ダンガンロンパ・H&D ~絶望だよ、全員集合!~ (名もなきA・弐)
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乗船者名簿

 お待たせしました。乗船者名簿です。
 少しでもキャラクターを好きになり、そして想像する上での参考になるように祈ります。
 それでは、どうぞ。


【超高校級の庶務委員】

貝原 永久 カイバラ トワ 性別:女性 ICV野中藍

容姿:中学生ぐらいの小柄な容姿をしており、癖毛のある茶髪を後ろに長く伸ばして青いリボンで一本に纏めている。また一本目立つアホ毛がある。

服装:フード部分にオレンジ色のマークがペイントされた緑色のパーカーに膝丈までの灰色のスカートをはいている。

好き/チーズカレー、牛乳 可愛いもの、推理小説

嫌い/ナス 巨乳

設定:

本作の語り手。あらゆる作業が通常よりも高速になおかつ適切であり集中力も高いことから「庶務の天才」と呼ばれている。

可愛らしい外見などから幼い印象を受けるが実際は年齢性別問わず敬語で話すしっかり者…だが堅物と言うわけではなく彼女自身は年相応の少女である。

己の幼い容姿にコンプレックスを抱いており乳製品に頼るなど健気な努力をしている。

 

 

【超高校級の通信兵】

エミリ・パラボナライズ・アヴェーン 性別:女性 ICV 加藤英美里

容姿:日本人離れした顔立ちとスタイルに綺麗な白髪をツインテールにしている。

服装: ピンクと黄色といった独特なカラーリングの軍服に銀色のイヤホンマイクを身に着けている。

好き/ミルクティー、漬物 機械いじり、カラオケ

嫌い/黒くてカサカサ動く虫

設定:放送や通信に関するあらゆる機材を使いこなし、警察庁の照会センターに特例で所属していたり自衛隊の通信課で教鞭を取ったりしている。

ロシア人だが日本育ちであり、日本語を流ちょうに話す他英語やロシア語も話せる。明るい性格であり誰にでも渾名を付ける。一人称は「ぼく」

 

 

【超高校級の家庭科部】

綾崎 隼人 アヤサキ ハヤト 性別:男性 ICV 保志総一朗

容姿:平均的な身長だが常に穏やかな笑みを浮かべており水色の髪の毛をやや短くしている。

服装: 灰色のブレザーの上に薄い緑色のエプロンを身に着けている

好き/トマト、豚肉 節約術

嫌い/借金、無駄遣い

設定:祖父母が残した借金のために節約術や家事をこなし返済している内に料理や洗濯、掃除や裁縫などあらゆる家事を極めた少年であり高校でも部活仲間とクラスメイトから「理想の主夫」と言われている。

穏やかな少年であり滅多なことで怒ることはない。幼少のころに借金地獄を体験したからか持久力もかなりある。

 

 

【超高校級の心理学者】

一条 心 イチジョウ ココロ 性別:男性 ICV 内山昂輝

容姿:赤い茶髪のパーマ気味で神経質そうな顔をしている。

服装: 白いズボンに白い白衣で全身を覆っている。

好き/インスタントスープ

嫌い/差別

設定:カウンセリング、臨床心理、発達心理などのあらゆる心理学を極めた心理学のエキスパート。大学でいくつもの論文を提出している。

かなり口が悪く、本人の顔も相まって嫌な印象を受けるが何だかんだで困っている人を助ける人間であるため根本的にはツンデレめいた人物。

また差別も嫌っておりそっちの話題になると普段悪い口が何時も以上に悪くなる。

 

 

【超高校級の優等生】

一関 来羽 イチノセキ クルハ 性別:男性 ICV 石川界人

容姿:黒髪を緩い七三分けにしており凛々しい顔立ちに味気ない眼鏡をかけている。

服装:紺色の詰襟タイプの学生服に身を包んでおり

好き/勉強、軽い運動

嫌い/女子のいない空間

設定:成績優秀、スポーツ万能、教師には一目置かれ生徒たちからの人望もある本物の優等生。

やや堅い言葉づかいと校則を守る性格だが、「多少の違反は眼を瞑る」・「男女交際は積極的に行うべき」と言うなど打ち解けやすい性格をしている。

コロシアイ記念旅行ではリーダー的ポジションとなる。

 

 

【超高校級のダイバー】

海原 潜絽 ウナバラ モグロ 性別:男性 ICV 緑川光

容姿:引き締まった細く長い体躯に金髪をオールバックにしている。

服装:ダイバースーツの上に青いコートを羽織っておりシュノーケルを頭部に装着している。

好き/魚介類、クリームシチュー 穏やかな海

嫌い/荒れている海

設定:潜水記録を事前準備なしで二十三分という驚異の記録を叩き出した高校生であり、この経験を活かして素潜り漁やオーパーツ探索などにも関わっていた。

シュノーケルを常備していたり服装から奇妙な人間だと思わせるが本人は至って常識的であり仲裁に入るなどの善良な人間。

言葉の最初か最後に「シュコー」と呼吸音が聞こえる。

 

 

【超高校級のメイド】

神楽阪 麻衣華 カグラザカ マイカ 性別:女性 ICV 洲崎綾

容姿:スレンダーなスタイルと茶髪のボブヘアーであり右側に赤いリボンを結んでいる。

服装:青を基調とした丈の長い白いエプロンドレスを纏っている。

好き/コーラ からかい甲斐のある人、優しい人

嫌い/汚い部屋

設定:代々主に仕える歴史ある家系の人間でありあらゆる教養を身に着けた理想のメイドだが現在はフリーで活動している。

基本的に誰にでも敬語だが「面白ければ全て良し」をモットーにしているため悪戯をすることもしばしば。

メイドはいかなることも出来なければならないため、護身術及び銃器の扱いも心得ている…らしい。

 

 

【超高校級の秘書】

神楽阪 舞耶 カグラザカ マイヤ 性別:女性 ICV 西明日香

容姿:姉と同じだがリボンを結ぶ位置が左側になっている。

服装:タイトスカートと黒いスーツ

好き/サイダー からかい甲斐のある人、優しい人

嫌い/すぐに怒鳴る人

設定:神楽阪麻衣華の双子の妹であり、同じく高額な金を払ってでも手元に置きたくなる秘書で姉と共にフリーで活動している。

姉と同じでトラブルメーカーだがこちらの方が若干あざとい印象がある。

こちらもボディーガードめいた活動を行っている。

 

 

【超高校級の喧嘩師】

桐生 和彦 キリュウ カズヒコ 性別:男性 ICV 黒田崇矢

容姿:黒髪を短く切り揃えており高校生らしからぬ強面でかなりの長身。

服装:黒いベストとズボンにミリタリージャケットを羽織っている。

好き/牛丼 筋のある人間、カラオケ

嫌い/ピーマン 仁義を通さない人間

設定:シマにいる酔いどれのおっさんやホームレスの元武闘家に喧嘩を教わり、たちの悪い不良や喧嘩を売るヤクザたちを叩きのめした喧嘩師。

善人悪人問わず面倒見が良く一度決めたことは曲げない頑固者であり一部の人間からは慕われたりしている。

養護施設の出身であり、小さな極道組織「魅祭組」に所属している若衆だが育ての親で組長でもある『姐さん』の計らいで高校に通っている。

 

 

【超高校級のパイロット】

坂本 隆馬 サカモト リュウマ 性別:男性 ICV 岡本信彦

容姿:大柄な体型であり、赤く短い髪の毛が特徴。

服装:茶色と白系統の衣装で統一されておりパイロットキャップと額にはゴーグルを乗せている。

好き/ポップコーン 乗り物

嫌い/乗り物

設定:自身のいる航空の高等学校でちょっとした手違いで航空科を選択したらパイロットの天才的な才能を開花させた奇跡の天才児。

快活な性格で気さくな熱血漢だが、いざという時には冷静になれる部分もある。

乗り物自体は好きだが乗り物に乗ることだけは致命的に駄目であり「他人の家に初めて入るような感覚」が駄目らしい。

 

 

【超高校級の滅菌スタッフ】

清浄 和泉 セイジョウ イズミ 性別:女性 ICV 矢作紗友里

容姿:綺麗な黒髪ショートと儚げな風貌、白い肌も相まって非常に繊細な印象を与える。

服装:ミニスカナース服の上に薄いピンク色のカーディガンを羽織っている。

好き/清掃作業 野菜ジュース

嫌い/下ネタ

設定:ある病院で滅菌作業をしているアルバイトだが病院にある全ての医療器具と記憶し、大人顔負けの職業理念を持った滅菌スタッフであり彼女に聞けば滅菌作業の全てが分かるほど。

大人しく繊細な性格をしているが、人の命を第一に考えており心の強い部分もある。しかし下世話な話題は苦手であり顔を真っ赤にしてこの場から逃げてしまう。

 

 

【超高校級の芸能マネージャー】

二ノ瀬 香 ニノセ カオリ 性別:女性 ICV たみやすともえ

容姿:凹凸のあるスタイルと水色のロングヘアーを靡かせたクールビューティー。

服装:味気ない黒いブレザーとスカートの出で立ちをしており胸元には可愛らしいバッジがある。

好き/シュークリーム

嫌い/セクハラ野郎

設定:時に厳しく、時に優しい敏腕マネージャーであり彼女の担当になった芸能人は芸能人としても人間としても一歩成長出来る。

クールな性格をしておりあまり表情を出さないが人並みにはあるのか楽しい時には微笑むなど決して鉄仮面ではない。

 

 

【超高校級のグラビアアイドル】

細井 麗 ホソイ ウララ 性別:女性 ICV 久保ユリカ

容姿:短めにカットされた黒髪とあどけない顔立ちだがモデル顔負けの長身と豊満な胸部の持ち主。

服装:デニムパンツに胸元部分を強調した水色のシャツを着た露出のある格好

好き/牛乳 農作業

嫌い/暴力的なこと。

設定:恵まれた長身とすらりと伸びた長い手足、そして100以上のバストサイズを持った天然素材のグラビアアイドル。スタイルだけでなく本人の人柄から女子にも好かれる存在となっている。

穏やかでのんびり屋の天然だが現実的な物の見方も出来る一面もある。自身のスタイルについても自覚はしており恥じらいはあるが「みんなが元気になるなら」と考えるなどタフな面も持ち合わせている。

田舎で農作業をしていたが中学二年の時に地域のテレビ局のプロデューサーにスカウトされ上京、現在に至る。

 

 

【超高校級の幸運】

本庄 因幡 ホンジョウ イナバ 性別:男性 ICV山下大輝

容姿:男子の中では身長が一番低く、中性的な顔立ちをしている。それ以外は特にない普通の少年。

服装:白い兎を模したパーカーの上に黒いブレザータイプの学生服を着ている。

好き/トマト、ラーメン 映画全般

嫌い/自身が持てない自分

設定:抽選で選ばれた「幸運」枠の少年だが、バスジャックでは自分と乗客が無傷で助かる。大型デパートの火災現場では全員助かったなど女神に愛されたラッキーボーイ。

自分に自信が持てず、気弱な性格をしており自分や他の人が巻き込まれた事件を不運だと思い込んでいる。

映画はジャンル問わず好きでありそれに関係して友達が増えるなど友好関係も広い。

 

 

【超高校級の???】

松成 セイ マツナリ セイ 性別:男性 ICV 緒方恵美

容姿:短く切られた茶髪に一本アホ毛があり桐生や海原ほどではないがそこそこ身長が高い。

服装:上下黒いスーツであり茶色いネクタイを締めている。

好き/???

嫌い/??? 

設定:記憶を失った少年であり肩書きはおろか自分の名前すらも分かっていない。

穏やかな性格であり、記憶を失っているからなのか物事を前向きに考えようとするなど芯の強い人物である。




 こんな感じです。皆さんが気になったキャラがいましたか?
 ではでは。ノシ


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プロローグ 後悔しながら航海しよう
軽い自己紹介


 初めましての方は初めまして、名もなきA・弐です。
 ダンガンロンパシリーズと他の方々の創作論破を読んで思い切って書いてみました、あくまでも本命の筆休めで書いたものですが完結出来るように頑張りたいと思います。
 まずは注意事項。
この作品はダンガンロンパのルール・世界観を反映させたオリジナル作品でございますす。
それでも良いよって優しい人もそうでない方もお読みください。
※当作品は原作『ダンガンロンパ 希望ヶ峰学園シリーズ』の致命的なネタバレがございます。また矛盾などもあるかもしれませんがあくまでも作者の二次設定として流してくださると嬉しいです。
 それでは、どうぞ…うぷぷぷ。


希望があるから絶望が生まれるのか?

それとも、絶望があるから希望が生まれるのか?

どちらに転んでも最良の結果を歩むかどうかは分からない…そもそも、どちらが正しいのか?

痛い目を合わないために薄暗い絶望の道を進むのか、周囲を犠牲にしてまで眩いほどに輝く希望の道を歩むのか?

一体、どちらが正しいのだろう……。

 

 

 

 

 

目が覚めると、私の視界に入ってきたのは、見たことのない天井だった。

ベッドで寝かされている状態なのだろう、天井にはありきたりな照明がありそこから発せられる光に思わず顔をしかめる。

だが、それと同時に意識がゆっくりとだが覚醒し始めてきた。

まずは手を握ったり開いたりして身体が動くかどうか確認してみる。

異常は、どこにもない…では名前は?

私の名前は『貝原永久(カイバラ トワ)』、○○高等学校に入学したばかりの花も恥じらう高校一年生…うん、異常はない。

上体だけを起こし、辺りを確認してみる。

学校指定の青いブレザー型の学生服であり、何かされたような感覚もない…が財布や携帯電話といった物体がなくなっていることに気づく。

言いようも知れない不安に駆られるが深呼吸を繰り返して何とか気持ちを落ち着ける。

そしてクリアになった思考で周囲を見渡す…そこは寝室のようであり豪華な装飾からまるでホテルのスイートルームを彷彿させる室内だ。

 

(ここは、何処でしょう?)

 

最初に浮かんだ疑問がそれだ。

記憶を思い返してみるが全く分からない、そもそもこんな場所に来たことも見たこともない。

未知の場所に不安を覚えながらもそれを必死に押し留め、行動を開始した。

ドアに近づき、耳を当てる…足音が聞こえないのを確認してからゆっくりとドアノブを回し、少しだけ押すと扉が開く。

 

(…よし)

 

ドアを開けると私の視界に入ったのはまたしても見知らぬ通路だった。

上部には大きめのスピーカーがついたモニターが設置されておりどちらに行くか迷っている私に応えるように画面が映る。

 

【みんなはこっちにいるよ♪】

(誰だか分かりませんがイラッときますね)

 

子どもでも書かないような下手くそな文字に軽く怒りを覚えながらも指示通りに進もうとした時、背後から鈍い音が聞こえた。

それに驚いた私はテレビや漫画で見たファイティングポーズを取るとそこには私と同い年ぐらいの黒い学生服を着た少女がうつ伏せで倒れており恐らく音の発生源だ。

少しだけ警戒しながらも私は彼女まで駆け寄り声を掛けた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「はっ、はい。大丈夫ですぅ」

 

鼻を手で押さえながら涙目で答えた少女はゆっくりと立ち上がろうとする。

少し古いセーラータイプの学生服でありショートにしてある黒髪と相まって何処か儚げな印象を与える少女だ。

ローファーに吐き慣れていないのか足元が覚束ない彼女を支えると「ありがとうございますぅ」と感謝の言葉を口にする。

 

「ここ、何処か分かりますかぁ?」

「いえ、実は私も詳しくは…」

 

彼女からの問い掛けに私は自分の経緯を説明すると、彼女も安堵したのか少しだけ息を吐くと少しだけ笑みを見せる。

 

「私もですぅ、気が付いたらこの場所にいてぇ。学校の帰りだったんですけどそこからの記憶がなくてぇ」

「あなたも、ですか」

 

そんなことを話しながらも私たちはモニターに指示されて通りに通路を移動していた。

そして、しばらく進んでいると突き当たりの観音開きになっているドアと対峙する。

やはり豪勢な作りになっている木製の扉の取っ手を握る。

 

「扉を開けた瞬間、亡霊さんが襲ってくる…とかないですよねぇ?」

「あるわけないでしょうが」

 

突拍子もないことを言う彼女に思わず反射的にツッコンでしまったが気を取り直し、私は扉を開けた。

 

 

 

 

 

そこには十数人の男女がおりそれぞれタイプの違う、同じタイプの学生服に身を包んでいた。

エントランスのような広い空間となっておりまるで映画の世界に閉ざされたような感覚を覚えてしまう。

 

「お、やっと来たみたいだな」

「そうなると、これで何人でしたっけ?」

「姉さん、これで十五人ですよ」

 

黒い詰襟の学生服を着た大柄の少年があっけらかんと、双子らしき二人の少女が左右別に結んだリボンを揺らしながら楽しそうに言う。

そんな中、私と同じアホ毛を持った少年が柔和な笑顔で全員に声を掛ける。

 

「とりあえず、これで全員揃った感じかな?」

「た、多分そうだと思うけど」

 

何処か気弱な印象を与える小柄な少年が代表するようにおどおどした様子で答える。

その回答が聞こえたのかブレザータイプの学生服をきちんと着こなした眼鏡の少年が場を引き締めるように声を響かせる。

 

「とりあえず、自己紹介でもしないか?」

「…たく、よくもまぁそんな呑気なことが言えるな」

「シュコー、シュコー」

 

彼の言葉にパーマ気味の少年が不機嫌そうな表情を見せるがそれを宥めるようにシュノーケルの少年が肩を置く…て、ちょっと待て!

 

「何でそんなもの装着しているんですかあなたっ!?」

「シュコー、シュコー」

 

私の言葉に対してシュノーケルの少年は「気にするな」と言いたげに親指を立ててサムズアップをする。

そのあまりの清々しさにツッコム気力もなくなった私は全員の目がこちらを見ていることに気づく…つい条件反射で言葉を出してしまった。

「自己紹介するしかないな」と半ば諦めた私は自己紹介を始めることにした。

 

「えっと、私は…」

 

そうして自己紹介をしたが「趣味は?」・「彼氏は?」と根掘り葉掘り聞かれ紹介を終えたころには疲れ切っていた。

そんな私を気にせず、言い出しっぺである眼鏡の少年が自己紹介を始める。

 

「俺は、『一関来羽(イチノセキ クルハ)』。趣味は勉強、ほら…」

「ちっ、『一条心(イチジョウ ココロ)』だ。名前で読んだらぶん殴るからな」

 

一関君に背中を叩かれたパーマの少年…一条君は自身の名前を名乗った後そっぽ向いてしまう…ていうか。

 

「おやおや、同じ『一』がつくなんて何やら運命を感じますね」

「そうですね、姉さん」

 

私の思っていることを口に出したのは先ほどのリボンをつけた二人の少女だ。

双子らしく容姿は茶髪のボブヘアーと同じだが学生服の着方が少しだけ異なっている。

 

「さてさて、私の名前は『神楽阪麻衣華(カグラザカ マイカ)』」

「そして私は双子の妹『神楽阪舞耶(カグラザカ マイヤ)』」

「「人呼んで『神楽坂シスターズ』!」」

 

ノリノリのポーズをドヤ顔と共に決める二人に反応に困るが私と共に来た少女とエントランスにいた少女が拍手を…て。

 

(で、でか…!?)

 

何度目の驚きだろう、しかしあれは「本当に高校生か?」と疑ってしまう。

短めにカットされた黒髪とあどけない顔立ちは年相応の少女を思わせるがそれでも私の心中は穏やかではなかった。

なぜなら彼女の前には立派な胸部装甲がオーソドックスなセーラー服を内側から押し上げておりノースリーブのシャツと少し短めのスカートなので肌色がそこそこ多い。

身長も女子にしてはかなり高く、はっきり言って無駄のない肉体の持ち主だ。

全員の前に現れた少女は気にすることなく邪気のない笑顔で挨拶を始める。

 

「初めましてー。『細井麗(ホソイ ウララ)』だよー、よろしくねー」

 

「やはー」と意味もなく両手を上げる彼女…それと同時に大きな胸(脂肪の塊)が柔らかく揺れ、男子の大半が顔を背けてしまう。

くそがっ、どいつもこいつも乳に左右されやがって……私だって後数年もすれば……!

