クラスメイト K [本編&おまけ完結] (ちびっこ)
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キャラ設定

コメディ強め予定です。が、わかりにくい笑いの取り方をしてますww
他のマンガの話が大量に出ます。たまにアニメとゲームの話も出ます。出る話は作者の趣味ですww
そして、私が書く話なのでもちろん恋愛が入ります。
アンケートをとったので相手は決定しています。答えは未来編です。

コメディ>>>>恋愛>>シリアス(最終目標)

駄文なので無理と思えばすぐUターンしてくださいね。
アットノベルス様にも投稿しています。


神崎 サクラ (かんざき さくら)

 

中学生になるタイミングで並盛に引っ越してきた女の子。

沢田綱吉と触れたことでここがREBORNの世界と気付いてしまう。

完結までの話を全て思い出したが運動神経、容姿も平凡。

頼れるのは原作知識、思い出したことで少し頭が良くなったことぐらい。

彼女は決意をする……

原作知識をフルに使い、絶対関わらないと……

 

 

髪型:ロングの黒髪。どこにでもいる感じ

出身国:日本

年齢:ツナと一緒

顔の特徴:印象が残らないぐらい平凡

身長:学校の平均身長

体重:ヒミツ。お腹についた肉が気になるぐらい

性格:残念すぎる思考と自分で理解しているが治す気はない

   人にあわせるのが苦手

   1人でいることを好む

悩み:兄の性格

最近増えた悩み:原作知識があること

得意なこと:ボケとツッコミ

      普段はボケ体質だが兄にはツッコミ体質になる

好きな食べ物:ケーキ

好きな言葉:名言と迷言

好きなタイプ:自分の邪魔をしない人

嫌いなタイプ:ウザイ奴(兄は苦手だが嫌いではない)

炎:出るわけない。正しくは出ているが小さすぎて意味がない

 

 

本人から一言:「絶対に関わらない」

 

 

 

 

神崎 桂 (かんざき かつら)

 

妹ラブ。妹が好きすぎてどうしようもないバカ。

サクラと離れるため、フランスに留学するのをやめようと思ったぐらい。

しかし、サクラの一言で行くと決心する。

日本の夏ごろに帰るのでサクラの夏休みを一緒に過ごすのを楽しみにしている。でも嫌われるのは困るので程ほどにするつもり。意外と考えている。

ここまで妹ラブになったのは、年が離れて生まれたこともあるが、サクラが小さいころに死に掛けたのが原因。

 

 

 

 

髪型:短髪の茶髪

出身国:染めてるので外国人に間違われるが日本人

年齢:サクラより7歳上

顔の特徴:サクラとは違って美形でモテモテ

身長:185cm

体重:70kg

性格:妹ラブ

   自分が選ばれた者と思うぐらい自信過剰

悩み:早く妹に会いたい

嬉しいこと:妹を喜ばせた時

悲しいこと:妹がツッコミをしてくれない時

      とあるマンガの影響で「ヅラ」と呼ばれた時

好きなタイプ:なし。他人から好かれるのは当然だと思ってる

嫌いなタイプ:妹に害を与える奴

炎:晴

 

 

本人から一言「サクラが元気だといいが……」

 

 

 

 

 

神崎 楓 (かんざき かえで)

 

サクラと桂の母親でのんびりとした性格

 

 

神崎 紅葉 (かんざき もみじ)

 

サクラと桂の父親でのほほんとした性格

 

 

2人は似たもの夫婦で子どもに甘い。

父親は設計の仕事をし、母親は専業主婦。父親の仕事の関係で並盛に引越した。

特にお金には困っていないが、金持ちというわけでない。




主人公が「優」や「ヒナ」みたいな性格と思わないでください。
性格は自己中ですが、根はいい子です。

兄妹揃って残念な性格をしています。
ちなみに私はサクラの方が残念と思ってます。でも感想を見る限りでは兄の方がひどいらしい。


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日常編
先行き不安


 緊急事態が発生した。

 

 緊急事態のことを話す前に、まず私のことを知ってもらおう。

 

 名前は神崎サクラ。どこにでもいる普通の中学生だった。少し自分の思考が残念だが、誰かに迷惑をかけるようなものではない。お父さんの仕事の都合で並盛に引越しをして友達がいないぐらい。入学式から2ヵ月たったが誰もいないのは変なのかもしれないが、それは私が作らなかっただけである。1人の方が好きだから。そういう生徒はクラスに1人ぐらいはいるので、やはり私は普通の中学生だった。

 

 ……そう。「中学生だった」である。過去形だ。

 

 発端は休憩時間に廊下で沢田綱吉とぶつかったことである。沢田綱吉は走っていたみたいで、私は尻餅をついてしまった。彼は慌てて謝りながら私を立たせてくれたのだが、それが問題だった……。

 

 彼の手を触れた瞬間に『家庭教師ヒットマンREBORN!』の原作の内容が私の頭に流れ込んできたのだ。私はしばらく動けなくなった。当たり前だろう。42巻分の話や原作キャラの個人情報が一度に頭に流れ込んで、乗り物酔いのような感覚に襲われたのだ。よくその場で倒れなかったと自画自賛している。倒れれば恐らく沢田綱吉が私を心配して保健室に運んだと予想できるからだ。そして授業が始まるチャイムが鳴ったので、教室に戻るという理由で沢田綱吉から無事に離れることができた。

 

 ここで疑問に持つものもいるだろう。『家庭教師ヒットマンREBORN!』の世界と知ったのに沢田綱吉と関わらなかったことに……。しかし、よく考えればわかるはずだ。原作を全て知った私は未来に起こることを知っている……。つまり『ボンゴレ狩り』が起きるということを……

 

 そう、私は死にたくはないのだ。

 

 もちろん白蘭が倒されアルコバレーノのおかげで生き返ることは知っている。だから大丈夫という能天気な頭を私は持っていない。私だって知らない未来がある、原作が終わった後の未来も私は生きるのだから。つまり、白蘭と同じような考えを持つものが現れた時はどうすればいいのだ?原作が終わった後では生き返ることは無理だろう。関わっただけで死ぬと分かっていれば、私は関わる気にはなれない。鍛えればいい?500m先から狙撃されて逃げれる自信があれば私だってするさ。私は生まれながらの殺し屋ではないのだ。

 

 少し熱くなって語ってしまったが、私は原作キャラとは関わる気はないのはわかってもらっただろう。だから私からすれば授業のチャイムで彼と離れれたのは幸先がいいのだ。

 

 ちなみに、誰に向かって語っているのだというツッコミはしてはいけない。話す相手もいないので、脳内で自身に語って状況を整理しているのだ。誰にも迷惑はかけないので私は重宝している。

 

 話を戻そう。

 

 原作キャラと関わらないためには転校するのが1番いい。しかし、最初に言ったが私は並盛に引っ越してきたばかりなのだ。ここでお父さんとお母さんに転校したいと話せば……学校で何かあったと心配するだろう。何かあったから転校したいのは間違ってはないが……。余計な心配をかけたくない。それに正直に話せば、病院に通わすべきか悩むだろう。のほほんとしてる両親と言っても、私が「この世界はマンガの世界なんだ!」と言えば、マンガの読みすぎて頭がおかしくなったと思うだろう。そうなると私の大好きなマンガを買ってもらえなくなる……。それは避けたい。兄みたいな性格だと心配されなかったと思うと今までが悔やまれる。もし兄が「僕は勇者なんだ! 世界を救うために旅に出る!!」と言っても私の家族は絶対心配しないで見送ると胸を張って言える。それぐらい兄は変わってるのだ。兄の性格を羨ましいと思ったのは初めてかもしれない……。

 

 意外なところで兄を羨ましく思ったが、再び話を戻すことにする。正直にマンガの世界と話すのはタブーだ。話せても兄ぐらいだろう。話せばややこしくなるのは間違いないので話さないが。話を作り両親を説得して転校する案もある。しかし……この学校から簡単に転校出来るのだろうか……?転校するには『雲雀恭弥』の許可がいるだろう……。

 

 もし、作った話で転校したのがばれれば、彼の怒りに触れるのではないのか……?それだけは避けたい。その前に彼とは関わるのは危険だ。他の誰よりも私は危険だろう。理由は「サクラ」。彼の逆鱗に触れるもの。そして私の名前。名前がばれるだけで私は危険にさらされる。『ボンゴレ狩り』の前に彼に狩られてしまう。たとえ、転校することができたとしても、私は実家(並盛)から通うことになるはずだ。彼がもし転校書類を見て名前を覚えていれば……。これからの人生は三浦ハル風に言うと「デンジャラスです!!」……こうして、転校案は却下になった。

 

 転校案がなくなると、関わらないように努力すればいい。だからミスディレクションを勉強しようかと思ったが、リボーンに目をつけられ幻の守護者になる未来を想像してしまった。つまり関わらないと意地を張りすぎてしまい、目をつけられれば本末転倒になる。私はただのモブキャラを目指すと決心した。

 

 これで私のことがわかってもらえたはずだ。

 

 そして、よくここまで考えたと思っただろう。情報が一度に流れ込んだせいで顔色が悪かったので、先生が心配して体育の授業を見学にしてくれたのだ。その間に必死に考えたのである。

 

 

 そんな私に緊急事態が発生したのだ。

 

 今日の日付は6月18日。原作が始まった日だ。体育の授業が終わったのに沢田綱吉が教室にいるのだ……。原作通りなら掃除を押し付けられたがサボり、家に帰るとリボーンと出会う。大体はこれで合っているはずだ。それに落ち込んでいるところから笹川京子が持田剣介が付き合っているのを勘違いしたのだろう。しかし、先生に掃除が終わったと報告している姿を見ると疑問が出てくる……。彼はなぜサボらなかったのかと……。しかし、私の疑問はすぐに解消された。それは……

 

「あの……大丈夫……? オレとぶつかったせいで体調悪くなって体育を休んだって聞いたけど……」

 

 モブキャラを目指す私にとってこれは先行き不安だ……。




今までと作風がかなり違うと思います

流石に最初から笑いの方向にはもっていけなかったww
少しずつ増えていく予定


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クラスメイト K

 学校に着けばクラスがうるさい。うるさいのは嫌いだが、これはいいことだ。完全に沢田綱吉は昨日のことを忘れているということだからだな。

 

 昨日は彼に声をかけられ少し焦ったが「顔色が悪いと勝手に勘違いしてサボれそうだったから休んだだけ」と言えば彼は納得して家に帰ったのだ。後はリボーンのインパクトで勝手に私のことを消してくれると思ったのは正しかったらしい。

 

 しかし、あまり安心は出来ない。私は行動を間違えれば原作に影響が出るかもしれないことがわかったからだ。昨日みたいに巻き返せることならいいが……巻き返せない場合が怖い。何度も言うが私は死にたくないのだ。原作とずれて原作キャラが死んだ時は私の死亡率が大幅にあがるはずだ。……無事に原作通り進んでいるか確認したいが、確認してしまうと自分が死ぬかもしれない。

 

 改めて私はモブキャラに徹するべきと再確認した。

 

 私が考えている間に沢田綱吉が登校し剣道部員によって道場に運ばれた。正直言って興味はないが、モブキャラらしく群衆に紛れて見るべきだろう。面倒だが、私は道場に向かった。

 

 

 

 到着すれば沢田綱吉が消えていた。周りは逃走したと話しているが、私は友達がいないので話す相手がいない。モブキャラは意外と難しい……。とりあえず、今回も脳内で誰かに語りかけよう。

 

 モブキャラと言えば、持田剣介はモブキャラ・センパイAと言っていいだろう。この試合が終われば彼は名前しか出てこない。未来ではボンゴレ狩りの被害者だ。彼は私の悪い見本になる。この試合はよく彼を観察してみよう。

 

 ……なぜ剣道なのだ?別に剣道が嫌いと言うわけじゃない……だが、卓球をしろよ。卓球。好きな相手に勝てば強制的に付き合うことが出来る法律が出来るかもしれないだろ……。まぁこの世界ではその法律は出来ないか……。

 

 私がなぜ剣道なのかと疑問に思っている間にパンツ一丁の男がやってきた。……筋肉が少ない。リボーンが本格的に鍛える前だからだろう。私が変な感心をしている間にベリッという嫌な音が聞こえた。

 

「100本!」

 

 ……どう考えても掴んでる量は100本以上だ。審判、はやく持田剣介を助けてやれ。ほら、躊躇してる間に無くなってしまったじゃないか……。みんなは沢田綱吉を褒めているが、丸坊主になって泣いている彼はいいのか?私にはモブキャラの悲劇にしか見えない……。もし私がこうなると思えばゾッとする……。

 

 私は間違ってもモブキャラ・クラスメイトAにはなってはいけない。神崎だから「K」でいいだろう。サクラの「S」でも良かったが、あまり後ろすぎると後に主要人物になりそうな気がして怖いのだ。例えで言うと入江正一だ。それにサクラで反応する危険な人物もいるのだ。苗字の「K」が1番いい気がする。

 

 持田剣介、君のおかげで自分の立ち位置がはっきりした。礼を言う。礼になるかわからないが……心配するな。抜けた髪は冥界を廻って生まれ変わる。だからまた出番はやってくる。少し変な髪になるのは……諦めろ。

 

 心の中で彼に礼をしているとふと視線を感じた。しかし、周りを見回してもわからない。私の気のせいだったのだろう。今はみんな沢田綱吉の勝利に喜んでいるからな。私もモブキャラらしく遠巻きに沢田綱吉を見ることにする。これが終われば球技大会までは安心出来る。学校に通ってる時間以外は家でマンガを読んで過ごせば完璧だ。少しにやけた顔で沢田綱吉に視線を送ってるが、問題ないだろう。

 

 

――――――――――

 

 サクラが感じた視線の正体はリボーンだった。彼は死ぬ気になったツナを観察するために道場の屋根裏に隠れていたのだ。

 

(資料によると……ツナと同じクラスの神崎サクラ。ダメツナと呼ばれるツナが持田に勝った。もう少しビックリしてもいいはずだぞ。……感情があまり表に出ねータイプかも知れねーな。1人で少し嬉しそうにツナを見ているからな)

 

 少しリボーンは違和感を感じたが、サクラは誰とも話していないことに気付いた。人付き合いが苦手なタイプでわかりにくいだけと納得したのだった。後一秒でもサクラが沢田綱吉に視線を送ることを遅ければ、確実にリボーンに目をつけられていた。

 

 危機をギリギリ回避したサクラ。しかし彼女はまだ知らない。リボーンに名前を覚えられたことを……。

 




ちょっと省略しすぎた気がしますね……文字数が少なかったww
そして、少しだけリボーンネタがマニアックw(持田と骸は同じ声優さん)


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モブ

 この学校は鬼畜だな。球技大会の次の日にテストは普通しないだろ……。まぁ球技大会と言ってもクラスの代表メンバー以外は応援だが。なので、私は体操服にも着替えず体育館に移動中である。

 

「…………ん?」

 

 ただのポスター。だが、このポスターは少しおかしい気がする。理由はメルヘンチックだからだ。私の知っている雲雀恭弥は可愛い女の子がゴミはゴミ箱に捨てようと言っているポスターを貼る許可を出さない気がするのだ。墨で風紀と書いた文字のポスターなら理解できるが……。

 

「やっぱり変だ」

 

「よく気付いたな」

 

 ポスターから視線を下げれば小さな赤ん坊がいた。この時点で私はやってはいけないミスをおかしたことに気付いた。恐らくこのポスターを貼ってる壁の中は学校に張り巡らされてるアジトの1つだ……。しかし、こんなミスをリボーンがするのか?私はトラップに引っかかったのかもしれない。これは観察力があるか確認するために貼っただけな気がする……

 

「……どうして赤ん坊が……迷子?」

 

 逃げちゃダメだと判断した。ここで逃げれば必ず目をつけられる。関わりたくないが今は話すしかない

 

「ちげぇぞ。オレはツナの家庭教師だからな。ツナがちゃんとやってるか見張ってるんだぞ」

 

 ……沢田綱吉の名前を出すな!!本当に逃げれなくなる。いや、待て。リボーンはツナとしか言ってない。まだ何とかなるはずだ。

 

「……わかった。先生に見つからないように気をつけて楽しめよ。見つかっても謝れば許してくれるさ」

 

 これで彼から逃げていいだろう。彼に目をつけられれば終わりだ。さっさと逃げるのが正解である。

 

「待ちやがれ」

 

 まだ逃げちゃダメなのか?

 

「……なに?」

 

「どうしてこのポスターが変だと思ったんだ?」

 

 これは下手なウソは言わないほうがいいだろう。しかし、雲雀恭弥の名前を今出すのはまずい。原作とずれて私の死亡率があがってしまう

 

「……この学校では風紀関係のポスターは墨の字だからな」

 

 ……ウソだけどな。勝手な私の想像だ。しかし、もうこの想像しか出来なかったのだ。

 

「そうか」

「リボーン! やっとみつけたー!」

 

 思わず舌打ちをしたくなった。リボーンが呼び止めたせいでツナとも会ってしまったじゃないか。沢田綱吉は私と一緒にいることに気付いたみたいでリボーンに怒鳴ろうとしてないか?言っておくがまだ何もされてないぞ。……自分で「まだ」と思ってしまった……早く逃げなければ……。

 

「ツナは沢田綱吉のことだったんだな。弟の面倒はしっかり見ろよ」

 

「え? うん」

 

 沢田綱吉がリボーンに向かって何か言う前に、私は早口で話しその場から離れた。沢田綱吉がリボーンを注意しようとすると技を決められてしまうからな。そのシーンを見た瞬間に私はモブではなくなる気がしたのだ。今回はギリギリ逃げれたな……。

 

 逃げることを考えすぎ?当たり前だろ。私は怖くてもずっと逃げちゃダメだと言いながら頑張れるわけがない。彼は主人公。私はモブ。

 

 誰に語ってるかというツッコミはしてはいけない。

 

 

 

 

 球技大会が無事に終わったし勉強だな。何かあったか話せ?私は群集に紛れてただ見ただけだ。気になるなら原作を読め。そのままだ。つまり私がリボーンに絡まれることもなかったのだ。私のウソが見破られていないか心配したが、絡まれなかったということは大丈夫だったということなのだろう。だから私は家に帰りテスト勉強をしようしたのだが、問題が発生した。ノートを忘れたのだ。面倒だが取りに行くしかないと思い、学校に向かっている。ちょうど今の時間は沢田綱吉とリボーンは家にいるしな。

 

「何をしている。早く帰りなさい」

 

 後ろから声をかけれて振り返れば……リーゼントだ。近くで初めて見た。そして口に草を咥えている人も初めて見た。

 

「聞こえてるのか? 早く帰りなさい」

 

 リーゼントを凝視していればまた注意されてしまった。彼が短気でなくて助かった。それに彼とは関わっても大丈夫だしな。トンファーを振り回す危険人物だと終わりだった。

 

「……テスト勉強に必要なノートを忘れました」

 

「そうか。……私も一緒に行こう。校門にも風紀委員が立っているんだ」

 

 副委員長は親切だな。私が風紀委員に説明するのが酷と思ったんだろう。彼のような気を配れる人が雲雀恭弥の下についてるのが謎である。咬み殺されるのにな。

 

 ……長いな。だが、最長が中学1年の1m27cmらしいので、これは短くなってる方なのだろう。

 

「……何かありますか?」

 

 見ていたのはリーゼントに興味があっただけだ。だから何かあると聞かれても困る……いい質問があった。

 

「もしかしてチョコ好きですか?」

 

「は?」

 

「いえ、何もありません」

 

 やはり私の中でのリーゼントは生徒会長だな。草壁哲矢の気が利く優しさで順位が変動しそうになったが。

 

 リーゼントの順位を真剣に考えてる間に学校に着き、見張ってる風紀委員に説明してくれたようだ。最後まで面倒を見ようとしたがケイタイが鳴り慌てて走ったところを見ると雲雀恭弥からの呼び出しだろう。彼は大変だな。私にノートを取りにいけば真っ直ぐ帰るように言ってから走ったからな。風紀を乱さないように必死なのに理不尽に咬み殺されることが多い。苦労人である。頑張れと心の中で応援しておく。誰かが君の良さに気付いて好きになってくれるさ。

 

 草壁哲矢と別れてから彼に言われた通り、教室に行きノートを取った後は真っ直ぐ家に帰った。……そう。真っ直ぐ家に帰った。後ろの席の子が教室にいて話しかけられるということもなく……。改めて実感した。やっぱり私はモブだな。

 




主人公、リボーンと出会ってることに気付かないw


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電話

 転校生が帰国子女。……なぜ男なのだ。帰国子女といえば美少女を想像してしまうのは私だけだろうか。しかし、帰国子女の美少女が転校してくるマンガがすぐ出てこない。これは私のマンガレベルが低いからだろう。まだまだだねという声が頭に響いた。

 

「かっこいい……」

 

 隣の席の女子(モブ)を見れば、帰国子女の獄寺隼人に夢中だ。……私も「きゃー!」とか言わないといけないのだろうか?止めておくべきだな。山本武のファンクラブも入っていないので本当はどちらかに入るべきかもしれないが、私がファンクラブに入ったことを兄に知られれば「任せておくがいい、サクラに相応しいか僕が見極めてみせよう!」とか言いそうだからな。

 

 ……兄は大丈夫なのか?留学している間に原作キャラと絡んでいないか心配になる。自分のためというのもあるが、やはり兄だから心配になる。フランスなので大丈夫だと思うが、念のため夕方に電話しよう。……少し気が重いが我慢することにする。

 

 兄の心配をしている間に獄寺隼人が沢田綱吉の机を蹴った。ますます隣の席の女子が夢中になった。……私にはわからない。不良マンガは好みじゃないし、私にはわからなくて当然なのかもしれない。本当に凄い人気だな。彼が扉を空ける前に黒板消しをセットすれば、華麗にキャッチしてくれるかもしれない。……各種盛り合わせを作るほどのお金はないが、お昼はサンドイッチにしよう。

 

 

 

 

 今日も無事に家に帰れたようだ。テストの感触もまずまずだった。もちろんお昼にサンドイッチを食べた。まぁ三角定規をナイフとして使わず、ちぎって食べたが。

 

 獄寺隼人がツナの部下になった話はって?私が知るわけないだろう。見に行って目をつけられれば終わりだからな。何度も言うが私は死にたくはない。だが、2人がテストに遅刻した時間があった。恐らくその時に原作が進んだのだろう。無事に原作が進んで何よりだ。私が安心できる未来のためにこれからもそのまま進んでくれ。

 

 何度もいうが、誰に語ってるのかというツッコミはしてはいけない。

 

 そういえば、この時期にダイナマイトやバズーカなどを学校で使っているが、よく雲雀恭弥に咬み殺されないものだな。そして、沢田綱吉が雲雀恭弥のことを知らないのも謎だ。情報収集すれば簡単にわかるはずだが……。

 

 ちなみに私の情報入手場所はトイレだ。お金がかからなくていい。欠点は情報を選べないことだ。雲雀恭弥の冷たい目で見られたいという話で盛り上がってる時とかは困るぞ。個室から出れなくなってしまうのだ。……そういうことだ。よく言えば情報収集、悪く言えば盗み聞き。

 

 ……兄に電話をかけよう

 

「あら? お兄ちゃんに電話するの?」

 

 ……お母さん、私が電話をかける相手は兄しかいないのか。とツッコミをいれたいが何も言えない。友達がいないのは別に何も思わないが、なぜか少し精神的にダメージを受けたぞ。

 

「……たまには」

 

 お兄ちゃんが喜びそうだわね~と言いながら母さんは去っていった。私がダメージを受けたのは気付かなかったらしい。お母さんに電話をかけると気付かれた時点でわかったかもしれないが、私はケイタイは持っていない。ケイタイ代を払うお金があるならば、マンガがほしいと言ったからだ。それに相手がいないしな。……兄がいるか。

 

『やあやあ。待たせたね。この時間だと……母上だね。何かあったのかい?』

「私」

『……そうか。やはり僕が居ないと寂しいのだろう。今すぐ帰るから安心したまえ。だが、サクラのお土産がない。サクラには特別なものを用意しようと思っていたからね。どうしたものか。いや、僕が帰ることがサクラにとって最大のお土産ではないだろうか。しかし、手ぶらで帰るのは男として……ああ。僕はどうすればいいんだ!』

 

 知るか。……切ろう。この兄を心配した私がバカだった

 

『おっと、切るのはよしたまえ。さっきのは全て冗談さ! 久しぶりにサクラからの電話で嬉しくて、つい舞い上がってしまったのだよ』

 

 お母さんが電話をかけた時に、途中で私と交代した(兄がうるさいため)場合も舞い上がってると思うのは気のせいか?

