ポケットモンスター &Z (雨在新人)
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第一章 "Z"ygarde(ジガルデ)と白き英雄アブソル
vs???・前編


『このように、ポケモンをゲットする場合、バトルで力を見せることはとても重要な役割を持つのです』

 ツンツンと頬をつつく感覚に、少年は読みふけっていた本……『はじめてのポケモンゲット!』から顔を上げた

 

 此処はセントラルカロス、アサメタウンに近い場所に立てられた大きな屋敷……その地下室

 そして、少年の名はアズマ。今年で14になる、この屋敷の持ち主の息子である

 

 「どうしたんだ、ギル?」

 頬をつついていたのは、鞘に入った剣……のような姿をした一体のポケモン、とうけんポケモンのヒトツキ。物言わぬポケモンながら、長い時間をこの屋敷で共に過ごしてきて心が繋がっている、アズマのトモダチだ。ギルというのは渾名。ニダンギル、そしてギルガルドと進化するらしいからギル。割と安直な名前かもしれないけれど、案外気に入っている

 

 いつもは、本を読んでいる時のアズマを邪魔することはなく、近くを飛び回っているのだが……

 なおも、ヒトツキはアズマの頬をつついている

 アズマが本を閉じると、露出した掌を、鞘に入った刀身部分……体でぺちぺちと叩く

 それが意味する所は……

 緊急事態

 「ギル、何かあったんだな?」

 鞘が手を叩く……肯定

 アズマは、地下室を飛び出した

 

 「何だ……これ」

 階段を一段飛ばしに駆け上がり、一階へ

 一階、エントランス。屋敷の玄関が……

 吹き飛んでいた。扉と、その付近の壁が崩れ、大穴が空いている

 

 「じい!」

 この屋敷に雇われている老執事が、その瓦礫の中に倒れていた。辺りには、執事のポケモン達……マリルリとゲンガー。どちらも力尽き、倒れている

 「坊っちゃん……」

 「何があった!」

 「ポケモンが」

 「ポケモン?」

 老執事の言葉に、開けられた穴の先を見る

 

 其処には、見たことの無い一体のポケモンが居た。全体としては……ヘルガーに似ているだろうか。だが、角は無いし、目はハニカムみたいな格好をしているし、全身が黒くて、一部だけが緑色。そんなヘルガーは居ない。アズマ自身ポケモンの本はそれなりに読んでいるし、カロスに居ないポケモンだとしても見分けられる……気がしていたのだが、それでも、あのポケモンが何なのか分からない

 「ギル」

 アズマの横で、ヒトツキが揺れる

 「『つるぎのまい』!」

 先手必勝!あの謎のポケモンが、何らかの理由で屋敷を襲ってきた野生であろうとも、何らかの理由でトレーナーに襲撃を命じられたポケモンであろうとも、屋敷を守るならばバトルは必須

 ならば、先に仕掛ける。勝つために、ヒトツキの攻撃を鋭くする

 

 謎のポケモンは、ゆっくりと堂々と、玄関を踏み越えて入ってくる

 

 「坊っちゃん!お使い下され!」

 老執事のモンスターボールから、一体のポケモンが飛び出す

 ウインディ。名前はウィン。執事がこの屋敷に仕え始める前、トレーナーとして旅をしていた頃からの相棒だというポケモン

 「ウィン、力を借りるぞ」

 『ディ!』

 応えるように、相手を威嚇するようにウインディは吠えた

 

 不意に、謎のポケモンの姿がかき消える。次の瞬間、奴はウインディに激突していた

 正に神速の突撃、『しんそく』だろう。ウィンも使える技だ。それを使ってくるということはあのポケモンはノーマルタイプ……いや、ウインディだって炎タイプ、断定は出来ない

 謎のポケモンの突進にウインディの巨体が浮き上がる。だが、老執事と共に戦ってきた歴戦のポケモン、それで終わりはしない

 「ウィン、『ワイルドボルト』!ギルは『かげうち』!」

 一回転しての綺麗な着地。ウインディはそのまま雷を纏い、逆に謎のポケモンへと突進する!

 だが、謎のポケモンに当たると、雷は霧散する

 

 ということは、謎のポケモンは地面タイプなのだろうか

 ヒトツキのかげうちは、頭に当たるもあまりダメージにはなっていない。とはいえ、通ると言うことはノーマルタイプではない

 「ギル、もう一度『つるぎのまい』!ウィンは……『鬼火』!」

 ならばと指示は様子見の一手。幻の炎で火傷すれば、『しんそく』の踏み込みも痛みで弱くなるだろう。次を考える手もある

 

 だが、その火は、吹き上がる力に散らされる。謎のポケモンが、緑色に輝き出す

 「なんだ?」

 「坊っちゃん、『りゅうのまい』だと」

 りゅうのまい……ドラゴンのエネルギーを纏い、力を一時的に上げる技

 つまり、次は……

 「止めろ、『かげうち』!『しんそく』!」

 大技が来ると見て良いだろう。ならば、その前に体勢を崩させて止める!

 

 ウインディが、さっきの謎のポケモンと同様に神速の一撃を放つ

 ヒトツキから伸びた影が、背後から謎のポケモンを叩く

 だが、そのどちらも、謎のポケモンは受け止め、微動だにせず……

 緑の光は、大きくなって行く

 「守れ!ギル!」

 伏せながらアズマは叫ぶ

 

 緑の光が、全てを塗り潰した



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vs???・後編

緑の光が、全てを塗り潰した

 

 

 「……ギル……」

 アズマは、目を覚ます

 どうやら、数秒、意識を失っていたようだ

 背中が、とても重い。立ち上がろうとすると押し退けられ、崩れて周りに落ちる

 瓦礫だ。謎のポケモンの放った緑の光……あるいは、無数の緑の矢は、屋敷全体を吹き飛ばし、細かい瓦礫に変えたのだ

 寧ろ、威力が高くて助かったといえるかもしれない。細かい瓦礫にならず、一部にヒビが入る程度の半端な威力であったならば、崩れる家に潰されて死んでいたかもしれない

 「ギル!じい、ウィン、ルリ、ゲン!」

 叫んでみる。返事はすぐにはない

 大丈夫なのだろうか

 

 近くの瓦礫をはね除け、ウインディが立ち上がる。何とか耐えてくれたようだ。横で、ゆらゆらとヒトツキも浮き上がる。ギリギリで『まもる』が間に合ったのだろう。その防壁が、何とか二匹をこらえさせた

 だが、立てるのはその二匹だけ。巻き込まれた老執事やそのポケモン達がどうなったかは分からない

 

 「お前……」

 言ってみても、何にもならない。相手はポケモン。人間の言葉を喋らないのだから

 気を引く為に、腹いせも兼ねてモンスターボールを投げつける

 

 一瞬吸い込まれるも、すぐにボールは破壊された

 

 トレーナーのポケモンは、そもそもボールに入らない。ボールに入ってから捕獲を拒否したという事は、即ち……野生ポケモン。誰かの指示ではないのだろう

 

 謎のポケモンの体が、再び輝き出す

 また、あの謎の技を使う気なのだろう。『まもる』をしてもダメージは二匹共に残った。本来は一部の技以外を完全にシャットアウトする『まもる』の防壁を強引に打ち破る圧倒的な技の威力。次は守ろうが、恐らくどちらも耐えられない

 ならば、此処に賭けるしかない

 「ギル、おれを吸え!」

 指令を受け、ヒトツキが自身の手……剣の柄部分に付いた青い布、をアズマの腕に巻き付ける

 ヒトツキの特徴……手を人に巻き付けて、命を吸う。だが、それで良い。命を吸えば、吸った命を使って、本来の力を越える力が出せる

 当然吸いきられれば死ぬが、昔から一緒に居るポケモンすら信じられない何て事はあり得ない。だから問題ない

 「ウィン……『フレアドライブ』!」

 ヒトツキが生命力を吸っている間に、ウインディに指示を出す

 『ディ!』

 わかっているとばかりに、ウインディは全身を覆うほどの炎を纏い、瓦礫の中を駆けた

 そのまま、堂々と立っている謎のポケモンへと突撃……頭に受け止められる。だが、それでもウインディは止まらない。ジリジリと、本の少しずつ、相手の頭を押し込んでいき……

 

 悪寒が走った

 (何かが、何者かが、とてつもない数の何かが……目の前のハニカム目のポケモンが、おれをじっと見ている!)

 だが、止まる訳にはいかない

 何故暴れているのか、どうして屋敷を壊しているのかなんて分からない。けれども、少なくとも穏便には終わらない

 

 「ギル……行けるな?」

 アズマの意識は朦朧としてくる。生命力を吸われたのだから当然だ

 ヒトツキが揺れる。問題ないの合図

 「聖なる……剣!」

 声と共に、ヒトツキが飛び出す

 アズマから吸った生命力を使い、身に余る力を振るう。刀身である体全体に力を巡らせ、相手を切り裂く……本来はイッシュ地方の伝説のポケモンが使うという技

 すなわち、『せいなるつるぎ』。生命力を多量に吸って初めて打てる、ギルの切り札

 体全体で描く剣閃は、しっかりと『フレアドライブ』を受け止めている謎のポケモンの頭部に突き刺さり……

 

 沢山の気配を感じる……

 

 緑の光が膨れ上がる。二匹を吹き飛ばし、謎のポケモンの全てが光に包まれる

 ……進化?

 一瞬、その光はZを思わせる、巨大なポケモンの姿を取り……

 

 飛散した。後には、何も居ない。唐突に、謎のポケモンの姿はかき消えていた




謎のポケモン(ジガルデ・10%フォルム)
Lv:20 とくせい:オーラブレイク E:無し
サウザンアロー/しんそく/りゅうのまい/げきりん

ギル(ヒトツキ)
Lv:20 とくせい:ノーガード E:無し
かげうち/おいうち/つるぎのまい/まもる/(せいなるつるぎ)

ウィン(ウインディ)
Lv:50 とくせい:いかく E:ラムのみ
フレアドライブ/ワイルドボルト/しんそく/おにび


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vsヤヤコマ

「それじゃあ、行ってきます、じい」

 謎のポケモンの襲来から一日後

 

 アズマは、瓦礫と化した屋敷から、使えそうなものを持ち出して、旅支度を整えていた

 「坊っちゃん……大丈夫ですか?」

 老執事が話しかけてくる。結局、小さな瓦礫が頭に当たって昏倒していただけ、危険な瓦礫はゲン(じいのゲンガー)が払い除けてくれ、命に別状は無かったらしい

 「大丈夫だよ、じい。もう病気がちだった昔のおれじゃないし、ギルだって居る」

 「けれども坊っちゃん。野生のポケモンは」

 「大丈夫。もう怖くない。前とは違って、おれはあの謎のポケモンの手掛かりを探したくて旅に出るんだから」

 4年前、10歳になると子供はポケモンを貰って旅に出る。そのしきたりに従って旅に出たアズマは、2番道路でもう無理と逃げ帰ってきた。貰ったポケモンとの信頼も築けず、野生ポケモンからも敵意を向けられて、そんなんなら外に出たくない、昔から知ってるポケモン達だけで良い、と

 

 「だから、行ってきます、じい。謎のポケモンを探して、父さんにもあって、それから立派になって帰ってくるよ」

 アズマの横で、ヒトツキが揺れた

 

 旅立つ前、最後にとアズマは地下室へと降りた

 そこにあるのは……薄桃色の水晶に彩られた、卵のようなオブジェ。家宝であり、命の恩人……いや、恩石?でもある、欠片が痛みを伴うも万病に効くという、謎のオブジェ。

 「お前にも、行ってきます」

 僅かな暖かさを感じた事もあった。ポケモンではないかと思ったこともあった、ヒャッコクシティにあるという日時計の親戚みたいなものではないかと思うオブジェ

 けじめのように挨拶し、アズマは壊れた家を旅立つ。謎のポケモン、Zを探して

 

 

 

 30分後。アサメタウン近く

 「駄目か……」

 モンスターボールを拒み続けるヤヤコマを前に、ぼんやりとアズマは呟いた

 何時か10歳の時のリベンジをする為に、と意気込んでポケモン捕獲に乗り出したのは良いのだが、成果はゼロ。捕獲のハウツー本の通り、ヒトツキに戦ってもらい、強さを見せた所でモンスターボールを投げているのだが、10個投げてもヤヤコマ一匹捕まらない

 「やっぱり嫌われてるのかな……」

 逃げて行くヤヤコマを見て、そう呟く

 そういえば、10歳の時もそうだった。あの時は……最初のポケモンとして貰ったフォッコは言うことを聞いてくれず、結局一人でボールを投げていたっけ。だが、ヒトツキは違う。きちんとおれの為に戦ってくれている。いるのだが……

 結局捕まらないのは同じだった。やっぱり才能無いんだろうか

 「よし、もう一度」

 アズマのバッグには、家から持ってきたモンスターボールがまだ20個はある。それなりに貴重だからとあまり持ってこなかったが、スーパーボール等もある。あと5回挑戦してみよう、と心に決め

 「お前、ポケモンの捕まえかたもわかんねぇの?ダッサ」

 「なんだと!」

 モンスターボールを持った少年と眼があった

 「だっせーなって言ったんだよ!」

 少年はボールを投げる。あっさりと、近くに居たヤヤコマは収まり、ボールが地面に落ちる。ヤヤコマが出てくる気配は無い。捕獲成功だ

 「凄い……」

 「これくらい出来て当然だろ?」

 「いや、おれは全然出来ないよ。凄い」

 少年は……アズマの一つか二つ下だろうか。12歳程に見える

 「へっへーん!凄いだろ!何たってオレサマは、あのセレナさんと同じアサメタウン出身で、ハクダンジムのジムリーダーすら倒したサイキョートレーナーなんだからな!」

 「凄いな、それは」

 ジムリーダー、それはカロス地方にも幾つか……確か20個くらいあるリーグ公認のバトル施設、ポケモンジムの……文字通りリーダーだ。各ジムのジムリーダーにポケモンバトルで勝つ事によってジムバッジが貰え、それを8つ集める事で年に一度のバトルの祭典、ポケモンリーグに出場出来る。リーダーを倒したというのは、バッジを手にしたということ。有望なトレーナーの証とも言える

 一方アズマはといえば、昔父に連れられてシャラシティに行った際、執事からポケモンを借り、挑戦しはしたのだが……不思議なルカリオに一方的に良いようにされて負けた記憶しかない

 他のジムもそのような感じならば……間違いなく、強い

 「へっ!見せてやるよ、ダッセー兄ちゃん!」

 「アズマだ」

 ヒトツキが揺れる。カシャカシャと、鞘からわずかに刀身を抜いては納める。やる気十分という合図であり、挑発

 「未来のチャンピオン、ショウブ様の実力をな!」

 

 ーポケモントレーナーのショウブが、勝負を仕掛けてきた!ー

 「ギル!」

 アズマの声に、ヒトツキが飛び出す

 一方、少年は……

 「いくぜ、ゲコガシラ!」



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vsゲコガシラ

「いくぜ、ゲコガシラ!」

 少年……ショウブのその言葉と共に、モンスターボールから、泡を首に巻いたポケモンが飛び出した。あわがえるポケモンのゲコガシラだ

 ゲコガシラ……確か、初心者用ポケモンの一匹、ケロマツの進化系。それが意味する事は、進化したポケモンを使う程の実力者。バッジを持っているというのも、嘘ではないのだろう

 

 「ギル、『つるぎのまい』!」

 アズマの指示は何時もの一手。進化したポケモン相手に、素の攻撃では火力に欠けるだろうという判断

 「ゲコガシラ!『えんまく』だ!」

 一方相手も、直ぐには仕掛けてこない

 ゲコガシラが何処かから煙幕を張って姿を隠す。忍者みたいな行動だ

 だが、動きを隠せるというのは利点でもある。次の動きがバレないし、此方の攻撃もかわしやすくなる

 

 「良い判断だ、もう一度『つるぎのまい』!」

 アズマの指示に従い、ヒトツキが鞘と刀身を擦り合わせ火花を散らす。特殊な力を使って自身の刀身を研ぎ、一時的に切れ味を上げる。それが剣の舞攻撃ではないが、研いだ剣の切れ味は、普段を大きく越える

 「ゲコガシラ!『でんこうせっか』だ!」

 一方、少年の指示は……無意味なものだった

 

 「なっ!?」

 電光石火、煙幕から飛び出したゲコガシラがヒトツキの隙を付き、急襲する

 ……も、その一撃はヒトツキの体をすり抜け、後方に着々する

 僅かな動揺。ゲコガシラが、煙幕から出た状態で硬直する

 「その隙を付け、『おいうち』!」

 ヒトツキの刀身が、動きの止まったゲコガシラの喉に激突した

 

 「何が……」

 少年は混乱している

 「ちょっとショウブ!ヒトツキはゴーストタイプよ!」

 横から、そんな声がした

 見ると、少年と同い年くらいの、フォッコを連れた少女が居た。アサメタウンの住人がポケモンバトルを見かけて寄ってきたのだろうか

 「な、何だって!」

 少年が驚愕する

 確かにアサメタウン周辺では見かけないポケモンだ、単はがねタイプか何かと勘違いしていても可笑しくはない

 「ギル……ヒトツキは、はがね/ゴーストタイプだ。知らなかったとはいえ、残念だったな!更に『おいうち』!」

 更にヒトツキの追い討ちがゲコガシラに突き刺さる

 いや、激突したゲコガシラの姿が泡になってほどけた

 

 水分身。『ゲッコウガvsアギルダー、夜の忍者大決戦』等の映画でゲッコウガが使っているのを見たことがある。まさか煙幕の中で用意していたとは驚いたが

 「いよっしゃ!ゲコガシラ!ケロムースだ!」

 「ギル、『まもる』!」

 煙幕から今度こそ飛び出したゲコガシラが、首に巻いた泡を投げる 

 だが、殆どの技を受け止める『まもる』の防壁には……

 阻まれず、ヒトツキを地面に拘束した

 「……そうか。ケロムース自体は技じゃない」

 ならば、これはアズマのミス。受けるのではなく回避しなければならなかったのだ

 

 『ゲコッ!』

 得意気にゲコガシラが鳴く

 「ギル、動けるか」

 聞くも、ヒトツキは動かない。ムースで拘束され鞘に入った姿のまま動けない

 「決めるぞ、ゲコガシラ!」

 「ならば、『かげうち』!」

 「動けないのに無駄な事を!『みずのはどう』!」

 ゲコガシラが、口から数条の水のリングを打ち出す。水のタイプの技、『みずのはどう』だ。ムースに拘束され、地面から動けなくなったヒトツキに回避出来るはずもなく、波動は激突する

 「かんっぺき!」

 『ゲコゲコッ!』

 勝ち誇るように、ゲコガシラが腕を組み

 影に腹を打たれ、崩れ落ちた

 「ゲコガシラ!」

 「忘れているな。『かげうち』は影を操る技。動けなかろうが関係ない!」

 ゆらゆらと、ヒトツキが浮かび上がる

 ケロムースをみずのはどうにより洗い流され、動けるようになったのだ

 「ゲコガシラ!立て!」

 「頑張って、ゲコガシラ!」

 少年と少女がゲコガシラを応援する

 一撃で倒せるかは微妙な所

 「ケロムースで攻撃を鈍らせたはずなのに……」

 ヒトツキが自慢気に揺れる

 「鞘に入ってやり過ごした。刀身はムースに触っていないので問題ない」

 「くっ!ゲコガシラ!」

 騒ごうが、ゲコガシラは倒れたままだ。恐らく、戦闘不能

 「負けられない。こんな所で……こんな……所で!一緒にチャンピオンになるんだろう、ゲコガシラ!」

 「そうよ、立って、ゲコガシラ!」

 「無駄だ、流石に戦闘ふの……」

 ゲコガシラの目が開いた

 

 水辺でもないだろうに、と言いたくなる程の水がゲコガシラを覆う

 『ゲ、ゲコッ!』

 全身に水を纏い、ゲコガシラが立ち上がる。激流……危機的状況であればこそ沸き上がる力

 「この……力は!」

 少年とゲコガシラが此方を見据える。その手に、纏った水により、巨大な水の手裏剣が形成されてゆく

 「いくぞ!」

 「『かげうち』!」

 だが、その影からの一撃は纏った水に弾かれる

 「『みずしゅりけん』!」

 『ゲェェェッ、コォォォ!』

 トレーナーとシンクロするように、天に掲げた手から、大振りの投擲

 巨大な3つの手裏剣は、其々が別の軌道を描き、ヒトツキに激突した

 

 『ゲコッ!』

 今度こそ、勝ったなとばかりにゲコガシラが腕組みを決める

 「有り難うギル、よく頑張ったな」

 3つの手裏剣を受けたヒトツキは、流石に浮き上がれず、倒れていた。確認するまでもない。戦闘不能だ

 『ゲ……コ』

 激流で限界を超えていたのか、腕組みのまま、ゲコガシラも倒れる

 だが、先に倒れたのはヒトツキ。そしてアズマには他のポケモンが居ないが、少年には少なくともさっき捕まえたヤヤコマが居る

 つまりは

 「負けました。言ってた通り、強いな、君」

 そういう事だった




ギル(ヒトツキ)♂ Lv:22

おや アズマ
とくせい ノーガード
もちもの なし

わざ つるぎのまい/まもる/おいうち/かげうち(/せいなるつるぎ)

ゆうかんなせいかく
Lv15のときに、ナンテン屋敷地下で出会った
うたれづよい


ゲコガシラ♂ Lv19

おや ショウブ
とくせい げきりゅう
もちもの なし

わざ
えんまく/あわ/みずのはどう/でんこうせっか
(ケロムース/みずしゅりけん)

がんばりやなせいかく
Lv5のときに、プラターヌ博士から贈られた
正義感が強い


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アサメタウンへ

「負けました。言ってた通り、強いな、君」

 大人しく、アズマはそう言った

 

 結局、アズマのポケモンはヒトツキ一体。野生は捕まらなかったし、10歳の時に貰ったフォッコはあまりにも嫌がり、触ろうとするとひのこを吐くので博士に返したし、老執事のポケモンはまたあのポケモンが来たときに少しでも屋敷を守れるようにと、付いてきたそうな素振りはあったが借りては来なかった

 つまり、ヒトツキが倒れた時点で負けなのだ。自分が戦う……なんて言うのも駄目だし、それはどうしようもない

 「有り難う、ギル」

 ボールにヒトツキを戻す。あまりボールに入るのは好きではないようだが、出しておくよりは多分良い

 

 「……ダッセー兄ちゃん、マジで他のポケモン持ってないの?」

 「持ってない。あと、アズマだ」

 「マジでダッセーな!これはもうダッセー兄ちゃんだろ!」

 「ちょっとショウブ、流石に失礼じゃない?」

 「そんなこと言ってもよ、ユリ。普通にだせーじゃん」

 「いやまあ、ポケモン一匹ってちょっと……だけど」

 少女は言い淀む

 実際、アズマ自身、ここまでポケモンに嫌われるというのは、トレーナーとしてどうかとは思っている。だから、10歳の時には一度逃げ、屋敷に閉じ籠った

 けれど、今度はそうはいかない

 「良いよ。情けないのは事実だから。じゃあ、またな。何処かで会えたらまたバトルしてくれると嬉しい」

 アズマは、その場を去った

 

 「ギル、大丈夫か?」

 アサメタウンに入ってすぐの場所で、ボールの中に話しかける

 ボールがカタカタ揺れる。意識は戻ったようだ。だが、やはりバトル出来るほどに回復はしていないだろう

 「アサメにポケモンセンターあったかな……」

 周囲で良く見かけるポケモン等については屋敷にある本を読み込んだものの、ポケモンセンターの在処に関してはあまり読んでいなかった事に気が付く

 いざとなれば屋敷から持ってきた『げんきのかたまり』や各種薬もあるのだが、これからあの謎のポケモン……Zに関する手掛かりを探すためにカロス全土を旅する事になるかもしれないと考えると、あまり乱用する気にはなれない。薬に頼らず、ゆっくり休めるならば休んだ方が良いだろう

 

 「あら、見かけない顔ね。旅の人?」

 そんなアズマに、声をかける人がいた

 アズマが振り返ると、一人の女性が立っていた

 見覚えがある。雑誌で見たことが何度もある、その女性は……

 「サイホーンレーサーの、サキさん……」

 ゼルネアスと共にカロスを救った英雄、セレナの母であった

 

 「あっ、ファンの方?」

 「いえ、サイホーンレースはあまり。個人的にはその雑誌はトリマーの方々の提案するトリミアンの斬新なトリミング姿特集目当てで購読していたので。すみません

 ただ、母娘揃って有名人なので」

 「あら、そう。……トリミアン、好きなのね」

 「父が初めてゲットしたポケモンで、家族でしたから」

 「でした?」

 「一年前、死にました。看取ってやることも出来ずに」

 「……そう。ご免なさい、変な事聞いたわ」

 アズマは首を振る

 「いえ、何時までも沈んでても、あいつに吠えられる気がするんで。大丈夫です」

 

 「そういえば、サイホーンレーサーなんですよね」

 話題をそらすように、アズマは言葉を発する

 「サイホーン、良いわよ」

 「個人的には、もっと可愛くてふわふわしてる方が好きなので。トリミアンレースとかあったら、レーサー目指してたかもしれません」

 カタカタと、ボールが揺れる。ヒトツキは可愛い系ではないので、怒らせてしまっただろうか

 「あらあら。ところで、アサメには何の用なの?」

 「近くでバトルしたのですが、その際に疲れたポケモンを休ませられないかと思って」 

 「アサメには無いわね、ポケモンセンター」

 「そう、ですか」

 それは、そうかもしれないと思っていたこと。アサメタウンにポケモンセンターがある、と読んだ事はない

 「そういうことなら、上がっていきなさいな」

 「良いんですか?」

 「良いのよ」

 「有難う御座います」

 アズマは、願ってもない申し出に頭を下げた

 

 

 「はい、お茶。そっちのヒトツキちゃんには、きのみかしら」

 「はい、有難う御座います」

 10分後、アズマはサキの家に居た

 「そういえば、貴方……名前は?」

 オレンの実をかじり始めたヒトツキを横目に、サキが問う

 「アズマ……アズマ・ナンテンです」

 「ひょっとして、ナンテン博士の息子さん?」

 「はい。アサメから1時間位の屋敷に住んでる、あのナンテンです」

 「アズマくん、ナンテン博士といえば4年前の論文だけど……あれ、本当なの?」

 「『アクア団事件から見る超古代ポケモンの現在』ですか?。良く聞かれます

 父は信じているようです。発表の通り、グラードンはカイオーガと激突した3000年前にホウエン地方を離れていると。だからこそ、ゲンシカイオーガの復活があったにも関わらず、グラードンは覚醒しなかったと」

 サキは、一口茶を飲む

 「そうなの。そういえばアズマくん、セレナの写真見る?」

 「良いんですか?」

 アズマの横で、ヒトツキが鞘を鳴らす

 「ギルもファンなので、見せてもらっても?」

 「今やポケモンのファンまで居るのねあの子」

 立ち上がりながら、サキは呟く

 「なんたって、伝説のポケモン(ゼルネアス)と共にカロスを救った英雄にして、前年度リーグチャンピオンですからね、そりゃあ憧れます。カロスリーグのチケット取れなかったんで中継でしたけど、興奮しました」

 「凄かったわよー」

 「何時か、対戦出来ると良いんですけどね」

 「あら、アズマ君はリーグに挑戦するためにお屋敷出てきたんじゃないの?」

 本棚を探りながら、サキが問う

 「それが、謎のポケモンに襲われて……。そのポケモンを追う為に旅に出た、感じです。父さんも一年前から行方不明ですし、おれがやらないと」

 「……大変なのね、アズマくんも。セレナなんて、やりたいこと見つけるためにポケモンも旅に出てくる!って出ていったのにね」

 「そっちの方が良いですよ。おれも、出来ればそう旅に出たかったですし」

 大分回復したヒトツキが、鞘の先でツンツンと肩を突く。まるで、当時オレを連れてかなかったからだとでも言いたいように

 アズマは、宥めるようにそれを撫でる

 「……その旅の中でジムに挑戦するとか、良いんじゃない?」

 「……それも、そうですね」

 「ということで、セレナの写真よ!旅の途中で何度か送ってきたの」

 サキは持ってきたアルバムを広げる

 

 ……一枚目、グランダッチェス、セレナ様

 ドレスで着飾った金髪の少女と、それに寄り添うエーフィの写真。後ろにブリガロンが騎士のように映っている

 ……二枚目。マスタータワー、初めてのメガシンカ

 不思議な姿をしたルカリオが二体と、その横でポーズを決める二人の少女。左は確か……シャラジムのリーダー、コルニだったろうか。右のセレナは、コルニの真似か、ロングの髪を纏め、動きやすい服装をしている

 ……三枚目。カロスリーグ前夜

 カロスリーグに挑んだ時の写真。特集で良く見る、マイクロたけパーカーとプリーツスカートなセレナ。写っているポケモンは、今日ではクイズ問題にすらなっているメンバー。ゼルネアス、ガブリアス、ブリガロン、カメックス、ルカリオ、ファイアロー

 

 「有難う御座いました」

 暫くして、アズマはそう言った

 「どう?」

 「……優勝後の写真なんかは良く見るんですよね。けど、こういうのは見てなかったので……見れて嬉しかったです」

 「元気は、出た?」

 「はい。そろそろギルも元気になったようなので。有難う御座いました」

 お辞儀をする。アズマの横で、ヒトツキも刀身を90度傾け、お辞儀のような格好を取った

 

 アズマは、もう一度お礼を言って、サキの家を出た



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vsモノズ

「……君」

 サキの家を出た……所で、アズマは声をかけられた

 

 「この辺りの人じゃないね。泥棒?」

 「外から来て、ポケモンセンターが無いけれどポケモンを休ませたいと言ったら、少し休ませてくれただけです」

 声をかけてきた、黒い何かを抱え、帽子を目深に被った青年は、少しだけ考えるような素振りを見せ、頷く

 「嘘は言ってなさそうかな」

 「警戒されるのも解りますけどね」

 アサメタウンは、ポケモンセンターを必要としない程に、訪れる人は多くない閑静な町だ。見かけない人が有名人の家から出てきたら、多少は警戒されてもおかしくはない

 

 「外……か。ひょっとして、ナンテン屋敷の」

 「はい。息子のアズマです」

 「成程ね。昨日何かあったみたいだし、それかな」

 「はい」

 大人しく、アズマは頷く

 「……最近、赤スーツのフレア団、じゃないけれど、怪しい人達が居るようだし、それかな?」

 「いえ、ポケモンでした。それも、恐らくは野生の……黒くて、緑色の部分がある」

 「それは……こういうの?」

 青年は抱えていた何かを持ち上げる

 それは……

 「……小さいですけど、モノズ、ですか?」

 「そう。近くに倒れてたんだ」

 抱えられていたのは、そぼうポケモンのモノズであった。小さくて、首辺りから黒い毛に覆われた、小さな四足の竜の子。けれども、本来は青いはずの体が、全体的に緑色をしている

 確かに、緑と黒、色合いは似ている

 「いえ。もっとヘルガーに、似ていました」

 「ふぅん」

 「少なくとも、モノズ系統ではなかった。それは確かです」

 「……この辺りにモノズは生息していない。だからと思ったけど」

 「恐らくは別件です」

 「なら、手掛かりじゃないのか……」

 「手掛かり?」

 青年に訪ねてみる

 「怪しい人達が居るって言っただろ?

 追ってるその奴等が、狂暴なドラゴンポケモンを使うって目撃証言があって」

 狂暴なドラゴンポケモン。多くのドラゴンポケモンは狂暴ではある。ガブリアスやボーマンダといった、強いトレーナーがよく連れているドラゴンだって、狂暴なポケモンではあるのだ

 だが、狂暴ポケモンといえば、サザンドラ……モノズの進化系だ

 「恐らくは地面タイプです、そのポケモンは」

 「他に特徴は?」

 「突然、飛び散るように消えたんですけど……

 その前に、一瞬だけ、まるでZのような姿が見えたような、そんな気がしました」

 「Z……ジガルデ?」

 青年の言葉に、抱えられたモノズが、びくりとした……気がした

 

 「流石に無いんじゃないですか?」

 そう、アズマは答えた

 ジガルデ。一瞬だけ、その説を考えた事もあった、Zのポケモン

 ゼルネアスと同じくカロス地方の伝説に名前が登場するポケモンで、カロス地方の秩序を守ると言われている、長い体を持ったポケモンだ。その長い体を曲げた、佇む姿がZのように見えると言われるが、あの謎のポケモンと違って足があるなんて聞いたことはない。伝説にある外見と違いすぎる。あのポケモンはまだ、ジョウト地方に伝わる三体の伝説のポケモン、エンテイ、ライコウ、スイクンの近縁種だと言われた方が納得が行く

 「そう……かな。情報有り難う」

 青年が、頭を下げた

 深く被った帽子が少しズレる

 

 「……カルムさん?」

 「そういえば、名乗って無かったっけ」

 帽子の下から見えたのは、ある種の有名人の姿であった

 「オレはカルム」

 「去年の準決勝、セレナvsカルム、テレビで見ました。カッコ良かったです」

 セレナvsカルム。去年のカロスリーグ最大の見せ場とも言われたバトルだ。最終的にはセレナ勝利ながらも、競うようにカロス地方を巡ったという二人の決戦は、人々を熱くした

 「知ってたか」

 「有名人ですから。会えるとは思ってませんでしたけど」

 去年のリーグ後、彼はリーグ側にスカウトされたと聞いていた。アサメにもなかなか帰って来ないと

 「謎の集団関連ですか?」

 「リーグ関係だよ」

 カルムの視線が、町中の一点へ向く

 

 何らかの工事中らしい場所だ

 「あれは?」

 「ポケモンセンター予定地。必要になるってさ」

 「ひょっとして……ですけど。ジムですか?」

 「そう。有名になったから、アサメタウンにもジムを作る。その為にも戻ってきたんだ。この辺りにも、怪しい人達は居るらしいからってのもあるけど」

 「アサメジム……」

 「来期からアサメジム、ジムリーダーのカルムになる訳」

 「おめでとう御座います」

 「有り難う。それじゃあ」

 『モノッ!』

 別れようという所で、突然モノズが鳴く

 

 ポフッとボールが開き、ヒトツキが勝手に飛び出した

 「……ギル?」

 ぺしぺしと、ヒトツキが鞘で肩を叩く

 「すみません、カルムさん。少し……モノズを見せてもらっても?」

 「傷ついているし、怯えているけど」

 「……何か、感じるんで」

 「……まあ、良いけど」

 カルムがモノズを道路脇の地面に下ろす

 すぐに踞り、前足の中に頭を入れるようにして丸くなる

 確かに、何かに怯えているようだ。目測で0.5m。平均的なモノズが確か……0.8mとなかなか大きい事を考えれば、だいぶ未熟なのもあるのだろうか。全身には、細かいながらも傷がある

 

 「それは?」

 アズマが取り出した何かを見て、カルムが問う

 「オボンの実のお菓子です。木の実そのままよりは劣りますが、体力回復に良い効能は残ってます。薬は染みるので、やっぱりこの方が良いかなと」

 モノズの前に右手に載せたポロックを差し出す

 老執事が作ってくれた、コンディションを整える普通のポロックとは違う、日持ちさせる為に効能を残しつつ菓子状にした専用のもの

 僅かにモノズが顔を上げる

 やはり、このモノズにも、他の野生ポケモン同様嫌われるのだろうか

 そう思ったアズマだが、少しの間を置いて、モノズはポロックをかじり始めた

 

 『モノッ』

 食べ終わり、モノズの顔が、此方を見上げる

 目は隠れて見えないが、アズマの目を見ている

 「……何か、有ったんだな?」

 一応、言葉で聞いてみる

 

 幼いとはいえ、モノズはドラゴン。それなりに強いポケモンだ。この辺りの普通の野生ポケモンと喧嘩して……という傷ではないだろう。そもそも、モノズはこの辺りを生息地とはしていない。何らかの理由で旅している途中にはぐれたとかでなければ、近くに更に強い親がいたはずだ

 「怖いか?」

 聞いたが、聞くまでもない

 モノズの体は、今も僅かに震えている

 「おれと来たら、きっと沢山戦わなきゃいけない

 けれど、約束する。お前の怖がる何かも、きっと見つけ出す」

 ヒトツキが鞘に入った姿のまま、モノズの前に浮かぶ。何かを伝えるように

 「……来るか?」

 アズマは、左手でゴージャスボールを握り、モノズの前に差し出す

 あくまでも、自由意思。臆病な気がするモノズに、無理強いはしない

 ポケモンは、相手を認めるからこそボールに入るのだから

 

 モノズが、頭でボール中央のボタンを押す

 その体が、ボールに吸い込まれ、ボタンが僅かに赤く発光する

 一瞬後、カチリという音と共に、光が消えた

 「……これで良いんだよな、ギル?」

 満足げに、ヒトツキは自分からボールに戻っていった

 

 少しでも居心地良いようにと選んだ、ゴージャスボールを撫でる

 「これから宜しくな、モノズ」




モノズ Lv18♂☆

おや アズマ
とくせい
もちもの 緑色の何か

わざ ずつき/りゅうのいぶき/あくのはどう/だいちのちから

おくびょうなせいかく
Lv18のときに、アサメタウンで出会った
イタズラがすき


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vsオンバットバルーン

「この辺りで良いかな」

 一番道路から、少し離れた空き地で、そうアズマは呟いた

 「モノズ」

 ボールを投げると、一匹のポケモンが現れる。緑の体に、黒い毛。さっき、アズマと共に行く事を決めたモノズだ

 

 『モノ?』

 呼び出され、モノズは首を傾げる

 「まずは……名前を決めないとな」

 一瞬だけ悩むが、あまり悩む必要は無かった

 「強くてカッコいいサザンドラになるように、と願いを込めて……」

 「サザ、で良いか?」

 『モーノ、モノッ!』

 「よし、じゃあ……今日からお前はサザだ!」

 『ズーッ!』

 モノズの頭を撫でる

 隠れていて分からないが、嫌がる様子は無い。元々野生のポケモンだったとは思えない程に、アズマになついていた。保護者か何かとでも思われているのだろうか

 

 「んじゃ、サザ、少し待ってろよ……」

 アズマはバッグからそれなりの大きさの装置を取り出し、地面に置く

 暫くして、装置から光が漏れ始めた

 

 『ウェルカムトゥスパトレ!目指せ、パーフェクトポケモン!』

 更に待つこと1分ほど。完全に起動した装置……携帯スパトレマシーンが、そんな音を響かせた

 『ノッ?』

 「サザ、大丈夫大丈夫。怖くないぞ」

 ホログラフィックが空き地を埋め尽くし、簡易的なフィールドが形成される

 

 簡易スパトレマシーン。それなりの大きさの空き地さえあれば、旅先でもスパトレが出来る!ということでウワサの機械だ。そのポケモンに合わせたトレーニングで鍛えられるというスパトレに憧れて、ミアレシティまで出掛けた際に父に買って貰ったものだ。10歳の時は、結局使うポケモンを捕まえられなかったのだが、漸く使う意味が出てきた

 

 「ギル、少し実演を頼む」

 キンッと鞘と鍔をぶつけて金属音を鳴らし、ヒトツキが装置近くのホログラムサークルに入る

 

 『ビクトリー!イッツアパーフェクトポケモン!』

 そんな音声と共に、アズマの前に一つのホログラムが現れる。ガンバロメーター……つまり、そのポケモンの強さや、スパトレ等でどんな努力をしてきたか……を読み取り、数値化したものだ

 目の前には、ヒトツキのグラフが広がっている。勇敢で、体を張って誰かを守り、そして正面から勝つ、そんなポケモンでありたいという願いに合わせ、ひたすらに共にトレーニングしてうたれ強さ(体力)と、攻撃の鋭さを伸ばした、そんなグラフだ

 「じゃあ、乗ってみてくれ」

 アズマに言われるまま、モノズがホログラムサークルの中に入る

 広がったグラフは……、特に基本から変わっていないだろうグラフ。スパトレや、他の修行なんかはやっていないようだ

 炎を吐いたりという特殊な攻撃方法より、物理的な攻撃方法の方が得意なグラフ

 「サザ、お前は……どんなポケモンになりたい?」

 モノズは、火の粉を吐く真似をする

 「物理的な攻撃方法の方が得意そうだけど……」

 『モノッ!』

 「そうだな。相手に向かっていくの、怖いもんな。じゃあ、素早く逃げて、『りゅうのいぶき』とか撃てるような トレーニングのプランが良いかな……」

 考えながら、少しづつ、スパトレのプログラムを組んでいく

 

 「っと、完成」

 『モノ?』

 10分後、メニューが完成した

 「ギル、実演頼む」

 言われるまま、ヒトツキが赤いサークルに入る

 

 『スピードトレーニング!レベルワン!』

 音声と共に、専用のものにホログラムが置き換わってゆく。オンバットの姿をしたバルーン、そして赤いサークルを中心としたボックスへと

 

 「サザ、今からやって貰うのの実演だからな

 よーく見とけよ」

 オンバットバルーンから、ボールのようなものが発射される

 「あれを避けるんだ。ホログラムのボックスから出たらいけないし、当たっちゃダメだぞ」

 目の前では、ヒトツキがひょいひょいとボールを交わしてゆく。レベル1、決して素早くないヒトツキに合わせたものとはいえ、大分余裕が見える

 「あとは……」

 バルーンから、赤いボールが発射される

 それだけは、ボックスの後ろの壁に当たると、他のボールのように消える事無く、跳ね返ってボックス内に落ちる

 ヒトツキは、それを攻撃し、打ち返した

 「赤いボールだけは、残るからああやって打ち返すんだ」

 アズマが説明しているうちに、二発の赤いボールを受けたホログラムオンバットバルーンが消えていった

 「赤いボールを打ち返して、ダメージを与えていくとクリアだ」

 『モノッ!』

 意を決したように、モノズが赤いサークル……スパトレスタートの場所へと向かってゆく

 ヒトツキの布が、頑張れよとばかりにその頭を撫でた




隠しステータス
ギル(ヒトツキ)
31-31-31-12-30-0
ガンバロメーター HP252 攻撃252 特防6(パーフェクトポケモン)

サザ(モノズ)
31-6-30-31-24-31
ガンバロメーター 特攻12 素早さ60


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vsメレシー?

数日後。メイスイタウン、そして二番道路を抜け、アズマ達はハクダンシティへと繋がる森……ハクダンの森へと足を踏み入れた

 

 その道中に、変わったことは特に無い。モノズと通じたのだからひょっとして……とモノズと共にヤヤコマ捕獲にリベンジし、見事に連敗記録を30連敗まで伸ばした程度だ。一応モンスターボールはメイスイで60個ほど買い足しておいたが、足りる気はしない

 

 日差しが遮られる。繁った森故当然ではあるが、昼間だというのに薄暗い

 アズマの横で、ヒトツキがくるくるとスピンする

 ヒトツキは地下室で出会っただけあって、割と薄暗い場所を好む。暗がりが嬉しいのだろう。『かげうち』も、公式戦では基本ルールとして十分な光源がある事、とされて封じられる程に使いやすくなるし

 自分の影が周りと溶け込み、巨大な影となる。そんな暗がりでは『かげうち』や『ゴーストダイブ』の天下だ。炎タイプの技等で暗がりを消さないとまともに対応等出来はしない

 

 30分程進んだ所で気が付く

 いつの間にか、近くを浮遊しているはずのヒトツキの姿が見えない

 「ギル?」

 探す

 見つからない

 更に探す

 見つからない……いや、ヒトツキの手らしき布が、東の木々の合間に消えた気がした

 

 「ギル、何処だー」

 更に探す。森深く……人々が通るように最低限整理された道筋を離れ、深みへと

 所々、刀身であったり、鞘であったりと見えた……気はするのだが、どこまでも追い付けない

 

 暫くして、少し開けた場所に出た

 「ギル?」

 まだ、探す

 居なくなる訳はない。ヒトツキがそんなポケモンでない事は、アズマは良く知っている

 だが……

 『(な、何ですの!)』

 其処に居たのは、ヒトツキでは無く、喋るポケモンだった

 

 「……喋る、ポケモン……?」

 『(あっ!……)』

 『メレーメレー』

 改めて、誤魔化しの下手なそのポケモンを見る

 鳴き声は……ほうせきポケモン、メレシーに似ている。外見も、メレシーに似てはいる

 だが、しかし……メレシーはダイヤ部分がピンク色してはいないし、勿論人の言葉を喋りもしない

 「何か聞いたことあるんだよな……メレシー……ピンク……特殊な個体……」

 アズマは考えるも、答えは出ない

 可愛いポケモンだとは思ったが、会えるとは思っていなかった故にそこまで調べていないポケモンの一種

 何らかのお伽噺に出てくるポケモンだっただろうか

 

 一歩、近づく

 『(ひっ!ま、ま、負けま……せんわ……)』

 謎のポケモンは、明らかに怯えた姿を見せる

 ひょっとしてだが、他のポケモンも、喋ることが出来たならばこんな事を言うのだろうか

 (理由は分からないが、おれを見ただけでここまで怯えられると……)

 ポケモンが捕まらない理由が、分かった気がした。ここまで怯える相手に捕まるなんて、認める訳がない

 

 思考を切り上げ、改めてポケモンを見る

 細かい傷が、体のあちこちに見えた。ポケモンバトルで付いた疵……だろうか。とりあえず珍しいポケモンというのは見たら分かる。弱らせて捕らえようとする人は居ても可笑しくない。というか普通に沢山居るだろう

 だが、捕まること無く逃げてきたならば、こうなっても可笑しくない

 

 更に一歩、近付く

 怯えるが、逃げない。ということは、恐らくは、逃げられない

 傷が見た以上に深かったりするのだろうか。野生のポケモンは、自分で野生のオレンの実等を取って傷ついた体を休めていると聞いたことがあるが、この辺りには生えていないし

 

 オレンポロックを一つ取りだし、ポケモンに投げる

 ポケモンはそれを受け、口を近付けて……

 『(……はっ。餌、餌付けなんて、されませんわ!わたくし、誇り高いんですの)』

 「……傷は治るぞ」

 『(……こんな程度かすり傷ですわ。施しなんて)』

 謎のポケモンが、目をぱちくりさせる

 『(ひょっとして、聞こえてるんですの?)』

 「……喋ってないつもりだったのか……」

 『(テレパシーですわ)』

 テレパシー。一部のポケモンが稀に持っているという特性だ。他のポケモンと鳴き声等によらず意志疎通し、全体攻撃等を巧みに当たらない位置取りで回避する……事が上手い、というものだったはずだ

 (まさかおれ、ポケモンからポケモン扱いでもされてるのか……)

 『(ポケモンじゃないんですの?)』

 「人間なんだが」

 『(信じませんわ!)』

 「何でだよ……」

 『(そんな黒くて怖いオーラを纏った人間なんて居ませんわ)』

 「……は?」

 オーラ、とこのポケモンはテレパシーしたのか?

 アズマに、そんな自覚は無い

 だが、ちょっと……アズマが居るだけで悪タイプの技の威力が少し何時もより強いとか何とか他のトレーナーになった子供達が言ってるのを聞いたことがあるような無いような……

 「いや、そういうんじゃなくて……」

 とりあえず、アズマは弁明に走る

 ポケモンが喋れたら意志疎通も楽だと思っていたし、大体分かるとはいえヒトツキが喋ってくれたらな……という心はアズマにもあった

 だが、実際に会話(テレパシー)してみると、案外噛み合わない

 

 「ディアンシーみーっけ」

 其処に、そんな声が響き渡った

 

 ディアンシー……。そうか、ディアンシーだったか

 アズマは一人納得する

 ほうせきポケモン、ディアンシー。極稀に産まれてくるというメレシーの王族。ピンク色のダイヤモンドを産み出すという、貴重な突然変異種だ。当然ながら、目撃報告があるとハンターが一斉に捕獲を目指す程の希少種であり、幻とされるレベルで目撃情報は少ない

 

 声の方に向き直る。草を掻き分けて、二人の男がやって来た

 服装は……何だろうか、Xのエンブレムを付けたジャケット?を羽織っている、それが共通点であった

 

 「んー?そこの少年、邪魔です」

 右の男が、アズマに向けて言い放つ。ジャケット以外はきっちりと白衣を着込んでいる。科学者か何かだろうか

 「先に見つけてたのはおれだし、優先権おれにない?」

 「無いぜぇ少年!」

 返すのは、左の男。上半身裸の筋肉であり、右の男との共通点はジャケットだけだ

 「それは酷いな」

 「邪魔だってんだよ!」

 突き飛ばされる

 

 だが、倒れることはない。倒れかけたアズマの手を、布の手が掴み支える

 何時しか、ヒトツキがアズマの横まで戻ってきていた

 「……ギル……」

 

 「さあ、ディアンシー。此方に……」

 『(怖く無いですわ怖く無いですわ怖く無いですわ……)』

 科学者風の男が、モンスターボールを取り出す

 そこから現れるのは、一匹のポケモン……ズバット

 怯えているのが、見てとれる。おれに対しても相当だったが、それ以上

 ……自分でもよか分からない謎のオーラ持ちよりも怯えられるとは、何なんだろうこいつらは

 

 「……サザ!」

 アズマも、モノズをボールから出す

 交戦の構え

 

 「ええい、我らラ・ヴィ団の邪魔を!」

 「痛くしなきゃ分かんないのかよ少年!」

 「知るか!怯えてるだろうが!」

 

 「ズルッグ、潰せ!」

 「ズバット、分からせてあげなさい!」

 「ギル、サザ、行くぞ!」

 

 ーラ・ヴィ団のしたっぱ達が、勝負を仕掛けてきた!ー



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vs謎のジャケット

「ギル、任せた!」

 最初の指示は曖昧

 だが、これで良い。此方の勝利条件は怯えるディアンシーを守る事。勿論アズマだってバトルに負ける気はないが、気を取られている間に高性能なボールで無理矢理な捕獲をされるのが最悪の負け方だ。ヒトツキはその想いを汲み、しっかりと守ってくれるだろう

 ボールの持ち逃げにだけは気を付けつつ自身が捕獲してしまうのが一番楽……なのだが、それでは謎ジャケット達と何ら変わらない。寧ろ保護の名目で騙す分更に悪辣かもしれない

 

 「ズバット、『あやしいひかり』を!」

 「ズルッグ、潰せ!」

 「サザ、まずはよけろ!」

 指示はまちまち。科学者風のジャケットは搦め手を、筋肉は直接的な突破を、それぞれ行うようだ

 

 それに対し、アズマの行動は様子見。あくまでも最初は出方を見る。幾らヤヤコマとは何度も戦闘したとはいえ、本格的なバトルを繰り返しての信頼関係は、まだアズマとモノズの間には無いのだから

 

 横目でヒトツキを確認する

 指示通り、ディアンシーを護るようにその眼前に浮かんでいる。剣と盾のギルガルドであれば、王女を守る騎士っぽくてさぞ絵になっただろう。心配はいらない。きっと何時ものように守らなくても良いスキに『つるぎのまい』を行い、勝利への布石を用意していてくれるだろう

 

 一方、モノズ側は……

 ズバットの口から放出されたふわふわとした光がモノズの顔の前でくるくると回る

 その後ろから、ズルッグが頭を前にしてロケットのように飛び掛かった

 恐らくは、『ずつき』

 「右!」

 アズマの声に合わせ、モノズがしっかり右へと跳躍し、頭突きをかわす

 目が悪いモノズには、『あやしいひかり』の効きは悪いのだ

 勢い余ったズルッグは、そのまま近くの木へと激突した。幾ら頭突きとはいえ、多少のダメージは追うだろう

 「『りゅうのいぶき』!」

 そうして、反動で動きが止まる。相手に当てたならば兎も角、木に当たっての硬直は明確な隙になる

 ならば、そこを狙わない手はない

 モノズの口から、息吹が吹き出す。それは一直線にズルッグを狙った

 だが、ズルッグとて頭突きを行う程の石頭。直ぐに立ち直り、避けようとする

 そこを、影から飛び出した剣が叩き下ろし、その場に押し留めた

 「ギル、ナイスフォロー」

 『かげうち』だ。全体的に木々の薄暗い影の中、離れた場所からであっても奇襲は容易

 頭を打たれ、回避がままならなかったズルッグは、そのまままともに息吹を受けた

 

 木に再び、今度は背から激突したズルッグは、だがしかし立ち上がろうとする。まだ戦闘不能ではない

 だが、その身が痺れたように硬直する。『りゅうのいぶき』の追加効果、麻痺だ。息吹に含まれるドラゴンのエネルギーが、たまに相手の体を痺れさせる

 

 ある程度ズルッグは無力化した。ならば、アズマの次の一手は

 「ズバット。トレーナーに『あやしいひかり』!」

 「ズルッグ、少年から潰せ!」

 淡い光が視界をぐるぐるしたかと思うと、世界が4つに分裂した

 いや、アズマの目にそう見えるだけだ。世界はどうもなっていない。だが、アズマの目には、四分割された世界しか映らない

 左上の視界では、ズルッグとズバットは右の方に居る。が、他の視界では違う

 どれかは恐らく本来の景色。だが、それがどこであるか分からなければ頓珍漢な指示になるだろう

 「サザ、ズバットに『だいちのちか……」

 言いかけて、止まる

 

 バカだろうか。羽ばたいて飛んでいるズバットに対し、地面のエネルギーを吹き出させる『だいちのちから』が当たる訳もない。隙を晒させるだけの悪手の極みだ

 やはり、混乱しているようだ

 と思った所で、足に強い衝撃を受けた

 

 思わずアズマは足を押さえしゃがみこむ

 痛みで混乱が解け、視界がクリアになる

 ズルッグに足を蹴られたのだ。恐らくは『ローキック』。痛みを我慢すれば歩けない程の怪我ではないが、内出血は、しているだろう

 筋肉の男が、近付いているのが見える

 だが、痛む足では避けられ……

 

 木が、アズマとズルッグ、そして男を分断した

 ヒトツキだ。木を斬り倒して障害を作ってくれたのだろう。更には

 「サザ、木の上から『あくのはどう』!」

 倒れた木により高さを稼げば、飛行しているズバット相手にも、当てやすくなる!

 「『ローキック』だ!木を砕け!」

 「『きゅうけつ』で迎え撃つのです!」

 だが、そこまで上手く事は運ばない

 相手だって当然ながら対応してくる

 

 そう。けれどもそれで良い

 最初の攻防で大体の地力は確認した。流石はサザンドラになるポケモンといった所か、モノズの力はズバット達をそれなりに上回る。ヒトツキについては言わずもがな

 つまりは、此方の指示ミスさえなければ順当に勝てる相手ということ

 

 モノズの口から、黒い波動が溢れ出す。『あくのはどう』、悪タイプが得意とする、悪タイプのエネルギーをぶつける技だ

 迎え撃つ用にズバットが迫る。体勢を崩そうと、ズルッグもまた

 「サザ、目標ズルッグ!」

 放たれる瞬間、突如として更に波動が膨れ上がる

 モノズの頭よりも大きくなった悪のエネルギーは、そのまま痺れて動きの鈍いズルッグを飲み込んだ

 下方向へ発射した反動でモノズも浮かび上がり、その下を空しくズバット が牙を立てようとして通りすぎる

 「ギル、『かげうち』でズバットを」

 

 カンッと軽い音がして、此方へモンスターボールが飛ばされてきた

 恐らくは、科学者風の男が投げたものを弾いたのだろう。ヒトツキはしっかりとディアンシーを保護してくれているようだ

 だが、逆に言えば別の行動をしなければならないということ。ズバットとズルッグは、アズマとモノズに任されたという事にもなる

 

 「ならば!」

 波動が止まった時、ズルッグは地に倒れていた。完全に、戦闘不能

 「トレーナーを倒せば終わりです!『あやしいひかり』からの『きゅうけつ』!」

 モノズに避けられ、アズマ近くまで来ていたズバットの口から三度光が放たれる

 

 再度、アズマの視界が分裂した

 「がっ!」

 混乱の隙に首を何かに捕まれ、持ち上げられる

 恐らくは、筋肉の方。いつのまにか、木を乗り越えて来たのだろう

 更に首筋に痛みが走り、頭に霧がかかっていく

 ヒトツキに生命エネルギーを吸わせた時と似た感覚。吸血されているのだろうと当たりは付くが、視界が狂っていて確認出来ない

 

 「ギル、サザ……撃つな!」

 咄嗟にアズマの口から出たのは、そんな言葉であった

 最悪、トレーナーを殺すか気絶させてしまえば、ポケモンは無力化出来る。それは間違いではない。倒したトレーナーからモンスターボールを奪って閉じ込めてしまえば良いのだから

 だが、それでも、そこまでの事を、アズマはしたくなかったし、ポケモン達にもさせたくなかったのだ

 そんなことは、悪の組織のやる事なのだから

 

 「捕まえたぜ少年」



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vsジャケット、後編

「捕まえたぜ少年」

 アズマの首を掴み、筋肉ジャケットはそう勝利宣言した

 

 トレーナーを抑えられ、ヒトツキ達の動きが止まる

 「おっと、動くなよポケモン達。動けば少年の首がポキッと行くぜ」

 ……苦しい。痛い

 だけれども、大丈夫だ。耐えられない痛みじゃない。喉は苦しいけれども、そんなの……昔咳していた時とあまり変わらない

 苦しみならば、アズマは大分慣れている。それは自慢する事では、確かに無いけれども、意味の無い事でも、勿論無い。少なくとも、怪しい光で頭が混乱するよりも、痛みで冴えている方が、耐えられる痛みである限りは何でもやり易いのだから

 

 「ギル……良い、逃げろ!」

 出す指示は逃走。勝利条件はこのジャケット達をポケモンバトルで倒すことなんかじゃないのだそもそも。ディアンシーを、その力を悪用するだろう者達から護ること。ならば、逃げるが勝ちという事も十分にある

 いくら何でも、ディアンシーを見失ってしまえばそこまで酷いことにはならないだろうし

 そんな甘いことを、アズマは考えていた

 

 『(大丈夫なんですの?)』

 頭に響くのはテレパシー

 「良いから行け!」

 そう、アズマは叫ぶが……

 「おっと、幾ら少年を傷付ければ逃げたポケモンが出てくるのかやる気か、少年?」

 ズバットの牙が、アズマの頬を浅く傷付けた

 ヒトツキは動かない

 「……捕らえたら、ディアンシーをどうする気だ……」

 「ディアンシーはゼルネアスに出会う為に、地上に現れると言われています」

 答えたのは、科学者風の方であった

 「ディアンシーには、我等の悲願、ゼルネアスの為のレーダーとなって貰うのですよ」

 『(嫌ですわ!)』

 ディアンシーの声が脳内に響く

 ……当然だ。恐らく彼等は何らかの理由で伝説のポケモン、ゼルネアスを得ようとしている。ゼルネアスに対して何をするか分からないというのに、ゼルネアスの元まで彼等を案内するという悪事の片棒を担ぎたいポケモンなんて居ないだろう

 普通ならば、従うわけもない。トレーナーとして認めないから、ボールにだってそうそう入らない。……ポケモン側から出られるように出来ていないというマスターボールでも無い限り

 ……だが、警戒に越したことは無い。ボール工場が悪の組織(フレア団)に占拠された事だってあるのだ。その際に本来はとうしようも無く暴れるポケモンを保護する為のボールであるマスターボールが何個か奪われたという。そのうちの一個、彼等が持っていない保証はない。ホウエン地方でカイオーガがゲンシの力を取り戻した騒動の際にそれを保護し鎮めたのも、アクア団の秘密基地の倉庫に保管されていたという、元々はホウエンの工場から奪われたマスターボールだったはずなのだし

 「従わなければ?」

 「従わせるまでです。幾らでも方法はあるので、ね」

 ズバットの牙が、アズマの首筋を軽く刺した

 

 ……甘かったのは、此方か

 アズマはすこしずつ薄れ行く意識の中で考える

 悪の組織と、報告書で書かれるような存在を甘く見ていた。人間に対しては、そうそう非道な事はしないと、勝手にその良心に期待していた

 ……そんな事は、あるわけがないのに

 

 そんな良心を持つならば、人間を非道な扱いが出来ないならば、どうしてポケモンという人間の大切な友達に対して、実験体や無理矢理の発電装置扱い等という非道が出来るだろう。ポケモンと違って人間は自分に似ているから無理?そんな虫の良い考えを持つ者ばかりでは有り得ない

 

 ……どくん

 心臓が跳ねる

 ならば、そう

 ……止めなければ。その野望を……破壊、しなければ

 

 「何をやっているのです!」

 「んなっ!」

 ジャケット達がざわめく

 

 どうしてか、筋肉の方のジャケットは、アズマの首を離していて、手を引っ込めていた

 『(ひっ!)』

 ディアンシーの怯える声が響く

 

 ……酷いな。助けようとしたのに

 そんな、少しらしくない事をアズマは考え……

 「サザ、『あくのはどう』」

 冷静に、指令を出す

 

 『モノッ!』

 指令を受け、モノズの口に黒い悪のオーラが集まっていく

 ……明らかに大きい。モノズが撃てる限界を大きく越えている

 「なんだってんだ!」

 『モォォッ、ノォォォッ!』

 放たれた波動は、モノズ自身すら越える大きさとなって、地上のズルッグ……そして、空のズバットすらも巻き込んだ

 

 「……まだ、やるか?」

 「くっ。何をしたかは知りませんが、そのオーラ……

 どうやら、切り札を隠していたようですね。見誤りましたか」

 木に叩き付けられ、ぐったりとしたズバットをボールに戻しながら、科学者風のジャケットは呟く

 

 「一度引きますよ」

 「ずっと引いておけ」

 「んな訳にはいかねぇんだ、またな、少年」

 言うと、そそくさとジャケット達は逃げていった

 流石は大人。まだ成長期のアズマが追いかけて、間に合う速度ではない

 

 「けほっ、ギル、サザ、お疲れ様」

 軽く咳をして、アズマは友達(ポケモン)を労った



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vs?ディアンシー

「大丈夫か?」

 少し落ち着き、アズマは近くで今も震えているポケモン……ディアンシーに声をかけた

 『っ!メレー』

 「……普通に話してくれないか?」

 『(けど、怖いんですの)』

 「……そんなにか?」 

 少なくとも、少しは信頼してくれないのか、とアズマは思った。だが、意に反し、コクコクとディアンシーは頷く

 『モノッ!』

 肯定するように、モノズも鳴く

 更には、当たり前だろう?とばかりにヒトツキまでもがくるくると回った

 

 「……そうだったのか……」

 アズマは、肩を落とす

 『(一度襲われていなければ、あの方達の元に逃げ込もうと思う程でしたわ)』

 「そんなにかよ!」

 『(普通のポケモンならば、勇敢にも挑むか、それとも逃げ出すかしますわ)』

 「酷くないか……」

 『(捕まったらいっかんの終わりとしか思えませんわ)』

 「……そりゃ、ヤヤコマが捕まらない訳だ……」

 はぁ、とアズマは息を吐く

 この話を聞く限り、まともにポケモンを捕獲するのは無理そうだ。ポケモン図鑑を手に入れて完成させる……というのにも憧れた事はあるが、捕まらなければ恐らくどうしようもない

 全種にマスターボールでも投げれれば兎も角、そこまで捕まりたくないと思われてしまえば、どれだけのボールを投げようともポケモンは普通のボールからは出ていってしまうだろう

 『(そんなに落ち込まれると……)』

 「いや、大丈夫だ」

 『モノッ!』

 励ますように、モノズが鳴いた

 

 10分後、モノズを通してディアンシーにポロックを渡し、アズマ達は歩き出した

 目指すは、ハクダンの森を抜けた先、ハクダンシティ。そしてそこにある、ハクダンシティジムだ

 考えてみれば、ジムバッジが多いというのはそれはそれで有利になる。一部の場所はその危険性故に封鎖されていたりするのだが、多くのジムバッジを持った優秀なトレーナーであれば、その実力を認めて通してくれたりもするのだから、あの謎のポケモンについて追うにしても、バッジを集める事に意味は十分あるのだ。父だって、調査で各所を飛び回る際に、実力の証明として6つ程のバッジを得ていたはずだ

 ……それに何より、アズマ自身が挑戦してみたいのだ。ポケモンジム、そしてその先に待つポケモンリーグに

 

 『(何で、そんなオーラを持っているんですの?)』

 後ろを付いてきたディアンシーが、そうテレパシーする

 ……結局、ディアンシーの捕獲はしないと決めた。捕獲した方があのジャケット達相手には安全ではあるかもしれないが、本ポケモンがアズマに対して怯えるのに、無理にという気は起きなかったのだ

 「分からない。ただ、昔はそんな事無かったはずなんだけどな」

 『(いつ、怯えられるようになったんですの?)』

 「死にかけてから。こいつと……」

 とん、と出したままのヒトツキに触れる

 「ギルと出会ったあの日から」

 『(死にかけ……その日に、何があったんですの……)』

 その問いに、僅かにアズマは考えを巡らせる

 

 そう、確かあの日は……

 「家の地下にあるオブジェの欠片を、飲みこんだ……気がする」

 ふと思い出したのは、ずっと忘れていたそんな事。万病に効くと言われつつも、痛みを伴うからと服用禁止されていたはずの、……父が代々護ってきたと言っていたオブジェの事

 覚えていたのは、熱でぼんやりする頭で、地下室に現れたヒトツキに誘われ……

 そして、生命力を吸いとられた事くらいだ。そうして、アズマは何日か生死の境をさ迷った

 だがしかし、ヒトツキは病の活力も同時に吸いとっていたようで、熱が引くと今までが嘘のように、アズマの体は健康的になったのだ

 その印象があまりにも強くて、ずっと忘れていた

 

 思い出したのは何故だろう。あのオブジェが桃色の水晶が使われていて、ディアンシーのダイヤに似た色だったから……だろうか

 

 そう、恐らくあの時から、アズマは怯えられるようになったのだ。長らく接してきたトリミアンや執事のポケモン達は今更態度を変えることは無く、結果として10歳まで気付くことはなかったのだろうが、理由がもしもあるとすればそれ

 

 『(オブジェ、ですの?)』

 「そう。自分は3000年前の王族の子孫だって強く自負してた父さんが、このオブジェの守護こそが、このナンテン家の使命だって言っていたオブジェ

 どんな病も治るけれどもとても痛い、そんな漢方の凄い版みたいなものだって」

 『(……そんなものがあるんですの)』

 「家に伝わるお伽噺が本当かどうかは、知らないけどさ

 

 ……見に行きたいか?」

 『(恐らく、ゼルネアスとは関係ありませんもの。別に良いですわ)』

 「じゃあ、ゼルネアスを何で探しているんだ?」

 ディアンシーは黙りこくる。その歩みも止まる

 合わせるように、一度アズマも立ち止まった

 

 『(メレシー達多くのポケモンは地下に一つの国を作ってるんですの。それが)』

 「ダイヤモンド王国」

 そう、アズマも思い出していた。幻のディアンシーを題材とした絵本、ダイヤモンドのお姫さまの事を

 

 『(王国ではあまりません、鉱国ですわ。ですが、一年前……未曾有の事故が起こって、鉱国を支える聖なるダイヤが砕けてしまったのですの)』

 ……未曾有の事故

 アズマも、それを知っている。あのセレナさんによって防がれたとされる、フレア団の最大の悪業

 ……最終兵器の起動未遂

 未遂とはいえ、放たれかかった最終兵器のエネルギーは多くの傷跡をカロスに残した

 大切なダイヤモンドが砕けるくらい、十分有り得ることだろう

 

 『(聖なるダイヤを作れるのは、ゼルネアスのフェアリーオーラを受けた王族だけですの

 聖なるダイヤが壊れたままでは、鉱国はダイヤのエネルギーを失って衰退してしまいますわ)』

 「だから、ゼルネアスを探すのか……」

 そう、絵本ではお姫さまが一人前になるにはゼルネアスのフェアリーオーラを受けて特別なダイヤを作れるようになる必要があるとかいう理由になっていたが、ディアンシーの言葉は絵本と似たような感じだった

 

 「暫く、一緒に来るか?」

 暫くして、アズマはそう問う

 アズマが追う謎のポケモン。もしかしたら、というのは一つあるのだ。それはアーボック等に近い姿とされ、あのヘルガーみたいな姿とは似ていないけれども、あのカルムさんも言っていたしひょっとしたら、というもの

 カロス伝説で僅かに語られる……Z、ジガルデ

 他に手掛かりは無いのだから、賭けてみても良いかもしれない可能性

 

 ならば、それを追う中で、きっと伝説にある他のポケモン……即ち、ゼルネアスとイベルタルに関しても調べることになるだろうから

 

 『(……怖い、ですけど信頼は出来そうですわね)』

 ぴょん、と少し急ぎ、ディアンシーがアズマの前に出てくる

 

 『(……ゼルネアスを見つける旅の間、わたくしのナイトになりませんこと?)』

 小さな手を一杯に伸ばし、ディアンシーはそう言った

 

 ヒトツキが、アズマの手に布を絡め、自身を握らせる

 ……その意図は、アズマにとってはとても分かりやすい事

 

 「ええ、姫。喜んで」

 ならば乗ろう

 芝居がかった動きで、まるでお伽噺で騎士が姫に対してするように、剣がわりにヒトツキを捧げ持ち、ひざまずいてアズマは答えた



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ハクダンシティへ

「……ここが、ハクダンシティ」

 二日後。町の中央にあるロゼリア噴水を遠くに確認し、アズマは呟いた

 

 ハクダンシティ。そこまで大きくはない、それ故にゆっくりとした感覚のある古式ゆかしい町。アサメ等と同じく、ロゼリア噴水以外にそこまで名所と呼べる場所は無い町だが、活気が絶える事はあまり無い。ポケモンリーグカロス支部へと続く22番道路、そしてカロス一の大都市ミアレシティへと向かう4番道路に繋がっている上公認のポケモンジムまでもが存在する事から、多くのポケモンリーグに憧れるトレーナーが此処を訪れる。それも、憧れの地に近い場所に来たかった新米トレーナー(ミアレの子供達はポケモン博士からポケモンを貰うと、多くはまずハクダンを訪れるという)から、バッジを集めきり、リーグ出場申請の為に強い野生ポケモン達が生息するというチャンピオンロードを抜け、カロス支部へと向かおうとするエリートまで様々

 

 「姫、離れないように」

 『(わたくしだって分かっていますわ)』

 足を踏み入れるに当たって、ディアンシーに注意する。人のポケモンを取ったら泥棒。それは多くのトレーナーにとっては常識であり、連れていれば、例えそれが実際には捕獲されたポケモンでは無くとも、手を出してくるトレーナーは少ない

 だが、離れてしまえばその限りでは無い。町に付いた解放感からポケモンをボールから出した後何らかの理由ではぐれてしまい、大切なポケモンを見つけた時には捕獲しようと他のトレーナーにバトルを仕掛けられている最中であった……というのは、割と良く聞く話だ。町にだってポケモンは居る。その中には当然野生のポケモンも居る。区別はリボンなり何なりを付けていない限り、ボールを投げてみないと分からない

 

 「とはいえ、目立つよな……」

 ボールからモノズを出し、アズマは呟く。他のポケモンも出すことで、誤認させていく方法。セコいといえばセコいが

 『(ボールは怖いですわ。入りませんわよ)』

 「分かってるから、どうするかって話」

 ディアンシーの姿を良く知らないトレーナーだって多く居るはずだ。単なる珍しいポケモン扱いも多いだろう。とはいえ、あまり目立つと困るのは当たり前。流石にあのジャケット……生命団だか何だかに不意を討たれる程に油断する気はないけれどもだ、珍しいから捕まえて売ろうなんてポケモンハンターが来ない保証は無い

 

 警戒しすぎるならば、ボールに入れてずっと出さなければ良い。というのは正論なので、どうにもしにくいが

 

 「まあ、良いか。まずはジムを」

 言いかけた所で、アズマは町の入り口の掲示板に張ってある張り紙を目にとめる

 曰く、本日のジム戦受付は終了しました

 「……とりあえず、今日は泊まりだな」

 格安の宿泊施設としては、ポケモンセンターがある。けれどもアズマの父は、金持ちの使命は金を使う事だ。旅先で金を惜しむなと良く言っていた

 「ホテルでも探すか」

 『モノッ!』

 応えるように、モノズが鳴いた

 

 『(……残念でしたわね)』

 30分後、アズマ達はロゼリア噴水近くにあった宿の一つに居た

 時間としては昼下がり、まだまだ日は高いのだが、既にジム受付は終了している。ジムを無視するというのもトレーナーとしてはやりたくなく、結果的に今日という日をどうするかは悩ましい

 「まあ、とりあえずポケモン出したままでも良いって良い宿が早めに見つかって良かった」

 ポケモンの毛の掃除が面倒だからと、ボールからポケモンを出すことを禁止している宿も当然ながら存在する。そんな宿ばかりだとディアンシーを連れたまま……というのは難しく、それこそハクダンの森でもやったように町の外で泊まるというのも考えなければならかったのだが、そこは流石リーグに近い町という所だろうか

 

 『(それで、どうするんですの?)』

 「少し外でってのもアリではあるんだけどな」

 当然ながら、こんな町だ。ジムに挑戦しようというトレーナーも挑戦したというトレーナーも沢山居る。話しかけてジムの事を聞きつつ、ハクダンジムを越えたというショウブに敵わなかった自分が、どれだけ通用するようになったのかを知る意味も込めてバトルする、というのは手だ

 

 ……だが、初めてのジムだ。正確には、アズマにとってはかつて父に連れられて旅した時のシャラジムが初めてなのだが、あの不思議なルカリオよる一方的なフルボッコは挑戦回数に含めたくはない。他のジムリーダーもあのレベルだとすれば、勝てるかどうかは怪しいのだ。ゆっくり休んで、万全の体制で行きたいとも思う

 「なあ」

 言いかけて、アズマは気が付く

 部屋内だからと出していたヒトツキが、机の上に置かれた一枚のシートを布で指し示していた。それは……

 

 「えっと……『ポケウッド映画レンタル、やってます』、か」

 ふと、部屋のテレビを見ると確かに映画のディスクを入れられそうな場所がある。シートによると、かなりの数の作品のディスクが置いてあるらしい。レンタル料は一晩2作品で100円と中々に良心的なもの

 

 「見るか?」

 『(ポケ……ウッド?どういうものなのですの?)』

 「有名なポケモン映画のスタジオだよ。本社はイッシュ地方だっけな

 確かカロスポケウッドってのがミアレに作られたとか何とか聞いたこともある」

 『(面白いんですの?)』

 「『そのポケモンふゆうにつき』や『サンのみを盗んだ男』とか幾つか家で見たけれども、面白いぞ」

 『モノッ!』

 「……サザ、見るか?」

 アズマの問いに、モノズは頷く

 『(わたくしも、興味ありますわ)』

 

 「……分かった。今日はポケウッド作品借りてきて見ることにして、ジムへ行くのは明日朝だな」



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vsハクダンジム

「ようこそチャレンジャー・アズマ!」

 次の日。ジム戦の挑戦予約を取り(とはいえ、挑戦出来るのは昼前、約11時頃となる程には順番待ちすることになった)、アズマは遂にハクダンシティジムへと足を踏み入れていた

 

 見る限りは、あまり大きくもない部屋だ。幾らかの写真が貼られており、写真展のようになっている。花や虫ポケモン達の写真、中々綺麗に撮られており、見るものを惹き付ける感じがする

 「君は今、ポケモンリーグを目指す一歩目を踏み出した。グッドラック、チャレンジャー!」

 入り口に居る男の声と共に、床の一部が動き、地下への穴が現れた

 

 なるほど、どうにもポケモンバトルをするには小さいと思ったけれども、本体は地下か

 「姫、大丈夫だな?」

 『(ええ、問題ありませんわ)』

 どうやら、地下へは糸を伝って降りるらしい。頑丈そうな糸とはいえ、少し勇気が居るので訪ねたが、どうやら手助けなしでも降りられるようだ

 

 「……これは」

 感心したように、アズマが呟く

 地下は、何匹かの虫ポケモンが飛び回る広々とした空間になっていた。蜘蛛の巣のように張り巡らされた頑丈な糸。とても広く、そうそう足を踏み外す事はないだろう。それに、その下には柔らかそうなクッションが敷かれているのが見える。万一落ちても大ケガはしないだろう。そして、アズマ達が降りてきたのはその中心部。幾つかの地点には少し狭いながらポケモンバトルが出来そうな広い板の場所があり、蜘蛛の巣の一番果てに、リーダーが居るだろう大きなテントが見える

 「なるほど、幾つかの板はジムトレーナーの居場所、上手くルートを決めればリーダーまで消耗無しで行けるって感じか」

 全体を見渡して、自分でもしっかりと理解するべく声を出し、アズマは呟く

 ジムの基本的なルールとして、一度挑戦を始めた場合、リーダーに勝つか負けるか諦めるまで出ることは出来ず、リーダーに勝たずに諦めた場合、最初からやり直しとなる

 

 つまりだ、あの板辺りに近付けばジムトレーナーと戦闘となり消耗するだろうが、回復に戻ることは許されない。如何にルート取りをしっかりして、消耗を抑えるかというのもこのジムが見ている事なのだろう

 アズマのバッグには、それなりの量の薬類は入っている。金は家から十分持ってきたし、その気になれば買い足せば良い。なので、強引に突っ切るという手は、決して無しではない。流石に、そういったものの使用を禁じてはいなかったはずだ。ジムの仕掛けがトレーナーの対応力を見るものでもある以上、いざという時に薬なりなんなりでポケモンを助ける事を禁じる訳がない

 だが、アズマはそれを選ぶ気は無かった。真っ向から、意図された通りに全ての板、つまり全てのジムトレーナーを避けてジムリーダーまで辿り着く

 その気概を胸に、アズマは糸を渡り始めた

 

 10分後

 「見事に切れてるな……」

 意図したかのように、蜘蛛の糸が切られている場所に辿り着いた。流石に完全無視で最初の場所から真っ直ぐジムリーダーへ向かう道程大きな欠落では無いが、軽く飛び越えるのは不可能だろうくらいの間。巣の外周であり、反時計回りにやって来た以上左に避けるのは不可能。右にならば活路はあるが、其処には板が敷かれている、つまりはトレーナーが待ち構えている

 『(どうするんですの?)』

 周囲をアズマは見回す。やはりというか、虫ポケモン達はずっと飛び回っているだけ、此方に何も仕掛けて来ない。恐らくは、トレーナーのポケモン達が放されていて、いざという時に糸を吐く等で救援に入り、板に近付いた場合はポケモンバトルになるのだろう

 ならば、邪魔は入らないはずだ

 

 危機はポケモンと乗り越える。越えられない距離じゃない

 「ギル!」

 アズマが取る行動は簡単。飛び越えられない距離だというならば、途中に掴まる場所があれば良い。そして、ヒトツキは宙に浮かぶことが出来る。ならば、全力のジャンプからヒトツキに掴まり、腕の力で更に跳ぶ事で向こうへと移るという手が使える

 「行けるか?」

 ボールから出したヒトツキに問う

 okというように、ヒトツキはアズマから離れ、空中で揺れた

 『(あ、あの)』

 「大丈夫だ、姫の重さならばギルが運べる」

 ディアンシーの重さは10kg無い。抱えるには少し重いが、アズマより大分軽いのだ、ヒトツキならば十分に乗せて飛べる

 「ギル、頼む!」

 軽く助走を付けての跳躍。そのまま空中のヒトツキへと右手を伸ばす

 僅かに足りない距離は、ヒトツキが詰めてくれてカバー。ヒトツキの柄を掴み、振り子の要領で更に跳ぶ

 「っとっ」

 着地時にバランスを崩しかけるも、何とか下に落ちずにしっかりと糸を踏む

 「よし、ギル、ディアンシーを」

 言いきる前に、ヒトツキが布で抑えてバランスを取りながら、ディアンシーを乗せて此方側へ

 「よし、渡れたな」

 『(恐らく、方法が違いますわ……)』

 「そうなのか?」

 ディアンシーが小さな手で指差す方を見上げる

 天井に、何本かの糸が見えた。いや、何本かでなく、束ねられた一本の糸だ。垂らせば、下まで届くだろう

 

 「……飛べるポケモンであの糸を落とせば良かったのか……」

 完全な注意力不足。行けると思う方法があったから、それ以外のより楽な方法を考えることを忘れていた

 『(行けたのならば構いませんわ。あんな方法とは思いませんでしたけど)』

 「まあ、一般的じゃないよな多分」

 十分飛べる大きさの飛行ポケモンを連れているトレーナーならば飛んで直行、も恐らくは考慮されているだろうが……糸があるのに使わずより危険な道というのは流石に、だろう

 「まあ、良いや。突破は出来たんだし」

 言って、アズマはテントを目指す。道は7割以上は来た。最初にルートを考えるのにある程度の時間を使ったのだし、ジムリーダーまではもうすぐだ



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vsアメモース

果たして、蜘蛛の巣のような糸を渡りたどり着いた、沢山の照明で明るい大きなテントに居たのは、一人のタンクトップにズボンという動きやすそうな服の女性であった

 

 「うん、良い表情!」

 テントの奥には、何枚かのパネル。其処に映されているのは、糸を越えてきたアズマの姿

 「……飛んでいた、ポケモン達が」

 「そう、撮って貰った訳ね!

 初めてのジム戦だっていうのにしっかりとした表情、そして奇抜な発想力!いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 ああ、成程。少し、ハクダンジムが人気ジムな理由が分かった気がした

 こうして迎えてもらえるのは、何処か嬉しい。アズマはマスコミは正直言って嫌いだが、それでもそこまで悪い気はしない

 「負けて悔しがるのも、勝った瞬間も、被写体としてサイコー!

 いいんじゃない、いいんじゃないの!」

 「はい。お願いします」

 「バトルは2vs2のシングルバトル、道具の使用はタイム時以外持ち物のみ、タイム及びポケモン交換は一回だけ、オーケー?」

 投げ込むような道具の使用は無し。少し辛いが……問題はない。仕込みは朝終えてきた

 「はい」

 その声に、女性は頷く

 「さあて、このビオラ

 シャッターチャンスを狙うように、勝利を狙って行くんだから!」

 

 「お願い、アメモース!」

 「行くぞ、サザ!」

 アズマが先発に選んだのはモノズ。一方、女性……ハクダンジムリーダー、ビオラが先発に選んだのは巨大な眼にも思える模様の羽根を持った虫ポケモン、アメモースだ。赤い何かを頭部に巻いている

 

 「あっ」

 ビオラが、一瞬何かに気がついたような声をあげる

 だが、気にしない

 「臆するな、サザ。『りゅうのいぶき』!」

 その眼のような羽根に威嚇されアメモースと対峙したポケモンは尻込みし、どうしても物理的な攻撃において本来の力を出しきれないという

 元々臆病で、火を吐いたりといった技の方が好みのようなモノズにはあまり関係はないが、それでもそう声をかける

 

 今回の戦い、主力とするのはりゅうのいぶき。

 アズマ自身は、好みの問題としてあくのはどうを撃たせたい気はある

 だが、それは出来ない。アメモース、つまり虫タイプ相手にそもそもの相性が良くないというのもあるが、何よりあくのはどうは今回のだめ押しの為の切り札だからだ

 

 モノズの口に、ドラゴンのエネルギーが集まっていく。それに対し、ビオラは

 「アメモース!『ハイドロポンプ』!」

 と、指示した

 

 一瞬、アズマは固まる

 ハイドロポンプ。収束させた激流を放つ、言わずと知れた最強クラスの水タイプ技……!よく修行したアメタマの中には、遂にその技をマスターするものも居る。そのアメタマが進化したならば、アメモースだって使ってくることはおかしくなんかない

 だが、それでも……こんな所で遭遇するなんて……

 「サザ!地面だ!」

 アズマの声に、咄嗟にモノズが溜まったエネルギーを敵ではなく自身の左斜め下に向けて放つ。四肢で抑えられない方向へのエネルギーは、当然ながらモノズの体をアズマから見て右上に向けて跳ねあげる

 そのモノズを掠めるように、激流が通りすぎていった

 

 「っ、冗談……」

 激流は地面に当たって水溜まりを残して既に消えている

 けれども、体感温度が少し下がった気すらする

 

 ……チャージ時間が殆んど無い。あれだけの激流だというのに、モノズのりゅうのいぶきよりも速いほどだ

 あれをなんとかしない限り、勝利はない。恐らくあくのはどうを減衰されはしないだろうが、多分その上で真っ正面から押し負ける

 せめてどうにかしてチャージ時間を延ばさせないと、撃つ技撃つ技ハイドロポンプで押し返されて終わりだ

 つまり、やはりというか……掻い潜ってりゅうのいぶきを叩き込み、ドラゴンのエネルギーで体を痺れさせろという話になる。難易度こそ想像より上だが、やることは想定と何も変わらない

 大丈夫だ。この日の為に、共にとある技のトレーニングは積んできた。切り札もある。勝てない戦いではないはずだ

 「サザ」

 『モノッ!』

 そんな思いに答えるかのように、モノズが鳴いた

 

 「その判断、いいんじゃないの!なら、『エアカッター』!」

 アメモースの羽根の羽ばたきから空気の刃が産まれ、飛んでくる

 「サザ、左!」

 だが、見えにくいという難点こそあれ、ハイドロポンプ程の脅威ではない。落ち着いて対処出来る

 モノズがぴょんと左方向へと跳び、空気の刃を回避する

 ……止まらない。一度避けても、生成された新たな空気の刃が再度モノズを襲う

 「怖いよな。けど、おれを信じろ、サザ。臆せず向かえ!」

 指示に従い、モノズがアメモースとの距離を詰めるように走り出す

 「『だいちのちから』!」

 アズマの声に従い、モノズが地面にエネルギーを送り込む。地面のエネルギーが、板の床から吹き出す

 ……アメモースに効く訳ではない。空を飛んでいるし、そもそもあれは飛行タイプのポケモン。地面のエネルギーは無効化してしまう性質がある。当然ながら、同じく飛行タイプのエネルギーを帯びたエアカッターも、大地の力を貫通するので阻めるわけではない

 だが、それで良い。大地のエネルギーを切り裂く方向で、しっかりと軌道は見極められる。そのために撃たせたのだから

 

 『モノ!』

 指示すらなく、自分で判断し、モノズが駆ける。近付きながらでは本来は相手の攻撃の軌道は判断しにくいだろうが、今は非常に分かりやすい。だから何とかなる

 「うんうん、やるね!」

 「遅い!。ほの……」

 モノズの口辺りからチラチラ火の粉が漏れる。本当は持ってきた技マシンの中から『かえんほうしゃ』辺りをスパトレ技マシンメニューで……と思っていたが、モノズには上手く撃てなかった。だが、炎のエネルギーはある程度集められていた。ならば、撃てるはずの技。その予備動作……に見えるもの

 距離は既にモノズが飛び掛かれば届く距離。流石に今からでは遅い……ように見える

 「『むしのさざめき』!」

 果たして、ビオラの指示は羽根を震わせる、周囲攻撃の技であった

 

 取った

 「飛んで『りゅうのいぶき』!」

 炎の牙はブラフ。真の狙いは、ハイドロポンプではない、アメモースが此方の技の的になってくれる近接迎撃用の技を撃たせること

 アメモースの羽根から出る音波の範囲ギリギリから、モノズがドラゴンのエネルギーを放つ。それは羽根を震わせ動けないアメモースに、真っ正面から激突した

 

 「アメモース!」

 ビオラが叫ぶが、アメモースは健在。少しだけ羽根の羽ばたきを鈍らせてはいるが、まだまだ元気だ

 そんな事はアズマも知っている。2vs2、つまりこれは前座だろうとはいえ、ジムリーダーのポケモン。昔、執事のポケモンを借りても尚完膚なきまでに叩きのめされた不思議なルカリオ程でなくとも、圧倒的な強さを見せつけてくるはずだ。寧ろこれだけで倒せたら拍子抜けも良いところ、手抜きすら疑う

 だが

 アメモースの羽根に、紫の電流が走る。ドラゴンのエネルギーによる動きの阻害、麻痺だ

 本当の狙いは此方。エネルギーが上手く残留するかは完全な運ではあるが、そうでもしなければ勝てはしない

 「そう来るなんて、やるね!」

 「勝ち筋は、これくらいしかない」

 ビオラの賞賛は半分聞き流し、アズマは畳み掛ける方法を探る

 動きが鈍れば、ハイドロポンプのチャージも延びる。迎撃を防ぐことが出来るだろう。そう考え、心を落ち着かせる為にアズマが一息付きかけたその時……

 

 背筋に、寒気が走った

 「解き放て、『あくのはどう』!」

 咄嗟に出す指示は、やはりというか最も信頼する技

 モノズの首元が輝き、莫大な黒いエネルギーが集まっていく

 これが、だめ押しの切り札、モノズの毛でくるんで持たせたあくのジュエルだ。アズマの父がイッシュ地方での学会やイッシュ地方での研究に行く度に土産として持ってきた、あの地方で産出されるタイプのエネルギーが固形化した特異な石。同種のエネルギーに反応して溶け、その技の威力を一度だけ跳ね上げるという性質を持つ、正に切り札とでも呼ぶべき火力を出せる道具だ

 「アメモース、『ちょうのまい』よ!」

 アメモースが、くるくると不思議な回転を行う。その最中に、黒いエネルギーが直撃した

 

 だが、アメモースは倒れない。回転により周囲に撒かれた輝く鱗粉が、その威力を弱めていた

 得意気に、アメモースが羽根を大きく震わせる。鱗粉の影響か、電流も消えていた

 『ちょうのまい』。一部の虫ポケモンのみが使うという、輝く鱗粉を纏い一時的に大きくその力を上げる技。当然ながら鱗粉を大量に撒く為負担は大きいが、輝く鱗粉は自身のエネルギー操作を補助し、相手が放つエネルギーを吸収し、とこれほど有用な技もそうは無い程には強力だ

 初手に使ってくるのが定石らしいから、警戒を怠っていた。ジムリーダー、そして虫使い。虫のエキスパートがトレーナーを試すというならば、使ってこない訳もない技だというのに

 

 この状態から、エアカッターを撃たれても、ハイドロポンプで押されても、まず勝ち目は無い。もう、相手がミスをしてくれなければどうしようも無い

 そもそも近づけ無いから、『ほのおのきば』ワンチャンは不可能、確実にその前に鱗粉で速度の上がったエアカッターの餌食になる

 『あくのはどう』、『りゅうのいぶき』で攻めようにも、素でハイドロポンプで押し返されるから麻痺を狙ったのだ、状況が悪化している現状どうにもならない

 つまり、この状況に至ったのは、アズマの慢心。勝てるんじゃないかとバカを考えた責任

 「……サザ」

 それでも、十分に戦ってくれたモノズに声をかける

 『ズー!』

 少し怯えの混じる鳴き声。当然だ、臆病な方なのだから。良く戦ってくれた

 

 そんな時間はすぐに終わり、バトルの終わりが来る

 「アメモース、『むしのさざめき』よ!」

 その言葉は、その指示は

 ……初めて起こった相手のミス、だった

 「サザ、もう一度だけ頼む」

 鳴き声はない。ただ、モノズは前を見る

 相手からの接近、それが唯一の勝機だった。恐らく、ジュエルという切り札を切って勝てなかった今の状態での最大火力は『ほのおのきば』。近付けず、当てられないから勝てないと言ったのだ

 だが、相手から来てくれるならば、当てられない道理はない。痛み分けになるかもしれない。だが、まだ勝ち目は見える

 「『ほのおのきば』!」

 鱗粉を纏い、アメモースが迫る

 そして……

 狙い通り、炎を纏った牙と、震わせられた羽根が激突した




サザ(モノズ) Lv26♂☆

おや アズマ
とくせい はりきり
もちもの 緑色のなにか/あくのジュエル

わざ あくのはどう/だいちのちから/ほのおのきば/りゅうのいぶき

ガンバロメーター HP4 特攻252 素早さ252

アメモース Lv30♀

おや ビオラ
とくせい いかく
もちもの きあいのハチマキ

わざ ハイドロポンプ/エアカッター/むしのさざめき/ちょうのまい

ガンバロメーター HP4 特攻252 素早さ252


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vsビビヨン・前編

炎を纏った牙と、震わせられた羽根が激突した

 「サザ!」

 「アメモース!」

 羽根の振動に当てられ、モノズより小さな体が吹き飛ばされる

 それを咄嗟に受け止めかけ……アズマは、手を止める。正式なバトルにおいて、トレーナーの手出しは基本的には御法度だ。その時点で負けまで有り得る。介入をしたいならば、正式に審判に言って時間を取り、その上でアイテムの使用なり何なりをしなければならない

 そのままモノズの体は吹き飛び、テントの壁に激突した

 硬くはない、そこまでの衝撃にはならないだろう

 だが、振動はそうではない。鱗粉に増幅され、振動として叩き込まれた虫のエネルギーは、悪タイプにとっては致命的な程のダメージとなりかねない

 

 ふと、相手はどうかとアメモースを見る

 鱗粉を焼かれ、地面に倒れ伏している。動く気配はない。……戦闘不能だろうか

 モノズも倒れたままだ。

 

 「両者、戦闘ふの……」

 気がついたらそこに居た審判が言いかけ、止まる

 アメモースの羽根が動いていた?そのまま、よろよろと浮かび上がる

 ……倒しきれていなかったのだろうか、いや

 「きあいのハチマキ……」

 そう、アメモースが巻いているのはそう呼ばれる道具だ。気を失ったときに、即座に意識を取り戻す事があるとされる道具。気合いと付く事からも分かるように、結局は根性論、頭に巻くと刺激されて気合いを入れやすいだけだとか言われているが、良く分からない気休め道具。きあいのタスキというやっぱり理屈は良く分からないが、一撃であまりにも大きなダメージを受けたときに輝き、意識を取り戻す謎のタスキの方が好まれる為ロマン道具だ

 だが、それがギリギリでアメモースを留まらせたのだろう

 「モノズ、戦闘不能、アメモースの」

 『モノ』

 触発されたのか、モノズが鳴き声をあげる。自分もまだだと言いたげに

 だが、立ててすらいない。まず戦闘の続行は不可能だろう。判定ルール上戦闘不能で無いだけだ。次の一撃は耐えられない。回避も何もない

 

 ふっ、とアメモースの体に、火の粉が舞った

 ほのおタイプエネルギーの残留、火傷だ。それが一押しとなり、アメモースが再び地面に落ちる

 ……また、運に助けられた

 「アメモース、戦闘不能、モノズの勝ち」

 今度こそ、審判が言葉を言い切る

 

 「良く頑張った、サイコーだったよ、アメモース」

 ビオラがモンスターボールをかざし、アメモースを戻す

 「ああ、頑張ったな、サザ」

 アズマもモノズをボールに戻した。長時間休まなければしっかりとした休息にはならないだろうが、それでも外よりは良い。ボール内は快適な方なのだから。それに、バトルは2vs2、ヒトツキが切り札を倒してくれれば、こんなギリギリのモノズを戦わせる事もない

 アイテム使用休憩を挟む事も考えたが、それはしない。基本的にジムリーダーは道具休憩を挟まない。だが、挑戦者側が言い出した場合はその限りではないし、その時間に挑戦者が傷薬なりを使うならば、ジムリーダーだって使う。下手に休憩を挟めば、元気の欠片なり何なりでもう一度アメモースと対峙する事にもなりかねない。ルール上、使用は認められているし、それで復帰したポケモンはもう一度そのバトルで使用出来る。アメモースと対峙して良く分かった。ジムリーダーは格上だ。道具を使って不利になるのは此方でしか有り得ない

 

 「ギル、頼むぞ」

 「Go!ビビヨン!」

 アズマが頼るのは、やはりというか当然というか、ずっと共にやって来たパートナー。ビオラが呼んだのは、外を飛んでいたメガネの蝶、ビビヨンだった

 ……こうかくレンズだろうか、アレは。広角レンズ、視界を補助し、当てにくい技を当てやすくするメガネ。ポケモン毎に特注するので、利用者はあまり多くない

 ……ということは、よほど当てにくい技を当てたいのだろう、と警戒を強める

 「へぇ、そこの岩タイプっぽい子で来ないんだ」

 観戦しているディアンシーを見て、ビオラは意外そうに言った

 ……メレシーの変異種であるディアンシーのタイプは岩/フェアリー。虫タイプ使いに対しては有利に戦えるはずだ。普通に考えれば、出してくると思うだろう

 「姫は利害の一致で一緒に居ますけど、おれのポケモンじゃ無いですから。おれと共に戦うって決めて付いてきてくれたこいつらと戦いますよ、当然」

 ビビヨンが、風を巻き上げ、首から下げていた小さなペンダントを宙に浮かせた

 

 「そのペンダント、カメラ、ですか?」

 「そう、ポケモン達に撮って貰うから、サイコーのタイミングで撮れるワケ」

 つまり、あのアズマの写真は、ビビヨンが撮ってくれたのだろう

 

 だが、それは今は関係ない。バトルはゼンリョクでやるものだ

 

 「ギル、『つるぎのまい』!」

 「ビビヨン、『ねむりごな』!」

 アズマがやるのは、あくまでも何時もの一手。変えてしまってもロクな事はない。地力は当然ビビヨンが上だろう。ならば短期決戦、無理矢理に終わらせに行くべき。だとすれば、火力を上げるのは急務だ

 それに対し、ビビヨンは大きな羽根の鱗粉を撒き、風で此方へと吹き付けて来た 

 ねむりごな。ポケモンを眠らせてしまう鱗粉や胞子を撒く技だ。その眠りは浅いとはいえ、暫くでも意識を奪えるのはとても強力に決まっている

 

 避けきれるものではない。ヒトツキはまともに粉を浴び、鞘に刀身を仕舞ったまま、フラフラとしながら地面に降りる

 降りるまで耐えてくれたのは有り難い。けれども、戦況は決して良くはない

 「さあ、見せつけましょうビビヨン!『ちょうのまい』!」

 「ギル、行けるか!」

 ビオラの指示は予想通りのもの。眠らせて何をするか、そんなもの、確実な勝利を期すならば、一時的な能力増加に決まっている。圧倒的な差があるならばその限りではないが、ジムリーダーともあろうものが、仮にも先鋒を越えた相手にそんな行動は取らない

 

 『ビィー!』

 応えるように、ビビヨンが再度鱗粉を撒き散らす。今度はそれを纏い、自身の力と変えるために

 ヒトツキは、地面で眠っている。目覚めない

 

 「もう一度!『ちょうのまい』!」

 「ギル」

 ビビヨンの纏う鱗粉が増大する。ヒトツキは、目覚めない

 「これで終わり、『ソーラービーム』!」

 ビオラの指示と共に、ビビヨンがその小さな手を精一杯に広げる。その手の間に、段々と強い光が集まっていく。その太陽のような赤と黄色の羽根が、光を受けて輝き出す

 ソーラービーム。太陽の光を受けて産み出す草のエネルギーの奔流を叩き付ける大技。その威力は、かのハイドロポンプをも、当然ながら越える。欠点としては、強い光が無ければ、チャージに時間が掛かること。利点としては、エネルギーの奔流は光である為、見てから避けるなんて芸当をさせない事。避けるならば、軌道を予測して予め範囲から逃げるしかない

 

 『(……大丈夫、なんですの?)』

 「ああ。大丈夫。信じてる」

 心配そうに見ているディアンシーにそう返す

 そうとしか、アズマの答えようはない。実際の事なんて分からない。けれども、自分のポケモンすら信じきれないトレーナーに、ポケモンが応える訳もない

 

 「発射!」

 『ビィー、ビィ!』

 チャージが終わる。目を閉じ眠ったままのポケモンに対する最後の審判、ソーラービームが解き放たれる

 「なあ、そうだろう?ギル」

 あまりにも強い光が、アズマの視界を白く染めた



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vsビビヨン・後編

エターナル半年

こらからも超不定期です


そして、裁きは下った

 

 「『かげうち』ぃぃっ!」

 無罪、と

 

 吹き上がる煙の中から、漆黒の影が伸びる。ヒトツキの影が、不思議な形へと歪み、襲い掛かる

 その一撃は、確かにビビヨンへと当たり、その羽根の動きを乱した

 

 「おっ、運良いねー」

 「信頼に答えてくれた結果、とそこは言って欲しい」

 行けるな、とヒトツキを見る

 傷はある。光の束は目覚めて即座に避けたが、それでもかすったのだろう。けれども、闘志も力も折れてはいない。気合十分

 目は合わせずとも、後ろ姿だけでも分かる

 「それにしても、ライトが強いな、ギル

 雲が欲しくなる」

 「ゴメン、フラッシュ焚くみたいにピカピカのライトが無いとさ」

 「……良いですよ、ビオラさん。それがジムの特徴だというなら、無駄に文句つけてる此方が悪い」

 互いに呼吸を整えるための一時(ひととき)の会話

 それを許すのも、挑戦者を見極めるジムリーダー故、だろうか

 

 「……行くぞ、ギル」

 「ビビヨン、もう一度やるわよ、『ねむりごな』!」

 「『おいうち』!地面を叩いて視界を乱せ!」

 アズマの叫びを受け、ヒトツキがその身を……鞘に入った刀身を地面に叩き付ける。板が細かく割れて剥がれ、視界に対する盾であり即席の目眩ましとなる

 

 ……だが

 「勝負あったね」

 カラン、と軽い音を立てて、ヒトツキの鞘が地面に落ちる

 こうかくレンズを通し、しっかりと見据えたビビヨンの放った鱗粉は、目眩ましの上からでもヒトツキを捉えたのだ

 そう、皆思った

 

 「舞え」

 「聞いてないみたいね」

 「舞え、ギル。勝つために」

 ヒトツキは、半分砕けた板に埋もれ、動かない

 「二度目は無いわ。『ソーラービーム』」

 ビオラの言葉を受け、ビビヨンの二本の触角の間に、二度目の光が集まって行く

 ソーラービーム。溜め込んで莫大な太陽光のようなビームを放つ、草タイプエネルギーの大技。ヒトツ相手のタイプ相性はイマイチとはいえ、そんなものを受けては無事で済むはずがない

 もう一度、目覚めてくれなければ負け。そして、眠り作用を持った鱗粉による眠りは、衝撃を受けなければあんなに早く目覚めるなんてそうはない事

 

 『(……笑うん、ですの?)』

 「姫、当たり前だ」

 笑みと共に、アズマは小さくそう言葉を溢す

 「……なぁ、そうだろうギル?」

 

 その言葉に、はっと気が付いたビオラは上を向く

 「まさか!」

 「気が付くのが遅い!『おいうち』!」

 アズマの声による合図と共に、天井から鞘を捨てた抜き身の剣が急降下した

 そう、目眩ましの本当の目的は催眠作用を持つ鱗粉を避けることではない。鞘だけを残すことで当たったと思わせる、即席の身代わり作戦こそが狙い

 ビビヨンとビオラは、見事に願望の入った狙い通りの動きをしてくれた

 「『ソーラービーム』には溜めがある。今更避けられは」

 「甘いね!発射!」

 「なっ」

 突如として、ビビヨンの触角に集まっていた光が膨れ上がる

 そうして光の束は、チャージ無く天へと向けて放たれた

 

 「……そうか、強いライト」

 「そう、陽射しが強い状態と同じ

 気が付くのが遅かったのは、そっち」

 黒いオーラを纏う剣と、眩い光の線が真正面から激突する

 幾らつるぎのまいを使ったとはいえ、ヒトツキでは恐らくはソーラービームを耐えきれない。押し負ける

 「それでも、負けられない。そうだろう、ギル!」

 言葉に、ヒトツキは応えた。纏う力が膨れ上がるという形で

 幼い頃から幾度と無く発動した、悪タイプエネルギーの増幅。ジュエルと似た効能を持ち、けれども理屈不明の力

 

 ヒトツキの剣が、光を切り裂く。だが、ソーラービームの光は溢れ続け、近付けない

 「これで、終わり!」

 『(もう駄目ですわ!)』

 「大丈夫……強い光は、強い影を産む」

 アズマは、少しの罪悪感と共に部屋を見る

 莫大な光は、四方八方に影を産む。黒々とした、太いものを

 「終わりだ、『かげうち』ぃっ!」

 そして、無数の影の槍が、光を放つ蝶へと突き刺さった

 ソーラービームが、制御を失い爆発する

 

 そして、その煙が晴れた時

 「……有り難う、ギル」

 立っているポケモンは居なかった

 「ヒトツキ、ビビヨン、両者戦闘不能!よって、勝者、チャレンジャー!」

 その宣言と共に、ほっと息を吐く

 「お疲れ、ギル」

 手にしたゴージャスボールに、倒れたヒトツキを回収

 

 「あなたは……

 ううん、あなたとポケモン、サイコーのコンビね!」

 「無茶は、させましたけどね。正直、昨日考えた策とはいえ、雲が欲しいで上に隠れて不意を突け、だなんて意図、伝わる自信は無かった」

 「でも、それが出来た

 いいんじゃない!いいんじゃないの!」

 女性はポケットから取り出した一つの輝く金属をアズマへと投げ渡す

 

 それは、偽造防止の為に少し特殊な方法で作られたバッジ。両の羽根に一つ星のレディバのような体に、カイロスにしてはトゲの無い角を組み合わせた、模様が黄緑の透けた素材で、地が茶色の金属なバッジ……バグバッジ

 「初めて見た時は悪の組織感溢れてて少しきつい事やってしまったけど

 ハクダンジムジムリーダー、ビオラが保証する

 うん、あなた達、そのバッジを持つのに相応しいトレーナーね」

 「……きついこと?」

 言葉の意味が分からず、アズマは目をぱちくりさせる

 「ちょっと、使うポケモン強すぎたかなー、なんて」

 「……こんなものでは?」

 「ん?どうして」

 「昔、父やじいのポケモンを借りて記念にとシャラジムに挑んだことがあるのですが」

 「うんうん」

 「その時のシャラジムリーダーはもっと強かったので、バッジ0個でのジムリーダーの強さは、タイプによって差こそあれあんなものかと」

 「あー、纏う空気が悪の組織のボスみたいだしね、警戒されたんだ。それで、本来の基準で言えばもっとバッジを持ってきたトレーナー向けのポケモンで戦った

 話は本部に通しておくけど、これからも大変かもよ」

 「慣れてますよ、ポケモンにも良く警戒されて逃げられますしね

 

 上等、勝って見せますよ。苦難を乗り越えてリーグへ挑戦する、カッコいいじゃないですか。ギル達とおれなら、きっとやりとげられると思いますしね」

 その言葉に、ビオラはうんうんと頷いた

 

 「その心意気、いいんじゃない!いいんじゃないの!

 その気持ちを称え、これもプレゼント!」

 そう言って取り出されたのは、一つの水晶

 「まとわりつくの技マシン、皆に配ってるけどたぶん使わないでしょ?」

 「……たぶん、おれに寄ってきてくれるポケモンの中に使える種族はいませんね」

 「だから、幸運の御守り

 ヒャッコクシティに写真取りに行った時の日時計の欠片」

 「良いんですか?」

 「いいんじゃない!いいんじゃないの!」

 「なら、遠慮無く」

 そうして、アズマはその拳くらいの桃色の水晶を手に取り……

 

 『シカリ……シ……シ、シカリ……』

 「……は?」

 気が付いた瞬間には、暗闇の中に立っていた



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vs暗闇

「ここは……」

 立っていたのは、暗闇の中だった

 何も見えない。一般的には暗闇といっても、微かな光はあるものだ。ぼんやりとは分かる。薄暗い地下室で、桃色の巨大な水晶にもたれ掛かりながら本を読むことが日課だったアズマにとっては、暗がりなんてものは慣れ親しんだもの。良く此処で本読めるなお前、オレじゃ暗くて文字読めねぇと父に呆れられた事を覚えている

 そんな夜目は効くほうなアズマでも、周囲の状況は全くもって分からない

 ディアンシーは居るのか、それすらも

 「姫?」

 

 『(な、何ですのここーっ!)』

 「何だ、居るのか」

 安堵と共に、息苦しさが沸いてきた

 緊張で気にしていなかっただけなのだろう、落ち着いてみると、空気が重く、そして不味い。喉に貼り付き、粘膜を焼く気がする

 「けほっ、大丈夫か姫は」

 『(息苦しい、ですわ……)』

 「だな……」

 けほけほと咳をしても、何も変わらない。寧ろ肺が空気を求め、息苦しさが悪化するばかり

 ならばとシャツを口に当て、せめてものろ過を試してみるものの、何も変わらない

 「……毒か?」

 『(……さあ?)』

 「分かるわけないな……」

 肩を竦め、暗闇の中それでも胸元に刺してあるから手探りでも何とか取り出せるタブレットケースから、二つの金のタブレットを取り出し、在りかが分かりきっている二つのボールの中に入れておく

 げんきのかけら。そう名乗る商品だ。傷付いたポケモンを元気にしてくれる成分が多分に含まれたタブレット状の錠剤。正直安くはない、ポケモンセンター等で休ませた方が安上がりだし健康的だ。アズマ的にも、頑張ってくれたポケモン達へは美味しくないらしいタブレットよりも美味しいきのみの方でゆっくり休ませてやりたい。けれども、ポケモンセンターはこんな場所にある気がしないし、傷付いたポケモン達を毒かも知れない空気の中に出す気にもなれない

 

 ふと見上げると、明かりが一つだけ見えた

 いや、違う。幾条もの光だ。けれども、光源は一つだけ

 それは、巨大な灯台にも見えた

 

 此処まで光は届かない。真っ暗闇

 けれども、明かりの元へ行けばなにか分かる気がして、アズマは一歩踏み出した

 ……コンクリートのような感触がした。とりあえず、ずっと立っていたが、実は周囲の地面が人間が歩くことに対応していなかったなんてオチはなかったらしい

 

 「っと、少し待ってくれ」

 ふと気が付き、アズマは荷物の中からとあるものを取り出す

 光を放つ機器であれば、照らせるのではないかという話だ。懐中電灯もあるにはあるが、荷物の底から探すのは面倒だ。その点すぐに見付かるからとホロキャスターを起動する

 

 「……ダメか」

 少しして、アズマはそう結論付けた

 ホロキャスターは確かに起動した。恐らくは正常に動いている。ボタンに触れれば、反応音がしたのだから

 ……だが、完全に圏外、更にはそもそも点灯しない。動いているのに、光が奪われている

 『(ダメなんですの?)』

 「動いてるのに、光が付かない

 これはもう、光が奪われている以外の結論無いな」

 『(光を……奪う?まさかあの)』

 「知っているのか、姫?

 光を奪うポケモン……親父の資料に……あったような、無かったような……」

 『(い、イベルタルが……)』

 「それはない」

 どっと脱力した

 

 「奪う、という所からの連想だろうけど、イベルタルが奪うのは命の波動、オーラだよ。光じゃない

 いや、オーラを光と思えば当てはまるのか?

 

 けれど、これはイベルタルのせいじゃないよ」

 何でか確信出来て、アズマはそう言った

 『(ほっ、良かった)』

 「そんなにイベルタルが怖いのか、姫?」

 『(怖いって、ゼルネアスの対となるバケモノですのよ!

 怖いなんてものじゃありませんわ!)』

 「……そう、か。おれはそうは思わないけど、一般的には怖いのかやっぱり」

 『(王国の子は、勝手に知らない場所に行くとイベルタルの繭に出会ってしまうよ、と聞かされて育つんですのよ

 イベルタルに会いたくなくて、皆良い子になるんですの)』

 「恐怖の魔王扱いだな……」

 『(あの場所に暮らすポケモンなら当然ですわ!)』

 「……そうなのか?」

 『(なんですの!

