転生レ級の鎮守府生活 (ストスト)
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1章 始まりの横須賀、波乱の内房
「始まり」


自分にとっては初めての連載作品です。
まだ初心者なので意見などをくださったら
僥倖です。
後、あとがきはふざけてますが質問などは
真剣に答えさせていただきます。



8月。太陽の光が最も暑くなり、

その暑さでこちらの頭の中が

オーバーヒートしてしまいそうな時期。

そんな時期に、俺はクズ兄貴にこき使われて

アイスを買いに行っていた。

 

「あ〜あんのクズ野郎……あれこれ注文つけて

きやがって……。おかげで三軒も回る羽目に

なっちまったじゃねーか……ったく」

 

そう俺はぶつくさと文句を言いながら左手で

スマホゲームの操作をしていた。

中身は「艦隊これくしょん」というゲーム。

「艦娘」という戦艦を擬人化したキャラを操作して

敵を倒すゲームだ。

一口に戦艦といっても駆逐艦や重巡洋艦などの

種類があり、それによって得意性能が違うので

バランスの良い編成を組む事も大事になる。

少し前に友人に勧められて始めたのだが、

とても面白いと感じて、ほぼ全ての海域

(ステージの事)を短期間でほぼ全てクリアして

しまった。ーーーーーーたった一つの海域、

「5ー5」ことサーモン海域を除いて。

イヤホンを通して艦娘の苦しそうな悲鳴が

聞こえた。

大破。戦闘が始まって僅か3、4ターンの間に、だ。

しかも、3人も。

俺は思わず舌打ちをして即座に「撤退」のボタンを

押す。

流石にこれ以上やると全てのメンバーが大破に

追い込まれる可能性が高い。

空母を2人組み込んだ編成だから、

どちらも大破にされたら大量の消費アイテムが

消し飛んでしまう。

それはどうしても避けたかった。

 

「S勝利取らせる気あんのか運営は……」

 

スクランブル交差点の青信号を待ちながら、

俺はイライラしていた。

5ー5にはチート性能の敵がいる。

戦艦レ級だ。

戦艦の癖に艦載機を持ち、しかもそれが

空母2人がかりでも互角に出来ない程強い。

そして戦艦として攻撃もするので尚更

質が悪い。

プレイヤー達からは容姿の可愛さと

その異常な強さから愛憎入り混じった

人気がある。

無論、俺は「憎」だけだが。

止めればいいじゃないか、と言われるが、

それ以外は全てクリアしているのだ。

その中に一つだけクリアしていないのが

あると非常に浮いて見える。

俺はそれが嫌なのだ。

ーーーーーーつまり簡単に言えば

「俺のプライドが許さねぇ‼︎」という事なのだが。

 

「あ〜クソッ……無性に腹たってきた……」

 

これではイカンとミュージックアプリを

起動して、音量最大で曲というよりは

BGMをガンガンと鳴らした。

よっぽど五月蝿かったらしく、

隣で信号を待っていたくたびれたおっさんが

「なにこいつうるせぇ」といった感じで

こちらを睨んだ。

 

じりじりと日光が肌を焼く。

ガンガンとイヤホンから音楽が

ビートを俺の中で刻む。

イライラは収まっていたが、代わりに

俺の頭の中はあの忌々しいエネミー(戦艦レ級)

対策についていっぱいだった。

だからなのだろう。

俺は唸りを上げて暴走し、こちらに

突っ込んでくるトラックに気づくことさえ

出来ていなかった。

 

「……ッツ⁉︎」

 

気づくことが出来たのはトラックが

俺の目の前に来た所で。

一歩や二歩では到底逃げられない事は

明白だった。

どうあがいても死。

その絶望の中、俺は立ち尽くした。

 

ゆっくりと迫るトラック。

一瞬の事だろうが、俺にとっては

永く感じられた。

頭の中を走馬灯が駆け抜けてゆく。

家族との思い出。

親友達の顔。

楽しかった出来事や苦しかった出来事。

それらが浮かんでは消えてゆく。

目の前が真っ白に染まっていき、

意識がなくなる刹那、俺は何故か、

あのレ級の事を考えていたーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー“今日未明、都内でトラックが

暴走し、***高校の生徒一人が

撥ねられました。

生徒は病院に搬送されましたが、

間も無く死亡が確認されました。

警察は、運転していた50代の男性を

現行犯で逮捕しました。

男性からは危険薬物の陽性反応が

検出されており、警察は余罪について

追求する模様です”ーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー波の音がする。

潮の香りが風に包まれて運ばれてくる。

 

「……う……」

 

ゆっくりと目を開けてみる。

雲ひとつない蒼い空が目の前に

広がり、日光が目を刺した。

 

「え……俺、は……確か……」

 

事故に遭って死んだはずなのに。

俺は生きていた。

……海のど真ん中に座り込んで。

 

「え……?ウェエエエエエエエ⁉︎

なんで⁉︎どうして⁉︎」

 

異常事態はこれだけでない。

何故か、声が高い。

それに、肌の色が白……否、

ひょっとしたら青に見えてしまいそうに

白い。

 

「……ま、さ、か……」

 

俺はカチカチと寒くもないのに

歯を鳴らしながら水面を鏡のように使って

顔を見た。

ーーーーーー何という事でしょう。

見慣れた自分の顔ではなく、

愛らしい少女の顔がそこに。

快活な印象を与える瞳。

透き通るような白い髪。

均整のとれた顔。

その顔は、動揺の色に包まれている。

 

「そん、な……」

 

その言葉に合わせて水面の少女の口も

合わせて動く。

もう疑いようがない。

胸元がはだけたレインコートを着て、

背中にリュックを背負ったこの姿は。

 

 

 

「俺……レ級になっちまったああああああああああああ‼︎」

 

大海原のど真ん中。

そこで、小さき少女の姿に

なってしまった青年の叫びが轟いた。




次はぼのたん出したい。
天龍も出したいし、電も出したい。
???「なに?ガチの編成出したいのに
出来ないだって?逆に考えるんだ。
“ガチの編成を出さなくてもいいじゃないか”と」
まぁ、なんとか工夫します。


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「立つのは難し生きるのは辛し」

前回のあらすじ
トラックに轢かれました→転生しました
な ぜ そ う な っ た


ありのまま今起きた事を話そう。

俺はトラックに轢かれて死んだと思っていたら

レ級の姿になっていた。

手品とかそんなチャチなもんじゃない。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。

と、そんな感じでしばらくの間

ポルナレフ(放心)状態に

俺は陥っていたがなんとか気を取り戻した。

 

「とりあえず、何処か適当な場所を探すか」

 

日差しも段々と暑くなっていく。

このままだと脱水症も有り得るだろう。

俺はよっこいしょと腰を上げて、

 

ーーーーーーバランスを崩して次の瞬間

頭から海面に突っ込んでいた。

 

「ブウウウウッ‼︎しょっぱッ‼︎ゲホッ、ウェッ!」

 

その拍子に海水を飲んでしまい強烈な塩辛さが

口の中を支配する。

 

「あー……死ぬかと思った。つーか、

海面の上に立つのってやっぱり難しいな」

 

かつて放送していたアニメでは艦娘達は

海面を滑るように移動していた。

無論敵である深海棲艦も同じように

移動していたが、そう簡単にできること

ではないらしい。

まぁ、そのアニメの主人公も最初は

転んでいたが。

 

「立てないのは流石に……まずいよな」

 

俺は海面の上に立つのを目標として、

しばらく頑張ってみた。

 

 

 

 

 

 

 

1時間後。

 

「なんとか立てた……」

 

あの後、俺は様々な方法を試して、

ある一つの方法で立つ事が出来た。

両足を若干内側に曲げて、両手を広げるやり方だ。

ただ、一つ問題があった。

ーーーーーーこの姿勢でバランスを崩すと

両足の間に尻を置く形、つまりは

「ぺたん座り」という非常に女の子らしい

姿を見せてしまう。

俺にとっては「晒す」といっても過言ではない

生き恥を見せてしまうのだ。

 

「次は移動だけ、ど……」

 

これは先程より早く習得出来た。

「動け動け」と念じるだけで前に滑ることが出来た。

……ゆっくりな上に件の姿勢のままだが。

 

「これで移動の心配はないな。

……フードだけ脱ぐか」

 

太陽はますます光を強くし、俺は既に

びっしょり汗をかいていた。

コートを脱ぐという手もあったが、

深海棲艦とはいえ異性だ。

異性の(しかもレ級はコートの下の

布面積がとても少ない)身体を見るのは

流石に気が引ける。

せめてフードだけ、と俺はフードを取った。

あれ、と俺はそのとき気づいた。

レ級としての俺の身体は、僅かだが差異が

あるのだ。

髪は、フードの中に隠れている可能性もあるが

セミロングぐらいの長さがあった。

足も、ゲームの絵だと奥行きがない

感じだが、ちゃんと容姿に見合った

長さだ。更に血色がない上に足首の所から

黒い紋様が走っている。

 

「そういえば、艤装って出せるかな?」

 

レ級の艤装といえばあの蛇みたいな尻尾だ。

尻尾の先に深海棲艦特有の意匠が施されたものだが、

今の俺には生えていない。

試しに呟いてみる。

 

「……出ろ」

 

そう言った刹那、まさに「瞬きする間に」、

あの尻尾の艤装も含め、腰のあたりに

三連装の主砲塔、二連装の副砲塔が出現した。

 

「わひゃあああ⁉︎」

 

驚くと同時に、艤装の重量でバランスが

崩れる。

あっと思う間もなく、俺は海面に

尻餅をついていた。

あの女の子らしい座り方で。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎」

 

顔が熱を持っていく。自分でも

顔が赤くなっていくのが分かった。

恥ずかしい……。

俺はそう思いながら艤装を戻して

立ち上がった。

 

そのときだった。

殺気のこもった視線がいくつも俺に

注がれていた事に気付いたのは。

おそるおそる、視線の方向に顔を向ける。

 

そこには女性がいた。

龍の角の如き頭部の艤装。

右目に付けられた眼帯。

そして手にしているのは艦首を模した刀。

背後には駆逐艦娘達がこちらに艤装を向けて

身構えている。

 

「電探に反応があるから来てみたら……

くそッ、ついてねーな全く」

 

勝気な口調で喋る女性。

間違いない。彼女は、

「天龍型軽巡洋艦一番艦:天龍」だ。

自分もゲームでは遠征組としていつもお世話に

なっていた。……いや、今はそういう事は

どうでもいい。一番の問題は、

 

「おまえら‼︎鎮守府に絶対こいつを

近付けさせるなよ‼︎死ぬ気でいくぜ‼︎」

 

「「「「「了解(なのです)(っぽい)‼︎」」」」」

 

俺を殺そうとしていることだ……。

てか、俺、また死ぬんかい⁉︎

 

 




主人公はウブです。割と本気で。
さて、2話目で再び命の危機を感じている
主人公。どうするんでしょうか?
レ級の身体なら勝ち確定なんですが。
ちなみに、駆逐艦娘達が了解と応答する
シーンですが、語尾でもう2人確定してます。
分かったならあなたはそれなりに
艦これマニアです。


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「どったんばったん大騒ぎ(嘘)」

遅筆のタグがあるのに一週間程度で3話
という矛盾。
あ、あと設定に関して聞きたい事があったら
どうぞ。答えられる範囲で答えます。


天龍達艦娘の一隊に遭遇した俺。

 

(どうする⁉︎相手は既に臨戦態勢に

入っているから、俺は……戦うべきか?)

 

そこで問題だ‼︎

この状況で俺はどうするべきか?

三択ーー、一つだけ選びなさい。

①・超天才なレ級は突如素晴らしい

アイデアを思いつく。

②・戦う。

③・とにかく謝る。

 

(①はないな……。②は)

 

とそこまで考えて俺は一瞬思考が

停止した。

天龍達の編隊の内、夕立と潮が

改二ーーーーーー、つまりは

軽巡や重巡に匹敵する程に強い状態

だったのだ。

特に夕立の攻撃なんて食らったら

オダブツになる可能性さえある。

という訳で②も除外。

 

答えーー③

現実は理不尽である。

 

(③しかないじゃねーか‼︎

しかも死ぬかもしれないし!

ちくしょー‼︎やけくそだ、

謝り続けてやる‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでレ級がこんな所にいるんだ?

あいつは5ー5(サーモン海域北方)にしか

いねーし、その海域だって深海棲艦は

根絶したはずだ。もう現れないと

思ってたのによ……」

 

天龍がレ級を睨みながら呟く。

 

「生き残り、ですかね?」

 

潮が天龍を見やりながら言う。

だが艤装はレ級に向けたままだ。

 

「可能性は高いな。どちらにせよ、

逃げようとしたらなるべく深手を

負わせるぜ。

逆に襲いかかってきたら逃げながら

攻撃を加える。いいな?」

 

「了解です」

 

彼女達は「遠征組」と呼ばれる

編隊の一つである。

深海棲艦との闘いは長い間してきた。

言わばベテランなのである。

特に旗艦である天龍は、

相手がどんな行動を起こしても

冷静に行動出来る自信があった。

 

 

 

 

 

 

 

「……すいませんでしたああああああああッ‼︎‼︎」

 

……レ級のTHE・土下座を見るまでは。

 

「……は?」

 

「「「「「エエェェェェェェェェェェェェェェェェエエ⁉︎」」」」」

 

彼女達にとって、これは予想外の行動だった。

そもそも深海棲艦自体、ほとんどが

コミュニケーションを取ることさえ

不可能。

言葉が通じるものもいたが、

人類と深海棲艦は分かり合えないと

いう事実を突きつけるだけだった。

それがこのレ級は襲いかかるどころか

平身平頭で謝り始めたのだ。

それはもう、天地がひっくり返っても

ありえない事だと思われていたのだ。

 

「本ッ当に申し訳ありません‼︎

ほんの好奇心だったんです‼︎

もう二度と近付きませんから、

どうか命だけはご勘弁を‼︎」

 

 

 

 

(半分くらい嘘ついてる……てか

全部嘘じゃないかよ)

 

別の意味で申し訳ないなー……と思いながら

俺は謝り続ける。頭だって地面……いや、

海面に擦り付けるぐらいの勢いで。

……なに、汚ねぇぞって?

……なにしようが最後に生きていれば

それでいいんだよ……(泣)

 

 

 

 

「……まさか、怯えてるっぽい?」

 

夕立が天龍に囁く。

まさか、と天龍はレ級を見る。

レ級はもう涙声に近い状態になり、

電動歯ブラシも真っ青な勢いで

震えている。

 

「勘弁して下さい……本当に

命だけは……」

 

「……チッ、どうするこいつ……

沈めるのは流石に気が咎める」

 

「ペットがいいっぽい」

 

「犬じゃないんだから」

 

「雑用係」

 

「却下。逃げたらどうする」

 

「門番」

 

「バカか」

 

ここで電が名案を出した。

 

「鹵獲がいいのです」

 

「やっとまともな意見が出た……

それでいいか。おい、そこのレ級。

……おい‼︎」

 

天龍がレ級に呼びかけるが、

レ級はますます震え上がる。

 

「ひいッ⁉︎い、命だけは‼︎

こ、ここ殺さないで下さいいい⁉︎」

 

これではらちがあかないと天龍は

はあ……とため息をつきながら、

 

「いい加減にしろ怯えんな‼︎」と

思いきりレ級の頭を拳骨で殴った。

 

ガツンッ‼︎

 

「〜〜〜〜〜〜ッ………⁉︎」

 

悶絶していたのは、天龍。

肝心のレ級の反応は、

 

「いてっ」と、非常に軽いものだった。

 

「頭が意外に固かったのです」

 

「これが本当の“石頭”っぽい」

 

「天龍さんすごい痛そう……」

 

「お前ら冷静に解説してねーで

レ級の武装解除しろよッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。

 

「ああ、そういうことだから、

厳重に頼むぜ」

 

天龍達はレ級の武装解除をし(主に弾薬の

没収など。艤装は重過ぎて持てない)、

鎮守府にレ級鹵獲の報告をしていた。

 

「さて、と。お前ら、帰るぞ。

っと、レ級は……お前移動が

遅いらしいな。仕方ない、

俺におぶされ。あと……お前、

名前ってあるのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名前?」

名前は勿論あるが、俺の

転生前の名前は、まぁ、

男らしい名前だ。

この姿でその名前だと

とても違和感がある。

即席で、俺はこう答えた。

 

「レンゲです。俺の名前はレンゲです」

 

「ラーメンのスープを飲む用のあれか?」

 

「違います」

 

結構本気で考えたんだが。

そんなこんなで、俺は鹵獲された。

天龍の背中におぶさり、駆逐艦娘達と

共に海面を駆け抜ける。

数十分後には、俺達は鎮守府の一つ、

横須賀の鎮守府に到着していた。

 




良かったなレンゲ。
旗艦が龍田や不知火だったら
死んでたぜ‼︎
ちなみに、1話以外どこかしらに(3話時点で)
パロディが入ってます。
その内マイナーなネタ振る可能性があるので
なぁにそれ等と思われたらすいません。


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「鎮守府へ」

鎮守府到着‼︎
提督も出てくるよ‼︎
名前は好きな番組のキャラから
とりました。


横須賀鎮守府。その東端にある桟橋で、

背の高い女性が一人、水平線を睨んでいた。

彼女の名は長門。横須賀鎮守府の中でも

五指の中に入る程の実力者だ。

彼女が睨む水平線に、ポツポツと

黒い点が見えた。

 

「……来たか」

 

その点は段々と大きくなっていき、

やがて少女達の形を作った。

遠征組こと天龍達の姿だ。

 

「すまねぇな、長門。少し

遅くなっちまった」

 

天龍が長門に侘びを入れてから

電や夕立達に先に船渠に入っているように

命令する。

 

「いや、構わないが。件の鹵獲した

という深海棲艦がそれか?」と長門は

天龍の背中を指差した。

そこにはフードを被って天龍の肩に

手を回しておぶさっている少女、

戦艦レ級の姿があった。

 

「ああ、そうだ。おい、降りていいぞ」

 

「あ、はい」

 

レ級が天龍の背中から桟橋へと降りる。

天龍も続いて桟橋へと上がった。

 

「ども。戦艦レ級です。レンゲって呼んで下さい」

 

「長門型戦艦一番艦、長門だ。

こちらこそよろしく……と

言いたい所だが、司令官があなたに

会いたがっていてな。

すぐに執務室に来てほしいとの事だ」

 

「お目付け役として天龍も」と長門は

付け加えた。

 

「え、俺も⁉︎」

 

「当たり前だろう。子供の扱いは

上手いのではなかったか?」

 

「マジかよ……」

 

右手が痛いのに、と天龍はぼやきながら

レ級の手を握って執務室へと連れて行く。

その後ろ姿を眺めながら、長門は一言

「羨ましい」と呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、鎮守府ってでかいな‼︎

俺が通っていた高校の1.5倍位

あるんじゃないか?

しかも艦娘と何人かすれ違った。

40人ぐらいの艦娘がいる、と

途中で天龍が教えてくれた。

半分くらいは駆逐艦娘らしい。

長門にも会えたし(背後から

「羨ましい」と声が聞こえたのは

気のせいだろう)、色々この

世界の事を再認識できた。

 

そうこうするうちに、俺と天龍は

執務室の前についた。

天龍は「提督ー。開けるぜー」と

言ってから扉を開けた。

 

「ちょっと待ってくれ。

ハンコ探してるんだ……。

あれ、おかしいな。確かここに

入れたはずだが……」

 

そこにはデスクの上に積み上げられた

大量の書類をかき分けながらハンコを探す

男性ーーーーーー多分こいつが

提督なんだろうーーーーーーがいた。

歳の頃は30代前半くらいか。

座っているから分かりにくいが

背丈はさっき会った長門と同じくらい。

 

「こいつが俺達の提督だ。

ちょっとこんな感じだけど

やる時はやるいい奴だぜ」

 

「こんな感じってなんだいこんな感じって」

 

と提督がハンコを見つけて、デスクの片隅に

置いてから立ち上がる。

 

「やあ。君がレ級……天龍の話だと

レンゲ君でいいのかな?

私がここ横須賀鎮守府の提督、

神崎 悠斗だ。これからよろしく」

 

と神崎提督が俺に頭を下げた。

俺も誠意を見せる為に敬礼をした。

 

「これからよろしくお願いします‼︎

神崎司令官殿‼︎」

 

刹那、天龍からツッコミが入った。

 

「お前その敬礼は陸軍式だよッ‼︎」

 

「えっ」

 

敬礼に陸軍式とか海軍式とかあったの⁉︎

(あります。「まるゆ」の艦長が

陸軍出身なのに上官に海軍式の敬礼を

したせいで左遷されたのは有名な

エピソード)

やっちまった……怒っちゃったよな

提督絶対……。

 

「あー、そんなに気にしないで。

わからなかったならしょうがないさ。

誰だって間違いは犯すものさ、

次から気を付ければいい」

 

聖人だこの人……。

優しい、凄い優しい。

 

「そういえば天龍君はもう船渠に

入ったのかい?」

 

「いやこれからだけどよ」

 

「だったらレンゲ君も一緒に船渠に

入れてあげたらどうかな?」

 

マジかよ。

俺元男ですけど?

船渠って絶対入浴系のだよね?

女性だらけの風呂場に行くだけで

俺死んじゃうんですけど?

精神衛生上アウトだよッ⁉︎

 

「そうだな、そうするか」

 

同意すんな天龍ーーーーーー‼︎

 

「ん、どうしたレンゲ?」

 

「……ハッ⁉︎な、なんでもないですけど」

 

「そうか、船渠に早く行きたくて

仕方ないんだな?ならとっとと

行こうぜー」

 

うん、全然違う。

むしろ逆だよ天龍さん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだった」

と神崎提督が引きずられていく

俺に向かって言った。

 

「ごめんレンゲ君‼︎

君の部屋用意したかったけど

できなかったからーー‼︎

代わりに営倉(牢屋みたいなもの)を

一つ綺麗にしておいたからー!

それで我慢してくれーー‼︎」

 

 

……ナディイッデンドア゙ンダ。

 

 




最後の言葉解読出来た奴凄いと思う。
オンドゥル語です。すいません。
「なに言ってんだあんた」と言ってます。
次回期待(しない方がいい)入浴回です。


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「湯けむり(精神的)殺人事件」

前回のまとめ
提督はいい奴だったしながもんはながもんだった。

(^U^)<ようこそおいで下さいました‼︎

誰だお前は⁉︎


やべーよ、マジやべー。

まさか女性と一緒に風呂に入ることになるとは。

今俺は天龍に連れられて船渠の前にいる。

他には幸いと言うべきか誰もいない。

船渠は天龍曰く「旅館の風呂」みたいな

感じらしい。

うん。尚更まずい。

旅館の浴場って言ったらそりゃ

あのでかい風呂がドーンと構えてる

感じでしょ?

そこに艦娘達がキャッキャッウフフ

してるんでしょ⁉︎

死ねるよ⁉︎入渠してるのに

恥ずかしさで轟沈確定だよ⁉︎

 

「ほら、何してんだ?さっさと

服脱げよ」

 

ヒイイイイイ死刑宣告があああああ!

 

「い、いやあの……俺、実は

人前で服を脱いだ事が……」と俺は

恥ずかしそうな振りをした。

これなら天龍も無理に脱げとは

言わないだろう……。

 

「うだうだ言ってねーで

さっさと脱げーー‼︎」

 

イヤアアアアア俺の素肌が晒されるーー‼︎

ついでに一瞬だけど貞操の危機を

感じたーー‼︎

 

「タオルと、あとシャンプーだ。

使い方はわからなかったら

先入っているから教えてやるよ」

 

分かりましたから多感な(元)男子高校生の前で

服を脱ぎ出さないで下さい……

というか、俺が女だから皆

普通に女だと(もしくは子供か)思って

接してんじゃないのか⁉︎

俺元男ですけど⁉︎

そんなこんなで天龍は先に行ってしまった。

こうなったら目をつぶって入ろう。

そうすれば見ないで入れる。

そう思って俺は目を閉じて手探りの状態で

船渠の扉の方向に歩いていき、

 

なにかとぶつかった。

 

「うぶっ」

 

なんだろう。あったかい。

目を開ける訳にはいかないので、

両手で空間をまさぐる。

……おや、なにかに触れたぞ。

もう一回触れてみる。

布ーーーーーータオル地の感触で、

その下には柔らかい球体が二つ。

 

「……へ?」

 

……つまり……今俺は……。

女性の……まぁ、その……

……胸を掴んでいた。

 

「ヴェアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

「あら〜」

 

女性ののんびりした声とは逆に、

俺は奇声を上げながら後頭部を

思いっきり叩きつけていた。

 

「ごめんなさいね〜。あら、貴女が

鹵獲されたっていうレ級ちゃん?

ちっちゃくて可愛いわね〜♪」

 

「しっ、ししし、失礼しましたあああああ!」

 

もうパニックどころの騒ぎじゃない。

俺は半狂乱になりながら

慌てて船渠内の一番大きい風呂の中に

飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははは‼︎そうか!

お前愛宕の胸掴んだのかよ‼︎はははは」

 

天龍は俺の話を聞いて笑い転げていた。

……無論その間も俺は他の艦娘の

裸を見ないように苦心していた。

 

「冗談じゃないよホントに……」

 

「なにかご利益でもあるかもな?」

 

なくていいっす。マジで。

巨乳とかそんなご利益あっても

いらないから。

俺は天龍から早くその記憶を抹消する

為に質問をした。

とりあえずいつこの世界に深海棲艦が

現れたのかについて。

 

「あ?いつだって?そりゃー……

もう10年も前になるぜ?」

 

天龍の話はこうだった。

深海棲艦が初めて確認されたのが

10年前。その当時は艦娘ではない

戦艦ーーーーーーつまりは俺の元いた

世界と同じ艦でも余裕で殲滅出来たらしい。

だが、彼らも馬鹿ではなかった。

戦艦との闘いで群れることを学習し、

作戦を立てること、やがては

人類の作戦の裏をかくことさえ

学習していった。

そしてその姿も、より強くなるために

形を変え、そして完成形となる姿に

進化した。

“鬼”や“姫”と呼ばれる人間型(ヒューマノイドタイプ)である。

だが、運は彼らだけに味方する訳が

なかった。

それが5年前。

世界中で戦艦の記憶と魂を持つ少女、

通称「艦娘」が確認され始めた。

そして同時期に、彼女らにのみ見える

存在、「妖精」が確認された。

各国が艦娘を養成する中、

日本も同じように自衛隊の名称から

「大日本海軍」に変更し、艦娘を養成

する事を始めた。

その後は、お察しの通り、いたちごっこが

続く状況になっている。

 

「ねぇ、艦娘と深海棲艦が分かりあう事は

可能だと思いますか?」

 

「そりゃ……分かんねーな。

もしかしたらわかり合うことは

無理かもしれないし、可能かもしれないしな」

 

俺は深海棲艦だ。でも心まで

深海棲艦ではない。

もしも深海棲艦達に、「心」があると

したら、わかり合うことは出来るのだろうか?

俺は知らぬ間に思考の泥沼にはまり、

気が抜けたような状態で船渠から出て、

気がつくと天龍が隣にいる状態で

営倉のベッドに入っていた。

 

(わからん事考えても仕方ない。

明日出来る事を俺はするだけだ)

 

そう考えながら、俺の意識はゆっくりと

落ちていったーーーーーー……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンゲが眠ってから1時間後。

 

「愛宕‼︎レンゲは今船渠に入っているか?」

 

「なんでそんなこと聞くの〜?」

 

決まっているだろうとばかりに

長門は、

「天龍だけだと荷が重いだろう。

私も一緒に体を洗ってあげるとか

頭を洗ってあげようと思ってな」と言った。

 

「あ〜レンゲちゃんなら、

もう出ちゃったわよ。

もう1時間位前かしら〜、

残念ね〜手伝えなくて〜♪」

 

その言葉に長門は

「なん……だと……」と

膝から崩れ落ちたのだった。




今回は少しシリアスなシーンがありました。
今後にどう影響するんですかね?
ちなみに長門のターゲットにされている
レンゲですが、身長は小学生2〜3年生位。
身体は子供、頭脳は大人。
愛宕の胸の大きさの比は、というと、
龍驤と対比すると、
愛宕33:4龍驤。
???「なんでや‼︎ウチ関係ないやろ‼︎」


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「練習」

良かったな長門、レンゲと
今回いちゃいちゃ出来るぞ‼︎


レンゲが鹵獲されてからはや数日。

「……俺の水上航行の練習を一緒に

やってくれるんですか⁉︎長門さん‼︎」

 

「ああ、もちろんだ。安心しろ。

この私がいれば一日で海上を駆け回ることが

できるようになるぞ‼︎」

 

(本来なら天龍か比叡が担当する訳

だったんだがな)

 

そう心の中で呟き、長門はレンゲの片手を

握ると練習場へと連れて行った。

実は長門は提督に直談判して、

なだめすかしてようやくこの担当になったのだ。

そのため楽しみもひとしおである。

長門の頭の中では「四苦八苦するレンゲを

頼れるお姉さんとして指導する自分」の

構図が既に生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習場。

そこは射撃や之字運動専用の場所もあり、

かなり充実している。

 

「さあ、とりあえずレンゲの本気を

見せてくれ」

 

「分かりました‼︎」

 

レンゲは桟橋から海上に危なげなく立ち、

ゆっくりと海上航行を始めた。

最初は遅く、段々と早く。

そして、ターンやブレーキをかけてみたり

する。之字運動も何回か繰り返す。

……但し、一回も転んだりする事なく。

 

 

「……えっ……」

 

「えっ、嘘ッ⁉︎転ばずに出来た⁉︎」

 

これには両方とも拍子抜けした。

二人とも別々の意味でだが。

 

「あ、出来るんだ……うん、出来るなら

いいんだ、レンゲ……」

 

「長門さん、だ、大丈夫ですか?」

 

特に、長門にとってはこれは予想外の

悲しすぎる結末であった。

レンゲがこれではまずいと気を利かせる。

 

「え、あ、じゃ、じゃあ砲撃‼︎

砲撃練習しましょう‼︎」

 

「砲撃……」

 

長門がポツリと呟く。

よほどダメージが大きかったようだ。

 

「砲撃って俺やったことないんです。

もしよかったら教えて頂けたら……」

 

「そうか‼︎それなら私に任せろ‼︎

大船に乗ったつもりで安心してくれ‼︎

はっはっはっは‼︎」

 

先程のダメージは何処へやら、

完全復活した長門は「レンゲ、砲撃練習場は

こっちだぞ‼︎」と喜び勇んでレンゲを

連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ皆。レンゲだ。今どういう状況だって?

ーーーーーー砲撃練習で模擬弾を全弾

命中させて長門さんがorzの姿勢になっている

状況だよ……。

というかさっきの航行練習といい、

超進歩してないか俺⁉︎

多分だけどこれが元々の

「レ級としての」基本スペックなのだろう。

道理でゲームのレ級があんなに強い訳だ……。

長門さんは後で一緒に間宮さんとこの

アイス食べれば機嫌直してくれるだろう……。

 

「……ん?」

 

遠くの方に誰かいる。

目を細めてみると、

そこには翔鶴が立ってこちらを

見ている。

 

「あれ、横須賀の鎮守府に翔鶴さん

なんていましたっけ?」

 

「ん……いや、翔鶴は内房(千葉にある)の

鎮守府の所属だが……あそこの提督は

ここの提督と仲が悪くてな、

よく演習で優劣を決めるんだよ。

大抵うちが勝つんだが」

 

「へー」

 

俺が見ていると、視線に気付いたのだろう。

翔鶴がペコリとこちらに向けてお辞儀した。

 

「あ、どうも」と俺もお辞儀する。

お辞儀してくれるんだから内房鎮守府と

横須賀鎮守府の艦娘の仲はそんなには

悪くないだろう。

 

「そう言えば、なんで仲悪いんですか?」

 

「そういえば私も知らないな……

なんでだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、鎮守府の執務室では。

二人の男が向かい合って話し合っていた。

 

「久しぶりですね。半年ぶりに会ったせいか

前より背が伸びたように見えますよ」

 

一人は横須賀鎮守府の提督、神崎提督。

 

「……世間話はこれまでにしましょう。

単刀直入に聞きます。

あなたは何故あの鹵獲したレ級を

野放しにしておくのですか?」

 

そしてもう一人は、内房鎮守府所属の提督、

芝浦 武史提督だった。

彼は15歳という非常に年若い提督だ。

これは大日本海軍が実力主義をモットーと

しているからである。

 

「野放しにはしていませんよ。

24時間艦娘の監視があの子に入っています」

 

「では何故レ級の航行訓練を承認したの

ですか‼︎」

 

芝浦は声を荒げた。

 

「レンゲ君のストレスを解消するためです。

何日も鎮守府内に閉じ込めてしまっては

ストレスが溜まって暴走してしまう

可能性もあります。

今回の訓練はそのストレスを解消

させてあげるためです」

 

「貴方は甘すぎる。

深海棲艦など我々と理解し合う

ことなど不可能なんですよ‼︎

……その内大本営から呼び出しが

かかるでしょう。

あのレ級に情でも移らないように

するんですね」

 

芝浦はそう、恨み辛みを込めて

言い放った。

 

「そうだ。最近なんですがまた

翔鶴の練度が上がりましてね。

誰かと演習をしてみたいと思うの

ですが……ああ、空母同士で

加賀とでも演習してみましょうか」

 

「え、今加賀さんは」

 

神崎は止めようとしたが、

 

「では先に演習場で待ってますので」と

芝浦は興味を持たずに先に退出してしまった。

 

「あー……まずいなあ……どうしましょうか」

 

神崎は一瞬頭を抱えたが外の演習場にいる

レンゲの事を思い出し、近くにいた電に

レンゲを呼ばせる。

無論、レンゲはこの後に起こることなど

何一つ知らなかった。




さあ、段々とシリアスになってまいりました。
次回はレンゲがドンパチします!
レンゲ「レッドファイッ‼︎」


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「演習?なにそれおいしいの?」

注意‼︎
最後の辺りでオリキャラが僅かながら
出現します。
苦手な方はバックして下さい。


 

俺たちは砲撃練習を終えて間宮食堂に来ていた。

「いや〜残念でしたね長門さん。

まさかチョコだけ売り切れてるなんて。

まあ、また来ればいいですよね」

 

(やけにげっそりしてるのは気のせいだよな?)

 

「ああ……そうだな……」

 

(ああ、アイスを一口だけ交換する作戦が……)

 

そんなときである。

 

「あ、いたのです。レンゲさん、

司令官さんが呼んでいるのです」

 

電が俺を呼んだ。

 

「神崎提督が?俺に?」

 

「長門さんは来なくていいです」

 

「何故だー‼︎」

 

長門が悲鳴を上げる。

 

「大体もう30分も約束の時間を

過ぎてるのです。早くしないと

比叡さんの手料理味見係に

してやるのです」

 

「さあ行こう‼︎書類が私を待っているッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎提督は演習場の前で俺を待っていた。

 

「あー来てくれたか。すまないね、

急に呼んだりして」

 

「いえ、大丈夫ですけど、俺に何の用が

あるんですか?」

 

「実はね……」と神崎提督は

俺に耳打ちした。

 

 

 

「加賀さんの代わりに演習に出てほしい」

 

「ウェ?」

 

何を言うんだあんたは。

提督の話だと加賀は3日前に

赤城のために猪を取りに行って

右手を骨折してしまったらしい。

帰ってきて第一声が、

「やりました」だったそうな。

 

うん、話がずれたな。

俺は加賀の代わりに演習に出ることに

なった。

 

ルールは1対1。

模擬弾を使用する。(艦載機の弾も含め)

どちらかが轟沈判定を受けるか

降参したら負け。

至ってシンプルなルールだった。

相手は内房鎮守府の秘書艦翔鶴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこうなるんや、他にもいたでしょう

赤城とかさー……」

 

「なってしまったものはしょうがないですよ。

演習、よろしくお願いします」

 

「あ、はいこちらこそ」

 

判定をするのは神通だ。(ちなみに改)

 

「それではー、横須賀鎮守府所属、

レンゲと、内房鎮守府所属、翔鶴の

演習を開始しまーす」

 

その後ろでは何故か様々な艦娘が

いる。

というか、隅でどっちが勝つか

賭け事してんなよ……。

 

「……始めッ‼︎」

 

先に動いたのは翔鶴。

あっという間に弓を引き絞り、

矢を数本放つ。

矢は空中で数機の戦闘機に変わり、

急降下してくる。

俺も負けじと……あれ。

 

艦載機ってどうやって出すんですか?

 

ババババババババッ‼︎

 

「いててててッ⁉︎」

 

艦載機の機銃を受けてしまう俺。

 

「レンゲ、小破判定‼︎」

 

嘘、今ので⁉︎

 

「もたもたしていると轟沈判定を

受けてしまいますよ」

 

どうしようもないから今もたもた

してんですよ俺は。

 

その間にも艦載機は攻撃を続け、

俺はとうとう大破判定まで出して

しまった。

 

「むりだってば……どうやって艦載機

出すんだよ‼︎」

 

……急に鼻がムズムズしてきた。

やばい、こんな時にくしゃみが。

 

「へっ……ふぇ……

……ふぇくしょん‼︎」

 

ドオンッ‼︎

 

「きゃああッ⁉︎」

 

え、何が起きたの?

俺の艤装を見てみると砲から煙が出ていた。

……そうだ、別に艦載機出さなくても

いいじゃん‼︎

俺、戦艦だから‼︎

 

「翔鶴、大破判定‼︎」

 

よし、この調子でいくぞ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝者、翔鶴‼︎」

 

「ありがとうございました。

初めてとは思えない位強かったですよ」

 

「いえ、こちらこそ勉強に

なりました」

 

あの後俺は負けてしまった。

だけど闘っていて翔鶴さんは

優しい人だと再確認出来た。

他の鎮守府にもこんな人がいる

だろうか。

俺はそんなことを思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官……」

 

内房への帰り道、翔鶴が芝浦に呼びかける。

 

「二度とあんな真似をするな。

いいか、俺達にとって深海棲艦は

敵だ。そのことを肝に銘じておけ」

 

その返答は冷たいものだった。

まるで彼の深海棲艦に対する恨みの

ように。

翔鶴は、彼の後ろ姿を悲しげに

見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンゲが演習をした深夜。

執務室にて神崎は二つの書類を

見比べていた。

一つは、レ級を至急大本営に

連行すること。

レ級をどうするかはわからなかった。

そして、もう一つは。

ーーーーーー内房の遠征組を轟沈寸前に

追い込んだ「何か」についてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所は変わり大本営。

その地下の厳重に造られた牢獄の中。

それは粗末な椅子に座っていた。

形は人型だが、手錠に繋がれている

両手は黒い甲殻(但し蟹の様なものではなく

トカゲや鰐の鱗が幾重にも重なって

融合した様なもの)で覆われ、

腰のあたりには鰐の様な尾が生えている

時点で人ではないと分かる。

そして、その目は二つ、真っ赤に燃えるように

闇の中で光っていた……。

まるで、これからの不安を確信させるように……




シリアスな雰囲気になって来ました。
芝浦提督、謎の存在。
これらがどう絡んでくるか、
期待……はしないで下さい。


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「大本営」

今回やっと、オリキャラがちゃんと登場します。



演習の次の日。

俺は再び神崎提督に呼び出された。

 

「大本営が貴方の処分を下すので、

一緒に来て下さい」

 

曰く、大本営に行って、横須賀に留まるか

大本営に収容されるかみたいな判断を

言い渡すから来てほしいというのだ。

無論護送という形になるので天龍が

ついてくる。

 

「二度と会えなくなるかも

しれないな……短い間だったけど、

楽しかったぜ」

 

「気が早いよ」

 

「大本営までは電車と徒歩で行きますが、

レンゲさんは靴を履いて、

なるべく深海棲艦だと分からない

状態にして下さい」

 

「分かりました」

 

俺は恐らくは二度と見ることのないだろう

横須賀の赤レンガの建物(鎮守府)

あちこち見て回り、最後に行こうという時に

目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大本営に着くのにはそれ程時間は

かからなかった。

大本営は鎮守府より大きく、荘厳な雰囲気

を漂わせていた。

 

「じゃあ私は会議がこれからあるので」と

神崎提督は着いてすぐ何処か行ってしまった。

 

「どうする?ここってあまり暇つぶす

所ねーし、艦娘も大本営?の

意向だかなんかで少ねーしよ」

 

「とりあえず奥の部屋に待合室があるから

そこで提督を待ちましょうか」

 

俺たちは一階の待合室で会議が終わって提督が

戻ってくるまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃3階の会議室。

そこには神崎が直立不動で気をつけの

姿勢をとり、目の前の机に座る上官達

(いずれも大佐や中将など神崎より位が上)

の処分がどのようなものか待っていた。

 

「神崎中佐。例のレ級の処分を言い渡す」

 

 

 

 

「レ級は大本営で預かり、今後の深海棲艦の

情報、及びその分布、勢力図を聴取

させてもらう」

 

つまり、それはレ級を捕縛し、

必要とあらば拷問、処刑することを

示していた。

 

「ッ……‼︎待って下さいッ‼︎彼女はまだ

年端もいかない子供なんですよ‼︎」

 

「だが深海棲艦だ。深海棲艦に

子供も何もないだろう‼︎」

 

「くッ……」

 

ここで引き下がる訳にはいかない。

神崎はこの身が破滅しようとも、

レンゲを何としても守る決意を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その地下の牢獄。

 

「おい、餌だ。早く食え」

 

暗闇で中が何も見えない牢獄の中の一つに、

衛兵が食事を差し出す。

 

……チャリッ……チャリッ……

 

と金属が擦れ合う音を立て、

何かが近づく。

そして、食事のプレートの中にある

林檎の欠片が鱗と甲殻に包まれた手に

掴まれ、闇の中に消えた。

 

……シャリッ……ガリッ……

 

衛兵はその音を聞くと自分の持ち場に

戻ろうとした。

いつもは食事を終えると中にいる「それ」は

自分からプレートを返す。

そう、「いつもなら」の話だ。

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‼︎

 

「⁉︎なんだ⁉︎どうした⁉︎」

 

狂ったように、しかし規則的に何か硬いもので

鉄格子を叩く音が鳴り響く。

このまま永遠に続くのではないかという程

その音は鳴り止まない。

 

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‼︎

 

「チッ……」と衛兵は腰のホルスターに入っている

拳銃を取り出した。

上層部からは何かあったら処分していいと

言い渡されている。

彼は狙いをつける為、牢獄の鉄格子に近づいた。

 

刹那。

闇の中から何かが恐ろしい勢いで鉄格子の

隙間をすり抜け、衛兵の首を刺し貫いた。

鮮血が飛び散り、床を少し赤く濡らした。

 

「うぐッ……げ……」

 

そのまま衛兵の体が一気にズルリと

鉄格子の中に引き込まれる。

 

ベキッ‼︎ バキバキッ……。 ……ゴギャッ‼︎

 

それと共に骨が砕け、折れる音を立てる。

衛兵の身体は完全に闇の奥に沈んだ。

……やがて、その中から赤く光る目が

浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はどうなっても構いません‼︎

どうか、レ級の処分を撤回して頂けない

でしょうか‼︎」

 

右端に座っていた隻眼の中年が諌める。

 

「君はまだ未来ある逸材だ。

失うのは惜しい。

だが、この処分は変えることはできないのだよ」

 

「そこをなんとか……重ねてお願い致します‼︎」

 

諦めようとしない神崎に業を煮やし、

真ん中の禿頭の男が怒鳴る。

 

「いい加減にしろ‼︎貴様も男なら、

潔く諦めろ‼︎いいか‼︎

この処分はもう確定したんだ‼︎

貴様が変えられる道理が、

ここにあるとおもうなッ‼︎」

 

瞬間。

腹の底から響くような爆音と地響きが

皆を襲った。

 

「⁉︎なんだ、何が起きた‼︎」

 

「失礼致します‼︎大変です‼︎」と

まだ年若い衛兵が駆け込んできた。

 

「何があったのか説明しろ‼︎」

 

「はっ‼︎」と彼は答え、青ざめた顔をしながら

返答した。

 

「大本営の……大本営の牢獄に囚われていた

“丙型生命体”が脱獄しました‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆音と地響きは、当然ながら

一階のレンゲと天龍にも伝わっていた。

 

「なんだなんだなんだ⁉︎

なんかあったのか⁉︎」

 

「何か……ヤバイことがあったみたい

です。俺たちも何か出来るかもしれません。

行きましょう‼︎」

 

俺たちは待合室を飛び出し、大広間に飛び出した。

そこには、

首を折られた衛兵の、または身体を腰斬された

死体がそこらに散らばっていた。

中には両目を抉り出されたもの、

バラバラになったものもいる。

 

「……くッ……う」

思わず吐き気と怒りが込み上げた。

 

「耐えろ。まだやったやつは近くにいるはずだ」

 

天龍が俺の身体を掴む。

 

……ゴキッ…………ゴキッ。

何かの音がする。

俺と天龍は揃って音のする方向に目をやった。

 

「……ク……グク」

そこには、根本からへし折られた銅像の上に

腰掛けた明らかに人ならざる者がいた。

全身は光沢を持った黒の甲殻に包まれ、

下はまるでアラジンが履くようなズボン、

それが膝の辺りで鎧で覆われたブーツに

変わっている。

上半身は何も着ておらず、胸に肋骨を模した

装備、綺麗に割れた腹筋が見える。

そして、腰のあたりに鰐のような尾が伸びている。

 

「……」

それは大きな口枷をしていたが、おもむろに

それを取った。

 

「……ヒヒッ」

その下から現れたのは、ピラニアの如く

鋭い歯。口を歪めて、それは笑った。

 

「ヨーォ。悪りぃけどよォ〜、

そこどかねぇと殺しちまうぜ〜」

 

その怪人は、軽薄な口調で俺たちに

呼びかけるのだった。




今回登場した「怪人」こと「丙型生命体」の
モチーフは鰐です。
ちなみに、頭の描写が少ないですが、
頭の感じとしては「魔法科高校の劣等生」に
登場する「ムーバルスーツ」を想像して頂ければ
近いです。


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「地獄から舞って来た男」

先に言っておきます。
コイツ程ふざけたオリキャラはいません。
踊る奴もコイツ一人で充分です。
でも一番自分で考えた中では好きな方。


「ヨーォ。悪りぃけどよォ〜、

そこどかねぇと殺しちまうぜ?」

 

そいつは軽薄そうにヘラヘラと笑うと、

台座から飛び降りた。

が、少しの間口をつぐみ、

 

「……あ〜ちっとタンマ。

喋るのが久しぶりだからさー」

と言った。

 

そして、誰も許可していないのに

滔々と喋り出した。

 

「地獄から只今登場ッ‼︎

海軍は秘密を開帳ッ‼︎

連中は顔色真っ青ッ‼︎

ついでに俺は絶好調‼︎

何故か口調はラップ調ッ‼︎

リヴァイア・サンズここに見参ッ‼︎」

 

そいつーーーーーー、いや、

「リヴァイア・サンズ」はラップを

一通り刻むと「フォーッ‼︎」と

歓声を上げてドッチキドッチキと

踊り出した。

 

「なんだこいつ……」

 

天龍がぼそりと呟く。

俺も同じ事を考えた。

敵となりそうな奴らの前で

踊る奴なんて聞いた事もないし、

見た事もない。

そもそも元いた世界でもこんな敵は

いなかった。

 

「すまねーなー。これやんないとよ、

体調が良くなんねぇんだよ。

お礼と言っちゃなんだが、

お前らは殺さねーでおくよ」

 

「とりあえず、お前は一旦

痛い目を見た方が良いと思うぜ」

 

天龍が艤装を展開しようとする。

 

「でもさー、俺痛い目見るの

嫌なんだよね〜」

 

サンズはカンカンと右手のカギ爪で

側頭部を叩く。

 

「ゲームとしてなら痛い目は

多少は我慢するけどね」

 

「……ゲーム?」

 

「そう、ゲームさ。

例えば……≪10秒の間に俺を

一発でも殴ったら勝ち≫なんてのは

どうだ?」

 

サンズはそう言って、

「その刀は使ってもいいぜ」と言い、

更に「早く来いよ‼︎」と挑発した。

 

「まぁ待て……。

……よし、いくぜッ‼︎」

 

「come on‼︎」

 

二人が互いに突進する。

天龍が艤装の刀でサンズの間合いの外から

薙ぎ払う。

 

「おォーーととォ‼︎」

ガキン、と金属音がした。

なんとどこから持って来たのか、

サンズも軍刀を持っていた。

後7秒。

 

「フェアじゃないとなあ‼︎へへッ」

 

「ちッ、小賢しい野郎だッ‼︎」

 

天龍はより早く刀を操る。

だがサンズもかなりの剣の腕で、

軍刀をフェンシングのように

使ってその太刀筋を防いでゆく。

後4秒。

その時だ。

 

「武器を捨てて手を上げろッ‼︎」

 

見ると、そこには7、8人程の銃を構えた

衛兵がいた。

騒ぎを聞きつけて来たのだろう。

天龍はこれが来ることを分かって僅かながらも

時間を稼いだのか。

 

「あれま」

 

天龍が軍刀を打ち上げてその場から

退避する。

 

「撃てーーーーーー‼︎」

 

大量の弾丸がサンズに襲いかかり、

その多くは命中した。

……何もダメージは与えていなかったが。

 

「おー痒い痒い。……お、10秒経過した。

てことは、俺の勝ちでいいよな」

 

サンズは先程の攻撃など意に介さず

自らの勝利を宣告した。

カシャカシャと指同士をぶつけながら、

 

「撃たれたけどさ、≪殴られていない≫

からねー。ま、≪罰ゲーム≫執行

しちゃうか」

 

刹那、サンズは目にも止まらぬ速さで

天龍に飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐあッ……‼︎」

 

天龍はそのまま先程サンズが座っていた

台座に叩きつけられた。

 

「安心してよ。俺って律儀だから、

ちゃんと急所は外したぜ」

 

次にサンズは衛兵に目を付けた。

 

「じゃあ、俺の愉快な艤装を

紹介しちゃうぞ〜。

F–15のイーグル君だ‼︎」

 

サンズが手を広げる。

そこから、一機の戦闘機が姿を見せた。

F–15 イーグル。

マッハ2.5の脅威的な速度で空を

駆け抜けるバケモノだ。

もちろんそんな艦載機はゲームには

実装すらされていない。

 

「さあ、パーティーの時間だ!」

 

イーグルが機銃をばら撒いてゆく。

鉄の嵐とも呼べるそれは、瞬く間に

衛兵達を肉ミンチに変えた。

血が流れる。肉が飛び散る。

 

「ハッハハーー‼︎」

 

「むごい……何てことを‼︎」

 

「あ?お前もゲームをするのか?

いいぜ。ルールは……

そうだ。≪一発でも俺に攻撃を入れたら勝ち≫

にしてやるよ」

 

既にこの怒りは頂点に達していた。

顔が怒りで熱くなる。

 

「ふざけるなあああああ‼︎」

 

「おっほー‼︎せっかちだねぇ」

 

俺の右ストレートをサンズはスイッと

避ける。そして避けた時に足を引っ掛けた。

 

「うっ‼︎」

 

起き上がろうとしたところで背中を

踏みつけられる。

 

「ところでさあ、お前運とか信じるかよ?

俺は信じてるぜ」

 

そう言いながらサンズは近くにある

折れた軍刀を手にとった。

 

「なぜなら俺はいつも‼︎

いつも‼︎最悪な時に最高のチャンスが

現れるんだからなー‼︎これこそ

天運って奴なんだろうなあ‼︎」

 

俺はその時、逆転を賭けた一撃を

思いついた。

 

「天運か。それなら今俺に現れたぜ」

 

「あんだと?」

 

「下を向いてみろ」

 

サンズが下を向いた刹那。

俺の尾ーーーーーーあの先端に

口がついているあの艤装だーーーーーー

に腹を思いっきりメギャンッ‼︎という感じで

殴り飛ばされた。

 

「うごっほああああああああ⁉︎」

 

サンズはそのまま5m程打ち上げられ、

2階まで到達し。

そこのガラスを割りながら外に落ちていった。

 

ざまあみろ、今までに殺された衛兵や

天龍の分だ‼︎

 

 

 

 

 

「アッハハハハハハーーーーッ‼︎

やっぱり俺は運に見放されて

なかったぜェェーーーーーー‼︎」

 

バイクのエンジン音が聞こえた。

まさか、外にあったバイクで逃走する気か⁉︎

 

「あばよオーー頭の固い軍人達ィーー‼︎」

 

ブォォーーン‼︎ バロロロロロ……。

 

クソ、逃げられたか……。

 

「……う、うう」

 

天龍の声と、まだ誰か、恐らく衛兵の声だ‼︎

まだ生きている人がいる‼︎

 

「誰かーーーーーー‼︎早く救急車を‼︎」

と俺は天龍を介抱しながら叫ぶのだった。




リヴァイア・サンズのスペックでも
解説。
艦種:戦艦
耐久280 火力120 装甲90
雷装70 対空70 運60
艦載機のスロット 130


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「嵐の後に」

この話が終わったら次は
深海提督さんとのコラボ話を
書かせて頂きます。
あと、また一人オリキャラが出てきます。


サンズ脱獄から数時間後。

俺は天龍を医務室に運んでから、

迎えに来た神崎提督と共に

お偉方のいる部屋に向かう。

神崎提督の暗い顔色を見ると、

どうやらあまりよくない処分が下った

ようだ。

 

 

 

 

被害が大きかったのは1階部分のみで、

上の階にある会議室はほぼ被害を

受けていなかった。

 

「神崎君。レ級を渡して貰おうか」

 

ハゲの男が神崎提督に向かって言い放つ。

どうやら神崎提督は頑張ってくれたみたいだが、

どうにも出来なかったらしい。

でも、俺は感謝していた。

自分の身が危うくなるかもしれないのに、

俺の事を守ろうとしてくれたのだ。

 

「……分かりました。ですが、

代わりに条件が一つあります」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「あの丙型生命体の情報を一つ残らず、

国民に伝える事です。

これが出来なければ私は応じません」

 

「ッ‼︎ 貴様ッ……‼︎」

 

「おやおや、散歩から帰ってみたら

一触即発の状態になっとるのう」

 

声の方を見ると、そこには和服を着て

杖をついたお爺さんがいた。

 

 

 

「⁉︎か、金山海軍大将‼︎ご無事でしたか‼︎」

 

……海軍大将?……ってことは……

 

……海軍で一番偉い人じゃねェかァァァァァ‼︎

 

「そう固くならんでもよいわい。

さっき救急車に運ばれていった人から

話を聞いてな。

“あのレ級がいなかったら俺達どころか

大本営そのものがこの世から消えてしまう

所だった”と。

そう言っておったよ」

 

そう言ってから金山海軍大将は、

杖でトン、と床を叩き、

 

「そこで考えたんだがの、

レ級君は横須賀で引き続き預かって

もらうことにするべきじゃ」

 

「しかし‼︎」

 

隻眼の中年が引きさがろうとする。

 

「その方がレ級君にもよいじゃろ。

話を聞く限り、優しい子だしのう」

 

金山海軍大将ーーーーーー長いから

金山さんに省略するが、

金山さんはまるで孫を可愛がる

祖父のように、俺を見た。

 

「そうすれば、かの丙型についても

不問にしてくれるかな?」

 

「はい、そうして頂ければ」

 

金山さんはそれを聞いてニヤリとすると

 

「では、それで決まり、ということで。

これは決定事項じゃ。異論は認めん」

 

金山さんは手をひらひらと振ると、

どこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 

「で、レンゲはこのままウチ(横須賀鎮守府)

預かることになった訳か」

 

幸いにも怪我は大したことはなかった天龍。

あの時サンズが言った「急所は外した」と

いうのは本当だったんだろう。

 

「あー、良かった〜これでまた天龍さん

達と一緒にいられますね」

 

「だな」

 

神崎さんがよし、という。

 

「遅くなってしまうから、二人とも

そろそろ帰りましょうか」

 

俺達は帰っていった。

横須賀に。

長門さんや電がいる横須賀鎮守府に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー深夜。とある寂れた漁港。

深海棲艦によって廃業に追い込まれたものだ。

そこに一つの影がいた。

それはツギハギだらけの薄汚れた布を纏っていて

姿が分からない。

 

「……チッ。相変わらず時間に

ルーズな野郎だ……」

 

「悪いね、バイクが途中で

スクラップに変わっちまってさ〜」

 

そこにもう一つ影が現れた。

リヴァイア・サンズだ。

鰐のような尾をうねらせ、ボロ布の方に

歩いてゆく。

 

「それで、何かしら“細工”は

したんだな?」

 

「それで1年もあそこ(大本営)にいる羽目に

なったよ」

 

はーあ、とため息をつくサンズ。

 

「後これ?なんだろうな、

衛兵の情報端末持って来たぜ」

 

とスマホをボロ布に投げた。

直後、ボロ布からまるでイカやタコに似た

触手が伸び、スマホを絡め取った。

 

「ふん。上等だ。

これで色々策が練れる」

 

「ところでさあ、お前何か食糧

持ってない?」

 

「干し肉がある。

どれがいい?イ級か?ロ級か?

それともハ級?」

 

サンズは頭を抱えて、

「……いや、いいよ。

やめておく」と言った。

 

「美味いのにな……残念だ」

 

ボロ布はそう言ってバリバリと干し肉の

欠片を食い千切った。

 

「俺はアジトに帰るよ。

じゃあな、“イカリ”」

 

サンズはそのまま海に飛び込んだ。

 

「……楽しくなってきたな……

ククッ……」

 

イカリ、と呼ばれたボロ布は、

誰一人いない廃港で片目を

紫色に光らせ嗤うと、闇の中に

溶けるように姿を消した。




まだシリアスは抜けていません。
けど少しほんわかした話を何話か
入れてからシリアスに再突入します。


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「カミング・アウト」

サブタイに倣って俺も
カミングアウトしよう。
私はウルトラマンファンです。


ーーーーーーレンゲが再び横須賀に

戻って来た深夜。

鎮守府のとある部屋で天龍達が

話し合っていた。

 

「……なんて言った?

レンゲに“あの事”話すって言ったのか⁉︎」

 

電気は最低限しか付けていないので

顔は分かり難いが、声から天龍である

事はかろうじて分かる。

 

「まだ時期尚早……」と(あられ)が呟く。

 

「あら〜いいじゃない。また一人

艦娘だけの秘密を共有する人が

増えるんだから〜♪」

 

愛宕らしき声が呑気に話す。

 

「まぁそうだな。レンゲは秘密を

漏らすような輩ではない事は

私が証明する」

 

長門が勇ましく言い放つ。

 

「お前は駆逐艦娘にいつも甘いだろうが」

 

天龍がツッコミを入れる。

 

「……でも決めたならやるべきだと

私は思う」

 

「そうよね〜。じゃあ決行は明日の昼、

ここに皆集合。私がレンゲちゃんを

連れて来るから〜♪」と愛宕は

さっさと出て行ってしまった。

 

「何⁉︎愛宕、レンゲを連れて来るのは

私にやらせろ‼︎」

 

「愛宕なら適任だ。

ただし長門、お前はダメだ」

 

「なんでだああ〜‼︎」

 

真夜中の鎮守府に、長門の叫びが

響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

『ハァ……気分が落ち込む』

『そんなあなたにポプテピセラピー‼︎』

『……つまんね……』

『さてはアンチだなオメー』

 

「なんやこのCM……」

 

俺はその日は暇だった。

一応、横須賀鎮守府で預かるという形に

なっているが、俺は深海棲艦であって

艦娘ではないのだ。よって、

遠征とかの任務に全く縁がない。

だから、俺はテレビを見ていた。

 

「レンゲちゃ〜ん、いる〜?」と

愛宕の声が聞こえてきた。

 

「はいは〜い」

 

俺は愛宕の所へと向かった。

 

「あ、いたいたレンゲちゃん。

実はね……」

 

「実は?」

 

「この後は“お姉ちゃん”って言って

くれなきゃ教えてあげなーい」

 

「え"っ……」

 

いきなりなんちゅう難しい課題を課してくるんだ

この人は。

“お姉ちゃん”なんて俺にとっては

「早口言葉を10回3秒内に言え」と

言われるのと同じだ。

 

「……お、おっおお〜……」

 

恥ずかしさで顔が熱くなる。

喉が渇き、締まっていく気がする。

 

「……お……お姉……ちゃん」

 

つっかえつっかえながらも、

俺はなんとか言った。

 

「きゃー可愛いっ♪食べちゃいたいくらい♪」

と愛宕は俺を抱き上げた。

 

「ぐええっ‼︎あ、愛宕さん……

胸が、胸が俺の呼吸を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛宕に連れられ、俺は一つの部屋の前に

立った。いつもは物置として使われている

部屋だ。

 

「入って入って」

 

「失礼しまーす……えっ」

 

部屋を開けるとそこには艦娘が数人いた。

天龍や長門、霰や潮、電の姿まである。

……俺が驚いたのは艦娘が集まっていた事

でもなく、長門が愛宕を睨んでいた事

でもない。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー電が「タバコ」を吸っていた事にだ。

シガレットとかそういうタバコもどきの類

ではなく、本物のタバコに火をつけて

吸っている。

 

「た、タバコは子供は吸ってはだめですッ‼︎」

 

思わず俺はそう叫んでいた。

電はそれを聞いて子供が出さないような

くっくっといった感じで笑った。

 

「大丈夫だ。艦娘は免疫力は常人の

数倍らしいからな。

これでも()は艦娘の端くれだ」

 

俺は反論しようとして、ある事に気付いた。

 

「……()?」

 

たしか電は「私」だったはずだが。

 

「くく、やっぱりバラす時は

面白いな。色んな反応が楽しめる」

 

そう言いながら電はアップヘアーを

解いた。長い茶髪がはらりと

腰まで落ちる。

 

「これから言うことは本当だ。

聞き逃したら卍固めだからな」

 

次の瞬間、電は耳を疑う様な事実を

暴露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は元男で、横須賀の前提督だ(・・・・・・・・・・・)

 

……ハイ?

電が?元男?しかも横須賀の前提督?

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええええええええええええええ⁉︎」

 

横須賀鎮守府の真昼時、レンゲの叫び声が

響き渡るのだった。




今回は短めでーす。
深海提督さんとのコラボ楽しかった……
またやりたいです。


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「電さん」

不良の電ちゃん。
すごくいいと思います、はい。
「ぷらずまちゃん」って言うんでしょう?


 

い、(いなずま)が、元男で提督だった(・・・・・・・・)⁉︎

 

「ど、どうして男から女になったんですか⁉︎」

 

電はそれを聞いて、

 

「まあそれを話せば長くなるがいいか?」と

言って近くにあった古い椅子に座った。

そして、2本目のタバコを取り出しながら

話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー俺がこうなったのはもう7年も

前だ。

その時の俺はまだ男だったし、歳もジジイって

言われるぐらい取っていた。

だがな、志は若い奴にも負けねぇぐらい

熱かった。

「人類を脅かす敵を倒したい」って志がな。

歳を食えば冷えていくもんだと思ってたが、

どうもそうじゃないらしい。

……少し話がずれたな。

いずれ退役になってお払い箱になる日が来るのが

俺は嫌でな。後半年ぐらいで退役、って時に

上層部からお触れが出たんだよ。

 

「きたる深海棲艦対抗の為、歴戦の古強者に

ある実験に力を貸してもらいたい」ってな。

つまり、退役したくない奴は参加しろって

こった。

勿論俺は飛びついたさ。またとない

チャンスだったからな。

で、その実験の日の事だ。

被験者は俺を含めて5人いた。

どいつもこいつもジジイだったよ。

だが皆強い熱意を持っている、そうひしひしと

感じたな。

俺らは科学者連中と艦娘達に

連れられて病院にある手術室みたいな

所に連れられてな。

その中には丁度人一人すっぽり

入れるぐらい大きなカプセルの機械が

5つ並んでたんだ。

そこの中に入るだけでよかったんだよ。

後は連中が勝手に作業してくれたぜ。

俺はワクワクしてたさ。

「また国の為に戦える」ってな。

 

 

 

 

……まさかその後赤ん坊になるまで若返るなんてよ。

その時の俺は想像すらしてなかったさ。

他の奴らも幼児か、運が良くても小学低学年

ぐらいのガキぐらいになっちまってた。

それも、皆女になった状態でな。

それからは大変だったよ。

研究員連中のほとんどが首切られたり

地方に飛ばされたり。

俺達は俺達で読み書きが出来るような状態に

なるまでに4年もかかったり。

枚挙に暇がなかったな。

 

どうやら、俺達が受けた実験は

「男性を艦娘に変えて運用する実験」

だったらしい。

それを知らされたのは3年前、この鎮守府に

秘書艦として赴任する直前だった。

それと一緒にある任務も伝えられた。

 

「もし提督に艦娘を蔑ろにする

行為があったなら即刻大本営に

連絡しろ」っていう任務だ。

そう言われて、俺達は各地の鎮守府に

着任することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は察しがつくだろう。俺は

まだ提督を監視する任務についている」

 

電はそう言い終わると、ヤニの匂いを消す

為に消臭スプレーを身体に噴射した。

 

「じゃ、じゃあこの事は……」

 

「当然、提督には内密にしろ。

バラしたらここにいる奴ら全員の首が

飛ぶからな」

 

いいな、と電が髪を結びながら念を

押す。

 

「ちなみに、なんで秘密を艦娘だけで

共有していると思う?」

 

「なんでですか?」

 

「その方がスリルがあって楽しいから」

 

くっくっと電は笑いながら、

「じゃあこれで皆、解散。

お疲れ様でした」と言って

部屋から出ていった。

 

「はーお疲れー。ん、レンゲ?

どうした?」

 

「まじかよ……」

 

なんだか知ってはいけない事を

知ったような気がした。

これからどう電と接していけば

いいんだろ……。

はぁ……と俺はため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー横須賀鎮守府から遥か

離れた小島。そこは深海棲艦の生息海域にも

遠く、はっきり言って目ただない島であった。

その洞穴の中。

 

「はー着いた着いたー。いるかなあ

あいつ」

 

リヴァイア・サンズは蟻の巣のように

大量の部屋が作られ、裸電球の明かりに

照らされた洞穴を歩いてゆく。

そして、ある一つの部屋の中に入った。

 

「ゲンブ、いるかーい!」と頭を突っ込んで

サンズが叫ぶ。

 

刹那、その横の壁に鉛玉が叩き込まれた。

撃ち込んだのはF–4 ファントム、

ロッキードF–117A ナイトホークだ。

どちらもWW2(第二次世界大戦)には

なかった機体である。

 

「騒がないでくれよ。びっくりして

危うく撃ち殺す所だったじゃないか」

 

そこから現れたのは亀の様な

艤装を背負った怪物であった。

手は貧弱そうで、まるで間抜けな

ロボットのそれに近い。

足はなく、一本の角錐のようなもの

があり、ホバー移動をしてサンズの

近くまで来た。

 

「しかし、また腕上げた?

新しい機体があるじゃん」

 

「でも一つ一つ手作りだからね。

ナイトホークなんて一機造るのに

45分もかかったよ」

 

「流石ー。艤装作りの天才と

言われるだけあるよ」

 

「そう言えば1年ぶりだな。

僕の作ったワームは役に立ったかい?」

 

「あれを腹に仕込むのは二度としないよ」

とサンズはやれやれと首をすくめた。

 

「あれを全部出すのに1年もかかった」

 

「ああ、君の艤装だけど、君が

いない間に新調させてもらったよ」

とゲンブはショットガンに似た艤装を

両手で投げ渡した。

サンズはそれを片手で受け取る。

 

「何これ……もしかして“多薬室砲”?」

 

「勘がいいね。これは専用のカートリッジ」

ゲンブが数本のUSB状の棒を渡す。

 

「試していいかな?近くに深海棲艦の

住処でもある?」

 

「前にナイトホークで調査したら

南の方に2つぐらいありましたよ」

 

サンズはカートリッジを

ショットガンの横に開いた穴に挿すと、

 

「じゃあ試しがてら潰してくるよ〜」

と出ていった。

 

「くれぐれも壊さないように〜」と

ゲンブはサンズの後ろから見送るのだった。

 

 




はい、今回もまたオリキャラが出て来ました。
オリキャラの名前は海洋生物や海の神話の怪物を
もじってます。
ex)リヴァイア・サンズ⇒リヴァイアサン
もし良かったら特定でもして下さい。


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「丙型生命体」

天丼って美味しいよね。
あと凄い遅れたけどお気に入り50人
突破ヤッター‼︎


 

レンゲが電の秘密を聞いてため息を

ついている頃。

神崎は執務室であるレポートを読んでいた。

大本営から送られてきたもので、

「漏洩、口外禁止」と赤い判が大きく

表紙に押されている。

そしてそのレポート名は、

「新たに発見された丙型生命体について」と

記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー丙型生命体が発見されたのは

一年前、各国が合同で行った、

鉄底海峡(アイアン・ボトム・サウンド)攻略作戦の

終了後、日本のとある一隊が休憩のため

立ち寄った小島であった。

丙型生命体は敵対する意思を見せず、

逆に恭順の意思を示した。

その一隊は丙型の武装を確認し、

(こう記すのは丙型に武装が

確認されなかったためである)

鹵獲して大本営に丙型の身柄を引き渡した。

大本営の研究者達はこぞって、

丙型の身体的特徴を調査した。

結果、かの丙型は

電探(レーダー)に検知されない」という特徴が

確認されたのである。

また、身体の強度も「甲型生命体」、

通称深海棲艦と比較すると数十倍近い

強度を持っていた。

なお、丙型はこの個体一体のみか、

仲間がいるのかは不明である。

 

 

「途中でレポートの記載がないのは、

奴が逃げ出した為か……

全く、わからないことが多すぎる。

これじゃ丙型生命体じゃなくて、

unknown(未確認)」じゃないか」

 

そう神崎は言って、執務室の机にレポートを

しまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー海は静かにさざめいていた。

カモメは鳴き、空を飛ぶ。

蒼い空がどこまでも広がっていた。

だからこそ。

 

 

 

 

 

島の海面や砂浜にぶちまけられた深海棲艦の

大量の肉片や死体、血液をより異常なものとして

映し出していた。

 

「あーあ、つまんねぇつまんね〜♪

どいつもこいつも張り合いねー♪

気づいたら俺しかいね〜♪

……おお、寂しい」

 

その死体がうずたかく積み上げられた

山の上に、サンズは座っていた。

 

「えーと、深海棲艦のアジトが二つ。

どちらも潰して……時間が、っと

55分27秒。

アジト間の距離が……」と

サンズは指をこすりながら計算する。

そのたびに積み上げられたヌ級やワ級の

死体がグラグラと彼の足に揺らされる。

 

「……最初が34分、二つ目が21分、かな」

 

それから僅かに舌打ちをして、

 

「あークソおっせー‼︎

20分で今までなら潰してやれたのによー‼︎」

 

と誰もいない島で怒鳴り、そして苛立たしげに

死体の山を蹴り、海の方に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、内房鎮守府。

そこでは芝浦が軽巡の多摩と空母の蒼龍の

報告を受けていた。

 

「申し訳ないにゃ……またやられたにゃ」

 

水中聴音機(ソナー)にも電探(レーダー)にも

本当に反応がなかったんです。

なのに、いきなり先制雷撃を……」

 

「もういい‼︎戻っていろ‼︎」

 

芝浦の怒声を聞き、多摩達はすごすごと

退出した。

 

「提督……」

 

「うるさい、黙っていろ。

今考えている所なんだ……‼︎」

 

彼が苛立つのも訳はなかった。

というのもこの事態が既に

何回も行われたからだ。

ソナーや電探には何も反応がないのに

いきなり雷撃が襲いかかる。

そのため彼の鎮守府では大破が相次いでいる

状態であった。

 

「なんでだ。いや、どうやって電探やソナーを

かいくぐったんだ?どうやって……」

 

秘書艦の翔鶴は、心配そうな目で芝浦を

見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様を遠くから望遠鏡で覗く者がいた。

古いボロ布を纏った者。

イカリの姿であった。

 

「くく……焦っているな。そろそろ

最終段階に入っても良い頃合いか」

 

そう言いながら、イカリは立ち上がり、

どこかぐにゃり、ぐにゃりとした歩き方で

歩き出した。

その足は細く、イカのような触手が

絡みついていた。

 

「この姿では、ちとバレてしまうなあ。

いつものあの姿に偽装するか」

 

イカリは呟きながら、どこかに去っていった。

 

 

 

 

「待っていろ、日本海軍の野郎共……

これからゆっくりと、地獄に堕としてやる……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




電「長門さんと説いて、
悪い人が受ける判決と説くのです」
長門「その心は?」
電「youうざい(有罪)なのです」
長門「……」


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「内房へ」

途中で歌が出て来ますが、
実はこの歌、実際にある歌の
ワンフレーズです。
暇だったら探してみてね。
–追記–
著作権に触れているという事なので、
歌詞をオリジナルで作成しました。


電の秘密を聞いてから2日。

 

「……内房の鎮守府に行く?」

 

俺はそう神崎さんに言って、隣にいる

天龍達に目をやった。

 

「君にも一応横須賀だけでなく、他の

鎮守府を見てもらって学んでもらえればと

思いまして。聞いた話だと駆逐艦クラスで

受けたテストが満点だと聞きましたよ」

 

「えへへ……」

 

あれは只単に問題がやさしすぎただけなのだが。

元高校生に小学生程度の問題出すってあれか?