 

『それで……どうしたんだい? サクラが僕に電話をかけてきたのだ。何かあるんだろう?』

 

 急に真面目な声になるのも困る。

 

「……最近どう? 困ったことはない?」

『僕もまだまだだね。サクラに心配をかけてしまうとは……。特に問題なく過ごしてるさ』

 

 マフィアと知り合ってないかと聞くべきが悩む。あまり私の口から物騒なことを言うと本当に兄が帰ってきてしまう。名前を言って聞いた場合は、兄は私のためにその相手を調べようとする気がする……。

 

『問題があるとすれば……サクラと会えないことだ! しかし僕は留学中の身だ。今、僕のわがままで帰ればサクラは怒るだろう。僕はサクラに怒られるのは嫌だからね! 後、数ヶ月ぐらい我慢するさ。そうだ! サクラがこっちに来ればいい! 案ずるな、費用は僕が出す! これでも少し働いてお金があるのだよ。サクラも寂しかったのだろう? 今すぐ会いに来て僕の胸に飛び込んできたまえ!』

 

 ……殴りたい。今すぐ殴りたい。真剣に心配した私がバカだった

 

『おや? 返事がない……。なるほど。声も出せないぐらい感動してるのだね!』

 

 ガチャという音が部屋に響いた気がするが、私はマンガを読むことにする。




残念ながら獄寺君とは絡みませんでした
理由は獄寺君は意味もなく誰かと絡まないので。

ボツネタ:個室に入ってるとばれれば水をかけられるかもしれないので危険だ。私はトイレに傘を持って行かないからな
(ちょっといじめっぽい気がするし、聞かれたぐらいで水をぶっ掛けるとは思わかったため)
それにしてもこの元ネタの原作ってシュールですよねー。わかる人がいるのかなw?


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感謝

 今日も学校が終わったし家に帰るか……。少し憂鬱で足取りが重いのはしょうがない。それにこのまま教室で悩むより家で悩んだほうが安全と思うのだ。

 

 ん?何があったか話せ?

 

 ……何度も言うが、誰に語ってるのだというツッコミ入れてはいけない。

 

 今日はテストが返ってきてまずまずの成績だった。マンガを買ってもらうためには最低限の点数がいるが、特に私は成績には興味がない。そんな考えだからなのか、点数はよくも悪くもない。つまり、理科のテストも返ってきたが私は根津に絡まれることはなかった。原作が問題なく進み、私に被害はなく根津が解雇された。まぁグランドを割ったせいで揺れたのは嫌だったが、無事に原作が進んでることがモブの私にもわかったのはいいことだった。

 

 しかし、気になることがあったのだ。私の知っている原作知識では根津がテストを返却時、「川田」の次は「栗原」と呼んだ。

 

 ……私がいないのだ。

 

 もちろん、今日の根津は「川田」の次に「神崎(私)」を呼んだ。だが、「栗原」と「近藤」の間に「黒川」が居るように「近藤」の「沢田」の間に「笹川」もいるのだ。「黒川」と「笹川」の名前は原作ではなかった。ちなみに「獄寺」の名前がなかったのは休みというのもあるが、転校生だったので一番最後に名前を呼ばれていたのだ。

 

 原作に私の名前がなかったことをいい方向に考えると、彼女達と同じように私の名前を呼ばれたシーンをカットされただけである。悪い方向で考えれば……原作と違い私が増えている。もしくは、男女別の出席番号だったが原作と違い男女混合の出席番号にになった。混合になった理由はわからないが、私が増えたことによる異変とも考えられる……。

 

 悪い方向で考えると最悪だ。私はイレギュラーな存在で、これから原作を壊す可能性が増える。壊さないために「沢田綱吉」と触ったことで知識が流れたと思うしかない。そう思わないと生きていられない……。

 

 家に帰ってマンガを読んで逃げようと思ったが無理だな。マンガを見るとこの世界の原作のことを思い出してしまう……。大好きなマンガを読めないということは、私が思ってるより精神ダメージを受けているのだろう……。

 

「……大丈夫? また顔色が悪いけど……」

 

 ……しまった。彼が面倒見がいい性格ということを忘れていた。早く帰れば良かったと後悔する。

 

 しかし、なぜ私に構うのだ?彼の中で私はか弱いと思われているのだろうか……。原因は彼と廊下でぶつかった時に尻餅がついたからかもしれない。

 

 困ったな。彼の隣には獄寺隼人がいるため、あしらうことも出来ない。ケンカを売ってくる可能性が高いからな。

 

「大丈夫」

 

 だから私に構うな。という言葉を含みながら沢田綱吉に言って気付いた。獄寺隼人は沢田綱吉から見て右側にいる。もう右腕のつもりなのか?それとも偶然か?……うん。どうでもいいな。

 

「無理すんな。 ツナ、送ってやれ」

 

 ……この赤ん坊は神出鬼没すぎるだろ。いつの間に私の足元に居たんだ?恐らくミスディレクションを使ったのだろう。命令するなとツナが怒ってるが正直どうでもいい。私は今すぐこの場から離れたい

 

「10代目を煩わせるわけにはいきません! オレが……」

 

 ……今の間に逃げるか。私はどっちにも送られたくはないのだ。

 

「1人じゃ危ねーぞ」

 

 やはりリボーンの目から逃れることは無理だったか。どうするべきか……。ここで選択を間違えばモブとして生きていけないだろう。いや、モブとかのレベルの話ではない。私の死亡フラグだけじゃなくこの世界の死亡フラグが立つ。

 

「……心配してくれてありがとう。でも君は沢田綱吉の家庭教師なんだろ? 君は私の心配より彼の成績を心配したほうがいいと思う」

 

 理科の点数がみんなに見られたのを思い出したのか、沢田綱吉の顔が赤くなった。

 

「それは後でオレがみっちり鍛えるから問題ねーぞ」

 

 みっちりと聞いて今度は真っ青になったな。顔に出てわかりやすい。それにしてもリボーンから逃げるのは難しいな……。

 

「……ん。今日だけ言葉に甘える。近くまで送ってくれるだけでいい」

 

 断り続けて興味を抱かせるほうが危険と判断した。……この選択があってるかはわからないが。

 

「わ、わかった!」

 

 ……早く終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に帰るのは了承したが、まさか2人に挟まれて歩いて帰ることになるとは思わなかった。これは体調が悪い私のために沢田綱吉が行動したのが原因だった。私の死亡率がドンドンあがっている気がする。ちなみにリボーンはどこかに消えた。まぁどこかで監視しているのだろう。

 

「神崎―さんもこの街に来たばっかりだよね?」

 

「……よく知ってるな」

 

 私が驚きながら返事をすると、獄寺隼人が沢田綱吉を褒め称え、沢田綱吉が必死に謙遜していた。……私の頭上で会話するなと言いたいが、ここは無視するのが1番なのだろう。私の気持ちに気付いたのか沢田綱吉がいきなり動揺し始めた。

 

「か、母さんから聞いたんだ! 春に近くに引っ越してきたって……」

 

 彼は私の気持ちには気付いていなかったらしい。彼が知ってることに気持ちが悪いと思われるのが嫌だったのだろう。別に会話を続ける必要がないので「そう」と短く返事をする。

 

「今度の休みに獄寺君を案内しようかなって思ってるんだ……だから……」

 

 失敗したな。私じゃなく、沢田綱吉が。恐らく彼は私を誘おうとしてくれてるのだろう。だが、このタイミングで言えば必ず失敗する

 

「10代目! オレ……感激しました!」

 

 ……やはり獄寺隼人が暴走したな。まぁ感動して泣くとは思わなかったが。

 

「もう近いから大丈夫。ありがとう」

 

「え!? ちょっと待っ―」

 

 沢田綱吉が驚いてるが無視した。しばらくしても来なかったので、獄寺隼人に捕まって私を追いかけることは出来なかったようだ。獄寺隼人に感謝だな。ちなみに、一生伝える気はない。

 

 

 

――――――――――

 

「……問題ねーな」

 

 つぶやいたのはリボーンだった。サクラの予想通り、リボーンは隠れてツナ達を監視していた。実はツナにサクラの顔色が悪いと伝えたのはリボーンの仕業だった。ツナはリボーンに命令されたことには文句を言ったが、教室に現れたことには何も言わなかったことにサクラは気付かず勘違いしただけである。もっとも気付いても一緒に帰るという選択しかサクラには残っていなかったが。

 

「ただの読みにくい奴だけみてーだな」

 

 リボーンが言っている読みにくいはサクラの考えていることだった。リボーンは読心術が使える。読心術といっても、完璧に相手の考えを読めるわけではない。個人に違いがあり、プロは読みにくい。そのためサクラを警戒したが、少し監視をしただけでただ読みにくかっただけと判断したのだ。

 

「まっ、観察力がいいみてーだし、ファミリー候補に入れてもいいかもしんねーな」

 

 普段から1人で居るサクラがツナ達と一緒に帰るように仕向けたことで気付いた。ツナ達を上手くかわし1人で帰れたということは、相手の性格がわからなければ難しいことだった。つまりそれだけ相手を見る観察力がある。ポスターの異変に気付いたのはサクラだけではなかったが今回のことではっきりしたのだ。

 

 実際のところは、サクラは原作知識でツナ達の性格を知ってるだけであるが。しかし、そのことを当然リボーンは知らないため、目をつけられてしまったのだった。

 

 サクラからして唯一の幸運は運動能力が並だったため、リボーンの中での優先順位が低いことだった。




今回はネタを入れれませんでした
多分、次は多い?と思います


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友達

「あら? 今日は早いわね~」

 

 いつもより早く起きれば、お母さんが驚いている。日直と言えば納得した。私はギリギリまで学校に行かないからな。理由は早く行けば死亡確率があがる可能性があるからだ。

 

 ……わかってるさ。早起きしても学校行かなければいいだけってわかってる。……ギリギリまで寝たいのだ。

 

「お父さんは?」

 

 いつもはこの時間にお父さんが居る。普段の私が起きる時間にはもう仕事場に出かけてるため会えない。今日は珍しく私が早く起きたので会えると思っていたが、見当たらない。

 

「お仕事よ~。今週中に1つ締め切りがあるんだって」

 

 最近、お父さんに会ってない……。そもそも仕事で引っ越すのはおかしいと思う。並盛に来るまでは父さんはほとんど家で仕事をしてたしな。今、何をしてるんだろう……。契約の関係で家族にも話せないことがある。お父さんに聞いても教えてくれない気がする。

 

「今回は大きな仕事らしいからね~。寂しいかもしれないけど泣かないで我慢してね」

 

 ……お母さんよ。引越しした時点で大きい仕事って私にもわかるぞ。そして寂しいからといって私は泣かない。私は何歳だ。それに私は泣く前にお父さんの体調を心配する……という内容を優しい言葉でツッコミしてあげれば、お母さんが電話をかけはじめようとするから必死に止めた。

 

「お兄ちゃんにサクラちゃんが可愛くていい子って教えるだけよ?」

 

 頼むから止めてくれ……。切に願う。私は朝から兄のテンションについていけないのだ。

 

「今日は日直だから」

「そうだったわ! お兄ちゃんに電話すると遅れちゃうわね!」

 

 何とか兄から逃げることが出来た。……なぜ家でも逃げないといけないんだ。私が休まる場所がほしい。少し悲しくなった。

 

 

 

 

 

 

 学校に着いたが静かだった。見渡しても人が少ない。まぁ部活がなければ誰も早くに登校しないよな。私だって日直じゃなければ来ないさ。

 

 そもそも日直だとしても前の学校ではいつもの時間に登校した。やはりこの学校がおかしいのだ。原因は雲雀恭弥だけどな。彼は学校を綺麗にするために日直は早く登校する決まりを作ったらしいのだ。全くいい迷惑である。

 

 職員室にカギを取りに行ったが無かった。日直は2人1組なので今日の私の相方が開けたのだろう。相方はいつから来てるんだ?まぁまだ遅い時間ではないし相方に怒られはしないだろう。……相方じゃなく名前で呼べって? 忘れたんだ。沢田綱吉達ではなかったのは覚えているけどな

 

 教室に着くと、予想通りカギが開いていた。……ここは挨拶しながら入るべきだろう。

 

「おは―失礼した」

 

 ……トイレに行こう。あそこは安全地帯だ。急いで行こうとしたが腕を掴まれた。犯人は教室にいた人物だろう。違うと期待をこめて振り返ったが当たってしまった。

 

 ……勘弁してくれ。そういえば今日は飛び降り事件の日だったな……。だが、わかっていてもこの時間に教室にいるとは思わないだろ!と心の中で逆ギレするぐらい私は動揺している。

 

「別に入っていいぜ。神埼は日直なのか?」

 

 なぜ私の名前を覚えてる。いや、彼はクラスの人気者と言われるぐらいだ。クラスの名前ぐらい覚えてるんだろう。テストもそれぐらい頑張れよ。……勉強すれば出来たな

 

「どうかしたのか? ……そうか。気になるよな」

 

 私は一言も話していないのに、練習しすぎて骨折してまったとか、練習の内容を勝手に語りだした。私は彼の話を聞くしかないらしい。口を挟もうにもタイミングがない。そして腕は掴まれて逃げれない。

 

 これは……強制イベントなのだろうか……。1度話しかければ、私の意志では止めれない。そして最後には質問され、答えによって好感度が変わるのだろうか……。勘弁してくれよ。私は超能力を使えないから好感度メーターを見ることは出来ないんだぞ。

 

 だが、この強制イベントはまだ山本武で助かった気がする。いつも通りに登校すれば恐らく沢田綱吉とイベントが起きただろう。彼とリボーンに関わるのが1番死亡フラグが立つため却下である。サボれば獄寺隼人だろう。確か昨日からダイナマイトの仕入れに行って休んでるからな。彼と会っても理不尽にダイナマイトを投げられる想像しかつかない。そして、遅刻すれば雲雀恭弥イベントに入り、咬み殺されてバッドエンド。そう考えると山本武はクラスの人気者だから、これ以上関わらなければモブとして紛れることができる。日直でよかった……。これは1番安全なルートのようだ。

 

「なぁ……神崎……オレ……これからどーすりゃいいと思う……?」

 

 飛び降りろ、と言いそうになった。……危なかった。このタイミングでは本当に死んでしまう。

 

 この言葉が除外された時点で私にはある言葉が浮かんだ。この言葉は人生で1度は言ってみたいランキングでトップ3に入る。……言いたい。ものすごく言いたい。だが、言えば私の人生が終わる。この言葉はあきらめるしかないのだ。いや、まだ可能性があるはずだ。あきらめたらそこで試合終了だよ。

 

 そうと決まればボールだな。山本武にボールを渡しながら言わなければならない。ボール違いだがそこは気にしない。しかし……私の希望は打ち砕かれた。私の手持ちにボールがあるわけがないのだ。ボールと友達になれば良かったと後悔した。好きか?と私に問いかけてくれればよかったのだが。上手くなるかは別にして友達になれた自信はあるぞ。……いろいろ混ざってしまった。ボールはあってるけどな。

 

 ……真剣にスポーツをしてる人からすればボール違いはダメなのだろう。野球と言えば……偶然にも「ちゃん」付けで呼べば一緒になるな。だが、そのルートは私が嫌だ。そもそも山本武とは幼馴染じゃない。

 

 ……私の掴んでる腕の手が硬いな。もし私が野球をしていれば、彼はどれだけバットを振って出来た硬さかわかるのだろう。残念ながらわからないので簡単に頑張ってるから好きとはいえない。

 

「……わりーな。変なこと聞いちまった」

 

 ……時間制限があったようだ。腕の拘束が無くなり彼は教室に戻らず廊下を歩き出した。向かってる場所は屋上なのだろう。

 

「山本武」

「……なんだ?」

「私には君の辛さはわからない。でも君は大丈夫」

「……簡単に言うなよな」

 

 山本武は怒ってるようだ。まぁ私だってよく知らない奴に大丈夫とか軽々しく言われれば腹が立つだろう。

 

「君は私と違う。だから問題ないのだ」

 

 まず彼はその悩みの骨折は何日で治ると思ってるんだ。一週間すれば入ファミリー試験を受けるぐらい動けるようになるんだぞ。私の場合だと何週間固定しないといけないんだ。

 

 真面目に考えていたのが時間の無駄だった気がしてきた。よく考えれば私は死にたくはないから彼とは関わりたくもないのだ。つい名言を言いたくなりすっかり忘れてしまった。

 

 彼は落ちても大丈夫だだろう。……絶対マネするなよ。山本武だから大丈夫なんだ。そこを間違えるな。

 

 そう考えれば、彼は廊下で立ち止まってるがもう無視してもいいだろう。これ以上話しかけられるのも嫌なので扉をしめ日直の仕事をすることにする。

 

 ……どうやら私は愛と勇気も友達にいないらしい。

 

 

 

 

 

 今、私は屋上でモブの仕事をしている。

 

「死ぬ気で山本を助ける!!」

 

 少しボーっとしている間に沢田綱吉が山本武を助けに行ったようだ。もう私はモブの仕事をしなくていいだろう。朝からモブに徹するのは面倒だな。まぁ私は山本武を怒らせたんだ。好感度が最低に出来たと思えば、今日はいい日である。

 

 その後、私は教室に帰ったため知らなかった。無事に救出された山本武が原作と違い「神崎にも礼を言わねーとな!」と沢田綱吉に話していたことを……。

 




……なぜかタイトル詐欺にも見えるw

そして……スポーツマンガが少し前のが多い……ww
最近のもいろいろ読んでるのに不思議です


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はる

 今日は休みだ。休みの過ごし方は人それぞれだろう。私の場合はマンガを読む。……休みじゃなくても読むけどな。ちなみに宿題はテスト明けでない。素晴らしい。……夏休みの宿題が待機してるが、それは忘れよう。考えたくもない。

 

 言っておくが、マンガを読むだけではないぞ。他にも休みの日にはすることがある。

 

「今日の晩ご飯は何食べたい?」

「豚のしょうが焼き」

 

 豚のしょうが焼きは夏バテ対策には欠かせない。まぁ想像しただけで涎が出る私は夏バテにならないと思うが。私の返事を聞いたお母さんが豚の薄切りを買い物カゴに入れた。私の希望を叶えてくれるようだ。

 

 買い物カゴで気付いたと思うが、私は今、お母さんと買い物に出かけている。土日のどちらかは必ず一緒に出かける。理由はいろいろだ。お母さんが目を離した隙に買い物カゴにお菓子を入れたり、帰りにケーキをねだったり、ソフトクリームをねだったり、まぁいろいろだ。

 

 ……おこづかいでは足りないんだ。マンガ代で全て消えてしまうからな。それにお母さんも私がいる時に重い物を買う。手伝い代と思ってるのだろう。……兄には頼むだけで買ってくれるのだが、フランスに留学中でいないし、何より相手するのが面倒だからやはりお母さんにねだるのが1番だと思う。

 

「サクラちゃんはこのアメ好きよね」

 

 お母さんはレジを通して気付いたらしい。入れた私が思うのは変だが、もう少し警戒したほうがいい。

 

 ちなみにこのアメを選んだ理由は、先週はケーキをねだったから今回は安いアメを選んだだけだ。好きなのは否定しないけどな。1日1個は必ず食べるしな……。だが、このアメは少し特殊だが普通の味だ。たこわさび味やカキフライ味ではない。そもそも棒付きじゃない。

 

「お母さんにも1つちょうだいね~」

 

 お母さんのお金で買ったんだ。私に聞く必要がないと思いながら許可する。まだ部屋にも残ってるはずだしな。

 

「何味があるんだった?」

「オレンジ、イチゴ、レモン、メロン、ブドウ、青リンゴのどれか」

 

 なぜどれかという曖昧な言葉を使ったかと言うと、このアメは食べてみないと味がわからないからだ。本当に見た目ではわからない、ふしぎなアメだ。ちなみに商品名は大空キャンディだ。……青リンゴが藍色を示してるわけじゃないよな?それは無理があるだろう。深読みしすぎだな。それにリンゴじゃなくパイナップルだ。

 

 よく考えれば引越してからお母さんと一緒に買い物を何度したのだろう。この街に慣れるために引っ越してすぐはほぼ毎日一緒に出かけたはずだ。その間に原作キャラと関わることはなかった。もしかすると私は警戒しすぎかもしれないな……。

 

「よぉ、神埼。手伝いか?」

「…………」

「まぁ! サクラちゃんのお友達!? それも男の子!」

 

 前言撤回。危険だ。この街は危険だ。後ろから急に声をかけてくるな。気配を消していたのかもしれない。生まれながら殺し屋の力をここで使うな。そして、お母さん。なぜ期待した目で私を見るんだ。その後に世話になってると頭を下げて、オレの方こそ世話に……と話しているが、私は世話になった記憶もないし、世話をした記憶もない。だから自己紹介しあうな。

 

「お母さん、彼とは別に友達じゃないから」

「神崎……」

 

 事実だろ。彼の中ではクラスが一緒になるだけで友達になるのか?無意識に死亡フラグを振りまくな。……考えるとそれはないな。クラス全員がボンゴレ狩りにあえば、黒川花も死ぬからな。

 

「サクラちゃん!」

 

 お母さんがいきなり私の名前を叫んだ。恐らく私の友達じゃない発言に怒ってるのだろう。しばらく甘いものは禁止かもしれない。……全くいい迷惑だ。軽く怒りを覚えたが、後回しにする。急いでこの場から去らないといけない。甘いものを禁止レベルでは済まなくなる。お母さんと私が死んでしまう未来が来ることを待つことになってしまう。

 

「……知らない間に大きくなって……」

「お母さん……?」

 

 なんで泣きかけてるんだ!?怒られると思っていたがこれは予想外だ。それに大きくなってとはどういうことなのだ。

 

「……お母さん、違うから」

「武君! いつでも家に来てもいいからね!」

「あざっす!」

 

 ……勘違いしてるようだ。友達じゃない=特別な関係。そして、山本武も返事をするな。絶対、意味をわかってないだろ!!