 寧ろ、あのイベルタルをそんなに庇うなんて、ニンゲンは不思議な生き物ですのね?)』

 「いや、おれも昔学校で好きなポケモンの絵を書きましょうって課題が出てさ。イベルタルを親父の資料を元に書いてみたら信じられないものを見る目で見られたよ

 

 ……でもさ。イベルタルが悪でゼルネアスが善。そんなだったら、秩序を護るジガルデはイベルタルを倒せば良い。ゼルネアスを止める必要なんてないだろ?けれども、伝説によればジガルデってポケモンはその昔ゼルネアスとイベルタルを止めに現れたらしいんだ

 だからきっと、イベルタルが悪いポケモンだなんて、話はそんなに単純じゃないんだ」

 

 と、アズマは屈み、手を差し出す

 『(……?)』

 「手を、姫

 此処ではぐれると、下手したら一生迷う」

 少しして、手の甲にとても小さな掌が触れる

 岩タイプだからか、冷たかった

 その手を掴み、抱えあげる。10kgも無い小さなポケモンの体は、軽々と抱えられた

 『(な、何ですの何ですの!)』

 「こうしないと、屈んで歩くことになる」

 『(なるほど……って、おーろーしーてー!)』



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vs?メガロポリス

光源の近くまで辿り着く

 何時間歩いただろうか、暗闇で感覚がない

 途中、真性の暗闇故に壁らしきものにぶつかって気を手放してしまった事もあり、正確な時間はもう分からない

 空腹等での把握も、何よりも息苦しさで誤魔化されてしまって良く分からない。けれども、流石に栄養失調等で倒れる程の時間は歩いていない……はずだ。息苦しさに負けて空気のせいか不味い水以外のものを口にしていないのに、耐えられなくはないから

 

 途中、ポケモンらしきものにもぶつかった。だが、しかし……見えなかったから無視せざるを得なかった。直ぐに逃げていったし

 そうして今、アズマは光源である巨大なタワーの近くに立っていた

 「……メガロポリス」

 思わずそう口にしたくなるような、場所であった

 

 巨大なタワーを中心とした大都市。それが、この世界であった。歩く感覚は何も変わらずに来た。そしてそれは光の中で見ると、固められた道路であった。つまり、時たま家にぶつかりながらずっと道路を歩いてきた事になる

 道行く人……らしきものは良くわからない。問答無用で襲われることは無く、寧ろ何か話しかけてきてくれた者も居たのだが、言葉が通じない

 そして何より、その顔は人間のものではない。機械人と言われたら信じてしまうだろう

 

 「アローラ」

 唐突にそんな声が響いた

 「……アローラ」

 暫く考え、アズマは思い出す。そういえば、カロスから離れてはいるけれどもそんな挨拶をする地方があったなと

 「ここは、アローラ地方なのか?」

 「此処は、ウルトラメガロポリス。光を奪われた世界だ」

 「光を、奪われた……

 では、あのタワーは」

 「最後の光」

 『マヒナペーア!』

 そんな咆哮と共に、タワー頂上から巨大な……敢えて言うならば巨大なズバットが飛び去って行くのが見えた

 

 「ルナアーラ様……」

 「ルナアーラ」

 ルナアーラ。アズマも一応聞いたことはある。父の資料にあったアローラ地方の伝説に一応出てくるポケモン。父が、アローラはカプ神信仰が強すぎて太陽と月の獣についての伝承が無さすぎる、このままでは学会で発表するものが無い……遠いが現地に飛ぶしかないか……と頭を抱えていたのを覚えている。つまり、ほぼ何も知らない

 

 「あなたは?」

 意を決して、アズマは問い掛けた

 「アナタは」

 「おれは、アズマ。アズマ・ナンテン。カロス地方のポケモントレーナーです

 気が付いたら、この世界に迷いこんでいて」

 「何か、声は?」

 「……シカリ、と」

 

 パン、とその謎の存在は手を叩く

 「アナタは、かがやきさまに呼ばれた……」

 「かがやきさま?というか、そもそも此方の質問には答えて貰えないのですか」

 カシャリ、と音がする

 機械人のような顔が取れ、その下から肌色こそ青くて別物だが、造形自体は人間に近い顔が現れる

 「……マスク、だったのか」

 「光の無いこのメガロポリスで生きていく為に、必要だった」

 言って、その青肌人間は咳き込む。アズマのように

 どうやら、空気が毒なのは原住民も変わらないらしい

 

 「ワタシは、ある人から光溢れる世界の話を聞いた

 彼は、ナンとかと言っていた」

 「……それで?」

 「ワタシは、彼から光溢れる世界語を学んだ。他の皆は、覚えていない」

 ……悪い人達では、なかったようだ

 単純に、言語が違っただけ

 「ワタシたちは、待っていた

 かがやきさまを取り戻してくれる者が、光溢れる世界から現れるのを

 さあ、メガロポリスに光を取り戻してくれ!かがやきさまに選ばれた、トレーナーよ!」

 「分かるかぁっ!」

 思わず、アズマは叫んでいた

 

 アズマには、選ばれた記憶など無い。苦しげな鳴き声を聞いた気がした次にはっと気がついた時には、この世界に立っていただけ

 「……いや、ひょっとしてこれか?」

 ふと気が付き取り出したのは桃色の水晶。ヒャッコクの日時計の一部だという、そう言えば売ってたなーなお土産。一般的に市販されているものよりは随分と大きい欠片ではあるが、差と言えばその程度

 「……わからない」

 「はあ、分からないのは此方だ。これじゃあ何ともしようがない」

 一年前のあの日、最終兵器の起動に合わせて日時計は輝いていたと、アズマは聞いたことがある。ならばかがやきさまという良く分からない存在がそれを求めたのも……分かる気はする

 「まあ、やるだけやってみる。それで、何処に行けば」

 男は、静かにタワーの上を指し示した



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vs鎖

其処は、あまりにも暗くどうしようもない世界であった

 ウルトラメガロポリス、そう呼ばれた光の無い世界。そこで唯一光を放つタワーの、その中腹に、その間は存在した。タワー上層、エレベーターで上がった先には何もなく、少しずつ降りていった所で見つけた、光の無い広間。唯一光を放つタワーに存在するには、あまりにも異質な其処に、アズマ達は足を踏み入れた

 

 「……仮面すら効かないか」

 この世界に生きる者達も、まあ肌は青いが人間みたいなものであると、出会った彼は言っていた。彼らだって生きていくために機械人のようなスーツを着て、仮面を被って生きていくのだと。そうでなければ死んでしまうのだと。ならばと空気を浄化し暗視機能もある予備の仮面を借り、回りが確かに見えることを確認して突入したのだが……

 今、アズマの目には仮面を通してすら何も見えなかった

 

 仮面を外し、ならばと桃色水晶を取り出す

 淡い輝きが、暗闇を照らした

 「……何だ、これ……」

 『(……酷い、ですわね……)』

 其処に居たのは、一匹のポケモンであった

 漆黒の体をした、水晶のようなポケモン。腕は二の腕以降のみが肥大化しており、爪は鋭い。だが、足や腕を繋ぐ部分などはそれに比べて木の枝のようにあまりにも細くアンバランス。その全身には古い裂傷が白い傷痕として無数に残り、更には真っ黒い鎖で四肢を繋がれその体は動けぬよう四方に伸ばされた状態で磔にされている。動けるわけが無い

 『シ……シ……シカリ……』

 声がする、アズマをこの世界に導いたらしい声が

 「……君が、おれを呼んだのか」

 ポケモンは応えない。答える力が、恐らくは無いのだ。動くことなど出来ず、古傷を癒すことも出来ず。どれほどの時間、此処に閉じ込められていたのだろう。何故、このポケモンを閉じ込めたのだろう。アズマには想像も付かなかった

 けれども、それでも分かることはある。このポケモンを助けなければということ

 ゴージャスボールから、ヒトツキを出す。アズマに出来ることなどそれはもうたかが知れているから。鎖から解き放つならば、刀剣は必要だろうという判断。多少はふらつきながらも、しっかりとヒトツキは浮かび上がる。何とか回復はしたらしい

 

 「ギル、斬ってくれ。……出来るか?」

 静かに、ヒトツキは自らの体(刀身)を鞘から抜き放った

 「ああ、有り難う」

 言いながら、捕らわれたポケモンに近付く。水晶の明かりのみが頼りであり、やはりというか、暗視は効かない。それでも、一歩一歩アズマはそのポケモンに近付き、古傷を撫でた

 本当に古い裂傷だ。何時ついたのか想像もつかない程に古いもの。最早ポケモンの傷を治す事に特化した商品であるはずの回復の薬ですら効くかどうか怪しい

 まあ、だからといって使わないという選択肢など有るわけもなく。バックパックから使うことなんて無いだろうなとは思いつつもしもの為に家から持ち出した五本の回復の薬を取りだし、一本目の蓋を取る。軽く振って、傷痕に吹き付けてみる

 ……霧状の薬を吹き付けてみても、変わりはない。古傷は古傷のまま、治る気配は欠片もない

 

 「伝説のポケモンにつけられた傷すら治るって宣伝文句だったんだけどな……」

 片腕だけで自分の身長ほどもある捕らわれたポケモンを見上げ、アズマはぼやいた

 カンっと軽い音と共に、ヒトツキが鎖に弾かれる。あまりの固さに、鎖はヒトツキでも簡単には斬れないようだ

 「……ギル、吸うか?」

 左手で薬を持ったまま、肩を上げて右腕を差し出す。けれども、反応はない

 ヒトツキは諦めずに、鎖へと向かって自身を振るっては弾かれ続けている

 「苦しいなら暫く戻れよ」

 息苦しさはさらに強くなっている。正直な話辛い。だが、だからといってこんな所で囚われているポケモンを見捨てる訳にもいかない

 

 ひょっとして、とヒールボールを投げる。ボールに入れてしまえば、何とかなるのではないか。介抱出来るのではないかという魂胆だったが、紅の雷が鎖に走り、投げたボールは粉々に砕かれた。捕獲は出来ないようだ

 

 休みながらも、ひたすらに薬を使い、黒いポケモンを何とか出来ないかと行動を続ける

 途中で回復したモノズの力も借り、何とか少しずつであるが鎖を傷付けていく

 何時間経ったのか、或いは全然経っていないのか、時間の感覚は麻痺してきた

 休みの合間、ヒトツキ達をボールに戻して休憩させながら、ふと気になって調べる

 黒いポケモンの事だ。アズマの記憶には無いが、ひょっとしたらという思いがある。ルナアーラらしきポケモンがタワーから飛び立つのを見た。ならば、このポケモンもアローラ地方に伝わる伝説に何か記されていはしなかったか?という話

 そしてもう一つ、思ったのだ

 一年近く前から音信不通になった父。それは、アズマ自身と同じく、この世界に来てしまったからではないのか、と

 

 けれども、照らしたホロキャスターは、何も応じなかった。電波自体が飛んでいない

 考えてみればやっぱり当たり前の事

 

 それでも、と何度かの休憩を挟んで漸く両の腕を繋ぐ鎖を切断する。幾度もの剣撃と、モノズの炎の牙によって、漸く。伝説のポケモン級の力が無い今のアズマ達には、それでも限界まで力を尽くしての話

 「あぐっ!」

 倒れ込んで来た巨体を避けきれず、軽く当たる

 とはいえ、巨体にしては妙に軽く、アズマの体は押し潰されるまでいかない。まるで、風船のような、中身の無い感じ。本当に生きているのか、割と怪しい

 「大丈夫か?」

 この世界のポケモンに人間の言葉が分かるか微妙だが、話し掛けてみる。反応はない

 「姫、言葉は分かるか?」

 『(聞き取れませんわ)』

 ポケモン同士ならばと思えど、ディアンシーも首を振った

 

 「お前……これが欲しかったのか?」

 下から抜け出して、胸元に一度仕舞った桃色の水晶を右手に持つ

 『シカ……リ』

 倒れ込んだまま、弱々しく黒いポケモンは手を伸ばし……

 「あがっ!」

 『シ……シ……シカ……リ』

 鮮血が飛沫く

 漆黒の腕の水晶の爪が、アズマの手に突き刺さっていた



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vs水道

『シ……カ……リ』

 思わず、アズマは手を引く

 既に傷だらけで、大分脆かったのだろう。爪はあっさりと砕け、アズマの手に突き刺さったまま、本体から剥離する

 『シ……シ……シカリ……シカリ……』

 けれども、黒いポケモンは止まらない。そのまま、腕を……今度こそ、アズマの全身を狙うように水晶の腕を伸ばす

 それが、地面スレスレを走り、アズマの落とした水晶、ヒャッコクの日時計の欠片に触れるや否や、即座に吸収

 僅かだけ、その腕に生えた角ばった水晶が光を、白さを取り戻し

 そして放たれるはレーザー。プリズムから放たれる、分裂した無数の光

 

 それを受け、モノズが吹き飛ぶ。壁を別のレーザーが突き破った事もあり、弾き飛ばされた小さな体は、そのまま外へと飛ばされ……

 「サザァッ!」

 駆ける。ただ、地を蹴って

 失うわけにいくものか。二度と、目の前で自分のポケモンを失うものか。何も考えず、ただアズマは空中に身を踊らせた

 

 塔の中程から飛び降りる。何もなしに

 そのままモノズをキャッチ

 

 して、後先考えてないままに飛び出したという事実に思い至る。そう、下はよくわからない世界の地面で。此処は地上数百mはあるだろう場所で

 飛び降りて無事なようなパラシュートなんて持ってないということを

 

 『(全くもう!無茶ですわ!無茶苦茶ですわ!)』

 そう、背中にしがみついてディアンシーが叫ぶ

 抱えたモノズ、急いで寄ってきたヒトツキ、しがみつくディアンシー

 全てと共に、成すすべなく落ちる

 

 いや、違う

 「ギル!」

 言葉と共に、ヒトツキをつかむ

 そのまま、タワーの壁にその刀身突き立てて……

 弾かれた

 「ぐわっぷ!」

 そのまま、足を強打。落ち始めだから何とかなったが、塔から離れた所まで弾き出され……

 

 『シカ……リ』

 その横を、レーザーが駆け抜ける

 解き放たれた漆黒のポケモンが、塔から出てきていた

 どうしようもないのか、と一瞬アズマは目を瞑り……

 

 その体は、一瞬後に、水面に叩きつけられた

 

 「こ、ここは……」

 ふるふると、急に明るくなった視界に首を振りつつ目をしばたかせる

 「おーい、大丈夫かい少年」

 そんなアズマの近くには、釣糸を垂らす、ラプラスに乗ったおじさんが居た

 

 「急に落ちてきたからびっくりしたぜ少年」

 「自分もです」

 ゆっくりと、ラプラスの背に乗って、地面に向かう。アズマの平衡感覚はボロボロで、酔いそうで、甲羅の突起にしがみつくしかなかったけれども

 「どうしたんだあんなこと」

 「自分にも何がなんだか……」

 ホロキャスターは復帰していた。此処は何でも……シャラシティとヒヨクシティの間の道路。アズマを拾ってくれた彼は、ヒヨク側で釣りをやっている人だという

 「それでも、助かりました」

 「おう、気を付けてな」

 落ちたのは、ヒヨクに程近い場所。すぐに地面のある場所まで付く

 

 さて、どうするかだな

 色々と分からない事は多い

 とりあえず、疲れたろうポケモン達を休めようとポケモンセンターを目指すことにして……

 アズマはふと人だかりに気がついた



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vs()フライゴン

「何があるんですか?」

 人だかりが気になり、アズマは其処に首を突っ込む

 

 皆を休めてやりたいのは確かだが、それよりも好奇心が上回った。あのレーザーはエスパータイプの性質を持っていたのだろうか、直撃したはずのモノズもそこまで大きなダメージは受けていなかったからだ。というよりも、水面に叩きつけられたアズマと、苦手らしい水にどっぷりと浸かって近くのおじさんの救助を待ったディアンシーの方が重症まである程度のダメージだったのだ

 だからそこまでは急ぐこともなく、何もかも分からない黒いポケモンやあの住人がメガロポリスと呼んでいた世界に関しては、何れ休める所で父親にでも聞こう、それまで考えても仕方がないとして、アズマは切り替えた

 何より、また出会う気がしたのだ。だからこそ、その時に考えれば良い。それに、あのポケモンはきっと……最後にレーザーがアズマの横を駆け抜けた時、きっと助けようとしていた。アズマを呼んだのがあのポケモンなら、きっとヒヨクシティの近くに落としたのもあのポケモン。何らかの理由で狙っていて、けれども塔から落ち、このままでは転落死必至のアズマを放っておけなくて元の世界に返してくれた。だから、だ。きっと分かり合える。アズマはそう思い、危機感も暫くは忘れることにした

 

 「ああ、珍しいポケモンが居てね」

 アズマの声を受け、遠巻きに見ていた男性が、そう答えた

 『(珍しい、ですの?)』

 バッグの中身も大分水を吸ってしまった。だからとアズマに抱えられたディアンシーが、テレパシーでもって語りかけてくる

 「ああ、成程。それは人だかりが出来ますね」

 しっかりとディアンシーを抱え、アズマは頷く。珍しいポケモン……といっても、ディアンシー程ではないだろう。幻とされるその目撃例の少なさは伊達ではない。まあ、幻とされるポケモンの中には、とある街に住み着いている個体は何時でも見れるが他の場所ではほぼ見掛けないから幻扱い、見るだけならその街に行けば割と簡単なポケモンも何種類か居るのだが。その最たるものだったのがビクティニ。イッシュ地方、リバティガーデン島でかつては何時も姿を見掛けたらしい。その個体は……その力を得ようと島をプラズマ団が占拠した後、忽然と姿を消したのだが。一説には、その後プラズマ団と強い因縁を持つようになり、遂には伝説の白き龍に選ばれリーダーすら倒しプラズマ団からイッシュを救った伝説のトレーナー、トウヤに付いていき、その勝利を手助けしていたとか。といっても、トウヤがビクティニを公式戦で使った事は無く、あくまでもウワサでしかないのだが。アズマが昔父親に連れられて巡った際に、外では悪夢を見せるポケモンと忌み嫌われているがアラモスタウンでは守護者のように言われているらしいダークライや、デセルシティに暮らす光輪の魔人フーパは見掛けた事がある。水の都アルトマーレで幾らでも姿を見るからと、幻のポケモン枠から学会で外されたラティアスとラティオスの例だってある

 

 閑話休題

 どんなポケモンなのか、姿を見ようとしたアズマの耳が、聞き覚えのある声を拾った

 「っと、ちょこまかと!」

 そう。かつてゲコガシラと共にアズマに勝ったトレーナーの少年、ショウブの声である

 それが気になり、更に一歩足を進め、アズマの目はそのポケモンを捉えた

 赤いレンズに覆われた両の目。細長くしなやかな体。刺々しさはなく、砂嵐を受け流すすらっとしているが要所要所が丸っこいフォルム。砂嵐を巻き起こし、不思議な音を奏でる、引き伸ばした菱型の翼

 そう、せいれいポケモン、フライゴンである

 「フライゴン……」

 『(珍しいんですの?)』

 「少なくとも、この辺りでは見掛けないポケモンだな」

 ひょいひょいと、赤い毛の鳥ポケモン……ヒノヤコマの突撃を、そして織り混ぜられるモンスターボールを体の細さを活かして避けるフライゴンをみながら、アズマはひとつ違和感を感じ

 

 「ってライじゃないかあいつ。何をやってるんだろうあいつは……」

 正体に気が付いて、脱力した

 ライ。そう、人の名前に近い形の種族名の略称をニックネームとする形式から分かるように……あのフライゴン、アズマの知り合いである。というか、執事のポケモンの一匹である。襲ってきたドラゴンタイプらしいハニカムのポケモン相手ならドラゴンタイプなので頼れただろうが、生憎とその時はちょっと遠くの街にメモと財布を入れた篭を持って買い出しに行っていて間に合わなかった、執事の主力の一匹。良く良く見ると、右羽根の付け根辺りに、父親のボーマンダと激戦を繰り広げた際に付いた特徴的な傷跡がちょっと残っている

 

 「ストーップ!」

 その事に気が付き、アズマは小江をあげる

 「何だよ、弱いにーちゃんか

 悪いけど、早い者勝ち。後から来て横取りは無しだぜ!」

 「いや、元々家のだ、そいつ」

 「はいっ?」

 尚もボールを投げようとしたショウブの手から、ボールがすっぽ抜ける

 「いや、家のポケモンなんで、そもそも早い者勝ちも何もない」

 足元に転がってきたそのボールを拾い、ほいっとフライゴンに投げる。知り合いからのボールは避けず、そのモンスターボールはその額に当たり……

 一度開くも、ばちっというスパークと共に割れ落ちる。既に他のモンスターボールに入っている、トレーナーのポケモンが纏う微弱な電磁波に対するモンスターボールの反応、人のポケモン泥棒防止機能の発動である。オーレなる地方では、そのボールの機能を停止させるコードをボールに送り込み、強引に他人のポケモンを自身のモンスターボールに押し込める装置があるとか無いとか。とはいえ、ポケモン側も抵抗するので何らかの理由でボールから逃げられないけれども逃げ出したいポケモンしか捕まえられないとは思うが

 まあ、その機能が発動するということは、人のポケモンである証明である

 

 「分かったか?人のポケモンなんだ、こいつ

 いや、最初から投げられたボール避けるなよライ……。そのせいで珍しい野生のフライゴン扱いされたんだろうに」

 『(格下の攻撃に当たってやる義理は無い、だそうですわ)』

 「負けず嫌いかっ!いや、父さんの切り札と張り合う位には負けず嫌いだったな……」

 苦笑しながら、呆然とするショウブ等は置いておいて、アズマはホロキャスターを起動する

 

 「じい、ライを見掛けたんだけれども、どうしたんだ?」

 「坊っちゃん!よくぞ御無事で。この二週間、何処へ」

 「……はい?」

 捲し立てるように帰ってきた声に、アズマは一瞬首を傾げ、漸く気が付く

 ホロキャスターに表示された日付が、ハクダンシティジムに挑んだ……その二週間は後だということに。体感的には一日経ってないあの世界の探索は、本来の世界では二週間もの行方不明だったのだった

 「あっはっはっ、ちょっと……珍しいポケモンを追ってて。ずっと圏外で困ってた」

 それはもう、探されるに決まっているな、と苦笑しながら、アズマはそう返した



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vs.黒水晶

「よっと」

 パソコンから転送されてきたモンスターボールを受け取り、アズマはそれをしっかりと握り込む

 

 此処は、ヒヨクシティにほど近い小さな町のポケモンセンター。小さいとはいえ、パソコン通信も完備されている、しっかりとした場所だ。そこまで歩き、アズマは傷付いたポケモン達を一度預け、こうして執事と改めて話していた

 家のだ、宣言により、集まっていた人だかりは割とあっさりと消えた。まあ、フライゴンはこの辺りでは中々珍しいポケモンとはいえ、人のポケモンを取るような奴はそうは居ない。一応、進化前のナックラーならヒヨクシティを隔てて13番道路側には生息している訳だし。ずっと連れているディアンシーに関してもほえーと振り返る人はそこそこ居ても奪いに来たりする馬鹿が居ないのは、その認識が人々の中に浸透しているから。悪の組織と呼ばれた者達……ロケット団、ギンガ団、プラズマ団辺りであればまた違うのだろうが、それらの残党がカロス地方で暗躍しているなんて噂は聞かない。気になるのは、生命を冠した謎の集団……ラ・ヴィ団を名乗る連中だ。あのフラダリさんがリーダーを務めていたというフレア団とは、また別の組織だろう。少なくとも、アズマはそう信じている。ディアンシーを狙った際のあの行動は、あれだけの人(フラダリ)に従いその生き方を見てきた者達の残党の行動では無いだろうと。公式には最終兵器の崩壊と共に、野望と運命を共にしたとされるフラダリを……リーダーをゼルネアスの力でどうこう、ついでにゼルネアスと心を通わせ自分等を邪魔したゼルネアスとセレナさんへの復讐、という可能性は無くもないのだが

 まあ、再び彼等と会わなければ……何とも判断しにくい話だ

 

 「届いたよ、じい」

 思考を切り替え、アズマはホロキャスターに向けてそう語りかける

 送って貰ったのは、一つのモンスターボール。そう、フライゴン用のボールだ。抱えられるし最悪バッグに入って貰って背負う等でも良い大きさのディアンシーと違い、アズマより背丈のあるフライゴンをずっと連れ歩くのも近所迷惑だからだ。いや、バッグに押し込むのはそれはそれで虐待っぽいので、どうしても全力で逃げなければならない場合以外は駄目だろうが

 「坊っちゃん、本当にそれだけで良いので?」

 「良いよ、じい

 それはもう、確かに皆が居れば心強いよ。皆だって、きっとおれにも力を貸してくれるってのは分かってる」

 言って、アズマは屋敷に残る執事のポケモン達を思い浮かべる

 フレフワン、ゲンガーにマリルリ、そしてフライゴンとは別行動でおれを探してカロスを走り回ってくれているらしいウインディ。彼等彼女等が居れば、確かに頼れるだろう

 それが、アズマにはいけなかった

 「そして、頼りきってしまう。皆強いから、ギリギリまで足掻く前に、今回は頼むって逃げてしまう

 それじゃあ、ダメダメだと思うから。トレーナーとして、自分のポケモン達と強くなれないから。だから、皆は屋敷を護っていて欲しいんだ。けれども、空を飛べるポケモンを捕まえられていないから、ライだけを借りていくよ」

 ホログラムの執事の背後の影にこっそりと隠れるゲンガーの姿に、笑いかけ

 「帰ったその時に、少しは成長した姿を見せられるように。ギルと、そして出会った皆と、自分達の力でやってみる」

 アズマはそう告げて、通話を切……ろうとし、ふと気が付く

 

 「坊っちゃん。その腕は?」

 ……そう。あの黒いポケモンに貫かれた手の甲。砕け残った水晶体が、そこにはまだ残っていた

 「ん……と、取れないな」

 ホロキャスターは握ったまま、小指を引っ掻けて剥がれないかアズマはやってみるが、水晶体はびくともしない。まるで、体の一部であるかのように合体し、鈍く黒く、光を受けて反射している

 『(痛くは無いんですの?)』

 「取れずに残ってる事に気が付かなかったくらいには平気」

 

 何もかも、分からない事だらけ

 だけれども、今は問題ないからとアズマは笑う

 あのハニカムのポケモンとも、あの黒いポケモンとも、そして……ディアンシーと旅をする限りあのジャケット達とも、また出会うことになるだろうから

 謎は、きっと解ける。その為に、アズマは一度はパートナーポケモン(フォッコ)にすらそっぽを向かれて挫折した旅を、もう一度始めたのだから

 

 「だから、改めて

 行ってきます、じい。行ってくるよ、ゲン」

 「お気をつけて、坊っちゃん」

 『ケケッ!』

 見守るゲンガーと執事に既に離れているからどこか可笑しな挨拶を投げ、アズマはホロキャスターの通信を切る

 

 そこまでの怪我でなかったヒトツキとモノズを受け取り、ポケモンセンターを出る

 其所には……

 「何やってるんだライ」

 フライゴンのしなやかで長い尻尾に締め上げられるヒノヤコマの姿があった

 「ダッセーにーちゃん!

 にーちゃんの所のポケモンって聞いて、本気見たかったんだ」

 「……だから、今度は逃げに徹しないだろう今、ちょっとヒノヤコマでバトルを仕掛けたと?」

 アズマの問いに、うんうんとショウブが頷く

 「でも強いなダッセーにーちゃんのポケモンなのに」

 「ダッセーは余計だ

 あと、ライは家の執事のポケモンで、借りてるだけなんだ。だから強くて当然。君の父上だって、強いだろう?」

 「いんや、とーさんは全国巡りとか怖いからって一個記念にジムバッジ取って旅を止めたよ。オレサマの方がよっぽどつえー」

 その言葉に、そんな事もあるか、とアズマは一人頷く

 

 考えてみれば当たり前の話。本気で皆の憧れ……漠然とポケモンマスターと呼ばれる域にまで行けるトレーナーは決して多くない。ジムリーダーや或いは四天王にチャンピオン、若しくは国際警察といったポケモンと共に戦う超エリートへの道は、とても遠い。その前提とも言われる毎年のリーグだって、出場にまでこぎつけるのは旅立った子供達の一割以下だ。まあ、ポケモン共に暮らすのは、決してトレーナーばかりが道ではないので当然の話なのだが、アズマ自身は……博士として各地の伝説のポケモンについての研究をしている父も、ほぼ帰ってこない父に愛想をつかして出ていった母も、そして父とホウエン地方で出会って意気投合し執事として雇われたらしいじいも、全員がトレーナーだったので忘れていた。母について、ちょっと思うことはあるが……まあ良かったと思う。いなくなったのはアズマが幼い頃だけれども、トレーナーとしてはそこそこ強かったらしいけれども心の強くないあの人は、きっとアクア団事件の後に父が『グラードンは既にホウエンを離れ別所で未だ覚醒を待っている』という内容の論文を発表した際に、徒に不安を煽る等の理由から行われたバッシングに耐えきれずに壊れてしまっただろうから

 

 「それもそうか

 ……ショウブ、前は女の子連れてなかったか?」

 ふと気になり、ヒヨクへの道を歩きながらアズマはそう問う

 「あいつは残った」

 「残ったって……何処に?」

 「それはもう中心、ミアレシティ。でっけー街だから早く見たいってゴーゴートタクシーに乗って早めに行ったワケだけどさ、近々大きなコンテストがあるからそれも見たいし、ヒヨク方面に行くには13番道路通らないといけないじゃん」

 「ミアレの荒野か……

 女の子には辛いな」

 ミアレの荒野。十三番道路と番号が振られた大きな砂漠地帯だ。良く砂嵐が吹く地帯で、大きな発電所を有する。まあ、砂嵐に砂漠に荒れ地と、女の子にとっては嫌なもののオンパレードだろう。行きたくないというのも、無理はないかもしれない

 『(……行ってみたいですわ!なんて楽しそうな場所……鉱国の皆にも教えたいですわ)』

 「………………」

 一瞬、流れ込んできた意識(テレパシー)にアズマは固まり……

 そして、思い出す。冗談めかして……まあ、実際にもそうらしいし姫と呼んでいる、どこか女の子っぽいお姫様なポケモンの事を

 「そういえばいわ/フェアリーだったな、姫は」

 砂嵐を好むポケモンだっている。主に岩タイプと地面タイプ、後は鋼タイプにも好むのは居る。女の子らしいディアンシーでも、好みは岩タイプだったようだ

 

 「んで、ヒヨクシティジム突破して、それから合流しようぜって話で一人で来たんだけど、予想以上にジムリーダーが弱っちくてさ」

 「そうなのか?」

 「リザードン一匹で片付いたぜ」

 「それは仕方ないな」

 リザードンはほのお/ひこうタイプの強力なポケモンだ。カロスでは珍しいポケモンだが、何でかこのショウブは心を通わせてしまったのだろう。だとすれば、ヒヨクシティジムは草タイプのジムらしいし、有利タイプ同士の複合したリザードンで勝てない道理はあんまりない。寧ろ負けたら恥だ

 「んで、ちょっと海を見に来たら、ダッセーにーちゃんと会ったってワケ

 急ぐとなったらリザードンに乗ってくぜ」

 「そっか。頑張ってるんだな」

 「ダッセーにーちゃんは?バトルしてみるか?」

 「止めとくよ

 まだ、バッジ一個しか取れてないしね」

 そう、アズマは首を振り……

 

 「ショウブ!ボールを構えて」

 ふと、道路の端に……見覚えの無い顔と、見覚えのあるジャケットを確認し、アズマはそう叫んだ




アズマの軌跡

ナンテン屋敷➡アサメタウン➡アサメの小道(一番道路)➡メイスイタウン➡アバンセ通り(二番道路)➡ハクダンの森➡ハクダンの森奥➡ウベール通り(三番道路)➡ハクダンシティ➡ハクダンシティジム➡ウルトラメガロポリス➡フラージュ通り(十二番道路)東海岸

何だこの謎ルート(素)


追記:悪の組織関連ですが、ゴーゴー4兄弟やスナッチ団等の外伝系はアズマくんが存在を良く知らない、スカル団は単なる落伍者の溜まり場、エーテル財団は正体を現す前、アクア団マグマ団はちょっと過激派の自然保護団体である、そしてフレア団はアズマくんがフラダリ贔屓、という理由でそれぞれ悪の組織認定から外れています


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vsゴース

「兄ちゃん?」

 「ショウブ、あの道の先に謎のジャケットを羽織った男が見えるな?」

 「見えるけど、それがどうしたんだぜダッセー兄ちゃん」

 

 「悪い奴等の一員だ」

 その言葉に、少年が固まった

 「ホントかよ、ダッセー兄ちゃん」

 「ああ、本当だ

 

 おれと同行しているポケモン……見ただろ?」

 と、アズマは足元をピョンピョンと飛んで付いてくる桃色のダイヤを抱くポケモンを目で指す

 「珍しいポケモンだよな。ダッセー兄ちゃんなのにすげーなと思った」

 「あのジャケットを羽織った奴等に襲われてるところを通りがかって、成り行きで同行することになった」

 「……なるほどな。それで、オレサマには何をして欲しいんだ?」

 「……共に戦って欲しい」

 「良いぜ、未来のチャンピオン様が、一緒に悪の組織をぶっ飛ばしてやる」

 少年が、一つのボールを握り込む

 見覚えがある、ちょっと赤い面に傷の入ったモンスターボール。確かあれは……ゲコガシラのものだっただろうか

 

 「……姫」

 自由意思に任せる、けれども必要ならばと、アズマは腰のポーチから、一つのボールを取り出して起動する。ヒールボール、内部に薬品……というか香水を嵌め込み、捕らえたポケモンを癒す、が特徴のボールだが、性能は低い。そろそろ認めてくれたかとボールを投げた際、ギリギリまで入って傷を癒し飛び出すなり逃げていくポケモンだって居たりと割とデメリットも大きいからか、トレーナーにはあまり人気はない。ボール毎にポケモンを出す際の電磁波の描くエフェクトは異なり、シンプルな基礎ボールシリーズとは違って見映えのする可愛らしいものになっているからトリマーやコンテスト出場者等からは人気なのだが。甲乙付けがたい二人から勝者を決める時、最後にものを言ったのはボールの種類だった大会もあったとか

 『(……嫌ですわ)』

 「そうか

 なら、姫。悪いけれども、暫くバッグに隠れてくれるか?

 誤魔化せるなら、その方が良い」

 「空きはあんのかよにーちゃん」

 「あるよ。ポケモン達が実に喜んでたから、つい持ち出した菓子式の薬を全部置いてきた」

 「そんなもんあんのか」

 「ホウエン特産のポロック亜種だな。ポフィンは美味しいんだけれども混ぜ物が多すぎて薬にはならないお菓子にしかならないし

 その点かなり木の実率の高いポロックならば、作り方によっては原料の効果を残せる。なんで美味しくて体力回復出来るオボンポロックとか持ち歩いてたんだよ。ケース毎さ

 カロスじゃミアレでしか売ってないからケース持っててもって、嵩張るケース毎置いてくれば小さなポケモン一匹なら入るさ」

 『(しょうがありませんわね、許しますわ)』

 ディアンシーをバッグに入れ、口を閉めては不安がらせるだろうからあくまでも上から布を被せるだけにする

 

 そうして、少し歩くことで、ジャケット男の近くまで辿り着く

 やはりというか、アズマからすれば見覚えはない男……と、その、影に隠れていた少女だ。だが、やっぱり見覚えがあるジャケットだった

 ……ジャケット以外は、ごく普通の格好。ジャケットを脱がれたら、単なる旅人の兄妹だと、アズマはすれ違っても何も思わないだろう。いや、追い掛けて来られていても、接触されなければ向かう町が同じなんだなと納得してしまうかもしれない。その程度には、悪の組織という感覚はない

 ……だが

 

 「そこの少年」

 男の方が、言葉をアズマに投げ掛ける

 「はい。何でしょう」

 「……貴方のポケモンに用があるのです。見せてはくれませんか?」

 慇懃に、男……ラフな服装の上にジャケットを羽織った、気弱そうなメガネの青年はそう告げる

 「いきなりそう言われても、何故という」

 「実は、ポケモン占いをやっていまして」

 「お断りします

 占いは、あまり信じない質なので。未来予知は、まあ、信じますけれどもね」

 ……実際に、ポケモンの技の中にあるのだし

 

 「いえいえ、是非やらせて下さいよ」

 「損は、ない」

 青年に合わせるように、背後の少女も続ける

 「……それは、貴女方にとって、だろう

 ラ・ヴィ団」

 アズマのその声と共に、背後のバッグの中で、小さなポケモンが頭を抱える感触が、その背に伝わってきた

 

 「……ゴース?」

 「ダッセー、兄ちゃん?」

 姿を消して背後から近付こうとしていたのだろうか。ガスのような姿の、丸い玉のようなポケモン……ゴースが、その気に圧されたのか、姿を見せ、固まっている

 「何、してるの?」

 「人を、驚かそうとしたんだろう?」

 呟く少女に、静かに、抑えて、ポケットの下でボールを握り込み、アズマはそう答えた

 

 「人を襲うなんて、悪いゴースだな」

 「どうして、姿が……」

 「何でも、おれは真っ黒いオーラを持ってるらしいからな

 それが、怖かったんだろう」

 「……」

 男達は、何も応えない

 

 僅かな沈黙。誤魔化しに走り、アズマ達を見逃すか。それとも、このまま行くか。向こうにも、考えがあるのだろう

 そして……

 「ゴース、昏い少年に『したでなめる』!痺れさせれば此方のものです」

 結果は、交戦

 

 ……だけれども。だからこそ。アズマは、ショウブに最初から警戒を促していたのだ

 「ゲッコウガ!」

 『コウ、ガッ!』

 アズマの背後に、水で作られた手裏剣が降り注ぐ。それは見える範囲ではポケモン不在故か油断していたのだろう。回避の意思すら間に合わずにガス状の体に突き刺さり、はぜた

 そして、一匹の青い……まるでニンジャのようなすらりとしたガマが、アズマとショウブの前に降り立った。カロス地方のほぼ固有種だが、全地方的にとても有名な、それこそ最近の映画を見た人間ならば知らぬものは居ないだろうスター。セレナ関連で実在が確認されたあの伝説のポケモンと、今年の少年トレーナー人気を二分したと雑誌に特集まで組まれたポケモン。ゲッコウガである。既に、ショウブの手であの日のゲコガシラは進化を遂げていた

 

 「サザ、行けるな」

 アズマも、握り込んでおいたボールを投げ、モノズを出す

 「悪いな、悪い奴等。オレサマとゲッコウガが片付けてやるぜ」

 「おれとサザ、よりもこの少年とゲッコウガは強いかもしれないな。やる気か?大人しく捕まる気は……」

 「行って」

 少女が、静かにボールを投げる。捕まる気は無いと、アズマ達には見えた

 

 「……アブソル?」

 見えたのは、白いすらりとした影。災いを察知すると言われるポケモン、アブソル

 「一匹かよ。それでオレサマに勝てると思ってんの?」

 「十分」

 「言うじゃん。そう思うよな、ダッセー兄ちゃん」

 ショウブの言葉に、アズマは……頷かなかった

 アブソルの姿を見た瞬間から、漠然とした危機感があったから

 

 そうしてそれは、直ぐに……現実のものとなる

 青年側が、懐から何かを取り出す

 それは、アズマがビオラから貰った日時計の欠片に酷似して、けれども何か違う石

 『(お母様の)』

 「姫、危ないから隠れていて欲しい」

 『(ピンクダイヤですわ、どうして)』

 「まっ、関係なんて」

 「ショウブ、油断はするなよ」

 

 眼前で、青年は後方の少女へとピンクダイヤを投げ渡す

 その瞬間、アズマの右手に痛みが走った

 

 ……何かが、腕に残った水晶と共鳴している?

 また、あのメガロポリスへの転移が起きるのか。身構えるアズマの前で、少女は手を翳す

 その左腕に、線の細い少女にはあまりにも似つかわしくない、非常にゴツい腕輪が見えた

 色は漆黒。人工物らしく、一部には赤いコードや金属光沢が見て取れる

 

 「ギルぅぅっ!あの腕輪を壊せぇっ!」

 幾ら悪の組織だろうとはいえ、あまり人間に向けて攻撃をさせたくはない。その縛り……ポケモントレーナーであれば大半の人間が当たり前の事として心に留めてもいないだろう常識を破り、焦燥感に駆られてアズマはそう叫ぶ

 その声に、待ってましたとばかりにヒトツキが飛び出す

 

 だが、それは遅すぎた

 「メガ、ウェーブ」

 ヒトツキが動く前に、少女の腕輪と、ピンクダイヤが反応する。ゼルネアスのオーラを受けて精製される宝石、それは生命のオーラの塊そのものである。それは、腕輪に取り付けられた増幅装置と反応、一つのシンカを発揮する

 

 「ゲッコウガ!『みずしゅりけん』!」

 エネルギーが、はぜた。ピンクダイヤのエネルギーは、薄い桃色の波となってアブソルを包み込み、余波でヒトツキが延ばした影を、そして水手裏剣すらも吹き飛ばし

 晴れたとき、アブソルは最早普通のアブソルでは無かった




メガウェーブバングル
分類:だいじなもの
ラ・ヴィ団の一部メンバーに与えられている黒くてゴツい腕輪。メガウェーブを放ち、自身のポケモンをメガシンカさせる効果を持つ
通常のメガリングに比べて、機械そのもの負担が大きく定期的に整備をしなければ壊れてしまう脆弱性、大きさによる取り回しの悪さ、起動に際して生命波動の籠った石が必要である、暴走に近い状態となる為メガシンカ中のポケモンは補助技を使用出来ない(補助技の命令を無視して適当に覚えている攻撃技を適当に目についた相手に放つ。しっかり相手を命じていれば対象はそれに従う。全補助技構成の場合悪あがきする)事等が劣る
逆に、バングルから波動を放ち強引にメガシンカさせる事から、共鳴が必要なくメガストーン無しでのメガシンカ及び同時メガシンカが可能、波動増幅によりオーラを纏いメガシンカ中常に能力上昇、半分暴走に近く絆を無視してメガシンカ可能等の利点を持つ
総合すると、素養があるポケモンであれば強引に暴走メガシンカさせられるものの、ポケモンへの負担が大きいメリットデメリット共に大きいメガシンカシステムであると言える


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vsアブソル

「何だよ、あれ……」

 ショウブが、アズマの横で絶句する

 

 ……アズマには、見覚えがあった

 いや、実際には無いが、似たようなポケモンであれば、見たことがあった。数年前、父親に連れられてシャラシティを訪れたアズマを、完膚なきまでに一方的に叩きのめした、不可思議な姿のルカリオ

 当然、ルカリオとアブソルは別種のポケモンだ。同じなんて事はない。けれども、似ているのだ。すらりとした姿のまま、一部部位が発達し変貌するという形式が

 『ソルッ!』

 背に生えた、ふさふさとした白い毛……が生やした翼のような部位を震わせ、アブソルが吠える。そんなものは、普通のアブソルには無い。そして、アブソルの進化は、どの地方でも報告されてなど居ない、有り得ない変化である

 

 僅かに、アブソルが前足を折ったように見えた

 アズマに見えたのは、それだけだった

 『(きゃっ!)』

 アズマの背後で、ディアンシーが悲鳴をあげる。それを、舗装された土の道路の味を確かめながら、アズマはぼうっと聞いていた

 背中から突き倒され、背負うバッグに首を突っ込まれたのだ、と。数秒たってから、漸くそうアズマは認識した

 抑えに使われた爪が、肩に食い込む。首を捻り、真紅に染まったアブソルの瞳を見るも、其所には何の意味も無い。いや、元々アブソル種の瞳は綺麗な赤なのだが、全体が一色に染まりきっているのはただ事ではない。普通より伸びた毛により隠された左目も、ぼんやりと体毛を透けて見えるほどに爛々と輝いている

 その口には、縮こまったディアンシーのダイヤの房をくわえていて

 そのまま、用済みとばかりに、アズマの脇腹をその後ろ足で蹴飛ばした

 

 「ふぐっ!」

 「兄ちゃん!」

 「大丈夫だ、ショウブ……」

 近くの木に叩きつけられ、ふらふらとアズマは立ち上がる。立ち眩みはお越しかけたが、起こしたら終わりだなんて分かりきっているから、奥歯を噛んで立ち上がる

 「行くぞ、ギル、サザ」

 ヒトツキに関しては信頼している、きっと、勝つための手を打っていてくれるだろうと

 ちらりと目配せをすると、ヒトツキはその鞘を振った。何時も通り、『つるぎのまい』を積んだというサイン

 それに頷く

 

 ……相手がどんなものなのかは未知数。耐久性は?火力は?アブソルは素早く攻撃力もあるが、攻められると弱いポケモンではあるが、変貌している以上そのままの耐久性とも限らない。毛も増量されているのだし、トリミアンのようにそれなりに耐えられる体になっていても可笑しくはない。とりあえず、分からない事ばかり。けれども、分かることがある

 とりあえず、元々がアブソルなのだから、悪タイプだということ。ならば、アズマとヒトツキのやるべき事なんて一つ。例え羽根見たいな体毛が生えもしも飛行タイプの性質を得ていたとしても、とりあえず格闘は通る。ならば、叩き込むだけだ。生命エネルギーを吸うか、力を貯めて放つ一撃……『せいなるつるぎ』を。例えアズマ荷だって見えるほどに強烈な黒いオーラが、その力を上げていたとしても。聖なる剣、イッシュ地方の伝説のポケモンが振るう伝説の技は、波動の刃でそれを切り裂く。オーラでどんなに守りを固め(防御を上げ)ようと、幾多の分身を生も(回避を上げよ)うとも、それを無意味と貫く力故に『せいなるつるぎ』は伝説ポケモンの象徴的な技なのだから

 ならば、隙を産んでそれをぶちかますだけだ

 

 「ゲッコウガ、行くぜ!」

 「ギル、何時もの方針で、サザは……」

 一瞬、アズマは迷う。最大火力と言えば、明らかに『あくのはどう』だろう。だが、悪タイプのアブソルには効き目が薄いはずなので指示から除外。エネルギーを封じたジュエルを毛の中に隠しておいたならば一考するが、今は持たせていない

 ならば、となると取りたい戦法は二つあるのだ。麻痺か、火傷。どちらもアブソルの脅威となる速度か攻撃を抑えられる有用な行動。すなわち、炎の牙か、竜の息吹か

 「サザ、『りゅうのいぶき』だ、良いな?」

 結局、選んだのは動きを鈍らせる道。少しでも遠方から撃ち逃げ出来る、臆病なモノズにとってはやりやすいだろう戦法

 

 だが、その瞬間、モノズ横に不意に現れたアブソルが、上からその顔横の肥大化した角を叩き付けた

 地面が割れる

 

 「『ふいうち』か!」

 自分を、そしてモノズを襲った一撃に思い至り、アズマは一人ごちる

 不意討ち。その名の通りの不意の一撃だ。悪タイプエネルギーを軽く纏って攻撃を待ち、相手が攻撃に集中した一瞬の隙をついて、予め貯めた力をもって後の先を仕掛ける技。強いポケモントレーナーの使う悪タイプであればまず最初に警戒されるほどの優秀な技……ではあるのだが、瞬間移動なんて流石にしないはず

 「いや、瞬間移動はおかしーだろダッセー兄ちゃん」

 「ショウブ。おれの回りでは悪タイプの技が強くなるのは……一度見たな?

 多分それが敵味方関係ないせいで、不意討ちの一瞬、身体能力が跳ね上がっているんだ

 認識出来ない、『しんそく』の領域まで」

 「つまり、ダッセー兄ちゃんが足引っ張ってるって事かよ」

 「……そう、なるのかもな」

 「んじゃダッセー兄ちゃん、ダッセー事の埋め合わせ、頼むぜ」

 

 「ああ、分かった」

 言って、アズマは残された一つのボールを取り出す

 「悪いな。手を貸してくれよ、ライ」

 呼び出すのは当然、フライゴン。そもそもアズマのポケモンで残っているのは、頼りきってしまうからあまり頼りたくはなかったその一体だけ

 「……」

 アブソルを前に、ただ言葉少なく立っているのは少女のみ。ディアンシーを拐った男の方は、既に戦線をアブソルと少女に任せて離脱している

 

 アズマが居ても邪魔になるならば、やるべき事は一つ。ショウブに任せ、ディアンシーを追うこと

 「ライ、此処は任せる。ギル、サザ、付いてこい!」

 アズマの言葉に、フライゴンは羽音で応えた




アブソル(メガアブソル)♀ Lv32

だいもんじ/れいとうビーム/ストーンエッジ/ふいうち
状態:メガウェーブ(アブソル):全能力(攻撃、防御、特攻、特防、素早さ、命中、回避、急所率)が一段階上昇し悪タイプ技の優先度を+1しメガシンカするが、補助技が使えなくなり、毎ターン最大HPの1/16のダメージを受ける


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vsゲンガー

そうして、アズマは直ぐに青年に追い付く

 謎のアブソルによる追撃は特には無かった。ショウブとゲッコウガ、そしてフライゴンはしっかりと戦えているようだった。それは、別にアズマもそう心配はしていない。正直な所、現状自分よりも上のトレーナーである事なんて、アズマには分かりきっていた事だから

 焦る足は何時もより早く、追う者へと手をかける

 

 「待てよ、ポケモンハンター」

 「犯罪者であるかのような」

 「いや、犯罪者だろ。姫を返せ」

 「貴方のポケモンでも無いはずでは?」

 「それもそう

 けれども、おれの依頼主なんだ。離れられると此方が規約違反になってしまう」

 青年は、ディアンシーを手に抱えたまま逃走を計っていた。ボールでの捕獲は、何故かは知らないが特に狙ってはいないようだ。どんなポケモンでも逃がさない究極のマスターボールがあるならば当の昔に使っているだろうからそれは持っていないとして、高性能のボール、特に強引な捕獲を可能とするハイパーボール(その販売自体が基本的には強いトレーナー相手にしか認められていない)も無いのだろう。戦わずしても、ハイパーボールを持っている事自体が強いトレーナーの証、それを信じて捕まるポケモンは多い

 ……いや、とはいえアズマのように嫌われていれば、そのハイパーボールもモンスターボールとそう変わらず、まともに捕まえられないのかもしれないが

 

 「ゴース!」

 「サザ、撃て!」

 アズマの頭の横を、黒い波動が駆け抜ける

 『あくのはどう』である。青年がなりふり構わずトレーナーを狙ってくることは分かりきっていた。一度、追い込まれてもいない状態にも構わずそれをさせようとしていたのだから

 ……その辺りの禁忌は、フレア団は徹底していたらしい。元が元だけに、フレア団、アクア団、マグマ団はトレーナー狙いをする団員はほぼ居なかったとか。逆にロケット団では追い詰められるとトレーナー狙いが横行していたというのを、何処かの番組でやっていた事をアズマは覚えている

 

 「返して貰えないか?」

 更に近付きながら、アズマはそう問い掛ける

 恐らくは、答はノーだろうと思いつつ。此処ではいそうですかと返してしまうくらいなら、そもそも襲ってこないだろう

 いや、実は持ってる手持ちはゴース一体で、戦闘は妹なのかもしれないあの少女の謎アブソル頼み、ハクダンの森でやりあった二人のジャケットから聞いたアズマの戦力(ポケモン)ならばあの一体で蹂躙出来ると踏んで行動していたのかもしれない。フライゴンがアズマを探してきてくれておらず、ショウブと会っていなければ、その推測は全くもって正しかった。それならば、自身は弱く、追い込まれたらあっさり返す可能性も無くはないのだが……

 「返す訳がないでしょう?」

 「そのうち、ジュンサーさんが駆け付けてくる。この辺りに旅の人が居ないってことは、巻き込まれないように、そして止めれる人を呼ぶ為に、ヒヨクシティへ向かったって事だ

 その前に……」

 「その前に、目的を果たして撤退するまで」

 「ギル、『まもる』!」

 咄嗟に、アズマはそう叫ぶ

 

 だが、ほぼあらゆる技を防ぐはずの緑色の防壁は意味を為さず、ヒトツキの体は吹き飛ばされる

 「うぐっ」

 その刀身で浅く二の腕を切り裂かれながら、何とかアズマはその体を受け止めた

 「『シャドーパンチ』……」

 ぼんやりと、アズマは食らったのであろうその技の名前を呟く

 『シャドーパンチ』。数少ない『まもる』を無視出来る技である。原理としてはとても簡単。『まもる』のフィールドは使ったポケモンの周囲全体に広がり、すべての技のエネルギーを弾く。故に動けず何もしていなければ単なる一時しのぎながらほぼ無敵の防御技として知られるのだが……逆に言えば、そのフィールドを通らなければ技のエネルギーは弾かれない。そして、『まもる』自体は光は通す

 故に、だ。影を伝い、相手ポケモン自身の体……影が掛かったその場所、つまりは『まもる』のフィールド内から放たれる技は通してしまうという訳だ。そして、シャドーパンチは影に紛れて殴る技、なのだが、一部のポケモンは、影を通し、影の中からシャドーパンチを撃ち込むという芸当を見せる。というか、ベトベター系統以外のポケモンは影を通して撃ってくる。だからこそ、その一撃は防げない

 そうして、アズマの前に一匹のポケモンが立ち塞がる。不気味なようなけれども愛嬌のある姿から、割と女の子にも人気のあるアイドル級のポケモン。されども、その実力から一線級のトレーナーでも愛用する人間が多い……(アズマの家の老執事等もその一人だ)身近な手足に、割と幅広で顔と一体化した胴の剽軽(ひょうきん)な姿のゴーストタイプの代表とも言えるポケモン。ゴースを連れているなら、居ても可笑しくなかったその最終進化系

 ゲンガーが、青年の前に忽然と姿を現していた

 

 「ゲンガー、か」

 「ええ。昏い少年、貴方にゲンガーは倒せない」

 青年はそう嘯く

 無理は無い。ゲンガーとはゴース系統の最終進化系。その種としての実力はそれはもう折り紙つきだ。執事の連れている同種は謎の黒と緑のポケモンにはなすすべ無く倒されていたが、あんなものは例外も例外。基本的にはとても強力なポケモンだということは、アズマは身に染みて知っている

 「……そうとも、限らないぜ?」

 だが、アズマはその言葉に対して、不敵に笑う。あまり似合わないが、捕まっているディアンシーに、安心しろというように、無理に不敵さを取り繕う

 「そんな未進化のポケモンで、ですか」

 「信じてるからな。ギルなら、勝てる

 ゲンガーは強い。確かに強い

 けれども……」

 一瞬、モノズから目を逸らさせるためにわざとモノズは呼ばない

 ふらふらと、アズマの手からヒトツキが浮かび上がる

 「素早く、強く、スタミナが無い

 他の強豪に比べれば、幾らか御しやすい」

 ヒトツキが耐えてくれた事から、それも分かる

 幾らゲンガーとしては苦手な方らしい拳を使った一撃とはいえ、ヒトツキ……つまりはゴーストタイプのエネルギーが良く効くはずのゴーストタイプのポケモンを倒しきれなかった程度の実力。決して侮って良い訳ではない。けれども、あのゲンガー自体は、そう恐れるものでもない

 少なくとも、アズマの知る執事のゲンガーは、もっと強かった。更には、当時執事のゲンガーにアズマとヒトツキは勝てなかったが、今は違う。モノズが居る

 ゴーストタイプのエネルギーに対して耐性を持ち、悪タイプのあくのはどうはゲンガーに対しては抜群の効果を発揮する

 

 こっそりと、ポケットからひとつの石を落とす。黒く輝く悪タイプのエネルギーの結晶、ジュエルという奴である

 モノズはアズマの影に隠れるように駆け寄り、その石を口に加える

 

 「……どうした?未進化のゴーストタイプなんかに、負けるのが怖いのか?」

 アズマの口をついて出るのは挑発の言葉。正直な話、有利な点は幾つもあるが、それでも尚ゲンガーが強いポケモンである事自体は疑いようがない。やるならば、一撃で仕留める必要があるだろう

 「毒も効かないし、な」

 毒タイプエネルギーは鋼タイプには無効化される事で、更に煽る

 狙いはひとつ。ゲンガーの性質を使ってこさせる事。正直な話、ゲンガーは丸っこい姿からは想像もつかない程に速い。『シャドーボール』の撃ち逃げ戦法でも狙われた日にはどうしようもないだろう。この辺りの木々の影の中にも潜まれ、ヒトツキ達はまともに狙えないまま翻弄される

 だから、狙いを絞らせる。倒しに来させる

 「何より、自慢のパンチを耐えられるんだから、お笑い草だ」

 更にアズマはまだ煽る。さあ来いよ、此処までバカにされて良いのか?と

 自分で言っていて、笑えてくるが。何が自慢のパンチだ。カイリキーじゃないんだから、パンチが自慢の訳がない。ゲンガーはそんなポケモンではない。いや、頭に紅のハチマキを巻き、伝統的にポケモントレーナーから三色パンチと呼ばれる技を駆使して並み居るポケモンと殴りあった格闘家ゲンガーなんてポケモンをリーグ中継で見たことはあるのだが……

 

 「ゲンガー、潰して差し上げろ、その思い上がりを!」

 そうして、その狙いはあっさりと実る。拍子抜けするほどに

 ゲンガーがヒトツキへと迫り、そうして姿を消す

 ……それを待っていた、とアズマは動く

 煽った理由はとても簡単。ゲンガーは影に潜むことが出来る。影に潜まれた状態ではほとんどの攻撃が当たらない。影は地面を殴っても殴れない。地面を抉っても変形した地面に残るだけ。引きずり出す事もほぼ出来ない。確実に勝つ為に、それを行う事を狙わせた

 ……実に、それはもう実に簡単なロジック

 「ギル、おれに……『かげうち』!」

 だが、此処に例外が存在する。影に潜んでいるならば、潜まれた影自体を操れば良い、それだけの話。そして何より、『かげうち』により、影はエネルギーを纏い、実体を持つ

 つまりだ。『かげうち』や『シャドークロー』といった自分の影を操る技を使えるポケモンの影に潜ませれば、ゲンガーの場所は一点に絞れる。影を実体化させるのだから、当然影の迎撃として攻撃も可能でダメージも通るはずだ

 「『あくのはどう』、撃てぇっ!」

 モノズの射線から右横に飛び退きつつ、アズマは叫ぶ

 「っ、ゲンガー!」

 「遅い!今さら逃げられるものか!」

 そうして、ヒトツキの放った影を、その中に潜むゲンガーを、アズマの放つオーラとジュエル、二つの悪のエネルギーを受けた波動の砲撃が、粉々に打ち砕いた

 波動はそのまま木々の頂点を掠めるように空へと撃ち上がり……

 後には、目を回し、影に隠れきれなくなったゲンガーだけが残った




まもる(&Z版)
あらゆる技のエネルギーを跳ね返すエネルギーフィールドを纏い殆どの攻撃を防ぐ。相手の影を通して移動しフィールド内部で殴り付けるゴーストタイプのシャドーパンチ、同様のロジックで攻撃するゴーストダイブ、相手の未来座標に攻撃を元々置いておく未来予知、発動前まで周囲の時を戻す時の咆哮、フィールドのある空間そのものをねじ曲げて何処かへ消し去る亜空切断、反転世界からフィールド内に攻撃するシャドーダイブ、空間をフィールド内に繋げる異次元ホールや異次元ラッシュ、相手にフィールドを解かせてから殴り付けるフェイント等は防げない。また、伝説級のポケモンであれば跳ね返しきれない莫大なエネルギーで強引にフィールドをぶち破る事もある。カロス地方での使い手はほぼ居ないが、Z技とは伝説ポケモンの力を借りて放つ一撃である為、Z技も伝説ポケモンの技と同一の性質を持つ


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vs縄

「……ゲンガー……」

 少し放心したかのように、ジャケットの青年は呟く。その腕には、しっかりとディアンシーを抱えたまま

 

 「言っただろ、与しやすいと」

 そう、アズマは言葉と共に一歩前へ出る

 「此方にはモノズが居ることを、軽視し過ぎたようだな。切り札だろう、ゲンガーは」

 「そうだとすれば?」

 「おれの勝ちだ。姫を返して貰おう」

 「嫌だと言ったら?勝負にはまだ、負けてない

 私達の仕事は、ゼルネアスの居場所の調査、及びその助けとなるでしょうディアンシーの確保。勝利の札はまだ此方のもの」

 「ならば……」

 下唇を噛み、アズマは横を向く

 其所に倒れたゲンガーは、未だに意識を取り戻してはおらず……

 「その札を貰うさ

 片手では、流石に姫を捕まえきれないだろ?」

 「それは」

 「早くボールに戻してあげなよ。そうでなければ……」

 奥歯を噛み、アズマは言葉を続ける

 「倒れたゲンガーに悪の波動を叩き込ませる」

 倒れたポケモンに対する追い撃ち。公式ルールでは御法度とされており、というか基本的にそれを好しとする一派など殆ど居ないだろう有名なダーティプレイ。元気の欠片といった一度気絶したポケモンの気力を回復させる道具の使用が個数限定で許可されたポケモンバトルにおいて、気力を回復しようが戦線復帰出来ないように気絶した相手への追撃で重症を負わせたりという感じ。ロケット団の中には、そのまま相手のポケモンを殺すまで攻撃させた残虐なトレーナーも居るとか

 

 「……正気、なのか。昏い少年」

 「だと、したら?」

 少し屈み、モノズの頭を撫でながらアズマは返す

 「サザ。良いな、合図したら『あくのはどう』を」

 「ゴース、ゲンガー!」

 アズマの言葉に耐えきれなくなったのだろうか。ディアンシーを強引に抱える手を解き、ジャケットの青年は右手に持ったモンスターボールを翳す

 

 「空に撃て!」

 『モノッ!』

 言葉と共に、屈めた体をバネにしてスタート。一気に距離を詰め、アズマは青年のボールを持っていない方の手首を掴む

 

 「捕まえた。姫は返してくれよ、な」

 そうして、襲撃者の両の手が塞がり、解放された小さなポケモンは……

 『(ひっ)』

 小さな鳴き声をあげ、両者から少しの距離を取った

 「……はあ。やっぱり、脅しはやるものじゃないな」

 何かに使えないかとズボンにひっかけた縄ースタイラーという特殊装置を使う組織ではない良く見かける警察官の方のポケモンレンジャーの真似事であるーでもって青年の腕を縛りながら、アズマはそうぼやいた

 「……昏い少年……本当に、ゲンガーを」

 「撃つ訳、無いだろう」

 アズマの脳裏に、一つの光景がフラッシュバックする

 傷だらけのトリミアンの姿を

 「他人の大切なポケモンを、あんな目に……合わせる、訳が、無い」

 青年のポケモン達がモンスターボールに収まった事を確認し、ボールを青年のジャケットのポケットに突っ込みながら、青年を縛りきる。後ろ手にかたく結んだ縄は、一人ではまず何とも出来ないだろう。隙間を少なくしたので、同行者のアブソルであっても、容易には斬れないはずだ。まあ、腕に傷が付くことを許容するなら強引に断ち斬れるだろうし、時間を少しかければ解けるような結びではあるけれども

 『(やらない……ですの?)』

 「やらないし、やらせない」

 『(けど……)』

 「オーラは別か。おれには見えないから、そこは何とも

 怖がらせて御免な、姫」

 そのアズマの言葉に、少しだけ間をおいて

 『(許しますわ)』

 後ずさった小さなポケモンは、再びアズマへと寄ってきた

 お帰り、とばかりにその周囲をヒトツキがくるりと回る

 『モノノッ!』

 「ああ、分かってるよ、サザ

 戻ろう。ショウブ達の所に」

 青年の体を押して歩かせつつ、アズマは一旦離れた場所へと急いだ

 

 だが、辿り着こうかというその時

 突如として降ってきた青い何かに、アズマは吹き飛ばされた

 『コウ……ガ』

 それは、気を失った巨大なカエル。ゲッコウガであった

 「くっ、何だよこいつ……」

 その先に、奥歯を噛んだような声音で呟く少年の姿と、その前に立ちふさがる傷一つ、煤け一つすらも無い不可思議なアブソルの影があった



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vsメガアブソル

「ゲッコウガ!?」

 その存在に、ふらつきながら立ち上がったアズマはそう叫んだ

 ゲッコウガが居ることそのものは可笑しくはない。可笑しいのは、そのゲッコウガが戦闘不能(倒れ)ていること

 言ってはアレな話ではあるのだが、普通のアブソルとゲンガーであれば、同等の練習をしてきたならばゲンガーの方が数段強いはずだ。更には、ゲッコウガは水/悪タイプのポケモン、悪タイプのアブソルに対しては有利に戦えるはず。幾ら謎の変化を遂げていたとして、一方的にやられることはないだろうと、アズマは皮算用していたのだ

 

 だが、現実はそうではなかった。ゲッコウガですら、あのアブソルにはまともにダメージを与えられずに気を失った

 

 「……ライ」

 ふらつきながら、一匹のポケモンがアズマの前に降り立つ。借り物のフライゴンだ。長年の相棒はウインディだが、フライゴンとて執事と長い間旅をしてきた歴戦のポケモン、アブソルとの相性はゲッコウガより悪くとも、実力はそれを加味しても負けるものではない。それでも、ふらついている。キズついている

 「にぃちゃん、つえーぞこいつ!」

 「そう、みたいだな……」

 呟くアズマの右手で、突き刺さったまま取れなくなってしまった黒水晶が、鈍い光を放った

 

 『(どうするんですの?)』

 「やるしかないだろ、ギル?」

 アズマの声に、当然、とでも言いたげに頬を布で撫で、ヒトツキがその左腕に絡み付く

 「にぃちゃん?」

 「ライ、サザ、そしてショウブ

 時間を稼げるか?」

 「何する気なんだ、にぃちゃん」

 「切り札さ。おれの生命の波動をヒトツキに吸わせて、『せいなるつるぎ』を叩き込む

 それで勝てなきゃ、もうお手上げ」

 聖なる剣とまで呼ばれる技は格闘タイプエネルギーに分類されている。悪タイプであるはずのアブソルには効果は抜群だ。今のヒトツキでは、ヒトツキ種の特徴として行う吸命でアズマの生命を吸いとらなければまともに放つことすら出来ないほどの強力な技、当てられれば勝負は決まるだろう。逆に言えば、当てなければいけない。素早いアブソルに自在に当てられるかというと否や。フォローがなければ当たらないだろう

 

 そう、行動指針を決める

 「行こうぜ、リザードン!」

 ショウブも、もう一体のポケモン……リザードンに指示を出す

 そうして、行動を開始しようとして……

 「『ふぶき』、おねがい」

 『ソルッ!』

 死神のような冷たい冷気が、アズマの頬を撫で上げた

 

 「ギル!」

 咄嗟にアズマが頼るのは、やはりというかヒトツキ。一番共に歩んできた期間が長いパートナー

 その意図を受け、掲げたアズマの左手で、アズマごと皆を庇うようにヒトツキが緑のオーラを放つ。『まもる』、である

 以心伝心。最早叫ぶだけで意図は伝わる。皆を、他のポケモン達を、守るために盾となる

 

 「にぃちゃん!」

 「大丈夫、の……」

 はずだ、と言い切る事は、出来なかった

 ヒトツキが布を腕から離し、その柄を振ってアズマを撥ね飛ばしたから

 「っと」

 何とか倒れかかる体のバランスを取り体勢を立て直したアズマの眼前で、基本的にはどんな攻撃も防ぐはずの緑色の壁が砕け散る

 アブソルが羽根のような羽毛を震わせて放った冷気はそのままヒトツキを巻き込み……後には、一本の剣を閉じ込めたアズマの背丈を越える大きさの氷像だけが残った

 

 「あいつと……同じ」

 呆然と、アズマは呟く

 似たような現象は見たことがある。そう、それを見掛けてからまだ一月も経っていない気がする。謎の緑のポケモンの放った、1000本はあるのではないかというオーラの矢。あれは当たり前の事のように、技のエネルギーを遮断する特殊なエネルギーであるはずの『まもる』の防壁を砕いてきた。対『まもる』用に編み出されたという特殊な技でも無いだろうに、異様なオーラで押し通した。それと同じ現象

 

 「どうすんだ、にーちゃん!」

 ショウブの叫びにも、アズマは答えられなかった

 切り札としようとしていたヒトツキは、氷の中に閉じ込められた。ボールに戻せば、と回収用のボールの光を当てるも、氷の表面が鏡面化しているのか光は弾かれる。溶かすにしても、火力は相当必要で、溶かしてもそもそも戦えない可能性もある。アズマの計画はあっさり潰えた

 

 かといって、『まもる』でヒトツキが盾になってくれなければ、皆凍っていた可能性はあるので間違った選択ではない。ヒトツキが守ってくれたその時間で、倒す

 アズマはそう結論付け、アブソルを睨む

 『ソルッ!』

 「もう一度」

 アブソルを連れた少女の声が響く前に、そのポケモンは血走った赤い目で頷いた

 

 「……どうする?」

 「やるしかない!リザードン、『だいもんじ』で跳ね返せ!」

 ショウブの言葉を受け、火竜が下ろした頭の前で腕を交差

 アブソルが全身を震わせ冷気を放ったその瞬間、頭を突き出して火弾を放つ!

 『だいもんじ』。激突すると文字通り大の形を描くように炎が燃え広がる、炎タイプでも有数の強力な技だ

 

 「いっけぇぇぇっ!」

 ……だが

 その火弾すらも、タイプ相性的には有利なはずのアブソルの冷気に押し返され……放った当ポケモンの眼前で炸裂する

 

 「リザードン!」

 炎の中から、傷つきながらも火竜は健在な姿を見せる

 ……とはいえ、一度も有効打を与えられていないのは確か

 「逆転勝利だ、私を離せ」

 勢い付いたのか、アズマが縛っておいたジャケットがそうふざけたことまで言う始末

 

 さあ、どうする……

 と、唇を噛んだアズマは、小さなポケモンが酷く怯えている事に気が付いた

 「……姫」

 『(……怖い、暗い、痛い、痛い、痛い、痛い

 憎い、憎い、憎い、憎い……)』

 「姫、どうしたんだ」

 ぼんやりとアズマの脳裏に流れ込んでくるテレパシーは、酷く暗く歪なもの。おおよそ、普通ではない

 

 『(命の波動が……暴走している

 お願い、ですの)』

 「何を」

 『(ピンクダイヤモンドは命のダイヤモンド。ゼルネアスの力に近いものですわ

 だから、それによってダイヤモンド鉱国は栄えるんですの)』

 「その石が、あのアブソルを苦しめている、と?」

 アズマの視界に映るのは、桃色の石を受けて、様々に光を放つ少女の腕にはあまりにも大きすぎる腕輪。恐らくは、増幅装置なのだろう

 『(お願いですわ!過剰すぎる命の波動で、あのままでは……)』

 「分かった

 姫、ならば……おれは何をすれば良い」

 『(そんなの、分かりませんわ!)』

 「おい!」

 突然の丸投げに、思わずアズマは声を荒げる

 『(でも、止められるとしたら

 あなたしか思い付きませんの!その昏い命のオーラしか!)』

 

 イガレッカ!と、脳裏にとても恐ろしい鳴き声が響き渡った

 そんな気が、アズマにはした

 それだけで、今のアズマにとっては十分だった

 「……姫。ピンクダイヤモンドを作ってくれないか。紛い物で良い」

 『(全然長く持ちませんわよ。それに……自分のポケモンにも同じことをさせるというなら許しませんわ)』

 その時、アズマの脳裏に浮かぶのはあの幼い日のルカリオ。あのルカリオは、理性的な目をしていた。そして、その全力をもって、アズマという挑戦者を叩き潰した。あれが、あのジムの求めた強さの基準だったのだろうか。アズマにとって重要な事は一つ。命の波動による変化そのものではなく、あのジャケットの少女の腕にある装置による変化が、ポケモンに大きな負荷をかけるだけということ。あのルカリオは、自然体だった

 「オーラが通りやすいピンクダイヤなら、それで良い。あのアブソルを救うために、頼む」

 『(……信じますわよ)』

 「任せろ」

 

 「『ふぶき』!」

 そんな会話を引き裂いて、少女が叫ぶ

 三度放たれた冷気は、今度こそヒトツキに止められることはなく……

 後方に控えるディアンシーへと手を伸ばす

 「早く!」

 『(どうなっても知りませんわよ!)』

 そんなアズマを庇うように、フライゴンとモノズが眼前に立ちはだかり……

 

 そうして、全ては凍り付いた

 「ライ……サザ……

 悪い、有り難う」

 産み出されたのは、一つの氷像

 けれども、アズマの全身を氷付けにするはずだったろう冷気は、氷が苦手なはずなフライゴンの壁により減衰し、下半身を凍らせるに留まった

 

 そうして、伸ばしたことで凍らなかったその右手に、しっかりと二つのダイヤを握りこむ

 

 「ショウブ、リザードン、受けとれ!」

 そうして、投擲

 手首のスナップ……モンスターボールを華麗に投げられるようにという練習で鍛えられたそれを使うには黒水晶が邪魔で、腕全体を使い石を投げ渡す

 そのアズマの右手で、黒水晶が強い光を放った

 

 「にぃちゃん!?」

 「やるしかない。命の波動に耐えられるのは、お前たちしか居ない」

 投げ渡したダイヤモンドと腕の合間に七色の光が走り、繋がる。腕の黒水晶を中継し、二つのダイヤモンドが結ばれる

 

 「叫べ、ショウブ!リザードンと君はきっと強い。出来るはずだ

 限界を越えた命の波動。進化を越えたシンカ……」

 「煩い……。『ストーンエッジ』」

 アブソルの周囲に飛礫が舞い、一斉に残されたまともに動ける人員……即ち、ショウブを狙う

 唯一動ける火竜は、トレーナーを庇うように、本来であれば避けるべき石の雨に飛び込み……

 

 「「その名……メガシンカァァッ!」」

 七色の光が、弾け飛んだ




アズマ「メガストーンとキーストーンは作った」
伝説がまだ居ないせいで主人公がインフレに取り残されかけている……

次回 激突!メガウェーブvsメガシンカ


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特別編 激突!メガウェーブvsメガシンカ!

そうして、光は弾け飛び

 その場に羽ばたくのは、一匹の鮮やかなオレンジの火竜。火炎ポケモン、リザードン

 一見して、何も変わっていないように見える

 

 否、アブソルほど明確な変化は無くとも、しっかりとその姿は変わっている。短い二本角であったはずの頭の真ん中に新たに煌めく、巨大な一角。より節くれ立ち、肥大化した両の翼。短い前足には、その大きさに合わせたような小さな翼が生え。トゲが隆起し巨大化した尾の先には、異様な明るさで煌々と輝く焔を燃やし。姿を変えた火竜が、吠える

 

 『ソルッ!』

 初めて、アブソルが怯む

 その頭に、光が射した

 ……晴れている。雲がかかり、晴天というにはちょっと肌寒かった曇り空であったはずの空が、快晴の様相を呈している

 いや、違う。と、アズマは空を見上げた

 空に浮かぶ第二太陽。巨大な炎タイプエネルギーの塊だ。リザードンの咆哮と共に空に集まったそれが、曇天の中この地だけを快晴の空に変えているのだ。それは例えもしも今雨が降っていたとしても、それを塗り替えてしまうほどの力

 「日照、り……」

 アズマも、聞いたことはあった。ポケモンの中には、居るだけで天候を変えてしまう恐ろしいポケモンも居るのだと。父親のバンギラスも、戦闘になると局地的な砂嵐を起こしていたからよく覚えている。だが、リザードンがそんなポケモンだとは聞いたことがない。これでは、まるで……ホウエン地方に伝わる超古代ポケモンのような……

 脳内でそこまでじゃないと恐ろしい鳴き声に叫ばれた気がして、アズマは思考を打ち切った

 

 「行くぜ、リザードン!

 このパワー、今なら誰にも負ける気がしねぇ!」

 『ヴァッフ!』

 頭を天に向け吠えたリザードンが、そのトレーナーの声に応える

 それと共に、アズマの右手の黒水晶にスパークが走った

 『(……大丈夫、ですの?)』

 「大丈夫。アブソルみたいにはなってないだろ?」

 アズマは、不安げな小さなポケモンに、そう応えた。右手は、二人の波動の中継地点として、大分痺れているけれども

 実際問題、リザードンの目は普通だ。アブソルのように赤く染まっていたりはしない。一人では無理でも、信頼できるトレーナーと生命の波動を合わせればもしかしたら。アズマの推測は、正しかったようだ

 

 「……『だいもんじ』」

 「今度こそぶっ飛ばしてやろうぜリザードン!大っ!文っ!字ぃぃっ!」

 そうして、お互いに指示は同じ技。快晴の下でより強い力を発揮する炎タイプの技、『だいもんじ』

 アブソルは翼を振るわせ、リザードンはその口内に巨大な火球を産み出して構え……

 同時、激突する軌道で打ち出した

 

 中空での激突。だが

 かつては相性不利なはずの冷気に押し返された火球は、今度はアブソルの放った火球を一瞬にして呑み込み、アブソルに激突すると共に大の文字を描いて炸裂する!

 初めて、だ。初めてアブソルの体がぐらついた

 

 『ソルッ!』

 『ザァッ!』

 再びの咆哮。だが今度のアブソルの叫びは、殺意にも思える敵意に満ちていて

 「リザードン!」

 認識できず、後からショウブが叫んだ

 リザードンが、その背にアブソルの前足を乗っけられ、地面に押さえ付けられている

 『ふいうち』だ。それは分かるのに、アズマにはその一撃を見ることすらも出来ず

 そのアブソル周囲に、幾つもの岩が浮かぶ。『ストーンエッジ』。確実に止めを刺しに行く気なのだろう。至近距離から外しようもなく叩き付けるように……

 「リザードン、『はがねのつばさ』!」

 間一髪、ピンと拡げた翼が光沢を持ち、背中でシンバルのように打ち合わされる。それを避ける為にアブソルは前足を離し空中で宙返り、そのまま岩櫟を放つもギリギリで火竜は直撃を避ける

 数発はカスれども、直撃は避ける

 

 「『ドラゴンクロー』!」

 「……あのリザードンを倒して」

 少女は、あの時ふいうちの指示など出していなかった。アブソルは何となくでしか指示を聞いていないのだろう。だからもう勝手にしてと、自身のポケモンへの指示を放棄する

 

 何をやってるんだ、とアズマは舌を噛む

 確かに、指示なんて出さなくてもポケモンは自分で戦える。野生のポケモンだってそうだ。だけど、それならば。トレーナーの意味がないじゃないか

 「……まさか、メガシンカを……」

 「形勢は、まだまだ決まってないみたいだな」

 縄からは抜け出せずに呆然と呟く男の方には、そう返し

 「でも、ショウブは勝つさ

 だってあいつは強いし……」

 黒水晶が煌めく

 「あんな自分の大切なポケモンを苦しめるような外道な装置に、絆は絶対に負けない」

 氷付けのままそう呟くアズマの眼前で、遂にオレンジの火竜が白い羽毛の獣をその竜の力を秘めた爪で地面に叩き付けた

 

 そのまま、白い獣(アブソル)は元々の翼の無い姿に戻り、地面に倒れこむ

 「……アブソル」

 ゆっくりとした動きだが、ジャケットの少女が倒れたポケモンに駆け寄る。トレーナーとしての愛情は……あるのだろう。ならばこんな使い方するなという話はあるのだが

 「ぜえっ、はあっ

 にぃちゃん。何と言うか、疲れるなこれ……」

 同時、軽い虹色の光と共にリザードンの姿も元々の火竜に巻き戻り、戦いを終えたショウブが、疲れぎみながらやりとげたという笑顔を見せる

 「ああ、凄いじゃないか」

 「そりゃ、オレサマはいずれチャンピオンになる男だかんな!リザードン、にぃちゃん達の氷溶かしてやって」

 もう、黒水晶の痺れはなかった。ポケモン(リザードン)トレーナー(ショウブ)、二人の波動を合わせるという役目を終えたからだろう。リンクも切れた。ずっと繋がっていたら、それはそれでアズマに負担が大きいのだろうか

 あのポケモンの一部。生命の波動を調律し、メガシンカを起こさせる事が出来たのは、アズマの元々何故か持つ黒いオーラのお陰だけではない。あの黒いポケモンの正体に、アズマは思いを馳せ、氷が溶けるのを待つ

 リザードンの放つ火によって、氷はみるみるうちに溶けて行き……

 

 『(……ひっ!)』

 小さなポケモンの悲鳴と共に、寒気がアズマの背を伝った

 「ショウブ!」

 「ん?なんだにぃちゃ……」

 少女の腕輪が異様な音と共にスパークを放ち

 誰でも視認出来るほどのドス黒いオーラを纏い、倒れたはずのアブソルが再び翼のある姿に戻っていた

 スパークにより気を失ったのか、ジャケットの少女が地面に倒れこむ。その腕の装置が煙をあげ、桃色のクリスタルが砕け散った。だが、アブソルはそれを意にも止めない。ただ、深紅の目でアズマ達を見ている

 

 「にぃちゃん、もう一度……」

 「無理だ。リンクは切った。もう一度メガシンカしようとするなら、一度間を通す為におれにピンクダイヤモンドを返してもらわないと……」

 ゆらり、とアブソルが前足に力を込め、上半身を起こす

 「そんな時間が」

 同時、炙られていたヒトツキの氷は溶け

 「ギル!ショウブ達を『まもる』!」

 飛び込んできたパートナーの柄を右手で掴み、自分の命の波動を吸わせて体力を強引に回復して貰い、アズマはそう叫ぶ

 直後、緑の防壁を粉々に砕いて突撃してきた白い風にアズマはヒトツキごと吹き飛ばされ、近くの木を激突の衝撃でへし折って止まった

 『ふいうち』だろう。だが、あのオーラ纏いはまもるの防壁を力で抉じ開ける。恐らくはあの時のリザードンにもそれは出来ただろう。どの技でも結果は同じだった

 

 「……負けらんねぇ!負けらんねぇんだ!『だいもんじ』!『だいもんじ』!大文字ぃぃっ!」

 だが、最初の一撃はアズマとヒトツキが防いだ。その結果、ショウブとリザードンは動ける

 尚も飛び込んでくる影を迎え撃つために、リザードンは火球を放つ

 だが、アブソルの動きは止まらず……

 

 「ジャケット!止めなきゃ死ぬぞ、あのアブソル!」

 「有り得……ない。命の危機までは行かず、解除されるはず……」

 「完全機械頼みで、そんなもの!信頼出来ると思うなよ!」

 敗北でバグったのだろうか。確かに、アズマの目にも煙をあげる腕輪は正規の動きとは見えなかった。でも、今重要なのは。ドス黒い波動を纏い、命を磨り減らして敵意のままに暴れまわるあのポケモン

 唯一止められそうなモンスターボールを持った少女は、今は気を失っていて役にたたない

 

 シ……シ……シカ、リ!

 イガレッカ!

 そう、アズマの脳裏に鳴き声が三度響く

 僅かに、黒水晶が光を放ち……

 「やるか、ギル」

 止めるための切り札が、アズマの脳裏に閃く。といっても、『せいなるつるぎ』作戦の再決行と実質変わらない手なのだが

 

 だが、その必要はなく

 「負ける、もんかぁぁっ!」

 『リ、ザァァァァァァッ!』

 光を失った、リンクが切れたはずの二つのピンクダイヤの間に、虹の光が走る

 「んな、まさか!」

 『(……キズナ、ピカリ……)』

 再度火球を、今度はその頭で押し込まれようとしていた火竜が再度光に包まれ、そして弾ける

 虹色の二重螺旋。DNAの一部を意匠化したような紋章が輝く中、光の中から漆黒の火竜が、青い炎と共に姿を現した

 「キズナの光……メガリザードンXっ!」

 「Xぅっ!?」

 ショウブの謎宣言に、アズマは首を傾げる

 「いくぜリザードン

 新必殺!フ、レ、ア……ドラァァァイブッ!」

 だが、事態は止まらず

 短い咆哮と共に、弾き返された火球に黒い火竜は自ら飛び込む!

 そのまま大の字に炸裂した炎は、口から黒いリザードンが漏らす青い炎色に染まり……。リザードン全体を纏う青い炎の鎧となる!

 文字通り燃え盛る炎の竜と化したリザードンが、火球を打ち返したアブソルの脳天に、お返しとばかりに頭突きをかます

 決着は、それでついた




アイテム解説
キズナダイヤモンド 分類:メガストーン
ディアンシーが作り出し、イベルタルが力を注ぎ込み、ネクロズマが光を灯すことで産まれたメガストーンの一種。持っているリザードンをメガリザードンへとメガシンカさせる。イベルタルのダークオーラを宿している場合はメガリザードンYに、受けていない場合はメガリザードンXへとメガシンカするものであり、ダークオーラを注ぐ方法さえあればこれ一つでXY双方にメガシンカが出来、その場で切り替える……或いはYにメガシンカして日照り発動してからXに変化することすら可能なスグレモノである
逆に言えば、ダークオーラを受ける方法が無い場合はメガリザードンXにしかメガシンカすることは出来ず、イベルタルと対峙或いは共闘する場合ダークオーラの影響を受け強制的にメガリザードンYにメガシンカしてしまい、Z氏と対峙或いは共闘する場合はダークオーラが反転される為強制的にXになる(ドラゴン/地面に弱くなる)という欠点も持つ。そのため、どちらにメガシンカするか元々決めている場合は通常メガストーンの方が良い

アズマの、メガストーンは作った第一弾。因みにXとYという分類に関しては、ショウブが黒い姿とかカッコいいからさっきの姿と区別してXとカッコいい称号を付けてみただけ。後に、Xと区別する意味で日照りを起こす方はYという称号を与えられる

おまけ。もしもショウブとリザードンがメガシンカしなかった場合
ヒトツキはアズマの命を吸い取り、破壊のオーラを身に纏った!
ヒトツキとアズマの放つ、全力を越えた一撃!
「全力、無双、激っ!烈っ!けぇぇぇぇえんっ!」で倒すという想定です。オーラ纏ってZ技な以上、メガストーンが作れるならZクリスタルだってその場で作れるはずなんですよね。ただ、メガシンカ対決にZ技で水を差すのもということで没りました


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vsボーマンダ

「……ふぅ」

 ショウブが息を吐くと共に、黒火竜の姿が元に戻る

 すでに桃色水晶は砕け、腕輪も機能を停止している。今度こそ、地面に倒れたアブソルは立ち上がってくる事は無かった

 

 「今度こそお疲れ、ショウブ、リザードン」

 リュックの中から飲むタイプの薬を二本取り出して、アズマは一人と一匹に投げる。割と安物の良い傷薬である。又の名をブレンドきのみジュース。高い割に効果はいいきずぐすりと変わらないという欠陥品だが、飲んで美味しいという利点がある。その点が重要だ

 「ん、サンキューなにぃちゃん」

 『ザッ!』

 きゅっと栓を回し、二人が傷薬を空ける

 「うん、イケるじゃん。にぃちゃん何処で買ったんだよこれ」

 「自販機で売ってるぞ」

 「たけぇの?」

 「ミックスオレなんかを買った方がコスパ良いかもな」

 と、言いながらアズマも一本取り出して栓を空ける

 そうして、解放された左手に紙コップを出して、そこに注いだ

 「んでも、ヒトツキこれが好みなんだよ。だから買いこんだ」

 

 言いながら、アズマは倒れた少女とアブソルに近付く

 とりあえず、息は……ある。死んでた、なんてオチは無い

 『(大丈夫、ですの?)』

 「後遺症が残らないかは、分からない」

 肉体的には、治る……とは思うけれども。ポケモンの医者ならぬアズマには、実はからだの深い所が傷付いていて二度と立てない状況だったとしても、それを見抜けたりしない。だから、たぶんと希望的観測を言うしかない

 

 そんな事を話している中。陽射しが、消えた。多分、あのリザードンが作り出したものが消えたのだろう。そう、アズマは思い

 「ショウブ、まだ凍ってるライ……フライゴン達も頼む」

 と、言いながら……頬についた砂利に、違和感を感じた

 

 「……違う。陽射しが消えたんじゃない」

 「……にぃちゃん?」

 「ショウブ!敵だ!」

 

 『バン、ギ!』

 その声と共に、地面の中から飛び出したのは、巨大な緑の怪獣。バンギラスと呼ばれるポケモン

 戦闘になると砂嵐を起こすという強力なポケモンが、突如として現れていた

 「何っ!?けど、今のオレサマとリザードンなら……」

 『(まだ居ますわ!)』

 更に、砂嵐が突如突風と共に一時、晴れる

 快晴の中、舞い降りるのは巨大な青い竜。その背の、扇形の紅の翼が鮮やかに映える

 「ボーマンダだって!?けど、やってやるぜリザードン!メガシンカだ!」

 「止めとけ、ショウブ!ぶっ倒れるぞ!」

 「けどよにぃちゃん!」

 「まだ居るかもしれないだろ!様子を見ろ!」

 そうして、アズマはゆっくりと降りてくるボーマンダを見上げる

 その背に、特別な刺繍が施されたジャケット……というかそれに良く似たコートを羽織った男の姿を発見した

 その顔は分からない。顔全体を覆う仮面が、その正体を覆い隠している

 「……何をしているか、同志フォイユ、フルル」

 「ボス……」

 降り注ぐ声は、機械的。ボイスチェンジャー丸出しの声であった。とことん、正体は隠すようだ

 だが、それよりもアズマ達にとっては、その次の言葉の方が重要だった

 ボス、と。つまりは、仮面にコートの男。彼こそが……

 「ラ・ヴィ団のボスって事か」

 

 「如何にも、だ、アズマ・ナンテンよ」

 「そりゃどうも。おれの名前も知ってるなんてな」

 「知っているさ。ディアンシーを奪った少年。あの辺りではそれなりの有名人なのだろう、ナンテン博士の息子よ。調べはあっさりとついたぞ」

 「そっちだけ、知ってるってのは卑怯じゃないか?」

 『(理屈になってませんわ)』

 「私の名はノンディア。君の言う通り、ラ・ヴィ団の同志を束ね、ゼルネアスを求める者。……それ以上を知りたければ、私を倒して自力で知ることだ」

 「そうなのか。とりあえず、姫は渡さない」

 ディアンシーを後ろに庇いながら、アズマは叫ぶ。ジュースを何処からか体に取り込んでいたヒトツキも戻ってきて、アズマの右手に布が絡み付く

 

 「……同志フォイユ。何をしていた」

 「海神の穴調査の任務中にディアンシーを発見、ならばと」

 「ああ、分かった。ならば、良し

 ディアンシーは君達に任せよう同志フォイユとフルル

 

 そういうことだ、若きトレーナー達よ。この度の私は、若き同志がジュンサー等により囚われるのを防ぎに来ただけの事」

 「みすみす逃がすと思うのか?」

 「そうそう。逃がす訳ねーじゃん?」

 「……逃がすさ」

 「ボーマンダ一匹で、三人も運べるか!」

 「一匹ではない

 来い、 Blaster」

 瞬間、今一度空を切り裂いて。流れ星が降ってきた

 いや、流れ星ではない。寧ろ……ロケット?

 

 これは、ポケモンなのか?とアズマは砂が入りかけた目をしばたかせる

 生き物であることは、確かだ。だが、あまりにも大きい。そして、不思議な姿をしている。あれは……竹、だろうか。そのような腕……なのか何なのか分からないものが二本。けれども、見えるのはそれだけ。いや、砂嵐の先に、それ以外のなにか、本体のようなものが居るようにも見えて……

 「何だ、こいつ……」

 「知らねぇけど、竹っぽいなら多分草タイプだろ!『だいもんじ』!」

 「……バンギラス、防げ」

 だがそれは、前に出たバンギラスによって散らされる。砂嵐によって減衰していく中、バンギラスにそうそう有効なダメージは通らない

 

 「なら、狙いはボーマンダ!リザードン、『ドラゴンクロー』だ!」

 「……メガシンカ。『おんがえし』」

 だが、ショウブのその動きを読んでいたかのように、男はボーマンダの背から飛び降りる。その瞬間、ボーマンダは虹色の光に包まれ、巨大な三日月の翼を広げた姿へと変わる。そのまま突撃。風を纏った一撃は、爪を振りかざした疲れたリザードンを、ただの一撃で地面に叩き落とすのにはあまりにも充分すぎた

 

 「リザードン!」

 「……まだ、やるか?」

 『ダァァァッ!』

 勝ち誇るように、ボーマンダが吼える

 そのまま倒れているアブソルと、その傍らの少女をボスは回収。ボーマンダの牙により荒々しくだがジャケット男を縛る縄も引き裂かれ

 その間、アズマは動けなかった。バンギラスという野放しのポケモンが居るから。下手に動けばどうなるか、分かったものではないから。目が砂嵐で良く見えないから動きにくかったのもあるけれども、何も出来ない

 そのまま、二人の男が掴まり、謎の竹は地上を飛び立つ。一拍遅れて、背にアブソルと少女を器用にくわえて乗せ、アズマを一瞥だけしてボーマンダも地面を蹴った

 アズマ達には、バンギラスをボールに戻して去って行く彼等を、見守ることしか出来なかった




第一章レポート
トレーナー アズマ・ナンテン
ばしょ 12番どうろ
手に入れたバッジ 1こ
捕まえたポケモン 8匹(???[悪/飛行]【事実上】、ヒトツキ、フォッコ【逃亡済】、モノズ、???、ディアンシー【実質】、???[エスパー]【実質】、フライゴン【借り物】)
おこづかい 725600円

ポケモンなつき度
フォッコ 0(怖いから大嫌い、トレーナーとして認めない、だから逃げた)
ヒトツキ 255(全幅の信頼を置いている)
モノズ  180(信用している。彼ならきっと自分を強くしてくれると)
ディアンシー 128(信頼してない訳じゃない。でもやっぱり時折凄く怖いから素直になれない)
???(悪タイプの方) 300(限界突破。ちょっと病んでる)
???(エスパーの方) 199(一目惚れしたおきにいり。恋愛的な意味ではないが。赤いのは邪魔)
???(10%の方) -70(敵。文句無しの敵)
フライゴン 220(とても大切だけど、本来のトレーナーの方がもっと大切)

アズマはにっきに(なつき度以外)しっかりと書き残した!


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扉 現在の主なキャラ紹介?

本来性別不明なはずのポケモンにも性別が設定されているのは仕様です。伝説のポケモンに関しては種族値が未表記のも仕様です
伝説のポケモンが基本♂♀無いのも、種族値が680程度なのもゲーム的なバランスの問題であり、その制約の無いこの世界においては違います

出番がないポケモンが混じってるのも後々出てきて既に存在が語られてるポケモンなので仕様です


アズマ(アズマ・ナンテン) 人間(全国図鑑No.無し) 性別:男

タイプ:あく 65/40/70/10/50/42(277) 特性:弱ダークオーラ(自身が居る限り、全ての悪タイプ技の威力が6/5倍になる。イベルタルのダークオーラと効果は重複する。また、オーラ効果発動中はBGMが「イベルタルたちとの戦い」へと上書きされる。伝説ポケモン専用BGMには全て優先度で負ける) 性格:素直(補正無し)

主人公。人間でありながら、ダークオーラを持つ少年。彼が居る限り、そして気持ちが昂っている限り、弱ダークオーラが効果を発揮する。ポケモンとやりあうとしたら、大体277族くらいである。ヒマナッツやら進化前なら何とかなるが、それ以上は無理な程度。スーパーマサラ人ほどの化け物スペックはないが、そこそこ頑丈

3000年前のカロス王族の末裔。AZの子孫という訳ではなく、その妹の血族。3000年もの間に大半のカロス人には多少王家の血が混じっているが、その血は特に濃い。3000年前、ゲンシの力を解き放った二体のポケモンにより創られた今に続く新たなホウエン地方から来た者と結婚し、ずっととある地で桃色の水晶を護る役目を与えられて生きてきた事から、一族の王家の末裔としての意識はかなり高い

好きなポケモンはトリミアン、好きな番組はスタイリッシュトリマーSと、かなりのトリミアン好き。なのだが、一年前、父親のトリミアンの死以来、トリミアンに対してちょっとしたトラウマを抱えている。尊敬する人物は父親とフラダリ。だがフレア団は嫌い。フラダリがフレア団のリーダーであった事やその行動を受けてショックはあったが、それまでの経歴もあり、フラダリ本人への尊敬の気持ちは未だに消えていない。フレア団事件に関しては、フラダリさんほどの人の気持ちを本当の意味では理解出来ないけれども、自分も王家の末裔だししっかり考えればある程度分かる気がする。けれども、どれだけ絶望してもあれはやっちゃいけない事だった、その一線を立派だったが故に絶望したフラダリさんは踏み外してしまったというスタンス

幼少は病弱な少年であり、ダークオーラ等持っていなかったが、桃色水晶をヒトツキに食べさせられて死にかけて以来、ダークオーラを放つようになっている。今の彼は、何故か風邪が流行していようが、感染症の只中に飛び込もうが、体調一つ崩さない強靭な肉体の持ち主である。ダークオーラの影響か、ダークオーラを得る前から親交のあったポケモンを除き、ダークオーラを心地よく思う悪タイプか、オーラの影響を超越する伝説クラスしか寄ってこなくなっている

 

 

ギル(ヒトツキ) 刀剣ポケモン(全国図鑑No.679) 性別:不明(精神は♀寄り)

タイプ:はがね/ゴースト 45/80/100/35/37/28(325)

特性:ノーガード(殴り合おうという気分が昂り、お互いの攻撃が当たりやすくなる。互いの命中率1.2倍) 性格:勇敢(A↑S↓)

アズマのパートナーポケモン。特性ノーガードは、世界観上必中が有り得ない為、互いの命中率補正効果である。その昔、病気で苦しむアズマが出会った刀剣ポケモン。アズマに桃色水晶を飲ませ、一度死にかけたさせたのが出会いである。だが、アズマは以降健康になり、それ以来アズマの周囲に何時も居る

何らかの理由で目の前に現れたのだろうとアズマは推測しているが、迷惑ではないから気にしていない。お互い信頼しあっており、息は良く合う

 

サザ(モノズ☆) 粗暴ポケモン(全国図鑑No.633) 性別:♂

タイプ:あく/ドラゴン 52/65/50/45/50/38(300)

特性:はりきり(攻撃が1.5倍になるが、命中率が0.8倍になる) 性格:臆病(A↓S↑)

アズマがアサメで出会ったポケモン。色違いの、黒と緑の体色。何かに怯えていたが、ダークオーラに安らぎを見出したのか、自らアズマに付いてくる事を選ぶ

臆病で撃ち逃げを好むせいか、モノズ段階から特殊型という珍妙なポケモン。はりきりなんて知らない。何時の日か、サザンドラに進化したその時、真価を発揮するだろう。それまではネタポケモンである

 

ディアンシー 宝石ポケモン(全国図鑑No.719) 性別:♀

タイプ:いわ/フェアリー 50/100/150/100/150/50(600)

特性:クリアボディ(能力を下げられない。BGM上書き効果は無い) 性格:無邪気(D↓S↑)

ジャケットの男達に追われていたダイヤモンド鉱国の姫。メレシーの突然変異種。紆余曲折を経て(あまり経てない)、最終兵器起動の際に波動で壊れてしまった聖なるダイヤを直して鉱国を救う力を得る為、ゼルネアスと出会う目的をはたすためにアズマと同行する事になる。本来のディアンシーという種族はもっと成長してからゼルネアスと出会う為に旅立つのだが、彼女は未曾有の危機に立ち向かうため直ぐにでもゼルネアスに出会わねばならない使命を負っている。その為、他のディアンシーに比べると随分と幼い

助けてくれた事などもあり、アズマの事を嫌っていないのだが、やはり気持ちが昂った際のダークオーラは怖いらしい。テレパシー能力を持ち、会話が可能な珍しいポケモン

 

謎のポケモンZ(ジガルデ・10%フォルム) 秩序ポケモン 性別:不明(コアの精神は♂)

タイプ:ドラゴン/じめん 

特性:オーラブレイク(自身が居る限り、ダークオーラとフェアリーオーラの効果、そしてオーラ纏いによる能力上昇を反転する。BGMが「戦闘!ゼルネアス・イベルタル」へと上書きされる)→スワームチェンジ(オーラブレイクの効果に加え、HPが減少あるいは自身の「戦闘!ゼルネアス・イベルタル」がBGMとして流れていない場合にフォルムチェンジ。100%フォルムに変身した場合、上書きするBGMが「XY&Z(インストゥルメンタル)」へと変化する) 性格:不明

アズマの屋敷を襲撃した謎の犬のようなポケモン。何らかの理由があるようだが……

その理由は、一体No.717の何ベタルなんだ……

その正体は名前にもある通りジガルデ。基本的には周囲のセルだけを集めた10%フォルムであり、10%では無理だと判断することでセルを呼び寄せ50%フォルムへと変貌する。とはいえコアは一つのままであり、10%フォルムと50%フォルムの間に5倍の能力差は無い。というか、倍もない。だが、コア+セル50%の50%フォルムと100%のパーフェクトフォルム(コア二匹+セル100%)の間には文字通り倍の差がある

 

黒いポケモン(ネクロズマ・通常) プリズムポケモン(全国図鑑No.800) 性別:♀

タイプ:エスパー

特性:プリズムアーマー(効果抜群のダメージを3/4にする。この特性は特性や技の追加効果で無効にされない。また、BGMが「戦闘!ウルトラネクロズマ」に上書きされる) 性格:意地っ張り(A↑C↓)

ウルトラメガロポリスなる世界で、鎖によって囚われていた漆黒の水晶で出来たポケモン。一切の正体は不明

その正体は当たり前だが、アローラ地方で深く傷付き、メガロポリスに帰りつくも危険な存在として封印されたネクロズマである。何らかの事を求め、アズマを自身の封じられた世界に呼んだようだが……

 

ルナアーラ 月輪ポケモン(全国図鑑No.799) 性別:♀

タイプ:エスパー/ゴースト

特性:ファントムガード(HPが100%の時、受けるダメージを半減する。特性や技の追加効果で無効化されない。また、BGMが「戦闘!伝説ポケモン(SM版)」に上書きされる) 性格:不明

ウルトラメガロポリスに生息するアローラ地方の伝説のポケモン。世界を渡る力を持つという。メガロポリスの伝説としては、ネクロズマと違いアズマに対しては何ら興味を持っていない

 

ゼルネアス 生命ポケモン(全国図鑑No.716) 性別:♂

タイプ:フェアリー

特性:フェアリーオーラ(自身が居る限り、全てのフェアリータイプの技の威力が4/3倍になる。BGMが「復活!生命の木」に上書きされる) 性格:臆病(A↓S↑)

ポケモントレーナーのセレナ、が連れている伝説のポケモン。人の行動に下手に干渉することに臆病であり、ひたすらに木の姿で傍観を貫いてきたが、最終兵器起動に際し、一人のトレーナーに心動かされ目覚めた個体。その圧倒的な力でフラダリを叩き潰した後も、セレナを気に入って付いていっているという

 

GAGA(カイオーガ➡ゲンシカイオーガ) 海帝ポケモン(全国図鑑No.382) 性別:♂ タイプ:みず➡みず

特性:あめふらし(自身が登場時、雨雲を作り出して暫くの間雨を降らせる。屋内でも発生する。BGMが「戦闘!超古代ポケモン」に上書きされる)➡はじまりのうみ(雷雲を産み出し続け、自身が存在する限り天候を大雨に変える。自身が去ると単なる雨になる。戦闘BGMが「戦闘!ゲンシカイキ」に上書きされる) 性格:控えめ(A↓C↑)

ミクリの弟子のアルフ、の手持ちに居るというカイオーガ。3000年前にグラードンとゲンシの力を解放した状態でじゃれあってホウエンを作り、そして海底洞窟で眠っていたのと同一個体……らしい。グラードンとは不倶戴天の敵のように扱われているが、本ポケモン的にはちっさな大地に住む奴等に願われて友人とじゃれあって地方を作っていたら、互いにゲンシの力を得て暴走しかけたので海上で殴りあって止めただけだとか何とか。お陰でホウエン地方の右側は浅い場所と深い場所がある海になったとか本ポケモンは笑っている。その為、グラードンは悪友みたいなものであり嫌いではない




特性に付いているBGM変更効果はフレーバーです。伝説ポケモンが戦場に居るなら味方でも本来その専用BGM流れるんじゃない?という話から適当にこじつけたものなので、フレーバー以上の効果はありません

因みに優先度は
戦闘!アルセウス(マルチタイプ)
>レックウザとの戦い(デルタストリーム)=戦闘!ウルトラネクロズマ(ブレインフォース)=XY&Zインストゥルメンタル(パーフェクト時のスワームチェンジ)=氷蝕体戦 セカンド(氷/ドラゴンタイプの???)=ダークマター戦 セカンド(???)
>戦闘!ミュウツー(エスパー/格闘タイプのメガシンカポケモンのふくつのこころ)=戦闘!ゲンシカイキ(はじまりのうみ、おわりのだいち)
>氷蝕体戦 ファースト(氷/ドラゴンタイプのターボブレイズorテラボルテージ)=戦闘!日食、月食ネクロズマ(単タイプでないプリズムアーマー)
>戦闘!ミュウツー(No.150のポケモンのプレッシャー)=戦闘!ホウオウ(炎/飛行で600族越えてるポケモンのプレッシャー)=戦闘!ルギア(エスパー/飛行のポケモンのプレッシャー)=戦闘!超古代ポケモン(600族越えてる単タイプポケモンのあめふらし、ひでり。或いはエアロック)=決戦!ディアルガ!(鋼/ドラゴンタイプのプレッシャー)=戦闘!ディアルガ・パルキア(水/ドラゴンタイプ及びゴースト/ドラゴンタイプのプレッシャー)=戦闘!ギラティナ(ゴースト/ドラゴンタイプのふゆう)=戦闘!レシラム・ゼクロム(ターボブレイズ、テラボルテージ)=復活!生命の木(フェアリーオーラ)=イベルタルたちとの戦い(ダークオーラ)=戦闘!ゼルネアス・イベルタル(50%時のスワームチェンジ、オーラブレイク)=戦闘!伝説ポケモン(SM版)(ファントムガード、メタルプロテクト)
>キュレム!宿命の戦い!(氷/ドラゴンタイプのプレッシャー)=戦闘!ゼルネアス・イベルタル(10%のスワームチェンジ、オーラブレイク)=戦闘!ウルトラネクロズマ(単タイプのプリズムアーマー)=パートナーのテーマ(No.151のシンクロ)
>対決!カザンのエンテイや戦闘!スイクン等の非禁止伝説全般
>戦闘!チャンピオン等の四天王や悪の組織ボスBGM
>イベルタルたちとの戦い(弱ダークオーラ)
>専用BGM無し(三鳥等の専用BGMの無い準伝説含む)

まあ、分かりにくいですがBGM優先度(種族としての上下)は
アルセウス
メガレックウザ、ウルトラネクロズマ、パーフェクトジガルデ、真キュレム(完全体)、今作のある意味ラスボスなとある伝説
メガミュウツーX、ゲンシカイキ
白黒キュレム、日食月食ネクロズマ
一般的な禁止伝説
素キュレム、10%ジガルデ、素ネクロズマ、ミュウ
準伝説
アズマくん
となります
表記は面倒ですが、ようは危機的状況に追い込まれる(HPが減る)か或いは戦場に後から素キュレムか素ネクロズマが後から現れた場合(優先度が同じなので上書きされる)かそれ以外の禁止伝説が居る場合(優先度で負けているのでBGMが負ける)に50%にチェンジ、合体伝説以上が相手(50%でもBGMが上書き出来ない)だったり50%化しても追い込まれる(HPが減る)とパーフェクトへとチェンジするというのが、この世界でのスワームチェンジの仕様です

例外処理
オーラブレイク発動中、テラボルテージ、ターボブレイズ、ダークオーラ、フェアリーオーラのBGM優先度が無くなる。但し、この効果が発動されるのは上記4つの特性の発動後である(一瞬のみ優先度が存在して上書きされる為スワームチェンジの条件は満たす)
フィールドが破れた世界である場合、戦闘!アルセウス若しくは戦闘!ウルトラネクロズマ以外に戦闘!ギラティナは上書きされない
フィールドがウルトラスペースである場合、ブレインフォース発動中は状況に関わらず戦闘!ウルトラネクロズマが流れる
フィールドがウルトラスペースである場合、戦闘!日食・月食ネクロズマは氷蝕体戦 ファーストより優先される
ターボブレイズ、テラボルテージが同時に発動している場合、戦闘!レシラム・ゼクロムは同優先度BGMに上書きされなくなる

まあ、イベルタルが月食の天敵だったりと、戦闘能力の序列はこの限りではありませんが。また、幻は専用BGMはありませんが基本は準伝説と同等扱いです。例外としてミュウは原種なので特殊、フーパは解き放たれし姿ならば一般禁止伝説と同等、アルセウスは神なので頂点です。単純戦闘力ではアルセウスもかがやきさまやメガレックウザや真キュレムことゴッドキュレム(仮)辺りには粉砕されるとは思いますが、格としては上です。この世界ではないウルトラスペースではウルトラスペースの神かがやきさまに優先度負けますが
メガミュウツーYについては、ダークオーラにより破壊神と化したミュウツーであり、この世界では単騎では制御不能な姿のため存在しません。信頼できるトレーナーさえ居れば、ダークオーラによる破壊神化のメガシンカ(Y)もリザードンのように絆の力で制御して力として使いこなせるのでしょうが……


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扉 ジガルデと白き英雄アブソル 要約

今までの話どうだっけという人(主に作者)のための要約となります
読んでもいいし、読み飛ばしても良い。新規情報なんて何もない、単なるアズマくんの日記です


1 vs謎のポケモン 天気:晴れ

 カロス王族の割と濃い血筋の子孫であり、ポケモンに逃げられまくる少年、アズマ

 ある日家が守っている巨大な生きているかもしれないし死ぬほど苦しいがなぜか万病に効く(実体験)桃色水晶が安置された地下室で本を読んでいたアズマは、謎の緑色のポケモンZの襲撃を受ける。パートナーのヒトツキ、そして家に使えている執事のポケモンであるウインディの力を借りて何とかそのポケモンの撃退には成功したアズマだったが、謎のポケモンの放った無数のオーラの矢により、屋敷は地上部分が全壊してしまう

 『……みどりの、きらい。ひどい、ゆるせない』

 

2 vsショウブ 天気:晴れ

 謎のポケモンについて知るために、ついでに一年前、最終兵器起動事件後すぐに行方をくらました伝説のポケモンに関するポケモン研究者の父親ナンテン博士の捜索の為に、4年前貰ったフォッコにも捕まえようとした全ポケモンにもそっぽを向かれてとぼとぼと帰ってきた旅へのちょっとしたトラウマは無視して、アズマはカロス地方を巡る旅に出る

 近くのアサメタウンへの道中、ハクダンジムのバッジをあっさり手にいれて、オレサマ天才!チャンピオンになるから本格的に旅するぜ!と旅に出ようとする少年、ショウブとアズマは出会い、バトル。パートナーだろうゲコガシラとヒトツキは激戦を繰り広げ、負ける

 『……いれば、まけなかった

くやしい』

 

3 アサメタウンにて 天気:晴れ

 アサメタウンに辿り着いたアズマは、ポケモンセンターを探すなか、母娘揃って有名人なサイホーンレーサーのサキに出会う。ポケモンセンターのないアサメタウンで、サキの家で休ませて貰ったアズマは、サキから娘で憧れのトレーナーであるセレナの話を聞く

 その後、アサメを立とうとしたアズマは、謎の組織を追っているという青年カルムと、彼が保護したという怪我した色素異常のモノズに出会う

 カルムと話すなか、モノズに不思議なシンパシーを感じたアズマは、カルムに許可を得てモノズをゲットする

 『どろぼーねこ?ちがいそう、わるくない』

 

4 ハクダンの森 天気:くもり

 アサメタウン、そしてメイスイタウンを抜けたアズマは、ハクダンの森まで来ていた。だが、突如としてヒトツキが何処かへ行ってしまう。ヒトツキを探して奥地に入り込んだアズマが見たのは、怪我をして怯える幻のポケモンディアンシーと、ディアンシーを追うジャケットの男達であった

 ディアンシーを守るため、自分にも怯えられながらもラ・ヴィ団を名乗るジャケットの男達とバトル。トレーナー狙いに苦しめられつつも何とか勝利したアズマは、怯えるディアンシーをこれからも守ることと引き換えに、ゼルネアスを探すディアンシーと同行することとなったのだった

 『ももいろの、どろぼーねこ?』

 

5 vsビオラ 天気:晴れ

 ハクダンシティに辿り着いたアズマ。受付が終わっていた為ポケウッドのディスク何かを借りて一日ゆっくりと休み、ハクダンジムに挑戦する

 ジムの仕掛けはあっさりと乗り越えたアズマだったが、アズマの持つという昏いオーラのせいか、ジムリーダーのビオラが繰り出してきたのは、タスキではなくハチマキ持ちとはいえ蝶舞CSアメモースに、特性がりんぷんでこうかくレンズ持ちというネタとはいえそこはかとなく無限型っぽいCSビビヨンというバッジ0個相手にはあまりにも性能の暴力過ぎる恐ろしいポケモンであった

 圧倒されながらも、アズマとポケモン達は何故かビビヨンがぼうふうではなくソーラービーム厨だったこともあり僅かな勝機を掴みとる。オーラは怖いけどとビオラに認められたアズマは、バグバッジとおまけを貰うのだった

 『……やっぱり、すごい。えらい。がんばれ』

 

6 来訪、ウルトラメガロポリス 天気:光無き暗黒

 ビオラから、ヒャッコクの日時計の破片だという綺麗な石を貰ったアズマ。だが気が付くとアズマは、光無き謎の世界へと来ていた

 人間語を話せるその地の人間と話し、そこがウルトラメガロポリスと呼ばれる世界だと知ったアズマは彼に頼まれてかがやきさまを救う者としてメガロポリスの中心のタワーへと送り込まれた

 タワーの中腹で、鎖に繋がれていたポケモンを発見したアズマは何とかポケモン達と共にその鎖を切断。謎の黒水晶のポケモンを解放する。だがそのポケモンはアズマに手を伸ばして傷付け、日時計の破片を取り込んでレーザーを撃ち攻撃してきたのだった

 『くろいの、きらい、じゃま、てき、どろぼーねこ』

 

7 12番どうろ、新たなるラ・ヴィ団 天気:曇り

 黒いポケモンのレーザーに弾き飛ばされたモノズを追ってタワーから飛び降りたアズマは、気が付くとカロス地方、ハクダンジム戦から2週間後の12番道路に戻ってきていた

 突然の行方不明のせいかアズマを探していたらしい執事のフライゴンや近くを通りがかっていたショウブと再会したアズマはヒヨクシティを目指すが、その道半ばで近くを調査していたらしいジャケットの兄妹と出会ってしまう

 ディアンシーを狙うジャケット達は謎の腕輪でもって手持ちのアブソルを暴走状態でメガシンカ、その圧倒的な力にほぼ一方的にアズマとショウブはボコボコにされる。だが、アズマの手に刺さったままの黒水晶の破片、何故か持っているオーラ、それにゼルネアスに会っておらず不完全なものとはいえ命のオーラの籠ったディアンシーのピンクダイヤ。その3つの力を合わせて作り出したメガストーンを使い、ショウブのリザードンをメガシンカさせて何とか勝利することに成功したのだった

 『くろいの、じゃまする、いらない

 わたしだけで、じゅうぶん。いらない』




『』内は、物語風に日記をつけたアズマくんの日記を読んだメインヒロインのYちゃん(仮)による一言感想です。読める訳の無い状態のはずですが、まあ、これ自体がメタ要約なので

時系列メモ
3000年前 最終戦争/ゲンシグラードンvsゲンシカイオーガ
4年前 αS(主人公はアルフ、男の子。御三家はミズゴロウ。事件後はダイゴ引退に伴う新チャンピオンミクリに未来のホウエンチャンピオンとして弟子入り。エピソードデルタは起きていない。所持伝説ポケモンはゲンシカイオーガ、メガラティアス、レジスチル)
    LG(主人公はリーフ、女の子。御三家はフシギダネ。タマムシでロケット団に挑んだ時期がほぼゲンシカイオーガ覚醒直後。所持伝説ポケモンはフリーザー、エンテイ。リーグ突破後も普通にトレーナーとして冒険している)
2年前 Pt(主人公はチナ、女の子。御三家はヒコザル。リーグ突破後に行方不明。一部からはギラティナが拐って反転世界に居るのではと言われている。所持伝説ポケモンはクレセリア、エムリット、ギラティナ、シェイミ。そのうちエムリットは今も彼女の帰りをシンジ湖の空洞で待っているという報告書がある)
一年前 SS(主人公はソル、男の子。御三家はヒノアラシ。リーグ突破後、国際警察に入るため勉強中。所持伝説ポケモンはルギア、ライコウ)
    B1(主人公はトウヤ、男の子。御三家はミジュマル。Nに影響を受け、他の地方へと旅に出たという。所持伝説ポケモンはケルディオ、ゲノセクト、レシラム)
    X(主人公はセレナ、女の子。御三家はハリマロン。アイドルトレーナーにしてカロスリーグ優勝者としてカロス地方の色んな場所に引っ張りだこ。所持伝説ポケモンはゼルネアス)
現在  &Z(主人公はアズマ。御三家はフォッコ。御三家連れてない?ゼラオラ連れて引っ越していくヨウコとか、シェイミ連れて旅に出たチナとかもっと酷いのは居るので……。まだまだ旅は始まったばかり。所持伝説ポケモンは現状の時点ではまだ無し)
2年後 B2(恐らくは起きることはない)
未来 S(主人公はヨウコ、女の子。御三家はモクロー。大体はゲーム通り。事件後は新米アローラチャンピオンとしててんてこまいするだろう。所持するだろう伝説ポケモンはゼラオラ、カプ・コケコ、カプ・テテフ、ソルガレオ)

時系列としては、αS=LG➡Pt➡SS➡B=X➡&Z➡Sとなります
USでないのはネクロズマ関連をアズマくんがある程度持っていってしまったせいですね。封印されてたネクロズマ解放した上に最低限動ける光あげて復活させた、USに進んだ場合の大戦犯も彼ですが
因みに、伝説ポケモン解禁だと歴代主人公枠は強さ的にはアルフ(ゲンシカイオーガの強い雨を書き換える手段が誰にもない。その為バカみたいに強いが、水主体なのでヨウコには不利)>ヨウコ(Z技も扱え、隙がなく強い。未来の話だけど)=チナ(伝説ポケモン4体と多く強い。のだが、イベルタルの一貫性がちょっと高すぎる)>セレナ(ゼルネアスは文句なしに強いのだが、伝説ポケモン一体なのでごり押しはしにくい。メガシンカが可能なのでそこまでの欠点ではないが)>トウヤ(弱くはないのだが、レシラムが残りの禁止級使いにちょっと見劣りする)=ソル(歴代主人公枠の中では地味。堅実ではあるが)>リーフ(ミュウツーを捕まえに行っていない為、禁止級が居ない最弱枠)と想定してます
アズマくん?最終的には関わりある伝説の数はダントツ、その気になれば一応伝説ポケモンでフルメンバー組めると見掛けだけなら文句無し最強枠ですが、素直に言うことを聞いてくれるのは3体だけで尚且つその中の赤いのと金色いのがお互いを邪魔だなーしてるので、全部伝説で組んで戦える訳ではありません。実際は伝説と仲良しな歴代主人公枠に勝てるかは時による感じとなります


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第二章 神雷(しんらい)"Z"ekrom(ゼクロム) ヤベルタル覚醒
vsフクジ


「ゴーゴート、戦闘不能!モノズの勝ち!

 よって勝者、チャレンジャー、アズマ!」

 審判員のその声が、緑に覆われたフィールドに響き渡った

 

 此処はヒヨクシティ、その中に聳えるリーグ公認ポケモンジム、ヒヨクシティジム

 あのボーマンダとバンギラスの襲撃後、漸く駆け付けたジュンサー達に重要参考人だと施設まで連れていかれ、事情を話したアズマは、ヒヨクシティでの取り調べを終え、その足でヒヨクシティジムに挑んでみたのである。ショウブはオレサマはこのピンクダイヤの力を使いこなしてみせる、それが出来たら何時か勝負しようぜにぃちゃんとか言いながら、リザードンに乗ってミアレへ向けて飛んでいったので既に居ない

 

 そして、あっさりと勝ってしまった

 「……あれ?」

 その結果に、アズマは首を捻った

 『(これが、あの時と同じじむせんですの?)』

 「いやいや可笑しい、そんな筈はない」

 想定と違う状況に、アズマはどうしてこうなったと戦ったモノズの反応を見る

 「サザ、どう思う?」

 『モノ、ノッ!』

 『(怖くない、後1体は行ける、だそうですの)』

 「いやでも、3対3だろ?

 メェークル、ゴーゴート、ハスブレロ。これで3体。もう終わりじゃないか」

 可笑しい。手応えが無さすぎる

 あまりにも、弱い。これが本当にジムリーダーとの対決なのか?ジムトレーナーじゃなくて?と、アズマはひたすらに混乱する

 相対的な強さに差があるのは当たり前だろう。相手の使ってくるポケモンのレベルは此方のバッジの数による。それが、リーグ公式ルールだ。そして、此方の使うポケモンに制限はない。一つ目のジム以降苦労に苦労を重ねれば、二つ目のジムでは想定される強さを此方が大きく越えてしまって手応えがないこともあるだろう。逆に、一つ目のジムが相性もあり楽勝だったとバトルを怠り、二つ目のジムでボロボロに負ける事も有り得る。だが、これはおかしい。こんな結果は有り得ない

 相手がやってきた事は簡単。ハスブレロが水タイプである事を生かし水を空に撒いて極短時間の間俄か雨のような状態を起こし、メェークルが草タイプエネルギーでもって草を生い茂らせ、炎タイプエネルギーを雨で軽減し、ゴーゴートの得意とする草原を産み出された状態で、エースであるゴーゴートに全力を出させる。サポートとエースという形式のバトル方法。なのだが、ハスブレロは、あの時持たせておいたジュエルの力を使った『あくのはどう』で一撃、メェークルは『だいちのちから』で打ち上げて『りゅうのいぶき』で動きを止めようとしたら倒せてしまい、ゴーゴートは『りゅうのいぶき』を当てて足止めしながら、『とっしん』で迫ってきた所を『ほのおのきば』で……そのまま倒せてしまったのだ

 

 「ポケモンはきみを信じる

 きみはポケモンを信じる

 胸のすく勝負だったよ

 

 さあさ、勝利の証……」

 緑の帽子を被った老人……ジムリーダーであるフクジの手に、一つのバッジが握られる

 だが

 「……受け取れません」

 アズマは、そう応えた

 「どうしたんだい?」

 「何故、手を抜いたんですか、フクジさん」

 何を言っているのか分からないとばかり、老人は首を傾げる

 「こんな形でのおれの勝ちは、有り得ない

 ……だってフクジさん。貴方の使ったポケモンは、全員ビオラさんのアメモースより弱いじゃないですか」

 そう、それが、アズマの感じた違和感だった

 フクジの使ったポケモン三匹合わせても、相性の問題もあるけれどもあのアメモース一体に勝てないんじゃないだろうか。アズマにはそう思えてならなかった。多分、ビオラに挑戦したその時のアズマとヒトツキ、そしてモノズだとしてもあの三匹には勝てる。そうとしか感じられない。一応ちょっと強かったかなとはビオラも言ってはいたが、差がありすぎる

 『モノ、モノッ!』

 「一つ目のジムよりも明らかに弱いなんて、何処かおれの申請に不備でもありましたか?

 それは分かりませんが、こんな騙し討ちのような勝利で、ジムバッジは戴けません。正々堂々と、正面から勝利しなければ」

 「ああ、それね。間違いさ」

 優しく、老人は微笑む

 「やっぱり」

 「違う違う。あの子から電話があってね。暗いオーラのせいで、出すポケモン間違えちゃってた、と」

 『(……?)』

 話を横で聞いていたディアンシーが不思議そうに首を捻る

 『(つまり?)』

 「ハクダンシティジムで戦ったアメモースは、本来バッジの無い子供相手に使うポケモンとしては、"あまりにも強すぎた"

 さっきの三体が、バッジ一個のトレーナー相手に使うポケモンの基準だよ」

 「……えっ?」

 予想外の答えに、アズマの思考は少しの間停止した。せいぜいビオラのアレが、ちょっと強すぎたという言葉からバッジ一個の基準だと思っていたから




ジムリーダーのフクジ(バッジ一個パターン)
メェークルLv22 グラスフィールド/はっぱカッター/たいあたり
ハスブレロLv22 あまごい/バブルこうせん/ギガドレイン/やどりぎのタネ
ゴーゴートLv25 くさむすび/じならし/とっしん
ガンバロメーター 全員HP/攻撃/防御/特攻/特防/素早さ其々に20

ジムリーダーのビオラ(バッジ0個、アズマ遭遇パターン)
アメモースLv30 エアスラッシュ/ハイドロポンプ/むしのさざめき/ちょうのまい きあいのハチマキ所持
ガンバロメーター HP4/特攻252/素早さ252
ビビヨンLv32 ぼうふう/ソーラービーム/ねむりごな/ちょうのまい こうかくレンズ所持(特性はりんぷん)
ガンバロメーター 防御4/特攻252/素早さ252

実際問題、ビオラの方が明らかにフクジより強い為、勝てなきゃおかしい一般ジムリーダー戦はスキップだ
とりあえず、作者は若しも初ジムで御三家すら未進化でひのこだひっかくだ何だ言ってる所にレベル30代努力値極振りで壊れ積み技(ちょうのまい)から命中安定の主力技やら威力110のぼうふうやらドロポンすらも容赦無くぶっぱなしてくるこんなポケモン出されたらそのゲームはくそげと投げます。ビオラ戦は普通に考えたらそんな可笑しい難易度ですが、アズマくんにとってはそれが基準になってしまったもので


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vsディアンシー、2

「何か、釈然としない……」

 掌の中でプラントバッジを弄びながら、アズマはそうぼやいた

 ヒヨクシティ。海に面したシーサイドエリアと、丘側のヒルトップエリアの二つにわかれ、そのあいだをモノレールが繋いだ風光明媚な街。観光の名所としても知られる街だ

 といっても、割とカロス地方には観光名所としても知られるリーグ公認ジムがある街も多いのだが。カロスの中心ミアレシティや日時計のあるヒャッコクシティもそうだし、この先にあるシャラシティだって、マスタータワーという名所がある。近くには天然の鏡が見られる写し身の洞窟だってあるのだし

 

 そうしてアズマは、ジム及びジュンサー達に連れられて行った駐在所のあるヒルトップエリアからモノレールに乗り、シーサイドエリアへと来ていた

 「お疲れ、サザ、ギル、ライも」

 来た理由は簡単。単なる観光である。多少の潮風が、体に心地好い

 

 結局、アズマはあの場でバッジを受け取った。あれが本来のジムの難易度。今の君たちならばもう一個ぐらいジムを勝ち抜けるかもね、と言われたら、そこで無駄な癇癪を起こすことはアズマには出来なかった

 

 ……けれども

 「もっと、強いものだと思ってたよな……」

 『モノ、モノッ!』

 アズマとしても、改めてしっかり考えてみればビオラとのジム戦が可笑しかったのは明白だったのだ。今のショウブなら兎も角だ、当時のショウブがとっくにハクダンシティジムを突破して本格的に旅に出るからと親に挨拶しに帰ってきた時のショウブが、あのアメモースに勝てるかというと厳しいだろう。実際ちょっと強かったと言われているしだから、あれは最初のジムで出してきて良いポケモンではない。恐らくは……今思えばバッジ3~4個集めた優秀なトレーナー相手に出すポケモン

 「でもなぁ、お前だって、全力で戦ってみたかったよな、ギル」

 そう言って、寝転びながらヒトツキの刀身を、アズマは優しく撫でる

 ジム戦は公式なバトルだ。ルールもしっかりあるし、基準もある。楽しいものだ。負けたら悔しいし、勝ったら嬉しい、そんなワクワクするバトル

 ……ルール無用で、負けてはいけない、負けたら大切なものだって奪われるかもしれない悪の組織やあの謎のハニカムやら黒い水晶のポケモンとのバトルとは、やっぱり空気が違う

 だからこそ、それがあまりにもあっさりと終わってしまった事に、心がモヤモヤする

 

 『ビクトリィィィィッ!』

 やりきれなくて。モノズもそれは同じだったようで

 とりあえず、公開されている公園の一角で簡易スパトレマシーンを起動して、その特訓で遊ばせている。体は動かせるし、モノズも楽しそう。最初はレベル1でも苦戦していたモノズも、今では高いレベルでも十分ついていけている

 今も、クリア出来たようだ

 「やっぱり、それでもバトルとは違うよな……」

 『(バトル脳が、バトル脳が居ますわ!)』

 「そうは言っても姫、バトルって楽しいぞ?」

 『(……あの、ゲンガーとの戦いも?)』

 「いや、あれはちょっとな。負けられないって思いだけが大きくて、息が詰まる

 負けたくないってのは、何時ものバトルでもあるんだけどな」

 そうだそうだ、とアズマの眼前でヒトツキがくるりと一回転した

 「だから、ビオラさんであんなに強かったんだし、勝てるわけもなくて

 あー負けた、今度は勝てるように、修行して来ようぜ!と言おうと思って、ジムに行ったんだけどな……。だってさ、ずっとあんなバトルばかりだと、おれも、ギル達も、バトルって楽しいものって基本を忘れちゃいそうだし」

 『(そして、勝ってしまった、と

 やっぱりバトル脳ですわ!)』

 「はっはっはっ。そうかもな

 姫もやってみれば分かるかもしれないぞ?」

 『(……ジュンサーさーん!ポケモン誘拐犯が居ますわー!

 助けてー!捕まってバトルさせられますわー!)』

 「……嫌か」

 実際にこれでジュンサーさんが来る訳もない。テレパシーであるから、アズマ以外には珍しいポケモンが何か鳴き声でトレーナーに求めてるくらいにしか見えないだろう

 なので、アズマだって本気で対応はしない。コン、と指でディアンシーの頭に輝くダイヤモンドを優しく小突くだけにする。悪の組織云々では犯人ではないとわかってくれていたとはいえ、出てって二時間でジュンサーさんと再会はアズマも勘弁願いたいので、本当に呼ばれていたら相応の対応が要っただろうが

 『(嫌ですわ。ぼ、ボールに入るなんて……)』

 「そっちか」

 『モノッ?』

 『(いえ、心地好いとかそんな感想は良いですわ)』

 聞こえてくるテレパシー。そうか、あの時モノズはおれの擁護をしてくれてたのか、なんて、正確な意図を鳴き声から読み取れないアズマはへーと頷く

 

 「姫が居てくれて、本当に助かるな」

 自分のポケモンの言いたいことを代弁してテレパシーしてくれるし、見ていて可愛い。流石は幻の突然変異種である、とアズマは呟く

 『(そ、そんな事言われても……

 ボールになんて入りませんわよ)』

 ふるふると首を振るディアンシー

 「なあ、姫。何でそんなにボールが嫌いなんだ?」

 ふと気になって、アズマはそう聞いていた

 とりあえず近くの自販機で買ったサイコソーダをモノズと半々する為に一本開けながら。ヒトツキはソーダ嫌いなので今回は手持ちの冷えてないきのみジュースである。ソーダはキンキンに冷えていて欲しいが、きのみジュースは別に冷えてなくても良いので持ち運びには便利だ

 『(わたくしには、貰えませんの?)』

 「要るか?んじゃ一口」

 小さなディアンシーの口にサイコソーダ缶はちょっと大きすぎるので、開けたきのみジュース瓶のキャップにソーダを注ぐ

 『(しゅわしゅわで、ヘンな感じ……)』

 ぱちぱちと、一口飲んでポケモンは目をしばたかせた

 「不味いか?」

 『(くせに、なりますわね……)』

 そのテレパシーに、アズマは笑って

 「んじゃ、もう一口。ついでに教えてくれ」

 

 『(ボールが嫌なのは何故か、ですの?)』

 さらにもう3口ほどソーダをおかわりしてから、そのポケモンは聞き返してきた

 ……あっ、サイコソーダおれの分のうち半分は飲まれた、まあ良いか、とアズマは割り切った

 「そうそう、何で嫌なんだ?

 ヤヤコマとかが必死にボールから出てくるのは、多分姫の言う昏いオーラが怖くて、こんなトレーナーと居られるか!って感じなんだとは思うんだけど」

 ボールは、あのハニカムのポケモンに出会ってから100個は投げただろうか。それでも、未だに、アズマはまともに野生のポケモンをゲット出来たことはない。ヒトツキは気が付いたら家の地下に住み着いていたし、モノズは差し出したボールに向こうから入ってくれた。昔10歳の時に最初のポケモンとして貰ったフォッコのボールはあまりにも言うことを聞かないので返した。アズマ的には可愛いポケモンなので欲しかったのだが、旅を諦めてからも連れていくのは可哀想で止めたのだ

 「もっと欲しいんだけどな、ポケモン」

 『(それですわ!)』

 「それ?

 お話なんかでは、自分以外のポケモンを連れてるなんて許せない!とかあるけど、そんなんじゃないだろ?」

 あれは、ポケウッドの……何て作品だっただろうか。手持ちが自分一匹でないとボールから出てきてくれないオスのカイリキーと、男のトレーナーの話

 『(ええ、それはそうですの

 もしそうなら、積極的にボールには入るのではありませんの?)』

 「だよな」

 『(だからそんな、昏いオーラを強めて迫るのは止めて……欲しい、ですわ……)』

 気が付けば、コップに注いでやったサイコソーダを飲んでいたモノズが、アズマとディアンシーの間に、姫の番犬のように立ちはだかっていた。臆病なので、ちょっと足は引けているが。その後ろのポケモンは、何かに怯え、きゅっと目を閉じている

 

 「ってちょっと待て。そんなオーラ出してたか?」

 『(ボール投げるときは、何時も……)』

 『ズーッ!』

 イエス、とヒトツキが刀身で中に円を描く

 「……そんな事、考えたこともなかった……」

 はあ、とアズマはため息を吐いた

 捕まるはずもない。誰が元々怖いのに自分を捕まえようとボール投げた瞬間何時もよりさらに怖いトレーナーに着いていきたいだろう。アズマがポケモンなら逃げる。それはもうボールを投げられた日には全力で逃げる

 

 「じゃあ、何でサザはおれと来てくれたんだ?」

 『ノッ!』

 『(寧ろ心地好い、ですわ)』

 「悪タイプには好かれるのか?

 じゃあ、ポチエナなんかに会えれば、おれと来てくれるかもしれないのか」

 『(それは……分かりませんわ)』

 「出会えたらやってみようか

 

 それで、姫は何で嫌なんだ?おれと来るのが嫌だったら、そもそもついてこないだろ?」

 『(だって、だって!

 ボールに入るって事は、ずっといっしょってことですわよ!)』

 アズマに聞こえてきた声は、ちょっと幼い。いや、元々割と幼い声のテレパシーではあるのだが、一段と舌ったらず

 『(そんなの、けっ……けっ、けっこんみたいなもの……)』

 「ああ、そんな価値観もあるのか」

 成程、とアズマは頷いた

 

 トレーナーは基本複数のポケモンを持つのでそんな意識はない。けれども、ポケモンからしてみればトレーナーとの関係は基本たった一つ。たまに他人と交換とかあるけれども。ずっと一人のトレーナーと過ごす事を決める、特定の相手を以降ずっと共にあるパートナーとして選ぶ。それが捕獲されるということ。言われてみれば、ポケモンからすればある意味結婚かもしれない

 「そりゃ大変だ

 ……なら、ボールに入りたくはないわな」




アズマ「モンスターボール!今度こそ!ってか合計で100個目だぞこれ!」
(???『どろぼーふえないで、どろぼーねこはんたい、どろぼーねこいらない』
ヤヤコマ『ひえっ!賢ポケ危うきに近寄らず、くわばらくわばら』
???『にげるようなの、よわい、ふよう、おもったとおり。よかったよかった』)
アズマ「また逃げられた……」
アズマくんが放つオーラがボールを投げようとすると増幅するのは、大体こんな理由です。本人には自覚はありませんし、オート発動なので抑えることも出来ません。こんなのが既に憑いているので、これからも悪タイプ以外を普通の野生ポケモンからゲットすることは有りません。アズマくんの気持ちが昂るとダークオーラ発動するのも、この謎の???が、おーがんばれーがんばれーしてるからです
凄いぞ守護神、強いぞ疫病神。これは、そんな存在だけ既に語られてるYちゃん(仮名、AZによる最終兵器起動をちょうど3000年前とした場合3012歳、♀、全国図鑑No.717)がメインヒロインな少年と、カロスの伝説ポケモンX氏を追う組織の物語。まあ、こんなメインヒロインの出番、もうちょっと後(具体的にはゼクロム邂逅後)なんですけどね!グラードン、早く来てくれぇっ!


