートを食べているみたいだ」

 

「ふふ、嬉しい――あ、あ――そこ、もっと舐めて――はぁ、んんっ――」

 

 こそばゆいのか、切ない喘ぎを漏らすエルミア。

 しばらくすると、彼女は自ら股を開き出した。

 

「ね、もう、いいでしょ?

 私のココ、もうぐちょぐちょのトロトロなの。

 ヴィルの、ちょうだい?」

 

 自己申告通り、エルミアの女性器からは愛液が漏れ、太ももにまで流れ出していた。

 ヴィルが指でそこを弄ると、液体が糸を引く。

 

「あっ――はぁああ――」

 

 少し触っただけだというのに、少女は嬉し気な嬌声を上げる。

 

 ほんの一週間前まで未開通だった秘部は未だ閉じ気味で。

 両手でソコをくぱっと開くと――

 

「――綺麗な色だな」

 

 鮮やかなサーモンピンクが顔を覗かせる。

 

「そーう?

 ふふふ、どんな気持ちかしら?

 自分で開花させたお花の鑑賞は?」

 

「最高だね。

 今すぐ味わいたいくらいだ」

 

「別に遠慮することないのよ?

 ヴィルのぶっといおちんぽで、私の中を好きなだけかき混ぜて」

 

「……そうさせて貰おう」

 

 ヴィルは体勢を整え、エルミアの股へ自らのイチモツを宛がう。

 ロアナとの情事からこちら、ずっと勃起し続けたイチモツを。

 エルミアからの誘いが無くとも、性欲が爆発する一歩手前だったのだ。

 

「ふふふ、やっぱりヴィルのって素敵――♪」

 

 剛直に手を伸ばすエルミア。

 すすす、とソレを擦り、ヴィルへ微笑みかける。

 

「じゃあ――いくぞ」

 

「うん――来て」

 

 2人の間で、小さなやり取りを交わした後。

 ――ヴィルは、エルミアの膣口へ自分自身(・・・・)を打ち込んだ。

 

「――ああぁぁあああああああああっ!!」

 

 待ち侘びていた快感に、少女は大きな嬌声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 2人が本番に突入した一方で。

 

「――んん?」

 

 ロアナは、ようやく目を覚ました。

 

(――わたし、は)

 

 ぼんやりとした頭で思い出す。

 今の自分の状況を。

 

(――ああ、そうでした)

 

 エルミアのお供によって、自分は監禁場所から連れ出されたのだ。

 そして、彼女の手で――

 

(――弄ばれたのです)

 

 最初は、エルミアに。

 修道院時代に散々ヤられた、身体の隅から隅まで気持ち良くされてしまった。

 それでも、ロアナは耐えてみせた。

 

(――わたしには、司教様がいるから)

 

 ロアナが慕う――否、信仰する対象。

 彼女に神の道を教え、今日まで導いてきた人物。

 彼を想えば、エルミアから与えられる快楽など、取るに足りなかった。

 

(――でも)

 

 次に、お供の男に犯された。

 

(――あんな――あんな無理やり)

 

 犯されてしまった。

 極太の男性器を、ロアナの“中”へ挿し込まれたのだ。

 それは、女の尊厳を踏みにじる行為。

 仮にロアナがその男を復讐のため殺害したとして、誹りは受けないだろう。

 

(――なのに)

 

 だというのに。

 今、少女が感じているのは、疼きであった。

 体の“芯”が、どくどくと疼く。

 女としての、雌としての、本当の悦びを知ってしまったから。

 

(――男の人のが、あんなに太くて、熱いなんて)

 

 今まで自分が見てきたものは、自分が味わってきたものはなんだったのか。

 たった一度の性交で、ロアナの常識は覆されてしまった。

 昨日まで“女の幸せ”だと信じていた“行為”が、まるで不完全なもの(・・・・・・・・・)だったと思い知ってしまった。

 

(――まんこ、開いちゃってます)

 

 ロアナの膣内は、未だ閉じず(・・・)、口を開けていた。

 自分の中に、“空洞”ができているのを感じる。

 ある形を象った、“空洞”。

 言うまでもない、あの男の“形”だ。

 

(――わたしのまんこ、あの男専用になってしまいました)

 

 もう、無理だと思う。

 ロアナは、グレッグ司教を尊敬している、崇拝している。

 しかし、もう無理だ。

 

(――あの方のモノでは、満足できなくなりました)

 

 確信があった。

 だって、疼きが止まらない。

 早くアレを挿れて欲しいと。

 アレをぶち込んで欲しいと。

 ロアナのまんこが、叫んでいるのだ。

 

(――あ、うそ、濡れてきました?)

 

 また、あの肉棒を挿入される。

 そのことを想像しただけで、少女の性器は熱を帯びてしまった。

 

 ――と。

 

 

 「あっああっあっああっあああっ!!

 すごいっ!! ヴィルっ!! すごいのっ!!」

 

 

 今更ながら、ロアナは部屋に響く“声”に気付く。

 緩慢とした動きでそちらを見ると――

 

(――あ)

 

 一気に目が覚めた。

 隣のベッドでは。

 

「あひっ! あうっ! あっ! あっ!!

 ああぁあんっ!! ヴィルの、おちんぽっ! あっああっ!!

 私のまんこ、抉ってくるのっ! おぉおおっ!!」

 

「エルミアのもっ――俺のに絡みついて離れないぞっ!」

 

 エルミアと例の男がまぐわっていた。

 もう、がっつりセックスしていた。

 おかしい。

 彼らは、ロアナを尋問するため、この部屋へ連れてきたはずなのに。

 

「――ひょっとして、忘れられてます?」

 

 呆れ半分、惨めさ半分で、呟く。

 2人は起きたロアナに気付きもしない。

 互いを貪り合うことへ夢中になっている。

 

(――今のうちに逃げれたり……は、しませんか)

 

 ロアナの手足はロープで縛られている。

 この状態のまま逃げるのは不可能だ。

 

 ……それに。

 

(――やっぱり、おっきぃ。

 ――太くて、逞しくて)

 

 少女にはそもそも逃げる気が無かった。

 いや、無くなっていた。

 再び、“あの男”のイチモツを見てしまったからだ。

 男と女の“結合部”に、チラリと見える雄の象徴。

 少女は、ソレから目を離せない。

 

「あっ! あっ! あぁああああっ!

 あっあっあっあっあっあっ!! ヴィル! ヴィルっ!!」

 

(――エルミア。

 ――すごく、嬉しそう)

 

 彼女が歓喜の声を上げるのを聞いて、心底同意した。

 エルミアは仰向けに寝て、正面から男に抱かれていた。

 彼女からも男へとしがみ付き、幸せそうに喘いでいる。

 

(――あんな、力強く突かれてるのに)

 

 男がピストンすると、エルミアの身体は大きく揺さぶられた。

 均整の取れた――憧れてすらいた、彼女の肢体。

 小さくはなく、かといって過分な肉もついていない、理想的なプロポーション。

 その肉体が、その男によって壊れそうな程に突き動かされている。

 

「んぁああっ!! あっ!! ああああっ!!!」

 

 にも拘わらず、彼女は至福の表情だ。

 それは、そうだろう。

 あれ程の“雄”を前にして、悦ばない“雌”などいない。

 

(――わたしも。

 ――わたしも、もう一度)

 

 アレが欲しかった。

 壊れるくらい、まんこの奥に叩きつけて欲しかった。

 

「――ふぅっ――うっ――ああっ――」

 

 ロアナの口から、艶のある息が漏れる。

 知らず知らずのうちに、少女は自分の股を手で擦っていた。

 

「――はぁっ――あっ――わたし、も――んんっ――わたしも――」

 

 指の動きが少しずつ早くなる。

 少女の意思とは無関係に。

 

「――んんぅっ――あぅぅっ――くぅっ――あぁあっ――ああっ!」

 

 指先が、ロアナのクリトリスに当たった。

 エルミアが徹底的に責めてきた箇所。

 

「――あっ!――ん、んんっ!――あっあんっ!――あ、あっ!」

 

 気持ちの良いソコを、自分でも弄る。

 もう片方の手は、膣の中につっこみ、熱くなっている自分の奥(・・・・)をかき混ぜた。

 

「――はぁっ!――あっあっあっあっあっ!――」

 

 ぴちゃぴちゃと愛液が音を立てる。

 喘ぎもかなり大きくなっていた。

 

(――なのに、どうして気付いてくれないんですか!!)

 

 心で絶叫する。

 彼らは、自分をほっぽいてはいけないはずなのだ。

 ロアナが目を覚ますや、すぐにあの極太なちんこで少女を責め抜かなければならないはずなのだ。

 まんこがぐちゃぐちゃになるまで犯し尽くし、ロアナを屈服させなければいけないはずなのだ。

 

(――なのに、どうして!)

 

 2人はこちらに目もくれなかった。

 

「――んっ!――んんっ!――ふぁ、ヴィルっヴィルっ!――あふっ――レロ、レロレロっ!――チュッ――んんんんっ!!」

 

 男と女は正常位で交わりつつ、唇と唇を重ねていた。

 舌と舌が絡み合う、ディープキスだ。

 こちらへと注意を向ける気配も無い。

 

(――わたしを尋問するために連れてきたんですよね!?)

 

 余りの理不尽に、激昂しかける――が。

 そこで、ふと気づいた。

 

(――まさか。

 ――まさか、これが尋問?)

 

 ロアナの居るこの状況こそが、尋問の一貫なのではないだろうか。

 ロアナの前で、悦楽に満ちたセックスを見せつけることこそ、エルミアの企みなのではないだろうか。

 

(――わたしが服従するまで、お預けってことなんですか?

 ――負けを認めるまで、ただ見ていることしかできないと?)

 

 膣が切なく蠢動した。

 

(――そんな、そんなの、酷すぎます。

 ――わたしは、自分からエルミアに敗北を告げなければいけないのですか)

 

 いい様に弄ばれている。

 全て、エルミアの手の内ということだ。

 そこまで屈辱的な真似はできないと、拒む気持ちもあるが……

 

「あぁああああっ!! イイっ!! イっちゃうっ!!

 私、もう、イっちゃうぅううっ!!」

 

「――ああ、俺も、イキそうだ――!」

 

「うんっ!! 来てっ!! 来て来てっ!!

 ヴィルのザーメン、中にいっぱいぶっかけちゃってぇっ!!」

 

 そうこうしている内に、彼らの行為は、激しさを増していた。

 互いが互いに、身体をぶつけている。

 エルミアの股間からは愛液が飛び散り、秀麗な顔は悦楽に蕩けていた。

 

(――ああ、待って、待って。

 ――わたしも、わたしにも)

 

 自分にも、して欲しい。

 自分も、あんな風になりたい。

 ロアナの中で、恥辱に対する拒否感より、快楽への欲求が勝りつつあった。

 

「――あっ!! あああっ!! イクっ!! も、イクっ!!

 私、イ――いっいっいっいっいっい―――!?」

 

「――いいぞ、イケ、エルミアっ!!」

 

「――いぁああああああああああああああっ!!!!!」

 

 エルミアは思い切り身を反らし、肢体を細かく痙攣させた。

 ……絶頂したのだ。

 あの男の肉棒を存分に味わい、最高潮へ到達したのである。

 

(――ああ。

 ――あああああああああ)

 

 その光景を見て。

 ロアナは、自分の心が折れるのを感じた。

 

 

 

 

 

「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 ヴィルの下で、エルミアは荒く呼吸していた。

 しかしその表情を実に艶やかで。

 イったばかりだというのに、青年は劣情を掻き立てられた。

 

「――はぁっ――はぁっ――気持ちよかったぁ――」

 

「ああ、俺もだ」

 

 言葉少なに返事する。

 素っ気なくしたつもりはない。

 本当に、気持ち良いという単語しか頭に浮かんでこなかったのだ。

 

「――んん?」

 

 一息入れたところで。

 ヴィルは、自分を見る視線に気が付いた。

 

(…………あーっ!?)

 

 胸中で、叫ぶ。

 視線の正体は、考えるまでもない。

 ロアナだ。

 

 忘れていたわけでは無い。

 ちょっと、周りが見えなくなっていただけなのだ。

 

「――目が覚めたみたいだな、ロアナ。

 何か、喋る気にはなったか?」

 

 務めて平静とした声で、黒髪の少女へ話しかける。

 心臓は、バクバク言っていたが。

 何せ――いつロアナが目覚めたか知らないが――自分達の情事はずっと見られていたわけなのだから。

 

(落ち着け――落ち着け、俺!

 …………いや駄目だ、落ち着くな!

 冷静になってはいけない!!)

 

 ここで客観的に自分を見つめてしまったら、ヴィルは恥ずかしさで自決してしまうかもしれなかった。

 なんとか、勢いで乗り切らねば。

 

 そう決意した矢先、ロアナが口を開いた。

 細い声で、だがはっきりと。

 

「――分かりました」

 

「ん?」

 

 発言の意図が掴めず、聞き返してしまう。

 少女は続ける。

 

「――わたしの負けだと言ったんです。

 ――貴方達に、全てお話しします」

 

「……あ、ああ、そう?」

 

 何故かは分からないが、ロアナは質問に応じることを宣言してきた。

 どうやってここから尋問を再開しようと頭を捻らせていたところなので、大分拍子抜けしてしまう。

 

 ただ、そこでロアナは終わらず。

 

「――だから。

 ――だから、約束ですよ。

 ――わたしにまた、あなたのちんちんを突っ込んで下さい。

 ――いいですね」

 

「え? あ、うん」

 

 彼女の勢いに負け、思わず頷いてしまう。

 

(あの子にいったい何があったんだ?)

 

 本気で事態が把握できず、頭を傾げるヴィル。

 ――その傍らで、エルミアは“計算通り!”とでも言いたげにほくそ笑んでいたわけだが。

 

 

 

 何はともあれ。

 ヴィルとエルミアは、ロアナの陥落に成功したのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥ 弾劾

 

 

 

 エルミアがこの街へ来てから1日が過ぎた。

 今は、早朝。

 自らの執務室で、グレッグ司教は一人、笑みを浮かべていた。

 頭に思い浮かべるは、昨日保護(・・)した聖女エルミア――ではなく。

 彼女が連れてきた、一人の男である。

 

(――まさか、本当にあのお方(・・・・)だったとは)

 

 報告を聞いたときは、まさかと思った。

 噂で、最近は公務に姿を見せないと聞いてはいたが、まさか“王国”に居るとは考えていなかったのだ。

 ましてや、それがあんな形で出会えることになるとは――!

 

(間違いなく、本人だ。

 何度かお顔を拝見したこともある。

 見間違えは無い)

 

 司教という立場の関係上、グレッグは“帝国”に赴いたことがある。

 その時、かの“将軍”の姿を何度かこの目で見たのだ。

 3年前に終結した、“魔竜戦役”の英雄を。

 

 これでも、観察眼や記憶力には自信がある。

 他人の空似などということは決してない。

 

(――エルミアには、感謝せねばな)

 

 彼女を蹴落とそうとしていたことは、グレッグにとって過去のものとなっていた。

 やたらと自分に反抗してきたギリー司祭にも、もう恨みはない。

 いや、よくぞあの女を見目麗しく育ててくれたと、感謝すらしている。

 

(なんなら、ギリー司祭のために盛大な葬儀を開いてもいい)

 

 その程度のこと、いくらでもしてやろう。

 何せ、“将軍”だ。

 今や“帝国”の皇帝すら彼の行動に口出しできないという。

 ……流石にそれは尾ひれがついた話であろうが、絶大な権力・名声を欲しいがままにしているのは間違いが無かった。

 

(そして――あの2人は確実に好き合っている!)

 

 エルミアは勿論、あのお方も互いへの好意が滲み出ていた。

 彼らがどのような出会いをしたのか定かではないが、只ならぬ想いを抱いていることは簡単に見て取れる。

 

 ――しかし。

 

(いくら想い合っていようとも、エルミアは“王国”の聖女。

 婚姻ともなれば、そう容易くはない)

 

 そうなのだ。

 聖女は、清廉であり、貞淑であることが求められている。

 ――どちらもあのエルミアとはかけ離れた性質であるが、世間はそう考えているのだ。

 

(あんなのが聖女として選ばれれば教会の威信に関わると思っていたのだがな。

 外面だけは上手く取り繕いおって、あの女狐め。

 ――あの女の本性を見抜けなかった他の連中も愚かとしか言いようがない。

 淫乱な罰当たり娘より、私の(・・)ロアナの方が遥かに聖女として相応しかったというのに。

 ……まあ、過ぎたことか)

 

 一瞬、過去の恨みつらみが浮かび上がるが、慌てて頭を振る。

 全て、過ぎたことなのだ。

 

 そんなわけであるからして、当然、聖女は色恋沙汰などご法度。

 唯一認められているのは、“勇者との恋愛”だけだ。

 “勇者の一団”と“四天王”との戦いが始まった時分より、勇者と聖女は結ばれるものとされていた。

 実際、多くの勇者がその時の聖女と結婚している――それが、幸せだったかどうかは別として。

 グレッグとしては下らない悪習だと思うのだが、教会の上層部も、民衆も、未だ過去のしきたりを踏襲したがっている。

 

(――だが、ご安心召され、ヴィル様。

 私が必ずや貴方とエルミアを結び付けてみせましょう!)

 

 悪習と呼称したが、実際、聖女への押し付けとも言える価値観を否定する人間は教会内にも一定数いる。

 グレッグが、司教の権力を用いて、彼らの声を纏めれば――

 彼らの愛を成就させるのは、難しいことではなかった。

 

(無論、相応のもの(・・)は頂きますがな。

 なに、愛の前ではちょっとばかりの権力など、塵芥のようなもの。

 よもや“将軍”ほどの人物が惜しむことはありますまい)

 

 自然、口元が緩んでしまう。

 

 いや、下品な真似をするつもりはない。

 かの人物は、大層義理堅い男としても知られていた。

 普通に振る舞っていれば、十分な見返りを用意してくれるだろう。

 

(さらに、“将軍”を世話した(・・・・)人物にもなれるわけだ。

 くくくくく、本人が意図しなかったとしても、周りは私のことを放っておかないでしょうなぁ。

 絶大な信頼と栄誉を預けられることとなる)

 

 そしてグレッグは、それらを“権力”と“金”に変換する術をよく心得ていた。

 

(うまく立ち回れば、大司教はおろか、次期教皇とて夢ではない!

 素晴らしい、素晴らしいぞ、エルミア!

 お前の淫猥具合はとても許せたものでないが、しかしよくやった!

 よくぞ、あのお方を垂らし込んでくれた!!)

 

 にやつきが抑えられない。

 これからのことを考えれば考える程、笑いがこみ上げてくる。

 

(まったく、こうなると分かっていれば、聖女の後見人程度(・・)の名誉、お前にくれてやればよかったな、ギリーよ!

 だが安心しろ、そちらもしっかり務め上げてやろう!)

 

 “将軍”が“聖女”に懸想している以上、彼女を軽く扱うわけにはいかなかった。

 しかし、それについても問題はない。

 元々、彼は聖女の後見人となることを目論んでいたのだから。

 後見の対象は、エルミアでなくロアナだったが。

 

(そこだけが、酷く残念だ)

 

 心に水が差される。

 ロアナを――あの、人形のように純朴な少女を聖女にしてやれなかったのは、グレッグの心残りである。

 ましてや、時間が無かったとはいえ、彼女をギリー司教殺害の容疑者として仕立てねばならなかったなど。

 

(昨日の様子を見るに、エルミアは“理解”していたようだからな。

 ロアナの極刑など、望むまい。

 神官としての道は閉ざされるだろうが――なに、また私が拾い上げてやればいいだけのこと。

 これからは、そうだな、私の世話役にでも任命してやるか)

 

 そうなれば、前よりも一緒にいられる時間が増える。

 考え方を変えれば、これはこれで良い結果とも捉えられた。

 今まで以上に、愛をくれてやろう。

 

「……む?」

 

 その時、グレッグの耳に人の声が入ってきた。

 一人二人ではない、かなり多くの人数が喋る声だ。

 

「なんの騒ぎだ?」

 

 不快を感じ、執務室を出る。

 静かにするよう、言いつけてやらなければ。

 

(まったく、朝っぱらから。

 今、この教会には“将軍”がおられるのだぞ?

 あの方に不興を買われたらどうするつもりだ)

 

 そんなことを考えながら。

 

 

 

 

 

 

 グレッグ司教の考えは、大よそ的を射ていた。

 ヴィルやエルミアの人となりやその関係を理解し、最適に近い段取りで彼らに歩み寄った。

 

 ただ、唯一に近い誤算。

 エルミアは――グレッグが不快な淫奔女とみなしていた彼女は。

 本当に、心の底からギリー司教を深く慕っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 聖堂には、多くの人々が詰め寄っていた。

 教会の神官もいるし、市井の信者もいる。

 皆、口々に何かを呟き、場は騒然としていた。

 

「お前達、何を騒いでいる!」

 

 そこへ、グレッグ司教の大声が響く。

 

「ここをどこだと思っているのだ!?

 神聖なる神の御前で、いったい何をたむろっておるか!!」

 

 司教は騒めく人々を一喝するが、静まる気配はない。

 代わりに――

 

「――グレッグ司教座下。

 今、皆様に説明をしていたところなのです。

 貴方の、悪行を」

 

 凛とした声が、グレッグにかけられる。

 司教がこちら(・・・)を向いた。

 

「――エルミア!?

 それに、ヴィル様まで!!?」

 

 聖女の装いとなったエルミアと、その隣に立つヴィルを見て、驚きを漏らす。

 司教は2人に近寄ってきながら、問い質してきた。

 

「悪行とは、いったい何のことだい、エルミア?

 私にはとんと心当たりが無いのだが」

 

「お惚けにならないで下さい。

 貴方が私の襲撃を画策し、ギリー司祭の殺害を企てたことは分かっているのです」

 

 糾弾しても、グレッグの顔には余裕の笑み。

 

「はははは、私が、ギリー司祭を?

 冗談にしても性質が悪いね。

 いったい誰にそんなことを吹き込まれたのかな?」

 

「吹き込まれたわけではありません。

 ただ、しっかりと説明を頂きはしました。

 こちらの――ロアナさんから」

 

「――――へ?」

 

 司教の顔が固まった。

 ヴィルの影に隠れていた、ロアナの姿を見た瞬間に。

 

「な、何を――ロアナが、そんなことを言うはずが――

 いや、そもそも彼女は厳重に拘束されていて――」

 

 余程ショックが大きかったのか、口調に力が無い。

 ロアナの“裏切り”は、それ程までに予想外だったのか。

 

「――ろ、ロアナ。

 嘘、だろう。

 そんな、君が、喋るはず――」

 

「――いいえ」

 

 相変わらず声は小さかったが、それでも毅然と少女は答える。

 

「――全て、お話ししました。

 ――司教様が行ったことを、全て」

 

「な、何っ」

 

 司教が絶句する。

 

「何故だ、ロアナ。

 何故、そんなことを……?」

 

「――司教様、わたしは貴方を尊敬していました。

 ――貴方のためとなるのであれば、この身砕けようと惜しくありません。

 ――しかし、わたしは神に仕える身。

 ――神の名において、偽称はできないのです」

 

「グレッグ司教座下、貴方はロアナさんの忠義心を利用したつもりだったのでしょう。

 しかし、彼女はかつて聖女を志していた身。

 不正への協力など、できるはずがありません。

 ロアナさんの信仰心を侮りましたね」

 

 ロアナの台詞を、エルミアが補う。

 

(――よく言えるなぁ、この子達)

 

 証言を得た経緯が経緯なだけに、真面目な顔でこんなことを言ってのける彼女らに、ヴィルは少し冷や汗を流す。

 いや、多少の気後れがあったとしても、真剣にやらざるをえない場ではあるのだが。

 

 2人の少女をきっかけに、周囲の人々も司教を弾劾しだす。

 

「グレッグ司教、貴方はなんてことを!」

「聖女様を殺そうとするだなんて!」

「神聖なる職に身を置きながら、恥を知れ、恥を!」

 

 小一時間も前から、エルミアは彼らに対して演説を行っていた。

 美しく聡明な“聖女”(外面は)の言葉に、民衆が心を傾けないわけがなかった。

 ここにいる人々は、完全にこちらの味方だ。

 この段階に至って、ヴィルがやれることなどもう何もない。

 

「ま、待ちなさい!

 これは、ただ彼女達がそう言っているだけだ!

 私がやったという証拠は――」

 

 司教がどうにか弁解しようとするが、

 

「聖女様が嘘を言っているというの!?」

「悪いが、俺はあんたの方が信用ならないな!」

「罪を犯していないというなら、もっと堂々として見せたらどうかね!」

 

 それは、民衆の怒りに油を注ぐだけであった。

 誰も司教の言葉に耳を傾けない。

 こういう思慮に欠いた集団行動は、ヴィル個人としては正直好ましくないのだが――利用できるものは、利用させて貰う。

 

(もし、ここがグレッグ司教の教区であったなら、結果はまた違ったのだろう)

 

 ここは、彼の担当する地域ではない。

 故に、影響力もかなり小さくなっている。

 人々が司教に反発するのは、それも理由の一つだった。

 

(もう、ここは“詰み”だな)

 

 人々へ説得が通じない。

 ヴィル達はグレッグの甘言を聞く気が無い。

 これだけ大っぴらなところでは、脅迫も使えないだろう。

 武力行使も、しないはずだ。

 彼がそこまで愚かな人物だとは思えなかった。

 

 司教は、一刻も早くこの場を立ち去りたがっているはずだ。

 となれば、後は落としどころを用意してやるだけ。

 ヴィルは、エルミアへ合図を送る。

 

「――皆さん、どうかお静かにお願いいたします。

 私は、ここで司教座下を処罰したいなどとは考えておりません。

 ただ、グレッグ司教座下に正式な裁きの場へ立って頂きたいだけなのです」

 

 予め打ち合わせしていた通り、彼女は話し始める。

 

「おお、流石は聖女様――」

「なんと慈悲深い――」

「自分を陥れた男まで、庇いなさるとは――」

 

 口々に、エルミアを褒め称える民衆。

 自分達がそう誘導した結果ではあるのだが、その単純すぎる反応には少々嫌気がさしてしまう。

 

 何はともあれ、“逃げ道”は作った。

 そのことをグレッグも察したのだろう、一つため息を吐くと、

 

「――分かった、エルミア。

 私を拘束しなさい。

 裁判にて、神の御判断を仰ごうではないか」

 

 淡々と、聖女の申し出に従う。

 

「ご理解を頂けて何よりです、グレッグ司教座下。

 私も、事の真偽が白日の下となることを望んでおります」

 

 エルミアは、そんな彼へ一礼する。

 そしてグレッグ司教は、教会の神官達に連行される形で聖堂を去っていった。

 

(――思った以上にすんなり進行したな。

 相手の頭がいいと、無駄が少なくて助かる)

 

 しかし、これで終わったわけではない。

 裁判の準備?

 いや、違う。

 

(当然、動く(・・)んだろう、グレッグ司教?

 お抱えの部下を随分とこの街に潜ませているそうじゃないか。

 悪いが、こちらも“そこ”を狙わせて貰うぞ)

 

 ヴィルがグレッグを見逃したのは、法による裁きを受けさせたいからではない。

 そういうまどろっこしいのは趣味ではないのだ。

 司教を程ほどに(・・・・)追い詰めた理由は一つ。

 ――彼をヴィルの戦場へ引きずり出すためだ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑦ 決着

 

 

 

 そして、深夜。

 街の誰もが寝静まった頃、静かに街を動く影があった。

 数日前、エルミアを襲った覆面達と、彼らに連れられたグレッグ司教だ。

 

(――読みがあたったな)

 

 ヴィルはほっとする。

 このまま、素直に裁判を待たれたらどうしようかという懸念もあったのだ。

 即ち、裁きを受けても司教には何の支障もない可能性――上層部への根回しを終えている可能性だ。

 幸い、彼にとっても今回の糾弾は痛手だった様子。

 

「――大丈夫なのですか?」

 

 ヴィルへ話しかけてくる声。

 ロアナだ。

 

「ああ。

 君達に危険が及ぶようなことは無いさ」

 

 青年が少女達を連れているのは、人質にされるのを防ぐためだ。

 この街で一番安全な場所は彼の近く(・・・・)だから。

 

「――そうではなくて。

 ――彼らは、グレッグ司教が集めた精鋭です。

 ――それが、20人近く。

 ――その、聖女の守護騎士である貴方の強さを疑うわけでは無いのですが。

 ――もう少し、相手の隙を伺った方が」

 

「大丈夫よ、ロアナ」

 

 少女の隣にいるエルミアが、ロアナに返す。

 

「ヴィルって滅茶苦茶に強いから。

 あんなの、楽勝楽勝♪

 ――でしょ?」

 

「楽勝とは言わないが、どうにもならない相手でもないな」

 

 エルミアの言葉に、ヴィルは頷いた。

 

「――ほ、本当ですか?」

 

「信用に足る根拠を用意できなくてすまないが、とりあえず信じてくれ」

 

 まだ疑わし気なロアナに、念を押す。

 

「……向こうも大分動いたな。

 そろそろ、行くぞ」

 

 司教が郊外――戦いやすい場所にまで移動したのを見て。

 ヴィルは少女達を抱きかかえる(・・・・・・)と、グレッグのいる場所へ駆けた。

 

 

 

 

 

 

「――こんな夜遅くに、ご苦労なことだな、グレッグ司教」

 

「……っ!!」

 

 暗闇の中、相手に話しかける。

 一瞬で、司教の表情が変わった。

 覆面達も、一斉にこちらを向く。

 

「――ヴィル様」

 

「もういい加減、敬称はいらないんじゃないのか」

 

 律儀にもこちらへの呼称変えないグレッグに、少し呆れる。

 

「私を、つけていたわけですか」

 

「必ず動くと思ったのでね。

 個人的な見解だが、もう少し待った方が良かったな」

 

「この教区を担当する司教が、明日にもこの街を訪れると聞きまして。

 ゆっくりしてはいられなかったのですよ。

 ……これも、貴方の差し金ですか?」

 

「エルミアに、その司教へ連絡を取ってくれるように頼みはしたな。

 すぐに腰を上げてくれて何よりだ」

 

「聖女の頼みを、そう無碍にはできんでしょう。

 しかし――」

 

 司教はため息を吐く。

 

「“閣下”。

 貴方は、政治の場にも進出すべきでは?

 これ程上手く立ち回ってくれるとは」

 

「それはこちらの台詞だ。

 貴方こそ、宗教家より政治家の方が向いているだろう」

 

「あっちは面倒くさそうでしてね。

 民衆より信者の方が動かしやすい」

 

「そうか」

 

 一旦、会話が止まる。

 

「……それで。

 見逃しては、くれんわけですかな?」

 

「無論だ」

 

「これだけの人数に、勝てるとでも?」

 

「やってみれば、分かるだろう」

 

「……なるほど」

 

 グレッグは、周囲の覆面達に指示を出す。

 

「――やれ。

 但し、なるべく殺すな」

 

 その言葉を合図に、覆面が散開する。

 ヴィルは長剣を抜いて迎え撃つ。

 

 戦いが、始まった。

 

 

 

 ――いや。

 戦い“らしきもの”が始まった。

 

 

 

「――えー?」

 

 ロアナが、呆然とした声を出す。

 無理もない。

 ここまで一方的(・・・)な戦闘になるとは、思わなかったのだろう。

 

 戦況は、ヴィル有利に進んでいた。

 この状況を、有利などという生易しい言葉で表していいのならば、だが。

 

「……つ、強すぎる」

 

 グレッグ司教が驚愕の色を濃くする。

 彼の部下達は、ヴィルへ一矢報いることもできないでいた。

 

 斬り伏せられる。

 青年が手にした剣で、次から次へと。

 一方で、覆面達の攻撃はかすりもしない。

 

 グレッグは戦いに詳しいわけでは無い。

 しかし、その素人目で見ても、両者の間に絶対的な隔たりがあるのがよく分かった。

 力が、速度が、技量が、何から何まで全てが。

 どうしようも無い程にかけ離れていた。

 

 

「……下がれ」

 

 

 司教を守る位置に居た一人の覆面が、仲間へと指示を飛ばす。

 ヴィルを取り囲んでいた――取り囲もうと努力していた――覆面が、後退していく。

 代わりに、命令を出した覆面が、青年の前に立った。

 

(――む。

 これは、なかなか)

 

 ヴィルは、胸中で舌を巻く。

 目の前の覆面は、他の連中とは格が違うようだ。

 “強者”の空気を纏っている。

 

「――参る!」

 

 そんな掛け声と共に、長剣を振るってきた。

 堂に入った振舞。

 どうやら、ただの暗殺者というわけではなさそうだ。

 

(――ん?)

 

 それをいなして、ヴィルは気付く。

 その覆面の、正体に。

 

(――んんっ!?)

 

 そしてそのせいで、頭が混乱してしまった。

 

(――ちょっと待て。

 するとなると――あれが――こうなって――)

 

 目の前の男の正体が“彼”だったとなれば。

 ヴィルは、“考え違い”をしていたことになる。

 

 確認をするため、青年は男の覆面だけ(・・)を斬り落とした。

 

「……やはり。

 貴方だったのか、“隊長”」

 

「――ばれてしまったか」

 

 現れたのは、ヴィルの見知った人物だった。

 エルミアとの旅を始めてから、最初に訪れた宿場町。

 そこで、バーゲストへの対処に来ていた討伐隊の隊長である。

 

「まさか、こんなところで再会するとは」

 

「私もだ。

 貴方とは、正規の騎士として面会したかった」

 

 言葉少なに、会話をかわす。

 

 討伐隊の隊長が、グレッグの配下だった。

 これが意味するところはつまり、あの討伐隊はエルミアの捜索を目的とした部隊であったということ。

 

(――そうだったならば、どれだけ気が楽なことか)

 

 ヴィルはその考えを否定する。

 

 そうではない。

 そんなことはありえない。

 エルミアを捜索していたならば、あの時、何かされて然るべき(・・・・・・・・・)だ。

 しかし、隊長達はただヴィル達を歓待しただけ。

 純粋に、聖女に出会えたこと、民の脅威(バーゲスト)がいなくなったことを喜ぶだけだった。

 要するに、彼らは本当にバーゲストを排除するため遣わされていたわけであり、

 

(しかも、それを指示したのはグレッグ司教だ)

 

 そうとしか考えられない。

 “隊長”は他の覆面へ命令し、ぎりぎりまでグレッグの守備位置を離れなかった。

 彼はグレッグの腹心だと考えられる。

 そんな人物が、自分だけの考えで上官(グレッグ)から遠く離れた場所へ部隊を動かすはずがない。

 間違いなく、あの部隊の派遣は司教によるものだ。

 

(だから――あんな辺境(・・)に現れた、軍を動かす必要がある程面倒(・・)な魔物の対処を、まだ国民の犠牲が少ない(・・・・・・)段階で判断した人物が、グレッグ司教ということで――)

 

 ヴィルは、想定していなかった。

 

 司教が、様々な策を用意していることは考えていた。

 あれだけ追及を受けても、自分の教区へ逃げ込んでしまえば何とでも処理できてしまうであろうと見込んでいた。

 仮に裁きを受けたとしても、致命傷とはならないよう手筈を済ませているだろうと推察していた。

 

 だが、グレッグ司教が大きな善性を持つこと(・・・・・・・・・・)を想定していなかったのだ。

 

(ど、どうする?)

 

 斬っていいのか?

 これだけまともな(・・・・)配慮を行える、権力層の人材というのは非常に希少である。

 そんな相手を、ここで斃していいのか。

 

 いや、ヴィルとて司教が善人だと思い直したではない。

 ギリー司祭を殺したのは事実なのだから。

 善人か悪人かで言えば、悪人だ。

 民の利益もしっかりと慮っている悪人だというだけ。

 

 ――ただ、それだけの事実でも青年を悩ませるには十分だった。

 

 悩みは切っ先にも顕れる。

 ここまで覆面達を圧倒してきたヴィルだったが、

 

「――どうした!?

 動きがにぶいぞっ!!」

 

「――ぐっ!」

 

 “隊長”の高い剣腕もあって、青年は押されていた。

 

 戦いとは、一瞬の駆け引きで全てが決するもの。

 そんな場で思い悩むなど、負けて当然。

 真剣に戦う相手を侮辱する行為だ。

 

 ――しかし、甘く見てはいけない。

 その程度のこと(・・・・・・・)で敗北を受け入れる程。

 ヴィルという男は、生温くなかった。

 

「――舐めるな」

 

 一閃。

 鋭い斬撃で、敵の剣を根元から斬り飛ばした(・・・・・・)

 

「――な」

 

 “隊長”が呆然とする。

 瞬く間の逆転劇。

 理解が追い付かないのも当然だろう。

 

 ヴィルは、彼に剣先を突きつける。

 

「……まだ、やるか?」

 

「――無論だ!」

 

 “隊長”は、予備の小剣を抜き、青年へ挑まんとする。

 だが――

 

「――もういい」

 

 それを止める声があった。

 “隊長”が振り向く。

 

「ぐ、グレッグ様!?」

 

 そこには、司教の姿。

 

「もう、いい。

 これ以上、無為な戦いを続ける必要はない」

 

「しかし――!?」

 

 反論しようとする言葉を遮って。

 

「……今までよく仕えてくれた。

 お前の忠誠に、感謝する」

 

「――申し訳ありません。

 私が、力不足であったばかりに……」

 

 “隊長”は力なく腕を降ろす。

 彼に代わって、グレッグが前に出てきた。

 

「私の負けです。

 ただ、どうしても一言言いたい。

 ――反則すぎやしませんか、貴方の強さは」

 

「……これで飯を食ってきたのでね」

 

「左様ですか」

 

 司教が苦笑する。

 色々と覚悟を決めたのか、その表情は思いのほか穏やかだった。

 

「では、私の首をお刎ね下さい。

 聖女と司祭殺しの容疑を受けた上、そこから逃げ出し、さらにはその発見者を亡き者にしようとした。

 殺される理由(・・・・・・)としては十分でしょう。

 しかし、ここまでしたのです。

 他の者達へ罪を問うことは、お止め頂きたい」

 

「――分かった」

 

 なんというか。

 最期まで、段取りのいい男だった。

 こうまで言われれば、覆面達は逃がすより他ない。

 ……たとえ、彼らが敬愛する上司の敵討ちとして、ヴィルの命を狙うことがあろうとも、だ。

 

 青年が、剣を振り上げる。

 

 

「お止めなさい、ヴィル」

 

 

 ――彼を静止する言葉が投げられたのは、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 一夜が明け。

 ヴィルとエルミアは、王都へ向けて出発していた。

 

「……あれで良かったのか、エルミア」

 

「いいわけないでしょ。

 ギッタギタにしてやりたかったわよ」

 

 ヴィルの問いかけに、隣を歩くエルミアはふくれっ面をする。

 

 結局、エルミアは司教を許した。

 別に彼を逃がしたわけでは無く、正式な裁判を受けるよう再度捕獲したのだ。

 彼女は、あの場で彼の命を取ることを良しとしなかった。

 

「ギッタギタにしてやりたかったけど――あんなに潔くされちゃったらね。

 ロアナのことも、方法はどうあれ本気で愛してたみたいだし。

 あの位で、ギリーも許してくれるでしょ、たぶん。

 それに、ちゃんと裁判にかけられたらどっちみちあいつの出世街道は終わりよ」

 

「……そうだな」

 

 少女の言葉に頷く。

 自然と、口元が緩んでしまう。

 エルミアもまた、自分と同じ考えでいてくれたことが、喜ばしかったのだ。

 

 しかし彼女は、少し思案気な顔をして、

 

「でも――あのやりとり、全部演技だったらどうしよ?」

 

「だとしたら大したものだ。

 今すぐ劇団の役者にスカウトした方がいい」

 

 ヴィルは笑いながら、そう返す。

 

 万一、仮にそうだとしたら――

 その時は、今度こそ全力で潰すだけだ。

 

 ……2人はさらに街道を往く。

 ちなみに、ロアナは置いてきた。

 グレッグ司教に関する事情聴取やその他諸々の後処理を行うためだ。

 本当はヴィル達にも声がかかっていたのだが、“王都へ急がねばならない”として抜け出した。

 

『――わたしもすぐ王都へ向かいますからね。

 ――合流したら、いっぱい相手して下さいよ?』

 

 別れ際に、そんなことも言われた気がする。

 

(……どうだろうな)

 

 ロアナは、なんだかんだでグレッグ司教のことを気にかけているのではないだろうか。

 案外、元鞘に戻ったりもするのでは――と。

 そんな、“甘いこと”を考えているヴィルであった。

 

「あ、そうだ」

 

 突然、エルミアが声を出す。

 

「どうしたんだ?」

 

「あのさ、私達って――恋人同士に、なったのよね?」

 

「――あ」

 

 騒動のドサクサで忘れていた。

 いや、騒動のドサクサに紛れて告白していたわけでもあるが。

 

「そ、そうなる、のか?」

 

「なんで、そうならないのよ。

 私は貴方のことが好きで、貴方も私のことが好き。

 ほら、恋人になるしかないじゃない」

 

「ま、まあ、そう、だな」

 

 凄いことを言ってしまったものだ。

 過去に戻れるなら、あの時の自分を殴ってやりたい。

 いや、彼女への想いは本当なのだけれど。

 

「もう一度確認したいんだが、君は、それでいいのか?」

 

「貴方こそ、本当に私でいいの?」

 

 質問に質問で返される。

 ヴィルは悩むことなく。

 

「俺が、嫌なわけないだろう」

 

「私だってそうよ」

 

 エルミアも、すぐ返してきた。

 

「じゃ、じゃあ、恋人ってことになる、な。

 ……こんなあっさり決めていいのか疑問だが」

 

「いいんじゃない?

 難しいことなんて考えなくても」

 

 悩む青年とは対照的に、少女はあっけらかんとしている。

 ただ――よく見れば彼女の顔もかなり赤くなっていた。

 それを紛らわすためか、エルミアはすっと姿勢を正して、

 

「では――末永く、お付き合いをお願いいたします」

 

 いきなり、“聖女”の顔で挨拶してくる。

 

「よ、よく急に切り替えられるな。

 前々から思ってたんだが、そんなに畏まった態度で疲れたりしないのか?」

 

「慣れれば簡単ですよ。

 それと、疲れるか疲れないかでいえば、今の方が楽(・・・・・)ではあります。

 ――こちらが私の素ですから」

 

「え、嘘!?」

 

「ふふ、どうでしょうね?」

 

 曖昧にはぐらかすエルミア。

 いや、幾らなんだって“聖女”の方が素だなんてことあるわけが――

 

(し、しかし、こっちはこっちで凄く自然体というか……)

 

 不思議なことに、“聖女”と“性女”、どちらの顔も違和感を感じないのだ。

 まさか本当に“性女”の方が演技で――?

 

(……わからん)

 

 ヴィルは、すぐに思考を放棄した。

 女性の内面を男が理解するなど、到底不可能なのだ。

 

「ああ、そうだ。

 俺からも一つ、言わなくてはいけないことがある」

 

 代わりというわけでも無いのだが、“あること”を告げるため、エルミアへ話しかける。

 

「なんでしょう?」

 

「いや、こうして旅を――恋人同士として続けていく以上、いつかは気付かれてしまうことなんだろうが。

 一応、俺が“何者”なのか、説明しておこうかと」

 

「……貴方が何者か、ですか?」

 

 訝しむエルミア。

 

 ヴィルも、少々不安だった。

 自分が“ただの旅人”ではないことを知って、彼女がどんな反応をするのか。

 今までとは態度を変えられてしまうかもしれない。

 もう、親し気には話してくれないかもしれない。

 ――それがとてつもなく怖かった。

 

 ところがそんな懸念に反し、少女はけたけたと笑いだす。

 

「――貴方、まだバレてない(・・・・・)と思ってたの!?」

 

「……へ?」

 

 ヴィルの口から、間の抜けた声が漏れた。

 

 

 

 空は高く澄み渡り、日差しも温かい。

 今日は、絶好の旅日和。

 

 彼らの冒険は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 第一部 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 二人の旅路
① 旅は道連れ世は情け(H)


 

 

 

 その“2人”との出会いは、一生心に残り続けるだろう。

 男――イェンズはそう思った。

 

 イェンズは、一介の商人である。

 歳は、今年で三十も半ばを過ぎる。

 金持ちというわけではなく、しかし一般市民よりは金を持っている――いわゆる小金持ちだった(・・・)

 過去形なのは、つまり今はもうそうではない、ということなのだが。

 

 彼はこれまで、堅実に堅実に人生を歩み続けていた。

 長い下積み時代の末、自分の店を持ち。

 繁盛とまでは行かないものの、食い扶持を確保できる程度は儲け。

 妻を娶り。

 娘と息子も生まれ。

 挫折もあったが、人並み以上には幸せな生活を手に入れていた。

 ――つい、数週間前までは。

 

 イェンズが転落(・・)した理由は、火事だ。

 しかし、そこに彼の落ち度はない。

 隣の家が燃え、その火が移ってしまっただけなのだから。

 完全な貰い事故。

 しかし非が無いからと言って、火が手加減してくれるわけもない。

 必死に働いて手に入れた家が、家財が、商品が、燃えてしまった。

 たった一日で、イェンズは全てを失ったのだ。

 

 出火の原因は住人の不注意だったと聞いている。

 だが、彼がそのことで隣家の住人を責めることはできなかった。

 ……住人は、その火事で死んでしまったからだ。

 責めることもできなければ、賠償を求めることもできない。

 

 ただ、一家全員が無事であったことだけが、唯一の救い。

 

 世間は弱者に冷たいもの。

 イェンズは商売仲間に支援を願ったが、くれたのは慰めの言葉だけ。

 それでもどうにかこうにか小金をかき集め、焼け残った資材を売り、ある程度まとまった資金を手に入れた。

 だが、商売を再開するにはとても足りない金額だ。

 

 散々迷った挙句、イェンズは実家のある村へ戻ることに決めた。

 親も裕福な暮らしをしているわけでは無いが、今の彼よりはましだろう。

 少なくとも、問答無用で追い出されるようなことは無いはずだ――と、考えたのだ。

 

 街を離れることに渋る家族をどうにか説得し、イェンズは一路生まれ故郷へと向かった。

 ――だが、村まではかなりの距離があり、子供も身であれば最低でも1週間はかかる。

 その上、街道の治安が悪くなってきた時期とも重なってしまった。

 魔物出現の話が、あちこちから聞こえてきたのだ。

 しかし、馬車を借りる金も、用心棒を雇う金も、魔物が退治されるまで待つ金すら、彼には無い。

 これ以上の不幸が起きないことを願いながら、一家4人で旅をするしか他無かった。

 

 ――果たして。

 彼の祈りは、天に届かなかった。

 街を出立してから3日、イェンズ達は魔物に取り囲まれていた。

 この辺りではよく見かける魔物――巨狼(バーゲスト)だ。

 バーゲストの中でも小さめの個体であったから、撃退はそう難しくない――護衛さえ居れば。

 ただの商人であるイェンズに、彼らを退ける術などあろうはずがなかった。

 

 せめて家族の命だけは守ろうと、魔物の注意を引くためイェンズが決死の覚悟を決めた、その瞬間。

 彼は、神が自分達を見捨てていなかったことを思い知った。

 

 一人の青年が、風のような速さで魔物の前に踊り出てきたのだ。

 何者か尋ねる間も、注意を呼び掛ける間も、驚く間すら無かった。

 

 瞬く間。

 そう、正しく瞬く間だ。

 数回、イェンズがまばたきをしている(・・・・・・・・・)間に、青年は手に持つ剣で魔物の群を斬り伏せていた。

 

 遅れて、その場に現れた一人の少女。

 綺麗な銀髪を伸ばした、見目麗しい美少女だ。

 青年の連れらしい彼女は、茫然としているイェンズ家族に、こう語りかけてきた。

 

「お怪我は、ありませんか?」

 

 

 ――青年はヴィル、少女はエルミアと名乗った。

 

 

 イェンズはただただ感謝した。

 地面に頭を擦る勢いで頭を下げ――ようとしたところを、ヴィルという青年が止めた。

 子供の前でそういう真似はよしなさい、と青年が諫めてくれたのが心に残る。

 

 彼は、商売人だ。

 助けてもらった以上、無料(・・)でというわけにはいかない。

 

 ――謝礼は幾ら払えばいいか。

 ――しかし今手持ちはほとんどない。

 ――村まで来てくれれば、何とか都合できる。

 

 そんなことを言ったと思う。

 実のところ、こう話せば村まで護衛をしてくれないかという下心もあった。

 だが、その言葉に2人は困ったように顔を見合わせてから。

 

 ――謝礼はいらない。

 ――しかし、向かう先は同じなので、村までは同行しよう。

 

 そんなことを告げてきた。

 イェンズは驚きで頭が禿げあがるかと思いだった。

 つまりこの2人は、何の見返りもなく護衛を申し出てくれたのだから。

 

 だがしかし。

 ここまで来ると、却って怪しくすら思えてくる。

 青年と少女は、何かしら思惑があってイェンズ達に近づいてきたのではないか。

 自分を騙したところで何か利があるとはとても思えなかったが、彼はそんな疑惑を持った。

 

 イェンズの感情に気付いたのだろう。

 少女エルミアは困ったように笑って、

 

「実は私、“聖女”なのです。

 お金のために人助けをしたとあっては、教会から破門を言い渡されてしまいます」

 

 度肝を抜かれた。

 

 

 聖女とは、5年に一度選出される“勇者の一団”の一員である。

 僧侶としての実力は勿論、誰もが認める人格者(・・・・・・・・・)でなければ聖女にはなれないという。

 少女は、その聖女だというのだ。

 そして青年は、そんな彼女の守護騎士なのだとも。

 

 疑うことはできなかった。

 エルミアが、聖女しか持つことが許されれぬ特別な“聖印”を見せたからだ。

 

 イェンズは、開いた口が塞がらなかった。

 神様は、とてつもなく豪華な救いの手を差し伸べてくれたのだ。

 

 

 

 そこからの旅路は、イェンズにとって、そして彼の家族とっても、夢のような時間だった。

 

 エルミアは子供達が退屈しないよう、事ある毎に神の教えを説いてくれた。

 しかも、面白おかしくアレンジを加えて、だ。

 街の神父の説教にはまるで興味を持たなかった子供達が、彼女の語るお話には興味津々で食らいついていた。

 聖職者といえば頭の固いイメージがそれまであったが、どうやら彼女は違うようだ。

 特に娘は聖女を気に入ったようで、四六時中エルミアへ纏わりついた。

 失礼なことをしないかと、気が気でなかったほどだ。

 少女の人柄を考えるに、杞憂だっただろうが。

 

 ヴィルは、兎角こちらを気遣ってくれていたように思う。

 疲れや体調の不良を素早く察知し、その都度休憩を取るなどの、適切な指示をくれた。

 一見すると寡黙な男性だったが、その心配りに息子や娘も勘付いたのだろう。

 子供達は、イェンズが意外に思う程、青年によく懐いていた。

 息子は、聖女よりもこの騎士の方がお気に入りだった模様。

 子にねだられて簡単な剣の稽古をつけてくれてた光景は、実に微笑ましいものであった。

 ……妻まで、今まで見たことも無い位はしゃいでいたことには少々引っかかったが。

 しかしイェンズも、エルミアの美しい姿をちょくちょく目で追っていたので、お互い様ではある。

 

 一度、野盗の夜襲を受けたこともある。

 もっとも、直後には騎士ヴィルが返り討ちにしていたが。

 泣きながら命乞いをする様は、襲われたこちらが哀れに思ってしまう程だった。

 流石に聖女一行とあって、命を取るような真似はしていない。

 或いは、子供達の情操教育に気を払ってのことだったのかもしれない。

 

 家族の誰もが笑顔を浮かべていた。

 それがエルミアとヴィルのおかげであることは、考えるまでも無い。

 街を出るときは、こんな和やかな旅になるとは夢にも思っていなかったのに。

 

 

 

 ――だが、楽しい時間とは早く過ぎるもの。

 別れの日は、あっという間に訪れる。

 それはイェンズの故郷が目に見えてきた頃合いのこと。

 彼らは村に寄らず、このまま旅を続けると言ってきたのだ。

 せめて歓迎させて欲しいという提案は、丁寧に固辞された。

 

 たった数日の付き合いだというのに、それこそ十年来の友人と別れるような物悲しさを感じた。

 それだけ濃密な4日間だったのだ――少なくともイェンズはそう思っている。

 

 娘は泣いた。

 もっと一緒に居たいと、駄々をこねた。

 そんな娘に、聖女は優しく微笑みかけ、

 

「必ず、またお会いできます。

 それまで、お父様とお母様を大切にし、元気良く過ごして下さい。

 勉強も、ちゃんとやるんですよ?」

 

 涙を流しながらも、娘はうんうんと頷く。

 息子も泣きそうだっが、こちらはなんとか我慢していた。

 やはり男なんだなと、こんなところで息子の成長を実感したイェンズだ。

 

「――名残惜しいですが、これにて失礼いたします。

 この数日、本当に楽しく過ごさせて頂きました。

 貴方達に神の御加護が在らんことを」

 

 別れ際、エルミアはイェンズ親子のために祈りを捧げてくれた。

 ヴィルも餞別と称して、簡易なお守りを子供達に渡していた。

 

 そして2人とは別れ、村に向かって歩き出す。

 ふと、最後にもう一度彼らの顔を見ておこうと男は思った。

 後ろを振り返るとそこには――もう、聖女と騎士の姿は無い。

 初めて会った時同様、風のように去っていったのだ。

 

 ――なんて清々しい方々だ。

 

 別離による湿った気分は、不思議と吹き飛んでしまった。

 前を向く。

 もう、故郷はすぐそこ。

 

 ふつふつとやる気が湧いてきた。

 これからどんな生活が待っているのか、まだ分からない。

 しかし大丈夫だ、何とかなる。

 根拠は無いが、自分達家族はこれからもきっとやっていける。

 そうでなければ、もう一度あの人達と会った時、顔向けできない。

 漲る自信を胸に、イェンズは強く脚を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 ヴィル達がイェンズ達と別れた場所にほど近い、茂みの中。

 

「――おいっ! エルミアっ!

 いきなり何考えてるんだお前!?」

 

「何考えてるって、ナニのことに決まってるでしょ!?

 こちとら、もう4日も溜まってんのよ!

 早くちんぽ出しなさいっての!!」

 

「ああっ!? こらっ!! 止めろっ!!?」

 

 ……ヴィルは、エルミアに押し倒されていた。

 あの家族が去ってすぐ、彼女が襲いかかってきたのだ。

 ここ数日ずっと聖女モードだった反動か、今は完璧に性女モードに変わっている。

 

 少女は手際よく青年のズボンを降ろしにかかった。

 

「――なによ、ヴィルだってもう勃起してんじゃない♪」

 

「し、自然現象だ!!」

 

 ヴィルの勃起したイチモツを前にして、舌なめずりするエルミア。

 その姿は、とても蠱惑的だった。

 

 まあ、確かに。

 イェンズと一緒にいる間、子供の目もあるのでエルミアを抱くのは自粛していた。

 そのため、ヴィルも性欲を溜め込んでいる自覚はある。

 2人旅に戻り、これでまたエルミアとセックスができる、という期待が膨らんでいたことを否定できない。

 

 そんなところへ、当の少女が柔らかな肢体を押し当ててきたら。

 ――あらぬところもまた膨らませてしまったとして、誰が青年を責められようか。

 

「あ、あのな!

 あの家族、まだ近くに居るんだぞ!?

 気付かれたらどうするんだ!!」

 

「大丈夫大丈夫、気付かないわよ。

 彼らはこれから、まっすぐと人生を歩んでいくんだから」

 

「なんだその理屈!?」

 

 イェンズ達は、まだ見える所に居るのだ。

 何故気にならないのか。

 いや、見られても構わないと思っているのか。

 青年があたふたしている内に、

 

「やだ♪

 ヴィルってば、チンカスこんなに付けちゃって。

 ココはちゃんと毎日掃除しなくちゃダメじゃないの。

 今日は私がやってあげるけど♪」

 

「そういうことを嬉々として言うんじゃありません!」

 

 ここ数日、手頃な水場も無かった上、ずっとイェンズの息子に絡まれていたのもあり、ろくに身体を洗えていなかったのだ。

 不思議と、エルミアの身体は綺麗なままだったが。

 いったいいつの間に手入れしていたのか。

 

 何はともあれそんな状況だったので、ヴィルの愚息は結構“汚れて”おり――

 

「――はむっ♪」

 

「って、おぉい!?」

 

 ――エルミアはお構いなく、そんなソレを口に含んだ。

 

「――んっ――じゅるじゅるっ――んぅっ――れろれろ――

 えへへ、すっごい味する――んっんっんんっ――

 臭いも酷いし――れろっ――鼻、曲がっちゃいそう♪」

 

 美味しそうに、ペロペロと“棒”を舐めていく少女。

 見る見るうちに、ヴィルの股間は“綺麗に”なる。

 

「も、もういいだろう!?

 こんな所でするのは止めて、すぐに移動を――」

 

「――まだ言うわけ?」

 

 少女は眉を顰めた。

 

「だいたいね、本気で嫌なら私なんて簡単に跳ね除けられるでしょ。

 口でアレコレ言って、本当はヴィルもしたいんじゃないの?」

 

「――うぐっ」

 

 痛いところを突かれた。

 一瞬動きを止めてしまう。

 それをエルミアは見逃さない。

 

「――隙あり!」

 

「ぬぉっ!?」

 

 少女は、上手いこと身体の上下を入れ替えた。

 ちょうど、彼女の下半身がヴィルの頭に当たるような――つまり、シックスナインの体勢だ。

 青年の顔に、エルミアのスカートが覆い被さる。

 

(うぉおおっ!?)

 

 眼前には、少女の股間。

 純白のショーツに包まれた卵のようなお尻と、むっちりとした肉付きの太ももが、比喩でなく目と鼻の先にある。

 しかも――

 

(この、匂い、は――!)

 

 ヴィルの鼻孔に、蒸れた雌の香りが充満する。

 エルミアの女性器から漂ってくる、どこか甘ったるくて淫猥な芳香。

 

 ――ヴィルの中で、糸がぷつんと切れた。

 

「――あっ!

 ようやく――んっふっ――やる気、でたのね?

 ――はっうっ――あっ!――あっあっあっあっあっ!」

 

 少女が急に悶えだした。

 なんのことはない、ヴィルが彼女の股に食らいついたからだ。

 

「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 息を荒くしながら、青年はエルミアのまんこにむしゃぶりつく。

 既に下着は濡れていた。

 生地越しに膣口を舌で突いてやると、ショーツの染みがじわじわと広がっていく。

 

「あっ――はぅっ――あっあああっ!

 やば、本気で気持ち良く――んんぅっ――なって――あんっ!

 私も、頑張らなきゃ――んっ――んむっ――ちゅぱっ――れろれろ――」

 

 少女がフェラチオを再開した。

 エルミアの繊細な舌が、イチモツを這ってくる。

 下から上まで丹念に舐め、堪らない暖かさが股間を刺激してきた。

 

 だが、ヴィルも止まらない。

 いや、止まれない。

 久々に、エルミアの愛液を味わってしまったからだ。

 

(――美味いっ――美味いっ――)

 

 膣から流れ出る“汁”を、彼は片っ端から吸っていく。

 男を惹きつけてやまないこの淫らな液体をもっと堪能したい。

 その欲求に突き動かされ、青年は彼女の性器に舌を這わす。

 

「――あっ!――んんむっ――んぅ――あっ!――あっあっあっ!

 あ、イッちゃう、かも――ん、ん、ん――ちゅぱっ――はぅっ!――あぁあああっ!」

 

 ヴィルのちんこをしゃぶりながら、エルミアは喘ぎを漏らす。

 顔にスカートが被っているため、少女がどうなっているか青年には分からなかったが――

 もうじき、絶頂を迎えるのは確かなようだ。

 

(――それは、俺もだがっ)

 

 射精が近い。

 口には出していないが、エルミアの責めでヴィルも限界寸前だった。

 あと少しで、終わる――

 

「――あっ!――イ、クッ――あっあっあっあっあっ!!

 ――んむっ――ちゅぱちゅぱっ――れろ、れろれろっ――あむっ――んんぅっ――

 ――ダ、メ――あっ――イクッ――イ、ちゃうっ――あぁああっ!!」

 

 快感に堪えかね、エルミアが太ももでヴィルの頭を挟んできた。

 すべすべの柔肉に、顔を圧迫される。

 その感触がなんとも気持ち良い。

 息苦しさなど、この快楽に比べれば些事であった。

 ――だから、青年は少女を責め続ける。

 

「――んっんっんっんっんっ!!――んんんっ!!!

 あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 も、ムリっ――ムリっ!

 イクっ!――私、もう、イクっっっ!!!」

 

「――ぐぅっ!!」

 

 エルミアの肢体が引き攣ったのと、ヴィルが射精したのは、全くの同時だった。

 2人共に、絶頂へ達したのだ。

 

「――はーっ――はーっ――はーっ――はーっ――」

 

 大きく息をつく少女。

 青年も同様だ。

 しばし、互いの股間に頭を埋めた姿勢で息を整える。

 ……スカートの中は、変わらず雌の香りに満ちていたが。

 

「――ねぇ、ヴィル」

 

「――なんだ?」

 

 少ししてから、会話を交わす。

 

「――もう一回、しましょ?」

 

「――ああ。

 分かった」

 

 それを合図に。

 ヴィルもエルミアも、相手の股間をまたむしゃぶり始めた。

 街道に、少女の甘い嬌声が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 ――つまるところ。

 2人の旅は、相変わらず平常運転だった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 震撃

 

 

 

 イェンズ家族と別れてから、幾日か過ぎた。

 今、ヴィルとエルミアは山道を歩いている。

 この辺りは岩肌が多く、ちょうど山と山との谷間に道が作られているようだ。

 そのため街道の両端は、岩が壁のように切り立っている。

 

(挟み撃ちされたら逃げるのが難しい場所だな)

 

 ヴィルはそんなことを考えていた。

 グレッグの件は片付き、今はもう命を狙われる立場にないとはいえ、魔物だの山賊だのが襲ってくる可能性はある。

 ――職業病(・・・)かもしれないが。

 

「――んん?」

 

「どうしたの、ヴィル?」

 

 前方に、“変なモノ”が見え、思わず声を出してしまう。

 目を凝らしてよく見ると――

 

「――アレは、岩か?」

 

「岩?」

 

 巨大な岩が、街道を塞いでいた。

 

 

 

 

 

 

「いや、悪いな、兄ちゃん達」

 

 左右にそびえる崖に挟まって、道に鎮座している大きな岩石。

 その撤去工事をしていた担任者の一人が、そう言ってヴィルとエルミアに頭を下げる。

 見たところ青年よりも年上の無骨な男性で、自分達が来るまでは作業者達へきびきびと指示を飛ばしていた。

 

「数日前にこの辺りで結構でかい地震があってよぉ。

 その時、山の上の方から、コレが落ちてきちまったみたいなんだわ。

 幸い、怪我人はいなかったんだが――撤去には大分時間がかかっちまっててなぁ」

 

「お仕事中に大変申し訳ありませんでした。

 差し支えなければ教えて頂きたいのですが、工事はあと如何ほどで終了の見込みでしょうか?」

 

 聖女に戻ったエルミアが尋ねる。

 担任者は頭をポリポリと掻いて、

 

「このデカさだからなぁ、まだまだ終わりがみえねぇんだ」

 

 岩を見上げながら、言う。

 つられてヴィルも岩を見る。

 ――確かに、大きい。

 青年の身長の5倍以上――10m近くはある。

 

(飛び越えられなくもないが……)

 

 他の通行人の障害となる物を放置し、自分達だけ先へ進むというのは気が引けた。

 少し考えてから、口を開く。

 

「爆薬は使えないのか?」

 

「ああ、オレも最初はそのつもりだったんだ。

 まず爆破してから、破片を片付けようってな。

 だが――」

 

 男性は、道の端にそびえる岩肌を叩く。

 小さな石がパラパラと落ちてきた。

 

「これも地震の影響のようなんだが。

 この辺、地盤が緩んじまってるみてぇなんだ。

 下手に爆薬使っちまったら、壁が崩れちまうかもしれねぇ」

 

「――そうか」

 

 専門家の判断だ、間違いないだろう。

 

「……私の魔法で破壊するのも、止めておいた方がいいようですね」

 

 誰にも聞かれないよう、小さい声でエルミアが呟く。

 まったくもってその通りなので、思いとどまってくれて助かった。

 前に見たような攻撃魔法をここで使われた日には、土砂崩れで下手したら街道そのものが消える。

 

「そういうわけなんで、すまん!

 前の宿場町に戻って、待ってちゃくれねぇか」

 

「他の道は使えないのでしょうか?」

 

「……山自体を迂回するしかねぇだろうな。

 かなり、遠回りになっちまう。

 ただ、工事の遅れを考えると、迂回路も検討しといた方がいいとは思う」

 

「そうですか……」

 

 エルミアが肩を落とした。

 ここを通れないと、王都への旅に大幅な遅延が生じてしまうというわけか。

 

「――分かった。

 俺がなんとかしよう」

 

「はぁっ!?」

 

 ヴィルの言葉に、担任者が素っ頓狂な声を出した。

 

「おいおい、止めとけ兄ちゃん。

 腕に覚えがあるのかもしれねぇが――」

 

「――いえ、お待ち下さい」

 

 男を止めたのは、エルミアだった。

 少女はヴィルを指さし、

 

「御覧頂けませんか、露わになった彼の腕を」

 

「――っ!?

 ヒュー、すげぇ筋肉だ!

 ただのトレーニングで作ったわけじゃない、ナチュラルな筋肉に覆われてやがる!!」

 

「ええ。

 それに加えて、あの手!」

 

「おおおっ!?

 なんだあの頑強な手は!

 まるで、鍛錬によってできたタコを、さらなる鍛錬で潰してきたかのような、武の求道者にのみ許された手!!」

 

「一目見るだけで、“強さ”に疑いは無くなるでしょう。

 ――彼なら、必ずややり遂げてくれます」

 

「……いやまさかよ。

 この岩石相手には無理だろうぜ」

 

「ですが、試す価値はあるのでは?」

 

「――そう、だな」

 

 担任者は、ヴィルへと向き直る。

 

「あんたの申し出、受けよう。

 少し待ってくれ、作業者を下がらせる」

 

「――え? あ、はい」

 

 独特な会話(・・・・・)にちょっとついていけなかったので、ちょっと声が裏返ってしまった。

 

 

 

 作業員が全員退去するのに、ものの1分も掛からなかった。

 

「――ふぅぅぅぅ」

 

 岩を前にして、ヴィルは息を整える。

 その姿を、エルミアや工事担任者が後方からじっと見つめる。

 ……正直、ちょっとやりづらい。

 

(いかんいかん、集中集中!)

 

 手の平を岩に当てる。

 肩を引き、腰を捻り、身体のバネを引き絞っていく。

 そして――

 

「――ふっ!!」

 

 呼気と共に、解放。

 全身の力を岩へ向けて走らせる。

 

 ――手応え、有り。

 

 事を終えた(・・・・・)ヴィルは振り返ると、エルミア達の方へと歩き出す。

 

 

 「――うおぉぉぉ」

 

 「――ま、マジか」

 

 

 作業員達が、口々に驚嘆の声を上げ始めた。

 青年の後ろでは、巨大な岩石が文字通り(・・・・)“粉砕”され崩れ落ちていた。

 元は岩だった(・・・・・・)“砂”が、周囲に流れていく。

 

 誰もが呆然とする中、担任者の男が目を見開いて、

 

「あれは――まさか、“震撃”!!」

 

「知っているのですか、担任者さん!?」

 

 何故かエルミアが食いついた。

 

「ああ、ありゃあ十中八九間違いなく、“震撃”と呼ばれる技だ。

 帝国の名門グルムバッハ家(・・・・・・・)――その初代当主が編み出したとされる、破壊技術の極意」

 

「なん、ですって――」

 

 少女が絶句する。

 

(え、何で知ってるの?)

 

 ヴィルも絶句する。

 工事担任者に知られるような話でもないはずだ。

 驚く青年を知ってか知らずか、エルミアと担任者の会話は続く。

 

「その“震撃”とは、いったいどのような技法なのですか?」

 

「――そう、だな。

 打撃ってぇのは、力の伝達が(かなめ)だ。

 例えばパンチは、踏み出した脚の力を腰から背中、腕へと伝えて破壊力に変える。

 普通、これをスムーズに行えば行う程、威力が増える」

 

「はい」

 

「で、端的に言やぁ、震撃はこの“力の流れ”を僅かにズレさせる(・・・・・)技術なんだ。

 そのブレ(・・)を極大化させ、超振動にまで発展させる。

 それを叩き込んで、振動で対象を内部から破砕するってぇ寸法さ」

 

 すらすらと、技の原理を説明する担任者。

 どうして把握しているのか。

 

「だが“震撃”は、帝国でも一部の軍人にしか教えられない技術と聞く。

 それを使える――しかもあんな大岩を粉々にするたぁ。

 あの男、いったい何者なんだ!?」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

 ヴィルはツッコミを我慢できなかった。

 

 

 

 

 

 

 その後、撤去作業は滞りなく進み、3時間程で完了した。

 砕いて運びやすくしたとはいえ、膨大な量の砂をそれだけの時間で片付けるあたり、相当に優秀な人達だったのだろう。

 

 彼らに別れを告げ、その先の宿場町に辿りついたのはもう日が暮れる寸前だった。

 すぐに宿を取り、現在は部屋でくつろいでいる最中だ。

 

「――ねえ、ヴィル」

 

 エルミアが口を開く。

 2人きりだからか、性女モードになっている。

 

「あの“震撃”って技なんだけど」

 

「なんだ、興味があるのか?」

 

 意外に思いながら、しかしエルミアに仕込むのも有効かと考えた。

 何せ、聖職者達は基本的に刃の付いた武器を使えない。

 聖堂騎士などの例外はあるものの、職業的に接近戦は苦手な部類となる。

 勿論、聖女は基本的に後衛であり、彼女が敵に近づくという事態は可能な限り避けなければならないのだが。

 切り札として持っておく分には悪くない。

 

 “震撃”は帝国軍が所有する技術なので、本来外部の人間に教えるのは望ましくないが、

 

(エルミアなら問題ないだろう。

 ……将来、“帝国(・・)の人間になる(・・・・・・)――かも、しれないわけだし。)

 

 ヴィルはそう判断した。

 そして彼がそう見做した以上、それは“帝国軍部の判断”なのだ。

 

 ……正直な話、かなり古い技術なので既にあちこちへ流出している、という事情もある。

 工事の担任者も知っていた位なのだから。

 

「身に着けたいというのなら、教えるぞ。

 コツさえ掴めば、習得に然程時間はかからないからな」

 

「え?

 嫌よそんなの。

 面倒臭い」

 

「――ああ、そう」

 

 ヴィルの企みは一瞬で崩壊した。

 

「じゃあ、何で聞いてきたんだ?」

 

「アレって振動を伝える技って聞いたんだけど、加減とかはできるの?

 

「まあ、できなくはないと思うが。

 どうして

 

「私、考えたんだけどね――」

 

 一拍置いて、

 

「――あの技術、“バイブレーター”替わりに使えるんじゃないかと思った訳よ!」

 

「…………」

 

 ヴィルは無言でエルミアの頭を引っ叩いた。

 

 

 

「いきなり何すんのよっ!?」

 

「それはこっちの台詞だ!!」

 

 痛みから回復し激高するエルミアへ、昼間工事担任者へ言った台詞を繰り返す。

 

 一応説明しておくと、バイブレーターとは魔力を込めることにより自動で振動する、大人の玩具の総称である。

 昔は貴族御用達の品だったが、最近は一般市民でも買える値段帯の製品が出回り始めた。

 

「そこまで誇示するつもりもないが!

 “震撃”は、先達が幾度もの度重なる試行錯誤の末に考案し、それを長い時間をかけ磨き上げたことで完成した術理だ!

 そんな代物を、遊びのために使うなどと――」

 

「――遊びですって!?」

 

 しかしエルミアも負けていなかった。

 

「貴方ねっ! バイブレーターの開発にどれだけの技術者が心を砕いたか知っているの!?」

 

「知るわけないだろう!!」

 

「そう、だったら教えてあげる!!」

 

 少女は唐突に語りだす――

 

 

 

 

 

 

 きっかけはある貴族の男だった。

 年老いた彼は、若い妻を娶る。

 歳の差はあれど、2人は愛し合っていた。

 しかし老齢というのは残酷なもの。

 男のイチモツは十分な勃起が保てず、妻を満足させられなかった。

 

 老いた貴族は願った。。

 なんとかして妻を満足させたい、と。

 手や舌だけでは、所詮前戯に過ぎず。

 男性器を形どった張り型を使っても、不足。

 これ以上の刺激が、どうしても必要だったのだ。

 

 ……その男の絶望に、技術者達が立ち上がる。

 

 

 ――プロジェクトB(←バイブレーターの略)

 ――B――B――B――(←エコー)

 

 ~~♪~~♪~~~~♪(←突如響くBGM)

 

 

 

 何度にも渡る検討。

 女の快楽の追及。

 質感。

 形。

 

 だが、上手くいかない。

 失敗。

 挫折。

 世間からの嘲笑。

 何やってんだお前等という侮蔑。

 

 絶望。

 奮起。

 画期的なアイディア。

 自動で動く、震えるという発想。

 ……ゴールが、見えた。

 

 仕組みの構築。

 形になっていくバイブレーター。

 しかし再度立ちはだかる障害。

 手に入らぬ部品。

 動かない駆動部。

 積まれた失敗作の山。

 不安が技術者達を押し潰していく。

 それでも、諦めない。

 

 希望の光。

 魔力によって振動する石の発見。

 再設計されるバイブレーター。

 そして、完成。

 貴族へ届けられる試作品。

 

 ――皆が見守る中、とうとう絶頂に達する、貴族の妻。

 歓喜に沸く。

 落ちる、感動の涙。

 抱き合う、貴族と技術者達。

 

 この日、革命が為された。

 

 

 

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ――わ、分かって貰えたかしら!?」

 

「わ、分かった。

 分かったから、とりあえず水を飲んで落ち着け」

 

 興奮して息を荒くするエルミアに、ドン引きしてしまう。

 ただ、まあ、熱意は伝わったような気がする――いや、そうでもないか。

 

「というか、普通にバイブレーター買えばいいだけの話なんじゃ?」

 

「何言ってんの。

 ヴィルの身体がバイブレーターになることに、意味があるんじゃない」

 

 きょとんとするエルミア。

 少女にとっては、あくまで“ヴィルありき”らしい。

 

(……悪い気は、しないが)

 

 彼女に対して、どんどん甘くなっていっているのを自覚する。

 仮に“部下”がこんなこと言おうものなら、夜通し説教しているところだ。

 

「そういうわけで、やってみましょうよ!

 別に減るもんでも無し」

 

「いや、それはその――――まあ、いいか」

 

 結局、エルミアの熱意に押し切られる形で。

 ヴィルは、とうとう頷いてしまったのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 特訓(H)

 

 

 

・用意するもの

 水:適量

 革袋:1個

 

 ①部屋の真ん中に水を入れた革袋を吊るします。

 ②革袋に手を添えます。

 ③身体を引き絞ります。

 ④“震撃”を加減して(・・・・)放ちます。

 

 

 ――革袋は木端微塵に破裂した。

 

 床は水浸し、ついでにヴィルも水塗れ。

 その惨状を見て、

 

「全然ダメじゃないの!?」

 

「加減が難しいんだ!!」

 

 エルミアの駄目だしに、怒鳴り声で反論する。

 

 いきなり“震撃”プレイを彼女に試して何かあったらまずいということで、まずは水袋で試してみたのだ。

 結果として、その選択は間違っていなかったと言える。

 

「なに?

 ヴィルは、私を殺したいわけ?」

 

「そもそも人を殺すための技術なんだよ!!」

 

 快楽を得るための技術では断じて無いのだ。

 ヴィルの身体能力が軒並み人類の最高値(・・・・・・)であることも、多少は影響しているかもしれないが。

 

「――これは、特訓しかないわね」

 

「なっ!?

 もう終わりでいいんじゃないか?

 “震撃”を遊びに使うのは止めましょう、という教訓を得たということで」

 

「それでいいわけないでしょ!

 ヴィルは見たくないの!?

 貴方の震える手でアヘアヘになっちゃってる私の姿が!!」

 

「そ、それは正直見てみたい、が――自分で言うか?」

 

 とりあえず。

 この宿場町では食料などを買い足す必要があるということで。

 その買い出しを全てエルミアがやり、その間ヴィルは“震撃”の手加減を練習する、という流れになった。

 

 

 

 

 

 

 破裂する水袋。

 ままならない成果。

 だが、青年は不思議と“遣り甲斐”を感じていた。

 何かを壊す、誰かを殺すためでは無く。

 人を悦ばすために技術を磨くのは、初めてのことだったから。

 

 

 

 ――プロジェクトB

 ――B――B――B――

 

 ~~♪~~♪~~~~♪

 

 

 

「それはもういいっ!

 あと人を殺戮兵器か何かみたいに言うのは止めろ!!

 人命救助のための技術だって色々学んでるんだよ!!」

 

「えー?」

 

 エルミアは不満顔だった。

 

 

 

 

 

 

 昼。

 買い物をある程度片付け、エルミアが宿に戻ってくると。

 

「できたぞ」

 

「早っ!?」

 

 何のことも無さげに、ヴィルは言った。

 

「ちょっと、こういうのってもっとしっかりトレーニングして、ようやく完成させるものなんじゃないの!?

 失敗はっ!? 挫折は!? 打つ手が無くなってからの、発想を逆転させる閃きはっ!?」

 

「そんなもの知らん」

 

「な、なんてドラマが無い……」

 

 ぶつぶつ文句を言う彼女は置いて、青年は釣り下がる水袋に手で触れる。

 

「――よっと」

 

 軽い掛け声と共に、“震撃”を放った。

 革袋が、ブルブルと小さく、しかし高速に振動する。

 

「おおー、すごーい!」

 

「どんなもんだ」

 

 パチパチ拍手するエルミアと、胸を張るヴィル。

 目的を考えると、そんな誇れるようなモノではないのだけれど。

 

 一しきり手を叩いてから、少女がふと質問してくる。

 

「ところでコレ、どれ位できるの?」

 

「どれ位とは?」

 

「今、一瞬しか震えてなかったじゃない。

 どれだけの“時間”震えさせられるのかって」

 

「…………」

 

 ヴィルは押し黙る。

 視線を彷徨わせた後に、

 

「――い、一秒くらい?」

 

「短っ!?」

 

 エルミアが思った通りの反応をした。

 

「ちょっと!

 そんな短い時間で女の子を満足させられると思ってんの!?

 貴方、女を舐めてない!?」

 

「仕方ないだろうっ!!

 瞬間的に超振動を生み出す技なんだから!!

 長時間、振動させることなんてコンセプトに組み込まれてないんだ!!」

 

「はー、ぬか喜びした私がバカだったわ」

 

 少女はため息の後、やれやれと首を振る。

 

「これはまた特訓して貰うしかないわね。

 ちゃんと長い時間振動を保てるようにしておきなさい?」

 

「――何で上から目線で言われなければならないんだ」

 

 イラっと来るのをどうにか抑え、ヴィルは練習を再開した。

 

 

 

 

 

 

 ――プロジェクトB

 ――B――B――B――

 

 

「だからしつこいんだよっ!!」

 

「天丼は基本なのに」

 

 何の話だ。

 

 

 

 

 

 

 革袋が揺れている。

 細かい振動は、既に数十秒続いていた。

 

「うわー。

 ホントに一日でできちゃった」

 

 顔を輝かせるエルミア。

 そんな少女をしり目に、

 

「――俺、何やってんだろう」

 

 ヴィルは現実に立ち戻りつつあった。

 

「そこで冷静にならないでよ!」

 

「いや、うん、なんだろうな。

 俺、もう“帝国”に帰らない方がいいのかも……」

 

「それは好都合!――じゃ、なくて。

 大丈夫でしょ、これくらいなら。

 技術は日進月歩するものなんだし」

 

「……そうかなぁ」

 

 流石に納得しづらい。

 

「そ・ん・な・こ・と・よ・り・も!」

 

 無理やり話題を終わらせると、エルミアはベッドにぽすっと座る。

 そして自ら上着を開けていくと、

 

「ほらほら、早速やってみましょ♪」

 

 胸を露わにしながら、ヴィルを誘う。

 

「そんな開けっ広げな――」

 

 呆れたように呟くものの、青年の視線は彼女のおっぱいに釘つけだった。

 

 小柄な体躯にも関わらず、しっかりと育った2つの果実。

 サイズは同じでも、他の女性より大きく見える。

 それでいて、描く曲線は極上のモノ。

 釣鐘のような形状の先には、ツンと上向きになった薄い桜色の突起。

 その全てが、ヴィルの欲情を無性に掻き立てた。

 

「――あ、あの」

 

「ん?」

 

 胸ばかり見ていると、エルミアに声をかけられる。

 すぐに少女の方を見れば――彼女はもじもじとして顔を赤らめて、

 

「そんなに、ジロジロ見ないで下さい。

 ……は、恥ずかしくて」

 

「うぉっ!?」

 

 いきなりのことに、仰け反ってしまう。

 

(ここで、聖女になるのか!?)

 

 何時の間にやら、エルミアは性女モードから聖女モードへと切り替わっていた。

 

「あー、そっちの状態で、ヤるのか?」

 

「は、はい。

 ご迷惑でしょうか……?」

 

「いや、そんなことは無いが――」

 

「――でしたら、お気兼ねなく。

 私の胸を、存分に弄って下さい」

 

「……わ、分かった」

 

 ヴィルはエルミアの隣に座る。

 少女の銀糸のような髪が、青年の身体にかかる。

 女性の甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

 

 そして青年は、美麗な胸へと手を伸ばし、そっと触る。

 

「――あ」

 

 少女の口から小さな吐息。

 手には柔らかくすべすべした感触。

 軽くもんで、その弾力を確かめる。

 

「――ん、ふっ」

 

 甘い息が漏れる。

 蕩けるように色っぽい声と、手の平へかかる弾力を感じてから。

 ヴィルは、“震撃”を使用した。

 

「――あ、あぁあああっ」

 

 プルプルと震えだすおっぱい。

 まるで美味しいプリンのよう。

 

「ああ、あぁああ――気持ち、良い、ですっ――ああああ――

 胸全体が震えて――あぁああああっ」

 

 エルミアはうっとりと呟く。

 その声は実に艶めかしかった。

 ヴィルは“震撃”を使っている手をゆっくりと動かし――乳首を指で挟む。

 

「はっ!? あぁぁあああああっ!!」

 

 ビクッと、少女は身体全体を揺らす。

 

「はっあっあっあっあっ!

 すごいっ!! コレ、すごい、ですっ!!

 乳首がっピリピリしてっ――あ、あぁあああああっ!!」

 

 “先端”へ振動を当てられ、エルミアは大きな嬌声を上げた。

 顔も一気に蕩けだし、煽情的な表情を作る。

 

(もっと、もっと、その顔が見たい!)

 

 自分の中に沸いてくる欲望に従い、ヴィルは空いている手でもう一つの乳首にも触った。

 ――両乳首への、“震撃”。

 

「はぁあああああああんっ!?」

 

 少女が上半身を大きく仰け反らせる。

 

「あっあっあっあっあっあっ!!

 もうっ――もうっ、おっぱいがおかしくなっちゃいますっ――あっああっあっあああっ!!」

 

 瞳を閉じ、口は半開き。

 恍惚とするエルミア。

 おっぱいは、“震撃”によって振動し続けている。

 

「はぁああああっ!――あぁあああああっ!!

 イキ、そう、ですっ――もう、私、イ、ク――――!」

 

 少女が、身体を硬直させた。

 全身が、小さく震える。

 

(――イった、のか)

 

 胸だけで、こうも簡単にイかせられるとは。

 “震撃”の効果はなかなかのものだった。

 

「……良い感じ、かな。

 この技は」

 

「は、はい、軽く絶頂へ達してしまいました……」

 

 涙目で、エルミアは頷く。

 だがそれだけでは終わらず、

 

「――ヴィル。

 その、今度は、下の方にも――」

 

 少女はスカートを捲り始める。

 すぐに、スラリとした白い脚とその付け根を包んだショーツが露わになる。

 

「お願い、します。

 下も――私の、クリトリスにも、あの技を頂けませんでしょうか――」

 

 発情した顔で、彼女は告げてくる。

 ……応えないわけにはいかなかった。

 

 ヴィルは、純白のショーツの中へ手を滑り込ませる。

 

「――もう濡れてるんだな」

 

「だ、だって――さっき、イってしまいました、から……」

 

 気恥ずかし気に、少女は返事する。

 目を反らす仕草が、抱きしめたくなる程に可愛い。

 その衝動を堪え、青年の手は愛液に塗れた彼女の恥丘を探索していった。

 

「――んぅ」

 

 絶頂の後だからか、軽く撫でただけでエルミアは艶のある声を出した。

 

(……コレ、か)

 

 陰核はすぐに見つかった。

 濡れた股間の中、ぷっくりと膨らんでいる。

 目で見ずとも、それがクリトリスであることが分かる。

 ヴィルはその“豆”をそっと抓むと、

 

「いくぞ」

 

「……はい、やって下さい」

 

 少女が首肯するのを見てから、“震撃”を放つ。

 

「――うっ!? あっ!!?」

 

 途端に、彼女の表情が強張る。

 ガクガクと肢体を揺らしながら、

 

「あっ!! うっ!! あっ!!

 こっれっ――すっごっいっ――あっあっあっあっ!!

 あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 その悶えようは、胸の時の比では無かった。

 ベッドに倒れ込み、シーツを握り締めて、嬌声を上げ続ける。

 彼女の動きに合わせ、繊細な銀髪が波打った。

 水でもかけたかのように、ショーツが濡れていく。

 

「あっ!! あっ!! イクっ!!

 もっもうっ!! イキますっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 超振動するクリトリスから齎される快楽で、エルミアは再度絶頂への階段を駆け上がっていた。

 さっきイッたばかりだというのに、だ。

 

(す、凄いな、“震撃”)

 

 効能の高さに、戦慄すら走る。

 そうこうしている内に、少女の喘ぎは大きくなっていき――

 

「――あっ!! あっ!! あっ!! イクっ!!

 イクっ!! イクっ!! イクっ!! イッ――クッ――――っ!!!!!」

 

 先程よりも大きい痙攣が起きた。

 陰核を弄る手に、暖かい液体がかかる。

 彼女の潮、だろう。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 仰向けでベッドに転がったまま、荒く呼吸するエルミア。

 綺麗な形の乳房が、上下に揺れる。

 その様を見ていると、ヴィルは自分の鼓動が早まっていくのを感じた。

 

「エルミア、その――」

 

「はぁっ――はぁっ――だ、大丈夫、です。

 私の、中で――はぁっ――はぁっ――ヴィルも、気持ち良くなって下さい」

 

 言い難そうな気配を察してか、少女の方から切り出してきた。

 両手を広げ、ヴィルを迎え入れようとする。

 辛抱堪らず、彼女へと覆いかぶさる。

 

「エルミア――エルミア――!」

 

「ああぁ、ヴィル――」

 

 互いに抱き合い、口づけを交わす。

 最初は唇同士の軽いキス。

 それが、次第に舌を絡ませた濃厚なモノへと変貌していく。

 

「――は、あ――ん、んぅ――れろ、れろ――ん、んむぅ――」

 

 エルミアの唾液が口内へ染み渡る。

 彼女の体液は、どんなものであってもヴィルの好物だった。

 じっくりと堪能してから、顔を離す。

 

「――挿れる、からな」

 

「はい。

 何時でも、構いません」

 

 にっこりと、幸せそうに笑う少女。

 その笑顔が青年を逸らせる。

 一刻も早く、エルミアの膣を味わいたい。

 

 急いでベルトを外し、ズボンを降ろし、自分の性器を取り出す。

 熱く勃起したソレを少女の股へ――彼女の“入口”に添えると。

 間髪入れず、腰をエルミア向けて突き出した。

 

「あぁぁあああああっ!!」

 

 彼女の口から艶声。

 同時に、股間が暖かさに包まれる。

 膣のヒダがイチモツに絡みつき、全体を絞めてきた。

 搾るような締め付けが、ヴィルの快楽をさらに煽る。

 

「――動かすぞ!」

 

「はいっ――いっぱいっ――いっぱい、して下さい!」

 

 欲求に抗おうとはせず、前後に腰をグラインドし出す。

 膣に扱かれる快感が、青年の全身を駆け回った。

 

 

 この時。

 少女は――いや、当の青年自身すら、甘く見ていた。

 ヴィルの、底知れぬ才能を。

 

 

「――あっ!!?

 あっ!!? あぁあああああああああああああっ!!!?」

 

 突如、エルミアの絶叫が響く。

 

「――お、おおっ!?」

 

 ヴィルも、戸惑いだした。

 何故なら――股間が“震えだした”からだ。

 

「あひっ!!? あっ!! あっ!! あああっ!!

 ふ、ふ、震えっ!?――中が、震えてっ!!?――あぁああああああああっ!!!」

 

 エルミアが痙攣した。

 絶頂したのだ。

 

 だがそれも無理もない。

 身体の中へ、直接(・・)“震撃”を打たれては。

 

(――こ、これはっ!?)

 

 ヴィルは自身に起きていることを理解した。

 元より、彼は全身、あらゆる打撃、武器による攻撃にすら“震撃”を乗せられる(・・・・・)

 そして今日、何時間にも及ぶ反復訓練によって、ちょっとした弾みで“加減した震撃”を行ってしまう()ができてしまったのだ。

 

 その結果が、コレ。

 愚息を使った“震撃”――否、“チン撃”か。

 

(上手いこと言ったつもりか!?)

 

 自分で自分につっこみを入れる。

 

「あひっ!? あひっ!? はひっ!

 ――ヴぃ、ヴィルっ――止めてっ――止めて、下さいっ!!

 あっ!! あっ!! あっ!! ああっ!!!

 おかしく、なるっ――私、おかしくなるっ!!――やぁあああああああっ!!?」

 

 絶叫しながら、中止を懇願する少女。

 彼女の身は、ブリッジでもするような勢いで反らされている。

 “内側”からの超振動は、エルミアをして耐えられない刺激のようだ。

 

「わ、分かった、すぐに――!?」

 

 そこで気付く。

 自分の身体が、制御できない。

 “チン撃”が、止まらない!

 

(何故だっ!?)

 

 心で叫ぶも、理由は明らかだった。

 ――気持ち、良いのだ。

 凄まじい快楽なのだ。

 振動した剛直で少女の膣を抉る行為は。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! イクっ!! イクっ!!

 イクぅぅぅううううううううっ!!!」

 

 エルミアは激しく震える。

 瞳は白目を剥き、涙が流れ落ちた。

 それを見て止めようと努めるも――止まらない。

 

 超振動する肉棒が、少女の膣肉を震えさせ。

 その震えが、ヴィル自身へさらなる快楽として跳ね返ってくる。

 膣壁による、締め付けと振動の二重奏。

 理性ではとても抑えられない悦楽であった。

 

「あぁあああああああああああっ!!!

 イグっ!! イグぅぅぅううううううううっ!!!」

 

 そうこうしている間にも、少女は絶頂を続ける。

 大きく開けた口からは、泡まで噴き始めていた。

 最早、一刻の猶予も無い。

 

(――お、俺も、イクしかない!)

 

 射精すれば昂りは静まり、“チン撃”も収まるはず。

 そう信じて、青年はピストン運動を再開した。

 

 ――性器を引き抜けばいいだけじゃないのか、というツッコミを行える者は、この場に誰もいなかった。

 

「――あっ!!――あっ!!!――あっ!!!」

 

 もうほとんど余力が無いのか、エルミアは途切れ途切れに喘ぐのみ。

 だが、声を出すたびに肢体には痙攣が起き、彼女の絶頂地獄が終わっていないことを分からせてくれる。

 

(俺も、すぐ、イクぞ――!)

 

 自身が動くことで、少女の膣から貰える快楽はさらに増す。

 彼女を解放するため、一心不乱に腰を振った。

 ――亀頭が、子宮口を叩きだしていることにも気づかず。

 

「――かっ!!?――はっ!!?――あっ!!?」

 

 子宮を直接振動させられ、エルミアの苦悶の色が変わる。

 しかしヴィルはそれを意に介さず、股間を彼女に叩き込んだ。

 痙攣した膣は痛い程に肉棒を絞め。

 そこへ超振動が加わり、快感で脳が焼ききれそうだ。

 まるで股間が無くなっているような錯覚すら覚える。

 

(も、もう少し、で)

 

 全身の血が“一か所”へ集中していく。

 射精感が限界にまで高まっていった。

 絶頂まであと僅か。

 ――と、そんな時。

 

「――あ」

 

 剛直が、とうとう子宮内に滑り込む。

 子宮へ、女体の一番奥底へ、超振動が打ち込まれた。

 

「――あ――が――は――――――――

 ――――――ぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ!?!!?」

 

「う、お、お、イクっ!?」

 

 喉が張り裂けんばかりの叫びが、エルミアから飛び出す。

 それと時同じく、ヴィルは射精した。

 精液が、少女の子宮に流れ込んでいく。

 

「あああああああ!!!――――あああああああああ!!!!」

 

 訳の分からぬ呻き声を出して、ソレを受け止めるエルミア。

 とうに意識を失っていることは明らかだ。

 

「――――あ――――あ――――――――あ」

 

 …………。

 青年の射精が終わると、部屋は静まり返っていた。

 我に返ったヴィルの目の前には、

 

「――――」

 

 微動だにせぬ、小柄な少女。

 目からは光が失われ。

 身体の穴という穴から液体が垂れ流しになり。

 全身汗まみれ。

 銀色の長髪も、これ以上ない程に乱れていた。

 

 そんな姿であっても、“美しい”と思えてしまうのは、彼女の美貌故か、それとも単なる男の性か。

 

「へ、平気か、エルミア?」

 

 揺さぶる。

 返事は無い。

 

「――エルミア?

 ――エルミアぁっ!!!」

 

 寝室には、男の悔恨に満ちた声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 結局、エルミアが目覚めたのは。

 ヴィルが、死んで詫びようかと首吊り用の縄を用意した頃合いであった。

 幸い、後遺症は無かったようである。

 

 

 

 

 

 

 朝。

 眩しい太陽の光は、昨日の惨劇を何となく忘れさせてくれるような気がした。

 

(……封印だな、あの技は)

 

 窓から快晴の空を見上げながら、ヴィルは決意する。

 そんな彼へ向かって、

 

「ねぇねぇ、ヴィル!」

 

 徹底的に嬲られた割には結構元気なエルミア(性女モード)が話しかけてきた。

 昨夜のことから気後れしてしまうものの、どうにか返事する。

 

「……どうした?」

 

「私、色々考えてみたんだけど――」

 

 一拍間を置いて、

 

「あの工事担任者が言うには、“徹打(てつうち)”って技もあるらしいじゃない?」

 

「え?」

 

「相手の体内へ、衝撃を徹すっていうヤツ」

 

「え?」

 

「ソレを上手く使えば、ちんこ挿れなくても膣や子宮が弄れるんじゃないの!?

 しかも周囲からはお腹擦ってるようにしか見えないから、白昼堂々町のど真ん中でプレイができちゃったり!

 これ凄くないっ!?」

 

「…………」

 

 お望み通り、ヴィルは“徹打”をエルミアの頭にかまして、彼女を昏倒させた。

 ――再び目覚めたときには、彼女が何もかも全て忘れてくれていることを信じて。

 

 

 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 賢者の孫娘
① 賢者の学院※


 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 順調に旅を続けるヴィル。

 隣にいるエルミアも、足取りはしっかりしている。

 

 しかし。

 ヴィルには、どうも気がかりなことがあった。

 ここ最近、ずっと感じている、なんとも拭えない不安。

 

「なあ、エルミア」

 

 思い切って、少女に聞いてみる。

 

「――俺達、本当に王都へ向かっているのか?」

 

「え?」

 

 ヴィルは、どうしても自分達が王都に近づいているとは思えなかったのだ。

 何故なら、王都という最も栄えているであろう街へ向かっているはずなのに、周囲はどんどん辺鄙になっていく。

 今歩いているのは、寂れた山道である。

 エルミアを信じていないわけでは無いが、ひょっとして道に迷ったのでは?

 

 そんな青年の不安をエルミアは笑い飛ばし、

 

「何言ってるのよ、ヴィル」

 

「あ、ああ、そうだよな。

 道は間違っていないはずだよな」

 

「今頃気付いたの、それ?」

 

「――――あ?」

 

 突然の告白。

 ヴィルは二の句が継げなくなる。

 

「今向かっているのは、賢者の学院よ」

 

「賢者の、学院――?」

 

 確か、“王国”における魔法使いの育成機関だったはず。

 国中の才能ある若者を集め、高度な教育を施す、名称通り巨大な“学校”のような街だ。

 魔法は機密の多い技術なので、人気の少ない場所に施設をつくること自体には疑問は無いが――

 

「な、なんで、そんなところへ行こうとしているんだ?」

 

「行ってみたかったから」

 

「え?」

 

「行ってみたかったからよ、悪いの?」

 

「え?」

 

 悪いに決まってる。

 “勇者の一団”へ参加するため、早く王都へ行かねばならないのではなかったか。

 

「ほら、魔法使いのエリート達が集まる街と来ればさ。

 最強の攻撃魔法の使い手を目指す私としては、避けて通れない道というか」

 

「……君、自分が聖女だってことを忘れてないか?」

 

 がっくり肩を落とした。

 今から引き返すのはもう無理だろう。

 前の宿場町から既に3日は歩いた。

 少女の思惑通り、先へ進むしかない。

 

「しかしだな。

 そういう場所は、普通部外者立ち入り禁止だろう」

 

「何言ってんの?

 私、聖女よ?

 顔パスに決まってんじゃない!」

 

「そうかぁ?」

 

 自信満々なエルミアに対し、半信半疑のままヴィルは“賢者の学院”へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

「駄目です」

 

「……そ、そうですか」

 

 学院の入り口で、エルミアは素気無く入場を断られていた。

 隣に居たヴィルはどや顔で彼女に告げる。

 

「ほらみろ」

 

「――うぅ」

 

 しゅんと縮こまる少女。

 その姿を見て、心が痛んでしまうのは流石に甘すぎるか。

 

「その、少しだけでいいので、見学はさせて貰えませんでしょうか?」

 

「聖女様の頼みですし、こちらも考慮したくはありますが、規則なのです」

 

 受付の人は、エルミアの頼みをピシャリと断る。

 

(――凄いな)

 

 この態度、見習いたいものだ。

 自分は、なんだかんだで彼女に流されてしまうから。

 特に今のように、聖女モードで迫られると本当に弱い。

 

「さぁ、もう分かっただろう、エルミア。

 さっさと宿を探しに行くぞ。

 色々備品を買い足さなくちゃならないしな」

 

 “賢者の学院”にも、一般人が入れるエリアはある。

 そこに、宿や雑貨屋など、旅人に必要な施設は一通り揃っているのだ。

 立ち入りが禁止されているのは、魔法の教育が行われている施設のみである。

 ……“のみ”と言いつつ、この街の大部分がその施設なのだが。

 

「ま、待って下さい、もう少しだけっ!

 あの、上の方にお話だけでもして頂くわけには――」

 

「駄目ったら駄目です」

 

 受付は鉄板対応だ。

 しかし、ここまで粘るエルミアというのも珍しい。

 “賢者の学院”に来たかったというのは、彼女の偽らざる本音だったのだろう。

 聖女としてそれはどうか、というツッコミは置いておいて。

 

 とはいえ、流石にそろそろ迷惑に過ぎる。

 引っ張ってでも連れ出そうかと、ヴィルが考えた矢先。

 

「どうしたんじゃ、随分と慌ただしい様じゃが」

 

「――学長!?」

 

「――っ!!」

 

 受付の奥から、一人の老人。

 彼を見て、受付の人の目の色が変わった。

 そしてその様子を見て、エルミアの目も変わった。

 

(――っ!?)

 

 ついでに、ヴィルも顔色を変えた。

 この老人は――

 

「騒いでしまい申し訳ありません。

 その、聖女様がどうしてもこの学院を見学したいと言っておられまして――」

 

「聖女殿が?」

 

 受付の返答に、老人は目を大きく見開いた。

 そこへ、エルミアが割り込む。

 

「お初にお目にかかります。

 “賢者の学院”の学長様でしょうか。

 私、エルミア・ウォルストンと申します。

 恐れ多くも此度の聖女に選ばれた身です。

 この学院のことは前々から噂に聞いておりまして、是非一度訪れてみたく考えていました。

 規則で禁止されていることは重々承知しておりますが、どうか見学の許可を御一考頂けませんでしょうか」

 

 よくぞここまですらすらと台詞を出せるものだ。

 対する老人は、

 

「なるほどのぅ。

 なあ、聖女殿がこうまで言っておるのだ。

 規則に拘らんで、中に入れてもいいのではないかな?」

 

 意外なことに好感触。

 

「し、しかしですね、学長」

 

「ぬぅ、頭が固いのぅ、お前も」

 

 ただ、受付も譲らなかった。

 学長に抵抗する辺り、案外高い立場の人なのだろうか。

 エルミアは2人のやり取りをはらはらと見守っている。

 

「――――ん?」

 

 ふと。

 学長が、こちらに気付いた。

 

「――――――っ!!?」

 

 目を大きく見開く。

 そしてじぃっとヴィルの方を見てきた。

 次の瞬間、口を広げ――

 

「――ヴィ、ヴィルバ」

 

ヴィル(・・・)です。

 聖女の聖堂騎士をやっています」

 

 相手が最後まで言うより先に、台詞を被せる。

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

 見つめ合う2人。

 さて、どう対応すればいいものやら。

 そのまま数秒、見つめ合ってから、

 

「――――レンス君」

 

「なんでしょう?」

 

 受付に話しかける学長。

 どうも、受付の人はレンスという名らしい。

 

「このお2人を、すぐに応接室へ案内しなさい」

 

「――え?

 いや、しかし――」

 

「――これは学長命令じゃっ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 渋る受付を一喝。

 あれよあれよという間に、ヴィル達は学内へと通されることになった。

 

 

 

 

 

 

「――学長と知り合いだったなら、先に言ってよー」

 

「いや、“王国”に帰ったことは知っていたが、賢者の学院の学長になっているとは知らなかったんだ」

 

 学院の中を歩きながら、エルミアとヴィルは雑談を交わしていた。

 

 あの老人の名は、エゴール・カシジャスという。

 極めて優れた魔法使いであり、ヴィルとはかつて――3年程前に共に戦った仲(・・・・・・)だ。

 “王国”から派遣された軍隊の一人だった。

 優れた英知を持つ賢者で、随分と助けられたものだ。

 こんなところで再会するとは、露にも思っていなかったが。

 

「学院内を自由に見学していい、なんてねー。

 いや、学長ってば太っ腹だわ。

 持つべきものは、いい友人を持った恋人ね」

 

「そりゃ良かったな」

 

「お礼に――今夜は、貴方の言うこと、なんだって聞いてあげる♪」

 

「……お、おう」

 

 どもってしまった。

 エルミアの可憐な顔で、背中がざわつく程色っぽい囁きをされればそうもなる。

 

「でも、流石に“学院”って言われてるだけあるわね。

 若い子ばっかり」

 

 きょろきょろと周囲を見渡すエルミア。

 彼女の言う通りだった。

 学院の施設内では、すれ違う人のほとんどが学生風の若者なのだ。

 偶に見る大人は、教官だろうか。

 

「なんだか、修道院を思い出すわ。

 あそこは、女の子しかいなかったけど」

 

「俺も士官学校時代以来だな、こんな風景」

 

 少女の呟きに、なんとなく返事をする。

 そんな時、

 

「―――んんっ!?」

 

 エルミアが変な声を出した。

 視線がある方向へ固定されている。

 

「どうした?」

 

 彼女が見ている方へ目をやってみれば。

 そこには一人の学生服を着た女の子が歩いていた。

 

(……うーん?)

 

 何の変哲もない女性――に見えるのだが。

 いや、可愛らしい子ではある。

 肩まで伸ばしたセミショートの赤毛に、あどけない造りの顔。

 幼さを残す愛らしさだ。

 ただ、視線を下に移すとその幼稚性とは真逆な身体。

 歩く度にゆさゆさと揺れる巨乳が――

 

(待て待て。

 余りジロジロ見てはいかん。

 失礼だろう!)

 

 慌てて自戒する。

 思考を誤魔化すため、エルミアの方に顔を向ける。

 すると少女は何かを考え込んでいるような表情で、

 

「あの子――」

 

「彼女がどうかしたのか?」

 

 ヴィルには感じ取れない、“何か”があるのだろうか。

 魔力――なら、青年にも分かるので、“神の加護”とかそういうものが?

 疑問に思っているうちに、エルミアが口を開く。

 

「――おっぱい、おっきいわね」

 

「おい」

 

 何を言ってるんだこの女は。

 

「いや、だってアレはあり得ないでしょ!?

 私より年下っぽいのに、あんなたっぷんたっぷんさせて!」

 

「こ、声!

 エルミア、声を抑えて!」

 

 いきなり大声で女学生の肢体を品評し出す少女。

 抑制を試みるも、興奮しだした彼女は止まらない。

 

「ウェストもほっそいのよ!?

 信じらんない!

 しかも下の方見てみなさい!

 スカート短くて、太ももめっちゃ出てるし!

 お尻もなんかぷりっぷりしてそうじゃない!?」

 

「大きい!

 声、大きいから!」

 

 必死に押し留めようとするも、

 

「ヴィルはなんとも思わないの!?

 あんな、とんでもないスタイルの女の子を目にして!

 貴方、本当に男!?」

 

「む、無茶苦茶な論法をするなよ。

 まあ、確かに凄いとは思うが――俺は、エルミアの身体の方が好きだぞ?」

 

「…………あ。

 そ、そう?」

 

 一気にトーンダウンした。

 

「ヴィルは、私の方がいいんだ?」

 

「あ、当たり前だろう!?

 俺は、お前が一番好きなんだから!」

 

「ちょっ、そんなこと大声で言わないでよ!?」

 

 今度はエルミアが慌てる番だった。

 とはいえ、ヴィルも言ってから大分恥ずかしくなったが。

 

「…………」

「…………」

 

 二人して沈黙。

 例の女学生は、もうどこかへ行ってしまった。

 

「……その。

 さ、早速、学院の講義を見に行きましょうか!

 うん、どんな授業なのか、すごい楽しみ!」

 

「そ、そうだな!

 俺も、“王国”の魔法技術には興味あるし!」

 

 羞恥心をかき消すためか、多少大仰に会話をしてから。

 ヴィルとエルミアは、学院回りを開始した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 学長の頼み

 

 夕刻。

 2人は学院の見学を終え、学長の待つ部屋でソファーに座っていた。

 

「…………」

「…………」

 

 ヴィルもエルミアも、どこか微妙な顔。

 そんな彼らに、学長――エゴールが話しかける。

 

「どうでしたかな、我が学院は?」

 

「あ、えーと、その――」

 

 質問に、エルミアが答える。

 

「素晴らしい、授業だったと思います。

 とても分かりやすく、魔法の理論を教えて下さいましたし、こちらの質問にも真摯に対応して下さいました。

 本当に、素晴らしい――」

 

「素晴らしい、“古典”の授業だった」

 

 彼女の言葉を、途中から引き継ぐ。

 もっとも、それは少女の意図した台詞では無かったのだろう。

 彼女は眉をしかめ、

 

「ヴぃ、ヴィル!

 貴方、なんてことを――」

 

「お世辞を言っても仕方ないだろう。

 ……なぁ、エゴール。

 これは、いったいどういうことだ?

 “王国”最先端の教育機関である“賢者の学院”で、何故大昔の(・・・)魔法理論を講義している?」

 

 今日見て回った講義は、どれも“帝国”では過去の技術となった理論の授業ばかりだったのだ。

 ヴィルの問いかけに、エゴールはしばし黙り込んでから、

 

「やはり、分かってしまうか」

 

「当たり前だ」

 

 学長は幾度か頭を振ったのちに、語り出した。

 

「恥ずかしいことじゃが――我が学院では、『派閥対立』が激しいんじゃ。

 学院に入学した者は、最初の1年間基礎の講義を受ける。

 その後、各教官の受け持つ『教室』へ適性や希望に応じて進学するのじゃが――」

 

「その教室間が、対立していると」

 

「然り。

 そして対立しているが故に、“教室”は自分達の成果を外に漏らさないようになった。

 新たな魔法の技術や理論を発見しても、教室内だけでしか共有しないようになったわけでな。

 実際、“帝国”の最先端魔法理論と比較しても勝るとも劣らん技術が開発されることもあるんじゃが――他と共有しないせいで、その後が続かん」

 

「……結果、最新理論は各教室でバラバラに持ち、生徒全員が受けられる授業はあんなお粗末な内容になった、と」

 

「返す言葉もない。

 言い訳になってしまうが、儂が学長になった時にはもう対立は根深くなった後での」

 

「それにしたって、酷すぎる」

 

 こんなことでは、優秀な魔法使いが育たないのではないだろうか。

 他人事ながら、心配になってしまう。

 

「しかし――こんな時に、ヴィル殿が現れたのは天啓といえよう」

 

「――ん?」

 

 キラーンとエゴールの目が光った。

 ……何か嫌な予感がする。

 

「再会できたのも何かの縁!

 ヴィル殿、我が学院に燻る火種解決に、ご助力願えんだろうか!!」

 

「それは君の仕事だろう!?」

 

 いきなり自分に縋ってくる学長を、青年は全力で拒絶した。

 お門違いもいいところだ。

 

「そんなこと言わんと!!

 ヴィル殿ならやれる!!

 儂はそう信じておるんじゃ!!」

 

「今日来たばかりの外部の人間に、構造改革なんてできるわけあるか!!

 だいたい、俺達は王都に向かわなくちゃならないわけで――」

 

「そう時間はとらせん!!

 1週間! 1週間でええから!!

 実は儂にも考えがあるんじゃ!!」

 

 じたばたともみ合う青年と老人。

 実に見苦しい光景だった。

 

「勿論、報酬は出す!!

 なんなら、儂が集めた希少な魔法書もお渡ししようっ!!」

 

「そんなもの要るか――!」

 

「協力いたしましょう」

 

 男同士のやりとりを横で見ていてエルミアが、毅然とした声で割って入った。

 

「え、エルミア?」

 

「ヴィル、学長がこれ程困っているのです。

 この方は、貴方の旧友なのでしょう。

 見捨てるのは、如何なものかと思います」

 

「お、おお、聖女殿――!!」

 

 思わぬ助け舟に、エゴールの顔が晴れ渡っていった。

 ヴィルは半目でエルミアを見ると、

 

「……魔法書に釣られたな?」

 

「何を仰っているのか理解に苦しみます」

 

 少女はプイッと顔を背けた。

 

(――まあ、いいか)

 

 渋々とだが、ヴィルは協力することに決めた。

 これは決してエルミアに絆されたからではない。

 この学院の体勢を放っておけば、未来ある若者の才能を無為に潰し続けることになるのを懸念したからだ。

 だから、エルミアに甘いとか、そういうことではないのである。

 

「で、エゴール。

 君が考えている策とは何なんだ」

 

「うむ、実はじゃな――」

 

 学長は語る。

 

 ――彼には、孫娘が居る。

 しかし、賢者とまで称えられた彼の血を引くにも拘らず、その孫娘に魔法の才能は無かった。

 学長のツテで学院に入り、本人も必死に勉学を励んだにも関わらず、一番簡単な魔法すら発動できない有様だ。

 当然、学院では鼻つまみ者。

 どの“教室”も彼女を受け取りたがらない。

 

 その彼女を、ヴィルに鍛えて貰いたいらしい。

 学院の誰もが見放した生徒が、外部の人間に才能を開花されれば。

 対立構造を瓦解させる、切り口となりうる。

 

「――とまあ、そういうことなのじゃよ。

 ちょうど、1週間後に“勇者の一団”の一人である“魔女”の選考会があっての。

 そこでうちの孫が華々しくデビューすれば、上層の連中も慌てふためくじゃろ」

 

「……“魔女”?

 今回の“魔女”はまだ選出されていなかったのですか?」

 

 自分に関連するワードが出てきたからだろう。

 それまで黙っていたエルミアが口を開く。

 

「うむ、選考が難航しておっての。

 ああ、しかし安心なされよ、聖女殿。

 何も孫を“魔女”にしよう、等とは考えておらん。

 “勇者の一団”のメンバーを、そう軽々しく扱う気は毛頭無いのじゃ。

 儂はただ、選考会の舞台を利用したいだけでの。

 ……まあ、孫が“魔女”になって欲しいと願ってはおるが」

 

「そして上層部の鼻を開かせた君の立場は、より強固なものになる、と」

 

「はっはっは、ダメじゃろう、ヴィル殿。

 そういうことをいきなり言い当ててしまっては!」

 

「……せめて言い訳くらいして欲しい」

 

 青年はふかーくため息を吐く。

 まあ、この老人が少々腹黒くはあっても悪人ではないということは、承知済みではある。

 

「あと根本的な話をさせて貰うが、俺が指導したところでお孫さんに実力がつくかどうかは分からんぞ」

 

「ああ、そこは大丈夫じゃ。

 何せ、儂の孫じゃからな!!」

 

「……凄い自信だな、おい。

 そう思うなら、君が教えてやれよ」

 

「学長の儂が仕込んで優れた魔法を使えるようになっても、周囲からは“当たり前”だと見做されかねんからのぅ。

 この体制を崩すカードとしては使えん。

 学院外の人間がやるからこそ、危機感を煽れるのじゃ。

 ……それに依怙贔屓が過ぎると、孫がさらに周りから浮いてしまうかもしれん」

 

「――確かに」

 

 学長の言い分に、同意する。

 勢いで喋っているようにも見えるのだが、流石に思慮はしているようだ。

 

「では、儂に協力してくれると、そういうことでええかの!?」

 

「……まあ、いいだろう。

 放っておいても、寝覚めが悪そうだ」

 

「流石はヴィル殿じゃ!」

 

 拍手をして青年を称賛する学長。

 その後、すっと席を立ち、

 

「善は急げ!

 早速我が孫と対面と行こう!」

 

「え?」

 

「こんなこともあろうかと、別室で待機させておる!!

 ささ、行きましょうぞ、ヴィル殿。

 聖女殿もご一緒に」

 

「え、え?」

 

 ヴィルの手を無理やり引き、エゴールは部屋から連れ出した。

 

(こいつ、さては最初から――!?)

 

 全て、企てられていたことなのだと。

 青年がそう気づいたときには、もう手遅れだった。

 

 

 

 

 

 

 という訳で、お孫さんのいる別室へ。

 

「お爺ちゃん、この人が新しい先生なんですかー?」

 

「これこれ、学院でお爺ちゃんは止めんか。

 別にお爺ちゃんと呼ぶのを止めろといっているわけではないぞ?」

 

 孫――と思われる赤毛の少女の前で、表情を崩しまくっている学長がそこにいた。

 一目でわかる。

 こいつは、孫バカだ。

 

「――あ、この人」

 

 隣で、エルミアが小さく呟く。

 ヴィルもまた気付いていた。

 その少女は、昼間に学院内で見たスタイル抜群の女の子だったのだ。

 

「世間って狭いわぁ」

 

 ちょっとだけ性女モードになった彼女が、ため息を吐いた。

 気持ちは分かる。

 そんな2人の様子に気付かぬまま、件の孫娘が自己紹介を始めた。

 

「えっと、アタシ、イーファ・カシジャスって言います。

 あの、お爺ちゃ――学長のお知り合いだと聞いてたんですけど、こんな若い方だとは思いませんでした。

 正直、魔法使えるようになるとか期待しても無駄だと思ってるんですが、よろしくお願いします」

 

 言って、エルミアに向かい(・・・・・・・・)お辞儀する。

 流石、“賢者の学院”学長の孫だけあって、綺麗な姿勢でのお辞儀だった。

 

「ご挨拶ありがとうございます。

 しかし申し訳ありません。

 貴女に魔法を教えるのは私ではなく、こちらの方なのです」

 

「――え」

 

 エルミアからの訂正に、イーファは目を丸くした。

 

「あ、あれー?

 でもこちらの人、どうみても戦士、ですよね?」

 

「……そう思われるのは仕方ないんだが。

 俺が君の臨時講師になる、ヴィルなんだ」

 

「え、えー?」

 

 驚きを隠せないイーファ。

 

「これこれ、“帝国”からはるばる来てくれたお客様に、そういう態度をとるもんじゃない。

 こう見えてヴィル殿は、“帝国”における最先端の魔法理論を学んできたお方じゃ。

 必ず、お前の力になってくれる」

 

「そ、そうだったのですかー。

 人は見かけによらないんですね……」

 

 若干一言多い。

 

「えと、ではその、ヴィル――先生?

 これからよろしくお願いします。

 ……あの、学長の頼みだからって、無理はしないでいいですよ?

 見込み無さそうなら、諦めてくれてけっこうですから」

 

 そして、なんともネガティヴだ。

 どことなく顔つきにも活気や覇気というものがない。

 ――魔法を使えない人間が魔法使い育成機関に入れられれば、歪みもしよう。

 

「こちらこそよろしく頼む。

 ちょっとばかし厳しく(・・・)訓練することになると思うが、頑張って耐えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 挨拶を交わした後は、もう日が暮れた時分だったためすぐ解散となった。

 エゴールは誰もいない自室で一人ほくそ笑む。

 

「――く。

 くっくっくっくっく」

 

 まさかこれ程上手く事が進むとは。

 学院の入り口でヴィルと会ってからすぐさま準備を整えたので、些か不安だったのだが。

 

「相変わらず人が良いのぅ、ヴィルバルト閣下。

 おかげで楽ができたわい」

 

 にんまりと嗤う。

 

「学院の悪しき構造を崩す、なんて言葉を真に受けるとはのう」

 

 ――そう。

 老人の目的は、そこではなかった。

 そんな“綺麗事”を履けば、あの男は必ず乗ってくる。

 そう確信しての発言だった。

 勿論、成し遂げられるというのであれば、それはそれで構わないのだが。

 

 そして彼の本当の目的は――

 

「これで我が孫の将来も安泰じゃあっ!!」

 

 高らかに叫んだ。

 

 イーファはエゴールの一人孫であり、両親は既に他界している。

 自分も高齢であるため、いつ何が起こるか分からない。

 そうなったとき、独りになってしまった少女はどうなってしまうか。

 学園では周囲から後ろ指を指され、彼女にはもう学長以外に頼れる人がいないのだ。

 ――不安で不安で、夜も眠れない日々だった。

 

「じゃがもうこれで一安心!」

 

 あの青年は、人柄も、家柄も、能力も、全てがパーフェクツ。

 孫の幸せに命かけてるエゴールの目から見ても、文句のつけようがない旦那候補だ。

 もっとも、2人を引き合わせただけですぐ結婚という話になるとは限らないのだが――

 

「くくくくく!

