幼き日の過ち (倉木学人)
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UNDERTALE短編 Your Best Nightmare

twitterの企画で適当に書いてみた。

神様転生、オリ主もの。
あと原作キャラ死亡の表現があるよ。


 私がしているのはゲームなのか、そうでないのか。

 それが問題だ。

 

 

 

 私を見ているかもしれない畜生ども、ごきげんよう。

 

 さて、どこから話したものだろうか。

 そうだな。事は私がアメリカ、テキサス州に留学中、強盗に襲われて射殺されたことから始まる。

 

 で、死んだら、神様的な存在に出会った。

 何か能力やるから転生しろと言われたので、アーカードの旦那とかエヴァにゃんみたいな、吸血鬼の真祖の能力が欲しい、と頼んでみた。

 で、気が付いたらここにいた、という訳なのだ。

 

 どうやら神様転生に、私は出会ったようだった。

 実際にこんなことってあるのだなあ、と何となく思った。

 夢かと思って、適当に頼んじまったぜ。あはは。

 

 そして私は何故か、小さな花畑の中にいるようだった。

 そういえば、どの世界に転生するかは教えてもらっていない。

 立ち上がると、ここがどこなのか、調べてみることにした。

 

 道中で見たのは内気なカエル。見るからに気弱そうな妖精。極めつけは遺跡の管理人だという、トリエルと名乗るヤギの獣人?

 

 え。ここって、アンダーテールの世界か?

 

 アンダーテールはPCで発売されたRPGゲームだ(いずれ日本のPSでも発売されるようだが、私はそれを見ず仕舞いになった)。

 個性豊かなキャラクターたちと、独特で緻密な世界観が魅力である。

 まあ、詳しいことは適当な紹介動画を見て。それを途中で打ち切って、実際にプレイしてみて欲しい。

 

 この世界がアンダーテールの世界だと、少々問題がある。

 この世界はゲームで、自分はその住人の一人なのだと。少なくとも賢い登場人物の一部は、そう気づいているのだ。

 勿論、私もその一人に入るのだろうが。

 

 何が問題かというと、このままゲームを進行させていいのか、ということなのだ。

 ある日一人の人間が、モンスターの住む地底世界に落ちてくる。

 その人間の選択によって、地底世界の、そして世界全体の未来が変わってくるのだ。

 アンダーテールは、そういうゲームだった。

 トリエルがここにいることから、時系列は最初に落ちてきた人間とアズリエルが死んだ後なのだろうが。

 そのあと、どのぐらいの人間が死んだことやら。

 

「貴女は何というモンスターかしら?」

 

 と、思考に没頭していたようだ。

 どうやら、トリエルは私の名前を聞いているらしいが、さて。

 

 しかし、私はモンスターになったのか。

 多分私は吸血鬼だから、恐らくナップスタブルックやマッドダミーのような、ゴーストタイプのモンスターなのだろう。

 首だけ振り返ると、コウモリの羽のようなものが見える。

 

 うーん、モンスターか。

 そもそも、アンダーテールのモンスターって、あんまり強くないんだよねぇ。なにせ、地底世界最強と名高いアンダインでも、子供に負けるぐらいだし。

 

 まあ、私は真祖の吸血鬼だから、強いっちゃ強いのだろうけど。

 それでも、せいぜいがアスゴア王やトリエルのような、ボスモンスターぐらいの強さしかないのだろう。

 強さに固執するつもりはないが、なんだかなあ。

 

 思考が逸れた。ちゃんと質問には答えよう。

 人間だった時の名を名乗るのもいいが、今の私はモンスターだしなあ。

 

 私は吸血鬼のスリングウェシルだ。

 誰も私の正体を知らないし、そう名づけられた訳ではないのだが。とりあえず私は、自分のことをそう名乗ることにした。

 

「まあ、ステキな名前ね!」

 

 この人? に名前を褒められると微妙な気分になるな。

 ある本に出てきた吸血鬼の名前を、そのまま使っただけなのだが。

 言わないけど、トリエルはセンスが悪いし。

 アズゴア王もセンスが微妙だったし、似た者夫婦だったんだよねぇ。

 

 とはいえ、このモンスターは善意の塊だ。

 これを機に、ちょっと頼みごとをしてみようと思う。

 

「あら? 何かしら?」

 