そんな私の嫉妬を知る由もなく、隣にいた少女も我に返るとゆっくりと口を開いた。

 

「えと、せ、『清浄和泉(セイジョウ イズミ)』と申しますぅ」

 

たどたどしい挨拶の後、ぺこりと頭を下げると今度は気弱な少年と大柄な少年、長い銀髪を靡かせた外国人らしき少女が前に出る。

 

「僕は、『本庄因幡(ホンジョウ イナバ)』。何処にでもいる高校生、です」

「俺は坂本隆馬(サカモト リュウマ)…苦手な物は乗り物だ、よろしく」

「ぼくは『エミリ・パラボナライズ・アヴェーン』。ロシア人だけど生まれも育ちも日本だよ」

 

本庄君と坂本君、そしてエミリさんが挨拶を終えると唯一学生服を着ていない強面の少年?が口を開く。

 

「『桐生和彦(キリュウ カズヒコ)』だ。こんななりだが未成年だ」

 

渋い声でそう名乗ると口を閉ざしてしまう…しかし拒絶していると言うよりあまり言葉を出さないタイプなのだろう。

そんなことを考えていると今度はシュノーケルの少年が口からそれを外す(ゴーグルは装着したままだったが)。

 

「『海原潜絽(ウナバラ モグロ)』だ、迷惑を掛けるかもしれないがよろしく頼む…シュコー」

 

イケメンボイスで丁寧に紹介をすると再び独特の呼吸音を繰り返す…見た目は奇妙だが思ったよりも礼儀正しい人物のようだ。

 

「なら、次はアタシの番かしら?『二ノ瀬香(ニノセ カオリ)』、これでも高校一年よ。短い間かもしれないけどよろしくね」

「僕は『綾崎隼人(アヤサキ ハヤト)。ちょっと事情を抱えていた高校生……てところかな」

 

二ノ瀬さんと綾崎君の紹介を終えた後、残るは最後の一人…茶色いブレザーの学生服を着たアホ毛の少年だけとなった。

 

「……」

 

しかし、彼は困った表情で何も喋らない。

 

「どうしたんですか?」

「…ボクは……」

 

ようやく口を開いた彼は言い淀んでしまうが、やがて意を決したように言葉を紡ぎ出した。

 

「ボクは、誰なのかな?」

「……はっ?」

 

彼の言葉に私が口を開けた途端……。

 

キーンコーンカーンコーン……。

 

場違いにもほどがある、それでいて慣れ親しんだチャイムの音が私たちのいるエントランスホール内に響き渡った。




 まずは、軽い自己紹介から…一応彼らには才能がありますがどのような才能かはまだ明かしません。
 どのような才能の持ち主なのかはみなさん考えてみてくださいね。
 ではでは。ノシ


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軽い絶望宣言

 プロローグの後半です。
 今回で彼女たちの才能が分かります。それでは、どうぞ。


キーンコーンカーンコーン……。

 

まるでタイミングを見計らったかのように鳴り響いたチャイムの音は私たちを驚かせ困惑させる。

「チャイムの音?」と一関君が呟いた時だった。

 

『えー、船内放送。船内放送……オマエラ、お待たせしました!今から入学式を始めます、至急パーティーホールに集合してくださーい!!』

 

スピーカーから発せられる間の抜けたような、けれどもどこか人を不快にさせる粘着質な声が聞こえてくる。

声の主は一方的に話すと音を立てて切る。

 

「な、何今の声?」

「イベントか何かか?」

「入学式って…」

 

ざわざわと全員が口々に呟く中、モニターには矢印と簡易的なマップが映し出される。

困惑している状態で最初に動き出したのは一関君だった。

周囲を少しだけ見渡し、軽く咳払いをしてから声をあげる。

 

「みんな、ここは奴の声に従おう。この場で何も出来ずに膠着しているよりはましだ」

「そうね。もしかしたら番組のサプライズイベントかもしれないし」

 

彼に続くように二ノ瀬さんが賛同すると私たちを率先するように歩き始めた。

すると、私を含む残りのメンバーも移動を開始した。

 

 

 

 

 

しばらくして、「パーティーホール」と上部のプレートに書かれた扉を開くとまず目に入ったのはエントランスよりも広い空間だった。

まるでパーティ会場のように丸いクロスのひかれたテーブルが十数個並んでおり、その奥には司会が立つようなステージもある。

本来ならば賑わっているであろうホールの中は静まり返っており、暖色の証明が使われているにも関わらず、何処か物寂しい印象を与えた。

 

「……誰もいないみたいだな」

 

桐生君がぽつりと呟いた時だった。

 

『あー、あーっ!!マイクテスト、マイクテスト!聞こえてるよね?大丈夫だよね!』

 

先ほどの放送と同じような間の抜けたような声が聞こえてきた。

しかし、マイクの調整が合っていないのかハウリング音が凄まじく耳障りな音に思わず耳を塞いでしまう。

 

「うるっせぇなっ!!何だよ一体!」

『お待たせしました!それでは入学式を始めたいと思います!ステージに注目してくださーい!!』

 

一条君の苛々した声が響き渡るのも気にせず、声の主は場違いなほど元気な声で指示を送った。

 

『うぷぷ…!良いねぇこの空気、そう!人の心に絶望が存在する限り…』

 

ステージの方に注目する中、声の主は楽しそうに言葉を続ける。

そして、ステージから何かが飛び出すとそれは仏像のようなポーズを取りながらゆっくりとステージ上に着地した。

 

『じゃじゃーん、ボクは何度でも蘇るのですっ!!』

「……」

 

私は声が出なかった。

なぜならそれは、私が今まで見たこともないような存在だったからだ。

丸みを帯びたぬいぐるみ特有のずんぐりとした胴体と短い手足、そして、右側は白く、左側は黒く綺麗に塗り分けられた身体。

右側は可愛らしい黒い目をしているのに左側にある瞳だけは赤く鈍い光と共に輝いている。

 

「え、ぬいぐるみ…?」

 

呆気に取られたように清浄さんが呟いた。

彼女の言うとおり誰がどうみてもあれはぬいぐるみだ、しかし……。

 

『失礼だな!ぬいぐるみじゃないよ!ボクは「モノクマ」!オマエラの学園長であり、この船の船長なのだ!ヨロシクネッ!!』

 

呑気な言動、呑気な声、まるで子ども向けの番組に登場するキャラクターのようなそれは両腕を動かして威嚇のポーズをすると勝手に喋り始める。

 

『いやー、まさかこんなに速くボクが登場出来るとは思わなかったねー。やっぱり五人も子どもがいるとボクの出番がどうしても少なくなっちゃうからね、あれ?そう考えると我が子たちは別に必要なかった可能性が微レ存?いやいやでも…』

「おい、下らねぇ話は後にしろや」

 

突如喋って動くぬいぐるみに混乱している中、物怖じせずに話しかけてきたのは一条君だ。

不機嫌な表情を隠すことなく彼はぬいぐるみ…モノクマの言葉を遮る。

 

『はっ、ボクとしたことが…では気を取り直して……えー、オマエラ!ご入学、おめでとうございます!!元気いっぱいな姿を見て、ボクも感動しています。これからは我が学園の生徒として…』

「ち、ちょっと待ってください!!」

 

慌ててモノクマの言葉に私は待ったをかける。

さっきから黙って聞いていたがやはり分からない…そもそも。

 

「『入学』って何のことですか?それにあなたが学園長?言っている意味が分かりません!私は、ただの高校生ですよ」

「確かにな、ここが何処で、そもそも俺たちをどうするつもりか…答えてもらうぜ」

 

私に続くように桐生君は腕を組みながらも鋭い視線を向けるが、当の本人?は気にすることもなく、わざとらしいポーズを取って呆れた態度を取る。

 

『まったく、これだから学生は…大人の段取りってものを知らないんだから、ですが!ボクはマリアナ海溝よりも器が広いからね。オマエラの望む答えを教えてあげましょう!』

 

そう宣言すると、巨大なスクリーンが下がり照明が暗くなる。

そして、映像が映し出された。

 

『まずは、場所の説明から…えー、ここは「ナーサリーライム号」。通称「海上のホテル」と呼ばれるほどの史上最大の、史上最高の豪華客船なのです!そしてボクはここの船長、つまり一番偉い存在なのです!崇めたまえー』

「船…だと……!?」

 

巨大な客船を映しながら、モノクマの説明を黙って聞いていた坂本君が驚愕の表情と共に口元に手を抑える……本当に乗り物に弱いのか。

しかし、まさかの船の上だったことには驚いた。

揺れも感じないのもあって今まで何処かのホテルか何かだと思っていたからだ。

納得したが肝心な部分がまだ明らかになっていない…そう、私たちがどうしてその船に乗らされているのかだ。

私が声を出すよりも先にモノクマが再び口を紡いだ。

 

『そして、オマエラがここにいる理由…それは、ある学園に入学したからだよ』

「ですから、一体何処に…」

『はーい、今から点呼を取りまーす!!呼ばれた人は返事をしてよー!』

 

私の言葉を遮り、モノクマは白い用紙を取り出すと点呼を始めた。

 

『「超高校級の通信兵」のエミリ・P・アヴェーンさーん』

「……はぇっ?」

『超高校級の通信兵のエミリ・P・アヴェーンさーん?』

 

自分の名前を呼ばれたエミリさんは驚いた表情を見せる。

いきなり名前を呼ばれたことではなく、最初に言われた聞き覚えのない肩書きに驚いているのだろう…呆けている彼女を急かすようにモノクマは再度呼びかけを行う。

すると、我に返ったおずおずと挙手しながらエミリさんは口を開いた。

 

「えっと…は、はい」

『次、「超高校級の家庭科部」の綾崎隼人くーん』

「はい」

『「超高校級の心理学者」の一条心くーん』

「…はい」

『「超高校級の優等生」の一関来羽くーん』

「はい」

 

一条君は苛立ちを隠すように、一関君は冷静に返事をするとモノクマは満足するように点呼を続けて行く。

 

『「超高校級のダイバー」の海原潜絽くーん』

「シュコー」

『「超高校級の庶務委員」の貝原永久さーん』

「…はい」

 

海原君に続くように、名前を言われた私も言葉を返す。

 

『「超高校級のメイド」の神楽阪麻衣華さーん、「超高校級の秘書」の神楽阪舞耶さーん』

「「はーい」」

『「超高校級の喧嘩師」の桐生和彦くーん』

「…あぁ」

『「超高校級のパイロット」の坂本隆馬くーん』

「…マジかよ」

 

神楽阪さんたちは楽しく、桐生君は静かに、肩書きを聞いた坂本君はこの世終わりだと言いたげな表情で呟く。

 

『「超高校級の滅菌スタッフ」の清浄和泉さーん』

「は、はいぃ」

『「超高校級の芸能マネージャー」の二ノ瀬香さーん』

「はいはい」

『「超高校級のグラビアアイドル」の細井麗さーん』

「はーい」

『「超高校級の幸運」の本庄因幡くーん』

「は、はい」

『よしよしこれで…あっ……えーと、べ、別に忘れていたわけじゃないんだからな!コホン、「超高校級の???」の「松成(マツナリ)セイ」くーん』

「あっ、はい」

 

最後にアンテナの彼…松成君の名前が呼ばれて点呼が終了した。

今の肩書き、もしかしてモノクマの言う学園とは……。

 

「『希望ヶ峰学園』に、私たちが入学したってことですか…?」

『はーい、だーいせーいかーい!!オマエラは希望ヶ峰学園に選ばれた才能を持つ超高校級の生徒たちなのですっ!』

 

その言葉に私以外の人たちも驚いていた。

私立希望ヶ峰学園……学業・スポーツ・芸術・芸能…あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、誰もが夢見る名門校である。

「この学園を卒業した者は人生において成功したも同然」…とまで言われ、この学園を拠点として活躍する高校生達は、世間から「超高校級」と呼ばれ尊敬と羨望のまなざしを受ける。

この学園は何百年という歴史を持ち、各界に有望な人生を送り続けており、生ける伝説とまで呼ばれるまさに『希望の学園』…。

その学園への入学資格は二つ。

『現役の高校生であること』・『各分野において超一流であること』だ。

そんな学園だから、もちろん新入生の募集などしておらず、学園側にスカウトされた生徒のみが入学を許可される。

そんな学園に、私がスカウトされた?

ふと他の人たちの顔を見る。

彼らもその話を初めて知ったのだろう、歓喜と困惑が混じった表情を浮かべており…笑っているのは神楽阪さんたちぐらいだ。

 

「でも、私はそんな通知受け取っていません!ネットにだってそんな情報は一度も…」

『うるさーい!ごちゃごちゃ言ったところでオマエラはスカウトされたの!決まったことに一々反論するなー!!』

 

「ガオー!」と威嚇のポーズをするモノクマに私は何も言えなくなっていた。

訳が分からない…自分がスカウトされていたことも、船にいる理由も、何もかもが分からなくなっていた。

しかし、私の混乱とは裏腹にモノクマは楽しそうに説明を続ける。

 

『希望とも言えるオマエラが入学したことを記念に、学園長でもあるボクは船長権限でこの客船に宿泊させることにしたのです!ちなみに食料はきちんと補充されるし客室ごとのバスルームも完備されているから安心してね!』

「ちょっと良いかしら?」

 

一方的とも言える彼に挙手をしたのは二ノ瀬さんだ。

憮然とした表情で腕を組み、口を開く。

 

「アタシ、担当の子のスケジュールを教えなければいけないんだけど」

『はにゃ?そんなの事務所の社長か誰かがやってくれんじゃない?』

「連絡は?」

『連絡手段はないよ。この船に電話機はあるけどは施設同士を繋ぐ内線電話だけだから」

「……」

 

適当に、当たり前のように質問を返すモノクマの言葉を聞きながら、私は言いようも知れない不安に飲まれていく。

 

『うぷぷ……それではそろそろ本題に入るよ。オマエラはボクが呼んだ希望ヶ峰学園の新入生、よってお金はいらないんだけど……』

 

ほんの少しだけ間を置いた後、ゆっくりと口を開いた。

 

『期限は一生!つまり、オマエラはこの優雅な船旅を永遠に出来るんだよ。いやー我ながら心が広いねぇ!さすがはチョモランマよりも大きい心のボクだよ!』

 

モノクマのその言葉に、私は思考が一瞬停止した。

今、奴は何を言ったのだ?

一生?こんな訳の分からない船の中で?

 

「おい、待てよ。俺はともかく残りの連中は真面目に通っている学生だ、お前の発言は学園の理念に反するんじゃないのか?」

 

桐生君が質問をぶつける。

そうだ、私たちは学生…学生の本分は勉強だし仮に希望ヶ峰学園に入学したのだとしたら色々と手続きだって必要だ。

 

『ボクが世界ルールだよ、理念はすり抜けるためにあるんだから…大体そんなの一々気にすることはないんだよ?』

「なら、単刀直入に尋ねるぞ。俺たちはどうやったら出られる?まさか宿泊料の代わりに定期テストで満点を取れとか言うんじゃないだろうな」

『はぁ…こんな至れり尽くせりなのに文句が多いだなんて…まっ、なくはないんだけどね』

 

その言葉に私の中にあった不安が少しだけ晴れた。

しかし、次に発せられた言葉は再び私を混乱の渦へと叩き落とした。

 

『「この中を誰かを殺すこと」だよ』

「……はっ?」

『だからぁ、コロシアイだよ、コロシアイ…ボクはオマエラのためにリッチな船旅を計画したのに脱出したい、だったらそれなりの対価が必要だよね。殴殺でも刺殺でも撲殺でも斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺でも構わない、それが…コロシアイだよ』

「ボクたちに、人を殺せって言いたいのか…!!」

「笑えねぇ冗談だ、好い加減にしろよてめぇ…!!」

 

モノクマの言葉に唖然とする私とは対照的に松成君と一条君が怒りを露わにするが、当の本人は左側のギザギザした歯をぎらつかせながら話を続ける。

 

『冗談じゃないよ、ボクはクマだからね。嘘は時々つくけど基本は正直だよ、それにこれは殺し合いじゃなくてコロシアイ……このナーサリーライム号のメーンイベントにも直結しているんだよ』

「めーんいべんとー?」

『そう、人を殺した時に発生する当客船のイベント…「学級裁判」だよ!』

 

細井さんに応える代わりに上部のスクリーンに達筆で「学級裁判」の文字が映し出され、そこには可愛らしく描かれた数人の少女とその中央にはモノクマが鎮座しているといった絵だ。

 

『学級裁判は、殺人が起きた数時間後に開催されます!…学級裁判の場では、殺人を犯した「クロ」と、それ以外の「シロ」との対決が行われますっ!!学級裁判では、「身内に潜んだクロは誰か?」を、オマエラに議論してもらいます。その結果は、学級裁判の最後に行われる「投票」により決定されます。まあ、人狼と裁判員制度を足して二で割ったようなものだね!分かりやすいでしょ?』

 

混乱する私たちを余所にモノクマは淡々とルールを説明していく。

 

『そこで、オマエラが導き出した答えが正解だった場合は、秩序を乱したクロだけが「おしおき」となりますので、残った他のメンバーは共同生活を続けてください。ただし……もし間違った人物をクロとしてしまった場合は、罪を逃れたクロだけが生き残り、残ったシロ全員が「おしおき」されてしまいます。その場合、勿論共同生活は強制終了となります!以上、これが学級裁判のルールなのですっ!!』

「ね、ねぇ、さっきから言っているお、おしおきって…?」

「もちろん!処刑だよ!!オマエラの命がかかってるから決断は慎重にね!!」

 

モノクマはまるでゲームの司会者のように楽しそうに説明をしていた。

その様子に私の意識は混濁し始め、荒くなる呼吸を必死に抑えるように胸に手を当てる。

しかし、奴はそれすらも楽しそうに眺めている…私は乾いた口で必死に言葉を紡いだ。

 

「あなたは、何をしたいのですか?」

『はにゃ?そんなの決まってるんじゃん』

 

私の質問に、モノクマは首を傾げながらたった一つの単語を口にした。

 

『「絶望」……それだけだよ。だからたっぷり楽しんでね、必死に積み上げたものが絶望に染まる様を。うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ…ダァーッハッハッハッハ!!』

 

腹を抱えて狂ったように笑うぬいぐるみを見て私は理解した、理解してしまったのだ。

今日という日から、私の生活は二十四時間という単純な一日などではなく、もっと特別な意味を持つ一日へと変化した。

『絶望』に塗れた、非日常の一日へと……。

私たちを乗せた、『コロシアイ記念旅行』が開幕した。

 

 

プロローグ 後悔しながら航海しよう End →To Be Continued.