俺は身体は子供、頭脳は大人の

名探偵か何かなのか⁉︎

……あ、俺今子供だ。

 

「流石私が見込んだだけあるな」

 

長門が鼻高々に話す。

 

「いつおまえが見込んだんだよ」

 

「レンゲが風呂に入っている時だ‼︎」

 

……あれ、俺長門と一緒に風呂入った事

あったっけか?

 

「窓から眺めたレンゲの肌はそれはもう」

 

「窓からって覗きじゃねーかー‼︎」

 

そうか……長門は覗きをしていたのか……。

少し、長門と距離をとろうかな……。

 

「レンゲさんは演習を見学しているだけで

良いそうです」

 

「それって大本営から禁止された、とかですか?」

 

いえ、と神崎さんは首を振った。

 

「内房の方からの要望です。

その、非常に言いにくいのですが……」

 

「……敵を演習に出させる訳にはいかない、

みたいな感じですか……」

 

天龍が怒りの声を上げる。

 

「なんだと⁉︎レンゲはなあ、

大本営をあの爬虫類野郎から

守ったんだぜ⁉︎

それなのに……」

 

俺はそれを制した。

 

「待って下さい。確かに俺は(サンズ)

闘って大本営を守りました。

でも、それはただの結果なんです。

それだけで、皆が俺の事を信じてくれるとは

思っていません。だから、別の鎮守府に

行けるだけでも充分な進歩なんですよ」

 

天龍が握っていた拳を緩める。

今は、誰も何も言わず無言であった。

 

「……なんだか、少ししんみりして

しまいましたね」

 

「うおおおレンゲ〜‼︎なんて健気な子なんだ〜‼︎」

 

「お姉ちゃん感激‼︎ハグしちゃう♪」

 

長門と愛宕がほぼ同時に俺に抱きつく。

丁度二人とも胸が俺の顔の位置にあるので。

二人の自己主張が激しい胸に俺の顔が挟まれる

状況になった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜…………ッ⁉︎」

 

「あらあら〜顔が真っ赤よ?」

 

「その顔も可愛いッ‼︎」

 

慌てて俺は手を振りながら二人を

押しのけようとする。

 

「は、離れて下さいッ‼︎」

 

「愛宕お姉ちゃんって呼んでくれないと

離れてあげなーい」

 

「では私も長門お姉ちゃんと呼んでくれ」

 

なんでまたお姉ちゃんと呼ばにゃならんのよ⁉︎

しかもこんな皆が見てる前で‼︎

 

「心安らぐ風景ですね〜」

 

「優しい世界と言うらしいのです」

 

「微笑ましいな」

 

おまえら笑ってないで助けてくれよオオオオ‼︎

俺の顔がW巨乳に潰されるーー‼︎

 

「お……お姉、ちゃん」

 

なんとか言えた……。

 

「愛宕お姉ちゃんって言ってなーい。

もう一回♪」

 

「お姉ちゃんだけじゃどっちに言っているか

分からないぞ。さあ、長門お姉ちゃんと

言ってくれ‼︎」

 

もうやだこの二人。

二回も言わせる必要ないでしょ……。

 

俺は腹を括って、思いっきり叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛宕お姉ちゃん、長門お姉ちゃん、

胸をどけて離れて下さいッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、なんかもう疲れた……」

 

「まだ着いてもいねーぜ。ところで

ここにあったおにぎり知らないか?」

 

「私が食べました」

と赤城。

 

「私もです」

と加賀。

 

「「やりました」」

 

「やらんでいいわそんなこと‼︎」

 

「まあまあ、後少しで内房ですから」

 

3時間後、俺達は内房まで行くため

電車に乗っていた。

乗っていたのは俺と、一応お目付け役として

天龍、そして赤城、加賀、比叡、潮、愛宕。

内房の提督に用があるとのことで

神崎さんも来ていた。

 

「そう言えば司令って内房の

芝浦提督とはどんな関係なんです?」

 

「彼のお兄さんが私と同期でしてね。

よく家族ぐるみで交流していましたよ。

あの頃は……」と神崎さんは一時

言葉を切った。

 

「……ああ、すいません。少し

思い出したくないことを思い出して

しまいまして」

 

「……あ、すいません……」

 

比叡が申し訳なさそうに謝る。

 

「いえいえ、楽しい事も思い出せたので

おあいこですよ」

 

……提督とその芝浦という提督に何か

因縁でもあったのだろうか。

俺は比叡と神崎さんの話を聞きながら

そう思っていた。

電車は、次の駅が内房に行く事を

アナウンスしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンズ達が根城としている小島。

その中の一つの部屋で、

ゲンブは艦載機を手作業で

作っていた。

 

「……〜♪

what will you do? Tonight,with us in front.

Do you fight? Do you accept with mercy?

Or will you take action?

But all that is useless!」

 

誰かの歌声が聞こえてくる。

こんなことをしているのは1人しかいない。

 

「サンズ‼︎また歌っているのかい?」

 

「ただいま〜‼︎歌うのは俺の趣味だぜ?

楽しみを奪わないでくれよ」とサンズは

自分の艤装をそこらにあった机に置いた。

 

「別に構わないけど、君を嫌っている奴

だっているのを知っているだろう?」

 

「だからリーダーの座をおまえに

渡したんだよ」

 

「あれは失策だね。おかげで他の奴らが

北方だのなんだの各地に散ってしまったよ」

 

「ま〜面倒なことは抜きにしてさ〜♪

俺子猫拾ったんだよねー」

 

「いますぐ元の海域に返してらっしゃい‼︎」

 

サンズは後ろに隠していた三毛猫を

抱きながら、

「んな殺生な……飼ってよ母さん」

と言った。

 

「誰が母さんですか‼︎」

 

「そういう所がお母さん言われる

原因なんだよ、ね〜♪」

サンズは三毛猫に同意を求めた。

三毛猫は分かってか分からずか、

ニャーと一声鳴くのだった。




長門がでない理由、
秘書艦は全員お留守番や。

長門「なん……だと……」


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「すれ違い」

「オリョクル」と聞いて、てっきり
「オリョールクルセイダース」の
略語だと思ってました。
それだと58がスタンド使いに
なりそうですね。


「……ここが……」

俺達の目の前にあったのは、赤煉瓦の

大きな建物であった。

しかしそれは横須賀鎮守府に比べ

真新しく、そしてやや小さめだった。

 

「そう……ここが内房鎮守府です」

 

「俺達は何回も来てるぜ」と天龍が呟いた。

 

俺達の目の前には、二人の艦娘がいた。

一人はこの間俺と演習をした翔鶴。

そしてもう一人、駆逐艦娘の不知火がいた。

 

「わざわざ横須賀鎮守府から来て下さい

ましてありがとうございます」

 

「御鞭撻御指導の程、よろしくお願いします」

 

二人が丁寧な挨拶をする。

 

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。

ところで、芝浦提督はどこに?」

 

「不知火がご案内致します」

 

「では艦娘の皆さんは私と演習場に

来て下さい。既に皆が待っています」

 

俺達は神崎さんとわかれ、翔鶴に連れられて

演習場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです。では不知火はこれで」

 

「ありがとうございました」

 

神崎は執務室の扉をノックして、中に

入った。

そこには、机から崩れ落ちた書類を

拾う芝浦の姿があった。

 

「……俺に何の用ですか?」

 

「貴方からの報告レポートを見まして。

……大丈夫ですか、被害は、どのくらい

続いているんですか?」

 

芝浦は煩そうに顔をしかめ、

「……貴方には関係ないでしょう。

なんですか、援助でもしてくれるとでも?

はっ、どうせ口約束だけでしょう?」

 

「いえ、そんなことは」

 

「何処の鎮守府もそうです。自分の

地位を上げる為に成績を立てるのに

誰もが必死だ。他人を助けるなんて

二の次三の次なんですよ」

 

イライラしながら髪をかきむしる芝浦。

それはまるで自分以外の全てに怒って

いるようであった。

 

「芝浦君……」

 

「帰って下さい」

 

「ですが」

 

「帰ってくれって言っているんだッ‼︎

兄者を見捨てた男(・・・・・・・・)

顔など見たくもないッ‼︎」

 

「……ッ……」

 

「……失礼致しました……非礼を

お許し下さい」

 

神崎は軍帽を胸に当て、

「申し訳ありませんでした。

艦娘達の演習を見届けてから

帰らせて頂きます」と言って

退出した。

 

芝浦はしばらく額に手を当てていた。

提督とはいえまだ15の子供だ。

彼の心中は拘泥の如くどろどろと

渦巻いていた。

 

「司令官、司令官に会いたいと言っている

人が来てるにゃ」

 

「帰らせてくれ」

 

「でも……提督のお兄さんから

何か託されたものがある、って

言っていたにゃ」

 

芝浦は、それを聞いて顔を上げた。

 

「兄者から……だと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロー皆。レンゲだ。

今俺は演習を翔鶴と一緒に見学している。

 

「ねぇ、翔鶴さん……」

 

「なんですか?」

 

うわ、めっさいい匂いする。

……そうじゃなくてだな。

 

「あの、神崎提督と内房の提督って

何か因縁でもあるんですか?」

 

翔鶴はそれを聞いて首を傾げ、

「さあ……因縁はあると聞いたんですけど、

それがどんな因縁なのかは知らないですね」と

言った。

 

「……教えてあげましょうか」

 

驚いて振り返ると、そこには神崎さんがいた。

 

「神崎提督……」

 

「……私と芝浦君との因縁は、5年前から

始まったんです……」

そう言って、神崎さんは語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー私は芝浦君のお兄さん、

悠斗さんと同期でした。

悠斗さんは私達の中でも秀才で、

皆、彼を目標として頑張っていましたよ。

彼の家は代々軍人家系でしてね、

深海棲艦が現れたときもお父上と共に

船に乗って闘ったそうです。

……最も、その時から地獄は始まって

いたんです。

その後、芝浦君のお父上は深海棲艦に

船を沈められて大火傷を全身に負ったんです。

助けられた時、息はまだありましたが、

到底、助かるとは思われていませんでした。

数日後に息を引き取りました。

まだ、芝浦君が9歳の時です。

芝浦君が10歳の時。これこそが私と彼を

決別させた一番の理由でした。

 

その時日本は深海棲艦相手に劣勢で、

ある計画を以って起死回生を狙ったんです。

即ち、殆どの艦を使用して深海棲艦を

撃滅するという作戦を実行しました。

私は第三艦隊、悠斗さんは第一艦隊を指揮

して、敵を迎撃しました。

最初は優勢でしたが、やがて敵はどんどん増えて、

後少しで包囲されるという状況に

追い込まれました。

 

私は悠斗さんに退くべきだ、と提案しました。

ですが悠斗さんは、こう言ったんです。

 

「先に行ってくれ。後から追いかける」と。

私はそれを信じて、残存した艦を率いて

離脱しました。

 

……あの時……もっと引き止めていれば、

いや……私が代わりに残るべきでした……

彼は、悠斗さんは、乗組員を逃がしてから、

燃料庫に火をつけて自爆したんです。

それによって、多数の深海棲艦が轟沈し、

一旦は追い返すことが出来ました。

 

国民は作戦の成果に喜び、舞い踊りました。

でも、芝浦君だけは違いました。

彼は深海棲艦との戦いで、父と兄を

失ったんです。

そして、悠斗さんの出棺の日、

彼は私を睨んでこう言いました。

 

「裏切り者」。

そう、言いました。

私は何も言いませんでした。

私は彼の言葉を信じたとはいえ、

彼を置き去りにしたんです。

彼を見殺しにした、そう思われても

おかしくないと私は思っていたんです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その後私は横須賀鎮守府に着任して、

芝浦君は内房鎮守府に着任した。

その後はお分かりでしょう。

まだ、彼は私と深海棲艦を心の底から

憎んでいるんですよ」

 

「……なんで、ですか」

そう、翔鶴が呟いた。

 

「なんで何も言わないんですか‼︎

貴方には感情があるんでしょう⁉︎

司令官の兄上は、神崎司令官達

生き残った人達が、後のことを解決して

いけると信じて死んでいったんですよ‼︎」

激情の羅列の如く、翔鶴は叫ぶ。

 

「その思いを芝浦司令官に、

他の人達に伝えないでどうするんですかッ‼︎

それこそ、本当の裏切りですッ‼︎」

 

「……‼︎」

神崎さんがハッとした顔をする。

 

「‼︎ し、失礼しましたッ‼︎」

翔鶴は自分の言った事に気づくと、

口を抑えて何処かに走って行ってしまった。

 

「あー……どうするんですか?

あのままほっておくのはまずいですよ」

 

「いますぐ追いかけて、謝ってきます」

神崎さんはそう言って、翔鶴の後を

追っていった。

皆、相手を思って生きている。

たとえ殺意だろうと愛情だろうと。

相手を思うからこそ行動出来るのだ。

俺は神崎さんの背中を見ながら、

そう思っていた。

 

 

 

 




次回何しよう。
お気に入り100いったら
またコラボ描こうかなーー。


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「過去からの刺客」

書くこと無し。


 

神崎が退出してから数分後。

執務室で芝浦はある男と向かい合っていた。

その男の姿は異常であった。

全身を白い布で覆い、辛うじて見える

腕や足の部分にも肌が見えない程の包帯が

巻かれている。

その男は嗄れた声で喋り始めた。

 

「お久しぶりでございますな。

といっても、この姿では誰か分からん

でしょう」と言いながら、懐から写真を

取り出した。

その写真には軍服を着た男達が並んで

写っている。

 

「私は、倉井 健斗元二等水兵です。

この写真の……ここです、ここに写っています」

男は写真の中に写っている一人の

快活そうな男を指差した。

 

「ああ……確か、かなり前に会った事が」

 

「思い出して下さいましたか。

あの頃はまだ私は学生で……と

失礼しましたな。危うく話が

逸れる所でした」

男は再び懐に手を入れ、何か黒い液体が

入った瓶を取り出して机の上に置いた。

 

「……これが、俺に渡したいものですか」

 

「これこそが、貴方の兄上、悠斗さんが

人生を懸けて作り出そうとした薬です」

 

芝浦は、瓶を持ち上げ傾けたりして、

それから尋ねた。

 

「何故、今俺に渡したんですか?

その経緯を教えて頂きたい」

 

「分かりました。少々長くなりますが、

あれは5年前、あの忌まわしい作戦の

時でした」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその時、船は深海棲艦に

包囲され、後はゆっくりと沈められるのを

待つだけの状態でした。

悠斗さんは、我々を救う為に小舟に

分乗させて逃がしました。

私は最後に小舟に乗った人間でした。

その時、悠斗さんは軍服のポッケから

何かの紙を握らせて、こう私に言ったんです。

 

「これは通常の人間に艦娘の特徴を

与える効能を持つ薬の調合書だ。

もうどうやら俺は生きて陸に

戻れないらしい。

お前に託す。必ず、薬を完成させて

弟に渡してくれ」と。

 

そう言って悠斗さんはきびすを返して

船の奥に行きました。

あの時、彼を無理やりにでも、小舟に

乗せておけば良かった……。

貴方の兄上は軍人として立派な最期を

迎えました。

私も、深海棲艦に襲われて全身に大火傷を

負ってこのような醜い姿になってしまいましたが

この……この薬の調合書だけは欠損なく

守り抜きました。

 

 

 

 

 

 

「それから私は3年近くもこの薬を

調合し続け、ようやく完成させたのです」

 

「しかし、このような薬に頼るのは

日本男子として……」

 

「何を仰る‼︎」

倉井が怒ったように叫ぶ。

 

「艦娘という存在は希少です。

そして、か弱いのです。そのような

不安定な存在にいつまで頼るのですか‼︎

貴方は、兄上の意志を裏切るのですか⁉︎」

 

「兄者の……意志……」

 

「熱くなってしまいましたな。

私はそろそろお暇させて頂きます」

そう言って、倉井は薬の瓶を置いて

出て行った。

芝浦は、瓶の蓋を開けた。

 

(そうだ……いつまでも艦娘達に

頼ってはいられない……俺が、

俺自身が闘って、あの忌々しい

深海棲艦供を……)

 

そして、薬を一気に飲み干した。

 

(この世から消してやるッ‼︎)

 

 

ーーーーーーズキン。

 

「うッ……」

 

なんだ、頭が痛い。体中が焼け爛れそうに

熱い。痛い。

芝浦は、体を抑えてうずくまった。

意識が……消えていく……。

まるで……自分の身体が人間ではない者になりそうだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

自分の意識を芝浦は保とうとしたが、その

抵抗も虚しく彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー内房鎮守府に近い海岸。

そこに、倉井がーーーーーー否。

 

「やはり、ガキほど騙すのは簡単なものは

ないな……ククク」

倉井ではない。そもそも芝浦と

会ったのは倉井ではなかった。

倉井という人間に化けたイカリ(・・・・・・・・・・・・・・)だったのだ。

 

「奴があの薬を飲んだなら、後はゆっくりと

見物させて貰おう……」

と、イカリは布と包帯を剥ぎ取った。

その姿はまさに人外の一言を形容していた。

全身は白く、粘液のような液体で覆われている。

頭は前後に長く、後頭部に烏賊のようなヒレが

ある。腕は8本あり、その内二本が歩行を

補助する為に足に絡みついていた。

そして、イカリもサンズと同じく助骨を

模した装備が付いていた。

 

「ああ、今からどんな惨劇を鑑賞出来るか、

愉しみだ……クククククク」

 

8本の腕を絡ませながらイカリは言うと、

海の中に飛び込み、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……司令官?」

場所は戻り内房鎮守府の執務室。

その扉を翔鶴はノックした。

神崎と芝浦を引き合わせる為だった。

彼女は神崎を罵倒してしまった。

だから、これぐらいしか罪滅ぼしが

出来なかった。

未だ、中から返事はない。

 

「……司令官。いいですか?開けますよ……」

と翔鶴は扉を開けて中に入った。

そこには。

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、グルルル……グウウウ……‼︎」

歯を剥き出しにして唸る人間型の深海棲艦がいた。

頭の大きな艤装は、ヲ級のそれだ。

今にも襲いかからんとヲ級は四つん這いで構える。

なぜか、サイズの合わない軍服を着た状態で(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……し、れいか、ん……⁉︎」

 

翔鶴はそのヲ級を見て、否が応でも

気付いた。気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーそのヲ級が、芝浦提督だという事に。

 




どう考えても次はドンパチやらかします。
前に「レッドファイッ‼︎」とか
書きましたが、今回はない。
???「ゆ"る"さ"ん"‼︎リボルクラッシュ‼︎」


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「海月暴走」

「ようこそジャ●リパーク」を
デスメタ調にしたら一気に殺伐とした
雰囲気になるんじゃないかと気づいた
今日この頃。


 

「ガルウウウウッ‼︎」

 

ヲ級……否、ヲ級となった芝浦が

執務室の窓を叩き割って外へと

逃げ出す。

 

「ッ‼︎」

 

翔鶴は慌てて芝浦を追って窓から

顔を出して下を眺める。

執務室は4階にある。生身の人間が

そこから飛び降りようものなら

無事ではすまない。

ーーーーーーだが、今の芝浦は深海棲艦だ。

芝浦は両手両足全部を使い四つん這いになって

着地した。

そして痛がるような様子もなく、駆け出してゆく。

 

「あの方向は……‼︎」と翔鶴は

執務室を飛び出した。

(まずい……あの方向にあるのは……‼︎)

 

芝浦が走っていった方向には、

レンゲや天龍達、内房の艦娘達がいる

演習場があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃の演習場では。

 

「天龍、小破判定‼︎」

 

「蒼龍、大破判定‼︎」

 

横須賀鎮守府VS内房鎮守府の

艦娘達が一進一退を繰り広げていた。

だが、僅かに横須賀鎮守府の方が

押している。

 

「ちきしょう……あっちに潜水艦娘が

いやがる」と天龍が呟いた。

 

「貴女はまだ魚雷を撃てるから良いでしょう。

こっちは只の的みたいなものですよ」

加賀はそう言いながら弓をつがえた。

潜水艦娘にとって危険なのは対潜攻撃や

魚雷の一撃であり、それを放てない

空母や戦艦は格好の的になるのだ。

 

「だから俺や潮がお前らを守んなきゃ

いけないんだ。迂闊に動けないから

イライラしちまうぜ」

と、天龍はそう言って加賀の方に迫る魚雷の影を

艤装の砲撃で撃ち抜いた。

瞬間、水柱が発生し、辺りに降り注ぐ。

 

「まだあちらには戦艦がいますから、

それを轟沈判定にしてから潜水艦を

叩きますよ」

赤城が相手の戦艦から放たれた砲撃を

回避して、命令を出す。

 

どちらも演習とはいえ全力を尽くし、

戦法を張り巡らせ、いかなる事態も

想定して闘っていた。

 

 

 

 

 

「ガウウウウウウッ‼︎」

 

だが、突如上空からのどちらからでもない

艦載機の攻撃を誰が予想出来たであろうか。

 

「ッ⁉︎うおああッ‼︎」

 

「あれは……深海棲艦の⁉︎」

 

いくつかの編隊を組んで黒い虫のような

艦載機が飛んでくる。

その群れの背後に、杖状の艤装を装備した

深海棲艦が二つの鎮守府の艦娘達を睨みつけた。

 

「グ、ルウウウウウウウッ……」

 

まるで獣のような唸り声を上げ、ヲ級は

艦載機に指示を出す。

無論加賀達も棒立ちではなく、残っている

艦載機に指示を出し、深海棲艦の艦載機と

空中戦(ドッグ・ファイト)を開始した。

すぐに、ヲ級の艦載機が殲滅されていく。

艦娘達の艦載機が多いのもあるが、

何よりも、即興で息を合わせられる

チームワークがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……」

俺は感嘆の声を出した。

先程まで闘い合っていた艦娘達が

息を合わせてヲ級と闘う様は驚嘆に値した。

これではヲ級も手も足も出ない。

だがヲ級は退くこともせず、ありったけの

艦載機を発艦する。

そこに、翔鶴が息急き切って走ってきた。

 

「翔鶴さん、今ヲ級を……」

 

「ッ‼︎ 駄目です、止めて下さいッ‼︎」

 

「⁉︎」

 

「あのヲ級は……芝浦司令官なんですッ‼︎」

 

……なんだって?あのヲ級が……芝浦司令官⁉︎

確かにあのヲ級は提督の衣服を纏っているが、

流石にそんな事はないだろう。

 

「あのー……そんな訳がないと思うんですが」

 

「なら、この鎮守府の誰にも気付かれずに

どうやって浸入出来たんですか‼︎」

 

ここの鎮守府は常に艦娘達や

電探の目が光っている。

それをかいくぐり、鎮守府に浸入するのは

至難の業だ。

それこそ鎮守府の中から発生しない限り(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「なら、レンゲと同じように鹵獲して

聞くしかねぇか……」

天龍が歯がゆそうに言い放つ。

 

「で、でも、レンゲちゃんと同じような

状況じゃないですよ……」

 

潮がおどおどしながら言う。

そう、今のヲ級はレンゲの時と違い、敵意を

剥き出しにしていた。

 

「ウウウウウウウウ……ルウウッ‼︎」

 

「そもそも話せるかどうかも怪しい所ですね……」

 

「全くです」

 

「とりあえず、あいつの艦載機を全部

落とすぜ。話はそれからだ」

 

 

 

 

 

 

「翔鶴さん、俺は、俺には何が出来ますか」

 

「えっ……ですが、あなたは今砲弾も艦載機も

抜かれているんですよ⁉︎」

 

俺は拳を握りしめながら言った。

 

「たとえそれでもヲ級の足止めぐらいは

やってみせます」

 

「……分かりました。私も出来る限り

サポートします」

 

俺は翔鶴のその言葉を聞き、気を引き締めて

艦載機が飛び回る演習場へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、演習場の海中。

潜水艦娘の伊58は海上の様子を

伺っていた。

 

(全く、皆慌て過ぎでち。いざとなれば

ゴーヤが大破にさせてやるでち)

彼女は、いつでも何かあった時の為に

魚雷の(演習用のではなく実戦用の)弾頭を

持っていた。

 

(ゴーヤが必要になる時まで、皆頑張れー)

 

その時である。彼女の今まで沈黙していた

通信機から、声が聞こえた。

仲間の声でも、かといってヲ級の声でもない。

地の底、否、海底から聞こえてくるような声が。

 

 

 

 

 

(……それまで君が生きていればの話だがね(・・・・・・・・・・・・・・・・・)……)




テスト期間だよッ‼︎


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「海中の暗躍者」

レンゲの花言葉って
「あなたと一緒なら苦痛が和らぐ」
らしいですよ。それが彼女からの
言葉なのか、それとも彼女に送られる
言葉なのか。なんとなく深く
考えさせられました。


「ガウウッ⁉︎ウウウウウウウウ‼︎」

 

ヲ級の艦載機が全て破壊される。

どうしようもなくなったヲ級。

だが、艦載機が殲滅されただけでは

深海棲艦は逃げ出すような真似はしない。

 

「諦めてとっとと捕まれ‼︎」

 

天龍が勧告する。その言葉が、

ヲ級のプライドをいたく傷付けた。

もはや艤装や艦載機など必要なかった。

ヲ級は、自らの手足で天龍達を沈める

事を決意した。つまり、

 

「ガアアアアアアッ‼︎」

 

「ぐぁッ⁉︎」

 

全力で相手を殴り出したのだ。

その殴り方はまるで子供の様なものであったが、

嵐か暴風の如くやたらめったらに拳を振り回す

為に、誰も近付けなかった。

 

「うおおおおお‼︎」

 

しかし、その分隙も大きく、

レンゲのタックルを受けてバランスを崩して

ヲ級はそのまま倒れてしまった。

 

「グウウウッ⁉︎」

 

ヲ級はレンゲを引き剥がそうとするが、

レンゲも必死だ。中々剥がれない。

 

「ウウウウッ……ガアアアッ‼︎」

 

ヲ級が蹴りや打撃を叩き込む。

 

「いい加減に……しろおおおおおッ‼︎」

 

無論レンゲが黙っている訳がなく、ヲ級は

殴り返された。

 

「グウッ‼︎ガウウッ‼︎」

ヲ級が姿勢をたち直すと同時にレンゲも

立ち上がり、そして。

凄絶な殴り合いを開始した。

 

ガツッ‼︎ ガッ‼︎ ガスッ‼︎ ガツンッ‼︎

鈍く、そして重い音が響く。

互いに相手を見据えながら、手心も

へったくれもなく殴り合う。

 

「ぐッ‼︎」 「ギッ⁉︎」 「はあッ‼︎」 「ガハッ‼︎」

天龍達は、二人の気迫に圧されて動くことが

出来なかった。

 

「お前なあ‼︎皆がよお‼︎皆ッ‼︎お前の事をッ‼︎」

 

やがて、レンゲの拳の連打にヲ級が押されていく。

 

「グ、オ、ウウッ……‼︎」

 

レンゲの片目が僅かに黄色く染まる。

それを見てヲ級が明らかな恐怖を顔に出した。

 

「心配してるんだよッ‼︎だからなァッ‼︎

いい加減……目を覚ましやがれえエエエエエエッ‼︎」

 

レンゲの全力の右ストレートが、ヲ級の顔に

クリーンヒットした。

 

「グ、ギ、アッ……」

 

ヲ級の体はそれを受け、踏み留まろうとしたが。

意識が耐え切れず、グラリと後ろの海面に

体を沈めた。

 

「はぁっ……はぁっ……天龍、さん……

皆、いますか?」

 

息を整えながら、レンゲは皆の安否を

確認した。

 

「少し待ってくれ。……こっち(横須賀)の方は

全員いる。そっちはどうだ?」

 

その問いに、内房の艦隊の旗艦である、

扶桑が顔を青くして応えた。

 

「ひ……一人、58さんが……58さんが

いません……通信にも応答が……」

 

「なんだって⁉︎」

 

「天龍さん、こいつ(ヲ級)頼みますッ‼︎」

 

レンゲが天龍にヲ級を託し、そして海面に

身体を潜り込ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海中に入った俺は、すぐに58を探した。

いくら潜水艦娘とはいえ、一度に

長時間潜水しているのは危険だ。

 

(何処だ……何処にいる……?)

 

俺は必死に探した。その時だった。

 

(貴様が探しているのは、このガキか……?

ククククククク)

 

まるで、直接頭の中に語りかけるように

声が聞こえた。

 

(こっちだ。お前から見て1時の方向だ)

 

その方向に目を向けると、そこには

58を触手で捕らえた烏賊のような

怪物がいた。

身長は2m程か。だが、身体から

伸びている8本の触手は15m程の

長さだ。

その内の2本に、水中銃のような艤装を

持っている。

そいつは烏賊の嘴のような潜水マスクを

つけて、そしてその状態でも分かる程の

陰湿な笑みを浮かべた。

 

(水中では、口を開けて話す事は

不可能なのでね。代わりに超音波を

使って話させてもらうよ)

 

そう言って、俺の元へと近づく。

とてつもない大きさの触手が迫る様は、

西洋の伝説に出てくる「クラーケン」を

思わせた。

 

(しかし、大本営が鹵獲したレ級が

いるとはね……ククク、てっきり

あそこの連中は無能低能のクズ揃いだと

思っていたが、多少はやるようだ)

 

大本営。その言葉に引っかかった。

まさか、あの、あの爬虫類の怪人の。

リヴァイア・サンズの仲間だというのか。

 

(まあ、自己紹介をさせて頂こうか。

私の名はイカリ。といっても、

覚える必要はない。何故なら……)

 

イカリの艤装が日の光を浴びて輝いた。

そして、イカリの目も俺という名の

獲物に輝く。

 

 

(君とこのガキを始末させてもらうからね‼︎)




次回のレンゲの奇妙な冒険
オリョールクルセイダースは(超大嘘)

サンズ「那珂は粉微塵に解体された……」

レンゲ「おい大嘘つくの止めろ」


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「大海のクラーケン」

設定書かないとな……。
第一回の閲覧が3000超えました‼︎
これもひとえに皆様のおかげです‼︎


 

長蛇のような8本の触手をうねらせ、

イカリが俺に向かい突っ込んできた。

その速度は異常な程に素早く、

俺はそれをまともに受けてしまった。

 

(ぐうッ‼︎)

 

更にイカリは水中銃のような艤装で追撃を

仕掛ける。

俺が身体をよじると同時にさっきまで身体が

あった所を矢が2本通過し、海底にある岩に

衝突して爆発した。

 

(ほう。なかなかやるじゃあないか。

だが、君は死ななくてはならないんだ)

 

再びイカリが射撃を開始する。

俺はそれを回避して、相手から距離を置く為に

遠くへと泳ぐ。

だが、その一瞬で、イカリは俺の背後を

取っていた。

 

(ッ⁉︎馬鹿な‼︎)

 

ゲームの中では、潜水艦娘のほとんどは

「低速」に分類される。

だが、この烏賊野郎は、間違いなく

「高速」の分類に入る。

いや、もしかするとそれ以上の速さを

持っている可能性があるかもしれない。

 

(君は既に敗北しているのだよ…この海中で、

私と出会った瞬間にね‼︎)

 

イカリの触手が俺の首に巻きつき、締め上げる。

その強烈な痛みで、俺は声にならない叫びを

上げた。

開いた口から、空気がゴボゴボと漏れていく。

 

(こ……こいつ……強い‼︎

は……早くほどかないと……‼︎)

 

だが、触手はますます強く締め上げてくる。

心なしか、メリメリ……という音が聞こえて

きそうだ。

しかし、俺は奴が58にかけていた力を緩め、

そして離す所を見逃さなかった。

尾を伸ばし、奴の首を狙う。

 

(くッ‼︎)

 

イカリは触手を2本犠牲にして、俺の

尾の艤装の噛みつきを防ぐ。

そして、尾を別の触手で締め上げた。

 

(なかなか味な事を考えるな。

しかし、この私を倒すことは不可能だよ)

 

そう言いながら、イカリは水中銃を

こちらに向けた。

 

(チェック・メイトだ)

 

俺は、その勝ち誇る顔に向け、口パクで

こう言った。

 

(倒すのは、俺じゃない)

 

同時に、58が実弾の魚雷を放った。

イカリが俺の真意に気づき、振り返る。

その時には、魚雷はイカリの目の前に

あった。

 

 

 

 

爆発がイカリを飲み込む。

途端、首にかかっていた触手の力が緩み、

俺は拘束から解放された。

遠くに、58がいた。最初イカリに

捕まっていた時には気付けなかったが、

彼女は演習用の魚雷をイカリに悟られないように

実弾に変えていた。

俺も途中でそのことに気づき、イカリの気を

なるべく58から外すように誘導したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(貴様ら……こんな……こんな小細工で

私に勝てるなどと思うなアアアッ‼︎)

 

頭の中に直接ガンガン響く叫びと共に、

俺は身体のあちこちに砲弾を喰らった。

痛みで一瞬、意識が遠のくが、なんとか

持ち直す。

 

(許さん……許さんぞ……人間も、

艦娘も……深海棲艦もなアッ‼︎)

 

イカリは、顔半分が魚雷の爆発で

焼け焦げた状態であった。

その片目は赤く染まり、顔に赤い幾何学な

模様が刻みつけられる。

即ち、奴が怒りの状態になっている事を

示していた。

 

(だが……今の俺では少々荷が重い……

ククク……今回は撤退させてもらうが、

次は貴様らだけではない。

仲間も纏めて地獄に送ってくれる‼︎)

 

その瞬間、奴の背中から黒い墨が一気に

広がり、俺たちの視界を塞いだ。

墨が晴れた時、イカリの姿はなかった。

 

奴が撤退した事に安堵した俺は、先程の

被弾と疲労でそのまま意識をなくすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、内房から遠く離れた島。

その洞穴でサンズとゲンブが

パソコンの画面を見ていた。

 

「……鎮守府の……算……ザー……

減……ザッ……つい……艦娘……

ザザッ……食費……び、入渠……

制限……ザーー……」

 

パソコンからは途切れ途切れながら、

音声が聞こえる。

 

「艦娘の、食費の削減、それと入渠の

制限、かな?」

 

ゲンブが聞き取れた内容から推測する。

サンズはそれを聞いてやれやれと

肩を竦めた。

 

「大本営も馬鹿だね〜。艦娘が

スト起こしたらどうすんの?

金惜しんで人類滅亡とかマジ笑えないよ?」

 

「全くだ。ブラック会社ならぬ

ブラック鎮守府になりかねないよ」

 

ゲンブが壊れかけたマウスを動かして、

ダブルクリックする。

 

「ところでさ、次の拠点どこにする?

なるべく関東に近い所がいいな俺」

 

「それならもう目星は付いている。

ここだよ。かなり近いと思うが」

とゲンブは片手で地図を出してサンズに

渡した。その地図には一つ赤いバツが

つけられていた。

サンズはそれを見て、ニヤリと笑った。

 

「ひょー‼︎近いわここ‼︎日帰りで

帰ってこれるじゃん。なんて言うんだっけか」

 

その問いに、ゲンブは答えた。

 

 

「……三宅島だ」




サンズ達日本征服に王手かけそうに
なってるよ……。


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「海月となりし少年」

テスト期間終了アアアアアアアアッ‼︎
ガンガン描きまっせ‼︎
7/8に間違いがあったため訂正致しました。


ーーーーーー意識が飛んで、再び

目を覚ました時、俺は

ベッドの上に寝ていた。

確か……俺は倉井から託された薬を飲んで

……それから……。

 

「……う、……ここは……」

 

「内房の船渠よ」

 

隣を見ると、そこには比叡がいた。

比叡だけではない。天龍も、赤城も、加賀も。

翔鶴やあの男(神崎)もいた。

 

「……ッ、あのレ級は……?」

 

「彼女なら、隣のベッドに」

 

レ級は隣のベッドに寝かされて眠っていた。

その奥には58も。

 

「俺の意識がない間に……なに、が……?」

 

そこまで言って、俺は口を押さえた。

 

「あ……え……⁉︎」

 

口から紡ぎ出す声は長年聞き慣れた

声ではなく、女性の声だった。

それだけではない。身体に掛けられた

毛布の上からでも分かる2つの胸の膨らみ。

そして、その毛布を掴む腕は細く、

病的なまでに白かった。

それはまるでかつて見たあの憎き存在(深海棲艦)のように。

 

「そ……んな、馬鹿な……俺が……

俺がッ……‼︎」

 

もはや身体の調子など気にしてはいられない。

俺は弾かれたようにベッドを飛び出した。

後ろから誰かが追ってくる足音が聞こえてくるが、

それを考える暇さえ今の俺にはなかった。

 

扉を開け、廊下へと飛び出し、俺は駆け出した。

突き当たりの角に鏡がある。

それを目指して、俺は走り、そして全身を

鏡の前に晒した。

その姿は。

 

 

……紛れもなく、深海棲艦。

ヲ級の姿が鏡に映し出されていた。

ただしあの特徴的な頭の艤装はなく、

鎮守府の提督が着る服を纏っていた。

 

 

 

「……う……ああ……。

うあああああああああああああああああああッ‼︎」

 

俺はその姿を見て、慟哭した。

鏡など、自分の姿などもう見たくもなかった。

只々、身体中を感情が駆け巡っていた。

自分が裏切られた事。

自分が憎む存在に成り果ててしまった事。

恐らくは……自分が皆を傷つけた事が。

俺の心を壊してしまいそうだった。

 

「ああああああああああ‼︎

うわああああああああッ‼︎」

 

「芝浦君ッ‼︎落ち着いて‼︎」

 

後から追いついた神崎が俺の肩を掴んだ。

その手を俺は振り払う。

 

「触れるな‼︎俺に、俺に触れるなアアッ‼︎」

 

「司令官‼︎落ち着いて下さい‼︎

私がそばにいますから‼︎」

 

翔鶴が俺を抱き締めた。

俺は振り払おうとしたが、彼女の力は

意外に強く、その強さが俺を落ち着かせて

くれた。

 

「ハアッ……ハアッ……フゥ……」

 

荒かった息が収まっていく。

それにつれて翔鶴の力も弱まっていった。

 

「とりあえず、戻りましょう。

話はそれからです」

 

「司令官、行きましょう」

 

翔鶴が俺の手を握る。その手は暖かく。

思わず俺はその手を強く握った。

 

「……司令官?」

 

「いや……なんでもない。気にするな」

 

俺は、翔鶴の手を握りながら、後悔していた。

一瞬でも彼女を、艦娘達を不安定な存在だと

思っていた事に。

不安定というのは倉井が言った倉井自身の

意見であって、俺の意見でもなく、そして

事実でもなかった。

そして同時に、海軍学校で見た事のある1つの

格言を思い出していた。

 

ーーーーーー事実というのは存在しない。

存在するのは解釈だけである。

(ドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェの

言葉より引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃とある島では。

 

「ねぇ〜まだ行かねぇーのかよー。

早くさあ〜俺三宅島行きたいんだけど‼︎」

 

サンズがゲンブにぼやいていた。

 

「イカリが来ない限り、行動はしないよ。

今のリーダーは僕だからね」

 

「ちぇッ‼︎ドケチ‼︎ノロマ‼︎優柔不断‼︎人格者‼︎」

 

「なんで最後褒めた」

 

その時である。

洞窟の入り口から誰かが上がる音がした。

そのままズルッ……ズルッ……と足を

引きずる音が響く。

 

「イカリ?」

 

その通り、イカリであった。

その顔は半分焼け爛れ、腕は3本

中途で千切れている。

 

「クソどもがッ……‼︎サンズッ‼︎

ボケッとしてねーでバケツ(高速修復材)

持って来い‼︎」

 

「あいあい」

 

サンズは面倒そうに手を振ると、

バケツを取りに洞窟の奥に消えた。

 

「どうした?鎮守府の提督が自分の

鎮守府を壊す様を見たんじゃないのかい?」

 

「ちょっかいを出したらこの始末さ……

レ級に一杯食わされたぜ、畜生がッ‼︎」

 

イカリの目が赤く染まってゆく。

ゲンブはそれを見て、ため息をついた。

 

「戦艦レ級ならしょうがないさ。

むしろ誇るべきだと僕は思うがね」

 

「戦艦レ級ってあれか、大本営のアレだろ?

あいつは素質あるぜ。今はまだだけどよ〜

どんどん強くなるかもな」

 

イカリはサンズのバケツをひったくるように奪い、

中味を傷口に塗り込んだ。

みるみるうちに頭や触手の傷が再生してゆく。

数秒後には、イカリの怪我は完治していた。

 

「それは、俺たちにとっては不都合極まりない。

早い所、可能性の芽を摘んでおくべきだ」

 

「丁度さア、三宅島拠点にしようって話が

でてんだよね〜。いますぐ行こうぜいますぐ」

 

サンズの言葉にイカリは潜水マスクをつけながら

哄笑した。

 

「クカカカカカ!渡りに舟とはこのことだ‼︎

ゲンブ‼︎俺の槍あるか?」

 

「あるある。ほら」

ゲンブが6本の槍を持って、イカリの所に来た。

その槍は、先端が槍というには尖っておらず、

同時に魚雷が先端に付いていた。

 

「今回は本気でやらせてもらうぞ……‼︎

弱き者は服従させる‼︎刃向かう者は殺す‼︎

俺たちのモットーでなア‼︎」

 

「お前だけでいいわ面倒そうだしよ」

 

サンズが子猫に(「ラーエ」という名前を

つけたらしい)餌を与えながら突っ込む。

 

「さあ、我々の拠点作成の第一歩を

開始しますか」

 

ゲンブが、号令を出した。

そして、それこそが、丙型生命体の、

人類に対して人知れず出した

宣戦布告であった。

 




レ級は可愛い。異論は認めない。
えー、いつなるか分かりませんが、
お気に入りが100いったら設定を
纏めたものを投稿します。
ついでにコラボも募集します
(3人位かな)


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「強襲、三宅島‼︎」

今回三宅島を選んだのは千葉に
適度に近いからです。


ーーーーーーその日、三宅島は

晴天に恵まれていた。島民もそれを

反映したようにのんびりと釣りをしたり、

漁船に乗って漁へと行っていた。

だからこそ。

 

 

 

 

 

丙型生命体にとってはこれ以上ない

好機であった。

突如として、いくつかの漁船が続けて

爆破される。

それを見て上がる悲鳴。叫び。

だがそれは只の前座でしかなかった。

 

「ヒャッハハハハハアーーーーーーッ‼︎

島おいてけ‼︎なあお前ら島民だ‼︎

島民だろ?なあ島民だろお前らアッ‼︎」

 

意味不明の叫びをあげ、一体の影が島の漁港に

迫る。リヴァイア・サンズだ。

右手に多薬室砲、左手には柄の部分も

鉄で作られたトマホーク(斧の一種)を

携えている。

 

「ひいい‼︎深海棲艦だああああ‼︎」

 

「早く深海棲艦警報を出せッ‼︎

皆殺しにあうぞ‼︎」

 

「間に合わねぇ‼︎艦娘が来る前に

俺達みんな殺されちまう‼︎」

 

男達の絶望と焦燥の怒号が辺りに響き渡る。

 

「いざとなりゃ俺があの怪物を止める!

その間に逃げろッ‼︎」

 

ウウウウウウウウウウウ……とサイレンが

島中に鳴り響く。

 

「緊急深海棲艦警報が発令されました……

速やかに島外へ避難して下さい……現在……

深海棲艦は……」と放送が島中の島民に

危機を伝えた。

 

だが、丁度その警報が発令された時、

サンズは三宅島に上陸した。

 

「ッ……うおおおおお‼︎」

 

逃げる人々の時間稼ぎをするために、

勇敢な青年が鉄パイプでサンズに

殴りかかる。

 

ガアアァァァァァン‼︎

 

だが、それは惜しくもトマホークに

止められてしまった。

そして鉄同士の激突は凄まじい衝撃を

生み出し、二人の腕に流れ込んだ。

 

「があああああ‼︎」

 

たまらず男が鉄パイプを放り出す。

その隙を逃さず、サンズは男に

容赦無く斧を叩き込んだ。

一度目は右肩に。

二度目は頭に。

二度目で男は、この世に別れを告げた。

だがサンズは死体を尚も打ちのめす。

 

グシャッ! グシャ‼︎ グチャッ‼︎

 

斧によって、肉と血がシェイクされてゆく。

サンズは血や肉が顔に飛ぼうが構わず

斧をうち振るった。

 

「もう、死んでるよそいつ」

 

後から来たゲンブがサンズに言い放つ。

 

「死んでるってのは、肉と血が適度に

シェイクされてスムージーみたいな状態の

事を表すのかい?」

 

それを聞いてサンズは

「いや?とりあえず斧の切れ味を

試しただけなんだが」と言った。

 

「島民はいいのか?ほっておくのかい?」

 

「別にねぇ……」とサンズは空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

その頃。島の反対側では島民を載せた船が

出航し始めていた。

まだ島の中には人々がいるが、避難が

速やかに行われた為にその数は

数十人程度しかいない。

船に乗り遅れた人々は絶望に襲われた事だろう。

しかし、船に乗り込んだ人々も、まだ絶望から

逃れてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

俺がやらなくても勝手にやってくれるから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

突如、一番前を航行していた船が爆破された。

 

「どうした⁉︎何があった‼︎」

 

「潜水艦かもしれない。くそっ、

勘付いていやがった‼︎」

 

そう後続の船員達が話し合う間に、

前の船は船体を真っ二つに割かれ沈んでいった。

 

 

その海中。

イカリが沈みゆく船を尻目に水中銃の

弾倉を交換していた。

 

(クククククク……焦っている焦っている。

お前達に恨みはないが……作戦の為だ。

沈んで海に消えろ)

 

イカリはそう呟きながら後続の船団に

向けて、水中銃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、内房鎮守府。

 

「……そうか。やはり俺は奴に騙されたと

言うわけか」

 

事態を説明され、ヲ級と成り果てた芝浦が

(服は蒼龍のものを借りている)ポツリと

呟いた。

 

「ああ。そいつが名乗っていた倉井という

人物はいたが、2日前に殺されていた。

恐らくは奴の仕業だな」

 

天龍が吐き捨てるように言う。

 

「まさか人間の振りをしてくるとはね。

深海棲艦でさえそんな狡猾な真似はしなかったわ」

 

比叡が感心したように言い、それから紅茶を

一口飲んだ。

 

「最早、あれは深海棲艦ではないでち。

深海棲艦以上の何かとしか言いようがない……」

 

「丙型生命体」と神崎が言い放つ。

 

「丙型生命体?なんですかそれは」

 

「かつて大本営に捕らえられていた

存在。今はそれしか言えません」

 

神崎は大本営に固くその事を話す事を

禁じられている。

芝浦がその事について追求しようとした時。

霞が扉を開けて飛び込んできた。

 

 

「大変よ‼︎深海棲艦が三宅島を占拠したと

連絡が‼︎今も島民が乗った船が攻撃を

受けてるって‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り三宅島。

サンズ達は首尾よく三宅島を占拠していた。

そして、今は島民の乗った船を追撃している。

 

「ボーキもねぇ!バケツもねぇ!

全く戦艦俺一人‼︎」

 

「歌うな、黙れ」

 

サンズの歌をイカリが制する。

 

「てかさあ、フジツボ達使わないの?」

 

「あちらの方が足が早いか。使うとしよう」

 

そう言ってイカリは口に触手を当て、

ヒューッ‼︎と口笛を吹く。

刹那、船の周りに10隻程の怪物が現れた。

その姿はまるで深海棲艦の艦載機に酷似

していたが、大きさは3m程。

全身が白く、そして赤い幾何学模様のラインが

走っていた。

 

「やれ。中の人間はくれてやる。

……ぶち殺せッ‼︎」

 

フジツボ、と呼ばれた怪物が体の下から

黒い触手と共に12.7cm単装砲をせり出し、

砲撃を開始した。

 

「フハハハハーーーーーー‼︎」

 

イカリ自身も天高く哄笑しながら

水中銃での攻撃を開始する。

その笑いは、辺り一帯に広がっていった。




他の丙型生命体のスペック解説。
ゲンブ
耐久68 装甲72 火力8
対空85 雷装0 運23
イカリ
耐久 9 装甲12 火力7
対空0 雷装69 運14
フジツボ(仮称)
耐久17 装甲6 火力11
対空21 雷装26 運7


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「弱肉強食」

小説を読む時は音楽かけながら読みます。
MEGALOVANIAとか。
backboneとか(マイナーなのしか言ってねぇ)


 

三宅島が襲撃された。

その情報に、その場にいた全ての人間が

凍りついた。

 

「なんだと⁉︎鎮守府の電探に反応は

あったのか⁉︎」

 

芝浦の問いに霞は首を振った。

但し、縦ではなく横に。

 

「全く。うんともすんとも反応しなかったわ。

……壊れてるんじゃないのここの電探?」

 

辛辣な言葉が霞から放たれる。

それはいつもの事なのだが、霞の声色からは

焦りが感じられた。

 

「いや、そんな事はないはずだ。

二ヶ月前に交換したばかりだぞ?

……いや、そんなことはどうでもいい‼︎

早く艦隊を出せ‼︎船が沈められる前に

そいつらを叩くぞ!」

 

「了解‼︎」

 

霞はそれを聞いてすぐさま退出する。

芝浦の横で聞いていた神崎が言った。

 

「我々も艦隊を出させて頂きたい」

 

芝浦はそれを拒否した。

 

「駄目です。三宅島は内房鎮守府の

担当海域。横須賀鎮守府の担当じゃないでしょう。

しかも、レ級の監視もそちらが

しているんじゃないんですか?

まだレ級は眠っているから、そっちの

看病でもしていて下さい」

 

それと、と芝浦は付け加えた。

 

「俺は、まだあんたの事は赦していない」

 

そう言って芝浦は白く透き通った髪をなびかせて

執務室から出て行った。

その背中を神崎は直視できなかった。

 

「司令……」と愛宕が滅多に出さない

深刻な表情を見せる。

 

「やはり……私はずっと赦されないまま

生きていくのでしょうね。ですが、

親友を裏切った者には当然の報いですよ」

 

神崎はポツリと、そう漏らした。

その言葉は、赦しを得ようとした自分に

対しての皮肉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー気を失ってから、俺は夢を見た。

燃え盛る船や沈んでゆく艦娘達を尻目に、

サンズやイカリが跳梁跋扈している夢だ。

夢の中で俺は、何も出来ずにただ立ち尽くして

その様を眺める事しか出来なかった。

やがて、殺戮をしていたサンズがこちらに

向かってきた。

そして、目を逸らすことも、指一本動かす事すら

出来ない俺に、サンズは近づき、

そして俺の額に人差し指を当ててこう言った。

 

「お前よォ、くだらない正義感とかそんなの

捨ててさア、こっち(・・・)に来いよ」

 

その言葉と同時に自分の足元が黒い何かに

呑まれていく。

 

こっち(・・・)は楽しいぜ〜♪

好きなようにどんちゃんやれて。

やりたいことはなんでも出来る!

ほら……来いよ、来いよ‼︎」

 

嫌だ。お前達なんかと同じになるものか。

だがその言葉は出ない。口から出せないのだ。

身体が闇に呑まれてゆく。

サンズの高笑いが空間を揺らす。

俺は諦めない。

たとえこの身が闇に呑まれても。

心まで黒く染まらないと。

俺は決意に満たされた。

そして、そこで目が覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……んん……」

上半身を起こす。ベッドに俺は横たわっていた。

 

「ここ、は……内房の船渠?

だとしたら、58は?」と俺は周りを見る。

 

俺以外誰もいない。どうやら俺より先に

元気になっているようだ。

内房の提督……芝浦と言ったか。

彼も恐らく俺より先に起きているだろう。

それより、みんなどこにいるのだろうか。

と、俺の耳に会話が飛び込んできた。

 

「金剛さん‼︎早くしないと船が‼︎」

 

「わかってマース‼︎それにしても

提督も心が狭いネー。横須賀の助勢を

断るなんテ。でも、私は提督のこと」

 

「そんなこと言ってないで早く‼︎」

 

どうやら、深海棲艦でも出現したのだろうか。

しかし、神崎さんの助勢を断るとは。

かなり芝浦提督に嫌われてるようだ、神崎さん。

俺はそんな事を思いながら、皆を探しに

船渠を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三宅島。

その海岸に、一体の丙型生命体がいた。

三宅島の防衛を担当しているゲンブだ。

 

「は〜ぁ……全く、やはり来ないか」

 

ため息をつき、ゲンブは待っていた。

と、海岸近くの海面が盛り上がり、

そこから一本、二本、そして三本の

巨大な機械のような白い足が現れた。

その先端は尖っており、海岸の砂浜に

突き刺さる。

 

「……来たか‼︎ ダイダラ‼︎」

 

ダイダラと呼ばれたその怪物は、

巨大な機械のような三本の足に

カクカクしたカプセルがぶら下がったような

奇怪なフォルムをしていた。

 

「……オレヲヨブナンテ、ヨッポド

ダレモコナカッタンダロ?」

 

「まぁ、僕とフジツボだけだと不安が

あるからね。来てもらった訳さ」

 

「フン。タノシイカリヲサセロヨ?」

 

ダイダラの蜘蛛みたいな単眼が妖しく光る。

 

「無論、そのつもりさ」

 

ゲンブはそう言って、口に手を当てて

笑った。




今回登場したダイダラはウミグモが
モチーフです。


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「ルールなき戦い」

レンゲの出番が減っていやがる……(危機感)


 

サンズは、空を眺めていた。

それは船を沈める事に興味を無くしたからでも、

サボっている訳でもなかった。

やがて、その空の中に黒い点ーーーーーー、

艦載機を目視で確認した。

 

「……イカリッ‼︎鎮守府の奴らが

出迎えに来たぜ‼︎」

 

返事はない。だが二度も言う必要もない。

戦場において、自分に関する全てを

聞き逃さず、見逃さない者だけが生き残ることが

出来るのだ。

サンズは多薬室砲にUSB状の筒を挿入し、

続いて砲弾を2発装填した。

その時、フジツボが船の他にターゲットを

発見した。内房鎮守府の艦娘達である。

即座にフジツボ達は12.7cm単装砲で

艦娘達を砲撃した。

だがその砲弾は当たらない。まだ彼女らとの

距離は大体800、900mはあった。

 

「……一発、脅しで撃ってやるか」と

サンズは多薬室砲を艦娘達に向け、

トリガーを引いた。

刹那。

 

バアアアアアアアアアアアアアンッッ‼︎

 

凄まじい爆音と共に反動でサンズの右腕が

弾かれたように上がり、そしてあり得ない速度で

砲弾が撃ち出され。

艦娘達から70〜80m離れた所に着弾した。

水柱を立てて爆発が起きる。

その大きさは戦艦の砲撃でも出せるかどうか。

少なくとも、艦娘達に衝撃を与えた事は紛れもなく

彼女らにとっての事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーイ⁉︎なんなんデスか今の威力は⁉︎

あんなの直撃したら戦艦でもただじゃ

すまないヨ‼︎」と金剛が叫んだ。

 

「確かに、深海棲艦以上の規格外な存在の

ようですが、今の奴らは駆逐艦と戦艦だけの

編成のようです。なんとかなるでしょう」

榛名はそう言って、サンズに向けて標準を

合わせた。

今もなお近づけているので、サンズとの距離は

400〜300mぐらいか。

この距離なら一応直撃弾は出せる。

更に彼女は練度も高く、当てる自信があった。

 

「発射ッ‼︎」

彼女の35.6cm連装砲が火を吹いた。

 

(この一撃で、有利な状況に追い込む‼︎)

 

だが、彼女は知るよしもなかった。

深海棲艦も持っている同族意識を、

丙型生命体は何一つ、その気になれば

慈悲の欠けらすら与えない程に持ち合わせて

いなかった事に。

 

サンズは、丁度目の前で砲撃をしていた

一体のフジツボを恐ろしい勢いで

蹴り上げて、宙に僅かながら浮かせた。

そしてその位置は、フジツボにとって

榛名の砲弾から完全にサンズの盾代わりとなる

所であった。

 

榛名の砲弾がフジツボに命中、爆発する。

しかし本来の目的のサンズは何一つ、

傷一つなかった。

砲弾によって身体を真っ二つにされた

フジツボは、触手を力無く蠢かせながら

海の中に沈んでいった。

 

「あいつ……仲間を容赦なく盾にした⁉︎」

 

霞がサンズのとった行動に驚く。

だが、更に彼女らを驚かす事態が起きた。

なんと、船の上から砲弾が撃ち出され、

彼女達に襲いかかったのだ。

 

「ッ⁉︎」

 

みると、船の上に一体の丙型生命体、

イカリの姿があった。

一本の槍を持ちながら、

二対の水中銃のような艤装でこちらを

狙っている。

 

「……奴らは、規格外なだけじゃなかった」

 

矢を取り出しながら、蒼龍が呟いた。

その顔には緊張による汗が張り付いていた。

 

「勝つ為ならどんな方法も厭わない悪魔よ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪魔、ねぇ……違うんだよなぁ」

 

サンズが蒼龍の呟きを聞き取り、独り言のように

言った。

 

俺達(・・)は、深海棲艦と同じ、

怨念の塊なんだよ。たった一つの違いを

除けば、ね」

 

「サンズ。ブツブツ言ってないで戦え」

 

イカリが水中銃から銛のような砲弾を

撃ち出しながら言い放つ。

 

「わーってるよ。ッー……ダッ‼︎」

 

サンズはそう言いながら、左手のトマホークを

アンダースローで投擲した。

太陽の光で乱反射しながらトマホークは

まっすぐに飛んでいき。

金剛の左手側の連装砲に突き刺さった。

 

「shit‼︎提督に貰った大切な装備が‼︎」

 

金剛が怯んだ瞬間、サンズはその懐に

走り込んだ。砲撃戦ではなく、

肉弾戦を挑んだのだ。

 

「よそ見しとる場合かアアアアアッ‼︎」

 

「ッ‼︎」

 

サンズの膝蹴りを金剛は身体を反らせて回避する。

続いてサンズは肘打ちを金剛の胸に撃ち込んだ。

 

「ううッ‼︎」

 

「金剛姉様‼︎」

 

近寄ろうとする榛名を金剛は制した。

その間にもサンズはハイキックや手刀などの

多様な攻撃を仕掛けてくる。

 

「榛名‼︎私は大丈夫デス‼︎だから今は

船の方をお願いしマスッ!」

 

「……はいッ‼︎」

 

榛名は一瞬躊躇したものの、すぐに気を

引き締めて船の方向に向かっていった。

 

「よそ見たァいい度胸してんじゃねぇの‼︎」

とサンズが叫びながら放ったケンカキックを

両手で金剛は受け止めた。

 

「いつまでも……」

 

サンズの足を掴み、力を入れる。

 

「お……、おおッ⁉︎」

 

「いつまでも私が怒らないと思ったら

大間違いデース‼︎」

そして、力任せに金剛はサンズをぶん投げた。

 

「うおおああああああああッ⁉︎」

 

そして、海面に叩きつけられたサンズに向かい、

標準を定める。

 

「これでfinishネ!BURNING……

LOOOOOOOOOOVE‼︎」

 

2基(1基はトマホークで破壊された)の

41cm連装砲が火を吹いた。

サンズに一直線に向かい、直後。

 

 

 

 

 

 

サンズが予め金剛の艤装から抜いておいた

トマホークで全ての砲弾を弾いた。

 

「W……Whats⁉︎」

 

みると、サンズのトマホークは見覚えある

ほのかな光の膜で包まれている。

……艦娘の身体を砲弾から守る保護膜(バリアー)だ。

 

「一瞬……ヒヤッとしたぜ。

ところでお前、旗艦か?」

 

「Youに教える必要はないデス」

 

「まぁ、いいや。一言言わせてもらう。

……なんだよッ今のヘナチョコな攻撃はよォ‼︎

大体なァ〜攻撃する前に叫ぶんじゃねぇや

やかましいんだよ‼︎このスットコドッコイの

エセ外人がッ‼︎」

 

突如、噴火したように怒りだすサンズ。

その行動に、金剛はあっけにとられた。

 

「……フゥ〜気持ちを押さえられたぜ

ありがとう、待っていてくれて」

 

(な、なんなんデスかコイツ……⁉︎

行動が全く読めないデース……)

 

トマホークを腰に戻し、サンズが再び肉弾戦に

移行しようとする。金剛は慌てて

サンズから距離を置いて砲撃戦に移行させようと

するのだった。




情け無用の男、リヴァイア・サンズ‼︎
(デッデデーン)


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「レ級とヲ級」

夏休みが始まるぜyeaaaaaaaaaahhhhh‼︎
但し学校の講習がある。


 

内房鎮守府。そこで俺は天龍達を探していた。

 

「あれー……皆どこにいるんだ……?」

 

そう言って、右側にあった扉のドアノブを

回す。

 

「そこは物置だ。横須賀の連中は

3階の食堂にいる」

 

「え、あ、すいません」

 

振り向くと、そこには見た目18歳位の

女性がいた。その目は赤く、俺と同じくらい

病的に肌が白い。

ヲ級となった芝浦提督だった。

 

「……会うのはこれで二度目だが、

話すのは初めてだな。

食堂まで案内してやる。付いてこい」

 

そう言いながら芝浦提督は白い長髪を

翻し、歩いていった。俺は慌ててその後を

追う。

 

 

 

「俺を止めてくれて、感謝する」

途中で、ポツリとお礼を言われた。

 

「話は翔鶴から聞いた。俺があのままだったら

殺されていたか、または本当に心まで深海棲艦に

なっていただろう」

 

「……」

 

「だが、気になる事が一つだけある。

なぜ、その時鎮守府から逃げ出すことも

出来たのにしなかったんだ?」

 

その問いは、彼(今は彼女だが)にとっては

かなり分かり難い事態だろうが、俺に

とっては愚問であった。

 

「そりゃ、皆と一緒にいたいからですよ。

一緒にいたいのに理由がいりますか?」

 

芝浦はそれを聞いて、一瞬驚いたような顔を

したが、やがて口端を僅かに上げた。

(多分笑ったのだろう。ニヒルな笑い方だ)

 

「……フフ、そうか。俺も、似たような

事を思っているからな。

最も、上手くいかないのが常だがね……」

 

その声は、諦めの色を浮かべていた。

 

「多分、皆に伝わってますよ。絶対に。

根気よく、皆の事を思い続ければ、

いつか必ず伝わるはずです」

 

この言葉が、俺の口から付いて出た。

 

「いい奴だな、お前。深海棲艦だと思っていた

自分が恥ずかしいよ」

 

今度はニヒルな笑みではなく、ちゃんとした

微笑みを芝浦は浮かべた。

 

「ところで、芝浦提督は翔鶴の事を

どう思っているんですか?」

 

途端、芝浦提督の動きがぎこちなくなって、

顔が赤く染まり始めた。

 

「そ、そそそれは〜……まぁ、その……

なんだ……えと、うん、あれだ、あれ」

 

あれってなんだよ。

というか芝浦提督、翔鶴の事になると急に……

……あっ(察し)。

 

「もしかして、翔鶴さんのこと」

 

「そそそんなわけががな、ないだろうが‼︎

た、唯の提督と秘書艦という真っ当な関係だッ‼︎

ほら、早く行くぞ」

 

そうか〜芝浦提督は翔鶴さんのことを

そんな風に思っていたんだ〜。

 

「な、なに変な目で見ているんだ⁉︎

早くしないと置いてくぞ‼︎」

 

「あああああ待って待って‼︎」

 

俺は翔鶴さんと芝浦提督の事を

幸せになるよう祈りながら後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、船の救助隊は苦戦を強いられていた。

船の中に丙型生命体がいることにより、

丙型生命体を攻撃出来ないばかりか、

船の中の島民を救助することも不可能だった。

 

「厄介ね……深海棲艦ならすぐに沈めるから

船を守るだけでよかったのに、まさかこんな

狡猾な真似をしてくるなんて」

 

蒼龍が、一機の艦載機を船の機甲板にいる

イカリに突撃させた。

艦載機の機銃がイカリを向いた瞬間に。

イカリが放った銛のような砲弾で真ん中を

刺し貫かれ爆散した。

 

「そして、あの艤装……長く見積もって

射程は300m位かしら」

 

イカリが蒼龍の方を向いて、こう言った。

 

「次に貴様は……

“全く本当に悪魔ね……”という‼︎」

 

「全く本当に悪魔ね……ッ⁉︎」

慌てて蒼龍がイカリの方を見る。

 

「ハハハハハハハ‼︎愉快極まりないね!

既にこの船は乗員と共に沈む運命(・・・・・・・・・)なのに、

露とも知らず戦う君達を見るのは‼︎」

 

高笑いしながらイカリは手すりに身体をもたげた。

 

「沈む運命……⁉︎どういう意味よ⁉︎」

 

「私はね。この槍を6本持っている」

と、イカリは魚雷が先端に付いた槍を構えた。

 

「だけども。今私が持っているのは2本だけ。

残りの4本はどうしたと思う?」

 

 

「……‼︎まさか、そんな‼︎」

 

「勘がいいなぁ。私は、4本の槍を。

この船に突き刺してあるんだよ‼︎

爆破したら最後、致命傷になる所にね‼︎

そしてッ‼︎今、私は起爆してやる‼︎

貴様らに、“絶望と悔しさ”を打ち込んでやるよ‼︎」

 

蒼龍が矢をつがえる。イカリがマスクをつけながら

手すりから身体を滑らせて海面に飛び込む。

 

「私の、勝ちだ。また会おう。noi Fool(愚か者達)

 

 

 

 

船が、噴火した。

無論、本当に噴火したわけではない。

まるで噴火したように爆破されたのだ。

船の欠片が燃えながら海面に落ちてくる。

蒼龍は、あまりの出来事に、立ち尽くしていた。

そして、それは彼女達に島民救助失敗を

告げていた。

 

 

「あらららら。任務失敗?

お疲れ様、帰っていいよ。というか

気にするなって。お前らが来る前に

イカリは船の中の奴ら全員殺しちまったから」

 

サンズはそう言い、金剛の砲撃を至近距離で

避けると、そのまま海に潜行した。

他にいたフジツボ達も潜行していく。

そして、燃えながら沈んでゆく船を残し、

丙型生命体は姿を消した。




イカリが下衆すぎて酷い。
「吐き気を催す邪悪」になると思うよ。


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「結託」

しばふ村ってSCPなんじゃね?


 

ーーーーーー金剛が島民の救助を失敗した事を

報告した時、横須賀、内房両鎮守府の面々は

衝撃を受けた。

 

「んな、馬鹿な……船の中の島民を

人質にして、逃げる時に船ごと爆殺したのかよ⁉︎」

 

天龍が驚くのも無理はない。

今までの深海棲艦はそんな真似を、

それこそ鬼や姫ですらもしなかったのだ。

対策を講じろと言われても即座に対応できる事

ではなく、奮闘した金剛達はむしろよく

頑張った方であった。

 

「うう……申し訳ないデース……ひっく……」

 

金剛が泣きながら皆に謝る。

 

「いや、お前達はよく頑張った。

奴らの戦力も若干ながら判明したし、

三宅島の奪還作戦を翌日の12:00(ヒトフタマルマル)

開始する」

 

金剛を慰めながら他の皆に命令を伝える芝浦提督。

 

「落ち着け……お前は精一杯頑張ったんだ……

誰にも責められる事じゃないさ……」

 

「うううッ……テイトクーーーーーー‼︎

うわあああああああんッ‼︎」

 

金剛が芝浦を抱き締め、ボロボロと泣き始めた。

 

「神崎提督」

 

金剛を抱き締めながら、芝浦が振り返る。

そこには、丙型生命体に対しての静かな

怒りが宿っていた。

 

「……分かっていますよ。もうこれは、

内房鎮守府だけの問題ではない。

我々横須賀鎮守府も出来る限りサポートします」

 

「ありがとうございます。必ず、

三宅島を奪還しましょう」

 

手こそ握りはしなかったが、その瞬間は

二人が互いに分かり合おうと歩み寄ったように見えた。

 

「貴女達ももう休んでいて下さい。

明日、我々も作戦に参加します」

 

当然、俺達は敬礼をした。

無論、陸軍式じゃなく、海軍式で。

そして、こう応えた。

 

「「「「「「「了解‼︎」」」」」」」

 

 

 

そして、

内房、横須賀両鎮守府は、三宅島奪還作戦を

開始したのであった。

Xデーは翌日7月16日、12:00。

非公式ながら、丙型生命体に対する

初の反撃作戦であり、丙型生命体を

初めて相手とした作戦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

三宅島のとある漁港。

 

「えー、それでは三宅島の征服を祝って……

カンパーイッ‼︎」

 

「カンパーイ」

 

「……フン」

 

そこではサンズ達がスーパーから持ち寄った

酒等の資源で宴会をしていた。

 

「やーよかったよかった。

予想したより被害が出なくてさ」

 

「弾薬465、燃料320。

一応、この島で得た資源に比べれば

微々たるものだね」

 

ビールを飲みながらゲンブがリストを

見る。

 

「とりあえず、限界でどこまで出せるのかな?」

 

「弾薬は工面しないといけないが、

燃料は2360までならギリギリ大丈夫だ」

 

「ホゥ。ナカナカイケルジャナイカ」

 

ダイダラが巨爪で燃料を突き刺し、そこから

燃料を補給する。

 

「ま、後は鎮守府の連中がどうやるかだね。

兵糧攻めされたら即座にアウトだが、まぁ

そんな事まずしないだろうな」

 

サンズがホームセンターで発見したポーチから

何かと取り出した。

 

「なんだ、それは」

 

「投げナイフ。何かの役には立つだろ」

 

サンズはチャキッと音を立てて

両手に5本ずつ、合計10本の投げナイフを

イカリに見せてから仕舞った。

 

「まだフジツボはいるんだろ?」

 

「ああ、吐いて捨てる位いるさ」

 

「シキハオレニマカセロ」

 

「勝手にしろ。俺は何も言わないから」

 

めんどくさそうに手をひらひらと振ると

サンズは立ち上がり、漁港の出入り口に向かった。

 

「フン。あいつには覚悟と意志が欠如してるんだ。

だからあんなにふざけているんだ。

私は奴とは違う。どんな方法を使ってでも

目的を達成してやるのさ。

無論、共倒れなんて馬鹿な真似はしないがね」

 

イカリが聞こえよがしにサンズを

嘲笑するが、サンズは気にも止めず

出て行った。

 

「くだらないくだらない。

執念とか、恨みとか、怒りとかさァ。

My name is Legion. Because we are a crowd.