 ダイナマイツボデーなイーファと1週間もマンツーマン授業をして、間違いを犯さないはずがないわい!!

 あのスタイルに見惚れない男なぞ存在しようか!?

 いや、いない!!(反語表現)

 孫じゃなけりゃ、儂が手ぇ出しとるわい!!」

 

 問題発言である。

 幸い、それを非難する人物は(・・・・・・・・・・)ここに居なかったが。

 

「1週間、手取り足取り腰取り(・・・)教育するが良いぞ、閣下!!

 2人きりになれるシチュエーションは、儂が幾らでも仕立て上げたる!!

 ひょっとして、ひ孫とかできちゃうかのぅ!?」

 

 勝手に妄想を膨らませていくエゴールだ。

 1週間後、孫が幸せを掴み取っていることを夢見て――己の身を奮い立たせるのであった。

 

 

 

 ……そんな様子を、部屋の外から盗み聞きしている人間がいるとは露も知らずに。

 

 

 

「ふーん。

 話がトントン拍子で進むとは思ってたけど、そういうことだったわけね」

 

 学長室の外。

 そこには、エゴールがまるで気に留めていなかった人物――エルミアが居た。

 

「――いいんじゃない?

 私も、あの子の身体はずっと気になってたし」

 

 舌なめずりするエルミア。

 背丈は自分と同じかちょっと大きい位だというのにあのスタイル――嫉妬の感情があることを否定できないが、性的欲望がそれを上回った。

 自ら弄ってみたいという欲求は勿論、ヴィルに抱かせてみたいという願望も強い。

 

「学長がそういう考えなら、渡りに船ね。

 うふふふふ、1週間で、ヴィルのちんぽ抜きには生きていけない身体にしてあげる♪」

 

 恐ろしいことを口にする聖女。

 他人が聞けば頭おかしいと言われること必至だが、彼女は割と本気である。

 

「あの身体と3Pやれちゃうとか、夢が広がるわー。

 明日から頑張らないとね!」

 

 これから始まるであろう、夢のようなひと時を期待して。

 彼女もまた、気合いを入れるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 訓練開始

 

 

 

 朝。

 

「あー、やってらんねー」

 

 学院の廊下を、2人の男が歩いている。

 白髪で長身の男と、黒髪で小柄な男。

 

「やってらんねーっすわ」

 

「ちょっとゼンさん、さっきから何ずっと愚痴ってんですか」

 

「そうは言うがよー、ダニッチ。

 これが愚痴らずにいられるかって」

 

 白髪の男――ゼンは文句たらたらと言った様子で、持っていた書類をパンパンと叩いた。

 

「イーファ・カシジャスに関する全資料を持ってこい――なんて、あの学長(じじい)急に言ってきやがって。

 徹夜して纏めんのがどんだけしんどいのか分かってんのかね」

 

「外部から講師をお招きして、彼女に特別講習を受けさせるんでしたっけ」

 

「ふざけんなって話だよ!」

 

「そうですね。

 ――僕達、学長から信頼されてないってことですもんね」

 

 彼らは、“賢者の学院”の教師なのだ。

 その中でも、一応は“学長派”に所属している。

 しかし生徒に教える身である2人にとって、学長が外の人間を当てにしているという事実は、俄かに許しがたいものだった。

 

「どんな人なんですかね、その外部の講師って」

 

「どうせいけすかねぇ奴さ。

 こういうのは大体ろくでもねぇ野郎だって相場が決まってる」

 

「確か“帝国”から来てるんでしたっけ。

 きっと、有名な方なんでしょうね」

 

「はっ! 有名な教師ねぇ!

 なんだったら、かの英雄ヴィルバルト将軍でもつれてくりゃいいのに。

 確かあの学長(じじい)、この前の戦争で会ってんだろ?」

 

「会ってるどころか、一緒に戦ってますよ。

 まあ、学長でも呼ぶのは不可能でしょうけどね。

 もし“王国”にヴィルバルト将軍が来るなんてことになったら、大騒ぎですから」

 

「分かってるよ、そんなことは。

 ……と、そういやその講師、名前はなんつったっけ?」

 

「聞いてなかったんですか、ゼンさん?

 確か名前は――――ヴィル、だった、よう、な――!?」

 

 ダニッチは台詞の途中で、“何か”に気付いたように声を詰まらせていく。

 ゼンもそれは同様のようで。

 しばらく考え込んだ後、ぼつっと呟く。

 

「――――ヴィル?」

 

「えっと、確か、そんな感じだったはず、です」

 

「ヴィル」

 

 もう一度、口にしてみた。

 

「ヴィル――――ヴィルバルト」

 

「――な、なんか連想しちゃう名前ですよね!?」

 

 思いつきを否定するダニッチ。

 しかし、彼の顔には汗が一筋流れていた。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が降りる。

 それを打破したのは、ゼンの方だ。

 

「いやいや、そんなわけねぇよ!

 なぁっ!?」

 

「そ、そうですよ!!

 そうだとしたら国賓クラスのお客様ですよ、そんなまさか!!」

 

「ああ、まさかだ!

 まさかだよ!!

 だいたい、お忍びで来るにしたってヴィルは無いだろう、ヴィルは!

 そんなバレバレな名前で――なぁ!?」

 

「ええ、お間抜けに過ぎますよね!

 ヴィルバルトだからヴィル、だなんて、そんな偽名!」

 

 ここで、2人は一気にトーンダウン。

 

「――でも、一応、学長が呼んだ講師だからな。

 あまり、その、無礼なことはしないよう気を付けようぜ」

 

「え、ええ、失礼の無いよう、心がけるべきですね!」

 

「ははははは」

 

「あははははは」

 

 廊下に、2人の教師の乾いた笑いが木霊した。

 

 

 

 

 

 

「では、僕達はこれで」

 

「何かあったら、いつでも声かけてくれ」

 

「ああ。

 ありがとう」

 

 “賢者の学院”でのイーファの成績資料を届けてくれた教師2人を、ヴィルは礼を言ってから送り出した。

 

(なかなか好感を持てる人達だったな)

 

 学院の教師をやっているだけあって、2人とも礼儀作法がしっかりしていた。

 こちらの背筋が伸びてしまったほどだ。

 持ってきてくれた資料も見やすく丁寧に纏められていた。

 

(“帝国”にも色々と興味を持ってくれているようだし)

 

 研究者でもあるからだろう、自分が“帝国”出身であると聞いて、“帝国”の歴史や文学・哲学、果ては軍事のことまで聞いてきた。

 その探求心に敬意を表し、機密上問題がある部分を除いて色々と話をしたが――

 ああいう熱心な教師がいるということは、高度な教育を施す“下地”は出来ているというわけで。

 

(――やはり、対立構造とやらは壊さなければ)

 

 生徒のためだけではなく、今日来てくれたような“純粋に研究を励む”教師達のためにも。

 ヴィルは、これから始まるエゴールの孫娘への特訓に対し、全力で臨むことを誓った。

 

 

 

 

 

 

 再び、廊下にて。

 ヴィルの部屋からでた例の教師2人が並んで歩を進めていた。

 

「――帝国の歴史、聞いたこと聞いたこと全部スラスラ答えてましたね。

 アレ、完璧に暗記してますよ」

 

「研究者である俺達ですらよく知らん文献のことまで、平気な顔で網羅してたな」

 

「極めつけに、戦争の話ですよ。

 そっちの話題になった途端、やたら熱入ってましたよね、あの人」

 

「――ああ」

 

 部屋で起きたことを一つ一つ確認していく教師達。

 彼らは、同じ結論を導き出していた。

 

「…………」

「…………」

 

 一拍溜めて。

 

 

「「――将軍かよぉおおおおおおっ!!?」」

 

 

 絶叫した。

 

「うっわマジかよ、あの学長(じじい)何考えてんだ!?

 本気(マジ)でヴィルバルト将軍呼んでやがった!!」

 

「ど、どどどど、どうしましょう!?

 生きた伝説が目の前にいるんですよね!?

 僕達はいったいどうしたら――!?」

 

「落ち着けダニッチ!!

 こうなったら俺達にできることはただ一つ――」

 

 ゼンはダニッチの目を見据え、堂々と宣言する。

 

「――俺達自身が生徒になることだ」

 

「何言ってんですか、あんた」

 

 冷たいつっこみを入れるダニッチ。

 

「いやだからよ、俺達もあの人に色々勉強させて貰おうぜ。

 幸い、イーファが受けてる授業には俺やお前が担当してるのもあるだろ。

 口実はつけやすい」

 

「な、なるほど!

 この機会を逃す訳にはいかないですもんね!」

 

「そうと決まれば善は急げだ!

 将軍への質問、リストアップしとこうぜ!」

 

「はいっ!」

 

 慌ただしく結論づけると、彼らは足早にその学院を駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 女生徒と二人っきりの課外学習。

 この単語に惹かれない男などいないだろう。

 

 他に誰もいない空間。

 可愛い美少女とマンツーマンの個人授業。

 その子の息遣いさえ容易く聞こえる環境。

 ふとしたきっかけで手が触れる。

 しかし少女は拒まない。

 相手が無防備なのをいいことに、ついついその先へ、その奥へと手が伸びていく。

 行為はだんだんと過激になり、これ以上はいけないと、ふと我に返った瞬間。

 

 ――生徒が、物欲しそうな目で自分を見つめていた。

 

「……っていうのを妄想してたのに」

 

 ヴィルとイーファの講義を覗きに来たエルミア。

 しかしそこには、彼女の想像とは全く違う光景が繰り広げられていた。

 

「どうしたっ!!

 誰が足を止めていいと言った!!

 走れっ! まだ1時間も経っていないぞ!!

 走れ走れ走れ走れっ!!」

 

「――は、はいぃ!」

 

 そもそも場所は教室ではなくグラウンド。

 そこでイーファは、ひたすら走り込みをさせられている。

 

(ひょっとして、昼から延々と走らせられてるの?)

 

 今、時刻は午後。

 ヴィルが言った言葉が正しいなら、イーファは昼食後からずっと走っていることになる。

 そして彼女の様子を見るに、その予想は間違っていないようだ。

 少女は息も絶え絶え、脚はふらふらになっていた。

 

「――あっ」

 

 脚をもつれさせ、転ぶ。

 すぐさま、ヴィルが駆けつけた。

 助け起こす――のかと思いきや。

 

「何を転んでいる!!

 気合いが足りてない証拠だ!!

 弱っている“フリ”をすれば情けをかけて貰えるとでも思ったか!?

 甘えは捨てろと言っただろう!!」

 

「……は、はいぃ」

 

 震える脚でどうにか立ち上がり、走り始める少女。

 ……流石に居たたまれなくなってきた。

 

「ちょ、ちょっと、ヴィル?」

 

 エルミアは青年の傍らに歩み寄る。

 

「いくら何でも、厳しすぎない?

 ていうか、魔法の訓練してるのよね。

 なんであの子にずっと走らせてんのよ」

 

「エルミアか。

 別に変なことはしていないぞ。

 魔法の源である“魔力”は、当人の精神力に大きく依存している。

 走り込みで自分を追い込むことで、精神を鍛えているんだ。

 ついでに体力もつくから、一石二鳥だな」

 

 魔法の研究は体力仕事だから、とヴィル。

 ――彼は、これでもかという程“体育会系”だった。

 

「で、でもさ。

 彼女、根本的に魔法が使えないんでしょ?

 だったら、まずはその原因を調べるところから始めた方がいいんじゃ――」

 

「ああ、それはもう大よそ把握している」

 

「えっ!?」

 

「“昔の理論”ではありがちな『穴』なんだ。

 午前中、検査もしてからほぼ間違いない。

 ――おそらく、学長は気付いているな。

 一部の教師にも、察している奴はいただろう。

 なのに派閥対立のせいで放置されていたのだから、酷い話だ」

 

 現在進行形でイーファに酷いことをしているのはヴィルだが。

 

「なら、その問題を解決するのを優先した方がいいんじゃないの?」

 

「彼女にただ魔法を使わせたいというだけなら、構わないかもしれない。

 しかしな、エルミア。

 如何な目的であれ、それは正道を外れて良い理由にはならない」

 

 青年が熱弁を振るいだした。

 

「どんな技術であっても、まずは基礎、基礎作りが大切なんだ。

 基礎が出来上がっていないところへ応用を身に着けさせようとしても、それは付け焼刃にしかならない。

 ちょっとしたことで簡単に崩れ去ってしまう。

 俺が彼女を見てやれるのはたったの1週間だが、その間にやれることは全てやるつもりだ。

 いつか、この経験が彼女の役に立つこともあるだろう――」

 

 とうとうと語る。

 

(――い、意外と教育熱心な)

 

 将来は教育パパになるかもしれない。

 自分とヴィルとの間に産まれる子に対し、今から少し同情してしまう。

 

 視線を、イーファの方へ移す。

 

(こんなにエロいのに、気にも留めてないだなんて)

 

 色気をまるで感じさせない訓練風景ではあるが、少女だけを切り取ればなかなか煽情的な光景でもあった。

 

 まず、あの巨乳巨尻な身体をして、着ているのがTシャツと短パンだけというのがエロい。

 かなりパツパツなサイズの服で、スタイルの良さを惜しげもなく披露している。

 余りに密着しているせいか、短パンには下着のラインまで浮かんでいた。

 

 そして胸と尻が、走る度にプルンプルン揺れているのだ。

 遠目から見てもかなり迫力。

 近くで見れば大興奮間違いなし。

 

 息が上がって紅潮した、愛らしい顔が実に官能的。

 振り乱されるセミショートの赤髪は艶めかしい。

 

 しかも身体は汗だらだら。

 シャツは濡れ、ブラが浮き出ている。

 濡れ濡れな肢体は、それだけでも色っぽい。

 

 男が見れば、勃起すること請け合いな状況だ。

 

(なのに――)

 

 ヴィルの股間は、ピクリとも反応していなかった。

 どうなっているのか。

 彼の精神は鋼鉄製なのか。

 

(これは――前途多難かも)

 

 自分の野望が早くも崩れかかっているのを感じ。

 エルミアは、小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 昼は上手くいかなかった。

 だが、夜なら?

 夜中まで講義は入れないで欲しいと、あの青年には予め言ってある。

 身体を壊したら身もふたもないから、と。

 

 厳しい訓練の後、訪れる安らぎの時間。

 怖かった教官が見せる、優しい顔。

 最初はぎこちない会話も、だんだんと楽しくなっていく。

 相手の思いもよらない一面を知って、胸はときめき。

 談笑は続き、気づけば。

 

 ――2人の距離は、触れ合える程近づいていた。

 

「……とか、思ってたんじゃがなぁ」

 

 ヴィルとイーファの関係は、初日でどれだけ進んだか確認しにきたエゴール。

 しかし、そこで彼が見たものは――

 

「いやー、流石は“帝国”の講師ですね。

 本当に色んなことを知っていらっしゃる」

 

「よく覚えてるもんだよ、色々と。

 なぁ、それじゃ、“物質のエネルギー変換”についていい論文は知らないか?

 “王国”じゃ“帝国”の文献は調べにくくてよ」

 

「ああ、それについてなら、幾つか読んだことがあるな。

 確か――」

 

 学長もよく知る二人の教師――ダニッチとゼンが、ヴィルと仲良く研究討議している姿だった。

 

(違うっ!!

 儂が期待していたのは、こんな男ぐるしい光景じゃないっ!!)

 

 地団太を踏む。

 ちなみに、イーファは自室で既に就寝していた。

 余程きついトレーニングを課されたらしい。

 

(今すぐ乗り込んでいって解散させたい!

 ヴィル殿にイーファとの“夜の授業”を行って貰いたい!!

 しかし――!!!)

 

 エゴールにそんなことはできなかった。

 

(学長の立場を預かる身として、我が学院の研究者が勉学に励んでいるところを、何故邪魔できようか――!!)

 

 歯ぎしりする。

 いや、本当は邪魔したい。

 でも立場上できない。

 

 しかもどうやら、あの2人の教師はヴィルが“将軍”だと分かって話をしている様子。

 それを把握した上で、上手い具合に青年から話を聞き出していた。

 エゴールすら知らないような情報も、ちらほらとある程だ。

 研究機関の長として、この場を妨げる真似を行うことは許されなかった。

 

(ヴィル殿も!

 何故、イーファのあのナイスバデーを一日中見て、平然としていられるんじゃ!?

 教師の中でも話題騒然なんじゃぞ!!

 まあ、手を出そうとした輩は秘密裏に排除してきたんじゃが)

 

 想いとは裏腹に、彼らの談義は当分終わりそうも無かった。

 

(ま、まあ、まだ6日もある!

 明日こそは――仲が進展してくれると、いい、のぅ――)

 

 ちょっと自信が無くなってきた。

 真面目な男であることは知っていたが、ここまでだとは思わなかったのだ。

 

 エゴールは肩を落とし、とぼとぼとその場から立ち去った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 本音(H)

 

 

 

「――ふぅぅぅ」

 

 初日が終わり、ヴィルは大きく息を吐いた。

 イーファの訓練は、一先ず出だし順調と言える。

 問題点の洗い出しは出来たので、明日からはそれに対応したカリキュラムを行う予定だ。

 その内容についても、ちょうど訪ねてきてくれた教師達の協力のもと、既に作成済み。

 

教え子(イーファ)のことが気になるのだろうな)

 

 あの2人、やはり良い先生のようだ。

 そんなことを考えながら、自分にあてがわれた部屋へ入る。

 

「あ、おかえりー」

 

 中では銀髪の少女――エルミアがくつろいでいた。

 ワンピース姿で、ベッドに横たわっている。

 彼女のための部屋も別に用意されているが、ごく普通にヴィルの部屋を使っていた。

 もっとも、それについてヴィルが異論を唱えることは無いが。

 

「今日はどうだったー?

 あの後、あの子とナニかあったりしてない?」

 

 可愛い顔にニヤニヤとした笑いを浮かべ、とてとてこちらへ歩いてくる少女。

 ヴィルもまた彼女へ近づいて、

 

「――――んむっ!?」

 

 抱き締めると同時に唇を奪った。

 いきなりのことでエルミアは戸惑うが――

 

「――んんっ――んむっ――ん、ん、んん――んぅ――」

 

 そんなことを構い無しに、少女の口元を味わう。

 柔らかく瑞々しい感覚が、舌を通して伝わってきた。

 

「――ん、ちゅっ――れろ――は、う――れろれろっ――ちゅぱっ――んぁ――」

 

 口の中にまで舌を侵入させる。

 暖かい。

 エルミアの口内を、舌を、歯を、隅々まで舐めていった。

 

「――ん、あ――――――ぷはぁっ!」

 

 少女の味を存分に堪能したところで、口を離した。

 

「――はぁっ――はぁっ――ど、どうしちゃったの、ヴィル?

 急にこんな――」

 

「――エルミア」

 

 無理やり口を塞がれて息苦しかったのだろうか。

 美しい少女の瞳は、少し涙ぐんでいた。

 その様が、しかし、劣情を掻き立てる。

 

「今夜は、俺の好きにさせてくれ」

 

 言って、彼女の片脚を抱え上げた。

 

「――あ、ちょっと」

 

 同時に、スカートを捲りあげる。

 白い下着が露わになるが、それをじっくり鑑賞するでもなく。

 エルミアの身体を少し浮かすと、ヴィルは自分の股間を彼女の股の下に滑り込ませた。

 

「ま、待って、ちょっと待って。

 私、まだ濡れてないから――」

 

 青年が何をしようとしているのか、少女はすぐ察したのだろう。

 彼女にしては珍しく、制止してきた。

 

 だがそのお願いを、青年は却下する。

 エルミアと身体を密着させ、少々もたつきながらも自分の性器を――ギンギンに勃った男性器を取り出す。

 彼女のショーツをずらし、股にイチモツをあてがい――

 

「――う、あぁあああああっ!!?」

 

 ずぶずぶと、埋め込んでいく。

 

(――きつ、い)

 

 まだ愛液の出ていない性器は、いつものようにヴィルを迎え入れてくれない。

 膣壁が異物の侵入を拒んでいた。

 だがその抵抗を、青年は力づくで捻じ伏せていく。

 

「――あ――がっ――あっ――

 い、痛――うっ――あ、ああ――」

 

 おお口を開けて悶えるエルミア。

 快感よりも痛みが勝っているようだ。

 前戯も何もしていないのだから、当然である。

 

「――あ、かっ――くっ――あ、ああ、あ――」

 

 苦悶の声を聴きながら、腰を推し進め――奥にまで到達した。

 

「……動くぞ」

 

 相手の返答は待たず、着の身着のまま、向かい合った立位の状態で腰を動かす。

 

「――あぐっ!?

 ――ヴィル、止め、て――もっと、ゆっくり――あぅううっ!?」

 

 ギチギチの膣内に、ペニスを出し入れする。

 ヴィルにも痛みはあったが、エルミアが感じるそれはこの比で無いだろう。

 

「うぐっ――いっ――あぅっ――

 う、あっ――あっ――ああっ――あんっ――」

 

 だが、流石は性女。

 こんな無理やりな行為にも関わらず、程なくして彼女の性器は愛液を流し始めた。

 男根と膣壁との“擦れ”が次第に滑らかになっていく。

 

「は、あ、あぅっ――あっ!――ああっ!――あああんっ!

 あっあっあっあっあっあっ!――あぁあああああっ!!」

 

 苦しげだった声が、嬌声へと変わる。

 強張っていた顔も弛緩していった。

 

「あぅっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!」

 

 ヴィルの身体に手を回し、自分からも腰を動かしだすエルミア。

 完全にいつもの調子になった。

 そんな彼女の首筋に、青年は舌を這わす。

 きめ細やかな肌が、彼の食感を楽しませた。

 

 

 

 ――実のところを言えば。

 ヴィルは今日、いっぱいいっぱいだったのだ。

 何がって決まっている、イーファだ。

 彼女はエロ過ぎた。

 

 まず午前中はイーファが何故魔法を使えないのか、検査するための時間に当てた。

 彼女は制服姿で来た。

 昨日も着ていた服であるが――

 検査するために彼女の近くで作業することになると、これがもうヒドイ。

 

(制服のサイズ、合い過ぎ(・・・・)だろう、クソッ)

 

 つい愚痴ってしまう。

 

 服がイーファの肢体に完璧にフィットしていて、おっぱいの形が丸わかりなのだ。

 至近距離でゆさゆさと揺れるあの巨乳は、もはや凶器だった。

 あの短いスカートも角度が計算されているのだろう。

 健康的でむっちりした太ももは露わになっているのに、あと少しの所で中身は見えない。

 それがとてもヤキモキさせる。

 

(午後は午後で――あの格好はヤバかった)

 

 豊満な肢体に、Tシャツ短パンというラフな格好は危険だ、NGだ。

 いや、ヴィルが“動きやすい”服装でと指定したのが原因なのだけれど!

 

 おかげで彼女のスタイルがより一層目に留まるようになってしまう。

 基礎体力をつけるため、運動させたのも良くなかった。

 苦し気に息をつく顔が色っぽいったら無い。

 おっぱいとお尻が揺れる様子は、重力でも発生させているのかと思う程に視線が引きつけられる。

 

(しかし、あれだけ怒鳴った手前、明日からはやらないとは言いづらいし――)

 

 明日からも、あのトレーニングは続行する。

 耐えねばならない。

 教官が生徒を“そういう目”で見るなど、あってはならないのだ。

 ――よくもまあ、学院の教師陣はあの誘惑を跳ね除けているモノだと、心底尊敬する。

 それとも自分が邪なだけだろうか。

 

(今日は、エルミアのおかげで何とかなったが――)

 

 欲望に流されそうになったら、すぐにエルミアのことを思い出すにしていたのだ。

 自分の恋人である小柄な少女の、あどけない美貌や、この上なく均整の取れた肢体。

 それを頭に浮かべることで、イーファへの欲情を発散させていたのである。

 

 おかげで、エルミアを見かけるなり辛抱堪らなくなってしまったわけだが。

 この調子でいくとここから1週間、彼女には負担をかけ続けることになりそうだ。

 

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 エルミアの膣で剛直が扱かれる。

 ピストンする度に根元から先端まで搾るように刺激され、もう限界だった。

 

「――出すぞ」

 

 手短に言う。

 自らの愚息を彼女の最奥へ突き立てた。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!――――あぁぁああああああああっ!!」

 

 精を迸らせたのと、エルミアが一際高く喘いだのは、同じタイミングだった。

 

「あっ――あっ――あっ――あっ――」

 

 絶頂の余韻で小刻みに震える少女。

 その間、青年も溜まっていた精液を膣へ吐き出していく。

 

「あっ――あっ――あっ――

 はぁぁぁぁ――」

 

 エルミアの身体から力が抜ける。

 体勢が崩れ、その場にへたり込んでしまった。

 

「す、凄かったぁ♪」

 

 満足そうに笑うエルミア。

 だがしかし。

 

「――まだだ」

 

「えっ?」

 

 ヴィルは少女を無理やり立たせる。

 今度は彼女を後ろ向きにし前へ屈ませ、再度スカートを捲りあげた。

 白いショーツに包まれた、可愛らしい、プリッとしたお尻と対面する。

 それを両手ががしっと鷲掴みにした。

 

「んぁっ!?

 ま、また、するの?」

 

「ああ」

 

 手には、すべすべした肌と、柔らかくてハリのある尻肉の感触。

 その肉を揉み続けながら、ヴィルは股間をエルミアの尻へ擦りつけた。

 愚息は、再び勃起している。

 

「あっ――ああっ――ヴィルのちんぽ、熱い――」

 

 青年は、少女のショーツをずり下ろし、尻の肉でイチモツを挟む。

 その状態で前後へ動かし始めて――いわゆる尻コキというヤツだ。

 膣による締め付けとは違う、きめ細かな素肌に優しく包まれる感覚。

 それがとても新鮮で、病みつきになりそうだった。

 

「んっ――ふっ――あっ――あっ――」

 

 甘い声が漏れだす。

 エルミアもまた、尻を男根で擦られる行為に、感じ始めているようだ。

 このままずっと続けていたいという気持ちもある、が、

 

(――また、挿れたい!)

 

 そんな欲求も湧いてくる。

 鮮やかなサーモンピンクの花弁が目の前にあるのだから、それも仕方なし。

 そして今のヴィルでは、その衝動に抗えない。

 

 彼は尻コキの勢いそのままに、自身をエルミアの秘部へ突き刺すのだった。

 

「――あひぃぃいいいいいいっ!!?」

 

 甲高い艶声が、部屋に響き渡る。

 

 

 

 ――結局この日は、ベッドでさらにもう一回戦こなしてから眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 エルミアは、隣で寝るヴィルの寝顔を見ていた。

 月明かりに照らされた青年は、すやすやと安らかに眠っている。

 

「ぐっすり寝ちゃってまあ。

 ……あれだけ激しくしてたんだから、当たり前だけど」

 

 お腹をさすった。

 “ここ”にはまだ、ヴィルの子種が残っている。

 その事実に、女としての幸せを感じてしまう。

 

「――でも。

 うふふふふ」

 

 ニヤリと笑う。

 エルミアは、ヴィルの“変化”を見逃さなかった。

 アレは間違いなく、イーファが原因だろう。

 

「なんとなーく、ヤってる最中に別の女のこと考えているような感じしたし」

 

 不満げに頬を膨らませ、ツンツンと青年の頭を突く。

 ヴィルにイーファを抱いて欲しくはあるが――乙女心は複雑なのだ。

 

 それはともかく。

 

「ヴィルってば、やせ我慢してるだけだったのねー」

 

 あのエロさをもってして貞操観念の牙城を崩せないようなら、もっと露骨な手段も――と考えていたのだが。

 どうやら、効いていないわけでは無かったようだ。

 いや、効いていないどころか、あと一歩のところまで成果を挙げていたようにも見える。

 もう一押ししてやれば――

 

「――堕とせる」

 

 エルミアは邪悪に微笑む。

 明日からの訓練は、とても楽しく(・・・・・・)なりそうだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 魔法の属性※

 その日、イーファ・カシジャスは実に憂鬱な朝を迎えた。

 

「――ううぅ。

 今日もあの人の講義が始まるんですね……」

 

 気分が沈む。

 今更、魔法が使えるようになるとは期待しておらず、祖父の紹介だから一応付き合おうという程度の認識だったのだ。

 

 イーファは、賢者の孫として生まれてしまった。

 父や母も高名な魔法使いであったという。

 なのに自分は魔法が使えず。

 まぐれで発動したことすらない。

 

 無論、努力した。

 人の十倍はやったと、胸を張って言える。

 なのに、ダメ。

 全然ダメ。

 祖父の影響もあってか“賢者の学院”へ入学を許されたものの、ここでも芽はでなかった。

 

(……ま、そんなもんですよ)

 

 そのことに悔しさを感じた時期もあったが、もう何とも思っていない。

 別に、全ての人が魔法を扱えるわけでは無いのだ。

 寧ろ、使える人間の方が少数派であるとすら言える。

 そして、自分は多数派に所属する人間だった、と。

 ――ただ、それだけ。

 

 今は祖父の手前、まだ“学院”に在籍しているが、いい加減そろそろ出ようとも考えている。

 魔法の才能がない人間が長く居て良い場所ではないし、イーファだって新しい道を探したい。

 そんな風に考え、毎日をただ消化していった。

 

 今回の特別訓練もその一環としか捉えていない。

 

(――なのに)

 

 怒りがわいてくる。

 

 あの男の厳しさと言ったら!

 魔法の訓練らしきことをしたのは午前中だけ、午後はひたすら身体を動かされていた。

 『気を失って倒れるまで走れ』と言われた時は、何の冗談かと思ったものだ。

 それが本気だと分かって、こいつは頭がおかしいんだと確信した。

 

「なんでお爺ちゃんはあんな奴を……」

 

 尊敬する偉大なる祖父に対し、ついつい愚痴を零してしまう。

 

「……うぐぐっ!

 か、身体がっ――関節がっ――筋肉がっ――!!」

 

 少し体を動かしたら、コレだ。

 普段あまり動いていないところへ、死にそうになる程動いたのだから凄まじい筋肉痛になるのも当たり前。

 今日は一日中休んでいたい位なのだけれど――

 

「はあぁぁぁぁ……

 行かなくっちゃ、ダメなんですよねぇ……」

 

 何せ、学長である祖父の頼みなのだ。

 聞かない訳にはいかない。

 たとえそれが、まったく意味のない行為であったとしてもだ。

 その程度の恩は、祖父から受けている。

 

 イーファは最後にもう一度大きくため息をついて、自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 自分と講師、2人だけしかいない教室。

 

「君が魔法を使えないのは、属性のせいだ」

 

 開口一番、講師ヴィルにそんなことを言われた。

 

「――属性、ですか?」

 

「ああ。

 魔法の属性は知っているな?」

 

「勿論ですよ。

 火・水・土・風の4系統でしょう?」

 

 当たり前の知識である。

 こんなこと、魔法使いでなくとも知っているだろう。

 

「違う」

 

「へ?」

 

 が、講師はあっさり否定してきた。

 

「それは昔の考え方だ。

 現在、属性は火・氷・土・風・天・霊の6系統とされている」

 

「――聞いたことないんですけど」

 

 良くないと思いつつ、講師を疑わしい目で見てしまう。

 確かに4つの系統以外にも属性は存在するという噂はあるが、ほとんどが眉唾物だ。

 

「……本当に何も教えてないんだな、エゴールの奴」

 

 ぼそっとヴィルが何事か呟く。

 何のことかと聞く前に、青年講師は話を開始した。

 

「信じられないかもしれないが、信じろ。

 最新の学説では、魔法とは6つの系統でできている」

 

 彼曰く。

 

 火:運動量増加

 氷:運動量低下

 土:個体操作

 風:流体操作

 天:五感で知覚可能なエネルギー発生

 霊:五感で知覚不可能なエネルギー発生

 

 魔法はこれら6系統を単独、または組み合わせて発動するものなのだという。

 

「簡単なところなら、<炎矢>は火と風、<氷剣>は氷と土、という具合だな。

 天と霊の属性は、効果の増加に使われる場合が多い」

 

「へ、へー」

 

 余りにスラスラと説明するせいで、つい頷いてしまう

 いや、彼は学長が選んだ講師なのだから、それで正しい反応なのだが。

 

「人はこの6系統それぞれに得手不得手があり、それによって使用可能な魔法が決まる。

 で、結論を先に言ってしまうと、君の適性は霊属性だ。

 しかも、他の属性は全て壊滅」

 

「――えーと、それって珍しいことなんですか?」

 

「非常に珍しい。

 普通、苦手な属性はあっても全く使えない属性というのは稀なんだ。

 ところが君は、5系統の属性に対する適性が限りなく0に近い。

 霊属性しか使えない人間なんて、少なくとも俺は初めて会った」

 

「はぁ」

 

 気のない返事。

 要するに、自分には魔法の才能がないと言われているわけか。

 

「要するに、君は今まで自分の属性に合った魔法を使ってこなかったんだ。

 だから、魔法が使えなかった。

 学院の共通講義では霊属性を学ばないそうだからな。

 霊属性に特化した君に見合う魔法なんて知る機会が無かったんだろう」

 

 講師はそう結論付けた。

 さらに続けて、

 

「そういうわけで、さっさと魔法を使ってしまうぞ」

 

「は?」

 

「いや、“は?”じゃないが。

 属性が分かったなら、次は魔法の行使だろう。

 本来なら他にも段取りは色々あるが、幸いほとんど“学院”の授業でやったそうじゃないか。

 なら、とりあえず魔法を使って、感覚を掴んでおくべきだ」

 

「……はぁ」

 

 気のない返事。

 そうは言ったところで、産まれてからこの方使えなかった魔法がすぐ使えるようになるとでも――

 

 

 

「――使えたぁっ!!?」

 

「だから使えるといっただろう。

 君が魔法を発動できなかったのは、単に適切な魔法を習得しなかっただけなんだから」

 

「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」

 

 講師に教えられた通りの手順を踏み、呪文を唱える。

 どうせ発動なんてするわけないと思ってたのに――魔法は、見事に発動した。

 

「使えたっ!! 使えたっ!! 使えたぁっ!!」

 

 感極まって、先程から同じ言葉を繰り返すだけになっている。

 でも仕方がないじゃないか。

 絶対無理だと思い知らされてきたことが、できてしまったんだから。

 

 今、イーファが使ったのは霊属性を用いた回復魔法の一種だ。

 それを自分に対して使ってみた。

 するとどうしたことだろう、みるみる身体の痛みが取れて行ったではないか。

 目に見えて何かが起こったわけではないが、魔法が発動したということがこれ以上なく実感できた。

 

「使えたっ!――う、ぐっ!――使えたっ!――ひっうぅ――使えたぁ――!」

 

 涙が出てきてしまう。

 ヴィル講師の前だというのに、みっともない。

 止めようと思って――でも、止まらない。

 どんどん涙が溢れてきてしまう。

 

 一方で身体は歓喜に沸いてはしゃぎだしている。

 顔は泣いて、身体は喜んで。

 なんとも器用に嬉しさを表現するイーファなのだった。

 

 

 

 

 

 

(――あそこまで喜んでもらえるなら、教えた甲斐があったな)

 

 過剰表現気味な少女の歓喜っぷりに、ヴィルも思わず顔が綻びそうになる。

 教師名利に尽きるというものだ。

 かつて士官学校で出遭ったあの鬼教官達も、こんな気持ちだったのだろうか。

 

(エルミアには散々野次られたが)

 

 今日、イーファに魔法を使わせることを教えたら、エルミアはやれ“浪漫が無い”だの“ドラマが無い”だの。

 挙句には“そういうのは最終日のイベントとしてやるべき”などと宣ってきた。

 

(最終日じゃ駄目だろう。

 まだまだ色々教えなくてはならないのだから)

 

 イーファに教えた魔法は初歩もいいところ。

 やり方さえ覚えれば、素人でも使える代物だ。

 ここから訓練を積み、魔法を使う下地を整え、高位の魔法を習得していくのだ。

 寧ろ、初日の段階で彼女にここまで教えてやれなかったことを謝りたい程である。

 

(――とはいえ)

 

 実は、結構大きな問題がある。

 イーファに教えられる魔法(・・・・・・・)が余りないのだ。

 原因は、彼女が霊属性しか扱えないこと。

 

 少し前まで魔法は4系統であったという事実からも分かる通り、天と霊は近年発見された属性だ。

 故に、まだ研究が進んでおらず、その属性単体で使える魔法の数が少ない。

 天も霊も、ただエネルギー(スカラー)を発生させるだけの属性であるという事実も、それに拍車をかけている。

 (ベクトル)を発生させる他の4系統より、単属性での扱いが困難なのだ。

 特に霊属性は“気功”や“霊気”という、人が知覚しづらい力を発生させる属性であるため、天属性と比べてすら魔法の種類が無い。

 

(さっき教えた治癒魔法と――悪霊を退散させる魔法くらいか?)

 

 霊属性しか使わない魔法を、ヴィルはその程度しか知らない。

 つまりイーファが魔法使いとして大成するためには、霊属性のみで使用できる魔法を“開発”しなければならないのだ。

 これは、かなりの大仕事である。

 魔法学における最先端分野の研究なのだから。

 

(――あと、もう一つ)

 

 目下のところの大問題があった。

 

(――あの。

 見えちゃってるんだけれども)

 

 はしゃいで動きまわっているイーファ。

 ぴょんぴょんと飛び跳ねてすらいる。

 肩まで伸びた赤い髪が、動きに合わせて躍動していた。

 

 ……話が少しそれるが、今日も彼女は学院の制服を着ていた。

 紺色のブレザーにスカート姿。

 イーファの場合、彼女の趣向からなのか他の女生徒よりスカートの丈をかなり短くしている。

 

 そんな(男にとっては)危険な格好で激しく動くものだから。

 見えてしまうのだ。

 ミニスカートが捲れて。

 少女の履いている下着が。

 

(――し、縞パンか)

 

 思わず――男の本能に逆らえず――視線をやってしまう。

 スカートの布地の合間から、青と白のストライプ模様が入ったショーツがチラチラと垣間見える。

 可愛らしい容姿のイーファには、実に似合う下着だった。

 紺色のスカート、青白のショーツ、健康的な太もも――それらのコントラストが素晴らしい。

 

 ……それは学長の仕業だった。

 昨日までのスカート丈は、多少動いても中は見えないよう計算された長さだった。

 それをエゴールが、夜のうちに少しだけ短く詰めていたのだ。

 

 そんなことにヴィルが気づくわけもなく。

 少女が見せる魅惑の三角地帯に釘付けになっていた。

 

(いやいや、何を考えてる!

 一時的にとはいえ教職となった身で!)

 

 欲望に流される己に喝を入れ、どうにか目を反らした。

 大きく深呼吸。

 心を静め、煩悩を払う。

 

(――落ち着け――落ち着け――)

 

 少しずつ興奮が収まっていった。

 これでも大丈夫。

 後は、イーファが落ち着くまで待てば――

 

 

 ――事件は、その時起こった。

 

 

「ヴィル先生っ!!

 ありがとうございますっ!!」

 

「っ!?」

 

 イーファが、抱き着いてきたのだ。

 ヴィルの腰に手を回し、ぎゅうっと抱き締めてくる。

 

(おおおぉおおぉおおおおっ!!?)

 

 当たるっ!!

 当たっているっ!!

 大きな膨らみがっ!!

 ヴィルの腹部に、ボヨンボヨンと!!

 

「アタシ、絶対魔法なんて使えるわけ無いって!

 先生が何言っても全然信じてなくって!!

 ごめんなさいっ!!

 そして、ありがとうございますっ!!」

 

 ぐいぐいと身体を押し付けてくる。

 制服に包まれた柔らかい肢体が青年の下半身にムニムニと触っていく。

 ひょっとしてワザとか。

 いや、少女の表情を見るに、ただ自分への感謝を示しているだけだ。

 

(鎮まれ鎮まれ鎮まれ鎮まれ――!!)

 

 脳内で繰り返す。

 股間に血が集まりそうになるのを、どうにか抑える。

 

「今まで、ずっと、悩んでたのにっ!

 こんな簡単にできちゃうなんてっ!!

 やっぱり、先生って凄いんですねっ!!

 これからもよろしくお願いしますっ!!」

 

 すりすりと身体をすり寄せてくる。

 豊かなおっぱいの感触がヴィルを刺激し続ける。

 本当にワザとではないのか。

 しかし彼女の顔には一片の邪気も無い。

 単に天然なだけなのか。

 

(エルミアエルミアエルミアエルミア――っ!!)

 

 恋人である銀髪の少女のことを想い、ヴィルは耐える。

 耐える。

 耐える。

 耐えて――

 

 

 

 

 

 ――どうにか、2日目の特訓メニューを消化した。

 

「――う。

 う、う、う、う――」

 

 呻く。

 

 午前中の縞パン・チラリズム攻撃をどうにかいなしてほっとしたところで。

 午後は、体操服でのボディタッチによる猛攻を仕掛けてきた。

 

 薄い服での“抱き着き”は、より少女の柔らかさが、豊満さ具合が鮮明に分かってしまい。

 剝き出しの“凶器”に晒される恐怖を、ヴィルへ刻み込んだ。

 

(――い、いきなり、懐き過ぎだろう)

 

 昨日はこちらに近づこうともしなかったのに。

 それだけ、魔法が使えるようになったのが嬉しかったのだろう。

 そこだけ見れば、素直に喜ばしいことなのだが。

 

(気持ちが、昂り過ぎだ……)

 

 気を抜けば、イーファの“感触”を思い出して勃起しそうだった。

 あのあどけない顔に、あのスタイルの良さは反則だ。

 

(部屋に急がなければ――)

 

 悶々としてしまい、もう我慢できそうにない。

 部屋にいけば、“処理”できる。

 ひょっとしたら今日もエルミアが居てくれるかもしれない。

 そうであれば、また彼女に協力して貰って――

 

「――着いた」

 

 自室に到着。

 急いでドアを開ける。

 中には、

 

「あ、ヴィル?

 今日は早いのね」

 

 嬉しいことに、エルミアが待っていてくれた。

 

「ああ、講義が終わってすぐに戻ってきたんだ。

 で、せっかくで悪いんだが――!?」

 

 声が途切れる。

 “少女の姿”を見て、息を詰まらせたのだ。

 

「え、エルミア?

 その、格好は――」

 

「ああ、これ?

 ふふふ、どう?」

 

 ぐるっとその場で一回転するエルミア。

 ふわっと紺色の(・・・)スカートが舞い上がる。

 

「あ――あ、あ、あ」

 

 ヴィルの顔が引き攣った。

 彼女は――“学院の制服”を着ていたのだ。

 イーファが着ていたものと同じブレザー姿。

 

「学長に言って、貸してもらったの。

 似合ってるかしら?」

 

 悪戯っぽく微笑みながら。

 エルミアは、自分の手で(・・・・・)スカートを捲った(・・・・・・・・)

 

「――――っ!!」

 

 ヴィルが声の無い叫びを上げる。

 彼女は、“青と白のストライプが入ったショーツ”を履いていたのである。

 昼間、散々青年を悩ませた下着を。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ――プツッと。

 張り詰めた糸の弾ける音が聞こえた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥ 制服(H)

 

 

 視界が、青と白の縞模様で埋もれる。

 鼻孔には、ほのかな雌の甘い匂い。

 

 ヴィルは今、しゃがみ込んでエルミアのスカートの中へ頭を突っ込んでいた。

 至近距離で見る縞々のショーツと、それに覆われた少女の恥丘は、今日一日抱き続けた青年の欲望を満たすものであり。

 

「やーねー、必死になっちゃって。

 そんなに私のパンツが見たかったの――先生?」

 

「っ!?」

 

 ドクンッ

 心臓が跳ねる。

 “先生”という単語、それで呼ばれることの背徳感に、興奮が増大していく。

 

「いいのよー、先生?

 私の股間に頬ずりしても、お尻を触っても。

 今なら、何だってしていいの」

 

 エルミアのその言葉がきっかけ――という訳でもないのだが。

 ヴィルは彼女の股間へかぶり付いた。

 

「――あんっ♪」

 

 唇で感じる、すべすべしたショーツの布地。

 そんな下着へ口を吸い付け、思い切り深呼吸する。

 

「は、あ、ああっ――そんなとこで、息しちゃ――」

 

 ショーツの中に篭っていたエルミアのかぐわしい香りが、肺の中を充満していく。

 

(――なんだこの、幸福感!)

 

 男として生まれて良かった、と。

 この少女を恋人になれて良かった、と。

 心底、感じる。

 

(――もっと、もっと!)

 

 呼吸を続け、彼女の匂いをかき集める。

 そして空いている両手はエルミアの尻に回し、縞パンごと彼女の尻肉を揉みしだいた。

 ハリのある柔肉は、実に揉み応えがある。

 

「んぅっ! ああっ!

 そんな、強くされたら――気持ち良く、なっちゃうっ――あぁああんっ!」

 

 頭上から嬌声が聞こえた。

 その言葉に偽りはないのだろう。

 ショーツ越しに吸う“空気”に、湿気が帯びだしたのだ。

 

「あぅ――はぁぁぁ――おまんこ、吸われて――お尻、揉まれて――

 あ、あぁあぁぁぁ――」

 

 うっとりと、エルミアが息を吐いた。

 股間はますます濡れていく。

 縞パンに染みができ始めたことを、唇の湿りで感じる。

 

「はあぁぁぁ―――あ、あぁぁぁぁ――

 お願い、先生、アソコ、舐めて。

 私のクリトリス、先生に舐めて欲しいの」

 

 懇願が耳に入る。

 お望み通り舌をショーツに這わせると――程なく、陰核を発見した。

 生地布の上からでも分かる程、エルミアのクリトリスはぷっくりと膨らんでいる。

 

 それを、舐める。

 舐める。

 舐める。

 

「あ、あぁぁあああああっ――

 気持ち、いいっ!

 クリトリス、気持ちいいっ!

 ああ、あぁあああああっ――!」

 

 少女は、ヴィルの頭を掴んできた。

 そのまま、自分の股間を青年の顔に擦り付け出す。

 

「あ、あ、あ、あ、あ――

 先生、もっと、してっ――あ、ああ、ああ、あああ――

 クリトリス、いっぱい舐めて!

 お尻、いっぱい揉んで!」

 

 言われるまでもない。

 

 舌の先端で少女の“豆”を突き、クンニし続ける。

 愛液がヴィルの口元に伝わってくるほど、彼女は濡れていた。

 

 ぎゅうっと、尻肉を握り締める。

 指がエルミアのお尻へ食い込んでいく感触。

 最高だ。

 

「あっあっあっあっあっ――そこっ!

 そこっ、もっと、もっと!――あっあっああっあっああっ!!」

 

 エルミアはエルミアで、より強く股間を押し付けてくる。

 ヴィルを窒息させかねない勢いだ。

 

 負けられない。

 ここで負けては男が廃る。

 青年は、彼女の陰核に歯を立てた。

 布がある分、いつもより強く(・・)

 

「あっ! あぁああああああっ!!?」

 

 途端に喘ぎが激しくなる。

 ショーツ越しと言えど、十分すぎる刺激だったようだ。

 エルミアの痴態に満足し、ヴィルはさらにカリカリとクリトリスを噛む。

 

「あっ! あっ! あっ! ああっ!

 凄いっ! あっ! 凄いのっ! あっ!

 あっ! あっ! あっ!――来ちゃう!!

 凄いのが、も、すぐ、来ちゃうのっ!!」

 

 ガクガクと、少女の足が震えだした。

 押し寄せる快楽の波に、まともに立っていられないようだ。

 ショーツからは愛液がピチャピチャと滴り落ち始めている。

 

 だからといって、手加減はしない。

 噛み切る一歩手前の力で、下着ごとエルミアの陰核を噛んで、噛んで、噛んだ。

 

「あぁああああああっ!!?

 あっ! ダメっ! ダメっ!! 来るっ!! 来るっ!!

 あっ! ああっ!! ああっ!! ああぁぁぁああああああああっ!!!」

 

 エルミアの肢体が硬直した。

 その一瞬の後、2,3度小さな痙攣を起こす。

 

「はぁー……はぁー……はぁー……

 ……イ、イっちゃったぁ……」

 

 呆然と、力なく呟く少女。

 青年の頭を抑えつけていた手からも力は抜け、今は軽く置いているだけの状態だ。

 

 ヴィルはスカートから抜け出し、立ち上がる。

 まだ絶頂の余韻から立ち戻れず、棒立ちしているエルミアを抱きかかえ――

 

「――あっ」

 

 ベッドへ仰向けに横たわらせた。

 間髪入れず、その上へ覆い被さる。

 エルミアの整った容貌が、眼前に迫った。

 

「ヴィル先生。

 私を、抱きたいんでしょ?」

 

「当たり前だ」

 

 少女の問いに、短く返す。

 と同時に、制服の上着を引き千切るように開けさせる。

 

「ああっ♪」

 

 エルミアの嬉しそうな声。

 たちまち露わになる彼女の乳房。

 イーファ程の大きさは無いが、その形は美しく。

 ヴィルの視覚を引き寄せた。

 

「――あんっ!

 今度は――おっぱい、欲しいの?

 スケベな先生なんだから――あぁあっ」

 

 双丘の先端にある桜色の果実を口含む。

 一度イっていた少女のソレは、既に固く勃っていた。

 

「あ、あぁああ――ふふ、くすぐった――ああぁあああっ

 先生、私のおっぱい、美味しい?」

 

「――美味い。

 最高だ、君の――ココは」

 

 一心不乱にチュパチュパと乳首を吸う。

 舌の上に転がす。

 歯で甘噛みする。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!

 先生の口、いやらしく動いて――あ、あ、あっ――気持ち、いいっ――!」

 

 刺激を与える度に、少女の肢体は小さく震える。

 彼女は息を乱れさせながら、

 

「はぁっ――あぁっ――せ、先生――

 切ない――あ、あ、あ――切ない、の。

 おっぱい、だけじゃなくて――」

 

 一つ、呼吸を入れた。

 

 

「――アタシ(・・・)のおまんこに、先生のぶっといちんぽ、ずぼずぼして下さい」

 

 

「――っ!?」

 

 驚く。

 今のは、イーファの声だ。

 思わず、胸をしゃぶるのを止めて少女を確認してしまう。

 

「ふふふふふ。

 今の、似てた?」

 

 そこには、上気した顔でニヤニヤと笑うエルミアが居た。

 

「――お、お前な」

 

「何? あの子じゃなくてがっかりした?」

 

「そんなわけ無いだろう!」

 

「だったら――ねぇ、早くしましょ?

 我慢できないの、本当なんだから」

 

 ヴィルの太ももに、股間を擦り付けてくる。

 彼女の縞パンは、もうぐっしょりと濡れていた。

 

「先生――お願い、します」

 

 そしてまた、あの女学生の真似。

 

 ヴィルはすぐに股間の自身を準備した。

 我慢できないのは、こちらも同じだ。

 青年の愚息は脈を打って、高く勃起している。

 

「――やるぞ」

 

 少女のショーツをずらすと、愛液の滴る花弁が顔を覗かせた。

 その中心へ己の棒を当てると、腰を一気に推し進める。

 

「ああっ! あぁああああああっ!!!」

 

 歓喜の嬌声をエルミアが上げた。

 十分に濡れた彼女の性器は、ヴィルの侵入を歓迎する。

 だというのに。

 

(うおっ――きついっ!?)

 

 挿入の容易さに反し、膣肉は入ってきた愚息をぎゅうぎゅうと締め付ける。

 “もうここから出さない”という意思を感じてしまう程に。

 

 ――それでもヴィルは、ピストンを開始した。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!!」

 

 気持ち良さそうに喘ぐエルミア。

 いつもと違う半裸のブレザー姿で彼女が乱れる様は、この上なく魅力的だった。

 

「あっ! あぁあっ! あっあっあっ! あぁあああっ!!」

 

 腰を一回動かすと、おっぱいが一度プルンッと揺れる。

 濃厚で味わい極上なプリンを思わせる少女の胸。

 先程まで吸っていたその果実を両手で掴み、揉んで、抓る。

 

「あっ! あっ! あっ! おっぱいっ!! おっぱいがっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!! ぐにぐにされちゃってるぅっ!!

 あ、あ、あ、あ、あ、ああっ!!」

 

 少女が感じれば感じる程、彼女の膣はヴィルを強く握りしめる。

 絡まったヒダに肉棒が下から上まで扱きあげられ、快感が脳天まで駆け抜けた。

 

「あっ! イイっ! イイっ! イイのっ!!

 先生っ! せんせいっ! あっあっあっあっあっ!!

 私、もっ――私も、動く、からっ!」

 

 言葉通り、エルミアは腰を少し浮かして自ら動き出す。

 2人の動きが重なり合い、パンパンッと肉のぶつかる音が響く。

 

「――はあぁぁぁぁぁっ――イイっ!――イイっ!!

 気持ちよくて――もう、イっちゃうっ!!」

 

 少女の顔は快楽に蕩け、恍惚としていた。

 艶っぽいその表情をもっと眺めていたいのだが――ヴィルの方も、限界が差し迫っている。

 本能が、“この女に種付けしたい”と叫んでいるのだ。

 

「俺もだっ!

 俺も、イクっ!」

 

「うんっ!――来て、来て!

 先生っ! 私の中に、ザーメンびゅるびゅる、てしてっ!!

 あっあっあっあっあっああああっ!!!」

 

 未だ先生呼びしてくるあたり、向こうにはまだ余裕があるのだろうか。

 だらしなく口を開き、目尻に涙をためている様子からは、とてもそうは思えないのだが。

 

「あっ!? あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!

 イクッ!! イクッ!! 先生、私、イっちゃうっ!!」

 

 少女の腰が完全に浮き、背を反らしだした。

 もう、すぐだ。

 

「いいぞ、イケ!

 俺も、出すっ!!」

 

「ああっあっあっあっああっあああっ!!

 先生っ!! せんせぇええええええええっ!!!」

 

 ――押し寄せる快感で視界が白くなる。

 そんな快楽の中、ヴィルは己の精を解き放った。

 

 

 

「――ヴィル。

 ――ん、ん――んぅ――チュッ――ん――」

 

 “行為”が終わった後。

 ヴィルとエルミアはベッドで未だ抱き合っていた。

 互いの温もりを確かめ合い、時折キスを交わす。

 

「――今日は、このままずっとするの?」

 

「ああ、朝までヤってやる。

 眠れるなんて思うなよ」

 

「えー、やだー。

 私、明日も学院回ってたいのにー」

 

「そんな格好で来る、君が悪いんだろう」

 

「本当にお気に入りなのね、この制服。

 生徒もエッチな目で見ちゃってたりして――――あんっ!」

 

 変なことを言いだすエルミアの胸を揉む。

 同時に、耳を舐めてやる。

 

「あ、あ、あ――そこっ――感じ、ちゃうっ――

 あぁ――ああぁ――ヴィルっ――ヴィルっ――!」

 

「エルミア――!」

 

 再び、少女の上に覆い被さる。

 さぁ二回戦開始――と、そんなところへ。

 

 「ヴィルさーん、いらっしゃいますかー?」

 

 「約束通り、今日も話しに来たぜー!」

 

 ドアを叩く音。

 例の教師達だ。

 

(……そういえば、そんな約束してたな)

 

 昨夜の談話で、今日も魔法研究についての話し合いをしようと言っていたのだった。

 教師という立場でここに居る以上、断るのは彼らに申し訳が無く。

 ヴィルは、すまなそうにエルミアを見つめ、

 

「――あの、すまん、エルミア」

 

「いいわよ、気にしなくても。

 帰ってきたら、続き、しましょ?」

 

「恩に着る」

 

 彼女の了解を得ると、青年はいそいそと服を着だすのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後。

 ヴィルが部屋から出るのを(教師達にばれないよう隠れて)見送ってから。

 

「――ふっふっふっふっふっふ」

 

 エルミアもまた、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

「うっうっうっうっ――ちょっと、はしゃぎ過ぎました――」

 

 ボロボロになった体を引きずって、イーファはようやくベッドに到着する。

 魔法が使えるようになったのでついハイになって、午後のトレーニングを頑張り過ぎたのだ。

 おかげで筋肉痛が凄いことになっている。

 治癒魔法を使おうにも、もう精神力が残っていない。

 

 流石にシャワーも浴びず眠るのは乙女的に許せなかったので、どうにかこうにか浴槽へ行き。

 いつも倍以上の時間をかけて身体を洗い、震える手でパジャマに着替えて。

 こうして寝る準備が整ったわけである。

 

「明日は、もうちょっと体力配分を考えないと――」

 

 完璧にオーバーワークだった、とイーファは思う。

 ――もっとも、手を抜こうにもヴィル講師がそれを許さない可能性も十分あるのだが。

 

「では、おやすみなさ――」

 

 誰にともなく挨拶をして寝ようとした、その時。

 コンッコンッと扉をノックする音が。

 

「――はえ?」

 

 誰だろうか?

 痛む脚を何とか動かし、自室の扉を開けると。

 そこには、綺麗な銀色の髪をした、美しい少女が立っていた。

 

「――こんばんは、イーファさん」

 

「あ、アナタは――エルミア、様!?」

 

 “勇者の一団”に選ばれし聖女、エルミアだった。

 彼女はイーファに微笑みかけ。

 

「敬称など付けずとも結構ですよ。

 そんなに畏まれては、私の方が恐縮してしまいます」

 

 聖女らしい丁寧な言葉遣いで、自分とほとんど年齢の変わらない少女は話す。

 そう言われてしまっては、様付けはかえって失礼か。

 

「え、えと、では、エルミアさん。

 こんな時間に、何の御用で――?」

 

「はい。

 私の守護騎士であるヴィルが、イーファさんをお世話することになりましたので。

 微力ながら私も貴女に力添えしたく、馳せ参じたのです」

 

「――は、はぁ」

 

 要領が掴めず、生返事してしまう。

 

 ちなみに、ヴィル講師が聖女の守護騎士だという話は伺っている。

 “帝国”出身で、かつ魔法にも長けた人物を守護騎士にできるとは、“勇者の一団”はやはり凄い方々なのだろう。

 

 それはともかく。

 

「あのー、力添えとは、いったい?」

 

「はい。

 ヴィルの講義を受けて、大分お疲れの御様子。

 そのままでは、明日の講義にも支障が出てしまうでしょう。

 ですので、もしよろしければ――マッサージ(・・・・・)を、受けてみませんか?」

 

 

 

 ……この時、エルミアの瞳が怪しく光ったことに。

 イーファは、気づくことができなかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑦ 聖女のマッサージ(H)

 

 

 

(……あー、極楽極楽)

 

 パジャマ姿でベッドにうつ伏せになり、イーファは至福の時を満喫していた。

 

「こんな感じで如何ですか?」

 

「はいー、ちょうどいい塩梅ですー」

 

 エルミアの質問に、適当な返事をする。

 いや、実際問題ちょうどいい力加減なのだから、これ以上注文は付けられない。

 

 今、イーファはマッサージを受けていた。

 最初は“聖女様からマッサージを受けるなんて”と拒んだのだが、どうしてもと言う彼女に押し切られた形だ。

 少しだけ、という条件で受けたのだが、

 

(――エルミアさん、滅茶苦茶上手いですねー)

 

 言うだけはあった。

 聖女の按摩は巧の域と呼んでもいい心地良さだったのだ。

 

(ああああ、気持ち良いですー)

 

 緊張感はとっくに解れ、もう結構な時間エルミアからの施術を受けている。

 心なしか、筋肉痛も和らいでいってるようにも思えた。

 明日は爽快な目覚めになりそうだ。

 ――と。

 

「ひゃんっ!?」

 

 思わぬ“刺激”に、変な声を上げてしまう。

 首をぐぐっと動かし、自分に跨って指圧してくれているエルミアの方を見る。

 

「あの、エルミアさん?

 そこは――」

 

「“ここ”の筋肉も凝ってしまうものですよ。

 しっかりと解してあげませんと」

 

「そ、そんなもんなんですか……?」

 

「はい」

 

 断言された。

 聖女様がそう言うのであれば、そうなのかもしれない。

 イーファはそう納得して、エルミアに“尻を揉まれる”のをじっと我慢する。

 

「――――うっ――――ふっ――――んんっ――――」

 

 時折、奇妙な呻きをしてしまうのまでは、堪えられなかったが。

 

 

 

 それから10分が経過。

 聖女によるマッサージは、なおも継続していた。

 ただ――

 

「――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――」

 

 イーファの様子が、明らかに変わっている。

 顔がほのかに赤くなり、瞳は潤み、大きく息をついている。

 本人は意図していないのだろうが、その様子は非常に色っぽかった。

 ……無論、エルミアによるマッサージの効果である。

 

 聖女は、イーファの尻肉を揉み続けていた。

 ある時は強く、ある時は優しく、ある時は激しく、ある時は触れるように。

 執拗に、少女の尻を責め抜いていたのだ。

 

「――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――」

 

 イーファは、これが“ただのマッサージ”だと信じている。

 だからこそ、異常(・・)に気付きながらも、黙って施術を受け入れているのだ。

 

(なんだか――なんだか、頭がふわふわって――)

 

 いや。

 既に、正常な思考はできなくなっているのかもしれなかった。

 初めて体験する“尻肉を揉み解される快感”が、彼女から思考力を少しずつ奪っているのだ。

 

「――どうです、イーファさん。

 気持ち良いですか?」

 

「はぁーっ――はぁーっ――は、い――気持ち、いいです――はぁーっ――はぁーっ――」

 

 朦朧とする意識の中、言葉を返すイーファ。

 その様を見てエルミアがにっこり笑ったのに、気づけたかどうか。

 

「それは良かったです。

 ではそろそろ――直に、揉みますね」

 

「――え?」

 

 聖女が何を言っているのか、理解できなかった。

 しかし、エルミアは何も反応しないこちらを見て肯定と受け取ったのか、パジャマのズボンに手をかけてくる。

 

「――あ――ま、待って下さ、い。

 ど、どうして、脱がせるんですか……?」

 

「直接した方が効果が高いからですよ。

 恥ずかしがる必要はありません。

 女同士ですし、何よりこれもマッサージの一環なのですから」

 

「――えーと」

 

 上手く回らない頭で考える。

 

(――――それも、そう、ですかね?)

 

 実際、裸になって受けるマッサージもあると聞く。

 ならば、これも問題ないはず。

 

「――じゃあ、お願いします」

 

「承知しました♪」

 

 エルミアは何故か(・・・)嬉しそうに笑うと、手慣れた手つきでズボンを脱がしていった。

 程なくして、縞々のパンツ一枚だけ履いた、イーファの下半身が現れる。

 尻は大きく、太ももはむっちりとしているが、無駄肉が付いている風には見えない。

 成熟した雌の持つ艶っぽさと、若々しいハリの良さが同居していた。

 その肉感的なエロさは、

 

「……うっわ、すっごい尻」

 

 エルミアにそう呟かせるに十分な代物だった。

 

「――?

 エルミアさん?」

 

「い、いえ、何でもありませんよ?」

 

「……そうですか?」

 

 適当に誤魔化されたのだが、今のイーファは気にならなかった。

 そしてマッサージが再会される。

 

「――あっ」

 

 エルミアの指が素肌に振れた瞬間、そんな声を漏らしてしまう。

 

(な、なんですか、今の声!?)

 

 これまでの人生で自分が発したことのない響きだった。

 よく分からない。

 よく分からないが――この声を出すのは、はしたない行為のように感じた。

 しかし。

 

「――あっ――ああ、あっ――あ、あ、あ――ん、あぅっ――」

 

 エルミアに尻を撫でまわされ(・・・・・・)

 その“はしたない声”を続けて漏らしてしまうイーファ。

 

(――が、我慢しなきゃ!)

 

 こんな不格好な姿を見せるのは、真面目にマッサージをしてくれている聖女に失礼だ。

 そう考え、手で口を塞ぎかけたのだが、

 

「いけませんよ、無理をなさっては」

 

「え?」

 

「今、声を出すのを抑えようとしたでしょう?

 それはよくありません。

 せっかくマッサージを受けて身体がほぐれているのですから、自分自身でストレスをかけるのはお止めなさい。

 気持ちの赴くまま、声を出せばいいのです」

 

「――は、はい」

 

 優しく諭され、イーファは頷いた。

 そうだというのなら、好きなように声を出してしまおう。

 自分でも、我慢するのは辛いと思っていたところなのだ。

 

「――あっ!――あっあっあっ――は、あああぁぁぁ――」

 

 エルミアに尻を揉まれて生まれる、なんとも言えない衝動。

 それに身を任せて艶声を出す。

 ……この“声”が、雄を興奮させるものだということを、まだ少女は知らなかった。

 

「――あっあっあっあっ――ああっ――んぁああああっ――」

 

 聖女のマッサージは、イーファを刺激していった。

 

(な、何でしょう――何か、身体が、変――?

 凄く、お腹が、熱くなって――!)

 

 快感の蓄積による昂りを、“その知識”がない少女はまだ認識できなかった。

 ただ、もうすぐ“どこか”へ到達する(・・・・)であろうという、予感だけは胸に去来する。

 

「――あ、あ、あ、あ――んぅううっ――あ、あんっ――」

 

 エルミアの指は少しずつ位置を変えていき――少女の“脚の付け根”にまで行きついた。

 その時に、イーファは気付く。

 

(――やだ。

 アタシ、漏らしちゃってますっ?)

 

 股が濡れていた。

 まるでおしっこでも漏らしたかのように。

 

「――あっ――エルミアさん、そ、そこ――そこ――」

 

 汚くなった(・・・・・)“その部分”を聖女に触らせるわけにはいかない。

 最後に残った一欠けらの理性で、それをエルミアに伝えようとするが――

 

「――“そこ”ですか?

 イーファさんは、ココをマッサージして欲しいんですね」

 

 警告の甲斐無く、聖女は何の躊躇も無しにイーファの股間に指を伸ばす。

 偶然なのか故意なのか――その先端は、少女の“一番敏感なところ”へと突き立てられた(・・・・・・・)

 

「―――っ!?」

 

 意思とは無関係に、身体が跳ねた。

 電流が走ったように全身が痺れた。

 目がチカチカする。

 頭が真っ白になる。

 そして喉からは――

 

「あ、あぁぁああああああっ!!?」

 

 ――信じられない程大きな、嬌声。

 

 それは絶頂だった。

 イーファは人生で初めて、“達した”のだ。

 

「――――――あ」

 

 快感による硬直から解放されると、少女はベッドに倒れ伏す。

 今まで味わったことのない快楽に意識が耐えられなかったのだ。

 

 イーファは、あっさりと気を失った。

 

 

 

 

 

 

 動かなくなった少女を、エルミアは見下ろしていた。

 

「……初めてだったのね」

 

 途中から薄々気付いていたが。

 イーファは、セックスはおろかオナニーすら――下手すれば絶頂自体したことが無いようだ。

 軽くイっただけで気絶してしまったのも、それが故だろう。

 

「だったら、これ以上ココ弄るのはまずいかしら」

 

 膣へ指を突っ込んでかき回す、くらいやりたかったのだが。

 それをすると、膜が破けてしまう。

 

「“初めて”は、ヴィルが貰うべきだし」

 

 最初の相手になれるかどうかは、男のプライドへ大きな影響があるという。

 男心にも配慮できる女、エルミアであった。

 ……まあ、そうでなくとも自分の知らないところで処女喪失というのは、女の子にとってショックが大きすぎる事件だろう。

 

「でも、ここで終わりにするのもねぇ」

 

 まだ少し触っただけなのだ。

 せっかくの機会なのだから、もう少し楽しんでおきたい。

 ――というわけで。

 

「よいっしょ、と」

 

 イーファの身体をひっくり返し、仰向けにする。

 

「………おおっ」

 

 思わず目を見張る。

 でかい。

 本当にでかい。

 何を食べたらおっぱいがこんなでかさになるというのか。

 パジャマの上からでも、その大きさは迫力あるものであった。

 

「これは生で見てみなくっちゃ!」

 

 上着とブラを脱がす。

 修道院でロアナや他の子達相手に色々(・・)してたので、手慣れたものだった。

 

「うわぁぁぁぁ――」

 

 感嘆の息が漏れる。

 予想していた通りの巨乳。

 そして、

 

「ぜ、全然型崩れしてない――」

 

 これだけ大きければ、重力に負けて胸の形が潰れそうなものだが――イーファの乳房は、美しい形を保ったままだった。

 

「……もっちりしてて、凄い弾力ね、このおっぱい」

 

 ちょんちょんと突いて確認する。

 柔らかで、しかし中身がしっかりとつまっている感触。

 このハリの良さが、大きさと美しさを両立させた美巨乳の理由なのだ。

 

 エルミアは、ぽつりと呟く。

 

「――う、羨ましい」

 

 この場に第三者がいれば、お前が言うな、と突っ込みが入ったことだろう。

 エルミアの肢体もまた、理想な均整を体現するスタイルなのだから。

 

「こんなの、一人で持て余してたら宝の持ち腐れよ」

 

 なので、自分がちゃんと味わってあげよう。

 そんな考えのもと、エルミアは両手で少女の胸を揉み始めた。

 

「――なに、この揉み応え。

 癖になっちゃいそう」

 

 揉めば手の平へ返ってくる反発。

 力を込めれば込める程、それは大きくなった。

 柔軟かつ弾力のある感触は、女であるエルミアをして酔いしれさせた。

 さらには――

 

「――あ、う――んっ――あ、ああ――」

 

「あら?」

 

 エルミアの耳が、イーファの甘い吐息を拾った。

 どうやら彼女、気を失いながらも“感じている”ようだ。

 

「もう、この変態さん♪」

 

 自分のことは棚に置いて嘯く。

 何はともあれ少女も楽しんでいるのであれば、やる気も出ようというものだ。

 

「ほれほれほれほれ」

 

 ぐにぐにと。

 先刻行っていたマッサージの要領でおっぱいを揉み揉みする。

 いや、正確に言えばあのマッサージの方が、この女性の性感を刺激するプレイの副産物なのだが。

 

「――はっあっ――う、うぅっ――ああぁあんっ――」

 

 艶めかしい音がイーファの口から漏れる。

 それに気を良くし、エルミアはさらに責め立てた。

 

「あ、あ、あ、あ――あぁあああっ――あっあっあっあっあっあっ――」

 

 全体を満遍無くこねた後、指は双丘の先端へと滑っていく。

 まだ誰にも弄られた形跡の無い、薄い桜色の突起へと。

 

「――あっ!!」

 

 触れた途端、イーファの身体が震えた。

 ココは殊更敏感らしい。

 

「大きい上に感度も良好とか。

 ホント、完璧ね、この子」

 

 嫉妬交じりにため息を吐いた。

 

「いやいや、私だってまだ成長するし?」

 

 そう言って自分を慰める。

 

 ……世の女性から、ふざけるなと物言いがつきそうな言動ではあるが。

 それだけあって(・・・・・・・)、まだ物足りないのか、と。

 

 閑話休題。

 エルミアは、早速乳首をねぶりだした。

 

「――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!」

 

 嬌声が部屋に響く。

 イーファの肢体がうっすらと汗ばんできた。

 相当に感じ入っている様子だ。

 

「あっ! あぅっ! ああっ! あんっ! ああぁあっ!」

 

 コリコリと固くなった先端部を弄る。

 指で挟み、手の平で転がし、爪で抓む。

 

「はぅっ! んぅうっ! あぅうっ! ああっ!」

 

 声の艶が増していった。

 呼吸も荒い。

 起きてこないのが不思議な程だ。

 

(――そろそろかしら?)

 

 頃合いと見たエルミアは、イーファの両乳首を思い切り捻ってやる。

 ――すると。

 

「あああぁぁぁああああああっ!!?」

 

 ここまでで一番の喘ぎ。

 少女の肢体は再度、痙攣を始めた。

 

「きちんとイケたみたいね」

 

 自分の成果に満足する。

 試しに“下の方”も確認すると、

 

「あ、やっぱりびちょびちょだ」

 

 愛液で濡れたショーツが少女の股に張り付いていた。

 未だ閉ざされた彼女の“割れ目”をはっきり確認できる。

 男なら、すぐにでも襲いたくなるシチュエーションだ。

 

「私は女だから大丈夫だけどね。

 ……処女はヴィルのために取っておく、て決めたんだし」

 

 その割に少々未練のある物言いである。

 エルミアは視線をおっぱいに戻すと、

 

「まあでも、ヴィルが部屋に戻ってくるまでまだ時間はあるから」

 

 来る前に確認したのだが、教師との討議はなかなか白熱しているようだった。

 あの分なら、帰ってくるのは夜遅くになるはず。

 

「まだまだ、楽しんじゃいましょうか♪」

 

 再び、イーファの胸を鷲掴みにした。

 

「――ああぅっ!?」

 

 イッたばかりで感度が上がっているのか、少女は敏感に反応を示す。

 

 

 

 ――それからしばらくの時間。

 エルミアは、イーファへ“女の悦び”を刻み込み続けるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑧ 巡らされた策謀(H)※

 色々(・・)とあった、次の日。

 

(――ど、どうしたんだ、これは)

 

 ヴィルは困惑していた。

 

 今はイーファへの授業中である。

 教室に一人座る彼女へ、霊属性に関する知識を教え込んでいたのだが。

 

「――はぁ」

 

 少女の、吐息。

 なんのことはない仕草――の、はずだ。

 はず、なのに。

 

(――色っぽい)

 

 やたらと彼女の動作に惹きつけられてしまう。

 所作の一つ一つに、妙に艶があるのだ。

 

「――ん、ふぅ」

 

 息が甘ったるい。

 色香を漂わせている。

 

 それだけではない。

 セミショートの赤髪をかき上げる仕草に色気がある。

 瞳は悩まし気に潤んでいた。

 俯き加減もどこか蠱惑的。

 

 何もかもが昨日までと違うようで――

 

(――いかんいかんいかん!!)

 

 そんなわけがない(・・・・・・・・)

 彼女はいつも通りのはずだ。

 単に、昨日の疲れが取れていないだけだろう。

 もし変わったというのであれば、それは自分の方だろう。

 

(エルミアが、あんな格好をするから!)

 

 昨夜を思い出す。

 学院の制服姿で散々乱れた少女のことを。

 

(どうしたって、意識してしまうだろうが!!)

 

 ブレザーそのものが、エロく感じてしまう。

 イーファにやたら魅力を感じるのも、きっとそのためだ。

 

 ――昨日の夜に関して言えば、ヴィルとてノリノリだったのだが。

 

(それは俺も反省するとして!)

 

 今はこの状況を乗り切らねばならない。

 ヴィルは己の持つ精神力やら理性やらを総動員して、湧き上がるムラムラに抗うのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方で、イーファ。

 

(――ど、どうしちゃったんですか、これ!)

 

 彼女もまた、戸惑っていた。

 

「つまり、霊属性とは生命そのものに宿る力、或いは生命そのものとも呼べる属性であり――」

 

 ヴィル講師から、目が離せない。

 いや、それ自体に問題はない。

 授業の最中、先生に注目するのは当然のことだ。

 彼女が気にしているのはそこではなく。

 

(な、なんでヴィル先生を見てると、ドキドキしちゃうんですかー!?)

 

 コレだ。

 今日、ヴィルと会ってから、彼の一挙手一投足が気になって仕方ない。

 

(……ヴィル先生って、こんな素敵な人でしたっけ?)

 

 初日は気にもしていなかったが、顔は精悍な美形だった。

 身体はがっしりとしていて、屈強な印象を受ける。

 学院にいる男連中とは比べるまでもない。

 その上、頭も良い。

 現在進行形で、最先端の魔法学を講義しているのだから。

 

(――魔法を使えるようにしてくれた恩人、ですし。

 気になってしまうのは、仕方がない、かもしれないですね)

 

 そんな風に自分を納得させる。

 しかしそれは、ヴィルへの好意を否定する言葉では無かった。

 イーファの目はどうしても、彼の姿を追ってしまう。

 

(……あの腕で、抱き締められたら)

 

 贅肉など無い、筋肉の鎧を纏った腕。

 あれに抱かれたら、どんな心地だろう?

 

(なんでしょう?

 なんか、また、お腹が熱く――?)

 

 昨夜マッサージを受けた時と同じだった。

 身体の芯が、“疼く”ような感覚。

 講師を見ているだけで、そんな気分になってしまう。

 

「――はぁ」

 

 良くないことだが、授業中にため息を吐いてしまう。

 どことなく、熱のこもった吐息。

 ……それが、当のヴィルを悩ませているとは思いもしない。

 

(ああ、ダメですダメです!

 しっかりと授業に集中しなくっちゃ!!)

 

 しかし集中しようにも、講義を受ける以上ヴィル講師の姿は注目しなければならないわけで。

 

(――――あ)

 

 胸が“何か”に締め付けられる。

 彼の姿に見惚れてしまう。

 あの人の声をもっと近くで聴きたい。

 

「――ん、ふぅ」

 

 また、大きく息をしてしまう。

 結局この日の講義では、イーファはずっとこの悶々とした気持ちを抱え続ける羽目になる。

 

 

 

 

 

 

 そして、夜。

 

「あっ! あっ! あぅっ! あぁっ! あぁああんっ!!」

 

 ヴィルは今日も、学院の制服を着たエルミアを抱いていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「お前はっ――また、こんな格好で――!」

 

「あっ! はぅっ! こ、こういうの、好きなんでしょっ?

 ――あっあっあっあっあっ!! ね、先生?――あぁああああっ!!」

 

 ミニスカートを捲りあげ、露わになった可憐なお尻。

 可愛い縞々のパンツに覆われたお尻へ、後ろから剛直を突き挿れていた。

 

「あひっ! あっ! ああっ! 先生、すごいっ!!

 もっと! もっと、してぇっ!! あっ! あっ! あっ! あっ!!」

 

 突く度にプルンッと揺れる尻肉。

 ブレザー姿で喘ぐエルミアは、この上なく煽情的で。

 

「あっあっあっあっあっあっ!! は、激し――あぁあああああっ!!

 私、もう、イクッ――あ、あぁあああっ!

 イクッ! イっちゃうっ!!」

 

 ヴィルを一段と興奮させていた。

 

「ああっ! イクッ!! イクッ!! イクッ!!

 イクぅぅううううううううっ!!!」

 

 絶頂に達するエルミア。

 彼女の足がガクガクと震え、倒れそうになる。

 しかし、ヴィルの情欲はまだ満足していなかった。

 

 少女の身体を抱え無理やり立たせると、己の愚息でさらに責め立てる。

 

「んぁああああっ!? 今、イッたっ!! イッたばっかなのにっ!?

 あっあぅっあぁっあっあっあっ!!

 壊れるっ!! 私、壊れちゃうっ!?

 あぁぁああああああああああっ!!!?」

 

 溜まりに溜まった欲望を全て発散させるため、ヴィルは何度もエルミアへ精を注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 時間帯はそこからやや遡り。

 今度はイーファの自室にて。

 

「――うっ――あっ――ああっ――はぁっ――」

 

 イーファは今夜も、ベッドの上でエルミアのマッサージを受けていた。

 もうパジャマは脱がされ、下着姿。

 豊満な肢体を惜しげもなく晒して、聖女の指圧を堪能している。

 

「――んぁっ――あ、あ――あぅっ――んぅううっ――」

 

 エルミアの責めは、昨日よりも遠慮が無くなっていた。

 全身マッサージを謡いながらも、明らかにイーファの性感帯を重点的に揉みほぐしている。

 

「――あっあっあっ――んぁあああっ――あっあぅっあぅっ――」

 

 仰向けにして胸を、次にうつ伏せにしてお尻を、太ももを、丹念にマッサージされる。

 その“気持ち良さ”に、イーファは無意識に喘いでしまっていた。

 

(あ、あ、どんどん、お腹が熱くなって――)

 

 快感に酔いしれ、少女はこのマッサージの異常性に気付かない。

 それをいいことに、エルミアは思う存分彼女を肢体を堪能していた。

 

「あっあっ――え、エルミアさん、なんか、変ですっ――

 ――アタシ、おかしく、なりそうでっ――んっあっあっあっ――」

 

「大丈夫ですよ。

 “それ”は、とても身体に良いことなのです。

 その感覚に身を任せて下さい」

 

「そ、そうなんです、かっ――あっあっああっあっ!」

 

 聖女に諭されて、イーファは安心してしまった。

 だから、身体の内から湧いてくる衝動に逆らうことなく、

 

「あっ! あっうぅっ! んっあっあっああっ!!」

 

 うっとりとした表情で、大きな嬌声を上げ始めた。

 その様子を見たエルミアは満足そうに頷く。

 

「……では、次はここを」

 

「――あっ!?」

 

 ピクッとイーファの肢体が震えた。

 聖女の指が、彼女の股に触れたからだ。

 

「さぁ、いっぱい、気持ち良くなって下さいね」

 

 言って、股間を撫で始めるエルミア。

 

「――あぁぁああああっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!!」

 

 十分に快感を与えられたイーファに、その刺激は強すぎた。

 喘ぎは一際強くなり――

 

(も、もう、頭、真っ白にっ――!?)

 

 思考力も奪われていく。

 

「ああっ! あっああっ! あああっあっあっああああっ!!」

 

 “割れ目”を優しく擦られ、快感に身を震わせて悶える。

 

「イーファさん、ここを触られてどんな気分ですか。

 気持ち、良くなってますか?」

 

「あっああっああっ! はい、気持ち、いいですっ――あああぁああっ!」

 

「もっと、して欲しいですか?

 もっと、気持ち良くなりたいですか?」

 

「は、いっ――あっあっああっあっ――もっと、気持ち良く、なりたい、ですっ――

 もっと、もっとして下さい――あぁぁあああああっ!!」

 

「いいですよ。

 何も考えられなくなるくらい、気持ち良くなってしまいましょうね」

 

 エルミアの指が、イーファの股間にある突起――クリトリスを触った。

 さらなる快楽の波が、少女を襲う。

 

「あぁぁああああああっ!!?

 ああっ! あっ! ああぁああっ! あぁあああああっ!!」

 

 叫ぶような嬌声を出す。

 

「あっあっあっあっあっあっ!!

 な、何か、来ますっ!!

 あっああっああっああっああっああああっ!!

 何か、来ちゃいますっ!!」

 

 陰核を擦られ、イーファは一気に絶頂へと駆けのぼっていく。

 また、昨日の感覚が、あの解放感が彼女に訪れるのだ。

 

「あっあっあっあっあっあっあっあっあっ!!!

 来るっ! 来る、来る、来る、来るっ!!

 あぁあああああああっ!! 来―――――」

 

「はい、今日はここまでです」

 

 絶頂に至る寸前。

 エルミアの手が、イーファから離れた。

 

「――え?」

 

「イーファさんの身体はしっかりとほぐれました。

 明日に疲労が残ることは無いでしょう」

 

「あ、あの、エルミアさん?

 アタシ、まだ――」

 

「まだ?

 まだ、何かあるのですか?」

 

 不思議そうな顔で、逆にエルミアが尋ねてくる。

 “まだ気持ち良くなりきれてない”などと、言い出せる雰囲気では無かった。

 

「――いえ、なんでも、ないです」

 

「そうですか。

 では、今夜はもうお休みなさい。

 夜更かししてはいけませんよ」

 

 そう告げると、エルミアは手早くイーファにパジャマを着せて、ふとんを被せてくる。

 その手際の良さに、少女は何も口を挟めなかった。

 

「――それでは、失礼しました」

 

 一つこちらに礼をしてから部屋を出る聖女。

 残されたイーファは――

 

(か、身体が、熱い――!)

 

 ――マッサージで昂った情欲を持て余していた。

 しかし、この欲求不満をどうすれば解消する手段を、性知識のない彼女は思いつかない。

 

(エルミアさんが言った通り、もう、寝ましょう。

 寝れば、朝にはきっと元に戻るはず――)

 

 聖女の言葉を信じて、無理やり目を閉じた。

 それが、この感情をさらに蓄積させる行為とも知らず。

 

 

 

 

 

 

 明くる日。

 ヴィルの講義が始まってから4日目になる。

 イーファの“昂り”は――

 

(――う、ううぅぅううぅ)

 

 全く収まっていなかった。

 疼く。

 肢体が疼く。

 身体の芯が、どうしようもなく熱くなっていく。

 

(ヴィル先生――)

 

 それは、ヴィル講師の姿を見ることでさらに酷くなっていった。

 頭が回らない。

 彼以外が目に入らない。

 彼の声で脳が蕩けそうになり、その声が何を言っているのか理解が追い付かない。

 

(ああ、ヤバい――これ、ヤバい――)

 

 午前の講義内容はほとんど頭に残らなかった。

 午後は体力トレーニング(要するにグラウンドをひたすら走るだけ)なので、そっちなら大丈夫だろう、と考えてみたものの。

 

「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 駄目であった。

 寧ろ、走ることで意識が朦朧とする分、なおさら歯止めが利かなくなっている。

 

(熱い――身体、熱い――)

 

 運動と情欲による相乗効果か、身体が疼いて疼いて仕方なかった。

 

(先生、先生、先生、先生――)

 

 頭の中が、ヴィルのことでいっぱいになる。

 助けて欲しい。

 自分をこの昂りから解放して欲しい。

 きっと、ヴィル講師ならやってくれるはず。

 いや、もう彼にしかできない。

 

 足元も見ず、そんな考えを巡らしていたからだろう。

 

「――あっ」

 

 イーファは、転んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 少女が転倒したことに、ヴィルもすぐ気づく。

 ずっと彼女を見ていたのだから、当たり前だ。

 

 今日の彼女は昨日にもまして艶っぽかった。

 自分に熱い視線を送っているようにすら、感じてしまう。

 全て、エルミアのコスプレに起因する青年の思い込みだろう。

 

 ただ、イーファが上の空であったことは事実だったようだ。

 少女を“そういう目”で見てしまっていた手前、余り厳しく言えなかったのが災いした。

 まさか、走り込みの最中まで“心ここにあらず”という状態だとは。

 

「大丈夫か、イーファ?」

 

 駆け寄って、少女を抱き起す。

 初日に比べて大分優しい口調になってしまっていることに本人は気付いていない。

 

 イーファに振れたことで、彼女の柔らかさや汗でしっとりと濡れた肌の感触が手に伝わってくる。

 汗で少しTシャツが透けているのも、危険な代物だ。

 短パンから伸びる太ももなど、もはや言うまでもない。

 

 官能的なそれらの感覚を無理やり振り払い、ヴィルは彼女の怪我を確認した。

 幸い、少し擦りむいた程度で済んでいるようだ。

 ささっと呪文を唱え、治癒魔法でかすり傷を治す――と。

 

「――先生」

 

 少女が口を開く。

 疲労のせいか、瞳はどこか潤んでいた。

 

「ああ、すまなかったな。

 君の異常に気づけなかった。

 昨日までのトレーニングで、疲労が溜まってしまったんだろう。

 少し休んで――」

 

「――先、生っ」

 

 突然、イーファが抱き着いてきた。

 相手が相手だけに払いのけることもできず、ヴィルは少女にしがみ付かれてしまう。

 

「お、おい、イーファ?」

 

「先生、先生――!」

 

 そして、あろうことか彼女は、青年の足に自分の股間を擦り付けてきたのだ。

 余りのことに、ヴィルはすぐに対応できなかった。

 

「先、生――ん、んんっ――ヴィル、先生っ――ああ、あぁあああっ――」

 

 自分の名を口にしながら、甘い息を漏らすイーファ。

 その表情はどんどん蕩けていく。

 悪戯でやっているわけでは無い。

 彼女はこの行為で、本気で感じ始めている。

 

(――な、なんだ?

 なんなんだこれは!?

 何が起こっている!?)

 

 訳が分からなかった。

 いきなり生徒が自分に性器を擦り付けてオナニーを始めたら、誰だってこうなるだろう。

 

 混乱している最中にも、イーファの動きは続く。

 

「あっあっあっあっあっ!――先生、先生っ――あっああっああっあああっ!!」

 

 クチュクチュという水音が聞こえた。

 少女の股間が、濡れている。

 汗で、ではない。

 それ以外の“体液”によるものだ。

 

「先生っ――あっあっあっあっ!――ヴィル先生、ヴィル先生っ!――あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!!」

 

 イーファの動きが激しくなる。

 恍惚とした顔で青年を見ながら、ただ快楽を貪っていた。

 ヴィルのズボンに、彼女の愛液による染みができ始める。

 

 当たるのは、何も彼女の股間だけではなく。

 抱き着かれている以上、少女の豊かに実った胸も、ヴィルに押し付けられていた。

 柔肉の感触が、ヴィルの性感を刺激する。

 

(うぉおお、柔らかいっ!?

 いや、そうじゃない!!

 そうじゃなくて――ど、どうしたらいいんだ!?)

 

 ヴィルもまた彼女を抱きしめてしまう、という欲求も生まれるが、全理性を総動員して却下する。

 白昼堂々、校庭の真ん中でセックスを始めてしまいかねない。

 

 ――不幸中の幸いというか、今現在、こちらを見れる位置に人影は無いのだが。

 

 だからといって、やっていいことと悪いことがある。

 

「はぁああああっ――先生っ――あっ!! ああっ!! ああっ!! あぁあああっ!!」

 

 イーファの喘ぎが大きくなっていく。

 まるで絶頂を迎えるかのように――――いや、“まるで”ではなく、実際そうなのだろう。

 ヴィルは何をするでもなく、少女が高まる様子を見守っていた。

 

「ああっ!! あっあっあっあっあっ!!

 い、くっ――――イクっ!! あぁぁぁああああああああっ!!!!?」

 

 ガクッガクッと彼女の身体が痙攣を始める。

 それと同時に、ヴィルの足へ暖かい感覚が広がった。

 イーファの股間から噴き出た“液体”が、ズボンを濡らしているのだ。

 

(イ――イッた、のか?)

 

 そうとしか考えられなかった。

 女生徒イーファは、体操着姿でヴィルの足に股を擦り付け――そのまま絶頂を迎えた。

 事実を羅列しているというのに、まるで現実感が無い。

 

「はーっ…はーっ…はーっ…はーっ…」

 

 荒く息を突き、胸を上下させる少女。

 その姿もまた、ヴィルの欲情を掻き立てるものであったが、何とか堪える。

 

「あー……イーファ。

 君は、その、疲れているんだ。

 本日の講義はこれで終了とする。

 部屋に帰って、ゆっくり休憩するように」

 

 少し唇を震わせて、そう告げた。

 その言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、イーファはのろのろと立ち上がり――

 

 宣言の通り、今日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 自室への廊下を、ヴィルは早足で移動している。

 

(――どうなっているんだ、今日のイーファは!)

 

 厳しく指導し過ぎたのだろうか?

 過剰なストレスが、少女をあのような“奇行”に走らせたとか。

 

(だとしたら、俺のせいか)

 

 反省せねばならない。

 明日からの講義内容も、この点を踏まえて修正する必要があるだろう。

 だが今はそれどころではなく。

 

(早く、エルミアに会いたい――!)

 

 イーファの“痴態”で、ヴィルの我慢はもう限界だった。

 今すぐにでも、エルミアを抱きたい。

 この滾りの全てを、彼女にぶつけたい。

 そうしなければ、狂ってしまいそうだ。

 

(――着いたっ)

 

 部屋の前に到着するなり、ヴィルは素早く扉を開けて中に入る。

 そこにはいつも通り、制服を着た少女の姿が。

 辛抱堪らず、ヴィルはその子に抱き着く。

 

「――きゃっ!?」

 

「――ん?」

 

 だが返ってきたのは、いつもと違う反応。

 それもそのはず。

 何故気が付かなかったのか――その少女は、エルミアでは無く。

 

「い、イーファ!?」

 

「せ、先生?」

 

 つい先刻までヴィルの講義を受けていた女生徒。

 赤毛の髪と豊満なスタイルが特徴的な、イーファ・カシジャスがそこに居たのだ。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑨ 女生徒を抱いて(H)

 

 

 ヴィルは、混乱の極みに合った。

 溜まりに溜まった性欲を発散しようとエルミアが待つ(はずの)部屋に駆けつけ、中に居た女性に抱き着いたら。

 それは、彼の教え子(期間限定)であるイーファだったのだ。

 そりゃ、混乱しようというものである。

 

「せ、先生?」

 

「イーファ、ど、どうしてここに?」

 

「えと、今日の授業で聞きたいことが、あって、ですね――」

 

 そこで少女の声が一瞬途切れる。

 恥ずかしそうに俯きながら、彼女は再び口を開き、

 

「あ、あの、先生――」

 

「どうした?」

 

「その、先生の、手が――」

 

「手?――――っ!!!?」

 

 ようやく、気付いた。

 いや寧ろ何故気付かなかったのか。

 ヴィルの手は、イーファの大きな胸を揉んでいたのだ。

 

(道理でさっきから気持ちいいと思ったら!)

 

 手に心地よい弾力が伝わってきている。

 

(――って、俺は変態か!?)

 

 無意識におっぱいに手を出していたとは。

 これでは、エルミアのことを性女だなんだと言えない。

 

「す、すまん!

 そんなつもりは無かったんだ!!」

 

 胸を揉んでおいて“そんなつもりは無い”も何もあったものじゃないが。

 慌てて彼女から離れようとするヴィル。

 しかし、それを他ならぬイーファ自身が止めた。

 

「ま、待って下さいっ!」

 

「え」

 

「あの、先生――このまま、して、下さい。

 嫌じゃ、無かったら、ですけど。

 アタシの胸、もっと揉んで――」

 

「お、おお」

 

 振り返ったイーファの顔は、ほのかに上気していた。

 そんな彼女から上目遣いでお願いされて――断る理性を、残念ながらヴィルは今持ち合わせていない。

 

「あ、ああっ――せ、先生っ――」

 

 揉む。

 今度は意識して、イーファのおっぱいを揉んだ。

 ブレザーに覆われた彼女の豊満な双丘を、両手でこねまわす。

 

「あ、あ、あ――気持ち、いい、です――先生、アタシ、気持ち、いい――」

 

 少女の口調がうっとりとしたものに変わる。

 そしてイーファは少し後ろに倒れ、ヴィルへと身体を預けてきた。

 少女の肢体と密着する。

 肩まで伸びた彼女の赤髪が、青年に絡む。

 女性特有の甘ったるい香りが鼻孔へ広がった。

 

「ああぁぁああぁぁぁ――先生――あ、あぁぁぁ――ヴィル先生――」

 

 ヴィルに胸を揉まれ、感じ入っているイーファ。

 だが一方で青年は、もどかしさも感じていた。

 

(直に、触りたい――!)

 

 制服の上からでも十分その大きさは堪能できる。

 しかし柔らかさや揉み心地は、直接触れなければ実感しづらい。

 

「……脱がすからな、イーファ」

 

「は、はい」

 

 ヴィルの言葉に、少女は抵抗しなかった。

 上着を開けさせていっても、為すがままだ。

 

「――はぅ」

 

 イーファから恥ずかし気なため息が聞こえる。

 制服の胸元は開き、ストライプ模様の可愛いブラジャーが現れた。

 

「に、似合ってるぞ」

 

「……う、嬉しいです」

 

 見ておいて何も言わないのは失礼かと考え、台詞を考えてはみたものの――思った以上に恥ずかしかった。

 少女の顔も真っ赤になっている。

 ……これは別に、ヴィルの言葉が原因というわけではないだろうけれど。

 

「ぶ、ブラも外すんですよね……?」

 

「――ああ」

 

 返事をしてから、宣言通りブラジャーを脱がしにかかる。

 エルミアで慣れてしまったため、簡単に外すことができた。

 

「あ、あぅぅ……」

 

 羞恥に堪えかねたか、またしても少女は呻きを漏らした。

 だが、ヴィルにそれを気遣うことはできない。

 

(――で、でかいっ!?)

 

 とうとう姿を現した、イーファのおっぱい。

 その迫力に、目を丸くしていたからだ。

 

 大きい。

 まだエルミアとそう変わらない歳だというのに、大きさだけでも依然見たセリーヌのバストといい勝負ができそうだ。

 しかも、形も整っていた。

 こんなに大きいのに、彼女のおっぱいは重さに負けることなく、ふくよかで艶美な円錐を保っている。

 ツンと突き出た可愛らしい乳首も、胸の魅力に拍車をかけた。

 

 ヴィルはゆっくりとそのバストに触れ、まずは全体を揉みだす。

 

「あっ! あっあああっ!」

 

 少女の嬌声を耳に、青年は手で味わう彼女の感触に驚嘆していた。

 

(柔らかいっ――滑らかで――張りがあるっ――)

 

 柔軟さと弾力の良さ、何よりも揉み応えのある大きさ。

 触っているだけで、股間に血が集まってくるのが分かった。

 

「あ、うぅっ――は、あ、あ、あ――んぅぅうううっ!」

 

 イーファの感度も上々のようで、揉めば揉むだけ喘ぎを漏らす。

 “ヤり甲斐”のあるおっぱいだ。

 

「はっ――あっあっあっあっあっ――」

 

 自分の手でこの巨乳をこねくり回しているという、その事実もまたヴィルを興奮させる。

 指を動かせばぐにぐにと形が変わる豊かな双丘は、見ているだけで男を絶頂させかねない。

 

 青年は手を胸の先端へと移していく。

 

「――んんっ」

 

 もう固くなっている乳首を掌で転がし、

 

「――あ、あ、あ、あ――ん、ああぁぁぁ――」

 

 先っぽを爪でカリカリと擦り、

 

「あっ!――あっあっあっああっ――」

 

 最後に、指で突起を抓んでやる。

 

「――ああっ!?――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ――!」

 

 ブルブルと身体を震わせるイーファ。

 目を閉じて、胸からの快感に浸っていた。

 

「――おっと?」

 

 胸を責め続けていると、彼女の身体が完全にヴィルへもたれかかってくる。

 

「せ、先生――アタシ、もう、立ってられない、です――」

 

「……そうか」

 

 ヴィルは彼女の身体を抱え、ベッドへ運んだ。

 仰向けにして、横たわらせる。

 自分もまたベッドに上がり、彼女の上に覆い被さる。

 

「先生――」

 

「イーファ――」

 

 互いに見つめ合いながら、口づけ。

 イーファの可愛らしく整った顔が、眼前にまで迫る。

 

「――んっ――ん、んんっ――」

 

 軽いキスから入り、少しずつ舌を絡ませていく。

 

「――んんっ――ん、ふっ――んんぅっ――んんーっ――」

 

 プルプルした瑞々しい唇を堪能しながら、しなやかで繊細な舌を味わう。

 慣れてきたのか、イーファの方からも舌を出してきた。

 

「――んっちゅっ――れろれろっ――んっ――ちゅっちゅっ――」

 

 唾液と唾液が混ざり合う。

 そんな風に唇を重ね続けながら、ヴィルは彼女の衣服を脱がし始めた。

 もう羽織っているだけだった上着はすぐに。

 スカートとショーツは、イーファにも動いて貰って。

 

「――はぁっ――先生――」

 

 口づけが終わったとき、少女は生まれたままの姿となっていた。

 

 正面から見て、改めて彼女のスタイルの良さを実感する。

 巨乳っぷりは先ほど十分思い知っていたが、尻もこれまた大きかった。

 しかし贅肉無駄肉の類は無く、プリッと張ったいい尻肉。

 腰は色っぽくくびれており、男にとっての理想的な肉体だ。

 

 仮にエルミアの肢体を“美しい”と表現するなら――イーファの肢体は、ひたすら“淫猥”だった。

 まるで、雄の欲望を受け止めるためにあるかのようだ。

 

 少女を上から下まで干渉した後、自らも衣服を脱ぐ。

 そして、ヴィルは彼女に告げた。

 

「それじゃ、始めるぞ」

 

「……あ、あの、先生」

 

 おずおずと、イーファが話しかけてくる。

 だがその言葉は青年の意表をつくもので。

 

「――な、何を、始めるんですか?」

 

「え?」

 

 思わず聞き返す。

 

「何ってその――分からないのか?」

 

「す、すいません、アタシ、こういうの初めてで――

 これから、何が始まるのでしょう?」

 

「えええええ――」

 

 こんな身体をしていて?

 初めてなのか?

 いや、そもそも知識すらない?

 

(どういう環境で育ってきたんだ!?)

 

 自問する。

 ただ、魔法使い達は魔法関連の勉学に没頭することが多いため、或いは性知識を何も身に着けずに育つこともあるかもしれない。

 かなり偏った教育であることに違いないが。

 

 ともあれ、彼女になんと答えるべきか――

 悩んだ末、ヴィルは正直にこう言った。

 

「その――セックスをするんだよ」

 

「セックス?

 セックスって?」

 

 それすら分からないのか。

 どうする。

 どうしよう?

 

 仕方ないので、そのものずばりを答えることにする。

 

「あー、“子作り”のことだ」

 

「こ、子作りっ?」

 

 イーファの目が見開いた。

 かなり驚いているようだ。

 ……ここまで来てそんな反応をされるとは、驚きたいのはこっちの方だ。

 

「……先生は、アタシに子供を産ませたいんですか?」

 

「まあ、そうなる、かな」

 

 これから行う行為の、本来の目的はソレだろう。

 実際、できる可能性は十分にあるのだから。

 

「――ヴィル先生の、赤ちゃん――」

 

 思い詰めた様子のイーファ。

 しばし俯いて考え込んでから――意を決したように、こちらを見つめてきた。

 

「わ、分かりました。

 アタシ、先生の赤ちゃん、産みますっ!」

 

 何やら覚悟を決めてしまったらしい。

 

「……分かった」

 

 だがその言葉が、ヴィルをその気にさせた。

 こんな少女にそこまで言わせて、引き下がったら男が廃る。

 

「産んでもらうぞ、俺の子供を」

 

「――は、はいっ」

 

 イーファが気丈に頷くのを見てから、ヴィルは彼女の股間に手をやった。

 

「――んっ」

 

 少女が身を固くする。

 会話が会話だっただけに、緊張しているのかもしれない。

 

 それをほぐすため、青年はそっと女性器をなぞってやる。

 未だ誰の侵入も許していない、ぴったりと閉じた彼女の“入口”を。

 

「――ああっ――あっ――んぁああっ――」

 

「もう、大分濡れているな」

 

「濡れ、て――?

 あ、んっ――アタシ、おしっこ漏らしちゃってるんですか?」

 

「違うよ。

 女性は、気持ち良くなったら自然とここが濡れてきてしまうものなんだ」

 

「そ、そうなんですか――あうぅっ――安心、しました――あ、あぁああっ」

 

 性の教育をしながらセックスするというのも新鮮であった。

 

 そうこうしている内に、イーファも大分落ち着いてきたようだ。

 ヴィルはこれまでのやり取りで痛みすら感じる程に勃起したイチモツを、少女の股間に擦り付ける。

 

「――ひゃうっ!?

 先生、それ、は――?」

 

「“コレ”を、今から君に挿れるんだ」

 

「え、うそ――?」

 

 イーファがまじまじと青年の股間を、そこに付いいている“棒”を見つめる。

 “どこ”に突っ込むのかは、なんとなく察したのだろう。

 少女は表情を引きつらせ、

 

「は、入らないですよ、そんなのっ――そんな、丸太みたいな――」

 

 丸太は言い過ぎだと苦笑しながら、ヴィルは答えた。

 

「大丈夫だ、イーファ。

 女性の身体は、“コレ”が入るように出来ているんだ。

 だから、何も心配することは無い」

 

「そう、なんですか?」

 

「そうなんだ」

 

「……分かりました。

 先生を、信じます」

 

「ありがとう」

 

 了承を得たところで、剛直をイーファの膣口へ当てがった。

 

「力を、抜いておくんだ。

 そっちの方が、楽になるから」

 

「は、はいっ」

 

 彼女がどの程度このこと理解しているか、今は知りようもないが。

 なるべく無茶はしないように、ゆっくり挿入を開始する。

 

「――うっ――あっあっ――」

 

 苦しそうなイーファの息。

 少し行ったところで、男根の先端が“何か”にぶつかる。

 ――処女膜だ。

 

「……イーファ。

 ちょっと、痛むぞ。

 辛いけれど、我慢してくれ」

 

「――はい、先生」

 

 少女は目を瞑り、来るであろう痛みに備えた。

 その様子を確認してから、ヴィルは腰を一気に推し進める。

 

「――――いっっ!?――――くあっっ!!?」

 

 男性器が膜を突き破ると同時に、イーファが息を詰まらせた。

 少女の目から、涙が零れ始める。

 

「――ふぅっ――ふぅっ――ふぅっ――ふぅっ――」

 

 破瓜の痛みに耐えるため、細かい呼吸が繰り返される。

 ヴィルは痛みが少しでも和らぐのを、じっと待った。

 

「――ふぅっ――ふぅっ――も、もう、大丈夫、ですっ」

 

「本当か?」

 

 まだかなり辛そうに見える。

 

「別に、ここで止めてもいいんだぞ?」

 

「ほ、本当、に、大丈夫、です、からっ――ふぅっ――ふぅっ――

 アタシ、ヴィル先生の赤ちゃん、産みたいんです――

 だから、続けて、下さいっ」

 

「……そうか。

 じゃあ、動くぞ」

 

 イーファの意を汲んで、ヴィルは腰を動かし始めた。

 彼女のことを慮って、かなりゆっくりと、だが。

 

「――うっくっ――あっぐっ――んぐっ――」

 

 聞こえてくるのは、嬌声ではなく苦悶の声。

 やはり痛みはほとんど収まっていないのだろう。

 だがその一方で、

 

(くっ――きついっ――扱かれるっ!)

 

 ヴィルの官能は、十二分に刺激されていた。

 イーファの膣内は、処女であったが故にまだ狭く、男根をぎゅうぎゅうに締め付けてきた。

 青年が少女の身体に興奮しきっていたこともあり、達するまでにそう時間はかからなそうだ。

 

「――うぅっ――ん、くぅっ――う、あっ――あぅぅっ――」

 

 彼女をできるだけ傷つけないよう、緩慢なピストンを続ける。

 ともすればより強い快楽を求めて激しく腰を振りそうになるのを、必死で抑えた。

 

「――う、あっ――あっ――んんっ――あ、ああっ――あああっ――」

 

 その甲斐あってか。

 イーファの声に、少しずつ艶が帯び始める。

 

「――あ、ああ――ん、あ、あ――あんっ――んぁあっ――」

 

「……少しは、良くなって来たか?」

 

「――あっあっ――は、い――んぅうう――

 ――な、なんだか、気持ち良く――あっ――なって、来ました――ああぁああっ」

 

 確かに、少女からは嬌声が聞こえ始めた。

 ならばもう少し早く動いても大丈夫か。

 

「あっ!――あっあっあっ!――先生、急に、激しくっ――あっあっあっあっ!」

 

 腰の速度を上げればその分強くイチモツを扱かれることになり、快感も増幅していく。

 射精感が強まっていくのを感じながら、ヴィルはイーファへ心配げに問いかけた。

 

「――これだと、痛むか?」

 

「い、いいえっ――あっあっあっあっ!――凄く、気持ち、良い、ですっ――ああっあっあああっ!」

 

 イーファから苦し気な声色がほぼ消え去っている。

 表情も蕩けてきていた。

 

(結構、こっちの方にも素質があるんだな)

 

 処女を失ったばかりで、ここまで感じることができるとは珍しい。

 エルミアは――まあ、別格として。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 先生、なんだか、変な、感じになってきました――あっあっあっあああっ!!」

 

「変? どう、変なんだ?」

 

「あ、の――お腹が、熱くなって――身体が、ふわっと浮いてきて――あぁあああああっ!!」

 

 どうやら、絶頂が近い模様。

 ちょうどいい。

 こちらも、そろそろ限界に達するところだ。

 

「それは、イーファの身体が赤ちゃんの“種”を欲しがっている証拠だ。

 セックスしてると、そうなるものなんだよ」

 

「そう、でしたかっ――あっあっあっああっ!――アタシの身体も、ヴィル先生と赤ちゃん、作りたがってるんですねっ!

 あっあっあっあっあっあぁああああっ!!」

 

「ああ、そうだ。

 今、種を注いでやるからなっ」

 

 そう言うと、ピストン運動にスパートをかける。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!」

 

 イーファの艶声が大きくなり、ヴィルの股間はさらに強く絞られていく。

 ヴィルの射精も、すぐ間近だ。

 

「イクぞ、イーファ!

 君の中に、俺の子種を全部出すっ!」

 

「あっ! あっ! あっ!! あっ!!――先生、先生っ!!!

 来ますっ――何か、来ますっ――あっ! あっ! あっ!――来るっ来るっ来るっ来るっ!!

 ――あぁぁああああああああああっ!!!!」

 

 少女が身を仰け反らせるのと、青年が精を解き放つのは、同時だった。

 膣肉の収縮でさらに剛直は搾られ、精液をびゅくびゅくと注いでいく。

 

「あっ!――あっ!――あっ!――あっ!――あっ!」

 

 ビクビクと痙攣するイーファの肢体。

 股間からは、破瓜の血と精液が混じった液体がトロリと流れる。

 

「ああぁぁぁぁぁ―――――あ」

 

 そしてイーファは、初めてのセックスによる絶頂で。

 そのまま気をやってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

「――――ん?」

 

 夜。

 隣で寝ていたイーファが目を覚ました。

 

「起きたか?」

 

「……先生?

 アタシ、どうして――?」

 

「終わってから、すぐに気を失っていたんだよ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

 自分の痴態を思い出したのか。少女は顔を赤く染めた。

 少しして、何かを思いついたように、口を開く。

 

「でもこれで、アタシはヴィル先生の子供を身籠ったんですよね?」

 

「いや、それは――どうだろう?

 一回で妊娠する確率は、そう高くないんじゃないか」

 

「えっ」

 

 意表を突かれたかのように、イーファは驚きの声を上げる。

 ……本当に、何も知らないらしい。

 しかし彼女はすぐ気を取り直し、

 

「それじゃ、またセックスしなくちゃですね」

 

「ああ、そう――――って、いいのか?」

 

「だって、ヴィル先生はアタシと子供を作りたいんですよね。

 アタシも、先生との子供なら欲しいですし」

 

「…………」

 

 きょとんとした顔で言われ、こちらが気恥ずかしくなってしまう。

 

「――正直、君にここまで慕われていたとは思わなかった」

 

「何言ってるんですか。

 先生は、アタシの恩人ですよ?

 他の教師はアタシのこと相手にしてくれなかったのに――先生は、真剣になってくれて」

 

「そう、かな?」

 

 単に、イーファに必要だった知識を彼らが持っていなかっただけ、なのだが。

 それを指摘するのは野暮に思えた。

 

「……それに、顔も結構アタシの好みだったりしまして」

 

「あ、ああ――そう」

 

 顔を真っ赤にしながら、そういうことを言わないで欲しい。

 返す言葉が思いつかなくなる。

 

「と、とにかく。

 今日は休みなさい。

 明日も講義はあるんだから」

 

「――明日も、してくれるんですよ、ね?」

 

「……君が、嫌じゃないならな」

 

「嫌なわけ、ないじゃないですか」

 

 イーファがにっこりと微笑んだ。

 年相応な愛らしい笑みに、心臓の鼓動が早まってしまう。

 

「――お休みなさい、先生」

 

「――お休み、イーファ」

 

 最後に軽くキスを交わし――少女は再び、眠りに就く。

 それを見届けてから、

 

「……さて。

 どうしようか」

 

 今夜のことを恋人(エルミア)にどう説明したものかと、ヴィルは頭を抱えた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑩ 教室で(H)

 

 次の日の朝。

 ヴィルは一人、廊下を歩いていた(色々とヤバいので、イーファは早朝のうちに彼女の部屋まで送った)。

 

「おはよ、ヴィル」

 

「え、エルミア?」

 

 そんな彼に話しかける、美しい銀色の髪をした少女。

 ――エルミアだ。

 何故か、今日は朝からブレザーを着ている。

 昨夜のこともあり――彼女がミニスカート姿であることもあり――動揺して少し口が震えてしまう。

 

「昨日はどうしたの?

 私、ずっと待ってたのに」

 

「うっ!?」

 

「貴方がいつ来てもいいように、用意万端にしてたのよ?

 オナニーであそこを濡らしておいたり」

 

「……お、おい」

 

 いきなりなことを言いだすエルミアに慌ててしまう。

 が、少女はずいっとこちらに迫り、ピラッとスカートを捲ってきた。

 

「ねっ? パンツ濡れてるでしょ?

 ヴィルのこと想って、今日は朝からオナっちゃったの」

 

「そ、そういうことは――」

 

 こんなとこで言うな、と怒鳴りたいのだが。

 股間の部分に染みが出来ている縞々ショーツを目にしてしまい、二の句を継げなくなる。

 その艶っぽい濡れ具合に、目が釘つけになってしまう。

 

「ふふふ、気になる?

 私の下着、気になっちゃうかなー?」

 

「い、いや、その――」

 

「なんだったら、今からここでスル?」

 

「え――」

 

 確かに今、廊下に人気は無いが。

 

(いやいや、そういうわけにはっ!!)

 

 欲望を必死でかき消すヴィル。

 しかしエルミアはそんな彼に抱き着いて――

 

「ねぇ、ヴィル――」

 

 少女の甘い香りが鼻をくすぐる。

 柔らかい肢体の感触が快楽中枢を刺激してきた。

 エルミアはヴィルの耳元に口を近づけ、

 

 

「――イーファの身体は、どうだった?」

 

 

 そんな爆弾発言をかましてくる。

 

「っっっ!?!!?」

 

 ヴィルへの効果は抜群だった。

 頭がこんがらがって、まともに思考ができなくなる。

 

「お、お、お前、それは、その――!?」

 

「別にそんな動転しなくっても大丈夫だってば。

 イーファが貴方の部屋に入っていったのを見たってだけだから。

 ……で、あの子の感想は?」

 

「感想って……!?」

 

「えー、言ってくれないの?

 ヴィルが素直にならないっていうなら――私、へそ曲げちゃうかも」

 

「うっ」

 

 非がこちらにある以上、そんなことを言われると辛い。

 とても辛い。

 ……青年は、彼女の言いなりになるしか選択肢がなかった。

 

「その、胸が大きかった、かな」

 

「そんなイーファを見れば秒で分かるような感想聞かされても」

 

 心底つまらなさそうに、エルミア。

 

「ど、どうしろって言うんだ!?」

 

「そりゃ、おまんこの具合とか、愛液の味とか?」

 

「無茶苦茶だ……」

 

 恋人のアレっぷりにちょっと引く。

 いや、根本的な部分で自分が悪いのだけれども。

 

「で、どうだったの?」

 

「……初めてだったみたいで、凄くキツかった、かな。

 味は――血が混じってたし、口にはしてない」

 

「ほほー

 初物を頂いちゃいましたか」

 

 にやっと笑うエルミア。

 

 ……自分はいったい何を喋っているのだろう?

 情けなくて涙が出そうだ。

 己のレゾンデートルが崩壊していくのを感じるヴィルだが、一方でエルミアはニンマリとした笑みを浮かべ、

 

「そんなあの子と、これから2人きりの授業なのね。

 いったいナニを教えるつもりかしら?」

 

「いやいやいやいや、講義の最中にそんなことはしないぞ!?」

 

「ふぅん?

 “講義の最中”、は?」

 

「――おぅ」

 

 どんどん泥沼にはまっていっていく。

 追い詰められていくヴィルをよそに、当のエルミアはあっけらかんと、

 

「別にいいんじゃない、ヴィルの好きなようにヤっちゃいましょうよ。

 据え膳食わぬは男の恥だって言うし」

 

「うぉいっ!?」

 

 ついついツッコミを入れる。

 ……まあ、ヴィルとしてもエルミアが“自分と他の女性が寝ること”に対し余り抵抗を持っていないことは知っていたが。

 それでも、こんな風に勧められると戸惑いしか浮かんでこない。

 

「あのな――前にも似たことはあったが、俺が他の女性を抱いても君は気にしない、のか?」

 

「そんなわけないでしょ」

 

「だったら――」

 

「ヴィルと女の子がどんなことしてるのか、気になって仕方ないっての。

 妄想だけでも結構イケちゃう感じ」

 

「…………」

 

 エルミアの性女っぷりは、それなりに長く付き合ったヴィルの想像を未だ超えていた。

 ちょっと頭が痛くなってくる。

 

「だから、気兼ねなくヴィルはイーファとエッチしていいのよ?」

 

「えー」

 

「貴方だって、昨日だけじゃ物足りないでしょ。

 その代わり――私も混ぜてよね♪」

 

「ええええええ」

 

「いいじゃないの、それ位。

 大丈夫、上手くやってみせるから」

 

「……そうか」

 

 自信満々な顔のエルミアに、ヴィルは肩を竦めてそう答えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、授業の時間がやってきた。

 この講義も今日で5日目。

 ヴィルも教師役が板についてきた。

 授業自体も滞りなく進められ――

 

「…………はぁ」

 

 ――進められていなかった。

 いや、別に講義の侵攻が妨げられているわけではない。

 単に、イーファが授業に集中していないだけだ。

 昨日と同じような、心ここにあらずという状態。

 一応、講義内容は書き留めているようなので、注意はしていないが。

 ……というか、十中八九原因はヴィルにあるため、注意しづらいというのが正しいか。

 

(昨日の今日だからなぁ)

 

 イーファにとっては初めてのセックスで、次の日その相手の講義を受けているのだ。

 気まずくもなるだろう。

 ヴィルはヴィルで、どんな態度で授業に臨もうか朝から頭を悩ませていた位だ。

 

「…………んぅ」

 

 また少女のため息。

 

(――思い悩んでいるんだろうな)

 

 彼女は彼女で抱かれることを望んでいたようではあったが。

 だからといって、あれ位の年齢の少女が“ああいうこと”を簡単に割り切るのは難しいだろう。

 立場上、叱責をする必要はあるが、それはイーファの心が整理された後が良い。

 その時に、今日の内容を纏めたレジュメも渡しておこうか。

 ヴィルがそう考えていると――

 

「――先生」

 

 イーファが、手を上げてきた。

 ヴィルは彼女の顔を見て、

 

「どうした?

 何か質問か?」

 

「質問――というわけじゃないんですけど――

 あの、今日はどうも集中ができなくって」

 

「……そのようだな」

 

 イーファも自覚していたらしい。

 

「それで、先生に手伝って貰いたいことがあるんです」

 

「手伝い?」

 

 授業に集中できるようになるというのであれば、ヴィルとしても協力は惜しまないつもりだった。

 少女の次の言葉を聞くまでは。

 

「その、また昨日みたいなことシテ欲しいんですけど」

 

「君は何を言っているんだ」

 

 真顔で突っ込んでしまう。

 

「いいかイーファ。

 集中できないというのは仕方ないにせよ、今は授業中なのだからその発言は如何なものか――」

 

「――で、でも、先生」

 

 少女は、スカートをスカートを捲ってきた。

 突然のことに青年は慌て、

 

「おいっ!?

