君が為のヒーローアカデミア (潤雨)
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プロローグ、遠き未来の少し過去


初めましての方もお久しぶりの方も、よろしくお願いします。
楽しんで頂けたら幸いです。


混乱

それがこの場を表す言葉の全てだった。

それまで隣に立っていた人間同士が争い、傷つけ合う。

ヒーローと呼ばれ、称えられて来た者達も同様に、否、更に激しい闘争を繰り広げている。

救いようの無い戦乱を眺めるのは、1人の少年だった。

神や天使が人を見下す様に、混乱を見渡せるタワーの屋上に端に立ち、争い合う人間達を見降ろしている。

 

「見つけたよ。蒐人くん」

 

誰かが屋上に着地する音と名前を呼ばれ少年が振り向く。

そこに居たのは『最高のヒーロー』デク。オールマイトの後継と名高い現役トップのヒーローだった。

普段ならば見る者を安心させる笑みを浮かべているはずのヒーローは、今は悩む様に眉をしかめ、自らが蒐人と呼んだ少年を見つめている。

 

「『ボクが来た。』だからこれ以上、キミの好きにはさせない」

 

力強い宣言。しかし、それを受けて少年は笑みを浮かべて見せた。幼い顔に浮んだ笑顔は無垢などとは程遠い、人の心の奥底を見透かし、その業を嘲笑うような、純粋な悪意を形にしたような笑顔。その笑顔のまま、蒐人と呼ばれたヴィランは言葉を発した。

 

「それに対する返答は、『もう遅い。』だ。これ以上に無いほど俺は好きにした。」

 

満足気な声でヴィランはヒーローに告げた。自分1人を止めた所で大勢は決しているのだと、混乱は止むことなど無いと語る。

 

「分かってる。けど、僕はキミを止め無くちゃいけないんだ。ヒーローとして、友達として!」

「此処に来て、いや、此処まで来てからその言葉が出ると言うのなら」

 

デクの台詞を無視するように、呆れた様に首を振り、言葉を続ける。

 

「■■■■■■■■■■■■」

 

断言された言葉。それは最後の戦いの引き金だった。

両者は弾かれた様に動き出し、そして・・・

 

 

 

 

 

「あー、暇だー」

 

畳にちゃぶ台と言う古き良き日本スタイルの和室で、少年がちゃぶ台に突っ伏してぼやいた。

声変わりしたての様な、少年と大人の間の声でボヤく着古したTシャツの少年。それだけならありふれた光景だっただろう。そう、少年が顔の上半分を隠す仮面を付けて無ければ、だ。

少年だけではなく、和室の中でちゃぶ台を囲む数人の男女は例外無く顔を隠す仮面やマスクをつけて居た。

 

「あれれのれー?ボスは退屈かな?暇潰しに怪人作ろっか?キヒヒ」

 

渦巻き眼鏡を模したゴーグルを付けた少女がボサボサの髪を振り乱しながら言うが室内の人間は誰も反応しない。『そう』するのが正解だと重々承知しているのだ。

人間が反応しない代わりに、女性の肩に乗っている両右手のモルモットが「!ッーュチ」と奇妙な鳴き声を上げているが、コレも無視された。

 

「放って置きなさい。どうせ茶々を入れてた組織が潰されでもしたんでしょう」

「煩いー」

 

美しい女体のシルエットをした宝石の様に透き通った身体を持つ女性がため息混じりに言えば、拗ねた声で少年が返す。

和室には全員が顔を隠している以外は仲の良い家族の団欒の様な暖かい空気が部屋に満ちている。

 

「てか、またオール・フォー・ワンの老害だよ!何なの?死亡説流しときながらこっちのやる事には直々に対処って何?隠す気あんの?」

「そりゃ、ボスのお巫山戯を見逃したら死亡説が死亡説(確定)になっちまうからなぁ」

 

その空気の中、まるで嫌いな教師の愚痴を言うかの様な口調で裏社会を牛耳る黒幕の名が飛び出し、周囲の人間達もまた始まったと言う様に苦笑する。

長身痩躯だが逞しい男も苦笑しながら愚痴に相槌を打った。

 

「うぅ、後10年早く生まれてればサクッと排除出来たのにさぁ」

「活動期間の長さって言うアドバンテージだけは如何ともし難いからなぁ」

 

経験に人脈、何を為すにも重要な要素を既に持ち得ている者と蓄積しながら事を為さねばならない者の有利不利は明確だ。特に、彼らのように『裏社会』で暗躍する者達には

 

「あの老害。本当にどうしてくれようか。ってあっ、そうだ」

 

突っ伏した体勢のままだった少年は何かを思い付いて顔を上げる。その拍子に仮面がズレ、片目が露わになった。

その瞳に宿るのは夜の海のように深い闇、その中で浮かんでくるのは純粋で強い意志。自身が至高である事を微塵も疑わぬが故の他者を惹きつけ、従わせる魅力を持つ。そんな瞳だった。

その瞳を輝かせて、少年は言う。

 

「アイツ、もう直ぐ死ぬじゃん。いや、殺す。」

 

クスリと嗤えば、室内の空気は一瞬にして変化を遂げる。末っ子を囲む家族の様な暖かみは消え去り、そこに居るのは絶対の王とその臣下達だった。

 

「キーワードは雄英とオールマイト、それに『緑谷出久』。やる事は単純だ。散れ。」

「是」

 

少年の言葉に臣下達が答え、瞬きの間にその姿を消した。

 

「僕のヒーローアカデミア。楽しみだなぁ。」

 

仮面を外し幼い素顔を晒して、少年、衣嚢蒐人(いのうしゅうと)は呟いた。

 



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悪党ビギニング

世界を牛耳りたい

 

それがこの世に生まれた衣嚢蒐人(いのうしゅうと)が最初に思った事だった。

無垢な顔をした乳呑み子に有り得ない邪悪な思考ではあるが思ってしまったのは仕方ない。

何故なら、俺には生まれてくる以前の記憶があった。ママのお腹の中にいた頃なんて可愛いレベルでは無く、身体が作られるよりも前、前世と呼ばれる記憶。それも己の欲望の侭に好き勝手生きていた悪党の記憶である。

どうしようもない程にこびり付いたその記憶は救いようのない程に自分を貫き、真逆(まさか)の来世にまで『自分』を手放さなかった己の物で、此処まで執着心が有ったのかと我ながら感心した物である。

その記憶は罪に塗れ、死に溢れ、そして何処までも自由に生きた記憶であり、例え生まれ変わっても同じ様に生きると決めていた記憶だった。

そう、同じ様にだ。自身の記憶が何処も欠けていない事を確認し、自身の状況から見て転生と言う荒唐無稽な出来事の結果だと確信し、そして、悪党として生きる事を決めた。

それが衣嚢蒐人としての最初の記憶。野望の始まり、異端のオリジン。

 

 

 

そんな記憶を抱え、表向きは普通の子供をしていた時間は短かった。うん、期間にして1年程。ヴィランが両親の職場に襲撃して来て両親が亡くなったり、そのヴィランが俺の部下になったりと言う波乱と、その中でこの世界が俺の前世で連載されていた『僕のヒーローアカデミア』と似たような世界である事に気付いたり、オールマイトの活躍を知って正にその世界である事を知ったりと転生を行った後に経験する驚きを体感出来て、社会の闇の住人兼漫画等のサブカル好きを自称していた身としては嬉しい限りだと興奮したのを覚えている。