だから俺はいらねぇんだよ。

そんな下世話な俗物は」

 

サンズは出て行く間際、そう小さく言ったが、

誰の耳にもそれは聞こえなかった。




サンズとかのオリキャラって
姿の表現が難しいなぁ……。
挿絵書ければ楽なんだけど、
正直下手くそだからね……。
まぁいいや次の話を書こう。


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「三宅島奪還作戦‼︎(前編)」

モンストのバグで9体モンスター出たよ……
や っ た ぜ 。


 

7月16日。

内房鎮守府から6人の艦娘が

三宅島を丙型生命体から奪還する為

抜錨した。

金剛、比叡、愛宕、加賀、霞、多摩。

この6人は、艦種は違えど同じ決意を

持ち、目的を必ず達成すると意気込んで

三宅島に向かったのであった。

 

俺は、当然ながらお留守番である。

 

「行きたかったんだけどなぁ……」

 

「あの面々なら、羅針盤がヘソ曲げない限り

平気だろ。ほら、中に入ってようぜ。

外暑いしよ」

 

天龍が俺の肩を叩き、左手で後ろの

鎮守府を指した。

 

「はい……それもそうですね」

 

彼女達ならば、きっと大丈夫だろう。

あの丙型生命体達に。勝てるはずだ。

俺はそう思いながら鎮守府に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約一時間後。

 

「もう少しで三宅島にゃ」

 

「羅針盤に嫌われなかったのは幸いね」

 

金剛達は羅針盤にも嫌われず、途中で妨害が

入る事もなく三宅島に向かう事が出来た。

 

「金剛姉様。比叡がお姉様をお守りします‼︎」

 

「まだ大丈夫ネ。流石にこんな距離から

砲弾が」

 

金剛がそう言った正にその瞬間。

三宅島の方向から砲弾が神速の速さで

艦隊のすぐ脇に着弾し、大きな水柱を立てた。

 

「ひえーーーーーーッ‼︎」

たまげて転びそうになる比叡。

 

「ッ⁉︎そんな⁉︎ここから三宅島って……‼︎」

 

加賀が、額に一筋の汗を浮かべた。

 

「約、2000mよ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……外したわ。悪りぃ」

 

サンズが多薬室砲からUSBを抜き、

新しいUSBを挿入する。

 

「遠距離から叩くのは、流石に無理が

ありそうだな。私が直接叩こう」

 

イカリがそれを聞いて海面に飛び込んだ。

 

「ダイダラ、俺らも行こうぜ」

 

「フジツボヨ、オレニツヅケ‼︎」

 

続いてサンズ、ダイダラが海面に降り立ち、

そして20体程のフジツボが後を追っていく。

 

後には、ゲンブが取り残された。

 

「はぁ……なんでうちの連中はこうも

気が早いのかね〜。理解出来ないよ」

 

そうぼやきながら、ゲンブは他のフジツボ達に

命令を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……やはり、私がここから艦載機を出して

それで相手を叩くしかないかもしれません」

 

加賀がそう呟きながら、矢をつがえ、そして

放った。その矢は空中で数機の艦載機と

なり、三宅島の方に向かっていった。

 

「イカセルトオモッテンノカコノタゴサクガッ‼︎」

 

が、それは大音声と共に撃ち出された対空射撃で

ほとんどが撃墜された。

 

「やあやあどうも、三宅島観光ツアー御一行様。

まずは、宜しくと言っておきますか……

俺の名前は、リヴァイア・サンズ。

こちらのでかいのはダイダラ。

後ろは……別にいいか」

 

サンズが多薬室砲をしまい、金剛達に

挨拶をした。

 

「まぁ長い付き合いになるかもしれないか」

 

「BURNING・LOOOOOOOOVE‼︎」

 

バアァァァンッ‼︎

 

サンズの挨拶を無視して、金剛が砲撃した。

 

「あぶねッ」

上半身を勢いよく反らせ、サンズは

それを回避した。その砲弾は背後のフジツボに

命中、爆砕する。

 

「キャー人殺しー」

 

「Youが言える口デスか‼︎」

 

「殺したのは、イカリだ。俺じゃない」

 

 

「……ぐッ⁉︎」

 

突如として響く悲鳴。

その声に金剛が振り返ると、そこには

海面からでている触手に首と足を締め上げられた

加賀の姿があった。

 

 

「‼︎加賀さんッ⁉︎」

 

「あーストップストップ。

俺とゲームして勝てたらそいつ解放してやる」

 

軽い調子でサンズは金剛達に呼びかけた。

 

「ルールは簡単。全員で闘って、最後まで

立っていた奴のチームの勝ち。

お前らが勝ったら三宅島も返してやる」

 

「サンズ⁉︎」

 

ダイダラが驚いた拍子に横のフジツボを

踏み抜いた。

 

「ただーし‼︎俺らが勝ったら‼︎

……全員帰れ‼︎ニ度と来んな‼︎

後5対5でやる‼︎以上ッ‼︎」

 

「ずいぶんとフェアなプレーをしたがるんですね」

 

サンズは手をひらひらと振り、

 

「まぁね〜女性相手にね、本気出して勝つなんて

ダサいでしょう?」

 

そして、ダイダラの顔の前で何かを話した。

するとダイダラは慌ててフジツボを率いて

何処かに行ってしまった。

 

後にはサンズとフジツボ4体、そして艦娘達が

残った。

 

「じゃあ、始めようか……Start game‼︎」

 

比叡が一撃でフジツボを1体仕留める。

そして、金剛と共にサンズに砲撃を仕掛けた。

 

「二人がかりね……じゃあ俺もちょっと

色々使わせてもらうよッ‼︎」

 

サンズは砲撃を天高く跳躍して避けると、

空中で何かを撃ち出した。

投げナイフだ。

一斉に二人に襲いかかり、何本かが二人に

刺さった。

 

「ううッ‼︎」

 

「きゃあッ⁉︎」

 

その隙を見逃さず、サンズは着地(海だが)した

次の瞬間、鋭い手刀を比叡の首筋に叩き込んだ。

 

「かはッ……あ……」

比叡は数歩よろめき、海面に倒れた。

 

「はい、4対4。ほら、どうしたよ?

来なよ。俺を倒せば三宅島が返ってくるんだぜ?」

 

金剛は、ぐっと拳と歯に力を込め、

そして静かに言った。

 

「私はもう三宅島なんてどうでもよくなりマシタ」

 

「ふーん」

 

「今、Youを殺すことだけでいい‼︎

それだけで、比叡の仇は討てマス‼︎

Youは、Youだけは絶対許しマセン。

私のmy sisterを傷つけた事は絶対にッ‼︎」

 

サンズは金剛をじっと見ていたが、

やがてこう言った。

 

「やっぱり、気絶させるだけじゃ

すまないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、俺は隠れて抜錨しようとしていた。

どうしても金剛達の事が気になって仕方がない

のだ。

 

「よい、しょっと」

 

「レンゲ。何処に行く気だ?」

 

はっとして慌てて振り返ると、そこにはと天龍と

翔鶴さんがいた。

 

「……もしかして、金剛達の所に行く気か?」

 

「……はい」

 

なんとなく、行かなければならない気がしていた。

恐らく、今天龍が阻止しようとしても俺は

押し退けてでも行くだろう。

 

「あのなぁ、お前は今要監視対象なんだぜ。

つまり、一緒に誰かいないと駄目なんだよ」

 

「……?」

 

「……あー、つまりな。俺も一緒に行く。

なんかさっきっから嫌な予感がするんだよ」

 

「え⁉︎で、でも提督には⁉︎」

 

「安心して下さい。了承は得ました」

 

翔鶴さんがニコリと微笑む。

天龍が俺に向かってサムズアップした。

当然、俺が取るべき行動は一つであった。

 

 

「二人とも……本当に、ありがとうございます……」

 

そして、二人が海面に降り立つ。

俺はーーーーーー否、俺達は。

三宅島に向けて抜錨した。

 

「レ級、抜錨します……‼︎」




比叡が死んだ‼︎(嘘)この人でなし‼︎

サンズ「俺人じゃねーから」


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「三宅島奪還作戦‼︎(中編)」

前・後編だと思った?
残念!前・中・後編でした‼︎


ーーーーーー潮風が、俺の顔を

撫でる。水飛沫が黒のコートを濡らす。

 

「レンゲ‼︎速力速いから少し下げろ‼︎」

 

後ろから天龍の声が響く。

天龍の速力で追いつく事が出来ない。

やはりの(レ級)の身体スペックは相当な

ものらしい。だが、今はそんな事を

考えている場合ではない。

なんだかさっきからだんだんと嫌な予感が

増してきている気がするのだ。

急がずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギギ……ドチクショウノシンカイセイカン

ドモメ……オカゲデ、サンズガゼンイン

カタヅケチマウダローーガ‼︎」

ダイダラが死にかけのニ級を巨爪で

叩き殺し、その傷口から燃料を補給した。

 

フジツボはハ級やヌ級の死骸にたかり、

その肉や装甲を削りとり食べていた。

 

「……ン?レーダーニカンアリ……

サンタイイルナ。ツイデダ、シズメテヤル」

 

ダイダラはフジツボに命令を下すと、

その近くにいる存在ーーーーーー、

レンゲ達に向けて進み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……200m先に多数の艦影を確認‼︎

深海棲艦です‼︎」

 

遠くに何かが見えた。白い巨大な

ロボットのような化け物……否。

俺はそれを見て叫んでいた。

 

「違う……あれは……あれは、

深海棲艦じゃあないッ‼︎

丙型だッ‼︎あの爬虫類野郎の仲間だ‼︎」

 

「⁉︎何ッ⁉︎」

 

瞬間、すぐ側に砲撃が着弾した。

見ると、あの三脚ロボットの体の下から

20.3cm連装砲が覗いているのが見えた。

更にその体の上部には2基の高角砲。

そばにいるイ級のような化け物は

口と思われる所から触手と共に12.7cm連装砲が

せり出していた。

 

「ブチコロスッ‼︎ファイアァッ‼︎」

 

再び砲弾が雨霰の如く飛んでくる。

 

「いつまでも撃たせると思ってんのか

このやろーッ‼︎」

天龍も負けじと14cm単装砲を撃ち込んだ。

その砲弾はイ級もどきに命中。

爆散する。

 

「俺だって……やってやる‼︎」

俺も尾に付属している41cm砲で砲撃する。

その一撃はイ級もどきをぶち抜き、背後に

いた仲間に着弾して爆砕した。

どんどんと敵がその数を減らせてゆく。

 

「ナメルナヨガキドモガアァァッ‼︎」

 

三脚ロボットが俺に向けて3基の大砲を向ける。

俺は反射的にその場から逃れる。

直後、俺がいたあたりの海面が吹っ飛んだ。

俺もその煽りを受けて海面に叩き付けられる。

 

「オワリダ。センカンレキュウ‼︎」

再び大砲が俺に向いた。

 

「させるかァッ‼︎」

 

瞬間、機銃の弾丸が三脚を襲った。

それは大したダメージを与えはしなかったが、

標的を俺から天龍に変えることになった。

 

「テメェ‼︎フザケヤガッテ‼︎」

 

「天龍さん‼︎」

三脚が天龍を向いた刹那、艦載機烈風の

機銃射撃が三脚を攻撃した。

翔鶴だ。翔鶴の艦載機だ。

 

「テメェモカ‼︎マトメテシズメコノヤロウ‼︎」

 

大砲が天龍と翔鶴の二人に向く。

俺はある一点を目指して、速力を

最大にした。

 

三脚が気づいてこちらに大砲の向きを変えた。

だが俺は止まらない。止まったら逆に

当たる。

ズドオオォォォォォォン‼︎

三脚が放った砲弾は俺のすぐ後ろに着弾した。

 

「⁉︎ナニィ‼︎」

 

慌てて三脚が20.3cm連装砲を

下に向けるが間に合わない。

俺はスライディングで奴のカプセルみたいな

体の真下に潜り込んだ。

 

(ミスるなよ……ミスしたらニ度と、

ニ度とこいつは隙を作らない‼︎)

 

俺はこれまでにない程に意識を集中して、

奴の体に、外すことなく必殺の一撃を

撃ち込んだ。

爆発。 爆裂。 爆散。

 

三脚の体の上下に風穴が開く。

そこから火花が大量に散る。

 

「バ、バカナ……⁉︎

ジュウジュンノコノオレガ……

イチ……ゲ……キデ……」

 

体にひびと光が走ってゆく。

俺は慌てて奴の体の下から逃れた。

 

「オレガ……オレタチ(・・・・)ガ……

マケル……ダ……ト……⁉︎」

 

大爆発を起こし、三脚は轟沈した。

体はバラバラとなったが、その巨大な足は

ブクブクと海の中に沈んでいく。

残っていたイ級もどきも蜘蛛の子を散らすように

逃げてゆく。

 

「あいつらを追うぞ。その方がずっと

羅針盤よりも三宅島に早く着ける」

 

天龍の言葉に従って、俺達は逃げる敵の

後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

一方、金剛はというと、サンズを相手にしていた。

他の皆はサンズによって海面に叩き伏せられ、

加賀はイカリに拘束されたままだった。

 

「ヒューッ‼︎ 粘るねぇ〜♪こりゃ想定外だわ。

どうやら、少しだけ本気を出さねーと

いけないなぁこりゃ」

対してサンズは息一つ乱さず、口調は

おちゃらけていたものの冷静に金剛を

見据えていた。

 

「本気といっても、俺の能力を一つだけ。

見せてやるだけなんだけど、さ」

 

そう言いながらサンズの左目が水色に光る。

 

「くっ……Fireeeeeeee‼︎」

 

金剛は構わず至近距離から砲撃した。

刹那、サンズの左目が水色から、

オレンジ色に変わり。

 

 

 

 

1秒後、金剛は全身に打撃を喰らっていた。

 

 

「W……ha……t……⁉︎」

 

「これが俺の能力の一つさ。

“身体と思考のスピードを1秒間だけ10倍にする”。

つまり、普通の1秒が能力を使用したら

10秒に感じられる訳だね」

 

金剛は危うく倒れかけたが、なんとか

踏みとどまった。

 

「まだ、まだ倒れる訳には……」

 

「決意、か。強いな。

……その強さに敬意を表して、俺の……

いや、丙型生命体の秘密をお教えしよう」

 

サンズは、おちゃらけた口調から、

真剣な口調に直した。

 

「俺達の事をお前らはただ単に

知能が異常発達した深海棲艦とか、

何者かに改造されたとか思ってんじゃないか?

……違うね。俺達は、人間であり船でもある(・・・・・・・・・・)

……まぁ、簡単に言うと。

 

 

 

 

 

 

船の怨念とその乗員達の怨念が融合して

生まれた存在。それが丙型生命体だ」

 

サンズはそう、静かに、しかし誰の耳にも

聞こえるように、言い放った。




同じく深海棲艦の小説を書いている
あら汁さんからコラボのオファーが‼︎
しかし投稿キーを押してあったおかげで
成りすましの疑いが晴れない‼︎


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「三宅島奪還作戦‼︎(後編)」

前回死んだダイダラのかませ犬感よ……


 

「人と……艦の……Fusion(融合体)……⁉︎」

 

「何故こうなったのかはわからない。

恐らくは起こるべくして起こったんだろうね」

 

サンズは腕を組み、多薬室砲をリロードした。

 

「俺はね、崇高な目的で行動してんだよ……

ま、そこまで言う義理はないがね。

ところで、まだやる気かい?」

 

「当たり前デショ……はぁっ……

私は……まだいけマスヨ……はぁ」

 

しかしその言葉とは裏腹に、金剛の

足は覚束なく、顔には汗が玉のように

張り付いていた。

 

「やめとけやめとけ‼︎さっきからお前の

動きがすっトロイ事に俺が気づかねーと

思ってんのか⁉︎これ以上は身体が持たねーぜ」

 

「金剛さん‼︎」

 

突如横から飛んで来た叫びに二人は

その方向を見た。

天龍と翔鶴。そして、レンゲの姿もあった。

 

「あらー来ちゃったか……まぁいいわ。お前ら一度

帰った方が良いぜ。そこのお荷物抱えたままじゃ

三宅島奪還なんて無謀の極みだよ?」

 

いつもの調子に戻ったサンズはそう言い、

足元から沈んでいき、そして逃走した。

 

「金剛さん、大丈夫ですか⁉︎」

 

「なんとか、という所デース……。

ちょっと無理をし過ぎマシタ」

 

天龍が肩を貸す。天龍に寄りかかりながら

金剛が立ち上がった。

 

「そうだ……加賀は⁉︎」

 

「加賀さん……?あ、いた」

 

加賀は既に触手から解放されていた。

 

「加賀さん‼︎」

 

レンゲがすぐにその元に行く。

刹那、金剛は気付いた。

加賀の身体の下、海面下にまだ誰かが

潜んでいることに。

 

「No‼︎近づいちゃダメデース‼︎」

 

「えっ?」

しかし、その時もうレンゲは充分すぎるほど

加賀に近づいていた。

 

 

 

 

「馬鹿が……サンズのいう事を私が

聞くとでも思っていたのか?」

 

 

 

 

 

加賀とレンゲを巻き込み、爆発が起きる。

魚雷や爆雷特有の水柱を立てて、

レンゲと加賀は互いに反対の方向に

吹っ飛んだ。

 

「ッ⁉︎」

 

「手負いの艦隊と、軽巡、それに空母か。

フン、私の敵ではないな……」

その爆発の中から八本の白い触手が現れ、

そして一体の丙型生命体が現れた。

イカリだ。

 

「てめぇ……このクソイカ野郎がッ‼︎」

 

天龍が怒りに震えながら魚雷を投擲する。

魚雷はまっすぐにイカリの元に進む。

イカリはすぐに潜ったが、逃れられるはずが

ない。

そう、普通の潜水艦なら、だ。

 

「うっとうしいんだよ……ガキ」

 

「なッ……⁉︎」

 

イカリが潜行してから50m先の天龍の

背後を取るまでにかかった時間は

僅か1.3秒。

当然天龍は反応できる訳がなく。

振り返った時には既にイカリは

水中銃を構えた状態だった。

 

「日本海軍に味方するものに、死を」

 

その目はただ冷静であった。

まるで、獲物を銃口に捉えた狩人の如く。

だが、イカリは上空から迫る烈風に気づくと、

すぐさま海中に潜行した。

 

「レンゲ‼︎皆を連れてとっとと逃げるぞ‼︎」

天龍は近くにいた霞と多摩を引っ掴むと

速力を出して逃げ出した。翔鶴も、金剛に

肩を貸し、そして比叡を担ぐと同じようにする。

そしてレンゲも、なんとか自力航行できるように

なった愛宕と共に加賀を抱えて全力で逃走した。

 

 

 

(逃すとでも……思ってんのかよオオオオオ)

 

イカリは彼女達が逃走している事に気づくと、

即座に追撃を開始した。

 

(潰す……二度とこんな思い上がった真似を

しねーようになアアアアアア)

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だ‼︎これじゃ追いつかれる」

 

「天龍さん‼︎」

レンゲが天龍に耳打ちする。

その話を聞きながら、天龍は即座に

イカリを撒く為の準備を始めた。

 

そして、その準備が整う。

 

「いくぞレンゲッ‼︎」

 

その声を合図に、二人はありったけの魚雷を

海中に投擲した。

自分達の物だけでなく、霞や愛宕の物も

全て使い、魚雷を投擲していく。

 

 

 

(馬鹿が。私に水中銃がある事を忘れたか‼︎)

イカリは水中銃で迫り来る一つの魚雷を撃ち抜く。

水中で爆発。衝撃波がイカリを叩く。

 

(おっと……さて、奴らを……ッ⁉︎)

 

大量の気泡を掻き分けながらこれまた

大量の魚雷が四方八方に飛んでゆく。

 

(畜生めが……苦し紛れにやったんじゃない、

考えてやりやがったな(・・・・・・・・・・)‼︎)

 

イカリは今魚雷を所持している。

こんな大量の魚雷を全て捌くには、

近くで破壊せざるを得ない。

だが、そんな事をしたらイカリの魚雷が

誘爆する。

イカリの魚雷は指向性なので自らは傷つかないが、

雷撃という潜水艦最大の火力を失う事になる。

したがって、イカリは全ての魚雷が爆発したり、

どこかに行くまで待つしかなかった。

当然、レンゲ達は追えなくなる。

というか、無理をして追ったら支援艦隊に

やられる可能性もある。

つまり、イカリは追跡を諦めざるを得なかった。

 

(くそったれの……雑魚どもがアアアアアア‼︎)

 

誰もいない海中に、イカリの怒号が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追ってきてません……撒けましたよ‼︎」

 

「やった……なんとか首の皮一枚繋がったか」

 

ほぅ、と安堵の息をつくレンゲ達。

既に太陽は水平線に沈もうとしていた。

 

「暗くなる前に鎮守府に戻りましょう」

 

そう言いながら翔鶴は、速力を僅かに上げた。

その先には、陸地が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー三宅島。

 

「ダイダラが死んだ」とサンズは言った。

 

「やりやがったよ……レ級だ」

 

やはり、とイカリが立ち上がった。

 

「あのレ級か。貴様の予感が的中した訳だな」

 

「しかし、フジツボ以外で犠牲が出るとはね。

この事を他の奴等に伝達したら皆来るんじゃ

ないのかい?」

 

サンズは新しい投げナイフを腰にある

2つのポーチに入れた。

 

「来そうな奴は来るだろうけど、

来ない奴は来ないね」

 

「だろうねえ」

 

彼らは仲間の死を悼む気はさらさらなかった。

いつ死ぬかなんてわからない戦場で、

いちいち命を悼んでいたらきりがない。

そして、同族意識がないこともそれに

拍車をかけていた。

 

「ま、とりあえず今の所の撤退条件でも

出しておこうじゃないか」

 

ゲンブがナイトホークの微調整をしながら

条件を提示する。

 

「僕達の中の誰か一人が死んだら、

資源を持てるだけ持って撤退する。

いいね?」

 

「じゃあ俺はゲンブに1500円賭ける」

 

「サンズ?」

 

それを聞いたイカリがせせら嗤い、

触手の一本を上げた。

 

「では私はサンズに1800円」

 

これは何の賭けを始めたのか。

ゲンブはしょうがないといったように

静かに言った。

既に彼はこの賭けの内容を理解していた。

 

「僕は、イカリに1300円賭けよう」

 

 

ーーーーーーこの賭けの内容が、

「一番最初に死ぬのが誰か」という事に。




次あら汁さんとのコラボ書きまーす。
ご本人確認とれたし、パッパと書かせて頂きます。


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「連合艦隊」

皆さん、北と南、どっちがいいですか?


俺達は、誰も死なさずになんとか鎮守府に

戻ってくることが出来た。

 

「よかった……通信が途中で切れた時には

どうなることかと……」

 

桟橋には扶桑達が待っていた。

俺達はすぐに金剛達を船渠に入れ、

神崎提督と芝浦提督がいる執務室に向かった。

 

「まさか……内房鎮守府の精鋭が

やられるとは、な……」

 

「本当にレンゲさん達が来なかったら……

金剛さん達は轟沈していたかもしれません。

レンゲさん達には感謝しきれません」

 

俺達が到着した時、正に危機一髪の状態だった。

あの時いなかったら……と思うとゾッとする。

榛名の話だと仲間を容赦無く盾にしたという。

そんな奴らなら、迷いなく金剛達を殺し、

その首を鎮守府に送り付けるくらいの真似は

普通にするだろう。

 

「最早、あの作戦を発動するしか……」

 

芝浦提督のその言葉に神崎さんが動揺した。

 

「‼︎まさか……横須賀の艦娘を全員、

出撃させるつもりですか⁉︎」

 

0作戦。それは、鎮守府及び日本本土に深海棲艦が

上陸しそうになった際に発動される作戦だ。

この作戦が発動された場合、その鎮守府の

艦娘は残らず深海棲艦の掃討に出撃する為に、

鎮守府内から艦娘が残らずいなくなる……

0になるから、いつの間にか「0作戦」の名がついた。

発動されたのは僅か2回。

しかも、全て発動してから間も無く

事態が良くなった為撤回されている。

 

「本気であの丙型生命体の拠点を潰しに

かからないと、本土に上陸される可能性がある。

だから俺は0作戦を発動します」

 

確かに、三宅島から本土までは目と鼻程の

距離しかない。もたもたしていると上陸される。

 

「……分かりました。

……これより、内房鎮守府及び横須賀鎮守府は

この所属の艦娘に対して0作戦を発動す。

そう、建物放送で連絡します。

勿論、私がいない横須賀鎮守府にも」

 

「神崎提督‼︎貴方まで発動しなくても……」

 

神崎さんはその問いに首を横に振り、

 

「私は金剛さん達が出撃する前、

貴方に言いましたよ。

“これはもう、内房鎮守府だけの問題ではない”と。

貴方だけには背負わせる気はありません。

最後まで私達も一緒に戦います」

と答えた。

 

「神崎提督……フッ、俺も馬鹿ですが、

貴方も馬鹿ですね……」

 

「ええ、馬鹿は馬鹿らしく、盛大に

サポートしますよ」

 

ニヤリと二人は笑うと、芝浦提督は

放送室に向かい、神崎さんは俺達に

向かって言った。

 

「という訳です。我々横須賀鎮守府は

0作戦を以て内房鎮守府と共に

三宅島奪還を行います‼︎」

 

無論、俺達が返す返答は一つだけである。

野望の為に殺された三宅島の人々の為に。

ドス黒い悪意(丙型生命体)を倒す為に。

 

「了解ッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー三宅島。

その内陸のコンビニ。

その中で一人の少女が棚のおにぎりの

包装を開け、匂いを嗅ぎ、顔をしかめた。

 

「駄目だ、腐ってる……」

 

島から電気が消えて約1日。

既に夏の気温で粗方の食糧は腐っていた。

電気だけではなく、全てのライフラインが

停止し、生き延びた残りの島民は

サバイバル生活を強いられていた。

 

少女は他に食糧を探したが、

菓子などは全て持っていかれ、

残っている弁当類などは腐っていた。

 

「もうッ‼︎皆自分勝手‼︎こういう時こそ

助け合うべきでしょ⁉︎」

少女は弁当を投げ捨てると、怒るように

叫んだ。

 

「ホント、冗談じゃないわ……

訳分からない内に殺されるなんて真っ平ゴメンよ」

 

「だよね〜。昔、空襲にあった奴らも同じこと

思ったんじゃね〜かなァ」

 

「ッ⁉︎」

 

突如、聞こえてきた声に少女が驚き、振り向く。

そこには、商品の棚に左腕を乗せたサンズが

こちらを見下ろしていた。

 

「夜分に大変だねェ食糧探しなんてさ」

 

タバコの箱からタバコを取り出して

口に加え、サンズはライターの火をつけた。

 

「あ……あんた達のせいでしょ‼︎

あんた達のせいで皆殺された‼︎

どうせここであたしも殺す気でしょう⁉︎」

 

タバコに火をつけて、サンズは一服吸う。

 

「お前が殺してほしいってんならね。

大体殺戮をしたのは俺じゃあない」

 

「黙認した時点で、あんたも同罪なのよ‼︎」

 

それを聞いてサンズが一瞬怯んだが、

すぐに元の調子に戻る。

 

「なるほど……黙認した時点で同罪、ね……

ところで、お前は俺達を恨んでいるか?」

 

サンズが少女の勝気そうな瞳を覗き込み、

そして、問うた。

 

「そりゃ……恨んでるけど……あたしには

あんたにどうすることも出来ないのよ……」

 

花と鈴の髪留めで止められたサイドテールを

力なく揺らしながら少女はサンズに呟く。

 

「ふ〜ん……じゃあ」

 

タバコの灰を床に落としながら、サンズは

少女の前に乾パンの缶を一個落とした。

 

「流石に水ぐらい自分で見つけられるだろ?

……生き延びろ。そして俺に復讐しに来い」

 

そう言うと、サンズはさっさと外に

出て行った。

 

少女は、震える手で缶を手に取った。

震えるのも無理はない、今さっきまで

化け物相手に虚勢を張り続けていたのだ。

彼女はこれ以上ない程に恐怖していた。

だが、サンズに向かって言った事は

本心から出た言葉であった。

 

「絶対……生き延びてやる。

そして絶対に……あいつに復讐する」

 

少女はそう力強く呟くと、缶を持って

どこかに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

タバコを吸いながら、サンズは

漁港に歩いて行く。

 

「レ級に、さっきの少女に……

将来が楽しみな奴らがいっぱい出て来たな」

 

静かに、サンズは呟くのだった。




さあ三宅島事件もそろそろ1番
盛り上がるぐらいになってきました。
ちなみに途中で出てきた少女、
分かる人は分かります。
割とガチで。


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「抜錨、そして」

最近読んでる小説の更新がなくて
気力がなくなってきた……


7月18日。

金剛達の負傷も治り、そして。

 

「会いたかったぞレンゲーーーーーー‼︎」

 

「皆さん3日ぶりなのです」

 

横須賀鎮守府の面々も内房に到着した。

 

「よお、長門に電。……俺達がいない間

どうだったか?」

 

「勿論、長門さんは仕事しなかったのです。

 

「い、いや?ちゃんと仕事はしたぞ?」

 

電はその言葉に肩をすくめ、ボソリと

「駆逐艦にうつつを抜かしてる暇が

あるんだもんねぇ……ちゃんと仕事、

したんだよねぇ……?」と幼い声ながらドスを

きかせた声を長門の耳を無理矢理傾けて囁いた。

 

「すいませんいくつかサボりました」

 

「じゃあ罰として私の分まで書類の提出と作成

お願いするのです」

にっこりと笑顔を見せる電。

「アッハイ」

長門は了承することしか許されなかった。

 

「そろそろ時間じゃないですか?」

再会の喜びはこの位にして、俺達は

桟橋に向かう。

桟橋ではもう、出撃が開始されていた。

電や長門は第9番艦隊。

俺は10番目の艦隊に編成された。

天龍、潮も俺と同じ艦隊。

他にいるのは霞、翔鶴、そして。

 

「すまない。待たせたな。艦載機の

練習をしていて遅れた」

 

芝浦提督だ。彼……今は彼女はヲ級なので

力になれればと艦隊に入ることを希望した。

 

「それにしても、頭が重いな……いつも

つけるのは無理だな」

芝浦は、カンカンと頭の艤装を叩くと、

海上に降り立った。

 

「じゃあ、抜錨、しますか」

 

その言葉と共に、俺達第10番艦隊(仮)は

抜錨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、三宅島。

 

既にサンズ達は艦隊がこちらに来ていることを

索敵で確認していた。

 

「何人いる?」

 

「ッ……‼︎通常の艦隊が8……合計で

48人だって⁉︎」

艦載機と感覚を共有しているゲンブが驚愕する。

 

「まだこっちのほうが多いじゃん」

 

「こっちは9割駆逐艦編成で、

あっちは軽巡、重巡に戦艦、潜水艦までいるのに

そんな事を言っている暇があるのかい⁉︎

しかもまだ増える可能性があるんだぞ‼︎」

 

サンズは座った状態でタバコを取り出し、それに

火をつけて一服して、ゲンブに向かって

言い放った。

 

「こっちは余裕で数で勝ってるから、防御に全振り

すればなんとかなるだろ。戦艦と空母は

イカリの格好の的だからね」

 

「よく分かっているじゃあないか。

その通り、私は邪魔をされない限りは

戦艦と空母の相手しかしない」

 

そこにイカリが6本の槍を携えてやってきた。

サンズがタバコの灰を落として、立ち上がる。

 

「戦艦と空母は潜水艦にとっちゃあでかい的、

だろ?」

 

「その通り。ただ、露払いが必要になるがね」

 

イカリは足に絡みついた触手を解きながら

コンクリの地面から海上に飛び込んだ。

 

「って事は俺も行かなきゃならない?」

 

「YES‼︎YES‼︎YES‼︎YES‼︎」

はあ、とため息をついてサンズは地面に置かれた

水中銃をイカリに投げ渡した。

 

「俺コンビニの漫画雑誌立ち読みしたいんだけど」

 

イカリはそれを受け取り、ニヤリと笑う。

 

「NO!NO!NO!NO!」

 

「ざけんな一冊ぐらい読ませろタコ」

 

「私はイカだ」

 

サンズはガリガリと頭を掻くと、イカリの隣に

飛び降りた。

 

「しゃーねぇ、俺も行くわ。

ゲンブ、後頼んだから艦載機飛ばして

先あっち牽制しといて」

 

「了解」

 

イカリがマスクをつけて潜行すると同時に

ゲンブがイーグルを数機発艦した。

 

サンズは多薬室砲に弾をリロードしながら、

「突っ走るな、じゃないとまた沈む。

やばい時は帰ろう、帰ればいつかまた来れる」

と呟いていた。

 

「何をしているんだい?」

ゲンブがサンズに問う。

 

「ん?ああ、俺の中の「奴ら」を宥めてんの」

 

「なるほどね……僕達はいわば艦と人間達の魂の

融合体。その人間の魂が暴走したら……いや、

ゾッとするね」

 

サンズはやれやれという仕草をすると銃をしまう。

 

「だからさ、ゲームって括りを作ってやんないと

やばいんだよねぇ」

 

「戦いではなくゲーム、か。しかし因果な体に

生まれ変わったものだね」

 

「魂を宥めなかったら死ぬより酷い目に合う。

全く戦いに向いてない体だよ」

 

そう言うとサンズは潜行して姿を消した。

ゲンブは指をこすりながら、昔のことを

思い出していた。

 

「魂の実験……サンズが変わったのは

それ以来、か……」

 

やがて彼は艦載機と感覚を共有し始めた。

やがて完全に感覚を共有した時、彼の

目に写ったのは50機以上の敵艦載機の

姿、そしてその下に艦隊が進み行く

様子であった。




今回は短めです。


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「格が違うんだよ」

特にnothing。


ーーーーーー三宅島道中。

索敵をしていた空母艦娘が叫んで報告した。

 

「敵艦載機発見‼︎航空戦に突入す‼︎」

空母艦娘達が矢を放ち、それらは直後に

艦載機に変わり、航空戦の場に向かい、

そして見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として凍りつくような空気が

空母艦娘達の間を走った。

その様子に、他の艦娘達にも凄まじい緊張感が

伝達した。

 

「……ッ⁉︎あれは何⁉︎」

その声が聞こえると同時に、遠くの空に

ぽつ、ぽつと黒い煙が出て、やがて下へと

煙が降りてゆく。

最初は1、2つほどだったそれは、3つ、4つと

その数を増やし、数秒後には先程彼女達が飛ばした

数とほぼ同じになっていた。

 

その光景に息を飲む。

やがて、震える声で一人の空母艦娘が呟いた。

 

「せ……制空権……喪失……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「練度も高い、艦載機の種類も豊富。

なるほど、練度はこちらが不利なようだ。

だけど……悲しいかな、艦載機としては

こっちが遥かに性能を上回っているんだよ」

 

艦隊から未だ離れている三宅島。

そこに留まっているゲンブは艦載機と

感覚を共有しながら呟き、沿岸を

守るフジツボ達に命令した。

 

「そろそろ砲撃の準備を開始しよう。

準備が出来た者から雷撃を開始してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丙型生命体の艦載機、イーグルが

ミサイルを艦娘に撃ち込み、離脱する。

その繰り返しを何度も何度も……

恐らく相手が沈むまで行うのだろう。

何人かの艦娘に搭載されている対空装備も、

マッハで空を駆け回る戦闘機の前では

無力であった。

 

「きゃあ‼︎」

艦隊の中にも、中破の者が出始めた。

この状態で進軍するのは危険があるため、

中破した艦娘は撤退させる。

無理に進軍しても沈められるのがオチだ。

この判断は正しいと呼べるだろう。

 

「くっ……ここまで差があるといっそ

清々しいわね……」

 

そう誰かが呟いた。その時である。

 

「せやな」

明らかに男の声が返答した。

 

「ッ⁉︎」

刹那、ゴヅッという重い音が響き、艦隊の旗艦の

一人が倒れた。

 

「扶桑さんッ‼︎」

 

何が起きたのか。それを誰かが問う前にその

答えが海中から勢い良く飛び出した。

 

「先ず、一人、と」

 

サンズの姿だ。

 

「なッ⁉︎」

艦娘達は驚愕した。

艦隊に単騎で突っ込んでくるものがいるなんて

想像すらつかなかったからだ。

その動揺がサンズに攻撃の機会を与えてしまった。

艦隊の間を擦り抜け、躱し、一人の艦娘の

側頭部にカポエラのように飛び回し蹴りを

直撃させる。

艦娘の全身は強固な防護膜で守られては

いるが、サンズの体重を乗せた一撃はいとも

たやすく艦娘を吹っ飛ばした。

 

「……‼︎皆早くいけ‼︎こいつの狙いは旗艦だ‼︎」

長門がサンズの意図に気付いて叫ぶ。

艦隊は旗艦が判断して動かす。

その旗艦がいなくなってしまうと、一部の

イレギュラー的な思考を持つ艦娘以外は

烏合の衆となってしまう。

サンズはそれを狙っているのだ。

 

「皆、皆すっトロイなァ‼︎肉弾戦に

慣れてねーのか畜生め‼︎」

 

「そういう貴様は砲撃戦に慣れてないようだな」

 

長門がサンズを挑発して注意を引く。

 

「そうかそうかつまり君はそんな奴だったんだな

……なら、お望み通り、砲撃戦でやってやる」

サンズがUSBを挿していない状態の多薬室砲で

砲撃する。

長門はそれを回避して、電達に告げる。

 

「おまえ達も早くいけ‼︎こいつは私が

食い止める‼︎」

 

電は僅かに戸惑ったが、すぐに長門から

離れて行った。

 

「ひょー、カッコつけかよ。一度でいいから

言ってみたいなァそのセリフをよォ」

 

サンズは多薬室砲に弾を装填しながら言った。

 

「ふん……その機会があればいいがな」

 

「ちょいちょいちょい。サンズ」

その言葉に長門が振り向くと、そこには

イカリがいた。

丁度、サンズとイカリに長門が

挟まれる形となった状態となる。

 

(ッ……‼︎挟まれた……‼︎)

 

しかも上空にはまだ敵の艦載機が

旋回して留まっている。

正直言って、長門には不利な状況であった。

 

「何?今こいつ叩きのめす所なんだけど」

 

「いや、電探とソナーに反応があった。

恐らく艦隊……2つ位か。

潰して来てもいいかい?」

 

サンズは上空の艦載機に向かいハンドサインを

しながら、

「勝手にやれ」と言った。

 

「お前って敵に容赦ねーよなぁ……

“こんにちは、死ね‼︎”ってな感じでよう」

 

「敵に容赦はしない。それが誰であろうと、

刃向かう者は必ず殺す。それこそが

私の流儀だ」

 

イカリがそう言うと、恐らくは艦隊を

攻撃するために潜行して姿を消した。

そして、ゲンブの艦載機も同じく姿を消していた。

 

「お前みたいなのはいつでもやろうと思えば

いつでもやれるけど……」

その言葉の裏には高い実力に裏打ちされた

自信があった。

 

「仲間を逃す為に自分を犠牲にするその精神に

免じて、相手をしてやるよ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最ッ悪‼︎マジ最悪‼︎なんでこんな時に限って

羅針盤に嫌われんだよ⁉︎」

 

一方レンゲ達の艦隊は抜錨早々羅針盤が

狂い、三宅島に行くのに時間がかかってしまった。

だが、羅針盤が狂ったのはレンゲ達の艦隊だけ

ではなかった。

 

「酷い目にあったでち……」

 

「イクもそう思うの」

 

潜水艦だけで構成された第7艦隊である。

 

「でも他にも酷い目にあった艦隊がいるかも」

 

「たしかに……でもイク達は足が遅いから

一番最後に着く気がするの」

 

「そ、それはまずいでち‼︎第7艦隊、速力最大‼︎」

 

 

しかしまだ彼女達は知る由もなかった。

第7、第10艦隊を殲滅する為に白き死神(イカリ)

近づいている事に……。

 

 

 

 

 

 

0作戦

艦娘60⇒46(12人が中破、2人が脳震盪)




この小説を書いている途中で
「敵艦隊、見ゆ‼︎」のBGMが
勝手に頭の中に……


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「足元に迫る6本の槍」

サンズ、ゲンブ、イカリの容姿を
簡素ながら書かせて頂きました。
見たい人は見たいと書いて下さい。
多かったら設定の方に貼っておきます。


俺達は、羅針盤が今度こそ狂わないよう

祈りながら、三宅島へと急いでいた。

 

「ちょっと岩礁が多いが近道を使うぜ」

 

旗艦の天龍が僅かながら針路を変更する。

そこは確かに言う通り岩礁があちこちに表出して

いて、通るのに危険を伴うものだった。

その為、意識しなくとも自然に速力は

ゆっくりとなる。

 

「足元に気をつけろよ。岩礁で足を

切るからな」

天龍の言葉で更にゆっくりとした速力になる。

この状況で襲われたらひとたまりもない。

まさにそう思っていた時だった。

 

 

 

 

 

「フン……私と君は、何かの糸で繋がってるように

思うね……三回。三回も邂逅するとは。

君もそう思わないか?レ級」

 

白い八本の腕。

黒目と白目の色が逆転した人外の存在。

イカリの姿が岩礁の上にあった。

 

「ッ‼︎お前は……‼︎」

 

芝浦がイカリを睨む。

芝浦にはイカリにこんな身体(ヲ級の姿)

された因縁がある。

 

「おや。誰かと思ったら……私に簡単に

騙された海軍の狗じゃないか」

 

「貴様ッ‼︎」

 

「怖い怖い……その表情。

私はね……そんな反抗的な目をしてる奴を

見ると……ぶち殺したくなるタチでねえ‼︎

更に海軍の手下となれば‼︎

尚更ぶち殺したくてうずうずしてるんだよ‼︎」

 

イカリは狂気的な、残虐な目をこちらに

向けた。

 

「なんで……なんでそんなに海軍を恨んでるんだ」

 

冷静に、天龍が動きながらイカリに問う。

この場所ではいささか分が悪い。

時間稼ぎをして少しでも広いところに出ようと

天龍は考えたのだ。

 

イカリは知ってか知らずか、岩礁から

別の岩礁に飛び移りながら答えた。

 

「私も……いや、私達もかつては海軍に

忠誠を誓い、日本を愛したモノだった。

だが……その忠誠を。

愛国心を奴らは簡単に踏みにじった‼︎」

 

ガツッ‼︎と槍の石付きで岩礁を砕く。

 

「俺達の戦いは、常に深海棲艦とだった。

最初の頃は俺達が簡単に勝った。勝ち続けた。

英雄ともてはやされた。

だが‼︎忘れもしない。

俺達の身体に深海棲艦の野郎共が齧りついた時‼︎

上層部はこんな命令を下しやがった……

「そのまま自爆しろ。そうすれば

海上の船は助かるだろう」……。

ふざけるな。

俺達の中にはまだ18の若造もいた。

年若い妻がいる者もいた。

まだ生まれた赤ん坊すら抱けてねぇ奴もいたんだ‼︎

なのに。そいつらを皆殺すような真似をしろと?

ふざけるなよチクショウがアアアアアア‼︎」

 

感情の迸りと共に、イカリは一本の槍を

起爆した。

 

ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオン‼︎

 

まるで噴火するように爆風が上空に飛ぶ。

イカリは無造作にその槍を投げ捨てた。

 

「……結局、私達は自爆して海の底に沈んだ。

だが、そこで終わりじゃなかった。

私達はその未練を骨として、

この愚かな判断を下した海軍への恨みを血肉と

して。

蘇ったのだよ……最早深海棲艦など超えた

存在として。

私はこう思った。これは神がくれたチャンスだ。

神が復讐しろと、そう思ったのさ。

海軍の奴らを地獄に叩き落すまで。

私は死ねない。もう二度と。

あのような惨めな最後を迎える訳にはいかない‼︎」

 

既に、俺達は岩礁海域を抜けて広いところに

出ていた。

 

「貴様は、その思いによって何の罪もない者を

何百人も殺してきたのか?それこそ、許される行為

ではないじゃないか‼︎」

 

「黙れ‼︎貴様にはわかるまい。

この憎しみを。迸る怒りを‼︎」

 

イカリが槍と水中銃を構えた。

 

「お前ら!来るぞ‼︎気張っていくぜ‼︎」

俺達も奴の攻撃に備えるために、

対潜攻撃が強い複縦陣を形成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、羅針盤が狂わなかった

第7、10番艦隊以外の艦隊は、既に

三宅島付近まで来ていた。

 

 

ゲンブは艦隊が迫るのを見て、静かに呟いた。

 

「来たね。こちらも、全力で歓迎しようか。

準備は全員終わったか?……今丁度全員終わった?

ならいい。……主砲展開‼︎」

その言葉と共にフジツボ達が口の中から

12.7cm砲を触手と一緒にせり出す。

 

「目標‼︎600m付近の艦隊」

 

ジャカッという音と共に弾が装填される。

 

「仰角35°……斉射‼︎」

 

瞬間、辺り一面に連続した轟音と大量の硝煙が

広がった。

 

 

 

その衝撃と音は離れていた艦隊に

叩きつけるように伝わった。

 

「ッ‼︎」

そして、硝煙を突き抜けて何十、何百という砲弾が

彼女に向かい襲いかかる。

 

「回避‼︎総員回避ーー‼︎」

 

即座に彼女らは回避、もしくは退避したが、

何百という砲弾が飛んでくるのだ。

数人に直撃し、大破した者まで出た。

当然ながら大破した者は中破、小破した者に

牽引されて撤退する。

 

 

やがて、硝煙が晴れる。

そして現れた敵をみて、皆息を飲んだ。

 

1km程に渡り何か白いロボットのような

ものが何体も、何十体も、何百体と。

延々と沿岸に並んでいた。

彼女達は理解した。

この白いロボット全てが、自分達の敵である事に。

 

 

「サンズの読みが当たっていたという訳か」

 

ゲンブはそう言いながら艦載機を再び発艦する

用意をした。

 

「とりあえず、殺しはしない。

少し痛い目にあってもらおうかな。

……AからEまでの奴らは砲撃‼︎

FからKの奴らは雷撃を開始しろ‼︎」

 

そう命令すると同時に、ゲンブは

10機程の艦載機を発艦するのだった。

 

 

 

0作戦

艦娘46⇒38(5人小破、1人中破、2人大破)




やっと本格的な戦闘シーンが……


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「激戦」

ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ
ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ
ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイウン……あれ?


「全員……鉄クズにして沈めてやる‼︎」

イカリがそう言いながら海中に潜行した。

 

「雷撃の用意‼︎」

 

恐らくイカリは潜行した事から艦種は

潜水艦。雷撃や対潜攻撃を当てれば大破、

うまくいけば一撃で沈める事が出来る。

 

「魚雷発射‼︎」

 

数本の魚雷が海中に投下される。

俺達は更にその場から離れるようにした。

留まっているのは危険だと判断したからだった。

 

 

(馬鹿が。こんなモンはよぉ、マヌケが

喰らうもんなんだよ)

 

イカリはそう呟き、一気に15m程

潜行した。

そこまで潜行されると魚雷の爆発の威力は

半減してしまう。

 

(だが……その内味な真似をしてくるかもなァ。

そんな事はさせない。そんな事を考える

暇すら、貴様らには与えん)

 

魚雷をやり過ごしながら、イカリは潜水マスクを

取り、口の中に海水を取り入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?直撃したか?」

 

「……駄目みたいです。全て避けられました」

 

「やっぱり、そう簡単には無理、か」

 

パチン。

そう、音が鳴った。

 

「……なんだ今の音は?フィンガースナップか?」

 

パチン。 パチン。

その音は俺達の背後にある岩礁から聞こえていた。

 

「ふざけやがって……この野郎‼︎」

 

天龍が挑発に怒り陣形を乱す。

俺は慌てて天龍を抑えた。

 

「待って下さい‼︎罠かもしれないんですよ⁉︎

ゆっくりと、慎重に離れるべきです」

 

天龍はその言葉を聞いて落ち着きを取り戻し、

首を振って答えた。

 

「いや、わざと俺達を離れさせる作戦かも

しれない。あえて近づいた方がすぐに

反撃出来る可能性があるからな」

 

「……分かりました。でも、近づく

必要はありません」

 

そう言いながら俺は尾の艤装を伸ばし、

感覚を共有する。

 

後ろの岩礁。そこから俺達の目が届かない所に

イカリの白い触手が複雑に絡み合い、

パチン、パチンとフィンガースナップのような

音を立てている。

だが、出ているのは二本の触手のみ。

瞬間的に理解した。

これは俺達を遠ざける訳でも近付ける訳でもない。

……俺達をここに留める為だということに。

 

「ぷしゅん‼︎」

間抜けな音が、すぐ側で聞こえた。

誰かがくしゃみをしたのかと思ったが、

それは盛大な間違いであった。

 

「ぐっ‼︎……ツゥッ……くそ‼︎」

天龍が足を抑えてうずくまる。その右足の

ふくらはぎを、氷柱みたいな氷が

刺し貫いていた。

ダラダラとそこから鮮血が流れ出す。

 

「ぷしゅ‼︎ぷしゅん‼︎」

再び間抜けな音が聞こえる。

反射的に、俺は天龍を突き飛ばしてそこから

飛び退いた。

だが間に合わなかったか、左手首に熱が

走った。

 

「うぐあ⁉︎」

慌てて左手首を見ると、恐らく氷柱が原因だろう。

パックリと切れていて、そこから血が

流れ出していた。

 

「……ふん。この攻撃で1人仕留めるつもり

だったのだが……まぁいい。いつでも

仕留められる状態になったからね。

最後に殺してやる」

イカリの頭が、こちらを向いて嘲笑っていた。

 

多分だが、奴の触手は伸縮自在なのだろう。

そうでなければ、奴の頭から50mも離れている

岩礁に触手を突き出せるはずがない。

 

「全員、ここから生きて帰れると思うな……」

 

その言葉と共に、イカリの頭は沈んだ。

ただ一つ確かな事は、俺達は奴の策に

見事に嵌ったという事だろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、長門とサンズは互角の勝負を

展開していた。

長門が砲撃すればサンズは器用な方法で回避し、

サンズが砲撃すれば長門は拳に保護膜を

展開して弾く。

この繰り返しが先程から延々と続いていた。

 

「しかし、中々やるねー。あくまで砲撃に

限った話になるけどさァ‼︎」

 

サンズが右足に保護膜を張り、飛んできた

砲弾を蹴り飛ばした。

 

刹那、背後から僅かな殺気を感じ取り、

サンズはそこから飛び退いた。

 

「ッ‼︎」

次の瞬間、先程までサンズがいた所に

錨が叩きつけられた。

もしその場に留まっていたら、サンズの頭は

叩き潰されていただろう。

 

「汚ねーぞてめーら‼︎二人がかりなんてよォ‼︎」

 

サンズが不意打ちを仕掛けた闖入者……

電に向かい叫んだ。

 

よっこらせと電が錨を肩に担ぎながら言う。

 

「ご生憎様。こっちは一人で闘うなんて

一言も言ってない」

 

サンズはそれを聞いてしばらく黙っていたが、

やがて髪を搔き上げるような動作をして、

「……全く、一本取られた気分だよ」と

言った。

 

「じゃあ、こっちも近接戦ありでいくぜ。

……ところで、だ」

 

そう言いながらサンズは足を指差した。

 

「お前らは主機とかいう部分から

足に浮力を生み出させて浮いてるんだろう?

俺達も似たようなもんさ。

ただし、俺達は足だけじゃなく全身から

浮力を生み出せるがね。しかも」

 

サンズが海面に無造作に手を突っ込む。

しかしその海面は、まるでゼリーか

何かのようにぐにゃりと柔らかくその手を

受け止めた。

 

「上手く加減すりゃこんな感じにも出来る。

……さて、何で俺がいきなりこんな事を

言ったか分かるか?」

 

「知りたくもないな」

 

「冷たいなあ。まぁ、簡単な答えだよ。

この事象を利用してお前らを、ぶちのめす」

 

サンズが冷え冷えとした目で、

だが、どこか笑いを堪えたような声で

長門と電に語りかけた。




イカリの能力解説。
≪凍結能力≫
自身の体温を-5℃程まで下げることで
物体、特に液体を凍結させる。
イカリは海水と通常の水の凝固点を利用して
体内で作り出した水を凍結させて口から
発射する。


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「能力の応用」

58「軽巡や駆逐がいてオリョクル無理でち」

???「構わん、行け」


「この事象を利用して、お前らをぶちのめす」

 

そう言いながらサンズが構えた。

そして、長門を見据えて駆け出す。

 

「ビッグ7の力、そう簡単に舐めるなよ‼︎」

 

「いいや、俺はお前の事は舐めちゃいない」

 

長門の主砲が火を噴く。

同時にサンズは腰を低くして一歩踏み出した。

 

「むしろ尊敬してんだぜ?……これでも、と

言った方が良いかな?」

 

踏み出した足がぐにゃりと海面に沈み込む。

次の瞬間、海面の弾力によってサンズが

大きく打ち上げられた。

 

「ヒャーハハハハーーッ‼︎」

 

サンズは叫びながらトマホークを取り出し、

真っ向から飛んで来た砲弾を弾く。

そして、長門の脳天目掛け斧を打ち下ろした。

 

「ッ‼︎」

受けるのはまずいと長門が横に身体を動かして

紙一重で回避する。

 

トマホークが空を切る。サンズはそれを

腰の後ろにしまうと、再び海面を弾体化し、

高く飛んだ。

電や長門が砲撃するが、身をよじらせてそれを

回避すると、長門のすぐ後ろに着地(着水?)し、

長門が振り返ると同時に素早く足払いをかけた。

 

「ぐうっ‼︎」

バランスを崩して転ぶ長門にサンズが

踵落としで追撃する。

だがその前に、サンズの胸に錨が叩きつけられた。

 

「うがッ⁉︎」

電が錨を投げたのだ。サンズは胸を抑えて

よろよろと2、3歩下がった。

そして、膝をついて崩れ落ちた。

 

「ガッ……カハッ……カ……」

 

体勢を立て直した長門が立ち上がり、

電に礼を言った。

 

「すまない。助かった」

 

「そいつぁどうも。………おい、そこの

トカゲ男。お前、演技してるだろ」

 

「な……なんだって⁉︎錨の直撃を喰らったんだぞ⁉︎

普通なら動ける訳が……‼︎」

 

サンズはうずくまったままだった。

 

「グ……ク……カ……カカ」

 

「カハーハハハハハハハハハハッ‼︎

ヒィーヒハハハハハハヒャハハハハ‼︎」

だが、電の指摘した通り、サンズは本当に

芝居で痛がるフリをしていた。

狂ったように笑いながらサンズが立ち上がり、

そして言った。

 

「まさかねぇ。そこのガキに見破られるなんてよ。

こいつは想定外も想定外。……ガキ。

名前なんつーんだ?」

 

電はスカートのポッケからタバコを取り出し、

彼の問いに答えた。

 

「暁型駆逐艦4番艦、電だ」

 

「電……覚えたぜ。その姿も、中身も」

 

サンズはそう言い、ステップを刻み始めた。

右に、左に。何度もそれを繰り返す。

繰り返す内に、段々とその間隔が早くなり、

足が海面にぐにゃり、ぐにゃりと柔らかく

沈み込む。

 

「……電‼︎」

 

「分かってる」

 

長門の声を制して、電が素早く7.7mm機銃を

(本来なら対空に使うのだが)サンズに

撃ち込んだ。

 

刹那、サンズの姿が消えた。

……正確には消えたのではなく、見失う程の

速度で右に飛んだのだ。

次の瞬間、サンズは長門に向けて突っ込んで来た。

 

「これが‼︎」

長門の砲撃を受け止め、サンズは思い切り

長門に回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐううっ‼︎」

 

長門はギリギリ腕でガードしたが、それでも

衝撃を逃がし切れず、腕の骨が軋む。

サンズは回し蹴りをしたのとは逆の足を

弾体化した海面に沈ませて、その反発力で

距離を置いた。

 

「これが能力の応用ッ‼︎」

 

再びサンズが空高くジャンプする。

長門はその軌道を目で追って、主砲と副砲で

撃ち抜こうとした、が。

 

「ッ‼︎馬鹿、見るな‼︎」

 

サンズは太陽を背後にしてジャンプしていた。

つまり長門の目には直射日光が当たり。

その眩しさに思わず長門は手を顔の前に出した。

 

その行為が長門の命を守った。

ナイフが長門の顔目掛けて飛び、手の甲を

貫いたものの肝心の顔までは到達しなかった。

 

「ぐあッ⁉︎」

 

「そして真に能力の限界を理解した者こそが‼︎」

 

続いて踵落としが長門の頭を狙い振り下ろされる。

長門はそれを回避した。

サンズはそのまま半身まで沈み込む。

浮力の調整を失敗したらしく、海面の弾力は

なかった。

長門が守勢から攻勢に一転する。

 

「油断したな‼︎全主砲……」

 

その言葉が終わる前に、右の主砲がサンズの

拳によって叩き潰された。

 

「……勝者となれる。Do you understand?(理解したか?)

 

サンズが左肘を海面に叩きつける。

ぐにゃりと、サンズの肘が海面に

柔らかく受け止められる。

 

(ま……ずい……‼︎)

 

一瞬の出来事であった。長門はガードの

体勢をするのが精一杯だった。

……その次の瞬間、サンズが高速のラッシュを

繰り出した。

 

その拳の数はまるで、数十、数百にも

錯覚させる程の速さであった。

長門の身体が信じられない事に、

ラッシュによって浮き上がる。

 

(こ、こいつ……肘を弾体化した海面に

ぶつける事で、その反動でラッシュを

更に速くしているのか⁉︎)

 

丙型生命体はその生い立ちの特殊さのため、

深海棲艦より圧倒的に数が少ない。

そして、同族意識の稀薄さが、能力を

活用する必要性を生み出した。

たった一人で生き残る為に、彼らは

自身に与えられた能力を理解して、応用した。

それが出来ない者は死ぬのみ。

そうして生き長らえてきたのが、

リヴァイア・サンズであり、

丙型生命体なのだ。

 

長門が吹っ飛ばされる。

 

すでに両腕は堅い甲殻に覆われた拳によって

あちこちにひびが入っていた。

 

「ぐッ……つう……腕、が……」

 

「俺だって元頭格だ。舐めちゃ困る」

 

そう言いながらサンズはひらひらと

手を振った。

 

「にしても痛え……右の小指が折れた」

 

その背後に、7.7mm機銃の鉛弾が

大量に撃ち込まれる。

だが、その弾は全身を覆う甲殻に弾かれた。

 

「……おい、電、とか言ったか。

バトンタッチしてやれ。こいつより

お前の方が強いのは分かってんだぜ?

錨を喰らった時点でな」

 

こいつ、と言いながらサンズが長門を

指差す。

電はチッ、と舌打ちした。

 

「戦艦級と駆逐艦じゃ勝負にすら

ならねぇだろうが」

 

「闘わざるを得ないけど?」

 

「……仕方ねぇ……本気で行くぞ」

 

電が空手の構えを取る。

サンズもその誠意に対し、カポエイラの

構えを取るのだった。




サンズの能力解説。
≪海面の弾体化≫
浮力を加減することで自身が触れている
海面を弾体化させる。
サンズはこれを利用して蹴り技を
繰り出す他、拳のラッシュの際は肘を
ぶつけてその反動を利用して高速で
拳を繰り出す。
尚この技術自体は艦娘にも可能である。


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「参上、第7艦隊‼︎」

前回のあらすじ

長門「ビッグ7の私に勝てるものか」

サンズ「試してみるか?俺だって元コマンドーだ」

電「嘘をつくな」


「潮ちゃん‼︎雷撃はまだ出来る⁉︎」

 

「だ、駄目です!もう魚雷がありません!」

 

俺達はイカリに見事なまでに追い詰められていた。

奴のステルス性、速さ、凍結能力。

そして、潜水艦という艦種をフル活用して、

奴は俺達を沈めにかかっていた。

 

「くそッ……チート性能だなあのイカ‼︎」

 

「ククク、褒め言葉として受け取っておこう」

 

「ッ⁉︎」

 

イカリが6本の槍の1本を投擲した。

狙いはもちろん、天龍を抱えている俺だ。

 

「くそッ‼︎」

 

俺は速力を上げながら身体を低くする。

ビュンッ‼︎と風切り音を立て、槍が

俺の身体のすぐ上を通過、

奥にあった岩礁に衝突して大爆発を起こした。

岩礁が唯の無数の石ころとなり、海に沈んでいく。

 

「次で仕留める……楽しみにしていろ」

 

イカリが素早く潜行する。

こうなるともはや、俺達に打つ手はなかった。

 

 

 

 

 

 

(艦隊まであと……50m)

 

イカリは2本の槍を構えて艦隊に迫る。

 

(40m……30m……20m……)

 

速力を全力にして別の場所に移動しようと

している艦隊を嘲笑うかのように、イカリは

余裕で艦隊に追いつこうとしていた。

最早、彼の一撃から逃れうる事は不可能。

 

(10m……ここだ‼︎くたばれ、海軍の犬共‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

(今でちッ‼︎魚雷発射‼︎)

 

(酸素魚雷6発発射するの‼︎)

 

(さあ、戦果を上げていらっしゃい‼︎)

 

イカリに向けて、大量の魚雷が襲い掛かる。

 

(ッ‼︎しくじったか‼︎畜生‼︎)

 

イカリはレンゲ達から新たに現れた敵……

58達第7艦隊に標的を変更し、自らに迫る

魚雷を水中銃の艤装で破壊し始める。

 

(だが……たいした事ァねぇ。

鮪の赤身を日なたに3時間放置するような

真似より……全くもってマシだッ‼︎)

 

やがて、全ての魚雷が破壊される。

イカリの周りは気泡で包まれていた。

 

(愚策、凡策ゥ‼︎いや、策すら考えてねーな⁉︎

お前らは、俺に傷一つつけらんねーんだぜ?

分かってんのかこのタコがァァァッ‼︎)

 

(なら、これならどうだッ‼︎)

 

次の瞬間、58がなんと魚雷を抱えた状態で

突っ込んできた。

 

(お前、死ぬ気かッ⁉︎死ぬ気なのか⁉︎

だがなァ、死ぬのは……お前だけだ‼︎

俺は死なない‼︎)

 

イカリがそう言いながら水中銃を

構え、弾を放つ。

58はその弾を避けながらも、真っ直ぐに

イカリに突っ込んでくる。

 

(おい、待て止めろォ‼︎そんな馬鹿な真似で

死ぬのはお前だけで充分だッ‼︎)

 

イカリはそのまま逃げ出そうと背後を

見た。

だが、そちらにも魚雷が襲いかかってきていた。

しかも、イカリの真下からも。

 

(わぉ‼︎逃げ場がないわね♪)

 

(てめええええええええらあああああああああ‼︎)

 

最早逃げ場は上しかなかった。

弾かれるようにイカリが浮上する。

海面から顔を出した。その刹那。

 

ザクリ、と天龍が刀でイカリの左目から頭を

刺し貫いた。

 

「ウギッ……あばあああああああああ‼︎」

 

「さっきの攻撃の釣りだ……とっておけ」

 

何故、イカリの出現する位置がレンゲ達に

分かったのか。

それは、58達の連絡によってだった。

168達が逃げ道を上のみにし、58が

特攻覚悟の攻撃と見せかけて誘導。

そして連絡担当の19が大体の位置をレンゲ達に

報告する。

これによって、レンゲ達はイカリが顔を

出す位置を予測できたのだ。

 

イカリが無理矢理刀を引き抜き、潜行する。

 

(あばあああああんのやろおおお‼︎

お、おれのおおお目をああああああああッ‼︎)

 

左目を塞ぎながらイカリがのたうち回る。

先程の魚雷が襲い掛かる。

 

(アリーヴェデルチ、でち)

 

直後、大量の魚雷が命中、大爆発を起こした。

 

その威力は、大きな水柱を形作り、

レンゲ達を大きく揺さぶった。

 

 

「うおあッ⁉︎」

 

「きゃあッ‼︎」

 

塩辛い雨が降ってくる。俺達は、58との

連絡を取った。

 

「助かったよ、58」

 

「演習の時の礼はこれで返したよ」

 

「一応、奴の死骸を確認してくれないか?」

 

「了解で……ち……」

 

「? どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

海中。第7艦隊の面々は信じられないものを

目にしていた。

 

(……賛辞を送ろう。これまでで最大の

敵に。そして)

 

それはボロボロで、最早助かりそうな

状態ではないように見えるが、確かに

それは死にかけた者には見えなかった。

 

(これまでで最も残虐な方法で、始末する)

 

イカリの姿は、10本の触手の内4本が

欠損し、左目はなくなり、

右の脇腹が抉られた姿であった。

だが、その右目には先程までなかった

紫の輝きが生まれていた。

まるでリミットを解除したように。

 

(e……elite……?いや、flagship⁉︎)

 

58の呟きに、イカリが笑いながら返した。

 

(いいや、そんな深海棲艦と比べられちゃ

困るな。この状態はな、そうさね……)

 

イカリは触手を手を組むように絡め、

そして言った。

 

(Determination(決意)

そう表す言葉しかない)

 

 




undertale ってこれ読んでる人の中に
いるんかな?


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「Determination」

1、2、3話のUAが5000突破しました‼︎
ここまで(まだ一カ月ぐらいしか経ってないけど)
頑張れたのも皆様のおかげです‼︎



(最早、島なんぞ関係ない。

貴様らを一人残らず、地獄に送ってくれる)

 

イカリは残った腕の触手を身体に巻きつける。

 

(派手に踊れ、死の舞踏を)

 

次の瞬間、遠くまで触手を伸ばし、イカリは

それを縦横無尽に鞭の如く振り回した。

 

その速さに海中の58達は対応出来ず、

ことごとく打ちのめされていく。

 

(やばっ⁉︎急速潜……きゃああッ‼︎)

 

(168ッ‼︎)

 

168を救おうとした19が触手に叩かれる。

十重に、二重に。触手は全方位から襲い来る。

既に、無傷なのは58のみだった。

 

(なによこいつ……さっきまで……さっきまで

あんなに切迫した様子だったのに……

今のこいつは、まるで修羅場を何十年と

潜り抜けたような目つきをしている……⁉︎

だけど、だけど‼︎こいつのその身体に魚雷を

一発でもぶち込めば、58達の勝ちでちッ‼︎)

 

58はそう思いながら、抱えていた二発の魚雷を

イカリに発射した。

 

触手に阻まれるだろうが、それでも奴の

攻撃力を下げる事は出来るはずだ、とも

58はそう考えていた。

 

イカリは魚雷を見て、ニヤリと笑い、

触手を魚雷の進路に向けた。

 

(馬鹿か?一つ教えといてやる。

Determination状態はな。

……全ての能力のリミットを解除するんだよ。

身体能力、判断力。そして)

 

刹那、触手の先に氷の道が出来ていき、

二つの魚雷を捉え、そのまま巻き込んで

一つの氷塊を生成した。

 

(凍結能力もだ)

 

イカリはそう言いながら、触手に

ついた氷を砕きながらマスクを取った。

 

(肺活量もリミットが解除されるからな。

今ならまだ3時間…いや、5時間かな?

それぐらいは余裕で持つな)

 

そう言いながら、イカリは体内に海水を

取り込む。

 

(串刺しにしてやるよ、クソッタレの丁稚め)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ‼︎やばい、58達が殺される!

翔鶴さん、天龍を頼みます‼︎」

 

「待て、レ級。お前だけじゃ、あの烏賊の

相手は無謀だよ」

 

海面に潜行しようとした俺を芝浦提督が

引き止める。

 

「じゃあ、どうすればいいんですか⁉︎

もう俺がいくしかないんですよ⁉︎」

 

「俺がいるじゃないか」

 

はっとした。そうなのだ、芝浦提督も

今は深海棲艦の身体なのだ。

俺が艤装を展開した状態で潜行出来るのは

深海棲艦としての能力。つまり。

 

「あなたも行く気なんですね……‼︎」

 

「そういう事だ。……翔鶴、頼んだよ」

 

「司令官……‼︎」

 

翔鶴は何か言いたそうにしていたが、

その前に芝浦提督は海中に潜行した。

 

「翔鶴さん……。俺が、皆を連れて帰ります。

絶対に、一人残らず」

 

「レンゲ……頑張れよ」

 

「レンゲさん。貴方も無事に58さん達を

連れて帰って来て下さい」

 

俺は、二人の声を背中に受け、潜行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(おいおいおいおいどうしたよさっきまでの

威勢はよぉ?どこに行っちまったんだ?

なぁ〜……丁稚ちゃんよォ)

 

58はイカリの触手で締め付けられ、

イカリがその気になればいとも容易くその首を

へし折れる状況に追い込まれていた。

19や168は気絶した状態で海底に横たわっている。

イカリは残っていた魚雷が先端についた槍を

58の頰に当てた。

 

(これから、貴様を殴り殺すからな)

 

次の瞬間、58の頰を思いっきりイカリが殴る。

 

(ぐっ‼︎)

 

続いて腹を。

 

(がはっ‼︎)

 

そうやって、58の身体中を容赦なく殴ってゆく。

 

(クソがッ‼︎お前らがなッ‼︎邪魔さえしなきゃッ‼︎

こんな面倒な事にッ‼︎ならなかったのによッ‼︎)

 

先程の理性的な物腰から一変、感情の赴くままに

殴る、殴る、殴り続ける。

 

やがて、58がぐったりとした頃、イカリは

58を殴っていた触手の先に刃の如く氷を

生成した。

 

(……私はね、ムカついた奴は殺さないと心の平穏を

得られないのだよ……分かるかな?

例えるなら、道端で1000円札を拾ったみたいな

気持ちになれるんだよ……幸福に浸れるんだ)

 

そして、ゆっくりと刃を58に向けた。

 

(さあ、絶望の表情を私に見せろ‼︎

そしてそのまま死んでいけ‼︎)

 

だが、イカリがその表情を見ることは出来なかった。

上から何者かが迫って来る気配に気づいたのだ。

 

(ッ‼︎何奴‼︎)

 

すかさず、58を離してイカリはその場から

離れた。直後、何かが高速で58を掴んで引き上げた。

 

(58‼︎大丈夫か⁉︎)

 

レンゲと芝浦だ。

 

(う、うう……58は平気でち。

それより、早く168と19を……‼︎)

 

(貴様……こんな幼子をここまでいたぶるとは‼︎

人間だった時の心まで捨てたか‼︎)

 

(Exactly(その通りでございます)。人間にはとっくに愛想を尽かしてるさ。

奴らの絶望の表情を見られるなら、喜んで

心なんて捨ててやる)

 

イカリはそう言って、馬鹿にするように笑った。

 

ふつふつと、俺の中に何かが湧き上がった。

怒りだ。マグマのように静かな、だがしかし

熱い怒りが。

 

(……58。悪いが、まだ動けるか?)

