ロクでなし魔術講師と異能者と超能力者 (TouA(とーあ))
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プロローグ

 

 僕の名前は斉木 楠雄。

 

 

 超能力者である。

 

 

 最初に説明しておくが僕がおかしいのではない。言うなればこの世界がおかしいのである。

 

 もう一度言おう。僕は(れっき)とした超能力者である。

 

 超能力と聞けば何を思い浮かべるだろうか。

例えば、意思の力で物を動かす念力(サイコキネシス)

例えば、言葉を介さず意志を伝達する念話(テレパシー)

例えば、重力を介さず空を飛ぶ空中浮遊能力。

例えば、一瞬で別の場所へ移動する瞬間移動。

 

 他にも、透視、千里眼、幽体離脱、予知、変身能力(トランスフォーメーション)などなど。

 

 この様な言い方をすると、もしかしたら『なんて羨ましい!1つぐらい分けてほしい!』みたいに思う人がいるかもしれない。

 

────確かに。

 

 瞬間移動を使えば学校や職場へは一瞬で移動出来る。

 

 手を触れなくてもスプーンも曲げられる。

 

 伏せられたカードだって透視で分かる。

 

 念話(テレパシー)のお陰で気になるあの娘の考えていることも全てお見通しである。

 

 

 超能力者の人生。

 それはまさに、夢のように素晴らしい人生────。

 

 

 

 だと思ったら大間違いだ!!

 

 

 

 例を一つ挙げるとしよう。

 僕には“念話(テレパシー)”という能力がある。

 想像通り、他人や動物の頭の中の考えを読み取れる能力である。

 

────だが。

 

 僕の念話(テレパシー)能力は『半径200m以内にいる人や動物の思考が常に頭の中に流れ込む』のである。

 

 想像して欲しい。

 僕は24時間365日、頭に流れ込んでくる大量の心の声を聞き続けているのである。

 今までの16年間、如何に僕が精神を蝕まれてきたかを少しでも慮ってくれたら嬉しい限りだ。

 

 念話(テレパシー)という1つの超能力を取り上げただけでこれなのだから、僕に羨望の眼差しを向ける者は少なくなったと思う。

 

 

 ここでこの地と僕の所属している学院ついて説明をしよう。

 

 

 アルザーノ帝国。

 その中にあるアルザーノ帝国魔術学院に僕は通っている。

 

 アルザーノ帝国魔術学院は四百年前に、時の女王と呼ばれるアリシア三世によって提唱され、巨額の国費を投じて設立された国営の魔術師育成専門学校だ。

 

 アルザーノ帝国が大陸で魔導大国として、その名を轟かせる基盤を作った学校であり、最先端の魔術を学べる最高峰とされ、近隣諸国にも名高い。

 

 帝国で高名な魔術師の殆どが、この学園の卒業生であり、帝国で魔術を志す者達の聖地となっている。

 

 

 つまりこの世界には魔術が存在するのである。

 

 

 僕がこの学院に入った理由は単純明快。もしも僕の超能力が暴走した時に魔術という言い訳が通用するからである。まぁ万が一、億が一にも有り得ない話ではあるが。あと家から近い。

 

 

 ここまで説明をしても信じてない者がいるかもしれない。なら僕が超能力者であるという事を証明してみせよう。

 

 

 僕が幼い頃から使っている超能力がある。

 

 それは“マインドコントロール”である。

 

 マインドコントロールとは『不自然なこと』を『自然なこと』と他人に思い込ませる事ができる能力である。僕はこの能力で人の生態まで変えてしまったのだ。

 幼少の頃、僕はこの能力で『ピンクや赤、青、銀など様々な髪が地毛になる』や『怪我の治りが異常に早く、壊された建物が簡単に復元する』や『首の裏を“トン”とやっただけで気絶する』や『服の大事な所はなかなか破けない』など、僕がこの世界で異端に見られない様、この世界の常識を改変した。

 

 お陰で地毛がピンクであっても、眼鏡が緑であっても、頭に付いている超能力を抑制するアンテナがヘアピンに見えたりと普通の一般人と変わらぬ容姿になっている。その様に常識を改変したからだ。

 

 

 この様に僕は学院でも目立たぬよう努めている。これも超能力者だとバレない様にする一つの策だ。そして平穏無事に学院生活送る為だ。

 

 

 だが一つだけ懸念材料がある。

 僕の超能力に近い能力を持っている者が同じクラスに在籍しているからだ。これは念話(テレパシー)によって分かった事実である。

 

 ルミア=ティンジェル。

 

 彼女は“異能者”である。僕とは違う。

 “異能”は異なった力だ。“超能力”は力の上にある力だ。根本的に違う。

 

 だがそれが問題なのではない。彼女の旧姓は────。

 

 

「あー悪ィ悪ィ!遅れたわ!」

 

 

 がらっと教室前方の扉が開いた。

 ずぶ濡れに着崩れた服。加えて擦り傷、痣、汚れ。

 本当にコイツがこの学院の非常勤講師なのか・・・。

 

 

(あーめんどくせぇめんどくせぇ)

 

 

 おい本当にコイツで大丈夫なのか。アルフォネア教授は何を考えている?いや・・・あの人には関わるべきではないな。

 

 

「非常勤講師のグレン=レーダスです。本日から一ヶ月間、生徒諸君の手助けをさせてもらいま────」

 

「挨拶はいいから授業をしてくれませんか?」

 

 

 いいからさっさとしなさいよ、か。念話(テレパシー)はこんな知りたくもない情報を拾ってしまうから困るのだ。

 

 

(授業かぁ・・・自習でいいか)

 

 

 頭で思った通り、僕の新しいクラス担任であるグレン=レーダスは黒板に大きく“自習”と書いた。

 クラスがざわつく、無理もない。この非常勤講師は建前と起こす行動と言動がマッチしている。こんな講師は初めてだ、いやこの学院史上初めてなのではないのだろうか。

 

 

 グレン=レーダス、ルミア=ティンジェル、この二人が学院に居る事で僕の平穏無事な学院生活が消える事になるとは・・・。

 

 

 

 

 いいか?よく聞いてくれ。

 

 僕は産まれた時から世界中の誰よりも不幸だ。

 

 “超能力”のせいでこれから起こる騒動に()()巻き込まれるのだから。

 

 

 

 

 




はい、第一話いかがでしたか?

