私立幻想学園 (黒鉄球)
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1話 : これが俺の日常

 どうも黒鉄球です!第二作品目となるこの物語ですが……ノリと勢いで書いちゃいました☆
 実はこういうの書いてみたかったんですよね笑笑まぁそれでもいいよって方はゆっくり見て行ってください。





 

 

 

 

 カーテンの隙間から太陽光が指した。しかも丁度俺の目に当たる位置に。何たることだ瞼を開けたら目くらましを食らったかのように目がチカチカする誰か助けて俺を寝かして。

 

 「コラァ劉斗!いい加減に起きないと遅刻するんだぜ!」

 

 ドタドタと廊下を走って勢い良く俺の寝室の扉を開けた金髪の少女。はい、俺の安眠妨害兵器のご来場だ。毎朝大声で入ってきやがって………つーか鍵どうやって開けたんですかね?

 

 「うるせぇぞ魔理沙寝かせろよ………」

 

 そんな彼女の名は霧雨魔理沙。道具屋を経営している【霧雨道具店】の一人娘。小学校まで同じ学校に通ってた所謂幼馴染だ。いつも喧しく遠慮をしないでズカズカと人の領域に入ってくる。悪く言えばガキ大将気質、よく言えばみんなを引っ張るリーダー気質を持っている。正直嫌いにはなれないでいる今日この頃です。

 

 「寝かせろよじゃなくてサボる気か!」

 

 「いいだろ別に俺の勝手だし」

 

 再度布団を被るとすぐに布団を引っペがされた。おいおい今まだ4月だぞ寒ぃよ布団返せよ俺の心の拠り所なんだよ。なんて思いは通じず叩き起こされた。

 

 「いい加減にしろよ劉斗。高校一年生が始まってまだ二週間しか経ってないんだぜ?ダレるの早すぎるぜ」

 

 「早すぎるも何ももう二週間じゃねぇか。むしろまだ始まってないも同然。よって俺は二度寝する」

 

 「滅茶苦茶だぜ……」

 

 何を呆れているんだこいつは。世の中には重役出勤っていう素晴らしい言葉があることを知らんのか。合法的に遅刻できるんだぞ。なんて素晴らしい制度なんだ……はいすいません俺が悪かったですから着替えますからその拳を収めてくださいな。

 

 「はぁ………早く着替えろよな」

 

 制服に着替えるように促す魔理沙。俺はそれに従うように上を脱いで制服に手をかけた。その時横目に見えた魔理沙の顔が真っ赤になっていったのを確認した。なんでこんな真っ赤なん?熱でもあるのか?てかなんでプルプルして拳を構えて……。

 

 「な、な、何やってんだこの変態がぁ!」

 

 「ぐほぉあっ!」

 

 顔を真っ赤にした魔理沙から全力のボディブローをブチかまされた。その後勢い良く部屋のドアを閉めた。いってぇ……っつーかここ俺の部屋だし着替えてもいいだろ……。

 

 

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 魔理沙からのボディブローを受けた後すぐに制服に着替えリビングへと移動した。そこには3人分の朝食が用意されていた。3人分………て事はあいつもいるわけか。毎度毎度なぜに来る……。

 

 「あら劉斗おはよう。あんた魔理沙に何したの?」

 

 黒髪に赤いリボンをつけたコイツは博麗霊夢。幼馴染の一人でここ雲雀市にある博麗神社の一人娘だ。何事もマイペースでいつも気だるそうにしている。そしてお金に目がない。毎朝賽銭箱を確認する様は魔理沙と一緒に憐れんだレベル。因みに神社の巫女さんで霊力とやらを操って幽霊やら妖を祓うことが出来る。因みに俺も少しだけなら扱える。

 

 「俺は何もしてねぇよ。部屋で着替えようとしたら魔理沙がいたんだよ」

 

 「やっぱあんたが原因じゃない。魔理沙が顔真っ赤にして台所に来たからビックリしたわよ」

 

 お玉を持った手の手首をクルクルと回しながらジト目でこっちを見てくる。さながら母親か姉に見える。なぜかって?霊夢の後ろから顔を赤くした魔理沙がこっちを覗いてるからだ。やれやれたかだか男の上半身見たくらいで喚くなよ。お前プールの時どうしてんだよ叫ぶの我慢してんの?

 

 「上半裸になっただけだぞ?それだけでボディブローとか代償でかすぎだろ」

 

 「それでもいきなり女の子の前で服脱いだらそういう反応するでしょうよ」

 

 「そーだそーだ!」

 

 解せぬ。でもそうか、女子の前で服を脱ぐと殴られるのは忘れてたわ。気をつけようってここ俺ん家なんだけど?そこ忘れてない?

 

 「はい、この話はこれまで。今味噌汁持ってくわね」

 

 「その前にお前らが普通に俺の家に入っている件について聞こうじゃないか」

 

 「「鍵が開いてたから」」

 

 なん……だと!?不用心にもほどがあるぜ俺氏……。寝てる間に殺されてこれはゾンビですか?状態になっててもおかしくなかったじゃないか。てかそれについての心配はないのですかそうですか。

 

 「………もういいや、飯食おうぜ」

 

 

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 アホな幼馴染に突撃隣の朝ご飯を決行されゆっくり出来なかった私こと武御劉斗は絶賛サボり中である。学校の屋上で風を感じながら寝っ転がっている。西から吹き抜ける風が心地よく潮の香りが鼻をくすぐる。今は授業中だし誰も邪魔しに来ないし傍らにはマッカンがある。うむ、至福の一時とはまさにこの事だな。

 

 「これで邪魔が来なけりゃ最高だな」

 

 「あら?誰が邪魔なのかしら?」

 

 下の方から声が聞こえてきた。この声的には……30代半ば……待って殺気放たないで誰もBBAなんて言ってないじゃんしかもまだ若いじゃん。

 

 「ゆ、紫さん……なんでここに………」

 

 八雲紫。俺の母ちゃんの親友(自称)で俺と魔理沙と霊夢が小さい頃から世話になってる人で俺の保護者代理人である。よく合コンへ行っては玉砕してくるという総武校の現国教師と同じ様な人。なんでだろうなぁ美人なのに。

 

 「あなたがここでサボっているのを度々目撃してる人がいるの。だから私はそれの確認の為に来たのよ。それで案の定ここに居た、と」

 

 屋上から更に上へと続くハシゴの上に登り豊満な胸を地面に押し付けている。やめんしゃい目のやり場に困るじゃないっすか。

 

 「見られてたのか……て事は紫さんは俺をしばき倒しに来たんですね逃げますわ!」

 

 すぐに起き上がり紫さんのいる反対側、つまり屋上から飛び降りた。慌てて登ってくる紫さんを横目に下へと落ちる俺は二階のベランダの手すりに捕まって腕力だけで登った。捕まった際に手すりがミシッとなった気がするけどまぁ別にいいでしょ。どうせ壊れてないし。

 

 「コラァ劉斗!そういう真似しないでって言ってるでしょ!」

 

 「そんな怖い顔するなって美人が台無しですよー」

 

 「び、美人……!?」

 

 これだけで顔を赤くするなんて乙女だなぁ等と紫さんの顔を見上げているとベランダの窓が開いた。うわぁ先生オコだよ。真面目そうな先生だよぉ……よし、腹くくって理事長室行こう。顔見知りだし仲いいからワンチャン許してくれる。

 

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

 

 そんな訳で只今理事長室前でござんす。理事長室は三階にあり、一度降りたのにまた登らねばならなくなった私の気持ちが理解できるかね(?)。しかもチラッと紫さんが見えた時なんて絶望しか感じられなかった。まぁ見つかってないから理事長室前にいるんだけどね。さて、まずは理事長にご挨拶をしないとな。扉をノックしてコンマ数秒後にどうぞと聞こえてきた。相変わらず綺麗な声してるなこの人。

 

 「ちーっす」

 

 「ここは理事長室で私は理事長なんだからもう少し畏まって……」

 

 呆れた顔で俺を迎え入れたこの金髪美人さんは八雲藍さん。紫さんの妹的な存在らしい。なんでも幼い頃に養子として八雲家に迎え入れられたとか。いやそれじゃ妹と変わんねぇな。まぁその為紫さんと顔は似てないけど同じく美人の部類に属する人。紫さんより5歳ほど若いらしい(霊夢談)。と言う事は33歳である。あ、紫さんの殺気を感じる怖い怖い。

 

 「それで劉斗君はなぜここに?授業中の筈でしょ?」

 

 「保健室で寝ててどうせなら四時間目はサボろうという感じでここに来た」

 

 嘘はついてない。寝てたというとこだけだけど。

 

 「嘘はいけないな劉斗君。屋上でサボっていただろう?」

 

 ば、馬鹿な何故わかった!?心を読まれたのか?!琴浦さんかあんたは。

 

 「さっき紫様からメールが来たからな」

 

 「ちっ、手が早い人だ」

 

 「嘘だが」

 

 「…………」

 

 してやったり顔をしてこっちを見る藍さん。何それちょっといらっとしたわ。マジこの人孔明か半兵衛さんだよぉ。にしてもその顔可愛いわ。17歳年上に言うのもあれだけど普通に可愛い。俺がこの人と同級生だったらほぼ間違いなく告白して振られてるわ。いや振られちゃうのかよ。

 

 「こほん、一先ず教室に戻りなさい。今回は不問にしてあげるから」

 

 イェーイ得した気分だぜ!まぁどうせこのあと紫さんからの鉄拳制裁がとんでくるのは目に見えてるから素直には喜べないけど。結局不問じゃないっていうね。あ、足音が聞こえる、ふっ、終わったな………。

 

 「りゅ〜う〜と〜?覚悟は出来てるわよねぇ?」

 

 右拳を構え俺を睨みつける紫さんはズカズカと距離を詰めきた。さぁ覚悟は出来ている、避けられるけど避けたら避けたでまた来ちゃうから受けてやるぜ!

 

 「かかってこいやぁ……ぐはっ!」

 

 見事なまでのボディブローをかまされた。その後藍さんが俺を診てくれたのは非常にに助かったマジ惚れるかと思ったレベル。そしてその日一日は物理的に腹部が痛くなり人生で久し振りの湿布を貼る羽目になった。まったく、だから結婚出来ねぇんじゃねぇのあの人。

 

 

 

 

 

 

 




 作者「ついに書いてしまった」
 劉斗「おい、新記伝どうすんだよ」
 作者「もち両立します」
 皐月「東方新記伝もよろしくね!」
 劉斗「なんかおいて行きやがった!つーか誰だよ!?」


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2話 : ただの帰り道

どうも黒鉄球です。めちゃくちゃ遅れました。マジすんませんした!!!帰国後大変だったんす。





 

 

 紫からのスーパーボディブローを食らい魔理沙から受けたところに命中して悶絶していた俺だが昼には復活し、授業を受けそしてついさっきまで紫さんから二時間の説教を食らった挙句帰りが6時40分ごろになり今は帰り道である。あたりは暗くなっており微かに橙色の空が見える程度だ。そろそろ月も上り本格的に「夜」になる。カバンを背負い、両手は学生服のズボンに突っ込み、ただひたすらに帰路を辿っている。その状況に「違和感」を覚えながら。

 

 「…………」

 

 あたりを見渡しても誰もおらず、街灯のみが闇を照らしていた。そこに移る影はなんの変哲もないただの人の影。その事に俺は若干の違和感を覚えた。きっと「あっちの世界」に慣れすぎたのだろう。俺の前には銀色の何かを持った奴、後ろには打撲痕の残った奴がいた。そんな過去を思い返しながらふと中学校生活最後の「あっちの世界」の事を思い出した。あの時は本当に無茶したな。なんせ暴力団相手に単身で乗り込んで潰したんだからな。あの頃の俺は荒れてたなー、今はただのめんどくさがりに成り下がってるけど。

 

 「あいつ……今何やってっかな」

 

 「何一人でぶつくさ言ってんだ?」

 

 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと金髪ロングの美少女幼馴染である霧雨魔理沙がいた。いきなり声をかけられたからびっくりして胃が飛び出るかと思ったわ。つーか今の聞かれてないよな?

 

 「お前………おつかいか?」

 

 「その帰りだぜ。つーか劉斗は………紫の説教帰りか?」

 

 ニヤニヤしながら尋ねる魔理沙。すげぇ腹立つぶっ飛ばしてぇって言うかお前ら行きは一緒なのに帰り置いてくとか酷くね?まぁ良いけどさ。

 

 「まぁな。お陰で特売行き損なったわ」

 

 まったく苦学生にとっては特売に行けるかどうかは死活問題なのに誰のせいだ!あ、俺でした☆

 

 「ふ〜ん、そっか行き損なったのかぁ。わ・た・し・は行けたけどな」

 

 くっそムカつく………。ムカつくから拳をこめかみにグリグリと押し当ててやった。

 

 「イデデデデデデ!!悪かった!悪かったからそれやめてくれだぜ!!」

 

 物凄い早口で言ってくるところマジで痛いんだろうから止めてやろう。俺の慈悲深さに感謝しやがれ。

 

 「お前……本当に昔から変わんないよな劉斗。子供の時もこうやって茶化しては何かしら罰をくらっったもんな」

 

 「マゾ?」

 

 「ちげぇよ!?」

 

 ただこうやって他愛のない会話をして帰路を辿る。そんな当たり前が今の俺には新鮮に感じた。横で魔理沙がこめかみを抑えながら、俺はそんな魔理沙を見て懐かしさを感じていた。

 

 「ちょっとなんなんですかあなたたちは!?やめ、離して!」

 

 住宅街の十字路、俺たちの進行方向より右から声が聞こえた。声の主は明らかに女性の声、そして何やらただならぬ声色をしていた。これはあまり関わらない方が身のためだな。まぁ横の此奴はそう思ってないみたいだけど。だってもう走ってるしそっち側見てるし。

 

 「何やってんだお前!」

 

 「あぁ?お前こそなんなんだ?俺たちの邪魔すんなよ」

 

 声からしてバツの悪そうな……不良か何かだろう。銀の十字の首飾りに黒のタンクトップ、黒い長ズボンというお前はカラスか何かかと突っ込んでくれと言わんばかりの服装をしていた。状況としては女の子が右腕を男に掴まれている…………明らかに穏やかじゃない。痴漢か強姦かストーカーかナンパかのどれかだろうな。そんなとこに首を突っ込む魔理沙……の後ろにただ立っている俺。相手は一人か。ま、どうでもいいや面倒だし。

 

 「邪魔も何もその子嫌がってるだろ!離してやれよ!」

 

 「てめぇにゃ関係ねえだろ。それとも何か?お前がコイツの代わりに気持ちイイことしてくれんのか?」

 

 「誰がするか!私はお前を咎めに来たんだぜ!」

 

 男に指をさして堂々という魔理沙。どうやらこの御三方は俺の姿が見えてないらしい。暗闇とはいえ街灯あるし見えると思うんだけどなぁ。

 

 「いいねぇそういう気が強ぇ奴好きだぜぇ?」

 

 男の表情がぐしゃりとゲスイ顔に変わった。ゲスを極めた人も真っ青になるくらいに。

 

 「なんせぶっ壊れた瞬間の表情がさいっっっっっっっっっっこうだからな!面白れぇんだよたまんねぇんだよ!気の強ぇ女が俺のテクでぶっ壊れる様を見るのはよぉ!!!」

 

 「!!!!?」

 

 男の言葉には悪意と自分の欲求を乗せてあった。魔理沙はそれに気おされるように2、3歩後ずさった。そら見たことか。お前じゃ荷が重いっての。こういう相手はきちんとぶっ飛ばさなきゃな。言葉じゃ無理だぜ?