精神面が♀なポケモン、特に精神幼く更には特殊な生い立ちの珍しいポケモンほど、大体あんな価値観です。捕獲とは結婚みたいなもの、一生添い遂げるほど大好きな相手じゃなければ捕獲なんてされてあげない
つまりは、そんなポケモンが向こうからボールに入ってくるとしたら、それだけベタ惚れされてる場合です。具体的には捕まえてない状態でなおなつき度が255行ってるレベル。三千年前にもしっかり活動していたセレナのゼルネアス辺りは、この少女の一生を見守るのも良いか、とある意味自分が親側の養子縁組みたいな気分でボールに入ったのでしょうが

まあ、それはそれとしてマスターボールなら向こうの意思とか無視して捕まえられますが


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vsラプラス

それから、2日後。アズマは、少し前に溺れかけた所をラプラスに乗った釣り人に助けられた12番どうろの海岸まで戻ってきていた。ジュンサーさんのポケモンやフライゴン、或いはバイク等に乗ればすぐに着くことだって出来ただろう。だが、それではアズマの目的はちょっと果たせない

 謎のハニカムのポケモンも、そしてゼルネアスも、自らの足で探さなければ手懸かりも見つからないだろう。そういったものについて知っているのは、博士か或いは小さな村の老人と相場が決まっているのだ。実際、カロス伝説に関してアズマの父ナンテン博士が発表した論文、『破壊の繭と荒地の関係性の無さについて』。荒れ地にイベルタルが眠っているに違いないとした最近のカロス伝説学会に一石を投じた論文に関しては大元の話はセキタイタウンから徒歩一日くらいの所にある小さく外との交流も少ない村で聞いた話だったらしいのだし

 そんな事は置いておくにしても、バスなりに乗ったままでは近くにゼルネアスが居てもその存在を見落とすかもしれない。アズマのオーラが見えるようにディアンシーはたぶんゼルネアスのオーラも関知出来るのだろうが、どこまで分かるのかは、本ポケモンにも分からないのだ

 

 向かう先は、シャラシティに決めた。ミアレに行っても良かったのだが、ひとつ問題があった。ミアレシティは大きな街だ。それはもうカロス地方の中心であるのだから大きいに決まっている

 大きすぎるのだ。あまりにも

 結果、ミアレジムに挑もうとする者は、あまりにも多すぎる。全員受けていたら一日が100時間あったとしても足りないだろう。それだけ、ポケモンと旅に出た子供達にとってミアレシティは憧れの街なのだ。憧れの街で記念にバッジを取りたいというのもよくある話

 だから、アズマがホロキャスターで調べた所、現在ミアレシティジムは制限付きで機能している状態だ。人が多すぎるため、一次選考を越えたものだけが挑戦を許される。その条件は……バッジ4個。そもそもジムバッジが4つなければ、ジム挑戦すら許されない訳である。そして、アズマの持つバッジは2個。実は13番道路を通る間、カロス発電所の辺りに小さな公認ジムのある発電所勤務の人々の暮らす街はあるのだが、それでも3個。ミアレに着いてもジム戦は出来ない。だから、アズマはシャラシティを目指す道を選んだ。シャラ、セキタイとぐるりと回っていってミアレに行けば、その時にはまあ、5個はバッジを集められる。3つはジムがある。その昔記念挑戦の際に不思議なルカリオ(謎の鳴き声に教えられた今のアズマになら分かる、あれは間違いなくセレナも使っていたメガルカリオだった)シャラシティジムを諦めてスルーしても4つに辿り着ける訳だ

 

 そうして、海岸で佇んでいたアズマは、暫く待っても遠くに見えるラプラスやタマンタが寄ってくることは無く。いや、寧ろ露骨に避けられているので寄ってきたラプラス捕まえて、話にも良くあるラプラスに乗っての海旅は諦め。此処はフライゴンに頼って渡るしかないかなと思い立ち

 「……きけ 光に魅入られし もの」

 突如、後ろからそんな声を掛けられた

 

 『(ひっ!?)』

 思わず前に歩みを進め、海に落ちかけるディアンシーの手を何とか手を伸ばしてキャッチ

 『(お、オーラ……)』

 嫌な予感にそのままディアンシーは抱き上げ、アズマは抱えたまま振り返る

 そこには、人の数倍はあるかと思う大きさの、服を着たポケモンがぬっと立っていた

 「なんだこのポケ……ポ……

 ん?」

 その怪獣かと思うほど大きなポケモンは、服を着て、白く長い髪をトリミアンのように顔の両脇から垂らし、緑のマフラーをして、凄く人間の老人みたいな顔立ちをしていた。その肩には、ちょこんと花の妖精のような一輪の花を持ったポケモンが座っている。フラエッテだろう。ちょっと色が違うが、フラエッテ自体花の色は色々とあるのでアズマの知らないタイプも居るのだろう

 

 「昔むかし 本当に 遠い昔」

 男は、アズマが向き直ったのを見ると静かに語り始める

 「オトコと ポケモンが いた

 とても 愛していた」

 男の言葉に、照れたようにフラエッテが持った花をぶんぶんと振り回す。その動きが可愛らしくて、アズマは警戒を解いてディアンシーをゆっくりと地面に降ろした。大丈夫だ、このポケモン?とポケモンは敵じゃない

 「姫、大丈夫だ。彼等は敵じゃない」

 『(……でも、輝き燃えるオーラが……)』

 「大丈夫だよ姫。彼は、人間だ」

 いや、こんなデカイ人間居るわけないと思うが、居るらしいのだ。セレナさんのリーグ優勝後の中継で見た

 それに、この男の語る話は、アズマにとってはあまりにも馴染み深いものであった

 続きはアズマにも分かる。諳じることだって多分出来る

 「戦争が 起きた

 オトコの 愛した ポケモンも 戦争に 使われた」

 一言一言腹の底から絞り出すように、男が言葉を紡ぐ

 「数年が たった

 小さな箱を 渡された」

 と、アズマは続ける。この話は知っている

 幼い頃、何度と無く聞かされたのだからまだ耳に残っている。そんな、幼い日の、父親の語る昔話

 「オトコは 生き返らせたかった

 どうしても どうしても!」

 ぐっと、男は手を握り締める

 それをまあまあというようにフラエッテが花でつついて宥めていた

 「オトコは 命を 与える キカイを つくった

 愛した ポケモンを 取り戻した」

 

 『(そんな、事が……)』

 「古い、古い話だよ。姫」

 聞き入るディアンシーにそんな補足を入れながら、アズマは語り終わった後どう切り出すかを悩んでいた

 男の正体については、アズマは良く理解した。だが、何故現れたのかは良く分からなかった

 「オトコは あまりに悲しんだため イカリが おさまらなかった

 愛している ポケモンを キズつけた 世界が 許せなかった

 キカイを 最強の 最終兵器に した」

 『(最終、兵器……)』

 「一年前にゼルネアスを動力に使われかけたのも、それだよ」

 『(この、人が……)』

 アズマの足の後ろに、小さなポケモンが隠れる。壁にはならないだろうし、怖いとも常日頃から言っていて。それでも、眼前の男よりましだと

 「オトコは 破壊の 神となった

 神により 戦争は 閉じられた」

 此処まで聞いて、アズマはちょっとだけ自分の聞いてたお伽噺と違うところに気が付いた

 大筋は同じ。ただ、アズマが聞いていたものはもうちょっとだけ長かったのだ。それが脚色なのか、補足なのかはアズマにも判別つかなかったが。確か、アズマの知る話では、ホウエンの者と協力して最終兵器を起動させたくだりとかあったような……

 

 「永遠の 命を 与えられた

 ポケモンは 知っていたのだろう

 命の エネルギーは 多くの ポケモンを 犠牲と していたことを

 生き返った ポケモンは オトコの もとを 去った」

 「そうして 3000年 ポケモンと オトコは 再び 戻った

 愛していた あの頃に」

 と、アズマは男の語り終えに続けた

 「……そうですよね、ご先祖様?」

 『(ご先祖様!?)』

 

 「……AZ」

 「AZMA(アズマ)。アズマ・ナンテンです

 この名前は貴方から取ったと、父は昔話の際に笑っていました」

 すっと、アズマは握手のために右手を差し出す

 一瞬眼を細め、男も手を出し返した

 3mはあるだろう。高すぎて、握手というか幼い子供と大人が手をつなぐような形になってしまったが、握手する

 大きな手は、酷く熱かった

 

 そんな二人を、ディアンシーは何か凄く怯えながら、フラエッテは凄くご機嫌に、見守っていた




AZのフラエッテ
フラエッテ(えいえんのはな)
Lv100 とくせい:きょうせい 性別:♀
はめつのひかり/ムーンフォース/メロメロ/はなびらのまい

ナンテン博士版ポケモン図鑑解説文
フラエッテ(えいえんのはな) 一輪ポケモン
古代カロス王が愛したという、古代に咲いていた花を持った太古のフラエッテ。王が作ったキカイは、蘇らせようとした愛するポケモンの花を模して作られたという

フラエッテ(えいえんのはな)のLvが可笑しいことになっていますが、仕様です。そりゃ3000年も愛するAZから逃げ回ってたらレベル100にもなるわという話ですね。能力としては、割と伝説ともやりあえます。古代では普通のフラエッテの一種だったはずなんですけどね(AZエッテが古代では一般的な姿というのは独自設定)。年月と愛ゆえの逃避行の力は恐ろしい
因みに、アズマくんがディアンシー連れてるのはAZがマスコット枠にもなる可愛いフェアリーなフラエッテ連れてるからです。AZっぽさ加えようとした後付けだからメインヒロインではありません。メインヒロインの器なんですけどねディアンシーって


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vsゴルーグ

「ご先祖様。何故おれに?」

 3mもある巨躯を見上げながら、そうアズマは問い掛けた

 

 AZ。3000年前のカロス王。最終兵器の製作者。ルネシティに友好の証として木を贈ったという、超古代ポケモンにも関わりがあるのではと言われる古代王。そして、アズマの遠い先祖の兄

 「AZ」

 「AZさん、どうして、おれに声を?」

 名前を呟かれ、ご先祖様というのはアレなのかと言い直す。考えてみれば、アズマは直系ではなくその妹の血族だ。私はDTだーっ!とか、そんな違和感とかあるのかもしれないとアズマも考え直す

 

 「きけ 破壊の光に 魅入られし 子孫」

 「そこ、子孫で良いんですか……」

 案外茶目っ気のある人なのかもしれない。まあ、怖いだけの人ならば、そもそもフラエッテなんて連れてないか

 アズマの父親のように、可愛がっているポケモン詐欺も居たりするのだが。トリミアンを何時も連れててエースっぽく扱ってる博士とかラクショーラクショーと挑みに来たトレーナーがヴォーダ(ボーマンダ)、ゴドー(ボスゴドラ)、、ヴァン(バンギラス)、ラル(ガルーラ)といった怪獣なポケモンを目にしてトリミアン詐欺だ、残りの手持ちがゴツ過ぎると言っていたのをアズマは覚えている

 

 「きみの ことを 知りたい」

 「姫。あの人からも、オーラを感じるんだな?」

 『(……そうですわ

 昏く喰らうオーラと、輝き燃えるオーラ……)』

 「何かカッコいいなおれのオーラ

 とりあえず、おれとは別のオーラ持ちなんだな?

 

 AZさん、お願いします!」

 

 気が付くと、ちょっと雲が掛かっていた空は、雲ひとつ無い快晴にまでなっていた

 「陽射しが、強いな

 ならサザ、お前の出番だ!」

 多分多少炎タイプの技エネルギーに加わるだろう、この陽射しは。快晴ならば日本晴れや日照りが無くとも炎タイプ有利。逆に雨が降っていたり降りそうな曇りでは水タイプ有利だ。そしてアズマの手持ちで炎タイプの技を使えるのはモノズの方。それゆえの選択

 「ゴルーグ 出番だ」

 そうして、AZは懐から取り出したモンスターボールから、白い巨人を呼び出した

 「ゴルーグ……

 城の衛兵っぽくて、カッコいいですね。その色だと特に」

 『モーノッ!』

 抗議の鳴き声

 「いや、お前もカッコいいよ、サザ

 頑張ってもっとカッコいいサザンドラになろうな」

 反省。自分のポケモンの眼前で相手ポケモンのカッコよさを誉めてはいけない

 でも、色素異常か、白い色の巨人は凄く絵になった。巨大な王(AZ)王の側に寄る可憐な王女(フラエッテ)、そして彼等を王女を狙う悪い竜(モノズ)から守る鎧の騎士(ゴルーグ)。という形で絵を描けば、画才があれば賞取れそうだ。事実とは構図が別物だが。そもそもモノズはアズマのポケモンで、別に悪い竜でも何でもないし。悪の竜なのはタイプ的にそうだが

 

 「フラエッテじゃないんですね」

 「きみも そこの ポケモンでは ないだろう?」

 背が高すぎて目線は良く分からない。アズマも、モノズも、ディアンシーも、何処へ視線を向けていても見下ろす形になってしまう。けれども、言葉の内容から多分ディアンシーを出していないという話だろうと推測はついた

 「いやまあ、姫はおれのポケモンじゃないんで

 同じ目的なので、一時同行です。嫌なら逃げて良いし、ボールは嫌らしいので使いません。ちょっと危険はありますけど」

 伝説のポケモンでも、戦闘不能まで追い込めば認められずとも普通のボールに強引に収めることは可能らしい。ディアンシーだってそうだろう

 伝説のポケモンは、寧ろ戦闘不能まで追い込む事が異様に難しいというか、認められたり伝説でも捕まえられる(謳い文句)マスターボールを手に入れたりする方が簡単なんじゃなかろうかってレベルではあるが。去年のWPT特別エキシビジョンマッチ、伝説ポケモンvs伝説ポケモンと題したトウヤvsセレナは、何とというか凄まじかった。レシラムvsゼルネアス、レベルが違いすぎて何が何だかってレベルだった。あの人がミクリの弟子の本気に挑む!コーナーも挑戦者が可哀想になってくるレベルだったが。ミクリの弟子だから水タイプ使いだろうと、電気タイプと草タイプで固めてきました!という挑戦者(確か2年前のシンオウリーグ準優勝者)がゲンシカイオーガによる大雨を、天候変えて対応しようとした草タイプ側が仕込んだ日本晴れでも何とも出来ずに大雨の中散々にやられていたっけ。電気タイプ側は大雨の影響か強くなった雷で善戦していたが、最終的にラグラージの前にあっ雷効かないわと成す術無く敗れていた。結局、ダブルバトルなのにずっと一匹分として後ろに控えるゲンシカイオーガをバトルの場に引きずり出す事無く負けていたっけ。全部電気タイプならワンチャンあったかもとネットでは議論されていた

  

 閑話休題

 「そうか」

 『エッテ!』

 そう呟くAZの声は、何処か優しくて

 「ゴルーグ」

 「サザ、『あくのはどう』!」

 アズマが選択したのは、当然というか悪の波動。人形のような、鎧のような巨人。そこからは一切読み取れないが、アズマは知っている。何度も本で読んだ

 ゴルーグはあんなナリをしているが、ゴーストタイプだと。何かヒトツキみたいだなと思ったから良く覚えている。ならば、『あくのはどう』連発が一番効きやすいはずなのだ

 「知っていたか」

 「逆に有名ですから、ね!」

 ヒトツキレベルになると、逆にこれポルターガイストみたいだしゴーストタイプなんじゃない?となるから案外意外性は無くてそこまで有名ではないが、ゴルーグはゴーストタイプ感があまりにも薄すぎて逆にゴーストタイプだと有名である

 「ゴルーグ 『メガトンパンチ』」

 それに対し、AZの取った手段はシンプルだった

 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばせ。それだけの話の指示

 

 『モーッ、ノォォッ!』

 あくのはどう、発射

 普通に放つ赤黒いエネルギーの波動を、白い巨体が切り裂く。右手を掲げ、足からのジェット噴射で空を舞う

 そのまま、突き出した手に力を込め、あくのはどうを切り裂きながら特攻し……

 「サザ、地面に!」

 『ノッ!』

 当たる寸前、モノズが撃つ方向を変え、自分が反動で吹き飛ばされる事で後方に退避する。そんなモノズの真下を、白い巨体が抜けていった

 

 「流石は白き英雄ゴルーグ……」

 白き英雄ゴルーグ。ポケウッドの映画の一つだ。遥か未来世界。宇宙ポケモンの襲来により危機に陥った人類は、月を落としてくる赤い宇宙ポケモンに対抗する為に、太古のポケモン、白き巨神ゴルーグを目覚めさせる……というお話。あの話のゴルーグは合成で30mくらいはある巨体に描かれていたっけ。公開後、一部都会では岩タイプ技相手に突っ込ませてこんな宇宙の石ころひとつ、おれのポケモンで押し返してやる!と叫ぶのが流行ったとか流行ってないとか

 いや、あの演技したゴルーグとは別個体だろうけど

 

 「だけど、勝とうぜ、サザ

 もう一度だ、『あくのはどう』!」

 叫ぶと共に、アズマは目を閉じる。制御なんて出来ない。それでも、発動してみせる。やれるはずだ、と

 「ゴルーグ 『メガトンパンチ』」

 

 『ノォォォォォォッ!』

 全身全霊の波動が、空気を震わせる

 だが、無口な白き巨人は、またもそれを切り裂き、モノズへと迫る

 「負けるかぁぁっ!」

 そうして

 その波動は膨れ上がり、モノズの眼前で遂に飛翔するゴルーグを呑み込んだ

 「っしゃぁっ!」

 だが、白き巨人はただでは終わらない。遂に全身に『あくのはどう』を浴びながらも一歩だけ前進。それだけで、届く

 白き拳が、小さなポケモンを強かに打ち据えた




AZのゴルーグ
ゴルーグ☆
Lv60 特性:ノーガード 性別:性別不明(精神的には♂と思われる)
ヘビーボンバー/ゴーストダイブ/おんがえし/メガトンパンチ
真っ正面から突っ込んできたのは特性:ノーガードだから、というのもありますが、手加減でもあります。言うてアズマくんのモノズってLv35くらいですし、わざと正面から食らいにいく位でないとアズマくんとそのポケモンの絆の形とか見えません


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vsフラエッテ

「良く頑張ったな、偉いぞ、サザ」

 結果はひとつ。互いに戦闘不能。ゴルーグも、モノズも地面に倒れたまま動かない

 アズマはボールを翳し、労いながらモノズを戻す

 頷きつつ、AZもゴルーグを戻した

 

 「……ギル、頼めるな」

 そうしてアズマが出すのは、当たり前ながら最も信頼するポケモン。強いのはフライゴンだが、頼りたくはないから。だってそうだろう、とアズマは思う。自分とそのポケモンだから、勝ちたいと思うのだ。執事のポケモンに頼るわけにはいかないだろう

 

 「フラエッテ」

 『エッテ!』

 対して、静かに男が告げたのは自身のパートナーの名。肩に乗った小さな花の妖精が、ふわりと舞い降りる

 「……フラエッテ、ですか」

 「きみの ひかり 見せて もらおう」

 「はい!『つるぎのまい』!」

 「『はなびらの まい』」

 奇しくも、互いに最初の指示は舞うこと。だが、方向性は明確に違う。ヒトツキはその場で鞘を用いて刃を研ぎ、フラエッテは自身の周囲に桃色の花びらを撒き散らす。ヒトツキが次の為の溜めなのに対し、フラエッテの行動は近付くものへのカウンターに等しい。近づけば、撒き散らす花びらの嵐の中に閉じ込められて弄ばれるだろう。花びらの舞とはそういう技だ

 だが、舞ということは、別にビームでも何でもない行動。影響は自分とその近くにしかない。羽を震わせるむしのさざめき等と同様、近づかなければ危険はないということ。威力は高いのだが、当たらなければどうということはないのである。実際、ぶんぶんとご機嫌に手にした古代のものらしい三枚花弁の花を振り回すフラエッテだが、それ自体もそれに撒き散らされる草タイプエネルギーが形を取ったものである花びらもヒトツキからは遠すぎて当たるわけもない

 

 「ギル、本気で行くぞ!」

 本気で行くとは、アズマとヒトツキの中でのひとつの符号。まあ、言ってしまえば普通につるぎのまい限界発動という割と何時ものなのだが。このポケモンと戦うならもう良い、そうアズマが思ったときにヒトツキは指示を受けて攻撃に転じる。それまでは、守りつつ剣を研ぐのだ。最近は格上か負けるわけにはいかないから少しでも攻撃力が欲しい時ばかりで、つるぎのまいはひたすらに舞わせていたのだが、今回もそのパターンである。圧倒的格上、花びらの舞なんかで此方下手な攻撃を巻き込もうとしつつも、遊んでいるなんて手加減までされている

 仕方ないなとアズマだって思う。お伽噺のポケモンだ。3000年、AZと会わないように逃げながら過ごしてきたある種超古代ポケモンと呼んでも良い種。まともに此方を倒しに来たら勝てるわけもない。それでも、だ

 

 「……くやしいよな、ギル」

 静かに、ヒトツキは揺れる。刀身を、高く掲げて

 そんな中、フラエッテが舞終える。少しフラフラとしているが、花を高く掲げてポーズ。普通に踊って遊んでいたレベルの行動だ。割と可愛いが、それだけにイラっとくる

 そんな風に、遊ばれなければ相手にならない自分達に

 「『かげうち』ぃっ!」

 そうして、ヒトツキとアズマは攻勢に転じ

 だが、鋭く地面を走った影の槍は、軽くフラエッテを揺らしただけ。まともな打撃になったようにも見えない

 真面目に、軽すぎる。あまりにも、軽い

 「通らない!?」

 フラエッテのタイプはフェアリーだ。悪タイプのおいうちは効き目が薄く、命の波動を吸って放つ聖なる剣もまた相性が良くはない。だから相性面、そして刀身を使わず影であるから二度目の花びらの舞やその他の技に対応しやすい影打ちを選んだのだが

 それでも、ロクな打撃になっていない

 「いこうか フラエッテ」

 そうして、お返しとばかりに、フラエッテがその手に掲げた花を、ヒトツキへと翳した

 

 『(ひっ!)』

 「姫?」

 ふと、怯える小さなポケモンに、アズマは気を取られ

 その一瞬で、チャージは完了する

 全身輝く、一匹のポケモン。だが、その輝きは何処か昏く

 「ギル、守れ!全力で!」

 言いながら、アズマの足は無意識に前に動いていた

 ディアンシーの言う昏く食らうオーラと同質の力?いや、おれとは異質?

 どうでも良い。分かることはただ一つ。貯められたあの力に、ヒトツキは耐えられないことだけ

 

 「『はめつの ひかり』」

 「『まもる』!『まもる』!『まもる』!兎に角、『まもる』!」

 ヒトツキが、緑のオーラの防壁を展開する。だが、放たれた眩い、アズマが一年前に見た気がしたのと近しく、されど異質な光は、そんな技のエネルギーを止めるはずのオーラにすらあっさりとヒビを入れ……

 

 「ギル、踏ん張れ!」

 だが、間に合った

 アズマは、ヒトツキの前へと躍り出る。自分が当たっても耐えられるなんて保障は特にない。むしろ無理だと思っている。それでも、もしかしたら。自分にもオーラがあるのなら、ヒトツキとなら、止められるかもしれない。そんな思いのままに、飛び出したのだ

 

 『(……オー、ラ)』

 「オーラ」

 「魅入られし 光」

 一瞬、アズマにも自分を取り巻く黒く、そして赤いオーラが見えた気がして……

 「痛てっ!」

 だが結局光の奔流は止まるわけもなく。僅かにアズマの頬を掠めて背後の海へと飛んでいった

 

 「……外してくれてたんですね、やっぱり」

 冷静になったら当たる角度で撃つ訳もない、とアズマ

 『エッテ!』

 当然、とでも言いたいのだろうか、フラエッテが胸を張る。そんなに胸の部分は無い、というかフラエッテという種の体型的に胸と下半身の区別がアズマにはつかないが、とりあえずドヤりたいのだけはわかる

 こくり、と大男が頷いた

 

 「でも

 だから

 

 負けたくない」

 真横に伸ばしたアズマの右手に、ヒトツキの布の手が絡み付いた

 

 纏ったオーラを、放ったオーラを。命のオーラを、渡すように

 命を吸わせ、力と成す。けれども、何時もの聖なる剣とは違う、黒水晶を基点とした変化を乗せて。全力を、解き放つ

 今度こそ、しっかりとアズマにも見えた。自分を護るように取り巻くオーラが。それを、ある程度は残すようにしつつ、ヒトツキに吸わせて……

 「それが きみの 答えなら」

 瞬間、AZの全身が輝く

 

 輝き燃えるオーラ。確かにそうだ。そうとしか言えない。そんなアズマの暗いオーラとは違う、命に満ち溢れた黄金のオーラが、彼の全身を覆っていた

 そのまま、白髪の大男は愛するフラエッテを左手に乗せ、軽く、口付ける

 『(えっ!?)』

 目に毒ですわーとでも言いたいのだろうか、目を覆うディアンシーが視界の端に映るが、気にしている余裕はない

 フラエッテも、同じ黄金のオーラを全身に纏った

 

 「これは、無理ですね

 負けました」

 構えは解かず。けれども、静かにアズマはそう悟った

 勝てない、と。同じくオーラを纏ったからだろうか。それは、良く分かった

 「けれども」

 だというのに、ヒトツキは腕から抜けていかない。終われないのだろう、ヒトツキだって、このまま

 

 「終わりか」

 「ええ。この切り札ならと思いましたが、これじゃあ勝てません」

 素直に、認める

 「でも。せめて

 自分達がどこまでやれたのか、この全力の一撃を撃ち合ってみたい」

 ボフッと、地面にスイッチを押すようにモンスターボールを落とす。中から、フライゴンが飛び出した

 「けど、巻き込む訳にも、当たるわけにもいかないですからね

 ここじゃあ、撃ち合ったら避けられない。当たったら無事じゃあ済みません、それも分かります。なんで、ライに乗って、ちょっと離れた海上から撃ち合いを、と。これなら、いざとなれば海に落として貰えば助かる」

 意識は、半分は右手に。アズマは言葉を続ける

 

 『エッテ』

 「受けて たとう」

 ニヤリ、と唇を釣り上げて

 AZは、頷いた

 

 「……有り難う、ライ

 容赦なく振り落としてくれよ?当たったら下手すりゃ病院沙汰じゃ済まないからさ」

 答えは鳴くような羽音。しっかりと、フライゴンには海の上まで来て貰った。落ちても深さは頭を打たない程度にはあるし、落ちる時間もある

 「……いきます、AZさん」

 二人で放つ、全力を越えた一撃

 握る手を緩め、ヒトツキが逆手持ちに自分を持たせ変えるに任せつつ、右手を引いてアズマは構える

 「『ラブリー スター インパクト』」

 「全力を越えたZ(ゼンリョク)!『無限暗夜への誘い(むげんあんやへのいざない)』!」




アイテム紹介
ダークZ 分類:Zクリスタル
アズマが自分のダークオーラから作り出したZクリスタルの一種、ある種の万能Zクリスタル
自身の命のオーラからその場で生成する為、任意のタイプのZパワーを発生させる事が出来、トレーナー依存なのでポケモンに持たせる必要はない
欠点としては、ダークオーラから産み出していること。その為か、補助技のZ化は不可能であり、補助技のタイプのZ技になってしまう。例えば、このクリスタルでさいみんじゅつをZ技化しようとした場合は、威力70の特殊技マキシマムサイブレイカーが発動し、Zさいみんじゅつは使えない。また、威力補正が全体的に本来のZクリスタルで発動した場合よりも低い(例として、今回アズマが撃ったかげうちによるむげんあんやへのいざないは本来より低い威力90である)。その場で精錬する為か、色々に使えるが純度が低いといった形の差。それでも、フルアタなら4種のZ技を好きに撃ち分けて強引に弱点ついて一体持っていける凶悪なクリスタルである
尚、名前は違うがAZのやったことも原理は同じ。別の種類とはいえ生命のオーラ持ちであることは変わりがないのでアズマがオーラからZ技を撃てるならオーラとの付き合いで3000年先輩のAZに撃てないはずがないのである。生きていた場合はゼルネアスの命のオーラを浴びている為フラダリも当然同じことが可能


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vsZ技

「『ラブリー スター インパクト』」

 「『無限暗夜への誘い(むげんあんやへのいざない)』!」

 ヒトツキと、心を重ね。逆手に持った剣を、後ろ手に構えた状態から、渾身の力で空を切って振り抜く。同時、フラエッテからあまりにも巨大な、星型のエネルギーが打ち出された

 

 空間が、斬れる。振り抜いた軌跡通り、文字通りの亀裂が場に残り、そこから暗い空が広がる

 漆黒のホラーハウス。真っ黒い空間が、アズマとヒトツキ、そしてAZとフラエッテすらも飲み込んで広がる。だというのに、天候だけは晴れているのが何かミスマッチで。どうせなら、雨の方が雰囲気が出たろうに

 そうして、塗り潰した空間のあらゆる場所から産まれた影の手が、フラエッテと迫りくる星へと延ばされた。次々と延びてくる手に、遂に星は飲み込まれて姿を消し……

 

 「ライ!」

 アズマの体は、その空間の下、海へと落とされた

 背中に走る衝撃。背中から海に落ちたのだ、当然である。何か、数日前もこんなことあったな、なんてアズマは思い……

 その視界を、ホラーハウスを撃ち抜いた星型エネルギーが駆け抜けていった

 やっぱり、ちょっと抑えられるって程度でしかなかったらしい。極普通に、撃ち負けた形。無限暗夜への誘い。あの時、脳裏に響いた二つの鳴き声に教えられた人とポケモンがオーラを合わせて放つ、ゼンリョクの必殺技。それすらも通じないならば、勝ち目なんてものはアズマには無い

 

 それにしても、体が怠いな、なんて思いながら、アズマの体は海へと沈んでいった

 

 「……ぁ痛ぁっ!?」

 そうして、覚醒

 気が付くとアズマは、岸で横になっていた。その視界には、覗きこむフライゴンとディアンシーの姿が映っている

 「……大丈夫、無事だよ、ライ」

 気だるさは残しながら、アズマは何とか上半身を起こす

 枕元でしゅんとしているのか、動かないヒトツキの姿が、視界の端に映った

 

 「配分を 間違えたな」

 「あ、やっぱりですか?」

 アズマも、意識を失う前に一瞬思ったのだ。吸わせ過ぎたんじゃ、と。結果、生命の吸われ過ぎで気絶してしまったのだろう

 「使いこなせ 諸刃のつるぎだ」

 「そうですね。貴方相手だから良かったものの、あのジャケット相手にこんなことしていたらいけない」

 トレーナーが気絶しちゃあいけないだろう、常識的に考えて

 「大丈夫、気にしてないよ、ギル

 お前も、おれも。勝ちたかったんだものな。ちょっと反動で限界越えてでも。それは、おれも同じ気持ちなんだから」

 それでも、何時も黙っているとはいえ、浮かぶことすらしないヒトツキは放っておけず、アズマはそうヒトツキを軽く叩いた

 

 「それで、おれの事は解りましたか?」

 そうして、アズマはそう問い掛ける

 そもそも、このバトル、負けられないとこんなZ技の撃ち合いまでしたけれども、元々はAZがアズマを知るためにしかけたものだったな、と思い出して

 「マスタータワーへ ゆけ

 運命が 待っている」

 「運、命……」

 『エッテ!エッテ!』

 『(運命、ですの?)』

 「それは、どういう」

 「ゆけば 分かる 光に 魅入られし もの 

 強く なるのだ 

 わたしのように 遠い とおい 回り道を したく ないのならば」

 「……はい」

 静かに、アズマは頷いた

 まあ、たぶん認められたのだろう、と思いつつ

 

 そんなアズマが身を起こしている間に、AZはポケットから謎の種を取りだし、地面に撒いていた

 フラエッテがそれに、自分の持つ花の光を振り掛ける。AZが、その場に手を翳す

 「ジーランス」

 言うやいなや、水中から化石のような魚のポケモンが飛び出し、口から水を掛けてまた海へと戻っていった

 魚のポケモンなのでたまには海に放していたのだろうかと、アズマは少しまだ朦朧とする頭でそんなことを考える

 水と光を浴びた種は、みるみるうちに茎を延ばし、葉を付け、花開く

 数分のうちに、種は一輪の花を咲かせていた。フラエッテの持つものと同じ三枚花弁の花、古代に絶滅したとも言われる古代花を

 現物がある以上、種もあるかもしれないしそこから増えることも無くはないのだろうが、良いんだろうか、こんな海の側にそんな貴重なもの撒いて

 

 「持ってゆけ」

 そうして花開いたものを根元から折り取り、男はアズマへとその花を差し出した

 「オトコと ポケモンに 認められた 証」

 「有り難う御座います」

 右手を出して、アズマは素直に受け取る。バッジの時のように、変なプライドは起こさないで

 

 「どう、使えば?」

 「見せれば 分かる」

 「分かりました

 古代花ですからね。とりあえず、貴方と関わりがあるだろうという証明なのは確かです」

 ボフッと、AZの取り出したボールから出てくるのは、壁画の鳥のようなポケモン、シンボラー。他のシンボラーと比べると恐らくはかなり大きいが、それでもAZという巨体と並ぶとそんなに大きく見えない

 「また、会えますか?」

 ジーランスを戻し、肩にフラエッテを乗せ、そのシンボラーに捕まる男に、アズマは聞き

 「フラエッテの 花が 導くように」

 その答えに、微かに笑みを浮かべた




アズール湾、海神の穴。時折恐ろしい鳴き声が響くらしく、バッジ4つ以上のトレーナー以外は立ち入りを禁じられている、浅い洞穴
 一人の青年と、細かな毛を持った一匹のポケモンが、文字通りの対岸で行われた戦いの様子を眺めていた
 「彼のことが気になるのかい
 確かに不思議なトレーナーだね」
 長く青い尻尾をくゆらせる、宙に浮かんだそこはかとなく猫っぽいポケモンに、帽子を被った青年はそう問い掛けていた
 「大丈夫すぐに彼とは出会うことになるだろうからね」
 ポケモンは答えない。じっと、対岸で起こった、空間すら塗り潰すホラーハウスと、それをあっけなく吹き飛ばす星の激突を眺めている
 「キミの目的にも合致するかもしれないね楽しみだ」
 
 「あっ、君!此処は立ち入り禁止だ!」
 そんな青年の前に立ったのは、許可してない人間が入り込んでいる事に気が付いた巡回のトレーナー。バッジ4つを見せることもなく、勝手に入り込んだ人間を止めようと、正義感にかられた職員は職務を果たそうとして
 「それじゃあ旅に戻ろう
 楽しみだよキミと出会う未来が
 キミの理想はどんな形なのかボクに見せてくれ」
 「あ、おい、君!」
 「出番だ出ておいで
 ボクのトモダチ」
 「バトルで強行突破する気か、そんなこ……」
 
 『ババリバリッシュ!!』




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補足となりますが、普通に1000まんボルト等でハイタッチオーラ伝達が出来ている事からも分かるように、オーラさえ発動出来ればポーズを取る必要は無いです。あくまでもあのポーズでオーラを引き出しやすいからやってるだけです
その為、自力でオーラ発動出来る今回のZ技はどちらも事前のポーズを取っていません。仕方ないね


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シャラシティ

「此処が、シャラシティ……」

 ぼんやりと、アズマは遠くに聳える巨大な塔を見上げ

 

 「感慨、薄いな……」

 はあ、と溜め息を吐いた

 場所はシャラシティ。シンボラーに掴まり去っていったAZと別れた後。アズマはとりあえず休ませたいしな、と思ってアズール湾を越え、ついでにいっそこのままポケモンセンターのある街まで飛ぼうとフライゴンに頼んで一気に飛んだのだ。結果が、これである。どうやら、ヒヨクシティ側のあそこが、シャラシティまでの最後のポケモンセンターのある村だったらしい

 そうして、空の旅を数時間。ゆったりした空の旅は終わり、アズマは目的地にあっさりとたどり着いてしまっていた。歩けば数日は掛かる距離を、である。急いでいるならば悪いことではないのだが、風情というものが致命的に足りない

 「まあ、良いか。今日はポケモンセンターな」

 『(ポケモンセンター、ですの?)』

 「そうだろう姫、夜までに治るかどうか。泊まり込みになるぞ」

 『(あそこのベッド、半端に固いんですわ)』

 アズマの月の小遣いは10万、それが家と家の庭と呼べる森の範囲に籠ってた3年ちょっと分溜まってはいる。金にはとりあえず困らないし、今も持ち出した分が70万は残っている。トリミアングッズやら雑誌やらしか買わなかった結果小遣い貯金は膨れ上がった。ポケモンの本は幾らでも父親が買っては家に置いていったし。だから、泊まろうと思えばそれなりのホテルだって泊まれる

 「でもなぁ、姫。幾らなんでもギル達をポケモンセンターに置いて、は駄目だろう」

 『(そう、ですわね……)』

 ホロキャスターに多少口を近付けて、組み込んである父親のホログラムでは姫という言葉は似合わないので適当なホログラム(昔アサメと逆方向の森で出会った2つ下の少女のもの。母親が体調を崩し、父親のシンオウ転勤も併せ療養も兼ねて4年前にシンオウ地方のリゾートエリアに引っ越していったのだったか。以降、暫くはたまに話していたけれどもある時以来ぷっつりと連絡は途絶えた)を過去データから呼び出し、とりあえず人と話してますよー的な偽装をして(そうでなければ、虚空かポケモンに向けて独り言を吐き続ける危険人物に見えるだろう。テレパシーで言葉を伝えてくるポケモンなんてそうは居ないのだから。幾らポケモンが賢く、此方の言葉をある程度理解してくれるとはいえ、ずっとまるで受け答えしてるように喋り続けるのは端から見れば流石に危ない人だ)、アズマは言葉を紡ぎ続ける

 

 ふと、その目が偽装の為に起動してあるホロキャスターに流れる文字に止まった

 「と、思ったけど気が変わった

 泊まるか、TV置いてあるレベルのホテル」

 『(いきなりですわね……)』

 「だってそうだろう。あのセレナさんのカロスポケウッドでの初出演にして初主演作がレンタル、配信開始だって言うんだから」

 ボフっと、勝手にボールからヒトツキが飛び出した。傷はあるしフラついてもいるが、案外元気そうだ。とりあえずと食べさせた木の実が役だったのかは定かではないが

 「お前だって見たいよな、ギル?」

 ぶんぶんと、興奮したように空中で数度回転

 「んじゃ、頑張って良くなって、今日の晩はTVのあるホテルでポケウッド見ような」

 『(それで良いんですの……)』

 「未来に褒美がある方が頑張れるだろ?」

 

 「……うーん、何だろう、これ」

 夜の帳が降りきった夜

 アズマは、ホテルのベッドの上で首を捻っていた

 あっさりと、という程ではないが軽くモノズとヒトツキは治った。元々、そんな怪我はなかったらしい。恐らくはAZが加減させてくれていたのだろう

 なので夜にはそれなりのホテルを見つけ、入ったのだが……

 「ギル、どうだった?」

 モノズは割ととっとと眠ってしまった。ポケウッドの画面を見るより、ふかふかのベッドの上で丸くなる方がよっぽど良かったのだろう。アズマの横で、頭を曲げて丸くなり、すやすやと眠っている

 『(……良い、話ですわ……)』

 「そうか?」

 『(この良さが分かりませんの!?)』

 「セレナさんは良かった。けどさ

 

 ポケモンが、ほとんど、関係、無い!

 これじゃあセレナさんのPVじゃないか!」

 タイトルは、『ライモンの街角で』。落とし物のホロキャスターを拾った少年(演:カルムさん)が、持ち主で若手歌手の少女(演:セレナさん)と出会い、歌やホロキャスターを通して交流していくというラブストーリーだ。大切な友達から貰ったというポケモンと共に舞台に現れるセレナさんの姿を、そのポケモンと交換したサイホーンに乗り旅をしながら、ホロキャスターのTVで見るENDはちょっと良かった

 でも、でもだ

 「もっとポケモン、出してくれよ!」

 イエスとばかりにヒトツキが剣先で円を描く

 そう、これである

 セレナさんは見たい。でも、アズマがあの日憧れたのはスターのセレナではない。ポケモントレーナーのセレナだ。ゼルネアスと共に立ちオーラすら幻視したトレーナーとしての姿が、脳裏に焼き付いている。それに憧れたから、セレナさんの外見の可愛らしさ等を全面に出したラブストーリーなこの映画は……なんと言うか、出来は初主演としては凄く良かったのかもしれないけれども、作り自体が微妙としか言いようがない。求めていたセレナさんの映画と違うと言うか。ちょっとした交流の道具として出てくるのではなく、もっとメインでバトルしてほしいと言うか。製作されたのがセレナさんが二度目にミアレに来た頃らしいから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけれども

 モノズを起こさないように、可愛いけど違うんだぁっ!とベッドを叩きたい気分を堪え、アズマは自分の右拳で左手をバンバンと叩いた

 

 『(寝られませんわ!)』

 「わ、悪い」

 『(いえ、あなたではなくて)』

 あせあせと、ディアンシーがフォローに走る

 「違うのか?」

 『(映画の興奮ですの!)』

 「そうか。じゃあ、ちょっと心を落ち着けられるように……」

 

 あれ、何処だったかなとアズマはベッド横に用意したバッグを探る

 「えーっと、これは大切な栞で……」

 本に挟んだ状態で見付けたのは一枚の栞。感謝の言葉を持つグラシデアの花の栞。シンオウに越していく友人に別れの際に気持ちとしてシンオウから取り寄せた花束を贈ったら、自分の気持ちとして一輪返され、そのまま栞にしたのだったか。それは良い。必要なのはもう一つ本に挟んだものだ

 「っと、あった」

 そうして、荷物はそれなりにすっきりしているため割とあっさりとアズマは見付ける

 『(……草?)』

 「まあ、見てなって」

 今日の昼間取った草である。まだ、使えそう

 それをアズマは右手と唇で挟み、息を震わせる

 優しい音が、響き渡った。あまり大きくはないけれども

 

 「……どうだ?落ち着いた?」

 『(何ですの、それ!?気になりますわ!)』

 「逆効果かっ!」

 『モノ?』

 「サザ。悪い、起こしちゃったか」

 むくりと頭を起こす小さなドラゴンの頭を、寝てて良いんだぞとアズマは撫でた

 

 『(何ですの、あれ?)』

 「オラシオンって言うらしい。その昔父さんにアラモスタウンって街に連れていって貰ったことがあってさ。数日の学会だったかな。そこで聞いた草笛。心地良かったから、頑張って再現してみたんだ」

 『(凄い、話ですわ)』

 「でも、起こしちゃったか。寧ろ心が落ち着く曲だったんだけど、そこまでの再現は難しいか」

 耳コピの自信、割とあったんだけどな、とアズマは息を吐いた




オラシオン(草笛)
アズマが吹ける草笛の曲。ポケモンの心を落ち着かせる効果がある……はずなのだが、落ち着いた心にダークオーラが染み込むので逆効果になりやすい。効果としては、ポケモンの笛互換。眠っているポケモン全員を起こす
音は再現出来てはいるのだが、教えて貰った訳ではなく耳コピ。だが気に入ってたまに吹いているらしい


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vsルカリオ

そうして、そんな期待はずれのポケウッド作品を見た翌朝、早朝7時

 「さて、と。準備は良いか、ギル?」

 アズマは、自分のポケモン達を連れてシャラシティに繰り出していた。ディアンシーはいないが

 とりあえず、AZにマスタータワーへ行けと言われた以上、数日はシャラシティに滞在することをアズマは最初から決めていた。ポケモンセンターに初日は泊まるかと思ったのもたった一瞬、どうせなら最初から宿は決めておいた方が良いだろうしと決めた宿で数日分のチェックインは済ませた。シャラシティ、カロスの中でも大きめの街……ではあるのだが、ホテルが取れないなんて事はないのだ。大きなイベントでもあれば話は別なのだろうが、そういった事は特にないのだから

 ということで、割と安全な拠点だからと、まだまだお眠なディアンシーは置いてきたのだ。メモは枕元(結局ポケウッド映画について話している間にベッド上で眠ってしまったのでそのまま)に置いてきたし、きっと大丈夫だろう、という算段で

 

 アズマにとっても、正直言ってあまり見られたいものでは無かったのだから

 調べてみた所、マスタータワーも入場制限を課している。正確には、登ることへの制限だが

 マスタータワーは、求道者の為の塔だ。観光地となっている為一階のみは解放されているが、二階より上は強さを求めた者達の場。生半可なトレーナーが入れないように、とバッジ3個を持たぬトレーナーは上に行けないようになっているのだ。上の階で、挑まれるバトルを断り続けるのもまた失礼、だがバッジ3個はなければ、相手になどならないという話なのだろう

 

 少しだけ、感じるのだ。マスタータワーの上から。何か、弾けるような力を。ほんの微かに

 ならば、恐らくはAZの言っていた運命とはその力だとアズマは判断し、出会うにはマスタータワーを登れなければいけないと結論付けた。それならば、前提条件として、シャラシティジムを越えなければならないという話になる。シャラシティジムを越えることで、アズマの手持ちバッジは漸く3個になるのだから

 

 だからアズマは早朝、此処に来た

 そう、シャラシティジム。不可思議なルカリオに、完全に叩きのめされた事もある、その場所に

 ……きっと勝てない。そんな事はアズマだって分かっている。体験挑戦で使われた不可思議なルカリオ(メガルカリオ)も、ビオラの使ってきたアメモース等も、場違いなポケモンだったらしいのは流石にアズマも理解した。それでもだ、3つめのジム戦に二匹では流石に辛いだろう。特に、モノズの悪タイプはシャラシティジムが使ってくる格闘に弱いのだし。フライゴンに頼れば勝機も見えるだろうが、繰り返しになるけれども、執事のポケモンに頼る時点でトレーナーとして負けだ。それでも、どれくらい勝負にはなるのか試してみたくて、アズマは早朝ジムを見に来て……

 

 ふと、その扉が開いている事に気が付いた。ちょっと前は閉じられていた。それはアズマがしっかりと見た

 だから、これは誰かが開けたのだろう。7時はジム戦には早すぎる時間だ

 何かあったんだろうか。ふと好奇心に駆られてアズマは開いた扉から顔を覗かせる

 暗すぎて見えず、ヒトツキと一歩踏み込み……

 そんなアズマの背後で、扉が閉まる

 

 閉じ込められた!?

 そう辺りを見回すアズマの眼前で、一つだけ、天井の電気が灯る

 照らされたのは、少し歪な人影。いや、違う、これは……

 二足歩行の、あのポケモンの影!

 そう気が付いた瞬間、アズマの視界は蒼い光に焼かれる

 

 次の瞬間、もうそのポケモンは眼前に居た

 どこか目付きの鋭いキュウコンのような顔をした、短い尻尾を持つ二足歩行の獣。青いオーラ、波動を纏いし波導の勇者、ルカリオ。アズマも読んだことのある子供向けの絵本、はどうのゆうしゃルカリオ、及びその元ネタである伝説を小説化した波導の勇者の爆発的ヒットから、多くのトレーナー(特に男子)の憧れのポケモン

 だが、その特長ともされる頭の黒い房は4つとも巨大化し、端二つは先端が赤く染まっている。更に、本来黒いはずの手足すらも赤く、胴に生える黄色い毛は伸びてワイルドさを増している。そうして、全身から吹き上がるように纏うのは濃く蒼い波動

 

 「あのときの、不思議な(メガ)ルカリオ!?」

 腰を落とし、右手を引き

 そんなルカリオを前に、出しっぱなしのヒトツキがアズマの前に飛び出して

 『クワンヌ!』

 「ギル!?」

 鉄拳一発、彗星のようなオーラを纏った右ストレートが、ヒトツキを殴り飛ばした

 

 『フリャ!』

 「ライまで」

 更には、勝手にボールから、フライゴンまでもが飛び出す。有り得ない事ではない。一応、モンスターボールを壊す方法はボール内部に基本的に存在する。捕まりたくないポケモンは、その機能を使って出てきたりする訳だ。マスターボールには無いらしいが

 だが、それは一度きりの方法。だってボールは壊れてしまうのだから。モンスターボールデータを別のボールに移し変える事が出来る装置はあるけれども、それまではこの形で出てきてしまったポケモンはボールに戻れない。つまり、だ。トレーナーが出てきて良いぞとスイッチを押して開けてもいないのに勝手にボールから出てくるというのは、それだけ切羽詰まった危機的状況という事になるはずなのだ

 

 「まさか、ラ・ヴィ団!?」

 このルカリオも、あのアブソルのように?

 と、観察するが、そんな様子はない。元々赤いルカリオの瞳は透き通っている。寧ろ勇者とか、そういった言葉が相応しい様相だろう。深紅に染まったアブソルの眼とは全く違う。寧ろショウブのリザードンに近い。正式な絆のメガシンカ形態だろう、これは。ならば、ラ・ヴィ団ではない。きっと。アズマとしても、当然の権利のように普通にボーマンダをメガシンカしてきた首領の事があるので断定は出来ないけれども、きっとそうだと思った

 「ギル、戻れ

 サザ、お前は」

 とりあえずゴージャスボールに扉に叩きつけられたヒトツキは戻し、モノズを出しておく

 だが

 「って、お前には無理か。無茶しなくてて良い、戻れ!」

 モノズは丸くなったまま、一歩も動かずに居た。そういえば臆病だったなこのモノズ、ならあんなルカリオ相手に立ち向かうなんて無理か、相性は悪くないアブソルとは違い、天敵ってレベルなのだし。と、仕方ないなとアズマはモノズも戻す

 ……普通に、フライゴンに頼るしか手がなくなってしまった

 

 そんなモノズの性格を覚えていれば予想はついた茶番劇をアズマが繰り広げている間にも、ルカリオはフライゴンと戦いを繰り広げていた

 基本、ルカリオの攻め手は右ストレートのみ。時折アズマへも向けようとするそれを飛べるからと翼をはばたかせひらりとフライゴンがかわし続ける。だが、ルカリオの速度は早く、中々フライゴンも攻撃には転じられないといった戦況。防戦一方だが、悪くはない

 「ライ、『じし』……って今の無し!」

 つい、ならば適当に撃っても当たる技をと思い、アズマは思い直す

 じしん。それはもう強い技だ。フライゴンも使える。でもだ、屋内で撃って良い技である筈もないのだ。だからだろう、フライゴンが上手く攻め方を掴めないのは

 「なら、ライ!こちらは気にせず『ばくおんぱ』!

 でも、地上近くでな!」

 ならばと、アズマは指示を切り替える

 手早くても当てられ、施設にはダメージの無い技に。いや、正確には音声機器等が稼働してると酷いことになるのだが、今は大丈夫。爆音波は割と近くにしか破壊力が無い、天井近くだとライトを破壊してしまう可能性はあるが、地上近くなら天井までは届かない

 

 フライゴンが羽根を震わせ、空気を震わせる大振動を起こす。羽根のあるポケモンの中でも、羽音を歌声のように響かせたりするフライゴンだから使える、周囲全体を襲う音波の波。だがそれを、今までストレートのみで攻めてきたルカリオは、大きくバック宙帰り、それを繰り返して距離を離す事で回避

 「離れた?」

 『ライ?』

 波動を纏った拳で攻めるルカリオにとっても、それは悪手なのでは?と、爆音対策に耳を塞ぎながらアズマは疑問に思い

 

 『ルーカー』

 妙に伸ばす鳴き声に、気圧された

 右腰辺りで両の手を重ね、その合間に蒼く輝く波動

 アニメ映画版波導の勇者でそれはもう何度も何度も見た光景

 「『はどうだん』……」

 思わず、アズマはその言葉を呟き

 「ライ、攻めるな、『まもる』!」

 『リーオー』

 『フリャ?』

 「良いから、間に合わない!」

 溜める波動が膨れ上がる。それは良くある光景。だが、ちょっと膨れ上がりすぎやしないだろうか。身長越えてるぞ

 なんてアズマが思う中

 『ハァァァァ!』

 波動弾が放たれる

 

 「ってこれ『はどうだん』じゃねぇだろ!波動砲だろぉっ!」

 思わず、アズマはそう叫んだ

 はどうだん。言わずと知れた波動エネルギーの弾を打ち出す技だ。だが、今ルカリオがやっているのはそうではない。波動エネルギーの帯を放ち続けている。こんなもの弾じゃない、波とか嵐とか言うべきものだろう

 そんな嵐は、当たり前のようにまもるの防壁にヒビを入れ

 「ちょっと、ルカリオ!!」

 だが、その言葉に、突如として荒れ狂う波動エネルギーの嵐は止んだ




ルカリオ➡メガルカリオ Lv45♂

おや コルニ
とくせい せいぎのこころ(悪タイプ技を受けると義憤で波動エネルギーを増幅させ攻撃が上がる。ダークオーラ下では常に悪タイプ技を受けていると判断し毎ターン攻撃が上がり続ける)➡てきおうりょく(波動エネルギーを最大化、最適化することでタイプ一致技の威力が上がる)
もちもの ルカリオナイト

わざ:コメットパンチ/とびひざげり/はどうだん/つめとぎ(/はどうのあらし)

はどうのあらし
PP:はどうだんと共有 威力:160 命中:必中 注意事項:特殊技、Z技扱い、敵全体攻撃
メガシンカしたルカリオのはどうだんが変化した技。波動技であるはどうだんは、限界を越えた波動を纏うメガルカリオ状態では、常にZ技となる
要はスマブラXの波動の力を見よ!ハァァァァ!のアレ。蒼い波動の極太ビーム。メガシンカさえしていれば、いちいちZリングを使う必要はなく、ルカリオのみで放つことが可能。曲がるしオーラの波だし4倍波導拳波動の嵐なんかもあるが、別に超波動の嵐とか10倍波動の嵐とかファイナル波動の嵐とか100倍ビッグバン波動の嵐とかは無い。特殊効果として、特殊技だが、波動の力依存なので攻撃と特攻のうち高い方のランクを参照する(例えば、特攻が0、攻撃が威嚇でマイナスならばランクは0、攻撃が正義の心で+2で特攻が0ならばランクは+2となる)。あくまでもランクのみの話であり、例え攻撃ランクを参照する場合でも、波動の嵐そのものは非接触特殊技である。尚、上記の○倍波導拳波動の嵐の○倍には3になる参照するランク+1が入る(つめとぎで攻撃+2を参照したならば、3倍波導拳波動の嵐というように。2倍となる+1は単なる波導拳波動の嵐)


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vs?コルニ

「ちょっと、ルカリオ!!」

 その言葉と共に、バァンと閉まっていたはずの扉は開けられる

 「はあ、はあ……どうしたの、ルカリオ……」

 息を切らしながら、扉を開けて立っていたのは、腰まである長く淡い金の髪をした、同い年くらいの少女であった

 

 「コルニさん!?」

 アズマにも、その少女は見覚えがあった。いや、正確には、今は髪をポニーテールにすることなく下ろしているので分からないけれども、状況的にはそうだろう、と

 ローラースケーターのコルニ。そして、ジムリーダーのコルニ。シャラシティのジムリーダーだ。けれども、アズマ的には、買ってたポケモン雑誌に毎月のように掲載されていたオシャレローラースケート宣伝ページで、ローラースケートを履いた姿のモデルを2回に1回はしていた少女、という印象の方が大分強い。その可愛らしさ活発さから、ローラースケートの爆発的な少年少女への普及に貢献したとかしてないとか、ファッション雑誌の記事で読んだことがある。後に、セレナさんも使ってたからと、内気な子にもローラースケーターが増え、今や少年少女スケーター人口は10年前から見れば滝登りしたようなグラフを描いたという。崖とか登るときには邪魔だし古くなってきたしと屋敷に置いてきたが、アズマもローラースケートはコルニの履いた写真の乗ったスケートの宣伝を見て買った事がある。家の回りは森で、あまり滑れる場所は無かったけれども

 そんな記事よりトリミアンのカット特集だよとアズマは流し読みしていて、コルニの存在がスケート人口に云々の内容はしっかりとは覚えないのだが。昔シャラシティジムに体験挑戦した時に叩き潰したルカリオの使い手は、当時のジムリーダーは彼女ではなかったのだからジムリーダーとしての印象が強い訳もない。まあ、6年くらいは前の話だし、10歳になる前だろうその頃からジムリーダーだったとしたらどんな天才だという話である

 

 「本当にどうしたのルカリオ、昨日から可笑しいよ」

 『くわん!』

 「って、あっ!

 だ、大丈夫でした?」

 漸くアズマの存在に気が付いたのか、少女はアズマへ向けて頭を下げた

 

 「……おれは大丈夫。大変なのは、うちのポケモンかな」

 「すみません!朝起きたらルカリオが居なくて……」

 「何か、あったんですか?」

 「昨日の昼から、ルカリオが気が立ってるみたいで」

 『くうん!』

 こいつ、こいつ!とでも言いたいのだろうか、ルカリオはぶんぶんとその肉球の無い手でおれを指し示す。ちょっと波動が飛んできて痛い

 

 「……半分くらい、それおれのせいだと思います。すみませんでした」

 「?」

 少女は、アズマの声に首を傾げた

 「ライ、ちょっとだけ付き合ってくれないか?」

 答えは羽音。わざと立てた不協和音ではないので、良しというもの

 

 心を、重ねるように。心臓に燃えたぎるマグマを、血潮に乗せて全身に巡らせ、右手に集め直すような感覚

 両腕を交差、そのまま両の腕で円を描き、掬い上げるように肘を伸ばしながら腕を上げ、拳がフライゴンを向くように両拳を重ねる

 頭右上へと拳を解き花でも形作るようにしながら両腕を持っていき、力を集中

 前へと再び腕を突きだし、龍頭を勝手にイメージした両掌を、右手を振り上げるようにして開口!

 同時、フライゴンが口を開けて吼え、波動(オーラ)を纏う

 

 『クゥゥゥゥッ!』

 低い鳴き声

 ルカリオが、トレーナーである少女を守るように前に出て、濃く蒼いオーラを噴き上げ、二度目の構えを取る。アズマのように頭右上ではなく、右腰での溜め、二度目の波動砲の構え

 ルカリオは、黒いオーラを纏う少年の方をじっと見据えていて……

 「お疲れ、ライ」

 『ふりゃ!』

 ぱっ、と。アズマはその構えを解いた。意識して、オーラも霧散させる

 

 「わわっ!あなた、波動使いなの!?」

 「気が付いたら、使えるようになってました」

 あの黒水晶のポケモンに出会ってからだろうか。アズマに元々あったらしい黒いオーラは、ある程度ならば意識して使えるようになっていた。手を伸ばされたとき、一瞬だが存在が食われて無くなるような、底冷えのする感覚に襲われた。あれはなんだったのか、アズマには分からず、けれども、桃色水晶で死にかけて以来黒いオーラが出るようになったというように、あの時死にかけていてオーラが扱えるようになったとアズマは解釈していた

 「おれの波動は、ポケモンにとっては大分苦手なものらしいんです。野生ポケモンが、ボールをいくつ投げても捕まらない程度には

 だから、波動を扱うルカリオとしては、恐ろしい敵が来たって認識だったのかも」

 『くわん!』

 「そっか、それでルカリオ、気が立ってたんだ……

 あ、ごめん、自己紹介してなかったね」

 「知ってます。カロスローラースケート協会のアイドル、コルニさんでしょう?」

 「そこはジムリーダーの、じゃないの!?」

 「こっちの方が、認識強いんですよ」

 『ライ』

 フライゴンが相槌を打つ。アズマがその雑誌を買いに行く際、父親のボーマンダ、執事のウインディ、そして今ついてきてくれているフライゴンの三体のいずれかに乗せてもらうのが普通だったので、覚えているのだろう

 

 「そっか、スケートは、楽しい?」

 「家は森の中なので、あまり出来ませんでしたね、残念な事に

 ……そろそろ、旅に良いかもと買い直すのも良いかもしれませんね」

 「ルカリオ」

 『くぅぅん』

 不満げに鳴き、けれどもルカリオはメガシンカを解いた。飾り気の無い服装のコルニの中で、唯一の装飾品と言っても良い左腕のオレンジ色の腕輪。その中心の七色の石がが一瞬七色の光を放ち、すぐに光は消えた

 

 「ごめん、えーっと

 アズマ!アズマ・ナンテンくんだよね?」

 「良く知ってますね」

 名乗った覚えはないのだが

 「カルムくんとか、フクジさんから話は聞いてたよ」

 「そういえば、フクジさんもビオラさんから話はちょっと聞いてたと」

 「そう、それ!

 ちょっと予想より来るの早すぎたけどね。シャラシティには、ジム挑戦?」

 ルカリオの視線が怖い。ルカリオと居ても本人に波動使いの素質はあまり無いのか、ディアンシーの言うオーラを気にせず、気さくにコルニは話し掛けてくる。自分のトレーナーが、危険なそんな奴相手に近付くのが、我慢なら無いのだろうか。忠ポケモンである。でも、アズマ的には心臓がちょっと痛むので波動を飛ばすのは止めて欲しかった

 

 「いえ、マスタータワーに行こうかと

 ジムにも、挑戦する気はあったんですが……」

 『くわっ!』

 「前のジムから、こいつに乗って」

 と、アズマはフライゴンの尻尾に触れる

 「半分くらい飛んできてしまいましたからね。修行して出直します」

 

 「バッジ、2個だよね」

 「はい。なので、実は登れないんですけどね」

 「じゃあ、案内しようか?」

 淡い金髪の美少女は、そんなことを言い出した




ルカリオ視点で見ると、昏く食らう(ダーク)オーラなんてものを持った危険人物と、痺れ弾けるオーラ(テラボルテージ)を放つ黒い竜がほぼ同時期にナワバリであるシャラシティに現れた!となる訳ですね

そりゃやべぇよやべぇよ、オレが何とかしなきゃ(使命感)くらいなります。波導の勇者的に、魔王みたいなオーラ持った奴とか危険すぎて倒さなきゃいけないと思うのも当たり前だな


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vs()バシャーモ

『(もうっ、もうっ!

 暗いオーラは爆発して!別のオーラまで見えて!何かと思いましたわ!)』

 「いや、波導の勇者に喧嘩ふっかけられるのはちょっと予想外で……」

 『怖くて、不安で、あんなオーラを流してたら、襲われて当然ですわ!なのに、外にも出られなくて……』

 「いや悪かったって姫。でも、ぐっすり寝てたし、ちょっと朝の散歩がてら外観見るだけなら何もないかなって……」

 鍵をかけておいた部屋の扉を開けるなり、足にぽかぽかと小さな拳を叩き付けてきたディアンシーと取り敢えず合流し、ついでに朝9時には開く気の早い店で以降要るかもしれないなと適当に高くて頑丈なローラースケートを買い

 とりあえず、アズマはコルニに言われたようにマスタータワーへと向かっていた。話を通してくれると言う。その事は、ズルのようで棘としてひっかかりこそあったものの、とりあえずアズマにとってはとても有り難いものであった。叩き付けられたヒトツキは部屋で休ませることにして、きのみ等を置いてきた。最も共に歩んできたポケモンが側に居ないのは不安にもなるが、無茶はさせられない

 

 『(ローラースケート?楽しそうなもの、ですわね)』

 「んまあ、楽しいよ」

 『(やってみたい、ですわ)』

 「無理言うなよ、姫」

 ひょい、とアズマはバランスを崩さないように気をつけながら、横をぴょんぴょんと跳ねて移動する小さなポケモンを抱え上げた。その足に当たる部分は、尖った石状のもの。ある程度フェアリーパワーか何かで浮いていたりするが、とりあえず、人間的な両足はない

 「二本の足でバランスを取るのがローラースケートなんだ。姫じゃあ、転けるしそもそも進めないと思う」

 言いながら、片足で地面を蹴り、加速。コルニというローラースケート界のアイドル枠が居るからか訪れたことのある街の中でも特にスケートで滑走しやすいように滑らかに舗装された道路を、風を切って滑る

 『(わぁぁっ!

 凄い!凄いですわ!)』

 「っと、こんな感じ」

 『(やってみたい!)』

 邪気の無い、キラキラした目で見上げられ

 「ポケモン用のは……ミアレなら売ってたりするのかな……」

 アズマは、そんなことを考えてみたりしながら。結局売ってるかどうかの判断なんてつかずに、ミアレに行ったら探してみようかでその場は終わらせて

 話を交えながら、道路を滑って目的地へと向かう

 かなりの昔から立っているという塔。街外れに聳えるマスタータワーへ

 

 満潮時には海に沈む浅瀬の道を駆け抜け、単なる塔というにはあまりにも装飾が多いその場所へ。聖堂と言った方が、外観としては正しいかもしれない

 「あっ、こっちこっち!」

 入るや否や、アズマはコルニに呼び止められた

 メットから流すポニーテールと、メット前の穴から流す小さな二本のテール。そして、動きやすそうな服装。腕にはグローブ、左腕にはオレンジの腕輪、そして足にはローラーシューズ。何とも雑誌で見覚えのある姿で、そんな金髪少女の横には、一人の老人が立っていた

 「……そちらは?」

 「人呼んで、メガシンカおやじ!」

 「メガシンカおやじ!?」

 「そう、」

 「あたしのおじいちゃんなんだ」

 「あっ、そういう関係ですか」

 と、アズマは納得して、ローラースケートのブレード部分をずらして畳みながら頷いた

 

 「あ、そう

 私の名はアズマ。アズマ・ナンテン、ナンテン博士の息子です」

 「おっ、ナンテンの息子か。宜しくな」

 右手を差し出し、アズマは握手を求める

 

 「ところでその腕輪は?どこで手に入れたのかね?」

 握手を終えた所で、メガシンカおやじはそうアズマに問い掛けた

 「腕輪?」

 「その右手の」

 「ん?」

 ふと、アズマは自分の腕を見下ろす

 たしかに、腕輪のようなものが見えた

 触れてみる。しっかりと腕にぱっと見ラバーバンドにも見えるようにバンド状の光を通さない濁った黒水晶がはりついており、取れる気配は無い。触っている感触もしっかりとある。あくまでも、気が付いたら右手にくっついていた黒水晶の形状が腕輪……というかリング状になっていただけで、アズマが覚えていないうちにその上からリングをして黒水晶を隠したとかそういったことではないようだ

 「ああ、これですか

 遠い所で、貰いました」

 誰から、どういう風にというのは誤魔化して、アズマは伝える

 謎の世界で、謎のポケモンに襲われて、気が付いたらくっついていました、というのは、実際に経験してみてもあまりにもバカバカしい話で。そうそう信じられるはずもないから

 「見せてみい」

 「いや、それが……」

 リング状になっても、これ自体がアズマの腕に一体化した黒水晶であることそのものは変わらない

 取ることは出来なさそうであるし、しっかりと見せればバレるだろう

 「見せたくないか?」

 「はい、すみません」

 「いいのだ

 そのリング……とても強い光を感じる。君にとって、他人に一瞬でも貸したくないほどに重要なもの、それもまた真実」

 「とても強い……光」

 おかしくないだろうか。とアズマは頭の中で疑問を覚える

 寧ろ、この黒水晶の元々の持ち主であるはずの黒水晶のポケモンはシカリ、シカリと光を求めていた。ヒャッコクの日時計の欠片を、光を食っていた。光を湛えるのではなく、光を食らう側の存在では無いのか?ならば、強い光を感じるのは逆ではないのか、と

 「そのリングに湛えられた光、何処へ行くのか、何をするのか……

 何が、出来るのか」

 「いや、おじいちゃん。ちょっと難しすぎ」

 「おお、すまんすまん

 

 それで、君は何を聞きに?メガシンカについては分かっているのかね?」

 「いや、なんとなーくでしか」

 脳裏に響いた鳴き声は、なんというか大体フィーリングで、しっかりとはアズマは理解していない。とりあえず、絆の力での限界突破だということだけは理解したが、それだけだ

 

 「メガシンカとは、進化を越えた進化なんだ!」

 コルニが、叫ぶように告げる

 何となく、自慢げにアズマには見えた

 『(進化を越えた進化、凄そうな響きですわ……)』

 「ん、まあ、それは分かりますけど」

 アズマの眼前で、ショウブとリザードンが実際に見せたから良く知っている

 「そうだとも!

 メガシンカとは、これ以上は進化しないと思われていたポケモンの更なる変化、一層のパワーアップ!」

 「でも、進化にしてはすぐに戻りませんか?

 進化とは、そんな一時的なものじゃないと思いますが」

 例えば、ガーディがウインディに進化したならば、ずっとウインディのままだ。基本的に、ポケモンを育てるトレーナーの手持ちポケモンは、よっぽどな強さを扱うトレーナーに求める一部ポケモン以外はその一生の大半を進化した姿で過ごす

 「うん、その通りだよ

 おじいちゃんが変化って言っていたように、メガシンカは普通の進化とは違って、一定時間で終わる進化、一時的な進化なんだ」

 「一時的な進化……負担が大きすぎて維持出来ないって感じですか?」

 「うーん、どうなんだろ?

 ルカリオ、そうなの?」

 『くわん?』

 コルニがそうメガシンカを行える横のルカリオに問い掛けるものの、鳴き声は是とも否とも要領を得ない

 

 「こんな風に、メガシンカについてはまだまだわかってない事が多いんだ」

 「分かっているのは、生命のオーラが何らかの関係を持っている事。だからか、生命を司るというゼルネアスの居るカロス地方、そしてかつて伝説のポケモンが莫大な自然エネルギーで地方そのものを作ったと言われるホウエン地方以外では、ほとんど確認されない」

 メガシンカおやじが、言葉を続ける

 「そして、特別な道具が必要で」

 見せるように、コルニはその腕を上げる。左腕に、オレンジ色の腕輪が見えた

 『ルカッ!』

 ルカリオも、胸の前に左腕を構えた。良く見ると、その腕にもコルニのものと似た石のはまったリングが見える

 「何より、ポケモンとの信頼関係が大事ってこと」

 

 「成程……

 有り難う御座います」

 結局、分かったことは多くない

 それでも、アズマは礼を言い

 「マスタータワーに行きたいって言ってたけど、目的は果たせた?」

 「いや、それが違う気がするんですよね」

 コルニの言葉に、そういえば花関係ないなと思い直した

 「おじいちゃん、他になにかあったっけ?」

 「塔で修業したい訳じゃ無いんだろう?」

 「はい。マスタータワーへ行け、運命が待っていると言われて、来たんですけど」

 「運命かー」

 「運命……」

 ちらり、とメガシンカおやじは横の孫娘を見て

 「孫娘が欲しいならば、勝つことだ。勝てなければ、孫娘はやらんぞ」

 『シャーモ!』

 ボールから、進化前の鳥っぽさを残すが人間のような背格好のポケモン、バシャーモを出す

 「ちょっと、おじいちゃん!?」

 「……ライ」

 アズマも乗って、フライゴンを呼ぶ。ボールは壊れてしまったし、移し変えるのにも時間がかかるので出したままだ。呼ぶと礼儀を弁えて外で待っていたフライゴンが飛来する

 「寧ろ、勝てたら貰えるんですか?」

 「欲しくなる気持ちは分かるが」

 「まあ、雑誌読んでても可愛い人だなと見惚れる事はありましたし」

 「やらんぞ。冗談だからな」

 「ええ。本気でも困ります」

 

 「で、孫娘でないとすると、運命とは……」

 「さあ?」

 と、アズマはバッグに刺していた花を手に取る

 「この花が目印になると」

 「やあ来たんだね予想より随分と早いお着きだ」

 その声は、大分上の方から聞こえた




アイテム解説
Zネクロリング 分類:Zリング
アズマの右腕にくっついている黒水晶。ネクロズマの体の一部である為、Zリングとしての性質を持つ
基本的な動作は他のZリングと同様。特徴としては、肉体一体型であることくらいである。肉体と一体化している理由は、ネクロズマが傷だらけの今の姿になった際の欠片ではなく、せめても光を取り戻そうとしてアズマの光を食って合体、ネクロズマ(未明の繭)になろうとした際の残骸である為。その為、これはまだ欠片として本体との繋がりが残っているらしいが……


ネクロズマ(未明の繭)
ネクロズマ(正午の角)と並ぶ合体したネクロズマの姿。そもそも、ソルガレオやルナアーラにネクロズマの一部であるという設定などはない。ならば、強い光を持つ伝説ポケモンであれば、他の伝説との吸収合体も理論上はあり得るはずという想定から産まれてしまった捏造イベルタル吸収形態である。現状出番は特に無い。ネクロズマパーツの付き方は、腕パーツが両足、胴が二つに別れて翼にブースターとして合体、細かなパーツが尻尾に合わさり、一部はプリズムと合わせて角を持つ兜のような姿になる。常に赤く輝き周囲の命を吸い取る状態である為、この姿のネクロズマは万が一誕生してしまった場合、伝説ポケモン級の耐久性が無ければ近づくだけで石化させられる世界を脅かす脅威である。生命の光を吸い続けてウルトラバーストするまで被害を許容して待つか、伝説ポケモンで挑むしか解決の道はない


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vs?ゼクロム

「……上?」

 『(あ、危ないっ!)』

 

 ディアンシーが叫ぶ中、上から話しかけてきた何者かは、ひょいと塔の5階の踊り場から身を踊らせる

 癖の強い緑の長髪が風に靡きながら、何者か……恐らくは青年の体は、地面へと落ちていって……

 「おいでボクのトモダチ」

 『バリバリダー!』

 その体を、巨大な漆黒の竜が抱き上げた

 「ゼ、ゼ、ゼ……」

 『(ひっ!な、何ですの何ですの何なんですのこのポケモン!?)』

 「ゼクロムぅぅぅぅっ!?」

 ゼクロム。黒陰ポケモン。タイプはドラゴン/電気と言われている

 イッシュ地方に伝わる伝説の竜の片割れ。理想の竜とも呼ばれ、理想を追い求め、希望の世界を作ろうとする者に手を貸すと言われる"伝説のポケモン"だ。父親の論文の中で語られてるのを見たことがある

 かつてのイッシュ地方でのプラズマ団暗躍事件において、ポケモンを解放するという理想を掲げたトレーナー、Nに手を貸し、真実に辿り着く意思をもってプラズマ団の前に立ちはだかった青年、トウヤと激戦を繰り広げたという。その戦いは、最後の最後、突如としてトウヤの前に舞い降りたレシラムによってトウヤ勝利で終わったと言われていたが……

 以降姿を消していた伝説が、眼前に唸っていた

 「さあキミの運命を見せてくれ!」

 

 「キミの運命を伝説を見せてくれ」

 二度目のそんな言葉

 「いや居ないけど」

 漸く、アズマはそんな言葉を絞り出す

 「居ない!?」

 翼のような手甲の上で、何となく格好付けたようなポーズを取っていた青年が体勢を崩し

 「ライ!」

 フライゴンの背に抱えられて、事なきを得る

 

 「ちょっと待ってくれないか」

 「いや、おれに伝説ポケモンの知り合いなんて……」

 と、ふと下を見たアズマは、一つの事を思い出す

 「姫の事ですか?

 そもそも姫は家のポケモンでは無いので」

 そう、ディアンシー。幻とされるのだから、ある意味伝説のポケモンかもしれない。単純に珍しいというだけで、その力から伝説のポケモンと呼ばれる訳では無いのだけれども。命の波動の籠ったピンクのダイヤモンドは確かに凄いが、伝説と呼ばれるほどの力ではない。伝説のポケモンは、まだ個体数が確認されているエンテイでも、全力で吠えれば火山を爆発させるのだから。技としての噴火ではなく、本当の意味での噴火を起こす、それくらいの圧倒的な力でもって初めて、そのポケモンは伝説と呼ばれる

 

 「彼女ではないよ君の運命は

 もっと黒く輝く影」

 「黒く、輝く……」

 アズマの脳裏に浮かぶのは、一つの影。シカリ、と光を求めたあの漆黒のポケモン。どれだけ長い時間、彼若しくは彼女はあの場に囚われていたのだろう。そうまでして封じなければならなかったのは何故なのだろう。傷だらけのままで、更にはその全身をがんじがらめにして、そんな形で閉じ込めなければならない本来の力は、確かに伝説のポケモンのものなのかもしれない

 「いやでも、あのポケモンと運命と言われても」

 『(そうですわ!というか、いきなりなんなんですの!)』

 「おっとこれは失礼宝石の姫

 ボクはN」

 「ナチュラル・ハルモニア……

 えぇっと、たしか……」

 「グロピウス」

 『(トロピウス?)』

 「姫、それはフルーツポケモン。トロピウスブランドってあるくらい、首のフルーツは美味しいものなんだけど、一体が一度に付ける実が少なくて案外市場価格は高いんだよな……。味の割には安いんだけど

 ってそうじゃない」

 よっと、と青年が背より降りるや否や、フライゴンは翼を羽ばたかせアズマの横へと戻る

 そうして、果敢にも黒い竜を睨み付けた

 

 「ナチュラル・ハルモニア・グロピウス、通称N

 ポケモン解放を謳ったプラズマ団の、事実上の象徴」

 「そんな人だったの!?」

 『(あの人たちみたいな悪い人、ですの?)』

 「コルニさん、知らなかったんですか?」

 「昨日、ふらっと泊まりに来たんだけど……

 通報した方が良いのかな」

 「ああ、父親の研究が研究なんで資料ありましたけど、普通に考えたら他の地方だと顔までは知らないって事多いですね

 通報は……」

 左足を曲げ、アズマは自分のズボンを掴むポケモンの頭に軽く手を置いて

 「しなくて大丈夫かと」

 「良いの?」

 「本当に悪かったのは、彼の父親ゲーチスだったらしいので。直接対峙したトレーナーから聞いたって資料が、父さんの部屋に放置されてました

 実は国際警察に指名手配とか、されてるのかもしれませんけどね。それでも」

 と、屈んだままの体勢で、そのままでは小山のようにも見える巨体を見上げながら、アズマは続けた

 「真実と理想のポケモン。その理想であるゼクロムが信じた人なら、まあ、信じてみても良いかと」

 「ん、よし!それじゃあ言った者責任で!」

 「万が一何か起こったらおれじゃあ背負いきれませんって!ゼクロムなんて無理にも程が!」

 「何も起こらなければ大丈夫!」

 「あっ、それは確かに」

 『(丸め込まれてますわーっ!)』

 

 と、そんなちょっと空気を変えるための冗談を交えつつ言葉を交わして

 アズマは、改めて此方を見守る黒い竜と、それを連れた青年に向き直った

 「……キミは動こうとする世界を変える存在になれるか」

 「……何とも。おれの行く道は、まだまだ分からないことだらけですから」

 「それだけの光を持つ

 だのに!キミの運命は未だ側に居ないAZがボクに逢えと言ったのはその為だったとはね」

 青年は、アズマの目ではなく右腕のリングを見ながら言葉を紡ぐ

 「AZ……つまり、貴方がAZさんが言っていたおれが出会うべき運命だと」

 「ならばキミの運命!ボクが導こう」

 『ロアッ!』

 何時の間にやらゼクロムの角の上に上っていたらしい見慣れぬ小さな化け狐が、そのNの声に合わせて鳴いた




ポケモントレーナーのNが仲間になった!

尚、基本Nの言葉に句読点が無いのは仕様です。表示速度早いを越える早口とか再現出来ないので句読点無くして息つく間も無い速度ということにしてみました。読みにくいなこいつ!なのはご了承ください。どうしようもなければ三点リーダーで誤魔化します


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vs?ニャオニクス

「ご、ごめん!ジム開けなきゃ

 じゃ、じゃあ、後は宜しく!」

 少しだけどもりながら、取り外していたローラースケートのブレードを靴裏に嵌め込み、そそくさと去っていくジムリーダーの少女の揺れるテールを、アズマは呆然と眺めて

 

 「ゼクロム」

 バチっという静電気に、右腕を抑えた

 「痛っ!」

 僅かに、黒竜の頭の一角の先が、青く輝いている。微かな電気を行使したのだろう

 「何を」

 「これでも反応はないのか

 キミの運命がこれだけの光をキミに託していながらも側に居ないというのは本当のようだね」

 「それの確認ですか……

 ゲッコウガ映画のグレイ・ニンジャ=サンでも無いんで、技撃つとか止めてください。おれはああいう映画の主人公と違って、ポケモンの技を食らって平気な顔は出来ないんで」

 「技ではないよ」

 「いやまあ、そうかもしれませんけど」

 と、アズマは頬を掻き

 「すまん、ナンテンの息子よ

 外でやってくれんか?」

 というタワー管理者の言葉に、すみませんと頭を下げた

 

 「心地良い風だね」

 『キャッ!』

 と、地味に潮が満ちてきてギリギリ浸かり始めた道を見ながら、青年はそう言葉を発した。流石に目立ちすぎる為かゼクロムはボールに戻しているが、その頭に乗っていた小さな黒い獣……ゾロアはそのままだ

 「ゾロアはそのままで良いんですか?」

 「彼女もボクのトモダチさボクは基本的にはモンスターボールでポケモンを縛ったりしない」

 「そういえば、プラズマ団の象徴的にはその方が正しいんでしたね」

 「そこの気高い姫のようにポケモンはボールで縛らなくとも良いはずさ」

 『(な、なんでこっちを見るんですの!?

 べ、別に、一時的なナイトだから捕まったりしたくないだけですわ!)』

 「聞こえてきたよキミが彼の事を心配する言葉が」

 『(言ってません、言ってませんわ!)』

 「姫ー、あまり動くと海に落ちるぞ

 ここは昨日と違って満潮時には沈むってだけで普段は道だから落ちたところでなんだけどさ」

 頭をぶんぶんと大袈裟に振るディアンシーを、アズマはひょいと左の手で抱き上げた。右利きではあるし、ディアンシーも多少重いので(秤で測ってみたところ、6.8kgであった。本来確認されるディアンシーより幼いらしいので、一般的な重さはもう少しあるのだろう。いや、他の個体に出会うことなどほぼ無いだろうし、基準がどうとかいうのはナンセンスではあるが)出来れば利き腕は使いたかったが、何時の間にか増殖して腕輪状になった黒水晶が当たらないようにという配慮だ

 「ちょっと重い」

 『(ふふん)』

 「れでぃは軽いと言うべきですわ、とか言わないんだな」

 『(人間はそう言うんですの?)』

 「重いって女性に言うと怒られるって、じいに習った」

 『(人間って、不思議ですのね

 体が重く、そして大きいほど立派だって、鉱国では皆が言ってましたわ。まだまだ軽いって、皆バカにするんですの!)』

 「イシツブテ達もそう話しているね」

 「さっすが岩タイプ」

 と、アズマは頷いた

 「ライ、実は地面タイプなお前も……

 って、お前はスピード勝負の為に減量考えたりしてたんだっけ」

 フライゴンにも話題を振りかけ、無駄だった事にアズマは気が付く

 

 「それで、Nさんは何をしに?」

 「旅を」

 「いやまあ、それは流石に記事で知ってますが

 というか、おれがボールを使ってたりすることは、もう良いんですか?」

 ふと気になって、アズマはそう問い掛ける

 Nはモンスターボールを嫌っていたはずだ。トモダチを傷付けるとして、トレーナーもまた

 「トモダチを傷付ける酷いトレーナーばかりではないと彼のおかげで知ったよ

 キミのポケモンはキミを信じているキミを守りたいと助けたいとだから強くならなきゃと言っていた」

 「サザ、お前が?」

 右手でゴージャスボールを取りだし、訪ねる

 答えはボールの中のポケモンしか知らない故、返ってこないが

 

 「有り難うな、サザ」

 それでも、こんこんと人差し指でボール表面をつつき、礼を示す

 「それで、実際に旅をしたいってだけで?」

 「キミは何をしたい?」

 そう問い掛ける青年の瞳は、虹彩が薄くて表情を読みづらく

 「今は、強くなりたい

 こいつらと一緒に、勝てるように。とりあえずは、コルニさんに勝てるように」

 「彼女に?」

 「そりゃ、他でバッジを取れば良いやって逃げようかと思ったこともあります。けれども、やっぱり負けたままで終わりたくなんて無いじゃないですか」

 右手で、モノズのボールを握り締める

 強く、強く

 「それだけかい?」

 「いえ。直近の目標ってだけです

 

 弱さは、数日前に痛感しましたから。もっと強いポケモンが居れば、いや、おれに付いてきてくれたギルやサザが駄目だって言うんじゃないんです

 それでも、もっと強くなければ、きっと大切なものを失ってしまう。あの日、ミア……あっ、父さんのトリミアンの事です。ミアをただ、看取る事しか出来なかったみたいに

 

 だから、強くありたい。おれと、おれを信じてついてきてくれるポケモン達とで。ラ・ヴィ団だかという奴等にも、あの黒いポケモンにも、ハニカムなポケモンにも、大切なものを奪われない為に

 その為に、何か出来るならば」

 「出来るよ」

 「おれは……って、出来るんですか!?」

 「出来るさ

 おいでキミの手を借りたいんだ」

 『にゃーお!』

 青年の手招きに応じたのか、不意にビシュンという空気のブレる音と共に、一匹のポケモンが姿を見せていた

 濃い青い毛並みに、分かれた長い尻尾、目のような模様を持った耳を持つ、女性に人気のポケモン。ニャオニクス(オスの姿)である

 

 「テレポート、いや、サイコキネシス?」

 「サイコキネシス

 12番道路の彼に少しだけ来てもらったよ」

 『にゃっ!』

 『ロアッ!』

 張り合うかのように、青年の足元でゾロアが鳴いた

 「見せてあげよう『Zリフレクター』」

 『にゃお、にーっ!』

 瞬間、青年とニャオニクスからアズマの目にも分かるオーラが立ち上ぼり、消える

 ……いや、ニャオニクスはオーラを纏ったままだ。その外部には、ニャオニクスに合わせて動く薄い光で出来た壁もしっかりと存在する。リフレクターはしっかりと発生し、更にという形で、ニャオニクスがオーラを纏っている

 「Nさんでも、出来るんですね……」

 「Nで良いよ

 キミも出来るはずだろう」

 「いや、まあ、出来ますけど……」

 「キミの体は彼のようにポケモンの光を浴びてその力を帯びた……帯びた(オーラ)を使いこなせればキミとポケモンはきっとその夢を叶えられる」

 「……確かに、そうかもしれません」

 「ボクはポケモンの王N

 キミを見極め助けるために来た」

 「手を貸して、くれますか?」

 「彼はそのためにボクを呼んだ」

 「……有り難う、御座います」

 ゴージャスボールはポケットに戻し

 アズマは、右手でしっかりと青年と握手を交わした



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vsイリュージョン

どんどんと喋るポケモンが増えていく……
まあ、このゾロアらしき生き物なんて人間に化けるし、大半の伝説はテレパシー使えるしまあ仕方ないかなーと流して貰えると助かります


「弾けろ、オーラ!解き放て、絆!刻め、剣のコロナ!

 全力!無双!激!烈っ!剣!」

 「まだまだ遅いね」

 『にゃおにっ!』

 

 「……もう一度、お願いします!」

 それから、約1週間

 アズマは未だシャラシティに留まり、ポケモントレーナーのNから、自分の体にあるというオーラを使いこなし、ポケモンと共に戦う術を習っていた

 その力の名は、Z技。溢れ出るオーラをポケモンと重ねて放つ、必殺の一撃。だが……その修得は未だ成らず、難航していた

 撃てない訳ではない。撃てることは撃てる。当初は練習では上手くいかずに諸共に吹き飛ばされる事もありつつ、『むげんあんやへのいざない』『ぜんりょくむそうげきれつけん』『ブラックホールイクリプス』の3種類の技に関しては、何とか安定して放てるようになってきた。だが、どうしても……

 「今日はここまでだ」

 「まだ、まだ……」

 肩で息をしつつ、アズマは青年を見上げ、そう返す

 「キミは友達をこれ以上鞭打つ訳がないだろう?」

 「……そう、ですね

 少し、休憩しますか」

 横のヒトツキが地面に降りているのを確認し、アズマも腰を下ろす

 

 遅いのだ。確かに発動自体は安定して出来るようにはなった

 けれども、長い溜めが要る。それでは、実戦向きとはとても呼べないだろう。気持ちの昂り、爆発的な力、そういったものの後押しがあれば割とあっさり放てる、だが普段は、30秒はモノズやヒトツキと二人で精神を集中しなければ、オーラを纏わせられない

 『モノ……』

 「いや、サザが悪い訳じゃないよ」

 地面に丸まり、悲しげな鳴き声をあげるモノズの頭を撫でる

 「良くやってくれてる。問題はおれだな」

 『(そんな事ありませんわ、きっと)』

 「でもなぁ。あの時は撃てる確信があったし、AZさんとの時ももっと早かった

 その二回と今と、どんな差があるんだって言ったら、きっとおれの心の持ちようなんだ」

 『ロアッ!』

 「そこで鳴かないでくれないかな……

 はあ」

 じゃれついてくる、黒い小さな獣の頭をもう片手で撫でながら、アズマはため息を吐く

 悪タイプ、だからだろうか。撫でて良いですかとニャオニクスに近付くとあっさりと逃げられたものの、Nの連れていたゾロアは逆にこの一週間、良くアズマに近付いて来ていた。大体は落ち込んでいる時にからかうように、なのだが……

 『「みゅみゅっ!?

 良い子良い子する?」』

 「しません」

 ぽんっと軽い黒煙と共に、黒い獣の姿が変わる。所謂イリュージョンという奴だ。他のポケモンの姿に化けるもの。あくまでも化けているだけなので……

 アズマが腕を姿を変えた少女の胸に突き込むと、あっさりと突き抜けた。触れている感覚はない。見せかけでしかないので、姿そのものはゾロアと変わっていない。まるで少女が其所に居るように見えるが、あくまでも居るのはゾロアなのだ

 「というか、出来ないだろ?

 どんなイリュージョン背負ってても、中身はお前のままなんだから。前足でやるのか?」

 『「しょぼーん。今はまだ、姿だけみゅ……」』

 少女の姿は揺らめいて消え、残るのは下を向いた小さな獣のみ

 ゾロア種は化けたポケモンの鳴き声まで真似ることが可能な賢いポケモンである。なので、人間に化ければ、人間語も鳴き声みたいなものだと話せる……らしい。イリュージョン解除後にたまに咳き込んでいる辺り、割と声帯は無理してるらしいが。こうして、何度かからかわれている

 

 「というか、何でその姿なんだ?」

 ふと、アズマは問いかける

 ゾロアが化けるのは、色んなポケモン。そして、一人の少女の姿。その姿は、アズマがホロキャスターに組み込んでいるホログラムの一人と同じもの

 『「みゅっ?

 知りたい?知りたい?」』

 再び少女の姿に化け、黒い獣がアズマに乗っかる

 頭の上に乗る、割と軽い暖かなもの。一見自分より幼い少女がおぶさっているように見えるように、幻影の少女が動いた

 

 『(気になりますわ)』

 『「気になる?気になる?」』

 『(どうして、あんなもの用意してたんですの?)』

 「そっちかよ」

 ディアンシーの言葉に、アズマは頭を振る。イリュージョンにより見えないが、頭の上でバランスを取ろうとゾロアが爪をたてたのだろうか、鈍い痛みが頭に走るが、文句は言わず

 「この子がわざわざイリュージョンするならばキミにとってきっと大切な人なんだろう?」

 「Nさんまで」

 『(大切な、人!)』

 「姫、キラキラしない

 別に、姫の期待する恋だ何だじゃないよ。昔さ、家の森に木の実を取りに来て迷子になった女の子が居たってだけ。木の実は家のものだし、昔体が弱かったから、子供なりに体調を崩した親の為って事に感動してさ。外まで案内しつつ木の実を勝手に分けたんだ。以来、暫くたまに会って話したり遊んだりしたけど、四年前にシンオウに向こうが越していって、以降一度も会ってない

 また会えたら良いなっていう、友人みたいなものかな」

 『(ホログラムは?)』

 「昔の履歴漁ってたら出てきて、懐かしいなって保存したんだ

 今、シンオウでどうしてるんだろうな、チナ」 

 『(連絡は?つかないんですの?)』

 「昔はついたよ。月一度くらい、話したり手紙送ったり

 けど、最近は音信不通。手紙も戻ってくるし、ホロキャスターも通じない」

 『「みゅっ!だからなの!」』

 「……何が?」 

 『「イリュージョンで会った気分、偉いの!」』

 アズマの頭を後ろ足で蹴って一回転、イリュージョンを解きながら小さな獣はしゅたっとその4本の足で着地する

 「そもそも、こんな事教えてないんじゃないか?」

 『「そこは……前の、前の前の……えーっと」』

 「三日前というんだよ」

 『「みっかまえにみた!」』

 「あぁ、夜風に当たろうとホテルから出たらやけにじっと見てくるズバットが居ると思ったら、あれお前かゾロア」

 はあ、とアズマは息を吐いた



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vsウルトラホール

「どんな感じー?」

 そんな事を、アズマ達が話す中、ひょいと一人の少女がその場に顔を出した。揺れる淡い金の髪、ジムリーダーのコルニである。アズマ側でも一応連絡先を知ってはいるカルムを通してある程度の事情は説明した……し、コルニもジムリーダー同士の会議でフォローしてくれたらしい。その為、プラズマ団事件に深く関わるNの存在は、現状は見守られる事になったらしい。とりあえず、Nが何もおかしな行動を起こさなければ、逮捕だ何だで大事は起こさないという事だとか

 ただ、その為にはやっぱりというか、それなりにNに立ち向かえる程の実力者がいざとなれば報告出来るように見ておく必要があって。だからだろうか、毎日のように、ジムリーダーの少女はこうして映し身の洞窟の上に登り、そこから少し歩いた開けた地にまで足を運んでいた

 

 「まだまだです

 メガシンカも使えれば楽そうなんですけどね

 メガヒトツキとか……って、それじゃあ単なるニダンギルか」

 『ノッ!』

 「お前ならメガモノズ……って普通にジヘッドだな」

 と、何時もの返しをして

 

 ふと気になり、アズマは少女に問い掛けてみる

 「そういえばコルニさん。メガモノズなんかは冗談ですが、メガサザンドラって確認されてます?」

 「聞いたことないよ

 居ないって確信はないけど」

 「メガギルガルドは?」

 「同じく」

 「メガフライゴン」

 「ガブリアスなら居るらしいけど、どうだろ」

 「メガ……メガゾロアーク」

 「イリュージョン使いと相性悪そうだから居ないんじゃない?」

 「メガゼクロム」

 「居て欲しくない」

 「そこだけそんな反応なんですね」

 「伝説のメガシンカはねー

 ちょっと、相手したくないというか。だって、多分あのゲンシカイオーガと似たようなものなんだよ?」

 「本物、見たことあるんですか!?」

 アズマは、少しだけ身を乗り出して問いかける

 エキシビジョンで、その姿を確認したことはある。ゲンシカイオーガ。伝説の、ゲンシの莫大な生命エネルギーを解放した海を作るポケモン。けれども、それはあくまでも彼をマスターボールと藍色の玉でもって従えるトレーナーの指示下かつ、画面越しで……

 「ホウエンとの会議で、一回ね」

 「ジムリーダー、目指そうかな」

 「不純だね」

 「不純ですよ

 昔の夢、トリミアンと毎日触れあえるってだけでトリマーでしたからね」

 「今は?」

 「資料は沢山ありますし、父さんの後を継いで伝説ポケモンの研究者にでもなるのも良いかな、と。まだ、決めれてないんですけどね」

 と、アズマはふと緑の髪の青年が此方を見ていることに気が付いた

 

 「Nさんは、未来の目的とかあるんですか?」

 「昔のボクならばトモダチをポケモンを解放する事と返していたんだろうけれど

 今はそれを探してるところさ」

 「コルニさんは?

 どうしてそんな年でジムリーダーを?」

 「伝承者だからね

 シャラジムのリーダー、昔からマスタータワーがあったせいか伝承者出身者が多いから」

 「成程。ある意味、今研究者になろうかと言っているおれと似たような状態で、なんですね」

 それですでにジムリーダーだなんて凄いな、とアズマはうーんと伸びをする少女を見て

 「コルニさん、後ろ!」

 『ノッ!』

 同時、異変に気が付いたのだろう。モノズも吼える

 淡い金の少女の後ろ。何もないはずの空間に、割れ目が出来ていた

 それは、人一人通れるかなというくらいの、割と小さなもので

 「ルカリオ!」

 『くわっ!』

 何事か、とコルニがルカリオをボールから出す

 地面に降りていたヒトツキも浮かび上がり、アズマの頬を撫でながらその横へと漂った

 『ズゥゥッ!』

 『ルカァ!』

 そうして、二匹の獣は吼える。敵意を剥き出しに。威嚇……の特性ではないが、それに近い。いや、あえて技で言うならば怖い顔だろうか。マイペースなゾロアはイリュージョンを解いてアズマの頭に乗っかり、ディアンシーはアズマのズボンの裾を握る

 

 『(どう、なるんですの?)』

 「分からない。何かが起こることは、確かだけど」

 言いつつ、アズマは少し考えてみる

 時空を割るポケモンといえば、パルキア、或いはギラティナ。シンオウ伝説に伝わる空間を司る神と、反転世界の主。だが、そんな二匹が此処に現れる理由に関して、アズマは一切思い至らない。ギラティナに関しては、遠くシンオウで二匹の伝説を呼び出したプラズマ団を止めるためとあるトレーナーに手を貸した個体が確認された事があるらしいし、その個体が反転世界を通しての旅をサポートしたならば有り得なくはないが、可能性はとても低い

 ならば、この謎の割れ目は……

 

 リノ、と

 アズマの脳裏に、一つの音が響き渡った

 「お前か!」

 同時、割れ目の正体に、アズマは思い至り

 『(な、何ですの!?何するんですの!?)』

 けれども、それは一歩遅かった

 アズマの右手。其処にあるリングは、元々は黒水晶のポケモンの爪であった。成長してリングとなる、生きている結晶。それは確かに本体と繋がっており……

 

 アズマの腕のリングから、いや、其処に生じたもう一つの空間の割れ目から、巨大な黒水晶の腕が……文字通り生えていた。メガロポリスで見たあのポケモンのものと完全に一致する、巨大なソレは、器用にも足元のディアンシーを掴んでおり

 そうして、割れ目に向かって投げ付けた

 『(た、助けてですわーっ!)』

 ひゅー、と軽い風切り音と共に、ディアンシーの小さな体は宙を舞い、あっさりと割れ目に触れるや呑み込まれる

 『「みゅみゅっ、ざまぁ、なの!」』

 「怒るぞ」

 『「ごめん、なの」』

 「って、話してる場合じゃないか!」

 先導するように、アズマが一歩踏み出す前に、既にヒトツキが空を走る。ディアンシーを投げ付けた腕はされどもヒトツキの刀身が届く前に姿を消し

 「行くぞ、サザ、ギル!」

 アズマはもう迷わず、時空の割れ目に飛び込んだ



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vs黒きポケモン

『……リノ!』

 アズマの眼前に立つ、巨大な黒水晶のポケモン

 「姫!」

 『(助け……て……)』

 響くテレパシーは弱くなり続け、途切れる

 アズマの目に映る、左爪に引っ掛けられた小さな宝石はひどくくすんで見えて。ぐったりとして気を失ったその体を、ポケモンは尚も抱えたまま。その体は微かにだが光を放ち、光を呑み込む闇に覆われ、仮面を付けなければ輝くタワー付近以外何も見えないそのメガロポリスで、唯二となった光源と化している。だが、それはあまりにも淡く頼りない星明かりのような光。煌めくプリズムの目が、アズマを捉え

 

 「サザ!」

 『「みーも居るの!」』

 当たり前のようにアズマの頭に乗っていたゾロアと、そしてモノズがその前に立ち塞がった

 「……姫を返してくれないか」

 言葉が通じるかと、一言アズマは問い掛けてみる

 『シカリ……シカリ!』

 返答は、光。分裂するプリズム光が、アズマの周囲に降り注いだ

 『シ……シ……シカリ!』

 更には、そのポケモンは右手を伸ばし……

 『バリッシュ!』

 その爪は、同じく黒く、そして輝く巨体によって払われた

 「ゼクロム、Nさん!」

 

 『リノ!』

 『バリバリダー!』

 そうして、一対の黒く輝くポケモンはにらみ合い対峙する

 プリズムの光は、黒水晶のポケモン。あまりにも細い足や肥大化した腕など、どうにも不完全な印象を受ける巨体は、されども薄桃の光を纏い、辺りを照らしている

 蒼い雷光は、黒き竜。イッシュ伝説に記されるその竜は、巨大な円錐型の尻尾に存在するエンジンを回し、アズマが見る限り初めて全身に蒼雷を纏っている

 対するプリズム光は、黒水晶。何処かの伝説には記されているのかもしれないそのポケモンは、いびつな腕を振り回し、頭をかきむしる

 「Nさん、あのポケモンは……」

 「分かっているともさ別に倒そうという訳じゃない」

 「でも、何とも出来なくて」

 青い雷光に照らされる漆黒の巨体。鉤爪等にはそこはかとなく竜を思わせる形が見て取れるものの、あまりにもアンバランスな異形には、未だに幾つもの古傷が見て取れる。細かな抉れた跡、大量の白い引っ掻き傷。とりあえず薬はぶちまけたけれども、意味の無かった傷跡。それらのせいかは分からないけれども、ちょっとくらいならばポケモンの気持ちも分からないかなと思うアズマに、黒いポケモンの心は欠片も想像がつかない

 

 「……なあ、ゾロア。お前分かったりしないか?」

 『「何も言ってないの」』

 『……シカ、リ』

 「いや、確かに何か訴えている……と、思うんだ」

 そんな言葉を交わしながら、アズマは横目で対峙する一対のポケモンの方を見て……

 「今だ、ギル!」

 そう、叫んだ

 

 瞬間、背後からそろりと忍び寄っていたヒトツキが加速、巨大な爪の間をすり抜けるように腕裏から飛び出しつつ、その手でもある柄の布でもってぐったりした小柄な体をくるんで持ち上げる

 『ババリ!』

 ゼクロムが右腕甲を割り込ませて、ヒトツキへ向けて伸ばそうとする巨腕をガード

 その支援を受け、レーザーに撃たれることもなく、ヒトツキはアズマの横へと戻ってきた

 「姫、大丈夫か」

 答えはない。けれども、微かに息は聞こえる

 ぐったりとしたままのディアンシーを両の腕で抱え、アズマは改めて黒い水晶のポケモンに向き直る

 「どうして、こんなことをするんだ」

 『……リノ!』

 音こそすれども、理解は及ばない

 

 「そうだ、Nさん!」

 ポケモンの声が聞こえるというのは、何も人間の声も扱えるポケモンに限らない。人間ではあるはずだがしっかりとその心を理解でき、それ故にプラズマ団に御輿として祭り上げられた青年もいま此処に居る

 それを思い出してアズマは問い掛け

 だが、青年は静かに首を振った

 

 「キミの運命もうひとつの運命

 それはキミにしか分からないことだよ」

 「ちょっ、重要なところで」

 『バリッ!』

 「いやすみません、別に責める訳じゃないんですけど、ちょっとおれが勝手に期待しすぎてて」

 おいこらとゼクロムに吠えられ、慌ててフォロー

 

 「シカリ……光

 お前は、おれに何を求めているんだ?」

 Nさん、お願いしますとディアンシーの体は一時青年に預け。身一つで一歩前へ。他のポケモンでは相手にされないかもしれないが、イッシュの黒き竜に牽制されていてはそこから下手な動きもないだろう。その安心感に支えられてアズマは右手を伸ばし

 「光の石か?ひょっとして進化するのか?」

 そういえばそんな特別な石もあったな、なんて思ってバッグのポケットに入っているソレを取り出してみる。若しも光の石で進化するポケモンを捕まえられた時に、と思って家から持ち出していた、進化するか否かの研究用の父の買い置きのものだ。進化する伝説ポケモンの存在を確かめようと置いてあった。進化の石は特に光の石と闇の石は珍しいが、それでも光の石は在庫があったので貰ってきたのだ

 だが、反応はない。桃色の水晶を取り出したときのような、奪おうとする動きもない

 

 「光の石ではないのか。じゃあ他の……」

 と、色々と石を取り出してみるアズマだが、どれも反応はない。そんなアズマを、静かにNやポケモン達は見守っていた

 『シ……シカリ……』




補足
アズマくんでは気が付くことはありませんが、正解は任意のモンスターボールです。光を求めている為、光に溢れた世界に連れ出してくれる事を求めている訳ですね。今の復活度合いでは自身が世界を渡れない為、連れ出してくれないかと呼び込んだと言うのが答えです

まあ、このタイミングではそんな事アズマくんは知らないわけですが。入るわけないだろしてないでボール投げろ(無責任な作者並の感想)


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vs夢

『シカ、リ……』

 そうしてアズマが荷物を漁る中、黒いポケモンは静かに手を伸ばし……

 

 気が付いた時、アズマは再びの闇の中に居た

 初めてこの世界に来た瞬間のような完全な闇。周囲は基本的に暗く、けれどもその中でもしっかりと蒼い雷を迸らせて輝いていた黒き竜ゼクロムの光はあったはずだ。その光があればこそ、アズマはメガロポリスの中でも普通に動けていたのだから

 ならば、と荷物の中にまだあるはずの前に来たときに借りたマスクを付けようとして……荷物が無いことに気が付く

 いや、荷物だけではない。地面すらも無い真っ暗闇。ふとその事に気が付いてしまうと、そもそも今自分がしっかり地面に立っているのか、それすらも分からなくなってしまう。平衡感覚を喪い、地面に倒れこんだ……と、アズマは自己認識するが、実際に倒れているのか、それともそうだと思い込んでいるのか、それすらもアズマには理解出来なかった

 ただ、右手首が、いや其処にある黒い水晶で出来た腕輪だけが焼けるように熱く、ただそれだけがアズマに自己を認識させてくれている

 

 「……ギル?」

 答えはない

 「サザ、姫!

 Nさん!」

 やはりというか、何も反っては来ない。声をあげられているのか、出した気になっているだけなのか、それもアズマには良く分からなくなってきている

 「……サザ!『ブラックホールイクリプス』!」

 ならばと、ダメ元でアズマは叫ぶ

 命のオーラを纏い放つ切り札。Nやカルムからアズマが聞いたところによるとアローラ地方ではかなり研究が進んでいるらしいその力。そのオーラならば、何かを掴めるのではないかと

 

 だが

 「やっぱり、ダメか……」

 微かに体に走るだるさにほとんど感覚の無い体を任せ、アズマは呟く

 全身に残るだるさは確かにZ技を放った後のもの。この一週間幾度と無くアズマは二匹のポケモンとそれを特訓し、その度に感じていた。ディアンシーのダイヤモンドを借りて放つならば大分負担は少なく、そうでなければかなりの負担

 ……だが、何も起きない

 

 息を吐いたアズマ

 だが、何も起きなかった……訳ではなかった

 不意に、闇が晴れる

 何処とも知れない、光に満ちた世界。都会のような、良く分からない場所。中央に光を放つタワーが見える辺りアズマの知るミアレシティっぽさはあり、けれども全くそれとは違う街並み。暖かな陽射しが降り注ぐ光溢れる世界

 その中心のタワーを見上げるように、何処かの建物の上にアズマは寝転がっていて

 タワーの天辺、太陽のように輝く光があった。暖かな光、命の息吹を感じる柔らかな風は其処から届いている、とアズマには感じられ。平衡感覚を取り戻して立ち上がる

 

 「光……シカリ……」

 そこそこの良さの目を凝らし、アズマはその何かを見ようとする

 太陽を直接見た時ほどではないがショボショボする目を誤魔化しながら、何とか輪郭だけでも……として

 「……でっかい……ガブリアス?」

 そんなものが見えた気がした。いやまともに見えたわけではないから何とも言えないが、翼と腕が一体になった竜のような姿だった気が、アズマにはして

 

 

 「ぁ痛だだだだだだだだっ!」

 唐突に、アズマは現実に引き戻されていた

 全身に走る鋭い痛み。電気マッサージの出力を間違えたかのような……

 『バリッシュ!』

 「ゼク……ロム」

 「取り込まれかけてたけど、大丈夫!?」

 「コルニさん!?そんな事になってたんですか」

 気が付くとアズマの体は、異様な気だるさを抱えてゼクロムのヒレのような腕に抱え上げられていた。見上げたその竜の一本角は蒼く帯電しており、微かに雷鳴の音がする。アズマからは見えないが、発電機であるゼクロムの尻尾は大量の電気を湛え眩く輝いている事だろう

 

 「あれは……お前の……」

 呟くアズマの眼前で、黒きポケモンはその姿を……変えない。一瞬だけ輝きと共にその姿が分かれ、紅の巨鳥のような姿を取ったものの、即座にその姿は掻き消えた

 「でも、ダメだ

 今してやれることは特に無いよ」

 あれがあの黒い水晶のポケモンの何らかのフォルムだとして、アズマがその為に出来ることなんてなにもない。命の光、今の黒いポケモンからはそれが感じられない。だからといって何をすれば良いというのだ。アズマには全くもって分からない

 

 静かに、黒いポケモンはアズマを見据える

 そうして、不意に空間を割り、姿を消した。後には、不可思議な次元の穴だけが残される

 『マヒナペーア!』

 「どうやらお怒りのようだね早く本来のあるべき世界に戻ろう」

 『バリッ』

 響く高い鳴き声。かつてアズマが遠目に見た伝説のポケモン、ルナアーラの声。未だしっかりは動けず、飛来するその翼を見上げながらアズマはゼクロムに抱えられ次元の扉を潜る……



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vs?ゾロア

「ここは……」

 開けた明るい空。あまりにも当たり前過ぎるはずのその景色に、帰ってきたんだと無性にほっとする

 前回はそのまま海にダイブしてしまったが故に感慨も何も無かったのだが、陽射しはこんなにも落ち着くものだったのかとアズマは息を吐いた

 

 「大丈夫、立てる?」

 「な、何とか……」

 地面近くまで下ろしてくれたゼクロムの腕から、少しだけよろけつつ手を差し出してくれたコルニの助けも借りて降り立つ

 「何が……あったんですか」

 「キミを

 キミの中にあるキミの運命が与えた光を取り込んだ」

 「おれを……取り込んだ、ですか?」

 「そしてね、赤い鳥の姿になったの」

 「赤い……鳥」

 アズマは、一瞬だけ変化しかけたあの巨鳥の姿だろうか、と思い

 「巨大な赤い鳥と言えばジョウト伝説のポケモンであるホウオウや伝説の鳥ポケモンファイヤー……は寧ろ黄色の印象が強いですかね」

 『(違いますわ違いますわ!もっと禍々しくて……昏いオーラのそのまんまで……)』

 「そうなのか姫

 だとすれば……」

 「「「イベルタル」」」

 三人の声が重なった

 

 『(い、い、イベルタル!?)』

 「大丈夫だよ、姫

 此処には居ないはず」

 「彼女がやはりキミの出会うべき運命のようだね」

 言いながら、緑髪の青年はふらつくアズマの代わりにひょいと足元の小さなポケモンを抱き上げる

 

 「イベルタルかぁ、何か知ってることは無い?」

 ほら、お父さん伝説のポケモン博士じゃない?とコルニ

 「……さあ

 父さんもカロスに生きる者としてゼルネアスとイベルタルについては良く研究してましたし、何か掴んだような話は聞いたんですけど……」

 「だけど?」

 「直後にあの論文……あっ、『アクア団事件から見る超古代ポケモンの現在』です

 あの論文が何処かホウエンで無い場所にグラードンが居るなんて徒に全国の人々の不安を煽る大ホラだって色んな紙面で大々的に叩かれまして。その際に書きかけの論文とか破り捨ててそのままです

 だから……良く分かりません

 凄い発見だって、珍しく興奮していたはずなんですけど」

 「あはは」

 「グラードンはホウエンには既に居ない、カロスに居るのだ分からず屋……とか部屋から漏れた声は聞いたんですけど、あの時父さん荒れてましたから

 ろくに話は聞けてません」

 「グラードンが、カロスに……

 それを発表したらパニック間違いないね」

 「イベルタルとグラードンについての大発見だったっぽいので、聞けてれば良かったんですけど」

 と、言いつつアズマはホロキャスターを起動する

 通話出来れば今からでも聞けるのではないか?という話だ。今は行方不明のナンテン博士だが、親子である以上個人的なホロキャスター番号くらいアズマは知っている

 

 「……ダメか

 って、あれ?」

 暫くして、やっぱり不在かと息を吐いたアズマは、おかしなものに気が付いた

 日付表示である

 「ん、どうしたの……って、これ!」

 「コルニさんも気が付きました?」

 「女の子から電話入ってる!」

 「そっちですか!

 ってあれ、本当に入ってる」

 父親相手に不在で切られたことが表記された通話履歴。そのひとつ下に、不在で切れた一つの通信の表記があった

 「チナから……久し振りだな

 何かあったのかな」

 って、そんなんじゃなくて、とアズマは首をふる

 「上の時刻ですよ時刻」

 「……あの日から、一月以上経ってるね」

 「経ってますね」

 「一ヶ月の間向こうに居たって事?」

 「その間、行方不明……ですよね多分」

 「だよ、ね」

 そうして、金髪の少女は固まり

 「お、おじいちゃーん!」

 ローラースケートを展開するや街へと向けて駆け出していった

 

 「今度は、一月以上も……」

 「前のキミはそうではなかったと」

 「二週間くらいでしたね、Nさん」

 「その差はもしかしたらどれだけキミを引き留めておきたかったかの差なのかもしれないね

 キミとしてはどう思うのかな」

 「……何かをおれに求めてる、それは分かります

 けれども、その先が分からない。だから今は困りますね」

 怪我したポケモンを拾って治療してあげようとしても怖がられてその怪我おしてまで逃げていかれた事も多いアズマとしては、頼られるのは悪い気ではないのだが

 「ならばキミはこの先何を目指す

 キミの真実と理想は何処にある」

 「何も変わりません。元々旅に出た理由に、あの黒いポケモンの求めるものを探してみる、が追加されただけです

 ポケモンと共に旅に出て、それ自体が素敵な事ですから。旅をそのまま続けます」

 「キミならばその答えだと思ったよ

 だから」

 『「みゅみゅっ!お任せなの!」』

 「……ゾロア?」

 話に割り込むように、ドヤッと得意気に右前足をあげた小狐が人間の声真似を叫ぶ

 「……おれに、付いてきてくれるのか?」

 『「こんな面白いの、付いていかない道は無いの!」』

 「確かに、刺激的かもな

 Nさんは良いんですか?」

 「ボクはトモダチを縛ったりしない」

 「つまり、本ポケモンが望むならばそれを尊重すると」

 軽く笑って、アズマはポケットからやっぱりこれが良いんじゃないかというものーダークボールを取り出す

 「ダークボール。格好いいだろ?」

 『ロアッ!』

 「これから宜しくな、えーっと……」

 一瞬の思考。とはいえアズマ式命名は単純なものの為にすぐ答えは出る

 「宜しくな、アーク」

 『「……もっと可愛いのが良いの」』

 「可愛格好いいだろ、アーク」

 『「名前のセンスはイマイチなの」』

 「……努力する、うん」



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気持ちを新たに

「……どうでした?」

 ふらりと戻ってきた少女に、アズマはそう問い掛ける

 

 ある程度きのみジュース等も飲み、気分は大分落ち着いていた

 「あれ、ゾロアは?」

 「ここ」

 と、アズマは軽くボールを振ってみせる。ムーンボールという名前の珍しいモンスターボールだ。一度はその尾でアズマの出したダークボールを叩いたゾロアだったが、一瞬で暗い暗い暗いと捕まる事無く飛び出してきて。だからこうして一通り広げた手持ちボールの中からゾロア好みらしい別ボールに移し変えたのだった。ダークボール自体暗がりを好むポケモンの為のボール。格好いいので黒いポケモンには似合うだろうし人気も高いとアズマは出したのだが、暗がりが好きかどうかまでは考慮を忘れていたというオチである

 

 「事態だけど、おじいちゃんが継承者としての修業に出したって感じで報告してくれてたみたい

 そこの人もそれを見に行ったって感じで」

 「つまり、ジムリーダー誘拐犯としておれやNさんが国際使命手配……なんて事は無いんですね?」

 「その方が良かった?」

 「ライに乗って全力で逃げ……ても逃げ切れる気がしませんからね、頼み込んでNさんのゼクロムで逃げます」

 「逃げきれないんだ」

 「いや国際警察を敵に回したら、下手すればソルさんとか出てくるんでしょう?おれには無理ですよあんなの」

 ソル。ジョウト地方で再起を図っていたロケット団事件を解決した中に居たという少年である。最後の最後、伝説のポケモンたるルギアと共に電波塔に降り立ち心を折ったとか何とか。つまりは伝説のポケモンルギアを従える恐ろしいトレーナーという事だ

 アズマがこう言ったように、伝説のポケモンを従える存在が国際警察を目指したというのは、それそのものが一つの抑止力ともなり、幾つかの犯罪組織が動きを鈍くしたとか色々と記事にはなっていたりする

 

 「兎に角、それならば安心……ですね」

 「まあ、身元はしっかりしてるしね、君」

 「そこそこ有名人ですからね、父さん」

 「カルムくんがアサメの方で裏付けも取っててくれたし」

 「屋敷アサメ近くですしね

 何時かお礼言いに帰らないと。それに……」

 と、少しだけアズマは脳内で計算する

 「今からじゃ今期受け付けには間に合いませんからね

 いっそ、初めての客でも目指すのも良いかも」

 「そっか、今から6つだっけ?バッジ揃えて今年のリーグって言うのは流石に無理あるし」

 「……Nさんとゼクロムくらいの力があれば、また別ですけどね」

 と、ディアンシーを抱えたまま何やら小声で話している緑髪の青年の方をちらりと見る

 その後ろに控えた黒き竜だけは、此方の視線に気が付いたのか得意気に軽く唸った

 

 「あぁ、それは確かに」

 「Z技の練習の際に軽く戦って貰いましたけど、勝負にならなかったですしね」

 あの時ヒトツキと放った全力無双激烈剣……会心の出来だと思ったのだが、あまりにもあっさりと受け止められた。流石に尻尾の発電機が帯電していたので一切意味がなかったほどの差では無いだろうが、ロクに効かなかったのは間違いない。そもそも風の噂ではあるが彼等はあのイッシュチャンピオンにすら勝ったとか言われているのだし当たり前か

 「そんな力はおれとギル達にはありませんからね」

 「それで、これからは?」

 「何にも変わりません

 Nさんは暫くはおれを見ててくれる……みたいですし」

 ちょっと言葉分かりにくいですけどね、とアズマは苦笑し

 「旅を続けます

 ハニカムなポケモンを探すおれ、ゼルネアスを探す姫、それに追加で黒いポケモンの探す何かを探してみようかと

 

 まずは、シャラシティジム。ですかね、やっぱり」

 「やっぱり?」

 「まぁ」

 と、アズマはムーンボールを翳す

 その中から黒い小狐が飛び出し、アズマの肩に前足を掛けて掴まった

 「こいつとの信頼関係を築いて、勝てるように特訓してから、ですが」

 「うん、待ってるよ」

 「はい、お願いしますコルニさん

 ルカリオにも」

 「いや出さないよ?」

 きょとん、とした表情で少女は返した

 

 「いや、リベンジせずには終われないでしょう流石に」

 「バッジ二個相手に出したら勝てる人居ないって

 ねっ、ルカリオ?」

 『くわん!』

 ボールから飛び出し、ルカリオも吠えた

 「……そうかも、しれませんけど」

 『「そんなこと無いの!やっつけてやるの!」』

 「って、こいつは言ってますし

 おれだって、出来ることならばリベンジしたいです。きっと、ギルだって」

 モノズの名前は挙げない。多分あのモノズ的には勝負なんてしなくて良いと思っていることだろう

 「うん、考えておくよ

 

 それじゃ、挑戦待ってるからね」

 それだけ言って、金髪の少女は再び去っていった



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vs?フカマル

「あっ、此処に居たんだ」

 そんな少女の声に、アズマは唇に当てた草を離し、振り返った

 

 あの黒いポケモン二度目の襲来から、更に4日。場所は何時もの修業場である写し身の洞窟の上とは真逆の12番道路の林の中

 「そろそろですからね。手伝ってくれていたニャオニクス達にもお礼をと」

 「お礼?」

 「草笛。割と好評なんですよ」

 と、アズマは草を口に当て直し、軽く前奏を吹いてみせる

 

 「……それで?」

 「それで、吹いてたんですが……」

 と、アズマは苦笑しながら回りを見回してみる

 其所に居るのは何匹もの毛玉

 そう、Nに呼ばれ手助けをしてくれていたニャオニクスの家族のニャスパー達である。モノズやゾロアもさらっと混じって丸くなっているが

 「皆寝ちゃって

 近付くとおれの持つっていうオーラのせいかな、怖がって飛び起きるんですよ」

 「ああ、だからそこに居たんだ」

 「気が付いたら囲まれてましたからね」

 アズマが何処に動こうが、草笛に近寄ってきて丸くなったニャスパーに近付き怖がらせずにはいられない形

 「Nさんが探索から戻ってきてくれれば何とかなるとは思いますけどね

 それまでは中々動けずって感じです」

 『(なのですわ)』

 と、一人起きていたディアンシーが付け加えた

 

 「そっか、挑戦は出来そう?」

 「明後日にでも」

 「スケート技は?」

 「要練習です。きっと明日の予定は取れないなと思い明日練習する気でした」

 「あはは、必要ないって。うちは割とシンプルなジムだから」

 と、少女は笑い

 「そういえばさ

 あの時の女の子との連絡って何だったの?」

 なんて、別方面の事を問いかけてきたのだった

 

 「……気になるんですか?」

 『(気になりますわ)』

 「気になるから聞いたんだけど?」

 「女の子ってそういうの好きですね」

 と、軽くアズマは笑って

 あの二つ下の少女の事を思い出していた

 

 

 

 

 「……はあ、はぁ

 ごめん、チナ。遅くなった」

 ボーマンダ航空ミナモシティ行きの出発アナウンスが流れるカロス、ミアレ空港。その入り口の扉の横

 かなりギリギリの時間に何とか父のボーマンダの力を借りて辿り着いた10歳の少年アズマは、息を切らしながら不安げに立っていた少女に挨拶した

 「どうしたの、アズマさん?」

 アズマの姿を見て、不安げだった少女の表情が和らぐ

 「本来は朝届くはずだったペリッパー便が遅れてさ

 父さんにヴォーダ借りて、空で受け取りに行ったら迷ってこんな時間に……」

 と、言いつつ、アズマは背中に背負ってきたものを両手で抱え、少女に差し出す

 それは、ひとつの花束。赤い一種類の花のみで構成されたブーケ。一輪たりとも他の花の混じらない純正のもの

 

 「グラシデアの花束……」

 呟く少女に、アズマは頷く

 「シンオウに越してくチナに主にシンオウでの風習でってのは気になったんだけどさ

 これ以上のものが思い浮かばなくて」

 バツが悪そうに、アズマは笑う

 「これがおれの気持ち。やっぱりこれしか無くて

 おれと友達で居てくれて、とっても有り難う、チナ」

 少女は、アズマの言葉を受けてゆっくりと花束を受け取る

 そして、そのブーケから一本花を抜き取ると、その茎をちょっぴり乱れたアズマの服の胸ポケットに刺した

 「アズマさん

 わたしと友達になってくれて、一杯一杯有り難うです」

 言って、何が可笑しいのか少女は笑う。短く綺麗な母譲りだという銀の髪が揺れた

 

 「……頑張るんだぞ、フカマル

 頑張ってチナをお前が守るんだ」

 と、アズマは目線を下げ、少女の足元でアホ面を晒す砂鮫の背鰭を軽く叩く

 『グルル』

 と、アズマを運んできてくれたボーマンダも唸った

 ボーマンダとフカマルは師弟……という訳でもないが、チナの家に遊びに行った際には割とボーマンダの上に乗っていたのをアズマも覚えている。その縁だろうか

 「そう。これからはもうヴォーダは居ない。ウィンも居ない。チナを守ってやれるポケモンはお前だけなんだからな」

 そのフカマルを二人で捕まえに行く際に手伝ってくれたウインディの名前も挙げ、アズマは続ける

 

 「……あ痛っ!ってフカマル、お前なぁ……

 おれにさめはだ立てなくて良いって。チナを傷つけたりしないって」

 言葉を受けたのか、背鰭を撫でるアズマの手に軽く朱が走った。さめはだ、触れてきたポケモンに傷を与えるフカマルの珍しめの特性である

 そんな、何時ものやり取りに銀髪の少女は変わらないですと微笑んで

 「フカちゃーん、チナー!そろそろ手荷物検査通る時間よー」

 という少女の母の呼び声に会わせ、それじゃ、またと別れを告げてガラスの扉を潜っていった

 

 

 

 「って感じでさ、シンオウに越していった友達」

 と、読み終えたシャラシティで買った本ータイトルは雷火の英雄伝4~真実と理想の激突~、プロがある程度面白おかしく脚色して小説化したプラズマ団事件小説であるーに挟んだ栞を、アズマは振って見せた

 

 「それが……チナちゃん?」

 「はい。実はあれからも普通にホロキャスターとかで連絡取れてたんで、あんまり離れたって感じしなかったんですけどね」

 と、アズマは笑う

 「でも、最近は何時もの定期が来なくて……

 ああ、四年前から毎月今月は自分からって交互に連絡する側変えてたんですよ。一年くらい前かな、それが途絶えて」

 「途絶えちゃったんだ」

 「ギンガ団事件の辺りからですね。その時シロナさんみたいになりたいですと旅に出てたから巻き込まれたんじゃないかと心配で……」

 ちらりと、空を軽く飛んでいる執事のフライゴンを見る

 「一時は本気でライに頼んでシンオウまで飛んでこうかと思いました。ヴォーダの方が良い気はしましたけど父とアローラ行ってましたしね当時

 馬鹿言うなとばかりに振り落とされましたけど」

 「そんなに心配だったの?」

 『(想像……案外つきますわね)』

 「そりゃ、大切な友達ですから

 昔は体弱かったせいか、あんまり友達居なかったんですよ。ポケモンは沢山居て、寂しくは無かったけれども、やっぱり人間の友達だって欲しいもので

 

 チナも父が仕事で帰ってこれなくて、母が病気がちで、ポケモンも居なくて、子供スクールにも通えず一人ぼっちだったらしいので交遊関係はチナから全く広がりませんでしたけどね」

 それでも気にならなかった、とアズマは笑って話を続ける

 「それでそれで?」

 「何でも、リゾートエリアの家に戻った時に憧れのシロナさんに会って、助手としてシント遺跡って電波届かない所の調査手伝ってたらしいですね

 当時のおれ、大分落ち込んでましたから。自分だけ良い知らせというのも嫌ですと思って行く時に連絡しなかったら、予想外に長く調査の手伝いすることになって

 

 戻ってきても二度もすっぽかしちゃって今更何て言って連絡すれば良いですか?して気後れしてたらしいんだ」

 『(別にそのギンガ団は関係無かったですの?)』

 「多少絡まれたらしいよ

 フカマルが居て、グラシデアの花があったから頑張れたですと笑ってた」

 「つまり、踏ん切りがついたと」

 「そういう感じだったらしいですね

 これからも友達で居て良いですか?って、当たり前の事聞きに来ただけだったですね」



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決戦!シャラシティジム 前編

そうして、翌々日。シャラシティジム

 

 「あっ、来たね!」

 コルニは、新たなる挑戦者に顔を上げた

 ジム外周に張られたローラースケートコースから中央ステージへ向けて華麗……とまではいかないバックフリップ。それでも抱えたディアンシーは目を輝かせ

 アズマは、約束の時間にステージに降り立つ

 

 『(凄かったですわ、またやりたいですわ)』

 「……うえっぷ、暫く勘弁してくれ姫……

 首筋掴まれて酔った……」

 どことなく、締まらない感じで

 「あはは、大丈夫?」

 「何とか」

 『にゃおにっ!』

 「Nさん、ニャオニクス……来てくれたんですね」

 其処に現れたのは緑の髪の青年と猫のポケモン。テレポートで特にスケートテクニック等を披露することも無く

 「ダメじゃないだろうキミとキミのトモダチの輝きを見せてもらうのは」

 「いやまあ、それはそうですが

 ちょっと見てみたかったなって、スケートしてるNさんとかも」

 「良し、元気そうだね

 じゃあ、始めようか」

 

 「ルールの確認をお願い」

 金髪のジムリーダーの声に、静かに見守っていた青年が口を開く

 今までずっとじっとしていた辺りプロだ。なんてアズマは思って

 「ルールは3vs3のシングルバトル、途中チャレンジャーは一度のみタイムが認められ、タイム中に一つだけ道具の使用が許される

 また、チャレンジャーのみジムリーダーのポケモンを倒した際に別のポケモンへの交換が認められている」

 「……はい」

 きゅっと、アズマはボールを握り締める

 「よし、気合いは十分?