 

 これは私の言い方が悪かったのか?お母さんの天然が悪いのか?うん。それはもういい。後で何とかする。とにかく急いでここから去ろう。

 

「……重いし早く帰ろう」

「神崎の家でいいのか? 持つぐらい手伝うぜ」

「大丈夫だ!!」

「てれちゃって……サクラちゃん可愛い!!」

 

 うん。お母さんは黙っててくれ。私がイラッとして話が進まない。

 

「武君ありがとう。でも今日は気持ちだけもらうわ。サクラちゃんが怒っちゃったからね」

「ん? 神崎……怒ってるのか?」

「私のせいなのよ」

 

 間違ってはないが、話がかみ合っていない気がするな。だが、この場はこれでいい。逃げた後で何とかすればいいからな。黙っててくれと思ったのは撤回しよう。

 

「お母さん、帰るよ」

 

 無理矢理引っ張りながら山本武から去った。お母さんは私に掴まれてる逆の腕で山本武に手を振ってる。……うん。お母さんは何もしないでくれ。

 

 

 

 

 しばらくすると、お母さんは手を振るのをやめた。恐らく山本武の姿を見えなくなったのだろう。

 

「お母さん、本当に彼とは何も無いから」

「わかってる~。わかってる~」

 

 絶対わかってない。断言できる。

 

「後、名前で呼ばないで」

 

 名前で呼ぶとか、親しいと公表してるものだからな。死亡フラグがたってしまう。

 

「……かわいい! やきもち!? やきもちなのね!!」

 

 ……判断を間違えた。今はお母さんに何も言ってはいけなかったようだ。もう黙っておこう。

 

「次は山本君って呼ぶわね。……サクラちゃんに春が来たのね~」

 

 もう春はとっくに終わってるぞ。今は夏だ。まぁもうすぐハルは来るけどな。




母のテンションが高い……
まぁこれを酷くしたのが兄だからしょうがないww


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ウザイ奴

 もうすぐ山本の入ファミリー試験が始まるだろう。モブの私には関係ないことである。

 

 まぁこの前の休みに山本武に会ったことは焦ったけどな。それに普段のお母さんはボーっとしてるのに、あそこで面倒な反応をするとは思わなかったのだ。ちなみにお母さんの暴走を止めてくれたのはお父さんだった。締め切りがあって疲れて帰って来たはずなのに、私の姿を見て助けてくれたのだ。

 

 お父さんは凄いと思う。普段は放任してるのに、大事なところでは必ず怒る。兄があまりにも暴走した時も怒るしな。怒るといっても「コラ、ダメだよ。サクラが嫌がってる」と言い聞かせるタイプである。恐らく私はお父さんを嫌うということはないだろう。暴走した時に、助けてくれる人がいなくなるからな……。お父さん、兄が帰ってくるまでに仕事を終わらせてくれないだろうか……。切に願う。

 

 そもそも山本武はなぜ私に話しかけてくるのだ。山本武が話しかけてこなければ、お母さんが暴走することはなかったはずだ。彼との好感度は最低のはずだが……。彼の思考回路がわからない。その前に私は彼に興味もないしな。だから毎朝私に挨拶しようとするな。死亡フラグが立つ。まぁ話しかけるなオーラを出し、適当にあしらってはいるが。

 

 簡単に彼に嫌われる方法はないのだろうか。沢田綱吉をいじめれば嫌われると思うが、それはそれで死亡フラグが立つ。困ったものだ。

 

 いい案が全く思い浮かばない。そのせいで彼から逃げるために早く家に帰る方法しかないのだが、今週は委員会の活動があり帰れなかった。全く、委員会の仕事は帰宅部に押し付けられるはおかしいだろ。帰宅部も部活動じゃないのか?帰宅「部」なのだから。活動内容は真面目に早く帰ること。うん、立派な部だ。私は間違っていない。

 

 内心グチを言いながら職員室でカギを受け取り図書室に向かった。そう、私は図書委員なのだ。活動のほとんどは貸し借りのチェック。他にも本を探すのを手伝うなどがあるが、そこまで面倒ではない。理由は一週間単位で交代で、私は7月になって初めて当番になったのだ。さらにいえば、前期と後期で委員のメンバーがかわる。つまり活動日がかなり少なく、今週が終われば夏休みに後一週間だけ学校へ行けば終わるのだ。クーラーもきいてるし悪くない。本は嫌いじゃないしな。まだ当たりをひいたほうだ。

 

 私はマンガしか読まないと思っていただろ。失礼である。これでも月に2冊ほど読むのだ。ただ、かなり偏ってるのは自覚している。私は基本、推理小説しか読まないからな。ちなみに私は犯人が誰か推理しながら読む派だ。だから犯人があからさまなのは好きじゃない。最後まで犯人がわからないのがいい。まぁ好みの問題だな。

 

 ただ、この謎を解きたいとは思わない……。真実は1つかもしれないけど、これはどうでもいい。もちろん、じっちゃんの名にかけたいとも思わない。

 

 なぜ、彼が図書室にいるのだろうか……?

 

 確かに、このタイミングで彼がいるのはおかしくはない。だが、私は彼が本に興味があるとは思えない。まぁ彼が眠ってるところを見ると当たっているのだろう。そもそも私がカギを開けたのになぜここにいるのだ。恐らく日当たりが良くて寝てしまって気付かれずカギを閉められたのだろう。……バーロー、解いてしまったじゃねーか!!

 

 ……気を取り直すことにする。

 

 何度もいうが、私は原作キャラと関わりたくはない。彼が自力で起きるまで放置したいが、いびきがうるさい。今は私以外には誰もいないが、誰かが来た時に委員の私が起こすことになるだろう。つまり、今起こすか後で起こすかの違いである。

 

 恐らく彼と少しぐらい関わっても死亡フラグが立つ可能性が低い。だから起こしてすぐ離れれば問題ないと思うが、私は原作とかを抜きにしても、もの凄く彼とは関わりたくはない。

 

 理由はウザイ奴だからだ。

 

 私が得た知識で思ったのはこのキャラはウザイの一言だ。聞いてもいないのにマフィアの話をする。とにかく、うるさい。そして、極めつけはバカ。獄寺隼人が見るたびうぜーと思ったシーンがあったが、それは私も思った。今から来てボコボコにしてくれないだろうか……。

 

「ぐがああああ」

 

 いびきもウザイと思ってきた。雲雀恭弥に通報したいぐらいだ。……通報してもいいかもしれない。彼は風紀を乱して迷惑していると伝えれば躊躇なく咬み殺すだろう。雲雀恭弥には関わりたくないので草壁哲矢を探そう。そうと決めればカギを閉めるか……。

 

「……んーーー!!」

「チッ」

 

 思わず舌打ちをしてしまった。起きるなよ。そして起きてすぐうるさくてウザイ。

 

「あれ? あれ? あれ?」

 

 黙れ。ここは図書室だ。静かにしろ。

 

「うそっ!? オレ、寝ちゃった!? やばいじゃん! やばいじゃん! ミーコとデートの時間! ん? もしかして起こしてくれたの? サンキュー! すっげー優しいー! もしかしてオレのこと好きなの? でもオレはミーコっていう彼女いるから諦めて じゃねぇー」

 

 

 

 ……今日中に匿名で雲雀恭弥に手紙を出したのは言うまでもないだろう。

 




今回のネタはタイトル詐欺?
引っかかった人がいれば嬉しいですね

正直、ランボは子どもだしウザイとは思えない……


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ヒロインと助っ人

 情報収集した結果、内藤ロンシャンは咬み殺されたらしい。

 

 私もまさか次の日には咬み殺されるとは思わなかった。雲雀恭弥は仕事が早いな。困った時はまた彼の靴箱に投函しようか……。いや、これ以上は危険だ。何度もすると身を滅ぼしかねないし、私が出したとばれると面倒なことになる。それに、内藤ロンシャンが咬み殺されたのは日ごろの態度が悪かったのもあるだろう。

 

 ……1度しか使えない手をここで使ったのは早計だったのかも知れないな。まぁ気分がいいので良しとする。

 

 そういえば、雲雀恭弥で思い出した。風紀委員からのプリント……正しくは誓約書だな。先生からHRの時に紙を渡されサインをするようにと言われた。内容を読めば風紀を乱さないとか、夏休みの過ごし方の注意だった。正直、サインをする意味があるのかわからない。サインをしなくても乱せばボコボコにするだろう。彼はそういう男だ。会ったことはないが、原作知識でわかる。だから会いたくない。

 

 サインをし回収すれば、今日の授業は終わりだったが、女子は強制居残りになった。……早く帰りたい。終わっても委員会の仕事があるので帰れないが。

 

 残ってる女子は賑やかだが私の周りは静かだ。私は友達がいないので、誰かが話しかけてくることは無いからな。早く終わらせるためには積極的に自分から行動するしかないのだ。面倒である。

 

「神崎さん、一緒にどう?」

 

 でた!ヒロイン!と言いそうになった。誰も話しかけようとしない私に声をかける君は天使と思う。だが、私の天使じゃなく沢田綱吉の天使になってくれ。そう、遠まわしに関わるなということだ。

 

「……大丈夫だ」

 

 ヒロインとは関わっても大丈夫だと思うが、関わればこれからの危険度が高くなるのは想像できる。せっかくの誘いだが、断ることを選んだ。ヒロインが落ち込んでるが、私は知らない。

 

「あんた、人付き合いが苦手かもしれないけそれはないわ! それに気付きなさいよ。京子の誘いを断ると困るのはあんたよ!」

 

 今度は黒川花の登場だな……。ここまで来ると感心する。

 

 彼女は原作に何度か登場してるのにも関わらずボンゴレ狩りの対象じゃなかった。それはなぜか?彼女がヒロイン助っ人キャラだからだ。今回も落ち込んだヒロインを助けるために登場したのだろう。私は友情というのは目に見えないから信じないんだ。……本当のところは友達がいないからわからないだけだが。

 

 それより、彼女が言ったことが気になる。なぜ彼女達以外と組むのは難しいのだ。今回は明後日にある調理実習のグループ分けだ。3、4人で1つのグループを作ればいいだけなのだ。どこかのグループに入り、私は机の端でおにぎりを握れば問題がないはずだ。

 

「はぁ……山本があんたを気にしてるじゃない。今まで女子にわざわざ挨拶しに行くことはなかったし……。あんたはクラスの女子から嫉妬されてて簡単に組めないわよ」

 

 私の顔を見てわからないと判断して、黒川花は呆れながら教えてくれたが、聞き捨てならない!どうしてそうなってるんだ!?情報収集したがそんな話題はなかったぞ!

 

「まっ、山本は1人でいるあんたをほっとけないだけと思ってるから安心しなさいよ」

 

 ……それならば納得できるかもしれない。客観的に見れば私はボッチでクラスの人気者の山本武が私を心配して話しかけていると理解する。私からすれば良い迷惑だが。

 

 ……話を戻そう。わかっていても気に食わないものは気に食わない。それが感情というものだ。黒川花の安心しろというのは感情に振り回されいると本人達もわかってるからだろう。あしらい方で私が山本武に興味がないのは明らかだから噂も流れないのも理解できる。

 

 ……なぜ私が興味ないことに山本武は気付かないんだ。天然というのは面倒だ。はっきりいうべきかもしれないな。夏休みが終わっても同じようなら考えよう。それより今は調理実習のことだ。

 

「……今回だけ頼む」

 

 笹川京子は嬉しそうな顔をして、黒川花は素直じゃないと呆れていた。私は素直に言ったぞ。2度と同じグループになるつもりはないからな。

 

 

 

 

 

 

 私の周りに『にぎにぎっ』という擬態語が出てるだろうなと思いながら、おにぎりを握っている。そう、今日はおにぎり実習の日なのだ。昨日は問題なく普通に過ごしたさ。強いて言えば、実習があると知った兄がおにぎりを食べたいとうるさかったぐらいだ。現在進行形で平和である。

 

 現在進行形の理由は、さっきにも言ったが私の周りには『にぎにぎっ』という音しかない。つまりヒロイン達と同じグループだが会話は無い。

 

 もちろんヒロインは優しい子で、笹川京子は何度か私に話しかけようとしてる。そして、それを阻止するのは黒川花だ。彼女は私とヒロインが関わるのはまずいと直感で気付いているのだろう。流石ヒロイン助っ人キャラだな。……実際は私が関わるなオーラを出してるからだが。

 

 無言で握っていたからか、もう握り終わり自分の分は片付けてしまった。私は普段から料理をしないので少し形がいびつになったが、味は問題ないだろう。ちなみに具は梅ぼしだ。……別に背中に立派に梅ぼしがあると誰かに言ってほしかったわけではないぞ。好きな具だからだ。ネコに言われたいのは否定しないが。そういえばブリガンテスだな。マニアックすぎる情報まである気がする……。ここまで細かいと忘れてしまう気がするのに、一向に忘れる気配がない。異常である。

 

 少し自身の状況が気持ち悪くなったが、今からのことを考えるべきだろう。このまま沢田綱吉に食べられるか、どこかに行き防ぐか……。念のためにパンを持ってきているから食べられても問題はない。沢田綱吉はおにぎりしか興味ないからな。しかし、味わうこともせず食べられるのは腹が立つ。

 

 この時にリボーンは学校にいず、教室から見えるあの建物から狙撃をする。……よく届くなと感心してしまった。話を戻そう。今回は建物から見えない位置にいれば問題ないのでは?

 

 そうと決まれば、話は早い。外で食べよう

 

 

 

 

 私の予想通り、沢田綱吉に邪魔されずグランドでのんびり食べた。だが6個は多かった。余ってしまったので、教室に帰る前に職員室により担任の先生にあげた。誰も来ないからゼロと思っていたらしく喜ばれた。もちろん、クラスの男子(モブ)にあげると面倒なことになりそうだったという本音は言わなかったぞ。

 




黒川花がボンゴレ狩りの対象じゃないのが不思議。

ちなみに主人公の行動は私が先生におにぎりをあげるタイプだから
もちろん、打算的な考えでw


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そうぐう

「暑い……」

 

 私はとある目的のためにおこづかいをもち、自転車で本屋に向かっていた。今日は獄寺隼人とビアンキが再会する日なので、原作キャラは沢田綱吉の家にいるか、並盛神社近くにいることになる。更に情報収集をした結果、山本武は野球の試合をしているらしく学校にいる。つまり心置きなく外に出れる日なのだ。

 

 しかし、この暑さは想定外だった。原作キャラと会わないように遠回りしたのが、精神的につらい。このままではジリジリと削られ、ひんし状態になってしまう。自転車を降りて、私はおこづかいを使い、自動販売機でおいしい水を買った。

 

 ゴクゴクと喉を鳴らしながら1度で全部飲んでしまったが、ミネラルたっぷりでおしいかった。元気になったため、また店に向かおうとしたが、念のためにもう一本購入した。もったいないと思ったが、倒れて家族に心配かける可能性を考えると買うことを選択したのだ。大事にバッグにしまい、再び店に向かった。

 

 

 

 わざわざ遠回りしたかいがあったのだろう。無事に原作キャラとは会わず目的地にたどり着いた。自転車から降り、店に入ろうとした時に事件が起きた。私の行く手を阻むかのように店の前に雲雀恭弥が現れたのだ。正確には彼のスピードがはやく、私には雲雀恭弥が本屋のわき道からとびだしてきたとしか思えなかったが。

 

 後一歩と表現してもいいだろう。もう少しで店に入るというところで現れた彼は、私のライバルなのか!?と一瞬だけ思ってしまった。一瞬だけの理由は力の差がありすぎる私とではライバルになるとは思えなかったからだ。それに彼は野生な気がする。並盛全域が彼の出現場所だしな。

 

 ……なぜ私は空を飛べなかったのだろう。空を飛べないのは諦めるが、なぜ自転車を乗ったのだ!!と後悔した。

 

 後悔しても状況は良くならないので、私はすぐさまにげるを選択したが……にげれない!!

 

 足が思うように動けなくなり、にげるという選択が出来ない。諺の蛇に睨まれた蛙というのはこういうことをいうのだろう。私はレベルの差を身体で感じ、恐ろしくて動けないのだから。

 

 にげるの選択が出来ないのならばと思い、私は今持ってる物を頭の中で思い出す。しょうがないだろ。後ろに控えがいないのだから交代も出来ないんだ。たたかうは論外だ。

 

 少し期待をしながら思い出したが、やはり私のてもちにボールはなかった。……ボールがないことをまた後悔するとは思わなかったな。まぁ例えボールがあって全て上手くいったとしても、彼が言う事を聞くとは思えないが。うん、絶対聞かないな。

 

 ……おこづかいがあるな。しかし、彼にお金という賄賂を渡しても気に食わなければ咬み殺される。当然、私は目の前が真っ暗になって意識を失い、そのまま病院か家に運ばれるのだろう。そして目覚めた時にお母さんが私の心配をしているだろうというところまで想像がつく。もちろんお金はなくなってる。せめて半分にしてほしい……。彼の場合は全額持って行く気がする。私はバトルにはおこづかいは役に立たないということを身をもって理解した。

 

 やはりどうぐだ。

 

 ふしぎなアメがある。しかし、これは私が勝手にその名称で読んでいるだけだ。食べてレベルがあがれば、99個以上食べたことがある私は彼から簡単に逃げれる。残念だが、このアメには特殊な効果はないのだろう。

 

 次に思い出したのはおいしい水。だが、これも使えない。彼の一撃で私はひんしになる自信がある。せっかく買ったが意味は無かったな……。

 

 にげれない。後ろに控えはいない。どうぐはない。……たたかうしかない。

 

 私は腹をくくった。これだけはしたくなかったし、緊張して喉が乾いているが、気にしてはいられない。もう私にはこの道しか残っていないのだから……。

 

 私は互いの手の平を重ねて胸の前に持っていけば、彼は少し反応した。が、攻撃は仕掛けてこなかった。これならば成功する可能性が高い。

 

「……暑い中の風紀活動お疲れ様です。雲雀さんもこの店に用事ですか?」

 

 ……痛みは来ない。つまり彼は攻撃を仕掛けてこなかった。私の考えた通り、彼の強さならカウンターでも問題なかったと思ったのだろう。だが、甘いな。私が使ったこの攻撃ではカウンターは発動しないのだ。そもそも、相手の方がすばやさが大幅に上なのだ。彼がカウンターを選択した時点で、不発になる可能性が高いというのはわかっていた。少し詳しく語れば、すばやさの差がありすぎると、カウンターを選択しても後攻にならず先攻になって失敗するのだ。彼は私の弱さと攻撃の種類を計算しなかっため、このターンで私は無傷だったのだ。

 

 と、いろいろ心の中で威張ってるが、本当に私はこの技は使いたくなかった。だが、もし相手が後攻になった場合の対策としてこの技を出すしかなかった……。私は生き残るためにこの技を使うことを選択したのだ。もう何の技かわかってると思うが念のために教えよう。

 

 しっぽをふるだ

 

 しょうがないだろ!レベルが低い私が使える技は少ないんだ!