もし宜しければ感想や評価をお願いします!!

モチベーションに繋がりますので!

ではまた次回にお会いしましょう!!


※まだ一話では描写してませんが、クラスメイトから呼ばれた時は『斉木』ではなく『サイキ』とカタカナ表記にします。


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魔術講師とクラスメイト

かなりの時間が空いてしまいましたが・・・・皆さん覚えてらっしゃるかしら?

お気に入りしてくれた方、感想をくれた方、とても励みになってます!


ではどうぞ!


 

 僕の名前は斉木楠雄。超能力者である。

 

 二度も説明はいらないよ、と貴方が思ったことはお見通しである。

 何故なら僕が超能力者だからだ。ちなみに映画は10月21日に公開である。

 

 ここらで僕の学院生活に話を戻すとしよう。

 グレン=レーダスという見た目そのままロクでなし要素満載の男が僕のクラスの非常勤講師を務め始めて一週間が経過した。

 

 

(あぁもう面倒くせぇ・・・早く授業終わらねぇかな)

 

 

 僕が所属するアルザーノ帝国学院は生徒は優秀な者ばかりで、この様な考えを持つ生徒は極少数だ・・・その少数の中に目の前で大きく口を開けアクビをしている非常勤講師も入るのだが。

 ロクでなし、という言葉の体現者であるグレン先生はこの一週間をやる気一つ起こさず、全ての授業を投げやりに行った。寧ろ投げやりに行う事にムキになっている節すら感じる。

 

 今日も今日とて先生は通常運転で、黒板に教科書を釘で直接打ちつけ始めた。最初の頃は要点を板書し教科書の内容を一通りさらうなど形としての授業は行っていたのだが、それが教科書の内容をそのまま書き写すに代わり、翌日には教科書を引きちぎって黒板に貼り付けていくようになった。

 

 さてここで僕の能力の一つを紹介しよう。

 テレパシー能力の応用である“好感度メーター”である。

 これは周囲全員の心を読んで好感度を割り出し数値化するものだ。

 例えば僕の数値は平均的に45程度である。()()()()を除けば40程度だろう。この数値は大体、消しゴムを落としても拾ってもらえないレベル。最初に言った様に僕はなるべく目立ちたくないので50前後を目指しているが、まぁ許容範囲だ。

 

 それでグレン先生はというと平均的に20といったところか。この数値は席替えで隣になった女子が悲鳴を上げるレベルだ。そしてこのクラスには先生に対して一人だけ好感度が特別高い者と人一倍低い者がいる。

 

 ルミア=ティンジェル。

 ミディアムの金髪に見る者を魅了する青玉色の瞳。清楚で柔和、容姿端麗、成績優秀、まるで天使の生まれ変わりであるかの様な少女である(クラスメイト男子談)。または千年に一人の美少女(隠れファン談)。彼女のせいで僕のテレパシーに一日何度『おっふ』が届くことか・・・。

 彼女は先生に対して好感度が80を超えている。テレパシーで耳に入ってくるに過去に何かあったようだが、僕は知りたいと思わないので知らない。

 それでもってこのルミア=ティンジェルという少女は僕と近しい能力を所持している人物であり、ある重大な秘密を抱えており、僕の平穏無事の学院生活を脅かす存在だ。まぁ今のところこの少女よりグレン先生の方が平穏を脅かしているのだが。

 

 そしてもう一つ。

 このルミア=ティンジェルという少女。僕に対しても好感度が高く、70を超えているのである。70はどのくらいかというと、咄嗟にへんな挨拶をしてもちゃんと返ってくるレベルだ。なぜそんなに高いのか分からないし身に覚えもない。テレパシーで聞こうにも全く僕の話題を出さない(当たり前だが)から知れないのだ。そういう意味でも彼女は僕の学院生活を脅かしていると言える。参考として言うが他の男子は50から60相当である。

 

 

 話を戻そう。

 グレン先生に対して人一倍好感度が低い者がいる。

 その人物の名はシスティーナ=フィーベル。由緒正しい魔術の名門であるフィーベル家の娘だ。成績は優秀で、ある一部分を除けば容姿こそ親友のルミア=ティンジェルに劣っていないものの家柄も合間ってか性格がキツイので男子人気は殆ど無い。昨今で僕の平穏を脅かしている人物の一人でもある。

 

 

「いい加減にして下さい!」

 

「言われた通りいい加減にしてますが何か?」

 

「子供みたいな屁理屈こねないで!」

 

 

 堪忍の尾が切れたフィーベルは寝ぼけ眼のグレン先生に激昂し、怒声を浴びせる。

 お分かりいただけただろうか?僕の平穏無事のスクールライフが見る影も無くなっていることを。性格が真逆で犬猿の仲である二人がこうして幾度とぶつかっているのだ。

 

 

(いいぞいいぞ!もっと言ってやれ!)

 

(もっと言ったれフィーベル!)

 

(システィーナ!もっと言ってくださいまし!)

 

(もっともっと熱くなれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)

 

(このまま黙って自習しておけばいいものを・・・くっ!左手が疼く)

 

 

 その度にテレパシーで否が応でも聞こえてくるクラスメイトの心の声は不愉快極まりない。極少数に至ってはとてもじゃないが聞きたくもない。まぁ気持ちはわかるが少し冷静になって欲しいところだ。

 

 

「ぶへっ!」

 

「貴方にそれが受けられますか!」

 

「お前・・・マジか」

 

 

 手首のスナップでそこそこの速度で放たれた手袋がグレン先生の顔面に当たって床に落ちる。 しん、と教室内は静まり返った。

 僕の手に掛かればここで過去に逆行し、この雰囲気を止めることは可能だ。だが止めたところでフィーベルの忍耐はどこかで崩壊する。どうせこのイベントが起こるのなら早く済ませるに尽きる。

 

 

「・・・何が望みだ?」

 

「野放図な態度を改め、真面目に授業を行ってください」

 

 

 世界に散らばる何でも一つ願いが叶う七つの玉を集めたのに願い事をギャルのパンティレベルで済ませたフィーベル。神龍(グレン先生)も苦虫を噛み潰したような、呆れた表情を浮かべている。

 

 

「はぁ・・・なら俺が勝ったらお前、俺の女になれ」

 

「─────ッ!」

 

「当たり前だろ?そっちが望みを言うんならこっちだって言わねぇと釣合わねぇ。それにお前、上玉だし」

 

「わ、わかりました!受けて立ちます!」

 

(チョロイというか何というか・・・親御さん泣くぞホント)

 

(だ、駄目よシスティーナ!弱気になっちゃ駄目!勝てばいいのだから!そうよ!勝てばいいの!)