 それじゃあ、始めちゃうよ!」

 

 ジムリーダーのコルニが、バトルを仕掛けてきた!

 

 「……頼んだ!」

 「よし、まずはこの子から!」

 ボールを投げるのは同時。コルニが出したのは何時ものルカリオ……なんて事は勿論無く、カンフーポーズを取るオコジョのような一匹のポケモン、コジョフー。それに対し、アズマは……

 『(……綺麗)』

 ぽつりとディアンシーが呟くなか、ボールが開くと共に豪華絢爛に輝く星のエフェクトと共に、菱形の翼が宙に舞う

 「ボールカプセル!?気合い入ってるね」

 「いや、つい買ってしまいまして

 ならば、使わなきゃと」

 「それにしてもフライゴンか、その子を使ってくるなんて意外かな」

 『コジョーッ!』

 「おれだって、出来る本気で挑みたいですから、ね!

 『りんしょう!』」

 「コジョフー、『とびげり』!」

 お互い、あまり様子見無しの攻撃指示

 フライゴンが翼を震わせ音波を放てば、それを突き抜けてコジョフーが突撃する

 ……だが

 「上!」

 フライゴンは飛翔するドラゴン。羽根を震わせて音波を放ちつつも、それは攻撃に利用しているかの差こそあれ野生の個体が飛びながらやっていること。輪唱を放ちつつも、それが隙となる事は無い

 フライゴンの姿が宙に舞い、コジョフーの攻撃は空しく空を切る

 「『かえんほうしゃ』!」

 「コジョフー!『がんせきふうじ』で打ち落として!」

 「遅い!」

 コルニも空飛ぶポケモンへの攻撃に切り替えるも時既に遅し。フライゴンの口から溢れた炎は帯となってコジョフーに襲い掛かる

 

 「コジョフー、戦闘不能!フライゴンの勝ち!」

 「うんうん、強い強い

 それじゃあ、次は……」

 言って、コルニは二匹目をボールから呼び出す

 『リッキー!』

 「ゴーリキー。ならば

 ……お疲れ、また出番がくるまで休んでて」

 それを見てアズマはフライゴンを戻し

 「頼むぞ、サザ!」

 モノズを出した。再び散る星のエフェクト

 

 「って、ボールエフェクトでショボショボするか?」

 『ノッ!』

 「ってお前目が悪いから大丈夫か

 行けるな、サザ?」

 頷くモノズに、アズマはよしと返して

 「『かえんほうしゃ』!」

 指示はフライゴンの時と変わらない。悪タイプは格闘タイプと相性が悪い。ゴーリキーは当然格闘タイプであり、アズマにとって切り札たる悪タイプ技は通りが悪い

 だからこその火炎放射。単純な威力もさることながら、火傷がある。炎タイプエネルギーの残留である火傷はダメージの他に、その痛みで物理的な攻撃を本気でやりにくくさせる、即ち物理技を弱める力まである。物理技を得意とする大抵の格闘ポケモンには特に有効なのだ。だから半分バカの一つ覚えにぶっぱなす

 それに対し、人間のマッスルに近い姿のゴーリキーは、静かに目を閉じた

 

 「?

 分からない。けれども攻めるだけだ、サザ!」

 『ノッ!』

 「耐えるよ、ゴーリキー」

 その体は炎に包まれる。けれども、そのアズマより大きな体はじっと耐える。ただ、耐えて……

 モノズの炎が吐ききられたときも、その背は揺らがず

 けれども、辺りに火の粉が舞う。火傷だ。炎タイプエネルギーの残留がその体を責める。痛みで上手く動けないだろう

 

 ……と、アズマが思ったその瞬間、すっと閉じられていたその目が見開かれた

 「逃げろ、サザ!全力で!」

 火の粉を纏うその姿

 痛みに歪むのではない、それをねじ伏せる強い目

 ……根性、だ。いや、根性無しなんてそうは居ないがそうではない。ポケモンの特性としての『こんじょう』だ。ポケモンの中には、タイプエネルギーの残留により体が痛め付けられている時、逆にその逆境をバネに本来を越えた力を発揮するポケモンが居る

 ゴーリキーだってその一種だ。前にアズマは本で読んだことがある。それを……忘れていた

 「行くよ、ゴーリキー

 気合いゼンリョク!『きあいパンチ』!」

 『ゴウッ!リッキー!』

 そして猛然と走り出す。モノズへ向けて

 気合いパンチ。気を集中させ、研ぎ澄ました究極の一発。本来は攻撃されていてはそうは放てるものではない。影分身や、そういった補助技でもって相手を惑わし、攻撃をさせないようにしてから殴り勝つ

 なのだが……

 「反則かよこれ」

 耐えきって、自分を苛む炎すら力に変えて。体を炎に焼かれながら精神を研ぎ澄ましきったのだ

 『リキ』

 一撃は静かに

 モノズは必死に逃げるものの、速度は歩幅的に向こうが上。直ぐに追い付かれ……

 「『りゅうのいぶき』!」

 せめてもの抵抗、振り下ろされる拳に、溜め込んだブレスを放つ

 

 だが、それでは止まらず

 必殺の右ストレート。シンプルで、かつ磨ききられた一発がモノズを捉えた

 

 「モノズ、戦闘不能!ゴーリキーの……」

 『リ……キ』

 そうして、殴りきった彼も戦場に倒れ伏す

 ダブルノックアウト。幾らなんでも、二回のモノズのブレスを突っ切りながらというのは無理があったのか、ゴーリキーも倒れる

 

 「……サンキュー、サザ。怖いだろうに良くやった」

 「オッケー、頑張ったねゴーリキー」

 そうして、お互いにポケモンを戻す

 

 「ルチャブル」

 そうして、コルニの最後の一匹は鳥のような格闘家のようなポケモン、マスクのような顔の模様が特徴的なルチャブル

 だが

 「……コルニさん」

 「ん?なにかな」

 「ルカリオを」

 『(馬鹿の戦闘狂が居ますわ!)』

 ディアンシーの言葉は無視して

 『にゃお』

 頷くニャオニクスに頷き返して

 「おれだって、ギルだって。このままじゃ終われないですから

 あの日見たルカリオ……とはたぶん別個体ですけれども、それを越えたい。それが、シャラシティでの目標ですから

 それが怖くて、シャラシティジムはスルーって思ったこともありました。けれども、挑むと決めた

 だから」

 

 「……いいよ」

 割とあっさりと、コルニはそう返した

 「でもさ、ひとつ約束して」

 「約束?」

 「うん、バッジ3つめの人へのポケモンはルチャブルを含めた三体

 って、キミなら勝てる。それは保証する」

 「……はい」

 「だからさ。ジムバトルはこれで終わり

 ルカリオとのバトルがどんな結果でも、バッジは受け取ってもらうからね」

 「……はい!」

 「うんうん、キミの本気、実は正面から見てみたかったんだ

 それじゃ、行くよ、ルカリオ!」

 『くわん!』

 「今度こそ、越えるために!頼むぞ!」

 ルチャブルが空気を読んで飛び去り、代わりにコルニが繰り出すのはルカリオ

 アズマが選ぶのは当然最強戦力であるフライゴン……ではなくヒトツキ

 「……行けるな

 一撃で決める!」

 腕の黒水晶を胸元に翳し、アズマは叫ぶ

 「それじゃ……行きます

 命、爆発!メガシンカ!」

 コルニの左手グローブに埋め込まれたキーストーンが輝き、ルカリオが虹の二重螺旋に包まれる

 そうして降臨するのは、メガルカリオ。何度かアズマは見たことがあって、かつてシャラシティジムに行ったときにコテンパンにされた不思議なルカリオと同種の個体

 それを前に、けれども静かに

 少し前にゴーリキーにやられたのと逆に、今度はアズマが目を閉じ、心を、オーラを研ぎ澄ます

 Z技。本気のゼンリョクを、ルカリオに勝つために、そして負けられない戦いに負けないためにポケモンと築いた一撃を

 

 「ルカリオ、行くよ!『とびひざげり』!」

 放たれるのは、波動弾ではなく直接攻撃。膨れ上がり全身に纏う波動を、放つのではなく体に宿して全身全霊で蹴りかかる

 ヒトツキはゴーストタイプだ。本来格闘タイプエネルギーは効くことはない

 なんて常識、メガルカリオには通用しない。ゴーストタイプとはいえ実体のあるヒトツキ種ではなく、ガス状生命でみるからに格闘が無意味そうなゴース種だろうがその膝は蹴り抜くだろう

 

 だが

 にっ、とアズマは笑う

 アズマがヒトツキとの練習をコルニに見せたZ技はブラックホールイクリプスと無限闇夜への誘い。どちらも遠距離から狙い撃ちに出来るZ技だ。だから撃ち合いになるだろう波動弾を避け、瞬速の飛び膝を選んだ

 それで良かった。それを、アズマは……いや、アズマと彼女は待っていた

 

 『ルガ!?』

 例えガスだろうが捉えるはずの膝が、その体が宙に舞うヒトツキを突き抜ける。勢いを殺しきれず、ルカリオは壁へとすっ飛んで行き……

 ヒトツキが居た筈の空中。その下の地面に伏せるようにして身を屈めていた小さな黒い化け狐の姿が幻影を解かれ露見する

 『ロアッ!』

 「……ゾロア!」

 そう。ゾロア

 そもそも、アズマはフライゴンに頼ってなどいない。けれども、ほかに使えるポケモンが居なかった。だからこそ、少し不自然だと思いつつゾロアにはまずフライゴンに化けてもらったのだ

 そのまま戦っては疑問に思われる、だからゴーリキー相手にはモノズに頑張ってもらい、そしてヒトツキに化けたゾロア再登場

 これで三匹とも出たと思わせ、その誤認を突く。一度やってしまえば警戒されるが、だからこその初見殺し。だからこその開幕からのオーラ爆発。ただの一回のチャンスを、確実にモノにするために……

 

 「全ての光よ、エンテイの咆哮の如く熱く猛く燃えたぎれ!」

 瞬速を発揮したルカリオは、自身の体を止められずに壁に激突した。避けられはしない!

 アズマの動きに合わせ、ゾロアが構える

 「『ダイナミックフルフレイム』!」

 『ロアァァァァァッ!』

 

 そうして、オーラを纏ったゾロアが放つ自身の全高の数倍はあろうかという轟火球は、ルカリオを巻き込んで屋内の太陽の如くに莫大な熱を放ち炸裂した

 アズマの視界を光で埋め尽くす炎と光の嵐、ルカリオの姿は炎の中に消え……

 

 『ルカァァァァァァァッ!』

 天を、いや天井を貫く青い光の柱が、アズマの視界を二度焼いた




注意書き
ゾロアは火炎放射を覚えません。ゾロアークは覚えますが
アズマくんのゾロアが当たり前のように火炎放射撃ってるのは……あれ特殊個体ですからという事で宜しくお願いします。一応撃てる最もらしい理由はありますが、とりあえずマスコット枠なのでゾロアークに進化されても困るからゾロア姿のまま性能ゾロアークみたいなものだと思ってもらえれば


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決戦!シャラシティジム 後編

そうして、炎は立ち上る光の中に消え

 降り立ったルカリオは……その全身から蒼い波動を迸らせていた

 「波導の勇者……」

 『クワン!ハッ!』

 ゼンリョクを使いきった直後。流石に動けるはずもなく

 軽くルカリオの蒼い光の拳にはたかれ、黒い毛玉は宙を舞う

 

 「……お疲れ、アーク

 良くやってくれた」

 ボールの中に良く頑張ってくれたゾロアを戻し、アズマはボールを撫でて呟いた

 そうして、対峙すべき敵を見据える。蒼いオーラを全身から迸らせるメガルカリオを。投げるまでもなく勝手にボールから出て、ヒトツキがアズマの前を漂った

 

 「……それは?」

 「波導最大って分かる?」

 「ルカリオが波動の力を発揮しきった姿でしたっけ?まあ本で読んだ事しかありませんが」

 「そうそう。メガルカリオはその延長線上の姿。限界を越えた波導を二人で制御した波導の勇者

 そしてこれが、その状態で更にもう一回波導最大を発揮した姿で、波導最大を超越した(メガ)ルカリオの波導最大。若しくは……

 ルカリオ、ブルー!」

 『クワン!』

 コルニに合わせ、ルカリオが吠える

 「それじゃ、始めるよ!」

 合図と共に、戦いが再開する

 

 「ギル」

 「ルカリオ、行くよ!」

 「『かげうち』!」

 アズマの指示は何時もの……ではない。悠長に剣の舞を振り回している暇は無いという判断だ

 相手は圧倒的な格上であるメガルカリオ。蒼い波動を迸らせ臨戦体勢な彼等に向けて今更準備など遅すぎる

 だが。ゾロアはしっかりと一撃を与えてくれた。本来は火力不足に悩まされるが、今この時だけはその必要はない。相手は既にダメージを受けている。故に本来火力が足りないとしても、押し切れる!いや、押し切る!それしかない!

 だからこそ選んだ道

 だが……

 

 「ギル!」

 影がルカリオを捉え損ねる。蒼い残光のみを残し、駆け抜ける影

 『しんそく』、だ。本来はノーマルタイプエネルギーを持つが故にゴーストタイプのヒトツキには意味がない技。といっても、そんなもの関係ないなんて、アズマは散々に見せ付けられてきた

 裏拳一撃、角の生えた拳の甲がヒトツキの刀身を撃ち据え、その体は鞘と離れて吹き飛ぶ

 

 ……だが

 吹き飛びながらもその影を伸ばし、ヒトツキの放つかげうちは確かにヒトツキを吹き飛ばすために足を止めたルカリオを捉えた

 

 とはいえ。火力の差はあまりにも歴然

 空中で静止することに成功したヒトツキはふらつき、影で拘束されたルカリオは何ら揺らぎはない

 「とびひざげり!」

 「守れ!ギル!」

 咄嗟の判断

 緑の防壁がヒトツキとルカリオを隔て、ルカリオは今一度そこに激突

 そうして、そのまま蒼い波動が守るの防壁を揺らがせ、打ち砕く

 「せいなるつるぎ!」

 そうして、一呼吸置いたことで持ち直したヒトツキの放つ剣が、ルカリオの膝と真っ正面からかち合う

 ……押し切られ、ジムの壁に叩き付けられたのはやはりというか、ヒトツキの方であった

 

 「ルカリオ、行ける?」

 『ルカ!』

 踏み出す足に微かに顔を歪め。けれどもルカリオは吠える

 「ギル、行けるか?」

 ジムの壁から落ちる刀身は、それでも行けるとアズマに応えるように浮かび上がる

 その体はもうまともに浮かべないほどに揺れていて。けれども闘志は消えずにトレーナーの想いと、自分の意地とで立ち上がる

 

 『(こんなの無理ですわ!

 勝てませんわよ!)』

 「……そう、かもな姫」

 けれども微笑(わら)って、アズマは拳を握る

 「けどさ。楽しいんだ

 負けたくない、負けられない、勝ってみたいって

 だから」

 「うんうん、根性だけで立ち上がる!凄いじゃん!」

 「おれだって、お前に応えないとな、ギル!」

 ポケットから取り出した桃色ダイヤ。ディアンシーから貰っておいたそれを、アズマは右腕に翳す

 

 「御免な、姫

 使わせて貰う」

 桃色の光が弾け、命の波動が解き放たれる

 「ぐ、ぅぅぅぅっ!」

 『(何やってるんですの!)』

 命の波動の連続した爆発。限界を越えた力がアズマの体の中で荒れ狂い、その神経を苛む

 それでも、相手から、越えたいポケモンの姿から目を逸らさず

 「ギル!お前がまだ戦ってくれるなら!

 おれも!ぐっ!戦う!

 お前と共に!」

 応とばかりに、ヒトツキが回る。その刀身を、真っ直ぐルカリオへと向ける

 その胸を苦しそうに抑えながら、実際に破裂しそうな心臓の鼓動と痛みに耐えながら、アズマはその右腕を、其所にある黒水晶の腕輪を天へと翳す

 

 『ルーカー』

 「うん、全力には全力で迎え撃つよ、ルカリオ!」

 『リーオー』

 神速の一撃で、きっと全力の一撃がもう一度来る前に勝負を決めることは出来たのだろう。それだけの力の差は、今のアズマ達との間にはある

 

 けれども、今度こそ。コルニ達も正面から立ち向かうことを選ぶ

 

 「おれは!お前と!越えてみせる!」

 その右手に剣は無く。けれどもあるかのように、アズマは腕を振るう

 それに完全にシンクロして、アズマの手に自身があったとしたらという動きそのままに、ヒトツキが舞う

 

 「全力っ!無双!激っ!烈っ!」

 「波動のぉぉっ!」

 「けぇぇぇぇぇぇぇんっ!」

 「嵐ぃっ!」

 『ハァァァァァァァッ!』

 アズマが腕を突き出すと同時、アズマの纏う赤黒いオーラがヒトツキと重なり、ヒトツキそのものが弾丸のように一直線に放たれる

 同時、コルニとシンクロし、共に腕を突き出したルカリオの腕の間から、蒼い波動の奔流がヒトツキ目掛けて吹き出した

 

 そうして、赤黒い弾丸と蒼い波動は空中で激突する

 赤黒いオーラを纏った刀身が、少しずつ波動を切り裂きルカリオに迫るも、直ぐに奔流に少し押し返されるを繰り返す

 このままでは届かない。そう、アズマは思った

 

 『(押されてますわ!)』

 「最後に見せてやろうギル!

 おれとお前と!作り上げた力を!」

 それでも、アズマは力を振り絞る。普段はトレーナーは直接ポケモンを助けられない。だが、今は違うと、薄れる意識を繋ぎ止めて叫ぶ

 ヒトツキが、白い光に包まれた

 

 「これがキミ達のハーモニー」

 『(ハーモニー、ですの?)』

 『にゃお、にっ!』

 得意気にニャオニクスが鳴く中、ほぼ変わらぬポケモンが、その刀身を赤黒いオーラで包み波動と激突していた

 

 『(何も変わって……)』

 「せいなるつるぎぃっ!」

 そう。剣の姿そのものはほぼ変わらない。けれども、重要なのはそこではないのだ

 「っ!ルカリオ!」

 「遅いっ!いけぇぇぇっ!ギルぅっ!」

 そして……進化を遂げ、バトル初期に吹き飛ばされ、ルカリオの近くに転がっていた鞘がもう一本の刀身と化したポケモン……ニダンギルの新たな剣が、確かにルカリオの顎を捉えた

 頭を跳ね上げられ、ルカリオの放つ波動の向きが逸れる。抵抗感を喪った赤黒いオーラの剣が、ルカリオの胸を貫いた

 

 『ル……カ』

 ルカリオが膝をつく。その蒼い波動は霧散し

 力尽きたように、赤黒いオーラの消えたニダンギルの両刀身がジムの床に落ちた

 『リオ……』

 そして、それを見届けるやルカリオは瞳を閉じ、自身も地面に転がる

 

 「……ニダンギル、ルカリオ、両者戦闘不能

 よって……

 このジムの規定により、勝者!チャレンジャー!」

 

 『(や、やりました……の?)』

 『にゃ』

 「……いや、やってないよ」

 口元の笑みは隠しきれず、けれどもアズマは首を振る

 「認められたという点では完全勝利だろうけれどもね」

 「はい。そこはそうでしょうけれども」

 『(?)』

 疑問符を浮かべるディアンシーの頭を撫でつつ、アズマは倒れた二匹を見る

 蒼い波動は消え、メガルカリオの姿のまま倒れ伏すルカリオを

 

 「本当に戦闘不能なら、メガシンカは解ける

 あの時のアブソルみたいに」

 『(……あ)』



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vs空

握手と共に、アズマはバッジを受け取る

 拳を付き合わせたような形状の赤いバッジ……ファイトバッジを。それを共に喜んでくれるようなポケモンは……

 『にゃおにっ!』

 『(やりましたわね!)』

 居た。共に戦った彼等ではなく、見守ってたポケモン達だが

 「ああ、ありがとうなニャオニクス師匠」

 『にゃ!』

 片耳を上げ、その青い猫ポケモンは挨拶をするとふっとテレポートで姿を消した。まるで、もう大丈夫だなとでも言いたげに

 「し、師匠?」

 「あの技……Z技の訓練、師匠とNさんにつけて貰いましたからね

 あれがなかったら二回目なんてきっと撃てなかった。せめて一太刀がそもそも届かなかった。それはもう、師匠でしょう」

 ニャオニクスが居た辺りを見ながら、アズマは呟く

 「Nさんも、有り難う御座いました」

 「立ち向かうのがキミとトモダチの運命であるならば」

 

 「うん。君達……凄いじゃん!

 それなら……って思ったけど、マスタータワーを登る必要ないかな」

 「どうしたんですかコルニさん」

 「継承者として、見込みのあるトレーナーにメガリングをって思ったけど、要らないかなって」

 「……多分」

 右の腕を、其所にある黒水晶の腕輪を見つめながらアズマは頷く

 確かに、必要ないだろう。きっとこの水晶は、メガリングとしても機能する。持っていても仕方がないといえば仕方がない

 「うんうん、そうだよね」

 と、いうところで、アズマのホロキャスターが鳴った

 「あ、すいませんコルニさん、Nさん」

 鳴り響くのはアズマが設定している映画の主題歌……ではなく、デフォルト音。未登録の誰かからの通信

 迷惑電話ならば切ろうかな、と思いつつアズマは受け……

 「繋がった!」

 映し出されたのは、一人の青年の姿

 

 「……カルムさん?」

 「カルムくん?」

 知り合いらしいコルニと二人、目をぱちくりさせる。ホログラムで投影されたのはアサメに居るはずの有名人の姿であった

 「カルムさん、どうかしたんですか?」

 「えーっとそっちは……」

 「やっほー、で良いのかな?」

 「コルニ!

 ってことは、今はシャラシティなのかな?」

 「面白い機械だね」

 「ということで、Nさんも居ます」

 「ジム戦の……後かな?おめでとう」

 目敏くアズマの手のバッジに気がついたのか、青年は一言告げて

 「ちょうど良かった、アズマくん。そして二人も聞いて欲しいんだ

 

 ……今すぐ、アサメに戻ってこれる?」

 「どうかしたんですか。わざわざホロキャスターの番号まで探して」

 「あの君が会ったっていうジャケットの集団が……アサメの近くでまた目撃されたらしい」

 その言葉に、アズマは固まる

 

 『(あの集団って……)』

 「姫を狙って、ポケモンを傷付ける……ラ・ヴィ団だろう」

 「トモダチを?」

 「はい、Nさん

 おれが会った彼等は……自分のポケモンを強引にメガシンカさせる装置を持っていました」

 「その持ち主はゲンガーを連れた青年とアブソルを連れた少女だったね?それらしき人物が目撃されてる」

 「……分かりました。向かいます」

 迷いはなく。けれども、ヒトツキ達にはゆっくり休める時がなくて少しだけ辛い事になるな、何か用意しないとと思いつつ。アズマは頷く

 「わざわざメガシンカの話をするってことは……」

 「コルニ、君も来て欲しい」

 「りょーかい!やっぱり継承者として見逃せないもんね」

 カルムの言葉に、コルニも頷く

 「ってことで、継承者としてやらなきゃいけない用事が入ったから、シャラシティジムに関してはしばらくまた代理リーダーで宜しく!」

 …雑だった

 

 『ババリバシッシュ!』

 「これが伝説のポケモンの背中…」

 『(わ、わたくしはこっちで良いですわ)』

 そうして始まる空の旅。それを駆使すれば基本的に一日で大きな街から大きな街へ行けない事など無いのだが風情とかそういったものが特にないのであまりアズマはやらないものだが、今回ばかりは仕方の無い事

 バトルではゾロアに化けさせる以外の出番が無かった為元気一杯のフライゴンと、Nが連れているゼクロムの背に分かれて空を駆ける。といっても、フライゴンより大きなゼクロムの背に格闘ポケモン使いだけあって人を乗せて空を飛ぶポケモンを持っていないコルニを乗せて貰っているだけなのだが

 「……大丈夫そう?」

 「体調的には

 ゆっくり休んで貰った方が良いのは確かですけど」

 元気の塊というエネルギー塊をモノズ達に与えつつ、アズマは返す

 語るのは他愛もない話。そして、アズマが出会ってきた彼等の話

 

 「彼等は……傷付いた姫を捕らえようと狙って……また別の所で襲ってきて……

 良くは分からないけどゼルネアスを探す集団です。目的そのものは知りません」

 「悪の組織だし?」

 「はい。ジャケットで統一していたり、何となくフラダリさん式の美学は感じますが…多分フラダリさんは関係ありません

 …いや、そもそも行方不明ですしね」

 「死んだって聞いたけど?」

 「死んでませんよ、多分

 3000年前に最終兵器を使った人に会いました。彼と同じようにフラダリさんも最終兵器を使ったのならば。きっと、どこかで生きています

 特に、あの時使われたのはゼルネアスの力。生命のオーラです。死とは真逆のオーラを受けて、死んだなんて多分有り得ないですよ」

 「信じてるんだ、そんなこと」

 「やったことは、確かに酷いことだと思います。でも、フラダリさんを……単純な悪だって、どうしても言えないんですよ。おれ、フラダリさんに憧れてるところ、ありましたから」

 

 そうして、アサメが見えてこようかという時

 空に雷鳴が走っているのを、アズマの眼が捉えた

 『バリッ!』

 「……あれは!」

 眼を凝らすと、二つの影が見えてくる。一体はアズマでも知っている有名な鳥ポケモンの姿。そしてもう一体はアズマには見覚えの無い鳥ポケモンの姿

 「ピジョ……ット?

 と、サンダァァァッ!?」

 アズマは思わず叫ぶ

 そう、そのうち見覚えのある方は……カントー地方伝説の鳥ポケモンの一種、サンダー。カロスでも目撃例は割とあり、伝説とされる中ではよく知られたポケモンではある

 「サンダー?カルムくんがサンダーを出さなきゃいけなくなってるなんて」

 「あ、あのサンダーって別に野生じゃないんですね」

 ぽん、と手を打つ

 「そうそう、セレナに負けてられないって、最近何とか捕まえたんだって」

 「カルムさんなら……有り得るのかな」

 「でも、基本的にはあんまり出さないはずなんだけどね

 そして、あっちは……メガピジョット。酷い」

 「……酷い、ですか」

 「命の光が不協和音を奏でているようだ」

 「うん。正しいメガシンカの在り方じゃないよ、あんなの!」

 憤るコルニ。本人の闘志を反映するかのように、そのトリプルテールが跳ねた。本人も跳ねた

 

 「お願いします、Nさん、コルニさん!」

 サンダーとメガピジョットの戦いは、流石伝説のポケモンというか、或いは単純にサンダーが電気タイプであり有利だから当然というかサンダー優勢。寧ろメガピジョット側が何とかくらいついている感じなので任せておいて

 アサメの街に変な光が見える。幾つかの炎と、そしてポケモンの技同士のぶつかる輝き

 それへの救援は二人に任せ

 「行こう、ライ!」

 『フリャ!』

 アズマは、自分の家を目指す……



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vsメガライボルト

「お、お、お前らぁぁぁぁっ!」

 叫び、アズマは止まる前にフライゴンから飛び降り

 

 「ライ!『ばくおんぱ』!」

 そのまま、家の庭に立つ二人組に向けて叫び…

 『リャ!』

 『(ひっ!)』

 「……す、すまない……取り乱した。やらなくて良い」

 勢いで言い過ぎたと思い直す

 まだまだ再建の終わっていないナンテン屋敷。そのだだっ広いちょっとハニカムポケモンが荒らした跡の残る庭

 其処に、二人組のジャケットが居た

 フォイユとフルルと呼ばれていた方ではない。ディアンシーを狙っていた理科系と筋肉の方だ。そしてあれは……モグリューだろうか、せっせと地面を掘っているモグラのポケモンが居て。辺りには元々は一枚の石碑だったろう瓦礫が散乱している

 「何を……やっている!」

 ギル!サザ!と、ボールから二匹を呼び出す

 状況を確認するや二本の刀剣はアズマを鼓舞するように周囲を回り、そしてモノズは不安げにトレーナーを見上げる

 「なにをって、仕事ですよ見てわかりませんかねぇ少年」

 「分かる、ものかよ!

 わかってたまるもんか!」

 『(ど、どうしちゃったんですの!)』

 背後で怯えるディアンシーの声も、今のアズマにはどこか遠くでの言葉に聞こえて

 「あいつの……あいつの眠りを妨げんなよ!

 何を、やってんだ、お前らぁぁぁぁぁっ!」

 『(え、えっと……)』

 『ゲゲン』

 ふっと、アズマの影からにょっきりオバケが顔を出す。ゲンガーだ

 それすらもまさかあのジャケット男のかと睨みかけて

 「ゲン」

 『ケケッ』

 姿を見せない執事のゲンガーだと気が付き、アズマは男二人を睨み直す

 『ケケッ』

 『(そう、なんですの……)』

 「人間をポケモンに襲わせるのですか、大人しくしなさい少年」

 「……」

 ぎゅっと、アズマはゾロアのボールを握り締める

 「あいつの墓を荒らしておいて、調子の良いことを!」

 そう。墓

 『(で、でも!

 幾らトリミアンさんのお墓をあんな風にされても、暴力はいけませんわ)』

 「分かってる!分かってるけど……だったらどうしろってんだよ!姫!」

 父親が置いていき、アズマが執事と建てた墓石は原型を留めず。痛々しくて、でも未練がましくそのまま埋めた近くまでモグリューに掘り起こされていて

 『リュッ』

 事情なんて知らないだろう。何かを見つけてトレーナーに嬉々として報告するモグリューを咎める気は、流石にアズマにだって無い。それでも、やりきれなくて

 どさっと、後ろで軽い音がした

 

 「……じい、ルリ……」

 横目で見たアズマの視界に入ってきたのは、力なく倒れ伏すマリルリのまるっこい体と、細い執事の体。そして彼らを背に乗せた二匹の四足歩行の獣の姿

 「ライボルト、ヘルガー、遅いですよ」

 その姿は、ジャケットの男が言うポケモンとは違っていて

 「メガライボルトに、メガヘルガー……」

 

 そして

 「ん、間に合った」

 『ソルゥゥゥァァァッ!』

 悲痛な叫びと共に降り立つのは、背に少女を乗せた翼のある(メガ)アブソル

 

 「フルル

 フォイユは何処に」

 「突然、襲われた」

 「……襲われた?」

 「何処からともなく現れた……ガブリアス」

 向こうで三人のジャケットが何か話している。それを、アズマは聞くしかなかった

 突然のガブリアス。アズマの知り合いにガブリアス使いなど居ない。このカロス地方のジムリーダー、つまりはアズマではなくカルムが縁ある相手にも確か居なかったはずだ。では誰なのか、分かるわけもないのでアズマは何とも言えなかった

 だが、そんなことは正直な話今のアズマにはどうでも良い事。重要なのは敵が増えた事実だけ

 

 『ルガァァァァァァッ!』

 『ライボルッッァァァァッ!』

 『ソルゥァァァァァァッ!』

 黒、黄、白。三匹の獣の咆哮が響くなか、アズマは静かに腕を構える

 頭のなかにあるのはひとつ。彼等の今出しているポケモンは、全てメガシンカした姿を持つということ。リーダーのボーマンダ等もまた。ならば、見たことはないが……

 「ゲン!」

 ディアンシーから貰っておいたピンクダイヤを、影から顔を出したゲンガーに投げ渡す

 ……いけるはずだ。同じくジャケットの男(フォイユ)が連れていたゲンガーにだって、メガシンカ体はあるはず。そして、このピンクダイヤと黒水晶の腕輪は、ショウブとリザードンを繋ぎメガシンカさせた事がある。ならば!

 『ケケッ』

 けれども、ゲンガーはそれをその腕で弾いて拒否する

 「ゲン!」

 『(……だ、だめ、ですわ……

 そ、そんな真っ黒……いいえ、赤黒いオーラで、戦っては……)』

 思い出す。コルニから聞いたことを。メガシンカは、ポケモンと心を、オーラを重ねてのシンカだと

 確かに、今のアズマでは一人で心が(はし)り過ぎている。ゲンガーだって怒りはあるだろう。だが、憎悪にも似たどす黒いアズマの想いと重なるほどのものではない。だからこそ、今やったとしてもメガシンカは不可能。向こうと同じ暴走を引き出すか、そもそもエネルギーが自身を傷付けるか、二つに一つ……かもしれない

 それでも、許せなくて

 

 「ギル!『せいなるつるぎ』!

 サザ!『あくのはどう』!

 ゲン!『シャドーボール』!

 ライ!『ばくおんぱ』!」

 叫ぶのは攻撃の指示。アズマらしくないと、アズマ自身分かっていて。何時もの自分ならば多分無理だと思って他人を呼びに行くか、Z技での一転突破を狙うか、補助技でせめて届きやすくするかを選ぶというのも、頭の片隅にあって。それでも、無謀かもしれずとも、攻撃を選ぶ。まるで、『ちょうはつ』されたように

 「迎えうちなさい。『オーバーヒート』」

 「焼き払ってやれやぁ!『かみなり』!」

 「世界は残酷。『あくのはどう』」

 対して、ジャケットのポケモン等から放たれるのも攻撃技。だが、彼等はそれで良いのだ。メガウェーブによる暴走メガシンカ。素の力で彼等は上回っている。何も考えず攻めればそれで良い

 ぶつかり合い、爆発

 けれども、彼等の技はそれで立ち消える事はなく

 『ノッ!ノッ!』

 やっぱり無理だと、モノズは自分のトレーナーに鳴く

 逸れてはいた。けれども、放たれた業火も、放たれた雷撃も、地面を大きく抉っていて。実力差があるなんて、あまりにも歴然としていて

 

 「無謀ですねぇ。あまりにも無謀

 若いとは、愚かな事だと人は言いますがここまでとは」

 「煩い!」

 そんなこと、アズマだって分かっていた。ポケモン達を、それに付き合わせるのが可笑しいことも

 それでも、アズマは吠える。その心は、抑えられなくて

 「さて。ディアンシーも渡してもらいましょうか。予想外の土産物です」

 「駄目。あれは、任されたもの」

 「おやおや。足止めを片方食らった間抜けな貴女方より、此方のチームの功績が大きいのは当然では?」

 「お前には無理だったから代わりにやってやったんだぜフルルよぉ!」

 少女が黙りこむ

 アブソルが吠え、返すように、噛み付くようにライボルトも吠えた

 チームワークはガタガタ。それでも、アズマにはそれを崩す手はなく

 「誰が渡すか!」

 『(い、行きますわ)』

 「姫!?」

 ぴょん、とアズマのバッグから飛び降りる小さなポケモンに、アズマの眼が揺れる

 『(抵抗しても無駄なのは分かりましたわ。

 だからこれ以上、なにもしないであげ……きゃっ!)』

 『ふいうち』、だ。アズマが反応する前に、ディアンシーの姿は不意にアズマの前に姿を現したアブソルによって連れ去られた

 

 『(こ、これで良いんですわよね?)』

 その小柄な体は、筋肉のジャケットに捕らわれ

 「おっと、口ごたえするとこれに入れますよ?あまり貴女に使いたくはないので大人しくしていてくれませんかね」

 眼鏡ジャケットは、ポケットから取り出した意匠の凝ったMの描かれた紫のボールを振った

 

 「マ、マスターボール……」

 「ええ。幾ら幻とはいえこのディアンシー相手に使うのはあまりにも勿体無い

 では。ヘルガー、処理の時間です。この先また色々と邪魔されても困るのでね」

 『(や、約束が……)』

 「してませんし、守る意味もありません。抵抗するならばマスターボール、それが嫌ならば大人しく見てなさい」

 「アブソル。殺す気で良い」

 「っておい、良いのかよ?あいつ此処の息子だろ?」

 「同志の計画の果てにあるものを思えば、致し方ない犠牲です」

 「んじゃ、トレーナーに『かみなり』」



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vsワンパチ

『(も、もう止めて!)』

 そんな声が、アズマの耳に遠く反響する

 

 勝てる訳は無かった。あの日、ショウブというライバル……いや知り合いと二人、メガシンカまで発揮して漸く眼前の3体のうち1体(メガアブソル)を止められたのだ。今この場にショウブはおらず、他に手助けしてくれるトレーナーだって居らず、あの時と大きく違うのはメガシンカを拒絶したゲンガーの存在くらい

 それで3種のメガシンカを相手にして、アズマ側に勝ち目なんてものはあるはずもない。そんなこと、アズマだって分かっていた

 ……だとしても、逃げる以外に無事に済む手は無いなんて知っていても。それでも、アズマにその選択肢は無くて

 

 「……けほっ!」

 降り注ぐ雷撃に焼かれた肺で、燃え盛る炎から吹き出した煙で燻された喉で、咳き込みながらもニヤニヤした三人のジャケットを睨み付ける

 臆病であったモノズは耐えきれずに端で小さな前足で元々ほぼ毛に覆われ見えない目を塞ぎ震えている。ゲンガーは突如現れたように突如姿を消した。ニダンギルとフライゴンはアズマの想いを汲んで無謀にも戦ってくれたが、勝てる道理なんて無くて

 

 ジャケット達に容赦はない。トレーナーに向けてポケモンの技を撃たない。そんな当たり前の……一般的にトレーナー常識とされるものを知らず、寧ろ巻き込まれろ死んでも知るものかとばかりに放たれる大技は、アズマの全身の傷跡を残していた

 「それ、でも!」

 ふらふらと、アズマは相手を見据える

 最早アズマの相手をしているのは一人だけ。筋肉質な方と少女は、既にモグリューを使っての墓荒しに戻っている。ライボルトとアブソルは暴れさせたままだが

 「何が出来るのです。大人しくくたばる事しか出来ないでしょうに」

 「……ギ、ル

 まだ、行けるか……」

 アズマの声に、ニダンギルは応えない

 ただ、ふらふらと浮かび上がった。オーバーヒートを受け、限界であろう体で。普段であれば、無理すんなポケモンセンター行くぞとアズマだって言う状況で

 それでも、三体のポケモンによって何とか整理が終わり再建を考えるなか再び瓦礫と化した家の残骸を盾に、アズマとニダンギルは眼前の狂った眼のヘルガーを睨み付ける

 仕掛けるのは一つ。何時もの『せいなるつるぎ』だ。お互いに体力は限界。Z技なんて余裕はない

 それでも、だ。一撃が限界だと知っていても、ニダンギルはアズマに応える。ずっと一緒に居たのだ。アズマがフォッコを貰って旅に出て、あまりのポケモンの捕まらなさに挫折して帰ってくるまでの間以外、ずっと。父親のトリミアンが生きていた頃から、ずっと

 だからこそ、ニダンギルは応える。他のどのポケモンよりも、アズマを見てきた彼女だけは、すべてを忘れ怒り狂う己のトレーナーに寄り添う

 

 「ギル!『せいなるつるぎ』!」

 「『あくのはどう』」

 だが

 それでも、だ。普通のポケモンで、勝てる道理はない。勝てないから追い込まれたのだから

 吹き飛ばされ、ごろごろと階段を落ちる

 そうして、アズマが落ちた先は地下室であった

 「……ゴメンな、ギル……」

 無茶だと知っていた。それに付き合わせてしまった。ポケモンの事を思うならば、絶対にそうしてはいけなかったのに

 意識のない己の相棒に、ぼんやりと語りかける

 

 「桃色水晶、ですか」

 ディアンシーを抱えたまま、階段の上から男は地下室を見下ろす

 「フルル、これらは貴女の管轄です。何時まで油を売っているのですか」

 「……やっといて」

 「資料漁りですか

 少年を排除したあとです、幾らでも出来るでしょうに」

 父親の残していった幾つもの資料。伝説ポケモン研究で割と有名な学者である父の資料は、その大半が伝説のポケモンについてだ。確かに、彼等がゼルネアスを求めるならば、ゼルネアスを探す幻であるディアンシーの他に、研究資料を求めるのは当然かもしれなかった

 そんな事も、ぼんやりとしか思えない

 

 走馬灯のように、アズマの脳裏には色々な事が思い浮かぶ

 いや、本当に走馬灯だったのかもしれない。意識は霧がかかったように白く薄れだし、霧払いなんて使えるポケモンは居らず

 

 「……シア、迎えに……いけな、あ……かも……」

 思い出すのは、父親に連れられてガラル地方に2週間ほどのワイルドエリアツアー(父はナックルシティで研究発表があるらしかったので、父が招待してくれた友人のチナと二人、大人なガイドありとはいえツアーに送り出されて以降全然会えなかったのだが)で出会った、大きな優しい犬のポケモン。アズマ本人は幼くて捕まえる為のボールも無いけれども、と父親に代わりに捕まえて貰おうかと思ったら森の奥に去っていってしまった、ワイルドエリア二日目から最終日まで付き添ってくれた、何時か自分が立派なトレーナーになったら、一緒に来てくれるかもと思った相手

 「……チナ

 連絡……しない、と……」

 思い出すのは友人の少女。せっかくまた定期連絡しようって言ったのに、すぐにそれを反故にしたら心配されてしまう

 「……ギル、サザ……

 ライ、ごめん、な……」

 思い出すのは傷だらけになるまで戦わせてしまった大切な相棒達。メガシンカ3種に勝てないなんて解ってたのに、戦闘不能になるまで付き合わせてしまった。これはスポーツにも近い、ルールありのポケモンバトルではないのに

 「おや、じ……じい……」

 思い出すのは家族と、家族同然の人

 もう会えないかもしれなくて、申し訳なくて

 でも……あまり考えられない

 

 「一思いにトドメを」

 『ルガァァァァッ!』

 苦しげに、ヘルガーが吠える

 その声は、ギリギリアズマにも届いて

 『イヌヌワッ!』

 「……ハチ?戻って、た……の」

 そんなアズマの頬を舐める暖かい舌

 ワンパチ、だ。シアと呼ぶようになったあの大きな犬ポケモンと別れた後、今のお前にはこいつだなと父が捕まえてくれた、ガラル地方のポケモン。トリミアンが取りなしてくれなければ暫くアズマには近付いてこなくて、トリミアンが死んだあの後、父親と共に姿を消したポケモン

 「親父……帰って、きたの……か?」

 「……ワンパチ、退きなさい」

 もう、目は見えない

 自分が何してたかすら、ほぼ思い出せない

 「迎えに、いかないと」

 「貴方まで死にますよ、義理立てして何になります」

 『ヘルゥゥゥ!ガァッ!』

 ハチ……。進化前のワンパチから取った名前。父であるナンテン博士にしては珍しく、進化させないとしていたし、戦闘にもほぼ出さず連れていく事もまず無かった犬ポケモン。そいつすら居なくなっていたから、行方不明になった時、父はほぼこの家に戻ってくることはないと思っていた

 そんな彼が戻ってきたなら……

 「いか、ないと」

 ぼんやりと、アズマは呟く

 無意識に、手を伸ばし

 

 その手が、ほぼ見えない目ですら分かるほどに輝く、桃色の水晶に、触れた

 

 溶ける

 そうとしか、言えなかった

 アズマの眼前で、桃色の大きな水晶はほどけてゆき……その中に閉ざされていた、一つの黒い繭の姿が顕になる

 『(破壊の……繭……)』

 ディアンシーの言葉は、アズマには届かない

 けれども、とても懐かしい気持ちがして

 『……イガレッカ!』

 そんな叫びと共に、アズマの視界は……いや、地下室は赤い光に覆われた




ということで
第八世代の皆様が今話から追加されましたとさ

&ZのZはZygardeではなくZacianのZだからタイトルヒロインは自分ですねしだす青い犬の追加を見てメインヒロインのYちゃんは何を思うのか…


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vs.?イベルタル

『イガレッカ!』

 初めて聞くようでどこか懐かしい、声がする

 

 『ウルォォード!』

 『シ…シ…シカリ!』

 何か幻聴も

 

 ゆっくりと、アズマは濁っていた眼を開く

 吹き上がる赤黒い光が地面を貫き開けた空。夜には遠いが薄暗い曇天

 その空に唯一輝く不吉な星のように。一匹の大きな翼を広げたYの字のような姿の鳥ポケモンが、それを覆っていた

 

 「い、イベル……タル」

 父の資料で読んだことがある。このカロス地方の伝説のポケモン。破壊ポケモンのイベルタル。かつてその破壊の力で大地の生命力を吸い上げて森を枯らし生き物を石に変えて荒れ狂いカロス地方全土を恐れさせたという伝承ならば、カロスで生まれた子供達ならば誰しも耳にしたことがあるだろう。悪いことしてるとイベルタルが来るよ!とは子供のしつけの定番の台詞だ

 そんな普遍的恐怖の象徴、ディアンシーが探していたゼルネアスと対をなす赤き伝説が、其所に居た

 何時しか、体は治っている。傷痕は残れども、痕と呼べるほど

 

 「イベルタル!?」

 『(ひっ!)』

 階段の上で響く驚くような声。それに合わせて、ヘルガーは地下を飛び出して行く

 父のポケモンだ、アズマ自身は対応するボールは持っていない。なので地下室に現れたワンパチはそのまま、傷だらけのニダンギルだけはボールに戻し、アズマもそれを追った

 

 『ボルトォォォォォァァァァッ!』

 『ルガァァァァァッ!』

 咆哮する二匹のポケモン達

 アブソルは既に其処に居ない。ふと見れば……

 

 「ルト、お前まで……」

 ゆらりと揺れる半透明の尻尾に、アズマは息を吐く。ルトー種族で言えばドラパルト。ガラル地方に行った父が連れ帰ったちょっと不気味だが可愛らしいドラゴンポケモンだ。その彼が、アブソルを周囲から引き離してくれていた。そして……その更に遠くでは背鰭に切れ込みの無い砂鮫が、不可思議なシンカを遂げてはいるが恐らくはゲンガーだろうポケモンに向けてその爪を振るっていた。だがその双方にトレーナーの姿は見えず、誰なのかはわからない。ドラパルトの方はルトとアズマが声をかけた瞬間、頭の子竜が振り返ってきた事からまず父のルトに間違いはないと思うのだが……

 

 「ヘルガー、『オーバーヒート』!」

 「ライボルト、『かみなり』!」

 なんて、アズマが意識を逸らしている間にもジャケットの二人はイベルタル出現という異常事態に対する落ち着きを取り戻したようで

 「伝説のポケモンだろうと、メガシンカの前では!」

 だが

 降り注ぐ雷も、吹き荒ぶ炎波も。総ては赤黒い巨鳥の口から放たれた黒いエネルギー波……『あくのはどう』の前に押し返される

 「バカな!?」

 『ルガァッ!』

 それを……アズマはただ見ていることしか出来なかった

 何かやれるわけでもない。ただ、伝説のポケモンという暴威を感じるだけ

 「おっと、暴れないように」

 と、その言葉で思い出す。囚われていたポケモンを

 彼女を助けないとという事を。けれども、無謀だと知りつつも怒りのままにけしかけてしまったことでアズマに取れる手は一つ。切り札……というかイリュージョンで何か出来ないかと出さなかったゾロア一匹のみ

 それでも、と出そうとして……止める

 

 ジャケット達は、闘志を失っては居なかった。いや、元から伝説のポケモンとはいえ驚きはしつつもそう恐れてはいないようだった。その訳は……割と簡単だ

 アズマの視界に映るのは、ディアンシーを抑えるために押し付けられている一つのボール。何処か……というかボール工場から奪ってきたのだろうマスターボール。どんなポケモンであれ確実に捕獲する究極にして至高の最低最悪なモンスターボール。本来は我を忘れて暴れまわるポケモンをどうにかして保護するためのポケモン側が自由意思で出ることが出来ない牢獄そのもののボール

 そう。あれであれば……どんなポケモンだろうと強引に捕獲できるだろう。ボールから出したときにトレーナーと認識して言葉を聞いてくれるかは怪しいが、如何に伝説のポケモンであろうともその意思を無視してボールに捕らえることは可能だ。実際、ホウエン地方ではゲンシの姿を取り戻してホウエン全土……どころではなく地理的に近いカロスの一部すらも止まない雨に巻き込んだカイオーガをマスターボールで捕獲することで鎮めているのだし

 

 きゅっと、ゾロアのボールを握り締める

 彼等は……恐らくはあのマスターボールを使用するだろう。ゼルネアスを何らかの理由で探しているのだろう彼等にとって、ある意味対となる伝説も重要な存在であるのだから。というか、元々彼等のボスから渡されていたのならば、それがあの奪われたマスターボールの本来の用途だったのかもしれない。何らかの理由で、ノンディアと名乗ったあの仮面はこの地に……アズマの一族が見守ってきた水晶の中にイベルタルが繭として眠っていることを知っていた。だから、眼前の二人を送り込み、捕らえさせようとした……ということも考えられる

 

 『レッガ!』

 そんな事を考えていると、不意にイベルタルの姿が空から消える

 『ゴーストダイブ』、だろう。ゴーストタイプのエネルギーを解き放ち、ほんの少しの間世界の隙間に入り込んでそこから突撃する技だ

 ……ならば、乗ろう。と、アズマは構え……

 

 『イガレッ!』

 影から巨大な姿が飛び出す。地面下から現れたそれは、青黄の犬を大きく打ち上げ……

 「今っ!」

 その瞬間、自分のポケモンには構わず、筋肉なジャケットはボールを投げる。狙っていたのだろうか、イベルタルが動きを止めるその時を

 「こっちには切り札があんだよ!」

 だが

 「……へ?」

 投げられたボールはその体を吸い込むことはなく破壊される。ボール同士の干渉機能。所謂人のポケモンを盗ったら泥棒という奴だ

 「『ロアッ!』」

 ぽん、と軽い音と共に影から飛び出した……ように見えたイベルタルの姿が溶け、ジャンプしたゾロアという正体を現す

 そう。それがアズマの狙い。マスターボールを使おうというならば、イベルタルではないものに投げさせてしまえという形。幾らマスターボールとはいえ、他人のポケモンを奪えないようにという安全機構はある。あくまでもポケモン側が出られない特殊仕様なだけで、他は普通のボールなのだから

 

 「ゾロアだとぉ?」

 「そういうことだ!」

 と、ちょっと待てよ?と、アズマはひとりごちる

 そもそも、マスターボールを保持していたのは眼鏡の……

 ふっ、と。イベルタルがなぜかは知らないが攻撃を行わずにゴーストダイブを終えて空に戻ってきて……

 「此方も同じく、囮でしたよ!」

 本物のマスターボールは、まだ投げられていない!他のボールをまず投げたのか!

 「させるかぁっ!」

 手段を選んでなどられない。どうしてかは分からないがイベルタルが目覚め、総てを石に変えようとはせずアズマの上空でゆっくり浮かんでいるだけの今が奇跡的な状況なのだ。それが消えれば元の絶望的状態に逆戻りは変わってなどいない。だからこそ、イベルタルの意思だ何だを置いておいても、イベルタルを捕らえさせる訳にはいかない。個人的にはちょっと話してみたいとか色々あるのだが、そんなものは二の次にして

 

 あてずっぽうの投擲。投げたのは単なるモンスターボール。飛んでいる鳥ポケモンにも当てられるようにと似た重さのゴムボールを使い何度となくドラパルトに子竜を打ち出して貰い練習させて貰ったコントロールのまま、アズマの投げたストレートは何とか投げられたマスターボールにかすめ……

 『カッ!』

 カンっと軽い音を経てて、イベルタルが下ろした嘴に跳ねられる

 そして……スイッチが押されたのだろう。赤い光と共にイベルタルの姿は空から消える。ボールに吸い込まれたのだ

 そうして巨鳥の姿が消えた空を、虚しくギリギリ当たるか当たらないかまで軌道のズレたマスターボールが横切り……

 「はい?」

 イベルタルを吸い込んで真っ直ぐ上から落ちてくるモンスターボールを受け止める

 アズマの手に握られたその瞬間、待ってましたとばかりに揺れもせずに、モンスターボール中心のボタンからカチリというロック音と共に赤い光が消えた

 「…………は?」



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vsデスウイング

「……は?」

 完全にフリーズ

 

 『(な、なにやってるんですの!)』

 というディアンシーの声に、数秒して漸くアズマは自分を取り戻した

 その手の中には何故かは全くもって分からないがどうしてなのかボールの中に収まってしまった伝説のポケモンであるイベルタルのモンスターボール

 マスターボールを避けるため……だはないだろう。確かに一理あるのだがそれならば避けた後でボールから飛び出しても何ら問題はない。だが、アズマの手に収まると同時、ボールの光は消えた。このボールを、自身の居るべき場所と認めた証。見限り出ていく事は不可能ではないが、そのトレーナーのポケモンとなろうと決めた、その証明

 

 ボールが軽く揺れる。内部から破壊するといった趣ではないが、早く出せとでも言いたげに

 「……分かったよ」

 空へとボールを掲げ、スイッチ。モンスターボール特有の赤い光と共に、空に巨鳥の姿が再び現れた

 『レッカ!』

 

 「……イベルタル」

 「……少年、分かっていますね?」

 大の大人が。しかもポケモンを苦しめ悪用する悪の組織が、少しだけ後退り気味に。それでも虚勢か、冷静げに言葉を紡ぐ

 「貴方が下手な行動をすればディアンシーは……」

 「それはどうかな?」

 『レッカ!』

 アズマの頭上で巨鳥が吠える。いや、普通に考えれば吠えるというよりも鳴くというべきなのだろうが……空気を震わせるそれは、鳥ポケモンの鳴き声と呼ぶにはあまりにも空気を震わせすぎていた

 「……ぐっ!」

 『ルガァァァァァァァッ!』

 それでも尚、ヘルガーは吠える。勇敢に……という訳でもないだろう。その血走った目には一切の恐れはなく。けれどもそれは彼のトレーナーの腕の機械により引き出された殺意によるもの。本ポケモンの意思は無関係に荒れ狂っているから、怯えないだけのもの。普通のポケモンであれば、恐れぬはずもないその脅威に対して猛る

 

 「良いですか少年。今すぐに」

 「さっき投げたでしょう。マスターボールは、もうそちらには無い。姫を確実に捕獲する手は、失われた」

 「……ですが、それだけとは」

 「そもそも、気を取られ過ぎ」

 「……え?」

 ジャケットの男が手元を見る

 そこに捕らえているはずのディアンシーを

 

 だが。そこに居た。いや、あったのは……

 「身代わり人形!?」

 『みがわり』。一時的に技エネルギーで自分の代わりに攻撃を受けてくれる人形をつくりだす技だ。人形の中に隠れていたり、或いは人形の裏であったり、隠れ場所はまちまちだが基本的に人形がある限り技エネルギーによるダメージを受けずに済む守りの力。アズマ自身は連続で攻撃してきても発動している間は確実に受けきれるはずの(伝説のポケモン達には打ち破られたりしているのだが)『まもる』を好んでいるのだが、それと並ぶ有名な守りの手段だ

 「げっ!何処に逃げやがった!」

 筋肉な男は、その身代わりを投げ捨て

 「あ、バカ!」

 「もう、遅い!」

 『なの!』

 ぽん!と身代わりは姿を変える。そう、こそっとディアンシーの頭の上に乗ったゾロアが、軽い煙と共にその姿を見せる

 ジャケットの男はディアンシーを離してなどいなかった。ならば、手離せさせれば良い。だが……突然ディアンシーが偽物に変わっていても、そうそう騙されはしないだろう。何か変だと疑われるはずだ。だが……身代わり人形は多くのポケモンが出せるもの。ならばとアズマは考え、そして、その考えは正しかったと証明された

 「姫!」

 『……』

 「姫!こっちへ!」

 駆け出しつつ、アズマは叫ぶ

 『(ですが)』

 「ヘルガァァァッ!」

 「ライボルト!」

 ジャケットは追わず、傍らに控えるポケモンを呼ぶ。ある種の正解。人間とポケモンであれば、基本的にはポケモンの方が強い。相手を止めるならば、人間を攻撃させるというタブーさえ無視できるならばポケモンにやらせた方が楽だ

 「こっち!大丈夫だから!」

 誰が今のアズマの言葉を信じると言うのだろう。アズマ自身は分からない。けれども、その背後には殆どのポケモンが恐怖する紅の巨鳥が悠然と羽ばたいていて

 ディアンシーは足を止める。ゾロアは気にせず進む。だいぶんアズマに慣れているというよりも、悪タイプであるから。ダークオーラ、イベルタルが放ちアズマも持っているらしいその昏いオーラは、悪タイプにとってのみ心地よいものであるらしいから

 そうして、そのまま……

 「ぐっ!」

 反転、後ろ足での片足蹴り

 アズマに一歩間に合わないと思ったのか、ヘルガーは攻撃行動に移り、そのままアズマの顔面を蹴り飛ばす。咄嗟にディアンシーを掴み、アズマは土の上を転がる

 『レッカ!』

 叫びと共に、イベルタルが動く

 「あ、おい!ちょっ……」

 ゴーストダイブ。アズマの意思を無視して巨鳥はその姿を隠し、瞬時にアズマと、彼を蹴り飛ばしたヘルガーの間に姿を現す。そして……

 口から溢れ出すのは、恐ろしい光

 『(ひっ!)』

 「イベルタル!良い!止めろ!止めてくれ!」

 本能的に、アズマは理解する。それが、何なのか

 『デスウイング』。そう、父ナンテン博士の資料にあった伝説のポケモンイベルタルの伝説たる最大の力、専用技である。禍翼が紅に輝く時、昏光に照らされた全ての命はその翼によって世界から拭い去られる。そう、資料にはあった。即ち、命を終わらせる光。ディアンシーやコルニ風に言うならば、生命波動、命のオーラを奪い取り自分に溜め込む技。受けた者は、人であれポケモンであれ、余程強い生命の光を持たない限り、全ての波動を奪われてその生命を終わるだろう。他の技でも、致命傷となる事はゼロではない。余程の差があり、加減も何もなければ万が一という事はある。だが、そうではない。この技だけは、そんな生易しいものであるはずもない

 即死だ。デスウイングだけは……イベルタルの放つその技だけは、伝承が真実であれば間違いなく概念的に相手の命を終わらせる力である

 

 見たくない。たとえ、自分を殺しに来ているとしても。許せないポケモンだとしても。もう二度と、目の前で誰かのポケモンが……死んでいくのを見たくなんて無い。ミアだけでもう、沢山だ

 そう、アズマは心で叫んで

 

 「ヘルガー、『オーバーヒート』!」

 「行くぜライボルト!伝説なんぞ、メガシンカの敵じゃねえ!」

 二体は吼える。トレーナー達も、立ち向かう

 けれども。アズマの前に立ち塞がるその巨鳥は何一つ意に介さず、光を溜める

 「止めろ!止めろぉぉぉぉぉっ!」

 今イベルタルがその場から消えたらどうなるか。そんなこと分かっていて。イベルタルへ向けられた炎は間違いなくアズマを直撃するだろう。生き残れるだろうか、そんなこと分からないなんて、当然アズマにも分かっていて

 それでも、手の中のモンスターボールを翳す。対応する手持ちポケモンをボールへと戻す光。当たり前の機能を使い……

 その赤い光は、紅の体に弾かれて消えた。伝説の力は、ボールの中へ帰ることを拒絶したのだ

 『ルガァァァァァッ!』

 『ボルゥゥァァァッ!』

 二匹のメガシンカが吼える。迸る雷と炎が、紅の巨体に襲い掛かり……

 せめていっそ、それで倒れてくれ。不謹慎なそのアズマの願いは……

 その双方が膨れ上がった紅の光に掻き消された事で潰える。放たれた光は突き進み……

 『……ル、ガ……』

 黒きポケモンに直撃する

 『ボルルゥ……』

 直撃は避けたものの、ライボルトにも影響はあるのか、青と黄色の体が震え……

 違和感を、アズマは覚える。あのライボルトは、メガシンカしていたはずだ。強制的に、暴れていたはずだ。だが、その姿は、眼は、もう普通のもので……

 どさり、とライボルトが地面に倒れ伏す。流石にもう、戦えないだろう。だが、強烈な違和感

 メガシンカが解ける。それは確かだ。だが、それは倒れると同時であったはず。だが、倒れる前にはライボルトのメガシンカは解けていた

 「……イベルタル、お前……

 ひょっとして、助けようとしてたのか?」

 過剰に膨れ上がらせられた命のオーラがメガシンカと暴走を引き起こす。それがメガウェーブによるメガシンカ。ならば、イベルタルがその暴走部分を奪い取れば元に戻るのかもしれない。ならば、言い過ぎた

 そう、アズマは反省しようとして……

 眼前で物言わぬ石と貸したヘルガーを見て、その認識を改めた

 「……やりすぎだろ」

 その言葉に、イベルタルは一度だけアズマを振り返り。気にせず、再び紅の光を溜め始める

 もう、ポケモンは居ない。で、あるならば……

 「おい、逃げるぞ。ヤバい」

 「メガウェーブの解除を可能とする伝説……相性が、あまりにも悪すぎます。勝ち目など、同士以外にはありません、か

 下がるしかないようですね」

 言って、二人のジャケットは踵を返し……

 「おい!お前達のポケモンだろ!置いてくなよ!」

 アズマの声に、男はライボルトだけをボールに戻す

 そのまま、森の奥へと消えていった

 

 それを、静かに巨鳥は眺める

 「……止めてくれ、もう、良いだろう」

 イベルタルは、森へと狙いを定めて……

 「おれを、あいつら以下の最低なポケモン殺しにして人殺しに、しないでくれ」

 言って、最低だなとアズマは苦笑する

 だがその言葉が効いたように、イベルタルは頭を下げて、光を消す

 「……ごめんな、お前も……きっと、おれを助けようとしてくれたんだろ?

 でも、やりすぎだ」




見守ってたトレーナーがズタボロにされてブチ切れて繭から目覚めて大切なトレーナーを傷付けたクソッタレな奴等相手に無双したら守ろうとした相手から怒られる可哀想なメインヒロインの図


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vsディアンシー?再び

「……ふう」

 『イガレッカ!』

 息を吐くアズマ

 

 何一つ終わってなどいなくて。けれども、一時的に事態は終息を遂げた

 『イヌヌワッ!』

 「ハチ、お前……」

 紫のボールを加えて此方に駆け寄ってくる短足のポケモンの頭を撫でつつ抱え上げ、アズマはそれを受け取る

 マスターボール。最強にして最悪のモンスターボール。ポケモンの意志を無視した捕獲を可能とする唯一にして究極の力。基本的に、止めなければならない余程の被害がなければ、投げることすら許されない伝説のボール。素材は特殊なもののある程度の数の生産が可能なようだが、当たるはずもない大型くじの景品くらいでしか一般に出回ることの無いそれ

 鈍い光を反射し、ずしりとした重さで確かにそれはアズマの手の中に収まった

 そんなアズマからすればあまり好ましくないボールは一時的にポケットに突っ込んで、アズマはそんなことよりと帰ってきた犬ポケモンを撫で回す

 

 「良く帰ってきたなーハチ。ルトも居るし、親父も……」

 帰って、と続ける前に、けれどもワンパチはその身を捩ってアズマの腕の中から抜け出し、駆け出す

 「待ってくれ」

 その先に姿を現した大きな頭の竜に小柄な影は駆け寄り

 「まだ、お礼も……」

 共に、姿を消した

 

 「……なあ、どうしちまったんだよ、ルト、ハチ……」

 目の前から、何より瓦礫に近くとも家である此処から消える意味が分からず、半端に伸ばした手のまま、アズマは呆然と呟く

 『(ひ、酷い目に逢いましたわ……)』

 と、その声にアズマは他にも色々とある問題を思い出す

 「っと、姫。大丈夫なのか」

 『(近付かないで!)』

 響くテレパシーに、アズマは踏み出しかけた足を盛大に踏み外した

 「おわっ!」

 『カッ!』

 広げられる紅の翼。イベルタルに支えられ、何とか地面に転がらずに済む

 

 「……ごめん、助かったよ」

 イベルタルに礼をして、改めてアズマは瓦礫に隠れがちなポケモンを見る

 「姫、どうしたんだ」

 『(ひっ!)』

 ……まるで、最初に戻ったようなやり取り

 アズマが何をするにも、小さなポケモンは怯えその顔を隠すのみ

 

 「オーラ、か?」

 『(昏くて……)』

 それか、とアズマは困ったな、と笑う

 アズマ自身、オーラは良く分からない。とりあえず、自身の纏うというオーラの出所は、幼い頃、まだまだ病弱であった頃に飲んでしまった桃色水晶……イベルタルの繭を覆っていたそれを通して、イベルタルの力が流れ込んでいたからだろう、という事は分かった

 だが、それだけだ。ある程度の制御は効くようになり、Z技に転用できるようになった……といっても、それは活性化方向。沈静化は無理だ

 

 どうするかな、とアズマが頭を悩ませていると

 『バリバリダー!』

 大きな鳴き声と共に、庭に巨大な黒竜が降り立つ

 伝説のポケモン、ゼクロム。そして当然……そのポケモンを連れた存在、N

 「大丈夫?」

 「大丈夫……そう、だね」

 そしてついでに、継承者とこのアサメの有名人。戦っていたのだろう二人

 「Nさん、コルニさん、カルムさん

 あと、ゼクロム」

 『バリッ!』

 「ってごめん、人を先に纏めた方が良いかなってだけなんだ」

 少し不満げにに鳴く黒竜に、最後に呼んだのに理由はないよと弁明し

 

 「何とか、片は付いた……感じです」

 「此方も、何とかなったよ

 寧ろ、彼には此処に行って貰った方が良かったかもしれないね」

 ボロボロになった庭、瓦礫そのものの家を見て、伝説と対峙した事もあるだろう青年は呟く

 「ボクには未来が見えた

 いや見えると思っていただけかもしれないねだけれども今回彼は彼の運命に出逢うという事が分かりきっていたボクの出る幕ではないと」

 『イガレッ!』

 早口な緑髪の青年の言葉に応とばかりに紅の鳥が鳴いて

 『(悪くない、そんなの分かっていて……

 でも怖いですわ!)』

 喋り倒す青年の足に、ディアンシーがしがみついていた

 「大丈夫さ鉱石の姫

 彼は何一つ変わっていないよただ運命に漸く出逢ったそれだけの話さ」

 

 「運命、ね」

 自分より大きな巨鳥、神話のように暴れるでもなく静かに羽を畳んで地面に立つ伝説を見て、ぽつりとアズマは呟く

 「それってイベルタル……だよね?」

 トリプルテールが揺れ、金髪の少女が首を傾げる

 「伝説だと辺り一帯を石に変えたりととても凶悪なポケモンだと言うのだけど……」

 「凶悪ですよ

 きっと、おれを助けようとしてくれた……ってのは分かりますけれど」

 アズマは指差す

 其所に居る、いや、あるのは一匹のポケモンの石像。アズマに向けてオーバーヒートを撃ち放つ姿のまま石になった、かつてヘルガーであったもの

 

 「「あ、はは……」」

 何て返せば良いのか分からないのだろう。二人のトレーナーは顔を見合わせて微妙な表情を浮かべ

 「……イベルタル?」

 『レッカ!』

 不意に、イベルタルの体が紅く輝いた

 同時

 『……ル、ガ、……』

 石であったはずのヘルガーが命を取り戻し、そして……地面に倒れ伏した

 「……イベルタル」

 不満そうに、首を振る

 「……ベル」

 『レッ!』

 何がいけないのだろうと名前を短縮してみると、良しとばかりに頷かれた

 あれだろうか。他のポケモン達は種族ではなくそれぞれ名前を付けているのに、自分はイベルタルというのが気に入らなかったとか?いやでも、ベルってそんな新米ポケモン研究者としてちょっとだけ名前が通っている女性にあるようなので本当に良いのだろうか。伝説ポケモンは複雑怪奇だ

 

 「ベル。お前、石から戻せたのか?というか、戻してくれたのか?」

 「そのようだね」

 「命を奪うだけじゃなくて、返せるんだ……」

 「まあ、自身の体に奪ったエネルギーを溜め込んで、最後に繭となって眠りにつく際に全てを大地に還元するというサイクルだと父は推測していましたし、その要領で還元すれば何とかなる……んでしょうか」

 やっぱり、未知の、特に伝説と呼ばれる特異なポケモンのやること成すことを研究し、推測し、世界を解明する事は楽しいな、と思う

 実際にそうなのかは分からない。ただ、考えてみるだけで面白い

 「そうそう、キミ、やっぱりあの人の息子なんだね」

 なんて笑うカルムに、そうかもしれませんねとアズマは返して

 

 「ヘルガーと、あとは皆と

 休ませてやりたいんで、ポケモンセンター……が、まだ出来てないんでしたっけ」

 「あ、そこは大丈夫

 今日が今年のリーグの締め切りだからね

 2週間後から次シーズンというだけあって、ほぼ中身は完成しているよ。使えると思う」



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ポケモンセンター

「ヘルガーを、お願いします」

 「何て怪我!急いで!」

 『ラッキッキー!』

 ヘルガーはこの中の誰のポケモンでもない。その為、ボールな戻すことなんて不可能で

 コルニに抱えてもらい、アサメへとひとっとび。女の子に抱えてもらうのかという話ではあるけれど、他に抱えられそうなルカリオも大分疲れているようで。トレーナー内で一番腕力と体力があるのは、やはりというか格闘タイプジムリーダーのコルニであったのだ

 

 そうして今、トレーナー4人とそのポケモン達は、新しく作られたアサメタウンポケモンセンター、まだ本格開業していない其処に集まっていた

 「……プロだ……」

 傷だらけのヘルガーを台に乗せ、ピンクで丸くて優しいポケモンであるラッキーと共に奥へと急ぐ女性を見て、アズマはしみじみと呟いた

 「いや、そりゃプロだよ」

 「いきなりイベルタルとサンダーとゼクロムで押し掛けて自然に対応出来るって、それでも凄いですよ」

 皆を屋敷から運ぶには、やはり空を飛べる大きなポケモンに手を借りるのが早い。その為、伝説のポケモンが三匹首を揃えてポケモンセンター前に降り立ったのだ。正直、アズマ自身がそれに遭遇したらは?と口を空けるだろう。暫くフリーズする自信がある

 それをせず、即座に傷だらけのヘルガーを保護することを選べるジョーイは、やはりというか凄い人なのだ

 

 「お疲れ様ボクのトモダチ」

 「戻ってくれ、サンダー。良く頑張ってくれた」

 赤い光が走り、二体のポケモンがその姿を消す。ボールに戻ったのだ

 「あ、じゃあおれも」

 アズマもボールを取り出して……

 今度は、大人しく巨鳥は姿を消した

 「怒ってごめんな、お疲れ、有り難う」

 そのポケモンの戻ったボールを撫でて、アズマもポケモンセンターの中へと歩みを進めた

 

 「君達のところにも、やっぱり」

 「はい。かつてショウブ……あ、おれとアサメの外で戦ったことがあったりするトレーナーの少年と共に戦ったラ・ヴィ団の少女、そしてディアンシーを拐おうとしていた二人。恐らく……ではありますが、少女と共に居た兄かもしれない男もまた、あの場に居たかもしれません」

 ポケモンセンターの大きなテーブル。開店したら人々のいこいの広場になるであろうそこを囲み、事態を訪ねるカルムにそうアズマは告げる

 その横では木の実を傷の浅いゾロアが齧っていて。残りは傷ひとつ無いが大きさ的に出てこれないイベルタル以外を預けてきたため、一匹だけ

 

 「1vs4か。大変だったね

 というか、良く勝てたね」

 「一人じゃありませんでしたから

 ゲン、は何か用事があったのか居なくなってしまいましたけど、おれは一人じゃない。みんなが居てくれて、だから

 

 あと、4人多分居た、って言いましたけど、ゴースト使いである一人に関しては、別のトレーナーが止めていてくれました」

 「別の?」

 「はい。はっきりと確認した訳ではないのですが、ガブリアスを扱うトレーナーが、メガゲンガーを止めていてくれたようです

 あとは、途中から……ゲンが呼んできてくれたのかな、父さん、ナンテン博士のポケモン達も加勢してくれました」

 「それは、本当に?」

 「はい。ヴォーダみたいな特徴的な傷なんかは無かったので確定とは言えませんが、おれの呼び掛けに少し反応してくれるドラパルトは、父のルトくらいです。恐らく」

 「ガブリアスの方には何か心当たり無いの」

 お茶を一杯。この中では元気なジムリーダーの少女に問われ、アズマは首を横に振った

 「残念ながら全く」

 「あ、ひょっとして!」

 「何か心当たりがあるんですかコルニさん!

 例えば、有名なガブリアス使いであるあのシロナさんがカロスに来てるとか」

 言いつつ、無いなとアズマは心の中で否定する

 そんな有名人が来ているならば、アズマだって知っているはずだ。現に、3日後にガラル地方の伝説ともされるあの男、チャンピオン・ダンデが来カロスする事は知っている。エキシビションマッチのチケットが、あの謎の暗い世界にアズマが居る間に発売され8分で完売していた。シロナだって、そうなるはずだ

 

 「そうじゃなくて

 ほら、君が話してくれたじゃん、フカマルと一緒にシンオウに越していった子

 あの子だったり」

 「チナ、ですか?」

 「そう。フカマル連れて行ったんだよね?

 なら、ひょっとして……」

 けれど、アズマはその言葉を遮る

 「きっと違います。チナ自身、女性トレーナーの中では、正直此処のチャンピオンのカルネさんよりも有名なシンオウのシロナさんには憧れていましたし、だからこそ頑張ってフカマルを捕まえにいったって事情はありますけど、バトル自体そんなに好きじゃないんですよ

 ワイルドエリアキャンプに一緒に行ったときだって、心配ばっかりしてましたし。名前も種族も分からないシアン色の犬ポケモンのお陰で、何だかんだ安全ではありましたけどね」

 だから、きっと違います。バトル好きじゃないんでガブリアスになるほどまで鍛えてないかもしれませんし

 と、アズマは締めくくる

 

 「でも、何でいきなりチナが?」

 「え?大切な友達の危機に駆け付けるって、燃えない?」

 「燃えるね、それ

 でも、セレナと突入したフレア団秘密基地じゃ、セレナを助けなきゃって感じの事は起こらなかったし……」

 「あ、そうなんですか。ってか、おれだって小説は好きですけど、本当に小説みたいな事に巻き込まれても困りますよ」

 『(もう巻き込まれてますわよ)』

 木の実を齧りながら、鋭くディアンシーが突っ込む

 「ま、そうなんだけどさ

 大切な友達だから。危険な目にはあんまり逢って欲しくない

 それに、ですよ。もしもチナなら、連絡が……」

 と、ホロキャスターを起動しようとして、アズマは気が付く

 

 「どうしたの?」

 「ライボルトの電撃、まともに受けちゃったからかな。壊れてる」

 電源をいれても、うんともすんともいわなくなったそれ。軽く黒煙が出てる気もするし、中の基盤はもうどうしようもなく破壊されているのだろう

 「チップのデータだけは、無事だと良いんですけど

 って、それだけじゃなくて。チナ、前に話した時にはジョウトに居たそうなんですよ。アルフの遺跡をシロナさんと調べるです、って。そして此処はカロスです。ガラルやホウエンならまだ近いから何とかなるかもしれませんけど、流石にジョウトからじゃ間に合いませんよ

 時間空間辺りを超越する伝説でも手を貸してくれればまた別かもしれませんが」

 とはいえ、アズマだって聞いたことはない。一年前くらいにギンガ団という組織が時間の神と呼ばれるディアルガ、そして空間の神と呼ばれるパルキアをテンガン山の山頂にあるという古代遺跡、槍の柱に呼び出すことに成功した……という噂は聞いたことがあるものの、その際に現れた伝説の二体は突如現れたというギラティナによって元居た場所に帰っていったらしい

 その後、その二体はギンガ団によって干上がったリッシ湖という場所にパルキアの姿を確認し、次の日にはリッシ湖は元の穏やかな湖の姿を取り戻していたという目撃証言があるくらいで、どこかのトレーナーと居るとかそういった話は聞かない。だから、有り得ないだろう

 流石に、あの距離を超えて此処まで駆け付けるには、神とされるポケモンの力が必要だから。伝説のポケモンは何体も居る。けれどもだ、人を連れて何地方も超えて超高速で移動できるのはアズマが知る限りではシンオウ神話の3神だけだ

 カントーの三鳥はそんな速くない。地方を跨ぐには数日かかるだろう

 ジョウトの焼けた塔の伝説にもなっている三匹は海を渡れない。いやスイクンは渡れるが海水は苦手らしい。二体の鳥ポケモンは渡れるが、速度はカントーの三鳥とそう変わらないとか

 ホウエンに伝わる伝説ならばどうだろう。アルトマーレ他で見かける夢幻ポケモン達は三鳥より速いが、体が小さく人を乗せて高速で飛べない。超古代ポケモン等……特にレックウザであれば間に合うだろうが、彼等は居るだけで天候を支配する。レックウザであれば雲ひとつなく日差しが強すぎない凪いだ空に固定される。その為目立ちすぎるので噂が出てくるはずだ

 イッシュ伝説……白と黒の竜ならば間に合うかもしれない。けれど、その竜は今片割れが此処に居る。もう片割れは、ガブリアスを持っていないトレーナーの手の中だ

 アローラ伝説のソルガレオとルナアーラ。異次元への扉を開くという獣であれば……駄目だろう。黒水晶のポケモンを見る限り、異次元に突入して戻ってくるだけで、かなりの時間が経過する

 ガラル地方……は、伝説不毛の地だ。ブラックナイトを止めたのは人間の騎士姉妹だというし、伝説ポケモンの話すら残ってないから語りようもない

 

 閑話休題。何でそんな事考えてるんだろとアズマは自分に苦笑して、会話を続けた




ブラックナイトを止めたのは人間の騎士姉妹であると言われている
ザマゼンタ「!?」

まあ、ザシアンは姉と言われてますが、ザマゼンタが弟という記述は何処にも在りませんからね
ザマゼンタ妹説を提唱する次第である


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休みと決意

前話と同じものを一時期投稿していました
現在は修正版です


「まあ、その辺りはおいおいね」

 「あ、そうだ

 チナちゃんって、シロナさんと調査に行ってるんだよね?なら連絡取れるし」

 

 なんて、ガブリアスに関しての話は切り上げて

 「それで、なんだけど

 コルニ、君はあのポケモン達を見てどう思った」

 カルム青年が、本来アズマ達を呼んだ用であろうものを切り出す

 「メガシンカはしてる。でも、あれは正しい形じゃないよ、絶対に」

 テーブルの上できゅっと手を握り、トリプルテールが揺れる。その明るい眼には、強い意志の色が浮かんでいた

 「あんなの、許しておいちゃいけないよ

 止めなきゃいけない。命を磨り減らすメガシンカを使うような集団を!」

 アズマにも分かる。直接対峙して、より強く感じた

 二つのメガシンカの差を。赤く染まりきった眼だけじゃない。コルニとルカリオは、二人で一つだった。互いのオーラが支え合い、そして一つのメガルカリオという形を取っていた。でも、あれは違う。単独で、限界を越えて自分の生命力を暴発させているだけ

 長くあの姿でいれば、取り返しのつかないほどのダメージを負ってしまうだろう。立てなくなるかもしれない、眼が見えなくなっても可笑しくない

 本来のメガシンカの継承者として、それは当然の宣言であった

 「同感だね」

 緑髪の青年も、また呼応して頷く

 「彼等はずっと叫んでいたよ

 痛い苦しい辛い誰か助けてと」

 半分くらいそれはアズマでも……いや、誰でも見て分かるような事。けれども、ポケモンの声が聞こえるという事で有名であり、その事がカリスマとなってプラズマ団事件の中心となった者の言葉で実際に告げられたという事実が、アズマの心に重くのし掛かる

 

 「助けて、って」

 『(……アブソルは違いましたわ

 でも、他は……)』

 「辛くても苦しくてもトモダチの為に頑張る頑張りたい

 それがトレーナーとポケモンの間のひとつの絆のカタチ

 だのに!」

 「助けてって事は、それでもトレーナーの為に暴走してでもメガシンカしようとしている訳では、無いんですね」

 静かに、帽子の青年は頷いた

 アズマの脳裏に浮かぶのは、ポケモン達を見捨てて逃げようとした、あのジャケットの二人組。傷だらけになって、それでも自分の為に共にキレて戦ってくれたろう、ニダンギル達の姿。苦しそうに吠えながら荒れ狂うメガシンカポケモン達

 そして、何も出来なくて、冷たくなっていく、一年前のトリミアンの姿

 

 「……許せない」

 アズマの言葉に呼応するように、二匹のポケモンの方向が脳裏に響き渡った

 『イガレッカ!』

 『ウルォーード!』

 その声……一匹は何者なのか良く分かったソレにそうだな、と笑って、アズマは取り出したボールを撫でる

 ついでに、何らかの形で繋がりがあるのだろうポケモンのうち、水晶という物理的なものがあるあのポケモンは応えてくれないんだな、とも思って

 

 「うん。許せないよ

 ポケモンをあんな風にするなんてフレア団と同じだよ」

 「フレア団の時は、あんまり動けなかったけど。今回は違う」

 カルムにコルニが同調し、頷く

 少しだけ、トゲがひっかかりながらもアズマも同調した

 「ええ。許せない

 ポケモンをあんな風にする彼等も、そんな彼等と同じくらいボロボロになるまで戦わせなきゃいけなかったおれも」

 『(こ、怖かったですわ……)』

 「だから、強くならなきゃ

 そして、彼等を止めなければ」

 ことり、とボールが揺れる。伝説のポケモン、イベルタルのボールが

 確かに、圧倒的な力を持つイベルタルであれば、止められるだろう。メガシンカ二体を寄せ付けず圧倒したその神話になるだけの力は絶大だ。命を拭い去る赤い光と合わせれば、あのメガウェーブなる暴走メガシンカを止められる。一度石に変えるという荒療治だが

 「イベルタルは、どう?」

 「ベルは……きっと、手を貸してくれます

 そうですよね、Nさん。あいつが、貴方の言っていたおれの運命。昔から、ダークオーラでおれを護ろうとしてくれていた、怖くて優しいポケモン」

 「キミの運命は複雑怪奇な音をしていて彼女だけとは言えないけれどもね」

 「そんな気はしてます」

 脳裏に時折響く鳴き声。恐らく、アズマが昔飲んだ桃色の水晶が繭になって水晶の中で眠りについていたイベルタルの羽根であったように、腕に付着した黒水晶があの黒いポケモンと繋がり続けているように。何らかの縁があるポケモンが、その意識を軽く寄り添わせているから聞こえるのだろう

 イベルタルという伝説のポケモンは、基本的に恐ろしい話ばかりで。けれども、その昔病弱であったアズマに寄り添ってくれたその意識は、怖いものではなかった。それに……命を奪うイベルタルは千年程の周期で目覚めるというが、アズマの前で繭から蘇ったイベルタルは3000年前から水晶の中で眠っていたという記録がある。正確には水晶の存在の記録が3000年前からあるってだけだが、それは逆に言えば、アズマが傷だらけで手を伸ばしただけで目覚められるような状況でありながら、イベルタルはずっと眠っていたという事だ

 何らかの理由で、命を奪わず眠り続けていた。そんなイベルタルはただ恐怖の象徴のような存在ではない、アズマはそれを信じたかった

 

 「だから、大丈夫です

 カロス地方でイベルタルと言ったら子供を叱る時に出てくるような化け物ですけど、ベルはきっと違います

 でも、それだけじゃ駄目なんです。あいつに頼りきるようじゃ」

 例えばだ。彼等はゼルネアスを探している。もしも、彼等が見付けたら?そして、万が一、ゼルネアスが彼等のボスを認めたとしたら?

 止めようとした時にゼルネアスが彼等の目的を是として立ちふさがったとしたら、アズマの中でそれに対抗できるのは(黒水晶のポケモンが何故か助けに来てくれたりでもしない限り)イベルタルだけだ。何とか止めて貰うしかない

 けれどもだ。それは、彼等の扱うメガシンカポケモン相手にイベルタルに何とかして貰うという方法が取れないことを意味する。Nやカルムや、他のトレーナーが居てくれるならまだしも、別々に分かれなければいけないタイミングだってある

 だから、アズマ自身、ニダンギル達と強くならなきゃと思ったのだ

 その想いに応えるように、ニダンギルが扉を器用に片方の刀身で開けつつ飛び込んできてアズマの周囲を一回転する

 「大丈夫なのかギル?」

 物言わぬポケモンはただ、その存在で覚悟を返した

 「こんな感じです」

 扉の先、傷もあるしこそっと此方を見るだけのモノズを見つつ、アズマはそう告げた

 

 「……だから、カルムさん。Nさん。コルニ

 おれに、修業をつけてください」

 「……うん。分かった

 彼等を放ってなんておけないしね」

 帽子の青年は頷く

 「あまり好きではないけれど」

 緑髪を揺らし、ポケモンの王も頷いてくれた

 「あはは、メガシンカじゃない事はあんまり教えられないけどね」

 

 「さて、暗い話はここまでにしようか

 止めなきゃいけない。それは分かっても、調査が進まないと何にも話が先に行かないし」

 「はい、カルムさん」

 「ディアンシーが此方に居る以上、またきっと彼等は来る。その時に、しっかり勝てるようにするとして

 ジム巡りは、続ける?今日が今期の最終日だけど」

 「……そんな時期でしたっけ」

 そういえば、とアズマは思う

 リーグは一年一回、その年に8つのバッジを集めてカロスリーグ本部に届けた者を集めて、カロスリーグという大規模大会を行う

 というか、チャンピオン・ダンデはその開会式のエキシビションの為に呼ばれたはずなので当然ではあるのだが、その締め切りはもうすぐだ

 

 「……暫くは修業して。また、来期やりますよ

 おれと戦ってくれたリーダーの中に、不正で今期限りとかそんなジムは無いでしょう?」

 因みに、一年で集めきれなくてもバッジは持ち越せる。但し、リーグ公認ジムは幾つもあるが、そのうちたまに不正でバッジを配っていたとかで次期から取り潰しにより使用不能となるバッジがたまにある。その場合、その分も集め直しとなる

 

 「そうだね

 それで、なんだけどアズマくん

 気分転換にこれ、要る?」

 そういって、カルムが差し出したのは数枚のチケットであった

 「そ、それは……」

 息を呑む

 「エキシビションマッチのチケット!?

 良いんですか!?」



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扉 ナンテン博士のガラルシンポジウム議事録

ネタバレ案件です。また、独自設定の塊です

読むとああこうしたいのね、とこの先の展開がある程度分かってしまいます
それでも構わないという方のみお読みください


黒き夜の竜について

黒き竜のポケモン。そう聞いて思い出されるものはなんであろうか

ガブリアス、サザンドラ、或いはゼクロム。その辺りであろう。しかし、今一度それらのポケモンは忘れていただきたい。私が今語るのは、ガラル地方、そしてアローラ地方にその存在の痕跡を残す二体の伝説についての話である

 

静粛に、静粛に

諸兄等はその二地方の伝説に竜のポケモン等登場しないと言うのであろう。しかし、私の此度の発表は、伝説に二体のドラゴンポケモンの発見及び関連に関してのものである

 

 

第一に。ガラルの竜について語らせて戴きたい。まず、お手元の資料を御覧いただこう。それは、皆もご存じであろうナックルシティの宝物庫に飾られている4枚のタペストリーの写真である

注目戴きたいのは2枚目。御存じ災厄を見る英雄二人のタペストリー。赤と黒の災厄。けれども、3枚目では剣と盾により追い払われている

そこに、私は注目した。ガラル地方には伝説のポケモンと呼ぶべき存在の伝承が残されていない。それはこのタペストリーにあるような英雄二人……一部では姉妹であったともされる剣と盾の英雄により災厄が払われたという人類の伝説であるからではある。では、その災厄、ブラックナイトとされるものは何であったのか、私の好奇心はその真相を追い求めた

結論として出たものは、剣と盾により払われたということは、恐らくはポケモンの事を指すのであろうという事であった。自然災害にも近いものであれば、剣と盾という伝説とはなり得ない。それは、ホウエン地方といった自然現象を引き起こす超古代ポケモンの伝承が残る地から推察が可能である

 

ならば、ガラル地方において、そのポケモンとはどういう存在であるのか。次に私が注目したのは、災厄が赤と黒の色をしているところであった

赤と黒、そしてガラル地方。考えてみればそれを強く結びつけるものがあるではないか。そう、ダイマックスである

ガラル粒子により引き起こされている事が最近になって確認され、マクロコスモスグループにより遂に時折起こる災いではなく人工的な現象として制御に成功した、あの現象こそがブラックナイトとも呼ばれるかの災厄の正体であると私は推察した。そして、それ以前のガラル地方には、ダイマックスらしき記述がない事から、初のダイマックスポケモンの出現こそがブラックナイトの正体である、と結論付けたのである

 

ならば、初のダイマックスポケモンとは何であったのか。未だに時折見つかるねがいぼしの正体とは?それらを解明する為、私はローズ委員長等に協力を仰ぎ、マクロコスモスグループに更なるガラル粒子の解析を依頼した。私の仮説が正しければ今も見つかるガラル粒子とはブラックナイトの際に現れた原初のダイマックスポケモンが残していったものであり、であればこそダイマックスは起きる。ならば、そのガラル粒子から原初のダイマックスポケモンの手掛かりが見つかるのではないか、と

 

では、資料の次のページを御覧いただきたい

それこそが、ガラル粒子の中に刻まれていた遺伝子データの復元予想図である

骨で組み上げられたかのごとき赤と黒の巨竜。それこそ、ダイマックスポケモンの元祖でありブラックナイトの正体。私はこのポケモンを、ローズ委員長の意見により"ムゲンダイナ"と呼称することとした。これが、私の語るガラルの黒き竜である

 

 

続いて、アローラの黒き竜について語らせて戴きたい

此方は更に簡単である。アローラに残されている伝説は、太陽を食らいし獣ソルガレオ、月を誘いし獣ルナアーラ、そして今も4島を守る守り神のポケモン達。それらの中に黒き竜は居ない

しかし、その他にも伝説がある。かつてアローラを覆い、人とポケモンの光によって払われたという闇。そこにブラックナイトとの関連を感じ、私は現地で調査を進めた

 

そしてソルガレオとルナアーラがかつて開いたという次元の穴の先で私はついにその正体についての確信を得たのである。資料の次のページを見ていただきたい

其処に捕らわれている漆黒のポケモン。赤い鎖により閉じ込められたかのポケモンこそが、光を食らう闇。私は彼等により、そのポケモンと接触機会を得、その写真を撮ったものである

 

静粛に、静粛に!

そこの博士、何か?ふむ、これが到底竜には見えない、と?

成る程、確かに。けれども、良く良く見て戴きたい。特に胴を

何か見えては来ないだろうか。不可思議な形だとは?

私はこの胴を、竜のアギトであると結論付けた。そう思えば、足のパーツも何処か竜の手の骨にも見える。そうして形象を見て取った結果、私はひとつの結論に達したのである

このポケモンは、本来は竜のポケモンであったのだろう、と。アローラの古き言葉を取り、私はかのポケモンをネクロズマと呼ぶこととした。これが、私の語るアローラの黒き竜である

 

そして、総括させて戴きたい

ムゲンダイナとネクロズマ。どちらも黒き竜の骨から出来、黒き闇についての伝承を持つポケモンである

ならば、二体に関連は無いのであろうか。そうして見比べた結果が、次の絵である

ネクロズマの両腕らしきもの以外は、似たようなパーツが確認できるというのが分かるであろう。ネクロズマ額に見えたプリズムがコアであるとするのであれば、コアを露出するというのも共通点である

また、ブラックナイトは隕石と共に起こったという伝承、そして同じく隕石と共に現れた幻のポケモンデオキシスもまたコアを露出している事から、それらが外宇宙から現れたポケモンの共通事項であると仮定する

そこから、私はひとつの結論に達した。この二種のポケモンは、本来は同一種である、と。恐らく、剣と盾により払われた結果、肉体の大半を失ったムゲンダイナの姿こそがネクロズマであろう、と

現状、それを裏付けるものは無い、調査を続けたい次第である




ということで、独自設定の塊です
隕石に居た巨竜(真のムゲンダイナ)が隕石が落ちたダメージで体が消し飛び骨だけになったものがムゲンダイナ
更にそこから大ダメージを受けて頭と一部しか残らなかった為コアを覆うエネルギーを消してプリズムを露出し残ったパーツを組み直して腕に生きるためにエネルギーを溜める機関(突き出した白いパーツ)を外付けしたのがネクロズマ(通常)
ムゲンダイナ姿から何とか本来の姿に戻ろうとして暴走したものがムゲンダイマックス。ネクロズマ姿からではパーツが少なすぎて何とも出来ないから他の光を、伝説を取り込んで補おうとしたのが黄昏の鬣であり暁の翼であり未明の繭(イベルタル吸収)。足りないものは足りないと割り切って残ったパーツから真ムゲンダイナの姿を模した姿になったものがウルトラネクロズマという形の設定です。ウルトラネクロズマが本当の姿とも自身も知らない未知の姿とも言われるのは、前足にも翼がありそれとは別に巨大な翼もあるゼクロムみたいな形の4翼を持つ幾多の角のある巨竜(本来のムゲンダイナ)というところは本来の姿なものの、パーツ無いのを割り切ってあるもの使って作り直したものだからですね
つまりネクロズマ(通常)はムゲンダイナへと体を取り戻すことで進化する同一種であり、かがやきさまとは肉体があった頃の真のムゲンダイナであるという設定です
ムゲンダイナ=かがやきさま=ネクロズマ
ちなみにアズマくんに接触してきたのはメガロポリスの人々のやらかしで体を傷つけられ、治せないかとアローラに来たら守り神等にボコボコにされてネクロズマ姿になった個体であり、ガラルで隕石の中で眠りについているのとは別個体です
ネクロズマとムゲンダイナのサイズが変?ちょっとパーツの形違わない?って辺りはキョダイマックスだよで流してください


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扉 神雷のゼクロム ヤベルタル覚醒 要約

前章でもあったアズマくんの日記っぽい要約です
Yちゃん(正式名称イベルタル)がところどころ突っ込みをいれてますが、それ以外に新規情報はありません


1 vsフクジ 天候:晴れ

 ヒヨクシティへとやって来たアズマ達は、その足ですぐにジムへと挑戦した。ハクダンの時とは異なり普通にバッジ1つ相手のポケモンと戦うことになった為あっさりと勝利、バッジは手にしたが釈然としない気持ちが残るのであった

 『つよい、がんばれ』

 

2 vsAZ 天候:曇り

 ヒヨクシティを出たアズマは再び12番どうろ、そしてその先のシャラシティを目指して旅を続けることにした。そんな中、アズマは水辺で一人の男と出会う

 その名はAZ。アズマの遠い祖先の兄であり、かつて最終兵器を扱い不死となった伝説の古代王であった。彼とフラエッテと戦わせて貰い、アズマはZ技という命のオーラを使った大技の存在をしっかりと理解するのであった

 『おーら、まかせて』

 

3 シャラシティジム、vsルカリオ1 天候:霧

 シャラシティに辿り着いたアズマは、ジムを訪ねようとしてみる。すると、ジムの扉は開いており、中で突然正当なメガシンカを遂げたルカリオに襲われる

 そのルカリオは、アズマの持つオーラを危険視していたらしい。ルカリオのトレーナーであるコルニからその事を聞いたアズマは、AZの言葉通りマスタータワーへと向かうのであった

 『……ルカリオ、きけん……』

 

4 マスタータワー 天候:晴れ

 マスタータワーへと辿り着いたアズマは、其所で伝説のポケモンゼクロム、そしてかつてプラズマ団のカリスマであったNと出会う

 アズマのオーラに気がついたNは、アズマに親身に修業をつけることを提案してくるのであった

 『おー、すごいひと。がんばれがんばれ』

 

5 再びのメガロポリス 天候:光無き闇

 N、ゼクロム、そして近所からNの為に駆け付けてくれたニャオニクスとのZ技の修業の中、突如としてアズマの手に残る黒水晶から腕が延び、ディアンシーを拐う

 それはかつてアズマがメガロポリスで出会った漆黒のポケモンによるもの。アズマはN達とメガロポリスへと向かい、黒いポケモンと対峙するも……

 『くろいのきらい!どろぼーねこ!どろぼーはんたい!』

 

6 決戦、シャラシティジム 天候:雨

 メガロポリスから戻ってきたアズマ達は、今少しの修業を経てシャラシティジムへと挑戦する

 やはりかつて手も足も出なかったルカリオと戦いたい。その意見を汲んだコルニの繰り出したメガルカリオにアズマはZ技、そして共に来てくれることになったゾロアのイリュージョンの全てを駆使して挑み……そして、情けで勝ちを譲られたのであった

 『つぎは、かつ』

 

7 覚醒、イベルタル 天候:曇り

 アサメにジャケットの男達が現れたと聞いたアズマ達。ナンテン屋敷に飛んで戻ったアズマが目にしたものは、因縁のジャケット達、その双方であった

 荒ぶるメガシンカに叩きのめされるアズマとポケモン達であったが、激昂したイベルタルが桃色の水晶を砕き繭より目覚める。そのままイベルタルはメガシンカポケモンを一蹴し、アズマのボールに自ら収まるのであった

 『……やっと、ちょくせつあえた』



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おまけ カロスの裏ボス

某百科っぽいネタです
ネタバレを含みますので読まなくても構いません

ここまで進めようという気合いを入れるために、此処に置いておきます


『君とポケモンのキズナ、おれに見せてくれ!』

 

ポケモントレーナーのアズマとは、カロスの裏ボスその一である

 

概要

Nintendo Switch専用ソフト、ポケットモンスターXY+Z(2021年10月14日発売未定)において、殿堂入り後にアサメ左の道を進むことで行けるようになるナンテン屋敷に居るトレーナーなのだが……殿堂入り直後から戦えるとは思えないくらい強い

当然の6体持ちで努力値も極振り、道具まで持たせている。個体値は固定だが6Vではない。とはいえ、割としっかり高いのでそれがどうしたという強さ

それだけであればまだ良いのだが……当然の権利のように、Z技、極めつけにダイマックスすら行ってくる。最早やりたい放題である。唯一の良心は、メガシンカ可能なポケモンが居ないが故にメガシンカをしてこないところだろうが、そんなもの気休めとすら言えない

 

具体的な手持ちはこんな感じ

確定枠

ゾロアーク(ギルガルド擬態)♀ Lv68 E:レッドカード

ワルビアル ♂        Lv68 E:とつげきチョッキ

カラマネロ ♂        Lv68 E:きあいのハチマキ

 

うん、この時点で何か可笑しい

だが、本格的に狂っているのはこれからである。ここまではジャブに過ぎない

このトレーナーの本当にヤバイところは、プレイヤーの手持ちによって(具体的な話をすると、禁止伝説ポケモンが居るかどうかによって)本気モードと通常モードがある点である。ナニコレ

では、まずはまだマシな通常モードだが……

 

ドンカラス ♂        Lv68 E:ピントレンズ

サザンドラ(色ちがい) ♂   Lv74 E:ドクZ

ギルガルド         Lv75 E:じゃくてんほけん(ダイマックス)

ドンカラスまでは普通だが(レベル70近いポケモンを普通と呼ぶのが既に変だが)、エース二匹のレベルは驚愕の70越え。チャンピオンのカルネのエースであるメガサーナイトのレベルが72の為、何とレベルで越えている

この時点で既にカルネは殿堂入り後の本気カルネになっている……ということはなく通常カルネの為、何とチャンピオン以上のレベルである。頭可笑しい。更には殿堂入り後にイベントをこなすと使用可能となるダイマックスをこの時点から切ってくる為、チャンピオンに勝てたしと軽い気持ちで挑んだプレイヤーは自分は使えないダイマックスにより成す術なくボコボコにされるだろう。ただし、ギルガルドが聖剣型の物理アタッカーであるため、火傷を入れて物理受けを用意すればまだ勝機はある。ダイナックルしてくる為、ゴーストタイプだとなお良い

 

だが、彼の本当の脅威は伝説を連れていった時である

本気モードの彼の手持ちはこちら

 

サザンドラ(色ちがい)♂    Lv74 E:いのちのたま

ギルガルド          Lv75 E:カクトウZ

 

何だ、アイテム変わってるけどそのままじゃん、と思うだろう

 

だが、本当の恐怖は最後の一体である

エースなのに割と早めに出され、ダイマックスも無し。カクトウZを何故かぶっぱなしてくるギルガルドを乗り越え、最後の一体に辿り着いたとき、普段のラス1BGMを上書きして奴は降り立つのだ

 

 

イベルタル         Lv80 E:じゃくてんほけん

 

 

は?と思われるかもしれないが、断じて間違いではない。BGMが超ポケダンのイベルタルたちとのたたかいに切り替わるや、禁止伝説であるイベルタルがマジの本気で降臨する。レベルはギルガルド達をも遥かに越えて堂々の80。当たり前のように努力値振り、何故か絶望のじゃくてんほけん持ちで下手に弱点をつこうものならば倍になった火力で禁止伝説の強さを身をもって分からせてくる鬼畜外道仕様

 

この時点で既に狂った強さだが、更に開幕確定でキョダイマックスする

もう一度言う、キョダイマックスする

禁止伝説をダイマックスしてくるとかこのモブトレーナーふざけてんのか!と言いたくなるが、それどころではなく専用グラフィックのキョダイマックスである。そして当たり前ながら、専用技であるキョダイシュウエンをぶっぱなす。もう手が付けられない

もうやめたげてよぉ!と言わんばかりの大盤振る舞いである

 

エンディング後に割とすぐに伝説有り版に勝ちに行きたいのであれば、まだしも攻撃の優しいゾロアークのところで薬漬けは必須だろう。幸いにしてこのソフトは第八世代のためドーピングアイテムの効果は一回2段階に上がっている為素早く積めるだろう

少し遠回りだがダイマックスを解禁まで進めて来ればればゼルネアスイベントが起きるようになっている為此方もキョダイマックスゼルネアスで挑むことが出来、かなり楽になる

或いは、ポケモンホームからレベル100の育成済ポケモンを持ってくるかだ。とはいえ、キョダイイベルタルを落とせる火力が無いと下手したらレベル100でも殴り負けるので注意

 

相手の飛行技はデスウイングのみかつ、それがキョダイシュウエンに変わることからダイジェットしてこないのが唯一の救い

と言いたいが、……キョダイシュウエンが壊れ技(威力80、飛行タイプ、与えたダメージの3/4を回復&相手の能力変化をリセットし、その分自分の能力を変化)の為何一つ救いではない。ドーピングして殴る場合、飛行弱点ポケモンがうっかりイベルタルをワンパン出来なければキョダイシュウエンでドーピングをそのまま奪われてゲームセットである。元がデスウイングな為HPドレインまであるのでバフが奪われても相手のHPは残り僅かだし先制でという希望すら粉砕する詰みゲーが見れる

 

 

因みに、彼に勝つと150000という超高額の賞金の上、紅色の玉が貰えてナンテン邸地下の地下溶岩洞に行けるようになり、とある場所にNとAZが、またとある場所にリーリエが、更にとある場所にポケモントレーナーのチナが登場する。地下溶岩洞最奥にはゲンシグラードン(Lv75)が居て捕獲できる他、第二の裏ボスたるNイベントをこなすことでゼクロムとレシラムを、第三の裏ボスたるポケモントレーナーのチナイベントの後でシンオウ三竜を捕獲でき、そこまで進めることがウルトラプラズマ団イベントの鍵でもある為是非早めに倒したい。余談だが、リーリエは裏ボスではない

 

 

 

「……ああ、お前が手を貸してくれるんだな」

 

因みにだが、再戦も可能

本気版に勝った後に限り一部伝説イベントの為のモードと戦うことが出来る。戦闘前に選んだ選択肢によって3つのモードがあり、その何れかと戦うことになる

手持ちはギルガルド、サザンドラ(色ちがい)が固定(因にだが再戦の為レベルは80まで上昇)。残り二体はモードによって違い

太古:ゾロアーク キリキザン 共にLv75

救世:ゾロアーク ドンカラス 共にLv75

異界:ワルビアル カラマネロ 共にLv75

となる。キリキザンどっから沸いたと言いたいが、彼の家の庭にキリキザンが居るのでそいつなのだろう

 

そして、ここまで4体しか居ないことから分かるように、残り2体になると容赦なく禁止伝説を繰り出してくる。ボールからではなく、専用モーションでエフェクトと共に何処かから(グラードンは地面を割り、レックウザは嵐を起こしながら空から等)降臨してくるが……(因みにイベルタルは良くみるとボールから飛び出している)

 

太古:ゲンシグラードンLv75(但しナンテン邸地下でゲンシグラードンを捕獲しているとワルビアルLv75)、メガレックウザLv85

救世:ムゲンダイナ(ムゲンダイマックス)Lv60、ザシアン(けんのおう)Lv87

異界:イベルタルLv87 ウルトラネクロズマLv90

 

とバケモノのような面子。捕まえている=シンボルが無いとグラードンがワルビアルになる辺り同一個体なのかよと突っ込みどころは多いが、基本的にどの面子もヤバイ

このうち持ち物固定かつ唯一努力値無振りのゲンシグラードン(個体値ランダム)、ムゲンダイマックス故にアホみたいな強さの為かレベルが60で抑えられているムゲンダイナはまだマシなのだが、残りは本気で殺しに来ているとしか思えない

 

倒すと太古を選んだ場合は(カイオーガイベントを見ている場合)レックウザイベントのキーとなる萌葱色の玉を、救世を選んだ場合はダンデと話すことでザシアンザマゼンタイベントのキーとなる妖精の剣を、異界を選んだ場合はコスモッグイベント後にリーリエに渡すことでウルトラワープライド(=UBとネクロズマ入手)が解放される光の欠片をそれぞれ入手出来る他、500000というふざけた額の賞金が手に入る。勝てるならば1日1回戦えるので倒すだけであまり金には困らない

 

 

 

「……伝説のポケモン達も、ワクワクしてるんだ

君みたいな凄いトレーナーと戦ってみたいって

だから……行くよ!」

ウルトラプラズマ団イベント後、全部の再戦を終わらせた後、もっと強く!を選ぶことで更なる再戦……超本気モードと戦闘が可能

遂に通常の切り札であったサザンドラとギルガルドすらリストラされ、伝説厨と化した最強モードとバトルすることとなる。何とトレーナーの癖にボールから出すのが1匹だけであり、他はそれぞれ特殊演出で降臨する様はさながらボスラッシュ

 

その手持ちは以下

 

メガレックウザ        Lv88 E:いのちのたま

ザシアン(けんのおう)     Lv90 E:くちたけん

メガディアンシー       Lv78 E:ディアンシーナイト

ミュウ            Lv75 E:レッドカード

ウルトラネクロズマ      Lv95 E:ウルトラネクロZ

イベルタル(キョダイマックス) Lv90 E:じゃくてんほけん

 

メガシンカ複数居るじゃん!と言いたくなるが、メガレックウザは最初からメガシンカ状態で空から降りてきているので、彼がメガシンカさせているのはディアンシーのみ

開幕デルタストリームの嵐と共にメガレックウザが天空から降り立ち、レックウザを退けた瞬間に咆哮と共にザシアンが現れて彼の背後に突き刺さった剣を引き抜いてフォルムチェンジ、ザシアンが立ち去ったらぴょこんとトレーナーの足元からディアンシーが顔を出してメガシンカ、ディアンシーが倒れた所にゾロアークが現れたかと思うやその姿が崩れてミュウとなり、ミュウが飛びさった瞬間空間が避けてウルトラネクロズマが光と共に降臨、ネクロズマが倒れた後、彼が投げたボールからイベルタルがキョダイマックスして降り立つという感じで演出がかなり凝っている。その分長い

 

そんな伝説厨モードに勝つと、999999円というカンスト額っぽい賞金と共にとある笛を貰える

笛ということで、アルセウスイベントの為の天界の笛かと思いきや……

 

犬笛である

吹くとトリミアンのシンボルが寄ってくるというそれだけのジョークアイテム、犬笛である

いや天界の笛じゃないのかよ!と死闘の果てに突っ込んだプレイヤーは数知れない。天界の笛自体は入手できるのだが、それは彼とは無関係の場所で無関係のイベントにおいてである




因みに当たり前のようにキョダイマックスイベルタルとかいうバケモノが誕生してますが、この世界では伝説のそれなりの多くがキョダイマックスを持ちます(独自設定)
禁止伝説のキョダイマックスに関しての特例として、特定タイプの技ではなく、専用技(他ポケモンに配られていたとしてもそのポケモンの象徴的技であれば専用技とする)のみがキョダイマックス技となり、その他の技は全て通常のダイ○○となります
つまり、こんな技構成のポケモンは本来居るはずもないが、例えば ドラゴンクロー、りゅうせいぐん、あくうせつだん、ハイドロポンプを覚えたパルキアがキョダイマックスした場合、技はダイドラグーン、ダイドラグーン、キョダイダンゼツ、ダイストリームとなる。その為、キョダイ技と同タイプのダイ○○の併用が可能です

キョダイシュウエンが頭おかしい性能してますが、残りも大体あんな壊れ技です
以下、大体こんなのの例
せいなるほのお→キョダイセイエン(威力120、相手を火傷にし、手持ち全体の瀕死含む状態異常を回復してHPが半分以下の場合半分にする)
エアロブラスト→キョダイレップウ(威力120、急所ランク+1、まきびし等を相手に向けて吹き飛ばし【自分フィールドから撤去し相手フィールドに設置する】、オーロラベールを貼る)
あくうせつだん→キョダイダンゼツ(威力100、かならず急所に当たり、攻撃後にダイウォール状態になる。連続で出しても失敗しない)
ときのほうこう→キョダイホウコウ(威力120、優先度+1、100%の確率で相手を怯ませ、相手がこのターン交代していると威力が倍になる)
シャドーダイブ→キョダイハンカイ(1ターン目で相手ごと姿を消し、2ターン目に相手を瀕死にする。姿を消している間にダイマックスが解除されるかダイマックス相手には無効)
デスウイング→キョダイシュウエン(威力80、与えたダメージの3/4を回復し、相手の能力変化を奪い取る)
ジオコントロール→キョダイセイメイ(威力50、手持ち全体のHPを1/2回復し、全能力を1段階上げる)
コアパニッシャー→キョダイカンゼン(威力200、バトル終了まで相手のポケモンの特性を無効にしダイマックスを禁止する。交代しても効果が残る。既にダイマックスしている場合は強制終了)


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扉 ポケモン紹介コーナー

アズマくんの持っている手持ち他のポケモンについて紹介する扉です

読んでも読まなくても大丈夫です


ベル(イベルタル) 破壊ポケモン 全国図鑑No.717 性別:(精神面は)♀

タイプ:あく/ひこう 226/231/195/231/198/149(計1230)

特性:ダークオーラ(自身が居る限り全悪タイプ技の威力が4/3倍になる。BGMが『イベルタルたちとのたたかい』に上書きされる) 性格:むじゃき(D↓S↑)

ダイマックスレベル:MAX キョダイマックス:可能

習得技:デスウイング/あくのはどう/ゴーストダイブ/ふいうち

 

本作のメインヒロイン。イベルタルのベルちゃん。ナンテン屋敷の地下でとある理由から3000年の間破壊の繭のまま水晶に包まれて眠っていた伝説のポケモン

1000年周期で目覚めるとされるイベルタルではあるが、この個体は3000年目覚めておらず、それ以前に活動した記録も残されていない(最終戦争の際、イベルタルの存在が記録されていない)為、3000年前のポケモンではあるのだが、その精神には大分幼い面がある

というよりも、生まれてこのかたほぼずっと繭の状況で一生眠り続けるはずであった為、精神的には人間的に言えば7歳前後と伝説としてはとても幼い

 

ずっと繭のまま眠っていたが、半死半生で半分幽体であったが故に繭の中に干渉できた病弱な頃のアズマと精神感応。幼いイベルタルは、その外部からの刺激に心を動かし、彼を護ることとした。その手始めとして病原体を破壊、その部分に自身の羽根の力を流すことで、病を直しつつ半分幽霊な状態を終わらせた後のリンクを維持、以降ずっと彼を見守ってきた

その為、アズマの事は本人よりも知っており、後から干渉してくる伝説達にどろぼーねこ!と言っている。その影響かアズマからは常時弱いダークオーラが放たれている

 

それでも、自分が何らかの理由でずっと繭のまま眠っているべきであることは覚えており、半分繭で眠ったままずっと居る気ではあったイベルタルだが、話しかけてくれた大好きな少年がジャケットの男達に殺されかけた事で激怒。何か使命があった事は忘れ、彼を助ける為だけに繭から目覚め、現世に復活

以降はもう繭には戻れないので彼の投げたボールに我先にと飛び込み被捕獲。ちょっと憧れていたモンスターボールの中のポケモン生活を謳歌している。何時でも出られるが逃げる気は欠片もない

 

一人ぼっちの繭に話しかけてくれていたしその後見守ってきた為、トレーナーであるアズマの事は初期からなつき度が限界突破するくらい大好き。旅立つときにしっかり挨拶していくところとか惚れる。幼さ故に加減を知らず、その好意は最早病んでいるレベル

その為、基本的にアズマの言うことは素直に聞くが常時リンクによってトレーナーの状況が分かってしまうため、彼が大変だと思いこんだ場合に勝手にボールから出るし大好きなトレーナーを護る(と本ポケモンが思っている)ために動く

だが、幼いイベルタルは、種族としては伝説のポケモンである自分が人間や一般ポケモンに向けて全力を出すまでもないと良く分かっておらず、基本的に対処は全てオーバーキル。相手を石にしたりしてしまう

 

因にではあるが、この世界においてはイベルタルは680族ではなく、上記のように1230族である。他伝説も似たようなもの

 

 

 

シア(ザシアン) 強者ポケモン 全国図鑑No888 性別:♀

タイプ:フェアリー/はがね 192/300/215/180/215/198(けんのおう、計1300) 172/210/195/160/195/150(れきせんのゆうしゃ、計1120)

特性:ふとうのけん(登場時と相手がダイマックス時に攻撃が上がる) 性格:いじっぱり(A↑C↓)

ダイマックスレベル:なし キョダイマックス:ダイマックス不可

習得技:じゃれつく/アイアンヘッド(きょじゅうざん)/せいなるつるぎ/ミストフィールド

注意:剣盾ではザシアンはミストフィールドを覚えません。この技欄のミストフィールドは、彼女等が出てくる時に霧が出てきていた事の再現のためだけのものです

 

アズマがガラルにキャンプに行ったときに出会った伝説のポケモン。イベルタルの気配を感じ、魂だけで飛び起きたものの、駆けつけてみれば悪くない少年だったので普通に心を許し、共に過ごしてみたザマゼンタの姉

彼ならば大丈夫だろうと思い、ちょっとだけ見守りつつ、彼がカロスに帰ってからはまた微睡みの森奥地で眠っていたようだが……

因にではあるが、れきせんのゆうしゃ状態では赤い毛か編まれているが、あれはアズマがボサボサになるぞと気にしてトリミアンの要領で編んだもの。本ポケモンは良いですねと気に入ってそのままにしている



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第三章 "Z"acian(ザシアン)機巧(からくり)のバングル
ミアレシティ


そして、アサメでの出来事から、数日が過ぎた

 

 「有り難う、ライ」

 『フリャ!』

 応!とばかりに羽根を鳴らすフライゴンが飛び去っていくのを見送り、アズマはその街の門を見上げた

 

 「っておいおい、暴れないでくれよ、ベル」

 何であのフライゴンなんて使うんだとばかり不満げに揺れるボールを撫でつつ

 

 此処はミアレシティ。カロス地方の中心。多くのトレーナー、いや、それだけではなく全てのカロス人にとって憧れの煌めく大都市。アズマは、流石にそんなところにイベルタルで乗り込むとか大混乱必至である為、フライゴンの力を借りてそこまで来ていたのであった

 フライゴン自体は、執事に返したのだが。黒いハニカムポケモンだけではない。メガシンカポケモンと伝説によってまた荒れに荒れてしまったナンテン屋敷。流石に、そんな屋敷を執事が何とかしてくれようとしてくれている間に、特に執事のポケモンのなかで素早いフライゴンをアズマが借りたままというのはどうにもということで、ボールを返還した

 

 『(大きい……)』

 「何時見ても凄いねー」

 そのアズマの横で、一人と一匹が感嘆の溜め息を溢した

 金の髪をトリプルテールにした少女、シャラシティジムリーダーのコルニ。そして、アズマのバッグから顔を覗かせたディアンシーである。女の子としても憧れの大都市、それこそがミアレシティ

 

 『(さあ、いきますわよ!)』

 珍しくテンション高めに、ディアンシーがアズマのバッグの紐を引っ張る

 ボールには入らず、その為アズマのバッグは半分くらいディアンシーに占拠される形となっていた

 

 「そうだな。行こうか、姫」

 『(まずはローラースケートですわ!)』

 「覚えてたのか姫……」

 ポケモン用のローラースケートとか、買えるとしてミアレだけだと言っていた自分を思い出し、アズマは苦笑する

 『(さあ、スケートですわよ!)』

 「楽しそうだな、姫」

 あれ?ポケモン用のローラーって本当に売ってるのか?というか買えるのかそれなんて算用しつつ、アズマは上の空で返事を返す

 「ポケモン用?ミアレのカロスローラースケート協会本部なら、一応置いてあるとは思うけど」

 「あるんですか本当に!?

 半分くらい冗談で言ってましたよおれ」

 「というか、この子って足がないから、そこなんだよねー」

 「ですね。姫は二足でも四足でも無いんで、どうなるかって話ですね」

 話しつつ、アズマは自分の靴にローラーブレードを装着する

 

 「気合い十分!って感じだね」

 「そりゃミアレですよミアレ。舗装も完璧、道も広くて長い、ローラースケートの聖地でしょうこんなの。というか、協会本部もありますし」

 門の先に広がる大路を遠く眺め、アズマは呟く

 「Nさんやカルムさんも来れば良かったのに」

 

 そう。此処に来たのはたった二人と、そのポケモン達のみであった

 この先の大会が終わったら遂にジムが始まっちゃうから修業にしてもそこまで時間はないと言っていたカルムも、そしてNも、アサメに残ったままである

 リーグバッジを8つ集めきったもの達による大規模大会、カロスリーグは1週間はかかる本物の一大イベントだ。その間は全ジムが機能を停止しているので、来れないなんて話はないのだが……

 「いやいやいや、実際に会話してみると純粋な人だって分かるけど、普通の人からしたらNって危険人物だからね!?」

 『(ステキなヒトですわよ?)』

 「ポケモンから見ればそうかもしれないけど!?」

 「ふふっ」

 そんな風に人と話すこと自体が少なくてアズマは思わず笑う。アズマにとって、ロクに話したことがあるのは友人のチナと父親、そして執事を除けばほぼポケモン達だけだったのだから

 

 「あーっ!あのときのダッセーのかスッゲーのかわかんない兄ちゃん!」

 そんなアズマの思考は、前方から響く声に中断された

 「……ショウブ?」

 王冠のような模様になるようギザギザの金色線の入った黒い帽子を被った少年。その帽子には見覚えがあり、そして帽子の印象はともかく、少年の顔にも見覚えがあった。アサメを過ぎたところで出会い、そしてあのジャケット相手に一度共闘した事もある少年、ショウブである

 

 「そう、天才ショウブサマだ!」

 「こんな所で会うなんてな」

 たしか彼は、ミアレに共に旅する仲間を置いて、ミアレジムに挑戦する為のバッジを取りに行った帰りに出会ったのだったか。ならば、今居るのはまさかと思いつつ、アズマは声をかける

 「ショウブは……まさか、参加者か?」

 「そうだぜ!