 

 少し逆切れしながら雲雀恭弥を観察したが、態度はかわらない。相手のレベルが高すぎるのだ。私のしっぽをふるでは油断を誘うことが出来なかったようだ。それでも私はしっぽをふりつづけるしかない。やめた時点で咬み殺されるのはわかってるからな。

 

「……君、名前は?」

「っ!?」

 

 なんという美声攻撃!!危うく私は油断して「咬み殺してください」と言って、新しい道に進むところだった……

 

「聞いてる?」

 

 冒険はまだまだ続く……。と、一瞬頭をよぎってしまった。そっちの冒険はダメだと必死に自分に言い聞かして何とか正常に戻ったが、この状況はどういうことだ?連続攻撃は私がひるんだせいだろう。声だけでひるませるとは……。

 

 それにもしかするとさっきの症状は、こんらん状態だったのかもしれない。雲雀恭弥はかなり危険だな……。もう少し自分の状態を確認したいが、今はこの状況を考えよう。

 

 なぜ彼は私の名前を聞くのだろう。変な行動をしたとは思えないが……。彼を観察すれば、早く返事をしないとまずいのがわかった。

 

「……モブキャ……神崎です」

 

 事実を述べようとすれば、なぜかトンファーがチラッと制服の袖から見えので、慌てて苗字を名乗った。それでもサクラという名前は教える気はなかった。死亡フラグがたつからな。

 

「そう。じゃぁね」

 

 私の苗字を聞けば彼は店に入らずどこかに去って行った。一体なんだったんだ……。私は雲雀恭弥が見えなくなるまで一歩も動けなかった。彼は謎過ぎる……。私の質問も無視したしな。だが、1つだけわかったことがある。

 

 私は彼からうまくにげれたようだ。

 




今回の反省、ボケすぎたww
1番好きなキャラだから気合が入るんです(なんか違うw

雲雀さんの謎の行動の意味はもう少し待ってください
でもあまり期待しないで……

ボツネタ。雲雀恭弥の目=くろいまなざし
(レベル差で逃げれなくなるほうを採用したため)


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予定と用事

 雲雀恭弥と遭遇してから私は家から出なくなった。もちろん学校には通ったぞ。家族に心配かけてしまうからな。ただ、学校にはギリギリに登校し、休憩時間はトイレに行き、放課後になればすぐ帰った。何度か放課後に山本武が呼び止めていたが全て無視した。そして、明日からは学校がないので彼とはしばらく会わない。そう、今日は終業式。明日から夏休みに入るのだ。……あまり喜べないけどな。

 

 原作を知る前に立てた夏休みの予定では、マンガを読み、マンガを読み、マンガを読み……という充実した毎日を送る予定だった。しかし、沢田綱吉達のせいで叶わない。

 

 一見、マンガを読むだけだろと思うだろ。それは違う。(家で)マンガを読み、(本屋で)マンガを読み、(古本屋で)マンガを読み……という言葉が隠されているのだ!

 

 このままだと新しいマンガを買いにいけない。掘り出し物を探すことも出来ない……。だが、外に出れば死亡フラグが立つと思えば家にいるしかない……。

 

 あの時にもっとマンガを買うべきだったな。雲雀恭弥に遭遇するとは思わなかったし、元々とある本を買いに行くために本屋に行ったため、その本を買わないという選択は出来なかったのだ。しかし、今となってはあの計画を実行できるとは思えない……。

 

 私の夏休みが終わったな……。家にあるマンガを全部読み直すしかない。新しいマンガはお母さんに頼んで買ってきてもらおう。買い物に着いていかない分、風呂掃除などを毎日すれば許してくれるだろう。……お菓子が買えないな。全てあの男のせいである。

 

 まだ可能性があったのだ。沢田綱吉と山本武は補習があるからな。獄寺隼人は私に興味がなく出会っても大丈夫だった。だが、あの男が並盛を徘徊するのが問題だった。徘徊と言ったが、本人からすれば見回りなのだろう。私からすればただの迷惑な奴だけどな。だから会いたくなか――これ以上は止めておくべきだな。この前みたいに拒否をし、フラグが立つのは勘弁である。

 

 フラグを立たないようにしてる間に先生の話が終わった。真面目に聞かなかったが問題ない。プリントと同じことしか言ってないからな。最後の挨拶が終わったので急いで帰ろう。

 

「神崎!」

 

 当然無視だ。山本武も気付けよ。周りがもう止めとけってオーラを出してるぞ。

 

「え!? もう帰ろうとしてるのーー!? 神崎さん、ちょっと待ってよ!」

 

 これも当然無視。……沢田綱吉が無視された場合は笑うのか。まぁ以前と違ってバカにした笑いじゃないけどな。リボーン効果である。それにしても沢田綱吉は悪い奴じゃないのに、なんで笑いものにされてるんだ?謎だな。まぁ解く気はない。今度こそは本当だぞ。と、思いながら廊下に出た。

 

「ぐぇ!?」

 

 出たはずの教室に引き戻された。変な声が出たのは私の意志じゃない行動が起きたからだ。ちなみに私は何が起きてるか詳しくわかっていない。わかってるのは……死にそうだ。い、息が出来ない!!

 

「10代目が話しかけてるのにてめぇ……いい度胸だな……ああ!?」

「ご、獄寺君、オレのことはいいから離してあげて!! お願いだから!!」

「10代目がおっしゃるなら……逃げるんじゃねーぞ!」

「ゴホゴホゴホッ!!」

 

 ……こいつ……殺す気か!?後ろから首元のところのシャツを掴むなよ!私の感謝を返せ!

 死にそうだったところから逆ギレしたことで、少し冷静になったらしい。これは沢田綱吉を無視したことに腹を立てた獄寺隼人が行動したのだろう。

 

 最近、沢田綱吉が絡んでこなかったから油断した……。

 

「……なに?」

 

 もちろんこれは沢田綱吉に向かって話してる。山本武は無視しても女子に手を上げることはないし、獄寺隼人は何も思わないからだ。

 

「あのさ、神崎さんは夏休み予定あるのかな……?」

「ある」

 

 ウソはついていないぞ。私にはひきこもってマンガを読むという大事な予定があるのだ。

 

「そ、そう……。ない日はオレ達と一緒に遊ばない?」

「……君は補習じゃなかった?」

「そうだけど……ずっとじゃないし……」

 

 補習が終われば終わりじゃないんだぞ。勉強しろよ。いろいろ言いたいが、これ以上言えば獄寺隼人がまたキレる。……とにかくこの状況を何とかするべきだな。

 

「予定があるから帰りながらでもいいか?」

「う、うん!」

 

 嬉しそうに返事をして荷物を取りに行ったな。山本武は予定があるからいつも急いで帰ってたんだな!と、言いながら取りに行った。ポジティブすぎるだろ……。私はドン引きした。今のうちに逃げたいが獄寺隼人が近くにいるため諦めた。これ以上、痛いのは勘弁だからな。しかし、彼は取りに行かないのか?

 

「……なんだよ」

「カバンは?」

「ねぇよ」

 

 彼は学校に何しに来てるんだ……?少し怪訝な目で見てしまった。

 

「……今日は終業式だろーが」

「関係ないだろ!?」

 

 ……やるな。私をツッコミにまわすとは……沢田綱吉の気持ちが理解できた。彼は常識がどこか抜けてるためツッコミをするしかないのだ。問題はツッコミをすれば命がけになることだろう。すぐダイナマイトを出そうとするからな。ギリギリさっきのはまだ大丈夫だったらしい。バカだろと言わなくて正解だった。

 

「ん? お前らって仲が良かったんだな!」

「ああ!? ふざけんじゃねぇ! 野球バカ!! 誰がこんな奴と……」

 

 同感だ。ただ思ってても口に出さないほうがいいぞ。君の大声のせいで、沢田綱吉が慌てて来るはめになってるからな。私は彼が慌ててくれた方が助かるが。

 

「獄寺君、山本、どうかしたの?」

 

 慌てながら来た彼が何かあったのか2人に聞いてるが、君は聞かないでくれ。山本武は天然だからと流せるが、君が本気で仲がいいと勘違いすれば面倒なことになる。

 

「先に帰っていい?」

「ご、ごめん! 神崎さんは用事があったんだ……」

 

 用事はないぞ。マンガを読む予定はあるけどな。沢田綱吉は用事と予定では意味が違うことを知ったほうがいいだろうな。彼は人がいいからすぐ騙されることになる。もちろん教えてあげるつもりはない。これから私が騙せなくなるからな。

 

 

 

 

 彼らと一緒に靴箱に向かってると気付いた。……逆ハーレムだな。見えないが、恐らくハーレムの中に死神もいるだろう。どうせ死神がいるなら代行にしてくれ。レアな気がする。隊長格もレアだが、モブにわざわざ登場しないだろう。うん、この法則だと代行も来るわけがないな。名前も出てこない平隊員、私を護ってくれ。死神に頼むのはおかしい気がするが切に願う。

 

「どこまで話したかな……。あ! 予定がない日はオレ達と遊ぼうよ!」

 

 私を誘わなくても彼らが遊んでくれるだろ。なぜ私を誘うんだ。思わず眉間にシワがよってしまう。

 

「おい! せっかく10代目が誘ってくれてるんだ! 返事しろ!」

「まーまー、落ち着けって。神埼は夏休み忙しいみてーだし、無理に誘うのは良くないぜ!」

 

 ビックリだ。山本武が空気を読んだぞ!?

 

「んー忙しいんだよな……。気分転換にみんなと遊べばぜってぇ楽しいぜ!」

 

 山本武は山本武だった。うんざりするのも慣れるもんだな。これ以上は慣れたくはないので私の切り札を出すか。ちょうど靴箱についたしな。

 

「持つのが重いと思うぐらいの宿題があるからな……。君達もそう思わない?」

 

 私の言葉に獄寺隼人はスルーした。当然だろう。彼はカバンを持ってないからな。そもそもするのかもわからない。山本武は少し嫌そうな顔をした。勉強のことは考えたくないのだろう。そして、私が1番気になる彼の反応は――。

 

「……あ! 机の中に置いてきちゃった……」

 

 知っていてもバカだろと言いたくなる。なぜ夏休みの宿題を忘れるのだ。

 

「取りに行ったほうがいい。私は予定があるから付き合えないけど彼らは付き合ってくれる」

「え!? ちょ、ちょっと待って!!」

 

 慌てて私を引きとめようとするので、もう1つ爆弾を放り込む。

 

「このまま帰ると家庭教師ごっこの好きな子どもが怒るかも。遊びと言っても、私は子どもに怒られるのは嫌。君はいいかもしれないが――」

 

 ここまで言えば、彼は忘れた時の未来が想像ついたらしい。顔が真っ青になったからな。

 

「ご、ごめん! ありがとう!」

 

 お礼をいいながら彼は走り去った。恐らく教室に行ったのだろう。その後を2人が必死に追いかけて行った。

 

「さようなら」

「ああ! 神崎 またな!」

 

 山本武と獄寺隼人は私がつぶやいた小さな声に気付いたらしい。獄寺隼人は何も言わなかったが、こっちを向いたからな。しかし、勘違いしては困る。私が死神に向かって言ったのだ。君達じゃない。まぁ私の思惑通り、無事に彼らから離れることが出来たからいいとしよう。思惑と言ってもたいしたことじゃないが。

 

 この後、沢田綱吉は学校に宿題を忘れてリボーンにボコられるというイベントがあった。私はそれを利用して逃げることを考えたのだ。だから私は話をさえぎっても、教室から離れた靴箱で宿題の話題を出す気だった。彼は何が何でも取りに戻ることが予想できたからな。偶然にも話の流れが上手く進んだのだ。ラッキーである。

 

 自分自身が助かるために、沢田綱吉がボコられることを回避してしまったが、マンガにも乗ってないプチ事件だ。問題ないだろう。むしろ感謝してほしいぐらいだと思いながら帰った。

 

 

 

 

 

 無事に部屋にたどり着き私はつぶやいた。

 

「……初めて知識が役に立ったな」

 

 つまり、今までは――。自分の頭の悪さでショックを受ける前に、私はマンガを読み始めた。




次とその次は、三人称。


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それぞれの思い 1

 ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ、サクラは寝転んでいた身体を起こした。少し前にツナ達から逃げれたためリラックスモードだったのだ。もちろん手にはマンガが握られている。

 

 身体を起こした瞬間、ノックも無くサクラの部屋のドアは開かれた。サクラの予想通り、ドアのところに居るのは母親だった。サクラは急にドアを開けられても怒りはしない。母親に言ってもすぐ忘れると気付いてるからだ。

 

「サクラ! 兄ちゃんが帰ってくるわ!」

「……そう」

 

 留学中の兄が帰ってくると聞いて、サクラは少し気が重くなった。嫌いなわけではない。多少変わっているが、いい兄と思ってる。ただ、苦手なだけなのだ。いくらサクラに甘く、わがままを聞いてくれるとしても、あのテンションの高さはついていけないのだ。

 

「空港までサクラが迎えに行ってね。お兄ちゃんが喜ぶから」

 

 サクラは露骨に嫌な顔をした。迎えに行けば、空港で抱きしめられると想像がついたのだ。それに1年ぶりに会うため、恐らくこれは回避できない。逃げようにも兄の方が頭脳・運動などが上回っているのだ。サクラはどうせ抱きしめられるなら人前は避けたいと思い、何か用事をつくろうとサクラは必死に頭をめぐらせた。そして偶然にも本当にその日は用事があることを思い出す。

 

「お母さん無理だ。私、その日は図書委員の活動がある」

「休めないの?」

「午前中だけだし、すぐ帰る」

「……そう。わかったわ」

 

 これで抱きしめられるのは家だと安堵し、サクラはマンガに視線を戻そうとした。

 

「サクラちゃん、ちょっと手伝ってほしいの。暑中見舞いを出したいのよ」

「……それはお母さんが書いた方がいいと思う」

「だって、私よりサクラちゃんの方が字が綺麗じゃない~」

「……わかった」

 

 サクラは母親にマンガを買ってきてもらうつもりなので、あまり強く言えなかった。それにサクラの方が字が綺麗というのは本当だった。兄にも勝てるかもしれない、サクラの唯一の特技である。勝てるかもしれないというのは、サクラは幼い時に兄のマネをして練習したせいで、ほぼ一緒の字と言ってもいいのだ。ちなみに、兄は初めから綺麗な字だった。

 

「今頃、サクラのお土産を買ってるわよ~」

「そうかも」

 

 サクラは時差があることに気付いていたが、母親に話を合わせた。言ってもすぐ忘れるのもあるが、サクラには叶えたい願いがあったのだ。

 

「普通がいいな」

「ふふ。それは無理よ~。だってお兄ちゃんよ」

 

 サクラは何も言えなかった。納得したくないが納得してしまったのだ。

 

 考えることを放棄し、サクラは母親の仕事を手伝うためにベッドから起き上がって1階に降りて行った。

 

 

――――――――――

 

 

 ツナは息を吐いた。それは自身が思っていたより大きな音となり部屋に響いた。そしてツナは頭を抱え込んだ。

 

 しかしそれは悩んでいたからではない。頭に強烈な痛みを感じたからだった。痛みの原因はリボーンが蹴ったからである。

 

「いきなり何するんだよ! リボーン!!」

「京子に振られたか?」

「ち……ちがうよ!!」

 

 ツナは文句を言うつもりだったが、リボーンに好きな子の名前を急に言われ、顔が真っ赤になり忘れてしまった。ちなみにリボーンはツナを励ますために蹴ったのだが、もちろんツナは気付いていない。気付かない1番の理由は励まし方がスパルタだからだろう。

 

「じゃぁどうしたんだ?」

「神崎さんとあまり話せなかったなぁって……」

「なんだ? 京子だけじゃなくサクラも好きになったのか? 他にもハルがツナを好いてるのに物足りねーとはやるな」

「んなー!! 違うって!! そもそもハルとはそういうのじゃないし!!」

 

 ツナは最近仲良くなった?ハルを思い出した。出会った次の日に惚れたと言われて、対応に困ってからあまり日にちはたっていない。今までモテたことがないツナの経験からすれば、ハルは凄く変わった子だった。もちろん、好意を抱いてくれてるのは純粋に嬉しいとは思っているが。

 

「それで、サクラがどうかしたのか?」

「え……。どうかしたって……」

 

 途中からずれた思考をリボーンの言葉で戻ったが、ツナは口ごもる。どうかしたと聞かれたが、サクラとは少し言葉を交わしただけで何も無かった。つまり、何も無かったのがツナを落ち込ませる原因だったので、咄嗟にリボーンの問いに答えることが出来なかったのだ。

 

 一方、そんなツナの様子を見てリボーンはサクラがどのような人間か思い出す。サクラは1人で居ることが好きなようで、少し観察力がいいだけの女子生徒だった。ツナの態度で、話しかけても反応が良くなくて落ち込んだというのは、これ以上聞かなくてもリボーンには理解できた。

 

 しかし、疑問に思う。ツナは今までダメツナとして過ごしてきた。ツナは好意を向けようとしない相手に自ら話しかけることはしない。それに女子だ。ツナが積極的に行動したことにリボーンは違和感を感じた。

 

「なんでサクラと話してーんだ?」

「え? それは……山本が助けてもらったって言ってたし……」

 

 リボーンは以前ツナから聞いたことを思い出した。山本は飛び降りる前にサクラは相談したと……。その時、サクラの言葉は山本に届かなかったが、山本はツナと同じぐらいサクラにも好意を抱いた。教室の様子を観察していれば、ツナの話は本当だというのはすぐにわかる。もちろん、サクラ本人がその好意を嫌がってるのも気付いたが、面白いので山本には教えずそのまま放置していた。山本が女子に無理強いをすることはないとわかってたのもあるが。

 

「それだけじゃねーだろ?」

 

 いくら山本が助けてもらったと思っても、まだ疑問は残る。山本のために話しかけて話せなかっただけでは、ツナがここまで落ち込むとは思えない。ツナもサクラと何かあったのかとリボーンは思ったのだ。

 

「う、うん……。なんていうか……山本から助けてもらったって聞いて、神崎さんを意識してみた時に、1人にしちゃいけない気がして……。最初は山本に任せれば大丈夫と思ってたんだ。でも……神崎さんは山本を避けてる気が……ううん、人と関わることを避けてる気がするんだ。そりゃ、神崎さんが用事のない時に話しかければちゃんと返事をしてくれるよ。獄寺君や山本と普段から一緒にいる前に、オレが話しかけた時もバカにせず普通に返事をかえしてくれたよ。でも、壁があるんだ。オレはそれをどうにかしたくて……」

「そうか」

 

 リボーンの返事は短かったがツナは嬉しくなった。自身でもよくわかっていないことだったため、話しても理解してくれるとは思わず、真面目に話せと言われ殴られると思っていたのだ。

 

「それなのに……夏休みに遊ぶ約束も出来なかった……。しばらく会えないのに……」

「家に行けばいいだろ。最近引っ越して来たからツナも知ってるんじゃねーのか?」

「そうだけど……。女の子の家だし……」

 

 リボーンの言った通り、サクラが引っ越して来る前から新しい家が建つとツナは母親から何度も聞いていた。家も遠いわけじゃない。しかし、少し前まで女子とまともに話したことがないツナからすれば、家に直接行くのはハードルが高い。

 

「それに忙しいみたいなんだ……」

「じゃ、学校で会えばいいだろ?」

「だから夏休みだから会えないんだって! 神埼さんは補習がないみたいだし……」

「ツナと違って平均点以上はあるみてーだしな」

「うっ……。って、なんでそんなこと知ってるんだよ!」

「裏の社会にも関わらず、情報収集は今じゃ当たり前だぞ。まっ、オレもサクラに少し興味あったのもあるけどな。今はその話は置いておくぞ。確か、サクラは図書委員で夏休みに図書室いる日があるぞ」

「え!? それって本当!?」

「ああ。8月1日から5日だったはずだぞ。だが、午前中しかいねーぞ」

「その日だと補習は終わってるし……。ありがとう! リボーン!」

「気にすんな」

 

 ツナは感動した。リボーンが来てから振り回された記憶が多く、何度も殺されかけたこともあり、優しくもないリボーンが本当に自身をマフィアのボスにする気があるとは思えなかったのだ。もちろんツナはマフィアのボスになるのは嫌だが、ボス候補の自身にもう少し優しくしてくれてもいいと思っていた。相談しても普通にアドバイスしてくれるとは思わなかったのだ。

 

「そのためには補習をクリアしねーとな。今からねっちりするぞ」

「ねっちりやだーー!!」

 

 

 

 

 

 いつものようにツナの叫びがこだましたのを聞いた沢田奈々が「今日も仲が良いわね」といいながら、夕食にとりかかった。

 




三人称は難しい。


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それぞれの思い 2

 堂々と道を歩く1人の男がいた。その男はすれ違う人々が彼をもう1度見るため振り返るほどの容姿端麗だった。彼は周りから向けられる視線を気にしない。産まれた時から彼にとってそれは日常なのだ。更に、彼は自身が選ばれた存在と思っているのもあるだろう。普通ならば、彼の考えが間違ってると誰かが注意しそのまま育つことはない。しかし、周りも認めてしまうぐらい彼は特異だった。

 

 そんな彼にも頭があがらない人物が3人いる。まず両親だ。彼いわく、自身を産んで育ててくれた両親を尊敬するのは当たり前らしい。間違ってはいないが、それを当たり前のように話すことさえ、なかなか難しいだろう。