 私は口にした。

 弾幕のメッセージを送る方法を教えて欲しい、と。

 私は生まれたばかりの存在で、それを知らないのだ。

 

「わかったわ。私が教えてあげましょう、幼子よ」

 

 それは嬉しいのだが、子供を見るような眼はやめてもらえないだろうか。

 見た目はこんなのだが、一応中身は成熟しているんだぞ。

 

 

 私が弾幕を教わりたい、と申し出たのは理由がある。

 まず、弾幕のメッセージは、モンスター達の気持ちを伝える方法だと記憶していたから。

理由はよくわからないが、郷に従え。

 モンスターと交流していくことになる以上、身につけておいた方が良いだろう。

 

 もう一つは、攻撃と自衛のためだ。

 弾幕のメッセージは、人間のソウルに響く攻撃となるのだ。

 攻撃し続ければ、人間を殺すことも可能だろう。

 

 私が人殺しをする理由はないが、いずれ、その必要ができるのかもしれない。

 もし、地底に落ちてきた人間が、この世界の全てを壊さんと欲するのなら。

 その時は、私が立ちふさがらないといけない。かもしれない、きっと、メイビー。

 

 あとは私も、このゲームを壊す必要があるかもしれない、と思ったからだ。

 アズゴア王は、地底世界から脱出するため、人間の7つのソウルを集めている。

 だが、トリエルも言っていたように、脱出するだけならソウルは1つで十分なのだ。

 モンスターとして人間のソウルを取り込めば、バリアーを抜けるだけの力が得られ、地上世界で人間のソウルを好きなだけ殺して得られるだろう。

 それを、私がすれば、えーと、その。

 

 んー、どうなのだろう。

 私がそれをするメリットは何なのだろうか。これは何か、いけない思考のような気がするのだ。

 それで本当に、モンスター達に平和が訪れるのだろうか?

 

 ただ、私も一応、元人間とはいえ、モンスターなんだよねぇ。

 ほら、モンスターって、皆良いヤツしかいないし(キャッシーとブラッシーみたいなのはいるけど、彼女もいいヤツだよ)。

 モンスターは、うっかり人間を殺してしまうことはあっても、基本的に分かり合えるぐらいには善良だ。

 私もおそらく、人間とは分かり合えるような、そんな期待を抱いている、のかもしれない。

 果たして私に、人殺しができるのだろうか?

 

 まあ、そんなところで、弾幕は身に着けることができた。

 吸血鬼のイメージ通り、私はコウモリの弾幕を張ることができるようだ。

 そしてゴーストタイプらしく、物理攻撃は完全に無効だ(魔法を食らったら、ちょっと痛かった)。

 後は、火や水といった簡単な魔法も教わった。

 これで地底世界において、最低限生きていくことはできるだろう。

 

「幼子よ。頼みがあるの」

 

 と、そんな中、トリエルが頼み込んできた。

 何だろうか、とりあえず聞いてみることにする。

 

「この先、もし人間に会うことがあったのなら。その力で彼らを守ってほしいの」

 

 ひょっとしたら、力を得た私のことを恐れたのだろうか?

 いや、違う。これはサンズに頼んだことと同じだ。

 トリエルは、アズゴアの人間を滅ぼす政策に反対だったな。

 

 だから、私は約束することにした。

 もし、その人間が外に帰りたいと願うなら、私はその助けとなろうと。

 

「そう。それがあなたなりの選択なのね。わかったわ。約束してくれてありがとう」

 

 この答えは、我ながらズルいと思う。

 だが、トリエルはそんな私の答えにも、理解を示してくれた。

 本当に優しい人だと思う。

 ありがとう、お母さん。

 

「ま、まあ。お母さんだなんて。いいわ! さびしくなったらいつでもここに帰ってきなさい!」

 

 本当にいい人だ。

 会えてよかったと、本当に思える人だった。

 願わくは、このゲームがどのルートをたどるにしろ、この人が殺されないことを願うばかりだ。

 そして、私はそうならないように行動するべきだと、ここに決意を抱いた。

 

 

 あれから、私は地底を旅した。

 サンズとパピルスの愉快な兄弟に出会って、下らない話をした。

 アンダインに遭って、ちょっと戦ってもみた。

 メタトンの番組を視聴した(正直、いささか退屈だったことは本人に内緒だ)。

 バーガーパンツと雑談に興じてみたりもした。

 