 

(当然。まだまだやれるでち)

 

(19と168は任せた。芝浦‼︎)

 

(呼び捨てにするな)

 

(二人で奴を叩く。いいな?)

 

(勿論だ。叩くじゃ収まらん。切り刻む)

 

腰から軍刀を抜く芝浦提督。

その目には、怒りが宿っていた。

 

(愚か者共が……私に刃向かった、その後悔を

身体に刻みつけて死んでいけ‼︎)

 

イカリが槍を構える。

俺は尾の艤装の牙を剥き、芝浦提督は軍刀を

構え、イカリに向けて吶喊した。




イカリ Determination体
耐久4 装甲8 火力28
対空0 雷撃135 運15


感想下さい。俺の動力が切れそうです。


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「白き死神との激闘」

コンビニの近く通ったら艦これの
くじみたいなのやっててなんか嬉しい気持ちに
なりました。


イカリが迫り来る俺達を見て、せせら嗤う。

 

(戦艦?空母?舐めてるのか?

そんなものは、海中じゃ一切役に

立たないんだよ‼︎)

 

次の瞬間、大きく浮上し、俺達から距離を取る。

 

(逃げるな、卑怯者‼︎)

 

俺は尾を伸ばし、奴をその艤装の牙で

かみ砕こうとした。

だが、その艤装の牙を、イカリはするりと、

まるで闘牛士のように避けて、触手で掴んだ。

 

(潜水艦はな、逃げてナンボなんだよ。

弾が当たっちまったなら、それは死を

意味するからな)

 

そして、一本だけ残っていた魚雷を、

俺の尾に接着して。

 

起爆した。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオン‼︎

 

その音と共に魚雷の先端が爆ぜ、俺の

尾の肉を皮一枚ギリギリで繋がっている状態

になるまで抉りとった。

 

(ぐ……がああああああああああああ‼︎)

 

直後、ぶぢんという音と共に俺の尾が

二つに千切れた。

 

(勝った‼︎レ級、貴様の最大の火力は尾だ。

そして……最大の弱点でもある……

艤装のないレ級など……恐るることはない‼︎)

 

切れた尾の肉を噛みちぎりながらイカリが

笑い、そして尾を放った。

 

(レンゲ、お前は下がっていろ。俺がやる)

 

芝浦提督が、軍刀を抜きながら俺の前に出た。

 

(58と一緒に168達を連れて行け、いいな)

 

そう言って、芝浦提督はイカリに

まっすぐ吶喊した。

 

(ッ……まだ、まだ俺はやれるってのによ……

ちくしょう、芝浦の馬鹿……‼︎)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(けりをつけようか、イカ男‼︎)

 

(私の名は……イカリだ‼︎イカではない‼︎)

 

イカリが迫り来る芝浦に向け、水中銃を乱射する。

芝浦はなんと頭の艤装を外し、盾として

使用した。

 

(ッ⁉︎)

 

(海中じゃどうせ役に立たないんだ。

これぐらいしなきゃ割に合わない)

 

そのまま一気にイカリに突っ込み、軍刀で

裂帛の勢いで刺突する。

 

(くッ‼︎)

イカリは身体を反らせその一撃を避ける。

イカリの身体は非常に軟らかく、打撃は

一切通用しないがその反面、切断に

非常に弱い。

つまり、イカリにとって今の芝浦は厄介な

相手であった。

 

(どうやら策を弄するしか能がないらしいな‼︎)

 

大上段からの斬撃を水中銃で受け止めると、

イカリは残っている触手を伸ばし、

先程起爆して魚雷が無くなった槍……否、

棒を掴み、それで芝浦の腹を打突した。

 

(ぐあっ‼︎)

続いて頭を薙ぎ払おうとしたが、それは

盾に防がれた。

芝浦はそのまま20m程距離を置く。

 

(能がない……それは君の事ではないかい?)

 

ピシッ、と音を立てて残っていた

水中銃にひびが入る。

 

(私はね、幾重にも爪を隠すのが好きなのだよ。

策を弄する事も、艦としての性能も。

棒術が得意な事もね)

 

水中銃を捨て、鉄棍をぐるぐると回転させ、

イカリはニヤリと笑う。

 

(卑怯者め……)

 

(卑怯者で結構。……行くぞ)

 

その言葉と共にイカリが迫る。

芝浦は片手で軍刀を構え、迎え撃とうとした

刹那、イカリの進路のすぐ近くに19と168を抱えた

58がいる事に気付いた。

 

(ッ‼︎まずい、奴の性格からすると

俺より先に58を狙う‼︎)

 

芝浦が58を助けようと動いた。

が、イカリは58に目を向けることなく、

まっすぐに芝浦に突っ込んできた。

 

(ブ……ブラフか⁉︎しまっ……ガードが……

間に合わな……‼︎)

 

ガヅッ、とイカリの鉄棍が芝浦の脇腹を

薙いだ。

 

(ぐ……がッ……‼︎)

 

そのまま、流れるような鉄棍の連撃が

芝浦に襲いかかる。

 

腹に、胸に、足に、頭。

身体中の隙をついてイカリは的確な一撃を

与えてゆく。

 

(こ、こいつッ……‼︎なんて馬鹿げた強さだ……‼︎

砲撃も、肉弾戦も、両方こなすなんて……

反則だろうが……ッ⁉︎)

 

なんとか体勢を立て直すが、今の芝浦には

防御が精一杯であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、レンゲはようやく

和らいだ痛みに耐えて状況を把握した。

 

(クソ……やっと血が止まった……58は……

ああ、大丈夫だな……ッ‼︎

やばい、奴が58を…)

 

直後、イカリが58に目もくれず芝浦に

襲いかかる。

 

(ッ⁉︎58を襲わないのか⁉︎)

 

その時、58がレンゲと芝浦に向けて声をかけた。

 

(レンゲ‼︎司令官‼︎そいつ今身体能力とか

色々高まってるらしいでち‼︎)

 

(言うのが……遅いんだよでち公‼︎)

 

イカリの連撃を精一杯防御しながら芝浦が

叫ぶ。

 

刹那、レンゲの脳内に疑問が発生し、

直後、その雷撃的な閃きが解答と

イカリを倒す方法を創り上げた。

 

(そうか……つまり、奴は……‼︎

芝浦‼︎一旦海上に上がれ‼︎)

 

それと同時に、レンゲは駆け出しながら

芝浦に声をかけた。

 

(⁉︎何を言ってんだお前は‼︎)

 

驚きながらもなんとかイカリから

芝浦は距離を取る。

そのままレンゲの所まで泳ぐ。

 

(いいか、海上に上がったら天龍から

刀を借りろ。あっちの方が返しがあるから

抜けにくい。それから……)とレンゲは

素早く芝浦に耳打ちした。

 

(お前……一歩間違えれば死ぬぞ‼︎)

 

(誰だっていつか死ぬさ。軍刀借りるぜ)

 

芝浦から軍刀を奪いながらレンゲはイカリに

向かっていく。

 

(俺だって死ぬし、芝浦、あんただって死ぬ。

死は避けられない)

 

軍刀を構え、イカリを睨みつける。

 

(だが俺達が死ぬのは今日じゃない。

……行け、芝浦‼︎)

(……〜〜ッ‼︎)

 

芝浦はギリッと歯ぎしりすると、

すぐに、浮上していった。

 

(カッコつけるのは、すぐ死ぬ奴がやる事だよ。

なぁ、レ級?)

 

(さっき言ったはずだ……)

 

レンゲは、足に力を入れて、イカリに

吶喊した。

 

(俺が死ぬのは、今日じゃないってな)

 

 




もうすぐ、小説として一区切りつきます。
次の章は、リンガか幌筵を舞台にしたいです。


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「故に彼の者は」

暇ァッ‼︎


俺はイカリの腹めがけ軍刀で刺突する。

 

(スットロイんだよ、レ級‼︎

あくびが出ちまうな‼︎)

 

イカリが鉄棍で弾き、カウンターを仕掛けた。

狙いは俺の右の肋骨。

 

(へし折れなァ‼︎)

 

俺はその一撃を、あえてガードせずにまともに

受けた。

メキッ、と鉄棍が俺の右胸に食い込む。

 

(なッ⁉︎ガードしねぇ……だと⁉︎)

 

パキッ……と肋骨にひびが入る音と共に身体に

激痛が走る。

俺は、奴の鉄棍を右手と身体で挟み込み、

叫びながら、裂帛の勢いで刀を振り下ろした。

 

 

(ッ……ウ……アアアアアアアアアアッ‼︎)

 

(が……ガキィ‼︎離せこの野郎‼︎)

 

その一閃は、奴の右の触手を二本斬り落とした。

肉を斬らせて骨を断ちたかったが、

俺と同程度の損傷しか与えられないか……‼︎

 

(ヴギィィィィィィィ‼︎俺のォオオ右腕がアアッ‼︎)

 

右腕を全て失ったイカリは、左の触手で

鉄棍を引き抜き、俺の腹を打突した。

 

(ぐあッ‼︎)

 

上へと俺の身体が打ち上げられる。

 

(ぶち殺す……ぶち殺すぶち殺すぶち殺す

絶ッッッ対にッ‼︎ぶち殺すッ‼︎)

 

紅い幾何学状のラインが顔に

ネイティヴアメリカンのメイクのように走る。

 

次の瞬間、打ち上げられた俺に向けて追撃を

開始した。

 

(ウシャアアアアアアアアアッ‼︎)

 

激流のように怒涛の勢いでイカリは攻撃を

仕掛ける。

俺は左肩への一撃を軍刀で防ごうとしたが、

それはあっけなく鉄棍に砕かれた。

 

(ハハハハハハハハハ‼︎手ぶらになったなァ

レ級ちゃんよォ‼︎)

 

イカリはそれを見て更に勢いを増す。

俺は腕や足でガードするが、痛みは

容赦なく襲いかかる。

 

(ぐ‼︎ がっ……‼︎ かはッ‼︎)

 

意識が朦朧としていく。

海底近くで戦闘をしていたのが、いつの間にか

海面近くまで上がっていた。

 

(反吐ぶちまけて死んでいきなァ‼︎)

 

イカリが鉄棍を大きく引き、次の瞬間

恐ろしい勢いで打ち出した。

この一撃は間違いなく俺の胸を貫くだろう。

朦朧とした意識をこれまでにない程……

レ級に生まれ変わる前でもこれ程に

やった事はないという位に集中し、そして、

 

皮一枚の差で奴の鉄棍を回避した。

 

(なんだとァ⁉︎しまっ‼︎腹が……がら空きに……)

 

そのままの勢いで、イカリは俺の横を通り過ぎた。

だが、俺は何もしない。正確には出来ないのだ。

既に意識を集中したせいで最早それを

保つのが精一杯だった。

イカリが振り返り、俺を嘲笑う。

 

(く……かはははははははははは‼︎

まだ、まだ運は俺を見放していなかった‼︎

さあ‼︎表情を見せろ‼︎絶望の表情を

私に見せながら沈んでいけええええええええ

うはははははははははははははははははは)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ、という音と共に海面から

突き出された天龍の刀がイカリの首を

刺し貫いた。

 

(ウギッ……あぼッ……)

 

首の傷口から青い血が煙のように広がる。

 

ぽろりと、鉄棍を取り落とした。

瞬間、刀が引き抜かれ、イカリの身体が沈んだ。

俺は奴の鉄棍を掴み、打突した。

メリッという音と共にイカリの胸に突き刺さる。

 

メリッ……ブチブチッ‼︎ ベリッ‼︎

 

奴の体重が鉄棍にかかる。

 

(ッ、ウオアアアアアアアアアアアッ‼︎)

そのまま、奴の身体を海上に叩き出し、

そこで俺の意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……レンゲ……」

 

「レンゲの言った通り、海面まで来た奴の

首を刺し貫いたが……この後、どうするんだ……」

 

一方、天龍達はレンゲを心配していた。

と、そこに。

 

「ウギグガアアアアアアアアアッ‼︎」

イカリの身体が海上から打ち上げられ、

そして、近くにあった岩礁に叩きつけられた。

 

「ッ⁉︎」

 

「みんな‼︎」

 

続いて、168と19を翔鶴と潮に預け、

潜行していた58がレンゲを担いで浮上した。

 

「レンゲッ‼︎」

 

「大丈夫でち。尾は千切られたけど

命に別状はないし、今は気を失ってる

だけでち」

 

「……お前ら、レンゲを頼む」

 

そう言って、芝浦は天龍の刀を持って

歩いてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュー……コヒュー……何故、だ……ヒュウ……

何故、俺が……こんな攻撃を……ヒュウウ……

予想出来なかった……⁉︎」

 

満身創痍の状態ながらも、未だイカリは生きていた。

 

「それは、レンゲがお前の弱点を見抜いたからだ」

 

芝浦が、刀を持ってイカリの所まで来た。

 

「なんだ、と……ヒュ……弱点?

弱点と……言ったのか……⁉︎」

 

「それを自覚出来なかったのも無理はない。

お前は無意識の内に(・・・・・・)それを晒していたんだ」

 

イカリは首を芝浦の方に向けた、

 

「そんな……そんな馬鹿げた話が……‼︎」

 

「お前ら丙型生命体は艦と人間の魂が

融合した存在らしいな。そして、お前は

人間達の魂の恨みに感化されて海軍に

復讐しようとした。違うか?」

 

「ああ、ああ‼︎まさに……その、ヒュウ……

通りだ……」

首から空気の漏れる音を立てて、イカリが

肯定する。

 

「だがな、一つお前は勘違いをしている。

艦の魂も一緒に融合していることを、

忘れていたのか?

……お前の弱点はそこだ。人間達の魂と

艦の魂の怨む対象の食い違いなんだよ」

 

「……何……⁉︎」

 

「お前の中の人間達は海軍を恨んでいた。

だが融合した艦は、海軍の連中のような

人間ではなく深海棲艦を恨んでいた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

だから、もしも艦娘と深海棲艦がいたら

深海棲艦の方を優先して攻撃し、

そいつに全ての警戒や能力を傾ける。

お前の身体の根底を作っている艦の魂が、

無意識の形として、そうしているんだ。

だから、深海棲艦と戦ってる間は他の奴に

集中がいかない。無論、艦娘にもな」

 

イカリは茫然とそれを聞いていたが、

やがて口惜しそうに口を歪め吼えた。

 

「ふざけるなァッ‼︎深海棲艦など俺は

どうでもいいのによッ‼︎なんでこんなことに‼︎

畜生、まだ、まだ俺は生きなきゃいけないんだ、

魂が満足するまでさァ‼︎」

 

もう、聞き飽きた。一度死んでも尚この世に

縋ろうとする亡者の叫びは。

芝浦は逃げられないように、イカリの左腕を

斬り落とした。

 

「ガアアッ‼︎て、てめぇ‼︎俺の中には、

悲惨な死に方をした魂がいるんだぜ⁉︎

そいつらごと俺を消す気か‼︎」

 

黒い羽虫のような艦載機が飛んでくる。

 

「ふざけるな……‼︎お前によって

殺された三宅島の人々はお前より悲惨な目に

あったんだ……お前の中の悲惨な死に方をした

魂には気の毒だが、悪いとは思わない」

 

そして、艦載機から爆弾がイカリに

落とされた。

 

「ちッくしょうめがあああああああああああああ‼︎」

 

直後、イカリを爆炎が包み、その身を

焼き払う。

 

「ガギアアアアアアアアアアアッ‼︎」

そして、その身を肉片に解体していく。

 

「が、カ……俺が……死んだら……他の奴が……

お前、らを……殺しにく、来る……ヒヒヒ……

ざまあ……みろ……」

 

イカリは、最期にそう吐き捨て、業火に

その身を肉片に変えられ、

一片残らず炭になった。

 

「死人は、死人らしく成仏しろ」

 

岩礁を覆う程の火炎を背にして、芝浦は

歩き出した。




「ようこそジャパリパーク」の……
「けものはいてものけものはいない」……
って歌詞よぉ〜……「けものはいても」
ってのは、よくわかる……スゲー
よくわかる……
アニメの題名が「けものフレン●」
だからな……。

だが「のけものはいない」ってのは
どういうことだアァァ〜〜ッ⁉︎
このアニメ両生類のフレ●ズが
出てねーじゃねーか‼︎
舐めやがってこの歌詞ィ、
超ムカつくぜェ〜〜〜ッ‼︎


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「顛末」

後2、3話で区切りつきます。
楽しみにしててね。(そうでもないけど)


ーーーーーーその頃、三宅島付近。

電とサンズは未だ肉弾戦を続けていた。

 

サンズの蹴りを電が受け流し、腹に

正拳突きを食らわす。

だが、その一撃は堅い甲殻と鍛えられた

腹筋によって衝撃を分散された。

 

「ッ……‼︎この威力、この速さ……唯の

空手を習った奴じゃ出せねーぞ‼︎

お前……実戦慣れしてやがるな。一体どれほどの

修羅場を潜り抜けてきたんだ?」

 

「お前は今まで食ったパンの数を覚えているのか?」

 

サンズはそれを聞いて、ニヤリと笑い返した。

 

「知るかバカ‼︎お前こそ覚えてんのかよ食った

パンの数をさァ‼︎」

 

「俺も知らん」

電の返答にサンズはずるッ、とこけた。

 

「聞くんなら覚えておけよッ‼︎

……と、あら?あららら?」

 

サンズは側頭部を抑え、あさっての方向を

向き、首を傾げた。

 

「……あらららららら、イカリが……

死んだ……つーことは」

 

傾げていた首を戻し、サンズは電を見て

言った。

 

「負けた負けた、俺達の負けだ。

三宅島は、潔く諦めて帰るよ」

 

「いきなり負けた、だと何を抜かしているんだ

貴様は‼︎」

 

肩をすくめ、足元から潜行していく。

 

「だから、仲間がやられたら撤退する気なの‼︎

分かる?正真正銘、お前らの勝ちだよ。

イカリが事故とかそんな理由で死ぬ訳があるかい」

 

肩まで沈み込んだ。電はサンズに向けて

掌底を叩き込もうとした、が、

それは海面から飛び出したサンズの尾に

横から叩かれ、サンズの肩のすぐ横に外れた。

 

「そんじゃ、また。

Let's meet again if you live(生きてたらまた会おう)

 

その言葉を最後に、海中へとサンズの姿は消えた。

電は、サンズの消えた後を眺めていたが、

やがて「くそっ」と吐き捨てて長門の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、三宅島。

 

ゲンブもサンズと同じく、イカリが死んだ事を

感知した。

 

「死んだのは……イカリか。全く、まさか

奴が最初に死ぬなんてね。まぁ、いいさ。

燃料はとっくに回収し尽くした。

……撤退するぞ‼︎電磁パルスを発生しろ‼︎」

 

その号令をかけた途端、フジツボ達の身体に

赤い紋様が走る。

 

そして、その命令を即座に実行した。

 

 

 

 

 

 

 

「……‼︎電探が上手く作動しません‼︎

何らかの妨害電波が放たれているみたいです‼︎」

 

「こっちもです‼︎」

 

艦隊の間で連絡が飛び合う。

ふと、一人の艦娘が島を指差して叫んだ。

 

「み……見て下さい‼︎敵が……敵が

撤退していきます‼︎」

 

「何ッ⁉︎……そうか、妨害電波を放ったのは

追跡をかわすためか‼︎すぐに魚雷を放つんだ‼︎」

 

「駄目です‼︎魚雷を撃ったとしても先に敵に

逃げられてしまいます‼︎」

 

その言葉の通り、フジツボ達は何百といたはず

なのに、今や数十程の数しか見えなかった。

 

「あー、テステス。聞こえるかな艦娘の諸君。

我々は潔くこの島を明け渡すことにした。

よって、この闘いは君達の勝利だ。

喜びたまえ」

 

最後に残ったゲンブは拡声器で

艦娘達に呼びかけると、素早く海中に

飛び込み、姿を消した。

 

「いきなり、なんなんだ……その気になれば

我々等容易く追い返せたはずだぞ……」

 

こうして、艦娘達にとって不安や疑問を残す

形で三宅島奪還作戦は成功したのだった。

だが、その結果がレンゲ達によって

作られたものだということに、果たして

何人が気づく事が出来ただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どろりとした眠りから、俺は目覚めた。

 

「……ん、気付いたか。安心しろ。

もう全て終わった。奴らは三宅島から

撤退したよ」

 

芝浦提督が俺の顔を見て言う。

天龍も、翔鶴に肩を借りて航行していた。

58達は、顔だけ出して時折こちらを見ていた。

 

「そうですか……んッ……身体が重いや……」

 

俺の身体はもうガタガタであった。

指一本動かすことすら気だるい。

 

「無理するなよレンゲ。あの烏賊野郎と

散々やりあったんだからな」

 

そして、俺は芝浦提督の顔を見て言った。

……あまり突っ込みたくなかった事だが。

 

「あの……なんで俺、芝浦にお姫様抱っこ

されてんの?」

 

「呼び捨てにするなと言ったろうが」

 

そう、俺は芝浦提督にいわゆるお姫様抱っこを

された状態で運ばれているのだ。

 

「恥ずかしいんですけど……下ろして下さい」

 

「駄目だ。お前が一番の重傷者なんだからな」

 

確かに、俺の肋骨は1、2本が折れ、

尾が中途からなくなっている。

どう考えても一番の重傷者です。

というか、この傷船渠で治るのかな?

治るとしたら高速修復材を被ったら

尾の先から肉が再生して……うわ、見たくねぇ。

R18指定のグロ映画のワンシーンみたいに

なっちまうよ……。

 

「お……見えた。内房の鎮守府だ。

戻ったら、全員船渠に行くぞ。

それと……」

 

「レンゲ、お前が奴の弱点を見抜いたおかげで

奴を倒せた。礼を言う」

 

その言葉は、裏も表もなく、単純な感謝として

俺に聞こえた。

 

「……俺こそ、芝浦や皆のおかげで

助かったんです。こちらこそ、

ありがとうございました」

 

俺達は戻って来た。内房の鎮守府に。

生きて帰って来れたのだった。




疲れたァァァァァァァッ‼︎


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「酒ッ‼︎飲まずにはいられないッ‼︎」

しばらくエタっててすいませェェェェェェん‼︎


船渠。

そこには傷ついた艦娘達が入浴……否、

入渠していた。

 

「あ〜……身体が癒えていく〜……」

 

「傷がまだ痛え……まだ入渠しとかねぇとな」

 

船渠の浴場には修復材が大量に含まれており、

艦娘達の疲労や傷はもちろん、時間が経ちすぎると

不可能になってしまうが欠損した身体の一部まで

修復出来る。

 

「レンゲ、船渠から出たら……って、何

顔手で覆ってんだ?芝浦司令官までよお」

 

「いや……なんでもないです天龍さん」

 

「天龍……あのな、俺はつい先日まで

男だったんだぞ……そんなすぐに女性の

裸を見る事が出来ると思っているのか……⁉︎」

 

二人とも、まだ入渠してから数分と経たないのに、

顔をゆでダコのように真っ赤にして、

手で覆っていた。

 

 

(言えねぇ……実は元男でしたなんて

今更過ぎて言えねぇよ……‼︎)

 

(身体にタオルを巻いてくれてるならまだ

いいが……駆逐艦娘達。タオル位

巻いてくれよ……目のやり場がない……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっはー‼︎酒だ酒だー‼︎」

 

そう叫びながら、隼鷹が日本酒が乗った盆を

持って天龍達の浴場に入ってきた。

 

「お、いいな。俺にもくれよ」

 

天龍が隼鷹に向かって盆のお猪口を取りながら

頼む。

 

「おう、いいぜいいぜまだあっちにあるからさ。

飲めや飲めや」

 

隼鷹はすでに酔っているのか、ケラケラ笑いながら

天龍のお猪口に日本酒を注いだ。

天龍はそれをぐいっと飲むと、

「かーッ!うめー‼︎やっぱ任務の後の酒は

いいぜ‼︎」と叫んだ。

 

「だよなッ‼︎ほら、司令官も飲め飲め‼︎」

 

「え?いや、まだ俺は未成……」

 

「うるへーそんな事知るか‼︎」

 

隼鷹は別のお猪口を取り、そこに日本酒を

注いで芝浦の口に叩き込むように呑ませた。

 

「ん〜〜ッ⁉︎」

 

芝浦は酒の味に顔をしかめていたが、

やがて表情がぽけーっ、としたものになり、

そしてへにゃ、と力の抜けたような笑みを

浮かべた。

 

 

「はにゃあ〜……」

 

「あの……芝浦さん?大丈夫ですか……⁉︎」

 

「らいじょぶらいじょぶ〜。

隼鷹ぉ〜もっとお酒ちょうらい〜」

 

「間違いなく酔っていやがる……‼︎」

 

こいつは酒臭え‼︎アルコールの匂いが

ぷんぷんするぜーッ‼︎と言いたくなる位に

芝浦は酔っ払っていた。

というか、お猪口一杯分の酒で酔う程に

芝浦は酒に弱かった様だ。

 

天龍は全く酔っていないが、隼鷹と芝浦は

そこらの呑んだくれた親父のようになっていた。

 

「ひっく……実は私ぃ……ういっく……

翔鶴しゃんの事が好きなの……♪」

 

もはや覚束ない口調で誰にも話そうと

しなかった秘密をあっさり暴露する

芝浦。

 

「そうかそうか‼︎じゃあ丁度いいからよ、

翔鶴呼ぶから告白すりゃいいじゃん‼︎」

 

隼鷹はそういいながら翔鶴を呼びに浴場から

上がった。

 

「レンゲは酒飲まねーの?」

 

「絶対嫌です」

 

酔っ払って自分の秘密を暴露したりしたら

目も当てられない。レンゲは速攻で

拒否した。

 

「そうか。まぁ、あんなんなられても

困るしな……」

そう言いながら天龍が指差した方向には、

隼鷹が長門の頭を鷲掴みにして

「ほら来いよ〜翔鶴〜」と言っており、

「隼鷹、それ翔鶴やない、長門や」と

他の艦娘達に止められていた。

 

「……確かにあんなのにはなりたくないです」

 

「酒入んなきゃ淑女なんだけどなぁ……」

 

レンゲの横では酔っ払った芝浦が猫か何かの

如くにゃんにゃん言っていたので、多摩が

反応して掴みかかっていた。

 

「にゃ⁉︎提督!多摩からアイデンティティを

奪う気かにゃ⁉︎」

 

「そんな事ないにゃ〜」

 

「提督……恐ろしい子‼︎」

 

恐れ慄く多摩を尻目に、レンゲと天龍は揃って

ため息を吐くのだった。

 

 

 

ちなみにその後、隼鷹はちゃんと翔鶴を

連れてきた、が、その頃には芝浦は

酔い潰れて寝ていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丑三つ刻。

 

「あぁ、疲れた……おい、そっち持て」

サンズは、海中から何かを引っ張りだした。

大きな赤いコンテナだ。

海中ではフジツボ達がコンテナを持ち上げている。

 

「よっこら……せッ、と。これで終わり‼︎

はい、撤収‼︎」

 

フジツボ達はサンズの号令で解散した。

 

「お疲れ様。これで燃料はしばらくの間

調達しないで済むね」

 

「全く、燃料をコンテナに満載する

なんてさァ……運ぶ側の気持ちにもなれよ」

 

肩凝っちまった、とサンズがグリグリと

腕を回す。

 

「ま、いいけど。そう言えば、連絡来たらしいな。

どこから来た?」

 

「南と……北かな。大体の位置で言ったら

南は沖縄かリンガ。北は北海道か青森」

 

「アバウトだなぁおい」

 

「どっちも君の事を警戒していたが……

まだ出す気は無いのかい?」

 

サンズは首を曲げ、ベキベキと鳴らすと、

 

「返事もそうだし、本気も出さない。

楽しめそうな方に行くよ。

結果なんて知るか。……ところでこんな言葉が

あるのを知っているか?ケ・セラ・セラって奴」

 

「なるようになるさ……か」

 

サンズはヘラヘラと笑うと、腰をトントンと

叩きながら洞窟の闇に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官。今日救出した島民についてなのですが」

 

内房鎮守府の会議室。

神崎は愛宕からとある書類を受け取っていた。

 

「一人の少女に身体検査をした結果……

艦娘の適性があることが分かりました」

 

「何の艦種適性ですか?」

 

「まだはっきりとは分かりませんが、恐らくは

駆逐艦娘かと」

 

神崎は書類に目を通し、はあ……と息を吐いた。

 

「また一人、戦場に身を投じる者が……」

 

書類には、鈴と花の髪留めで髪型を

サイドテールにしている勝気そうな顔の少女の

顔写真が貼られていた。

 

「駆逐艦娘は特にその命を落とす者が多い。

早く……この闘いに終止符を打たなくては」

 

この5年の間に何十、何百もの艦娘が

命を落とし、退役をせざるを得ない状態に

なった。

提督となった者は、いつ死ぬか分からない

彼女達を死地に追いやらねばならない。

その圧力に耐えきれず、提督を辞めた者や

自殺をした者も数多くいる。

だが、神崎は提督を辞めたり自殺する気は

ない。

艦娘が死んだ時、彼女の人となりを家族に

伝えるのは、提督しかいないのだから。

 

艦娘をこれ以上犠牲にさせる訳にはいかない。

神崎の心は、固い揺らぎなき決意に満ちていた。




次回で最終回(1章が)


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「さらば内房」

一旦区切りがつきます。


翌日。

 

「皆さん集まりましたかー?」

 

「深雪ちゃんがいませーん」

 

「古鷹がトイレ行きましたー」

 

内房鎮守府内は遠足の小学生の様な

状態になっていた。

 

「0作戦」は成功し、見事三宅島は丙型生命体から

奪還され、島に取り残された人々も救出された。

だが、その一方で。

 

「よう、レンゲ」

 

「あ、芝浦さん」

 

翔鶴に肩を借りながら芝浦がレンゲの元に来る。

頭手で押さえながら、芝浦は呻いた。

 

「痛え……くそ、二日酔いかよ……つうっ……」

 

「司令官、しっかりして下さい」

 

「これから大本営に行くんですよね。大丈夫ですか

そんな状態で行って」

 

「ああ……命令だしな……行かなきゃいけない。

……おえっ……」

 

ただでさえ白い顔を更に蒼白にしながら芝浦が

言う。

芝浦は、三宅島の件で昨日の深夜に大本営からの

呼び出しを受けていた。

三宅島は内房鎮守府の管轄内にある。

三宅島が襲撃された事に対して内房鎮守府の非は

あるかどうかを調べる為に芝浦は呼び出しを

受けたのだ。

 

「まぁ……平気さ。神崎が口添えしてくれるとよ」

 

「がんばって下さい。応援してますから」

 

芝浦は微笑して、翔鶴と共に執務室に向かった。

しかし、途中で立ち止まりレンゲの方向を

振り向くと、

「お前も、頑張れよ」と言って再び執務室に

向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────内房に近い病院。その入口に、黒い

乗用車が一台止まっていた。

入口から、一人の女性に連れられ少女が出て来る。

 

「いいのね?本当に、この車に乗ったら後戻りは

出来ないわよ」

 

少女は、決意した表情で女性の顔を見ると、

「もう、覚悟は出来ていますから」と答えた。

 

実際、彼女に迷いはなかった。三宅島に対しても

親や親戚がいない身だから思い入れなんてない。

だが、彼女には果たすべきだと思っている目的が

たった一つ、あの島で生まれた。

あの化け物達に支配されていた一夜。

その一夜に、彼女は「悪魔」と約束したのだ。

「悪魔」は自身を悪魔だとは名乗っていないし、

そもそも自身については何一つ名乗らなかった。

しかし、影が凝縮されたような黒い姿を見て

少女は悪魔だと、そう思った。

 

「生き延びろ。そして俺に復讐しに来い」

 

悪魔はそう少女に言って食料を渡し、闇に消えた。

そして少女は生き延びた。

少女は再び悪魔と邂逅したかった。

彼が少女に食料を渡したのは単なる気まぐれかも

しれない。ただ、少女にとってはそれでも

良かった。いずれ、また悪魔に、今度は海で

会えるとしたら。

 

────「ありがとう」、と言いたかった。

 

少女は叶うかどうか分からない期待を持ち、

女性と共に乗用車に乗り込んだ。

そして、車は動き出した。

少女の運命の歯車と共に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな集まりましたねー。じゃあ、出発しますよ」

 

神崎や戦艦や空母の艦娘が列を揃え、軽巡の艦娘が

駆逐艦や潜水艦の艦娘を連れて駅に向かう。

傍目から見ると本当に遠足のようだ。

 

「なんて言うか、色々とありましたね……」

 

「そうだな。内房の提督がヲ級になったり、

三宅島が奪われたり……一ヶ月ぐらいあそこに

いた気分だ」

 

俺と天龍は顔を合わせた。

 

「色々辛い事もありましたけど……また

いつか内房に行きたいです。

翔鶴さんにも、芝浦提督にもまた会いたいし」

 

「……だな」

 

やがてどちらからともなく微笑がこぼれる。

 

「おうっ!二人とも何話してんのー?

私も混ぜてよーねーねー‼︎」

 

島風が話に乱入してくる。

足が速いだけでなく耳も早いらしい。

島風に続いて、皐月や19も乱入してきた。

 

「何?僕達も話に混ぜてよ」

 

「イクも二人の会話に入りたいのー♪」

 

「天龍ー‼︎貴様羨ましいぞレンゲと話せて‼︎

私も混ぜろー‼︎」

 

「あれ、長門さんずっと奥にいましたよね……」

 

「うん。ぜってぇ聞こえないと思ってたんだが」

 

島風以上の耳の早さ……。

まさに……圧倒的……地獄耳ッ……‼︎

案の定電に捕まっていたが。

 

「長門さん……電は駆逐艦の列を整えとけと

言ったのですよ……?」

 

「……あっ、ち、ちょっとこれには訳g」

 

「てめーは電を怒らせたのです」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」

 

長門の叫びを背後にしながら、俺達は駅に向かった。

またいつか。その頃には果たすべきことを

終えているだろうか。

内房を訪れたい。そして、翔鶴さんともっと話を

するんだ。芝浦さんと仲良くなるんだ。

そう思いながら、俺は何気ない一歩を踏み出した。

 

「お前ら!先行くなって言ったろうが‼︎」

 

「だってさ、天龍さん襲いんだもん」

 

「そうそう、おっそーい‼︎」

 

「……お前らー‼︎」

 

「わー!怒ったー‼︎」

 

「逃げろー‼︎」

 

……天龍が俺を置いて走っていってしまった。

 

「え……ちょ、ちょっと待って下さいよー‼︎」

 

レンゲは走り出した。

これから起こる出来事は不幸も幸福も

呼び起こすだろう。

だけど、彼女なら。否、彼女達ならば。

全てを受け入れて、力強く生きて行くだろう。

それを暗示するように、空は何処までも

蒼く広がり、太陽は燦々と輝いていた。




これで一章はおしまい。
こんなに皆さんに見てもらえるなんて
最初描き始めた時は想像も出来ませんでした。
本当に、ありがとうございます。


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2章 ???(未定)
「少し昔の話をしようか」


2章開幕。


これは、もう2、3年も前の話である。

 

とある鎮守府に一人の艦娘がいた。

名前は言えないが、剣術を父親から教わって

いて、その腕前はかなりのもの。

鎮守府の駆逐艦達からも「お姉さん」と

慕われる程の評価を得ていた。

彼女は、とある鎮守府の提督とその頃

親密な関係だった。

他の艦娘からは、「ケッコン(ガチ)するのでは」と

囁かれていた程である。

 

そんなある日の夜の事だった。

彼女は、何かの音で目を覚ました。

 

その音はいつも提督がいる部屋から

聞こえてきた。

しかしそれは隣の部屋で

眠っていた彼女にしか聞こえなかった。

 

彼女は着の身着のままで艤装の刀を持って

部屋から飛び出した。

その音は、書類が机から落ちる様な音でも、

椅子が軋む様な音でも、ましてや

ペンで紙に何かを書く様な音でもなかった。

形容するならば、「切れ味の良いナイフで

何か柔らかいものをブツッと裂いた様な音」。

 

普通、そんな音が書類仕事を主としていた部屋で

起こるだろうか。

嫌な予感が背中を走った彼女は

ドアノブが壊れるのではないかというぐらいに、

強くドアを開け放った。

そこには。

 

 

 

開けられている窓から風が書類を持っていく。

月は蒼く照明の切れた部屋を照らして、

一つの影を映し出していた。

 

その背丈は2m近くありながら、

まるで骸骨の如く異様な体型をしており、

頭から落武者のように髪を垂らしている。

さしずめ「亡霊」という言葉がそれを

形容するのにぴったりであった。

 

その姿に戦慄した彼女の足下に亡霊は何かを

投げ捨てた。

ゴロリと転がったスイカ大の物体。

それを見た刹那、彼女の鼻腔に錆びた鉄の

匂い……否、血の匂いが充満した。

 

 

 

 

 

彼女は叫んだ。それは激昂でもあり怨嗟。

そして、悲しみの叫びでもあった。

亡霊の体の後ろには主人を失った屍体(首のない提督の死体)

立ったまま、軍刀を構えたまま

その身体を赤い液体で濡らしていた。

亡霊は、左手に持っていた刀を振り血を

ある程度落としていた。

 

感情に突き動かされるままに、彼女は刀を

亡霊に向かって振るった。

裂帛の勢いで襲いかかる剣撃。

常人ならば目視すら難しいそれを亡霊は

刀の横に右手の甲を当て、軽くいなした。

そのまま、彼女に突進して左手に持った刀で。

 

彼女の片目にその切っ先を差し込み。

 

そのまま眼窩から眼球を視神経が

繋がったまま抉り出し。

 

彼女がその事を認識する前にブツリと視神経を

片手で引き抜いた。

 

無理矢理引き抜かれた眼窩に血が溜まり、

流れ出す。

その余りの激痛に彼女は刀を取り落とし、

眼球を失った片目を手で覆って叫びながら

蹲った。

叫び声は鎮守府全体に響き、

その叫び声を聞きつけて他の艦娘が来た時、

既に亡霊の姿はなく、眼窩から血を流して

倒れた少女と、頭のない提督の死体のみが

残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

────これが俺の兄貴から聞いた話だよ。

……もちろん実話だぜ?え、なんで

その片目失った艦娘が見た事まで知ってるんだ、

だって?そりゃ簡単な話さ、兄貴が実際に事件の

参考人としてその片目を抉り出された

艦娘から聞いたんだよ。

兄貴は最初、その艦娘が提督を殺してから

自殺しようとしたんじゃないか、って

思ったらしいけど、その時、艦娘の刀には

血の一滴すら付いていなかったとか、

なんで自殺するのに目を抉り出す必要が

あるんだ、とか色々分からない所があって

結局事件は迷宮いりしたんだとさ。

 

その艦娘はどうなったかって?さあ?

どうなったんだろうな。兄貴からは

その後の事は聞いてないしなぁ。

……あ、でも兄貴が最後に彼女から

聞いた事が忘れられないっつったなー。

 

確か〜……えーと、なんだっけな……。

あ、そうだ思い出した思い出した。

 

……“亡霊”は実際に存在している。いつ、

どこから来るのか、それとも潜んでいるのか。

一切、何も分からない。だけど、これだけは

断言出来る。

“もし今度会ったならば、俺は間違いなく死ぬ”

 

……って言ってたらしいよ。

世の中、不思議な事のあるもんだねぇ。

……え、お前が美人と付き合ってんのも

不思議な事だって?うるせーな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀の鎮守府。

 

「ッ……‼︎クッ……ハッ‼︎」

 

天龍はガバリと布団から起き上がった。

その身体は冷や汗でびっしょりと

濡れている。

 

「ッ……ハッ……ハッ……」

荒い呼吸を整えながら、天龍は失った片目に

手をやった。

 

「クソッ……またか……」

 

その隣では、レンゲがすう、と小さい寝息を

立てて眠っている。

天龍はレンゲを起こさないように、

ゆっくりとベッドから立ち上がった。

どうせまた眠ってもあの悪夢を見るだろう、と

天龍は外の空気を吸う為に部屋から

出て行く。

レンゲはそれに気付く事もなく、深い眠りに

ついていたのだった。




新しい艦娘誰が出るんでしょうね。


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「青葉のお手伝い」

METALLICA大好きストストです。
しばらく日常回やります。


ある日。

 

「あ、いたいたレンゲちゃん。ちょっと頼み事が」

 

「? どうしたんですか青葉さん」

 

青葉が俺に向かって手招きしてくる。

俺が青葉の元に向かうと、はいこれ、と

写真屋とかで販売されている使い捨てカメラと、

フィルムをいくつかもらった。

 

「これって……カメラですよね」

 

「うん、そう。実はレンゲちゃんに

他の人達の昔の事について聞いてもらいたくて。

何故かね、青葉が来ると皆警戒するんですよ。

なんでかなぁ」

 

「ああ、そうですね」

 

「なんで納得するんですか⁉︎否定して下さいよ‼︎」

 

青葉がガクガクと俺を揺さぶってくる。

やめてください頭ガガガガガガガガガガガ……

 

「……まあいいです。それは青葉が他の人に

聞くんで」

 

じゃあ、と青葉はそう言ってどこかに

行ってしまった。

 

「誰に聞くべきかな?とりあえずは……」

 

一人、とっつきやすい人物から行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?俺の昔話を聞かせろ?」

 

天龍は甘味処・間宮で餡蜜を食べながら、

俺に向かって聞き返した。

 

「あ〜……うん。そうだなぁ。まぁ

身の上話ぐらいだったら聞かせてやるよ。

……俺の生まれた家は代々軍人とか自衛官を

輩出してきた家系でな。親父も海軍の軍人

だったよ。俺が生まれた時はなんだ男じゃ

ないのかって周りから落胆されたらしいけど、

5年前、艦娘の適性検査を受けたら合格。

途端に親族は手の平返しだよ。ふざけんなって

思ったね、あん時は。

唯一、俺が生まれた時

喜んでくれたのは親父だけだった。

……でも、もういないんだ。深海棲艦に

やられて、死体すら還って来なかった」

 

俺は、押し黙るしかなかった。自分では

ないとはいえ、同じ深海棲艦にやられたのだ。

 

「……別にレンゲの事を責めてはいないぜ」

 

天龍は真剣な表情で俺の頭をわしゃわしゃと

撫でた。

 

「親父だってその事を承知だったはずだ。

……と、なんか暗い話しちまったな。

レンゲ、餡蜜一緒に食うか?」

 

そう言って、天龍はいつものようにニカッと

俺に笑いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習場近くにて。

 

「ん?艦娘になる前の私について聞かせて?

もちろん構わないが」

 

次に俺が接触したのは長門だった。

何故か今彼女は恐らく伐採されたばかりの

丸太を一人で担いでいる。

……コ●ンドーみたいだな。

 

「まぁ……非常に単調な生活だったな。

生け花の作法やら、茶道の作法やら、

毎日何かの稽古ばかりだった……」

 

遠い目をする長門。……ちょっと待て。

どこの華族だよ長門は。

 

「ああ、私は古い華族の家系だがそれが?」

 

嘘でしょ……。

 

「私だけじゃないぞ。呉にいる大和もそうだし、

熊野とかいう艦娘は何処ぞの社長の一人娘だとか」

 

「なにそれこわい」

 

「それゆえに、私が海軍に行くと言った時、

周りは大反対だったよ。なんせ女系の一族だから

跡取りがいなくなると思ったんだろうな。

私は“高貴なる者の責務(ノーブレス・オブリージュ)”だと

言ってなんとか周りを抑えたよ……。

本当、あの時は大変だった」

 

昔の事をたまには思い出してもいいかもな、と

長門はしみじみと呟き、俺に一緒にまた甘味処に

行こうかと誘った。

 

「あー、今日はもう一回行ってきたんで。

また今度誘って下さい」

 

「そうか……残念だ」

 

長門は踵を返して倉庫に歩いて行った。

……踵返した時に丸太が山城の顔面に

クリーンヒットした事は彼女に黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、潮とか愛宕とかに聞いて回ってみたが、

皆から様々な過去を聞けた。

電は流石に怖くて聞けなかったが……。

潮が青森出身だったり、足柄の経歴が

教師→艦娘だったりとかなり驚かされた。

 

その一方で。

親が深海棲艦に殺された、または孤児であった

艦娘も少なからずいた。

そう言った艦娘の話を聞くと、罪悪感が

湧いてくる。自分がやったのではないと

言い聞かせながらも、自分を責める気持ちは

収まることはなかった。

 

 

 

 

 

不意に青葉に会った。

 

「あ、写真撮れました?レンゲちゃん」

 

「……青葉さん」

 

俺は青葉に自分の気持ちを吐露した。

そうでもしないと、何かドス黒い何かに

変わってしまいそうで。

 

「……そう、か。レンゲちゃんの言っている事も

一理あるけど、だけど青葉はレンゲちゃんの

思ってる事はお門違いだと思うんです」

 

「……え?」

 

「だってほら、青葉達とレンゲちゃんは“仲間”。

そうでしょ?」

 

「あ……‼︎」

 

「青葉達が仲間であるレンゲちゃんを責める訳

ないじゃないですか。気にする必要はないですよ」

 

そう言って青葉は俺を抱擁した。

泣きそうになった。こんな事されたのは

いつぶりだろうか?

この姿になる前でも数年来はなかった。

久しぶりの感覚が、じわりと目頭を熱くする。

俺はそれを必死に堪え、青葉を抱きしめた。

 

俺達は仲間だという事を、青葉によって

改めて認識した、俺にとって忘れられない

一日となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–翌日–

 

「さあ、レンゲちゃんのシークレット写真が

10枚セットでなんと800円‼︎

お買い得だよ‼︎」

 

「青葉‼︎その写真買ったッ‼︎」

 

「毎度ありー‼︎いつもお買い上げありがとう

ございます長門さん」

 

「青葉ァァァァァァァァァァァッ‼︎」

 

その後、青葉は長門共々電に説教されたのは

言うまでもない。




レ級がカメラ……あれ、前に
読んだ小説にそんなものがあったような
(すっとぼけ)


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「比叡のパーフェクトお料理教室‼︎」

出オチ、そして飯テロ確定。

*比叡の料理を食べた。
あなたは目の前が真っ暗になった……
(undertale 風)



炭化して黒くなった物体から、

何か化学工場の事故とかで発生するような

匂いが俺達、否、周囲に流れ出している。

物体は所々灰と化し、得体の知れない

材料が顔を覗かせている。

 

さて、ここで皆に問いたい。

 

……先程の描写を見て、今のが料理を

描写したものだと気づけただろうか。

 

俺だって信じたくはないさ。

だけど、目の前でその工程を見せられては

信じざるを得ない……。

そもそも何故こうなったか。

それは数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 

「俺に料理の味見をしてもらいたい?」

 

「ええ。お姉様に手料理を食べてもらいたくて。

でも私だけだと味に心配があるから……他の人に

味見とかしてもらえたらいいんだけど」

 

「俺で良ければまあいいですよ」

 

「本当に⁉︎ありがとうレンゲちゃん‼︎」

 

あの時、こんな返答をしなければ良かったと

今の俺は死ぬ程後悔している。

その後、俺と比叡は間宮さんの調理場を

借りさせてもらい、比叡はそこで調理を

開始した。

 

「気合い‼︎ 入れて‼︎ いきます‼︎」

 

気合いを入れてくれるのはいいが……。

比叡さん、あんた何を入れているんだ?

その料理には普通いれないような得体の知れない

それは何⁉︎

しかもやばい匂いまでしてるんですけど⁉︎

絶対食ったら駄目な奴だよねそれは⁉︎

 

「完成しました〜‼︎自信作のスコーンです。

レンゲちゃん、味見して下さい」

 

「うぅ……うん……」

 

俺はその暗黒物質を口に含もうとしたが、

本能がそれを全力で拒否してくる。

「食ったら死ぬぞ」と、身体を

縛りつけてしまう。

 

そうして、今に至るという訳だ。

 

 

 

「……えっと……な、何を入れたんですか……?」

 

「えっと……●●●とか、★★★とかー……」

 

自主規制待ったなしの材料の名前を口に出す

比叡。

 

「あの……非常に、非常に言いにくいんですけど、

……普通スコーンにはそんなもの入れませんよ」

 

「ええ⁉︎」

 

まじか!といった反応をする比叡。

いや、マジだから。こんなダークマター

人が食ったら死ぬ。

 

「あー、じゃあ、どんな感じで料理すれば

いいですかね?」

 

生憎、俺は料理はやらない。出来るとしても

ベーコンエッグが精々だろう。

俺が不用意に口出ししても良くなるか

分からないし、はっきり言って

他の人に聞いた方が早いだろう。

 

「ん〜……俺はあまりそういうのは

分からないから、間宮さん辺りに聞いてみたら

どうかな?あの人料理得意だし」

 

「ああ‼︎それが一番いいですね‼︎

そうしましょうそうしましょう‼︎」

 

比叡さんはそう言うと善は急げとばかりに

間宮さんを探しに行った。

 

「はぁ……この負の産物、どうしよう」

 

俺の前には、真っ黒に炭化した

物体と、大量のスコーンの材料が残されていた。

 

 

「あれ、レンゲじゃないか。どうしたの?

その炭素の塊を前にして」

 

そこに、皐月がやって来て、

うわ、なんだこの異臭は、と鼻を

摘んだ。

 

「いやね、これ比叡さんが作ったスコーン

なんだよ……」と俺は炭素の塊を指さした。

 

「え"っ……もしかして、食べた⁉︎」

 

「?いや、一口も」

 

ほっとしたように皐月はため息をつくと、

俺に比叡の手料理の威力を説明し始めた。

 

「いい?比叡さんの料理ははっきり言って

大量殺戮兵器に匹敵するんだ……

前に時雨が間違って食べた時には……」

 

間違ってあんな消し炭を食べるだろうか?

……詮索しないでおこう。

 

「死んだの?」

 

「いや、死にはしなかったけど……

しばらく時雨は錯乱してたね。

一週間位」

 

「SAN値やべぇな……」

 

何処ぞのアニメではないが、

「SAN値ピンチ‼︎」と言ってしまいたくなる

位の発狂ぶりだったそうな。

 

「マジで食わないで良かった……」

 

「ところで比叡さんは?」

 

「ああ……間宮さんに自分の料理のどこが

駄目だったかを聞きに行ったよ」

 

「そっか。比叡さんの壊滅的な料理の才能は

治りそうにないけど……」

 

「言ってやるなよ……」

 

そんなこんなで皐月と色々な話をしていると、

比叡が戻ってきた。

 

「ごめんねー置いてけぼりにして。

でも、間宮さんにちゃんとアドバイスして

もらって、スコーンを焼いてきたよ‼︎」

 

そう言って比叡は俺の手にスコーンを一個

乗せた。まだ暖かい。

 

「えと、じゃあ頂きます」

 

俺は、恐る恐るスコーンを口にした。

……美味しい。

 

「美味しいです。このスコーン」

 

「そう⁉︎やった〜‼︎このスコーンならお姉様に

安心して送れる〜‼︎」

 

ガッツポーズをして、比叡がルンリルンリと

スキップをして食堂から出て行った。

 

「え、大丈夫だったの?平気?なんともない?」

 

「大丈夫だってば皐月。なんともないよ」

 

「……美味しかったの?」

 

「うん」

 

「食べたかったな、僕も」

 

「あとで一個もらいに行けばいいじゃん。

一個位なら比叡さんも許可するでしょ」

 

「そうだね。そうしよう」

 

結局その後皐月はスコーンにありつけたらしい。

俺はというと間宮さんがどんなアドバイスを

したのか凄く気になったので聞きに行った所、

「特に何もしてませんよ」と笑いながら

言われた。

いや、そう言われると余計に気になるんだけど。

ちなみにスコーンを送られた金剛から比叡に

向けて「何があった⁉︎」と電話が届くのだが

それはまた別の話。




前に母がスコーンを焼いてくれた事があったから
料理の話にスコーンを出しました。


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「服なんて何でもいいってば」

鎌倉に行きました。
本当は横須賀行きたかったんやけどな。


「レンゲちゃん、服買いに行きましょうよ」

 

「……は、はぁ。なんで?」

 

夏もそろそろ後半。残暑になる頃。

漣から買い物の誘いが来た。

 

「なんでって、レンゲちゃん自分の服

持ってないでしょう?他の人から服借りてるって

聞いたんだけど、違うっけ?」

 

それは合っている。今俺が来ている服は

睦月のお下がりだ。他にも白露型の制服を

借りて着ていたりするが、若干ながら胸の

辺りが窮屈なのであまり着ていない。

 

「レンゲちゃんも自分の服欲しいでしょ?

大規模な作戦もないし、丁度良いし。

あ、ご主人様にはもう休暇の許可は

とってありますから」

 

ご主人様……?あ、神崎提督のことね。

 

「あー……でも俺、あれだよ?

天龍さんの監視がないと外出禁止だよ」

 

「大丈夫だ、問題ない。天龍さんにはもう

言ってありますから」

 

俺の意思ガン無視かよ……。

まあ、しょうがないか。行こう。

 

「分かりました。いつ行くんですか?」

 

「今」

 

「は?」

 

「今から買い物行こう。天龍さんも今日しか

空いてないって言ってるし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀のアウトレットモール。

 

「さてと、レンゲ、お前何の服買うんだ?」

 

「……まだ決めてないです……」

 

「ん?なんかお前今日テンション低くないか?」

 

天龍の服装はいつものとは違い、

ダメージジーンズにTシャツ、その上に

薄手のパーカーの出で立ち。

漣は逆にいつもの制服だった。

 

「気のせいですよ」

 

「そうか?ならいいけど」

 

「ところでなんで漣はいつもの格好なの?」

 

「あ、これ?いや〜ほら漣の服装って

普通に中学生の制服に見えるんですな、これが」

 

漣曰く、普通に自分が制服を着ていても艦娘だと

ばれないという。

まあ、ばれてもしょっちゅう艦娘達は

このアウトレットモールに来ているため、

「あ、艦娘だ」という位の反応で済むらしいが。

今の俺達はどう見えているだろうか?

漣と俺の服装は違うが、学校の制服に見えるという

共通点がある。そして天龍の格好から、

さしずめ「違う中学に通っている女学生達が

どちらかの姉と一緒に買い物に来た」

みたいな感じだろうか?

 

「じゃ、早く行こうぜ」

 

wktk(ワクテカ)して来ました‼︎」

 

俺達は、アウトレットモールの一角にある服屋に

向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、実は、レンゲ以外にもアウトレットモールを

訪れている艦娘がいた。

 

「久しぶりの休みだが……レンゲと外出したかった」

 

長門と、

 

「彼女だって一人の時間は欲しいだろうし、

あまり自分を押し付けない方がいいんじゃない?」

 

川内である。

二人はフードコートで食事をとりながら、

会話をしていた。

 

「なあ、川内。お前が駆逐艦娘の教導艦だから

聞くんだが、私が駆逐艦娘に懐かれるには

どうしたらいいと思う?」

 

川内は蕎麦をすすり、

「まあ……話とか駆逐艦娘達からよく聞くけど、

戦艦の人とかに対してはなんというか、

話しにくいって言ってたりするよ?」と言った。

 

「むう……」

 

「だからまず、そうだね……駆逐艦娘が

話しやすい空気を作るとか、そうした方がいいと

私は思うけど」

 

「そうか……そうだな」

 

長門はラーメンのスープを飲み、ふう、と一息

ついた。

 

「この後どうする?」

 

「そうだな……帰っても特にすることはないし、

この際だ、新しい服でも買うか」

 

「あ、いいねそれ。こないだ新しくここに

服屋出来たし、そこに行こうよ」

 

「飯を食べてからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あのねぇ……」

 

俺は震えていた。怒りではなく、

恥ずかしさで。

 

「服買いに来たんだよね?」

 

「あぁ」

 

顔を真っ赤にしながら、俺はフリルの付いた

スカートを掴んで言った。

 

「なんで俺の服装をゴスロリファッション(・・・・・・・・・・)

にしてんだよ‼︎」

 

今の俺の服装は正に「ゴスロリ」の一言で

表せる。天龍達に「なんでもいい」と言った所

こうなった。

……うん。なんでもいいとは言ったが

流石にこれは嫌だ。恥ずかしい。

 

「くぅ〜何も言えねぇ〜。似合い過ぎ〜」

 

「漣の服選びのセンスはかなりいいからな。

俺の服装も漣に選んでもらったんだぜ?」

 

「いや……これかなり目立ちますよ⁉︎

俺の身分知ってて言ってるんですか⁉︎」

 

今の俺は深海棲艦だ。そんなのがゴスロリで

街中を歩いてたら即アウトになるのが

目に見えている。

 

「レンゲちゃん見た時からゴスロリ着せて

みたかったんですよ〜。服装との相性も

良さげな感じだったし」

 

「まあ街中だと目立つから、鎮守府の中で

着ればいいじゃないか」

 

(絶対着るもんか)

 

俺は心の中で固く誓うのだった。

 

「あ、写真撮らせて」

 

NOともYESとも言わない内にスマホの

シャッター音が鳴る。

 

「キタコレ!ベストショットだお‼︎」

 

「そんなことはいいから普通の服に

しろーーーーーー‼︎」

 

 

 

 

 

数十分後。

 

「やっと終わった……」

 

俺が選んだものが漣に何回も駄目出しされ、

二人の意見をぶつけ合い、ようやく普通の

服を(あのゴスロリファッション含め)購入した。

女性が服買うのに時間がかかる理由が

分かった気がする。

 

「さてと、服も買った事だし、フードコートで

飯食おうぜ」

 

「あ、天龍さん、そろそろメールうpしないと」

 

「おっと、提督に報告しねーと。ったく、

あの人意外に時間に厳しいよなぁ……」

 

天龍はぼやきながら、メールを早打ちして

神崎提督に送信した。

 

「じゃあ行こうか。お前ら何食う?」

 

「漣は炒飯で」

 

「俺はうどんにしようかな」

 

そんなこんなで色々とあったが、無事(?)

俺は服を買ってもらったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「何⁉︎レンゲが服を買ってもらった⁉︎

どこでだ⁉︎」

 

「鎮守府の近くのアウトレットモールの、

最近出来た服屋です」

 

「なんだと……時間が丁度良かったら

レンゲに会えたのに……」

 

「あ、レンゲちゃんのその時の写真

送りますよ?写真うp、と」

 

漣から送られてきた写真を見て、長門は

「ブッ‼︎」

鼻血を出して卒倒した。

 

「わーーーーーー‼︎誰かー‼︎

長門さんを船渠にー‼︎」

 

その日、横須賀鎮守府の書類の処理速度は

一人の秘書艦の不在により大きく落ちたという。




疲れた……


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「留学?」

新たな舞台へ。


漣達と買い物に行った翌日、俺は神崎さんに

呼び出された。

 

「レンゲさん、横須賀や内房以外の鎮守府を

見たくありませんか?」

 

そう、神崎さんは切り出してから話を始めた。

 

実は、三宅島の一件以来、あちこちの鎮守府から

レンゲに見学してもらいたいという連絡が

舞い込んできていた。

無論、殆どの鎮守府は条件を提示していた。

その中でも神崎提督は良さそうな鎮守府を

選び、それ以外はレンゲの知らぬ間に

突き返していたのだった。

 

「あくまでレンゲさんの意思を私は

尊重するつもりですが、行動を束縛する

条件等を提示した鎮守府は全て弾きました」

 

まあ、俺も束縛されるのは嫌だしな。

そんな訳で、俺は4つの鎮守府から

一つの鎮守府を見学する事になった。

呉、大湊、リンガ、沖縄。

俺は鎮守府が提示した条件を見ながら、

よし、この鎮守府にしようと決めた。

 

「沖縄でお願いします」

 

やはりか、と神崎は思わず苦笑いしかけた。

殆どの鎮守府がレンゲの見学に対して

条件を出した中、沖縄鎮守府だけは

何一つ条件を提示しなかったのだ。

レンゲが即座に選んでもおかしくはなかった。

が、沖縄鎮守府は他の鎮守府と違い、

少し特殊な鎮守府であった。

 

普通の鎮守府は日本の管理下に置かれているが、

沖縄鎮守府だけは在日米軍と日本が合同で

管理しているのだ。

WW2(第二次世界大戦)以来米軍が日本を

守ってきていたが、10年前に深海棲艦が

出現してからは自国の防衛につきっきりに

なってしまい、危うく沖縄が深海棲艦に

滅ぼされかけたこともある。

日本政府はアメリカに抗議したものの、

「アメリカは艦娘の数が少なく、欧州の

国々と協力しなければ深海棲艦に本土に

踏み込まれる可能性がある」とけんもほろろに

追い返された。

結果として現状はアメリカ空軍の一隊が

沖縄鎮守府に常駐するのみとなっている。

 

神崎はあることを心配していた。

 

「沖縄鎮守府ですか……しかしあなたが

行くとアメリカにあなたの事が知れて

しまいますよ」

 

そう、日本はまだレンゲの情報を秘匿

していた。もしレンゲの事がアメリカや

他の国に知られれば、

「深海棲艦の調査」として外国に連れて

行かれてしまうかもしれないのだ。

特にアメリカは日本との関係を利用して

強引に連れて行く可能性もある。

 

「あー、まあ……うん。そうなったら

そうなったであいつらもついてきそう」

 

「? あいつらとは?」

 

「丙型生命体」

 

ああ、と彼は納得した。

初めて発見された丙型生命体、サンズが

脱走した際、レンゲと天龍がそれと

戦闘をしている。

更に続いて発見された丙型生命体第二号、

イカリとは遠因ながらも致命傷を

負わせる行為をレンゲはしていると

内房の提督から報告があった。

また、このことがきっかけで丙型生命体は

三宅島から手を引いたとも。

このことから丙型生命体がレンゲを狙っていても

何もおかしくはない。

 

「……あっ‼︎レンゲさん、いいことを考えました‼︎」

 

「いいこと……とは?」

 

「レンゲさんのカバーストーリーを

作るんですよ」

 

レンゲは丙型生命体に狙われているという

嘘の情報を流す。深海棲艦に加え

丙型生命体まで敵に回すのだ。

艦娘の戦力が少ないアメリカはレンゲを

連れて行くことは断念するだろう。

 

「問題は俺に加えて丙型生命体の情報も

外国に開示しなきゃいけないことですね」

 

「むしろそのことは大丈夫と言えるでしょう。

深海棲艦の新たな種として報告すれば良いだけ

ですからね」

 

何はともあれレンゲは胸を張って沖縄鎮守府に

いけるという訳だ。

 

「いつ出発すればいいんですか?」

 

「4日後に出発です。レンゲさん以外にも

鎮守府を見学する艦娘もいますから、

彼女達と一緒に行動して下さい」

 

「わかりました」

そう言ってレンゲは執務室から退室した。

 

 

 

 

 

 

4日後。

 

「やっぱり天龍さんも来るよね」

 

「たりめーだろ。お前の監視役を勤めてん

だかんな」

 

天龍さんと一緒に羽田空港のターミナルで

待っていると、二人の艦娘の姿が見えた。

 

「なんで空母担当がウチだけなんや……

加賀とか暇そうにしとったやろ」

 

「大丈夫ですよ。龍驤さんは横須賀鎮守府

随一の古株ですから」

 

「誰が古株や」

 

龍驤と時雨の姿だ。

 

「天龍さんにレンゲちゃん。あとの二人は?」

 

「知らない」

 

「あ、あれかな?」

 

天龍の指差す先にはパフェを食べている

二人の少女の姿があった。

 

「なぁ……パフェなんか食べてて大丈夫なのか?

そろそろ時間じゃないのか?」

 

「ん。平気だよ。まだ45分もあるんだからね」

 

皐月が腕時計を見せながら言う。

 

「馬鹿、その時計時間がずれてんぞ」

 

「え……あー‼︎電池切れてるー‼︎」

 

「とっととパフェ食って行かねーと

乗り遅れるぞー‼︎長月、お前もパフェ食え‼︎」

 

「わー‼︎」

 

長月と皐月がパフェをがっつく。

俺は「天龍さん、先行きますー」と言って

他の人達と一緒にゲートに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄、那覇空港。

 

一人の少女がこれから来るだろう一行を

待っていた。

 

「もう何年ぶりになるかしらね〜。

天龍ちゃん、元気にしてるといいんだけど」

 

何処か間延びした口調でそう言うと、

少女は口元に僅かな微笑を浮かべた。

 

 




球磨の改二来てほしい人は俺だけじゃ
ないはず……。


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「天龍と龍田」

感想お待ちしています。


飛行機に乗ること数時間。

俺達は沖縄の那覇空港に到着した。

 

「着いた〜‼︎」

 

皐月が伸びをしながら言う。

 

「確か、空港で鎮守府の人が待っているって

言ってましたよね」

 

「ああ、確か一階のターミナルだったかな?

そこで待ってるとさ」

 

龍驤がよいしょと荷物を持ちながら、

それを天龍に渡す。

 

「沖縄鎮守府は前にうちも所属してたから

あっちの子達からも手紙でやりとりしとるけど、

あそこ今軽巡の子しかおらんらしいで」

 

「軽巡だけだと決め手に欠けるんじゃないか?

まあ俺らが言えた口じゃないけど」

 

「それがな、そうでもないんやと。

うちの後輩……北上と大井、あと木曾ちゅう

のがおるんやけどな。

そいつらみんな改二らしいで」

 

「本当ですかそれ⁉︎凄いじゃないですか‼︎」

 

時雨が驚く。

 

「なるほどな。改二が三人もいるんだったら

大丈夫だな」

 

一階のターミナルに向かう俺達。

と、天龍の顔が強張った。

 

「久しぶりね〜。天龍ちゃん」

 

声のした方には、おしとやかな印象を受ける

少女が微笑んで立っていた。

歳の頃は天龍と同じくらいか。

 

「申し遅れました。私は天龍型軽巡洋艦二番艦、

龍田です。以後お見知り置きを」

 

天龍型の二番艦、ということはつまり。

 

「天龍さんの妹さんという解釈でいいですか?」

 

「それでいいわよ〜。血も繋がっているしね〜」

 

龍田はそう言うと、「沖縄鎮守府までは

タクシーで移動するから、皆付いて来て

下さいね〜」と俺達を先導して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

艦娘の血縁者、特に姉妹には艦娘の適性が

あるものが多いという。

川内型や妙高型は全員血縁者だったりする。

では睦月型は皆姉妹なのか、となると

それは違う。

血縁関係があるのは睦月と如月のみで

後はみんな赤の他人である。

 

「天龍さんって自分についてのことは

あまり話さなかったんだよねー」

 

「ああ、姉妹がどうかなんて話も

しなかったな」

 

2台のタクシーに分乗(片方には長月、皐月、

龍田、俺、もう片方には時雨、天龍、龍驤)

した俺達は話をしていた。

 

「なんで天龍さんは話さなかったんですかね?」

 

「……天龍ちゃんが自分から話すのを

待つべきじゃないかしら?天龍ちゃんだって

話すべき時期を見定めてたと私は思うのよ〜」

 

気のせいだろうか、その時の彼女の声は

どこか硬い質感を伴っているように思えた。

 

「あ、あの建物……あれが沖縄鎮守府かな?」

 

皐月が指差す方向を見ると、横須賀鎮守府と

同じ、赤煉瓦造りの建物が見えた。

 

「そう。あれが沖縄鎮守府よ。

皆気をつけてね。あそこの提督は……

真面目そうな顔してセクハラを

仕掛けてくるわよ〜」

 

そう龍田は言うとクスリと笑ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、横須賀鎮守府。執務室。

 

「レンゲさんたちは無事にあちらと上手く

やっていますかねぇ……」

 

神崎はレンゲ達のことを案じていた。

そしてもう一人、執務室にはいた。

 

「大丈夫でしょう。彼女らなら無事に

やっていけると私は思いますがね」

 

内房鎮守府の提督、芝浦提督である。

彼女は三宅島の一件で大本営に招集を

受けていたが、先日お咎めなしとなった。

そして今日は自分を擁護してくれた神崎に

礼を言いに来たのだった。

 

「ところで、今日はお礼の他にも伝えたい

ことがありましてね」

 

そう言いながら芝浦は話を始めた。

 

「もしかするとまた大規模作戦で我々も

呼ばれるかもしれません。

南方の深海棲艦の活動が活発になってきて、

米軍の基地があったハワイが占領下に

置かれました」

 

「南方……まだ沖縄とは離れていますが。

それよりもリンガの方が危ないですね」

 

「ええ、リンガは艦娘の数も少ないですし、

即刻援軍を送るべきだと思います」

 

芝浦は緑茶を一口飲み、顔にかかっていた

銀髪を後ろにやると、話を続けた。

 

「そういえば、沖縄の提督の話は聞いて

いますか?あくまでも噂話なんですが、

彼、結構なスケべらしいですよ?」

 

「……まさか。そんなことはないでしょう?」

 

「過去に女性の提督に手を出したことが

原因で沖縄に飛ばされたとも言われてます」

 

そこまでスケべな提督だと聞くと、レンゲ達の

ことが更に心配になってくる。

 

「まあ流石にレンゲにセクハラするわけは

ないでしょうがね」

 

「そのまさか、なんてことがあったら

大変ですよね」

 

レンゲにセクハラしようものなら即現行犯逮捕

ものの犯罪である。

 

「まあ……そんなことがないように祈りますか」

 

「……大本営でバッタリ会ったりしませんように」

 

二人はそれぞれ沖縄鎮守府の提督が変な事を

しないように祈るのであった。

 




沖縄の提督はしょっちゅう龍田にセクハラして
手を切り落とされそうになってます。


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「クマー特戦隊」

球磨型はお好き?結構。ではますます
好きになりますよ。




タクシーから降りた俺達は、鎮守府の玄関に

向かって歩き出した。

 

「あー、えっと提督に気をつけておけば

いいんですね?他に鎮守府には誰がいますか?」

 

「そうね〜。球磨ちゃんと、多摩ちゃんと、

北上さんと大井さんと。木曾ちゃんかしら。

あ、あとたまにジャックさんも来るわ〜」

 

「ジャックさん?」

 

「沖縄に常駐している空軍の一隊の隊長。

結構いい人よ〜」

 

あ、あとそれと、と龍田さんは続けた。

 

「中に入ったら彼女達のお出迎えがあるだろうけど

驚いた感じのリアクションをお願いね」

 

「? は……はぁ……」

 

俺達を歓迎するために何かしてくれるのだろうか。

それが何なのかを期待して俺達は鎮守府の中に

入った。

 

 

 

 

 

 

「クマー‼︎」

 

「ニャー‼︎」

 

謎の声と共に、ぐいっと俺の身体が持ち上げられ

次の瞬間抱え上げられたままどこかに

連れて行かれる。

 

「わっしょい!わっしょい!」

 

「わーっしょい、わーっしょい」

 

まるで俺を神輿か選手の胴上げのように

抱え上げ、掛け声をあげながら声の主は

鎮守府のとあるドアを開け、真っ暗な

闇の中に俺を放り込んだ。

 

「いてっ‼︎」

 

そのまま扉が閉まる。

 

「フフフフフ……よく来たクマ。

私達がこの沖縄鎮守府の艦娘クマ」

 

真っ暗な部屋に声が響く。

 

「にゃ。お前は横須賀鎮守府のレンゲかにゃ?