コロシアイ記念旅行:一日目

残り乗船者数:十五名




 プロローグを書くだけですごい苦労…ゲーム通りの文章にすると意外と大変です。
 特にモノクマのキャラが掴めない…誰かモノクマの癖や言動を細かく知っている方は知りませんか!?(半泣き)
 さて、これで彼女たちの才能と肩書が明らかになりました。次回はみんなのお色直しと探索と交流です。もう少し詳しい描写が入ることになります。
 ではでは。ノシ


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CHPATER1 才能はかく語りき
(非)日常編 「探索と超高校級の生徒」


 第一章の探索編の前編です。
 ここから永久や生徒たちの詳しい描写を行います。どんなみなさんが好きになってくれるキャラがいることを祈ります。
 それでは、どうぞ。


【モノクマ先生の特別授業】

えー、オマエラ。『才能』とは「ある個人の素質や訓練によって発揮される、物事を成し遂げる力」のことを言います。

これがある方は人から望まれたり妬まれたり一躍トップスターになることが可能となりますが同時に溺れて堕落する原因にもなります。

オマエラも、用法用量を守って正しくご利用ください。

 

 

 

 

 

しばらく笑っていたモノクマはやがてあの不愉快な笑い声を止めると私たちを黒い瞳と赤い瞳で睨みつける。

 

『おやおやぁ、何だいオマエラは。そんなしょぼい学生服なんか着ちゃって』

「仕方ないだろ、俺たちは学生なんだ」

「それにこれしか着ている服はありませんしね」

 

その言葉に一関君は憮然と、姉の方の神楽阪さんは「やらやれ」と言いたげに肩をすくめる。

しかし、それに応えたのはモノクマだ。

 

『その心配はナッシングだよ!オマエラの客室に、生活の必需品と相応しいお洋服を用意したからね。サイズも服装もぴったりの奴を準備したから、例え塗り壁みたいな方でも全然大丈夫だから!』

「今何て言ったこら」

『では、ボクはこれでっ!しゅわっち!!』

 

私の言葉を無視してモノクマ(くそぐるみ)はそのまま姿を消してしまった。

全員がどうするべきかと悩んでいる中、第一声を発したのは一関君だった。

 

「とりあえず、気持ちを落ち着けるためにも一端部屋に各自戻ろう。奴の言っていた必需品とやらも気になるしな、確かレストランもあったし落ち着いたらそこに集合しよう」

「そうだねー。このままじゃどうにもならないしねー」

「だな。あんな胸糞野郎がいた場所なんてこっちから願い下げだ」

 

彼の言葉に細井さんと、意外にも一条君が賛同しパーティーホールから出て行くと残りのメンバーもそれに頷き一人また一人と各自個室へと戻って行った。

そして私も、通路からこれからのことを考えていた。

こんな非日常な空間から、みんなで生き残る方法を……。

 

 

 

 

 

通路を渡り、所謂プライベートスペースに到着すると自分を模したドット絵と名前が書かれている扉を見つける…気付かなかったが妙に手が込んでいる。

ドアの取っ手を握って引くと最初の時と同じスイートクラスの室内が私を出迎えた。

正面から見て左側には人目で分かる高級な白いベッドに近くにある机の上にはタイプライターのような物が置いてあり、窓側にはミニテーブルと椅子が備わっている清潔感のある部屋だ。

ベッドの上には綺麗に畳まれた緑色の服と片手に収まるほどの黒い端末が置いてあり、それを手に取りながら自分のことを振り返ってみる。

……物心がついた時、育ての親は父親だけだった。

母は私を産んだ後に亡くなり、そこからは男手一つで父親が育ててくれたのだ。

父の仕事は、探偵だった。

元々刑事でもあった父は現役時代に培ったキャリアとコネを活かし探偵事務所を設立し、デスクワークが苦手な父のために私も手伝いをするようになった。

すると、何時の間にか事務所の人たちよりも事件の書類整理や報告書作成などの事務作業が速く出来るようになり、終いには事務所の経営すらも周囲から任せられるようになっていた。

そんなこともあって中学と入学した高校では生徒会の庶務委員として活動していたりもしている。

そんな私が……。

 

「超高校級の庶務委員、か」

【超高校級の庶務委員 貝原 永久 TOWA KAIBARA】

 

端末『電子生徒手帳』に浮かび上がった文字に自嘲気味に零すと、自室にあった服に着替えていた私は、右の壁際にあったクローゼットの姿見で自分の姿を確認する。

フード部分にペイントされたオレンジ色のマークが特徴的なパーカーと膝丈までの灰色のスカートは私の小柄な体型にぴったりと合っており少しくせっ毛のある茶色く長い後ろ髪を青いリボンで一本に纏める。

 

「……地味ですね」

 

一般の高校生から漫画やラノベに登場する味気ない庶務キャラにランクアップした自分の姿に、鏡に映る私の顔は増々仏頂面になる。

しかし、こうしているわけにもいかない。

私はクローゼットを閉じると、電子生徒手帳をパーカーのポケットに入れて探索を開始するべく客室から出た。

 

 

 

 

 

「あ、貝原さぁん」

 

私がレストランに到着するころには大半のメンバーが揃っており、椅子に座っていた清浄さんが手を振る。

衣装を変えた彼女に返しながら私も適当に座り、しばらくして着替えを終えた神楽坂姉妹と松成君、桐生君が来て席に座ったのを確認した一関君は眼鏡を軽く上げて話を切り出した。

 

「よし、じゃあ始めるぞ。しばらくは俺が仕切らせてもらうが何か異論がある場合は遠慮なく言ってくれ、可能な限り対処していく」

 

彼の言葉に私を含む全員が肯定すると、少し安堵した様子で話を続ける。

 

「あのぬいぐるみ…モノクマは俺たちを閉じ込めてコロシアイをさせるつもりらしい。だが、奴の言うことには信憑性がない。まずは俺たちだけでここの調査をしよう…ペアになるなり個人なり構わない……どうだ?」

 

期待の籠った眼差しに全員が無言で頷いたのを確認した一関君はやっと笑みを見せてから次の言葉を紡いだ。

 

「よし、探索開始だ!なるべく危ないことはするなよ」

 

 

 

 

最初にレストランを調査することにした。

パーティルームとは異なり、やや豪華な装飾で彩られておりほんの少しだけリッチな気分にさせる。

部屋の隅から隅まで調べて見るがこれといったものはなく、目ぼしい発見もない…すると、私の他にも調べていたそこにいた二人の男女が声を掛けてくる。

 

「貝原さん。どう、調査の様子は?」

「全然ですね、そちらは?」

「こっちも、自由度が高いんだか低いんだか分かんないよー」

 

白い兎を模したパーカーの上に黒い学生服を着た本庄君の言葉に返すと、デニムパンツに胸元部分を強調した水色のシャツを着た細井さんが困ったように話す。

…そう言えば。

 

「本庄君は確か、幸運?でしたっけ」

「う、うん。それが僕の才能、らしいんだ」

 

自身なさげにそう喋った彼は困ったように中性的な顔立ちを曇らせる。

 

【超高校級の幸運 本庄 因幡 INABA HONJOU】

「僕も聞いたことがあるんだけど、希望ヶ峰の制度で毎年ごとに抽選で選ばれた者が『超高校級の幸運』とされるんだって」

「運も実力の内ってことですか」

 

そう呟いた私は腕を組むが本庄君の自身なさげな表情は変わらない。

元々彼自身が小柄なのとふわふわした髪型、そして着ている服もあって非常に可愛らしい…高校生と言われても大半の人は信用出来ないだろう。

 

「でも、僕はあんまり運が良いとは思えないんだ。こないだだって帰りのバスに乗った時にバスジャックに巻き込まれたんだ」

「ええっ!?だ、大丈夫だったんですか!!」

「銃を突き付けられた瞬間、思わずしちゃったくしゃみに犯人が油断して…その隙に乗客の人全員が取り押さえたことでみんなが助かったんだ」

「ラッキーじゃないですか!」

 

その続きに思わずツッコミを入れてしまった。

本人は不運だと思っているが、犯罪に巻き込まれて…しかも乗客全員が無傷で済んだのは本当に幸運だと言わざるを得ないだろう。

しかし、それでも本庄君自身は解せないと言いたげな表情を浮かべている。

 

「そんなことないよ、もし本当に幸運だったらバスジャックなんて起きなかっただろうし怖い思いもしなかったと思う…僕は本当に不運だよ」

 

本庄君はそう独りごちるとそのまま黙ってしまった。

空気を変えようと隣にいた細井さんに話しかける。

 

「細井さんは、確か…」

「うん、グラビアアイドルをやってるよー」

【超高校級のグラビアアイドル 細井 麗 URARA HOSOI】

 

彼とは対照的に笑顔を見せた彼女は元気よく手を挙げた。

ショートにした黒髪と年相応の可愛らしい顔立ち、そしてすらりと伸びた身体は陶磁器のような白い肌と相まって非常に健康的だ。

……動く度に揺れる前の脂肪が自分のコンプレックスを刺激されるようで空しくなるのは内緒の話だが。

 

「自然の多い田舎で農業やりながら生活してたんだけどー、中学二年の時に地域のテレビ局のプロデューサーさんにスカウトされたんだー」

 

なるほど、あの健康的な身体の秘密は農作業で鍛えられた影響なのか……しかし、人を疑うことを知らなそうな性格をしているので自分の身体がある意味凶器であることに気づいていないのだろうか。

 

「嫌じゃないんですか?だって、その…自分の身体を全国に流されているんですよ?」

「それは恥ずかしいけどー、みんなが喜んで元気になってくれるならそれで良いかなーって思ってるから今は気にしないようにしてるよー」

 

のんびりとした言動の割には意外とタフな部分があるようだ。

そんな彼女に関心をしながら私は最後に聞きたいことを伝えるべく口を開いた。

 

「……どうやったら、そんなに大きくなれるんですか?」

「ふぇー?」

「貝原さん、目が怖いよ」

 

後ろで聞こえる本庄君の言葉を無視して私は細井さんに詰め寄った。

 

 

 

 

 

「やぁ、貝原さん」

「おやおやおやおや、これはご機嫌麗しゅうですね」

「使い方は知らないかもしれませんけどご機嫌麗しゅう」

 

レストランの奥にある厨房には灰色のブレザーの上にエプロンを身に着けた綾崎君と、青を基調とした白いエプロンドレスを纏った神楽阪さん(姉)とタイトスカートと黒いスーツ姿の妹さんがいた。

綾崎君は顔だけをこちらに向けて微笑み、神楽阪さんはスカートの裾を摘まんで頭を下げる。

妹さんの方もあざとさの残る動作で頭を下げる。

しかし、何と言うべきか……。

 

「似合ってますね、三人とも」

「そんな褒めないで下さいよ、褒めたところで威張ることしか出来ませんよ」

「私に至っては照れ隠しにマッスルバスターをするぐらいしか出来ませんよ」

 

満更でもないような笑顔で彼女たち双子はハイテンションに受け答えをする。

 

【超高校級のメイド 神楽阪 麻衣華 MAIKA KAGURAZAKA】

【超高校級の秘書  神楽坂 舞耶  MAIYA KAGURAZAKA】

「神楽阪さんたちは…」

「麻衣華で良いですよ。妹もいますし紛らわしいでしょう」

「私に至ってはマーちゃんでも可ですよっ!!」

「えと…ま、麻衣華さんと舞耶さんは、やっぱりメイドと秘書なんですか?」

 

放っておくとどんどん進んで行く彼女のトークに私はたじろぎながらも質問をすると麻衣華さんと舞耶さんは姿勢を正してから改めて姉の方が話を始める。

 

「答えはもちろん、イエスです。私と舞耶ちゃんは代々主に仕える家系の人間でして、とある財閥に仕えていたんですよ?」

「はぁ…」

 

楽しそうに語る彼女だが近い距離で話しかけてくるため私は相槌を打つことしか出来ないがそれでも話は舞耶さんへとバトンタッチして進んで行く。

 

「ですがそのご主人様がとんだかませ臭のする眼鏡でしてね?『使用人は道具だから黙って仕事しろ』だの『俺を誰だと思っている』だのうるさくてうるさくて…ですから姉さんと一緒に彼の名義を使って株取引したんですよ」

「それ、大丈夫だったのですか?」

 

「あの時の顔は面白かったなー」とへらへら笑いながら語る彼女と必死に笑いを堪えている麻衣華さんに一種の恐ろしさを感じるがそれでも話は止まらずに進む。

 

「まぁ、結果的に大勝ちしたのでご主人様のお父上…旦那様を上手いこと言いくるめて事なきを得ましたが最終的にお暇をいただいて二人揃ってフリーで活動することになったんです」

 

あまりにもスケールの違う話にどう答えて良いか迷う中、苦笑している綾崎君に今度は話を移す。

 

「綾崎君は家庭科部でしたっけ?」

「うん……とはいっても僕は彼女みたいに事情が違うけどね」

【超高校級の家庭科部 綾崎 隼人 HAYATO AYASAKI】

 

話し方は本庄君と似ているが温厚かつ落ち着いた物腰から爽やかさを感じる性格を感じさせる。

しかし、家庭科部か……一体どのような活動をしているのだろう。

私の問いに答えるように綾崎君は笑ってから話す。

 

「基本的には裁縫でぬいぐるみ作りや調理実習などの生活や文化に関わる活動を主にしているよ。まぁうちの高校だと女子力向上が目的になっているけどね」

「どうして家庭家部に?」

「特にないかなぁ。ただ運動部が好きじゃなかったから小学校、中学校の時は家でも出来る家庭科部を選んで、高校に入学した時も入部したことあるから選んだ感じかな」

 

「うーん」と腕を組んで答える…どうやら自分の肩書きに対してあまり自覚がないらしい。

そんなことを考えている間に彼は厨房にある食器を取り出す。

片手にあるスポンジから恐らく調査がてら洗浄をするつもりなのだろう、麻衣華さんは厨房にある壁掛け式のホワイトボードに献立をマーカーで書いている。

その近くでは舞耶さんが何処から取り出したか分からないメモ帳に何やらペンを走らせている。

ふと、奥にある貯蔵庫が気になり覗いてみると、そこには野菜やら大きい冷蔵庫がたくさん配置されており適当に野菜を手に取って調べて見ると綾崎君が声を掛けてきた。

 

「ここの食材は種類が豊富だけど品質自体は普通だよ、スーパーやデパートで買える程度の奴だから料理する時は工夫が必要かな」

「分かるんですか?」

 

「ちょっとだけね」と彼は再び笑みを見せてからまた厨房へと引っ込んでしまった。

家庭科部と言われているがもしかしたら『主夫』や『家政夫』の方が相応しいのかもしれない。

 

 

 

 

 

レストランを出てから何処に行くべきか考えていると大柄な男性のシルエット…坂本君を発見した。

彼の服装は茶色と白系統の衣装で統一されておりパイロットキャップと額に乗せたゴーグルと本人の屈強さから教科書で見た一昔前のパイロットを思わせる。

声を掛けようかとも思ったがただならぬ雰囲気だったので会釈だけして横に過ぎようとしたが彼の表情は増々険しくなっていきそして……。

 

「うぷっ、おぇ……!!」

「ち、ちょっと待ってくださいっ!!」

 

口元に手を当てて身を屈め始めたので「やばい」と感じた私は制止させようとしたが電子生徒手帳よりも小さい長方形の箱をポケットから取り出してそこに入ってある白い物体を口に放り込んだ。

しばらくすると、彼の顔色は戻りゆっくり伸びをして私の方向を振り向く。

 

「はぁー……おっ、貝原じゃねぇか。どした?」

「今気づいたんですか?」

 

明るい顔で話しかけてくる彼とは対照的に私の顔は呆れていただろう。

そして、先ほど口に入れた物体について言及する。

 

「さっきのは…もしかして酔い止めですか?」

「いんや、これはただのタブレット菓子。昔薬の飲み過ぎで体調を崩しちまってな、その代わりにこれを食ってんだ」

 

そう言って、彼はタブレット菓子を見せる。

怪しげな薬ではないことに安堵したが……。

 

「やっぱり、乗り物は駄目なんですね」

「まぁなー。何でよりにもよってパイロットなのだか」

 

心底困ったように彼は頭を抱えた。

 

【超高校級のパイロット 阪本 隆馬 RYUMA SAKAMOTO】

「元々俺は親の都合で航空の高等学校に入学したんだけどさぁ、本当は航空機の電子機器や設備…まぁ航空工学だな……それを勉強するつもりだったのに間違って航空科を選んじまって、そしたら……」

「パイロットとしてとんでもない才能を持っていたと……」

「先生や生徒たちから拍手喝采の嵐だったよ。たくよー、本来なら喜ぶ場面なのにあん時は乗り物酔いのせいで全然嬉しくなかったぜ」

 

困ったように笑う彼に私は苦笑いするしかなかった。

乗り物が苦手な人物がパイロットの才能を持っていたら、世のパイロットたちはどんな表情をするのだろう。

ふと、彼のいる方向を見るとビニールのようなものが貼られておりガードしているようにも見える。

 

「あれは?」

「一回だけ間に合わなくてリバースした跡だよ、モノクマに滅茶苦茶怒られちまった」

「何してるんですかあなたはっ!?てか、何もされなかったのですか!?」

「『今回だけだよ!』と言われたきり何も…後、『電子生徒手帳は良く見とけ』って」

 

その言葉に私はポケットから電子生徒手帳を取り出すと、様々な文字が色ごとに区別されたメニュー画面が開かれて順々に調べて見る。

見ると、メニューの中に、「通信簿」の文字があり、それをタッチすると、画面はドット絵にデフォルメされた人物たちの顔グラフィックと名前の表示に切り替わった。

そして、最後に表示されている『記念旅行の心得』をタップする。

 

 

1、乗船した生徒たちはきちんと共同生活を行いましょう。なお、『共同生活の期限はありません』。

 

2、夜十時から朝七時までを『夜時間』とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

 

3、就寝はプライベートペースに設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。

 

4、この世界について調べるのは『自由』です。特に行動の制限は課せられません。

 

5、学園長兼船長であるモノクマへの暴力を禁じます。また、モニター及び設備の破壊を禁じます。ゲロに至っては言語道断です←NEW!!

 

6、生徒同士で殺人が起きた場合は、その一定時間後に『学級裁判』が行われます。

 

7、学級裁判で正しいクロを指摘した場合は、『クロだけが処刑』されます。

 

8、学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合、残りの生徒は『全員処刑』されます。

 

9、生き残ったクロは特別措置として罪が免除され、『ナーサリーライム号からの脱出』が許可されます。

 

10、三人以上の人間が死体を最初に発見した際に、それを知らせる『死体発見アナウンス』が流れます。

 

※なお、この心得は当客船の規則でもありますので順次増えていく場合があります。

 

 

「坂本君の件、根に持たれてますよ」

「生理現象だ。諦めてもらうことは出来ないかねぇ」

 

開き直ったように話す彼だったが流石の私も閉じ込めた元凶であるモノクマに同情するしか出来なかった。

しばらく彼と話してから何処に向かおうかと手に持ったままの電子生徒手帳を再度起動しようとした時……。

 

『いやっほーーーーーーーーーーーっっっ!!!みんな聞こえるーーーーーーっっ!!』

「「っ!!?」」

 

突如聞こえたモノクマとは違う声に私と坂本君は目を見開き、上にあるスピーカー部分に注目する。

しかし、この声は何処かで……?

 

『うんうん…放送機材に異常はないみたいだね。けど客船に放送室ってあるのかなー?でも現にぼくが使ってるし…えーっとこっちは…』

「エミリか?今の声」

 

呆気に取られている彼に私は呆然とした様子で頷きながらも電子生徒手帳で放送室の場所を確認してからその場所へと向かい、坂本君も後に続くようについてきた。

しばらく歩いて放送室の扉の前で足を止め、ドアを思い切り開けた。

 

「おっ、トワリンとサカモンじゃん。どったのー?」

「いやっ、放送が聞こえたもので」

「やっぱり聞こえてたかー……ここは放送室、つまりぼくの城ってことだね」

 

私たちに気にすることなく、ピンクと黄色といった独特なカラーリングの軍服に銀色のイヤホンマイクを身に着けたエミリさんは美しい白髪を靡かせながら椅子を回転させてドヤ顔を見せた。

 

【超高校級の通信兵 エミリ・パラボナライズ・アヴェーン EMIRI PARABONALISE AVEN】

「通信兵って…何処かの軍に所属しているんですか?」

「そうじゃなくてさ、こういった通信機器や放送機材を上手に使えるから警察のお手伝いしたことがあるんだ。多分そこからついたんじゃない?」

 

あまり自分の肩書きを気にせずに話す彼女は麻衣華さんと通じる物を感じる…もしかしたら波長が合うかもしれない。

そんなことを考えていると、坂本君が口を開いた。

 

「エミリって日本語上手だよな。日本育ちって聞いたけど」

「ママとパパがぼくを育てるためにお祖父ちゃんのいる日本に来たんだってさ。でも一応英語とロシア語は話せるけど…二人とも外国語は?」

 

私たちは揃って首を横に振る。

勉強の英語ならともかくネイティブな言語…ロシア語すらも無理だ。

同じリアクションを見せる私たちにエミリさんは楽しそうに笑った。

 

「ここにいる人たちは面白いなー!ぼくはもう少しここを調べておくよ」

「分かりました、それと……トワリンとかサカモンって何ですか?」

「渾名だよ?」

 

どうやら彼女のセンスは今着ている衣装のように独特らしい。




 特に語ることはありません。あまり多く語ると口が滑りそうで…自分でマップを作りながら四苦八苦しています。
 ではでは。ノシ


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(非)日常編 「超高校級と船長からのプレゼント」

 少々展開が急になってしまいましたが探索の後編とモノクマの最初の動機です。
 十五人の前に襲い掛かる白黒熊に、どうかお気を付けください。
 ちなみに、ダンロン・H&Dのオープニングとエンディングはアニメダンガンロンパ3のOP&EDを脳内に流してください。それでは、どうぞ。


エミリさんと坂本君と共に探索を開始したが放送室は学校の放送室とよく似た構造となっており、私には良く分からない機械が多い。

ふと、一際目立つ黒い二つの機材が目に入った。

ほんの少しだけ好奇心に火がついた私はそれに触れようとした瞬間…。

 

『ストーーーーーーーーーップッッッ!!!!!』

「きゃあっ!!?」

 

下から這い出てくるようにモノクマが現れ、私は思わず尻もちをついてしまう。

調べていた二人も突然の出現と声に驚いたのかこちらに近寄り、坂本君が「大丈夫か」と声を掛けてくれたのでそれに返す。

モノクマは気にせずに私が触れようとした機材に指を指す。

 

『まったく、過ぎた好奇心が身を滅ぼすのを知らないのかな!?ここの放送室はオマエラの生活習慣を乱さないために毎日七時と十時に録音したアナウンスと電子生徒手帳の時間がプログラムされているのっ、素人が勝手に触ったら困るよっ!!』

「じゃあ、後の機材は?」

『んん?あぁ、そっちなら別に構わないよ。使えるんならね』

 

腕を組んでご立腹のモノクマだったが話題を変えるように質問したエミリさんにそう返すと、何処へと消えてしまった。

 

 

 

 

 