好きだった漫画の世界で好き勝手出来ると言う事実は俺のテンションを天上知らずに上げていき、気付けばヴィランの一大勢力を率いる身となっていた。

まぁ、その辺りのサクセスストーリーは思い出すと色んな意味で真っ赤になってしまうので記憶から省く。顔とか、画面とか・・・

そして、日本と言う国で目の上のたんこぶになっているAFO(オール・フォー・ワン)と無駄なぐらいの暗闘を繰り広げて来た。

どうやってアイツを潰そうかとあの手この手を使っていたのだが、漫画でアイツ敵だったじゃん。それなら最終的に主人公にやられるじゃん。と言う割と根本的な事を思い出し、正直ちょっと企み事が楽しくて忘れかけていた原作の知識を元に行動を開始した。

 

 

 

 

「もー、何で自分で来ちゃうのかなー?監視だけならー魔女姉さんに任せとけばいいのにー」

「自分で見たかったからに決まってるだろ?」

 

そんな会話をしながら歩いているのは仮面を外して変装を行った俺と、ボサボサ髪に白衣と渦巻き眼鏡のようなゴーグルがトレードマークの幹部、マッド・アシスタント(組織内でのコードネーム(あだ名)は助手子)だった。

彼女の組織内での立場は研究・開発部門を統括している『博士』の助手であり、薬学を始めとした医療分野の天才だ。まぁ、博士よりも他人に被害をもたらす奇行が目立つ問題児でもあるのだが。

今回は対AFOの一環として、アットホームな職場(和室)より抜け出して『主人公』緑谷出久の確認にやって来たのだ。護衛とか称して、襲撃が来るより厄介な部下が付いてきてしまったけれど・・・

 

取り敢えず、緑谷出久の監視を命じていた部下から、原作開始の合図とも言えるオールマイトの動きと、No.13のヒーローノートが同級生に爆破されたと言う報告が来てたので、今日中には事が起こるはずだ。

はず、と言うのも単行本派では無かった前世の俺の記憶は話の始まりに近い程曖昧になって行く上に、原作何て知るかとばかり暴れていた所為で何処にバタフライエフェクトが起きてるか分からず、あらゆる記憶に『はず』が付いてくる。仕方なしになるべく監視と観察を行い、ズレを観測、それを積極的に利用する方向で進めて行っている。

 

「でー、本当にオールマイトとその後継者で老害さんを倒せるんですかー?」

 

事が起こるまでの時間潰しにぶらぶらと歩いていると、助手子が疑う様に言ってきた。

疑問は最もである。ぶっちゃけウチの組織の総合力と言うか、幹部連中が揃った時の戦闘力はオールマイトを相手にして打倒しえる程だ。それだけの力を持ってしてもAFOは殺しきれていない、それなのに、オールマイトとその後継者がAFOに勝つと言うのは信じ難い物だろう。

 

「倒せるんだよ。だって、あの個性を放置する事がアレには出来ないからね」

「ん?あー、因縁ってヤツですかー。ロマンチックー。どんな脳ミソしてるんですかねー」

 

俺の言った事を理解したのか助手子はケラケラと笑う。

 

AFOとOFAの因縁。OFAを受け継いだ者はAFOと戦う事を宿命付けられるなどと言っているらしいが俺からすれば事実は全くの逆、AFOがOFAを無視出来ないだけなのだ。OFAの後継者を見つければ、わざわざ裏社会の深淵から這い出て、自らが直接対処する程に執着している。

黒幕気取ってる悪人は俺を含めて周囲が強くてナンボであり、本人だけで戦うより部下を効率的に動かし、連携させた方が強いのだ。

AFOは単騎でも最強クラスだが部下と言う盾を失ってしまえば、OFAと言う対AFO用に鍛えられた個性の攻撃が届く。その危険性を分かった上でも自ら出てくる、それをチャンス以外に何と言えと?

そのチャンスをOFAを受け継ぐ者は得る事が出来るのである。俺達が策謀を巡らして何とか手繰り寄せようとするのを当たり前の様に。

 

まぁ、そんな事を喋りながら歩いていると、監視担当の声が『耳に直接響く』同時にさほど離れていない所から爆発音が聞こえ始めた。

 

「ボス、始まりましたわよ。対象『緑谷出久』の座標を送りますわ。」

「こっちでも音は確認した。対象の位置情報は随時こっちに」

「分かりましたわ」

 

無駄に妖艶な声が耳に聞こえて来て、囁き声で返事をすれば了解が返ってくる。

緑谷出久の位置情報が耳に入ってくる中で、俺達は爆発音の方向を目指して動きだす。

人混みを避けて走り抜けると、正に惨事な光景が広がっていた。個性によって人質に取られた子供が個性の限り暴れ、それによって起きた事態の対応に追われてヒーローが右往左往している。

 

「あるぇー?相性の良いヒーローが来てないんですかー?」

「みたいだね」

 

人質の爆発の個性とヴィランのヘドロの様な個性、その2つに対応出来るヒーローが現場に来ていない。

エンデヴァーなら爆発を上回る爆炎でヘドロを吹き飛ばしただろう。ベストジーニストならヘドロの拘束も爆発も物ともせずに人質を解放出来ただろう。

エッジショットが居れば瞬きの間に人質とヘドロは引き離されて居たに違い無い。それらの上位ランクのヒーローが居なくても、ヒーローが飽和しているとさえ言われている現代で、相性が良いヒーローが一人も来てないとは不運の極みである。余程日頃の行いが悪いのだろうか。

 

そして、不運と言えば絶好調で暴れているヘドロも不幸である。さっきから助手子がキラキラとした目をしている。この場合、次に来るのはロクでもない言葉だ。

 

「ねぇ!ボス!アレ飼っても良い?」

「駄目だ。捨て置きなさい」

「ヤダヤダー。飼うのー」

 

ヘドロ状の人間と言う割とレアな素材に興味を惹かれたようで聞き分け無く駄々を捏ねている。

 

「ボス。対象が接近。接触しますわよ」

「ん、始まるね」

 

再び聞こえた声で駄々を捏ねる助手子から意識をヴィラン達に移せば、貧弱な少年がヴィランと、延いては人質の少年と相対していた。

時が止まった様に感じる一瞬、少年達は視線を交わした。

 

そして、少年が動き出す。

 

人質の少年と目が合った瞬間には駆け出していて、周囲のヒーローが止めようとしても間に合わない。

 

駈け出す。蛮勇、無謀でしかない。

 

鞄を投げる。稚拙、お粗末としか言いようがない。

 

突っ込む。無意味、無駄でしかない。

 

けれど、その馬鹿馬鹿しい特攻は、同類の馬鹿を動かすに足りたらしい。

 

お決まりの台詞と共に『彼』が現れ、ヴィランを吹き飛ばされる。

 

そこに居たのは輝かしきNo.1ヒーロー『オールマイト』

歓声を浴びながら笑う姿にため息を吐く。

 

「よし、帰ろうか」

「はーい」

 

見たい物が見れたし満足して助手子を促すとヤケに良い返事が返ってきた。もっと愚図るかと思ったのだが・・・

視線を向ければ、その手には手の平サイズのキューブが握られており、キューブは怯えるかの様に震えていた。まるで、吹き飛ばされたと思ったら閉じ込められていた哀れ被害者の様だ。

 

「・・・ちゃんと世話するんだよ?」

「大丈夫!ちゃんと最期まで面倒みますからー」

 

哀れなヘドロ。最期が明日かそれより先かは分からないが絶望しか無い。ヒーローも事件を起こしたばかりのヴィランは助けてくれないらしいし詰んでいる。

そんな可哀想なヘドロの事は3分以内に忘れる事にして踵を返し、俺達はその場を後にした。

 

「『緑谷出久』か、うん、君はヒーローになるのだろうね」

 

事件現場を後にしながらの呟きは誰に咎められる事もなく、周囲の喧騒に溶けていった。

 



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ビフォー原作

薄暗い室内で男が一人、ディスプレイに向かって一心不乱にタイピングを行っていた。打ち込まれているのは男が独自に調べた10年以上も前の未解決事件についてである。

 

衣嚢記念研究所襲撃事件の真相!!