 

 「だから…………お前をもらうぜ!!!」

 

 男が先ほどまでつかんでいた腕を離して魔理沙に襲い掛かってきた。距離にして5m。普通なら逃げきれずつかまってズッコンバッコンされるところだが生憎今は俺がいる。友達が襲われるってのに面倒だなって考えるほど腐ってないんだよ。魔理沙の肩をつかんで俺の後方に寄せた。男の顔が一瞬強張ったが余裕で倒せると思ったのだろう。構わず突っ込んできた。俺は右手を構え、瞬時に打ち出した。

 

 「ぶふっ!?」

 

 男は勢いよく飛び、地面に大の字になって気絶した。鼻から血を流し、ピクリとも動かなかった。ちょっと強すぎたかもしんないな。

 

 「あーあやっちった。ま、記憶飛んでんだろ。それよりもあんた大丈夫か?」

 

 俺は5m先の女の子に声をかけた。肩を震わせていたのにはすぐに気が付いた。それを見た魔理沙がその子に駆け寄って「大丈夫だからな」と声をかけていた。落ち着かせることって大事だよね!

 

 「あ、ありがとう…。私、あのまま犯されちゃうんじゃないかって………」

 

 「安心しろよ、コイツ気絶してるし帰りも私たちが送るぜ」

 

 「おいこら魔理沙何勝手に俺を巻き込んでんだよ。まぁいいけどさ」

 

 昔からそうだが魔理沙はいつも俺たちを巻き込んで何かに首を突っ込んでいく。その度にフォローする俺の身にもなって欲しい。小学生の頃に魔理沙が同学年の男子が上級生に苛められているところを見て首を突っ込んだところ今度は魔理沙がいじめの対象になって後にそれを知った霊夢が俺にそのことを伝えに来て俺がそいつらをフルボッコにするということがあった。一人は金的を蹴り上げて、一人はアパート2階から3階にかけて上る階段からタックルで下に落としたっけか。そいつがクッションになったおかげで俺はそこでの怪我はなかった。それで金的野郎にまた遭遇して全力で握りつぶしたっけかな。何をとは言わないけどな。思えばいつも魔理沙が先走ってるな。死に急ぎ野郎の称号を与えたいレベル。

 

 「いいんならなんも言うなよ。さ、いこうぜ」

 

 その言葉に続いて俺は魔理沙の後を追った。その時魔理沙がなにかを決めたことに気づかずに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 魔理沙「次回何かが動くぞ!」
 霊夢「面倒事じゃなければいいんだけど…」
 劉斗「もう手遅れじゃね?」


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3話 : 魔理沙の提あ……強引さ

どうも受験生なのに小説書いてる黒鉄球です。……正直失踪しかけた気がする。喝を入れねば…………。




 「…………もう朝か」

 

 今日は自然と目が覚めた。枕元の時計を見ると朝の7時。いつもならこのくらいに魔理沙達がオラオラ系のビュンビュン系で起こしに来るのだがどうやら来ていないみたいだな。よし、今日はゆっくり出来る。なんならサボれるまである。まぁ昨日の今日でサボるとか紫さんから殴られるからやんないけどな。でもまぁ……。

 

 「二度寝しよっと」

 

 俺は二度目の眠りについたのだった。

 

 「眠らせるわけないでしょ馬鹿。とっとと学校行くわよ」

 

 はい二度寝終了。いや、寝てないけどね。畜生霊夢のやつがくるとは……って一人足んなくない?あの素敵フィリピンバナナで有名な魔理沙ちゃんは?とりあえず気になったので尋ねてみようそうしよう。

 

 「魔理沙は?」

 

 「なんか「今日は用事があるから先行ってるぜ!」とか行って学校行ったわよ」

 

 相変わらず自由人だなあいつ。そういや俺んちに通うとか言い出したのも魔理沙だったな。マジはた迷惑だったけど来ないなら来ないで淋しいもんだなぁなんて痛感した俺であった。ほんと数か月前の俺が嘘のようだな。ん?そういえば……。

 

 「お前巫女の仕事は?」

 

 「はぁ?そんなのお母さんに押し付けてるに決まってるじゃない」

 

 何言ってるんですかやだーみたいな顔されてもこちとら理解が追い付いてないんだが。え?まじで?霊華さんに仕事押し付けたの?博霊の巫女仕事しろよ……。なにを当たり前ですよみたいな顔してんの?

 

 「お前……霊華さんに怒られるぞ」

 

 「大丈夫よ、お母さんから了承済みだし」

 

 ふふん、とまぁまぁある胸を張る霊夢。やめろマジでお前小さくはないんだから強調されるでしょうが。胸がとは言わないが。言ってるじゃねぇか。

 

 「はぁ………んじゃとっとと飯食って行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて教室に着いたのだが先に着いてる筈の魔理沙の姿が見当たらない。教室の中でも一本指に入るくらい煩いから気づかない筈がない。……一歩指ってそれ煩いの一人だけじゃん。魔理沙ぇ……。

 

 「あのアホまさか道に迷ってねぇよな」

 

 「んなわけないでしょ。ほら、机に鞄引っ掛けてあるし」

 

 横にいる霊夢が指差す先には魔理沙の机と鞄があった。うむ、確かに来てはいるみたいだな。んじゃあなんで……。

 

 「おい、来たぞ……」

 

 「ああ、今日もかわいいなぁ」

 

 ザワザワ……ザワザワ……

 

 「……………」

 

 急に教室が騒がしくなった。どうやら俺たちとは反対側のドアから入ってきた奴にみんな(男子勢)が釘付けになっているようだった。青味のかかった銀髪のウェ―ブ、真紅の瞳、そして小学生レベルの身長の子と銀髪のボブカットにもみあげから伸びる緑のリボンがつけてある三つ編みの子……。

 

 「うん、誰だあれ……っていって!?何すんだ馬鹿霊夢」

 

 え、いきなり殴られた。うっそ、俺なんもしてねぇぞマジでなんで?

 

 「あんたに呆れたのよ……。二週間も経ってるのにまだクラスメイトの名前を憶えてないなんてね」

 

 呆れ顔で淡々という霊夢。まぁほぼほぼサボってたしマジで知らないんだけどね。

 

 「あの小さいのはレミリア・スカーレット、その後ろにいるのは十六夜咲夜よ。なんでもあの銀髪はちっこいののメイド兼護衛らしいわ。他にもいるみたいだけどクラスにいるのはあの二人だけよ」

 

 つまり主従関係にあるってわけか。なるほどね、つーかスカーレットってあのスカーレット財閥か。確か大手会社の総取締役の一角。てことはそのご令嬢があの子ってわけか。……つーか男子勢諸君、無視されてるぜ。

 

 「ねーねーレミリアちゃん、今日のお昼一緒に……」

 

 「いやぜひ俺と!」

 

 「いいや俺と!」

 

 ふむ、人気があるのか。まぁ確かに目鼻立ちも整ってるしそりゃ人気も出るよな。主に男子から。俺は全然だけど。

 

 「お嬢様に気安く話しかけるな……」ゴゴゴゴ・・・…

 

 お前が断るんかい銀髪美少女!護衛とはいえ流石に……。

 

 「オイ、サクヤサンニノノシッテモラッタゼ」

 

 「クッソウラヤマシイゼ……」

 

 おいおい聞こえてんだけど?ののしられるために行くとか変態か?変態だな。見ろよ、スカーレットお嬢様のすまし顔も軽く歪んでるぞ。

 

 「いいのよ咲夜。どちらにしろ……私に自由なんてないから」

 

 「お嬢様……」

 

 おいおいなんでいきなりそんな感じ?自由?なにそれ……となるのが普通だが俺には興味はないのでスルーの方向で。そう決め込んだら廊下から誰かが走る音が聞こえてきた。

 

 「お!劉斗、霊夢!おはようだぜ!」

 

 「やっぱりお前か魔理沙。廊下を走ってると紫さんに怒られんぞ」

 

 「心配すんなって!もう怒られたからな!」

 

 自慢げにGJサインを出す魔理沙。はい馬鹿この子超馬鹿。怒られたのにもかかわらず走って教室に来るとか本当に馬鹿。今ちらっと息切れしてる紫さんも見えたし……。あの人が走ってどうすんだよ。

 

 「ゼェ…ゼェ…ま、魔理沙……廊下は…走らない……ゼェ……」

 

 「いや、あんたも走ってるし老化も進んでるし気w「な に か い っ た ?」」

 

 「イエナニモイッテナイワ」

 

 ものすごい形相で霊夢を睨む紫さんと片言になった霊夢。馬鹿め、そういうのは心に留めておくもんだぜ霊夢。……名言っぽいはずなのになんだろうすごくかっこ悪い気がするわ。

 

 「あ!そうだ劉斗、霊夢!話が……」

 

 キーンコーンカーンコーン……キーンコーンカーンコーン……

 

 チャイムが鳴った為魔理沙の声が聞こえなかった。何か話があるみたいだったが……まぁ昼にでも聞こう。あと紫さんが怖い。

 

 「早く席に着きなさい。さもないと……あなたたちだけ宿題増やすわよ?」ニコッ

 

 「「「はい座りました!」」」

 

 (((え、笑顔が怖かった……)))

 

 満場一致でそう思ったに違いない。

 

 

 

 

 

 

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 「ん?もう時間だな。それじゃあ今日はここまで!」

 

 やっと四時限目も終わった。正直超疲れたわ。なんで午前の四コマに英、数、理、古文が入ってんだよふざけんよ。まぁ鬼門も越えたしあとは……保体と現代文か。さて飯の前に体伸ばそうかね……。

 

 「劉斗!ちょっと来い!あと霊夢も!」

 

 「え?ちょ、ひっぱんなっての!」

 

 強引に魔理沙に連行される俺とそのあとに続く霊夢。あの……俺の飯…購買が……。

 

 

 

 

 

 

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 そんなわけで連れ去らわれて屋上島。普段なら風が気持ちいぜとか言ってるんだろうけど今はそんな感じでもない。不機嫌極まりない。首根っこ引っ張られて屋上だもん。うぜぇ以外に感想が出なかったわ。

 

 「んで何?俺は何の為に連れ去らわれたわけ?」

 

 「知らないわよ。私も授業中にメールで言われただけだし」

 

 どうやら霊夢も巻き込まれた側らしい。って授業中にメールしてたんかいこいつら。よくばれなかったな。

 

 「じゃあ魔理沙、一体どういうつもりだ」

 

 俺の問いに対して魔理沙はまっすぐ俺を見ていた。あ、これめんどい事言う時の魔理沙の顔だ。

 

 「ふふん、それはだな………部活やろうぜ!!!!」

 

 「「…………はぁ!?」」

 

 やっぱり面倒事だった。俺は眉間にしわを寄せ、霊夢は何言ってんだコイツ?みたいな顔をしていた。そんな俺達の顔などしらんと言わんばかりに魔理沙は話を続けた。

 

 「だ・か・ら!部活だよ!人助けをしよう!!」

 

 「……ごめん何言ってんのか分かんないわ」

 

 「そうよ魔理沙。いきなり部活やるとか言い出して人助け?どういう事か説明して」

 

 おっと霊夢がちょっと興味示してるぞ。そういう時の霊夢は「やだ、めんどい」とかいうのに!

 

 「ほら、子供の頃、色んな問題を解決しに行ってたろ?だからそれを高校(ココ)でもやろうってはなしだよ!」

 

 「うん、それで?」

 

 「部活動でやろう!」

 

 「ごめんちょっと意味わかんないわ」

 

 いや何コイツ?確かにガキの頃英雄(ヒーロー)ぶって「悪を成敗するんだ!」っつって町を駆け回ったけど……それをここでやんの?え、マジですか?まるっきりスケ○トダ○スじゃん。コメで「パクリが!」とか来ちゃうよ?

 

 「なんでやろうと思ったの魔理沙?」

 

 「ん?昨日私と劉斗が人助けをしたから」

 

 昨日……あぁ、あの強姦未遂ね。うっそマジであれのせいかよ。未然に防げたのは良かったけどなんだろう……後悔やわ。

 

 「ふ~ん……いいんじゃないやっても。あ、私も呼ばれてるってことはメンバーなのよね?」

 

 「もちろんだぜ!」

 

 ちょっと待てマジでやんのこれ。そういう流れなのん?なんで霊夢が乗り気なのん?イミワカンナイ!!!

 

 「お、俺はP「じゃあこれで決まりだな!」えぇ……」

 

 強引に決められてしまった。いつもそうだ。魔理沙はいつも俺や霊夢の都合とか関係なく物事を決めて巻き込んでいく。有無を認めずただただついて来いと。今回もそのパターンに入ったってことだから……俺が折れるしかないなこれ。

 

 「………じゃあやりますか」

 

 「おう!あ、ちなみにいうと入部届の中に劉斗の名前は勝手に書いといたから」

 

 「ファッ!?」

 

 ……………俺の幼馴染みが強引過ぎて怖い。

 

 「部活名はお助け隊だ!」

 

 「「ネーセンだっさ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、俺達三人は藍さんのいる理事長室にいた。理由は無論部活申請のためだ。この部活は1から作るためまずは理事長に話を通さなければならない。ん?生徒会?そんなのはスルーだ。

 

 「………部活名はともかくやることは認めます」

 

 「よっしゃ!さすが藍だぜ!紫と違って話が早いぜ」

 

 「それはどうも」

 

 あっさり認めてくれた。ほんと藍さん優しいわ。そういうのもあるから紫さんよりモテるんだろうなぁ………はっ!?殺気!