 って言いたいんだけど、6つしかバッジ取れなかった。兄ちゃんは?」

 アズマより数個年下の少年は駆け寄りながらそう聞き返す

 「3個、かな。挑戦するまでの修業が長くて、あんまり」

 「半分じゃん、ダッセーの」

 「ん?そうかな」

 「兄ちゃんの友達?でも……」

 そして、横から話に突っ込んできたコルニの前で固まった

 

 「ににににに兄ちゃん!?」

 「どうしたショウブ」

 「ここここここコルニさんじゃん!?」

 「ああ、そうだな」

 慣れきったアズマは、さらっと答えを返す

 「何で居んの!?」

 「姉弟子だから?」

 『(ししょーですわよ)』

 ディアンシーに窘められ、アズマも言い直す

 「間違えた、師匠だ」

 「ししょー!?」

 すっとんきょうな声が、ミアレの空に響いた

 

 

 「んで、兄ちゃんはあの後シャラシティジムに何とか挑戦して勝った、と」

 「んで、メガシンカだ何だって話から、ちょっと修業させて貰っていたんだ」

 此処はミアレ。かつてフラダリカフェと呼ばれた、全体が赤い内装のお洒落なカフェ。オーナーのフラダリ自身は自身がフレア団であった事を明かして最終兵器を起動し、そして行方不明となった。フラダリカフェもラボへの通路があるしとその後閉鎖されていたのだが……

 何だかんだカフェそのもののファンは割と多く、好事家がフラダリラボ部を国際警察が捜査しきり立ち去った後にカフェを買い取って営業を再開したらしいのだ

 

 「赤っ!気持ち悪いぜ、兄ちゃん」

 「おれは割と好きなんだけどな……」

 抗議する少年に、頬を掻きながらアズマはぼやいた

 「ってかフラダリってわるい奴だろ?」

 「悪い人だよ」

 「じゃなんでそんなヤツのカフェにわざわざ行くんだよ兄ちゃん。コルニさん達とスケート協会行こうぜ」

 「……悪い人だよ。許しちゃいけない人だ

 でも、でもさ。おれ、フラダリさんを尊敬してたんだ。最終兵器でポケモン達を、カロスを、全部……って。そんなのは許せなくて、でも

 分かりたいって思いと、分かれないって思いがあってさ。まだ……尊敬はしてる」

 ぽつり、と心をこぼして

 

 「マスター、ミルクコーヒー二つ!と、ポケモン用にきのみブレンドを……」

 ディアンシーはバッグから顔を覗かせている。流石にショウブのポケモン達はデカイかなと思い

 「とりあえず2つ!」

 アズマはそう頼んだ



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フラダリカフェとカロスリーグ

「んで、にぃちゃんもやっぱり?」

 アズマの頼んだ(今回はやっぱり年長だということでアズマの奢りである)ミルクコーヒーを飲みながら、帽子の少年は言葉を紡ぐ

 

 「まあ、ね」

 当然だろ?とアズマは返す。ショウブには聞かない。いや、当然聞く必要なんて無い。その頭の脱がない帽子が全てを物語っている

 「カロスリーグ。見に来たんだ」

 「エキシビションとれればなー!」

 帽子に手を当て、少年は呟く

 「やっぱり取れなかったのか」

 「取れないってあんなの!抽選ナンバイだよ!」  

 ダン!と机を叩いて吠える

 

 その頭の帽子こそ、少年の見たかったものを示している

 カロス地方とはそこそこ近い地方、ガラル地方において10年無敗の伝説のチャンピオン、ダンデの王冠のような帽子が

 余談にはなるが、此処カロスチャンピオンであるカルネさんは3年目がもうすぐ行われるカロスリーグで終わり、次シーズンから4年目に突入するくらい。ガラルを除いた最長が、ホウエンチャンピオンであるダイゴの6年なのだから、10年チャンピオンやっているというのが如何に恐ろしいかそれだけで分かろうというものである

 

 「……えっと、確か600倍?」

 「ろっぴゃ……マジかよにぃちゃん!」

 「確か、ね」

 言っておくが、決して数十人程度を選ぶ抽選ではなかった。トレーナーカードIDを打ち込むことで1人1回だけ抽選が行え、当選率は当初1/100くらいではないかと言われていたそのリーグ鑑賞券エキシビション日は、推定枚数では10000枚はあるはずなのだ。実は皆からそんな人気がない為予選二日目の券だけ(予選初日はエキシビションと開会式があり、本戦からは毎回激戦が繰り広げられるものの、予選二日目半分くらい消化試合なのである。それでも面白いけど、人気は他より低い。トーナメント式フルバトルな本戦と異なり、予選はスピード重視で勝率が上から4名が勝ち上がるグループ総当たり1vs1。出すポケモンの変更は無し。言っては悪いが、初日の数戦が終わった時点で何となく誰が残るのか分かってしまう)は残り僅か表記……残り5%を切った時に出る表記がありながら300枚ほど残っていた事をアズマは覚えている

 日によってスタジアムに入れる人数が変わる訳ではない為、それだけで最低でも6000人以上、それでも少ないため恐らくは10000を越える数の人間がスタジアムに入れるのだろう。それだけの数の券の抽選倍率が何と600倍、抽選が当たり終わるまでたった8分。実にその8分の間に600万人がエキシビション見たい!とカロスリーグの予約サーバーに押し掛けたことになる

 お疲れ様です、とPCを支えていたのであろう電脳の戦士なポケモン達に心の中で意味もなく労いながら、アズマは買い替えた赤いホロキャスターを開く

 

 「最新型じゃん」

 「前のが壊れちゃって、良い機会かなと

 うん、602倍。今のチケット相場は……いよいよって事もあって大体12倍だな」

 「ん?ちょっと安くなったの?」

 「そりゃそうだろ?今から即決で落札して、カイリュー速達でシンオウ地方までチケット送って貰ったとして、それでももうそこからエキシビションの日までにカロスに来れるだけの航空便の席は取れないだろ?そういうことで、今から落札する人間はやっぱりどうしてもい行きたいカロスの人か、何とか来れないこともないホウエンの人か……ガラルはもう間に合わないかな……って感じ」

 「あ、そっか」

 大手旅客会社ラティアス航空のカロス地方ミアレ空港行き便はエキシビション前日と決勝四日前~決勝前日分は全地方発が売り切れ済である。当日便では重要な場面に間に合わないので空きはあるが、乗る意味がそもそもあまり無い

 「後さ、目先の金に目が眩んでるけど、取れた皆だってやっぱりさ、見たいだろ、ダンデさんのエキシビション

 いや、テレビ中継はあるよ?チャンピオンエキシビション、ダイゴvsアルフみたいに機材が壊れて録画がおじゃんとか無いだろうし、ネットで見返せるよ?それでもさ、直に見たいだろ普通」 

 補足だが、ダイゴvSアルフはカイオーガすら追い込んだダイゴとメガメタグロスに対し、ぶっつけ本番のゲンシカイキで挑んだ結果、カイオーガにより室内に雨が降ることまでは想定していたが室内に暴風雨が吹き荒れることまでは想定してなかった録画と放送機材が軒並みゲンシカイオーガによって吹き飛ばされた結果動画が残っていない

 だが、流石にダンデvsセレナではそんな事は起きないだろう。ゲンシカイオーガクラスのバケモノは有名人である互いの手持ちに居ない。強いて言えばキョダイリザードンくらいだが、とても残念なことに、ダイマックスにはガラル粒子なるものが必要らしく、カロスではまず見せられないだろうという事なので出てこないだろう

 

 「まあ、一応テレビでは見られるし」

 「でもやっぱ、本物見たいのになー。だって、テレビ越しに見るだけでワクワクすんじゃん

 『リザードン、キョダイマックスだ!』ってさ!」

 俯いて目を瞑り、三本指を立てた手を天に掲げ、その少年は叫ぶ

 普通ならばカフェでやればちょっと迷惑ではあるが、周囲の人の目は優しい。何故ならば、大体皆ダンデのファンではあるのだから。少年が憧れてリザードンポーズを取るくらい温かく見守る。ダンデとは、それだけのカリスマなのだ

 

 「でもまあ、今回はダイマックスは無しだろうし」

 「そこなんだよなー。幾らチャンピオン・ダンデでもキョダイマックス無しってなるとさー」

 「その分、セレナさんもメガシンカをするか怪しいしな

 ってかショウブ、お前どっち応援してるの?」

 「モチロン、両方だ!」

 「だよな!」

 アズマとてそれは同じ。両方とも憧れの人で、だから応援したいに決まっている

 同意の意味を込めて軽く握手し

 『(バカは引き合うんですのね……)』

 なんてテレパシーが飛んできて、すぐに離す

 

 「んでさ、話は変わるんだけどさにぃちゃん。にぃちゃんはあのシンカ出来るのか?」

 それで一区切り付いたからだろうか、突然ショウブが語るのは全く別の話題

 「ああ、メガシンカか……。そういやショウブは?」

 「ふっふっふっ

 何とにぃちゃんとそっちのポケモンから貰ったダイヤモンドから腕輪作って貰ってさ」

 自慢げに見せるその腕には、金属製のリング。黒光りするシンプルなそれに、桃色の宝石が輝く

 「6つめのジムに挑戦する時から、遂に自由に使えるようになったぜ!」

 「凄いなそれは」

 アズマとて、やろうとしたことはある

 そして、断念した

 

 「おれは……無理だったよ。メガシンカ出来るポケモンが、コルニさんに聞いても手持ちに居なかった」

 「何だよ、だっせーなにぃちゃん」

 「……でも、お前に負けない凄いものは、おれとギル達にもあるんだぜ、舐めないでくれないか」

 そのアズマの言葉に、にっと好戦的に、嫌味無く年下の少年は笑う

 

 「なら、そのにぃちゃんのスゴ技、オレサマとリザードンが受けてやるぜ!」

 「……良いぜ、やろうじゃないかショウブ!」

 『(せ、戦闘狂が居ますわー!)』

 ディアンシーが叫ぶなか、受けて立つとばかりにボールから飛び出すニダンギルと共に、アズマは好戦的に笑い返した



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vsメガリザードン

ポケモントレーナーのショウブが、勝負をしかけてきた!

 

 「行くぜ、にぃちゃん!」

 此処はフラダリカフェの地下。かつてはフラダリラボと呼ばれた場所であり、今ではカフェの利用者の為にバトル用の場所として入り口近くが解放されている

 流石に、いくら機材は運び出された後だといっても、ラボ深部まではカフェ店員の監督が届かないので通常は行くことは出来ない

 実際、バトルに使われることも多いのだろう、バトル用に整えられたその場所の近くには、観戦しながらコーヒーなど飲めるようにテーブルと椅子まで完備されている

 お、バトルか?とその椅子にカップを持ってきて座る観客おじさんに軽く会釈して、アズマは改めて年下の正念に向き直る

 

 「バトルは1vs1、軽くで良いよな?」 

 「良いぜ、始めよう!」

 言いつつ、少年はくるりとターンし、ビシッ!と音が出た気がする程にしっかりと手を上に上げたポーズを決める

 リザードンポーズだ。それに合わせ、アズマもホロキャスターを左手に構え、自撮りっぽく腕を伸ばして……

 「今回は任せた、サザ!」

 「未来のチャンピオンタイムだ、リザードン!」

 ダンデ最大の好敵手の真似事をしながら、アズマも今回ちょうど良いだろうドラゴンポケモンを繰り出す

 ボールエフェクト機能は、あくまでもあの時フライゴンのボール(スーパーボール)とモノズのボール(ゴージャスボール)とゾロアのボール(ダークボール)とヒトツキのボール(モンスターボール)が全部違う種類のボールであるが故に、繰り出すタイミングでボールの種類からゾロアがイリュージョンしている事がバレないようにするための工作。一応数日とはいえ知り合いであるコルニ相手であるから、きっと気がついても正々堂々来てくれると信じてはいたが、出来ることはしようとアズマはその工作を行った。今回はその必要がない為、モノズのボールからは外してある

 前と違ってキラキラしくないエフェクトと共に、小柄な竜が地面に降り立つ

 対するは、炎のごときオレンジの巨竜。絶対的にはそんなに大きいわけではないが、モノズからすれば数倍の巨体だ

 

 更に、変化は続く

 少年が、腕のリングを翳す

 そこに取り付けられた桃色のダイヤを外し、自身のポケモンへと投げる。そのダイヤの下から現れるのは、もうひとつのダイヤモンド

 投げられたダイヤを、体の割には小さな竜の鉤爪がしっかりと掴み……

 「今こそ必殺の、メガシンカァァァッ!」

 『ヴァッフ!』

 一人と一頭の声が重なりあい、一つの絆を産み出す

 二つのダイヤモンドの間を走る光が、虹色の二重螺旋を走らせ、竜の姿を変えて行く

 

 「進化の光!メガリザードンッ!エェェェックス!」

 『ルゥゥッ!ヴァァァァッ!』

 口の端から青い炎を吹き出し、黒く染まった竜が天を(といってもあるのは天井だが)向いて咆哮する。メガリザードンX、黒きメガシンカ。あの日一人と一頭が見せた奇跡の姿は、確かに彼等の血肉となり、眼前にその偉姿を見せる

 

 だが

 「行けるな、サザ」

 『ノッ!』

 アズマとて、あの日から大きく変わった。ほぼ奇跡のメガシンカに頼りきりで、ショウブのリザードンなくしてメガアブソルに立ち向かえなかった時とは違う

 命のオーラを、イベルタルの存在を認識してから、更に扱いやすくなったそれを繰り、モノズと共に眼前の竜を見据える

 モノズにも震えはない。分かっているのだ。これはジャケットの者達との戦いとは違う。楽しいバトルなのだと。だから怯えず、逃げず

 アズマは、腕の黒水晶に触れる

 微かに輝く、プリズム光。色の定まらぬそれが、濃い紫へと変わり

 

 「行くぜ!リザードン!超必殺!」

 言葉に合わせ、奇跡の竜は巨大な炎を空へ向けて放つ

 炸裂する大の字。『だいもんじ』のようにも見えるが、だがしかし、明らかに見当外れの場所への炎。実際に、モノズがいるはずもない場所で大の文字を作り出して赤い炎が燃えている

 だが、それを馬鹿にする気はアズマには無く

 寧ろそれこそが、彼の言う超必殺の布石だろうと注意し、一度上げたその手を前に構える

 

 「スーパー!フ、レ、アァッ!ドラァァァァァァイブ!」

 「解き放て、全力を越えて!『アルティメットドラゴンバーン』!」

 少年のその宣言と共に、黒き巨竜(メガリザードン)は自分の放った大の字の炎へと飛び込む。その体を炎が焼き……そして、その口の炎を受けて、青く、大きなものへと変わって行く

 それに対するモノズも、大の字の炎へ顔を向け

 

 全身を燃やして燃え盛る蒼き炎そのもので出来た竜と化し、奇跡のメガシンカを遂げた竜が、大地に立つ仔竜へと突貫する

 それを、アズマが竜のアギトのように手を広げた瞬間、モノズの口から放たれた同じく炎を思わせる紫の竜の姿のエネルギーが迎え撃った

 「いっけぇぇぇぇっ!リザードン!」

 相手トレーナーの叫び

 無意味なんて事はなく、ポケモンにとって励みとなるそれを、アズマはしない

 何故ならば、何よりも強く、Z技の最中のトレーナーとポケモンは結び付いているのだから。叫ぶ必要はほぼ無い

 ただ、信じて待つ

 

 そして、二つの竜の姿が消えたとき

 メガリザードンは、その鉤爪をモノズの眼前30cm程の場所に振り下ろした姿で、地面に降りていた

 

 「……ふう」

 『モノッ!』

 「うん、良くやってくれた、サザ」

 息を吐き、アズマはモノズをボールへと戻す

 「思ってたよりすげぇなにぃちゃん。まさか、あのスーパー『フレアドライブ』が受け止めきられるなんて。ジムリーダーにだって通用したんだぜアレ」

 『ヴァッ!』

 自慢げに、炎を軽く吐くリザードン

 「ま、オレサマとリザードンはまだまだやれるし、ラクショーなんだけどな」

 けらけらと、少年は軽く笑い

 

 突然陰った電気の明かりに、へ?とすっとんきょうな声を上げた

 『ヴァッ!?』

 「リザードン!?っ!うわっ!」

 桃色のダイヤの光が点滅し、赤黒い光を得て怪しく輝く

 黒きメガシンカが解け、もう一度螺旋が走り……あの日見たもうひとつの姿、大きな一角を持つ巨翼のリザードンへと姿を変える

 「ななな、何が……」

 なんとなく、アズマには予想が付いていた。何故ならば、あの瞬間、とあるボールが揺れたのだから

 ことん、と見ていた観客の頭がテーブルに落ちる。そのポケモンが居る、ただそれだけの事が、意識を奪う

 紅の凶鳥イベルタル。変化したリザードンが産み出す燃え盛る局所的に全てを晴らすがタイプエネルギーが少ない為当たってもダメージは少ない火球も、天井のライトも覆い、カロスの伝説がその翼を広げていた

 

 「……いいぃぃいいいいイベルタルぅっ!?」

 焦ったように少年が叫び

 「にぃちゃん!一緒にこいつを……止め……」

 アズマを振り向いてそう言ってくるショウブに、心配ないよ、とアズマは首を振り

 

 『イガレッ!』

 「大丈夫、ベル

 ショウブだって、悪気がある訳じゃないし、おれを馬鹿にした訳でもないんだ。だから、怒ってくれなくても良いよ

 それにさ、もうラクショーじゃないって、分かったはずだしな」

 ボールを翳す

 此処に自分が居るにも関わらずラクショーと言われてキレたのであろう伝説は、ならまあ良いよとばかりに素直にその姿をボールの中に消した

 

 「はへ?」

 『(こ、殺されるかと思いましたわ……)』

 イベルタルが現れた瞬間にバッグの中に顔を引っ込めて震えていたディアンシーも顔を覗かせる

 「あれ、イベルタル……だよな?」

 「ああ、ベルだな」

 「……にぃちゃん、イベルタル、何処行ったの?」

 「勝手に出てきたからボールに戻したな」

 「にぃちゃん、ボールって自分のポケモンしか戻せなかった……よな?あとは、ポケモンの登録とか……」

 「マスターボールに入れて誰も手が出せない何処かに二度と甦らないように封印しろと言ってきたカロス協会には、コルニさんとカルムさんがひたすら頭を下げてくれたよ

 『あんな風に神話では世界を終わらせるとか言われてますけど大丈夫なんです!街中で大虐殺とか起こさないです!大丈夫です安全です伝説はあくまでも伝説であって彼女は優しいポケモンなんです!寧ろ引き離したら暴走するんでおれの手元に置いてやって下さい!』って

 あの二人には頭が上がらないよ、本当」 

 『(最後の一言に欠片も安心出来る要素がありませんわ!?)』

 「……イベルタルが手持ちって、マジ?本気(マジ)のマジ?」

 「セレナさんがゼルネアス連れてるくらいの信憑性のマジ」

 「何で、それでバッジ3個なのにぃちゃん……」

 驚愕の眼で、少年はアズマを見る

 

 「いや、ベルなら正直勝てると思うけどさぁ……流石に反則、ズルだろ」

 イベルタルのボールを撫でながら、アズマは言う

 「ん?今年冷酷仮面様だけで全バッジ取った凄い人来たよ?」

 「冷酷仮面……ってああ、ガラルで確認されているあのガラルでは何故かフリーザーと呼ばれてる謎のポケモ……」

 その言葉に、アズマは教えてくれた金髪の少女に父の資料で見た知識を返し

 「ってコルニさん!?」

 数秒して、その少女と暫く別行動していた事に気がついた




おまけ、トレーナー紹介
冷酷仮面ニキ
今年のカロスリーグに挑戦するモブトレーナー。手持ちはフリーザー(ガラル)以外ジムで一切使わなかった為不明
フリーザーに合わせて仮面を付けており、高笑いする謎の仮面タキシードとして、カルト的な人気が出ているとか。因みにタキシードの色がフリーザー(原種)に合わせて水色であり変態仮面の名を恣にしているが、別に犯罪などは犯していないし幼子に優しい正義の仮面である
ファンの間ではフリーザー正義の味方説とフリーザー幼子のカッコいいの基準をねじ曲げて歪んだ道に進ませる冷酷な悪説の相容れぬ二つの論者達が日々戦っている


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再会、チナ

ギラティナ語分かる頭の良い読者の皆様多いっすね…
他もポケモン語にしてやろうかと思いつつ、それじゃあ何が言いたいのか全く分からないだろうと思ったのですが、普通にポケモン語で問題なかった…?


「うん、その子の為のローラースケート、見つけてきたよ」

 「本当ですか!」

 『(やりましたわ!)』

 その為に、ついでに遂に始まるカロスリーグに、ホテルの予約など大体どこも一杯であるが故に、カロスリーグ協会に泊まれないかという打診に分かれていたコルニは、その可愛らしいが同時に凛々しさの強い顔を綻ばせて言葉を紡ぐ

 「はい、ローラースケート」

 『(これで、遂にスケートデビューですわ!見せてもらった映画みたいに雪の上で滑りますの!)』

 「姫、それはフィギュアスケートだ」 

 ズレた事を言うポケモンに笑いながら、アズマは抱えるには大きいその三輪の靴を受けとる。ディアンシーに合わせたが故か、サイズはなかなかのもの。ディアンシーの1/3くらいのサイズはあるだろう。人間の基準では過剰だが

 

 『(早速外ですわ!)』

 そう言ってバッグを飛び出す小柄なポケモン

 アズマはその頭を撫でて、コルニに改めてお礼を言おうとして

 そうして、その存在に気がついた

 

 長い金の髪を頭の上で結い、灰色の服を纏う女性。その服には、連なる鱗を思わせるフリル飾り。普段見る写真とかなり違う印象で

 けれども、アズマがその人を見間違えるはずは、流石に無かった

 

 「……あ、あなたは……」

 震える声で、アズマはあまりにもわかりきった事を聞く

 「あたしはシロナ。ポケモンの神話を、あなたのお友達と調べている物好きなトレーナーよ」

 「やっぱり、シロナさん!?」

 その名前を知らぬものは、このカロスひろしと言えどもそうは居ないだろう。メガシンカ研究の第一人者プラターヌ博士等のこの地方の有名人と比べてもなお知名度があるかもしれない

 その名をシロナ。シンオウ地方ポケモンリーグチャンピオンにして、神話研究者。伝説ポケモン研究者であるアズマの父ナンテン博士とは同業に近い、生ける伝説の一人

 父から話を聞いていたシンオウ神話の第一人者が、其処に立っていた

 そして

 

 「ほら」

 「あっ……」

 そのシロナに背を押され、シロナの背後に隠れていた筈の少女が少しだけつんのめりながら、アズマの前に現れる

 綺麗な銀の髪。何時の日かの再会を願って、あの後誕生日プレゼントとしてカイリュー便に頼んで郵送して貰った六枚の花弁を称えた桃色の花の髪飾りが前髪に映え、あの日と変わらない、どこか不安げな眼差し

 体は病弱だったが故に同年代ではかなり小さかったアズマより更に小さかった時期からすればそれなりに成長し、確かに女の子なのだと分かる柔らかなシルエットになってはいても、それでも見間違える筈もない

 「……また、会えたんだな、チナ」

 「とっても久しぶりです、アズマさん」

 チナ。アズマにとって、数少ない人間の友達

 

 考えてみれば、自然なことだ。暫く、シロナさんについてシント遺跡に行っていたから電波がと彼女は言っていた。ならば、シロナの弟子みたいな事をしているというのは想像に難くない。そのシロナが此処ミアレに来ていたならば、着いてきていても不思議はないだろう

 

 「元気してた、チナ?」

 「はいです。憧れのシロナさんの助手にもなれて、元気一杯です。アズマさんのお陰です」

 「おれは、何にもしてないと思うけど」

 『(そんなこと無いでしゅ!)』

 その声は、銀髪の少女の被った若草色の帽子から聞こえた

 違った。若草色のポケモンからだ

 

 「テレパシー?それにこのポケモンは……シェイミか」

 「はいです。アズマさんがくれた花束で、この子が寄ってきて」

 『(強い感謝の香りがしたでしゅ)』

 「この子……シェイミの伝承を調べる縁で、シロナさんとも知り合えたんです。だから、全部あの日、わたしに無茶してでも花束をくれたアズマさんのお陰です」

 はにかむように笑って、あの日のように、雪色の少女はその小さな手を出す

 「あの日、わたしに感謝の気持ちを伝えてくれて、とってもありがとうです」

 「おれの気持ちが、君の力になれたのならば。こちらこそ有り難う、チナ」

 アズマはその強くすれば壊れてしまいそうな手を、優しく握り返した

 『(ミーに感謝するでしゅ!)』

 

 「そういえば、フカマルは?」

 ふと、アズマは古い知り合いを思いだし、そう問いかける

 「ごめんなさいです、今日は連れてきてないです」

 返ってくるのは、心底申し訳なさそうな声

 「そっか、家かな?」

 「はいです。お陰でお母さんはかなり良くなったですけど、リゾートエリアだとお買い物が大変なので……」

 「だよな、ヴォーダ……は居ないけど、ウィンやライには良く助けられたよ。ポケモンが居てくれると、凄く助かるよな」

 けれども、彼は確かにアズマの友達達を助けてやっているのだろう。そう理解して

 

 「……えっと、話進めて良いかな?」

 オレサマ知らないしーと空気を読んでリザードンやゲッコウガと体操しているショウブの近く。置いてけぼりにされていたコルニが、少しだけ遠慮気味に、そう話を区切った

 

 「すみません、コルニさんにシロナさん」

 「良いのよ、この子が良く話してたもの」

 「おれも、シロナさんの話は良く聞きましたよ。あくまでも、憧れのシロナさんが○○って言ってたから買ってみたですとか、そういったのだけど」

 手を離し、それでも近くには立ったまま、アズマは大人のトレーナーへと向き直る

 

 「シロナさんは、どんな用で?助手のチナの友人が居るって聞いて、会いに来たんですか?」

 「いいえ、ナンテン博士の息子。あなたに色々と聞きたいことがあるの

 伝説のポケモンについて。特に……そう、Nの言っていた、青い運命について」

 「あおい、運命……?」

 はて、とアズマは首を傾げる

 「黒い運命は分かります。赤い運命も」

 黒い運命とは、恐らくはあの黒水晶のポケモン、そして赤いのはイベルタルの事だろう。ナンテン邸にイベルタルが眠っている事、そのイベルタルが目覚めるだろう事を、それとなく彼は予言していた気がする。君の運命という言葉で

 ならば、運命とは伝説のポケモンの事を指すのだろう。だが、青いとなると、アズマはどうにも思い付かない

 

 「青い伝説といえば、スイクン、カイオーガ、後は伝承にはなりますが、ディアルガなんかも」

 「青かったです」

 「チナ?見たことあるの、ディアルガ」

 「い、いえ!ちょっとカンナギタウンで、想像絵とかを……なんですけど、全体的に青い色だったなって」

 あわあわと答える雪色の少女を、微笑ましげにその雇い主は見守っていた

 「あと青いってなると、コバルトの語源ともなったイッシュのコバルオン。蒼海の皇子マナフィも青でしたっけ。その他だと……ポニ島の守り神カプ・レヒレくらいですか

 といっても、どのポケモンとも特に縁はありませんし……」

 

 『ウルォード!』

 その鳴き声は、アズマの脳裏に響き渡るが

 

 「すみません、分かりません」

 少しだけ悩んで、アズマはお手上げと首を振った




因に、翻訳するとギゴガゴーゴーッ!!【うちの愛娘(違います)がメインヒロインだろうが舐め腐ったことを言うんじゃねぇ反転世界でボコるぞイベルタルゥッ!】となります
そんなに気ぶりギラティナが多いならと、人間のメインヒロイン、本来の想定より前倒しでの登場です


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おまけ 各トレーナーの手持ち簡易紹介

読んで字の如くです
ネタバレを含みます


アズマの手持ち

ギル(ニダンギル) Lv41 特性:ノーガード

アズマのパートナーポケモン。ゆうかんな性格。ナンテン邸地下で出会った

生命を吸い取る剣のポケモン。命を吸う、剣、の二点から分かるように、ザシアンと縁のある剣に命が吹き込まれたイベルタルの眷族。イベルタルの影響が強く(というか、自我はあるがイベルタルの意識のコピーが大元)、イベルタルが大好きなアズマの事が大好き。無茶だろうが何だろうがする勇敢な性格は、加減を知らないイベルタルの裏返しである

ニックネームの由来は"ギル"ガルド

 

サザ(モノズ☆) ♂ Lv38 特性:はりきり

おくびょうな性格。アサメタウンで出会った

成長すると三つ首の竜サザンドラへと進化するイッシュの600族。覚醒したジガルデによって親を殺され、震えている所をカルムに保護されており、カルムと出会ったアズマに付いてくる形でゲットされた

基本臆病であり、遠くから撃ち逃げを好むが、時折勇気を出して正面から立ち向かう。トレーナーの事はこの昏いダークオーラを持つ彼ならきっと自分をあのジガルデに負けないくらい強くしてくれるとかなり信頼している

実はジガルデ・セルが入り込んでおり、ジガルデによるアズマの監視役としての役目を持つが、本ポケモンはそのことを知らない。色違いになったのはジガルデの影響である

ニックネームの由来は"サザ"ンドラ

 

アーク(ゾロア) ♀ Lv29 特性:イリュージョン

むじゃきな性格。シャラシティで出会った

Nが連れていたゾロア。ちなみにBW2でロットから貰えるのとは明確に別個体。というか別種族

好奇心旺盛で無邪気なポケモン。テレパシーではないが、人に化ける事でそれっぽく喋ることが出来る。但し喉を酷使するらしい。イリュージョンで化けては人をからかうのが好きであり、面白そうということでアズマに付いてきた

ニックネームの由来はゾロ"アーク"だが、可愛くないのと本人は不満を漏らしている

 

……という設定だが、その実態はゾロアに変身したミュウ。暫くNと居た(実はN初登場時の青いしなやかな尻尾のポケモン=色ミュウ=アーク)が気になったのでゾロアのフリをしてアズマに着いてきている。アークという名前やダークボールへの不満はゾロアではないからである

 

ティア(ディアンシー) ♀ Lv48 特性:クリアボディ

むじゃきな性格。まだ捕まっていないが、ハクダンの森で出会った

ゼルネアスを探すダイヤモンド鉱国の姫。同じくゼルネアスを狙う悪の組織ラ・ヴィ団に狙われている所を助けられ、トレーナーとしては認めませんがわたくしのナイトになりませんこと?という形でアズマを姫を護る騎士扱いして同行している

捕まることは結婚と同じこととボールには入らず、何時もアズマの背負うバッグから顔を出しているが……

ニックネームの由来は(まだニックネーム付けてない為姫と呼んでいるが)"ディア"ンシー。Dから始まるとそんな可愛くない響きになるので濁点を取っている

 

ベル(イベルタル) ♀ Lv70 特性:ダークオーラ

むじゃきな性格。ナンテン邸地下で運命的な出会いをした

無邪気で純粋にアズマを慕う伝説のポケモン。一人ぼっちで3000年近く繭の中で眠っていた為か、話し掛けてくれて一緒に居て見守ってきた相手に過剰なまでの好感を寄せている。その好意の強さは彼の周囲にダークオーラが発生する程。まさにヤンデレイベルタル、略して役割を持てるという意味を持つヤベルタルである

無邪気で幼く、自分が圧倒的な力を持つ伝説である自覚が薄い。気軽にどろぼーねこ!とダークオーラを放って周囲を威圧するし、トレーナーが傷つけられたと思うと容赦なく即死技にもなるデスウイングをぶっぱなすが、本ポケモン的には大事な大事なトレーナーを護ろうとしているだけである

ニックネームの由来はイ"ベル"タル。アズマはこれで良いのかと悩んでいるが、本ポケモンは可愛い響きでご満悦

 

シア(ザシアン【れきせんのゆうしゃ】) ♀ Lv75 特性:ふとうのけん

ツンデレ(いじっぱり)な性格。霧のワイルドエリアで運命的な出会いをした

アズマを見守る巨大な蒼い狼のポケモン。本体はまだ微睡みの森で眠っている

ブラックナイトではないがヤバいオーラ(ダークオーラ)を感じて飛び起き、寝ぼけている妹のザマゼンタを置いてオーラの発生源であるワイルドエリアに魂だけで急行したガラル伝説の英雄の姉の方。伝説のちょろ狼

ダークオーラの持ち主が魂だけの自分に干渉でき、鬣を結ってくれたりしたことから昔ブラックナイトを共に戦った人間の英雄を思い出して即落ち。気がつけば彼の吹くオラシオンに合わせて遠吠えをする始末。だが、意地を張って付いていくことをせず、彼がガラルを去る時にワイルドエリアの奥に消えていった

が、その際にヒトツキ時代のギルに干渉して爪痕を残しており、ギルを通して遠くから何時もチラチラ見守っている

いやそんなに何度も見てるなら起きて助けに行けばお姉?と妹のザマゼンタは何時も思っているが、姉が怖いので黙っているとか

ニックネームの由来はアズマがザシアンという種族名を知らないのでシアン色。もう少し色について疎かったら、恐らくニックネームはブルーからルゥになっていた事だろう

 

 

 

チナの手持ち

リアスくん(ガブリアス) ♂ Lv66 特性:さめはだ

ようきな性格。アサメの洞窟で出会った(おや:アズマ)

チナの初めてのポケモン。アズマと二人、シロナに憧れて洞窟で捕獲した思い出のポケモン

今では立派なガブリアスとなり、アズマの言葉通りにトレーナーたるチナ達を護り抜いている一般手持ちのエース。今の悩みは自分含めてひたすらフェアリーと氷に弱いことらしい

ちなみにであるが、ナンテン邸での戦いにおいてメガゲンガーを止めてくれていたのは彼

ニックネームの由来はガブ"リアス"+くん。センスはアズマと同じというか、彼に影響されている

 

ミーちゃん(シェイミ) ♀ Lv54 特性:しぜんかいふく

なまいきな性格。リゾートエリアで出会った

幻のポケモンである割に、見掛けるときは見掛ける謎のポケモン、シェイミの一体。群れからはぐれ、グラシデアの花畑を探す内にアズマの贈ったグラシデアの花束の香りに釣られてチナの家に勝手に入り込み、此処気に入ったでしゅもう群れとか良いでしゅと住み着いた

この子のお陰でシロナと知り合えたと言っているが、実際はギラティナのお陰。但し、彼女のシードフレアが反転世界への穴を開けたのがギラティナとの縁の始まりなので間違ってはいない

ニックネームの由来はシェイ"ミ"+ちゃん。本ポケモンが自身をミーと呼ぶ事も影響されている

 

ゴウくん(ゴウカザル) ♂ Lv58 特性:もうか

まじめな性格。キッサキシティで出会った

御三家。チナ自身は当初からシェイミとフカマルと共にシンオウ本土に渡ってきていたが、それはそれとして渡された最初のポケモン

普通ならばエースになれるはずなのだが、チナはフカマルを良く出していたので二番手。それを真面目にやっている紳士な猿

ニックネームの由来は"ゴウ"カザル+くん。決してアニポケ主人公ではない

 

ディア様(ディアルガ) ♂ Lv11 特性:テレパシー

尊大な(ずぶとい)性格。シント遺跡で卵から孵った

ギラティナを連れてシント遺跡に調査に行ったチナの眼前でシント遺跡に残されていた白い卵から孵ったディアルガ。何か偉そう(実際偉い伝説のポケモンなのだが)なので様付けされている

ニックネームの由来は"ディア"ルガ+様。Di○様だがURYY!とも無駄ァ!とも鳴かない。但し9秒間時は止める

 

ギーラさん(ギラティナ【オリジンフォルム】) ♂ Lv70 特性:ふゆう

さみしがりな性格。やぶれたせかいで運命的な出会いをした

破れた世界のギラティナ。破れた世界に閉じ込められており、時折戻りの洞窟に影の姿を現す以外は外の世界に出られない一人ぼっちの神

であったが、シェイミのシードフレアによって反転世界への穴が開いたことで外へ出たいという一心からシェイミをつけ狙う。紆余曲折の果てに彼はこの世界が大好きだから破れた世界から出たかったんだという真意を理解して貰い、けれども自分が現れては世界に迷惑がかかるため、デレたシェイミと共に時折はシェイミのお陰で出られるようになった反転世界に残る事となった

……が、ギンガ団事件が勃発。赤い鎖により暴走したディアルガ、パルキアを止めるため、大好きな破れていない世界を護るため、彼はシェイミを頭に乗せて恩人の少女の前に舞い降り、共に戦うために捕獲されることを選ぶ。ギンガ団事件以降も離れることはなく、ボールに入ったまま。言われれば何時でも手を貸すぞと待機していたのだが、流石に神様をトレーナーさん相手に使っちゃダメですと公式戦では出禁され、シンオウリーグではずっとボールの中で暇していたらしい

名前の由来は"ギラ"ティナ+さん。トレーナーと合わせるとギーラチナとなるので本ポケモンは割と気に入ってるらしい。余談だが、ギーラ&チナと氷空の花束シェイミを書くのが今の目標だとか

 

 

ショウブの手持ち

ゲッコウガ ♂ Lv48 特性:きずなへんげ

がんばりやな性格。アサメタウンで出会った

ショウブの初めてのポケモン。彼のエースであるという自負があったのだが……最近はリザードンばかりであり、その悔しさをバネに変幻自在を極めた独自の進化、キズナゲッコウガ(=サトシゲッコウガ)への変化能力を得たらしい

 

リザードン ♂ Lv50 特性:もうか

まじめな性格。ミアレシティで出会った

プラターヌ博士から貰ったヒトカゲの進化形態。アズマとの邂逅、桃色のダイヤモンドの入手を経て、メガリザードンへとメガシンカする能力を得たショウブの現エース

個人的にはメガリザードンXよりも、キョダイマックスに似たYの姿の方がちょっと好きらしい

 

ファイアロー ♂ Lv45 特性:はやてのつばさ

てれやな性格。ナンテン小道で出会った

アズマと初対面の時に捕まえていたヤヤコマの進化した姿

 

 

 

Nの手持ち

ししょー(ニャオニクス) ♂ Lv30 特性:いたずらごころ

野生のニャオニクス。アズマにニャオニクス師匠と呼ばれているZ技の修行を手伝っていた野生個体。Nはゼクロム以外のポケモンをボールに入れておらず、頼むと勝手に来てくれる周囲のポケモンで戦っているのだが、特例的にちょっと弟子が気になったのでテレポートでやって来ているらしい 

 

ゼクロム ♂ Lv80 特性:テラボルテージ

Nのゼクロム。トウヤとレシラムに敗れたあとNと共に旅立ったあの個体そのものである



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アズマの伝説講座

「そうなの

 いえ、本人が知らないというのに、詮索しても無駄ね」

 さほど残念そうではなく頭を振り、その女性はあっさりと話題を変える

 

 「ならば、こういった言葉に覚えはないかしら

 アローラの黒き竜。或いは、ガラルの黒き竜」

 「残念ながら。おれの知ってる黒き竜はNさんのゼクロムと……」

 ボールを開き、肩にモノズを乗せる

 「こいつくらいです」

 『ズーッ!』

 「あ、後はメガリザードンX……って言っても分かりませんか

 ショウブ、あっちで体操している少年のリザードンの特殊?だろうメガシンカ形態も一応黒い竜ですね

 ですが、後は……あとは……

 ああ、ガラルの黒き竜といえば、ガラル巨人伝説にその名がありましたね。人々に畏れられ原初の巨人に体を作られず朽ち果てた黒き竜のアギトの巨人、その名を

 ……レジドラゴ」

 「あ、そのポケモンなら調査したです」

 と、アズマの横で少女があっけらかんと言った

 

 「あれ、そうなの?」

 「といっても、遺跡は開かなかったんで、扉の前までなんですけど」

 「巨人を奉る遺跡は赤と黄色に彩られていた。恐らく、封じられた巨人は黒よりも赤か或いは黄色が目立つポケモンのよう。あれは黒き竜とは呼ばれないでしょう」

 シロナが付け加える

 「そうなんですか

 後は……って、そもそもルトも黒い竜でしたね」

 「あのドラパルトさんは違うです」

 「じゃあ本当に分かりません」

 「……そう、ナンテン博士は、貴方にもあまり多くを話してはいないのね」

 

 「あの、父さんが何か?」

 残念そうに呟く女性に、そうアズマは問い掛けた

 「アローラとガラルの黒き竜。その当時はまだまだ駆け出しで参加できなかった伝説のポケモンに関するナックルシティでのシンポジウムで、彼が話していたという仮説」

 「……それなら、議事録を漁れば出てくるのではありませんか?」

 「普通はそうなんだけど、ほら、彼って色々と過激な発表をしてるじゃない?

 グラードンがホウエンを当の昔に離れ、何処かで目覚めを待っている……だとか」

 「父さんはグラードンはカロスで眠りに就いているって言ってましたね」

 「そうなんです?」

 「3000年前の最終戦争。定説ではイベルタルによって最終兵器は起動し、それによって多くのポケモンが死んだとされています

 けれども、だとすれば他にイベルタルに関する記述が何一つ無いのが気掛かりだって言ってました。ゼルネアスは出てくるのに」

 「そういう観点だけ?」

 「いえ、後は……ゲンシの力を発揮して暴れまわった二体の超古代ポケモンがレックウザによって静められた3000年前、その頃のホウエンの民の記述が一部残されているんです。ナンテンの家に来た渡りの民とか」

 「そうなの」

 興味深げに頷くシロナ

 気をよくして、アズマはそのまま言葉を続けていく

 

 「だから、あの最終兵器にはホウエン地方の民の手が加わっているはずです。ゲンシの戦いを終え、グラードンとカイオーガを離れた場所に封印しようとしていた時代の

 あとは、オーラですね。最終戦争に関して多分聞いても当人は語ってくれませんが……

 AZさんから感じたオーラは、間違いなくイベルタルのものでは無かった

 3000年の間、最終兵器によって不死となり彷徨ってきた御先祖様の兄。あの当人から感じた力は、恐らくですが……

 グラードンのものなんだと思います」

 「つまり、貴方は……」

 「3000年前、ゲンシの力をレックウザにより封じられ紅色のクリスタルの中で眠りについたグラードンを使って最終兵器は起動した

 そして……最終兵器の下の大地の底で、力を吸い付くされたグラードンは今も多分ずっと眠り続けています。地殻の力をその身に蓄えながら」

 

 「当時発表してたら大混乱ね」

 「はい。ぼかして言っていたのは、恐らくあんなカイオーガ事件の直後にグラードンがカロスの此処で寝てるぞなんて言われたら大混乱が起きると思ったからなんでしょう

 

 って、今はグラードン関係ないですね」

 頭を軽く振って、アズマは思考を正す

 

 「そんなこんなで、父さんの資料って案外残ってないんですか?」

 「そうなの。徒に不安を煽る嘘だと廃棄されたものが多くて」

 「……残念ですね

 それはそれとして、あまり力にはなれない気がします。父さんの資料は良く読んでましたが」

 「じゃあ、この言葉に聞き覚えはない?

 『光を奪うネクロズマ』『無限大の力ムゲンダイナ』」

 「光を奪う……ネクロズマ」

 一瞬、アズマの心に一匹のポケモンの姿が浮かぶ

 微かなプリズム光を湛えた、黒水晶のポケモン

 だが、その想像をアズマは有り得ないと振り切る

 

 『(光を奪う!あのポケモンですわ!)』

 「姫、分かるの?」

 キーンと脳内に響くテレパシーに、アズマはそう返す

 『(わたくしのナイトなのに分かりませんの!?

 二度も襲ってきた邪悪なあいつですわ!)』

 「え、ジャケットの」

 『(違いますわ!あの真っ黒のこわーいポケモンですの!)』

 そのディアンシーのテレパシーを遮り、アズマは違うよと首を振る

 

 「姫、あいつは……あのポケモンは、光を奪うなんて呼ばれる存在じゃない。第一さ、覚えてるかな、姫

 あのポケモンに最初に出会う前に言われた言葉を

 

 『かがやきさまを取り戻してくれ』って。だからさ、今は光を喪っていても、あいつは違う。あいつはかがやきさまだ、光の側のポケモンだ

 『かがやきさま』と『光を奪う』だなんて、矛盾も良いところじゃないか」

 『(そうかも、しれませんわね……)』

 「すいません。ということでやっぱり何も分かりません

 ムゲンダイナについては、そもそもおれ、ガラル伝説って全然知りませんしね

 ガラルだと……豊穣の王バドレックスくらいですかね、知ってるの」

 ガラルシンポジウムから半年後。チナと二人、父のフィールドワークに連れられて行ってきたフリーズ村で語られていた、像すら壊れていて悲しげだったヨを思い出しながら、アズマは呟く

 

 「ヨさん……お元気でしょうか」

 「ヨだし大丈夫じゃないかな。今頃きっと馬と美味しいニンジンを食べてるよ」

 名産品として最近注目を集めはじめたものの中に、フリーズ村の人参があったはずだ

 一時期は痩せ細りどうしようもなくなっていたあの村が、たった5年で人参を出荷出来る程に回復した。それはやはり、豊穣の王を皆が思い出したからなのだろう

 アズマは、骨董品屋で見付けた変な二束三文で売られていた古い木彫りの置物が外で雪被っていた像に元々付いていたのでは?と思いつつ、填めてみたら元は填まったろうけど経年劣化で壊れていたのでポケモン達の力を借りてそれっぽいものを作り直しただけなのだが

 今のフリーズ村の写真には、明らかに下の馬と王の像に比べて歪で彫りが甘くて不格好なでこぼこしたカボチャに見えなくもない王冠を被った王の像が大体映っており、見るたびに吹き出してしまう

 

 そんな事を思い出しつつ、アズマはそう会話を締めた




メインヒロイン曰く、『とれーなーさんは、くろいどろぼーねこをよろこばせるのによねんがないひと?』
メガロポリス民から裏切られて封印されていたネクロズマの奴が遠くから見守ってるなかであいつは光を奪う奴じゃないとか言ってたら勝手にガンガンなつき度が上がっていく……捕まってすらいないのに……


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part1

バドレックスとザシアン、そしてチナとの関係を掘り下げる過去編です
読んでも読まなくても構いません


アサメタウンからミアレ空港までウィンディバスとカイリュー空バスを乗り継いで5時間半。ラティアス便でナックルシティ空港まで4時間。そこからブラッシータウン駅まで特急で5時間。そして、カンムリ線の寝台急行に乗り換えて12時間。更にローカル線であるフリーズ線に乗り換えて3時間

 締めて丸一日以上かけた大移動を経て、トンネルを抜けるとそこは雪国であった

 

 カンムリ雪原。ガラル地方有数の豪雪地帯にして、常冬のリゾート地。其処は多くのスキーヤーや、雪国のポケモンを求めたトレーナー達が訪れる行楽地だ

 だが、アズマ達が目指した場所は其処ではない。更にその先、リゾートとして開発された雪原を抜けた、人類未踏……とまでは言わないが危険の多い大自然を未だに色濃く残す田舎村。リーグバッジを集めきれる程の猛者でもなければ、うっかり危険なポケモンを怒らせてしまえば命の保障はないとされる秘境、フリーズ村

 そんな村の入り口とも言える駅に、9歳のアズマは立っていた

 「さ、寒いです……」

 と、もこもこした暖かそうな服に身を包みながらも震える銀髪の友達と共に

 「アズマさんは、大丈夫なんですか……?」

 歯を軽く震わせ、手を擦りながら少女ーチナが呟く

 その息は白く、見るからに寒そうで

 アズマは、家を守るので坊っちゃん達は私にお構い無くと家に残った執事から炎タイプであり誰がどう考えても暖かいウインディを借りてこなかったことを即座に後悔する

 「昔はダメだったんだけど、最近は案外大丈夫」

 大きな熱を出して以来、むやみやたらと丈夫になった体。かつては貧弱で病弱だった反動か、上着を脱いでも寒いとはいえ耐えられる

 といっても、流石にもこもこの上から羽織るのは着膨れしすぎて無理があるだろう。友人に上着を貸すわけにもいかず、アズマは「ウィンが居てくれればなー」なんて、自分で大丈夫と断っておいて情けない言葉を漏らす

 

 『ウルォード!』

 と、吹雪……とまではいかないがしんしんと空から降り続ける雪の中から、一匹の巨大な影が現れた

 「……シア?」

 枝が引っ掛かるかもしれないけれども、ぼさぼさなのが気になって編み込んだ三編みの……鬣?と言って良いのだろうか

 長く伸ばした赤いソレをくゆらす、シアン色の大狼。片耳に古傷を残す謎のポケモンは、確かに半年前2週間ほどワイルドエリアキャンプに参加した時に其処でアズマ達を助け見守ってくれた優しく大きなポケモンであった

 同種……という訳ではないだろう。少しだけ解れた三編みなんて、他の同種の個体は特徴として持っていないはずだ

 

 ゆっくりと近付いてきたその大きなポケモンは、フリーズ村に訪れるなんてアズマ達以外居ない駅前で止まり、静かに少年と少女を見下ろす

 じっ、と見詰められ……アズマはその手をポケモンに触れた

 「……お前は暖かいな、シア」

 『ォード』

 「乗れって言ってるんだろうな、チナ」

 足を折って姿勢を低くし、その鼻を近付けるポケモンの頭を撫でつつ、アズマはそう友人に言う

 ポケモン語なんて流石に分からない。けれどもそんな気がして

 「わっ!あったかいです……」

 その背に跨がって毛皮に顔を埋め、少女がほっとしたように呟く

 助かったよ有り難うとシアン色のポケモンにアズマは一礼して

 「アズマ、チナちゃん

 少し待たせた」

 今回の旅の計画者にして、アズマの実の父、カロスが誇る……かは分からないがそこそこ有名な伝説のポケモン研究者であるナンテン博士が、車掌との話を終えて漸く駅から出てきたのだった

 

 「……っと」

 目の前の光景に、アズマの父は一瞬だけ鋭い目でボールを構え

 「なんだ、お前のトモダチか」

 即座に背後にポイっと無造作にそのボールを投げる

 そこから現れるのは、紅の翼の鮮やかな強面の竜、ボーマンダ

 

 「でだ、そいつ……どうする気だ」

 『シュルル』

 出されこそするものの、威圧という程ではない。首を捻って毛繕い等始めるボーマンダを背に、その男は大きなポケモンを見詰めつつ言う

 「ワイルドエリアでお世話になったとは聞いた

 また出てくる辺り、好かれてるじゃないか。連れ帰るのか?」

 「そこは、シア次第」

 「じゃあ、そこのポケモンに聞こうじゃないか

 捕まる気はあるか?規定で暫くはオレの管轄だが、こいつがトレーナーとして一人立ちしたら渡すが、どうする?」

 言いつつ、ナンテン博士は無造作にスーパーボールを雪の上に放る

 入るなら入れとばかりに置かれたそれを、大きなポケモンは完全に見なかったことにした

 

 「だそうだ。あくまでも、ガラルを出る気は無いらしい、フラれたな」

 「シアが居てくれたらきっと心強いけど、残りたいならそれが優先だよ、父さん」

 「……まあそれは良いが

 あまりその背の娘を乱暴に扱ってくれるなよ?家の息子は良いが」

 「酷くない?」

 「お前は家の子だ。その娘は家では旅行などとてもとても、だからどうか娘だけでも広い世界を知るために旅行に一緒に連れていって下され、お金ならお出ししますのでとお願いされた預かりものだ

 同じな訳がないだろう」

 「それは……まあそうだよな……」

 はあ、と息を吐くアズマを、気にするなとばかりにボーマンダがその牙で甘噛みする

 「有り難うな、ヴォーダ」

 

 駅から歩いて30分ぐらい。ポケモンは様々に暮らしていたが、ボーマンダを見てわざわざ喧嘩を売ってくるような好戦的なポケモンはおらず

 アズマ達はフリーズ村へと足を踏み入れ、家をひとつ借りていた

 祖父母が死に、残された息子はもう親から解放されたのだと、家を捨てて都会へ出ていったらしい空き家

 その一室で、暖炉に火を灯し……

 「ごめん、父さん、チナ」

 ひとこと謝って、アズマは背負った大荷物と共に外へ出る

 「どうしたんです、アズマさん?」 

 寒いのだろう、窓越しに聞こえるくぐもった声

 「シアを、一人に……いや一匹外にずっと立たせておきたくない」

 言いつつ、取り出すのはキャンプ用品。ワイルドエリアキャンプでも使った簡易テントである。限界で二人用なので狭いが、大きいとはいえポケモン一匹ならば入る

 「……何だ、だからそんなに大荷物だったのか。てっきり土産を買い込む気かと思っていたぞ」

 「……シアに、会える気がして」

 「なら良いが、村の外には出るなよ?

 村まで来るポケモンはほぼ居ないが、外は危険だ。ギルが居ようが、そこのポケモンが付いてきてようが、絶対に出るな」

 言いつつ、アズマの父は外に出るや、手慣れた手付きで、アズマが四苦八苦しながら組み立てようとしていたテントを瞬く間に完成させて

 「フィールドワークに行ってくる。今日は夜に戻るが、それまであまり村民に迷惑を掛けるなよ」

 自前のテントは置いて、村の外へと歩いていくのであった

 

 そして、それから1時間後

 「すいません、豊穣の王Tシャツ下さい」

 フリーズ村の雑貨屋……というか骨董品屋で、アズマはそんな事を言っていた

 村の外に出るわけにも行かず、といっても村で見るものも無く。父が一人で今日は行くと言えば、もうやることなんて無くて。チナと二人しんしんと降り積もる雪なんて眺めていてもロマンチックかもしれないが面白くはない

 だから、外に出て、土産物を買いに来たのだが、あまり良い店なんてなくて

 だから、寂れたその店に訪れていた

 「お客さんなんて、何年ぶりかね……」

 「そんな人来ないんですか?あ、チナの分もあわせて2枚お願いします

 ……ところで、カードってつかえ……やっぱり使えないですよね現金で払います」

 「あ、あの、良いです」

 「良いんだ、おれがせっかくの記念に買いたいだけだから」

 「じゃあ、ありがたく貰うです」

 なんて会話を交わしつつ、店を見て回るも、あまり良いものはない

 そんななか、ふとアズマの目がひとつの木彫りの置物に止まった

 冠のような、大きな古い置物

 

 「……チナ」

 「なんです?」

 「これを見て?」

 言いつつ、ついさっき買ったTシャツをアズマは広げる

 そこに描かれたのは、大きな冠を持ったポケモンのような姿

 「……でも、外で見た豊穣の王像って、冠無かったよね」

 「無かったです」

 「じゃあ、ひょっとして外れちゃったんじゃない?

 すいません、これ下さい」

 変な置物を指差して、アズマはそう言った

 

 「……ダメだ」

 外に出て、置物を被せてみる

 古い木彫りの置物は、確かにそれっぽく被さりはするのだが……

 手を離すや、頭から転がり落ちる。かつて、確かにこの変な置物は豊穣の王像の冠として存在していたのであろう。だが、何かの拍子に外れ、そして……長年放置された冠と像は降り積もる雪の中で、雪を払い手入れする者も無く、一部が腐って斬り取られてしまったのだろう。最早二度と元には戻らなくなってしまっていた

 『ォード』

 悲しげに像に鼻を押し付け、大きなポケモンが嘆く

 「付かないじゃろ?」

 「雑貨屋のおじさん。知ってたんですか?」

 「おっと、返品は無理じゃぞ」

 「……いえ、返品は良いです。この像が壊れてる事、知ってたんですか?」

 大の大人を見上げ、アズマはそう問い掛ける

 「昔のデザインを使い回してTシャツを作ったからの。冠が無くなってて、それがこの置物じゃろうということは」

 「なら、何で?」

 「……今更じゃからじゃ

 豊穣の王像。昔からあるこの像を直したとして、この村は何も変わらん。人が来るようにもならんし、村の畑が豊かな土壌になるわけでもない

 豊穣の王なんて、居もしないおとぎ話じゃ。おとぎ話の像を直す労力なんて、払っても仕方なかろ」

 淡々と、その初老の男は言う

 その言葉は、子供のアズマにとっても、分かりやすくて。酷いとは、とても言えなくて

 

 ……でも、あの雪の中放置された寂しげな像を見ていて。子供だからこそ、労力の無駄だと見逃せるものでも無かった

 「……雑貨屋のおじさん。なら、おれ達が勝手に直したいって言ったら、それは大丈夫ですか?」

 冠にヒビが入り、像の頭は一部腐って抉られた痕がある。ならば、この像にこの冠は二度と付けられない

 ならば、新しい冠を作ってやれば良いのだ

 「別に構わんよ、幼い旅人。村長も何も言わんじゃろ」

 「……じゃあ」

 「うん、作ろう、チナ。新しい冠を」

 『ウルォード!』

 その言葉を待っていたのだろうか

 村の外へと駆け出しながら、シアン色のポケモンが吠えた

 そして、木彫りの冠を作れそうな大木の一部を咥えて帰ってきた



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part2

今更ですが、剣盾における冠の雪原の話を多分に含みます
未プレイでやりたいなーと思ってる人はブラウザを閉じてプレイナウ

副題が豊穣の帝王なのにヨではないのであるな…


「……フカマルは……どうしよう」

 翌朝早くに、父は出ていって

 朝別々の部屋で目覚め、父の置いていった朝食を暖炉の火で炙り、時折外のテントで一夜を明かした狼のポケモンに向けて手渡しながらも食べ終えると、アズマは外で冠作りを再開した

 結局は大抵自分達でやるしかない。ポケモン達は手伝ってはくれるが、最後はやはり自分達。その為、父のポケモン達の手は一切借りず、大きなポケモンと、あとはアズマとチナがそれぞれ連れてきたヒトツキとフカマル。二人と三匹で作るしかない

 メジャーを買って、今の豊穣の王像の頭のサイズは把握した。最終的に、どのサイズの窪みを作ればかっちりと填まるのかは分かった。あとは作るだけ

 なのだが、それが全然進まない

 

 『ウルォード!』

 大きな木を、大きなポケモンがオーラの刃で両断し、ヒトツキがその刀身をヤスリのようにして磨く

 そうして作って貰ったパーツを、アズマが削り、チナが磨いていくという形なのだが……

 「がんばです」

 「……む、難しいな……」

 買ってきた彫刻刀等で、大まかに削り出して貰ったパーツをしっかりと彫るだけ。それだけの事が、慣れないアズマには難しくて

 

 『ぴゅい!』

 「あらあら、ふわふわちゃん。旅人さんが気になるの?」

 ふわふわと浮く夜空のような色の土着らしいポケモンにも応援されつつ、必死に冠のパーツを削り出す

 そうして……

 

 「……出来た、って言って良いのかな……」

 『……』

 「せめて何か言ってくれシア……」

 日が暮れる頃。何とか完成した冠は、参考にした壊れてしまった置物と比べると、数倍は不格好なものであった

 何と、冠のはずなのに左右がぱっと見た時点で既に対象ではなく凸凹。けれども、これ以上削ると割ってしまいそうで妥協した

 これでも、一日かけて7パーツを作り、そこからまだしも出来が良かった4パーツを組み合わせたのだが、それでも見て分かる素人製作

 こんなんで良いのだろうか。もっと時間をかけて作るべきじゃないのか。そう思いつつ、とりあえず填まるかどうか、村の畑の端にある馬に乗る豊穣の王像へと向かい、冠を填めてみる

 しっかりとはまり、安定する。だが、どうにも不格好で

 

 「だ、ダメだこりゃ。やっぱり作り直したほうが……」

 『ム ムカンムル』

 「……チナ?」

 聞こえた声に、アズマは横でじっと見ている友人を振り返る

 「わたしじゃないです」

 『ウルォード!』

 一声鳴いて、先導するようにシアン色のポケモンが歩き出す

 「そっちなのか、シア」

 大人しく、アズマはその揺れる赤い尻尾を追った

 

 『ム ムカンムリ』

 ……アズマが向かった先、村の外れに居たのは……ふよふよと浮かぶ、大きな頭のポケモンであった

 その立派な冠のような頭と裏腹に、その脚は細長く、体は小さく、どうにもみすぼらしいと言いたくなる姿

 けれども、その頭は見覚えがあって

 「……豊穣の王?」

 「王様、ほんとうに居たです……」

 言いつつ、思わずアズマは手を伸ばして

 

 「っ!ダメだ、チナ」

 その眼に怯えを見てとって、アズマは咄嗟に手を引っ込めた

 「どうしたです?」

 「他のポケモンがおれを見たときのように怯えてる。何か、いけないことをしてしまったんだと思う」

 「そうなんです?でも、何がいけないのか分からないです」

 思わず、アズマは友人と顔を見合わせて

 「……これです?」

 開いた掌を指差してみる

 こくこくと振られる首

 「よし、チナ

 思わず開かないように縛ってくれ」ハンカチを取り出し、握った拳を包んでアズマは友人に頼んだ

 「やりすぎです!?」

 「それで分かって貰えるなら、それくらいなんて事無い……んじゃないかな」

 「あ、あんまり痛くしないように……」

 優しく握り拳を包む少女に有り難う、と言って、改めてアズマはそのポケモンに向き直る

 『カ ムカンムル』

 『ウルォード!』

 何か縁でもあるのだろうか。例えば、豊穣の王だろうそのポケモンがかつて伝説のようにこの地に居た頃良くして貰った……となると、流石に長生きしすぎだろうか

 簡単な話を終えたのだろうか、鳴くのを止め、大きなポケモンは横に避けてアズマと冠のポケモンの間を開ける

 

 『ムカンムリ』

 ……けれども、何を言っているのか、アズマには全く分からない

 「チナ、分かったり……しないよな」

 「ポケモンさんの言葉はむりです……」

 『カンムリ!』

 『ルォード!』

 堂々巡り

 何かを訴えたいポケモン達と、分かりたいけれども言葉が分からないアズマ達

 何とかならないかと雪の上に文字を書くも、人間の文字は良く分からないらしく反応は微妙

 テレパシーのようなものが使えるポケモンならば楽なのにな、と思いつつ、それでも何か手はないか……と思ったその時

 

 「そこか、アズマ」

 今日もフィールドワークを終えたのだろう。近くの巨人伝説を調べに行っていた父が戻ってきていた

 

 「……む

 成程。で、何で見詰めあっているんだ」

 呆れたように近付いてくる父ナンテン博士

 「ポケモンの言葉が分からなくて……」

 「ならば、通訳が居れば良いだろう」

 言いつつ、その30歳の青年染みた顔の男は、眼を閉じる

 その体が、光りながら浮いた

 『「この者の体を使わせていただこう

 どうにも、理解が早いようだ」』

 「……父さん?じゃなくて、そっちのポケモンか」

 『「その通り

 ヨはバドレックス。豊穣の王と呼ばれしもの」』

 「しゃべったです!」

 「バドレックス……って豊穣の王って自分で認めてるんですか」

 ちらりと村の……とてもじゃないが豊かとは言えない惨状を見つつ、アズマは呟く

 

 『「……力を使い果たし、愛馬にも逃げられ……

 オヌシら、既に忘れられ力の無いヨの像を直してくれたこと、至極感謝である」』

 「……そんな感謝される程のものかな……」

 少しだけ照れ、アズマは頬を掻く

 『「ヨの冠は、もっとなだらかな線を描く」』

 「ですよね」

 『「だが、ヨにとって信仰は力の源

 皆がヨを忘れ、捧げ物が無くなって久しく、像までも壊れていては、ヨには何も出来なかった

 オヌシらが像を直してくれたことで、人を通して話が出来る程には回復したのだ」』

 すーっと、宙を動き、そのポケモン……バドレックスはアズマ達へと近付く

 『「優しく不器用な人の子らよ。オヌシらに頼みがある」』

 「頼みです?」

 『「人々は、本当にヨを忘れてしまったのか?村の皆に、豊穣の王を覚えているか確かめて欲しい

 ヨが出向こうとした事はあったが、騒ぎになったりボールを投げられたりするばかりゆえ……」』

 トレーナーならとりあえず珍しいポケモンと見るやボールを投げたりする人も居るよな、とアズマは苦笑して

 

 「分かったよ、バドレックス」

 「聞いてくるです、ヨさん」

 『「うむ、任せたである」』

 ヨさんは良いんだ、とアズマが思うなか、バドレックスは頷いて、父を解放するや何処かへ姿を消した

 「……外にずっと居たら寒いからかな……」

 「……そのようだな。オレの体を使って、お前達と話がしたかったが、あまりオレを寒空の下に置きたくなかったというところだろう。律儀な王だ」

 「父さん」

 「豊穣の王。まさか、オレがフィールドワークに出ている間に村の中で見付けるとはな

 いや、だが……オレにあの冠を作り直すという考えは出ない。冠を作ろうなどと考える子供だからこそ、か……

 あの伝説については、お前が色々とあいつから聞いてくれ」

 「理解が、理解が早すぎる……」

 「直すと言っていた冠が付けられていて、そして冠のポケモンが姿を見せた

 そこまで分かれば事態は分かる。オレを誰だと思っているんだアズマ。お前の父で、伝説研究家だぞ?」

 だからといって、理解が早い……

 と呟くアズマを余所に、父は家の中へと戻ってしまった

 

 そして、翌日

 村民に話を聞くにしても、既に日が暮れていては迷惑であろう。そう思って、一日置いてからアズマは日が登り、少しだけ暖かくなった頃を見計らって、村へと出ていた

 「昨日のおばあさん」

 『ぴゅい!』

 『ウルォード!』

 「シア、遊んでおいで

 で、ひとつ聞きたいんですが……豊穣の王の冠を直そうとしていたところは見てましたよね?」

 「ええ、旅人さんなのに頑張るわねって」

 「像が可哀想だと思ったので

 それで、何ですが。豊穣の王についてって、村の人達はどう思ってるんですか?」

 「古いおとぎ話ねぇ……昔は信じてたわ

 でも、最近の子達は、像に蹴りをいれたり、最初から居るなんて信じてないみたいね」

 「……そう、ですか……有り難うございます」

 

 それからも、何人もの人に話を聞いた

 けれども、返ってくる言葉は皆同じ。豊穣の王はお伽噺だと。実際に居てくれたらこんな生活していないのに、と。幾年もの期間を経て現れる伝説の三鳥の渡りの時期以外寂れに寂れる事も無いだろうに、と

 豊穣の王伝説が残るとはいえ、見て面白いものではない。ガラル巨人伝説も残るが、そこは人々の捨てたポケモン達の楽園の最中だ。バッジ8個取れるような人間とポケモン達でもなお危険な旅路の先に、わざわざ開かない遺跡の扉だけを見て帰りたい人もそうは居ないだろう

 誰一人巨人を眼にすること能わず。手がかりすらない。生きた氷と……等と古代文字で扉にはあるが、ならばと生きた氷のポケモンであるフリージオを連れていっても何も起きないと昔のトレーナーの話にはあった

 恐らくだが、ホウエンに封印されていた彼等レジの巨人は、御触れの石室という場所から扉を封印されていた。同じような封印が何処かにあるのだろうが……その場所はついぞ見付かっていない。故に探し飽きて誰ももう行かないが、この眼で巨人伝説の遺跡を見たいというのが、父が此処にフィールドワークに来たそもそもの理由だ

 実際に自分の手にすることは出来ずとも、その眼で見ることが出来る三匹の鳥……サンダー、ファイヤー、フリーザー……というよりも、それに似た三匹の鳥ポケモン。通称サワムダー、けお様、冷酷仮面様の三種以外の伝説は、伝説自体が残ってはいても今更伝説のポケモンを夢見るトレーナーがこの地に来るようなものではないのだろう

 

 『「して、どうであった?」』

 アズマ達が借りている小屋の中

 帰ってみたら暖かいであるなと火は消したが火種の残る暖炉前に居ついていたバドレックスが、同じくそろそろ通訳が要るだろうとボーマンダに乗って帰ってきた父の体を使い、そう問い掛けてくる

 「……ほとんど皆、お伽噺だって」

 「でも、一個だけ違う話を聞けたんです。信じてるって」

 「いや、チナ、それは……」

 アズマは言い澱む

 それはバドレックスではない。それを知ってるがゆえに

 「嵐や雷を吸収して畑に豊穣をもたらす存在で、山の上の方へ飛んでいくのを見たことがあるって言ってたです」

 『「何と!……む?ヨは山の上に最近行ったことは無かった気がするのであるな」』

 「……チナ。そいつは確かに豊穣の王だよ。分類も豊穣ポケモン

 ……でもなチナ。そいつの名前はバドレックスじゃない。イッシュ地方に主に語らられる伝説のポケモン……ランドロスだ」

 ……ええ、ランドロスなんて恐ろしいポケモンがこの辺りに来てるのかよ……

 なんて思いながら、アズマは窓の外、大きな山の頂上を見上げた

 

 『「ランドロス……

 ヨの家はもはや別の豊穣の王に乗っ取られて無くなってしまったのであるか……」』

 力なく、力尽きたようにばたりとバドレックスの頭がひかれたクッションの上に落ちた

 「ヨさん!だいじょぶですか!」

 『「ヨはもうダメである……このままランドロスなる新たな王にお伽噺レベルの信仰も乗っ取られて消えるしかないのである…」』

 そんなこと無い。そう言えたら楽だろう

 そんな言葉、けれどもアズマは安請け合い出来なくて、唇を噛んだ




余談ですが、この時代の雪原にはマックスダイ巣穴はありません。まだふわふわちゃん(コスモッグ)が世紀末地下世界マックスダイベンチャーを作るべきときではないのです
その為、仮にも(恐らくNPCは伝説にたどり着けていないだろうとはいえ)マックスダイ巣穴というトレーナーを惹き付ける目玉が存在するゲーム内よりも更にフリーズ村は寂れているという設定です


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part3

『「申し訳ないのである……」』

 それから数分後。アズマのもってきたミツハニー印の蜂蜜タップリのホットモーモーミルクを口に、何とか平静を取り戻したバドレックスは、小さなマグカップを手にぺこりと頭を下げた

 

 「大丈夫です?」

 『「愛馬さえ戻ってくれば、何とかなるかもしれないのである。ヨは豊穣の王、人々がヨを忘れたなら人々の信仰になど頼らないのである」』

 「じゃあ、その愛馬を見付けないといけないのか

 ……でも、おれ達は外に出るわけにもいかないし、父さんに頼むしかないよなぁ……

 探してきて貰うしかないから、どんな特徴だったか教えてくれないか?」

 『「……それが、なにぶん昔の事故、よく覚えていないのである

 ヨの力が弱まり、道を違えてからは会うこともなく……何かの野菜を見ると抑えるのが大変であった事は覚えておるのだが……」』

 「つまり、野菜が好物なんです?」

 「その野菜が分かれば……呼び寄せられるかも

 あ、でも……次の電車って12日後とかだったよね、そうすればおれ達も帰っちゃうし、間に合うかな……」

 『「そこは心配無用である

 種さえあれば、ヨが育ててみせるである」』

 「よし、じゃあチナ、一緒に王様の馬の好物を聞いてみよう」

 そう言って、アズマは再び小屋を出て、フリーズ村の畑へと向かうのであった

 

 「分かったです!」

 それは、アズマの勘……というか、こういうものは基本まとめ役の家にあるという伝承探しの大前提で村長を尋ねればあっさりと見付かった

 豊穣の王と愛馬の記述。それによると、愛馬はニンジンを好んで食べたというのである

 『「ほう、にんじん!

 あれはにんじんという作物であったか。さすがであるぞ

 して、そのにんじんは?村の者は育てているであろうか」』

 「……種なら貰ってきたよ。今の時期は人参の季節じゃないから」

 『「でかしたのである

 む?その奇怪な袋が種であるか?」』

 アズマの手にした人参の種の袋を見て、多くのイラストに描かれたゼルネアスを多少可愛くデフォルメしたような顔のポケモンは眼をしばたかせる

 「えっと、この中に沢山の種が入ってるです」

 『「人の進化は凄いのであるな……

 ヨは敬服するばかりである。思えば、ポケモン達を出し入れする奇怪な球に、瞬く間に家を建てるテントなるものに、人は様々なものを産み出しているのである

 

 して……」』

 ちらり、と窓からバドレックスは遠くの畑を見る

 『「村の畑の力ではあやつの好物となるほどのにんじんを育てるのに不足であるな……

 豊かな畑であれば、ヨの力で作物を育むことも可能であるが!」』

 「じゃあ、その畑って何処なんでしす?」

 『「……むむむ

 

 見えたである。清らかな雪深い地の畑」』

 「……後は、オレが巨人の遺跡を探る最中に見付けた古い墓地の横の畑なんかはどうだろうな」

 『カムクラゥ!?』

 突然光が消え、ふよふよと何とも言えぬ表情で浮かんでいた父が普段通りの表情に戻って口をはさみだし、アズマはへ?と声をあげた

 

 「あ、あれ?ヨさんが操ってたり……したのでは?」

 「あれか?オレはこれでもリーグに挑んだこともあるトレーナーだぞ?その気になればはね除けられる」

 「……あれ?バッジってそういうものだっけ」

 首を傾げながら、アズマはそれでも言葉を続ける

 

 「墓地の横の畑に、雪深い地の畑か……」

 「オレはどちらでも良いが、このままではオレが付いていかずに二人で行きかねないのでな。こうして話に絡ませて貰っている

 ……良いな、豊穣の王。その畑に行く間、オレを素直に連れていけ」

 『カム!カンムル』

 少しだけ怯えの色を眼に残しながら、かくかくとバドレックスは頷き、再びアズマの父を操って言葉を交わし直す

 

 『「……それで、畑であるが……

 そも、ヨの愛馬は2頭いて、その両方に逃げられているのである

 あの者の挙げた墓標横の畑であれば黒く輝く愛馬が、ヨの告げた雪深い地の畑であれば白く輝く愛馬が、それぞれ好んで食べたにんじんが作れるであろう」』

 「……あれ?じゃあ両方の畑に種を蒔けば?」

 『「今のヨの力では、片方のにんじんを実らせるだけで限界である

 ゆえ、人の子らよ

 どちらの愛馬であれば、今のヨでも乗りこなせそうか考えて欲しいのである」』

 ああ、そういう……

 頷いて、アズマは一息吐き、外で老婆が孫らしい子供(ちなみに、聞いてみると王様なんていなーいと言っていた。世知辛い話だ)に歌っていた王様の馬の歌を草笛で吹く

 

 それに合わせ、チナが歌詞を歌い、ボールから出ていたフカマルと、窓の外で大きなポケモンが遠吠えを合いの手のように合わせ

 一曲終えて、話を纏める

 「白い愛馬は氷の色。黒い愛馬はゴーストの色、か

 おれだったら多分黒い愛馬は悪タイプだなと思っていたところなんで、この情報は有りがたいな……」

 言いつつ、出会った時の初心を忘れずに握り拳を意識しながら、アズマは持ってきた道具の中から、一つの手持ちの測定器を取り出す

 

 『「それは何であるか?」』

 「タイプスキャナーって言って、ポケモンの体内のエネルギーから、そのポケモンが何タイプに分類されるのかを測ってくれる機械」

 言いつつ、はいとバドレックスに向けて、トリガーを引く

 

 「……くさ/エスパータイプか……」

 あれ?とアズマは首を捻る

 「タイプ相性的に、氷にもゴーストにも完全に不利じゃない?」

 「で、ですね……」

 横で、チナも苦笑いする

 草は氷に弱く、エスパーはゴーストに弱く、逆に草がゴーストに有利な訳でも、エスパーが氷に有利な訳でもない

 歌に歌われていたタイプが本当ならば……

 「バドレックス……タイプ的には、挑むのは止めとけと言いたくなる結果だったんだけど

 ……だからって、ランドロスは……あ、ダメだ、あいつ飛行タイプだ」

 今のバドレックスがランドロスにヨの土地を返せと言ったとして、なす術なくやられる未来しか見えない。例え力が同じくらいでも草は飛行に弱いのだ

 

 「……いや、飛行タイプ?

 そうだ、バドレックス。雪深い地の畑だよ」

 『「……ヨが随分とバカにされた気がしたのであるが、そこは良いのである

 その畑に行くべきなのであるか」』

 「ああ、ランドロスはじめん/ひこうだって聞いたことがある

 だとすれば……ゴーストに強くはなくて、氷にとても弱い。白い愛馬を取り戻せば、きっとあいつを追い払えるはずだ」

 『「うむ。ヨではそれが正しいのか分からぬが、でかした

 では早速、雪深い畑に向かうのである」』

 

 『カンムル』

 「……此処は、昨日来た辺りだな

 確かに畑はあった気がするが……」

 ボーマンダやドラパルトが周囲を見張る中、操られぬナンテン博士に連れられて、雪に覆われた山を登る

 「……あった!」

 そうして、夜になろうかという頃。漸くそれらしき捨てられた畑に辿り着いた

 そこは、雪に覆われたふかふかの土地。多くのポケモンが踏み固め、氷の覆った山肌にあって残された、草木の芽吹く場所

 人参の種を……勿体無いので少しだけ家に帰ったら記念に家の庭の畑で蒔こうと残して畑全体に蒔き、ヒトツキらの力も借りて埋める

 『「カラ カラ カラ

 うむ、小気味良い手捌き、天晴れであった」』

 力を振るうこの間だけと博士を操り、バドレックスはアズマ達を誉める

 そして、

 『「次はヨの出番であるな……

 今こそ力を見せようぞ」』

 言うや、バドレックスはその細い手足を器用に動かし、珍妙なダンスを始めた

 

 『カム カムクラゥ カムカムーイ!』

 そして、大きくY字(バドレックスは手が短く頭が大きいので両手を上げてもi字だが)を作り、躍り終えるや……その右の手から光が放たれ、畑が青く輝く

 そして……3本の、大きく太くそして雪のように白い人参が、畑から顔を出した

 

 『「幾多の種子を蒔き、実らせたのはたった3つ……

 落ちぶれし我が力、ああ嘆かわしい嘆かわしい……

 

 だが、その嘆きとも別れの時よ」』

 言われるまでもなく、その為にアズマ達は此処に来た

 大きなポケモンがその葉を咥え、アズマも葉に手を添えて

 一気にその人参を畑から引き抜く

 手にした人参は、寒さにかなり慣れてきたアズマにとってすら、あまりにもひんやりした冷たい感触であった

 「冷たいです……」

 『ルォード』

 「よし、引き抜けた。あとは待っていたら……来るかな?」

 『「三本ともあやつにくれてやるのは贅沢である

 ヨと人の子等で一本は鍋を囲むと……」』

 『バシロォース!』

 轟く嘶きに、バドレックスの声が遮られる

 

 「……あ、あれ」

 銀髪の少女が指差した先には、此方へ向けて駆けてくる白く輝く毛を、凍りついた鬣を持つ白馬のポケモンの姿があって

 『「あやつは我が愛馬 ブリザポス!?

 あの白く輝く毛並みと乱暴狼藉に走る姿

 間違いない」』

 ……そして

 

 『どろるるるるるるるるるるぅっ!』

 もう一つの轟きと共に、白馬の上に雲を浮かべ並走する姿があった

 オレンジの大地を思わせる肌、筋骨粒々の体

 だが、槌のような白髪を湛えたその顔は……ぱっと見髭のおっさんに良く似たもの。凄い存在の筈なのに、どうにもその絵に人気がないという理由に一発で納得が行くインパクト抜群のそのポケモンこそが、ランドロス

 イッシュの誇る?伝説の豊穣の王である

 

 「ら、ランドロス……」

 『「あやつ、にんじんを狙ってきたのであるか!」』

 折角の人参を!とバドレックスが意気込み、並べた人参の前に立つ

 「ダメだ、バドレックス!」

 止まる気配はない。相性的に勝てない

 ボーマンダがその事に気が付いてランドロスに噛み付き、ドラパルトが仔竜を飛ばしてそれを援護する

 だが、一般的に姿を確認されるポケモンの中では最高峰であるその2種に絡まれてもランドロスの歩み(飛んでいるが)は少し遅れるだけで止まることはなく

 『シロォース!』

 ブリザポスと呼ばれた白馬も、当然止まることはない

 立ちふさがっても無駄だ。勝てる筈はない

 思わず、アズマは人参を守ろうとするバドレックスを庇うように後ろから抱き締めて地面に転がり……

 「かはっ!」

 その背を、容赦なく凍った蹄に蹴り飛ばされた

 『ウルォード!』

 その光景に、三匹がかりでランドロスの動きを封じに掛かろうとしていた巨大狼がアズマを振り返り、口に淡く青い光の剣を咥えてブリザポスへと走る

 ……だが、それを意にも止めずにブリザポスは人参を咥え上げ、そして……

 その人参を、器用に首を振ってランドロスへと投げ渡した

 『どるるるぅ』

 浮上しつつ、それを受け止めるランドロス

 最後の一本はボーマンダが空中で咥えることで阻止するが、二本がランドロスの手に渡る

 そして……

 『ウルゥ!』

 大きなポケモンがアズマを庇うようにブリザポスとアズマの間に入り吠えるが、それを意にも止めず、人参さえ得れば用はないとばかりに踵を返し、その白馬はランドロスが向かう山頂の方向へと走り去っていったのであった




ランドロス(はくばじょうのすがた)爆誕である
なお、原作冠の雪原の豊穣の王イベントにランドロスは乱入しませんし、ランドロス(はくばじょうのすがた)なんてものは存在しません

ちなみにですが、本作での性能はこんな感じ
ランドロス(けしんフォルムはくばじょうのすがた)
じめん/こおりタイプ(189/260/220/180/190/131) 特性:しんばがったい(ランドロスのちからづくとブリザポスのしろのいななきの両方の効果を持ち、特性を無効にされず特性を書き換えられない)


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part4

『「なんと!
今の人の子等の間では威厳ある冠の王よりも可愛らしい少女の方が余程信仰を集めるのであるのか!
人の願いの進化は留まることを知らぬ……ヨもそれに迎合せねば信仰は得られぬのであるな……」』


「……かはっ!」

 用意して貰った氷で出来た皿に、喉から溢れだした血を吐く

 

 「大丈夫ですか……?」

 心配そうに手を握ってくる銀髪の小柄な友人に、ちょっと背中の感覚がないけどきっと大丈夫だ、と横になったままアズマは笑う

 「でも!」

 涙目になりながら、少女は掴んだ手を強く握り

 「……ごめんなさいです。一番辛いのは、アズマさんの方なのに……」

 『ウルォード!』

 テントの外で、またランドロスが戻ってこないか見張っている巨狼のポケモンが鳴いた

 

 此処は、ランドロスとブリザポスが襲撃してきた雪深い畑のすぐ近く

 ブリザポスに背中を蹴られ崖に叩きつけられたアズマは、父の建てた簡易テントの中で寝てろと横にならされていた

 『「嘆かわしいのである……」』

 「……人参を、掘りに来たんだ

 護ろうとしても、しょうがないよ」

 テントの中で項垂れるバドレックスをお前は悪くないんだと慰めようと、アズマは動かせる右手を……吐いた血に汚れたその手を伸ばし

 「……ごめん」

 近付いてくる赤く汚れた五本指に、きゅっと目を瞑り震えるその姿に、慌てて握り拳を作り

 「あ痛っ」

 急な運動で肩にかけた負担が背に響き、その手を地面に落とす

 

 『「……申し訳ないのである」』

 オレが指示したとしても、流石に伝説のポケモン2体は無理があった。と、フォローになっているのかなっていないのか分からない事を言って、だから人参を奪われたのは仕方がない次を考えろとまた通訳として操られたナンテン博士の口を通して、バドレックスは何度も謝罪の言葉を口にする

 

 「……良いんだ。命に別状は無いんだし

 暫く背中は痛いかもしれないけれど、それだけだから」

 『「ヨは、護られてばかりである……」』

 「……そんなことないです」

 『ウルォード!』

 『フカァ!』

 テントの外で、ボーマンダの頭に乗って見張りと洒落こんでいた……というより多分ただ遊んでいたチナのフカマルが鳴く

 「ヨさんは、凄いです

 わたしだったら、忘れられたら恨んじゃうです。そんな人達、滅茶苦茶になってしまえば良いなんて言っちゃうかもです

 でも、ヨさんは違いました」

 『ウルゥッ!』

 チナの言葉に同意するように、縁あるらしいシアン色のポケモンは唸る

 「……人に期待していない。信仰に頼らない

 そう言いつつ、ずっと寂しそうだった

 人の前に現れて、人と言葉を交わして

 人にとっての豊穣の王。人には辛い場所でも、ポケモンにとって今の冠の雪原は……この辺りは決して不満のない豊かな土地なのに。今の自分を、その力を嘆かわしいと言う、人に寄り添う王

 ……おれはただ、そんな優しく努力家な王を、勝手に助けたいと思っただけだよ」

 「もちろん、わたしもです。わたしがどれだけ手助けになれるか分かんないですけど」

 『ォード』

 「……そうだな。勿論シアや」

 ボールから飛び出したヒトツキが、アズマの前でくるくると回る

 「ギル達だって」

 

 『「……人の子らよ」』

 その声を受けて、鹿のような顔のポケモンは、俯かせたその大きな頭を上げる

 『「そうであるな

 ヨがこのように諦念に支配されていては、全てが始まらないのである」』

 ふわりと、その体が浮き上がり

 『「しかし、我が愛馬ブリザポスはかの豊穣の王に鞍替えし、ヨ等の人参を奪い去っていった」』

 「……です、よね」

 『「ああ嘆かわしや

 とすれば、ヨは……」』

 「……なら、もう一匹を。黒い愛馬を探そう」

 『「しかし、人の子らの叡智であるにんじんの種は使ってしまった」』

 その言葉に、ずっと握っていた左手をアズマは軽く開く

 

 「あるよ、人参の種

 記念に家に蒔こうと思って、少し残してたんだ」

 『「でかしたのである!

 ……しかし、黒き愛馬レイスポスすらもランドロスめの手に落ちていた場合は……」』

 「考えても仕方がないよ

 可能性がある限り、やってみよ……ぁ痛っ!」

 興奮して身を起こしかけ、走る激痛にアズマは寝袋の上に転がる

 「あ、あんまり無理しちゃダメです!」

 『「もう十分である」』

 『ウルォード!』

 「……うん、分かった

 チナ、残りの人参の種を渡すから、お願い」

 左手を包む少女の手に、握り込んでいた種を託す

 「……きっと、やってみせるです!」

 

 『ォード!』

 「……有り難うな、シア

 お前の背中に居たら、結構楽になってきた」

 既に日は暮れ、月が辺りを照らす頃

 アズマは一人、大きなポケモンの背に揺られてフリーズ村への帰路についていた

 ……いや、一人ではない

 『ステール!』

 「勿論、お前も。頼りにしてるよ、ルト」

 アズマの周囲を姿を消したり現れたりしながら飛び回る、半透明の親竜。時折透けた尻尾でアズマの背を擦るドラパルトもまた一緒だ

 テントよりはしっかりとしたベッドで寝てるべきだが、それはそれとして豊穣の王らは今からフリーズ村に一旦帰るという手をあまり取りたくはないだろう、という父の判断により、ドラパルトだけが付いてきたという形

 父のポケモンの中でも特に早く更には見つかりにくい彼女ならば、何か起こった時に即座に気が付かれることなく離脱して知らせが間に合うだろうという判断である

 

 『ウルォード!』

 その遠吠えに、遠巻きに夜行性のポケモン達は道を開けていく。特に何事もなく進む帰り道

 未だに油断すると痛む背を大きな狼の背に体を預けることで休め、アズマはその夜道を行く

 だが

 『ウルゥード!』

 その堂々と歩むシアン色のポケモンの前に、立ちふさがる影があった

 深いマゼンタ色をした、傷の位置などは違うがかなり似た姿の一匹の巨狼のポケモン

 『ウルゥード!』

 シアン色のポケモンが足を止めるや、何処か親しげに、そのポケモンは近寄り

 『ウルォード!』

 光輝く剣にその鼻先を叩かれ、目をしばたかせた

 『ゥード!?』

 『シァード!』

 『ゼード!』

 けれども、何事かを吠えるマゼンタのポケモン

 それを鬱陶しげに吠え返すシアン色のポケモン

 二匹の間には、何時しか霧が立ち込めていて……

 

 ……イガレッカ!

 頬を撫でる冷たい感触に、アズマはふと目を覚ます

 「……ギル」

 頬に触れたヒトツキの刀身を撫で返し、身を起こして周囲を見回すアズマ

 その目に、登る日の光が差し込んだ

 「……朝」

 『ウルォード!』

 朝焼けに目をショボショボさせながら、アズマは呟く

 気が付けば、何時しか寝てしまった間にか、背の痛みは完全に消えていて

 アズマはまだシアン色のポケモンの背にしがみついていて。ずれた足を、ドラパルトがその小さな前足で掴んで戻してくれた

 眼前に広がる光景は、フリーズ村近くのもの。遠くを見れば、朝方に野菜の収穫や手入れのためであろう、今はまだ朝6時くらいであるはずなのに当に仕事を始めていた村の老人達の姿が見えて

 『ウラーメ』

 「ルト?何かあるのか?」

 何かを訴えるように、三角の大きな頭を左右に振るドラパルトに、アズマは目を凝らし

 「……シア!」

 その村の畑近く。何かが見えた気がして、アズマは叫んだ

 

 『ウルォォォドッ!』

 嵐のような速度で地を駆け、とてつもない早さで村までの距離を走破したシアンの狼が、村の中心である畑の真ん中で吠える

 『バクロォォス!』

 その咆哮に驚くように、畑の野菜の最中に首を突っ込み、今正にそれを齧ろうとしていた黒い馬が、透明化していたその姿を鮮明に現していた

 ざんばらの鬣は、その馬の上半身を覆うほどに長く、そして黒い。そのうち前髪のように一房だけが白いのがアクセントになっていて。そして何よりも特徴的なのはその蹄だ

 浮いている。足先が無く、少しの空間をあけて、その蹄だけが地に付けられているのだ

 明らかなお化けっぽさ。ほぼ間違いなくゴーストタイプである

 

 「……こいつは、愛馬の……」

 バドレックスの言っていた名前を辿り、そしてその名を思い出す

 「そう、レイスポス!」

 『ォォォォド!』

 『ステルン!』

 畑の最中、畑を区切る道に降り立ち、シアン色のポケモンが威嚇をする

 その横で、同じくゴーストタイプであるドラパルトが、その巨頭の素穴から顔を出す仔竜を向け、尻尾を宙にくゆらせる

 『ホォォス!』

 それを鬱陶しげに思ったのであろう。今正に引き抜きかけた雪大根を一口だけ齧ってぽいと地面に捨てると、その黒馬はアズマ達へと向き直り

 

 『レイホォォォ!?』

 シアンの巨狼の姿を確認した瞬間、びくりとその全身を震わせた

 「な、何事じゃ!」

 「村長さん!村の野菜泥棒が見えて!」

 「時折齧りかけの野菜が道路に転がっていたのはこのポケモンの仕業か!」

 そんな事してたのかレイスポス……はた迷惑な、と心の中で息を吐きつつ、戦いやすいように狼の背からアズマは飛び降りる

 「……ギル、お前もやっぱり、戦いたいよな!」

 そうして、ボールから一旦戻していたヒトツキを呼び出し、改めてその黒馬に向き直る

 「すいません、皆さん!

 おれ……は頼りないかもしれませんが、シアと父さんのポケモン達が何とかします!離れて!」

 『ウルォード!』

 アズマの言葉に、任せてとばかりに狼は吠える

 そして……だが、飛びかかることはせず、じっとアズマの横でレイスポスの姿を見つめ、動きを伺う

 「シア、何か……って、そうか」

 仕掛けないシアンのポケモンに話しかけ、アズマも気が付く

 アズマ達は今、畑のなかにひかれた道路の上に居る。だが、レイスポスがその浮いた蹄で立つのは畑のど真ん中だ。そこに飛び掛かって戦ってしまえば、その畑の野菜は滅茶苦茶になってしまうだろう。売り物には当然ならないし、食べられるかも怪しい

 だからだ。シアンの狼は、静かに黒馬が畑を、野菜のある大地を後にすることを待っている

 「なら、ルト!」

 『ステール!』

 畑のなかには、今は何も蒔かれていない休ませている土地がある。そこを多少荒らしてしまう事にはなるが、折角実った大根やキャベツを滅茶苦茶にしてしまうよりは良い

 「ドラゴンアローで追いたててくれ!ギルはかげうちで方向のフォロー!」

 『ルゥート!』

 アズマの言葉に合わせ、ここ半年で何度もボール遊びをして絆を深めたドラパルトは素直に頭の仔竜を射ち放つ

 『レイホォォス!?』

 当たる瞬間に、黒馬の姿がかき消え、少し離れた所に姿を現すが……

 ドラパルトの射出、『ドラゴンアロー』は、頭の左右から時間差で飛ばすもの。即座に二発目が逃げたその先を追う

 『ホォォス!』

 たまらず、足で数cm宙を浮き駆け出すレイスポス

 その足は、アズマを狙う軌道

 「今!」

 『ウルォード!』

 その足が野菜の実らぬ休ませられている地に踏み込んだ瞬間、飛び出したヒトツキの影が、その顎を下から撃ち据える

 微かに揺らぐ体

 その隙を逃さず、飛び掛かったシアンの狼が、黒馬の巨体を大地に縫い付けた

 『バロ!バクロォース!』

 『ウルォード!』

 混乱したように激しく頭を振って抵抗するレイスポス。それを前足で抑えながら、シアンのポケモンは頭をその鬣に近づけ、そして噛み砕く

 軽い音と共に鬣を一房食い千切り、そのまま黒馬を睨み付けて威圧する

 そのまま、父やバドレックス等が駆け付けるのを待とう

 アズマがそう思ったその瞬間

 

 『クロォォス!』

 ゴーストポケモン特有の姿を一瞬消す動きでもって、レイスポスは拘束を抜け出す

 そして……そのまま駆け去ろうとするが

 「っ!シア!ルト!ギル!」

 アズマは叫ぶ。間に合わないとしても叫ぶ

 全速で駆けるレイスポスの目指す先。村の外へ繋がる一直線の道の先には、騒ぎを聞き付けて何事かと外に出てきた村の人々の姿があって……

 だが、レイスポスは止まらない。そんなものお構いなしに、速度を上げてシアンのポケモンから逃げ出す

 ドラパルトが姿を消す。ゴーストダイブで追い、リフレクターで人々の前に鏡の壁を貼ろうというのだろう

 だが、それすらも先に動きだした黒馬の健脚には一歩及ばない。駆け出そうとした大狼の足も、流石に間に合わない

 そして、アズマとヒトツキに止める手段なんてない

 漆黒の馬は、人を撥ね飛ばし殺しうる速度のまま、突然の事態に動けない老婆へと……

 『カムゥ!』

 その体が、青い光に固められて静止した

 サイコキネシス。ポケモンの技のひとつだ

 「おばあさん達!早く!」

 「……え、ええ!」

 黒馬が彫像のように固まる中、冷静さを取り戻して人は道路を避け……

 少しして動きを取り戻したレイスポスは、そのまま地を駆けて村から巨人平原へと走り去っていった

 

 「……ふぅ」

 「無事か、アズマ」

 空から舞い降りてくる紅の翼。ボーマンダの背には、当然ながら父と友人と、そして豊穣の王の姿がある

 「チナ、一体何があっ……」

 『カム……クラゥ』

 とさり、と

 ふわふわと宙に浮いていたバドレックスの体が、雪深い地面に落ちた

 「……ヨさん!」

 「バドレックス!」




特別意訳のコーナー
レイスポス『バクロォォス!(げぇっ!姉上!)』
レイスポス『レイホォォォ!?(姉だー!姉が出たぞー!ライダー助けて!)』
レイスポス視点で見ると、久しく食べられていなかった大好物のにんじんの香りがしてお腹空いたから何時も通り村に実ってる野菜を食べに来たら血相変えた姉上がやって来た
1000年だか前に王。や自分や相方と共に巨大な掌のムゲンダイナに挑み、王。と自分が大怪我負うなか光輝く剣でトドメを刺してブラックナイトを終わらせた恩ポケモン姉妹のやべー方なのでお帰りくださいただ村の野菜を食べてるだけですと穏便に済ませようと言っても聞き入れられず其処に直りなさいと言われた
やっぱり姉って怖いわ恩ポケモンだけど帰って?
王が来るから待てとか絶対罰食らう奴じゃん王からの罰は王単独でやるなら割とご褒美だけどこの姉上呼んでるとか絶対マジギレしてる奴じゃん死ぬわこっわ逃げよ……
となります。色々と噛み合っていない……


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part5

パチリと、暖炉の火がはぜる

 ……耳に痛い沈黙の中、火だけは音を立てて燃え続けていた

 

 「……父さん、何が起きたんだ」

 その沈黙を破ったのはアズマ

 雪の上に倒れそのまま目を覚まさぬバドレックスを診ていた父は、顔を上げると静かに首を横に振った

 「どうもこうもない。単純に、力を使い尽くしただけだ」

 「それって、」

 「他に何を言うことがある。力尽きた、それだけだ」

 「じゃあ、どうすれば

 ご飯とか?」

 「普通のポケモンならばな

 伝説とされるポケモンともなれば、また違うだろう。食事で元気になるとは限らん

 そもそも、単純な体力が尽きた訳でもない

 ……では、どうする」

 静かにアズマを見て、父はそう問いかける

 「……力を取り戻してもらう?

 でも、どうやって!」

 「どうやって、か。どうやってだと思う?」

 「……分からないよ!」

 だから!と、アズマはそれを知ってそうな父を見上げる

 

 「……豊穣の王伝説。正直なところ、オレはそれをランドロスか或いはゼルネアスの伝承の変形だと思っていた。故、巨人伝説の方が興味があった

 だが、お前達がそれを覆した。豊穣の王バドレックス。それは、お前達が始めた伝説の調査だ

 ……ならば、もう少し考えてみろ、アズマ。お前も、オレのように伝説研究家になりたいと聞いたぞ?

 直ぐに他人に頼るな、考え抜け

 

 ……それでもどうしようもなくなったらオレに言え。但し、その場合この先干渉はさせない。この借り宿に籠って貰う」 

 だが、返ってくる答えは何処までも冷たく

 そのまま、父は口を閉じ、椅子へと座る

 バドレックスを寝かせたベッドの側には、アズマだけが残った

 

 「……分かったら、苦労しないよ……」

 ぽつり、アズマは呟いて

 カラン、と扉の鳴る音に、借りた一軒家の玄関を振り返った

 「……チナ?」

 外は寒い。今日は雪だ。だというのに、飛び出していく銀の髪の女の子

 

 「……アズマさん!分かったです!」

 「……分かった?」

 「ヨさんに、元気になって貰う方法がです!」

 「……何だって!」

 その興奮気味な声に、跳ね起きるようにアズマは玄関へ向かう

 「ギル!バドレックスを見ててくれ、頼む!」

 それだけ言い残すや、外靴を履くのすら面倒と言いたい程に焦り、左右を間違えながら靴を履いて、アズマは雪空へと飛び出す

 

 「チナ!本当なのか」

 「思い出してくださいアズマさん、最初にあったとき、ヨさんは信仰が力の源って言ってました」

 「じゃあ、おれがもっとバドレックスを信じてやれば……?」

 「そうじゃないです!一人で頑張ろうとしすぎです!」

 アズマの手を握り、ぶんぶんと上下に振りながら、少女は語る

 「アズマさんはすごいですけど、それじゃ一人で頑張りすぎです!

 そうじゃなくて、みんなです!おとぎ話だって全然ヨさんを信じてくれてない村の皆に、豊穣の王を信じて貰うです!

 そうすれば、信仰が力になってきっと元気になるって……」

 『ウルォード!』

 「……そう、だな

 やろう、チナ!皆に、バドレックスの存在を、おとぎ話なんかじゃないって事を……信じて貰うんだ!」

 

 「お願いします!」

 「お願いです!王さまのことを、信じてあげてください!」

 ……それから30分後

 アズマ達の姿は、村の真ん中の畑にあった

 豊穣の王の存在を信じて貰うといって、一番近い位置に居たはずのフリーズ村で、皆がおとぎ話だと言っているのに何をすれば良いのかなど、9歳のアズマには考え付く筈もない

 出来ることは、ただ信じてくれ、あの馬ポケモンは伝説にある王の愛馬で、暴れた愛馬を抑えるために豊穣の王が力を使ったんだと。豊穣の王はおとぎ話なんかじゃないんだと、みんなを護ってくれたのだと、ただひたすらに叫ぶことだけ

 「迷惑じゃ、叫びたいなら他でやっとくれ」

 「……それでも、お願いします……」

 当然、そんなもの通る筈もない。言って信じてくれれば苦労なんてない

 けれども、愚直に言い続けるしか、アズマには手がなくて

 「旅人よ、あまり子供に言いたくはないのじゃが……邪魔じゃよ」

 向けられる村人からの視線は、冠を直していた頃の生暖かさは消えた冷ややかさで

 それでも、アズマは横の友人とひたすらに頭を下げ続けた

 

 石を投げられるような事は無かった

 煩く騒ぐ子供達を、力付くで排除することも

 それはきっと、微動だにせず二人の子供を見守るシアンの巨狼ポケモンが居なくとも変わることはなかったろう

 だが、その声を村人達が聞くことは遂に無く

 「止めよ、幼い旅人達よ」

 遂には、村長が家を出て、アズマの前に立つ

 「……でも」

 「誰も、豊穣の王を信じたくなどない」

 少しだけ目線はアズマよりも下にズレ

 見下ろすように、老人は告げる

 「これ以上村に迷惑をかけるのであれば、すまんが出ていって貰う事になる

 これ以上は止めよ」

 「……そうかもしれないけど、でも

 あんな風に、像まで建てて、昔は王と、バドレックスと、そうして仲良くしてた筈なのに!」

 「……人も見込めぬ。そろそろあの像も、撤去を考えていた所だ

 みんな、豊穣の王は、おとぎ話の方が都合が良いのだ」

 「……何でだよ!」

 村にだって、色々な思惑はあるのだろう

 信仰を無くして、豊穣の王が居るなら、こんな貧しい生活なんてしてないって思って

 鉄道が引かれて、近くに冠リゾートが作られて。その豊かさに惹かれて、多くの若者が消えた、子供と老人だけの残る村。豊穣の王など実際に居る筈ない、だからこんなに苦しいんだと王を恨みながら寒さと貧しさに震えて眠った夜も、きっと村の皆にあるのだろう

 それでも、と 

 レイスポスを止め、村人を護る為に、信仰を喪って人参数本を育てるのに疲れるくらいしか力が残っていないのに無理に力を振るったあの王を信じしてくれないのが、どうしようもなくかなしくて

 

 「バカヤロー!

 みんなの、バカヤロー!!」

 思わず叫び、アズマは走る

 どれだけ言っても聞き入れてくれないと分かっていて、ぶつけても仕方ないのも知っていて

 やりきれない行き場の無い思いを、何処にぶつけられる事もなくて。友達すら置いて、雪道を一人、当てもなく走り

 「ふげっ!」

 当然のように、村人が踏み固め、氷として固まった雪に足を滑らせ、頭から脇道に突っ込んだ

 

 「……何でだよ……」

 雪の冷たさを唇に感じ、アズマは呟く

 『ぴゅい!』

 そんなアズマの頬を、無邪気に撫でる感触があった

 「ふわふわちゃん、どうしたのかしら

 あら、可愛らしい旅人さん?」

 「……おばあさん」

 それは、夜空色のポケモンを連れた、一人の村人の老婆であった

 「あらあら、大丈夫かしら旅人さん?」

 

 「……そうねぇ、みんな、信じるなんて言えないでしょうね」

 老婆の家の中

 少し上がっていきなさいな、そこの可愛らしい子も一緒にと家に通されたアズマは、シチューをかき混ぜる老婆から、そんな事を聞かされていた

 「……でも」

 「みんなね、怖いのよ」

 「怖いって、何がですか

 あいつは、そんな怖いポケモンじゃ……」

 「旅人さん達は、最近来たばっかりだから、実感は無いかもしれないわねぇ。直ぐに像に気が付いて、その日のうちには直そうって思って

 そんな旅人さん達は、おうさまが怖いなんて、思いもしないわね」

 「そうなんですけど、じゃあ、みなさんは……」

 アズマの横、貰ったホットミルクをちびちびと飲みつつ、少女が問いかける

 「わたしが子供だった頃、既に像の冠は取れていたし、おうさまなんて居ないんだぜっていうのが、常識だったの

 わたしも、10歳の頃には信じてなくて、でも、おうさまのお祭りが昔はあったのにって事だけは残念に思っていたわ」

 「……仕方ないのかもしれませんけど

 でも、それは」

 「ええ。子供なら、また信じるのも簡単ね

 でもね、みんな、おうさまの像を直そうとも、またお祭りを開いておうさまに来て貰おうとも、なんにもしなかったの。おうさまなんて居ない、助けてくれない、おとぎ話だって、ね」

 「……」

 その言葉に、アズマは何も返せない

 返しても無意味だと、分かるから

 「何年も、何十年も、わたしが子供だった頃に優しかったおじいちゃんの頃には、もうずうっと

 そんなおとぎ話のおうさまが本当に居るって言われても、みんな怖いの

 旅人さん達は、最初からおうさまを信じていたから大丈夫かもしれない。でもね

 そんな風におうさまを忘れて、蔑ろにしてきたみんなはね。おうさまに恨まれてるんじゃないかって、そう思っちゃうのよ」

 「あいつは、そんなポケモンじゃない!

 恨んでるなら、力を振り絞って助けたりしない!」

 「ええ、そうね。きっと、おうさまは優しいおうさまなのね

 けれど、何年もそう思ってたら、直ぐに変えられるものじゃないの」

 どこまでも優しい声音で、シチュー鍋を混ぜて、老婆は語る

 

 「……はい。旅人さん

 おうさまのお祭りシチュー、おあがりなさいな。本物は、もうおうさまのおうまの大好きな人参が取れないから作れないけど……」

 「……ありがとうございます、おばあさん」

 一礼。出された木の皿を見て、アズマは礼を言って

 

 「お祭りのシチュー?」

 ふと、その単語を気に止めた

 「ええ。お祭りのシチュー

 本当は、向こうに見えるおっきな木があるでしょう?あの下で、あの木の実と、おうさまのおうまが大好きな二種類の人参と、普通の人参の3つの人参が主役のシチューを作るの。おうさまとおうまと、この土地に感謝を込めて」

 「……それが、祭りのシチュー……」

 「といっても、もうあの木まで行くのも危険だし、おうまの大好きな人参は取れないし……」

 「おばあさん、そのレシピ、教えてください!」

 「ヨさんの、おうさまの為に、お願いします!」

 

 「まっくろにんじん、まっしろにんじん、ミルクの海でこーとこと……」

 ダイ木の丘

 父に連れてきて貰った其処、天辺が白い大きな赤い木の下で、アズマは友人のチナ、そしてポケモン達と共に、其処に放置されていた鍋……はさすがに劣化しすぎていたので借り家から持ち出した鍋でもって、シチューを煮始めていた

 「ぐらぐらおなべがなったなら、ダイ木あかい実花咲かせ……」

 ヒトツキに切って貰い、教えられた歌の通りにその見上げる巨木の実を鍋に放り込む

 「にんじん溶けたら、沢山の

 畑の野菜をまぜこんで」

 予め切っておいたジャガイモ、タマネギをチナが放り込み、優しい味わいのモーモーミルクでじっくりと煮込む

 「最後にピリリとヒメリをぱらーぱら」

 擂り潰したヒメリの実を振り掛けて、火を止める

 「……良し、出来た!」

 「つめたいにんじんさん、一本護れてて良かったです」

 「……ホントだよ。無ければ、作れなかった」

 チナが引っこ抜いて持ってきた黒いにんじん。バドレックスが護ろうとした白いにんじん。それらを使って完成したシチューを前に、アズマはしみじみと思う

 白と黒とオレンジの人参が溶け込んだクリーム色のシチュー。白と黒は馬の色、そしてオレンジは人の色。そのメインとなる人参全てがダイ木の実とミルクから(タマネギやジャガイモは脇役として入っているが)出来たバドレックス色のクリーム色のなかに溶け込んだそれが、老婆から教えられた祭りの一品であった

 

 「……バドレックス」

 それに意味があるのかは分からない。祭りの品を作ったとして、それが信仰を取り戻す事になるのか、力になるのかなんてアズマには見当がつかない

 けれども、意味があると信じて

 父が近寄るポケモンを見張るなか、シアンのポケモンの背に乗せて連れてきたバドレックスの口に向けて、鍋からシチューを掬った木の匙を向ける

 そして、その口に優しく流し込む

 

 『……カムゥ』

 二匙目。ゆっくりと、ウサギのような鹿のような顔立ちをしたポケモンが、その目を開けた

 「ヨさん!良かったです……本当に、良かったです……」

 ぐすんと涙ぐみながら、あまり粗っぽくする訳にも行かないので抱き付かずに頭の冠を、銀髪の少女が撫でる

 『ウルード』

 頷くように、シアンの狼も吠え

 『バクロォース!』

 更には、レイスポスまでもが嘶きと共に現れる

 

 「……レイスポス!」

 一瞬、アズマは身構え……

 そして、首を軽く振りながら、警戒を解いた

 駆け寄った黒馬は、遠慮無く鍋に首を突っ込み、シチューを食み出す

 その背に、ひょいとアズマは抱えあげたバドレックスを乗せた

 ……抵抗はない。一心不乱にそのポケモンはシチューをなめ続ける

 その背を、目を覚ましたバドレックスは優しく撫で擦る

 『「……こやつも、ヨが信仰を喪い、苦しみ疲れていたのであるな……」』

 威厳を出そうという口調に反し、妙に可愛らしい声が、アズマの耳に届いた

 「……ん?」

 『「……実に、感謝してもしきれないのである

 至極感謝である。お陰で、ヨはまた愛馬とまみえることが出来た」』

 『クロォース!』

 『「ヨの愛馬レイスポス……。信仰なくシチューが貰えないならばヨに従うのはやってられないというだけで、シチューがあれば戻ってきてくれるか」』

 響く、鈴を鳴らすような透き通ったチナの声とはまた違う、耳に残る甘い声

 「……ノリがちょっと軽くない?」

 「というか、この声、ヨさんですか?」

 『「いかにもヨだ。人の子らよ。お陰で直接話せるようになった、感謝してもしきれないのである」』

 「……なんか、いや外見とは合ってるんだけど……

 口調から感じるイメージと声が違う……」




豊穣の王子が圧倒的不人気なのでヨは♀相当となりました
……可笑しい……一応元々王。の筈なのに……


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part6

『レイホォース!』

 シチューをあらかた食べ尽くし、レイスポスが嘶く

 

 「……レイスポス」

 その黒い体を見上げ、アズマはぽつりと呟く

 大丈夫なのだろうか、また暴れないのか

 不意を打って乗せただけのバドレックスは器用にレイスポスを乗りこなしてはいるが、その先の保障はない

 だが、食べ終わったレイスポスは、器用にその長い下で顎に付いていたシチューまでも舐めとると、静かにアズマの前にたたずんでいた

 

 『ウルォード!』

 『「裁きは良い、妖精王の剣よ

 ヨの元へと帰ってきてくれた。それだけで十二分なのである」』

 一声鳴くも、バドレックスの言葉にそうかと興味を喪ったように、シアン色のポケモンは眼前の黒馬を睨むのを止め、体を丸めて休み始めた

 「……そうだよな、お疲れ様、良く頑張ってくれたよ、シア」

 目を閉じて休むその巨狼の額を撫で、アズマは呟く

 1日かけてダイ木の元へと向かったとき、バドレックスと人参、更には一夜を明かす事になるためのキャンプ道具(流石に9歳のアズマにはそれを背負って1日歩き続ける体力は無く、ボーマンダは父のテントや鍋を背負っていたため頼めなかった)までも背負い、ダイ木への道で流れていた大河ではチナを濡らさぬように背を上げた器用な犬かきで二度も往復し、夜は交代で悪戯ポケモンが寄ってこないように番までもしてくれていたのだ

 それ以前に、雪深い畑に行く際も、その後夜通し歩いてアズマをフリーズ村に送ってくれた時だって、特に休んでなどいない。他のポケモン達は(バドレックスを除いてだが)ボールという安全で快適な場所で体を休めることが出来るが、ボールに入らず、手持ちとなることを良しとしないまま手を貸してくれているそのポケモンには、ゆっくり休める場所は無かった。家には入らない線引きをしているポケモンの為にテントは張ったが、といっても外だ。降り積もる雪は避けられても、寒さは感じるだろう

 一番疲れているのはアズマでもナンテン博士でも彼が頼りにするボーマンダでも無く、彼女のはずだ

 であるにも関わらず、今の今まで疲れた様子ひとつ見せず、縁はあっても助ける義理も何もないアズマを支えてくれていたのだ

 有り難うという気持ちを込めて、浅く眠るその額を撫で続ける

 

 「ポケモンさん、お疲れですか?」

 「……そうみたい。ずっと、頑張ってくれてたから」

 言いつつ、アズマは持ってきた鍋を見る

 其処にはもう、優しいクリーム色は無い。バドレックスに数口食べさせ、残り全ては現れたレイスポスが食べ尽くしてしまった

 

 「シチュー、疲れたなら食べて貰おうって思ったけど、もう残ってないや」

 『「祭りを思い起こさせる味であった」』

 『バクロォース!』

 満足とばかりに嘶くレイスポス

 「いや、バドレックスの為に作ったんだし、そこは良いんだけどさ

 ……ちょっとくらい残ってて欲しかったなーって」

 『「レイスポスが満足するほど美味しかったのである」』

 「……うん、まあ、それは良かったよ」

 でも、だとするとどうするかな……と思いつつ、アズマは周囲を見回す

 何時もであれば、日持ちのするポロック等を持ち歩いているアズマだが、今は持っていない。お疲れ様とことあるごとにポケモン達に一粒と渡していたら、気が付けば滞在半ばにして持ってきた分を使いきってしまっていた。本来はそこまで父と駆け回る想定では無かったので足りる計算だったが、父のポケモン達と協力して豊穣の王伝説を探求するにはあまりに少なかったのだ

 モーモーミルクも行商の人から買ってきた分は全部シチューにしてしまい、缶の処分等を考えてサイコソーダなんかは数本しか持ってこず、当に飲みきっている。残った缶は邪魔になるのでボーマンダの炎で溶かし、フカマルが踏み固めてアルミニウムの小さな塊にしてバッグに詰め直した

 「父さん」

 「オレに言うな。オレは今回はあくまでも付き添いだ

 それにな、オレはお前ほど菓子を持ち歩く習慣はない」

 「……そうだよね」

 ごめんなさいですと聞かなくても謝ってくる友人が持ってる気はせず、だから尋ねることもせず

 

 『フカァ!』

 「フカマル、叫んでももうシチューは無いよ」

 体の割に大きな口を空ける鮫竜の子供を見て、アズマは呟き

 「ちょっと待て、お前何を食べてるんだ?」

 その口元が赤く汚れている事に気が付く

 

 「フカちゃん、何食べてるです?」

 『フカァ!』

 トレーナー(10歳になるまで自分のポケモンは持てない為名目上はチナの父のポケモンであり今はナンテン博士に預けているものとして登録されているが、実質チナのポケモンだ)に問われ、その鮫竜は小さな手を目一杯上へと上げる

 見上げたアズマの腕の中に、タイミング良くヒトツキが切り落としたダイ木の実が一つ落ちてきた

 

 「……ダイ木の実か」

 「これ、食べられるです?」

 「シチューには入れたけど、単体だと流石に食べられないかな……」

 味見として一口だけ口に入れたとき、これ生で食べるものじゃないと思ったなと思い出しつつ、アズマはぼやく

 生で美味しくなかったから忘れていた。だが、フカマルは割と美味しそうにその実を口にし、そして満足げに口回りの赤い食べ滓をトレーナーの少女のハンカチで拭われている

 ならば、ポケモンにとっては美味しいのかもしれない。ポケモン用に作られたポケモンフードだって、人にはあまり美味しくないが万ポケモン受けする味付け(といっても、一番メジャーな味とはいえナンテン屋敷に居る父や執事のポケモンだけで見ても、大好物としているトリミアンや逆に見向きもしないワンパチ、母は好むが子供は嫌ってそうなガルーラなど好き嫌いはある)だったりするのだ

 ……一部にはポケモンフード美味しいだろ!とネットで主張している人も居るが、それは置いておこう

 

 「……じゃあ、この実で良い……のかな」

 『「ヨはあまり好まぬ」』

 『ホォォォース!』 

 『ヴォーダッ!』

 『「そこの竜とレイスポスも、生では嫌だと好みを語っているのである」』

 バドレックスの言葉に、アズマは迷う

 そのまま、この抱えるような大きな木の実を出して良いものか

 そんなアズマ達を見守りながら、父は一人で人向けに、大きくリザードンの描かれたパッケージのカレールーを開けていた

 

 「……父さん?」

 「ああ、これは無関係だアズマ。このチャンピオンカレーは謎の木の実を入れて作る用の調合はされてないだろうからな」

 「あ、うん」

 お前達に任せているからオレは無関係だとばかり、その実何かあれば介入できるようにしながら、父は連れてきたポケモン(相棒ともいえるボーマンダとガラルだからと連れてきたドラパルトは当然だが、小器用なレントラーまでもボールから出している)と共に勝手にカレーを作っている

 「……因みに砂糖ならあるが、使うか?」

 「……お願い、父さん」

 一口齧り、その味に顔をしかめながら、アズマは頷いた

 

 『ホォォォォス!』

 『「好い香りなのである」』

 フカマルの取ってきてくれた他の木の実の汁(特に甘味の強いオボンの実を、力自慢のボーマンダがその尻尾で搾ってくれた)と共に、ダイ木の実を砂糖で煮込んでいると、そんな声が聞こえた

 『「これならばきっと喜色満面」』

 『レイホォォォス!』

 「落ち着いてくれレイスポス。しっかり半分はあげるから」

 戦いはしたが、蓋を開けてみれば単なる食いしん坊だこいつとなる馬のポケモンを見上げつつ、アズマは呟く

 

 「それにしてもバドレックス

 妖精王の剣って何なんだ?」

 ふと、気になっていた言葉を問いかけるアズマ

 「カッコいい名前です。そこのポケモンさんがそうなんですか?」

 『「ガラルは1000年前、巨大な災厄に襲われたのである

 ヨも、愛馬ブリザポスと共にこの地……ではなく今は遠く離れてしまったがかつての愛しき土地ガラルの為に立ち向かったのであるが……」』

 『バクロォォォス!』

 「ブラックナイトか」

 『「奴の力はあまりにも強大で、ヨは大きな傷を負ってしまったのである

 結局、そやつは人の英雄と共に立ち上がったポケモン達によって止められた」』

 「……それが」

 『「妖精王の剣。そして格闘王の盾。人と共に黒き災いに立ち向かったポケモン達の纏め役なのである」』

 「……妖精王の、剣」

 『「言っておくが、あくまでも似ておるだけである」』

 「ん?そうなのか?」

 『「きっと、本ポケモンではないのである」』

 「そっか」

 頑張ったポケモン達が喜んでくれると良いなと思いながら、アズマは鍋を混ぜ続けた



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王LANDORUS part7

『……オード?』

 前足に顔を埋めて眠っていた青い狼のポケモンが、漂う香りにふと顔を上げる

 

 「シア、起きた?

 ダイ木の実の砂糖煮ならあるけど、食べる?」

 そんなポケモンを見て、アズマはこれはシアのだからとやはり全部食べたそうなレイスポスから死守した鍋の取っ手を持ち、見えるように中身を傾けた

 『ォード!』

 一声鳴くや、シアンのポケモンは行儀良く立ち上がり、そして体勢を直して伏せる。人を良く知るポケモンの礼儀正しさを見て頷き、アズマは……量がそれなりにあるので、待つ間に少し冷えた鍋ごと目の前に置いた

 

 「どうせ洗うから、そのままどうぞ

 それとも、ちょっと熱いから嫌?」

 大丈夫だとばかりにその前足でちょんと鍋を叩いて温度を確認すると、巨狼は鍋の中でざく切りにされて煮込まれた甘くこってりした実に牙を立てた

 

 「……さて」

 父はとっくにカレーを食べ終わり、近くの水辺で皿を洗い終わって此方を遠巻きに見守っている。フカマルは地上付近を飛ぶヒトツキやドラパルトの子竜と鬼ごっこして遊び、ボーマンダとドラパルトの親竜は子供のポケモン達が野生のポケモンに襲われないように空にその威容を晒して威圧していた

 

 そんな状況で、アズマは横でニコニコしている少女や、少しだけ不満げなレイスポスの首を撫でて落ち着かせているバドレックスと最後の話し合いをすべく、言葉を切り出した

 

 「レイスポスは落ち着いてくれたし、シアも元気に……なれるかな?」

 「頑張ったですし、きっと美味しいです」

 「うん、そうだね

 だとすると……」

 アズマは、カンムリ雪原の果て、ダイ木の丘とは村方面を挟んで逆に聳え立つ山を見上げる。中腹近く、かつての雪深い畑にまでは行ったが、本来最後に目指すべきは山頂、豊穣の王を奉る神殿だ

 そして今は……伝説のポケモンであるランドロスが、ブリザポスを従えて待ち構える場でもある

 

 「バドレックスの為には、行かないといけないかな」

 「『その事なのであるが……』」

 大きな蕾の頭を揺らして、小さな豊穣王が告げる

 「『ダメなのである。今のヨでは、敵わぬのである』」

 「確かに、ブリザポスもランドロスも恐ろしく強いポケモンだ」

 こくりと頷いて、アズマは同意する

 

 そして、父からお前に必要ない気もするがと渡されているボールを手の中で握った

 「どっちかゲット出来たりしたら何とかなる気はするけど、多分認めてなんて貰えないだろうし……」

 「おうまさん、ヨさんが立派なところを見せたらヨさんのところに帰ってきてくれたりしませんか?」

 「『そうではないのである』」

 「あ、違ったんだ、ごめん」

 

 謝るアズマに良いのであると言いながら、小さな手でバドレックスは何かを持つようにして、虚空を引く動作を行った

 

 「人の子等よ。今のヨを見て足りないものは感じないであるか?」

 その言葉に、アズマはチナと共に馬上のポケモンを見た

 

 特に変なところはない

 足りないと言えば威厳……くらいにも見える。バドレックスそのものの造形が豊穣の王の異名を持つ伝説のポケモンにしては、同じく豊穣のポケモンであるランドロスに比べてあまりにも愛らしさしかないが故に、伝説の割には威圧感が無い

 「無いかな」

 「あ、」

 しかし、横の少女はアズマとは違う感想だったようで……

 

 「チナ、何か足りないものあった?」

 「アズマさん、ポケモンに乗る時はどうするですか?」

 「え?頼んで背に乗るけど……」

 「そうですけど、そうじゃないです!