エミリさんと坂本君たちと別れ、装飾の施された通路を進むと奥にサイケデリックな扉が見えたので早足で近寄り確認するが鍵が掛かっているのか開く様子はない。

見ると、白い張り紙が貼られており「立ち入り禁止」と大げさな文字で書かれている。

仕方がないと思考を切り替え、歩いていた時に見かけたシアタールームに足を運び黒い扉を開けた。

 

「あっ、貝原さん」

「えっと…松成君…でしたっけ?」

 

左手には巨大なスクリーンと右手にはいくつもの座席がある内の一つに、松成君が座っておりこちらに気づくなり笑みを見せた。

人懐っこいその笑みに思わず鼓動が跳ねてしまうが気を取り直して彼の元まで近寄る。

 

「シアタールームって書いてあったけどこの広さだと映画館みたいだね」

「そう、みたいですけど…」

 

構造としてはオーソドックスの映画館みたいだがここで映画なんて観られるのだろうか。

疑問に思う私に感づいたのか松成君は私の肩を叩き、スクリーンの付近にある扉に指さす。

 

「あそこを調べたんだけど、大量のDVDとデッキがあった。多分、あそこに行って映画をセットすれば映画が観れるようになってる」

「調べたんですか?」

「試しにね…コメディにホラー、ラブストーリーまで無駄にジャンルも広かったよ」

 

呆れたように話す彼に私はふと思った疑問を漏らす。

 

「松成セイ…それがあなたの名前だったんですね」

「らしいね。でもモノクマの言葉を鵜呑みにするのも危険だと思う…しばらくはこの名前で通すことにするよ」

【超高校級の??? 松成 セイ SEI MATSUNARI】

 

近づいてようやく気付いたが彼の服装は上下黒いスーツであり茶色いネクタイがひときわ目立つ格好となっている。

身長も高校生からしたら普通より少し高い程度であり小柄な私は少しだけ見上げる形となっている。

 

「貝原さんは、庶務委員だっけ?」

「はい、中学と今と続けてやっていました」

「でも、何でまた」

 

彼の問い掛けに私は腕を組んで少しだけ迷う、庶務委員になった切っ掛けなどあまり考えられない。

元々、父の手伝いから発展したものだし率先して任命したわけでもない…ただ、先生に頼まれたからそれを了承しただけだ。

周囲が言うには物事を整理して作業するスピードが速いらしく、ミステリ系の小説を読む時も自然とヒントと手がかりが頭の中に浮かんだ時もあった。

そんなことを彼に話すと純粋に「すごい」と言ってくれるので何だか気恥ずかしくなる。

 

「そう言えば、貝原さんて敬語なんだね」

「やっぱり、変ですか?」

 

同年代の友人がいるにはいたのだが家には自分より年上の人間がいるため彼らと話している内に自然とそのような口調になっているのだ、少なくとも今時の高校生らしくないだろう。

 

「ううん、そんなことはないよ」

 

そう言って、優しく微笑む彼に私は顔から火が出ないように気を付けるのだった。

 

 

 

 

 

エントランスホールに行き私はもう一度、モノクマがコロシアイ宣言をしたパーティホールを調べて見ることにした。

可能性は低いが、もしかしたらモノクマが何か重要な証拠品を落としてしまっているかもしれない。

そう思いパーティホールの扉を開くとそこには二ノ瀬さんと海原君が立っていた。

 

「あら、永久ちゃん。こんにちは」

「シュコー」

 

私に気づいた二人は挨拶をしてきたので私も挨拶を返しそれとなく二人の服装を観察する。

二ノ瀬さんは味気ない黒いブレザーとスカートの出で立ちをしており胸元には可愛らしいバッジがあり水色のロングヘアーを靡かせる。

一方の海原君はダイバースーツの上に青いコートを羽織っておりシュノーケルはそのまま装着している。

大人らしい少女と珍妙な格好の男子というミスマッチにも程がある光景にツッコミたい衝動に駆られるがどうにかして堪える。

 

「何かないかと思ってきたのだけど…外れね。あのクマが何か落としていればと楽観していたけど…そんな上手いことはないわね」

「シュコー…しかし、こういった客船に乗ることは初めてだがこんな設備があるのだな」

 

「やれやれ」と肩をすくめる彼女とは対照的に海原君は興味深そうに辺りを見渡す。

 

【超高校級のダイバー 海原 潜絽 MOGURO UNABARA】

「海原君はダイバーでしたけど、何時もそれを?」

「シュコー…海女だったおふくろに『海は強大な魔物だ、潜るにはそれ相応の準備と覚悟が必要だ』と言われてな。以来、シュノーケルは手放さないようにしている」

 

そう言って、彼は自分がセットしているシュノーケルを指さして答える…その理由にまだ納得出来ないが真面目な性格なので恐らく母親の言葉を信じて装着しているのだろう。

一方で、二ノ瀬さんは大人びた様子で腕を組んで難しい表情をしている。

 

「…それにしても、妙な船よね。モノクマは映像を見せながらこの船のことを説明したけど構造が他の客船とは全然違うわ」

「そうなのですか?」

「ええ、ロケの一環でアイドルたちの子と豪華客船に乗ったことがあるけどこういうのは船の構造を活かすものなの。でもここはまるでホテルや学校の構造を無理やり船に詰め込んだような…そんな感覚がする」

 

「全体を調べていないから何とも言えないけどね」と笑みを見せた彼女だがあまりにも冷静な考え方に私や海原君は思わず拍手をする。

 

「…別に拍手をする必要はないと思うけど」

「すいません、でも二ノ瀬さんは冷静ですね。私なんか自分のことで精一杯なのに」

「スケジュール管理や危険なロケ地を同行していれば嫌でもこうなるわ」

【超高校級の芸能マネージャー 二ノ瀬 香 KAORI NINOSE】

 

謙遜をするが誇らしげに話す二ノ瀬さんだった。

 

 

 

 

 

プライベートルームに一度戻ってきた私は奥の方を調べることにした。

この部屋には私たち十五人の個室があるが特に気にせず進めると鈍い音が響き渡った。

慌てて音の発生源の方に向かうとそこには桐生君がおり、鉄板に向かって強烈なキックを叩き込んでいた。

黒いベストとズボンにミリタリージャケットを羽織っており、本人の強面な容貌も相まって中々におっかない。

 

「桐生君!?」

 

思わず叫んでしまった私に気づいた彼は構えを解き、軽く会釈をする。

 

「貝原か…見苦しいところを見せちまったな」

「いえっ、ところで何をしていたんですか?」

「この船の窓にはあんな鉄板がたくさんあるからな。何とか壊せないかと思ったが…」

 

横目で彼は巨大なネジで四隅に固定された鉄板を見る…忘れていたが確かに私の部屋にもそれらしい物があったが逃走防止か何かだろうか。

私が考えている間にも桐生君はネジの一つを掴み回そうとするがびくともしない。

 

「俺の力でも壊れないとはな…」

「すごいパワーですね、えと…」

「喧嘩師…それが俺の肩書き、らしい」

【超高校級の喧嘩師 桐生 和彦 KAZUHIKO KIRYU】

 

少しばかり苦い顔をする彼に対して、私は恐る恐る尋ねる。

肩書きもあるが本人の顔がこう…ヤクザ顔であるためかなり怖く、無意識の内に委縮してしまう。

 

「桐生君は高校には…」

「形だけなら在籍している…隠す必要もないから言うが魅祭組っていう下っ端組織のチンピラだ。俺はそこで経営している養護施設で暮らしていたんだ」

「はぁ……」

 

神楽阪姉妹のようにスケールの大きい話に呆然としながらも返事をする、私の様子に桐生君は文句を言わずに軽く笑う。

 

「そこで俺は、援助してくれていた姐さんに恩返しをしようと裏の世界に足を踏み入れたんだ」

「それだと、喧嘩師じゃなくてチンピラになるんじゃ」

「それは俺も思ったが…シマにいる酔いどれのおっさんやホームレスの元武闘家に喧嘩を教わっていたことがあるからな、たちの悪い不良たちや喧嘩を売ってくる奴をぶちのめしたこともあった」

「それで……」

 

思ったよりも高校生らしくない素性に驚くことしか出来ない。

だが、話して見て分かったが彼自身落ち着いた物腰であり会話から悪い人間ではないと断言出来る何かを感じた。

 

「あのぬいぐるみが何かは知らんが、堅気を巻き込んだツケはきちんと払わせてやる」

 

その目は鋭く、この場にはいない敵に並々ならぬ敵意を放っていた。

 

 

 

 

 

その後は女子トイレを調べたが至って普通の個室がいくつかあり念のため各個室も調べて見たがウォシュレット付の西洋式のトイレだった。

特に語ることもなかったので省略するがダストルームには一関君が立っており紺色の詰襟タイプの学生服に身を包んでおり、凛々しい顔つきの彼は眼鏡の奥に光る瞳をこちらへと向ける。

 

「君か、貝原」

「ここは、ダストルームですか?」

「そうだ。どうやら私生活で出したゴミは自分で処分しろってことらしい」

【超高校級の優等生 一関 来羽 KURUHA ICHINOSEKI】

 

私の答えた一関君は電子生徒手帳の操作を始める。

手元を見ると、どうやらメモをしているらしく画面に映る文字をタップして打ち込んでいく。

 

「奴の道具を使うのは癪だが、与えられた以上は使うことに越したことはない」

「流石は優等生ですね」

「いや、ただ貧乏性なだけさ。優等生を目指しているのも奨学金目当てで勉学とスポーツに励んでいたのが理由」

 

電子生徒手帳をポケットにねじ込みながらそう自嘲した彼に妙な引っ掛かりを覚えた私は質問をする。

 

「一応質問ですけど、テストは何時も百点ですか?」

「まぁな。だからって勉強だけじゃない。優等生になるには運動だって出来なきゃいけないし委員会にだって何かしらの形で貢献しなきゃいけない…それら全てが出来てこそ真の優等生だ」

 

そう持論を述べた彼は、少しだけ真面目な表情を崩す。

 

「…て言ってもうちは貧乏で家族も多いからさ。せめて良い大学に行ってVIP推薦でも取らなきゃ親孝行にならないだろ」

「……強いですね、一関君は」

 

私の言葉に「そんなことない」と照れ臭そうに彼は眼鏡を少しだけ上げた。

奥にある扉を開くとそこには焼却炉があり手元にはそれを操作するためのスイッチがある。

不意に一関君が後ろから声を掛けた。

 

「ここの焼却炉と隣にあるランドリーは午後の十時から午前七時半までは閉鎖しているらしい。最初にモノクマが言っていた」

「そうですか……」

 

無駄に働き者ですね、あの白黒熊……。

そんなことを毒づきながらも私は焼却室の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

ランドリーには十六台の洗濯機があり一関君の言葉を信じるならダストルームと同じように閉鎖時間があるのだろう。

ざっと辺りを見渡して、その場を後にしてもう一つの扉を開けると、棚に多くの段ボールやらが積まれており内部には洗浄さんと一条君がいた。

 

「よい…しょ、とぉ」

「おい、足元気をつけろ!怪我したら危ねぇだろうがっ!」

 

覚束ない足取りの彼女に対して怒鳴りながらも彼女の身を案じる彼の元に近づき声を掛ける。

服装は白衣で全身を隠すように覆っており本人には失礼かもしれないが彼の神経質そうな顔立ちと見事にマッチしている。

 

「清浄さん、一条君」

「あっ?何だ、てめぇか。何か進展あったのか?」

 

私は黙って首を横に振る。

それに対して一条君は苛立たしげに頭を掻きむしると深いため息を吐いた。

 

「くそっ、何だって俺がこんな面倒なことに巻き込まれきゃいけねぇんだ」

「…何だか意外ですね、てっきりあなたは独断行動を取ると思っていましたが」

「こちとら心理学者だ。人間は誰かと繋がらなきゃ生きていけない生物だってのは重々承知しているし、協調性はバクテリア並にあるつもりだよ」

【超高校級の心理学者 一条 心 KOKORO ICHIJOU】

 

一条君はそれだけを言うと、さっさと調査に戻ってしまった。

悪い奴ではないのだろうが口の悪さが若干のマイナスポイントになっているなと感じながらも、疲れた様子で息を吐く清浄さんの服装は……。

 

「イメクラ?」

「はぅ///」

 

思わず口にしてしまったセクハラ紛いの言葉に顔を赤くした清浄さんは白いナース服を隠すように両手で塞ぐ。

今までインパクトのある人たちの服を見てきたので驚くことはなかったが、彼女の服装は父親が部下たちと飲みに行く店にいるようなミニスカナース服であり綺麗な黒髪と儚げな風貌も相まって非常に繊細だ。

上には防寒用なのか薄いピンク色のカーディガンを羽織っており最初に聞いた肩書きとはマッチしていないように見える。

 

「滅菌スタッフってこのような格好をするのですか?」

「えとっ、バイト先の病院では確かに看護服は着ますけど…こんな恥ずかしい服じゃありませぇん」

【超高校級の滅菌スタッフ 清浄 和泉 IZUMI SEIJOU】

 

そう口にすると彼女は恥ずかしそうに両腕で自分の肩を抱く…何だかまるで私がセクハラおやじみたいじゃないか。

 

「イメクラって言えば、誰だって警戒するだろうが。アホかてめぇは」

 

呆れたようにツッコミを入れたのは棚にある段ボール箱や道具を漁っている一条君だ。

顔に出ていたのかと警戒しながらも、話題を変えるため彼女の肩書きについて質問する。

 

「滅菌スタッフって何をするのですか?」

「はい、基本的には医療で使われているコッヘルやペアン、剪刀(せんとう)といった器具を洗浄や消毒、他には手術室の清掃なども行っていますぅ」

 

聞いたことのない医療器具の単語が出てきたことで少し混乱したがどうやら器具の洗浄が主な内容らしい。

 

「私たちがきちんと洗浄したおかげで、多くの患者さんに安全を提供する…とてもやりがいのある仕事ですぅ」

 

そう言葉にする彼女の笑顔はとても輝いていた。

 

 

 

 

 

一時間ほどかけて船内を見て回った後、私たちはレストランに集まっていた。

テーブルには全員分の飲み物が入ったカップが置かれており、綾崎君が淹れたお茶を麻衣華さんが渡してくれた。

 

「さて、報告会を始めるぞ。まずは…」

 

こうして、一関君が議長を務める報告会が開始したが分かったことは船内の簡単な構造ぐらいであり使えないエレベーターと立ち入り禁止の扉のことを私は報告する。

松成君の記憶に関しては、とりあえず全員が信用することにし一先ずは先延ばしにすることにした。

本人も「まずは脱出することが優先」と言ってくれたため、報告会は再び進行する。

 

「放送室だけど、機材に関するマニュアルがあったよ。下手くそな表紙だったけど分かりやすく書いてあった」

「シアタールームの映写室にも似たような奴を見つけたよ。多分、誰でも映画が観れるようになるんじゃないかな?」

「映画…?」

 

エミリさんと松成君の報告に本庄君は僅かに目を輝かせて反応したが特に何も言わずに報告を聞くことに専念する。

その後は順番に報告を上げて行き、さしたる成果もなく報告会が終わった。

頭を悩ませる一関君を余所に、松成君がゆっくりと挙手をする。

 

「いや、こんな時に言うのも何だけどさ。ここには大浴場があったけど、更衣室が一つしかなかったんだけど……」

 

そこからはやや気まずそうに語尾を小さくしていく。

恐らく話していて恥ずかしくなってきたのだろう、しかし…脱出に繋がる糸口がなかった以上大浴場はぜひとも入ってみたい。

そこで、勢いよく手を挙げたのは坂本君だ。

 

「よしっ!ここは互いの親睦を深めるべく混浴にしよ…」

「「アホかっ!!」」

 

アホな発言をした彼に私と一条君のツッコミが彼の頭部をすぱーんとはたく。

しかし、それに対して賛同したのは意外なことに一関君だ。

 

「ふむ…確かに俺たちは出会って日が浅い。混浴も致し方なし…」

「じゃねぇよっ!?てめぇもアホかっ!むっつりかと思ったらオープンじゃねぇかっ!!」

「ふっ、誤解されがちだが俺はそう堅物じゃないさ。法律に反しない限り、男女交際は積極的に行うべきだ。人間は動物なんだから、仕方ないだろう」

 

ドヤ顔で眼鏡を光らせる彼に一条君は青筋を立たせており、今にも激怒寸前だ。

そこで、まさかの女子が援護射撃を始めたのだ。

 

「私は構わないよー?小っちゃいころは村のみんなとお風呂入ったことあるしー」

「今は高校生でしょうが!!てか、あなたは一番混浴しちゃ駄目でしょう!常識的に考えてっ!!」

 

天然発言をする細井さんに対して私がツッコミを入れる中、舞耶さんが綾崎君に悪戯気のある微笑みを見せる。

 

「良いじゃありませんか、綾崎君。一緒に入りませんか?入りましょうとも!」

「困るよっ!何で僕限定っ!?」

「好きだからですよ?」

「軽いっ!?こんな軽い「好きだ」って言葉初めて聞いたよ!!?」

 

綾崎君が拒否する中、何時の間にか男女混合で『混浴賛成派』と『反対派』の派閥が出来上がっておりこのまま論争に突入するかと思われたが…。

 

『不順異性交遊はいけませえええええええええええええええええんっっっ!!!』

 

突如現れたモノクマによって終結へと導かれた。

 

『オマエラ、恋愛はOKだけど混浴だなんて不純なことは許さないよ!ラブリーなお父ちゃんはそんなもの認めませんっ!!』

 

そう全員に説教すると、モノクマは何時の間にか用意されていた大き目のホワイトボードを用意した。

 

『ほらっ、これを貸してあげるから!これに入浴中とか書けば大丈夫だろっ!!』

「ありがとうございました。モノクマ」

『まったく、清く正しい生活をするんだよ…じゃ、なーーーーーーーーいっっ!!!』

 

私の感謝の言葉にモノクマは立ち去ろうとしたが、ウザったい言葉と共にムーンウォーク擬きをしながら戻ってくる。

一体、何の用だ……。

 

「何の用ですか?私のスリーサイズを教えろと言っても教えませんよ」

『別に良いよ、知ってるし。それよりもオマエラ!こんなくだらないことで揉めてるのっ!せっかくオマエラのためにおもてなしをしているのに…だからボクは怒りました。クマの顔も二・三度までだよっ!』

 

「何で曖昧にしたんですか」とツッコミたかったが話が進まなくなるためここはあえて沈黙を通す。

そして、モノクマは意味深な笑いと共に話しかけた。

 

『そこで、オマエラのためにとっておきの写真を用意しました。パーティーホールに直行してくださーいっ!そこにオマエラの知りたい情報もあるからさ……ほらほら、四十秒で支度しなっ!!』

 

そう言ってモノクマが姿を消すと、私たちは困惑しながらもどうすることも出来ずパーティーホールへと移動した。

 

 

 

 

 

『うぷぷ、オマエラ…ちゃんと来たんだね。感心感心…』

「ごたくは良いわ、アタシたちに何を見せたいのか。あるならさっさと見せなさい」

 

『その強気な態度が何処まで貫けるかな…それでは、これより「超高校級の写真家」が撮影した、とっておきのマル秘写真を素敵なナレーションと共にお送りしまーすっ!よーく見てなっ!!』

 

最初の時と同じように、周囲が暗くなったと同時に下りてきたスクリーンが3カウントの後に映し出された。

 

『未来への希望を担う高校生「超高校級」の才能の持ち主たちは、世界の中心である希望ヶ峰学園に通っています』

 

テレビで観たことのある人物たちの写真が映し出される。

その後はしばらく素人目でも分かる写真と共に淡々とナレーションが流れるが、次の写真に思わず息をのんだ。

 

『しかし、世界の中心は一瞬にして破壊されてしまいました』

 

赤黒い空と共に壊れた建物と倒れた人々の写真へと変わり、その後も次々と写真が変わっていく。

 

『つまり……世界は簡単に崩壊してしまいました』

 

白と黒のクマのマスクを被った男たちが鉄パイプを持って車を破壊し、人々を襲う写真。

 

『まるでプチプチを潰すように、簡単にあっけなく崩壊してしまいました』

 

巨大なモノクマがパンチをしている写真。

 

『そして人々は絶望によって心を入れ替え…』

 

大量のモノクマが多くの大人たちを鋭い爪で襲っている写真。

 

『世界は絶望に満ちた世界へと生まれ変わったのでした』

 

最後に写った王様のモノクマとモノクマのマスクを被った子どもたちが怯えている写真と共にナレーションが締め括られた。

…何だこれは。今のが外の世界、嘘だ。

だって、あんなの…あんな写真、どう考えたって…!!