 そして、とうとうコアの中へ、ニュー・ホームへとたどり着いた。

 うん、警備。ザルだったな。

 人間だったころの感覚として、王の居住の扱いに対し、それでいいのだろうかと思わざるを得ない。

 

 いや、これでいいのだが。

 このゆるさがいいのだ、そう思う。それだけモンスターがいい奴ってことだ。

 

 私の目の前には、花畑が広がっている。

 大きなヤギのモンスターが、金の花に水やりをしている。

 こんにちは、アズゴア王。

 

Howdy!(こんにちは) あなたは見かけないモンスターだね。最近生まれたモンスターなのかな?」

 

 ええ。

 私は吸血鬼のスリングウェシル。

 こう見えて、ゴーストタイプのモンスターさ。

 

「おお。ゴーストのモンスターが生まれるのは、めったにないことだ。うん、めでたいね。よい機会だ。せっかくだから、お茶でもしないかい?」

 

 いいよ。

 私も貴方と話がしたかったんだ。

 

 アズゴア王が、お茶の用意をしてくれた。

 初対面だというのに、こんなに親切にしてくれるとは。

 流石はモンスターの王、といったところだろうか。

 王としてそれでいいのか、甚だしく疑問であるが。

 

 ひとつ頼みごとをしてみよう。

 単刀直入に言おう。

 アズゴア王、私に一つ、人間のソウルを分けてくれないのだろうか。

 

「えっと。あなたがどうしてそれを?」

 

 地下にある棺を見た。

 モンスターに棺はいらない。モンスターは死んだら塵になる。

 だから、あれは人間の棺だろう?

 貴方が人間を殺して、6つのソウルをもっているのだろう?

 

「えっと、うん。そうなのだが。ソウルをもって、どうするつもりだい?」

 

 私は予言する。

 この地に、最後のソウルを持った人間が訪れることを。

 そして、その人間が、地底世界の運命を決めることを。

 

 その人間が善良ならば、世界は救われるだろう。

 モンスターたちに希望が訪れる。

 

 だがもしも、その人間が邪悪ならば。

 世界の全てが滅ぶだろう、と。

 

 そのもしもが起きてはならない。

 だから、私にソウルを一つ貸して欲しいのだ。

 ただのモンスターでは、貴方では人間に対抗できない。

 モンスターの未来のために、私は邪悪な人間に対抗する力が欲しいのだ。

 

「その。あなたの気持ちはうれしいのだが。ごめんね。その願いをかなえることはできないんだ」

 

 理由を聞いても?

 ちゃんと借りたものは返すつもりだ。

 私が信用できないのだろうか?

 

「その。ね。私は王様なんだ。もし、その邪悪な人間が現れたなら、私がその人間を殺さなければならないのだろう。それが、私の務めなんだ」

 

 そう、か。そうなのか。

 わかった。アズゴア王。

 頼りない貴方を、今は信じるとしよう。

 

 

 アズゴア王に頼んで、地底を封印するバリアに案内してもらった。

 バリアに手を触れると、弾かれる。

 自らがモンスターになってしまったのだと、改めて実感する。

 

 アズゴア王のことは想定内だった。

 あの、もふうさ王なら、こうなるだろうと。

 あの王は決して人間以外に、自らが集めたソウルを見せないだろうと。

 

 だが、もしかすると、とは思っていたのだ。

 もしかすると、私に人間のソウルが再び宿るのではないかと、そう期待してしまったのだ。

 人間のソウルがあれば、私はこの地底世界から出られる。

 

 別に、外で人間を殺すつもりなんて、私にはない。

 ただ、私はあの世界に帰りたいのだと、そう思ってしまったのだ。

 

 この地底世界は良い世界だ。

 外の世界と違って、ここに住むのは皆良いヤツだし、生活には困らない。

 気の弱い人間なら、ここを出ようとは思わないだろう。

 

 だが、この世界は私にとって狭すぎるのだ。

 かつて私がアメリカ留学を決意したように、私には広い世界を見たいという欲望が存在している。

 私はその気持ちに、抗うことはできないでいる。

 結局私も、心までモンスターになってしまったのだろうか。

 

Howdy!(こんにちは)

 

 後ろから声を掛けられる。

 振り返ると、そこには金の花がいた。

 花は、ダンシングフラワーの玩具みたいで、可愛らしい顔がついている。

 お花のフラーウィだ。

 

「ねえ、キミ。ボクの計画に興味はない?」

 

 計画?