 

 

 今回に至ってはグレン先生に同意だ。

 さすがにチョロ過ぎやしないだろうか。今時のメインヒロインももう少し突っぱねると思う・・・ほら周りの男子を見てみろ、好感度が上がっている・・・上がってる!?

 

 

(これだけチョロかったら俺にもチャンスが・・・!)

 

(よく見るとフィーベルさん可愛いよね、性格はちょっとアレだけど)

 

(胸はないけど・・・それがいい!)

 

(熱くなれよぉぉぉぉ!もっと、もっとぉぉぉぉぉ!)

 

(静まれぇぇぇ僕の左手!!)

 

 

 相変わらず僕のクラスメイトの男は脳内がキャラメル牧場らしい。本人が聞いたら発狂しそうだが。

 やはり多少ズレてはいるが一般家庭で育った僕やクラスメイトと名門の娘として育ったフィーベルとでは価値観に相違が出るのだろうか。言うまでもない、か。

 

 

「冗談だよ冗談。そんな泣きそうな顔すんなよ。俺の望みは喧しく説教しないこと。オッケー?」

 

「〜〜〜〜〜〜っ!わ、わかりました!」

 

「はぁ・・・さっさと中庭行こうぜ」

 

「え、えぇ!!」

 

 

 先生は気怠げに、フィーベルは気合十分に教室から出て行った。その結果を見ようと他のクラスメイトも付いていくように出て行く。

 僕も好感度的に考えて出て行くのが妥当だろう。然し僕の超能力を使えば中庭にいたと暗示を掛けることもできる。所詮、好感度40程度は居るか居ないか認識されないレベルだからだ。

 

 それに決闘の結果は()()()()()

 

 フィーベルの圧勝。それが結果だ。

 テンプレという一応の流れでは、日頃弱そうにしていた奴がいざ強者と決闘すると隠していた力を開放し圧勝する。簡単な話、そうすると盛り上がるからである。

 だがグレン先生の本性と心の声を知っている僕は先生が勝たない事を知っている。勝てない理由を知っている。授業でよく一人ごちっているからである。

 

 

「サイキ君は行かないの?」

 

 

 おっと好感度70のティンジェルが動かない僕を見て声を掛けてきた。

 クラスメイトの好感度は40程度で存在をあまり認識されないからと甘く考えていた・・・一人例外が居たな。さて、どうしようか。

 

 

『行かない』

 

「そっか。じゃあまた後で」

 

 

 そっけない態度を取ったにも関わらずティンジェルの好感度は下がらない。僕は一体、君に何をしたと言うんだ。

 

 

(また後で。また後で、か・・・ふふっ)

 

 

 上機嫌に教室から出たティンジェルを最後に教室は静かになった。テレパシーも半径200m以内までなので教室がここまで静かになったは久方振りである。

 

 だから僕はスイーツタイムへと移行する。

 

 母さんが毎度キャラ弁当と共に入れてくれるデザート。これが学院生活の密かな楽しみだ。

 弁当と共に入っている袋を開いてみると・・・おっと今日は“コーヒーゼリー”のようだ。

 僕は“コーヒーゼリー”というデザートが嫌いではない。珈琲豆の芳醇な深い香りとコク、それを閉じ込めた気品を感じさせる味、更にミルクとの出会いで違った顔を覗かせる罪深い程に贅沢な一品・・・全然嫌いではない。

 

 

 

 

 

こうして今日も僕の学院生活は忙しく喧しく過ぎ去っていくのである。

 

 

 

 

 




お久しぶりです。久し振りの一話、いかがでしたか?

話が進まない。アニメで言えば一話さえ終わってねぇ・・・どうしよ。

今日のうちにもう一話投稿するのでお楽しみに。

謝辞。
『ましろんろん』さん、最高評価有難うございます!
『カクト』さん、高評価有難うございます!


ではまた次の話でお会いしましょう!感想と評価、お待ちしてます!


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おっふ


遅れてしまい申し訳ない。
書き上げたのに自動保存されてなくて一度全部消えたんだ。それを確認したらやる気が著しく低下してこの日まで伸びてしまいました。


すみません!ではお楽しみください!





 

 

 朝。僕には心地の良い目覚めなど存在しない。

 なぜなら『学校行きたくねぇ』『働きたくねぇよぉ』『またあのクソ上司と顔合わすのか・・・』『いいなぁ学院生は』というマイナスな心の呟きが僕の目覚ましだからである。

 

 

「おはよう楠雄!」

 

「おはよーくーちゃん!」

 

 

 僕の両親である“斉木 國春”と“斉木 久留美”だ。

 父さんはいい加減でだらしない。情けない上に図々しい。威厳など全く無い。以前勤め先の父さんの姿を千里眼で見た時、上司の靴を舐めていたのは嫌でも記憶に焼き付いている。

 母さんは穏やかでとにかく優しい。普段からとても温厚で僕が力に取り憑かれてダークサイドに墜ちなかったのも、この人の存在が大きいと言える。

 二人に共通している事は頭の中がお花畑である事とお互いがお互いに好き合っているという事だ─────だが。

 

 

「ママッこれ何!?なんで僕のご飯はワサビなの!?食えないよ!」

 

「ふーん・・・あっそ。くーちゃんはしっかり食べるのよ〜♡」

 

 