 

 最後の一人は彼の妹だ。

 

 彼は産まれてくる妹に興味はなかった。しかし、彼は産まれたばかりの小さな妹を抱き、大事にしようと思った。それは彼にとって初めて生まれた感情だった。

 

 妹は彼と違って平凡だった。彼が1度で出来たことは妹は何度も何度も繰り返さなければ身につかない。彼にはそれを理解出来なかった。

 

 そんな妹を彼は見下さなかった。出来ないなら彼は何度でも付き合い教えた。これだけ聞けば、いい兄だろう。しかし、妹は彼と違い完璧ではない。いくら教えても全てのことをその高みに登るのは不可能に近かった。そのことを気付いた妹は彼と距離を置いた。

 

 彼は妹と話す回数が減った。歳が離れてるのもあり時間が合わないのも原因と思えたが、妹が自身を避けてる気がしたのだ。

 

 彼は考えてもその理由がわからず、妹に尋ねることをした。妹は諦め、兄に本当の気持ちを話した。兄と違い私にはできないと……。

 

 兄は自分の妹だから大丈夫と声をかけようと思ったが、泣き出した妹を見て何も言えなくなった。いつも無理して笑って話していたのではないかと思い、彼は産まれて初めて反省した。

 

 反省して接すれば、妹との仲はすぐに元に戻ったが、妹が事故に遭い生死をさまよった。運よく助かったが、彼は何も出来ない自分が悔しく、人目につかないところで何度も泣いた。小さき妹を守る力がほしいと願った。そして、彼は努力することを覚えた。

 

 彼にとって妹は特別だった。他にも今まで感じたことのない感情を1つ1つ教えてくれたのだから……。

 

 一方で、自身のせいで妹に友達が出来なくなってしまったことを彼は気に病んだ。もちろん、彼がそう思ってると知れば、妹は悲しむので表には出さないが。妹に大事な人が出来るまで妹の笑顔を守り続けると心に誓った。そして、大事な人が出来ても守り続けるだろうという未来を想像して笑った。この感情も妹からもらったものだった。

 

 そんな彼に学校からフランスの1年留学の話が来た。両親は彼の意思に任せると言ってくれた。彼は妹を守ると誓っているため、当然のように断るつもりだった。それにもし留学すれば留学中に引越しすることになるのも心配だった。妹が街に馴染めるのはわからないのだから……。

 

 しかし、妹に「チャンスを掴まないのはバカだ」と、一喝されて「心配しなくても大丈夫。新しい街で友達を作る。約束するから」と妹が笑顔で言ったのだ。彼が気にしていることを妹は気付いていたのだ。情けないという気持ちもあったが、それより自身が寂しくなると思ったことに少し笑ってしまった。

 

 彼は妹の言葉を信じて留学することにした。妹はその約束を守る気がないと知らずに――。

 

 

 

 そして、1年がたち彼はもうすぐ帰国する。彼が外を出ていたのはお土産を買うためだった。彼は妹に高い物を渡しても喜ばないと知っていたので、値段に気をつけて妹が喜びそうな物を売ってる店を転々とした。もちろん彼は両親にも感謝を込めてお土産を渡すつもりだが、どうしても妹ばかりに気合が入るのは仕方の無いことだった。

 

 しばらくすれば彼は両手にお土産を持っていた。自身でも少し買いすぎたと苦笑いし、これ以上は持てば、お土産の質が下がると判断し寮に帰って行った。

 

 帰ってすぐにルームメイトに買いすぎと言われ、彼はまた苦笑いしたが、もうすぐ妹と会えるので幸せそうに笑ったのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 草壁は気が重かった。普段なら雲雀に頼まれた仕事を喜んで報告するのだが、今回はいつもと違ったのだ。

 

 頼まれた仕事は雲雀の靴箱に手紙を投函した人物の特定だった。雲雀の靴箱に投函したという目撃情報は一切なかったため、全校生徒が容疑者になった。そのため雲雀の許可もらい、夏休みの過ごし方と称して全校生徒からのサインを集めた。それは筆跡を調べるためだった。本来なら筆跡で犯人を見つけるのは難しい。が、字が綺麗だったのだ。

 

 ただ字が綺麗なだけならその方法では探せない。だが、手紙の字は「とめ」「はね」「はらい」が完璧だった。草壁はいくら雲雀に出す手紙といっても全ての字が完璧になるとは思えなかったのだ。これは犯人の癖という結論に至ったのだ。

 

 そして、該当者は1人しかあがらなかった。

 

 もちろん、サインだけでは確定はしなかった。他の筆跡も検証したのだ。夏休みに入ったため、筆跡を探すのは苦労すると思ったが、図書委員の貸し借りの記録用紙があったため検証することでき、草壁は確信したのだった。

 

 草壁はなぜこのような周りくどいことをしてるかというと、目撃情報がなかった点から犯人は警戒しているのが予想出来たからである。もし草壁が風紀委員の権力を使い、筆跡の提出を求めれば、必ず字を崩すと確信していた。

 

 このように苦労して草壁は犯人を特定したのだが、気は晴れなかった。

 

 草壁は特定した後、その人物を調べた。真面目な生徒という印象しかなく、教師からの評価も良かった。つまり草壁には犯人は本当に雲雀に助けを求めて手紙を投函したとしか思えなかったのだ。

 

 しかし、雲雀が草壁に命令したということは雲雀は指図されたのが気に食わず咬み殺すためと予想している。草壁はこの生徒のこれからの運命に同情してしまい気が重かったのだ。もし、風紀を乱すような人物なら一切同情しなかったが。

 

 草壁は意を決して雲雀に声をかけた。いくら同情したとしても報告を怠ることは出来ない。それに、この生徒はただの被害者と草壁は雲雀に直接伝えることは出来るのだから――。

 

「委員長、報告します!」

「なに」

「特定の件ですが……1ーAの神崎サクラという人物でした」

「そう。……ああ、彼女ね」

 

 草壁は驚いた。草壁は報告のために彼女の資料を雲雀に渡したのだが、彼女の写真をみて雲雀が反応するとは思わなかったのだ。草壁は雲雀の知り合いと思い声をかけようとしたが、知り合いなら匿名で手紙を出す必要がない。それに雲雀は名前を出しても反応しなかったのだ。

 

 しかし、そうなると草壁は混乱した。草壁が調べた限りでは雲雀が興味を持つ人物とは思えなかったのだ。

 

 結局、草壁は悩みながらもそのまま報告することにした。

 

「……彼女は特に目立った行動もなく、成績も悪くありません。教師からは真面目な生徒と信頼されています」

「だろうね」

 

 草壁は雲雀の返事を聞いてますます混乱する。草壁が調べた通りならば、雲雀の興味がもつ相手にならない。しかし、雲雀は彼女を知っている。草壁は雲雀に質問する決意をした。

 

「恐れながら委員長……彼女はいったい――」

「さぁね。僕にもわからない」

「――わからないとは……」

 

 草壁は雲雀と彼女が出会い名前を尋ねた時の話を聞いた。雲雀に対する態度は他の生徒との違いは大してないと感じ、ますます疑問が解けない。

 

「僕もその時は興味がなかったよ。でも、目が気になった。あれは――僕を観察してる目だ」

 

 草壁は息を呑んだ。雲雀が発した瞬間、空気がかわり猛獣が暴れる寸前と感じたからだ。しかし、雲雀が暴れることもなくすぐに空気は元に戻った。

 

「……何を隠してるのかわからないし、すぐに咬み殺そうかと思ったよ。でもそれじゃぁつまらない。彼女は行動を起こすまでは抵抗せず、ただ咬み殺されると思ったからね」

「それは……危険です! 委員長! 彼女は力でくるとは思えません!」

 

 雲雀の話を聞いて、草壁は資料の信憑性はほぼないと判断した。だが、雲雀の前で観察するような度胸がある人物と考えれば、力だけで来るとは思えない。そして、手紙を出したのは雲雀を見極めるためだったとも想像できる。草壁は雲雀が興味が持つのが当然と思うほど彼女は危険人物と結論したのだった。

 

 草壁はこのまま彼女を見過ごすのは出来ない。雲雀では対処できない事態が起きる可能性があるのだ。

 

「僕に口答えする気?」

「そ、それは――」

「ならいい。彼女に手出ししないでね」

「――わかりました」

 

 草壁は雲雀に気付かれないように溜息を吐いた。今の雲雀に言っても何を聞いてもらえず、咬み殺されるとわかっていたからである。

 

「少しは楽しませてくれればいいけど――」

 

 雲雀は草壁の気持ちに興味はなく、つぶやきながら眠るのであった。

 




兄はどこかで主人公をしてそうな雰囲気です
しかし、残念。主人公は妹w
なので兄視点で書くことは多分ありません。三人称では書きますが。

雲雀さん……w
しっぽをふるの効果を観察してただけなのに……w

次からまた主人公視点に戻ります


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あくまで委員活動

お気に入り数が増えた気がする。
いつも言いますが、期待しないでくださいね
無理と思えばすぐUターン!ストレスが溜まるだけですよ!


 今日は図書委員の活動のため、学校に行かなければいけない日だ。本当は引きこもっていたい。だが、委員活動をサボれば空港に行かなければならないし、雲雀恭弥に咬み殺される可能性がある。初めから私は行かないという選択肢を選べないのだ。

 

 そんな私だが、少し運はあるのだろう。原作をまだ知らなかったのに図書委員になったのだから。図書委員は図書室で活動することが多い。沢田綱吉は本の返し方がわからなかったシーンがあった。つまり滅多に図書室に来ないのだ。気になるのは8月ごろに『恐竜のひみつ』を借りることぐらいだな。そして、他の原作キャラで図書室に来そうなのは獄寺隼人ぐらいである。私の知識では彼はUMA関係の本を借りるのだが、まだ来たことがない。恐らく転校してすぐなので機会がなかったのだろう。私は家から出るのは嫌だったが、学校の中で図書室はかなり安全地帯なのだ。図書委員を選んで正解だった。

 

 ……そう思ってた時期もあったさ。家から出る前もそう思ってた。職員室にカギを取りに言った時もまだ思ってた。私の希望が打ち砕かれたのは図書室が見えたときだ。理由は沢田綱吉と獄寺隼人の姿を確認してしまったからである。

 

「お、おはよう! 神崎さん!」

「…………」

 

 私が来たのがわかったのだろう。彼らから普通の挨拶と睨みの挨拶があった。睨むなら来るなよと思いながら、最低限の挨拶をかえす。痛いのは勘弁だからな。

 

 私は彼らが来た理由を考えながら扉を開け準備をする。一般的に考えると本を借りたり読みに来た。最悪の場合は私に会いに来た。……後者の確率の方が高いな。私がいることがわかっていた声のかけ方だった。しかし、活動日を私は誰にも教えてない。断言できる。友達がいない私は話す相手もいないからな。そうなると……彼の仕業だろう。凄腕の殺し屋に狙われた場合の対処法はどうすればいいんだ?ラジカセを持ってるCOOLなボディーガードを探すべきかもしれない。

 

「あの、山本は部活で来れなかったんだ」

「興味ない」

「そ、そう……」

 

 落ち込むな。そして睨むな。よく考えろよ……。私は一言も山本武のことを聞いていない。

 

「それで何? 君達以外はいないけど、一応ここは図書室だから私語は厳禁だ」

「そ、そうだね……。あ、あのさ! 山本の練習は午前中で終わるんだ。それで……神崎さんも委員会の仕事が午前中で終わるよね? だからこの後一緒に遊べないかなーって……」

 

 わざわざ遊びに誘うために朝から待つ必要があったのだろうか……。私の活動が終わる直前で問題ない気がする。

 

「用事がある」

「そ、そうだよね……」

「おい! お前!!」

「騒ぐなら図書室から出て行って」

 

 少し言い過ぎたせいで危なかったが、必死に沢田綱吉がなだめているおかげで助かった。だが、私はなだめず出て行ってくれる方が嬉しいんだが。

 

 そう思いながら準備が終わったので、彼らは放置し本を読むことにする。

 

「あの……」

 

 まだ頑張るのか……。普段の彼なら、とっくに諦める気がする。私と彼はそこまで好感度は高くないはずなのに不思議だ。

 

「何?」

「お勧めの本とか教えてほしいんだ……。いい機会だから本を読んで来いって言われたけど、何がいいのかわからなくて……」

「……そこに座ってて。適当に持ってくる」

「う、うん! ありがとう!」

 

 はっきり言わなかったが、彼が朝早く来た理由はリボーンに言われたからなのだろう。……それにしても難題だ。あくまでこれは図書委員の仕事だから親切に本を探してあげるが、彼の読みそうな本がわからない。知識があると言っても、彼が本を真面目に読んでるシーンなどないのだ。

 

 

 

 

 いろいろ悩んだが、これでいいだろう。文句を言われても私は知らない。自分で探せ。

 

「どうぞ」

「ありがとう! ――あの……神崎さん……どうしてこれを……?」

「役に立ちそうな気がしたから」

 

 沢田綱吉が心の中で微妙なリアクションしているようだ。顔に出てわかりやすい。

 

「見せて下さい! 10代目! ――ライオンの飼い方、きのこ図鑑、平行世界とは?、バイク運転術。――なんなんだ! これは! 真面目に選びやがれ!!」

「1番のお勧めはライオンの飼い方」

「ふざけやがって……!」

 

 失礼な。私は真剣に未来で役に立ちそうなものを選んだつもりだぞ。

 

「ちなみに君にはこれ」

「こ、これはUMAの神秘な世界……発行部数が少ない幻の一冊がなんでここに――」

 

 私が知るわけないだろ。雲雀恭弥に聞けばわかるかもな。まぁ獄寺隼人が静かになって読み始めたからいいとしよう。未来で役に立つとは思わないけどな。問題は沢田綱吉である。

 

「気に入らないなら返すけど」

「えっと、ありがとう。読んでみるよ」

「そう。持ってきた本は写真や絵が多いから最初にはいいと思う。後で読書感想文に良さそうな本も持ってくる。用意してるなら持ってこないけど」

「ほ、ほんと!? 助かるよ。実はどうしようかと困ってたんだ……」

 

 ……失敗した。つい、真面目に委員活動をしてしまった。沢田綱吉の好感度があがった気がする。

 

「気にしなくていい。委員の仕事だから」

 

 あくまで委員の仕事ということを伝えたかったが、彼は気付かなかったみたいだ。ありがとうと笑顔でお礼を言われてしまったからな……

 

 今回は諦めて課題図書を探そう。自分の分もついでに探すか。……沢田綱吉には先に読書感想文の書き方が書いてる本を渡したほうがいいかもしれない。

 

 

 

 数十冊ほどを沢田綱吉のところに持って行けば驚かれた。誰も全部読めとは言わないから安心しろ。

 

「この中から選べばいいかも」

 

 今年の課題図書はなかったが、去年や一昨年の課題図書はあった。この中から選べば間違いない。先生も去年か一昨年に目を通した本のはずだしな。後は「先生のお勧め!」というプリントに書いていたものだ。

 

「ごめん……。オレにはどれがいいか……」

「私と君では好みが違う。これ以上は私には絞れない」

「そ、そうだよね……」

「目次と最初の数行だけ読めばいい」

「え!?」

「目次と最初の数行を読んでみて、興味が出たものにすればいい。本によって徐々に面白くなる話もあるけど、普段から読まないなら最初に引き込まれないと読むのがつらい。一度面白くないと思ってしまえば、途中で投げ出しそうになったりすることが多い。その後に感想文を書くのはもっとつらい」

「そうかも……」

「でも、これは私の方法だから参考程度にして」

「ううん。助かったよ!」

「ん。終わっても置いといていいから。私も後でその中から探す」

 

 先にしてと言われたが、今読んでる本を読み終わればすると返事した。私は平行読みが苦手なのだ。続きが気になり他の話が頭に入らない。私の返事に彼は納得したらしく、本を読み始めた。静かになったし今度こそ読み始めよう。

 

 

 

 

 

「……ぉぃ。………おい!!」

 

 少し真剣に読みすぎたみたいだ。顔をあげれば獄寺隼人がなぜかきれてる。沢田綱吉も彼の声にビックリしてるぞ。彼は私の目線でビックリさせてしまったことに気付いたのか、10代目!すみません!と何度も謝り倒し始めた。

 

「君達しかいないけど、図書室では静かに」

 

 図書委員として注意した。べ、別にうるさくてイラッとしたからではないぞ。あくまで委員の活動として注意したんだぞ!

 

 ……話を変えよう。なぜ図書室の利用者が彼らしか居ないのだ。わざわざ夏休みに図書室を開ける必要がない気がするが、沢田綱吉みたいな人のために開けてるのだろう。「先生のお勧め!」というプリントもそのためにあるわけだしな。お盆があければ利用者が増える気がする。

 

「それで何?」

 

 いろいろ思考が脱線したが、獄寺隼人が私を呼んでいたことを思い出した。今、いいところなんだ。早く用件を済ませて本の続きを読みたい。

 

「………………だ」

 

 ボソボソと言い、何を言ってるかわからない。静かにしろと注意はしたが、用件が聞こえないぐらいの声は困る。これはもう無視してもいいのだろうか。……さすがにまずい気がする。なぜか彼が私に期待の目で見てるしな。

 

「もう少しはっきり言って」

「……聞こえてねーのかよ!? この本はどこ置いてあったんだ!」

 

 彼は音量の調節が出来ないらしい。困ったものだ。これ以上うるさいのは勘弁なので、急いで彼を本棚の前に連れて行けば奇妙な声をあげた。今度は何だと思ったが、ずっと探していた本を見つけたらしい。私は興味がないので彼を放置して席に戻った。

 

 そして、また本を読み始めようとして気付いた

 

 ……言っておくが、彼らと馴染んではないぞ。あくまでこれは委員会の仕事だ。誰に言い訳すればいいのかわからないが、必死に伝えたくなった。ついでに、私は悪魔ではないことも伝えたいと思いながら本を読み始めた。

 




知ってる人はタイトルでネタバレしたと思います
委員活動だけにしようか悩んだんですけどねー。たまにはいいでしょうwと思うことにしたw


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いらない

 本を読んだ後、読書感想文の本を選び終われば今日の委員活動の終了時刻になった。あれから特に会話もなかったな。彼らがまじめに本を読むとは思わなかった。騒ぎ出せば、外に出すつもりだったのが。

 

 先生も一度様子を見にきたが、静かなのですぐ去っていった。少しは居ろよ。部活の担当もしてるらしいので、沢田綱吉達しかいない状況だったが、許してあげよう。私は心が広いのだ。

 

 彼らに今日は終わりと声をかければ、続きが気になり借りることにしたらしい。ただ、借り方がわからないので教えてあげた。獄寺隼人がわからないのは理解できるが、沢田綱吉は入学案内で聞いてるだろ。まぁこれも委員の仕事なので文句は言わないが。

 

 彼らはこの後に山本武と待ち合わせらしい。誘われたが当然断った。なぜ私が一緒に行かないといけないのだ。何度もいうが、あくまで私は委員の仕事だから親切だったんだぞ。全く、このネタを何度引っ張らす気だ。勘弁してくれ。私は君達と群れるつもりはない。ちなみに、気分で雲雀恭弥風に心の中で言っただけで深い意味はない。それに現実では獄寺隼人がいるので優しく言わないといけない。正直、面倒だ。

 

「……君たちが帰った後に戸締りがある。その後にカギを職員室にかえしにいくし、先生に報告しないといけないから」

「そっか……。オレ達と違って神崎さんは委員だったんだ……」

 

 ちょっと待て。いつから仲良く一緒に来たと錯覚していた?