 何を話しているのだ。

 というか、いきなりすぎるだろう。もっと自己紹介とかをするべきではなかろうか。

 

「べつにいらないでしょ? キミはボクのことを知っているのだろう?」

 

 私の思考が止まる。

 この花は何を言っている?

 

 と思ったが、あることを思い出した。

 決意によるセーブとロード。フラーウィはその力を持っているのだった。

 大方、私とフラーウィはこれが初対面ではないのだろう。

 

「そういうことだよ。まったく、ゲームの外の世界からやってきたモンスターだなんて、とんだ怪物だよ。で、ボクの話、聞く?」

 

 一応、聞いておく。

 

「キミ、変身することができるのだってね」

 

 そうなのか?

 私はそれをしたことがないのだが、恐らくやろうと思えばできるのだろう。

 吸血鬼の真祖が、それをできても可笑しくはないが。

 

「だから、人間に化けて、あのバカ王の前でこう言うんだ。“こんにちは、ドリーマーさん。あなたの集めた人間のソウルを、私に見せてくれませんか”ってね。そうしたらソウルを奪えばいいのさ」

 

 なるほど。

 モンスターたちには決して見せないソウルも、人間になら見せてくれるだろう。

 それが、最後の人間なら、尚更だ。

 

 しかし、そう簡単にいくものだろうか。

 目の前に人間が突然現れて、それで信用するのだろうか。

 

「本物の人間だというアリバイは、計画に賛同してくれるモンスターたちと協力すればいい。計画に賛同するモンスターたちは、ボクが知っている。どうだい、完璧な計画だろう?」

 

 知っている、ということは。事前にセーブ、ロードを繰り返して実験したのだろうか。

 なるほど、それなら良い計画なのだろう。

 失敗すれば、ロードすればいいのだろうし。

 

 だが、断らせてもらおう。

 私は、王様をだまし討ちしたくはない。

 

「甘いんだよ、キミは。どうやったら、そのバカな頭は納得してくれるのかな?」

 

 私の信念なのさ。

 後ろめたいことは、決して正直なことに勝てないのだと。

 私はそう、信じているんだ。

 私はどうなろうと、正しいことをしたいと思う。

 

「なるほど。じつーに“賢い“選択だ。バカ丸出しだ! こんなのが元人間だなんて! せっかくボクを理解してくれる人が現れたと思ったのに! もうキミなんかを頼らない!」

 

 そう言うと、フラーウィは去って行った。

 

 

 

 私が拠点としているルインズから用事で離れ。スノーディンの街で買い物をしている時、それは起きた。

 突然、アルフィス博士が街にやってきて、人間が襲ってきたから避難するよう勧告したのだ。

 

 私の顔は青ざめた。

 アルフィス博士がそれを知っているということは、どうやら人間はルインズを壊滅させたのだろう。

 つまりはゲームにおける、虐殺ルートの始まりだった。

 

 私は翼をはためかせ、急いで人間を探し始めた。

 サンズはパピルスに避難するよう説得しているようだが、恐らく無駄だろう。

 先に何とか人間を、私が始末しなくては。

 

 だが、おかしい。

 いくら私が吸血鬼としての力を全力でふるっても、一向に人間は見つからなかった。

 そのくせ避難していないモンスターの数は減る一方だった。

 

 そうしている内に、パピルスが、アンダインが死んだ。

 まさかと思い、私がニューホームへと戻ると、そこには傷つき、ドロドロになっているサンズの姿があった。

 

「すまねえな、吸血鬼の嬢ちゃん。オレには人間を止めることができなかった。やっぱオレが努力なんて、似合わないことをするもんじゃ、なかったんだよな」

 

 そうしてサンズも塵へと消えた。

 辺りを見回しても、人間の姿は見当たらない。

 

 全速力で王の間へと飛ぶと、そこには必死に命乞いをするフラーウィの姿と、縞々パーカーを着た子供がいた。

 子供は持っている草刈ダガーをフラーウィ目がけて、振りおろし。

 

 私が飛び込み、なんとかフラーウィは助けることができた。

 

「お。遅いよ! 何やっているの! もう何もかもが台無しだよ!」

 