 最近は喧嘩してばかり。喧嘩の理由は本当に些細な事ばかりだ。殆どはあのダメ男が原因なのだが、それでもしょうもない理由でかなりハードな喧嘩をする。

 

 

「くーちゃんおかわり要る?あ、あなたの分もあるわよ」

 

「わさびをおかわりしろってか!なんで僕だけこんな仕打ち!?もしかして昨日のことを怒ってるの!?昨日のことはちゃんと違うって説明したじゃないか!」

 

 

 あぁ思い出した。

 確か昨日、父さんが女性物の香水を付けて帰って来たのだ。それを父さんは『新商品の女物の香水、男はどのように感じるのか』という道端のアンケート調査で付けられたのだと弁明していた。

 僕は父さんの発言が正しいという事実を知っている。嘘ではない事も分かっている。超能力でどうにかしてやるのも簡単だ。

 然し、だ。大人は甘やかすとロクなことにならない。僕のクラスの非常勤講師がいい例である。目の前で涙目でいる大人もそうなのだが兎にも角にもこの件については自分で解決するべき事だ。冷たい事を言っている様に聞こえるかもしれないが、意味の無い喧嘩を止めるのは面倒臭いし何より力の無駄遣いだ。

 

 

「もう知らん!ママなんて嫌いだァァァァァ!」

 

「こっちこそパパなんて大ッキライよ!」

 

(嘘だよ!ママ大好き!なんで僕は素直になれないんだぁぁぁぁ!)

 

(私だってパパを信じたいの!いえ信じてるの!だからこそ女物の香水なんてワサビの匂いで消したいの!パパのことが大好きだから!)

 

 

 目には目を、臭いものには臭いものを、某法典を拗らせるとここまでになる。

 心の声で分かると思うがどう考えてもこの喧嘩は茶番である。故に僕は手を貸さないのだ。

 喧嘩するほど仲が良い、この言葉の体現者たる二人を他所に僕は登校の準備を始めた。

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 さて皆さんの学院生活は何から始まるだろうか?

 制服を着た時だろうか?友と交わす“おはよう”という元気な挨拶だろうか?授業が始まる前の予鈴だろうか?

 僕の在籍しているクラス“魔術学士二年次生二組”、通称“二年二組”はある言葉で始まりある言葉で終わる。

 

 

「みんなおはよー!」

 

「ルミアちゃんおはよー!・・・おっふ」

 

「ルミアさんおはよう!・・・おっふ」

 

「おっふ・・・ルミアさんおはよう!」

 

「「「「「「「「おっふ」」」」」」」」

 

 

 このクラスは『おっふ』で始まり『おっふ』で終わるのである。

 おっふ、とは固く言うと感嘆詞の事である。美少女を前にした時に思わずあまりの美しさに驚きの声が漏れてしまった時に使われる。使うという表現は正しくないか。自然と漏れ出る感嘆の声であるから。付け加えると『おふる』『おふらない』など動詞としても使える。

 この場合の美少女とはルミア=ティンジェルの事である。クラスの大半の男子はおふる前まで気分が沈んでいるがティンジェルと挨拶を交わした瞬間、または視界に入った瞬間におふり、気合いが入るのである。

 ちなみに女性陣は『おっふ』とは口に出して言わないものの心の中で呟いている。つまり授業が始まる前は男性陣の『おっふ』と女性陣の心の中で呟く『おっふ』によって、僕の頭の中は『おっふ』に埋め尽くされるのである。

 例外として僕とグレン先生はおふらない。理由は至極単純でティンジェルをそういう対象として見てないからである。

 

 

「おはよーお前ら。授業始めっぞ〜」

 

 

 間延びした声で教室へ入って来たグレン先生はここ数日で劇的な変化を起こしていた。

 変化を起こす前、つまり赴任してからの十一日間はロクでなしそのものであったのだが今となっては大人気講師である。誇張表現なのではなく本当に大人気講師なのだ。

 システィーナ=フィーベルに頬を叩かれた次の日から人が変わった様に授業を始めた。フィーベルに謝罪し、中二病のの如く書き連ねられた教科書を投げ捨て、呪文と術式に関する魔術則・・・文法の理解と公式の算出方法に焦点を当てた授業をし始めたのだ。それは魔術に関して初心者である僕達にもわかり易い様に噛み砕かれており、きちんと理解させる質の高い授業だった。

 今となっては噂が噂を呼び、他クラスからもグレン先生の授業を一目見ようと参加する者が出て来た。座れない者は立ち聞きするまであるからどれだけ先生の授業の質が高いかが伺えるだろう。僕も非常に惹かれている。

 

 然し、だ。これとそれとでは話は別だ。

 

 立ち聞きする生徒、また若く熱心な講師がグレン先生の授業を聞きに来るという事はその分テレパシーで拾う声が多くなるのは言うまでもない。

 グレン先生の言葉一つ一つに耳を傾け、書き出された美しい文字と図形をノートに書き取り、偶然視界に入ったティンジェルの姿を見て1おっふ。板書を写しつつ先生のちょっとした言葉をノートに書き取りまたまた偶然ティンジェルが視界に入って2おっふ。3おっふ、4おっふ・・・・・・・・・・いい加減にしろ!

 朝から晩までおっふおっふおっふ・・・さすがの僕も堪忍の尾が切れそうだ。だからといって超能力を公衆の面前で使える訳ではない。それにこの学院には僕と同じく()()()()を持った者がいる。微細な変化でも気付かれる可能性があり、疑われる危険性がある以上無闇には使えない。

 

 

 これでも超能力者が羨ましいと言う者は居ないだろう。

 僕の気持ちを少しだけでも慮ってくれたら嬉しい限りである。

 

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 

 放課後。僕は厄介な人物に捕まった。

 

 セリカ=アルフォネア。

 

 アルザーノ帝国学院教授。見た目は二十歳ほどの美女だが、真の『永遠者(エモータリスト)』と呼ばれる不老不死の体質の持ち主だ。二百年前の戦争で人類の切り札として活躍した『六英雄』の一人であり、外宇宙から召喚された邪神の眷属を殺害した伝説を持つ《灰燼の魔女》である。そしてその功績と共に人外と評される第七階梯(セプテンデ)に至った大陸最高峰の魔術師。

 

 

「そんなに嫌な顔すんなよ〜〜さすがの私も傷付くぞ?」

 

 

 上記に記した事柄を見れば僕がどれだけ警戒し、教授を厄介者扱いしているのかが分かると思う。教授は僕と同じレベルの力を持っている。まぁ力のベクトルは異なっているのだが。あぁ言うまでもないと思うが僕が学院内で超能力を使うことを躊躇っているのはこの教授の存在があるからだ。

 そしてもう一つ、この教授に対して僕は苦手意識を持っている・・・ん?何で苦手意識を持ってるかって?