 

 いろいろツッコミをしたいが、我慢して彼らを追い出すことを優先させよう。私の心の中を読んだのか、意外にも彼らは協力的ですぐ帰ろうとする。今度からも読んでくれ。――いや、やっぱりやめてくれ。私の残念すぎる思考がばれてしまう……。

 

「今日はありがとう。本当に助かったよ」

「気にしなくていい。委員の仕事だから」

 

 また同じセリフを言ったが、彼は本当の意味に気付かない。困ったものだ

 

「…………ょ」

 

 獄寺隼人が小さな声で何か言った気がするがスルーだな。彼なりに頑張ってお礼を言ったんのだろう。気付かないフリをするのも優しさだ。まぁ反応してこれ以上関わるのが嫌なのが本音だが。

 

 その後、彼らが図書室から外に出たのですぐに扉を閉めれば、なぜかまた扉が開いた。これ以上、関わりたくないのだが……。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

「何」

「なにって……」

 

 沢田綱吉を見れば、戸惑ってるのがわかる。獄寺隼人は少し放心してそうだ。恐らく用があるのは沢田綱吉だけだろう。もう1度、彼を見れば様子が変だった。だが、この顔は知識の中でよく見る顔な気がした。

 

「……また明日! 絶対来るから!!」

「は?」

「神崎さん! また明日!」

「わ、わかった……」

 

 沢田綱吉が走り去っていった。放心してる獄寺隼人を残して――。置いていくな。しょうがないので声をかけよう。邪魔だ。

 

「追いかけないのか?」 

「……明日も用意しろ! 待ってくださーい! 10代目ーーー!!」

 

 追いかけながら言っていたが、ちょっと待て。私はUMAのことは詳しくないぞ。君がUMAが好きなのを知ってるだけだ。……うん、少しずれてる気がする。

 

 少し冷静になって気付いた。なんてことだ。なぜか明日も会うフラグが立ってる。それも勢いに押され、承諾の返事までしてしまった。

 

 ……休むか。

 

 ちょうどいい。戸締りした後に先生と会うので何とかしてもらおう。そうと決まれば善は急げ。早く戸締りしよう。

 

 

 

 

 先生は意外にも職員室に居た。部活を見ていないなら図書室の様子を見に来いよ。

 

「お? 神埼、戸締り終わったのか? 今から行こうと思ってたのにな……」

 

 ……本当か?さっきまでお茶を飲みながら他の先生と話しながら笑ってただろ。私の中で先生の好感度がドンドン下がってるぞ。まぁ見なかったフリをするけどな。

 

「先生、明日は用事があって来れません」

「わかった。明日はもう1人の委員が来れると思うし大丈夫だろう」

 

 ……もう1人の委員の存在を忘れてた。よく考えれば……そうだよな。1人で委員活動するわけがない。興味ないので相方がいることすら忘れていた。しかし、なぜ今日は来なかったのだ。気になったので先生に聞いてみる。

 

「あー、言わなかったか? 朝から電話がかかってきて、スーツを着た赤ん坊にボコボコにされたとか……。ウソかと思ったが、両親からも休ませてほしいと電話があってな。だから今日は休ませたが、後で様子を見に行こうと思ってる」

「先生、やっぱり明日頑張って来ます」

「ん? 大丈夫なのか?」

「はい。もし明日も来れなくなったら大変ですし、なんとかします」

「そうか。助かるよ。神崎、ありがとう」

 

 先生は私が心の中で滝のような涙を流してることに気付かなかったようだ。

 

 

 

 

 

 このヤロー!と思いながら、履き替える靴を床に叩きつけるのはしょうがない気がする。一体、リボーンは何を考えてるんだ。私は失敗して彼に目をつけられたのだろうか。しかし、それならば、リボーンが現れなかったのがおかしい。私の知識では彼は必ず目をつけたものには顔を出す。

 

 ……考えてもわからないな。わかるのは私は行かなければ危険ということだ。そして、行くだけで助かる可能性が高い。今日、彼は私の前に姿を現さなかった。つまり、今日のように本を読んでいれば大丈夫ということだ。まだ私には助かる道はある。……多分。

 

 いや、待てよ。1度、ボコボコにされた方がいいかもな。リボーンは女子には優しくする方だ。少し我慢すれば大丈夫な気がする。全治何ヶ月になるかはわからないが、殺されはしないだろう。ボコボコにされれば、彼らと関わりたくない正式な理由が出来る。よし、コレで行こう。痛いのは我慢しよう。

 

 少し上機嫌で靴を戻そうとして私は過ちに気付いた。同じようなことをしたモブキャラがいるじゃないか。私の情報収集によると、ハゲた彼は大人しく過ごしている。当然、彼は沢田綱吉達ともう関わってはいない。しかし、彼はボンゴレ狩りの対象になっていた。――ボコられた時点でアウトじゃないのか……?

 

 私はゾッとした。そして、モブキャラの大先輩に感謝した。彼がいなければ私は危うかった。今の私にはこれピッタリあうだろう……初心忘れるべからず。私は彼の犠牲のおかげでモブキャラ・クラスメイトKを目指すと決めたんだ。委員として手伝ってあげても、親しくするつもりはないと私は再確認した。

 

 つまり、休めない。溜息をつきながら靴を戻すのはしょうがないだろう……。

 

「よぉ! 神埼!」

 

 この声は……数週間前に何度も聞いた気がする。恐る恐る振り返れば、沢田綱吉達がいた。当然、先程の声の主の山本武も居る。3人は無事に合流して帰るところだったらしい。靴を叩きつけて直す時間がもったいなかった……。すぐ帰ればよかったと後悔した。

 

「ツナ達から聞いたぜ。オレの本も探すの手伝ってくれねーか?」

「……委員の活動時間なら」

「やりぃ!」

 

 喜んでるが、私が委員の活動中は部活だろう。本当に委員の活動中しか手伝う気はないぞ。

 

 とにかく私はこれ以上は話したくないので、教えずここから去るべきである。それに本気で急いで帰らないと兄がうるさくなる気がする。

 

 少し早歩きで歩いて行けば、彼らが後ろからついてくる。だが、彼らは私と違って急いでる感じではない。これは……彼らの足が長いせいである。なぜか舌打ちしたくなるが、そんな暇があれば早く歩こう。追いつかれた方が面倒だ。

 

 私は足早に歩いていたが、校門が見えた時点でもの凄い勢いでUターンした。彼らが驚いていたが、かまってる暇はない。今すぐ私はここから逃げ出したいのだ。しかし、遅かった。先回りされてもう目の前にいた。何度もいうが、足が長すぎる。決して私の足が短いわけではない。――と、思いたい。

 

 目の前の人物に追いつかれた時点で私は諦めて目をつぶった。しかし、何もない。衝撃も話しかけられることもなかった。一体何が?と、疑問に思いながら目を開けた。

 

「……バラ?」

 

 思わずつぶやいてしまった。私の視界いっぱいにバラの花があったのだ。何種類あるのかもわからない。つい、つぶやいてしまったのはしょうがないだろう

 

「再会を記念して。本当は桜を用意したかったのだが……。まぁこれは僕の気持ちだ。受け取ってくれたまえ」

 

 桜は無理だろ。時期が違うし木を渡すつもりだったのかよ。……ちょっと待て。ツッコミを間違った気がする。家族との再会に花をプレゼントする兄がどこにいる。……ここにいるな。しょうがないのでバラを受け取る。……後で部屋に飾るしかないな。バラを受け取ったことで気付いた。沢田綱吉達がドン引きしている。彼らの反応は正しいだろう。なぜなら私もドン引き中だ。

 

「会いたかった。サクラ……」

 

 無駄に色気を振りまくな。恐らく私の顔は引きつってるだろう。

 

「サクラも寂しかっただろう? さぁ! 僕の胸に飛び込んできたまえ!」

 

 両手を広げて待ってる兄を見て、私は後ずさる。1年前よりいろいろパワーアップしてるのは気のせいだろうか。

 

「神崎の知り合いか? おもしれー人だな!」

 

 ……面白いで全て済ませた山本武が凄すぎる。

 

「野球バカ! どこを見てそう思うんだよ!? 変な奴に絡まれてるだけだろうが。……チッ。めんどくせぇ……。おい! どっか行きやがれ!!」

 

 ……すまぬ。その変な奴は兄なのだ。まさか彼らに申し訳ない気持ちになるとは思わなかった……。それに獄寺隼人がわざわざ助けようとするとは思わなかったな。何か異変が起きてるかもしれないと思ったが、沢田綱吉は変わらない。頑張って獄寺隼人と一緒に来たが逃げ腰である。

 

「君達はサクラのなんだい?」

「ただのクラスメイト」

 

 誰かが何か言う前に私は急いで兄の問いに答えた。山本武が「そりゃないぜ」と言っているが無視だ。

 

「……ふむ。僕はサクラの兄の桂だ。いつもサクラが世話になってるみたいだね!」

「えーーー!! ウソーー!! この変な人は神崎さんのお兄さんーー!?」

「ハハッ! 神崎、おもしれぇ兄貴だな!」

「……まじかよ。変な奴すぎるだろ……」

「褒めてもらっても困るね!」

 

 誰も褒めてない。いや、山本武は褒めてるかもしれないが。――それにしても皮肉だな。……私は何を考えるんだ。早く帰るべきである。

 

「校内に入ると不法侵入になる」

「おっと、僕としたことが……このままだとサクラに迷惑をかけてしまう。今すぐ許可を貰いに行くよ!」

「出ればいいだろ!?」

「はは。わかってるさ。久しぶりにサクラのツッコミがほしくてね!」

 

 額を手で押さえるのはしょうがないと思う。1年ぶりの兄のテンションで頭が痛くなったのだ。

 

「サクラっ!? 熱でもあるのかい!? 今すぐ病院に行かなければ!! 大丈夫! 僕がついてる!」

「熱はない!!」

「熱がないだって!? それは大変だ!!」

「平熱だから!!」

 

 ツッコミが追いつかない。とにかく、横抱きしようとするな。

 

 本当に私が平熱とわかって兄は落ち着いたらしい。今のうちに兄のインパクトで放心してる彼らと離れよう。まぁなぜか1人だけ楽しそうに笑ってるけどな。……天然恐るべし。

 

 彼らと離れるには兄を動かすほうがいいだろう。これは使いたくなかったが、しょうがない。諦めよう。

 

「家に帰ろう。――お兄ちゃん」

「……! そうだね! 僕達の城に今すぐ帰ろう!」

 

 切り札を使った影響か、エスコートするために腰に手をまわされてしまった……。早く城に――家に着いてほしい……。切に願う。

 

 

 

 

 

「先程、サクラに『お兄ちゃん』と呼ばれ、幼いサクラが『お兄ちゃん、お兄ちゃん』と僕の後ろをついて歩く姿を思い出したよ。小さくて可愛かった……。もちろん、今のサクラも可愛いけどね!」

「……そう」

 

 頼むから静かにエスコートしてほしい。私はバラの花束を持って街中を歩くだけでも恥ずかしいのだ。沢田綱吉達とは無事に離れることが出来たが、私の心のライフはゼロになりそうだ。『お兄ちゃん』という切り札を使うんじゃなかった……。

 

「サクラ」

 

 急に兄の声が真剣になった気がする。慌てて兄を見れば、真面目な話らしい。まぁ街中でしてもいい内容みたいだが。

 

「何?」

「本当に彼らとは友達ではなのかい?」

「違う。さっきも言ったけど、ただのクラスメイト」

 

 彼らと友達とか勘弁してほしい。死亡フラグしか立たない。

 

「……彼らはいい子達と思うよ。僕と会っても彼らはサクラを軸としていた。彼らはサクラを『僕の妹』として見ていない」

「そうみたい」

「やはり、サクラも気付いていたんだね! 彼らとはいい友達になれるよ!」

「ならない。必要ないし」

「……サクラは友達を作る気はないのかい?」

「友達はいらない」

 

 私は兄の顔を見ていられず、バラの匂いをかぐフリをして下を向きながら歩いた。その後、家に着くまで兄は無言だった。静かにエスコートしてほしいと思っていたけど、この時はなぜか悲しくて話してほしいと思った……。

 

 

 

 

「どうだい! 僕のお土産は! これはサクラに似合うと思って買ってきたんだ! これもサクラにはぴったりだよ! これはサクラが好きそうな物だ! 他には――」

 

 ……うん。頼むから少し静かにしてくれ。

 




少しシリアスだったかも?
まぁ兄のせいで空気がすぐ壊れますけどねww


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夏の過ごし方

 私は自身を褒めてやりたい。夏休みは地獄だったのだ。意外にも沢田綱吉達のせいではない。彼らは5日連続で図書室に来ていたが特に会話はなかった。委員が座る席の前に「私語厳禁」と勝手にポスターを貼ったのが効果があったのかもしれない。私の字は綺麗だからな。先生が書いたようにしか見えなかったのだろう。まぁ山本武も来た日は面倒だったが。練習がない日があったらしい。面倒と言っても、沢田綱吉と同じ事をして放置したけどな。

 

 山本武が選んでいる間に沢田綱吉は読書感想文を書こうとしていた。なぜか彼は私に質問しようとしてたが、獄寺隼人に教えられていた。教えていた声が少し大きかったが、ファインプレーだったので注意するのはやめた。そして、日をまたいたが彼は読書感想文を無事に仕上げたらしく喜んでいた。これで彼らが学校に来る用事がなくなったので私も嬉しかった。ただ、もう少し早く仕上げてくれとも思う。後少しで私の委員活動も終わるのだ。つまり、明日から来なくていい。タイミングが悪すぎる。非常に残念だった。

 

 彼が借りていた本を返す時になぜかお礼を言われたが、私は何もしていない。だから、お礼をするために誘われたが、当然断った。適当に断ると当然のように獄寺隼人が怒るので「用事がある。それに私は委員活動の1つ。だからお礼は活動でもないのに手伝った彼にするべき。彼と出かければ?」と言えば、「右腕として当然のことです!」と沢田綱吉に向かって言っていた。その後、沢田綱吉がコントのように叫びながらツッコミをしたので、外に追い出されていた。最後の最後に追い出されるとはオチも完璧だな。と、変なところで感心したのはヒミツだ。

 

 ちなみに追い出したのは先生である。様子を見にいこうと思っていたらしく、廊下にまでツッコミが聞こえたらしい。利用者は彼ら達だけじゃなかったので、追い出されるのは当然のことだった。終了時刻間近だったのもあると思うが。 

 

 このように夏休みは彼らとは特に何もなかった。問題は兄である。

 

 初めに違和感を覚えたのは兄が帰ってきた次の日だった。私は委員の仕事のため起きるのが早かった。しかし、私が起きた時間にはもう兄がいなかったのだ。正直、前日のお土産攻撃を経験した私は拍子抜けだった。兄は朝からうるさく、学校についていくとか言いそうで警戒していたのだ。

 

 そのためお母さんに尋ねたところ、兄は就職活動の準備のために学校へ行ったらしい。この時の私は少しだけ違和感を覚えたが、帰ってきて次の日に行くとは偉いなと感心した。

 

 次に違和感を覚えたのは初めに違和感を覚えた日の昼。沢田綱吉達から無事に逃げ、家に帰ってる途中だ。歩いてるだけで周りから視線を感じたのだ。しかし、私はそれを昨日のバラ事件が原因と1人で納得したのだった。今なら分かる、それは間違いだったと断言できる。

 

 本格的に気付いたのは次の日の朝だった。ちなみに、今日も兄が朝から学校に出かけてるとお母さんから聞いたときは気付かなかった。昨日、兄が遅くに帰ってきたのも知っていたにも関わらず……。

 

 私が学校に行くために外へ出た時にやっと気付いたのである。何があったかというと、外に出た瞬間に「桂さんの妹」と見知らぬ人達が私を見ながらコソコソ話していたのだ。

 

 私は嫌な予感がしてすぐさま家に戻り、兄のケイタイに電話をかけた。

 

『やあやあ、待たせたね。どうかしたのかい?』

「今、何してる?」

『おや? サクラからとは思わなかった!』

「今、何してる?」

『ふむ? 今は並盛駅にいるが急用かい?』

 

 この時点でおかしいことに気付くだろう。私が起きた時には兄はもう出かけていた。それなのにまだ並盛駅にいるのは変なのだ。

 

「今、何してる?」

 

 バカも一つ覚えみたいに同じ言葉ばかり繰り返す。それだけ早く私の質問の正確な回答がほしいのだ。

 

『この街に引っ越してまだ半年もたってないだろう? 挨拶回りさ! 心配しなくていい。サクラのこともしっかりお願いしたからね! もちろん抜かりはないさ。サクラの写真を見せてるからね!』

「…………」

『おや? どうかしたのかい? 感動して言葉も出ないんだね! 気にしなくていい。兄として当然のことをしたまでだからね!』

 

 呆気に取られて言葉が出ないだけである。

 

『もしかして、怒っているのかい? すまない。以前、僕のせいでいろいろあったからね……。早めに対処したほうがいいと思ったのだよ……』

 

 兄の言うとおり、昔にいろいろあった。兄と比べられるだけならまだいい。兄の妹と知れば手のひらを返したような態度や暴言があった。騒動がおきてもすぐに納まったが、あまり良い気分ではなかった。兄が妹を大事にしているという情報を掴み静かになっただけなのだ。当然、腫れ物のように扱われ、私は友と呼べる人は1人も出来なかった。まぁ納まるだけいい方なのだろう。世の中には苦労してる人は大勢いる。それに作ろうとする努力を私は自ら放棄したのもあるしな。

 

 ずっと兄はそのことを気にしている。そして、兄は私に甘すぎた。兄は私が努力しないことに怒りもせず、守るように行動するようになった。昨日のバラも兄が私を守るために周りを牽制するための行動だったのだろう。少し方向がずれてるのが残念だが。もっとも、兄の気持ちを知っているのに何もしない私が言えることではない。

 

『それにサクラは最近外に出たくないと母上から聞いて……。勝手に行動して、すまなかった。サクラ』

 

 それで写真を持って、学校に行く前と帰りに行動していたのか。道理で兄が帰ってきたのに会わなかったはずだ。全て私のために行動したとしれば、怒る気にならない……。しかし、これだけは言う。

 

「……バカだ。寝る間も削ってすることじゃない」

『サクラを守るのは兄の役目だからね! それに元々は僕の責任だ』

 

 もう呆れて溜息しか出ない。兄はバカだ。どうして私にそこまで優しくするのかがわからない。聞いてもサクラの兄だからとしか答えないだろう。

 

「もうすぐ委員の仕事が終わって用事がないんだ。そっちが都合のいい日に出かけよう。だから……挨拶回りはもういいよ」

 

 わざわざ1人で苦労することはないのだ。私と一緒に出かけれ牽制できるのだから……。もう原作キャラとかどうでもいい。このバカな兄と出かけよう。

 

『本当かい? 楽しみにしたまえ。必ずいい思い出にすると約束しよう!』

「ん」

 

 兄と約束して電話を切れば、お母さんが気にしていた。友達がいない私が電話をしていたのもあったのだろう。

 

「お兄ちゃんに用事があっただけだから」

「そう。わかったわ。でも、早く行かないと遅刻するわよ?」

 

 「わかった」と返事をしたが、お母さんはどこまで知っているのだろう。ふと疑問に思う。全て知っていて山本武と会って喜んだのかもしれない。少し能天気すぎる喜び方だったが。そう考えれば、滅多に怒らないお父さんが怒ったのは当然だった気がする。私にいろいろ意識させたくなかったのだろう……。

 

 この家族を死なせたくない。改めて思った。

 

 

 

 ただ、委員会活動が終わった次の日から、兄と毎日出かけるようになったのは予想外だった。運よく原作キャラとは1度も会わなかったのは良かったが……。しかし、ハイテンションの兄に毎日連れまわされるのは地獄なのだ。都合のいい日と言ったのは失敗だったと後悔した……。

 




悩みましたが、今回はネタを出しませんでした。
再確認の話だったので。

ズルズル書こうかと悩みましたが、次の話から二学期です


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私は悪くない

 夏休みが終わり、学校が始まった。私は一学期と同じくギリギリに登校し、授業が終われば急いで帰っている。理由はもう説明しなくてもいいだろう。兄が帰ってきて一学期と同じパターンは無理かと思ったが、兄は私の夏休みが終わると同時に就職活動をし始めたため忙しく家にいる時間が短くなった。つまり、家はもっとも安全な場所なのだ。それに兄に買ってもらったマンガがあるので私は引きこもるのを楽しみにしている。急いで帰るのは当然だった。

 

 家に引きこもっていたい私だが、外に出なければと思う日もある。もちろん学校以外の用事でだ。私は原作キャラに会いたくないため、彼らが放課後に用事がある日に実行すると決めていた。まぁ並盛を徘徊してる人物がいるので絶対に安全とは言えないが。

 

 他に不安があるとすれば、原作がずれた場合である。しかし、その不安は当日に解消された。私は登校中に猛スピードでパンツ一丁の男に抜かれたのだ。私の動体視力では人物を判別することは出来なかったが、パンツ一丁と一緒にいた人物は男子制服を着ていた。

 

 授業中に沢田綱吉を見れば、笹川京子をチラチラ見ながらずっと頭を抱え込んでる。授業を聞けよ。と思ったが、これは笹川了平にボクシングを誘われる原作で間違いないだろうと確信した。

 

 それにしても沢田綱吉はボクシングの何が不満なんだ。いじめられっ子がボクシングに出会って変わることもあるんだぞ。君は努力が足りないんだ。あれだけ戦えると考えれば才能があるのだろう。君は恵まれているが、成功した者は皆すべからく努力しておる。それほど努力というのは大事だと私も思う。……うん、いい言葉だ。

 

 心の中で沢田綱吉に説教しているが、人のことは言えない。私も努力しよう。山本武達に見学へ行こうと誘われないように授業が終われば急いで帰ろうと、心に決めたのだった。

 

 

 

 今思えばあれがフラグだったのだろう。無事に山本武からは逃げれたが、黒いスーツを着た男に捕まってしまった。迂闊だったな、と後悔した。

 

「ちゃおッス。今からツナがボクシング師匠とガチンコ勝負するぞ」

「用事がある」

 

 リボーンは怖いが、はっきりと断った。今回は夏休みに彼らと図書室で過ごす時とは違う。原作には絶対関わる気はない。それに用事があるのは本当だ。

 

「すげー勝負になるかもしんねーぞ」

「興味ない」

 

 これも本心である。結果がわかってるのに興味が出るわけがない。 

 

「剣道部主将との勝負みてーに、ダメツナが勝つかもしれねぇぞ。本当に興味がねーのか?」

「ない。用事がある」

 

 何度同じ事を言わせるつもりなんだ。少し腹が立ってきた。

 

「……覚えたほうがいい。女性が嫌がることをすれば紳士にはなれないぞ」

 

 少し危険なことを言ったと思ったが、紳士という言葉に弱いのか、あっさり謝り去っていった。紳士様様である。これからも使うことにしよう。相手の弱みにつけこむが、私は悪くない。関わってくる相手が悪いのだ。

 

 

 

 

 

 それから私は無事に家についた後、私服に着替えて出かけた。

 

 急にある男が飛び出してくる可能性もあるので、辺りを見回しながら歩いた。少し不審者かもしれないと思っている間に目的地の店に着いたようだ。ここで安心するとフラグが立つので、緊張しながら店に入ることにする。

 

 店に入っても店員は近づいてこない。いい店だ。私は話しかけられるのは苦手なのだ。1人では問題ないみたいなので、これからお世話になるとしよう。と、思いながら店内を見回した。

 

 狙っていた財布があったので安堵した。後はレジに行き店員にラッピングを頼むだけだな。

 

「ふむ? 男物だね。サクラにしては珍しい。誰かにプレゼントかい?」

 

 私の隣から聞きなれた声がした。それに勝手に私の肩に手をまわすのはバカしかいない。……商品があって安堵したのが失敗だったのか!?その前に……。

 

「どこからやってきた!?」

「サクラ、何を当たり前のことを聞いてるのだい? 店のドアからに決まってるだろう」

 

 正確な答えだ。正確な答えだが、なぜか腹が立つ!!