 本当にそうだと思う。

 本当に、申し訳ないと思う。

 

「全部ボクの言うとおりにしていればよかったんだ! そうすればキミが愛するキャラクターたちは助けられたのに! このバカ! 甘ったれ! ボスモンスター!」

 

 フラーウィの言うとおりだった。全部、私が甘かったのだろう。

 失われた命は、助けようと思えば、助けられた命だったはずだ。

 フラーウィの計画を残酷だと切り捨てた私も、結局はアズゴア王と同等の甘ちゃんだったのだろう。

 

「そうだ。君のせいで。私の努力は全部、台無しだ」

 

 縞々パーカーの子供が、少年とも少女ともつかない人間が、そう口にした。

 不思議な声だ、その声はどちらの性別とも取れる声をしている。

 

「私はこのゲームを遊びつくしたかっただけなのに。最後まで君が立ち塞がる。君はどうやっても殺せないなんて。すべてのモンスターを殺そうとした、私の努力はなんだったのか」

 

 何で、こんなことをするのか。

 この世界のやつは皆良いやつだったのに。

 お前が望めば、このゲームはハッピーエンドで終わっただろうに。

 

「君がそれを言うのか? 君もこのゲームをした人間だったというのなら、わかってくれるだろう。こんなのは好奇心だ。“もし、誰も死ぬ必要のないゲームで、皆を殺そうとしたらどうなるのか”。君はそう思わなかったのか?」

 

 思わない。

 私は、そんなことをしなかった。

 お前と私を、一緒にするな。

 

「つまらない。こんなゲーム、二度とやるものか」

 

 子供はそう吐き捨てた。

 そういって、子供は地底を去って行った。

 

 

 

 これでゲームは終わった。

 恐らくだが、二度とこの惨劇が、繰り返されることはないだろう。

 なぜならプレイヤーは、こんなゲームで二度と遊ぼうだなんて思わないだろうから。

 

 私の勝手な思い込みだが、誰も死ぬ必要のないゲームで、皆が死ぬ必要はあったのだろう。

 それが、プレイヤーの欲求を満たすためという、下らないことであっても。

 私には全く、理解のできない感情ではあるが。

 

 だが、どうやったら、ハッピーエンドのままで終われたのだろうか。

 この世界は滅びず。

 されど、モンスター達は二度と地上の光を拝むことはできないであろう。

 これが、私たちの行く末なのだろうか?

 

 私は、どうすればよかったのだろうか?

 どうしたら、世界を滅ぼさんとするプレイヤーの手を、止めることができたのだろうか?

 私には、わからない。

 

 私たちは、生きていてよかったのだろうか?



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Fate/Zero短編 Initiation

最初ら辺を描くだけで力尽きた。

TS、憑依もの。


 間桐雁夜という人間をご存知だろうか。

 私はこの人物のことを怪奇小説、Fate/Zeroに登場する人間の一人として記憶している。

 

 彼は何でも叶える聖杯を巡る魔術師たちの殺し合い、聖杯戦争に参加する一人だ。

 魔術師としてはほぼ素人で、血肉と引き換えに魔力を生成する虫を体内に入れることで、無理やりに魔術を行使している。

 そんな彼の願いは、魔術の家に入れられた養子を救い出すこと。

 最期は、救おうとした養子の目の前で、何も果たすことなく、絶望の中で死んだ。

 

 彼の評価は大きく二分される。

 ある人は、彼は正義に殉じた可哀そうな人だと言う。

 またある人は、為すべきことを為さなかった愚か者だと言う。

 

 さて、私はこの場合、どうなるのだろうな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、私の身に起こったことを話しておこう。

 

 私は、間桐雁夜になってしまった。

 神様転生なのか、憑依なのか、はたまた何か根源的なものなのかは分からない。

 ただ、気が付けば私は、間桐の家に赤ん坊として生れ落ちていたのであった。

 

 私と私の知識にある間桐雁夜との差異があることを示しておく。

 まず第一に、間桐雁夜は女性である、ということだ。

 つまり、雁夜おじさんでなく、雁夜おばさん、ということになる。

 

 第二に、間桐雁夜は魔術を嫌って家出していない、ということだ。

 これは私にとって、魔術は避けられない問題であったからだ。

 この世界の裏で神秘というものが跋扈している以上、対抗策は持っておきたかったのである。

 まあ、私の場合、最も身近で危険な神秘は家の虫爺な訳なのだが。

 