衣嚢夫妻は『個性』の研究を大いに発展させた研究者として周知されている。

しかし晩年は、強力な複合個性の持ち主、あるいは全く別の系統の2つの個性を持つ人物達が主張した『自身には前世の記憶がある』と言う妄言を信じ、魂が個性に与える影響についてと言うオカルト方面へと研究を迷走させ、研究所がヴィランの襲撃に遭い死亡と言う研究者の隆盛と没落、そして個性社会の理不尽さを網羅した夫婦である。

この研究所の襲撃は、衣嚢記念研究所襲撃事件と言われ、襲撃を受けて夫妻や研究所の職員などが全て死亡しており、研究所内で生存していたのは夫妻の実子のみと言う痛ましい事件であるにも関わらず、襲撃を行ったヴィラン、襲撃の利用と言った物が一切不明のまま迷宮入りとなった事件である。

本誌ではこの事件を長年追い続け、この度、最も可能性の高い仮説を打ち出した。

それは、生き残っていた者こそ犯人なのではないか?と言う物だ。つまり、生き残っていた衣嚢夫妻の実子こそ、この事件を起こした犯人なのでは無いだろうか?

勿論、1歳になるかどうかの子供が意図的にそこまでの惨劇を起こせるとは思えない。しかし、強力な個性の暴走と考えればどうだろうか?記者の取材によれば実子は今年ヒーロー科の受験を目指していると言う情報が入っている。強力な個性の持ち主である事が予想でき・・・

 

「おー、趣味の悪い記事を書いてんなぁ」

 

薄暗い室内に男以外の声が響く。いつ室内に入ったのか、男がディスプレイに映る書きかけの記事を覗き込んでいた。

突然の事に部屋の主は飛び上がる程に驚き、現れた男の顔を見て顔を歪める。

不法進入だとか文句が頭に浮かばぬほどに焦り、冷や汗が噴き出している姿ははっきり言って醜かった。

 

「っ!・・・アンタは!ちょっと待ってくれ!アンタが出張ってくるとはどう言う事だよ!?」

「逆に聞くがどう言う事だと思う?」

 

慌てる男を、長身痩躯で逞しい男がにこやかに見る。その笑顔は爽やかで、薄暗い室内が明るくなった様にさえ感じる程だ。

 

「警察御用達なんて言われるアンタに睨まれる覚えは無いぜ。グッド・フェイス・・・」

 

男は目の前のヒーローの名を呼んだ。

ヒーロー『グッド・フェイス』、ヒーローランキングにこそ乗っていないが、警察と綿密な調査協力を行い、ヴィランの追跡調査、並びに対策に置いて高い評価を受けて居るヒーローであり、彼が目の前に現れたと言う事は、法的にヴィランと見なされる行動が明るみになったと言う事であるとさえ言われている。

確かに男は事件の情報を集めるのに無許可の個性を使用しており、それが判明すれば罪に問われる事は間違いない。しかし、それぐらい不正は彼の業界では当たり前のモノだ。

 

「確かに趣味の悪い記事かも知れないが、俺にとっちゃ飯のタネなんだ。書かなきゃ餓え死にしちまう」

 

ヒーローは何も答えない。男は冷や汗を流しながら言葉を続ける。

 

「それにこの記事も嘘ばっかりじゃない!俺は確信してるあのガキこそが・・・ッカハっ」

 

言い募る言葉は一瞬で掠れた声になり消えた。男の体は一瞬で水分を失ったミイラの様な姿へと変貌していた。

 

「いやぁ、確かに趣味の悪い記事だがヒーローが動く程じゃない、けど」

 

ヒーローは爽やかな笑みを僅かにも変えずに言葉を出す。目の前に命の火が消えゆく者が居ると言うのに、輝く笑顔にはなんの感情も浮かんでいない。

男からは水分などでは留まらずに、その生命全てが吸い出されようとしていた。

 

「その事件の真犯人としちゃぁ、触れて欲しくないだろ?見当違いな記事で蒐人(ボス)に迷惑かけるのも勘弁だしな」

 

笑顔のまま、全てが吸い出された男を手で払う。男だった物は形を失い、室内を舞う塵となった。

ヒーロー『グッド・フェイス』、裏切り者(ダブルフェイス)のヴィランは、仲間が作った爆弾を設置し、その室内を後にした。

 

「おし、任務終了っと、ん?」

 

派手な爆発音、室内の塵さえ残さずに吹き飛ばしたであろうその音をバックにヒーローの皮を被った男は自身の端末を覗き込んで嬉しそうな声をだした。

 

 

 

 

雄英高校校長室。応接室を兼ねた広い室内では校長の根津と、美しい女性がテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

透宝(とうほう)さん。貴女の仰る事は良く分かりました。私共も前向きに考えさせて頂きたい。」

「それは何よりです。根津校長」

 

テーブルに広げられたのは様々な資料、主に最近の犯罪の傾向とヒーローの出動件数、及びに解決した事件についての資料の様だ。

 

「我々はオールマイト頼り過ぎていました。万が一彼が動けなくなってしまったとき、生まれる穴は埋める事が出来ない程になっている」

 

透宝と呼ばれた女性は穏やかに語りだす。

 

「それを埋める事が出来るヒーローを世に出す為ならば、我々、スタージュエルグループは支援を惜しまないつもりです」

 

今回の話合いをなぞる様に透宝は言葉を続ける。

今回、日本を代表する大企業とさえ言えるスタージュエルグループの代表取締役自らがある交渉にやって来ていた。それは雄英高校への融資を行う提案、そして、雄英の入試に置ける定員の増加の要望。20人編成2クラスが定員となって居る現状を21人1クラスとして、定員を2人増やして欲しいと言う物だ。雄英の高い質の教育を行き届かせる限界人数、それを増やす事を求める代わりに、巨額の融資と生徒の育成に掛かる費用の負担を持ちかけたのだ。

多くのヒーロー科を持つ学園がオールマイトに並ぶヒーローを目標にしている事に対し、彼女はオールマイトが引退した後の世界で必要とされるヒーロー像を語った。そしてこれはオールマイトが隠している事実を知る根津校長に取って理想通りでさえあった。

そして交渉は成立し、2人は和やかに別れの挨拶を交わし、透宝は雄英高校を出た。

 

「うふふ、ミッションコンプリート。雄英の来年の定員を増やせだなんて、どうしようかと思ったわよ。全く」

 

校門に待たせて居たリムジンに乗り込み透宝は呟く、次の瞬間にはその身体は透き通るような宝石で構成された物へと変わる。

大企業スタージュエルの代表取締役と言う表の顔を持つヴィラン、ジュエル・レディが自身のボスの無茶ぶりを思い出しため息を吐き、運転手としての機能が付いたロボットに行き先を告げたとき、端末に新着のメッセージがある事に気付いた。