 

『お分かりかな?オマエラが出たくて出たくてしょうがない、愛しい外の世界はあーんな滅茶苦茶なんだよ?」

 

誰もが何も言えず、モノクマの耳障りな言葉を右耳から左耳へと流してしまっている。

今聞こえている粘着質な声が不安感を煽る。

 

『お友達はどうなっちゃったのかな?家は?家族は財産や職場は?心配じゃないのかなぁ?』

 

場違いな能天気さが、狂気が私の鼓動を速くさせる。

何が、何が言いたいのか。

 

『答えは簡単っ!誰かをさくっと殺して学級裁判で勝てばよいのです!!』

「……ふざけないでください」

「ボクは何時だってマジだよ?だって、オマエラの希望が絶望に変わる瞬間が…最高に面白いんだから」

 

赤い瞳を輝かせながら「うぷぷ」と笑う奴を見た途端、私の頭は真っ白になっていた。

しかし、それが誰かによって阻まれた。

荒い呼吸を繰り返すと、目の前には黒いスーツ…松成君が私を止めるように受け止めていた。

 

「松、成君…」

「落ち着いて、貝原さん。もし感情のまま動いたら…」

「うぷぷぷぷぷぷぷぷ」

 

そんな私たちを嘲笑うようにモノクマは気味の悪い笑い声を漏らす。

 

「良い判断だよ松成クン。もしオマエラがこの唯一無二のマスコットであるボクのキャワイイお顔を叩いたりした場合!」

 

モノクマの身体から何かの点滅音が聞こえる。

それに気づいた桐生君は「伏せろっ!」と声を荒げるや否や私の身体は松成君に押し倒されるように床に倒れる。

少しだけ映った視界には本庄君が縮こまるように、麻衣華さんは床に伏せるように…全員が全員耳と目を塞いでいたであろう。

そして、点滅音が速くなりそして…。

モノクマは爆発した。

炎と光を、激しい爆風を撒き散らしながら。

床を黒く焦がし、近くにあったステージの教壇とテーブルクロスを吹き飛ばしながら……。

作り物でも何でもない、正真正銘本物の爆発にその場にいた全員が、男女構わず悲鳴を上げた。 

焦げ臭い匂いが充満する空間と目の前の光景に、私たちは固まったまま唖然としている。

 

『いやー、ナイスリアクションッ!!』

 

新たに登場した教壇が、モノクマと共に何処からともなく降ってくると、呆気に取られている私たちを見て腹を抱えながら大笑いをする。

 

『三流芸人よりも良いリアクションだったよっ!ボクもスペアを一つ犠牲にしてまでやった甲斐があったよ!…もう一度説明してあげる、ボクはここの船長でありオマエラの学園長。ここにいる間は、ボクの作ったルールこそが正義…逆らうことは絶対に無理なんだよ。うぷ、うぷぷぷ…アァーッハッハッハッハッ!!!』

 

その高笑いは私の鼓膜の中で響き渡っていた。

ここは、もう…私たちの常識が通じる空間じゃないのだと。

自分たちはもう奴が行うゲームの駒に過ぎないのだと。

既に理解してしまっていた。

奴からは、決して逃げられないのだと……。




 動機まで書こうとしたら結構長くなってしまった感じがしますが…まぁ仕方ありませんね。うん(目逸らし)
 モノクマのキャラが未だに掴めません。1・2・V3と3のダンロンシリーズを参考にしているのですが難しいものです。
 ではでは。ノシ


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(非)日常編 「交流と彼らの個性」

 お待たせしました。彼女たちに日常です、というよりも探索パートである程度の紹介を終えたので何を喋らせれば良かったのか迷いました(汗)
 ちなみに、日常編でもちょっとした伏線がありますのでよくご覧になってください。
 それでは、どうぞ。


キーンコーンカーンコーン……。

 

『オマエラ、おはようございます。ナーサリーライム号より、朝をお知らせしまーすっ!!』

「……んぅ」

 

チャイムの音と、モノクマの粘着質なアニメ声のモーニングコールで私の意識はおぼろげながらも覚醒した。

ベッドの近くに置いていた電子生徒手帳を起動させて時間を確認し、洗面台で顔を洗って寝癖を直す。

そして、寝間着から着替えると昨日集まった食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

挨拶と同時に食堂に顔を見せると、もう何人かは思い思いに席に着いており一関君や清浄さんが「おはよう」と挨拶を返す。

一関君は身なりを整え、清浄さんは朝に弱いのか欠伸を手で押さえながらも意識ははっきりとしている。

 

「……二人とも、早いですね」

「これでも優等生だからな、アナウンスが鳴る前には来るようにしている。早起きは俺の専売特許だと思っていたが、上には上がいた」

「実は、綾崎君と麻衣華さんの方が早かったんです」

 

何処か憮然とした様子で言う彼に苦笑いするように清浄さんが事情を説明する。

どうやら、一関君が来るよりも先に二人が仕込みの準備をしていたようで自信満々に食堂に来た彼は少しショックを受けてしまったらしい。

清浄さんの話を聞きながらも私は席に着いて彼女に話しかける。

 

「他の人たちは?」

「まだですぅ」

「俺たちが早いのもあるかもしれないな」

 

そんな話を三人で話していると、松成君が「おはよう」と席に着く。

そこからは桐生君、エミリさん、二ノ瀬さん、細井さんと海原君が食堂に現れて其々思い思いに席に着く。

次に坂本君と一条君、そして舞耶さん……そして、意外なことに本庄君が来たのは最後だった。

それと同時に、綾崎君と麻衣華さんが料理を持って現れる。

 

「おはよう、みんな。今日は…昨日のこともあったからなるべく食べやすい料理にしたよ」

「目玉焼きとアスパラのベーコン巻、それとウィンナーも添えてみました…サラダは各自、このボウルに入ったのを取ってください」

 

こうして食事が始まった。

すると…二ノ瀬さんが口を開く。

 

「あら?パンだったりご飯だったりとちょっと違うわね」

「はい、私が独断と偏見でご飯派かパン派かと決めました」

「すげぇな、おい」

 

麻衣華さんが当然のように言い放った言葉に、一条君は驚きながらも食パンをかじる。

どうやら全員問題がなかったらしく改めて彼女が超高校級のメイドなのだと認識させられる。

其々が食事を勧めながら坂本君が本庄君に口を開く。

 

「そう言えば、本庄が一番最後なんて珍しいな。俺はてっきり、もっと早く来ているのかと思ってたよ」

「うん、実はシアタールームに行ってて…映写室の操作を確認していたんだ」

「どうしてー?」

「え、えっと僕、映画が好きで…///」

 

隣にいた細井さんの質問に、彼は照れながらも答える。

そう言えばみんなで情報共有をした時もだったが、どうやら本庄君は映画が好きなようだ。

それを聞いた時、坂本君が名案とばかりに手を叩いた。

 

「よしっ!飯を食べ終わったら、みんなで映画を観ようぜっ!!」

「良いねー、ボクも賛成っ!!嫌なことを忘れるのにはうってつけだよ!」

「俺も別に構わない」

「そうね、因幡君。あなたのおすすめの映画を教えて頂戴」

 

彼の案にエミリさんや霧生君、二ノ瀬さんが賛成し、残りのメンバー(一条君は相変わらず不機嫌な表情だったが)からも否定意見は出なかったため私たちは映画鑑賞会をすることになった。

 

 

 

 

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

「「ひぎゃああああああああああああああああああああっっ!!?」」

 

スクリーンに目一杯映った怨霊と化した女性のドアップで映画は終わった。

「END」の文字と共に今度は真っ赤に染まったスクリーンで今度こそ映画『コテージ・オブ・ザ・デッド』が終了する。

 

「おぉーっ!!すっげー怖かったぜ本庄っ!お前、ホラー映画好きだったんだな!!」

「ホラーもだけど、映画全般が好きなんだ。その中でも、この映画はもう何十回も見ていたらか…思い出の一つだよ」

「それは、良いんだが…何人かは意識を失ってるぞ」

 

本庄君の背中を叩いて興奮した面持ちで喋る坂本君に、本庄君はやや饒舌に語るが一関君の言うように清浄さんや舞耶さんといった何人かは口から魂を吐き出している状態だ。

私に至っては未だ手の震えが止まらない…それほどまでに怖い映画だった。

 

「ごめん…変な映画見せちゃって。もう一本あるんだけど、観る?」

「あはは、今度はなるべく怖くない奴が良いかな」

 

困ったように尋ねた本庄君に、松成君は苦笑いでそう返すのであった。

その日は今日一日……全員で映画パーティとなり、少し痛んだ頭を引きづって私は自室へと戻り、シャワーを浴びてからベッドへと入って行った。

 

 

 

 

 

そして、非日常の中での日常は二日目を迎える。

少しだけ早く起きた私は顔を洗い、着替えを終えると…今日はどんな朝食なのかを期待しながら食堂へと向かう……。

食堂にいたのは、やはりと言うべきか一関君と清浄さん。

厨房には綾崎君と麻衣華さんがいるのだろう……欠伸を噛みしめながら席に座っていると七時半を過ぎたころには昨日と同じ順番で来るようになっており、最後だったのはやはり本庄君だった。

 

「ごめん、また遅れちゃった」

「大丈夫だよ、本当に映画が好きなんだね」

 

みんなに謝罪する本庄君に、綾崎君は爽やかな笑顔で言う。

そして食事が終わると、各々自由行動を取ることになった。

 

 

 

 

 

一先ず、私は倉庫に行ってみることにした。

清浄さんと一条君が調べてくれたがもしかしたら「何か見つかるかもしれない」と淡い期待を抱きながら扉を開けて調べる。

シーツやなぜか金箔のついた模擬刀があり更に調べると、「以前の凶器BOX」とマジックペンで大きく書かれた段ボールを開けるとダンベルやナンバーが割り当てられたハンマー…モノクマの口元を模したデザインのナイフなどがあった。

丁重にそれを戻してると……。

 

「何をしてるんだ?」

「ひゃっ」

 

男性の声に驚いて振り向くと、そこには海原君と舞耶さんが立っており驚いた私を見て話しかける。

 

「すまない、そんなに驚くとは思わなかった…シュコー」

「可愛らしい悲鳴が出ましたね」

 

謝る海原君と楽しそうに笑う舞耶さんに私は気を緩めながらもなぜここに来たのか問いかける。

 

「お二人はなぜここに?」

「いえ、実は私たち風邪薬を探していまして」

「シュコー…医務室が見つからないからな。万一風邪になってしまった時に探すことにしたんだ」

 

そう言い終えると、二人は棚にある物を物色する。

しばらくはごそごそしていたがやがて身長の高い海原君が二つの箱を持っている右手を掲げた。

 

「これだな、シュコー…どちらも薬箱みたいだが…」

「ふむふむ…片方は徐々に効いて、もう一つはすぐに効く上に睡眠効果もあるみたいですね。どちらも粉薬のようですが……おや、両方合わせて飲むと相殺されると書いてありますよ」

「大丈夫でしょうか?モノクマのマークがありますけど」

 

箱に書いてある薬の説明を舞耶さんは呑気に読むが、それ以上に目立つモノクマのマークに警戒してしまう。

すると、彼女は箱から一袋取り出して破くと中身を舐め始めた。

 

「ふむ、毒ではないみたいですね……て、あれ?どうしました」

「お、思い切りが良いなお前、シュコー…」

「毒見は基本ですから」

 

笑顔でそう言いのけた舞耶さんは倉庫に会ったメモ帳とペンを拝借すると紙面に何やら書き込んでから張り付けた。

 

「『風邪薬ここにあり』…と。これで、私たちの好感度もうなぎのぼりですね!!」

「それは、どうなのでしょう」

 

何処までもフリーダムに行動する彼女に私は笑うことしか出来なかった。

その日は、海原君と麻衣華さんと一緒に過ごした。

食事の時に、舞耶さんが風邪薬のことを報告したら「ありがとう」と感謝してきた綾崎君に彼女は少し頬を赤くした……ような気がした。

 

 

 

 

 

そして、非日常な日常の三日目……いつものようにアナウンスよりも早く身支度をして食堂へ向かい、八時には後から来た本庄君に合わせて朝食を取る。

食事を終えた後は、何処に向かおうかとぶらついていた時だった。

 

「「うわっ!?」」

 

悲鳴を聞いた私は一目散にその方向へと走り出す。

見ると、松成君と本庄君が尻もちをついており、前者は腰を擦り後者は身を守るように左手をやや前にしながらガードしていた。

 

「大丈夫ですか、二人とも!?」

「貝原さん。うん、ボクは大丈夫だけど…本庄クン、大丈夫?」

「ご、ごめん」

 

慌てて立ち上がった本庄君が謝り、松成君も頭を下げて謝る。

 

「こっちこそごめん…ちょっと電子生徒手帳見ながら歩いていたからさ。えっと…」

「あっ、落ちてたよ」

 

そう言って、落ちていた彼の電子生徒手帳を左手で拾った本庄君は松成君に渡すと「ありがとう」と返す。

 

「あぁ…やっぱり、僕は不運だな。食事の時もみんなより遅いし迷惑を掛けてばっかだ」

「そんなことありませんよ。きちんと八時前には来るんですから」

「逆に、みんな本庄君には感謝していると思うよ」

 

松成君の言った言葉に「えっ」と本庄君は顔を上げる。

 

「一昨日の映画鑑賞会、みんな本庄君の選んだ映画で楽しんでいたんだよ。あれがなかったら、きっとボクたちはモノクマの思うつぼだったと思う…みんながいつも通りに振る舞えるのはキミのおかげだよ」

「そう、なのかな?……でも、ありがとう松成君!」

 

そう言った彼に、少しだけ表情を明るくした本庄君はようやく年相応の笑顔を見せてくれた気がした。

そして、時間はあっという間に過ぎて夕食となり私は一足先に食堂へと向かったが綾崎君がテーブルを見て疑問符を浮かべながら首を傾げていた。

 

「どうしたんですか?」

「ん?あぁ、貝原さん。実はちょっとね」

 

「ほら」とテーブルには全員分のコップにオレンジジュースが入っており、氷も入って冷たそうだ。

私はそれを見て首を傾げる。

 

「どうかしたんですか?」

「うん、僕が来るよりも前にこの飲み物が入ったコップがあったんだ。毒かも知れないと思って一応舞耶さんが確かめてくれたんだけど何ともないって…」

「モノクマの悪戯ですかね?」

「だろうね。でも、捨てるのももったいないからこのまま飲んでもらって構わないかな?」

 

特に断る理由もなかったため私が「構わない」ことを伝えると、彼は穏和な笑みを浮かべた。

そして、食事を終えた私は部屋に戻ってシャワーを浴びて寝間着へと着替える。

今日は一日中疲れてしまったのかなぜだか非常に体が重い……瞼も重く感じる。

もう寝よう……。

その意識を最後に、私は緩やかな眠りと共に沈んでいった……。

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン……。

 

『オマエラ、おはようございます。ナーサリーライム号より、朝をお知らせしまーすっ!!』

「……もう、朝?」

 

耳障りなアナウンスと共に誰に聞かせるわけでもなく、少しだけ唸りながら身悶えしながら私はゆっくりと起き上がった。

何だ、この気怠さは……。

夜更かししたわけでもないのに身体が重く感じる。

しかし、こういうわけにもいかないので私は顔を洗って無理やり眠気を払うと着替えて食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

食堂に向かうと、そこにはいつものメンバーがいたが一関君や清浄さんがいたがどちらも項垂れていたりテーブルに突っ伏している。

挨拶を言える余裕もなく、私は席に座って突っ伏してしまう。

……はっ、いけないっ!

数分意識が飛んでいた、「しっかりしろ」と自分に喝を入れてから両手で自分の頬を叩く。

やがてしばらくすると、麻衣華さんが食堂に入ってきた。

やはり彼女も体調がすぐれないのか頭を抱えている……。

一関君が電子生徒手帳を開いた。

 

「七時二十分だ…今日は様子が変だな」

 

そんなことを呟きながらも綾崎君が食堂へと入る。

 

「ごめんね、寝過ごした…悪いけど、簡単な物で良いかな?」

 

彼の言葉に、私たちは頷くと彼は笑顔を作って厨房へと向かう。

そしてそこから坂本君、海原君、松成君、舞耶さんが席に座るが同様に気分がすぐれていない。

食事が出来るころには細井さんと二ノ瀬さん、桐生君とエミリさんが座った。

後は本庄君なのだが彼はいつまで経っても来ない。

そうしていると時間は八時を過ぎてしまい、坂本君が口を開いた。

 

「本庄の奴おせぇな。いつもは八時前には来るはずなのに」

「もしかしたら、寝過ごしているのかもしれないな。俺が行って来る」

「あっ、私も行きます」

 

一関君の言った言葉に、私も行こうとする。

……何だか落ち着かないのだ。

ただ寝過ごしているだけだ…そう思いながらも私は胸の内にくすぶる不安を消すことが出来なかった。

結局、本庄君の元に行くのは一関君と私…そして松成君と坂本君の四人となり残りのメンバーは待機となった。

そして、本庄君の部屋の前まで来た一関君を先頭に私たちはインターホンを鳴らす。

 

「……返事がないな」

 

ノックなどをするが部屋にいるはずの本庄君からは返事がない。

嫌な不安が段々と広がって行く。

そこでふと松成君が口を開いた。

 

「…シアタールーム」

「えっ?」

「本庄君は、日課として映画を観ていた…もしかしたら」

「…っ!」

 

それを聞いた瞬間、私は駆け出していた。

足を速め、通路を進んでシアタールームの前へと到着する。

私はドアに手を掛けて開けようとしたが、開く様子はない。

 

「あれ?ど、どうして…!」

 

私は慌ててドアを力強く引っ張ったり押したりするがそれでもドアはびくとしていない。

開かないドアに苦戦をしていると、追いついてきた松成君が私の肩に手を置く。

 

「貝原さん、ちょっとどいて」

 

そう言って私をどかすと、松成君はドアに設置されていた窪みのような部分に電子生徒手帳をかざすと何かが開いたような音が聞こえた。

 

「電子生徒手帳で外からも内側からも鍵がかけられるって、モノクマが……」

「…開けますよ」

 

そう解説する彼に、感謝をしながらも私はシアタールームのドアをゆっくりと開いた。

 

 

 

 

 

シアタールームが薄暗かったが、同時に私の視界は真っ赤に染まった。

そうだ確か、以前みんなで観たホラー映画の最後のシーンだ。

真っ赤なスクリーンで座席などが真っ赤に見える中、人影を発見する。

 

「本庄君」

 

彼に対して呼びかけるが反応はない……変に緊張しながらも私は本庄君の元へ足早に向かう。

そうだ、今日はみんなの体調が悪かった…だから彼も同じなだけだ。

観ている内に寝落ちてしまっているだけだと自分で自分を納得させながら、ようやく私は本庄君が座っている座席へと辿り着いた。

 

「本庄く…」

 

そこから先は言葉が出なかった。

まるで、眠っているような彼を見て……私は何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

本庄君は、何も言わずただ黙って座っていた。

『超高校級の幸運 本庄因幡』君は、腹部にナイフを深々と突き立てられているにも関わらず、何処か安らかな表情で口から一筋の血を零しながら絶命していた。

 

 

CHPATER1 才能はかく語りき

(非)日常編 →非日常編へ続く。




 如何でしたでしょうか?彼らの日常は……チャプター2ではもう少し個性を追求したいと思います。
 ちなみに、好きなキャラは出来たでしょうか?
 ではでは。ノシ


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★非日常編 「捜査パートと裁判の始まり」

 どうもです。ここからは捜査時間となります。皆様もどうか貝原と一緒にこの事件の真相にたどり着くことを祈っております。
 それでは、どうぞ。

(※)少しばかり加筆しました。


これは何かの幻覚なのか。

そう信じたかった、彼が死んでいるわけではないと強く信じたかった。

しかし冗談でも自分の夢でも幻でも何でもなく、本庄君は死んでいる。

腹部に深く刺さっているのか、ナイフの柄のような物だけが見える。

その事実が暗闇のように私を蝕み、そして気が付けば…。

 

「きっ、きゃああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

私はあらん限りの声で叫んでいた。

顔を青ざめて悲鳴をあげる私を松成君が「貝原さん!」と私の両肩に手を置いて落ち着かせようとする。

 

「どうしたっ!」

「何があった!?」

 

扉が開いていたので先ほどの悲鳴が聞こえたのだろう、坂本君と一関君がシアタールームに慌ただしく駆け込んでくると彼の亡骸を見て絶句する。

ピーンポーンパーンポーン……。

 

『死体が発見されました!一定の捜査時間の後、「学級裁判」を開きます!』

 

そんなアナウンスの耳にしながらも、情けなくも床にへたり込みそうになる私を松成君が支えてくれている。

だが、その間にも他のメンバーもシアタールームに集まってきた。

 