 ヘッドギアとか、付けること多くないですか?」

 言われてみればと深く同意して、アズマは改めて鹿のような兎のようなポケモンを見返す

 ヘッドギア……は必要ないだろう。冠のような角と蕾が頭より大きく、万が一投げ出されても割と安心に見える

 では、他にポケモンに乗る際に良く使われるものは……

 

 「鞍?」 

 サメハダーといった、体に下手に触れると怪我をするポケモンと海を行く際の必須器具の名前をアズマは出した

 「手綱もかもしれないです」

 「『タヅナである』」

 「手綱なんだ。確かに無いけど……」

 「『かのタヅナで結ばれたヨと愛馬は正に【じんばいったい】』」

 「ポケ馬一体じゃなくて?」 

 「アズマさん、ポケポケ一体になっちゃいますよ?」

 「なら、神馬一体で良いのかな?」

 

 「『こほん、である

 心と体を一つに縦横無尽に駆け巡るのである

 されど今やヨの手元にタヅナは無く、只乗っているだけ……ああ嘆かしや』」

 「つまり、本来は手綱を付けてやると二体で合わせて凄い力を出せるけど」

 必要かとばかりに近付いてきたボーマンダの頭の上に、チナがフカマルを乗せる

 『フカァ!』

 高い高いと喜ぶフカマルと、バランスを取って頭を上げてやるボーマンダ

 

 「今は、これとそう変わらない状態、ってこと?」

 「『同意である

 ヨとて、豊穣の王として頑張りたいのであるが……ランドロスめに力を見せられぬ今は致し方無し』」

 「何とかして、その手綱を作らないといけないんだ」

 「『迷惑をかけるのである』」

 「大丈夫。頑張ろうチナ」

 「ポケモンさん達も一緒に頑張るです!」

 少女の言葉に合わせて、ヒトツキがアズマの回りを一周し、

 『ウルォードッ!』

 『フカフカァッ!』

 二匹のポケモンが同意するように鳴いた

 

 「じゃあ、手綱を作らないといけないんだけど……」 

 脳裏に何か引っ掛かるものを感じ、アズマは少しだけ悩む

 「チナ、村長さんの家に、そういう資料無かったっけ?」

 

 食べ終わった鍋を洗い、フリーズ村へと戻ってくる

 確か、前は今は読まなくて良いと飛ばしたページに手綱についても何か書いてあったような……という記憶に基づいて、今一度村長を訪ねるために

 

 そうして、微妙な顔をされながらも村長の家に居れて貰い、資料を見て……

 「難しいね……」

 アズマの口から出たのはそんな言葉だった

 

 「『どうだったのである?』」

 借りている家に戻ると、暖炉の前でふよふよと浮いていたバドレックスがそんな言葉をかけてくる。外では伏せるシアンの巨狼に見守られ、村で何度も野菜泥棒していたからかバツが悪そうなレイスポスが半透明になりながら大人しくテントの中に寝転がっていた

 

 「材料は分かったよ

 まず、王の馬の鬣。それが記述は微妙に分かりにくかったけど……多分両方、つまりレイスポスとブリザポスの分」

 「そこが難しいんですよね……」

 暖炉に当たって暖まりながらチナ

 「レイスポスさんは兎も角、ブリザポスさんの分は……」

 「オレが持っている」

 そう言ったのは、アズマの父であった

 

 「父さん。持ってるの」

 「礼ならばあのポケモンに言え。オレはお前の為にブリザポスを追い払った時に噛み千切ったものを回収していたに過ぎん

 本来は持ち帰って研究するつもりだったがな、必要ならば仕方ない」

 「そっか、シアが……後でもっとお礼言わないと」

 「一緒に言うです」

 「うん。まずは第一関門は突破で……」

 言いつつ、机の上に父から渡された白くて冷たい鬣とシアンのポケモンが畑を守る際に噛み千切っていた鬣を置いて、アズマは見た資料を思い返す

 

 「愛馬の鬣なんかを編み込むのに、確か……強靭でしなやかな何かが要るって」

 「そっちも難しいです」

 「『具体的にはなんであるか?』」

 「分からない」

 アズマは首を傾げた

 

 「バドレックス、何か覚えはない?」

 「『むぅ、ヨがキズナのタヅナを人から献上されていたのは何分昔の事であるが故……

 難色……そも、毎度少しづつちがっていたような……』」

 

 「つまり、割と何でも良い?」

 「それなら……あれ?だとしても強靭でしなやかで長くて……編めるものって何があるです?」

 「そこなんだよね……」

 そんな都合の良い素材、アズマには覚えがないし、近くで見た覚えもない

 

 「『むむ……難しや……』」

 「例えば、ミアの毛……じゃ流石に足りないかな?」

 ふと、アズマは思い付くが

 「トリミアンさんです?」

 「加工出来んし、そもそも家で留守番しているだろう」

 不可能な事として切り捨てられる

 

 「やっぱりダメか……」

 と、その時、借り家の窓がトントンと叩かれた

 「あ、ごめん。話に加わりたかったんだな、シア」

 窓に鼻先を押し付けるのは、大柄な狼のポケモン。そんな彼女が話せるべく、アズマは窓を開けて……

 

 「寒っ」

 吹き込む風に小さく身を震わせた

 

 『スォード!』

 小器用に前足を縁に乗せて顔を開けた窓から室内に突っ込むと、そのポケモンは優雅に編まれた赤い髪のような毛を靡かせて、一声吠えた

 「シア?」

 見せ付けるように、そのポケモンは……初めて出会った時に枝が絡まっていたのでアズマが櫛ですいて編み込んだ赤い毛を揺らす

 「ちゃんと編めてるよ、シア?」

 『ォード!』

 ひょっとして編んで欲しいのかと思いきや、ほどけかけていたりはしない

 不思議に思うアズマの前で……人に友好的な豊穣の王はその目を真ん丸に見開いていた

 

 「『ほ、本気であるか……?』」

 「ん?バドレックス?」

 「『人の子よ。この鬣を使って良いとの事である』」

 バドレックスの言葉に同意するように、シアンの狼は一声吠えて揺れる赤い毛を頭を振ることでアズマの方へと向けた

 

 「……そっか」

 良いのかと訊く気は無い。良いからこそ、こうして吠えている

 その事はアズマにも分かるから、何も聞かずに相棒を呼ぶ

 

 ポケモンは基本的に大文字に焼かれようがエアスラッシュで斬られようが大きく姿が変わらない程に頑丈だが、ポケモン自身が認めれば毛等一部は刈り取ることが出来る。そうでなければ、トリミアンのカットなんて出来る筈もないし、メリープ毛の布団だって作れない

 「ありがとうな、シア

 使わせて貰うよ。あと、後で編み直すから」

 アズマはその三編みの鬣らしい毛を一端ほどき、両側から1/4ずつくらいの量を選り分ける

 そして……

 

 「ギル!」

 アズマの声と共に、シアンの狼の選り分けられた鬣を、ヒトツキが切り落とした



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part8

『「それで、以上であるか?」』

 「いや、あと一個素材が要るんだけど……」

 感心感心と頷く伝説のポケモンに、アズマは少しだけ言いにくそうに言った

 

 「これが一番難しいかもしれないんだ」

 『「何と!それほど難のあるものであるか」』

 「かがやくはな、っていうものが必要なんだって話なんだけど……どういうものなのかすら検討もつかないんだ」

 「かがやくおはな……シェイミさんみたいなポケモンさんなら知ってるでしょうか?」

 「分からない。分からないから困るんだ

 手掛かりも何もないし……」

 

 『「そうであったか」』

 「バドレックス?」

 何か感じ入るように目を閉じたポケモンを見て、アズマは首をかしげる

 

 『「人々がヨにタヅナを捧げなくなったのは、ヨを忘れたからと思っていたが……ヨがその材料を咲かせなくなったからであったか

 随分とながく、勘違いをしていたのであるな……」』

 「でも、ヨさんにそれをちゃんと言えばきっとわかりあえたです!」

 何か反省の心を抱いていそうなバドレックスに、チナはフォローのように言葉をかけ

 

 「それにさ。今分かったからもう大丈夫

 ……というよりも、ひょっとして咲かせられるの?」

 『「かがやくはなとは、ヨが咲かせるとある花のことなのである

 美しく青く輝く青い花……ああ懐かしや。かつては祭りの度に咲かせたものであるが……力を大きく消費するので何時しかヨは咲かせなくなっていったのである」』

 「そうやって、おうさまへの感謝、小さなことが重なって忘れていっちゃったですね……」

 銀の髪の少女が話を聞いてしょんぼりする

 そもそも豊穣の王のお陰の生活に馴れて感謝が減ったのが原因では?という言葉を、アズマは無粋過ぎるなと呑み込んだ

 

 『「しかし、もう誤解はないのである」』

 「花、咲かせられる?」 

 『「疲れは激しいが、これもヨの愛する地を取り戻すため……

 人の子等が精一杯なのにヨが横着は出来ぬのである」』

 

 そう言うと、小さな伝説は頭の冠のような蕾を淡く光らせ、目を閉じてむむむ……と唸る

 『カムカクラーゥ!』

 ぽん、と小さな音と共に、その掌に一輪の青い花が咲いた

 

 『「たった一輪……足りるであろうか」』

 「きっと足りるよ、装飾というか、王と馬を結ぶための王の象徴として……ってものらしいから」

 『「うむ!人の子よ、頼むのである」』

 

 そうしてアズマは、手にした材料を手に……写させて貰った資料を元に編めるか挑戦してみる

 が……

 

 「よし出来た。シア、これで良い?」

 再び三編みと思いきやイヤイヤをする狼相手に、ならばと根元をリボンで縛ったツインテール状にした鬣ををリングを作るように結い、アズマは現実逃避をしていた

 

 「アズマさん、がんばです!」

 『ウルォード!』

 『フカァッ!』

 ポケモン達やチナも口々に言うが……

 「え?これ、どうやるの」

 書き写した資料を前に、アズマは頭を抱える

 遥か昔の資料には、確かに手綱の作り方そのものは書いてあったのだが……編みかたの記述は曖昧で、しかもガラル編みなる基礎となる部分に白馬の鬣を組み込むアズマの知らない技法を使うと書かれていたり……。とても、家で雑誌片手にトリミアンのカットを趣味でやっている程度のアズマが作れるような代物では無かった

 

 『「失敗を恐れてはいけないのである」』

 「でも、失敗したら下手したらシアの鬣をもう一回貰うことになるし、しろいたてがみが足りなくなったらどうしようもなくなるから、下手な事は出来ないよ

 絡まってほどけなくなったらどうするのさ」

 「む、難しいですね……」

 やっぱり、手を借りるしかない

 そもそもだ。此処は……バドレックスとフリーズ村、いやガラルの問題から始まったことだから。外から来た自分がどれだけ頑張っても、それだけじゃ駄目なんだ

 そう思ったアズマは、素材を手に再度、村長の家を訪ねていた

 伝統的な編み方だって、村長なら分かるかもしれない。そう思って……頼み込む

 

 「お願いします!」

 「ヨさんの為に、おうさまの為に!お願いです!」

 けれど、厄介そうにしながらも出迎えてはくれた村長は、苦い顔をする

 「旅人よ。何度も言うが……」

 「でも、今からだって、やり直せる!違うんですか!

 確かに、王の事をお伽噺としていた事があって、受け入れにくいのかもしれませんけど、それでも!

 やり直せない訳ではないでしょう!」

 「『その通りである』」

 突然、父の声が響いた

 

 アズマが振り返ると、ふよふよと浮いた父と共に、黒い愛馬に跨がったバドレックスがゆっくりと歩いてきたところであった

 隠す気は無い。堂々と、その伝説は自身の実在を示すように、村の最中を……まあ仕方ないですねと言わんばかりにツーンとした振る舞いのシアンの巨狼を引き連れて行進する

 

 「バドレックス!?」

 自分で人間に言葉を伝える力すらもまた無くなるくらいに消耗したのかと思うも、何処か誇らしげに闊歩するレイスポスを見るにそれはない

 

 「豊穣の、王……」

 その姿を見て、村長は固まる

 当然だろう。お伽噺として蔑ろにしていた伝説が、像通りに馬のポケモンに乗って姿を現したのだから

 

 「『人の子よ』」

 父の口を通して出る言葉に、あっ……とアズマは理解する

 確かに父の口を借りるべきだ。バドレックス単体で話しては……声の質が甘く柔らかすぎる。元々王という言葉にしては小さく可愛らしい姿なのに、声まであれでは威厳というものが足りないから、男性の声帯を借りているのだろう

 

 「良いの?」

 「『ヨに任せるのである

 オヌシ等に任せて隠れていては王として情けなや……やはり、ヨがせねばならぬ』」

 決意を込めた顔をしたガラル王たるそのポケモンは、黒い愛馬を止めて村長の前に立った

 

 「『ヨはバドレックス

 豊穣の王と呼ばれし者』」

 一度だけアズマ達によって冠を直された像を見て、そのポケモンは改めてその名を告げる

 

 「『長き時を経て、ヨは忘れ去られ……力を喪い、人を嫌い、姿を隠した』」

 大きくポケモンは小さく短い両の腕を拡げる

 

 「『しかし、遠くより来る人の子等によって、ヨは思い出した

 人々の温もり、優しさ、そういったものを』」

 「王よ」

 目の前に居られては、必要ない等とは言えはしない。だから、村長は口ごもる。集まってきたフリーズ村の人々も、何も言えずにただ遠巻きに見守るしかない

 

 それは、恐れられていた光景。もはや信じていないからお伽噺の方がいい。豊穣の王が実在したら、忘れ去った自分達を恨んで、仕返しをするかもしれないから

 そんな王が、本当に姿を見せた。姿を現したバドレックスを見守る人々の目には、明らかな怯えが浮かんでいた

 

 「『やはり、ヨは……この地の人々が、自然が、ポケモン達が……その総てが輝かしく、愛おしいのである

 久しく忘れていたその事を、小さな旅人はヨに教えてくれたのであるな』」

 から、から、からと自分の口でそのポケモンは笑い、手を叩く

 

 「『そも、ヨにも問題はあった。オヌシ等が忘れるのも、口惜しいが仕方なし

 悲しい過去は変えられぬのであるが……未来は変えられる

 

 人の子等よ、今一度、ヨとやり直してはくれぬか?』」

 「王よ、それは」

 「『最早村は貧しく、豊穣の王とは名ばかり……

 そんなヨと、豊穣を取り戻して欲しいのである』」

 『レイホォォォス!』

 締めとばかりに、レイスポスが嘶いた

 

 その言葉に、村長は……じっとアズマ達を見る

 同じ主張をしてきた、ガラル外から来た子供達を

 

 「この村を、変えようとするか」

 「変えるのは皆です、村長さん。おれ達は……単に、バドレックスの為に頑張っただけ」

 「皆が変わってくれないと、意味ないですから」

 「……その通りじゃな」

 王がしっかりと言葉にした。恐怖からか、失望からか、さもなくば諦めからか……姿を消していた王は、誰の非も責めることなく再び姿を見せたのだ

 まだまだぎこちないながらも、村長は……漸く憑き物が落ちたように小さくうなずきを返した

 

 「少年。その手綱の材料を渡しなさい」

 「っ!はいっ!」

 「『かんら、から、から……』」

 目を細めて、バドレックスが喜ぶ

 

 そして……

 「ならばかつてのように祭が要るだろう」

 「あ、父さん」

 何時かのように自力でポケモンのテレパシーを解除して、アズマの父ナンテン博士が呟く

 

 「確かにそうだけど、でも……」

 「アズマ。オレが豊穣の王伝説を本格的に追う事にしておいて、何も頼まなかったと思うか?」

 「え?」

 「フリーズ線で運べる限り色々と注文してきた。どれだけかかるか分かったものじゃなかったからな

 祭のために好きに使え。必要経費だ」

 その言葉に、村長が目をむいた

 

 「旅人よ、それは」

 「オレは伝説研究家だぞ?かつて伝説へ捧げた祭の再現を、伝統が未だ残る村に頼んでいるだけだ。オレの仕事の一つに過ぎん」

 言外にだからしっかりやれよ?と釘を刺しながら、父はそろそろ到着するだろう荷物を積んだ列車を出迎えるべく、ボールからボーマンダを出すや颯爽と飛び去っていった




注意:バドレックス(れきせんのおう)はゲームには実在しません
この作品ではキズナのタヅナにザシアンの鬣を使うから、一応理論上あり得るだけです


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おまけ、オリポケ解説

おまけです。見なくても問題ありません
作中で語られている特殊形態(ゲームでは実在しないが今作では理論上有り得る伝説のポケモンの姿)がゲームに実在したら、というものを表記したものです

というか、本当にバドレックス(れきせんのおう)、見たいですか?


バドレックス(れきせんのおう)

図鑑No.898(冠図鑑No.210)

分類:キングポケモン

タイプ:フェアリー/エスパー

高さ/重さ:2.8m/187.7kg

入手条件:ザシアン(れきせんのゆうしゃ)とバドレックス(通常)を手持ちに加えている状態でキズナのタヅナを使用する事でフォルムチェンジする。レベル、ダイマックスレベル、持ち物、防御と特攻と特防の個体値はバドレックスのものを、捕獲しているボール、性格、HPと攻撃と素早さの個体値と努力値はザシアンのものを引き継ぐ他、なつき度は両方の平均値となり、リボン等は両方のものを併せ持つ

 

特性:以心伝心(ザシアンの『ふとうのけん』、バドレックスの『きんちょうかん』を併せ持ち、鋼タイプの技がタイプ一致補正を受けるようになる。また、この特性は無効化されたり書き換えられたりしない)

 

種族値(今作版) 200/272/250/180/250/148(合計1300)

種族値(ゲーム風) 100/172/140/80/140/148(合計780)

 

専用技 きょじゅうざん:鋼タイプ、物理技、威力100、命中率100、PP5 巨大な輝く剣で攻撃する。相手がダイマックスしていると威力が倍になる

    エクスカリバー:フェアリータイプ、物理技、威力130、命中率100、PP5 バドレックスが放つ輝く剣の一撃。全体攻撃。相手がダイマックスしていると威力が倍になる

 

図鑑説明文

癒しと恵みの力を持つ、伝説の王。ガラルのため、勇者と共に戦う姿と、言われている。

 

 

概要

バドレックスがザシアンの鬣を編み込んだキズナのタヅナによって、ザシアンに騎乗し一心同体となった姿。名前の由来は、ザシアンのフォルム名である歴戦の勇者+剣の王。青いマントを羽織り、ザシアンも花咲く蔓を剣の王姿の鎧のように身に纏う姿となる。ザシアン+バドレックスの重さは117.7kgの筈だが、ザシアンの纏う蔓の鎧はとても重く、総重量は187.7kgとなる(なお、余談ではあるが剣の王は355kg)

王の愛馬、という形で完全にバドレックス主体である白馬上の姿及び黒馬上の姿とは異なり、この姿においてザシアンとバドレックスは対等な協力関係であり、能力面でも双方から様々なものが反映される

バドレックスのサイコエネルギーによって、ザシアンは朽ちた剣により鎧を身に纏う事無く剣の王に近い力を引き出されている他、共にブラックナイトに挑んだ勇者と共闘することでバドレックスも勇気を貰っているらしい。つまり、戦闘能力の向上は単純に騎乗しているザシアンの強さによるものであり、他の姿と異なりバドレックスのサイコエネルギー自体は特に増幅されている訳ではないとか。その為、分類はエンペラーポケモンではなく、素のバドレックスと同じキングポケモンである

また、超余談になるが、ザシアンとは幼馴染カップルの間に挟まって二人共と仲良くやるのである!の方向で意見が合致している為特に喧嘩は起きないらしい

 

 

 

ザシアン(お団子ツイン)

今作に登場するニックネームがシアな個体のザシアンの特殊形態。アズマによって赤色の鬣部分や尻尾、上半身の毛等手入れが可能な部分をちょっぴり可愛らしくアレンジされている状態のこと。鬣はふわりとしたお団子ツインとなり、胸元はトリミアンの歌舞伎カット風に結わえられていたりするものの、外見のみの差であり能力面はザシアン(れきせんのゆうしゃ)と全く同一。トリミアンのカット姿とほぼ同じようなものである

 

 

 

ネクロズマ(ムゲンダイのヒカリ)

図鑑No.800

分類:キョダイポケモン

タイプ:エスパー/ドラゴン

高さ/重さ:20.0m/???kg

入手条件:???

特性:プリズムアーマー

 

概要

ナンテン博士が語っていた仮説に基づくと存在する筈の姿。ネクロズマとムゲンダイナは本来同一種であり、無限のエネルギーを光として放出していた完全なムゲンダイナこそがかがやきさまと呼ばれている存在だとした場合に存在するだろう、完全な形に戻ったネクロズマのこと。ウルトラネクロズマとは不完全なままに完全に近い形を取った特殊形態であり、本来の形とは異なるため別として記載しているが……

 

 

 

ネクロズマ(未明の繭)

図鑑No.800

分類:プリズムポケモン

タイプ:エスパー/あく

高さ/重さ:6.0m/230kg

入手条件:ネクロズマ(通常)に破壊の水晶を持たせてバトルに出した時にフォルムチェンジ

特性:ダークオーラ

 

概要

ネクロズマは光を求めて合体しただけであり、特にソルガレオやルナアーラである必要性はないということから理論上は存在する筈の、イベルタルの光を得たネクロズマの姿。作中ではアズマの中の生命の光(イベルタルの羽根)を求めてアズマを取り込みかけた際にその力によって一瞬だけ姿を見せている

外見としては、ネクロズマの両腕が両足に接続されて足が強化されたりした常に赤く輝くイベルタル。あくまでも光を取り込んだ姿であるため、実はこの姿は合体したりせずとも、イベルタルの生命エネルギーを大量に取り込めば変化可能。そもそも、他の形態(黄昏の鬣や暁の翼)も元々合体可能な訳ではなく、光を得る為にネクロズマが元々バラバラの残りパーツを無理矢理それっぽくくっ付けて生き永らえているだけという事を利用してパーツに別れてくっついているだけである為、あれらの姿もそれぞれの光があれば変化できる

その為、今作においては、黄昏の鬣はソルガレオの光エネルギーの結晶である太陽の水晶、暁の翼は月の水晶をネクロズマ(通常)に持たせた場合にフォルムチェンジする仕様。また、その仕様である為、ソルガレオやルナアーラ、イベルタルに見える部分はウルトラネクロズマの半透明部分と同じく光エネルギーで出来ており重さは全て素のネクロズマと同じ230kgである

 

 

 

ランドロス(はくばじょうのすがた)

図鑑No.645

分類:ほうじょうポケモン

タイプ:じめん/こおり

高さ/重さ:2.6m/868.0kg

入手条件:ランドロス(けしんフォルム)とブリザポス手持ちに加えていて、手持ちにバドレックスが居ない状態でうつしかがみを使用すると合体してフォルムチェンジする

特性:しんばがったい

 

概要

ランドロスがブリザポスを従え騎乗した姿。今作でバドレックスの前に立ちはだかった最後の試練にしてもう一体の豊穣の王

ちなみに、当然だが乗っただけ合体でありキズナのタヅナ等による特殊効果は一切無い。が、ランドロス自体が姿を変えられる性質により、それっぽく合体している



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part9

「おーさま、おうまさんにのせてー!」

 おうさまなんていなーいと言っていた小さな子供が、バドレックスの跨がる黒馬を見上げてそんなことを言う

 

 『「む?しかしレイスポスを乗りこなすのはヨでも大事……危険なことなのである」』

 「えー、のりたーい!」

 『ォード!』

 乗せてあげたらどうですか?とばかりに、アズマの横で伏せていたポケモンがその四足で立ち上がり、レイスポスを見守るように横に並ぶ

 『「から、から、から

 わだかまりを解こうというのはあや嬉しや

 ヨを離さないと約束して掴まるのである」』

 「わーい!やったー!」

 小さな子供の体が淡く青く光って浮き上がる

 『サイコキネシス』だ。それによってふわりと浮いた少女は、ひょいとバドレックスの背後に2人乗りする形でレイスポスの背に乗せられた

 

 『「では、ゆくぞ!」』

 王の言葉に合わせ、愛馬が……割とゆっくりと歩き始める。いざとなれば受け止めますが?とばかりに横を歩く狼の手(いや前足?)を煩わせないように、小さな人間を落としてしまわないようにゆっくりと

 だんだんスピードを上げるが、まだ安全走行。シアンの狼から逃げ出した際の全力疾走からすればコータスの歩みでもって、バドレックス達はフリーズ村を一周して戻ってくる

 

 「ありがと、おーさま!」

 『「から、から

 お礼が言えるとは偉いのである」』

 そんな豊穣の王を、そして小さいながらも祭を開くフリーズ村を見渡して、アズマは良かった……と息を吐いた

 

 父はもう居ない。荷物を持ってくるや、祭の終わりには花火を打ち上げろと一発の花火(Xの青い光が拡がるゼルネアス玉というらしい)を置いて、やらなきゃいけない事があるとボーマンダと共に飛び去っていった

 祭は良いんだろうかとアズマは思うも、ならば自分がメモを取れば良いこと。そう思って父を見送り、翌日、こうして……フリーズ村の豊穣雪まつりなる昔あった祭の復刻を楽しもうとしていた

 

 『「礼を言おう、人の子等よ

 オヌシ等がヨの為に精一杯の事をしてくれたおかげで、ヨは信仰も愛馬も取り戻し、こうして活気が戻ってきたのである」』

 戻ってきたバドレックスは借り家の扉の外で待つアズマ達を見て、そう告げる

 

 「まだ、終わってないよ、全然」

 「ヨさんと村の皆さんの話はこれからです」

 「そうだね、チナ

 それに……」

 と、アズマは遥か遠く、山頂に聳えるカンムリ神殿へと目を向けた

 

 「ランドロスとブリザポス」

 『「愛馬ブリザポスにもヨの元に戻ってきて欲しいのであるが……」』

 「大丈夫。今のバドレックスならきっと」

 「レイスポスさんみたいにちゃんと認め直してくれるです!」

 『レイホォォォォ!』

 同意と言わんばかりに、子供を下ろしたレイスポスが体を踊らせて嘶いた

 

 『「であるが、今は……祭である!」』

 『ウルォードッ!』

 『フカァ!』

 一晩経って漂ってきた良い匂いに釣られて、フカマルがとてとてと雪道を走り出した

 「あ、ちょっと待つです」

 銀髪の少女トレーナーがそれを追い

 

 「じゃあ、行こうか、シア」

 ボリュームの減った赤い鬣をお団子風のツインテールに纏め、逆に尻尾はふわりとフォッコ等のようなキツネ風に毛を膨らませてボリュームを出し、胸元の毛は編み込んでから、胸元にグラシデアの花っぽくフラワーリボンを咲かせる。そして欠けた耳には、ちょこんとコンテスト等で使われるおしゃれ帽子を被せて完成

 今までの豊穣の王伝説を追うなかで一番頑張ってくれたろう祭の準主役を、昨夜父がくれたトリミアン等に使う毛繕い用のシャンプーで全身を洗って着飾らせた狼をアズマは呼んだ

 

 「アズマさんアズマさん!シチューがたくさんです!」 

 村の広場にアズマが行くや、少し興奮気味に幼馴染がそんなことを言った

 確かに、とアズマは頷く。数日前にダイ木の下で作ったシチューとは少し違うが、確かに玉葱をしっかり炒めたシチューのクリームのような甘い香りがふわりと漂ってくる

 

 「ええ。おうさまのおまつりだものねぇ」

 「あ、おばあさん」

 『ぴゅい!』

 「と、ふわふわちゃん、おはようございますです」

 元気よく跳ねる星空のような色のポケモンと、それを連れたシチューのレシピを教えてくれたおばあさんにぺこりと二人は頭を下げる

 「おうさまのおうまさんはにんじんが大好きだもの。おまつりではたっくさんのシチューが出るのよ」

 「そうなんですね」

 確かに、にんじんを食べるシチューというのは、アズマにも想像できる

 実際に作ったのだし

 

 「あれ?でもダイ木の実なんかは?良いんですか?」

 「本来は、祭は二度。豊作を祝うダイ木まつりと、次の豊作を願う雪まつり

 ダイ木の実を使うシチューは、ダイ木まつりのメニューじゃよ」

 と、外に出てきた村長がアズマに告げた

 

 「あ、そうなんですね。祭は昔は年に二回あった、と。あのおうさまのシチューは豊作を祝う時のもので、今やってるのは豊作を願うものだから別……と」

 父のように伝説研究のメモを書き残しながら、アズマは情報を整理する

 「村長さん。それで、キズナのタヅナの方は……」

 「祭の終わりまでには出来るよ。今は村を見て回ろうかと」

 「そうですか、お疲れ様です」

 

 『「いずれはダイ木まつりの方も復活させたいものである」』

 と、バドレックスが呟いていた

 「ヨさんなら出来るです」

 『「ヨは責任重大であるな」』

 

 そんなこんなで、村の人のシチューなんかをご馳走になりながら、暫くの時を過ごし……

 何処にあったのか太鼓が叩かれムードが作られる中、豊穣の王像の真横に愛馬に跨がり立つバドレックスの前に、人々から編まれた赤い手綱が差し出された

 

 『「これが、人とヨの絆を取り戻した証となるのであるな」』

 バドレックスがそれを受け取り、愛馬の首に向けて振る

 小さな輝きと共に手綱はしっかりとレイスポスに結ばれ、それと同時……黒と緑の長いマントが出現し、バドレックスがそれを羽織る

 

 『「人の子よ……これでヨは本当に全盛期とは行かずとも力を取り戻せたのである」』

 しーんと静まり返るフリーズ村

 『「この祭と手綱が、新たなる絆の始まりである」』

 そして、ひゅーっという音。火を付けられた花火が撃ち上がり、空にXの青い花を咲かせた

 

 と、そんなアズマにテレパシーが届く

 曰く、何か盛り上げられる音を出して欲しいのである、と

 

 それを受けてアズマは喜んでと近くの草を一枚千切ると口に当てた

 得意の草笛、その得意楽曲……オラシオンである 

 

 優しい音色が静まった村に響き……

 「アズマさん、ちょっと場面に合わないです」

 『「心が落ち着くのである」』

 『ぴゅいぃ……』

 心地よさげにふわふわのポケモンが老婆の腕の中で眠りにつき

 「うん、御免、選曲間違えてた」

 アズマはだめじゃんこれと反省した

 アラモスタウンで聞いたオラシオンは壮大な楽曲であり似合うとアズマ自身は思ったのだが……建物一つを使った壮大な楽器ではなく草笛一つで吹くそれはあまりにもスケールが違いすぎたのである

 

 そうして……祭の後、決着をつけるために、バドレックスは遂に取り戻した力と愛馬と共に、カンムリ雪原を駆ける

 横には、レイスポスの足に着いていける俊足を持つ巨狼のポケモン。その背に掴まり、アズマ達もカンムリ神殿を目指して巨人の寝床と呼ばれる地を抜け……

 

 『ギヤーオ!』

 響くのは、有名な鳴き声に酷似したそれ

 そして……くぐもった笑い声のようなランドロスの鳴き声

 

 雷鳴のような音と共に、バドレックスの前に一匹の鳥ポケモンが大地を砕きながら着地した

 それは……まるで伝説の鳥ポケモンにも見える姿。しかし翼は小さく、足は強靭。サンダーにも見えるが、サンダーではないような……

 「さ、サンダー!?サンダーさんです!?」

 「チナ、落ち着いて。何か違うけど……」

 『ギャーオ!』

 そう高らかに鳴くのは、確かにサンダーのような鳥ポケモン

 実はサンダーっぽいだけの一般通過鳥ポケモンだったりしないだろうか

 

 そうアズマは願うもその願いは虚しく、サンダーに似たその鳥ポケモンはバドレックスの行く手を阻むように此方を睨み付けてきた

 

 「バドレックス」

 『「ヨとてあまり体力を使いたくはないのであるが……

 戦わねば、神殿に向かえなさそうであるな」』

 「いや、そうでもないぞ?」

 突然響くのは、そんな父の声

 

 思わずアズマは振り返り……

 『こふおおおおおおっ!』

 そんな声と共に、地響きを立てて一匹のポケモンが、サンダーらしきポケモンとは別方向から降ってきた

 それは、角を持ったコバルト色のポケモン。どこか光沢のある威厳ある姿をした、そのポケモンは……

 「伝説の……コバルオン!」

 『「コバルオン、まだこの辺りに残っていたのであるな」』

 『こふおぉっ!』 

 一声嘶くとそのポケモン……イッシュ地方を始め幾つかの場所にその伝説が残る、ポケモンを守り人と戦ったとされる正義の伝説コバルオンは、歩みを進めてサンダーのようなポケモンの前に、バドレックスとレイスポスを護るように立ちはだかる

 

 「父さん、用事って」

 「ダイ木の近くで不可思議な足跡を見付けたものの、一向に姿が見えなくてな

 万が一の時の為に、フィールドワーク中に見掛けていた足跡を追い、コバルオンに協力を仰ぐことにした訳だ

 正解だったようだな」

 

 何処か苛立たしげに強靭な足の鳥ポケモンが鳴く

 「これで……」

 『ショォォオーッ!』

 響き渡る鳴き声。神殿のある山頂に何か紅のものが見えたかと思うや、大きな羽音と共に、ソレは飛来する

 炎ではない体の全身が……本来は明るい黄色であるらしいソコが全て漆黒に染まった……闇に堕ちたファイヤーとでも呼ぶべき、邪悪の権化のような……どこかイベルタルのような姿をしたポケモン

 そして……更に分身してアズマ達の周囲を取り囲みながら、仮面を着けたフリーザーのようなポケモンすらも地に降り立ち……その凍てつくような視線がバドレックスを射抜く

 「ファイヤーと、フリーザー?」

 

 伝説の三鳥のような姿のポケモンが集結し、バドレックスの行く手を阻んだ



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part10

サイコパワーか、アズマ達の周囲を4体に分身して取り囲み、スライドするように翼を一切動かさずに横に移動していくフリーザー(?)

 それを突破して駆け抜けようとしても、行くべき道の先には好戦的に地面をその足で掻いて此方を睨み付けるサンダー(?)が待ち構え、何時でも強襲出来るように、全体の頭上をファイヤー(?)が飛び回る

 そして、ランドロスの低い唸りが響き渡った

 

 完全に抑え込まれた形。無傷での突破はとても出来ないだろう。ランドロスの……新たなる豊穣の王に従いかつての王バドレックスを追い出そうとするかのように、ガラルに暮らす伝説の鳥ポケモンに酷似したその三鳥は、かつての住居を目指すポケモン達を包囲する

 

 『「戦わねば、ならぬのであるか」』

 『こふおぉっ!』

 レイスポスに一度目配せをして、伝説のポケモンであるコバルオンが前に出る

 コバルオンのタイプは『かくとう/はがね』。ルカリオ等と似た体毛の質であり、彼等と同一タイプであろうと言われている

 それ故に、多分恐らくきっと何か違うけれども推測フリーザー、つまり『こおり/ひこう』だろう冷酷に人の……いや木々に止まるヨルノズクのようなポーズで此方を見るポケモンへと睨みをきかせる

 

 が、それで止められたとしてたった1体。謎の分身が実体をもって戦える場合は3体、そうでなくとも2体の伝説(?)の鳥ポケモンが残る

 彼等を何とかしなければ、とても先には進めない。ランドロスの所に辿り着く事すら不可能

 

 バドレックスが小さくその手で手綱を引く。その意図に合わせてレイスポスが嘶き、闘いの覚悟を決めようとしたところで……

 

 『シァード』

 小さく、アズマ等二人を乗せてくれていたポケモンが鳴いた

 「シアも……」 

 器用に背を振り返る狼にアズマは降りようとして……ふと、その視線はアズマの腰のモンスターボールに向けられている事に気が付いた

 

 「ボール?つまり……父さん!」

 「いや、違うだろうがな」

 苦笑して、周囲を伺っていた父は息子の為に、それでもポシェットの中から取り出した性能重視のボールであるハイパーボールを、くるくると取り囲むフリーザー(?)の一体に向けて投げつける

 

 が、それはボールが当たるやボン!と白い煙になって消え、冷笑するようなフリーザーの笑いだけが残る。そして、一瞬全ての分身が消えたかと思うと、今度は5体に増えて取り囲み直した

 

 『シァード』 

 そうじゃないと鳴き、そのポケモンは鼻先をアズマの腰のボールに当てる

 

 「……ギル?」

 意図は分からないが、とりあえず今まで頑張ってくれたポケモンを信じよう。そう考え、アズマは相棒ではあるが流石に伝説のポケモン同士の闘いにはロクな手助けも出来ないだろうからとボールに戻していたヒトツキを呼び出した

 

 宙に、ふわりと剣の姿が浮かぶや、シアンの巨狼は突然その柄を咥える

 「シア?」

 「シアさん?どうしたですか」

 

 『ウルォードッ!』

 そのヒトツキが、青いオーラを纏う。オーラが纏わりつき、一回り巨大化した剣となる

 すると、そのポケモンは一つ、大きな遠吠えをし……

 

 それを開戦の号砲としたのだろう、周囲をくるくると取り囲んでいたフリーザー(?)の一体が飛び上がり、シアンの狼へ向けてその仮面の瞳から凍て付くようなビームを放つ

 

 が、しかし……突然周囲に降り注いだ岩石が、その視線と激突した

 そして、積み上がった岩石の山の上に、一つのしなやかな緑色の影が降り立つ

 鮮やかなビリジアンの優雅な姿をしたポケモン、そして……フリーザー(?)の影を蹴散らして此方へと向かってくる二つの角を持つ力強いがっしりしたケンタロスのようなシルエット

 『こふぉぉぉぉっ!』

 その姿に、コバルオンが嘶く

 

 そう、その姿こそ

 「ビリジオンと、テラキオン!」

 コバルオンと並び、ポケモンを護る正義のポケモンとして……イッシュ地方始めいくつかの場所に伝わる伝説の三闘獣!

 

 興奮気味に、アズマはその名を呼ぶ

 そんなアズマの目の前で、父に呼ばれて駆け付けていたコバルオン、そしてシアンの狼の遠吠えに呼応するかのように姿を見せた二体は、一斉にその額から青く輝く剣のようなオーラの角を生やし、一部では三剣士とも呼ばれるその由来を見せつけながら、シアンのポケモンが横向きに咥えて掲げる剣と交差するように剣角を合わせた

 

 「シア?」

 ひょっとしてだが、このポケモンは伝説の三闘獣のマスターか何かなのだろうか

 

 伝説のポケモンの中には、マスターとされるポケモンが居る

 例えばだが、全てのレジの長であり祖とされる伝説の巨人レジギガス。一部猫ポケモン愛好家の中では三猫とされる伝説のエンテイ、ライコウ、そしてスイクンを産み出したとジョウトの伝説に残されるホウオウ、アーシア諸島に住まう神とされる三鳥を纏める海の神ルギア等の、伝説とされるポケモンを束ねる長のような伝説の事だ

 

 確か、父の集めた三闘獣の資料には、その何れにも当てはまらない青と赤い毛のポケモンが出てくる節があった筈

 それがひょっとして、三剣士の長であり、目の前のポケモンなのでは無かろうか

 

 少なくとも、ブリザポスやレイスポスといった間違いなく伝説のポケモン級である相手に一歩も引かず互角以上の闘いを繰り広げたポケモンだ。彼女に纏わる伝説をアズマは知らないが、学会の提唱する伝説のポケモン区分に類する種族であることはほぼ間違いない

 

 剣を合わせた三体の獣は、解散してそれぞれが決めたろう相手の前に立ち塞がる

 コバルオンは最初と同じく負けん気が強そうなサンダー(?)の前に。テラキオンは忌々しそうに岩を凍らせたフリーザー(?)の前に。そして……しなやかで軽やかな動きをもって、突っ込んでくるファイヤー(?)をビリジオンが誘い込む

 

 「この地の人とポケモンのために」

 「ヨさんのために」

 「「お願いします!」」

 バドレックスを神殿に向かわせるために姿を現してくれたのだろう正義の伝説に向けて、二人は頭を下げた

 三体の伝説は、此方を振り返ることもなく一声吠える

 

 そして、アズマ等はふかふかに仕上げた尻尾を軽く立てて自身の背を叩き誘導するポケモンの背に乗せて貰った

 

 『「行くのである

 戻ってきてくれたコバルオン達のためにも、ヨは負けられないのである」』

 「……アズマ、分かっているな?」

 けれど、ナンテン博士だけは、その場に止まってボールを構える

 「父さん?」

 「三剣士。確かに伝説であり、頼れる救援ではあるだろう

 だが、そうは言っても彼等は全て格闘タイプだ」

 「あ、」

 「伝説の鳥ポケモンさん相手だと不利です!」

 「ゆえ、オレは此処に残って手助けをする。元々そんなつもりだった

 行け、アズマ。そして預かりものな子に怪我とかさせるなよ?」

 「分かってるよ、父さん!」

 『ォードッ!』

 任せなさいとばかりに、二人を背に乗せても足取り軽々とした狼は吠えた

 

 そうして、雪深くなる山道を、二頭のポケモンは全速力で駆け抜ける。軽く浮いたレイスポスの蹄は深い雪にすら痕を残さず、何事もなかったように駆け抜けるが……雪を撥ね飛ばしながらジャンプを繰り返すような動きでそれを追うシアンの狼も速度は負けていない

 そんな背で、振り落とされないよう前に乗せた少女を包むように、シアンのポケモンにしがみついた

 

 そして……

 「さ、寒かったです……」

 撥ね飛ばす雪が白く太股までしっかり覆うニーソックスに染み込んだのか小さく震えながら、銀の髪の少女が呟く

 『……ルゥ』

 どこかしょんぼりしたように、少女を運んだポケモンは一声唸り、アズマが置いたオボンの実にかじりついた

 その横で、素知らぬ顔でレイスポスもオボンの実にかぶりつく。この辺りには自生していないが、道中バドレックスの姿を見かけたポケモン達が投げてくれたのだ

 愛馬と共に帰還しようという豊穣の王。表立って共に戦ったりはしないし出来ないが、きっとポケモン達もそれなりに歓迎してくれているのだろう

 

 「でも、ありがとうシア

 おかげで着いてこれた」

 実はアズマも結構寒かったというか、耳が凍えているのだがそれはそれ。おくびにも出さずにそう告げて、全力疾走で緩んでしまったポケモンの胸元のリボンを整える

 『「人の子等が見ててくれれば、ヨも張り切れるのである」』

 「そうです、ちょっと寒かったですけど、来れないよりずっと良いです」

 自分のポケモン達で戦うわけではない

 それでも、トレーナーとポケモンのように、見守ることが、応援することがきっと力になる

 

 『「うむ」』

 頷いて、冠のような頭のポケモンは眼前の扉の閉じた神殿を見上げる

 『「では、行くのである!」』

 『ウルォードッ!』

 呼応するように鳴いた巨狼のポケモンが、体当たりでドアをこじ開けた




イヌヌワン→パルスワン→ザシワンって進化しそうなくらいにザシアンが伝説のでかいトリミアン()やってますが、ガラルの禁止伝説は基本的に人間に対して相当友好的なので仕様です
元々人間と共に戦った逸話あるくらいですから


アズマ「三剣士伝説に時折出てくる赤と青の謎のポケモンは、三剣士のマスターなシアンの狼のポケモンの事なのかもしれない……メモメモ」
???「あなたを詐欺罪と名誉毀損罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたが皆をこんなガセネタで騙し、ケルディオの地位と名誉を破壊しようとしたからです!覚悟の姿の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁きの礫も問答無用で食らってもらいます。慰謝料のバンジの実の準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!グレッシャーパレスにぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!」
ということで、赤と青のポケモンはケルディオです。ザシアンではありません。また、フリーザー(ガラル)はエスパー/ひこうです。こおり/ひこうではありませんのでレート戦等で初めて見かけた際は御注意下さい


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part11

そうして、先陣を切って突っ込んでいくシアンのポケモンを追うようにアズマは閉ざされていたカンムリ神殿へと足を踏み入れた

 

 それを小走りで追いかけるチナと、最後にゆっくりと、そして堂々と、自分達こそがこの場の所有者であると言いたげに、レイスポスに騎乗した豊穣の王が開かれた扉、繋がった道の真ん中を闊歩する

 

 『どるぅぅぅっ』

 それを、自身の雲を器用に使って白馬に跨がり、凍りついた恐らくはマトマの実だろう赤い実を不遜に齧っていたポケモンが出迎える

 ランドロス。豊穣ポケモン。トルネロス、ボルトロスのマスターであり、畑の神様とも呼ばれる伝説のポケモン

 恐らくだが、長いこと放棄されていた筈のあの畑が、バドレックスが人参を育てられる程度にはしっかりと畑としての機能を持っていたのは、このポケモンが豊穣の王として力を浸透させていたからなのだろう

 

 そう。そうなのだ

 ランドロスは暴れものであり、暴風と雷雨で土地を荒らす悪戯者とされる二体の伝説を束ねてその力を抑え、調度良い雨と風を送らせつつ肥沃な土地を産み出すポケモン。それ故に豊穣の神様として伝説のポケモンとされている希少かつ強大な種だ

 この眼前で挑発的に自分の髭をくいっと引っ張っている個体も、それは変わらない

 

 ランドロスそのものに悪意はない。ランドロスが悪でバドレックスが善、なんて簡単な話じゃないのだ

 これは、ゼクロムとレシラムの真実と理想の対決にも似た話。どちらが正しいわけでもない

 

 力を喪ったバドレックスが姿を消し、荒れ果てた地を見て、それを復活させるべくその地に降り立ったランドロス。その後力を取り戻して、元々自分の地だと戻ってきたバドレックス

 所有者が逃げ出して荒れ果てた畑を他人が耕して、漸くある程度形になり始めたところで所有者が戻ってきたようなもの。互いに正義はあるだろう

 実際、伝説の三鳥のような姿のポケモン達は、バドレックスよりもランドロスをこの地の豊穣の王として認めたがゆえに旧い王を追い出そうというランドロスに力を貸したのだろう

 ランドロスは空き巣にも見えるが、それなりの正義は向こうにだってある

 

 「バドレックス、頑張って」

 でも、それでも。アズマは小さな王に肩入れする

 『「分かっているのである

 ヨが不甲斐ないが故に、この地にランドロスが降り立った

 それはきっと、善意からであろう」』

 『どろるぅっ』

 『ブルホォォォスッ!』

 だから此方に居るとばかりに、ブリザポスが嘶く

 

 『レイホォ?』

 『バシロォォス!』

 蹄を並べて共に駆けたであろうレイスポスの声にすら耳を貸さず、白い伝説の王の愛馬は、新たな王にその背を明け渡していた

 

 『カムゥ!カムクラウン!』

 『どろるるるぅっ!』

 ポケモン相手ならば、流暢にしゃべる必要はない。元々の鳴き声で何度か二体の豊穣の王は言葉を交わし……

 互いの乗る馬のポケモンが決別したように踵を返す

 

 それが合図だった

 『「人の子よ

 ヨは多くの失望を産んだのである」』

 きゅっと、小さなポケモンは赤いその手綱を握り締める

 『「それでも、ヨは!負けられないのである!」』

 

 『バクロォォォスッ!』

 『バシロォォォスッ!』

 二頭の嘶きと共に、互いの眼前に氷の槍と、そして人魂のようなエネルギーの矢が産まれ、中空で激突する

 そして砂嵐が巻き起こり……二体の豊穣の王はその最中へと突っ込んでいった

 

 「チナ、大丈夫?」

 バシバシと頬を叩く小さな砂。アズマ個人は父のバンギラスによってポケモンが引き起こす砂嵐そのものには割と慣れっこだが、それでも痛いものは痛いし、砂が目に入りそうでヒヤヒヤする

 慣れてない幼馴染はそれ以上に目を開けていられないだろう

 

 そう思って、何とかゴーグルを取り出そうとするも……砂嵐の中では手元が見えず上手くはいかない

 『ォード』

 「ごめん、有り難うシア」

 と、大きなものによって砂が遮られ、視界がマシになる

 巨大な狼のポケモンが小さく縮こまった少年少女の為に壁となってくれたのだ

 今のうちにとバッグを漁り、アズマは父から持たされていた防塵ゴーグルを取り出すと、一つを顔を覆って耐えている少女の首に回して後ろでストラップをとめた

 「シアも、要る?」

 『ヴァウッ!』

 短く吠えるポケモンに頷いて、アズマは三つ持ってきた防塵ゴーグルの最後の一つをそのポケモンにかけてやり……

 

 『ルゥ』

 「シア?」

 耳を押し付けてくるポケモンを見て、少しだけ意図を考える

 「帽子?」

 コクリと頷く巨狼

 

 確かに、フライゴンをモチーフとしたレッドクリアの大きく丸いレンズに、大柄なポケモンに向けた付け替えれる延長フレーム、そしてかなり長く出来るストラップ付きのバンドからなる防塵ゴーグルとお洒落な帽子は似合わなくて

 「汚したくない?」

 『ルゥ!』

 「分かった、預かっておくよ」

 結構気に入ったのだろうか。耳にちょこんと引っ掛けた小さな帽子を預かりながら、アズマはそんなことを思った

 

 その間にも、戦いは進んでいく

 バドレックスの『サイコキネシス』がランドロスを捉えたと思うや、下のレイスポスから『シャドーボール』が放たれ、そのゴーストエネルギーを秘めた黒い半透明の玉を、ランドロスは『ストーンエッジ』らしき岩の剣山を盾に防ぐ

 その隙間を縫ってブリザポスが駆けレイスポスへと迫る

 

 これこそ人馬一体の闘い。或いはダブルバトル

 騎乗しているが故に、上に乗った豊穣の王は回避を考えずに攻撃に専念し、愛馬が機動を担当しながらもチャンスと見れば波状攻撃をしかける

 息のあったコンビネーションで見れば、やはりというか当然というか、バドレックスに分がある

 ランドロスはあくまでも新参。ヨは暫く愛馬に逃げられていたが、長い間の絆……昔取った杵柄がある

 

 だが、だ。それでも、決してだからバドレックス絶対有利とまではいかない

 だからこそ、アズマはゴーグルを被ってきょろきょろと面白そうに周囲を見回すポケモンに声をかける

 「シアは行かなくて良いの?」

 ずっとそこに立ち、砂嵐からアズマ達を護ってくれているが、このポケモンだってその力は伝説級。超絶的な強さを持つことは間違いない。ならば、手伝えばランドロスにだって勝てる筈

 だというのに、そのシアンのポケモンは子供達を砂嵐から庇うのみで、今まではバドレックスの為にも動いてきたのに今だけは動こうとしない

 

 『クルゥ』

 アズマの問いにも、小さく鳴いて返すのみ

 『「その通りである

 これは、ヨの招いたヨの闘いである

 確かに手を借りればランドロスにも勝てよう。しかし、それでは納得は無し。ヨが自分で勝たねば、意味がないのである!」』

 「そっか、だから見守ってるんだ」

 ランドロスにただ勝つのではない。この地はバドレックスのものだからと理解してもらって初めてちゃんとした勝利なのだ

 それを分かっているから、そのポケモンは豊穣の王同士の闘いに手を出さない。自分がやるのは、闘いの邪魔をさせないことまで。そのように定めて動いている

 

 「偉いな、シアは」

 自分は肩入れして、バドレックスが勝つことばかりを考えていた。そんな風にアズマは自省する

 

 『「ただ、ヨの勝利を願ってくれるのは、力になるのである!」』

 『レイホォォォォスッ!』

 高らかに頭を上げて嘶き、黒き霊馬は何度目かの激突に移行した

 

 『どるるるぁっ!』

 交差する二頭のポケモン

 ランドロスが繰り出したのは、その筋骨粒々の拳

 『どらららららら!どるぁ!』

 連続パンチ……ではないだろうが、その拳がバドレックスを襲う

 その大半はサイコパワーによって逸らされたが、最後の一発が大きな冠の蕾を捉えた

 吹き飛ばされるように揺れる小さな体。しかし……

 

 『クラーウン!』

 その距離は至近距離。避けられない互いの距離

 『アストラルビット』。解き放たれた霊の力が、本来は幾つものビットに分かれて追い立てるエネルギーの全てがランドロスの腹で炸裂する!

 

 『どろるぁぁぁぁ?!』

 ぐらり、と驚愕の表情と共にランドロスの体が揺れ、白馬の上から転がり落ちた

 『ブルホォス?』

 『「これが、ヨ達の……」』

 けれども、終わりには思えなくて

 

 大地が揺れる。空が……元々夜だったが、満天の星空だった空が暗くなる

 そして……爆発的な気配と赤い光が、ブリザポスの背後から沸き上がる

 

 「な、何!?」

 「何ですか、これ!?」

 チナと二人して驚愕に目を見開く

 そんな二人の前で、砂嵐を吹き飛ばしながら何かの気配がぐんぐんと大きくなっていく

 そして……赤黒い雲が空に掛かり、

 『どるじゅらぁぁぁぁぁっ!』

 顔はランドロスほぼそのまま。しかし、その体型は雲に乗るおっさんとでも言うべき姿とは違う、四足歩行の獣

 ランドロス(霊獣フォルム)と呼ばれる、此方が本来の姿では?とされる姿

 しかし、あまりにも大きい。有り得ないほどに大きい

 顔だけで、アズマの身長を越えるだろう。チナとアクアリウムに見に行った最大の大きさとされるポケモンのホエルオーと比べてすら、尚今のランドロスの方が明らかに一回り以上は大きい

 

 「こ、これはっ……」

 「アズマさん、知ってるですか!?」

 最近マクロコスモスという組織によってトレーナーとポケモンがある程度自由に行使できるよう実用化された、ほぼガラル地方でのみ確認される特殊現象

 今はまだ知名度が低いが、カロス中心のメガシンカと並んで……人とポケモンの織り成すエンターテイメントとしてのポケモンバトルの花形となるかもしれない……赤い光を纏ったポケモンの巨大化現象、それが……

 「ダイマックス!」

 

 叫ぶアズマの前で、巨大さ故に低くなったくぐもった唸り声を、ランドロスは大きな神殿全域に響かせた




このままでは本当に、ムゲンダイナ戦でヨが颯爽とザシアンに騎乗して参戦してしまうのである……

というか、何というか……白馬も黒馬もヨに勝てないとは情けないですね


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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part12

「だ、だいまっくす?」

 「チナ、ダイマックスっていうのは……」

 『「ああして巨大な姿になる事なのである!」』

 と、砂嵐が晴れて良く見えるようになった視界で、バドレックスが追加で話してくれる

 

 『「かつては皆の前でヨがダイマックスして場を盛り上げていた……ああ懐かしや懐かしや」』

 ああ、それで……と自棄に大きな神殿の全体を見回して、アズマは理解する

 屋根……は崩れてしまっているが、神殿の壁はとてつもなく高い。普通の神殿の高さと言われれば高くても5mくらいを想定するだろうが、このカンムリ神殿は広く、そして屋根が高い

 端から端まで100mはあろうという、観客席まで含めたスタジアムのような広さと、高層建築かのような高い壁。それも……ダイマックスしたポケモンが内部に入れる想定だとしたら納得がいく

 

 「じゃあ、ヨさんも!?」

 『「全盛期ならば、それも出来たが……」』

 むむぅ、とそのポケモンは愛馬の上で唸る

 

 そんなバドレックスを狙うように、ランドロスは単体で姿を変えたもののその場に残されていた白馬が襲いかかる!

 『グルソード!』

 氷の礫を作り出して急襲しようとした白馬に躍り掛かるのは青い影

 

 「シア!」

 青狼はアズマに一声吠えるや、踵を返して距離を取るブリザポスを追い掛けた

 これはランドロスとバドレックスの闘いだから、ランドロスと離れた時点でもう手を出すなとでも言いたげに、気が付くとアズマのヒトツキを咥えて新たなる王の白馬に応戦する

 

 『どろるぅぅぅ!どらぁっ!』

 そうして、残された王達の戦場の先陣を切ったのは、やはりランドロス

 神殿全てを震わせる咆哮と共に、伝説の技エアロブラストもかくやと言わんばかりの巨大な竜巻が伸びて襲いかかる

 

 「エアロブラスト!?」

 『「違うのである!」』

 間一髪、ゴーストタイプ故の突然消えて近くに姿を現す形の移動でもってその嵐を避けながら、豊穣の王は告げる

 『「あれは『ダイジェット』。ダイマックスしたポケモンは相応のキョダイな力を振るうのである!」』

 「な、なんだって!?」

 特別な技!?とアズマは目を見開く

 伝説のポケモンは、とても同じ技とは思えない強烈な力を持つ技を放ってくるとは父の資料や……何より少し離れた場所でやはりというかブリザポスをあしらいつつ完全に足止めしきっている狼を見ても分かる

 だが……明らかに、風を放つと共に纏い、あの巨体で動きが鈍ったようには全く見えないのは異様に過ぎる

 

 ランドロス自体も豊穣の王。神殿や人間を意図して傷付ける気はないのだろう。竜巻はバドレックスのみを狙い、地面に叩き付けるような軌道で撃たれ……地面に当たって霧散する

 けれど、そんな間接的な衝撃ですら小さく地面は揺れる

 

 「チナ」

 「ご、ごめんなさいです」

 ぐらりと振動する地面にバランスを崩しかけた幼馴染をアズマは支え、改めて眼前の赤い光を纏う巨獣を見上げた

 

 さっきに比べれば、本来ならば戦況は少しは良くなったと言えるだろう。ランドロスを馬上から落とし、結果として彼は霊獣へと姿を変えた

 ブリザポスという戦力を落とし、相手は本来の姿に変わったとはいえ……それは進化や噂に聞くメガシンカではない。ポテンシャル自体は、霊獣も化身もそこまで変わらないらしいのだ

 だが……ダイマックス。その巨大化が、そんな理屈を全て捩じ伏せている

 

 『「……大地が、ランドロスにも力を貸しているのである」』

 ぽつりと、小さなポケモンが呟いた

 確かに、それはアズマも感じる。あれだけの力を引き起こしているのは、この土地だ。土地に眠る莫大な力が、ランドロスに流れ込んだ結果だ

 

 『「ガラル粒子も混じっているが、ヨとそう変わらない形のダイマックスなのである……

 この地も迷っているのであるな……それでも!村の人々が信じてくれた以上!諦めるわけにはいかないのである!」』

 『レイホォォォォスッ!』

 心を重ね、力を合わせ、バドレックスはどこかレイピアにも見えるゴーストエネルギーの塊を振り、幾つもの力を空飛ぶ鳥のように乱雑な軌道を描かせて飛ばす

 『アストラルビット』。今のバドレックスの放てる最大の力、愛馬と共にあればこそ放てる、キズナが産み出す最強技

 

 『どるぅ!』

 それは、ランドロスの顔面に直撃する

 だが

 少しランドロスは揺らいだだけ。首を振って即座に体勢を立て直す

 あまり効いているようには見えない

 ダイマックスの巨体に対して、普通のポケモンの技はあまりにもちっぽけで

 

 『どろろるぅぅんっ!』

 一瞬にして土ぼこりと共にランドロスの姿が掻き消える

 「これは、『あなをほる』……じゃなくて

 『ダイアース』!?」

 『「然り。感心感心良く理解している……と言っている場合ではないのである!」』

 

 地中に姿を消したあの巨体が今にも飛び出してくる……

 そう身構えるも、衝撃は来ない

 

 『どるぅっ!』

 ドン!という衝撃こそあったが、それは少し遠くの地鳴り

 此方へ来いとばかりに、神殿の外からランドロスの鳴き声が響く

 

 此方はずっと止めてるのでといわんばかりに、氷がくっついてしまった尻尾を振り……地面に叩き付けて氷を砕きながらシアンのポケモンが目配せする

 

 「行こう、バドレックス」

 『「うむ。しかし……人の子よ、少し離れて見ているのである!」』

 

 頂への雪道。雪深い其処に、吹雪く本来であれば苦手だろう霰をものともせずにそのポケモンは待ち受ける

 黒馬に跨がった王はその巨獣へと果敢に挑むも……

 

 それは、あまりにもちっぽけな存在に、アズマには見えた

 「頑張ってください、ヨさん……」

 横できゅっと両手を胸の前で組んで祈る幼馴染の少女

 それとアズマも同じ気持ちだった

 それしか、出来ることが無かった

 

 最後に後ろを振り返ったとき、父はレントラー、バンギラス、ボーマンダを繰り出していた。ならば、ドラパルトを借りてくるくらいの事はきっと出来たのだが……それが何になるだろう

 眼前の巨大な壁、この土地に後押しされたダイマックスランドロスなんてポケモン相手に、思わずドラパルトを繰り出して……それが本当に役立つ気が全くアズマには起きなかった

 

 「そうだ、バドレックス!時間制限が……」

 脳内を必死に辿り、そういえばと伝説となりかけている数年間無敗のチャンピオン、ダンデについての話からひとつの可能性をアズマは見出だすが

 『「何と!時間制で人の手によりダイマックスすら可能とするとは人の進化は凄いのであるな!

 だが、残念ながら自然のそれに制限時間なんて無いのである!」』

 「つまり……逃げずに戦うしかないということ!?」

 『「……その通りである!」』

 『ホォォォスッ!』

 すっかり主の愛馬に戻ったレイスポスがその口を大きく開いて威嚇するように吼える

 

 『ぐるるぅっ!』

 そして、そんな会話を遮るように、二度、竜巻が……今度は雪を巻き込んで大きく地面を抉りながら吹き荒れる

 軌道はギリギリアズマ達を避けるもので……

 

 「うわっ!?」

 けれども、近くを通り抜けるだけでも、轟音で耳がキーンとなり、跳ねられた雪を大きく被ってしまう

 

 「チナ、大丈夫?」

 雪に半ば埋もれながら顔を出し、アズマは横の少女の居る筈の場所を手で掘ろうとして……

 『フカァ!』

 「さ、さむいです……」

 先にボールから出てきたフカマルがその雪を撥ね飛ばして顔を見せた

 『どるるぅっ……』

 ランドロスとしても、そのダイマックスの力の強さを知り尽くしているのではないのだろう。何処となく……人を巻き込む気はなかったと言いたげに追撃を躊躇してくれている

 

 『「ダメである

 だからといって、人の子を盾にしてはヨは最低の王である」』

 覚悟を決めたように、レイスポスが走り出す

 それは、アズマ達から大きく離れるように。相手に巻き込むのを躊躇させて勝つなど、勝ったと言えない

 そうして離れたところで何度めか、二体(+愛馬1)のポケモンは対峙する

 

 けれど、その闘いは……ある程度疲弊したバドレックスの勝ち目など無く

 二度目の『ダイアース』。地面から莫大なエネルギーと共に突き上げるその一撃を、近距離転移でも避けきれず、黒い馬のポケモンは大きく宙に打ち上げられ……

 

 『ホォ、ォス……』

 最後の力を振り絞り、手綱の付いた首を大きく振って、その黒馬は主人を投げ飛ばし、そのまま雪深い場所に墜落。雪に埋もれて見えなくなった

 

 「っ!バドレックス!」

 そして、此方へと飛んできた小さなポケモンを、アズマはその腕で受け止めた

 『……カム、カムゥ……』

 「ヨさん、大丈夫ですか?」

 大分傷付いている。普通ならば、もう良いというだろう。今までを見てそれでも戦おうというトレーナーは三流だ

 そう、アズマだって思う。本当は止めた方がいいのだろう

 

 それでも、黒い愛馬によって何とか意識を繋いだ小さな王は、ふわりと浮き上がってびしりと手綱を持つ右手を巨獣に向けた

 『「ヨは諦めないのである!」』



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part13

眼前に立ちはだかるのは絶対的な力

 

 ダイマックスランドロス

 

 それでも、小さく震えながらも、豊穣の王たるバドレックスは立ち向かおうとする

 「ヨさん!無理ですよヨさん!」

 「……チナ、止めてあげて」

 「でもっ!」

 寒さだけではないだろう。砂嵐が収まった事でゴーグルをもこもこした暖かなコートの首もとにひっかけた少女は涙声で呟く

 

 「分かってる。でも、おれたちが信じてやらなきゃ駄目だろ」

 アズマだって、もう良い逃げようと言いたい。それでも、この闘いを引くわけにはいかないのだ

 それを分かっているから、アズマは言わない

 

 「そう、ですけど……」

 

 『「互いに愛馬から降り、ここからが本番なのであるな」』

 本番な筈はない。相手にとってブリザポスはあくまでも着いてきたポケモンだ。居なくとも特に問題はないだろう

 だが、バドレックスにとっては、キズナのタヅナで結び付く事が力を取り戻すのに重要なほど、その土着のポケモンとの間の絆というものは大きな力となる

 ランドロスは120%から100%に戻っただけだが、バドレックスは100%から……ブリザポスの離反で90%、人々の信仰が減って80%、そこから更にレイスポスが倒れた事で……あって60%前後の力しか無いだろう

 

 「だから、信じてあげよう、チナ」

 「……っ、はいです!」

 頷いて、けれども不安げな顔は変わらず、少女は成り行きを見守る

 

 「お願いリアスくん、寒いけどおうまさんを雪の中から助けてあげてきて!」

 なんて、自分のフカマルに頼むのも忘れない

 アズマには……唯一の手持ちであるヒトツキは巨狼が咥え、その狼のポケモンもブリザポスを止めている今、出来ないことだから

 

 巨大な赤いオーラを纏う岩石の壁が突如聳え立ち、そして倒れ込む

 周囲全てを巻き込むような……それこそ岩の大津波のような一撃

 だが、そのたった一撃を止められる筈もなく、バドレックスの目と鼻と角の先で雪と土を巻き上げながら砕けるその『ダイロック』の余波に、足の長いウサギ感あるポケモンは吹き飛ばされて、二度、アズマの腕に収まる

 「ぐへっ!」

 今度はレイスポスのように労る心はない。角と冠が腹に直撃し、アズマは肺の息を吐いて悶絶した

 

 「……アズマさん!?だ、だいじょぶですか!?」

 「だ、大丈夫……」

 『「何度もすまぬのである

 ……ヨは、引くわけには……」』

 「……もう、やめてください、ヨさん!」

 

 『「……ヨにとって、この地は、皆は

 もう、諦めることなんて……」』

 それなのに、ふらふらとサイコパワーでバドレックスは浮き上がる

 勝ち目なんて無い。『ダイロック』の影響か霰の空を吹き飛ばすように吹き始める砂嵐。それは、くさ/エスパーだというバドレックスには寒さと氷よりはマシなものかもしれないが、力の殆ど残っていないポケモンにとっては、それだけでも身に染みる痛さだろう

 煽られてぐらりとその頭が傾ぐ

 

 そんな瞬間

 

 流れ出すのは、場違いな歌。そして……少女向けの恋愛物語の主題歌

 

 「「……ホロキャスター?」」

 横で少女と二人、同時に鳴り出した機械を手に顔を見合わせる

 今、本来はそんなもの受けている場合じゃない

 

 ……でも、それでも、何か変わるかもしれない。いや、変わってほしい。変わる筈だ

 そんな願いすら込めた期待と共に、その知らない番号を受ける

 そして……

 

 「『おうさまー!がんばえー!』」

 ホロキャスターの電話機能。お互いのホログラフィックを表示する新型の機能を使って映し出されるのは、レイスポスに乗せてもらってキャッキャしていた幼い子供の姿

 

 『「……なんと!」』

 バドレックスが此方を振り返る

 ランドロスは動かない。ターン制……を気取っているのではないだろう。だが、振り上げ、後は叩き付けるだけであったろう右前足を振り上げた姿のまま、此方を見て静止する

 

 まるで、自分ではない……かつての王を見極めるように

 

 「『すまんが、勝手に家を借りる際に書かれた番号に掛けさせて貰った

 皆、巨大なポケモンを見て、王の事が気になったんじゃ』」

 と、チナのホロキャスターに映るのは村長の姿

 その背後には何人もの村人が見え、皆が豊穣の王像の前に集まっている

 

 『『ぴゅぴゅい!』』

 「『ふわふわちゃんも、おうさまを応援してるのね』」

 投影スピーカーモード。周囲にも聞こえやすくしたそのモードで、フリーズ村とカンムリ神殿が擬似的に繋がる

 

 『「……そうである」』

 きゅっと目を閉じ、地面付近まで降りてきて小さな王は目を見開く

 『「ランドロス。オヌシがどれだけ強大でも、ヨは負けぬ

 オヌシ以上に、いや、オヌシと同じくらいに、ヨはこの地を愛している

 だからこそ、この地を……ヨが!護りたいのである!」』

 『どららららぁっ!』

 振り下ろされる前足。ラッシュの如く降り注ぐ岩石

 流星群もかくやと言わんばかりのそれが、完全な決着を引き起こすべく、20mを越す巨体から放たれて降り注ぐ

 そして……

 

 『ブルホォォォスッ!』

 その全てが、王の寸前で凍り付く

 「ぶ、ブリザポス!!」

 あのシアンのポケモンが止めきれなかったのだろうか

 そうアズマは一瞬思うも……どこか誇らしげにアズマの背後にひょいと軽い足取りで現れた彼女に……何よりも、輝く手綱にそれは違うということを理解する

 

 『カム、カムカムーイ?』

 『ホォォォォォス!』

 『カム!クラカムゥ!カンムリ!』

 現れるのは、白と緑のマント

 降臨するは、白馬の王

 『ブランカムゥ!』

 キズナのタヅナが二体のポケモンを結び、一つの絆として現れる。バドレックス(はくばじょうのすがた)とでも呼ぶべき皇帝のようなポケモンが、その場に誕生する

 

 そして……

 『「人の子らよ

 今こそ、全盛期のヨの力を……ヨ達の生きる国を!護る力を見せるのである!」』

 赤黒い雲を吹き飛ばし、青白い光が皇帝を中心に巻き起こる。その光の奔流の中から、巨大な気配が膨れ上がり、そして姿を現す

 

 それは、二頭の愛馬両方を取り戻し、人々との絆も結び直した豊穣の王の真なるゼンリョク。蕾の王は花開き……

 頭の蕾が開花し、四枚の花弁を持つ青白く幻想的な花を咲かせ、首元の数珠繋ぎのような毛は更に上からケープ付きマントに覆われ、その中心の三角模様は青く光を放つ。更には足にも花飾りがあしらわれ、額にも三角模様が輝いて浮かび上がる

 自分で覆わせた氷以外は裸馬であったブリザポスにも、頑丈そうな蔦の鞍が装備され、金の縁取りがされた緑のマントが翻る

 そして……右手には氷で出来た巨大な槍を構え、左手で手綱を握り、その周囲には人魂のような小さな盾を複数浮かせて

 両前足を振り上げ、上半身を起こしてブリザポスが高らかに威風堂々たる皇帝の姿を見守る全ての人とポケモン(民たち)へと顕す

 

 『「これがヨのダイマックス……いや、キョダイマックスである!」』

 「すごい!スゴいですヨさん!」

 「『すごーい!おうさますごーい!』」

 「……いけー!バドレックスーっ!」

 

 雪原に佇むは、二体の王

 豊穣の王バドレックス。そして、豊穣の王ランドロス

 青白い光と、赤黒い光。相反する二つの色の光をそれぞれが纏ったゼンリョクの二体のポケモンは……今、最後の意地をかけてか、真っ正面から激突する

 自らが突撃するフルパワーの『ダイアース』。地脈のエネルギーが全て集約したかのようなその力が、大地を震わせてキョダイな皇帝へと牙をむく

 それを左手のビットの盾でほんの少しの時間止め、その隙に皇帝のポケモンは槍を構えると……

 

 一閃。全てを凍らせる騎馬突撃(チャージ)が、ポケモンと土地と、そして人の想いを載せた槍が……

 『どらぁぁぁっ!』

 『カム……シロォォォスッ!』

 土地とポケモンの想いを載せたゼンリョクの突撃を打ち砕く!

 

 ブリザポスが駆け抜け、巨大な氷の結晶の林が立ち並び……突進を終えた王が槍を一振すると、幻想的な光を反射しながらキラキラと砕け散る

 

 『どろ、らるぅ……』

 爆発音と共に、赤い光がランドロスから抜け……普段の大きさに戻りながら凍り付いた

 

 『「想いの強さは同じだとしても、ヨは年期が違うのである」』

 青い光と共に花開かぬ何時もの王の姿に戻りながら、バドレックスはそう、人に分かるように人間の言葉で呟いた



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劇場版ポケットモンスター&Z ヨと豊穣の帝王 LANDORUS part14

『「……人の子らよ

 オヌシ等がヨを信じてくれなければ、勝てなかったのである。ヨの力はオヌシ等の信仰が源の一つ故……」』

 「ああ、やったな、バドレックス!」

 「カッコ良かったです、ヨさん!」

 

 そんな言葉に、白馬上の冠のポケモンは少しテレたように眼を細めた

 『レイホォォ』

 そうして、雪の中から掘り起こされたレイスポスが駆けてくる。その歩みは精彩を欠いていてとても速いとは言えないが、歩ける程度には回復しているようだ

 『ブルホォス!』

 『カムゥ!』

 そして、バドレックスは何かを理解したように愛馬ブリザポスとの合体……というか騎乗を解除し、一匹で浮かび上がってアズマ達の方へとやってきた

 

 『『ホォォォォォス!』』

 鼻先でお互いの体を押し合う二頭の愛馬。積もる話とか……戦ってたさっきまでの互いへの愚痴だとか、言いたいことは沢山あるのだろう

 ブリザポスとレイスポス、その二頭はじゃれあいながら、一旦場を離れて行く

 

 そして……

 『「豊穣の王よ。では、村で」』

 通信費とか……結構かかるのだろう。戦いの終わりを見届けると、ホロキャスターの通話も切れた

 

 「そうだ、バドレックス……に、シアも」

 アズマが取り出すのは何時もの木の実のお菓子。今回はどんな疲れたポケモンでも食べやすくしたクラッシュゼリー状のタイプである

 『「すまぬのである」』

 と、パッケージを受け取ったポケモンはその付属のストローを咥え、中身を一口啜る

 

 一方シアンの狼はというとパッケージごと咥えてその牙を突き立て、中身を一気に口の中に流し込むと食べられない部分だけを雪の上に吐き出していた

 

 「おうまさん達は、帰ってきたらです?」

 「うん、そのつもりで……」

 と、アズマはその先、というか一番の問題を見る

 凍り付いたランドロス。後は、このポケモンをどうするべきかである

 

 『「溶かしてやって欲しいのである

 今のヨならば、話も可能であろう故……」』

 「うん、分かった」

 と言うも、アズマもチナも、炎タイプの技を使える手持ちなんて居ない。氷を溶かしてやることは……

 

 「終わったか、アズマ。預かりものに無理はさせなかったか?」

 「父さん、ヴォーダ!」

 足止めの役目は十分に果たしてくれたのだろう。父とボーマンダが空から神殿近くに降り立つ

 三鳥に似たポケモンも、手を貸してくれた三剣士も姿を見せないが……

 

 「あのポケモン達ならば、ダイ木の方へと飛び去っていった。そして、あの三闘獣も何処かへと行った」

 「そっか。父さん、ヴォーダの吐く炎であの氷を溶かして欲しいんだけど」

 ちらりと父ナンテン博士は凍り付けのオブジェと化しているその豊穣の王を見て、顔をしかめる

 

 「大丈夫なのか?二頭とも何処かへ走っていく姿を見たが、暴れたとして止められるか?」

 『「心配は要らないのである」』

 「分かった、ヴォーダ!」

 トレーナーが叫ぶと、紅の翼の竜は待ってましたとばかりに口から炎を吐き、氷を炙る

 脆くなった氷が砕け、ランドロスが氷の中から復活した

 

 『どろるるらぁっ』

 『カムカムカクラゥ!』

 『どるらぁっ!』

 そして、ふわりと浮かんだバドレックスがそのおっさん顔の伝説と何らかの話を始めるが……

 何処と無く喧嘩腰というか、気が立っているのか少しだけ上手くは行っていないのだろう。目を見開いて驚いたりもしている

 

 ひょこりと顔を出すのは、小さな白い狐のポケモン、アローラ地方などで見かけるロコンの近縁種。そうした小さなポケモン達が集まって、二体の王を取り囲むように見守り始めた

 

 『「もう少し落ち着けさせることが出来れば……」』

 と、ぽつりと溢される言葉

 それを聞いて、アズマは……任せてとばかりに一枚の葉を唇に当てた

 

 吹くのは草笛。響かせるのは得意のオラシオン

 

 「らららららー」

 草笛の音色に合わせ、チナが小さくハミングする

 その可愛らしい声に誘われてか、最初にぴょこりと姿を見せたロコンが鳴き声で合いの手を入れ始め……

 毒気を抜かれたようなランドロスは、ようやく戦闘の為に変化した霊獣姿を解き、化身姿へと変身した

 

 そして、その両の腕を組む

 『「……オヌシの想いは、痛いほど伝わってきたのである

 実際に痛かったのであるし」』

 と、小粋?な豊穣ジョークをかまし、アズマ達にも分かるように人間の言葉を繰り、小さな王は警戒を解いた大地のポケモンに語る

 

 『「この地を愛したヨと同じだけ、オヌシも荒れ果てたこのカンムリ雪原を見てられなかったのであろう

 しかし、ヨとて譲るわけにはいかぬ。この地への愛は……負けておらぬがゆえ」』

 そして、小さくウサギのようなポケモンは、その小さな手をランドロスへと差し出した

 

 『「して、どうであろう

 未だ愛すべき地は荒れておる。されど、ヨとオヌシが組めばその富みようは正に無敵タイムとなろう

 

 何せ……」』

 『コンッ!』

 と、白いロコンはアズマ……ではなく、その横の少女の足元に頭を擦り付け、尻尾でランドロスを指し示す

 その頭に載せられているのは、半分に割られたオボンの実

 

 「ロコンちゃん、届けてって事です?」

 『ココン!』

 『「このように、ヨの畑がにんじんを実らせるだけの豊穣を戻したオヌシとて慕われておるし……」』

 『バシロォース!』

 と、戻ってきたのだろう氷の白馬が、バドレックスではなくランドロスの横へ並ぶように颯爽と着地する

 

 『「互いにこの地の力を纏い、互いの想いを感じた今ならば、同じ方向を向くことも出来よう」』

 暫く、全員が押し黙る

 

 そして……

 『どるぅ』

 両の腕……は組んだまま、そのポケモンは尻尾のような豊穣をもたらす三本目の腕を伸ばし、小さな王の手に拳?をぶつけた

 

 『カムゥカンムリ!』

 『ランドルゥ!』

 と、ランドロスは神殿へ向かって飛行を始め……

 『「……待つのである!?そこの神殿はヨのもの!?」』

 ……なんとなく締まらない感じではあったが、ほんとうに……これできっと、カンムリ雪原を巡る二体の豊穣の王の闘いは終わりを告げた

 

 そして、3日後

 

 とんてんかんと小粋な音が響く

 カンムリ神殿の横のスペースに、幾つもの素材が運び込まれて行く。それを指揮するのはコバルト色の伝説であるコバルオン。力自慢のテラキオン等が木々を用意したり石を削り、それをフリーズ村の住人の若い方の衆が形を整え、運ばれたそれを……アズマや格闘ポケモン達が頑張って組みあげる

 イッシュにあるという豊穣の社のような、ランドロスの為の社を作ろうというのだ

 元々道すがらに畑があったり階段が残っていたように、かつて豊穣の王信仰が盛んであった頃は、人々は当たり前のように神殿と村を安全に往復できた

 その……人が通ってもポケモン達が下手なちょっかいをかけてこないと約束された道が復活し、フリーズ村の人々が……信仰を取り戻した皆が、この地の為に、ポケモンと共に働き出したのだ

 それを満足げに眺めるバドレックスに、一声シアンの狼が吠える

 

 そうして、二頭は暫くの間、この結末のために奔走した小さな二人の人間を眺め続けた

 

 ……そんなことをしている間に、終わりの時がやってくる

 元々、父のフィールドワークの間、カンムリリゾート近くに連れていって貰うという長期旅行……チナの母親が治療のために父と共に一度ジョウト地方へと飛び、家を空ける事になるからそれ+αの期間、幼馴染の家にして名家として娘を預かるという事で始まったもの

 時が来れば帰るのは必然だ

 

 まだまだ豊穣の社(カンムリの社)は建設半ばだったりするが、完成に立ち会うまで居たりも流石に出来ない

 

 明日帰るというその晩、アズマは……シアンのポケモンの前に立つ

 「シア」

 ボールを出してみるも、最後にともう一度ふかふかにした尻尾を振り、そのポケモンは拒絶の意志を示す

 ここまでずっとアズマの為に動いてくれたが、ここまでのようだ

 着いてきてはくれないらしい

 

 それは良い。ポケモンにはポケモンの想いがある。バドレックスがこの地を大好きなように、離れたくない理由などがあるのだろう

 だからアズマは……預かっていた帽子をもう一度取り出す

 それは、……赤い六枚の花弁の花の造花が付けられて進化?した帽子

 

 「えへへ、わたしが縫ったです」

 と、横で少女がちょっと恥ずかしそうにはにかむ

 「グラシデアの花……まあ、造花だけど

 本当に有り難う、シア。また……会えると嬉しい」

 

 『……ォード!』

 小さく、少年少女の背に合わせるようにその大きなポケモンは頭を下げ、耳をぴこりと動かす

 まるで、そこに載せてと言いたげに

 

 アズマが帽子を欠けた方の耳に被せてやると、そのポケモンは一声大きく遠吠えして……そうして、周囲に霧が満ちる

 

 その霧が晴れた時、そこには何も居なかった

 

 「有り難う、シア」

 「シアさん、とっても助かったです」



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vsバドレックスぬいぐるみ

「……という感じです」

 と、アズマは一息ついてすっかり冷めたお茶をすすり、そう締めくくった

 

 「これが、昔チナと行った時の、フリーズ村での話です」

 「あの後は、帰るだけでしたし」

 「バドレックスは力が必要なら来るのである。それまでに立派な豊穣の地に変えておく……って言ってたね」

 言いつつ、アズマはカンムリリゾートの案内を開く

 

 かつては載っていなかったが……今ではしっかりと、フリーズ村やカンムリ神殿、そしてカンムリの社が紹介されているのだ。それだけ、何もなかったあの場所が活気づいている証である

 

 「……あれ?」

 と、アズマは写真を見て違和感に気が付く

 「アズマさん?どうしたですか?」

 「像が別物になってる」

 ぽつりとアズマは呟いた

 

 フリーズ村の写真として載っているものをぱらぱらと見ていたところで見つけたのだが……アズマ達が直した不格好な頭の木の像があったところに、金属製で槍を高く掲げ愛馬が前足を振り上げたバドレックス(はくばじょうのすがた)像が設置された写真が掲載されていた

 決して、変な愛嬌があるがブサイクにも見える、あの木彫りの王とどちらともつかない馬の像ではない。精巧にデザインされた、バドレックスとブリザポスの像だ

 

 「……です、ね?

 どうしちゃったんでしょう」

 あの像は自分達とバドレックスの絆の像。不安にかられて幾つかページを見て……

 

 「かつての像は保護を兼ねて博物館に安置されているそうよ」

 「……あ、そうなんですねすみませんシロナさん」

 頭を下げて、アズマはホロキャスターを閉じた

 

 「……それが、青い運命」

 「はい」

 静かに、アズマは頷く

 

 「多分、シアの事を言ってるんだと思います

 ただ……」

 「詮索して欲しくないから、分からないと言ったのね?」

 「はい。実はあの後、もう一度だけシアには出会ったんですが……」

 父の失踪後、各所で父の痕跡を探す中の事を思い出しながら、アズマは言う

 

 「あの時も霧と共に姿を見せてはくれましたけど、何かずっと警戒しているみたいで。何時もは……って二回ですけど、帰る時近くまで居てくれるんですが……あの時はほどけたお団子ツインを前みたいに三編みに結い直してやったらすぐに居なくなっちゃったんですよね」

 「そうなんですか?」

 「おれの事は分かってくれた……っぽくて、だから姿を見せはしたけど……って感じ

 だから、余計な詮索して欲しくないんだろうって思ったんです」

 

 あ、もちろん……とアズマは手をぱたぱたと振る

 「別にシアが警戒していた何かがシロナさん関係……だなんて全く思ってませんけど」

 「別個体の可能性は?

 ほら、ディアルガのような神と呼ばれるポケモンですら、複数の個体が確認されているのだし」

 「それは無いです。同種……だとしたらチナと一緒にあげた帽子を耳に被ってる筈がないし、おれの前まで即座に駆けてきたりしません」

 「そう、それなら……」

 と、金髪の女性は背後を振り返る

 其処にはまだ、誰も居ない

 

 「有り難う。結構面白い話を聞くことが出来たわ

 チナちゃん、部屋は覚えてる?」

 「はい!」

 「なら、夜には帰ってらっしゃい」

 「えっと、シロナさんは?」

 「此処で他にも話を聞く為に待ち合わせしているわ」

 「分かりました」

 

 多分だけれども、再会して積もる話もあるだろうからと、助手と何処かで遊んできなさいという話なのだろう

 有り難う御座いますと頭を下げて、アズマは幼馴染の少女の手を引いて……気が付くとショウブは何処かへ行っていたカフェを出た

 

 「……ミアレは久し振りだけど……チナ、何処へ行く?」

 『(面白い場所はありませんの?)』

 と、足元でポケモン向けスケート靴を履いてくるくると回っているディアンシーが言った

 バランスを取りつつ左右に曲がるなんて鉱石のような一本足のポケモンには無理で、まるで雪深い場所で時折見かけるイノムー一族ソリや或いは魚ポケモンが引く水上スキーのように、宙を浮くニダンギルの布の手を握って引いて貰っているのが何処か面白い光景で、アズマはくすりとしながら一度彼女を拾い上げる

 

 『(な、何するんですの?)』

 「姫、此処でスケートは人通り多いからはぐれると思う」

 『(ミーよりバカでしゅ)』

 と、チナの頭から一歩も歩いていないポケモンがテレパシーで呟いた

 

 「ダメですミーちゃん」

 と、嗜めるチナ

 『(レディになるので気にしてませんわ)』

 小さく震えながら、ボールは嫌だからとバッグに自分から飛び込んで顔だけ出すディアンシー

 

 「……とりあえず、色々と売ってるデパートでも行こうか、チナ」

 と、アズマは空気を変えるように言う

 「アズマさん、買いたいもの……あるんですか?」

 「バドレックスぬいぐるみ。そろそろ7次出荷分が入荷してないかな……って」

 「ヨさん、ぬいぐるみになってるんですか?」

 「可愛いからって女の子に人気らしいよ。そしてついでに、こいつは伝説だしー?と言い訳できるから一部男子にも」

 おかげで結構売りきれてるんだ、とアズマは苦笑して呟いた

 

 

 そして……

 「午前中に、予約分以外は完売……?」

 見事に、ぬいぐるみの入手に失敗した

 「に、人気ですねヨさん……」

 「信仰されてて良いことなんじゃないかな……威厳はあんまり無いけど」



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vs.ディアルガ

そして、数日後

 

 「さあ!今年も8つのバッジを揃えた偉大なポケモントレーナー達による、その歳の最強チャレンジャーを決める祭典が今!正に!始まろうとしている!」

 マイクで拡声されたキーンと響くそんな声がアズマの耳に響く

 

 此処はミアレシティに存在するダイスタジアム。大規模コンテストや……こうしてポケモンリーグ大会にも使用される場所だ

 ポケモンリーグ挑戦権こそチャンピオンロードを抜けてカロスリーグ本部へと手続きをしに行かなければならないのだが、人々が見やすいように大会そのものは毎年ここミアレシティで行われる

 そんなスタジアムの熱狂は、例年高い倍率を誇るチケットを買い直接見ることが出来る優越感……等もあるだろうが、多くは違う

 初日の最初の戦いこそがエキシビションマッチ。他地方の実力者を招いて前年優勝者と戦って貰うという、観客だけでなく参加者への激励にもなるドリームマッチ

 そして、今回のゲストこそは、ガラルの生ける伝説、9年通してのガラルトーナメント通算勝率9.000。相棒のリザードンと共に少年に莫大な人気を誇るガラルチャンピオン、ダンデである

 伝説のポケモン……それもカロスに伝わるあのゼルネアスと共にリーグを駆け抜けたカロススターに相対する相手として、同じ女性でチャンピオンなシロナさんの次くらいに相応しい相手だろう。カルネさん?あの人はカロスチャンピオンだから端から選択肢にない

 

 確か、事前の予想アンケートではシロナさん30%、ダンデさん29%、元ホウエンチャンピオンで実力は同等以上なダイゴさんが3位で15%、アデクさんが12%……って感じでずらりとチャンピオン名が並んでた筈だ。例外は5%程居たその他(アルフさん)だけ

 その彼も現ホウエンチャンピオンミクリさんの弟子で、あのゲンシカイオーガを従えている人だし……明らかに今年のエキシビションは注目度が例年とは違いすぎる

 

 皆、伝説のポケモンや伝説扱いされるトレーナーの戦いをその目で見たくて仕方ないのだ

 例年だってエキシビションがメインと言う人も居るくらいだが、今年はもう仕方ないだろう

 

 そんな熱狂の中、そことは隔離された関係者席で、アズマは昨日買った礼服のネクタイを気にしていた

 「……うーん、ちょっと合わなかったかな……」

 「アズマさんにしては珍しい色です」

 と、横で同じく関係者席に入ってきた銀髪の女の子が呟く

 

 「前の服はダメなんですか?」

 「ダメダメだよチナ。おれの前の礼服って、フラダリさんに憧れて色揃えた奴だからさ

 おれ自身はあの人は辛く考えすぎて行き過ぎたけど志は正しかったって思ってる。でも……」

 と、アズマは窓の外から蒸し暑くなっているだろうスタジアムに押し掛けた人々を少しだけ寂しそうに見た

 「皆にとって、もうフラダリさんは恐ろしい悪だ。そんな相手っぽく仕立てた服なんて人前で着れないよ」

 

 「で、ですよね……。わたしも、アズマさんには悪いですけど、酷い人だって気持ちはあるですし」

 「実際、やったことは酷いことだよ。酷い人でもあることは、おれだって分かってる。フレア団も、それの影響を受けてそうな彼等も、おれは許せない

 でも、あの人の気高かった想いの欠片……赤いネクタイくらいと思ったけど、青系のスーツにはちょっと間違えたかな……」

 『(……です、わよね)』

 実際にジャケットの一団に襲われていたディアンシーがバッグから顔を覗かせつつ相づちを打つ

 そんな風に場違いな話を呟いていると、チナと二人+ディアンシー一匹だった関係者席の扉が開いた

 

 「あ、おはようございますです、シロナさん」

 「あとNさん、久し振りで……」

 と、アズマは固まる

 「ってNさん!?こんな大都市の大イベントに居て大丈夫ですか!?」

 

 一般的に、Nは一部ファンこそ居るものの、プラズマ団事件の首謀者の一人として追われる立場である。プラズマ団自体、ポケモン愛護の精神は間違いなく持っていた事から今ではイッシュ地方でボランティア団体として贖罪に励むメンバーも居るらしく、多少は受け入れられてきたものの……一般人からそこまで良い顔は間違いなくされないだろう。フラダリ風礼服のアズマと同じだ

 

 「問題ないさポケモン達にとっても大事なトレーナーと共に挑むバトルは決して悪ではないと」

 「いえ、そうではなく」

 「大丈夫よ。今の彼はそこまで危険人物ではない……というのが見解だから

 とはいえ、誰も同行せず野放しとまでは行かないけれど」

 「あ、良いんですね」

 「関係者席と言っても、此処は訳ありな人達向け。他に誰も来ないから安心して」

 

 じゃあ、とアズマはVIPルーム的にかなり豪華ではある(家のソファーと同じくらいふかふかの寝られる大きさのソファーが真ん中に2つ置かれていたりする)が贅沢に空きスペースがある天井の高い部屋を見回す

 

 「皆を出しても?」

 「……新米ジムリーダーさんから頼まれてるわ」

 「……良かった」

 と、アズマは四つのボールを構える

 

 「ギル!サザ!アーク!」

 だが、呼び出すのは三匹だけ

 流石にイベルタルなんて伝説を下手に外に出してはやれない。そう思ってアズマは彼……いや彼女かもしれないポケモンも外を見やすいようにボールを一つ手で持ったまま、残りの皆を共に観戦する為にボールから出す

 

 「……アズマさん、その子は?」

 「ベルはちょっと大きさが……」

 入りそうな広さはしている。翼を下手に拡げて暴れなければ少し小柄な個体……なのでは?とアズマが勝手に思っているイベルタルは部屋に収まるだろう

 だが、アズマはちょっとだけ不満げに揺れるボールを撫でて宥めながら、そう告げ……

 

 「ん?チナは?」

 と、アズマは幼馴染に問い掛けた

 「チナもポケモン達と一緒にエキシビションを見ないの?」

 「あはは……わたしも、連れてきているポケモンさんがちょっと大きくて……」

 と、困ったように笑うチナ

 シェイミは今日は頭の上に乗っておらず、フカマルは母の手伝いに置いてきたらしく……そういえば、アズマは他の手持ちを知らない

 

 「大丈夫よ、チナちゃん」

 「君の運命に枷は要らないよ」

 と、保護者……ではないが、見守るチャンピオンと伝説に選ばれたポケモンの王がそれぞれを諭す

 

 「でも」

 『ババリッシュ!』

 ボールから飛び出してきて、大人しく尻尾のエンジンの光を灯さずにマジックミラーな窓から外を見るのは伝説の黒竜ゼクロム

 

 そして、その瞬間

 「あ、Dia様勝手に出てきちゃ」

 ゼクロムの存在に触発されたのか、勝手に少女のボールが開き、一匹……いや一柱の巨大な四つ足の神が現れる

 そして……

 

 「ベル!ストップ!」

 ボールに収まってちゃいられないとばかりに、アズマの背後に紅の巨鳥が降臨した

 

 『GubGuryyyyy!』

 『イガレッカ!』 

 ほぼ同時に少年少女の手のボールから降臨した巨獣がちょっと抑え目に吠え、

 『(か、怪獣大戦争ですわー!)』

 姫がテレパシーと共に何も見てませんと言わんばかりにアズマのバッグに飛び込んで閉じ籠る

 

 「イベル……タル」

 「像の印象より大分小さいけど、この姿は……まさかディアルガ!?」

 「あは、は……」

 

 だがしかし、一瞬で皆の間に走った緊張は……

 「Dia様、わたしはだいじょぶです」

 「ベル、落ち着いてくれ。チナがおれにとって危険な筈が無いからさ」

 アズマが自分を守ろうというかのように翼の羽毛で包もうとしたイベルタルの額を数度撫でると即座に氷解した

 

 『レッカ!』

 「あんまり出してやれなくてごめんな

 でも、お前を下手に人前で出したら大惨事になるんだ分かってくれベル。旅の最中なら幾らでも遊んでやるから」

 撫で続けると、イベルタルは破壊ポケモンというその分類からすれば異様だが……人懐っこいポケモンのように撫でる手に自ら額を擦り付け、目を細める

 

 興味を喪ったようにディアルガ……と思われる金剛の胸を持つ青い巨獣は少女の横で前を向き、最初から知ってたとばかりに大人しかったゼクロムはNの横から欠片も動いていない

 

 「あれ?チナ、イベルタルが……」

 「えっと、実はアズマさんとそのイベルタルのことはシロナさんと一緒に聞いてて……最初から知ってたです」

 「そっか……」

 

 だから落ち着いてるのか、とアズマは一人納得しようとして……

 「いや、ちょっと待ってくれチナ

 そこのディアルガは一体!?」



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vsときのほうこう

アズマは、何処か小さいその青い巨獣……青い運命と言われた時に、シアン色のポケモンをすぐに出さないために口にしたが、実際に目にすることは一生無いと思っていた時の神と呼ばれるポケモンを見上げる

 

 『Guryyy』

 悠然と低く唸るその四足歩行の獣の胸元には、青く五角形にカットされ……最高級を越える輝きを秘めたブルーダイヤが煌めいている

 

 「ディアルガダイヤ……」

 家にある家宝の名を、ぽつりとアズマは呟く

 一般的に、ダイヤモンドとは何処と無く白っぽい色をしているという認識が一般的。但し、それを越える価値を持つダイヤモンドが二つある

 ブルーダイヤとピンクダイヤだ。そしてそれは……

 

 「姫」

 『(?どうしましたの?)』

 ぴょこんと何時でも顔を出せるように……虐待ではなくポケモンの意志でバッグに入れているという事を強調する為に開けてあるカバーを押し上げて、ディアンシーが顔を出す

 少しだけ身震いをしながら、小さなダイヤモンドの姫はアズマの膝の上に乗った

 

 『(そろそろゼルネアスが見れるんですの?)』

 「感じるんだ」

 『(近くに居る気がしますわね。方向が分かりませんけど……

 あと、もっと怖いものが横に……)』

 アズマの膝に落ち着くピンクダイヤのポケモンをじーっと見下ろし、嘴を数度カチカチと打ち鳴らすイベルタル

 ゼルネアスと対を成す破壊の伝説、新しく始まるための終わりを司る赤き闇。確かに、ゼルネアスの存在を関知できるディアンシーからしてみれば怖いだろう

 

 (ベルは別にそんな恐ろしいポケモンじゃない、筈なんだけど……)

 なんて、アズマは思うが……こればっかりは、アズマも持つらしいダークオーラの影響。如何ともしがたい生態の問題だ

 

 「ベルは……後で一緒に空飛ぼうか

 だから、今は大人しく、な」

 そのアズマの声に、紅の伝説はトレーナーの耳をその舌でぺろっと舐める事で返した

 

 「あ、Nさん。一人と一体で飛ぶより楽しい筈なんで、一緒に飛んで貰っても大丈夫ですか?ゼクロムも」

 ニャオニクス師匠と共にZ技の修行の際、何度となく強大な電撃をぶつけて技の威力を確かめてくれた黒き竜は、その後頭部の一角を光らせて応える

 「……急ぐ必要がないなら、見付からない場所で頼むわね」

 「あ、それは流石に分かってますシロナさん」

 「あと、この子もね」

 と、金髪の女性は己の助手の肩に手を置き、言って……

 

 『レック!』 

 「嫌だってベルが言ってます」

 「……何でですか!?」

 ゼクロムの時はスルーしたのに拒絶するように鳴いたポケモンに、チナが愕然とした

 

 「……こほん

 というか、話逸れてる逸れてる」

 『(お、置いてけぼりでしたの……)』

 改めてアズマは、そんなあれこれの話の中図太く完全無視を決め込んで堂々と立っていた時の神と呼ばれるポケモンの方を見直す

 

 「ということで、姫に出てきて貰ったのは、このポケモンと会わせるため」

 『(どんなポケモンなんですの?)』

 「姫は、自分が何て呼ばれてるか知ってる?」

 『(姫ですわね。渾名を付けられるなら……)』

 と、ディアンシーはそこで止まる

 

 『(えっと、わたくし、あのジャケットから何て言われてました?)』

 その言葉にちょっとだけ笑って、アズマは箱入り姫に説明する

 「人間達は、姫の事をディアンシーって呼んでる

 メレシーの姫、ダイヤモンドの姫。ダイヤモンドのメレシーということで、ディアンシーって」

 『(ディアンシー……)』

 「そして彼は……ん?彼で合ってるよね、チナ?」

 「あ、Dia様は彼で合ってる筈です」

 少女に確認を取って、アズマは続けた

 「彼の名はDia様?だけど、種族としては……ディアルガ

 時間ポケモン、ディアルガ。資料が存在する、実在すると言われているポケモンの中で姫と並んでたった2種類のダイヤモンドのポケモン」

 『(わたくしと、同じ?)』

 「まあ、可愛くてダイヤモンドが作れるからって理由で狙われがちな姫と違って、時を司る神とシンオウ神話に語られるっていう文字通りの伝説、なんだけど……」

 ちらりとアズマは幼馴染の方を見た

 

 「何処でこんな伝説そのものと出会ったの、チナ?

 大丈夫だった?怪我は?というか、ギンガ団ってディアルガとパルキアを追ってたらしいけど、狙われなかった?」

 「アズマさん、そんな一気に聞かれても答えられないですよ

 でも、だいじょぶです。Dia様は、ギンガ団事件が解決した後に出会ったですから」

 「そうなの?」

 「はい。Dia様と出会ったのは、実はかなり最近です」

 こくりと頷くシロナ、臆せずディアルガの前に立って何か話しているN

 ポケモンの声がテレパシーも何もなくとも全部分かるというNは恐らく、ディアルガから事情を聞いているのだろう。ポケモン視点での、話を

 

 「えっと、シロナさんのシント遺跡……ってところの調査の為に着いていったって話はしましたよね?」

 「うん、聞いてる」

 「アズマさん、シント遺跡ってどういう場所かは知ってます?」

 その言葉にもアズマは頷く

 

 父が十年前に調査した場所だ。資料ならばアズマも読んだことがある

 「みつぶたいの場所だよね

 ジョウトとシンオウの間にあるという、雪に常に閉ざされたアルセウス遺跡の一つ」

 「はいです

 わたしはシロナさんとそこに行ったですけど……」

 「でも、あの遺跡は単なる遺物。歴史的価値こそあれ……って父さんは結論付けてた気が」

 「それがね。ギンガ団は湖のポケモン達を使い、時と空間の神とされるポケモンを呼び出した

 その事で……シンオウの空は一度大きく歪んだの」

 金髪の女性の語りにこくりと頷きを返すアズマ

 

 「そのせいか、わたしが来た時には……不思議な歪みが舞台の上に有ったです」

 「この子の前で、歪みは白い卵の形に変わって……」

 『Guryyy』

 「えっと、そこから産まれたのがDia様なんです

 ……思わずボールを落としちゃったら、転がっていったそれが脚に当たって……そのまま捕まっちゃったです」

 「それは……ぽかーんだね」

 「ぽかーんです」

 こくこくとアズマの言葉に同意を返す女の子の銀の髪がふわりと揺れて、花の香りが拡がる

 

 「えっと、その時シロナさんは?」

 「この子に来てもらったら孵ったから、きっと最初から着いていく気だったのねと思ったわね」

 「新しく産まれた身で良いトレーナーを待っていたそうだよ」

 「通訳有り難う御座いますNさん

 

 それでも……うん、暫く呆けるね、それは」

 「アズマさんの方こそだいじょぶでしたか?」

 「ベルは自分からボールに飛び込んでいったし、何より……」

 とん、とアズマは自分の胸を右手で叩く

 「チナには話した事があるよね。家の家が護る桃色水晶の話。あの中にずっと繭として眠ってたんだ、ベル

 だからさ、何となく最初からおれとベルの中には繋がりがあって……結構すぐ、受け入れられたよ」

 『(ところで、わたくしとこの恐ろしいポケモンの間には、何があるんですの?)』

 「唯二の"ディア"。ダイヤモンドの伝説同士、何か通じ合うものとかあるのかなーって」

 『(あまりありませんわ)』

 

 そっか、とアズマは小さなダイヤモンドの姫に頷いた

 「ところで、エキシビション……始まらないね

 結構長く話しすぎた気がするんだけど」

 

 『GubaGuryyy』

 ディアルガが吠える

 「『そして時は動き出す……』らしいね」

 「え!?時間止まってたの!?」




スタープラチナ・ザ・ワールドちゃん(略してチナ)

……な、訳はないです。ポケモンプラチナのチナです


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vsファイアロー

「さあ!まずは勿論この方!

 カロスリーグ前年優勝者!今やチャンピオン、カルネの後継は四天王の誰かではなく彼女ではないかとも目される、伝説と共に生きるスーパースター!

 セェレナァァァッ!」

 

 ワァァッ!と沸く観客達

 そして、開放できるものの今は閉じられているドーム状の屋根に仕込まれた強いスポットライトに照らされて、コンテストドレス……ではなく可愛らしさとスポーティーさを両立させたブラウスとジャケット、そして赤いブーツに、チェックのミニスカート。イッシュ四天王カトレアさんのようなふわっふわの金髪は今日はきゅっとポニーテールに纏められ、リスペクトかギザギザの入った有名なスポーツキャップを被るその少女こそ、セレナ

 フレア団事件……最終兵器の起動をゼルネアスと共に解決した、カロスでも1、2を争うトップアイドル

 

 良く様々な雑誌などで着飾ったグラビアが使われていたりするものの、自分はポケモン達と旅をしてきたトレーナーであるということを主張する動きやすい姿で人々の前に登板するその心に、多くの人が沸き立つ

 もっと可愛い服の方が良い……という人々は確かに居るのだろうが、それを感じさせずに呑み込んでしまう程の熱狂

 分厚い壁によって結構防音がしっかりした関係者用の部屋のなかで、アズマもきゅっと膝上の手を握り締める

 

 「そして!今回遥かガラル地方から、カロスが誇るニューレジェンドとのエキシビションタイムを実現させてくれるのは!」

 一際大きくなる歓声

 元々男性陣の声が大きかった所に、女性陣の黄色い声援が混じる

 元々セレナは男女共に人気はあれ、何というか……実際に見た時の反応は男性の方が大きかったのが、ほぼ全員が応援に叫ぶようになったのだろう

 

 「ガラルの生ける伝説!カレーの売り上げを2倍に伸ばした男!」

 そして、毎年行われるポケモン人気投票において、"あの"ゲッコウガを抜き去ってリザードンを総合一位に輝かせたリザードンの栄光の立役者

 

 「ガラルチャンピオン、ダンデェェェッ!」

 その瞬間、小さな響きと共に快晴の空が広がる。ドームの屋根が開き、日が差して……

 オレンジの火竜が太陽を背に舞い降りる。その背に乗るのは、方向音痴な伝説のチャンピオン、ダンデ

 豪奢ではあるのだがひたすらに沢山の協賛企業バナーでごちゃごちゃした印象にしかならないマントを不思議と着こなし、リスペクトとして今日のセレナも被っている少年大好きダンデキャップを被った、紺に近い長くて跳ねた髪の男性

 彼は相棒であるリザードンから飛び降りると、くるっとその場で2回転し……目線を下げつつビシリと左手を天に向けて掲げたポーズを取った

 

 「出たー!リザードンポーズ!

 これがダンデ!チャンピオン、ダンデとでも言うべき象徴!」

 ナレーションが興奮気味に叫ぶ声が、マイクを通して熱狂のスタジアムに響き渡る

 

 「……やっぱり、凄いね、二人とも」

 『ズーッ』

 何時しかアズマの右……にはちょこんとチナが座っているためソファーの左側に登って行儀良く……でもないが足を折って観戦を始めていたモノズが鳴く

 興味ないのとばかりに恐れ知らずのゾロアは首筋に生えている背鰭のような銀の突起を伝って生きたアスレチック、ディアルガを登頂しようとして……頭を振ったディアルガによって背中まで落とされている

 

 「アーク、あんまり嫌がられるようなことはするなよー」

 『(嫌なら背中に向けて落とされてないの)』

 それもそうかと、アズマは頷く

 

 「ミーちゃんが登ってくるのにはなれてますからだいじょぶです」

 『(ミーより登るの下手でしゅ)』

 と、定位置(チナの頭の上)でシェイミがテレパシーで鳴いた

 

 喋るポケモン多くない?とか思いつつ、アズマは良く知っている今回のエキシビションの対戦カードの二人についての簡単な説明を聞き流し、横の少女を見た

 

 「そういえばチナはどっちを応援してるの?」

 「アズマさんはどっちなんですか?

 やっぱり、男の人は可愛いセレナさんを応援したいんです?」

 頭上のシェイミが落ちないようにほんの少しだけ小首を傾げて聞いてくる幼馴染

 それに、アズマはうーん、と返した

 

 「確かに可愛い人だと思うけど、個人的にはチナの方が可愛いからそれで応援はしないかな……

 カロス出身ってことで贔屓は入るけど、それでも今回はダンデさんの方を応援したいよ

 だって、あのゼルネアスに挑むんだから。数年振りのチャレンジャーダンデみたいなものだし」

 「わたしは、女の子のトレーナーとしてちょっとセレナさんを応援したいです」

 『(わたくしはゼルネアスを応援ですわ)』

 と、膝の上でディアンシー

 

 「あ、Nさんは」

 「どちらのポケモン達も全力で頑張ろうと思っている以上贔屓はないともさ」

 「ですよね」

 これぞN、そうアズマは思って、スタジアムへと意識を向け直した

 

 エキシビションのルールは3vs3のハーフ戦。事前に出場ポケモンの登録は無し

 各々自身の持つ沢山のポケモン達の中からこれという六匹を選んでこの場に来ており、そこから三匹を繰り出す筈だ

 ただ……これはエキシビションマッチ。恐らく期待されているポケモン達は必ず出てくるだろう

 ダンデのリザードン、そしてセレナのゼルネアス。互いのエースを見に来た人々は多いのだから

 

 「ダイマックス、見れるかな……」

 「どうでしょう?」

 二人してそんな疑問を溢す

 やはりというか、人々が見たいのはフルパワー。キョダイリザードンだろう

 けれども、此処はカロス地方。ガラルでは無く、ダイマックスが出来るのかどうかは不明瞭

 

 「拍子抜けとか言われない戦いだと良いんだけど」

 そんなアズマの前で、互いが最初のポケモンを繰り出す

 『ピィィィィッ!』

 甲高い嘶きと羽音と共に姿を現すのは、炎のように赤い鳥ポケモン、ファイアロー。疾風と呼ばれるそのスピードで、去年のカロスリーグ決勝でもセレナ側の先発を勤めたポケモンだ

 そして、相対するのは……

 

 「ギル」

 小さくアズマが相棒を呼ぶ

 繰り出されたのは組み合わさった剣と盾のポケモン、ギルガルド。ニダンギルから更に進化したポケモンである

 その声に、くるりと縦に一回転して一対の剣のポケモンはアズマの周囲を回り出した

 「ああ、存分に見せて貰おうな、ギル」

 

 

 

 「ファイアロー、『フレアドライブ!』」

 「『キングシールド』っ!」

 ニダンギルにもある手のような布に盾を持つ姿から、本体である剣を盾に納めたシールドフォルムへ

 攻撃を受け止めるようにしたギルガルドに全身を燃やした炎鳥の最後の死力を尽くした一撃は阻まれ……

 

 「ファイアロー、お疲れ様」

 「良くやった、ギルガルド」

 炎に包まれた二匹は、同時に赤い光と共にトレーナーの手元のボールに戻された

 

 そして……セレナは少し、ドームの壁に掲げられた大きな時計を見る

 「時間、押してるね

 本当はこんな舞台、皆に脚光を浴びせてあげたいけど……」

 

 そう、エキシビションは全30分。だが、開幕のファイアローvsギルガルドで既に15分以上が経過している

 このままでは、3vs3でも3体目が……エースが見えないかもしれない

 だから、金の髪の少女はそのモンスターボールを構える

 

 「だから御免。キミが行かないと!」

 『イクシャァァッ!』

 投げられたボールから、そのしなやかで細身の体からは想像もつかない程に重い着地音を響かせて降臨したのは、黒い足に濃い青の体を持ち、七色に輝く小角を湛えた大きな角を持ち、瞳にXを秘めた鹿のような伝説のポケモン……ゼルネアス

 

 「ゼルネアス!」

 『(これが、わたくしの求めていたゼルネアス……)』

 アズマの腕の中で、ぽつりとディアンシーがその手を伸ばす

 

 「……ゼルネアス。最強のトレーナーと最強のポケモン

 どう応えるべきか、暫く頭を悩ませていた」

 それに対してダンデは、リザードンをボールに戻すこと無く語り始める

 エースにエースで応えるならば……リザードンを出したままは可笑しい。ダイマックスは、一度ボールに戻してから行う筈だから

 

 すっと、チャンピオンである青年は空を指す

 それに合わせて多くの人々が……開いた筈の屋根が閉じていくのを見上げて……

 

 「きゃっ?」

 証明が一斉に落ち、チナが小さくすぐ横のアズマの手を握る

 光と呼べるのは室内で輝くディアルガの胸元のダイヤと、ゼクロムの角くらい

 

 そして、スタジアム中央に燦然と輝くゼルネアスの角

 

 「さあ、ゲストタイムだ!

 伝説に相対するは、此度のエキシビションを盛り上げるために来てくれたガラルの誇る伝説と行こう!」

 その瞬間、スタジアムの中央、ゼルネアスの反対側に……忽然と一つの気配が現れる

 

 ふっ、と灯る鬼火。ゴーストの炎が、何かを浮かび上がらせる

 

 それは、アズマにとって何か懐かしい気配で……

 「え?これってまさか」

 そして、紫色の霊の火が大きく燃え上がって周囲を明るく照らした

 

 それは、雲のような鬣を持つ蹄から浮いた霊馬に跨がる、蕾の冠を抱く偉大なるも愛らしい、ウサギのような顔つきの王。伝説不毛の地で実在を確認された伝説のポケモン

 即ち

 「ば、バドレックス!?」




ヨはぬいぐるみではなく凄い伝説のポケモンだと証明するのである


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エキシビション 豊穣ウサギvs生命鹿

『レイクラーウン!』

 昔のように人間の声ではなく、普段のポケモンの鳴き声を高らかにそのカンムリウサギは歌い上げる

 それに合わせて手綱を引き……レイスポスが前足を振り上げて嘶いた

 

 それをスポットライトが照らし、恐らくは完全に仕込み……事前に決めてあったのだろう事態を終えて、証明が元に戻る

 それでも、その姿は幻として消えることはない。確かにしっかりと固められたグラウンドを蹄で掻きながら君臨する

 

 「紹介しよう。ガラル地方はカンムリ雪原に座す王バドレックス。今回は、ガラル地方そのものの宣伝のために来て貰った」

 ワァァァッ、と、人々が湧く

 

 それはそうだろう。人々はセレナを、そしてゼルネアスを見に来たのだ。もう一体の伝説が見れるなんて思っていなかったろう

 

 「チナは知ってたっぽいね」

 と、証明が落ちて暗闇になったことには驚きつつも、バドレックス参戦には反応しなかった幼馴染の少女の手を離しつつ、アズマは聞く

 「えっと、シロナさんから聞いてたです」

 「そっか」

 頷いて、アズマはスタジアムに君臨した皇帝を特別室から見下ろした

 

 『このポケモンはぁぁっ!

 ガラル伝説の豊穣の王バドレックス!今此処に、豊かな生命を司る二体の伝説が並び立った!なんという光景!』

 と、興奮気味に解説の人が叫ぶのが聞こえるが…… 

 

 「台本だねこれ」

 「事前に知ってなければ放送事故起きるですし」

 確かに、とアズマは頷く

 伝説研究家の父を持ち、幾らかの伝説とは邂逅した事があり、そして何なら今や暗闇の中さりげなく自分を守るように畳んだ翼を微かに拡げてトレーナーに被せようとしたイベルタルという伝説そのものが手持ちに居るアズマですら、突然の伝説の降臨には動転せざるを得ない

 それが例え、既にその存在を知っていて、何なら困った時は手を貸すとまで言ってくれた相手だとしてもだ。突然目の前に現れたら冷静に解説文なんて頭で組み立てられないだろう

 今此処でシアがひょいと顔を見せたとして、慌てる自信がある

 

 それなのに、より伝説のポケモン耐性が無いだろう解説役が、混乱する観客の中で慌てる事無く、バドレックスが何たるかを説明してくれた

 これはもう、前から決まってたとしか思えない

 

 「豊穣の王バドレックス」

 「正式にはバドレックス(こくばじょうのすがた)。海の上を徒歩で遥々ガラルから来訪してくれた王

 君とゼルネアスの最強タッグには、最強チャンピオンと最強のゲストがお相手しよう!」

 ダンデの解説に、あ、徒歩なんだとアズマはちょっと笑う

 

 確かに、ボールから出てきた様子はないし、誰かの手持ちという訳でもないのだろう。あのヨが故郷をランドロスに任せて誰かに着いていくとは到底思えない

 だが……一時的に宣伝で何処かに行く、くらいはしても可笑しくはない

 

 実際に、宣伝効果は抜群だろう

 会場は……予想外の伝説vs伝説というカードに沸き立っている。そんな歴史的一戦となりそうな展開をその場で見れた事。それだけで自慢になるだろう

 

 「頑張れ、バドレックス」

 「ヨさん、ふぁいとです!」

 フリーズ村の時と違って、今の自分達は単なる一観客、それも窓で隔てた部屋からの客だ

 声なんて届かない。けれど、絆が力になる王にちょっとくらい意味はあるだろう

 そう思って、チナと二人小さく応援する

 

 『イクス』

 『クラウン』

 『レイホース』

 対峙する二体(+レイスポス)は、小さく鳴く

 こくり、とゼルネアスが頭を下げたようにも見え、それに対してバドレックスが頷く

 

 互いに礼儀というものを通すのだろうか

 「Nさん」

 「互いに力を使って戦いを楽しむ気を確認したようだね」

 と、通訳してくれるN。その顔は穏やかで、戦いによる相互理解に納得したようにただ、二体を見守る

 話に聞いていたプラズマ団事件の頃なら乱入して止めに行ってたのかなーとか思いつつ、逆さになりつつ手の布を振って知り合いのバドレックスを応援するニダンギルと共に、アズマは戦いの始まりを見守った

 

 「ゼルネアス……本気で行くんだね?

 よしっ!なら、『ジオコントロール』!」

 「全力でお相手しよう!

 といいたいところだが……残念!『サイコキネシス』で妨害と行こう!」

 結局去年のカロスリーグでは全然見ることが無かった……使わずとも圧倒できたからこそ出番の無かったゼルネアスの本気、『ジオコントロール』が最初から使われ……

 けれど、ダンデとてあの日の二人のように単に応援するというか同行しているだけではない。事前の打ち合わせで使える技は教えて貰ったのだろう、サイコパワーで相手の動きを封じつつ地面から持ち上げさせて、大地の生命力による自己強化を止めようと指示する

 

 バドレックスが右手を掲げるや、しなやかな体躯の巨鹿の体が宙に浮き……

 勝手にそこに向けて霊弾が撃ち込まれる。『シャドーボール』を下のレイスポスが放ったのだ

 

 人馬一体……ズルいような気がするが、そんなこと言ったら三位一体のダグトリオやレアコイル、刀身二つが二つの動きを可能とするニダンギル等もズルになってしまう

 

 更に……

 『「畳み掛けるのである!」』

 と、聞き覚えのある声が響き、大きくレイスポスが嘶くと……ゼルネアスの周囲360度……いや全包囲から時に交差しながら異様な軌道の鳥のような霊弾が無数に放たれた

 『アストラルビット』。バドレックスとレイスポスの最大技。宙を舞う伝説にそれを止める手段は無い。地に足をつけて戦うはずの生命の化身は空中では機動力を持たない

 

 ゼルネアスが苦悶に首を振る。去年の戦いを見てきた人々の中から感嘆の声が上がる

 ゼルネアスにダメージらしいダメージが通ったところなど、去年は一度もなかったのだから

 

 「さっすが豊穣の王

 でも!」

 カッ!とゼルネアスのXが浮かぶ瞳が見開かれた

 「この一瞬で決めきれなかったね!

 行くよ、『ジオコントロール』!」

 大地から巨大な光の柱が立ち上ぼり、ゼルネアスを包み込む

 サイコパワーによる拘束を振り払い、くるりと縦に一回転してしなやかな四肢を地面に着け、細身の巨躯が天を向いて咆哮する

 その体に残された霊火が掻き消え、ダメージが無かったかのように完全な状態へと回帰する

 生命を司る力の発露の前に、何者も傷を残すことは出来ない

 

 『イクシャァッ!』

 更に輝きを増した角を振りかざし、本気のゼルネアスが周囲に光の柱を立てながら降臨する

 

 そして……

 「『メガホーン』!」

 その七色の角を前に突きだして、生命の伝説は突貫する

 その速度は正に疾風。素早いことで知られるファイアローすら越える速度に王は反応できずに突き上げられ、空へと投げ飛ばされ……

 

 いや、違う。それは既に姿を消した王の残した影

 『バクロォース!』

 ふっとその姿を見せたレイスポスの嘶きと共に、輝くゼルネアスが無数に産み出している影から、少しの間を置いて次々に『アストラルビット』が放たれ、順次青い巨鹿に襲いかかった

 波状攻撃の前に、一ところに留まることは不可能。避けた先には既に次の一撃が向かっている

 これこそが、本気の『アストラルビット』

 

 しかし、ゼルネアスとて伝説。数発ならば受けきれる力を持つ

 影の輝きが減った頃合いを見て、軽やかに駆けて避け続けていたゼルネアスは反転。攻撃を受ける事を許容して反撃の為に力を溜め始める

 

 『「甘いのである!」』

 が、それこそがバドレックスの狙いだったのだろう。突如として硬い地面に突き破って生えてきた蔦が止まった四肢に絡み付いてその体制を崩させ……

 一気に増量して襲い掛かるゴーストビット

 

 『シャァァァァッ!』

 しかしそれは、絡み付いたかと思いきやそのまま成長を止めるどころか更に加速度的に大きくなり……遂にはゼルネアス全体を完全に取り込んだ巨木程の大きさになった蔦に穴を開けただけで終わる

 一瞬で枯れ果てた蔦の中から現れるゼルネアスは無傷

 

 豊穣の……生命を育てる力を使って相手が絡ませてきた妨害用の蔦を防御に利用したのだ

 

 「そういうこと出来たんだ、バドレックス」

 「にんじん育てたりしてただけじゃないんですね……」

 ぽつりと呟く二人の前で、再度二体の放つ技が激突し、隔てられたはずの部屋にすら振動が響いた

 

 『(ひっ!た、退避ですわ)』

 と、ディアンシーが震える空気に耐えられなくなったのかアズマの腕を伝ってバッグに飛び込む

 『(ミーは戦いに向かないでしゅ)』

 と、チナの頭の上に鎮座していたシェイミが身震いしてボールに逃げ込む

 臆病なモノズはジオコントロールが発動した光に驚いて既にボールの中に居て、マイペースなゾロアもディアルガに走る緊張感から遊んでちゃいけないのと帰ってきた

 

 好戦的であるがゆえに見守るニダンギル、毅然と揺らがないゼクロム。影響を受けていないのはその二体だけ

 イベルタルはというと、警戒するように翼を拡げて見守り、ディアルガの胸のダイヤに小さく光が集まっている。この二体には、外のバトルは心配ごとであるようだ

 

 「……行くよ、ゼルネアス!」

 トレーナーの言葉に、伝説の巨鹿は瞳の中のXを輝かせて応える

 『「レイスポス、まだ行けるのであるな?」』

 此方はトレーナー……ではなくヨの言葉に、愛馬はその鬣をふわりと逆立てて応えた

 「では、バドレックス。『アストラルビット』!」

 「これが私達の!」 

 その瞬間、スタジアム全体に突如としてクモの巣が張り巡らされ、馬上の王の足を絡め取った

 「『絶対捕食回転斬(ぜったいほしょくかいてんざん)』!」




ヨはウサギ……?となるかもしれませんが、鹿だと愛馬と合わせると馬鹿になってしまうので、ウサギということで


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vs?キョダイゴクエン

絶対捕食回転斬……アズマの知らないというか、手持ちのタイプ的に使えないが、恐らくはZ技だろうソレがバドレックスを完全に糸で繭状に縛り上げ、そしてゼルネアスの輝く角で貫いた

 

 そして、すべてのエネルギーが消えた時……

 「居ない!?」

 ふらつきながら地面に落ちるのはレイスポスの体のみ。ウサギのような親しみやすい姿の王の姿は切り裂かれた繭の中には無く

 

 「っ!やるね!」

 『シャァァッ!』

 セレナ(トレーナー)の言葉に合わせ、ゼルネアスが周囲全てをその角から放つ目映い光で照らし出すと……

 

 『クラウン』

 バドレックスは少し離れた場所で糸にくるまっていた

 「わざと降りて別の場所で捕まってやり過ごしたんだ」

 『カムゥカンムリ!』

 『ホォォスッ!』

 そして、ふらつきながらも四肢で大地を踏みしめるレイスポスに再度騎乗。マントを展開し、まだまだとばかりにその短い手にサイコパワーを纏わせる

 

 『「む、時間であるな」』

 そして、踵を変えさせると突如バドレックスはゼルネアスに背を向け、ダンデの横へと駆け出す

 こくりと青年チャンピオンは頷いた

 

 「時間?」

 『「うむ。ヨとてこの時間がこうして終わるのは惜しいが……あくまでもヨはフリーズ村、そしてカンムリリゾートの宣伝のために来たゲスト

 時間を使いきってしまっては困るのであるな」』

 「うんまあそうかな」

 と、小首を傾げるセレナ

 

 「……ひょっとして」

 「あ、わたしも何するかまでは聞いてないからねたばれできないですよ?」

 なんて、アズマはそんなバドレックスを見て昔を思い出す

 

 『「やはり、人々の望む戦いを最後に持ってくるべきなのである!」』

 王がその手を掲げると、青い光がダンデの腕のバンドに点る

 

 「良いかな、ミス・セレナ」

 「勿論!」

 『イクシャア!』

 そういうことならばと言わんばかりにゼルネアスは首を振り、大人しくなる

 

 「では、選手交代だ!

 リザードン、本気をお見せしよう!ここからが本当のチャンピオンタイム……」

 青年はボールに相棒を戻し……大きく掲げる

 「キョダイマックスタイムだ!」

 そのボールに青い光が集まって、放り投げられたソレがぐんぐんと人一人の高さくらいまで巨大化する。そして……ボールが開いたかと思うと、そこから飛び出してくるのはリザードン

 いや、違う

 

 リザードンに良く似た焔の翼……ファイヤー等が持つ文字通り焔で出来た翼を携えた、青いオーラを纏う巨大火竜が、スタジアム全体を震わせて降臨した

 ほぼ同じ現象を、アズマは二度見たことがある。そう、ランドロスとバドレックスが見せたダイマックスである

 

 『ヴァッフ!』

 響くのは、リザードンにしては低い咆哮

 そういえばランドロスもそうだったと、アズマは一人で納得する

 

 『これぞ、ダンデ!チャンピオンの真骨頂、キョダイマックス!

 まさかまさかの大波乱、カンムリ雪原の王バドレックスの介入が、実現しない可能性が危惧されていたこの対決を呼んだぁぁっ!』

 30m近い巨竜の咆哮にも負けないように、マイクの音量を上げて解説が叫ぶ

 だが、それすらも安全を考慮してそこそこ離れていて、更には『リフレクター』や『ひかりのかべ』をポケモン達に貼って貰っている筈の観客席にまで響く轟音には押され気味

 

 「前も見たけど、凄い……これが、ダイマックス」

 『(これがですの?)』

 と、ぴょこんとバッグから顔を出して、ディアンシーが聞いた

 「あ、大丈夫なんだ姫」

 『(正直、そこまで怖くないですわ

 でも、あのバドレックスと対峙してた時は恐ろしくてなりませんでしたわ)』

 と、震えながら……ぴょんとアズマの肩を伝い、小さなポケモンは横のチナの膝の上に移った

 

 「わたしです?」

 『(わたくしのナイトの筈なのに、オーラが怖すぎですわ

 こっちの方が気楽ですの)』

 「怖いか、おれ」

 『(後ろのがですわ)』

 何処か誇らしげに、イベルタルが頭をもたげて鳴いた

 

 「リザードン、『キョダイゴクエン』!」

 「『ムーンフォース』!」

 幾らなんでも、伝説のポケモンといえども30m近い巨大竜に勝てるものなのだろうか

 そんな疑問を解消すべく、ダンデのリザードンは翼を広げた竜のような燃え上がる焔を全身から放ち、ゼルネアスは満月のような生命力を凝縮したオーラ玉で迎え撃つ

 

 ムーンフォースのエネルギーが焔の竜を突き抜けて……

 「ここからが本番!」

 「だよね!」

 しかし、キョダイと名が付くだけあって、一筋縄ではいかない。例えば大文字ならば貫けば終わりだが……これは火炎放射等のブレスのような技よりもなお巨大で長大。燃え上がる焔は貫いて天を駆けるオーラを絶え間なく焼き続け……

 天を貫く柱として炸裂する

 

 そして……

 『タイムアーップ!』

 双方が対消滅した瞬間、鐘の音と共にそんな言葉が響き渡った

 『30分経過により、勝負つかず!

 けれども、その片鱗だけでも恐ろしいまでの実力を見せてくれたチャンピオン、ダンデ!