 

「なるほどね。うふふ」

 

 

組織でも古株の幹部は、送られて来たメッセージに宝石の身体で柔らかに微笑んだ。

 

 

 

常夏の部屋

そう呼ばれるのは組織『トイボックス』のボスたる俺、衣嚢蒐人が気に入っている和室だ。

窓を模したモニターには夏の庭や景色が映し出され、数世代先の暖房によって再現される夏の温度に古き良きクーラーと扇風機が音を立てて立ち向かっている。

王座と札の付いた座椅子に座り、お気に入りのちゃぶ台で試験勉強に励んでいた。

そう、受験勉強だ。AFOを殺す為の計画として、所謂『原作』を利用すると決め、その為に雄英高校に潜り込む事を決めたのだが、その為には受験をし、合格を貰わなければいけない。実技は問題なんてあり得ないが、だがしかし、恥ずかしながら筆記の方は落ちる可能性がある程度の学力しかなかった。数学などは兎も角、歴史は個性が発見された事による混乱で無茶苦茶だし、生物は遺伝と個性の関連だけで1つの分野扱いになってたりと前世との差が酷く、その分のロスが響いている。

カンニングなどを使えば楽なのだろうけど、やれば出来る程度の手間を惜しんで怪しまれるリスクを犯したくはなかった。

そんな訳で、今は勉強漬けと言う転生して初めて年相応のイベントをこなす日々となっているのだが・・・

 

「怠いぃー」

 

特定分野だけとは言えども突貫での受験勉強は辛い物があり、ちゃぶ台に突っ伏す。仮面がズレるが気にしない。

 

「ヴィランにゃ学校も試験も無いと思ってたんだどなぁ。」

 

ボヤいても仕方が無いのは分かっているが、こればっかりは止められない。

集中が切れてしまえば、あとはペンを取るのさえ億劫だ。何か気晴らしをしなければ・・・

 

「あ、そうだ」

 

ピコンと閃きが有ったので通信端末を取り出し、組織用の連絡アプリを起動する。そして、暗号変換を行いながら部下達にメッセージを送る。

 

「ボス命令、本日の夕飯はバーベキューに決定。準備よろしく。っと」

 

楽しい事を餌に頑張ろうと言う古来からの手法を使う事にして送ったメッセージに、部下達が思い思いの返信を返してくれている。その事に頬を緩ませながら再びペンを取る。

先程より軽快に動くペンに満足して、勉強を再開した。

 

「平和だなぁ、ヴィランなのに・・・」

 

明日はヴィランらしい事をしようと少し決意した。




ツイッターを始めました。投稿や生存報告などを書いていく予定です

http://twitter.com/@2d6_1_1sskaki


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試験ナウ

試験当日、俺自身はごく普通に起きて日課をこなしたりと普段と特に変わらない朝を過ごしていた。

しかし、

 

「ボス、大丈夫。実力を出し切る事が出来れば合格間違いなしよ」

「ありがとうレディ。けど、俺が100%実力を出さなきゃいけない試験とか雄英は魔境なの?」

 

何故か全く平常運転の俺に大丈夫を連呼するジュエルレディ。

 

「なぁ、やっぱりさボスが行く必要は無いと思うんだ。助手子とかイブマリアとかさ、他に適任は居るだろう?」

「助手子は別の仕事が有るし、イブマリアは調整中だろ。それと今までの前提を変えて来るな。」

 

何故かヒーロー科の受験を阻止しようと引き留めてくるダブルフェイス。

この2人を始め、部下達がそわそわとしているのだ。

ウチの秘密基地は普通の一戸建てに偽装した建物の地下にあり、一戸建ての方では普段、俺が生活している。部下達は俺に遠慮してるのと、秘密基地が露見する事を防ぐ為に滅多に上に上がって来ない。

それなのに今日は家に上がって来てるし、朝食を食べている周りをウロウロと回っているのだ。

まるで自分の子供が受験するかのような行動は微笑ましく、どこかくすぐったいが、それを差し引いて余りある程に鬱陶しい。

 

コレは早めに出た方が良さそうだと思い、朝食を片付けさっさと準備を済ませる。と言っても着替えだけなのだが。

 

中学は通信制の所に籍だけ置いていただけなので制服とかは持っていなかったはずだが、部屋にはピカピカ学ランとブレザーが用意されていた。校章などのデザインは無く、つまり制服っぽい学ランとブレザーである。わざわざ作ったのだろうか?

少し迷って学ランに袖を通して、玄関に向かう。今リビングに寄ると絶対に面倒くさい事になると言う確信があった。

 

「ボス、もう行くの?予定ではもう少し後に・・・やっぱり緊張しているのね。」

「まさかの出待ちだと・・・!?」

 

玄関にはレディがスタンバイしていた。行動を読まれたようだが、こっちの心情も読んで欲しい。

 

「ハンカチは取りました?ティッシュは?」

「取ったよ。てか、母親か!?」

「新作のブレードは取りました?改良の終わったマシンガンは?」

「取ったよ!けど、あんな物騒なの使えないからね?」

 

ちょっと常識から外れた持ち物の確認をされる。

その間にリビングからダブルフェイスが顔を出した。

 

「ほい、忘れ物だ」

「ありがとう、って、何コレ?」

 

投げ渡されたのは見覚えの無いスイッチだった。

 

「ウチの兵器庫のスイッチ。押せばミサイルが雄英に発射される」

「戦争か!?てか、どのミサイルだ!?スローンズなら本当に戦争だぞ!?」

 

基本笑顔のダブルフェイスが珍しく真顔で言って来た言葉の過激さに思わずスイッチを投げ捨てる。

 

「何なのお前等!?雄英を何だと思ってんの?」

「「敵地」」

「確かにその通りだよ!」

 

その通り過ぎて何も言えないが、ウチの兵器庫から引っ張りだして来るのはあんまりである。

博士が「俺達(ヴィラン)だから倫理とか気にしなくて良いよね」とか言って作り上げた兵器の数々は流石に使用を躊躇う物ばかりだ。いや、いざとなれば使うけどね?俺達ヴィランだし

 

「兎も角、普通に受験して来るから、そんな物騒なモンは使いません!」

「えー、それでも俺達(ヴィラン)の親玉かよ」

「煩いっての!あー、もう!行ってきます!」

 

言い募って来る2人が面倒になって強引に家を出る。

試験が始まっても居ないのにかなり疲れてしまった・・・

 

試験は実技までは特に変わった所も無かった。ただ、校門の所でボーイ・ミーツ・ガールしてる緑谷出久を見かけたぐらいである。

そして実技、普段のヴィラン用のコスチュームでは無く、普通の服にポケットを大量に付けただけの不恰好な戦闘服に着替えた。仮面が無く、顔に空気が当たるのが煩わしい。コスチュームを作る時は仮面かバイザーを付けて貰おう。

 

スタートと同時に動き出し、何故か他の受験生を全員置き去りにして来てしまった。うん、他の連中の基本スペックが低過ぎる。もうちょっと頑張って欲しい。

意図せず単騎突出になってしまった俺にロボ共が群がってくる。

あんまり目立ちたく無いのに大量得点だ。

 

「開け2番、ロムルスの武器庫」

 

必要も無いのだがお約束として個性発動のキーワードを唱える。それと同時にロボ共が攻撃を行ってくる。全く誤差の無い同時攻撃とかロボにしては何か連携良過ぎじゃないかな?