 

「……しゅ、就職活動は?」

 

 言葉が詰まったのはイライラを抑えてるからである。決して緊張や動揺とかではない。

 

「もちろん行ってきたよ。帰りに店の窓からサクラが見えたので来たまでさ! それより一緒に僕と出かけた時に買えば良かったのに、一緒にこの店も来ただろう?」

「……外で待ってて」

「深くは詮索はしないが、これでいいのかい? もちろんサクラが選んだんだ。いいものだよ。僕も買おうか悩んだくらいだからね! やめた理由はまだ使えるので買わなかっただけだから安心していい。しかし、少し値段が高すぎないか? サクラのお小遣いでは大変だろう。僕も少し出してあげよう!!」

「――さっさと……出て行け!!! ヅラぁ!!」

 

 私が禁句を言ったので、兄はトボトボと歩きながら店の外へ出て行った。兄はなぜか私にヅラと呼ばれると落ち込んで静かになる。静かになるが普段から私が使わない理由は面倒だからだ。

 

 今でもこの世の終わりのように哀愁を漂わせて外で待っているだけで、兄を慰めようと人が寄ってきてる。これは一時的なものではない。私は許すまでこれがずっと続くのだ。最終的に面倒という言葉も出なくなる。

 

 哀愁漂う兄が気なってる店員さんにお金を払いラッピングをしてもらう。待ってる間に外を見るとラッピングしないほうが良かった気がした。「今回は一体何人集まるんだ……」と、思わずつぶやきながら雲雀恭弥が通らないことを願った。

 

 商品を受け取った後、私は急いで外に出て兄の下に向かった。

 

「……まだだけど……就職祝い」

 

 ボソッと言いながら兄に先程受け取った商品を渡す。そして、身の危険を感じて家まで走った。

 

 走りながら私はいろいろ後悔した。人前で渡すんじゃなかった。兄のことだ、必ず自慢する。走って帰ってるが、家に帰れば必ず兄に会う。そもそも就職が決まってないのに渡すのは最悪だ。兄のことだからすぐ決まると思うが、それでも決まってから渡したかった。何のために一年間も地道にお金をためたんだ。夏休みに一緒に出かけた時に兄が興味を持った物を観察していたのに、値段を見ていたことに気付かなかったのは失敗した。兄のプレゼントなのに金を出すと言われ、つい禁句を言ったのも失敗した。本当に今回のプレゼントは失敗ばかりだ。まぁ兄のことだから喜ぶのは決まってるのだが……。それに逃げたのは兄が喜ぶからという理由だ。

 

 混乱しているのは後悔なのか、これからの兄の態度の不安なのか、よくわからず走っていると、後ろから手を引かれてバランスを崩した。しかし、支えられたので怪我はしなかった。振り返ると私の予想通りで嬉しそうな顔をした兄だった。

 

「……サクラ、ありがとう。一生大事にするよ」

「一生は重い」

 

 思わずツッコミを入れた私は悪くない。

 




断りましたが、ついに原作に誘われた主人公!
……兄のせいで忘れられた気がしたので書きましたww


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次回、揺れる体育祭

 現在、私は視聴覚室の隅の席で座っている。面倒だが、明日の体育祭の会議で1年から3年のA組は集まらないといけないのだ。ん?ドクロ病と雲雀恭弥のイベントはって?私が知るわけないだろう。何度も言うが原作には関わる気がない。

 

 ちなみにドクロ病というのは、死に至るまでに人に言えない秘密や恥が文字になって身体に浮かぶらしい。私はその知識を知った時に絶対嫌だと本気で思った。恐ろしくてその病に罹ったことを想像しただけで死にそうだ。そういえば、沢田綱吉の秘密の中に「サイヤ人といっていじめられる」と書かれていたが、ある意味正解な気がする。後1年もすれば彼も両手からいろいろ出すぞ。初めに言っていじめた奴は預言者だな。

 

「1のAの沢田ツナだ!!!」

 

 私がくだらないことを考えている間に原作が進んでいた。棒倒しの総大将に沢田綱吉が押し付けられているところらしい。「賛成の者は手をあげてくれ!」と笹川了平が叫んでるが、まだ私はあげない。あげるタイミングは獄寺隼人が脅した時だ。モブキャラ・クラスメイトKならばそのタイミングが正解だからな

 

 ついに獄寺隼人がクラスメイトを脅し始めたので私は手を上げた。後は勝手に原作が進むだろう。その間に私は自分の種目を再確認する。

 

 200メートル走と綱引き。

 

 正直、どちらも得意ではない。しかし、原作キャラをさけるため女子だけの競技を選んだ。さらにヒロインを避け、借り物競争などのフラグが立ちそうなものを除いた結果だ。得意ではないが、これは我慢するしかない。

 

「最後に伝えることがある!!!」

 

 また笹川了平が叫んでるな。最後に話すことなのだから重要なことだろう。原作にはなかったことなのでこれは真面目に聞こう。そういえば……リボーンのダミーがなかったような……。恐らく私が種目を確認してる間に終わったのだろう。

 

「我々A組を応援するために保護者の方々が応援団を組んでくれたのだ! 今日は代表者がきてくれている。今から紹介しよう」

 

 笹川了平が教室から出たので呼びに行ったのだろう。それにしても保護者の応援団があるとは知らなかった。これほど熱狂的に準備をしているのだから、保護者も協力的でも不思議ではないな。原作ではカットされたのだろう。

 

 バンッ!という大きな音が響きながら扉が開かれた。その後にゴンッという鈍い音が響いただろう。「だろう」と言ったのは私には判断できなかったらだ。なぜなら鈍い音を出したのは私なのだ。

 

「この方が先程話をした代表者の神埼桂さんだ! 明日はお世話になるのだから挨拶をするぞ!!」

『『『よろしくお願いします!!』』』

「諸君! 待たせたね! 僕が来たからには大船に乗ったつもりでいたまえ!」

 

 誰も待ってない。いや、原作キャラ以外は兄が来てヤル気が上がったのだから待っていたのかもしれない。しかし、兄は競技には出ないのだからそのノリはおかしいと思う。そもそも兄は就職活動中じゃなかったのか。それに私が必死に回避していた原作に簡単に関わるなよ!?

 

「サクラーー!」

 

 頼むからやめてくれ。私に向かって嬉しそうに手を振るな。私が振り返すまで続けようとするので、諦めて手を振り返した。視線を大量に感じるのは気のせいと思いたい。

 

「僕が必ずA組を優勝させる! そのためにはまず、保護者参加の二人三脚はサクラと僕が出なくてはならない!」

 

 絶対にそれは関係ない。しかし、兄が言ったのでなぜか納得して変更しようとする。沢田綱吉が「この人はただ……神崎さんと二人三脚したいだけじゃ……」と呟いてる声が聞こえた。やはり彼は『兄だから』ということで全て納得しない人物なのだろう。

 

 私は変更してる間に考える。兄をどうするべきか……。一度決めれば、簡単に譲らないのが兄だ。私が優勝に興味がないし、一緒に二人三脚をするからと言っても応援団をやめようとしないだろう。特に今回は代表者だ。上のものが簡単に降りるのは許されないと思っているはずだ。禁句を言って強制的に大人しくさせれば、ここにいる人達が兄を慰めようとする。それはそれで面倒なことになるな……。

 

「放課後にツナ達が棒倒しの練習をするぞ。サクラの兄も参加するぞ。サクラはどーすんだ?」

 

 いつの間にかリボーンが私の前に居て悪魔の囁きをした。兄が棒倒しの練習に参加する……。あの原作に関わる……。

 

 何度も言うが、私は死にたくはない。しかし……兄を見捨てることはできない……。

 

「……兄が行くならいく」

「そうか。場所は兄が知ってるぞ。またな」

 

 リボーンはまたと言って去って行ったが私はもう会う気がない。兄を説得させて行かないようにする。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、私は土堤にいた。兄を説得させることができなかったのだ……。

 

 私がお兄ちゃんと言って頼んでも、「僕に任せればいい! 必ず優勝させる!」と、勝手に勘違いしてさらに燃えた。禁句を言っても暴走した兄には聞こえないらしく、どこから用意したのかわからない風紀委員の使ってる学ランを着て応援の準備をし始めた。

 

 ちなみに、就職活動のことを聞けば私が財布を渡した日には決まっていたらしい。家に帰っても居なかったのは、応援団の打ち合わせだったようだ。何でも黒いスーツを着た赤ん坊に応援団の話を持ちかけられて、兄は喜んで承諾したらしい。つまりあれだ。もう兄は取り返しのないところまできているのだ。説得出来なかったのは私が諦めたというのもあった……。

 

 原作通り彼らは棒倒しの練習を始めようとして、兄は「フレーフレー」と叫んでいた。私はというと、少し離れた場所で体育座りをし現実逃避している。

 

 ボーっとしながら見ていると、獄寺隼人と笹川了平がケンカし始め、獄寺隼人がダイナマイトを使い始めた。原作にいない兄はどうしてるかと気になって見れば、なぜか必死に応援していた。棒倒しのルールを知らないだろ!?とツッコミしたくなった。沢田綱吉は棒の上で揺れのせいで慌てている。

 

『望んでもいないのに総大将になってしまった沢田綱吉。断りたいが、好きな子には嫌われたくないと棒倒しのように揺れ動く中、無常にも時間は過ぎてく――。果たしてツナは答えを見つけることができるのか。次回……揺れる体育祭』

 

 ……普通だな。心の揺れと棒倒しの揺れをかけてみたが、マフィアとも一緒にすればよかったかもしれない。いや、雲雀恭弥を忍び寄る影と表すのもありだったかもしれないな。……そもそも結果がわかってるのに次回予告を考えるなんてサービスしすぎだ。

 

 くだらないことを考えてる間に原作通り沢田綱吉が川に落ちた。兄のカバンにタオルを入れたので大丈夫だろう。熱は出ても出なくても笹川京子に応援されれば同じだしな。後は兄に任せて私はまた現実逃避しよう。ネタを考えるほど余裕ができるみたいだからな。しかし、私の思考を邪魔をしようと思ってるのか、また黒いスーツを着た男が現れた。何度も思うが神出鬼没だろ。

 

「サクラからみてツナ達はどうだ?」

「……興味ない」

「あいつらはサクラに何度もかまうだろ? どーして興味が出ねーんだ?」

 

 思わず私はその言葉に腹が立ち、リボーンに掴みかかった。

 

「――君の気分で私と兄を巻き込むなよ! 何がボンゴレ10代目だ――何が最強の殺し屋だ。何をしても許されると思ってるのかよっ!!!」

 

 言ってから気付く。言ってはいけないことを言ったことを――。私の予想では何度も彼らが私にかまってくるのはリボーンの差し金だったのだ。思わずさっきの言葉で腹が立ってしまった……。

 

 慌てて視線を動かせば、タオルで体を拭いていた沢田綱吉が唖然としていた。残り3人も状況についていけなく固まっていた。兄だけは動き、私に駆け寄ろうとしていた。

 

 もう私は兄を見ることしか出来なかった。リボーンには目をあわせるなんて出来ない。掴みかかってる手を離したいが、震えて上手く行かない。私は兄を見ることしか出来なかったのだ。

 

 私は1度も彼らから裏の世界の話を聞いてない。それなのに知っている私をリボーンが見逃すとは思えない……。それに私の身体がリボーンに対する恐怖を感じているのが、何よりも殺し屋のリボーンの強さを知ってるということになる……。いくらマンガで面白おかしく書いても――ここは現実。銃を持ってる相手に私は簡単に殺されると身体が反応してしまってるのだ。

 

「サクラ! サクラ!」

「……お兄ちゃんっ……」

 

 兄に揺さぶられて声が出せば涙が出た。いつの間にか私の手からリボーンは居なかった。私が気付かない間に上手く抜け出したらしい。『最強の殺し屋』という言葉が頭から離れない……。

 

「……何をしたんだい? サクラは怒ることはあるが、滅多に泣かない。いくら幼くてもこのままだと僕は君を許さない」

「お前……リボーンさんに向かって……!!」

「獄寺、やめろ。オレが悪かったんだ。……謝りてーが、今はやめといた方がいいみてーだな」

「……そうだね。サクラ、帰るよ」

 

 リボーンの声を聞くたびに肩がビクッと振るわせる私を見て、兄は私を横抱きにして連れて帰ろうとする。普段なら絶対断るが、歩ける自信がなかったので兄に甘えることにした。

 

「……お兄ちゃん……ごめん……」

「サクラは軽いから問題ないさ」

 

 私は謝ったのはそういう意味じゃない……。応援団をするだけではまだ大丈夫の可能性があったのに、私のせいで家族全員を危険にした。リボーンに目をつけられたのだから……。

 

「違う……ごめん……。私のせいで……」

「……僕は何があってもサクラの味方だ。謝らなくていい」

 

 私はもう言葉が出なくて兄にしがみついた……

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 泣いていたサクラを桂が連れて帰った後、我に返ったツナは水に濡れた身体をきれいに拭かずリボーンに詰め寄った。少しずつではあるが、ツナはサクラとの壁がなくなってきたと思っていたのだ。まだ一緒に遊べる段階ではないが、それでも困ってるツナを見れば「あくまで委員会活動だから」と言いながらも助けてくれたのだから――。

 

 一方、リボーンはそんなツナに何も応えようとしない。いつもなら詰め寄ったツナに関節を決めたりするが、今回のリボーンは何もしようとしなかったのだ。

 

「お前、神崎さんに何したんだよ!?」

 

 そんなリボーンの態度に更に詰め寄るツナ。再度詰め寄られたことによって、リボーンは少し間をおいてから話し始めた。

 

「……今回はオレのミスだ。後でサクラには謝る。おめーらも、悪かったな」

 

 リボーンの口から出た言葉は謝罪だった。しかし、それ以上は何も話そうとしない。つまり詳しく話す気はないという意味も含む謝罪だった。ツナは何となくだが、その意味を勘付いて言葉が出なくなってしまった。

 

「小僧、神崎は謝れば許してくれるって」

 

 山本はただのケンカだと思い、リボーンに励ましの言葉をかけた。獄寺は山本の言葉を聞いて、「このバカと一緒というのは癪だが……」と、小声で前置きしてから「リボーンさんなら大丈夫スよ」と声をかけた。その後に「にしても……あいつの兄貴はリボーンさんに向かって暴言はきやがって……」と、ブツブツとつぶやいていたが。笹川は状況をよくわかっていなかったが、「極限気合で謝ればいいのだ!!」と叫んだ。

 

 リボーンは彼らにお礼の返事をし、用事があるからと言ってその場を離れようとしたが、足を止めて振り返った。振り返って見たのはツナだった。

 

「……ツナはサクラと仲良くなりてーんだよな?」

「えええ!?」

「なんだ? この前、オレに言ったことは冗談だったのか?」

「え? ――あ! 本気だから怒ってんだろ!!」

 

 急に問いかけられてツナは焦ったが、『サクラの壁をなくしたい』とリボーンに言ったことを思い出した。思い出した途端、リボーンがサクラを泣かせてツナ達の努力を無にしたことにムカついて怒鳴った。しかし、リボーンはツナの怒鳴り声を無視してニヤッとした顔で去っていったのだった。

 

 ツナはその笑い方を見て、リボーンがまた何かすると思い頭をかかえたのだった……。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 ツナ達から離れたリボーンは悩んでいた。

 

 サクラの言動を考えれば、裏の世界を知っている。しかし、リボーンの調べではサクラはただの一般生徒だった。もう1度詳しく調査するのは当たり前だが、サクラの言葉が頭をよぎる。

 

『私と兄を巻き込むなよ!』

 

 この言葉をリボーンは裏の世界に巻き込むなという意味にとらえた。ボンゴレの力を使い表立って調べれば、ツナの願いは叶わなくなる可能性が高いと直感した。

 

 本来ならば、リボーンはツナの安全を最優先に考えなくてはならない。しかし、今回は踏ん切りのつかないツナのためにリボーンが行動したことで起きた問題だとリボーンは考えたのだった。

 

 

 

 事の発端は、リボーンがサクラをボクシングジムに誘うために声をかけたことから始まる。夏休みにサクラが図書室に居る日を教えたが、進展もなく帰ってきたツナのために一肌脱ごうとしたのだった。しかし、結果は失敗だった。用事があると断られたのだ。

 

 リボーンは誘いを断るためにサクラがウソをついたと思ったが、調べた結果、兄の桂の就職祝いを買いに行くという用事が本当にあったのだ。更に調べると桂はサクラを溺愛しており、サクラは疲れた顔をしているが桂とは距離を置こうとはしないことがわかった。

 

 そこでリボーンは攻め手を変えた。桂と仲良くなれば、サクラとの距離も縮まるのではないかと――。もちろん、リボーンは簡単にいくとは思っていない。しかし、仲良くなるきっかけを作らなければ、何も変わらないのもわかっていた。

 

 サクラを溺愛している桂を応援団に誘うのは簡単だった。そして桂はサクラに友達が出来ないことを気にしているため、ツナ達と仲良くなるきっかけがほしいと頼めば喜んで協力してくれた。それが今回の棒倒しの練習だった。

 

 

 

 

 リボーンは今回のことを考えた。桂の様子からして、桂は裏の世界のことは知らない。知っていれば、サクラを溺愛する桂が協力するとは思えなかったのだ。しかし、サクラは裏の世界を知っている。ツナがボンゴレ10代目候補ということも、リボーンが殺し屋ということも――。

 

 そして、サクラが知っているならば疑問が出来る。関わりたくないと思いながらもツナが困っていれば助けるのだ。もし、サクラが暗殺者だった場合は信頼を得るために助けるのは理解できる。しかしそれならば、ツナと仲がいい山本を避ける必要はない。周りから固めた方が効率がいいのは誰が考えてもわかるのだ。

 

 では、なぜツナを助けたのか? 答えは簡単かもしれないとリボーンは考えたのだった。サクラは裏の世界に関わりたくないが、ツナ達と触れて壁がなくなってきたからだと――。

 

 もしそうならば、今回の行動は自身のミスとリボーンは判断したのだった。ツナと違いリボーンは裏の世界でずっと生きていたのだ。自身が近づくだけでツナの願いが叶わない。

 

 これはただの憶測ということをリボーンはわかっていた。サクラが裏の世界の人間で全て知っている可能性の方が高いのだ。それでもリボーンは表立ってボンゴレの力を使い、サクラを調べる気にはならなかったのだ。

 

「あいつに頼むしかねーな」

 

 思わず独り言を呟いたリボーンは公衆電話の前にいた。この公衆電話は特殊な電話で盗聴の心配はなく、安心して電話をかけることが出来るのだ

 

 リボーンは受話器を取り電話をかけた。しばらく流れていた音楽が止まったので言葉を発する。

 

「ディーノ、頼みてーことがあるんだ。マフィアに気付かれないよう秘密裏にある人物を調べてほしい。ボンゴレにもだ――――」

 

 リボーンは面倒見が良く人柄も良い元生徒に頼ることにしたのだった。

 




また更新が遅くなりました
でも今回は6000文字を突破したので許してほしいww
半分にわけようか本気で悩みましたよw

話がちょっと動き出しました
そのためシリアスさんが登場しましたが、いつまで続くかな……w

カットした会話?
「……どうして学ラン?」
「何を言ってるんだい? 応援団と言えば学ランじゃないか!」
「そう……(遠い目)」
「わかってるよ。サクラ。僕と一緒に写真を撮りたいんだね! さぁ! 撮るがいい!」
「…………(さらに遠い目)」


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揺れる体育祭 1

ついにサクラの武器が登場


 人間往生際が大切。

 

 私は今、この言葉を身に沁みていた。リボーンに目をつけられたからではない。もうそれは諦めたからな。私の力ではもうどうにもならない気がする。では、なぜかというと――中学1年生にもなって人前で泣いたという数時間前の黒歴史を思い出し、悶えたくなるからだ。

 

 いつ殺されてもおかしくないのに、私が平然と悶えれる?のは泣いたからである。泣いたことによって精神が安定したのだろう。しかし、悶える原因が泣いたことと思えば悶えたくなる。……うん。自分でもわけがわからない。とにかく私は人間往生際が大切という言葉を理解しようとベッドの上で悶えていた。

 

 そして、お腹が鳴ったので、いつまでも悶えていないで晩ご飯を食べに行こうと思った。今日はデザートにホットケーキもあるしな。なんとも現金な私である。

 

 言葉を理解したと思うことにしようと考えながら私はベッドから起き上がった。

 

 

 

 兄は私の姿を見て心配そうにしていたが、何も聞こうせず静かな晩ご飯だった。久しぶりに家族全員そろっているが、誰も何も聞こうとしない。そして、晩ご飯を食べ終わると私の予想通り食後のデザートがあった。

 

 ホットケーキ

 

 私が子どもの時に兄のせいで泣いた私のために、兄が必死に作ったことがある。それから私に何かあるたびに必ず兄が作るのだ。つまり兄がホットケーキを作った時点で私に何かあったと家族にバレバレなのだ。静かな晩ご飯でも誰も聞いてこないのは当たり前と言ってもいい。少し恥ずかしいが、兄が私のために作ったと思えば食べないという選択肢はなかった。決して甘いものを食べたいからではないぞ。……け、決して――。

 

「……おいしい」

 

 一口食べるだけで美味しいとわかった。留学して腕が上がった気がする。私は素人なので気のせいかも知れないが。

 

「サクラが留学を勧めてくれたおかげだよ」

 