 いきなり何を!?」

 

「先生、見て下さい。

 アタシの“ココ”、また濡れちゃってるんです」

 

 股を広げ、こちらに下着を――黒と白のストライプが入った縞パンをみせつけながら、そんなことを口にするイーファ。

 ショーツの股間部分には、確かに染みができていた。

 

「ね、ヴィル先生。

 これって、先生の子供をアタシの身体が欲しがっちゃってるってことなんですよね?」

 

 染みが出来た部分を指さして、ヴィルを見つめるイーファ。

 

(……我ながら、酷い説明をしてしまった)

 

 昨日の自分を恥じるが、今はそれどころではない。

 なんとかしてこの状況を収めなければならない。

 ……自分の股間が、少女の肢体に反応してしまう前に!

 

「あー、イーファ?

 その、だな」

 

「今朝は、凄く気分が良かったんです。

 でも、先生を見てたらまた昨日みたいにお腹が熱くなってきちゃって。

 気付いたら、股間も濡れてきちゃったんですよ……

 だからまた昨日みたいにシテくれれば、治るんじゃないかな、と」

 

 言い淀むヴィルへ、畳みかけてくるイーファ。

 むちむちとした太ももに魅惑的な股間が目の間にあるので、ヴィルの心は揺さぶられるのだが――

 

「――だ、駄目だ。

 仮にも講義の最中にそんなこと――」

 

「――んんぅっ」

 

「っ!?」

 

 理性をフル稼働させるも、イーファの喘ぎ一つで、台詞を研ぎらせてしまう。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「なんだか――はぁっ――先生に、ショーツ見せてたら――

 ん、んっ――どんどん、濡れてきちゃって――あ、うっ――

 股間から“汁”が出るの、止まらないんです――」

 

「――!!」

 

 思わず唾を飲む。

 少女のショーツに出来た染みが、じわじわと広がっていた。

 この状況で――青年に下着を見せることで、彼女は感じてしまっているというのか。

 

「先生、本当にダメ、ですか?

 ――ん、ふぅっ――アタシ、頭がふわふわしてきちゃって――

 このままじゃ、授業、聞けない――」

 

 瞳を潤わせて懇願してくるイーファ。

 ヴィルは、自分の股間が熱くなってくるのを抑えられなかった。

 衝動に任せ、少女に口づけをする。

 

「――んふっ!?」

 

 そのまま、イーファの口内を舌で舐めていく。

 

「――んぁっ――せ、せんせ――ん、んんっ――あふっ――れろっ――んんぅっ――」

 

 舌と舌を絡ませ、彼女のしなやかで繊細なベロを堪能する。

 どこか甘いイーファの唾液が、ヴィルの食感を楽しませた。

 

「ん、ん、ん、ん――――はぅっ」

 

 存分に楽しんだ後、唇を離した。

 

「――ヴィル先生?」

 

 期待に満ちたまなざしを向けるイーファ。

 ヴィルはそれに頷き、

 

「イーファ、机に手をついて、尻をこちらに向けるんだ」

 

「は、はい」

 

 少女は椅子から立ち、言われたままの姿勢になった。

 青年の目の前に、彼女の巨尻がどどんと鎮座した。

 

「こ、これで、いいですか?」

 

「ああ」

 

 スカートを捲ると、縞模様のショーツに覆われた、柔らかそうな尻肉と対面する。

 

「んぁっ」

 

 まず、揉んでみる。

 プリッとした大きな尻が、ヴィルの手の動きで変形していく。

 

「あっあっあっああっ――ん、うぅぅぅ――」

 

 昨夜に散々味わったおっぱいと同様、大きくてハリもある、いい尻だった。

 もっと責め立てたいところだが、生憎と時間がない。

 早く済ませて、授業を再開せねばならないのである。

 

(……前戯も必要なさそうだしな)

 

 ショーツをずらして女性器を確認し、そう結論する。

 イーファの膣口はもう十分過ぎるほど濡れていた。

 すぐに“突っ込んで”問題ないだろう。

 

 ヴィルは勃起したイチモツをズボンから取り出し、

 

「……挿れるぞ」

 

 その一言と共に、中へ剛直を押し入れる。

 まだ蕾の形状を保つイーファの女性器だが、昨夜よりはるかにスムーズにヴィルを迎え入れた。

 

「――ああっ!? あぁぁあああああっ!!」

 

 教室に響く少女の嬌声。

 それを聞きながら、ヴィルは腰を前後に動かし始める。

 

「せ、先生の――熱、いっ――あっ!?

 あっあっあっあっあっ! ああっあっああっあああっ!!」

 

 イーファの声が動きに合わせて漏れてくる。

 同時に、彼女の膣壁がヴィルを強く締め付けてきた。

 

(昨日同様、かなりのキツさだ――!)

 

 彼女の中は、まだ一度しか“モノ”を受け入れたことが無いのだ、当然だろう。

 もっとも、それを差し引いても名器であることに疑いはない。

 昨日の時点で、もう雄から精を搾ろうと動いていたのだから。

 

「あぅっ! あっあっああっあっ!! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 ピストンを続けると、少しずつ少女の喘ぎが大きくなっていった。

 

「どうだ。

 気持ち良いか、イーファ?」

 

「あっあっ!――はい、すごく――気持ちいい、ですっ――あぁああああっ!

 こ、腰が――浮いちゃい、そうで――あぁっあっあああっ――!」

 

「そうか。

 なら、もっと気持ち良くしてやるからな」

 

 腰の動きを速めるヴィル。

 

「あっあっあっあっあっあっあっあっ!!!」

 

 激しくすればするほど、イーファは快楽に喘いでいった。

 まるで少女を支配しているような感覚に陥る。

 とても、甘美な感覚だ。

 

 調子に乗って、彼女の尻を叩いてみる。

 

「あぁあああああっ!?」

 

 パァンッといういい音と共に、甲高い悲鳴――いや、嬌声か?――が上がった。

 

「あっああっあっ――せ、先生、何を――?」

 

「……これは、イケナイ行為だからな。

 君へのお仕置きも、一緒にやっているんだ」

 

「そ、そんな――あぁぁああああっ!?」

 

 もう一発、尻を叩く。

 やはり響くのは、パァンッという聞き心地の良い響き。

 いい尻からは、いい音が出るものなのか。

 

「せ、先生――あっあっあっあっ!――い、いたい、です――あっあっあっあっああっ!」

 

「我慢するんだ。

 これは、ペナルティなのだから」

 

「う、ぐっ――分かり、ましたっ――あぁあああっ!?」

 

 さらにもう一発入れるも、適当な言訳を信じて耐えるイーファ。

 少女の尻には、叩いた手の跡が赤く残っていた。

 

「あぁあああああっ!?――は、うっ――あぁあああああああっ!!?」

 

 パンッパンッと連続で叩いていく。

 少女の尻が、赤色に染まっていった。

 

 しかし、イーファがただ痛がっているだけかというと、それも違う。

 感じている。

 間違いなく、彼女は尻を叩かれた感じていた。

 

「あぁああああああんっ!? あっあぁあああああっ!!」

 

 証拠に、叩かれた時の少女の声は艶を帯びており。

 叩けば叩くほど、イーファの股からは愛液が流れ落ちている。

 

 その痴態はヴィルの嗜虐心をそそり。

 彼は腰を振り続けながら、さらに2度、尻を叩く。

 

「あぁあああああっ!!――あ、あ、ああっ――あぁああああああっ!!」

 

 ただでさえ狭く圧迫される少女の膣は、叩いた瞬間、締めつけが一際高まる。

 痛いほどのソレがとても快感で、ついつい尻を責めてしまうヴィルだった。

 

「あぁああああっ!! あああああああっ!!

 先生っ!! 先生っ!! もう、もう、アタシっ――あぁああああああっ!!」

 

「イキそうなのか!?

 イーファ、君は尻を叩かれて、イクのか!?」

 

「は、い――あっ! イ、クッ――イキ、ますっ――あぁあああっ!!

 アタシ、お尻叩かれてるのに――あっあっああっああっ!――イっちゃいますっ!!」

 

 恍惚とした顔で頷くイーファ。

 膣を突かれる刺激と、尻を叩かれる刺激が二重の快楽となり、少女を追い込んでいった。

 

「よし、イケ!

 イクんだ!」

 

 パァン、パァン、と少女の尻に手を打ち付け、その上で股間に腰を叩き込む。

 徹底的な責めによってイーファは、

 

「あっあっあっあっあっあ!!!――あぁぁああああああああああっ!!!!」

 

 思い切り肢体を仰け反らし、絶頂した。

 その煽りで膣が収縮し、ヴィルの股間を思い切り搾ってくる。

 

「――ぐっ!」

 

 ヴィルもまた、限界へ。

 精液を少女の膣内へと注ぎ込んでいく。

 

「――うっあっ!――あうっ――あ、あっ!――ああっ!」

 

 イーファの肢体に、絶頂の余韻による痙攣が始まる。

 大きく口を開け、白目を剥きかけながら悶える少女。

 

「――――ふぅ」

 

 ヴィルはそんな彼女へ、最後の一滴まで精子を注入し終わる。

 イチモツを引き抜くと、イーファの膣口からは白濁した液体がどろりと流れ落ちた。

 

「――はっ――はっ――はっ――はっ――」

 

 荒い呼吸音が聞こえる。

 少女のモノだ。

 青年は彼女に、後ろから声をかけた。

 

「さて、終わった訳だが――授業に戻れそうか?」

 

「――はっ――はっ――――は、い。

 だ、大丈夫、です……♪」

 

 振り返るイーファの顔には、艶めかしい笑み(・・・・・・・)が浮かんでいた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑪ 策に溺れる(H)※

 

 予想外なことに――などと言ってはまずいかもしれないが、午前の講義はその後、滞りなく進んだ。

 本当に一発ヤってスッキリしたらしく、イーファはしっかり集中して授業に取り組みだしたのだ。

 なし崩し的に何度もセックスすることになるのではないかと期待、もとい心配していたヴィルだが、これは嬉しい誤算である。

 いや本当に。

 

 午後もこの調子で、と思った矢先。

 

「――ヴィル先生」

 

 イーファが話しかけてくる。

 その瞳は、どこか潤んでいた。

 

「……ひょっとして、またか?」

 

「――はい」

 

 顔を赤らめえて俯く少女。

 つまるところ彼女、再び“ムラムラ”が始まってしまったらしい。

 

 ヴィルは、何とはなしにイーファを観察する。

 午後からは基礎体力作りのトレーニングなため、彼女はTシャツに短パンという動きやすい格好へ着替えていた。

 制服時よりもさらに少女のスタイルが丸わかりになる服装だ。

 Tシャツはおっぱいの形通りに膨らみ、短パンは眩しい太ももを惜しげもなく晒しだしている。

 

 それを見たから、という訳でも無いのだが。

 

「……我慢は、良くないよな」

 

「っ!! じゃあ――!」

 

 イーファは顔を輝かせた。

 

 いや、ヴィルもスケベ心だけで了承したわけではない。

 セックスした後、確かに少女の集中力は上がるという実績があるからだ。

 ……スケベ心があることを否定はしないが。

 

「イーファ、こっちに」

 

「はいっ」

 

 呼ぶと、少女は素直に近寄ってくる。

 これから行われることに胸躍らせているのか、にこやかな笑顔だ。

 

「俺の首にしがみ付いてくれ」

 

「こうですか?」

 

 言った通りに抱き着いてくるイーファ。

 むにゅむにゅっと彼女の豊満な果実がヴィルに押し付けられた。

 Tシャツ越しにも、その柔らかさがよく分かる。

 

「よし、そのまま掴んでいるんだぞ」

 

「――え?」

 

 言ってから、少女の膝辺りを持って抱えるヴィル。

 彼女の股間と自分の股間が重なるような位置にまで抱え上げ、そして――

 

 

 

 

 

 

「あっあっあっあっあっあっあっあっ!!?」

 

 人気の無いグラウンドに木霊するイーファの喘ぎ声。

 ヴィルは少女を抱えたままセックスを――俗に駅弁と呼ばれる体位でセックスを続けていた。

 2人とも服は着たまま。

 彼女の短パンの隙間からイチモツを挿入しているのだ。

 

「どうだ、イーファ?

 気持ちいいか?」

 

「は、いっ――あっあっあっあっ――気持ち、いい、ですっ――あ、あ、あ、あ、あああっ!!」

 

 彼女を振って、自分の腰も動かして、自身を膣へと突き立てていく。

 パンッパンッと子気味の良く肉がぶつかる音が聞こえる。

 併せて、キツク締め付ける膣壁に剛直は扱きあげられた。

 

「あっあっあっ!――あ、当たってますっ――先生の、おちんちんが――あっああっ!――アタシの、一番奥にっ!」

 

 感極まった様子で嬌声を上げるイーファ。

 それに対してヴィルは、

 

「――それは違うぞ」

 

 冷静に指摘した。

 

「――えっ?――あ、う、ああっ!――ち、違うって――?」

 

「ココはまだ君の一番奥じゃないってことだ。

 本当の奥は――」

 

 “ソコ”に当たるよう、体位を調整する。

 ――亀頭にコリッとした感触。

 

「――んああっ!?」

 

 イーファがビクッと震える。

 

「せ、先生――そこっ――そこ、は――!」

 

「ああ、子宮口だな」

 

 生徒の質問に端的に答える。

 しかる後に、ぐぐっと腰を推し進めた。

 

「あっ――!?」

 

 少女の子宮口を、亀頭がこじ開けていく。

 ゆっくりと、ヴィルのイチモツが子宮の中へと入っていった。

 

「あっおっ――!?

 おっ! おおっ! おおっ! おおおおっ!!?」

 

 子宮へと直接性器を挿入される快楽に、イーファは目を見開いた。

 そんな彼女にお構いなく、青年は剛直を侵入させていき――

 

「んっおっ!!?」

 

 ――棒の先端が、“壁”に行き着いた。

 

「分かるか、イーファ?

 ココが、君の、一番奥だ」

 

「あ、ひっ――あ、あ、あ――」

 

 ヴィルの解説は、今の彼女には届かないらしい。

 正真正銘の最奥まで雄を受け入れ、少女は気をやっていた。

 目の焦点は合わず、口はだらしなく開けられている。

 

「……動くぞ」

 

 イーファの返事は待たず、青年はピストンを開始する。

 

「おぁああああっ!!? おぁっ! おっ!! おおっ!! おおおっ!!」

 

 雄叫びのような艶声を上げる少女。

 子宮を直接責められているのだ、その刺激は計り知れない。

 

 しかし、刺激でいえばヴィルもまた――

 

(……いかん、もう射精しそうだ)

 

 ――限界に到達する寸前であった。

 竿は膣壁によって扱かれ、先端は子宮口に咥えられ。

 二重の快楽が彼を襲っていた。

 

「あひっ!! あひっあひっあひっあひゃあっ!!?」

 

 意識はほとんど飛んでいるはずのイーファだが、彼女の身体は青年を貪欲に求めていた。

 事実、彼に抱き着く手からは力が抜けていない。

 

 ヴィルはラストスパートで、大きく腰を振り出した。

 

「あぁあああああああっ!!? あっ! あっ! あっ! あっ! あぁああああああっ!!!」

 

 けたたましく喘ぐ少女。

 ヴィルの射精感も最高潮へ達し――

 

「出すぞっ!」

 

「あっ!! あっ!! あああっ!!!

 あぁぁああああぁぁぁぁあああっ!!!!」

 

 ――直接子宮内に精液を注入してやると、イーファの肢体はガクガクと震えだした。

 どのタイミングでかは分からないが、少女も絶頂していたのだろう。

 

「――あっ――あっ――あっ――あっ――」

 

 彼女はまだ細かい痙攣を繰り返している。

 それに合わせて膣も蠢動し、剛直に残った精液を搾っていく。

 イったばかりで敏感になっている愚息を締め付けられる感覚は、堪らない快感だった。

 

「……とはいえ」

 

 イーファを抱えたまま、ヴィルは独白する。

 

「流石に、やりすぎた……」

 

 青年の額に一筋の汗が流れた。

 

 いやまったくもって。

 昨日処女を失ったばかりの少女にするプレイでは無かっただろう。

 

 

 

 

 

 

 5日目の夜。

 いつもの教師達と談合を終えたヴィルは、自室に向かって廊下を歩いている。

 

 結局あの後、ヴィルの看護(治癒魔法)によってイーファは快復し、午後のトレーニングも滞りなく終わらせることができた。

 ……言うまでも無く、かなりの力技だ。

 

(注意しないと)

 

 ほとんど生娘に近いイーファに、今日は散々な目に遭わせてしまった。

 教師としてというより、男として最低の行為である。

 よくよく反省せねばならない。

 

(――エルミアと会ってから、俺の中でタガが外れてきている気がする)

 

 別にエルミアのせいにしたいわけでは決してない。

 ただ、彼女と会ってから、自分が過激な、或いは変態的な性行為に対して抵抗が無くなってきているのは事実なのだ。

 ――元から素養はあったのかもしれないが。

 

(今日はこのまま休もう。

 自戒の意味も込めて)

 

 もしエルミアが、或いはイーファが部屋で待っていたとしても今夜は一人で寝ることに決める。

 今夜は頭を冷やさねばならないのだ。

 

(いや、帰って寝るというごく普通のことに対して自戒だの何だの大仰過ぎるけれども)

 

 一般的な感覚との乖離が生じていることを、改めて認識する。

 これはいけない。

 

(常識を取り戻すんだ――!)

 

 そんな(今のヴィルにとっては)一大決心をしたところで、部屋に到着した。

 扉を開けると予想していた通り、エルミアが――

 

「あ、おかえり」

 

「――はぁっ――はぁっ――せ、先生――?」

 

 ――いや。

 エルミア()いた。

 

「うぇっ!?」

 

 つい、変な声を出してしまう。

 部屋の中にはエルミアともう一人、イーファまで居たのだ。

 だが別に、2人が居ることに問題があるわけではない。

 ヴィルが驚いたのはそこではなく。

 

「――はぁっ――はぁっ――先生――んっ――ああっ――」

 

 ……イーファが、既に発情していることだ。

 彼女はベッドの上でショーツ一枚になり、息を荒げていた。

 下手人が誰かは、考えるまでもない。

 

「な、何してるんだ、エルミア!?」

 

「え? 何って、マッサージよ?」

 

「――あっ――あぁあああっ」

 

 エルミアがイーファの胸をすっと撫でると、女生徒は切なそうに喘ぐ。

 ここでナニが行われていたか、嫌という程理解できるやり取りだ。

 

「ヴィルの部屋に行こうとしてたら、偶然(・・)イーファとばったり会ってね。

 貴方との特訓で大分疲れていたようだから、こうしてマッサージで癒してあげたわけ」

 

「そんなマッサージがあるかぁっ!?」

 

 マッサージはマッサージでも、上に“性感”という文字が付く。

 

「えー、ちゃんと疲れも取れてるのにー。

 ――そうですよね、イーファさん?」

 

 エルミアが(口調だけは聖女モードで)話をふると、裸の少女はたどたどしい口調で、

 

「あ、あ、あ、あ、あ――はい、エルミアさんのマッサージを受けると――んんんっ――

 明日に疲れが――はぅっ――残ら、ないんです――あぁああ――」

 

 視線が定まらず、間違いなく意識が朦朧としている状態でそんなことを言われても、説得力は皆無である。

 ヴィルの不審な目に気付いたのか、エルミアが弁解する。

 

「いやいや、私、マッサージには本当に自信があるんだってば。

 攻撃魔法の次くらいに。

 だいたい、この子が貴方のハードトレーニングに着いていけたのは、誰のおかげだと思ってるの?」

 

「……だったら普通にマッサージしろよ」

 

 そう突っ込むのが精一杯だった。

 あんまりにもアレな光景を見せつけられて、どっと疲れてしまったのだ。

 

「まあまあ。

 ほら、これでこの子も準備万端なわけだし?

 約束通り、3Pしましょう」

 

「しましょうってお前」

 

 ジト目で睨むが、暖簾に腕押し。

 エルミアはベッドに横たわるイーファに話しかけだす。

 

「イーファさんも、したいですよね?

 ヴィルも交えて――3人で、気持ちいいことを」

 

 ツツツ――と聖女は女生徒の股間に指を這わせていった。

 途端に、イーファはビクビクと肢体を揺らす。

 

「あっ!――あぁああっ!――はい、アタシ――ん、んんっ――先生と、気持ち良くなりたいです――」

 

「――ほら、イーファもこう言ってる」

 

 再びこちらを向いたエルミアは見事なドヤ顔を決めていた。

 

「どう見てもお前が言わせてるだろ!?」

 

「でも、この子が貴方とセックスしたがってるのは本当でしょ。

 今日も、色んなとこ(・・・・・)でヤってたみたいだし?」

 

「うっ!?」

 

 それを言われると何も言えなくなってしまう。

 何故彼女が知っているのか気になるところだが、ヴィルとて厳重に周囲を注意していたわけでもない。

 

「私とイーファが“知らない仲”じゃないのだって見れば分かるわよね。

 3人でスルのに、何の問題はないってこと」

 

「―――む、むむぅ」

 

 呻くヴィル。

 しかし彼の股間は、本人の意思とは無関係にこの状況へ反応し出していた。

 可愛い教え子が巨乳を丸出しにし、愛しの恋人が乱交を誘っているのだ。

 どれだけ強靭な精神であっても、ぐらついてしまう。

 その時。

 

(――んん?)

 

 ヴィルの頭に、ある閃きが訪れた。

 

「……ひょっとして。

 ここ数日イーファの様子がおかしかったのはお前のせいか?」

 

「ぎくっ!?」

 

 エルミアはとても分かりやすかった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ジロッと睨む。

 今度は、暖簾に腕押しとはいかなかった。

 エルミアはこちらに目を合わせようとしない。

 

「……なるほど、そうか」

 

 ここ数日の疑問が氷解する。

 何故、イーファは会って間もない自分にああも熱を上げていたのか。

 何故、処女である彼女がああも容易く身体を許してしまったのか。

 

 ――全て、この性女が暗躍していたからだったのだ。

 

 ヴィルの視線に堪えられなくなったか、エルミアは喚き出す。

 

「べ、別にいいじゃないっ!

 無理やり何かしたわけじゃないんだし!?

 ヴィルだって、いい思いしたでしょ!?

 こんな抜群スタイルの子を抱けたんだから、寧ろ私に感謝して欲しいくらい―――」

 

「――エルミア」

 

 開き直った彼女の台詞に割り込む。

 青年は鋭い双眸でエルミアの姿を見据えると、

 

「お仕置きだ」

 

「え」

 

 そう言うと、ヴィルは彼女を抱き寄せ、部屋の机の上へと押し倒した。

 

「あ、ちょ、ちょっと――」

 

 突然のことにエルミアは抵抗しようとするが、彼我の戦力差は圧倒的である。

 成す術も無く、裸に剥かれていく。

 程なくして、美乳・美尻という形容がぴったりな、均整の取れた肢体が露わになる。

 いつもであれば、その美しさに見惚れてしまうところだが――

 

「な、なぁんだー。

 結局、ヴィルってば私とヤりたいんじゃない。

 こ、こういう乱暴なのも、け、結構、好きかなー?」

 

 エルミアが減らず口を叩いてくるが、その態度に余裕はなかった。

 こちらが本気(・・)なのを感じ取っているのだろう。

 ヴィルは至近距離で彼女の瞳を覗き込み、こう告げた。

 

「――“震撃”を解禁する。

 徹底的にヤってやるからな」

 

「嘘ぉッ!?」

 

 素っ頓狂な叫びを上げるエルミア。

 流石の彼女も、あの“技”は堪えるようだ。

 

「じょ、冗談きついってば!

 アレ、本気で洒落にならないんだって!!

 ね、ねぇ、待って、ヴィル!?

 お願い、話を――」

 

 弁解のチャンスなど与えず。

 ヴィルは、勃起したイチモツをエルミアの“中”へとぶち込んでやった。

 “超振動”が、彼女の膣奥に、子宮に、炸裂する。

 

「――おひぃいいいいいいいいいっ!!!!!!?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 ……この日。

 学院で策謀を張り巡らせていた黒幕は、とうとう討伐された。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑫ “魔女”選考

 

 翌日の昼過ぎ。

 

「やぁあああああっ!」

 

 グラウンドに、少女の雄叫びが響く。

 

「てりゃっ!」

 

 貫き手。

 木製の的を容易く打ち抜く。

 

「せいっ!」

 

 回し蹴り。

 藁束を切り裂いた。

 

「えぃやっ!!」

 

 正拳突き。

 背丈程もある岩が砕け散る。

 

 その光景を見届けてから、ヴィルはその少女へと声をかけた。

 

「うむ、まあまあだな。

 よくやった、イーファ」

 

「はい、先生っ!」

 

 にこやかに微笑む女生徒。

 自分の出した“成果”にご満悦の様だ。

 青年もそれは同じで、この短期間によくぞここまで成長したものだと感心している。

 

 そんな彼へ、話しかけてくる女性が一人。

 

「え? いや、あの?

 ちょ、ちょっと、お待ち下さい?」

 

「どうしたんだ?」

 

 ヴィルはそちらへ――昨夜から今日の昼まで昏睡していた(・・・・・・)エルミアの方へ振り向く。

 泡を噴いて倒れていた割に元気な彼女は、疑問符を浮かべたまま、

 

「今の動きは、何なのでしょうか?」

 

「何って、明日で最終日だろう?

 期限を前にしたお披露目というか、最終調整というか……まあ、そんなところだ」

 

「いや、私がお聞きしたいのはそういうことでは無くてですね……」

 

 他にも人がいるからだろう、聖女モードのエルミアはイーファの方へ手をかざしつつ、

 

「イーファさんは、魔法使いでしたよね?」

 

「そうだが?」

 

「――先程は、素手で直接攻撃していたように見受けられましたが」

 

「……うん、それはだな」

 

 青年は少し視線を反らす。

 

「色々考えてみたんだが、やはり霊属性一本では魔法のバリエーションが余り無くて。

 結局、霊属性のみで行使できる身体能力上昇効果の魔法と治癒魔法に特化した練習をさせたんだ」

 

「……そうなのですか」

 

 霊属性は、あくまで命に根差すエネルギーを生み出すことしかできないのだ。

 そのエネルギーを応用するためには、他の属性が必須。

 霊属性しか持たないイーファには無理な相談である。

 ならば、霊属性単体での使い方――生命力の強化――に限定して技術を熟練させようとしたわけだ。

 

「格闘を覚えさせたのも、霊属性を極める一環だ。

 如何せん、エネルギーを“飛ばす”こと“込める”こともできないから、魔法の効果範囲は手で接触できる相手のみ。

 となれば、徒手空拳で戦うのが一番効率が良い。

 一緒に戦う前衛への補助も容易だからな」

 

 補足しておくと、霊属性による身体強化や治癒は、あくまで人が本来持つ力を強化する形で行われる。

 そのため、人が持ちえない能力(空を飛ぶ等)を付与することはできないし、自然治癒が絶対不可能な致命傷にも効果が無い。

 一方で、霊属性による強化は他の属性に比べると人体への負荷が少ないというメリットもある。

 

「……学院の生徒なわけですから、敢えて戦闘前提の鍛え方をしなくても良かったのでは?

 あの動きはもう武闘家のソレですよね。

 もう少し、こう、やり様があったような――」

 

 まだ納得のいっていない様子のエルミア。

 しかし、

 

「まあまあ、聖女殿。

 ヴィル殿にも考えがあってやったことなのじゃよ」

 

 そこへ、同じく見学へ来ていた学長――エゴールが割って入った。

 

「聖女殿の気持ちも分かるんじゃが、イーファを鍛える目的の一つとして“魔女”の選考会があるからのぅ。

 実際に“魔女”へ選別されるかどうかはともかく、“勇者の一団”となる可能性がある以上、戦いを見据えた訓練となるのも仕方がないじゃろう」

 

「それは――そうかもしれませんけれど」

 

 そもそも、エルミアとて攻撃魔法――それも広範囲殲滅系の魔法しか使えないという、スタンダードな“聖女”からは大きく外れた能力をしているのだ。

 イーファに対して、彼女はとやかく言える立場では無いだろう。

 寧ろ、前衛に立てて、かつ治癒魔法も得意とする今のイーファは、エルミアとの相性が抜群とも言える。

 

 ――恋人(エルミア)が少しでも楽になるよう、彼女を基準としてイーファを育ててしまったのはヴィルだけの秘密だ。

 

「……私としては、あの少女がいつの間にここまで強くなったのかという点も気になるところではあります」

 

 ぼそっとエルミアが、ヴィルへ呟いた。

 

「イーファとは今日を含めてもう6日間も付きっきりでトレーニングさせたんだぞ?

 アレ位のことはできるようになるさ」

 

「……ずっとイチャついてただけでしたよね?」

 

「い、いや!?

 いやいやいや、そんなことは無いぞぉ!?」

 

 聖女なエルミアに“そのこと”へ触れられ、しかも軽く睨まれてしまったので大分焦る。

 だが、しっかりとイーファへ指導していたのは間違いないのだ。

 朝から日が暮れるまでみっちり特訓していたのである。

 ――イチャついていたのも事実なのだけれども。

 

 動悸が上がってきたところへ、

 

「……イチャつくと?」

 

 学長にまで聞きとがめられた。

 

「何でもない!!

 何でもないんだ、エゴール!!

 それはあとでしっかり話す――じゃなくて、今は気にしなくていい!!」

 

「ふむ?

 左様ですか」

 

 必死の形相が効いたのか、エゴールはあっさり流してくれた。

 ほっとするヴィルだが――気を抜きすぎたのか、老人が彼の死角でにやりと笑った(・・・・・・・)ことに気付くことができなかった。

 

「えー……それで、“魔女”の選考会は明日だったな。

 確か、実技を披露するとか?」

 

「うむ、候補者を集め、“対戦形式”でトーナメントを開いてのぅ、それで最終選考を行う予定ですじゃ。

 これまでイーファを才能無しとして扱ってきた連中が、今のあの子を見たらどう反応するか、今から楽しみだわい!」

 

「――おい、かなり悪い顔してるぞ」

 

「おおっと、これは失礼。

 まあ、儂にも今の今まで積もってきたモノがあるのでしてな」

 

 しれっと言い放つ学長。

 実の孫を無能と見做され続けていたのだから、表に出していないだけで腸煮えくり返っていたのかもしれない。

 

(まあ、そこまで酷い扱いはされていないようにも思うが)

 

 ヴィルが交流を持ったこの学院の教師達は、イーファに才能は無いと思い込んではいたが、彼女の教育を放棄してはいなかった。

 魔法の才が無いなら無いで、今後どんな道を進んでいくのが良いか、真剣に考えていたのだ。

 だからこそイーファは魔法使いへの道を諦めながらも、(若干ヤケクソ気味ではあったが)前向きに学院生活を送れていたのだろう。

 

 ――もっとも、青年が会ったのは学長派の教師だけなので、派閥の違う教師からの扱いは違ったかもしれない。

 

 ヴィルがそんなことを考えている横で、エルミアがエゴールに質問を投げる。

 

「イーファさん、“魔女”に選ばれますでしょうか?」

 

「……正直な話、それは厳しかろう。

 これまで何度も行った選考を明日だけで覆すのは些か無理がある。

 選考会で優勝でもすれば話は変わるじゃろうが――今のイーファにはちと荷が重い」

 

「……なるほど」

 

 神妙に頷く聖女。

 ヴィルもほぼ(・・)同意見だ。

 

 ――しかし。

 

(まだ、分からんぞ)

 

 期待感もある。

 イーファは(教えた自分が言うのもなんだが)一般的な(・・・・)魔法使いからは大きくかけ離れている。

 それの良し悪しは横に置いておくとして、スタンダートから外れるということは、その分対抗策も取られ辛いということ。

 “選考会での優勝”というのも夢物語ではない。

 少なくともヴィルは、そう考えている。

 

 

 

 

 

 

 そして、選考会当日。

 学院にあるグラウンドの一つを改装し、思ったより立派な会場が設営されていた。

 やはり“魔女”の選考とあって、学院中から教師や生徒が見物に来ている。

 なかなかの盛況っぷりだ。

 

 ヴィルは会場の中でも、特別席的なところへ通されていた。

 学長の隣で選考会を見守ることになる。

 

「おや、意外と参加者少ないんだな」

 

 配られたトーナメント表を見て、率直な感想を述べる。

 “賢者の学院”の生徒数は数千人の規模であるのに対し、表に記載されている人物は10人程度であった。

 

「選考を重ねてきた結果じゃの」

 

「……今更だが、よくここまで残れたな、イーファは」

 

 “魔女”というからには女性に限定されるのであろうが、仮に生徒の半数が女性であったとしてもかなりの倍率のはずだ。

 幾ら学長の孫というコネがあるにしても、魔法の才能が無いとされていた彼女がここまで選考に残れていたというのは、考えてみれば不思議である。

 

「“魔女”の選考と言っても、見られるのは魔法の才だけではないからの」

 

「ほう、彼女の勤勉さが評価されたということか」

 

 イーファは、ヴィルが考案したトレーニングを1週間とはいえ最後までやりきった。

 かつて部下の半数が逃亡を企てたこともある(一人たりとも逃がしてはいないが)トレーニングに、だ。

 その真面目さは、十分評価に値するだろう。

 

 派閥争いだ知識の独占だと、きな臭い話ばかり聞かされていたが、流石に見るべきところはしっかり見ているということか。

 

「いや、評価されたのは美貌じゃな。

 ほれ、“賢者の学院”代表として世間の目に触れるわけじゃから、相応に見目が良くないと。

 今日集まった見物人の大半は、学院の綺麗どころが一堂に会するのを見たいという連中じゃし」

 

「……すまん。

 なんか俺、急にこの選考会の重要性について疑問が浮かび始めた」

 

 

 

 そんな一幕も挟みつつ、トーナメントは開始する。

 順調に試合は消化されていき――

 

 

 

 「う、嘘だろ」

 

 「まさか、そんな――」

 

 「彼女が優勝するだなんて――」

 

 会場がざわついていた。

 見物客にとって余りに意外な人物が優勝したためだ。

 

 「えー、今回の“魔女”選考トーナメントの優勝者は――」

 

 アナウンスが――彼も動揺で口が震えていた――その“人物”の名を告げる。

 

 

 「――特別参加の、“聖女”エルミア様ですっ!!」

 

 

「お前が優勝してどうするっ!!!?」

 

 ヴィルの絶叫は、会場のドヨメキにかき消された。

 

 

 

「というか、何時の間に参加登録していたんだ?

いや、それ以前の問題としてあいつを参加させちゃ駄目だろう!?」

 

「いや、是非にと頼まれて、ついつい許可してしまったんじゃがの。

 まさか優勝してしまうとは――」

 

「エゴール――お前の仕業だったか」

 

 青年と老人のやり取りをしり目に、会場の真ん中に設置された試合場――否、()試合場ではエルミアの勝利者インタビューが始まっていた。

 ――“元”とついたのは、エルミアの攻撃魔法で試合場が吹き飛んだからだ。

 ちなみに、このインタビューも優勝者が外部の人間、それも“聖女”であるエルミアだからこそ、急遽催されたものだそうで。

 

 「皆さん、この度は学院の生徒ではない私をこのような場に出場させて頂き、ありがとうございました」

 

 エルミアが話し始めると、会場から歓声が上がる。

 思っていたより、学院の生徒たちはミーハーであるらしい。

 

 「ここ数日、学院に滞在させて頂いたことも、その間に様々な知識を教授頂いたことも、感謝に堪えません。

  気さくに学院をご案内して下さった方々にも、心からのお礼を」

 

 再度の歓声。

 “エルミア様”或いは“聖女様”のコールが湧き上がる。

 特に男連中は彼女へ熱い視線を送っていた。

 ……ヴィルとしては心穏やかでいられない。

 

 だがその熱気は、

 

 「――それらの有難さを重々承知しつつ、苦言を述べさせて頂きます。

  どうして学院の部外者である私が、このような場所(・・・・・・・)に立つことができたのか、ということを」

 

 この一言でかき消えた。

 会場がしん、と静まり返る。

 

 「この選考会には“賢者の学院”の中でも選抜された優秀な方々が集められたと聞きます」

 

 顔も選考理由に入っていたらしいけれども。

 

 「では何故、そんな方々の差し置いて私が優勝できてしまったのでしょう。

  そのことを“深刻さ”を、皆様に理解して頂きたいのです」

 

 教師達の中で、幾人かが顔を顰める。

 思い当たる節があるのだろう。

 

 「この原因は、技術を学院全体で共有していないことにあります。

  一人一人は素晴らしい技術と知識をお持ちでありながら、それを一部の集団でのみ秘匿したため、この学院全体での技術進歩を妨げてしまった。

  故に、教会でしか魔法を学んだことのない私に遅れを取ることになったのです」

 

 会場に再びどよめきが起こる。

 この選考トーナメントで優勝を飾る程の卓越した魔法技術が、“教会で身に着けたモノ”だと断言されたからだ。

 それはとりもなおさず、“賢者の学院”の技術が“教会”に後塵を拝したことに他ならない。

 ――実際のところ、エルミアは大分偏った魔法の学び方をしているので、一概に“教会”が“学院”に勝ったとは言い難いが。

 

「……今の台詞、儂が言おうと思っとったんじゃがのぅ」

 

 隣でしょんぼりとエゴール学長が呟いていた。

 しかしそんなものがエルミアに届くはずもなく、彼女はさらに言葉を続ける。

 

 「そして皆様に、注目して頂きたい人がおります。

  この選考会に参加していたイーファ・カシジャスさんです」

 

 エルミアは、参加者席にいるイーファの方へ手を向ける。

 群衆の目が少女に集中した。

 

 「彼女がこの“学院”で魔法の才能が無いと見做されていたことを、知っている方は多いことでしょう。

  しかし、今日の選考会で彼女は優勝こそ逃したものの、素晴らしい魔法を操っていました」

 

 会場に集まった人々からは“確かに”や“上手く魔法を使ってた”等の同意の声が上がる。

 中には“あんな戦い方魔法使いじゃない”という言葉も聞こえてきたが、少数だ。

 

 「ここ数日、“帝国”で魔法を学んでいたこともある私の守護騎士ヴィルのもとで、イーファさんが魔法を学んでいたことを聞き及んでいる方も多いかと思います。

  しかし、それは彼女が魔法を身に着けたことの一因でしかありません。

  イーファさんは、ヴィルの課した大変厳しい訓練を弱音を吐かずやりきりました。

  そして、まだこの学院で知る者のいない技術を習得するに至ったのです」

 

 エルミアはここで、会場中を仰ぎ見る。

 自然、人々の目は再度彼女へと集まった。

 

 「イーファさんの技術はまだ未熟かもしれません。

  しかし、私は彼女の真摯な勤勉さを評価して頂きたく願います。

  ――皆様、如何でしょうか?」

 

 反論する者は、誰もいないのを見て。

 ヴィルは、色々と突っ込みを入れたい気持ちを、ぐっと飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「……どうしてこうなった」

 

 今日は、学院を出立する日。

 学院の入り口に立ったヴィルは、ただ茫然とそう呟く。

 

「ヴィル殿、孫をよろしくお願いしますじゃ」

 

 深々とお辞儀してくるエゴール学長。

 その横では、ニコニコ顔のイーファが居る。

 

「これからもよろしくお願いします、ヴィル先生。

 アタシ、立派な“魔女”になれるよう、頑張りますから!」

 

「――ああ。

 そうだな、一度引き受けた以上、最後まで面倒を見よう」

 

 観念してそう返す。

 

 選考会の後。

 エルミアの演説が効いたのか、はたまたエゴールが根回ししたのか分からないが、とにもかくにも“魔女”にはイーファが選ばれる運びとなった。

 ただ、まだ“魔女”に相応しい技術は身につけられていないということで、その教育を再びヴィルは依頼されたのだ。

 “魔女”に選ばれた以上イーファも王都へ出向かねばならず、ヴィル達と同行するのはそういう意味でも丁度良いという判断だった。

 

「“学院”の上層部はもっと頭が固いと思ったんだがな。

 よく、教会の人間に“魔女”の教育を任せるなんて判断できたものだ」

 

「……ヴィル殿の正体を明かしたら全会一致で承認されたんじゃがのぅ」

 

「ん? エゴール、今何か言ったか?」

 

「いやいや、何も言っておらんよ?」

 

 明らかに何かを誤魔化しているようだったが、それに言及する気力は今のヴィルに無かった。

 何故ならば。

 

「ではヴィル殿、改めてイーファを頼みます。

 ……曾孫は、3人くらい欲しいのぅ」

 

「…………ああ」

 

 ニヤニヤと笑う老人の顔を見て、つい仏頂面になってしまう。

 

 要するに、バレたのだ。

 イーファとアレコレしたことが。

 いや、ヤってしまった以上ヴィルも責任逃れをするつもりは無かったものの、やはり気まずいものは気まずかった。

 エゴールが2人の仲を快く了承してくれたのが、救いと言えば救いか。

 

 そこへ、準備の終えたエルミアも現れる。

 彼女は学長へと一礼し、

 

「エゴール学長、今回は大変良くお世話頂き、本当にありがとうございました」

 

「おお、聖女殿。

 こちらこそ、貴女にはお礼を言いたい。

 聖女殿の演説に感じ入った者がなかなか多いようでの。

 儂の仕事が、大分楽になってな」

 

「それは良かったです。

 ……それで、“例の件”ですけれど」

 

「……分かっとる分かっとる。

 ……エルミア殿が第一夫人、イーファが第二夫人。

 ……そういうことじゃな?」

 

「……ええ、今後もご助力お願いいたします」

 

「……うむ、孫のためならこのエゴール、一肌でも二肌でも脱ぐ所存じゃ」

 

 ぼそぼそと何やら会話している2人。

 

(そういえばエゴールの持つ魔法書を何冊か貰えるという話だったな。

 そのことについて相談でもしているのか?)

 

 そう考えて、ヴィルは軽く流した。

 一方でエルミアは、イーファの方へと話しかけ、

 

「イーファさん、不思議な縁となりましたね。

 王都までの旅、そして“勇者の一団”一員として、よろしくお願いいたします」

 

「――エルミアさん。

 はい、こちらこそよろしくお願いします。

 あの、攻撃魔法まで扱える“聖女”様に、アタシがどれだけ役に立てるか不安ですけれど」

 

「いえいえ。

 貴女の治癒魔法や強化魔法には期待しておりますから」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 にこやかに笑いかけるエルミアに、やはり笑顔で答えるイーファ。

 

(そりゃ、お前は攻撃魔法以外使えないからな)

 

 裏事情を知るヴィルとしては、少々複雑な気持ちではある。

 イーファが自分と相性が良いから“魔女”になれるよう仕向けたのではないかと勘ぐってしまう程だ。

 

「……マッサージも、毎日して差し上げますよ」

 

「……あ」

 

 ――決して、イーファの身体目当てだとかそういうことではない、はずだ。

 そう信じたい。

 信じていいかな。

 駄目かな。

 

(駄目かも)

 

 今日からの旅は、夜が忙しくなるかもしれない。

 それはそれで、男として喜ばしいことではあるのだが。

 

 何はともあれ。

 

「そろそろ出発するぞ、2人とも」

 

「ええ」

 

「はいっ」

 

 エルミアとイーファに呼びかけ、ヴィルは学院を後にする。

 

(……今度こそ、エルミアが寄り道をしませんように)

 

 そんな儚い願いと共に。

 

 

 

 第6話 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 壁尻
① かべじり?


 

 ブライェド大洞窟。

 今から遥か昔。

 魔王が魔物の王として世界に君臨していた頃の時代。

 この世界に初めて現れた“勇者”が、魔王城へと向かうために潜り抜けた、最大のダンジョンとして知られる。

 魔王もまた勇者を迎え撃つために魔物の大群をこの洞窟へ配置したため、勇者は死闘を余儀なくされたという。

 

「――それが、ココですよ!!」

 

 ビシッという音が聞こえてきそうな程見事なポーズで洞窟の入り口を指さすのは、赤髪を肩まで伸ばした美少女――イーファ。

 ポーズを決めた際、その大きな胸がプルンと揺れたのだが、ヴィルは指摘することを我慢する。

 

 イーファは学園を出立してから旅装束に着替えていた。

 前に出て戦うことを想定したのだろう、今の彼女は動きやすいスパッツ姿だ。

 全く持って“魔女”らしくない格好だったが、イーファの特性を考えれば妥当なものでもある。

 ただ、妙に下半身に張り付きすぎているせいで、お尻とか色々と分かりやすく(・・・・・・)なっていた。

 

(注意しておいた方がいいのだろうか?)

 

 はしたない装いとなってしまっていることを指摘すべきか、ヴィルは悩んだ。

 過度な露出があるわけでも無く、また本人も自分の服装を気にしていないので、今時の女性にとってはこれ位許容範囲なのかもしれない。

 だとすると、寧ろ自分が変な目で見ているだけな可能性も捨てきれず……

 

 ちょっとした葛藤をする青年の耳に、別の女性の声が入った。

 もう一人の旅の同行者、銀髪の聖女エルミアだ。

 

「ここが、かの有名な……」

 

 彼女はイーファの隣で感嘆の息を吐いていた。

 こちらも当然制服姿は辞め、白を基色としたシスター服を着ている。

 全体的に見ておかしいところは無いはずなのだが、所々身体のラインがモロに出る作り。

 

(……まあ、エルミアだからなぁ)

 

 彼女に関しては、平常運転なので気にしない。

 寧ろ、真面目な顔をして洞窟を見つめている方が意外である。

 いくらエルミアといっても、勇者ゆかりの場所には思う所あるのだろうか。

 

「凄いですよね、先生!

 ここでかつての勇者は魔王軍と激闘を交わしたとか!

 初代四天王との因縁もその戦いで生まれたそうですよ!」

 

「ほほぅ」

 

 興奮気味に、イーファ。

 意外にもこの少女、勇者オタク――もとい、勇者に対して造詣が深いらしい。

 学園に居た時には見なかった顔だ。

 

 ちなみにイーファはまだヴィルのことを先生と呼んでいる。

 普通に呼んでほしいと頼んでみたものの、今更変えるのは難しいとのことだったので、そのままなのだった。

 

「さあ、では向かいましょうっ!!

 初代勇者が巡った冒険の一端を垣間見に!!」

 

「そうだな」

 

 返事をしてヴィルはブライェド大洞窟の入口へ――その入り口のすぐ横にある、旅人用の迂回通路(・・・・・・・・)へと脚を運ばせるのであった。

 ブライェド大洞窟はとにかく内部が広大で入り組んでおり、移動手段として用いるには余りにも不便なのだ。

 そのため、王国は大規模な工事でトンネルを掘って、通行手段を確保したのである。

 実際、街道を歩く他の旅人達は皆そちらの通行用トンネルへ向かっていた。

 

「ってちょっと待って下さいよ!?」

 

 そんなヴィルを、慌ててイーファが止めてくる。

 

「ここまで来たんですよ!?

 なんで迂回しようなんて判断が下せるんですか!?」

 

「そうは言ってもな」

 

 頭を振りながら、ヴィルは答える。

 

「この大洞窟を通るのは流石に時間がかかり過ぎるだろう。

 迂回路を使えば今日中に山の向こうへ抜けられるが、こっちを使えば1日以上余分に時間を消費する。

 ずっと暗い洞窟の中を移動しなけりゃならないし、確実に洞窟の中で野営する嵌めにもなる。

 特別急いでいるわけでもないが、面倒は少ない方がいいんじゃないか?」

 

「だ、だって、初代勇者の軌跡が体験できるんですよ!

 王国が軍を上げて魔物を駆逐したおかげで、中は安全って話ですし!

 勇者の一団メンバーとして、この洞窟は避けちゃいけないと思う訳ですよ!」

 

「しかしなぁ……」

 

 渋る青年に、別方向から声をかける。

 

「良いではないですか、ヴィル」

 

「エルミア?」

 

 イーファに助け船を出したのは意外なことにエルミアだった。

 

(こいつの性格からして、大洞窟を使うのは嫌がると思ったんだが……)

 

 そんなヴィルの予想に反して、彼女はブライェド大洞窟を通ることに賛成のようで。

 

「イーファの言う通り、私達は“勇者の一団”なのですから。

 過去に学べる機会をむざむざ取り逃すことは無いと思うのです」

 

「……むぅ。

 まあ、そういうものか」

 

 別段、ヴィルとしてはどちらを通っても問題はないのだ。

 エルミアもイーファも大洞窟のルートにしたいと言うのであれば、強硬に主張するつもりもない。

 青年は少女達の意向に従い、ブライェド大洞窟へと向かうことにした。

 

「……先生って、なんかエルミアさんに甘いですよね」

 

 後ろから、呆れたようなイーファの声。

 ――否定しきれないところはある。

 

 

 

 

 

 

「ほほー……はへー……」

 

 暗い通路に、イーファの声が響く。

 彼女は洞窟のあっちこっちを興味深く眺めながら歩いている。

 

(それほど物珍しい洞窟でもないんだがなぁ)

 

 過去に何があったかはともかく、少なくとも現在の見かけ自体はよくある洞窟に過ぎない。

 もっとも、今目を輝かせている少女にとってはその限りでないようだ。

 

(まあ、かなり歩きやすくはあるな。

 流石、国が主導して工事しただけある)

 

 ヴィルはヴィルで、王国の土木整備技術について評価していた。

 いや、この程度であれば帝国でも十分可能だが、この工事をしたのは相当な大昔。

 その時点でこれだけの工事が行えたことは、十分に驚嘆すべきことである。

 

「かなり入り組んだ作りになってるのねー」

 

 ぽつりとエルミアが呟く。

 人目が無くなったからなのか、いつの間にか口調が性女になっている。

 同行者2人とも、それを気にしない程度には慣れているが。

 

 ヴィルは彼女の台詞に反応し、

 

「そりゃそうだろう、勇者を阻むための迷宮なんだから」

 

 先程から、上っては下りて、下りては上り、右に行ったり左に行ったりぐるぐる回ったり。

 実は、かなり忙しなく動いている。

 

 イーファはニコニコと笑って、

 

「このブライェド大洞窟完全攻略ガイドブックが無ければ、道に迷ってたかもですねー」

 

「何故君がそんなものを持っていたのか謎なのだが」

 

 訝しむヴィル。

 実際、その本に大分助けられてはいるのだが。

 

「王国が発行してるんですよ。

 学院の購買部でも売ってます」

 

「……そうだったのか」

 

 そういうところで、工事にかかった費用を少しでも回収しているのかもしれない。

 そんなやりとりの一方でエルミアは眉を顰め、

 

「でもこの調子じゃ到着に時間かかりそうね」

 

「到着?」

 

 やや不自然な言葉がヴィルの耳に入る。

 

「うん。

 ヴィル、知らないの?

 このブライェド大洞窟の奥で、今壁尻が大流行してるのよ」

 

「カベジリ?」

 

 聞きなれない単語だった。

 

「あれ、知らない?」

 

「聞いたことも無いな」

 

「珍しいわね、ヴィルにも知らないことってあるんだ」

 

「そりゃあるだろう」

 

 自分が博識であるという驕りを持っているつもりは無い。

 

「アタシも知らないですねー」

 

 この会話が耳に入ったのだろう、イーファも加わってきた。

 

「イーファもなの?」

 

「はい」

 

「ふーん、思ったより知名度無いのかしら?」

 

 思案顔なエルミア。

 しかしその直後、何かを思いついたのか表情を明るくさせる。

 

「じゃあ、百聞は一見に如かず。

 実際に見てみましょう」

 

「そんな簡単に見れるものなのか?」

 

「魔物とかじゃないですよねー?」

 

 訝しむヴィルとイーファを先導して、エルミアは洞窟を歩いていく。

 しばしすると、彼女が唐突に声を上げた。

 

「あ、あった!」

 

 エルミアの指したのは、壁だった。

 いや、正確には壁に空いた“穴”。

 彼女はそこに駆け寄ると、穴のサイズを入念に確かめだす。

 

「うん、丁度いい大きさね。

 ちょっとイーファ、ここ、潜ってくれない?」

 

「え?」

 

 急に話を振られ、戸惑った様子のイーファ。

 

「でもエルミアさん、この穴を通らなくてもすぐそこの角を曲がれば向こう側へ行けそうですよ?」

 

 彼女の言う通り、壁の向こう側には少し回り込めばすぐにたどり着ける。

 いちいちこの穴を使う必要はないのだが……

 

「ここを潜ることに意味があんのよ!

 ほらっ! 壁尻の意味を知りたいんでしょ、ブツクサ言わない!」

 

「は、はぁ……ってエルミアさん、押さないで!

 やりますっ! 自分でやりますから!

 痛いですよー!」

 

 煮え切らない態度のイーファをエルミアが後ろから押し、無理やり穴へと追い込む。

 

(まあ、特に危険は無さそうだし、いいか)

 

 ヴィルはと言えば、そんな2人の対して傍観を決め込む。

 そうこうしている内に――

 

「ふむ、こんなもんね」

 

「……うぅぅぅ」

 

 ――赤髪の少女は穴へ押し込められていた。

 上半身は穴の向こう側。

 下半身はこちら側だ。

 

「あ、あのー、エルミアさん?

 この穴、結構きつくって……身動き、とれないんですけど」

 

「そりゃそうよ、そういう穴を探したんだから」

 

 確かに、彼女の腰は穴にすっぽり嵌っていた。

 

(……イーファはまあ、なんというか、スタイルがかなりいいからなぁ)

 

 少女の大きなお尻が災いしたようである。

 スパッツに覆われた丸い巨尻が壁から生えている様は、実のところかなりソソル。

 ちなみにおっぱいの方も相当なものなのだが、そこはエルミアが強引に押し通したようだ。

 

「ねえ、ヴィル。

 壁尻のこと、分かってくれた?」

 

「そうだな、なんとなくは」

 

 つまるところ、ギリギリで通れそうな穴へと無理に入り込み、下半身がつっかえてしまうアクシデントのことを壁尻と呼称するのであろう。

 ちょっと人には見せたくない、恥ずかしく間抜けな失敗なだけに、敢えて専用の名称がつけられたというところか。

 

「せ、先生ー。

 見てないで、そろそろ助けてほしいんですけど……」

 

 壁の向こうから弱々しいイーファの声。

 ヴィルはそれに応じ、

 

「ああ、悪かったな。

 今、穴から出してやる」

 

「ちょっと!!」

 

 イーファを救出しようとしたところで、エルミアが待ったをかけた。

 彼女は不機嫌そうな顔をして、

 

「全然分かってないんじゃない!」

 

「え、何がだ?」

 

「壁尻のことよ!!」

 

「それは分かってる。

 冒険者が陥りがちな失態のことを壁尻と称しているのだろう?」

 

「ち・が・う・わ・よ!!」

 

 違うらしい。

 しかし、だとすれば何なのか。

 

 こちらが要領を得ないことを見かねて、エルミアは大きくため息をついてから、

 

「あーもう。

 見てなさい、これが壁尻よ!」

 

 つかつかと、イーファの――正確にはイーファの下半身へと近づく。

 そして――

 

「さて、と♪」

 

 ――何の躊躇も無く、穴に引っかかっている尻の、その股の間へと手を差し入れる。

 

 

「へ? ちょっ? え?

 あ、そこ、は――あぁあああああああああっ!!?」

 

 

 洞窟に、イーファの甘美な声が響き渡った。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② KABEJIRI(H)

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!」

 

 ヴィルの耳に、洞窟内に反響した嬌声が滑り込む。

 エルミアの“責め”は時間が経つと共に激しさを増していた。

 

「あら、どうしたのイーファ?

 貴女のおまんこ、もうこんなにびしょ濡れよ?」

 

「そ、それは、エルミアさん、が――」

 

「ちょっと触っただけじゃない。

 それでこれだけ濡れるんだから――もう、エッチな子♪」

 

「ひぁ、はぁああああああんっ!?」

 

 エルミアの細い指が、イーファの陰核をなぞっている。

 聖女――もとい性女が指を小さく動かせる度に、魔女の下半身がビクッビクッと揺れた。

 尻を包むスパッツは、股間部分が愛液で濡れている。

 そして先程から聞こえる、壁の向こうからすら響いてしまう切ない喘ぎ声。

 顔こそ分からないが、イーファがどうしよくもなく感じてしまっている(・・・・・・・・・)ことは明らかだった。

 

「ふふふ、しかも貴女、スパッツの下に何も着けてないじゃない。

 本当はずっとこうされたかったんでしょ?」

 

「あっあっあっあっあっ!?

 ち、ちが、い、ますっ――あの、このスパッツ生地が薄いから――ん、んんんぅううっ!!

 パンツ履くと、ラインが見えちゃって――あぁああああああんっ!!」

 

 クチュクチュと愛液の鳴る音が、ヴィルの所にまで聞こえてる。

 肉感のあるお尻がプルプルと揺れた。

 

「はーい、ご開帳♪」

 

「あっ!?」

 

 とうとうエルミアは、スパッツをずり下ろしてしまった。

 イーファの瑞々しい肌、もちもちとした尻肉が露わになってしまう。

 股間の艶めかしい花弁からは、汁が一筋、二筋垂れている。

 

「じゃ、一度軽くイっておきましょうか」

 

「え、え、え――はぁあああああああんっ!!?」

 

 無造作に指を膣へと挿し込む性女。

 女性器を弄られる少女の脚がガクガクと震える。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あああああっ!!?」

 

「そう、ここがいいのね、イーファ?

 すぐにイカせてあげるわね」

 

「いひぃいいいいいいっ!!!?」

 

 くっと指をさらに奥へ挿れるエルミア。

 その途端、

 

「あっあっあっあっあっ!!?

 あぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」

 

 イーファの股間から、ぷしゃぁっと液体が噴出する。

 潮を吹いたのだ。

 同時に彼女の下半身から力が抜けたようにも見える。

 絶頂に達したのだ。

 ……エルミアの言った、『軽くイク』とは程遠い有様だが。

 

「あっ――はっ――あっあっ――あっ――」

 

 壁に嵌った下半身が細かく痙攣している。

 未だイーファは押し寄せる快楽の余韻に浸っているようだ。

 

 そんな彼女を満足そうに見ていたエルミアは、こちらへ振り返ってニコリと笑い、

 

「どう? 分かってくれた?

 これが壁尻ってやつよ」

 

「……まあ、大よそのところは」

 

 壁に嵌って身動きがとれなくなった相手を、色々と(・・・)弄ってしまう――それが、壁尻というもののようだった。

 断じて聖女が口にして良い言葉ではないはずだが、エルミアだから仕方ない。

 

「もう今更お前にこんなことするなとか言わないけれども。

 せめてやるならやると言ってやれ。

 イーファ、まだ痙攣が治まってないぞ」

 

 諦め顔で告げる。

 

「あはは、ちょっと興が乗っちゃった♪」

 

 対してエルミアはてへっと舌を出して笑顔を作った。

 可愛い。

 直前の行動さえなければ、抱きしめたくなる衝動に駆られる程だ。

 

 一方、イーファの丸出しになったお尻は未だ震えていた。

 愛液も雫となって女性器から落ちている。

 まだ気をやってしまっている最中なのだろう。

 

「……そういえば、壁尻が目当てとか言っていたな」

 

 エルミアに近づきながら、ヴィル。

 確かに、そんなことを言っていた。

 “こんなもの”だとは知らなかったため、その時は軽く流したが――

 

「ええ、そうよ。

 この洞窟にはね、全国の壁尻愛好家が集まるの。

 壁尻ファンの聖地なんだって。

 前にソレ系の本で読んだことあるのよ」

 

「……そうか」

 

 歩きながら、俯いて頭を振る。

 

「君の症状がそこまで進んでいたとは――

 次に大きな街へ行った時は、病院に行こう」

 

「え? ちょっとヴィル、何言ってんのよ♪

 期待してるのは分かるけど、まだ私、貴方の子供を孕んで無いわよ?」

 

 何故か顔を赤くして、クネクネと身体をくねらせるエルミア。

 

「はっはっは。

 いや、行くのは頭の病院だからな?」

 

「やだ、ヴィルってば。

 冗談が上手―――――んんっ!?」

 

 十分にエルミアへ近づいたので――唇を奪った。

 少女は流石に慌て、

 

「ちょ、ちょっと、ヴィル!?」

 

「目の前であんなことされたら――」

 

 腰に手を回し、一気に引き寄せる。

 エルミアと密着し、その肢体の柔らかさを全身で感じ取る。

 

「――俺だって我慢できなくなる」

 

「……ああ」

 

 合点言ったようで、少女は微笑みを浮かべた。

 彼女の手が、こちらの股間に伸びてくる。

 

「本当、ガチガチに勃起しちゃってるのね」

 

「当たり前だ」

 

 美しい女性二人が、すぐ目の前であんな風に乱れていて、それで興奮しない男などいたら見てみたい。

 当然、ヴィルの股間もはち切れんばかりにいきり立っていた。

 

「ここで、するぞ。

 いいな?」

 

「勿論――って言いたいところなんだけど」

 

 そこでエルミアは視線をすぐ傍らのイーファへ移す。

 

「今回は、彼女としてあげたら?」

 

「なんだ、やりたくないのか?」

 

「まさか。

 ヴィル相手だったら、いつだってOKよ。

 なんなら、旅の間中ずっと繋がっていたいくらい。

 今だって私のあそこ、湿っちゃってるんだから」

 

 言うと、少女はスカートを捲って純白のショーツを見せつけてきた。

 彼女の愛液で濡れそぼったショーツを。

 

「でもほら、イーファには無理させちゃったし。

 それに、もう私以上にできあがっちゃってるもの」

 

 エルミアはすっと手を伸ばし、イーファの股間を触る。

 

「あ、あぁああああ――」

 

 ただそれだけの行為で、壁尻となった少女は甘い息を漏らした。

 性女は手を動かしながら、

 

「ねえ、イーファもそうでしょう?

 ヴィルのちんぽ、ハメらてたいわよね?」

 

「あ、ひっ――は、はい、して欲しい、です――ん、んんっ――

 先生の、おちんぽで――ん、あ――種付け、されたいですっ!」

 

 壁の向こうの声は、喘ぎながらもはっきりとそう言った。

 

「……そうか」

 

 ここまでお膳立てされて、答えないわけにはいかない。

 ヴィルはズボンから固くそり立ったイチモツを取り出すと、壁から生える下半身の、その股間へと添える。

 

「あ、ああっ♪」

 

 嬉しそうな声と共に、大きな尻がプルンと跳ねた。

 あちらも心待ちにしているようだ。

 

(俺も我慢の限界だからな――)

 

 じらすのもじらされるのも今のヴィルには不可能。

 青年は丸々とした尻肉をがしっと鷲掴みにする。

 

(――相変わらず、柔らかい)

 

 その柔軟さを堪能するのもそこそこに、自らの剛直を一気に膣口へと押し挿れた。

 

「お、ほっ!!

 あひゃぁああああああっ!!!」

 

 絶叫が木霊した。

 

 愚息は暖かい感触に包まれ、その先端にはコリコリとした感触――子宮口か。

 つまり膣の奥にまで侵入を果たしたことになる。

 

「……動くぞ、イーファ!」

 

 言うが早いか、ヴィルはピストン運動を始める。

 彼の腰と少女の尻がぶつかる音が辺りに響き、

 

「あひっ!! あっ!! あっ!! ああっ!! あぅううっ!!」

 

 しかしその音をかき消す勢いで、イーファが艶声をあげた。

 腰を突き入れ、引き抜く度に、少女の膣肉はイチモツに絡み、それを絞り上げていく。

 その蠢動が堪らない快感をヴィルへ与えた。

 つい数日前まで処女だった彼女は、立派な雌の肉体へと変貌を始めている。

 

「あっ!! あんっ!! あんっ!! あふっ!! ああっ!!」

 

 淫らな声が青年の鼓膜を叩く。

 それに気を良くしてさらに動きを激しくする。

 

「ああっ!! あぅううっ!! あひ、あひぃいいっ!!」

 

 激しくすればするほど、声もまた大きく色の帯びたものとなった。

 少女の股間からビチャビチャと愛液が垂れ落ちる。

 液はヴィルのズボンにもかかり、腰の周りがほんのりと暖かくなっていく。

 

 ――と、その時はたと気付いた。

 

(む。これは――なかなか、いいものかもしれない?)

 

 この壁尻という行為。

 相手は拘束されて動けないため、かなりの支配感(・・・)がある。

 どれだけ強く腰を打ち付けようと、女は逃げることができないのだ。

 

「んひぃいいいいいいいっ!!!

 あっあっあっあっあっ!!!

 んぁああああああああああっ!!!」

 

 ただ、男の成すがままである。

 そして、顔。

 上半身は壁の向こうにあるのだから、こちらから相手がどんな表情をしているのか分からない。

 

(だが、それがまた――)

 

 妄想を膨らませた。

 どんな表情をしているのか。

 どれだけヨガっているのか。

 それを想像するのが、思いのほか楽しい。

 妄想が、男をより滾らせてくれる。

 

「あぁぁああああああああっ!!!

 先生っ!! 先生っ!!

 アタシ、イってますっ!!

 さっきから――ずっと――イってるんですっ!!!

 もうっ!!! もうっ!!!

 ああああぁあああああああああああああああっ!!!!」

 

 こんな悲鳴も、イメージを形作るいいアクセントだ。

 ヴィルは、イーファの膣がまるでひきつけでも起こした(・・・・・・・・・・)かのように強く固く締まってきていることの意味に気付かず。

 ただ、快楽を貪った。

 

(――ん?)

 

 だがそんな状態でも分かることがあった。

 膣内にあるコリコリとした箇所――子宮口が、ついさっきより広くなっている(・・・・・・・)

 これはつまり――

 

「イーファ!

 子宮口が、開いてきたぞ!

 このまま、中に突っ込むぞ!」

 

「――っ!?

 待って!! 待って下さいっ!!

 ――あっあっあっあっあっああっ!!

 ちょっと待って!!

 今そんなことされたら、アタシ、アタシ――!!?」

 

 何やらイーファの下半身が動きを見せたが、壁に嵌っているせいで大した意味は無かった。

 ヴィルは勢いにまかせて剛直を深く深く突き入れ――

 

「―――――――――おっ!?!!!?」

 

 ――子宮の中にまで、亀頭を挿入させるのだった。

 

「――――おっ!!?

 ――おっおっおっおっ!!!?

 んぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!?」

 

 けたたましい雄叫びが洞窟内に反響する。

 まるで正気を失ったかのようだ。

 そしてイーファの声が切り替わった途端、女性器の締め付けがより一層強くなる。

 

(ぐっ!!

 もう、イキそうだ――!!)

 

 最早ギチギチに固まった膣肉を掻き分けながら、ヴィルは限界を自覚する。

 “そこ”へ至るため、ラストスパートに入った。

 

「よし、出すぞ、イーファ!

 お前の子宮へ、直接注いでやる!!」

 

「おおぉおおおおおおっ!!

 おっ!! おおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 声をかけても、まともな返答は貰えなかった。

 イーファはもう、ただ喘ぎ、ただ精液を注がれるだけの存在に成り果てている。

 

「――ぐっ、出るっ!!」

 

 宣言と共に、ヴィルは精液を解放した。

 ドクドクと、少女の膣――否、子宮内に精子が流れ込んでいく。

 

「おおぉぉおぉおおおおおおおおおおおおお――――!!!?!!?」

 

 一際高い嬌声――いや、叫びか?――を吐き出すイーファ。

 

「おっ――おおっ――おっ――お――――」

 

 その声が途絶えた時。

 少女の肢体からは力が消え、

 

「……おや?」

 

 ヴィルが剛直を引き抜くと、その弛緩した身体はだらしなく垂れ下がった。

 ……壁に嵌っているおかげで、倒れこそしなかったものの。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ カベジリ♪(H)

 

 

 

 仄暗い洞窟に、2人(・・)の足音が響いていた。

 一人はヴィルで、もう一人はエルミアだ。

 イーファはというと――

 

「ほへぇぇぇぇぇ……しぇんしぇー、しぇんしぇー……

 もっといっぱい、おちんぽハメハメしてくだしゃいー……」

 

 ――完全にイった(・・・)顔で、ぶつぶつと言葉を呟いていた。

 当然、自分の足ではとても歩くことのできない状態なので、ヴィルが背負っている。

 

「――これ、当分戻ってこれないわね」

 

 青年の背でアヘる少女を見ながら、エルミアが呟く。

 彼女の言う通り、かれこれ一時間以上、イーファはこの有様(・・・・)だった。

 

「流石の天然鬼畜っぷりね。

 少し前に男を知ったばかりの子を、ここまでヤっちゃうなんて」

 

「……天然鬼畜とか言わないで欲しい」

 

 訂正のしようが無いので、せめて自分の要望だけ口にした。

 この聖女と会ってそれなりに経つが、どんどん自分のそっち方面(・・・・・)への理性が薄くなってきている気がする。

 気を付けないと、また同じようなことをやらかしそうだ。

 

「まあでも、別にいいんじゃない?

 イーファももう、ヴィルのじゃなきゃ満足できない身体になっただろうし。

 この調子で色んな女の子を堕としていって、目指すは大ハーレムよ!」

 

「……煽るのは止めてくれ」

 

「――そうなっても、ヴィルは私を愛して下さいますか?」

 

「いきなり口調も変えないでくれ。

 あと俺はお前一筋なんだからな?

 勝手に愛の多い男にするな」

 

「ふふ、ありがと♪

 でもヴィルくらいの男なら、もっと気軽に手を出しちゃっていいのよ?

 少しは相手(・・)してあげないと、世の女の子が悲しむわ」

 

「はいはい」

 

 お世辞(?)を適当に受け流す。

 そのまま雑談交じりにしばらく歩いていると、

 

「……そろそろのはずなんだけど。

 どこで壁尻をしてるのかしら?」

 

「まだそんな与太話してるのか」

 

 呆れてため息を吐く。

 壁尻については先ほど知ったばかりであるが、とてもではないがそんなことを敢えて自分からする人間がいるとは思えない。

 ましてや、そんな人間が複数集まる、など。

 しかしエルミアは真剣な様子で辺りを見回している。

 

「うーん、おかしいわね?」

 

「一応指摘しておくが、おかしいのは君の頭だからな?」

 

 真剣に、医者に診せることを検討せねばならないかもしれない。

 

(この辺りでそれなりに大きい街はどこだったか……)

 

 ヴィルが思案し出した、その時。

 

「あ、居た!」

 

「なに!?」

 

 エルミアが嬉々とした顔である方向を指さした。

 見れば、屈めば入れる程度の小さな横穴が。

 

「えぇえぇぇぇぇえええええ―――」

 

 ヴィルは空いた口が塞がらなかった。

 その横穴の一番奥。

 一見行き止まりに思えるその壁には、尻があった(・・・・・)

 間違いなく、人の尻だ。

 黒タイツと白いショーツに覆われた小ぶりな尻が、顔を覗かせている。

 それはイーファの時のように下半身が穴につっかえているという様子ではなく――

 

(――穴から、尻だけ出している?)

 

 そうとしか表現できない。

 小さな穴に尻だけ突っ込まれているのであろう、そんな状況。

 ただヴィルは、別のところにも驚く。

 

「……しかし、よくあんなの見つけたもんだ」

 

 ランタンや魔法の<光>で照らしているとはいえ、それでも洞窟は暗く。

 しかも細い横穴の最奥なのだ。

 発見する難易度は相当高かったはず。

 実際、ヴィルですら指示されるまで気づかなかったほどである。

 言われて悪い気はしなかったのだろう、少女は胸を張ると、

 

「まあね、私もこの道のプロ目指してるから。

 見るべき場所はちゃんと分かってるってわけよ」

 

「何のプロだ」

 

 彼女はいったいどこを目指しているのか。

 確か、初めて会った頃は聖女を名乗っていたはずだが。

 

「でもプロ志望な私から言わせて貰えば、あの子はまだまだね。

 こんな見つかりにくい場所で、お尻を少し出すだけだなんて。

 しかもタイツまで履いてるわ。

 お尻を晒す気恥ずかしさを少しでも和らげたかったんでしょう。

 断言してもいいけれど、彼女は初心者――今日が壁尻デビューくらいの子じゃないかしら」

 

「うん、解説ありがとう、病院行け」

 

 青年の忠告にも少女はどこ吹く風。

 てくてくと横穴の中へ入っていく。

 

「お、おい、どうするつもりだ!?」

 

「どうするもナニも、壁尻を見つけたのだから相応の処理(・・)をしてあげないと。

 これはマナーの問題よ」

 

「何のマナーなんだ……」

 

 最早止める気力は無い。

 そもそも相手だってこんなこと(・・・・・)やってる人なのだ。

 エルミアにナニをされても、そう問題はあるまい――そう思い込むことにした。

 

「さぁて、と。

 ふんふん――あら、なかなかいい感じのお尻じゃない♪

 小さいけど形はばっちり、ハリもなかなかのようだし。

 うーん、このおまんこの閉じ具合、さては処女かな?」

 

 エルミアがぺたぺたと壁の尻を触り出す、と――

 

「――――っ」

 

 尻の持ち主が息を飲む気配がした。

 だが、自分が置かれている状況が分かってなお、その持ち主は壁尻を止めない。

 ……覚悟はできているということか。

 

「それじゃ、イってみましょうか」

 

 言うが早いか、性女は相手の股間をか細い指で撫で始めた。

 

「――っ――――っ」

 

 尻が震え始めるのが分かる。

 エルミアの責めに早くも感じ入ってるのか。

 

「ふふふふ、壁尻しててずっと興奮しっぱなしだったんでしょ?

 あっという間にこんな濡れちゃうんだから」

 

 彼女の指摘通り、既にショーツはぐしょぐしょだった。

 

「――ふっ―――ん、はっ――」

 

 壁の向こうから、息遣いまで聞こえてくる。

 そして、“その時”は思いのほかすぐに来た。

 

「――んっ!―――んっんぅうっ!!」

 

 荒い呼吸と共に、股から零れた愛液が岩壁を伝う。

 それを見たエルミアはにっこりと笑い、

 

「思いっきりイったようね。

 さ、これに味を占めて(・・・・・)、これからも壁尻を頑張っていってね♪」

 

「――――っ♪」

 

 その言葉を肯定するかのように、小さなお尻がぷるんっと震えた。

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、今度はそう来たわけね」

 

 さらに洞窟を進んでいると、エルミアがまた嬉しそうな声をあげる。

 ヴィルはげんなりしながら、

 

「……また見つけたのか」

 

「ええ、アソコ見て」

 

 嬉々として()を指さす少女。

 そちらを見やれば――

 

「あー、こういうのも壁尻っていうのか?」

 

「確かに“壁”ではないけどね。

 似たようなもんなんだからいいんじゃない?」

 

 ――天井(・・)に、尻があった。

 おそらく、上の階層と繋がる穴が開いていた場所なのだろう。

 そこに、尻がすぽっと嵌っていた。

 

「これは――中級者ってとこね。

 しっかり人通りがありつつも、見つけ辛い場所に尻を置いている。

 しかもここは天井が高いから、発見されても手を出されにくい。

 でも履いているのは紐パンで、結構際どいデザインなところを鑑みるに――見られたいけれど、見知らぬ人に弄られるのには抵抗があるってことかしら。

 ここでさらに大っぴらに尻を曝すことができるかどうかが上級者との壁よ」

 

「……へー」

 

 納得はできないが議論する気もさらさらないので、適当に相槌を打つ。

 と、エルミアはどこからともなく“長い棒”を取り出してきた。

 

「ちょっと待て。

 それ、何だ?」

 

「何って、錫杖よ。

 僧侶の必須アイテムでしょ」

 

「そんなの持ってたのか」

 

「聖女を任命された時に、装備一式貰ってたの。

 この杖もその時のものよ」

 

 なるほど、確かに聖女が持つに相応しい神々しさを持つ杖だった。

 それでいて飾りは最小限に留まっており、スマートに高級さが醸し出されている。

 

「……なんとなく察してはいるが聞かせてくれ。

 お前は、それで何をしようとしている?」

 

「そりゃ勿論ナニよ。

 この杖、あの尻を弄るにはちょうどいい長さじゃない?」

 

「……聖女専用装備なのに?

 教会直々の支給品なのに?」

 

「別にいいでしょ、今は私のなんだし」

 

「……えー」

 

 いいのか。

 いや、いいわけが無い。

 いいわけが無いが、説得したところでどうにもならない気しかしない。

 

 

 

 そんなわけで。

 

「――ふっ――ん、あ――はぁあああああ――」

 

 十数分後、そこには錫杖で股間を突かれ、悶える尻があった。

 既にショーツは濡れに濡れ、時折愛液が滴り落ちている。

 エルミアはその様子に微笑みながら、

 

「もう何回かイったはずなのに、まだ満足できないのね。

 いいわ、これ以上ないって程、イカせてあげる」

 

 そう言ったところで、杖をぐりっと秘部へ抉り込んだ。

 

「――っっ!! ――あふっ――んふぅぅぅぅぅううう――――!!!」

 

 これまでにない程の痙攣っぷりを見せる尻。

 次の瞬間、天井からプシャァアアと愛液が降り注ぐ(・・・・)

 

「ふふ、綺麗なシャワーね♪」

 

 その淫らな液がかかりながらも満足げに頷く彼女を見て。

 ついていけない――と思いながらも、同時に“美しい”と感じてしまい。

 自らの感性に疑問を持ってしまうヴィルであった。

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

「――ん?」

 

「あ、ヴィルも見つけたの?」

 

「……見つけたくなかったなぁ」

 

「んー、でも残念。

 アレは男の尻ね」

 

「え」

 

「綺麗にムダ毛を剃ってあるし、形も女の子してるけど、股間の割れ目までは作れなかったみたいね。

 大方、女の子だと勘違いする男共を罠に嵌めようとしてるんじゃない?」

 

「……なおさら、見つけたくなかったなぁ」

 

 そんな小ネタも挟みつつ。

 

 

 

 

 

 

 とうとうヴィル達は“大物”に遭遇するのだった。

 

「うわぁ……」

 

 その有様に、ヴィルはげんなりとした声を出し。

 

「こ、これはかなりの上級者ね」

 

 エルミアですら、息を飲んだ。

 

 その“尻”は、壁から下半身ごと生えていた。

 典型的な壁尻だが、問題はその場所。

 なんと洞窟の本道で壁尻しているのだ。

 つまり、この洞窟を通る者ならば誰もがこの尻を見ることになる。

 その上――

 

(――思いっきり股を開いてるな)

 

 その下半身は、ウェルカムとばかりに大股開きになっていたのだ。

 実に“挿入”しやすそうに。

 ヴィルの視線もついつい釘付けになってしまう。

 

 それだけではない。

 

「色々用意してるわね……」

 

 呆然とエルミアが呟く。

 その下半身のすぐ傍らには、おそらく本人が用意したのであろう、様々な“器具”が置かれていた。

 はっきりと言ってしまえば、大小さまざまなバイブだ。

 ここまで来れば、いっそ清々しい。

 

(しかも、割とそそられる形してるんだよな……)

 

 これだけの変態っぷりを見せつけながら、その尻は単体でも魅力のあるものであった。

 まずでかい。

 イーファのそれを超える大きさだ。

 それでいて形崩れは見せておらず、綺麗な曲線を描いている。

 むしゃぶりつきたくなるようなデカ尻だった。

 

 そんな尻が、レース製の黒ショーツでデコレーションされている。

 大人の色気が凄いことになっていた。

 その上、既に濡れている。

 辺りに雌の匂いをまき散らす程、ショーツの股間はびっしょりと愛液塗れ。

 おかげで生地が張り付き、女性器の形が浮き彫りになっていた。

 

 眺めるだけで、股間が熱くなってくる。

 それはエルミアも同じのようで、顔を紅潮させていた。

 

「……どうやら、私達が第一発見者みたいね」

 

 確かに彼女の言う通り、“尻”に弄られた形跡はない。

 この洞窟を通る人の少なさ故か、それとも壁尻が始まったのがつい先ほどだったからなのか。

 理由は分からないが――

 

「うーん、凄いラッキー♪」

 

 ――そんなものは、この性女に関係なかったらしい。

 エルミアは手をワキワキとさせながら、その豊満な下半身へ近づいていく。

 

「……やっぱり手を出すのか」

 

 今更どうこう言っても仕方ないのだが、ヴィルは様式美としてツッコミを入れておいた。

 

「当たり前でしょ、コレに手を出さず、ナニに手を出すっていうのよ。

 ふふふふふ、腕が鳴るわ……!」

 

 

 

 ……ややあって。

 

「んほぉおおおおおおっ!――お、おほぉおおおおおおっ!!」

 

 当然の結果として、壁から伸びた下半身は盛大にヨガっていた。

 尻穴と女性器にそれぞれ一本ずつのバイブを挿し込まれ、同時に責め立てられている。

 

「二つの穴でこんなに感じちゃうだなんて、相当な変態さんね♪」

 

 そして満面の笑みを浮かべ、2本のバイブを操るエルミア。

 時に優しく、時に激しくバイブを抜き差しし、女体を絶頂へ導いていた。

 

「おほ、おほぉおおおおおっ!! んんっ!! んぁああああああああっ!!!」

 

 嬌声が響く、盛大に響く。

 どうやら向こうとこちらを隔てる壁はかなり薄いようだ。

 

(……誰か来やしないだろうな)

 

 人に見られたら、この状況をどう説明すればいいのだろう。

 どう上手く言い繕っても、醜聞は免れまい。

 エルミアが聖女だとバレでもしたら、国家規模の信用問題になるのではなかろうか。

 

 ヴィルは内心冷や冷やしながらも、

 

(しかし、エロいなコレは)

 

 男の本能からは逃れられなかった。

 エロい。

 どうしようもなく煽情的だ。

 

「んふっ!! んふぅうううっ!!

 おっおっおっおっおほぉおおおおおっ!!!」

 

 巨尻はその柔肉をプルプルと官能的に揺らしている。

 股間の花弁は雌汁の洪水だ。

 地面には愛液の水たまりまでできる始末。

 

「おほ、おほ、おほ、おほ、おほっ!!!

 こっ!! かっ!! あぁあああああああああああっ!!!」

 

 喘ぎ声もまた、雄を勃起させる。

 この状況でもし壁尻している女性が他の男に犯されたとしても、それは自業自得なのではないかと思ってしまう。

 それだけ、蠱惑の空間が造られているのだ。

 

「さーて、それじゃ、仕上げといきましょう」

 

 その空間を作り出している主犯である性女が、一旦手を止めた。

 何をするのかと思えば、地面におかれた最も太い(・・・・)バイブを拾い上げる。

 側面には割と鋭めなイボまで無数に生えた、凶悪な形状のバイブだ。

 ヴィルは慌てて、

 

「お、おい、ソレを使う気か!?」

 

「勿論よ!

 用意されてた位なんだから、この人も使われたいんでしょ、このブツを!!」

 

 こんなイキ狂ってる人にそんな極太バイブを使って大丈夫なのか。

 頭おかしくなるのではないか、と考えつつも。

 

(ま、まあ、既に頭おかしいといえば頭おかしいし……?)

 

 これだけの真似してる相手には無用な心配かと思い直す。

 最早事態はヴィルの理解を遥かに超えているのだから。

 

「コレで最後――イクわよ♪」

 

 制止の声が無いのをいいことに、エルミアは凶悪バイブを相手の膣口へと――()()()()()()()()()()()()()()()膣口へと添え。

 渾身の力を込めて、ソレを押し込んだ(・・・・・)

 

「ええええええっ!?」

 

 ヴィルが驚きの声を上げたのと、

 

「おぼぁぁあああああああああああああああああああああっっ!!?!!!?!?」

 

 まるで断末魔のような絶叫が辺りに木霊したのは、同時であった。

 

「おぼっ!!? おぼっ!!? んぶっ!!? えげっ!!?

 おごっ!!? ぼっあがぁああああああああああああああああっ!!!!!?」

 

 嬌声とは呼べない雄叫びと共に下半身が暴れる。

 通常のバイブとイボ付き極太バイブを同時に挿入されたのだ。

 そうなるのも無理はない。

 

 だが、

 

「あぁああああっ!! ああぁぁぁあああああああああっ!!!

 あぁあああああああああああああああああああっ!!!!!!

 ―――――――――――あ」

 

 程なくして、声が途切れた。

 完全に意識がぶっ飛んだのだろう。

 

 壁に嵌った下半身から完全に力が抜ける。

 ジョボジョボと、愛液と尿の混じった液体が滝のように流れ落ちた。

 

「お、おい、いくら何でもやり過ぎだろう!?」

 

 堪らず、ヴィルは非難の声を浴びせるも、

 

「そう?

 ヴィルの“震撃”に比べれば、まだまだ大したこと無いと思うんだけど」

 

「え、そうなの!?」

 

 驚愕の事実発覚。

 こんなトンデモナイ責めを“あの技”は上回っていたのか。

 いやしかしエルミアとはまだここまで無茶なプレイをしてないので、単に彼女がふかしているだけの可能性もある。

 

(いや、そうに違いない。

 いくらなんだって、コレ(・・)より酷いとか――)

 

 彼がそう自己弁護の思考に走っていると、

 

「あっ」

 

 エルミアが不意に声を上げた。

 

「どうしたんだ――って!?」

 

 すぐに何が起こったか把握する。

 壁尻していた女性の“上半身”が、穴からずるずると抜け出てきたのだ。

 肢体から力が抜けきったのが原因だろう。

 最初からそれ程しっかりとは嵌っていなかった可能性もある。

 

「あー、相手の顔を見るのは本来マナー違反なんだけど」

 

「……放置するわけにはいかないだろう」

 

 困った顔をするエルミアを窘める。

 場合によっては手当も必要かもしれない。

 確かに相手にとっても自分達に顔など見られたくないだろうが――

 

「…………あへぇ」

 

 ――2人が短いやり取りをする間に、件の女性の頭が穴から現れた。

 その顔を見て、

 

「えっ」

 

「うそっ」

 

 ヴィルとエルミアは同時に声を出す。

 完全に白目を剥いたその女性は、見知った人物だったのだ。

 

「「……セリーヌさん?」」

 

 2人はやはり同じタイミングで、その女性の名を零した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ か・べ・じ・り!※

 

「……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわね」

 

「いや本当に」

 

 弁護など不可能だった。

 しおらしくするその“女性”に、ヴィルはややジトっとした視線を送る。

 

 彼女は、名をセリーヌという。

 以前、ヴィルとエルミアが一泊お世話になった家の未亡人だ。

 長く美しい黒髪に豊満な肢体を持つ、妙齢の美女。

 泊まった際になんやかんや色々アレコレあって、ヴィルとはナニしてしまった間柄でもある。

 今彼らの居るこのブライェド大洞窟は、彼女の家から大分離れた場所なのだが――

 

「まさか里帰りの最中だったとは」

 

「いつまでもあの家に閉じこもっている訳にもいかないと思いましたの」

 

 ヴィル達が発った後、思い立って実家へ戻ろうとしたらしい。

 この洞窟を抜けて少しの所に、故郷があるそうで。

 向かう先が当面同じということで、現在彼女はヴィル達と同行しているわけである。

 

「どうして便利な迂回通路を使わず、不便な洞窟の方を通ったのかは――聞くだけ野暮か」

 

「うふふ、うふふのふ。

 嫌ですわ、もう、ヴィルさんってば。

 あんまりはしたない過去を蒸し返さないで下さいませ」

 

 空笑いして誤魔化そうとする未亡人。

 さらに顔を赤らめると、

 

「それに、ヴィルさんも悪いんですわよ?

 あんなコト(・・・・・)されてしまったら、もう男無しには生きていけませんわ」

 

「……む」

 

 答えに窮してしまう。

 向こうから誘ってきたこととはいえ、ヴィルがそれに応えたのは事実であるし、責任を追及されると弱い。

 そんな彼を見かねて――というわけでもないのだろうが。

 

「でもすごい偶然ですよねー。

 この広い王国の中、しかもこんな洞窟で偶然知り合いに会えるだなんて」

 

 あっけらかんとした声で(つい先ほど正気に戻った)イーファが喋りかける。

 

「会い方に大分問題はあったがな」

 

「この人とも、先生は子作りしたんですよね?」

 

「イーファ、言葉は選びなさい」

 

 余人に聞かれたら正気を疑われそうな台詞をヴィルは慌てて窘める。

 単にまだこの少女が正気に戻っていなかっただけかもしれない。

 が、そこにセリーヌが乗っかってしまった。

 

「あらあら、ヴィルさんは(わたくし)を孕ませて下さるつもりでしたのね?

 でもごめんなさいね、あの一度だけでは身籠ることができませんでしたの。

 女として情けない限りですわ」

 

「冗談を真顔で言わないで欲しい――いや、冗談だよな?」

 

 そんな雑談をしながら歩を進める。

 もう洞窟に入ってから相当の時間が経った。

 恐らくだが、既に日が沈む刻限のはずだ。

 しかし出口はまだまだ先。

 そもそも1日で踏破できるような場所でなないのだ。

 代わりと言っては何だが――

 

「――どうやら、あれが休憩場所のようですね」

 

 エルミア(聖女ver.)の凛とした声。

 彼女の指さす方向には、ちょっとした部屋のような空間が広がっていた。

 中には小奇麗にされた簡易ベッドや毛布、テーブル等が並んでいる。

 奥の棚には水や保存食まで置いてあるようだ。

 

「――思いのほか色々揃っているな。

 下手すると街道の休憩所より整ってないか?」

 

「記念に洞窟を通る人も少なくないですからねー。

 ちゃんと手が行き届いてるってことなんじゃないかと」

 

 正しく記念のためだけにブライェド大洞窟に入ったイーファが言うと説得力が違う。

 なお、この洞窟にはこういった休憩場所が幾つか点在しているそうだ。

 

(その全てがこれだけ整備されているとすれば――王国はなかなかこの洞窟に拘りがあるようだな。

 “勇者”に対する思い入れは相当なわけか。

 部外者の俺には理解しにくいが)

 

 なんとはなしに裏事情を慮ってみる。

 そんな彼の横ではエルミアが周囲をキョロキョロと見渡していた。

 そして、一言。

 

私達以外誰もいない(・・・・・・・・・)ようですね(・・・・・)?」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 女性陣の目が、ギラリと光った。

 

 

 

 

 

 洞窟に入って二日目。

 順調にいけば今日中に出口へ到着する予定である。

 ヴィル一行は足取り軽く洞窟を進んで――

 

「はひぃ……はひぃ……お腹がぁ、まだずきずきいってますぅ……」

 

「一晩中、だなんて……は、う……まだ子宮に精液残ってますわぁ……」

 

 ――進んでいなかった。

 イーファとセリーヌが、恍惚とした顔で足元をふらつかせていた。

 自然、ヴィルとエルミアの歩調も二人に合わせることとなり、遅々として進まない。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「どう見ても大丈夫じゃなさそうよね」

 

 心配そうに声をかけるヴィルだが、エルミアから突っ込みを入れられる。

 

「なんていうか――ヴィルってば基本的に受け身なのに、いざ行為が始まると止まんなくなるのよね。

 治した方がいいんじゃない、それ?」

 

「……善処する」

 

 苦々しい声で答える。

 今までの人生でこれほどまで女性と交わることが無かったので気付かなかったのだが、どうにも自分はかなりの性豪であるらしい。

 負けず嫌いな性格も少なからず悪影響を及ぼしているかもしれない。

 

「――いやしかし、お前は平気なんだな?」

 

 エルミアとも彼女らと同じ位、いやそれ以上にヤりまくったのだ。

 しかしこの少女は平然と歩いている。

 

「そりゃ勿論。

 正妻の余裕ってやつよ。

 言っちゃ悪いけど、あの二人と一緒にして欲しくないわね」

 

「言葉の使い方を間違えているように思うが」

 

 と言いつつ、彼女に胸を張って正妻とか言われると嫌な気はしないヴィルであった。

 

「まあそれはそれとして、治すつもりなら私も手伝うわよ?

 どうせ犯し尽くしちゃうんだから、最初からすぐ手を出すべきなのよ。

 女性に会ったら即・挿・入、みたいな」

 

「ってそっちか!?」

 

 相談相手が悪かった。

 性女が穏便な手段を提示してくれるわけがなかったのだ。

 

「でも今のところ、旅で会った女性とは大体ヤってるじゃない?」

 

「いや、ほとんどの場合、原因はお前だろう!?」

 

 言い訳になってしまうが、これまで女性を抱いたのは全てエルミアのお膳立てあってのものだ。

 決してヴィルが好色だからなわけではない――と信じたい。

 

「それが駄目なの。

 いつも私が準備してあげられるわけじゃないのよ?

 ヴィルが自分だけの力で女の子を襲えるようにならないと」

 

「いや襲わないから」

 

「どうかしらねぇ?

 目の前にエッチな女の子が居て、果たして今の貴方に自制が利くかどうか――」

 

「き、利くに決まってるだろ!?」

 

 どもってしまったのは変なことを尋ねられたからであって、動揺したからではない(たぶん)。

 

「へー、じゃあ楽しみね、これからの旅。

 私が何もしなかったら、イーファやセリーヌさんへ昨日みたいな真似しないってことだものね?」

 

「ぬ、ぬぅぅ――」

 

 いやその二人は別枠だろうと言いたくなる気持ちをぐっと抑える。

 だが確実に誘惑してくるであろうイーファとセリーヌへ欲情を堪えられるのか……

 

「ほらぁ、だから我慢なんかしないで、楽しみましょうよ♪

 私がOK出してるんだから!」

 

「その奔放さは聖女としてというよりも女性としてどうなんだ……」

 

「ヴィルが絶倫超人のくせして奥手過ぎるのよ」

 

「奥手かなぁ……」

 

 好きな女性(エルミア)に対してはかなり積極的に動いているつもりなのだが。

 そんな話をしていると、エルミアはふとイーファ達二人を見て、

 

「まだ戻って来ないのね、二人とも」

 

「まあ最悪、俺が皆を抱えて走れば今日中に洞窟抜けられるだろ」

 

「……さらっと凄いことを」

 

 ここから出口までざっと計算しておよそ10kmちょっと。

 走れば30分もかからない(・・・・・・・・・)距離だ。

 

「もっとも、乗り心地(・・・・)は最悪だろうがな」

 

 無理やり3人担いで疾走するのだから、そこは仕方ない。

 だからこそ、これは最終手段である。

 

「そうならないように少しペース上げた方がいいかもね。

 流石に2日連続でここに泊まるのは少し嫌だし」

 

 言って、エルミアは呆けている二人へと近寄り、

 

「ほらほら、そろそろ正気に戻りなさい。

 この程度(・・・・)で根を上げてるようじゃ、これから先ヴィルと一緒に行けないわよ?

 少しは私を見習いなさい」

 

「別に俺との行為だけが原因じゃないと思うんだがなぁ」

 

 得意げな顔をしつつイーファとセリーヌを揺さぶる少女を、軽くたしなめる。

 彼女達がこうなってしまったのは、壁尻プレイのせいもあるだろう。

 しかしエルミアは、

 

「えー、あんなの序の口でしょう?

 これからもっと過激なのをしてくつもりなんだから、頑張って貰わないと」

 

 全く反省の素振りが無い。

 だが、ヴィルの方へと振り返っている彼女は気付かなかった。

 

「…………」

「…………」

 

 イーファとセリーヌが、怪しげな視線を少女へ送っているということに。

 そして二人はゆっくりとした動作でエルミアの腕を掴む。

 

「あ、あら? 実はもう正気に戻ってたりする?」

 

「…………」

「…………」

 

 少し慌てた顔になって聖女は二人に確認を取るが、彼女らはそれに応じない。

 代わりに、ヴィルへ向かって一つコクリと頷いた。

 ――合図だ。

 

「<岩障壁(ロックバリア)>」

 

「え?」

 

 ヴィルの唱えた魔法により見る見るうちに地面が――エルミアの足元(・・・・・・・)の地面が盛り上がり、壁を形成していく。

 

「え? え? え?」

 

 状況を理解できないエルミアの声。

 

 その“壁”はエルミアを飲み込んで(・・・・・)さらに大きく成長する。

 ちょうど腰の部分(・・・・)を抱え込むような形で“壁”は伸び――

 

「――――え?」

 

 通路を完全に塞いだところで“壁”の動きは止まった。

 今のエルミアは、腰を壁にがっちりとホールドされた――つまるところ、模範的な壁尻(・・・・・・)の姿勢。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 スカートに覆われた小ぶりで形の美しい臀部を見ながら、ヴィルはくつくつと笑う。

 

「くっくっく、いい格好になったな、エルミア」

 

「ヴぃ、ヴィル?

 これはどういうことなのでしょうか……?」

 

 慌てたせいか、口調が変わっている。

 おそらく、相当戸惑った顔をしていることだろう――ヴィルからは見えないが。

 

 <岩障壁>とは文字通り、岩石や土を使って防壁を築く魔法である。

 今回は応用して、エルミアを捉えるような形で壁を作ったのだ。

 何故そんなことをしたかと言えば――

 

「うふふ、うふふふふ」

 

「ふふふふーん」

 

「セリーヌさん? イーファ?

 どうしたのですか、そんなに怖い顔をして――」

 

 ――そう、これは“復讐”である。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 壁☆尻(H)※

 

 

 

 壁に嵌ったエルミアに、セリーヌとイーファが詰める。

 

「昨日の件について(わたくし)達に何かしら謝罪があれば、水に流して差し上げたのですが」

 

「“あれだけのこと”をしたんだから、覚悟できてますよねー、エルミアさん?」

 

「……あ、あの。

 お二人が何を言いたいのかは分かるのですが、しかしイーファはともかくとしてセリーヌさんは自業自得なのではないでしょうか?」

 

「二本挿しはいくら何でも想定外でしたわ!?」

 

 そういうことらしい。

 

「すいません、貴女達の気持ちはよく分かるのですが、少し落ち着いて下さい。

 自分でやってみて分かったのですが、こう、完全に身動きとれなくされてから色々されてしまうのは、かなり不安感がですね?」

 

「「問答無用!!」」

 

 壁の向こうで、イーファとセリーヌが動き出す気配がする。

 

「すいません、待って! 待って下さい、お二人とも!!

 服を脱がさないでっ!!」

 

「あらあら、形の良いおっぱいですこと」

 

「すごい……エルミアさんの乳首、綺麗な果実みたい」

 

「謝ります! 謝りますから――んんぅっ!?

 も、揉まないで下さ――あぅっ!? す、吸わないでぇっ!?」

 

 甘い声が響く。

 色々くんずほぐれつが始まったようだ。

 

(俺もそろそろやるか)

 

 目の前には、エルミアの可愛らしい下半身。

 ヴィルは彼女のスカートをひょい捲りあげる。

 すると、びちょびちょに濡れた純白のショーツが顔を覗かせた。

 股間に張り付いた生地は少女の女性器をくっきりつ浮かび上がらせる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「なんだ、もう準備万端じゃないか」

 

「ち、違います!

 これは、昨晩の行為が原因で――きょ、今日は朝からずっと、疼いていたんです!!」

 

 咄嗟に言い訳してくるが、いまいち弁解になっていないような気がする。

 

「つまり、今までやせ我慢していたわけか。

 二人には偉そうなことを言っておきながら」

 

「うっ――だ、だって仕方ないじゃありませんか!

 ヴィルが他の女性を抱くのはいいのですが、それはあくまで私が一番であることが前提で――ああぁんっ!?

 セリーヌさん!? 今、私はヴィルと話を――んんぅううっ!? イーファまでっ!?」

 

 二人に責められ、上手く言葉が紡げない模様。

 いつもは余り聞けない彼女の本音に嬉しくなってしまったのも事実だが、手を緩めるつもりもなかった。

 なにせこの壁尻、かなり興奮する。

 相手がどんな顔をしているか分からない――故に妄想が非常に捗る。

 ましてや嵌っているがエルミアとなればなおさらだ。

 

「よし」

 

 ショーツをずり下ろす。

 少女の、瑞々しい花弁が露わになった。

 まるで雄を欲しているかのようにひくひくと動いている。

 

「はぁあああ――ヴぃ、ヴィル?

 もう少し、待って下さ――あ、あ、あ、あ、あっ!?

 こ、呼吸を整えさせて――あぁああああっ!!」

 

 イーファとセリーヌがここぞとばかりに弄っているのだろう、エルミアの下半身は絶えずピクピクと震えている。

 その状況に、ヴィルは居てもたってもいられず――

 

「挿れるぞ」

 

「待っ――――あああぁぁぁああああっ!!!?」

 

 いきり立ったイチモツを、ずぶずぶと少女の中で押し入れていく。

 

(ふぅぅぅ、気持ちいい――)

 

 熱い触感が股間を包み込む。

 膣のヒダが肉棒に絡まり、ぎゅうぎゅうと締め付けてきた。

 これまでに幾度となく行ってきが、未だに飽きが来ない感触だ。

 

「あっ! あっ! あっ! ヴィルの、太い、のがっ!

 入ってく――ひぁあああああっ!!?

 乳首っ――乳首、吸っちゃっ――ああぁああああっ!!!」

 

 甲高いエルミアの嬌声が響く。

 壁の向こうでは執拗に乳首責めが続いているようだ。

 

「はぁぁああああああっ!!――あ、あ、あ、あ、あぁぁあああああっ!!!」

 

 艶声が発せられるのに合わせ、膣肉がヴィルの愚息を絞ってくる。

 その快感にしばし浸ってから、

 

(そろそろ動くか)

 

 ピストンを開始した。

 

「あっ! あっあっあっあっあっ!!

 奥っ――一番奥に入って――あっあっあっあっあっあぁあああっ!!!」

 

 激しく喘ぎ出すエルミア。

 その甘い響きが耳に心地よい。

 

(今、こいつはどんな顔してるんだろうな――)

 

 気持ち良さそうに蕩けているのか、快楽に悶えているのか、刺激に悶絶してるのか。

 壁で遮られて確認はできない。

 できないからこそ、興奮する。

 興奮するから、腰をもっと早く前後させた。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 んぁあああああああああっ!!!!」

 

 突けば突く程、色のある声を響かせるエルミア。

 

「……あらあら。

 涎をこんなに零してしまって。

 分かりますわ、気持ち良いんですのよね。

 頭が真っ白になるくらい、気持ち良い……」

 

「エルミアさん、すごい、エッチな感じ……」

 

 イーファとセリーヌが甘い溜息を吐くのが聞こえる。

 彼女らもまた、エルミアの乱れっぷりに感化されてしまったようだ。

 

「あぁぁあああああっ!!

 叩いてますっ!!

 ヴィルのおちんぽ、私の“奥”を叩いてっ―――んひぃいいいいいいいっ!!!」

 

 一方で秘部を貫かれる少女は周りのことなどお構いなく、ヨガり続けた。

 膣口からは透明な液体がびちゃびちゃと垂れ落ちてくる。

 イチモツは、痛さすら感じる程キツク絞められた。

 股間から駆け上る快感にヴィルが酔いしれていると――

 

「はぁっ――はぁっ――先生、あたしも――あたしも、されたい――」

 

「あぁああぁぁ――貫いてぇ――(わたくし)も貫いてぇ――」

 

 ――エルミアのものではない“水音”。

 淫らな空気にあてられた二人が、自慰しだしたのだろう。

 “昨日の仕返し”など、もう彼女らの頭から消え去ったに違いない。

 

(けど今は、エルミアだっ)

 

 終わったらイーファやセリーヌの相手をすることになるかもしれない。

 しかしヴィルは、そのための余力を残すつもりは毛頭なかった。

 ここで、この少女に自分の全てをぶちまけるつもりだ。

 

「あっ!! あっ!! ヴィルっ!!

 ああっ!! ヴィルぅっ!!!」

 

 自分の名が呼ばれる。

 エルミアもまたヴィルを求めている。

 それが堪らなく幸せだった。

 だから――

 

「エルミアっ!! “震撃”やるぞっ!!」

 

「え」

 

 ――あっさりと“最終兵器”の使用に踏み切ってしまった。

 

「あっあっあっあっあっあっ!! だ、駄目です、それは駄目っ!!!

 ああっ! あっ! ああぁああっ!!

 アレをやられると、本当に頭がおかしくなってしまって――!!」

 

「行くぞぉおおっ!!」

 

 嬌声をあげながらも慌てふためく少女を、さくっとスルー。

 ヴィルは腰を思い切り突き出し――亀頭が勢い余って、コリっとした入り口(子宮口)すら突き抜けた。

 

「おひぃいいっ!!?!!!?」

 

 一際高い、ひっくり返った声。

 子宮内にまで挿入された刺激によるものか。

 

 そして。

 正真正銘、女性の、雌の、最奥の場所(・・・・・)で己の奥義を解放した。

 

 

 

 ――――“震撃”

 

 

 

「――――――――――――――――っっ!!!!!!!!」

 

 声の無い悲鳴が辺りに轟く。

 

 

 

 

 

 

 明けて、次の日。

 

「……太陽が、黄色いです……」

 

「眩しい……眩しいですわ……」

 

「2日ぶりの空だからなぁ」

 

 グロッキー状態のイーファとセリーヌと共に、ヴィルはようやく洞窟を抜けた。

 結局というか、当然というか、あの後二人ともヤりだしてしまい、精根尽き果てるまでの大乱交に発展したのだ。

 壁尻していた女性すら参戦してきてしまい、最終的に今朝方まで続けてしまった。

 ――ヴィル達が居た場所は、今でも“雌の匂い”で充満していることだろう。

 

 ちなみに、ことの発端であるエルミアはというと。

 

「ふにゅうぅう――ヴィルぅ――もっとおちんぽ突っ込んでぇ――」

 

 まだ帰って来ていない(・・・・・・・・)

 ヴィルの背に負われたまま、だらしない顔を晒している。

 

「はあぁあああ――おちんぽぉ――あぁああああ――おちんぽぉ――」

 

 時折、股をこちらの身体に擦り付けてくる。

 

「……完全にダメダメになってますね、エルミアさん」

 

「まあ、今日の夕方頃には回復するだろう」

 

 だるそうな顔でエルミアを看るイーファへ、軽く応対する。

 彼女は顔をこちらへ向け、

 

「……ていうか、なんで先生はそんなに元気なんですか……?」

 

「鍛えているからな」

 

「……先生、パねぇ」

 

 がっくりと肩を落とし、その後大きなあくびをするイーファ。

 まだまだ疲れが抜けきっていない様子だ。

 そんな彼女を一先ず置いておいて、ヴィルはセリーヌに目をやる。

 

「さて、貴女の故郷はもうそう遠くはないんだったか?」

 

「……ええ。

 急げば2日もあれば着くはずですわ」

 

「今の俺達だと、3日はかかりそうだな」

 

「……はい」

 

 3人の疲労困憊っぷりを見るに、今日はもう然程動けないだろう。

 余分に時間がかるものと考えた方がいい。

 

「……それで、ヴィルさん?」

 

「ん?」

 

「……その、(わたくし)と同行して下さる間、また、お相手して下さるのですよね?」

 

 セリーヌが、こちらへしなだれかかりながらそんなことを言ってくる。

 ついでに柔らかい胸を押し付けてきたりもした。

 

「あれだけヤった後に、よくそんなこと言えるな」

 

「……うふふふ、女の幸せですもの♪」

 

 どれだけピンク脳をしているというのか。

 これはエルミアの性女っぷりに匹敵してしまうのでなかろうか。

 

「……先生、あたしも、あたしも一緒ですからねっ」

 

「疲れてるのに無理に動こうとするな、イーファ。

 大丈夫だ、別に除け者にしたりしないからっ」

 

「……え、えへへ」

 

 ヴィルへ抱き着きながら、嬉しそうに笑う魔女。

 本当に幸福を噛み締めていそうな顔だ。

 

 そんな二人を見渡し、青年は肩を竦める。

 

「――3日で、ちゃんと到着するのだろうか?」

 

 全ては、ヴィルの自制心にかかっているのかもしれなかった。

 空高く上った太陽に見つめられながら、彼らの旅はまだまだ続く。

 

 

 第7話 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 青少年のお悩み相談
① 相談受付


 

「あ、これ美味しいですね」

 

「ええ、ミルクの旨味を十二分に生かしています」

 

「素朴だが何度も食べたくなる味だ」

 

 イーファ、エルミア、ヴィル。

 3人揃っての朝食だった。

 場所は立派な屋敷の中。

 豪奢な造りのリビングで、一行はテーブルを囲んでいる。

 

 ここがどこかと言うならば――

 

「――でもセリーヌさん、こんな良いところで暮らしていたんですね」

 

「確かに、育ちは良さそうな人ではあった」

 

 ヴィルはイーファの言葉に一つ頷く。

 彼女の言う通り、この屋敷はセリーヌの生家だそうだ。

 この町一番の商人の一人娘だったとか。

 

 イーファは部屋の中を一度見回すと、

 

「立派な屋敷の生活を捨てて、何で辺鄙な田舎なんかに――」

 

「イーファ、そのようなことを言うものではありません。

 これまでの生活よりも優先したいと思えるほど、愛する相手をセリーヌさんは見つけたのですから」

 

 軽口をぴしゃりと窘めるエルミア。

 こういうところを見ると、どことなく聖女に見えなくもない感じがする。

 

「でも結局先生に乗り換え――」

 

「言葉が過ぎますよ」

 

 今日のイーファはなかなか攻めていた。

 何故だろうか。

 ……ひょっとしたら。

 この町に来るまでの間、セリーヌとはすぐ別れてしまうから、という理由で“夜の順番”が下げられたことが原因、かもしれない。

 ちなみに、1番はエルミアで不動である。

 

 それはさておき。

 ヴィル達は昨日から、セリーヌの実家へと厄介になっているのだった。

 ここまで送り届けてくれたお礼として、彼女の両親からも是非にと頼まれてのこと。

 おかげで豪勢な食事に有り付けたし、快適な休みも得られた。

 

(改めて感謝しておかないとな)

 

 そう思いながら、ヴィルはスープをひとすすり。

 美味しいコクが口いっぱいに広がる幸せを噛み締める。

 

 そんな食事の最中、

 

「楽しんでいらっしゃいます?」

 

「ああ、セリーヌさん」

 

 現われたのは、艶のある黒い髪を長く伸ばした妙齢の美女。

 この家への誘いをしてきた当の本人、セリーヌだ。

 手には、追加の料理を抱えている。

 朝からそんなに多くは食べられない――と思いつつも、胃はもっと美味いものをよこせと主張していたり。

 

「はい、楽しませてもらってます!

 こんな美味しいもの食べるなんて久しぶりですっ!

 ここでセリーヌさんとお別れだなんて、寂しいですねー」

 

「……イーファ」

 

 ニコニコ笑いながら(余り寂しそうでは無い)そう言うイーファに、若干引き気味なエルミアだった。

 しかしセリーヌは聊かも気にした様子はなく。

 

「それは良かったですわ。

 腕によりをかけて作らせて頂きましたの。

 お昼も期待してて下さいましね」

 

「セリーヌさん自ら料理下さったのですか。

 朝早くからお手間を取らせてしまい、申し訳ありません」

 

 聖女が礼儀正しいお辞儀と共に感謝を述べる。

 

「……意外と料理上手だったんですね」

 

「イーファ」

 

 と同時に、また変なこと言ったイーファを牽制する。

 

(おお、なんか今日は聖女っぽいぞ!?)

 

 そして変なところに驚くヴィル。

 正真正銘の聖女様相手に随分な感想と思われるかもしれないが、彼女の正体を知っている人ならコレを咎めることはないはずだ。

 いつもこんな感じだと嬉しい――のだけれど、性女な彼女も決して嫌いなわけではないヴィルである。

 

「ところでヴィルさん、この後お時間頂いてもよろしくて?」

 

「ん、俺か?」

 

「ええ、ご相談したいことがございますの」

 

「ほう」

 

 別段断る理由は無かった。

 宿を提供して貰った手前、相応の礼は返そうと思っていたところでもある。

 

「朝っぱらからヤるつもりですかー?」

 

「いい加減にしないと怒りますよ」

 

 後ろでそんな会話が交わされるのを聞きつつ、

 

「どんな話なのか、少し聞いてもいいだろうか?」

 

「詳しくは後でお話しするのですが、(わたくし)の幼馴染のことなのです。

 幼馴染と言っても年齢(とし)が離れていて、弟のようなものなのですけれど」

 

「そうか。

 まあ、俺でいいなら、幾らでも相談に乗ろう」

 

「頼もしいお言葉、嬉しいですわ」

 

 笑顔になるセリーヌを眺めつつ、まずは目の前の料理を片付け始めるヴィルであった。

 なおイーファとエルミアのやりとりは、

 

「早速若いツバメを捕まえたんですか?」

 

「……お仕置き決定ですね。

 今夜は少々辛い目に遭うことになりますから、覚悟しておいて下さい」

 

「え?」

 

 どうもそういうところに落ち着いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 食事は終わって、小一時間。

 ヴィルはセリーヌの屋敷のリビングに案内されていた。

 目の前には、一人の少年――いや、ギリギリだが青年と表現した方がよい顔つきか?

 

「この人が?」

 

「ええ、(わたくし)の幼馴染、ジット君です」

 

「ど、どうも」

 

 紹介され、ぺこりとお辞儀をする青年。

 その少しおどおどとした態度からも、若さが伝わってくる。

 

(なるほど、確かに年齢が離れているな)

 

 ともすれば失礼な感想を抱いてしまう。

 無論、間違っても口には出さない。

 

「それで、相談とは?」

 

「え、ええっと、その――」

 

「ジット君、言い難いのでしたら私が説明しましょうか?」

 

「い、いや、大丈夫、セリ姉。

 自分でやれるから」

 

 ジット君からはセリ姉と呼ばれているらしい。

 なかなか仲の良い二人のようだ。

 

「えーとですね、いきなり変なこと言っちゃうんですが、僕には好きな子がいるんです」

 

「――まさか、俺に恋愛相談しようってことじゃない、よな?」

 

「ち、違います違います!」

 

「そ、そうか、それならいいんだ」

 

 嫌な予感がしたので一応聞いてみたが、否定して貰えたほっとする。

 青少年の恋愛問題なんて、流石に扱ったことが無い。

 

「それで、覚悟決めてその子に告白したらOK貰えたんですけど――その、お父さんに大反対されて」

 

「君の父親に?」

 

「あ、違います、その子のお父さんです!」

 

「なるほどなるほど」

 

 好きな女性に告白したはいいが、相手の父親に反対されたわけか。

 まあ、よく聞く話ではある。

 娘を持つ父親は何かと面倒臭いのだ。

 

「それでも何とか食い下がっていたら、交際を認めてくれる条件を出してくれたんです」

 

「ほうほう、どんな条件だ?」

 

「最近、この町の近くに強い魔物が現われたんです。

 アームドエイプっていう猿型のモンスターで――人の被害は無かったんですが、田畑がかなり荒らされてしまって。

 それを討伐してきたら、その子との仲を認めてくれるって」

 

「……そういうことか」

 

 合点がいった。

 魔物退治が絡むのであれば、ヴィルの得意分野だ。

 

「要するに、君がその魔物を倒す手助けをすればいいんだな?」

 

 戦闘のサポートをしてもいいし、この青年を鍛えてもいい。

 

(うん、身体つきも悪くない)

 

 体格は標準程度だが、頑強そうな造りをしている。

 見れば手には剣ダコができており、腕や足腰など、戦いに必要な箇所にはしっかり筋肉がついていた。

 前々から戦いの訓練を行ってきたようだ。

 

(この分ならアームドエイプの一匹程度、少し鍛錬を積ませれば十分狩れるようになるだろう)

 

 と、ヴィルはこれからの算段を見積もっていたのだが――

 

「…………」

「…………」

 

 ――セリーヌとジットが、少し冷ややかな視線を自分に送っていることに気付く。

 

「あれ、違うのか?」

 

「――ヴィルさん、分かってらっしゃいませんの?」

 

 慌てて尋ねてみるが、セリーヌは寧ろヴィルが何故理解できていないのか不思議な様子。

 

「ど、どういうことだ?」

 

「そのアームドエイプ――ヴィルさんが倒してしまわれたではありませんか。

 町に来る途中で」

 

「…………あー」

 

 そういえば、そんなこともあった気がする。

 ちょっとうざかったので、つい、ぷちっと。

 

「き、記憶にすら残ってなかったんですね。

 正規の兵隊ですら手を焼くような魔物のはずなのに」

 

「……まあ、さくっと蹴倒してましたものね。

 ジット君から話を聞くまで、私もその魔物を見掛け倒しの弱いモンスターなんだと勘違いしてた位ですから」

 

 慄くジットと、どこか冷めた感じのセリーヌ。

 

 一応ヴィルへの弁解もしておくと、幾ら彼だって倒した魔物を早々忘れることは無い。

 ただ今回の場合、タイミングが非常に悪く――要は、“夜の行為”の最中に襲撃されたのだ。

 しかもエルミアとの。

 当然ヴィルは出てきた魔物を瞬殺し、行為を続行したわけで。

 つまり、倒したモンスターのことなど大して確認していなかったのである。

 

「ヴィルさんにこの件をご相談したのも、そういう経緯があったからなのです」

 

「獲物を横取りしてしまっていたわけか――すまない」

 

 知らず知らずのうち、ヴィルはこの青年の恋路を邪魔していたわけである。

 せめて事前に知っていれば、魔物を倒したのはジットである、と口裏を合わせられたのだが。

 そういうことであればなおさら、助力を惜しむわけにはいかない。

 

 一方、謝られたジットは、

 

「あ、頭なんて下げないで下さいっ!