しかし、無駄である。攻撃して来たロボ達は服のいたる所に付けられたポケットから飛び出した大剣によって串刺しになっていた。

 

俺の個性は『ポケット』分かりやすく言えばドラえもんの四次元ポケット、詳細に言えば倉庫となる亜空間を作製し、ポケットをゲートにして物を出し入れ出来る個性。

倉庫は複数作れて、一応入れる物毎に分類している。2番ポケットは剣や盾などの接近戦用の武器庫である。

剣を再びポケットに収納し、周囲を見渡す。流石に追いついて来た受験生達がロボと交戦を始めていた。

 

「チ、ニンゲンノ癖ニ中々ヤルジャネーカ」

「ん?」

 

合成の音声なのに、妙に人間臭い声がして見てみれば、試験の説明には無かった手の平サイズのアームの手足を持つ二足歩行のロボが存在していた。

 

「アン?ナァニコッチヲ見テヤガリマスカ、ニンゲン様フゼイガヨォ」

「ガラ悪っ!?」

 

特に表情の変化が無い機械のはずなのに、メンチを切られているのだと確信する程度にガラが悪かった。

そのままロボは跳躍し、アームで殴り付けてくる。腕で頭を隠し、ポケットから剣を出してカウンターって、ブーストで下に!

何処にそんな物を搭載していたのか、小型ロボは小さなフレアを噴射するブーストによって急降下を行い、腕を上げた事でがら空きになった腹部への突撃をして来やがった。腹部のポケットから盾を取り出し間一髪で防いだが、盾にも小さなアームの形に凹みが出来ていた。

 

「ヤーイ、ビビッテヤンノ。プークスクス」

 

慌ててガードした事を揶揄う様に言ってくるクソロボ。安い挑発である。資料に乗って無かったという事はコイツは0Pとかそれ以前の問題なのだ。

きっと無視が1番の正解。事件中の無責任な戯言をどれだけ流せるかの隠し試験とかなのだ。だから、此処は穏便に・・・

そんな此方の考えなんて知るかと言わんばかりに片手のアームを此方に向けるロボ、アームの先端はドリルに変わっており、激しく回転している。

 

「ロケット・・・」

 

まさか、ロケットパンチ!?その言葉にとっさに防御を固める為に盾を取り出すが、特に何の衝撃も来ない。

見るとドリルが回っているだけだった。

 

「飛ブ訳ナイダロ。バァァァカ」

「よし、殺す」

 

シンプルな罵声は時としてどんな言葉よりも怒りを煽る物である。

 

「開け3番、ハデスの城」

 

近代兵器、火器を入れている3番ポケットを開き、手榴弾の様な形の物を取り出し、足元に落とす。

それは小さな爆発音と共に極小の何かを辺り一帯に撒き散らした。

 

「アガガガッァ!愚ガガガッァ!」

「対電子装備用非殺傷爆弾。ロボには効くだろ?」

 

小さなロボは強烈な電撃を受けたかの様に細かく動き、訳の分からない音声を出し続けている。

先ほどの爆弾は爆発によって、空間中に飛んでいる電波を受けると特殊な電磁波を発生させる金属片を撒き散らす物だ。この電磁波は範囲内の電子機器に強い影響を与え、その機能を奪うという代物で科学的な装備で固めたヒーロー用の装備なのだが、思わず使ってしまった。

まぁ、言い訳は何とでもなるので、目的のロボを確保出来ればそれで良い。

しかし、あのロボはそう一筋縄ではいかなかった。

 

「ククッ、機械ニ栄光アレ!ロボコソ至高!メカコソ浪漫!!」

 

そんな台詞とポンっという軽い音を立てて自爆してくれたのだ。しかも、その最期の台詞には心当たりがあった為に怒るに怒れなくなってしまった。

仕方が無いので残り時間で、さっきの爆弾の範囲内にいて動きを止めているロボ達を八つ当たり気味に破壊して回ると言う締まらない結末になってしまった。

 

受験結果?勿論合格だった。

 

 

 

雄英高校入学試験の教師控え室、そこには幾つかのモニターが並んでおり、それぞれの試験会場での様子が映し出されていた。

 

「ふむ、彼は良いね。小柄で成長しきっていないが、身体能力が頭一つ抜けている」

 

その教師(ヒーロー)の視線の先のモニターでは、1人の受験生がスタートと同時に動き始め、ただ走るだけで他の受験生を引き離していた。

衣嚢蒐人、その名はヒーロー達に取って記憶を刺激する物だった。

ある痛ましい事件の被害者にして生存者、或いは恩人の忘形見。

見た限りでは健やかに成長している様で、幾人かのヒーローが安堵した様に語る。

蒐人は仮想ヴィランに囲まれるが顔色一つ変えない。

飛びかかってくるのに仮想ヴィラン対し、服の至る所に作られたスリットポケットから剣を飛び出させる事によって迎撃。1体も洩らす事なく撃破してみせる。

 

「『ポケット』面白い個性。あの黒ひげ危機一髪の樽みたいな服は個性を最大限生かすデザインな訳ね」

 

ミッドナイトが感心した様に呟くが、周囲の教師はその後に現れたロボにざわついた。

 

「オイ、また『ヤツ』が試験に潜り込んでいるぞ!」

「毎年恒例だ。諦めろ」

 

教師達がため息を吐いてモニターを見つめる。

新任教師としてモニターを見ていたオールマイトには理解出来ずら首を捻るしか無かったが、それを察したのか隣に座っていたイレイザーヘッドが説明を始める。

 

「かなり前の話ですがサポート科の生徒が退学になりまして、アレはその生徒が残していった物なんです」

「退学?」

「ええ、強くなりたいって言ったヒーロー科の生徒の全身を改造、機械化させまして」

 

絶句である。聞けば相澤達の同級生だったそうだ。

 

「やった事がやった事だったので逮捕となったのですが、捕まる前に行方を眩ましてそのままです。」

 

その生徒は(はく) 士塚(しづか)と言う名だった事まで語った所で、モニター内の蒐人が爆弾の様な物を取り出し、足元で爆発させた。怪我も与えられない様な爆発の後、映像が乱れる。

 

「何だ!?今の爆弾か?」

「えぇ、対電子装備用の非殺傷兵器のようです。サポート企業の新製品のモニターとして所持、使用が認められているようですね」

 

蒐人のプロフィールを調べていた教師が冷静に言う。プロフィールには確かに、幾つかの企業とモニターとして契約をしている事が書かれていた。

 

「でも、そう言うのって普通プロヒーローが対象でしょう?わざわざ特殊申請してまで普通の子にやらせてるの?」

「彼は『衣嚢蒐人』だ。彼を特別視する研究者は多いと言うことさ」

 

ミッドナイトの疑問に根津校長が答える。

個性と言う分野の研究において死後10年以上たった今でも褪せる事無き功績を打ち出した研究者の忘形見。

直接の援助は難しくても、モニター契約と言う事でバイト代よりも多めの間接的な資金援助を行おうとする衣嚢夫妻のファンや生徒が、現在の第一線の研究者に多数存在しているのだ。

その事を説明し終えた頃、映像が復旧するも、試験終了の時間となっていた

モニターには周囲の仮想ヴィランを破壊し尽くした蒐人の姿があり、モニターに映らない範囲で、特殊爆弾の効果範囲に入っていた所為で登場さえ出来なかった超大型0Pヴィランの姿もあった。

 

「映像が残ってないけど、得点は現場の試験官達がカウントしてくれている。

しかし、0Pヴィランを出てくる前に止めるとは初めてじゃないかな」

 