 そして人々を湧かせてくれた豊穣の王バドレックスに……勿論、ガラルの誇る伝説同士のタッグに一歩も引かなかった我等がセレナ!

 全てが、この時間を最高のものにしてくれた!盛大な拍手を……っ!』

 

 「終わっ……た?」

 あっという間の30分だった。そう、アズマには思えた

 「凄かったな、ギル」

 くるりと回って肯定するニダンギル

 どこか自分なら勝てると言いたげなイベルタルをボールに戻して、アズマは立ち上がる

 「はい、チナ」

 「あ、ありがとうです」

 と、幼馴染が立つのに手を貸して、その膝から飛び降りたディアンシーを抱えてバッグに入れてやる

 

 「Dia様、終わりです」

 『Uruuu』

 満足したのか、青い巨体は静かにボールに戻っていった

 「じゃあ、出ようか

 エキシビションを見に来たわけだし。ちょっと、今年の人々にも興味はあるけど……知り合いも居ないし、貰ったチケット今日だけだしね」

 それに、とアズマは続ける

 「待たせてる人が居るから」

 「いるんです?」

 『(わたくし、ゼルネアスに会いたいですわ)』

 

 そんなディアンシーの額のダイヤをハンカチ越しに撫でて、アズマは微笑する

 「わかってるよ姫。だから……カルムさんに頼んで、エキシビション後のセレナさんに会えるように手配して貰ってるんだ

 待たせちゃ申し訳ないよ」



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vs マホイップミルク

果たして

 スタジアムから出て、多くの人々が今日も来るミアレ空港方面ではなく、それと逆。人気の無いカフェの一つの前に、タクシーは止まる

 大都市ミアレシティともなれば、街中であっても場所によってはタクシーを使うのだ

 人によってはポケモンに乗りたいと言うが、車道は遅すぎても早すぎても困るため、ポケモンタクシーライセンス等が必要。勝手にウインディ等に乗って車道を爆走した日にはジュンサーさんに捕まって罰金を取られてしまう

 そんななので、ポケモンタクシーより自動車によるタクシーの方がメジャー。アズマ的にはウインディタクシーを利用したくはあったのだが、チナと二人では乗れないため諦めて普通のタクシーである

 

 「ありがとうございます」

 代金を二人分……支払うも少しだけ眉を潜める初老の男性ドライバーに少しだけ迷い

 「あ、すみません忘れてました」

 ポケモン代として+200円。それを受け取ると、初老のドライバーは頷いて走り去っていった

 

 「あ、わたしの分は」

 「良いよ、チナ。持ってきただけでまだ50万以上あるから」

 因みに、屋敷が崩壊したとはいえ、ディアルガダイヤ等の資産は無事。まだまだ資金は幾らでもあるレベル。少なくとも、代金を惜しむ必要はない

 「あんまりだと悪いですし」 

 「じゃあ、後でお茶するときにケーキ一個、でどうかな」

 「はいです」

 なんて話していると、バッグから顔を出したディアンシーがナイトの肩をぽんぽんと叩いた

 

 『(ゼルネアスが待ってますわー!)』

 という声に頷いて、二人はカフェに入る

 中は人は殆ど居らず、一人の客がゆっくりと紅茶を飲むばかり

 寄ってくるマスターと、その足元でふわふわと浮くホイップクリームのような珍しいポケモンに会釈して待ち合わせだと言うと、マホミルは逃げてしまったが、先客がこっちー!と手を上げた

 

 「すみません、セレナさん」

 ちょっとむ?と思われた空気を和まされ、頭を下げながらアズマは向かいの席に座る。同行したチナもその横の席に着いた

 

 「カルム君から聞いてたけど、本当にポケモンに避けられるんだねキミ」

 「そう、みたいですね

 最近は気にされないポケモンが多くて何と言うか、気を抜いていたところがありますけど。やっぱりダメなポケモンはダメみたいです」

 もっとふれあいたいんですけどね、と言いつつ、アズマは二人分の紅茶と甘いマホイップミルクを注文する

 喫茶店というだけあって種類は沢山あったが、幼馴染の好みは知っているのであっさりとした飲み口のレモンティー、自身はカッコつけたストレート。ミルクは同席するディアンシー向けだ

 

 「でも、セレナさん。此処大丈夫なんですか?」

 と、紅茶が運ばれてくるまでの時間(蒸らし時間等で相応にかかるものだということは、アズマは執事に教えられて知っている)を使って問い掛ける

 「あ、セレナさん有名人ですもんね」

 「あ、大丈夫大丈夫

 ここ、ファンの間では私が静かに楽しむ店って事で結構有名で。見掛けてもあんまり押し掛けてこないかな?」

 と、ポニーテールを解いてラフな服に着替えた金髪の少女……セレナはそう告げた

 

 「あ、そうなんですね」

 「うん。キミと二人きりだとまだ野次馬も来たかもしれないけどさ」

 と、金髪の少女はアズマの横でちょっと固まっている少女の方を見た

 「キミ、彼女同伴だから変な噂にもほぼならなさそうだしね」

 「彼女じゃないです」

 「幼馴染です」

 「結構息あってない?ちゃんと言葉が被らない辺りとか」

 『(それよりゼルネアスですわ!)』

 と、ぴょんと古風なテーブルに飛び乗るディアンシー

 

 「姫、お行儀良くな。どうせ、すぐに会えると思うから。変なことやると、鉱国の姫として恥ずかしいよ」

 と、アズマが椅子の上にバッグを置いて高さを調節してやると、その小さなポケモンはそれもそうですわとバッグの上に飛び移った

 

 「あ、そのポケモン……ディアンシー?」

 「はい、ディアンシーです

 ダイヤモンド鉱国という故郷のために、ゼルネアスを探しているということで今回セレナさんにちょっと会えないかという話を、縁あってカルムさんに頼みました」

 『(そう、わたくしのナイトは結構優秀なのですわ

 ……こわいこと以外は)』

 と、何の自慢か擁護してくれる桃色の姫に笑って、アズマはまあねと呟いた

 

 「わ、テレパシーだ

 ゼルネアス、テレパシーとか殆どしてくれないから新鮮」

 「そういうことで、すみません。おれというより、姫の為……なんです

 いえ、おれも興味とかありましたけど」

 「ナンテン博士の息子さんだし、伝説には興味深々?」

 「勿論です」

 「イベルタルのこともあるし?」

 その言葉に一瞬だけ警戒し、カルムは知っているからそりゃそうかとアズマは漸く来た紅茶を一口飲んで気持ちを落ち着けた

 

 「あ、美味しいですねこの紅茶。そこまで高くはない茶葉ですけれど、温度管理が適当だから良い香りが出てる」

 「でしょ?お気に入りなんだ」

 と、微笑するセレナに頷いて、アズマは更にお茶を一口口に含む 

 

 「あ、アズマさん。ケーキ頼むです」

 「じゃあ、おれは今日のマホイップサンデーを」

 「わたしもそれにするです!」

 と、ケーキまで頼んで長居の構えを取ると、二人は目の前のゼルネアスと共にフラダリを、フレア団を止めた少女の方を向く

 

 「そろそろ?」

 「まだまだちょっとした話しでもいいですけれど、そろそろ最初の本題に入りましょう」

 「うん。オッケー」

 そんな少年の袖を引いて、銀の髪の少女が耳打ちした

 

 「アズマさん、話を聞くとディアンシーちゃんとはゼルネアスに逢うまでの関係なんですよね?

 こうして逢えたら別れちゃうけど、良いんですか?」

 と

 「大丈夫だよ、チナ

 寂しさはあるけど、姫は姫の役目を果たしたいだろうから。それを助けるのが……トレーナーじゃないけどナイトの役目」

 「うん、オッケー

 じゃ、その子の話を聞かせてくれる?」

 

 『(分かりましたわ)』

 マホイップミルク……甘めに整えたミルクの上にフロートのように薄いアメ細工で飾ったホイップクリームを載せた甘いドリンクを抱えてポケモン向けのストローでちびちび飲んでいたディアンシーがこくりと頷き、テーブルの上にグラスを置いた



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vs フェアリーオーラ

『(という訳ですの)』

 と、ディアンシーがこれまでのアズマとの経緯を含む自分の目的を語り終える

 

 「ディアンシーちゃん、頑張ってきたんです……」

 と、ちょっとチナが涙ぐんでハンカチで涙を拭っていて、ディアンシー自身も怖かったことは多かったですわ……とこれまでを振り返り、ミルクを一口

 

 アズマも聞いていて思い出した。ジャケットの男達との戦いや、黒水晶のポケモンを

 他の大変だったと言われた事については、アズマからすればそこまでの思い出ではなくて、例えばハクダンジムのジャンプなんかだが楽しかった思い出なのだが

 

 「そっか。この子は自分達の国を護るために、ゼルネアスを求めて旅してきたんだね」

 「はい。本当はもっと早くにカルムさんを通してセレナさんと会わせて貰ったら速かったんですけれど。結構セレナさんも忙しいらしいですし……」

 あとは、とアズマは甘いミルクに顔を綻ばせる小さな宝石の姫を見る

 

 「単純におれも楽しかったんですよ。可愛いポケモンと旅をすることが」

 「分かるです」

 『(まあ、悪い気分ではありませんでしたわ)』

 と言いつつ、ディアンシーはぴょんと机の上へ

 

 『(わたくしのナイト御苦労様でしたわ

 これでわたくしは聖なるダイヤを治すフェアリーオーラを得て……)』

 と、セレナの持つボールが一つカタカタと動く

 

 『(……え?)』

 「姫?」

 みるみるうちにしゅんと肩を落とすポケモンに、心配になってアズマは声を掛けた

 

 「ディアンシーちゃん?だいじょぶなんですか?」

 『(無理って言われましたわ……)』

 「無理?」

 『(ですの

 フェアリーオーラは自分も出せるけれど、ダイヤを作れるようオーラを分け与えていたのは別個体のゼルネアス。自分では残念ながら多少しか力にはなれない……って)』

 「多少」

 『(少しの間、壊れてしまいそうなダイヤを維持させる力は貸せると思うがそれが限界だそうですわ)』

 「そっか。一歩前進だけど、それだけだったのか……」

 「本格的な解決ではないんですね……」

 と、二人して顔を見合わせる

 

 『(しょんぼりですわ……)』

 と、小さな姫は美味しそうに飲んでいたミルクすら少し残して塞ぎ込むようにバッグの中に戻ってしまう

 そんなディアンシーを見守るアズマの机の上の手が叩かれた

 

 「本当なのかな?」

 「分かりませんけれど……」

 聞いてくるセレナに、アズマは首を傾げた

 

 と、その瞬間、一つの威厳ある声がアズマの脳裏に響いた

 静かに目を閉じて、アズマはその声に耳を傾ける

 

 曰く

 『(足りぬのは、本人の器の方だ。されど、幼い身に告げるのは酷な事)』

 と

 

 そのゼルネアスだろうテレパシーに理解する

 ゼルネアスが言ったことは嘘なのだ、と。本当はこのゼルネアスだって聖なるダイヤを造り出す力を与えられる。けれど……今のディアンシーの側がその力に耐えきれない。だから、傷付けないために別個体の力が要ると嘘をついた

 それに出会うまでに、この小さなポケモンが大きく成長することを願って

 「優しいんだな、ゼルネアス」

 「君のイベルタルもそうだよね?彼等だって、伝説って呼ばれててもどんな力があっても、大切な友達(ポケモン)だもん」

 そんな言葉に、アズマとチナは同意するように強く頷いた

 

 「それで?他にも用事があるんだよね?

 ひょっとして、戦いたい?」

 「ソレは勿論ですけど、今回はそうじゃなくて」

 「勿論なんだ」

 「それはもう。セレナさんと戦いたい人なんてごまんと居ますよ。でも、今は……別のポケモンについての話です」

 一息置いて、サンデーを一口食べてからアズマはしっかりと相手の目を見て言葉を切り出した

 

 「姫の話にも出てきたあの黒水晶のポケモンについての話なんですが、彼」

 突然アズマの腕が痛む

 

 「っ!あたっ」

 何かの抗議のように締め付けられる腕の黒水晶

 「だ、だいじょぶですか?」

 「大丈夫だよチナ

 こうしておれとあのポケモン、ちょっと繋がってるんですよね。だから何となく苦しみが分かるんです」

 「今も?」

 「いえ、これは……彼」

 走る痛み

 「彼女が間違えられたのをちょっと怒ったんだと思いますが……」

 

 内心でえ?あのポケモンって彼女って呼ばれたい存在なのか……なんて思いながら、アズマは続ける

 「命の光が足りなくて、あのポケモンはずっと苦しんでいる。だから……生命ポケモンであるゼルネアスの力を借りれないかって思ったんです。死んだポケモンすら蘇らせるという伝説の力なら、助けてやれないかって」

 「……成程ね」

 少しして、金髪の少女は頷いた

 

 「バドレックスの力ならとも考えたんですけど、やっぱり豊穣の王よりも、生命を司るポケモンの方が上手くいく可能性は高いなって思って

 時間があればで良いんです。手を貸しては貰えませんか?」

 「良いけど?」

 あっさりと少女は告げる

 

 「良いんですか!?」

 「本当の姿の大半を喪って、光が無くなって苦しんでるかがやきさまってポケモン。それを聞いたら見過ごせないしね

 って言っても、何時出てくるかとか分からない以上同行する訳にもいかないんだけど」

 「ですよね……」

 「でも、ゼルネアスの生命の力を込めたオーブみたいなものなら作ってあげられるよ多分

 それがどこまで意味があるかは分からないけど」

 「有り難うございます!

 本当に助かります、ゼルネアスにセレナさん!」

 と、アズマは自分勝手な願いの結果に頭を下げた



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ボール屋

最後に一つだけの警告……すなわち、ゼルネアスを狙うラ・ヴィ団なる謎の組織についての警告をして、セレナと別れる

 アズマだって、そうそうセレナが負けるとは思ってはいない。だが、だとしても……

 ノンディアを名乗った同志なる男は危険だ。見知らぬポケモン、そしてメガシンカを……巨大な機械によるメガウェーブ利用ではなく普通の形で行っていた彼への警戒を呼び掛けるべきだと思ったのだ。

 

 そうして、アズマはチナと二人、ミアレの道を歩き……

 不意にバッグの揺れに足を止めた

 「姫?」

 引きこもってしまったディアンシーが起きてなにかを訴えるように背を叩くのを感じてアズマはバッグを開けてやる

 すると、小さなポケモンはゼルネアスから貰った輝く石を手に舗装された道路に降り立って……

 ぴょんぴょんぴょん跳ねながら何処かへと向かい始める

 「姫?どうしたんだ」

 「どうしたんでしょう?」

 何やら真剣なディアンシーを幼馴染と共にアズマは後方で見守り……

 

 やがて辿り着いたのは、古めかしい店であった。掛けられた看板は……モンスターボールのマーク

 「姫、此処はボール屋だよ。それも……」

 と、アズマはボールケースを漁り、中から一つのボールを取り出す。三日月のようなマークが描かれたぼんぐりを削って装置を組み込んだもの、名称としてはムーンボールだ

 一部の愛好家からはそのボールエフェクトの綺麗さとデザインから好まれてはいるものの……

 

 「アズマさん、それなんですか?」

 「月の石で進化できるポケモンにとって好ましいようなボール、かな」

 「へぇ……」

 と、少女は眼を丸くしてボールに触れる

 「あんまり使いどころ無いです?」

 「うん。野生のポケモンを捕まえたいなら、もっと良いボールは沢山あるよ。余程のマニアか金持ちでないならこんなもの買うくらいならハイパーボールを買うべき」

 「ハイパーボール、高いんですよね……」 

 お小遣いじゃ全然買えないです……と、銀の髪の少女はお金を計算するように指を折って何かを数えながら言った

 

 「こいつもっと高いよ。材質が材質だけに工場生産が出来ないから、全部ハンドメイド

 古代のボールみたいなものだから、伝統税とか入れて……」

 「5000円くらいするですか?」

 「その倍」

 「い、いちまん……?」

 突然、少女はハンカチを取り出す

 

 「指紋とか」

 「大丈夫だってチナ

 ……ところで姫は本当にどうしたの?高いボール屋なんかに来て」 

 そうして改めてアズマは小さく扉をノックするポケモンを見下ろした

 

 『(分かってしまったのですわ)』

 響くテレパシーに元気はない

 

 「分かった?」

 『(……この石に触れた時、圧倒されましたわ

 そして、知ってしまった。わたくしには、このエネルギーを何とも出来ませんわ)』

 と、黒いポケモンの為にと強いエネルギーを込めて貰った石を抱えてディアンシーは言う

 

 『(それに、あの豊穣のおうさまの話や、実際の王を見て……)』

 こくり、とその小さな鉱石の姫は頷いた

 

 『(今のわたくしとの差を知りました

 わたくしは、ナイトに護られ過ぎていたのですわ)』

 「姫」

 『(勿論、護ってくれたことは感謝ですわ)』

 

 同時、感謝という単語に反応したのかチナの持つボールの一個からシェイミが飛び出し……

 「ミーちゃん、邪魔はめっです」

 一瞬でトレーナーの腕に確保された

 

 『(ですが、わたくしがゼルネアスに会った時に護られてばかりのお姫様では、ダイヤモンド鉱国を救うなんてただの夢ですわ

 戦うのは怖くても、みんなの為に戦わなければ行けない時だってあるのですわ)』

 だから……と、持ち出してしまった石をアズマへ向けて高く掲げて返そうとしながら、そのポケモンはテレパシーで告げる

 

 『(わたくしも変わらなければ、ダイヤを作るフェアリーオーラを受け取れません

 でも、わたくしのナイトはぜっとわざ?というオーラ纏いを良くポケモンとやってますし、それが出来ればきっと……

 だから、わたくしのトレーナーでナイトになりませんこと?)』

 その言葉に微笑んで、アズマは膝を折って目線をある程度揃える

 「それが、ボール屋を目指した理由?」

 こくりと頷くディアンシー

 

 『(い、一時的でも入るボールは自分で選びたいですわ)』

 「……そうだね。見て回ろうか」

 ディアンシーを抱き上げながら、アズマはそう告げた



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vs ヘビーボール

『(こ、これは……)』

 ぼんぐりから作られる古めかしく、それ故に不思議な美を感じる幾つものボール

 ディアンシーがぴょんぴょんと跳ねたのは、その展示されたボールの中でも一際珍しいものの前であった

 

 そこに展示されているのは伝説級に珍しいボール。真っ赤なメタリックボディの非売品。市場にはまず出回らず、どんなボールでどういったポケモンが好むのかすらも不明。全てが謎に包まれた……プレシャスボール

 

 「嘘だろ……」

 「すまんがの客人、形だけのレプリカじゃ」

 「で、ですよね……」

 そりゃそうだとアズマは少しだけ残念に思いながらも店主の声に頷いた

 

 『(ざ、残念ですわ……

 キラキラしてとっても綺麗でしたのに……)』

 心なしかディアンシーもしょんぼりとしていて

 

 「あ、ディアンシーちゃんにはこれなんてどうですか?」

 と、銀髪の女の子が指差すのは、女性向けのボール。ハートが散るのが可愛らしいラブラブボールであった

 「うん、確かに可愛いし似合うと思うけど」

 『(有り得ませんわ)』

 色合い的にも似合うだろうそれは一蹴されてしまう

 

 「あうっ」

 しょんぼりする少女に、まあ姫は独特の価値観だし……ってフォローしながら、アズマはその感覚を思い返す

 重い事は良いこと。女の子としては不可思議な感覚だが、ポケモンとして考えれば不思議と理解できるその嗜好

 そして、メタリックを好むならば……

 

 「ヘビーボールとか」 

 ぽつりと呟くアズマ

 その声を聞き、店主によってすっ、とビロードに載せられて登場する銀を主体とした重そうなボール

 それを見て、ディアンシーはその瞳を輝かせた

 『(これですわ!)』

 「……あ、ああ……」

 似合わない……と思いつつ、本ポケモンの意思が何より重要だとアズマは引き気味に頷いた

 

 「じゃあ店主さん、ヘビーボールとラブラブボール、あと……ブレイブボールを2つずつ」

 と、アズマは注文し

 「カード、一括で」 

 「すまんが、そんなはいから装置は無くての」 

 すまなさそうに店主に頭を下げられて、下ろしてきますとそそくさとアズマは近くのポケモンセンター(ミアレは大都市だけあって、ポケモンセンターだけで30箇所くらい存在する)へと向かった

 

 「はい、チナ。付き合ってくれてるお礼」

 と、買ったボールのうち1つを少女に手渡して、アズマは頬をかく

 「あ、ありがとうです……でも、高かったですよ?」

 「高いけど、おれが今日楽しかったお礼だから」

 その言葉に頷いて、少女はそれ以上の反論をせずにボールをバッグのポケットに仕舞いこんだ

 

 「それでアズマさん、買ったボールって、どういうものなんですか?」

 アズマが左手に構えたボールのスイッチを自分から押すディアンシーを見ながら聞く少女

 

 「ヘビーボールは重いポケモンが好むボール

 ラブラブボールは目の前のポケモンと異なる性別のポケモンを自分が出してるとそのポケモンと仲良くなりたくて捕まってくれやすい……とか言われてるけど、理屈が全く分からないから事実上可愛いだけのボール……かな

 ブレイブボールは……」

 と、ディアンシーがボールに収まったのを見て、アズマは右手の指先で尖った赤い角の生えた青いボール……尖りが強くなって青が深くなったスーパーボールみたいなボールをくるくると回す

 「見ての通り、ドラゴンっぽい意匠で、ドラゴンポケモンが好むらしいよ」

 

 そして……

 『(やっぱり、外の方が落ち着きますわね……)』

 折角ボールに入ったと思いきや、すぐに外に飛び出してきたディアンシーはそそくさとバッグに潜り込み、口から顔だけ覗かせる何時ものスタイルに戻った

 

 「あは、は

 あんまり、意味なかったですね……」

 『(ふふん、もうポケモン代とかは払わなくても良くなりますわよ?必要ならボールにも入りますわ)』

 「お空を飛ぶ時とかです?」

 『(落ちたら終わりですもの、当然ですわ)』

 

 そうこうするうちに日は暮れ、夜が来る

 ポケモンも居るし大丈夫ですからとトレーナーとしての実力たるバッジを見せることでタクシーに町外れまで送って貰い、ミアレシティを出て暫く歩く

 少し不安はあったが、何とチナはシンオウ地方でバッジを7つも取ってきたらしく、それを見せれば難なく通れた

 幾ら夜は昼より狂暴だったり狡猾なポケモンが多く危険と思われていても、バッジ7つというかなりのエリートトレーナーならば心配されないのである。大半のトレーナーは、自分の限界を感じてバッジを幾つか揃えて諦める

 ポケモンとなら何処までもと思うアズマのようなトレーナーは案外少ない。バッジ4つめ以降とは、そうしたものなのだ。バッジ7つは超スゴい、8つ集めてリーグに挑戦なんて全員エリート。例え予選敗退でも誇れる戦績

 だからこそ、リーグは盛り上がるのだ

 

 「やっぱり、スゴいところまで行ってたんだな、チナ」

 あのシロナさんの助手になるなんて、かなりの実力がなければ無理だろう。シント遺跡に、カンムリ雪原。そういった場所は、とんでもないポケモンが生息しているのだから

 

 昔のアズマはシアンの巨狼が何とかしてくれたが、そういった救援無しでああしたところを探査するなんて、それだけの実力が要るのだ

 

 「えへへ、実はそうなんですけど……」

 ひいちゃいました?とちょっと不安そうに上目で見てくる少女に、全然?とアズマは笑いかけた

 「ただ、凄いって思うだけだよ。おれも頑張らないとって」

 言いながら、暫く歩き、人気が消えたのを見越して……

 

 「姫、そろそろ」

 結局姫と呼び続けることにしたディアンシーをボールに入れる。これからの事が分かっているからか、おとなしく小さなポケモンはボールに収まり

 代わりに取り出すのはポケモンに合わせたい派のアズマとしてはシンプル故にあまり好きではない素のモンスターボール

 

 「お待たせ、ベル!」

 「Dia様、お時間です!」

 昼間、流石に少し窮屈な形で姿を見せていた二体の伝説の姿が空に浮かび上がった




余談になりますが、本来ヘビボディアンシーは改造確定です。そもそも野生で出ないので仕方ないですね


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おまけのヒロインズ解説

ティア(ディアンシー) Lv48

無邪気な性格。レベル47のとき、ハクダンの森で出会った。

アズマのディアンシー。ゼルネアスの存在を感知出来る性質から、ゼルネアスを追う集団に狙われていた宝石の姫。ただ護られているばかりでは立派な姫になどなれない事を理解し、自分も頑張るためにアズマによって捕獲された。

が、ボールの中よりも慣れ親しんだバッグからぴょこりと顔だけ出すスタイルがお気に入りのようだ。

技構成はダイヤストーム/ボディプレス/甘える/大地の波動……になる予定だが、現状はストーンエッジ/甘える/マジカルシャイン/嘘泣き。甘えるは愛嬌。

性格は無邪気であり、外の世界に興味津々。ちょっと世間知らず。

 

シア(ザシアン) Lv75

意地っ張りな性格。レベル70のとき、霧のワイルドエリアで運命的な出会いをした。

何かと霧というかミストフィールドを貼ってやってくる伝説のちょろ狼。ガラル地方での豊穣の王案件などで手を貸してくれたりとかなりアズマを気に入っているが……本体が眠っている事もありあくまでもガラル地方でのみ同行してくれる存在。

元々は変なオーラを感じて見極める為に現れたのだが、結構ちょろかったとか。本来意地っ張りであり、そこまで人懐っこくは無いが、気に入ると甘い。

今もアズマの事は見守っている。

 

ヨ様(バドレックス) Lv65

寂しがりな性格。レベル62のとき、フリーズ村で運命的な出会いをした。

捕まってないがヨ。今では配信者をしていたりとフリーズ村振興を頑張っている人懐っこい伝説。アズマ等には大恩を感じているらしく、頼めば手を貸してくれるらしい。

愛馬はレイスポスとブリザポス両方。相棒はランドロス。好物はにんじん。ちなみにであるが、フリーズ村振興の為にVtuberの真似事をしているが、その際の姿のモチーフはチナらしい。

 

ベル(イベルタル) Lv70

無邪気な性格。レベル70のとき、ナンテン邸地下で運命的な出会いをした。

ナンテン一族が護ってきた桃色水晶の中で眠っていたイベルタル。何らかの理由があって3000年も活動周期を無視して寝ていたようだが、本ポケモンも理由を覚えていない。でもとれーなーさんが傷付くの見たくなかったから良いよね?と気にしていない。

ずっと眠っていたせいか、共鳴したアズマの事を大好きであり、かつ情緒が幼い。それ故に無邪気で素直だが、加減を知らずについやり過ぎる精神ロリ。ディアンシーの方がまだ大人。

 

クロ(ネクロズマ) Lv??

ウルトラメガロポリスに封印されていたネクロズマ。アズマが解き放ってしまったせいで復活し、何処かで力を溜めている。

アズマの体に体の一部を埋め込んで共鳴によって力を得ているようだが……

光を奪うネクロズマとか言われているが、光を放つ側だったが力の源が無くなって苦しんでいるだけである。その事を理解していそうなアズマの事は気に入っている。が、それはそれとして今の姿が苦しいため暴走はする。

なお、力の破片を埋め込んでいるのは彼女だけではなくイベルタルとザシアンもである為、アズマの体内ではオーラ三種がせめぎ合うカオスが産まれているとか。

天敵はイベルタル。事情とか全部無視して『とれーなーさんをくるしめる!わるいやつ!』と単純な理解で全力で掛かってくる為大の苦手。

 

チナ(プラチナ)

アズマの幼馴染な人間の女の子。外見イメージとしては、ルリ(ルッコではなく普段の姿)の銀髪版。

ポケモンが好きでシロナに憧れる心優しい健気な女の子。アズマ関係や、それ無関係に割と伝説のポケモンと縁があるようだが……

唯一の人間ヒロインだが、他ヒロインズからはというと……イベルタルからは敵視されているが、ガラル組からはあの二人セットというかカップルなのは前提みたいな扱いをされている。

作者が作者だけに、アズマとは大体両想い。銀髪幼馴染は最強、良いね?



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vs遊園地

そして、翌日。イベルタルのご機嫌とりの為にも空を飛んできたアズマ達はというと……

 

 「アズマさんアズマさん、おっきな観覧車ですよ!」

 遊園地に遊びに来ていた

 此処はミアレシティの誇る大遊園地。ジムすらも遊園地の一部だったというイッシュ地方はライモンシティには劣るものの、電気タイプのジムリーダーが居る街であり大都会ミアレともなれば遊園地が無い筈もない。寧ろジムこそ無いが規模としてはライモンシティのものよりも大きいかもしれない程だ

 そんな遊園地に来た理由はというと……

 

 「えへへ、御免なさいです、アズマさん

 でも、シンオウにシロナさんと戻る前に、遊びたかったですから」

 チナの希望である。それに

 「いや良いよ。おれもちょっと皆と遊びたかったしさ。折角ミアレに来たんだから」

 と、アズマは答えながら……

 

 「むっ!誰を見てるんですか?」

 少女に手を引かれる。精一杯のおめかしだろう帽子が可愛らしくて、けれどもアズマの目は泳ぐ

 「いやだって、トリミアンやウインディが……」

 元来犬のようなポケモンが好きなアズマにとっては、どんな女の人よりもそれが連れているポケモンが気になって仕方なかった

 

 「確かにポケモンさん達可愛いです……」

 それを言われ、銀の髪の少女も周囲を見回して呟いた

 「あれ?でもポケモンさん達居ても良いんです?」

 「此処はポケモンと共に遊べる遊園地だから良い筈だよ

 寧ろ、相棒と共に遊ぼうって言うのがウリ。ほら、有名なライモンシティの遊園地だって、ポケモンと遊べる……っていうか参加できるのはジムくらいだろ?それとの差別化をはかったんだって」

 と、メリーゴーランドを見ながらアズマは言った

 

 その回転する木馬の頭の上には、木馬にまたがったトレーナーと一緒に上下するピカチュウやパチリス、或いはデデンネといった電気タイプのポケモン達の姿がある

 

 「あ、そうなんですね

 でも……」

 目線を落とすチナに合わせ、アズマも一つのボールを見る

 「ベルはさすがに出せないよな……」

 「ごめんなさいですディア様……」

 ウインディのような利口なポケモンならば大きなポケモンでも問題なく連れ歩ける。が、伝説と呼ばれるようなポケモンでは周囲が大惨事だ

 

 『(なーのっの)』

 「いや、アークは普通に出てて良いんだぞ?」

 イリュージョンでチナに姿を変えてボールから出てくるゾロアに、あきれてアズマは突っ込みをいれる

 「というか、チナに化けてボールから出てこないでくれないかな」

 犯罪臭がして、アズマはゾロアのイリュージョンをすり抜けて本体の頭を撫でようとして……

 それを避けてぴょんと肩に飛び乗る小狐を帽子に、そのまま行くことにした

 

 「それにしても、人多いね」

 モフモフしたウインディに久し振りに執事のポケモンに会いたくなったりしつつ、アズマは遊園地で並ぶ時間の為のドリンクを手に呟く

 今日もカロスリーグは行われているし、予選とはいえ見たい人も多い筈だ。その分何時もより空いているんじゃないかと思っていたが……

 

 「に、二時間待ち……」

 『(長いですわね……)』

 女の子一人と一匹が観覧車と並ぶ大きなアトラクションである遊園地全体を一周できるジェットコースターの列を見てぽかーんとした表情を浮かべた

 

 「姫はジェットコースターに乗りたいの?」

 『(面白そうですわ!)』

 「わたしは観覧車の方が良いですけど……」

 と、ボールがあるけれど結局バッグから顔を出してくいくいとバッグの紐を引くディアンシーと、横で曖昧な笑みを浮かべるチナ

 

 「僕は懐かしさを感じているだけさ何処でも良いよ」

 更には、暫く別行動していた声まで聞こえて……

 「Nさん!」

 そういえば、Nの城と呼ばれたプラズマ団の基地のような場所には、遊園地のように雑多に色んな遊具が置かれた子供部屋があったって記述があったなーと思いつつ、アズマはその緑髪の青年へと向き直る

 

 「あ、ちゃんと変装してるんですね」

 Nと言えば軽く纏められた長い緑髪と白っぽい服装というイメージだが、ちゃんと髪は紺に染めて纏めないことで何処と無くダンデに憧れている雰囲気を出し、マントは流石にしていないが帽子……は無し。けれどもユニフォーム風の服装

 熱を持ったようなチャンピオン・ダンデの瞳と比べると光がなく違和感があるが、ぱっと見手配されているNとは分からないだろう

 案外常識的なのかちゃんとこうして周囲に溶け込もうとしているNに感心しながら、アズマは手持ちのダンデスタイルの帽子を青年にひょいと被せた

 

 「くれるのかい」

 「結構有名なトレーナー風のコスプレしてる人も多いですし、ちゃんと帽子も被った方がそれっぽいですよ」

 「じゃあ貰おうか

 此処はポケモン達が本当にソワソワしていて実に面白そうだ」

 と、放し飼いではないがトレーナーから結構自由にされているウインディ等の見付けやすくて賢いポケモンに囲まれた青年が軽く帽子のツバの向きを直しながら言った

 

 「あー、ゾロアだー!かわいいー!」

 なんて、話しかけてくる子も居て

 「アーク、ちょっと触られてくる?」

 『ロア!』

 腕を伝って幼い子供の元へ向かい、その筆のようなふわふわの尻尾で少女の頬をくすぐってあげるゾロア。そんな黒狐を見詰めて、アズマはほっこりした気分になる

 

 此処は遊園地。基本的には知らない人でも、ポケモンを通してなら楽しく過ごせる場所

 多くの人が、そして相棒であるポケモン達が、知らない人同士だとしても変な事を誰もしないように見張ってくれているからこんな事も出来るのだ

 

 「あれ?アズマさんはウインディさんに触らせてーとか良いんですか?」

 「いや、無理」

 Nには即座に心を開いたのか近くで座り込むが、アズマがちょっと近付くと耳を立てて警戒を始めるウインディを見て、アズマは首を横に振った

 

 「ベルのせい……ってわけじゃないんだけど、やっぱり怖がられるみたいで」

 イベルタルと出会って、原因はちゃんと理解した。アズマを助けてくれたイベルタルのオーラの片鱗がアズマの体に残っていて、それが悪タイプのポケモン以外にとっては恐ろしいものに思え避けてしまうのだろう

 

 「やっぱりウインディの中でもちゃんと昔から知ってるウィンくらいしか触らせてくれないよ」

 「アズマさん……」

 

 そんなこんなで他の人々のポケモンを眺めたりしつつ、暫く色々と見て回る

 「ウォータースライダー……です?」

 「乗れる水ポケモンと一緒に流れに乗る遊具……みたいだね」

 「水は濡れちゃいますね」

 スカートが貼り付いたりするのが嫌なのだろう、少女は乗り気しないように呟く

 「ビーさんじゃ足浸かっちゃいますし」

 「ビーさん……ってことはビーダル?」

 「はいです。シンオウでは沢山助けてくれたんですけど……」

 「そもそもさ、おれに水タイプのポケモン居ないからこれは無理かな」

 「あ!」

 「シアが居てくれたら泳いでくれたかもしれないけど、基本的に父さんもじいも……うちの家系は水の上は飛ぶスタイルだから、水ポケモンは得意じゃないんだ」

 

 『(岩みたいな場所ですわ!)』

 「姫、洞窟探険みたいなコースターに乗りたいの?」

 『(乗りますわ!)』

 

 なんて、色々と見て回っていると……

 「あーっ!」

 不意に、大きな声を背後からかけられた



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vsソウリュウの民

結構珍しいポケモンで人気もあるゾロアに触りたいのかな、なんて思いながら、響く可愛らしい女の子の声にアズマは振り返る

 

 そして……

 声をあげたろうビシッと指を突きつけた少女は、アズマではなくダンデの格好をして有名トレーナーコスプレした浮かれ客に紛れたNの方を見据えていた

 

 少しの緊張と共に、アズマは相棒のボールを握る

 イベルタルではなくニダンギル。繰り出したとしてもそう咎められないし混乱も起きないだろうが、剣そのものの姿であるが故にちょっと連れ歩くのは気が引けるポケモンを

 流石に幾ら戦力としては断トツで最強、Nのゼクロムにも匹敵するししっかり戦ってくれるだろう存在とはいえ、絶対に負けてはいけない状況でもないのに赤と黒の伝説を解き放つ気は無い。それだけの混乱を起こせば……イベルタル自身への風当たりも強くなるだろうから

 

 それでも、何かあれば戦う覚悟を決める 

 Nとは暫く行動を共にして来た。父がイッシュ伝説を調べていた資料の記述も読んだ

 だからこそ、アズマ自身はNという青年は本当にポケモン想いなんだと理解している。プラズマ団の事は酷いと思うけれど、彼個人は尊敬できるし捕まって欲しくもない

 だから、何かあればNを手助けする気でボールをしっかり持つが……

 

 健康的な褐色の肌にガブリアス色の凄い量の髪を持った幼い少女は、少年のような野性味の残る少し中性的な顔立ちに満面の喜びの表情を浮かべて近付いてきた

 そんな態度に面食らって、アズマはうっかり相棒の横のボールのボタンを押す

 

 飛び出すのは小さな黒い影

 『モノノ?』

 モノズである

 

 「あ、モノズだ!」

 少女に声をかけられ、その体がびくりと震えた

 「そうだよな、人気が多いと気になるよな、サザ」

 安心させるように普通の個体よりも小さなその体を屈んで抱き上げる

 

 「ねぇねぇ、モノズってことは、ドラゴン好きなの?」

 「……割と」

 気圧されるようにアズマはうなずきを返し、モノズは知らない女の子の接近に……

 「サザ?」

 案外平気そうにひとつあくびをした

 

 そんなポケモンの空気に毒気を抜かれるが

 「誰、ですか」

 露骨に警戒した空気の幼馴染を見て、アズマは頬と気を引き締める

 

 「あたし、アイリス!」

 知らない名だ

 

 「アデクおじいちゃんとシャガおじいちゃんに言われてさがしに来てたの!」

 だが、その先の名をアズマは良く知っていた

 アデク。あのNとも激戦を繰り広げたとされるイッシュ地方のチャンピオンである

 その名前がしっかり出せるならば、身元は確かだ。だが……

 

 その名前と言うことは、プラズマ団としての因縁からNに関して何か不穏な想いを抱いた案件である可能性が高い

 『(ま、また……)』

 怯えてディアンシーが何時でも入れるようにバッグに共に詰められたボールへと逃げ込む。モノズが体を捩って地面に降り、ぴょこんとゾロアが気にしてないように頭の上に昇る

 少しの戦闘態勢を整えたアズマにたいして、少女はと言うとぽかーんとした表情で見返していた

 

 「……あれ?」

 「アズマさんアズマさん、別に危険じゃなさそですよ?」

 「……だ、だね……」

 

 「ねーねー、どうしたの?」

 敵意の無いガブリアス色の女の子に言われ、アズマは少し離れた青年を見る

 自然体であり、何かキバゴと向き合って話をしていた

 

 「いや、Nさんを追ってきたのかと」

 「あたし、おってきたよ!

 伝説のゼクロムにあうために!」

 あ、そういうことかとアズマは納得して警戒を解いた

 

 「君は……Nさんと知り合い?」

 「うん!」

 それに合わせてこくりと頷くN

 「ソウリュウの伝説

 レシラムと彼を響き合わせ導く方程式」

 言ってることは難しいというか変だが、多分小説ではカット気味だったレシラムに選ばれNと戦ったトレーナーのライトストーン探索の際に手を貸してるのを見たとかなのかなーとアズマは理解した

 

 「な、なんだ……」

 『モノノッ!』

 勘違いかぁと肩を落として落ち込むアズマを慰めるように、モノズがその口で少年の足を甘く噛んだ

 

 「こっちはキバゴ!」

 『キバァ!』

 少女アイリスに元気良く呼ばれNに抱えられたまま挨拶するのは、緑っぽい色合いのチビドラゴン……キバゴ

 

 「こいつはサザ、頭の上のはアーク」

 合わせてアズマもポケモンから自己紹介をはじめ……

 

 「そして、アズマ!とチナ!」

 名乗ってない名前を呼ばれびくりとする

 ニコニコ笑顔で、少女は名前を言うが……アズマ自身、名前を名乗っていない。いや、それはチナが呼んだのを聞いたで話しは通じるが……チナと一言も呼んでいない

 

 「何で?」

 『ノッ!ノッ!』

 しきりにアズマの右足を自分の右前足で押すモノズが、何かを言いたげだった

 

 「サザ?」

 「その子がおしえてくれたんだ!」

 「ポケモンが?」

 「ポケモンさんの言葉、分かるですか?」

 アズマは幼馴染の問いに、そうかもしれないと無言を貫いた

 

 驚くことは無い。Nという実例と少しの間とはいえ同行していたのだから、ポケモンの言葉が分かる人間だって居るのはアズマには納得が出来る話だ

 それはそれとして羨ましい。テレパシーを使えるディアンシーとは意志疎通が出来、バドレックスは人間の言葉をサイコパワーで話せるが……

 

 『「ミーはアークって可愛くないからやなの!」』

 「カッコいいだろ、アークって」

 そう、そしてイリュージョンで化けた時に他のポケモンの鳴き声を真似るからか人間の言葉を見よう見まねで話せてしまうゾロアも居る

 が、イベルタルやニダンギルの言葉は分からない。フィーリングでこうだろうと対応するしか無い

 それはそれで気持ちを通じあわせたら嬉しいし悪いことではないのだが……やはりそれでも、アズマは直接話せたらもっと色々望んだことしてあげられるのになーと思うのだ

 

 「うん、ドラゴンポケモンだけならわかる!」

 「ってことは、サザは分かって、アーク達は分からない?」

 「うん、その子トレーナーさんは怖くておーぼー?でたよれる人って言ってる!」

 その言葉に、アズマは少しだけ落ち込みながら足元のモノズを見下ろした

 

 「横暴なのか……」

 「こわーいのにだす!おーぼー!って」

 確かに、と納得させられる

 アズマが最近モノズを出したバトルはというと……ラ・ヴィ団のメガヘルガー&メガライボルト&メガアブソル、コルニのメガルカリオ辺り

 言われても仕方がない相手ばかりだ。そして……それを知らずに言える事そのものが、モノズの言葉を分かるという事を裏付けてくれる

 

 「そうだよな、怖かったよなサザ」

 『ノノッ!』

 屈んで頭を撫でられたモノズは、大丈夫だとばかりに撫でられる手から頭を逃がし、その手を甘く噛んだ

 

 「でも、ゆーきをもたなきゃって!」

 「……そっ、か」

 それに深く頷くN

 

 それもそうだとアズマは思う

 トレーナーの存在は認めたとはいえ、下手な態度であればポケモンを思うNは敵に回るだろう。それが無い時点で、相応にモノズとてアズマの無茶は認めてくれていたのだ

 

 「……こほん」

 「あ、ごめんチナ」

 幼馴染の咳で、アズマは現実に引き戻された



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見送り

「それで、君はドラゴンポケモンと共に生きるソウリュウの民で、伝説のドラゴンポケモンを連れたNさんに出会って成長するために来たって事で良いのかな?」

 

 「うん、そーだよ!」

 ニコニコと機嫌良く揺れる紺色の髪

 「イッシュ伝説と心を繋ぐ者と修業してくればアデクおじーちゃんも戦ってくれるんだって!」

 「戦って……」

 その言葉に、アズマはぽかーんと口を開けた

 イッシュチャンピオン・アデク。炎のような髪色をしたちょっと豪快な初老くらいの男性。面白い人だとして、流石に美人で強くて有名なシロナさん等には及ばないまでも……イケメンなんだけどちょっと取っつきにくい感覚のあるジョウト/カントーチャンピオンのワタルさん等に比べれば男性チャンピオンの中では老若男女問わず尊敬されている方の人だ

 何なら……此所カロスの現チャンピオンであるカルネさんよりカロス内でも人気かもしれない。流石にダンデ、ダイゴ、シロナ辺りの人気トップには劣るが……

 Nとゼクロムを止められなかった事で一部からはネタにもされるが、伝説のポケモンなんてチャンピオンでもそうそう止められるものではないから皆仕方ないと分かった上で話の種にしているだけ。愛故のいじりだとファンもある程度は認めている

 実際、イベルタルのベルが大真面目に本気で戦ってくれたとしたら今のアズマですら多分当時のアデクさんと良い勝負が出来るだろう。相棒として有名なウルガモスに対して飛行タイプという有利相性が取れるから下手したら勝てるかもしれない。というか勝てるだろうとアズマはベルを信じている

 そう、伝説のポケモンとは今に残る伝説に名前を残す程の力を持つのだから、それを止めきれないのは流石に恥ではないのだ。伝説のドラゴンに対してドラゴン使いでチャンピオンのワタルさんなら止められたかと言われると疑問が残るだろうし、シロナさんならば止められたなんて、流石に誰しもネタでしか言わない

 

 ……エキシビションで見た通り、キョダイマックス込みのダンデさんならゼルネアスとすら良い勝負をするのだからもしかしたら止められたかもしれないが……机上の空論であるし、リザードンは飛行タイプ故にゼクロムを止めきれずに負ける気もする

 

 「君、強いんだ」

 「うん!」

 じーっと見てくる幼馴染はわざと無視して、アズマは話を続けた

 何となく不満に思われている事は分かるが、下手につついてもディアルガが出てきて話が拗れる

 ディアルガだって伝説のドラゴンポケモンだ。万が一出てきたとしてもドラゴンじゃないからで済ませられうるイベルタルとは話が違う。絶対に厄介話になる

 

 それを理解して、アズマは静かに緑髪の青年を向いた

 「Nさん」

 「うん良いともさ君の思いは分かるとも

 黒き運命と響き合うための音を見つけ出す手助けという訳だね」

 その言葉にこくりと頷くアズマ。相変わらずだがNは話が早い。ポケモンの言葉が分かるほどの天才は伊達じゃない

 

 「はい。口添えをお願いします、Nさん」

 そう、あの黒水晶のポケモンだが、恐らくは本来の姿はドラゴンに近いだろう。不意に見せられたビジョンに映っていたのは、確かにどことなくガブリアスのような龍だった

 

 ならば、この先またあのポケモンと邂逅した時、手を伸ばすにはドラゴンタイプのエネルギーを上手く扱う力が必要だ、アズマはそう考えたのだ

 そして、Nはそれを理解して、アズマの為に手を尽くしてくれる。あのポケモンの為も勿論あるだろうが、それはアズマの推察を肯定するような話であって……

 

 「……うっ」

 「まずは観覧車、一緒に乗ろうか」

 流石に空気になってきた幼馴染を放置できず、アズマはそう言った

 

 そうして一周。チナとゆったりした時間を過ごせば、彼女はもうシロナと共に帰る時間が来ていて、名残惜しいが幾らでも連絡は取れる、互いにそう確認してアズマは少女を見送った

 見送ったアズマに、Nの支線が突き刺さる。時間は有限で、Nの手を借りるのもあまり待たせるのは悪くて

 

 ぽん、と放り出したボールから飛び出すのは相棒のニダンギル……ではなく、モノズ

 

 そうして物を分かっているだろう龍と共に、アズマはほえーと年相応の幼さで見送りを眺めていた少女アイリスへと頭を下げた

 

 「お願いします!Nさんと修業の最中、おれにもソウリュウの民のドラゴンとの交流法等を教えて下さい!」

 『モノノ!』

 「うん、いーよー!」

 返事は、やけにあっさりしたものだった



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vs.ストーンエッジ

「有り難う御座いました、アイリスさん」 

 『モノノッ!』 

 そして約2週間後、アズマは楽しげな紺色の女の子へ向けて頭を下げていた

 

 「うんうん!元々筋はスッゴい良いから、ホントすぐに覚えられたね!」

 「はい!」

 『キバァ!』

 と、少女のキバゴがアズマを鼓舞するように小さな手を上げて鳴いた

 

 「キバゴも、有り難う」

 『モノノッ!』

 と、アズマの足元でモノズが鳴く。この2週間ほど、モノズとアズマはアイリスに弟子入りしてソウリュウの民……ドラゴンポケモンと生きるイッシュの民の心得などを学んでいた

 

 「じゃ、さいごの試練しようか!」

 と、少女がボールを構える

 「行こうか、サザ!」

 『ノノッ!』

 それに合わせてアズマも足下のモノズを呼び……その瞬間、流石に限界とばかりにぼふっという軽い音と共に天空に巨大な赤き翼が拡がった。イベルタルである

 

 「……ベル、もう少し大人しくしててくれ。お前が出てくると試験にならない。後で一緒に飛ぼう、だから頼むよ」

 と、アズマはごめんなと勝手に出てきた赤き伝説の翼をボールに収める。そして、モノズとともに少女に今一度向き直った

 

 「じゃあ……」

 「心を一つに!やってみてー!」

 『キバァ!』

 「ああ、行くぞサザ!」

 

 その瞬間、キバゴが大地から沢山の岩角を生やす。それは不規則……いや、規則的に同じ数生えては砕けることを繰り返している

 「技を使って良いのは一回だけだよー!さぁ、さぁ!沢山こわしてみてー」

 

 そう、それが最終試験の内容であった。謂わば技での的当て。トレーナーの的確な指示とポケモンの技コントロールが合わさらなければ、周期的に生えては消える岩角を壊せはしないだろう

 「……サザ、息を吸って……

 今!『竜星群』!」

 最後の試練に対して、アズマが選んだのは一緒に特訓させられたドラゴンタイプの奥義であった

 

 正直なところ、測ってみたところ奥義とはいえ威力そのものはZ技『アルティメットドラゴンバーン』の方が高い。だが……奥義と呼ばれるだけの力はある

 

 無理矢理Z技で広範囲を凪ぎ払うのではなく、天から降り注ぐ竜星で沢山の的を狙い撃てという話だろう

 相棒(ポケモン)を信じて、ドラゴンタイプエネルギーの星を落とす瞬間にモノズが狙えそうな視界の範囲に多数の岩角が出てくるだろうタイミングを測って指示しろと、そういう試験なのだとアズマは理解した

 

 そして、その想いに応えてモノズの口に数秒かけて溜まったエネルギーが天へと打ち出され、7つに分裂して降り注ぐ!

 それはモノズの前に現れた5つの岩を破壊し、背後に現れた2つを逸れて軽く大地を抉った

 

 「お疲れ様、サザ。お前は良く頑張ったよ

 でも、ちょっと指示タイミング間違えたな、ごめん」

 もっと上手くやれば全弾命中も狙えたろう。そうアズマは自省する

 

 『ノノッ!』

 気にするなとばかりにふかふかの頭をアズマの右足に擦り付けるモノズ。その頭を撫でて……

 「うわ、すっごーい!おじーちゃんからごーかくもらった時、5発になって3つ当たればいいよーって言われたのに!」

 「あれ、そうなんですか?」

 眼をぱちくりさせるアズマ

 横では何だかアピールでもしたいのか見守るNのゼクロムが流星群の名に相応しく50発くらいの竜星を降り注がせているのだが……威力が桁違いすぎて、もう参考どころではない。ミアレシティ辺りまでなら出掛けることがあるのか空中にサイコパワーでニャオニクス師匠が的を作りそこを貫くだけだから良いが、地面に当たれば大惨事だろう

 規格外なあれと比べれば、随分とショボい結果にはなるのだが、それでも基準は越えられているらしい

 

 「……やったな、サザ」

 ぐっ、と斜め下に拳を突き出すアズマ。モノズがとん、とそれに頭の一角を合わせた

 

 「ごーかーく!おめでとー!」

 パチパチと鳴る拍手。褐色の少女アイリスばかりでなく、翼のような腕を打ち合わせてゼクロムや……Nも軽く拍手をしてくれる

 それが照れ臭いのか、モノズがボールの中へと逃げ込んだ

 「あはは、そんな気にするなよサザ。お前は良くやってくれてるんだから」

 逃げたものは仕方ない、アズマはカリカリとボールの表面を指先で擦りながら笑った

 

 「……改めて、有り難う御座いましたアイリスさん、Nさん」

 「うん、たのしかったー!じゃーまたねー!」

 「君の運命に興味は尽きないこれはいずれまた交わる線の公式

 けれど今は一時」

 『ババリッシュ!』

 分かりにくいが、つまりは一旦アイリスと共にイッシュチャンピオンであるアデクの元へ……イッシュ地方へ戻るという事

 

 「ゼクロムさん、いずれまた。もっと強くなって再会したその時は、手合わせとか、お願いします」

 尻尾のエンジンを光らせ応えるゼクロムの背に乗り、緑の髪の青年は少女を連れ飛び去っていった

 

 「さて」

 それを見送り、アズマはふぅと息を吐く

 「これからどうするかなぁ……」

 『にゃにゃおにっ』

 最早アズマを怖がらなくなったニャオニクスがすぐ近くでその濃い青の尻尾をフリフリするのをほっこり眺めながらアズマが思い描くのは此処カロスの地図。そして脳内で自分の旅路を書き出していく

 

 「本来のルートのジムバッジ獲得の旅だとフクジさんコルニさんと選んだ場合順路的に次は…ショウヨウジム、岩タイプのザクロさんか……」

 あ、ダメだとアズマはその思考を中断する

 「今フレア団事件の慰霊祭だからあのジム休業中だ。普通にミアレシティから旅するならそのうち開くんだろうけど……」

 アズマが目を落とすのは赤き伝説がカタカタ鳴らすボール

 「飛んでいきたいよな、ベル

 となると、幾らなんでも祭の最中だから早すぎるし……何時かはベルと一緒に最終兵器跡地を見に行きたいけど……」

 あの最終兵器の下には、恐らくグラードンが眠っている。3000年前、AZはカイオーガとの激突の果てにホウエンを去ったゲンシグラードンの力を使い、あの装置を起動したのだろうから。纏うオーラの質からアズマはそう推察している

 「下手に刺激したらグラードンが目覚めちゃいそうだし、更なる混乱が起きそうだから慎重にならないとな、ベル」

 

 『にゃにゃお!』

 主張の激しい野生のニャオニクスの声に、アズマは顔を上げた 

 「ニャオニクス師匠?」

 『にゃお!』

 とんとんと二足歩行の猫が立派な尻尾で地面を叩く

 「姫、何言ってるか分かる?」

 言われてバッグから顔を出すのはずっとそこで見守っていた桃色ダイヤのポケモン、ディアンシー

 『(桃色、緑、光……らしいですわ)』

 『にゃう!』

 「桃色の場所に、緑の光って事かな?」

 『にゃおにゃ!』

 そうだそうだとばかりに振られる尻尾

 

 「桃色となると……ヒャッコクシティの日時計?そこに緑の光……

 そうか!あのジガルデ!」

 ラ・ヴィ団だ黒水晶のポケモンだである程度薄れていた当初の目的を思い出してアズマは叫んだ



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vsヌンダフル?

「サザ!『竜星群っ!』」

 『モ、ノォォォッ!』

 『ヌ、ヌンダフルッ!?』

 天空から7つに分かれて降り注ぐドラゴンエネルギーの放出を受けて、緑色の謎のポケモンの姿は何処かへと消滅した

 

 「お疲れ、サザ」

 『モッ!ズー!』

 「良し良し、本当に頑張ったな」

 言いつつ、アズマは背中のケースからポロックを出してモノズへと与える

 そして、今は時を刻んでいない巨大な桃色の水晶日時計を見上げた

 

 此処はヒャッコクシティ、ジムもあり、有名な日時計もある観光地……ではあるのだが。今は深夜、ちょっと散歩に出たアズマ以外に人通りはほぼ居ないのだ

 

 「にしても何だったんだろうな、あいつ」

 ついさっきりゅうせいぐんで打ち払ったポケモンの事を、アズマは思い出しつつ呟いた

 ボールは体を突き抜けた、多分実体ではないのだろう。投擲した時の揺れで捕獲機能が働くとボールは電磁波を纏う。だから体が個体ではないポケモンにもボールは当たるのだ。当たらないのは本体ではない影とか、そういった奴だけ

 

 「サザ、分かるかあの緑と黒の奴」

 『ズー?』

 首を傾げるモノズ。いや当然だろう、ポケモンについてはトレーナーこアズマの方が数段詳しい。色合いが似てるだけのモノズに分かるはずもない

 

 「ニャオニクス師匠が言っていたのはジガルデではなく、あのポケモンの事だったのか

 確かに、巨大なアーボックって感じの歴史資料に書かれる姿より弱いジガルデって感じはマフラーもしてたし少しあったけど……」

 思いつつ、その姿を改めて思い返すアズマ

 

 緑と黒の体躯。大体マフラーをした緑黒のガオガエン、とでも言えば良いのだろうか。特徴としては、そのマフラーがまるで毒々しい色の鎖のような形状であった事くらいだ

 

 「ジムも来月まで休養で休みだから挑戦も出来ないし、ジガルデ絡みは空振り……」

 『モーノ』

 少し頭を落としてモノズが鳴く。そして、慰めるようにアズマの足首に己の頭を擦り付けた

 「いや、全部上手く行くなら父さんだって直ぐに伝説の調査を終えてたよ。研究は失敗とほんの少しの手掛かりを積み重ねる連続、平気平気」

 言いつつ、それでもとアズマは日時計を見上げた

 

 「……むぅ、ビオラさんから貰った欠片だけで反応したから、日時計本体も凄い力とかあるのかと思ったけど……」

 アズマは夕暮れ時に街郊外でイベルタルから降りて辿り着いたときの事を思い出す。ワクワクしていたディアンシーだが、石に興味はすぐに失せてしまっていた

 

 「あんまり、凄いオーラは感じない」

 カタカタと揺れるモンスターボール。内部のイベルタルもきっと肯定しているのだろう

 

 「姫の為にゼルネアスを探す、家を襲った真相などを知るために、ジガルデを探す。そのついでにカロスを巡るから、リーグを目指してバッジを集める

 ラ・ヴィ団が立ちはだかるなら止める、そして……ネクロズマに光を戻してやるために、力ある結晶を探す」

 今の目的を、一つ一つアズマは口にする

 そうして、あてが外れたなーと頬を掻いた

 

 その瞬間、ピロリとホロキャスターが鳴った

 見れば幼馴染のチナ……ではなく、知り合いのトレーナーだ

 「カルムさん?アズマです、夜中ですが何かありましたか?」

 そう告げれば、アズマの前にはホログラフのテレビ画面が映された

 

 「カルムさん?」

 「色々とコルニから聞いたけど、君色々と探してるんだよね?」

 「はい、それは勿論ですが」

 「そんな君に、一つ頼みたいことがあるんだ」

 「それは構いませんけど、そのテレビは?」

 目を凝らして全体が青いホログラフを見れば、田舎紹介のコーナーのようだ。今ではフリーズ村が上位ランクインしている形のランキング放送で、今は3位のキタカミの里という場所を紹介しているらしい

 ちなみに、割と田舎だと思うアサメは紹介されていなかった、残念だ

 

 「あー、君にはホログラフだから見えないか」

 「えーと、何がです?」

 「いや、個人の趣味で見てたんだけどもね?キタカミの里の紹介としてスタッフが撮った記録映像の中に、プラズマ団らしき制服が混じっていたんだ」

 その言葉に、アズマは首を傾げた

 

 「えと、プラズマ団は今はNさんの元って訳でもないですけれど、ポケモン保護団体として活動してますよね?キタカミの里ってどの辺りかは知りませんが、居ても可笑しくはないのでは?」

 「と、言いたいんだけど、服装が知ってるものより黒かった気がしてね」

 「黒かった……ですか?」

 こてん、とアズマは首を傾げた

 

 プラズマ団についてはアズマも良く知っている。かつての所業も、今でもあの服を着ている人々は本当の意味でポケモンと人間のために、嘗てのポケモン強奪事件等の解決と贖罪の為に敢えて着ているという事も

 だから、キタカミ出身のプラズマ団員が故郷に帰っている……なら、別に可笑しな事ではない筈なのだ

 

 『ノッ?』

 横で見上げるモノズ。背中のリュックサックからひょこりと顔を覗かせ、けれども何も分からないからか無言のディアンシー

 

 「少し、気になりますね」

 「本当は行きたいんだけど、漸くジムが完成してこれからって時に抜けられないし。君に頼みたいんだ

 ほら、キタカミには伝承とかあるし、君も好きなんじゃって」

 言われ、ああそういえばとアズマは思い出す。確か父もキタカミの里へ1ヶ月ちょっと出掛けて地域伝承を調べていた事があった筈だ

 結局、伝承のポケモンは行方不明と埋葬とでまともに確認できず、仮面だけお土産にくれたのだったか。怖い仮面だとチナが怯えるので引き出しの奥に仕舞ってそれ以来取り出してなかった

 

 が、それ以上に、だ

 「そうだ、てらす池」

 「ん、てらす池?」

 ホログラフのカルムさんが目をぱちくりさせる

 「父さんが少し調べていたんです。キタカミの里の鬼が山山頂にあるという特殊な輝きを持つ石が取れる池の事。てらすという名前もあるし、パルデアの大穴との関連なんかも……」

 「うんうん、興味持ったの?」

 「カルムさん、普通の人間はリーグ本部等から近付かないようにと管理されるような場所ですけど、立ち入りの許可とか取ること、出来ますか?」

 「うーん、カロスリーグは殆ど縁がないから、管理はパルデアリーグかシンオウリーグ。今シンオウはシロナさんがまたまた考古学で一時抜けてるし」

 その言葉に少しだけアズマは落ち込む。幼馴染も着いていってるだろうし、キタカミで会うとかは出来なさそうだ。居たら楽しいし心強いのだけれども

 

 「それに、テラスタル絡みは特にパルデアだからね。分かった、カロスリーグ側からオモダカさんとフトゥー博士に掛け合ってみるよ」

 「はい、ありがとう御座います!」

 ぺこり、アズマは頭を下げる。横で向こうのホロキャスターからは見えてないけどモノズも頭を下げた

 

 「でも、行きたいのは何故かな。理由は聞かせてくれる?」

 「コルニさん達から報告来てると思いますけれど、光を求めて苦しむネクロズマ。この手にはその爪の結晶が残っています。それを縁として、時折現れてくる

 そんなあのポケモンに光を与えるために、てらす池……テラスタルの力が役に立つのでは、と思ったんです。だから調査したいって事ですね」

 その言葉に青年はうんうんと頷いた

 

 「君なら流石にと思うけど、やってることは危険だからね。一歩踏み外せばアクア団事件のアオギリ氏みたいな扱いになるってことは覚えておいて」

 「はい!」




久しぶりの更新で、暫しキタカミ編となります。場所が場所だけに分かると思いますが、ポケモンSV、碧の仮面の要素を含みますのでネタバレには御注意下さい。

え?何で今やるかって?vsネクロズマ決戦前に、光を与えられるものが欲しかったんですが特にパルデア伝説ってテラスタル無関係ですし突っ込む訳にもとか思って止まってたら丁度良い『ぽにお!』が来てしまったもので。此処に入れないと行く意味がないんですよね。
ということで、暫し『ぽにお!』にお付き合い下さい。ちなみにディアンシーと枠が被るのでオーガポンはゲットしません。ゲスト参戦枠です。


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第三.五章 Zの秘宝と輝きの仮面
vs ぽにお


キタカミの里への飛行機、なんてものはない。ミアレ空港からパルデア地方へ飛び、オレンジアカデミー付近の飛行場から乗り換えて、更に空港からバスで大体1時間

 なーんて事は面倒なのでせず(というか、今のアズマはもう民間の飛行機には乗れない立場だ。手持ちポケモン検査で「おれの手持ちのイベルタルです」なんて言ったらN級の危険人物として捕縛される)、イベルタルの圧倒的な体力と飛行力にものを言わせて約10時間

 

 あれから四日後の事だ。イベルタルでアサメに戻って直接カルムからあっさり発行された(オモダカは当初渋ったらしいが他地方チャンピオンのお墨付きに折れたのだとか)キタカミの里でリーグ指定の危険地域の調査許可証を受け取り、再建中の屋敷に寄って仮面と共に奪われてなかったキタカミ伝説の資料を確保。やつれた感じの執事に1ヶ月程の休暇を与えて、アズマはキタカミの里の郊外へと降り立っていた

 

 今は夜。外は暗い

 決して間違えた訳ではない。イベルタルはあまりにも一般人には恐怖だ。白昼堂々降り立ったらそれだけで大問題。許可証発行の際、イベルタルの管理は徹底してと釘を刺されている

 

 「お疲れ様、ベル。暫くはボールの中で大人しくしててくれよ?

 調査中とか、人が居ない自然の中なら、また出てきて良いから」

 誉めてくれと頭をアズマの手に擦り付けてくる紅の巨鳥を撫でつつ、そう言い含めて大きめに焼いたポフィンを一つ差し出すアズマ

 五分ほどそうしてから、少しだけまだ物足りなそうだがボールに戻ってくれたイベルタルのボールを一度なで、明かりの灯る公民館へと歩き出す

 

 「そうだ、ギル!」

 そうして、代わりにボールから出すのはニダンギル。くるっと回る相棒に目配せして周囲を見回せば、アズマの近くに爛々と光る目が三対

 灰と黒の勇敢な小型犬のようなポケモン……ポチエナ達だ。ダークオーラに怯えない付近の野生ポケモン達が、余所者のアズマを取り囲んでいた

 

 『バゥ!』

 余所者に馴れていない野生故か、吠えられてアズマは困ったなと頬を掻いた

 ぱっと見そう強くはないだろう、その気になれば倒せる相手だ。が、そうやって野生のポケモンをバタバタと倒してもと思ったアズマは、最低限襲われないように相棒に護衛を任せて早足であまりしっかりと舗装されていない道を歩き出した

 

 そうして、公民館もう閉まってたので、外で夜を明かすことになった

 「よし、毛布だけでも持ってきてて良かった」

 シートを敷いて座り込めばゾロアの火炎放射で拾った枯れ枝に点火して小鍋にお湯を張り、湯煎で温めた缶詰を一口。バッグから顔を出すディアンシーにも姫も食べる?と楊枝を刺して一つ差し出し、それより生命力が欲しそうなニダンギルがアズマの足に布を巻いて体力を吸い取るのをぼんやりと眺める。背もたれには既におねむなモノズがなってくれていた。体重を掛けても嫌がらずうつらうつら、前足の間に頭を入れて眠るそのぽの背を撫でながら、アズマは空を見上げる

 まだ、夜は長かった

 

 「ポケモンセンターとか無いもんなぁ、此処」

 どうしてそうなった、と言いたいが何とこの辺り一帯、現地人以外が殆ど来ないせいかまともなポケモンセンターが無いのである。トレーナーの宿泊施設にもなるそれがなく、当然宿なんかもない。一応滞在中は公民館を使わせてくれると聞いたが、受付が終わって閉まっていたら今日は使えない

 

 「フリーズ村にも最近ポケモンセンターが出来たらしいのになぁ」

 思わずぼやくアズマ。同じく田舎だったあそこは、予め父が色々と準備を終えていたから寝泊まりには困らなかった。けれど、今回のアズマは割と即断即決の強行軍、準備の差は如何ともしがたい

 

 『ロアッ!』

 「ああアーク、そういえばアークにもな」

 ポケモンの為に色々と持っては来ている。缶詰の二個目を湯煎し始めながら、アズマは缶の残りをゾロアの前に置いた

 『(残念そうじゃないなの)』

 言われ、ん?とアズマは周囲を見回す。田舎だからか人々の寝付きは早い。夜中ではあれ日付も変わっていない頃だが人気は無い。が、その分ポケモンの気配は多くあって……

 

 アズマの野宿は村外れの川の畔。横には小型の橋があり、橋を渡れば村だ。そして道を行けばそのうちキタカミセンターという(ポケモンセンターではなく)ともっこと呼ばれる英雄を奉る大きな社、そしてその先には巨大な鬼が山がある。山中腹以降への立ち入りは禁じられており、道には鎖で封鎖が掛けられているって感じだな

 

 そんな道(舗装はされてるが一歩外れれば自然豊かだ。此方は田園風景にも林檎農園にもなってない、多分人手的に切り開く必要がないのだろう)の木の後ろから、何者かがアズマを覗いていた

 

 「あのポケモンか?」

 『ロロア!』

 もこっとしたシルエット。布団を頭から被ったような形状だし、良く見えないが現地人ではないだろう

 アズマは目を凝らしたが良く分からず、とりあえずとバッグを漁る

 「えーと、野生向けのものも持ってきてたよな……これは土産の仮面で」

 

 すると、その瞬間そのポケモンらしき影はなにかを持って走り寄ってきた

 『が、がお!』

 月明かりに照らされたのは、緑色のぽてっとした姿。頭にまで被ったような緑色の羽織を上半身に纏い、黒い二本足で立つ、手らしき部分が短い異形。顔はくりっとした眼が愛らしく、羽織には黒い角飾り。そんなぬいぐるみにしたら人気出そうなポケモンが、オーラのこん棒らしきものを手にとてとてと走る

 その表情は強張り、二本の牙のある口を小さく開き、眼には輝きを湛えて……

 「ん、どうしたの?」

 立ち上がれば目線が逸れる。アズマは膝立ちでそのポケモンを見て

 『が、がお!』

 ぶん!とこん棒は振り下ろされた

 「あぐっ!?」

 仮面を手にした方の手を強打され、呻くアズマ。腕が折れる程の衝撃ではないがじぃんとした痛みが右腕に走る

 

 そのショックで少しシートを巻き込んで後ろへ滑り、足が眠っていたモノズの腹に当たった

 『……ノ?』

 その衝撃で目覚めたのだろう、モノズが頭を上げてキョロキョロと周囲を見回す

 

 「いきなり何を、サザ!とりあえず『ほのおの』」

 噛み付けば動きは止められるだろう。色合いと獲物からして恐らくは草タイプ、炎は苦手だから大人しくしやすいと判断し、アズマは指示する

 

 が……

 『ズーッ!』

 トレーナーとそれに向けて二回目のこん棒を振り上げるポケモンを交互に見て、けれどもモノズは命令を無視した。トレーナーを止めるように一声鳴いて、また眠る姿勢に入る

 まるで、戦いたくないと全身で語るかのように

 「サザ!?」

 眼を見開いてならば相棒を、と思いポケモンの襲撃と共に宙に浮かんだニダンギルを探すアズマ。けれど、その姿もポケモンから離れている

 

 ガン!と頭に叩きつけられるこん棒。痛みが走り、つぅと額から血が垂れる

 『……がお』

 ポケモンの勢いが弱まった。が、それでも、泣きそうな顔でぽてっとしたポケモンはこん棒を三度振り上げて……

 「まだ早い!止めてくれベル!」

 仮面を地面に放り、アズマは業を煮やして飛び出そうとカタカタ揺れだしたモンスターボールを強く抑えた

 

 『ぽに!ぽにお!』

 と、こん棒は消え、ポケモンは喜んだように跳び跳ねて地面に落ちた仮面を拾い上げる

 「……こいつが欲しかったのか?」

 お土産の仮面だ。欲しそうに見上げられたらあげても良かったんだけどとアズマはポケモンの方を見る

 まさか襲ってまで欲しがるなんて……と見守っていると、一瞬笑顔になったのに、仮面をじっと眺めたポケモンはすぐ俯いてしまった

 

 「……あげるよ、大丈夫」

 痛みは残る手を動かし、アズマはポケモンの手から取った仮面を顔に被せてやる。けれど、ポケモンはそのまま座り込んで完全にしょげしてしまっていた

 

 見れば、体も傷だらけ。アズマはならばとバッグを漁り、スプレー式の傷薬と棒付きオボン飴を取り出す。誰かに傷つけられて気が立っていて、それで仮面を欲しがった時に攻撃的になったなら、傷が癒えれば……

 『(終わりましたの?)』

 そうして、バッグからひょこっと顔を出すディアンシー

 ちらりとそちらを見た碧のポケモンは、更に深く俯く

 『……ぽに』

 そして、膝を折って先にオボン飴を差し出すアズマの額を拭うと、ちらりと二回ほど飴の棒を見ては目線を逸らすととぼとぼとした足取りでキタカミセンターの方へと歩き出した

 

 「あ、どうしたんだ!?」

 『……がお……』

 思わず追いかけようとするアズマだが、痛みに顔をしかめて少しの間立ち止まる。その間に、自然に紛れて緑色のポケモンの姿は何処かへと消えてしまった




ちなみに、オーガポンの名誉のために言っておくと、アズマ君襲撃は勘違いによるものです。ダークオーラ纏っていて、かつディアンシーを連れていたのでお面の力に近いオーラを持つ誰そ彼色の怖いオーラ持ちでお土産のお面を持つアズマ君を、碧の面を強奪した犯人一味と勘違いして、碧の面を取り戻そうと襲ってきた。
が、無関係の人を襲ったと気が付いてショポンしてしまったという訳です。

ちなみに、今作の個体の好物は昔お祭りに行く度に貰ったりんご飴です。だから形状似たオボン飴に反応しただけで、アズマ君がオーガポンの好物を沢山買い込む動機です。その他の深い意味はありません。


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vs ラフ画

「あ、アーク。この電灯を持っててくれないかな?」

 碧の鬼が去った後、アズマは座り込むと懐中電灯を取り出した

 

 『(怪我してますわよ!?何を)』

 『「どーするなの?」』

 その二体の言葉にそうだねと笑いつつ、けれども紙とペンを取り出す

 「うん。あの子の事を忘れないように資料にしないとね。今回、おれ達はカルムさんコルニさん達の計らいで、カロス学会の弟子の研修って旨でキタカミに来てる事になってるんだからポケモン調査資料はしっかりしないと」

 とりあえず、と暗い中アズマは出会ったあのポケモンから見て取れる特徴を書き記していく

 

 恐らくは草タイプ。ダークオーラを怖れなかった事から伝説のポケモンと言える強さを秘めているか、或いは悪タイプも併せ持つ

 

 そして、人懐っこい。これについては簡単な話なのだが、『人の道具を好んで持ったり、或いは人の道具に近い意匠を持つようになったポケモンは人懐っこい』というのが定説だからだ

 例えば鉄骨を持ちたがるドッコラー一族、スプーンが好きなケーシィ一族、パンツとベルトをしたような姿になるワンリキー一族。どれも種族的に人懐っこく友好的であり、建設や運送等で働いてくれているのはそれも大きい。種族的に人懐っこいのだから大丈夫って信頼があるのだ

 そして、あのポケモンも羽織を頭から被ったような姿をしていた。人工ではなく体の一部だろうが、それが服に見えるということは人の中で暮らしたがる人懐っこいポケモンの筈となるのだ

 

 実際、仮面に興味を示したり、人を傷付けてしょげ返ったり、飴を名残惜しいというか少し物欲しそうにしていたりと人に慣れている感じはあった

 

 「誰かのポケモンだったのかな?」

 何て思いつつ、アズマは軽くラフ画を描こうとして……

 『(ド下手ですわーっ!?)』

 『「みゅみゅっ!仕方ないからお手本見せてやるなの」』

 ぽん、とゾロアがわざと煙を立ててイリュージョンし、あのポケモンの外見を再現してくれた

 

 『(……こんな子なんですの?なら)』

 そして、ディアンシーが手を擦り力を込めると、手の間に小さな宝石が生成される。それは桃色一色で角ばった荒いポリゴンで作ったような造形だが、確かにあのポケモンに似せられていた。少なくともアズマのラフよりは似ていた

 

 「あはは……有り難う、おれのラフより報告書に良いよこれ」

 有り難うなと二匹に味の良いポロックを与えて、少しうちひしがれたアズマは資料を切り上げて横になった

 

 そして翌朝。目覚めれば周囲を飛んでいたニダンギルが戻ってくる

 「お疲れ、ギル。見張っててくれたんだろ?ゆっくりしててくれ」

 ボールに相棒を戻して残りのポケモンを探せば、二体はアズマの横で体を預けて寝ていて、最初に寝ていたモノズだけが居なくなっていた

 

 「サザ?」

 すぐに見付かった。後ろ足で立って小さな手をすりすり擦り合わせる胴長のポケモン……オオタチ。愛くるしいそのポケモンと向かい合って、揺れる尻尾をずっと頭を振って追っていた

 

 「おぉーい、サザ!遊んでても良いけどもう村の人々起きてくるぞー」

 呼べば、オーラのせいかオオタチはすぐに尻尾を立てて逃げていき、モノズだけが小走りで帰ってくる

 「オーラは健在、か」

 やはり、あのポケモンは潜在的に伝説扱いされかねない力を持つのだろう、そう考えつつ、アズマは村の人々が居る公民館へと向かった

 

 「はい、手続き終わりですー」

 そして、さくっと暫く滞在する為のものを終える。やる気無さげな人によって、だが

 あんまり歓迎されてないのかな?と苦笑しながら、アズマはそういえばと話を切り出した

 

 「えっと、プラズマ団の人とか、此処に居ます?」

 「あー、居る居る。反省しなきゃーって折角イッシュへ出てったのに帰ってきた奴

 何?アンタキョーミあんの?」

 実にフランクでやる気がない人によって、あっさりと答えは出た

 

 「今その人は?」

 「あー、祭りの人手がないーとか言ってたら昔の伝手でプラズマ団の人呼んでくれたよー

 んで?これ以上聞く?」

 「あ、すみませんこれで十分です」

 そうして公民館を出て、アズマはむぅと唸った

 

 『(どうしたんですの?)』

 何時もの好みでバッグに入ったディアンシーからのテレパシーに困ったようにアズマは頬を掻く

 「いや姫、もうプラズマ団の謎、ほぼほぼ解けちゃった訳で

 余所者嫌いそうだから、話が通ってなかったのかなーって」

 『(帰りますの?)』

 「いや?そんな訳はないよ。(オモテ)まつり、キタカミの里の最大の行事は数日後だし、あの子を放ってはおけないし、何よりてらす池でネクロズマの為の光を回収もしてないからね

 でもまあ、一つ仕事が終わっちゃったのは……達成してないから寂しいのかもね」

 そんなことを思いながら、アズマは村を歩く

 

 『(何処へ行くんですの?)』

 「資料について姫達に手伝って貰ったし、オモテまつりはまだやってないし、実は父さんの資料で伝承って大概の部分はもう纏められちゃってて急いで調べる必要もないし……まあ、気になるしベルも居るから後で自力で見には行くけどさ

 まずは、あの子も気にしてたし、林檎農園でも行ってりんご飴とか買おうかなって」

 

 言いつつ、アズマは村を見回す

 人々はアズマを無視する。服装からしてカロスから持ち込んだ自前の服のアズマは見るからに余所者で、あまり話しかけたくもないのだろう

 フリーズ村も閉鎖的だったけど、向こうは観光資源が死活問題だからここまでじゃなかったよなぁ、と寂しさを覚えつつ、横に幼馴染の女の子等誰かの姿を探す。けれど、横には誰も居ない

 けれど、背中のバッグは重い。腰のボールは揺れている。誰も居ないようで、ポケモン達が居る

 

 「後、あの子が仮面に執着してた理由とか、怪我してた訳とかも分からないとな……」

 と、そんな風に計画を頭で練っていたアズマは、ふとその場には似つかわしくない服装の相手を見つけた

 「ん、あれは……?」



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vs ナンジャモ

「お、トレーナーな雰囲気の人発見伝」

 どこか閉鎖的な空気の中、空気を読まずに話しかけてきたのはパステルカラーの少女。踊る足取りでアズマの方へ駆けてきた彼女は全身をだぼっとした外套で多い、大きな荷物を持っていた

 

 「お名前は?」

 「あ、アズマです。お早う御座います」

 何処かで見たような、と思いながらアズマは薄紫と水色のツートンカラーの少しだけ自分より背が低い少女の事に挨拶した

 「おはこ……おはよーアズマ氏。アズマ氏はバトルとか嗜む?」

 「あ、ジム挑戦とかやってます。今はオモテ祭りもあって中断してますけれど」

 「よーし!バトルが好きなら、バトルの時間だ皆の者ー!

 アズマ氏もオッケー?後バッジは何個かなー?」

 おー!と拳を突き上げる少女。明らかにキタカミ住民ではないだろう。唯一の村であるスイリョクタウンに暮らす人々とは服装もテンションも違いすぎる

 

 「……はい、大丈夫です。バッジは三つ」

 と、アズマは上着の裏地に付けている三つのバッジをちらりと見せる

 「おー、カロス地方で取ってるんだ、オッケーオッケー!」

 怪しすぎるが……と困りながら、アズマは周囲が開けている事を確認して頷いた。人はとてもまばらで、遠巻きに見ている。歓迎されてはないが、咎められもしないだろう

 

 「何処かで……うーん、何か印象に残る筈なのに」

 少女の正体に悩みつつ、ポケモン達を確認するアズマ。迷いを感知したのかガタガタとイベルタルのボールが揺れているが反則級、ニダンギルは夜の見張りで少し眠そうだ。他のポケモン達で行くべきだろう

 

 「おー!受けてくれてテンションシビルドン登り!

 そしてー!」

 少女がボールを構える。外套がだぼだぼ過ぎて持つより乗せてる感じだ

 「さぁ!君の出番だよコイル!」

 「頼むよ、アーク!」

 ぼふっと二つのボールから二匹のポケモンが飛び出した

 

 一匹は少女のコイル、そしてもう一匹は……ピカチュウだった。ゾロアのイリュージョンなのは分かるが、アズマもその悪戯に少しだけ面食らう

 『ピッカァ!』

 丁寧に、鳴き声も真似していた

 

 「おーピカチュウ!かっわいいよねー!

 けれど、手は抜かないボクなのであった。コイル、まずは」

 「アーク!『かえんほうしゃ』」

 『ピッカァ!』

 化けたまま、ゾロアが炎を放つ

 

 炎に包まれ、ぽてっとまるっこい鋼の体が地に落ちた。ぐるぐると目を回している

 「あ、あれ?え?」

 「あ、こいつ実はゾロアなんですよ。ピカチュウはイリュージョンで」

 『「みゅみゅっ!騙されたなの!」』

 ぽん!と右前足を口許に当ててクスクス笑いしながら姿を戻すゾロア

 

 「これはびびっと!驚きモモンの木ウソッキー!

 ならば此処でサプラーイズ!」

 コイルをボールに戻しながら、少女がばっ!と外套を脱ぎ捨てた

 下にあったのは、同じくだぼだぼの黄色い萌え袖で胸元が空いたジャケットに、ショートパンツの姿。更に大きな荷物だと思っていたのは二体のコイル型装置で、それが頭の両横に合体した

 

 「っ!あの人!」

 服装とコイル型配信機器のインパクトが強すぎて本人だけじゃ結び付かなかった!あんな有名人なのに!とアズマは唇を噛む

 「お!気が付いた!やっぱりボクって有名人!じゃあアズマ氏も手助け使って!

 あなたの心にー!」

 

 「エレキネット!」

 アズマが叫べば、使えないなの!とばかりにその脚をゾロアが尻尾で叩く

 が、技の指示ではない

 

 「何者(なにもん)なんじゃ?ナンジャモです!おはこんハロチャオー!」

 「おはこんハロチャオー!」

 『(おはこんハロチャオ?ですわ)』

 バッグからひょこっと気になったのかディアンシーが顔を見せ、挨拶を返す

 

 「ちょちょ待って!皆の者、なんかこの通行人何か可笑しいんだけど!?」

 そんなアズマの向かいで、少女は虚空に語りかけていた

 

 『(あれは何ですの?変な怖い人ですの?)』

 「いやあれはナンジャモさん。パルデアのジムリーダーの一人で、多分今は動画をあの頭の機材で配信してるんだよ。だから、あれは遠くで見てる人向けの台詞」

 まあ、それを知らないと虚空に話してリアクション取る危ない人だけどとアズマは苦笑した

 

 「どうどうアズマ氏、びっくりした?」

 が、それはそれとばかりにナンジャモが身を乗り出して聞いてくる

 「じゃーん!ジムリーダーと隠してパルデア外の通行人と戦ってみるドッキリー!」

 「おおー!なら、ジムリーダーらしい強さ、見せてくださいナンジャモさん!」

 ぎゅっとゾロアのボールを握り、アズマはワクワクしながら叫ぶ

 

 「もうドッキリ企画は終わったけど、皆の者もノッてるし!ボクの相棒を見せちゃおっかなー!」

 ぼむっとボールから出てくるのはでっぷりしたニョロゾのような緑のポケモン

 

 「あ、ハラバリー」

 「そう、配信でもお馴染みハラバリー!このフォルム!触った時のぷにっと感!そしてキュートなお腹の発電機!

 さあ、この壁越えられるかなー?」

 挑戦的にニシシと笑うナンジャモ。それを見ながら、アズマは振り返るゾロアと軽く目配せすると、手首の黒水晶に指を当てた

 

 「本気で行こうか。お墨付きだ」

 キラリと煌めく黒水晶。オーラを纏い、アズマは叫ぶ

 

 「全力全開!解き放てアーク!『ブラックホールイクリプス』!」

 『ロァァァッ!』

 天空へ向けてゾロアがオーラの弾を打ち出すと、それは小型のブラックホール状のエネルギーとなり、ハラバリーを吸い込んだ

 そして、吐き出され地面に超高速で叩きつけられたハラバリーはそのまま目を回す

 

 「ぜ、Z技!?しかも一撃必殺の威力!?

 あ、アズマ氏……バッジは?というかカロス?」

 「三個です」

 「皆の者!これがバッジ数詐欺師!覚えておこう!

 普通のバッジ三個はこんな化物じゃない!」

 勝手に化物扱いされ、アズマは頬を掻いた

 それを尻目に、ゾロアは全力の技で疲れたのか勝手にボールに戻っていく

 

 「そんな詐欺師には、ボクピンチ?

 ええい、ナンジャモが滅多に見れない秘蔵ポケモン出してみた件!いっちゃえー!」

 向こうも何だか自棄になったのだろうか、今までのスーパーボールではなくハイパーボールを投げる

 『グルザァッ!』

 そして、天に舞うのは三つ首の黒い竜。モノズ系列の最終進化、サザンドラである

 

 「っ!サザンドラ!?」

 「滅多に見れない超お宝映像!さあさあ、幾らアズマ氏でも勝てるかなー?」

 言われ、アズマは自分のボールを見下ろす

 臆病モノズは外を見てかボールに内側から閉じ籠っていて繰り出すのは可哀想。ゾロアとニダンギルはお疲れ。となると…… 

 

 勝手に小さくしてあるモンスターボールが落ちる。中のイベルタルが呼ばれるのを待っている。蹂躙して勝つと言いたげに、ガタガタとボールが揺れる

 「やる気満々の子が居るじゃん!ボクに全力を」

 「いや流石に真っ当な人相手にベルは出せないっていうか」

 

 『(危険は、無いんですわよね?)』

 が、その時テレパシーが届いた

 「姫?」

 『(ならば、わたくしがやりますわ。ナイトとしての導く役目、お願いしますわよ)』

 「良いの?」

 『(何時までも護られてばかりでは困りますもの。危険の無い試合から、慣れですわ!)』

 「……よし!」

 頷き、アズマは今回は姫にも出番を、なとモンスターボールを撫でて、バッグへ向けてディアンシーのボールを翳す。そして、他のポケモンと同じようにボールから繰り出した

 

 「行こう、ティア。君だってきっと、強くあれるから」 

 『メレー!』

 とん、と初めてバトルする気で場に降り立つディアンシー。目の前の少し小柄なサザンドラと体格の差は凄く、ひどくちっぽけに見えるが……それでも、アズマは微笑む

 

 「うっわー!さっきの可愛い子!でも容赦なく!

 ナンジャモンジャ!びっくり仰天!テラスタル!」

 キラリ、と今度はナンジャモの手のオーブが煌めき、サザンドラが結晶に包まれる

 そして砕ければ、光輝き三つの頭の上に電球のようなクリスタルを生やした姿の黒竜が吠えた

 

 『(……ナイトなら、行けますわね!)』

 そんなサザンドラを前に、ディアンシーは手を合わせ、ピンクダイヤを産み出すと背後のアズマへと投げ渡した

 「合わせられる、ティア?」

 『(合わせるのは任せましたわ)』

 「オッケー!」

 ディアンシーを信じ、アズマは貰ったダイヤを手首の黒水晶に当てる

 生命のオーラを受けて、二度水晶は煌めく!

 

 手でハートを作り、AZが見せたように男性にはちょっと似つかわしくなくとも!

 『(御免なさいですわ)』

 「気にせず行くよ!」

 「え?二発目!?何このドッキリ!?ええいサザンドラ!やけくその『りゅうのはどう』!」

 『ドラララァッ!』

 黒竜の三つ首から青白い波動が迸る!

 

 『ディア!?』

 「大丈夫、フェアリータイプには効かないから、気を落ち着けて……

 『ラブリースター!インパクト!』」

 が、やはりオーラの束はディアンシーに当たると消滅する。ドラゴン技のエネルギーは無効にされるのだ

 

 「おっとフェアリータイプ……って不味い!?」

 ディアンシーが腕の間に作り出した大きな星形弾が、輝くサザンドラを空へと吹き飛ばした

 

 「と、思いきや……?

 じゃーん!テラスタルで今のサザンドラにはフェアリー技はぜんっぜん効かないのだー!どーだいアズマ氏、このボクとサザンドラの」

 「けれど!」

 アズマは尚も水晶に手を置く。ダイヤの光はまだ残っている。だからこそ

 

 「ティア!君のもう一個の本気!今此処で!」

 岩の堅さをイメージしたようなポーズを取り、アズマはオーラを纏う

 「『ワールズエンドフォール』!」

 「喋りの途中で禁断どころじゃない三度打ちって驚愕の展開は」

 『(岩タイプの姫の力、見せますわーっ!)』

 オーラの力で打ち上げられたサザンドラより更に高くまで飛び上がったディアンシー。その周囲に岩タイプエネルギーの塊たる無数の岩がくっついて巨大な隕石となると、サザンドラごと大地へと墜落。

 煙が腫れた時、其処には結晶化が解けて目を廻したサザンドラが居た

 

 「っ!よし!行けたな、姫」

 『(疲れましたわ)』

 ひょこひょこと戻ってくるディアンシーを出迎え、伸ばしたポケモンの小さな手に膝を折ったアズマは拳を合わせる

 

 「対戦有り難う御座いましたナンジャモさん」

 何だか呆然とした少女に、何時ものバッグにディアンシーを入れてやりながら一礼する

 「……えー、検証結果!纏う雰囲気というかオーラが正に特別!って一般人は実際に反則的に強い!

 以上!ドンナモンジャTVでした!皆の者、チャンネル登録宜しくねー!今回の切り抜きはNGだぞー!」

 あ、無理矢理締めた、とアズマはZ技の撃ちすぎで肩で息をしながら苦笑を返した

 

 「スッゲー」

 そんなアズマ達を、遠くから見ている小さな人影には、気が付くことなく




ということで、ナンジャモさんに御越し戴きました。
また、ナンジャモは、今回だけだとかませっぽく見えますが、手加減して戦ってたらアズマ君がバッジ数に比べて詐欺レベルだっただけです。サザンドラもテラバーストしてればイベルタル以外には勝ててます。エンタメし過ぎて負けただけでそんな弱くはないです。
え?あなたの目玉をエレキネットじゃないか?その辺りは挨拶色々と考えて今回は変えてみた的な奴です。今後も色々なものがエレキネットされます、多分。


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vs 林檎農園

「こら君達、何事だね」

 バトルの騒ぎを聞き付けて無駄な程に大きく綺麗な公民館から現れる村長

 

 「あ、すみませんさっき挨拶したアズマです。此方は先程申請した鬼が山調査の協力及び監視としてパルデアから来てくださったジムリーダーのナンジャモさん

 山に登り調査を行う前にある程度の実力があるかの確認をという話になり、自然を傷付けないよう街中で戦う運びとなりました

 御迷惑お掛けしました!」

 咄嗟に思い付いたカバーストーリーを捲し立て、アズマは深く頭を下げる。横で少女も頭のコイル型装置ごと頭をぶんと振った

 

 「これ以上騒ぐようだと、パルデアの許可があっても出ていって貰うよ」

 「はい、気を付けます」 

 

 と、軽くやり取りをして一応の事後承諾を貰い、アズマは息を吐く

 

 「っと、まずはポケモンセンター……なんて無いし、こいつの出番ですかね」

 バッグを下ろし、アズマは沢山の木の実を取り出した。缶詰になっていたりポフィンだったり、様々にお菓子になっているが効果はある

 「ナンジャモさんもどうぞ。どうせ沢山持ってきてますし」

 頑丈なボトルの封を開けてディアンシーが飲みやすいよう小さなカップに中身のミックスオレを注ぎ、半分以上残る中身を差し出す

 

 「おー、優しいねーアズマ氏

 んでんで、挨拶も知ってたしアズマ氏ってやっぱりボクのファン?」

 その言葉に、アズマはうーんと少し唸った

 

 「まあ、ファンではありますかね」

 「おやおやー、少し気掛かりな発言」

 「元々他のチャンネルを応援しようと、アドバイスの為に有名配信者を見に行ってたので」

 ほら、とアズマはフリーズチャンネルを開こうとして……

 

 「電波、来てない……」

 驚愕の事実に気が付いて愕然とした

 「にしし、ボクの機材は優秀でねー、こんな田舎でも配信出来る基地局なのだー!

 使うかいアズマ氏?」

 「あ、良いんですかナンジャモさん。では遠慮なく」

 「パスワードはー、ボクが昔やったクイズ動画で二番目に挙げられたポケモンの名前!わっかるかなー?」

 「確かどんな人のポケモンクイズでもグレッグルと答える人が挙げてたものでしたね」

 ならばとパスワードにグレッグルと入力すればアズマのホロキャスターがネット接続された

 

 「珍しいですね」

 「意表を突く答えならボクもパスワード忘れないしね」

 成程と、アズマは頷いた

 

 「そういえばナンジャモさん、どうしておれを配信の時に特別と言ったんですか?」

 一息入れ、バドレックスやフリーズ村との縁も話して、アズマはすっかり面白人間!と暫く着いてくる気になったらしいナンジャモと共に当初の予定通り林檎農園へと向かっていた

 

 「アズマ氏アズマ氏、その上着の値段は?」

 「6万程です」

 「バッグは」

 「姫の為に特注した新品なので30万くらいでしたね」

 「そのスニーカー」

 「荒地に合わせた耐久仕様で5万です」

 「バッグの中身」

 「備えあれば憂い無しですよ」

 「つまり、見るっからに本人が高級品!更に纏うのは優しげな少年とは思えない……

 そう!悪の組織の若頭って威圧感!」

 「あはは……ビオラさんにも言われて、二番目に戦ったジムのフクジさんより強いポケモンで相手されましたよ」

 「え?それ勝ったの!?こっわぁ

 ボクとかがやったらトップに怖い顔されて素早さも給料も大幅ダウンだよとほほ……」

 あはは、とアズマは笑う

 「完全に当初カロスリーグから眼を付けられかけてましたからね、おれ。結局おとがめは無しというレベルにまで、一部のジムリーダーの方が奔走してくれて今こうしてますけど」

 カタカタとボールが揺れる。早く出たいとばかりに、イベルタルが主張しているのだ

 

 「ごめんね、ベル。此処は人が管理してる自然、林檎農園だから出てきちゃ駄目だよ。後で羽を伸ばして良いから」

 「で、アズマ氏アズマ氏。視聴者の皆もが気にしてたけど、その元気なポケモンってアズマ氏の切り札?」

 ひょいと前屈みから見上げてくるナンジャモに、アズマは言って良いか少し悩んでから頷いた

 

 「ベル……イベルタルです」

 「イベルタル?へーそんな名前のポケモンなんだ

 皆の者知ってるー?」

 「っ!配信中なんですか!?」

 思わず身構えるアズマだが、飛びすさった姿を見て少女はびくっと身を震わせてから萌え袖をぱたぱた振った

 

 「いやー、こんなオフのボクは配信してないって、癖で言っただけだよアズマ氏」

 「良かった。ベルは表舞台にはまず立たせてやれないポケモンですから」

 「切り札なのに?」

 「まあ、カロスリーグは把握してるんでパルデアリーグのナンジャモさんにも言うと……

 "あの"ゼルネアスと対をなすカロス伝説、破壊ポケモンです。躾にも使われるようなお伽噺の怖い鬼、カロス地方だと出すだけでもう相手が震えて殺さないでって言ってくるレベルですよ。ベル自身は……ちょっと過保護でやり過ぎな所はあるものの、無差別破壊とか殺戮とかしない優しいポケモンなんですけどね」

 アズマはボールを撫でながらもう片手で頬を掻く

 

 「あー、アズマ氏って物語の主人公?」

 「だったら良いですけどね。主人公なら、色々と解決してやれる運命って事ですから

 残念ながらおれは生きてる人間ですから、上手く行くかは分からずに全力で生きていくしかないんですけれど」

 「立派立派、ボクも見習わなきゃなーって」

 『(ふふん。わたくしのナイトですもの)』

 と、相槌を打つのはずっとバッグで聞いていたディアンシー

 

 「おー、可愛い子、テレパシー使えるんだ、すっごー!

 ねえねぇ、ボクとコラボ配信とかしない?きっとバズって人気者だよー!」

 『(な、何ですの何ですの!?)』

 「ナンジャモさん、ちょっと怖がってるんで詰め寄るのは止めてやってください」

 

 なんてやり取りをしながらも農園の人に渋られながら少し色を付けることで林檎を買い込む

 「アズマ氏、りんご飴そんなに買うの?」

 「祭りの時に買い込むとすぐに店仕舞いで、他の逆に迷惑でしょうからね。今のうちに発注ですよ」

 串に刺した蜜がけの為に処理された林檎にカミッチュというらしいポケモンが蜜をまぶす行程を遠目で見ながら、アズマは返す

 

 「いやー、ボクは大騒ぎの有名人だからパルデアじゃ賓客扱いでしかお祭りに行けないんだよねー」

 「ならナンジャモさんもりんご飴要ります?手持ちのポケモン達と合わせてとりあえず7本」

 ちなみに、そうやって渡してもまだ3桁あるだけ買い込んだ

 

 「貰う!

 のは別として、そんなに買い込まなくても、お祭りで楽しむものを今買うの?って話題で」

 「逃げてっちゃいましたけど、怪我していて仮面やりんご飴って祭りのものに興味を持ってたポケモンが居たんですよ

 その子の為に買い込んでます。これからおれはともっこと鬼伝説とかの調査しますから、その最中に今度会った時、ちゃんと話して傷を治してやれるように」

 と告げて、アズマはかつて鬼と戦い村を護ったとされるポケモン達を埋葬し祀ったというともっこプラザへと向けて歩き出した

 

 「あ、あの!」



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vs 看板

ん?とアズマが振り返れば、其処に立っていたのは少し暗い雰囲気の少年であった。黒くて眼を隠しかねないくらい長い前髪に、黄色のピカチュウっぽいバンダナ。色合い的には何処かナンジャモファンの着るそれを思わせるが、多分こんな田舎には"なん民"は居ない。アズマだって観光客みたいなものだ

 

 怪訝そうに、けれども可能な限り愛想良く、アズマは少年の方を向く

 「君は?」

 「あ、あの……スグリ、です……」が、話しかければすぐに少年はおどおどしてしまう。きゅっとボールを握る辺り、バトルが好きそうだなとアズマは思った

 

 「おー、スグリ氏。スグリ氏はこのボク達に何用かな?

 残念ながらボクはバズりそ……もとい熱意ある人としかコラボ配信とか出来ないけど」

 「熱意ならあるっぺ!」

 突然の大声に、少女の頭の機材がびくんと跳ねた

 「スグリ君」

 「おれ……ブルーベリー学園に通ってるけんど、何時も弱いって言われてるだ」

 ぽつり、少年が自己語りするのをアズマはゆっくりと聞く。退屈そうに背中のバッグの中でディアンシーは丸まってしまうが、お構い無く

 

 「けんど、情熱は負けねぇ」

 「そっか。熱意は分かるけど……どんな用かな?」

 「そうそう、マネージャーも何も通さないと困っちゃうよねー」 

 「おれ、鬼さまに認められるような強いトレーナーになりたい!」

 うーん、と、アズマは内心で頭を抱えた

 

 少年は強く言葉を告げているが……鬼さまというのも、だからってアズマ達に声をかけてくる理由も正直なところ不明だ

 「鬼さま」

 そんな伝承あったろうか、アズマは脳内で読み込んだキタカミ伝説の資料を整理する

 

 が、出てこない。四つの鬼面を使う怖い鬼の伝承はあるが、あれはともっこ伝説の敵役。村を破壊しに来る化物、だ。伝承の中ではともっこ三匹が命を懸けて三つの仮面を封印。大きく力を削がれた鬼は村を破壊するのを諦めて何処かへと去っていったとされる

 

 「鬼さまっていうのは、何?」

 「ヨソ者は知らねぇんだな。キタカミには」

 「ともっこ伝説の鬼の事?いや、あれは伝説の通りならば鬼さまと呼ばれるようなポケモンじゃ」

 言いかけて、違うなってアズマは言葉を切ると額に手を当て、頭を振った

 

 「そうだね。キタカミともっこ伝説には鬼のポケモンが出てくる。君は、ともっこじゃなくて鬼に興味があるの?」

 「んだ!」

 強く頷かれ、へぇとアズマは感心した。ともっこ伝説と呼ばれるだけあって、完全に三匹がヒーローで鬼が邪悪。ゼルネアスとイベルタルのように片割れ(といっても鬼は四つの面を持つ一匹なので、仮面毎に別としてもしなくても対にするには厳密には数が合わないが)が純粋悪とされる形式なのだ

 つまり、基本的にイベルタルが恐れられ嫌われがちなように、鬼の側を信じるってのもかなり珍しい話

 

 「スグリ君!」

 「あ、アズマ氏!?」

 「君の話、詳しく聞かせてくれないか!」

 興奮気味にアズマは少年の手を取った

 

 カロス伝説が真実そのままでない事をアズマは良く知っている。イベルタルと繋がっているからこそ、邪悪なだけではないと心の底から信じられる

 

 それと同じように、何か理由があるのならば知りたい!その気持ちに突き動かされ、思わずアズマの口は動いていた

 「あ、……んだ」

 びくりと震える少年に、ごめんとアズマは謝る

 

 「とりあえず、道の中で話してても日差しにやられちゃうし、ともっこプラザまで行こうか」

 「長時間の日差しは乙女のお肌の天敵だよー」

 

 そうして、暫く歩けばともっこプラザが見えてくる。プラザと言っても……実質は単なる公園だ。しかも、遊具とかそういったので溢れたり自然公園というよりは、広い平野という方向の

 そんな中に唯一異彩を放つのは、石造りで屋根の低い建物。人が入るには背が低すぎるそれの入り口には、犬っぽいポケモン、猿っぽいポケモン、そして鳥っぽいポケモン。三匹のポケモン像が安置されている。造形は荒くてどんな姿のポケモンとは言えないが、全匹スカーフを身に付けているのが特徴だ

 

 そうそう、こういう像なんだよなとアズマは頷く。父の資料に書いてあった。そして近くを見回せば赤い看板も立っている

 内容はともっこ様と呼ばれる三匹が山に入ると人を脅かす鬼が村を襲いに現れた時に村を護ったっていう逸話だ

 それらを確認し、近くの木の下にシートを拡げてアズマは座り込む

 そして、手持ちのボール(イベルタル以外)を投げた

 ぼん!と出てくるポケモン達。お昼寝中のゾロアを膝に乗せて、モノズと起き出したニダンギルには広い場所で遊んでおいでと小さな良く跳ねるゴムボールを投げ渡してやるとアズマは皆を読んだ

 

 「ほらスグリ君もナンジャモさんもどうぞ。ゆったりポケモンと寝転がれる大きさなんで余裕はありますよ」

 「おっとアズマ氏、ボクはちょーっと色々とやることがあるのでお邪魔します」

 「おれ、寧ろ次の看板に……」

 返ってくるのはそれぞれ真逆の答え

 

 「まあまあスグリ氏、スグリ氏にもちょっと手伝って欲しい!これは視聴者の期待もシビルドン登り!って」

 「……期待?」

 あ、反応したと思いながらアズマは少し息を吐いて像を見上げた

 

 「それでナンジャモさん、どうしたんですか?」

 「トップからちゃんと監視しててくださいと御叱りが来てボクの査定ピンチ!」

 少し顔を青くして機材を弄る少女に、すみませんとアズマは頭を下げる

 

 「しかも、キタカミトレーナー相手だと多分もうバズる絵面は撮れない

 ということで、みょーに伝承に造形ありそうなアズマ氏や現地の案内役のスグリ氏に手を借りて、動画シリーズ『ナンジャモ探検隊!キタカミの謎の巻』の撮影と投稿を行えば、皆目立つしハッピー!って訳」

 「スグリ君、大丈夫?」

 「お、おれ……ド、動画に出る!?

 是非!」

 おおぅ、とあまりの勢いにアズマは少しだけ引いた

 

 「おれも大丈夫です。けれど、一部についてはカットお願いすることになりそうですがその点は協力してください

 下手に全てを明かせば、問題になる事もありますから」

 父が、カロスで多くの人からバッシングされたように。少しの不安を覚えながら、アズマは協力許可を得た少女が早速予告編撮ろう!と看板へと駆けていくのを眺めていた




強い鬼の力を求めてオーガポン自身を見ず闇落ち方面に行く本編と違って覚醒するスグリ君は求められていない。けれども、「失礼な、純愛だべさ」する鬼さまを理解してるスグリ君は求められている……
フトゥー博士これは一体?


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vs りんご飴

「これが3つめ……あ、順番的には2つめの看板だ」

 と、山道から降りてきて、黒髪の少年は看板を背にそう告げた

 

 此処はキタカミセンター。社のような大きな建物と大きな境内がある場所。アズマ達はともっこプラザを離れた所からイベルタルでとっとと空を舞ってより近い3つめの看板を先に回り、もう一度ぐるっと山の周囲を飛び、山側からスイリョクタウンを挟んでプラザと逆にある山の麓気味の社まで来ていた

 

 「あ、スグリ君。動画としては此方が先に人々の目に止まるから、3つめ発言無しで言い直してくれるかな」

 「じゃ、撮るよー!ボクと逆に立ってー」

 「んだ!」

 なんてやって、看板をナンジャモに読み上げて貰い撮影する。そんな光景を、遠くで作業している白頭巾の人々がチラチラと眺めていた

 

 「よし、今日は此処までかな。改めて色々と聞かせて欲しいなスグリ君

 後は明日からも宜しくね」

 と言いながら、祭りの舞台を組んでいる人々にさりげなくアズマは少し近付く。もう明日の夜からオモテ祭りは始まるのだ

 

 「お、アズマ氏も気になる?」

 と、萌え袖をぱたぱたと寄ってくるのはナンジャモ

 「まあ、見るからにプラズマ団ですって人達が作業してたらね」

 「いやー、オモテ祭りがあるならウラ祭りも……ってそっちじゃない!?」

 「いや、オモテってお面の事ですよナンジャモさん。さっき楽土の荒地で見たじゃないですか、お面をする理由。あれにちなんだ祭りで、表裏ではないです」

 「あーなるほどー

 聞いたかな皆の者!特に水着のナンジャモウラ祭りはよ!って言ってた人は反省するように!チャンネルに『ぜったいれいど』飛んでくるからね!」

 ぽん、と手を叩かれるが、アズマは何か釈然としないなぁと首を傾げた

 

 近くの看板には鬼が四つの仮面で四種類の力を操れたこと、ともっこ三匹が三つの仮面を命を懸けて封じた事が書いてある

 

 けれど……荒地の看板に出てくる鬼は仮面を付けず真実の顔を晒す人間の魂を奪う存在。だから外で誰かが来たら仮面をしろという警告文になっていたが……

 人が仮面をしていないと襲う鬼。ともっこが話に出てくる看板に描かれている鬼とはどうにも毛色が違ってならないのだ

 仮面をしていなければ魂を奪うが顔を隠せば互いに会釈して通り過ぎる。確かにその鬼も仮面はしているような書き方だが、そんなイベルタルみたいな力を持つ鬼が、最初の看板では人々を(おど)かす、なんて悪戯っ子みたいな表現をされるだろうか。せめて(おびや)かす、ではなく?

 それにだ、他の看板の逸話では理由も分からず村で暴れる鬼を人々は恐れ、ともっこが仮面を封じて鬼を鎮めたと描かれているが、荒地の看板にはともっこは出てこない。何より、荒地の看板の鬼が村に現れたならばそれは村人の魂を奪う為だろう。その鬼が暴れていたならば真相は不明でも魂を抜き取る為にと書く筈だ

 父は確か仮面を喪い魂を奪えなくなったから命に関わる脅威ではなくなり、脅かして追い払うくらいのポケモンになったと推測していた……というのはアズマが読んだ資料に書かれている。が、どうにもアズマにはその結論がズレているように思えて仕方ないのだ

 

 だって恐らく仮面の鬼のポケモンの正体は……

 生真面目に設営を続けるプラズマ団な一団を眺めながら思考を纏めていたアズマは、不意に呼ばれた気がして振り返った

 

 ちらり、と緑色が見えた気がして……

 「ナンジャモさん。スグリ君を暫くお願いします」

 気が早いというか、オモテ祭りの行事の一貫である鬼退治フェスののぼりを"鬼退治"という言葉が気に入らないのか浮かない顔で眺める少年の事を一旦任せ、社を見下ろせるような位置から今一度心を整理しようと、アズマは山道への階段を駆け上がって……

 

 『ぽに?』

 居た。階段の上で何処か寂しげに、外套のような外皮を纏ったポケモンが木々の間に隠れながらお面を付けて社を見ていた

 

 「っと、君は」

 ほんの少しの警戒だけ持って、アズマはポケモンの前で片膝をつく

 このポケモンこそが仮面の鬼、素面の人の魂を奪う伝承の恐ろしいポケモンである、という可能性はあるのだ。まあ、多分そっちじゃないのだが

 

 「……お面、取り返しに来たのかな?」

 聞く内容は結構悪いこと。だから精一杯優しくアズマは問いかける。キタカミセンターには、ともっこが封印したとされるお面が安置されている。それを奪いに来た……ならば、一応敵意があるということだ

 

 『……が、がお』

 が、悲しげに鳴かれ、違うなと判断

 「じゃあ、お祭りが楽しみで来ちゃった?」

 『……ぽに』

 少しだけ寂しげに、お祭りで売ってる仮面の下でポケモンが鳴く

 

 「……大丈夫。仮面をしてれば、酷く迷惑じゃない限り友達だよ

 お互いに仮面をしていれば、その影が人であれポケモンであれ鬼であれ、仮面同士お祭りを楽しむのみ、だよ」

 言いつつ、寂しそうだけどお祭り自体は好きなんじゃないかなとアズマはこの時のために買い込んでおいたりんご飴を一本差し出した

 

 『……ぽにお?』

 「お祭りは明日だから、それまでの楽しみ」

 仮面で目線は見えないが、碧の鬼面が確かにバッグからりんご飴へと動いたのを見逃さず、アズマは飴をポケモンの外套の下……っぽい形状の手に置いた

 

 『ぽにおーん!』

 ……うん、祭り好きだなこの子、と軽く跳ねて喜ぶポケモンに頷くアズマ。りんご飴って、言っちゃ悪いが得体の知れない人工物だ。自然の木の実と違って直ぐには食べ物と認識できないのが普通の野生ポケモン

 が、仮面をしたこのポケモンは直ぐに喜んだ。つまり、割と祭り慣れしていて人と過ごした期間があるのはほぼ確実

 

 八重歯のような牙のある口で早速りんご飴を咥えるポケモンを見ながら、アズマはうーんと唸る

 

 ほぼ間違いないだろう。このポケモンは伝承の鬼だ

 ……ともっこと戦った方の

 

 恐らくだが、キタカミに鬼は二種類居る。一匹は目の前のぽにっとした脚以外丸っこい親しみある体系の人懐っこい仮面の鬼。そしてもう一匹が魂を食らう恐ろしい仮面の鬼だ

 同一ポケモンだとしたら、実は仮面は伝承に無い五つめがあって、それが魂を食らう面。その仮面が何らかの理由で破壊された結果、恐ろしさが消えた今のこの鬼になった……というところか。どちらにしても、今のこのポケモンには、そう危険がない

 

 「美味しい?」

 『ぽに!』

 右手を上げて喜んでくる姿にほっこりしながら、アズマは軽くスプレーを傷口に振りかける

 一瞬だけアズマを見たが、緑鬼はそのまま脚を投げ出して座り、りんご飴を食べる作業に戻った

 

 「……今の仮面も良いけど、本当の仮面はどうしたの?」

 意を決して、アズマはそう問い掛ける

 『ぽに?』

 小さく首を傾げる鬼。その頭を覆う、耳紐を頭の角に引っ掛けておいた仮面が、人間に合わせた構造故に斜めに傾き、星のような片眼がちらりと覗いた

 

 そう。可笑しいのだ。ともっこ伝説で鬼の手元から消えたのは三つのお面。水、岩、そして炎の力を持つものだ。伝承にある草木を芽吹かせる草の力を秘めた面は無くしていない筈なのだ

 だが、このポケモンはその力を秘めた仮面を持っていない。だから、形状の似たお面を持つアズマをお面泥棒と思った

 

 となれば、だ。誰かお面を奪った人間が居る。じゃあそれは……となった時、今のアズマには答えを出せない。かつてのプラズマ団ならば兎も角、今もバッシングを受けるの覚悟でプラズマ団やってる人なんてNを心から信じて贖罪に走ってる人間ばかりなのだからそんな人々がポケモンの大事なお面を強奪するとか有り得ないだろうし、村人は鬼を恐れてすぐに逃げるだろう。スグリなら鬼好き故に逃げないかもしれないが、ならば鬼さまから仮面を取る筈もない

 ポケモン……としてもお面を欲しがるポケモンなんてほぼ居ないだろう

 少しでも情報が得られれば、と思ったその瞬間

 

 「アズマさん、待って欲しいべ」

 『ぽ、ぽに!?』

 階段を登る足音と人の声にびっくりしたのか、ポケモンは跳ね起きるとそそくさと山へと駆けていってしまった




なお、原作のぽにっとした鬼にりんご飴は効きません。


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vs 劣等感

「ああ、スグリ君と」

 彼から鬼さまと伝承の鬼を好いていることは聞いた。ならばいっそ逃げてしまったあのポケモンを追いかけようか

 そう思ったアズマだが、黒髪の少年と共に階段を登る30くらいの男を見てそれを振り払った

 

 男の外見は正にプラズマ団。ほっかむりというか頭を覆う帽子までしている

 「えっと、何とお呼びすれば?」

 「私は鳥尾で良いよ」

 「トリオさん。どうかなされたんですか?」

 「いや、今日の作業終わりに、話しかけられて」

 微笑むトリオに、アズマはそうなんですかと頷く

 

 「トリオさんは、どうして仲間と此処に?」

 このキタカミの里は、アズマも体験したが余所者を嫌う。なのに、プラズマ団は受け入れられていた。それが不思議で首を傾げる

 「この子」

 『にゃふー!』

 言われ、ボールから飛び出すのはしなやかな体の黒い大猫、レパルダス

 「と共に、里帰りですよ。プラズマ団が解散した以上イッシュには居られず、故郷キタカミに戻ったんです」

 「あ、元々スイリョクタウンの出で。ならば受け入れて貰える訳ですね」

 うんうんと頷くアズマ

 

 「そして、かつての伝手を使って誰か今年のオモテ祭りのためにと言えば、何人か来てくれた訳です」

 そう告げて後ろを振り返るトリオ。確かに数人のプラズマ団が働いている

 監督のように自分では手を動かしていない人も居るが

 

 「あれ?一人サボってません?」

 「遠目では分からないかもしれませんが、彼はかつてのプラズマ団事件の折に大怪我を負ってしまい、今も……という人らしいのです

 残念ながら怪我する前の姿は知りませんが」

 言われて遠くの彼を見れば、確かに杖をついているし、顔も包帯巻きだ

 

 「オモテ祭りの事を聞き、仮面を付ける祭りであればこんな自分も楽しめるのではという意図と聞けば邪険にも扱えず」

 「ああ、確かに」

 と、アズマは頷いた

 

 「トリオさん、ところでスグリ君と共に何をしに?」

 「いえ、余所者は受け入れにくい風土から、他所を知る私が人となりを見てきてくれという無言の圧が」

 「おれ……もっとアズマさんの話聞きたいし」

 少し、アズマは鬼が山の方を見る

 今は多分、あの子を追いかけなくても大丈夫だ。傷付けて仮面を奪った犯人が誰にせよ、真っ昼間から動くことはないだろう

 勝負は夜、ならば今は少しでも受け入れて貰えるように頑張るべき

 

 そう思って、アズマは立ち上がった

 「じゃあ、行きましょうか」

 

 そうして、暫く後。アズマはというと……

 

 「えへへ、やっぱり凄いや」

 スグリ相手に1vs1の軽いバトルをこなしていた。折角の舞台を壊さないように加減して、メガヤンマ相手にゾロアのダイナミックフルフレイム一発。空に向けて打ち上げて一撃勝利

 「おれも……使えるかな?」

 「うーん、おれはある種特例っていうか、伝説のポケモン由来のオーラで自力発動してるけれど、普通の人はアローラ地方で試練をさせて貰ってZクリスタルを得ないと無理、かな?」

 「頑張れば、取れる?」

 「君なら取れるかもね」

 と、スグリが出して遊ばせているポケモンを見ながらアズマは告げた

 メガヤンマ、カジッチュ……だと思うポケモン、そしてノズパスとコノハナ。気になるところとしてはタイプをバラけさせたいような手持ちの割に草タイプが二匹ってところだが、アズマ自身悪タイプが三匹手持ちに居るのでそこは突っ込まない

 絆ってあるしな、沢山捕まえて育ててって人でなければ良く手持ちのタイプは偏るものだ

 

 それよりも……

 「その子は、出さないの?」

 ベンチに座ってアズマも三匹を出し、特にモノズがノズパスの頭の上で前足を上げてポーズを取る姿とか眺めながらアズマは横の少年を見た

 そう、あと一匹、スグリは手元にボールを持っている。なのに、そのポケモンだけは外に出してないのだ

 

 「アズマさん。アズマさんはわやじゃ強いから、強いポケモンを連れてる?」

 「いや、どうしたんだい?」

 ぽふっとボールから出てくるのは、しなやかで長い体をした愛らしいポケモン。最近野生の個体をキタカミで見たオオタチだ

 「オオタチだったんだ。こういう時には出してあげた方が良いよ。うちのベルみたいに外に出したら事件ってポケモンじゃないし」

 少し不満げに揺れるイベルタルのボールを撫でながら、アズマは呟く。膝の上にディアンシーを乗せているため、怖がるからベルトの後ろの方だ

 可哀想だが、外に出すだけで問題のポケモンだから夜までは待って欲しい。許可も取ったし、夜に山を探索する際には出してやれるから

 

 「でも、オオタチって弱いから……」

 沈んだ表情のスグリ。長い前髪で黄色い瞳が隠れる

 「確かに、バトルをさせたらそんな強い種族じゃないね」

 でも、とアズマは彼の前髪をかきあげて瞳を見た

 

 「学校通ってるって言ってたよね。何か、友達に言われたの?」

 「こんな弱いポケモン使ってるから雑魚なんだって、クラスで一番強い人に言われた

 おれ、強くなりたい。だから……」

 ふぅん、とアズマは冷たく空を見た

 

 「ナンジャモさん、どう思います?」

 「え、ボク?」 

 動画編集をしていたっぽい少女が、突然話題を振られてびくっと震えた

 どうでも良いけれど、萌え袖で作業できるのは凄いと思う

 「まあボクは」

 ぽむっとナンジャモが掲げたボールから出てくるのは青い耳した電気ネズミ

 「マイナン、ですか?」

 『マイーマイー!』

 ぴょんぴょんと短い手足で跳ねるマイナン

 

 「そうそう、マイナン、充電お願いねー

 って感じで、色々連れてるしこの子配信に映ると可愛いって盛り上がる!皆の者満足!って事で」

 うんうん、とアズマは頷く

 「おれも大体同じ意見です

 スグリ君。確かにね、オオタチってポケモンはバトルではそんなに強いポケモンじゃないかもしれない」 

 がおー!と小さな前足を広げて可愛らしく威嚇するオオタチに向けて木の実を投げながらアズマは告げる

 「でも、それだけじゃないだろう?

 君はさ、どうしてオオタチをゲットしたの?」

 「おれ、弱くて……ポケモン捕まえられられなくて

 そんな時、オタチが寄ってきてボールに入ったんだ」

 「だから、頑張ろうって思えた?」

 こくり、と黒髪の少年が頷く

 

 「そっか。なら大事にしてあげないと

 おれから言えることは簡単だよ。種族として弱いポケモン使ってる奴より強い種族使ってるから自分が強いって言う奴は、確かに短絡的に今バトルだけを見れば強いかもしれない

 けれども、ポケモンと共に生きるトレーナーとして全体的に見た時はね、君より遥かに弱い。勝てるさ、君とオオタチ達なら。ポケモンが強いだけで、トレーナーが弱すぎる。そんな態度じゃね、いざって時にポケモンは応えてくれないよ」

 オオタチは怖がって近付かないのでイベルタルのボールと膝上のディアンシーを撫でながら、アズマはそう締めくくった

 

 「それにね、バトルで一見活躍できなさそうなポケモンの活躍の場を作ってやるのもトレーナーの腕。例えば、オオタチって何が得意?」

 「おれの……部屋、てきぱきと片付けて、くれて」

 「じゃあ、バトル中に敵が撒き散らした毒とか、まきびしとか、或いは『ステルスロック』の岩とか……皆が戦いにくいって思いそうなものも、しなやかな体で間を縫って手早く『』お片付け』してあげられるかもしれないね

 まあ、1vs1なら意味はないけれど、フルバトルみたいな時なら、相手が作ろうとした有利なフィールドを何とかして次のエースが存分に活躍できるようにしてくれる、優秀な先鋒って言えるんじゃないかな?」

 まあ、ベルとか伝説クラスだと圧倒的な力で全部押し切れてしまうのだけれども

 

 「後は……ナンジャモさんは何か思い付きます?」

 「バズる!とかそっち方面でならマイナンと同じで大活躍出来そうかなって

 ポケモンとの過ごし方はバトルだけじゃないし」

 まあ、それも確かにとアズマは頷いた。実際の人気者から言われるのと、世間的には知名度0近い奴が言うのとでは、説得力が違う

 

 「……それ、アズマさんもナンジャモさんも強いから言える……じゃん」

 が、スグリの顔は晴れない

 『(怖いけど強くはありませんわよ?)』

 それに対応するのは実は食べたかったらしいりんご飴を剥くなり咥えてご満悦のディアンシー

 「……わやじゃ」

 「おれは強くはないよ。ポケモン達が居てくれて、だから此処に居られるだけ」

 「……そん、なの……」

 「大丈夫だよ、スグリ君。誰だってさ、強くなれるから」

 一呼吸おいて、アズマは少年に語りかけた

 

 「スグリ君、お面に詳しい人は知ってる?」

 「おれのじいちゃん、お面職人だけど……何か」

 「きっと君にも関係あるから、紹介してくれないかな?