 僕が早く動かなかったのが原因なんですから!」

 

「しかし、その魔物を倒さなければ君と恋人の仲は認められないのだろう?」

 

「い、いえ、その件については、代替案を出して貰ったんです。

 居ない魔物を倒すことはできないだろうってことで。

 ヴィルさんには、そちらでお手伝い頂けないかな、と」

 

「……そうだったのか。

 色々早とちりしてしまったな」

 

 バツが悪くなって、ポリポリと頬をかく。

 

「それで、代替案とはいったい?」

 

「はい、実は二日後にこの町でちょっとした“大会”があるんです。

 そこで優勝すれば、僕達の仲を認めてくれる、と」

 

「ほうほう、なんの大会なんだ?」

 

「ええ、それは――」

 

 少し間を置いてから、ジットが答える。

 

「――あやとり大会です」

 

「え?」

 

「あやとり大会です」

 

「いや聞こえなかったわけではなく」

 

「あやとり大会なんです」

 

「……へー」

 

 あやとり大会だそうだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② お悩み解決に向けて

「旅の方、此度はありがとうございました。

 この町の代表として、お礼申し上げますぞ」

 

「いえ、大したことはしていません、町長」

 

 礼を言われ、こちらも頭を下げる。

 目の前に居るのは壮年の男性――この町の町長である。

 ヴィルは今、彼の自宅に来ていた。

 この町を苦しめていた魔物を倒してくれた、その礼がしたいと向こうから申し出てきたのだ。

 特に断る理由も無いため、ここに来たわけだが――

 

「それで町長、もう一つお話があるのですが」

 

「……むぅ」

 

 ――ヴィルには謝礼を受け取るのとは別の目的があった。

 町長の方もそれを察しているのだろう、あからさまに苦い顔となる。

 

「ジットのことですか」

 

「そうです。

 ……部外者が口を出すことでもないと思いますが」

 

 話とは、相談を受けた青年についてのことである。

 何故町長にそんな話をするかと言えば、

 

「話はセリーヌから伺っています。

 しかし、分かっているのであれば身を退いて頂きたいものですな。

 これはあくまでうちのアルムとジットとの問題ですから。

 町を救ってくれた方にこんなことを言いたくはありませんがね」

 

 ジットの想い人は、町長の娘なのだそうだ。

 名前はアルムというらしい。

 

 ヴィルは町長へずいっと寄って、問い詰める。

 

「ええ、ご理解頂けていて助かります。

 この話は、“彼ら2人だけの問題”だ。

 例え父親であっても、そうそう口を挟むべきではないでしょう」

 

「あの子らがどういうつもりであっても、結婚とは家族が関わるもの。

 2人が納得すればそれでいいというものでは無い――違いますか?」

 

「彼らは好き合っている。

 一緒になる理由としてこれ以上が必要ですか?」

 

「世間体というものがあります。

 そもそもこの件、既にジットには条件を提示しておりますので。

 これ以上、譲る気はありませんな」

 

 町長は頑として譲らなかった。

 

(俺が何か言ったところで解決できるとは思っちゃいなかったが)

 

 所詮、自分は蚊帳の外の人間だ。

 それでも一言言いたかった。

 性分として、課題をクリアすれば結婚を許すという話に納得がいかないというのがある。

 そういう物理的なことではなく、結婚に必要なのは互いの話し合いだと、ヴィルは考えていた。

 加えて、家族だの世間体だのの問題は、正直なところヴィルとエルミアの間にも発生しうる問題なので、余り他人事に感じなかったというのもある。

 

 結局、無駄足ではあったが。

 まあそれはいい。

 最初から期待してはいなかった。

 ただ――

 

「ところで、町長」

 

「なんでしょう?」

 

 ――それはそれとして、聞きたいことがある。

 

「この際、ジット達を認めるのに条件を出すのはいい。

 だがどうして、その条件が“あやとり”なんだ?」

 

「おや、ご存じない?」

 

「何を?」

 

「我が町は、上質な糸が名産なのです」

 

「……へー」

 

 そういうことらしい。

 

 

 

 

 

 

(しかし、あやとりか……)

 

 ヴィルは考える。

 まさか、あやとりとは。

 他に幾らでもありそうなものだというのに、よりにもよってあやとりである。

 そんなものの助力なんて――

 

(――まさに俺が適任じゃないか!)

 

 自然と顔がにやける。

 そう、何を隠そうあやとりはヴィルの得意分野だった。

 

(ふっふっふ、こんなところで士官学校あやとりサークル永年会長の実力を見せることになろうとは)

 

 なんとこの男、あやとりサークル(会員数1名)の永年会長(ヴィル卒業と同時に解散)だったのだ!

 連載開始から8話目にして判明した、本気でクソどうでもいい事実である。

 セリーヌがこんなことを知っていたとはとても思えないが――

 

(偶然にも、最善の選択をしたわけだな!)

 

 にこやかな笑顔でガッツポーズを決める。

 かつてここまで彼が意欲を湧かせたことは無かったのではないだろうか。

 それ程までに、ヴィルはノリノリだった。

 

(こんな町の大会程度、軽く優勝させてやろうではないか)

 

 などと、一人しかメンバーのいなかった弱小サークルのボス猿がほざいておりまして。

 

(大船に乗った気でいるといい、ジット君!)

 

 余りにフラグめいた台詞。

 本人のやる気と反比例し、行く先には暗雲が立ち込めていくかのようであった。

 

 

 

 

 

 

 というわけで、早速特訓は始まった。

 しかし。

 

「――――あれ?」

 

 信じられない、という面持ちのヴィル。

 今、彼とジットは町外れの森で――町中であやとりするのは何となく恥ずかしいから――練習を始めたわけなのだが(恥ずかしいという気持ちが出てくる辺り、ヴィルのあやとりに対する本気度に疑問が生まれる)。

 やはりというか当然の帰結というか、早速座礁に乗り上げていた。

 

「む、難しいですね、コレ」

 

 困った顔で糸と睨めっこするジット。

 

「いやいやいやいや、難しいわけないだろう!?

 誰だってできることだろう!?」

 

「こんな細い紐を自在に操るだなんて――流石、セリ姉が選んだ男性(ひと)

 

「無理に褒めるなよ!

 こんなことで持ち上げられても嬉しいどころか寧ろ辛い気持ちになるわ!」

 

 そんなジットに全力でツッコミを入れるヴィル。

 熟練者であるヴィルが、初心者のジットに最初から難しい技を教えている――わけではなく。

 

「“つり橋(※)”なんて、基礎中の基礎だろ!!」

 

 ※吊り橋の作り方

 ①両手に紐をかけます。

 ②紐を両腕に一回ずつ巻きます。

 ③右の中指で左腕の紐を取ります。

 ④左の中指で右腕の紐を取ります。

 ⑤完成!

 

 ジットが苦戦していたのは、あやとりの中でも最も簡単な技であった。

 どうしてコレができないのか分からないレベルである。

 

「……よ、よし、もう一度だ。

 もう一回、やってみよう」

 

「は、はい」

 

 息を整え、ヴィルは再度の挑戦を促す。

 ジットは紐を手に持って――――プチッ

 

「あ」

 

「『あ』じゃないだろう!?

 何で千切るんだ!?

 どうして千切れるんだ!?

 紐が持てないとかあやとり以前に日常生活大丈夫か君!?」

 

「ち、力の加減が難しくて……」

 

「加減の問題か!?」

 

 ジットはあやとりの才能が壊滅的に無かったのである。

 そりゃもう、ヴィルが諦めかけてしまう程に。

 

(……だから(・・・)あやとり大会の優勝なんて条件を提示したわけか)

 

 そして町長の魂胆も分かって来ていた。

 彼はジットの絶望的な不器用さを知っていたのだろう。

 故に、『絶対に不可能な条件』としてあやとりを選んだのだ。

 

(性格悪いな、あのおっさん!)

 

 先程会った際にはそこまで感じ悪い男には見えなかったが、それはあくまで客向けの顔だったということか。

 

(しかしはてさて、どうしたものか……?)

 

 町長の意地の悪さは一先ず置いておいて、この現状を如何に解決するか。

 どれ程の無理難題であろうと、引き受けた以上はやり遂げねばならないのだ。

 ヴィルがこれからの練習メニューで頭を悩ませていると、

 

「捗っておられますか?」

 

「こんにちはー」

 

 彼の下へ訪れる、二つの人影。

 

「ああ、セリーヌさん。

 それと――」

 

「アルム!

 来てくれたんだね!」

 

 一人はヴィルの知る人物である、セリーヌ。

 そしてもう一人の見知らぬ少女――こちらが件のアルム嬢のようだ。

 

「ええ、こんにちは、ヴィルさん。

 早速特訓をしているそうでしたから、差し入れを持って参りましたわ」

 

 セリーヌの手にはパンやクッキーの詰まったバケットが抱えられていた。

 朝食の出来を鑑みるに、こちらも期待できそうだ。

 

「それと、紹介しておきますわね

 この子がジット君の想い人、アルムさんですわ」

 

「あの、セリーヌさん?

 そういう紹介の仕方はちょっと……」

 

 困ったようにはにかむ少女。

 なるほど、ジットが入れ込むのも分かる、美少女であった。

 いや勿論顔が全てというわけでもなかろうが。

 

「えっと、改めて。

 わたし、アルムって言います。

 貴方はヴィルさん、でいいんですよね?

 この度はジットをよろしくお願いします」

 

「ああ、丁寧にありがとう。

 分かっているようだが、俺はヴィルだ。

 どれだけ力になれるか分からないが、全力を尽くそう」

 

 互いに一礼しながら挨拶を。

 

 アルムはストレートの黒髪をお尻の辺りまで伸ばした、利発そうな感じの美少女だった。

 上は半袖のカーディガンを纏い、下はショートパンツといった出で立ちは、彼女のはつらつさを印象づけてくる。

 また、その顔立ちはどこかセリーヌを彷彿とさせた。

 姉妹と言われれば、信じてしまいそうな程に。

 

「ふふふふ、ヴィルさん。

 アルムさんが気になりますか?」

 

 じっとアルムを見るヴィルの視線が気になったのか、セリーヌが声をかけてくる。

 

「いや、気になるというか――君とどこか似ているなぁ、と」

 

「あらあら、分かります?

 アルムさんと(わたくし)の親戚でして。

 町長――アルムさんのお父さんが、私の従兄に当たるんです」

 

「そうだったのか」

 

「ええ。

 実は今回の話、その縁でアルムさんから依頼されましたのよ」

 

「ほうほう」

 

 事情説明にこくこくと頷く。

 セリーヌが町長へ話を通していたのも、この辺りが理由なのだろう。

 

「ジットって、一人じゃ何にもできない癖に一人で抱え込んじゃうことが多いから」

 

「そ、そんな言い方ないだろ、アルム」

 

 アルムの言葉に、ジットが弱々しく反論する。

 

(……なんか、将来尻に敷かれそうだな)

 

 そのやりとりだけで、二人の将来像がぼんやりと目に浮かんでしまった。

 もっとも、ヴィルから見てもジットは意思表示の強い青年に見えないので、これ位ズバズバ言ってくれた方がバランス良いようにも思う。

 

 そんなことを思い描いていると、隣のセリーヌが尋ねてきた。

 

「それでヴィルさん、ジット君はどんな具合ですの?」

 

「どんな具合と聞かれると――」

 

 ジットに目配せする。

 正しくそれを受け取った青年は、紐を取り出し手にかけて……

 

 プチッ

 

 期待に違わず、またしても引き千切ってくれた。

 

「――こんな具合だ」

 

「相変わらずですのね、ジット君のぶきっちょ加減は」

 

 セリーヌが肩を竦める。

 彼女も、ジットの問題は把握していたようだ。

 昔馴染みなのだから、当たり前か。

 

「あのね、ジット君。

 そんなんでは、将来アルムさんを悦ばせることができませんわよ?」

 

「おい待て、いきなりナニの話をしている?」

 

 まだ明るい内から下の話題を出そうとするセリーヌを制止する。

 

「う、ううぅぅ……それを言われると……」

 

「君は君でへこむな。

 大丈夫だから。何とかなるもんだから」

 

 割と本気で意気消沈しだしたジットを慰めて。

 

「へぇ、ジットってば、わたしを気持ち良くさせてくれるの?」

 

「なぁ、話が進まないからこの話題ここらへんで止めないか?」

 

 微妙に乗っかってくるアルムを窘めた。

 なかなかノリの良い子のようだ。

 そしてこの少女、今度はヴィルの方へと振り返り、

 

「ところで疑う訳じゃないんだけど、ヴィルさんって腕前はどんなもんなの?」

 

「ん? 俺のあやとりを見たいのか? いいだろう」

 

 願っても無いことを聞いてくれたので、相手の返事を待たずにささっと懐から専用の紐を取り出す。

 実は人に見せたくてうずうずしていたのである。

 どうか嗤わないで欲しい。

 この趣味を共有できる相手を、彼はこれまでの人生でほとんど見つけられなかったのだから。

 

「よく見てろよ」

 

 言って、ヴィルは紐を操り出す。

 十本の指によって支配されたあやとり紐は、見る見るうちにその姿を変えていった。

 

「ほい、四段はしご」

 

 彼が手を広げると、梯子状になった紐が現れる。

 

「おー」

 

「さっと編み上げましたわね」

 

 アルムとセリーヌが拍手する。

 だが、こんなのはまだ序の口だった。

 さらにパパッと手を動かせば、

 

「ほら、八段はしご」

 

 梯子の数が倍になる。

 

「うわー」

 

「流れるようにやりますのね」

 

 二人は大きな口を開けて驚いている。

 しかしこれで終わりではない。

 ヴィルにはまだ奥の手がある。

 チャチャッと指を操って、

 

「さぁ、十二段はしごだ!」

 

 緻密な足場をもった梯子が組み上がる。

 はしごばっかりじゃないか、と突っ込んではいけない。

 本気で高難易度の技なのだ。

 

「す、すごーい!」

 

「あれやあれやという間にできあがりましたわ!

 流石です、ヴィルさん!」

 

 やんややんやと褒めそやすアルムとセリーヌ。

 ヴィルも気をよくし――

 

「――――ちなみに、バカにはしてないよな?」

 

 ふと冷静になった。

 

「そんなわけないよ」

 

「なんでそう思いますの?」

 

「そ、そうか。

 それならいいんだ」

 

 周りから褒められ過ぎるとかえって不安になるというアレである。

 あやとりでここまでもてはやされていいのか、という疑問が湧いてしまったのだ。

 この辺り、自分の芸に自信を持っていない証拠である。

 所詮個人サークルの主催者に過ぎないというか。

 

(……さっきから地の文、俺を蔑み過ぎじゃないか?)

 

 気のせいである。

 それはそれとして、改まった形でセリーヌが話しかけてくる。

 

「それで、結局ジット君はどうしましょう?」

 

「うーむ、そうだなぁ……」

 

 腕組みして考える。

 いったいどこから手をつけたものか。

 この調子だと、力加減を教え込むだけで二日経ってしまいそうだ。

 

 悩むヴィルの前で、ジットは再度あやとりに挑戦していた。

 もっとも、すぐに糸を切ってしまうのだが。

 そんな彼を、アルムが面白半分、呆れ半分といった表情で見ていた。

 そこだけ切り取れば、カップルがあやとりをダシにイチャついているように見えなくもない。

 不意に吹いた風で、彼女の黒髪が流麗になびく。

 ヴィルは何とはなしにそれを見て、

 

(あ、そうだ)

 

 案を閃いた。

 

「ジット、考え方を変えてみよう。

 いいか、その紐をアルムの髪だと思うんだ」

 

「え、アルムの?」

 

「そう。

 君の大事なアルムの髪だぞ、傷つけたりしたくないよな?

 そう思って紐を扱ってみろ」

 

「な、なるほど」

 

 持っているのが単なる安っぽい紐ではなく、決してぞんざいに扱ってはいけない大切なものだと思い込ませる作戦である。

 そう上手くはいかないかもしれないが、試してみる価値はあるだろう。

 ――髪だと思え、というのは少々陳腐な例えだったかもしれないが。

 

「これは、アルムの髪……これはアルムの髪……これはアルムの……」

 

 しかしジットはその提案を素直に受け取ったようで、紐をまじまじと見つめながらぶつぶつ呟き出した。

 彼のこういう真面目なところは、実に好感が持てる。

 

「これはアルム……アルムの髪……アルム……アルムの……」

 

 暗示でもかけるかのように言葉を繰り返し続けるジット。

 なかなかの集中力だ。

 これはひょっとしたらいけるかもしれない。

 

 そのまま数分が経過したところで――

 

「――はむっ」

 

「おぉい!?」

 

 ジットはあやとり紐を食べた(・・・)

 

「なんで食べた!?

 なんで食べた!?

 なんで食べたんだよ!?」

 

「い、いえ、これがアルムの髪だと思ったら、つい」

 

「お前は好きな人の髪を食べる性癖でも持ってるのか!?」

 

「実を言うと、何度か食べたことが」

 

「すまん、聞いた俺が馬鹿だった!

 別にここでガチな性癖暴露をせんでもいい!」

 

 ジットは思いのほか重症患者であった。

 そんな青年を見て、当の本人であるアルムは、

 

「もう、ジットってば♪」

 

「……いや、ここ顔を赤らめる場面違うぞ?」

 

 うっとりとした顔で身をくねらせる彼女を見て、ヴィルは頭痛を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 時は経過して、既に夜。

 あれからジットに付き合い何時間も練習を重ねたが、これといった成果は上げられなかった。

 一先ず今日はお開きということで、宿代わりにしているセリーヌの実家へ帰ってきたわけである。

 

「……なんだか、妙に疲れたな」

 

 暖簾を腕で押し続けたというか、糠に釘を撃ち続けたというか、そんな作業を延々とこなしてきたような気疲れが今のヴィルにはあった。

 今日はさっさと休もうと思い、寝室として宛がわれた部屋に向かうと、

 

 「あっ! ん、ん、んんぅっ!

  も、止めっ――止めて下さい、エルミアさ――あぁあああっ!!?」

 

 「ん、ふっ――だ、駄目ですよ、イーファ。

  これは、貴女への罰なのですか、ら――う、くぅうううっ!?」

 

 やたらと艶めかしい少女の声が2つ。

 間違いなく、エルミアとイーファである。

 

(これは――確実に面倒事が起きている予感!)

 

 まだまだ就寝などできそうにないという諦観を胸に、ヴィルはドアを開けた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 紐結び(H)※

 

 

「えー……なんだこれ」

 

 寝室のドアを開けたヴィルが見た光景は、一言で説明しづらいものであった。

 

 とりあえず、エルミアとイーファは全裸だ。

 一切合切何も着ていない。

 銀髪の少女の、均整が取れた美しい肢体も。

 赤髪の少女の、抜群の巨乳・巨尻を誇る肢体も。

 全て白日の下にさらされていた。

 

(まあ、それはいい)

 

 よくはないが、いつものことである。

 彼女達と寝る際は、大体が全裸か半裸だ。

 ヴィル自身それを大いに楽しんでしまっているのだから、文句は言えない。

 

 そして部屋には3本(・・)の“細い糸”が張られていた。

 糸は天井にある梁に引っ掛けられており、その端は――

 

「……ああ、ヴィル?

 帰って来てたの――くぅっ!?」

 

「せ、先生、ちょっと待ってて――は、ぅううっ!?

 エルミアさん、コレ、一旦やめましょ――んぁあ、あっ!?」

 

 ――その糸の端は彼女達が持つ(・・・・・・)“突起”に縛り付けられていた。

 即ち、乳首2つとクリトリス1つだ。

 2人の乳頭と陰核が、糸を介して繋げられていた。

 

 片方が少しでも動けば、もう片方を引っ張る(・・・・)ようになるまで、糸は弛み無くピンと張られている。

 つまり軽く身じろぎでもしようものなら、容赦なく乳首やクリトリスが刺激されるということだ。

 当然、作用反作用の法則により、動いた側も同じ仕打ちを受けるため、双方共に無事では済まない。

 

「ああっ――あっ――あああっ」

 

「ん、くぅっ――やっ――あぅぅぅっ」

 

 時折混じる艶声の原因がコレである。

 軽く現状を把握したヴィルは、エルミアへ尋ねてみる。

 

「で、結局君達は何をやってるんだ?」

 

「ふっ、くぅ――何といえば、イーファへのお仕置きよ。

 今朝の彼女の言動は、ちょっと聞き流せない感じ、で――あ、あ、あっ」

 

「……そうか」

 

 今朝の言動とは、セリーヌに対するものだろう。

 確かに、かなり僻んだ台詞を吐いていたような気がする。

 そしてよく確認してみれば、イーファにだけ糸を自力で解かぬように手枷まで嵌めてあった。

 実にお仕置きらしいと言える。

 

「……なんでこんなやり方なんだ、という質問は聞くだけ野暮だな」

 

「この町の特産品が糸って話を聞いて、閃いたの――あ、あぅっ」

 

「いや、聞いてないぞ?」

 

「は、あ、あ、あ――丁度良い細さと強度を持つ糸の選別に一日かかっちゃった――ひぅっ」

 

「だから聞いてないって」

 

 特に知りたくも無かった事情まで把握できてしまった。

 まあそれはそれとして。

 

「お仕置きだというのは分かった。

 だが何故そのお仕置きをお前までヤられている?」

 

「うん、最初は――ん、んっ――イーファだけに仕掛けてたんだけど。。

 悶えてるのを見て、ついムラムラっと――ふ、んんっ」

 

「…………そうか」

 

 そうとしか言えなかった。

 仕方がないのだろう。

 興味を持ってしまったから仕方ないのだ。

 彼女は性女なのだから。

 

 仕方ないから――ヴィルも、仕置きを手伝ってあげることにした。

 

「ひゃぅうううっ!?」

 

「ひぃいいいいっ!!?」

 

 手始めに、エルミアの身体を掴んで大きく揺さぶってやる。

 糸に引っ張られて、本来ならツンと突き出た綺麗なおっぱいがその形を崩す。

 それはイーファも同じ。

 ボリュームたっぷりな彼女の胸が、糸によって引き延ばされていた。

 

「ヴぃ、ヴィル――!?

 何を――?」

 

「いや、俺も加わろうかと思ってな」

 

 言いながら、プリっとした尻肉を鷲掴みにする。

 弾力と柔らかさを兼ね備えた肉感が手の平全体に伝わってきた。

 

「ひゃっ――はぅうううっ!?」

 

 驚いて身体を動かしたエルミアは、糸の責め苦で艶めかしい悲鳴をあげる。

 キツク張られた糸は、僅かな動きも許さないのだ。

 

「あ、あぁあああああっ!?」

 

 同時に、離れた場所でイーファも悶える。

 乳首と陰核を一斉に責められているのだ。

 苦悶も当然といえる。

 

(これは――なかなか面白いな)

 

 良い余興であった。

 本当に軽く弄っただけで、2人が一緒に喘ぎ出す。

 ヴィルにとっても新鮮な体験であり、だからこそもっと試してみたくなる欲求が湧いてくる。

 

「よし、するぞ」

 

 宣言と共に、彼は自らの愚息を取り出す。

 エルミアとイーファの艶姿を堪能したヴィルのイチモツは、大きく反り返り、脈打っていた。

 ソレを見た少女2人が大きく目を見開く。

 

「ヴィル?

 す、するのは全然OKなんだけど、今はちょっと――」

 

「そ、そうですよ、先生!

 まずは糸を外してからですね!?」

 

 これから降りかかる未来を予想して、次々に制止の言葉をかけてくる少女達。

 だがそんなもので止まるヴィルではなかった。

 

(この程度で弱音を吐くなら、最初からやらなければよかったんだ!)

 

 断固とした決意だ。

 そもそもコレをやり始めたのはエルミアで、原因はイーファなのだから、彼女らの自業自得と言える。

 

「さ、挿れるからな」

 

「待ってってば――っっ!!!?」

 

 力づくでエルミアの股を開かせると、その付け根にある美しい花弁へ肉棒を突き立てた。

 既に十分濡れていた膣肉は巨根をすんなりと受け入れた。

 

「ひぁああああああああっ!!?」

 

 途端に響く聖女の絶叫。

 

「あ、あ、あ、あぁぁぁああああっ!?」

 

 そこへ魔女の艶声も混じる。

 2つのハーモニーがヴィルの耳を楽しませた。

 

(しかも、いつもより締まりがキツいな……!)

 

 余程感じているのだろう、エルミアの膣は痛みを感じる程に愚息を絞ってきている。

 普段はひたすら男を快楽へと誘う名器が、大きく変貌していた。

 

(しかしこれはこれで)

 

 違う刺激があって大変良い塩梅である。

 さらなる快感を貪るため、ヴィルはエルミアの身体をがっしりと掴むと、自ら腰をグラインドし始めた。

 ……敢えて、彼女の身体を大きく揺さぶりながら。

 

「あーーーーっ!!?

 あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!

 あぁああああーーーーーっ!!!」

 

 媚肉を抉られ、胸と股間にある敏感な先端を引っ張られ。

 二重三重の刺激に襲われるエルミアが、大きく口を開けて嬌声を吐き出す。

 股からは愛液が幾筋も流れ落ちた。

 部屋の中に雌の匂いが充満する。

 ヴィルは五感の全てでこの聖女を堪能していた。

 

「ひっ! はっ! あひっ!

 先生! はげ、激しっ!? はっ! あっ! あっ!」

 

 イーファの方は、肉棒の責めが無い分多少余裕があるようだった。

 糸に引かれるのを少しでも防ごうとしているのか、こちらの動きに合わせてぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 余り効果は無いようだったが。

 

 ヴィルはエルミアの耳元に口を近づけると、

 

「凄い締め付けだ!

 もっと激しくいくぞ!」

 

 聞こえているかもわからない台詞を投げかけ、腰の打ち付けを早めた。

 さらに大きなピストンを行うために、彼女の肢体をひょいと持ち上げると、思い切り上下へ揺する。

 

「うひぃいいいいいっ!!!

 いぃっ!! いぃっ!! いぃっ!!

 いぁあああああああっ!!!!?」

 

 聖女の背が反り返り、瞳が白目を剥く。

 

「おお、締まる!?」

 

 膣奥にあるコリコリとした子宮口を叩くイチモツが、千切れそうな程の締め付けを受けた。

 愚息の根本から先端までが、猛烈な刺激で扱かれる。

 ビチャビチャと音を立てて女の蜜が流れ落ち、床に水たまりを作る。

 

 男根に貫かれるだけではなかなかこうはならない。

 同時責めが相当効いているのだろう。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!

 も、ダメ、イク、イクっ!! あぁあああああああっ!!!」

 

 向こうでは堪え切れなくなったイーファが気をやっていた。

 ビクビクと痙攣を起こし、股から透明な液が垂れる。

 2人の淫猥な香りが交わり、芳しい匂いがより濃く部屋を満たす。

 

 しかし――

 

「ひぁあああああああああっ!!!

 ああっ!! あっ!! ああっ!! あーーーーっ!!!」

 

「イった!! イキました!! イったんですっ!!

 だから止めて!! 止めてぇえええええええっ!!!!」

 

 ――しかし、ヴィルは止まらない。

 自身はまだ達したわけでは無いし、何よりこのプレイをもっと続けてみたかった。

 だから、さらに強く、深く、腰をエルミアへ打ち付ける。

 

「あっ!!! あっ!!! あっ!!! あっ!!!! あっ!!!!」

 

「いぃぃいいいいいいいっ!!!

 イクぅっ!!! またイクぅぅうううううっ!!!」

 

 イーファ、二度目の絶頂。

 エルミアはイったのかどうか分からない。

 正気を失っているのは確かだが。

 

 と、その時。

 

(お、子宮が下りてきたな)

 

 子宮口までの距離が急速に縮まってくるのを感じる。

 思考がおかしくなっても、聖女の身体はしっかり反応しているようだ。

 自ら最奥へと招待してくれたのだから、男としてそれに応えないわけにはいかない。

 

「よし、挿れるぞ!」

 

 ぐっと挿し込まれたイチモツは、子宮の入り口をこじ開けその中へと侵入する。

 カリの部分に子宮口がひっかかり、心地良く締めつけを味わう。

 

「――――おっ!? ぐっ!!?!!!?」

 

 エルミアは苦悶を吐いた直後、

 

「あぁぁあああぁぁああああああああっ!!!!!

 あ、ああぁぁぁああああああああああああっ!!!!!!」

 

 あらん限りの声を張り上げた。

 と同時に、彼女の膣肉が激しく蠢動を始める。

 

(何だこれは!!)

 

 その艶めかしい蠢きは、これまでの行為で十分滾っていたヴィルの愚息へさらなる快楽を注入し始めた。

 

「おお、おおおおっ!!

 凄いぞ、エルミア!

 どうなってるんだ!?」

 

「あひっ!! ひぃっ!! んあっ!!! あぅっ!!! おぁあああっ!!!!!」

 

 ヴィルの問いには答えず、ガクガクと身体を震わせ喘ぎ続けるエルミア。

 口は半開き、涙や涎が流れ、その表情は聖女として許されないものになっていた。

 愛液も栓が抜けたように漏れっ放しになっているが――それでも腰のグラインドは止めない、止められない。

 それほどに、ピストン運動から生じる刺激と膣壁による扱きの刺激は凄まじかった。

 その快感は青年を絶頂させるに十分過ぎるものであり――

 

「――ぐ、出すぞ、エルミア!」

 

 限界が来た。

 亀頭を子宮内へと突き込むと、溜まりに溜まった精を解き放つ。

 ドクドクと、ヴィル自身でも驚くほどの量が噴き出ていくのが分かる。

 

「おひぃっ!!? あ”っ!! あ”あ”っ!!! あ”あ”あ”っ!!!

 あああああーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」

 

 精液の奔流に子宮を叩かれ、エルミアが絶叫する。

 

「――――――あ――あ、あっ」

 

 肺の中にある空気を全て吐き出したたのか、声が止まった。

 口をパクパクと動かすのみ。

 だが直に、

 

「――――か、ふっ」

 

 その動きすら止まる。

 全身が脱力し、動作が完全に停止した。

 

「……ふぅ」

 

 ヴィルはずるり、と肉棒を引き抜く。

 愛液交じりの白濁液がエルミアの膣口からドバドバと垂れ落ちてきた。

 顔を見れば瞳から光が消え、どこか虚ろな表情となっていた。

 

(こんな状態だっていうのに、それでも男の性欲を掻き立ててくるんだから、大したもんだ)

 

 青年はエルミアの様子をじっくり鑑賞し、雌を征服した満足感にも似た充足を味わっていた。

 そんなところへ聞こえてくる、一つの声。

 

「あーっ……あーっ……あーっ……あーっ……」

 

 イーファだ。

 途中からエルミアだけに意識を集中させてしまっていたが、イーファもまたエルミアに連動した糸に責められ続けていたのである。

 息も絶え絶えな様子で、瞳の焦点が定まっていない。

 足元には大きな“愛液たまり”が出来上がっている。

 ひたすらイキ続けていたことだろう。

 

「――さてと」

 

 イーファの様子を確認した後、ヴィルは一旦エルミアの身体から手を離した。

 意識を失った彼女の肢体はそのまま床に倒れ込んでいき――

 

「あ、あぁぁああああああああああああああああああっ!!!!?」

 

「うひっ!!? あひぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!?」

 

 耳をつんざく叫びと共に、立ち上がった。

 エルミアとイーファを繋ぐ糸はまだ健在なのだ。

 であれば当然、片方が倒れようものなら糸は全力で彼女達の“突起”を引っ張り出す。

 

「あっ! かっ! はっ! あっ! あっ!」

 

 最早意識も力も失ったと思われたエルミアだが、乳首とクリトリスへの痛覚で再び覚醒したようだ。

 細かく息をしながら、震える身体をどうにか支えている。

 

(こういうのも火事場の馬鹿力というのかね)

 

 変なところで人の可能性を目の当たりにし、内心驚きの声を上げた。

 そんな彼へ、消えかけるような口調でイーファが話しかけてくる。

 

「……せ、先生……もう、無理、です……

 アタシも……エルミアさんも……げ、限界……」

 

「そう簡単に決めつけるのは良くないな」

 

「――――ひっ!?」

 

 怯える悲鳴。

 イーファは見てしまったのだ。

 隆々とそびえ立つ、ヴィルの剛直を。

 

「――先、生?

 ――そ、それ、は――?」

 

「夜はまだ長い。

 君がしっかり反省するまで、付き合ってやるからな」

 

「い、いやぁあああああああっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「無理ぃっ!!! もう無理ぃっ!!!

 イクイクイクイクイクイクぅうううううっ!!!!!」

 

「取ってぇっ!!! この糸、取ってぇっ!!!」

 

 真夜中を過ぎても、部屋には女の嬌声が響き続けた。

 

 

 

 

 

 

 明けて、次の日。

 

「……あー」

 

 後悔の呻きと共に、ヴィルは身体を起こす。

 首を回して周りを見渡せば、そこには――

 

「――いくぅ――またいくのぉ――」

 

「――えへっ――えへえへっ――えへっ――」

 

 ――全裸でベッドに倒れ伏し、意味のない呟きを繰り返すエルミアとイーファの姿。

 弛緩しきったその顔と光の無い瞳は、彼女たちが未だ正気に戻っていないことを示唆していた。

 股間からは今なお愛液が垂れ流しになっている。

 

「……やってしまった」

 

 昨晩は、途中からタガが外れてしまっていた。

 まさかここまでヤってしまうとは……

 

「いかんな、どうにも」

 

 この分では、2人とも今日一日まともに動けないだろう。

 言い訳ではないが、エルミアと旅を始めてから自分の嗜虐性が加速的に増加してきている気がする。

 或いは、ヴィルに元々あった“素質”が開花してきたのか。

 よろしくない傾向である。

 

「ま、まあ、今日も俺はジットの訓練に付き合うつもりだから――」

 

 彼女達が寝込んでいても不都合はない。

 青年はそう判断してから、

 

(早々に、部屋の掃除と彼女達の身支度をしなければ)

 

 取り急ぎ、後片付けを優先すべきと考えた。

 だがその前に、

 

「……2人共、すまなかった。

 今日はゆっくり休んでいてくれ」

 

 ぺこりと頭を下げ、まずは一応の謝罪を行う。

 もっとも――

 

「――いくいくぅ――いくぅ――」

 

「――えへっ――えへへへっ――えへへっ――」

 

 ――イキ果てて雌となった少女2人に、その言葉が理解できたようには思えなかったが。

 

 

 

【挿絵表示】

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 特訓開始(H)

 

 

 

「あら、ヴィルさん。

 もうお出かけですか?」

 

 朝食を取り――ついでに部屋の後片付けもしっかり完了させ――ジットとの特訓へ向かおうと廊下を歩いていたヴィルへ、妙齢の未亡人セリーヌが話しかけてきた。

 今日の彼女は、大人しめな色合いのブラウスにロングスカートといった出で立ち。

 綺麗な顔立ちや長い黒髪と合さり、実に淑女らしさを感じさせる装いだ。

 この姿だけ見れば、とても洞窟の中で“破廉恥な行為”をしていた女性には思えない。

 ただ、豊満なスタイルはその服の上からでも十分分かるものではあったが。

 

 ヴィルはそんなセリーヌへと向き直り、

 

「ああ、そのつもりだ。

 大会は明日なんだろう?

 今日中にしっかり稽古しておかないと――間に合うかは分からんが」

 

「それもそうですわね」

 

 苦笑するセリーヌ。

 昨日の様子を見れば、果たして今日一日の特訓でどの程度あやとりができるようになるやら。

 はっきり言って、不安要素しかない。

 

「ところで、ヴィルさん」

 

「うん?」

 

「ヴィルさんは明日の大会が終わりましたら、どうされますの?」

 

「王都に向けて出立するつもりだ。

 急ぎではないが、そこまでゆっくりしていい訳でもないだろうからな。

 もっとも、その日の内に旅立つわけじゃないが」

 

「そう、ですか――」

 

 目の前の女性の顔に、悲しみの色が帯びる。

 

「ではヴィルさんとはまたお別れになってしまいますのね」

 

「……そうなるな」

 

 少し口ごもってしまう。

 これで今生の別れになるわけでも無いが、今後そうそう会う機会は無いだろう。

 数日とはいえ一緒に旅をしてきたし、幾度か身体も重ねた間柄だ。

 どうしても感傷的になってしまう。

 

「ねぇ、一つお願いがあるのですけれど」

 

「なんだ?」

 

「今日は、(わたくし)に沢山愛を注いで頂けないかしら――?」

 

 すすっと、セリーヌが間を詰めてくる。

 互いの顔と顔が触れ合う距離。

 息遣いが感じ取れる距離だ。

 甘い吐息が鼻孔を擽る。

 彼女の瞳はうるうると潤んでいた。

 

「……ジットとの約束があるんだが」

 

「合間で構いませんわ」

 

「そうか。

 それなら――」

 

 ヴィルはセリーヌの腰に手を回すと、ぐっとこちらへ引き寄せる。

 

「あっ」

 

 未亡人の小さな声。

 だが拒みはしなかった。

 寧ろ向こうも率先して身体を密着させてくる程だ。

 大きな胸が押し付けられ、太ももが足に絡まり。

 服の生地越しに女性特有の柔らかさが全身へ伝わってきた。

 その感触を十分に楽しみながら、青年は有無を言わせず彼女の唇を奪う。

 

「――ん、ふっ」

 

 唇と唇を重ね、互いの温もりを確認。

 次に舌を潜り込ませると、セリーヌもまた舌を絡ませてきた。

 

「――あふっ――ん、んぅ――れろれろっ――んぁっ――」

 

 男と女のベロが絡み合う音が通路に響く。

 セリーヌの舌は柔軟でもっちりとしており、彼女の肢体の感触にもどこか似ていた。

 

「――ん、ん、ん――んちゅっ――ぺろっ――ちゅっちゅっ――」

 

 軽いキスも混ぜながらキスは続く。

 時には相手は唾液を送り、時には相手の唾液を啜り。

 そうしているうちに、セリーヌの肢体が次第に熱を帯びていく。

 ヴィルは片方の手で器用にスカートを捲りあげると、彼女の股へと手を挿し込んだ。

 

「……もう濡れ濡れじゃないか」

 

 熱い愛液が手の平に纏わりつく。

 敢えてクチャクチャと音を立てながら股間を弄ってやると、セリーヌは身を捩り、

 

「あ、んっ――だ、だって、仕方ないじゃありませんか!

 本当なら、(わたくし)も昨日の皆さんに混ざりたかったのです――ん、んふぁっ――

 ふ、んんんっ――昨晩はずっと、ずっと火照っていましたのよ!?」

 

「混ざれば良かったじゃないか」

 

「あのプレイは上級過ぎて一般人にはちょっと」

 

「……そうかも」

 

 やり過ぎた自覚はあるが、他人から指摘されると少しへこむ。

 ……あんな場所で壁尻なんてしていた女性を、一般人扱いしていいのかどうか疑問はあるが。

 

(まあそれは次回以降の課題として)

 

 さくっと思考を切り替え、目の前に集中。

 股間を擦っていた手でセリーヌの太ももを抱え、そのまま上に持ち上げる。

 片脚が上がって、ちょうどいい具合に股が開いた格好になった。

 

「……本当にびしょびしょだな、君の下着」

 

「い、言わないで下さい」

 

 顔を赤くするセリーヌ。

 露わになったレースのショーツが、淫猥な汁でひたひたになり、ぴったりと彼女の股へ張り付いていた。

 女性器の形がはっきり見て取れるほどに。

 

「これならすぐ挿れて大丈夫だな?」

 

 確認するまでもないことではあったが、一応口にする。

 その言葉にセリーヌは顔を恍惚と輝かせ、

 

「――は、はい!

 下さい! ヴィルさんのぶっといおちんぽ、(わたくし)にお恵み下さいまし!」

 

「いいだろう」

 

 一つ首肯してから、ヴィルはセリーヌを壁に押し付けた。

 彼女の肢体を固定させたところで、ズボンからギンギンに勃起した自分自身を露出させる。

 

「ああ――すごいっ――こんなに雄々しいだなんて――」

 

 何度も見ただろうに、セリーヌは彼の愚息をうっとりと見つめていた。

 褒められて悪い気はしないが、別に鑑賞のためだしたわけでは無い。

 

「いくぞ」

 

 セリーヌのショーツをずらして膣口を露わにすると、イチモツをそこへ添える。

 そして彼女の身体をこちらへ引き寄せながら、腰を思い切り突き出した。

 

「――ああああっ! 熱いっ!! おっきいの来ましたぁっ!!!」

 

 未亡人の嬌声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 それからしばしして。

 

「――さて、そろそろ一度休憩にしようか」

「は、はい」

 

 ここは昨日も訪れた町はずれの森。

 訓練を開始しヴィル達は一度目の休憩時間に入った。

 ジットはアルムと一緒に、木陰で休みながら彼女が差し入れた軽食を食べているようだ。

 一方でヴィルはと言えば、

 

「はい、どうぞ。

 お口に合えば良いのですけれど」

 

「ありがとう、セリーヌさん」

 

 こちらはこちらで、セリーヌが持ってきたサンドウィッチを頂いていた。

 野菜やハム、フルーツで彩られた食事を、美味しく頬張る。

 とはいえまだ昼前であるため、余り多く食べるわけにもいかないのだが。

 

「……と、すまない。

 飲み物はないかな?」

 

 パンを食べていると、口の中が些か乾いてきた。

 何か喉を潤すものはないかと、セリーヌに尋ねてみる。

 すると彼女は笑みを――蠱惑的な笑みを浮かべ、

 

「ごめんなさい、飲み物を持ってくるの、忘れていましたわ。

 ですから――」

 

 未亡人が自らスカートを捲りあげる。

 履き替えたのだろう、そこには純白の絹のショーツがあった。

 うっすらと“向こう側”が透けて見える程薄い生地は、既に少し湿っている。

 

「――(わたくし)ジュース(・・・・)を、飲んで頂けませんこと?」

 

 セリーヌは股を広げ、股間をヴィルへ突き出しながら、そう言い切った。

 雌の香りがむわっと広がる。

 

「君のジュース(・・・・)を?」

 

「ええ、味わって頂きたいのです」

 

「……そうか」

 

 その意味が分からないヴィルではない。

 青年は手を未亡人の股間に伸ばす。

 指先で彼女の陰核を掴むと、

 

「――あっ」

 

 セリーヌが小さく吐息を吐く。

 それを聞きながら、ヴィルはその指をくいっと捻った。

 

「――あっ――あぁぁああああああっ!!?」

 

 途端に上がる嬌声。

 セリーヌの肢体がビクビクと震え、むちむちとした太ももの付け根から透明な液体が漏れ出した。

 

「随分と栓の緩い蛇口だな?」

 

「だ、だって、そんな強くされたら――あひぃいいいいっ!!!?」

 

 抓んだ“豆”にぐりぐりと力を込めた。

 弄れば弄る程、白いショーツから愛液が溢れ出てくる。

 

「じゃあ、味を見てみようか」

 

 未亡人から垂れる“蜜液”へ口を付けるヴィル。

 ジュルジュルと音を立てて、それを啜り出す。

 

「あっあっあっあっあっ!!

 ど、どうですかヴィルさん?――ん、あぁああっ!!

 (わたくし)、の、ラブジュースのお味、はっ――んんぅうううっ!!!」

 

「……悪くない」

 

 口内には生々しい雌の味が充満していた。

 新鮮な愛液は、酸味とほのかな甘味を感じさせる。

 雄の欲情を刺激し、もっと堪能したくなる味だった。

 

「――あっ!! あぁぁあああああああっ!!!!」

 

 クリトリスを捻り、抓み、圧迫する。

 その度に女の蜜が溢れかえり、ヴィルの渇きをいやす。

 

「……はむっ」

 

 十分に水分を摂ったところで、サンドウィッチを一口。

 何となくだが、普通に食べた時より美味い気がした。

 そのまま1個平らげたところで、

 

「――んんっ!! あはぁぁあああああっ!!?」

 

 今度は愛液を一すすり。

 濃厚な雌汁を楽しむ。

 

「ヴぃ、ヴィル、さんっ! ヴィルさん!!」

 

「どうした?」

 

 唐突にセリーヌが話しかけてきた。

 

「わ、(わたくし)も! (わたくし)も欲しいのです!

 ヴィルさんの“ミルク”が、飲みた――いぃいいいいいっ!!!?」

 

 喘ぎながら、自らの願いを請ってくる。

 ヴィルはその要求を――

 

「いいだろう」

 

 ――二つ返事で了承した。

 “出したくなってきた”ところでもあったのだ。

 

「――よっと」

 

「きゃっ!?」

 

 ひょいっと両手で未亡人の身体を抱き上げ、空中で反転(・・)させる。

 丁度、セリーヌの股間がヴィルの顔の前に、ヴィルの股間がセリーヌの顔の前に来る。

 シックスナインに近い体勢だ――青年は寝転がらず座ったままなので、彼女は上下逆の姿勢になっているのだが。

 未亡人の長い黒髪は普段と逆側に垂れ、地面にまで届いている。

 

「さあ、舐めてくれ」

 

「は、い――分かりました、わ」

 

 逆さにされて戸惑った風ではあったが、セリーヌはすぐにヴィルのズボンへ手をかけた。

 ややたどたどした手つきでズボンと下着を降ろした彼女の目の前に、太く固く反り立つ青年の男根が現れる。

 

「あはぁ♪――ヴィルさんの、逞しすぎますわぁ♪」

 

 セリーヌの声が弾む。

 余程嬉しいのだろう。

 彼女は躊躇うことなくその肉棒を口に含んだ。

 

「んんっ――じゅるじゅるっ――んふっ――れろれろっ――んんんぅっ」

 

 そして竿を舐め、亀頭を吸い、口全体で愚息を扱き出す。

 股間の暖かく濡れる感触が、棒全体へかかる刺激が、実に心地よかった。

 

「ぺろっ――れろ、れろれろ――じゅぽっ――じゅぽじゅぽっ――んふぅうっ」

 

 セリーヌの頭が激しく前後する。

 少しでも早く精液を飲みたいのか。

 快感が高まり、射精がみるみる近づいてくる。

 

「いい感じだぞ――んむっ」

 

「はぅっ!?」

 

 ヴィルもまた、眼前にあるセリーヌの股間へ吸い付いた。

 ショーツはびしょびしょで、最早その役目を果たせていない。

 舌でぷっくら膨らんだ陰核を転がしてやれば、雌汁が幾らでも湧き出てくる。

 先程から嗅覚は、雌の匂いしか拾っていなかった。

 

「ん、んんんぅっ――あ、ああっ――ぺろぺろ、れろっ――はううっ――あ、ああ、イクっ!!」

 

 セリーヌも懸命にフェラするものの、先に果てたのは彼女だ。

 

「ああああああっ!!! ああああっ!! あぁあああああああっ!!!」

 

 肢体を弓なりに仰け反らせ、未亡人がビクッビクッと震える。

 膣から愛液が吹く。

 完全にイキ果てたようだ――が。

 

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ――――んむっ!」

 

 それでも彼女は肉棒をしゃぶり続けた。

 

「んんんんんっ――じゅぼじゅぼ、じゅぼっ――じゅるっ――レロレロレロレロっ」

 

 前よりさらに勢いを増してフェラするセリーヌ。

 喉奥にまで肉棒が届いているはずだが、それを気にすることなく頭を振っていた。

 

(これは――気持ちいい!)

 

 見る見るうちに、ヴィルの昂りが頂点へ達す。

 青年は我慢することなく、溜めに溜めた精液を迸らせる。

 

「んんぅっ!!?」

 

 突如噴出したザーメンに、未亡人の動きが止まる。

 しかしそんなことお構いなしに、ヴィルの射精は続いた。

 

「ん――ん、ん、ん――んんんぅうっ!?」

 

 ドクドクとセリーヌの口内へ精を注ぎ込み続ける。

 彼女は甲斐甲斐しくそれを受け止めていたが――

 

「――ん、くっ――んん、ぶっ――げほっ!!」

 

 とうとう限界が来て、精子を吐き出した。

 

「げほっ! げほげほっ! か、はっ!」

 

 むせ返るセリーヌ。

 何度か咳をしてから落ち着いた彼女に、ヴィルは問いかける。

 

「俺の味はどんなものだろう?」

 

「はぁっ――はぁっ――濃くて、ドロドロして、喉に張り付いて――

 さ、最高でしたわぁ♪」

 

 未亡人は、恍惚とした笑みでそれに応えるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 特訓の成果(H)

 

 

 

 

 さらに時が進み、昼休み。

 

「あひっ! あひぃっ!! あひぃっ!!

 いいっ!! いいですわ、ヴィルさんっ!!

 おっきいちんぽが、奥まで届いてますぅっ!!」

 

 セリーヌは木の幹に手を突き、尻を突き出している。

 その丸出しになった大きい尻へと、ヴィルは全力で腰を叩きつけていた。

 

「ひぃいいいいいっ!!!

 すごいっ!! すごいぃいいっ!!

 入るっ!! 子宮にまで入っちゃいますわぁっ!!!

 お、おお、おおぉぉおおおおおおおおっ!!!?」

 

 女体の最奥にまで到達した肉棒が、未亡人を内側から責め抜く。

 

「イクぅっ!! イクイクイクっ!! イキますわぁっ!!

 (わたくし)、もうイキますのぉっ!!

 んぁあああああああああああああああっ!!!!」

 

 ガクガクとセリーヌの膝が揺れる。

 分かりやすく果てたようだ、が。

 

「あっ!! ああっ!! ああああっ!!

 まだっ! まだやりますのっ!!?

 (わたくし)、イキましたのにぃいいっ!!!

 あひぃいいいいいいいっ!!!?」

 

 一度イって敏感になったところへ、さらにピストンを食らい絶叫する。

 ――ヴィルはまだ射精していないのだから、当たり前といえば当たり前の展開だ。

 

「いぃいいいぃぃいいいいいいっ!!!?

 来るっ!! 来るぅうっ!!!

 (わたくし)、またキちゃいますのぉおおおおおっ!!!!?」

 

 絶え間ない攻めに、未亡人は瞳から涙を流しながら二度目の絶頂を迎えた。

 

 

 この時間。

 ヴィルは3回の射精を行ったが、セリーヌの回数は2桁にまで達していた。

 

 

 

 

 

 

 午後の休憩時間が来る。

 事ここに至り、最早特訓どころではなかった。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 地面にシーツを敷き、その上でヴィルとセリーヌはまぐわう。

 下になったセリーヌは大股を開き、ヴィルのまるで衰えぬ男根を受け入れていた。

 互いに全裸だ。

 人目など気にしていない。

 ここは滅多に人など来ないし――唯一目撃者になり得るジットは、少し離れたところでアルムと愛し合っていた。

 ヴィル達に感化されたのである。

 

「あぁあああああっ!! いいっ!! いいのぉっ!!!」

 

 青年は露わになった豊かな乳房を揉む。

 その先端にある乳首を抓み、舐め、しゃぶる。

 雌の柔肉を味わい尽くしながら、腰を振り続けた。

 

「いい締まり具合だ!

 もう何度目か覚えていない程ヤったというのに――流石だな、セリーヌさん!!」

 

「う、嬉しい、ですわぁっ♪――あっあっあっあっあっ!!

 あひっ! あっ! あああっ!!!

 ね、ねぇ、ヴィルさん、また、お願いが――」

 

「ん、なんだ?」

 

 嬌声の合間に、セリーヌが頼み事をしてきた。

 ヴィルがそれへ耳を傾けると、

 

「今だけで、いいのです――あっああっあっ!

 い、今だけ――(わたくし)のことを、セリーヌと呼んで下さいっ!」

 

「――それは」

 

「お、お願いっ!――あっあっあっあっ――呼んで、欲しいの!

 今だけっ――今だけ、ですからぁっ!」

 

「……分かった」

 

 ヴィルは彼女の望みを受け入れることにした。

 セリーヌの耳元に口を近づけ、

 

セリーヌ(・・・・)

 いいぞ、凄くいい。

 お前の肢体は、最高だ」

 

「あっ♪ ああっ♪ あっ♪

 嬉しいっ!! すごく――あっあっあっ――嬉しい、ですわっ!!

 もっと、もっと(わたくし)を堪能して下さいませ!!」

 

「ああ、幾らでも抱いてやる、セリーヌ!」

 

「あぁあああああっ――し、あ、わ、せ――あぁぁぁあぁああああああっ!!!!」

 

 未亡人が歓喜の声を上げる。

 

「ああああっ――アナタ(・・・)ぁ――

 アナタ、アナタ、アナタ――あ、あひっ! あっ! ああっ!!

 愛してますっ――愛してますぅっ!!!

 (わたくし)にアナタの子を身籠らせて下さいませぇっ!!――ああっ!! あああああっ!!!」

 

「――いいぞ、セリーヌ。

 くれてやる。

 俺の精子を、たっぷりお前にくれてやるからな!」

 

 彼女の言葉に、ヴィルは腰の動きで答える。

 

「はひぃぃいいいいいっ!!?

 激しっ――激しくなったぁっ!!!?

 あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!!

 好きっ!! 好きなのぉっ!! 凄く愛しちゃってるのぉっ!!

 元気な赤ちゃん産みますから――アナタの子種、いっぱい注いで下さいましぃいいいいっ!!!」

 

 そこで、両者共に臨界へと到達する。

 

「セリーヌっ!! 出すぞ!!」

 

「来てっ!! 思いっきり来てぇっ!!

 アナタ、(わたくし)を孕ませてぇえええええええっ!!!!!!」

 

 ――膣口から精子が吹き零れる程の、射精が始まった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、特訓は終了を迎える。

 

「ヴィルさん、見て下さい!

 僕、ここまで上達しました!!」

 

「うむ、見事だ、ジット君」

 

 あやとり紐を巧みに操り、次々と技を決めるジット。

 初日に見せた不器用な指使いは、そこに存在しなかった。

 ヴィルはその姿を見て満足そうに頷く。

 傍らではアルムが嬉しそうに微笑んでいる。

 

「――――え?」

 

 一人、怪訝な顔をするのはセリーヌだ。

 

「え? どうして? おかしいでございましょう?」

 

「おかしいって、何か変なことでもあったのか?」

 

 疑問符を浮かべる彼女へ、ヴィルはこちらから質問する。

 

「だ、だって、特訓? 特訓、してましたっけ?」

 

「当たり前じゃないか。

 今日はそのために時間を割いたんだぞ。

 なぁ、ジット君」

 

 ヴィルに振られたジットが、その後を継ぐ。

 

「はい、ヴィルさんの懇切丁寧な指導のおかげで、僕もここまでになれました。

 今日一日、頑張った甲斐があります!」

 

「えー……」

 

 そんなジットの言葉を聞いても、納得いかない様子のセリーヌ。

 

「いえでも、午前中はともかく午後は特訓なんてする暇なかったではありませんか!

 ヴィルさんは(わたくし)とずっと抱き合ってましたし、ジット君とアルムさんだって!!

 ほらっ! あそこのシーツがその証拠で――」

 

「<火炎球(ファイア・ボール)>!!」

 

「ああ、燃やしましたぁっ!!!?」

 

 突如降ってきた火の玉が、森の一角を炎に包んだ。

 幸いにして火はすぐに消え、燃え広がるようなことは無かったが。

 それを見届けたヴィルはジットへと向き直り、

 

「――うむ。

 辛く過酷な特訓だったが、よくやり抜いた。

 正直、特訓を始める前は不安しかなかったが……いざ終えてみれば、全くの杞憂だったな。

 君は俺の一番弟子と言ってもいい」

 

「ええ、途中何度も諦めかけましたが、ヴィルさんを信じて何とかついていきました。

 ほんの二日という短い期間でしたが、貴方は僕の人生における大切な師匠です」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」

 

「お礼をするのは僕の方ですよ」

 

 笑い合う男二人。

 その光景を見て、アルムは感動の涙を流していた。

 

「り、理不尽ですわ――」

 

 一方で、世の不条理を味わうかのような表情のセリーヌ。

 しかし――

 

「ひゃうっ!?」

 

 突然、素っ頓狂な声を出す。

 ヴィルが、彼女の尻を弄りだしたのだ。

 

「ちょ、ちょっとヴィルさん、何を――お、おぉおおっ!!?

 ま、待って、いけません、そこは、不浄の穴ぁああああっ!!!?」

 

「……なぁ、セリーヌ。

 今日のことで、何か問題でもあったのか?」

 

 ヴィルの手はスカートへ潜り、ショーツの中にまで侵入していた。

 尻の割れ目をかき分けて、後ろの穴を指で突きながらヴィルが問う。

 

「おおっ――お、おぉおおっ!?

 そこっ――そこぉっ! コリコリしないでぇっ!!」

 

 身悶えする未亡人。

 だがヴィルは手を緩めない。

 柔軟な弾力の尻肉を揉みつつ、菊門へ挿し込んだ指を動かす。

 

「おっおっおっおっおおおおっ!!!?」

 

「セリーヌ、問題があるかどうか、聞いているんだぞ?」

 

 肛門への責めに悶絶する彼女に顔を寄せ、今度は耳を舐めだした。

 さらには舌を耳穴へと挿し入れる。

 

「あぁああ、あひぃいいっ!!!?」 

 

 尻と耳、二つの穴を同時に弄られ、甘い声色の悲鳴を上げた。

 堪らず、セリーヌは降参する。

 

「あ、ありませんっ――何も、問題ありませんわぁっ!!

 おお、おぉぉおおおっ!!!?」

 

「……うむ」

 

 引き出したその回答にヴィルは一つ頷く。

 どうやら、セリーヌの疑問は全て解消したらしい。

 ヴィルは改めてジットの方へ顔をやると

 

「じゃあな、ジット君。

 本番は明日なのだから、今日はゆっくり休むんだぞ?」

 

「あ、はい、分かりました、ヴィルさん」

 

 軽く挨拶を交わし、帰路へとつくのであった。

 但し――

 

「……そういえば、こっちの穴はほとんど手付かずだったな。

 夜はココを重点的に責めるか」

 

「おっおっおっおっおっ!!?

 掻き混ぜられてるっ!! 掻き混ぜられてますわぁっ!!?

 おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!

 も、もう、ダメぇえええええっ!!!!」

 

 ――未亡人の尻穴へ、指を挿し込んだまま。

 そんな彼らを見たジットとアルムは、

 

「……ねぇ、アルム。

 これから僕の家に来ないか?」

 

「え!? で、でもジット――」

 

「今夜は英気を養いたいんだよ!」

 

「あ、あんっ♪

 ちょっと、ジット、そういうのは、せめて家に着いてからぁっ♪」

 

 こちらはこちらで、激しい夜を過ごすことになりそうだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥ あやとり大会

 

 翌日。

 とうとうあやとり大会が始まった。

 アルムやセリーヌは勿論、ヴィルも結末を見届けるため大会が開催される町一番の大広場へと参集する。

 広場は幾つかの会場に分けられており、各会場で参加者達は次々に技を繰り出していた。

 

「――くらぇえええええいっ!!!」

 

 巨漢が、縄のように束ねた紐を鞭のようにしならせ“対戦相手”へと叩きつける。

 紐で全身を強打された相手は、会場の端まで吹き飛んでいった。

 

「死ねやぁあああああああっ!!!!」

 

 細身の男は紐でトラップを組み、かかった対戦相手へと襲いかかる。

 紐によって体の自由を奪われた相手は、必死にもがくも為すがままだ。

 

「地獄に堕ちろぉおおおおおっ!!!!」

 

 ピンと張った紐を踏み台に宙へ跳んだ黒服の男は、対戦相手へ上方から奇襲をかける。

 中空への反撃技を持たない相手は、一方的な攻撃を受けた。

 

 

 ――ワァアアアアアアッ!!!

 

 

 各会場で、技が決まる度に観客は歓声を上げ、勝者へと拍手を贈る。

 それに呼応するように、参加者達はさらに派手で強烈な技を披露した。

 敗北者が飛ばす血飛沫も、観客を盛り上げるカンフル剤にしかならない。

 大会は序盤から白熱していた。

 

 セリーヌもまた周りの人々同様手を叩きながら――しかし、真剣な表情で語る。

 

「今年の大会はレベルが高いですわね」

 

「うん……ジット、勝てるかな?」

 

 心配そうなアルム。

 自分達の未来がかかっているのだから、当然の反応だ。

 セリーヌは励ますように、

 

「大丈夫ですわよ。

 あんなに、頑張ったんですもの。

 アルムさん、貴女がまず信じてあげませんと」

 

「……そう、だね。

 わたし、精一杯応援するよ!」

 

「その意気ですわ」

 

 気丈なアルムの言葉に、セリーヌがにっこりと微笑んだところで――

 

「ちょっと待て」

 

 ――ヴィルが限界を迎えた。

 セリーヌは首を傾げて、

 

「? どうされました、ヴィルさん?」

 

「あれ? そこで怪訝な顔されるのか?

 真剣な会話に水差すなよって顔されるのか?

 そういう顔したいのはこっちの方なんだが?

 なんかさっきから完璧に置いてかれてる感じなんだが?」

 

「はぁ……?」

 

「あー、さてはこっちの言ってること理解してないな?

 何言ってんだこいつって顔だな、それは?

 いちいちこんなことで会話を繰り返したくないからはっきりぶっちゃけるが――これ、あやとりじゃないだろ!?」

 

 最後はつい声を荒げてしまう。

 だがセリーヌはきょとんとした顔。

 

「ご存知――ありませんの?」

 

 彼女は心底不思議そうな顔をして、

 

「互いの命を――(あや)を取り合うから、殺取り(あやとり)というのですわ」

 

「ご存知あるわけあるかっ!! そんな隠語!!!」

 

 ……この町の“あやとり”は、ヴィルの知る“あやとり”と違った。

 

「その癖いっちょ前にあやとり紐を使ってるのがむかつく!!

 必要ないだろ!?

 素手なり武器なりで戦えよ!!!」

 

「あら、この町は上質な糸が名産だという話、していませんでしたかしら?」

 

「名産だからって何にでも使えるってもんじゃないわぁっ!!!」

 

 ヴィル、魂の叫びであった。

 

「あ、ジット君の出番ですわよ」

 

「ホントだ、頑張れー、ジット!」

 

「あれー? スルー?

 俺の慟哭は聞くに値しない?」

 

 セリーヌとアルムはジットの試合に集中しだしてしまった。

 ヴィルが横で喚いても見て見ぬふりだ。

 

 そうこうしている内にジットが会場に姿を現して――

 

「――あ、あら?」

 

 不意にセリーヌが声を零した。

 そこには焦りの色が見える。

 

「ジット君の対戦者――去年の優勝者では?」

 

「ほ、本当だ!?」

 

 セリーヌの指摘にアルムも驚く。

 どうやらジット、いきなり強敵に当たってしまったらしい。

 確かに対戦相手は身体のあちこちに古傷がある筋骨隆々の大男であり、佇まいからしても只者で無さそうな空気を発していた。

 ……持っているのはあやとり紐だが。

 

 大男が口を開く。

 

「まさか最初に俺と当たるとは……運が無かったな、ジット」

 

「――ヴィ―ガンさん」

 

 ぽつりと、ジット。

 どうやらこの2人、知り合いらしい。

 まあ、同じ町出身なのだから不思議な話でもないか。

 

「アルムとのことは知っている。

 お前達の仲を引き裂く気は無いが――手を抜くことはできんぞ」

 

「勿論です、僕だってそんなこと望んじゃいない。

 正々堂々、この大会を勝ち抜いてみせます!」

 

「よく吠えた!

 だがお前にできるかな!?

 まともに糸も操れないお前に!!」

 

「できるとも!!」

 

 力強い宣言と共に、ジットは腕を勢いよく広げた。

 その手から放たれるは、幾条もの紐。

 

「こ、これは――!?」

 

 大男ヴィーガンが狼狽しだす。

 その攻撃に対して、ではない。

 紐が、彼を狙っていなかった(・・・・・・・・・・)ことに、だ。

 四方八方へと跳ぶ紐は、会場の柱に、近くの木に、向かいの家に、次々と巻き付き――そしてまた別の方向へと飛んでいく。

 ジットは紐を巧みに操り、あらゆる場所へそのネットワークを張り巡らせていく。

 

「な、なんと――!!」

 

 対戦相手の男は息を飲んだ。

 いや、彼だけではない。

 会場にいる誰もが、ジットの絶技に言葉を失くしていた。

 

 ――出来上がったのは、紐で巨大な“蜘蛛の巣”。

 ジットを中心に形成された、“敵”を捉える凶悪な『網』だ。

 その絶技は大会の有力者と比べてさえ、群を抜いたものであり――

 

「――なんと繊細で、美しい」

 

 ヴィーガンの呟きの通り、芸術的とすらいえる程、緻密な形状を誇示していた。

 そこでセリーヌがはっと気づく。

 

「そ、そうでしたのね!

 ヴィルさんは、コレを目的にジット君へあんな特訓を――!!」

 

 その台詞に、隣のアルムも何かを悟る。

 

「そうだったんだ!

 いきなり宴会芸(・・・)っぽいことやりだして、いったい何考えてんだろこの人って思ってたけど、全てはこのために!?」

 

「ええ、そうに違いありませんわ。

 (わたくし)も正直、『あれ、ひょっとしてヴィルさんなにか勘違いしてらっしゃるのかしら』と思っていましたけれど。

 この技の習得を見越して、あんな子供じみた(・・・・・)特訓をさせていたのです!」

 

 観客席に居るアルムとセリーヌの声が聞こえたのか、ジットもそこへ乗っかって来て。

 

「そうさ!

 実のところ僕だって、『セリ姉の紹介だけど、このヴィルって人、頭大丈夫なのかな?』って最初は思ってた!

 でも違ったんだ!!

 あの人は、僕にこの技を身に着けさせるため、敢えて幼稚(・・)にすら見える一発芸(・・・)を教え込んでくれたんだ!!」

 

 

 ――オォオオオオオッ!!!?

 

 

 熱い台詞に、事情をよく分かっていない群衆達も騒めいた。

 

「ははっ――殺せよ。

 誰か俺を殺せよ――!」

 

 当のヴィルは涙目になっていたが。

 それはさておき。

 

「さあ、行くぞ、ヴィーガンさん!!」

 

「ぬぅっ!!?」

 

 ジットが広げた腕を閉じた(・・・)

 同時に“紐”が一斉にヴィーガン目掛けて殺到する!

 

「お、おぉおおっ――!!?」

 

 咄嗟に避けようとするも、大男に逃げ場はなかった。

 手に、脚に、胴に、首に、紐が巻き付いていく。

 がんじがらめにされたヴィーガンは、もはや動くことすらままならない。

 

 そしてジットは目を閉じる。

 

「これが――」

 

 静かなる宣言。

 次の一手で、“終わり”だ。

 

「これが――――“あやとり(・・・・)”だぁああっ!!!!!」

 

「ぎゃぁあああああああああああああっ!!!?」

 

 紐がヴィーガンを締め上げる。

 断末魔の叫びと共に、彼の敗退はここに決まった。

 番狂わせの戦いに、観客は誰もが拍手喝采を勝者(ジット)へ送る。

 

 その一方、

 

「……タワー」

 

 会場の隅で、ヴィルは一人あやとりを勤しみ始めた。

 

 

 

 

 

 

 結局、ジットは優勝した。

 今年の大会はほぼ彼の独壇場だったらしい。

 

「よくぞ、儂の出した条件を成し遂げた。

 こうなった以上、お前達の仲を認めない訳にはいかんな」

 

 そんなわけで、ジットとアルムは正式にお付き合いできることとなった。

 朗らかな町長の表情から察するに、彼も別にジットを嫌っていたということでも無いようだ。

 

 ちなみに、今居るのは町長の家。

 大会が終わってすぐ、報告に訪れたのである。

 本来であればジットとアルムだけで行くべきようにも思ったのだが、一応関係者ということでヴィルとセリーヌも一緒だ。

 

「数日前まで、まともに紐も扱えなかったお前が優勝できるとは――これも愛の成せる業か」

 

 腕を組んで感慨深く頷く町長。

 ジットは軽く頭を振って、

 

「いいえ、僕だけではとても優勝なんてできませんでした。

 全て、こちらのヴィルさんのおかげです」

 

「……うん、そだね」

 

 話を振られたヴィルは、遠い目をして返す。

 この件には、余り触れられたくない。

 

「……これで、晴れてわたし達は婚約できたわけだね」

 

「うん、アルム。

 待たせてしまって、ごめん」

 

「気にしないで、ジット」

 

 そして唐突に始まる甘い空間。

 しかし水を差すのも野暮というものだろう。

 彼らは今日という日をずっと心待ちにしていたのだから。

 

(そろそろお暇するか)

 

 自分はもう用済み。

 そう考えて、ヴィルはその場を立ち去ろうと――

 

「……でも、本当にいいの?

 わたし、男の子なんだよ?」

 

「え?」

 

 ――したところで、何やら衝撃発言が来た。

 

「何を今更。

 僕は、アルムが好きなんだ!」

 

「――ジット!」

 

「ちょっと待って。

 ねえ、ちょっと待ってって」

 

 ひっしと抱き合う2人へ、待ったをかけるヴィル。

 そんな彼へやや非難めいた視線が集まるものの、それに負けじと発言する。

 

「あの――男?

 アルムは、男なのか?」

 

「そうですわよ?

 あら、(わたくし)言ってませんでしたかしら?」

 

 何を今更、という口調でセリーヌ。

 言われてよくよく観察してみれば、確かにアルム、女性にしてはやや肩幅が広い。

 サイズが大きめの服を着ていたため目立たないが、胸も無かった。

 筋肉も普通の女の子に比べて少しがっしりしているようにも見える。

 そういえば服装も、ギリギリ男性が着ても違和感が無い代物だ。

 

「い、いやいやいや! それにしたって女らしすぎるだろう!?」

 

 だがこれでヴィルを責めるのも酷というもの。

 逆に言うならば、アルムは注意深く観察しないと男らしさを見いだせないというわけなのだから。

 驚愕の事実に目を白黒させるヴィルだが、ジットは彼をジロっと睨み、

 

「……ヴィルさん。

 “そういう目”でアルムのこと見てたんですか?」

 

「その台詞を君が言うのか!?」

 

 “そういう目”でしかアルムを見ていないであろうジットには言われたくない言葉だった。

 

「そもそもダメだろう、男同士とか!

 そんな非生産的な!?」

 

「何を言います、旅の方」

 

 今度は町長が口を挟んでくる。

 

「好き合う者同士が一緒になるべきと、そう言ったのは貴方ではないですか」

 

「ケースバイケースってもんがあるだろ!?

 だいたい、あんただって最初は反対してたじゃないか!!」

 

「二人の熱意に絆されました」

 

「絆されるなよ!!

 そこはもっと強固に抗えよ!!」

 

 喚くヴィルをよそに。

 

「――ジット、わたし達、ようやく一緒になれるんだね」

 

「――うん、今日は寝かさないよ、アルム」

 

 当の2人は互いを見つめ合い、熱い抱擁を交わしていた。

 女性陣達はそれを見て顔を赤くする。

 

「素敵ですわ……♪」

 

「ええ、これが真の愛なのですね」

 

「アタシ、憧れちゃいますっ」

 

「何うっとりした口調で語ってんだ!?

 あとエルミアとイーファ!

 お前等どっから湧いてきた!?」

 

 いつの間にかその場へ現れたエルミアとイーファにもツッコミを入れつつ。

 

「あーもうっ!! あーー、もうっっ!!!!」

 

 やり場のないモヤモヤを抱えつつ。

 ヴィルはこのことを――忘れることにした。

 大会のこととか色々含めて、様々なアレコレを忘却の彼方へ放り投げたのだった。

 

 

 

 第8話 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 彼が本気になったなら
① 魔女、やらかす(H)


 

 

「見て下さいよ、お二人とも!

 ここが噂に名高いカーンデァル山の山頂ですよ!

 凄い絶景ですね!!」

 

 イーファの言う通り、ここは山の頂だった。

 確かに良い景色だ。

 麓に広がる大森林も一望できる。

 

「……ああ」

 

「……そうですね」

 

 対して、ヴィルとエルミアの返答は無感情なものであった。

 しかしイーファはそのことに気付かず。

 

「初代の勇者はここで神託を受けられたとか!

 この場所から勇者の冒険が始めったんですよ!

 歴史の追体験している感じで、アタシ感動しちゃいます!!」

 

 聞いてもいないのに熱弁をふるう。

 目が有り得ない程輝いていた。

 

「……ああ」

 

「……そうですね」

 

 一方で、ヴィルとエルミアの目は死にかけている。

 

「なぁ、エルミア」

 

「……はい」

 

 元気なイーファを置いて、会話を始めた。

 二人共、口調がとても疲れている。

 

「俺達、王都に向かってるんだよな?」

 

「……そうですね」

 

「俺の記憶が確かなら、カーンデァル山って王都と逆方向じゃなかったか」

 

「……そうですね」

 

「何で俺達、ここにいるんだ……?」

 

「……なんででしょうね」

 

 全ては、『アタシ、近道知っているんです!』とか言い出したイーファに道案内を任せたことに原因がある。

 途中で薄々おかしいと気づいていたのだが、彼女が凄まじい行動力を発揮して反論を封じられてしまった。

 結果、深い森を潜り抜け、険しい山々を踏破し、ヴィル達は勇者発祥の地へと足を踏み入れることになったのだ。

 まさか彼女の勇者フリークが、ここまでだったとは。

 

「あー! この岩、ひょっとして聖剣が刺さってた岩なんじゃないですか!?

 ここで剣を抜いた時、啓示が降りてきたわけですよね!!

 それまで世捨て人だった勇者が、己の運命に目覚めた瞬間だったと――」

 

 向こうでは、まだイーファが騒いでいる。

 

「…………」

「…………」

 

 ヴィルとエルミアは、何をするでも何を考えるでもなく、ただその姿を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 で、最終的に。

 

「や、やめて下さい、先生!

 なんでこんなことするんですか!?」

 

「君が馬鹿なことをしたからだ」

 

 おしおきすることと相成った。

 ヴィルは、むき出しになった柔肉を口に含む。

 

「あぁああっ!! ダメ、ダメです!!

 そこ、噛んじゃダメェっ!!」

 

 ビクビクと震える赤毛の少女。

 だが手を緩める気はまるでなかった。

 というか、こんなもので済まそうとは微塵も思えなかった。

 

「あらあら、イーファ。

 こんなに美味しそうな汁が出てしまっていますよ?」

 

「やあぁぁぁぁ――エルミアさん、許して、許してぇぇぇ――

 ひぁぁああああっ!!」

 

 エルミアも容赦しない。

 雌から流れ出た液を、チュルチュルとすする。

 今は聖女モードだというのに、かなり嗜虐的だ。

 それ程、彼女も腹に据えかねた、ということだろう。

 

 今3人は森の中、やや開けた広場のような所にいた。

 ここで、ささやかな“饗宴”を興じているのだ。

 

「……ここは大分固くなってるな」

 

「あっ!! ああっ!!

 齧らないで下さっ――ひぁああああああああっ!!!」

 

 しっかりと“準備”したためか、大分固くなってしまった(・・・・・・・・・)部分に歯を立てる。

 イーファが悶えるが、知ったことではない。

 

「ん、ふぅ――はむっ――

 ふふふ、美味しいですよ、イーファ」

 

 エルミアもまた、雌の肉へ食らいつき出す。

 

「あーっ! あーっ! あーっ!!

 止めてぇえっ!! 止めてぇえええ!!」

 

 とうとう泣き出す。

 それでも二人の手は動きを止めない。

 イーファは、感極まって叫び出した。

 

「限界っ!! もう、限界なんですっ!!

 お願いします、先生、エルミアさんっ!!」

 

 少女の嘆きが、辺りに響く。

 聞いている者など、誰も居まいが。

 それでも、彼女は続ける。

 

「――アタシにもその“料理”食べさせ下さいぃぃいいいいっ!!!」

 

「駄目だ」←野牛のステーキ堪能中

「駄目です」←雌鳥の煮汁堪能中

「ううぅぅぅ――」←お預け中

 

 彼等は現在、食事中であった。

 

 

 

 

 

 そして。

 

「あー、食った食った。

 エルミアの料理は最高だな」

 

「お粗末様です」

 

「はぅぅぅぅ」

 

 結局イーファは、最後まで料理にありつけなかったのだった。

 

「酷い……酷すぎます……

 なんで、なんでこんなことを!」

 

 さめざめと涙を流し、赤毛の少女が訴える。

 ちなみに彼女は食事中、動けないように縄で縛られていたのだが、それは今も継続している。

 

「自分の欲望を優先して、目的地から大きく離れるような旅程を組んだからだろうが。

 どうするんだ、王都への到着が大分遅れたぞ」

 

「そ、それは、その、申し訳ないです……

 でもでも、情熱が抑えられなくなることって誰にでもありますよね!?」

 

「人に迷惑をかけない範囲でならな」

 

「はぅっ!」

 

 言い訳をズバっと切り捨てる。

 イーファは俯いて、

 

「ううぅぅぅ……お仕置きと聞いて、いつもより激しく抱かれるのを期待してたのに……」

 

「最近、それがお仕置きにならなくなってきたからなぁ」

 

 しみじみと呟く。

 割と毎日のようにハメ倒しているせいで、今の彼女はちょっとやそっとのプレイで根をあげなくなった――どころか、普通に楽しんでしまう。

 日に日に激しい責めを要求するエルミアが原因の大半を抱えているような気もするが。

 

「それにしたって、ご飯抜きとか……うう、お腹空きましたぁ」

 

「その空腹の辛さこそが罰なんだ。

 しっかりと反省しろ」

 

 しかし、今回イーファの食事を無しにしたのは、別の理由もあって――

 

「――実際問題として、そろそろ食料が底を尽きそうなんだよなぁ」

 

 そういうことなのであった。

 勇者マニアな少女が思い切り本来のコースを捻じ曲げたせいで予定していた町に辿り着けず、ヴィル達は食料を補充する機会無く、ここまで行軍してしまった。

 寧ろ彼女へ罰を与えたのは、こちらの理由が大きかったりする。

 

「周囲は森なのですし、ここで食料を現地調達するわけには参りませんでしょうか?」

 

「俺、狩りは苦手なんだよなぁ」

 

 エルミアの提案へ、ややバツが悪そうに答える。

 普通の動物は、ヴィルの気配を感じると全力で逃げてしまう。

 ある程度の強さを持つ魔物であればそうでも無いが、しかし魔物の調理方法など青年は知らない。

 その上、

 

「……この辺りの植生も知らないから、どれが食べられる植物か分からんし」

 

 彼の故郷である帝国の植物であれば、食べられるか食べられないかを見分ける程度のサバイバル技能は身に着けているのだが。

 如何せん、遠く離れた王国の地では、その技能が通用しない。

 

「あ、それなら任せて下さい!

 アタシ、分かります!

 授業でやりましたから!」

 

 そこへ、大きな胸を反らしながらイーファが発言してくる。

 これまでの汚名返上のつもりなのだろうが……

 

「……教科書知識が当てになるのか?」

 

「フィールドワークだってしましたから、大丈夫ですよぉ!」

 

 ヴィルの偏見も入るが、こういうのは実際に現地で行動しなければ習得できないものなのだ。

 だがそれを指摘しても、イーファは自信満々。

 ならば、と質問してみる。

 

「じゃあ、あそこにある草は食べられるのか?」

 

「あれはペソペソ草ですね。

 食べると強烈な吐き気を催し、最悪死に至ります」

 

「じゃあ、あっちになってる実は?」

 

「あっちはヴェーンの実ですね。

 食べると全身が痺れ、最悪死に至ります」

 

「……そこに生えてるきのこは?」

 

「それはベニフレアダケですね。

 食べると激痛が襲い、まあ死にます」

 

 すらすら得意げに答えてくれるイーファ。

 こちらは頭が痛くなってきたが。

 

「あー、つまり総合すると?」

 

「ええ!

 この辺りに食べられる植物は無いって、断言できます!!」

 

「………そうか」

 

「な、なんですか、その可哀そうな子を見るような目は!?」

 

 その通りなので、説明は要らなそうだ。

 

「しかしどの植物も毒持ちってどうなってるんだ、この森。

 呪われてるんじゃないのか?」

 

「仮にも勇者に関わる地でなんてこと言うんですか、先生!

 確かに毒のあるモノが多いですけど、中には食あたりするとか幻覚を見るとか、症状の軽いやつもありますよー!」

 

「何の慰めにもならんわ!!」

 

 一喝し、結局問題は解決の見込みがないことに頭を抱える。

 とはいえ、ヴィルは多少の毒に耐えられるよう訓練を受けているので、最悪の場合自分はそこらの雑草でも食べ、食料は全てエルミアとイーファに回せばどうにかなるだろう。

 ……余りやりたくはないが。

 

「近場に集落でもあればなぁ」

 

「私に心当たりは無いですね」

 

「ガイドブックにも書いてありません」

 

 そのガイドブック、近い内に取り上げておいた方がいいかもしれない。

 だが今は――

 

「――そろそろ、寝よう。

 大分夜も更けてきた」

 

 敢えてイーファに見せつけるよう食事を摂っていたので、いつもより時間がかかってしまったのだ。

 辺りは既に真っ暗。

 獣や虫の鳴き声がどこかから聞こえる。

 食糧事情も考えれば、さっさと眠って体力を温存するべきだ。

 

 ヴィルは荷物袋から寝具――携帯用ベッドというマジックアイテムを取り出した。

 前々からエルミアが使っていたのだが、余りに便利なため自分用にも調達したのである。

 直方体の白い物体、といった形状のアイテムを地面に置き、呪文を唱えればあっという間に人が寝転がれる大きさにまで膨らむ。

 これで、ふかふかベッドの完成だ。

 

(こんな野宿でも宿並み環境で横になれるんだから、旅も便利になったもんだ)

 

 しみじみと思う。

 彼はその上に乗って、

 

「よし、いいぞエルミア」

 

「はい」

 

 呼ばれた少女もまた、慣れた仕草でベッドに上がる。

 するすると着ているローブを脱ぎ、下着姿へ。

 エルミアの白く華奢で、しかし出るとこはしっかり出ている肢体が目の前へ現れる。

 彼女はそのままこちらへしな垂れかかり――

 

「ヴィル――んっ」

 

 キス。

 唇の柔らかい感触が直に伝わる。

 ほのかに甘い匂い。

 銀糸のような長い髪が、ヴィルの肩にかかる。

 辛抱堪らず、エルミアの身体を抱きしめて――

 

「あ、あれ? 今日もするんですか?」

 

 ――横から、デリカシーの無いイーファのツッコミが入った。

 

「そりゃするよ」

 

「これをしないとぐっすり眠れませんから」

 

 二人そろって返答する。

 最早エルミアを抱くのは、毎日の習慣にまでなってしまった。

 彼女も口にしているが、一日一回はヤっておかないと明日の調子が悪くなる、ような気がする。

 

 では改めて続きを――と動き出したところで、

 

「いやいや、おかしくないですか?

 体力、温存しなくちゃなんですよね?

 セックスしたら消耗しちゃいますよ?」

 

「そうしなくちゃいけなくなった原因は、君なんだが」

 

 食い下がるイーファを一刀両断する。

 

「そ、そうかもしれませんけど!

 だったら、アタシも!!

 アタシも抱いてくれないですかね!?」

 

「駄目だ」

 

「何故!?」

 

 ショックを受ける赤毛の少女へ、止めを刺す。

 

「お仕置き中だから」

 

「はぅぅううううううっ!!?」

 

 がっくりと首を垂らすイーファ。

 そんな彼女は置いておいて、ヴィルとエルミアは交わり始める。

 

「あっ! あっ! ヴィルっ!! そこ!! すごいっ!!

 はあぁぁぁあああああああっ!!!!」

 

 その嬌声は、一先ずイーファが寝落ちするまでは続けていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 大森林の中の小さな村

 翌日。

 

「……こんなことってあるんだな」

 

「神のお導きです」

 

 呆然とするヴィルと、神へ祈りを捧げるエルミア。

 信じられない幸運が彼等に訪れていた。

 

「まさかこんなところに村があるとは」

 

 森を抜けた(・・・)彼らの目の前には、数は少ない者の家屋が建ち、畑が広がり、人々が働いている。

 紛れもなく、人里だ。

 大森林を切り開き、小さくあるものの確かに村が存在していた。

 その光景を見たイーファもまた、感動を堪えるように呟く。

 

「立派な村ですねー。

 ……ガイドブックには載ってなかったのに」

 

「その本はもう捨てろと言ったはずだ」

 

 まだ持っていたのか。

 “この件”が終わったら必ず捨てさせようと心に決める。

 とはいえ、今は恩人(・・)へ挨拶せねばなるまい。

 

「ありがとう、君のおかげで助かった」

 

「いえいえー。

 わたしも、こんなところで聖女様や魔女様に出会えるだなんて思いませんでしたー♪

 神様に感謝、です!」

 

 目の前の人物へ頭を下げると、実に軽い声色で返事をしてくれた。

 彼女(・・)は、まだ幼い少女であった。

 サーラと名乗った彼女は、セミショートのブロンズヘアーをなびかせる、笑顔の可愛らしい子供だ。

 

 食料を切り詰める覚悟で森を強行軍していたヴィル達の前に、偶然彼女が通りがかったのである。

 こちらの事情を説明すると、少女は快く彼女達の村へ案内してくれた。

 そして連れられてきたのが、ここだ。

 

「いえ、私達にとって貴女こそ神に遣わされた救いの手。

 感謝の意、存分に伝えさせて下さい」

 

「うわうわ、聖女様に祈られちゃった!?」

 

 手と手を組んで、今度はサーラに向けて祈りを送るエルミア。

 その所作に少女は仰天しだしたようだ。

 

「アタシからもお礼を言わせて下さい、サーラさん!

 え、えーとえーと、そうだ、コレ、お近づきの印にどうぞ」

 

「あ、え、はい、ありがとうございます……?」

 

 イーファは、『勇者大全』と書かれた分厚い本を少女に渡す。

 感謝の気持ちがそれでいいのか魔女。

 その行いに、流石のエルミアも顔を引きつらせ、

 

「……イーファ、いい加減怒りますよ?」

 

「あ、アタシが持っているもので一番価値がある物なんですよぅ」

 

 半泣きになっているところを見るに、本当に高かった本のようだ。

 だからなんだという話でもあるが。

 

「と、とにかく。

 こちらの窮乏は伝えた通りなんだ。

 早速で悪いんだが――」

 

「はい、父様のところへ案内、ですね」

 

「頼む」

 

 サーラの父親が、この村の村長らしい。

 なんたる都合の良い偶然。

 何者かの策謀すら感じかねない奇跡だ。

 しかし――

 

(集落の長……娘……くっ、頭が!)

 

 この組み合わせ、何か嫌な記憶を刺激させられる。

 いや、彼女は大丈夫のはずだ。

 見るからに可愛らしい女の子であり――まあ仮に違ったとしてもヴィルには何の関係も無い話、そのはずである。

 かつての悪夢と戦うヴィルをよそに、エルミアが思案気にサーラへと話しかける。

 

「少しでも食料を都合頂ければ助かるのですが……」

 

「大丈夫です!

 父様は優しいから!

 聖女様達になら、喜んで協力してくれますよー♪」

 

 胸を叩きながら、少女はそう太鼓判を押した。

 

 

 

 

 

 

「駄目です」

 

「え」

 

 約束は、呆気なく崩れ去った。

 今ヴィル達が居るのは村長の屋敷。

 その応接室へと彼らは通されていた。

 

「で、でもでも、困ってるんですよ、聖女様達は!」

 

「いけません」

 

 サーラが懇願するも、返事は同じ。

 帰ってくるのは拒絶の意思だ。

 と、そこへ、

 

「なぁ、婆や(・・)

 気持ちは分からんでもないが、相手は聖女様に魔女様だぞ?

 備蓄を少し分ける位――」

 

「なりません、旦那様(・・・)

 今年は収穫が落ち込み、節制するよう村人達へ通告を出したばかりです。

 だというのに見ず知らずに旅人へ貴重な食料を分けるなど、とても許容できることではありません」

 

 壮年の“男”が助け船を出すものの、それすら跳ね除ける“老女”。

 

 ――この“男”こそがこの村の村長でありサーラの父親。

 名前をダンマスと言うらしい。

 一方で“老女”は村長お付きの侍女メイヴィル。

 かなり老齢に見えるのだが、背筋はピンと伸び、佇まいにも隙が無い。

 なんでも数十年来この家に仕えてきたとのことだ。

 

(だからって家長より発言力の強い侍女とかありなのか?)

 

 沸き起こる疑問を、心の中で押し留める。

 そう、食料の件、村長の許しは得たものの、この侍女が待ったをかけてきたのである。

 

 まあ、言ってどうにかなる問題ではない。

 部外者である彼は、事の推移を黙って見守ることしかできなかった。

 それは、他の2人も同じだ。

 

「しかしな、婆や。

 ここで彼等を見捨てたとあっては、何かと面倒だぞ。

 何かあったら、王へどう申し開きするつもりだ?」

 

「この程度で朽ちるのであれば、聖女やら魔女やらを名乗る資格は無いでしょう」

 

 ぴしゃりと言い切った。

 

(おいおい、凄い事言うな)

 

 仮にも王国から任命された聖女達に向かってこの口振り。

 権力に対して全く意を介さない、しかし職務には忠実なその姿勢。

 かなりヴィル好みの(・・・)人材だった。

 

(だが、今そのスタンスは困るんだけども)

 

 逆に言えば、“困る”程度で済む話でもあった。

 余り波風が立つようなら、無理はしないで欲しいとこちらから援助の話を断った方が良いかもしれない。

 そう考えていたところへ、

 

「――と言いたいところですが」

 

 老いた侍女が言葉を続けた。

 

「聖女魔女云々関係なく、困窮した旅人を見過ごすのは人道にもとる行為。

 お嬢様の教育にもよろしくないでしょう」

 

「婆や!」

 

 その台詞に、サーラの顔が輝き出す。

 しかし老女はそんな彼女を窘める。

 

「お嬢様、勘違いなさらないように。

 無償の援助など言語道断です。

 しかし彼らが相応の対価を払う(・・・・・・・・)のであれば、それに報いることに吝かでない、というだけの話」

 

「え、えとつまり、お金を貰うってこと?」

 

「この村は外部との交流に乏しく、金銭を頂いても使える場が限られます。

 そうではなく、食料が欲しければその分働いて貰う、ということです。

 ……それでよいですね?」

 

 後半は、ヴィル達に向かって言い放たれる。

 

「ああ、何の問題も無い」

 

 寧ろ望むところだった。

 何の代償も無しに利益だけ受け取ろう等、はなから考えていない。

 それはエルミアやイーファも同じこと。

 

「異論などあろうはずがありません。

 助成に対して労働が要求されるなど、当たり前のことです」

 

「……勿論ですよ!」

 

(その“溜め”はなんだ、イーファ)

 

 少し気になるところが無いわけでも無かったが。

 こうしてヴィル達は、食糧確保のため、村の“お手伝い”をすることと相成った。

 

 

 

 

 

 

 ――のだが。

 

「あー、たりぃ」

 

 心底だるそうな声が、ヴィルの耳に届く。

 これで5度目――いや、6度目か。

 

「あー、たりぃっすわー」

 

 7度目。

 実害があるわけでもないが、こうもやる気のない姿を見せられるとこちらの気も滅入ってくる。

 

「はぁ~あ~」

 

「……なぁ、君」

 

 いい加減にして欲しかったのでヴィルはその声の主に話しかける。

 村の中の道を自分に先立って歩く、メイド姿の少女に。

 

「ため息つくなとは言わないが――ちゃんと案内はしてくれているんだろうな?」

 

「してない、って言ったらどうすんのさ?」

 

「……おい」

 

「冗談。

 してるって、ちゃあんと」

 

「…………」

 

 なんともやる気の無い様子。

 彼女、名はラティナというらしい。

 褐色の肌にショートカットの黒髪という容姿で、くっきりした眉に少し斜に構えているもののパッチリしたツリ目と容貌はかなり整っている。

 ぱっと見ただけならば活動的な印象を与える少女だ。

 今はその印象に反し、だらけているのだが。

 一応、あの老侍女の後輩にあたるそうで、今はヴィルへ与えられた仕事の案内を命じられている最中のはずなのに。

 

「つっても、いきなり雑用押し付けられたら、やる気もなくなるっての。

 あのババアもめんどくさい事してくれちゃってさ。

 食料あげる見返りに労働して貰う?

 それでボクの仕事増えてりゃ世話無いっつーか」

 

 次から次へと愚痴が零れる。

 おまけに口が悪い。

 

「こちらの事情で面倒かけさせたことはすまないが、仕事場まで案内するのがそこまでの重労働か?」

 

「うっさい! 本当ならボクはこれから優雅なティータイムを味わってる予定だったんだよ!」

 

「そいつは失礼」

 

「うわー、誠意がこもってねー」

 

「お互い様だ」

 

 自分達に付き合わせてしまっている関係上、少々の同情は抱くものの、だからといって愚痴に付き合ってやるつもりは毛頭ない。

 

(それにしても――)

 

 ヴィルはラティナを改めて見た。

 第一印象に違わず、その肢体には無駄肉が無くしなやかだ。

 ミニスカートから伸びた脚(この侍女、メイド服をミニスカートに改造している)を見れば、それがよく分かる。

 本来はもっとキビキビ動くタイプなのではなかろうか。

 それでいて服の上から見る胸やお尻の膨らみを見るに、女性としての肉付きもそう悪いものでは無さそうだ。

 流石にエルミアやイーファには劣りそうだが、一般的に見て十分なメリハリは持っている。

 ――と。

 

「なぁオマエ。

 今、ボクのことエッチな目で見なかった?」

 

「そんなまさか」

 

 睨まれるもさらっと流し、

 

(エルミアのせいで、変な視線を向ける癖がついてしまったな……)

 

 その責任を恋人へ擦り付けた。

 

 

 

 そんなこんなで。

 

「はい、じゃコレやっといて」

 

「薪割りか」

 

「そゆこと」

 

 連れてこられたのは、蒔割り場だった。

 森の中にあるちょっとした広場に、大量の丸太が積まれている。

 

「これをどれ位割っておけばいいんだ?」

 

「はぁ~?

 どれくらい~?」

 

 凄く馬鹿にしたようなため息を吐かれた。

 少しイラっとする。

 

「バカなこと言ってんじゃねーっつの。

 全部(・・)やんなさい」

 

「全部?」

 

 丸太の数は10や20ではきかない。

 下手すると3桁に達している。

 

「ま、本気で全部やれるとは思ってないけど。

 日が暮れるまで割れるだけ割んなさい。

 ああ、腰は痛めないようにね、どうせボクが世話するハメになんだから」

 

「全部やっていいのか?」

 

「くっどいなぁ。

 四の五の言わずにさっさと始めてよ。

 時間は待ってくれないよ」

 

 さっきまでダラダラと歩いていた者の言い分として不適切な気がするが。

 ともあれ、ヴィルは仕事に取り掛かることにした。

 

「――さて」

 

 腰に備えた剣を抜く。

 特に構えらしい構えもとらず、無造作に丸太を斬りつけていく。

 

「……え?」

 

 隣にいる少女の呆気にとられた声。

 数十秒後(・・・・)

 丸太は全て蒔へに変貌していた。

 

「これでいいのか?」

 

「……あ、はい、よろしゅうございます」

 

 余程驚いたのか、口調が変わっていた。

 目を丸くしている姿に、少々溜飲が下がる。

 

「じゃあ俺の仕事は終わりだな。

 せっかくだし、村を少し見て回ってもいいか?」

 

「ま、まままま、待って待って!!」

 

 ラティナが慌ててヴィルの前に立ちふさがった。

 手をバタバタと振りながら、

 

「こ、これで終わりなわけ無いでしょ!?

 次はあっち!!

 あっちの畑を耕すの!!」

 

「ほう」

 

 指で示された方向を見ると、森の中に畑らしきものが確認できる。

 ここで“らしきもの”と付けたのには理由があり、

 

「……まだ開墾が終わってないじゃないか」

 

 その“畑”には、多くの切り株が残されていた。

 草もたくさん生えていた。

 落ち葉も積もっており――ぶっちゃけた話、畑というより伐採が済んだだけの空き地と呼んだ方が正しい。

 

「なに!? 文句あんの!?

 さっさとやるったらやる!!」

 

 無茶苦茶な注文だ。

 どう好意的に解釈しても、この仕事を“耕す”とは形容できない。

 

(やれやれ)

 

 一先ずヴィルは周囲を見回す。

 周辺の森は、なかなかに面白い(・・・)状態だった。

 木は密集せず程よく離れて生えており、そのおかげで日の光が地面に届いている。

 それによって丈の小さい草木もしっかりと育ち、しかし鬱蒼とした雰囲気はない。

 まるで人の手が入っているかのようだが、そうでないことはこの村へ来るまで確認済みだ。

 何せ、村から離れた所も、同じような有様だったのだから。

 これも勇者の神託云々と関係あるのだろうか?

 

 ヴィルは誰にともなく一つ頷いてから、

 

「美しい森だ――この森を切り開いて城壁を作ろう」

 

「え? 今なんて?」

 

「ぬぉおおおおおっ!!!」

 

 近場に置いてあった鍬を手に取り、猛烈な勢いで地面を掘り返していく。

 

「ちょ――!!?」

 

 先程にもましてラティナが目を見開いていた。

 

「待って待って待って待って!!

 そこまでやんなくていいんだって!!

 ねぇ!! ちょっと!!

 やりすぎ!! やりすぎ!!!

 何でただの鍬で木を丸ごと引っこ抜けるの!?

 ああああああ!! そっちは畑にする予定ないのにー!!?」

 

「俺の!! 開拓者精神(フロンティア・スピリッツ)に!! 火が付いた!!!」

 

「オマエどこの生まれよ!!?」

 

 

 ……しばし、時間が経過して。

 

 

「ふぅ、綺麗さっぱり片付いたな」

 

 ヴィルは額に浮いた汗をぬぐう。

 辺りの森は消え去り、立派な畑へと姿を変えていた。

 

「あ、ああ、ああああ――何故、何故ここまで――」

 

 どうしたわけかラティナは泣いていたが。

 まあしかし、これでヴィルの仕事は終わったとみて間違いないだろう。

 彼は意気揚々と、エルミア達の待つ村長の屋敷へと足を向けるのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ 屋敷でのお仕事※

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

「その時、主が降臨され、こう仰いました。

 “汝の為すべきことを為すが良い”と」

 

「うんうん、それでそれで?」

 

「その言葉に迷いが晴れた若者は決意を固め――」

 

 エルミアが、サーラに読み語りをしている。

 内容的に、聖書の一節であろうか。

 

 ここは村長の済む屋敷、そのリビング。

 2人はソファーに座り、仲睦まじく談笑しているようであった。

 

(……和む)

 

 屋敷に戻ってきたヴィルはその様子を見て、ついつい頬を緩めてしまう。

 美しい女性と愛くるしい少女が微笑み合う姿は、見ているこちらの心を癒してくれた。

 

 なお、エルミアは別に遊んでいるわけではない。

 サーラへの教育が彼女に頼まれた仕事であり、今は神に関する説話を語っているわけだ。

 ヴィルの請け負う仕事との落差が激しいが、それについて不満はない。

 

(適材適所という奴だ)

 

 エルミアに力仕事を任せようという気は無い。

 もしそんなことを言い渡されていたら、自分が代わりにやっていたことだろう。

 幸い、あの老侍女メイヴィルも、彼女に対しては聖女らしい役割を期待していたようだ。

 

 ――ちなみに。

 イーファは屋敷の掃除を命じられている。

 今現在、同じくリビングの片隅で絶賛窓拭き中だ。

 

「――なんだか、エルミアさんとアタシ、扱いが違いませんか?」

 

 そんな嘆きが聞こえるが、別に重労働を命じられたわけでもないのだから我慢して欲しい。

 この屋敷、村の規模のわりにかなり立派なので、全部を掃除するとならば面倒ではあるだろうが。

 

(ついでに。

 あくまについでにだが、今は2人共メイド服姿だ)

 

 心の中でしっかりと呟いている時点で、ヴィルにとって“ついで”でないことは明白だが。

 それは置いといて、エルミアもイーファも、メイヴィルから制服を渡されていた。

 何でも、この屋敷で働く以上は侍女と同じ扱いを受けて貰う、だそうで。

 おかげで彼女達のメイド姿が見れたのだから、ヴィルとしては文句の言いようが無い。

 

 仕様は頭にホワイトブリム、身体は白と黒を基色としたエプロンドレスという、実にスタンダードなもの。

 エルミアはそれをロングスカート風に、イーファは動きやすさを考えてかミニスカート風に着こなしている。

 なお、この屋敷の侍女で一番スカートを短く履いているのは、つい先ほどまで一緒にいたラティナという侍女だ。

 

 と、そんな風に辺りを鑑賞している間に、

 

「――はい、おしまいです。

 如何でしたか、サーラさん?」

 

「すごく面白かったです!

 ありがとうございました、聖女様!」

 

 エルミアとサーラのやり取りは、一段落を迎えた模様。

 

「あ、そうだ!

 聖女様、たくさん喋ったから喉渇いてませんか?

 今、飲み物をお持ちしますね!」

 

「いえ、お構いなく。

 私は貴女の侍女なのですから、気遣いは無用ですよ?」

 

「そんなことできませんよぉ。

 聖女様は聖女様なんですから!

 待っててください、すぐ持ってきます!」

 

 そう言って、サーラはてくてくと歩いて行ってしまった。

 まだ大分幼いというのに、しっかりした子だ。

 ヴィル達と会ったのも、森へ山菜を採りに来ている最中だった。

 

 エルミアも、そんな少女を良く思っているのだろう。

 台所の方へ歩いていくサーラを柔らかな視線で見つめていた。

 

「……あー」

 

 聖女が一つ息を吐いて。

 

(よご)したい」

 

「エルミア」

 

 真顔で呟いてそこへ待ったに入る。

 こいつ、いつの間にか性女モードに切り替わってやがった。

 

「あらヴィル?

 もう仕事終わったの?」

 

「ああ、終わった」

 

 終わらせておいて良かった。

 あと少し遅れたら、いったいナニが起きたことやら。

 そんなヴィルの想いが伝わったのか、エルミアは軽く笑いながら手を横に振って、

 

「どうしたの、すっごい真剣な顔してるのよ。

 まさか私があの子に手を出すとでも思ったのかしら?」

 

「……違うのか?」

 

 そうとしか思えなかったが。

 

「違うわよ。

 私はただ――」

 

「ただ?」

 

「――私が初めて手を出した頃のロアナも、あんな感じだったなー、と」

 

「完璧にアウトじゃねぇか!!」

 

 ・ロアナ

 エルミアと同じ修道院出身の少女。

 修道女時代、エルミアから散々身体を開発されていた。

 詳しくは第4話参照のこと。

 

「何よ!?

 貴方は何も感じないの!?

 あの屈託な笑顔を、快楽で歪ませてみたいって!」

 

「思わねぇよ!?

 どうしちゃったんだエルミア!

 最近は良い感じに聖女やってたのに!!」

 

「馬鹿の一つ覚えみたいにずっと聖女アピールしててもねぇ?

 やっぱり、私に求められてるのはこっちなんじゃない?」

 

「そんなことないよ!?」

 

 性女なエルミアはそれはそれで大好きなんだけれども!

 だからといって、あの幼気(いたいけ)な少女が餌食になるのを見過ごしていいことにはならない。

 

「ま、大丈夫よ、ヴィルに迷惑はかけないから。

 ただこの村を出発する時、サーラが歳不相応な大人の表情を浮かべていることに目をつむって貰えば――」

 

「イーファ!!

 どこだイーファ!!

 交代!! 交代だ!!」

 

 

 

 と、いう訳で。

 

 

 

「……やるならちゃんと交代しろよ。

 なんでボクが掃除するハメになってんの?」

 

「――すまん」

 

 不満たらたらな褐色少女ラティナに頭を下げる。

 あの後、エルミアとイーファの仕事を交換して欲しいというヴィルの要求は、一部のみかなえられた。

 つまり、サーラへの教師役はイーファへ代わったものの、エルミアは掃除ではなく夕食の手伝いとなったのである。

 こちらが一番要望していたことは受け入れられたため、ヴィルに不満はないのだが――

 

「だいたい、食事はお抱えの料理人が全部請け負ってるんだからさ。

 夕食の手伝いなんて、ちょっとした雑用をこなすだけじゃん。

 なんで面倒な方がボクに降りかかってくるわけ?」

 

 ――ラティナはそうもいかなかった。

 本来は彼女がその夕食手伝いを担当であったらしく、先程から恨みつらみの嵐である。

 

(どうもあのメイヴィルって人、エルミアに甘い(・・)みたいだな)

 

 “聖女”の地位になにか思う所があるのか。

 厳格そうな人物だと見込んでいただけに、少々残念な気持ちもある。

 まあ、些事な話だ。

 

 頭を切り替え、ヴィルは隣で窓ふきをしているメイドへと返事する。

 

「悪かったと思っている。

 だから俺も掃除を手伝っているんだろう」

 

「ふんっ、ボクからの指名がなけりゃ、ふけるつもりだったくせに」

 

「そんなことは無いさ」

 

 言いながら、窓をキュッキュッと磨く。

 自分が発端でこの少女の仕事を増やした手前、何もしないというのは心苦しかったのだ。

 ラティナが“お前もやれ”と喚いたから、という理由もないわけでは無いが。

 

 2人はぶつくさ言いながらも(言っているのはラティナだけだが)、窓掃除を続ける。

 

「――次は高いとこの掃除ね。

 ちょっと、台使うから抑えててよ」

 

「分かった」

 

 この屋敷の窓は大きく、そのままでは上まで手が届かず、足場として台が必要なのである。

 改めて、分不相応な豪華さを実感する。

 

(何か特殊な産業でもやってるのか?)

 

 そうでなければ説明がつかない。

 外で仕事をしていた際に他の村人を見かける機会もあったが、少なくとも貧しい生活を送っているようには見えなかった。

 ……何にせよ、ヴィルに関係のある話ではないのだが。

 

「ちゃんと抑えててよ?」

 

「大丈夫だ、大船に乗った気でいろ」

 

「生まれてこの方、船になんか乗ったこと無い」

 

「……そりゃすまなかった」

 

 軽口を叩かれながらも、言われた通りしっかりと台を支える。

 ――と、その時。

 

(……あ)

 

 気付いてしまった。

 ラティナは前にも述べた通り、かなり丈の短いスカートを履いている。

 そんな彼女が台に乗って作業を始めるとどうなるか。

 

(……見えてる)

 

 当然の帰結として、スカートの中身が見える。

 ヴィルの目の前に、黒いショーツに覆われた褐色のお尻が現れていた。

 

(悪くないコントラストだ)

 

 褐色の肌に黒のインナーはよく映える組み合わせだった。

 ラティナの肢体は程良く鍛えられており、贅肉がほとんど見受けられない。

 ゴツゴツとした男のものとはまた違う、柔軟な筋肉を身に着けていた。

 それは肌のハリの良さに繋がり、臀部もまたプリっとした魅惑の曲線を誇る。

 

(って、何をじっくり鑑賞してるんだ、俺は!?)

 

 慌てて頭を振る。

 これではエルミアをどうこう言えない。

 ただこのままではかなり気まずいため、それとなく伝えることにする。

 

「……あーっと、ラティナ?」

 

「何さ?」

 

「変な意味ではないし、落ち着いて聞いて欲しんだが。

 その――見えてるぞ」

 

「……あ、そう?」

 

 上手く行くかかなり不安だったが、幸いにして少女は取り乱しもせず現状を把握してくれたらしい。

 これで一安心――と思ったのもつかの間。

 

「おいっ!?」

 

「何だよ」

 

 つい声を荒げてしまった。

 

(もっと見せて(・・・)どうする!?)

 

 ラティナは、なんとスカートを捲りあげてきた(・・・・・・・)

 彼女のお尻が白日の下にさらされている。

 台に乗ってる乗っていない以前の問題だ。

 

「何考えてるんだ、君は!」

 

「さぁ?

 何考えてると思う?」

 

 こちらの怒号を軽く流し、ラティナはお尻を左右に振ってきた(・・・・・)

 煽情的な丸い臀部が、ふりふりと揺れる。

 

「……こんなことして、誘っていると思われても文句言えんぞ」

 

「へー? だったらどうするっていうのさ?

 聖女を守護するお堅い騎士様(・・・)は?」

 

 煽ってくるような視線。

 聖女の守護騎士であるヴィルには何もできまい、とたかをくくっているのか。

 こんな安い挑発、さらっと流すのは容易い、が。

 

(それはなんというか――癪だ)

 

 負けた気がしてしまう。

 こんな小娘にいい様にあしらわれるのは、男としてプライドを傷つけられる。

 ……これだけ美味しそうな据え膳を食わないというのも、勿体ないし。

 そんな思考の末、手を出すことにした。

 

「ひゃう!?」

 

 意外にも可愛らしい声がラティナから飛び出る。

 ヴィルが彼女の尻を“鷲掴み”したせいだろう。

 そんなラティナの反応に、これまでの愚痴で少なからず苛立っていた心がすっとしていく。

 

(しかも、凄い弾力だ)

 

 同時に、彼女の肉感に感動を覚えた。

 揉めば揉んだ分だけ、肉が手の平を押し返してくる。

 引き締まった雌尻とはこんな塩梅になるのか。

 これまでの女性遍歴では味わえなかった感触だ。

 

「……ふーん、騎士様がこんなことしていいわけ?」

 

 少し落ち着いたのか、ラティナがそんなことを言ってきた。

 しかしここで騒いでは相手の思うつぼ。

 こちらも堂々とした態度で返す。

 

「誘惑してきたのは君だろう」

 

「ま、そうなんだけど」

 

 あっさりと彼女は認めた。

 

「なら問題はないな」

 

「そういうことにしといてあげる。

 それにしたって、随分とまあやらしい手つきだことで――あんっ」

 

 少女の身体ビクっと震え、甘い吐息が口をつく。

 どうやら感じているようだ。

 そうと分かれば、ヴィルの方にも余裕が出る。

 

「尻を揉まれただけでそんな反応をする辺り、君も大分“やらしい子”なんじゃないか?」

 

「ん、ふぅっ――お堅い騎士様のわりに、随分と手慣れてるじゃない。

 いったい何人毒牙にかけてきたのか――あ、あ、あっ」

 

 ラティナの尻をグニグニと揉みしだく。

 指に伝わってくる肉の弾性が素晴らしい。

 触っているだけで興奮してきてしまう。

 だがそれは彼女も同じことのようで――

 

「――濡れ始めてるぞ」

 

「口にして言うもんじゃないだろ、それ」

 

 ジト目で睨まれるものの、否定はしてこなかった。

 実際、黒ショーツの股間部がしっとりと色を変えているのだから、否定のしようが無いともいう。

 

「……どれ」

 

 その濡れた部分を指で突いてみた。

 

「あっ! うぅぅうっ!?」

 

 想像以上に良いリアクション。

 そして指には十分な水気。

 仮に今すぐ“始めて”も問題ない程に。

 

「よし、それじゃあ――」

 

「――ちょ、ちょっと! 待って待って!」

 

 いざ開始しようと思ったところで、ラティナから待ったが入る。

 

「今ヤっちゃうと、仕事が終わらないって!」

 

「ここまでしといて、そんなこと言うか?」

 

「別にヤらないとは言ってないだろ」

 

 ラティナがこちらを振り向く。

 僅かに潤んだ瞳で見つめてきながら、

 

「夕食が終わったら、ボクの部屋に来てよ。

 そこで、“続き”をしよう」

 

「……別に構わないが、随分と積極的だな?」

 

「この村、碌な男がいないし。

 オマエだって、あんだけの“上物”が近くに居るのに手を出せないんだから、かなりフラストレーション溜まってんだろ?」

 

「……まあ」

 

 そんなことは無かった。

 寧ろ毎日のようにヤりまくっているのだが。

 それを敢えて口にする必要は無い。

 

「じゃあ、待ってるから――――ん、ちゅっ」

 

 最後に一つ口づけを交わし。

 2人は黙々と掃除の続きを行った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ かつてない戦い(H)

 

 

「いらっしゃい。

 本当に来たんだ?」

 

 夕食後。

 部屋を訪ねてきたヴィルを待っていたのは、ラティナの素っ気ない歓迎だった。

 

「……その割に、随分と気合いの入った格好だな」

 

「ああ、コレ?

 似合ってるだろ?」

 

 彼女は黒のキャミソールを着ていたのだ。

 その裾からは、ショーツがちらちらと姿を覗かせている。

 ラティナ自身が言う通り、健康的な褐色肌に黒色の下着は本当によく似合うと再確認できた。

 なので、ヴィルは感じた通りに返答する。

 

「うん、似合っているな」

 

「ありがと。

 ――何か飲む?」

 

「お、気が利くな。

 何があるんだ?」

 

「コーヒーだけ」

 

「……ならそう聞いてくれ」

 

 選択肢は無かった。

 いや、飲むか飲まないか、という選択はできたのだろうが。

 

「ちょっと待ってて」

 

 ラティナはテーブルの上にあったポッドを手に取ると、空いたカップにその中身を注ぎだした。

 

(あ、淹れるわけじゃないのか)

 

 まあ、そんなサービスを期待するわけにもいかないだろう。

 別に彼女はヴィルを接待したいわけではないのだから。

 

「ほい、できた」

 

「どうも」

 

 カップを受け取ろうと腕を伸ばす。

 が、その手は空を切り――

 

「――おい」

 

 ラティナは自分でコーヒーを飲み出した。

 何がしたいのだろう、この少女は。

 

(おちょくってるのか?)

 

 そうかもしれない。

 この程度のことで頭に血が上る程短気ではないが、少しイラっと来ることは否定できない。

 

「そういうのは、余り褒められた真似ではないぞ」

 

「んーーー」

 

「え?」

 

 突然、少女はヴィルへ詰め寄り、顔を寄せてきた。

 そのままの勢いで、こちらに口づけを交わしてくる。

 

「んっ――ん、ちゅっ――」

 

 ディープキス。

 舌と舌が絡まり、そしてやや苦めの“液体”がヴィルの口内に流れ込んでくる。

 コーヒーだ。

 ラティナの口からヴィルの口へと、直接コーヒーが注がれていた。

 

(……結構ミルク入れてるんだな)

 

 余りの出来事に、見当違いな感想を浮かべてしまった。

 少女の繊細な舌の感触と、香ばしい苦みを同時に味わう。

 初めての体験だった。

 

「ん、ん、んっ――んんっ――ちゅっ――れろ、れろれろ――」

 

 液体が無くなっても、キスは続く。

 彼女のベロが、口内を余すところなく這いまわり、舐めまわす。

 こそばゆい感覚。

 すぐ目の前にある少女の悪戯っぽい瞳が、面白そうにこちらを見つめている。

 自然、股間が熱くなっていくのを感じた。

 

「んっんんっんっ――――んぅ」

 

 ラティナが離れる。

 やや名残惜しい気がしたが、こと(・・)はまだ始まったばかりなのだと思い直す。

 そんな彼へ少女はすました笑みを浮かべ、口を開く。

 

「どうよ?」

 

「……悪くなかった、かな」

 

「そりゃよかった」

 

 ニコっと笑う。

 初めて見た歳相応な笑顔に、心臓が高鳴った。

 しかしその感情に浸る間もなく――

 

「お、おい!?」

 

「何さ?」

 

「そりゃこっちの台詞だ!

 いきなり何するんだ!?」

 

 ――ラティナは屈みこみ、ヴィルのズボンに手をかけてきたのだ。

 

「ヤりにきたんだろ?

 だったらさっさとヤろうって。

 そ・れ・と・も? 甘いトーク(・・・・・)した後じゃないと抱く気になれない?」

 

「……そんなこたないが」

 

「だったらさっさと脱ぐ!」

 

 やけに手慣れた動作で少女はズボンを降ろしてきた。

 あっという間にヴィルの股間が露わになる。

 そこにそびえ立つ(・・・・・)イチモツを見て、それまで余裕綽々だったラティナも一瞬動きが止まる。

 

「うわ、でっか!?

 なにこの凶悪なちんこ!

 っつかキスしただけでこんなになっちゃったのか!

 ――まさかオマエ、童貞?」

 

「ち、違うわ!!」

 

 どもってしまったのは意表を突かれたからであって、痛いところを突かれたからでは決してない。

 いや真面目な話、ヴィル程経験豊富な男はそう居ないだろう。

 ……ほとんどの原因は、どこぞの性女様なわけだが。

 

「はぁ、こんなん突っ込まれたら女の子はたまったもんじゃないね、全く。

 ――――はむっ」

 

 ぶつくさ文句を言いながら、ラティナは亀頭を口に含む。

 

(ヤる気があるのかないのか)

 

 彼女の態度からは、なかなか判別し辛い。

 感情の掴みにくい子だ――と、思っていた次の瞬間。

 

「――れろっ――ん、ん、ん、ん、ん――れろれろれろれろ――れろっ――んむぅううぅぅうんっ――ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱっ――ぺろっ――ちゅぱちゅぱっ」

 

「うおっ!?」

 

 思わず呻いてしまう。

 ラティナが、凄い勢いでフェラし出したのだ。

 

「――ペロ、チュパっ――れろれろっ――チュパチュパチュパチュパっ――ぺろっ――レロレロレロレロッ――ちゅうぅぅうううっ――」

 

「お、おい、ラティナ……!?」

 

 声をかけるも、止まる気配が無い。

 少女は肉棒の先端を唾液で包み、尿口を舌で突き、全体を吸い上げてくる。

 はっきり言って、凄いテクだった。

 巧みな刺激で、ヴィルの股間を快楽に誘う。

 さらに、

 

「んっんっんんっんんんっ―――」

 

 反り返ったイチモツを自ら喉奥まで(・・・・)突き入れさせ、

 

「んっ! んんっ!! んっ! んっ! んんんっ!! んっ!! んんっ!!」

 

 自分で顔を前後させ、竿を扱いてきた。

 まるでイラマチオでもしているかのような激しさ。

 むせ返ってもおかしくない程に喉の奥まで男根を挿入しているというのに、平然と棒を咥え込みフェラし続けている。

 

(あ、やばいっ!?)

 

 その快感に、ヴィルの脳が危険信号を告げる。

 ――イク(・・)

 始まったばかりだと言うのに、もうイカされてしまう。

 

「ラティナ! もう、出そう、だ!」

 

 情けないことではあるが、ヴィルはそう告げてラティナを剥がそうとする。

 しかし――

 

「んんっ!! んっ!! んっ!! んっ!! んんんっ!! んむぅううっ!!!」

 

 ――彼女は寧ろ、速度を増した。

 頭を激しく動かし、亀頭や竿へ強く吸い付く。

 まるで、精液を搾り出そうとしているかのように。

 

「っ!?」

 

 少女と目があう。

 上目遣いにこちらを見てきたのだ。

 その目はこう言っている。

 

『早くイケ』

 

 気持ちいいんだろう、と。

 こうすれば射精するんだろう、と。

 見下したような視線でこちらを見つめていた。

 しかしヴィルはそれに抗うことができず。

 

「う、ぐっ――で、出るぞ!!」

 

 あっさりと、精を解き放つハメになるのであった。

 

「ん、んんんぅぅううううううっ!」

 

 股間に訪れる解放感。

 ラティナの口へ、大量の精子が注入していく。

 気持ち良かったせいか、いつもより多めにだしている。

 正直、零しても――いや、吐き出してもおかしくない量だ。

 

「――ごくっ――ごくごくっ――んっ――ごくっ――」

 

 しかし、少女はソレを飲み干していく。

 

「――んっ――んっ――ごくんっ」

 

 最後の一滴まで漏らさず飲み込むと、ようやくラティナは男根を離す。

 ぺろりと艶やかに唇を舐めてから、

 

「あー、飲んだ飲んだ。

 溜め込み過ぎだろ、オマエ。

 やたら粘っこいし――ボクが窒息したらどうするんだ?」

 

「…………」

 

 こちらを軽く睨む少女。

 あんなことをしておいて、それでも彼女の態度は変わらなかった。

 ここまでくるといっそ尊敬の念を抱いてしまう。

 

「さ、本番しようか。

 まさか、もう終わりってことは無いよね?」

 

「あ、当たり前だ!」

 

「ああ、そう」

 

 挑発的な質問に気合いをいれて返すも、返答は素っ気ない。

 

「じゃあ、適当に服脱いでてよ。

 ボクもすぐ脱ぐから」

 

 そう言って、ラティナは特に気負った風もなく、無造作に服を脱ぎだした。

 ムードも何もあったものではない。

 

(……いや)

 

 だが、色気はあった。

 その外見イメージの通り、腰はキュっとしまり見事のくびれを体現している。

 昼間に尻は確認したが、胸の方もなかなかのモノをお持ちだ。

 ふくよか――と表現するには些か物足りないものの、なんともハリの良さそうなおっぱいだった。

 彼女の動きに合わせ、如何にも弾力あり気にプルンッと揺れている。

 乳首は上向きにツンとしており、色も綺麗な桃色。

 茶色の肌との対比が実に鮮やかだ。

 

「おやおや? 準備万端ってこと?」

 

「む」

 

 こちらの方を見て、ラティナがからかいだす。

 気付けば、股間は既に臨戦態勢が整っていた。

 自身の“正直さ”加減に少し呆れてしまう。

 まあこの状況においては、こちらの方が都合良い。

 

「そんじゃま、始めようか。

 ほら、早くベッドに来なよ」

 

 ポスンッと軽い音を立ててラティナはベッドに座り、こちらを誘う。

 

(望むところだ……!)