とりあえず、ようこそと言っておくにゃ」

 

……にゃ? ちょっと待って。この語尾、

どこかで聞いた覚えが……。

 

「これからちょっとしたことやるからねー」

 

「楽しみにしていた方がいいわよ?うふふ」

 

と、ここで素っ頓狂な声が出た。

 

「あれ、ジャックは?」

 

「あ、ホントだクマ。ジャックさんがいない」

 

にゃ……って……確か、内房の鎮守府で

聞いたぞ……?入渠した時だったか……。

……あっ‼︎

 

「もしかして、多摩さん⁉︎」

 

「にゃはぁ⁉︎」

 

ギクゥッ‼︎という擬音が聞こえてきそうな

声が聞こえた。どうやらビンゴのようだ。

 

「な、ななななーんのことクマ?

こ、ここには多摩なんて奴はいないクマよ」

 

「そうだ‼︎ここには多摩姉なんていないし

球磨姉も北上姉も大井姉もいねーよ‼︎

……あっ」

 

勝手に自爆したよ……。

 

「木曾ー⁉︎何バラしてくれちゃってるクマー⁉︎」

 

「あー、台無しだね。木曾のせいで」

 

「ホントにゃ」

 

「俺か⁉︎俺のせいなのか⁉︎」

 

ふと、俺はくすくすと笑う声を聞いた。

なんとなく分かったので、手探りで

扉のドアノブを掴み開けた。

 

そこには、龍田さんと皐月達、そして

外人の男性が笑いをこらえている姿が

あった。

 

「……知ってたんですね?龍田さん」

 

「うふふ……バレちゃった?」

 

「にゃ⁉︎龍田さん知ってたの⁉︎

何も言わなかったのに⁉︎」

 

「それぐらいわかるわよ〜」

 

まあ、龍田さんは面白いと思って、

隣にいる男性……恐らく彼がジャックという

人だろう。彼に目配せをした。

 

「まさか……ジャック、バラしたのか⁉︎」

 

「sorry. だけどタツタに頼まれちゃ

教えない訳にはいかなかったヨ」

 

はあ〜……と一気に脱力する多摩達。

 

「まあ私は楽しかったからいいけどねー」

 

「私は北上さんが楽しければなんでも

楽しいです♪」

 

……約二名を除いてだが。

 

ジャック、と呼ばれた男性は俺に

大きな手を差し伸べて、

「Hello! I’m jack. nice to meet you」と

言った。

 

「は、はろー」

 

俺は恐る恐るその手を掴んだ。

ジャックは笑って握手し返した。

大きな手に俺の小さな手が包まれる。

 

「……Oh, sorry. レンゲサン。

貴女は英語が分かりマスか?」

 

「あー、えっと、いいえ」

 

「それじゃあ改めて日本語で。

ワタシは沖縄駐留米国空軍の隊長、

Lt. Col のジャック・エルリックデス」

 

「……Lt. Col?」

 

「日本軍の階級でいうと中佐のことにゃ」

 

「Thank you, タマ。……ところで、

自己紹介はしたのデスカ?」

 

それを聞いて球磨があっと声を出した。

 

「忘れてたクマ。球磨型軽巡洋艦一番艦の

球磨だクマー。よろしくクマ」

 

「同じく球磨型軽巡洋艦二番艦、多摩にゃ。

……多摩って名前だけど猫じゃないにゃ」

 

「えーと、球磨型三番艦、北上だよー。

大井っちとは親友。よろしくねー」

 

「球磨型の四番艦、大井です。

よろしくお願いしますね」

 

「同じく球磨型……」

 

「末の妹、木曾クマ。剣術を学んでいるから

剣道をやった経験のある人は稽古をつけて

あげてほしいクマ」

 

最後に残っていた木曾の紹介をあっさりと

終わらせると球磨は、

「それじゃあ改めて歓迎パーティーを

始めるクマ〜」とレンゲ達を案内し始めた。

 

「球磨姉ーッ⁉︎俺、この日の為に徹夜して

自己紹介考えたんだけど⁉︎」

 

「お前の自己紹介は長いからカットクマ」

 

「Hey, キソ。早くしないとケーキが

なくなっちゃうヨ?」

 

「ちょ、球磨姉、ジャック‼︎皆も‼︎

俺を置いてけぼりにしないで‼︎」

 

木曾の叫びは虚しく沖縄鎮守府に響き渡るので

あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南方。沖縄から遠く離れた島。

その島は深海棲艦の巣窟となっていた。

そして、その巣の女王蜂とも呼べる存在が

深海棲艦達を集めていた。

 

 

 

白銀の長髪をツインテールに纏め、

厳しい両腕の艤装。

黒ビキニにジャンパーという風変わりな

出で立ち。

 

その女王の名は「南方棲戦鬼」と呼ばれて

いた。

 

数日前にハワイを制圧して気分はさぞ

良いはずなのだが、彼女の顔は暗く

曇っていた。

とある事情により、沖縄に侵攻する破目と

なったのだ。

 

「クソガ……アンナヤロー二……

指図サレルナンテ……‼︎」

 

怒りが篭った表情で戦鬼はギリリ、と

歯を食いしばった。

 

「……某のことを悪く言うのは構わないが、

これから来る某の仲間に対してそのような

ことを口走ると、酷い目に遭うぞ」

 

「ッ……‼︎」

 

声のした方を戦鬼は見やる。

そこには異形の者がいた。

その身は削ぎ落とされたように細くしかし

強靭な筋肉を備えている。

その顔は白い仮面のようで、一切の感情も

読み取ることはできない。

頭の頂点は丸くすべすべしていて河童のような

印象を受けそうになるが、河童というよりは

その姿はかつての映画で登場した

狩猟民族の異星人と言った方がしっくりきた。

 

「私ノ砲撃ハ本物ヨ……‼︎舐メナイデ‼︎」

 

「失礼ながら戦鬼殿。某は戦鬼殿のことは

愚弄しておらん。むしろアレを舐めない方が良い」

 

「……フゥン。私ノ姉ヲ殺シタ貴方デモ

恐レル位ノ輩ナノ?」

 

「無論。アレが来るまでは我々は下手に

動かぬ方が得策かと」

 

「フフフ……ソイツガ来タラ私達ノ侵攻ガ

始マルノネ……♪ソイツノ名前ハ、何ナノ?」

 

異星人のような風貌をした怪人は、海の方を

見やり、左手に持っていた日本刀を地面に

置いて、座禅を組んだ。

 

「某と互角に渡り合えるのは奴だけです。

他は誰もござらんよ。奴の名は……」

 

ふう、と息を吐いて、錆びついた声が

その名を読んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴の名は、リヴァイア・サンズ」




一週間かかっちまった……。


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「沖縄の提督」

お気に入り200突破しました‼︎
ありがとうございます‼︎


沖縄鎮守府。その門を一人の男が走りながら

潜った。

彼は白い軍服を纏っており、一目で軍人で

あるということが分かる。

彼の名は糸井川 雅人。

沖縄鎮守府の艦娘達を束ねる提督であり、

そして……類い稀なスケベ男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンゲ達はその頃、沖縄鎮守府の提督抜きで

食事をしていた。

提督がいないことに対しては多摩から

「大丈夫だ、問題にゃい」との返答が返ってきた。

 

だけど、レンゲ達にはもう一つの問題に

直面していた。

天龍のことである。

先程からほとんど話さないのだ。

 

「ねぇ……なんか僕達まずいことでもやったっけ」

 

「いや……心辺りが全くないんだが……レンゲは

どうだ?」

 

「俺もないよ……」

 

レンゲ達は天龍に聞こえないようにひそひそと

話をしていた。

 

「時雨は?」

 

「僕も全く……でもさ、天龍さん龍田さんと

目を全く合わせてないような気がするんだけど」

 

言われてみて初めて彼女達は気づいた。

天龍は球磨や木曾との話に相槌をうっているが

一切龍田の方向には目を向けることがない。

「天龍さんと龍田さんに何か確執でも……」

 

「お前らそのへんにしといた方がええで」

 

龍驤だ。レンゲ達に向けて目配せをすると、

再び食事を再開した。

 

「……まあ天龍さんにも事情はあるし」

この話は終わりにしようということで

駆逐艦娘とレンゲはその話題から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、ここの提督はどんな奴なんだ?」

 

途端、球磨が真剣な表情になった。

 

「よく聞いてくれたクマ。ここの提督、

糸井川提督は……」

 

ゴクリ、と誰かが生唾を飲む音が聞こえた。

 

「……スケベな奴だクマ」

 

ズルッ、と天龍が椅子からずり落ち、

慌てて姿勢を元に戻す。

 

「糸井川……まさかまたその名前を聞く羽目に

なるなんてな。もう二度と聞かんと思ってたん

やけど」

 

はああ……と龍驤がため息をついた。

以前に彼と何かあったのだろうか?

 

「一日一回はプロレス技をかけてたんを

思い出すわ……」

 

「球磨はよくアイアン・クローをやってるクマ」

 

……部下から残虐なプロレス技を食らうLvで

彼はセクハラを行っていたようだ……。

そこまでスケベな男となると、逆にどんな奴か

実際に見てみたくなる。

 

と、部屋の扉が開けられた。

開かれた扉から30代前半位の男性が

クーラーボックスを担いで入って来て、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多摩にそのクーラーボックスを奪われ、

間髪入れずに龍驤のドロップキックを叩きこまれ

部屋から退場した。

 

「龍驤さああん⁉︎何やってんですか⁉︎」

 

「何って少しお寝んねしてもらうだけや」

 

「少しっつーか永遠にお寝んねするだろ⁉︎」

 

俺と天龍の鋭いツッコミが入る。

あんなの普通に食らったら病院送りになるか、

人事不省は免れないだろう。

 

「大丈夫や、手加減はしとるわ」

 

「にゃ。糸井川提督には手加減しない方が

いいにゃ。なまじっかな威力だと効果ないし」

 

「どんだけタフなんだよ……⁉︎」

 

天龍の呟きに応えるように先程の男性が

ひょっこりと顔を見せた。

 

「全く、俺じゃなかったら死んでるぞ」

 

ドロップキックをまともに食らったとは

思えないくらいに彼はピンピンしていた。

 

「久しぶりにやったからなぁ。

次はもう少し強くやるわ」

 

龍驤が残念そうに呟き、多摩と共に

クーラーボックスの中身を確認した。

 

「おっ、魚か〜」

 

「やったにゃ。さっさと刺身にして食うにゃ」

 

クーラーボックスの中身は魚等の海産物で

あった。そのことに多摩がガッツポーズを

取り、喜ぶ。

 

「おい、俺のことは誰も心配しないのか?

寂しさで死んじまうよ」

 

「どうせいつものことやろ」

 

「そうだねー。何回このくだり見たっけ」

 

そっけない返事が返ってくる中、龍田だけは

彼をフォローした。

 

「はいはい司令官、大変だったわね〜」

 

「やっぱり俺のことを真に思ってくれるのは

龍田だけだな、秘書艦にしておくには惜しい」

 

糸井川提督は龍田に抱きつこうとして、

首元に薙刀を突きつけられた。

 

「どうせそうくると思ったわ〜。

抱きつく振りして胸揉むつもりでしょ〜?」

 

その手、切り落とすわよ〜、と龍田さんは

笑顔で凄んだ。

 

「レンゲ、あれに近づいたら駄目やで。

近づかれたら、こう、股間の辺りをな……」

 

あー……理解した。それ男にやったら

あかん奴ですわ……息子(意味深)が

役に立たなくなる奴だわ……。

 

「……ドタバタしたが、とりあえず自己紹介。

俺がこの沖縄鎮守府の提督、糸井川 雅人だ。

短い間だが、よろしく頼む」

 

糸井川提督はそう言うと、一礼をして

龍田と龍驤の間の席に座った。

 

「あー、演習とかはいつやるん?」

 

「そうだな、2、3日後ぐらいに検討している」

 

「じゃあその時は荷物に鍵掛けとかんとな」

 

「……お前は俺のことをなんだと思ってる?」

 

龍驤は考える素振りも見せずに、

「スケベ男やと思っとるんやけど?」と

即座に返答した。

 

うーむ、意外に辛辣だなぁ。

というかどれだけスケベ行為をこの男は

してきたのか……長門以上の変態に思えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府。

 

「へクシュ‼︎」と長門はくしゃみをした。

 

「ああ、レンゲがいないから体調を

崩してしまった……」

 

「そんなくだらねー冗談言ってる暇が

あったらとっとと仕事をするのです」

 

電が書類仕事を淡々とこなしながら長門を

急かす。

 

「分かってるさ。ところで……南方で

深海棲艦に動きがあったらしいが、

その後はどうなってるんだろうな?」

 

「まだ何の動きもしていない。

次は十中八九リンガに向かうだろうな」

 

長門は書類にサインをして「受理」と書かれた

箱に入れると、次の書類仕事に取り掛かる。

 

「まさか……丙型生命体が深海棲艦と

手を組んでたりしてな」

 

「はは、そんなことあったら一日レンゲの

ゴスロリ衣装着てやってもいいがな」

 

「お前のゴスロリ姿は見たいが

そんなことがないことを私は切に願うよ」

 

電の冗談に長門は笑いながら答えたのだった。



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「潜む影、渦巻く闇」

今回、『』でのセリフは英語で話されていると
いう解釈でお願いします。


糸井川提督や球磨達との対面から

3、4日ぐらいした頃。

 

「球磨達と演習をするクマ」

 

そう、球磨は胸を張って俺達に言った。

 

「あー、ちょっと待って、球磨姉。

これ終わったらねー」

 

「北上さん、あなたこのゲームやり込んで

いますねッ‼︎」

 

丁度その時、俺と北上と皐月、長月は

レーシングゲームで競っていた。

 

「答える必要はないよねー」

 

「誰だバナナ置いた奴⁉︎皐月か⁉︎」

 

「俺だ」

 

「レンゲかッ‼︎」

 

正直、全員が球磨の話を半分に聞いている

様子であった。

 

「ファイトー!北上さーん!」

 

「あいよー大井っちー」

 

「お前ら話聞いてんのかクマ……?」

 

北上が球磨の問いに気だるそうに答えた。

 

「聞いてる聞いてる……よし、1着」

 

「北上さん強すぎィ‼︎」

 

皐月が躍起になりながらコントローラーを

操作する。北上は後頭部を掻きながら

立ち上がり、球磨に

「でもさ、今日木曾と多摩姉が近海の警備で

出撃しちゃったから無理じゃない?」と

聞いた。

 

「むー……だったら中途半端だけど

5vs5でやる「あー、パスで。今日私

大井っちと服買いに行くから」

 

「……そんなもん明日にするクマー‼︎」

 

「わー!ゲームがフリーズしたー‼︎」

 

「球磨さん落ち着いて‼︎」

 

球磨が怒りを収めたのはそれから約一時間も

後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

 

「なあ、龍田」と糸井川は問うた。

 

「自慢じゃないんだが、俺は他人からよく

美形だなんだと言われる。なのにだ。

なんで俺はこうもモテないんだと思う?」

 

そう言う糸井川の顔は、少なくともブスと

言われるようなものではなく、むしろ

端正な顔立ちであった。

ただし、その右頰には真っ赤な

手形が付けられていたが。

 

「それは〜。提督がスケベだということが

わかるからじゃないかしら〜♪」

 

「……初対面の女性でも同じことが言えるか?」

 

「提督のオーラで分かりますよ」

 

糸井川はおし黙り、書類に判を押す。

 

「龍田、胸を揉ませてくれ。暫く女性の

身体に触ってない」

 

「昨日レンゲちゃんにセクハラして

頰を張られたのは誰だったかしらね〜♪」

 

龍田の一言に糸井川は再びおし黙り、

黙々と書類仕事に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄鎮守府の近くには、二本の滑走路と

沢山の建築物が並んでいる。

米軍のものだ。

その建築物の一つで、男達が会話をしていた。

 

『ジャック。アレは一体どういうことだ』

 

筋骨隆々としたスキンヘッドの男がジャックに

対して詰問した。

 

『ハワード、私だって見るまでは

信じられなかったさ。まさか本当に日本が

深海棲艦を鹵獲しているなんてね』

 

ジャックはそう言って、腕を組んだ。

彼はレンゲが来るということを

糸井川から聞かされていた。

無論、彼女の「偽の経歴(カバー)」も。

ジャックは当初は信じなかったが、

糸井川が横須賀鎮守府から送られてきた

レンゲの写真を見せたことで漸く事実だと

いうことを理解した。

 

『日本の情報は恐らく全て事実だろう。

彼女を母国に護送する案は

撤廃した方が良い』

 

『いや、全て事実とは俺は思っていない。

「丙型生命体」なんてのは日本のでっちあげの

はずだ。我々の母国に持っていかれるのが

よっぽど嫌なんだろうな』

 

ハワードの階級は少佐。ジャックより下だが

ハワードの仕事柄上、対等な関係となっていた。

ジャックの仕事が沖縄の空挺部隊を纏める。

一方ハワードの仕事は日本の状況や

日本の海軍の情報をアメリカに提供することで

あった。

現在アメリカは艦娘を「探す」のではなく

「造る」という視点に転換し、その技術の

実用化に向けてあらゆる可能性を模索している。

理由として、艦娘の適性を持つ人間がアメリカに

ほとんどいないことが上げられる。

レンゲはその艦娘を造る技術の確立に役立つかも

しれないのだ。……代わりに彼女は死ぬことと

なるが。

彼女を母国に連れて帰り、研究すれば

研究は大きく進歩する。そうなれば深海棲艦との

戦闘は優位に進むことになるのだ。

 

『なんとしても彼女を本国に送るぞ』

 

『……私は反対したからな。何があっても

知らないぞ』

 

ハワードはジャックの忠告を鼻で笑うと、

部屋から出ていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでみんな示し合わせたように

いないんだクマ……」

 

球磨ががっくりとうなだれる。

結局、球磨が騒いでいる間に北上は大井と

共に買い物に行ってしまった。

そうなると演習なんて絶望的な訳であり、

演習のはずだったが、今日は訓練という

形となってしまったのだった。

 

「……球磨さんの教え方上手でしたよ?」

 

「そうそう。雷撃も的に全部当てるなんて

すごいですよ」

 

「そう言われても普段は教える機会なんて

ないクマ。宝の持ち腐れクマ」

 

「球磨さん、腐らないで」

 

「また明日がありますから」

 

俺達が言ったのはあながち嘘でもないので、

もったいないな……と球磨以外(俺も含め)

残念に思うのだった。

 

その日の夕方、皆でテレビを見ていたら

天気予報で数日強い雨が続くと予報されて、

球磨が皆で演習できないことに対して

発狂し、取り押える羽目になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦の拠点となった島、ハワイ。

 

「マダコナイノカ‼︎」

 

「……焦りは禁物」

 

そこで南方棲戦鬼とプレ●ターのような姿の

怪人が丙型生命体達を待っていた。

 

「モウココ二留マッテ1週間ガ経ツゾ‼︎

コレ以上待テナイ、スグ二……」

 

「……来たようです」

 

彼の言う通り、海中から複数の影が浮かび

海上にその姿を現した。

 

「……よう、霧ちゃん。お久」

 

「某をそのように呼ぶのは止めろと

申したはずだったが」

 

そのことを問われ、それは手をひらひらと

降って答えた。

 

「再開を祝してだ。そこまで浅い仲じゃ

ないだろう俺達?」

 

そう言いながら、それは島へと足を

踏み入れて、上陸した。

 

「貴様ガサンズカ。霧ノ方カラ聞イテイル。

私ハ南方棲戦鬼。ハワイヲ占領シタノハ

私ダ」

 

南方棲戦鬼はそう言うとサンズに握手を求め、

ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「フゥン……霧ちゃんがこんな奴に付くなんて

よっぽどの事情があったのか?」

 

「ナッ……‼︎」

 

「サンズ、某は当初この戦鬼から姉の暗殺を

承った。その後により強い者を求め、

彼女に付いた次第で」

 

「はーん……まあ霧ちゃんらしいや」

 

ヘラリとサンズは笑い、南方棲戦鬼を

無視した。明らかに戦鬼を格下扱いしている。

 

「キ……サマ……ッ」

 

「霧ちゃんと呼ぶのは止めろと」

 

「わーった。わーったよ霧秀(キリヒデ)

で、沖縄の件だったか?」

 

霧秀、と呼ばれた怪人は南方棲戦鬼を親指で

指して「彼女は我々にやらせろと仰せでな。

某からもお願いしたい」と言った。

 

その南方棲戦鬼はサンズを親の仇のごとく

強く見据えている。

 

「まー……沖縄はまず前準備が必要だ。

ゲンブ、お前1人で準備してこい‼︎」

 

「マジか、アレ冗談だと思ってたのに……」

 

「俺が冗談言うように見えるか?」

 

「全くもってそう見えるよ」

 

サンズは深海棲艦の住処となったハワイの

砂浜に大の字になると、クアッ、と大きく

口を開けて欠伸をした。

ゲンブはそれを見てため息を付くと、

首を回して海を見据えた。

 

 

 

「それじゃあ、全力で引っ掻き回すとしますか」

 




動き出す丙型生命体と深海棲艦。
サンズの言う「前準備」とは……。
その前にまたスピンオフ書きます。


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「第六感の警告」

感想下さい(懇願)
追記 ミスがあったので修正しました。


「おい、天龍。お前、剣術を学んだことが

あるらしいな」

 

演習が未遂に終わった翌日。

その日の朝は小雨が降っていた。

天龍は鎮守府の一角にある資料室で本を

読み漁っていたが、そこに木曾が訪ねてきた。

 

「ああ。神道無念流を少しばかり」

 

神道無念流は剛か柔かで言えば剛に属する。

兜や鎧ごと断ち切るような力強い剣風だ。

 

「神道無念流か……俺は天然理心流を嗜んでる」

 

同じく天然理心流も剛の剣に属する。

しかし神道無念流とは違い、相手の剣を

無理矢理どかし、その隙間に打ち込む剣風が

特徴だ。

 

「お互い、剣術を学ぶ身として他流派の動きを

知るべきだと俺は思うんだ」

 

「なるほどな。俺相手に腕試ししたいって

ことだな?」

 

「そうなるな」

 

木曾はニヤリと笑うと、背後の扉を指差した。

 

「丁度良いことに、ここの鎮守府には

小さいが弓道場と道場を兼ねた所が

あってな。そこでやらないか?」

 

天龍は本を閉じて本棚の一角に仕舞うと、

立ち上がった。

 

「いいぜ。たまには剣術を嗜んでる奴と

やらないと腕がなまっちまうしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓道場兼道場。

そこで天龍対木曾の稽古試合が始まろうと

していた。

 

「木曾ー、頑張るクマー」

 

「負けたら尻を揉m「黙っとれ」マバッ⁉︎」

 

セクハラ発言をしかけた糸井川が龍驤に

みぞおちを肘打ちされる。

 

「天龍さーん、頑張ってー‼︎」

 

「なんでみんないるんだよ……」

 

「多摩はいないクマ。いつも通り

どっかで寝てるクマ」

 

道場には多摩以外みんな来ていた。

天龍と木曾の試合を見るためだ。

 

 

「天龍、ほらよ」

 

木曾が木刀を投げ渡す。受け取った途端、

ずっしりとした重みが天龍の腕に伝わった。

 

「へへ、持ち手の部分に鉄の棒仕込んでんだ。

普段持ってる刀と変わらない重みにしないと

実戦で使えねぇしな」

 

「なるほどな。……それじゃ、やるか」

 

天龍が構えを取る。

 

「お手並み拝見といくか」

 

木曾もそれに倣う。

 

肘打ちの一撃から復活した糸井川が審判を

勤める。真剣な面持ちで、

 

「……始め‼︎」

 

試合の開始を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

最初に仕掛けたのは木曾だった。

すっ……と体を低くしたかと思うと、

次の瞬間大きく踏み込んで、天龍に

鋭い突きを繰り出した。

 

「シッ‼︎」

 

短く息を吐き出しながら繰り出された

木曾の突きは、一片の迷いなく、

常人には捉えることはほぼ不可能な速さだった。

 

だが、天龍は常人の範疇ではない。

しっかりとその突きを見据えながら、

最小限の動きで回避。

そして隙だらけとなった木曾の頭目掛け

木刀を振り落とし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその直前で木刀を止めた。

 

「まずは俺が一本取ったな」

 

天龍が木刀を肩にかけて木曾から離れる。

 

「かなりの玄人だな……俺の突きを初見で

避ける奴なんて初めてだ」

 

木曾はそう言って、片目を眼帯を外した。

その目の色は片目が青系統の色に対して

金色に輝いていた。

 

「手加減してたのか?」

 

「いや、こっちの目はあんまり見えてねぇ。

でも、眼帯でやるよかはかなりマシだ。

そっちも眼帯外したらどうだ?」

 

「いや、俺の片目は完全に失明してるから

外しても意味ねーよ」

 

木曾は再び構え、天龍にも構えるよう施した。

 

「今度は本気でいくぜ」

 

今回も木曾が先に仕掛けた。

天龍の急所を的確に狙いすまし木刀を振るう。

天龍はその鋭い一撃一撃を苦もなく捌く。

両者共に一歩も引かない激戦。

周りにいた皐月や球磨は身を乗り出し、

龍田や龍驤は真剣にその様子を見ていた。

木曾と天龍の剣戟は周りの人を呑み込む程に

凄まじいものであることがありありとわかる。

 

だが、その剣戟に集中出来ない者がこの場に

たった一人残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ……この感じ)

 

レンゲは、先程から体が感じる嫌な感覚に

疑問符が浮かんでいた。

例えるならば、毛虫を意図せず

発見してしまった時。

もしくは高い所から下を見下ろした時に

感じるような感覚ーーーーーー

いわば、「身の毛がよだつ」感覚。

しかも、その感覚は先程から段々と強くなって、

体中を掻き毟りたくなる位の強さになっていた。

 

(早く何処か遠くに行きたい。なんだ……

この感覚は……⁉︎)

 

じわり、と背中から冷や汗が滲み出した。

つっ、と額を一筋の汗が伝ってゆく。

 

「……レンゲさん?どうかしましたか?

顔色が優れないみたい」

 

大井がレンゲに声をかけた。

 

「い……いや、なんでも、ない、です」

 

「ちょっと外の空気吸ってきた方がいいよー。

顔色、すっごく悪いよ」

 

北上の言う通り、レンゲの顔色は生気が

全くないように見えた。

 

「じゃ、あ。お言葉に甘えて」

 

途切れ途切れに言葉を切らしながら立ち上がる。

 

「ああ、私が外に連れて行きます」

 

大井がレンゲに肩を貸し、一緒に外へと

出て行った。

 

「……多摩姉もこの試合見た方がいいと

思うなー」

 

後に残された北上は、木曾と天龍の試合を

見ながらそう独り言を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?水持って来ましょうか?」

 

「いや、大丈夫……です」

 

外の空気を吸って僅かに良くはなったが、

まだ体のあの感覚はまだ残っている。

 

「……あれ、大井にレンゲ。

みんなどこにいるか知ってるにゃ?」

 

「多摩姉さん。みんな道場で試合見てますよ」

 

多摩が小雨の中傘をさし歩いてきた。

 

「珍しいですね、多摩姉さんが雨の中

外に出るなんて」

 

「なんとなく、今日は気分的に

出たくなったにゃ」

 

二人が話をしている間に、急激にレンゲの

身の毛がよだつ感覚が強くなった。

 

「……ッ‼︎」

 

歯をくいしばって、目を見開く。

痛みはない。だが、何処か遠くに行きたい

欲望が体中を駆け巡る。

 

「ッ⁉︎レンゲ、どうしたにゃ⁉︎」

 

「レンゲさん⁉︎しっかりして下さい‼︎」

 

二人がレンゲに呼びかける。

 

「ッ〜……‼︎……ッ‼︎」

 

声にならない叫びを上げながら、

レンゲはその感覚を引き起こすものの

場所を見た。

 

上。

 

上に。

 

上に何かいる(・・・・・・)

 

「……レンゲ?上がどうかしたにゃ?」

 

多摩がレンゲの視線を追って上空を仰いだ刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空から落ちてきた爆弾が鎮守府に直撃し、

その外観を大きく破壊して。

地を大きく揺らした。

 

そして、ほぼ同時刻に。

付近にあった米軍基地の戦闘機を収納している

倉庫を中心に、爆撃が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナイトホークから、米軍機収納庫を

破壊確認。……これで米軍機の爆撃は

なくなった」

 

はるか何十kmと離れた海上。

ゲンブは視界共有を通しナイトホークが

爆撃を成功させた事を確認した。

周りには、深海棲艦やゲンブの仲間のフジツボが

控えている。

 

「爆弾を地中貫徹爆弾に

変えて正解だった……収納庫を破壊しても

中が無事だったら意味がないし。

そう思わないかい?ル級君」

 

「……別ニソンナ事、ドウダッテイイ。

肝心ナノハコノ好機ヲ逃スべキデハナイ、

トイウ事ダ」

 

ル級、と呼ばれた深海棲艦は、大盾の

艤装を構えながらゲンブにそう言った。

 

「いや、撤退すべきだね」

 

「……臆病者メ。ナラバ我々ダケデ

行カセテモラウ‼︎」

 

ル級は仲間のニ級、ホ級、チ級を伴い

沖縄鎮守府のある方向に向かっていき、

やがて見えなくなった。

 

「……あー、行っちゃった。

まぁ、サンズがなんとかしてくれるか。

じゃ、拠点に戻るよー。ル級達は

待たなくていからー」

 

ゲンブは残った深海棲艦達にそう号令すると

速やかに帰投するのであった。




地中貫徹爆弾は別名バンカーバスターと
呼ばれてます。シン・ゴ●ラで
ゴ●ラにダメージ与えてました。


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「二人は雷巡」

雷巡ってすげー。


……俺達は半壊した鎮守府を前に呆然と

立ち尽くしていた。

 

「な……何が起きたんだ……⁉︎」

 

そう口にするしかない俺を尻目に、

多摩が素早く大井に言った。

 

「とりあえず、他の人は大丈夫か確認して、

それから近くの海域の警戒にゃ。

大井、先に北上を連れて頼むにゃ」

 

「了解しました」

 

大井はそう言って素早く道場の中に入っていった。

そして入れ違いに天龍達が出てくる。

 

「おい、今のはなんだ⁉︎お前ら無事か‼︎」

 

「ピンピンしてますよ、大丈夫です」

 

お互いに無事が確認出来たのでとりあえずは

一安心だ。

 

「鎮守府が……‼︎恐らくは深海棲艦が爆撃を

仕掛けたか……」

 

糸井川が歯ぎしりして半壊した鎮守府を睨む。

 

「目標は俺達か、もしくは……」

 

「米軍基地、デスネ」

 

背後からの声に振り向くと、そこには

ジャックがいた。ただし、服のあちこちに

煤が付いていたが。

 

「ジャック‼︎無事だったか!」

 

「いや、そこまで。先程の爆撃で

戦闘機とその整備員が纏めて焼き尽くされ、

おまけに周りに文字通り土砂が降ってきて

怪我人もいくらか出ました」

 

「奴らの狙いは戦闘機の方か……‼︎」

 

「……今は、先に周りの警戒に当たるべきです」

 

「そうだな。龍田は時雨、皐月と一緒に頼む。

球磨は多摩と。龍驤は艦載機で索敵を」

 

普段のセクハラ行為をしていた時とは

まるで違ったように素早く他の艦娘達に

命令を下す糸井川。

その顔には先程の焦燥は一切なく、

彼が提督として優秀な人物として窺える。

 

「俺も行きます」

 

「すまないが、それは了承出来ない。

木曾と天龍もだ。2人は試合で体力を

消費しているし、君は……まぁ、理解してくれ」

 

糸井川が僅かに言葉尻を濁し、

それで漸く俺は思い出した。

 

今の俺は深海棲艦だ。形式上海軍に「鹵獲」

されている身である俺が勝手に海域に

出ようものなら、糸井川はおろか神崎さん、

果ては俺に関わった人達に迷惑をかけることに

なってしまう。

 

「……了解しました」

 

「……本当に、すまない」

 

申し訳なさそうに糸井川はそう言って、

踵を返してジャックと話し合いを始めた。

俺は、一応球磨の話に混じった。

万が一ということもありうるからだ。

 

「警戒には先にハイパーズが行ってるけど、

念には念を押しておくクマよ」

 

「……ハイパーズ、って?」

 

「なんですか、それ?」

 

時雨達に向かって球磨が言った単語に

対し、俺と時雨が疑問を呈する。

 

「ああ、大井と北上のことクマ」

 

「ハイパーズ……まぁ、理解出来なくも

あらへんけど」

 

だって、と龍驤は続けた。

 

「あいつらめっちゃ強いからなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその頃、ル級の一団は間も無く

沖縄鎮守府の近海に到着しようとしていた。

近付いてゆくにつれてあちこちから黒煙が

上がっているのが確認出来、それが

ル級達の戦意を高揚させる。

 

「クク……奴ノ爆撃ハ完璧ダッタ様ダナ。

見事ニ鎮守府ヲ破壊シテイル。

何故スグに攻メナイノカ理解ニ苦シムヨ」

 

「全クダ。アノ様子ジャ艦娘も生キテハイマイ」

 

ル級の言葉にチ級が反応する。

それぐらい、ゲンブの艦載機の爆撃の威力は

高いものであった。

 

「砲撃用意‼︎」

 

ル級が沿岸の人間の駆逐をする為に号令を

発した。

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

 

 

上空から一条の光が見え、それが

艦隊にいたニ級を見事に貫き、爆発した。

 

「ッ‼︎先制攻撃‼︎マダ生キ残リガイルゾ‼︎」

 

「単縦陣‼︎敵艦ニ注意シロ‼︎」

 

突然の砲撃に不意を突かれながらも、

ル級は冷静に指示を出す。

 

「敵艦ヲ確認‼︎」

 

チ級が叫びながら、雷撃の用意をする。

 

「……させないわ」

 

大井がその様子を見て素早くチ級に

向かって砲撃した。

 

砲撃は吸い込まれるようにチ級に着弾。

更に、発射しようとしていた魚雷に引火、

断末魔すら上げる暇なくチ級は爆発し、

燃えながら海の中に沈んでいった。

 

「……ッ‼︎」

 

チ級が撃沈されたことに怒りを覚えながら、

ル級は大井と北上を狙い砲撃する。

 

 

 

 

 

 

二人の近くに大きな水柱が発生する。

 

「……ちッ‼︎」

苛つきを感じ、大井は思わず舌打ちする。

 

「大井っち。一撃で仕留めるよ」

 

「了解」

 

大井が右腕の61cm5連装酸素魚雷を発射し、

北上は左手の方から発射する。

彼女達から放たれた10発の魚雷は航跡を

残しながら扇状に広がってゆく。

 

「沈め」

 

ル級はそれを回避しようとする。

北上は素早くル級に砲撃した。

 

「クッ‼︎」

 

それは惜しくもル級の目前に着弾したが、

ル級の足を止める事となった。

そして、その足元には2発の魚雷が迫っていた。

 

「⁉︎シマッ……‼︎」

 

刹那、ル級を爆音と水柱が飲み込んだ。

そしてそれが収まると、ル級の姿は影も形も

なかった。

 

最後に残ったホ級は慌てるように潜行し、

そして、静かになった。

 

「……あっけないわね」

 

「ま、楽に終わって良かった良かった。

他にもいないか警戒を続けようか」

 

「そうですね、北上さん。

私達二人が一緒にいれば怖いものなしです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ハワイと沖縄の中間にある小島。

 

「……爆撃成功したのか。ま、無事でなにより」

 

「僕は無事だけど、一緒にいた奴らが

勝手に突っ走っちゃってね……そいつらは

もしかしたら……」

 

ゲンブとサンズは爆撃に関して話をしていた。

 

「沈められた、ってか?確か戦艦級と

雷巡級が居たろ?数は少ないとはいえ

そいつらを沈めるような奴が居るんなら、

多少は楽しめそうだがね」

 

「……貴様ニトッテハ楽シイ事ダロウガ、

私ニトッテハ不味イ事態ダヨ」

 

南方棲戦鬼が話に混じる。

 

「彼ノ海軍ノ最終兵器……大和ト言ッタカ。

アレガイルトナルト、逃ゲナキャナラナイ」

 

「おいおい、姫さんよ。俺がいることを

忘れちゃならないぜ?」

 

サンズが人差し指で戦鬼の額を突く。

 

「何カ策デモアルノカ?」

 

「イエ〜ス。ただ、俺のやり方に絶対口は

出さないでくれよ?」

 

ニタリとサンズは笑い、仏頂面の戦鬼とは

反対に上機嫌になっていった。

 

「イイダロウ。何デモ破壊スルナリ殺スナリシロ」

 

「ワァオ、サクリファ〜イス♪」

 

サンズはそう言うと、準備をする為に海岸に

向かっていった。

 

「あの、よろしいんでしょうか?」

 

「何ガダ?」

 

いえね、とゲンブはしどろもどろしながら

戦鬼に向かって言った。

 

「ああなったらサンズは止まりませんよ」

 

「フフ、平気サ。多少ノ被害ハ良シトシヨウ」

 

「まあ、平気なら、それでいいんですがね……」

 

ゲンブはすごすごと引き下がり、島の奥に

向かって去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多少(・・)の被害で済めば良いですがね……」

 

ゲンブはボソリと、誰にも聴こえないような

小声で呟いた。

 

 

 




物語の中でレンゲが勝手に海域に
出ることへの影響に触れていますが、
「あれ、三宅島で勝手に出てたじゃん」と
思われる方もいると思います。
三宅島の一件は事後報告という形で
二人は報告し、その上部下の艦娘達には
箝口令を敷くことでなんとか隠しきりました。
しかし、沖縄では米軍と沖縄鎮守府は
互いに独立しているので箝口令が敷けず、
よって情報が漏洩する可能性があるので
レンゲは出撃出来ない、ということに
なっています。


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「警戒」

第3話のUA10000突破しました。
というか、なんで3話だけ……。


鎮守府と米軍基地を襲った爆撃から約2時間後。

 

付近の海域の警戒に行っていた北上達が戻り、

レンゲ達は比較的被害の少ない米軍基地の施設の中で

敵の動向について話し合っていた。

 

「遭遇した敵艦隊の構成は、戦艦1、雷巡1、

それに駆逐艦が2つ。駆逐艦は一体だけ

取り逃がしたけど、それ以外は撃沈しました」

 

「ル級にチ級、ニ級とホ級だった。

全て通常個体でeliteやflagshipはいなかったよ」

 

大井と北上が敵艦隊の構成と詳細を報告する。

 

「うちも艦載機で周りの海域を見てみたけど、

敵艦隊はおらんかった。多分やけど北上達が

遭遇した艦隊以外に敵さんはおらんかったちゅう

ことやな」

 

「僕達も一応潜水艦とかがいないか探って

みたけど、魚一匹見つかんなかった」

 

「……そうか。一応は態勢を整える時間が

出来たということになるから喜ぶべきか。

それとも、強力な空の援護を失った事を

悲しむべきか。複雑な気持ちだ」

 

糸井川は、戦闘機という強力な援護を

失った事実を重大に受け止めていた。

 

現在では艦娘が深海棲艦に対して最も

有利な手段であるが、艦娘という手段が

確立されるまでは戦闘機がその座に立っていた。

深海棲艦という小さな的を狙うには

戦闘機の機銃掃射や爆弾の投下といった

手段が有効であったからだ。

現在は艦娘にその地位は譲ったものの、

戦闘機は未だ深海棲艦に対しての有効性は

変わらない。

そのため艦娘の少ない欧州などでは戦闘機と

艦娘の複合戦術がよく使用されたりしている。

 

アメリカはその中でも戦闘機の性能に力を

入れており、沖縄に駐留している米軍基地

にも性能の良い戦闘機が揃っていた。

 

それが先程の襲撃で纏めてパー。

おまけに整備士も殆ど一緒に丸焼きに

されたとなれば戦闘機の援護は絶望的と

呼べるだろう。

 

「戦闘機がいないのはかなり痛いにゃ。

敵の方には空母がわんさかいるだろうけど

こっちは龍驤一人だけしかいないにゃ」

 

「せやなぁ。航空戦になったらお手上げやで」

 

そこに、ジャックがドアを開けて入ってきた。

 

「ジャック、合衆国からの返事はどうだった?」

 

その問いにジャックは首を力なく横に振った。

 

「本国からは、“現在西欧諸国との合同作戦の

真っ最中であり、沖縄に送れる機体はない”と

伝えられました」

 

「ちッ……合衆国は沖縄を見捨てるつもりか⁉︎」

 

思わず、糸井川は叫び、拳を握り締める。

ジャックは慌てて糸井川に言った。

 

「ですが、まだ沖縄には戦闘機の部品が

大量に残ってマス。焼け残った機体の

無事な部分を利用して修復すれば使えるかも

しれませんヨ?」

 

「だがどれくらいかかる?整備士が少ない

状況でやるとなればかなりの日数が必要な

はずだぞ?」

 

「その点は、民間の企業にも手伝って貰えば

数日程度でなんとかなりマス。

問題としては、その間にまた爆撃される可能性が

あることデスネ」

 

「それは民間の企業の工場でも借りれば

大丈夫だろう」

 

糸井川はふう、と息を吐きながら答えた。

 

「……hey,Jack. 少し用があるんだ。

ちょっと来てもらえないか?」

その声と共に、スキンヘッドの白人ーーーーーー

ハワードがドアを開けて、ジャックを

呼んだ。

 

「Oh, sorry. イトイガワ、そろそろお暇しマスヨ」

 

「ああ、戦闘機の件、よろしく頼む」

 

ジャックが部屋から出ていくと、

大井がレンゲに向かいある事を問うた。

 

「ところで、レンゲさん。気になることが

一つあるんだけど……どうやって爆撃される

前に上を見たの?音一つしていなかったのに」

 

「俺も……良く分からないんですけど、

なんか、上から嫌な……そう、

凄く嫌な感じがしたんです……本当に

なんて言ったらいいのか……」

 

「勘というべきにゃ。それか生存本能」

 

「野生動物じゃないんですけど……」

 

だが実際、多摩の例えはかなり的を得ていると

言えるだろう。

大きな震災が起きる直前に犬や猫が

なんらかの異常行動を起こすような

例があるように、レンゲの生存本能が

体の不調といった形で身の危険を

訴えていたのかもしれない。

 

「まあ、そんなことは今どうでもいいクマ」

 

「だな。球磨姉の言う通りだ。

今は敵の襲撃に備えておくべきだ」

 

木曾が腰の軍刀を差し、天龍に言う。

 

「天龍。俺達で見張りをやるぞ」

 

「分かった。シフト制にしておいて、

時間が経ったら誰かと交代した方がいいな」

 

「だったら僕がやるよ。遠征任務とかで

一日明かしたことあるし」

 

皐月が挙手して志願する。

 

「うちも皐月と一緒にやるで。レンゲも

時間が空いたら頼むわ」

 

「分かりました」

 

「じゃ、俺達はそろそろ行くから、

仮眠なりなんなり休養はとっとけよ」

 

そう言って天龍達は軍刀と日本刀を片手に

持って海域の警戒に向かった。

 

「じゃ、うちらは寝るわ。おやすみ」

 

龍驤と皐月は仮眠を取るために二段ベッドの

ある奥の部屋に入っていった。

レンゲも寝ようと思ったが、昼間にあったことの

影響か、目は完全に冴えていた。

 

「……今日は、眠れそうにないな……」

 

雨は、昼間の時より強くなっていた。



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「丙型談義」

今回は丙型サイドの話です。


「……サンズ、用意は出来ていると聞いたんだが

何故すぐに抜錨しないんだい?」

 

深海棲艦の巣食う名もない小島。

その海岸を臨んで立っているサンズに、

ゲンブは後ろから聞いた。

 

「あぁ。俺の用意は出来たが、霧ちゃんがまだ。

それにさ……あっちにもなるべく重圧を

かけておいた方がやりやすいし」

 

「なるほどね……しかし、今回の僕達の

“雇用主”……南方棲戦鬼とか言ったか。

彼女には艦隊を指揮する才能が欠如して

いるらしい。部下が命令を聞かないからね。

例えるなら、チンピラ集団みたいなもんか」

 

その言葉にサンズはフッ、と鼻で笑った。

そしてゲンブの方に振り向き、目に

笑いの色を浮かべた。

 

「そんなんでも一応対価を払って貰えば

傭兵の仕事としては充分成り立つからな」

 

「金ヅルって所か」

 

「まぁね」

 

そこに、霧秀が日本刀を背負ってサンズ達の

方に歩いてきた。

 

「待たせて申し訳ない。某、日課の精神統一は

欠かせなくてな」

 

「いいさいいさ。俺も昔のことを思い出してたし」

 

「昔のサンズは尖ってたからねぇ。海もそう。

昔より随分と穏やかになったよ」

 

霧秀が懐かしげに頷きながらゲンブの言葉を

肯定する。

 

「あの頃は某どもも今日を生きるのに必死で

あったな……乱世と形容出来るものではない、

地獄と言うべきか」

 

「乱乱乱世ってか?」

 

「乱を付け加えればいいってもんじゃないよ」

 

サンズはヘラヘラと笑いながらタバコを

取り出して火をつけた。

 

「地獄といやぁ……お前らに聞くんだけど、

地獄はあると思うか?」

 

「さぁねぇ……」

 

「天国はどうでもいいんだが、地獄は

あってもらわないと困る。

いずれ、用になるからな」

 

サンズはふぅ、と紫煙を口から吐き出しながら

言った。ゲンブは煙を振り払うと、

煙たそうに咳をした。

 

「ところで計画の段取りは?どんな感じだい?」

 

「詳しくは行きながらで話すが、正面からは

ぶつからない。……まあ少しはぶつかるけど。

最終目標は相手戦力の削減。戦闘機も含め。

米国からの贈り物(援軍)に対しては

ゲンブが対処してくれ」

 

「そんな重大なポジションを任せないでくれ。

胃が痛くなるから」

 

「計画の成否はゲンブの双肩にかかってるぞ‼︎」

 

「おい止めろ馬鹿」

 

「戦力の削減……となると、某も使わない訳が

あるまい?」

 

「ビーンーゴ。霧ちゃんは……暗殺を頼むわ。

お前、そういうの得意だろ?」

 

「得手……と言う訳でもないが。引き受けよう」

 

またまたぁ、とサンズは気安い様子で

コツンと霧秀の肩をどつく。

 

「荒れ狂う海に紛れて幾多の者を

斬殺した暗殺者さんが何言ってんのさ〜」

 

「まぁいい……サンズ。そろそろ征くべきでは

ないか?今から行けば早朝に襲撃をかけられる」

 

「そうだね……姫さんとこの駆逐艦をいくつか

借りて行こう。ゲンブは遠くから。

霧ちゃんは艦隊の指揮頼むわ」

 

サンズはそう言いながら火の付いたタバコを

握り潰して、近くの砂浜に刺しておいた

刀……長ドスに近い形をしたそれを引き抜くと、

「おし、じゃあ抜錨。行くぜ」と言った。

 

「承った」

 

「了解」

 

こうして、三体の丙型生命体が動き出した。

どす黒い奸計を伴って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーソウカ。奴ラガ抜錨シタカ」

 

「ハイ。我ラノ仲間ヲ伴ッテ沖縄鎮守府へト」

 

それを聞いて南方棲戦鬼はニヤリと笑った。

 

「デキレバ彼ラダケデ終ワラセテ欲シイモノネ。

ダケド……見テミタイワ……艦娘共ガ絶望スル様」

 

「艦娘共、我ラト彼ラガ手ヲ組ンデイルト

知ッタ時ドンナ顔ヲスルデショウカ?」

 

「ソレハモウ、飛ビッキリノ“良イ顔”ヨ……♪

アァ……本当ニ見テ見タイワ……♪」

 

ニヤリとした笑みから恍惚とした表情に変わる。

南方棲戦鬼は身悶えしながら、部下に言い放つ。

 

「モウ、私達ハ誰ニモ止メラレナイ……。

楯突イタ奴ハイズレ気ヅクノヨ……‼︎

“悪ハ決シテ滅ビハシナイ”トネェ‼︎

ウフフ……アハハハハハハハハハハハハハハ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、サンズは航行していたが、突然身を

ビクッ‼︎と震わせた。

 

「どうした?」

 

「いや……なんつーか……すっごく嫌な感じが

背中に走ったわ。あー、気色悪りぃ」

 

サンズは背中を気にしていたが、やがて

その感じはなくなったようで、いつもの

調子に戻り、航行に専念した。

 

沖縄まで、あと少しの距離である。




皆さんはどんなゲームが好きですか?
僕はFNAFとundertaleが好きです。


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「迫る白刃」

何かと至らない部分があると思うので、
アドバイス等頂ければ幸いです。


沖縄に朝が訪れた。

だが、そんなことは警戒に当たっている天龍と

木曾にとってはどうでもよいことであった。

強いて言えば、交代する時間に何か起きやしないか

という懸念が二人の心に小さく芽吹いている

ことだろうか。

 

「……天龍、そっちはどうだ?」

 

まだ微かに降っている小雨に濡れながら、

天龍はレシーバーからの木曾の声に答えた。

 

「異常なし。……今の所はな」

 

「あと少しで球磨姉と皐月と交代する時間だ。

それまでに何か起きやしないといいが」

 

ゴロゴロゴロ……と遠くから雷の音が轟く。

天龍は遠くにある黒雲を見やった。

今はまだ遠くにあるものの、暫くすれば

ここの辺り一帯は大雨になるだろう。

 

「ちっ、面倒なことになったな。木曾、

次の警戒の人数増やさないといけなくなるかも

しれねぇな」

 

「あぁ?マジかよ。仕方ねーな、多摩姉に

頼むか、龍田さんに頼もうかな」

 

龍田、と聞いてチクリと天龍の心は僅かに

痛んだ。昔の出来事を思い出したからだ。

あの頃は龍田との仲は今のように他人行儀の

ようなものではなかった。

むしろ、非常に密接な関係であった。

それこそ、親友か家族のように。

あの忌まわしい事件さえ起こらなければ、

今もそのような関係を続けていたに

違いないだろう。

 

「……って、何考えてんだ、俺は」

 

今はそんなこと考えている場合ではない。

そう思い直して天龍はレシーバーに向かい

「そうした方がいいな、頼む」と応答した。

 

「あー、悪り。……ザーッーーー……

何か……ガガッ……て……ザザザッ……

龍……ガーッ……応……ザー……」

 

「? 木曾?聞こえるか?聞いてるなら

応答頼む」

 

だが、それっきりレシーバーは不快な音を

立てるだけとなってしまった。

思わず舌打ちしながら天龍はレシーバーを

しまおうとして、手を止めた。

 

昔、軍学校で似たような事態について

講義を受けたことがあった。

3、4年程前だから殆ど内容は覚えていないが、

確かこのようなことを言っていた気がする。

 

 

 

 

 

レシーバー等の電子機器が海上で異常をきたした

場合、近くに深海棲艦がいるか、もしくは

接近して来ている可能性が高いと。

 

 

 

天龍はレシーバーをしまいながら慌てて

遠くの海上を確認した。

すると、先程の黒雲の下に、深海棲艦の

一隊が見えた。

先頭の深海棲艦は遠くからなので良く確認は

出来ないものの人型。

それ以外は全て駆逐艦だった。

 

「マジかよ」

そう、思わず天龍は呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レンゲは沖縄鎮守府の近くにある

桟橋に腰を下ろしてそこから見える

水平線を眺めていた。

 

「……俺も戦えたらなぁ」

そう、ポツリと呟く。

深海棲艦であるために、戦いたくとも

戦えないもどかしさ。

こんな自分でも何かの役に立ちたいのだが。

 

「はぁ……」

 

「何ため息ついてんの?」

 

後ろからの声に振り向くと、そこには

北上がいた。

 

「私も暇なんだ。隣いいかな?」

 

レンゲが僅かに体を横にずらし、北上は

その隙間に座った。

 

「……戦いに行きたいの?」

 

「‼︎」

 

「誰だってそんな深刻な顔してたら

何か考えてるって分かるよ?

子供とかだとなおさらねー」

 

北上はふっ、と笑うと、話を続けた。

 

「……私も昔はそうだったなー。

でも、今はそう思わない」

 

「なんで、ですか?」

 

「何回も出撃する内に、幾人も仲間が

沈んでいく所を見た。

深海棲艦に襲われた人々の嘆きも聞いた。

目の前で輸送船を沈められたりした。

何百人も載せていた船をね。

……そんなことがずっと、ずっと頭の中に

こびりついて離れなくなるんだ。

夢にも毎日出る。

レンゲはさ、そういうのに耐えられるの?」

 

北上は先程のダウナーな印象とは

うって変わって真剣な表情で、

北上はレンゲに問うた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

深海棲艦を率いて霧秀は沖縄鎮守府に

一直線に進んでいた。

ふと、左手で背後にいるハ級達に

ハンドサインで命令を下し、反対の手で

腰に差してあった日本刀を抜いた。

 

スラリと音を立てて白銀の色に光るそれは、

素人の目でも丁寧に手入れされたものと

分かるものであり、なおかつその刀が

かなりの業物であると理解させるには

充分な代物であった。

 

日本刀を正眼に霧秀は構え、まっすぐに

前を見据え、そして。

 

「……喝ッ‼︎」

 

裂帛の勢いで振るった。

その剣速は余りにも疾くそして鋭く、

刀を振るう動作すら目視出来ない程。

もしも至近距離で刀を振るわれれば、

何者もその一閃を止めることは出来ないだろう。

 

彼が刀を振るった直後、彼らのすぐ側で

二つの水柱が上がった。

霧秀はただ単に刀を振るった訳ではない。

自分達に向かって来る砲弾を真っ向から

切り捨てたのだ。

 

ハ級達が霧秀から離れて行く。

鎮守府に向かうことを優先し、先に

行かせたのだ。

そして、霧秀自身も少しだけ高揚していた。

 

「……某と最初に斬り結ぶのは、誰ぞ?」

 

霧秀は速度を上げ、砲弾が飛んで来た方へ

向かう。やがて、彼は一人の艦娘の姿を

視認した。

 

片手に刀を持った隻眼の少女ーーーーーー、

天龍に。



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「戦慄の一合」

テスト前だァ……(絶望)


天龍は慄いていた。

 

何故、「奴」がここにいるのだと。

自分の見間違いだと思いたかった。

夢ならば覚めてほしいと願った。

 

だが、奴が近づくにつれてそれは現実だと

嫌でも天龍に確信させた。

 

「……なんでだよ」

 

天龍は思わずそう呟いていた。

 

「なんでお前がここにいるんだよ」

 

その言葉は、既に近くまで近付いていた「奴」……

霧秀の耳に届いた。

 

「“お前”……某を知っているのか?」

 

「あぁ。一時も、てめぇの姿は忘れたことは

ねぇ。俺にしやがったこともな……」

 

憎悪と怒りの入り混じった声で、天龍は

次の瞬間声を荒げた。

 

「3年前‼︎お前はなァ‼︎俺の最愛の人の命を

奪い取ったんだ‼︎おまけにその罪を全て

俺に着せて……仲間の信頼すらも‼︎

全てを、全てをお前は‼︎」

 

もう、天龍の怒りは言葉で表現することが

出来ない程に燃え上がり、それを霧秀は

一心に受けていた。

霧秀はそれを目の前にしても動じず、

異様に細長い腕で顎を撫でる。

 

「ふむ……3年前か……3年前……」

 

そのまま僅かに天を仰ぎ、何かを考えるような

仕草をしていたが、やがて霧秀は天龍の方を

向き、静かに言った。

 

 

 

 

 

 

 

「……誰だ?すまぬが、全く思い出せぬ。

某はそれなりに記憶力はある方なのだがな」

 

霧秀は悪気すら見せず、いけしゃあしゃあと

天龍に言ってのけた。

 

「……ッ‼︎」

 

その一言で、天龍の怒りは頂点に達した。

否、頂点すら突き抜けていたに違いない。

反射的な速度で片手に持っていた刀を

両手で持ち直し、霧秀の首を狙い

振り払った。

その間1秒に満たない程の速さ。

天龍の刀はまっすぐに、正確に首元を

狙い。

 

 

直後、その首元で止められた。

刀ではなく、「指」で、だ。

まるで摘むように天龍の刀を挟み、

しかもそれは天龍が力一杯に引こうが

押そうがピクリとも動かせない状況に

なっている。

 

「う、おおお……‼︎くっ……ああ‼︎

なんて馬鹿力だ、畜生……」

 

「……中々の剣速だな」

 

そう呟いて霧秀は刀から指を離した。

拘束から解かれた天龍はバックステップで

すぐさま彼から距離を取る。

 

「ふむ……一合、斬り結んでみるのもまた一興か。

そこの女子、名はなんという?」

 

「……天龍だ。地獄に落ちる前に覚えておけ」

 

霧秀が刀を片手で構える。

 

「天龍か。覚えておこう。

……某の剣捌きを見切ることが出来たならな‼︎」

 

刹那、天龍が見たのは自分の脳天に向けて

白刃が迫る所だった。

 

「ッ⁉︎」

 

間一髪、自らの刀での防御が間に合ったものの、

かなり際どいタイミングだったのか、

霧秀の刃は天龍の首まで数cmあるかないかと

いう所で止められていた。

もし防御するのがほんの0.1秒でも遅れていれば

今頃天龍の首は体に付いていなかっただろう。

 

ギリギリ……と刃同士が削れ合う音が響く。

 

「くっ……はああっ‼︎」

 

叫びながらなんとか天龍は霧秀の刃を弾く。

霧秀は僅かに数歩下がると、

「ふむ。及第点といったところか」と言った。

そして、天龍の方を見て、ぼそりと呟いた。

 

「……怖がっているのか?」

 

「ッ……‼︎」

 

現実に、天龍は憤怒と同時に恐怖も感じていた。

3年前に比べ剣の腕は確かに上がったと自覚して

いるが、かつて自らの片目を奪った相手を

越えられているのか。

その疑心と恐怖は先程の一合で更に増大した。

肉眼で捉えるのが難しい一閃。

しかもそれが奴の本気とは限らないのだ。

正直言って、天龍の心は憤怒よりも恐怖が

僅かに多く占めていた。

 

「誰が……てめぇなんか‼︎」

 

「隠さずとも良い。むしろその気持ちを大事に

するべきだと某は思うぞ」

 

ギリッ、と強く歯を食いしばり、天龍は

刀を構え霧秀に向かって吶喊した。

 

霧秀は逃げもせず、かと言って構えもとらず

片手で刀を持ったまま天龍を迎え撃つ。

そして。

鋼が噛み合う音が、黒雲に覆われゆく空に

響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、沖縄鎮守府の桟橋では。

 

「レンゲはさ、そういうのに耐えられるの?」

 

北上の問いに、レンゲは悩んでいた。

北上が、否、ほぼ全ての艦娘が北上の話のような

惨状を実際に目の当たりにしているのだ。

それがまだ小さい駆逐艦の少女だろうと

着任してまだ間もない艦娘だったとしても、だ。

 

彼女達はそれを乗り越えて日夜深海棲艦と

戦っている。

それに比べて自分はそれに耐えられるのだろうか?

深海棲艦に近い者達との闘いは経験しているが、

彼らはことごとく人間とは姿も思考も

かけ離れていた。

自分は……まだ本当の戦場に立っていない。

そんな自分が北上の言ったような惨状を

目の当たりにしたならば……。

 

自分の心はどうしようもない位に「壊れる」かも

しれない。

北上は自分にその覚悟があるのかどうか

聞いているのに違いないのだ。

 

「……俺は……」

 

レンゲがそう呟いた時、遠くからドタドタと

誰かが駆けてくる足音が聞こえた。

 

「クマー‼︎北上ー!レンゲー!桟橋から

どけクマー‼︎」

 

「どいたどいたー‼︎」

 

球磨と皐月だ。二人とも艤装を装着している。

 

「敵を発見したって木曾さんから連絡が‼︎」

 

「おまけにあの馬鹿、一人で勝手に迎撃するとか

勝手に言って切りやがったクマ‼︎」

 

「えッ⁉︎」

 

 

いくらなんでも敵艦隊に一人で立ち向かうのは

余りにも無謀だ。

それ故か、球磨の顔は非常に焦燥の感情を

写し出していた。

 

桟橋から海面に飛び込む球磨。

それを追って皐月も同じように飛び込む。

 

「気をつけて、球磨姉」

 

「分かってるクマ‼︎」

 

速力を上げて球磨達が遠ざかっていく。

その背中を見ながら、北上が呟いた。

 

「さっき言ったことだけど、答えは

今聞かないし、急かさないから。

自分なりに考えて、答えを出せばいいよ」

 

そう言って北上は立ち上がり、伸びをすると

桟橋から立ち去っていった。

 

だが、レンゲは北上の問いに対しての答えを

見出せず、暫しの間そこで頭を抱えたので

あった。



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「圧倒的な力量」

ガアァン‼︎と鋼がかち合う音が鳴り響く。

 

「はぁ……はあっ……ッ……‼︎」

 

息を切らしながらも天龍は刀で霧秀に向かって

鋭い突きを放つ。

 

天龍のスタミナは限界寸前のところまで来ていた。

だが天龍はそれよりも霧秀に畏怖していた。

 

(なんなんだこいつ……⁉︎ブラフや対処しにくい

足元の斬撃も簡単にいなしてやがる……)

 

おまけに、だ。

霧秀は構えもせずに片手で刀を持った状態だ。

霧秀が持っている日本刀は基本的に両手で

持つものである。

そうしないと日本刀の威力は最大限に発揮

出来ず、人を切ることが難しくなる。

もしも、霧秀がそのことを承知の上で片手で

持っているとするならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

……霧秀は天龍と本気で戦う気など毛頭ない

ということになる。

 

(俺程度いつでも首を取れるってか……?

ふざけやがって、この野郎‼︎)

 

霧秀に弾かれながらも、天龍はカウンターで

霧秀の腹目掛け斬り払った。

だが、ギイィィ……ンという音と硬い感触が

伝わる。

 

「惜しいな、あと一息のところだったが」

 

霧秀は弾かれた勢いを加算した剣速での

カウンターすらもいともたやすく止めた。

今までの幾多の斬撃をいなしたように、

構えもとらず、片手で日本刀を持った状態で。

 

天龍は大きく霧秀から距離を置いて、

肩で息をしながら睨みつけた。

 

「ハアッ……てめぇ、未来でも見てんのかよ……

ッ、ハァ……しかも、息一つ乱さねぇし……」

 

そう言われた霧秀はフッ、と息を吐いて

天龍に答えた。

 

「褒め言葉として受け取っておこう。

だが、お主も中々の剣客よの。

久々に良い剣捌きを目にさせてもらった……

そしてだ」

 

霧秀は一旦言葉を切る。

 

「主が某に向けて刀を抜く理由、確か愛した者の

為だったか。その志、誠に素晴らしきものよ……

日本には侍とかいう者達がいたらしいが、

某の体を創っている魂の記憶から見たものと

主のそれはかなり似ている」

 

徐々にその声色に喜色が混じり出す。

ぐっ、と刀を両手で持って、霧秀は

日本刀を構えた。

 

「先程の非礼を詫びよう。これから某は

主を女と思わず、一人の敵として迎え撃とう」

 

刹那、天龍の体をとんでもない気迫が覆った。

それは一歩でも動けば全身を百の肉片に

変えられてしまうのでは、と天龍が錯覚して

しまう程に強かった。

 

(こッ……こいつ……絶対に俺を殺す目をして

嫌がる……“マジ”だ……)

 

霧秀の目は決意に満ちていた。

首を落とされたとしても、心臓を貫かれたとしても

全身全霊を以て目の前のたった一人の“敵”を

殺さんとする決意を、彼は抱いていた。

 

「……ゆくぞ」

 

「ッ‼︎」

 

霧秀が大きく踏み込んで右から袈裟斬りを天龍に

仕掛ける。その速度は先程の一閃に比べて

やや遅めの速度だった。

しかし。

 

天龍がそれを受け止めた瞬間、腕に凄まじい

衝撃が走った。

艤装によって常人の数十倍の強度にまで

引き上げられた艦娘の天龍の肉体でも

刀で巨岩を思い切り打ったように思って

しまう程のものだ。

 

「ぐううううううううッッ⁉︎」

 

更にその衝撃は天龍の体を本人の意思とは

関係なく無理矢理左にスライドさせる。

 

「クアァァッ‼︎」

 

霧秀は袈裟斬りから続いて喉元を斬りあげる。

天龍は大きく後退したが、その切っ先は

僅かに天龍の顎を掠めた。

 

紙のように顎の皮膚が裂かれ、一拍置いて

血が滲み出す。

 

「ちっ……はあっ‼︎」

 

無論天龍も唯斬られるだけではない。

即座に刀の攻撃として最も避けにくい突きを

素早く放つ。

 

「笑止ッ‼︎」

 

だが、寸前でその刃は霧秀の指に挟まれる。

ギシギシと刀が軋む音が天龍の耳へ届く。

 

「……天龍よ……某は今の攻防で理解した。

主はまだ、某には勝てぬ」

 

「なんだと?」

 

「そのままの意味だ。主は死ぬ事に対して

恐怖しておるだろう。故に某に魂を賭けて

向き合えておらぬ……そんな状態であれば

某は勝てぬし、殺すことも不可能だ」

 

残念そうに、霧秀は呟いた。

 

「………ざっけんなよ……舐めるなよ

この野郎ッ‼︎」

 

天龍は霧秀の指から刀を引き抜くと、

ありとあらゆる剣撃を仕掛けた。

斬り払い、上段、中段、下段。

突きに袈裟斬り、斬り上げ。

自身が持ちうる全てを霧秀へとぶつける。

 

(……畜生)

ふと、天龍は心の中でそう吐き捨てた。

 

(ここまで……ここまで奴が強いなんて……)

 

天龍の嵐のような剣撃を霧秀は擦り傷一つ

負うこともなく、捌ききっていた。

自身が今まで磨いてきた技術、全てが

いとも簡単に超えられてゆく。

それはまさに、かつて天龍が味わった感覚。

 

 

 

……絶望であった。

 

「……やはり、主は分かっておらぬようだ」

 

霧秀は辟易とした様子で言うと、天龍の刀を弾き

一瞬で距離を詰めた。

 

「今の主では某には勝てぬ、と」

 

刹那、白刃が天龍の顔に向けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、米軍基地の一角。

糸井川はある人物と電話をしていた。

 

「……そういう訳だ。“彼女”にそう頼んで

くれないか?」

 

「……全く。軍学校の時から変わってはいない

ようですね。糸井川さんは」

 

「俺はそういう性分だ。そう簡単には変えられる

なんてお前も思っちゃいねぇだろう?神崎」

 

「内房の提督から貴方の噂を聞いた時は、

“あぁ、変わっていないな”と思ってしまったのは

事実ですが。いい加減にそのスケベな性分を

直そうとは思ったらどうですか?」

 

その言葉に糸井川は自嘲気味に笑い、

「こればかりはどうやっても無理だな」と

答えた。

 

はぁ……と糸井川は電話の向こうでため息をつく。

 

「本当にもう……私にばかり嫌な事を押し付けて。

“彼女”に対してもそうですよ」

 

「悪いな。いずれ借りは返すからよ」

 

「……その言葉、覚えておいてくださいよ。

今回は同期のよしみで手を貸します。

そちらの様子もかなりまずい状態ですしね」

 

そう言って電話が切れる。

糸井川は電話を受話器に置くと、真剣な

表情になり、どこかへ歩いて行くのであった。



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「撤退と敗北」

更新します。


その頃、球磨と皐月。

 

2人は深海棲艦の艦隊と接触、迎撃をしていた。

 

「クマー‼︎」

 

球磨の砲撃を喰らい、イ級の体が真っ二つに

へし折られ、そのまま沈んでゆく。

戦況は大きく球磨達の方に傾いていた。

だが、彼女には一つ心残りがあった。

木曾のことだ。

迎撃に向かう(・・・・・・)と言ったはずなのに

姿が見えないのだ。

 

「おりゃー‼︎」

 

皐月の攻撃によって最後の一体が撃沈される。

それを見届けると同時に球磨は木曾の捜索を

開始した。

 

「木曾ー‼︎ どこにいるクマー‼︎いたら返事を

するクマー‼︎」

 

「木曾さーん‼︎」

 

雨も降り出し、2人の身体を濡らしてゆく中、

懸命に2人は捜索を続ける。

 

皐月はともかく、球磨にとっては大切な“妹”だ。

もしも殺されたとなったら、悔やんでも

悔やみきれない。

球磨は雨によって視界を制限される中、

必死に木曾の姿を探した。

 

 

 

(木曾……お願いだから無事でいてクマ……

本当に頼むクマ……‼︎)

 

次第に雨は激しさを増す。

 

「球磨さん‼︎これ以上はもう……‼︎」

 

「うるさいクマ‼︎まだ近くに木曾はいるクマ‼︎」

 

「で、でも……木曾さんは、もう……」

 

「それ以上言うな‼︎木曾は絶対に生きてるクマ‼︎」

 

 

ほぼ怒号に近い声をあげて、球磨は尚も木曾の

姿を探す。

 

 

「……はーぁ」

 

唐突に、ため息が聞こえた。

 

「くっだらねぇなぁ。たかが人一人の為に」

 

球磨と皐月はその声の主を見た。

それは鰐のような尾を海面に叩き付け、

球磨達を嘲笑した。

 

「ま、お前らが探してるキソ?だか言ってたな。

そいつは今ここにはいねーよ」

 

くつくつと笑いながら、リヴァイア・サンズは

そう言った。

 

「誰だお前は‼︎それに……木曾がここには

いないって……どういうことクマ‼︎」

 

「まんまだよ。そいつはここじゃなくて別の

場所にいるってこった」

 

サンズは側頭部を指で掻きながら続ける。

 

「何を隠そう俺が誘導してあげたからね。

今頃奴は俺を探して右往左往しているだろうよ」

 

HAHAHAとアメリカ人がしそうな笑い声を

上げて、サンズは警戒をしている球磨達に

目をやる。

 

「……ところで、だ。いつまでそうやって

肩に力を入れてる気だ?疲れるだけだろうが」

 

「……目の前に敵がいるのに構えない奴が

いるクマ?」

 

「今回は攻め落とす気は無いぜ?大体

俺だけで鎮守府潰せられるなんて思ってねーし。

あくまでも戦力の確認だ」

 

道理で艦隊が駆逐艦のみの編成な訳だ。

深海棲艦の中で最も多い駆逐艦を使用して

自分達がどのくらいの戦力なのか確認を

しただけだったのか。

 

サンズの言葉に球磨は合点がいった。

だが、それは次はこのような小手調べの

戦力が来る訳ではないことを意味していた。

 

「こんな話をしている場合じゃないんだよな?

いらん所で邪魔しちゃって悪りぃな。

俺は帰らせてもらうぜ」

 

「ッ‼︎待つクマ‼︎」

 

球磨がサンズを牽制しようと砲撃したが、

その砲弾はあっさりと障壁を纏ったサンズの

腕の一振りによって弾かれ、サンズ自身は

瞬きする間に海中へと深く潜行し、姿を

消した。

 

「本当に、あれは木曾をどこかへ

誘導したクマ……?まだそれを聞いてないのに」

 

「今は、信じるしかないと思う。

雨も強くなってきてるし、もう一旦帰港した方が

いいですよ」

 

皐月の言葉に球磨は渋々了承して、沖縄鎮守府へ

その針路を変更するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い、暗い闇の中から、天龍は目覚めた。

横風が顔を凪ぎ、雨が身体中に叩きつけられる。

霧秀の姿はとうになかった。

天龍は身体を海面から起こし、自らの命が

あることを確認した。

 

(俺は……確か…)

 

あの時、天龍は霧秀に間合いを詰められ、

刀による突きを入れられた。

天龍は、その刃が首に差し込まれる直前、

霧秀の全身から放たれる異常なまでの気迫、

半秒後に自分が殺されるという恐怖、

自分が今まで研鑽を積み上げてきた技術が

いともたやすく凌駕されてゆくという絶望感に

押し潰され……気を失った。

 

気を失う数瞬間、霧秀は何故か刀を引いた。

それと同時に何かをぼそりと呟いた気がしたが

そこまでは聞き取ることは出来なかった。

 

(……見逃されたのか?)