 そう、私の最大の問題が、間桐家当主である間桐臓硯。

 身体を虫に置き換えることで生きながらえている、御年五百にもなる大妖怪だ。

 性格は外道にして残忍。

 こいつからいかにして解放されるかが、私の人生の課題である。

 

 臓硯を殺そうとするのはあまり現実的でないようだ。

 彼は慎重だ、その慎重さをかいくぐって暗殺、となると私には骨が折れる。

 それに、五百年分の神秘を甘く見ることはしたくない。

 

 しかし、どうにかするための戦略は立ててある。

 私の戦略は、いかに臓硯と共存関係を築けるか、ということに重きを置いている。

 つまりは、魔術師としての関係を築くのだ。

 臓硯の目的を達成することを対価に、家督を望めばいい。

 

 幸いにも臓硯の目的は明確でわかりやすく、なおかつ成功の兆しのあるものだ。

 その目的は、不老不死の実現。

 これが魔術師としての最終目標である根源を目指すとかであれば、無理難題であっただろうが、この願いは十分達成が可能であろうと思われる。

 

 鍵は、間桐雁夜が参加することになる第四次聖杯戦争。

 聖杯戦争では、英霊を使い魔に落とし込んだ存在である、サーヴァントを召喚し、使役することができる。

 これを利用しない手はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、私はとある住宅街の真ん中にいる。

 冬木の街を騒がせている殺人鬼の犯行現場、と言えばピンとくるだろうか。

 

 そんな家の中に男と女が一人。

 一人は私で、もう一人は殺人鬼である雨生龍之介である。

 私はこの男が、サーヴァントキャスター、ジル・ドレェのマスターとなることを知っていた。

 現にこの男の右の甲にはマスターの証である令呪が刻まれている。

 だからこそ、私はこの男を利用することにした。

 

 この男が、冬木の街に入ってきたのを見計らい、私はこの男を捕まえた。

 そして臓硯と共にいくらかの魔術的な細工を施した上で、この男を放し泳がせた。

 そうしてこの男に令呪が刻まれたのを確認した上で、私は臓硯に自らの令呪を受け渡し、この男の令呪を奪ったのだった。

 

 臓硯と計画した作戦はこうだ。

 二つのマスターを得た間桐の陣営は、魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)を召喚するのだ。

 そして私がバーサーカーのマスターになることで、間桐の家は”バーサーカー”を召喚したと錯覚させる。

 そうして私が時間稼ぎをしている間に、キャスターで臓硯の目標を達成する、というものだ。

 

 当然、キャスターは不老不死が実現できるものを召喚する。

 英霊の中に、つまり様々な伝承の中には、不老不死を実現したものは意外と多い。

 アーサー王なんかはそうだし、日本で言えばかぐや姫に登場する帝も不老不死を手に入れた男であろう。

 しかし、彼らはいずれも不死を手放す運命にあるのだが。

 

 そうでなくとも、疑似的な不老不死に近いものも多い。

 つまりの所、年をとったり死んだりしても元に戻せるなら不老不死と言えるだろう、ということ。

 それができるのは、有名どころであれば死者蘇生を行った医神、アスクレピオス。

 そしてその師である射手座のケイローン、こちらは不死について知っていても可笑しくはない不死身の存在である。

 次点で魔女の窯による若返りの術を持つ、裏切りの王女、メディア。

 そして、第三魔法“魂の物質化”、つまりは死者蘇生を行うという、アインツベルンの魔法使い。

 

 すまない、実の所ここら辺は、どこぞの紅茶の魔術師由来の付け焼刃なのだが。

 いい案を思いつかなくて本当にすまない。

 でも、実際有効だと思うのだ。

 

 聖杯戦争について臓硯に聞かされた時、この辺りを説明したのは間違っていないと思う。

 それ以降、臓硯の態度が甘くなったし。

 おかげで家にインターネットを引いたり、好きにできたんでな。

 

 臓硯がキャスターを召喚する訳だが、私は詳しい所は聞かされていない。

 だが、あの様子なら何を召喚されても、そう悪くはならないだろう。

 