 

 ヴィルもまたその誘いに乗る。

 先程からこの少女には翻弄されっ放しだ。

 ここいらで、主導権を握っておかねばならない。

 そう決意し、青年はベッドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ――のだが。

 

 

 

 

 

 

「う、うぉおおおおっ!!?」

 

 部屋に響くは、ベッドに仰向けで寝るヴィルの情けない(・・・・)声。

 たった今、彼は果てた(・・・)のだ。

 

「アハハハハ、すごいすごい!

 これでもう3発目(・・・)じゃないか!!

 ここまで()つ男は、そういないよ!?」

 

 対して、ヴィルの上に乗ったラティナはおかしそうに笑っていた。

 楽しそうではあるが、快楽を感じているようにはとても見えない。

 彼女とて、抜かずの三連戦をしていると言うのに。

 

(――馬鹿な!!)

 

 ヴィルは愕然としていた。

 こんなことがあるのか。

 自分が遊ばれている(・・・・・・)

 フェラチオの時の比ではない。

 この場のペースを、完全にラティナに奪われてしまっていた。

 

「次は4回目だけど――まだ、やれる?

 それとも、もう“終わり”かな?」

 

 ニヤリと少女が笑う。

 それは、捕食者の顔だった。

 笑顔とは、本来攻撃的な表情だったと聞く。

 

「ま、まだまだ……!」

 

「へぇ、頑張るもんだ。

 いつまでヤれるか、見物だね」

 

 言うや否や、ラティナが腰を動かしだす。

 

「うっ、ぐぅううっ!?」

 

 途端、ヴィルの股間に快感が沸き起こった。

 

 今、彼のイチモツは少女の膣内に挿入されていた。

 並外れた巨根を、大柄とは言えないラティナの中へすっぽりと収まっていることも衝撃だが、真に驚くべきはそこではない。

 

(う、動く……!

 なんて動きをしているんだ……!?)

 

 ヴィルを苦しめて――もとい、愉しませているのは、彼女の膣肉の動きだった。

 それ自体が意思でも持っているかのように蠢動し、肉棒を締めつけ、扱き、搾ってくる。

 

(名器――なんて言葉じゃ言い表せん!)

 

 女性器は、こんな風にも動作できるものなのか。

 正しく女体の神秘であった。

 そこへ少女の腰の動きまで加わり、相乗効果でヴィルを昂らせていく。

 この技――“技”と表記するのが適切だろう――により、彼は瞬く間に三度もの射精をする羽目になったのだ。

 

(――いかん)

 

 負ける(・・・)

 ヴィルの脳内に、明確な敗北のヴィジョンが浮かび上がった。

 

 正直なところ、ヴィルには自負があった。

 自分がその気になれば、大抵の女性は屈服させられる、と。

 今までの“経験”が、そんなプライドを彼に与えていた。

 しかし今日、それは木端微塵に粉砕される。

 ヴィルはラティナに対し、手も足もでない有様だった。

 

 考えてもみれば。

 エルミアは自ら率先して快楽を貪る、ラティナとはある意味で真逆の位置に居る少女。

 セリーヌもエルミア同様、快感に流されるのを愉しむ女性だ。

 ロアナはまあ、それまでの体験がちょっとアレな感じ(オブラートに包んだ表現)の相手とだけで、ほとんど未経験だったといっていい。

 そしてイーファは正真正銘の生娘。

 他にも幾人か抱いたが、そのほとんどがセックスを、快楽を目的としている者ばかりだった。

 

 ――ラティナは違う。

 彼女は、男を弄ぶ行為を愉しんでいる。

 自分の手で雄がイキ果てることに愉悦を感じているのだ。

 己が快楽に耽ることを、良しとしていない。

 ヴィルが今まで遭ったことのないタイプだ。

 

 だからなのだろう。

 どれだけ下から突き上げても、彼女が平然としているのは。

 

「お、お、おっ! けっこう激しく動くね。

 これならもう少しでボクもイけるかも?」

 

 そんなことを、普段と変わらぬ口調(・・・・・・・・・)で告げてくる。

 絶頂など、程遠いということだろう。

 昼の掃除の時、尻を揉まれて感じていたのはただの演技か。

 それとも、受ける快感を自らコントロールできるというのか。

 どちらにせよ、

 

(このままでは……!!)

 

 そう遠くないうちに、ヴィルは地に伏せることとなる。

 こんな少女に打ち負かされたという屈辱に塗れることとなるのだ。

 ――このまま恥辱を味わうくらいなら。

 

(使う、か?)

 

 その“危険性”からみだりに使用することを禁止してきた“技”。

 あの性女をして前後不覚に陥らせる、禁忌の技法。

 即ち、

 

(“震撃”――!!)

 

 超振動の発生によって対象を粉砕する究極の破壊技術を、イチモツに応用した(ご先祖様に合わせる顔のない)必昂の一撃。

 しかしコレはエルミア以外に使ったことはない。

 果たしてラティナがコレを食らって無事でいられるのかどうか。

 

「――うぐっ」

 

 悩んでいる時間は無かった。

 早急に打開策を行わねば、4度目――フェラの時を含めれば5度目の絶頂を迎えてしまう。

 そうなれば、もう“震撃”を使うことすらできなくなる。

 

(使うしかない……!)

 

 ヴィルは心を決めた。

 ラティナの膣内への“震撃”を敢行する!

 

「行くぞ!」

 

 寝転がった姿勢のまま身体を上手く捻り、蓄えた力を一気に股間へ向けて解き放った!

 

「ん? なんだ急にやる気だして―――――あ?」

 

 手応え、あり。

 少女の子宮口へ超振動が叩き込まれた。

 

「――あっ――あっ!――あっ!!――ああっ!!!?」

 

 一瞬動きを止めたラティナの身体が、次第にガクガクと震えだす。

 そして。

 

「あぁあああああああああっ!!!?」

 

 仰け反り、絶叫。

 交わり出してから一度も聞けなかった嬌声が、彼女の口から迸った。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ――なに、今の!?

 オマエ、なにしたんだ!?」

 

「さてね」

 

 息を切らすラティナの質問を適当にはぐらかす。

 

 ……思ったよりもダメージが少ない。

 効いていないわけでは無いが、まだしっかりと理性を保っていた。

 

(ならば、何度でも叩きつけるまでのこと!)

 

 逆に言えば、“壊れる”心配なく震撃を使えるということでもある。

 ヴィルはもう一度肉棒を超振動させ、連続で子宮を責め立てた!

 

「いぃぃいいいいいいいいいっ!!!?」

 

 再び、ラティナの肢体が弓なりに反る。

 

「な、なにコレ!? なにコレぇええっ!!?

 震えるっ!!? 子宮が、震えてるぅううううっ!!!!?」

 

 目を見開き、口からは涎が垂れ始めた。

 凄まじい快感がラティナを襲っていることだろう。

 ヴィルは、さらに“震撃”を使い続ける。

 

「い、いぃぃいいいいいっ!!!!

 イクっ!!! うそっ!! ボク、イっちゃう!!!?

 イっ!! イっ!! イっ!! イクぅぅうううううううっ!!!!!?」

 

 痙攣する少女の身体が、後ろへと倒れ込む。

 その拍子に、イチモツがずるりと膣から抜けてしまった。

 どうやら余りの刺激に平衡を保てなくなったようだ。

 

「よっと」

 

 彼女が倒れるのに合わせ、ヴィルは起き上がる。

 青年が上で少女が下。

 立ち位置が真逆に入れ替わった。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ――」

 

 一方でラティナは仰向けのまま胸を大きく上下させ、荒く呼吸していた。

 身体から力が抜けており、目の焦点が微妙に合っていない。

 ……間違いない。少女は絶頂したのだ。

 

「はーっ、はーっ、はーっ――――こ、こんなの、聞いて、ない……

 イ、イっちゃったじゃないか、バカぁっ」

 

「むむ」

 

 震える声で、それでもこちらへ抗議してくるラティナ。

 あれだけ子宮を振動させてやって、まだ気力が残っているようだ。

 驚異的な精神力だが――

 

(――畳み込むチャンスだ)

 

 相手は瞳から涙を零し、動きも弱々しい。

 こちらの責めに抵抗できないだろう。

 

「……続きをするぞ」

 

「はーっ、はーっ―――え?

 う、うそだろ、ボクはもうイって――」

 

 台詞が終わるよりも前に、ヴィルはラティナへ上から覆い被さる。

 正常位の姿勢で、男根を少女の花弁へと突き立てた。

 

「あ、ひっ――!!」

 

 彼女から漏れでる甘い声。

 今度こそゆっくりそれを堪能しようと、そう思っていたのだが。

 

(……膣が、絡んでくるだと!?)

 

 現実は甘くなかった。

 つい先ほどまでヴィルを責め立てていた膣肉が、またしても牙を剥いたのだ。

 挿れ始めるやいなや、肉棒へ絡み付き、ぎゅうぎゅうと絞ってくる。

 意識が朦朧とする中、なお雄を搾取しようというのか。

 これでは、ラティナを悶え果てさせる前に精力が底を尽きてしまう。

 

(やはり、“震撃”を使うしか――――ん?)

 

 そこで、ヴィルはちょっとした違和感に気付く。

 未だ挿入途中でありながら、亀頭にコリコリとした触感。

 他の膣壁と感触の異なるこの部位は、子宮口だ。

 先刻までは、イチモツを完全に膣内へ納めてようやく到達できた場所だというのに。

 

「……子宮、下りてきているぞ」

 

「あ、え?」

 

 ラティナは、まだ状況が理解できていないようだった。

 だが彼女が完全に正気に戻るのを待ってはいられない。

 

「挿れるからな」

 

「挿れるってなに――――んあっ!!?」

 

 その“入口”に狙いを定め、ヴィルは男根を侵攻させていく。

 そこはまだ細く(・・)、侵入を拒んではきたが――

 

「お、うっ!!?」

 

 ――程なく、陥落した。

 

「う、あ、あ――入っちゃった……?

 ボクの子宮に、ちんぽ、はいっちゃったの……?」

 

「凄く、いい塩梅だぞ」

 

 塩梅が良すぎて、気を抜くと射精してしまいそうだった。

 子宮口は膣肉よりも強く肉棒を咥え、極上の刺激を与えてきた。

 

(長くはもたない。

 短期決戦で決着をつける!)

 

 ヴィルはラティナの肢体を抱える。

 逃げられないように(・・・・・・・・・)、がっちりと。

 そして渾身の力を込め、

 

「これが最後だ!」

 

「あ、や、やだ、やめっ――――はぅぅううううううううううううっ!!!!?」

 

 “震撃”をぶちかました!

 ラティナの子宮を、中から激しく揺さぶる。

 

「いやぁあああああああああっ!!!?

 イクっ!!! イクぅぅうううううっ!!!!」

 

 その快感から逃れようと、少女が暴れる。

 しかしヴィルの両腕でホールドされているため、ろくに動くことはできなかった。

 

(こんな状況で無ければ、彼女の身体も堪能できるんだがな……!)

 

 極めて弾性の高いもちもちの肌を、ゆっくりと味わう余力はヴィルに無い。

 “震撃”による振動は、少なからず彼にも跳ね返ってくるのだ。

 その上、膣壁による執拗な責め立ても未だ終わっていない。

 

「君が果てるのが先か、俺が果てるのが先か……!」

 

 超振動に加えて、腰も動かす。

 振動とピストンによる波状攻撃。

 自分にくる快感も恐ろしいことになるが、ラティナはそれに輪をかけた快楽に襲われているようで。

 

「い”っ!? い”っ!? い”っ!? い”っ!? い”い”ぃぃいいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 彼女は当初の余裕をかなぐり捨て、激しく喘ぎ、乱れていた。

 股間からは愛液が止めどなく流れている。

 おそらく、既に何度かイっているはずだ。

 

「お”お”っ!! お”っ!! お”お”お”お”お”っ!!!!」

 

 瞳は白目を剥いている。

 涙も涎も出しっぱなし。

 肢体の力も少しずつ弱まり始め――

 

「ぐっ!? で、出る!!」

 

 ――そこで、ヴィルの方に限界が来た。

 子宮の中へ直接、精液を放つ。

 

「んぼぉお”お”お”お”お”お”お”っ!!!!

 お”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!」

 

 同時に、けたたましく叫ぶラティナ。

 精子は止まることを知らず、延々と流れ続ける。

 ヴィル自身が恐ろしく思えてしまう程に。

 ソレは少女の子宮を満たし膣内へと流れ込み――そこすら充満させ、“外”へ漏れ出た。

 そこまでしてようやく、射精は終わりを告げる。

 

「……ふぅぅぅぅ」

 

 一つ、大きく息を吐く。

 果てた。

 完全に果てた。

 これ以上は何も出ない。

 愚息も縮んでしまった。

 

「ラティナは……?」

 

 少女の様子を見る。

 ここでもし、彼女がまだ動けるのであれば、ヴィルの負けである。

 はたして――

 

「――おっ!――お、おっ!!――おっ!――おっ!――おっ!――」

 

 ――彼女もまた、尽きていた。

 顔はだらしなく緩み、理性の欠片も無い。

 断続的に痙攣を起こし、その度に股から愛液が噴き出ていた。

 いつの間にか尿まで漏らしていたようで、ベッドのシーツが汚れている。

 正気は完璧なまでに失われ、当分戻る気配はない――というより、これは元に戻るのか?

 

 そんなラティナの姿を見たヴィルは、

 

「……勝った!」

 

 静かに、だが力強く、ぐっと拳を握る。

 かつてない強敵に対し、とうとうヴィルは勝利を収めたのだ!

 

 

 

 ――いやセックスってそういう勝負の場じゃないだろ、とか突っ込んではいけない。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 老侍女の告白

 

 深夜。

 屋敷の中を歩く、3つの人影があった。

 

「あのー、先生?

 急に呼び出して、どうしたんですか?」

 

 その中の一人、イーファが質問してくる。

 彼等は皆、ヴィルに招集されたのだ。

 

「……少し待ってくれ。

 目的の場所に着いたら説明する」

 

 少女の疑問に対し、しかし青年は口を濁した。

 今説明するのは、少々不用心(・・・)に思えたからだ。

 そんなこちらの雰囲気を察したから、もう一人の同行者――エルミアが口を挟む。

 

「そうよ、イーファ。

 少し考えれば分かるでしょう?」

 

 赤髪の少女を窘める。

 性女モードに入っているのが気になるが。

 彼女は続けて曰く、

 

「サーラを夜這いしに行くのよね?」

 

「違うぞ」

 

 前言撤回。

 察してくれてなかった。

 

「え?

 でも今夜を逃したら、あの子を犯す機会なんて早々ないんじゃない?

 昼間は周りの目があるし――」

 

「有っても無くても駄目だろう!

 彼女、何歳だと思ってるんだ!?」

 

「●歳くらいかしら。

 大丈夫、私が見た限り、雌としての機能はちゃんと発育してるわ」

 

 敢えて伏字にした辺りで、危険度を理解頂きたい。

 

「大丈夫かエルミア。

 この村に来てからちょっと振り切れてきてないか?」

 

「最近、聖女でいる時間が多いからじゃないですかねー?

 反動が来たとか」

 

 腕組みして考察するイーファ。

 しかしエルミアが聖女状態になるのは、ここ最近彼女の“やらかし”が原因だったりする。

 ヴィルは一つため息ついてから、

 

「とにかく、違う。

 別にサーラのところへ行こうとしてるわけじゃない」

 

「じゃあ、ラティナさんですか?

 昼間、かなり仲良く(・・・)してましたよねー?」

 

 間髪入れず、イーファが尋ねてきた。

 

「それも違う――って見てたのか?」

 

「勿論ですよー。

 アタシ達が働いてるのをしり目に、イチャイチャイチャイチャ――」

 

 ジト目で睨んでくる。

 気まずくなって視線を外し、

 

「あー、うん、違うんだ。

 ラティナでもない」

 

「あのメイドのとこには、もう行ったものね」

 

「そうそう、もう行った――っておい」

 

 さらっと混ざってきたエルミアの台詞に、心臓が止まりそうになる。

 

「……み、見てたのか?」

 

「いいえ?

 ただちょっと聞き耳立ててただけで」

 

「……あの」

 

「別に怒るつもりなんて毛頭ないから大丈夫よ。

 寧ろ嬉しいくらい。

 ヴィルもとうとう、私のお膳立て無しで他の女性に手が出せるようになってきたのね。

 日頃の“教育”の賜物かしら」

 

「……えーと」

 

 満足げに頷くエルミアに、言葉を失う。

 咎められるのは辛いが、そういう態度をとられるのも割と辛い。

 皮肉ではなく“本気”なところが、彼女の恐ろしいところである。

 

「業が深いですね、エルミアさん……」

 

 しみじみと語るイーファに、全面的に同意だった。

 

 

 

 

 

 

 さらに廊下を進むことしばし。

 

「ここだな」

 

 ある部屋の前で足を止める。

 

「あら?」

 

「ここって――?」

 

 同行の2人もここが誰の部屋か察したようだ。

 そんな彼女らは一先ず置いておいて、ヴィルはドアをノックする。

 

「……どうぞ」

 

 向こうからややしゃがれた(・・・・・)声が。

 幸い、まだ起きていたようだ。

 了承を得たため、扉を開け中へと入る。

 

「夜分にどうも」

 

「全くです。

 こんな真夜中に客の身分で屋敷を動き回ること自体、礼を逸した行為。

 いったい何の御用です」

 

 ギロリとこちらを睨む目。

 そこに居たのは、屋敷の老侍女メイヴィルであった。

 ランプの置かれた机で、何やら事務作業の最中のようだ。

 

「……あ、あの、ヴィル?

 メイヴィルさんはその――ちょ~っと私のストライクゾーンを外れているというか」

 

「……先生、こういう趣味もあったんですか!?」

 

 後ろで少女達が何やら驚いているようだが、今は相手している時間が無い。

 後ろ手にドアを閉めてから、早急に用件を伝える。

 

「俺達が何故ここに来たか、貴女が分からないはずないのでは?

 ……いや、言葉が悪いな。

 俺達に用があるのは、貴女のはずだ(・・・・・・)

 

「――なるほど、そういうことですか」

 

 得心がいったように一つ頷くと、老女もこちらへ近づいてくる。

 

「ええ!? もう話通してあるの!?」

 

「手が早い!?――ていうかなんていうか!

 まさか先生、最初からこの女性(ひと)が目的で!?」

 

 盛大に誤解している2人だが、一先ず置いておく。

 どうせすぐ事情が説明されるはずだ。

 

 ヴィルのすぐ目の前にまで歩み寄ったメイヴィルは、そこで深々とお辞儀をした(・・・・・・・・・)

 

「御見それいたしました、聖女様方。

 まさかこうも早くこちらの意図を見抜かれるとは」

 

「――やはり(・・・)、私達に御用があったのですね。

 無理強いは致しませんが、どうかその胸の内を語っては頂けませんでしょうか」

 

 そんな老侍女へ、聖女モードに切り替えたエルミアが、キリッとした顔で返答する。

 

「なんですかエルミアさん、その変貌の早さ!!

 対応力高すぎません!?」

 

 全く持って同感である。

 

 

 

 “気付いた”の理由は、極めて単純なものだ。

 この屋敷についてから、ヴィルは自分が2種類の視線を浴びていることに気付いていた。

 一つは、期待。

 一つは、拒絶。

 後者の拒絶は分かる。

 突如入ってきた“異物”を許容しない――地方の村にはよくある感情だ。

 特にこの村――辺境にあるにもかかわらず、妙に富んでいる――が、特殊な事情を抱え込んでいるのは火を見るよりも明らか。

 余所者をよく思わないであろう土壌は出来上がっている。

 その一方で、期待とは?

 村人の中に、ヴィル達に何か“やって欲しいこと”がある者がいる、ということだ。

 それが“特殊な事情”に絡んでいるであろうことは、容易に予想できる。

 しかし、視線の主を具体的に特定することはできなかった。

 だが類推することはできた。

 ヴィル達に“期待”しているにも拘らず、すぐに動いてこないのは何故か。

 何か動けない理由がある?

 依頼する機会を伺っているのか?

 とすれば、ヴィル達が長くこの村に滞在してくれた方が、その“主”にとって都合が良いはず。

 さて、歓迎されない余所者をこの村に留まるように(・・・・・・・・・・)手配したのは、一体誰だったか。

 答えは明白

 

 

 

「――という訳だ」

 

「ほえー、そんなこと考えてたんですかー」

 

 ヴィルの説明を聞き、イーファは感嘆の吐息を漏らす。

 ……なんだか頭空っぽな感じがするのは、気のせいということにしておこう。

 続けて、エルミアが言葉を紡ぐ。

 

「考えてみれば、この村はおかしなことだらけなのです。

 街道から大きく離れているというのに、物流が滞っている様子はありませんでした。

 このような立地の集落にありがちな、閉鎖的な空気も――“訛り”すら見受けられず。

 まるで――そう、元々(みやこ)に住んでいた人達が、こちらに移ってきたかのような」

 

「……御慧眼、恐れ入ります」

 

 言った通り、恐縮した表情のメイヴィル。

 最初に会った時とは偉い違いだ。

 彼女の態度を見る限り、今のエルミアの推理はそう間違っていないらしい。

 

「ていうか、そこまで分かっていたのに、サーラさんを狙い続けてたんですね、エルミアさん……」

 

 驚愕の事実に顔を歪ませるイーファ。

 

「まあ、それはそれ。これはこれなんだろう」

 

 決して口から出まかせを言ってるわけでは無い、と信じたい。

 実際、今回は向こうから何らかの打診があったわけではない。

 怪しいと思いつつ、積極的な行動をとらなかったのも仕方ないと言えば仕方ないことだ。

 ……幼女(サーラ)に手を出そうとしていたことに対して肯定したわけではないので、念のため。

 

「……それで、どこまで行くんですか、アタシ達?」

 

「もうしばし、歩きます」

 

 イーファの疑問にメイヴィルが応える。

 実のところ、先程からヴィル達はずっと歩き詰めだった。

 もう村から出て随分と経つ。

『見せたいものがある』と言って先導する老侍女について、草木を掻き分け獣道を行く。

 真っ暗な山道を進むのは神経を使う――のだが、幸いにして今ここにいる面子でそれを苦にする者はいなかった。

 ヴィルは、その老女の背中に尋ねかける。

 

「だが、そろそろ説明してくれてもいいんじゃないか?」

 

 村からは大分離れた。

 彼女が自分達に話ができなかった原因が“他の人の目があるから”なのだとしたら、もう黙っている必要は無いはず。

 そう予想したのである。

 

「……左様ですね」

 

 果たして、その予想は的を得ていたようで。

 メイヴィルは歩きながら、“事情”を語り出した。

 

「まず、この村の成り立ちからお話しいたしますか。

 聖女様の仰ったように、我々は昔から“この場所”に住んでいた者でございません。

 “ある目的”のために集められた集団なのです――もっとも、集められてから既に100年以上が経過。

 人員の交代があるものの、ここへ来てから長く経ちます。

 あの村が故郷であると考える村人も、少なくなく」

 

 大よそ、想像の通りだった。

 

「その“目的”とは?」

 

「……この山に住む、ある“存在”の監視、および管理です」

 

 言葉切れが悪くなった。

 余り語りたい話ではないようだ。

 つまり、“公にしたくない内容”ということか。

 

「“存在”とはなんだ?

 いや、説明し辛いようであれば、要点だけ伝えてくれても構わないが」

 

「……いえ、お気遣い無く。

 こちらから頼み事をする以上、全てお話しするのが筋というもの。

 私達が監視している“存在”とはつまり――有体に言って、“神”です」

 

「神!?」

 

 セシリアが反応した。

 聖職者である彼女にとって、到底聞き逃せる単語ではない。

 

「誤解なさらなぬよう、聖女様。

 ここで言う“神”とは信仰の対象である神ではなく、人が手出しできない(・・・・・・・・・)存在という意味での“神”です。

 “山神”とでも呼んだ方が正確でしょうか。

 いえ、この地方に住む人々の中には、その“山神”を崇拝する者もおりますが」

 

 一言で“神”といっても、それが意味するところは大まかに分けて2つある。

 一つは教会が崇める、この世界の根幹を作り上げたと言われる神々のこと。

 もう一つは、人ではまず太刀打ちできない――“神の如き力を持つ存在”のことだ。

 多少の誤解を覚悟でいえば『非常に強力な魔物』と言い換えてもいい。

 

(要するに、その魔物の封印だかなんだかを見張っている連中、ということでいいのか?)

 

 ヴィルはそう理解した。

 故に、一番知りたい情報をてっとり早く尋ねる。

 

「先程、管理(・・)しているといったな。

 仮にも“神”と呼称するなら、人の力が及ばない存在なんだろう。

 そんな代物を、どうやって管理している?」

 

「相手の欲するものを与え、暴れ出さぬよう鎮めているのです。

 ――管理と呼ぶには烏滸がましい方法ではありますが」

 

「……“生贄”か?」

 

「ご推察の通り」

 

「えっ!?」

 

 今度はイーファが驚きの声を漏らした。

 

「生贄!?

 生贄ってなんですか!?

 そんな――前時代的な風習をまだやってるとでも!?」

 

 口調を荒げる魔女。

 生贄自体はよく聞く話ではあった――昔話の中(・・・・)でならば。

 今日(こんにち)、生贄を行っているなど時代遅れも甚だしい。

 イーファの反応は、実に真っ当なものである。

 

「――あ」

 

 と、そこで彼女は何かに気付いたようだ。

 自分の疑念を否定したいかのように、頭をわしゃわしゃと掻きまわしながら、

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。

 いやまさか、ホントまさかとは思うんですけど、その“生贄”ってひょっとして――」

 

「……はい、サーラお嬢様です」

 

 正直なところ、ヴィルに驚きは無かった。

 ああ、やはりそうなのか――と納得いったほどだ。

 サーラはあの村で非常に大切に育てられていたようだし、この流れからしてそうなのだろうと予想はしていた。

 それはエルミアも同じのようで、些か険しい顔はしているものの、取り乱す様子はない。

 しかし、イーファは違った。

 

「何考えてるんですか!!」

 

 目の色を変えて、メイヴィルに詰め寄る。

 

「よりにもよって、あんな幼い子を、生贄なんて!!

 メイヴィルさん、ずっとあの屋敷で働いてるんですよね!?

 だったら、サーラさんが産まれた時からずっと一緒だったってことでしょう!?

 なんでそんなこと言えるんですか!!」

 

「イーファ、平静になって下さい」

 

 掴みかかりかねない剣幕の魔女を、聖女が押し留める。

 

「どうしてエルミアさんはそんなに落ち着いていられるんですか!?

 サーラさんが大変なことになってるんですよ!?」

 

「ですから平静になりなさいと言っているでしょう。

 そもそも、“その事実”を許容できないからこそ、メイヴィルさんは私達に依頼してきたのではないのですか?」

 

「……そうでした」

 

 クールダウンするイーファ。

 すぐに老侍女へ頭を下げる。

 

「ご、ごめんなさい、メイヴィルさん。

 アタシ、凄く失礼なことを――」

 

「いえ、魔女様の怒りは正当なものです。

 つい数年前まではお嬢様を生贄とすることに対し、何の疑念も持っておりませんでしたので」

 

「へ?」

 

「もしこの山に棲まう“山神”が暴れ出せば、王国が傾きかねません。

 それ程強力な存在なのです。

 そんな“山神”が、幼子をたった一人(・・・・・)捧げればで静かになるのです。

 国の存亡と一つの命――議論の介入する余地はありません。

 事実、私はもう何人もの少女を育て、生贄として送ってきたのです」

 

 そう言う割に、老女の声はとても苦々しいものであった。

 この侍女は職務に対し忠実ではあるものの、だからといって仕事の内容を完全に割り切ることまではできなかったようだ。

 

(普通、数十年も続けていればそんな気持ち摩耗するものだが)

 

 幸か不幸か、そうならなかった程メイヴィルのモラルは高かったようだ。

 彼女の真人間ぶりに敬意を抱きつつ、ヴィルは尋ねかける。

 

「そんな貴女を心変わりさせた出来事があったんだな?

 これから向かう先に、それがあると?」

 

「理解が早く、助かります。

 ――と、話し込んでいる内に、到着したようです」

 

 メイヴィルが足を止めた。

 ヴィル達の目の前には、山肌にぽっかりと空いた洞窟がある。

 成人男性であるヴィルでも易々と入ることができる程に、その穴はでかかった。

 

「この中に?」

 

「はい、ご案内します」

 

 老侍女の案内で、さらに洞窟内を進んでいく。

 ――程なくして、“それ”はあった。

 

「うぐっ」

 

「……これは」

 

 イーファとエルミアが同時に顔をしかめる。

 無理もない。

 洞窟の奥、やや開けた場所にあったのは――

 

「――今までの生贄の死体か」

 

「ええ、間違いなく」

 

 こちらの質問に首肯するメイヴィル。

 幾つもの死体が、辺りに転がっていた。

 白骨化したもの、ミイラになったもの等、有様は異なるが。

 

「何ですか。

 その“山神”は死体をコレクションする趣味でもあるんですか。

 ……最悪ですね」

 

「いいえ、イーファ。

 最悪なのは、そこ(・・)ではありませんよ」

 

「え――――あっ!?」

 

 聖女の言葉で、気づいたようだ――気付いてしまったようだ、というべきか。

 説明するのも憚られるが、死体達は例外なく激しく損耗していた(・・・・・・・・・)

 その上、幼い頃合いに生贄とされたにも関わらず、骨格の大きさは成人と言っても差し支えない。

 これが意味することは――

 

「――そうです。

 “山神”は生贄として連れてこられた少女をただ食らうのではなく、ひたすら弄び続けて(・・・・・)いたのです。

 それも、十数年もの時間、延々と!」

 

 メイヴィルの叫びが洞窟内に響く。

 ――正直な感想として、“弄ぶ”という単語は大分オブラートに包んだ表現だろう。

 死体の損耗は、生贄となった少女達がどのような“行為”に曝されていたのか、まざまざと見せつけていた。

 

「ただ――ただ、命を捧げるだけ(・・)であるなら、我慢できました。

 仕方がないことなのだと、納得することができました。

 しかし――しかし、これは余りにも――!!」

 

 わなわなと震える老女。

 彼女はずっと耐えていたのだろう。

 自分が育てた少女を、むざむざ見殺しにするという所業に。

 国のためなのだと、己の本心を欺いて。

 しかし、その少女達が辿った悲惨な末路を知り、それまで彼女を支えていた糸が切れてしまったのだ。

 

「もっと、早くここを見つけてあげられれば良かった!

 私はあの子達がどんな目に遭っているのかも知らず、のうのうとここまで生きてきてしまったのです!

 こんな――こんなこと、許されるはずが――!!」

 

 顔を手で抑えながら、メイヴィルが激昂する。

 しかし数秒後、その手が除けられると元の冷静な顔に戻っており、

 

「……聖女様。

 どうか、このことを国王に奏上頂けませんでしょうか。

 聖女様の言葉であれば、国も無碍にはできないはず」

 

「しかし、そうなれば貴女も――」

 

 エルミアが僅かな躊躇を見せる。

 仮に告発によって国が動いたとして。

 この件へ加担していたメイヴィルもまた、何らかの罪に問われることになるだろう。

 だが老侍女の顔色は変わらず。

 

「構いません、覚悟の上です」

 

「……畏まりました。

 必ずや、王へこの惨状をお伝えいたします」

 

 老女の覚悟に対し、聖女は敬礼をもって応えた。

 ――その時。

 

 

 「そういう訳にはいかないんだよなー」

 

 

 そんな声がヴィル達に届く。

 途端、メイヴィルの顔が険しくなった。

 全員が、聞こえた方へと顔を向ける。

 

「――貴方達は」

「――げげっ!?」

 

 エルミアとイーファの声が重なった。

 武器を持った幾人もの“村人”が、自分達を取り囲んでいたのだ。

 皆、目に剣呑な光を宿している。

 そして、そんな彼らを率いているのは――

 

「――ラティナ(・・・・)か。

 意外と早く目を覚ましたな」

 

「……おかげ様でね」

 

 ヴィルを睨み付ける、褐色肌の少女だった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥ ラティナとの取引

 

 

 

「あーあー、面倒なことしてくれちゃってさぁ。

 ホント、ふざけんのも大概にして欲しいんだけどな、メイヴィル」

 

「…………」

 

 黙り込む老侍女をふてぶてしい口調で りつける褐色肌のメイド。

 昼間は愚痴を零しながらもメイヴィルの命令に従っていたラティナだが、今はその面影を微塵も見せない。

 

「裏で糸を操っていたのはやはり君だったか」

 

「そうだよ、その通りさ。

 まさか最初っから見破られてるとは思わなかったよ。

 分かってれば、あんな小芝居しなかったのに」

 

 ヴィルの言葉に、ラティナは軽く肩を竦めた。

 

 そう、彼は最初から彼女の意図を見抜いていたのだ。

 つまるところ、ラティナが自分を監視している(・・・・・・・・・)ということを。

 そもそも、最初は嫌悪感を露わにしていた相手に色仕掛けを仕掛けてくるなんて、怪しいにも程がある。

 加えて、隙の無い身のこなし(・・・・・・・・)から彼女が相当の“強者(つわもの)”であることも察していた。

 日中、ラティナの身体をジロジロ観察したのは、何も目の保養だけ(・・)が目的ではなかったのである。

 他にも細かい点は色々あったのだが、ラティナを怪しいと睨んだのはこの辺りが理由だった。

 

 故にヴィルも彼女の芝居――ヴィルの注意を惹きつけようという算段だったのだろう――に乗ったフリ(・・)をし、逆に相手を昏倒させたのだ。

 監視の目を止めた状態でメイヴィルと接触するために。

 ただヤりたいからヤったわけではないのである。

 ――ちょっと嘘臭いが。

 

「ま、つってもボクはあくまでこの村の中で(・・・・・・)一番立場が上ってだけだけど」

 

 頭を振りながら、ラティナ。

 その台詞もまた予想の範疇ではあった。

 

「では君の上に居るのは――」

 

「そう、“王国”だよ、決まってるだろ。

 あれ、メイヴィルはそこまで説明してなかったっけ?

 まあいいや、考えればすぐ分かることだし」

 

「……確かに」

 

 “神”の監視など、下手な組織が行えるわけがない。

 しかも小規模とはいえ、こんな辺鄙な場所で村まで運営している。

 相応のバックが存在することは想像に難くなく、そしてその候補として真っ先に挙がるのは“国”だ。

 

「で、君はこれから俺達をどうするつもりだ?」

 

「別に何も?」

 

「ん?」

 

 思わぬ返答に聞き返すもラティナは涼しげな顔で、

 

「何もしないよ。

 素直にお帰り願えればね」

 

「……いいのか?

 そうなれば――」

 

「報告したけりゃすれば?

 どうせ何も変わらないから」

 

「なっ!?」

 

 最後、驚きの声はメイヴィルのもの。

 ヴィルにとっては想定していた返答の一つだった。

 といっても、想定していたというだけでそれに対する明確な対策などは考えていないのだが。

 

「国王はこのことを既に知っている、と?」

 

「そりゃモチロン。

 ボクは忠実な下働きなんでね、しっかり報告してますとも。

 そこのババアは情報が握りつぶされてると思ってたみたいだけどさ」

 

「…………」

 

 嘲笑うラティナに、老いた侍女は押し黙ってしまう。

 

「ま、だから。

 聖女や魔女がどう動こうと全然かまわないワケ。

 直接邪魔さえしてこなけりゃね。

 ボクが気にしてるのは――」

 

 黒髪のメイド少女から笑みが消える。

 真剣な目で、こちらを睨んできた。

 

「――オマエだよ、閣下(・・)

 

「…………!」

 

 その一言で、彼女が全て把握していることに気付く。

 まあ、“王国”が後ろ盾になっているというなら、ヴィルの情報が伝わっていてもおかしくはない。

 つまりラティナは――

 

「――君、俺が何者か知っていた上で、あんな態度とってきたのか?」

 

「なに? もっと恭しく接して欲しかったのか?」

 

「……いや、いい。

 面倒だからそのままで」

 

「あ、そ」

 

 素っ気ない返事。

 ヴィルの正体を把握してなおこの対応を貫く辺り、見上げたものだ。

 仕えるべきは“王国”であり、それ以外は眼中にないというわけか。

 本来腹を立ててもいいところだが、その一貫した姿勢は寧ろ好感がもてる。

 

「…………ちなみに、侮辱罪が適用されちゃったりは?」

 

「しないから安心しろ」

 

「そ、そう」

 

 少し声が震えているところを見ると、単に頑張って演技しているだけかもしれない。

 ヴィルからの好感度がちょっと下がった。

 こちらの視線に気付いてか、ラティナは一つ咳払いすると、

 

「とにかく!

 こっちの心配事はオマエが要らんちょっかい出してくるかどうかってことなんだよ!」

 

「そうは言ってもなぁ。

 話聞いてる限り、魔物とそう大差無いみたいじゃないか、その“神”は。

 しかも相当悪質な類の」

 

「……やっぱり退治する気だったのか」

 

「放置しておく理由も無いのでね」

 

 正直なところ、ちょっとやそっとどころでない魔物であっても、倒せる自信がヴィルにはあった。

 手を出すのは危険とされる存在であっても、自分にとって(・・・・・・)危険とは限らない。

 と、そんな青年の言葉に老侍女が反応した。

 

「……退治?

 何を言っているのですか、守護騎士殿!

 個人で“神”に手を出そうなど、無謀もいいところ――」

 

「あー、うっさい、ババアは黙れ。

 話がややこしくなる」

 

 呆れた表情のラティナが手をパタパタとふって台詞を遮った。

 酷い扱いだが、今からメイヴィルへ事情説明するは確かに色々と面倒だ。

 改めてメイド少女はこちらを向き直ると、ため息を吐く。

 

「……あーあ、ここでアレコレ話したって埒が明かないな。

 いいさ、百聞は一見に如かずともいうし、見せてやるよ」

 

「何を見せてくれるんだ?」

 

「決まってんだろ、その“神”を、だよ。

 ちょうど今は、眠ってる(・・・・)みたいだからな」

 

 そう言って、ラティナはニヤリと嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘」

 

「……おいおい。

 まさか本物(・・)か?」

 

 “それ”を見た、エルミアとヴィルの第一声がコレだ。

 

 ここに居るのは、ヴィル達3人とラティナだけ。

 メイヴィルや他の村人は付いてきていない――この場所への立ち入りをラティナが許可しなかったのだ。

 

 4人は崖の間際にて谷を見下ろしている。

 山を割って(・・・)できたような、巨大な谷だ。

 本来であれば(・・・・・・)底まで明かりの届かない、深い谷。

 だが今は、煌々とした“光”で照らされていた。

 

 その谷の合間で、一匹の虎が身体を横たえていた。

 当然、ただの虎ではない。

 特筆すべきは、その巨体。

 でかい。

 とにかくでかい。

 身体を横たえている今でも、崖の中腹まで頭が届いている程。

 立ち上がれば谷に身体が収まらないのではないだろうか?

 山のような大きさ、という言葉が比喩として機能しない。

 

 しかも毛並は燃え盛るように赤く――いや、実際に燃えている(・・・・・)

 放つ炎が、周囲を赤く染める。

 前述した谷を照らす“光”は、この虎から発せられているものなのだ。

 

「え、えーと。

 ず、随分とおっきな虎ですね……?」

 

 エルミアやヴィルと違い、少し震えているもののどこか気が抜けた声でイーファが呟いた。

 “目の前の存在”が何者なのか、気づいていないが故か。

 その反応にエルミアがぎょっとした顔をする。

 

「大きな虎って貴女――」

 

「ど、どうしたんですか、エルミアさん?

 なんか、いつになく真剣な顔してるんですけど」

 

「どうしたもこうしたも――“アレ”は、正真正銘の神!

 六神獣の一柱、炎虎“ズィーガ”ではないですか!!」

 

「え、ズィーガ?

 ズィーガっていうと――」

 

 イーファの目が泳ぐ。

 

「元々は大昔に王国の一地方に住んでいた巨大な虎だ。

 性質は酷く狂暴かつ残虐で、その地方に住む全ての生物を食いつくしてしまった。

 その余りの暴れっぷりを神に見咎められ、直々に調伏される。

 以後は神の代理として人々を守る神獣となった」

 

 説明したのはラティナだった。

 すらすらと教本でも読むような口調で語る。

 実際、何度も教わったのだろう。

 

(こうなると――本当に本物の神獣なのか)

 

 ヴィルにも、神獣に関する知識はある。

 故にあの“虎”を見てなんとなく正体を察したわけだが――神獣はあくまで伝説上の存在。

 一見しただけでその真贋は定められない。

 

(しかし、聖女がここまで断言してしまうとなぁ)

 

 認めざるを得ない。

 目の前の超常的な生物は、間違いなく神獣なのだと。

 

「これで、どうして王国が手を出さないか分かっただろ?

 マジモンの神に反抗するなんて愚行、犯せるわきゃない」

 

 ちなみに神獣を神とみなすかどうかには教会内でも色々と考えの違いがあるそうなのだが、エルミアの所属する一派では神の一柱として認めているそうだ。

 どちらにせよ、手出しできない存在なのには変わらない。

 ただ、気になることはあった。

 ヴィルはラティナに向かってその疑問を投げてみる。

 

「何故、神獣が生贄なんて要求するんだ?

 人間を守る神なんだろう、あいつは」

 

「ボクに聞かれたって困る。

 アレが生贄寄こせっつってるのは事実なんだからさ。

 ま、元々は狂暴な魔物だったわけだし?

 十年に一回、一人の人間を捧げる程度でいいなら、十分心変わりしたって言えるんじゃないか?」

 

「……そう、かもしれないな」

 

 引っかかるものが無いわけでも無いが、納得はできた。

 確かに、目の前の“怪物”がその気になれば一人どころか数百人、数千人を殺戮できるだろう。

 10年と言わず、1日で。

 

(そりゃ生贄で済ませたくもなる)

 

 “コレ”が一人の少女の命で大人しくしてくれるというのであれば、敢えて退治しようとは思うまい。

 国軍を動かすより、遥かにコストパフォーマンスが良い。

 ……人の命をコストと考えることに異論はあろうが、しかしそう考えねばならぬ時もあるのである。

 

「ついでに言っとくと」

 

 ラティナが言葉を続けてきた。

 

「ズィーガは神獣としての務めもちゃんと果たしている。

 この地方を水害が襲った際には炎を持って雨雲を吹き散らし、蝗害が起きた際には虫を全滅に追い込んだ。

 それ以外にも大規模な被害が出る災害を、ヤツは鎮めてきたのさ」

 

「……尚更、生贄の件だけで目くじらを立てるわけにはいかない、ということか」

 

「そうそう」

 

 我が意を得たり、という顔で褐色の少女が頷く。

 

(……参ったな)

 

 ヴィルは胸中で舌を巻いた。

 状況が出来上がり過ぎている。

 

 相手は正真正銘の神獣。

 国は生贄を、その扱い(・・)も含めて承知済み。

 神獣はその役目を遂行しており、少なくとも一人の命に見合う利益を提供している。

 

(これじゃ俺が手出しできないじゃないか)

 

 自分の“立場”を考えれば、この状況で動くことは許されない(・・・・・)

 いや、せめて――

 

「――サーラは?

 彼女は、自分が生贄になることを知っているのか?」

 

「当ったり前だろ?

 ま、どう殺されるか(・・・・・・・)までは知らないだろうけどね。

 ちゃんと、生贄になるため育てられていることは教えているし、本人も心得ているよ」

 

「む、むぅ……」

 

 サーラ自身に問わねば本当のところは分からないが。

 彼女を助ける、というお題目で動くのも、なかなか難しそうだ。

 

「ああ、それとさ。

 サーラはもう助けられないよ?」

 

「何!?」

 

「だってあの子が生贄になるまで、あと5日(・・・・)だし。

 仮にオマエが国王にかけあって無理やり軍を動かしたとして、もう間に合わないだろ?」

 

「メイヴィルはそんなこと言ってなかったぞ」

 

「隠したんだよ。

 あのババアとしては、この生贄を作り続けるこの在り方さえ壊せりゃそれでよかったんじゃないの?」

 

「……むむ」

 

「それとも、まさかオマエだけで戦うつもりか?

 そんな二束三文で買えるような剣ぶん回して?

 ここには竜と戦った時のような(・・・・・・・・・・)最強の武具もなけりゃ、無敵の軍隊も居ないんだぞ。

 ……いや、本気でそれだけは止めろよな。

 オマエに死なれでもしたら、国際問題待ったなしなんだから」

 

「むむむ」

 

 詰んだ。

 これは詰んだ気がする。

 なんというか、動きようがない。

 

「……分かった。

 君の言う通り、俺はこれ以上関与しない」

 

「そりゃ良かった。

 いやぁ、閣下の物わかりが良くて安心したよ、ホント」

 

 コロコロと笑いだす。

 その笑顔だけ見れば、歳相応に可愛らしい女の子なのだが。

 

「……ヴィル」

「……先生」

 

 それまで黙っていたエルミアとイーファが、心配そうに声をかけた。

 彼女達にしてみれば、あまり愉快な結果ではないだろう。

 露骨に不満を顔に出している。

 ――だから。

 

「但し、条件がある」

 

「む」

 

 ラティナの顔から笑みが消えた。

 

「一つ。

 この件に関して、メイヴィルを罪を問わないこと」

 

「……ああ、いいさ。

 実質、何もできなかったわけだしね、アイツは。

 ちょっとした“おいた”位、黙認してやろうじゃないか」

 

「もう一つ。

 あと4日間、俺達がこの村へ滞在する許可をだすこと」

 

「おい」

 

 メイド少女が険しい顔つきに変わる。

 

「そんなこと、ボクが許すとでも思ってるのか?」

 

「勘違いするな」

 

「あん?」

 

「主導権を握っているのは、あくまでもこちらだ。

 俺が本気で動こうと思えば、君は何もできないだろう?

 まさか、あの村の人数程度で俺を止められると思っているのか?」

 

「……ぐ」

 

 ヴィルの“凄み”に、ラティナが一瞬怯んだ。

 かなり強引で好みでないやり方ではあるが、この案は通したかったのだ。

 一見してつけ入る隙が無いように見えるが、そうであっても足掻いていれば案外糸口が見つかることも多い。

 

(とにかく、今は時間を稼ぐことを考えよう)

 

 この場での解決は不可能と判断し、そんな風に頭を切り替えたのである。

 一方でラティナはと言えば、しばらくの間難しい顔をした後に、

 

「……いいだろう、認めてやる。

 だがな、オマエは軟禁させて貰うぞ!

 この件には“関与しない”んだろ!?」

 

「ああ、そうだ。

 俺()関与しない。

 だが――」

 

「ふんっ! 聖女と魔女は別ってことか!

 ああ、ああ、いいさ、それ位!

 こんな小娘共に何ができるってんだ!」

 

 ヤケクソ気味に、ヴィルの条件を飲んだ。

 ……小娘と言いつつ、ラティナ本人もエルミアとそう年齢変わらないように見えるが。

 

(まあ、この辺りが落としどころだな)

 

 元々無茶な内容なのである。

 2人が自由に動ける約束を取り付けられただけで、御の字というものだ。

 ただ、エルミアやイーファと相談することもままならないのは少々辛いところだが――

 

「お待ち下さい」

 

 ――と、そう考えていたところへ、エルミアの声が響く。

 

「ラティナさんの話しぶりから察するに、その4日間、私達はヴィルと接触ができない、ということですね?」

 

「当たり前だろ。

 オマエらに指示飛ばされちゃ、軟禁してる意味がないからな」

 

「それは困ります」

 

「困ろうが知ったこっちゃない。

 せいぜい2人で無い知恵絞ってみろよ」

 

「いえ、そういう意味では無く」

 

「ん?」

 

 訝しむラティナに対し、エルミアは毅然とした態度で話を続ける。

 

「こちらのイーファは、将軍を愉しませる(・・・・・)為、毎晩夜伽するよう命じられているのです。

 4日の間とはいえそれができないとあっては、契約違反となってしまいます」

 

「え」

「え」

 

 とんでもない発言に、ヴィルとイーファの目が点になった。

 

「は? よ、夜伽?

 オマエ、嘘も大概に――」

 

「証拠はここにあります。

 彼女の祖父でもある賢者の学院の学長エゴール・カシジャスが作製した契約書です」

 

 言いながら、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 ラティナはその書面を確認すると、

 

「……た、確かに。

 本物だ」

 

 絞り出すように声を出した。

 無論、ヴィルの与り知らない代物である。

 

「ええええええ、お爺ちゃん!?」

 

 イーファが素っ頓狂な声を上げるのも無理はない。

 こんなものいつ作っていたというのか、あの爺さんは。

 

「……魔女を夜伽に使ってたのか。

 サイテーだな、オマエ」

 

 ラティナからの視線が痛い。

 だが耐えねばならない。

 これは、自分とイーファが滞りなく接触できるようにする、エルミアの策――のはず。

 

「如何でしょうか、ラティナさん。

 炎虎ズィーガの件は確かに国の一大事。

 しかし、帝国の将軍(・・・・・)と交わした契約もまた、国として無視できるものではないのでは?」

 

「ぐ、ぐぐぐ――」

 

 褐色の少女が歯ぎしりし出す。

 ふざけた話ではあるが、学長が結んだ正式なものである関係上、放り捨てて良い案件ではない――と、彼女は考えているのだろう。

 

(意外と真面目な子なんだな)

 

 神獣に対応する組織において高い地位を与えられているのだから、当然かもしれないが。

 ともあれ、たっぷり悩んだ末にラティナは結論を出した。

 

「わ、分かった――夜伽相手が欲しいってんなら、用意してやる!」

 

「では――」

 

 エルミアの顔が輝く。

 しかしそれに対し、ラティナは意地悪く笑った。

 

「但し、その相手はこのボクだ!

 これでも男を悦ばせるテクには自信がある!

 この魔女の弛んだ身体と比べてボクの身体が劣ってるだなんて言わせないぞ!?」

 

「弛んだ!?」

 

 変なところでショックを受けるイーファ。

 完全にとばっちりだった。

 しかし事の発端を作った聖女は落ち着き払い、

 

「――分かりました。

 ラティナさんがイーファの“代わり”になって頂ける、ということですね」

 

「そ、そうだ」

 

 その態度に、ラティナが気圧されているようだった。

 エルミアはさらに続ける。

 

「代わりになるというのであれば。

 もしその務めを十分に(・・・)果たせなかった場合、イーファが本来の役目を遂行する、ということでよろしいのですよね?」

 

「そ、それは――」

 

 褐色肌のメイドがちらりとこちらを見てきた。

 その顔は一目で分かる程に上気している。

 いったい、ナニを考えているのか。

 

「――い、いいだろう。

 そんなこと、あるはずないけどな!」

 

「はい。

 確かにその言葉、頂きました」

 

 エルミアが薄っすらと微笑んだ。

 聖女モードだというのに、その顔には邪な気配が見え隠れしている――ような気がする。

 

(ま、まあ、しかしこれで――)

 

 ラティナが夜伽を続けられなくなれば(・・・・・・・・・)、イーファと話ができるわけである。

 そしてヴィルは既に彼女を攻略しているのだ。

 かなり不利な条件だというのに、それが受け入れられたのは――

 

「…………」

 

 ――ラティナがこちらを、何か期待する(・・・・)目で見ていることと無関係ではあるまい。

 “震撃”は彼女の奥底に致命的な痕を残したようだ。

 

 ともあれ。

 こうしてヴィル達の神獣ズィーガを巡る戦いが幕を開けた。

 

(これが終わったら、エゴールとはじっくり話をしなければ)

 

 そんな決意も心に刻みつつ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑦ 今後の方針は?(H)

 山から帰り、早速ヴィルが案内されたのは村長の屋敷にある一室だった。

 最初に通された所よりも遥かに豪華な部屋だ。

 下手したら――いや、間違いなく村長の私室以上に煌びやかな造りだろう。

 

「……こんな場所まで遭ったのか、この村には」

 

「VIPが視察に来る時使う部屋だよ」

 

「なるほど」

 

 褐色肌のメイド――ラティナの説明に相槌を打つ。

 神獣の監視を行っている村なのだ。

 大臣クラスの人間が査察に来ても何らおかしくない。

 

「俺はこの部屋でじっとしていればいいわけか?」

 

「そうそう。

 風呂もトイレも備え付けてある。

 飯だって最上級のもん用意してやるよ――ま、この村で揃えられる範囲で、だけどね。

 他、入り用なモノがあったら、ま、揃える努力はするさ」

 

「そうか」

 

 言って、部屋を見渡した。

 それなりに広く、本棚には様々な書籍も揃っている。

 少々窮屈だが、数日程度であれば一人で暮らすのに不自由はなさそうだ。

 

「で、そろそろ朝食の時間なわけだけど、どうする?

 欲しいメニューがあれば、シェフに伝えとくよ」

 

「そうだな……」

 

 もう日は昇っている。

 結局一晩中山を歩いてしまった。

 正直なところ、空腹感や疲労感よりも眠気が勝っている状況だ。

 

(しかし、寝るわけにはいかない)

 

 眠るより先に、ヴィルにはやるべきことがあった。

 それは、外に居る2人(エルミアとイーファ)が少しでも動きやすい状況を作ることだ。

 そのためには――

 

「朝食よりも先に欲しいものがある」

 

「ん? そりゃ何さ?」

 

「君だ」

 

「へ?」

 

 言いながら、ラティナの肢体を抱きかかえた。

 メイド服の生地越しに、少女のしなやかな肉感が伝わってくる。

 

「な、な、オマエ、いきなり何を――!?」

 

 しどろもどろになるラティナを、至近距離からしっかりと見つめ、

 

「何をも何も、今日からは君が夜伽をしてくれるんだろう?

 ……まさか、読んで字のごとく夜にしか相手しないつもりだったのか?」

 

「んなっ!?」

 

 少女が目を見開く。

 この反応を見るに、本気で想定していなかったようだ。

 思ったよりも詰めが甘い。

 

「オマエ、もうサカリだしたっての!?

 とんだ変態ヤロウだな!!」

 

「それは違う」

 

 手をラティナのスカート内へと滑り込ませる。

 その“中”はすぐ分かる程に蒸れており(・・・・・)

 ショーツはびっちょりと濡れていた。

 ヴィルはその事実を主張するため、下着を弄ってクチュクチュと音を立て、

 

「――盛りが付いているのも、変態なのも、君の方じゃないのか?」

 

「……っ!!」

 

 目の前にある褐色の顔が赤く染まった。

 存外、可愛らしい反応をするものだ。

 

「昨夜、山を歩いていた時からそうだっただろう?

 時折、愛液が滴っていたぞ。

 気付かれていないとでも思ってたか?」

 

「そ、そんな――そんなこと――!」

 

 物欲しそうに瞳を潤せながら否定しても説得力は皆無。

 そうしている間にも、スカートの中を弄る手には淫猥な液体が垂れ落ちてきている。

 

「よっと」

 

「あっ」

 

 スカートを捲る。

 案の定、びしょびしょに濡れた黒いショーツがそこにはあった。

 しどろもどろになって、ラティナが弁解してくる。

 

「いや、これは、ちがっ」

 

「ラティナ」

 

 その言葉を遮り、ヴィルは彼女に命令を下す。

 

「下着を脱いで、股を開くんだ」

 

「……分かった」

 

 素直にうなずいた。

 もとより、抵抗する気など無かったようにも見える。

 少女はするするとショーツを降ろすと、自分の手でスカートを捲りあげ、大きく足を広げた。

 

「愛液がまだ垂れ落ちてるな。

 ずっと我慢していたのか?」

 

「い、いちいちそんなこと言うな!

 準備してやったんだから、ヤりたきゃヤればいいだろ!?」

 

 昨日に比べ、ラティナの態度には随分と“余裕”が無い。

 一度負けたせいなのか、それともあの快楽が忘れられないせいなのか、或いはその両方か。

 どちらにせよ、お膳立ては整った。

 

「そうさせて貰う」

 

 手短にそう言うと、ヴィルはささっとズボンを脱ぐ。

 露わになったのは巨大なイチモツ。

 

「う、ああっ」

 

 それを見て、ラティナがゴクリと唾を飲み込んだ。

 今から自分がされることを想像して、興奮しているのだろう。

 自然、彼女の息遣いが荒くなる。

 

「ふぅっ…ふぅっ…ふぅっ……は、早く……早くっ」

 

 こちらにも見えるように、女性器をクパァッと開いてきた。

 ぬめぬめにテカった花弁だ。

 男の視線を釘付けにする、鮮やかな色合いをしている。

 

「そう急かさなくとも、すぐにくれてやる」

 

 潤んだ瞳を受け止め、ヴィルは鷹揚に頷いた。

 ラティナの腰をかかえ、自らの股間に近づけ。

 その膣口へと極太の肉棒を突き入れた。

 

「あ、あぁぁああああああああっ!!?」

 

 歓喜の声が部屋に響く。

 

「あ、あぁああっ!! はぁあああああっ!!

 コレ、コレぇええええっ!!!」

 

 顔を蕩けさせ、少女は喘いだ。

 そこには昨夜ヴィルを弄んだ魔性の姿は微塵もない。

 今のラティナは、快楽を貪る雌そのものであった。

 

(これなら、“震撃”は必要なさそうだ)

 

 内心、胸を撫で下ろす。

 あの技は自身へ反動があるのは勿論のコト、相手への負荷も大きすぎる。

 別にこの少女に何か恨みがあるわけでも無いのだ。

 使わないで済むに越したことは無い。

 

 ――と、そう思っていたのだが。

 

「ああぁあああんっ!! もっと――もっとぉっ!!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

 ラティナの腰がうねり出した。

 膣壁が急激に男根へと絡まりだし、絶妙な力加減で搾り始める。

 

(こ、これは――!?)

 

 まさか今までの態度は演技で、こちらを仕留めにかかってきたのか――そう思ったヴィルだが、すぐに違うと分かる。

 

「もっとぉ――あぁあああっ!! もっともっとぉ――んぁああああっ!!

 ちょうだいっ!! ちょうだいっ!! あぁあぁぁああああんっ!!!」

 

 彼女はただ快楽を欲しているだけだった。

 そこに他意など存在しない。

 しかし。

 

(純粋に欲望へ走ったことで、却ってリミッターが外れたのか!!)

 

 これまで、ラティナは自分の力を抑えていたのだろう。

 彼女の目的は男をたらしこむことなのだから。

 全力を出して、己も快楽の渦に飲み込まれてしまう危険を冒す必要は無い。

 

 だが今の彼女は違う。

 ただただ快感を求め、自分が悦びに浸ることのみを目的にしている。

 自分を抑制する、などといった思考が働くわけが無い。

 

「あああぁああっ!!

 あぁぁあああああああああああっ!!!」

 

「うぐっ!!?」

 

 ビクビクッと身体を震わせ、ラティナが絶頂に達した。

 同時に、ヴィルもまた半ば強制的に射精させられる。

 膣による猛烈な扱きに、股間が耐えられなかったのだ。

 

(こ、これが、彼女の本気か――!!)

 

 背筋を冷たい汗が落ちる。

 このままでは、全て搾り取られる……そんな予感が去来した。

 いや、ラティナとて無傷なわけでは無い。

 事実、今も半開きの口から涎を垂らしながら、絶頂の余韻に酔いしれている。

 故に無傷わけでは無いのだが、先に精魂果てるのがどちらかと言えば――

 

(――やはり、使うしかないか)

 

 相手は全力で向かってきている。

 こちらも全力を尽くさねば勝機は無い。

 ヴィルは“震撃”の使用を決断した。

 

「いくぞっ!!」

 

 全身の筋肉を稼働し生み出した超振動を、自らの股間を介してラティナの奥所へと流し込む。

 次の瞬間、

 

「ん”お”お”!!?

 お”お”!!? お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!?!!!?」

 

 壊れたように震えだす少女の肢体。

 だがヴィルは手を緩めない。

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!?!?!?!?!!」

 

 身体の穴という穴から液体を垂れ流し始めるラティナ。

 瞳は白目を剥き、正気を完全に失っている。

 ――ただし。

 

「むむ、ぐぅっ!」

 

 ヴィルの呻き。

 またもや、精を迸らせたのだ。

 勿論、ラティナの膣肉の蠢動によって、である。

 こんな有様だというのに――いや、こんな有様だからこそ、なのかもしれない――彼女の女性器は雄を貪欲に漁り続けていた。

 その猛威は、優位に立っているはずの青年を無理やり絶頂させてしまう程。

 

(……いいだろう)

 

 覚悟を決めた。

 どちらが先に堕ちるか、徹底抗戦である。

 

(俺の“震撃”が勝つか、君の膣が勝つか――勝負だ!!)

 

 ヴィルはラティナの身体を抱え上げると、そのままベットへと押し倒す。

 強引に上着を破ると、若干小ぶりながら見事な形とハリを持つ、小麦色の乳房を露出させた。

 

 ……これだけ大きく動いたというのに、彼女の膣はイチモツを咥え込んだまま離さない。

 その事実に慄きつつも、

 

「いくぞ、ラティナ!」

 

 青年は少女へ上から圧し掛かりながら、その双丘の先端へとむしゃぶりつく。

 そして、再度の“震撃”を繰り出した。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!」

 

 狂ったような嬌声が木霊する。

 ――2人の男女は、その後も獣のようにまぐわいを続けた。

 

 

 

 

 

 

 そんな様子を、部屋の外から伺う影が二つ。

 

「……ヴィルはやる気に満ちているようですね。

 これなら夜にイーファと会うにも支障はないことでしょう」

 

 その内の一人、エルミアが満足げに頷きながらそう言い切る。

 部屋では物凄いプレイが展開されているのだが、一切取り乱した雰囲気はない。

 一方でもう一人であるイーファの方はと言うと、

 

「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……

 すごいっ……先生、あんなことまで……はぁっ……はぁっ……」

 

 思い切り、中の二人に感化されていた。

 メイド服(惰性でまだ着ている)のスカートに手を突っ込み、自らを慰めている。

 

「エルミアさぁん、あの“しんげき”って技、アタシも味わってみたいですぅ……」

 

「止めておきなさい、今の貴女では耐えられません。

 本気で戻れなくなりますよ。

 ――といいますかイーファ、私達の目的を忘れてはいないでしょうね?」

 

「……あ。

 そ、そうでした!」

 

 聖女モードなエルミアに窘められ、ハッと我に返る。

 

「しっかりして下さい。

 サーラさんの命は今、私達の双肩にかかっているのですから」

 

「は、はい!

 ……エルミアさん、何時になく真剣ですね」

 

 やはり狙っている女の子が関わっているとあって気が気で無いのか――と言いかけたところで。

 

「当たり前でしょう。

 如何なる理由があろうと、あのような若い命が犠牲になることなど、あってはならないのです。

 神獣が関わっているとなれば、なおさらのこと。

 神の眷属たる炎虎ズィーガが犯した過ちは、神の従僕たる私が正さねばなりません」

 

「…………ごめんなさい」

 

 思わず謝罪。

 彼女は超真面目だった。

 神に関連する事件であるが故に、教会人としてのスイッチが入っている模様。

 

「え、えーと、でも実際問題これからどうしましょう?

 先生が時間稼ぎはしてくれましたが、正直言ってアタシ達でどうこうできる案件とはとても思えないんですけど」

 

「そんなことはありません」

 

 こちらの不安を、エルミアは力強く否定してくれた。

 

「なんとかできるんですか、神獣を!?」

 

「いいえ。私達だけでは、炎虎ズィーガを倒すことは不可能です。

 交渉――も、無理でしょうね。

 できるのであれば、ラティナさん達がとっくにやっている筈ですから」

 

「まあ、話し合おうとしてパクっと食べられちゃったんじゃ、それこそお話になりませんよねぇ」

 

 戦うことはおろか、会話をすることすら御免願いたい。

 鼻息だけで吹き飛ばされてしまいそうだ。

 

「しかし、神獣が全く手出しできない存在かといえば、決してそうでは無いのです。

 ……教会に属する者として、不適切な発言ではありませすけれど」

 

「そ、そうですかね?」

 

「イーファ、貴女は“当事者”のお孫でしょう?」

 

「……?

 ああ! ベルトルのことですか!」

 

 言われて思い当たる。

 悪竜ベルトル。

 数多の竜を率いて“帝国”を襲い、“魔竜戦役”を引き起こした最強の巨竜。

 神でこそないものの、この竜もまた神話級の魔物である。

 彼女の祖父エゴールがその戦役に参加し、悪竜討伐に一役買った――とは、よく聞かされた(自慢)話だ。

 

「ええ。

 あの悪竜ですら人は征することができたのです。

 神獣に勝利することも不可能では無いでしょう」

 

「でもベルトルって、“帝国”と魔王が共同戦線張って、ようやく倒せたんじゃなかったでしたっけ……?」

 

「では私達もそうすれば良いのです」

 

 エルミアが事も無げに言ってくる。

 その突拍子もない低減にイーファは目を丸くして、

 

「た、確かに両国が手を結べばできるかもしれませんけど、そんなの無茶ですよ!

 王国に掛け合うのは、エルミアさんやアタシの立場利用したり、お爺ちゃんに口添えしたりして貰えば何とか――なるかな? いや無理かな?――まあなんとかするとして!

 “帝国”にはどう話をもっていくんですか?

 まさか、魔王の方と談判するつもり――じゃないですよね?」

 

「……?」

 

 怪訝な顔をする聖女。

 不思議に思い、尋ねてみる。

 

「どうしたんです?」

 

「イーファ、まさか貴女、気づいていないのですか?」

 

「何に?」

 

 首を傾げていると、エルミアは大きく息を吐き、

 

「…………いえ、いいです。

 説明しても証明する手立てがありませんし。

 詳細は省きますが、私は“帝国”と交渉する手段を持っている、と認識しておいて下さい」

 

「お、おお!

 エルミアさん、思った以上に顔が広いんですね……!」

 

 とてもハッタリを言っているようには見えない。

 それ程、自信をもった断言だった。

 

 考えてみれば、教会という組織は“王国”と“帝国”双方に跨って存在している。

 その辺りの関連で、“帝国”の上層部と繋がりがあるのかもしれない。

 流石、聖女に選ばれるだけはある。

 

「そこで、今私達がすべきことは“証拠”を入手することです。

 炎虎ズィーガが実在し、暴虐を働いているという事実を示し世論を味方につければ――そしてその情報が“帝国”にも渡るともなれば――国の威信にかけ、“王国”も動かざるを得ないでしょう」

 

「な、なーるほど、分かりました!

 あ、でもそうなるとサーラさんは――」

 

 あの少女が生贄になるまであと4日。

 とてもではないが、間に合いそうにない。

 

「ですから、“証拠”を入手後、私達は速やかにサーラさんを連れて王都へ発ちます。

 追手は当然放たれるでしょうが、神獣相手に比べれば十分勝ち目のある相手です。

 生贄を失った炎虎は暴れるかもしれませんが、多少派手に動いてくれた方が私達の主張の信憑性が増すというもの」

 

 すらすらとした口調で疑念を解消していく聖女。

 

「――す、凄い!

 エルミアさんが――エルミアさんが、頼もしい!!?」

 

 正直なところ、この人まともなのは外見だけで中身はピンク色の妄想が詰まった女性(ヒト)なんじゃないかと疑っていたが、その思い込みは大きく修正せねばならないようだ。

 

「じゃあまずは聞き込みから、ですかね?」

 

「ええ。この村の人々が神獣への生贄についてどう考えているのか、そこから把握することに致しましょう」

 

「はいっ!」

 

 今後の見通しを立て、2人は駆け出す。

 最初の目的地は、生贄となる当人、サーラの居る部屋だ。

 

 

 

 ――ちなみに。

 部屋の中から響く喘ぎ声は、今なお続いていたりする。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑧ 聞き込み調査

 

「……ごめんなさい。

 わたし、逃げることなんてできません」

 

「えっ」

 

 その言葉に、イーファは言葉を詰まらせてしまった。

 発言の主はサーラ。

 生贄にされようとしている少女へその事情を説明し、あわよくば逃げる算段を立てておこうとの腹積もりだったのだが。

 帰ってきたのは、この台詞だった。

 

「あ、あのですね、サーラさん!

 皆のために生贄になるって覚悟は立派かもしれないですけど、相手は凄く酷いヤツなんです!

 きっとサーラさんが思っているずっとずっと残酷な目に遭っちゃうんですよ!?

 突然こんなこと言われても、信じられないとは思いますが――」

 

「いえ、聖女様に魔女様の言うことですから。

 きっと、それが真実なんだと思います。

 確かに信じにくいですけどね、神獣様が残虐な存在だなんて」

 

「――だったら!」

 

「でもダメですよ。

 だって、結局わたしが逃げたらみんなが酷い目に遭うってことは変わらないじゃないですか。

 そりゃもちろん、生贄にされるのは怖いし、痛いことはされたくありません。

 でも、わたしがそれを我慢すればみんなが助かるなら、それでいいかな、て思うんです」

 

「そんな――!」

 

 サーラが自分達を信用してくれていることが、言葉の端々から伝わってくる。

 それがイーファにはどうしようも無く辛かった。

 信じられないが故に拒まれているのであれば、信じてくれるように努力すればいい。

 しかし、生贄がどれだけ惨い扱いをされるかを理解した上で、それでもなお自身が生贄になることを受け入れてしまった場合、どう説得しろと言うのか。

 

(で、でもここで引き下がるわけには――!)

 

 どうにか自分を奮起させる。

 この先事態がどう転がるにせよ、サーラが彼女達と共にここを離れることは必須事項だからだ。

 そうでなければ、この少女を助けられない。

 “見捨てる”という選択肢は、はなから頭にないイーファであった。

 

 ――だが。

 

「聖女様、魔女様、ありがとうございます」

 

「え」

 

 こちらが何かを言う間に、サーラに機先を制されてしまう。

 

「わたし、凄く嬉しいんです。

 お二人が、先日出会ったばかりのわたしのためを心配してくれていること。

 それだけで、わたしは頑張れます。

 ですから――ですから、その――」

 

「……うぅ」

 

 喉まで出かかった言葉が霧散する。

 少女が、なんとかこちらを納得してもらおうと一生懸命に思案していることが分かってしまったからだ。

 尊敬する人物からの申し出を拒まなくてはならないというその状況にこそ、サーラは苦しんでいるようで。

 これ以上の説得を、思い留まらせてしまう。

 

(え、エルミアさん!

 エルミアさん、なんとかして下さいー!)

 

 最早自分の手には負えない。

 一抹の望みをかけて、隣に立つ聖女へと視線を送った。

 すると彼女は落ち着き払った仕草で頷き、

 

「分かりました、サーラさん。

 そこまでお考えの上とあっては、貴女の意思を尊重いたしましょう」

 

(あっさり白旗振ったー!?)

 

 エルミアはさくっと会話を終わらせてしまった。

 サーラはというと、聖女の言葉に少し驚いた表情をしてから、ぺこりと頭を下げる。

 

「聖女様……すみません」

 

「何を謝るのですか?

 貴女の志は素晴らしいものです。

 主も必ずお認めになることでしょう」

 

「聖女様……」

 

 感極まって涙を浮かべるサーラ。

 そんな少女を一つ二つ挨拶を交わし、二人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 イーファは沈痛な面持ちで廊下を歩く。

 出だしからして躓いた形だ。

 せめてサーラの了解が得られれば、最悪彼女を抱えて逃げ出すという手もあったというのに。

 

「ううう、これからどうしましょう……」

 

 かなりへこみ気味の魔女であった。

 一方でエルミアの表情には陰りが無い。

 聖女はいつもと変わらぬ顔で話しかけてくる。

 

「イーファ、何を落ち込んでいるのですか」

 

「いや寧ろエルミアさんはどうして平然としているんですか。

 サーラさんの救出を、サーラさん自身に拒まれてしまったんですよ」

 

「拒まれることは想定の内でしょう?」

 

「へ?」

 

 エルミアの台詞に、気の抜けた声を出してしまう。

 

「いいですか。

 サーラさんは、幼い頃から立派な生贄になるべく教え込まれていたのです。

 その教育(洗脳)を、彼女のことをよく知りもしない私達に解けるわけが無いではないですか」

 

「……さらっと凄い事いいますね」

 

「逆に私は安心した位です。

 どうやらサーラさんは、“皆にそう教わったから”以上の理由をお持ちではないようでしたから。

 もっと深刻な――例えば親兄弟を人質に取られているとか、生贄となるべく“呪い”をかけられているとか――対処の難しい理由が出てきたなら、私も頭を抱えていたかもしれませんね」

 

「で、でもサーラさんの意思は固そうでしたよ?」

 

「ふふふ、あれ位の年齢の子の考えを変えさせるなんて、そう難しいことではありません」

 

「う、うわぁ、エルミアさん、意外とドライ……」

 

 現実的過ぎる聖女の言葉に、閉口してしまう。

 本当にこの人は神の信徒なのだろうか?

 いや、聖女という他の信者達を導く立場には、これ位の打算ができないとなれないものなのかもしれないが。

 

「懸かっているものが人の命ですからね。

 綺麗事ばかりを言っていられません」

 

「うっ――た、確かにその通りです」

 

 エルミアの瞳は真剣そのものだった。

 その態度に感化され、イーファも気合いを入れ直す。

 

「じゃあ、気を取り直して次行ってみましょう!

 誰に聞くのが良いですかね?」

 

 そう尋ねた直後だった。

 

「……困りますな、そのようなことをなされては」

 

 そんな男の声が響く。

 見れば、廊下の先には顔に皺の入った壮年の男――この村の“村長”ダンマスが立っている。

 

「丁度良いところで会えました。

 貴方にもお話を伺いたいと思っていたのですよ」

 

 イーファが何か言うよりも先に、エルミアが口を開いた。

 だが村長は渋い顔をして、

 

「お話しすることは何もありませんな。

 ラティナ殿が許可した以上、貴女達の滞在に文句は言いませんが、余計な事(・・・・)はしないで頂きたいものです」

 

「余計な事――サーラさんを助ける行為は余計な事ですか?」

 

「それ以外の何だと言うのです!」

 

 ダンマスは語気を強める。

 

「良いですか?

 この村はこれまで数十年に渡り、生贄によって神獣を制御してきました。

 貴女のような世迷い事をほざく者はこれまで幾人もいましたよ。

 しかし、結局彼等は何も変えられなかった。

 何故か分かりますか?

 それはね、私達が圧倒的に“正しい”からですよ!

 たった一つの命によって、結果的に幾千幾万という人々を救ってきたのですから!」

 

 まるで演説のように語る。

 その熱の入れようは――

 

(――まるで自分に酔っているみたいですね)

 

 イーファは冷めた目でそう分析していた。

 その視線に気付くことなく、村長は口を動かし続ける。

 

「四十三年前、この辺りを大規模な大雨が襲ったことはご存知ですかな?

 放っておけば洪水によって辺り一帯が流されようとしていた。

 その危機を救ったのが、他ならぬ炎虎ズィーガ様です。

 二十六年前には、飛蝗の大発生がありました。

 全てを食らいつくす害虫共を退治したのもまた、炎虎ズィーガ様だ。

 これらは全て、私達がかの神獣と良き関係を築き上げてきてからこそ、受けられた恩寵なのです。

 どうです、これでもまだ私達が間違っていると言いますか?」

 

 息を荒くして、ダンマスはそう結ぶ。

 “話すことは何もない”と言ってくれた割に、随分長々と話してくれた。

 しかしその内容は――

 

(ラティナさんから同じこと聞きましたね)

 

 ――全く目新しいものがなかったのだが。

 どうにもこの人物、薄っぺらいように感じる。

 喋った内容も、誰かからの受け売りに過ぎないのではないだろうか。

 

(The 傀儡って感じですねー。

 これ以上聞いても意味ないような?)

 

 ただでさえ時間を無駄にするわけにはいかない。

 さっさとこの場を立ち去ろうとエルミアを促す――よりも先に。

 

「――だから」

 

 今度は聖女が村長へと語りかけた。

 

「だから、見捨てるのですね。

 貴方の四分の一も生きていない少女を。

 純粋無垢で、優しい心を持った少女を」

 

「聞いたような口を聞くな!!」

 

 突然、ダンマスが激高した。

 顔を真っ赤にして、先程までとは打って変わって口調が荒い。

 だがその怒気を受けても、エルミアは涼しい顔だ。

 

「サーラさんは、貴方の実の娘なのでしょう?

 血を分けた子を犠牲にして、それで齎される利益に何の価値があるのでしょうか」

 

「あの子はそれ位の覚悟、既にできている!」

 

「それは貴方が押し付けた覚悟なのではないですか?」

 

「私はこの村の村長であり、あの子は私の娘だ!

 今まで何人の娘が生贄になったと思っている!?

 私にもサーラにも、この村で生きる者として全うしなければならない義務があるのだ!」

 

「……左様ですか」

 

 そこで会話が途切れた。

 最後まで落ち着いた声のエルミアだったが、その語り口には普段の彼女らしからぬ“棘”があった。

 聖女としても、この人物には色々と思うところあったのだろう。

 

「幼き我が子を人身御供とせねらならない境遇、身を切り裂かれる思いでしょう。

 それでもなおこの国を想う志、ご立派でございます。

 努々、その“義務”を成し遂げて下さいますよう、お祈りさせて頂きます」

 

「……っ!」

 

(お、おわー、辛辣ー!)

 

 言葉遣いこそ丁寧なものの、言葉の端々に皮肉めいた響きがあった。

 ダンマスもその物言いに一瞬気圧されている。

 それでも村長としての矜持からか、それとも若い女性にやり込められることを良しとしないプライドからか、すぐに姿勢を正すと、

 

「そ、そうですか。

 分かって頂けたなら何よりです。

 ……では、私はこれで」

 

 口早にそう言って立ち去ってしまう。

 あっという間に廊下の奥へ姿を消した村長を見送ったイーファは、改めてエルミアに話しかけた。

 

「無駄に時間潰しちゃいましたねー。

 あの人、話が長いったら」

 

「何を言っているのですか。

 大収穫だったではないですか」

 

「はい?」

 

 予想外の答えに、疑問符を浮かべてしまう。

 何のことやらさっぱり分からないこちらに対し、エルミアは説明を始めた。

 

「いいですか、イーファ。

 本当に自分が正しいと思っている人間は、あの程度の指摘で怒りだしたりはしませんよ。

 やましい気持ちを抱えているからこそ、激高して弁解しだしたのです」

 

「えーと、それではつまり?」

 

「村長は、サーラさんを生贄とする件に対して心を痛めている、ということです。

 それもあの動揺ぶりから察するに、相当罪悪感に精神が蝕まれているように思えます。

 彼は私にではなく、自分に言い聞かせていたのですよ――自分達がしていることは正しいのだ、と。

 つまり、あの人は本質的に私達と同じ側の人間なのです」

 

「ま、まさかそれを確認するために、あんな物言いをしていたんですか?」

 

「試すような真似をしてしまいましたね。

 その無礼に関して、後で謝罪をしなければなりません」

 

 本当にすまなそうに目を伏せるエルミア。

 しかしすぐ調子を戻すと、

 

「村長を支えているのは、“生贄がより大きな利益を齎してくれる”ことだけ。

 その正当性を崩しさえすれば、こちらの味方となってくれるでしょう」

 

「簡単に言ってますけど、そんなことできるんですか?」

 

「勝算は……低くないと見積もっています。

 炎虎ズィーガに関する情報の閉鎖性を鑑みるに、この付近を第三者が調査する機会はそう多く無かったのではないでしょうか?

 ならば、村の人々が見落としている“事実”がまだ眠っている可能性は高いのではないかと」

 

「……確かに。

 こういう場所で暮らしてると価値観が画一化してきますもんね」

 

 “王国”がバックに付いているとはいえ、外部との交流がほとんど無い以上、閉塞された村であることには変わりない。

 イーファはようやく理解する。

 

「だったら、外から来たアタシ達ならここの人達とは違う視点で評価できるから――新しい発見がある、かも?」

 

「そういうことです」

 

 一つ頷いてから、聖女はさらに加える。

 

「それに、どちらにせよ調べなければならない案件ではあります。

 国を動かそうというなら、私達の正当性を支持する証拠が多いに越したことはありません。

 ただ神獣の残虐さを示すだけでは弱いかもしれませんし。

 人は、やはり利益の大きい方に流れてしまうものですから」

 

「――ど、どうしちゃったんですか、エルミアさん!?

 なんかもう、凄い頼りになっちゃう感じなんですけど!?」

 

 これまでの旅で片鱗も見せてくれなかった信頼感である。

 いつもは脳内ピンク性女なエルミアだが、今の立ち振る舞いを見て、彼女が聖女であることに疑いを持つ者などいないだろう。

 

「ふふふ、今はヴィルが動けませんからね。

 こういう時くらい、しっかりしませんと」

 

「……いつもそうしてあげていれば、先生の心労も大分軽減されるのに」

 

「それを言うなら、最近のヴィルの悩みは大半が貴女関連なのですが」

 

「え、そうなんですか?」

 

「自覚無しでしたか……」

 

 何故かエルミアはこちらを見て苦笑してくる。

 まあ、自分の行動を顧みるのはまた後でやるとして。

 

(これは、いける気がしてきましたよ!)

 

 まだゴールが見えたわけでは無い。

 しかし、確実に前進した感触がある。

 その芽生えた希望を胸に、イーファ達は村人への調査を開始するのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑨ 夜の打ち合わせ(H)※

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 今日一日の調査結果。

 

(流石にアタシ達に協力してくれるって人は居ませんでしたねー)

 

 イーファは軽くため息をつく。

 しかし、

 

(幼い少女を生贄にすることに対し、何の葛藤も抱いていない人も少ないみたいですね。

 ……エルミアさんの見立てが正しければ、ですけど)

 

 自分が見ると皆一律に否定的な返答をしてきただけのようだったのだが。

 聖女の見解によれば、抱えている悩みが滲み出てきている人も居たそうな。

 少々半信半疑なところもあるが、エルミアとしてはその判断にかなりの自信を持っているらしい。

 

(とにかく、重要なのは神獣の立場をより不利にする情報ってことですねー。

 それを探し出せれば、村長を始めとした村人達の協力が得られるかも、と)

 

 歩きながら頭を整理する。

 聞き込みで色々な話を聞いたものの、纏めてしまえば然程の量でもない。

 ……一日費やして、その程度の情報しか手に入らなかったともいうが。

 

(先生が何か良いアイディアを持っていればいいんですけど)

 

 そんなわけで、イーファは今ヴィルの居る部屋へと向かっている訳である。

 名目としては“夜伽”のためだが、実際のところは情報共有と相談のためだ。

 ただ、ヴィルがラティナを何とかしていないと(・・・・・・・・・)、会うことはできないわけだが。

 

(きっと先生のことだから大丈夫ですよねー)

 

 イーファは楽観的にそう考えていた。

 彼の性豪っぷりは身をもって知っているからだ。

 

 ……そう。

 この時彼女は、事態を本当に甘くみていたのである。

 

「到着、と」

 

 誰に聞かせるでもなく、そう呟く。

 彼女の前には、やたらと豪華な扉。

 目的の部屋の前に来たのである。

 

(こんな部屋を手配される先生って、そういえば何者なんですかね?)

 

 貴族でも入っていそうなドアなのだ。

 普通に考えれば、相当高い地位の人物ということになるのだが……

 

(……ま、いっか)

 

 彼女はあっさりと思考を放棄した。

 まあ、王国随一の魔法使いであり『賢者の学院』の学長である祖父の知人なのだから、生半可な人物であるはずがない。

 

(そもそも、先生は先生ですし)

 

 ヴィルという人物そのものが好きなのであって、彼の立場には興味が無い。

 

(と、考え込んでても仕方ないですね)

 

 変なところで時間を潰してしまった。

 気を取り直して、イーファは扉を開ける。

 

「失礼しまーす」

 

 中をくぐった、その瞬間。

 

「うっ!?」

 

 むせた。

 部屋の中の空気を吸った瞬間、思わず咳き込んでしまったのだ。

 

(な、何――?)

 

 慌てて探るも、中は薄暗く入り口からでは見通せない。

 ただ、その“臭い”だけがひたすらに鼻をつく。

 

(これって――これって――――精液?)

 

 そう。

 部屋は、精子の臭いで満たされていた。

 

(しかも、すっごく濃い(・・)―― )

 

 圧倒的な雄の臭いに、イーファの顔は意図に反して蕩け始めてしまう。

 間違いない。

 これは、“ヴィル”のものだ。

 でなければ、自分がここまで感じ入るわけがないのだから。

 

(あ、あ――先生――先生――)

 

 思考が鈍くなっていく。

 ここへ来た本来の目的を忘れかけてしまう程に。

 

「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 息が少し荒くなる。

 イーファは一歩、また一歩とおぼつかぬ足取りで部屋へと入っていった。

 するとすぐ、足元からびちゃっという音がたつ。

 見れば、床に白い色の液体が溜まっていた。

 

(これって――)

 

 それが何なのかはすぐ分かった。

 精液である。

 精液が、床に水たまりを作っているのだ。

 ……いや、ここだけではない。

 

「あ、あ――精液、いっぱい 」

 

 改めて周りを見回せば、床にも壁にも大量の精液がこびりついていた。

 “異臭”の正体はコレだったのだろう。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

 呼吸の荒さが増す。

 身体の芯が熱い。

 

(……アタシ、発情しちゃってる )

 

 股間に“水気”を感じる。

 今の自分は、かなりはしたない(・・・・・)顔つきになっているはずだ。

 

(だ、ダメ、ダメダメ!

 ここには、先生と打合せしに来たんですから!!)

 

 パンパンッと頬を叩いた。

 頭が呆けて何もかもどうでもよくなってしまう――そんな気分を、必死で払う。

 

(せ、先生――先生は、どこ――?)

 

 震える脚で、部屋の奥へと進む。

 だんだんと目が暗さに慣れ、中の様子が把握できてきた。

 

「――――あ」

 

 そして、発見する。

 部屋の中央に置かれた大きなベッドの上。

 

「……ラティナ、さん」

 

 そこには、裸に剥かれたメイドが横たわっていた。

 褐色の肌は精液に塗れ、勝気な表情は見る影もない。

 

「……ひゅーっ……ひゅーっ……ひゅーっ……」

 

 白目を剥きかけ、涙を涎を垂れ流したまま、か細い呼吸を繰り返していた。

 

(あんな――あんな有様になるまで――)

 

 一日中、ヴィルに抱かれ続けていたのだろう。

 そのことを想像して、イーファの芯がさらに熱くなる。

 足の震えが収まらない。

 

「――ん、ほっ 」

 

 その時、ラティナの肢体がびくっと震えた。

 同時に彼女の股間から、大量の白濁液が噴き出る。

 

(つ、ついさっきまで、犯されてたんだ…… )

 

 膣に注ぎ込まれた精子を、留められなくなったのだ。

 だらしなく弛緩しながらも、幸せそうなラティナの顔を見ていると――

 

(ああああああああ――ダメダメダメダメ――――!)

 

 ――身体の疼きが止まらなくなる。

 太ももを熱い“汁”が伝い落ちた。

 ショーツはもうぐちょぐちょに濡れている。

 今すぐにでも、自分を慰めたい。

 

(ダメッ!! ダメッ!!

 しっかりしなきゃ!! しっかりしなきゃ!!

 でないと、サーラさんが――!!)

 

 精神を振り絞り、崩れ落ちそうになる肢体を支える。

 

「先生っ! 先生っ!!」

 

 早くヴィルを見つけなければ。

 このままだと、自分は思考を放棄した只の“雌”に堕ちてしまう。

 イーファはそう確信し、必死で師の姿を探す。

 

「ん? イーファじゃないか」

 

 その時、部屋に響く声。

 待望していた相手、ヴィルのものだ。

 

「先生――――!?」

 

 すぐに声の方向へ振り向くイーファ。

 ……しかしそれは失策だった。

 いや、この場合、彼女はそうするしか他になかったのだが――

 

「―――――あ、あ」

 

 目を見開く。

 身体が竦む。

 思考が止まる。

 全裸(・・)で部屋の片隅に立つ青年を目の当たりにして。

 ……彼女の理性はとうとう決壊した。

 

「どうした?」

 

 そんなこちらを訝しんで、ヴィルがこちらへ近づいてくる。

 

「――――は、ひっ 」

 

 嫌が応にも視界に入ってくる、彼の巨根。

 つい先ほどまで“行為”していたせいか、その肉棒は力強く起立していた。

 何時も見ているはずなのに、今日は一回り以上大きく感じる。

 

「あ、あ、あ、あ――」

 

 イーファはもう立っていられなかった。

 足にもう力が入らない。

 へたり込むように、その場でぺたんと腰を落とす。

 

「――あ、あ」

 

 力を失ったのは下半身だけではない。

 上半身までも倒れ伏してしまう。

 その姿はまるで“土下座”。

 巨大な男根へとひれ伏して(・・・・・)いるかのようだ。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

 心臓の鼓動が早い。

 股からはトロトロした液体が流れ出る。

 手足はもうまともに動かせなかった。

 

「あ、あ――先、生――先生――」

 

 不自由な身体でもがくイーファ。

 “土下座”をしたままどうにか手を動かし、自らのスカートを捲る(・・・・・・・)

 

「セン、セ――は、早く――早く――!」

 

 でかい尻を丸出しにして上へ突き出し、下半身を左右に振った。

 全く持って浅ましい姿だが、彼女にはもうそれしかできないのだ。

 すぐにでも、その肉棒を賜りたいと。

 思い切り嬌声をあげたいと。

 そう願い、必死にはしたない“おねだり”を繰り返す。

 

 ……その姿は、発情した雌犬以外の何物でもない。

 幼い少女を守るため奔走していた魔女の姿は、最早どこにも無かった。

 

「仕方ないな」

 

 果たして、その意はヴィルに伝わった。

 青年は後ろに回り込むと、こちらへと覆いかぶさってくる。

 そして何の躊躇もなく、勃起したイチモツをイーファの股座へと突き込んできた。

 

「あ、あひぃぃいいいいいいいいいいいっ!!!!?」

 

 待ち望んでいた“褒美”を受け取り。

 少女の甲高い喘ぎが、辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて、次の日。

 

「と、いうわけで。

 先生のアドバイスのもと、フィールドワークをしようと思いまーす」

 

「えええええええええ!?」

 

 イーファの言葉に、エルミアが盛大に驚いた。

 

「な、なんですか?

 アタシ、そんな変なこと言いました?」

 

「いえ、変なことと言うかなんというか――貴女、昨夜は一晩中ヴィルといたして(・・・・)ましたよね?

 いつ、助言を貰ったのですか?」

 

「…………」

 

 イーファは一拍の沈黙を置いてから、

 

「アハハハ、嫌ですね、エルミアさん。

 一分一秒の時間も惜しいこんな非常時に、アタシが先生に抱かれてただなんて。

 そんな非常識なこと――するわけないじゃないですかー」

 

「私の目を見て言って頂けませんか?」

 

 ジト目でこちらを見てくるエルミアの視線を、真正面から受け止められる度量がイーファにはまだ無かった。

 

「そもそも、ヴィルの部屋から響く貴女の喘ぎ声を、昨晩私はずっと耳にしていたのですが?」

 

「うっ!?」

 

「加えて貴女、今凄く臭って(・・・)いますよ?

 ヴィルの“子種”の臭いを、周囲にまき散らしています。

 フィールドワークの前にもう一度シャワーを浴びてきた方が良いでしょう」

 

「ううっ!?」

 

 痛い所(?)を突かれ、たじろぐイーファ。

 

「……………」

「……………」

 

 しばし、二人はじっと互いを見つめ合い――

 

「――と、いうわけで。

 先生のアドバイスのもと、フィールドワークをしようと思いまーす」

 

「最初に戻ってどうするのです」

 

 渾身の笑顔で繰り出した台詞なのだが、当然のようにエルミアには通用しなかった。

 それでも表情をキープしつつ、

 

「先生のアドバイスのもと、フィールドワークをしようと思いまーす」

 

「……分かりました。

 余り深く突っ込まれたくないわけですね」

 

「ありがとうございます」

 

 理解を示してくれた聖女に、深々とお辞儀する。

 

「しかしフィールドワークといっても、具体的に何を?」

 

「はい、この辺りの土地の“霊脈”を色々と探りたいんです」

 

「霊脈?」

 

 ここで言う霊脈とは、大地の持つ魔力の“流れ”のことを指す。

 魔力は万物に宿るものだが、それは大地も例外ではない。

 その“流れ”の具合を調べることにより、その土地の豊かさ等を把握することができるのだ。

 

「確かに、この土地そのものの情報を得るのは有効かもしれませんね。

 しかし、どうやって調べるのですか?

 私は霊脈調査に関する技能を習得していませんよ?」

 

「それなら大丈夫です。

 あたしの魔法で調べられます」

 

 胸を張ってそう答える。

 イーファの属性は『霊』特化。

 霊脈を調べるにはうってつけなのだ。

 

 エルミアは一瞬驚いたような顔をしてから、

 

「あら、そのような魔法も使えたのですね」

 

「はい、昨日先生に教わりました」

 

「……………」

 

 途端、聖女がまた押し黙った。

 彼女は眉間に皺を寄せると、

 

「いえですから貴女は――」

 

「ね、寝ずの特訓で身につけたんですよぉ!」

 

「寝ずに襲われていた、の間違いでは?」

 

「と、とにかく!

 私が霊脈を探る魔法を使えるのは事実なんですから!

 これを使って、この辺の土地をくまなく調べていきましょう!

 きっと何か良い情報が見つかりますよ!

 先生のお墨付きです!」

 

 一気にそうまくし立てる。

 聖女は大きくため息を吐くと、

 

「……偶に理不尽なことしますよね、ヴィルは」

 

 諦めの表情で、そう呟くのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑩ 仕込み(H)

 

「と、こんな感じだったんですけど」

 

 イーファから渡された“資料”に、ヴィルは目を通していく。

 

「……予想が当たったな。

 余り喜ばしい事態では無いが」

 

「でも、これで説得の材料ができました!

 明日、この資料をもって村長に話をしてこようと思います」

 

「ああ、そうしてくれ。

 ただ――」

 

 顎に手を当てて、少し考える。

 

「この資料を提示しただけでは、相手が信じてくれるかどうか怪しいな。

 最悪、俺達が事実を捏造したと思われかねない」

 

「うっ! それは、まあ、確かに」

 

 そこが懸念だった。

 イーファの作った資料の完成度は高く信頼に値するものだと判断できるのだが――如何せん、自分達は余所者。

 当然、ここに書かれた内容も疑惑の目で見られることは避けられない。

 

「もう一押し欲しいな。

 世間的に認められている第三者からの太鼓判でも貰えればいいんだが――」

 

「う、うーん」

 

 ヴィルの言葉に、イーファも首をひねる。

 

 自分で言っておいてなんだが、難しいだろう。

 今この場所からコンタクトをとるのがまず困難だ。

 さらに、そんな人物に資料確認をして貰うには相応のコネも必要となる。

 

「……エゴールと連絡を取れればなぁ」

 

 愚痴る。

 エゴール・カシジャス。

 イーファの祖父にして、王国が誇る魔法使い育成機関『賢者の学院』の学長。

 ついでに言えば、ヴィルの“戦友”でもある。

 彼ならばまず依頼を引き受けてくれるだろうし、そのお墨付きを疑う者はいないはずだ。

 

(しかし手段が……ん?)

 

 と、唐突に思いついた。

 

「考えてもみれば、この村は“王国”管理下の組織だったな。

 となれば、国との連絡用として、遠距離通話ができるマジックアイテムが設置してあるんじゃないか?」

 

 神獣の監視という、重要任務に就いているのだ。

 それ位の設備はあって然るべきだろう。

 

「あ、それもそうですね!――でも、王都に連絡が取れたとして、お爺ちゃんとはどう繋げるんですか?」

 

「賢者の学院もまた重要施設だ、必ず王都との連絡手段を用意してあるだろう。

 運が良ければ、ここの設備で直接学院に連絡が取れるかもしれない」

 

 思い立ったら善は急げ。

 早速ヴィルは、傍らに居る(・・・・・)褐色の少女へと話しかける。

 

「そういう訳でラティナ。

 その辺りの事情を説明してくれないか」

 

「説明するわけあるかぁ!!」

 

 部屋に響く、ラティナの雄叫び。

 

「……随分な反応だな」

 

「協力してくれないんですかー、ラティナさん?」

 

 ご無体な台詞に、ヴィルとイーファは抗議の声を上げる。

 しかし当のラティナは寧ろ怒り出し。

 

「協力なんてするわけないだろ!?

 いつからボクがオマエらの味方になったんだ!!」

 

「そんな格好で言われても説得力ないぞ」

 

 呆れた口調で指摘する。

 現在ヴィルは軟禁中の身であるからして、ここは例の寝室であり。

 イーファがこの部屋に夜伽相手として(・・・・・・・)通されている以上、ラティナは日中ヴィルに抱かれ続けていたわけだ。

 意識を取り戻したのはつい先ほどである。

 そういう訳で、彼女はいま全裸だったりした。

 健康的な褐色肌が目に眩しい。

 ついでに言うと、彼らは3人共はベッドに腰を下ろしていたりする。

 

「こ、これはオマエが無理やり――」

 

「凄い嬌声聞こえてましたよ。

 めちゃくちゃ気持ち良さそうなやつ」

 

「うるさいな!」

 

 イーファからの指摘は、怒号で返された。

 上半身を起こしたため、形のいい乳房がプルンッと揺れる。

 

「とにかく、通信機をオマエらに使わせるようなことは無い!」

 

「そうか、通信機はあるのか(・・・・・・・・)

 

「うっ!?」

 

 分かりやすく動きが固まった。

 図星らしい。

 とりあえず、連絡手段が根本的に存在しないという事態だけは無くなった。

 ヴィルはラティナに詰め寄り、

 

「まあバレてしまったのだから、ここは素直に貸してくれてもいいんじゃないか?」

 

「どういう理屈だそれは――――あっ!?」

 

 少女の肢体がビクッと跳ねる。

 何のことは無い、乳首を抓んでやったのだ。

 

「俺達はそちらの言い分をしっかり守ってここまで行動してきたんだ。

 少しぐらい、妥協を見せてくれても罰は当たらないと思うが」

 

「あ、あ、あ、あ、あっ!」

 

 胸の突起を指で転がしてやる度に、喘ぎ声が零れる。

 日中、散々イカせていたため、まだ大分身体が敏感のようだ。

 顔も瞬くうちに蕩けていく。

 果たして今のラティナに声が届いているのかどうか。

 

「どうだろう、ここで一つ、物わかりのいいところを見せてくれては」

 

「あ、ああ、あっ、だ、ダメっ!!

 乳首、コロコロしちゃ――あっあっあっあっあっ!!?」

 

 嬌声が大きくなった。

 ヴィルはトドメと言わんばかりに、ぎゅうっと指に力を入れる。

 

「ああっ! あっ!! あああっ!!

 胸でイクっ!! あっ!? 胸でイッちゃうっ!?

 あぁあぁぁぁああああああああっ!!!?」

 

 彼女の肢体が細かく震える。

 その股間からは、ポタポタと愛液が垂れた。

 

「……イったようだな」

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、い、イったぁ……

 イっちゃったぁ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

 呆けたまま、頷くラティナ。

 百戦錬磨の手腕をもった彼女が、こうも容易く果てるとは。

 ここ数日の性交によって、イキ癖がつき始めているのかもしれない。

 

「ではもう一度聞くぞ。

 通信機を我々に使わせてくれ」

 

「はーっ、はーっ、はーっ……だ、ダメだ。

 それは、ダメ……」

 

「そうか」

 

 少女は頑なだった。

 身体の方は大分素直になったとはいえ、心はそう簡単に堕ちてくれない。

 仕方ないので――

 

「うあっ!?」

 

 ――ヴィルは、ラティナを押し倒す。

 ベッドについた自分の腕の間に、少女の顔がある。

 容易にその肢体を蹂躙できる体勢であり――そして、ヴィルには躊躇をするつもりは無かった。

 

「んは、あ、また、乳首ぃっ!?」

 

 今度は口で胸の突起を責める。

 固くなった先端を舌先でつつき、舌全体で転がし、口で吸いつく。

 女性特有の仄かに甘い香りが鼻孔に入り込む。

 

「あ、は、あ、あ、あ、あ、あっ!

 なんで、そんな、にっ――!

 ひぁっ、あ、あ、あぅっ!」

 

 甲高い声を耳で愉しみながら、さらに責める。

 ラティナの肌に汗が浮かび上がり、それを舐め取った舌に淡い塩辛さが広がる。

 

「もう、しつこい、く、あ、あ、あ、しつこすぎ、あ、あ、あ、う、あ、あひっ!?

 はひ、は、あ、あ、あ、ムリ、ムリ、またイク、イっちゃう、あ、あ、あっ!!」

 

 肢体が火照ってきたラティナは、身を捩って逃げようとする。

 勿論、逃がしはしない。

 さらに手でもう片方の乳房を揉んでやる。

 手の平で感じるハリのよい弾力が良い塩梅だ。

 

「あ、あ、イク、あ、あ、あ、あ、イク、イクっ!

 あ、あ、あ、あ、あ、あ――――」

 

 そこで、口を離した。

 

「――――あ、え?」

 

 何が起こったのか分からない、といった顔の少女。

 絶頂の寸前まで昂ったせいで、その瞳には涙が溜まっていた。

 精一杯の矜持なのだろう、ラティナは不敵な笑み――に、見えなくもない表情を作り、

 

「な、なんだ、もう、終わりか?」

 

「いや」

 

 ヴィルはその強がりを、あっさり否定。

 今度は彼女の両脚を掴み、思い切り股を広げさせる。

 

「や、え、まさか、またするの、か?

 いや、ダメ、今されちゃったら、ボクは――!」

 

「されてしまったら、どうなるんだ?」

 

 耳元でそう囁きながら、ヴィルはゆっくりと自らの肉棒をラティナに埋没させていく。

 

「あ、あ、あ、入ってくる!?

 あああ、あ、入ってきてる――!?」

 

 少女がこれまでと違う声色で喘ぎ出す。

 

(お、お、締まる――!)

 

 一方でヴィルも内心感嘆の声を上げた。

 女性器に侵入した途端、膣肉がイチモツに絡みつき、強烈に締め付けてきたのだ。

 

(あれだけヤった後だというのに、なんて身体だ!)

 

 その名器っぷりには舌を巻くほかない。

 一瞬、股間から湧きおこる快楽にこのまま溺れてしまいたい欲求に駆られるものの、今はそんな場合でないと思い直す。

 やはり“震撃”で責めるが最善か。

 覚悟を決め、ラティナの肢体をがっちりと掴む。

 

「あああああ、太いのが奥まできちゃった!?

 ヤダヤダヤダヤダ、アレはダメ、アレをされたらもう頭おかしくなって――!?」

 

 何をされるか既に察しているのだろう。

 少女は怯え、止めるように懇願してきたのだ、が。

 その言葉に反して、彼女の顔はどこか嬉しそうに蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 自分の意思と身体の欲求が乖離している辺り、既にどこか壊れているのかもしれない。

 

(こちらにはこちらの事情がある。

 それを譲るわけにもいかない)

 

 ヴィルは一度腰を引き、身体へ力を蓄えてから――それを超振動という形に変えてラティナの恥部、その最奥へと叩き込んだ。

 

「あーーーーーーーっ!!?

 きちゃったぁぁああああああああっ!?!?!?!!」

 

 途端、絶叫が響く。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! 子宮!? 子宮、震えてっ!?

 おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!! いっ! いっ! いっ! いっ! いぃいいいっ!!!」

 

 ガクガクと、大きく肢体を揺らすラティナ。

 瞳孔が開き、手は千切れんばかりにシーツを握りしめている。

 そして身体の穴という穴から液体が流れ始めた。

 

「あっ!? ああっ! あっ!! あっ!! 終わんないっ!? イクの終わんない!!

 イってるっ!? イクっ! イっ!? イっ!! イっ!! イっ!! イっ!! イっ!!

 イクイクイってるまたイクイクイクイっちゃってるぅぅううっ!!?!!?!」

 

 なおも続く振動に最も敏感な箇所を刺激され続け、少女は絶頂に次ぐ絶頂を味わっているようだ。

 身体はエビぞりに仰け反り、全身が完全に硬直するまでに力が込められている。

 

「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ!!?

 あ、い、あ、あ、あ、が、あ、あ、あ、ああ、あがぁぁああああああああ!!」

 

 そんな状態になっても絶え間なく痙攣は続き、ラティナに与えられた快楽の規模が分かる。

 そしてヴィルはと言えば、

 

(――ぐっ、もうもたん!)

 

 こちらはこちらで限界であった。

 一日中セックスを続けていた代償を、青年も払っていたのだ。

 体力が消耗していたところへ、ラティナの膣が齎す淫猥な刺激が重なり。

 快楽の波が全身を駆け巡り、射精を阻む堤防が決壊寸前だった。

 

「ラティナ、出すぞっ!」

 

「い、ひっ!!?」

 

 亀頭を子宮口の奥へ無理やり割り込ませ、そこで精を解放する。

 溜まりに溜まった己の子種が、ビュルビュルと音を立てて子宮へ流れ込んでいった。

 

「おおおぉおぉおおおおおっ、熱いのが、お、お、お、お、お、熱いのが、注がれてるっ!!

 は、あ、あ、あ、あ、あ、いっぱい、もう、お腹いっぱい、なのに、あ、あ、あ、あ、まだ、来てるぅ!!」

 

 膣内に収まりきらなかった精液が、女性器から漏れ出てきた。

 それだけ大量の精子を放ち、ようやく射精は終わる。

 

「……ふぅ」

 

「はー、はー、はー、はー、はー、はー」

 

 どうにか一息ついたヴィルとは対照的に、ラティナはまだ放心状態。

 荒く息をつきながら、視線は虚空を漂っている。

 肢体は脱力し、弛緩しきっていた。

 

「ラティナ」

 

 そんな少女へ、ヴィルは語りかける。

 

「通信機の件、頼めるか?」

 

「――はうっ!?」

 

 彼女の首筋に、舌を這わせながら。

 

「あっ――はっ――うっ――」

 

 この程度の刺激であっても悶えてしまうラティナ。

 敏感具合がさらに高まっているようだ。

 

「どうだ? 頼めないか?」

 

「うあっ――あっ――あぁああっ――」

 

 さらに舐める。

 少女の肌は汗まみれだ。

 吸い付けば、ぴちゃぴちゃと音が鳴る程に。

 

「――あっ――あっ――わ、分かった。

 何とかする――何とかする、よ――」

 

 ややあって。

 とうとう、ラティナがこちらへの協力を承認した。

 

「ありがとう。

 協力に感謝する」

 

 感謝の言葉と共に、ヴィルは最後に少女の乳首を一舐めした。

 

「うっ――く、あっ――は、んん――――」

 

 果たしてそれがトドメとなったのか。

 ラティナは一つ身じろぎしてから、完全に気をやってしまった。

 そんな少女の姿を見下ろし、ヴィルは深く息を吐く。

 

「……なんとかなったか」

 

「ヤるだけヤっちゃったって感じもしますけど」

 

 間髪入れず、イーファ(律儀にずっと傍観していた)からツッコミが来た。

 確かに、どうにか目的の約定を取り付けられたものの、少々――いやかなりアレな手段を使ってしまった。

 

「まあ、まるで女性を手籠めにして思い通りに動かしたかのようではあるが……」

 

「“まるで”も何も、先生がヤったことってまんまソレ(・・)ですよね」

 

「うっ!?」

 

 指摘され、割と凹む。

 弁解になってしまうが、ヴィルとしても悪意があったわけではないのだ。

 しかし他に方法が無いわけでも無かったにもかかわらず、こんなやり方をしてしまった原因は、

 

「やはり、エルミアに染まってしまった――」

 

「なんでもかんでもエルミアさんのせいにするのは良くないんじゃないですか?」

 

「ど、どうしたんだ、イーファ!

 今日はツッコミが鋭いな!?」

 

「だ、だってー!」

 

 図星をさされ動揺しながら尋ねると、イーファが涙目になって答える。

 

「だって先生、アタシとしてる時より、なんだか気持ち良さそうで……」

 

「むむ」

 

 悲し気に俯く姿に、彼女の本気を悟る。

 いや、違うのだ。

 確かにラティナの膣は名器ではあり、テクニックもずば抜けている。

 しかし、ならばイーファの身体的魅力が劣るのかといえば、答えは否。

 彼女の豊満な肢体もまた、男を凄まじく惹きつけるものなのだ。

 そもそも、身体の良し悪しと人として好意を抱くかどうかもまた別の話であって。

 

 ……エルミア?

 ヴィルの中で彼女は別格である。

 まあ、とにかく。

 

「イーファ」

 

「えっ……きゃっ!?」

 

 今度はイーファをベッドへと引きずり倒す。

 

「お前の不安はよく分かった。

 ……それが見当違いだということを、これから証明してやる」

 

「せ、先生――――んんっ」

 

 有無を言わさず、唇を奪う。

 

 ここで言葉を尽くし、彼女を説得することも不可能では無いだろう。

 しかし、多くを語り過ぎるというのも格好のつかないことである。

 男なら行動で示すのみ。

 ……対処法がラティナの時と同じだとか、言ってはいけない。

 

「あ、あああ、先生、あ、あ、あ、あ、センセ、あ、ああ、ああああっ!!」

 

 まだまだ夜は長い。

 2人のまぐわいは、空が明るくなり始めるまで続くのだった。

 

 

 

 ……結果として、翌朝イーファは大寝坊し。

 エルミアから盛大に怒られることとなる。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑪ 説得

 

「……話とは、何でしょう」

 

 苦々しい顔をしながら、この“村”の長ダンマスが口を開く。

 

 ここは村長の自室であり、今は“調査”を始めてから3日目の夜。

 ラティナとの約束でこの村を退去するまで、あと一日だ。

 そのタイミングで、イーファとエルミアは村長との直談判へ踏み切った。

 

「単刀直入に申し上げます。

 サラさんを助けるべく、私達に協力をして下さい」

 

「余計なことはするな、とあれ程言った筈ですがね」

 

 エルミアの言葉に対する村長の態度は固い。

 はなからこちらを拒否すると決めつけているようだ。

 しかしその対応に聖女はまるで動じることはなく、

 

「余計なことではありません。

 いえ、余計なことでは無くなりました(・・・・・・・)

 私達にとっても、貴方達にとっても」

 

「……無くなった?」

 

 思わせぶりなエルミアの口調に、村長が食いついてきた。

 

「詳しいお話をする前に、こちらの資料に目を通して頂けませんでしょうか?」

 

「これは?」

 

「私とイーファとで、この付近を調査した結果です」

 

「今更、そんなもの――」

 

「まずは、お読み下さい」

 

「――む、むぅ」

 

 眼差しと口調とでかけられた圧力に、ダンマスは屈した。

 ぶつぶつ言いながらも、渡された資料を読み込んでいく。

 

(結構、迫力ありますよねー、エルミアさんの問い詰めって)

 

 なまじ、容貌が完璧なまでに整っているせいで、彼女の“真剣な顔”には人を射竦める力があるようだ。

 実際、イーファも説教を受けるとたじろいでしまう。

 

 それはさておき。

 

「なっ……!?」

 

 読み進めるにつれ、村長の顔色が変わっていく。

 具体的には、血の気が引いてきた。

 

「……いや、そんな、まさか……こんなことがあるわけ……」

 

「予め補足しておきますと、その資料の内容は『賢者の学院』学長であるエゴール様より誤りがないことを保証頂いております」

 

「う、ぐっ!」

 

 異議を唱えようとたダンマスに先立ち、エルミアが牽制を入れる。

 流石にエゴールの名前を出されては、そう簡単に否定できないようだ。

 何も言えなくなった村長は、何度も何度もその資料を見返している。

 その都度、顔色が青くなっていく。

 自分でもその調査資料に間違いはないと、理解できてしまったのだろう。

 

「お分かり頂けたようですね、村長」

 

「……せ、聖女様。

 これを――これを認めてしまえば、私達は勿論、教会だって――」

 

「事実です」

 

 ぴしゃり、とダンマスの台詞を遮るエルミア。

 

「私とて教会に身を置く立場。

 仮にも“神”の一柱として信仰の対象にすらなっている神獣が“こんなこと”をしていたとは考えたくありません。

 ですが、事実なのです。

 認めなければならないのです」

 

 彼女の声には苦々しい色も混じっている。

 聖女である彼女にとっても、この調査結果は受け入れ難いものだったのだ。

 実際、イーファから資料を受け取った際、今の村長以上に幾度も幾度も確認をとっていた。

 

 そんなエルミアが、重々しい口調で断言する。

 

「――過去に炎虎ズィーガが鎮めた災害は全て、ズィーガ自身が企てたモノ(・・・・・)であると」

 

「……っ!!」

 

 改まって告げられ、村長の顔が引き攣る。

 そのタイミングでエルミアから目配せがあった。

 促される形で、イーファが後を継ぐ。

 

「おかしいと思ったんですよ。

 43年前の水害も、26年前の蝗害も――ズィーガが解決した災害は皆、被害地域が限定され(・・・・・・・・・)すぎている(・・・・・)んです。

 どれもこれも、この地域を中心としたものばかり。

 神獣のおかげで被害が広がらなかったと考えるにしても、ここでばかり災害が起こり過ぎです」

 

 大雨にせよ飛蝗にせよ、もっと広い地域に影響があって然るべきなのだ。

 そう推察できる程、当時記録されていた災害状況は酷いものだった。

 ……とはいえ、当初感じていたのは違和感程度であり、この仮説はヴィルの指摘があってようやく気付いたわけだが。

 

「だから、調べました。

 各災害が起きた時、特に被害の大きかった場所へ赴き、その地の霊脈を徹底的に洗い出したんです」

 

 霊脈とは、過去から現在にかけてその土地に様々な形で積み上げられた魔力の“総量”であり“記録”である。

 それを調べることで、昔そこで何があったか、大よそではあるが類推することが可能なのだ。

 考古学者が地質調査などと併用してよく使う手だったりもする。

 

 イーファは、そんな霊脈を過去50年を遡って調べ上げたのだ。

 彼女が霊属性に特化した魔法使いだからこそできた芸当である。

 

「で、分かったんです。

 災害が起きた年に限り、土地へ“異質な魔力”が流れ込んでいたことが。

 どの災害でも、どの場所でもその“魔力の波長”は同じものでした」

 

 世界に存在するあらゆるモノが、量の大小こそあれ保有する“力”である魔力。

 そして魔力には、それを持つ個体特有の“波長”というものが存在する。

 “波長”は親子などの近親者同士であっても微妙に違いがあり、個人の特定等にも使われている。

 

「調査の仕上げに、神獣が持つ“魔力の波長”を調べました。

 出鱈目に強大な魔力だったから、そう近くに寄らずとも調査はできましたよ。

 最後に行ったのは、波長の照合です。

 ……“異質な魔力”と“神獣の魔力”の波長は、見事に一致しました」

 

 そう締めくくる。

 聞き終えた村長はおずおずと手を上げ、

 

「待って欲しい。

 その“魔力”は、ズィーガ様が災害を鎮めた際に残したものなのでは……」

 

「それはアタシも考えました。

 でも、いつ(・・)“魔力”が流れてきたかは、週単位、上手くいけば日単位で特定できるんですよね。

 勿論、災害を解決する時に使った時のものもあるようでしたが――多くの場合、魔力流入は災害が起こる直前に発生しています」

 

 資料にも記載してあることではあるものの、質問された以上しっかりと説明する。

 村長とてそれは理解しているのだろうが、断言されたことでがっくりと項垂れた。

 

「……炎虎ズィーガは自分が発生させた災害を自分で鎮めていた――これまでの行動は、全て自作自演だった。

 そういうことなのですね?」

 

「はい」

 

 絞り出した村長の言葉に、エルミアが頷く。

 

「だが、何故こんなことを……?」

 

「2つの理由を推測しています。

 一つは信頼を得るため。

 神は人からの信仰によってその存在を確立させている、という学説があるのです。

 もう一つは、己の破壊欲求を満たすため、ではないかと。

 ズィーガが残虐の趣向をしていることは既に明らかです。

 災害に対しても、ある程度被害が出てから解決へ乗り出しています」

 

「それがもし確かであれば――最悪だ」

 

 とうとう、男は頭を抱えだした。

 今まで信じていたものが瓦解したのだから、当然の反応だろう。

 

(……でも、結構あっさり信じてくれましたね。

 エルミアさんの言う通り、やっぱりこの仕事に疑問を持っていたってことでしょうか)

 

 となれば、あと少しで村長を説き伏せられる――と、イーファが希望を抱いたところで。

 

「い、いや、それでも――それでも、駄目だ!

 貴女達の提案に乗るわけにはいかない!

 生贄によってズィーガが抑えられているのは間違いなく事実!

 サーラの命によって、より多くの命が救えることに変わりはない!」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

 イーファは反射的に声を挙げてしまう。

 

「この期に及んで何言ってんですか!?

 お子さんの命なんですよ!?

 ズィーガに生贄を捧げる正当性だってもう無いじゃないですか!

 今は皆で協力してサーラさんを――」

 

「連れて逃げるとでも!?

 それが成功するかどうかは分からない!

 少なくとも娘が犠牲になれば、向こう十年は平穏が約束されるのだ!

 ズィーガへの対処方法は、その間に検討すればいい!」

 

 こちらの剣幕を押し返す勢いで、村長が喚きたてる。

 

「そも、私は国より直々にこの仕事を任命されている。

 私には、この任務を遂行する義務がある!

 私個人の意思で、それを捻じ曲げることは許されない!!

 でなければ――でなければ、あの子達(・・・・)はいったい何のために死んだのか――!!」

 

 血反吐を吐きそうな絶叫であった。

 “あの子達”とは、これまでに犠牲になった少女達のことか。

 そんなことにまで言及するところを見るに、村長は大分追い込まれているようだ。

 ……いや、前々からずっと、思い詰めていたのかもしれない。

 

「ダンマスさん」

 

 と、そんな時に声が響く。

 凛としていて、静かであるにも関わらず不思議と耳に残る声。

 エルミアのものだ。

 

「己に課された義務を全うしようという貴方の覚悟は、お見事という他ありません。

 心より、賛辞をお送りいたします」

 

「……え? は、はい」

 

 一礼をする聖女の姿には、裏があるように見えなかった。

 本当に村長を称えているように感じる。

 それが当の本人にも伝わったのか、ダンマスは一瞬でクールダウンしていた。

 

「ですが、ダンマスさん。

 貴方には国から与えられたものとは別に、もう一つ義務があるのです。

 貴方は“それ”を蔑ろにされている」

 

「な、何を――?」

 

 聖女の言葉一つ一つが、重く感じる(・・・・・)

 言葉の抑揚、視線の向き、何気ない身振り。

 そういったものが緻密に組み合わさり、彼女の台詞につい聞き入りたくなる“魅力”を生み出している。

 カリスマ、とでも言えばいいのだろうか?