 

 

「それで・・・グレンはどうだ?上手くやってるか?」

 

 

 そう、どこかで見た様な既視感を覚える行動ばかりするからだ。

 今も義理の息子である(※本人はそう思っている)グレン先生の授業の様子や態度を生徒に聞いている。本人に直接聞かず回りくどいことをよくするのだ。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『上手くやってますよ』

 

「そ、そうか・・・・ふっふーん!そうだろそうだろう!グレンは昔から(以下略)」

 

 

 こうやって慕う相手のことを誉めればどんどん饒舌になって聞きたくもない余計な事を喋るところもそっくりである。だから僕は苦手なのだ。

 

 

「セリカーこの書類は・・・・・ん?サイキじゃねぇか」

 

「おーグレン!今、サイキにお前の昔の可愛いかった頃の話をしていたところでな・・・」

 

「何してくれちゃってんの!?生徒に威厳が保てなくなる様なこと言うなよ!!」

 

「保てるほど威厳あったっけ?」

 

「喧しいわ!ねぇよ!」

 

 

 ないのかよ。

 僕の前で口喧嘩をする二人・・・いや教授の一方的なからかいを受け、グレン先生は顔を赤らめながら反論する。ヒートアップする二人の会話に対して僕の心は凄まじい速度でクールダウンする・・・なぜなら。

 

 

(セリカの奴生徒の前で辱めやがって・・・別に嫌いじゃないし慣れたけどせめて家でやってくれよ!!)

 

(威厳など無くてもお前を慕う者は沢山いるさ・・・・・・それにしても可愛いなぁ抱きついていいかなぁ)

 

 

 朝に見た途轍もない茶番を夕方にも見せられたら誰でも辟易とするだろう!?

 テレパシーで強制的に以心伝心にしてやろうか?お互いの心を筒抜けにしてやって、赤らんだその顔を何千枚とプリントに念写して学院中に貼り付けてやろうか?

 

 

 だが僕にそんな事は出来ない。出来るが実行に移せない。

 平穏無事な学院生活を送るには出来るだけ超能力を使わずにやり過ごすしかない。

 

 

 

 だがまぁ・・・少しくらいならバチは当たらないだろう。僕は先生に少しだけ暗示を掛けて学院を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 アルザーノ帝国学院にある噂が流れた。

 つい最近務め始めた人気講師が大陸屈指の魔術使いの事を公衆の面前で『ママ』と声高らかに呼んだという黒歴史一直線の噂が流れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





楠雄も学生なんです。
少しくらいのストレス発散を許してあげてください。あ、ちなみに一度呼べば解除される様に暗示を掛けていました。


謝辞。
『ファイターリュウ』さん、最高評価有難うございます!

『言いたいこと言えないこの世の中』さん、『Sohya4869』さん、『仮屋和奏』さん、高評価有難うございます!!


ではまた次回にお会いしましょう!
感想と評価、お待ちしてます!


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最初のѰ難



暇が出来てハーメルンを開いてみるとお気に入りが500…ん?500超え!?えぇなんで!?えぇ!?

いやほんと有難う御座います。ただ有難う。そして、これからもよろしくお願いします。

ではどうぞ!!




 

 

 前任のヒューイ先生が突如失踪した所為で土曜日に振替られた授業の日。

 既に二十五分ほど遅刻しているグレン先生に対してフィーベルを筆頭にクラスではイライラが募っていた。

 

 

「どうしたのかな…先生、最近は遅刻せずに頑張ってたのに」

 

 

 ティンジェルが呟いた言葉は僕も十分に同意出来るものだ。先生が授業に取り組み始めてからは遅刻は無かったに等しいからな。

 

 

「あ、先生ったら、何考えてるんですか!?また遅刻ですよ!?もう……え?」

 

 

 教室の扉が無造作に開かれ、新たに人の気配が現れた。その気配に対してフィーベルは説教をくれてやろうと待ち構えていたのだが、その人物を見るやいなや言葉を失い、立ち尽くした。

 

 

「まずオレ達の正体はテロリストっ!ま〜簡単に言っちゃうと女王陛下にケンカを売る怖ーいお兄さん達ってわけ」

 

「は?」

 

 

 教室に入って来たのはチャライ男とダークコートを着た男。周りを見るに誰一人として彼らに見覚えが無いようだ。勿論、僕も無い。

 

 

「で、ここに入った方法。守衛さんをブッ殺して、厄介な結界をブッ壊して、そんでお邪魔させていただいたのさ。どう?オーケイ?」

 

 

 クラス中のどよめきが強くなる。動揺が伝播し、言い知れぬ恐怖が広まっていく。

 

 

「適当な事言わないでっ!ふざけた態度を取るなら私にも考えがありますよ?」

 

「へぇなになに?教えて」

 

「……っ!貴方達を気絶させて警備官に引き渡します!それが嫌なら早くこの学院から出て行って!」

 

「《ズドン》」

 

 

 フィーベルが魔力を練り始めた直後、チンピラ風の男が唱えた呪文がフィーベルの耳横を駆け抜け、背後の壁を小さなコインの様な穴を空けた。

 

 

「《ズド───」

 

 

 もう一度フィーベルに向かって呪文を唱えようとする男に僕は咄嗟にサイコキネシスを使……えない?