 

天龍は霧秀の言動を振り返って、何故霧秀は

刀を引いたのか、なんと呟いたのか、そして

彼の真意に気付いた。

 

霧秀は命を奪うのに躊躇した訳ではない。

むしろ逆に躊躇なく奪うだろう。

 

 

 

 

 

「下らない」と彼は思ったのだ。

彼が尊敬している侍とは、心の強き、気高い

者を指しているに違いない。

 

だが、天龍は自身の死、という恐怖に耐えられず

気絶するといういわば“逃げ”を打った。

それが彼の尊敬する侍のイメージを激しく

傷付けたのだろう。

 

一瞬は侍と思ったが、このざまか。

このような者は斬るのにすら値しない。

唾棄すべき臆病者だ、と。

 

そう思ったからこそ、霧秀は天龍を斬ることを

止めたのだろう。

 

その考えに至った時、天龍は泣いていた。

 

悔しい、と。

仇を取るために必死に研鑽を積んできた。

それが、一瞬にして無駄だと思ってしまう程に

凌駕された。

おまけに、斬る価値すらないと見逃された。

その思いは、誰かに叱責されて欲しいのに

むしろ憐憫の目で見られるのに似たものだった。

 

(畜生、畜生畜生畜生畜生ッッ‼︎)

 

声にならない叫びを上げ、天龍は哭いた。

それに込められた感情は悔しさであり

後悔であり、自身に対する怒りであった。

余りにも非力過ぎた己に対する怒り。

その感情は激しく天龍の身体を躍動し、

跳ね回った。

 

それと同調するように雨も更に激しく、

風も強く吹き荒れるようになっていく。

 

(どうして……どうして俺は……)

 

 

 

 

 

 

(こんなに弱いんだよ……⁉︎)

 

 

 

 

 

「天龍ッ‼︎無事か⁉︎」

 

そこに、誰かが天龍の身体を抱き起こした。

木曾だ。

 

「こんなに冷えて……早く帰港するぞ、

天龍……天龍?しっかりしろ‼︎」

 

軽く木曾は天龍の頰を叩く。

 

「……もっと……強くなりてぇ……」

 

「意識をしっかり持て、馬鹿野朗‼︎」

 

だが、天龍は魂が抜けたような状態となり、

うわ言を呟いていた。

 

「俺が……強けりゃこんなことには……」

 

「わかったから、ちゃんと掴まれ。

クソッ……なんて日だ‼︎」

 

木曾は天龍に肩を貸して、ゆっくりながらも

沖縄鎮守府へと帰港するのであった。

雨は、尚も激しく二人の身体に降り掛かっていた。



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「恐怖」

更新します。


ーーーーーー先日の深海棲艦の襲撃以来、

天龍の元気がない。

なんというのか、目に生気がないのだ。

木曾に担がれて戻ってきた時には既に

こんな状態。

木曾に聞いても要領の得ない答えしか返って

こなかった。

 

今日の朝だって、いつもならしゃっきりとして

朝飯を食べるはずなのに、もそもそと白米ばかり

口に運んでいた。

そして、食べ終わるとすぐに部屋に閉じこもり、

出て来ない。

はっきり言って、今の天龍さんは自暴自棄に

陥っていた。

 

「人っつーのは一旦ああなっちまうと立ち直るのは

結構時間かかるぜ。恐怖ってのは考えまいとすれば

する程強くなっていくからな」

 

「そうね。本人が気付けば必ず立ち直れるわ」

 

木曾と大井が朝飯の食器を洗いながら話している。

俺は食器を運びながら、話の輪に入った。

 

「でも、天龍さんは今まで深海棲艦と戦って来て、

何度も恐怖を経験したはずですよ?

何故今になって……」

 

「何度も恐怖を経験したからといって、

恐怖に慣れることがあるわけじゃないのよ?」

 

「そうそう。戦闘を重ねてきた兵士がちょっとした

怪我でパニックに陥ってしまうようにな。

恐怖ってのはいわば人の断ち切れねぇサガって奴。

断ち切っちまったら人じゃなくなる」

 

木曾は俺から皿を受け取り、洗剤を付けたスポンジ

を使って丁寧に洗う。

大井は洗い終わった皿を食洗機の中へと入れて、

また皿を洗い始める。

 

「じゃあ……木曾さん達も戦う時はいつも恐怖

しながら戦っているんですか⁉︎」

 

「私達だけじゃなく、北上さんや球磨姉さん、

多摩姉さんや龍驤さん達だって、みんなそう。

気付いたり気付いていなかったりするけど、

誰だってみんな恐怖と隣合わせで戦ってるわ」

 

「お前もその一人であることを理解しとけ」

 

「……俺も、ですか」

 

理解はできるが、実感が持てなかった。

俺自身、死にかけた事はあったが、その時は

「絶対に生きて帰る」という一心で恐怖は

全く感じなかった。

俺は、恐怖を目の前にしたらどうするのだろう?

天龍のように塞ぎこむのか、それとも

木曾が言っていたようにパニックに陥るのか。

もっと別の何かかもしれない。

だが、分からないことは考えても仕方がない。

俺は早々に考えるのをやめ、天龍のことを

心配しながらも木曾達の手伝いを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

米軍基地のとある施設。

 

「……そうか、天龍が……」

 

「あの子意外に繊細やからなぁ。今まで耐えてた

分も含めて一気に噴出したんやろ……。

可哀想になぁ……ほんまに」

 

糸井川は龍驤の報告を受けてため息を吐いた。

彼は今までに何度も艦娘が天龍のような状態に

陥ったところを見てきた。

彼女達のほとんどが精神的な問題を抱えて

軍を辞めていった。あるいは一線から退いた。

その姿を見て、糸井川は何度も己の無能さを

歯痒く思ったりした。

そして今、また一人の艦娘が軍を辞めるか

否かの瀬戸際に立たされている。

 

「……何度経験しても、辛いもんだ。

俺にとっても、お前たちにとっても。

仲間がいなくなることは、な」

 

「まだいなくなると決まったわけじゃないわ‼︎

このアホ‼︎そういうことはな、天龍が自分で

決めることなんや。アンタが決めることじゃ

ないんや」

 

「……悪い。口が滑った」

 

彼だって、戦っている。

米軍との交渉や、日本海軍への報告。

港の漁船の船長達へ警戒するように呼び掛けを

したり援軍の要請を他の鎮守府に回したり。

そのためか、最近は余り眠れず、胃の痛みが

強くなっていた。

 

龍驤も彼の様子を察したのか、

「……いや、こっちも、ごめんなぁ。

アンタの事情もあるしな」と言った。

 

眉間のあたりをつまみながら糸井川は

ため息をつき、それからゆっくりと口を開いた。

 

「……なぁ。もしもいつか、こんな下らない

戦いが終わったらさ……」

 

「ん?」

 

龍驤は部屋の中にあったウォーターサーバーから

水を汲んで飲みながら話を聞いた。

 

「なんや、言うてみ?」

 

「……終わったら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と付き合ってくれないか?」

 

刹那、水を飲んでいた龍驤がブフウゥゥッ‼︎と

口内の液体を吐き出した。

 

「おい、平気か⁉︎」

 

「アッ、アアア、アホーーーーーーッ‼︎

何いきなり抜かしてくれてんねん⁉︎

心臓に悪いわ‼︎あーびっくりしたわもう‼︎」

 

顔を真っ赤にしながら龍驤が叫ぶ。

 

「いや、本当に悪い。こういうことでも言わないと

疲れると思ったから、ちょっとな」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ……もう知らんわこのタコ‼︎」

 

龍驤は怒り心頭の様子で糸井川を罵倒すると、

さっさと出ていってしまった。

 

「……半分本気だったんだけどな」

 

糸井川は龍驤の様子を見て、若干申し訳なく

思い、そして少しながら傷心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は〜〜ッ。糸井川のアホはもう……

一瞬本気だと思ったやないか……」

 

龍驤は先程の部屋の外で、火照った顔を

冷やしていた。

 

「普段なら付き合ってくれ、なんてことは

言わないはずなんやけどなぁ……」

 

はたと龍驤は気付いた。

糸井川のその時の目は冗談を言っている目では

なかったことに。

 

「いや、まさかな。……まさかなぁ?」

 

糸井川の言ったことが本気であったのか、

それとも只の冗談だったのか龍驤は知るよしも

なく、暫くの間龍驤はそのことで悶々と頭を

悩ませるのであった。




死亡フラグを建てた糸井川提督ェ……。


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「暗雲漂う孤島にて」

テスト終了。


ーーーーーー南方の孤島。

 

「……暇ネ」

 

南方棲戦鬼は居心地の良さそうな、しかし

年季の入ったボロボロのソファに腰掛けながら

そう呟いた。

 

サンズ達に沖縄鎮守府の無力化を命じたはいいが、

サンズ達は自分が命令を下す前にとっとと出撃。

おまけにイ級やハ級などの駆逐艦を数隻、

彼女に伝えずに連れて行ってしまった。

 

彼女にとってはかなりそのことは頭に来た。

自分には(南方棲戦姫)ほどの指揮能力は

ないが、それなりにはあるはずだと自負していた。

だがサンズは事前にそのことを重々伝えたのに

それを無視して勝手に行ってしまったのだ。

 

「暇ナ上ニムカツイテショウガナイワ……‼︎

アノトカゲ男メ……私ヲコケニスルト後デ

後悔スル事ヲ思イ知ラセテヤル……‼︎」

 

「……アノ〜、戦鬼様?ゴ報告ガアルノデスガ」

 

爪を噛んで恨み言を呟いている戦鬼に、

おそるおそるといった様子でリ級が話しかけた。

何故か、猫を抱いた状態で。

 

「何?今ノ私ハ気分ガ良クナイノ。ソレトモ、

ソノ気分ヲ払拭シテクレル良イ知ラセナノ?」

 

そう言ってリ級の顔を見た戦鬼の眼光は鷹の

ように鋭く、リ級は思わず「ヒッ……」と

怯えたような声を上げた。

 

「早ク答エナサイ。私ヲイライラサセル気?」

 

「ハッ、ハイィ……エト、ソノ。実ハ先程、

最初ニ“ゲンブ”ト呼バレテイタ者ト同行シテイタ

ル級トロ級ガ帰還シマシタ」

 

「何デスッテ⁉︎彼女達ニ行カナイト‼︎」

 

「ダメデス。今ル級ハ集中治療ヲ受ケテイル

途中デス。雷撃ヲモロニ喰ラッテ

右手ト右ノ足が半分吹キ飛ンダ状態デシテ……

正直、生キテイルノガ不思議ナ位ダソウデス」

 

「……ソウ……ナラ、祈ルシカナイワネ……」

 

「ソレトモウ一ツ」

 

リ級はそう言って抱いていた三毛猫を戦鬼に

見せた。

 

「先程、海岸沿イデ見ツケマシタ。

コノ島ニハ猫ハイナイハズナンデスガ。

ドウシマスカ?」

 

戦鬼はじっと猫を見つめていた。

彼女にとって猫や犬は人間が愛玩している

動物という認識のみで、何故人間が溺愛するのか

理解出来なかった。

 

(丁度良イ。何故人間ガ溺愛スルノカ

確認シテミマショウカ。暇潰シニモナルシ)

 

「……少シその猫、貸シナサイ。

後デ処分ノ仕方ヲ考エルワ」

 

「? ハァ……」

 

リ級は戦鬼に猫を預けて、去っていった。

戦鬼は猫を抱いて、それからいつも人間が猫に

対して行うような撫で方……顎の下を

くすぐるように掻いた。

 

すると猫はゴロゴロと喉を鳴らして、

彼女の膝の上に乗って、丸まった。

戦鬼は丸まっている猫の背中を撫でた。

生物特有の温さが膝に伝わる。

 

(……猫トイウ生物ハ……マダヨク知ラナイガ……

マァ、ナントイウカ、コウヤッテ猫ト

触レ合ッテミルノモ……中々良イ)

 

初めて味わう感覚が戦鬼を包んだ。

ずっとこのままでいたいと、そう思った。

 

「アァ……猫ッテ、コンナニ……可愛イノカ」

 

「……何しとん姫さん?」

 

突然に、背後から声がかかる。

 

「ヒィイイイイヤアアァァッ⁉︎」

 

驚いた拍子に、ひょいと猫が膝から下りて

彼女の元から逃げて行ってしまった。

 

「あー、驚かせたんなら申し訳ない。

リヴァイア・サンズ、只今帰還しました」

 

「サンズ……貴様イツノ間ニ……」

 

「いや、ついさっきなんですが?

とりあえず戦果としちゃあ、王手の一歩手前まで

動かしてみたんですけどね?」

 

「……肝心ノ内容トシテハ、ドンナ感ジダ?」

 

サンズは腕組みをして、ニヤニヤと笑いながら

報告する。

 

「霧秀を鎮守府に向かわせました。

暗殺者、として。隙を突いて提督及び艦娘を

暗殺する次第です」

 

「ナルホド……奴ノ暗殺者トシテノヤリ方ハ

知ラナイガ、余程ノ手練レナノデショウ?

私ノ姉ノ暗殺を依頼シタ時ダッテ、

僅カ1週間デ暗殺シテミセタノダカラ」

 

戦鬼は姉である南方棲戦姫に追放された身で

あった。それ故に姉を恨み、なんとかして

彼女の座についてやろうとあらゆる手段を

模索した。

そんな時に出会ったのが霧秀である。

彼女は霧秀の纏う空気に興味を持ち、彼を

引き入れた。そしてある時、彼に問うた。

「オ前ハ私ノ姉ヲ暗殺デキルノカ」と。

「一カ月時間をくれれば出来る」と彼は答えた。

 

実際には一カ月も時間は必要なかった。

一週間という要人の暗殺を行なったには

いささか早すぎるスパンで彼は戻ってきたのだ。

そして、戦鬼に向かい、こう言った。

「暗殺は成し遂げた」と。

そして、彼女にあるものを渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

心臓。人間か、もしくはそれに近い生物の

心臓であった。それは未だ脈動を続けており、

その時、彼女は自分がとんでもない逸材を

見つけたと認識させた。

 

「霧秀の暗殺の技術は誰にも真似出来ない。

奴だからこそ行える初見必殺の技だ」

 

「フフ……彼ガ味方デアルコトガコンナニ心強イ

コトハナイワ……ケレド、サンズ。

モシモ暗殺ガ失敗に終ワッタラ、ドウスル気?」

 

「御心配なく。ちゃーんとね、俺だって

奴等を引きずり出せる切り札を持ってるんですよ」

 

そう言って、サンズはそれをフジツボ達に運ばせて

戦鬼に見せた。

みるみるうちに戦鬼の顔が驚愕に染まり、

そして喜色の笑みを浮かべた。

 

「……コレヲ使エバ、簡単ニ、確実ニ奴ラヲ

誘キダセルッテ訳ネ……‼︎サンズ、貴方

中々ノ策士ジャナイ‼︎アハハハハッ‼︎」

 

「でしょう⁉︎相手を確実に殺るために十重に、

二十重に策を講じる。これこそ策士サンズの

本領発揮‼︎後は仕上げを待つだけ‼︎

ヒャハハハハッハハハッゴホッゲホケホッ」

 

艦娘達を待ち受ける罠が何をもたらすのかを

考え、二人は高笑いをするのであった。



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「雨は尚降り続ける」

更新します。


夜間、長月と多摩が近海の警戒から戻ってきた。

 

「異常はなし。ただ、天気が良くないが。

もしかするとこの天気に乗じて深海棲艦が

攻めてくるかもしれないな」

 

長月の言う通り、外は酷い雨だった。

バケツをひっくり返したような感じで、風も強い。

 

「一応多摩達も念を入れて警備したけど、

確認は出来なかったにゃ」

 

次の警戒班である北上と球磨がその役割を

引き継ぎ、長月と多摩は仮眠をとるため寝室に

入っていった。

 

「あいつら、消耗戦に持ち込む気やな」

 

「ですね」

 

もしも奴らに攻める気があるのならば一気呵成に

攻めるだろう。おまけに丙型生命体と深海棲艦の

混合艦隊だ。勝算は十分にあるはず。

なのに攻めないのは、俺達の士気を出来る限り

削る作戦だろう。

いつ襲撃をかけてくるのかわからない状況が

いつまでも続くのは神経にかなりくる。

即ちそれは士気の低下や精神の疲労に繋がるのだ。

 

「まずいで。このままやとじり貧や。

早よ敵さんの本拠地を叩かんと」

 

「でも、そもそもどこにあるのかわからないのに

どうやって探すんですか?」

 

「艦載機を飛ばして地道にやるしかないなぁ……

あー、もう。チマチマやってくる奴ってウチ

大嫌いやっ‼︎」

 

龍驤は頭を掻いて、それからはあ、とため息を

ついた。

俺は無力感に苛まれていた。皆がこんなにも

頑張っているのに、俺は何の役に立たない。

ただの木偶の坊だ。せめて、何かで皆を

助けたいと思うのだが……。

 

「……俺も、少し眠ってきます」

 

「あぁ。おやすみ、レンゲ」

 

どうしようもない問題に俺は頭を悩ませながら、

ベットに潜り込みのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、米軍基地の居住地区のとある建物内。

 

「なんだって⁉︎今すぐに兵士達全員を連れて

帰還せよ、だと‼︎本当に上層部からの命令が

下ったのか⁉︎」

 

ジャックの驚きの声が木霊した。

 

「声が大きいぞ、ジャック・エルリック中佐。

ああ、確かにそう先程上層部から命令が下った。

もはや日本は沖縄を維持するのは不可能だろう。

我が米軍の戦闘機も殆どがおじゃんだ。

最早我々に出来ることはない」

 

ハワードは、無機質な声でそう言った。

 

「精々、見守るぐらいだろうな」

 

「し、しかし‼︎今米軍基地に残っている部品を

使用して地元の企業の工場で戦闘機を製作している

所だ。それが完成すれば……」

 

「たかが知れてる。1機や2機で戦況を覆すことが

出来たら今ごろ深海棲艦はこの世にいない」

 

室内に備え付けてある椅子に腰かけて、

ハワードはタバコに火をつけ、一服した。

 

「諦めたまえ。あまりそう固執するとろくな所に

行けないぞ、それでもいいのかね」

 

「……くっ……‼︎」

 

口惜しそうに歯をくいしばるジャックを見て、

ハワードは灰皿に灰を落とし、最後に

「明日の18時に帰還するための飛行機が

到着する。それまで、日本の艦娘達に

別れでも告げておくのだな」と言って、

彼を残して出て行った。

 

ジャックは、行き場のない怒りに拳を

握りしめて、同時に自分の無力さを思い知らされ、

艦娘達に申し訳なく思った。

 

「……糸井川提督にこの事を話さなければ。

何も言わないのは良心が痛む」

 

そう思い、ジャックは糸井川提督のいる建物に

向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、やっぱり。置いてきてしまったか」

 

糸井川は自身の机の引き出しを探って、

ため息をつくように言った。

そして、隣で書類を作成している龍田の方を向く。

 

「すまん、少し鎮守府に用があるんだが……

龍田、構わないか?」

 

「別にいいわよ〜。でも外、凄い雨だし。

鎮守府だってかなり壊れてるから明日にした方が

いいんじゃないかしら〜」

 

「そうもいかない。大切なものだからな」

 

「……まぁ、そこまで言うんだったら無理強いは

しないけどね〜。風邪ひいたりしないでね〜」

 

「俺のことを心配してくれてるのか」

 

「私や天龍ちゃんに移るから。風邪ひいたら

近寄らないでね〜」

 

「……ご忠告どうも。行ってくる」

 

糸井川は苦笑いを浮かべて、傘立てに置いている

ビニール傘を持って、外に出ていった。

 

龍田はそれを見送ると、外の天気を眺めて、

小さく呟いた。

 

「今夜は荒れそうね〜……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は、夜間に目を覚ました。

他の皆は仮眠をとっているか、それか他の人の

手伝いだ。

いつも脇に置いている刀を手に取る。

 

そして、窓から外の天気を眺めた。

酷い天気だ。あの日と同じ。雨は強く、風が

荒れている。

ジワリと胃の腑に滲むような痛みが湧いた気が

した。こんな日には必ず、何か嫌なことが

起きてしまうのではないかと錯覚してしまう。

 

いてもたってもいられず、天龍は服を着替え、

誰かを起こさないようにそっと部屋を出た。

刀も忘れずに携行している。

 

外に出て、ふと天龍は、自分のペンダントの

ことを思い出した。大体の人に当てはまるが、

忘れものというのは大抵結構時間が経ってから

思い出すものだ。

ただ、彼女が忘れていたペンダントは父の

形見だった。中に家族の写真が入っている。

天龍にとっては命並みに大切なものだった。

 

(どこにやったか⁉︎施設の中?いや、ないな。

時間を遡ってみるか……)

 

そう思って天龍は自分の行動を振り返った。

沖縄鎮守府に着いてからペンダントは常時首に

かけていたはず。確か、爆撃の日だって……

 

(あれ、待てよ。その日かけてねぇや‼︎

となると……鎮守府の方か。参ったな、

錆びたりしてないといいんだが)

 

爆撃が起きてからは鎮守府の中には一度も

入っていない。となるとあるとすれば

半壊した鎮守府の中だろう。

 

天龍は小さく見える半壊した鎮守府を見やり、

ペンダントの無事を祈りながら走ってそこに

向かうのだった。




感想、質問等待ってます。


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「少女は恐怖に立ち向かい」

更新。


 

ポタ、ポタと天井の穴から水滴が落ち、水たまりを

形作る。

 

「ちくしょう……どこにやった?」

 

天龍は半壊した鎮守府の中で、ペンダントを探して、

黒く焦げた机をどかした。

 

「親父の形見をなくしたとなっちゃ、悔やんでも

悔やみきれねぇよ……」

 

ぶつぶつと独り言を呟きながら、目を皿にして

探し回る。

と、彼女の視界になにか光るものが入ってきた。

 

「ッ! あった‼︎」

 

天龍は急いでそれを拾い上げる。

そのペンダントはとても古びていて、

チェーンのあちこちに汚れが見受けられた。

しかしそこにはめ込まれている翠玉は汚れ一つなく

綺麗に輝いていた。

 

「ふう……よかった〜。30分も探した甲斐が

あったぜ。さて、と。戻るか」

 

ペンダントを首に掛けながら、天龍は昔のことを

思い出した。

このペンダントを眺める度、家族と過ごした

記憶が蘇る。中には悲しい思い出もあった。

だが、それ以上に楽しい記憶の方が多かった。

 

 

唐突に天龍は父とのとある問答を思い出した。

 

 

それはまだ天龍が7、8歳ぐらいの時。

剣道を始めたばかりだった彼女はその頃、

自分に対して振るわれる竹刀に怖気付き、

及び腰になってしまうことが多々あった。

 

父はそれを知っていた。だが、何も言わず、

むしろ彼女がぎりぎりで捌けない程度の

速さで毎日彼女の稽古をつけたのだ。

無論、天龍は泣いた。泣いて父を罵倒した。

なんでこんな怖い思いをしてまで剣道を学ばないと

ならないんだ、と。

父は何も言わなかった。彼は口下手で、何かを

言葉で表現するのは苦手だった。故に、

彼女の罵倒を何も言わずに聞き、そして必ず

こう言った。

 

「お前の為だ」。たったその一言だけを述べ、

再び彼は稽古をつけた。

 

やがて、その稽古が半月を過ぎる頃、天龍は

ある事に気付いた。

 

父の剣筋が読める。

剣筋さえ読めてしまえば、捌くなり反撃を

仕掛けるなりいくらでも対応は出来た。

 

そして、初めて父の剣を捌き、防具をつけた

脇腹に胴を打ち込んだ時、父は彼女を褒めた。

 

「よく頑張ったな。恐怖心を乗り越えるには

とても苦しかったろう」

 

そこで初めて、父の本意に気付けた。

恐怖心を克服するには、たった一つの解決法しか

ない。「ひたすら挑戦して、恐怖心の源を

知り尽くす」ことだ。

 

恐怖心とは、いわば知らないものへの怯えだ。

徹底的に、納得いくまで不安が消えるまで調べろ。

知らないことを、不安に思ってただ遠ざけるなと。

 

口下手な父は、言葉で表現せずにあえて行動で

その事を示したのだ。

真意を理解した天龍は、父に泣きながら

感謝を伝えたのだった。

 

その事は、今でも鮮烈な印象で天龍の記憶に

残っている。

 

「……あぁ。なんだ」

 

その父の教えを思い出し、彼女は微笑した。

 

「そういうことか」

 

霧秀に指摘された恐怖とは、父が伝えたものと

そう変わりない。ならば、解決する方法も

同じだ。

ひたすらに彼と斬り結び、彼の全てを理解する(・・・・・・・・・)

彼が何を思い、何の為に刀を振るうのか。

それは天龍には分からない。

ただ自分の守るべきものの為に刀を振るうのみ。

天龍がすべき挑戦はそれだけであった。

 

「迷って迷って、迷った挙句の答えがもう

昔に出てたとはな。自分が馬鹿みたいに思える」

 

自嘲して天龍は、鎮守府の出口へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、糸井川も目的のものを見つけ出していた。

 

「良かった、濡れてない。それに焦げてもないし」

 

彼が探していたものは一枚の写真であった。

糸井川は写真を白い軍服の胸ポケットに

入れ、それから安堵の溜息をついた。

 

「はあ……良かった、本当に見つかって良かった」

 

と。彼の背後で物音がした。

 

「‼︎誰だ‼︎」

 

その問いに答えるように、一つの影が彼の前に

姿を見せた。糸井川はそれを見てほっと息を

吐いた。

 

「なんだ、お前か。探し物でもあるのか?俺は

今見つけた所だ」

 

糸井川は「お前も探し物見つかるといいな」と

言いながら影の横を通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィィィィイィィイッ‼︎

 

突然に、その音は鎮守府の中に響き渡った。

 

「……くっ……おお……」

 

影が糸井川に向け、振り落とした刀。

 

「て、天龍……お前……」

 

それを、天龍が横から刀で止めていた。

 

「……ッおりゃあああぁぁぁ‼︎」

 

ガッ、という音と共に影の刀を弾く。

影は天龍の追撃を避ける為にバックステップで

彼女から距離を置き、糸井川と天龍を見据えた。

 

「間一髪だったな、感謝しろよ」

 

「ああ。だが、何故……」

 

糸井川は天龍の横に立って、影に呼びかけた。

 

「何故……お前が俺を殺そうとするんだ⁉︎

俺達は仲間だろ⁉︎」

 

その声には訳が分からないといった焦燥が

含まれていた。

その問いに影は答えない。

 

「なあ、答えてくれ‼︎なんで俺を殺そうとした‼︎

ーーーーーー答えろ、木曾ッ‼︎」

 

影がゆっくりと天龍達に歩み寄る。

窓からのほんの僅かな光が、影の……否、

木曾の横顔を映し出した。

その顔には一切の感情は窺えない。

ただ、圧倒的な殺意のみが辺りに満ちている。

 

「……悪いが……死んでもらう」

 

そしてその声も無機質であった。

木曾が刀を構える。

天龍も無言で刀を構えた。

 

 

雨はまだ、止みそうにない。



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「暗殺者は闇に消える」

更新します。


刀を構え、木曾が大きく天龍に向かい踏み込む。

狙いは急所の首。鋭い突きを放つ。

天龍は体の軸をずらして皮一枚の差でそれを

回避する。

 

「……ちッ」

 

僅かな舌打ちをして、木曾は素早く刀を引いた。

天龍はその隙を見逃さず、上段から刀を全力を

込めて叩き込む。

 

ガヅッ、という音と共に刀と刀が衝突する。

木曾の体がぐっ、と後ろに押され、天龍の刀の

切っ先が木曾の額を僅かに切った。

 

「何やってんだ‼︎早く逃げろ‼︎」

 

天龍が糸井川の方を向き叫ぶ。

 

「だ、だが‼︎俺と木曾は共に戦ってきた仲間だ‼︎

何故俺に剣を向けるのかは知らないが、

とにかく話し合えば……」

 

「違う、そうじゃねぇよ‼︎」

 

ギリギリと刀を押し込めながら天龍はそれを

遮り、彼が勘違いしている所を訂正した。

 

こいつは木曾じゃねぇ(・・・・・・・・・・)。木曾に化けた何かだ‼︎」

 

その時、刀を防いでいた木曾が一瞬の隙をついて

天龍の腹を勢いよく蹴った。

 

「がっ⁉︎」

 

そしてその反動で天龍の刀の届く範囲から離脱し、

そして改めて二人を見据えた。

 

「ッ……なぁ、そうなんだろう?お前が木曾じゃ

ないってことは分かってるんだ」

 

天龍の言葉に対して、木曾であるはずのそれは

一切の感情を纏わない声で返答した。

 

「……驚いたな。いつから、木曾ではないことに

気付いたんだ?」

 

「確信出来たのはお前の手のひらを見た時だ。

木曾はな、左手の親指の辺りに竹刀ダコがある。

こないだ、剣を交えた時にはそれはあったんだ。

だが、今のお前にはない。タコっていうのは

そう簡単に綺麗に消せるものじゃないんだよ」

 

その言葉を聞いて、それは微笑を浮かべ、

「なるほどな、竹刀ダコ、か」と呟いた。

 

「まさかそれで看破するとはな」

 

「ああ、俺だって一目見ただけじゃ偽物だって

分かりゃしなかったよ。

……なぁ。もう偽物だって分かったんだ。

そんな姿でいないで、本来の姿を見せたら

どうなんだ?……クラゲ野郎」

 

それは押し殺したような笑い声を上げた。

それは自分のいたずらがバレた時に子供が

するような笑い方にも似ていた。

 

「そうだな。言う通りにしよう。

この姿だと“すかーと”という布が邪魔だ。

それに、股間の辺りがスースーして気持ち悪い事

この上ないからな……」

 

ドロッ、とその体が融けた。

まるで氷の溶ける様を早送りしているように

その体は色彩を失い水のようになってゆき、

やがて体があった場所には水溜りが出来ていた。

 

 

そして、今度はその逆の事象が発生した。

水が盛り上がり、足を、腰を、体を作り上げる。

……水溜りが消え、その代わりに一つの影が

立っていた。

 

2m近くある痩躯。その腕は身体のバランスに

似合わず細く長く、落ち武者のような髪……

否、触手を頭から垂れ下げた姿。

その表情は真っ白な面の下に潜み、窺うことが

出来ない。

 

「……天龍、だったな。残念だが、某は今

主とは斬り合ってはおられぬ。そこをどけ」

 

錆びた声でその影は、霧秀は天龍に告げた。

 

「悪いが、こっから先は有料だぜ」

 

「……そうか、ならば。これも任務遂行の為だ。

主諸共あの男を地獄に送るまでよ」

 

霧秀が片手で刀を構え、天龍に向き合った。

 

「おい、とっとと逃げろ。俺じゃこいつの足止め

ぐらいにしかならねぇ」

 

糸井川はそれを聞くと、ふっと笑って腰の軍刀を

抜いた。

 

「ッ‼︎聞いてんのか‼︎逃げろっつったんだよ‼︎」

 

「……男がいつまでも女に守られてちゃ、

恥ずかしいだろ?」

 

それに、と糸井川は続ける。

 

「お前で足止め出来るなら、2人でやったら

倒せると思うんだが」

 

「ッー……馬鹿野郎……」

 

思わず天龍が頭を抱えた。

 

「まあ確かに俺じゃ力不足かもしれないが……

一応、これでも木曾に剣を教える程度には

俺は強いぜ」

 

そう言って、糸井川は刀を正眼に構え、

霧秀へ言い放った。

 

「さっきはあんな手を使ったんだ、首が飛ぶことを

覚悟しておけ」

 

その言葉には、仲間の姿を利用したことへの

怒りが込められていた。

 

「首が飛ぶ、か……果たして、どちらの首が

飛ぶか、試してみるか?」

 

刹那、霧秀と糸井川の刀が衝突した。

甲高い鋼の音を響かせ、両者の体が激しく

躍動する。

 

隙の無い攻撃を的確に繰り出す糸井川。

その剣戟を片手のみでいなしてゆく霧秀。

両者共に高度な攻防を繰り広げていた。

 

と、霧秀は反撃を繰り出す。

その一撃を糸井川は受け止め、霧秀の腹に

蹴りを叩き込む。

鈍い音と共に霧秀の体がぐらりと揺れる。

その隙を見逃さず、糸井川は刀を一閃した。

刀は霧秀を腰斬し、その体を二つにする。

 

もはや勝負は決したかに思えた。

 

「……ちっ‼︎」

 

瞬間、霧秀の体が色彩を失い、唯の液体に変わる。

 

液体は床に落ちると糸井川から距離を置くように

床を這ってゆき、再び霧秀の姿を形作った。

その姿は腰斬される前と全く変わらない。

 

「液体になって体を再構築したか……」

 

「首を飛ばすと言っておきながらこれ、か。

……つまらぬ。このような児戯は早々に

終わらせるに限る」

 

霧秀は吐き捨てるようにそう言って、刀を

床に突き刺した。

 

「……某、霧秀は武士であり暗殺者。

今ここに、暗殺者の技をご覧に進ぜようぞ」

 

グッ……と細長い右の手を握り締め、霧秀は

糸井川に向かって走り出す。

 

糸井川は真っ向から霧秀を両斬せんと刀を

振り落とす。

先に届いたのは糸井川の刀だ。

霧秀は体をよじりそこへの一撃は回避したが、

握りしめていた右手に刀が命中、

右手を二つに割いた。

 

「阿呆。某の技は……」

 

霧秀の喝と共に、斬り裂かれた右手が

刀が通り過ぎてゆく所から再び癒合してゆく。

 

「なッ⁉︎」

 

そして、霧秀の伸ばした右手は糸井川の左胸、

心臓部に到達し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、血の一滴も出すことなく(・・・・・・・・・・・)

糸井川の心臓を持った状態で左胸を貫いた。

 

 

「某の技は、見敵必殺だ」

 

霧秀の錆びた声が、鎮守府の廊下に響いた。




霧秀の能力解説。
≪液体化能力≫
自身の身体、もしくは別の物体を液体状に
することが可能。
主に隠密、暗殺の用途に使用する。
水中で使用すると周りの水と同化して消滅する
可能性があるので、水中では数秒程度しか
使えない。また、能力を解除すれば液体化した
物体は元の形状、状態に戻る。


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「静寂の闘い」

長期の休載申し訳ありませんでした。



天龍は、自分の目が信じられなかった。

霧秀の腕が、一滴の血も流す事なく糸井川の

心臓を掴み出す様を。

 

だが、霧秀は天龍に目もくれる事なく

糸井川の心臓を掴む力を強くし、握り潰そうと……

 

「く、う……おおおおおおおおおッ‼︎」

 

そこで動けなかった糸井川が決死の覚悟で

突撃。霧秀の腹に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「ぐおっ……」

 

その一撃に霧秀は思わず心臓を手放してしまい、

数歩後退する。

しかし霧秀はそのままでは終わらず、

先程床に刺していた刀を手に持ち、糸井川へ

斬りかかった。

 

蹴りを打ち込んだ直後の糸井川にはこの一撃を

避けることは出来ない。

 

「らああああああっ‼︎」

 

そう、ただ一つ、天龍の介入がなければだ。

 

天龍は大上段からの一撃を自身の刀で防ぎ、

そのまま跳ね返した。

 

「……ちっ。まさか破られるとはな。

やはり、背後から行うのが一番か」

 

霧秀はそう吐き捨てると背後の闇の中に

素早く姿を消した。

 

天龍が恐る恐る糸井川に近づき、話しかける。

 

「お、おい。大丈夫か?心臓掴み出されてたぞ?」

 

「あ、ああ。見てくれ、これを」

 

糸井川の心臓を見ると、霧秀の一撃で穿たれた

胸の穴が、彼の心臓を穴へと引きずり込みながら

小さくなってゆき、心臓を完全に呑むと同時に

完全に消滅した。

 

「……無事、って事でいいんだよな?」

 

「多分……そうだと思うが。まだ奴は諦めたとは

思えないな」

 

確かに、霧秀は暗殺者としてここに来た。

一度失敗した程度で諦めるとは思えない。

 

「だが、失敗は犯している」

 

そう、霧秀は暗殺者としてたった一つだけ、

ミスを犯した。

 

「奴は本来なら今さっきの一撃で、俺を

殺すはずだった。けど、失敗した。

そうなると次からの奇襲はとても難しい。

恐らくは闇に紛れて撤退したいはずだから、

タイムリミットは朝まで。そこまで生き延びる

事が出来たら俺達の勝ちだ」

 

朝まで耐えずとも、誰かが糸井川達のいない事を

訝しみここを訪れるかもしれない。

そこまで生き延びられても天龍達の勝ちと

言えるだろう。

 

「……おい、少し静かにしてくれ。

何か聞こえないか?」

 

「……?」

 

天龍が糸井川を制して耳をすます。

最初は糸井川は聞き取れなかったが、やがて

彼の耳にもその音が聞こえてきた。

 

その音はまるで、何かが滑ってくるような音。

それがまっすぐに、こちらへと向かって……。

 

「ッ‼︎体を伏せろッ‼︎」

 

天龍はその音の正体をいち早く看破し、

糸井川の体を自分の身体と共に床に伏せさせた。

 

まさにその瞬間、

日本刀の刃がまるで鮫の背ビレのように(・・・・・・・・・・・・)

壁を滑りながら二人の頭上を奔り抜ける。

 

「な……なんだありゃあ……⁉︎」

 

「やっぱり……あいつの能力は常識の範囲を

超えてやがる……走るぞ‼︎今なら奴も

追ってこねえ‼︎」

 

「あ、ああ‼︎」

 

二人は互いの身体を起こすと、出口を

目指して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、仮沖縄鎮守府では。

 

「いない?イトイガワがここに?」

 

「ええ。まあ〜提督はどこに行ったのかしらね〜

そろそろ戻ってきてくれないと半殺しじゃ

済まなくなるわ〜」

 

ジャックはその言葉に苦笑いしながら、

「じゃあ、どこにいるのか分かりマスカ?」と

聞いた。

 

「そうね〜……あ、確か半壊した鎮守府に

用があるって言ってたような」

 

「そうデスカ。じゃあもしかしたらそこに

いるかもしれマセンね。thanks,タツタ」

 

「ああ、そうだジャックさん。私が代わりに

行きましょうか〜?」

 

「え、いいんですか?」

 

龍田はニコニコしながら、

「こんな雨の中、ジャックさんに行かせる

訳にはいかないわ〜」と答えると、

念の為自らの得物を取って糸井川が向かったはずの

半壊した前鎮守府へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

「走れええええええええッ‼︎」

 

「うおおおおおおおおッ‼︎」

 

二人は壁を奔る刃に追われていた。

全速力で走っているのだが、刃との距離は

全く離れることがない。

むしろ、だんだんと近づいてきている。

 

「おい、どうすりゃいいんだよ⁉︎」

 

「俺に聞くなああッ‼︎」

 

だがどうにかしないと、いずれあの刃に

切り裂かれるのは時間の問題だ。

 

(落ち着け……奴はどうやって俺達の位置を

感知してる?あの状態だと目は効かないだろう)

 

日本刀の刃以外を液体化した状態では、

目も何もあったものではない。

見えず、聞こえず、匂わず……。

 

(ッ‼︎そういう事か‼︎)

 

「糸井川‼︎刃の届かない床に一旦伏せろ‼︎」

 

そう言いながら天龍は自分の身体を再び伏せる。

 

「分かった‼︎」と答えると同時に糸井川も

それに従った。

 

刃が再び二人の頭上を通過する。

 

「よし……このまま音を立てずに行くぞ」

 

「?何故だ?」

 

「奴は“振動”で俺達を感知してるんだ。

恐らく、今さっきまで追ってきたのも走る時の

床の振動で位置を特定したんだと思う」

 

液体化して、視覚も聴覚も嗅覚もない。

そんな状態でこちらの位置を特定できるとすれば、

触覚によってとしか思えない。

 

「今、奴がまた戻ってこないのがその証拠だ。

多分、俺達がどこにいるのか分からないんだろう」

 

「と、するとだ。俺達は走る事は出来ないって事か」

 

「だな。匍匐前進か、ゆっくりと歩いて行くか」

 

ゆっくりと、床を軋ませずに糸井川は立ち上がると

そろりそろりと歩き始めた。

 

「匍匐前進だと時間がかかる。歩いて行こう」

 

「了解」

 

霧秀が液体化によってこちらの位置を特定出来ない

間に、二人は再び出口へ向かって移動を始めた。

 

 



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「剣戟」

たび重なる霧秀の妨害を受けながらも、

天龍と糸井川はなんとか出口まで後少しの所まで

たどり着いた。

 

「あと少しだ。出口を抜ければ俺達の勝ちになる」

 

その言葉に、大きく糸井川は頷き、

「ここから出たら、乾杯でもしたいな」と言った。

 

「それ、死亡フラグじゃねーか」

 

「?なんだそれ?」

 

多少の軽口を叩ける程度には二人の心も

安定していた。

この時までは、だ。

 

二人の頭上を何かが飛び越える。

二人が身を固めると同時にそれはビチャッ、と

水音を立てて着地し、すぐさま一つの形を成した。

 

「……まさか、某から逃げられるとでも

思っていたのか?だとしたら……」

 

そう言いながらそれは……霧秀は刀の切っ先を

天龍達へと向け、嘲笑った。

 

「少々、痛い目にあった方がいいぞ」

 

「ッ……‼︎」

 

天龍が刀を抜いた。霧秀が構える。

 

「来い。遊んでやる」

 

そして、両者の刀は、闇の中火花を散らして

激突した。

刹那の内に斬光が幾重にも放たれる。

だが、すぐさま趨勢は大きく霧秀に傾く。

 

一度天龍と刀を交えた身。

彼女の癖は既に見て、覚えている。

 

「クアアアアアッ‼︎」

 

「ぐっ……‼︎」

 

力の乗った一斬によって天龍の身体が後退

させられる。

 

「天龍‼︎俺も加勢するぞ‼︎」

 

糸井川が腰に差していた軍刀を抜きながら

天龍に向かって叫んだ。

 

「退がってろ‼︎奴の狙いはお前だ‼︎」

 

それに、と天龍は霧秀を見据え、なんと

薄く笑った。

 

「まだ奴には用があるからな‼︎」

 

糸井川は一瞬躊躇したが、

「分かった、頼む‼︎」と引き下がった。

 

「用、か。質問程度なら受け付けてやろう」

 

「……だろうな。じゃあ、ひとつだけ」

 

そう言って天龍は一呼吸置き、霧秀に問うた。

 

「最初に剣を交えた時。お前はくだらないと

思ったのか?」

 

「ハッ。何を言うかと思えば……馬鹿を言え」

 

霧秀は刀を再び構えると、質問の答えを

返した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ程の剣戟。くだらないと思う訳がないだろう」

 

「……ああ。だと思った」

 

歯を剥き出しにして天龍が嗤う。

まるで、獲物を見つけた捕食者の如く。

そして霧秀へと刀を構えると、低く、

「来い」と言った。

 

「……ならば、今度はこちらからゆくぞォッ‼︎」

 

裂帛の叫びと共に霧秀が一歩踏み込んだ刹那。

 

 

 

 

 

 

刀の切っ先が霧秀の目の前にあった。

 

(……ッ⁉︎馬鹿、な……)

 

二人の距離は一歩や二歩縮めても刀を交える事は

出来ない程度には遠い。

だというのに、現に今切っ先は霧秀の目の前に

存在している。

この矛盾した事実の原因を、今までに何度も

修羅場を潜り抜けてきた霧秀の頭脳は

看破した。

 

(投擲、か……‼︎小癪な真似をォッ‼︎)

 

確かに近距離での攻撃法しかないと思っている敵に

この奇襲は効果があるだろう。

 

だが……。

 

「ルアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

霧秀に対してそれは意表を突いたものの、

表皮に届く前に打ち払われる。

打ち払われた刀は天井にぐさりと突き刺さった。

 

(中々に良い奇襲だったが、惜し……ッ⁉︎)

 

刀を打ち払った次の瞬間、霧秀は天龍が

こちらに向かってくるのを見た。

 

(本命はこちらか‼︎)

 

投擲された刀を打ち払った直後の為に

隙だらけとなった霧秀にはどうすることも出来ず

天龍の鋭い蹴りが霧秀の鳩尾を撃ち抜く。

 

「ごはッ‼︎」

 

更に天龍は蹴りの反動を利用して跳躍。

天井に突き刺さっていた刀を引き抜き、

引き抜く勢いそのままに思い切り

霧秀の頭目掛け打ち下ろした。

 

「秘剣……“兜割り”ッ‼︎」

 

蹴りによって怯んでいる霧秀にこの一撃は

まともに入る。

天龍の鋭い斬撃は彼の頭を秘剣の名の通り

かち割る……はずであった。

 

天龍の刃が霧秀の頭に直撃する寸前、

彼の上半身が消えた。

 

「なっ⁉︎」

 

否……消えたのではない。

彼は消えたとすら錯覚させる程の速度で

身体を床と水平になるまでに反らせたのだ。

 

空を切る刃。天龍は舌打ちしながら着地すると

霧秀から距離を置いた。

 

「危うい所だった……。鳩尾を足場にして

更に跳躍するとはな。誰かの受け売りか?」

 

「マンガの受け売りさ」

 

それを聞いて霧秀はくつくつと笑うと、

だらりと刀を下げた。

 

「まあ、お喋りはここまでにして。

某もやる気を出そうか」

 

そして片腕だけで刀を持ち替えると、

ぐっ、と身体を沈ませた。

 

「……頼むから、一発目で死ぬなよ?」

 

そう言うと、霧秀は天龍目指して駆けた。

そして天龍を攻撃範囲に認めるや否や

袈裟斬りを叩き込んだ。

だがその振りは先程とはうってかわって、

乱雑そのもの。

腕の力だけで振るわれたワイルドスイングに

とても近い。

 

(左から右にかけての袈裟斬り……。

止めてやるッ‼︎)

 

天龍が霧秀の斬撃を受けようと動いた直後。

 

 

 

 

 

 

 

刀が曲がり(・・・・・)、天龍の左腕を深々と

切り裂いた。

 

「……っ⁉︎ぐ、うああああああああ‼︎」

 

天龍は悲鳴を上げながらも霧秀から距離を取る。

 

そして、彼の刀を持つ腕を見て、絶句した。

 

その刀はうねっていた。唸っていた。

蛇の如く刀が湾曲し、凄まじい風切り音が

天龍の耳に鳴り響く。

 

(ま、さ、か……ッ⁉︎)

 

それを見て、天龍の頭脳はたった一つ、

あり得ないがそれしかないと思う答えを

見つけ出していた。

 

「微細かつ流動的な筋肉の動きで剣に

残像を生み出しているのか……⁉︎」

 

その原理は、目の錯覚。

分かりやすい例で言うならば、鉛筆を軽く

持って振ると曲がって見える

「ラバーペンシル・イリュージョン」という

現象が挙げられるだろう。

 

だが霧秀がやっていることの難しさはこれの

比ではない。

先の現象は指の力のみで出来るが、

霧秀は肩、腕、指、全ての筋肉を連動して

行っている。

まるで波のように。そう、この技を名付けると

するならば……。

 

「秘剣……“漣”」

 

そして霧秀は手負いの天龍に向けて再びその技を

振るわんと刀を振り上げ……。

 

「ッ‼︎」

 

刹那、背後からの斬撃を回避した。

 

「貴様……‼︎」

 

「お前、は……‼︎」

 

その斬撃は……天龍の妹艦にあたる、

龍田が手持ちの薙刀から放ったものだった。



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「交錯する刃」

更新遅れてすいません。


「な……龍田、お前……‼︎」

 

突如戦いに乱入した闖入者の姿を見て、天龍は

思わず叫んでいた。

 

「なんでここにいるんだよ⁉︎」

 

「ちょっと、いつまで経っても戻ってこない

提督をしばきに」

 

薙刀を持ってきている所を見るに、何かあったと

勘付いたらしい。

龍田は薙刀を構えると霧秀を睨みつけた。

 

「そろそろウチの提督、返してもらえないかしら?

じゃないと、痛い目見るわよ〜」

 

龍田の威圧を受けても霧秀は身じろぎ一つせずに

龍田をじっと見つめている。

やがて、錆びついた声で話し始めた。

 

「……小童が……‼︎戦いに水を差すな、

黄泉の国に送られたいか‼︎」

 

神聖な戦いを汚されたとばかりに怒りに震える

霧秀。

彼から放たれる殺気とその姿を見て龍田は、

 

「……クス」

 

笑った。

そして、霧秀に向けて薙刀の鋭い突きを放つ。

その突きを容易く霧秀は回避するが、

 

「ッ‼︎」

 

彼は気付いた。

たった一回の突きではない。

一度の突きのモーションで、何回もの突きを

放っているのだと。

 

「ちぃ……‼︎」

 

驟雨のように放たれる何十もの突きを霧秀は

躱し、いなし、刀で弾いてゆく。

 

霧秀も攻撃を加えようとするものの、

薙刀のリーチは刀のそれよりも長く、龍田まで

届くことはない。

なおかつ龍田の薙刀の使い方も達人の域であり、

霧秀は攻めあぐねていた。

いや、それどころか霧秀は受けに回らざるを

得なくなっていた。

 

「あらあら、どうしたの?

提督と天龍ちゃんを傷つけた罰、ここで

受けてもらわないと」

 

(……こいつ……)

 

霧秀は龍田の瞳の中に憤怒の炎が燃え盛るのを

見た。

天龍を傷つけた者を抹殺せんとする怒りを。

それを見て彼は僅かに怖気を奮った。

これほどまでの怒りを、彼は今までに

数度ほどしか経験したことがなかったからだ。

そして、それと同時に、

 

(ならば、対処の仕方は簡単だ)

 

笑った。

 

行動を起こす。

龍田の薙刀を回避するやいなや、天龍の方へと

振り向き、左手の平を向けた。

その手の平の真ん中には、ぽっかりと小さな穴が

開いていてーーーーーー。

 

次の瞬間、そこから火を噴き砲弾が放たれた。

 

 

「ッッ‼︎」

 

突然の事ながらも天龍は身を翻して躱す。

しかし、壁に着弾した砲弾は爆裂。

そのかけらや破片が天龍へと襲いかかり、

それっきり、何も分からなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、レンゲ達のいる仮設住宅では。

 

「……あれー……これでも駄目かー……」

 

「ん?時雨、何してるクマ?」

 

時雨と長月がノイズと砂嵐のような映像を

映し続けているテレビの前で右往左往していた。

 

「あ、球磨さん。実は、さっきからテレビが

こんな調子で。直りますか?」

 

「んー……こういう時は……」

 

球磨はテレビを触ったり見たりしていたが、

突然、ぐっと拳を握った。

そして。

 

「とおおおおおりゃあああああああああ‼︎」

 

思い切りテレビにその拳を叩きつけた。

 

ガッシャアアアアアアアアン‼︎という音と共に

テレビは黒い煙を噴出し、大きく凹む。

 

「あああああ何やってるんですか球磨さんんんん⁉︎」

 

「あっれー?おかしいな、北上がやった時は

これで直ったはずクマ」

 

「球磨姉、力が強すぎるんだよ。

あーあー、完全にテレビイかれちゃった」

 

北上がはあ、とため息をつきながらも訝しむ。

 

「でもこのテレビ、最近のやつなのに

すぐ壊れるなんてあまり考えにくいんだけど……

大井っち、ちょっといいかなー?」

 

「北上さん、私を呼びましたか?」

 

ひょこっと大井が寝室から顔を出す。

北上は大井に、テレビの調子なおかしいと

いう事を伝えてから、

「悪いんだけど、ラジオそっちにあるはず

だから持って来て」と頼んだ。

 

大井はすぐにラジオを持って来て、皆の

前で電源を入れた。

だがしかし、ラジオからはノイズの音が

鳴り響くだけでニュースも何も

聞こえなかった。

 

「あれ、おかしいですね?

久しぶりにいじったから壊れてしまった

んですかね?」

 

「……」

 

そのラジオを、北上はじっと見つめていた。

まるで……何かを疑うような様子で。

 

「……北上さん?どうしました?」

 

「あ、いやー、なんでもないよ」

 

ラジオとは未だに耳障りなノイズを放送していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー闇から天龍は目を覚ました。

体を起こすと同時に肩に痛みを感じる。

壁にぶつけたか何かしたらしい。

だが、そんなことよりも天龍は目の前のことに

気をとらられていた。

 

 

目の前に対峙している霧秀と龍田。

だがその趨勢は今や霧秀が握っていた。

龍田はなます切りにされながらも必死に

薙刀を振るっている。

 

「シャアアアアアアアアッ‼︎」

 

「ぐっ、く……」

 

だが、ついに薙刀が打ち払われ、霧秀が

大上段から刀を振り下ろす。

 

それを見て、

天龍の視界に、

あの夜の光景がフラッシュバックした。

 

愛していた者の血で身体を染め、

血に濡れた刃を持ち、天龍を見据えていた

霧秀の姿。

首のない愛していた者の姿も。

そのむせ返るような匂いも。

全てが天龍の前に顕現した。

 

 

「や、め、ろおおおおおおおおおおおおおおッッ‼︎」

 

刹那、刀と刀がかち合う快音が響く。

 

「ッ……‼︎」

 

天龍が、霧秀の刀を自分の刀で受け止めていた。

 

「あと少し、だったのだがなぁ……。

貴様がもう少し長く気絶してくれていれば

こいつを殺せたのだが」

 

霧秀は口惜しそうに龍田を見た。

 

「だがまあ、人というのは面白い。

いかな達人といえども怒りに囚われれば

たちまちに素人同然になる。

そこの女子も例外ではなくてな」

 

霧秀は語る。

感情というものは人に力をもたらすこともある。

だがしかし、その逆も大いにありうるのだ、と。

怒りはまさにその例。

一度怒りに囚われれば、周りの事など

構うことなく暴れ回る。

 

「その点で言えば、感情など無用の長物。

悲しみも、怒りも、何も某は知らぬ」

 

ギチギチと、刀をせめぎ合わせながら

霧秀は喋る。

 

「つまり……さっきの怒りはお芝居だった、

そういうことか?」

 

「その通り。あそこまで簡単に引っかかるのは

某も初めてだ」

 

「……ッ‼︎」

 

天龍が霧秀を押し返し、後ろへと押しやる。

 

「……もうすぐ夜も明ける。

終わりにしよう、この戦いを」

 

天龍と霧秀が向かい合う。

雨は小降りになり、夜は更けてゆく。

やがて、どちらからともなく、

 

「「いざッ‼︎」」

 

剣戟の火蓋が再び切られた。



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「運命の一瞬‼︎」

幾重にも重なる激音。

天龍と霧秀は激しく競り合っていた。

 

「シャアアアアッ‼︎」

 

「らあああああああッ‼︎」

 

鋼が噛み合い、火花が飛ぶ。

もはや常人にはその一合一合が目視すら

難しい程の速さで、両者は斬り結ぶ。

 

やがて、その趨勢が明らかになってゆく。

押されていたのは、

 

「ぐ、うう‼︎」

 

霧秀……そう、先程までは天龍を圧倒していた

霧秀が、押されていた。紛れもなく、

誰の目にも明らかな程に。

 

(何故、だ……⁉︎何故に貴様はそれほどまでに

強くなっているのだ⁉︎)

 

霧秀には知る由もないだろう。

当然だ。それは既に彼が捨て去ったもの……

悲しみや怒りといった感情から天龍は力を

得ているのだから。

感情を捨てた者が感情によって押されている

皮肉とも言えるこの状況。

 

「らああッ‼︎」

 

天龍の刀の切っ先が僅かに霧秀の腕を裂く。

もはや何故とは思わない。

今はただ、そう。

目の前の少女との楽しい時間(・・・・・)を、

霧秀は過ごしたかった。

 

「ふ……ははは。

くはははははははは‼︎」

 

「ッ‼︎」

 

刹那、霧秀の刀を振るう速さが増す。

押されていた剣戟が拮抗する。

 

「小娘ェッ‼︎貴様程の剣客とやり合うのは

某も初めてだ‼︎」

 

「そうかよ‼︎」

 

鍔迫り合いになりながらも2人は一歩も引かない。

引けば、その瞬間に死ぬと分かっているから。

 

「ああッ……素晴らしい。このような剣戟は

久しぶりだ‼︎サンズとやり合った時以来‼︎

こんな感覚は味わえなかった‼︎」

 

「ッ……⁉︎サンズ……だと⁉︎」

 

天龍はその名を知っていた。

皐月達から沖縄近海にいたという情報を聞いては

いたが、やはり。

そう思い天龍は霧秀に問うた。

 

「おまえ……サンズの仲間なのか?」

 

「それがどうかしたか?それよりも、

今この瞬間に味わえる感覚に、

身を震わせさせてくれ。

またいつ味わえるかわからないからな……‼︎」

 

だが霧秀は問答すら難しい程に高揚していた。

まるで酒に酔ったように。

かつて戦ったサンズの仲間……イカリも

キレた際には同じような状況に陥ったのを

天龍は思い出す。

彼らは一旦昂ぶると自制が効かなくなるの

だろう。まるで獣のようだ。

しかしその事を深く考える暇は彼女にはなかった。

 

霧秀が刀に大きく力を入れて、

天龍を弾き飛ばしたからだ。

続けて、大きく息を吸う音。

 

「ああ、なんという快感‼︎

もはや息を吸う事すら(・・・・・・・)惜しい‼︎」

 

刹那、再び霧秀が斬り込んで来た。

天龍に一閃も斬る暇も与えぬとばかりに、

烈火の如き連撃を加え続ける。

 

「くっ‼︎おっ⁉︎」

 

速い。ともすれば、閃光のように。

その閃光を凌ぐ中、天龍はある事に気付いた。

 

息を、していない。

霧秀は、無呼吸でこの連撃を仕掛けているのだ。

これこそが、霧秀が磨いてきた我流剣術の

一つの到達点。

ありとあらゆる身体のブレ……それこそ、

呼吸すらも廃し、己が身が引き出せる

最高速度で撃ち放つ圧倒的な手数の連撃。

その名も……。

 

「秘剣……≪五十嵐≫ッッ‼︎」

 

正しく嵐の如き連撃の中、天龍は

必死で防戦に回っていた。

だがそれもいつ押し切られるか分からない。

 

(やっぱり……)

 

天龍は額に汗を浮かべ、苦笑した。

 

(あの一刀に賭けるしかねぇ、か……)

 

次の瞬間、霧秀の斬撃を弾いた天龍が

身を低くすると同時に居合の構えをとった。

 

しかしそれと同時に霧秀も大上段からの

一刀を振り下ろしていた。

 

「シャアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

「ーーーーーーッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血飛沫が舞った。

その血は……霧秀のものであった。

 

「ギ、ィイ……ッ‼︎」

 

霧秀が天龍から数歩離れると同時に、

どさっ、と何かが両者の間に落ちる。

 

霧秀の右腕であった。

 

はああっ、と大きく息を吐いて天龍が

霧秀を睨みつける。

 

「ッ……まさか、某の、……≪五十嵐≫よりも

疾く叩き斬られるとは、な……」

 

ボタボタと、欠損した右腕から血を流しながら

霧秀は驚嘆していた。

あの刹那、天龍の放った一閃は、

霧秀の斬撃よりも速く、霧秀の斬撃が

振り落ちる前に彼に到達した。

 

だがこれは天龍自身もかなりの賭けを

していた。

というのも先程の一斬、彼女の父から

伝授された中でも唯一、父のそれに

並び立つ事の出来なかった秘剣だったのだ。

その秘剣の持つ理念はたった一つ。

相手よりも、疾く、鋭く斬る。

その事のみを追求した一斬の名は。

 

「≪斬光≫……それが今てめぇを斬った斬撃だ。

見えたか、クソ野郎」

 

「……はは、残念ながら某ですらも一瞬見失った。

見事だ。その領域に達するまで、さぞや

苦しい鍛錬を積んだのであろう?」

 

「てめぇに言う必要があると思うか?」

 

と、二人の横顔を光が照らす。

朝日であった。既に夜が明けかかっている。

 

「……提督の暗殺失敗、か。まぁ某も少々

熱くなり過ぎた。逃げるしか後はあるまい」

 

そう言いながらも、霧秀の声音には

喜色が混じっていた。

 

「……貴様等が望むならば、下地島に来い。

囚われの少女を救いたければな」

 

「ッ……‼︎」

 

「それともう一つ……サンズからの伝言だ。

……“この島から逃げられると思うなよ”だそうだ」

 

ドロリ、と霧秀の身体が溶ける。

ダッ、とあちこちを斬られて体力を

消耗していた龍田が薙刀で霧秀を背後から

横斬する。

 

だがその一撃を受けても霧秀は

苦悶の声も出さず、血も何も流さず

水となり、木の床下へと染み込み、

消えた。

 

「……逃げたか」

 

天龍は、大きく床の上に大の字になり、

脱力した。

もう身体が動かない。

霧秀との戦闘で身体を酷使しすぎたのだ。

 

「天龍‼︎龍田ー‼︎無事かー!」

 

遠くからの糸井川の声を聞きながら、

天龍の意識は闇に落ちてゆくのであった。



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「苦悩」

ーーーーーー米国空軍、沖縄仮設鎮守府内。

そこで天龍を除いた関係者達は、龍田から昨夜の事を

知らされていた。

 

「……そんな、事が……‼︎」

 

怒りの為か震える声で、球磨が小さく呟いた。

 

「天龍ちゃんは今船渠にいるわ。

後数十分もあれば全快すると思うのだけれど」

 

「しかし……そのキリヒデとやらの存在を、

天龍はそう目の敵にするのでしょうネ?」

 

それを聞いて暗かった龍田の顔が更に暗くなる。

その事に気付いたレンゲが龍田に問うた。

 

「……龍田さん。何か知っているんですか?」

 

「……」

 

静寂。それが数秒程続いてから、龍田は

はあ、とひとつため息をついて話し始めた。

 

「……本来なら、天龍ちゃんの口から話すべき

事なんでしょうけどね……みんな、この事は

他の人には絶対に内密にして。絶対よ」

 

真剣な表情で、この場にいる全員を見据えてから

改めて龍田は口を開いた。

 

「ーーーーーー天龍ちゃんは、3年前に

軍法会議にかけられているの。

……提督を殺害したという罪でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍は3年前、龍田と共にとある鎮守府にて秘書艦を

勤めていた。

その鎮守府の提督とは、とても良好な関係で

あり、他の艦娘からはこの戦争が終われば

結婚するのではという噂が立つ程であったという。

 

だがしかし、二人の関係は余りにも

凄惨な形で終焉を迎えた。

 

「提督が死んだ……いえ、殺されたの。

何者かの手によって」

 

一寸先が見えない程強い雨の日のことであった。

提督の死体は鋭利な刃物によって首を落とされて

おり、提督のいた執務室は床一面が血の池と

化していたらしい。

 

「天龍ちゃんはその場にいたの。

犯人の姿も見ていた。でも、海軍はその事を

信用しなかった」

 

他の艦娘が駆けつけた際、天龍は

片目を抉り出されてのたうちまわっていた所を

発見された。

 

無論、海軍は彼女を一番に疑った。

天龍は提督と仲が良かったから、何の警戒も

持たれずに近づけるだろう。

片目を失っていたのは提督の抵抗によるもの。

天龍の証言は他の艦娘達が執務室の近くには

天龍以外誰も近付く者を見なかったと証言した為、

嘘八百と決め付けられた。

 

「……今となって考えてみれば、あの霧秀という

奴が暗殺を行ったんだと思うわ。

液体となって鎮守府内の人間の目を盗み、

提督を殺した。

だけど、その時の皆はそんな事思いもしなかった。

ただ、天龍ちゃんを責めた。責め続けた」

 

延々と続く熾烈な取り調べ。

それに加えて仲間から誹りを受け続ける毎日。

その苦しみ、悲しみはいかほどのものであったか。

まず、真っ当な人間なら耐えられないだろう。

 

「事実、天龍ちゃんは精神が衰弱して

病院で療養することになったわ」

 

その龍田の言葉に、思わずレンゲは顔を

歪めた。

 

「なんて、なんて酷い事を……‼︎」

 

「ええ。本当に、天龍ちゃんにとっては

地獄の毎日だったでしょうね……」

 

だが、やっとと言うべきか、天龍の疑いが

晴れ始めた。

理由としては、天龍の片目は失われていたのに

抵抗したはずである提督が所持していた

軍刀には血が付いていなかったこと、

天龍が所持していた刀と提督の首の切断面から

首を切断したのは天龍の刀ではない事が

証明されたことで、天龍は容疑者の線から

外れ、事件は迷宮入りとなった。

 

「だけどそれで提督が戻ってくる事もない。

今まで過ごしてきた時間も返ってこない。

他の艦娘との関係も修復されなかった。

……それからの天龍ちゃんのことは、私も

沖縄鎮守府に着任することになったから

分からないわ」

 

そこまで言って龍田は口ごもり、

苦しみを噛み殺した表情で呟いた。

 

「……私も、天龍ちゃんを疑っていた。

昨日の出来事で、天龍ちゃんの言っていた事が

本当だったと知った時、私は凄く後悔した。

あの時なんであの娘の言う事を、

信じてあげられなかったんだって……‼︎

そうすればもっと、今よりももっと別の結末を

迎えられたかもしれないのに!

彼女の心がこうまで傷つけられる事もなかった

はずなのに‼︎」

 

普段の様子からは想像できない程激昂した様子で

龍田は心の底からそう叫んだ。

 

「……龍田の言う事も一理あるクマ」

 

その言葉に球磨が同調する。

 

「だけど、龍田。過ぎた事はもう二度と

元には戻せないクマ。さっき龍田が言ったように。

……だけど、“これから”はその限りじゃないクマ。

今までの過ちを繰り返す事は絶対にさせない。

そう……球磨達の大事な妹を連れ去った

あいつらにも……‼︎」

 

ギリィ、と歯を食い縛りながら怒気を発散する

球磨……否、球磨だけではない。背後にいる

北上達からも同様に怒気が放たれている。

その気配に思わず時雨やレンゲは後ずさる。

 

「絶対に……二度とこんな真似出来なく

させてやる……‼︎」

 

その球磨の呟きは、断固たる決意に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、米軍基地の一角では、兵士達が

慌ただしく動き回っていた。

 

「一体全体、これはどういう事だ‼︎」

 

ハワードは怒声を上げながら、今起きている

事態に対して悪態をついた。

 

「で、ですが少佐。我々に聞かれても

これは全く以って理解出来ない事態なんです」

 

兵士の一人が憔悴し切った様子でハワードに

答える。

無理もないだろう。何故ならーーーーーー。

 

「電波障害……それも沖縄のみ(・・・・)がその

影響下に入るだなんて……どうやれば

そんな事が出来るのかこちらが聞きたい位です」

 

そう、昨夜から沖縄全域では謎の電波障害に

襲われているのだ。

そのおかげで、殆どの機械は鉄屑と化し、

飛行機も飛べず電話も繋がらず

外界との繋がりが完全に絶たれてしまって

いる。

 

その影響で、米軍は今日沖縄から撤退するはずで

あったのに撤退することが出来ずにいた。

 

「Dammit‼︎なんて事だ‼︎」

 

「一応、電波を阻害しているのが電磁パルスの

一種である事は特定出来ましたが、

これをどうにかするのは非常に難しい問題です。

出来るかどうかはわかりません」

 

「……出来るかどうか?決まっているだろう。

出来るとかそういう問題ではない。やれ。

なんとしても沖縄からすぐに撤退するぞ‼︎」

 

「Yes,sir‼︎」

 

ハワードは胸中に僅かな焦燥を感じながら、

部下達に命令を下すのであった。




感想お待ちしています。


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「せせら嗤う悪魔」

ーーーーーー木曽は、薄暗い部屋の中で

目を覚ました。

 

「……オォ。目ェ覚ましたかガキ」

 

せせら嗤うような声の方向を向く。

そこには蜥蜴のような鰐のような化け物がいた。

慌てて木曾は立ち上がろうとしたが、

その時になって自分が縛られている事に気付く。

 

「ッ……‼︎」

 

艤装も、愛用の刀すらも奪われ、完全に

丸腰の状態で、木曾は化け物……

リヴァイア・サンズの前に拘束されていた。

 

「テメェ……俺に何をする気だ?拷問か?」

 

「ハハッ、そういきり立つんじゃねぇよ。

短気な女は嫌われちまうぜ?」

 

サンズは軽薄な声で木曾の神経を逆なでする

言葉を放つ。

 

「まあ落ち着けや。テメェを傷付ける気なんざ

これっぽっちもねぇからよ」

 

そして両手を広げて木曾に対して害意のない事を

示した。

とりあえずはすぐに殺される事はないだろう。

 

「丙型生命体か」

 

「丙型?なんだそりゃ。捻りもないネーミング」

 

もっと良いネーミングあるだろ、とばかりに

大仰な仕草でサンズは頭を抱える。

その仕草一つ一つが、わざとらしく、

人の神経を逆なでするようで。

……だがしかし、とても()()()()()()

 

深海棲艦より遥かに、意思の疎通も容易く

感情も人間のそれとほぼ同じ。

まるで人間がガワを着ているのではと

錯覚してしまうほどだった。

 

だが、木曾は彼を人間だとは思ってはいなかった。

何故か。

それは木曾の意識がこの薄暗い部屋にいる前。

海上で天龍の援護に向かった際に彼に

襲撃され、捕縛されたからだ。

まず艦娘以外で海面に立てる人間など

存在するわけがない。

それにーーーーーーとある理由からも木曾は

目の前の者が人間でない事が分かっていた。

 

「……なんで、丙型生命体が深海棲艦側に

ついているんだ?」

 

「簡単な話。これだよ、これ」

 

サンズは腰のポーチからタバコを取り出しながら

もう片方の手で金のジェスチャーをした。

 

「俺達は傭兵。積むもん積んでくれれば

味方にでも裏切りでもやってやるよ。

地獄の沙汰も金次第、俺達の助力は

弾薬に燃料次第ってな」

 

「なるほど。じゃあ人間がお前らを

雇うと言ったらどうする気だ?」

 

「そりゃあ、前のクライアントより多けりゃ

喜んで雇われるぜ、俺は」

 

それはつまり、交渉によっては彼らが

味方になる事も十分にありうる事を示していた。

……とはいえ、傭兵という身であるため

後ろ玉を撃たれるような行為に走られる危険性も

あるが。

 

「……これから俺はどうなるんだ?」

 

「教えねえよォ〜だ。自分で考えろ」

 

ハハハ、とサンズはどこか乾いた笑い声を

上げた。

 

「口だけはよく回るな」

 

「そうだよ(適当)。ただ……まあ、

これから面白い事になる、とだけ

言っておいてやろうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、沖縄鎮守府。

 

『残念だが……すぐには沖縄に行く事は

難しそうだ。こっちでも色々模索している途中

なんだが……』

 

「ああ。こっちもだ。なんとかしないと

まずい事になる。……ッ、そろそろ電波が

悪くなってきた。切るぞ」

 

『武運を祈る』

 

ガチャリ、という音と共に糸井川は

レトロな受話器を置く。

米軍から大規模な電波障害に襲われていると

連絡を受けてから、糸井川の脳裏に

嫌な予感がよぎった。

そして、その予感は的中してしまった。

九州から派遣されるはずであった支援艦隊は

電波障害によって羅針盤やありとあらゆる

計器が狂うために未だに沖縄に辿り着けない

事態に陥っていたのだ。

 

先程、電波障害が弱まったので連絡を取ることが

出来たものの、それもほんの10分程度の事。

既に沖縄各地ではパニックが起こり始めている。

 

「ああ、くそっ‼︎」

 

思い切り机を蹴り上げる音。

イライラした様子で糸井川は髪をかきあげ、

沖縄周辺の地図を睨んでいた。

 

「イライラしとんなぁ……。

あんまイライラすんのも身体に悪いで。

若くして禿げるで」

 

「龍驤か……。提督の仕事はな、

イライラすることなんだよ。

常にお前達を危険に晒す仕事だ。

こっちも命ぐらい賭けるべきだろう」

 

まあ、これが終わったら多分俺は

沖縄からいないだろうけど、と糸井川は

付け加えた。

彼自身、かなり大本営のお偉方から

厭われている。

どうせなんらかの理由をつけられて

またどこかの地方の鎮守府に異動になるだろう。

 

「あーあ。ここの鎮守府での生活は、

楽しかったなぁ……。さて俺は次は

何処の鎮守府に行くのやら」

 

「アホウ、んな事言ってないで今どうするか

考えや。後のことはそれから、ええな?」

 

そう言いながら龍驤はこつん、と軽く

糸井川を小突いた。

 

「……そうだな。まずは今どう切り抜けるか

考えるとするか。……龍田の情報だと、

敵は下地島にいると。そうだったな?」

 

「せや。さっき全快した天龍も同じこと

言うてたわ」

 

「罠の可能性は?」

 

「大いにありうるな」

 

やはり糸井川の元で秘書艦を務め上げた事も

あり、2人は作戦をどんどんと構築していった。

「……なあ、糸井川。こないだアンタが

言うた事やけど……」

 

と、龍驤がぽつりと呟く。

糸井川が言った事とは、この戦争が終わったら

付き合わないかという話の事である。

 

「あれ、な。そのー。なんていうか……」

 

「今どう切り抜けるか考えるべきじゃないのか」

 

だが、今はその答えは出せなかった。

出す程の余裕もなかった。

 

「……あ、うん。ごめんな」

 

龍驤のその声には、若干の寂寥が含まれていた

事に、糸井川は集中し過ぎて気付く事は

出来なかった。




レ級を書いてみました。下手くそなので
見たい人だけどうぞ。

【挿絵表示】





ボブデミミミ……(瀕死)


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語りかける声

評価1貰っちゃったあああああああああ(絶望)
「主人公に感情移入が出来ない」……。
本当に申し訳ありませんでした。
主人公にもっと感情移入が出来るように精進します。


昨日の夜とはうって変わって、眩いばかりに

窓から差し込む太陽の光。

外では鳥は歌い、花は咲き誇る。

……だと言うのに。

 

(なんで俺の心はこんなにも沈んでいるんだろう)

 

部屋のベットの中にうずくまっている

レンゲの心は舞い上がるどころかその逆。

そして、レンゲ自身その理由は分かっていた。

 

(分かり切ってるよ。今この瞬間、何も

出来ない俺自身の無力さが腹立たしいんだ)

 

深海棲艦という身であるが故に艦娘のように

出撃する事が出来ない。

その事がレンゲにとって苛立たしく、

己の無力を思い知らされていた。

 

「せめて艦娘になれたらなあ……」

 

こんな無力感も味わわなくて済んだのに、

そうレンゲは唇を噛んだ。

 

「そうであったなら、天龍さんの事も、

木曾さんのこともなんとかできたはずなのに」

 

思えば、ここ沖縄での一連の事件は

敵に先手を取られてばかりいた。

米軍基地、沖縄鎮守府の爆撃。

その機に乗じた深海棲艦の襲撃。

木曾の誘拐、そして霧秀による提督暗殺未遂。

何もかもが、敵の思惑にはまってしまった。

その事がレンゲにもっと何か出来たのではないか。

そう思わせてしまっている。

 

(それに海軍の事もそうだ。

あれのおかげで俺は出撃出来ないでいる)

 

レンゲの暴走を防ぐためのものだったのだろうが

それが今や逆にレンゲをがんじがらめに

してしまっている。

 

(ああ、クソ)

 

レンゲは心の中で毒づく。

 

(こんな規則、なかったらどんなに良かったか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だったら、壊しちゃえば良いじゃない

 

まるでレンゲの耳朶を舐めるように、

声が聞こえた。

 

「ッ‼︎」

 

その声がかけられた方をレンゲは向く。

……だがしかし、そこには誰もいない。

そもそも部屋の中にはレンゲ以外誰もいない。

レンゲの額を一筋の汗が伝った。

 

 

「……なんだ?」

 

とうとう幻聴が聞こえてくるまでに

なってしまったか。

思わずそうレンゲは思った。

ここ数日、ずっと自分を責めていたから、

気づかぬうちに()()()()()()()()のかもしれない。

 

ねえ、聞いてる?