 

「いったい何を仰っているのかさっぱり分かりません。

 この上、私にいったい何の義務があると言うのです……!」

 

 投げかけられた疑問に、エルミアは明瞭と答える。

 

「それは生きとし生ける者であれば誰もが平等に課されている義務。

 ――親は子を守らねばならない、という義務です」

 

「……あ」

 

 村長の口から、息が抜ける音がした。

 

「親が子を守ることに理屈をつける必要など無いのです。

 それは極当然の行動であり、恥じ入るようなものでは無いのですから。

 確かに、貴方には村長としての責務が与えられました。

 幾人もの罪なき命が散る様を見届けてきたのでしょう。

 ですが――それは親としての義務を放棄してよい理由にはなりません」

 

「…………」

 

 ダンマスは無言だ。

 じっと、エルミアの瞳を見つめている。

 

「ダンマスさん、貴方に“義務”を遂行する覚悟があるのでしたら、どうか成し遂げて下さい。

 私はそれを切に祈っております」

 

 最後にまた頭を下げた聖女へと、村長が零すように言葉を返す。

 

「……少し、時間を頂けませんか」

 

 肯定の返答ではない。

 しかしその顔は、憑き物がとれたように落ち着いていた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑫ 決断

 

「……いい様に、乗せられているな」

 

 誰も居ない部屋で、壮年の男――ダンマスはそう独りごちた。

 そうだ、今の自分はあの少女達の思うがままに動かされている。

 その自覚はある。

 

(だというのに……この心地良さ(・・・・)はなんだ?)

 

 長年抱えてきた心の“(もや)”が取れたような気分だった。

 “なんだ?”などと疑問を浮かべてはみたものの、その理由は明白である。

 自分の娘(サーラ)を助ける口実ができたからだ。

 たったそれだけのことで、心がここまで晴れやかになってしまうとは――ダンマス自身、思いもよらぬことであった。

 

「……だが」

 

 問題は山積みだ。

 聖女達はサーラを村から連れ出し、上手く王国を説得して軍を動かすつもりのようだが、果たしてそう上手くいくのだろうか。

 

 まず逃げられるかどうか、である。

 ラティナは優秀だ。

 必ず嗅ぎつけ、追手を差し向けるに違いない。

 

 それを何とかしたとして、王国を説得できるか否か。

 聖女や魔女に加え、“あの方”の口添えもあればそう無碍に扱われないようにも思うが、王国上層の連中は(したた)かだ。

 逆にこちらが丸め込まれてしまうかもしれない。

 

 神獣への時間稼ぎはどうする?

 奴が神獣とは名ばかりの狂暴な獣であることはよく知っている。

 生贄が逃げたとしれば、怒り狂うことだろう。

 

 その怒り狂った獣を、倒せるか。

 相手は仮にも神。

 王国が総出で動いたとしても、そう容易く討てる相手ではない。

 

 そして、仮定に仮定を重ね、万に一つ上々に事が運んだとして。

 この“村”に所属する者達が無事で済むかどうか。

 神獣の行いを見過ごしてきたとして、全ての不祥事を被されかねない。

 ただの構成員ならばまだしても、村長としての立場を与えられた自分はほぼ間違いなく処刑されることだろう。

 

「それに……」

 

 自分に娘を救う“資格”があるのか、も疑問だった。

 ダンマスはサーラのように幼い子達を、幾人も生贄として教育し、送り出してきた。

 何も知らぬ無垢なる子供を、命を差し出して当然と考えるよう仕向けてきたのだ。

 それだけでも、人道に背く鬼畜の行いである。

 

 中には、反抗する子だっていた。

 死ぬのは嫌だと、涙ながらに訴えてくる子供も居たのだ。

 その子を、ダンマスはどう扱ったのか(・・・・・・・)

 ……とてもではないが、口に出せない。

 

「それでも――それでも、だ!」

 

 成功確率が極僅かであることも。

 自分には確実な処罰()が待っていることも。

 これまで畜生にも劣る行為をしてきたことも。

 全て考慮して、それでもなお。

 ――娘を助けられるかもしれない、という甘い誘惑は抗し難かった。

 

 成功率が低い?

 問題無い、どうせサーラはこのままなら確実に殺されるのだ。

 自分は死ぬ?

 丁度いい、どうせ生きる価値など無い男だ。

 これまでの所業を棚に上げ、自分の娘だけは守ろうとする外道には、死こそふさわしい。

 罪の償いと考えれば、寧ろ願ったりかなったり。

 

 と、そこまで考えて。

 

「ああ――なんだ」

 

 結局、サーラを助けるための理屈ばかり思い浮かべていることに気付いた。

 つまり自分はそうしたい(・・・・・)らしい。

 ならば、今この一時は悩むのを止めよう。

 後悔するかもしれないが、そんなものそれこそ後ですればいい。

 

「……よし!」

 

 顔を上げる。

 覚悟は決まった。

 

「まずはサーラを説得か。

 素直に言うことを聞いては――くれないだろうな」

 

 そんな風に育てたのは他ならぬダンマスだ。

 場合によっては、無理やり連れ出すことも考えねばならない。

 そう思いながら部屋から出ると、

 

「こんな夜更けにどこへお出かけですか?」

 

「……メイヴィル」

 

 すぐに声をかけられる。

 そこに立っていたのは、老侍女メイヴィルだった。

 まさか、自分が悩んでいる間ずっとここで待っていたのだろうか?

 

「サーラお嬢様を説得しようとお考えであれば、無駄ですよ」

 

 こちらから何か言う前に、老女が口を開く。

 

「し、しかしだな……」

 

 余りに無情な断言に反論しようとするが――

 

「旦那様がこれまでどれだけ親らしいことしてきましたか。

 今更、父親として振る舞うのは(いささ)か都合が良すぎるかと。

 ――説得であれば、私がやります」

 

 反論できなかった。

 その言葉が余りに的を得ていたから、ではない。

 台詞と裏腹に、老侍女が微笑みを浮かべていた(・・・・・・・・・・)からだ。

 これ程朗らかに笑う彼女を見たのは、いつ以来だろうか。

 

「……分かった。

 頼むよ、婆や」

 

「ええ、お任せ下さいませ」

 

 格式ばったお辞儀をするメイヴィル。

 彼女が顔を上げてから、互いに一度だけ笑いあった。

 この老侍女との付き合いは彼是二十年を越えるが……こうして心が通じ合ったのは初めてだったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 そして、夜が明けた。

 

「……はぁ、マジか」

 

 ラティナは大きくため息を吐く。

 眼下で行われている“茶番”が原因だ。

 彼女は今、村全体を見渡せる丘の上に居る。

 ここで、村の入り口を監視していたのだ。

 

「本気でアイツら、サーラを連れ出しやがった」

 

 そこでは今、“生贄(サーラ)”の引き渡しが行われている。

 渡しているのは村長であるダンマスであり、受け取っているのはあの聖女と魔女だ。

 

「メイヴィルといいダンマスといい、歳くって頭おかしくなったか?」

 

 しかし、まだあの2人はいい。

 老侍女は元より、村長も前々から挙動に不安定なところがあった。

 だから、彼等が“裏切った”ことに――腸煮えくり返る気分であるものの――納得はできる。

 ラティナが信じられなかったのは、“その他の連中”だ。

 

「何であんな何人も協力者が出てきてるんだよ……!」

 

 苛立ちが抑えきれず、地面を蹴る。

 聖女達の周りには、他にも村人が数人集まっていたのだ。

 笑う者、喜ぶ者、呆れ顔の者、苦虫を嚙み潰したような顔の者、表情は様々だが、誰一人としてこの“受け渡し”を妨害しようとしない。

 つまり彼等もまた聖女の意見に賛同した、ということだ。

 

「どいつもこいつも!」

 

 甘くみていた。

 仮にも自分達は特殊な訓練を受けた工作員。

 あんな小娘に説得されるわけが無いと高を括っていたのだが、聖女の“扇動”は相当に強力だったようだ。

 ラティナが“あの男”にかまけている間、これだけの人数を味方につけるとは!

 

「――で、どうします、隊長」

 

 隣から声がかかる。

 直属の部下の一人だ。

 その男に向かい、ラティナは頭を一つ振ってから、

 

「どうするもこうするもないだろ。

 さっさと出て行って止めるぞ。

 腹は立つが、アイツらは“王国”の重要人物だ。

 炎虎ズィーガの気に触れて殺されでもしたら堪らない」

 

「あー、やっぱ無理ですかね、コレ?」

 

「無理だよ無理無理。

 “王国”を動かすとか以前の問題として、ズィーガに食われる(・・・・)

 あの神獣が逃げる獲物を見逃すほど悠長で温厚な性格じゃないこと位わかってるだろ?

 サーラが助かる可能性何て、ゼロだゼロ」

 

「まあ、そうですよね。

 ただ、生贄のコト神獣に報告してるのは俺達なわけで、黙ってりゃ少しは時間稼げないかなぁ、とか」

 

「……あん?」

 

 訝しむラティナに、部下は頭を掻きながら、

 

「いや、要するに俺達も連中を手伝えば、その可能性、ちっとはマシになりませんかね?ってことなんですけど」

 

「――おい」

 

 有り得ない発言に頭が痛くなる。

 

「オマエもあの聖女に誑かされたのか?」

 

「まさか。聖女様には何もされちゃいません。

 ただね……」

 

 部下の男は照れ笑いを浮かべた。

 

「……昔、サーラちゃんにお手伝い券もらったことありまして。

 ここであの子がいなくなったら、この券使えなくなっちゃうなー、と」

 

「な、何言って――」

 

 ふざけたことを言うな、と叱るよりも先に。

 その場にいた他の部下達が口を開く。

 

「あのー、実は自分も同じもの貰っておりまして」

 

「ワタシ、サーラちゃんからの誕生日プレゼント毎年楽しみにしてたんスよね」

 

「いつも朝してくれる元気な挨拶が聞けなくなると思うと、寂しいものがある」

 

「あんだけいい子が生贄になるかならないかなんだ、やってみる価値はありますぜ!!」

 

 次々と便乗する部下達に、ラティナは二の句が継げなくなった。

 

「お、オマエら……」

 

 頭痛が酷くなると同時に、一つ悟った。

 

(ふん、要するに聖女だけが仕掛けていたわけじゃないってことか)

 

 自分はあの少女(サーラ)もまた過小評価していたらしい。

 無意識のうちに、これだけの大人を絆していたとは。

 どうもサーラを真っ当に育て過ぎたようだ。

 ……だが。

 

「オマエ達の意見なんざ知ったことか!

 決定は覆らない!

 いいか、すぐに生贄の身柄を確保!

 聖女達が妨害してきたら、適当に拘束して馬車にでも詰めとけ!

 そのまま王都へ直行させる!!」

 

「隊長っ!?」

 

 上がる非難の声が、さらにラティナを苛立たせる。

 

「なんだ!?

 文句でもあるのか!?

 なんならオマエも一緒に――」

 

「そうじゃなくて、隊長!!」

 

「ん?」

 

 部下の様子がおかしい。

 こちらを咎めているというより、もっと必死な(・・・)声色で――

 

「アレ!!

 アレ見て下さい!!

 ズィーガが!! ズィーガが!!!」

 

「――え?」

 

 指さされた先を見て、一瞬意識が飛んだ。

 

 いったい、いつからそこに居たのか。

 何故、自分達は気付かなかったのか。

 どうして、村に来たのか。

 

 様々な疑問が浮かぶも、答えなど得られるわけが無く。

 ただ純然たる事実として、

 

「なんで、ズィーガがここに居るんだ……?」

 

 掠れた声でそう呟く。

 ラティナの視線の先には、炎虎ズィーガが。

 本来、谷底で眠りについている筈の神獣が。

 ――完全に覚醒した状態で、村の入り口に鎮座していた。

 

 

『小さき者共よ』

 

 

 ラティナ達や聖女達が反応するよりも早く、“燃える虎”は喋った(・・・)

 ぽつりとした口調ではあるものの、その声は村中に響き渡る。

 山ほどもあるその巨体に見合う音量だ――などという感想、抱いている余裕は無いはずだが。

 

 

『何故“贄”を運び出す?

 我への献上は、明日の筈だが』

 

 

 重々しい声は、聞く者に身動きを許さない。

 事実、ラティナの部下達は身が竦んでいるし、聖女達ですら余りの事態に硬直している。

 それはそうだろう。

 森の巨木すら見下ろす程に巨大な虎が――その身から豪炎を噴き荒らしている虎が、誰にも気づかれずここまで接近することを想像するなんぞ、無茶というものである。

 仮にも神に数えられる存在、常識は通用しないということか。

 

「ああ、クソ!!」

 

 舌打ち、一つ。

 

「おい! オマエら!!

 なに呆けてるんだ、行くぞ!!」

 

 部下達を一喝し、炎虎の下へ駆ける。

 それに応えて、彼等も遅れて動き出した。

 

(図体でかい癖に、細かいヤツだな!!

 ずっと生贄(サーラ)のこと見張ってたとでもいうのかよ!!)

 

 声に出さず、愚痴る。

 相手の耳に入りでもしたら、即殺されかねない。

 

(手遅れかもしれないけどな!)

 

 何せ、ズィーガは神獣だ。

 心くらい読んでくるかもしれない。

 だとして、ラティナがやるべきことは変わらない。

 

「ズィーガ様!!」

 

『……お前か』

 

 こちらの叫びは、幸いなことに無視されなかった。

 とはいえ、自分の体よりも大きい目玉に睨まれるのは、それだけで生きた心地がしなかったが。

 その異形の瞳が燃え盛っているともなれば、なおさらだ。

 

「どうか気をお鎮め下さい!!

 これは、生贄が逃亡しているわけではございません!!」

 

『ほう、そうか。

 この贄を逃がし、あまつさえ我を討伐せしめんと企てている――ように見えたのだがな。

 それは、気のせい(・・・・)だと?』

 

(うっわ、バレてら!?)

 

 全て把握している神獣の言動に頬が引き攣りそうになるのをぐっと堪え、

 

「も、勿論です!」

 

 そう返すのがやっとだった。

 色々“言い訳”に頭を巡らすが、眼前に居る炎虎の圧力にその全ては霧散した。

 だがラティナ以外の面々は未だ微動だにできていないのだから、彼女の健闘は寧ろ称えられるべきであろう。

 

そういうこと(・・・・・・)であれば、まあいい。

 だが、せっかく来てやったのだ。

 此度の贄は、我が手ずからここで回収してやろう』

 

「え、あ――?」

 

 巨虎の言葉に、つい返答が遅れてしまった。

 もっとも、相手は既に視線を生贄――サーラへと向けているため、別段気にも留められていないようだ。

 

(……ま、まあ、別に何の問題も無い、よな)

 

 気を取り直す。

 いきなりのことで少々動転したが、予定が一日早くなっただけだ。

 寧ろ、アレコレ清めの儀式だのなんだのしないで済む分、このまま持ち去ってくれれば手間がかからない。

 こちらの謀反を把握した上での対応と考えると、寧ろ寛大とすら言えるのでなかろうか。

 

(そうさ、このまま渡しちまえばいいんだ)

 

 それで丸く収まる。

 アホ臭い茶番劇の顛末としては、上々でなかろうか。

 

「――――っ」

 

 それなのに。

 このまま黙ってればいいというのに。

 ラティナは無意識のうち、サーラを見てしまった。

 生贄の少女を見てしまった。

 年端も行かない少女が、微笑んでいる(・・・・・・)のを見てしまった。

 嫌がるでもなく、怖がるでもなく。

 何もかもを受け入れて。

 何もかもを諦めて(・・・)

 微笑んでいるのを見てしまったのだ。

 

(……ああっ!! クソクソクソっ!!

 涙の一つくらい流せよ、ガキがっ!!)

 

 次の瞬間、ラティナは“魔法”を起動する。

 対象は程良く近くに居た魔女、イーファ。

 

(おい、そこの魔女!!)

 

「にょっ!?」

 

 変な声を上げる魔女。

 一気に肝が冷える。

 恐る恐るズィーガを見上げるも、奴はこちらに気を払っていない。

 ほっと一息いれてから、

 

(バカ!! 声を出すな!!

 <思念会話(テレパシー)>飛ばしてんだよ、分かれ!!)

 

(ら、ラティナさん!?

 <思念会話>なんて高度な魔法どうして使えるんですか!?

 ていうか、これ、どういう状況なんですかー!?)

 

(そん位使えるわ、ボケ!!

 あと状況は見ての通りだ、アホ!!

 オマエらの企みは、とっくにバレてたんだよ!!

 そんで、気の短いことに神獣自らおいでなさったわけだ、クソ!!)

 

(……あ、頭の中で直接罵倒しないで下さいよー。

 なんかこう、ぐわんぐわんって目が回って……)

 

(緊張感を持てよオマエ!?)

 

 <思念会話>とは読んで字のごとく、思考を飛ばして離れた対象と意思疎通を行う霊属性魔法だ。

 隠密工作の訓練の一環で身につけたのである。

 とはいえ、ラティナの技量では近場の相手しか対象にできないのだが。

 

(いいか、よく聞け!!

 今からボクがズィーガを僅かなりとも足止めする(・・・・・)から、オマエらはサーラ連れて“あの男”と合流しろ!!)

 

(うぇっ!?

 足止めって、そんなことしたらラティナさん殺されちゃいますよ!?)

 

(うるさい!! オマエらがやり出したことだろ!!

 まさか何の犠牲も出さずに神獣をどうにかできると思ったか!?)

 

(うっ――)

 

 魔女の戸惑う気配が伝わってくる。

 しかし、もう四の五の言っていられない。

 

(言っとくが、ズィーガを止められたとして秒単位だ!

 その後はオマエらの方でなんとかしろよ!?)

 

(う、うぅ……わ、分かりました!)

 

 やや無理やり感はあるものの、納得したらしい。

 一方で聖女はと言えば、こちらへ意味ありげに目配せしてきた。

 おそらくラティナと魔女とやり取りしていることを察している――のだと、思い込むことにする。

 

「……ふぅぅぅぅ」

 

 深呼吸を、一つ。

 こんなにも簡単に命を捨てる覚悟を決めるのは早計に過ぎると自分でも感じるが、事態を打開するには誰かが命を懸けるより他ない。

 何せ、相手は“神”なのだ。

 

「あー、ズィーガ様?」

 

 意を決して、声を出す。

 少し、震えてしまったかもしれない。

 

『……なんだ?』

 

 返答があった。

 こちらに例の巨大な目が向けられる。

 この神獣、案外応対はしっかりしていた。

 今は嬉しくもなんともないけれども。

 

「えーっと、ちょっと容赦してくれません、かね?」

 

『何を“容赦”しろ、と?』

 

 おぞましい声に身が震えそうになる。

 大きく息をついてそれを堪えてから、

 

「生贄を捧げることを、です。

 できれば、これからもずっと」

 

『ほほう。

 何故(なにゆえ)そのようなことを言い出す』

 

 ……仕掛けるタイミングとしては、こころかもしれない。

 ただ、それを使えば数瞬後に自分は殺される。

 だから、ラティナは今まで言いたかったことを最期に言うことにした。

 

「いや、だって、ほら。

 オマエ(・・・)、ずっとボクらのこと騙してただろ?

 神が自作自演してたとか、ジョークとしても笑えないって。

 人様バカにすんのも大概にしろ」

 

『……そうか』

 

 ズィーガの目が細まる。

 それが如何なる勘定によるものかは、すぐ分かった。

 

『ならば死ね』

 

 無造作に炎虎の前足が振り上げられた。

 頑強な建造物ですら平然と叩き潰しかねない、そんな巨大さを誇る足だ。

 

(――あ、死んだ)

 

 ラティナは己の終わりを確信した。

 しかし、それはそれとして(・・・・・・・・)やっておかねばならぬことがある。

 

(<思念会話>による、“叫び”――!!)

 

 それが彼女の切札だった。

 己の意思で紡いだ強烈な“叫び”を対象へ転送し、その思考を混乱に陥れる。

 神獣相手に物理的な攻撃など一切通らないだろうが、精神的な干渉であれば多少は効果があるのではないか?

 そんな憶測をもとに前々から(・・・・)用意だけはしておいた、<思念会話>の応用技である。

 

(頼むから効いてくれよ!!!)

 

 炎を纏った足が、笑えてしまう位にバカでかい爪が、迫りくる。

 極限状態で引き延ばされた意識の中、ラティナは人生最後の魔法を発動――――しなかった。

 

「え?」

 

 思わず声が零れる。

 直前で、ズィーガの足が静止していたのだ。

 何が起きたのか、訝しむよりも先に――

 

 

「違うだろう、ズィーガ」

 

 

 ――背後から聞こえる声。

 思わず振り返る。

 いや、その場にいる全員が――炎虎ですらも――その方向を向いていた。

 

 

「そこはな、“その一言が聞きたかった”とか、“人の持つ絆に感服した”とか殊勝なことを言って、そのまま立ち去るのが“粋”ってものだ」

 

 

 予想はついていた。

 案の定、現われたのは黒髪の青年ヴィルだ。

 ここ数日ラティナの頭を――ついでに身体も――悩ませ続けた男。

 そいつが、いつもと変りない姿でそこに立っていた。

 

 ……いや、一点だけ違うところがある。

 彼の身体から、圧力すら感じる(・・・・・・・)“膨大な魔力”が迸っていることだ。

 “それ”を察知したズィーガが、動きを止めてしまう程の。

 

 そしてヴィルは、周囲の注目を受ける中、凄みのある笑みを浮かべ――

 

 

「――そうすれば、ここで殺される(・・・・・・・)ことも無かっただろうに」

 

 

 平然と、神獣の抹殺を宣言した。

 

『何者だ、お前は』

 

 身をさらに燃え盛らせる炎虎が、投げかけた言葉。

 青年はそれに応えて曰く。

 

 

「“帝国”軍属、将軍ヴィルバルト・グルムバッハ。

 義によって推参した」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑬ ヴィルバルト・グルムバッハ(Ⅰ)

『……ふ、何を言うかと思えば』

 

 ヴィルの言葉を聞いた炎虎ズィーガは、鼻を鳴らす。

 おそらく、嘲ったのだろう。

 

『人が、神獣たる我に歯向かうなど。

 ましてや命を奪うなど、到底不可能な――」

 

「御託はいい。

 ここでは村に被害がでかねないからな、少し遠くへ移動して貰うぞ」

 

 そう宣言するや否や、青年は跳び蹴り(・・・・)を神獣に打ち込む。

 

『――あ?』

「――へ?」

「――え?」

「――は?」

 

 その場に居た誰もが――当のズィーガすら、呆気にとられた。

 炎虎の体が。

 比喩でなく山のような、見上げるばかりの巨躯が。

 その“蹴り”で吹き飛ばされたのだ(・・・・・・・・・)

 それも、優に数十mも。

 

『……な、何なのだ、お前は?』

 

 上手く着地をしながらも、“戸惑い”を隠せないズィーガ。

 

(いや、ホントに何なんだよ!?)

 

 それはラティナも――というか、その場にいるヴィル以外の全員が同感であった。

 無理がある。

 いくら何でもおかしい。

 常識的に考えて有り得ない。

 何をどうすれば、自分の数十倍以上の巨体を蹴り飛ばせるというのか。

 

「……あれ?」

 

 と、そこで気付く。

 ヴィルに“異変”が起きていることを。

 炎だ。

 まるで炎虎のように、青年の身体から炎が噴出している(・・・・・・)

 

(な、なんだ?)

 

 それを尋ねるよりも先に。

 

「よっ!」

 

 掛け声とともに、彼がまた跳んだ(・・・)

 これまた、異常な飛距離。

 ズィーガを蹴り飛ばせたのだから当然これ位はできる――と頭で理解しても、心がついていかない。

 納得がいかないまま、しかしヴィルは遠く離れた神獣の傍らに着地した。

 直前まで彼が居た場所には、炎の残滓が。

 

『――調子に乗るなっ!!』

 

 近寄ってきたヴィルへ、神獣はその鉤爪を振り下ろす。

 その巨大さ故に猛烈な速度で迫る鋭い刃。

 誰かが声を上げる間もなく、2つは激突し――

 

「――っ!!?」

 

 ラティナ達は息を飲んだ。

 衝撃で周囲に爆風が広がり、大地は大きな亀裂が走っている。

 にも拘らず(・・・・・)

 

『な、に――!?』

 

 神獣が目を見開く。

 受け止められていたのだ。

 ズィーガの爪が。

 それより遥かに小さい、人よって。

 

 ヴィルは両腕で虎の爪を挟み込み、その動きを止めたのである。

 爪の大きさは、青年の身長よりも大きい。

 加えて神獣自身の火炎により、触れるだけでモノを燃やす程の高熱を帯びている。

 

 なのに、彼は“素手で”“挟み”“止めていた”。

 それだけではない。

 青年の身体から一際強く“炎”が噴き出すと、

 

「ふんっ!」

 

『なぁっ!?』

 

 投げ飛ばす(・・・・・)

 余りにも見事な“一本背負い”。

 互いのサイズ差を一切無視した暴挙。

 一回転したズィーガは、背中から大地に叩きつけられた。

 倒れた神獣に対し、ヴィルはさらに飛び掛かり――

 

 

 

 

 

 

(え? え? え? え――!?)

 

 そんな彼らの戦いを見て、ラティナは呆然とするしかなかった。

 状況はしっかり把握しているのに、頭が追い付かない。

 現実離れし過ぎた光景に、脳が理解を拒否しているのだ。

 

(あ、いや、でも人の能力(スペック)であんなのできるわけない――はず)

 

 幾ら悪竜ベルトルを討ち取った大英雄ヴィルバルトであっても、そこまで人間離れしてはいない、と信じたかった。

 

(ってことは、魔法で強化(ブースト)してる?

 アイツが纏ってる“炎”に何か絡繰りが?)

 

 どうにかその結論へ辿り着く。

 まあ、思い至ったところ彼の強さの秘密が分かるわけでも無いのだが――と、そんな時。

 

「……<炎身(エンジン)>」

 

 ぽつりと呟いたのは、聖女エルミアだ。

 彼女はヴィルの方をじっと見ながら、身を震わせている。

 

「な、なんだ、<炎身>って!?

 知ってるのか、エルミア!?」

 

 詰め寄るラティナ。

 しかし――

 

「はぁぁぁぁぁ♪

 ヴィルってば、<炎身>が使えるだなんて♪

 もう、素敵すぎぃ♪」

 

「…………」

 

 ――とても、話が聞ける状態では無かった。

 聖女は完璧にトリップしていた。

 瞳が完璧にハートマークになっている。

 震えていたのも、恍惚状態になった結果のようだ。

 そこには、ここ数日見せていた凛とした姿は微塵も無かった。

 

「だ、大丈夫、か?

 なんか、ヤバいことになってるぞ?」

 

「あー、平気ですよ。

 寧ろエルミアさんはこっちが平常モードです」

 

 何事があったのか心配するラティナに、イーファがのほほんと語りかける。

 

「え? これが普通?」

 

「はい、村で見せてたのが異常な状態なんです」

 

 はっきりと答える魔女。

 ともすれば聖女に対してとてつもなく失礼な台詞を吐いている。

 色々と納得はいかないが、追求する程のことでも無いように思った。

 なので代わりに、イーファの方を問い詰める。

 

「じゃあ、オマエは知っているのか、その<炎身>って魔法を。

 一応は魔女だろ」

 

「なんかラティナさんの中で、アタシ凄く軽くありませんか?

 ……ま、まあ、一応、お爺ちゃんの書いた本で見たことはありますけど。

 でもあれって確か――」

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと説明しろ」

 

「わ、分かりましたよぉ。

 <炎身>は火属性の強化魔法で、“窮極呪法”の一つとされています」

 

「窮極呪法? またいかつい単語だな」

 

「理論的には確立されているけれど、技術面とか色々な問題で実現できてない最高位魔法群を賢者の学院ではそう呼んでるんですよ。

 で、話戻して<炎身>っていうのは――」

 

 魔女の言うことには。

 従来の火属性強化魔法の原理は、魔力によって自身ないし他人の運動能力を増進させるというものだ。

 しかし、<炎身>はその“強化”を行うプロセスが根本的に異なる。

 自身の体内を流れる魔力を一旦塞き止め、凝縮(・・)爆発(・・)させて、そのエネルギーを運動力に転化しているのだ。

 これがどういうことなのかと言うと――

 

「――常に体内で“攻撃魔法”を炸裂させてる、みたいな感じですか」

 

「その魔法考えたヤツ、絶対に頭おかしい」

 

 説明などするまでも無いかもしれないが。

 普通の人間は、身体の中で攻撃魔法が発動したら吹き飛ぶ。

 バラバラになる。

 要するに死ぬ。

 

「だから、絶大な強化効率を誇る魔法ではあるんですけど、身体が耐えられないんですよね。

 尋常じゃない程、強靭な肉体(・・・・・)でも持ってない限りは」

 

「……あいつは、ソレを持ってるのか」

 

 流石は大英雄。

 普通の人間なら即死しかねない魔法を、限界にまで高めた“耐久力”でもって無理やり行使している、ということなのだろう。

 先程から彼の身体より噴き出ている“炎”は、<炎身>の余波によるもののようだ。

 “王国”の工作員として、ヴィルバルトの戦闘技術を盗んでやる腹積もりでいたのだが――実は先程から、“知覚強化魔法”を使用し青年の言動を細部まで観察していたのだ――それは相応に難しい行為だと悟らされた。

 

「でも前から思ってましたけど、先生って凄いですよねー。

 帝国に居たって聞いてますけど、何者なんでしょう?」

 

「いや何物も何も、悪竜殺しの大英雄ヴィルバルト様だろが」

 

「――――へ?」

 

 何気ないイーファの呟きに対し、ほとんど無意識にツッコミを入れたのだが。

 どうしたわけか、魔女の目が丸くなった。

 

「え、えぇぇええええええっ!!!!?

 先生って、あの(・・)ヴィルバルトだったんですかぁ!!?」

 

「遅いっ!!!?

 知らなかったのかよ!!!

 さっき名乗りも上げてただろ!!?」

 

「いえ、なんだか先生が来てくれて気が抜けちゃってて。

 あんまり話聞いてなかったんですよね」

 

「こ、コイツ……」

 

 ある意味、大物だ。

 こんなのに“王国”の未来がかかっているのかと思うと、絶望したくなる程に。

 頭を抱えそうになるが――それは、とてつもない“爆音”、そして吹き荒れる“熱風”で妨げられる。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

 魔女との会話で、戦闘から注意が外れていた。

 肌を焼く“風”を手で防ぎながらそちらを見てみると――

 

 

 

 

 

 ――戦場が様変わりしている。

 神獣の周辺一帯が煌々とした炎に包まれていた。

 ズィーガの仕業だ。

 極大の“燃える吐息”を吐き、周囲を炎の海へと変えたのである。

 土が溶け、溶岩へと変貌していくその光景は、さながら灼熱地獄のよう。

 

『手間を、かけさせおって――!』

 

 “地獄”の中心で、炎虎が叫ぶ。

 体から昇る火炎が天にも届く程に大きくなっていた。

 ヴィルの姿は見えない。

 この炎の海に飲まれてしまったのか。

 

『お前が如何に強かろうと、人の身でこの業火には耐えられん!!』

 

 肉弾戦では分が悪いと見て、戦法を変えたようだ。

 火の神獣であるズィーガはどれ程の熱量であろうと炎によって傷を負うことは無い。

 しかし、人であるヴィルは違う。

 魔法である程度は防げるだろうが、それでも限度がある。

 ここまで炎で囲われては呼吸もままならないし、ただそこに居るだけで体力は削られ――いずれ力尽きることは明白。

 その事実に気付いた次の瞬間、

 

「確かに、生身であれば(・・・・・・)厳しかっただろう」

 

 ……こちらが危機感を覚えるよりも前に、灼熱の炎は切り裂かれた(・・・・・・)

 豪火をものともしない“剣風”。

 立ち昇る炎が吹き散らされたソコに立っていたのは、黒鉄(くろがね)全身鎧(フルプレート)纏うヴィルであった。

 その手には、長大な両手剣(グレートソード)が握られている。

 

『な、なんだその姿は……?」

 

「ちょっとばかり着替えた(・・・・)のさ。

 神獣相手に出し惜しみするのも失礼かと思ってな」

 

 ズィーガの声に応える青年。

 虎は一つ吼え、

 

『たわけがっ!!

 剣と鎧を取り出したところで何ができる!!』

 

 怒号と共に、燃え盛る炎を吐き出した。

 それ自体がヴィルの10倍近い大きさのある、極大の“火球”だ。

 

「はっ!!」

 

 しかし青年は焦り一つ見せず、巨大剣を一振り。

 光の軌跡を残す斬撃は“火球”を切り裂くだけに留まらず――

 

『ぬぅっ!?』

 

 ――その“剣圧”はズィーガにまで飛び(・・)、奴の鼻先へ傷を負わせた。

 自らの生み出した成果を確認したヴィルはニヤリと口角を上げ、

 

「……こういうことができる(・・・・・・・・・)

 

 ふてぶてしい台詞を吐き捨てるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……あれはまさか、<輝具(キグ)>?」

 

「知っているのか、エルミア!?」

 

 1人と1柱の戦いの中、聖女が零した呟きにラティナは食いついた。

 戦闘のレベルが高次元過ぎて、戦況を理解するのもやっとなのだ。

 せめてヴィルがどんな技を使っているのかは把握しておきたい。

 ……まあ、英雄ヴィルバルトの戦闘技法を少しでも解析しておきたい、という本音もあったりするが。

 しかしそんな思いも空しく、

 

「ああぁぁぁ――やっぱりヴィルって凄い♪」

 

 聖女は変わらずダメダメな状態なのであった。

 

「意味深なこと呟くだけ呟いてトリップすんなぁ!!

 発言したからには説明責任を果たせやっ!?

 おい魔女! <輝具>ってなんだ! どんな魔法だ!」

 

「なんだか、アタシを体のいい説明要員にしようとしてませんか?」

 

 魔女から非難の声が上がるが、ラティナ的に魔女と聖女は同じパーティーの一員同士なのだから連帯責任である。

 

「ま、まあいいですけど。

 <輝具>っていうのは光属性の窮極呪法で、練り上げたエネルギーを極限まで凝縮させることで、魔力を物質化する(・・・・・)魔法なんですよ。

 要するに武具を創る魔法ですね」

 

「へぇ、なかなか便利そうな魔法じゃないか。

 <炎身>と違って」

 

 潜入任務もこなす必要がある自分のような立場からすると、覚えられるなら是非覚えたい魔法だ。

 

「そう思いますよね?

 ところがどっこい、開発の最中に致命的欠陥が見つかってしまったそうで」

 

 何がおかしいのか、笑いながら説明を続ける魔女。

 

「<輝具>で作られる武具は術者の魔力量に応じて性能が高まっていくんですけど、普通の魔法使いが使ったところでせいぜい“普通の武具”しか作れないってことが分かっちゃったんですよねー。

 しかも、技術的にも相当難易度が高くて、習得にはかなりの修練が必要だったり。

 それなら、お金払って買っちゃった方が全然楽ってことで、開発が中止になっちゃったんです」

 

「へー、上手くいかないもんだな――って、待てよ?」

 

 そこまで聞いて、ラティナは理解してしまった(・・・・・・・・)

 

「……だったら、人類史上他に類を見ない魔力の持ち主が<輝具>を使ったらどうなるんだ?」

 

「そりゃあまあ――人類史上他に類を見ない程の伝説級武具が出来上がるんじゃないですかね……?」

 

 イーファの方も理解したのだろう。

 額には一筋汗が流れていた。

 

「……そうか、そういうことか」

 

 大きく息を吐く。

 つまり、今ヴィルが装備している大剣や全身鎧はそんな逸品(・・・・・)らしい。

 最初彼に会った時には、仮にも将軍職に就く人間が、手ぶらで旅行など不用心とせせら笑ったものだが。

 

(要するに、アイツには武器も防具も持ち歩く必要は無いってことか)

 

 自分で最強の武器防具を創れるのだから、運ぶ手間をかける必要など無いというわけだ。

 そのトンデモ性能(スペック)ぶりに、感心を通り越して呆れの感情すら抱いてしまう。

 あんまりにも無茶苦茶過ぎる代物だった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑭ ヴィルバルト・グルムバッハ(Ⅱ)

 無茶苦茶(・・・・)なのは、今繰り広げられている戦いにも言えた。

 剣戟が起きている。

 見上げんばかりの巨体を誇る虎の、その鉤爪と。

 大きいとはいえ、携帯武器の範疇を出ないサイズの大剣(グレートソード)と。

 本来であれば渡り合える筈の無い2つの得物が、幾度となくぶつかり合っている。

 それも、信じられない速度でだ。

 

(遠目で見てるからなんとかなる、けども)

 

 ラティナの動体視力をもってしても、目で追うのがやっとだった。

 ズィーガの、その身体に似合わぬ敏捷性も驚嘆に値するものだが、目が釘つけになるのはヴィルの動きだ。

 <炎身>により極まった身体能力を十全に発揮し、地を駆け空を跳んで神獣へと斬り付けている。

 その立体機動のスピードは、幾つもの残像を残す程。

 

(実際に分身してても、もう驚かないぞ!)

 

 その程度の技術は習得しているようにすら思う。

 だから、青年が空中で(おもむろ)に進行方向を変えても、斬撃が山を切り裂いても、平静を保つことにした。

 炎虎が劣勢に立たされている(・・・・・・・・・・)など、何をかいわんや、だ。

 

 ――そう。

 戦いは、ヴィルが優勢であった。

 

 ここまでかの将軍の能力に驚き続けてきたが。

 ラティナの心の底では、それでも神獣と戦えるのかどうか、疑問が燻っていたのだ。

 当然だろう、何せ相手は神。

 人知の及ばない存在である。

 どれだけ英雄ヴィルバルトが強くとも、その上を行かないとは限らない。

 ……だが、それは杞憂であった。

 

 天を裂かんばかりの、強烈な斬り上げ。

 大地を叩き割る、猛烈な斬り降ろし。

 薙ぎ払いは周囲の森を、大地を、地形を吹き飛ばす。

 ヴィルの放つ攻撃を、ズィーガは爪で、炎で、どうにか防御しているが、少しずつその身を削られていった。

 

 逆に炎虎の繰り出す攻撃は、青年に危なげなく対処されている。

 鉤爪は大剣で受け捌き。

 炎は斬撃によってかき消し。

 その巨躯で体当たりを仕掛けても、身をかわして華麗に回避。

 稀に掠ることはあっても、鎧によって完全に防がれている。

 

『ぬ、あ、あ、あ、あ――!!』

 

 苦し気な、それでいて苛立ちの籠った神獣の呻き声。

 無理も無い、己が防戦一方になるなど、欠片も想像していなかっただろう。

 

(もうすぐ、決まる――!?)

 

 この均衡は長く続かないと、ラティナは見積もった。

 いや、この戦いを眺める者のほとんどがそう感じていることだろう。

 じわじわと、確実にヴィルがズィーガを追い詰めている。

 刻まれる傷は次第に深くなり、そのダメージによるものか動きも僅かに鈍くなってきた。

 炎虎には、今の状況を維持し続けることすら難しい筈。

 そんな思いは――

 

『がぁあああっ!!?』

 

 ――呆気なく実現した。

 ヴィルによって腕を斬り飛ばされた(・・・・・・・)神獣が、無様に大地をのたうち回る。

 

(や、やりやがった……!)

 

 心で喝采を上げる。

 ただの“人”が、“神”を地に伏せさせたのだ。

 ラティナでなくとも、感極まるのは免れまい。

 実際、聖女も魔女も、村長も老侍女も、他の村人たちも、程度の差こそはあれその表情から険しさが抜け始めている。

 ……訂正、聖女は最初からずっと顔が蕩けっ放しだった。

 

 倒れたズィーガへ、ヴィルが一歩一歩近寄る。

 その表情に油断は無い。

 確実にトドメを指す気だ。

 しかしその直前、巨虎が動く。

 

『……ま、待て!

 我を殺すと、後悔することになるぞ!』

 

 態度こそ尊大であるものの、それは紛れも無く命乞いだった。

 “神獣”が、“人”相手に斯様な態度をとるとは――

 

「ほう。

 お前が死ぬと、俺にどう不都合があるんだ?」

 

 興を示したのか、ヴィルが会話に乗る。

 

『お前達は知るまい、何故神々が我を神獣としたのかを。

 全ては、ある“存在”と戦うためなのだ。

 神さえ容易く手出しできぬ“存在”を屠るため、我々神獣は存在している!』

 

「ふむ、その存在とは?」

 

『耳にしたことはあろう。

 その名はベルトル――悪竜などという俗名でも呼ばれておるか。

 この世界そのものを破滅させかねん、漆黒の邪悪よ!』

 

「…………」

 

 青年が口をつぐんだ。

 まあ、彼にしてみればそんな態度をとるしかないだろう。

 しかしズィーガはそれを勘違い(・・・)したようで、饒舌に話を続ける。

 

『よいか? ここで我が居なくなれば、神獣を1柱欠いた状態で彼奴に挑むこととなる。

 そうなれば、ベルトルに抗することは難しかろう。

 その後待っているのは、人の世の終わりだ』

 

「…………」

 

 ヴィルがなんとも言えない顔をしていた。

 横から聞いているラティナでも、心中は察して余りある。

 

『そしてベルトルは近く復活するのだ!

 となれば、如何に神とて代わりの神獣を用意は間に合わぬ。

 よいか、小さき者よ。

 我をここで殺してはならぬ。

 滅びの道を歩みたくなければ――』

 

「殺したよ」

 

『――む?』

 

 ぼそっとした一言に、神獣が台詞を止める。

 その隙にヴィルは言葉を紡ぐ。

 

「ベルトルなら殺した。

 もう3年も前の話だ。

 今の話が本当だとしたら、神獣とは随分と怠けた連中だな。

 俺はお前達から何の援助も貰った覚えはないぞ」

 

『――――え?』

 

 炎虎の目が点になった。

 そんな表情もできたのか。

 ズィーガはしばし呆然とし、その後喚きたてる。

 

『馬鹿な! ありえん!

 ベルトルは神を滅ぼすために生まれた殺神兵器!

 ありとあらゆる武器、魔法で奴を傷つけることは不可能!

 人がどうあがいたところで、そもそも勝負にすらならぬ!!』

 

「ああ、こっちが用意していた作戦が悉く無駄になってかなり焦った。

 伝説の武器だの窮極の魔法だの、何をどう仕掛けてもかすり傷一つ付かんし。

 仕方がないから、最終的にこう――首をきゅっと」

 

 鶏の首を絞める(・・・・・・・)ような仕草をするヴィル。

 

『―――――は?』

 

(―――――は?)

 

 ズィーガと全く同じ反応を、ラティナもしてしまった。

 周りをちらりと見れば、全員が同じ顔をしている。

 

(嘘だろ?)

 

 あの男は。

 ヴィルバルト・グルムバッハは。

 武器を何も使わず、素手でベルトルを(・・・・・・・・)絞め殺したのか(・・・・・・・)

 

(は、は、ははは)

 

 なんというか、もう笑うしかなかった。

 完璧に理外の存在だ。

 本当にアイツは同じ人間なんだろうか。

 ラティナの頭が思考することを止め、ひたすら渇いた笑いを零し続ける。

 

『――――ひっ』

 

 しかし、笑えない(・・・・)立場に居る者が、一人――いや、一柱いた。

 そのヴィルバルトを敵に回している、ズィーガである。

 

『ひ、ひぃいいいいいっ!!?』

 

 神獣は、逃げ出した。

 恥も外聞もかなぐり捨て、敵である青年に背を向けて全力疾走で逃げ出したのだ。

 

『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!』

 

 木々を薙ぎ倒し、丘を跳び越し、山を駆け抜け。

 凄まじい速度で逃げていく(・・・・・)

 あっという間に、姿が小さくなる。

 そう遠くないうちに、こちらの視界から消えることだろう。

 ……だが。

 

「良くないな、それは。

 生き延びたいのであれば、お前は降伏しなければならなかった。

 戦術的撤退は敵意の維持有りとみなさざるを得ない」

 

 ヴィルは、ズィーガの逃亡を良しとしなかった。

 彼は腰を深く沈め、大剣を大きく振りかぶる。

 まるで肉食獣が獲物へ飛びかかる直前のように。

 まるで弓の弦を限界まで引き絞っているかのように。

 限界まで、力を溜めていく。

 

「ふっ!」

 

 吐き出される息。

 <炎身>によって噴出する炎。

 射出される(・・・・・)身体。

 ヴィルは正しく弾丸のような速度で一足飛びにズィーガへ迫る。

 そして――

 

(――え? ブレた(・・・)?)

 

 空駆けるヴィルの姿に、上手く焦点が合わなくなる。

 魔法で強化したラティナ視覚をもってしても、どこかズレた(・・・)ように見えるのだ。

 察するに、

 

(“振動”している、のか?)

 

 それも恐ろしい程の高速で。

 

 ……聞いたことがあった。

 それは、“帝国”の名門グルムバッハ家に伝わる破壊技法。

 それは、攻撃時に生じる“力の流れ”を敢えて歪ませることで、物質を崩壊させる“破壊振動”を生み出す奥義。

 ――即ち“震撃”。

 

「おおああああっ!!!」

 

 響く、雄叫び。

 <炎身>によって極限まで高まった身体能力で生み出された超振動を、<輝具>によって創られた最強の武具に乗せて撃ち放つ。

 いかなる結果が、それによって生じるか?

 

『――――っ!!?』

 

 “断末魔”は、無かった。

 何か、甲高い共鳴音(・・・・・・)のようなものが耳に響くだけ。

 

(う、そ……)

 

 ラティナもまた、言葉が出せなかった。

 こんな“光景”、初めて見る。

 

(……消えていく)

 

 ヴィルを中心として。

 いや、彼が振り下ろした大剣を中心として、物質が消滅していった。

 土も、木も、岩も――大地も山も。

 果ては、神獣ズィーガまで(・・・・・・・・)

 ありとあらゆる全ての存在が、姿を無くしていった。

 

(いや、違う。

 消えたんじゃなくて――)

 

 ――正確には、(ちり)に還っているのだ。

 超振動により分解されて、塵々(散り散り)になったのだ。

 余りにも細かく。

 余りにも美しく粉々に砕けた(・・・・・・)ので。

 ラティナの目には、消えたように見えただけ。

 

 炎虎は、何も残さず、何も残せず。

 遺言も怨嗟の叫びすら許されず。

 極小の粒子となって、この世から去った。

 

「……さらばだ、ズィーガ」

 

 周囲に何も無くなった“クレーター”の中心。

 そこには黒い鎧を纏った青年が、一人静かに佇んでいる。

 

 

 

 

 

 

「――あれが、本当の“震撃”なのですね」

 

 三度、聖女が呟く。

 しかし今度ばかりはその顔に“おふざけ”は欠片も存在しなかった。

 感慨深げに、それでいて心底嬉しそうな視線で、青年を見つめている。

 

 彼女だけでは無い。

 今日、この戦いを目にした全ての者が、あの青年の雄姿を目に焼き付けようとしていた。

 自分達は今、“伝説”の生き証人となったのだから。

 

 ラティナも、隣にいるイーファもそれは同じだった。

 ヴィルから視線を外さないまま、2人は震える唇で同時に言葉を零す。

 

「……震撃って、エロい技じゃないかったんですね」

「……あんなもの、ボクの中にぶち込んでたのか、アイツ」

 

 俄かに信じられなかった。

 あんな超破壊を齎す必殺技を、あの男は女体の最も敏感な場所へ撃ち放ったのである。

 

 常軌を逸している。

 まともな思考でできる発想じゃない。

 どうしたら、長く受け継いできた誇り高き技をエロに転用しようと思えるのか。

 技を開発した祖先に申し訳が立たないとは、考えなかったのか?

 

(……変態だ。

 紛うこと無き、変態だ――!!)

 

 確信する。

 神獣を倒し、なんか格好良い雰囲気出しているあの男が、どうしようもない変態であることをラティナは確信する。

 

 実際、自分がアヘアヘになっても責めの手を全然緩めてくれなかったし。

 あそこまでの痴態を人に見せたのは、アレが初めてである。

 何故、彼程の英雄が“帝国”を出奔しているのか不思議でならなかったが、きっとこの性癖が原因なのだろう。

 

(ヴィルバルト・グルムバッハ――なんて恐ろしい男! 色んな意味で!!)

 

 ラティナは、この男だけは決して敵に回してはならないと心に決める。

 その“果てしない勘違い”にツッコミを入れてくれる人物は、残念ながらこの場に居なかった!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑮ いざ旅立ち――のその前に(H)

「……ふぅぅ」

 

 大きく息をつく。

 ヴィルは、ソファーに座りくつろいでいた。

 

 場所はここ数日軟禁されていた例の部屋だ。

 現在は軟禁されているわけでは無く、単に休憩のため使っている。

 閉じ込められていた時は窮屈のようにも感じていたが、“一仕事”終わっていざここを満喫できるようになると、なかなかどうして快適な空間だった。

 窓から入る日は暖かく、ソファーのクッションも丁度良い塩梅。

 それに加えて――

 

(……綺麗なメイドまで居る)

 

 部屋にはヴィル以外にもう一人、長い銀髪(・・・・)の美人メイドが控えているのだ。

 ロングスカートの侍女服を身につけた彼女は現在、部屋の床掃除中である。

 

(主人が居るのに掃除をしているのはどうかと思うが――)

 

 別段、気にならない。

 いや、別のことが気になる(・・・・・・・・・)と言い換えた方が良いか。

 メイドの少女は床掃除を、モップなど使わずに直接手に布巾を持って行っていたのだ。

 自然、侍女は四つん這いになり――

 

(いい眺めだ)

 

 ――お尻をくいっと突き上げた格好で、彼女は床を拭いていた。

 ヴィルのすぐ目の前で、ヒップがふりふりと揺れている。

 生地が薄いためか、スカート越しでもその“形の良さ”が丸わかりだった。

 

「ふむ」

 

 ちょうど近くを通りかかったソレ(・・)を、我慢できずにむんずと掴んでみた。

 

「――あっ」

 

 少女が可愛らしく声を上げる。

 しかし、手を払いのけたりもしなければ、そもそも抵抗の素振りすらしない。

 当然だ、今自分は彼女の主なのだから。

 

「……いい感触だな」

 

 メイドのお尻をさらに弄りながら、そう告げる。

 掛け値なしの称賛だ。

 柔らかくそれでいてハリのある肉感がスカートの滑らかな触感に包まれ、実によい手触りとなっていた。

 

「こ、光栄です――あんっ」

 

 少し顔を赤らめながら、銀髪の侍女は返事をした。

 

「あっ――ん、んん――」

 

 さらにもじもじと身体をくねらせる。

 尻肉を揉まれただけで、大分感じてしまっていしい。

 良い感度である。

 

「よしっ」

 

 一言そう呟くと、今度は両手で尻を触り出した。

 

「あ、ああんっ――」

 

 ビクッとメイドが震える。

 それに構わず、ヴィルは彼女の尻を堪能した。

 手の平から伝わってくる、臀部の美しい曲線が堪らない。

 こうしてずっと撫でながら、日がな一日過ごすのもよいかもしれない。

 

(しかしそれは生殺しでもある)

 

 彼女に触れば触る程、欲望が抑えられなくなってくる。

 

(まあ、抑える必要もないんだが)

 

 という訳で、あっさり欲情に流されてみる。

 ヴィルはメイドのスカートを捲り上げた。

 

「――っ!!」

 

 驚く気配は見せるものの、嫌がりはしない。

 よく教育されているメイドだ。

 

「……綺麗な尻だぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 誉め言葉に、恥ずかしがりながらの返答。

 実際、その光景は素晴らしいものだった。

 純白のショーツに包まれた尻肉は綺麗に弧を描いており、スカート越しに想像していた以上の淫猥さを放っている。

 脚はスラリと伸び、太ももまで覆う白いニーハイソックスが目に優しい。

 指で尻の表面をすすっとなぞってみると――

 

「はうっ」

 

 ――スベスベの触感だ。

 シミも弛みも無い、満点の素肌。

 愛らしい嬌声も耳障りが良い。

 

(……だが)

 

 完璧な装いの下半身だが、一か所だけ“おかしな部分”があった。

 それは太ももの付け根。

 ショーツの中央部。

 

「……ここに染みができているぞ?」

 

「――っ!? そ、そこは――!」

 

 少女が息を飲んだ。

 自分でも気づいていなかったのかもしれない。

 彼女の下着が――ちょうど女性器の辺りが、うっすらと濡れていたのだ。

 

「これは、どういうことかな?」

 

 人差し指で濡れた箇所をつついてやると、

 

「あ、あうっ――いけません、ご主人様っ!

 そ、そこを触っては――あぁああんっ」

 

 分かりやすく悶えてくれる。

 細い眉をきゅっとひそめながら、メイドは甘い吐息を吐き出す。

 そんな反応をされては、もっとしてみたくなるというものだ。

 

「そ、そんな――あ、ああ、あ――敏感な、ところ、を――

 あ、あ、あ、あ――撫でられて、しまうと――」

 

 ぐにぐにと指先を押し付ける度に、侍女は喘ぎを漏らした。

 しかし姿勢は決して崩さず、こちらへ尻を突き出したままだ。

 ……もっとして欲しい、ということだろう。

 

「おや? 染みが広がってきたな。

 何が起きているのだろう?」

 

「それ、は――あ、あああっ」

 

 侍女の返事が喘ぎでかき消された。

 なので、青年は再度質問する。

 

「なあ、教えてくれないか。

 この“染み”はどういう代物で、何故広がり始めたのかを」

 

 聞いている最中にも、ショーツの上から秘部を撫で続ける。

 

「あ、あ、あ、あ――それは、気持ち良く、なってしまったから、です。

 ご、ご主人様にお尻を揉まれて――あ、うっ――気分が、高揚してしまったのです――あ、あ、あ、あ」

 

「ほほう。どうして気持ち良くなるとここに染みができるんだ?」

 

「は、はい――あ、ああっ、ん、き、気持ち良くなると、愛液が出てしまう、のです、あ、あぅっ――

 お、おまんこから、あ、あ、あ、あ、あ、愛液、が、流れ出て、しま、あ、あ、あ、あ、あ、あっ」

 

 ぐりぐりとメイド少女の股間に指を押し付ける。

 ショーツの染みはさらに広がり、指先も彼女の愛液で濡れていた。

 

「ふむふむ、では俺がこうして突いている“ここ”が――」

 

「――は、はいっ、私の、おまんこ、ですっ!

 先程からご主人様に、あ、あ、あ、触られ、て――あ、あ、あ、ああ、あ、気持ち良くなってしまっている――

 あ、ああ、あ、あ、そこが、私のおまんこなのですっ、あ、あ、あ、あああっ!」

 

 正しく自分の言う通り気持ち良さそうに身を捩らせ、彼女は答える。

 

「そうか、よく言ってくれた。

 では、もっと気持ち良くしてやろう」

 

 そう宣言し、ヴィルは人差し指をぐっと押し込む(・・・・)

 散々に弄られて濡れそぼった女性器は、ショーツごと彼の指を飲み込んでいった。

 

「あっ!? はぁあああああああうっ!!?」

 

 途端、一際大きな嬌声をあげる銀髪メイド。

 背を弓なりにしならせ、ビクビクと快楽に震え始めた。

 

「どうだ? 気持ち良くなれただろう?」

 

 ショーツの生地に包まれた指で、膣内をぐちょぐちょに掻きまわしてやる。

 すると――

 

「あぁぁああああああああんっ!!!」

 

 ――見ているこちらが清々しい気持ちになる程、見事に侍女はよがった。

 美しいその顔は蕩け、恍惚としている。

 

「あ、あ、あ、あ、あっ!! き、気持ち、い、あ、あ、あ気持ちいい、ですっ!!

 で、でも――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! そんなっ! 激しくされましたらっ!!

 あ、あ、気持ち、良すぎてっ! い、い、い、い、い、イってしまいま、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!!」

 

「いいぞ、許す。

 思い切りイクんだ」

 

 指先に力を入れ、さらに奥へと突き込んだ。

 ビリッと音をたて、ショーツの生地が破ける。

 と、同時に。

 

「あ、あぁああああああっ!!!?

 い、い、い、イクっ、い、い、イキますっ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、イクぅぅうううううっ!!!!!!」

 

 メイドもまた、果てた。

 目を見開き、長い銀髪を振り乱しながら、ガクガクと身を痙攣させる。

 その股間からは愛液が流れ出て、ポタポタと床に垂れ落ちる。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

 身体の震えが収まると、侍女は肩で息をし始める。

 相当に絶頂が堪えたようだ。

 しかし青年は、“責め手”を緩めない。

 

「……せっかく拭いた床がまた汚れてしまったな」

 

 そう言って、床にできた愛液の水たまりを指さす。

 こちらの意図がすぐに分かったのだろう、メイドは四つん這いのままヴィルに向かって頭を下げてきた。

 

「も、申し訳ございません、ご主人様。

 私の不手際のせいで、不快な思いをさせてしまいました……」

 

 土下座のような格好で謝罪を口にする侍女。

 そんな彼女に対し、

 

「口では何とでも言える。

 許しを請うのであれば、態度で示して貰おうか」

 

 未だ機嫌を直さないヴィル。

 この言葉を受けて、メイドは一つ頷いてから這った姿勢のまま体の向きを変え始めた。

 再度、彼に対して尻を向け、股間に手を添えて自らの指で膣口を広げる。

 鮮やかな色合いの花弁が、よく見えるように。

 

「ご主人様――どうか、この卑しいメイドに、罰をお与え下さい。

 ご主人様の太いおちんぽで、私のおまんこを貫いて下さいませ」

 

 顔を真っ赤にして、メイドはそう告げる。

 だが、その表情は――

 

「――違うな」

 

 その一言で、ヴィルは彼女の言葉を切って捨てた。

 少女が不思議そうな顔をして、

 

「ご、ご主人様?

 何が、違うと言うのですか?」

 

「君は罰が欲しいんじゃない」

 

 すっ呆けるメイドに、彼は盛り上がった股間を彼女の秘部へと擦り付ける。

 

「あ、あはぁああああんっ♪」

 

 すぐさま、快楽の声を漏らす侍女。

 それを見て確信する。

 

「君は“ご褒美”が欲しいんだろう?

 俺のイチモツを受け入れて、もっと気持ち良くなりたいと思っているんだろう?」

 

 言葉を続けながら、ズボンから取り出した愚息でメイドの股間を何度もなぞってやった。

 彼女は再び身を捩りだし、

 

「そ、そんな、ご主人様っ!

 私は、私は――!!」

 

「正直に言え!

 コレが欲しいんだろう!?」

 

 剛直で執拗に膣口を叩く。

 しかし、決して挿入はしない。

 してやらない。

 ――とうとう、メイドが根負けした。

 

「そ、そうですっ! 私は、ご主人様のおちんぽが欲しいだけなんですっ!

 私は自分の失敗を理由に、ご主人様のぶっといおちんぽを欲しがった、淫乱なメイドなのですっ!!」

 

「ふふ、ようやく素直になったな。

 欲しいのか? コレがそんなに欲しいのか?」

 

「はい、欲しいですっ! 

 ご主人様の立派なおちんぽを、私のドスケベまんこにぶち込んで下さいませ!!」

 

 涙目になりながら訴える銀髪のメイド。

 そこまで請われたなら、主人として応えない訳にはいかない。

 ヴィルは少女のか細い腰を両手で掴むと、己のイチモツを膣口へ一気に突き入れた。

 

「あ、あぁあああああああああっ!!

 来たっ、来ましたぁああああっ♪」

 

 歓喜の声で受け入れる少女。

 膣肉もまた男根にしっかりと絡まり、その侵入を出迎えてくれる。

 膣内(なか)は熱く、心地良い感触が股間を通して脳に届く。

 青年は腰を前後に動かしながら、

 

「いいぞ、凄い締め付けだ。

 そんなに嬉しいか?」

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 嬉しいですっ!! 凄く嬉し、あっ! あっ! あっ! あっ!

 き、気持ちいいぃいいいいっ!!!!」

 

 少女の方も、自分で腰を動かしてヴィルの股間に尻をぶつけてくる。

 パンッ、パンッ、という肉と肉のぶつかる音が、部屋に響き渡った。

 

「あっ! あっ! あっ! ご主人様の、奥に届いてますっ!!

 私、の、子宮、ご主人様のおちんぽが叩いてますぅうううっ!!!」

 

 感極まった声を出すメイド。

 彼女の方も、膣で剛直をきつく絞って、極上の快感を提供してくれていた。

 

(この分だと、すぐ射精してしまいそうだ……!)

 

 これまでの行為でヴィル自身散々昂っていたのもあって、限界はほど近いところまで迫っている。

 なので、様子見などせず最初から全力で腰を振る。

 

「はっ! あっ! あっ! あっ! 激しっ、激し、い、です、あっ! あっ! あっ!」

 

 互いにぶつかりあう肉の音が大きくなる。

 膣口から愛液が止めどなく流れ、床の染みはさらに増える。

 しかし当の2人はそんなことまるで気にせず、ただただ快楽を貪るべく身体を動かし続けた。

 

「よし、()れる! ()れるぞ!!」

 

 昂ったヴィルは、さらなる最奥を目指した。

 それは即ち、“子宮内”。

 彼女の腰をがっしりと抱え、“狙い”を定めてイチモツを強く強く捩じり込む(・・・・・)

 

「あひっ!!?」

 

 コリコリとした子宮口に一度引っかかるが、お構いなしに男根を侵攻させる。

 亀頭でぐいぐいとその細い“入り口”を押し広げ、ついに――

 

「ひゃひぃぃぃいいいいいいっ!!!!?」

 

 甲高い悲鳴が少女の口から吐き出された。

 ついに子宮内への侵入を果たしたのだ。

 

「……くぅ、こっち(・・・)も締まるな!」

 

 ギチギチにカリ(・・)周辺を締めつけてくる子宮口。

 膣壁に竿が搾られているのと合わせ、愚息への刺激は最高潮に達した。

 射精感も十二分に溜まり、それを解放するためにラストスパートをかける。

 

「こっ!? ほっ!!? あっ!! あっ!!  あっ!!

 あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

 直接子宮を犯され、メイドは獣のような叫びを上げる。

 股間からは愛液だけでなく、尿まで漏らし始めた。

 綺麗な顔は涙や涎、鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

 その姿がヴィルの征服欲を満たしていく。

 

「お”お”お”お”お”お”お”――!!!」

 

 子宮の奥壁を亀頭で叩いてやると、白目を剥いて激しく絶叫した。

 だがそんな有様にまで堕ちても、少女の膣は男性器を掴んで離さない。

 ヴィルもまた、限界に達する。

 

「――ぐっ、イク……!!」

 

「お”お”っ!! あああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーっ!!!!!!」

 

 精液が噴射され子宮を満たすのと。

 メイドが絶頂して身を仰け反らしたのは、同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の中でそんな“濡れ場”が展開している頃。

 

「……アイツら、いつまでアレやってるんだ?」

 

「さぁ、アタシに言われましても」

 

 すぐ外では、ラティナがイーファにぼやいていた。

 

「つーかあの男、オマエだけじゃなくて聖女まで手籠めにしてたのかよ!」

 

「聞いた話だと、先に誘ったのはエルミアさんだそうですよ」

 

「マジで!? とんだ性女だな、おい!」

 

 会話するラティナは、若干以上に苛立っている。

 それは、ヴィルとエルミアが王都への出発そっちのけで数日屋敷に篭り、あの“イメージプレイ”を続けているせいか。

 それとも――そこに自分が(・・・・・・)呼ばれないせいか(・・・・・・・・)

 

 神獣との戦いで体力を激しく消耗したためしばらく休養が必要だ、との説明もされたのだが――

 

(――怪しいもんだ)

 

 その割に、あの性豪っぷりである。

 ヴィルもエルミアも、飽きもせずに『ご主人様とそのメイド』ごっこをしてまぐわっているのだ。

 本当に疲労しているのか実に疑わしい。

 

(もっとも、だとすると大した労力も払わず神獣を倒しちゃったってことになるんだけど)

 

 それはそれで、信憑性の無い話ではある――信憑性が無いと思い込みたい(・・・・・・)話、ともいう。

 

 苛立ちの理由は他にもあった。

 事後処理の面倒臭さである。

 これまで祀っていた炎虎ズィーガが居なくなってしまったのだ。

 その経緯を含め、様々な報告を“王国”にしなければならない。

 現在、関連書類を絶賛執筆中である。

 組織内への説明――つまりは村人への説明もあるのだが、そちらは村長へ老侍女へ投げた。

 あっちはあっちでサーラへの対応で四苦八苦しているようだったが、知ったことではない。

 

 まあ、そういうアレコレが混じり合って、不機嫌な態度に繋がるわけだが。

 それを知ってか知らずか、イーファが話しかけてくる。

 

「まあ、今回はかなりエルミアさん頑張りましたし、これ位の恩恵はあってもいいんじゃないですかねー?

 これまで一日たりとも欠かしてなかった先生とのセックスを我慢してまで、村の人達の説得をしてたわけですから」

 

「一日も欠かしてなかったのか!?

 どうなってんだよ、それ!!」

 

 聖女の変態っぷりは想像以上だった。

 成程、同じく変態な英雄様と気が合う訳だ。

 と、変な納得をしたところで、ラティナはふと気になったことを聞いてみる。

 

「つーか、オマエらって結局どういう関係なんだ?」

 

「えーと――エルミアさんが先生の一号さんで、アタシが二号さん、みたいな?」

 

「……あっそ」

 

 割と予想通りな答えに、肩を竦めた。

 

(こんなのが聖女と魔女でこの国大丈夫なのか?

 ……あー、でもこんなだったから、アイツを引き込めたのかも?)

 

 そう考えると、結果的にこの人選は正解であったのかもしれない。

 勇者の一団メンバーとして如何なものかというツッコミもあるが、それはラティナにとって些事である。

 “結果”が出れば、それでいい。

 

「あ、また始まりましたね」

 

 イーファの言葉通り、部屋の中からまた嬌声が漏れ出した。

 性懲りも無く性交を再開したようだ。

 

(あーあ、アホくさ)

 

 一つ大きな伸びをしてから、ラティナは立ち去ることに決めた。

 やらねばならない仕事はまだまだあるのだ。

 ただ、その前にもう一つだけ尋ねなければならないことがあった。

 彼女は顔をイーファに向けて、

 

 

「――なぁ、3号って空いてたりする?」

 

 

 

 第9話 完

 

 




セリーヌ「空いてませんよ?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 性女失格
① アナれない(H)※


 

【挿絵表示】

 

 

 

 神獣との戦いを制してから数日。

 村から旅立ったヴィル達一向は、王都に向けて順調に旅を続けていた。

 

「あぁぁああああ♡

 ヴィル、ヴィルっ! もっと、もっと突いてぇっ!!」

 

 順調に旅を――

 

「はぁぁああんっ♡ 届いてるっ!!

 ヴィルのおちんぽが、私の子宮に届いてるのぉ♡

 あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁああああっ!!」

 

 順調に――

 

「あっ!! あっ!! そこっ!! そこっ!! いいのっ!!

 私のおまんこ――あっあっあっあっあっ――めちゃくちゃに抉られちゃってるぅ♡」

 

 …………。

 

「イクっ!! イクっ!! またイクのっ!! イっちゃう!!

 あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁあああああああっ!!!!」

 

 

 

 順調に、旅を続けていた(断言)!!

 

(ま、まあ、これはもう日課みたいなもんだから)

 

 どこか弁解するかのように、黒髪の青年ヴィルは内心呟く。

 今、彼等がいるのは街道に設置してある旅人用の休憩所。

 一日の旅程を終えたヴィル達は、この休憩所で一拍することにしたのである。

 そしてこの一行は夜を迎えた際、必ずやることがある。

 

 ――セックスだ。

 

 今日とて例外ではなく、小屋の中に敷いた簡易ベッドの上でヴィル達は交わっていた。

 

「ハァッ……ハァッ……ヴィル、お願い。

 まだ疼き、止まらないの♡」

 

 つい先程絶頂を迎えたばかりだというのに、銀髪の性女――もとい聖女エルミアがおねだりをしてきた。

 何も衣を纏っていない肢体を艶かしく動かし、こちらを誘ってくる。

 ヴィルはヴィルで射精を終えたにも関わらず、少女の蠱惑的な表情と汗に濡れた白磁の肌を目にして、性欲が再び湧き上がってきた。

 股間に血が集中し、むくむくと愚息が立ち上がるのを感じる。

 

「――あんっ♪」

 

 辛抱堪らず、彼女のおっぱいに飛びついた。

 綺麗に実る2つの果実が、柔らかさとハリを伴って手の平に吸い付いてくる。

 そんな双丘を揉みしだきながら、ヴィルはエルミアの唇を奪う。

 

「ん、ちゅっ――は、んん――れろ、ん、レロレロ――はぅ、んぅ――」

 

 互いの舌を絡ませ合う。

 甘い香りが鼻孔をつき、口の中に少女の味が広がる。

 エルミアの舌は繊細かつ滑らかであり、それを舐めているだけで自然と昂ってきてしまう。

 一晩中ずっとこうしていたい、という欲求に駆られる程だ。

 

(本当に、エルミアの肢体は凄い……!

 幾度抱いてもまるで飽きが来ない!)

 

 それどころか、どんどんその魅力に嵌ってしまう。

 やや切れ長の、意志の強さを感じさせる双眸。

 芸術品を彷彿させる程の整った容貌。

 白い肌には染みなど一つも無く、肢体は計算し尽くされたかのように均整が取れていた。

 それでいて、胸もお尻もヴィル好みの大きさに育っている。

 どれをとってもパーフェクトだ。

 頭の中身は真っピンクだけれども――ここまで来れば、それにすら魅力を感じる。

 

(このまま朝が来なければいいのに)

 

 そんな馬鹿な考えすら浮かんだ。

 それ程、青年は聖女にぞっこんなのだった。

 

 ――ちなみに、だが。

 もう一人の同行者である赤毛の少女イーファは、既に隣で寝ている。

 正しくは、ヴィルとの性交で精も根も尽き果て、倒れているのだけれども。

 うつ伏せになっているせいで、彼女の大きな胸が押し潰されていて――その光景もまた男の欲情をそそるものである。

 

 まあ、それはそれとして。

 

「れろれろ――はぁ、んっ――ちゅ、ちゅっ――んはぁ――」

 

 2人の交わりは続く。

 唇を重ね、その瑞々しさを愉しむ。

 肢体を絡ませ、その華奢さ、暖かさを感じる。

 乳房と尻肉を鷲掴みにし、その柔らかさと弾力に感動する。

 全身でエルミアを堪能していた、ちょうどそんな時。

 

(あ、そういえば)

 

 ふと“あること”を思い出した。

 

こっち(・・・)を使ったこと無かったな)

 

 これだけ貪り合っておきながら、これまでヴィルはエルミアの“後ろの穴”を使ってこなかった。

 別にソコへ強い思い入れがあるわけでもないのだが、愛する女性の全てを味わいたいという欲望が青年の手を突き動かす。

 

(どれどれ)

 

 尻を揉む手を少し動かし、肉の割れ目の奥にある菊門に触れる。

 きゅっと閉ざされたその蕾へ、やや強引に指先を挿れると――

 

 

「痛っだぁぁああああっ!?!?!?!!」

 

 

 ――色気の欠片も無い、叫び声が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 明けて、朝。

 

「――そんな――嘘――ありえない――ありえません――」

 

 小屋の片隅で、エルミアが頭を抱えて蹲っている。

 その瞳は泳ぎ、肌には脂汗が浮かんでいた。

 この上なく分かりやすく狼狽えている。

 

「まさかエルミアがここまで落ち込むとは……」

 

 神獣を前にしてもその態度を崩さなかった聖女の凹みっぷりに、ヴィルも戸惑いを隠せずにいた。

 一方でイーファはいつもと変わらぬ表情で、

 

「でも本当に意外でしたよ。

 あの(・・)エルミアさんが――アナルセックス(・・・・・・・)できない(・・・・)だなんて」

 

「……はぅ」

 

 その一言に、聖女の肩がさらに下がった。

 

 イーファの言う通り。

 昨夜、ヴィルはエルミアのアナルを使おうとしたのだが、彼女のソコはまるで受け付けてくれなかった。

 入り口――もとい、出口は固く閉ざされ、無理やり挿れようとすれば激痛が走る。

 何度試してみても小指すら跳ね除け、最終的に痺れを切らしたエルミアが(・・・・・)無理やり挿入しようとして――――血が出た。

 

「まあ、人には向き不向きというものがあるからな。

 別にアナルが使えないからといって何がどうなるってものでもないし」

 

 自分でもフォローになっているかよく分からないフォローを入れてみるも、エルミアからの反応は無し。

 代わりという訳でも無いが、イーファが口を開く。

 

「いやぁ、でもあれだけ“エロならなんでもござれ”みたいなことを普段から言っといて――ついでに人にも強要しといて――いざ自分がこの有様なのはどうかと思いますよ、アタシは。

 性女として有り得ないというか、タイトルに偽り有りというか」

 

「ど、どうしたんだ?

 なんだか言葉に棘があるぞ?」

 

 赤毛の魔女から威圧のようなものを感じる。

 すると彼女は少し半泣きになって、

 

「だって先生!

 アタシの初めて治癒魔法、エルミアさんの括約筋を治すのに使うはめになったんですよ!?

 そりゃ不満だって溜まりますよ!」

 

「……あー」

 

 練習も兼ねてイーファに頼んでしまったのだが、冷静になって考えてみれば酷なことをやらせてしまったかもしれない。

 延々とセックスし続けた後、さらに延々と尻穴に向き合っていたため、思考がおかしな方向に向いていたことは否めない。

 調子づいたのか、彼女はさらに畳みかける。

 

「これはアレですね、もうエルミアさんは性女の看板を下ろすしかありませんね。

 だってアナルっていったら女性器と並ぶ二大性感帯じゃないですか。

 その内の一つが使えないとあっては、エルミアさんはもう性女じゃなくてただの聖女ですよ!」

 

 エルミアは性女の看板なんて掲げていたのか。

 二大性感帯なんてくくり、本当にあるのか。

 ただの聖女になるって、それは別に問題ないことなのでは?

 等々、様々なツッコミがヴィルの頭を駆け巡るが、イーファの勢いに押され言葉にできない。

 少女はまだ止まらず、

 

「でも安心して下さい、エルミアさん!

 これからはアタシが性女として、先生のご希望に応えてみせま――」

 

 

 

 

 

 

「ふぉおおおおおっ!!? ふぉおおおおおおおおおおっ!!!?」

 

 尻穴にすりこぎ(割と太め)を突っ込まれ、イーファが悶絶している。

 説明する間でも無く、ヤったのはエルミアだ。

 何故彼女がすりこぎを持っていたのかは分からない。

 

「くっ! あっさりとアナルに受け入れちゃうのね!

 こんなにまざまざと“差”を見せつけられるなんて――屈辱――!」

 

「自分でしておきながらそんなこと言うか、お前は」

 

 イーファの発破(?)で多少気を持ち直したのか、銀髪の聖女は一先ず凹み続けることを止めたようだ。

 その結果として、魔女は大口を叩いた報いを受けるハメになった訳だが。

 

「うん、切り替えていきましょう」

 

 エルミアはパンっと手を打ち合わせてから、

 

「ヴィルの言う通り、どうしたって向き不向きがあるものね。

 でもそれを克服できるのも人間なのよ!

 諦めない限り人は負けない!」

 

「こんなことでそこまで前向き発言するのもどうかとは思うが、その意気だ」

 

 とりあえず立ち直れたようなので、適当に流すヴィル。

 

(後はイーファを介抱して、出発だな。

 少々遅めのスタートだが、まあ支障が出る程じゃない)

 

 問題が一応の解決を見たため、今日の行程について思いを馳せた。

 そして未だ悶え続けていたイーファの尻に挿さった棒を引きぬこうとする――が、エルミアの台詞は終わっていなかった。

 

「善は急げ。

 早速、尻穴を広げる訓練を始めましょう!」

 

「そうだな、今日泊まる休憩所も人の居ないところだといいんだが」

 

「何言ってるの? 今からここでするのよ?

 次の休憩場所に人目が無い保証なんてないんだから」

 

「はぁ!?」

 

 あんまりな申し出に、素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「な、なあ、エルミア?

 分かってるのか、俺達の目的は王都に行くことであって、性生活を充実させることじゃないんだぞ?

 色々(・・)あって、期限はもうギリギリのはずだろう。

 一分一秒でも早く到着するように――とまでは言わないが、それなりに急ぐ努力はしておかなければ」

 

「ああ、それなら平気よ」

 

 ヴィルの問題提起を、エルミアはあっさりといなした。

 

「貴方が神獣倒しちゃったせいで、今“王国”の上の方はその対応に追われてしっちゃかめっちゃかになってるみたいだから」

 

「……あー」

 

 考えてもみれば。

 曲がりなりにも国が管理していた神が殺されたのだ。

 関係者への対処や教会への説明で、役人達は忙殺されていてもおかしくはない。

 

「あとヴィル。そもそも貴方自身が国賓(・・)なの忘れてるの?

 下手したら、私達の到着がなるべく遅れて欲しいと思われてるくらいじゃないかしら」

 

「……そうだったな」

 

 今までは“旅人”で通してきたわけだが、神獣と戦うにあたり自分の正体を明かしてしまった(その前からバレていた節もあるが)。

 こうなってくると、王国も自分を相応の来賓として扱わねばならなくなっただろう。

 勇者の一団の歓迎、神獣退治の後処理、帝国重鎮への対応と、王国上層部がさぞかし忙しなくなっていることは容易に想像できる。

 

(いやしかし、仕方なかったんだ)

 

 ただの旅人という立場では、神獣殺しの責任が取れない。

 最悪、エルミア達に面倒事が降ってくる可能性もある。

 周りに飛び火させないためには、本来の立ち位置を説明する他なかったのだ。

 ……帝国と王国の間に別の火種が産まれる可能性はあるが、そこは腹を括るしかない。

 

「し、しかしだな、だからといって時間を無駄にしていいわけでもないだろう?

 そもそも、そんなすぐにできるものなのか?」

 

「大丈夫よ!

 別に初めてって訳でもないし!

 修道院で一緒に暮らしていた女の子を幾人もアナル堕ちさせたのがいったい誰だと思ってるの!?」

 

「君だとは思いたくなかった。

 思いたくなかったぞ……!」

 

 どこかデジャヴを感じるやりとり。

 

「とにかくだな、そういう行為に一日を費やすというのは――」

 

「ヴィル」

 

 食い下がるこちらを、エルミアは上目遣いに見つめてきた。

 淡い青色の潤んだ瞳につい魅入り、言葉を詰まらせてしまう。

 さらに少女は、儚げな表情でこう告げてくる。

 

「ヴィルは、私の“蕾”を使ってみたくはないのですか……?」

 

「――使いたい」

 

 聖女の懇願に、青年はあっさりと屈したのであった。

 

 

 

 こうして。

 予定を大幅に変更し、エルミアのアナル拡張作戦が開始された!

 

 

 

「う、ふ――あの、先生? エルミアさん?

 そろそろ、この、棒、抜いて欲しい、かな、なんて。

 ホントに、これ、う、く、く、く、く、苦し、い――あ、はっ――

 き、聞いてます? ねぇ?」

 

 苦悶の息を吐くイーファを尻目に。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② アナりたい(H)

 

 

 

 

「まずは腸内洗浄ですね!」

 

「えっ?」

 

 アナルの開発を行うにあたって、何よりまず必要なことは洗浄である。

 仮にも排泄物が通る場所であるのだから、ナニをどうしたところで汚れやすい場所であることは間違いないのだ。

 イーファの提案はその基本を踏まえていた。

 しかしエルミアはおずおずと手を上げ、

 

「いや、あの、イーファ?

 別にそういうのはいいんじゃない?」

 

 どうも聖女は乗り気でない様子。

 前向きに放ったものの、やはりアナル関連に対して苦手意識は持ってしまっているようだ。

 “性女”が表になっていると言うのにこの狼狽えぷりはなかなか珍しい。

 そんな彼女に対し、イーファが強気な口調でまくしたてる。

 

「何を言ってるんですか、エルミアさん!

 アナルセックスの練習と言えば、まず腸内洗浄ですよ!

 教本にもそう書いてあります!」

 

「書いてあるの!?」

 

 書いてあるらしい。

 書いてあるなら仕方ない。

 何でそんなもの持ってるんだとも思うが、野暮なツッコミはよそう。

 

「でも、でもね、私、自分で言っちゃうのもアレだけど綺麗だから。

 お尻、いつも綺麗になってるから」

 

 ……まあ、そういうこともあるかもしれない。

 半ばお約束染みたアレだ。

 実際、以前にセリーヌの尻穴を突発的に弄ったことがあったが、中に汚れは見受けられなかった。

 エルミアのアナルも特に洗浄を必要としていない可能性は高い。

 だが、イーファはそんなことで引かなかった。

 

「先生の小指すら受け入れられなかったエルミアさんのアナルを、どうやって綺麗にしたっていうんですかねぇ?」

 

「そ、それを言うなら、イーファだって初めてのアナル挿入だったのに、大して汚れてなかったじゃない?

 さっきまで貴女に挿してた棒だって、ほら、こんなに綺麗♪

 もう、舐めちゃいたいくらい」

 

 言いながら、本当に先程のすりこぎへ舌を這わすエルミア。

 その様子にイーファは若干引き気味。

 

「こ、ここでそんなことやり出すのが流石エルミアさんですね……!

 でも負けません、せっかく巡ってきたアタシに有利なシチュエーション、そう簡単に手放さないですよ!?」

 

 それでも毅然とした態度を崩さなかった。

 この場合、“毅然”という形容詞が正しいかどうかは議論の余地がある。

 

「ちょっと、ヴィル!」

 

 頑ななイーファにしびれを切らしたか、聖女はこちらに矛先を向けてきたようだ。

 

「ヴィルは別に構わないわよね?

 本当、汚れてなんかいないし、万一そうだったとして、何も手でお尻を弄る必要もないんだから。

 ほら、そこらへんに転がってる棒でも使って、こう、穴をぐいぐい広げちゃえば」

 

 青年は、その言葉を吟味した。

 なるほど、筋は通っている。

 尻穴を棒で拡張するという行為にも、どこか嗜虐心をくすぐるものがあった。

 それ故、ヴィルは深く頷いてから、

 

「いや、そこはしっかり一から手順を追ってやっていこうよ」

 

「ヴィル!?」

 

 あっさり期待が裏切られ、目を見開く聖女。

 

 彼女の申し出を拒んだ理由はただ一つ。

 なんかエロ分野で嫌がる姿を見せるエルミアが、凄く新鮮だったから――それだけだ。

 

「ほらほら、先生もこう言ってることですし、観念して下さいよー」

 

「う、くっ――」

 

 一瞬悔しそうな顔をしたかと思えば、するすると下着を脱ぎ始める。

 そして丸出しになったお尻を、くいっとこちらへ突き出した。

 思いの外素直に従ってくれたようだ。

 ……さしものエルミアも、ヴィルの言葉に逆らう気は無い、ということなのだろう。

 

「ふっふっふぅ、ようやく曝してくれましたねー?」

 

 一方でイーファはというと、反抗の気概を無くした性女に対し、手に持った“注射器”をわきわきと握りながらにじり寄って行く。

 

「――って、ちょっと待て。

 イーファ、君はソレをどこから持ってきた?」

 

 ソレとはすなわち、浣腸用注射器のことだ。

 

「こんなこともあろうかと用意してたんですよ――お爺ちゃんが」

 

「……そうか」

 

 彼女の祖父(エゴール)とは、近い内に話し合いの場を設けた方が良さそうだ。

 しかし今は、尻穴案件が先決である。

 

「安心して下さいね。

 この注射器の先端は極細タイプ――例えエルミアさんのキツキツアナルでもすんなり挿入できるはずなんで」

 

 テキパキとシリンジ内に水を注入しつつ、イーファが話しかける。

 対するエルミアは目を瞑り呼吸を整え、少しでも身体をリラックスさせているようであった。

 

(あれ? でもこういうのって、本来俺がやるべきなのでは?)

 

 自分がただの傍観者になっていることに気付くが、待ったをかける時間は無く。

 

「行きますよー!」

 

「……は、うっ」

 

 注射器の注入口がエルミアの菊門に挿さった。

 

「――くっ――あっ――はっ――あっ――あっあっ――」

 

 聖女の身体が細かく震える。

 イーファはいい表情(・・・・)しながら注射器の取っ手を押し込み、水を直腸へゆっくりと注いでいった。

 

 

 

 ……しばしして。

 

「注入完了です♪」

 

 清々しい笑顔で額を拭うイーファ。

 

「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……」

 

 対し、エルミアは浅い呼吸を繰り返していた。

 腹部が内側から圧迫されていることが原因だろう。

 そんな彼女に対し、

 

「じゃあ、今度は出す番ですね。

 さささ、ヤっちゃって下さい、エルミアさん!」

 

「……私、イーファに恨まれるようなことをしましたでしょうか?」

 

 切羽詰まっているせいか、口調が聖女になっている。

 その言葉に魔女は笑顔で、

 

「やですねぇ、そんな恨むだなんて――」

 

「そ、そうですよね?」

 

「――掃いて捨てる程」

 

「え」

 

「冗談ですよ」

 

 一瞬、目が笑ってなかった。

 

「で、では済ませてきますので、少々厠へ――」

 

 深く追求するのが怖くなったのか、そそくさとこの場を退散しようとするエルミア。

 しかし――

 

「何言ってるんですかエルミアさん、ここでするんですよ(・・・・・・・・・)

 

「え?」

 

 ――イーファに引き留められた。

 聖女は本気で慌てた顔になり、

 

「冗談ですよね?」

 

「冗談じゃないです」

 

「え?」

 

 2人が真顔になった。

 それにしてもこの魔女、今日は絶好調である。

 ……事が済んだ後、自分がどうなってしまうかは、きっと考えていない。

 

「大丈夫だ、エルミア」

 

「ヴィル――!」

 

 青年が助け船を出すと、少女は顔を輝かせた。

 その笑顔にこちらも一つ頷き、

 

「周りが汚れないよう、ちゃんとタライを用意してある」

 

「あ、あぁぁああああっ!?」

 

 そして、絶望。

 聖女には最初から逃げ場などなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 ――結果を言うと、エルミアは綺麗だった(・・・・・)

 

 

 

 

 

 

「次はいよいよアナル拡張ですねー」

 

「ふふ、ふふふふ、ここまで来たらなんでも来いって感じ」

 

 涙を溜めつつ、完全に据わり切った瞳のエルミアである。

 ヴィル達の目の前で排泄したことにより、彼女の何かが吹っ切れたらしい。

 

「じゃあ先生、ヤっちゃって下さい」

 

「よしきた」

 

 イーファに促されるまま、エルミアの後ろに立つ。

 なんだか今日はこの少女にいい様に扱われているような気がするが――まあ、気にする程のことでもない。

 

「……ヴィル、お願い」

 

 少し不安げな面持ちで振り向くエルミア。

 同時に、四つん這いとなって尻をこちらへ差し出してくる。

 

(なんというか――こう、そそる(・・・)な)

 

 尻肉の割れ目から顔を覗かせた、可愛らしい“蕾”の姿に加え。

 姿普段見慣れない聖女の表情に、ヴィルの欲情は掻き立てられていた。

 今すぐエルミアを犯したくなる衝動を必死に抑え、彼女の尻に手を近づける。

 

「――んっ」

 

 人差し指で菊門をつつくと、少女が少し身じろぎした。

 実際に触ってみた感触は――

 

(うーむ、これは手強そうだ)

 

 ――昨夜と変わらず、門は固く閉ざされている。

 指一本挿れるのも難しい。

 浣腸による腸内洗浄は、残念ながらほとんど意味が無かったようだ――もともと、期待していた訳でもないが。

 

(ゆっくりと解していくしかないな)

 

 アナル開発教本(提供:イーファ、持ち主:エゴール)を読んで得た知識を頭で反芻しながら、指を動かす。

 菊門の皺一つ一つをゆっくりとなぞり、閉ざされた穴をそっと指先で押す。

 

「――あ、う、くっ」

 

 エルミアの口から苦悶の声。

 いつも聞いている嬌声とは違い、そこに艶っぽさは欠片も無い。

 ただただ、苦しみを我慢する声色だ。

 

(丁寧に――細心の注意を払ってやらなくては)

 

 無理やりこじ開けようとすると、容易に傷がついてしまう。

 そして直腸は仮にも内臓であるが故、傷つくととても痛い。

 本当に痛い。

 大きい方を催した際、悶絶してトイレから立ち上がれなくなる程である。

 しかもそれが数日にわたって続くのだ。

 もう勘弁して欲しい。

 

(ん? いや、なんで体験談みたいになってるんだ?)

 

 あくまでモノの例えである。

 ヴィルはより滑りやすくするため尻へ水を垂らし、さらに肛門周辺を揉み解し続けた。

 

「は、あ、あ、うっ」

 

 それでもエルミアの括約筋は強敵であった。

 本来の役割を徹底している。

 ここはモノを入れる穴ではないという、強い自己主張が感じられた。

 

「エルミア、もう少し力を抜くことはできないか?」

 

「す、すいません、意識してはいるのですが……」

 

 少女としても、精一杯努力はしているらしいが、それでこの有様となると――

 

(無意識で筋肉が相当に強張っているんだな。

 昨夜ように無理をすると、筋を痛めてしまう)

 

 根気よく続けるしかない――が。

 しばらくの時間続けてみても、なかなか成果が得られなかった。

 状況に思う所あったか、これまで沈黙していたエルミアが口を開く。

 

「こ、こうなったら、もう強引に挿入してみるのは如何でしょうか。

 出来た傷は治癒魔法で治せば良い訳ですから……」

 

「それは駄目だ。

 俺が、そんなことしたくない」

 

 ヴィルの魔法をもってすれば、例え四肢が引き千切れたとしても元通りにすることができる。

 とにもかくにも一度無理やりこじ開けてしまえば、治療後もその“門”は開きやすくなるかもしれない。

 

 しかし傷を治せるからといって、人を傷をつけることに呵責が産まれない訳でも無い。

 ましてや相手が最愛の女性(ひと)であればなおさらだ。

 ヴィルにはエルミアを傷付けてまでアナルセックスをするつもりは皆無なのである。

 

(と、言ったものの――)

 

 事態に進展がないのも事実である。

 エルミアのアナル適性は皆無に近かった。

 処女喪失した時すら平然としていたというのに、世の中分からないものだ。

 

(これ、今日一日じゃ終わらないんじゃないか?)

 

 そんな思いすら去来する。

 ここまで来ると、身体的な問題ではなく精神的な問題のようにも思うのだ。

 となると、もっとリラックスできる状況にエルミアを置く必要がある。

 だがこの小屋ような狭苦しい場所で、それは難しい。

 とはいえ、

 

(……まあ、切り上げるにしてももう少し様子を見てもいいか?)

 

 大きな声では言えないが、この状況自体はかなり好ましい。

 あのエルミアが“不安げな顔”でセックスに臨む姿は、生々しい艶やかさに満ち溢れていた。

 

(大丈夫か? なんだか歪んでいないか、俺?)

 

 なんだかよろしくない気もする。

 人として大分危うい道に足を踏み込んでいるような――そんな予感。

 

(よし、こういう思考は止めよう。はいはい、止め止め)

 

 さくっと切り替え、目の前に集中――要するに、目の前のお尻に集中する。

 魅惑の曲線を描いた、プリンッとハリのあるそのお尻に。

 

(それはそれで――どうなんだ?)

 

 どちらにせよ情欲が湧き上がるのは仕方のない事であった。

 

 さておき。

 アレコレ考えている間も、ヴィルは指は休めていない。

 ただ、事態はまるで進展していない訳だが。

 

「……せめてローションが欲しいな。

 もっと滑りを良くすれば、あるいは――」

 

 水だけでは潤滑性に限界がある。

 しかし、こんなところにそんなモノがある筈が無い。

 

「あ、それなら持ってますよー」

 

 ……ある筈があった。

 イーファは軽い調子でそう言うと、荷物をごそごそと漁り、

 

「はい、コレです」

 

「でかした!」

 

 嬉々としてそれを受け取るヴィル。

 だが、ふと気になって。

 

「これも、エゴールが?」

 

「はい、こんなこともあろうかとお爺ちゃんが準備してくれていた、<スリップローション>です」

 

「スリップローション?」

 

 聞いたことのない名前であった。

 

「ええ。斥候(スカウト)の人用に最近学院が開発中な魔法の潤滑油らしくてですね。

 一度これを塗り込むと、どんな狭い所にも滑り込むことができるようになるんだとか。

 狭い鍵穴に指を入れたりもできるんだそうですよー?」

 

 得意げに説明するイーファは――

 

「……ほう」

 

「……へぇ」

 

 ――ヴィルとエルミアの目に剣呑な光が灯るのに、気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

「おっ!? おおっ!? おっ!? おっおっ!? おぉぉおおおぉおおっ!!?」

 

「凄いわね、本当に入っちゃった!」

 

 尻穴に3本の“すりこぎ(結構太い)”をぶち込まれたイーファの姿がそこにあった。

 これにはエルミアも感心することしきりである。

 

「これで問題は解決したな」

 

 ほっと息をつくヴィル。

 ほぼアナル未経験なイーファ相手ですら、すんなりと(・・・・・)こんな真似ができるのだ。

 エルミアの菊門をこじ開けることも容易であろう。

 

 ……もっとも、挿入することが可能になっても、挿入された感覚が緩和される訳ではないようで。

 本来の限界を超えたモノを直腸に挿れられたイーファは、その超絶な刺激に悶絶しているのだが。

 

(まだ製品化していないのは、これが理由なのかもしれないな)

 

 しかし今回のケースに限れば、寧ろ都合が良い。

 こうしてエルミアのアナル拡張は(本人達の努力と全く関係ない形で)完了の目途が立ち、いよいよ最後のステップ――アナルセックスに臨むこととあいなった。

 

 

 

 ……ある意味で一番の功労者とも言えるイーファがこんな目に遭う道理があったのか、というツッコミを行う者はこの場に居ない。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ アナる(H)※

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 準備は整った。

 いざ、決行の時。

 

(いや、そんな仰々しく始めるようなもんでもないが)

 

 勢い込んだ気持ちに、自ら水を差す。

 ここで冷静になってどうする。

 

「どうしたの、ヴィル?」

 

 そんな気持ちを察したのか、エルミアが不思議そうな顔をしてきた。

 真っ裸で四つん這い、その上尻をこちらに向けているという格好でそんな表情をされても、やや対応に困る。

 

「あー、なんでもない。

 始めるぞ、エルミア」

 

 さらっと流し、ヴィルは例の“ローション”を手に取った。

 トロトロとした液体をたっぷり手に馴染ませ、さらにエルミアのお尻にも垂らす。

 

「……んっ」

 

 その感触がこそばゆいのか、小さい吐息を漏らす聖女。

 プルッと震える尻肉が可愛らしい。

 

(と、いうか――そろそろ辛抱堪らなくなってきた)

 

 アナル開発を始めてからずっと、目の前に極上の肢体があるにも関わらずお預けをくらっていた訳である。

 手を出していない訳ではないが、ともあれ己の欲望を解放できずにいたことには変わりない。

 

「……まずは指を挿れるぞ」

 

 今すぐ襲いかかりたい気持ちをぐっと堪え、人差し指をエルミアの菊門へと近づける。

 他の肌よりやや赤みの強いその場所を指先で触った。

 

「は、うぅっ」

 

 エルミアの切ない声。

 コリッとした“入り口”――もとい、“出口”の肉感を感じながら、指に力を込めてソコへ押し入れる。

 

「――おっ!?」

 

 少女の肢体が大きく震えた。

 同時に、人差し指先端が熱い感触に包まれる。

 

「あ、う、く――は、入りました、ぁっ?」

 

 乱れた声で、エルミア。

 尻穴に異物が入り込んだ影響か、口調が“聖女”のものに変わっている。

 その言葉通り、ヴィルの指はとうとう彼女の直腸内へと到達した。

 まだ指先だけではあるが、聖女の犯されていない初めての場所へ侵入したのだ。

 

(……しかし、凄い締め付けだな)

 

 ヴィルの指を千切らんばかりに肛門が締め付けてくる。

 女性器ではありえない程の力だ。

 魔力が込められたローションの手助けがなければ、ここへ侵入は不可能だっただろう。

 

「奥、入れるぞ」

 

 静かにそう宣言し、さらに手を突き進める。

 

「んぉっ!? お、お、お、お、お、お!!」

 

 ずぶずぶと指が沈んでいく。

 括約筋による固い締めつけが、指の根元へとゆっくり移動してきた。

 そのまま、指全体が埋没するまで押し進める――と、

 

「おっ!!? お、あ、あ、ぁ、ああぁぁぁぁあああっ!!!?」

 

 突如、エルミアの身体が弓なりにしなり、ビクビクと震えた。

 さらにビチャビチャという水音。

 見れば、膣から大量の愛液が流れ落ちている。

 

「もしかして、イったのか?」

 

「は、はい――い、い、イキ、ました、ぁ」

 

 息も絶え絶え、といった様子で返事するエルミア。

 本当に、ただ指を挿入しただけで絶頂してしまったらしい。

 しかも、あそこまで激しく。

 この初心さ加減、本当にあの“性女”なのか疑わしくなる程だ。

 

「アナル、弱かったんだな」

 

「そ、そのようで――――んほっ!?」

 

 少女の言葉が終わるよりも早く、ヴィルは指を動かした。

 ローションの滑りを活かした激しいピストン。

 

「お!? おっ!! おっ!!?

 は、はげ、激しっ!! お、お、おお、お、おおっ!!

 無理、無理ですっ!! イク、イクイクイクっ!! イキます!!?

 イクぅうううううううっ!!!」

 

 ガクガクと震える肢体。

 ジョロジョロと、尿のように流れ落ちる雌蜜。

 再び、エルミアはイったのだった。

 

「……凄い感度だ」

 

 思わず口に出る言葉。

 

 快感を貪る間もなく、ただただ絶頂する。

 エルミアがここまでなすがままにイカされるのは、珍しい。

 

「ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ、ふぅーっ」

 

 肩を上下させ、聖女は目を見開いたまま大きな呼吸を繰り返す。

 未だ侵入され続けている“異物”の感覚に、必死で耐えているようだ。

 こちらを構う余裕は一見して無い。

 

(これはたまらないな)

 

 この稀な痴態に、ヴィルの股間は強く反応した。

 剛直がその呼び名通りギンギンに勃起している。

 股間に血が集中し、熱くなっている。

 

(挿れていい、よな? いや、挿れる!!)

 

 もう居ても立っても居られなかった。

 直腸に埋めていた指を素早く抜き去ると、急いで愚息を取り出してエルミアの尻へあてがう。

 スベスベとした尻肉が亀頭に当たるが、今はその感覚を愉しむ時間も惜しい。

 

「ふぅーっ、ふぅーっ、ま、待って、下さい、ふぅーっ、ふぅーっ、す、少し、息を整えさせて――い、今、()れられたらっ」

 

 聖女が拒む台詞を吐く。

 これも滅多にないことだ。

 だが残念ながらそれを聞き届ける訳にはいかない。

 

「挿れるぞ」

 

 短く断言。

 エルミアが何か反応を示すよりも先に、彼女の尻に向かって腰を突き出す。

 

「待っ――ほぉぉおおおおおおおおっ!!?!?!!」

 

 響く絶叫。

 ローションのおかげで、どうにか男性器の挿入に成功した。

 このアイテムが無ければ、指の数倍以上太い逸品を突き込むことなどできなかっただろう。

 事実、肉棒は菊門にギチギチと絞められていた。

 直腸は無理やり入ってきた異物を締め出すようにうねり、外へ押し出そうとしてくる。

 それに負けじと、ヴィルは股間を少女の尻へと押し付けた。

 

 一方でエルミアは、

 

「おほっ!! おっ!! おおっ!!

 んほぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!?」

 

 こちらが動くまでもなく、悶絶し続けていた。

 先程から愛液が止まらない。

 床には彼女の汁が水たまりになっている。

 さらにはそこへ尿も混じり出した。

 極太の剛直を捻じ込まれ、その刺激で絶頂を繰り返しているのだ。

 

「おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おっ!!」

 

 ガクンガクンと頭を揺らしながら痙攣する少女。

 白目を剥き、最早正気を保っていないように見える。

 身体も脱力し、四つん這いの姿勢が崩れて床に倒れ伏せてしまった――ヴィルが抱えている尻以外は。

 普通に考えればここで一旦行為を中止し、彼女を休ませるべきなのだが……

 

「……動くぞ、エルミア」

 

 溜まりに溜まったヴィルの情欲は、その選択を受け入れられなかった。

 己の獣性に身を任せ、全力で腰を振り出す。

 

「んぉおぉおおおおおおっ!!!?

 おおっ!!! おぉぉおぉおおおおおおおおっ!!!!?」

 

 けたたましい叫びが少女の小さな口から迸った。

 口から泡混じりの涎が流れ、目からは涙が溢れている。

 

「凄いな――そんなにアナルがいい(・・)のか」

 

 理性をかなぐり捨てて嬌声を上げるエルミアの姿に、ヴィルも感じ入ってしまう。

 さらに女性器とはまた違う尻穴の感触が堪らない。

 この痛みを伴う程のキツイ絞めは、膣肉では味わえないだろう。

 

(歯を立ててフェラされているみたいだ)

 

 それ程の絞めっぷりなのである。

 そんな“圧”が肉棒の根本から先端までを行き来するのだ。

 齎される刺激たるや推して知るべし。

 

「おっ!!? おぅっ!? おぅっ!? おっ!? んぉおおおっ!?」

 

 こちらのピストンに合わせ、壊れたように聖女は悶える。

 吐息に込められた艶が、さらにヴィルの心を昂らせた。

 

(もう、出る……!!)

 

 ただでさえ溜まりに溜まった精気は、もう決壊寸前である。

 その瞬間を迎えるため、青年は渾身の力を込めて腰を動かす。

 

「お、お、お、お、お、お、おっ!!!?

 おっ!!? おっ!!? おっ!!? おっ!!? おおおっ!!!!?」

 

 心なしか、エルミアの声も甲高くなってきた。

 さらに大きな絶頂に至ろうとしているのか。

 

「イクぞっ!!」

 

 限界まで極まった精神の中、吐き出すようにその一言を叫ぶ。

 次の瞬間、ヴィルは股間から精を解き放った。

 大量の精子が愚息の先端より放出され――その解放感に浸る。

 

「ああっ!!? あぁ、あぁぁああああああああああっ!!!!?」

 

 聖女もまた、直内に注がれた熱い白濁液により盛大に果てていた。

 力が抜けていたはずの肢体はこの瞬間だけピンと固まり、穴という穴から体液が漏れ出る。

 

「ふぉおおおおっ!!! おおっ!! おぉおおっ! お、おおぉぉぉ――」

 

 絶叫がだんだんとか細くなり、最後には掻き消える。

 とうとう声を出す気力も尽きたようだ。

 完全に倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった彼女を見て――ヴィルは、最期までヤってしまった後悔と、えも言えぬ満足感に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……す、凄かった。

 まさか、後ろの穴がこんなに気持ちいいだなんて」

 

 小一時間の休憩後、エルミアが零したのはそんな台詞だった。

 

「いや、はっきり言わせて貰うが君のが特別製なだけだ」

 

「そうかしら?

 だとしたら、私の知られざる素質が開花してしまったのね……」

 

 アンニュイな表情の聖女。

 この場合、その顔になるのは正しいのか?

 そんな疑問をよそに彼女はあっという間に笑顔を作って、

 

「ね、ヴィル。

 これからはアナルの方も、いっぱいジュポジュポにハめて頂戴ね♪」

 

「あれだけよがり狂った後で、よくそんなこと言えるな」

 

 まあ、ヤるけれども。

 たとえ多少拒まれたとしても、ヤるけれども。

 ヴィルにとっても、今日の体験はなかなかに強烈であった。

 

「いい塩梅にお尻も広がったから、次からはこのローション無しでもいけるかもしれないわね」

 

「まあ、毎回マジックアイテムを使うというのもどうかとは思うしな」

 

 少女の言葉に、何の気は無しに応える。

 他愛無い会話――だったのだが。

 

「……」

 

「どうした?」

 

 ふとエルミアを見ると、妙に真剣な顔をしている。

 じっと眺めているのは、件の“ポーション”だ。

 

「いえ、でも、これは、ひょっとして――」

 

「エルミア?」

 

 何かに気付いたように、ぶつぶつと呟く聖女。

 いったい何があったのか訝しんでいると、

 

「ちょ、ちょっと、イーファ?

 今、大丈夫?」

 

「なんですかー?

 エルミアさんにすりこぎぶち込まれたせいでお尻に違和感ある以外は平気ですけど」

 

 すりこぎ3本責めによる後遺症のため、休憩中だったイーファ(全裸)に声をかけた。

 エルミアはそのまま彼女ににじり寄ると、

 

「後ろはまだ辛いのね?

 でも大丈夫、用があるのは前の方だから」

 

「いやいや、前の方ならナニされてもいいなんて言ってませんよ?

 あの、聞いてますか――あうっ!?」

 

 聖女は何の躊躇もなく、魔女の股間へ手を伸ばした。

 イーファの言葉など欠片も聞いてはいないようだ。

 

「え、エルミアさんっ!?

 は、あ、あ、ああ、ああ、きゅ、急に、こんな、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!

 な、何で、え、ええ、ぇ、え、あ、ぁ、あ、あ、あ、あっ!?」

 

 クチャクチャと音を立てて、魔女を責める聖女。

 水音が激しいところを見るに、例の“ローション”を既に使っているようだ。

 

(なんだなんだ?)

 

 突然始まったプレイに、ヴィルも理解が追い付かない。

 というか、何が起きているかしっかり把握しているのはエルミアだけだろう。

 戸惑っている内にもイーファは責められ続け、

 

「はぅっ! あっ! あぅっ!?

 エルミア、さんっ――もうっ、あ、あ、あ、もうっ――い、イ、キ、そっ――ああっ!!」

 

 聖女のテクニックに、魔女はもうイク寸前の様子。

 そんな彼女をじっくりと観察していたエルミアは、

 

「そろそろ良さそうね」

 

 そう宣言した後。

 

「えいっ」

 

 指をイーファの股間に突っ込んだ。

 それだけ見れば何のことは無い(いや、あるか?)ことなのだが。

 今回、彼女が指を突き立てたのは女性器では無かった。

 

「……マジか」

 

 何が起きたかを認識して、ヴィルの口から思わずそんな単語が出る。

 

「――え?」

 

 遅れて、魔女が“そのこと”を自覚する。

 つまり――エルミアの指が、自分の尿道に(・・・)挿入された(・・・・・)ことを。

 

 普通、ありえない。

 尿道の太さから言って、人の指など入る筈もない。

 物理的に不可能だ。

 だが、<スリップローション>は驚異の性能でその不可能を可能にしたのである。

 

「……本当に入っちゃった。

 トンデモナイ効果ね、このローション」

 

 企てたエルミアですら、戦慄した表情を浮かべている。

 だがヤられた当人はそれどころではなく。

 

「あ、い、ぎ、がっ――――いぎぃぃぃぃぃいいいいいいっぁあああああああああああああああっ!!?!?!?!?!!」

 

 人の物とは思えない怪声が、イーファの喉から漏れ出た。

 部屋が震える程の絶叫。

 

「いっ!!? いっ!!? いっ!!? いっ!!? いっ!!?

 いぃぃぃぃいぁああああああああああああああああっ―――――――あ”」

 

 肺にある空気を全て使いきると魔女は意識を失い、その場に倒れた。

 一瞬で白目を剥き、口からは泡が吐かれ、幾条もの涙が流れ落ちている。

 さらに倒れた拍子でエルミアの指が抜かれると――大量の尿がそこから噴出した。

 

「な、なんという……」

 

 横から見ていたヴィルは、それしか呟けなかった。

 それ程まで、とんでもない惨状なのだ。

 まあ、尿道に異物を挿入される等という――しかも、挿入された異物は尿道より遥かに太い(・・・・・)のだ――そんな事態に陥れば、そりゃこうなるのも致し方ない。

 

「――――」

 

 被害者のイーファは、仰向けに倒れたままピクリとも動かなかった。

 呼吸はしっかりしているので、流石に命に別状はないだろうけれども。

 一方で加害者のエルミアは、

 

「<スリップローション>――なんて恐ろしいアイテム!」

 

 正に“お前が言うな”とツッコミが入ること間違いなしな台詞を吐きつつ、割かし満足げな表情を浮かべている。

 だがしかし、そこで彼女はハッとした表情を浮かべて――

 

「あっ!? まさか――まさか、コレを使えば乳腺に挿入する(・・・・・・・)こともでき、る――?」

 

「止めなさい」

 

 その野望を阻止するため、ヴィルは極太のすりこぎ(何故か表面に無数の突起が生えている)を聖女の尻穴にねじ込んだ。

 

「んほぉぉおおおおああああああああああああっ!!?!?!?!!?」

 

 こちらはこちらでなかなかの妖声を響かせつつ、そのまま倒れ伏せる。

 顔をはしたなく歪めて気絶している2人の美少女。

 その有様をまじまじ見つめてから――

 

(――このローション、危険アイテムに指定しとこう)

 

 ヴィルは<スリップローション>の使用禁止を心に決めたのであった。

 

 

 

 第10話 完



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 本当はエッチな冒険者生活
① 王都到着!


 

 

 長い旅路であった。

 行く先々でトラブルに巻き込まれたり、トラブルに顔を突っ込んだり、寄り道したり、回り道したり。

 そのほとんどが自分達の自業自得な気がしないでもないが、ともかく通常よりもはるかに長い時間をかけ、ヴィル達はようやく――本っ当にようやく、目的地へ辿り着いたのだった。

 

 はるばる訪れた王都。

 流石この国の中心というだけはあり、通りは整い人通りも多い。

 ざっと見渡しただけでも数え切れないほど建物が整然と並んでいるのを確認できる。

 これだけでも発展の度合いを推し量れるというものだ。

 

 この街でエルミアとイーファは他の『勇者の一団』メンバーと合流し、王都と謁見する。

 然る後に国民へ顔見せをし、魔王配下『四天王』との戦いに赴くのだ。

 そういう訳で、ヴィル達は早速王城へと――

 

「ごめん、それちょっと待った」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「どういうことなんだ?」

 

 ヴィルの詰問が響く。

 ここは王城――ではなく、その程近くにある高級宿の一室である。

 顔を並べる面子はヴィル一行に加えて――

 

「どうもこうも、まだ“王国”にゃオマエと会う余裕が無いんだよ」

 

 ――神獣の村で出会った少女ラティナが居た。

 彼女はあの事件の事後処理を行うため一足先に王都へ向かったのだが、“王国”側からのメッセンジャーとしてこちらに向かわされたらしい。

 

「いや、会うのは俺ではなくてエルミア達なのだが」

 

「そんな戯言今更通じるとでも思ってんのか!?

 “帝国”の将軍迎え入れるのには、こっちだって相応の準備が必要なんだ!」

 

「理屈は分かるが、それなら俺のことはただの旅人として扱ってくれてもいいのに」

 

「オマエが正体バラさなけりゃ、そうしてやるつもりだったとも」

 

「……それは悪かった」

 

 素直に頭を下げる。

 もっとも、ヴィルとしてもこうなる可能性を考えていなかった訳ではない。

 他国の重鎮が来たとして、それを知らぬ存ぜぬで済ますことは自分でも無理だ。

 

「しかも、その将軍様は、王国(うち)最大機密(神獣)に触れた上にそいつの悪事を暴いた挙句、討伐までしてくれちゃって……

 今、“上”がどれだけ混乱してるか分かるか?」

 

「その件に関しては何度も謝ったじゃないか」

 

「ボクに謝られたところでどうにもならないし」

 

「なんなら本来の立場から“口添え”してもいいが」

 

「本気で止めてくれ。

 下手すると王国上層部の顔ぶれが変わる」

 

 神獣の件はそれ程にデリケートな問題のようだ。

 王国のみならず教会も巻き込んでの不祥事なのだから、当然のことでもある。

 当事者全員が口封じ(・・・)されてもおかしくなかった。

 だからこそ、ヴィルは自分の正体を明かしたのである。

 責任の所在を明確にするだけでなく、“上層部”への牽制も兼ねていたのだ。

 

 “王国”からしてみれば、ヴィルは厄介人ではあるがかといって下手な干渉はできないという、迷惑極まりない存在となっているのだろう。

 

「とりあえず、だ。

 色々言ってしまったが、こちらとしても“王国”を刺激するつもりは微塵も無い。

 そちら側に意向には最大限従おう。

 遠慮なく言ってくれ」

 

「そうして貰えると助かるな。

 じゃあとりあえず、向こう1週間くらいは王都で適当に過ごしててくれ。

 オマエの立場がバレると無用に混乱が起きちゃうから、滞在はあくまで一旅人としてだぞ。

 あと王との面会もあるから、それ用の服はちゃんと用意しとけ?」

 

「……遠慮、無さすぎやしないだろうか」

 

 こちらが譲歩しようとした途端これである。

 舌の根乾かない内ではあるが、ちょっと如何なものか。

 

「その図太さがあれば、俺との面会なんてさくっと済ませられそうなものだが」

 

「バカだなぁ。

 失礼なこと言いつけてオマエの不興かってクビ飛ばされるのを“上”の連中が怖がったから、本来は下っ端のボクが遣わされてるんじゃないか」

 

「……なるほど」

 

 実に説明的な台詞だった。

 一応、理不尽なような筋が通っているような。

 しかし王都滞在中は一般人を装い、王城に入る時は本来の立場になれとは、手前勝手な話ではある。

 とはいえヴィルはヴィルで勝手に神獣の件を押し進めてしまったため、文句を言える筋合いも無いかもしれなかった。

 

「分かった分かった。

 別に無茶なこと頼まれている訳でも無いしな、言いつけはしっかり守ろう。

 確認だが、正体さえ明かさなければ好きにしていていいんだな?」

 

「ああ、それで構わないよ。

 言ってくれれば色々便宜だって図ってやるぞ」

 

「考えておこう」

 

 正直なところ、面倒なのでこれ以上“王国”へ借りも貸しも作りたくはないのだが。

 ヴィルの話が一段落したところで、赤髪の魔女イーファが口を開いた。

 

「結局、王都に来てもしばらくはいつもと変わらない感じですねー」

 

「何言ってんだ、オマエ」

 

「え?」

 

 その台詞を、ラティナが遮ってくる。

 

「オマエもエルミアも、しばらくはこっち手伝ってもらうぞ。

 必要な書類がまだまだあるんだ」

 

「え? え? うそうそ、報告書とか山ほど書かされましたけど!?」

 

「――はんっ!」

 

「鼻で笑われた!?」

 

「素人が1日2日で書き上げられる量の文書で、この案件が収まる訳ないだろ!!

 神獣舐めんなバカ!!

 あと査問会にも証人として出席してもらうからな!!」

 

「えええ!?」

 

「被告人として呼ばれないだけマシだと思え」

 

「そ、そんなー!?

 て、ていうか、アタシ一応“魔女”なんですけど!?

 “勇者の一団”の儀礼とかはどうなってるんですか!?」

 

「そんなもん後回しだ後回し!」

 

「お、おお――」

 

 自分の立場を“そんなもの”扱いされ、がっくりと膝をつくイーファ。

 なかなか大変だとは思うが、乗りかかった船なので何とか頑張って欲しい。

 

 だがそうなってくると――

 

「向こう1週間、エルミアとも会いづらくなるな」

 

「そうですね。

 しかし、こればかりは仕方がありません」

 

 残念そうに目を伏せる銀髪の聖女。

 互いに、王都についたらハメを外すつもりでいたので(正確にはハメまくるつもりだった訳だが)、ヴィルとしても無念でならない。

 

「その代わり、時間がとれた際には十分に可愛がって下さいね?」

 

「ああ、勿論だ」

 

 言って、口づけを交わす。

 少女の柔らかい唇が実に心地よい。

 この場で“その先”までしたくなる気持ちを、ぐっと抑える。

 

「……やっぱり先生にとってエルミアさんは別枠なんですね」

 

「……見ててムカつくな、アイツら」

 

 こんな声が聞こえてきたこともあるし。

 ヴィルは軽く咳払いをすると、若干不自然感を拭えない口調で無理やりな話題転換を試みる。

 

「あー、そうそう。

 先程便宜を図って貰えると聞いたが、早速一つ頼んでもいいだろうか――」

 

 

 

 

 

 

 打合せが終わってから、小一時間程が過ぎ。

 ヴィルは今、王都の通りを一人歩いていた。

 

(……なんだか新鮮な気分もするな)

 

 エルミアと出会ってからこちら、基本的に行動は彼女と一緒だった。

 異国の地で一人気ままに動く――というのは、かなり久々な体験だ。

 

(思えば、それも目的の一つだったんだ)

 

 あの美しい少女と共に居ることに全く持って不自由など感じていないが、それでもこの“自由への高揚感”“未知への期待感”の味わいは筆舌に尽くしがたい。

 見るもの聞くものが、全て興味深く感じる感覚。

 そんな、どこか少年じみた興奮を胸に青年は道を進み、

 

「……ここか」

 

 目的の場所へと辿り着いた。

 都の中でも、一際目立つ巨大な建物。

 

「<冒険者ギルド>……!」

 

 思わず、その名前を呟いてしまう。

 そう、この場所こそが王都の――いや、“王国”の名物とすら言える、<冒険者ギルド>の本拠地なのだ。

 

 

 冒険者とは、ギルドを通じた依頼で様々な仕事を果たす職業人のこと、らしい(・・・)

 その職務は魔物退治から隊商の護衛、果ては遺跡探索と多岐に渡る。

 仕事柄、関所を自由に通れる権限まで与えられることがあるそうだ。

 まさしく“冒険”をするための職だ。

 

 “帝国”にはそのような職業は無い。

 魔物退治や隊商の護衛は兵士や傭兵の仕事であり、遺跡の探索は国の管理下で行われる。

 

 故に、ヴィルは昔から関心を持っていた。

 <冒険者>とはどのようなシステムなのか。

 もっとはっきり言えば、自分も冒険者になってみたいという想いもあった。

 彼の立場上、有り得ない話だったが。

 

(それが、こんな形で叶うとはな)

 

 懐から一枚の羊皮紙を取り出す。

 ヴィルの正体が表沙汰にならぬよう取り計らいつつ、彼を<冒険者>へ登録する旨が書かれた、ギルドへの紹介状だ。

 ……形式は紹介状であっても、その実態は半ば指令書のようなものだったりするが。

 言うまでも無く、ラティナに頼んで用意した貰った品である。

 これがあれば、やたらとややこしい地位にある彼であっても<冒険者>となることができる、という塩梅だ。

 

 正体を黙ったまま登録してしまうという手段もあるにはあるが、それは自分の立場をより複雑にする上、周囲にも多大な迷惑を振り撒きかねない諸刃の剣。

 そのため今回は素直に公的権力へ頼った次第である。

 通さねばならない筋はしっかり通しておかないと、関係者が皆不幸になってしまう。

 

(ま、とは言っても俺が冒険者をやれるのはたかだか一週間。

 その間で何か大事を起こすということも無かろうが)

 

 それでも、冒険者としての生活の一端は経験できよう。

 心なし高まる鼓動と共に、ヴィルはギルドの扉を開いた――!