 

 「それで、部活名を改める件だけどなんて名前にしたらいいのかしら?」

 

 霊夢が先ほどの「部活名はともかく」というところに着目した。魔理沙を除くここのメンツは全員「無いな」って思ったんだろうなそうに違いない。

 

 「じゃあ援助隊!」

 

 「霊夢、どうするか」

 

 「そうね」

 

 「無視!?」

 

 ええい煩い鬱陶しい喧しい。お前はネーセンないから却下に決まってんだろ察しろ。そんなんだからフィリピンって言われるんだよ。言われてるっけ?言われてないな。

 

 「無難に学園生活支援部でいいんじゃなかろうか」

 

 理事長席から藍さんが答えた。待ってくれ藍さんそれはSKETDANCEと変わりませんぜ。とは言ってもほかに無いしな。これでいこう。

 

 「長くねぇか?もっと親しみやすい名前がいいと思うんだよ」

 

 「通称がほしいってこと?」

 

 「そうだぜ!」

 

 魔理沙と霊夢が「通称」について話し合ってる。まぁ確かに親しみやすさってのは必要だよな。かと言って「スケット団」とか「奉仕部」とか「万屋銀ちゃん」とかは無しの方向で。完全なるパクリになっちゃうから。むむぅっと考えていると藍さんが何かを閃いた顔をした。

 

 「それならお手伝い屋d「論外ですよ」…ですよね」

 

 早くも行き詰った。まずいな、このままだと「お助け隊」になってしまう可能性がある。……いや、よく考えてみればお助け隊ってありきたり感あるし親しみやすいかも知れなくもない。………………ありじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「はい。というわけで「お助け隊」結成だ!」

 

 「…………そうね」

 

 今は帰り道……というより俺んちの前。その前で部活動がほぼほぼ決まったことでテンションMAXな魔理沙と考えすぎて疲れ果てた霊夢。霊夢はまぁわかるけどなんで魔理沙のやつテンションたけぇんだよ。まさかもう忘れたのか。

 

 「あのな魔理沙、一応俺たちの「学園生活支援部」はあくまで仮部活だ。正式にはあと三人入部してくんないと(仮)が取れないの分かってんのか?」

 

 そう、俺達の部活動はあくまで仮。明日から一週間の合間にあと三人入部しなければ話がなかったことにされるのだ。ここ幻想学園の校則だし俺らだけ特別扱いってのも他の生徒たちに示しがつかないんだそうだ。藍さんも大変なんだなとしみじみ思った。多分変な部活を作りたがる奴らが多いんだろうなこの学校は。自由すぎるってのも考え物なのかな?

 

 「ん?大丈夫だぜ!一週間も猶予があるならなんとかなるぜ!」

 

 「具体案はないのかよ………」

 

 呆れてものも言えない。マジノープランだよコイツ。

 

 「大丈夫よ。私の「勘」がそういってるから」

 

 「なら大丈夫だな!」

 

 「どこが大丈夫なのか言ってみろ」

 

 「そんなの霊夢の勘が当たりまくるからに決まってんだろ」

 

 と、自慢げに話す魔理沙。自分の事じゃねぇのになんでお前が誇らしげなのか気になるしちょっとうぜぇ……。

 

 「……まぁなるようになるか。んじゃ帰ろうぜ。明日こそゆっくり……」

 

 「んじゃ明日早めに来いよな!私が学校に行くタイミングで外にいなかったらたたき起こすからそのつもりでな!」

 

 ………………………やっぱり強引だな俺の幼馴染。

 

 

 

 

 

 




 劉斗「なんでこんなことに」
 作者「いやぁたまたまYOUTUBEでスケ団のVOMIC見ちゃってさ。それと霊夢と魔理沙の立ち位置が被ったんだよねぇ」
 劉斗「それでやたれと思ったのか……はた迷惑な」




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4話 : 物語の始まりは突然に

 失踪しかけた黒鉄球です。もうヤダ受験とか考えた奴鬼畜すぎ。ほんともう……おくれてすんませんした。


 物語の始まりというのはいつも突然だ。アニメや漫画の連載のように予告されることはなく、予期せぬ形で始まる事の方が多い。そのせいで心の準備だとか備えることがほぼほぼ出来ない。そう、例えば………。

 

 「……………」

 

 「……………」

 

 そう、例えばクラスで人気の高い人物と狭い部室で二人きりの空間になっている事とか。いや、そんな状況ほぼほぼねぇよ。なんでこのタイミングで来たんだこの人は。気まずいにも程があるだろうが。

 

 「あの………」

 

 「あ、はい」

 

 突然話しかけて来たこいつは我が1-2組で……多分1番人気だと思われる人物。名前は………忘れた。だがその銀髪は見覚えがあるぞ。見覚えてるのだが人の名前と顔を覚えるのは苦手なもんで正直ピンとこない。おい、モジモジするな。したいのはこっちだ馬鹿野郎。

 

 「ここって学園生活支援部よね?依頼があって来たのだけど……あとの二人はどちらに?」

 

 粛々と話を進める銀髪美少女。どうやら飲み物を買いに飛び出した霊夢と魔理沙が目的らしい。ごめんな、俺が残ってて。でも仕方ないんだ。あいつらが「依頼こないし暇だから飲み物買いに行ってくる」とか言って出てったからな。俺は悪くねぇ。あ、因みに構図としては四つの机を向かい合わせにして俺の前に依頼者たる彼女が座っている。小学生の時の給食の時の形だ。

 

 「悪いな。あいつらは飲み物探しの旅に出たんだ。タイミングの悪いことにな。だからもう少し待っててくれ」

 

 俺も淡々と話す。しかし内心は心臓ばくばくである。割と本気でキンチョールしてる。ヤベェわ殺されちゃいそうだわ。そんな事を知らない依頼者は「そう」と一言だけ言って背筋を伸ばし、目を瞑って待機した。その姿は淑女としか見えなかった。こいつ育ちいいな。流石はスカーレット財閥のご令嬢の側近だな。それに比べて俺は漫画を片手に適当にやってる。黙々と漫画を読んでいるとドアが開く音がした。ふぅ、ようやく来たな待ちくたびれたぞ。

 

 「……………」

 

 「……………」

 

 「おい、何フリーズしてんだよ早く入ってこいよ」

 

 何故か固まる二人。まぁ分からんでもないが。何せ期限1週間を設けられた中で既に4日経ってるのだからそりゃあ依頼者が来たらフリーズするよな。俺はしないけどな。そんな二人を横目に依頼者たる彼女が口を開いた。

 

 「依頼…………お願いできるかしら?」

 

 「あ、あぁ、勿論だぜ!」

 

 漸く現実世界に戻って来た魔理沙。霊夢は………いつの間にか俺の隣に座っている。何こいつエスパーなの?白井黒子なの?斉木楠雄なの?いつ隣に来たんだよお前。口から胃袋が出るかと思ったわ。誰がラクダじゃ。

 

 「それで何の用かしら?」

 

 心の中でノリツッコミをしていると、隣にいる霊夢が依頼についての質問をした。すると依頼者は口を噤んだ。顔を落としていることからかなり深刻なことが伺える。俺も霊夢も黙って彼女が話すのを待った。暫くして漸く彼女は口を開いた。

 

 「お嬢様を助けて欲しいの」

 

 「「「……はい?」」」

 

 ほらな?物語の始まりってのはいつも突然だろ?

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 お嬢様を助けてほしい。銀髪美少女メイドこと十六夜咲夜(名前はさっき霊夢に聞いた)はそう言った。何から救うのかと尋ねたら意外や意外、なんと親の束縛から解放してほしいとのことだった。どうやらお嬢様ことレミリア・スカーレットは次期スカーレット家当主として英才教育を【強制的】に受けさせられているらしい。彼女の父親の方針だとかなんとか。そして現在大きな紅色の館の門前にいる。それも俺と十六夜の二人で執事とメイドの格好で(・・・・・・・・・・)。ハァ、なんでこんなことに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

          ―――――――――――溯る事一時間前――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「お嬢様を助けろってどういうことだぜ?」

 

 至極全うな質問をする魔理沙。まぁそりゃそうだ。いきなりそんなん言われてもそう答えるしかないもんな。俺だってそうする。見ろよ、霊夢なんて口をあんぐりあけて左眉毛が上がって某名探偵みたいな顔になってるから。

 

 「言葉の通りよ。お嬢様を助けてほしいの」

 

 「なにから?」

 

 「スカーレット家現当主であるディオラ・スカーレット様からよ」

 

 いきなり話がぶっ飛んだぞ?ディオラ・スカーレットなる人物からレミリア・スカーレットを助けろ?それに今現当主って言ったぞこいつ。ってことはあれだろ。父親から娘をぶんどれって事か?無茶言うなよ馬鹿野郎。ぬらりひょんの畏れじゃないとほぼ無理だわ。

 

 「「………」」

 

 ほら話がでかすぎて霊夢も魔理沙もFREEZEした。一日に二度も固まるとか普通ねぇぞ。れいとうビームかふぶきを食らったら二回くらいは固まるが。エンペルト!れいとうビーム!!……懐かしいな。

 

 「あの…やはり無理……でしょうか」

 

 霊夢と魔理沙の反応を見て申し訳なさそうにいう依頼者。ここははっきり言って断るのがbetterでbestなのだろうが一つだけ気にかかったことがあったから聞いてみた。

 

 「なんでそれを俺らに依頼をしたんだ?明らかに俺たちの、子供の関わるレベルを超えてると思うんだが。それにこういうのは適当にそれっぽい理由をこじつけて警察にでも行けよ」

 

 「それは………」

 

 俺の一言でまた俯く依頼者。いや、普通俺らみたいなやつよりも警察だとかメディアだとかそっち方面のプロの方が100%マシだ。いい仕事をしてくれる。だからこの質問をぶつけた。なぜ俺達に依頼したのか(・・・・・・・・・・・)、と。しかし彼女は口を開かなかった。だから俺は、少し酷ではあるが無理やりにでも吐かせる方法をとった。

 

 「なにも言えねぇんならこの話は蹴る。そもそもとしてあのお嬢様のお家事情なんざ知ったことじゃねぇからな」

 

 「!」

 

 俺の言葉に反応して目を細める依頼者。やはり何か織行った理由があってここに、ただの高校生たる俺達に依頼してきたんだろうな。それの証拠に一瞬絶望した顔をした。だが理由を直接聞かないと少なくとも俺は手助けはしない。一瞬正気を取り戻した魔理沙が俺に突っかかろうとしたが霊夢がそれを制止した。俺はそれを横目に更に言葉を続けた。

 

 「お前が何を思ってレミリア・スカーレットを救いたいのかは知らんが俺には関係ない」

 

 より残酷に、そして淡々と。

 

 「そ ん な に 救 い た い な ら て め ぇ で な ん と か し ろ よ」

 

 「それが出来てたら苦労はしないわよ!!!!」

 

 その瞬間依頼者は叫び声をあげ、俺の胸ぐらをつかんできた。それも涙を流しながら(・・・・・・・)

 

 「あなたに何が分かるの!?警察や弁護士に駆け込んでも拒絶され、スカーレット家には恩があるから逆らえないと蹴られた私の気持ちが!お嬢様がどんな思いで学園生活を送ってきたのか!どんな思いで部屋に閉じ込められて教養を強いられているのか!そんなお嬢様のお側でただただ見る事しか出来ない私の気持ちが!あなたなんかに!何…が……分かると…言うの………」

 

 彼女の叫びは……間違いなく本物だ。多分彼女が抱えていたこの感情は一年やそこらの感情じゃない。恐らく十年、それくらいのものだろう。それを証拠に彼女の涙は自分に対する怒り、俺に対する怒り、そして彼女がレミリア・スカーレットに対する忠誠心の深さを表していた。俺が悪態をつかなけりゃこうして本性を現さなかっただろう。俺達の前で、本音を漏らすことはなかっただろう。だが、それじゃあ意味がない。彼女の深層心理にある「本気度」を確認するためには、追い込んで、怒らせて、本音を出させるしかない。だから俺は追い詰めた、怒らせた、泣かせた、喚かせた。そうでなければ俺達を頼った理由が聞けないから。

 

 「正直、俺にはわかんねぇよ」

 

 「!!」

 

 更に力を込める彼女。でも俺は続ける。なぜなら俺の意志は初めから決まってたからな。

 

 「後継者だとか、お前らの気持ちだとか、そういった小難しいことは俺には分からん。どれだけの苦にあったのかとかどれだけの年月気を揉んでいたのかとか俺には分からん。でも、俺は似たような状況にいた奴を知ってる。親に強要され、つらい思いをしたどっかの巫女を。俺はそん時、彼女を救いたいと思った。そして今まさにその気持ちがこみ上げてきた」

 

 更に言葉を続ける。

 

 「だからその依頼、しかと承る。いいだろ、魔理沙部長?」

 

 目線を魔理沙に逸らして許可を得た。魔理沙はへへっ、と笑ってその依頼を受理した。正直彼女に対する罪悪感でいっぱいだがそんなことは今はいい。後でDOGEZAをかませばいい。

 

 「それで、策はあんのか?」

 

 「え、ええ。それについては……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁ十六夜」

 

 「なんでしょうか?」

 

 「なんで執事?」

 

 「作戦だからです」

 

 「じゃあ俺じゃなくて霊夢をメイドにしろよ!なんで俺が正面切っていかにゃならんのだ!」

 

 「……私を泣かせたバツです」

 

 「うぐっ……ほんと、すまんかった」

 

 いや、ほんとおかしいから。作戦内容マジでヤバいから。まさかの堂々と侵入してレミリア・スカーレットを部屋から拉致って家出させよう大作戦!……マジであほすぎる。あほガールでもかこんなの思いつかねぇよ。ってなわけで今や新米執事になりきって反省している俺。まったく、霊夢が「いや、あんたの方が強いんだからあんたが逝きなさいよ。それに咲夜の事泣かせたでしょ?詫びで行ってきなさい」とかいうからお蔭でこんなことに。ん?漢字?気にすんな、霊夢の戯言だ。

 

 「まぁ、結果として受理してくれましたから良いですけど」

 

 「へいへい。んで、俺はどうすればいいわけ?」

 

 十六夜の説明によるとまずはメイド長である十六夜が俺を新米執事だと言って館内に入れ、その後十六夜は外へ。俺は掃除と称してお嬢様ことレミリア・スカーレットの部屋へ侵入、拉致、そして撤退という算段だ。部屋までの道は十六夜がトランシーバー越しで案内してくれる。これは魔理沙の実家である「霧雨道具店」から貰ってきたものだ。親父さんに事情を説明したらすんなりくれた。逃げ道は今霊夢と魔理沙で確保中。連れ出す方法は俺に任せるらしい。おいおいこんながばがばな策でいいのかよマジで。因みに懐には脱出用のロープしかない。怪盗キッドを見習え!用意周到に!グライダーを用意しろよ俺!