 

 

「──ン》《ズドン》《ズドン》」

 

 

 三線、連続で唱えられた呪文がフィーベルの首と腰と肩を光の線が掠めて走る。

 あまりの貫通力にフィーベルを含めたクラスの全員が男の放った呪文の正体を悟った。

 

 

「軍用魔術の…【ライトニング・ピアス】!?」

 

 

 黒魔である【ライトニング・ピアス】。

 指さした相手を一閃の電光で刺し穿つ、軍用の攻性呪文(アサルト・スペル)だ。見た目は初心者向け魔法の【ショック・ボルト】と大差無いものの威力・弾速・貫通力・射程距離は段違いであり、シンプルな見た目に反して恐るべき殺戮の術である。加えて男は、その魔法を短く切り詰めた一節詠唱の上に連続起動(ラピッド・ファイア)で繰り出した。つまりたった数発の超絶技巧の魔法で彼らが僕等より格上である事が証明されたのだ。

 

 だがそれが問題なのではない。

 

 いの一番の問題は僕が超能力を全く使えない、ということだ。

 冷静に考えてみれば奴等が教室の前に立った時点で心の声がテレパシーとなって聞こえてきた筈であり、事前に消…ゴホン、対処も出来た筈だ。超能力者ということがバレる事をお構いなしに対処しようにもその肝心な能力が使えないのであれば意味がない。

 今になって奴等だけではなくクラスメイトの心の声が誰一人として聞こえない事に気付く。だが聞くまでもなくクラスメイトの心は恐怖一色ではあるが。

 

 

「こんなかでさ、ルミアちゃんって女の子いるかな?いたら手を挙げてー?もしくは知ってる人教えてー?」

 

 

 しん、とクラスが静まり返る。

 やはり奴等の狙いはルミア=ティンジェルだったのだ。いやこの呼び方は正しくないな。

 

 エルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。

 

 つまり彼女は王家の人間だ。そして僕と同じく特異な力を持っている。そのどちらかを、あるいはその両方を利用する為に学院にテロを起こしに来たのだろう。

 しかしなぜ彼女がこの学院に在籍し、且つフィーベルと共に暮らし、名を偽っているかまでは知らない。超えてはいけないラインであることが感覚で分かっていたからだ。超能力が使えない今では知る事も出来ないが。

 

 

「あ、貴方達、ルミアって子をどうする気なの?」

 

「ん?」

 

 

 再び突っかかってきた少女を見て、チンピラ男は面白そうに笑う。今になって超能力が使えないことを疎ましく思うとは、使えたら今すぐにでも学院のシミにしてやるのに。

 

 

「お前、ルミアちゃんを知ってるの?それともお前がルミアちゃんなの?」

 

「私の質問に答えなさい!貴方達の目的は一体何!?」

 

「ウゼェよ、お前」

 

 

 今までヘラヘラとした表情から一転、突如、男は蛇の様な冷酷な顔になった。言わずともわかる、アレはマズイ。

 

 

「うん、お前からにすっか」

 

「……え?」

 

「私がルミアです」

 

 

 男がフィーベルの頭に指を向けた瞬間、ティンジェルが席を立ち男の動きを止めた。

 男は興味を失ったと言わんばかりにフィーベルから視線を外し、ティンジェルの前に立った。何度も念じるが一向に超能力が使える気配が無い。

 

 

「うん、知ってた。良かったね〜ルミアちゃんが出てくるか、誰かが教えてくれるまで一人ずつズドンッしちゃうゲームだったんだ。ルミアちゃんファインプレー!!」

 

「外道……ッ!」

 

「遊びはその辺にしておけ…ジン」

 

 

 チンピラ男を(たしな)めるようにダークコートの男が口を開いた。

 ダークコートの男はティンジェルを連れて教室から消えると、チンピラの男は【マジック・ロープ】でクラス全員を縛り上げ、呪文の起動を封じる【スペル・シール】の魔術を掛けて完全に身動きを封じた。今は一般人と同じである僕は魔術を破壊する事も反撃することも出来ない。

 

 

「あっそうだ。君達の担任の講師だっけ?オレの仲間に殺されているだろうから期待しても無駄だよ?」

 

「─────ッ!」

 

 

 チンピラの男は僕らが抱いていた一縷の望みさえ粉々に破壊した。

 僕は先生の()()()()()()()()為、簡単に死ぬような講師ではない事を分かってはいるが、千里眼が使えないから事実確認が出来ない。それに希望を抱くには敵が強大過ぎる。

 

 

「いいねぇいいねぇその顔ッ!キャハハハハ!!あ、そうだお前こっちへ来い」

 

 

 チンピラの男はフィーベルを引っ張り教室から消えた。何をされるか…誰も口にしないが心の中では分かっている。

 

 

─────なぜ僕は…僕はッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はハッと目を覚ました。

 がばっと起き上がり、時刻を確認する。まだ起きるには早い時間だ…いや、そんなことはどうでもいい。

 

─────くっ……。

 

 突如側頭部に襲ったズキッとする痛みに、僕は思わず顔を顰めた。久し振りに起こってしまった超能力の一つであることを認識する。

 

 予知夢。

 

 あれはただの夢では無い。

 夢を見た時、そして頭痛がする時、僕は未来を断片的に視ることが出来た。勿論この能力にも、他の能力と同じように欠点がある。テレパシーのオン・オフが出来ないのと似ていて、この能力は使おうと思って使えるのではない。そして知りたい未来を狙って視ることが出来る訳でもない。予知はある日突然ランダムにこれから起きる出来事を視せてくれるだけの能力だ。

 ちなみに超能力が使えなくなるという予知では無い。夢の中ではいつもああなのだ。あれがもし現実になれば【ロクでなし魔術講師と異能者と頭がピンクの陰キャラ】になってしまう。なんて恐ろしい話だろうか。

 

 そうではなくて、問題は、夢の中で見た『僕のクラスにティンジェル狙いのテロリストがやってくる』ということだ。

 

 僕の夢は百パーセント当たる。近い未来、テロリストがティンジェル狙いで学院を襲ってくる。だが断片しか視えなかったため、その後の展開もグレン先生の安否も分からない。これらの百パーセント起こる事実を踏まえた上で僕が起こせる行動を幾つか挙げてみる。