「何今のアナウンス…て、うわわっ!イ、イナバン!?嘘っ」

「これは…!」

「おいおい、マジかよ…!?」

 

エミリさんや綾崎君、一条君が顔を青ざめている…二ノ瀬さんや海原君、桐生君や神楽阪姉妹といった比較的冷静なメンバーは悲鳴こそあげなかったが目を見開き絶句しているのが分かる。

 

「因幡君は、本当に死んでいるの…!?」

『もちろんだよー!!』

 

そう呟いた二ノ瀬さんの言葉を「待っていた」と言わんばかりにモノクマが何処からともなく現れた。

本庄君の遺体を見ながら満足そうにモノクマは喋り出す。

 

『本庄君は死んでいるのっ!それ以上でもそれ以下でもないんだよっ!まさか幸運枠が特にこれと言った幸運要素を出さずに退場しちゃったけど…まぁ、逆に被害者に選ばれたラッキーボーイって解釈するべきだねっ!!』

「…死んだ奴をバカにするのも好い加減にしろよっ…!!」

 

モノクマの耳障りな言葉に、桐生君が殺気を込めて睨みつける。

今にも飛び掛かりそうな彼を海原君が窘めている。

 

『まっ、何でも良いけどさ…オマエラは何か忘れてない?殺人が起きたらどうなるか』

「学級裁判、か…」

『そうです!ここからメインの学級裁判に向けての捜査時間としますっ!!そしてこれはボクからのプレゼント』

 

一関君の呟きに、モノクマが返した途端…全員の電子生徒手帳から軽い音が鳴った。

見れば、「New!」の文字と共に「モノクマファイル」と書かれたアプリがある。

 

『はい!捜査に関してはずぶの素人であるオマエラのために、検死報告書である「モノクマファイル」をインストールしました!これを参考に頑張ってねー』

 

それだけを言うと、モノクマはまた姿を消してしまった。

しばらく私たちは何も出来ず沈黙していたがやがて動き出した影が合った。

 

「みんな…やろう」

「マッちゃん。もしかして…」

「正直、ボクはこの中の誰かが犯人だなんて疑いたくはない……でも、犯人を見つけなきゃ全員が死ぬ。それはきっと、本庄クンも望んでいないと思う」

「…そうね、悲しむことは後でも出来る。今は、因幡君も殺した犯人を明らかにすること…それしかないと思うわ」

 

松成君と二ノ瀬さんの言葉に、全員が動揺する…無理もない。

私たちは捜査なんてしたことがないのだ、どうすれば良いかも分からない。

そんな膠着状態の中、桐生君が名乗りを上げた。

 

「なら、俺は現場の見張りをする。頭を使うのは苦手だし、犯人が妙な小細工をさせねぇためにも見張りは必要だろう」

「だったら俺もやるぜ、こういうのって一人よりも二人の方が良いだろうし」

 

そう言った彼に続くように坂本君も挙手をする。

二人の行動に幾分か冷静になってきたのか一関君が咳払いをすると、全員に声が行き渡るように話し出す。

 

「みんな、こうなってしまった以上はやるしかない。各々気になった場所や思い当る場所を重点的に調べよう…始めるぞ」

 

その言葉と共に、みんなは思い思いの行動を取り始めた。

現場から離れたり、周囲を探す彼らを見て私も覚悟を決めるしかなかった。

やるしかない、そうだ…必ず、本庄君を殺した犯人を暴いて見せる……!!

 

 

 

 

 

≪捜査開始≫

「まずは、モノクマファイルを…」

 

先ほどモノクマの発言を思い出しながら、私は電子生徒手帳にインストールされたモノクマファイルをタップする。

すると、本庄君の写真と共にいくつかの情報が画面に映し出される。

 

『MONOKUMA FILE 1

被害者:「超高校級の幸運 本庄因幡」

死因:腹部を刃物で刺されたことによる失血死

死亡時刻:今朝の7:10過ぎ

死体発見現場:シアタールーム』

 

検死報告書だと言っていたが本当にこの情報を信じても良いのだろうか……。

一先ずこの情報を頭に入れた私はシアタールーム内を見渡した後、本庄君の元へと向かう。

そこには海原君と松成君、清浄さんがおり、遺体の周囲を調査しているようだ。

 

「シュコー…貝原か。今本庄の死因を清浄が確かめているところだ」

「死因って…分かるんですか?」

「は、はい。一応これでもご遺体や出血などに慣れていますのでぇ…本庄君が亡くなった原因なら分かると思いますぅ」

「それで、どうだったのかな?清浄さん」

「え、えっと…モノクマファイルに書かれていたことは間違いないと思いますぅ。死因はこのナイフで間違いありませんし、傷とも一致してますぅ」

 

松成君の質問に、清浄さんはしどろもどろになりながらも検視結果を報告する…どうやらモノクマファイルの記述に間違いはないらしい。

私は、深く深呼吸をしてから本庄君の死因…腹部に刺さっているナイフに注目する。

ナイフを抜き取ろうとしたのか彼の両手はナイフの柄を持っており、深く刺さっているのが分かる。

そして服を汚すように、地面には大量の血痕が飛び散っている。

顔色を蒼くしたが、ふと松成君が口を開いた。

 

「…本庄クン、左手が前になってる……」

 

その呟きを聞いて良く見ると、確かに本庄君の両手は右手が下で左手が上になっている。

両手持ちだと自然とこうなるが……。

松成君は「ちょっと調べることが出来た」と私たちに言うと、現場から立ち去ってしまった。

私も次の場所を調べようとシアタールームにある映写室の扉を開けて入る。

 

「あら、永久ちゃん」

「これはこれは、ご機嫌麗しゅう」

 

映写室には二ノ瀬さんと麻衣華さんがおり、DVDプレイヤーを操作しながら附属されているテレビで映画を観ている。

遊んでいるのかと思ったが倍速で観ており、それが終わると彼女は次のDVDを観始める。

 

「ごめんなさい、ちょっとした検証をしていて」

「検証?」

「はい、二ノ瀬ちゃんはDVDに何か細工があったのではないか確かめているのです」

「非現実的だと思うけど、モノクマの存在がある以上…相手を意図的に自殺させるような洗脳ビデオがあっても不思議ではないでしょう?」

 

麻衣華さんの言葉に、二ノ瀬さんは話しながらも映画から一歩も視線を外していない。

恐らく自分に何かあった時のために彼女を連れているのだろう。

念のため、二人にアリバイを聞いたがその日はすぐに熟睡してしまったらしく、大した情報は得られなかった。

現場から出る際、現場の見張りをしていた桐生君と坂本君にも同様のことを尋ねる。

 

「すまない。俺も他の連中みたいに、部屋に戻った途端……俺が朝早く起きてれば」

「仕方ねぇよ。今朝は全員体調が悪かったんだ…でも、どうして本庄なんだろうな」

「えっ?」

「だってよぉ、あいつは大人しくても誰かに恨まれたりする奴じゃなかっただろ?外に出たいからってあんな良い奴を殺す理由なんてないだろ?」

 

確かに、そうだ。

別に本庄君は誰かに嫌われるようなことはしていないし、癖の強いメンバーの中では話しやすい人間だった。

坂本君の問いに、私はどう言葉を返したら良いか分からなかった。

 

 

 

 

 

シアタールームから一度出て、焼却室やランドリーのあるエリアに向かうと一関君と細井さんがいた。

 

「貝原…何か見つけたか?」

「いえっ、一関君たちは……」

「ランドリーを調べたけど、何もなかったよー?」

「後は、焼却炉を調べるだけなんだが…君も調べるか?」

 

「お願いします」と、私は彼らと共に開いていた焼却室に足を踏み入れる。

そこには何もないように思えたが一条君がそこに立っており、慌てて焼却炉の中にある物を掻き出そうとしていた。

その状況に一関君が慌てて彼に詰め寄る。

 

「何をしているんだ一条っ!」

「あっ?焼却炉に行ったら何かが燃えていたから中身を出そうとしたんだよ…まっ、結局何もなかったがな」

「…そうか。何か証拠があると思ったんだが」

「でもー。どうして焼却炉がー?」

 

一条君の言葉に納得しながらも細井さんは疑問符を浮かべながら、首を傾げる。

確かに焼却炉のスイッチが点いているのは疑問を覚えるが……誰かが焼却炉を使用したのだろうか。

特に何もなかったので部屋から出ようとしたが、ドアノブにある違和を感じた。

 

「ん…?」

 

試しに、ドアノブを捻って回すが何処か軽いような緩いような感覚があった。

私の行動に三人は訝しげに見ていたのでそのことを報告する。

 

「何でしょう…」

「永久ちゃんすごーいっ!!」

 

違和感のあるドアノブに私は疑問を持ったが、それ以上に私の後ろにくっついてくる細井さんに僅かな苛立ちを覚えるのであった。

 

 

 

 

 

今度は倉庫へと足を進めると、綾崎君と舞耶さんが箱を開けたりしており何かを探しているようだった。

探し物をしている彼らに私は声を掛ける。

 

「貝原さん、実は睡眠薬を探していて」

「睡眠薬、ですか?」

「はい!私たちの体調が悪いのは何かの薬だと思ったので風邪薬以外の物があるか探していたのです!」

 

凹凸のない胸を反らして語る舞耶さんに、私は近くにあった薬箱を取ろうと背伸びをするが身長の高い海原君や平均的な身長を持つ神楽阪姉妹と違って中々届かない。

踏み台もないので私が四苦八苦しているとそれに気づいた綾崎君がそれを手に取って彼女に見せる。

 

「はい、貝原さん」

「あ、ありがとうございます。確かこの薬なら睡眠効果があるとかって」

「そうでしたそうでした!でも、他にもあるかなと思っていたのですけど…残念ながらありませんでした」

 

反省しているのか反省していないか良く分からないテンションで話し続ける彼女に疲れながらも、私は汚れが付いていない箱をどかしながら『以前の凶器BOX』を開けて調べる。

……ない、この箱にあったはずのナイフがない。

そうなるとやはり本庄君の腹部に刺さっていたナイフと同一なのだろう、他にも何かないか調べると奥の方に追いやられている開けっ放しの段ボール箱に近づいて調べる。

 

「暗幕…?」

 

黒く分厚い暗幕が入っており、広げると人ひとりなら完全に包み込めそうなサイズとなっている。

この箱を開けたか二人に尋ねたが、「手当たり次第に開けたけど、奥の方は調べていない」と証言してくれた。

 

 

 

 

 

「…じゃあ、間違いないんだね。エミリさん」

「もちろんだよっ!マっちゃん」

 

通路を歩いていると、松成君とエミリさんが談笑をしていた。

何をしているのか気になった私は二人の元まで駆け寄る。

 

「トワリン。どう、捜査は?」

「さっぱりですよ、証拠を集めるのに精一杯で…ところで何の話を?」

「うん、本庄クンについてちょっとね」

「イナバンが物を持つ時の話をしていたんだ!」

 

その話を聞いて、拍子抜けしてしまった。

現場から離れたので何の話をしているのかと思ったらあまり捜査とは関係のない話をしていたのだ。

そんな私の様子に気づいたのか、松成君は私に顔を近づけて質問する。

 

「な、何ですか…///」

「貝原さん、個室にある机の棚って調べた?」

「えっ?い、一応は…」

「裁縫セットでしたけど」

「そっか…ボクの部屋にはビニールで包装されたピッキングツールがあった。モノクマが言うにはどんな扉も開けることが出来るってさ」

 

脈絡もない話に私は律儀にも答える。

以前、何の気なしに棚を調べたら裁縫セットがビニールで包装されていたのだ。

不気味だし私には縁のない物だったので触れないでいたが松成君はその答えに満足げに頷いた。

すると、エミリさんは落ち込んだ表情を見せる。

 

「何で、イナバン死んじゃったんだろう?あの時だって二人が見回りしていたのに」

「見回り?」

「うん、イっちゃんとキーチャンが二人で船内を見回っていたんだ。ぼくが放送室でCDを流そうと思っていたら、イっちゃんと出会ってさ。『桐生と一緒にモノクマが怪しい行動をしないか調べている』って言ってたよ…その後は調べたいことがあるから、放送室かに出たよ」

 

なるほど、自由行動で私たちが遊んでいる間にあの二人はモノクマから私たちを守っていてくれたのか……。

そんなことを考えていた瞬間、チャイムが鳴り響いた。

キーンコーンカーンコーン……。

 

『はーい、時間でーす。そうでーす、待ちに待った……学級裁判の時間でーっす!!オマエラ、エントランスホールに集合してくださーいっ!!』

 

通路の上に会ったモニターから映し出されたモノクマがそう言った。

……もう、時間なのか。

果たして、本当に真相に辿り着けるのだろうか……。

暗い考えをしそうになった時、隣にいた松成君が肩を叩く。

 

「大丈夫っ」

 

彼はそう言ってくれたが、その手は微かに震えていた。

彼も、私と同じように怖いのか…そう分かった瞬間、何処か肩の力が抜けたような気がした。

 

 

 

 

 

エントランスホールに行くと、そこには全員が集まっていた。

しかし、この中の誰かが…犯人…!!

そんな雰囲気の中でもモノクマは楽しそうに笑いながら全員集合したのを確認する。

 

『さてと、これで全員…あっ!不運クンが死んじゃったから十四人かっ!!失敬失敬』

 

照れ臭そうに笑う奴に苛立ちを覚えるが、モノクマは気にせずに説明を始める。

 

『では、メーンイベントである学級裁判の入り口であるこのエレベーターにお乗りくださーいっ!!それじゃあ、ボクは先に行って待ってるから』

「……行くぞっ」

「本庄…必ず仇を取ってやるからなっ」

 

一関君と坂本君の言葉と共に、私たちは赤いエレベーターの中へと乗り込んだ。

箱の四方の壁は鉄格子状になっており、古風な貨物運搬用のエレベーターといった趣だ。

やや薄暗いエレベーターの中……ゴウン、ゴウンと耳障りな音を響かせながら、私たちはどんどん地下へと運ばれて行く。

みんなは何も言わずに各々の楽な姿勢のまま、到着するのを待つ。

ただただ重苦しい空気がこの密室を支配しているのだ。

まるで終わりなど存在しないかと感じられるほどにエレベーターはどんどん降下し、そして、不意に止まり、扉が開かれた。

 

 

 

 

 

『はーい!ようこそ、学級裁判場へーっ!!」

 

そこは、裁判場のような、闘技場のような…不可思議な光景だった。

大ホールと言っても差支えない広さの、すり鉢状となっている空間の底に、私たちは立っていた。

目の前に広がるのは、円状に並べられた十六の木製の証言台。

各々の証言台には、全てタッチパネルのような機械が取り付けられている。

そしてその奥には王族が座るような金と赤の玉座にモノクマは腰を掛けて見下ろすように座っている。

床は、まるでチェス盤のような黒と白の市松模様になっており、周りは船内のように豪華な装飾で、上部には巨大なモニターが設置されていていた。

 

「さぁさぁオマエラ、自分の席を確認してとっとと着いてください!ハリーアップッ!!」

 

モノクマに促されるように、私たちは渋々証言台へと向かう。

確かにその内側に各々の名前が彫り込まれており、私は「カイバラ トワ」と掘られた証言台に立つ。

互いの視線がぶつかり合うこの配置は、私やみんなの不安を一気に加速させようだ。

……いよいよ学級裁判の幕が開くのだ。

『超高校級の幸運 本庄因幡』……自分に自信の持てない彼は、それでも常に他人を気遣い続け、必死に誰かのためになろうとしていた。

そんな優しい彼を殺したクロが、犯人がこの中にいる……!

命を懸けた議論が、私たちの未来を奪う希望と絶望の学級裁判が。

始まる。




 コトダマも再現しようと思いましたが文字数がかなり多くなるうえに文字でゲームを完全再現するのは無理だと判断したのでこのような形になりました。
 さぁ、この事件の真相は何なのでしょう?日常編と捜査パートにヒントはきちんとあります。スペシャルなヒントとしては……『どうして本庄因幡が死ななければならなかったのか?』が分かれば犯人が誰かたどり着けるかもしれません。
 何かわかったら、メッセージで推理コメントなどしてみてください。後感想でのネタバレは極力控えていただくと嬉しいです。
 ではでは。ノシ


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非日常編 「学級裁判1(前編)」

 皆様、学級裁判のお時間です。誰が犯人なのか考えながら、彼らの裁判を拝見していってください。
 それでは、どうぞ。


学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 開廷!≫ 

『まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおき。だけど…もし間違った人物をクロとした場合は…クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れてナーサリーライム号から脱出する権利が、与えられます!』

「…長々とご説明ありがとう、早速聞きたいことがあるのだけど……あれは、どういうつもり?」

 

玉座に座って語るモノクマの説明に、二ノ瀬さんは腕を組みながらある証言台に目を向ける。

そこには本庄君の遺影が木の棒で飾られており、赤い塗料で×の字が書かれていた。

彼女の問いにモノクマは小首を傾げながら答える。

 

『あれれ?本庄クンは仲間なんでしょ?仲間外れなんかにしちゃったら、可哀想でしょ?」

「最悪だな」

「それとー、どうして十六も席があるのー?私たちは十五人しかいないんだよー」

 

死者の冒涜と呼ぶに相応しいモノクマの所業に坂本君は露骨に嫌悪感を露わにするが、今度は細井さんが挙手をする。

確かに、彼女の言う通りだ…正面の人と向き合えているのは証言台が十六個あるということだ。

 

『だって、奇数分だとバランスが悪いでしょ?偶数分あったらバランス良く出来た…ただそれだけだよ』

「シュコー…ただの美的感覚ってことか」

 

海原君が憮然とした表情で呟く中、松成君が口を開いた。

 

「あいつのことはこの際無視しよう。今は真相を暴くことが重要だ」

「で、でも…どう話せば良いのですかぁ」

「ではでは!ここはじゃんけんで決めませんか!」

「アホかっ!小学校の学活じゃねぇんだよっ!!」

 

清浄さんの言葉に、舞耶さんは挙手をして自分の提案を口にするが一条君がそれにツッコミを入れると一関君が咳払いをする。

 

「まずは事件の概要を確認しよう。誰が、何処で、どんな状況だったのかをもう一度確かめれば分かるかもしれない…始めるぞ」

 

その言葉と同時に、一関君はモノクマファイルを確認しながら口を開いた。

 

「被害者は『超高校級の幸運』の本庄因幡、現場はシアタールーム」

「館内には映画のラストシーンが映っていたな」

「それと、確か真ん中の座席に座っていたよな」

 

桐生君と坂本君が続けて発言すると、今度は舞耶さんが口を開く。

 

「モノクマファイルだと、死因は確か刃物による失血死…でしたよね!」

「分かった!きっと犯人は厨房から包丁を抜き取って、イナバンを刺したんだっ!!」

「それは違います!」

 

エミリさんが手を叩いて、合点が行ったように力強く発言したその言葉を私は否定する。

彼女の推理は違う、それは私が捜査したことでも証明出来る。

論破したことで集まったみんなの視線に、少しだけ深く息を吸うと私は口を開く。

 

「犯人が使った凶器は、厨房にあった包丁じゃなかったんです」

「どゆこと?」

「本庄君の腹部に刺さっていたのはナイフです、犯人は倉庫にあるナイフを使って彼を襲ったんです」

「僕も見たよ、倉庫を調べていた時に見つけた」

 

綾崎君が私の発言に同意すると、麻衣華さんはモノクマのような趣味の悪いナイフを掲げる。

突然凶器を出したことにみんなは驚きながらも、全員がナイフを見つめる。

 

「なるほど、じゃあ犯人はこのナイフでイナバンを刺したってことだね」

「だが、致命傷は本当にナイフなのか?犯人の偽装工作って線はないのか」

「いえっ、清浄さんの検死ではあれで間違いないようです。そうですよね?」

「は、はいぃ。念のため傷口も確認したので、凶器は腹部に刺さっていたナイフで確定ですぅ」

 

全員の視線に困惑しながらも、清浄さんははっきりと断言する。

そうなると、本庄君は倉庫に会ったナイフを使ってシアタールームで殺されたことが分かった。

しかし、そこで待ったをかけたのは二ノ瀬さんだ。

 

「ねぇ、本当に因幡君はシアタールームで殺されたのかしら?」

「どういうことー、香ちゃん?」

「犯人と因幡君は別の現場…例えば倉庫で口論になって刺してしまったとかも考えられるんじゃない?」

「どうだろうね、本庄クンの周囲には大量の血痕があった。別の場所で殺したのなら何らかの痕跡があるだろうし、あの血痕の説明がつかない」

 