 

 「……ふふっ」

 

 「んだよ、急に笑い出して」

 

 「いえ、その燕尾服が思いのほか似合ってたものですから。期待してますからね?」

 

 ニコッと笑って何故か俺を褒める十六夜。……その笑顔は卑怯だぜ。だって可愛かったもん萌え死にするかと思ったわ。

 

 「……早く行こうぜ。脱出経路はもう確保されてるだろうしいつまでも呆けてるわけにはいかねぇからな」

 

 「ええ、それでは参りましょうか劉斗」

 

 「……了解したよメイド長」

 

 俺達学園生活支援部、[お助け隊]の物語が幕を開けた……!!

 

 

 

 

 

 



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5話 : 依頼の内容とやるべきこと

新記伝を差し置いてとか思ってる人いるかもですけどこっちの方が最近楽しくなって来た黒鉄球です。


絶望的状況とは一体どういうことを言うのだろうか?自分のお気に入りのおもちゃが壊れた時?最後の一口を奪われた時?銃口を向けられた時?様々だろうが俺にとっての今の絶望的状況はどれにも該当しない。なぜなら………。

 

「…………君」

 

「は、はい………」

 

俺の目の前にいる長身のおっさんが、この悪魔みてぇなおっさんが、ディオラ・スカーレットが俺の元にきていると言うのが今の俺にとっての絶望的な状況だからだ。十六夜のやつ、何が1番安全なルートだよ1番危険なルートだったじゃねぇか。

 

 

 

 

ー------20分程前------ー

 

 

 

 

「と、言うわけで協力者の武御劉斗君よ」

 

「………うっす」

 

門を入った所でその影に隠れていた(寝ていた)赤髪の子に挨拶をした。どうやらお嬢様の友達らしく、今回の作戦にも協力してくれている。他にも館内に一人いるらしいが喘息持ちの為出てこれないそうな。

 

「待ってましたよ!いやぁ、咲夜さんが男性を連れて来たときは驚きましたけど確かに彼ならうってつけですね!」

 

満面の笑みで話す赤髪の門番。武器を持っていないところを見ると素手で戦うタイプの門番のようだ。赤髪、武闘家、長髪というとユダを思い出すな。なんかこう、「お前の血で化粧がしたい!」とか言いそう。そんなタイプには見えないが。

 

「今なんか失礼なこと考えてませんでしたか?」

 

こいつは覚かなにかか?まぁ無用な問題は御免被るので首を横に振る。

 

「っと、そんなことしてる場合じゃなかった。咲夜さん、パチュリー様から偽造の書類です。これで彼がいきなり来ても少なくともメイド達にはバレませんよ」

 

「ご苦労様美鈴。事が済んだらパチュリー様にもお礼を言わないとね」

 

十六夜が受け取ったのはどうやら俺が紅魔館で働くための偽造の書類らしい。この用意周到さを見ると十六夜のお嬢様に対する忠誠心が見て取れる。思いすぎて重いんじゃないかと思えるレベルで。つーかいつの間に作ったんだこれ。手が早すぎるだろパチュリーとやら。

 

「はい!それではえーっと……」

 

「………武御劉斗だ」

 

「はい!では劉斗さん、お嬢様をお願いします!」

 

美鈴とやらの言葉を背に、俺は改めて身を引き締めて紅魔館内に入った。

 

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで今日からここで働く武御劉斗君よ」

 

「………ども」

 

先ほど美鈴とやらに紹介したようにメイド達に紹介された。つか理由おかしいからな。昔からスカーレット家に憧れてて意を決して十六夜に土下座したとか真面目にやめてほしい。ほら見ろよ、一部引いてるじゃねぇか。まぁあまり関係ねぇな。少なくともレミリアお嬢様を救い出した後は少なくともこのメイド達とは関わらねぇからな。

 

「はい、では各自持ち場について」

 

十六夜の一言で散会するメイド達。十六夜自身も外へ出た。後はあいつの指示通りに動くだけだ。

 

「んじゃあ、まぁ、始めますか」

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

そして十六夜の指示通りに歩いていたら最重要人物にして会ってはならない人物、ディオラ・スカーレットに出会ってしまった。ふっ、詰んだな。おい、インカム越しで笑ってんじゃねぇぞ魔理沙この野郎。いつの間にか合流しやがって。

 

「君、見ない顔だが新入りか?」

 

「え、あ、そうっすけど……」

 

咄嗟に敬語が出た。目の前のダンディーなおっさんはそんな俺をマジマジと見て軽く口角を上げた。

 

「ふむ……面白そうな小僧だ。いや、すまんな。従者の雇用はメイド長か妻に任せているので誰がいつ入って来たのか分からんのだよ」

 

ディオラ・スカーレットは表情を変えず、雰囲気を変えず、話した。おい待ておっさんあんた主人だろ把握してろよ。いや、今に関しては助かったけど。

 

「仕事の邪魔をしたな、失礼する」

 

ほっ、どうにか躱せたか。インカム越しでも三人共安堵の声が聞こえてきた。バレなくてほんとよかったわ。

 

「あぁそうだ」

 

「?なんすか?」

 

いきなり話しかけらた為だろう心臓が跳ね上がった。今の声聞かれたのか?

 

「君の名前はなんだ?」

 

なんだよ名前かよ驚かせんなよ。だがここで答えなければ変に怪しまれそうだ。だからおれは堂々と答えた。

 

「武御劉斗」

 

「成る程、劉斗か。覚えておこう。君とは色んなことを語り合いたいものだ」

 

「……そうっすね。俺もそう思いますよ」

 

ディオラ・スカーレットは俺の元を去り、姿が見えなくなったところを確認した上で踵を返し、レミリア・スカーレットのいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

 

嵐が過ぎ去ってまた嵐、台風の目とも言える場所、今回の依頼のターゲットたるレミリアお嬢様の自室の前。十六夜によると自力では出られないらしい。何がどうなってそうなっているのかは十六夜自身も不明らしい。

 

「さて、蛇が出るか蛇が出るか分からんがやって見ますかね」

 

俺は三度ノックをして反応を待った。一拍おいて「誰?」と返ってきた。誰、ときたか。落ち着け、落ち着くんだ俺。ここは執事に徹しろ。

 

「新入りの執事っす。お部屋の掃除にあがりました」

 

うむ、我ながら見事な敬語だ素晴らしい。だから笑うな十六夜この野郎。

 

「嫌よ、咲夜を呼んだちょうだい」

 

いきなり断られたよ泣いちゃうよ俺?と言っても分かりきってはいたがな。まぁテキトーにやるか。

 

「メイド長は今別の仕事で手一杯なんだ、ひとまず開けてくれ。じゃないと入れん」

 

しまったタメ語が出ちまった。

 

『何やってんですか劉斗!』

 

「うるせぇなやっちまったもんはしょうがねぇだろ」

 

「あなたは今誰と話してるのかしら?」

 

またまたやっちまった。インカムに話しちまった。………仕方ねぇ。俺一人で勝手に立てたプランBを使うしかねぇ。そうと決まればインカムを外さねぇとな。十六夜にバレたら面倒臭いからな。

 

「なんでもねぇから開けろ。掃除ができん」

 

「あなた、さっきから執事の癖にタメ口なのね。一応私令嬢なのだけれど」

 

やはり突っ込んできたな。でももうこのスタンスは変えん。正面切って話してやる。

 

「知ってる。知ってて使ってる。つかそもそも俺は正式な執事じゃねぇからな」

 

「え?」

 

「俺は十六夜咲夜からの依頼でお前をここから連れ出しにきたただの一生徒だ」

 

俺の作戦、それは単純明快でタダのネタバラシだ。ネタバラシで揺さぶって、論破して、納得させて連れ出す。それがプランB。俺は早速行動に移った。

 

「お前がここに閉じ込められて勉強を強要されてんのは知ってる。理由までは謎だが一先ず助けに来た。だからここを開けろ」

 

「………無理よ。お父様からは逃げられない。ここには監視カメラがあるのよ?自由なんてないの。与えられないの。だから帰ってもらって結構よ」

 

レミリア・スカーレットが語ったのは十六夜と逆の言葉。「救わなくていい」とそう告げるものだった。だが俺は聞き逃さなかった。今こいつは「逃げられない」と言った。これは諦めの言葉だ。つまり、少なからず自由になりたいと思っているという事。ならば俺はとことんそこをつくまでだ。

 

「帰れってそりゃ無理だ。こっちにはこっちの事情があるからな。ここまで来るのに十六夜や美鈴、パチュリーとやらの手を借りてる。だからタダで引き下がるわけにゃいかねぇんだ」

 

「………そんなの知ったことではないわ。あなた達が勝手にやったことよ?私がそこに乗る道理がないわ」

 

成る程正論だ。確かにあいつらが勝手にやったのならそうだ。いい迷惑だ。だがお前の心は逃れたいと、自由になりたいと、お前の口からそう出て来たんだ。だから俺はさらに言葉を繋げる。

 

「そうか、ならお前の話を聞かせろよ」

 

「は?」

 

「いや、だからお前の話を聞かせろよ。逃げるとかじゃなくて単なる世間話。友達がどうとか学校がどうとかの話」

 

「…………ないわよそんなの。私、友達いないし」

 

声のトーンをが変わっていた。落胆するような、すでに諦めてますという声色。間違いなくこいつはここから出たかってる。そして、学園生活を謳歌したいと思ってることも察しがつく。

 

「なら、俺がなってやるよ。友達に。安心しろ、俺は従者じゃねぇから主なんていねぇ。だからお前が[十六夜達に言えなかったことをそのまま言ってもいいぞ?]」

 

だから俺は救いの糸を垂らす。友として、救いの手を出して、その為の手段を取らせる。要は俺を使えと、そう言った。

 

「そう、なら………友達としてお願いするわ」

 

すぅ……っと一呼吸置いて彼女は告げた。

 

「私を……自由にして?」

 

だから俺は力一杯答えた。[腕に巻きつけたロープを振りかざして]。

 

「任せろお嬢様!!」

 

その瞬間、腕を振り下ろし、ドアノブを破壊した。そして、扉の向こうには、すみれ色の髪をした小さな女の子、レミリア・スカーレットが立っていた。

 

「さて、友達たる武御劉斗が来たからにゃお前を全力でこっから出してやる」

 

「………ええ、お願い、劉斗」

 

俺の言葉に、呼応してニコッと微笑むレミリア・スカーレット。その笑顔は何か棘が取れたような、何時ぞやか見た表情とは比べ物にならないくらいの眩しい笑顔がそこにはあった。

 

 

 

 

 



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6話 : 己が信念は貫くが漢なり

連続投稿です。何かあったら感想欄でお願いします


逃亡戦、歴史にはよくある光景である。例えば三国志。曹操が敵の罠に引っかかり、そこに同行していた悪来典韋が主人を逃がすために戦い、戦死するという話があったり、長板において、劉備が曹操から逃れるために諸葛亮が策を弄し、張飛が橋の前にて仁王立し、一兵足りとも通さなかったり、趙雲が劉備の息子の阿斗を救い出して、生還したりいろんなものがある。今のこの状況においては曹操の例が1番当てはまるだろう。敵の城内にて主人を守りながら逃げる。これが今の俺の状況だ。さて、では問題だ。………どうやって逃げる?

 

「なんでもうメイドにバレてんのよ!貴女があんな大きな音だしたからでしょ!?」

 

「だぁもううるせぇな!鍵かかってて開ける方法もなかったからああやってドアノブ破壊するしかなかったんだよ!」

 

ただいま絶賛メイド達に追い回され中な俺とレミリア。ドアノブを破壊した時の音が思ったほど大きかったらしく、すぐに勘付かれて今紅魔館内の廊下を全力疾走。レミリアはお姫様抱っこで連れている。理由はこの方が速いからである。羞恥心なんて知らん。今は逃げることが先決。

 

「お嬢様を離しなさい!さもないとメイド長に殺されるわよ!」

 

「お前らは何もしねぇのかよ!」

 

などと心配の声と罵倒とただの返しを延々と繰り返している。そんなこんなで最初のロビーに戻って来た。この速度で行ったら飛び降りしかない。よし、飛び降りよう。

 

「よっと!!」

 

「え!?ちょっと待って……きゃあ!」

 

そして、見事着地………というわけにもいかず、足が痺れた。それはそうだ。2人分の体重を支えたのだからそうなって当然だ。くそ、アニメや漫画ならこのまま走って行けるのに。まぁ行けても突破は無理そうだけどな。

 

「よく来たな小僧………いや、武御劉斗」

 

そこにはディオラ・スカーレットがいた。まるで俺たちが来るのを待っていたかのように。……なるほど、このメイド達はこのおっさんの指示で誘導してたのか。やられたな。こうなりゃ正面切らにゃならんくなった。

 

「おいおいいきなりラスボスかよ困ったぞ。つか、なんでおっさんがここにいんだよ」

 

「我が愛娘の部屋から音が聞こえたからな。もしかしてと思ったのだ」

 

耳良すぎだろこのおっさん。しかしバレたのなら仕方ない。ここは一先ず親子で話をさせるか。

 

「レミリア、お前の気持ちをぶつけろよ。でなきゃ進まないからな」

 

「えぇ、そうね。お父様、私は……ここを出るわ。理由も分からないままあんな教育を受けさせられているなんてもう嫌よ。私は自由に、学園生活を、人生を送りたいの」

 

レミリアは言った。自分の気持ちを素直に、正直に。ディオラ・スカーレットは……表情を変えず、淡々と語りだした。

 