根津校長の驚きと呆れの混じった言葉に数人の教師が頷く。本人は止まっていた事さえ知らず、偶然ではあるが素晴らしい快挙である。

 

教師達は笑いながらも彼の合格を決めた。しかし、彼らは知らない。自分達がヒーローの卵だと思い受け入れた存在が、ヒーローとは正反対の位置の邪悪である事を・・・




主人公のポケットの名前は部下達に決めて貰っています


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ミッシング入学式

 

 

 

登校初日である。

登校初日と言ったら友達100人出来るかな?と理想を持った子供がコミュ力の差により理想に破れ、スクールカーストと言う格差社会へ投げ込まれるイベントである。

まぁ、一般のヒーロー科なら兎も角、雄英のヒーロー科に受かる様な人間にその手のカーストを良しとする者は中々居ないだろうけど、初対面の印象と言うのは大事だ。

初日に話しかけて来た人間は印象に残るし、仲良くなればそのまま友人へと移行できる。

そんな訳で、

 

「君が轟焦凍?俺、衣嚢蒐人。よろしく」

「何だ、お前」

 

難易度ベリーハードの挑戦してます。

 

 

 

俺が雄英に潜入なんて言う事やらかして居るのは、何も好きだった漫画を側でみたいと言う野次馬根性だけでなく、ちゃんとした目的がある。

 

それは、対AFOの一環であり、AFOを打倒するだろう緑谷出久の監視と原作の流れが変わり、AFOが倒せないと言う事態にならない為に介入する事である。

 

詳細は省くが、俺以外にも転生者と言うのは存在している事が確認されており、その存在によって原作が大きく変わるのを防ぐ必要がある。その為には他の転生者よりも近くに居ることが望ましい。そして、それには主人公のクラスメイトと言う立場は適していた。

しかしかと言って、近づき過ぎても悪影響を与えてしまう自信が有る為に友達の友達と言うポジションを狙うことにしたのだ。

主人公のライバルにして友人、ヒーローに心を救けられた者。そんな彼をターゲットにして・・・

そうターゲットは現在、俺が話し掛けた相手、轟焦凍である。

 

轟焦凍、緑谷出久の友人になる少年。

あえて非人道的な表現をするならば、強個性同士の交配(・・)によって作り出された存在。

それだけならよくある不幸なお話だが、今の彼にとって不幸なのはその個性を自在に扱えるだけの才能があった事だろう。子供の頃から受けてきた英才教育や、不本意な高い目標、様々な歪みが奇跡的なバランスで重なり、高校1年生と言う現時点でさえプロに通じるレベルになっている。

その歪さは呆れてしまう有様ではあるのだが、今までの彼は取りあえず置いておき、これからの彼は緑谷出久と関わり変わって行くのだ。

その変化には緑谷出久が関わり続ける以上、轟焦凍を観測する事で間接的緑谷出久の観測も行える。

 

それに、現在で確認が出来ていて原作に介入して来る可能性がある転生者の傾向として、轟焦凍の様なタイプが狙われやすいのでそれを防ぎたいのもある。

いや、アレに襲われたら本気で洒落にならないので何とかしたい。

兎も角、色々な理由でクラスで最初に声をかける人間を轟焦凍にしようと決めた。

 

 

しかし、恐ろしいまでの絶対零度の関わるなオーラ。まだ笑顔を取り繕えるレベルだが、コレは酷い。

 

「何だ?ってクラスメイトだよ。よろしくね」

「此処じゃ、別に仲良しこよしなんてしなくて良いんだろ?」

「しなくて良い事は楽しい事だよ?しょうと君。」

 

返ってきた拒絶を笑顔で躱す。

突然の名前呼びに本気で煩わしそうにこっちを見た。その目は一体何が憎いのかと聞きたくなるほどに淀んでいて、見られるだけで睨まれていると錯覚しそうになる。

 

「俺はしゅうとで君がしょうと。ニアミスな名前を見つけて、コレはもう話し掛けるしかないなって思ってね」

「くだらねー」

 

とびっきりおどけて言ってみると、吐き捨てる様に言われてしまった。

しかし、この程度でめげる程『ヒーローを目指す衣嚢蒐人』は脆い設定ではない。

 

「人と仲良くなる理由なんて、くだらない理由で良いんだよ。つまらない理由よりはだいぶマシだ。」

「・・・」

 

誰かに歩み寄るときは、親がどうとか、力がどうとか言うつまらない理由より、くだらないけど笑える理由の方がきっと良い。

まぁ、俺が話しかけてるのって打算の上でのつまらない理由に分類されるのだが、そこら辺は知らないふりがズルい大人の処世術である。

 

ヴィランとしての本音を笑顔で隠し、言葉を続けようとするが、入り口の方で騒がしい声が聞こえてくる。

どうやら緑谷出久がやって来たらしい。潮時と見なして、轟焦凍に軽く別れを告げて自分の席の方へと移動した。

 

その後は特に面白味も無く体力テストが行われた。そう、体力テストだ。俺にとっては個性把握テストになんてなり様が無かった。

俺の個性はポケットに入れている道具を幾らでも取り出せるのが利点であり、個性は許可されても道具の利用が許されない(八百万百のは個性で作られた道具なので可)殆ど個性の活かせない俺にとって通常の体力テストと変わらない。

その為、どの種目でトップを取る事も無く終わってしまった。

気になる事と言えば、

 

「合理的虚偽だ」

 

その言葉を言ったイレイザーヘッドがコッチを見ていた事だ。

原作通りだったから気にしてなかったけど、明らかに俺に不利なテスト、最下位は除籍と言う宣言。

もしかしてバレてる?確証は無いが疑わしい生徒を、実力の発揮出来ない試験で除籍処分にしようとした?

まさかね・・・

 

 

 

 

 

切島鋭児郎と自分の名前が合格通知で呼ばれた時の感動は未だに忘れられない、けど、憧れの学園生活の初日がコレってどうなんだ?

 

割り振られた教室の自分の席に座って見れば、机に足を投げだして座ってる奴とそれを注意する奴、怒鳴り声に近い声は初日から聞きたいもんじゃ無い。

いや、ほぼ全員が席に着いて気まずい沈黙に耐えてる現状で良くやるなとは思うが、あの勇気は真似出来ない。

そんな中でまた新しく1人教室に入ってきた。峰田って奴よりは高いが小柄な男子、ヒーローに憧れる奴ら羨望の雄英高校に入学し、その初日だって言うのにそれを全く気にして無いように歩いている。

そして、張り出されている席と名前の一覧を見るなり、既に座っている1人の生徒の方へと歩み寄っていく。

 

「君が轟焦凍?俺、衣嚢蒐人。よろしく」

「何だ、お前」

 

よりにもよってな奴に声を掛けた。

クラスの中でも一際近寄り難い空気がある轟に、なんの躊躇いも無く話し掛けて言ったのだ。直後に返された明らかに不機嫌そうな声にも衣嚢は一切怯まず言葉を続ける。

 

「何だ?ってクラスメイトだよ。よろしくね」

「此処じゃ、別に仲良しこよしなんてしなくて良いんだろ?」

「しなくて良い事は楽しい事なんだよ?しょうと君。」

 

本当に楽しそうに言う衣嚢、同い年のはずなのに、年下に見える衣嚢の無邪気な言葉に、轟も怯んでいる様に見えた。

 

「俺はしゅうとで君がしょうと。ニアミスな名前を見つけて、コレはもう話し掛けるしかないなって思ってね」

 

それを聞いて思わず吹き出してしまった。そんな理由なのかよ!それだけで気まずい空気の中を突っ切った姿は、とても漢らしい物に思えてきた。

 

「人と仲良くなる理由なんて、くだらない理由で良いんだよ。つまらない理由よりはだいぶマシだ。」

 

にこやかな笑顔と共に出された言葉は確信と自信に満ちていて、その上楽しそうで、オールマイトの様にその言葉だけで人の心を震わせるような魅力があった。

直後、先生が来てしまったせいで話は途切れてまったようだがもし話し続けていたらどうなってたのだろう?