 

再び、先程と同じように声が耳朶を打つ。

()()()()()()()で、だ。

 

「……誰だ?」

 

レンゲの問いに声はクスクスと軽く嗤うだけで

答えは返さなかった。

 

あなたは自分の力をどんなものか分かってない

それは自分の欲望のためだけに振るうべきもの

あなたが望むままに、「私」が願うままに

その力を使った方がいいの

 

「望むままに……願うままに?」

 

そう。この世界は「私達」には狭すぎる。

己が我を通すのにさえ自由に出来ない。

だから。その力を使ってあなたが望むような

世界に変えるのよ

 

「お前は俺に何をさせるというんだ。

……いや、何をさせたいんだ?」

 

だがやはりというか、声は相も変わらず

愉しげに嗤うだけ。

その態度に、レンゲは思わず声を荒げる。

 

「自分の言いたいことだけ言って、後は

だんまりか……。俺の心が生み出したものとは

いえ、いい加減にしろ。俺から出て行け‼︎」

 

……あなたの心が生み出した?

アハ アハハハハハハハハハハハハハッ‼︎

アハハハハハハハハハハハハハッ‼︎

 

声は再び笑い声を上げる。

ただそれは先程のものとはニュアンスが違った。

今回のものは、「嘲笑」というべきものであった。

 

何も分かってないのね、知らないのね

あなたは私よりも上だと思ってるけど、

それは違う

あなたが考えてるよりずっと、私は

その力の「使い方」を知ってる

「使い道」もある

あなたにはそれがあるというの?

 

「黙れッ‼︎」

 

破砕音。

レンゲが投げた近くにあった花瓶が壁に当たって

砕ける音だった。

それと共に声が急速に掠れるように小さくなっていく。

 

……ああ、私は悲しい

まだ「その時」ではなかったのね

もっとあなたと話したかったのに、

でも、そんなに悲しむことはないわ

()()()()()会えるから

その時は……またお話しましょう

 

それを最後に声はぷつりと止んだ。

二度とレンゲに届くことはなかった。

 

「なんなんだ……一体、今の声は」

 

……彼女の心にべっとりとした

コールタールのような不快感を残したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー幸いというべきか、レンゲに

起きた出来事は誰にも知られずに済んだ。

皆、目の前のことで忙しかったのも

あるかもしれない。

 

そして、昼過ぎに沖縄から

木曾を助ける為の艦隊が出撃した。

 

天龍、球磨、多摩、北上、大井、龍驤。

現鎮守府が出せる最大火力での構成であった。

 

『もし俺らが失敗した時は、奴らは間違いなく

沖縄目指して一直線に向かってくるだろう。

そん時は、全力でここを守ってくれ。頼んだぞ』

 

そう沖縄に残った艦娘達に告げて、

天龍達は出撃した。

 

「あーあ、ボク達も付いて行きたかったなあ」

 

皐月が仮設鎮守府へ戻り際、そう呟いた。

 

「仕方ないだろう。我々駆逐艦は雷撃は

強いが雷巡がいる以上意味のないこと、

付いて行っても足手まといになるのが関の山だ」

 

「うん、そうだね。ボク達は天龍さん達に

沖縄を任されたんだ、そこの防衛を一番に

考えよう」

 

その言葉を長月と時雨が諌める。

 

「……あれ、レンゲは?さっきまでいたのに」

 

「彼女なら先にもう戻ったぞ」

 

「え、速っ⁉︎もう⁉︎」

 

そこで時雨が怪訝そうな表情を浮かべている事に

長月は気付いて、問うた。

 

「……何かあったのか?」

 

「いや、そんな何かあったって程じゃないけど。

……レンゲちゃん、凄く張り詰めてた。

なんと言えばいいかな、ぴんと張った糸みたいな

何か衝撃があれば“切れて”しまいそうな感じ」

 

そうか、と長月は呟いて、

「大丈夫だろうか、彼女は……」と

レンゲの身を案じていた。

 

しかし彼女達は……レンゲ自身ですらも、

まだ知る由はなかった。

レンゲに語りかけた謎の声が、のちに

災厄をもたらすことを……。




アドバイスください。
どんな辛辣なものでも真摯に受け止めます。


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「霧秀帰還」

久しぶりの投稿です。
遅れてすいません。


天龍達が抜錨した頃。

 

サンズは、早朝に帰投した霧秀を伴って

南方棲戦鬼の元へと現れていた。

 

「申し訳ございません、戦鬼殿。

いかような処罰でも甘んじて受ける所存でございます」

 

「イイエ、霧秀。貴方程ノ暗殺者トモアロウ

者ガ失敗スルノデアレバ、誰デアッテモ

失敗シタデショウ」

 

「……ご厚意、感謝致します」

 

霧秀がそう言いながら退がると同時にサンズが

進み出る。

 

「さて、姫さんよぉ。俺が言ったような

万が一の事態になっちまったが、

こちらとしては問題nothingだ。

なんせ秘密兵器(木曾という名の人質)があるからなァ。

ま、強いて言うなら人手が少し必要だが」

 

そのサンズの言葉に戦鬼は口端を上げて、

まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに

笑った。

 

「エエ。イクラデモ貸シテアゲル。

丁度、リベンジヲシタイッテ娘がイルシネェ」

 

「リベンジ?」

 

戦鬼の言葉に首を傾げるサンズ。

そしてそれは誰だと問おうとした刹那、

その件の者が姿を見せた。

 

彼女の全身には火傷の傷が痛々しく刻まれていた。

特に顔の右半分を覆う傷は目を引く。

失われた両脚と左腕は機械の義肢で補われ、

彼女が動く度駆動音を響かせる。

 

その顔を、サンズは知っていた。

 

「誰かと思えば、アンタか。

命令聞かずに飛び出して魚雷踏んだル級ちゃん」

 

「ッ……‼︎」

 

そう、北上と大井の魚雷によって

大怪我を負って撤退したル級であった。

サンズの歯に衣着せぬ発言に顔を歪める。

 

「貴様、アノ時私ハナ……」

 

「反論したければどうぞご自由に。

ま、勝手に出てって自爆した奴に出来れば、の

話ですけどね〜。……プッ、ダッセーノ‼︎」

 

「ッ……テメェエエ‼︎」

 

激昂しかけるル級を戦鬼と霧秀がどうどうと

抑える。

 

「サンズ、仲間に喧嘩を売るのはよせ。

くだらん争いを生む気か?」

 

だが霧秀の諌める言葉にもサンズは飄々とした

様子で返事をする。

 

「こんなやっすい挑発でキレる方がくだらねぇな」

 

「……サンズ‼︎」

 

霧秀の静かな怒号に対してサンズはやれやれと

ばかりに首を振り肩を竦めると、

「あーはいはい。分かりましたよ。

俺が悪うございました」と言い放ち、

頭を下げた。

 

「ホラ、サンズガ頭下ゲタンダカラ

モウ怒ルノハヤメニシテ」

 

「クッ……‼︎」

 

ル級はサンズがこの場を収める為に

頭を下げたのであって心から申し訳ないと

思っている訳がないと分かっていた。

だが上司である戦鬼から咎められては

引き下がらざるを得ない。

 

「……さて、俺としても色々準備があるんで

お暇させていただきまーす。

後、ル級。オメーその義肢乱暴に扱うなよ。

ゲンブが自信作だと言ってたからな」

 

サンズはそう言い放つと、その場の全員に背を

向けて去っていった。

 

「本当に申し訳ない。あやつはいつもああいった

言動だからこちらもいつも手を焼かされております。

が、仕事はしっかりと遂行する男故その所は

安心して下さい」

 

「ソノ事ハ重々承知ノ上ヨ。ソレニ、後少シデ

沖縄占領ノ足掛カリガ作レルノダカラコノ程度ノ

問題ハ度外視シテモイイワ」

 

戦鬼の返事に対して霧秀は恭しく頭を下げ、

サンズの後を追って行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦鬼達からかなり離れた所でようやっと

霧秀はサンズへと追いつき、背後から激しく

彼を叱咤した。

 

「サンズ‼︎貴様先程の言い草は何だ‼︎」

 

「あ?あァ、さっきの姫さんとの話し合いか?」

 

「その通りだ。仮にも同盟を結んだ仲とも

あろう者が、喧嘩を売るなど……」

 

すると、サンズはため息をついてやれやれと

ばかりに霧秀へと振り向いた。

まるで、馬鹿な生徒に対して呆れを示す

教師のように。

 

「あのなァ霧ちゃん。まだ分からないなら

言っとくけど。

……ここの連中、弱ェぞ。それもかなりな」

 

「ッ……」

 

僅かな動揺を示した霧秀にサンズは更に

話し出す。

 

「……その様子を見るに分かっていなかった、

ってクチでもなさそうだな。

なぁ、霧ちゃん。俺よりも長く奴らと

付き合ってたお前なら分かっただろ?

ここの連中は他の深海勢に比べると遥かに

考えなしで素直過ぎて、練度も低い。

実際俺らの提案にも負んぶに抱っこだったしな」

 

そこで一旦言葉を切り、サンズは改めて

霧秀の顔を見た。

 

「そこまで気付いていて、霧ちゃん。

お前なんで奴らに従ってんだ?」

 

「……某は、否、某“達”は戦士である」

 

錆びた声で霧秀は言葉を紡ぎ出す。

 

「祖国の為、愛する者の為、自分が生きる為に。

某達は戦い抜いた。抗い続けた。

だが今はどうだ?守る者もなく、目的もない」

 

彼が数多の人間と艦の魂を以ってこの姿を

成した時も、今現在も彼の心は空虚であった。

何をしようと見ようと壊そうともその心が

動くこともなく、ただただ塵芥の如く

あちこちを彷徨っていた。

 

……正確には、ある一時を除いて。

 

「それこそが闘争だった。

某達はその事に気付いてからは変わった。

闘争の為に目的を作り、頼まれれば守るようになった」

 

闘争を行う。その目的の為だけに人を守り、

殺し、共謀する。それはかつての思考とは真逆。

なんという倒錯だと罵る者もいるだろう。

本末転倒だと怒る者もいるだろう。

 

「だが某達は空虚であり続けるのは嫌だ。

誰が何と言おうと、風に吹かれて消える煙のような

生き様は嫌なのだ。

……戦鬼殿の所にいるのも闘争をする為だけ。

ただ、それだけだ」

 

「……ふん、まあいいさ。

俺は口は出さない。好きにやるといい」

 

サンズはそう言って、再び霧秀に背を向けて

去っていくのであった。

 

 

「……願わくば、お前の欲を満たす者が

現れる事を祈っておくとしよう……」

 

微かに、そう小さく呟いて。




リヴァイア・サンズのイラスト投稿します。
下手くそなので変な期待はしないで下さい。


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「奪還」

太陽はその半分が水平線に落ちようという頃。

天龍達は木曾が捕らわれている下地島近海へと

辿り着いていた。

 

「……後数分で下地島へと着くな」

 

天龍が、遠くに見える島の影を眺めながら呟く。

昨夜の霧秀の情報通りであるのならば、

木曾はあそこに捕らわれているはずだ。

 

「それじゃうちも索敵機出すで」

 

龍驤が天龍のその言葉を皮切りに巻物と数枚の紙

を取り出し、炎を纏った指先で一閃する。

刹那、数枚の紙は艦載機へと早変わりし、

巻物の甲板から飛び立っていった。

それを見ていた多摩が、ふと気付いたよりに

仲間に問うた。

 

「嘘の情報だったらどうするにゃ?」

 

「まず仲間を拷問して木曾の本当の居場所を

聞き出す。そして木曾を奪還したら、

敵は全て殺す。絶対に殺す」

 

「……あんな事しなければ、って後悔させてね」

 

多摩の問いに大井と北上が物騒な答えを返す。

 

それも仕方のない事だろう。

唯一無二のかけがえのない自らの妹が、

ひょっとしたら殺されるより酷い目に遭っているかも

知れないのだから。

 

段々と島の形がくっきりと見えてくる。

と、彼女達の周りから音もなく数体の深海棲艦が

姿を現した。

 

刹那、天龍達は各々の艤装を構えて臨戦態勢に

入る。

無論深海棲艦側も黙っているわけではなく

その異形の艤装を天龍達へと向ける。

 

「……よせ。無駄な被害はこちらとしても

出したくはないからな」

 

錆びた声と共に、深海棲艦とは違う異形の怪人……

霧秀が深海棲艦の背後から現れた。

 

「ッ……テメェ……あいつは、木曾は

無事だろうな⁉︎もし何かあったら……‼︎」

 

「案ずるな。すぐに来る」

 

その霧秀の言葉通り、すぐに木曾は

島から連れて来られた。

……隣に黒い爬虫類の怪人、

リヴァイア・サンズに捕らわれた状態で。

 

「サンズ……‼︎」

 

「へーぇ。霧ちゃんを撤退させた艦娘って

こいつか。久しぶりィ、天龍ちゃん」

 

驚きに目を見開いている天龍と龍驤へ向かって

挨拶をするサンズ。

 

「……まさかオレの名前を覚えてるなんてな。

少し驚いたぜ」

 

天龍は驚きの表情を浮かべながらも冷静に

サンズに返事を返した。

 

「ハッ。当然さ。俺は頭イイからなァ。

……いやそんなことよりも、だ」

 

そう言いながらサンズは片手で拘束していた

木曾を天龍達の方へと突き飛ばした。

 

「木曾ッ‼︎」

 

球磨と多摩が慌てて木曾を抱きしめる。

身体には一切の傷は見えないが

艤装は機関部を除いて軍刀までなくなっていた。

 

「お前らの目的はそのお嬢ちゃんだろ?

とっとと連れて帰ったらどうだ?」

 

「……襲う気はないのか?」

 

「別に?やりたいならやりゃいいさ。

まあ今の状況では勝てねえだろうけどなァ」

 

その言葉には一切の虚勢などなく、

彼が本当に自分達が天龍達よりも強いと

確信しているという事がありありとわかる。

 

「……天龍、今は逃げといた方がええ。

敵さんの方が数も多い。その上あのサンズも

おるんや。一旦戻って、それから体制を整えてから

こいつらを攻略するで」

 

サンズ達には聞こえないように、龍驤が

天龍の耳元で囁く。

時間はもうすぐ日没。そうなれば空母である

龍驤は何の役にも立たなくなる。

その上こちらには丸腰状態の木曾がいる。

戦闘となれば劣勢になるのは火を見るよりも

明らかだ。

 

「……分かった。でも一つだけいいか?」

 

「……なんや?」

 

「おゥ、コソコソ話してんじゃねぇよ。

それともあれか、投降したくなったか?」

 

その言葉に天龍はサンズの方を向いて、

「ああ、決めたよ」と言い、彼の元へと近寄る。

……不敵な笑みを浮かべて。

 

「……ーーーーーーッ‼︎」

 

天龍の真意に最も早く気付いた敵は

霧秀であった。

 

「サンズッ‼︎今すぐその娘から離れろッ‼︎」

 

「あ?」

 

その警告はどういう事だとサンズは霧秀の

方を振り向く。

同時に、かちんという硬質な音と共に

何かが彼の腹を突いた。

 

それは……天龍の連装砲。

その砲口がサンズへと向けられていた。

 

「死ね、クソ野郎」

 

天龍はそう宣告して、迷うことなく

その引き金を引いた。

 

爆音。それと同時にサンズの体躯が

大きく後ろへと傾く。

その上で、天龍は駄目押しとばかりに

2発、3発と連続して砲弾を撃ち込んだ。

 

その影響で辺りが砲煙で包まれ、霧秀達の

視界を僅かな時間ながら塞いだ。

 

「ずらかるぞ!急げ‼︎」

 

ハーフアスタンツー(両舷半速後進)‼︎」

 

その間に天龍達は木曾を連れて離脱する。

後進しているのは敵からの追撃に備える為である。

 

砲煙が晴れる頃には、天龍達はサンズ達から

かなり遠くまで離れていた。

 

その様子を見ながら、霧秀は静かに問うた。

 

「……サンズ、無事か?」

 

「あー、割と平気。衝撃はあるけど痛みはない」

 

大の字に倒れていたサンズが「よっ」という

軽い声と共に起き上がる。

天龍の砲弾は、その全てがサンズの堅牢な

装甲に阻まれ、一切のダメージを無効に

されていたのである。

 

「カカカ……派手にやってくれるじゃねぇか」

 

そう言いながらサンズは背後の深海棲艦達に

向けて「テメェらは先戻ってろ」と命令する。

 

「追撃しないのか?」

 

「カカッ、何言ってんだよォ霧ちゃん」

 

その言葉と共に、サンズは霧秀に何かを

投げ渡す。

それは……サンズの所持していた長ドス。

 

「俺が()()()()()短気だって知ってて

言ってんのか?」

 

ぎしり、とその場の空気が張り詰める。

その元凶はサンズのほんの僅かな怒気によるものだ。

 

「その気になりゃあの娘を渡さずに全員殺る

事だって出来た。あえてそうしなかったのは

あいつらに対しての俺なりの誠意だ。

……だが、奴らは誠意を敵意を以って返した。

なら俺がやるべきことは一つ」

 

「……あまり彼女らを攻めるな。

肉親を盾に取られれば敵意の一つや二つ

持つだろうに」

 

サンズはその言葉に返事をしなかった。

霧秀は僅かにため息をつき、サンズから

受け取った長ドスを液体化させ、自らの

体の中へと取り込んだ。

 

「じゃあ……行くかァッ‼︎」

 

その一声が、サンズと霧秀の追撃の

開始の合図であった。

 






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「追撃」

「球磨姉、多摩姉、それに皆も……本当に

ごめん‼︎こんな事になっちまって……‼︎」

 

球磨に抱き抱えられながら、木曾が

涙声で皆に謝罪する。

 

「アホ‼︎あんただけの責任やない‼︎

それにそんな事は沖縄に帰ってから言えや‼︎」

 

「……‼︎来たにゃ‼︎」

 

多摩の言葉通り、二つの影が天龍達に

向かって高速で接近していた。

怒号に近い大声を伴って。

 

「まあああァァァァァァァァァァてええええやァァァァァァァァァお前らァァァァァァァッ‼︎」

 

喉が張り裂けるのではと思われる程の叫びが

ドップラー効果と共に日没の空に響き渡る。

 

その声の大きさに北上が煩そうに耳を塞ぎ、

苛立つ様な声を上げる。

 

「うるさいなぁ……あぁもう、ウザイ」

 

そう言いながら大井と共に後進している

艦隊の殿……サンズ達と向かい合う状態に

なると。

 

「まあ、追ってくるようなら本気で

殺っときましょうかね」

 

「ええ、北上さん。……私と北上さんを追ってくる

無粋な馬鹿は、沈みなさいッ‼︎」

 

「とりゃあっ‼︎」

 

その艤装に満載されている魚雷、

のべ50本以上の魚雷を一気にばら撒いたのである。

 

「「「ちょっ⁉︎」」」

 

この行動に思わず声を出してしまう

天龍と龍驤、木曾。

 

「だ、大丈夫なのか北上姉?」

 

「ん?あー、へーきへーき。

これだけ撃てば流石に一本や二本は当たるよ」

 

確かに圧倒的な密度の弾幕を展開すれば

命中率は高くなる。

……そう、そのはずなのだ。

そうであるはずなのに。

 

「カカッ、カカカカカカカーーーーーーッ‼︎」

 

サンズは北上と大井の行動を嘲笑うように

彼女らの想像の()()()()上を行く

対応を取った。

 

要はジャンプで魚雷の弾幕を飛び越えたのだ。

ジャンプといってもそこらの人が

想像する様なレベルのものではない。

 

かつて三宅島の一件で長門と対峙した際、

彼は自分にかかっている浮力を一瞬弱めてから

一気に最大まで引き上げる事で驚異的な

跳躍力や高速移動を行い、長門を翻弄した。

現在サンズはその方法で約500m、高さ目算15m程

まで跳躍。魚雷の弾幕を飛び越え、上空から天龍達へと一気に襲いかかる。

 

「数打ちゃ当たると思ったその考えが甘いんだよ‼︎

その首貰ったァッ‼︎」

 

「そう簡単に取らせると思うなや‼︎」

 

刹那、サンズの背後から爆雷の一撃が襲った。

堅牢な装甲で覆われている為にサンズには

ダメージはないが爆発による衝撃は防ぐ事は

出来ず、はるか上空から

天龍達の手前の海面へと叩きつけられた。

 

その頭上を何かが二つ、高速で通過して

龍驤の持つ巻物の中へと吸い込まれた。

 

「ッ……なるほど、艦載機の攻撃か。

しかも、こんな暗い中でぶち当てるとはな」

 

だが、と彼はゆらりと立ち上がりながら呟いた。

 

「当てたとしても敵を殺れなきゃ意味ねェ。

俺を殺る気なら、テメェら人類の誇る叡智の焔でも

持ってくるんだな。それとも、俺を殺す方法を

知っているのか?」

 

彼は嘲笑う。もしも自身を殺す方法を持ち合わせて

いないのならば……。

 

「精々頑張って逃げるんだなァ‼︎

まな板女ァァァァァァァァァーーーーーーッッ‼︎」

 

そう叫びながら、サンズは再び天龍達へと

襲いかかった。

……いや、今回はサンズだけではなかった。

 

天龍達の背後から大きな水柱、飛沫と共に

霧秀が日本刀を構えて肉食獣の如く強襲する。

 

サンズが魚雷を跳躍でかわしたように、霧秀も

深く潜行して魚雷を回避、そのまま天龍達の

背後を取ったのだ。

 

同時の攻撃、しかも背後からの奇襲。

まずどちらかの攻撃は通ってしまうだろう。

……この場に、奇襲、それも近接戦に対応できる

艦娘がいなければ。

 

刃と刃が交差する。

それと同時に火花と甲高い金属音が響き渡り、

霧秀の攻勢は艦隊から少し離れた所で止められた。

 

「……また、貴様か」

 

「それはこっちの台詞だ……。

いい加減に俺達の前から永遠に失せろ」

 

天龍は霧秀の刀を上へと跳ね上げ、がら空きと

なった腹を狙い振り払う。

 

「さて、永遠に失せるのは……果たしてどちらか」

 

刹那、天龍の視界から霧秀の姿が忽然と消えた。

 

「ッ⁈」

 

それと同時に到来した寒気……いや、殺意。

それを感じ取った天龍はなりふり構わず

そこから飛び退いた。

 

……そこで初めて霧秀が目の前にいた事に

気付けた。

彼は消えたのではない。

身体海面と並行になるまで反らし、その上

膝を曲げて身体を海面へと近付けて天龍の視界から

逃れたのだ。恐るべき体幹と言えよう。

 

 

「前回は不覚をとったが……慢心はもうしない。

来い、天龍。貴様の命、某が貰い受けよう」

 

ギギ、と身体から異音を響かせながら霧秀が

起き上がり、片手に持つ刀の切っ先を

天龍へと向けた。

 

「……そうやって何人斬り殺した?

100人か?1000人か?それ以上か⁉︎

もうお前に殺される人が出ないように……

この場でテメェを()る‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、サンズは2人の艦娘に攻撃を阻まれていた。

球磨と多摩の2人にである。

サンズはなんとか艦隊へと近づこうとするものの

球磨と多摩の15.2cm連装砲の砲弾がそれを

許さない。

衝撃によって段々と後ろへと押されてゆく。

 

「……みんな。今のうちに早く行くクマ」

 

「ッ……私と北上さんもいた方がいいんじゃ

ないかしら?その方が……」

 

「だめにゃ」と多摩はそれを否定した。

 

「それだとこいつら以外の連中に襲われたら

今度こそアウトになるにゃ。

それならまだ北上と大井がいた方がいいにゃ」

 

どんどんと加熱されていく連装砲を

構えながら球磨が、叫んだ。

 

「……早く行けッ‼︎球磨達が足止めしている

間に‼︎出来る限り遠くへ逃げろッ‼︎」

 

「……ッ‼︎早よ行くで‼︎面舵いっぱい‼︎

両舷全速前進(フルアヘッツー)‼︎」

 

龍驤は素早く反応。北上達を引き連れて

全力で撤退する。

 

「さて、と……多摩」

 

「?」

 

連装砲を連射しながら、多摩が球磨の方を向く。

 

「遠慮はいらねェ……あのトカゲ男に球磨型に

手ェ出した事死んで後悔させてやれッ‼︎

イクゾオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

その言葉と共に、球磨と多摩はサンズへと

決死の攻勢を繰り出した。

 



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「嵐の前触れ(前編)」

別作品の更新やってて遅れました。
そっちもよろしくお願いします。


「どうしたどうした‼︎その程度で

俺らを止めようなんざよく考えたよなぁ⁉︎

一周回って尊敬するよ‼︎」

 

夥しい砲火を浴びながらも、サンズが

球磨達にゆっくり、ゆっくりと歩を踏み出す。

堅牢な装甲の前に、球磨達の抵抗は無に帰す。

 

「……ッ‼︎」

 

「……⁉︎球磨‼︎連装砲を撃つのを止めるにゃ!」

 

球磨の異常事態に多摩が気付いたのは、

球磨がそれを自覚してからほんの数分後の事

であった。

その事態に気付けたのは……球磨の

真っ赤に焼けた連装砲の砲身。

 

連装砲はとうに過熱して球磨の背中を焼いていた。

だというのに、球磨は肉を焼く痛みに

耐えながら砲撃を続けていたのである。

 

「ッ、ぐ……こんな痛み、木曾の受けた

屈辱に比べれば……」

 

「それ以上撃ったら腕が駄目になるにゃ‼︎

そんな事誰も望んでないにゃ‼︎」

 

だがしかし、球磨のおかげでサンズを足止め

出来ているのもまた事実。

このままでは多摩も同じことになるであろう。

どうすればーーーーーー、と多摩が思考を

巡らせた、まさにその瞬間の出来事だった。

 

「チッ……いい加減に通させろテメェッ‼︎

こちとら仕事抱えてんだよ‼︎」

 

サンズが砲火から逃れようと横っ飛びに

跳躍し、一度球磨達から距離を置いた。

そして、面倒臭げに溜息を吐くと、

ゆらり、と左腕を高く上げた。

 

「テメェらには()()()()()()()で充分だ」

 

その言葉と同時に、球磨達とサンズとの間の

海面が盛り上がる。

だがそれは一瞬の事で、海面は裂けてその中から

サンズの言う“もう片方の俺達”が姿を現した。

 

 

一言でそれを表すならば、「骨」と

称した方が適切だろう。

大きさは口を開けばゆうに人1人は

吞み込める程。

それは爬虫類に似た頭骨の形をしていた。

と言っても完全にそれとは言えず、

顎に該当する部位には金属のパーツが存在した。

 

「久しぶりの出番だ。……“呑め”」

 

そう言い放ち、サンズは上げた左腕を

球磨へと差し向ける。

刹那、その首は巨体には似つかわない速度で

球磨の方へと突進してきた。

 

球磨は咄嗟に未だ赤く焼けた連装砲を

連射し迎撃する。

数発の砲弾が蛇の頭骨へと直撃、

大量の黒煙と爆炎を噴き上げた。

 

……だが。

 

「ガガッ、ガガガガガガガガガッ‼︎」

 

骨と骨がぶつかり合う様な声を上げ、

暗い眼窩から蒼い焔を噴き出しながら

首は黒煙を吹き払い何のダメージも

なかったかのように、その巨大な顎門を

開いた。

 

「ッーーーーーー⁉︎」

 

球磨はこの事態を予想しておらず、

逃げるのが僅かに遅れた。

……いや、遅れていなかったとしても

その命をほんの一瞬だけ延ばす事しか

出来なかっただろう。

 

球磨の目前に、ゆっくりと

牙の生え揃った顎門が迫りーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛沫が上がる。

血ではなく、海水。

……もしかすれば血の飛沫も上がっているかも

しれないだろうが、近くにいた多摩には

大量の海水の飛沫によってそういったものは

全く確認出来なかった。

 

一瞬の後、飛沫の晴れた跡には球磨の姿は

なかった。

ただ、先の首が開いていた顎門を閉じて

そこにいるだけ。

 

「あ、ああ……」

 

多摩はそこで理解した。

理解してしまった。

自身の姉が、今先程、あの首に喰われて

死んだと。

もう二度と、その顔を見ることもないと。

 

 

「あ、アアアアアアーーーーーーッ‼︎」

 

刹那、多摩は慟哭の叫びを上げながら

それに向かい連装砲を乱射していた。

それだけではない。自らの持つ

魚雷も総動員してその首を、

球磨を喰らった首を沈めにかかった。

 

「クソがッ‼︎クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがァァァァァァァァァッ‼︎」

 

もはや自らの命などどうなっても

構わない捨て身の攻撃。

その攻撃は流石に効いたのか、首は

眼窩から蒼い焔ではなく黒い煙を

出しながら後退し始めた。

 

多摩はそれを追って砲撃を続ける。

先程の球磨がそうだったように、

過熱された連装砲に体を焼かれながら。

 

それを見てサンズは、本当に馬鹿らしいと

ばかりにハッ、と笑った。

今まさに、もう一人の自分が攻撃されている

というのに。

 

「本当に見苦しいな。そういうのは

生前腐る程見た。……もういいよ」

 

最後、哀しげに言うと、サンズは再び

左腕を上げて、今回は振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多摩の上に影がかかる。

何事かと上を向いた多摩が見たのは、

……()()()()()首。

 

「語弊があったな。もう一人の俺達ってのは

さっきのガキを喰ったその首だけじゃないんだよ」

 

サンズの首……否、サンズの艤装は

一つだけではなかったのだ。

そして、今回のサンズの艤装は顎門の

奥から610mm4連装魚雷が飛び出していた。

 

突然の奇襲、それも上部から。

多摩は目の前の球磨を喰らった艤装に

集中していた為にこれには対応出来ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……私の目の前に顎門が迫る。

ああ、私も死ぬんだ。当然だ。これは

命のやりとりなのだから。

球磨姉もこんな気持ちだったのだろうか?

結局、私は球磨姉の仇討ちすら

出来なかった。

その事が私にとっては死ぬよりも辛くて

辛くてーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くそったれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び水飛沫が上がる。

 

サンズはそれを確認しようともせずに

とある方向を見た。

それは、霧秀と天龍が斬り結んでいる

最中の現場であった。

 

「なんだあれは、たまげたなぁ。

あいつらまだやってんのかよ?」

 

サンズはそう言いながら背後の

2つの首に退くように命令する。

 

「さて。……そろそろ終わりだ」

 

サンズはそう言いながら、

片手にショットガン風の艤装を構えて

2人の元へと走り出すのだった。




≪サンズの艤装≫
ショットガンとか多薬室砲とかは
ゲンブのお手製。本来のサンズの艤装は
爬虫類の頭骨を模した艤装である。
尚首によって雷撃担当、対空担当がある模様。



感想とか疑問とか評論とか待ってます。


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「嵐の前触れ(中編)」

「シャアアアアアッ‼︎」

 

「はっ‼︎ッふッ‼︎らあああッ‼︎」

 

サンズが球磨達を始末する数分前。

2人は幾度となく、昨夜の焼き直しのように

剣戟を繰り広げていた。

 

ただ一つ、昨夜と違う点があるとすれば、

 

「ぬ、ううッ‼︎」

 

「うらぁッ‼︎どうしたどうしたァッ‼︎」

 

最初から天龍が霧秀を圧倒していた。

昨夜は霧秀の斬撃をいなすのに精一杯だった

はずなのに。なぜか。

その理由は至極単純であった。

 

「いきがってられるのは地上だけか?

そんだけ遠距離戦が苦手なら……

俺達の邪魔するんじゃねぇよ、雑魚がッ‼︎」

 

そう、霧秀は砲撃戦といった類に対して

非常に脆かった。

一応左腕の内部に小型の単装砲は仕込まれては

いるものの、それは放つ度に熱され、

霧秀の腕を焼くために無用の長物と化していた。

刀の才はあるものの、それはあくまでも

近接戦で真価を発揮できるもの。

砲弾を斬り裂けても何発も撃たれれば

対応も出来なくなるだろう。

 

故に、霧秀は天龍に押されていた。

地上では装備出来なかった艤装によって、

天龍に対しての優勢が覆った。

 

「どうしたどうした⁉︎びびって声も

出せねえのか、アアッ⁉︎」

 

霧秀は持ち前の剣の才と身体能力を

活かし柔軟に対応していたが、

やがてそれにも限界が訪れ始める。

 

砲弾が霧秀の右足へと命中、

爆炎と共に肉を抉り取る。

 

「ギィッ‼︎」

 

「もらったぁっ‼︎」

 

そこを天龍が刀の切っ尖を向けて

突進してきた。

霧秀は天龍の刀が届く一寸手前で

態勢を立て直し、その一撃を刀で受ける。

 

だが、

「……はっ、そうすると思ったぜ、テメェは」

 

その言葉と同時に天龍の単装砲が

霧秀の方へと向いた。

 

「この距離なら、外れねぇな‼︎」

 

刹那、霧秀の身体が爆風によって吹き飛び、

その衝撃をもろに受けた霧秀の左腕が

千切れて四散した。

霧秀は5〜6m程宙を舞い、バウンドしながら

海面へと激しく叩きつけられる。

 

だがそれでも天龍の一撃は霧秀の命まで

奪う事は出来ず、よろよろと立ち上がった。

 

「く、……やりおるな小童。

確かに敵の弱点を突くのは戦の常道、

卑怯でもなんでもない効率的な戦術だ。

だが……たった()()()()で、この

某の首取れると思うなよ」

 

「その体たらくで、か?

ハッ、馬鹿言うな。テメェにそんだけの

力残ってる訳ねぇだろうが‼︎」

 

「……それは、否である」

 

言うなり、霧秀に異変が訪れた。

欠損した左腕が根本から吹き出すように

再生するやいなや、どんどんと肥大化、

その形を変えてゆく。

 

「某は幾千もの生を斬ってきた。

故に、と言うべきかいつのまにか()()()()()

異形を得ておった」

 

善も悪も、何も関係ない。

霧秀は己の前に立ち塞がるもの全てを

斬ってきた。

それ即ち、≪一切両斬≫の業。

彼によって斬り捨てられた幾多の命は

怨みとなり、怒りとなり、彼の身体に

異形となって()()()()()

 

「以前、サンズがこれを見て言いおった。

“お前の左腕は百鬼夜行みたいだ”とな。

まさしくその通りよ。某の左腕に

住むのは幾千もの(怨み)だ」

 

やがて変化を止めた霧秀の左腕は

まさしく異形と言うにふさわしい形を

していた。

まず霧秀の身長の2倍近い体積になった

腕の至る所に生えている。

目が、口が、腕が、鼻が、足が。

彼に斬り殺された者達の権化が。

深海棲艦も斬ったのであろう、

それらに特有の色合いをした装甲が

腕のあちこちに現れていた。

 

「さて、天龍よ。貴様にこの業が斬れるか?」

 

言うなり、彼は左腕を上空へと掲げた。

すると、腕から異音を立てて様々な所から

連装砲や単装砲が形作られーーーーーー。

 

「消し飛べ」

 

次の瞬間、その全ての砲口から

砲弾が放たれた。

全方位の焦土攻撃。

真っ向から、斜めから、真上から。

雨霰の如く砲弾が降り落ちてくる。

 

天龍は流石と言うべきか、己の航行技術を

以ってその弾雨を避け切っていた。

 

「ほう。この状態であれば早々に片付くと

思っておったがやはり「何考えてんだこの

落ち武者がアアアアッ‼︎」

 

と、そこにサンズが怒りの叫びを上げて

霧秀の頭をズパァンッ‼︎という

小気味好い音と共にひっぱたいた。

 

「全方位に撃つなよ⁉︎弾薬が無駄だし、

何より周りに被害が及ぶだろうが‼︎

俺まで殺す気かテメェはよぉ‼︎」

 

「いや、そんな事はないが、いかんせん

力加減が難しいのだ。許せ」

 

「ッ……サンズ、テメェ……球磨と多摩は

……まさか⁉︎」

 

サンズは天龍に気付くと、やれやれとばかりに

肩を竦めて軽快に言い放った。

 

「そりゃまあ、俺がここにいるって事は

お察しだよねえ?ハハハ、ご愁傷様」

 

刹那、ぶつん、と。

何かが決定的に切れる音がした。

天龍の中で、理性を司る何かが。

 

「テメェら……このゲロ以下のカスがっ‼︎」

 

言うなり、天龍は刀を構えてサンズ達へと

目にも止まらぬ速度で吶喊した。

 

「……如何にする、サンズ?」

 

「簡単なこった」とサンズはショットガンの

艤装を持ち上げて言った。

 

「殺すしかねぇだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーその頃、撤退した龍驤達は

未だ航行を続けていた。

 

「あいつら本当に大丈夫かいな?

心配で心配でしょうがないわ」

 

「大丈夫、……多分」

 

と、その時であった。

 

「……⁉︎皆、止まって‼︎」

 

大井の言葉に全員が時間を止められたかの

ように動きを止めた。

大井の視線の先には、夜でも分かる程の

黒い影がこちらへと向かって潜行してくる

様子があった。

 

「ッ‼︎」

 

北上と大井は弾かれたように雷撃の準備を

するが、影はそれを気にしないかのように、

彼女達の足元を高速で通り過ぎていった。

 

「……なんや、今のは?」

 

「さぁ……でも襲われなかっただけ

ラッキーじゃないかな」

 

と、今度は龍驤の持っていた通信機器から

受信が入った。

 

「はい、こちら龍驤……ん、時雨か、

どないしたん?……はぁっ⁉︎」

 

素っ頓狂な声を上げた龍驤に皆の

視線が集中する。

 

「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」

 

木曾の問いに、ゆっくりと顔を向けた龍驤は

先程通信で聞いた情報を復唱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レ、レンゲが……居なくなったって……」

 

 




深海棲艦の小説もっと増えろ……。
自分の中で面白いのだと「鬼の鎮守府」とか
「戦艦レ級カ・ッ・コ・カ・リ」とか
あと「レ級はモンスター?」とか。

鬼の鎮守府
https://syosetu.org/novel/130981/

戦艦レ級カ・ッ・コ・カ・リ
https://syosetu.org/novel/108210/

レ級はモンスター?
https://syosetu.org/novel/148200/


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「嵐の前触れ(後編)」

テスト週間終了。
更新を再開します。


天龍を前にして、サンズと霧秀の両名は

戦闘態勢に入った。

 

「霧ちゃん‼︎2人で片付けるぞ、ドス返せ‼︎」

 

「承知」

 

霧秀が肥大化した左腕の口の一つから

ドスを吐き出す。

 

「よっ、と。……って霧ちゃん霧ちゃん」

 

それを受け取ったサンズが、何故か

怪訝そうな顔をして霧秀の方へと振り向いた。

 

「どうした?しっかりと借りたものは返した

であろうに、何か不服でもあるのか?」

 

「いや、確かにこれドスだけどさ。

……なんか刀身が短くなってるんですけど」

 

そう。サンズが霧秀にドスを貸し与えた際は

30cm程の長さがあったそれは、今では

半分以下の長さとなっていた。

 

「何かやった?」

 

「……」

 

そっぽを向く霧秀。

 

「……霧ちゃん。何か言ってくれや」

 

「ええ〜、本当でござるかぁ?」

 

「唐突なござる口調で誤魔化そうとするのは

悪いがNGの方向で頼む」

 

その言葉に霧秀はため息をつき、観念したように

話し始めた。

 

「……申し訳ないが、先程あの小童に左腕を

取られた際、貴様の刀身も半分程

持っていかれたのだ。許せ」

 

「事故か。なら仕方ねぇな。

……とっととあのガキ仕留めるぞ」

 

そういうとサンズは、遠く離れた天龍へと

ショットガン型の艤装による砲撃を加えながら

海面を奔り出した。

 

「……委細承知。ならば某は援護に徹しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サンズーーーーーーッ‼︎」

 

天龍がサンズの砲撃を回避しながら

同じく走る。

 

「天龍ウウウウウウウウッ‼︎」

 

サンズも天龍の叫びに応えながら

海面を疾走する。

 

そして。

 

「「死ねやこの野郎ーーーーーーッ‼︎」」

 

互いの刀剣を相手へと振り抜いた。

今宵一番の檄音が高らかに響く。

 

「シッ‼︎」

 

その一合の後、先に刀を突き出したのは

サンズだ。

ドスの刀身が短くなった事で

斬撃の回転率が上がったのだ。

 

だがその代償として、リーチが狭まった。

そのため、

 

「うおらっ‼︎」

 

「ガッ⁉︎」

 

ドスが届く前に天龍に腹を蹴り抜かれ、

サンズは後退せざるを得なかった。

 

そこを天龍は追撃しようと一歩踏み出す。

だが、天龍は何かに気付き、慌てて後退した。

 

そこへ上から影がかかる。

 

「ムゥゥンッ‼︎」

 

霧秀が己が異形の左腕を天龍に向けて

まるで蚊でも叩き潰すかのように

振り落としたのだ。

 

爆裂。

凄まじい量の水が巻き上がり、

辺りに塩辛い雨を降らす。

 

「逃すものかッ‼︎」

 

霧秀の攻勢はそれだけでは終わらない。

振り落とされた左腕からメキリ、という異音と

共に何十もの腕が生える。

 

「ッ⁉︎なんだそりゃ‼︎」

 

生えた幾多もの腕は、天龍を捉えようと

更に伸びながら襲いかかってきた。

さながら亡者の手の如く、

うねり、天龍の中にある命を求めながら。

 

「チッ……しゃらくせえッ‼︎」

 

天龍はそれに臆する事なく襲いかかってくる

腕を的確に斬り落としてゆく。

だが、腕の数は減るどころか斬り落とす度

その傷から更に多数の腕が再生、

天龍へと再度襲撃を開始する。

 

とうとう、一本の腕が天龍の右腕を捕まえた。

天龍はそれを斬り落とそうとするがもう片方の

腕も捕らえられ、次いで両足も掴まれて

自由を奪われてしまった。

 

「霧ちゃん、俺が離せって言うまで離すなよ‼︎」

 

サンズがそう言いながら突如として

クラウチング・スタートの姿勢を取り、

天龍へと向けて走り出した。

 

そして、全力で海面を蹴り。

 

「今だああああああああ‼︎離せええええええッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗転。

横転。

逆転。

後転。

そして、明転。

 

 

 

 

「が……っァ……‼︎

げっ、がはッ‼︎おゥ……えぼっ‼︎」

 

一瞬だが意識が飛ぶ程の飛び膝蹴りを

喰らった事を、天龍は自覚していなかった。

だが、臓物が破裂した(ハジけた)ような痛みと

自らの口から溢れ出す血の混じった吐瀉物を

見て、自分が何か強烈な一撃を喰らった事だけは

理解出来た。

 

「えげつないな貴様も。あれなら殺した方が

マシであろうに」

 

痛みにのたうちまわる天龍を見やって、

霧秀がため息を吐いた。

 

「よくもまあ頑丈なもんだな艦娘の強度は。

……けど、もう動けそうにないなありゃ」

 

サンズはそう言い放ち、今度はゆっくりと

天龍へと歩みを進める。

 

「ぐっ……ゥ……ッ‼︎」

 

「テメェはよく頑張ったよ。

霧ちゃんを相手に斬り結び、2人がかりで

あっても臆する事なく立ち向かった。

俺はお前に敬意を表するよ。……故に」

 

そこまで言ってサンズは天龍の近くまで

近寄ると、ショットガンの艤装を頭部へと向けた。

 

「ここで死ね」

 

冷たい声音で彼は宣告し、迷う事なく

艤装の引き金をーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前方から向かってくる砲弾へと向けて

引いた。

 

吐き出された凶弾は物の見事に

砲弾へと命中、爆発する。

 

「……何奴。まさか先の女子衆では

あるまい?名を名乗れ、下郎」

 

霧秀は右腕の刀の切っ尖を向け、

爆炎の先にいる謎の闖入者へと問う。

やがて、炎と煙が晴れて闖入者の姿が露わとなる。

サンズはその闖入者の名を知っていた。

天龍はその顔を忘れる事などあり得なかった。

 

「……ヘェ。まさかまさか、テメェと

また会えるなんてさ」

 

サンズは黒いコートを羽織った白い肌と髪、

異形の尾を持つ闖入者へと語りかけた。

 

「また会えて嬉しいぜ。

……レンゲちゃんよおおおおおおおおおッ‼︎」

 

ーーーーーー瞳に怒りを宿したレ級の少女に。



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「激突」

天龍は自らの目を疑っていた。

何故鎮守府にいるはずのレンゲがいる?

どうやって抜け出したのだ?

いや、それよりも彼女がレンゲの姿を見て、

なによりも恐れたことは……

彼女がサンズと戦うことになることだ。

 

サンズは前回の三宅島占領の一件にて、戦艦である

長門を危うく轟沈させる一歩手前まで追い込んだ程

の手練れ。対してレンゲの方は戦闘経験など数える

ほどしか経験していない。

 

そんな2人が激突すればどうなるか。

まるでその結果が分かっているかのように、

サンズは気安い調子で、レンゲへと話しかけた。

 

「くく。誰かと思ったら、海軍省で世話になった

レ級ちゃんじゃねェの。元気にしてたか?」

 

「うるせぇ。糞野郎が」

 

対してレンゲは硬い声でサンズを罵倒する。

その声音には「絶対にお前を許さない」という

覚悟がありありと浮かんでいた。

 

「おゥ、大した挨拶じゃねェか?まあこの光景を

見りゃあ誰でもそうなる訳だろうけど、さ」

 

くくく、と喉を鳴らして微笑うサンズ。

 

「……なあ、サンズ。お前は何の為に戦う?」

 

そんな彼に、少女は問うた。

何を以ってして戦場に身を投じるのかを。

 

「くだらねえなぁ。決まってんだろ?

……金、権力、暴力‼︎それを以って俺達の……。

“丙型生命体”の天下を創り上げる為だ‼︎」

 

哄笑を以って怪物は答えた。

己が獣欲を満たす為と。

 

「……お前はその為だけにあの島(三宅島)の人達を、

何の罪もない人を何千人も殺したのか⁉︎」

 

「悪いか?所詮この世は弱肉強食。弱い者は食われ

強い者が生き残る。罪も何も知った事か。

強いて言うならば、弱かったことが罪と言えるな」

 

「誰しもがお前のように強い訳じゃない。だから、

俺はそんな人達を守れるように強くなりたい」

 

「……それが、テメェの“戦う理由”か?

クッ……くくく、クカーハハハハハハハハハハハッ‼︎

ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎

馬鹿かテメェ⁉︎そんな……そんな理由で戦うのか⁉︎

()()()()()()()()()()で‼︎」

 

レンゲの戦う理由を、サンズは嘲笑った。

その覚悟は自己満足だと。

そうして暫しの間笑っていたが、先程よりも

目尻をキリリと上げたレンゲに気付くと、

その笑みを消した。

 

「あァ、悪りぃ。つい面白かったからな。

それに付け加えるなら……俺はそんな理由で

戦う野郎が嫌いだ。ちっぽけな正義感で戦う

馬鹿は嫌いだ」

 

サンズは目を細めて、レンゲを睨んだ。

と、急激に辺りが闇に呑まれ始める。

水平線に沈んでいた太陽、その最後の残光が

消えたのだ。

 

(ちょうどいい。こいつもそろそろやるか)

 

サンズは心の中でそう算段をつけると、

開いていた手を握りしめて、口を開く。

 

「なぁ、レンゲちゃんよ。実は俺らを

押し留めてたのはあそこの嬢ちゃん以外に2人

いたんだけどなぁ?名前なんて言ったっけか」

 

「ッ‼︎聞くな、聞いちゃダメだレンゲェェェェッ‼︎」

 

満身創痍の身体を鞭打ってレンゲへと叫ぶ天龍。

その頭を容赦なく上から何者かが押さえつけた。

 

「がふッ……‼︎」

 

「少し黙っていろ」

 

霧秀であった。肥大化していた片腕は元に戻り、

その腕で天龍の頭を抑えつけている。

 

「まあ、名前なんてどうでもいいか。

2人とも、……俺が殺してやったんだからさあ」

 

「……え?」

 

今、こいつは何と言ったのだ?

殺した?あの三宅島の人達のように?

惨たらしく、残虐に?

 

「くく、ざまあねェよなあ。“これからは

弱い人達を助けよう”って誓った途端に

救えなかった命があったって分かったんだから。

無為、無謀、無策。くくくくくく。

……今、どんな気持ちだ?」

 

その言葉をサンズが呟いた刹那、レンゲの頭の中で

何かがぷつりと音を立ててキレた。

 

「この……糞野郎がアアアアアアアッ‼︎」

 

吼えた。怒りのままに海面を蹴る。

それだけでレンゲの身体は3m近く飛んでいた。

そして、……それこそがサンズの思惑通りだった。

 

「シャアアアアアッ‼︎」

 

ズドン、とレンゲの身体を腹を中心にして

激震が走る。

サンズがレンゲの繰り出した拳を屈んで避け、

カウンターで放った右ストレートが腹を

撃ち抜いたのだ。

 

「がッ、あ″あ″ッ⁉︎」

 

しかもこれで終わりではない。

サンズは撃ち放った腕をグリッ、とアッパーの形に

変えると、そのままレンゲを上空へと打ち上げた。

 

レンゲは天高く空を舞い、ばしゃん、と

無様に顔から海面に激突する。

 

「ぐッ……は、ア″ア″ア″ッ……‼︎」

 

サンズはその姿を闇の中でも輝いて見える

金色の目でレンゲを見下しながら、

「精々足掻くといい。テメェの覚悟がどんなモンか

見届けてやる」と冷徹に言い放つのであった。



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「暴走、あるいは───」

夜闇に包まれた海に、もう何度目か分からない大きな水柱が吹き上がる。

 

「さあ、さあさあさあ踊れクソガキ!!逃げてばかりの腰抜けに、俺が倒せるかな!!」

 

サンズは嘲笑うような口振りでレンゲを煽り立てながら、『それら』に命令を下す。

 

「仰角よし、主砲───撃てェッ!!続いて爆撃機、発艦用意ッ!!火力と質量の暴力で押し潰せッ!!」

 

その一声で辺り一帯を震わせる程の砲撃を行ったのは……爬虫類のような、頭蓋だけの化け物。

サンズの艤装である。しかも球磨達の時とは違い、2体の砲撃と爆撃による波状攻撃。

レンゲはその持ち前のスペックでギリギリ攻撃を避けてはいるが、余りの攻撃の激しさに反撃に移ることが出来ない。

もしサンズの艤装がもう一体増えていれば、今頃レンゲは殺されていただろう。

 

(くそ、一瞬でも立ち止まったら砲撃に巻き込まれて死ぬ!!かといって反撃も上からの爆撃で潰される!!どうすりゃいいんだよ!?)

 

八方塞がりの戦況に思わず舌打ちするレンゲ。

だがそれだけではない。何よりも彼女を苛立たせたのは、サンズが明らかに手を抜いていたことだ。

 

「どうしたおチビちゃん!!そこの女の命を守りたいんならネズミみたくチョロチョロ動き回っていないでかかってこいよ!!」

 

霧秀が押さえつけている天竜を一瞥して更なる挑発を行うサンズ。その両隣では彼の艤装が砲撃の用意と爆撃機の発艦を淀みなく続けている。

 

先程からずっとこの調子である。レンゲはとうに彼の艤装が自動で攻撃を行うことを見抜いていた。

確実に殺すならサンズ自身も攻撃に加わっているはずだ。彼の右手にはショットガン型の艤装が握られているのだから。

あえてそうしないのは───嗜虐心によるものか、あるいはレンゲの覚悟を試しているのか。

どちらにせよ、サンズの匙加減によって生死を握られているという現実に、レンゲは己の力不足を呪った。

 

(畜生ッ!!こいつを止められなかったらまた三宅島のようなことが繰り返される!!もう四の五の言ってられる場合じゃないッ!!)

 

もう体力も限界に近い。しびれを切らしたサンズが天竜を殺す可能性もある。

そして、

「最後通牒だ、クソガキ!!これから10秒後にあの女を殺すぞッ!!」

 

サンズのその言葉が、レンゲの迷いを絶ち切った。

 

「ッ、う、ああああああああああああああッ!!」

 

それまで逃げ腰だったレンゲが一転、全速力でサンズの元へと疾走する。

その行動にサンズは手を叩きながら笑い声を上げる。

 

「いいぜそうこなくちゃなァ!!さあ、倒すべき悪は目の前だぜ。お前に覚悟があるならなんとかしてみせろッ!!」

 

その言葉と共にレンゲに標準を合わせた艤装がその(あぎと) の奥から覗く主砲から爆音と炎と共に砲弾を撃ち出す。

同時に上空を旋回していた爆撃機が一斉に降下、レンゲに爆撃を見舞おうと襲い掛かる。

 

その圧倒的な殺意を前にしても、レンゲはそのまま走る速度を緩めずに突き進み───次の瞬間、大きな水柱が屹立した。

 

辺り一面に塩辛い雨が降る中、サンズは骨と鋼の艤装を散開させる。

 

(尻尾で海面を叩きつけて、爆撃機と俺の目を掻い潜りつつ海中へ潜航……ってところか)

 

サンズの鋭い目は、闇夜の中であってもレンゲが尻尾を海面に叩きつける瞬間を見逃しはしなかった。砲弾が直撃したのは、レンゲが海中に潜航した直後である。

 

(成る程、考えたな。確かに海中なら専用の艤装がない限りは位置の特定は不可能、夜なら奇襲の成功率は更に高くなる)

 

おまけにレンゲは深海棲艦。泳ぐスピードは想像出来ない程に高速であり、普通の相手ならばなす術なく撃破されていただろう。

事実、すでにレンゲはサンズのすぐ側まで迫り、その長大な尾の艤装の砲口をサンズへと向けていた。

そして、急速に浮上しながら砲撃による奇襲を行おうとした瞬間───。

 

「ま、対策はしてるんだけど」

 

深海に潜んでいた()()()のサンズの艤装が、背中から思い切りレンゲに激突した。

その威力は凄まじく、レンゲの体勢を無理やり『く』の字の逆に変え、その肋骨にひびを入れる。

 

(がっ!?……かっ……!?)

 

そのまま空中に放り投げられ、レンゲは頭から海面に転落した。

余りの衝撃に意識が混濁するが、それだけに留まらず、何者かに襟首を掴まれる。

 

「残念。お前の覚悟より俺の実力が上という訳だ」

 

当然、リヴァイア・サンズである。

尻尾による攻撃が出来ないよう、レンゲの艤装を踏みつけて動けないようにしながら片手でレンゲの体を吊り上げた。

 

「ぐあッ……くそ、離せ……」

「嫌だね。お前は負けた、そして俺は勝者だ。勝者が負け犬の命令を聞く訳がないだろ?」

「誰が、負け犬、だ……」

「負け犬だよ、お前は。俺が手を抜いてたのは分かってただろうに」

 

冷徹に、サンズは言い放つ。先程までの調子がまるで嘘のように淡々と、冷静に。

 

「そもそも手を抜かれて負けるのもアレだが、状況の判断も行動もクソだったね。

敵に煽られて攻撃なんて俺からしたらバカのやることだよ。あそこで余計なダメージ負わなきゃ勝てたかもしれないのに。

だが何より酷いのは判断だよ。本当に仲間を救いたいんだったら見捨てて撤退すべきだった」

「見捨てる……なん、て……出来ない……!!」

 

だからお前は負け犬なのさ、とサンズは冷徹さを保ったまま断言した。

 

「まずこの戦況において大事だったのは情報だ。お前は唯一無事でありながら相手側に丙型生命体(俺達)という手札があったのを仲間に知らせずに勝手にバカやって倒れた。これはもう擁護のしようがない。

ここでお前がこんなことしなきゃ、多くの人間が助かったかもしれないのに」

 

サンズの残酷なまでに理詰めの正論は、レンゲの心に大きなひびを入れた。

 

「……俺が、こんなことしたから……皆、死ぬ?」

「そう。お前は皆を守ると言っておきながら……結局、殺したことになるのさ」

「違……ここで倒さなきゃ、沖縄は」

「万が一俺を殺したとしても、こちらには数という最大の戦力がある。遅かれ早かれ結末は同じだ。

お前が情報を伝えていれば、死人は出るが住民の脱出という手段も取れたかもしれないのにな」

 

それもこれも一人のせいで全てなくなったとサンズはレンゲの顔を見据えて言い放つ。逃げ場などどこにもない。レンゲに残されたのは、言い様のない後悔と恐怖、そして絶望である。

 

カタカタと震えながら、レンゲは焦点の合わない思考を巡らせる。

 

俺は天龍達を見捨てるべきだった?球磨達を殺されたことに怒りを覚えるべきではなかった?違う、これは理性で割り切れるものめはない。

逃げるべきだった?違う、違う違う違う!!天竜が殺されるのを黙って見ていられる訳がない!!

この行動で沖縄の皆は死ぬことになる……!?知らなかった、思いもしなかった。考えもしていなかった!!

気づくべきだった、もっと早く!!俺は、俺は──────俺は、どうするべきだった……?

 

「お前は気付いてるはずだ。────何もすべきではなかった。何もしなかったなら、良くはならないにせよ……酷くはならなかったろうに」

 

堂々巡りのレンゲの思考を、サンズは彼女が直視することが出来なかった事実を突きつけて絶ち切る。

それは同時に、ギリギリで保っていたレンゲの心を……粉々に打ち砕いた。

 

「ぁ─────ア、アァアァァァアァアァァァァァッ!!」

 

刹那、少女の悲痛な叫びが夜空に響き渡る。

その痛ましい姿に天龍は思わず顔を伏せ、唇を噛んだ。

 

「……やりすぎたな」

 

霧秀が錆びた声でサンズに語りかける。

 

「……分かってるよ。とりあえずこいつの対処は保留にして……そこの女はどうする?」

「殺しは手間だ。手足の一、二本でも折って放置しておけばいい」

 

成る程、とサンズは霧秀の方を向いて話を聞いていたが……ふと、レンゲを掴んでいた手が掴まれるのを感じる。

振り返ると、レンゲがその白く柔らかい右手でサンズの鋼鉄にも似た質感の腕をがっちりと掴んでいた。

 

「……往生際が悪いな。そういう奴は嫌われるぜ?」

 

所詮は悪あがきと、サンズはもう片方の腕で引き剥がしにかかる……が、外れない。それどころかより掴む力が強くなってきている。

 

「……なんだ、こいつ……どこからこんな馬鹿力を……!!」

 

表情を伺おうにも深く被さったフードが顔を隠して見ることが出来ない。

だがサンズの勘は正しく理解していた。そしてサンズ自身に警告していた。

────「こいつはなにかヤバい」と。

 

 

 

 

────気付くと、俺は真っ白な空間にいた。

壁も空もなく、ただ白一色に塗り潰された世界に、たった一人でぽつんと立っていた。

 

「……ここは?」

『どこだろうね。私も分からないな』

 

ふっと喉から滑り出た言葉に対して背中の方返ってきた答えの主に思わず振り返る。

そこには、────(レ級)がいた。

黒いコートの服、背中にはリュックサックに首にはマフラー。全てが俺と同じ服装だ。

ぱさり、と音を立てて被さっていたフードが落ち、その顔が(あらわ)になる。

やはりというべきか否か、その顔は俺と同じだった。

 

「……誰だ?」

『私は────私。あ、でも()()()()()()()かなー』

 

ニヨニヨとした笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへと近付いてくる(レ級)

俺と同じ背丈であるはずなのに、その姿は何故か大きく見えていた。

 

『ねえ。少し貴方と代わりたいんだけどいいかなー。あんまり乱雑に扱われると私としても心外だからさー』

「代わるって、一体……そもそもお前は────」

 

俺が言葉を終わらせる前に、レ級は俺の胸をとん、と軽く叩いた。

刹那、俺の体が急激に重くなり、意識が朦朧とし始める。

 

「なっ……お前何をしたんだ……!!」

『何もー?ひょっとしたら心の奥底で『交代したーい』って思ったんじゃないの?』

 

そんなこと、と言いかけて思い出す。

ここに来る前の全て……そしてサンズに言われたことを。

 

「お前は気付いてるはずだ。何もすべきではなかった」と。

 

その言葉を思い出すと共に意識が途切れ始める。

そんな俺の様子を意に介することもなく、目の前のレ級は微笑を浮かべながら俺を見下ろしていた。

 

『まあ、ぐっすり寝ててよ。あなたの代わりに、私が後始末を付けてあげるから』

 

そんな言葉を最後に、俺の意識はぼんやりと暗転していったのだった────。

 

 

 

ギリギリと万力の如く腕を握りしめる力に、サンズの背中に一筋の冷や汗が走る。

 

(マジかよコイツ……深海棲艦ってことを含めてもこの膂力は異常過ぎる!!一体どこにこんな力が……!!)

「……サンズ!!彼奴(きゃつ)から手を離せッ!!修羅(しゅら)の気配が漂っているぞ!!」

 

分かっている、と言いたかったが、サンズはもうそんな口を利く暇さえない状況にあった。

自由の利く方の腕で無理やり引き剥がしにかかってはいるが、少しでも力を抜こうものなら握られている腕が()()()()()()

目の前のレ級の力はそれほどまでに強まっているのだ。

 

過去幾度の死線をくぐり、数え切れない程の砲撃や爆炎、あらゆる攻撃を受けてきたサンズであっても『碗力で腕を折られる』なんてことは初めてだったのだ。

 

だからこそ彼は僅かに焦った。そしてその焦りが、『始まり』を見抜くのを妨げた。

 

「─────うふふっ」

「ッッ……!!」

 

フードの奥から覗く()()双眸と目が合った時、サンズは思わず息を呑んだ。

目の前のレ級が、さっきとはまるで別物の存在に変化したようにしか見えなかったからである。

先程は良くも悪くも人間らしさを持っていた少女は、そこにはもういなかった。

代わりに現れたのは────ただただ純粋極まる、怪物(圧倒的暴力)であった。

 

突然、サンズの首もとから鮮血が噴き出す。

これを行ったのは、当然ながらレンゲである。だがその方法が異常であった。

 

(っ、なんて無茶苦茶やりやがる……()()()()()()首の肉抉っていきやがった……!!)

 

レンゲは空いていた左手を乱雑に振り回してサンズの首を引っ掻いたのである。

ただの引っ掻きでも、その圧倒的膂力を以てすればどんな刃物よりも残酷な武器に早変わりする。

 

「ご、が……!!」

 

だがそこはサンズも戦闘に慣れた存在。僅かに首を反らせ引っ掻きの傷を最小限の出血に留める。

……しかしそれはレンゲに掴まれた腕への注意を散らすこととなり。

 

「あはっ♪」

 

ベキッ!!という嫌な、しかしどこか心地よい快音と共にサンズの右腕はまるで大人が小枝を折るかのように容易く砕かれた。

 

「ぐ、お、~~~~~~~~ッッ!!!」

「サンズッ!!」

 

霧秀が組伏せていた天竜から手を離しサンズの救援に向かう。

それと同時にレンゲが着水、腰を入れた回転と共に尻尾によるフルスイングをサンズに見舞う。

 

激痛によって一歩行動が遅れたサンズは全力で防御の体勢を取る。折られて使い物にならない右腕を盾にした判断は咄嗟とはいえ最善であった。

 

「あはははっ!!」

 

────相手が圧倒的な暴力を持っていなければ、の話だが。

 

辺り一帯を激震させる程の轟音と共に、レンゲの尻尾がサンズの右腕ごと胴を捉え()()()()()()()()()()

 

(こっ……ま………死……ッ!!)

 

その余りの威力にサンズの意識は一瞬消し飛び、口から大量に吐血。それだけに留まらず弾丸のようにその体を弾き飛ばす。

そして勢いを緩めずに海面に叩きつけられ、それっきりサンズの体は浮いて来なかった。

 

「……サンズ………ッ!!」

「レンゲ……お前、一体……」

 

サンズの沈んだ先を見つめ、驚愕したようにその名を呟く霧秀。

一方、解放された天龍は自由に動かない体を引き摺りながらレンゲに弱々しく呼び掛ける。

 

……レンゲは。

 

「………あは、あははは♪」

 

……いや、レンゲであったレ級は。

 

!!!!!」

 

白い歯を剥き出しにして、おぞましく無邪気な笑い声を上げたのであった。




ハーメルンよ!!私は帰って来た!!(2年ぶりの投稿)
……いや本当にすいません。他の人の作品見てたら心が折れてました。前みたいな投稿ペースではありませんがちょくちょくやっていこうと思ってます。


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「ゲームセットだ」

投稿の挿入!!漢字変換!!ミスりました!!


ッ♪ !!」

 

まるでおかしくて仕方ないとばかりに絶えることのない哄笑を上げるレ級。

その姿は至って無防備であるはずなのに、霧秀は奇襲をかけるのを躊躇していた。

 

(サンズめ……いらんことをしたばかりに!!藪から蛇どころか、鬼を出してどうする!?)