「ダメだ、お前は時期スカーレット家の当主だ。その為にはより良い教育を施し、人の上に立てる逸材でなければならん。それをいい加減自覚しろ」

 

真っ向から否定した。この否定の中にはある意味があった。それは自分の娘なのだからこうあって当然だ、従え、と。俺にはもう、そんな感覚わからねぇしもう味わうこともないのだろうが一つだけ、たった一つだけ分かるのはこの男、ディオラがどうしようもない人間であるということだ。

 

「いい加減に自覚しろだと?ふざけんなよ。お前、自分の娘をなんだと思ってんだ?レミリア・スカーレットはテメェの道具じゃねぇよ。財閥のための道具じゃねぇんだよ。レミリアはレミリアだ」

 

俺の言葉に嘘はない。俺本来の言葉、虚言ではない。これは俺の意思であり、ある種の宣戦布告。必ずここから連れ出すという意思そのもの。俺は今、スカーレット財閥当主に喧嘩を売った。

 

「………やはり面白いな君は。一目見た時から面白い男だと思っていた。君がなぜ、我が娘の元にいるのかは問わん。男なら拳で語りたまえ」

 

そう言ってディオラは二本の木刀を出した。一刀を俺の足元に、もう一刀は構えられていた。急展開すぎてついて行けないがここでこいつをねじ伏せりゃそれで終わり。戦う理由は既にある。ならば俺は俺個人の怒りでねじふせよう。

 

「後悔してもしらねぇぞおっさん」

 

武器を手に取り、構えた。対峙してわかったがかなりの威圧感があった。少し懐かしささえある。木刀もいつぶりに手に取っただろう。そんなことを思いながら俺は、ディオラに突っ込んで行っていた。

 

「おらぁ!」

 

「甘いな小僧!ぬぅ!」

 

左から右に振るがこれをいなされ、その遠心力で蹴り放つ。俺はそれを咄嗟に左腕でガードしたが、飛ばされた。

 

「………ってぇな。なんつー蹴りだよ」

 

「これは驚いた。まさか無傷とはな」

 

無傷、な訳あるか。腕がミシッつったわ。このおっさん年寄りも全然動けてるぞ。だが怯んでるわけにもいかねぇから構えるしかない。

 

「ふっ、今度はこちらから行くぞ!」

 

ディオラは何度も木刀を打ち付けては俺はそれを受け止めた。反撃は出来ず、防戦一方となった。だが俺はMではない。スキは必ずできる。それまで受け切ってやる。

 

「お父様やめて!劉斗は関係ないわ!劉斗は私を逃がそうと……!」

 

「ふん。レミリア、お前を逃がそうとした男を見逃すわけないだろう。この男もそれくらいの覚悟はできている」

 

剣戟を出しながら話す余裕があるのかよこいつ。でも、それがテメェの慢心だ。ほら、右足が前に出過ぎてるぜ?

 

「よっと!!」

 

「ぬぅ?!」

 

俺は出た右足を払って一歩引いた。ディオラは尻餅をつき、驚いたような顔をしていた。たかが高校生に尻餅をつかされるなんて、と言いたげな顔だった。

 

「どうしたよおっさん。まさか俺に倒されるなんてとか思ってたんだろ。生憎だが喧嘩慣れはしている。来いよ、全霊をもってあんたを倒して、レミリアをここから、あんたの呪縛から解く」

 

「小僧………後悔するなよ」

 

ディオラの雰囲気が変わった。恐らく本気になったという事だろう。威圧感がまるで違う。鋭い眼光、ちらりと見えた犬歯、そして白い肌、吸血鬼と対峙している感覚に陥った。いや、恐らくはその血筋、その伝承を祖先に持っているのかもしれない。俺も本腰入れないと多分………かすり傷じゃ済まなくなる。俺は一度だけ深呼吸をしてディオラと対峙した。そして一瞬だけ瞬きをした。その瞬間、目の前にその男がいた。

 

「!?」

 

「捉えたわ」

 

咄嗟に反応するも間に合わず、右脇腹に木刀が食い込んで行った。ミシミシと音を立て、そして勢いよく吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ!……ゴホッ……」

 

口の中に鉄の味が広がる。今、俺は血を吐いたのか……。視界もぼやけてきやがった……。背中もいてぇし………壁か……ヤベェかもな………このまま戦い続けたら多分、肋骨だけじゃすまねぇな。でもやらねぇと………依頼は…………遂行しねぇと。

 

「やはりこの程度か。面白い男だと思っていたのだが見込み違いだったようだな」

 

ディオラが何か言っている。聞こえない。何を言っているんだ。くそっ、意識を、保たねぇと………。

 

「劉斗!劉斗!起きてよ!お願い………」

 

甲高い声が聞こえる。わからない。言葉が分からない。分からないがこれだけは分かる。今、レミリアは………泣いている。泣かせたままじゃ終われねぇ。決めたじゃねぇかよ武御劉斗!俺はあいつの………!!

 

「ハァ………ハァ………」

 

何とか立ち上がれた……でも、戦えるかどうかは別だ。視界は霞むし、左腕には力も入らない。それどころか右の肋骨が何本かイってる。それでも俺は、立ち上がらなきゃならねぇ。ここで漢を通さなきゃ、外で待ってる十六夜が本音を漏らした意味がねぇ!

 

「ふふふ、フハハハハ!!!あれを食らって立つとはな!良い、良いぞ!それでこそ奥義の打ち甲斐があるというものだ!」

 

ディオラは愉しそうに口上を述べた。恐らく、何か来るのだろう。だが今の俺には受けられるほどの余力はない。だから絶対に躱さにゃならん。躱せねば俺は死ぬかもしれない。それでも俺は、目の前の、俺に課したものを達成する。だから持ってくれよ、俺。気を失うな、目を見開け、切っ先を向けているのは見えている。だから、ギリギリで、躱す!!

 

「紅魔神槍!」

 

「!!?」

 

体が、折れた……?!……そうか、意識が、疎らだったから、ラグが、発生……した…の………か。ヤバイ、このままじゃ、おれは……!

 

「劉斗ぉ!!!!」

 

「!!」

 

「!?」

 

理由は定かではない。なぜ、こうなったのかも分からないが俺はディオラの木刀をがっしり掴んでいた。いや、予想はできる。あの声、あいつの声が聞こえたから、掴めたのだ。意識を保てたのだ。なんだ、俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇな。

 

「ハァ………ハァ…………」

 

「なぜ………なぜ君は、そこまで。何が、君をそこまで駆り立てる……!!」

 

なぜ?なんでだ?なんでだろう?理由は?ワケは?reason?why?

 

『いいのよ咲夜。どちらにしろ……私に自由なんてないから』

 

『私を……自由にして?』

 

『………ええ、お願い、劉斗』

 

そうだ、俺はあの時………。レミリアが笑った時から……俺は………!!

 

「なぁ………おっさん、知ってるか?………あいつさ、笑ってなかったんだよ。学校にいる時も………十六夜と一緒にいる時も………笑ってなかったんだよ」

 

「…………」

 

ディオラは答えない。それでも俺は言葉を紡ぎ出した。

 

「でも……俺って友達が出来て……外に出てきて…………あいつ、笑ったんだよ。あんたは……最近見てねぇだろ?………あいつの…………笑顔」

 

「………」

 

「それなのにあんたらは……仕事ばかり…………自分の理想を……押し付け、あいつから笑顔を……奪っちまった」

 

「…………!」

 

「あんたさっき聞いたよな………「なぜ立ち上がる」って。俺の答えは………一つだけだ」

 

俺は紡ぎ出す、己に課した、最大の役目を。

 

「俺は………あいつの笑顔を………守りてぇ」

 

「え!?」//////

 

「!?」

 

「だから、俺はあんたに立ち向かう。何度だって立ち上がる。あんたが守れなかったもんを守る為に……!!」

 

俺のこの一言はディオラに衝撃を与えた。目を見開き、3歩ほど後ずさった。これで気付かせることは出来た……かね?あとは……お前次第だぜ……レミリア。

 

「りゅ、劉斗!?あんたなんでそんなボロボロなワケ!?」

 

「お、おおお!!?やばくねぇかあれ!おい、早く救急車呼ばねぇと!」

 

「劉斗さん!?」

 

「劉斗!」

 

霊夢と魔理沙、美鈴に十六夜まで……。そうか、何かしら聞こえてきたのか………。ふはっ、カッコ………つかねぇなぁ……。やべぇ……もう……立てねぇや。

 

俺はそのまま座り込んだ。限界だった。意識を保つのがやっとだった。そんな俺の姿に駆け寄る4人+レミリア。霊夢は何かを叫んで、魔理沙は泣いていて、美鈴と十六夜は俺の名を叫んでいた。レミリアは目の前にいるディオラと対峙していた。

 

「どけレミリア!その男は……!!」

 

「どかないわ!退けばあなたは彼を殺しかねない!そんなこと、させると思う?!」

 

「!!」

 

多分、レミリアの初めての反抗だろう。それを証拠にディオラは驚きを隠せていない。でも、ディオラが強行に出れば俺はやられる。万事休すなのには変わりはない。

 

「もういいではありませんかあなた。もう、十分でしょう?」

 

「「誰?」」

 

廊下の奥から金髪の長い髪をした麗しき女性が現れた。見るからに彼女は多分レミリアの………。

 

「「お母様(ジョーラ)!!」」

 

「もう、貴方ったら若い子をこんなになるまで痛ぶって。其れ相応の覚悟はありますわよね?」

 

「ま、まてジョーラ!こ、この男は……!」

 

ディオラが狼狽えた。畏怖している……のか?まさかマジで?尻に敷かれてるの?あの男が?まさかのとんでも夫人か。

 

「ええ、分かっています。私達の教育に異議を唱えた殿方でしょう?でも、間違っているのは彼ではなく、私達のほうだった、そうでしょうあなた?」

 

「………ぬぅ」

 

ジョーラなる人物は敵ではなくこっち側のようだった。多分俺たちの戦いを見ていたのだろう、こっそりと。趣味が悪いとしか思えん。口に出すと本気で殺されそうだから言わないけど。

 

「お母様……」

 

「レミリア、ごめんなさいね。あなたにあんな無理をさせて。彼が異論を唱えなければ、私達は間違ったままだったわ。本当に………ごめんなさい」

 

レミリアの母ちゃんは泣いていた。反省の涙、というべきだろう。俺の目から見てもわかる。微笑ましい光景じゃねぇか。母が娘を抱きしめて、心から謝ってる。俺が命を張った甲斐があったってもんだぜ。

 

「いっつ……」

 

「大丈夫!?」

 

俺の傷が痛んだことに霊夢が反応した。本気で心配している顔だ。まったく……。

 

「俺は平気だ、肋が何本かヒビ入ってて、左腕の感覚が微妙だし、正直視界もぼやけてるけど平気だ」

 

「平気じゃないじゃないですか!?今すぐ救護班を呼びます!」

 

傷だらけの俺に容赦なくツッコミを入れ、救護班を呼ぶ美鈴。可愛い。気がきく。

 

「……………」

 

「………お父様」

 

レミリアとディオラは対峙していた。これで、この2人が和解できりゃ、終わりだ。あとは、2人に任せようと霊夢と魔理沙に視線を送った。2人は頷き、黙って俺を支えていた。こういう時は気が利くんだよなこいつら。

 

「…………済まなかったな。お前の気持ちまで頭が回っていなかった。私の過失だ。頭を下げてどうこうなる度を超えている。殴ってくれても……構わん」

 

「………そう、じゃあ」

 

レミリアは右手を振りかぶった。ディオラは目を瞑って全てを受け入れようとしていた。だが聞こえたのは破裂音ではなく、レミリアのすすり泣く声だった。ビンタどころか首に手を回して抱き締めていた。

 

「ごめんなさい……!私も………お父様に………!」

 

ふぅ………これは、和解でいいのかな?美しき親子だ。これから先、俺では手に入れられない関係性だ。今の俺には眩しくて目も開けられない………あれ?もう、むり……かも。

 

「劉斗!?」

 

「このタイミングで落ちたぞ!?おい!早く治療してくれ!」

 

 

 

 

 



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7話 : 四人目と五人目

どうも、不定期投稿に定評のある黒鉄球です。もうヤダ、志望理由書のダメ出しが多すぎて……やってられるか!とか言ってFGOに逃げてました。お蔭で沖田さん手に入れたから良いんですけどね。


「いってぇ!お前もうちょい優しくやれよ!」

 

「煩い、黙って治療されてなさい。あんたの腕、ヒビ入ってるみたいだし、ね!」

 

「痛えっつってんだろ!」

 

 ディオラとの一戦後俺はすぐに気を失ったらしい。まぁ1時間程度で起きたけど。俺の体はボロボロで骨も何本か折れてると思ってたけどなんとかヒビで済んだ。出血量もなかなかだったけどよく鼻血出すし、それでいて貧血起こったことないし意外と普通だった。俺が起きた直後は魔理沙以外泣き崩れていた。死んだかと思ったらしい。まぁそれはそれとして霊夢よ、もうちょい包帯を緩くしてくれ超痛い折れちゃうから。

 

「つーかレミリアとディオラは?さっきまでここにいたろ?」

 

「あれ見なさいよ」

 

 霊夢の指差す方向を見ると4人で抱き合っていた。なんか金髪の女の子増えてるし何あれ?実は妹がいましたーとか言う感じ?だとしたら知らないにいちゃん達が来てごめんなさい。つーか十六夜、お前はなんでカメラ構えてんだ。鼻血出てるし。

 

「レミリアァァァ!」

 

「お父様ぁぁぁ!!えぇぇぇん!!」

 

「「よかった……本当に良かった……」」

 

「お嬢様が……泣いて……シャッターチャンスですね!」

 

「いつの間に家族集合してんだ。8時にゃまだ早いだろ」

 

「あと30分よ」

 

 そんなツッコミは求めてないが……まぁでも家族全員が仲良くなって良かった良かった。実のところを言うと俺は不安を抱いていた。もし、俺がディオラと対峙せず、家出を成功させていたらどうなるのだろうか、と。十中八九警察沙汰になって家族内で分裂が起きるだろうと思っていたからだ。時期当主に完璧を求める父と、何も言わなかった母。そして、出たくても出られず、自分の運命だと気持ちを押し殺していたレミリア。不安も不満も爆発してもおかしく無い状況で娘が拉致られたら果たして探すのか?将又、先ほど存在を知った妹に押し付けたのかそれはわからない。わからないが理想を押し付けて、目的を達成させようとも恐らくレミリアの二の舞になっていた。だからこの結末は最善だったと思う。