彼女の意見も一理あるが、それを松成君が否定する。

何処かで本庄君が襲われたのなら、隠滅したにせよ何にせよ証拠があるはずだ…それに輸血パックがあるならともかく、それが存在しないこの船内ではそういった方法は不可能だ。

一先ず事件現場と凶器、死因が分かり次に挙手をしたのは海原君だ。

 

「シュコー…そこで一つ気になったことがあるんだが良いか?」

「どうしました海原君?スリーサイズの話は後にしていただけると…」

「そうじゃない、この事件が突発性なのか計画性なのかだ」

 

彼の言葉に全員が疑問符を浮かべる中、一条君が納得したように口を開く。

 

「なるほどな。こんな状況じゃ護身用でナイフを持っていてもおかしくはねぇ…もしかしたら犯人は本庄に殺されそうになったから反撃したって可能性もあるな」

「てめぇっ!!本庄が殺人犯だって言いたいのかよっ!」

「だが、それを証明する方法がねぇんじゃそういったこともあんだろ」

「それは違います」

 

一条君の言葉を論破すると、彼は苛ついたように私を睨みつける。

 

「何だ、てめぇも本庄が優しいからって仲良しこよしな理由で反論すんのか?」

「いえっ、この事件は計画的ですよ…だって、本庄君の服装は異常がなかったんです」

「うん。もし犯人が護身用のナイフを衝動的に振り回したのだとしたら、それ相応の抵抗をすると思う。その逆も同じ、本庄クンがナイフを持っていたとしたらどちらにしたって激しく抵抗した痕跡があるはずだ」

 

「それに」と松成は言葉を続ける。

 

「みんな、今朝は体調が悪かったよね?ボクは犯人に薬を盛られたんじゃないかと考えてる」

 

その言葉に、私や麻衣華さんや舞耶さんを除く全員が言葉を失った。

それに対して鼻を鳴らした一条君が反論する。

 

「全然駄目だぜ、睡眠薬は調べて見つからなかったんだろ?代わりになる物なんてあったかよ?」

「…風邪薬」

「あっ?」

「風邪薬ですよ!二つあった薬の内、一つが副作用で睡眠効果があったんです!」

 

急な私の言葉に、全員が驚きながらも一関君が代表するように問い掛ける。

 

「貝原、つまりこういうことか?俺たちはその風邪薬で眠らされたってことか?」

「はい、恐らくは昨夜の夕食の時に。それなら納得も…」

「その推理は埃塗れです!!」

 

私が説明するよりも先に、麻衣華さんが大きな声で遮るように反論する。

そんな彼女に清浄さんが驚いた表情で尋ねる。

 

「あの…どうしたんですかぁ?」

「貝原ちゃんの推理は一見、的を射てるようですが根本的な部分があやふやです。私がそれを証明してあげます!」

「きゃー、姉さんカッコ良いー!!」

 

フリルを靡かせてドヤ顔で私に人差し指を向ける麻衣華さんに、双子の妹である舞耶さんは「ヒューヒュー!」とテンションを上げる。

麻衣華さんが口を開いた。

 

「さきほどの推理では、料理に一服盛ったと考えているようですが私は綾崎君と調理をしていたのですよ?誰かが手伝ったならともかく、私たちの目を欺いて一服盛るなんて不可能ですっ!!」

「いやっ、二人の内どちらかが犯人の可能性も…」

「甘ぁーーーーいっ!!甘々ですよ、坂本君!そんなことをしたら私たちが疑われるに決まっているじゃないですか!薬を盛った具体方法がない以上、料理に盛られた可能性は絶対ありえません!!」

「その言葉、斬って見せます!!」

 

私の力強い言葉に、麻衣華さんは一瞬だけ面食らった表情を見せるがすぐにいつもの笑みを浮かべる。

 

「ほほう?言い切りましたね、でしたら教えてくださいな。どの料理に、どのような方法で盛ったのかを」

「確かに、料理に薬を盛るのは難しいでしょう…でも、オレンジジュースに薬を入れることは難しくないと思います」

「…っ、あの時のジュースですか」

「紅茶やお茶ならともかく、濃い味のするオレンジジュースなら毒見をしても味の差異には気づかない」

 

「どうですか?」と視線で訴える私に、麻衣華さんはしばらく沈黙していたがやがてゆっくりと息を吐いた。

事情を知らないメンバーが首を傾げる中、私は全員に聞かせるように自分の推理を口にする。

 

「昨夜、私たちが飲んだオレンジジュースは綾崎君たちが淹れてくれた物ではなかったんです。きっと、犯人が予め準備していたんでしょう」

「確かにそれなら納得がいくわね。確か、あの薬はもう一つの薬と合わせると効果が打ち消せるのでしょ?仮に失敗したとしても食事の後に服用すれば良いだけだしね」

 

二ノ瀬さんのその言葉に全員が納得したような雰囲気があったが、私自身は何処か釈然としていなかった。

しかし、どう説明すれば良いのかも分からないまま議論は次へ進んで行こうとした時だった。

 

「なぁ、ちょっと良いだろうか?」

 

ふと、口を開いたのは一関君だ。

視線が彼へと集まる中、少しだけ逡巡していたが意を決したように顔を上げると口を開いた。

 

「この事件に、犯人がいるのだろうか?」

「んぁっ?どういうことイッちゃん」

「全員に盛られた薬に、現場のシアタールーム。後で俺も清浄に聞いたのだが、ナイフは逆手で握られていたんだろう?だったら話は一つしかない……」

 

遠回しな言い方をする一関君に、困惑する中…私は彼の言いたいことが分かった。

いや、分かってしまったのだ。

 

「……本庄君は、殺されたのではなく『自殺』。一関君はそう言いたいのですね」

「…そうだ。それなら全て納得することが出来る」

「おいおい待てよっ!何でそうなるんだよ!本庄が自殺、バカなこと言うなっ!!」

 

それに敏感に反応したのは坂本君だ、彼は証言台を叩きながら私たちの考えを一蹴しようと勢いのまま口を開く。

 

「本庄は確かに気が弱いけどよ、自殺なんかするわけがねぇっ!!」

「その根拠はあんのかよ」

「それは……!でも、本庄には自殺する理由がねぇだろっ!?」

「だけど、因幡君の肩書きは幸運…もしかしたらアタシたちの知らないところで抱え込んでいたのかもしれないわ」

「でもー。どうして私たちに薬をー?」

 

一条君の言葉に詰まらせながらも、坂本君は本庄君の自殺説を否定しようとする。

髪を掻き上げた二ノ瀬さんは少し目線を落としながら一人ごち、細井さんが悲しい表情で喋る。

 

「ひ、ひょっとして…私たちに迷惑を掛けないために眠らせたんじゃぁ」

「……たくよ、幸運なら自分に自信ぐらい持てよ」

「ふざけんなっ!遺書はっ!?そうだ、遺書はあったのかよ!自殺した証拠だってないじゃねぇかっ!!」

「だが…本庄が殺害された根拠もない」

「それに、シアタールームの扉には電子生徒手帳でロックしていました。本庄君は私たちが眠っている間、現場に入ってロックした後…一人で大好きな映画を観ながらナイフを突き立てた」

 

清浄さんと一条君の言葉に坂本君は大声を張り上げるが、桐生君が無情にも事実を口にする。

最後の私の推理で坂本君は完全に沈黙してしまった。

全員が全員、沈黙する…本庄因幡君は、この監禁状態に耐え切れず、動機が決め手となって……ひっそりと自ら命を絶った。

それが真じ…。

 

 

 

 

 

「それは違うよ」

 

静まり返った裁判場に響き渡った中性的な声は、はっきりと否定の言葉を口にした。

全員が驚いて顔を上げる中、声の主…松成セイ君は右手で顎を抑えながらも真っ直ぐと視線を私に向けていた。

 

「ねぇ、貝原さん。ボクと本庄クンがぶつかった時の状態をもう一度思い出して」

「えっと……」

 

彼の言葉に、全員が視線を向ける。

突然の指名に困惑しながらも私は必死に現場の状況を思い返してみる。

あの時は二人が曲がり角でぶつかって、確か本庄君は身を守るように左手をやや前にしながらガードしていた。

 

「次は、本庄クンが死んでいた時の状況と照らし合わせてみて」

 

確か、座席に座っていた本庄君の腹部にナイフが刺さっていて…彼の両手で柄を持っていて、右手が下で左手が上に……あれ?

 

「利き手が違う…?」

「利き手だと、本庄は右利きだろう…シュコー」

「いいやっ、本庄クンは左利きだよ」

 

はっきりと断言した松成君に援護射撃をするように私は口を開く。

 

「そうです、二人が曲がり角でぶつかったのを見たのですが…あの時本庄君は左手を前に出していたんです」

「でもー、食事の時は右手でお箸を持っていたよー?」

「多分矯正したんだろうね。食事や物を書く時は右手を使うけど、それ以外…例えば物を持つ時は左手を使っていたんだろうね」

「だが…それが何なんだ?」

 

頭に手を当てながら桐生君は疲れたように質問をぶつける。

 

「本庄君は物を持つ時は左手だった…でも、彼は右手でナイフを持っていた。これから自殺する人間が利き手じゃない方でナイフを持ちますか?」

「ち、ちょっと待ってくださいぃっ!!」

 

私の言葉を止めたのは清浄さんだ、目線をあちこちに泳がせながらも彼女は自分の意見を述べる。

 

「た、確かに本庄さんは右手でナイフを握ってました…その、本庄さんの自殺説を肯定するわけじゃありませんけど……でも、咄嗟のことだから左手を前に出したんじゃ」

「それはちょっと無理じゃねぇか?むしろ反射的に行動するから利き手を前に出すんだろ」

「確かにな…俺が喧嘩した奴も防御する時は利き手の方で防いでいた」

「マイナスだ」

 

彼女の言葉に、反論したのは坂本君と桐生君だ…特に超高校級の喧嘩師である彼の言葉は恐ろしかったがかなり重要だった。

それに対して、一関君が顔を上げて反論する。

 

「それなら、薬はどう説明する?倉庫には誰にだって行けるから、本庄が自殺じゃないにせよ薬を盛ってない証拠にはならない」

「そう?自殺じゃないのなら因幡君が薬を盛った理由が分からないわよ」

「今回ばかりは同感だな。それにあんなチビな奴が薬を自由に持ち運べたのかも疑問だしな」

「それに賛成します!」

 

二ノ瀬さんに続けて発言した一条君の言葉に私は賛同する。

一条君が「何だよ」と私を睨むが、気にせず自分で組み立てた推理を展開する。

 

「一条君の言う通りです。本庄君が薬を持ち運ぶことは不可能だったんですよ、だって……彼は身長が低かったんですから」

「…そうかっ!本庄は俺たちの中じゃ背が低いっ!!薬が高いところにあったら取ることは不可能だっ!」

「ですが、踏み台を使ったら良いのでは?」

「それはないと思う。捜査の時に舞耶さんと調べたけど薬は坂本君が言った通り本庄君が取るには難しい場所にあったし、踏み台らしき物体もなかった。それに、段ボールを踏み台にしたような形跡もなかった」

 

私の言葉に続くように、坂本君が納得する中、麻衣華さんは小首を傾げて冷静な意見を口にするが綾崎君がそれを否定する。

倉庫は私も調べたが踏み台らしき物体はなかった上に捜査では段ボールを踏み台代わりにした痕跡もなかった……薬だって海原君や綾崎君で届く場所にあったのだ。

小柄な本庄君では踏み台を使わずに薬を手に取ることなど不可能だ。

 

「これで分かって来たね、本庄クンは自殺でも何でもなく…真犯人の手によって計画的に殺されたんだ」

「結局、それが結論なのね。私はてっきり洗脳映画を観た因幡君が自分で自殺したっていう最悪の可能性を考えていたけど…」

「どんな可能性っ!?」

『あぁ、そうそう。洗脳映画もとい絶望ビデオは実在するけど、この船では使用してないよ?だって……そんなことしなくても、ボクはオマエラが勝手に絶望してくれるって信じてるからね!!』

「最悪の理由ですね」

 

松成君の言葉に、議論が進んだことで安堵した二ノ瀬さんに坂本君がツッコミを入れるとモノクマが蛇足をする。

そんなぬいぐるみに毒づきながらも、私は考える。

本庄君が自殺じゃないことは分かった……だが私には疑問に残っている部分があった。

どうして犯人は私たちに睡眠薬を盛ったのか、それになぜ偽の遺書を書かなかったのかも気になる。

理由があるはずだ、睡眠薬を使うことへのはっきりとした理由が……。

必死に思考を回転させていた時、ふとある出来事が思い浮かんだ。

それを軸に考えた途端、今まで靄が掛かっていたような事件の真相がはっきりと浮かび上がってくると、私がすべき作業が見えてきた。

間違いない……犯人は、『あの人』だ。

 

 

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 中断!≫ 




 後編に続きます。ではでは。ノシ


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非日常編 「学級裁判1(後編)」

 後編です。さぁ、皆様の推理は当たっていたでしょうか?
 それでは、どうぞ。


学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 再開!≫

「そういう、ことでしたか……」

 

私の呟きに、最初に気づいたのは松成君だった。

彼は私の方を振り向くと何かに気づいたのか口を開いた。

 

「どうかしたの?貝原さん」

「分かったんです、犯人が…」

「えっ、えぇっ!!?そ、それってトワリン…」

「待って」

 

私の宣言にエミリさんが慌てるが、それを止めたのは二ノ瀬さんだ。

あくまでも冷静に彼女は私に話しかける。

 

「永久ちゃん。本当に犯人が分かったの?」

「はい。でも、まだ漠然となんです…正直に言って、自分の推理が合っているかどうかも分かりません。間違っていたり矛盾があったのなら遠慮なく反論してください」

 

「良いですね」と私は全員に念を押すと、首を縦に頷かせた。

そして、私はゆっくりと息を吸い込んだ。

 

「まず、私が疑問に持ったのは…どうして犯人が薬を盛って私たちを眠らせたかです」

「それってー。本庄君を自殺に見せかけるためじゃないのー?」

「いえ、もし自殺に見せかけるためだけだったとしたら、あんなオレンジジュースを使う必要はありません…坂本君の言葉で更に疑問を覚えました」

 

「俺の?」と疑問符を浮かべる彼を横目に私は頷いて推理を続ける。

 

「自殺に見せかけるためなら、遺書を用意なりすれば良かったんです…シアタールームじゃなくても彼の自室で首吊りにするなり方法があったはずです」

「じゃあ…どうしてですかぁ?」

「犯人は本庄君を確実に狙うために、私たちに睡眠薬を盛ったんです。そして、それは犯人を指し示しているんです」

「続けてくれないかな、貝原さん」

「まず犯人は身長がある人間、この時点で亡くなった本庄君と清浄さん…不本意ですが私は除外されます。そして、本庄君が左利きであることを知らない人間…ここで松成君と利き手について知っていたエミリさんが除外されます」

「でも、それだけじゃ犯人は絞り込めないわ」

 

二ノ瀬さんの言葉に、私はゆっくりと首を横に振る。

 

「確かに…これだけじゃ犯人を絞り込むのは不可能です。だから考え方を変えました、『どうやって誰からも怪しまれずに倉庫に行けるのか』です」

「…確かに、倉庫に行く理由なんてアタシたちにはないし薬を持って行くにせよ怪しまれる可能性が高いわね」

「つまり、船内を自由に歩き回って調査していても怪しまれない人間…」

 

そして、私はゆっくりと沈黙している『犯人』を指した。

 

「犯人はあなたです。一関君」

「……」

 

私の言葉に、一関来羽君はただ黙ってこっちを見つめている。

全員が沈黙する中、桐生君が口を開いた。

 

「貝原、犯人を見つけたい気持ちは分かるが少し飛躍しすぎじゃないか?」

「…桐生の言う通りだ。貝原、さっきの君の推理で俺を示すのはとんだお門違いだ…睡眠薬を持って歩くことが出来たのは海原や神楽阪姉妹、細井や桐生にだって犯行は可能だ。特に桐生は俺と共に見回りをしていた。俺が薬を用意した証拠はない」

 

「第一」と彼は説明を続ける。

 

「君は犯人が本庄を意図的に狙ったと言ったな。だがそれはなぜだ?薬を盛ったことと何の関係がある」

「犯人が本庄君を狙った理由、そして薬を盛った理由は簡単です。あなたが自分のアリバイを作るためだったんです」

「アリバイだってっ!!?」

 

その発言に驚いた声をあげる綾崎君の他にも、私の話を聞いていた全員が驚愕の表情を見せている。

それに反論したのは一条君だ。

 

「ネジでも外れたのか?今の話からどうやってアリバイの話になるんだよ」

「ごもっともです。その前に確認したいことがあります、モノクマ」

『ほへ?』

「電子生徒手帳に『モニター及び設備の破壊を禁じる』とありますが、この破壊に定義はありますか?」

『もちろん!その名の通り、設備を破壊することだよ。部屋の備品を模擬刀で破壊したり、モニターを何とかフィンガーで粉々にしたり、とにかく原型なく破損していたら違反対象だよ!!』

「ありがとうございます」

 

そっけなくお礼の言葉を言った私は、説明を続ける。

 

「さっきのモノクマの言葉ですが、要約すると物を破壊することは駄目だということです」

「それがどうした」

「それはつまり、裏を返せば『破壊さえしなければ好きにして良い』ということです」

 

私はエミリさんに、視線を向ける。

 

「エミリさん。確か放送室には毎日七時と十時に録音したアナウンスと電子生徒手帳の時間がプログラムされている機材がありましたよね?」

「う、うん…説明書もあった」

「それと、昨日あなたが放送室にいた時…一関君と会って別れたんですよね」

「うん。間違いないよ」

 

これで確信が持てた。

私は改めて一関君を見る。

 

「決まりですね。犯人が訪れた理由、それは放送室でアリバイ工作の準備をすることだったんです」

「放送室だと?そんな場所で何をどうするんだ、まさか録音でもしたと?あんな場所でアリバイを偽装することなど絶対に不可能だ」

「それは違います!」

 

鼻で笑う一関君の言葉を私は論破する、ここで退いたら犯人の思うツボだ。

だからこそ、私ははっきりと彼を見据える。

 

「録音なんてする必要はありませんよ。あなたがしたのは機材を弄ることだったんですから」

「んんっ?それは一体どういうことですか、貝原さん?」

「つまり、犯人は放送室で電子生徒手帳の時間とアナウンスの時間をずらしたんです!!」

 

私の言葉に全員が絶句する中、一関君の顔色が変わった。

「ぐぎっ!」と詰まったような声を出す彼より先に一条君が口を開く。

 

「待て待て待てっ!!発想の飛躍じゃねぇかっ!第一、そんな重要なプラグラムを弄ったらそれこそ違反行為だろうがっ!!」

「いいえっ、モノクマは私にこう言いました。『素人が勝手に触ったら困る』って、機材を弄るなとは一言も言われておりませんっ!!あの部屋に説明書があったのがそれの証明ですっ!!」

『うぷぷ…ボクは生徒の自主性を重んじているからね。もしプログラムを事故で弄ってしまった場合、自己責任としてボクお手製の説明書で直してもらうのです!!』

 

悪意ある笑いと共にモノクマの発言が更に一関君の顔色を蒼くさせる。

そんな彼に無情にも私の言葉は弾丸のように放つ。

 

「これで、犯人が薬を盛った理由も説明がつきます。本庄君を自殺に見せかけるためでも、目撃者を減らすためでもない、時間通りに起こさせないために薬を盛ったんです!!」

 

力強いその発言に全員が一関君に疑惑の視線を向ける中、彼はずり落ちた眼鏡を上げながら焦った様子で口を開く。

 

「ま、待てっ!仮に時間をずらしていたとしてだっ!!それでどうやってアリバイを作るつもりだ!!何時間ずらされていたことなど証明することなど不可能だ!」

「それなら、本庄クンの死亡時刻と照らし合わせれば良いんじゃないかな?彼が殺害されたのは今朝の7:10過ぎ。犯人が確固たるアリバイを手に入れるためにはボクたちが起きる時間でなければならない」

「殺害から証拠隠滅とレストランに到着するまでは五分掛かるとして…時間が進めていたのだとしたら少なくとも二十分もあれば可能よ」

 

私の推理を補強するように、松成君と二ノ瀬さんが遅れた時間を提示する。

絶句する一関君だが、それでも否定しようと反論する。

 

「それがどうしたっ!だ、大体っ、アナウンスがずれていたのなら本庄だって気づくだろっ!!」

「あぁっ、確かに!本庄君はシアタールームで殺害されたってことは、彼は自らの脚で現場に足を踏み入れたことになります、つまり薬を盛られていなかった!それでしたらアナウンスにも気づくはずですよ!」

「そうなのかなー?聞こえなかったのかもしれないよー」

「それに賛成です」

 