 

 

 

 

 

 

 一方。

 こちらは宿に残った3人。

 

「……ま、実際のとこ、ズィーガに関してはそんな面倒にはなってないんだけどなー」

 

 ぽつり、とラティナが呟いた。

 ヴィルが宿から十二分に離れたことは確認した上での発言だ。

 

「神獣の悪事を暴いた功績はあくまで聖女エルミアと魔女イーファが成し遂げた、と報告しといたのが良かった。

 『若き英雄』を最大限喧伝することで、周りからの批判を上手く逸らしたんだよ。

 帝国のでっかい後ろ盾がオマエらにあるってのも大きかった」

 

「えーっ、そうだったんですか!?

 だったら、何であんなこと言ったんです?」

 

 疑問符を浮かべるイーファへ、ラティナが説明を続ける。

 

「要するに、欲しくなったのさ。

 “帝国”最強――いや、世界最強の英雄とのコネ(・・)が」

 

「コネ、ですか」

 

「そ、コネ。

 アイツが“王国”に現れた時点で、これを機にコンタクトしようという話はあったんだが、立場が立場な上に目的も不明だったんで結局静観しかしてこなかったんだ。

 触らぬ神に祟りなしってな。

 ところがどっこい、アイツが本当に神に匹敵する戦力を個人で(・・・)所有していることが分かったから、さぁ大変。

 “教会”と“学院”の後に続けってなもんで、“上”が積極的に動き出したのさ」

 

「……あー、“教会”と“学院”ってのは、エルミアさんとアタシのことですかね」

 

「そりゃもちろん。

 上手くやったな、オマエの爺さんは。

 教会の方は嬉しい誤算って感じか。

 どっちのお偉い方も、口ではアレコレ言いつつ頬が綻んでたよ」

 

「そういう言い方をされると複雑ですね」

 

「祝福されてるんだからいいだろ。

 多分、オマエの交際は“賢者の学院”が全力でサポートしてくれるぞ」

 

「うーん――反対されるよりかはマシだと受け取っておきます」

 

 イーファにしてみれば、ヴィルへの想いは純粋な好意であるため、打算的に利用されることには抵抗がある。

 事と次第によっては妨害される可能性も十分有った訳なので、現状は決して悪く無いのだが――それで納得できる程、単純な乙女心はしていないのだ。

 

「まあとりあえず、それは横に置いときまして。

 先生とのコネを作るといっても、どうやるつもりなんです?」

 

「そりゃ決まってんだろ。

 かの将軍は女と見れば誰彼構わず手を出す好色男なんだから、さ」

 

「……あの。

 それってもしかして。

 いや、もしかしなくても」

 

「ああ――色仕掛けだ」

 

 断言しやがった。

 

「も、もう少し言い方というものが。

 いやいや、でもそんな、先生に限ってそういうのに引っかかるなんて――」

 

「無いと思うか?」

 

「――あ、ありえそう、かも」

 

 基本的に信頼できる人物ではあるが、こと女性関連については割とだらしない――ような気がする。

 仮にも恋人がいる身だというのに、結構簡単に他の女性へ手を出してしまうというか。

 ……ほとんどケースで、その恋人であるエルミア自身が扇動しているようではあるが。

 

「あっ!! それじゃあ、アタシ達を先生から引き離したのは!?」

 

「ようやく気付いたのか。

 そうさ、“上”が集めた女共がアイツを垂らし込みやすくするためだよ」

 

「ずるくないですか、それー!?」

 

「ボクも思う所が無いわけじゃないけど、決まっちゃったことだからなぁ。

 ま、ずるい云々で言うなら、ただ“より早く出会っただけ”で正妻の座を射止めたってのも、十分不公平な話だと思わないか?」

 

「む、むむむ」

 

 筋は通っていない。

 滅茶苦茶言ってると思う。

 しかし言い返せなかったのは――イーファ自身、“出会う順が逆であればひょっとしたら自分が”、という想いを心のどこかに抱いているのかもしれなかった。

 

「で、でもでもでも!!

 そんなのっておかしいですよ!!

 エルミアさんだってそう思うでしょう!?」

 

「いえ、別に」

 

「え!?」

 

 賛同して貰おうと聖女の方へ話をふったのだが、その試みはあっさりと崩れ去った。

 

「っていうか、この計画を提案したの私だし」

 

「ええっ!?」

 

 その上、エルミアの口調がやたらフランクなものに変わっている。

 共に旅する中で何度も出会った、性女としての彼女だ。

 

「ふふふ、上手い具合に話が転がれば“王国”の綺麗どころを簡単に集められるんじゃないかって思ったんだけどね。

 聞いた話じゃ、実際なかなかな上玉が揃ったとかなんとか。

 ヴィルがその内の何人をモノにしてくるのか――今から愉しみでならないわ」

 

「えええっ!!?」

 

 何言ってんだこの人。

 頭は大丈夫なんだろうか、いや駄目か。

 

「そ、そんなことして、もし万一、先生が本気になっちゃったりしたらどうするんですか!?」

 

「その時は――」

 

 うっすらと微笑みを浮かべるエルミア。

 同性であるイーファですら、ぞくぞくさせる程の(・・・・・・・・・)色気を放つ笑みだ。

 

「――その“お相手”を堕としてしまえばいいのよ」

 

「おおぉおおおいっ!?」

 

 手をワキワキとしながら語るその貌は、性女の名に恥じぬ逸品であった。

 ……聖女の名は地の底にまで堕ちる代物でもある。

 

「アタシ、今までエルミアさんのことを“ちょっと頭おかしいけど実はすごい人”だと思ってたんですけど。

 実際は“ぱっと見なんだか凄いんだけど頭が半端なくおかしい人”だったんですね!?」

 

「――――」

 

 その言葉に、聖女の表情が一瞬だけ固まった。

 だがすぐに動き出すと不自然な程にこやかな笑顔を作り、

 

「ああ、ところでイーファ。

 長旅で大分疲労も溜まっているでしょう?

 せっかく目的の王都に着いた訳だし、今日はたっぷり私が癒してあ・げ・る・わ♪」

 

「え? な、なんですか? なんでエルミアさん、指を艶めかしく動かしながら迫ってくるんですか!?

 だ、大丈夫ですよ、アタシ、全然疲れてなんかいませんから!! ぴんぴんしてますから!!

 え、や、やめ、やめてっ――あっ、ちょっと――にゃぁああああああああっ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 ……と、まあそんな感じで。

 『ドキッ! お色気まみれなヴィルの冒険者生活! パコパコもあるよ!』計画がスタートしたのであった!!

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

② 冒険者になりました

 

 

 ギルドの門をくぐって数十分。

 

「はぁい、登録完了ー」

 

「へ、もう?」

 

 簡単な手続きと質疑応答で冒険者になれてしまった。

 様々な審査が課されるものと身構えていたのだが、拍子抜けしてしまう程の手軽さだ。

 

「アハハ、驚いた?」

 

 そんなこちらの心情を察したのか、受付嬢が笑いかけてきた。

 茶色の髪をボブカットに整えた、人懐こい雰囲気を振り撒く女性だ。

 可愛らしい顔立ちで言動も若々しいが、年齢はエルミアより数個上に見える。

 

「多いんだよねー、君みたいな反応する人。

 冒険者になるために、凄い鍛錬してきた人とか、猛勉強してきた人とか。

 早とちりして、ここで剣技とか披露する人もいたり。

 そういう人達に登録の仕方を教えると、だいたい君のような顔します」

 

「そりゃあ、まあそうだろう。

 冒険者は様々な活動に従事するのだから、それ相応の試験があって然るべきなのではないか?」

 

「最初からアレコレ色んな依頼なんて受けられないよ?

 駆け出しの冒険者に紹介するのは簡単な依頼だけです。

 誰でもできそうで、ついでに失敗しても本人以外に(・・・・・)被害は出ないような、簡単な依頼」

 

「……そういうことか」

 

 合点がいった。

 冒険者ギルドは幅広く人材を集め、その中で抜きんでた者だけを重用する方針のようだ。

 

「ということは、冒険者になってもギルドから大した援助は受けられない?」

 

「まあねー。

 低ランクの冒険者へはギルド側からの干渉はほとんどありません。

 依頼の仲介と、最低限の身分保障だけ」

 

「ふむふむ」

 

「その代わり、“難しい”依頼を受けられる程ちゃんと実績積んだ人には色々特典がつくよ?

 アイテムもちょこちょこ割引になるし、一般には立ち入り禁止になっているエリアにも入れるようになったり。

 本人が望めば、きちんとした(・・・・・・)就職先を斡旋したりも」

 

「なるほどな」

 

 とにもかくにも、実力次第ということか。

 ヴィル的に好みなシステムである。

 受付嬢はコロコロ笑いながらこちらを覗き込み、

 

「登録の時、渡した木製のメダルがあるでしょ?

 あれは冒険者であることの証明証であると同時に、その人のランクも表してるの。

 最初は鉄。

 そっから銅、銀、金、白金って順に上がってく感じ。

 あ、だからメダルは無くさないようにしてね。

 再発行はできるけど、場合によってはランク下げられちゃうことあるから」

 

 余談だが、“王国”は鉄の産出量が多く、冶金技術の発達にも力を入れていることから、鉄より銅の方が価値が高いそうである。

 いや本当に余談以外の何物でもない話だが。

 

「了解した。

 それと、依頼はどうやって受けるんだ?」

 

「そっちの掲示板に張り出されているから、ランクに見合ったのを選んで受付に申告して。

 あ、報酬を依頼人から直接受け取るのも厳禁だからね? ちゃんとギルドを通すこと」

 

「分かった」

 

「それと、依頼はパーティーを組んで臨んだ方がいいよ。

 まあ、鉄クラスの依頼は一人でもできる奴が多いけど、早めに信頼できる仲間を見つけておいた方が将来的には有利だからね。

 仲間募集用の掲示板があるからそれを利用してもいいし、自分で交渉してもいいし」

 

「ほうほう」

 

 凡その説明はそれで終わったようだ。

 ヴィルは最後に受付嬢へ一礼してから、その場を立ち去る。

 

(しかし――立場(・・)を知られたからにはもっと仰々しく迎えられると思っていたが、普通に接してくれたな)

 

 そういうところも含めて“上”からの指示なのか、或いはこの受付嬢がそんな気質の持ち主なのか。

 どちらにせよ、有難い事である。

 あれこれ身構えられると窮屈で仕方が無いのだ――そう考えることは、傲慢と蔑まれるかもしれないが。

 

 ともあれ、これなら気兼ねなく一時の冒険者ライフを堪能できそうだと、若干心躍らせてヴィルは依頼が張り付けてあるという掲示板へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 その一方。

 

「……あの人、近い将来間違いなく上級ランクの冒険者になるね、うん」

 

 受付嬢のニーナは、今さっき立ち去った青年の後ろ姿を追いながら、そう呟いた。

 

(達人なオーラをビンビン発してたもんねぇ。

 佇まいも隙が無い感じだったし――田舎の方で武術を学んでいたと見た!

 あと受け答えから結構教養がありそうな感じだったのも高ポイント……!)

 

 さらに心の中で台詞を続ける。

 彼女は冒険者ギルド受付として幾人もの冒険者志願な人々を見てきたが、今の青年はその中でも飛び切り逸材だった。

 志願すれば誰もが冒険者になれる昨今、律儀に不必要な(・・・・)紹介状(・・・)まで用意してきたところも好感が持てる。

 

(顔もいい感じにイケメンだったし――目つきが鋭すぎるのがちょい気になるけど。

 今のうちに唾つけとこうかな?)

 

 絶賛、花の独身である。

 仕事柄出会いに恵まれてはいるものの、巡りが悪くなかなか“そういう仲”に発展することが無かったのだ。

 

(冒険者は冒険者同士でくっつくことが多くてねぇ。

 彼を狙うなら、今度はガンガンアタックかけてかなきゃ)

 

 過去の失敗を思い返し、戦略を練る。

 こういうのはスピード勝負だ。

 男が他の女の子に目移りするより先に、心を射止める必要がある。

 既成事実を作っても良い。

 

(……とはいえ)

 

 そこで、意識がふと現実に返った。

 “ギルド長”に命じられたことを想いだし、げんなりした気分になる。

 人目も気にせず、大きくため息を吐く。

 

(“帝国”のお偉い様に接待しろって?

 何それ? 受付がやる仕事ですか?)

 

 何でもお隣の国から重鎮がお忍びで来訪したそうだ。

 しかも、余興として冒険者の真似事までご所望らしい。

 ニーナはその男が気分良く(・・・・)滞在できるよう取り計らうことを、ギルドの長から命じられていた。

 

(女好きが高じて国を出奔した将軍でしょ。

 どうせ、髭面の親父か禿げ面の親父か、その両方の可能性も……!!

 あーやだやだ、相手したくない相手したくない!)

 

 最悪、一夜を共にすることも想定される。

 穢れてしまうだの嘆く身の上でもないが、だからといって嫌悪感が湧かない筈も無い。

 相手の身分が身分なだけに、相応以上の報酬(ボーナス)が約束されているものの――

 

(だったら、そういうアレに抵抗ない子を選んでよ!

 なんでわたしがやんなくちゃいけないの!

 いや確かに目が飛び出る程の金額見せられちゃったけど!)

 

 選別理由は、このギルドで働いている女性の中で一番見た目が良い+独身なので“ナニか”があっても大丈夫、という喜んでいいのかどうか微妙なものだった。

 しかし、他国のVIP絡みとなれば断るのも難しい。

 場合によっては今後の生活に大きな影響が出る。

 あとはまあ――お金の誘惑がなかなか跳ね除け難いものであったことも確かだ。

 

(……ふー、涙が出そう)

 

 再度大きなため息。

 最終的に引き受けてしまった自分が悪いとはいえ、そう簡単に心の整理は付けられない。

 どうにか迷いを振り払うように大きく背伸びをしてから。

 

「ま、一時の我慢だよ、我慢!

 ボーナス出たら豪遊しよー!」

 

 パンパンっと頬を叩いて覚悟を決める。

 

「さぁて、将軍様はいつ来るかな?

 そろそろって話だけど――」

 

 ――ちなみに。

 青年から渡された“紹介状”は必要が無いので(・・・・・・・)適当に引き出しへ仕舞い込んでいた。

 その中身が開かれるのは、当分先のこととなる。

 

 そんな訳で、ニーナは気合いを入れた顔のまま、来ることは無い“将軍”を待ち続けるのであった。

 ……実は割とぽんこつな子である。

 

 

 

 

 

 

 そのような事情が展開しているとは露も知らず、ヴィルは依頼掲示板を眺めていた。

 

「……溝掃除にネズミ退治、薬草採取にイノシシ狩りか。

 流石は駆け出しに渡す依頼だ、凄いラインナップだな」

 

 確かに初心者にうってつけの内容だ――狂暴な野生動物は下手な魔物より危険なこともあるので一概には言えないが。

 ともあれ、大分初心者からかけ離れた実力を持つ彼にとっては少々退屈な代物でもある。

 

(1週間これだけをやり続けるというのもなぁ)

 

 なんというか、新鮮味が無い。

 できれば冒険者ならではの依頼というのを体験してみたいのだが、弱い魔物を討伐するものですら銅クラスが必要という有様。

 “上”に再度便宜を図って貰えばどうとでもなるのだろうけれど、流石にそう何度も頼るのは気が引ける。

 

「……とりあえず、ここに貼ってある依頼を全部片づけてみるか。

 ひょっとするとすぐに銅クラスへ上がれるかもしれない」

 

 無論、一日で終わらせるつもりだ。

 無茶苦茶な選択だが、実行するだけのポテンシャルがヴィルにはある。

 もっともそんなことをすれば他の鉄クラス冒険者達の受ける依頼が無くなりかねないが――

 

(薬草採取とか、途絶えようのない依頼もあるから大丈夫だろう)

 

 ――そんな理論武装をしてしまった。

 彼は本気だ。

 残念ながら止める人は周りに居ない。

 早速やってみるかと、受付へ戻ろうとしたところで、

 

「なあ、アンタ!」

 

「む?」

 

 後ろから声をかけられた。

 振り返れば、そこには一人の男性が――

 

(ん? いや、女性か?)

 

 ――性別が判断しにくい、中性的な顔立ちの人物が居た。

 短めに切られた(セミショートの)金髪が印象的。

 

「俺に何か用だろうか?」

 

「ああそうさ、アンタに用があるのさ」

 

 その青年――便宜上、こう呼ばせて貰う――は、なんとも快活な笑みを浮かべて首肯した。

 

「アンタ、ついさっき登録を済ませたペーペー(・・・・)だろ。

 だが腕に自信あるせいで鉄の依頼じゃ満足できない――違うか?」

 

「……まあ、そうだ」

 

 改めて他人から指摘されると、己の傲慢さが浮き彫りになったように感じてなんとも気恥ずかしい。

 ヴィルは軽く頭を下げると、

 

「いや、すまない。

 少々気が逸っていたようだ。

 こんなことに不満を抱くようでは、この先思いやられるな」

 

「いいさいいさ、アンタが凄腕の剣士だってーのは佇まいだけでよく分かるさ。

 別にオレ様はアンタを咎めようと思って声かけた訳じゃない」

 

(……オレ様?)

 

 なんだか凄い一人称を使う人だった。

 なおのこと性別が行方不明だ。

 改めて見れば顔は実に整っており身体付きも華奢なのだが、背は高いし雰囲気も男らしい頼もしさがある。

 それと胸もなだらかで――いや、流石にこれは性別がどちらであっても失礼極まりないので、言及はよそう。

 

「実はオレ様のパーティーメンバーに一人体調崩した奴がいてな」

 

 青年は言葉を続ける。

 

「仲間が欠けてる状態じゃ依頼を受けるのは心もとないんだが――間が悪いことにちょうど金欠でさ。

 その間何の仕事もしないって訳にもいかないんだ。

 だから、補充要員を探していたって訳さ」

 

「ほう――つまり俺は君のお眼鏡に叶ったと?

 しかしいいのか、初対面の相手をそう簡単に勧誘して」

 

 実力も人柄も分かっていない人間を簡単に誘うものだろうか。

 そんな疑問をぶつけたのだが、青年は自身ありげな表情を崩すことは無く。

 

「これでも人を見る目はあるつもりさ。

 気付いてないのか? この今ギルドに居る腕利きの冒険者連中、さっきからずっとアンタを興味津々に見定めてるんだぜ?」

 

「むむ」

 

 自分に視線が集まっていることに一応自覚はあった。

 単に新人に対する興味だとばかり思っていたが。

 

「そもそも、最初パーティーを組むときは誰だって初対面同士なんだからな。

 気にしたって仕方ない」

 

「……それもそうか」

 

 気にし過ぎては、冒険者などやっていられない、ということだろう。

 

「で、どうする?

 オレ様は銀の冒険者だ、アンタが求めてる依頼を提供できると思うぜ。

 互いにメリットのある話じゃないか?」

 

「ふむ」

 

 正直、願ったりかなったりな提案だった。

 都合が良すぎて裏を疑ってしまうくらいに。

 

「幾つか質問がある。

 まず、知っての通り俺は鉄クラスな訳だが、銀の君とパーティーを組んでも問題ないのか?」

 

「それは問題ない。

 受けられる依頼は、メンバーで一番高いランクを基準にするんだ。

 極端な話、金クラスが一人で他は鉄のパーティーでも、金専用の依頼が受けられるのさ。

 ま、金クラスまで上がれる人間がそんな判断することは無いだろうけどな」

 

「そうだったのか」

 

 こういうところにも、パーティーを組むメリットが存在したらしい。

 

「二つ目の質問。

 その欠員メンバーが戻って来たら、俺の扱いはどうなる?」

 

「あー、そこはアンタの働き次第だ。

 碌に役に立たなきゃ抜けて貰うし、動きが良けりゃこっちから正式なパーティー入りを頼むさ。

 逆にそっちの都合が悪くなったらいつ抜けてくれても構わない。

 一言相談は欲しいけどさ」

 

 あくまで臨時のバイトということのようだ。

 これは有難い。

 期間限定の冒険者なので、長期間拘束されると困ってしまう。

 

「最後の質問。

 君の名前は?」

 

「それが出るってことは承諾したってことだな?

 オレ様はクリスさ。アンタは?」

 

「ヴィルだ。

 どの程度の付き合いになるかは分からないが、しばらく厄介になる」

 

 言って、軽く握手を交わす。

 クリスは満足げに微笑むと、

 

「詳しいところは明日打合せしようか。

 今日はこっちのメンバーもオレ様しか来てないしさ。

 それに――そっちにだって準備は必要だろ?」

 

「ん?」

 

「まさかそんな格好(・・・・・)で冒険に出るつもりじゃないだろ、てことさ」

 

「あー……」

 

 言われてみれば、ヴィルの装備は完全に旅人仕様。

 鎧の一つもつけてはいない。

 

「なんなら、いい店紹介してやるけど」

 

「お言葉に甘えさせて貰おう――まだ王都に来て間が無くてな。

 ついでに、冒険に必要なアイテムの類も教えてくれると助かる」

 

「構わないさ。

 そんじゃ、この後ちょっと店巡りでもするか?

 ただ、資金の方はそっちでなんとかしてくれよ。

 言っただろ、金欠だってさ」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 そんな風に会話を締めくくると、ヴィルとクリスは冒険者ギルドを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 2人が立ち去ってから少しして。

 

「どこ? ねぇ? どこ?

 将軍様、いったいどこにいるの?」

 

「冒険者ギルドに向かったという話でしたが――どこにもおられませんねぇ」

 

「ひょっとして、入れ違いになったのでは?」

 

 ギルドの館内をあたふたした様子で周る女性達が居たのだが、それはヴィルの与り知らぬことである。

 

 

 

 『ドキッ! お色気まみれなヴィルの冒険者生活! パコパコもあるよ!』計画は、早くも暗礁に乗り上げかけていた……!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

③ まずは装備を整えて(H)

 

「ここがその“おすすめ”さ!」

 

「ほほう……意外と、こじんまりとしたところなんだな」

 

 クリスに案内され、ヴィルはとある商店へと辿り着いた。

 ここだけで様々なアイテムが揃う、という謳い文句を聞かされていたため、さぞ大きな商会なのだろうと考えていたのだが。

 実際は、想像より少々――いやかなり小さめのお店だった。

 

「ちっちっち、外見だけで判断しちゃいけないぜ?

 ここの店長、目利きな上にコネも広くてさぁ。

 色んなルート使って、上質なアイテム揃えてんだよ」

 

「なるほど。隠れた名店という訳か」

 

「そゆこと。

 しかも喜べ、この店にはさらなるお得ポイントがある!」

 

「むむ、それはいったい?」

 

「それはだな――最近入った店員さんが、凄い美人だということさ!」

 

 胸を張って言い切られた。

 

「……いやあの」

 

「なんだよ!?

 男なら歓声あげるところだぞ、ここは!

 綺麗な女性がいれば、それだけでテンション上がるだろう!!」

 

「それはまあ、そうかもしれないが」

 

 今更言うまでもないが、ヴィルとて美人は好きだ。

 ただやはり、物事には流れというものがある。

 気持ちが冒険へ大きく傾いていたところなので、ちょっとそっち方面への反応が鈍くなったのだ。

 

「ふん、いいさ、実物を見ればそんなクールぶった態度ではいられないだろうさ。

 ククク、恥ずかしがらずに鼻の下伸ばしてもいいんだぞ?」

 

「……期待させて貰おう」

 

 とりあえず頷いておくことにした。

 そのまま妙にハイテンションなクリスに促され、ヴィルは店の扉を潜る。

 

 

 

 ――果たして。

 確かに、件の店員は美人であった。

 

「あら、ヴィルさん?」

 

「おーう」

 

 というか、思いっきり知人だった。

 

「セリーヌ? 何故こんなところに」

 

 セリーヌは、王都への旅の最中に出会った未亡人だ。

 長く綺麗な黒髪を携え、泣きホクロが艶っぽいこの妙齢の女性は、なるほど、美人と形容するに相応しい容貌をしている。

 グラマラスなスタイルは、長袖シャツにロングスカートという露出の少ない服の上からでも色気を醸し出していた。

 しかし彼女は確か、ここから程遠い町で暮らしている筈だが……?

 

「何時までも実家の世話になっている訳にもいきませんし。

 伯父の一人が王都で店を構えていましたので、そこで働かせて頂くことにしましたの」

 

「……へー」

 

 世間は狭かった。

 想像以上に狭かった。

 思いがけない展開に頭が追いついていないヴィルへ、クリスがニヤつきながらポンポンと肘でつついてくる。

 

「なんだよ、知り合いだったのかよー。

 いいなー、何をやったらこんな美人さんとお近づきになれるのさ?」

 

 ナニをやりました――等とジョークを言える筈も無く。

 こちらが返答できない一方で、セリーヌはクリスへ上品な笑みを浮かべ、

 

「あらやだ、お上手ですこと」

 

「いやいや、お世辞じゃないよ?

 セリーヌが美女だってのは、ここ利用してる冒険者連中皆が思ってることさ」

 

「それを言ったら、クリスさんだってお綺麗ではないですか。

 熱い視線を送っている殿方も多くいると聞いていますよ?」

 

「……いやそれ、普通にぞっとしない話なんだけど」

 

 本気で嫌そうな顔だった。

 確かにセリーヌの言う通り、クリスもなかなか整った容貌をしている。

 この青年が女性ならば、だが。

 

(どっちなんだろう?)

 

 再度疑問が顔を覗かせてくるが、別段今聞くことでもあるまい。

 まずは冒険に向けて必要品を手に入れておかなければ。

 

「じゃあ早速だがクリス、装備やアイテムを選びたいので助言を頼む」

 

「お、任せとけ!」

 

 青年のアドバイスを受けながら、店内を見て回る。

 戦闘にも携わるという点は同じなものの、やはり軍人と冒険者では価値観が大きく異なっていた。

 クリスの意見には新鮮なものが多く、

 

「武器は短めのヤツを選んどいた方がいいぞ。

 洞窟にせよ遺跡にせよ、狭い空間で戦うことが多いからさ。

 初心者はリーチ長い武器の方が相手と距離取れるからいいんだけど、アンタは違うだろ?」

 

「む」

 

 ちなみにヴィルが軍隊に居た頃、愛用していたのは大剣(グレートソード)である。

 

「荷物袋は収納性を吟味しないとな。

 冒険中に持ち歩ける量は限られてるんだし。

 あとポーションは大抵ガラス瓶に入れられてるから、瓶が割れないよう一つ一つ固定できるタイプがいい」

 

「むむ」

 

 これまでの旅路、備品は適当に大袋へ投げ込んで済ませていた。

 

「鎧は皮鎧一択さ。

 金属鎧はとにかくうるさい。

 音で余計な魔物を引き寄せちまう。

 それに、多少は財布に優しいからな」

 

「むむむ」

 

 なお、ヴィルは全身金属鎧(プレートアーマー)を好んで使用している。

 

 ――こんな塩梅である。

 自分の好みで選んでいたら、大変な装備になっていたかもしれない。

 

(いや流石にプレートアーマーは買わなかったぞ!?)

 

 しかし動きやすい金属鎧(・・・)を選んでいた可能性は高い。

 やはり熟練の冒険者について来て貰って正解だった。

 そんな風にアレコレ物色していると、

 

「……ん?

 ここでは服の注文もできるのか?」

 

「ええ、そうですわ。

 こちらで採寸して、専属の職人さんに作って頂いてますの。

 服だけではなく、鎧のオーダーメイドも受け付けていますわ」

 

 何気ない質問に、セリーヌが商売っ気たっぷりに答えてくれる。

 

(……ここで王との面会用の服を調達するか)

 

 サンプルとして陳列されている衣装は、高い品質であることが伺える出来栄え。

 この分なら王宮での使用にも十分耐えうる服を用意してくれるだろう。

 

「では一つ、頼んでもいいだろうか」

 

「はい、承りますわ」

 

 にっこりと笑って請け負ってくれた。

 

 

 

 場所を移して。

 

「――あらあら、それで冒険者に登録したのですね」

 

「まあ、そんなところかな」

 

 ここは商店内の個室。

 採寸はこの部屋で行われるとのことだ。

 実際、ヴィルは今セリーヌに身体のあちこちの長さを測って貰っている。

 

「ところで疑問に思っていたのですけれど」

 

「ん? なんだ?」

 

 手を動かし続けながら、未亡人な店員が質問を振ってきた。

 こちらの店で働き出したのはつい最近と聞いたが、実に慣れた手つきだ。

 元々経験あったのかもしれない。

 

「ヴィルさん達が出発してから大分遅れて王都を目指したのですが、何故(わたくし)の方が先に王都に着いていたのでしょう?」

 

「……色々、あったんだ」

 

 神獣ズィーガの件は伏せてある。

 守護騎士として聖女護送の任が一段落したので、後学のため休暇を利用した冒険者の業務体験をしている、とだけ伝えた。

 まあ嘘はあまり混じっていない。

 

「それと、もう一ついいですかしら?」

 

「うん?」

 

 一瞬、セリーヌの手が止まる。

 

「本当に――(わたくし)がここへ来た理由が、実家離れのためだと思っております?」

 

「……いや」

 

 頭を振る。

 そうは思わなかった。

 何故なら、さっきからこの店員、やたらとボディタッチ(・・・・・・)が多いからだ。

 服には大して詳しくないヴィルであったが、採寸の時に胸を押し当てる必要が無いこと位は分かる。

 

「まさか、俺達を追ってきたのか?」

 

ヴィルさんを(・・・・・・)追いかけてきたのですわ」

 

 彼女がさらにこちらへ近づいてきた。

 もう隠すことなく――最初から隠すつもりなど無かったかもしれないが――堂々とこちらに密着してくる。

 脚が絡み、腕が首に回され、甘い吐息が当たる程に顔が接近する。

 

「努力はしましたのよ?

 貴方のことは忘れようと、努力しましたの。

 でも、無理でしたわ。

 貴方が恋しくて恋しくて、我慢できませんでした」

 

 そう言うや否や、こちらに口づけをしてくる。

 

「――ん、ちゅっ――ああ、ヴィルさん――ん、んん――ずっと、ずっと待ち焦がれてましたわ――ちゅっちゅっ――」

 

 ぴちゃぴちゃと音を立て、互いの唇を、舌を、舐め合った。

 涙目になった彼女の顔が実に淫猥で――そこまで自分を想ってくれることに、愛おしさを感じてしまう。

 たっぷりとキスを堪能してから一旦顔を離し、

 

「いいのか、仕事場でこんなことをして?」

 

「構いませんわ。

 今日は私一人だけですから、他に誰もこの部屋に入ってきませんもの」

 

 だとすると接客する店員が居なくなると思うのだが、それを口にするほどヴィルは野暮でもない。

 それに――

 

「セリーヌ、さっきから愛液が垂れているぞ」

 

 ――こんな状態で、彼女が店頭に立てる筈も無かった。

 部屋の床には、セリーヌの愛液で幾つもの“染み”ができている。

 そしてそれは今なお増え続けていた。

 

「だ、だってぇ、仕方ないじゃありませんか!

 ヴィルさんが、こんな近くにいたら、もう疼いて疼いて……!

 先程接客をしていた時から、ずっと我慢していたのですわよ!?」

 

「そいつは、男冥利に尽きるな」

 

 そんな言葉を吐きながら、青年は女性のスカートを捲る。

 現れたのは真っ白なショーツ――但し、ビチャビチャに濡れ、彼女の肌に張り付いている。

 

「こんなに漏らしていたのか」

 

「ああっ、そんなにまじまじと見ないで下さいまし!」

 

 セリーヌが恥ずかしそうに顔を赤く染めるが、ヴィルはお構いなしに彼女の臀部を観察する。

 肉感たっぷりに巨尻が、愛液に塗れて透き通った下着に覆われる光景は、煽情的なことこの上ない。

 スカートの中に溜まっていた“雌の匂い”がムンムンと香ってくるのも堪らなかった。

 自然、イチモツがむくむくと起き上がってくる。

 

「良かった……ヴィルさんも興奮して下さっているのですわね」

 

「そりゃ、こんな状況で勃たたない男なんていないだろう」

 

 恋人や妻を持つ男ならその限りでない――という意見もあるかもしれないが。

 そんな考えを振り切るように、やや乱暴に彼女の尻を掴む。

 

「ひゃんっ」

 

 想定外に可愛らしいセリーヌの声。

 ぐにぐにと揉むと、柔らかい肉感が手の平に広がった。

 熟れた女性相手でなければ味わえない感触だ。

 

「あっ、あっ、そんな、強くされたら――あっあっあっ、か、感じてしまいますっ――」

 

「いいじゃないか、それが目的だろう?」

 

「あ、ああぁああああっ!?」

 

 さらに強く揉みしだいてやると、たちまち彼女の口から嬌声が飛び出す。

 指を尻肉に食い込ませたり、軽く叩いてやったり。

 その度に、甘美な喘ぎ声が部屋に響いた。

 

「あっ! はぁんっ! あっあっあああっ!!」

 

 まだ尻を弄っているだけだというのに、うっとり顔を蕩けさせるセリーヌ。

 そんな表情をされると、さらに責めてやりたくなる。

 

「ああっ!! あ、あ、あ、あっ!! はぁああああんっ!!

 お尻っ! お尻をそんなっ!! あっあっあっあっあっあああっ!!」

 

 悶え、肢体をくねらせながらも、腕はヴィルの身体に抱き着いたまま離れる様子は無い。

 しかしその瞳にはやや欲求不満な色もあり――

 

「ヴぃ、ヴィルさんっ、お尻、だけではなくて――んん、くぅっ――(わたくし)膣内(なか)にも、ヴィルさんの逞しいモノをお恵み下さいませっ!」

 

 ――息を荒げながら、こちらにおねだりをしてきた。

 ヴィルはその言葉に一つ頷いてから、

 

「そうだ、な!」

 

 ショーツをずりさげ、セリーヌの下半身を丸裸にすると――その股間を後ろから鷲掴み(・・・)にした。

 

「おほうっ!?」

 

 彼女の声色が変わる。

 それはそうだろう。

 股間をがしっと掴まれて――アヌスに親指を、女性器に中指と薬指を挿し込まれているのだから。

 

「そ、んな――いき、なり、両方だ、なんて――!?」

 

「どうしたんだ? まだ俺は君にイチモツを挿入していないんだが?」

 

 にやりと笑いながら、二穴に突っ込んだ指を動かす。

 

「おおっ!? お、お、お、おおっ!! んほぉおおおっ!!?」

 

 セリーヌは与えられた刺激に身を震わせていた。

 そんな彼女の顔に、ヴィルは舌を這わせる。

 しっとりと汗ばんだ肌は、うっすら塩の味がした。

 

「おぉおおおっ!? おっおっおっおっおっおっ!! おぉあああああっ!!」

 

 濡れてぬるぬるになった股間を弄っていると、嬌声に混じり水の音も鳴り始めた。

 彼女の股間から愛液がだらだらと垂れ流れ出したのだ。

 部屋の床には、愛液の水たまりができつつある。

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!

 い、イクっ! イキますっ!! (わたくし)、もう、イってしまいますわぁっ!!」

 

 だらしなく口を開け、涎を垂らしながら、セリーヌは“終わり”を宣言してくる。

 

「ああ、いいぞ。

 思い切り絶頂してくれ」

 

 それを合図に、手を激しく動かし始めた。

 じゅぽじゅぽと音を立てながら、尻穴と膣を指が出入りする。

 滴る愛液は量を増し、ヴィルの手は雌汁に塗れていた。

 

「おっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!!

 イ、クっ!! イクっ!! あっ!! イクっ!! イキますっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!! あはぁあああああああっ!!!」

 

 彼女の肢体がピンと固まり、ガクガクと震え出した。

 抱きかかえて支えてやらねば、その場で倒れそうな程に。

 

「イ、イった――あっ――あっ――イキ、ました――あっ――あっ――あっ――」

 

 絶頂の余韻を味わうように、セリーヌは目を閉じながらなおも細かく震えている。

 そんな彼女を抱き寄せると、

 

「さあ、次は俺の番だ。

 まだやれるな?」

 

「はーっ、はーっ、はーっ――は、はい。

 ど、どうか、(わたくし)の身体を存分に味わって下さいまし」

 

 まだ呼吸は落ち着かないものの、待望の“逸品”を味わえるとあって口元を綻ばせるセリーヌ。

 自らスカートをたくし上げ、ねだるような顔で股を開いた。

 それに応えるようにヴィルは自らの剛直を取り出すと――

 

 

「おーい、採寸まだ終わらないのかー?」

 

「「ッ!?」」

 

 

 ――2人して息を飲む。

 クリスだ。

 彼が、ドアのすぐ向こうに居る。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

 おそるおそる声をかけると、

 

「どうしたもこうしたも、他の客が来たからさ、セリーヌに知らせようと思って。

 そっち、まだ時間かかりそう?」

 

 どうやら、気づかれた訳ではないようだ。

 ヴィルは一度セリーヌに目配せしてから、

 

「いや、もう終わったよ。

 もう少ししたら戻る」

 

「そっか。

 じゃ、そんな感じに伝えとくさ」

 

 その言葉と共に、立ち去る足音が聞こえる。

 十分にクリスの気配が離れてから、

 

「あの、ヴィルさん……」

 

 セリーヌが上目遣いにこちらを見つめてきた。

 一度イったからか、その面持ちは先ほどに比べて大分しっかりしている。

 

「今は仕事中だからな。

 客が来たと言うなら、おざなりにする訳にもいかないだろう?」

 

「……そ、そうですわね」

 

 少し――いや、かなり不満げな顔をしつつも、彼女は了承してくれた。

 ヴィルはそんなセリーヌの頭を撫でながら、

 

「大丈夫だ。

 俺はしばらく王都に滞在する予定だし、冒険者をしていればこの店には頻繁に来ることになるだろう?

 服の受け取りにも来なければいけないからな」

 

「ッ! はい、毎日通って下さいまし!

 たっぷりと、サービス致しますわ!」

 

 打って変わって、笑顔になるセリーヌ。

 なんとも愛らしい。

 ヴィルは彼女の肢体をぐっと引き寄せ、

 

「――んっ――んんっ――ふぅ」

 

 深く口づけを交わしてから、2人はその部屋を後にした。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

④ 酒場で乾杯!(H)

 

 

「「乾杯!」」

 

 その言葉を合図にグラスとグラスを軽くぶつけ、カンッと音を立てる。

 今、ヴィルとクリスは酒場に居た。

 セリーヌの店から出た後も幾つかの店を紹介され、気づけばもう夕暮れ。

 せっかくだからと、夕飯も同伴した訳である。

 この酒場もクリスからおすすめとして教えて貰った場所だったりする。

 

「いやー、しかしアンタ、教会の守護騎士だったとはねー。

 オレ様の見る目は確かだったって訳か!」

 

 目の前の青年は上機嫌。

 セリーヌに事情説明する際、彼にも話を聞かれたのである。

 おかげで、正体がバレてしまった――まあ、身分を聞かれた時用に使う、偽りの正体だが。

 幾らこれから冒険を共にする仲間だとはいっても、本当のことをおいそれという訳にはいかない。

 

「だけどさー、人が悪いなアンタも。

 そんなことすぐに教えてくれればいいのに」

 

「すまない。

 どうも言い出す切欠が無くてな。

 身分を証明するものもちょうど持ってなかったから、説明するのもややこしくて」

 

「はっはっは、まあいいけどさ!

 おかげで、何の苦も無く有望株をゲットできたんだから!」

 

 コロコロと笑うクリス。

 その仕草に、一瞬ドキッとする。

 正直言って――可愛かった。

 なまじ整った顔立ちをしているせいで、女の子と見紛うばかりの笑顔。

 男だと言うことが信じられない位の愛らしさだ。

 いや、彼が男である確証は未だ得られていないのだが。

 

(性別を聞くタイミングって、なかなか難しいんだよな……)

 

 日常的な会話の中では切り出しにくい質問ではある。

 笑って済めばいいが、状況次第では微妙な空気になること請け合いだ。

 特にクリスのように相手が中性的な容姿の場合、どちらに転んでも心象を悪くしかねない……ような気がする。

 

(経験が無いからなんとも言えないけれども)

 

 案外さらっと流してくれるかもしれないが、初対面の人にそれを期待できる程、ヴィルは楽観主義者ではなかった。

 

(まあ、しかしそれはそれとしても……)

 

 グラスに入った麦酒を呷りながら、視線をクリスに向ける。

 金髪碧眼な容貌は今更説明するまでも無く、綺麗だ。

 回答者の性別問わず、ほとんどの人が美しいと判断する筈だ。

 服装は冒険者らしく、動きやすそうな意匠のシャツとズボンに、軽めのジャケットを羽織っている。

 おそらく冒険時はこの上に皮鎧でも纏うのだろう。

 

(……服は男物、だと思うんだが)

 

 何故だろう、そこはかとない色気が漂ってくるのは。

 胸に膨らみは余り見えないのだが、腰つきは華奢で、どこかくびれがあるようにも見える。

 太ももも、なんだかむっちりしてるような気がする。

 身体のラインが余り出ないような服を着ているにも関わらず、だ。

 それによく見ればあの唇、実に瑞々しく――

 

(――いかんいかんいかん!

 セリーヌとのアレが中途半端に終わったせいで、欲求不満になっている……!?)

 

 自分がクリスをそういう対象(・・・・・・)として見かけていると自覚し、慌てて頭を振る。

 だが一度目についたモノはなかなか離れない。

 艶のある唇はとても柔らかそうで、舐めればさぞいい感触を味わえることだろう。

 腰も抱きかかえるにはいい塩梅の細さ――抱き心地も良いに違いない。

 この分なら尻の形にも期待できそうだ。

 太ももから類推するに、揉みがいのある肉付きが期待できる。

 

(うぉおおおおおっ!?

 待った待った待った待った!!

 これはまずい、凄くまずい!!)

 

 踏み出してはいけない領域に足を踏み入れている――そんな感覚。

 いや、クリスが女性であれば何の問題も無い。

 

(それはそれで問題だ!!

 くそ、多少怪しまれてもセリーヌと最後までしておけば良かったか!?)

 

 そう考えても後の祭り。

 理性とは裏腹に血流が股間に集中していき、むくむくと愚息が起き上がっていく。

 座っているから気付かれることは無いだろうが、体面が悪い事この上無い。

 と、そんなところへ――

 

「どうしたんだ、アンタ?

 さっきから挙動が変だぞ」

 

 ――クリスが訝し気にこちらを覗き込んできた。

 ヴィルは動揺を必死に押し隠し、

 

「な、なんでもない! 何でもないぞ!?」

 

「そうか? ま、いいんだけどさ。

 悪いが、ちょい席外すぞ」

 

「何か用事が?」

 

「言わせんなよ、トイレさ、トイレ」

 

「あ、ああ、そうか」

 

 会話が途切れると同時にクリスは席を立ち、そのまま厠の方へと歩いていく。

 ……ここで彼を追えば性別問題に決着がつくのだが。

 

(そこまで必死になることじゃないだろ!?

 どれだけ昂ってるんだ俺は!!)

 

 ヴィルはそのまま待つことに決めた。

 というか、勃起しているから容易に立つことができなかった。

 タっているから、タてない。

 哲学的である。

 

(いや全く)

 

 そこで冷静になるなよ。

 

(ここで冷静にならなくてどうする!

 とにかくクールダウンして色々と抑えなくては!

 クールだ! クールになれ!!)

 

 精神を統一しながら深呼吸を一つ、二つ。

 少しずつ興奮が収まり、股間の熱さも薄れていく。

 クリスが帰ってくるまでには平静さを取り戻せる――と目論んだところで。

 

「あれ、君、こんなところで飲んでるの?」

 

「んむっ!?」

 

 声をかけられた。

 ドキっとして振り返れば、そこには冒険者ギルドで対応してくれた受付嬢――確かニーナという名前だ――が居る。

 昼間同様のブラウスにタイトスカートという出で立ちなのだが、顔が仄かに赤い。

 

「どしたの? 独りで飲んでるの? 冒険仲間、見つからなかった?」

 

「いや、おかげ様であるパーティーに拾って貰った。

 明日からそこで依頼をこなす予定だ」

 

「あ、そうなの? そりゃ良かった良かったー。

 あ、隣いい? いいよね?」

 

 言うや否や、こちらの返事も待たずにすぐ隣の椅子へ座る受付嬢。

 明らかに酔っている人の言動だ。

 その証拠に彼女の手は飲みかけのジョッキを握っている。

 

「その、ニーナ?」

 

「あ、わたしの名前、憶えてくれてたんだ♪」

 

「うん、覚えている。

 覚えているのはいいのだが――なんか、こう、近すぎないか?」

 

 近すぎるというか、普通に接触していた。

 それも肩と肩が触れ合うなんて生易しい距離ではない。

 べったりとくっついている。

 

(アルコールの臭いが凄いのだけれども!?)

 

 ニーナが酔っぱらっていることは最早疑いようも無い。

 これはまずい。

 なにがまずいって、彼女の身体。

 薄手のブラウスに包まれた柔肌は、容易にヴィルの股間に新たな種火を齎した。

 とにもかくにも、やんわり引き離そうとするが――

 

「というかさぁ、聞いてよぉ!」

 

「うん!?」

 

 ――こちらが何かするより先に、ニーナが抱き着いてきた。

 細い手が肩に回り、豊かに育った双丘がヴィルの胸板に押し付けられる。

 同時に、ボブカットのよく似合う可愛らしい顔立ちが、すぐ目の前にまで迫った。

 

「うちのギルド長ったら酷いんだよ!?

 わたしがちょっと――ほんのちょこーっと仕事でミスしたら、もう鬼のように怒って怒って!

 日が暮れるまで怒鳴り続けるとかある!?」

 

「ほ、ほう」

 

 迫力に圧されてしまう。

 ついでに乳房の圧に愚息が反応してしまう。

 

「大事な客を見逃したからって、ここまですることないんじゃないかな!?

 ヴィル君もそう思うよね!?」

 

「……大事さの程度にもよると思うが」

 

「あん!?」

 

「い、いや、女性をそこまで りつけるのはよくないことだな、うん」

 

 鋭い眼光に加え、肢体をさらに絡めて(・・・・・・)きたため、ついつい弱気な対応をしてしまう。

 ……この女性、とうとうヴィルの膝の上に腰を乗せてきたのだ。

 密着度がヤバいことになっている。

 恋人同士でも、人前でここまで絡み合うことは無いのではないだろうか。

 

(何故少し会話を交わした程度の俺相手にここまで絡んでるんだ!?

 酔っぱらってるからか!?

 酔っぱらってるからだな!?)

 

 対面座位(・・・・)という単語が頭をよぎる程の密着具合である。

 やけ酒を煽るのも程々にして欲しい。

 ついでに言うと――

 

(見えてる見えてる!)

 

 ――ニーナの履いているスカートの丈は短い。

 そんな格好でこちらへ向かい合い、かつ股を開いた体勢になっているため、下着がもう丸見えだった。

 割と清潔感のある白いショーツが丸見えだった。

 むちっとした太もものはざまにあるシルクのパンティが丸見えだった。

 何故繰り返したのかと言えば、それ程にソコを注視してしまったからである。

 

(やばいやばいやばいやばい)

 

 股間の熱さは先ほどの比では無い。

 完全に勃起してしまった。

 ズボンの上からでもその盛り上がりが分かってしまう。

 幸い、まだニーナは気付ていないが――

 

「ねぇ、聞いてます!?」

 

「あ、はい」

 

 意識が呼び戻された。

 彼女の顔がさらに近づいている。

 息遣いすら感じてしまう。

 ぱっちりとした眼に、自分の顔が映っていた。

 

 ……理性の限界は、すぐそこに迫っている。

 

「それでね、その客を見つけてこなければクビだとかまで言ってくるんだよあのクソ親父!」

 

 ヴィルの膝の上で身振り手振りでぐにぐにと動くニーナ。

 柔らかい胸が当たる。

 もちもちの太ももが絡む。

 

(あかん)

 

 プチっ――と何かが切れる音が聞こえた。

 きっとその“クソ親父”というのはギルド長のことなのだろうが、最早どうでもいい。

 ヴィルは本能に導かれるまま、彼女の肢体を抱きしめた。

 

「きゃっ」

 

 小さい悲鳴。

 しかしそんなことお構いなしに、量の腕でニーナの華奢な肢体を堪能した。

 割と肉付きが良い抱き心地。

 よく嗅げば、香水を付けているのか甘い香りがする。

 

「あ、あのー?」

 

 そんなこちらの態度に気付いたのか、彼女はおそるおそるといった体で尋ねてきた。

 

「これだけのことをしておいて、何もされないと思ってたのか?」

 

「……思ってないよ」

 

 ぼそっと呟かれる言葉。

 それを合図に、2人はむしゃぶるようにキスを交わす。

 

「んっんっんっ――れろっれろれろっ――ん、んんんっ――」

 

 唇を重ね、舌を絡ませ、唾液を吸い合う。

 ニーナの積極的な態度が酒のせいなのか上司への腹いせのせいなのかは甚だ不透明であるが、今のヴィルはそんなことに気を留めない。

 むしろ相手も合意の上だというなら、好都合である。

 

「――あっ」

 

 片手で彼女のブラウスを無理やり開けさせる。

 まどろっこしいので、そのままの勢いでブラジャーまでずり下ろした。

 たわわに実った2つの果実が姿を現す。

 巨乳とまではいかないが、標準的な大きさを超えていた。

 ハリはなかなかのもので、お椀のように整った形なのも好印象だ。

 

 ニーナはそんな自身の胸を隠そうともせず、

 

「なに? そんなにしたかったの?」

 

「君もだろ」

 

 茶化す言葉に短く返すと、ヴィルは彼女の首筋に舌を這わす。

 

「んんっ」

 

 ピクっとニーナの肢体が一瞬震えた。

 構わず、舌をさらに下へ下へ、彼女を舐めていく。

 既に酔っていたせいか、うっすらと汗をかいた肌はほんのりと塩気がした。

 首から鎖骨、胸元、乳房へと移っていき――

 

「あ、んっ――そこっ――」

 

 ――目的地である淡いピンク色の突起、つまり乳首に辿り着く。

 そのコリコリとした部分をベロの上で転がし、

 

「ああっ――んっ――あっあっあっああっ――」

 

 嬌声が漏れた。

 だがこれだけでは終わらない。

 もう片方の胸を鷲掴みにして、その柔い感触を楽しむ。

 

「んっんっんっ――おっぱい、好きなの?

 そんなに――あ、くぅっ、んっ――ぺろぺろする、なんてっ――あぅっ」

 

 気持ち良さそうに悶えるニーナ。

 表情もだんだんと蕩けてきている。

 

「ん、くっ――は、あ、あ、あ――」

 

 胸を下から支えるような風に揉む。

 プルンとした手触りとずっしりした重さが興奮を掻き立てた。

 

「ん、ん、ん、ん、ん――乳首、コロコロされたらっ――あ、あ、あ、あ――感じ、ちゃって――はぁああああっ」

 

 淫らな膨らみの先端にある突起が、ぷっくりと膨れてきた。

 相当に感じ入っているようだ。

 すぐ近くに他の客もいるというのに、お構いなしで肢体をくねらせている。

 

 ……酒場でこんな堂々とまぐわえばすぐばれてもおかしくないのだが、幸いにして彼等のいるテーブルはホールの端で比較的目立ちにくい。

 その上で他の客達の喧噪がやかましく、ニーナが多少喘いだところですぐに掻き消えるだろう――おそらく。

 まあ、仮に多少気付かれたとしても、今のヴィルは行為を続行するだろうが。

 

「あっあっあっあっ――おっぱい、気持ち、いいっ――あっあっあああんっ!

 わ、わたしっ――ん、んんんっ――わたし、もっ――」

 

 胸の刺激に感じ入りながら、ニーナは手をヴィルの股間に当ててきた。

 そのまま彼女は器用にズボンを下ろし、こちらのイチモツを取り出してくる――と、

 

「う、うっわ、おっきぃ――!?」

 

 バキバキに勃起したソレを見て、目を丸くした。

 

「え、うそ、ナニコレ!?

 男の人のココってこんな太くなっちゃうものなの!?」

 

「他の奴のを見たことが無いのか?」

 

「あるにはある、けど。

 これはちょっとお目にかかったことないかな……」

 

 余程驚いたのか、それまでの興奮がどこかに飛んでしまったようだ。

 ――いや。

 

「ごくりっ」

 

 ニーナが淫猥な顔をしてつばを飲む。

 興奮が冷めたのではなく、より鮮烈な刺激に魅了されたのだ。

 

「ねぇ、コレ、しゃぶってもいい……?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

 上目遣いに尋ねてくる彼女に対し、鷹揚に頷く。

 

「じゃ、じゃあ、失礼して――」

 

 受付嬢はヴィルの上から降りるとしゃがみ込み、顔をこちらの股に埋めてくる。

 

「……すっごい。

 コレ、わたしの(なか)に入っちゃうんだ……♪」

 

 うっとりとした表情でイチモツに魅入るニーナ。

 そこまで褒めちぎって貰えると、悪い気はしない。

 

「大きいし、硬いし――熱いし――」

 

 根本から先端までをじっくり鑑賞してから口をあんぐりと開け、

 

「――ん、むっ」

 

 ゆっくりと、口内に飲み込んでいった。

 温かい感触が股間を包んでいく。

 

「んっんっんっんぅ――やばい、ホント、おっきい――ん、れろ、ん、れろれろ――顎、外れちゃいそう――」

 

 亀頭を口に含んで吸い付いた後、一旦離れてから今度は舌で舐めまわしてきた。

 愚息にねっとりとニーナの唾液が塗れていく。

 ベロの繊細なタッチが、さらなる快楽を股間に齎す。

 

「はぁっはぁっ――うそ、まだおっきくなるの?

 ぺろっ、れろれろっ――こんな、こんなの――ん、んんっ――あ、あっあっあっあっあっあぁああんっ」

 

 眼前にある男根の魅力に堪えられず、彼女は自慰を始めてしまう。

 自分で股を弄りながら、それでも懸命にフェラを続ける。

 

「はぁ、ん、あ、あ、あ、あ――ん、ちゅっ、んん、んんんぅっ――れろ、ぺろぺろぺろっ――んん、あぁああああああっ」

 

 顔が見る間に紅潮し、快感に目が潤んでいく。

 その淫猥な有様を見るだけで、ヴィルもまた気分が高揚していった。

 心臓がばくばくと音を立てる。

 今すぐ、目の前の雌に種を注ぎ込みたい――そんな欲求が心を支配する。

 そしてそれはニーナも同じのようだ。

 

「も、もう、ダメっ――わたしのおまんこ、もう、ぐちょぐちょなのっ!

 このおちんぽ、ちょうだい! 早く、わたしのおまんこにつっこんで!!」

 

 彼女は体勢を変えると、テーブルの下で大股を広げて自分の股間を見せつけてきた。

 本人の言う通り、ショーツは愛液でぐっしょりと濡れている。

 陰唇の形が透けて見える程に。

 

「早くっ――早くちょうだいっ!」

 

 涙目になって懇願するニーナ。

 もうここで中断するような理性は残っていない。

 ヴィルは彼女を抱き起すと――

 

 

 

「待たせたなっ!」

 

 

 

 ――クリスが戻ってきた。

 

「……お、遅かった、な」

 

「はっはっは、いやー、ごめんごめん」

 

 彼は笑いながら、向かいの席に座った。

 ふと、ヴィルの()に目をやり、

 

「あれ? ニーナちゃんも来てたの?」

 

「う、うん……ついさっき、ね」

 

「なんだ、ニーナちゃんもヴィルとは顔見知り――って、受付してるんだから当たり前か」

 

「そ、そうそう。

 なんか期待の新人っぽかったから、声をかけてみたというか、ね?」

 

「へー、そうだったのかー」

 

 ヴィルもニーナもやたら歯切れが悪いのだが、どうにかクリスは気付いていないようだ。

 

 ……結局、ヴィルはここでもお預けを食らっていた。

 いざ挿入を、というところでクリスの気配に気づき、急いで身なりを整えたのだ。

 そのせいでニーナの服はボタンが外れていたりと、妙に色っぽい格好になってしまっている。

 

「それじゃ、改めて3人で乾杯するか!」

 

「……ああ」

 

「……そうだね」

 

 2人が微妙なテンションなことを察しないまま、クリスはグラスを高く掲げた。

 

 

 

 この日。

 飲みが終わってからも、クリスは律儀にヴィルを宿まで送ってくれた。

 まだ街に不慣れな自分が、夜道で迷わないように、という配慮である。

 その気遣いは嬉しいのだが――おかげで、結局二人きりになる機会が無いままニーナとは別れ。

 ものすっごく悶々としながら、自分の部屋へ戻るはめになったのだった。

 

 ――ほんのちょびっとだけ、あの青年に怒りを覚えたヴィルであったとさ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑤ 宿屋の夜(H)※

 

「あら、おかえりなさい、ヴィル」

 

「ただいま――って、居たのか、エルミア」

 

 部屋に帰って早々、銀髪の性女から声をかけられた。

 

「アタシも居ますよー」

 

 別方からも声。

 イーファも一緒のようだ。

 2人共、仕事を終えてからヴィルの部屋で待っていてくれたらしい。

 

「冒険者の登録、上手くいったの?」

 

「ああ、つつがなく済んで――ってぇ!?」

 

 何気なく会話を続けたのだが、気づいてしまった。

 彼女達の“格好”に。

 

「ど、どうしたんだ、その服装?」

 

「ああ、コレ?

 ヴィルが冒険者になるっていうから、せっかくだし私達も形だけ入っておこうって思ったの」

 

「か、形だけ?」

 

 だから、こんな格好(・・・・・)なのか。

 だからってこんな格好になるのか?

 

「…………」

 

 改めて、ヴィルは2人を見やる。

 まあ、イーファはいい。

 彼女の服装はいつも通りだ。

 動きやすいインナーに薄手のドレスを纏った衣装で、武闘家の装備をモチーフにしたという。

 “魔女”がする格好では無いが、イーファの能力は大分特殊――というか尖って(・・・)いるため、理にかなった服装ではあるのだ。

 身体のラインが出やすくはあるものの、特別目くじら立てる程ではないと思う。

 だいたい、巨乳・巨尻なイーファにかかれば、大抵の服は色気を醸し出すように見えることだろう。

 

 問題なのは、エルミアの方。

 白を基調としたいつもの聖女用修道服に似ているが、構造が少し、いや大分違う。

 

(なんというか――なんだ?)

 

 動揺して形容する言葉がどうも思い浮かばない。

 敢えて言うなら、そう、全身タイツを着用した上から貫頭衣を羽織っている。

 但し、“貫頭衣”とはかなりオブラートに包んだ言い方だ。

 極端な言い方だが、縦長の布の真ん中に穴をあけて、そこへ頭を突っ込んでいる、の方が正しいかもしれない。

 まあ、意匠自体はしっかりとしているのだが。

 

 で、結局のところ、何がまずいのかと言えば。

 

「……横から色々と見えてる」

 

 エルミアが今着ている貫頭衣、身体の側面をまるで覆っていない。

 或いは、肩口まで思い切りスリットが入っている、という表現の方が分かりやすいだろうか。

 要するに、角度次第で彼女の肢体が覗き放題なのだ。

 少女の胸にある美しい半球が、しっかりと確認できてしまう。

 

「タイツもやたら薄いし……」

 

 もし厚手のタイツを着ていたのであれば――それでもエルミアのスタイルの良さを鑑みれば相当煽情的だが――まだなんとかなったかもしれない。

 だが今彼女が着ているタイツは極薄生地。

 身体のラインが出ているばかりか、肌の色まで少し透けて見えている。

 きっと、胸の突起や股の割れ目まで覗けてしまうはずだ。

 

「……下着も付けてないのか」

 

「いっそ、着てた方が危ない気もしますけどねー」

 

 ヴィルの呟きに、イーファがあっけらかんと答えた。

 確かに、ブラジャーやショーツが丸見えの方が危険度高い、かもしれない。

 どっちもどっちか。

 

「なんだってそんな服を……?」

 

「失礼ね。これが聖女の正装だったのよ、昔は」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

 エルミアの発した信じられない答えに声を荒げてしまう。

 

「いえいえ、それが本当なんですよ、先生」

 

「マジで!?」

 

 イーファも肯定してきた。

 

「流石にもっと大人しいデザインでしたし、今ではそんな装備する人そうそういないですけど」

 

「……そうなのか」

 

 どうやら真実のようだ。

 こんな格好された聖女と一緒に旅をしていたとは、当時の勇者は羨まし――もとい、なかなか心休まらない生活を強いられていたことだろう。

 

「でもねヴィル。

 イーファだって実はすごい格好してるのよ?」

 

「エルミアさん!?」

 

 徐に、聖女は魔女のスカートを捲り上げた。

 イーファはスパッツを履いているため、それ自体然程問題は無い(いや、あるか)筈だが――

 

「ほら、イーファも下着履いてないから、生地越しにマンスジ丸わかりじゃない♪」

 

「え、その、パンティ履いてるとラインが見えちゃうって言ったの、エルミアさんですよね……?」

 

 ――エルミアの指摘通り、その股間部には“筋”が浮き出ている。

 聖女の格好に比べればささやかなものだが、雄を掻き立てるフェティシズムがそこにあった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……ふむ」

 

 静かに頷いて、静かな表情のままヴィルは2人に近寄る。

 もう、限界だ。

 

「さ、ヴィル。

 今夜はナニをして――――あひぃぃいいいいいいい!!?」

 

 唐突にエルミアが悶絶した。

 理由は簡単、自分が彼女の乳首を捻った(・・・)からだ。

 先述の通り、彼女の服は側面ががら空きなため、手を突っ込むのに一切の不自由が無かった。

 

「せ、先生!? 急にどうしたんで―――んうぅうううううううう!!?」

 

 今度はイーファが嬌声をあげる。

 スパッツの生地の上から、彼女の陰核を抓んでやったのだ。

 

「ちょっ!? ヴぃ、ヴィル!? いきなりすぎ――んひぁあああああああっ!!!?」

 

「ダメっ!! ダメですっ!! そこ、つねっちゃ――あぁぁああああああああああっ!!!!?」

 

 乱暴に胸を揉みしだきながら、乳首とクリトリスを摘まむ指へさらに力を入れる。

 ほとんど悲鳴に近い声を聴いても、手を緩めない。

 今日一日で溜まりに溜まった性欲が爆発したのだ。

 最早理性による歯止めなど効かない。

 こうなっては、この2人で発散する以外に鎮める手立てはない。

 

「あっあっあっ、おっぱいっ、あっあっ、すご、あっ、つよいっ、あっあっ、あぁああああああっ!!!」

 

「あっ!! あっ!! ダメですっ!! ダメなのに!! あっ!! おひっ!! あ”っ!! イグっ!! イグぅっ!!」

 

 二者二様に喘ぐが、イーファの方は既に限界が近そうだった。

 膝がガクガクと震え、目の焦点がずれてきている。

 ヴィルがさらに彼女の陰核と抓り上げると――

 

「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”あ”あ”ぁぁっぁあああああああっ!!!!!」

 

 ――あっさりと、イーファは陥落した。

 脚から力が抜け、その場にヘタレ込む。

 潮を吹いたのか失禁したのか、スパッツを履いた股間に“染み”が広がっていった。

 

「エルミア」

 

 そんなイーファは一旦置き、ターゲットを聖女に絞る。

 声をかけられた少女は、しかしまだこちらの意図を理解してはいないようで、

 

「ヴぃ、ヴィル? なんだか今日は、積極的、ね……?」

 

「そうだな」

 

 おずおずとこちらを見返してくる彼女の胸元を、強引に開けた(・・・・・・)

 貫頭衣が裂け、中からは丸い双丘が、タイツに覆われたおっぱいが、プルンッと顔を覗かせた。

 間髪入れず、それに吸い付く。

 

「あっ――あ、あ、あ、あ、あっ――そんなに、シタかったの?――あ、あ、あんっ♪」

 

 打って変わって、甘い息を吐くエルミア。

 柔らかい胸の先端はコリコリと固まっており、その突起物を舌の上で転がしていく。

 タイツの質感が、舌に優しい。

 

「はっ、あっ、あっ、あっ、気持ち、い、いい、ああぁぁぁぁんっ」

 

 うっとりと喘ぐ彼女だが――

 

「あ、あ、あ――はひぃいいいいいっ!!!?」

 

 ――そこに“歯を立てる”と、先程同様の苦悶に変わる。

 

「やっ! あっ! あっ! 乳首、ちぎれちゃうっ!! ちぎれちゃうのっ!!」

 

 ビクビクと肢体を震わせるが、それでも彼女は逃げようとはしない(・・・・・・・・・)

 ヴィルから離れようとするどころか、逆にこちらの頭を抱きしめてくる。

 彼女のおっぱいが顔全体に押し付けられた。

 スベスベとしたタイツ生地と、その中に詰まった弾力ある柔肉による圧迫が、とてつもなく心地よかった。

 一方で、

 

「あっあっあっあっあっ!! いた、いたいっ!! いたいのにっ!! ああっあっあっあっああ!! か、感じちゃうっ!!!

 あぁぁああああああああああああっ!!!?」

 

 エルミアは感に入った声で喘ぐ。

 きっと、このまま乳首を噛み千切ったとしても彼女は受け入れるだろう。

 ――流石に、そんなことはしないが。

 

「あぁあああああ――――ん、んぅ……?」

 

 胸から口を離したところで、少女の声が止まった。

 

「ヴィル―――きゃっ!?」

 

 再び自分へ話しかけてくるが、それには答えず。

 代わりに、貫頭衣を捲りあげ、下半身を露わにする。

 思った通り、タイツは透けに透け、秘部の形がくっきりと分かる有様だ。

 股間からトロトロと愛液が流れ落ち、生地が濡れて張り付いているのも、それを助長している。

 

「もう、我慢できないのね? それじゃ――」

 

 こちらを受け入れるため、エルミアはタイツを脱ごうとしたが、そんなものは待ってられない。

 

「――え?」

 

 ヴィルは己のイチモツを取り出すと、両手で聖女の腰を抱きかかえ、

 

「まさか、え、嘘でしょ――?」

 

 そのガチガチに勃起した愚息を目掛け、聖女の股を振り下ろした(・・・・・・)

 

「――おひぁあああああああああああああああああっ!!!!!!!?」

 

 狙いは一切過たず。

 青年の肉棒は聖女の膣へ、タイツの生地ごと(・・・・・・・・)捻じ込まれた。

 

「嘘ッ!? 嘘ぉッ!!? 入っちゃった!? タイツ着てたのに、おちんぽ入っちゃったのぉっ!!?」

 

 珍しく、聖女が驚きの声を上げた。

 正直、ヴィルも驚いている。

 自分の性器でこんなことができるとは――理性が飛んでいるからこそ、だろう。

 そもそも正気だったならば、タイツの上から突き挿そうとは思わない。

 

(だが――これはこれで、堪らない――!!)

 

 生地は未だヴィルのイチモツを覆っている。

 余程伸縮性のある素材を使っているのか。

 そのおかげで彼は、膣による締め付けとタイツのつるつるとした触感を同時に味わっていた。

 これまで生きてきて感じたことのない刺激だ。

 

(これで動いたら――どうなる!?)

 

 その欲求に抗う術を、今のヴィルは持っていない。

 欲望のまま、青年は腰を動かし始める。

 

「おほぉおおおおおおっ!!? 何これっ!? 何これっ!? 動くの!? 動けちゃうの!!?」

 

 エルミアもまた、流石にこんな経験は無いようで、新鮮な感覚に戸惑っている様子だ。

 しかしピストン運動を始めると――

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! ヴィルのおちんぽにっ! タイツが被さってっ!! あっ! あっ! こ、これ、凄いっ!!?」

 

 ――すぐに順応してきた。

 ぐっちょぐっちょと音を立てて突き込まれる肉棒を、恍惚の表情で受け入れる。

 流石は性女。

 

(まあエルミアだからなぁ。

 ……それはそれとして、この、感触、は!!)

 

 普段、ヒダが絡まるのとは異なる。

 愛液によってぐちょぐちょになった生地に包まれながら、膣肉で扱かれるこの味わい。

 それは、蓄積された性欲を満足させるに十分な逸品であった。

 

「――もっと。もっとだ!!」

 

 さらに堪能すべく、ヴィルは腰を激しく動かした。

 男女の下半身がぶつかり合い、パン、パン、と湿度も帯びた打音が部屋に響く。

 同時に、腕でエルミアの肢体そのものも上下に振り始め、

 

「お”っ!! お”っ!! お”っ!! お”っ!! お”っ!!

 ヴィルの、が、はげし、くっ!! お”っ!! お”っ!! お”っ!! 私、の、子宮、突い、て、るっ!? お”っ!! お”っ!! お”っ!!」

 

 喉が裂けそうな程の嬌声。

 聖女は完全に為すがままだ。

 最も、ヴィルに抱えられたこの体勢では、彼女が自発的に行える行動などたかが知れているのだが。

 エルミアの肢体はゆさゆさとゆすぶられると同時に、弾力のある胸もまたプルンプルンと揺れる。

 その光景は、青年をさらに興奮させた。

 

「お”っ!! お”っ!! お”っ!! おちんぽがっ!! お”っ!! お”っ!! お”っ!! お腹、叩いてるっ!! お”っ!! お”っ!!」

 

 みっともなく涎や涙を流しながら、彼女は乱れた。

 膣も呼応するように、肉棒を搾ってくる。

 熱く、強い絞め付けは、この時間を永遠と続けたいという欲求をヴィルに抱かせた。

 

 しかし、このままで終わらせる訳にはいかない。

 ただ膣内に挿入しただけでは、彼の支配欲は満たされないのだ。

 

(――このタイツの伸びなら、いける!)

 

 幸い、これまでの行為で彼女の子宮は十分下がってきている(・・・・・・・・)

 膣口からは愛液が止めどなく溢れ出ており、彼女の方も準備は十分と見える。

 ヴィルは自分の腰の位置と相手の股の位置を調整し、“狙い”を定め。

 思い切り、“ソコ”を目指して股間を突き入れた。

 

「ぐひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!?!!!?」

 

 今日一番の雄叫び。

 エルミアの子宮内(・・・)へ、タイツ付きの肉棒が到達した瞬間である。

 

「あ”っ!? がっ!? あ”っ!? あ”っ!? あ”っ!?

 し、子宮にっ、一番、奥にっ!! き、来ちゃっ――あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”っ」

 

 子宮の中でさらにピストンを続ける。

 子宮口が愚息のカリに当たり、その刺激がヴィルを昂らせていく。

 

「あ”、あ”、あ”、タイツ、破け、ないっ!? なんで、破け、ない、のっ!?

 あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”っ!!」

 

「確かに丈夫だな、このタイツ」

 

 聖女の正装だという触れ込みは、こんなところで実証されてしまった。

 これだけ突き込んでも損傷しない辺り、相当に強靭な素材で作られているのだろう。

 どうでもいいところで感心してしまうヴィルである。

 それはそれとして、腰の運動は止めないのだが。

 

「い”、い”、い”、い”、い”、い”っ!!?

 ヴぃ、ヴィル、もう、私、イクっ!! あ”、あ”、あ”、あ”、あ”っ!! イク、からっ!!」

 

「ああ、俺もだ」

 

「い”、い”、一緒、にっ、あ”、あ”、あ”、一緒に、イキ、ましょっ!!

 あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、も、もうっ、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”っ!!!」

 

「そうだな。

 だがその前に、最後の仕上げかな」

 

「あ”、あ”、あ”、あ”、最後、の、仕上げ――!?」

 

 そこで、エルミアの表情がぎょっとしたものに変わる。

 

「ヴィル? まさかそれって、アレのことでは――あ”、あ”、あ”、あ”、あ”、あ”っ!?

 こんな状態でアレをされたら、私――あ”、あ”、あ”、あ”っ――こ、壊れ、壊れて、しまいますっ!!

 ま、待って下さい、一度、止まって――!?」

 

「いや、もう止まらない」

 

 というより、最初から止まるつもりは微塵も無かった。

 聖女の口調が変わったことから、割と本気で怯えているのが伝わってくる、が。

 ここまで“ヤりきる”ことを心に決めていたのだ。

 

 ――ヴィルは、全身の力を込めて、エルミアの胎内へ“震撃”を解き放つ。

 

「あびゃぁあああああああああああああああああああああっ!!!!?!!!!!?」

 

 聖女のものとは――いや、人のものとは思えぬ絶叫。

 

「お”ぅっ!!? お”ぅっ!!? お”ぅっ!!? お”ぅっ!!? お”ぅっ!!?

 し、子宮がぁっ!!! ふ、震えてぇっ!!!?

 壊れっ!! 壊れるっ!! 壊れますっ!!! お”お”ぼぁああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 壊れるのは子宮なのか、それとも彼女の精神なのか。

 おそらく、その両方だろう。

 

「大丈夫だ、どんなになっても、俺はお前から離れない」

 

 激しく痙攣を起こす少女の肢体をぎゅっと抱き締める。

 それはつまり、どれだけもがいても彼女は逃げられない、ということ。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!」

 

 喉が張り裂けんばかりに叫んでいた。

 超振動で内臓を震えさせているのだから、当たり前か。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!」

 

 “震撃”の影響はヴィルにも出る。

 当然の話だが、これだけ肉棒を酷使すれば、股間が被る刺激も馬鹿にならない。

 青年にもまた、限界が刻々と近づき――

 

 ――ブツッ

 

 唐突に、何かが破ける音がした。

 一瞬、エルミアの“致命的な何か”をとうとう壊してしまったのかと焦るが、違った。

 壊れたのは、タイツだ。

 いかに丈夫であろうと、“震撃”の耐えきる程の代物ではなかったらしい。

 

 イチモツから“覆い”が剥がされ、“生”の感触が襲いかかる。

 これまで幾度も味わった感覚だが、今日のソレは実に新鮮で、鮮烈だった。

 その“衝撃”は、ヴィルを一瞬で絶頂へ到達させるものであり――

 

「――出すぞ、エルミア!!」

 

「んがぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!!」

 

 たっぷりと。

 一日で溜めに溜めた精液を、聖女の子宮内へ直接流し込む。

 ビュルビュルと、音すら聞こえそうな勢いで射精する。

 

「がっ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!!」

 

 エルミアはと言えば、自身へ注がれる精子を、白目を剥いたまま迎え入れていた。

 顔の穴という穴から液体を垂れ流し、完全に気を逸している。

 身体からも力は消え去り、ヴィルが支えなければその場に倒れることだろう。

 

「……よっと」

 

 出すモノを出し終えたヴィルは、一旦彼女から離れ、その身体をそっと床に置く。

 イチモツが引き抜かれた膣穴からは精液と愛液が入り混じった“汁”がドロドロ流れ落ちた。

 それだけではなく、黄色い液体――小水も、股間からジョロジョロと零れ落ちる。

 

「―――――あ”っ」

 

 “汁”の流出が終わったところで、エルミアはその動きを完全に止める。

 

 ……一応安否確認したところ、別段生命活動に異常はなかった。

 単に気絶しただけだ。

 

「……ふぅ」

 

 一仕事(?)ヤり終え、ヴィルは額の汗をぬぐい――あることに気付く。

 股間が、まだ勃起していた(・・・・・・・・)

 あれだけエルミアとまぐわったというのに、自身の性欲はまだ尽きていなかったらしい。

 

「わ、我ながら恐ろしい」

 

 どれだけ欲求不満が溜まっていたというのか。

 発情期の雄犬だってもっと分別あるだろうに。

 

「ま、まあ、なってしまったものは仕方がない」

 

 どうにか鎮めねばならない。

 しかし――

 

「さて、どうしたものか」

 

 ――頭を捻る。

 エルミアはしばらく無理だ。

 今抱いたところで、何の反応も起こせはしないだろう。

 それ位には衰弱している。

 治癒魔法を使えばなんとでもなるが……恋人をそこまで酷使するのは、性的欲求を持て余したヴィルでも気が引けた。

 

 なんとは無しに部屋を見渡すと、

 

「あ」

「あ」

 

 赤毛の少女と目があう。

 ずっとこちらを見物していたのだろう、イーファはちょうど自慰の真っ最中。

 股を大きく広げ、指で敏感な場所を擦っていた。

 

「え、えーと、その……先生?」

 

「イーファ――」

 

 オナニーを中断し、伺うような視線でこちらを見てくる少女へ、ヴィルは厳かに宣言する。

 

「――次はお前だ」

 

「やっぱり!?」

 

 自分で慰めていたため、彼女の恥部は既に十分湿っている。

 これ幸いと、青年は少女に覆い被さり――

 

「あひぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!?」

 

 ――部屋に新たな嬌声が響いた。

 

 

 

 その後。

 部屋に響く喘ぎ声は交互に入れ替わり――夜が大分更けても、その声は途切れなかったという。

 

 

 

 冒険者生活一日目 終了



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑥ 2日目の冒険が始ま――らない?(H)

 

 朝。

 目が覚めると、目の前に尻があった。

 

(……何だそれは)

 

 そうとしか表現ができなかったのである。

 目の前に、尻。

 しかも生。

 どうしようも無い程、視界が生尻で圧迫されていた。

 目に入る全てが尻なのだ。

 むっちりとした巨尻が、ヴィルの前に横たわっている。

 

「――イーファか」

 

 ある程度頭が冴えれば、“これ”が何なのかはすぐに理解できた。

 昨夜はあの後も散々乱れ、そのまま就寝してしまったのである。

 そもそもヴィル自身、裸だ。

 故に、眼前に巨大な生尻があることへ疑問を持つ必要は無い――敢えて言及するなら、姿勢が上下逆になっているイーファの寝相の悪さは如何なものかとは思うが。

 

(……眠る前に、69をしていたような気もする)

 

 だとすれば、自分と彼女が逆の姿勢で寝ていることにも正当性はある。

 総じて、今ヴィルのおかれている状況は全く持って異常なものではないということだ。

 

 ――いや、それはそれでどうなんだ、というツッコミは御尤もだが、ここ最近のヴィルはこれが平常運転になってしまっているのである。

 ほぼほぼエルミアのせいなのだが。

 

「さて、まだ時間はあるかな?」

 

 外はまだ薄ぼんやりとしている。

 起床するには若干早い時間帯だ。

 さりとて、二度寝するのは趣味でない。

 

「――ふむ」

 

 数秒逡巡した後、ヴィルは徐に指をイーファの尻穴に突っ込んだ。

 既に幾度も挿入を繰り返しているイーファの菊門は、決して細くないヴィルの指を容易に受け入れてくれる。

 

「んふっ!?」

 

 少女から漏れる嬌声。

 尻肉ばピクッと震える。

 しかし青年はそれに気を留めず、挿し込んだ指を上下左右にぐりぐりと動かす。

 

「おふっ!? んっ! おっ、おっ、おっ、おっ!?」

 

 甘美な喘ぎ声が部屋に響く。

 その心地良さに、未だ残っていた眠気が取り除かれていく。

 興が乗って、さらに抜き挿しを繰り返す。

 

「お、お、お、お、お、おっ!? あっ!! あっ、あっ、あっ、あっ、あぁああっ!!?」

 

 じわじわと大きく悶えだすイーファ。

 ここからだと彼女の顔が見えないが、きっと蕩けだしている筈だ。

 それとも、まだ眠っていたりするのだろうか?

 

「おぅっ!? おっ! おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!!」

 

 尻穴の向こう側、女性器がほのかに湿ってきた。

 彼女が感じているのは間違いない。

 ヴィルは空いている方の手でイーファの尻肉を鷲掴みにする。

 むっちりした質感の巨尻に、指が食い込んでいく。

 

「おぉおおおっ!!? あっ!! あぁぁああんっ!! あっ!! あああっ!!!」

 

 片方の手では菊門の締め付けと内部の暖かさ。

 もう片方の手ではハリのある尻の弾力。

 それぞれを楽しみながら、ヴィルは少女を責め立てる。

 

「おっ! おっ! おぅっ!! おぅっ!! おっ!! おぉおおっ!!?」

 

 穴に挿れる指を増やし、ついでに尻を舐めてみた。

 年若い少女の瑞々しい肌を舌で感じる。

 浮かんできた汗による塩っ気も良いアクセント。

 

「んおぉぉおおおおおおおおおっ!!?」

 

 激しくなる嬌声。

 膣口から愛液が垂れている。

 イーファは相当感じ入ってるようだ。

 おそらくそろそろ絶頂だろう。

 

「お、お、おっ!! おっぉぉおぉおおおおおおおおっ!!!?」

 

 そう考えている内に、少女の肢体がピンと伸び――そのままびくびくと震え始めた。

 無事、イったようだ。

 挿入していた指をゆっくりと引き抜くと、菊穴は閉じ切らずにひくついている。

 

「――おっ――おおっ――おっ――おっ――」

 

 ここで初めてイーファの顔を見る。

 予想していた通り、その表情は淫猥に歪んでいた。

 目と口が大きく開き、涙や涎が垂れ流れる。

 濡れ具合(・・・・)は女性器も同様で、膣口は淫液に塗れていた。

 

「……そういえば喉が乾いたな」

 

 特に深い意味も無くそう呟くと、ヴィルは少女の股間に顔を埋めた。

 むわっとした雌の匂いが鼻孔に広がる。

 その芳しさを嗅ぎながら、股から垂れる愛液をちゅるちゅると(すす)り出す。

 

「――あっ――あっあっ――あ、ああ、あ、あああっ――!」

 

 絶頂により敏感になったイーファが、再び喘ぎ始めた。

 その一方で、ヴィルは甘美な雌汁で喉を潤していく。

 愛液は舐めれば舐める程に湧き上がってきた。

 

「あ、あ、あ、あ、あ――はぁああ、あ、あぁあああ――!」

 

 身悶えする少女を尻目に、青年は満足いくまで股間を舐めまわすのだった。

 

 

 

 とまあ、そんな一幕がありつつも。

 

「ヴィル、用意できたわよー」

 

 エルミアの呼び声で、ヴィルはベッドを発った。

 銅も彼女、一足先に起床して朝食の用意をしてくれていたらしい。

 だというのに自分はイーファの尻穴を弄っていたという事実はかなり精神的ダメージを負わせてくるが、済んだことは仕方ない。

 今は聖女の作った食事を堪能して今日一日の英気を養わなうことに集中すべきだ。

 

(というか、エルミアの料理を食べるのはかなり久しぶりなんだよな)

 

 旅中は携帯食料か宿での食事かのどちらかだったので、調理をするような機会がほとんどなかったのである。

 そんなところにも楽しみを潜ませつつ、ヴィルは聖女の待つリビングへと向かった――の、だが。

 

「……エルミアさん?」

 

「なぁに?」

 

「これは何かな?」

 

「何って、見て分からないの?」

 

「……分からないな」

 

「本当に? ただのディルド(・・・・)じゃない」

 

「……そうか。うん、本当に、そうだったのか」

 

 ひょっとして凄まじく斬新な料理なのではないかという一抹の希望の潰えた。

 部屋にやってきたヴィルを出迎えたのは、愛する少女の作った暖かい料理ではなく、無機質な棒状の物体だったのだ。

 はっきり言ってしまえばディルドである。張型ともいう。

 男性のイチモツを模して造られた玩具で――――何故こんなことを説明せねばならないのだろう?

 

「ちなみにサイズはヴィルのモノと全く同じだから」

 

「……そう」

 

 別に聞いても居ない情報を開示してくれたエルミア。

 どう答えればいいのか分からない。

 彼女は何故、朝っぱらから大人の玩具をテーブルの上に並べているのだろう。

 自分はそれに対してどう反応すればいいのだろう。

 

「一つ、聞いてもいいだろうか?」

 

「なに?」

 

「朝食は?」

 

「朝食?」

 

 聖女は首を傾げた。

 首を傾げたいのはこっちの方だった。

 

「てっきり、君が用意してくれてるものだとばかり思ってたんだが」

 

「あー、そういえばそういうのもあったわね。忘れてたわ」

 

 彼女の声は、余りにあっけらかんとしていた。

 いや、勝手に期待したこちらにも非はあるかもしれないが――

 

「ほら、旅の最中は朝食、貴方のザーメンだったし」

 

「……え?」

 

「え?って――毎朝私がフェラしてたの、何だと思ってたの!?」

 

「フェラだと思ってたよ!?」

 

 ――驚愕の事実。

 聖女の一日の栄養バランスの1/3は自分の精液が賄っていた!

 

「いや、流石に嘘だろ!?」

 

「本当よー。

 私が朝食をとってるとこ、見たこと無いでしょ?」

 

「そ、そうだったかなー?」

 

 そうだったかもしれない。

 いや、本当にそうだったか?

 事実が事実だけに、脳が理解することを拒んでいる。

 

「ま、まあ、いいや。

 朝食云々については忘れてくれ。

 俺も忘れることにする」

 

「そう?

 ヴィルのザーメンって濃厚で粘っこいけど栄養素豊富だから、世の女性にお勧めなんだけど。

 イーファも飲みだしてから体調良くなったって言ってたし」

 

「違う話をしよう!!」

 

 このまま続けると、知りたくない事実が次かが次へと明らかになりそうだ。

 

「じゃ、話を戻してディルドのことなんだけど」

 

「……そうか、別の話題だとそっちになるのか」

 

 それでもザーメン云々よりかは相対的にまともそうではある。

 

「それでこのディルドなんだけど、ヴィルに具合(・・)を確かめて欲しくって」

 

「……っ!?」

 

 早々に前言撤回。

 こちらに十二分にヤバいだった。

 何時でも逃げ出せる体勢を整えながら、恐る恐るエルミアに尋ねる。

 

「た、確かめるというのは――それはつまり、どういうことだ……?」

 

「え? ああ、違う違う。

 別にコレを貴方に突っ込もうだなんて思ってないわよ」

 

「そ、そうか」

 

 どうやら盛大に早とちりしてしまったらしい。

 

「私の腕力じゃヴィルの括約筋に勝てそうにないし」

 

「…………」

 

 早とちりでは無かったかもしれない。

 

「確かめて欲しいっていうのはね。

 このディルド、<輝具>で作ってみたんだけど、ヴィルの目から見てしっかり出来てるかどうか判別して欲しいの」

 

「……え?」

 

 何か、凄いことを言われた。

 

「<輝具>? え? 君はこの張型を、あの魔法で作ったのか?」

 

「そうよ?

 ほら、自分の好きな形の“モノ”が造れるから、便利そうだったし」

 

「いつ覚えたの?」

 

「ヴィルが<輝具>使うのを見た後、空いてる時間で練習してたのよ。

 もともと、学園長から貰った魔法書に理論は書いてあったから」

 

「……えー」

 

 開いた口が塞がらなかった。

 <輝具>は窮極呪法に属する魔法の一つ。

 効果のほどはさておき、その習得難易度は最高位魔法すら超える。

 そんな代物をエルミアが身につけていたとは――

 

「――君、攻撃魔法以外にも使えたんだな」

 

「さらっと失礼なこと言ったわね?」

 

 魔法に関して非凡であるとは思っていたが、認識が甘かったようだ。

 分野をある程度限定した上での比較であれば、自分を超える才能を持っているかもしれない。

 ……その才を使って出来上がったのがディルドな辺り、物悲しさを感じてしまうけれども。

 

「そもそも、何故<輝具>を使ってまでしてこんな物を作ったんだ?

 木を削るなり店で買うなりした方が、遥かに手間がかからなかっただろう」

 

「ふっ、甘いわね、ヴィル」

 

 チッチッチッと聖女が舌を鳴らす。

 

「私が<輝具>に興味を持ったのはね、別に好き放題形を変えられるからじゃないの。

 <輝具>で作った物は、ある程度術者の意思で動かせる(・・・・・・・・・・)からなのよ」

 

「な、何!?」

 

 確かに、そういう効果もある。

 本来は戦闘中に手から離れてしまった武器を素早く取り戻す、等を目的として使うのだが。

 

「この力を使えば、ディルドを自分の意思で振動させる(・・・・・)ことができる……!!」

 

「そんなしょうもないことを!?」

 

「しょうもなくは無いでしょ。

 寧ろ革新的な発明なんじゃないかしら。

 ヴィルだって、使ってみたいと思わないの?」

 

「いや、まあ、それは……」

 

 否定することはできなかった。

 男の悲しい性である。

 

「で、結局どう? コレ、ちゃんと出来てる?」

 

「あ、ああ。

 初めてとは思えない程しっかり出来上がっている」

 

 出来上がったモノはともかく、それを作り上げた技術は実際に大したものだった。

 十分に及第点を与えられる。

 

「ヴィルの太鼓判があるなら安心ね。

 これで、色々と試す(・・・・・)ことができるわ」

 

「……程々にな」

 

 ニヤリと嗤う聖女(とは思えない顔だ)に、一応釘を刺しておく。

 おそらく“お試し”されるのであろう赤髪の魔女(イーファ)へ、心の中で合掌した。

 

「あ、そうだ。

 ところで、朝食についてなんだけど――」

 

「ん? どうした?」

 

「――“飲み物”だったらあるのよね」

 

 そう言うと、エルミアは淫猥に微笑みながらスカートをたくし上げる。

 露わになった純白のショーツは、彼女の愛液でびっしょりと濡れていた。

 太ももへ“汁”が幾筋も垂れる程に。

 

「……驚いた。

 ずっとそんな状態でいたのか」

 

「貴方のおちんぽそっくりのディルド持ってるんですもの、こうもなるわよ。

 それで、どうする? 飲んでいかない?」

 

 クチュ、クチュ、と音を立てて少女は自らの股間を弄る。

 透明な液体が秘部からさらに漏れ出していった。

 

「いいのか? 今は腹が減ってるから、相当飲むぞ(・・・)

 

「お好きなだけどうぞ。

 その代わり、私にもちゃんと朝食(・・)出してくれるわよね?」

 

 聖女が青年の股間へとの熱い視線を送る。

 彼女が何を期待しているのか、それだけでよく分かった。

 

 ヴィルはエルミアをテーブルの上に押し倒すと、白く美しい太ももの付け根へむしゃぶりつく。

 

「あ、あぁぁあああああ――♪」

 

 少女の愛らしい嬌声をBGMに、彼の“朝食”が始まった。

 

 

 

 ――結局この朝は、2人の少女の愛を貪る形で終わったのだが。

 お腹はともかく心は満ち満ちたヴィルであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑦ 冒険者ギルド、2回目(H)

 ここは冒険者ギルドの館。

 “朝食”を済ませたヴィルは、早速クリス達との合流をするべく、この場所へ来ていたのだった。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 クリスと会うために来た、のだが。

 

「あっ! ああんっ! あっ! そこ、そこいいのぉっ!!」

 

 肉と肉がぶつかり合う音と共に、女性の喘ぎが部屋に響く。

 声の主はボブカットの似合う女性――このギルドの受付嬢ニーナだ。

 

「あ、あ、あ、あ、あっ! ヴィル君っ! 凄いっ! おっきくって! あっあっあっあっ!! 逞しくって!! あぁああああああんっ!!」

 

 ヴィルは今、彼女の後ろから責め立てていた。反り勃ったイチモツが、ニーナの股間に突き立っている。

 

「ああっあっあっあっ!! いいっ!! いいっ!! こんなのっ!! もうっ!! ダメェっ!!」

 

 肢体をガクガクと揺らしながら、受付嬢は感じ入っていた。

 

 

 ――何故こんなことになったのか。

 時は少しだけ遡る。

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

「あ、ヴィル君、おはよう」

 

「ニーナか。おはよう」

 

 ギルドの扉をくぐったヴィルは、当然のように受付のニーナと挨拶を交わす。

 カウンターの向こうに居る彼女は、満面の笑顔をこちらに会釈をしてくれた。

 

「あ、そうだ」

 

「ん?」

 

 と、彼女に呼び止められた。

 

「ちょっとこっち来てくれる?」

 

「どうしたんだ?」

 

 手招きに応じ、ニーナへと近づく。

 すると――

 

コレ(・・)の感想、聞かせて欲しいなぁ?」

 

「!!?」

 

 ――彼女は、平然とした顔でスカートを捲り上げた(・・・・・・・・・・)のだ。

 ガーターベルトが着けられた、白いレースの下着が露わになっている。

 

「な、何をしてるんだ……?」

 

「何って、君にパンティを見せてるんだよ?

 シンプルなデザインだけどいい下着でしょ。

 わたしの勝負下着なの」

 

 確かに、かなり良い生地を使ってる。

 見るからに触り心地が良さそうだ。

 加えて、お尻に割れ目が透けて見える程に薄い。

 こんなものを見せつけられたら、興奮しない男などほとんどいないだろう。

 

 そして、ヴィルも男なので当然のように興奮する。

 今日は朝からイーファやエルミアと絡んだので、ちょっとしたことで股間が反応してしまう。

 

「……ひょっとして、“昨夜の続き”をするつもりか?」

 

「勿論! あの後、わたしがどれだけ悶々としたか分かってる?

 3回くらいオナニーしたけど、全然鎮まらなかったんだから!

 あんなもの(・・・・・)見せつけられたら、ちゃんとセックスするまで収まりつかないよ!」

 

「そりゃまたなんというか」

 

 この娘、大分淫乱なようだ。

 初対面のヴィルと酒場で“あんな行為”をしたのだから、予想して然るべきだったか。

 もっとも、淫乱な女性(エルミア)といつも接する彼にとって、この事態は意外ではあっても驚く程のことではない。

 なので――

 

「だから、こんなにパンツが濡れているのか」

 

「あっ」

 

 ――当然のような動作で、ニーナの股間を触る。

 ソコは既に愛液で湿っていた。

 温かく、そして水っぽい感触を楽しみながら、ヴィルはゆっくりと指を動かす。

 

「あ、んっ――な、慣れてるね、君」

 

「まあ、色々とあってなぁ」

 

 空いている方の手で彼女の着ているブラウスのボタンを外していく。

 ショーツとお揃いのブラジャーと対面するのはその直後だった。

 ヴィルは、白い布地に包まれた豊かな双丘を揉み解していく。

 

「いい感触だ」

 

「それはわたしの身体が? それとも、下着の方?」

 

「両方だな」

 

「――あっ」

 

 ブラの留め具を外してずり下ろした。

 途端、乳首が上向きに着いた、綺麗な形の乳房が零れ落ちる。

 

「……どう? おっぱいには結構自信あるよ?」

 

「言うだけある」

 

 大きさに加えて、ハリや艶を兼ね備えたなかなかの逸品である。

 辛抱堪らず、その先端へ吸い付いた。

 

「は、あぁああんっ」

 

 ニーナも喜びの声で迎え入れる――が。

 

「ちょ、ちょっと待って。

 流石にここじゃまずかなー」

 

「――どこならいいんだ?」

 

「向こうにスタッフの休憩室があるの。

 この時間なら誰も来ないから」

 

 

 

 ……………………………………

 

 

 

 と、まあそんな経緯である。

 

(……まるで大した理由が無いな!?)

 

 思い返して、ここに至る経緯の簡易さに驚嘆した。

 余りにもドストレート過ぎる。

 こんなのでいいのか。

 

「あっ! ああっ! ああっ!! 凄いっ!! このちんぽ、凄いっ!!

 こんなおっきいの、初め、てっ――あぁああああっ!!!」

 

 ニーナは自らも腰を振って、こちらの愚息を味わっている。

 ……まあ、偶にはこんなのもいいかもしれない。

 

 ヴィルは背後から前に手を廻し、彼女の胸を掴む。

 掌全体に伝わる、雌の柔肉の感触。

 

「あ、あぁあああああっ!!」

 

 手では乳房を、股間は秘部を愉しみ、ニーナという女性を味わい尽くしていく。

 

(良い塩梅だ。男好きする身体とは、こういうのを言うのかもしれない)

 

 膣肉はイチモツを柔らかく受け入れた上で程よく締めつけ、胸の双丘は具合よく手にすっぽり収まる。

 スタイルが飛び抜けて訳では無いのだが、とにかく抱き心地が好感触なのだ。

 手で胸の先端を転がしながら、ヴィルはそんなことを思う。

 

「ん、んん、んぅっ!! 乳首っ!! 乳首、だめぇっ!! んぅううう――っ」

 

 こちらの責めに反応し、切なそうに吐息をつくニーナ。

 

 しかし、仮にもここはギルドであり、時間帯も朝。

 いつまでもこうしていると、人目に付く恐れがある。

 

(そろそろ、スパートをかけるか)

 

 ヴィルがそう考え、激しく腰を動かし始めたところで――

 

 

『ニーナ、ここに居るのかー?』

 

 

 休憩室のドア、その向こうから声がかかる。

 

「「っ!?」」

 

 2人は同時に息を飲んだ。

 

「……な、なんですかー?」

 

 恐る恐る、返事をするニーナ。

 一応、ドアのカギはかけているが――

 

 

『ほら、今日までが期限の書類、提出しときたいんだけどさ』

 

 

 どうやら、単純に受付嬢へ用があったようだ。

 

(この声、クリスか?)

 

 同時に、ヴィルは声の主の正体に気付く。

 何故だろうか、昨日から“コトの最中”によく遭遇する人物だ。

 その度に中断するハメになってきたのだが……

 

「ああ、その書類でしたら――おひぃっ!?」

 

 台詞の途中で、ニーナから嬌声が漏れ出す。

 何のことは無い、ヴィルが腰を突き出した(・・・・・・・)からだ。

 

(そう毎度毎度、屈する訳にはいかない……!)

 

 ヴィルの負けず嫌い魂に火がついてしまった。

 屈するも屈さないも、こんなところでセックスし出す方が悪いのだが――

 

(それはそれ。これは――これだ!)

 

 理不尽なことを力強く断言する。

 まあ、幸いなことにクリスはドアを挟んで向こう側。

 上手くすれば気付かれずに済むかもしれない。

 

(ならば――!)

 

 ヴィルは、動き続けることを決意した。

 改めてニーナの肢体に抱き着き、彼女の尻へ股間を押し付ける。

 

「ん、あぁああああ――ヴぃ、ヴィル君? ちょ、ちょっと待っ――あ、あ、あ、あああっ」

 

 たちまち悶え始めたニーナ。そんな彼女を訝しんでか、

 

 

『どうしたのさ? 何か変な音が聞こえたぞ?』

 

 

 クリスが声をかけてきた。

 

「な、なんでもっ――あ、あ、あ――なんでも、無い、ですよっ」

 

『そっかー? そうならいいんだけどさ。なんかニーナの声、変な感じだったから』

 

「そんな、ことっ――はぁあああうっ!?

 ヴぃ、ヴィル君、ダメ、強すぎっ――あ、あ、あ、あぁああっ!!?」

 

 腰のピストンを早くすると、ニーナの喘ぎも強くなる。

 実に素直な反応だ。

 見ていて気分がいい。

 

(気分が良い、といえば――)

 

 先程から、膣の締め付けも先程より強くなっていた。

 すぐ近くに人がいるという緊張感が、膣壁にも伝わっているのだろうか。

 

『本当に大丈夫か? 苦しそうだよ?』

 

「ホント、に、大丈――ん、あ、あ、あ、ああ、あっ――だ、大丈夫、ですっ」

 

 ここでヴィルはニーナの片脚を抱きかかえると、彼女の股を上下に(・・・)拡げた。

 より挿入しやすくなった膣口へ、思い切り腰を打ち据える。

 

「おっ!? ほぉおおおおおおおっ!!?」

 

『ニーナ!?』

 

 クリスの驚く声。

 それ程までに、彼女は大きく喘いでしまった。

 ヴィルの腰が勢いを増したことに加え、姿勢が変化したことでこれまでと“当たる場所”が変わったことが原因だろう。

 

『今のはヤバい声だったぞ!? 治癒魔法の使い手でも連れて来ようか!?』

 

「へ、平気、ホント、平気、なんで――あっあっあっあっあっああっ!!?」

 

『全然平気じゃないさ、それは!? そっち行くからドアの鍵開けてくれ!』

 

「はっあっんっ!! んっんっんっんっんぅうううっ!!

 ホントにっ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ、大丈夫――うぅぅぅううんぅっ!!

 大丈夫、だからっあ、ああぁあああああっ!!!」

 

 盛大に嬌声をあげながらも、しっかり返事をする辺り、素晴らしいプロ根性である。

 喘がせているヴィルが口にしても誉め言葉にならないが。

 

「すこし――く、んんんぅっ――休んだら、治ります、からっ――あっあっあっあっ!?」

 

 なお、2人が会話している間もヴィルの腰は止まっていない。

 それどころか、抱えている脚を舐めたりまでしている。

 ススッと舌を這わせるだけでニーナの肢体がビクビクと震えるため、ついつい止まらないのだ。

 

『ほ、本当か? キツそうならすぐ人呼べよ? あんまり無茶しちゃ駄目だぞ?』

 

「はっあっんぅううっ――う、うんっ、ありが、とっ――んくぅっ!?」

 

『ところで、書類は結局どうすれば?』

 

「受付、の、カウンター、にっ――あ、あ、あ、あ、あっ!!

 か、カウンターに、置いておいて、下さ、い、あぅうううっ!?

 あとで、取り、に、行きます、から――あっあっああっ!!」

 

 どうにか無事に(?)、会話が終了しそうだ。

 一方で、ヴィルの方もそろそろだった。

 

(最後のスパート、いかせてもらうぞ……!)

 

 絶頂を迎えるため、渾身の力で腰を振る。

 

「ひぁああああああああああっ!!?」

 

 これまでで最大のピストンに、ニーナは堪らず絶叫した。

 

「イクッ!! イクイクッ!! イクぅぅうううううっ!!!?」

 

『どうしちゃったんだ、ニーナ!?

 そんなに“行く”ことを強調しなくっても大丈夫さ!?』

 

「イクっ!!? イクの!! もうイクっ!! イっちゃうっ!!」

 

『分かった! 分かったから!! “行く”のは分かったから静かに休んでて!!』

 

 なんだか滑稽なやり取りになってしまっている。

 クリスは本当に気付いていないのだろうか?

 

(だが、だとすれば好都合だ!)

 

 パンパンと腰を打ち付ける。

 もうじき、自分も限界だ。

 それはニーナも同じのようで、表情は蕩けきり、女性器からはダラダラと愛液が垂れ流れている。

 

 そして――

 

「イックぅううううううううううっ!!!?!!?」

 

 ――2人は、同時に絶頂を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 色々片付いた後。

 

「……ひ、酷い目に遭ったよ」

 

「いや、返す返すもすみませんでした」

 

 ニーナが涙目になりながら、こちらを睨んでくる。

 それに対し、ヴィルは平謝りだ。

 流石にあれはどうかしていた。

 

「本当に反省してるの?」

 

「神に誓って反省しています」

 

「それじゃあ――」

 

 そこで彼女は、小悪魔チックな笑みを零す。

 

「――また、してくれる?」

 

「え」

 

 その言葉に、一瞬思考が停止した。

 

「いいのか? 俺が言うのもなんだけれど、あんなことがあった後にそんなこと言って」

 

「いいの。

 ていうかね、君のおちんぽ、ホント凄すぎ。

 あんなのでガンガンはめられちゃったら、君の以外じゃ満足できなくなっちゃうって。

 2度と抱かないとか言われたら、ガチで凹むレベル」

 

「そんなものなのか」

 

「そんなものなの」

 

 まあ、本人にここまで断言されてしまっては、どうしようもない。

 

「そこまで言われたなら、男として応じない訳にはいかないな」

 

「いよ、ご立派。

 わたしを君のおちんぽ専属にしてくれちゃったんだから、ちゃんと責任とってハメハメしてよね?

 当面、ギルドに顔を出したら必ず一発ヤること」

 

「……善処しよう」

 

 “責任”という単語を出されると、ちょっとドキっとしてしまうヴィルなのだった。

 無論、無責任に投げ出すつもりは毛頭ないが。

 

「じゃあ、約束のキス、しよっか」

 

「む」

 

 言葉通り。

 2人はねっとりと口づけを交わしてから、部屋を後にした。

 そのまま何事も無かったかのように平然と受付業務へ戻るニーナを見て、プロの凄さを認識してみたヴィルである。

 

 

 

 ――ちなみに。

 色々とヤったが時刻はまだ、朝。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑧ 冒険パーティー結成

 

「なんか、オマエやつれてないか?」

 

「そ、そんなことは無いぞー?」

 

 クリスに会った第一声がそれであった。

 しかし、“連戦”の疲れが無いとは言い切れない。

 今はギルド内に設けられた待合所で座っているのだが、正直、ちょっと腰が痛い。

 流石にヤりすぎたと反省することしきり。

 ならばもう止めるのかと言えば――誘われたら、またヤってしまうかもしれない。

 

(……意志力弱くなってきてないか、俺?)

 

 精神鍛錬が必要かもしれないが、それはまた今度。

 

「えー、それで、だな。他のパーティーメンバーというのは、どこに居るんだ?」

 

「露骨に話題を逸らしに来やがった……」

 

 呆れ返るクリスに、心の底から謝罪する。決して冒険者稼業を軽んじている訳ではないのだが――こんなコンディションで顔を出してしまえば、そう思われても仕方がない。

 

「まあ、いいさ。今日はそんな大層なことをするつもりはないからね。

 で、待望のお仲間はもう少しでここに来る予定――と、ほらきた!」

 

「むむ!」

 

 その言葉通りギルドの扉が開き、外から一人の“黒髪の少女”が入ってくる。ヴィルはその顔を見て――

 

「……え?」

 

 そんな呟きを漏らしてしまった。

 人形のように整ったその容貌に、心当たりがあったからだ。

 他人の空似を一応気にかけ、恐る恐ると話しかけてみる。

 

「……まさか、ロアナ、か?」

 

「――どうもご無沙汰してます。まさかこんなところで再会するとは思いませんでした」

 

 あっさりと頷かれた。

 少女は、本当にロアナであった。

 以前――まだエルミアと会ったばかりの頃――遭遇した事件で関わった少女である(※第4話参照)。

 

「そ、そうか。うん、久しぶり、だな……」

 

 とりあえず挨拶はしっかりと返しつつ、顔をクリスの方へ向ける。

 

「お、おい、クリス?」

 

「何だい?」

 

「君は――彼女が何者なのか、知っているのか?」

 

 ヴィル自身、別段ロアナに対して悪感情は無い。

 ただ、少女の立場を考えると“はい、そうですか”と流すこともできない。

 

「ああ、知っているとも。

 教会の重要参考人だろ?

 保護観察対象になってるやつ。

 流石に守護騎士やってるだけあって、アンタも知ってたんだな」

 

「知ってたんだな――って。

 君の方こそ、そこまで知っておきながら何故この子を仲間に引き込んだんだ?」

 

 この物言いにロアナが気を悪くしないかと、横目で少女の方を見やるが――少なくとも彼女の顔に変化は無かった。

 

「いやぁ、面倒な事情抱えてるのを差っ引いてもさ、お得だったんだ、彼女」

 

「お得?」

 

 理解しがたい言い回しに聞き返すも、返事をしたのはロアナの方。

 

「――要するに教会は持て余していたのですよ。例の事件(・・・・)のせいで、わたしを容易には解放できない。でも、わたし自身は大して重要なわけでも無いですから、監禁し続けるのも面倒。

 ――だから、“貸し出す”ことにしたんです」

 

「貸し出す?」

 

「――はい。信頼の置ける冒険者にわたしを預け、監視を代行して貰っているのです」

 

 また思い切ったことをしたものである。まあ、教会としても罪を犯したわけでも無い少女を、長く拘束することに抵抗があったのかもしれない。

 しかし仮にも聖女(とついでに帝国の将軍)を巻き込んだ事件の関係者である以上、安易に自由の身にすることはできない。

 貸出というのはその妥協案か。

 

「それはまあ、なんというか……ご愁傷様」

 

「お気遣い無く――別段、不自由していることもありませんから。教会で軟禁されるより、ずっと気楽です」

 

「そうなのか」

 

 本人が納得しているというなら、ヴィルがどうこう口出しする話でも――いや、さっさと少女を解放するよう教会に掛け合うべきか?

 

(難しいところだな……)

 

 下手を打つと帝国と教会の問題にまで発展してしまう可能性がある。

 自分の立場を利用した行動は、ギリギリまで保留しておくべきだ。

 そんな考え事をしていると、クリスが説明を補足してくれた。

 

「ロアナってばこの年齢で熟達した聖職者でさ、治癒魔法はなんでもお手の物なんだ。

 しかも教会が色々特典も付けてくれて――どこからでも教会に通信飛ばせるマジックアイテムだとか、離れていてもこっちの位置が分かる護符だとかを無料で貰えたのさ」

 

「それ、もしかしなくてもロアナを監視するためのものだろ」

 

「勿論そうなんだけど、冒険者にとっては凄くありがたいぞ?

 万一迷宮で遭難しても、助けを呼べるんだから」

 

「……そういう捉え方もできるか」

 

 教会が悪意を持って監視しているのではない以上、いざという時の命綱として活用できると判断したのだろう。

 一通り説明が終わったところで、ロアナが改めて顔をこちらに向けてきた。

 

「――わたしがここに居る理由は納得頂けましたか?」

 

「ああ、納得できた。君とこんなところで再び会う偶然以外は」

 

「――そこは、人と人の奇妙な巡り合わせということで」

 

「縁か……まあ、そんなものかもしれないが」

 

 王都に着いてから、知人と出会うのはこれで2人目。

 一人目(セリーヌ)は自分を追ってきたので偶然とは言い難いが、人同士の縁とはそんなものなのかもしれない。

 

「ま、ともあれ、アンタ達が知り合い同士で良かったさ。

 アレコレ自己紹介する手間も省けそうだし。

 お互い、実力の程も分かってるんだろ?」

 

「――ええ、物凄く」

 

 クリスの台詞に、ロアナが深く頷いた。

 正確に言えばヴィルはこの少女の力量を目にしたことは無いのだが、聖女の有力候補にまで挙がっていたのだから問題あるまい――

 

(――いや、待て、本当に大丈夫か!?)

 

 脳裏に聖女らしからぬ(攻撃魔法しか使えない)聖女の顔がよぎってしまったが、すぐ頭を振って不安を打ち消す。

 

「それでクリス。君のパーティーはこれで全員なのか?」

 

「そうさ。体調崩してる奴を除けばな。

 教会の守護騎士にシスター、そしてオレ様は軽戦士。

 なかなか堅牢で悪くない組み合わせじゃないか?」

 

斥候(スカウト)がいないのはまずくないだろうか」

 

「そこはほら、アンタに期待してる」

 

「俺に? ある程度なら真似事はできるかもしれないが……」

 

「いや、期待してるのはアンタの頑丈ささ。漢探知って知ってる?」

 

「罠を踏み抜けと言っているのか!?」

 

「ジョーダンジョーダン! こう見えてもオレ様、そっち方面も結構得意なのさ。銀クラスは伊達じゃないってこと」

 

「そ、そうか。ならいいんだが」

 

 世の中にはあらゆる罠に自ら突っ込み、敢えて引っかかることによって仲間の安全を守るという男気溢れた者がいると耳にしたことがある。

 しかし、残念ながらヴィルにそこまでの気概は無かった。

 

「じゃ、顔合わせも終わったところで、早速行こうか」

 

 パンっと手を打ち鳴らして、クリスがそう宣言する。

 

「早いな!? もっとパーティ内での分担をしっかり確認しておいた方がいいのでは!?」

 

「大丈夫さ、いきなりそんな危ないとこには行かないから。

 アンタは勿論、ロアナもまだ迷宮潜ったこと無いし。

 野外の冒険とは色々勝手が違うから、まずはそこに慣れて貰わないと」

 

「あれ、そうだったのか」

 

 てっきり既に幾度か冒険をしていたものとばかり思っていた。

 

「――依頼は受けていました。害獣退治などの野外のお仕事だったというだけで」

 

「女の子をいきなりダンジョンに連れてくのもな。この子の実力もちゃんと確かめたかったし」

 

 試用期間中だったということか。

 

「それでいくと、俺にも確認が必要なのでは?

 正直、ダンジョンは余り経験がないんだ」

 

 部隊を率いて潜ったことはあるが、少人数での探索は行ったことが無い。

 しかしその質問に2人は呆れすら含んだ顔をして、

 

「アンタは必要ないだろ?」

 

「――ご自分の姿を鏡で見たことないのですか」

 

「…………」

 

 何やら納得いかない物言いではあったが。

 とにもかくにも初のダンジョン冒険行きが決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で、ここが今日潜るダンジョンさー」

 

「……近すぎやしないだろうか」

 

 ギルドを出発してものの1時間も経たずに到着してしまった。

 というか、王都を出てすらいない。

 街中にあった地下への階段を降りた先に、ダンジョンがあった。

 <(ライト)>の魔法で作り出された照明に照らされるは、石造りの壁。

 そんなものに囲われる迷宮へ、辿り着いてしまったのだ。

 こうもご近所感覚で来れていいものなのか。

 

「――この王都は遺跡の上に建設されているのです。恐ろしく巨大な地下建造物で、未だ全てを調べきれてはいないとか。一説には、太古の昔に神々(オーバーロード)によって造られたとも言われています。もっとも、今では魔物が闊歩するダンジョンとなっているのですが。おかげで、冒険者が探索場所に困ることはなくなりましたね」

 

 そんなヴィルの疑問を察したのか、ロアナが説明をくれる。

 なるほど、それなら簡単に行けるのにも納得いくが――

 

「いや待ってくれ。

 街のすぐ下に迷宮があることの理由は分かったが――そもそもこんな場所にあったら、魔物が簡単に侵入してくるのでは?」

 

「心配無用さ。

 浅い階層には魔物がほとんどいないし、出たとしても弱いヤツばっかりだから。

 鉄クラスの冒険者でも訪れることがある位さ」

 

「ああ、そうだったのか」

 

 クリスの回答に合点がいった。

 自分の力量に見合った階層を選べば、比較的安全に迷宮探索の練習ができる場所という訳か。

 しかも街からは程近い。

 話が正しいとするなら、実に便利なダンジョンだ。

 

「では、今日はこの辺りを探索すると?」

 

「いやぁ、慣らし訓練をするにしてもここじゃ流石に物足らなすぎるさ。

 ちょっとだけ(・・・・・・)降りたとこで慣れてもらおうと思う」

 

「ほほう」

 

 実際問題、ヴィルは勿論のことロアナにとっても、浅い階層の探索など散歩程度にしかならないだろう。

 それ位、魔物の気配が弱々しい。

 

「――では、下へ降りる階段へと向かいますか。ご安心下さい、この迷宮の構造は全て暗記しています。予習は完璧です。

 ――流石に、最深層と呼ばれる場所の地図はありませんでしたが」

 

 これまで幾人もの冒険者が挑んでいるだけあって、この地下迷宮は既に各階層の地図が作られているらしい。

 

(しかし予習とは――見た目通り真面目なんだな、ロアナは)

 

 その勤勉さに感心してしまう。

 ところがクリスはパタパタと手を振り、

 

「あー、ごめんなロアナ。

 せっかくなんだけど、普通に進むと時間がかかり過ぎてさ。

 ショートカットを使うつもりなんだ」

 

「ショートカット?」

 

「うん、そう。

 オレ様が見つけた時短ルートさ。

 特別にアンタらにも教えてあげよう」

 

「それは助かる」

 

 地図には無い独自経路を開拓済みとは、流石銀クラスの冒険者。

 ……ロアナは少し不服そうだったが。

 そんな少女を空笑いで宥めつつ、クリスは道を先導していく。

 

「ほいほい、じゃあ着いてくるがいいさー。

 万一も無いとは思うけど、一応迷宮内なんだから注意は怠っちゃダメだぞ?」

 

「分かった」

「――はい」

 

 短く言葉を返し、ヴィルとロアナもそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 歩くことほんの十数分。

 

「到着ー」

 

「…………」

「…………」

 

 絶句。

 

「ここがオレ様専用ルートの入り口さ」

 

「…………」

「…………」

 

 笑いながら語るクリス。

 その笑顔は美しいが、それはそれとしてヴィル達は真顔で沈黙していた。

 

「これで一気に10階層は下に行けるんだ。

 楽なもんだなー」

 

「…………」

「…………」

 

 そろそろ、だんまりも限界か。

 ヴィルは重い口を上げ、お気楽な青年に語り掛ける。

 

「…………クリス」

 

 指でクリスが“入口”と言い張る場所を指しながら、

 

「ここは……崖だ」

 

 端的に、事実を告げた。

 

 崖。

 そう、崖だ。

 崖としか言いようが無い。

 ヴィルの目の前には、底が見えない程に深く、そして垂直に切り立った、巨大な崖が広がっていた。

 

「――ここは、最表層唯一の危険ポイント。毎年、ここで足を滑らせて死亡する新米冒険者が後を絶たないのだとか」

 

 ロアナが解説を始める。

 

「だから“この場所危険”の立て札が立っているのか」

 

「――しかし冒険者になる人間なんて、元々危険を顧みない者ばかり。立て札の効果はいまひとつのようですね」

 

「血気盛んな連中は無茶をしたがるものだからな」

 

 少女の台詞にうんうんと頷く。

 

「――酷いのになると、この崖目掛けてチキンレースを始める人達もいるそうです」

 

「そりゃよくないな」

 

「――この崖を伝って下の階層に行く者もいたとのこと。その後、姿を見せなくなったらしいですが」

 

「勇気と蛮勇をはき違えてはいけないな」

 

 そんなロアナとヴィルの会話が一段落したところで、クリスが統括する。

 

「じゃ、降りようか」

 

「俺達の話聞いてたか!?」

 

 全力でツッコミを入れるが、青年は飄々とした態度を崩さない。

 

「ダイジョブダイジョブ、オレ様の後をついて来れば安心さ。

 一応命綱も用意してあるから」

 

 へらへらと笑うその顔が信用できなかった――が、抗議をするよりも早く、クリスは崖を降りていってしまう。

 

「ほらー、何してるー?

 早く来ないと置いてくぞー!」

 

 慣れたもので、彼の姿があっという間に小さくなっていく。

 本当に何度もここを行き来しているのだろう。

 

「――どうしましょう?」

 

「……まあ、追うしかない、よな」

 

 反対はしたものの、ヴィルの身体能力をもってすればそう難しい作業ではない。

 なんならロアナを背負ってクライミングすることだって可能だ。

 とはいえ、それとこれとは話が違う訳で――

 

「――欠席したもう一人のチームメンバーって、本当に体調不良だったんですかね?」

 

 そのロアナの呟きに、ヴィルは深く同意するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑨ 実録! RTAと化した探索!