 

「………嬉しそうね、あんた」

 

「まぁな。十六夜の依頼内容とは異なったけど、結果としてディオラとレミリアが分かり合い、ああやって抱き合うことができたんだから結果オーライだろ」

 

そう、と一言だけ呟き、またレミリアのある方向を向く。ほんと、良かったな、レミリア。

 

「そういや魔理沙と美鈴は?あいつらどこ行ったんだ?」

 

「あぁ、なんかむこうで話してるわよ。多分私達本来の目的の話ね」

 

抜け目ねぇなあいつ。つーかあいつ俺が起きた時泣いてなかったな。あれ?俺が泣きたくなって来た。そんな涙のない人間魔理沙は一体どう言う交渉術を使ってるのだろう。そんなことを思いながら見ていると少し落ち込んだ様子で戻って来た。まぁ察するよな、勧誘に失敗したな。

 

「おーい、美鈴は門番のこととかあるから無理だってよ……」

 

「「うん、なんとなく分かってた」」

 

 口を揃えて言うなー!と叫ぶ魔理沙。その声に反応を示したスカーレット御一家はこちらに歩いて来た。目を赤くしてこちらに来た。さっき見たときよりも穏やかな表情だと言うことはわかった。だが言わせてもらおう、ディオラ怖い超怖い。白い部分が充血して真っ赤だよ。真っ赤な誓いでも掲げるのかってくらい赤い。腹わたはぶちまけたくない。

 

「劉斗………大丈夫なの?」

 

 同じく目を赤くしているレミリアが心配そうな声で言った。まぁそれもそうだろう。かなりの出血量だったはずだからな。見た目は。でも見た目ほどの出血ではなかった。昔流した血の量に比べたらなんの問題もない。

 

「あぁ、もう腕の感覚もあるし視界もはっきりしてる。心配かけて悪かったな」

 

 俺はそばに寄っていたレミリアの頭を撫でた。こうするのが1番だと思ったからだ。あとは十六夜に謝んねぇとな。

 

「十六夜も悪かったな。作戦にない動きをして困惑させた。だから気にすんな。俺のこの怪我は俺自身の勝手な行動の証だ。十六夜が気に病むことはねぇ」

 

 だからと言ったのは十六夜が申し訳なさそうな顔をしたからだ。俺の勝手な行動であった傷なのにそんな顔されたんじゃなんつーか、寝覚めが悪い。

 

「勝手な行動に関しては許しません。いきなり返事が返ってこなくて心配したんです。その罪は重いです」

 

 ぐうの音も出ない。いや、心配をかけたのは事実っぽいしそれに関しては申し訳なく思ってるけどそこまで言われるか普通。こういう時って大体一発張られるんだよな。覚悟を決めるか。そんな覚悟を決めると十六夜から予想だにしない言葉が飛び込んで来た。

 

「ですからその罪は………私を名前で呼ぶことで手を打ちましょう」

 

「………は?」

 

 謎すぎて理解が追いつかない。え?名前?俺ちゃんと「十六夜」って呼んでるよな?こいつの真意がわからん。

 

「俺ちゃんと呼んでるよな?十六夜って」

 

「馬鹿ですか?」

 

 貶された。いや、マジでわからん。あと俺の学力は中の上だ。そこまで馬鹿じゃねぇ。馬鹿なのは魔理沙だけで十分だ。真意を問いただしてみるか。

 

「ですから!私のことを毎度毎度「十六夜」と呼ぶのを「咲夜」に変えてくださいって言ってるんです!」

 

 どうやら十六夜………咲夜は苗字で呼ばれることに慣れていないらしい。なんかあたふたしながら言ってたがそこはどうでもいい。つーかそんなことは最初に言えよ。あと……。

 

「なんでレミリアは唖然してんだ?」

 

「だ、だって……あの咲夜が男性に対して自ら名前で呼んでなんて言ったことなかったんだもの……」

 

 そりゃあ毎日のようにお前に付いてりゃそんな機会すらねぇだろうからな。まぁこれ言ったらレミリアが自分を責めそうだから言わないけど。

 

「ライバルの出現だな、霊夢」

 

「な、何言ってんのよバカ魔理沙!」

 

「え、そうなんですか霊夢さん」

 

「うっさい!」

 

 なんか横で騒いでるけどなんのことかわからん。リュウト、ウソツカナイ。一頻り話を終えたところで気になることを聞いてみる。

 

「ところでそこの金髪の子は……レミリアの妹か?」

 

 俺はディオラの後ろに隠れている金髪のサイドテールの女の子に指をさした。それに気づいたのかこちらにテトテトと走って来た。

 

「ええ、この子は……」

 

「フランドール・スカーレットだよ!よろしくね、お兄様!」

 

 ………は?今此奴なんて言った?お兄様(・・・)っつったか?……あぁ、あれだな。お姉様ことレミリア・スカーレットの他にも兄妹がいるって事ね。だから決して俺に向けられた言葉ではないことを願うそうに違いない。だがまぁ一応確認しておこう。

 

「なぁ、お兄様って誰の事だ」

 

「そんなの目の前にいるあなたしかいないよ?あ、お義兄様(・・・・)の方がよかった?」

 

「ちょっとフラン!?」

 

 はい、どうやら俺がお兄様だったようだ。いや、ふざけんなよ?お兄様だろうがお義兄様だろうが俺はそんなもんになるつもりはない。流石です、お兄様とかは言われてみたいかもしれないが別に妹属性は興味ない。

 

「……ふぅ。いいか、俺には武御劉斗って名前があるんだ。だから俺の事は劉斗ってよべ」

 

「………うん!よろしくねリュート!」

 

 満面の笑みで俺の名前を呼ぶ金髪ロリっ娘。ちょっと発音が違う気もするがまぁいいや。別にボッスン(・   )ほど拘りがあるわけでは無いしな。おっと、アクセントを間違えてしまった。

 

「それで、なんでレミリアは顔赤くしてんだよ……」

 

「え!!?あ、いや、別に赤くなんてしてないわ!だってフランがお義兄様ってそれってつまり……

 

 なんか最後のあたりがごにょごにょしてて聞こえなかった。なんだろう、何のことだろう。再度聞こうとしたがオーバーヒートしていて会話にならなかった。顔がスカーレットだな。もうガンメン・スカーレットでいいな。

 

「劉斗、ちょっといいかな?」

 

 ガンメ……レミリアの後ろからディオラが声をかけてきた。なんことかわからんが思い当たることを言っておこう。

 

「ディオラ……さん。なんすか?まだ痛めつけたりないとかっすか?」

 

「そんなわけあるか!私はただ、君にお礼をと思ってな」

 

 予想外すぎる言葉が聞こえてきた。お礼とかそんなわけあるか!だって俺あんたと戦って娘を連れ去ろうとした男だぞ。そんな男にお礼とかどMなのかな?違うか、違うな。

 

「君には恩が出来た、と言っているのだよ。君がレミィを連れ出さなければ私はこの子に向き合おうとも思はなかったし、本音も分からず終いだったからな」

 

 ディオラは一呼吸置いて言葉をつづけた。

 

「感謝するぞ、武御劉斗」

 

 俺はこれほど清々しいお礼を見たのは、聞いたのは久しぶりだ。それこそ小学生以来だ。霊夢の母ちゃんからの……だったかな?大人のお礼というものは何とも綺麗で、威厳にあふれているのだろう。多分今の俺は照れてるんだろうな。少し顔が熱い。でも、俺は所詮敗者であり、和解の仲介人に過ぎない。お礼なんて、俺にはもったいない。

 

「俺は別になんもしてねぇっすよ。ただ、レミリアの背を押しただけで。結局俺はあんたに負けてるし、レミリア泣かせてるし。だから礼なんていらねぇっすよ」

 

 俺の言葉を聞くと「そうか……」と一言だけ言った。レミリアの母親は微笑むだけで何も言わなかった。いや、言わなくても伝わってるから別にいいんだけど。さて、これで依頼は終わりだ。本題に入ろう。

 

「レミリアと咲夜に不躾ではあるんだけど俺からの願いをきいてくれないか?」

 

「……?何?」

 

 何を聞かれるのかわくわくしないのレミリア。……おい咲夜、そのガードはなんだ。別にいやらしいお願いなんてしねぇよ失礼な。べ、別にひざ裏舐めたいとかヘソ舐めたいとか変態紳士的なことしないから。

 

「お前らには俺達の部活、[学園生活支援部]に入部してほしいってのが俺からの願いなんだけど……ダメか?」

 

「「……なんだそんなことだったのね(んですか?)」」

 

言われると思った。思ったけどあえて言った。だって本来の目的は恩を売って入部してもらう事だったし。まぁこれを魔理沙と霊夢に言うと「人聞きが悪い(ぜ)!!」って言われるから言わないけど事情だけは説明しねぇとな。俺達の部活の事、期限以内に六人集めなきゃいけない事そのすべてを説明した。

 

「分かったわ。それでお礼が出来るのなら入るわ、その[学園生活支援部」に。ね、咲夜」

 

「ええ、もちろんです。仮にもしいやらしいお願いだったのならナイフを刺してましたけど」

 

了承してくれたのはいいけどさらっと恐ろしい事言わんでください夢想封印撃つぞ、霊夢が。若しくは俺のダイナマイトパンチが火を噴くところだ。あ、腕にヒビ入ってるんだった。利き腕死んでるとか勘弁してくれよ。毎日牛乳飲まなきゃいけないじゃんめんどくせぇ。

 

「つーか咲夜。お前メイド長だろ?その時間を割いても大丈夫なのか?」

 

「ええ、私がつかえているのはレミリアお嬢様なのでたとえメイド長であっても離れることはできます。ですよね、旦那様?」

 

 目が怖い。YESと言えって目で訴えてる。

 

「問題はなかろう。というか私が許す」

 

 超ゆるかった。すぐにYESっつったぞ。ほんと、その機転を娘に利かせろよ。とはいえ、四人目と五人目がそろった。あと一人で規定六人はそろう。あと一歩で目的を果たして、正式に部活として認められる。……また波乱が起きませんように。

 

 

 

 

 

 




はい、次回も不定期になりますのでFGOでもやって気長にお待ちください。


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8話 : 戻った日常と新たな物語

もうやだ、試験勉強なんてやりたくない……。そんな感じで書き上げましたw


 あの騒がしく、そして痛みを伴った依頼は無事終わった。一気に二人も入部してくれて本当にラッキーだった。今ならラッキービーム撃てそうだわ。いや、むしろ逆か?まぁそんなことはいい。本当に今はどうでもいい。なぜなら……。

 

 「おはよう(ございます)、劉斗」

 

 「お、おう……」

 

 全クラスメートから注目を集めまくっていて落ち着かないからである。というのもただ、レミリアと咲夜が俺に真っ先にあいさつに来たからである。あのレミリアが、交流を拒みまくったレミリアが、クラス一の不良品たる俺にあいさつに来たのだ。そりゃ注目を浴びる訳だ。

 

 「なんであいつが……」

 

 「羨ましすぎるだろうが……」

 

 「目が腐ってる分際で」

 

 どうしようか、間違ってないから否定も出来ん。かと言って反応もしたくねぇ。ほんと、どうしようか。

 

 「どうかしましたか劉斗?何やら困った顔をなされているようですけど」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。余計な心配をさせるとあれだから適当にごまかした。咲夜の目線が俺の顔から右腕にいった途端申し訳なさそうな顔をした。医者に診せたところ本当にヒビが入ってたらしく、無理なことさえしなければ全治一ヶ月らしい。一昨日のあの事件の依頼者は咲夜だし仕方ないと言えば仕方ないんだけど勝手に動いて怪我したのは俺だし引きずらないでもらいたい。あと俺の回復力は相変わらず高いようでホッとしたぜ。

 

 「よっすレミリア、咲夜!今日も仲良いなお前ら!」

 

 「うるさいわよ魔理沙。寝起きなんだから頭に響くじゃない」

 

 沈んだ空気を消し飛ばすように現れた魔理沙とこめかみを抑え、寝起きだという霊夢。魔理沙がうるさいのはいつもの事だし鬱陶しい事だが今回ばかりは助かった。あと霊夢は寝起きの俺を引っ張ってきただろうが。丁度四十分まえにな。

 

 『いい加減言起きなさい……』

 

 『あと五ふ……』ズルズル……

 

 ……あの時はお蔭でズボンがずり落ちて魔理沙にぶっとばされて目が覚めたわ。超理不尽だったけどな。まぁ何はともあれ笑顔でレミリアたちが登校してきたので許してやろう。感謝しろ魔理沙。心の中で一人語りをしているところでチャイムが鳴った。よし、これでひとまずは騒ぎは鎮まる。さぁ早く入ってこい紫さん!