 ほら、伝説のポケモン研究者を助けると思って」



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vs ネット掲示板

「どうだった、スグリ君?」

 公民館の一室。アズマはナンジャモから電波を借りて色々と確認しながら、ドアを遠慮がちにノックした少年を招いて問い掛けた

 

 「あ、ドア開けてくれて有り難うな、ハラバリー」

 寝る時は別々。だが作業するような大きな机のある部屋は一個だけ貸して貰えたのでナンジャモと一緒だ。なので扉の前でぶよぶよとしていた電気蛙が小さな手で扉を押してくれていたのに礼を言い、アズマはりんご飴を投げる

 『モノ!』

 その棒の先を咥えたモノズが、ひょいと蛙の口に向けて本体を差し出した

 

 「じいちゃん、明日の朝会ってくれるって」

 「そうか、有り難うね

 これで少しは色々と話が進展しそうだ」

 これで、お面職人すら何も知らなかったら……と、アズマは少し前の管理人兼村長の態度を思い出す

 あのポケモン……仮面の鬼の為にと交渉しようとはしたものの、余所者は泥棒ですかの一点張りで仮面をポケモンに返すために渡してくれどころか、見せてくれという事すらとりつくしまも無く却下してきたあの態度。あれを崩すのは一筋縄ではいかないだろう

 それに、緑色の仮面の今の持ち主も全く手掛かりがない。割と手詰まりだったのだ

 

 「おれ、役に立ってる……?」

 「勿論。誇って……ってほど、おれが偉くないか。でも間違いなく君は偉いよ」

 それに、とアズマはホロキャスターを見た

 

 「君は何か真っ当に人気だし?」

 「わやじゃ?」

 「ボクは無関係だからねアズマ氏!」

 言われて苦笑しながら、アズマはホログラムの画面を叩いた

 

 「アズマさん、何それ」

 「あ、これ?ホロキャスターっていうカロスではメジャーな通信ツール」

 「アズマ氏のことだから最新型でお高いんでしょう?」

 合いの手を入れるナンジャモに軽く頷く

 「去年モデルですね」

 「わー意外。最新型かと」

 「いや、一年ごとに買い換えてどうするんですか。幼馴染の登録とかは全部昔の機種から引き継ぎですけどこいつ容量2TBでメタグロスに踏まれても軽い傷で済むってオーバースペックモデルですよ?」

 二人の目が点になった

 

 「わやじゃ?にてら?」

 「あ、馬鹿みたいな容量って思えば良いよ

 そういえばスグリ君は持ってないの?」

 「ロトムスマホ、ねーちゃんが反対することもあって持たせてくれなくて」

 「お姉さんが居るんだ」

 「ねーちゃん、横暴だから」

 言われ、でも少し危ういからアングラなものに嵌まって大事になりそうって不安は分かるなとアズマは曖昧に笑う

 

 「まあ、それは良いかな。スグリ君は、ネットの海でも結構大人気だよ」

 「じゃ?」

 「ほら、言ったろ?ナンジャモさんが動画上げるって。その反応とか見てたんだけど、そこに映る君は可愛いって評判なんだ」

 と、アズマはとりあえずといったように画面を操作して幾つかの動画を開く

 が、それを言われた少年は少し俯いてしまう

 

 「……っと、姫は最初の動画から可愛い可愛い人気だから……」

 更に言及しなかったからか机の下でローラースケートでくるくる回るディアンシーにまで足を叩かれ、アズマは顔をしかめて補足した

 

 「可愛い……おれ、可愛いだけ……?」

 「初期の印象だからね。ってか、おれなんて酷いよ?」

 と、アズマは笑いながらさっき見た掲示板の己の顔がサムネイルになっているナンジャモ絡みの掲示板のスレッドを思い出していた

 

 「平均的なん民

 全盛期のなん民伝説を事実だと知らしめた男

 ナン虐の化身

 ドオーの擬人化

 キタカミドオー

 

 って感じで、散々に遊ばれてたよ。いやナンジャモさん、何でおれドオー扱いなんですかあれ」

 ちなみにだが、ドオーとはヌオーの親戚とされる主にパルデア地方で確認されるポケモンだ。ぬぼーっとした何も考えてなさそうな大きな顔が一部で人気のサンショウウオのようなポケモンで、毒のある大きな棘を背中から出せるのがヌオーとの大きな差別化点

 

 「あはは、ボクのジムにチャレンジする人の大半に対しては、このハラバリーを使うから

 この子ってばちゃーんと対策したドオーに対しては何一つ打つ手がないんだよねー」

 ぶにっとした電気蛙に抱き付きながら、ナンジャモは告げた

 

 「んで、ドオー氏=このナンジャモを苦戦させて負かす相手の象徴!って事で、皆みょーに好きなんだよね、ドオー」

 「いやドオーに完封されるってそれで良いんですか」

 「ん?ボクってばジムリーダーだし?

 そこそこ有名な話を聞いてハラバリーにぜーったい負けないようにドオーを捕まえてきて、残るボクのポケモンにも勝てるような状況を作れるって対策を取れるなら、6つ目くらいまでのバッジならもうあげちゃってオッケー!って判断かな?」

 言われ、アズマはそういやそうだと頷いた

 相手はジムリーダーだ。寧ろ勝つよりも本来はそういったチャレンジャーの資質と実力を見極めるのが仕事。負けて良いというか、ある程度合格の相手には負けてあげるべきなのだ

 「あ、勿論ハラバリー対策だけしたからって勝てるほどボクは甘くないけど

 アズマ氏にスグリ氏、パルデアに来たら是非宜しくねー!」

 あ、と差し出された萌え袖に目線が行くスグリを、アズマは少しだけほっこりと眺めていた

 

 そして翌朝、アズマの前には公民館に尋ねてきたお面職人が居た

 ナンジャモは……早起きだ。アズマが起きた時には既に機材を見ていて、ショートスリーパーだからと笑っていた

 「お面職人の方ですよね?」

 「孫を見てくださっているようで。しかし何の用ですかな?」

 言われ、少しの緊張を頭を机の下ですりすりしてくるモノズでほぐしつつ、アズマは老人の目を見て告げた

 

 「鬼の伝承について、何か知りませんか?」

 「知らんの。知っておるのはあの看板の話のみ」

 が、その瞬間、目が泳いだのをアズマは見逃さなかった

 

 「……仮面を付けてきて」

 と、ボールを撫でるアズマ。これでちゃんと伝わるかは未知数だが、賢くて言葉すら時折話すこの子ならと信じてアズマは天井に当たらない程度に加減してボールを投げた

 

 『ぽになの!』

 果たして、ボールから飛び出してくるのは、インパクト重視か大きめに再現したお面を被ったあの星の瞳の緑鬼

 勿論本物ではなく、ゾロアのイリュージョンだ。割と何でも出来てアズマ自身アークの手の広さには驚いている

 

 「その仮面、オーガポンさま!?何故(なにゆえ)……」

 驚愕の表情で固まるお面職人に、アズマはやっぱり知ってましたねと強い視線を向けた

 「出会ったことがあるだけです。こいつ自身はゾロアのイリュージョンてすよ」

 『騙されたなのー!』

 ぽん!とすぐに姿を戻すゾロア。物欲しげにアズマの指先を舐める姿に朝御飯あるからこれだけだよ、と金平糖を3粒ほど指先に乗せれば、指ごとしゃぶられる

 そんな黒い小狐の頭を撫でつつ、アズマは改めて墓穴を掘った老人を見据えた

 

 「オーガポンさま。言質は取りました。おれも父も、伝承の鬼の名前を知らなかった。いえこの村の殆どの人が知らないでしょう

 それを知っているということは、あなたはおれ達の知らないことを伝承している。違いますか?」

 「……違う」

 「違いません。そもそもスグリ君からして可笑しかった……のはまあ、伝承の強い鬼への憧れで済みますが、あの子を『オーガポンさま』と呼ぶのは知らない人の憧れでは済みません

 教えてくれませんか、そのオーガポン自身のためにも」

 

 「分かり申した

 姿を真似られるということは、オーガポンさまに出会ったという事……まだ、この辺りに居られたのですな」

 「りんご飴を喜んでたり、祭りを気にしてましたよ」

 「そうですか……では、話さない訳にもいきますまい」

 老人は閉めた公民館の部屋の扉を見る

 

 「しかし、今から話すことはこの村にとってあまり良い話ではありません。他言無用で」

 『ロア!』

 肩に乗ったゾロアに吠えられ、アズマは老人の声を遮った

 

 「待ってくれませんか。スグリ君にも」

 「あの子には(いず)れ」

 「あの子は特別であること、強くある事に対して結構な思い入れを持っています。まだ早いって遠ざけていたら、何処かで溜め込みすぎて爆発してしまいかねません」

 「うんうん、ボクから見ても、遠ざければ遠ざけたで危ないタイプ。自分が知らされなかったからって、知れるだけ強くなんなきゃって暴走させるくらいなら、最初から教えるのも手かな?

 触れさせなきゃ怖さも分からないし成長しないよ?ボクむかーしのネット黒歴史とか探せば転がってるけど、だからなん民の皆の者が着いてきてくれる今のボクがあるし」

 「なので、どうせもう関わりを持ってしまったんです。伝えてやってください」

 アズマはナンジャモの横で深々と頭を下げた




このままではスグリの切り札がカミッチュじゃなくなってしまうっチュ……
メガヤンマがエース降格とか由々しき事態ヤンマ……これじゃ勝てないヤンマ……

このままではスグリの切り札がオオタチ翔平、通称オオタチサンになってしまう……


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vs 真実の伝承

『(ひ、酷いですわ……)』

 アズマの膝で、ぷるぷると震えるディアンシー。あまり興味無さげにふさっとした尻尾をゆらゆらして欠伸をする肩のゾロア

 ニダンギルは何かを訴えるようにアズマの周囲を旋回し、イベルタルのボールがカタカタと揺れる。モノズは……ボールの中で反応を見せない

 

 が、大体皆言いたいことは同じだろう

 「やっぱり、鬼さまが正しかったんだ」

 拳を握り、机の上で震わせるスグリ。きっと目線を上げ、長い前髪の下から爛々と光る眼を覗かせる

 「仮面を奪った三匹に対して反撃したのを、ああ勘違いされる……うう、ボクそれ聞いちゃうと涙出てくるよ」

 

 そう、お面職人が語ってくれた彼等一族に伝わる昔話は、ともっこ伝説の否定と、アズマの推測の肯定であった

 

 昔、男とポケモンがキタカミの里にやって来た。人々は余所者を受け入れなかったが、二人お互いが居れば生きていけると、彼等は鬼が山で暮らし始めた。が、其処は元々鬼の伝承の残る地。仮面を付ける伝統や、仮面さえあればある程度は無礼講という空気があった

 だから、かつてお面職人の先祖は男が持ち込んだという輝く結晶を使い、彼等が皆が仮面をする祭の時期くらいは人々に紛れられるように四つの仮面を作り、贈った。その仮面を被り、男とポケモンは人々と祭の間くらいは交流するようになった

 しかし、輝くお面は有名となり、遠くから何匹かの欲深いポケモンが仮面を欲してやって来た。男はその欲深いポケモン達から仮面を守ろうとして行方知れずとなり……

 出掛けていたポケモン……いやオーガポンが住処に戻ってきた時、其処には争った痕跡と、男が付けていた仮面だけが遺されていた。オーガポンはその仮面を被り、残り三つのお面を手に村ではしゃいでいた欲深いポケモンを倒した。その際の戦いぶりがあまりにも鬼気迫っていた為、人々はオーガポンを恐ろしい鬼と恐れ、あの三匹が村を鬼から守ろうとしたと考えて今のともっこ伝説が出来たのだ、と

 

 要約すれば、そんな話である

 「っ!アズマさん!」

 力強く話しかけられ、アズマはん?と少年の方を見る

 「鬼さまと会ったって、本当ですよね!?」

 「うん、きっとこの辺りに今も居るんだよ」

 「なら、仮面返してやんないと!鬼さまは孤独で……何にも悪くなくて……」

 ぶつぶつと、自分なりに結論を出そうとするスグリ。そのまま飛び出して行こうとして

 

 「ナンジャモさん」

 「オッケー!」

 扉に飛び付こうとしたスグリは、自分より背の低い少女に衝突して止まった

 「あぶっ!?っ!何で!」

 「落ち着くんだよ、スグリ君」

 「全部あいつらが悪いって分かったのに!鬼さまは何も悪くないのに!」

 「だから、落ち着け」

 ほんの少し、アズマは凄む

 自覚的に放つダークオーラ、ディアンシーがびくっと震えてバッグに顔を突っ込み、スグリがひっ!と一歩後退りする

 

 「これから折角のオモテ祭りって時にね、いきなり今の祭を否定してどうこう言い出しても、聞いちゃくれないよ

 確かに機会を見て、キタカミセンターに封じられた仮面を返してやるのは必要だと思う。元々オーガポンのものだからね

 でも、今じゃない」

 「けんど」

 「そもそも、人々があまりにも恐れる程に怒りで暴れてたから、元々オーガポンのものって分かってる仮面を三匹のともっこが封じて恐ろしい鬼の力を削いだなんて逸話が出来ちゃうんだよ。オーガポン側も、きっとやり過ぎてる、何も悪くないとまでは言えないよ」

 まあ勿論、今の話だとより悪いのはともっこに決まってはいるのだが

 

 「第一ナンジャモさん、どう思った?」

 「鬼さま可哀想!」

 「じゃあ、看板を読んだ時はどう感じてた?」

 「ともっこさまカッコいい!」

 ノリ良く突っ込んでくれる少女に、流石配信者とアズマは満足げに頷いた

 「そう。スグリ君、君が今聞いたのは『お伽噺』だよ。最初に今の話聞いてて、実はともっこさまは悪い鬼から仮面を奪って力を削いでくれた英雄だったって表向きのキタカミ伝承を後から聞いたらさ、感想逆になるだろ?」

 

 「……でも、でも!」

 ぎゅっと拳を握り、扉を叩いて少年は唸る

 「君の気持ちは良く分かるし、おれも同じだよ。でも、今やるべき事は祭を目茶苦茶にすることじゃなく……オーガポンに会ってやること

 仮面を返せってセンターに言うのはさ、村の皆を説得できるだけの要素を用意してからだろう?」

 「アズマ氏、アズマ氏の感想って?」

 「オーガポンの事は信じてるよ。けれど、おれ自身はともっこがさっきの伝聞通りの輝く仮面を欲しただけの欲深いポケモンだとは信じきれない

 人間で言えば噂に聞くゲーチスみたいな畜生、そんなポケモン達とは思えないんだ」

 遠く、ともっこプラザの方を……(壁で見えないけれど)見ながら、アズマはそう告げた

 

 「アズマさん……」

 「さてスグリ君。今日はオーガポンに会いに行く事にするけれど」

 と、立ち上がりながら自分は一歩引いた態度のお面職人に対して、アズマは振り返った

 

 「すみません職人さん。少し頼み事をしても?」

 「出来ることであれば、じゃが」

 「出来ることです。金はお支払しますので、仮面を作ってはくれませんか?」

 「仮面?アズマ氏、いきなりの注文どうした?」

 二人して首をかしげられ、ほらとアズマはゾロアを撫でる

 

 『「つまりぽになの!」』

 ぽん!と黒狐がオーガポンへとイリュージョン。けれども今回はさっきと違って仮面を被っていない出会ったままの姿だ

 「実はおれが出会った時、オーガポンは話では手元に残っているはずの男のしていたお面……碧の仮面すら無くしていました

 思い出のお面は返してやれるように動きます、碧の仮面も探します。でも、それ以外に……寂しくないように、新しい仮面を作ってやりたいんです

 スグリ君と共にてらす池で結晶取ってきますから、作ってはいただけませんか?」




『作るなら歴戦の仮面とか良いと思いますよ。フェアリー付与、A+40S+10、特性が不撓の剣になりテラスが鋼。面影宿しでSが1段階上がりますよ。今なら巨獣斬も教えましょうか?』
『出禁不可避なのである。して、偉大な王を模した豊穣の仮面とかどうであろう?』
『プリズムの……仮面……。普段はエスパー、特性はファントムガード。テラスタルでドラゴンになり面影宿しで全能力を……上げる……』

なお、全部冗談です、出てきません。アズマ君に謎テレパシー送ってるだけです。


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vs ミロカロス

「サンキュー、助かったよ帰りもお願いな」

 と、不安げにその頭の角のような突起を擦り付けてくるイベルタルを宥めてボールに戻し、アズマは目前にまで迫った山頂を見上げた

  

 「おれ……此処までは来たこと無いから」

 横で震えるスグリ。ナンジャモは居ない

 同じ余所者ならボクでも行ける?と彼女は山の中腹でサザンドラに乗って別れた。スグリの持ち物である仮面を借り、自分でオーガポンと出会ってみたい……そうだ

 ついでに言えば色々と身バレ怖いからねーと笑っていた

 

 そう、身バレ。今から向かうてらす池は、話によれば死んだ大切な人に逢えるかもしれないという逸話があるのだとか

 とすれば、もしかしたら亡くなったナンジャモの曽祖父辺りが本名を呼んで出てくる事で、プライベートが確定するとかそんな事故が起こる可能性もあるのだ。オフの姿を極力見せずに配信者兼ジムリーダーというキラキラの姿を見せてる彼女は、警戒して来ないのもアズマには納得できる

 

 ほんの少しの期待を、父のトリミアンが幻で良いから見えないかという願いを抱きながら、あまり其処に居るポケモンを刺激しないようにアズマは山頂に足を踏み入れた

 

 「ワタクシに会いに来たのですか」

 が、先客が居た

 「わやじゃ、お客さん?」

 「……何故此処に居るんですか」

 それは、杖をついた男。包帯で顔を覆い、今は作業ではないからかローブを羽織ったプラズマ団

 「そのローブ、幹部級に配られていた。そんな人が、何故」

 警戒を強めてニダンギルのボールを後ろ手に握り、アズマは相手を見る

 

 ローブを羽織る偉そうなプラズマ団。とはいえ、今もプラズマ団の格好をしている人間なんて基本善人だからNの理想を信じた者ばかり。だというのに……

 何処か、嫌な雰囲気をアズマは感じていた

 

 「アズマさん?」

 「何だろう、Nさんのような雰囲気を感じない」

 トリオと名乗った彼は、ポケモンへの愛情を感じた。が、何故だろうか、目の前のプラズマ団にはあまり感じなくて……

 

 「あなた、は」

 「来ますよ、ワタクシを助けなさい!」

 「っ!」

 突如として湖面が揺れたかと思うと、光を放つ結晶を水底に輝かせる湖の底から水しぶきと共に巨体が躍り出た!

 

 『みろろろろろ!』

 それは、しなやかな体躯と美しい鱗を持つ、水竜を思わせる優美なポケモン

 「ミロカロス!」

 とても有名なそのポケモンの名を、アズマは叫んだ

 

 「っ!ギル!」

 優雅に体躯で軽くとぐろを巻き、水竜が湖面に降り立つ。更に、吠えると全身に淡い光を纏った

 

 「アズマさん、このポケモンさ」

 「構えてスグリ君、オーラを解き放つってことは、本気で来る!」

 特別な力に晒されたポケモンはオーラを纏い力を増すことがある。トレーナーのポケモンではまず起こらない現象だが、こうした場のポケモンなら起こしたり出来る

 

 「ギル!舞って!

 そしてプラズマ団の」

 「アナタごときが覚える必要はありませんが、ワタクシの名はコードと」

 「コードさん!戦えるならポケモンを!無理そうなら下がって見ててください!

 何故ミロカロスがこんなに荒れたかは知りませんが……今は!」

 相棒に現状打破のためのつるぎのまいを指示しながら、アズマは叫ぶ

 

 いや、打破も何もイベルタルを出せば圧倒して勝ってくれるだろう。が、そもそもミロカロスは好戦的なポケモンではないのだから状況が変だ。そんな時に加減を間違えば瀕死ではなく死をもたらす過剰戦力イベルタルなんて出せるわけがない

 

 そんなアズマを他所に、前髪の長い少年は横に駆け寄り、包帯の男は優雅な程に堂々と杖をついて背後に下がる。どうやら、戦ってくれる気は無い、ようだ

 

 「お、おれもけっぱる!メガヤンマ!」

 羽音を響かせ、現れるのは大トンボ。けれど……

 「スグリ君、それは」

 『ろろろろぉっ!』

 光が一閃する。高く掲げられた首。水竜の口から凍てつく光線『冷凍ビーム』が放たれ、一瞬で大トンボを氷付けにした

 

 「メガヤンマ!?な、ならノズパスに」

 「ギル!守ってやってくれ!」

 『ミロォッ!』

 思わずといったように少年がついさっき打たれた氷タイプの技に耐えられそうな硬い岩のポケモンを出した瞬間、水竜の口から煮えたぎる水の奔流が噴き出した。『熱湯』だ。当然だが湖に暮らすミロカロスは水タイプ、岩タイプには強いポケモンだ

 

 というか、だ。この一瞬の攻防で分かるが、スグリの手持ちは正直言って水タイプのポケモンにとても弱い。オオタチ以外全員水か水タイプが覚えがちな氷技に弱いのだから

 

 が、それを突き付けるのは今は幾らなんでも酷。何より、折れられたらアズマ自身勝つのが難しくなる。そう信じたトレーナーの意を汲み取って、熱い濁流の前に立ちはだかった二本の剣がバリアを貼ってギリギリでそれを受け流す

 

 「あ、アズマさん……おれ」

 「今はやれることを、スグリ君!」

 「んだ!」

 叫ぶ間に、熱湯の放射が終わる

 

 「けんど」

 「ちょっとだけ時間をくれる?」

 「……おれ、頑張るから」

 『みろろろろろ!』

 吠えて一瞬水に潜り、ミロカロスは水面から頭だけ出すと、二度目の『熱湯』を放つ

 「けっぱれ!コノハナ!」

 が、それが届く前にノズパスは消え、入れ替わりに姿を見せるのはどことなく人型のポケモン、コノハナ。更に育てば天狗のようなダーテングとなり、器用に色々とこなす凄い奴になるのだが……

 

 とはいえ、草タイプのコノハナは、噴き出す熱湯を浴びて軽く顔をしかめるも、ぐっとその足を踏ん張った

 成程、野生のポケモン相手ならばころころ手持ちを飛んでくる技に対して好き勝手有利に変えていくのもルール違反ではない。公式戦では突然タイムも取らずに入れ換えるのはマナー違反とされるが、それはあくまでも公平ルールの話

 ならば熱湯を見てからコノハナを出しても構わないし、相性有利な技を受けて時間を稼いでくれる!

 

 「吸え、ギル」

 その間に、アズマは己の手にニダンギルを握り、手となる布に絡み付かれる

 生命力を吸い取るヒトツキ一族、その真髄をもって生命力をオーラに、力に変えて……

 

 『ロォォッ!』

 更に飛んでくる冷凍ビームをノズパスが受け、今度はコノハナだと思ったのか更にもう一発『冷凍ビーム』をミロカロスが放つ

 しかし、スグリは構えたボールを仕舞い、ノズパスに受けさせた。ノズパスは岩タイプ、コノハナに比べて冷凍ビームの効きは遥かに悪い

 

 「オッケーだスグリ君!

 解き放て、ギル!『全力無双激烈っ!剣』っ!」

 その間にアズマ自身の生命力を吸い、限界を越えたオーラの剣となったニダンギルが水面から飛び出したミロカロスへと突貫する!

 

 「いっけぇ!」

 が、その瞬間。水竜の全身の鱗が眩く煌めき、宝石と化した

 『みろろろろろかぁぁっ!!』

 桃色に輝く不思議な鱗、頭に生えるのはハートの結晶

 この現象はナンジャモが見せてくれた……テラスタル現象、そのフェアリータイプ版

 

 『ろかぁぁぁぁぁっ!』

 輝く鱗がオーラの剣の切っ先を防ぎきり、凪ぎ払うように放たれる熱湯が纏めて吹き飛ばす

 

 「ギル!」

 トレーナーの声に反応したのか、水圧に吹き飛ばされたニダンギルは空中で体勢を立て直すが……

 『ノオォ』

 ノズパスはそうはいかない。前のめりに大地に倒れ伏す

 

 「っ!」

 そして、アズマは改めて頭を振ってダメージを逃しながら輝くミロカロスを見た

 

 「ああアズマさん!?」

 「っ!テラスタル、フェアリーか

 そこまでされたら、どう勝つ?」

 宝石のような鱗は眩さを増している。ミロカロスの特性、不思議な鱗か発動してエネルギー遮断性能が上がっているのだろう。となれば、生半可な技ではミロカロスを倒せない

 が、だ。正直なところアズマにはあまりフェアリーへの有効打が無い。さっきの全力のZ技もフェアリーに弱い格闘タイプだ

 

 ニダンギル自身は有利な鋼タイプではあるものの、有力な鋼技は覚えていない  

 

 『みろろろろろ!』

 優雅に、追い払うようにとぐろを巻いた水竜が吠える

 が、その瞬間

 

 「全く、使えない少年達です。ドドゲザン、『アイアンヘッド』」

 突如ボールから飛び出してきた頭に大きな刃を携えたポケモンの振るう頭刀の一撃が、不意を撃ってミロカロスの首へと突き刺さった




注意:この世界のテラスタルは体内エネルギーのタイプに異常を起こしてタイプを変えている性質から状態異常扱いのため、不思議な鱗、根性などの特性の発動条件を満たします。が、ゲームではそんなシステムではありません、独自解釈です。ご容赦お願いします。

ちなみに、現状出てるプラズマ団の二人は一応名前を音楽関係にしています。
コード……和音……その中でも最低の音程は増4度……低い方がソだと読み方はドイツ語でゲーツィス……
なお、アズマ君は暫く気が付きません。


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vs サンドイッチ狂い

『ドゲ、ザン!』

 頭を大きく振り抜いて、片手を前に突き出し武将のようなポケモンが大見得を切る

 

 「ドドゲザン、そんな暇はありません」

 鋼の一撃、アイアンヘッド。フェアリータイプの力を身に纏ったからこそ強烈に響く一撃に大きく吹き飛ばされたミロカロスは、湖の中ほどに墜落した

 

 結晶はボロボロに砕け、テラスタル化は解け……けれど、ふらふらと頭を揺らしながら水竜は此方を見据えた

 

 「しぶとい奴です」

 かつん、と杖が石の地面を叩く音がする。コードが近付いてくる音だ

 

 ……ドドゲザンなんて強いポケモンを持ってるなら最初から協力して欲しかった。と思いつつ、アズマは目の前の頭刃の武将を見る

 

 『ドドド』

 アズマを見て、何かを訴える眼をしたものの、そのポケモンはすぐにミロカロスに向き直る

 

 「止めを」

 『(ま、待つのですわ!)』

 が、構えるドドゲザンの前に、アズマのバッグから小さな影が降り立った

 「姫、相手は水技使いだから危ないよ」

 『(だ、大丈夫ですわ……み、み、みず……くらい……)』

 「……ギル、抱えてあげて」

 やはり岩タイプゆえか湖の畔で少し震えるディアンシーの体を布で挟み、ニダンギルが持ち上げた

 

 『みろろろろろ!』

 『(わたくしに任せるのですわ。少し落ち着いた今なら、お話くらいやってみせます!

 あのNには敵わずとも、姫の威厳と交渉を甘くみては困りますわよ)』

 と、威勢の良いテレパシーは送りつつも、小さな宝石の姫はアズマへと手を伸ばした

 

 「そうだね、これ」

 アズマが投げるのはオボンの缶詰。傷を癒すものの一つでも無ければ話し合いの場にも着きにくいだろう

 意図を汲んでニダンギルが華麗に己の刀身で蓋をくり抜き、弾いてアズマへと飛ばす

 

 テラスタル化が解けたミロカロスはしかし、暫くそれを静かに見守っていた

 

 「……後は不意討ちですか」

 「……コードさん。幾ら何でも物騒すぎませんか?」

 プラズマ団ってこういう人達だっけ?とアズマは首を傾げる

 ここ暫くのプラズマ団なんてポケモン想いの人間ばかり。ここまで好戦的な人は珍しいのだが……

 

 「この火傷は!」

 「すみません」

 アズマは反射的に謝ってしまう。人間誰しもトラウマというものは有り得る。彼は恐らく、熱湯辺りがトラウマなのだろう。自分を焼いたから、その熱湯使いのポケモンに向けて敵意を強く持ってしまう……理解は出来る

 

 「……コードさん、貴方は何故此処に」

 「そんなことすら分からないとは。てらす池の結晶を取りに来たのですよ」

 ぼむっと、見覚えの無いボールから飛び出してくるのは、四足歩行の竜。外見はどことなくモトトカゲに似ているだろうか。しかし、全身が光沢ある鋼の甲殻に覆われ、瞳はまるで液晶画面のようなイメージですらある。まるでポリゴン族のような、電子で機械的なポケモンであった

 

 「傷付いたこいつの為にね」

 『アギャス!』

 アズマのバッグにその顔を無遠慮に近付けながら、機竜のポケモンが吠えた

 

 「アズマさん、このポケモンっこさ、分かる?」

 「いや、おれだって全ポケモンほ知らないよ」

 と、聞いてくるスグリに首を降る。何となく、割と最近読んだ資料に出てきたポケモンと似ているような気はする。が、ジガルデについて、そしてネクロズマについて、様々に父の資料を思い返したから逆にどれだったか思い出せない

 それにだ、描かれていた想像図とは大分違うような……となれば、もうアズマに答えは出せない

 

 「成程、そうでしたか

 姫!聞いたー?」

 『(大事な己のポケモンの為と、ミロカロスに伝えておきますわよー!)』

 ぱたぱたと掴まれた身体で小さな手を振るディアンシーに頷き、暫く待てば落ち着いたのだろうミロカロスは一旦湖に潜り、菱形の尾びれで何かをアズマへと弾くと湖底に姿を消した

 

 「お疲れ、有り難うな姫」

 『(ふふん。わたくし、これでもダイヤモンド鉱国の姫ですのよ?)』

 よしよし、と自慢げに胸を張るポケモンを抱えて何時ものようにバッグへ。取り出したりんご飴を渡しておくのも忘れない

 

 そして掌の中を見る。途中で戦闘を止めたからか、手元にはしっかりとした大きさの結晶が残っている

 大体ネックレスでもメインに出来るくらい。それが二つに、それの半分以下の細かい欠片が3つ

 

 この3つは加工の際に使いやすそうだし、仮面に使おう。一つは黒水晶のポケモンの為に持ち出すとして、最後は……

 

 「コードさん、これを」

 掌に結晶を載せ、アズマは逆の手に残りの結晶を握って差し出す

 『アギャガァス!』

 それを受け取った瞬間包帯の老人横に立っていた機竜の爪が閃いた

 

 「っ、痛っ!」

 肩口に硬く冷たい爪を当てられ、バッグに頭を突っ込まれる。まるでアンテナのような角が布地を擦り、押さえ付ける圧力に負けて結晶を取り落とす

 

 「ちょっ!」

 「ミライドン、無駄な戦いは無用」

 カン!という杖の音が響き、ミライドンと呼ばれたポケモンは後ろ足でアズマの足を蹴って宙返りしながら飛び下がった

 

 「っ、コードさん、何故」

 「怪我してから気性が荒く」

 『ミラギャアス!』

 そう叫ぶ竜の口には、何かが咥えられていた

 一瞬身構え、今にもポケモンが勝手に飛び出てきそうなボールを握るアズマだが、直後に背中のバッグ内部でもぞもぞ動く気配にディアンシーを襲ってはいないか、と息を吐いた

 

 『(ど、ドロボーですわ!)』

 「あ、ナンジャモさんお手製のサンドイッチ!」

 咥えられていたのは、サンドイッチの箱であった

 山で調査するから明日の朝作ろうと材料を商店で買いそろえておいたのだが、朝起きたら早起きのナンジャモが先に作っていた。カラシマヨネーズとマスタードがアズマ式レシピの3倍くらい使われているピリリと後引く旨辛さが特徴で、パルデア地方全域でコラボ商品『ナンジャモサンド』が発売中!の宣伝を見たことがあるくらいには有名

 

 「はあ、お腹空いてて、気性難ならあげます」

 「ならば貰いますよ少年」

 「辛いことがあって、何かにぶつけたい気持ちは分かりますから

 ミライドン、でもやり過ぎたら、帰れる場所も無くなるよ。コードさんも気を付けてやってください」

 『ミクルルル!』

 「甘ちゃんトレーナーに言われるとは心外です

 では、ワタクシは失礼。目的は果たし、此処に居てはまた危険なポケモンに襲われかねませんからね」

 結局、謝ることも無く、ミライドンと呼ばれたポケモンからサンドイッチと共に煌めく結晶の欠片も受け取ると、包帯のプラズマ団はその背に乗る

 杖を置いた瞬間、一瞬だけ火花が散ったかと思うと、機竜はその四肢で大ジャンプ、そのままアンテナから滑空用の翼?らしきものを展開してキタカミセンターの方へと、彼等は姿を消した

 

 「……強くて……」

 「スグリ君?」

 そんなコード老人の背をずっと眺めている横の少年に気が付き、アズマはその目線を遮るよう手を振る

 

 「はっ!あ、な、何でもないべ

 早く鬼さまの為に」

 と、キョロキョロと周囲を見回すスグリ

 が、そして取り落とした筈の場所から、ついさっきミロカロスが渡してくれた結晶は消えていた

 

 「……ぜ、全部持ってったのかあのポケモン……」

 押さえ付けた時だろう。サンドイッチをバッグから奪い取りつつ、器用に尻尾で落とした結晶を丸めて盗っていったにほぼ違いない

 

 「流石に……」

 『みろろろろろ!』

 池に近付けば、再びミロカロスが湖面から首を出してくれる

 しかし、だ。もう結晶を投げてくれないところを見るに、さっきくれたので勝手に踏み入れる人間にあげられる限界量。これ以上人間社会に密輸入はさせて貰えないようだ

 

 「限界か。ミロカロスさん、すみません」

 その瞬間、堪忍袋の緒が切れたとばかり、モンスターボールから巨大な紅の翼が天に降臨する

 「ベル、こういう時にこの自然の……」

 アズマは言い澱む。いや、この輝く結晶のある池って普通の自然と呼んではいけない気がしてくるのだが……良いだろう、多分

 「この場所を護ってるリーダーみたいなポケモン相手に、君の暴力を振るったら生態系を悪戯に崩しすぎるから」 

 『イガレ!』

 「おれの為に怒ってくれて有り難う。でも、これじゃおれも君も悪者だから。コードさんに返して貰いに行こう?」




余談:お前伝説ポケモン研究者の息子でその資料を読み漁ってたろ!何でミライドン気付かないんだよ!?とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、アズマ君はちゃんとゲームでミライドンと呼ばれるポケモンについては知っています。

が、アズマ君が知ってるのは、最近のパルデアにテツノワダチと呼ぶべきポケモンが出現した事から与太話ではなく"もしかしたら実際しているかもしれない"とされた古い書物に書かれていたポケモン。スケッチを元にした想像復元イラストも見てはいますが、それもあくまでもバトルフォルム・コンプリートモードの姿だけです。つまり、膨らんだ喉元と尻尾と角に青白いエネルギーを纏い宙を舞う、機械で出来た東洋竜のようなポケモン、バイオレットブックに描かれた『テツノオロチ』としての知識な訳ですね。
そのブックにはライドフォルム・リミテッドモードの存在とか書かれていませんし、バトルフォルムでは後ろ足を畳んで角や尻尾が伸び胸も膨れてるのでシルエットも全く違います。だから伝説のパラドックスポケモン『テツノオロチ』は知っていてもフトゥー博士が名付けた『ミライドン』=テツノオロチだと分からないのです。

なお、今作に出てくるミライドンはサンドイッチに興味を示していますがSVのだけん枠とも虐めっことも別個体です。あの二人ではどうやっても三匹目を呼び出せなかったとされてますが別人がやれば?という事で、エリアゼロ侵入を果たしたコード氏がタイムマシンから確保した三匹目のミライドンです。
なお、サンドイッチを奪っていったのは、エリアゼロに残ってたデータでペパーがだけん枠の方に手作りサンドイッチをあげていたのを見て「伝説の割に安上がりで楽だ」と市販かつ安物のサンドイッチだけを適当に与えられてた結果です。たまには美味しいサンドイッチを食べたくて仕方なくアズマ君を襲いました。

え?タイムマシンに触れられた理由?きっと未来大好きで仕方ないフトゥー博士(ほんもの)が「ワタクシが未来のポケモンの素晴らしさを世界に(ワタクシだけが使える未来のポケモンによる人類支配で)教えてあげましょう」と騙されたんですよ。


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vs 祭り好き

「で、どうだったのアズマ氏?」

 キタカミセンター付近まで戻り、イベルタルで乗り込んでもいけないからまだ山道という辺りで着陸。そうすれば、長すぎな萌え袖を頭の上でぶんぶん振ってナンジャモが山の方から出迎えてくれた。髪も荒ぶっている

 

 「すみません。一応結晶は一旦は貰ったんですが……

 コード氏、あああの包帯で杖をついたプラズマ団の人は来ませんでしたか?」

 「あー、変なポケモンで滑空してそのままスイリョクタウンへ飛んで行ったよ?どうしたの?」

 「いえ、そのポケモンに結晶全部持っていかれてしまって……悪気ばかりあった訳ではないとは思うんですが、返して貰わないと」

 「……そ、そうだべな……」

 が、後ろに乗ってきたスグリの態度はさっきから少しだけ可笑しい

 

 「スグリ君?大丈夫?」

 「な、何でもね!おれ、ちょっと疲れただけ」

 「そっか。後で休もう

 それで、ナンジャモさんは?オーガポンには会えた?」

 「それがぜんっぜんダメ!」

 アズマの問いに、少女は勢いよく袖を左右に振って困ったポーズを取る

 

 「というかボク、鬼の住処?っていう恐れ穴の場所良く知らなかった!これはサルノリも木から落ちるって感じで

 洞窟は幾つかあったけど全く!気配もなくて」

 「そうですか。じゃあ、休んでコードさんからも結晶返して貰ったら、改めて案内して貰いましょう。スグリ君、行ける?」

 「行けっけど……」

 『ぽに?』

 変に言い澱むスグリの背後で、揺れる木の後ろから仮面を被った女の子?が顔を出した

 

 「山は危ないよ。お祭り楽しみなら、センターの方に」

 背の低い彼女に合わせて少し屈んで、アズマはその子と眼を合わせて……

 

 「あ、居ましたナンジャモさん」

 『ぽにお!』

 仮面を被った緑の鬼がどてらのような外套の下の手を上げる

 アズマはひょいとその手にりんご飴を載せた

 

 『ぽにおーん♪』

 かちゃっと仮面を外……人間向けのお面だから、恐らく本物より大きさが小さいせいで伸ばした手が空を切った

 笑ってアズマが仮面を取ってやれば、ポケモンは喜んでりんご飴を食べ始めた

 

 「……な、何だべ!?」

 「あ、この子ってイリュージョンで見た」

 「はい、鬼さま……オーガポンです。祭の日だから、もう山から大分降りてきちゃってたんですね。ナンジャモさんが会えないわけです」

 「あぁー、すれ違いかー」

 「え、あ、お、鬼?鬼さま!?」

 「いや、おれはオーガポンには会った事は説明しなかった、スグリ君?」

 「けんど、何度も何度も山で探したおれが会えなかったのに……嘘じゃって」

 目線を伏せるスグリ。その横で眼をキラキラさせ嬉しそうにりんご飴を齧る素顔のオーガポン。ちょっと可哀想な雰囲気の中、アズマは曖昧に笑った

 

 「でも、今はこうして会えたろ?これから仲良くを目指そう、スグリ君

 その為にお面だって作るんだし」

 「そうそう、スグリ氏もこれから仲良くなれば、今までのは忘れても良くないかな?」

 『ぽに?』

 そんな人間達の話は良く分からないのか、オーガポンは美味しそうにりんご飴を食べ続けていた

 

 「あ、アズマさん。おれ」

 「はい、スグリ君。君から渡してみたいんだろ?」

 その飴が無くなった頃、アズマはひょいと少年に飴を渡した

 『ぽにお?』

 そして、更にスグリから飴を渡され、ポケモンは少しだけ首を傾げると……

 『が、がお』

 小さく口を開いて八重歯と言いたくなる牙で威嚇を始めた

 

 「な、何でだべ!?」

 「じゃ、ボクはどうかなー?」

 『ぽにおーん!』

 萌え袖で器用にりんご飴を差し出すナンジャモ。同じ萌え袖の親近感か、手を出して受け取るオーガポン

 

 「……っ!」

 それを見て、俯いた少年はぎりりと強く拳を握り締めた

 「村の人だから、追われた過去を思い出して嫌なのかもしれないね

 だから、変えていこう、スグリ君」

 そんな風にアズマが慰めるが、それでも顔は晴れない

 

 でっぷりとした電気蛙(ハラバリー)に椅子になって貰ったナンジャモの膝の上にまで乗って撫でられるに任せているオーガポンを見れば、それも仕方ないだろう

 基本的に人懐っこいのは分かりやすいのに、自分は避けられた。しかも、あれだけ自分は鬼さまを特別視していたのに、って

 

 が、それにしても可愛らしいポケモンが可愛い子の膝に乗るのは絵になる。とアズマが思った時には、既に頭のコイル型装置が飛び回りナンジャモ自身を撮影していた

 

 「そ、それに……めんこい鬼さまは、アズマさんの言うように本当は強くなんて無いのかもしれね」

 「いや、間違いなく超強いよ、オーガポン」

 「わやじゃ!?」

 「おれ、ポケモンからは良く避けられる質だからね。おれ……というかイベルタルの纏う黄昏色の死のオーラは、おれがどうこうという以前に、悪タイプ以外のポケモンに畏怖を与える

 だから皆逃げるし、捕まってくれない。慣れて無いのにそれを気にしないのはね、伝説のポケモンや、彼らにも多少立ち向かえる程に強いポケモン達くらい」

 一歩近付くだけでハラバリーがびくっ!と震えて眼がせわしなく動くのを見て御免なと離れながら、アズマは告げる

 「ガブリアス、メタグロス、そういった凄く強いと有名なポケモン達なら、オーラがあっても向かってきてくれたりする。伝説のポケモンともなれば大体自分も特別なオーラを持ってるからね、気にしない」

 ハラバリーが焦る中、ぽにっとしたポケモンは撫でられつつりんご飴を嬉しげに齧り続けていた

 

 「つまり、見ての通りだよ。種族として見れば、多分あのエンテイ達と同格はある

 まあ、仮面か何かが無いと本領は出せないのかな?とは思うけどね」

 「アズマさん、それ、寧ろ聞きたくなかっただ

 鬼さまが強いこと、聞いたら……。おれ、割り切れね……」

 俯くスグリの顔は晴れない。間違ったかな、とアズマは額の汗を拭って頬を掻いた

 

 「弱いなら、鬼さま諦められるって思ったのに……」

 「言ったろ、スグリ君。ポケモンとの関わりはバトルで強い弱いだけじゃないって」

 「けど」

 「まーまースグリ氏、まずは己の脳ミソにエレキネットー!ってやって良いんじゃない?

 ほら、可愛いって」

 『がおー!』 

 精一杯手を上げて横幅を拡げ、鬼らしく吠えるオーガポン。が、仮面も無い素顔ではまるっこい目に八重歯のキュートな口が合わさって可愛いだけである

 

 「うう……めんこいけんど、そうじゃねんだ……」

 そんなスグリを見てどうすればと思う中、ふとアズマの背中に重みが増えた。バッグのディアンシーが首を引いたのだ

 

 「姫?」

 『(わたくしのナイト達は、あのポケモンの仮面の為に特別な石が欲しかったんですわよね?)』

 「うんまあ、姫を一回拐った黒水晶のポケモンの為もあるけど、それは後。いますぐはそうだね」

 『(それで、盗られたと

 では、わたくしがピンクダイヤを創れば解決かもしれませんわ)』

 「そうだね、姫。とりあえずコードさんに返してって言うけど、姫のダイヤもあしらうと良いかもしれないね」



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vs コメント

「……はぁ」

 そうして、2時間ほど後。アズマはともっこプラザの近く、林檎農園の横で黄昏ていた

 

 『ぽ?』

 あまり事態を理解してなさそうなオーガポンがぽにっとした顔を浮かべている。横に立つとかなり身長差があるそのポケモンの頭を撫でながら、アズマは遠くに見えるお面職人の家を遠目に眺めた

 

 とりあえず、サンドイッチを食べたそうなので追加で用意してコードには会いに行った。行ったのだが……既にミライドンというあのポケモンが全てのテラス結晶を体内に取り込んで力を取り戻そうと食べてしまったと言われては、吐き出して返せとも言えやしない

 確かにぱっと見、てらす池で見た時よりも傷付いてなさげではあったし、力も感じた

 

 当たり前だが全くアズマを恐れずにテラス結晶を持ち去ろうとした時点で、あのミライドンとは本来かなり強力な力を持つポケモンだ。それこそ、アズマの父のボーマンダ等にも並びかねないほどに

 そんな彼?が傷付いたのは、何でもリュウラセンの塔でのゼクロム復活の余波らしい

 

 まあ、事実は分からないのだが……色々とそれっぽい事を言われては、アズマ的にあまり疑いたくはない

 何より、Nとゼクロムを知ればこそ、今も彼に想いを馳せプラズマ団を名乗る人々は信じたいのが心境だ

 

 となれば、アズマに出来ることはサンドイッチをミライドンにあげてすごすごと引き下がることだけ。約束通りディアンシーのダイヤを貰い、職人には仮面を作って貰いはじめはしたものの……本物の輝く仮面に比べてどうにもというものしか完成しないだろう

 

 「思い出の品の他にもと思ったけど、並べるには物足りないよな」

 『(わたくし、まだまだ未熟でしたわ……)』

 横で黄昏つつ、アズマがあげたきのみジュースをちびちびと舐めるのは、これが精一杯としょんぼりダイヤを差し出したディアンシーだ

 「ま、だから姫はおれと共に強くなろうって思ったんだよね。立派だよ、既に」

 『ぽに?』

 黄昏る一人と一匹を、ある種当事ポケモンのオーガポンは不思議そうに見ていた

 

 「いやーアズマ氏アズマ氏、此処に居たんだ」

 「この辺りまでスイリョクタウンからもオモテ祭があるキタカミセンターからも離れれば、オーガポンも怯えずに着いてきてくれますから」

 やってきた少女に向けてアズマは微笑む

 

 そう、怯えずにだ。オーガポンは鬼として村人から恐れられ遠ざけられたポケモン。村近くまで行くと手で体を覆うようにして怯えて逃げてしまい、村から離れると木々の間から出てくるという感じで……村までは着いてきてくれなかった。お陰でお面職人に直接会わせ、こんな仮面が欲しいんじゃ?とか判断することは出来なかった

 ということで、仮面については……スグリの裁量に任せてみた。鬼大好きなので似合う良い感じのデザインを提案してくれるとアズマは信じている

 

 「んでんでアズマ氏、ボク、今日は配信したいなとか思うんだよね。シリーズものを告知しておいて配信はお休みってやったら怒られるし」

 「あ、分かりますナンジャモさん」

 「で、目の前には可愛い鬼が居るって訳で、配信で何処まで出しちゃって良いかなーって」

 『ぽにお?』

 首を傾げるオーガポン。その頭をもう一度撫でて、アズマはホロキャスターを起動した

 そして、ナンジャモの配信機材の電波基地局機能を借りて、軽く動画サイトを開くと、ちょうど終わり際だったフリーズ村のチャンネルを開き、ホラグラムの画面を大きくした

 

 『ぽ、ぽに?』

 ジーっと星の浮かぶ眼がホログラムを見つめる

 「遠くの人とお祭りを楽しめるものだよ、オーガポン」

 『ぽにお!』

 本当に理解しているのかは分からない。が、デカイ王冠を被った銀髪少女アバターを更に被ったバドレックス(ちなみにかなりチナに似ている)がちょっと偉そうに語る姿に飛び交うコメントを見て、緑鬼は中々楽しそうな顔をしていた

 

 「君も、やる?」

 『ぽっにおーん♪』

 体を揺らすオーガポンに、なら行けるなとアズマは頷いた

 

 「オーガポン自身が嫌がらないなら、配信に出す事そのものは構わないと思います。昨日の動画でも伝承の疑問点等は洗い出しましたし、二匹居て今居る方はそんなに怖い鬼じゃないってのも話しました」

 と、アズマは遠く、山の稜線に隠れてギリギリ見えないキタカミセンターへと目線を向けた

 「今からオモテ祭って時に、ともっこ三匹を貶めかねない発言はNGですけどね」

 「いやー、炎上怖いもんね、ボクもソコは配慮するよ」

 と、パステルカラーの少女は付近をキョロキョロ見回した

 

 「でアズマ氏アズマ氏、ボクの野外ライブ配信、もっと広くてオーガポンが逃げない場所無いかな?」

 「多分、ともっこプラザはオモテ祭の直前に行く人居ないでしょう。いやともっこ絡みの祭なのにがらんとしてるのも不思議ですけどね?

 社を映すと多分鬼が不謹慎とか叩きが出るので、昨日撮影した画角にならないよう、社が映らないようにだけ気をつけて配信お願いします」

 

 ということで、ともっこプラザまで歩く。オーガポンは素直に着いてきた。ともっこの墓というのに逃げることもなく、だ

 その辺り、ともっこ三匹にはそこまで執着とか無いのだろう

 

 「皆の者ー!何だか人が多いけどー!」

 人気の無い公園で叫ぶナンジャモを横目に、オーガポンを撫でつつアズマはホロキャスターの配信画面を開く。確かに既に視聴者は151人。ついさっき突然『今から突然配信するぞー!しゅうごーっ!』とのナンジャモコメント投稿から、即座に始めたとは思えない人の来方だ

 

 「来てくれた君達の脳ミソにぃーエレキネット!何者なんじゃ、ナンジャモです!

 おはこんハロチャオー!ドンナモンジャTVの時っ間だぞー!」

 『ぽに!』

 何時ものようにポーズを決めるナンジャモを見て、ちょこっとオーガポンがポーズを真似した

 

 「昨日投稿したナンジャモ探検隊は見てくれたかなー?

 今日は!そう!あの探検隊を手助けしてくれたアズマ氏の協力の元! 

 なんとぉぉっ!」

 ちらりと少女がアズマを見る

 行ってあげて、とアズマはポケモンの背を押した

 

 すると、とてとてとオーガポンは素顔のまま少女へと駆け寄った

 『ぽっにおー!』

 「じゃーん!キタカミの鬼、オーガポン、です!どうだ皆の者ー!伝承のポケモンだぞー、連れてきたアズマ氏とボクをもっと称えろー」

 コメントの流れが目茶苦茶早い。高性能なホロキャスターで見てるアズマでも、目では追いきれない程だ

 

 が、飛び交うコメントも大半はオーガポンへ好意的なもの

 アズマ自身については……まあ、恋愛関係っぽさは無くとも女性の配信に出たら叩かれるのも当然だろうと無視できる程度のヘイト発言が飛んでくるくらいだ

 が、イベルタルにだけは見せられない

 

 「そう!今日のナンジャモ探検隊は、何と昨日の探検で判明した怖くない方の鬼!オーガポンを招いて行うぞー!

 皆の者、拡散してしてー」

 とナンジャモは言うが、既に視聴者は一万に届きそうだ。少額だがフリーズチャンネルからのお布施付きコメントまで飛んできているし……

 

 「さて、ぽにっと」

 と、右足だけで立って左足を膝から跳ね上げ、萌え袖の両手を胸の前でニャースポーズを決めたナンジャモが固まった

 

 「あ、アズマ氏ー!オーガポンが乗ってくれなーい!」

 「……オーガポン、お祭りをより皆に楽しんで貰うため、ちょっとおれに合わせてくれる?」

 『がおー!』

 機嫌良く吠えるオーガポン。バッグから不満げに地面に降りるディアンシー

 

 そんな二匹に囲まれて、アズマはナンジャモに合わせてポーズを取った。その見よう見まねで、オーガポンも左足を跳ね上げさせ、小さな手を前に出してポーズしてくれる。下でディアンシーも対抗するように……足はないが手だけポーズした

 「よーし!オッケー!そーれ!ぽにっと、ぽにっと」

 手足を下げ、今度は逆方向。昨日辺りOPダンス考えよーと踊っていたナンジャモを見ていたアズマは何となく次の動きが分かるので付いていける

 

 「ぽにぽにー!おーん!」

 そのままターンして、天秤のように右手を上げ左手を下げたような大のキメポーズ!

 一拍遅れて、オーガポンと……下のディアンシーも合わせてくれた

 

 『ぽにおーん♪』

 跳び跳ねて喜ぶオーガポン。が、アズマだけはそれどころではなかった

 「さあ、ゲストも来てくれたので始め……って光ってる、プリズムみたいに光ってるぞアズマ氏!?」

 「……あ、ポケモンと合わせて踊ったから勝手にZ技発動待機状態に……ほっとけばオーラ消えるんで、ちょっとの間無視してくれると」

 「強すぎて難儀っ!?」

 そんなこんなで、ナンジャモは配信を始めた

 

 それを遠くで見る、寂しげな人影にも、それに忍び寄る恐ろしいモノにも、気が付くことなく

 

 「にしても、スグリ氏来ないねー。来たら可愛いポケモン軍団にオオタチ貸して欲しいのにー」




「おれ、出ちゃいけない……んだ。鬼さま、おれ、鬼さまよりひとりぼっちかもしれね……」
 「ええ、このままでは奪われるでしょう。あの黒水晶の腕輪の男に
 あの少女も、勿論鬼さまも、なにもかも」
 「……分かってた。アズマさんは特別で、おれなんて」
 「諦めるのですか、少年。真実を理想で変えることもなく」
 「けど、おれ……アズマさんほど強くないべ」
 「ワタクシは、あなたの中にこそ強さを見た。そう、あのプラズマ団の王Nと同じ……純粋で騙されやすく都合の良い
 強さを」
 
 「おれ、に?」
 「ええ。今ワタクシの手を取らなければ、あなたの才能が開花するのは遅れ、鬼さまは盗られてしまいますよ?」
 「お、おれは……」
 「ええ、では。まずはあの男に勝ちましょう。大丈夫です、彼はズルした不正な強さ……ワタクシの言葉に従えば、必ずや鬼さまはあなたの方を見る。それがあるべき姿。心から信じるのはそれからで良い
 最初はアレの不正を、イベルタルの存在を正すのです」
 「コードさん、鬼さま!おれ、けっばるから!」


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鬼 vs ダークオーラ

「スグリ君、遅かったね。配信に来たら良かったのに

 いや、御免。君なりに頑張ってくれた筈なのに無神経だったね」

 イリュージョンで扇(最カワ↓と書いてある)を作ってアズマの頭の上に乗り、オーガポンを持ち上げるとか分かってねーなのとばかりに大きく欠伸をしていたゾロアをボールに回収しながら、アズマは配信を切ったところで漸く姿を見せた少年に話しかけた

 

 『ぽっに』

 「あ、良く頑張ったねオーガポン。はい、御褒美」

 配信を切って色々と作業しているナンジャモを見て、アズマの方へととてとて走り寄って来る鬼を撫で、目線を合わせてアズマは手持ちのモーもーミルクキャラメルを一粒ぽけっと空いた口へと放り込んだ

 「はい、姫にも。踊って頑張ってたもんね」

 『(わたくし、仮にも一国の姫としてあの野良鬼に負ける気にはなれませんでしたわ

 ですが、これで……ご迷惑とか)』

 「配信の邪魔になりえるなら、ナンジャモさんは先に止めてたよ」

 「そうそう、アズマ氏がサンドバッグになる代わり、ボクの配信はバズる!」

 『ぽにおー!』

 眼を輝かせてキャラメルを舐める鬼が、ぽにっと吠えた

 

 ディアンシーのテレパシーは聞こえてるだろうが、何も言わない。ということは、野良鬼と呼ばれても良いのだろう

 

 「……おれ、独りぼっ、わぶっ!?」

 疎外感からポツリと呟く少年が、突然のフラッシュに顔を庇って眼を瞑る

 「な、何!?」

 「スグリ氏ー、落ち込んだ顔してたら本当に独りぼっちになるぞー?」

 「そうだよスグリ君。君は君に出来ることをしてるんだから、もっと胸を張って」

 「アズマ氏、ボクの胸を見て言うなよー、うりうり」

 「別にナンジャモさんは綺麗な女性だと思ってますしそんな訳は」

 少し早口に、アズマは答えた

 

 ちなみにだが、アズマの少女の胸の基準は年相応から少し小さめのチナ。正直なところ、ナンジャモの方が見たところほんの少し、ある。なので本音だ

 

 「ま、ボク実はそんなに胸とか気にしてないけどね。でも、気にしてるってやると皆の者が喜ぶんだよねー」

 そんな話に、女性に耐性が無さすぎるのか黒髪の少年は顔を赤くして更に俯いてしまった

 

 「と、計算出たけど……」

 と、ナンジャモが終わった配信の画面を覗き……その眼を見開いた

 「高っ!?」

 「どうしましたナンジャモさん?」

 「え、えーとアズマ氏アズマ氏?普段の配信に比べて、投げ銭が凄い事に……」

 「ああ、呼ばれて結構来てましたね、皆」 

 と、アズマは配信中ちらちらと見ていた画面を思い出す。フリーズチャンネルがコメントして以降、その辺りのチャンネルの登録者がガンガン見に来ていた

 

 「ってかアズマ氏、何か言ってたけど本当にあのチャンネルととか」

 「いや、フリーズチャンネルならナンジャモさんの配信を参考に立ち上げ手伝いましたしね?」

 「いやいやいや、あれ伝説のポケモンがやって……

 あイベルタル」

 「ベルは無関係。単に、父を手伝って豊穣の王伝説の復活に立ち会ったから縁があるだけです

 結果、おれが出てるからって見に来て宣伝してくれたみたいですね」

 「あわわ、どーしよアズマ氏、ボクのチャンネルまた見てくれるかな」

 「きっと見てくれますよ、ナンジャモさんですから」

 「いやー、バズる人としかコラボしないよーって言って、ジムチャレンジの時は応援してるぞーをやってるけど、本当に有名人引き連れてきてバズらせられる人初めて見た」

 あははと笑って手を出す少女の萌え袖に、小さくアズマは拳を合わせた

 

 「じゃ、これからもキタカミでのやることが終わるまで、お願いしますねナンジャモさん」

 「キミに電気の誓い!ってそんな技ないかー!」

 「じゃあ、おれは悪の誓いでも作りましょうか?」

 『ぽにおー!』

 ちょん、とどてら風のオーガポンの手が、下から袖に触れた

 

 「じゃあ、戻り……」

 と、人気を感じる。戻る道、林檎農園の付近には沢山の人影があり、いくつものバルーンを置き始めていた

 

 バルーンは4種。赤、青、灰色、そして緑。緑は少なくともオーガポンのお面を模していて……

 「何だろう、あれ」

 「皆の者に聞こうか?」

 パシャっと撮影しながら少女も横で首をかしげる

 

 「鬼退治フェス」 

 『が、がお!?』

 鬼退治、の一言にオーガポンがアズマの背に隠れて外していたお面を被った

 「鬼さま、おれはやってない……

 鬼さまの風船、割るの嫌で……」

 「あ、あのフェスの為の用意なんだ」

 うんうんと名前をごまかして、アズマは頷いた

 鬼退治フェスという名前は聞いていても、アズマ自身それが何なのかは正直知らなかったのだ

 

 「ライドポケモンとかでバルーン割って木の実を回収して、出来る限り早く指定の数を揃える遊び……。鬼さまは、名前だけで」

 『がおーっ!』

 完全に怯えたオーガポンが、お面の下で吠えた

 

 「おれ、違うのに」

 「大丈夫だよオーガポン。退治なんてされないし、させないから」

 しょんぼりするスグリの横で、アズマは背中に隠れる鬼のポケモンの頭を撫でる

 

 『ぽに?』

 しばらく撫でてやれば、落ち着いたようにポケモンはお面を外した

 「……おれ、なんで」

 『ぽにお!』

 そして、怖かったから落ち着くかなとキャラメルをもう一粒やれば、オーガポンはそれを口にせず、落ち込む少年へと差し出した

 

 「お、鬼さま……」

 潤む瞳で受けとると、少年はキャラメルを口に含む

 「甘い……」

 「いやまあ、惜しむものでもないから」

 これじゃオーガポンの分が無いなと、アズマは更に取り出す

 

 「ボク貰って良い?

 だけどアズマ氏アズマ氏ー、感動の絵面が台無しだよこれー」

 「オーガポンがキャラメルをスグリ君にあげた、で話として完結してますし、キャラメル沢山あっても良いでしょあれ」

 「話的にはそうだけど、バズが足りなくなる!」

 「確かに、でもまあ、オーガポンは食べていいんだよ」

 と、ナンジャモを無視してキャラメルの包みを開けつつアズマは呟いた

 

 「んで、こっからどうするのアズマ氏?」

 キャラメルを舐めつつ、美味しいーと値段を検索して一箱4桁に届く価格に撃沈したナンジャモが一歩引いて問いかけてくる

 「あの祭りの用意ってことはもうオモテ祭は始まるわけですし、お面は今作って貰ってるけど流石に注文日納品とか間に合わない」

 んー、とアズマはバッグに入ったディアンシーを本ポケモンが望むから背負ってやりながら悩む

 「で、普通に帰るとあのお祭りを用意する人々に当たる、と

 なら、やっぱりベルを出してやって」

 この時点でカタカタ揺れるモンスターボール。イベルタルが頼られボール内で喜びの舞いでも踊ってそうだ

 それをもうちょっと待ってなと揺らし返して、アズマは続ける

 

 「山側からぐるっと回って祭の始まった後にキタカミセンターへ行くべきかな、って」

 「おー、オッケー!」

 と、人から見えない場所に移れば、早く早くとばかりにイベルタルが勝手に飛び出してくる

 『ぽに!?が、がお……』

 びくっとしたオーガポンが、今度は遂に溢れ出す本物のダークオーラに怯えてか、今度はナンジャモの袖に頭を突っ込んで隠れようとして……

 角がつっかえる。流石に大きい作りとはいえ、人の着る上着の袖に入り込めるほどオーガポンは小柄ではなかった

 

 『ぽにおぉ……』

 憐れっぽく鳴く鬼。最早これまでという哀愁すら漂わせて踞るが……

 当の黒紅の鳥は、事態が分からないというようにきょとんとそれを眺めていた

 『ギュレッカ?』

 「オーガポンを虐めちゃ駄目だよ、ベル」

 『イグレ!』

 『ぽにお……』

 分かったとばかりに返事するイベルタル、こてんと倒れるオーガポン。鋭い嘴……ではないのだが、嘴状の口が仰向けになって死んだふりするポケモンへと向けられる。そして、イベルタルがアズマを一瞥した直後、それが閃いたかと思うと、緑鬼の姿は巨鳥の頭の上にあった

 

 『ぽ、ぽに?』

 『ガルレッカ!』

 『ぽにぽに、ぽにお』

 『イガレ?』

 『ぽにおーん!』

 イベルタルが翼を大きく拡げて何かやり取りをしているが、正直アズマには分からない。アズマの事を気にしてくれているイベルタル的に思うところとか、語ってそうではあるが……

 

 「姫、分かる?」

 『(わ、分かりませんわ……)』

 と、話がついたのかイベルタルが一声鳴いた

 『ぽっにおー!』

 ぽにっと笑って、その頭の上で角?を片手で掴んだオーガポンが、空いた左手をまるでしゅっぱーつ!とでも言いたげに前へ向ける

 

 「仲良くなれたのかな

 行きましょうかナンジャモさん、スグリ君」



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vs 雷

『ぽっににー』

 『レッレッカー!』

 「お、おれだっ!げほっ!?寒っ!?」

 頭の上で歌うオーガポン、礼賛……ではなく唱和する空飛ぶイベルタル。そして歌おうとして、吸い込んだ空の空気の冷たさにむせるスグリ。空の旅は中々のカオスの様相を呈していた

 

 「はいスグリ君、喉は暖めて」

 アズマが渡すのはモーモーミルクの缶。じっくり弱火で膝の上で生きたカイロになってくれているゾロアに暖めて貰ったものだ。……結局火炎放射なのでほんの少し缶が変形したが気にしない

 「ご、ごめんだべアズマさん」

 後ろに乗る少年が頭を下げた

 ちなみにだが、ナンジャモは居ない。横でイベルタルが速度を落としているから平行して飛べているサザンドラに跨がって手を振っている

 

 「オーガポン、楽しい?」

 『ぽに!』

 案外アズマ以外に馴れないイベルタルだが、オーガポンは別らしい。紅の鳥が軽く首を回してアズマを見れば、頭の上で鬼が手をぶんぶんした

 

 と、その時

 『イガレッカ!』

 突如として、イベルタルが空中で宙返りする。しがみつけずにオーガポン、そしてスグリが振り落とされ……

 「ベル、どうした!?」

 違和感を覚えながらギリギリ首元の灰色の毛に掴まれたアズマも、背を蹴って宙を舞った

 

 『オーガポン、スグリ君!』

 右手で唖然とした鬼を掴んで胸元に抱え、握った左手のボールで一緒に落ちていくゾロアをボール内に回収。そのまま更に空けた右手でスグリの手を掴んで……その瞬間、轟音と閃光が轟いた

 

 「っ!?」

 降り注ぐ、巨大な雷撃。自然のものとは思えぬ稲妻が天からアズマ達を明確に狙うように迸る

 

 『グレッカ!ガッッレェッ!』

 その稲妻への傘となるように、限界まで翼を拡げきったイベルタルが空へ舞う。その背に、雷撃は直撃の軌道を描いて炸裂した

 「っ!ベル!」

 思わずボールを翳すが、ボールへと戻す光はイベルタルにはね除けられる。ということはだ、本当に意図して、イベルタルは雷への傘となったのだ。自分自身飛行タイプ、雷は苦手だと、分かっていたろうに

 

 『イガッ!レェッ!』

 鳴き声は幾らでも聞いてきた。だがその大半は……メガライボルトすらも圧倒する力を振るう際のもの。苦悶と呼べそうな苦しげな鳴き声など、アズマは初めて聞いた

 

 「……っ!」

 地面タイプなり何なり、雷を逸らせそうなポケモンが居れば手伝ってやりたい。が、アズマの手持ちにそんな都合の良いポケモンは居ない

 

 「出でよ、閃き豆電球!キミの出番だ!」

 が、今はアズマ一人ではない。落ちていくアズマ等を見て事情を把握したのだろうナンジャモが、己の手持ちのモンスターボールと、オーブを掲げた

 

 ボールから飛び出してくるのは、一羽のすらりとした流線型のフォルムの鳥ポケモン。頭に豆電球のようなクリスタルを生やしたタイカイデンだ

 雷混じりの嵐に向けて寧ろ電力に変えるために突っ込んでいくと言われる電気に強い鳥は、更に雷適性を上げるテラスタルと共にイベルタルへと突っ込む!そして、共に雷を受けて威力を分散させ……

 

 『カ、キュ』

 『ガルレッカ……』

 雷撃が消え去ると共に結晶が砕けて墜落するタイカイデン、ぐらりと体勢を大きく崩すイベルタル

 

 「タイカイデン、大丈夫!?」

 「ベル!」

 落ち行くアズマの叫びに気が付いたのか、イベルタルの姿が空から掻き消えた。そして一瞬後、空から居なくなった筈なのに荒れ地にはくっきりと残っていた巨鳥の影から紅の身体が飛び出してくる

 便利使いされている『ゴーストダイブ』だ。影に潜って急激に高度を下げきることで、アズマやスグリを追い抜いたのだ

 

 『イ、イガレッカ!』

 が、雷撃の苦しみは消えてないだろう。アズマ、そしてスグリをその案外柔らかな背で拾い上げながら、苦しげにイベルタルは鳴く。そして首横を落ちていく鳥ポケモンの影を眼で追い、足の鉤爪に引っ掻けた

 

 「おおー、お手柄だよイベルタル氏!」

 萌え袖ではボールからの光の狙いを決めきれなかったのだろう。イベルタルがタイカイデンを掴んでくれたのを機に一撃耐えるという偉業を追えた鳥ポケモンを戻してやりつつ、ナンジャモが告げた

 

 「な、何だったんだべ……?」

 『がお……』

 完全に怯えてアズマの腕の中に収まってイベルタルの首元の灰の毛にくるまり完全防御を始めるオーガポン

 イベルタルに残る少しの焦げ傷に、落ちる寸前にディアンシーが中から閉めてくれていたバッグから出したスプレー状の薬を吹き付けながら、アズマは天を、そしてもしかしたらと鬼が山の山頂を見据える

 

 が、何も見えない。イベルタルが揺らぐとか尋常な火力じゃない。ナンジャモのハラバリーが痛みを電気に変えてテラスタルし雷を撃ったところで微動だにしないだろうに。ラ・ヴィ団がメガウェーブで暴走させたメガライボルトの一撃すら、あれは越えていたろう

 

 「分からない。ゼクロム……うん、無い」

 Nの気配も無いし、何よりあの黒竜ならあの一撃を放てそうだがやる訳無い

 「ボルトロス、或いはサンダーが居るなら空にもっと黒々とした雨雲が見える筈。ライコウやレジエレキなんかなら、山に特別な稲光が閃いていた筈」

 が、どちらもない。少し山頂が紫に輝いていたがあれはてらす池だろう。ライコウが居たような痕跡ではない

 「まあ、速い癖に場所を移動したがらないレジエレキなんて居たら遺跡があるからすぐ分かるし、山を軽く見て回った限りライコウの足跡も無かった」

 となると、とアズマは首を傾げる

 「あんなの、伝説のポケモンだと思うけれど……何者だろう」

 

 その時、脳裏に閃くのは一つの仮説。だがそれをアズマは振り切った

 「コードさんのミライドンじゃあるまいし」

 ミライドンは確かに強いだろう。が、傷付いたあのポケモンがあれだけの雷を撃つのか?そもそも理由無くないか?開けて貰う時間すら惜しいとばかりにかごを引き裂いてでも貰った瞬間にサンドイッチを一心不乱に貪り食う鋼竜がその下手人であるとは思えないのだ

 

 そうして、辿り着くのは祭の主な会場であるキタカミセンター。が、お祭りを楽しみにしていたはずのオーガポンはというと、着くなりお面を被ってナンジャモと手を繋いでしまった

 

 「おれじゃ、駄目なの……?」

 「スグリ君、おれでも駄目っぽいし、多分落ちなかったナンジャモさんが良いんだ」

 『が、がお……』

 周囲をキョロキョロ。完全にまた雷が降ってくることを恐れているようで、可哀想になる

 

 と、とりあえずとばかりに二人と一匹にもりんご飴を買って、アズマは薄暗くなり始めた夕方の空を見上げた

 

 「ああ、君達か」

 と、そんなアズマに話しかけてくる、青い猿の仮面

 その声に聞き覚えがあった

 「あ、トリオさんですか」

 「お面をした方が良い。その良く分からない子のように」

 と、オーガポンをポケモンだとまでは思わないのか、或いは祭は無礼講だと意図的に無視してくれているのか。鬼と追わない青年に有り難う御座いますと内心で礼を言って、アズマはキタカミセンターの敷地に対して店舗が少なすぎて少しまばらにも見える屋台を見渡す

 ……他の縁日では定番のお面屋の屋台は、全員お面をしてるのが普通なオモテ祭には無かった

 

 「お面をしたくても、売って、ない」

 「お、おれは……持ってる」

 と、オーガポンとお揃いの仮面を着けてスグリ。何処と無く誇らしげで、アズマは良かったねと柔らかく笑うしか無かった

 

 「……あ。イッシュの祭を基準にして言ってしまった……」

 頭を抱えるマシマシラ仮面

 「ま、まあ。スグリ君のお祖父さんに仮面お願いしてますし、明日からはちゃんと被りますよ」

 と、アズマはぱたぱた手を振った

 カロス地方でも一週間くらい続くリーグ戦なり、ヒャッコクシティでの大きな祭なり、エイセツ雪まつりなり何日もに渡るものはある

 ガラルなら年一で全員一斉に挑戦を始めるシステムのリーグは言うに及ばず、今のフリーズ村の祭もかなりの期間やる筈だ。流石に週に一本くらいしか電車が来ないとかそんなオチは無くなったが、何日もやらないとフリーズ村の祭に来れる人少なすぎるということで規模拡大したらしい。繁盛していて喜ばしい事だ

 

 が、それと同じでオモテ祭も何日も続くのだ。規模は大きくないが、期間は大きい一大祭だ

 

 「なら良いのですが……」

 ちらっと、仮面のプラズマ団はお面の下からアズマを見た

 

 「ん?どうしましたトリオさん?

 後、コードさんを知りませんか?」

 「いえ、彼は良く知りませんが……

 折角我等プラズマ団が今年は用意した鬼退治フェス、やっては行きませんか?」

 『が、がおー』

 やはり、鬼退治という言葉は嫌いなのだろう、オーガポンが怯えながら威嚇する

 「おっと、何事?まあ、気が向けば」

 そう言って、プラズマ団はセンターの上の方、鬼退治フェス受付へと歩いていった

 

 「じゃアズマ氏、ボクやってこようかな、フェス」

 アズマ氏はライドポケモン出せないでしょ?と横のナンジャモが手を挙げる

 

 『ぽぽに!?』

 びくっと緑の小さな影が震えて

 「うん、何よりボクが得点王になって村人は鬼退治が出来ないことを証明するのだー

 どやっ!ウケると思わない?」

 『ぽに!』

 ほっとしたように軽く跳び跳ねた




雪村 オウカ(伝説のポケモン系V)『何だか……ヨがフリーズ村の祭りのために準備している間に自称犬が呼ばれているであるな……行けるなら今頃出てきてるのである……』


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vs 御霊の面

前々からやると言ってたオリジナル仮面登場です。まあ、うちの他のオリジナル形態(特に対ムゲンダイナで出てきそうな青いイッヌに乗る王)のようなイカれた奴ではないので御容赦下さい。


そんなこんなで翌日。皆の者ボクを応援してしてー!とゼイユという名前の去年の参加者の記録に6連敗してムキになり更に挑もうとするナンジャモを宥めて帰り、アズマはお面職人から仮面を受け取りに来ていた。一日ちょっとで完成するとか速すぎる、神業か?と思ったが、元々ある程度のところまでスグリが作っておいたが諦めた奴を完成させたというのが正しいらしい

 

 「じゃーん!どうどうアズマ氏!」

 と、顔には被らず頭のコイル型装置に仮面を引っ掛け、ぐるっとターンするナンジャモ。その頭に煌めくのは大体オーガポンのお面と同じ形状のものだ。ハートっぽい形で、井戸の面というらしい

 が、色合いは恐らくそれとは全く異なり、主に二色。つまり、左右で違う淡い紫っぽいパステルカラー、ナンジャモの髪色である。目玉が黄色いのが、ナンジャモカラーっぽさを更に引き立てている

 

 「め、めんこいべな」

 「おー、高評価ありがとスグリ氏」

 なんてやりとりを尻目に、アズマは渡された肩幅ほどある大きな面を見下ろした

 

 「どうかね?スグリが昔作っていた、遠い地方の伝説を模したものだが」

 「これは、一体?」

 何となくモチーフは分かる二本の黒角の生えた赤と黒の狂暴そうな顔の面を見て、アズマは尋ねる

 

 「スグリが鬼さま程ではないが憧れていた命を奪う破壊の伝説」

 「イベルタル」

 呼んだ?とばかりにボールが揺れた

 

 「そうじゃな。凶鳥(マガドリ)の面と呼ぶべきかの」

 「いえ、井戸、竈、礎、碧……。そこに並べてやるのに、凶鳥はちょっと」 

 アズマのイベルタルも良い顔しないだろう。少し悩んで、もうアレで良いかなと、アズマは結論を出した

 

 「命……御霊(みたま)の面」

 「使うのはお前さん達じゃ。好きな名前で呼ぶと良い」

 「はい。有り難う御座いました」

 頭を下げ、狂暴な鬼っぽくアレンジされたイベルタルの顔って感じの面(端はイベルタルの翼に付いた鉤爪のような意匠が配置され、眼はピンクダイヤ。イベルタルとは色彩が違うが周囲が赤黒なので眼が輝いてるように見えるのが良くできている)を抱き締めて、アズマは何度も告げた

 

 そうして、人気の無い場から仮面の元ネタたるイベルタルを呼び、跨がる。向かうは鬼が山の恐れ穴だ。一旦公民館に帰ろうとしたらそのまま夜の山道へと去っていったオーガポンは、恐らく其所に居るだろう

 

 果たして、渓谷の石橋のようになって恐れ穴と繋がっているところに降り立てば、イベルタルの羽音を聞き付けてかとてとてとどてらの鬼が駆けてくる。今日もアズマがあげたお面は角に引っ掛けてあるようだ

 

 『ぽにおー!』

 寄ってきてぴょんぴょん跳ねるオーガポン。余程嬉しいのだろう、ぽろっと食べかけのりんご飴の棒が口の端から落ちた

 『ぽ』

 『レッカ!』

 が、地面に落ちる前に吹きすさぶ突風がそれを打ち上げた。イベルタルの翼が起こす風である

 『ぽに!』

 ぱしっとオーガポンはそれをキャッチ、嬉しそうに口に含み直した

 

 「鬼さま、良かったな……」

 そんな姿を見るスグリ。少年がちょっと輪から外れぎみなのを見て、アズマはその背を押す

 

 「あ、アズマさん」

 「スグリ君。君が、仮面を渡したいんだろ?きっとその為に、昔の君が原型を作ってたんだろ?」

 「けど、おれ……イベルタルの仮面なら、おれじゃなくて」

 「そうやって逃げてたらさ、君を信じて付いてきているポケモン達も悲しむよ」

 その言葉に、少しして意を決したように少年は顔を上げると、おずおずと背に背負っていた仮面を取り出した

 

 「あの……鬼さま、これ!」

 バン!と鬼の前に差し出される狂暴な赤黒の仮面

 『ぽ?』

 「昔の、大事な人との思い出の仮面はあるよね?勿論、それも大事だと思うけど……今からの新しい思い出の為の、新しい仮面だよオーガポン」

 「そ、そう……です」

 「頑張って声出すんだスグリ氏ー!声ちっちゃいぞー!」

 「そうだべ!鬼さま!おれ、けっぱるから!これ!」

 ぐい!と少年が仮面を押し出す。自分達も含めてほしかったなぁとアズマは頬を掻いて、それを見守った

 

 『ぽに?』

 じっと、星の浮かんだ鬼の瞳が仮面を見る

 そして、暫くすればスグリの背後に控えて逃げるのを防止してくれていたイベルタルを見上げ、視線が行き来する

 

 『ぽに』

 意図を組んだのか、一声鳴かれたイベルタルが頭を下げれば、オーガポンはその頭の上に登って……仮面を付けた

 『イガレぽにおーん!』

 すると、イベルタルですと言わんばかりに代理でかオーガポンが吠える

 

 「……気に入ったみたいだね」

 『ぽに、ぽにおーレッカ!』

 小さな手がブンブンしている。余程気に入ったのだろう。気がつけばどてらの色まで変わっている

 

 「うわ、これバズ確定だよアズマ氏!」

 パシャッとナンジャモが写真を撮り、そして動画用にカメラを回すのも無理はないだろう。まるで春の桜のように、白みがかった桃色と濃い桃の二色に、オーガポンのどてらは色付いていた

 「あ、ナンジャモさん投稿禁止です」

 「えー!」

 「ナンジャモさん。イベルタル居るんだが!?って……吊し上げ、食らいますよ?」

 

 「けんど、何故?仮面と色、合わね……」

 オーガポンが降りてきてイベルタルが映らなくなるのを待つナンジャモの横で、確かにとアズマは苦笑する。今のナンジャモの見上げ方では仮面があまり映らないから可愛らしいが、地面に降りたオーガポンを正面から見ると恐ろしい鬼化イベルタル仮面の背後に桃色どてらの鬼とミスマッチだ

 「けどこれ、多分仮面で力が変わるって言ってた奴だね。例えば竈の面で火を起こすとか、センターの看板にあったあれ」 

 「あ、そっか。でこれは?悪か飛行?でもイベルタルっぽさが0%で……」

 ぱん!とナンジャモが手を打つ

 「その時!ボクの脳裏に電撃波走る!輝けぴこんと豆電球

 アズマ氏、模してるのはイベルタルだけど、使ってる特別な素材はディアンシーのダイヤだから、あの子のパワーを受けてる!

 違う?」

 「いえ、多分そうだと思います。あくまでも光る眼に使ってるダイヤは姫のものですからその力でならフェアリータイプになってる」

 

 と、その瞬間、微かに地響きがした

 「え、何?」

 振り返るアズマ。遠くで、何か煙のようなものが一瞬、立ち上った気がしたが、もう見えない

 

 「っ!」

 慌てて橋を駆け抜け、開けた場所に出る

 遠く、人気の無いともっこプラザから何かが飛び去ったような光景がアズマの前に拡がっていた

 社が壊れ、残骸が三方向に飛散している

 

 「ともっこプラザが!

 行こう、ベル!オーガポン、ナンジャモさん!」

 「お、おれも居るから!」




おまけ、オリポケ解説
オーガポン(御霊の面)
おめんポケモン 全国図鑑No.1017 草/フェアリータイプ
イベルタルのような仮面を被ったオーガポン。御霊と名の付く悪タイプのポケモンの仮面を被るのにゴーストでも悪でもなくフェアリータイプ。何だかんだキタカミに居た個体にとってはお気に召す面の一つらしい。
なお、変わるのは基本的にタイプだけであり、他の能力は碧の面を被った時とほぼ一緒。別に特性がダークオーラになったりしない。但し、イベルタルの力か、テラスタルすると悪タイプになり、つたこんぼうも草から悪に変化する。


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vs デスカーン

「ダメだ、完全に破壊されてる……」

 紫の煙がほんの少し漂う背の低い社であった部分を見て、アズマは首を振った

 『ぽに……』

 「大丈夫だ、鬼さまはつぇぇから」

 そんな言葉に、びしっとナンジャモが突っ込みを入れてくれる

 

 「見てて分かるだろスグリ君。オーガポンはそこまで戦いたいポケモンじゃないんだから、最初から頼ろうとしちゃダメだよ」

 「てアズマ氏アズマ氏?つまりどういうこと?」

 

 何となく状況は理解しているだろう。が、周囲というか撮影している以上ナンジャモ以外にも知りたい人々は居るだろう。だから問い掛けている

 それを理解して、アズマは頬を掻いて続けた

 「ともっこさま……お面職人の伝承によれば欲深い三匹が、復活した。ということだろうね」

 「え、それ本気?墓荒らしとかじゃなくて?」

 「うん。謎のポケモンが飛び去ったような気配が残ってる」

 けほっと咳き込んで、アズマはそう頷いた

 

 「毒性が強い。おれ、これでもベルの加護か大概の毒性って殺せるし、お陰で風邪も病気も最近は縁がないんだけど、それを貫通する力だ。そんなものが残ってるってことは、何かが起こったんだ」

 「アズマ氏、人間止めてない?」

 「まあ、映画にはそういうの良く居るから……

 兎に角、墓荒らしならそんな毒は撒かないよ」

 

 そして、とアズマは山を振り返る

 『ぽにお?』

 「ともっこが復活したとなると……何をするだろう?」

 「オーガポンへの復讐?」

 「けど、鬼さまは此処に居るべ?」

 「そもそも、あの三匹について、どうしてオーガポンは怒ったかっていうと」

 はっ、とアズマの脳裏に一つの考えが閃いた

 

 「キタカミセンターだ。復活した三匹、きっとあの時奪った仮面を回収しに行ってる」

 『がお!?』

 びっくりしたようなオーガポン。が、多分あんぐり開けているだろう口も眼も狂暴な赤黒の仮面の下で見えない

 

 「大変だー!即座に追い掛けようアズマ氏!」

 『イガレッカ!』

 人気がないのでそのまま後ろで控えていたイベルタルが、任せろとばかりに翼を打ち振るった

 

 そうして、ともっこプラザから即座に飛び立ち、オモテ祭りが行われているだろうキタカミセンターへ。流石にイベルタルで突撃する程無神経で行くべき案件かは分からない為道中で降りて、そこから駆け出す

 祭りの最中だからか、元々そこまで人通りは無いだろう道だが人っこ一人居ない。オオタチやポチエナ等、ポケモン達だけが怯えて道を空けてくれる中、一気に走り出して……

 

 『デェェェスカンカンカァァァン』

 『(危険ですわよ!)』

 ぐいっとバッグの肩掛けを引く力にバランスを崩し、片足で跳ねてバランスを取るアズマ。その眼前を、ほの暗い霧のような腕が横切っていった

 

 「っ!」

 『デスカァァァ』

 ドシン!という音と共に、道路の真ん中に降って来たのは、青い装飾の入った黄金の棺桶。古代の偉い人を埋葬したものにも似た棺のポケモン、デスカーンだ

 

 「デスカーン!?」

 デスマスはこの辺りで見掛けない。当然、野生のデスカーンも生息していないだろう。ということは

 「こ、こんなポケモンさ見たことねぇ」

 「ともっこが突然復活した。けど、タイミング完璧だったとはいえそれは流石にオーガポンが仮面を貰った事に反応した訳じゃない」

 それならば、元々持ってたはずの碧の仮面に反応して復活するだろう

 「なら、誰かが復活させたの!?死んじゃったポケモンだよ?」

 「ナンジャモさん。今では他の個体も沢山居ますけど……エンテイ等ジョウトに伝わる焼けた塔の伝説は、焼け死んだポケモンをホウオウが蘇らせた結果産まれたポケモンとされています。ゼルネアスも命を与えられるとされています

 ならば!ともっこを蘇らせる手段がその誰かに無いとは限らない!」

 言ってて底冷えする

 つまり、アズマの知識の中で推測するならば、敵はホウオウかゼルネアスを従えているという事になるのだから

 

 『カァァデス』

 更に、デスカーンが四本の霊腕を天に掲げると、空……いや道の先から何かが滝を下るように降ってくる

 『ビルッ!ド!』

 巨大な前腕、それに反してコアルヒーの足のようにぺたんとして小さな後ろ足。そして竜頭蛇尾と言いたくなるような段々細くなる長い体躯を持った、黒いウナギのようなポケモン

 「シビルドンまで」

 『デスデスデス、カァン』

 『シッビレル!』

 野生に居たらかなりの強者だろう二体、生息域がほぼ被らないだろうそのポケモン達が、道を塞ぐ

 

 「完全に、復活の犯人がおれ達の足を止めさせる気みたいだね」

 言いつつ、アズマはボールを取り出す

 

 「行けるか、ギル、サザ、アーク?」

 ボールから飛び出してくるのは二本の剣、ニダンギル。そして

 『デスカァァン!なの!』

 デスカーンにイリュージョンで化けたゾロアだ

 「いや紛らわしいよアーク」

 『ロァ』

 本ポケモンとしては同士討ちを誘いたかったのかもしれない。が、此方も同士討ちしかねない。諦めたようにゾロアがイリュージョンを解き、四本の脚で踏ん張る

 

 「サザは……分かった」

 完全な格上。アズマ達を止めようとしに来た二体のポケモンの威圧感はかなりのものだ

 

 「アズマさん、そんな事しなくても」

 「流石にベルで薙ぎ払えとは、言えないよ。まだ、どうしようもない相手とまでは言えないから」

 イベルタルは最後の切り札だ。アズマが頼めば幾らでも戦ってくれるだろうが、だからこそ、軽々しく命を奪うだけの力を持つ伝説を解き放ってはいけない

 

 「さぁ、ジムリーダーナンジャモが、オーガポンの為に頑張ってみた!行くよハラバリー」

 「はい、助かりますナンジャモさん!」



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vs.サザンドラ

本来、イベルタルの強さの印象の為にもって他の皆で戦わせようと思ってたのですがどうしても上手く盛り上げて書けなかったので、デスカーン&シビルドン戦スキップです。頼んだナンジャモ!そしてすまん!


「……コードさん!」

 戦おうとした。が、あまりにも不安げなオーガポンを放置しておけず、2体のポケモンを隙を見てナンジャモに任せて離脱。そのまま山登りは苦手だろうオーガポンを背に抱えて、ニダンギルに岩肌に剣を突き立てて足場になってもらってショートカット。イベルタルの手を借りずに、アズマはキタカミセンターにまで辿り着いていた

 

 「わ、わやじゃ……」

 手には戻したニダンギルのボール、背にはディアンシーの入ったリュックと重ねてオーガポン。横にスグリを従えて

 祭りの屋台の立ち並ぶ道を歩く

 

 が、周囲の疎らに隙間のある人混みは、アズマ達の方を見やしない。キタカミセンター本体、その社と社前に立った太鼓の置かれた櫓の方を見てわいわいとずっと騒いでいる

 

 その隙間をぬって、少年等は社へと辿り着いた

 「ああ、君達。特にスグリ君、良かった何処に行っていたんだい?」

 「トリオさん」

 と、親しげに、そして嬉しげに話しかけてくるのは白いプラズマ団の男、鳥尾

 「どうしたんですか?」

 「実はね、あのともっこさま達が祭りに現れたんだ。いやー、ちゃんと実在していたんだ

 スグリ君は特に、気になるだろう?」

 何処までも善意に満ちた言葉だった。が、それは……今のアズマにとっては、悪い知らせでしか無かった

 

 ディアンシーのリュックに更に強く掴まるオーガポン

 「ん、その子は……?」

 「すみませんトリオさん、今は!」

 それだけ告げると、アズマは男の体を押して更に前へ

 

 「どうしたのですかな、旅の方。今取込み中なのです」

 眼前には、3匹のポケモン。ガオガエンのような犬、賢しく小柄な猿、素子で優雅な何処となくネイティオを思わせるフォームの雉。ともっこと呼ばれる3匹である

 そして……そんな彼等に、センターの管理人は今正に、センターに保管されていた仮面を手渡すところであった

 

 「その行動、少し待って下さい!」

 「わやじゃ!それは鬼さまの仮面」

 「ほら、聞きましたか皆の者」

 かつん、と杖をつく音が響く。包帯を巻いたローブのプラズマ団が、大仰にふぁさぁっとローブをはためかせてお辞儀をした

 

 「ええ、彼等こそ悪しき鬼に心を犯された悪。聞いてはなりません」

 『ぽに!?』

 思わずといったように、オーガポンがアズマの背から飛び降りる

 『ぽにに!』

 「やはり。あれが鬼です。今、洗脳した彼等に指示を出した」

 「何を言うんですか、コードさん!」

 「鬼さまは悪くないべ!」

 「ほぅら、鬼に洗脳されている」

 得意げにカツンと杖を鳴らし、プラズマ団幹部の男は告げる

 

 まるで、そうであると最初から決めていた……とでもいうように

 「違うべ、鬼さまはあの看板みたいに」

 「……スグリ君、言っても無駄だ」

 聞く気はない。それを理解して、アズマは静かに眼前の仮面の人を見詰めた。どこまでも、計画通りというように動揺一つ見せない男を

 きゅっと、けれどまだ早いと揺れるボールを強く握り締めて

 

 『ぽにがおー!』

 御霊の面を着けて吠えるオーガポン。それではひょっとして聞こえないのか?と一瞬首を傾げると、躊躇を挟んで仮面を取り、今一度叫ぶ

 が、誰も反応しない。外見は可愛らしいが、今の鬼とともっこさまの逸話の再現に近い状態では、誰だって味方してくれない

 

 「何がしたいんですか、コードさん。ミライドンを治してやるんじゃ」

 横に控えた機械竜のモニターの瞳が見てられないとばかりにブラックアウトした

 「……何のことでしょう。言葉を弄して、仮面の強奪を(はか)る」

 『がお!ぽにおー!』

 再度仮面を着け、オーガポンが威嚇する。が、それをすればするほどに、周囲の目線は厳しくなっていく

 

 「……とりあえず、その3匹は時には危険です。そして、その仮面は……」

 「ワタクシが預かるのが良いのです」

 3匹が恭しく、持っていた仮面を差し出した

 

 理解する。話など……彼相手には最初から通じなかったのだ、と

 「鬼は退治されるべき、打破しなさい、サザンドラ!」

 その瞬間、空から大きな影が飛来して……

 

 「……ベルぅぅっ!」

 右腕にある小さな頭がアズマの肩を打ち据えた瞬間、アズマは大きく叫んでいた

 同時、待ってましたとばかりにボールから飛び出すのは深紅の巨影。飛んできた三ツ首の黒竜の短めの尻尾をその足の鉤爪で掴んだ紅の巨大な鳥は、圧倒的な脚力で天へとその体を放り投げ……

 

 「ベル、命までは!」

 『ガルレッカ!』

 一閃。全身を輝かせ、禍々しい光がイベルタルの口から迸ったかと思うと……

 『ガレ』

 嫌そうに、落ちてくる体を足の鉤爪で再度掴むと地面に軽く叩き付けるイベルタル。既にサザンドラの全身は尻尾の先から半分以上が石と化してまともに動くことすら不可能になっていた

 そのまま、生身のままの上半身も力尽きて首ががくりと落ちる

 

 「コードさん。話をしましょう」

 『イ、グレック!』

 優雅に舞う紅の伝説。アズマを護るように強く羽ばたき、天に舞う

 あまり、気乗りはしない。ある種、アズマの嫌いな悪の組織のやり方だ

 フラダリの想いは尊敬しても、やり方は間違えたと言いたいアズマには、同じように力で押し通すやり方は好ましくない

 

 けれど、と凄めば、困ったように男は肩をすくめた

 「分かりました少年。矛を収めて、話をしましょう。ミライドン、リラックスを」

 『アギャス!』

 ミライドンにも吠えられ、頷くとアズマは天のイベルタルへとボールを向けた

 「交渉だ。一旦戻って、ベル。もしもどうしても平行線ならまたお願い」

 一瞬だけ解放されたが故に、ほんの少し不満げに首を振るも、大人しく紅の伝説はボールへと帰る

 

 「……では、コードさん。今一度、話を」

 「……やはり、馬鹿ですね。所詮は子供」

 「っ!」

 すっと、男のローブの下から取り出されたのはアズマが何度も見た事のある形状の仮面

 

 が、アズマが持っていたし縁日屋台で売っているものとは異なり、各所には特別な石が煌めく、大きな仮面

 

 「っ、それは」

 『ぽに!?』

 「鬼さまの仮面!?」

 それは……オーガポンの身振りから少し前に何者かに奪われたと語られた碧の仮面であった

 

 『キュルル、アギャ!』

 『ぽ、ぽにお……』

 覚えたように、オーガポンがアズマの背に再度隠れる。つまり、それだけの事をした相手がそこに居る

 

 「コードさん。いえ、プラズマ団のコード

 それはいったい、何処で手に入れたんですか!」

 ほぼ、答えは分かりきっている。彼とミライドンと呼ばれる謎のポケモンが、オーガポンを襲って仮面を奪ったのだ

 

 怒りと共に、アズマは再度ボールを掲げる

 「今度こそ、どうしようもない!叩き潰せ、ベル!」

 が……ボールは、うんともすんとも言わなかった

 「……ベル?」

 返事はない。何時も揺れるボールは、欠片も動かない

 「ギル、サザ、アーク?」

 返事はない。ボールが、機能しない

 

 「ああ、素晴らしい。これが四つの仮面の……テラス結晶の力!

 妨害電波を増幅し、ボールの機能を総て停止させるとは!」

 『……ぽにおーん!?』

 そして、困惑するアズマの手のボールを、横から何者かが引ったくった

 

 「すまね、アズマさん……けんど、強くならなきゃ……」



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vs ジャミング装置

アズマからイベルタルのボールを引ったくったのは、内気な少年スグリ。きゅっとそのボールを握り締めると、輝いて杖を取り巻くように仮面が回転し始めたプラズマ団の男へと、期待するような目線を向けた

 

 「こ、これで良いんだ……」

 「ええ、彼の特異性、貴方を貶める主役性、それはイベルタルに特に集約される。それさえ無ければ、輝けますよ」

 「……ベルのボールを返すんだ、スグリ君」

 『がおー!』

 アズマの横で、ぽにっとした顔を歪めたろうオーガポンが仮面を着けて吠える。所在無さげに伸ばされた小さな手。が、俯いた少年はそれを振り切るように、ボールを手にプラズマ団へと歩みを進めた

 

 「君は!」

 「これで良いのです。全てを奪う主人公。伝説の破壊ポケモン!」

 大仰に再度ローブが翻る

 「カロス地方に大災厄を巻き起こすというイベルタル!そんな化け物を連れ、悪しき鬼と共にこのキタカミをも滅ぼしに現れた邪悪」

 ぎりっ、と。アズマは奥歯を噛んだ

 

 眼前には輝く四つの面。それは、アズマ達が取って来たテラス結晶が嵌め込まれたっぽく先端が光を放つ杖を中心に回転し、ボール機能をジャミングしている

 イベルタルはボールから出られない。破壊は……多分可能だろうが、ボールを内部から砕くことを躊躇している。他のポケモン達も出てこれない

 そして何より……

 

 ともっこ3匹とミライドンが、眼前に居る。凄むアズマを前にして、イベルタルすら現れて。貰ったのだろうキタカミ名産のモチを食べている余裕すら見せる3匹。流石の伝承のポケモンだ

 ボールをアズマの手で握り潰してでもニダンギル達を出したとして、勝てるかというと怪しい。ならば、ある程度安全なボール内に戻してやれないリスクを負ってまで出すべきじゃない

 

 が、そうなると……

 『(戦わないと……)』

 「勝てる見込みのない戦いは勇気じゃないよ、姫」

 バッグ内で震えるディアンシー。そう、ボールにあまり入りたがらない彼女だけは外にいる。が、1vs4なんてさせられない。それでも戦わなきゃいけない時だってある。あるけれど……

 

 「オーガポン」

 スグリに向けて伸ばした手できゅっと被った仮面の端を握る鬼を見て、アズマは更に拳を握る

 

 『ミラギャァス』

 一歩、ミライドンが歩みを進めた。横で3匹はどうする?とばかりに顔を突き合わせている

 

 どうする?とアズマは己の腰に手を当てる。ボール機能の阻害とはいえ、そういったものを基本受けない切り札はある。そう、イベルタルに向けてかつて投げられ、先んじてアズマの投げたボールに捕獲された事で起動せずに転がったマスターボールだ

 

 最悪の手段だが、これならば妨害を無視して、ともっこのうち一匹を無理矢理捕獲する事は可能だろう。繰り出せないし出したとして従ってくれるとも思えないが、立ちはだかるのを排除できる

 けれど!

 

 勝ち誇るプラズマ団、少し暗い顔で、けれども小さく好い気味だとつぶやくスグリ。周囲の人々は、鬼を倒す新たなキタカミ伝承の誕生に湧き立ち、アズマの味方をしてくれそうな人は居ない

 

 いや、きょろきょろしている白いプラズマ団は見えるが、何を出来るか迷っていそうだ

 

 その時、不意にオーガポンが今一度鳴き声を張り上げた

 『ぽにがおー!』

 ぽにがおー、と。鬼が山に反響が響く鳴き声。が、それで……

 いや、変わった

 

 『ワギイイイイ!』

 応じるように、野太い咆哮が返される

 「……何です」

 「こ、コードさん、これ森に居るっていうバケモンの」

 何かが、近付いてくる。猛然と山肌を駆け、崖から跳躍して……アズマとオーガポンの眼の前、櫓付近に張り巡らされた提灯を吊るす紐の一本をその重さで千切りながら、轟音と共に舗装された道路に巨大な影が降り立つ

 

 「っ!リングマ!?いや、デカすぎるし、これは!」

 それは、二足歩行する、巨大なリングマのようなポケモンであった。ちらりとオーガポンを振り返る左目は潰れているように黒く、ぱっと見隻眼。額には傷なのか何なのか赫い月のような模様を魅せる

 が、漆黒の左目に、アズマは確かに光を見た気がした

 『ぽにお!』

 『ワギィ』

 どうやら知り合いらしく、オーガポンが仮面をずらして素顔で手を上げれば、こくりと頷いた巨大熊はオーガポンを守るようにその前に立ち、泥炭の鎧に守られた体をミライドンへと曝す

 

 「が、ガチグマ!?進化方法の伝えが途切れて久しいって……」

 『ぽに!』

 よし、というようにオーガポンが巨大熊の肩へとぴょんと飛び乗る。見れば、ガチグマの全身には木の葉や川の水等が付着している。恐らくだが、オーガポンの為に盗られた仮面を探してやっていたのだろう

 

 「オーガポンを、助けてくれるのか?」

 こくり、と。熊はそう頷いたように見えた

 「なら!」

 

 が、その瞬間

 「……ポケモン風情が」

 『ぽ、ぽに!?』

 不意にガチグマの姿はかき消え、オーガポンが地に落ちる

 漆黒に1条の雷のようなラインが入ったボールが、勝手にプラズマ団の手へと戻っていく。ロック部分が赤く光るのは、ポケモンを捕獲しようとした時の共通規格だ

 

 「っ、捕獲しようと」

 が、基本的に多少ポケモンに対して非道でもと内部からは破壊されないようアホほど強化されたマスターボール以外のボールは、ポケモン次第で出ることが出来る。何度もボールを投げれば捕まるとはいうが、それは基本そこまで自分の力が欲しいならばとポケモン側が歩み寄るからなのだ

 だからこそ、歩み寄る気など欠片もない今のガチグマにとって、そんなボールなど無意味。……な筈であった

 

 けれども

 バチン、と火花が迸る。2度、3度、そして一際大きなスパークを走らせ、ボールは停止した

 

 『ぽに!?』

 ぽん、と投げられる黒いボール。そこからスパークと共に飛び出してくるガチグマ

 が、様子が可笑しい。繰り出した後だというのに、時折全身にスパークが走っている。そして、血走った瞳

 『がお……』

 『ワギィガァァァァッ!』

 振るわれる腕が、小柄な鬼を大きく吹き飛ばした

 

 「っ!オーガポン!」

 「お、鬼さま!?」

 思わずといったように、スグリも叫ぶ。迷いはきっと、あるのだろう

 「スグリ君、君は本当に、それで良いのか!」

 「伝説を従えて、鬼さまもナンジャモさんも仲良くして。何処までも主人公みたいだな

 けんど、アズマさん、アンタだって今此処じゃ主人公じゃない!」

 「そのオーガポンが」

 高く弾き飛ばされた草鬼は、仮面が外れぬよう庇うようにして、人混みの外に落ちる

 

 「何をしているのです?欲しいのでしょう?」

 すっ、と男が横で迷うスグリへと同じ黒いボールを投げる

 「全てのポケモンをワタクシに従わせるプラズマボール。今ならば、その鬼を捕まえるなど容易いこと」

 「わ、わやじゃ……けど」

 「信じるから、己のものにしておかないから奪われるのです。鬼退治の時間です、貴方が、鬼を捕らえ英雄になる」

 

 そんなやりとりの横で、動く影があった。何だか空気気味になっていたともっこ3匹である

 

 「っ!オーガポン」

 『ヌンダフルッ!』

 その中でも一際巨体を持つイイネイヌが、仮面ごとオーガポンを片腕で掴んで持ち上げる

 「待て!」

 そして、何とかオーガポンのところまで行こうとさりげなく止めてくる人垣を潜り抜けたアズマの眼前で、小鬼をキタカミセンターの崖から突き落とした

 

 『ぽにーっ!』

 「っ!」

 一瞬の迷い、ポケモンの手を借りずに、落とされたオーガポンを救い出せるか?

 そんなアズマの背に、機械竜ミライドンが足のエンジンを噴かせて頭から突貫した

 「がはっ!?」

 『(きゃあっ!?)』

 足元の地面が無くなって、アズマは自分がミライドンのタックルで崖から突き落とされたと気が付く

 

 「くそっ!」

 ほぼ墜落だ。止めようがない。じっとアズマを見下ろし、凶暴……かは分からない電子の瞳で見下ろしてくるミライドン、そして横で優美に宙を舞いながら嘴に翼を当てて嘲るキチキギスが助けてくれよう筈もない

 

 その瞬間、異様に熱い砂嵐が吹いた

 

 『どろるらぁ、ホォォスっ!』

 一陣の熱砂嵐と共に現れた影がオーガポンを攫い、アズマをも抱えて崖上へと吹き抜ける

 そうして大地に君臨するのは白馬の王。そう、タヅナでもって2匹でひとつとなった……

 「ブリザポス、そして……ランドロスさんっ!」

 その名をランドロス(白馬上の姿)。かつてバドレックスとカンムリ雪原の豊穣を巡って争い和解した伝説の豊穣の王である

 

 「……え?」

 少しだけ心配そうな表情をしていた少年の感情が、顔面から抜け落ちた




注意:当たり前のように登場してますが白馬ランドロスは独自設定です。ゲームには実在しません。


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vs テツノオロチ

「……度し難い。ですが」

 ひょい、と再度黒いボールが投げられる

 「ランドロスさん、こいつは」

 が、アズマを地面に下ろした豊穣の王は、気にするなとばかりに馬上で腕を振るい、そのボールを弾き飛ばした

 

 カチリという起動音と共にやはりというかランドロスの姿はボールへと呑み込まれ……

 『ブルホォォス!』

 『どろるるるぁっ!』

 

 編み込まれたタヅナのキズナは引き裂けない!

 

 ブリザポスの口元へと回るタヅナが光を放ったかと思うと、半ば赤い光によってボールへと吸い込まれていた筈のランドロスの姿は馬上へと戻っていた

 

 「え……え?」

 『ぽに?』

 そうか、とアズマは頷く。複数のポケモンが合体する……異例の事かと言われるとそうでもない。進化するとコイルが増えるレアコイル達等、複数で一体のポケモンとなる例は存在する

 

 が、だ。此処まで互いに自我を持ち、かつ任意で人馬一体を解除して元に戻れるなど通常のポケモンには例がない。父の資料によれば元々イッシュ伝説にあるゼクロムとレシラムは一匹のドラゴンから分かたれたとされるから似たような事は起きるかもしれないが……

 だから、一体だが1匹ではない。その特殊性が、それを実現するタヅナが、1匹のポケモンを必ず捕えるボールの力を無効化した

 そう、つまり!

 

 「今のランドロスさん達を、捕まえる事は出来ない!」

 『どるるるらぁっ!』

 アズマの横で、大きな嘶きと共に王はその腕を組んだ

 

 「しかしならば、その合体を維持しきれぬほどに弱らせてしまえば良いだけの事

 ミライドン!」

 『ギャァス!』

 機械竜が吠え、エンジンのような意匠を持つ後ろ足からエネルギーを放出し始める

 

 「皆は下がって!ランドロスさん!」

 周囲の人々を逃がそうとして、アズマは漸く、異変に気がついた

 

 そう、最初から……何だか可笑しかったのだ。ともっこが復活したことではない。それも可笑しいが、まだ納得や理解のしようがある

 その伝承のともっこさまが来たら、祭りも盛り上がるだろう

 

 だが、だ。ほんの少しの間とはいえイベルタルが現れ、これだけ戦って……人々が全く逃げ惑わないのは流石に変だ

 

 『……がお』

 抱えられていたオーガポンが、何かに気が付いたように空を見る。どてらから、ぽろっとアズマがあげた出店のお面が転げ落ちた

 

 「さぁ、やるのです!イナズマドライブ」

 仮面を浮かせているプラズマ団の男、控える3匹、稲妻を迸らせて浮き上がるミライドン。困惑気味で、けれども従うスグリ。そして……

 

 『……がお゛っ!』

 オーガポンが、身を捩って吠えた

 空に、何かが浮いている。まるで円形の黒い仮面を被った大きなモモンの実のようで、けれども桃というにはあまりにも毒々しい色

 

 『モ モ ワ ロ ウ!』

 「キビキビー!」

 「ランドロスさん!ブリザポス!」

 咄嗟に、アズマは白馬の背に飛び乗る。意図を理解してくれたのか、足元から氷の柱を産んで白馬が宙へと身を踊らせた

 その直後、ついさっきまでアズマが居た場所へ向けて、数人の村人が殺到し、氷に頭をぶつけて頭にオシャレに付けていた仮面を落としていた

 

 「んなっ!これは」

 『モモモ……』

 思わず、アズマは空の桃を見る。その瞬間桃型の殻が開き、中から種のようなポケモンが顔を見せたかと思うと、殻から何かが打ち込まれた

 

 「っがっ!?」

 『ホォス!』

 『どるらぁっ!』

 ブリザポスが一緒に氷の足場に乗せていた仮面を前足で跳ね上げ、ランドロスが顔に被る

 顔を覆うブリザポスの氷、ランドロスとオーガポンが被るお面が謎の紫の物体を弾くが……防護の無いアズマの口にだけ、それは入り込んだ。

 

 甘ったるい香り。まるでモモンのよう

 それは軽く舌に触れただけでもう咀嚼して呑み込まなければいけないような気持ちになる、柔らかな舌触りの餅だった

 

 『ぽに!?』

 「っ!でも、な!」

 アズマの心臓、ドクン!と鼓動するそこがほの昏いオーラを放つ。幼き日のアズマが呑み込み、今もオーラの原因となっているイベルタルの羽根が、餅の毒素を破壊する

 ぺっ!とアズマは呑み込むことを強要されそうだった餅を氷上へと吐き捨てた

 

 『モゲゲッ!?』

 驚いたように、ポケモンは殻に籠もって背を向け、ふよふよと逃亡を謀る

 『がお゛っ!』

 オーガポンがランドロスの腕の中で吠え、追おうとするが……空は飛べない

 

 「先は!」

 『どるぅ』

 意図を組み、豊穣王は馬上で唸ると手を掲げた。その拳に、氷が纏われていく。フリーズ演舞、今では定期的にカンムリ神殿で行われ、良い見世物になっている舞踏で使われる、一世一代の大技。そう、その名を

 「『ブリザードランス』!」

 稲妻を纏って空を突進してくる機械竜へと一閃のランスチャージ。氷の槍がすれ違いざまに、機械竜を凍て付かせた

 

 『グア、ギャ……』

 ミライドンは強力なポケモンだ。恐らくは鋼/ドラゴンタイプで体内のエンジンからのエネルギーで相応に電気タイプも扱える、ブリジュラスのようなポケモンだろう。ならば効果抜群とはいかないが……だからといって伝説のポケモンと呼ぶべき域に足を踏み入れているかどうかのポケモンが耐えられる程に豊穣の王の切札は弱くはない

 

 竜の表面は完全に凍て付き、落ちないようにかブリザポスが氷注を産み出して支えている

 ならば後はあの謎のポケモンと、スグリ、そしてプラズマ団の……

 

 「何を無様な。何をしているのです、ミライドン」

 カン、と。杖が打ち鳴らされた。

 『ミラクルルルルゥゥギャァァォッ!』

 戒めの氷の中を打ち砕くべく、未来の機関が躍動する!

 

 凍てついたミライドンが、凍ったまま吠える。体内のハドロンエンジンが杖に仕込まれたテラス結晶の力で臨界駆動し、あるかもしれない未来に満ちる稲妻の世界を上書きする

 「っ!?エレキフィールド!?いや、それを超えて……」

 バキン、と。迸るエネルギーに耐えきれずに氷が砕け散る

 

 「それに、これは」

 『どるるるぅ』

 警戒するようにランドロスが唸る前で、アンテナのような鋼の角の間に溢れる稲妻が、揺らめく電角を形作った

 

 そうして、稲妻に満ちる世界に、氷の楔を引きちぎった機械竜が悠然とその身を揺らして浮遊する

 

 アズマは唇を噛んだ

 「ミライドンじゃ、ない」

 いや、違う。ミライドンという名で呼ばれているのだから、この個体はミライドンだ。だが、アズマの脳裏には、『実在するかもしれない』と父の資料に書かれたとある空想のポケモンの名が浮かんでいた

 紫と黄色の稲妻の角、同じ色のエネルギーで膨らんだ喉や長い尾を持ち、まるでレックウザのように空を舞う紫の機械竜

 有り得ないが実在するかもしれないパラドックスを秘めたそのポケモンの名は

 「テツノオロチ!」

 『ギャァァス!』

 有り得ない伝説とされたポケモンの名を叫ぶアズマの前で、実在を証明したテツノオロチが、頭にナンジャモが見せたのと同じ電球の結晶を高く掲げて咆哮した

 

 『……がお』

 アズマの背で、迸る力に気圧されたのかディアンシーがバッグの底に身を鎮めるのを感じる

 

 「ランドロスさん!ねっさのあらしを!」

 『どるぅほぉぉす!』

 が、流石は神馬一体の豊穣王、臆することなくアズマの指示を受けつけ、熱い砂塵を含む砂漠の風を思わせる突風を吹かせる。鋼/ドラゴンはアズマの勘違いだったが、電気タイプなのは見せつけられた。ならば対抗しようはある!

 

 だが、再度杖が鳴る

 『ミラギャァス』

 その瞬間、ミライドンの頭の結晶が杖に取り付けられた翠の仮面と共鳴するかのように光り輝き……

 ガギン!という音と共に、ミライドン周囲に貼られたバリアに砂塵嵐は全て防がれた

 「っ!?あの謎のバリア……まさか、不思議な守り!?でも!」

 アズマは同じ現象をTVで見たことがあった。時折出てくるトレーナーが扱うポケモン……ヌケニンが非常に体力がないが効果でない技を全て謎のバリア(ふしぎなまもり)で常に完全に防いでしまうのだ。が、ミライドンは不思議な守りの力を持たないだろうし、何より電気タイプに地面タイプ技は効果抜群の筈。例え不思議な守りでも通る……

 が、そう思うアズマの前で砂嵐を貫いて飛び込んでくるミライドンの頭には、花のような結晶が燦然と煌めいていた

 

 「っ!お面の力でテラスタイプを変えた!?」

 ぎりっ、とアズマは奥歯を噛み締める。ならば、だ。4つのお面に合わせて……ミライドン本来の電気タイプと合わせて5タイプ。それだけのタイプに、あの杖の思うがままにミライドンはタイプを変えられることになる。そして、更には同じく杖の力か、効果抜群以外を受け付けない不思議な守りすら展開されている。5つのタイプ……電気、水、炎、岩、そして草に同時に効果抜群の技タイプなんて無い

 いや、アズマの脳裏にはテラスタルの化身?と題された父の資料、そこに描かれていた謎の円盤を背負う蜘蛛として想像されたポケモンから放たれるテラスタイプそのものとされるステラエネルギーなる仮想タイプの技が浮かんでいる。が、そんなパラドックスとされるポケモンが実在するなら実在するかもしれないと仮定されていただけの謎のタイプの技なんて使いようがない。そもそも、仮称テラクラスターなその技しかそのタイプの技は無いだろう、と推測されていたし、撃つ手段はないだろう

 

 つまり、今のアズマ達に、ミライドンの守りを打ち破る手段はない。あるとすれば、プラズマ団の男の杖を何とかする強引な手段だが、とアズマは地上を見下ろした

 恐らくは洗脳を受けたのだろう、キタカミの里の人々がちょっと妙にキビキビした動き?で此方を見つつ、男を守るように陣を組んでいる。そして……

 

 何匹かの鳥ポケモンがボールから放たれた。襲う気なのだろう。男の横で、逃げたはずのモモのポケモンが勝ち誇るように浮かんでいた

 

 『ぼがお゛っ!』

 『モゲゲ、モモモー!』

 完全に煽っている。飛び降りようとするオーガポンをランドロスと共に抑えながら、アズマはそのポケモンを睨みつけた

 

 その瞬間、下から赤い光が放たれる

 「ギル!『まもる』!」

 男に捕獲されたガチグマが放つ強烈な光の一撃だ。咄嗟にアズマは相棒のニダンギルに守らせるが……防ぎきれるような力では無かったのだろう、『まもる』の緑色のエネルギーはみるみるうちにヒビ割れて……

 『(これですわ!)』

 バッグから顔を出したディアンシーが桃色のダイヤを投げる。オーラを纏うそれは、ニダンギルに当たるとオーラのヒビを埋め、光を受け切らせた

 

 「アズマ氏アズマ氏、大変な」

 「っ!そうだナンジャモさん!明るい奴を!」

 「りょりょ!貴方の目玉に……エレキネット!じゃなく『フラッシュ』!」

 何とか片付いたのだろう、サザンドラが近づいてきた瞬間、アズマは叫んでいた

 

 「ランドロスさん!勝つために、今は」

 『どるるるらぁっ!』



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vs 民家

「ふぅ」

 『ホォォス』

 ナンジャモに案内されるままに民家に足を踏み入れ、アズマは息を吐いた。横では手助けしてくれたランドロスが合体を解除し、ふよふよと浮いている。ポケモンとしてはそこそこの大柄だが扉を潜って入れる辺り、田舎で土地の使い方が結構豪快なことが多いとはいえこの家の持ち主は大型のポケモンと暮らしていたのだろう。中の広さ以上に扉の大きさがそれを物語る

 

 と思ったところで、アズマは近づく気配に気がついた。それは……

 「っ!」

 思わずボールを構えるアズマ。顔を覗かせたのは、プラズマ団の服に身を包んだ男、鳥尾であった

 「ま、待ってくれませんか」

 が、敵意無くぱたぱた手を降って扉を後ろ手に閉める男を見てアズマはニダンギルのボールを仕舞い込んだ

 

 「敵意も、謎のオーラも無いようですね」

 でも、とアズマは目線を鋭く相手を睨む

 「何がどうなっているのか、説明を貰えますか?」

 「アズマ氏アズマ氏、此処はこの人のお家で、ボク鍵を貸してもらっただけだから穏便に」

 「分かりますよナンジャモさん。でも、はっきりさせないと皆不安を隠せませんから」

 オーラも気にせずソワソワするオーガポン、バッグに立て籠もったディアンシー。上空でギリギリ電波妨害範囲を飛び出せたからかボールに戻りたがらずアズマの周囲をずっと二本の剣に分離して旋回しているニダンギル。そして、アズマを見つめて静かに待つフリーズ村から突如として駆け付けてくれたニ体

 外に出ている全匹が、落ち着きを取り戻せないでいる。ぎゅっと、あげたときより強く仮面を被り、可愛らしい素顔を覆い隠すオーガポンは、何かと壁を……いや、その向こう、遠くに居るだろうモモンのポケモンの方へと目線を送っていた

 

 「……そのポケモン等は」

 と、慄く男が鎮座する伝説に問い掛ける

 『どるら』

 『ブルホォォス!』

 「……おれの知り合いではあるんですが」

 と、アズマはブリザポスの凍った鬣の中に、手紙が結んであるのを見つけた

 

 解いて拡げてみれば、それは……子供に代筆してもらったのであろう、たどたどしい字のバドレックスからの伝言。ヨは村のために今は場を離れられないが、ドンナモンジャTVを見ると胸騒ぎがしたのでランドロスに行ってもらうのである、との事だった

 

 「知ってるとは思いますが、ちょっとこのキタカミのオモテ祭りやともっこ伝説について動画配信してまして。それを見ていた中で不穏な空気を感じたとあるポケモンが、危機的な事態が起きた時にと送り出してくれたみたいです」

 ぽん、とアズマはバッグからニンジン……は残念ながら流石に持ち合わせがないので色合いが似ている甘い白色ポロックをブリザポスの鼻先に差し出しつつ告げた

 

 「ドンピシャタイミング!仕込みを疑うレベル」

 「仕込みだったら、ナンジャモさんに最初から動画撮っててと言いますよ。でも、本当に助かる救援でした

 おれ達だけじゃ、手詰まり感がありましたからね」

 ポロックが消えた手を引き戻し、手元へとアズマは目線を落とす。全然繰り出す事は無かったが、それでも最近は何時も其処にあったボールは、今はない

 

 「皆はどうしちゃったのか……あれ、変だったよね?」

 「はい、今回のオモテ祭りは最初から少し可笑しくて」

 と、男はキタカミのじんべえではなく白いプラズマ団の制服を祭りだというのに着込み、襟を正して頷く

 

 「プラズマ団が手伝っているのはそうなのですが、手伝いに現れた彼等を纏める男が、祭りを楽しんでもらう為と紫色の餅を、当日配り始めたのです」

 これです、と鳥尾は冷蔵庫を開け、中から数個の餅を取り出した

 

 「美味しそう、ボク一個……」

 「ナンジャモさん」

 『ぽにがおー!』

 フラフラと手を伸ばすナンジャモ、それを見て吠えるオーガポン

 

 「っと!ナンジャモは混乱が解けた!

 え、でも美味しそうで食べなきゃって気持ちになるし……ナニコレ!?」

 「欲望のままに動きたく気持ち……プラズマ団として人々に迷惑をかけ、ポケモンとの仲を引き裂いていた頃を思い出して自分は思い留まったのですが、如何せんこれだけ美味しそうで、かつ人々から相応に信用を集めていたプラズマ団が配る餅、多くの人が口にしていました」

 「そうして、何だか妙になったと。謎に反応は薄いし、此方に襲い掛かってくるし……」

 ぽつりと、アズマは呟く。そこまで親しくなくとも、異様さは分かる程度には彼等は可笑しかった

 

 「ボクも襲われかけたよー。人気者は身バレ怖いなーと思ったけど、違いそうで逃げてきた」

 「だから空から?って、放っておいたらそのうち空まで人々の出した鳥ポケモンに覆われそうでしたけど」

 「其処はほら、アズマ氏怖いし?」

 「おれをなんだと思ってるんですか」

 けれども、まあ実際ランドロスの力ならば蹴散らして逃げることは可能だったろう

 

 「……あれ、アズマ氏?」

 ボールではなく、ランドロスへと目配せするアズマを見て、少女の頭のコイルが大きく揺れた

 「……今、ベルのボールをスグリ君に取られてて」

 「スグリ氏!?ビックリ過ぎて」

 「……スグリ君。どうして君は」

 ぎゅっと、手を握り込むアズマ。怒りよりも困惑が勝つ

 

 「ま、ボク的には分かるかなー?」

 「分かるんですかナンジャモさん?」

 静かに頷くプラズマ団。アズマは目を瞬かせ、仮面を仕舞って寄ってきたオーガポンにもポロックとりんご飴を差し出しながら首を傾げた

 

 「あー、そこそこそれだよアズマ氏」

 「オーガポン?」

 「何と!アズマ氏は特別な選ばれし人間なのだー!って雰囲気

 実際物語の主人公かな?ってくらいに特別な立場なのもそうなんだけど、纏う空気感からしてそれを当然って思ってるっていうか……」

 言われ、アズマは頬を掻いた

 

 『(ですわね)』

 バッグの中からディアンシーのテレパシー。言われたことが嬉しいというのかニダンギルはくるくると回り、オーガポンは激怒が抜けたのかぽにっとした穏やかな顔でりんご飴を食べる

 「確かにね。おれは父さんの……ナンテン博士の息子として、相応に立派であれと思ってましたから

 でも、スグリ君からしたらウザかったのかな?」

 「いやー、ウザいっていうか、格の差を見せ付けてくる?っていうかね?

 例えばボクのチャンネルは今はもう大きいけどさ、新人で伸び悩んでる配信者の前にいきなりボクが現れて色々とアドバイスしだしたらどう?」

 「どうって、半年くらい前にやってませんでしたかその企画?」

 「実はアレ仕込みなのだー!

 事前に協議して、いきなりって体で進めてっただけ」

 へぇ、とアズマは頷いた

 

 「確かにいきなり過ぎて本気なら段取りとか上手くいかないでしょうし、企画として問題もありますね」

 「そう!って違うくて

 アズマ氏、本気でサプライズでやってるボクみたいな側なんだよね。相手を考えるし優しいけど、自分が特別な側だって自覚してそれを出しながらナチュラル

 良くも悪くもとんでもないっていうか、特別なアンタならそうだろうけど!って叫びたくなる。スグリ氏はそれに耐えきれなくなった……のかも」

 「おれのせい、ですか」

 ぎゅっと、アズマは拳を握る

 

 「止めないと。苦しむのは分かるけど、このまま行ったら戻れなくなる」

 「でも、どうやって?変なバリアとかあって」

 「いや、勝ち目はありますよ」

 「え嘘?」

 「不思議な守りと、タイプを変えられるテラスタル。けれど……ナンジャモさん、例えばナンジャモさんがあのミライドンと杖を持ってて、仮面の四種類とミライドン自身で5タイプに変化できるとします。ランドロスさんが地面技を撃ったらどうします?」

 「炎タイプだと結局食らうし、水か草にテラスさせる」

 「ならば、おれは同時にブリザポスに氷技を撃って貰います」

 「テラスの選択は水しか無いね」

 「……その技が、もしもフリーズドライなら?」

 「あ」

 アズマはそう、と手を叩いた

 

 「一匹のポケモン相手なら勿論無双です。止めようなんてありません

 でも、皆が居てくれたら、どんなテラスになってもバリアをぶち抜ける。それもあって、相手はボールの機能を封じてきたんだと思います」

 勿論、とアズマは目を伏せる

 「相手は伝説のテツノオロチ、生半可な火力じゃバリアを貫通してもまともなダメージを与えられないでしょうが……対抗は出来ます」

 腕に食い込んだ黒水晶を見ながら、アズマは告げた

 

 この水晶の力で放つZ技ならば、相応にダメージを通せるだろう

 それで、勝てるかは兎も角

 

 「……ベルさえ取り戻せれば、何とか」

 「うーん」

 「ボールを砕くわけにもいきませんし、どうにかしてあの電波を無効化さえ出来れば、どうせボールを返しても何も出来ないとたかを括ってそうな向こうを油断させられるんですが……」

 「というかさアズマ氏、ボールから出られない電波?って何?」

 「ああそれは」

 そういえば、あの場に最初は居なかったナンジャモは知らないな、とアズマは頷いて話を通す

 

 すると、少しの間周囲にコイル型の装置を回して考え込んだ少女は、ぽんと手を打った

 「出来るよアズマ氏!」

 「……本当ですか?」

 「いやー、自信ないけど」

 「無いんですか!?」

 『ぽにおー?』

 「けど、その装置の妨害電波の大元が結晶だっていうなら

 きっとあの方法なら出来るよアズマ氏」



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