 

 

 1.事前に元凶を叩く

 

 これはあまりにも危険度が高い。身の危険、ではなく僕の存在がテロリストに晒さられる危険である。平穏無事の生活を送りたい僕にとって一番避けたい展開だ。それに僕だけではなくて両親を危険に晒す可能性があるため必然的に却下だ。

 

 2.成り行きに任せる

 

 僕が目立たない様にするにはこれが一番手っ取り早い。だがそれは先生を、フィーベルを、そしてティンジェルを失う事を黙認するということでもある。僕は……うん、却下だ。先生からはまだ学びたい事が沢山あるからな、うん。

 

 

 冷静になっみると僕はとある事実を思い出した。

 考えてみればあのテロリスト達と関わりのある講師が一人()()()()()()()。その講師は怪しくはあったものの直接何をする訳でもなく、突然()()()()()()頭から外していたが今思えばあの講師が黒幕ではないか。それならばテロリストがティンジェルを捕らえ、学院のどこかへ消えた話も説明がつく。となると…だ。

 

 

 3.手分けして敵を無力化する

 先生が学院に来る前に襲われたという事実を踏まえた上で、そのテロリストを退けたと仮定する。先生は学院に助けに来るだろうが間に合うかは分からない。それならば先生の方に黒幕の処理を任せて僕がテロリストを無力化する。状況に応じて逆にしなければならないが、これが最善策だろう。

 

 

 つまり、グレン=レーダスという魔術師にめっぽう強い男が学院に存在し、ルミア=ティンジェルを守る騎士(ナイト)となっている、という事実を敵組織に認知させる事が出来れば上出来だ。 味方にはこの成果が僕のお陰ではなくグレン=レーダスという元帝国宮廷魔導士団の手に依って成し遂げられたという事実が認知されればオッケー。

 

 

 やることは決まった。

 僕はいつものように支度をして学院へと向かった。

 

 

 

 

 

 × × × × × × × × × × × × × × × × ×

 

 

 

 

 

 やってきましたテロリスト。

 名前は確か…チャラチャラした男がズドンでダークコートの男がレイクだ。ん?違うって?覚え易いからいいだろう。

 ちなみに千里眼で先生の安否を確認したところ余裕綽々で勝っていた。敵はボコボコにされた上に“極小”と書かれた紙を股間に貼られている。グレン先生より社会的に殺された敵に同情するまである。はっきり言って僕よりむごい。

 

 

「じゃあ縛っちゃうよ〜。あ、抵抗した奴ブッ殺すから」

 

(誰か抵抗してくれねぇかなぁ〜面白くねぇなぁ〜!)

 

 

 ちなみにテレパシーを応用して、僕はフィーベルに『敵に従え』という言葉を、ティンジェルには『素直に名乗り出ろ』という言葉を囁いていた。いわゆるサブリミナルだ。

 だからフィーベルは【ライトニング・ピアス】を一発だけ牽制として撃たれただけで終わり、ティンジェルはズドンに名前を挙げられただけで素直に名乗り出て従った。

 

 

「あれ?レイクの兄貴、目隠ししろって言ってたっけ?まぁいいや!テメェら目隠しもつけとけよ〜」

 

 

 目隠しを付けさせることで僕の動きを感知させない。居なくなったとしても誰も分からない。

 ちなみに僕が眼鏡を外し、直接相手を見てしまうと相手を石像に変えてしまう。だが目を瞑っていれば問題ないし対象の人物との間に何かしらの壁があれば目を開いていても問題無い。

 夢で見たようにズドンは目隠しをつけたフィーベルを連れて教室から出て行った。教室にもロックを掛けて僕達を完全に閉じ込めた。敵は去っても教室内は未だに緊張に包まれている。

 

 千里眼を使いフィーベルを捜索。ふむ、どうやら魔術実験室で目隠しプレイを楽しむようだ。

 

 瞬間移動。

 

 僕は魔術実験室の前に瞬間移動し、手を縛っていたロープを引き千切り目隠しを外す。そして二つある()()()()()()()()()()()

 瞬間、二百メートル以内だけであった心の声が一気に世界中へと範囲を広げた。早『おい待てコラァ!』済ま『What happens?』ちょっ『오래간만!』だから『 Wie konnte das passieren?』オイ『做吧!』いや『ハンバァァァァァァグッ!!』…『Why Japanese people!?』えぇい喧しい!最後に至っては日本人だろ!!とっとと済ませるぞ!

 

 変身能力(トランスフォメーション)

 

 読んで字の如く変身である。だがこの能力は完成度は高いものの唯一の欠点として変身までに二時間掛かる。だからこそ制御装置を外して時間を短縮した。

 

 今から僕は“斉木楠雄”ではなく“斉木楠子”だ。見た目は寡黙なショートボブの女の子。意図してなった訳ではないのだが隠れ巨乳である。外していた制御装置を再び着けて扉を開く。

 

 

「だ、誰だお前っ!」

 

 

 誰だチミはってか。そうです僕が斉木楠子です。

 ふざけた自己紹介は置いといて、僕は朝に母さんに持たされたティッシュを取り出した。

 

 

(誰なんだよコイツはっ!学院の生徒らしいが縛った奴にこんな奴居なかった!しかしまぁ…上玉だな。グヘヘッ)

 

(だ、誰!?誰が来たの!?)