 

その後、突然の個性把握テストと言う個性アリの体力テストが始まった。

氷や爆発、創造なんて言う華やかな個性持ちが活躍している中、俺はそこまでの活躍は出来て居なかった。

個性で硬化した体を武器にするから鍛えてはいるが、硬化が役に立つ種目が少ない所為でパッとした活躍が出来ない。

そんな俺を尻目に、さっきのやり取りから気になっていた衣嚢は小柄な体からは想像も付かないような身体能力で1位こそ取って居ないが常に上位に食い込んでいる。

 

「さっきから見てたけどスゲーな!さっきから5位以内には入ってんじゃねぇか?」

「え?」

 

思い切って話しかけてみると、衣嚢は一瞬不思議そうな顔をした後、ありがとうと笑った。声変わりの途中か、したてのような少し掠れた高めの声だった。

 

「大抵の種目で個性が全く使えないから結構必死なんだけど、全然上手くいかないね。一つもベスト3に入れないて無いし」

「えっ?個性使ってないのかよ!?益々スゲーな!」

「けど、切島鋭児郎君だって似た様なものでしょ?」

 

言いながら、ポケットから明らかに入りきらない大きさのペットボトルを取り出してがぶ飲みする衣嚢。

 

「それがお前の個性か?」

「うん、『ポケット』って言って俺は何でもポケットに入れられるし、どのポケットからでも取り出せる」

 

そう言いながら俺のズボンのポケットから衣嚢が飲んでいるのと同じペットボトルを取り出して見せた。便利な個性だが、確かに今回の様なテストだと使い所がない個性だ。

 

「まぁ、使い所が無いなら良いんだ。それはしょうがない事だし」

「へー、割り切ってんだなぁ」

 

その個性の持ち主から飛び出して来た言葉は、活躍出来ない事を歯がゆく思って居た俺からかけ離れた言葉だった。

 

「応用が利く個性でも、それが使えない時もある。どんな時に自分の個性が役に立たなくなるか、使えなくなるかを知るのも応用の内だよ。

・・・あれ、説教臭い?」

 

指をくるくると回しながら説明していたのに、首を傾げるおどけた仕草と共に言葉を区切った。

 

「そんな事はねぇよ。けど、そんな考え方も有るんだな」

「そう言って貰えると嬉しいな」

 

ニコニコと無邪気に笑いながら言う衣嚢、その顔がこれからボール投げのテストを受ける奴の方を見たまま固まる。

 

「現在順位最下位。身体は鍛えてあるのに身体の動かし方が出来てないね」

 

勿体無いと言う様に呟かれた言葉、それが向けられたのは入試で0Pヴィランを殴り飛ばした緑谷だった。

今回のテストなら最も分かりやすく活用出来る身体強化系の個性を持っているはずなのに、それを使った様子も見られない。本人も焦ってるみたいだし、手を抜いている訳じゃなさそうだ。

1投目、また個性は使用していないのかと思ったが、先生の個性によって消されたらしい。

その説明後、2投目。

最初の個性無しでの投擲を見ているからかなおの事、その個性の強化性能がどれだけ強力かがわかってしまう。反動で腫れ上がった指に涙目になりながらも、動ける事を先生に吠えてみせる。

漢らしくて格好良いじゃねぇか!

 

「うわぁ、痛そう」

 

そんな興奮も隣からの無感動な一言で冷める。自身の身を省みない献身、ヒーローを目指すなら憧れるモノを前にして、横にいる幼くさえ見える少年は全く心を動かされなかったのだ。

だから、まるでテレビの向こうで事故の動画を見ているかの様な、無責任にさえ感じる感想が口から出てきた。

思わず横を向き、その顔を確認して瞬間、背筋が凍った。その横顔に浮かぶのは痛ましい物を見たようなやるせ無い顔で、そう、憐れんでいるのだ、緑谷を、緑谷の行動に心動かされた俺達を。

その瞳に一切の光を感じない、それなのにそこに闇を感じる事は無い。深すぎて光の届かぬ深海の様な、引きずり込まれる錯覚さえ覚える瞳。

揺るぎない瞳を見ているうちに、俺達が可笑しいのではないかと言う不安が胸を占めていく、もし俺達が間違っているなら正しいのはコイツで、そして・・・

 

「どうしたの?」

「えっ?」

 

いつの間にかこっちを見ていた衣嚢が声をかけて来た事で正気に戻る。こちらを見ている目にはさっきまでの可笑しな様子は無く、ごく普通で、今まで夢を見ていたんだと思いたくなる。

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」

「凄かったもんね。緑谷出久」

 

普通の感想を言われて、曖昧に頷く。緑谷の活躍は、衣嚢の瞳に塗り潰されて上手く思い出せなくなっていた。

 

 

 




U.A.FILE.××× 断章
SYUUTO INOU

個性:ポケット
ポケットを亜空間と繋ぎ、どんな物でもポケットに入れる事が可能で、どんなポケットからでもポケットに入れた物を取り出す事が出来る個性。
亜空間はPCのフォルダの様に分類されていて番号と名前が振られている。


蒐人's瞳
絶望的なヴィランの目
オールマイトの瞳が平和の象徴としての矜持で輝きを放つ様に、ステインの眼が静かに燃える炎を幻視させた様に、自身こそが絶対であると言う揺るがぬ意思により、見る者に「自分の方が間違って居るのではないか」と言う不安を与える底無しに暗い瞳。
普段は隠せて居るが、些細な事で表に出てくる。見た者はアイディア判定を行い、成功すると異常な思考の一部を読み取ってしまいSANチェックになるラスボス仕様の瞳である。


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ファースト訓練1

本日2話目の投稿です


 

 

高校生活2日目

外見が個性豊かな先生達による普通の授業が開始された。流石に高偏差値の雄英高校。そのOB、OGが教師なだけあり、丁寧で分かり易く、教師本人のインパクトで打ち消されるぐらいの普通の授業である。

 

そして、ヒーロー科のメイン科目。多くのヒーローを夢見る者の憧れ、ヒーロー基礎学の時間。

 

「わーたーしーがー!!」

 

響くのはトップヒーローの声。周りの生徒の期待が高まって行くのを感じる。

 

「普通にドアから来た!!!」

 

銀時代のコスチュームで現れた姿に俺も他の生徒と混じって、おぉ!と声を上げてしまった。このコスチュームはマントのデザインが好きだったので単純に嬉しい。

 

掴みは上々とばかり授業の話題に入るオールマイト。昨日の事もあってもしかしたら警戒されて授業が変わるかもしれないと思っていたが、杞憂だった様だ。それならあの視線は何だったのだろう?

内心首を傾げている間に話しが進み、戦闘服が壁内の収納から出てきていた。

 

さて、俺の希望はポケットが多く付いている事と手ぶらに見えるような、構えていない感じと言う物だったのだがどんな物になっただろうか?