 

 「はーい、みんな席について……ってちょっと劉斗!?どうしたのその腕!!また喧嘩!?ど、どどどどうしましょう!!?病院は!?」ギャーギャーワーワー

 

 はい、裏切ってきた♪ほんと、この騒ぎをだれか止めてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             ~~~~~~放課後~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のHRが終わってからというもの俺はどうやら「レミリアを脅す変態」になったらしい。俺の怪我の原因がレミリアにあるという思考に至ったやつらがそれを餌にレミリアを脅しているという噂を休み時間の間に流しやがったからである。まぁ下位カーストに存在する俺からしてみればものすごくどうでもいい称号である……と昔の俺ならそういうだろう。生憎今はそういうわけにもいかん。そんな鬼畜野郎のいる学園生活支援部に依頼なんて来るだろうか?いいや、絶対こない。あと二日程度しかないというのにまったく、とんだ迷惑を被ったものだ。まぁ汚名返上は依頼解決で返すとしよう。と、いうわけで憩いの場である部室へ行くとしよう。

 

 「待ちなさい劉斗。その腕の事、まだ聞いてないわ」

 

 なんて気持ちを踏みにじったのは背後にいた紫さん。この人たまに暗殺者の如く気配消してくるから困る。いっそのこと十七代目ハサンにでもなってくださいよ。

 

 「そりゃ言ってませんからね。言う必要性もないかと思ったんで」

 

 事実要らないだろう。この人は俺の親でもなければ仮の親でもない。ただ俺の母親の親友というだけだ。それ以上でも以下でもない。俺は独りだし監督する人も家にはいない。ある意味この人が監督者かもしれないが俺には関係ない。昔の俺を見つけ出せず、手も差し伸べられなかった人には関係ない。

 

 「じゃあ俺はこれで失礼します。事情やら何やらは……スカーレット邸へ行って聞いてきてくれ。まぁ、いざこざはもう晴れてるから意味があるか分からないけど少なくとも紫さんの知りたいことは分かりますよ」

 

 俺はそういってその場を後にした。紫さんがどう言う風に捉えたか分からないが少なくとも俺は最低限の礼儀としての情報はあげた。これでいい、こう言えばあまり深入りもせず、必要な情報は与えられる。…………負担は、かけられないからな。

 

 「だからお願い!私に力を貸して魔理沙!」

 

 部室より約20mの所で女生徒らしき声が聞こえた。方向と魔理沙という名前からして十中八九部室からの声だろう。やれやれ、どうやら依頼が舞い込んできたらしいな。魔理沙の友達、サンキュー。

 

 「悪りぃなお前ら、遅れた。ちょっと紫さんに捕まっちまって……」

 

 「「「「あ………」」」」

 

 俺が入った途端に女子部員四人全員がおかしな反応を示した。なるほど、俺が入ってはいけない感じだったのか。理由は分からない。分からないが空気がそう言ってる。超絶いやな予感がする。特にそこにいるブロンドヘアーのやつから。

 

 「お、お、おおおお……」

 

 「ん?」

 

 「男ぉぉぉ!!?」

 

 「ぐぼぁ!?」

 

 見知らぬ女の子から理不尽にもぶん殴られ、そこで視界が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 「……ひっでぇ目にあった」

 

 目を覚ますと真っ白な天井と頭に柔らかな感覚があった。どうやら俺は気絶していたらしい。あのブロンドめ、次会った時はただじゃおかんぶっとばしてやる。腕折れてるけどまぁ片手で勝てる。さて、そろそろ起きて事情をもろもろ説明してもらおうじゃあないか。

 

 「あ……」

 

 「………なんでいやがる」

 

 起き上がって机のある方を向いたら先ほど片腕がつかえないけが人を問答無用でぶっとばした奴がいた。しかも一人で。おい魔理沙なんでコイツと二人きりの空間を作ったんだ。またぶっ飛ばされんだろうが。奴にはあとで怪談話をしてやろう。題して「夜中にトイレへ行けなくなるの怪」。

 

 「あ、あの……」

 

 「あぁ?」

 

 何かを話そうとした奴相手には向けないであろう程の低い声が出た。そのお蔭で下を向いて超小さな声で「ごめんなさい」と聞こえた。何に対してのごめんなさいなのかは分からんが謝れる子だと分かっただけで良しとしよう。魔理沙も霊夢も謝らないからな。清々しいほどに。

 

 「………」

 

 「………」

 

 完全に黙ってしまった。しまったこれはさすがに話が進まないから逆に困ったぞ。困った上に空気が重くなったから超気まずい。誰か、誰でもいいからPlease help me。

 

 「さ、さっきは……ごめんなさい」

 

 ようやく本当にようやく口を開いた。時間にして10分。よくここまで耐えたな俺。自分で自分を褒め称えたい。ものすごく虚しいがな。

 

 「別にいい。理由は何となく分かったから」

 

 そう、俺は分かっていた。この女の子が何故俺を出会い頭に殴ってきたのか。恐らく彼女は男性恐怖症か何かだろう。そこまでいかなくても苦手意識を持っているか何かだ。アイツら四人が俺が入ってきたときの反応と彼女の開口一番に放った「男」という言葉。それだけで何となく察しはつく。納得はいかないがな。まだ顎痛いし。正直世界を狙える見事なアッパーカットだった。一歩のガゼルパンチ並みの威力はあったんじゃないかと思う。下手したらデンプシーロール打ってきそうなレベル。

 

 「え、分かったって一体……」

 

 「あんた、男性相手に苦手意識を持ってんだろ。+αで人見知りってとこか。ここに来た理由もそれ関連のことだろ」

 

 俺の推理が図星だったようでかなり驚いている。まぁそりゃそうだ。彼女でなくとも驚く。魔理沙なら「お前ストーカーか?キモいぞ」って言ってくる。自己分析でさえこんなことを言われる俺に涙そうそう。

 

 「よし、これで事なきを得たな!劉斗、お疲れだぜ!」

 

 ドアをガラッとあけたのは魔理沙。コイツ……。

 

 「事なきを得るなんて言葉よく知ってたな。馬鹿のくせに」

 

 「なんだと!お前は私を馬鹿にし過ぎだぜ!」

 

 プンすかおこる魔理沙。なんかちょっとかわいい気もするが口にはしない。コイツは馬鹿だからすぐにつけあがる。

 

 「仕方ないでしょ。あんた馬鹿なんだから」

 

 ぞろぞろと帰ってくる部員たち。こいつら……さては覗いてやがったな。幾らなんでもタイミングが良すぎる。よし、こいつらにも「夜中にトイレへ行けなくなるの怪」を聞かせてやろう。まぁ霊夢は巫女だしそういうの慣れてるからリアルな話をしてやろう。

 

 「落ち着いてください魔理沙。本題はここからなんでしょう?あ、劉斗、紅茶です」

 

 いつの間にか紅茶を用意していた咲夜。わりと本気で思う。この部室で一番まともなのはコイツだ。成績優秀で容姿端麗、運動も出来て気も効く。完璧すぎて本来下位カーストにいる俺には高嶺の花の存在。まぁお嬢様への忠誠心が強すぎるのが難点だがそこは目を背けよう。人間、変なとこの一つや二つあっても問題なし。咲夜への報復は止めてあげよう。

 

 俺は咲夜に礼を言って紅茶を一口貰った。というかいつの間に茶道具セット持ってきたんだ。あ、今日か。

 

 「ほんで、本題ってのはなんだ。男性恐怖症の改善じゃないのか?」

 

 「いいえ、残念ながらそうじゃないのよ。実は……」

 

 霊夢の説明を聞く限りじゃ彼女、アリス・マーガトロイドは極度の人見知りらしい。同性相手ならまぁ何とか話せるらしいのだが異性が相手になると口より手が出てしまうらしい。非常にはた迷惑である。そんな事もあるのにもかかわらずアリス・マーガトロイドは幼稚園児相手に人形劇をするなどという暴挙とも思える行動に出ようとしているというのだ。あえて言おう。馬鹿じゃねぇの?コイツの性格も相まって上手く出来ないという結論に至り、ここにお手伝いの依頼をしてきたらしい。

 

 「お前人見知りのくせになんでそんなことを?」

 

 「それは……」

 

 「あぁ、それはあれよ。慧音先生からの依頼よ」

 

 ……今此奴なんて言った?霊夢の口から慧音先生(・・・・)っつったか?おい待てあの人は……。

 

 「どうしたの劉斗?急に頭なんかおさえて……」

 

 「だってあの人ガキ相手に平気で頭突きかましてくんだぞ!ありゃ一種のトラウマだわ!」

 

 俺が世話になった[白沢幼稚園]園長兼先生の上白沢慧音先生。いつも大人しく凛としているのだが如何せん手が早い。悪いことした奴(主に俺)にはお仕置きとして脳天カチ割れ一歩手前の頭突きをかましてくる。そのせいで出来たたんこぶの数は数知れない。多分一番最後に頭突きを食らったのは魔理沙と霊夢の喧嘩を止めるために二人を泣かしたときだっただろうか?

 

 『止めろとは言ったが誰が泣かせろって言った!!!』

 

 今思い返せば鬼畜極まりない先生だったな。俺達の後輩は食らったのだろうか……できれば食らわないでほしい。マジでヤバいから

 

 「それはあんたが馬鹿やってたからでしょ。慧音先生は悪くないわよ」

 

 「そうだぜ!お前が私らを泣かせたりするからだバーカバーカ!」

 

 「いや!魔理沙も食らったことあるだろうが!」

 

 「そうだっけか?もう忘れちまったぜ!」

 

 どうやら魔理沙の頭は鳥頭の為忘れてしまったようだ。もういい、諦めるわ。それにしても幼稚園で人形劇……ねぇ。人形……人形……ん?コイツもしかして。

 

 「アリス、お前もしかして幻想小出身?」

 

 「え、そうだけど……」

 

 思い出した。コイツ教室の隅っこで人形で遊んでたやつだ。性格は魔理沙と真反対だったくせに仲が良かったあの少女か。そういえば小学校で話題になってたな。なんか人形作りの天才がいるってのと同時に男子が怪我しまくったって言う話。そうか、あれの犯人はコイツか。

 

 「ついでに言うと幼稚園も同じよ」

 

 それは知らなかった。というか実際いうと興味もない。だって俺からしてみれば全く関わりなかったし関心もなかったからな。

 

 「んでこの依頼受けるのか?部長?」

 

 一応確認をとる。だが俺としてはぜひともやめていただきたい。やってもいいけど俺はフェードアウトしたい。

 

 「当たり前だぜ!もちろん全員参加だぜ劉斗」

 

 ちっ!心を読まれた!この野郎、活き活きとした顔しやがって。どうやらこいつには「夜中トイレへ行けなくなるの怪」よりも「夜眠れなくなるの怪」のほうがいいようだな。そうだな、実際にあった一家惨殺事件をしてやる。それも事細かにな!

 

 

 

 

 

 




不定期投稿ですがまぁ、気長に待っててください


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9話 : 昔を思うのは今じゃない

お待たせしました(?)。とか言っておきながら「東方新記伝」のほうに着手するので少しこちらはお休みです。申し訳ありません


 あと二日。この数字は学園生活支援部(仮)のデッドラインである。今日明日で結果を出さねばならないというこの状況で俺の幼馴染ときたら……。

 

 「お、おはようだぜ……」

 

 「お、おう、隈がくっきりだな魔理沙。何かあったのか」

 

 「お前のせいだろうが!!!お前が珍しく夜中に電話してきたと思ったらあんな事件の話しやがって!」

 

 そう、俺のせい。俺が魔理沙にどっかの一家惨殺事件の詳細を事細かに説明した結果こうなったのである。いや、途中で切ってくれてもよかったんだけどこいつが律儀にも切らないでいたからついつい話してしまったのだ。いうなれば自業自得。俺のせいではない。そう主張したい。因みに霊夢にも話したが「へ~」だと「ふ~ん」だのしか返ってこなかった。レミリアにはてけてけの話をしてやった。多分アイツも隈だらけだな。

 

 「まぁそんな事言わずに。学校行こうぜ。今日はたまたま俺も早起きしたんだしとっとと行かないと勿体ねぇし」

 

 「お前サボるだろうが……」

 

 そんなのは知らん。行くことに意義がある。というわけで俺は魔理沙といつものように登校するのだった。え?霊夢?あいつは何故か先に行くって言ってたからそのまま放置した。

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 教室というのは居心地が非常に悪い。今までの俺なら速攻でイヤホンをつけて自分一人の世界へ逃げ込んでいたとこだろう。その点で言えば教室の居心地は良かった。だが今は違う。天と地ほどの差がある。なぜなら……。

 

 【クソ野郎】【女たぶらかし】【社会のごみ】

 

 俺の机に落書きがあったからである。うむ、こんなものがあったらそりゃ居心地もクソもなくなるわ。犯人は分からないが理由は分かる。恐らく昨日のレミリアと咲夜の件だろう。どうやら本気で嫉妬の対象にされてしまったらしい。まぁ別にこんなことで怒りはしないし机拭けばいいだけの話だし。そういや前にもこんなことがあったな。俺でなく俺の知り合いがだが。まぁそこはいい。今は目の前の事をどうにかしなきゃだな。いや、机でなく。

 

 「誰がこんな真似を……劉斗は悪いことしてねぇのに……!」

 

 目の前にいる魔理沙をどうにかしきゃならん。こいつは情に厚いが厚すぎて周りが見えなくなることがある。早い話いい人すぎるのだ。自分に親しい人がこんな目に合えば真っ先に察知してどうにかこうにか解決しようとする。そのお蔭でよく事件に巻き込まれるんだがな。まぁあれだ。魔理沙の怒りを収めるには机そのものをぶっ壊せば済む話だから……。

 

 「はいどーん」

 

 多少の衝撃は被るが折れていない左腕で机を砕いた。周りは勿論何やってんのコイツみたいな驚いた顔をしたがそんなことはどうでもいい。破片も飛び散ったけどどうでもいい。俺の左拳が多少痛むがどうでもいい。今は魔理沙の怒りを鎮めるのが先決。こうして実物そのものを壊してしまえば後は俺が弁償するだけでいい。後は俺が気にしていない態度をとればそれで万事解決。

 

 「魔理沙、俺は気にしてねぇしここには何もなかった。いいな?紫さんには俺から報告しておくから」

 

 「な!で、でもお前はそれで……」

 

 いいんだ、と一言いれて俺は教室を後にした。実際気にはしてない。落書き程度の可愛いものは気に留めるようなものではない。だが魔理沙が悲しい顔をするとこは見たくない。ならば俺が普通にしていればいい。それでいい。そう思っている。だがそうもいかなかった。後ろから、俺の教室から怒号が聞こえたからである。魔理沙……いや、もう一人いるな。明らかに女子の声。……戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 「誰だこんなことやった奴は!落書きなんてやりやがって!謂れのない事書きやがって!」

 

 こんなにキレたのは久しぶりだ。劉斗の机は今や無残に砕かれ、見る影もないが落書きの断片は見える。私の目に入ってきたのは【社会のごみ】という文字の断片。なんで劉斗がそんな事言われなきゃいけないんだ。あいつはレミリアを助けただけなのに。咲夜からの依頼を受けてレミリアを助けて友達になっただけなのに。それなのになんでこんな……。頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。自分でも何を言っているのか理解が出来ない。頭でなく感情で叫んでいる感じだ。でも、その感覚ももう一人の声で吹き飛んだ。

 

 「何よ……これ。なんで劉斗の机が砕かれてるの……なんでそこに【社会のごみ】なんて文字があるの……?………誰よ、誰がこんなこと書いたのよ!」

 

 たった今登校したであろうレミリアがそこにはいた。机の破片、文字、それだけですべてを理解し、怒りを顕わにしているようだった。自分の事の様に。

 

 「正体を現しなさい!誰!?こんなことしたのは!」

 

 レミリアの怒号は怒りそのもの。誰にも止められない。あの咲夜でさえ驚いている。恐らく見たことがなかったのだろう。ここまでに怒ったレミリアを。それの証拠に咲夜は一歩も動けていない。レミリアのお蔭で今私は冷静を取り戻せたがこのままではダメだ。誰かが止めないと多分レミリアは……犯人を殺しかねない。

 

 「あーあ、ほんと誰だろうね。こんなガキじみたことやった奴は。精神年齢7歳なんだろうなぁ。ほんと馬鹿だよな。こんなことで張本人を怒らせ、あわてさせ、楽しもうとしてるやつは」

 

 後ろから声がした。さっき出て言った声だ。まさか……。

 

 「まったく、俺がうぜぇんなら直接言えばいいのに。まぁそんな度胸もないチキン野郎なんだろうな。頭も性格も」

 

 そこには劉斗がいた。いつもの仏頂面で、興味のなさそうな顔で。なんだよ、これじゃあ怒った私たちが馬鹿みたいじゃないか。そんななんにも気にしてないような顔されたら……。そんな感情など知らない劉斗はレミリアの元へと歩いて行き、事もあろうか頭をなで始めた。おい、おいおいおいおい!そんなことしたらさらにエスカレートするだろうが!何考えてんだアイツ!