 

 

 ネジネジネジネジ、ティッシュを尖端が鋭利になるように捻っていく。目の前の男の(よこしま)な考えは筒抜けなのだが、僕はひたすらティッシュをネジネジする。まだフィーベルは目隠しされている所為で僕の姿を見ていない。

 

 

「無視は酷いなぁ〜オレ泣いちゃうよ?」

 

 

 ネジネジネジネジ。

 

 

「おい返事しろよ……《ズドン》」

 

 

 堪忍の尾が切れたのかお得意の【ライトニング・ピアス】を僕に向かって放つズドン。

 僕は放たれた電光の一閃にネジネジしたティッシュを振るう。バチン、と電気の散る音が実験室に鳴り響き、電閃が弾き飛んだ。

 

 

「……へ?」

 

 

 大層な間抜けヅラを晒すズドン。空いた口が塞がらないのかまるでムンクみたいだ。

 

 

「ズ、《ズドン》!《ズドン》!《ズドン》!!」

 

 

 連続起動(ラピッド・ファイア)で何発も【ライトニング・ピアス】が僕に向かって放たれるが全て弾き飛ばす。ティッシュ一枚で。

 

 

「は、はぁぁぁ!?何なのお前!?それティッシュだろ!?」

 

 

 ティッシュだ。まごうことなき普通のティッシュ。スーパーのくじ引きで当たった残念賞のポケットティッシュ。

 さて遊びも終わりだ。グレン先生と遭遇したら意味がないからな。

 

 

「…へ?あっ」

 

 

 ティッシュをズドンの頬を掠めるように投擲する。

 掠めたティッシュはそのまま背後の壁に突き刺さり、まるで蜘蛛の巣の様に亀裂を入れた。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 逃がす訳がないだろ?

 四つん這いでガムシャラに逃げようとするズドンを僕は首トンで気絶させる。これで暫くは起きないだろう。まぁ二度と起きれなくさせてあげてもいいのだが。

 

 さてフィーベルに僕が助けた、もといフィーベルにとっての彼女が助けたという事実を認知させなければならないのだが、どうするべきか……目隠しだけでいいな。

 

 

「あ、貴方は一体……」

 

 

 目隠しを外すや否や僕の顔をまじまじと見つめるフィーベル。まぁロープは解く気はないので行動は制限されたままだ。

 グレン先生にここに来る様にサブリミナルを掛けた直後、空間が歪み何十体もの盾や剣を武装している骸骨達が現れた。

 

 サイコキネシス。

 

 扱い辛い超能力の一つだ。精密な動作が難しいので大雑把な扱い方しか出来ない。

 だが今回はそれで十分だ。手を突き出し少し念じる。刹那、骸骨達は壁にめり込んだ。カランカランと武器や盾が虚しく落ちる音が轟く。

 

 

「す、すごい…なんて魔術なの。私には知らない事が多過ぎる」

 

 

 どうやら上手く勘違いしてくれたらしい。まぁサイコキネシスの場合は固有魔術か何かだと適当に誤魔化せるからな。さすがにグレン先生には無理だろうけど。

 そそくさと実験室を後にした僕は千里眼を使いもう一人のテロリストを探す。実験室からは『これも外してよぉ〜!!』と泣き言が聞こえるが無視だ。

 

 

「誰だおまブベラッッッ!!!」

 

 

 千里眼→瞬間移動→サイコキネシス→オブジェクト化。

 壁に大の字にめり込んだレイクはそのまま気絶した。見せ場がなくしてしまい申し訳ないという変な気持ちになるのはどうしてだろうか。

 

 取り敢えず僕がするべき行動は終わらせた。後は先生とフィーベルに任せていいだろう。

 僕は“斉木楠子”から“斉木楠雄”に戻り、瞬間移動でクラスに移動し、目隠しをつけ、自分自身に【マジック・ロープ】を掛ける。そして助けを待っているかのように演じた。

 

 

 こうして最初のѰ難は終わりを迎えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、いつもの日常が始まった。

 テロリストについては帝国から箝口令が敷かれ、一切の情報を外部に漏らさない様にされた。

 

 黒幕はヒューイ先生。グレン先生の前任者である。

 ズドンもレイクも無事捕まったらしい。レイクに至っては意識を取り戻したらしく、グレン先生と一戦交えたそうだ。

 

 

『ガフッゲホッゲホッ…お、俺と』

 

『マジカルパーンチ!』

 

『キックじゃ、ない…か』

 

 

 どうやら一撃でやられたらしい。なまじいい声だけに活躍の場が無かったのは可哀想である。

 こうしてテロリストによる事件は終息したわけなのだが、少しだけクラスに変化が起きた。

 

 

(あの人は誰なんだろう…はぁ、会いたいなぁ)

 

(あのテロリストはまさか…“ダークユリニオン”!?)

 

 

 フィーベルはどうやら斉木楠子に羨望を抱いたらしい。他には中二病患者が更に病気を拗らせてしまったようだ。この様に変化が生まれた事により、厄介な事実がまた増えてしまったのだ。

 

 

「ルミアちゃんおはよー!」

 

「うん、おはよう!」

 

「「「「「おっふ」」」」」

 

 

 テロリストが強襲する原因となったティンジェルは何事も無かったようにいつも通り明るく皆の天使として笑顔を振り撒いている。

 

 ん?僕がティンジェルを恨んでないかって?

 確かに元凶はティンジェルだ。王家の人間であり、稀な力を持つ異能者。狙われる要素しかない。

 だがティンジェルに罪はない。ティンジェルが裁かれるというのなら、それは超能力を生まれながらに使えた僕は真っ先に裁かれる対象となる。生まれ持った特異な力が忌み嫌われるものであったとしてもその所持者に罪はないのだ。

 

 おっとティンジェルと目が合った。少し見過ぎたか?

 ティンジェルは真逆の位置にいる僕に微笑むとゆっくり口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 『あ』『り』『が』『と』『う』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっふ。

 

 

 

 





1巻という最初のѰ難が終わりました。いかがでしたか?
ようやくスタートラインに立てました。これからもお楽しみ下さい。

以後謝辞。
『トガビト』さん、『佑ラス』さん、『夜空の剣士』さん、『独者』さん、最高評価ありがとう御座います!!
『≫ケミスト≪』さん、『Million01』さん、『クリアウィング』さん、『41歳のおっさん』さん、『サボテン日光』さん、『味噌太』さん、『kasama』さん、『tui』さん、『ヨッシーー』さん、『トマトボール』さん、『んんん(・∀・)』さん、『くずもち』さん、『アロンアルファZ』さん、『うましか』さん、高評価ありがとう御座います!!

皆さんの評価、感想は僕のやる気に直結してます!これからも応援よろしくお願いします!!


ではまた次回にお会いしましょう!感想、評価お待ちしてます!


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