 結論から言えば、誰の脱落も無く無事に下の階へ辿り着けた。

 クリスはヴィル達を笑顔で眺めてから、

 

「じゃあ、ここからが本番さ」

 

「ここから、なのか……」

 

 一歩足を踏み外せば奈落の底に真っ逆さまの極限クライミングだったのだが。

 ヴィルはともかく、ロアナの精神的ダメージはなかなかもので、今なお放心しかけていたりする。

 

「まあまあ、安心して欲しい。

 言ったろ、今日は慣れて貰うだけだって。

 そんな危険なことはしないさ」

 

「その言葉を信じろと言うのも酷な話だぞ、おい」

 

 ジトっとした視線を送るが、クリスは一切気にしてくれない。

 

「この階層の魔物はそんな大した強さじゃない――ま、オレ様にとっては、だけどさ。

 だからこそ、ここでオレ様のやり方を身につけて欲しい」

 

「普通に倒しちゃ駄目か? 駄目なのか?」

 

 どうもダメっぽい。

 こちらの言い分など一切聞かず、クリスはごそごそと荷物を漁っている。

 

「そんな訳で、“コレ”さ!」

 

 そう言って、小さな球状のアイテムを取り出してきた。

 

「コレは“退魔玉”といってだな、潰すと魔物が嫌がる煙を噴出するアイテムなのさ」

 

「ああ、なるほど。

 それを使って魔物を退けながら先に進むんだな?」

 

「いやいや、それじゃ時間がかかり過ぎるだろ」

 

 ヴィルの意見はあっさり否定されてしまう。

 

「じゃあ、どうすると言うんだ」

 

「こうするのさ」

 

 クリスはそう言い放つと、玉を握り潰す。

 途端に、もくもくとした煙が立ち込めてきた。突然のことだったので、少し吸ってしまう。

 

「ゴホッゴホッ!? おい、何してるんだ!?」

 

「この煙には魔物を追い払う能力がある――だったらさ、こうして持ち歩いた方が便利だろ?」

 

「えー?」

 

 便利? 便利、か? そうか?

 ヴィルの記憶が確かなら、魔物に投げて使うアイテムだった筈なんだが。

 というか、魔物が嫌がるような煙、人が吸っても問題ないんだろうか?

 様々な疑問が湧いてくるが、

 

「ま、論より実践! 早速やってみるさ!」

 

 そんな言葉で押し切られてしまった。

 

 

 

 

 

 という訳で。

 

「さぁ走れ! 効果時間が切れない内に!」

 

「――ゴホッ、ゴホッ!

 おま、無茶言うなぁ!?」

 

 クリスに先導され、ヴィル達は迷宮の中を駆けていた。

 言うだけあってアイテムの効果は抜群で、魔物はこちらに近づいてこない。

 おかげでヴィルは、せっかく迷宮に潜ったというのに未だ魔物の姿を見てすらいなかった。

 隠密性も何もない強行軍だが、スイスイ進めてはいる。

 ここだけ見れば、順調なことこの上ないのだが――

 

「ゴホッゴホゴホッ! おい、本当にこの煙吸って大丈夫なんだろうな!?」

 

「平気平気! でもなるべく肺には入れないよう注意するさー!」

 

「おい!?」

 

 ――健康的には余りよろしくない攻略法だった。まあ冒険者は体張ってなんぼな職業な気もするが。

 冒険の初日からして、ヴィルはクリストパーティー組んでしまったことを割かし後悔し始めている。

 ただ、彼はまだましな方で。

 

「おぅえ!? ぼえ!! うぇええええっ!!?」

 

 背中から(・・・・)なんかとてつもない声が聞こえてくる。

 ロアナである。

 走り出した初っ端から思い切り煙を吸い込んでしまい、咳き込んで動けなくなってしまったのだ。

 しかしクリスは行軍を中止する気はなく、仕方がないのでこうしてヴィルが少女を背負っている次第である。

 ただ、自分と共にいるということは未だ煙の中に居るということであり――

 

「ゴボッ! ゴボッ! おぇっ!? おぅいぇえええええっ!!!」

 

 ――なんというか、もう女の子がしちゃいけない顔しちゃっている。

 ヤバい。

 どうにかしてあげないとこの子、ヒロイン力が底辺を割る。

 

「とにかく口を塞げ! 呼吸は最小限にするんだ!」

 

 気休め程度のアドバイスを飛ばすも、

 

「げほげほっ!! ゴホッ!! いぇあああああっ!!」

 

 どうにも改善できた様子ではない。

 少しでも早くこの階層を走破する以外、彼女の助かる道は無さそうだ。

 ……手遅れかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 で、見事に走り終わり。

 次の階層へ行く手前の部屋で休憩していると、

 

「――なるほど、理解しました。これ処刑ですね? 冒険という体で、わたしを処刑するつもりなんでしょう?」

 

 息を整えたロアナは、開口一番そう口にした。

 

「――ていうか何なんですか、コレ。わたし、せっかくの再登場ですよ? ほかの人達は濡れ場をしている中、なんでわたしはゲロで濡れなくちゃいけないんですか。

 ――わたしがロリだからですか? ロリだから不公平な扱いを受けるんですか。この世界、ロリに厳しすぎません?」

 

 ちょっと意味の分からない言葉までぶつぶつ呟きだした。

 錯乱しているのだろう、可哀そうに。

 一応補足しておくと、彼女の吐瀉物とかはちゃんと綺麗にしてある。

 

「うーん、ロアナにはまだ早かったかな?」

 

 そんな少女を眺め、クリスはそう言い放った。

 早くない奴なんているのだろうか。

 とりあえずヴィルは大きくため息をついてから、

 

「今更突っ込ませて貰うが、こんなやり方する必要がどこにある?」

 

「大ありさー。いちいち魔物を気にして歩いてたら、この階層の攻略には3時間かかるぞ。

 それが、たったの15分ちょっとで到着したんだから、効果のほどは言うまでもないだろ?」

 

「ま、まあ、時間のことを言われてしまうと……」

 

 確かに早かった。

 クリスが先導して最短距離を走ってくれていたおかげで、まったく道に迷わなかったのも大きい。

 ずっと燻られていたから、体感時間はやたら長く感じたけれど。

 

「しかしこれじゃ、迷宮内の宝も手に入らないじゃないか」

 

「こんな浅い階層に残ってるお宝なんてたかが知れてるさ。

金が欲しいっていうなら、オレ様がバイト代を払ってやろうか?」

 

「いや、そういう訳でもないんだが」

 

言われてみれば、ここは王都ほど近くの――というか直下の場所。

初心者が一日もかからず辿り着けるような階層など、既に掘りつくされているに違いない。

そういう意味で、さっさとお宝のある深層へ向かおうとしているのは理にかなっているかもしれない。

 

「あ、ちなみに言っとくけど、さっき通った道から少しでも外れたらアウトだぞ。

 すぐ魔物や罠に遭遇して、タイムロスしちゃうからな。

 あれは、魔物の位置とか退魔玉の効果範囲とかを計算し尽くして導き出した最適ルートなのさ」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなのさー」

 

 まあ確かに。

 ただアイテムを使って走っていれば魔物に出会わず済むというなら、他の冒険者だって同じことをやる筈。

 なのにそうしていないということは――少々信じがたいが――あのやり方は、クリスの磨き上げた技術あってこそ、ということだろう。たぶん。

 

「聞きたいんだが、なんで時間に拘るんだ?

 別に、数日かけて攻略してもいいだろう」

 

「記録があれば挑戦してみたいじゃないか。

 それにほら、オレ様、洞窟みたいな陰気な場所にそんな長く居たくなくってさ」

 

「そんなんでどうして冒険者になっちゃった?」

 

 この能力と発想力があれば、クリスにはもっと他の道があったような気がする。

 だがその疑問はさらっと流されて、

 

「ま、この方法で攻略するのはこの階層だけさ。

 だからそんな顔しなくとも平気平気!」

 

「そ、そうか」

 

 でも何故だろう、心からの安心ができない。

 

「次の階層からは別のルート(・・・・・)で最適化しているからな。

 今のが大丈夫なら、行ける筈さ!」

 

「……やっぱり」

 

 思った通りの続きに、ヴィルはがっくりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 ……その後。

 

「こうやってギリギリで躱すのがポイントさ! ほら、やってみよう!」

 

 小石をひょいひょい投げて魔物の注意をそらし、その間をすり抜けていくクリス。

 

「ひぁあああああああああっ!!?」

 

「ロアナが襲われた!!」

 

 同じようにやった筈なのに、ロアナは魔物に気付かれ襲撃を受けてしまった。

 

 

 

 

「ここは全力ダッシュ! そうすりゃ罠にかかる前に駆け抜けられる!!」

 

 宣言通り素早く駆け出すクリス。

 そんな彼を追うように矢だの棘だの毒ガスだのが次々と発動するが、いずれの罠もクリスを捉えられない。

 

「うっきゃぁあああああっ!!!?」

 

「ロアナが落ちたぁっ!?」

 

 でもロアナは落とし穴に嵌った。

 

 

 

 

「この難所はローリング中の無敵時間を利用して突破するさー!」

 

「無敵時間ってなんだ!?」

 

 とうとうよく分からない技を使いだした。

 

「アイエエエエエエエっ!!!!?」

 

「ロアナぁ!!!」

 

 

 

 

「初日はこんなところかなー」

 

「……そいつは良かった」

 

 息も絶え絶えなロアナの看病をしながら、ヴィルはそう返す。

 疲れた。

 とにかく疲れた。

 冒険とはかくも大変なのか。

 自分は冒険者を甘く見過ぎていたかもしれない。

 しかしそもそも、この一連の流れはヴィルが知っている冒険と根本的に違っていた。

 こんな冒険知らない。

 

「ま、今日は辛かったかもしれないけどさ、一度覚えちゃえば次は楽にこなせるもんさ」

 

「そうかな……そうなのかな……?」

 

 ズタボロになったロアナ(命に別状はない)を見ると、そうは思えないが。

 

「うん、ロアナはちょっと厳しそうだけど、最初としては悪くない手応えだ。

 これなら一日で(・・・)ここの最深部まで行くのも夢じゃなさそうさー」

 

「夢は夢のままで終わらせて欲しかった」

 

 満足そうに頷くクリスへ、不安しか抱けない。

 ひょっとしてまだ続くのか。

 この先も、こんな曲芸じみたやり方で迷宮を探索していくというのか。

 そんな内心の同様の裏付けるかのようにクリスはからからと笑いだすと、

 

「それじゃ、ロアナも落ち着いてきたみたいだし、復習と行こうか。

 これから同じことをして(・・・・・・・)、地上に戻っていくぞ。

 さあ、今日してきたことをしっかり思い返してみるさ!」

 

「…………そうか」

 

 その言葉にヴィルは一つ頷くと――

 

 

「<緊急転移(エスケイヴ)>」

 

 

 ――迷宮離脱用の転移魔法を唱えてパーティーを強制脱出させた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑩ 2日目の夜(H)※

 

“疲れマラ”とうものをご存知だろうか?

体力が減少すると、かえって股間が元気になってしまう現象だ。

 

この日、ヴィルは(体力的な意味ではなく精神的な方向で)疲れ切っていた。もうくたくただ。

迷宮から脱出した後、すぐにパーティーを解散した程の疲労具合である。

 

つまりどういうことかと言うと――

 

「あっ、ひっ、あっ、あっ、あっ! ヴィルさん、激し、過ぎ、ますわっ! あっあっあっあぁああああっ!!!」

 

――こういうことである。

クリス達と別れたヴィルは、依頼していた服の仮縫いを行うためセリーヌの店を訪れたのだが、件の“疲れマラ”の影響か、そこで性欲を持て余してしまったのだ。

そんな状態で目の前には妙齢の美女が居るのである。

手を出さない方がおかしいと思わないだろうか?

 

「お、お、お、お、お、おっ! 凄い、ですっ――おちんぽ、お腹に響いて――あひぃいいいいいいっ!!」

 

壁に手をついたセリーヌに後ろから覆いかぶさり、後背位の姿勢でガンガン責め立てる。

前戯など一切なしのセックスだったのだが、彼女の方も慣れたもの。

まる出しになった股からは、既に愛液が流れ始めていた。

おかげで膣肉はあっという間にほぐれ、女性器はいつものように柔らかくイチモツに絡んでいる。

 

「あっひっひっひ、いぃいいいっ!! 子宮、叩かれてっ! 叩かれてぇっ!! んほぉおおおおおおっ!!?」

 

巨尻をがしっと掴み、幾度も股間を打ち付けていく。

一度当たる度に柔らかい尻肉がぷるんと揺れ、

 

「あぁああああっ!!」

 

嬌声が部屋に響く。

ちなみにもう店は閉まっているので、幾らヤってもバレるようなことは無い。

そんな訳で青年は、己の欲望の丈を目の前の美女にぶつけていた。

 

「おぉおぉおおおっ!! イクっ!! イクぅううううっ!!!」

 

ビクビクっとセリーヌの肢体が痙攣する。

膣がぎゅっと締まり、イチモツを固く搾り上げてきた。

 

だがそんなことは意に介さず。

ヴィルは腰を振り続けた。

 

「んぁあああああああっ!! イキました!! イキましたのにぃっ!! こんなっ、こんなぁああああああああああっ!!!」

 

キツく絡みつくヒダの中を、イチモツが強引に押し通る――その感触が実によい刺激であった。

さらに長い黒髪を振り乱して淫らに悶えるセリーヌの姿も、興奮を助長させる。

ヴィルはより強く、より深く剛直を動かし――

 

「お”っ!!? お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!! は、入りましたぁっ!! 子宮におちんぽ、入っちゃいましたぁっ!!!!」

 

――とうとう、亀頭は子宮口を突破し、その中へと滑り込んだ。

カリの部分がちょうど“入口”に引っ掛かり、いい塩梅である。

 

「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! 奥っ!! 奥突かれて!!? あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!!!!!」

 

セリーヌの顔は、ありとあらゆる穴から液体が垂れ流れていた。

下半身も同様で、膣口はビチャビチャと音を立てて愛液を漏らしている。

そんな有様の彼女を十分に堪能したヴィルは、

 

「よし! イクぞ!!」

 

一言そう宣言した直後に、己の精を解放する。

愚息の先端から勢いよく精液が迸り――

 

「あぁあああああああああああああああっ!! 熱いっ!! 熱いのぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

――セリーヌは恍惚とした表情のまま、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

とまあ、そんなことがあったのがつい先刻である。

すっきりとした気分のヴィルは、宿へと辿り着いていた。

 

……どうせこの後、エルミア達ともヤるんだろう、という突っ込みがあるかもしれない。

 

しかし、考えてみて欲しい。

エルミアとイーファはこの王都で書類仕事の最中なのだ。

昨日はちょっとアレな感じであったが、まあ初日ということもあり早々に仕事を切り上げたのだろう。

だが今日はそうもいくまい。

一日中、かかりきりでアレやコレやの報告書を執筆していた筈だ。

 

そんな彼女達に夜の相手までさせてしまうのは流石に忍びない。

セリーヌを散々責め抜いたのは、そういうヴィルなりの気遣いが所以なのだ。

……彼女にはちゃんと謝ったし、事後に了承も貰ったので許してほしい。

 

という訳で、後顧の憂い的な何かを解消した彼は意気揚々と自室の扉を開け――

 

「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、コレ、凄いっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!!」

「も、もう、もう、イった、イキましたから、あ、あ、あ、止め、止めて、エルミアさ、あ、あ、あ、あ、あ!!」

 

――秒で後悔した。

部屋の中は、なんというかもう、トンデモナイことになっていた。

 

まず、鼻につく匂いが凄い。

雌の香りが部屋中にむわっと蔓延していた。

どれだけ淫行を重ねればここまで濃密になるのか、という程の淫臭である。

部屋のあちこちには愛液と思われる“水たまり”ができている位だ。

 

そしてこの匂いを醸し出している下手人は言うまでもない。

エルミアとイーファである。

彼女達がどうなってしまっているのかというと。

 

「い、い、いいっ、いいのっ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!? 奥、震えて、あ、あ、あ、あ、あ、あああっ!!」

「お、おぅっ! おっ! おっ! おっ! おっ! おっ! アソコ、アソコがおかしくなっちゃいま――おぉおおおおっ!!」

 

……服装()昨日と同じである。

エルミアの全身タイツだったり、イーファのピチピチスパッツだったり、この時点でかなりキケンなのだが現在の惨状の原因ではない。

では2人はナニをしてしまったのかと言えば――ぶっ刺しているのである。

極太のディルドーを、自らの秘部へ。

 

「あっ! あっ! あっ! ああっ! あっ! またイク、またイっちゃいますよぉおおおおおっ!!?」

 

赤い髪の少女イーファは女性器に一本。

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おぉおおおっ!!? イ、クッ!? イクイクイクっ!!? 私も、イっちゃうぅううううっ!!!」

 

銀の聖女エルミアは膣だけでなく、菊門にまでディルドーを突っ込んでいた。

しかも、ディルドーはご丁寧に“服の下”へ仕込んでいるのだ。

タイツやスパッツに引っ掛かり、どれだけ動いても穴から抜け落ち無いようにしてある。

……衣服がディルドーの形に盛り上がっている様子は、正直なところ相当にフェチ心がくすぐられたりもするのだが。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、あぁぁあああああああああっ!!」

「んぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

絶頂の叫びが木霊する。

2人のまんこからはおびただしい量の“汁”が零れ落ちた。

 

「……えらいこっちゃあ」

 

ヴィルがようやく口にできたのは、その一言のみ。

いつからヤってるんだとか、仕事はどうしたんだとか、突っ込みたいことは山ほどあったが光景に圧倒されて声に出せない。

まあ突っ込むも何も、エルミアもイーファも絶賛突っ込まれ中ではあったのだが。

 

ただ、小さな呟きだったとはいえエルミアとイーファはこちらの存在に気づいたらしく、

 

「あ、あら、ヴィル? お、おかえり、なさい」

 

「せ、先生、帰ってきてた、ん、です、ね」

 

息も絶え絶えに挨拶してくる。

いや、挨拶とかしてる場合じゃないような気もするのだが。

 

「あー、その、なんだ。色々聞きたいがとりあえず一つだけ。

――何やってんだお前ら」

 

「ディルドーオナニーよ?」

 

当たり前だろ、くらいの調子でエルミアが答えてきた。

 

「いやそりゃ見れば分かるが。

俺が言いたいのは、なんでそんなことしてるんだってことで」

 

「なんでって、それこそ愚問ね。

今朝、ヴィルには見せたじゃない。

私が魔法で造ったディルドーを」

 

「うん、見たよ? 見たけどさ」

 

「せっかく造ったからには、テストしてみるのは当然の流れじゃない?」

 

「当然? うーん、当然かなぁ。そうかなー?」

 

まあ確かに、今朝の出来事にエルミアの性格を加味すれば、こうなるのは当然の流れであったようにも――いや、やはりおかしい。

 

「あの、アタシは反対したんですよ? でもエルミアさんが無理やりぃいいいいいいいいいっ!!!?

ダメ、ダメダメダメっ、いきなり動かさないで下さぁぁぁああああああああっ!!!!」

 

割って入ってきたイーファが、突然悶絶しだした。

犯人は考えるまでもない。

 

「……エルミア?」

 

「ふっ、責任を私一人に擦り付けようとした裏切り者には、当然の制裁よ」

 

「…………器用に動かすもんだなぁ」

 

彼女の言に寄れば、このディルドーは<輝具>によって生み出されている。

<輝具>とは窮極呪法の一種であり、魔力によって何もないところから物質を生成する魔法だ。

“窮極”などと付けられているのは伊達ではなく、その習得難易度は突き抜けて高く、一般的な魔法使いでは使うことすらできない代物である。

そんな魔法を用いてディルドーを同時に3つも錬成した上、振動するように動かすとは――やはりエルミア、並外れた才覚の持ち主。

 

――現実逃避に、そんな思考をしてしまうヴィルであった。

 

「あっあっあっあっあっあっあっあぁあああああああああああっ!!!!!」

 

そうこうしてる内に再度絶頂を迎えたイーファは、愛液をまき散らしながら倒れ伏した。

 

「――あっ――あっあ――ああっ――あっ――」

 

うつ伏せになりながら、豊満な肢体が痙攣を繰り返す。

その有様を見物して、エルミアは満足そうに頷いた。

 

「実験は成功のようね。これでより多くの女性にヴィルのちんぽを味合わせることができるわ」

 

「……そうか」

 

最早何も言うまい。

エルミアの説得を諦めたヴィルは――自身に湧き起ったもう一つの欲求(・・・・・・・)を果たすことにした。

 

「一つ、留意しておかねばならない<輝具>の弱点を教えておこう」

 

「え、そんなのあるの?」

 

突然の話題にきょとんとした顔のエルミア――ただし、今もなお彼女のまんことアナルには極太ディルドーが納まったままである。

ちらりとそれを確認してから、話を続ける。

 

「滅多にないことだが、同じ<輝具>を習得した相手と対峙した場合」

 

「した場合?」

 

「相手との力量差によっては、<輝具>で造った物を奪われる(・・・・)ことがある。ちょうど――こんな具合に」

 

「へ?」

 

彼女が理解するより早く、ヴィルは<輝具>を唱えた。

何かを作製するためではなく、目の前にある“物品”の支配権を奪取するために。

 

「おほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!?!!!!?」

 

途端、聖女の口からけたたましい雄叫びが吐き出された。

勿論――ヴィルが“奪ったディルドー”を動かし始めたからだ。

 

「お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!?」

 

二穴に差し込まれた極太棒の強烈な振動に、さしもの彼女も余裕を喪失したようだ。

やっていることは先刻自身でやっていたことと変わらないのだが、ヴィルとのレベル差によるものか、或いは自分に対しては無意識に手加減をしてしまったのか、取り乱し方は先程の比ではない。

 

「お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!? 抉れてますっ!!? 私の穴、抉れてますぅっ!!? ヴィルっ、私、私、もう――ダメェぇぇえええええええ!!!!?」

 

彼女の股座(またぐら)から淫汁が流れ落ち、太ももを伝っていく。

もう足に力が入らないのだろう、イーファ同様に床へ崩れ落ちた。

 

「はーっ、はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

がっつり四つん這いになり、肩で息をするエルミア。

余程消耗したようだ。

 

「わ、私の、穴、無事ですか?

壊れて、ません……?」

 

“お尻の方”を擦りながら、そう聞いてくる。

 

(そういえば、エルミアはアナル経験が少なかったか)

 

いつも使っている“前”はともかく、“後ろ”への猛烈な刺激は彼女としても心配のようだ。

口調が聖女モードになっている辺り、本気度が伺える。

 

「安心しろ、後ろの穴は無事だ。切れても裂けてもいない」

 

「そ、そうですか」

 

ほっと安心したように息を吐くエルミア。

そんな彼女に、ヴィルは語り掛ける。

 

「ところでエルミア」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「俺はまだ本気を出していない(・・・・・・・・・)と言ったら、君、信じるか?」

 

「――――へ?」

 

たっぷり間を置いてから、かすれるような呟きを少女は零した。

 

「そ、それってまさか、“震撃”のことじゃ――」

 

「では行くぞ。3、2、1……」

 

「あ、ああ! そうです、ヴィル! 今夜は貴方のために手料理を振舞いたいと思っていたのですよ! ちょうど、いいお肉が手に入ったんです! 皆で一緒にお食事を」

 

「……、0」

 

「んぼぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!」

 

嘆願むなしく、2本のディルドーが超振動を開始した。

 

ヴィィイイイイイイイイイイイイン!!!!

 

余りの激しい震えに、振動音が部屋中に響く。

そんなモノが体内で暴れているエルミアは――

 

「お”お”お”お”お”お”!!!??!?!! んぎぃあああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!?!?!?!!?!」

 

――聖女としての体面も、女としての矜持も殴り捨て、床を我武者羅に転げまわっている。

だが悲しいかな、どれだけもがいたところで、ディルドーが抜けることは無い。

ディルドーを挿入した上からタイツを着ているのだ。

どうやったところで極太棒は落ちないのである。

 

「お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!!」

 

少女の肢体が震える度に、股間から透明な液体が噴出した。

連続絶頂ならぬ、連続潮吹き。

彼女の周囲が、愛液に塗れていく。

この短い時間の中、いったい幾度エルミアが“イった”のか――傍で見ているヴィルには想像もできない。

 

「おごおおお”お”お”お”お”お”お”お”!!!!!」

 

口からは泡が噴き、目は完全に白目を剥いていた。

そろそろ限界か。

 

「……しかし、こちらの方は幾らでも続けられるのだよな」

 

いつものようにイチモツを突っ込んでいたなら、ヴィルの方も昂って射精していただろう。

だが、この形では興奮こそすれ絶頂するようなことは無い。

要するにエンドレスで振動を与えられるのだ。

もっとも、直に“震撃”をヤった時ほどの超絶振動は、流石に真似できないのだが――

 

「代わりに、本数は幾らでも増やせる、と」

 

――恐ろしい技術である。

流石は“性女”と驚愕する他ない。

ヴィルはエルミアへ敬意を抱きつつ、

 

「これで終わりだ」

 

彼女に()さったディルドーを直接手で押し込んだ(・・・・・)

 

「!!?!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!?!?!?!!!!?!!!!!!」

 

声無き絶叫。

与えられた快感が、少女の許容量を超えたのだ。

エルミアは全身を硬直させると、

 

プシャァアアアアアアアアッ

 

今日一番の潮を吹く。

 

「―――――あ、は」

 

と同時に、完全に意識が消え去った。

脱力した四肢はだらんと床に落ち、もう微動だにしない。

愛液だまりの中で倒れる少女という構図は、ともすれば殺人現場のようだ。

 

だが。

まだヤることは残っていた。

 

「もう分かっているとは思うが、イーファ――」

 

ゆっくりと振り返る。

視線の先にはもう一人の少女。

 

「ひっ!?」

 

途中で気を取り戻していたのだろう――エルミアの惨状を見せつけられたイーファは、割と本気の怯え顔を見せる。

だが悲しいかな。

性女によって弄り尽くされた彼女の身体は、まだ碌に力を入れられないようだ。

つまり、今から始まる凶行から逃れる手段を、少女は持たない。

そんなイーファに向けて、ヴィルはニコリと笑いかけ、

 

「――次はお前だ」

 

「またですかぁああっ!!?」

 

少女のスパッツに手をかけると素早くそれをずりおろす。

むっちりとした巨尻とご対面である。

丸い曲面を描く柔肉をかき分け、可愛らしい菊の蕾を露わに。

手早く己の愚息をズボンから取り出して、アナルへと突き立てた。

 

「お、おぉおぉおおおおおっ!!?」

 

与えられた刺激に、堪らずイーファは嬌声を漏らす。

しかし今日はこんなものでは済まない。

ヴィルは彼女の膣に挿入されているディルドーを震わせ始めた。

 

「ああぁぁぁああああああああっ!!? 無理っ!! コレ無理ですって先生!! こんなのぉおおおおおおっ!!!?」

 

「お、おお。凄いな、コレは!?」

 

自分も驚いてしまった。

菊門に納まったイチモツが、膣の中にあるディルドーの震えで振るわされるのだ。

挿入の快感と振動の刺激、両方を同時に味わえる。

実に嬉しい誤算であった。

 

「燃えてきたぞ。イーファ、今夜は当分眠れないと思え」

 

「そ、そんな、あ、あ、あ、あ、あ、あああっ!? 壊れちゃいますっ、アタシ、壊れちゃいますよぉっ!? あ、ああぁぁあああああっ!!!!?」

 

興が乗ったヴィルは、腰を動かしながらディルドーの振動も激しくてしていく。

 

「んびっ!!? あびゃぁあああああああああああああっ!!?!!!!!」

 

 

 

――その日もまた、深夜に至るまで雌の喘ぎが途絶えることは無かったという。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑪ 3日目の冒険が――やっぱり始まらない(H)

「あ、おはようございます、先生」

 

「ああ、おはよう、イーファ」

 

 朝起きて、真っ先に目に入るのが愛らしい美少女だというこの現状。

 世の男性全てが羨むであろうシチュエーションだが、ここ最近はそれが当たり前の生活になってしまっている。

 仮にこの生活が終わったとして、その後自分は果たして社会復帰できるのであろうか――ちょっと不安に思う。

 

「ん? エルミアは?」

 

「なんか珍しく朝食作ってるみたいですよ」

 

「ほう」

 

 昨日言っていた“いい肉が手に入った”というのは、その場の出まかせでは無かったようだ。

 

「ここ数日、先生は大変そう(・・・・)ですから、精力のつくヤツを用意するって言ってました」

 

「それはありがたい」

 

 確かに、クリスが主導する探索はかなり気疲れする。

 エルミアは、そんな自分の疲労を感じ取っていたのだろうか。

 

(……なんだかんだで、しっかり見てくれているんだな)

 

 恋人の気遣いが嬉しい。

 

「ところで先生」

 

「なんだ?」

 

 イーファがずいっとこちらに迫ってきた。

 その動きに合わせて彼女の大きな胸がプルンっと揺れる……説明し忘れていたが、彼女は全裸である。

 無論、ヴィルの方も何も着ていない。

 昨日も夜遅くまでセックスし続けていたのだから、服を着る時間などあろう筈もなかった。

 

「アタシも先生にあげたい“お肉”があるんですけど――ご賞味してみません?」

 

 手で自分のおっぱいを持ち上げながら、そんなことを言ってくる赤髪の美少女である。

 その意図を分からぬヴィルではない、が。

 

「望むところだが、なんだか今日は朝から積極的だな?」

 

「だ、だって――」

 

 セミロングの髪を弄りながら、イーファはちょっと不満げな顔をする。

 

「――最近、割と“なし崩し”で先生に抱かれて、そのまま気持ち良さで頭真っ白になっちゃうパターンばっかりなんですもん。

 アタシだって、ちゃんと先生とセックスしたいんですよぉ」

 

「あー、そうだったか」

 

 指摘されてみれば、そんな気もする。

 いや、決してイーファを蔑ろにしている訳ではないのだが――なんというか、某聖女(性女)さんが、ちょっと。

 

「まあしかし、そういうことなら遠慮なく」

 

「あっ」

 

 少女の胸に手を伸ばし、もにゅっと掴んだ。

 大ボリュームな彼女のおっぱいは柔らかく、それでいて弾力がある。

 最近は運動(性的な意味ではない)を欠かさないせいか、よりハリが増しているようにも思う。

 

「相変わらず、揉みごたえのある胸だな」

 

「そう言って貰えると嬉しいです――あっんっ」

 

 ぐにぐにとおっぱいを変形させ、その感触を楽しむ。

 指が胸に食い込んでいく様子は見ているだけで股間が熱くなった。

 さらにおっぱいの周囲をなぞり、優しくこねていく。

 

「はっあっ――ん、んん、気持ちいい、ですっ――あっ」

 

 甘い吐息がイーファの口から漏れ出す。

 もっとも、あんな提案をしてきた時点で、彼女はほぼ出来上がって(・・・・・・)いたのかもしれないが。

 

「あ、ふぅ、んっ――先生、“先”の方もコリコリ、して下さいっ」

 

「ここか?」

 

 ずっしりとした乳房から一旦手を放し、今度はその先端にある桜色の突起に触れる。

 

「あっ!」

 

 少し触っただけで、少女は敏感に反応してくれた。

 イーファの乳首は既にぷっくり膨れており、彼女がどれだけ快感を欲しているか見るだけで分かってしまう。

 そんな乳頭を指でぐいっと押し込むと、

 

「はぅうっ!!」

 

 期待通り、イーファは甘く身悶えした。

 調子に乗って、敏感な突起を親指と人差し指で挟み、ぐりぐりと抓んでみる。

 

「ああっ! あっ! はぁ、んっ! 先生、気持ち、いいですっ――もっと、もっとっ――ああぁあんっ」

 

 リクエストに応えて、指で掴んだ乳首をぐいっと引っ張る。

 さらには上下左右に乳房の先端を振り動かした。

 

「あああっ! あぁぁあああああっ!!」

 

 感極まった声を吐き出すイーファ。

 おっぱいへの刺激で悶える彼女はとても色っぽかった。

 年齢不相応な色気だ。

 まあそもそも、彼女はそのプロポーションからして実年齢から大きく乖離している訳だが。

 

「あ、あ、あ――先生っ、キス――あっあっ――次は、キスして、下さい」

 

「ああ」

 

 懇願通り、今度は口づけを交わす。

 

「――ん、ちゅっ」

 

 少女の唇は瑞々しく、滑らかだった。

 視界いっぱいにイーファの美貌をおさめながら、幾度も口を触れ合わせる。

 

「はぁ、あっ――先生、先生――ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ――」

 

 接吻を繰り返すにつれ、少女がさらに昂り出した。

 目を蕩け、顔の表情が緩くなっていく。

 

「先生、もっと、もっとしてっ――――ん、んむぅっ」

 

 ご希望通り、ディープなキスへ移行する。

 舌を彼女の口内へ滑り込ませると、イーファもまたこちらに舌を絡めてくる。

 とても繊細な舐め触り。

 

「ん、ちゅぱっ――は、ふっ――ん、ん、んっ――ちゅぱちゅぱっ――れろれろれろれろっ」

 

 互いに互いの口内を蹂躙する。

 イーファの頬の内側から舐め、歯に舌を這わせたかと思えば、今度は向こうのベロがこちらの歯茎を舐め回し、上顎へ舌を擦り付けてくる。

 

「あっ、ふぅっ――ん、れろれろっ――ちゅっ――れろれろっ――はぁっ――」

 

 少女の頬がどんどん紅潮していく。

 試しに彼女の股間を触ってみると――

 

「あ、あぁっ!?」

 

 ――それだけで、イーファはびくっと肢体を震わせた。

 一方でヴィルの手にはびっしょりと愛液がまとわりついている。

 少女の股は既に愛液にびちょびちょだ。

 

「もう準備できているようだな」

 

「はぁっ、はぁっ――はい。アタシのおまんこ、いつでも()れて大丈夫、です」

 

 自ら股座を開き、挿入しやすいように体勢を整えるイーファ。

 太ももの付け根にある秘部は濡れてテカりを帯び、彼女の台詞に嘘が無いことを証明していた。

 ヴィルはそんな彼女を軽々と抱きかかえると、

 

「ではいくぞ」

 

 そんな言葉と共に自らの股間の上へ――既にイキり立っているイチモツの上へ、イーファの股を乗せた(・・・)

 ちょうど対面座位のような体勢で、2人は重なっていく。

 少女の濡れた花弁は、勃起した雄の象徴を悠々と飲み込んだ。

 

「あぁぁああああっ!! 来たぁあああああっ!!!!」

 

 同時に、イーファが歓喜の声を上げた。

 笑みを顔に浮かべながら、ヴィルのイチモツを歓迎する。

 

「ふぁああああっ!! おっきいっ!! おっきぃいいっ!! お腹、パンパンになっちゃいますぅっ!!」

 

 そんな言葉とは裏腹に、少女の膣は極太の剛直を受け入れている。

 今日(こんにち)に至るまで、何度となく交わってきたのだ――既にイーファの女性器は、ヴィル専用に開発され尽くしているのである。

 ……正直、こんなにも容易に青年の巨根を迎え入れられる少女など、彼女と同世代にはいないだろう。

 

 だがそれは決して、少女の膣内がガバガバに拡張されている、という意味ではない。

 寧ろ、逆だ。

 

「――いいぞ。凄くよく馴染んでいる」

 

 ヴィルはその“心地良さ”に、忖度無い誉め言葉を贈る。

 経験豊富となったイーファの膣肉は、青年の気持ちいい“箇所”へ的確に絡みついてくるのだ。

 “大きさ”も“形”も実にフィットし、この少女が自分のモノ(・・・・・)であることをこの上なく実感させてくれる。

 

「せ、せんせぇ、せんせぇ――あ、あ、ふっ――動いて、下さい――ああ、ん、んんぅっ――いっぱい、じゅぼじゅぼしてぇ❤」

 

「分かっている」

 

 請われるまでもない。

 挿入だけで足りる筈もないのだ。

 ヴィルは手を彼女の尻に回す。

 おっぱい同様、むっちりと育った巨尻だ。

 まずはすぅっと撫でまわし、その肌触りを愉しむ。

 

「あ、あ、あ❤」

 

 イーファも――これから起きることを予期しているのだろう――嬉しそうな嬌声を漏らした。

 無論、その期待に応える。

 ヴィルはがしっと両手で柔らかい尻肉を鷲掴みにし、そのまま上下に揺り動かす。

 

「はっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁああああっ!! じゅぼじゅぼ来ましたぁあああっ!!」

 

 たちまち甘い嬌声を上げる少女。

 まだ動き始めたばかりだというのに、愛液がだらだらと流れている。

 

「どうだ? 気持ちいいか、イーファ?」

 

 テンポよく彼女を上下に揺さぶりながら、そんなことを聞いてみる。

 

「き、気持ちいいかって――あっあっあっ!――そんなの、気持ちいいに決まってるじゃないですか!――ああっ! あっ! ああっ!!

 先生のぶっといおちんぽが奥まで来てて――はっ! あっ! ああんっ! あっ!――さ、最高ですよぉっ!!」

 

 完全に蕩け切った表情でそんなことを言ってくれる。

 

(何回聞いても嬉しいもんだな)

 

 やはり、男も女も気分よくなってこそのセックスだ。

 無理やり屈服させるようなのは――あ、いや、それはそれでちょっと惹かれるものが無い訳でもないのだが。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! 嬉しい、ですっ! んっ! あっ! あっ! あっ! ひ、久しぶりに先生とっあっあっあっあっ!!

 先生と、見つめ合ってセックスできましたっ――あ、あ、あ、あ、あっあぁああああ!!?」

 

「……なんだか申し訳ない」

 

 イーファの何気ない言葉に罪悪感を抱く。

 エルミアを交えての乱交めいた淫行も悪くないのだが、一人一人としっかり向かい合ったセックスも大事なのだ――そんな当たり前のことを、やや失念しかけていた自分を恥じる。

 

「んぅっ! んっ! はっあっあっあっ! 別に、アタシもっ――あ、あ、あ、ああっ!?

 変なプレイとか、好き、ですけどね――あぁあああああっ!!」

 

 こちらの心情を察したのか、喘ぎ交じりに少女がそう言ってくれた。

 ちなみに会話をしている最中にもピストンは止めていない。

 イーファは、巨乳をボヨンボヨンと震わせながら喋っているのである。

 

「ん、ん、ん、ふ、うっ――でも、“震撃”は無理ですよ!?――あ、う、んんんぅっ!」

 

「やっぱり駄目なのか?」

 

「当たり前じゃないですか!――あ、はぁ、んっ――エルミアさんが――あっあっあっあっあっ!――あんなに風になっちゃうんですからっ――あぁああああんっ!」

 

 嬌声を上げながらも、律儀に話をしてくれる。

 まあ、ヴィルとしても“動き”を止められそうにないのだが。

 膣肉の締め付けはとても甘美で、もっと激しく上下させたい欲求を抑えるので精いっぱいだ。

 

「アタシが、アタシ、がっ――んぉっおっおおっおっ――“震撃”なんて食らったら――おっおっおっおっ!?――おかしくなちゃいますってばぁあああっあああっああっ!!」

 

「うーむ」

 

 イーファと共に旅をし出してもう数週間。

 その間、毎日のように彼女を抱き続けてきた。

 少女の肢体も相応に“レベルアップ”していると思うのだが――そろそろ、“震撃”に耐えられないだろうか?

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あっ――い、今、なんか良からぬこと――んん、んんんー!?――考えてませんでしたかっ!?」

 

「そ、そんなことは無いぞ?」

 

 ちょっと痛いところを突かれたので、誤魔化すように腰を動かしだす。

 下から突き上げるヴィルの股間と、上から落ちてくるイーファの股とがぶつかり合い、パンッパンッと小気味良いリズムを刻んだ。

 

「あっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤ ダメェ❤――ま、まあ、先生が――あ、ソコ、ソコ、ソコ叩かれるともうっもうっ❤――先生が、一生面倒みてくれるっていうなら――ああっ❤ 奥、突かれてるぅ❤――一生面倒みてくれるなら、おかしくなっても――ああんっ❤ おかしくなっちゃうぅううっ❤」

 

「言ってることが支離滅裂になってるぞ」

 

「誰のせいだと――おっ❤ おおっ❤ お腹に響くっ❤ おちんぽが響くぅっ❤ イクっ! もう、イキそうなんですっ❤ あっあぁあああああっ!!!」

 

 イーファの口がだらしなく半開きになり、目から理性の光が消えた。

 彼女とのトークはこの辺りが潮時だろう。

 

「では、一気に終わらせるか!」

 

 そう宣告すると、両手で抱えるイーファの身体を大きく揺さぶり始める。

 さらには彼女へ突き込む腰のピストン運動を激化させた。

 

「んほぉおおおおおおおっ!!! おちんぽごしゅごしゅすりゅぅうううっ!!!?」

 

 少女の膣肉が、愚息の根元から先端までを強烈に擦る。

 女性器は愛液を大量に噴き、ベッドを濡らしていった。

 2人の身体が奏でる打音が部屋中に響く。

 

「おふっ❤ おうっ❤ おっ❤ おっおっおっおっおっおっ!!!!

 イクっ!! イクっ!! 先生、アタシ、イキますっ!! イっちゃうんですっ!! おぉおぉおおおおおっ!!!?」

 

「ああ、そのままイってしまえ。

 しっかり見ているからな」

 

「はいっ!! はいっ!! 見てて下さいっ!! あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!!!

 アタシがイクところっ!! ちゃんと見ててぇっ!! んぁぁああああああああああああああっ!!!」

 

 イーファが脚を絡めてきた。

 さらに腕をこちらの首に回し、抱き着いてくる。

 彼女のたわわな乳房が、ヴィルの身体に押し付けられた。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! 先生っ!! 先生っ!! イクっ!! アタシ、イクっ!! イクっ!! イクっ!!」

 

「よし、イケ!!」

 

「はい、イキますっ!! あっ!! あっ!! あっ!!! あっ!!! イキますっ!!! イキますぅっ!!! あぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 少女の肢体が大きく仰け反った。

 足がピンと伸び、腕に力が籠る。

 膣肉もイチモツを強く絞めつけてきた。

 

「――くっ」

 

 その刺激によって、ヴィルの昂りも最高潮に達した。

 股間に溜まった精を、好き放題に解き放す。

 

「あっ!! あっ!! 熱いっ!! 熱いのがいっぱいっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 イーファはビクビクと痙攣を繰り返し、己の中に注ぎ込まれた精液を味わう。

 ひとしきり、絶頂の快感を堪能した後、

 

「あっ!! あっ!! あっ!!――――――――はぅ」

 

 少女は脱力し、ベッドの上へと倒れ込んだ。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……あ、ありがとう、ございます……はーっ……はーっ……さ、最高、でした❤」

 

 膣口からドロドロの精液を垂れ流しつつ、イーファは満足げに微笑んだ。

 その姿は、ヴィルの心にも充実感を齎すのだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、朝の“運動”も終わり、朝食の時間である。

 なんといっても今日はエルミアが用意してくれているのだ、期待も高まる。

 

(どんな料理なんだろうか?)

 

 久々に見る恋人の手料理である、ヴィルが心躍るのも無理もない。

 

 ――だが。

 イーファは寝室に残し――彼女はセックス疲れでまた眠ってしまった――ダイニングを訪れたヴィルが見たものは、

 

「あら、おはよう、ヴィル。

 ちょうど今、できたところよ」

 

「…………」

 

 絶句してしまった。

 そこには、貝をたっぷり使ったアクアパッツァや青魚の焼き物、亀を煮たシチューにらっこ鍋、肉のステーキと、一目で精がつくと分かる料理が並んでいた――但し、エルミアの上に(・・・・・・・)、だが。

 

「えーとその、これは――」

 

女体盛りよ(・・・・・)? 一人で用意するの、大変だったんだから」

 

 まさに彼女の語った通り。

 裸になったエルミアがテーブルの上に横たわり、その裸体を器として料理が盛られていたのだ。

 か細い首に、華奢な肩に、美しい乳房に、くびれた腰に、淫らな股座に、無駄肉の無い太ももに、すらりとした脚に――所狭しと料理が飾られている。

 

「……熱くないの、それ?」

 

 絞り出せたのはそんな台詞であった。

 

「<防熱(レジスト・ファイア)>の魔法使ってるから大丈夫」

 

「ああ、そう……」

 

「ちなみに盛り付けには<念動(テレキネシス)>の魔法を使ったの」

 

「へぇ……」

 

 そういうことらしい。

 いや別にどうでもいいけれど。

 

「さあ、ヴィル――」

 

 エルミアはとびっきり煽情的な表情を作り上げると、

 

「――たっぷりご賞味あれ❤」

 

「…………」

 

 

 

――――――――

 

 

 

「おぅっ❤ おぅっ❤ おほっ❤ あぅっ❤ あっ❤ あぁぁあああっ❤」

 

 無論、食べたのが料理だけではなかった(・・・・・・・・)ことは、言うまでもない。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑫ 性欲を持て余した迷宮攻略

 

 どこかは分からない。

 暗い、暗い部屋の中で。

 

「で、首尾はどうなっている?」

 

「今のところ問題ありません。将軍は王都の生活を満喫しているご様子」

 

「具体的には何をしている」

 

「冒険者の真似事に勤しんでいます。今もここの地下に潜っておられるようです」

 

(あて)がった女はどうしてる? 上手く篭絡できそうか?」

 

「そちらは芳しくありません。どうやら将軍、ご自分で“調達”なされているようで」

 

「英雄色を好む、か。まあ、いい。この機会にグルムバッハ家の(たね)を我が王国にも迎え入れようと思っていたが、あくまでついでだ」

 

「しかし今の調子であれば、王国の女と子を為す可能性は高いかと思われますが」

 

「あのグルムバッハの子だぞ、すぐ帝国が手を回してくる。敢えて危険な橋を渡る必要はない。主目的を忘れるな」

 

「はっ。将軍を“アレ”に近寄らせぬこと、ですね」

 

「そうだ。あの男は単身でズィーガを屠れるだけの戦力を保持し――何より、何の見返りも無く(・・・・・・・・)神獣に挑むような酔狂だ。そんな奴に“アレ”を見られれば、面倒ごとになることは火を見るよりも明らか。丁重に扱い、さっさと帝国に帰って貰え」

 

「承知いたしました」

 

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 

 探索2日目である。

 ヴィル達はクリスに導かれ、再び王都地下に存在する巨大迷宮を攻略していた。

 

「……ふーっ」

 

 一つ、大きく息を吐く。

 今は休憩中だ。

 ロアナが張った<結界>の中、各々息を整えている。

 例によって例のごとく、ヴィルは体力的な疲労より精神的疲労の方が遥かに大きいわけだが。

 

 今日もまた、クリスはかっ飛んでいた。

 壁を下る、魔物の間を全速力ですり抜けるなんて、まだ序の口。

『敢えて落とし穴の罠に嵌った上で穴を掘り進めて下の階層へ抜ける』、『魔物の放つ転移魔法を敢えて食らって下の階層へ移る』、『敢えて激流に身を投じて下の階層へ落下する』、等々。

 普通に進むよりそりゃ早いが、気苦労が半端ない。

 

 ……というか。

 せっかくの冒険だというのに、ヴィルは“未知領域の踏破”だとか“罠の探索・解除”だとか“宝の発見”だとか“魔物との闘い”だとか――そういうものは一切体験できずにいた。

 この迷宮がどういう構造なのかも、ぼんやりとしか把握できていない。

 なにせ、クリスはこの迷宮のことを隅から隅まで熟知し、凄まじいスピードで先へ先へと進んでしまうからだ。

 

 おかげで、まだ午前中だというのに昨日辿り着いた場所はとうに通り過ぎてしまった。

 それなりに深いところまで来ているのではないかと思うのだが、真っ当な手段で潜っていないため、自分が迷宮内のどの辺りにいるのかいまいち把握できていない。

 

(……もういっそのこと、早く進みたいなら床とか直接破壊してしまえばよくないか?)

 

 そんな提案もしてみたが、“風情が無い”という理由で却下された。

 こんな攻略法を使う輩に、風情云々を口にされるとは思わなんだ。

 

「……ふーっ」

 

 また息をついた。

 

 気を紛らすため周囲を見る。

 ここは、鍾乳洞のような場所だった――しっかり床や壁はできているので、天然の洞窟と趣は異なるが。

 かなり湿気が高く、<明かり(ライティング)>の魔法で照らされた岩肌は水で滑っている。

 その原因は、すぐ近くを流れる川だ。迷宮の中を、川が流れている。

 少し離れた場所には滝があり、上層からここに水が落ちてきているのである。

 正確なところは分からないが、この場所は相当に地下深くであるため、通常の川というより地下水が集まったものなのだろう。

 ……ついでに言うと、自分達も(・・・・)そこから落ちてきたのだったりする。

 つまるところ、先程語った『敢えて激流に身を投じて下の階層へ落下する』で落下した先がここなのだ。

 

 おかげで全員が全身びしょ濡れの状態。

 流石にこのままでは進行に支障が出るということで、魔法で火を起こして暖を取っている。

 ロアナなど流されている最中に相当身体が冷えてしまったのか、ずっと火の傍から離れない有様だ。

 

「……ふーっ」

 

 三度の溜息。

 

 精神を統一し、思考を安定させる。

 まだ探索は終わっていないのだ、心を乱してはいけない。

 いけない――のだが。

 ヴィルは自分の情動をうまく制御できないでいた。

 それというのも――

 

(――どう見てもクリスが色っぽい……!)

 

 ちらりと横目で彼(?)を見る。

 言動は男っぽさが目立つものの、改めて見るにやはりクリスは美人だ。

 男なのが信じられない。

 向こうも火にあたっているのだが――水に濡れた金髪が妙に艶やか。

 水滴の滴る肌はキメ細かく、何とも言えぬ色気を醸し出している。

 上半身は革製のプロテクターを着用しているのだが、動きやすさを重視したのか下半身には何の防具も付けていない。

 その上でかなりタイトな造りのズボンを履いているものだから、腰から脚元に至るまでの形が割かしくっきり分かる。

 綺麗な曲線を描くお尻や、むちっとした太もも、すらりと伸びる脚が、はっきりと分かってしまうのだ。

 

(いやいや、変な気はよせ!)

 

 慌ててかぶりを振る。

 どれだけ相手が美しくても同性愛はNG。

 幼いあの日、そう誓った筈だ。

 

(なのに――くそ、動悸が酷い!)

 

 彼(?)を見ると、心臓のバクバクが止まらない。

 身体の血が“ある一か所”に集まり出す。

 自分が欲情していることを思い知らされてしまう。

 

(それもこれも、エルミアの料理のせいだ!)

 

 朝、精のつく料理をたっぷり食べた。

 そのせいか、現在のヴィルは割とちょっとしたことでギンギンになってしまう状態なのである。

 ……そうであると信じたい。

 

「ん?」

 

 ふと、反対方向――ロアナの方を見る。

 余程しっかりと服を乾かしたいのか、少女は着ていたローブを開け、インナーも乱し、かなりあられもない出で立ちをしていた。

 一応隠しているつもりではあるようなのだが、ここからだと角度的に色々見えてしまう(・・・・・・)

 膨らみかけの胸や可愛らしいおへそ、シンプルな白下着が、ローブの間から顔を覗かせているのである。

 ヴィルは一つ咳払いすると、

 

「あー、ロアナ。その格好は余り宜しくないぞ。君も年頃の女の子なんだから、そういうところは気を付けた方がいい」

 

「――え? あ、はい」

 

 窘められ、身だしなみを整えるロアナ。

 どことなく不満げな顔(・・・・・)をしているのだが――水に濡れた服を着るのは、やはり不快なのだろう。

 まあそれはそれとして。

 

(このままではまずいな。

 気を逸らさなければ……!)

 

 これ以上クリスを意識するのを避けるため、意図的に話題を振ってみる。

 

「ところで、この迷宮についてなんだが」

 

「うん?」

 

 クリスが反応したため、そのまま話を続ける。

 

「最終的に、どこまで続いているんだろうな?

 これが造られた目的も、分かっていないのか?」

 

「あー、それはなー……」

 

 一瞬、彼が言い淀んだところへロアナが割って入る。

 

「――一説には、(オーバーロード)が<深淵なる悪魔>を封じるために建造した、とされています」

 

「<深淵なる悪魔>?」

 

 聞いたことのない単語だった。

 

「――はい。“王国”の伝承に記述された存在で、魔族とも魔物とも異なる――この世界の全てを破滅させることを目的とする怪物だとか」

 

「ほうほう。“帝国”にはそんな伝承無かったなぁ」

 

「――“王国”の方が歴史は長いですから。信憑性のほどはかなり怪しいですけれど、そもそもこの迷宮自体まだ全貌は解明されていませんし。

 ――そういう説も根深く残っているのです」

 

「ふむ。ならひょっとしたら、最深部にはその<深淵なる悪魔>とやらが未だ眠っているかもしれないのか」

 

「――まさか、戦いたいとか言いださないですよね?」

 

「そんな訳ないだろう。好奇心で聞いてみただけだ」

 

「――仮に伝承が真実だとするならば、幾ら貴方でも勝てない相手だと思いますよ。なんでも神だけでなく人族や魔族、果ては竜族までもが手を組んで討伐にあたるほどの強大さだったそうですから」

 

「いやだから戦おうなんて考えていないって」

 

 彼女は自分のことをバトルマニアだとでも思っているのだろうか?

 とはいえ、<深淵なる悪魔>の伝承そのものには興味が湧かないでもないが。

 

「違う」

 

「ん?」

 

 突然、ぽつりとクリスが呟いた。

 

「オーバーロードは<深魔>と戦ってなんかいないさ。ただ臭いものに蓋をしただけ。実際に戦ったのは勇者と竜で――」

 

「クリス?」

 

「――っていう、伝承もあるわけさ、これが。ははっ♪」

 

 彼は軽くおどけた調子で、肩をすくめる。

 

「いやお前、仮にも神の信徒の前で過激な発言は――」

 

「――いえ、お気になさらず。太古のお話ですからね、様々な説が残っていて不思議はないかと」

 

「君がそう言うならいいが」

 

 極度に敬虔な信者――狂信者とも言う――の前で神を否定すれば、発言者の殺害にまで発展しかねない。

 数は少ないが、そういう事件は今でも起こっているのだ。

 ロアナがそんな極論の持主だとは思わないが、余りいい気分はしないだろう。

 

「ごめんごめん、謝るさ。不用意な発言だった」

 

 クリスもその辺りの事情を思い出したのだろう、慌ててロアナに頭を下げる。

 一方で、ヴィルの“性欲”は一連の会話のおかげである程度収まってきた。

 どうにか当初の目的は達成できたようだ。

 

「……さて。

 そろそろ休憩も終わりかな?

 先に進もう」

 

 話が一旦途切れたところで、クリスがそう提案してくる。

 

「分かった」

 

「――承知しました」

 

 ヴィルとロアナはそれに同意し、冒険は再開されるのであった。

 

 

 

 ――が!

 

 

 

(迂闊! 迂闊だった!)

 

 ヴィルは後悔していた。

 行き先を尋ねもせず、進行開始へ同意したことに。

 

(これは――これは――!?)

 

 胸中で慟哭する。

 

 休憩が終わった彼等は、狭い“穴”の中を進んでいた。

 岩壁にできた割れ目のような場所で、這いずりをすればどうにかギリギリ通れるか、という狭い道である。

 いや、人が通ることを想定されているような場所では無さそうだが。

 おそらく、劣化して空いた小さい穴が、動物や魔物の行き来によって徐々に広がった代物なのではなかろうか。

 

 しかし、別にそれはいい。

 そのような道を通ることに対して、最早文句など無い。

 寧ろ、今までのやり方からすれば余程まともな方法と言える。

 未踏の場所を進むなど、実に冒険らしいではないか。

 

 故に、ヴィルがろうばいしているのはそんなことではなく。

 

(……けつが! クリスのけつが!!)

 

 つまりそういうことである。

 穴の中は、これまで同様にクリスが先行しつつロアナがその後につき、自分が最後尾、という隊列だ。

 だが困ったことにロアナがとても小柄なため――結果、彼女は楽に通路を進んでいる――少女より先を進むクリスの肢体が見えてしまうのだ。

 肉付きいいお尻が、ぷりっとした丸い臀部が、見るからにハリのよさそうなヒップが、ずっと視界内に納まってしまうのである。

 匍匐前進の動作によって彼(?)の下半身がふりふりと揺れる様は、おそろしく煽情的であった。

 

 そのせいで、せっかくの鎮静化したヴィルの性欲に再び火が灯ってしまった。

 

(くそっ! くそっ!!)

 

 なけなしの理性を振り絞るも、雄としての本能には歯が立たない。

 体勢のおかげで周りから見えないのが幸いだが、ヴィルの股間は既にもっこりと盛り上がっていた。

 

(ええい、収まれ!! 収まらんか!!)

 

 下半身へ訴えかけるも、効果は無し。

 ……“男の尻に欲情した”などと故郷の知人に知られたら、自分はもう生きていけない。

 そのことに思い至り、ヴィルの背中をぞっとした寒気が駆け抜けた。

 

「……ん?」

 

 ふと、クリスの手前――ロアナの姿が目に留まる。

 どうも彼女、狭い道を匍匐するのに夢中なせいで大分無防備になっていた。

 穴の幅いっぱいに足を開き、しかもローブの裾が捲りあがってしまっていることもあり、その下半身が丸出しなのだ。

 小さなお尻や華奢な脚がヴィルの眼前に披露されていた。

 そんな少女を前にし、ヴィルは一つ咳ばらいをしてから小声で話しかける。

 

「あー、ロアナ。その格好は余り宜しくないぞ。冒険に夢中なのは分かるが、デリカシーも忘れずにな」

 

「――え? あ、はい」

 

 指摘され、身だしなみを整えるロアナ。

 どことなく不満げな顔(・・・・・)をしているのだが――彼女なりに頑張っていたところへ水を差され、気を悪くしたのかもしれない。

 大人びているとはいえロアナも年頃の少女なのだ、自分の方こそデリカシーに気を配った方が良かったか。

 今後発言には注意しようと反省しつつ、ヴィルは細い穴を這って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

「――解せぬ」

 

 俯いたロアナが、そんな呟きを零していた。

 彼女なりに、何かこの探索道中に思うところあるのかもしれない。

 

 穴を抜けたヴィル達は再度休憩に入っていた。

 思っていたより遥かに穴道は長かったため、ロアナの疲労を気遣ったが故の判断である。

 閉所で長時間過ごすのは、余人が考える以上に体力を消耗してしまうのだ。

 ここも、先程居た場所と余り景色は変わっていないのが残念である。

 ある程度整備されているとはいえ、天然の岩肌より人工の床の方が何かと身体を休めやすかったのだが。

 

 ついでに、この休憩には泥だらけになった装備を洗うという目的もあった。

 前述に通りこの辺りの階層は湿度が高く、岩でできた床や壁もたっぷり水分を吸っている。

 そんなところに出来た小穴を通ったのだ、3人とも全身が泥で汚れてしまっていた。

 この状態で探索を続けるのは気持ちの良いものではない。

 都合のいいことに、休憩場所の近くに小規模な地底湖があり、そこで身をゆすごうという話になったのだ。

 ひょっとしたら、クリスはそれも見越してこのルートを選択したのかもしれない。

 

 もう既にロアナは水浴びを終えていた。

 勿論、覗きに行くような下賤な真似はしていない。

 そういうコンプライアンス的なものは守るヴィルである。

 

「――何故。何故に来ないのですか」

 

 ぼそっとしたロアナの独り言が耳に入った。

 何か待ち人でも居るのだろうか。

 まあそれはそれとして。

 

(……俺もちょっと行ってくるか)

 

 そう思い立って、ヴィルはすくっと立ち上がる。

 周囲の安全は十分に確認済みだ。

 足を滑らせるようなことが無いよう魔法の<明かり(ライティング)>もあちこちに灯しており、その上、念のため<結界>まで張ってある。

 ロアナを独りにしても(・・・・・・)、危険は無いだろう。

 

 ……“独り”。

 そう、クリスがちょうど水浴びをしている最中なのだ。

 いや、彼(?)は男性なのだから、いちいち水浴などせず適当に装備品を洗浄しているだけか。

 

(だから、問題ない)

 

 よしんば水浴びをしていたとして、男が男の裸を見て何の不都合があろうか?

 ヴィルの情欲は未だ煮えたぎっていたりするのだが――幾らクリスが性別不詳レベルに美しい外見をしていたも、所詮男はどこまで行っても男。

 その身体は女性と決定的に異なる。

 流石に彼(?)の裸を目にしてしまえば、己の股間も萎えてくれることだろう。

 だったら、態々別れて水洗いするより一緒にやってしまった方が時間の無駄が無い。

 そんな計算のもと、ヴィルは水場に向かった。

 

 

 

「……お、居たか」

 

 目的の場所についたヴィルに目に、早速クリスの姿が映った。

 彼(?)は湖の中ほどに立ち、水で身体を洗っていた。

 どうやらこの地底湖、かなり浅いようだ。

 周辺は整然としており、<明かり(ライティング)>を設置していることもあって見通しも良い。

 或いは最初から身体を清める目的で造られた場所なのかもしれない。

 

 ――勿論、水浴びをしている以上、クリスは全裸である。

 

(大丈夫、大丈夫)

 

 そう言い聞かせ、彼(?)へ近寄るヴィル。

 自分も水へ足を浸しつつ、

 

「おーい、クリス」

 

 そう呼びかけた、次の瞬間。

 

「うぇっ!!? ヴィルっ!!!?」

 

 思いの外、大きな声が響いた。

 クリスは何故か(・・・)胸を押さえ、慌てた様子で。

 

「な、なな、なんでここに居るのさ!?」

 

「なんでって、俺も水浴びをしようと思った――ん、だが――?」

 

 そこまで言って、ようやく気付く。

 クリスのシルエットが、妙に丸い(・・)

 男の身体にありがちな、ごつごつとした部分が無い。

 

(あ、あれ?)

 

 ヴィルの頭に戸惑いが生じる。

 考えていたのと何か違う。

 クリスの肢体が、予想以上に女っぽい。

 女っぽいというか、寧ろ胸がある。

 やや小ぶりではあるが、確かに膨らんでいる。

 そして、男ならば絶対に付いていなければならないモノが無い。

 はっきりと無い。

 

(えーっと、つまり?)

 

 要するに。

 クリスは、女性だった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑬ 男と女、2人きり(H)

 

 

 地底湖のほとり。

 見つめ合うヴィルとクリスである。

 

(うーん、なるほど。うーん、うん?)

 

 未だにヴィルの頭は混乱していた。

 ずっと男だと思い込んでいた相手が女だったという事実を、すぐには飲み込めなかったのだ。

 故に、

 

「君は――女だったのか?」

 

 第一声がこんな間抜けな発言であったことも、許して欲しい。

 それに対しクリスは怒ったように――いや実際怒っているのかもしれないが――大声でまくし立ててくる。

 

「見りゃ分かるだろ!?――っていうか今まで男だと思ってたのか!?」

 

「ま、まあ、確かに……」

 

 改まって観察すれば、『何故この女性を男と勘違いしていたのだろう』と疑問を感じてしまう程にクリスは女だった。

 顔は中性的ではあるものの綺麗に整っているし、短めに整った金髪はサラサラで、お肌もつやつや、全体的に身体は柔らかそうだ。

 おっぱいもやや小ぶりながら美しい形を描いており、腰もぐっとくびれ、臀部に至ってはしっかりとしたボリュームがある上にその丸さが主張されている。

 ズボン姿な服装は男物のように見えていたのだが――動きやすさを重視すればそんな格好にもなろう。

 

(……というか、本気で美人だな)

 

 魔法の光に照らされたクリスは、息を飲むほどの美麗さを放っていた。

 エルミアという(少なくとも外見は)極上の美少女を見慣れているヴィルですらそう感じるのだから、相当の代物だろう。

 何故これ程の美女の存在に今まで気づけなかったのか不思議な位だ。

 野暮ったい冒険用衣装が彼女の魅力を削いでいたのかもしれない。

 

(あれ? なんだかまずいぞ――真面目に、色っぽく見えてきた)

 

 ひょっとしてクリスは、とんでもないレベルの美女なのではなかろうか。

 そしてそんな美女が今、全裸で佇んでいる。

 ヴィルでなくとも欲情を掻きたてられる状況であろう。

 ドクドクと、全身の血が湧きたつのを感じる。

 

「んん? ヴィル、なんで服脱ぎだすのさ?」

 

「水浴びに来たんだ、服ぐらい脱ぐだろう」

 

 怪訝な顔をするクリスに、そう軽く返す。

 

「……なんでオレ様の方に近づいてくるの?」

 

「この辺りだと水が浅すぎてな」

 

「いや、この湖広いんだから態々こっち来る必要無くない?」

 

「まあそう固いことを言うな。命を共にする冒険仲間じゃないか」

 

 朗らかに笑いながら、パシャパシャと水をかき分け歩いていく。

 全裸で。

 

「……ものすごく、重要なことを聞くんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

 クリスは、震える指で(・・・・・)ヴィルの“股間”を指さすと、

 

「なんで“ソコ”、でかくなってんだ……?」

 

「んー?」

 

 ヴィルのイチモツは、既に天へ反り返る程に勃起している。

 

 ちなみに。

 既に彼我の距離は2mもない。

 ちょっと腕を伸ばせば届く距離だ。

 なので――ヴィルはちょっと腕を伸ばした。

 

「へっ?」

 

 こちらの行動を予想していなかったのか、クリスの対応は遅い。

 ヴィルの腕は、彼女の肢体をがっちりと掴んでいた。

 そのまま、ぐいっと抱き寄せる。

 

「お、おいっ!?」

 

 身をよじって逃げようとするが、そう簡単には離さない。

 

(……不思議な感触だ)

 

 冒険者として鍛え上げられた彼女の肉体は、これまで抱いてきた女性とは一線を画していた。

 女性特有の柔らかさ持ちつつも、ぎっちりと中身が詰まっている――とでも言えばいいのか。

 ハリのある肢体というのは今までも味わってきたが、クリスの肢体はどこか男性的な力強さも感じられるのだ。

 しかしそれは不快な感触では決してない。

 しなやかな筋肉を纏った肢体は抱き心地も良く、新鮮な味わいを齎していた。

 

「待った! 待って! 待とう! アンタ、何するつもりだ!?」

 

「何って――ナニだ」

 

「ストレートに言ってきやがった!? 女見たらいきなり襲い掛かってくるって、変態にもほどがあんだろ!?」

 

「誰にもって訳じゃない。それに、互いをよく知るためには必要な行為だ」

 

「普通、互いをよく知った後にこういう行為に及ぶんじゃないのか!?」

 

「最終的な結果は同じだろう」

 

「問答無用すぎる!? おい、考え直せ!! 本当にまずいんだって! オレとアンタがこういうことするのは色々と――んむっ!?」

 

 騒ぎ立てるクリスの口を、こちらの口で塞ぐ。

 

「んっんんっんっ――や、やめっ――ん、ん、ん、んんんっ――んんーっ!」

 

 彼女の滑らかな唇の感覚が伝わってくる――が、勿論それだけでは済ませない。

 相手の口の奥にまで舌を潜り込ませ、口内を舐め回していく。

 

「ん、ふっ――あっふっ――ふぁっ――こ、こんなの、ダメ――あっ――ん、んっ――んっ」

 

 歯を一本ずつ丁寧に舐め上げる。

 歯茎に舌を這わす。

 さらにはクリスの舌へ絡んでいき――

 

「んんっ!――あっんっれろっ――ん、んんんぅっ――れろれろっ――やめ、やめて――あぅっ――れろれろれろっ」

 

 口づけは続く。

 冒険の経験は豊富でもこちらの経験は浅いのか、みるみる間にクリスの抵抗が弱まっていった。

 藻掻いていた四肢はだんだんと鎮まり、ヴィルを受けいるかのようにその身を委ねだす。

 

「ん、ちゅっ――ちゅっれろっ――はっんっ――ちゅぱちゅぱっ――ちゅっ――んっ――」

 

 彼女の方も、口を動かし始めた。

 消極的だし、ぎこちなくはあるものの、ヴィルの口に唇を押し付け、舌を絡めてくる。

 

「れろっれろっれろっ――ちゅぱっちゅぱっ――れろれろ――ん、あっ――ちゅっ――」

 

 いつの間にか、2人は濃密なキスを交わしていた。

 互いが互いの唇を求めているのだ。

 上唇、下唇、果てはべろや歯に至るまで、吸い付き合っている。

 

(やはり、違うな)

 

 胸中で独りごちる。

 クリスの舌もまた、通常の繊細さに加えて“強靭さ”とも表現できる何かを感じる逸品であった。

 気を抜くと、全て持っていかれてしまう(・・・・・・・・・・)――そんな錯覚すら抱く程に。

 このまましばらく続けていたいが……

 

(ここはダンジョン内だ。それにロアナを待たせてしまっている。長い時間はかけられない)

 

 そう判断すると、ヴィルは彼女の腰を抱いていた腕をお尻の方へと回す。

 そして、プリっと突き出された臀部を鷲掴みした。

 

「ひゃんっ!?」

 

 びくっと震えるクリスの肢体。

 感度もなかなかの模様である。

 気を良くして、ぎゅっと揉んでみると――

 

(――これまた。尻も、いいな!)

 

 凄い弾力だ。

 尻肉に食い込ませた指が弾かれそうな勢い。

 しかし無駄な贅肉がまるで無いというのに決して固さを見せないのは、女体の神秘かそれともクリスが特別なのか。

 気持ち良い揉みごたえに浸りながら、ヴィルは一旦彼女から口を離す。

 

「ぷはっ……おい分かってるのか!? これってほとんど犯罪で!」

 

「そう言う割には――」

 

 可愛らしく(・・・・・)顔を赤く染めながら怒鳴るクリスだが、そんな彼女の股間にそっと手を添える。

 

「――ここ、もうぐちょぐちょだぞ」

 

「せ、生理現象だろ!?」

 

 女性器からは愛液が垂れ、太ももを伝っていた。

 ソコに触っただけで、ヴィルの指が愛液まみれになる程だ。

 

「止めて欲しければ、もっとしっかり抵抗した方がいいぞ」

 

「だからさっきからそうして――はぅっ!? も、揉むなっ! 尻を揉むなぁっ! んんぅっ」

 

 台詞だけを捉えれば大分強情だが、その声色には大分艶が混じっている。

 肢体を触られるたびに身をよじり、目を潤わせるその姿は――“これから先”のことを期待しているようにしか見えなかった。

 

「これだけ濡れていれば、もう前戯は必要なさそうだな」

 

「あっ――」

 

 クリスの片足を抱えて持ち上げ、無理やり股を開かせる。

 股に間にある、濡れてテカった秘部が露わになった。

 その淫猥さに唾を飲みながら、ヴィルは告げる。

 

「君も俺を掴んでおいた方がいいぞ。立ったままする(・・)のはバランスが取りにくいから」

 

「うぅ……なんでこんな変態の言うことを聞かなきゃならないのさ……」

 

 愚痴を零すも、言われた通りヴィルの首に手をまわすクリスである。

 最後までこちらを受け入れる言葉がは聞けなかったが、こんなことをされた以上、OKサインを出したと見て構わないだろう。

 

「では――いくぞっ」

 

 その合図とともに、ヴィルは自らのイチモツをクリスの股に突き入れた!

 

「あぐっ!?」

 

 途端、彼女がくぐもった悲鳴を上げる。

 

「――むむ?」

 

 予想外だ。

 十分に濡らした筈なのだが、すんなりと入らない。

 先っぽ(・・・)は挿入できたのだが、それ以上進めないのだ。

 

「勢いつけてやってみるか」

 

 一旦腰を引き、再度剛直を叩き込む。

 ブツッと何かを突き抜ける感触と共に、今度こそ膣内への挿入に成功した――が。

 

「いっ――つぅっ!!」

 

 クリスの悲痛な声が響いた。

 どうしたことかと見やれば、彼女の股間から血が流れ出ている(・・・・・・・・)

 

(……これは、つまり)

 

 起こったことを整理すると、

 

「……君、初めてだったのか」

 

「は、初めてで悪いかっ」

 

 クリスは涙目になっている。

 今更ながらちょっと――いや、かなりの罪悪感が湧いてきた。

 

「悪くはないが……その、言ってくれれば、もっと配慮したのに」

 

「オマエが無理やり始めたんだろう!? こうしなかったら収まりつきそうに無かったしさぁ!!」

 

「……すまん」

 

 そう言われてしまうと辛い。

 だが、そんなやりとりをしている間にも――

 

(うぉおお、し、締まる!?)

 

 ――彼女の膣肉は、容赦なくヴィルの愚息を締め上げてきていた。

 驚くほどの膣圧だ。

 エルミアのアナルもかなりの絞めつけだったが、それを容易に上回っている。

 比喩抜きで、押し潰されそうな(・・・・・・・・)圧迫。

 

(冒険者をやっていると、こんなところも鍛えられるものなのか……?)

 

 流石にそれは考えにくいので、単に持って生まれた性質なのか。

 類稀すぎる才能だ。

 ちょっとした痛みすら感じる圧力だが、それが却って性感を刺激する。

 

(た、たまらん……!)

 

 殊勝な態度と裏腹に、ヴィルの股間はさらに硬くなっていた。

 情けない話だが、気を抜けば今にも“暴発”しそうだ。

 

「あー、クリス?

 大変なことになっているところ申し訳ないんだが――動いてもいいだろうか?

 正直、辛抱できなくなってきていて」

 

「反省の色が見えない……まあ、好きにすればいいさ。

 別に、我慢できない程でもないし」

 

「そうか――ならば遠慮なく」

 

 猛烈な締め付けの中、腰をゆっくりと動かし剛直を上下させる。

 

「はぁっうっ!? んっ、ぐっ、あぁああっ」

 

 クリスが切なそうな声を漏らす。

 だがそこには僅かながら艶も交じっており、単に痛いだけが理由では無さそうだ。

 ヴィルは変わらぬペースで丁寧に剛直を出し入れさせ続ける。

 

「ん、んんんっ! くぅっ――あ、んっ――はぁぁぁ――」

 

 少しずつ、苦悶が嬌声に変わり始めた。

 痛みが和らいできたのだろうか。

 そうであることを願いつつ、ピストンを繰り返していく。

 

「どうだ? 気持ちよくなってきたんじゃないか?」

 

「そ、そういうことをいちいち聞くなっ!――ん、あ、あ、あっ!

 こっちはそんなに余裕無い――ああっ! あっんっあっあっあっあっ!! あぁああぅっ!!」

 

 クリスは完全に喘ぎ、悶えている。

 文句を言いつつ、こちらの“突き上げ”を気に入ってはくれているようだ。

 

「よし、ペースを上げていくぞ」

 

「やっ、ちょっと――あっ! あっ! あっ!――急に、動いたらっ――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 パンッパンッパンッと地底湖に打音が鳴り渡った。

 愛液はさらに溢れ出し、イチモツの滑りを良くしてくれる。

 膣の絞りは変わらずだが、おかげでピストン運動がスムーズになった。

 そして、亀頭が膣奥を叩くこと幾度目かで――

 

「あっ! あっ! ああっ!――――あ、あぁあああああんっ❤」

 

 ――クリスから、この上無い媚声が漏れた。

 これまでやや強張っていた表情は蕩け、実に淫らな顔に変貌している。

 

(……エロい)

 

 思わず胸中でそう呟いてしまった。

 普段は快活――どころかやや豪快に過ぎるクリスが、オンナの一面を覗かせている。

 その事実が、ヴィルの股間をさらに昂らせたのだ。

 

「ま、待って――あっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤――止めて――あっ❤ あっ❤ あんっ❤――変に、頭、変になってる――あっ❤ あっ❤ あっ❤ あぁあああんっ❤」

 

 腰を突き入れるたび、艶やかな喘ぎが上がる。

 クリスはもはや為すがまま――ヴィルの齎す快感を貪るだけの雌になっていた。

 

「ああっ❤ あっ❤ ああんっ❤ 腹の奥、腹の奥に届いてっ❤ ああっ❤ なんかダメっ❤ ダメになるっ❤ あぁああああああっ❤」

 

 見事な乱れっぷりだ。

 平時は凛々しさも感じさせた瞳は垂れ、だらしなく半開きになった口からは涎が糸を引いている。

 股からは大量の“汁”がぽたぽたと流れ落ち、湖の水と混ざり合っていた。

 とても“初めて”の行為で見せる痴態とは思えない。

 

(このまましばらく鑑賞していたいところだ――が)

 

 そうは問屋が卸してくれなかった。

 ヴィルの限界も近いのだ。

 魅力的な女性の艶姿が眼前で繰り広げられていることもだが、何より“股間への刺激”がもう凄まじかった。

 クリスが感じ出してからというもの、膣の搾り上げがさらに激しくなっていたのだ。

 男根の根元から先端までを、手で握るよりも強い(・・・・・・・・・)圧で扱かれる――しかも膣のヒダがくまなくイチモツへ絡みついている状態で、だ。

 その快感は推して知るべし。

 実はここまで、かなり必死に絶頂を抑えていたのである。

 

「はぁああっ❤ ああっ❤ あっあっあっああっ❤ なんでアンタ、こんなに上手い、の――んぁあああああっ❤」

 

 そしてその快感は現在進行形で注がれ続けている。

 

(これ以上は我慢できない!)

 

 昂りは最早制御不能。

 いつ爆発してもおかしくない。

 

(ならば――!)

 

 ここからは、遠慮無用。

 後が無いのだから、全力の欲情をクリスに叩きつけるしかない。

 ヴィルはそう決断し、腰を目一杯の力で振り出した。

 “男”と“女”がぶつかりあうクラップ音は激しさを増し、剛直の先端は容赦なく雌の奥底を抉った。

 

「おほぉおおおおっ!!? こんなっ、こんなぁあああっ❤ こんなの、知らないぃぃいいいいいっ❤」

 

 恍惚とした表情でよがるクリス。

 その顔が余りにも愛おしく、思わず頬を舐めてしまう。

 散々責め抜かれた彼女の肌は、ほのかな塩味がした。

 

「おっ❤ おっ❤ おっ❤ おっ❤ おっ❤ おっ❤ な、なんか、来るっ!! なんか来るぅうううっ!!」

 

「なんだ!? ナニが来るって!? 言ってみろ、クリス!」

 

「おっ❤ おっ❤ おおぅっ❤ 分かんないっ! 分かんないよぉっ!! で、でも――ああっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤ なんか来るのぉぉおおおっ!!」

 

 意外と性知識が無いのか、それとも単に混乱しているのか。

 彼女は今、自分がどうなっているのかを理解できていない様子だった。

 まあ、理性を手放してしまったこの有様では、正常な思考など無理な話だろうが。

 

「クリス! それはな、“イク”って感覚だ! 君は今、絶頂しようとしているんだよ!」

 

「い、イク――? おっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤ あ、ああ、イクっ!! あ、あ、あ、あ、あ❤ イクっイクっイクっイクっ!!」

 

 堰が切れたように、クリスはその単語を連呼する。

 互いに終わりが近い。

 ラストスパート――ヴィルは渾身の力を振り絞って彼女を突き上げた。

 

「おっおおっおおっおっ!! ヴィ、ヴィル、オレ、イクっ❤ オレ、イクぅっ❤ ああああああっ!!」

 

「よしイケ!! 俺もイクぞっ、一緒にイクんだ、クリス!!」

 

「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! うん、イクっ、一緒に、イク、ヴィル、一緒に、一緒、にっ――――あぁぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 オーガズムを迎えたクリスの肢体がしなった、その瞬間――

 

「う、ぐぁっ!?」

 

 ――これまでも強烈だった膣肉の絞りが、さらに荒々しさを増して襲い掛かってきた。

 

「あっ❤――あっ❤――あっ❤――あっ❤――あっ❤――あっ❤――」

 

 ビクビクと震え、絶頂に浸るクリス。

 その一方で、

 

「ぐ、おぉぉぉ――!?」

 

 強制的な搾精により、ヴィルもまた身を震わせていた。

 膣壁が波打ち、尿管から精液を吸い上げているのだ。

 その(しご)きは凄まじく(・・・・)、精嚢に溜まった“(たね)”が全て持っていかれるかのようだった。

 

(いや――これは――本気で――すっからかんになる――!!?)

 

 イって敏感になったところへコレである。

 快感と痛みとくすぐったさが入り乱れ、如何にヴィルとて悶える他ない。

 

 とんでもない力技だ。

 快楽によるものではなく、物理的に(・・・・)吸引されるとは。

 こんなことあり得るのか?

 いや、実際に起きているのだが。

 

「あっ❤――あっ❤――――は、あぁぁぁ――――」

 

「ぐっ、あ、あ……」

 

 水しぶきが上がる。

 2人が、湖に倒れ込んだのだ。

 “出し切った”虚脱感で、立っていられなくなったのである。

 精子と一緒に、全身の力まで奪い取られた気分だ。

 

(だがしかし……いい気分だ)

 

 火照った体に水の冷たさが心地よい。

 昂っていた心が安らいでいく。

 一緒に水に浸かるクリスもまた、表情が穏やかだ。

 

(……凄かった。まさかこんな体験ができるとは)

 

 彼女とのセックスは何から何まで新鮮で――射精の無理強いにしたって、苦しみの中に極上の快楽があった。

 向こう(クリス)も同じ感想を抱いたのだろう――

 

「やばい……これ……クセになるかも……」

 

 ――耳に届いたその呟きに、全くもって同感である。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑭ 3人そろって雑談を(H)※

 

 

 3日目の冒険は、あの後すぐに終了となった。

 クリスがかなり挙動不審となってしまい、早々に切り上げたのである。

 大分余力を残した形となったが、彼女を挙動不審にさせて(処女を奪って)しまった原因であるヴィルに、文句を言える筋合いがあろう筈も無かった。

 

 そして、現在の時刻は夜。

 宿に戻ったヴィルは――

 

「んっ――れろれろっ――ん、おっきぃ――ちゅぱちゅぱちゅぱ――あ、ふぅ――ヴィルの、太くて硬くて――ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱっ」

 

 ――半裸になったエルミアをしゃがみ込ませ、フェラさせていた。

 華奢な舌が肉棒を這う感触がこそばゆい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「んっんっんっん――んっ、あ、あぁあああっ!? 震えてるっ!? (なか)が震え、て――あ、あぁああああっ!!」

 

 ちなみにだが、彼女の股にはディルドーが突き()さっている。

 エルミアが開発した代物を、今日はヴィルが作り出し、有効活用しているのだ。

 

「あっあっあっあっあっ❤ ダメぇ、こんなんじゃ、おちんちんペロペロできないのぉっ――あんっ❤ あんっ❤ あんっ❤ あんっ❤」

 

 なのでこうして、男根をしゃぶらせながら時折ディルドーを振動させてやっていた。

 どれだけ喘いでもこちらの愚息を離さない少女の姿には、ぐっとくるものがある。

 ついでに――

 

「あ、んん――先生、気持ち、いいです――あ、ああ、んぅ――そこ、もっと触って下さい――はぁぁぁ」

 

 ――イーファの胸も揉んでいたりする。

 見る者の目を釘付けにする巨乳の重量感を味わうと、何とも言い難い感慨が湧いてきた。

 

(…‥客観的に見ると、すごい情景だ)

 

 “王国”有数の美少女2人を侍らせ、その肢体を弄んでいるのだ。

 世の男達が知れば、激しい嫉妬を寄せられること間違いなし。

 しかも、彼等は別段セックスのためにこんなことをしている訳ではない。

 夕飯を食べた後、なんとなくの流れ(・・・・・・・・)でこうなっただけなのだ。

 

(爛れているなぁ)

 

 他人事のような感想を抱きながら、イーファの乳首をツンツンと弄る。

 

「んっ、あっ!」

 

 ちょっとした刺激にも敏感に反応する少女である。

 毎日のように抱かれ、身体中が開発され尽くしているのだから、当然と言えば当然なのだが。

 

「――ん、ちゅっ――あふっ――れろれろっ――ちゅっ、ちゅっ――」

 

 そんなことをしている最中にも、エルミアは舌を動かし続けている。

 肉棒がとても心地よい。

 ただ、今は射精を目的とはしていないため、聖女のフェラはかなりマイルドに――その代わり、長時間行われていた。

 官能的な安らぎの時間が流れる中、ヴィルはふと思いついたことを口にした。

 

「そういえば、<深淵なる悪魔>って知っているか?」

 

「はい?」

 

 胸をたぷたぷと揺さぶられながら、イーファが返事をする。

 

「<深淵なる悪魔>、ですか? あ、んっ――うーん、古い書物でそんな名前を見たことがあったような――ん、んんっ」

 

「君でも把握していないのか」

 

「はぁ、んぅ――すみません、分からないです――あんっ!

 というか、どうしたんですか? 急にそんなことを聞くなんて――あ、あ、あ、あっ」

 

 話している最中にも、おっぱいは揉み続ける。

 

「冒険仲間との雑談中、話題に出たんだ。

 しかし勇者フリークなイーファが知らないとなると、余程大昔のことなのか、それとも限定された地域の伝承なのか……」

 

「勇者? 勇者が関係あるんですか、それ?」

 

 自分好みな話題だと知り、身を乗り出してくるイーファ。

 勢いで乳房がたぷんっと揺れる。

 

「俺も聞いた話だから詳しいことは知らないんだが。

 曰く、太古の昔に<深淵なる悪魔>とかいうとんでもない怪物がいて、勇者がそれを倒したとかなんとか」

 

「なんか、あやふやな内容ですね」

 

「所詮は人聞きなんでな。

 まあ、そんな真面目に尋ねた訳じゃないんだ。

 適当に聞き流してくれ」

 

 そう言って、たぷたぷたぷんっと手の平でおっぱいを跳ねさせた。

 

「あ、あああああっ❤――そ、そうなんですか。

 でも、勇者の知識で後れを取るのはちょっと許せないんですよねー」

 

「そんなものか」

 

 確かに、自分の好きな分野で負けるというのは気分が良くないかもしれない。

 そう考えながら、イーファの乳首をコリコリとこね回す。

 

「あ、あ、あ、あ、あっ❤ 先生、それっ❤ それダメっ❤」

 

「なんだ、もうイキそうなのか?」

 

「あっあっ❤ はい、コレ、続けられると――い、イっちゃいそうですっ❤」

 

「そうか。じゃあ、一度イっておこう」

 

 ぷっくりと膨れた突起を丁寧に弄り続ける。

 

「はっ❤ あっ❤ んっ❤ ダメですっ❤ どんどん気持ちよくなっちゃって――あんっ❤」

 

 少女の声がどんどん湿っていく。

 それでもヴィルは手を止めず。

 

「あっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤ イクっ❤ あっ❤ イ、クぅっ!!」

 

 次の瞬間、イーファの身体が小さく震えた。

 軽い絶頂を迎えたようだ。

 そのまま数秒、恍惚とした表情のまま硬直していた彼女だが、

 

「はっ、はっ、はっ、はっ――んむむむ、しかしどう記憶をひっくり返しても思い出せない……!!」

 

 気を取り直すと、そんな台詞を吐く。

 イカされつつも記憶を探っていた模様。

 まあ、こんな状況では思い出せるものも思い出せないだろう――と、指摘をするより先に。

 

「仕方ないわ。だってそれ、勇者とは無関係の伝承だもの」

 

 さらっと入り込んできたのはエルミアである。

 急な発言にイーファはきょとんとした顔になり、

 

「え? そうなんですか?」

 

「そうよ――じゅぽ、じゅぽじゅぽっ――教会に伝わっている<深淵なる悪魔>のお話には――んっ、れろっ、れろれろっ――勇者は出てこない――ちゅぱっ、ん、んんぅ、ちゅぱちゅぱちゅぱっ」

 

 フェラと会話を同時に行っているので、かなり聞き取りづらい。

 

「フェラをするか話すかどっちかにしてくれないか?」

 

「そう? それじゃあ――」

 

 ヴィルの言葉に、エルミアは一瞬で決断を下す。

 

「――れろれろれろれろっ――ん、んんっ――ちゅっ、れろれろっ、ちゅっ、んー、ちゅっ――じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽっ」

 

 一心不乱に肉棒をむしゃぶり始める聖女である。

 彼女はフェラの方を選んだようだ。

 性女モードな彼女相手にそんな2択を迫ればこうもなるか。

 

「くっ――そろそろ、出そうだっ」

 

 スローペースとはいえ、イーファとの会話中ずっと股間のイチモツをしゃぶられていたのである。

 ヴィルの情欲もまた、相当な昂りに達していた。

 

「ちゅっ、ちゅぱちゅぱちゅぱっ――ん、いいのよ――れろれろっ――このまま、私の口に出して――ん、ふぅっ、れろれろれろれろっ」

 

 聖女の舌が、別の生き物のように股間を這いまわった。

 根元から先端が丁寧に舐め上げられ、亀頭をしゃぶられ、尿道に吸い付かれ。

 これではすぐに射精してしまいそうだ。

 

「イーファ、こっちに来い!」

 

「えっ――あ」

 

 情動に押し流されるまま、すぐ傍らにいたイーファを抱き寄せる。

 その豊満な肢体に再度手を回すと、少女の唇を無理やり奪う。

 

「せんせ――んっ❤」

 

 問答無用で舌を彼女の唇の間に差し込んだ。

 エルミアによって齎される快感に突き動かされるように、イーファの口内を蹂躙していく。

 

「ん、ん、ん、んんんっ――ちゅ、ちゅぱ、れろっ――こんな、こんなぁっ❤――ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ――んぅっ❤」

 

 先程イったばかりなのに――いや、イったばかりだからか――あっという間にイーファの顔は蕩けていった。

 その一方で、股間への責めはさらに激しさを増していく。

 

「じゅぽ、じゅぽじゅぽじゅぽっ――ちゅぱっ――ん、先走り汁出てる❤――ちゅっ、ちゅるっ――おいしっ❤――んー、ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱっ」

 

 エルミアに舐められる度、イチモツが熱くなった。

 もう限界だ。

 ヴィルは興奮に身を任せ、イーファと熱くキスを交わし――

 

「んちゅっ❤――んっ❤ んっ❤ んっ❤ んっ❤――せんせ、せんせいっ❤――はぁあああっ❤」

 

 ――そして、股座に溜まった性欲を解き放った。

 

「んぶっ! んんんん――――!!」

 

 くぐもったエルミアの声。

 聖女の口内へと濃厚な精液が注がれていく。

 

「んっ❤ ちゅっ❤ れろっ❤ ちゅっ❤」

 

「んっんっんっんんっんっ❤」

 

 美少女と口づけを交わしたまま、別の美少女に精飲させる。

 これ程の贅沢、そうそう無いだろう。

 堪らない充足感がヴィルを満たした。

 

「んん――ちゅるちゅるちゅるっ❤」

 

 長い射精が終わった後、エルミアは再び肉棒をしゃぶり始め、

 

「――ちゅっ❤――ちゅるちゅるっ――ん、ヴィルの、粘っこくて――ちゅるちゅるちゅるっ――喉に絡んでっ――ちゅるちゅるちゅるっ――最高っ❤」

 

 尿道に残った最後の精液まで吸い出してくれた。

 一旦すっきりしたところで、ヴィルはエルミアに質問をする。

 

「で、<深淵なる悪魔>についてなんだが」

 

「あら? まだその話続いてたの?」

 

「あそこで終わったら気になるじゃないか」

 

「それもそうね」

 

 聖女はちょっと名残惜しそうに男根から顔を離すと、

 

「初代の勇者様が現れたのが今から62年程前。<深淵なる悪魔>の伝承はざっと数百年前のお話だもの、勇者と関係あるわけないでしょ」

 

「あー、でも、教会が初めて存在を認めた勇者ってだけで、初代勇者より前にも神に選ばれた戦士、みたいな人は存在したんじゃありませんでしたっけ?」

 

 エルミアの言葉に、イーファが反論した。

 

「おや、その辺りもしっかり勉強されているのですね。立派ですよ、イーファ。

 確かに、初代勇者より前にも、勇者という立場に該当する人物は確認されています」

 

「そうだったのか」

 

 真面目な内容になったせいか、エルミアの口調が聖女モードに移行している。

 

「はい。

 魔王との戦いを終わらせた人物を“初代”と認定してしまった関係で、それよりも前の人物を勇者と認定できなくなってしまったのです。

 代わりに“聖人”の称号を付けたケースもありますが――これは、少々頭が固いように思いますね」

 

「ふーむ」

 

 それもまた、ヴィルにとって初耳だった。

 いかんせん、帝国は勇者に関する文献が少なすぎる。

 

「しかしながら、<深淵なる悪魔>の件では広義の意味での“勇者”も現れていないのです」

 

「そうなのか?

 だが俺にこの話をした奴は、勇者が戦ったと――」

 

「少なくとも教会は決して<深淵なる悪魔>を討伐した存在を勇者とは認めないでしょうね。

 何しろ、<深淵なる悪魔>を打ち倒したのもまた、<深淵なる悪魔>なのですから」

 

「……は?」

 

「つまり、裏切りです。

 強大な力を誇った<深淵なる悪魔>ですが、その終わりは同族によって齎された――とされています」

 

「内ゲバで滅んだのか」

 

「そういうことになりますね。

 そして裏切った<悪魔>の名前は――確か、尻とか布とかそんな感じだったかしら?」

 

 急に性女口調に戻った。

 

「なんだそりゃ」

 

「幾ら私でも、そんな超マニアックな伝承、隅から隅まで覚えてなんかいないわよ。

 きっとアナルセックスが大好きな奴だったんじゃない?」

 

「そんな訳があるか」

 

「裏切った理由も、いいお尻した女性にたぶらかされたとかそんなんよ、たぶん」

 

「いい加減なことを言うな」

 

 古の伝説をなんだと思っているのか、この聖女は。

 だがエルミアは一切悪びれた様子も無く、

 

「本当に? ねえ、ヴィル。

 私のお尻を引き合いに出されても、貴方は裏切らないでいられるの?」

 

 四つん這いになって、お尻を振ってきた。

 プリっとした丸みが目の前で左右に揺れる。

 これまでに幾度となく触ったり揉んだりし続けてきて、なお飽きることが無い魅惑の桃尻だ。

 ちなみに彼女の股間には、未だディルドーが挿さったままだったり。

 

「……いや。それはその」

 

 その淫猥な光景に目を奪われ、ヴィルは何も言えなくなってしまう。

 こういう口封じはずるい。

 惚れた弱みを利用されると、本気で困る。

 困るので――とりあえず魔力を込め、ディルドーを思い切り震わせてみた(・・・・・・)

 

「おっ!!? ほぉおおおおおぅっ❤」

 

 途端、がくがくと震えだすエルミアの肢体。

 振動するディルドーが、膣に突き刺さったままぐぃんぐぃんと揺れた。

 

「おっ❤ おっ❤ おっ❤ おおっ❤ すごい、すごいぃっ❤ (なか)――(なか)が揺さぶられてっ❤ あぁあああああっ!!!」

 

 ブブブブブブブ――響く振動音に合わせ、聖女が身をくねらせている。

 理想的なまでに均整の取れた肢体が淫らに動く様は、とてつもなく煽情的だった。

 つい数分前に射精したばかりだというのに、ヴィルの下腹部が熱くなっていく。

 

「ああっ❤ あぁあああっ❤ ああっ、んぁああああっ❤」

 

 悶えるエルミアの股からビチャビチャと愛液が滴る。

 彼女とて、ここまでずっとディルドーが挿入されたままだったのだ。

 既にその身体は“出来上がって”いたのだろう。

 

「あっあっあっあっあっあっ❤ イクっ、イクのっ❤ ぶっといのハメられてっ❤ 私、もうイクっ――!!」

 

 蕩け切った肢体は、あっという間に絶頂へ導かれる。

 聖女は恍惚とした表情を見せながら、

 

「はぁあああああああああぁぁあああ――❤」

 

 聞く者を魅了させる、艶めかしい喘ぎを上げた。

 そのまま身をガクガクと痙攣させながら、息を整え始める。

 

「はーっ❤ はーっ❤ はーっ❤ はーっ❤」

 

 蠱惑の吐息が流れる中、チョロチョロという音が聞こえる。

 見れば、彼女の股間から黄金色の液体が流れ落ちていた。

 

「……なんだ、お漏らししたのか」

 

「だ、だって――気持ち良かったんだもの❤」

 

 聖女としてあるまじき失態にも、まるで気にする様子を見せない。

 もっとも、今更そのことに突っ込みを入れる人間はこの場に居ないのだが。

 

「で、さっきの話に戻るけど――そもそも<深淵の悪魔>って、本当に存在したのかどうかすら怪しいのよ。

 こうやって雑談のネタにするのが正しい使い方なんじゃない?」

 

「そう言われてしまうと、そうなのかもしれないが」

 

 ヴィルにしたところで、真剣に議論したかった訳でもない。

 これだけ会話が弾めば、それで上等というものだろう。

 と、そこへ――

 

「あ、勇者にまつわる都市伝説なら、アタシも一つ面白いの知ってますよー」

 

 ――イーファが手を挙げて話題を振ってきた。

 

「さっきのは最終的に勇者とは無関係だったし、都市伝説とも違うだろ」

 

「細かいこと言わないで下さいよー。

 せっかくだしアタシだって色々語りたいんです。

 知識をひけらかしたいんですよ!」

 

「そこまで正直にぶっちゃけられるといっそ清々しいな。

 まあ、好きなだけ語るがよろしかろう」

 

「ありがとうございます!

 では始めますよ――題して、“消えた勇者の謎”」

 

「ほほう?」

 

 なんとなく興味を惹かれるタイトルだ。

 

「“勇者の一団”って5年に一回結成されるから、勇者を拝命した人はもう10人を越えているんですよね。

 でも勇者の“その後の話”って全然知られていないんです」

 

「ん? しかし歴代の勇者は戦いの後、聖女と結婚していると聞いたが」

 

「だから、“そこまで”なんですよ。

 その“結婚”から先の話って、全然出回らないんです。

 先生も、旅の途中で勇者のことを耳にしなかったでしょう?」

 

「……そういえば」

 

 ヴィル達は“王国”のあちこちを旅してきたが、存命の勇者の所在について聞いたことが無かった。

 勇者程の有名人であれば、そのような噂が飛び交ってもおかしくなさそうなものだというのに。

 

「だから、秘密裏に勇者の身柄が確保されているとかの陰謀論や、四天王との戦いはあくまで表向きの理由で実は真の使命が下されてるみたいな真相論とかいろいろ囁かれているんです」

 

「それ、色々と洒落にならなくないか?」

 

 勇者の称号を持つ程に強力な個人が消息を絶っているというのは、正直ぞっとしない。

 隣国である“帝国”も無関係ではいられなくなるかもしれないのだから。

 

「ま、実際のところは勇者を好奇や嫉妬の目から守るため、“王国”がプライバシー保護を行ってるせいなんですけど」

 

「そんなオチかい!!」

 

 ちょっとでもシリアスに受け取ってしまった自分が恥ずかしい。

 

「いやー、でもロマンがあると思いません?

 ひょっとしてひょっとしたら、プライバシー保護というのも建前で真実は別にあったりするかもしれないじゃないですか」

 

「疑い出したらキリがないな」

 

「他にも、勇者人造人間説とかあります。コレ、アタシが今一押ししてるヤツなんですけど。

 勇者は教会が造り出した人造人間で、その技術が漏れ出ないよう、ことが済んだら回収されて“処理”されてしまう、という。

 どうですか、この世の闇が詰まってる感じでぞくぞくしません!?」

 

「イーファ」

 

 その時、それまで静かにしていた聖女が口を開いた。

 

「仮にも神の徒である私の前で、随分と面白い説を披露して下さいますね?」

 

「あ、アレ? エルミアさん、なんか怖いですよ? 顔は笑っているのに目は笑っていないというか」

 

「正当な批判であれば許しますが、面白半分で行われる不当な侮辱は看過いたしませんよ。

 あと言っておきますが、私は昔4代前の勇者様と面会したことがあります」

 

「エルミアさん、勇者様と会ったことあるんですか!? ずるい――とか言ってられる雰囲気であることはアタシにも分かります」

 

 本当か?

 本当に分かっているのか?

 聖女モードで怒りを露わにするというのは、ヴィルですら早々見たことが無い状態である。

 問題行動も多いエルミアだが、彼女もまた敬虔な信者であることに間違いは無い、ということか。

 

「さ、分かっていますね、イーファ。

 説教です。しっかりと“理解”するまで続けますからね」

 

「あ、ヤバい。これヤバいやつです!?

 待って、ちょっと待って、引きずらないで下さい!?

 そんなこと言っておいて実はエッチなことするつもり――じゃないんですね!? ガチ説教ですか!?」

 

 意外にも強い膂力の聖女に、ずりずりと引きずられていく魔女という構図である。

 まあ、言葉が過ぎたイーファに否があるので、ヴィルとしても止めるつもりは無い。

 ただ、1つだけ投げかけたい言葉があった。

 

 

「……ディルドー、抜かないの?」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

⑮ 勝利の代償(H)

 

 

 

「おはよう、ニーナ! 他の皆はもう来てるか?」

 

ギルドの扉を元気に開け、入ってきたのはクリスだった。

いつものように快活で――性別が判明してからは愛らしくも感じる――笑みを浮かべている。

 

「あ、ああ、うん。クリスちゃん、おはよっ――んっ――ま、まだ、来てないみたい、だよ?」

 

対して呼びかけられた当人であるニーナは、少々ぎこちない(・・・・・)微笑みで応対した。

……“ちゃん”付けしている辺り、彼女はクリスの性別を予め把握していたようだ。まあ、ギルド受付なのだから当然か。

 

「あれ? なんだ、アイツらまだ来てないのか?」

 

「う、うん――く、ぅぅ――そうみたい、だね…………あっ」

 

「……ニーナ?」

 

クリスが訝し気な視線を受付嬢に向けた。

 

「な、なぁに、クリスちゃ――はぅぅっ」

 

「何もなにも、どうしたのさ、さっきから。今日も体調が悪いのか?」

 

「い、いやぁ、全然平気……あ、あぁああっ❤……平気だから、マジで」

 

「……どこがさ?」

 

身悶えしながらそんなこと言われても説得力に欠ける。

案の定、クリスからの疑惑は深まるばかりだ。

 

「絶対昨日からおかしいって。ギルド長にはオレ様が言っといてやるから、今日は休んでろ、ほんと」

 

「そ、そんな、こと……ふぁ、あっあっあっあっ❤……無い、から。わたしはいつも通り……んぁっ❤ はぁああんっ❤……元気、まんたんだよ?」

 

「涙流して言うセリフじゃないさ!? 顔も真っ赤だし!」

 

クリスは気づいていないがこの受付嬢、涙以外にも色々(・・)垂れ流している。

カウンターの後ろに回れば、タイトスカートに包まれた下半身から“液体”が零れているのも分かったことだろう。

 

「あはは、クリスちゃんは心配性だなぁ、こんなことで休んでちゃ仕事になんな――――おふっ!?」

 

ガクンッ、とニーナの身体が震えた。

ちょっとばかり、魔力を込めたのだ(・・・・・・・・)

 

「あっあっあっあっあっあっ❤ なに、なにこれ、なにこれやばいっ❤ あっあっああっあっあっ❤ なか、(なか)すっごいかき回されてっ❤ ああっあっああああっ❤」

 

だらしなく口を開けて悶えるニーナ。

その“快感”に我を忘れている。

目の前に人がいるのもお構いなしでヨガり始めてしまった。

 

……もしこの場で耳をすませば、『ヴィィィィイイイィイイイン』という“何かが震える音”が聞こえることだろう。

 

「お、おーい?」

 

クリスが話しかけるが、ニーナは気にも留めない。

その肢体を大きく仰け反らせ、

 

「あ、あ、あ、あ、あっ❤ もう無理、もう、立ってらんない❤ ダメっ❤ イクっ❤ イクっ❤ 子宮、震えてっ――はぁああああああああっ❤」

 

その宣言通り、彼女は糸が切れた人形のようにその場へ崩れ落ちた。

誰が見ても分かる――彼女は、イったのだ(・・・・・)

 

「はーっ❤ はーっ❤ はーっ❤ はーっ❤」

 

荒く息をつき、心ここにあらずといった様態のニーナ。

そんな受付嬢を茫然と見つめながら、

 

「…………何がどうなってんのさ」

 

クリスはそう独りごちた。

まあ、彼女の立場上そうするしかないだろう。

状況が余りにも意味不明すぎる。

 

――という訳で、そろそろ顔を出すことにした。

 

「おはよう、クリス」

 

「ヴィル!?」

 

突然現れたこちらに、クリスの目が丸くなる――が、すぐにこちらを立ち塞ぐような位置へ移動した。

つまりは、ニーナの姿を自分の後ろに隠した訳だ。なかなか配慮が利いている。

 

「どうした? 何かあったのか?」

 

「あ、あー、いや。

そんなナニかあったって程じゃないんだけどさ!

ニーナがちょっと体調崩しちゃったみたいで!

ははは、どうしちゃったんだろうな?」

 

ちょっとしどろもどろになりかけるクリスである。

そんな彼女の肩にポンと手を置くと、

 

「ニーナに何が起きたか――か。大丈夫だクリス、君もすぐ分かる(・・・・・)

 

「へ?」

 

「しかも実体験で」

 

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

「……クリスさん? 今日は体調が優れないのですか?」

 

「な、なにさ、藪から棒に?」

 

地下迷宮探索中。

ロアナがクリスに話しかけていた。

 

「……いえ。今日は昨日より進みが遅いように思いまして」

 

「そ、そんなことはないさー……はぅぅぅ❤」

 

「……クリスさん?」

 

怪訝顔のロアナ。

なんだか“先程”と似たような構図だ。

 

「その……調子がよろしくないのでしたら今日の探索は中止にした方が……」

 

「それは、んっ❤、駄目さっ――あっ❤

ちゃんと、目標立ててるんだから――んっんっんっんっ❤――そこまで、行かないとぉおおおおおっ❤」

 

喋りながら、クリスの肢体はビクッビクッと震える。

いつもより内股な姿勢になっているのも女性らしさが助長されて結構な見栄えだ。

 

「……でも、もう昼になるというのに昨日の半分にも到達できていませんよ?

……雇われている身なのでアレコレ言い辛いですけれど。ダンジョンの探索は、しっかり休んで体調を整えた上で臨むべきなのでは?」

 

「せ、正論、なんだけどっ――お、お、お、おっ❤――オレ、オレ様に、も、都合があってっんっあっあっあっ❤」

 

会話も厳しそうな様子だ。

まあ、午前中ずっと挿入(いれ)っぱなしなので、致し方ないところもある。

実際、彼女は厚手のズボンを履いているにも関わらず、その股間には大きな“染み”が浮き出ている位なのだから。

もう既に出来上がっている(・・・・・・・・)と言って過言ではない。

 

「あっ❤ あっ❤ あっ❤ あっ❤ オレん中、ぐちゃぐちゃになっちゃってるぅっ――あ、あ、あ、あ、あ、あっ❤」

 

仕上げとばかりに魔力を込めた(・・・・・・)途端、彼女は前後不覚に陥った。

目の前にロアナが居るというのに、お構いなしで喘ぎ出している。

己のイキっぷりを見せつけてしまっている。

 

「……ていうか、コレ絶対ナニかヤられてますよね? ヤられちゃってますよね?

もう少し隠すというかバレないようにするというか、その辺頑張って欲しいんですけど……分かってて見て見ぬふりするの大変なんですよ、そこのところ分かってます?」

 

「おほぉおおおおおおおおおっ❤」

 

「……はい、すいません、分かってませんね。

……ならせめて、休憩を挟んで頂けませんでしょうか……?」

 

かなり疲れた様子で、ロアナは肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、どうにかバレなかったみたいさ」

 

「いやバレていただろう、どう考えても」

 

「……思ったより聡い子だった?」

 

「アレで気づかないのは余程の鈍感だと思う」

 

ロアナに勧められ、ヴィルとクリスの2人は迷宮内の小部屋で“休憩”をとっていた。

なお、勧めた当人はこの場に居ない――完全に、気を利かせて貰った形だ。

 

「いや、他人事みたいに言ってるけど、全部オマエのせいなんだかんな!?」

 

「……興が乗ってしまって」

 

ついムラっとしてヤった。今では反芻している。

いや、流石にやりすぎたとは思っているので、馬鹿なことに巻き込んでしまったロアナには全力で詫びを入れる所存。

しかしそれはそれとして。

 

「とりあえず“ソレ”、回収しておこうか」

 

「平然と言うな!? まずオレ様に謝ったりしないわけか!?」

 

「ゴメンゴメン」

 

「反省の色が無いさ!?」

 

「そんなに嫌がる素振りが無かったからなぁ」

 

「……うぅ」

 

俯いてしまった。

ちょっと凹んでいる表情も可愛い。

まあしかしそれはそれとして。

 

「さあ、ズボンを脱いで貰おう」

 

「言い方が完全に不審者のそれさ……」

 

文句言いながらもちゃんと脱いでくれる辺り、付き合いのいい奴だ。

生地の擦れ合う音と共に無骨なズボンは取り除かれ、出てきたのは美しい下半身。

贅肉無く締まった脚はスラリと伸び、しかし女性特有の柔らかさは誇示している。

 

「ふむ……すごい濡れっぷりだな」

 

「いちいち言う必要あるか!?」

 

「感動しているんだ」

 

「嘘つけ!」

 

いや、割と本気である。

<輝具>で造られた“ディルドー”が挿入されているクリスの股間は、たっぷりの愛液で艶めかしい輝きを帯びていた。

 

もう不必要かもしれないが一応説明しておくと、彼女はこの半日、ずっとディルドーを()れられたまま冒険していた訳である。

そりゃ、ロアナに心配される位に挙動不審にもなろう。

口では色々抵抗されたが、割とすんなり受け入れてくれたという事実も添えさせて頂く。

付け加えて、受付嬢ニーナも全く同じ状況にあったりする。

 

クリスほどの美女が自分の命令を忠実に実行し続けていたという征服感。

さらに、その行為が彼女へ延々と快感を与えていたという達成感。

それらはヴィルに大きな感動を湧き起こさせた。

 

「あっ!? ん、んぅぅうううっ❤」

 

感情に突き動かされるままディルドーを回転させた(・・・・・)途端、身をよじらせるクリス。

 

「きゅ、急に動かすな!?」

 

「見ていたら思わずやってしまった」

 

自分の好きなタイミングで女性に快楽を齎す――口にするのは簡単だが、実際にやってみると非常に感慨深い。

これは凄い発明なのではなかろうか?

このプレイのためだけに<輝具>を覚える価値があるのではないかと考えてしまう程に。

 

しかしこの感動、クリスには全く伝わっておらず。

彼女は大きくため息を吐くと、

 

「あーあ、お前がこんなに変態だったなんて……」

 

「何を言ってるんだ。この国の聖女が昔開発した、由緒正しい技術なんだぞ」

 

「えー!?」

 

目を丸くして驚いた。

聖女(性女(エルミア))が昔(3日前くらい?)開発した、由緒正しい技術(<輝具>という魔法そのものは長年の研究の末に開発された由緒正しいものである)。

嘘はついていない。

 

「オレ様、聖女について誤解していたかもしれない」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「廃止した方がいいんじゃないだろうか、あの制度」

 

「まあそんなことは言わず、素直に技術の恩恵を預かろうじゃないか」

 

「くそムカつく笑顔をしやがって――あぁぁあああああっ❤」

 

ちょっと剣呑な雰囲気が漂いかけたので、ディルドーを動かして解決してみた。

本当に便利な技である。

 

「あっ❤ 待った、止め、止めろ――ああっ❤ あ、あぁああっ❤ コレ、動かされると、あっ❤ あっ❤ あっ❤ 訳わかんなくなるぅうううう❤」

 

重要な事実を説明するが、ディルドーは何かで固定されてなどいない。

つまり、クリスにその気があればいつでも抜けるのだ。

敢えてそのことを指摘するような無粋な真似はしないが――

 

「――そろそろ俺も愉しませて貰おうか」

 

「え?――な、何を――?」

 

ささっと彼女の後ろに回るヴィルである。

ハリたっぷりな、丸い尻肉が目の前に現れた。

正面からでもヤれないことは無いが――“こちらの穴”を使うのであれば背後からの方がヤりやすい。

 

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

抵抗する間など与えない。

ヴィルはいきり立ったイチモツを素早く取り出すと、その先端をクリスの“アナル”へと添える。

 

「ま、待っ――!?」

 

間髪入れず腰を突き出す。

次の瞬間、

 

「んほぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!?」

 

知性を失った嬌声が響いた。

剛直はクリスの直腸を貫き、その内部にまでめり込んでいる。

 

「おっ!? おおっ!? おっ! おっ!?」

 

何が起きたか理解していないか――或いは理解できるだけの思考力が無くなったのか。

クリスはだらしなく口を開いたまま宙を見つめ、ただ下品な喘ぎ声を漏らしていた。

しかしその一方で。

 

「ぐぁっ! 締まる!!?」

 

ヴィルもまた、驚きの声を上げていた。

多少は予想していたのだが、彼女のアナルの“締まり具合”に衝撃を受けたのだ。

 

(ち、ちぎれ――!?)

 

勢いをつけて突入させたは良かったが、待っていたのは先日の膣圧を優に超える肛圧。

平均的男性器であれば、冗談抜きに両断されることだろう――いや、一般の男性器が持つ耐久力などヴィルは把握していないけれども――とにかく、それ位の凄まじさなのだ!

 

(というか痛い! 本気で痛い!)

 

それなり以上に鍛えている自負のあるヴィルだが、その彼をして股間の激痛に顔が歪んでしまう。

クリスの括約筋が、悪意を持っているかのような力でイチモツの根元を絞める――絞殺されるかのような気分だ。

これはちょっと一旦中断した方がいいのではないかという弱音が頭をよぎり……

 

(……駄目だ、負ける訳にはいかん!)

 

彼の負けん気が(酷くどうでもいいところで)発揮してしまった。

 

「う――うぉおおおおおっ!!!!」

 

雄叫びを上げ腰を動かす。

メリメリ……という音が股間から聞こえた気がするが、あえて無視する。

 

「お、おひぃいいいいっ❤」

 

対してクリスの方は、初めてのアナルセックスを愉しみ始めていた。

猛烈なピストン運動で尻穴を責められているというのに、その声色は実に湿っぽい。

 

「なんでぇええええっ❤ なんで、そっちにぃいいいいっ❤」

 

未知の感覚に戸惑いつつながら、その快楽に顔が綻んでいる。

その上――

 

「ああぁぁああああああっ❤ まんこぉっ❤ まんこに突っ込まれたのが、震えてるぅっ❤」

 

――女性器に挿入されたディルドーの振動が、快感をさらに助長していた。

勿論、ヴィルの仕業である。

 

(楽しんでくれているようで何よりだ――が)

 

問題は、自分である。

クリスがアナルで気持ち良くなればなるほど、穴の締め付け具合は強まっていた。

 

ヤバイ。

マジヤバイ。

激痛が痛くてヤバイ。

 

(大丈夫か? 俺のイチモツ、まだ無事?)

 

激しい痛みによってさっきから股間の感覚が無い。

しかし怖くて“下”を確認できない。

正直言って、アナルセックスを楽しめるような状況に無かった。

 

先程から尻穴への“出し入れ”が少しスムーズになってきたのだが、これは彼女が漏らしたアナル汁が原因なのだろうか。

それとも、まさか、自分の男性器から血が――

 

(いやいやいやいや、怖い考えはよせ!)

 

――思考から恐怖を振り払い、無理やり奮い立たせる。

ただでさえ、気を抜けば激痛で萎えてしまいそうなのだ。

勃起が持続するよう、気を張り続けなければならない。

 

(だ、だがしかし、これは――出せるのか(・・・・・)?)

 

気持ちいいとかそれ以前の問題として、痛い。

このまま続けても、射精に至れる気がしない。

だったら止めればいいじゃないかという話なのだが、それは男としてのプライドが許さなかった。

 

(せめて……せめて、クリスをアナルでイカせたい……!)

 

その欲望こそが、今のヴィルを動かす原動力。

ともすれば涙が出ちゃいそうになるのを必死で堪え、彼女の立派な尻へと自らの腰を叩きつける。

 

「お、お、お、お、おっ❤ おおぉぉおおおおおおおっ❤」

 

その甲斐あって、クリスは昇天寸前だ。

だらしなく涎を垂らしながら、為すがままに喘いでいる。

もうあと一押しあれば、すぐにトンデイクことだろう。

 

(ならば――!)

 

事態は一刻を争う。

ヴィルの股間が再起不能になるか、クリスがアナルイキを覚えるかの瀬戸際だ。

もはや四の五の言っていられない。

 

青年は右手をクリスの股間へと回し……

 

「ふんっ!」

 

……気合と共に、ディルドーを思い切り押し込んだ(・・・・・)

ゴリュッ――そんな音と共に、巨大な棒がクリスの(なか)へ完全に埋没する。

 

「―――――――っ!!?!!?!!!」

 

瞬間、彼女が声にならない悲鳴を漏らした。

その身を大きくしならせると、

 

「おっ、あっ、あっ、あっ――――――おぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!?!?!!!」

 

盛大にイキ果てる。

白目を剥いて全身をガクガクと痙攣させ、女性器からは愛液が勢いよく飛び出した。

この苦しい戦いが、とうとう終わったのだ。

 

……しかし、ヴィルはその勝利に酔いしれることができなかった。

 

「あぎぃっ!!?」

 

これまでの人生で発したことのない声が自分の口から洩れる。

絶頂を迎えたクリスの括約筋が、その強度を跳ね上げた(・・・・・)のである。

 

絞まる。

絞まる。

絞まる。

股間の棒が、おぞましい勢いで“圧縮”されていく。

 

(あ、ヤバ、これ、千切れ――!?)

 

()を覚悟した、その時。

 

 

――ドピュ、ドピュドピュッ――

 

 

無意識下で男性器が大量の精を放った。

快楽によるものではない。

人は、命の危機に直面すると生存本能が強くなるという――そういうアレがナニした結果だろう。

 

何はともあれ、クリスをアナルでイカせた上で自分も射精する、というセックスの体裁は取り繕えたようだ。

……そこに意味は無いし、代償は余りに大きかったが。

 

「お、あ、あ――」

 

力なく倒れ伏す。

全身から活力が霧散し、もう動くことができない。

ここまで追い詰められたのはいつ以来か。

 

断言しておくが、全てヴィルの自業自得である!

 

(も、もう、ダメだぁ……)

 

後悔と共に薄れゆく意識の中で、

 

 

<ヴィルはレベルが上がった! 3上がった!>

 

 

そんな幻聴が耳に届いたような気がしないでもなかった。

……いや、3は上がりすぎだよ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。