彼の発言に、舞耶さんや細井さんが喋る中、私は彼女の言葉を肯定する。

全員が目を見開く中、私はゆっくりと口を開く。

 

「本庄君は毎日、シアタールームで映画を観るんです。現場のスクリーンに映っていた映画はホラー映画でした」

「大体の映画は一時間半。そうなると、因幡君は六時に起きていたことになるわ」

「それに本庄クンは映画好きだったよね。映画に夢中になっていたとしたらアナウンスのことも気づかないはずだ」

「好きなことに熱中してると、あんまり気にならなくなるしなぁ」

 

二ノ瀬さんたちや坂本君が話しながらも、それでも一関君は叫ぶ。

冷や汗をかき、優等生らしい端正な顔立ちが憤怒に染まっている。

 

「ふ、ふざけるなぁっ!!…そ、そうだっ!返り血は、返り血はどうするっ!!?本庄の周辺は大量の血痕があったのだろう!?犯人も血まみれだったはずだ!!」

「いいえっ、倉庫から暗幕が一つなくなっていました。シーツならともかく、薄暗いシアタールームなら姿を隠せることも可能です!」

 

そこで一拍置くと、私は風穴の空いた彼の計画に止めを指した。

 

「これで決まりです。船内を調査していた犯人は放送室でアナウンスと時間を進めた後、倉庫から薬とナイフ、そして暗幕を手に入れてオレンジジュースの中に自分の分と本庄君の分を除いた全てに盛った。そして翌日、いつものように起きた本庄君がシアタールームに入って映画を観る…暗幕で全身を包んで予め潜んでいた犯人は本庄君を殺害した。犯行を終えた犯人は全ての証拠を隠滅した後、レストランに入って確固たるアリバイを作った……それが出来たのは、私たちのリーダーとして活動していた『超高校級の優等生 一関来羽』君!あなただけです!!」

 

私の推理に、一関君はただ黙っただけだ。

全員が困惑と疑惑の混じった視線を彼に向ける中、彼はゆっくりと顔を上げた。

 

「マイナスだ」

「えっ?」

「マイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスだマイナスマイナスマイナスマイナスマイナスマイナス…」

「お、おい…一関?」

 

無表情で同じ言葉を延々と呟く彼に、桐生君は唖然とし清浄さんや細井さんは恐怖の感情を見せる。

やがて、坂本君が彼の名を呼んだ時だった。

 

「マイナスに決まってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?先ほどから何だそのふざけた空想はあああああああああああああああっっ!!!君はとんだ愚か者だな、貝原っ!!それに他の連中もだっ、こんな根拠も何もない戯言に何を親身になって聞いているっ!?」

 

一関君の叫びは長く続く。

 

「二ノ瀬と松成の言葉に何の価値があるっ!何が時間とアナウンスを進めただっ、何が暗幕を使って返り血を防いだだっ!そんなものは机上の空論だっ!でっち上げだっ、真犯人の仕掛けた罠だっ!!そうだ罠だ、ミスディレクションだっ!!そんな計画に翻弄されるほどお前たちはおつむが悪いのかっ!?そうじゃないだろうっ!!さぁ、探すぞっ!!憎き真犯人を探すべきだっ!!!」

 

顔を真っ赤にして怒声を張り上げながら、彼は凄まじいスピードで自分が犯人ではないことを必死に叫ぶ。

マシンガンのように言葉を四方八方に飛ばす一関君は、私の方を血走った眼で睨んだ。

 

「貝原ぁっ!!良いかっ!君の言った言葉に強さなどない!証拠などない!」

「ですが、状況証拠はあなたが犯人であることを指しています」

「何処がだっ!?ナイフに指紋でも残っていたかっ!?機材を弄られた根拠でもあったかっ!?ないないないないないない、何もないっ!!」

「ありますよ。あなたが忘れている決定的証拠がねっ」

 

証拠も何もないその叫びを私は冷静に言葉を返す。

パニックになっている今の彼に必要なのは感情的な言葉でも落ち着かせることでもない。

こっちで武装した理論を、決定的証拠をクロである彼にぶつけるだけだ。

 

「何が証拠だっ!そんな物何処にもない!それは必死に捜査をしていた君が良く分かっているだろうっ!!」

「えぇっ、そうですね。あなたは優等生です、自分が不利になる物は一切残していない。だから遺書も書かなかったのでしょう?少しでも証拠を残してはならないと、この事件を計画した」

「ははははははっ!!そうだ、自分で言うのも何だが優等生だっ!俺を褒めて自白でもさせようとしたのかっ!?不可能だっ、だって俺は犯人ではないのだからっ!!」

 

もう少しだ、『彼』の言った言葉が、決定的証拠…私が撃つべきコトダマになる。

今は、待つだけだ。

 

「焼却炉が燃えていましたよね?犯人が燃やしたのだと思いますが、何を燃やしたと思いますっ!?」

「そんなの知るわけないだろっ!俺は犯人じゃないからなっ!!」

「犯人が処分したんです。だって、犯人はあの焼却室を使って証拠を燃やしたんですから、きっと暗幕もあそこで燃やしたんでしょう!!」

「そうだな!だったらどうしたっ!?犯人が証拠を処分した、それは単純だ!!なぜなら、犯人は全ての証拠品を処分したのだからなっ!!」

「これで、証明しますっ!!」

 

 

 

 

 

「焼却室の閉鎖時間は、午後の十時から午前七時半までです。そう教えてくれましたよね、一関君」

「だったらどうした!!」

「焼却炉が点けっ放しだった理由は、犯人が焦って突っ込んだからです。しかし、そうなるとある矛盾が生じます」

「……証拠の隠滅が出来ないどころか、焼却室が開いていませんね」

 

私の言葉に、麻衣華さんが口を開く。

それに対して私は言葉を紡いだ。

 

「えぇっ、犯人もそれは分かっていた。だから、鍵を無理やりこじ開けることにしたんです…自室にあったピッキングツールを使ってね」

「なな、な、なぁっ!!?」

「えっと、そんなのありましたかぁ?」

 

動揺する一関君を余所に、清浄さんがみんなに尋ねる。

 

「女子の場合は裁縫セットですが、男子の自室には必ずあるそうなんです」

「うん、ぼくもマッちゃんから聞いたよ」

「一関君、自分が犯人ではないのなら自室にあるピッキングツールを私たちに見せてくれませんか?もし私の考えが正しいのだとしたら……あなたのピッキングツールには使用した形跡があるはずですっ!!」

 

私の力強い指摘に、一関君は増々顔を蒼くして絶句させた。

それは、私の推理が正しいことの証明だった。

 

「来羽君、見せてくれないかしら。もし使ったのだとしたら、いつ何処で使ったのか教えてくれない?」

「念のために言っておくけど…」

 

二ノ瀬さんの言葉に連なるように松成君ははっきりと彼の顔を見据えて止めの一言を言い放った。

 

「『失くした』って言い訳は…なしだよ」

「あっ、あぁ……」

 

それが引き金となったのか、一関君は何も言うことが出来ずに顔を真っ青にしたまま何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

『うぷぷぷ…議論の結論が出たみたいですね』

 

議論を笑いながら、見守っていたモノクマが粘着質な声で喋り出した。

松成君や私が睨む中でモノクマは気にせず言葉を続ける。

 

『ではそろそろ投票タイムといきましょうか!オマエラ、証言台のタッチパネルで投票してください!あ、念のために言っておくけど、必ず誰かに投票するようにしてくださいねっ!』

 

宣言した瞬間、私や他の人たちの証言台のタッチパネルからドット絵になっているみんなの顔が映し出される。

…これにタッチしろと言うことなのだろう。

私は、どうすることも出来ずに……一関君の顔を模したドットのマークをタッチした。

 

『投票の結果、クロとなるのは誰か!?その答えは…正解なのか不正解なのかーーっ!?』

 

モノクマの掛け声と共に、奴の真上にある巨大モニターに金色のスロットマシンが映し出された。

スロットにはスイッチと同じドットを模したみんなの顔が描かれており、その上には大きな「VOTE」というモノクマ付きのネオンが光っている。

スロットがグルグル、と回るとやがてゆっくりと速度を落としていき、左から順番に同じ顔で止まった。

そして三つ全てが止まって絵柄が揃ったと同時に、「GUILTY」の文字が点滅しながら、スロットマシンからはコインが溢れ、紙吹雪が舞い、拍手喝采の音声が流れる。

『超高校級の優等生 一関来羽』は揃った自分のドット絵を見ることもせず、ただ黙って頭を抱えていた。

 

 

学級裁判(CLASSROOM TRIALS) 閉廷!≫ 




 学級裁判はこれで終了です。次回はクロの動機とおしおきになります、皆様が絶望してくださることを心から祈ります。
 ではでは。ノシ


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非日常編 「動機とおしおき」

 おしおき編です。今回はクロの動機が語られます。
 短くなってしまいましたが、どうぞ。


『大せーいかーいっ!!今回、超高校級の幸運である本庄因幡クンを殺したクロは…超高校級の優等生、一関来羽クンでしたー!!』

「あ、あぁぁぁ……」

 

場違いなほど明るく楽しそうにケタケタと笑うモノクマとは対照的に、犯人として指名された一関君は倒れそうな身体を証言台で辛うじて支える。

私たちは真実を突き止めた、本庄君を殺した犯人を見つけ、結果として生き残ることが出来た。

…それが何だ?

だから、どうしたというのだ。

こんな状況で、大手を振って喜ぶことなど出来るはずもなかった。

全員が一関君の方を複雑な感情の困った視線を向けていたが、やがて坂本君が彼の元まで足早に近づくと胸倉を掴んだ。

 

「一関っ!てめぇ…てめぇっ!!何でだ、何で本庄をっっ!!!」

「やめろ、坂本っ!」

 

憤怒の形相で必死に声を搾り出そうとする彼を一関君は焦点の合わない目で彼を見つめている。

坂本君はそんな彼を殴り飛ばそうと握り拳を固めるが桐生君がそれを制止させ、比較的冷静だった一条君が一関君に尋ねた。

 

「おい、何であのチビを殺した?」

「……」

「言っとくが、だんまりは許さねぇからな。この場にいる全員の前で、はっきりと答えてもらうぜ…!!」

 

そう睨みつけた彼に対して、一関君はようやく口を開く。

 

「…動機だよ」

「あっ?」

「俺は、出たかっただけだよ。こんなふざけた場所から…」

 

感情も何もないその言葉に、坂本君を含む全員が黙って聞く中、間を置いて二ノ瀬さんが尋ねる。

 

「因幡君を狙ったのは、永久ちゃんの推理通りなの?」

「毎日映画を観ているのは知っていたからな。アナウンスと時間を利用したトリックには丁度良かったし、気の弱いあいつなら自殺に見せかけられると思ったから標的にしただけだ」

「丁度良かったって…てめぇええええええええええええええええっっ!!!」

 

頷いた一関君の言葉を聞いて坂本君が烈火の如く暴れるが桐生君が取り押さえる。

そんな様子をただ黙って見つめながらも、彼は言葉を紡いだ。

 

「なぁ、どうして君らはそんな簡単に割り切れるんだ」

「えっ?」

「あんな映像を観た後に、どうして君らは何事もなく生活出来る?どうしてお前らはまだ脱出出来ると思っている、どうしてどうしてどうしてどうして!!出会ったばっかの人間のことを考えられるっ!!?」

 

最初は淡々と、しかし途中から感情をぶつけてくる彼に私は何も言うことが出来なかった。

あんな映像…恐らくモノクマが私に見せた『動機の映像』のことだろう、まさか…!

 

「あの映像を、信じたのですか…!」

「俺たちを船に閉じ込めるような奴だぞっ!!俺だって信じられなかった、だけどこいつが目の前で爆発した時分かったよ…こいつは、モノクマの言っていることは本当のことだと!だから、だからっ!」

 

そこで間を置くと、絞り出すように彼は言葉を吐き出した。

 

「外にいる家族が無事なのか、確かめたかった……無事なのか確かめたかったんだ。俺が優等生になったのは家族のためだったから、母さんや弟たちのために優等生になったのに…」

「私たちよりも、家族を優先したのですかぁ…」

「どう取ってもらっても構わない、俺にとって大事だったのは母さんたちだった。ただ、それだけのは…」

 

目に涙を溜めながら尋ねた清浄さんへ答えた言葉を遮るように一関君は吹き飛ばされた。

彼の近くにいたのは坂本君…そこでようやく、桐生君の制止を振り切って彼を殴り飛ばしたのだと分かった。

 

「バカ野郎…!どうして俺たちに話さなかった」

「…言ったところで何も」

「分かんねぇだろっ!?自分が優等生だからって、勝手に思い詰めてんじゃねぇよっ!!何でおれたちを頼らなかったんだよ…バカ野郎、この…バカ野郎……!!」

 

そこで、ようやく…坂本君が泣いているのが分かった。

彼は…本庄君を殺した一関君のために怒ったのだろうか。

私たちのリーダーとしての役割を担ってくれた一関君、だが彼も普通の高校生だったのだ。

誰よりも家族を大切にし、誰よりも弱い自分を見せずに戦っていた普通の人間だった。

 

『あー、そろそろ良いかな?そんなベッタベタな三流の青春コントを見るためにこんな裁判を始めているわけじゃないんだよねー』

 

心底つまらなそうに、言葉を発したのはモノクマだ。

欠伸をすると奴は赤い瞳を一関君へと向ける。

 

『結局さ、君は外に出たかったら殺した。そんで周りを欺くためにあんなアリバイトリックを思いついた。青臭い殺人鬼の言い訳なんてそんなもんだよ』

 

「そ・れ・に」とモノクマは楽しそうな声を漏らした。

 

『家族の安否を確かめたかったのも結局、自分が優等生であるための動機づけが必要だったからでしょー!』

「なっ、ふざけるなっ!俺は家族のために…」

『だって、その大義名分がなきゃ優等生になれなかったもんね!!その自己中心的な性格はまさしくグッドだよ!!でも、簡単に解決出来るような殺人を起こす奴は…この船にはいらないよ』

 

反論しようとする一関君を気にせずに、モノクマは彼の想いを侮辱するように発言すると声のトーンを落とす。

その様子に、細井さんは怯えた眼差しでモノクマを見つめた。

 

「も、もしかしてー…」

『そう!待ちに待ったおしおきの時間だよ!!もう恒例行事だしね、さっさと始めるよ!』

「ま、待ってくれっ!せめて、せめて母さんたちが無事なのか…」

『今回は超高校級の優等生である一関来羽クンのために』

 

その宣言にせめて家族の所在を尋ねようと一関君は玉座の上に立つモノクマに駆け寄るが、無情にも奴は進行を続ける。

 

『スペシャルなおしおきを用意しました!』

「頼むっ!教えてくれっ!!母さんは…みんなは大丈夫なのか!?おい、おいっ!!」

『では、張り切っていきましょう!おしおきターイム!』

「嫌だ…嫌だああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

最後まで、何も答えなかったモノクマに…一関君は何も知ることが出来ないまま、ただただ悲痛な叫びを裁判場に響かせた。

 

 

 

 

 

【GAME OVER イチノセキくんがクロにきまりました。おしおきをかいしします】

 

モノクマが木槌で赤いスイッチを押す。

同時にその文字とドット絵のモノクマが同じくドット絵の一関君を連行していく映像が表示された。

そして、まるで何かのショーでも始まるかのように裁判場の照明が七色のスポットライトで照らし始めた。

一関君は逃げようと私たちが使ったエレベーターの元まで走るが、それよりも早く扉から伸びてきた鎖付きの首輪が彼の首を捉え固定すると凄まじい力で首を引っ張る。

一関君の身体は床を引きずられ、涙をまき散らしながら裁判場の外へと引っ張り出され、無機質な扉への先へと吸い込まれると同時に、上空のモニターが映し出された…。

 

 

≪ビバリーHELLズ高校白書 『超高校級の優等生 一関来羽 処刑執行』≫

一関君がいるのは緑色の黒板に木製の教室、そして彼が座って…正確には座らされているのは木製の机と椅子。

すると、そこに眼鏡とスーツを着たモノクマが現れる。

眼鏡を上げて、汗を流しながら一関君の近くに大量に積まれた書類を置くが身体を拘束されている彼は逃げることも作業に手を付けることも出来ない。

そこから続くようにセーラー服を着たモノクマや学生服を着たモノクマが次々と現れるとあれやこれやとナイフやライター、ハサミなどの大量にある危険物を積んでいく。

やがて何も行動しない彼に激怒したモノクマたちは、椅子に拘束されている一関君を囲むと集団暴力を開始した。

映像では漫画的表現のようになっているが、当人である一関君はアザが浮かび上がり身体中から血を流している。

モノクマたちは爪を出しているため、一関君の切り傷は酷くなる一方だ。

満面の笑みのモノクマたちは最後に大量に積まれてある書類や危険物を彼に向けて一斉に倒した。

すると、その中にあるライターが書類を着火させると一関君は大量の危険物でズタズタになった後に、燃え盛る書類の下敷きとなる。

そんな中で担任風のモノクマは、燃え上がる校舎をバックに生徒たちであるその他のモノクマたちと青春の涙を零したのであった。

 

 

 

 

 

モニターに映し出された映像は、まさに地獄絵図…。

優等生としての尊厳を踏みにじるような「おしおき」と呼ぶにはおぞましいほどのそれは、『絶望』と呼ぶに、相応しい光景だった。

 

『イヤッッッホーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!エックストリーーーーームッ!!やっぱり、最初のおしおきはこうじゃなくちゃね!アーッハッハッハッハッハ!!』

「い、嫌あああああああああああああああああああああっっ!!」

「「……っ!!」」

「んだよ、ありゃあ……!?」

 

モノクマが楽しそうに歓喜の言葉を口にする中、清浄さんは悲鳴をあげ、神楽阪姉妹は言葉を詰まらせて絶句し、一条君は顔を青ざめて呟く。

誰かの泣く声が、誰かの悔しげな声が、誰かが怯えた声が聞こえる。

呆然とする私たちを余所に、モノクマは楽しそうに口を開く。

 

『オマエラ!!今日の学級裁判は最高に良かったです、ボクとしては「優」の評価を送りたいところですが…ボクの前でツマラナイ青春ごっこを展開したので「可」の評価でーすっ!今後はこのようなことがないよう、しっかりと反省点を活かしてくださいね!!』

「…てめぇ、人の命を何だと思ってやがる…!!」

『あれあれ、喧嘩師がそれ言っちゃう?ボクにとって命は絶望させるのに必要な要素の一つ…ただそれだけだよ』

 

桐生君の殺気の籠った眼差しにモノクマは照れ臭そうに答える。

全員が身動きの出来ない状況で一歩前に出たのは松成君だ。

 

「お前は、ボクたちに何をさせたいんだ?」

『前にも言ったじゃん。絶望…ただそれだけだよ、ボクはそれだけが目的で動いているんだからさ。んじゃーねー!!』

 

それだけを言うと、モノクマは姿を消してしまった。

全員がどうすることも出来ずに黙っている中、最初に行動したのは一条君だった。

 

「あー!!たく、うざってぇなぁっ!!俺は先に戻るぞ!これ以上こんな狂った場所にいられるかっ!」

 

頭を掻きむしりながら、一人でエレベーターの方に行くが少しだけ立ち止まると首を私たちの方に向ける。

 

「もし、くだらねぇ考えをしてる奴がいたら俺のとこに来い。愚痴ぐらい聞いてやる」

 

吐き捨てるようにそう言って一条君は今度こそエレベーターに乗り込んで行った。

それを聞いた二ノ瀬さんは苦笑いをする。

 

「アタシたちも戻りましょう」

「だな、何だか…疲れちまったよ」

 

坂本君の言葉に他の人も次々にエレベーターへと乗り込んでいく中、松成君は立ち止まっている私に話しかける。

 

「貝原さん」

「…大丈夫です」

「無理をしないで。今だけは…泣いて良いから」

 

その言葉が私の抑え込んでいたものを決壊させた。

 

「う、うぅ…ひぐっ、あぁぁぁ……!!」

 

濁流のような感情に逆らうことなく、私は堰を切ったように泣いた。

松成君がいるにも関わらず、年甲斐もなく泣き叫び、パーカーの裾を強く握り締めて涙を流した。

殺されてしまった本庄君と、追い詰められ、最後には何も知ることなく処刑されてしまった一関君のために…ただ泣くことしか出来なかった。

 

 

CHPATER1 才能はかく語りき End →To Be Continued.

残り乗船者数:十三名




 何だかんだで第一章終了です。ダンガンロンパらしさが再現できたかどうかかなり不安です(汗)
 それでは、第二章をお楽しみいただけたら幸いです。ではでは。ノシ


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