 

横にいた天龍の呆けたような様子を見るに相手からしてもあれがイレギュラーな事態であることは分かっている。

誰がどう見ても、我を忘れた暴走状態であった。

おまけに逃げようにもレ級は笑いながら抜け目なくこちらの様子を伺っている。背中を向けた瞬間嬉々として襲い掛かるだろう。

 

(コレ(天龍)を楯にしても、諸共に殺されるのがオチか。ええい全く、厄介な置き土産を残しおって……)

 

霧秀は心の中で毒づきながらも、迂闊にレ級に刺激を与えないようゆっくりと腰に差している刀の柄を掴む。

 

「……おい小童、下手に動くな。アレはもうお前の知っている存在ではないぞ」

 

レンゲに歩み寄ろうとした天龍を制しながら、霧秀は己の刀を音も立てずに抜刀する。

 

「く、なんでテメェなんかに指図されなきゃ……」

「死にたければ勝手にしろ。どちらにせよ某はアレと事を構えねばならぬ」

 

既にレ級は笑い声を止め、ニヤニヤした顔でこちらへと向き直っている。

霧秀を逃がそうという考えは毛頭ないようだ。

 

「正念場とは、正しくこの事だな……」

 

ゆっくりと刀を構える霧秀に対して特に動きを見せず自然体のままにしているレ級。

両者の戦いの火蓋を切ったのは───霧秀であった。

 

「……カッ!!」

 

優に30mは離れていた距離を僅か一息の間に詰め、その勢いを乗せた袈裟斬りをレ級に見舞う。

 

「アハハッ!!」

 

閃光の如き一閃をレ級は右腕のガードで簡単に受け止める。

瞬間、霧秀はレ級の体を蹴り飛ばして海中へと身を投じ、姿を消す。

奇襲を警戒したレ級が辺りを見回しながら静寂に包まれつつある海面に一歩踏み出した瞬間───。

 

「シャアアァッ!!」

 

背後から飛び出した霧秀の刃がレ級の首に叩き込まれる。

紛うことなき直撃。首を絶ち切ることは出来ずとも、重篤なダメージを与えるには充分だった。

───充分だったはずなのである。

 

「ア、……ハハハッ!!」

「ッ!!」

 

間髪入れずにレンゲが後ろ蹴りの応手を返す。

通常なら間違いなく食らうであろうそれを霧秀が無傷で躱すことが出来たのは、刃が食い込んだ時の異様な手応えに違和感を感じていたからである。

 

(刃は入った……が、斬れない。まるで鋼並みの硬度を持ったゴムか何かのようだ)

 

あの感触からして、刃の衝撃も斬撃も全く効いていない。

霧秀のその見立ては即ち……彼の武器がほぼ奪われたに等しいものだった。

ゆっくりと刀を構え直した霧秀を嘲笑うかのように笑いながら、今度はレ級が霧秀に襲い掛かる。

 

「アハッ!!ウフフフフ♪」

「……()ィィィッ!!」

 

霧秀はかつて天龍との戦闘で見せた秘剣、"(さざなみ)"の連撃によってレ級の全身を斬り刻みにかかる。

だがレ級は防ごうという素振りも見せず強引に距離を潰していく。

 

(南無三……ッ!!)

 

多少の痛覚はあるから防御の姿勢位は取るだろうと楽観視した己に霧秀は憤る。

だが霧秀もただではやられない。飛び込んで来るレ級のテレフォンパンチを横にすり抜けるように避けながら、その胸に刀の鋒を突き立て───。

 

「────"青海破(せいがいは)"ッ!!」

 

寸勁の要領でレ級の体を5m程大きく吹き飛ばした。

 

「……ッ!」

 

レ級は両足のみならず両手も動員して全力でブレーキをかけ、結果として霧秀に大きな隙を晒す形となる。

 

(ここで勝負を決めるッ!ここで死……ッ!!)

 

トドメを刺そうと動き出した霧秀の頭上に何かの影がかかった。

刹那、霧秀の背筋に怖気が走り、彼の本能が全力で体を後ろへと飛びずさる。

次の瞬間海面に突き刺さったのは……レ級の尻尾、その先端の大きな顎。

避けられてもレ級は四つん這いの姿勢を崩さぬまま、まるでサソリのように尻尾をもたげて霧秀を眺めていた。

 

(こちらの攻撃が届かない中距離で封殺する気か!!)

 

霧秀がその狙いを悟った瞬間、その上半身を噛み砕かんとレ級の長大な尻尾が大顎を開いて上から躍りかかる。

しかも一度や二度ではなく、間隙ないあらゆる方向からの顎門(あぎと)の連撃である。

しかも時折フェイントを入れてくるおまけ付きで、だ。

 

「シッ!……く、速くなって来ているだと……!?」

 

刀でいなしたりあるいは自身を液体化することで攻撃を凌いでいた霧秀だったが、ここでレ級の攻撃が突然尻尾の噛みつきから横薙ぎのスイングという攻撃の変調を見せる。

大降りな攻撃。霧秀は軽々と跳躍して攻撃を回避する。

 

そしてその瞬間、彼は失態を悟った。

 

(────誘われたか!!奴の本命は……ッ!!)

 

彼の視界に映ったのは、こちらに向けてぱっくりと開いたレ級の尻尾の大顎……その奥に鎮座する41センチ砲。

避けられない。空中では身動きが取れない。かといって液体化しようにも時間がない。

 

「……無念、なり」

 

数秒後の己の命運を理解した霧秀は、ゆっくりと瞑目して来るであろうレ級の砲撃に身を任せ───。

 

「……何を諦めてんだよ。霧秀」

 

レ級が砲撃による爆炎で吹き飛ばされると同時に響いた聞きなれた声に、思わず目を見開いた。

 

「……サンズ!!くたばったはずでは……」

「残念だったな──トリックだよ」

 

リヴァイア・サンズである。口の端からは血を流し、右腕は無残な状態。胴体の甲殻は大きなひびが入った有り様でありながら、左手にショットガン型の艤装を携えたいつもと変わらない飄々とした様子で立っていた。

 

「一瞬だけど意識がトんでたわ。尻拭いさせて悪かった」

「無事……という訳ではないが、生きているならそれで良い。それよりも、アレはどうする?」

 

サンズの砲撃の余波で倒れはしたものの、レ級は未だ健在。まだまだ戦闘を続けようとしていた。

 

「お前は先に戻って情報を伝えろ。ここで二人揃ってお陀仏じゃ笑い話にもならねェ」

「だがそれでは……」

「……俺は()()()と言ったぞ。命令は絶対だ」

 

普段ではあり得ない程冷徹な態度を取るサンズ。

その態度に霧秀も嫌々ながら理解する。

『今この状況で、レ級に勝つことは出来ない』と。

 

「……ま、ひょっとしたら勝っちゃうかもしれないし?俺様が手柄を立てて帰ってくるのを待ってなよ」

 

厭な空気になるのを嫌ったか、サンズはすぐにいつものふざけたような調子に戻る。

 

「承知した。必ず戻って来い」

「あいよ。必ず生き残ってやる」

 

手短な、しかし最期の会話になるかもしれない言葉を交わして二人は別れる。

サンズはショットガンを片手にレ級の方へと向き直り、鋭い牙を剥き出しにして笑った。

レ級もそれに応えるように満面の笑みを浮かべ……死闘の火蓋は今、再び切って落とされた。

 

 

 

 

「ハァッハハハハハハッ!!ハハハハハッ!!」

「アハッ♪アハハハハハハハッ!!」

 

その戦いは、異常と呼ぶべきものだった。

命を懸けた闘争であるにも関わらず、どちらも笑顔を浮かべたままに殴り合い、撃ち合い、殺し合っている。

サンズがショットガンの艤装から多数の砲弾を撃ち出せばレ級は敏捷に飛び回って回避し、逆にレ級が狂暴に攻撃を繰り出せばサンズは一分の隙も見逃さずに痛打を叩き込む。

サンズの身体はボロボロでありながらも、対等にレ級と戦い……それどころか翻弄さえしていた。

 

通常個体のレ級でも一線級の艦隊が束にならないと撃沈出来ない程厄介であるのに、暴走状態で身体のリミッターが外れているレ級(レンゲ)とまともに戦えているのは《丙型生命体》としてのサンズの能力が桁外れに高いことを示しているだろう。

 

だが惜しむらくは、この戦闘に持ち込まれる前にサンズは一時前後不覚に成る程の痛手をもらっていた。

すぐに意識は回復こそしたが、身体のダメージはそうはいかない。無理に動かしていたサンズの身体は悲鳴を上げ始め、一進一退の趨勢に傾きが生じる。

 

「アハハハハハハハッ♪」

 

この戦況の変化を甘んじて受け入れるサンズではない。

長期戦を捨て、短期決戦へと持ち込むべく捨て身の特攻をかける。

体勢を崩すことを狙った単純なタックル。当然これを受ける訳がないレ級は横へ飛んで避けようとして────その先の海面から飛び出してきた頭蓋の怪物……サンズの艤装の突撃をもろに喰らう。

 

「……!?」

 

この一撃で吹き飛ばされずともレ級は体勢を大きく崩すことになり、間髪入れずにサンズがタックルによってレ級を強引に押し倒す。

そして両足でレ級の両腕を身体ごとがっちりと挟むと、左手でその白く細い首を掴み、絞め落としにかかった。

 

「ゲームセットだ……!!」

「……ッ!!…………!?」

 

頸動脈を絞められて呼吸が出来ず、必死にもがきながら脱出しようとするレ級だが、サンズもそうさせないように必死で押さえ込む。

 

(10秒も持たずにこいつの意識は()()()!!このチャンスを逃してなるものかよォ!!)

 

後僅かとなった勝利に逸る心を抑えながらサンズは首を締める力を強くする。

 

「───ッ!!」

 

ばきっ、という音を立ててレ級の尾が左の脇腹に噛みつく。

噛みちぎられこそせずとも、牙を突き立てられるその激痛は凄まじいものなのは語るまでもない。

そう、そのはずなのに。

 

「……この程度で、放すと思うなよ……!!」

 

サンズは微動だにせず、じわじわと左手の力を強めていく。

締め上げられたレ級の顔が赤くなり、新鮮な空気を求めて口の端から泡を漏らす。

 

「とっとと落ち────」

 

瞬間、サンズの脇腹に噛みついていた艤装から爆音と黒煙、そして爆炎が噴き出した。

零距離からの主砲による砲撃。既に満身創痍のサンズが耐えられるものではない。

 

「ごっ………が…………ァ……」

 

サンズの瞳がぐるっとひっくり返り、鼻と口から(おびただ)しい量の鮮血を吐き出す。

()った。確実な致命傷を与え、決死の戦いに勝ったという確信にレ級がその苦痛に歪んだ顔を綻ばせ─────。

 

「………ッ、ゥオオオオオオォォォォオォォッ!!」

 

むしろよりサンズの力が強まったことに驚愕の色に染め上げられた。

 

「落、ちィ、ろオォオォォォオォォオオォオォッ!!」

 

血反吐を吐きながらの咆哮を上げ、全身全霊の力を込めるサンズ。既に意識混濁にあるレ級には最早打つ手はなく……。

 

「────………ッ…………」

 

数秒後にようやく白目を剥いて気絶し、レンゲの暴走は止められたのであった。



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「取引といこうじゃねェか」

沖縄、鎮守府の提督室。そこに備え付けられている椅子に腰掛けて、糸井川提督は深刻な面持ちで艦娘達の報告を待っていた。

内容はもちろん、木曾救出のために出撃して未だに帰ってこない天龍、球磨、多摩……そしてレンゲの消息についてである。

 

と、そこに息を切らせて時雨が飛び込むようにして、ノックもせずに入って来た。

 

「……どうだった?」

 

その行為を一切咎めずに報告を聞こうとするところに彼の憔悴が見てとれる。だがそれが許されても仕方ない程に、状況は深刻であったのだ。

 

「はぁ、っはぁ……帰って、来ました。全員……」

 

肩でリズムを取りながら乱れた呼吸を直してからようやく時雨が告げた報告に、糸井川はほっとした様子で椅子の背もたれに身を預けた。

だがそれも一時のことで、すぐに姿勢を正すと時雨にどのような状況であるかを問いかける。

 

「損害は」

「球磨と多摩が大破、レンゲと天龍が中破です。レンゲの方は首に締められた跡がありますが、米軍の軍医の話ではすぐに意識は回復するそうです」

 

それと、と付け加えながら時雨は更に言葉を続ける。

 

「他の皆は船渠の方に既に移動したんですが、天龍さんが提督にだけ話したいことがあるみたいで……至急桟橋の方まで行ってあげて下さい」

「分かった。高速修復材は出し惜しむなよ、この隙を狙って深海棲艦が攻勢を仕掛ける前に建て直しを図らなければな」

 

糸井川がそう言い残しながら出ていった後、時雨は大きなため息を吐いてこれから糸井川が直面するだろう事態に思考を巡らせる。

 

「天龍さんの言う通りに内容に触れなかったけど、……()()()()持って帰ってくるなんてね。本当に大丈夫なのかなぁ」

 

 

 

 

「やっと来たか。取り敢えずここで話すのもなんだから少し場所を移しても良いか?」

「おいおい……更に場所移すのかよ。そんなに秘密にしたいことなのか?」

 

応急手当として肋骨の辺りにギプスを着けられ、衣服のあちこちが煤けた天龍の姿は痛ましいものだった。

本来ならすぐにでも船渠に運ばれるべき状態だが、その傷を押してでも早急に伝えたいことなのだろう。

周りに自分と糸井川以外誰もいないことを確認してから二人が移動した先は米軍の駐屯基地や鎮守府からかなり離れた、普段は誰も近づかない海岸であった。

 

「───ここまで来たなら大丈夫だな」

「こんな僻地まで移動したんだ、余程秘密にしたいことらしいな」

「ああ。取り敢えず聞きたいことも多いだろうけど……それは()()()に聞いてくれ」

 

そう言うと天龍は消波ブロックの居並ぶ海岸に向かって「おい、生きてるか」と厳しい声音で呼び掛ける。

と、消波ブロックに引っ掛かっていた漂流物の一つが天龍の声によってか否か、崩れるように落ちる。

……いや、漂流物ではない。糸井川は大本営からの連絡で『それ』を知っていた。

漆黒の鱗と甲殻、鰐のように強靭長大な尾。そして石榴のように赤く爬虫類のように二つに縦割れた瞳。

《丙型生命体》第一号、リヴァイア・サンズの姿がそこにはあった。

 

「……よォ。どうした、ずいぶんシケた面してんじゃねェか」

「お前は……!?」

 

突如として目の前に現れた怪物に驚愕を隠せずにはいられない糸井川。しかし、瞬時に対抗しようと腰の軍刀を抜刀してサンズの方へと鋒を向けたのは流石軍人と言うべきだろう。

だがその行動を、天龍は制した。

 

「待ってくれ。……コイツはロクに動けねぇ、そうじゃなきゃここまで引っ張って来られなかったからな」

 

天龍が首で指し示した先をよく見ると、サンズの左脇腹が大きく抉れていたことに糸井川は気付く。

傷口は既に塞がりつつある所にサンズの生命力の強さが伺えるが、それでも相当なダメージらしくその声には覇気が失われていた。

 

「《丙型生命体》の鹵獲……確かに秘密にしたいことだ」

「ああ。どこに知れても厄介な事態になり得る。特にコイツには前科があるしな」

 

《丙型生命体》は未だに謎に包まれた敵性存在。更に言えば深海棲艦に比べ言語によるコミュニケーションを取る余地のある存在でもある。

もしそれの生きたサンプルや情報を手に入れ、研究することが出来れば日本は外国よりも大きなアドバンテージを得られるだろう。

糸井川がこの思わぬ収穫に思考を巡らせていると、消波ブロックにもたれ掛かっていたサンズがゆっくりと口を開いた。

 

「……なあ、沖縄鎮守府の提督さんよォ。俺の皮算用は一先ず置いておいて……一つ()()といこうじゃねェか」

「取引……だと?お前にそんな権利があると思うのか」

 

厳しい表情でサンズを睨み付け、サンズの取引を一蹴する糸井川。

確かに、今サンズが置かれているのは重傷の身で鹵獲され、生殺与奪の自由を奪われている最悪の状況である。糸井川が冷徹に拒否するのも頷けるものだった。

 

「ク、カカカカッ……!!厳しいねぇ、だが正論だ。……テメェがそう邪険にするのも分かる。故に、こちらが先に二つの()()を払わせてもらう」

 

まず一つ、とサンズは人差し指をぴんと立てて愉快そうな顔で最初の対価の内容を話し始める。

 

「こいつはそこの艦娘に助けて貰う代わりに先程払った。《俺達が鹵獲、交戦した沖縄及び横須賀鎮守府の艦娘の返還》だ。レ級、球磨、多摩、天龍」

 

そして、とサンズが口走ると共に海面から音も立てずにサンズの艤装である骨の怪物が姿を現す。当然糸井川と天龍は迎撃の構えを見せるが、それよりも速く怪物はその(あぎと)を開き───。

 

「……以前拉致した木曾。これで全員だろう?」

 

五体満足の姿で横たわる木曾の姿を二人に見せた。

 

「サンズ、貴様……ッ!!」

「まあ待てよ。どこも傷付けちゃいねェ。……それに、コイツ(俺の艤装)が居なきゃ他の奴ら全員連れて来られなかったからな」

 

何を、と口に仕掛けて糸井川も気付く。戻ってきた球磨と多摩は艤装が大破、天龍は意識こそしっかりしているが重傷。レ級は意識不明と帰投するのが不可能に近いものだった。

サンズの助けがなければ、誰かが助からなかったのは確実だったであろう。

払われた対価の価値に気付いた糸井川を畳み掛けるように、二つ目の対価についてサンズが言葉を続ける。

 

「2つ目の対価……《三宅島を襲撃した理由》なんてどうだ。本来ならネットの海にでも流そうと思ってたが……テメェに話してみるのも面白そうだ。……あぁ、ちゃんとお前にとっては価値のある話だ」

「どうせ、嘘を吐くだろう。話したことをそのまま鵜呑みに出来る程俺は馬鹿じゃない」

 

取引に乗るべきかどうか。その選択に煩悶しながらも二つ目の対価に拒否の返答をする糸井川。確かにサンズの話そうという内容の正当性、価値はとても低いものに感じられる。

 

「……良いのか?国内世論が反戦に傾くぞ」

 

だが返されたサンズの一言が、糸井川の背筋に冷たく突き刺さった。

 

「それは、一体どういう……!?」

そういう類い(軍部の一大スキャンダル)が絡んだ話ってことだよ。それも、ネットに流れれば大炎上間違いなしの」

「だ、だが市民がそんなデマを信じる訳が」「信じるよ」

 

糸井川に僅かに走った動揺を狙い澄ましたかのように、サンズは彼の言葉を遮った。

その顔に、死にかけとは思えない笑みの表情を浮かべて。

 

「市民にとって()()()ニュースってのは、いかに真実を伝えるかじゃねェ。いかに()()()()どうかなんだよ。

つまらねえ政治の話よか女優の不倫の方がウケが良いだろ?嘘か真実なんて二の次。インパクトの問題なのさ」

 

話している途中でどこかの傷口が開いたのか、咳き込みながら血を吐き出すサンズ。だがその舌鋒は終わらない。

 

「もし……これがニュースになったら叩かれるのは大本営だけじゃすまないだろーなァ。ひょっとしたら、いや間違いなく艦娘も叩かれるなァ。デマを信じ込んだ奴は見境ねェからなァ」

「……いい加減その口を閉じろ。さもねェと……」

 

半死半生の身で滔々と悪辣な内容を語り続けるサンズに堪忍袋の緒が切れた天龍が、軍刀を抜き放つ。

しかしサンズはそれに怯みもしなかった。ただ一瞬、天龍を見つめてから間を置いて冷徹に一言。

 

「───やってみろよ」

「上等だ……楽に死ねると思うなよテメェ!!」

「ッ……!!よせ、天龍!!」

 

先程とは逆に糸井川が天龍の前に立ってその激昂を抑える。天龍より幾分か冷静な彼には否応なしに理解せざるを得なかったのだ。

 

(この態度……この男を殺したらまずいことになりうるか……!!)

 

そうでもなければ死にかけであのような態度は取れない。殺せばむしろ事態の悪化に繋がりかねないことになると踏んだのだ。

無理やり殺す選択も一瞬脳裏に浮かんだが、先程語られたようなデマによる国内世論の操作や艦娘達への中傷は糸井川としても御免(こうむ)る事態である。

 

「俺が死んだ時は仲間に情報を流すよう前もって伝えてある。勿論、確固たる証拠付きの奴をだ」

 

なんなら今証拠の写しでも出してやろうか、という一言に天龍と糸井川はただならぬ戦慄と共に確信を抱く。

間違いなくサンズは確固たる証拠を抑えている。そして、それはこちら側にとって大きなダメージを与えるものであると。

天龍達の内心をよそに、再び愉快げな調子に戻ったサンズは取引の是非を問いかける。

 

「……ま、そんな訳でだ。俺がテメェらに保証してもらいたいのが二つ。《怪我の治療》と《俺の身柄を米軍に引き渡さないこと》。これさえ守ってもらえりゃ良い。ちゃんと守ってくれるなら他の情報も教えてやるよ」

「……一つ聞いても良いか」

 

苦々しい顔で糸井川が絞り出すように放った言葉の裏側に、いかに彼が内心で葛藤したのかが容易く読み取れた。

 

「その二つを守れば……その証拠、()()()貰えるのか?」

「……きちんと守ってくれるならな」

 

サンズの口調にどこか嘲るような雰囲気があったのは、糸井川の返答が分かりきっていたからに違いなかった。

 

「分かった。……応じよう」

「取引成立だな。途中で反古にしてくれるなよ?」

 

無言で頷き、天龍と共に海岸から立ち去る糸井川。

その後ろから、サンズの忍び笑いがクックッと波の音に紛れて二人の耳に流れ込んで来ていた。

 

─────悪魔め。

 

糸井川が忌々しげな様子で吐いた一言は、開けつつある宵闇に消えていった。




漸く沖縄側の動向へ移ります。


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設定やコラボ、スピンオフ等
「転生レ級の鎮守府生活」設定


前回のあとがきで説明したように、
お気に入りが100を超えましたので、
設定を投稿させて頂きます。
なお、21話時点での状態まで説明します。
非常に長くなりますがよろしくお願いします。
ネタバレ注意


・登場人物

 

≪横須賀鎮守府≫

・レンゲ

元々は、只の男子高校生だったのだが、

ある日、事故で死んだ事によって

生前自分が唯一クリア出来なかった

「5–5」に出現するレ級の姿で、

「艦隊これくしょん」の世界に転生して

しまった。

性格はポジティブで、なおかつウブである。

ちなみにまだ女湯にはいる事に抵抗がある。

 

・天龍

天龍型一番艦。

最初にレンゲに接触したことで、

なしくずし的に指導を担当するように

なった、レンゲのお姉さん的存在。

血の気が多いが、そのぶん仲間の事を

考えている。

 

・長門

横須賀鎮守府の秘書艦の一人。

普段は仕事や任務を的確に遂行する

出来る人だが、幼女を目の前にすると

ダメになる(通称:ながもん)。

最近はレンゲに首ったけ。

が、いまいち運に恵まれておらず

なかなか触れ合えない。

 

・愛宕

皆さんご存じ胸がぱんぱかぱーんの

重巡。レンゲに「お姉ちゃん」と呼ばせようと

している。(こちらは長門と違い、全て

成功している。長門も一回便乗した)

 

・電

秘書艦の一人。

意外にも長門より秘書艦歴は長い。

天龍と共にレンゲに初めて接触した一人。

ちなみに、提督に対してある秘密と

任務を隠している(詳しくは「カミング・アウト」、

「電さん」両話を)

 

・神崎 悠斗

横須賀鎮守府の提督。

物腰は柔らかいが、いざという時は

一歩も引かない強さを持つ。

芝浦提督とは、5年前の事件が影響して

恨まれている。

ちなみに、芝浦提督の兄と同じ名前。

 

・潮

天龍や電と同じくレンゲと初めて接触した

一人だが、その後ほぼレンゲとの絡みが

なかった。

内房にレンゲと共に同行している。

 

・加賀

彼女が猪を狩りに行き右手を骨折した事が原因で

レンゲが翔鶴と演習をする羽目に会った。

その後内房にレンゲと同行。

 

・赤城

加賀は彼女の為に猪を狩りに行った為

ある意味この人も原因。

その後内房にレンゲと同行。

 

・比叡

電が仕事をしない長門への制裁として

彼女の手料理味見係にしようとした。

(長門は即座に仕事に取り掛かった)

その後、内房にレンゲと同行したが、

ほぼ台詞がない状態である。

 

・夕立

天龍達と同じくレンゲと初めて接触した

一人だが、その後全く登場しなくなった。

 

・霰

電の秘密を知っている艦娘の一人。

レンゲに話すかどうかの会議に参加していた。

 

 

 

 

≪内房鎮守府≫

 

・翔鶴

内房鎮守府の秘書艦。

芝浦の事は親か姉のように心配している。

優しい性格だが、いざとなれば

激しく叱責する一面を持つ。

 

・芝浦 武史

内房鎮守府の提督。

深海棲艦に父と兄を殺された為、

非常に強い恨みを持つ。

また、兄を見捨てた(と思っている)神崎の

事も恨んでいる。

その恨みをイカリに漬け込まれ、謎の薬を

飲用してヲ級の姿へと変貌してしまった。

 

・58

演習時、天龍達を手こずらせた。

また、戦場に身を置いている為か、

常に実弾を所持している。

 

・不知火

レンゲ達が内房に来訪した際、

神崎を芝浦の元に案内した。

 

・多摩、蒼龍

二人とも悪くないのに怒鳴られた。

その後多摩は芝浦に訪問者がいる事を

伝えに蒼龍は演習で大破する形で再登場した。

ろくな目にあってねぇ……。

 

・扶桑

演習時内房側の旗艦を担当。

58がいない事を報告した。

 

≪丙型生命体≫

 

・リヴァイア・サンズ

初めて海軍及びレンゲ達が遭遇した

丙型生命体。非常におちゃらけた態度を

とり、陽気に歌を歌っていたりする。

が、その戦闘能力は本物である。

 

・ゲンブ

亀のような丙型生命体。

現在登場している中で

唯一レンゲ達と接触していない。

イーグルやナイトホーク等の艦載機は

全て彼の手作りによるもの。

性格は穏やかだが、サンズに「お母さん」と

言われて怒っていた。

(子猫を拾ってきた事に対してまるで

お母さんのような反応をテンプレで

したのだから仕方ないかもしれない)

 

・イカリ

烏賊と人間を融合させたような姿をした

丙型生命体。非常に狡猾かつ残虐で、

人間の振りをして芝浦に謎の薬を飲ませたりした。

(なおその理由は提督が自らの鎮守府を壊す様を

見たいからという至極勝手な理由であった)

また水中でのスピードが速く、距離を置こうと

したレンゲに一瞬で追いついてみせた。

 

≪その他登場人物≫

 

・金山海軍大将

大本営のトップ。レンゲの性格を

衛兵の話や自分の目で見抜き、

横須賀鎮守府で引き続き預かるように

(独断で)命令した。

 

・子猫

サンズが深海棲艦のアジトを潰した際に

拾ってきた。三毛猫。

その後、「ラーエ」という名前を付けられている。

 

・芝浦 悠斗

芝浦提督の兄。故人。

海軍学校をトップの成績で卒業したため

将来を有望視されていたが、

深海棲艦との戦闘で、他の艦を逃す為に

自ら乗っていた艦の燃料庫に火をつけ自爆。

深海棲艦と共に海に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・世界観

ゲーム「艦隊これくしょん」とほぼ同じ世界。

深海棲艦はレンゲが現れる10年前、

艦娘は5年前に確認された事になっている。

その他のオリジナル設定としては

 

・艦娘が現れたのは5年前とあるが、

実際には海軍は8年前に確認していた。

(但し、艦娘の運用を始めたのは5年前である)

電が「7年前〜」と言ったのはそれが理由である。

 

・海域は「1–1」、「5–5」と呼称する。

海域をクリア(深海棲艦を根絶)すると、

二度とその海域に深海棲艦は出現しなくなるが

深海棲艦に再び奪い返された場合は復活する。

なお、レ級が出現する「5–5」は既に

深海棲艦が根絶されて海軍の管理下に置かれている。

 

・海軍では、深海棲艦を「甲型生命体」、

艦娘を「乙型生命体」と呼称する。




あー良かった。普通に収まった……。
ちなみに、お気に入りが100切ったら
凍結、再び100いったら企画は復活する予定です。


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IFストーリー「コラボ:深海提督さん」

(この話は本編のストーリーに関係ないです)
さあー(自分が)楽しみにしていた
深海提督さんとのコラボ回だー‼︎
因みに、多分深海提督さんの
小説(最初からの方が尚更)を見てから
読んだ方が楽しめます。
せめて22と23話は読んで……。
あと深海提督さんのキャラ崩壊の可能性があります。


日本を守る鎮守府の一つに、

「伊藤鎮守府」という鎮守府がある。

伊藤という人が提督だから

伊藤鎮守府なのだが、この鎮守府、

とんでもない秘密を抱えている。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー実は提督が防空棲姫なのだ。

 

無論、最初から防空棲姫が提督だった訳

ではない。最初は人間の伊藤さんが

提督を勤めていた訳だが、ある日

艦娘を守る為に自分が

犠牲になってしまった。

だが、世の中には不思議な事が

あるものだ。

別世界での伊藤さんが死んでから

防空棲姫となってーーーーーー

つまりは転生という形でーーーーーー

この世界に、そしてこの世界の伊藤提督から

艦娘と深海棲艦の和解という願いを

受け継いでやって来た。

そうして、恐らくは世界初の「深海提督」

となったのだ。

 

 

 

それから早何ヶ月。

防空棲姫は執務室(深海提督さんの

小説では「提督室」に相当)で

朝早くから書類仕事に取り掛かっていた。

 

「ふわ……ぁ。やっと終わったー。

さてと、もうそろそろ13時位だし、

お昼ご飯にでもしようかな」

 

(そう言えばここに来て結構経ったなぁ。

その間に吹雪や鎮守府の皆、深海棲艦の

皆と仲良くなったり、ブラック鎮守府を

潰したり……色々あったなぁ〜〜)

 

鎮守府の外からは艦娘のはしゃぐ声が

聞こえてくる。

 

「……ん?」と防空棲姫は耳を澄ました。

段々と何かが近付いてくる音がする。

 

バロロロロロロ……。

 

バイクのエンジン音だ。しかも、

かなりのスピードを出している。

音だけだと分かりにくいが、

200km/hを超える位の速度は

出していそうだ。

 

「危ないなー……事故でも起こしたr」

 

ガッッシャアアアアアアアーーーーーーンッ‼︎‼︎

 

その言葉が終わらないうちに凄まじい音が

聞こえた。

 

「ヤッダーバァアァァァァアアアアアッ‼︎」

 

おい、誰だゴミ収集車にボッシュート

されそうな叫び声上げた奴。

しかも叫び声が近付いてくる。

 

「やばいやばい‼︎」

 

防空棲姫が慌てて窓から離れる。

 

ガシャアアアンッ‼︎

 

直後、窓をぶち破り何かが

飛び込んできた。

 

まるで近未来のヘルメットに鮫の牙が

ついたような顔。

黒い甲殻に覆われた上半身。

下半身はアラジンパンツと鎧で構成

されたブーツを着込んでいる。

 

「うごふッ‼︎」

 

そいつは鰐みたいな尾でバランスを取り、

立ち上がった。

 

「いてぇ……ん?ああどうも」

 

「どうも……じゃなくて‼︎

貴方は誰ですか‼︎」

 

「俺かい?」と彼は体の埃を

落とすと、自己紹介をした。

 

「戦艦レ級に殴り飛ばされた男、

リヴァイア・サンズッ‼︎」

 

まるで地獄から来た蜘蛛男のような

ポーズをとり、男は名乗った。

 

「サンズ……さん?」

 

「別にさん付けしなくても良いぜー。

サンちゃんでもいいし、サンチーでも

いいからよー……あ、リヴァイはNGな」

 

「じ、じゃあサンちゃん。なんで

この鎮守府に突っ込んで来たんですか?」

 

「え、ここ○○漁港じゃないの?」

 

その漁港があるのは、防空棲姫の

鎮守府とはまるで逆の方向だった。

 

「ええ……」

 

「ところでさ、おまえの名前って何?」

 

「私はここの鎮守府の提督を

やっている防空棲姫です」

 

「撲殺天使?」

 

「防空棲姫ッ‼︎」

(何その物騒な名前は……)

 

サンズは「参ったなー、バイクが

壊れちまったからなー」と頭を抱えている。

 

「とりあえずお腹減ってません?

一緒に食堂に行きましょう」

 

防空棲姫はサンズを連れ、食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鎮守府包む〜♪ midnight fog〜♪

駆逐艦の〜下着〜♪失くなれ〜ば〜♪

それは〜まぎれもなく〜や〜つさ〜♪

な〜がと〜 leaving me blue♪

な〜がと〜」

 

何その変な替え歌は。

というかコブラじゃないの⁉︎

なんで長門なの⁉︎

 

そうこうするうちに食堂についた。

 

「お金持ってないけどいいの?」

 

「大丈夫大丈夫。あ、後不用意に戸を

開けない方が……」

 

私の注意を聞きながらサンズは

食堂の戸を開けてしまった。

その瞬間、包丁が一本物凄い

勢いで飛んできた。

 

ズガッ‼︎

 

「ぐぇあ⁉︎」

 

「わああああああ!サンズさんが死んだ‼︎」

 

ひひほふは(生きとるわ)‼︎

……あーびっくりした」

 

サンズの顔にまともに包丁が突き刺さるように

見えたが、サンズは器用にも口で

受け止めていた。

サンズ、恐ろしい子‼︎

 

「歯が折れるかと……あ、包丁が

折れてる」

 

「す、すいません‼︎大丈夫でしたか⁉︎」

 

「包丁が大丈夫じゃない」

 

鳳翔さんが慌てて飛び出してきた。

サンズは折れた包丁を渡した。

 

「包丁じゃなかったら死んでいた……」

 

「大至急包丁投げ専用の部屋付けよう……」

 

これ以上被害者が出たら只事じゃすまない。

早く作ろう。そう誓いながら、

私は天ぷら定食を、サンズはカツ丼を注文した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜美味しかった〜。

普段生魚かアザラシか海鳥しか

食ってないからなー」

 

「それしか食べないんですか?」

 

「俺は食わねーけどよ、

イ級とか食う奴がいたな」

 

「」

 

まじか。

 

「ところで、これからどうするんですか?」

 

「とりあえず○○漁港に行きたいけどさ、

どう行くかわかんないんだよな〜。

神頼みでもしようかな?」

 

その時、私の脳裏にアイデアが浮かんだ。

 

「それだッ‼︎」

 

神様!今いる?用事があるんだけど‼︎

 

「なんじゃ?何かあったか?」

 

うん。じつはあそこのサンズって奴を

○○漁港に移動させる事って出来る?

 

「そのくらいお茶の子さいさいじゃ」

 

「誰やそのジジイ」

 

サンズがこちらを見て……って

神様の事見えるの⁉︎

 

「粉ッ砕‼︎」

 

ドゴォッ‼︎

 

「イ"ェア"アアアアアア‼︎」

 

殴った‼︎神様殴っちゃったよサンズ⁉︎

 

「いてて……なんてひどい奴じゃ」

 

「あ、ジジイ殴って思い出した」

 

「なんでじゃ⁉︎」

 

「これ、レ級って奴がもしも来たら

渡してくれ。ゲームの景品だって」

とサンズは私に何か艦載機を投げてよこした。

 

「おっと」

 

「F–15 イーグルだ。ちゃんと渡せよ」

 

「分かりました‼︎」

 

サンズはニヤリと笑うと、神様が作った

光の門の中に消えていった。

 

「また機会があったら会おうぜ〜」と

言い残して。

 

「なんか、深海棲艦っぽくない奴

だったなあ……」

 

「わしゃ凄く疲れたよ……帰る」

 

また会おう、サンズ。

こうして、私、防空棲姫と

リヴァイア・サンズの邂逅は終わりを

告げた。

 

 

 

 

 

 

 

その後、サンズが託したイーグルに

よって、伊藤、横須賀両鎮守府の

艤装開発の技術は大きく進歩したと

いうーーーーーー。

 




どうだったでしょうか。
自分なりに面白く書いてみましたが。
時系列的には、
防空棲姫の物語開始→レンゲと邂逅→
数日後にサンズと邂逅 こんな感じかな?
今回レンゲではなくサンズを出したのは
防空棲姫にツッコミ役を演じて
もらいたかったからです。
もしかしたらまたこの絡みを
番外編で書くかもしれません。


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IFストーリー「コラボ:あら汁さん」

深海提督さんに続いて二人目、
あら汁さんとのコラボです。
一応、キャラ崩壊注意です。
あと、コラボの共通設定として、
本編とはパラレルであり、全く関係
ありません。
読む前にあら汁さんの
「陸上進化。イ級改め、イロハ級」を
読んでおくとより理解出来ます。



とある鎮守府に、三人ーーーーーー

正確には人型でないのが一人

混じっているがーーーーーー、

ともかく三人の深海棲艦が所属している。

 

一人は、両足を失った駆逐棲姫。

彼女には艦娘だった頃の記憶があり、

長らくそれによって苦しめられてきた。

 

もう一人は、超弩級重雷装航空巡洋戦艦レ級。

皆からは「レキ」という愛称で呼ばれている。

彼女は人工の深海棲艦(姫もある意味そうである)

で、姫を「お姉ちゃん」と呼んでいる。

 

そして、最後の一人が、イロハ級である。

彼はもともとは只のイ級だったのだが、

何らかの原因で陸上進化を遂げた為に、

意志を持つようになった。

ちなみにレキからは「お兄ちゃん」と

呼ばれている。

 

彼らは、人間のエゴや国の思惑に翻弄

されながらも、気高く、そして強く。

生きていた。

彼女達に共感したり、助けられたりした艦娘も

おり、他の鎮守府はさておき、彼女達が

所属している鎮守府は(提督の胃腸以外)

至って平和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の夜。

イロハ級は、お酒とつまみを買って帰る

途中であった。

 

「はあーあ。こんな夜空の綺麗な夜には

月見酒月見酒、と」

 

ふんふんと鼻歌を歌いながら道路を

のっしのっしと歩いていくイロハ。

と、その先、鎮守府近くの埠頭に誰かが

座っているのを見つけた。

 

「あれは……レキか?」

 

その姿は、レキに酷似していた。

いや、瓜二つと言っても過言ではない。

思わず、能天気に声をかけた。

 

「お〜い、レキ〜。こんな遅くにこんな所で

なにやってんだ〜?」

 

するとレキはびっくりしたようにこちらを見て

慌てて駆け出した。

 

「ちょッ⁉︎待った待った逃げるな‼︎」

 

だがその声を気にもかけず、レキは闇の中に

姿を消してしまった。

イロハは自分が何かレキにした覚えが

ないことに首を傾げながら喫茶店に戻った。

 

「ただいまー」

 

「おかえりイロハ」

イロハを駆逐棲姫と、

「おかえりなさいお兄ちゃん‼︎」

レキが出迎えた。

 

「あれ?レキ、お前鎮守府の近くに

いなかったか?」

 

「ううん。お姉ちゃんと一緒に

劇場版の“ご馳走はうさぎですよね?”を見てたよ。

ねぇ?」とレキが姫の方を見た。

 

「ええ。ずっと一緒にいたわよ」

 

証言者がいるなら間違いないだろう。

 

「じゃあ、俺が見たのは……?」

 

「何かあったの?」

 

「いや、なんでもない」

 

「ところでなんでお酒とつまみが入った

袋があるの?」

 

「ギクッ‼︎」

 

数秒後、喫茶店の中からイロハの悲鳴が

上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

「うう……昨日は散々な目にあった」

 

レキの事に気を取られたせいで

月見酒をせずに帰ってきてしまい、

その酒とつまみが原因で一悶着起きてしまった。

時計を見ると、開店までまだ時間があった。

 

「今日はもう少し寝てよう……」と

イロハが眠ろうとした時。

 

「ギャーーーーーーーーーーーーッ‼︎」

喫茶店の外から大音量の悲鳴が

聞こえた。レキのものだ。

 

「どうした⁉︎何かあったのか⁉︎」

イロハが慌てて外に飛びだし、レキの所に

行くと、そこには。

 

 

 

 

 

 

レキと瓜二つの少女が喫茶店のドアの横に

身体をもたれさせて眠っていた。

 

「あ〜……なるほどね……そういう事か」

 

イロハは昨日の夜の謎がやっと解けた。

レキが知らないと言っていたのも無理はない。

 

「俺が昨日見たのはレキじゃなくて、

このレキのそっくりさん(・・・・・・・・・)だった訳か」

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、喫茶店の中。喫茶店の皆が集まった中、

「俺の名前はレンゲって言います」

そう、レキのそっくりさんは名乗った。

 

「レンゲ……ちゃん?」

 

レキがおずおずとその顔を見た。

こうやって見ると、ますますレキとレンゲは

似ていた。双子と言っても大丈夫かもしれない程。

 

「なんで、昨日の夜、あんな所にいて、

俺を見て逃げたんですか?」

 

レンゲはそれを聞いて僅かに身を縮こませたが、

やがて、小さい声で呟いた。

 

「その……俺は横須賀鎮守府に所属していて、

皆と仲良くなって上手くやっていたんですけど……」

 

レンゲはそこで顔を上げて言った。

 

「昨日、愛宕っていう艦娘と喧嘩して、

それで俺、鎮守府から家出したんです」

 

「えッ⁉︎い、家出‼︎」

榛名がびっくりした声を出す。

 

「昨日、なんで逃げたんだ?」

 

「え、あの、その……

……イロハさんの姿にビビって逃げました……

すいません……」

 

「……」

確かに、イロハの姿を知らない人が

夜中に見たらそれはビビるだろう。

が、その言葉はイロハのメンタルにダメージを

与えた。

 

「うん……なんかこちらこそ……ごめん」

なんとなく気まずい空気が流れた後、

レンゲはイロハから逃げた後の事を話した。

 

近くの鎮守府に泊めてもらおうとしたが、

それだと横須賀の鎮守府にすぐばれてしまうので

諦めた事。

その後、さまよい歩いていて、喫茶店の光が

見えたのでそこで泊めてもらおうと思ったが、

その時疲労が限界まで達していて、

扉に手をかけた所で眠ってしまった事を話した。

 

「この後はどうするの?」

 

「とりあえず、ここでしばらく働かせて下さい。

迷惑はかけません。お願いします‼︎」

 

レンゲはそう言いながら頭を下げた。

すると、それまで黙っていた姫が口を開いた。

 

「駄目よ。それよりもやるべきことがあるんじゃ

ないの?愛宕って人に謝ることが」

 

レンゲはそれを聞いて、

「嫌ですよ。あっちが謝るまで俺は帰りません」と

言い放つ。

 

「意外に強情だな」とぼそりとヴェールヌイが

呟いた。

 

姫はそれを聞いてはあ……とため息をつきながら

レンゲの説得にかかった。

 

「貴女ねぇ……愛宕って人が、いや、

愛宕さんだけの問題じゃない。

鎮守府の問題にまで今発展してるのよ?

貴女はその事について責任とれるの?」

 

「……誰がなんと言おうと、あっちが悪いんです」

レンゲは俯きながら反論した。

 

「……その事で、仲間が解体処分になったり

していいの?提督が裁判にかけられてもいいの?」

 

「ッ‼︎」

明らかな動揺。

 

「提督は面会出来るからいいけど、艦娘は

解体処分されたら二度と会えないのよ。

分かる?貴女が家出したせいで愛宕さんは

解体処分されるかもしれないのよ?

二度と会えなくなるかもしれないのよ‼︎」

 

レンゲの顔色が真っ青になっていく。

 

「私もね、ある理由で危うく一人の

娘を解体処分にしかけたわ。

その時は海軍に圧力かけたから

なんとかなったけど、貴女は出来ないでしょう?

愛宕さんを貴女は殺したいの⁉︎」

 

もうその時点で、レンゲはガタガタ震え、

泣き出していた。

 

「ど……どぉしょぉおお……ヒック……俺の……

俺のせいで……グスッ……愛宕さんが……

愛宕ざんがじんぢゃゔゔゔ……グスッ」

 

「だからね。鎮守府に戻って、愛宕さんに

謝って来なさい。“ごめんなさい”って」

 

姫がレンゲの頭を優しく撫でながら諭す。

 

「とりあえず、今お腹空いてない?

お腹を満たしてから帰りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンゲは、喫茶店でお腹を満たしてから、

元いた鎮守府に戻っていった。

去り際に「ありがとう」と何度もお礼を

言いながら。

 

「良かった。姫のおかげで解決したね」

 

「別に……私は家出は駄目だって諭したかった

だけだし……まあ、これでいいんだと思う」

 

イロハは姫と共に、レンゲが去っていった

方向を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後。喫茶店にレンゲからの

手紙とたくさんのクッキーが届いた。

手紙には愛宕と仲直りした事、

その印にクッキーを焼いた事、

喫茶店の皆へのお礼にたくさん焼いたので

食べてほしいという事が書かれていた。

そのクッキーは、食べた人曰く、

 

「幸せになれる味」だったという。




あら汁さんに気に入って貰えると
いいなぁ……。
次、深海提督さんとのコラボ書きます。


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IFストーリー「コラボ:深海提督さん その2」

最近書かないと禁断症状が……
この話は深海提督さんの小説の
35話の後に続く感じになっていますが、
あちらのストーリーにはあまり
関係はありません。
海の日に艦これ小説……なんか運命を感じる
(毎日書いてるから風情全くないけど)


ーーーーーー伊藤鎮守府。

その日、伊藤提督(防空棲姫)は

頭痛に苛まれていた。

 

「イテテテ……痛い……」

そこにヲ級が救急箱を持って執務室に

入って来た。

 

「ヲ〜提督。体調はどう?」

 

「すごく……痛いです……」

 

ヲ級は頭痛薬を取り出して、防空棲姫に飲ませる。

 

「あ〜効くわ〜」

 

「早く良くなってね提督」

 

防空棲姫は、ありがとうと礼を言って

机の上に積まれた書類仕事をヲ級と共に

取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、演習場。

そこから、陸地に這い上がる者が二人いた。

 

「さて、と着いた着いた。ここだよ、ゲンブ」

 

鰐のような特徴を持つ丙型生命体、サンズと、

 

「全く……急ぎすぎだよサンズ。

鎮守府は逃げないよ」

亀のような特徴を持つゲンブだ。

 

「鎮守府は逃げないだろうけど、中の人は

逃げる可能性だってあるじゃない」

 

「僕はいかないよ。もし襲われたら

たまったもんじゃない」

 

サンズは肩を竦め、はあ、と溜息をついた。

 

「じゃあ一人で行くよ。にしても

臆病やねゲンブはさあ」

 

「ご生憎様。僕は亀だからね。

危険な事には首は突っ込まない。

むしろ引っ込めるからね」

 

「“亀”だけにかい?」

 

サンズはそう言って、鎮守府の方に歩いて行った。

 

ゲンブはそれを見送ると、近くにある建物、

工廠の事が気になったので気づかれない

範囲で見学することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい艤装の承認やら何やら沢山あるな〜」

執務室。防空とヲ級は大量の書類に

苦しめられていた。

 

「見てよ提督、包丁の予算案まである」

 

「鳳翔さんか……」

 

と、ドアがノックされた。

「ちわーす。○○宅配便でーす。

荷物をお届けに参りましたー」

 

「あれ、配達員さんだ」と防空は

ドアを開ける。

そこにはサンズがダンボール箱を持って

立っていた。

 

「こちらにハンコお願いしまーす」

 

「はーい」

 

「またご利用下さーい」

 

「ありがとうございましたー」

 

パタン。扉が閉まる。

 

「さて、何が届いたのかな?」

 

「何だろ?」

 

再び扉が開けられる。

 

「気付けよ‼︎寂しいよ!寂しさで死んじまうよ‼︎」

サンズが顔を出して叫ぶ。

 

「あっ‼︎サンズさん!すいません、

あまりにも演技が上手くて気付かなかった‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方工廠。

 

「う〜ん。あと少しで完成するのにな〜」

明石がジェットビートルの前で悪戦苦闘していた。

その横を、ばれないようにゲンブがそっと

通り過ぎ、奥にあったウルトラホークを

手に取った。

 

(この機体……⁉︎一見ふざけてはいるが、

一機で三機分の役割を果たせる。

先程の少女、中々の才能だ‼︎

僕も、負けてはいられないな)

 

ゲンブはすぐさま近くにあった工具と鋼材を

掴むと、作業に取り掛かった。

明石はまだ、ジェットビートルで悩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方食堂にて。

 

「ヲ〜提督とサンちゃんはそういう過程で

出会ったんだ〜」

 

「おうよヲッちゃん。二回ともお前いた

らしいけど、殺す気が起きねーや」

 

「負けないよ?」

 

「やるかい?」

 

「止めて止めて。ここ食堂だしさ。

サンズさんとヲ級には仕事手伝ってもらったし、

二人の分は私が奢るよ」

 

「やったー!私間宮アイスのチョコ!」

 

「私はバニラで」

 

サンズはメニューを見て、考えていたが、

やがて口を開いた。

 

「ポッ●ングシャワー下さい」

 

「いやいやあるわけが……」

 

間宮はそれを聞いて、

「ありますよ?メニューにないだけで」と答えた。

 

「「……あるのッ⁉︎」」

 

「ええ。他にもロ●キーロードとか、

キャラメルリ●ンとか」

 

「意外とあるんだ……」

そして、間宮が作ったアイスを食べながら、

私達は話に花を咲かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

工廠。

そこに入った夕張は場の雰囲気に

呑まれていた。

 

「ここはこのケーブルを使った方がいいと

思います‼︎」

 

「いや、そこはこっちのケーブルがいい‼︎

そっちは衝撃に強いが熱に弱いぞ。

この部分に使ったらどうだ?」

 

「なるほど、勉強になります‼︎」

 

ゲンブと明石が意気投合して、何かを

作っている。

 

「あ、あのー……二人は今何を……」

 

「見れば分かるでしょう。新しい艤装の

共同制作ですよ。ねえゲンブさん」

 

「ああ。こんなに息の合う奴がいるとはね。

久しぶりだよこんな感覚は‼︎」

 

二人の熱くなる会話と作業に、夕張は

ついていけないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。

「あ、そろそろ帰らねぇとまずいな。

楽しかったぜ。また来るよ」

 

「さよならサンズさん」

 

「また来てね〜」

 

私達はサンズを送り出していた。

と、

「キタアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」

 

工廠から歓声が上がってきた。

 

「何今の声」

 

「さ、さあ?」

 

慌てて工廠に入ってみると、そこには

明石と夕張ともう一人。

 

「あれ、ゲンブ。帰ったんじゃないの?」

 

ゲンブがいた。

 

「提督、聞いて下さい‼︎ゲンブさんが

手助けしてくれたお陰で、ジェットビートルが

完成したんです」

 

「本当⁉︎」

 

「はい!しかも合作で……」

 

と明石が何かを取り出した。

 

「ミクロ化器を制作しましたー‼︎」

 

「ええええええええ嘘ォ⁉︎」

 

(✳︎ミクロ化器…ウルトラマンの「人間標本5・6」

という話でダダという宇宙人が使用する

相手を縮小する銃)

 

「何か……すげぇなあんたの所の人達」

 

サンズが感嘆する。

 

「サンズさんの所だって……」

私達はあまりの事にしばしの間放心するのだった。

 

 

 

 

その後、ミクロ化器はなんやかんやで

私の所で預かり。サンズ達は帰っていった。

なお、お土産に間宮アイスを保冷剤付きで

持って行ったらしい。




今回メタクソにふざけてみました。
面白いと思ってくれたら嬉しいです。
後評価バーって5人以上評価されないと
出ないんですね。今日気付きました。


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スピンオフ「雷の如き曙の光:その1」

注意。
この話は一章の「さらば内房」からの
派生の話となっています。
「なんだったっけ?」と思った人は
「さらば内房」を読むことをお勧めします。


ーーーーーーこれは、レ級となった人間の話とは

別のお話。

とある少女の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

その少女を乗せた車は、横須賀の海軍機関学校へ

向かっていた。

 

「……」

 

少女は、車の窓から外を眺めていた。

そこから遠くの街や山が流れてゆく。

頭の中で少女はついこの間まで住んでいた島……

三宅島のことを思い出していた。

 

彼の「丙型生命体」による三宅島への

物的な被害は、深海棲艦の襲撃に比べて拍子抜け

してしまいそうな位に少なかった。

しかし、人的な被害においては深海棲艦と同等、

もしくはそれ以上の被害を出していた。

少女の住んでいた時の三宅島の人口は約1,800人

程度。だが、丙型生命体の襲撃後に艦娘達や

海軍が救助した人数は僅か600〜700人。

半分以上の島民は島から避難しようとして

船ごと海の底に沈められたのである。

 

少女や島民達は知るよしもなかったが、

その虐殺を行ったのは丙型生命体第ニ号だと

いうこと、そしてそれに留めを刺したのが

深海棲艦であることは三宅島の奪還作戦に

関係した者達は知っていた。

 

「……どうしたの?何か考え事でも?」

 

少女の隣に座っていた女性……霧島も

その事を知っている一人であった。

 

「あ、ええ……はい。もう、三宅島には

戻ることはできないだろうなぁ、って」

 

「……そうね」

 

生き残った島民達は本土の仮設住宅や、

親戚の家での生活を強いられている。

三宅島に残る者は誰一人としていなかった。

いつまたあのような襲撃に遭うのか。

そのような不安要素を抱えるよりは、

慣れない暮らしをする方が彼らにとって

良い選択肢であったのだ。

彼らには国から援助金が出されたが

深海棲艦との戦いでの国家予算の圧迫、

戦果に対しての野党の与党への追及や

国民のデモ。そんな事情があっては

元島民達に充分な援助金を出すのは

不可能な話であった。

 

「霧島さんはまた三宅島に島民達が戻ることが

出来ると思ってますか?」

 

霧島は一瞬悩んでから、

「多分だけど……数年の間には戻ることは

可能になると思いますよ」と答えた。

 

(……嘘吐き)

 

そう、少女は心の中で思った。

深海棲艦と人類との趨勢は現状5:5の状態だ。

10年間の間には人類が優勢になったり、

逆に深海棲艦が優勢になっていた時もあった。

しかし、10年という長い時間で見れば、

誤差の範疇であった。

今までもそうであったのだ、この戦いは

果てしなく続くだろう。

恐らく自分が死ぬまでに決着はつかない。

妙な確信を彼女は抱いていた。

 

 

(だけど、死ぬ前にせめて)

あの「悪魔」に会いたい。

少女は自分が覚えている範囲の記憶で、

一切約束を違えた事がなかった。

もし「悪魔」が死ぬことを望んでいるのなら。

殺さなくてはならない。

それこそが悪魔との約束を果たすことになり

彼らに殺された島民達の恨みを晴らすことが

出来ると。少女はそう思っていた。

 

(それまで、絶対に死んでやるもんか)

 

車の窓からは白い洋風の建物が見えた。

霧島はそれを見て、少女の方を向き、

真面目な表情で言った。

 

「もうすぐ海軍学校に着きます。

着く前に留意しておいてほしいことが一つ

あるからしっかりと聞いて下さいね」

 

コクリと少女は首肯し、霧島の話を聞いた。

 

「海軍学校では本来の自分の名前ではなく、

適性判断された艦の名前で呼ばれます。

貴女に適性があった艦の名前は」

 

そこで一区切り置き、霧島は少女に

これからの少女の名前となる艦の名を

告げた。

 

 

 

 

「綾波型駆逐艦 8番艦、曙よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その何日も後のことである。

遠く離れた小島。

そこに、少女と約束をした「悪魔」はいた。

 

「ウィィ……あぁ、もう。なんでよォ、

俺達が深海棲艦と手を組むんだ?」

 

リヴァイア・サンズである。

背を後ろに反らせて、柔軟運動をしていた。

 

「僕達の目的を果たす為さ。深海棲艦と

手を組むのは人手を多くする為さ」

 

サンズの質問に対してゲンブは答えた。

燃料の入ったドラム缶を海中にいる

フジツボ達に渡して、

「それに、僕達丙型生命体をあっちは

ずいぶんと舐めているようだからね。

ちょっと脅かしに行くだけと思えばいいさ」

と言った。

 

「脅かしに行くのに沖縄まで行くのも

どうかと思うがね‼︎

大体お前、前線に出てこねーつもりだろ」

 

「ばれましたか……」

 

「ばれるに決まってんだろ」

 

サンズはそう言ってゲンブの頭を叩いた。

硬質な音が響く。

 

「あたっ‼︎」

 

「沖縄で前線送りにしてやるから、

覚えておけよ」

 

「待ってくれよサンズ。僕が戦闘苦手なの

知っているだろう⁉︎」

 

「知ったことか。お前に打ち直してもらった

刀も切れ味が微妙に悪いしよー」

 

「そ、それは君の艤装の点検を……」

 

サンズはゲンブの口を遮った。

 

「もしそれが多薬室砲を指して言って

ないとしたなら、お前、聞かれてたら

八つ裂きにされるぞ」

 

サンズは片手でゲンブの口を遮ったまま、

もう片方の手で 自らの首を斬る振りをした。

 

「いいか、これはお前のことを案じて言って

やってんだ。あいつらは艤装じゃねえ。

俺の一部なんだ。それはあいつらを

造ったお前が一番理解しているだろう?」

 

ゲンブはゆっくりと後退すると、先程

サンズに叩かれた頭をさすりながら言った。

 

「ああ。恐ろしいぐらいに理解しているよ。

すまなかったね」

 

「……あいつらを出すのは万が一の事態に

備えてだ。そうなるまでは出さねぇよ」

 

サンズはトマホークを打ち直して造った

一見鉄の棒に見える刀を手に持ち、

ベルトホルダーの中身を確認すると、

ゲンブと数体のフジツボに告げた。

 

「行く前に一つ肝に銘じておけ。

万が一深海棲艦に怪しい動きがあったら

即刻皆に伝えろ。俺達は深海棲艦に

手を貸すが魂までは渡さねえ。いいか‼︎」

 

サンズは彼らにはっきりとそう伝えると、

ニヤリと笑った。

 

「……真剣に伝えると疲れるな。

ま、それまでは南国の雰囲気でも

楽しむことにしよーぜ‼︎」

 

ハッハーッ‼︎と高笑いしながらサンズは

海面に飛び込んだ。ゲンブやフジツボも

その後に続く。

 

そうして丙型生命体達は、沖縄を

目指して航行を開始したのであった。

 

 

 

 




この話を書いた理由ですが、単純に
後々この少女を出すようなことがあった時に
「お前誰だ」と読者の皆さんに突っ込まれる
のを防ぐ為です。あとゲンブとサンズの
やりとり書きたかったから。


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スピンオフ「雷の如き曙の光:その2」

曙のライバル、登場。


横須賀の軍学校に行って数日。

曙は学校の生徒達にも馴染み、勉学に

勤しむようになっていた。

 

「はあぁ……」

だが、彼女は今一つの問題に直面していた。

 

「ちょっと、曙‼︎ため息つかないで

掃除やってよ‼︎」

 

とある艦娘、雷との関係についてである。

 

「分かってるわよ‼︎全く……」

 

曙が学校に来てから数日、ずっとこの調子だ。

しかもこの軍学校は全寮制なのだが、

雷と曙は同室なので、部屋の中でも同じことを

やることになっているのだ。

 

「あんたこそロッカーの上雑巾で拭きなさいよ」

 

「背が低いから拭けない。曙代わりにやって」

 

「はぁ⁉︎あんたそこやりたいって言ったから

代わったのにそこもあたしにやらせる気⁉︎

背が届かないんだったら別の場所の掃除を

しなさいよこのチビ‼︎」

 

「チビって何よチビって‼︎」

 

そして必ず口論がヒートアップして、

 

「何よ、やる気?」

 

「上等。やってやるわ‼︎」

 

取っ組み合いの喧嘩に発展するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またやったのか」と那智は曙に向かって

言った。

 

「なんでそんなに喧嘩するんだ?今回だって」

 

「しょうがないでしょう?あの子背が低いのに

高い所の多いロッカーをやって、しかも

出来ない所もあたしにやらせようと

したんですよ?」

 

「だからといって馬鹿は言い過ぎだ。

この数日の間に何回喧嘩した?」

 

額に手をやって、曙はため息をついた。

 

「……8回です」

 

「そんなに喧嘩するんだったら一回何かの

勝負でもしたらどうだ?」

 

那智はそう言うと、「彼女にも辛い過去ぐらい

あるんだぞ?」と続けた。

 

「それって、どういう意味なんですか?」

 

「あ……いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

慌てて話を終わらせると、彼女は曙に

寮部屋に戻るように伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曙と雷の寮部屋。

 

「ねぇ、雷」

 

「……何?」

 

曙と喧嘩したせいで説教をされたのを

根に持っているのか、不機嫌な顔で

雷が曙を睨む。

 

「この関係を終わらせようとは思わない?

いい加減にどちらが上か決めましょうよ」

 

「……それもそうね。どうやって決めるつもり?」

 

雷が曙の方に向き直る。

 

「三本勝負で決めるわ。まず、体力勝負。

その次は……」

 

彼女は雷に三本勝負の最後の内容を伝えた。

雷はそれを聞いて一瞬驚いたような顔を

したが、すぐに微笑を浮かべた。

 

「へー、面白いじゃない。その勝負、乗った」

 

「じゃあ、体力勝負は学校の身体力試験で

競わない?」

 

「負けても文句なしよ」

 

曙はその言葉をせせら笑い、

「こっちの台詞よ」と言ってのけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後、身体力試験という名の体力勝負の

勝敗が決まった。

 

「ふふふ……私の勝ちね」

 

勝ったのは、雷であった。

曙は惜しくも総合点で数点遅れを取っていた。

 

「……次は負けないわよ」

 

「ふふん。次も勝たせてもらうわ」

 

雷がニカッと快活な笑みを浮かべる。

その笑みが曙の闘争心を刺激したのは

いうまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の勝負の学力勝負(軍学校の学力試験)

まで後一週間となった頃。

 

「ッ〜……今回の試験の範囲って一次関数

入ってるのかぁ……」

 

寮部屋で雷は頭を抱えていた。

曙がどんなに学力があるのか分からない以上、

苦手な科目をなくしておかないとならない。

しかし、どうやればいいのか雷は分からず、

学校の教科書を前にして苦悶していた。

 

「……何やってんのよ」

 

その背後から曙が声をかけた。

 

「……考え事してんのよ。見て分からない?」

 

「勉強で分からない所でもあるんだったら、

あたしとか他の人に聞きなさいよ」

 

何を馬鹿なことを、と雷は言おうとして

振り返り、絶句した。

 

曙の姿は普段あまり掛けていない眼鏡の他は

変わらないが、その片手に持っている

テキスト本に目を注がざるを得なかったのだ。

そのテキストの表紙には、

「中三の数学をもっと分かりやすく」と

書かれていた。

その本の中には付箋がいくつか貼ってあり

使い込まれているのがよく分かる。

今、雷と曙が教えられているのは中学二年の

内容。つまり。

 

 

 

 

 

……曙の学力はかなり高いということだ。

 

「曙、数学出来るの?」

 

「別に。普通よ普通」

 

普通じゃないでしょ、と突っ込みたい気持ちを

抑え、雷は曙に問う。

 

「今どんな内容を勉強してるの?」

 

「そうね……今は学力試験の範囲を

勉強してるけど、その前は二次関数とか色々と」

 

中三どころか、高校のLvまでやっている。

雷は「絶対あんた頭良いでしょ……」と

頭を抱えた。

 

「まぁ二次関数は最近やり始めたし……

あ、雷。あんた一次関数出来ないの?

教えてあげるわよ」

 

曙は机の上に置いてあった教科書を見て、

雷に言った。

 

「……分かりやすく説明してよね」

 

「分かってるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「那智さん、本当に彼女達を同室のままに

しておいて良かったんですか?」

 

教員室。那智に天城はおずおずと聞いた。

 

「大丈夫だ。彼女達はうまくやっているよ。

互いにライバルとして切磋琢磨してる」

 

「……本当に?だって……」

 

那智は天城の思った事を察し、その懸念に

対して答えた。

 

「あぁ、雷のその事(・・・)も含めて

大丈夫と言ったんだ。それにな、よく

言うじゃないか」

 

那智はそこで一区切りおいて、僅かに

微笑を浮かべた。

 

「……喧嘩する程仲が良い、って」




FGOやってて遅れました。
誠にすいません。次はもっと早く出します。


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スピンオフ「雷の如き曙の光:その3」

カーテンから漏れる朝日に顔を照らされ、

曙は目を覚ました。

 

「ん……もう朝……?雷、早く起きて……」

 

寝ぼけ眼の状態で隣で寝ている雷を揺さぶる。

今日はいつもより少し早い時間に起きている。

何故か。その理由はーーーーーー

「早く起きなさいよ‼︎今日は訓練が

ある日なのよ‼︎」

 

「……んー。起きる、起きるから。

そう揺さぶらないでよ、曙」

 

眠そうに目をこすりながら、雷が上半身を

起こし、曙を制した。

 

「全く、なんでそうあんたはいつも訓練の日は

そう早く起きるのよ?」

 

「早起きしとけば、普段よりも早くしゃっきり

するでしょ?訓練はいつも気を引き締めて

いくべきものだから、なるべく目が冴えた

状態で行きたいの」

 

その曙の答えに雷はベッドから降りながら

肩を竦めて理解出来ないとばかりにため息を

つき、

「こっちの身にもなってよね。昨日は

勉強してて遅かったんだからさ」と言った。

 

曙と雷のどちらが上か、という争いは

曙と雷がそれぞれ一勝したところで

「もうどっちが上とか決めるの馬鹿らしくね?」

となり、二人とも停戦協定を結んだ。

なので前のように喧嘩することは殆どなくなった。

だがしかしーーーーーー。

 

「は?それは遅くまで起きてたあんたが

悪いんでしょ?それに寮舎は11時までには

消灯するはずでしょうに。

そんなルールも守れないなんてアンタ馬鹿?」

 

「馬鹿?馬鹿はそっちでしょ?

毎日毎日5時には起きて、いつもすぐに

私を起こすの止めてよね。

しかもあんたときたら勉強が出来る割には

艤装の装着の仕方とか、動かし方とか

下手くそじゃない」

 

「今そのこととは関係無いわよね?」

 

「あれ、自分の痛いとこ突かれたから

話を変えようとしてるでしょ?

ねぇ、怒った?怒った?」

 

「……チビの癖によく弁が立つわね?」

 

数秒の間、部屋に沈黙が訪れる。

二人は互いを感情のこもっていない笑顔で睨む。

 

やがてどちらからともなくーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「チェストーーーーーーッ‼︎」」

 

今日も今日とて、二人の小競り合いが始まった。

そもそも喧嘩を必ずしないとは言ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……もう、あんたのせいで普段の時間と

変わらない時間で行かなくちゃならなくなった

じゃないの」

 

「これだったらいつもと同じ時間に起きても

良かったんじゃない?」

 

「そうね。誰かさんのおかげで」

 

口の減らない女だ、と互いに思いながら

雷と曙はふん、とばかりにそっぽを向く。

 

と、そこに曙達のクラスの担任である那智が

入ってきた。

 

「はい、皆静かにしろー」

 

ぱんぱんと軽く手を鳴らして皆を静まらせてから

那智は話し始めた。

 

「これから廊下に番号順に並んで、

視聴覚室の前で待機していてくれ。

私は色々と用意があるから、部屋の前にいる

教師の言うことに従って行動してほしい」

 

「「「「はーい」」」

 

その那智の言葉に従って、少女達は廊下へと

ぞろぞろと歩いていく。

もちろん、曙と雷の二人はその指示に従って

皆と共に移動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視聴覚室。

そこでとある学習に参加するために曙達は

移動してきた。

VRによる深海棲艦との擬似的な戦闘映像を

見てもらうのだ。

VRは国を守る人材の育成に関わるとして

国家の予算から支出されている。

 

「次の方、こっちに来て下さい」

 

曙の前の艦娘が呼ばれて視聴覚室に

入っていく。

やはり擬似的な映像とあってか、

出てきた艦娘の中には泣いている者や、

怖がっていた者も多くいた。

それも仕方のないこと。

人外の存在、それも生理的嫌悪感を感じる化け物が

顎門を開いてこちらに襲いかかってくるのだ。

(しかも駆逐イ級など下級の深海棲艦は

2〜3m近い巨体を持つ)

何も反応を示さない方が異常というものだ。

 

やがて曙の番が回ってきた。

神通の指示に従ってVRゴーグルをすると、

しばらくして映像が流れてきた。

 

 

暗雲の立ち込める中、航行している。

首を回してもまわりには水平線しか見えない。

そして曙1人しか人影はいなかった。

もう一度周りを眺めてから曙は視線を

最初の位置へと戻す。

 

 

 

刹那、彼女のすぐ隣を水面下から駆逐イ級が

飛び出し恐ろしい顎門を見せながら

再び潜行する。

 

水飛沫が辺り一面に咲く。

 

「ッ……‼︎」

 

恐ろしい、と曙は思った。

垣間見えた黒く鈍色に輝く鋼のような皮膚。

何を考えているのかわからない緑色の瞳孔。

擬似的な現実でもまざまざと深海棲艦の怖さが

骨の髄まで伝わってくる。

 

(これが、深海棲艦……)

 

ぞわり、と背中に冷や汗が吹き出すのが

自分でも分かった。

再び駆逐イ級が姿を現わす。

今度は遠くからで、そこからこちらへと向かい

何度も砲撃を仕掛けてくる。

 

数発がすぐそばへと落ち、数多の水柱を

作り上げる。

それのせいで一瞬曙の視界が見えなくなる。

 

「うっ……‼︎」

 

次の瞬間、水柱を突き破りながらイ級が

顎門を開いてこちらへと襲いかかる。

後少しで顎門が曙を捉えるという間際で、

映像は途切れた。

 

「ひっ……あ」

 

擬似的なものとはいえこれは中々にキツイ。

足が僅かに震えているのが自分でも分かる。

曙は額の冷や汗を拭いながらゴーグルを取った。

 

「どこか具合は悪くないですか?」

 

「大丈夫、です」

 

神通を安心させてから曙は視聴覚室から

出て、大きく息を吐きながら近くの壁に

寄りかかった。

 

(正直、あんなに怖いなんて思わなかった……)

 

瞼を閉じれば先程の映像がまざまざと

寸分違わず思い出せる。

しばらくは夢に出るかもしれない。

 

(まだまだ、私も頑張らないと)

そう思いながら曙が教室へと移動しようとした、

まさにその瞬間。

 

ドサッ、という音と神通の張り詰めた声が

中から聞こえてきた。

 

「い、雷さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」

 

「ッ⁉︎」

 

慌てて曙は戻ると、神通の元へと向かう。

そこには、神通に抱き抱えられている

雷の姿があった。

その顔には生気が感じられず、びっしりと

玉のような汗が張り付いている。

 

「私が保健室へ連れて行きます‼︎」

 

「曙さん……分かりました、お願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー保健室のベッドの上で、

雷は目を覚ました。

 

「……ここは……」

 

「保健室よ。あんたぶっ倒れて、ここに

連れて来られたの」

 

隣には曙がいた。ずっと側にいてくれたらしい。

 

「ああ、そっか。私VR映像見て、それから」

 

「しばらく安静にしてろってさ」

 

雷は起こした身体を再びベットに寝かせると、

はあ、とため息をついた。

 

「あーあ、やっぱりだめかぁ。

いけると思ったんだけどなぁ……」

 

「やっぱり、ってことはあんたこうなることは

分かってやってたの?」

 

いや、と言って雷は僅かに自嘲気味に笑った。

 

「確信は持てなかったよ。もしかしたら

こうなるかもなぁ、位の気持ちだったけど。

……ねぇ、曙」

 

「何よ?」

 

「私の昔の話、聞きたくない?」

 

なんでよ?と言おうとしたが、曙は

その言葉を飲み込んだ。

雷にどこか張り詰めたような雰囲気を

感じ取ったからだ。

本人は隠しているつもりかもしれないが、

至って真剣な瞳がそれを許さなかった。

 

話を聞いて、雷がすっきり出来るなら。

そう思い、曙は「聞きたい」と答える。

 

「まあ私の小さい頃の話なんだけどね」

 

ベッドに入ったまま、雷はそう前置きしてから

自分の昔話を始めたのであった。

 




次の回で雷の過去と曙の過去が明らかに。


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