封を開けて見れば、俺の戦闘服は黒のジャンプスーツを基本に、傷痕のようなデザインのジッパー式のポケットが全身に付いている。顔には色付きのゴーグルと言う全体的にパイロット系のオシャレな普段着で押し通そうとすれば何とか押し通せそうなデザインだった。

それに着替え、グラウンドβに向かうと、グラウンドβは市街地を模した演習場だった。

 

「始めようか、有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

オールマイトの宣言が響き、授業が開始される。

今回の授業は屋内での戦闘訓練で特に『原作』からの変更無しの様だが、問題はペア分けである。

 

「このマント、ヤバくない?」

 

オールマイトの説明の合間に挟まれる質問。その中で最も授業と関係無い言葉を耳が拾う。

見ると、マントの付いているデザインの戦闘服が目に入り、口元が緩む。

 

「ソレ格好良いね。やっぱり、マントはヒーローの象徴だよ」

 

正義の味方ならマントを靡かせていて欲しい。ヴィランとして、対峙するヒーローに求めたい条件の1つだ。

そんな無駄な思考をしている内に、クラスが21人で1人余る事を誰かが質問したようだ。

 

「確かにその通り。昨日も言われたかも知れないが、此処でも言わせて貰おう。君達にはヒーローとなるべく苦難を与えると」

 

ニヤリと微笑むオールマイト

 

「今まで君達は2人組が作れないときどうしていた?ソレと同じ事さ。そう余った少年少女は、」

 

先生()とペアを組んで貰う!!!」

 

初めての授業ではしゃぎ過ぎなんじゃないだろうか?この新任教師。

思わず内心で罵倒するが、周囲に与えた衝撃は俺の受けた比では無いようで、ざわつきが歓声となって響く。

そして、その歓声の中に混じる暗い歓喜。そちらを向けば憎悪と諦めが煮詰まったような気配と共にオールマイトを凝視して口元を歪ませる轟焦凍がいた。

左半身を覆う不気味なデザインの戦闘服の所為で下手なヴィランよりヴィラン面である。

 

「やっべ、オールマイトとペアだったら勝ち確じゃね?」

「勿論、そんな事は無い。この訓練で私は手加減をするのと、右腕しか使わない。また、作戦などには口を出さず、ペアとなった生徒に従う」

 

その他幾つかの制限を設ける事を説明するが破格の戦力である。かと言って、それに頼り過ぎれば授業としての評価が酷い事になるのだろう。

 

「コンビ及び対戦相手はくじだ!」

 

興奮冷めやらぬ生徒達にオールマイトが説明を続ける中、俺は口の中だけで部下を呼ぶ。

 

「あらお呼びですか?ボス?」

「ソコから介入出来る?」

「ええ、ボスを起点に全員範囲内ですわ」

 

耳に直接聞こえるような妖艶な声。

魔女の名を冠する部下への命令を周囲に聞こえ無いように気を配りながら自分にしか聞こえ無い声で囁く。

幸いにも周囲はオールマイトとペアを組める、もしくは戦えるかも知れないと言う興奮に満ちていて、少し口を動かすぐらいは誰にも気付かれない。

 

「では、ペア分けを出席番号順に青山少年から!」

「フッ」

「青山少年はEだな!」

 

オールマイトが、Bと書かれた(・・・・・・)ボールを示しながら宣言する。

名前を呼ばれた青山優雅が無駄にキザな動作で髪をかき上げるが、その動作に呼ばれたアルファベットと実際のボールに書かれたアルファベットの相違を気にしている様子は無い。

そのまま引かれるくじと食い違って呼ばれるアルファベット、ギリギリ思い出せた分の『原作通り』にペアが作られて行く。と言っても、思い出せたのは緑谷出久と麗日お茶子がAと言う事、爆豪勝己と飯田天哉がDでそのペアが争う事だけ、なぜか青山優雅がEな事は覚えていたのだけど、後は割と適当だ。確実に違うのは俺が轟焦凍とペアな事と切島鋭児郎が余っている事だ。

続いて対戦する組み分けが始まる。

 

「最初の対戦相手はこいつらだ!!」

 

引かれたくじはヒーローがAでヴィランがD、AとDが対戦するようにと言っていたが視界を弄る必要も無く、オールマイトは実際にそのペアを引いていた。

この感動を分かち合えるだろう人間がこの場に居ないのが悔やまれる。

しかし、コレは運命と言うよりは因縁と言うべき天命なのだろう、宿命のライバルと言う奴が居ると言うのも主人公の特権である。まぁ、今の緑谷出久にしてみれば呪いのように感じるかも知れないが・・・

 

初の戦闘訓練に対しての期待と不安を胸に準備に入る麗日お茶子と飯田天哉、震えながら何かブツブツと言って居る緑谷出久。脳内で何回か相手を虐殺してると察せるほどの凶悪な顔をして嗤っている爆豪勝己。

主に約1名の所為で事故が多いに起こりそうな戦闘訓練が始まった。

 

ビルに仕掛けられた定点カメラからの映像で訓練を見学する。ヒーロー側がビルの窓から侵入するが、読まれている。

奇襲を受けた後に散開、1対1の戦いに持ち込むようだ。

緑谷出久は爆豪勝己の攻撃パターンを読んでからのカウンターを行い、それが決まる。実に素晴らしい観察眼と行動力だと褒めたいが、個性訓練はあれど、戦闘訓練など無いはずの中学までの期間で攻撃パターンの解析が出来るって爆豪勝己は一体何と戦っていたのだろう?名前の通りに自分と?

 

格下と思っていた存在に先制されて激昂する爆豪勝己、激昂していても妙な所で冷静に対応している辺りは天性の素質を感じる。いわゆる、ハートは熱く頭はクールに、と言う奴だが、ちょっとハートが熱過ぎてクールになり切れて居ないのが今後の課題だろうか?

 

隣で八百万百がため息を付いてる、個人的な因縁で授業を疎かにする2人に呆れて居るのかも知れない。

 

「どうしたの?」

「いえ、爆豪さんがもっと連携を取って居たらもう少し違う展開になったのではと思いまして」

 

確かに連携を取れていればヒーロー達を挟み打ちとか色々な戦術が取れるだろが、連携を取ると言うのは思いの外難しいものであり、ましてや優等生(飯田天哉)不良(爆豪勝己)である。綿密な連携を取ろうとしたら連携が上手く行くよりも、口論からの内部崩壊の確率の方が高そうだ。

いや、緑谷出久が相手じゃなければもっと冷静になる事が出来て、最低限の連携が取れたかも知れないが・・・

緑谷出久に負けない事を優先とした爆豪勝己と、訓練として勝利を優先した緑谷出久。最終的に勝敗はそこで別れた。

どちらも因縁の相手に勝つ事を目的にして訓練をその手段にしてる所は流石幼馴染と言うべき思考のシンクロだ。

 

八百万百の講評(オールマイトに非ず)が行われたが、聞く余裕が有るのが問題が少なめだった2人だけなのが残念である。

その後も訓練は行われ(この組み合わせには手を加えた)、最終的に残ったのは俺達と切島、オールマイトペアだけだ。

 

「さぁ、ラストの対戦相手は!」

 

箱から引かれたくじ、そんな物はもう関係無く、配役も既に決まっている。

 

「ヒーローがK!切島少年と私のペア、ヴィランがB!轟少年と衣嚢少年のペアだ!!」

 

 

さて、楽しい訓練のお時間だ。

 

 



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