 

 「レミリア、俺は気にしてねぇしお前らがいるから大丈夫だ」

 

 「でも、こんなのひどいじゃない!」

 

 「それを砕いたのは俺だ。まぁ魔理沙もキレちまったし実物さえなくなりゃそれで済むと思った俺が愚かだった。お前らは優しいからな。俺のために怒ってくれてありがとな。そのせいで涙まで流させちまってんだからな」

 

 頭をなで、人差し指でレミリアの涙を掬い上げる劉斗。その表情は穏やかだった。それと同時に私は見逃さなかった。明らかに顔色を変えた奴らがいたことに。窓際の三人……あいつらか。

 

 「あー、お前ら。一つ言っとくぞ」

 

 私が犯人と思しき奴らのもとへ行くのを阻止するよう劉斗が言葉を発した。

 

 「別に俺の事をうぜぇだのなんだの言うのは構わねぇし思うのも自由だけどさ……こういうのもう止めてくんね?俺のレミリアが泣いちゃうから」

 

 ………今此奴なんて言った!?俺の!?何告白じみたことしてんだ!?空気読めよ!あとなんか胸が痛い!

 

 「てめぇいい加減にしろよ!!!!!」

 

 「はい釣れた♪」

 

 劉斗の言葉に我慢できなかったであろう奴が声を荒げた。うん、私が睨んだ奴らの一人だ。そうか、こいつらを釣るためにわざと……コイツ性格悪いな。

 

 「まったく、まさか三人同時につれるなんて思わなかったぞ。まぁ犯人も分かったことだしこれでお開きってことで。あー、んじゃあとよろしく」

 

 そう、声を荒げた奴のほかに二人が止めようとしたのがいた。コイツ、それを見越してわざと……いや待て、あとよろしく(・・・・・・)って誰に任せる気だ……?

 

 「そこの三人はあとで生徒指導室に来るように。あと、劉斗君は保健室へ行くように!」

 

 いつの間にか藍がそこにいた。それもかなりの般若顔で。そんなことしてると結婚できないぞ。

 

 「あと魔理沙は紫様のところへ行くように!今の事を報告へ行け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 事が済み、今は二限目。俺はそこそこ久しぶりに屋上でサボっていた。いや、しょうがねぇじゃん。机砕いちまったし。左手地味に痛いし。そういや保健の永琳先生からやべぇこと言われたな。

 

 『次やったら右に響いて完治するの遅れるわよ』

 

 今は無茶すんのやめよう。しかもあの後藍さんが我が子の様に大丈夫かどうか確認しに来たし。まぁ悪い気はしなかったがな。紫さんは……まぁ始末書があるとかで死んだ魚のような眼をしていた。ほんと、マジすんません紫さん。

 

 「……なんであんなことしたの?」

 

 「どぅわっ!?ってなんだ、レミリアか。おいおい、授業は?」

 

 「サボりよ」

 

 「ディオラのおっさんに怒られるだろうが、俺が」

 

 いつの間にか上ってきていたレミリアがそこにはいた。どうやら俺を糾弾しに来たらしい。まぁあんなこと言ったらそうなるよな。キモいもんな。あーあ嫌われた。

 

 「……単純にお前らを冷静にさせるためってのとあとは犯人を煽るため。レミリアにはわりぃことしたな」

 

 実際悪いとは思ってる。「俺の」なんてマジできもい、申し訳ない。

 

 「別にいいわ。わ、悪い気はしなかったもの」

 

 「そ、そうか」

 

 な、なんで照れてんだお前!そんでなんで照れてんだ俺!いや、悪い気はしなかったってのは正直嬉しいけど……急に恥ずかしくなってきた。

 

 「……ありがとね。止めてくれて」

 

 「!…………こちらこそあんがとよ。その、俺なんかのために怒ってくれて」

 

 「当たり前でしょ。私たちは友達なんだから」

 

 ……今日はまぁいい日だな。そう思いながら俺は目を瞑り、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「そんなことがあったのね。どうりであんたの机が無残に砕けてたわけだ」

 

 「まぁだが気にすんな。藍さんと紫さんがこってり絞ってくれてるみたいだから」

 

 時刻は4時ジャスト。放課後である。みんながこの時間まで地獄のような時間を送っていた時俺は夢の中だったがな、レミリアと一緒に。いやぁ、起きたときはマジビビった。クラスでも指折りの美少女が俺の隣で寝てんだもんよ。しかも腕枕状態だったってのが一番びっくり。え、なに?そんなフラグ建てたっけ俺?ってレベルで。レミリアは平常心だったし……まぁ気にしない事にしよう。今は依頼優先だしな。

 

 「それでなんで霊夢とアリスはそんなに人形を抱えてんだよ。なに?もしかしなくても俺も参加する感じ?俺そういうの苦手なんだけど……」

 

 霊夢はどうやら人形作りの手伝いをしていたらしい。朝方いなかったのはそのせいである。お前ら仲良いな…ってそうか、俺が憶えてなかったってだけであいつらはずっと一緒だったのか。まぁそれはどうでもいい。俺はこういった行事はそもそもとして苦手だ。なんかこう……無理。だから俺は脇役でお願いティーチャー!

 

 「え、あんた主役だけど?」

 

 ……は?what did you say?アンタシュヤクナンダケド?あぁ……マジですか?俺主役なん?待ってやめてほんとに止めろ。俺そういうの苦手だって霊夢知ってたよね?だからそんなやってやったぜみたいな顔すんな確信犯。お前は俺を助けてくれると思ってたのに裏切りやがってこの守銭奴が。

 

 「待て、俺は脇役が……」

 

 「人形劇のテーマは白雪姫よ」

 

 「は?俺に姫様やれってのか?冗談だろ?」

 

 コイツ馬鹿だろ。白雪姫の主役は姫様だろうが。こんな野太い姫様に目覚めのキスさせられる王子様マジ可哀想だわ。もうお笑いの域だぞ。

 

 「馬鹿ねぇ。あんたがやるのは王子様役よ。白雪姫はアリス」

 

 コイツ馬鹿ねぇというような冷たい視線を送る霊夢。怖い怖い、怖いからその眼をやめろ。その眼だけで石化しちまう。

 

 「でもそれでいいのかしら?ありきたりすぎない?」

 

 レミリアから意見が出た。レミリア的には少しアレンジを入れようと思ったらしい。まぁありっちゃありだけど……期限的にはアウト。明日が発表で、明日が期限切れの日だ。そんな余裕はない。

 

 「そんな余裕はないわ。明日が本番で、明日が期限一杯なんだもの。もう時間もないし猶予もない。それに白雪姫ならセリフも簡単に覚えられるし人形劇としてもアリスの人見知り直しにも十分よ」

 

 「まぁそういうこった!んじゃあ付け焼刃だろうがなんだろうが必ず明日成功させるぞ!」

 

 魔理沙の掛け声とともに「おー!!」と掛け声をかけた。ここから始まる人形劇の練習。部室を出て、校門を越え、住宅街へ出た。……待て、この方向は見覚えがあるぞ。というか見覚えしかない。そう、俺んちである。

 

 「さぁ、着いたな」

 

 「着いたなじゃねぇよ。なんで俺んちだ。まさかとは思うが俺んちに泊まるとかじゃねぇよな」

 

 俺んちを勝手に練習場にされ、泊まられたら堪ったものではない。そこんとこは分かるよな魔理沙?

 

 「ん?泊まる気満々だが?」

 

 だそうだ。いやふざけんなよ。俺んち親いねぇぞ。お前ら女子だぞ。そんなとこに泊めてもらえるわけねぇだろ。

 

 「ちなみに全員了承は貰ってるから諦めろ劉斗」

 

 …………理性、持つかなぁ。

 

 

 

 

 

 

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 「ぬぅ……レミリア………よもやあの小僧の家へ行くなど…なぜ許したのだ!」

 

 「だってこんなこと初めてでしょう?行かせてあげたいじゃない?それに……」

 

 「なんだ?」

 

 「孫の顔が拝めるかもしれないじゃない♪」

 

 「やはり認めんぞぉぉぉォォォォォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

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 「!?」

 

 「ど、どうしたのよ急に」

 

 「いや、なんか悪寒が……」

 

 風邪でも引いたのかと思ったがそういう感じではない。誰かに噂をされたような、殺気を感じ取ったような、そんな感じだ。まぁもう夜だし、寒いからしょうがないか。

 

 「もうすぐで出来ますからもう少しお待ちくださーい」

 

 厨房には咲夜とアリス、ソファーには俺とレミリアと霊夢(眠)、床には魔理沙(眠)がいる。先ほど予行演習をし、今は休憩中。咲夜とアリスがどうしてもというので厨房を任せることにした。アリスはともかく咲夜はメイド長だ。料理の腕前は料亭レベルだと聞く(レミリア談)。非常に楽しみである。俺は返事をしてまた向き直った。

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 暇である。いや、本当にやる事なさ過ぎて暇。レミリアなんてうつらうつらしてるし超眠そう。そのまま寝てろ。飯時になったら起こしてやるから。

 

 「……zzz」

 

 「本当に寝やがったよこいつ……肩重いけどまぁいいや……」

 

 と思ったらもう片方も重くなった。言うまでもなく霊夢である。うん、よくないな。実によくない。重いとかじゃなくて俺の理性が。何かで気をそらさなくては………そういえばこんなこと前にもあった気がする。

 

 『…zzz』

 

 『…zzz』

 

 『ちょっ、おもっ……』

 

 『あー!!二人ともズルいですよ!私もそこで寝たいです!!!』

 

 『いや、重いだけなんだけど……ってちょっと待て!なんで前!?乗っかんな!!』

 

 『えへへ………』

 

 「ちょっと、劉斗。早く起きてください。ご飯出来ましたよ」

 

 「……んあ?咲夜?って寝てたのか………わりぃな、すぐ行く」

 

 どうやらいつの間にか寝ていたらしい。何やら懐かしい物を見た気がするが……思い出せん。なんだろうか、まぁいいや。夢なんてそんなもんだろ。頭にあるもやもやを振り払ってダイニングテーブルに向かった。

 

 「どんな夢だったのでしょうか。すごく、楽しそうにしていましたが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯も食い終わり、今は女子陣が風呂にいる。そして俺は自室に向かっている。ふっ、俺レベルになると先読みしてラッキースケベに掛かりにはいかん。自分の部屋こそは安置であり何をしていても文句は言われない謂わば私のワールド、THE WORLD(ザ・ワールド)である!さぁ!思いっきり扉を開けようではないか!!!!

 

 「………え?」

 

 「………なんでいるんすか?アリスさん?」

 

 自室には何故か半裸状態のアリスさんがいた。そこ俺の部屋っすなんで半裸状態でいるんすか誘ってるんすかだとしたら俺は……襲うわけねぇだろ!!!あっっっっっっっぶねぇ!!!!何とか保った俺の理性。そこで俺は一言謝罪を入れて勢いよくドアを閉めた。しばらくするとどうぞ、と声がかかったので入った。そこには顔を真っ赤にしたアリスがいた。それも恨めしそうに。まって不可抗力だろ。つーかここ俺の部屋………。

 

 「…………なんで俺の部屋にいたんだ?お前あいつらと風呂行ったんじゃなかったのか?」

 

 「いえ………実は私、先に入ってて早めに出たんです。それで………」

 

 どうやら早めに風呂に入ってあいつらが入ってきた時に出て、服を物色していたらしい。魔理沙が俺の部屋に連れて行って。あの野郎面倒臭い事態にさせやがって。つーかなんであいつ俺の服の位置知ってんだよ怖えよ。

 

 「……………………」

 

 「……………………」

 

 気まずいにも程がある。あんな豊満ボディ見た後で話なんて出来るわけがない。考えろ、意識を逸らすんだ。煩悩退散させよう。

 

 「あの………少しいい?」

 

 「え、あぁ。なんだ」

 

 煩悩退散を試みている俺に追い打ちをかけるように話しかけるアリス。声のトーンからしてまぁ緊張してるのは分かった。

 

 「武御君は……」

 

 「劉斗でいい」

 

 「………劉斗君は確か小学生の時すごく明るかった記憶があったんだけど……中学校からいなくなってて……今会えたけど、その………」

 

話が見えてきた。どうやらこいつは俺自身の変化に驚いているのだろう。小学生の時は魔理沙と一緒にバカやってたから明るいと言うイメージが付いていたのだろう。しかし今はどうだろう?明るいとは言えない。あの頃より明らかに暗い。人と関わらず、適当にあしらっている。そこに違和感を覚えたのだろう。あの事件を知ってるのは八雲家と博麗家、霧雨家、道具屋の霖兄、その他数名だけだ。だから、アリスが俺の変化に驚いても致し方ない。あの事件と中学時代、この2つの影響でこうなったとしか言えん。まぁ説明することもねぇから察してほしいものだ。

 

 「俺のこういう性格は中学時代からだ。色々あった結果こうなったから気にすんな」

 

 俺の言葉に納得はしていなかった様子だった。だが察したのかこれ以上は聞いてこなかった。俺は少なくとも中学時代のことを話すつもりはない。今はまだ。いや、これからも話さないのだろうけど。今は、これでいい。今は……依頼の事だけに集中しなければならない。

 

 

 

 

 




次回をお楽しみに


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