 キャスターと上手くいって不老不死を実現されるも良し。

 キャスターとの仲が上手くいかずに、臓硯が殺されるも良し。

 あるいは、アインツベルンの魔法使い等が呼ばれて、臓硯が過去の目的を思い出すも良しだ。

 上手くいかなくても、第五次でまた別のサーヴァントを呼べばいいだけだしな。

 

 さて、時も満ちた。

 私はバーサーカーの召喚に集中すべきだろう。

 

 バーサーカーの選定は結構悩んだところだ。

 幸いにして、臓硯のおかげで選択肢には困らなかったが。

 候補としてはいくつかあったが、その中でベストと思われるのを選んだつもりだ。

 

 第一の選定基準としては、そこそこ戦えることと、扱いやすいということが重要だった。

 それなりの戦闘力は言わずもがな、扱いやすいということは大事だろう。

 

 まず燃費。

 残念なことに間桐雁夜は魔術師として三流でしかない。

 そんな私でも扱える格の英霊であることが望ましい。

 

 そして、狂った上で明確な指向を持っているか、あるいは命令に従うしかないほど狂っている必要がある。

 スパルタクスや呂布のような危険な英霊も多いだろうが、それでも要件を満たす英霊はそれなりにいる。

 

 最初に考えたのは、フランケンシュタインの怪物である。

 彼女(・・)はそれなりに狂っていて、自らのアダムが欲しいという意欲があり、そしてその宝具により燃費がとても良い。

 その強さにより勝利は望めないだろうが、逸話的にも“しぶとさ”があるだろうし、時間稼ぎにはなるだろう。

 

 あるいは、八極拳の使い手である李書文。

 彼は思考もできないほどに狂っていて、戦いだけを望んでおり、そして 狂ってなおその武は冴えわたる。

 その格を考えれば十分に強い。

 やはり勝利は厳しいが、単純なぶつかり合いではセイバーとも渡り合えるはずだ。

 

 と、そんな風に考えていたのだが。

 聖杯戦争に向けて準備を進めていた所、ある問題が発覚した。

 聖杯戦争における御三家、アインツベルンの用意したマスター、衛宮切嗣の存在だ。

 

 衛宮切嗣、魔術師殺しと呼ばれる魔術使い。

 魔術師に似つかわしくない現代の武装をしていて、大のためなら小を苦渋に切り捨てる、そんな男だ。

 

 私は彼への対策を考え、戦術と戦略を学んでいたのだが。

 そうして出た結論は、彼に出会ったら私は殺されてしまうだろう、ということだ。

 仮に彼の目の前でサーヴァントを失ったら、私の命は確実にない。

 

 どっちかというと学者肌な私では、どうしても戦う者として二流だった。

 現代兵器や戦術について学べば学ぶほど、彼との差が明らかになるばかりだった。

 出くわさなければどうということはないが、間桐雁夜の持つ不運を考えると、もしもが起きなければいいでは済まないような気がするのだ。

 

 サーヴァントも問題だった。

 女だったアーサー王、セイバー、アルトリア・ペンドラゴン。

 彼女は生半可なサーヴァントでは太刀打ちできないので、どうしても サーヴァントを当てるざるを得ないこととなる。

 そうなれば、マスター同士の戦いとなる訳で、衛宮切嗣と戦わなければならない訳で。

 

 じゃあマスターが、アルトリアと戦えばいい?

 それが間桐雁夜にできれば、まず臓硯をぶっ殺しているわ。

 

 ―冗談じゃない、私は生きのびて魔術を悠々と探求するのだ。

 

 という訳で、急きょ彼とアルトリアの対策になるサーヴァントを探すこ とになった。

 これが第二の選考基準である。

 

 とはいえ、そんな都合の良い英霊がそんなにいる訳ではない。

 アルトリアと衛宮切嗣の二人を同時に相手取れる英霊となると、どうし てもヘラクレスやカルナのような超級のサーヴァントになる。

 で、そんなサーヴァントを私が呼べば、すぐさま私は干物だろう。

 とても呼ぶことはできない。

 

 誰か、誰かいないのか。

 そう思い、私は近くの本屋で子供向けの偉人の伝記集を眺めていたのだが。

 そこで私は、運命と出会った。

 

 ―この英雄なら、衛宮切嗣とアルトリアの二人を同時に相手取れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「患者は何処ですか?」

 

 私はこのサーヴァントを呼び出したことに、少しだけ後悔することになる。




続かない。


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