 私はパティシエとしてフランス留学が出来るなのに行かないと言った兄がバカと思っただけだ。と、心の中で返事をする。何気なく話した兄に恥ずかしくなったのだ。ニコニコする兄の視線を感じ何か話題をかえようとホットケーキを食べながら模索する。

 

「……就職先は?」

「ラ・ナミモリーヌだよ。来月からだ」

 

 ラ・ナミモリーヌと言えば、ヒロイン達が好きなケーキ屋だ。なぜ兄は無意識に原作に絡むのだ。ふと今まで気にならなかったことが気になったので、ホットケーキを食べながら聞いてみた。

 

「どうしてパティシエになろうと思ったんだ?」

 

 兄の才能ならばどの分野でも一流になれる気がする。それにお父さんの仕事も継ぐこともできた。兄は将来パティシエになると聞いたときに、私は兄が決めたことなら反対はしないので興味はなかったが、原作を知っていたならば私は反対したと思う。まぁそれを言い出すなら並盛に引越しすることを反対したが。『たら』、『れば』の話をしても意味はないのはわかってる。だが、パティシェを選んだ理由をどうしても知りたくなったのだ。

 

「僕の作ったケーキをサクラが嬉しそうに食べたからだよ」

 

 私はもの凄くマヌケな顔をしているだろう。それほど衝撃だったのだ。辛うじて兄に「……バカだ」と返事をするのが精一杯だった。……本当のバカは私だ。

 

「僕はバカでいい。僕がバカなことをしてサクラが笑うのが僕の幸せだからね!」

 

 普段はわざとバカな行動ををしていたのかもしれない……。兄の頭がいいのは私が良く知っていたのになぜ気付かなかったのだ……。『死なせたくない』という気持ちが自然と出る。今の私に何が出来るだろうか――。

 

「……明日学校行くから」

「え?」

「二人三脚をしたくなった」

 

 この話は終わりという意味で立ち上がる。満足するぐらい食べたしな。片付けは兄がするだろう。今まで私にさせたことがないのだ。何でもケーキを食べる間だけ私はお客様らしく、洗い物なんてさせられないというのが兄の考えらしい。私にはよくわからないが。

 

「……ごちそうさま。おいしかった」

 

 兄に付き合い、お客様らしく最後に声をかけて部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝?から兄はうるさかった。

 

 二人三脚が楽しみなせいで、早起きしてしまったらしい。……夜中の3時だぞ。私を巻き込むな。起きていたから良かったものの……。

 

「カギを閉めてなかった……?」

 

 兄に向かって質問する。普段はしないが、寝る時に必ず閉めるのだ。理由はカギを閉めていれば眠っているということで、ノックをしない兄が入ってこないようにするためだ。ちなみに普段から閉めないのは、合い鍵はお父さんが持っているため引きこもっても意味がないからである

 

「僕達の間に壁なんてないのさ!」

 

 急いで横目でドアを確認する。……カギは壊されてはいないようだ。しかし、威張りながら話していた兄の手にはピッキングツールがあった。

 

「違法だ!」

 

 ピコッ!という少しマヌケな音と私の声が響いた。このハンマーには100tという文字が書かれている。ちなみに私が書いた。ちくわの鼻の彼が使っていた5tでも良かったが、変態に使うにはやはり100tの方があってる気がしたのだ。このハンマーは枕元に置いてある。

 

 ハンマーの説明はこれぐらいにして、この変態をどうにかしようと兄を見る。痛くはないはずだが、兄の頭にはバツマークの絆創膏?があり倒れている。あのバツマークは一体いつ、どこから出したのだろう。謎である。少し疑問に思いながら兄の後ろの首元の服をもち、ズルズル引きずりながら廊下に放り出した。兄を引きずれば重いはずなのに重くないのも謎だな。強いて言うならばノリが良すぎる。

 

 廊下に出た瞬間に兄が何もなかったように立ち上がった。重くはなかったが、自分で歩いて出て行けと思ってしまう。

 

「サクラ、僕を崇めるがいい! ピッキングツールと思っただろ? これは粘土で作ったのさ! 凄いだろ? ちなみにカギは最初から開いていたのだよ」

 

 威張ってる兄を無視して扉をしめてカギをかけた。これ以上、兄のボケには付き合ってられない。私はこれからのことを何とかしなくちゃいけないと思っていたが、バカバカしすぎて眠たくなり電気を消して寝た。

 

 

 

 

 

 次に私の耳に入ったのは兄の声ではなく目覚ましの音だった。もう少し寝たがったが着替えて起き上がり1階に降りた。

 

 そして、後悔した。なぜならフリフリのエプロンを着た兄を見てしまったからである。

 

「おはよう、サクラ」

「……おはよう」

 

 いつも通りに朝の挨拶する兄にどうすればいいのかわからない。私が殴り続けて本当に変態になってしまったのだろうか……。

 

「サクラなら見てわかると思うが今日のお弁当は僕の愛情たっぷりだ! 楽しみにしたまえ!」

 

 どうやら兄は体育祭の弁当を作っていたらしい。兄はお菓子だけでなく、料理も出来るからな。エプロンをつけている理由がわかった。しかしその柄はない。お母さんのエプロンでもここまでフリフリしているのは見たことはないぞ。そもそも兄の体格にあうサイズがあることがすごい。私がジロジロとエプロンを見ていたことに気付いたらしい。

 

「男はロマンを求める生き物さ……」

 

 男のロマンを何だと思ってる。男ではないがなぜか腹が立った私は懐に常備してあるハリセンを構え言った。

 

「了解した、穏やかに苦痛を与える」

 

 スパーンという音が響いた。

 




体育祭といいながら、まだ朝ww
原作でも棒倒し(前編)の最後は朝の風景だし…と、いいわけしてみる
ただ眠くてこれ以上書けなかっただけですがw

主人公の武器(笑)
ピコピコハンマー(枕元)、ハリセン(持ち歩き用)
殺傷力はなし。兄以外に使われたことはない。
兄の度が過ぎたときに使う。兄の立ち直りは早く面倒なことにはならない


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揺れる体育祭 2

 学校に向かいながら思わず溜息が出る。今日は朝から兄を叱り、少し疲れたのだ。主に精神が。その一方で喜んでる自分も居る。決して兄のバカな行動を喜んでるわけじゃないぞ。今、私が生きていることに喜んでいるのだ。

 

 昨日の夜はこれからのことを考え、私はリボーンが殺しに来る可能性も考えていたのだ。私を調べればマフィアとの関わりがないことがわかる。しかし、マフィアの情報を知っている。……怪しすぎだろ。殺されてもおかしくないという結論になるのは普通だろう。今日は大丈夫だったのは、まだ調べ終わってないと予想する。殺されなくても1、2週間のうちに必ず何か接触があるはずだ。

 

 そこで私はこの1、2週間の過ごし方を考えた。正直、いい案は出なかった。大まかに選択すると、今まで通り過ごす、原作キャラと仲良くなる、原作キャラに嫌われる、だ。

 

 今まで通り過ごす場合はリボーンの判断に任せると言ってもいいだろう。

 

 沢田綱吉達と仲良くなるように努力する場合は、リボーンは殺しにくくなるが、更に警戒されるだろう。そして未来が終わる可能性も高い。なぜなら、私の行動で原作がずれたことは原作を知った初日に証明されてる。つまり仲良くなる場合は、原作がずれないように細心の注意を払わなければならない。それは恐らく難しい。もし仲良くなり白蘭のことを話してたとしても同じようなことを考えた奴が現れれば終わったと思ってもいい。ボンゴレ匣が作られる奇跡の未来に行かなければ沢田綱吉の戦力は大幅に下がるのだから。まぁこの世界が未来に繋がるのかはわからないが……。しかし、私が原作を知ってることを考えれば、繋がると思った方がいいだろう。そう考えると一体何をきっかけで原作ずれるのかわからない。難しすぎる。そして何より、私は人と仲良くすることが出来るほどの能力はない。今まで友達というものがいなかったのだ……。

 

 沢田綱吉達に嫌われるというのは……厳しいと判断した。もう私は目をつけられたのだ。悪い方向で。これ以上、悪い方向で目をつけられれば死ぬ。それに私の心理的に負担がかかる。もちろん今まで1人だったので嫌われるのは負担とは思わない。ただ、ボンゴレ狩りが始まるとわかっていれば……彼らと仲良くしていれば死なないのでは?という心理がどうしても働いてしまうのだ。

 

 最終的に私が死ぬのが1番いいのではないのか……という結論になってしまった時に兄が部屋に入ってきて考えることをやめたのだ。

 

「はぁ……」

 

 思わず溜息が出てしまう。何度も死にたくはないと思ってる私にすればこの結論はきつい。そして、この世界のために死ぬという選択が出来るほど私は出来た人物ではないのだ。いっそのこと、リボーンに殺してくれと言うべきだろうか……。自殺する勇気はないしな……。

 

「かっ神崎さん!!!」

 

 ふいに名前を呼ばれ意識が戻れば、私は校門前に居た。無意識に歩いて辿りついたのだろう。そして、名前を呼ばれたことを思い出し辺りを見渡せば、沢田綱吉と獄寺隼人、山本武が居た。相変わらず仲がいい。

 

「昨日はリボーンが……その……ごめん!! あいつもオレが悪いから謝りたいって言ってるんだ……」

 

 沢田綱吉の言葉に思わず首をひねる。彼らの反応を見ると私の声が聞こえなかったのだろう。しかし、リボーンが悪いとはどういうことなのだろうか。私が言った通りで巻き込んだことを謝ってるならば……沢田綱吉が私に謝ってるのはおかしい気がする。そもそも熱が出て保健室に行く原作はどうした?

 

 ……タオルを兄のカバンに入れたのを忘れていた。なぜ私はタオルを入れたのだ?原作がずれるのは危険だとわかっていたはずなのに……。

 

「おい! 10代目が謝ってるんだぞ! 何か言えよ!」

「まーまー落ち着けって」

 

 獄寺隼人は何でついてきたんだ。恐らく沢田綱吉も似たことを思ってるだろう。顔に出てるしな。そして顔を見て気付いた。少し赤い……。タオルを入れたが熱は出たのだろう。

 

 ……昨日のことで彼の中では学校に来ないという選択肢がなくなったのかもしれない。しょうがないのでカバンの中から救急箱を出す。救急箱といいながらただのポーチだが。

 

「あの……神崎さん……?」

 

 急にポーチを出した私に疑問を感じたらしい。もう少し待て。確か冷却ジェルシートがあるはずなのだ。保健室に行きたくないからいろいろ準備したからな。

 

「ん」

「ええ!?」

 

 見つかったので彼に冷却ジェルシートを渡した。……押し付けたと言ってもいいが。とにかく渡したので用事が終わりと思い教室に向かうことにしたが、腕を掴まれる。獄寺隼人と思ったが意外にも沢田綱吉だった。彼は死ぬ気モードじゃなくても女子に触れることができるのか……。

 

「……なに?」

「どうして……これを――」

「昨日、川に入った。……顔が赤い。今は大丈夫でも熱が出るかもしれないと思ったから」

「え…………。ありが――」

「熱!? 大丈夫ですか!! 10代目!!」

 

 沢田綱吉が何か言おうとした気がする。しかし彼は獄寺隼人に揺さぶられて話せない。もう私は教室に向かってもいいのだろうか。腕も離してもらえたしな。ただ、山本武の言うとおりそれ以上はやめてやれ。どんどん顔が真っ青になってるぞ。

 

「オ、オレは大丈夫だから……」

 

 その一言で獄寺隼人の動き止まった。安堵したらしい。沢田綱吉が目を回しながら答えたことに気付かない獄寺隼人に私は――ドン引きした。今日の彼は呪われてるのだろう。棒倒しでも散々だしな。

 

「……棒倒し頑張れ」

「あ、ありがとう……」

 

 彼が不憫すぎて思わず応援してしまった。そして彼は私に礼を言って棒倒しのことを思い出したらしい。頭を抱え始めたからな。なんて彼は不憫なのだ。

 

「気負わなくていい。負けて当たり前。――1年だし」

 

 「1対2だし」と言いそうになった。沢田綱吉が顔をあげたので少し気を持ち直したらしい。ただ、私の言葉を聞いて獄寺隼人が「10代目が負けるわけがねぇだろ!」と叫んだので意味はなかったかもしれないが。彼はもう沢田綱吉の体調を忘れてるのか。不憫すぎる……。

 

 ……ちょっと待て。彼が不憫すぎて関わってるではないか。なぜ1番難しいルートを選んでるんだ。思わず自身をドン引きした。今すぐこの場から離れよう。

 

 静かに去れば気付かれなかった。私は暗歩を取得したかもしれない。……冗談だ。暗殺術を取得してしまえば殺し屋と勘違いされリボーンに殺されてしまうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 平和だ。

 

 兄の応援を聞きながら綱引きをし、保護者参加の二人三脚も普通に終わった。もちろん相手は兄だった。兄との二人三脚は普通と言ってもいいのか少し悩むところだが――。

 

 兄は完璧に私にあわせてくれたので、倒れることもなく1位だった。ゴールした途端「僕達の愛の結果だよ」と、わけのわからないことを大声で言い抱きつかれた。これが許容範囲内という私の考えがおかしいのかもしれない……。

 

 少し遠い目になったが、概ね平和である。もちろんいいことだが、リボーンからのアクションがないのが怖い。保護者席を見ればリボーンは居るのだが……。リボーンを見ていたが思わず彼の近くに居る人物に目を奪われる。私の密かな野望は一体いつ実現できるのか。実現できなければ、本を買い勉強をした意味がない。買いに行ったときに雲雀恭弥に出会ったしまったしな……。

 

 また遠い目をしてる間にお昼休みになり、兄が弁当を持ちクルクルと回りながら私の前に来た。

 

「恋はいつでもハリケーン」

 

 恐らく今日は兄が料理を作ったのでコックつながりのボケをしたのだろう。しかし私の中ではイマイチだったのでスルーをし両親のところに向かった。兄は私に無視されてネガティブホロウ状態になってるがこれもスルーする。禁句を言っていないので復活は数秒だし、お弁当は器用に背中の上に乗せて落ち込んでるからな。ちなみに兄は生まれ変わったら私の弟になって甘えたいらしい。欲望が駄々漏れだったので、私がドン引きしたのは言うまでもないだろう。

 

 私が両親のところに着いたときには兄は復活しウキウキとお弁当をあけていた。私の方が着くのが遅かったのは謎だが、兄だからと納得することにした。お弁当を見れば、キャラ弁だった。おにぎりが鬼斬りの技を使うキャラの顔だった。ボケが細かすぎるのでツッコミはしないが、食べる前に写真を撮ることにする。

 

 もぐもぐと食べていると沢田綱吉の周りがうるさい。恐らく原作通り進んでるのだろう。リボーンは私の意見を聞いてくれたのか?と、安易な考えが一瞬浮かんだが、私に被害はないとしても周りを巻き込んでるので反省はしていないのだろう。現に兄が気になり行こうとしてるしな。

 

「騒動を生徒達で抑えるのも勉強になる。危ないと判断すれば見守っている先生が手を出すよ」

「……ふむ。サクラの言うとおりだね!」

 

 兄が単純で助かると思いながら、食後のデザートのヨーグルトを食べ始めた。

 

 しばらくすれば原作通りに棒倒しが1対2になる放送が流れた。

 

「サクラちゃんは出ないのよね?」

「ん」

「そうか。でもサクラは危ないから念のためにここに居なさい。桂は……行くんだろ?」

 

 両親は私が怪我をしなければいいらしい。2人とものほほんとお茶を飲んでるので勝負事には興味がないのだろう。

 

「もちろんさ。父上。しかし、このままだとサクラのチームが勝てないではないか――」

 

 兄は意外と冷静に言った。「1対2がなんだ!」と、言いそうと思っていたのだが。

 

「私は勝てなくてもいいから。ただ、怪我しないで」

 

 急に兄が下を向きながら震えだした。私が兄を心配したから感動して泣いたとかではないと願いたい……。

 

「……まかせたまえ! 僕がサクラの期待に応え必ず優勝させるよ!」

 

 違うことを願ったが、これは想定外だ。一体どこをどう間違えばそうなるんだ。ハリセンを使うか、ヅラと言って暴走を止めようとしたが、猛スピードで兄は走っていってしまった。もう兄は関わっているので放置してもいいかもしれないが、何が原作を壊すかわからない。仕方がないと思いながら、棒倒しが始まるまでに戻ってくると両親に約束して私は兄を追いかけたのだった。

 

 

 

 

 

 急いで追いかけてる時にふと疑問に思った。……原作では1対2の放送が流れてすぐ棒倒しが始まっていた。しかし、兄を追いかけてる時間がある。これはマンガが現実になったからのズレなのか。私がいるからのズレなのかがわからない。根津の時に思った『私はイレギュラーな存在』という言葉が頭から離れなくなり足が止まってしまった……。

 

 私はどうすればいいのだろうか……。兄を止めるべきだというのはわかってる。しかし、兄が暴走する理由は全て私が居るからじゃないのか……?

 

「うわああ!?」

 

 ふいに肩に何かがのった感触がしたので思わず手で振り払った。

 

「ご、ごめん!」

 

 振り返ってみると沢田綱吉が謝っていたので安堵の溜息が出た。彼が私の肩に触れたのだろう。情けない声が出たのは恥ずかしいが安堵の気持ちの方が強かった。

 

「……なに?」

 

 彼が用もなく女子に触れることはない。必ず何かあるのだろう。触れながら「爆弾魔に気をつけろ」とかは言わないでくれよ。

 

「本当にごめん! えっと……ここは棒倒しの集合場所だから……女子は――」

 

 棒倒しの集合場所に兄が居ると思ったからここに来たのだが。と、言おうと思ったがやめた。沢田綱吉の足元にコスプレしたリボーンが居たからである。昨日もような恐怖はないが、警戒はして話す気にならないのだ。そういえば、彼が逃げずに集合場所にいるのはリボーンに見張られてるからなのか。よく考えればわかることだったな。

 

「あっ! リボーン! 神崎さんに謝れよ!!」

「何を言ってるんだ? オレはタイからきたパオパオ老師だぞ」

 

 沢田綱吉がリボーンに向かって怒っているが、何が何でもリボーンはパオパオ老師で通すらしい。私は気付かないフリをするべきなのだろう。原作キャラでもわからないのだから。

 

 ただ、私は普段通りに話せるとは思えない。このまま離れてもいいだろうか。しかし、離れるということは正体を見破ったと思われる気がする。……リボーンは私を試しているのか……?だから原作通りに周りを巻き込んだのか……?

 

「サクラ!!」

 

 声が聞こえた方を見れば兄が居た。近くには笹川了平と山本武、獄寺隼人が居た。もしかすると兄は頭がいいので彼らに戦術を教えていたのかもしれない。笹川了平が「さっぱりわからーん!」と叫んでいるし、その横で獄寺隼人は兄にキレているしく山本武に抑えられてるからな。獄寺隼人は沢田綱吉の命令以外は聞かないし、偉そうに話す兄に腹が立ったのだろう。気持ちは凄くわかる。

 

 ちょうどいいタイミングに声をかけてくれたと思いながら兄のところへ向かう。原作キャラの隣に居ないほうが良かったが、それは妥協しよう。……沢田綱吉達も着いてこなくていいのだが。ここは彼がいることに気付かないフリをしよう。

 

 兄のところに辿りついて大事なことに気付く。もう私は原作キャラとは関わりを持ってしまっている。だが、兄は応援団の代表者とA組みの総大将が話をしたレベルとして助かるかもしれない。泣いた時に同じようなことを思ったのになぜ私は忘れていたのだろうか……。

 

 もちろんボンゴレ狩りが始まれば私のせいで家族は危険な目にあうだろう。しかしそれは私を探してるから危険にあうレベルではないのか?つまり……もし私が死んだ時は兄は対象外になる。

 

 正直、私はもういつ殺されてもおかしくはないのだ。だが、兄は違う。私は沢田綱吉達とこれからどうするかと考えている自体が間違っていた。

 

 関わらないというのが当たり前だ。

 

「サクラ?」

 

 考え事をしていて黙った私を兄は心配していたらしい。兄が私の顔を覗き込んでいる。

 

「……棒倒しを家族で一緒にみよう」

「それは嬉しい誘いなのだが、僕は応援団の代表者だからね」

 

 兄は責任感の強いので断られるのは予想の範囲だった。しかし、これは譲れない。少し恥ずかしいがしょうがない

 

「二人三脚の時以外はずっと応援してる。……1度ぐらい一緒に見たかったな……」

 

 クソっ!と叫びたい。思わず顔が赤くなる……。

 

「……っ! 応援団と少し話をしてくるよ! だからサクラ、一緒に見よう!」

 

 ……うん。もの凄い勢いで走っていった兄を見て思った。騙した私が言うのもなんだが、もう少し落ち着け。

 

 兄が完全に走り去ったので彼らを見れば兄の行動に唖然としていた。その姿を見て私は気合をいれる。唖然としてる彼らに言うことが大事なのだ。特に彼が――獄寺隼人が居るときに。彼は1番危険だが、1番重要なのだ。

 

 息を吸う。心臓の音がうるさい。しかし、不思議と迷いはない。

 

「……私はボンゴレ10代目――沢田綱吉に死を与えるものだ」

 

 私の言葉で空気が変わったのは3人。

 

「私が直接彼に何かするわけではない。それに……お互いだ。私は君に死を与える存在であり、君は私に死を与える存在だ。私と沢田綱吉は交わってはいけない。対処方法はお互いに関わらない努力をする。もしくは……片方を殺す」

 

 息を呑んだのは……誰だろう。沢田綱吉か、獄寺隼人の殺気にあたった私なのかもしれない。……どこか遠い世界のような気がする。だからこそ冷静に話せているのかもしれない。

 

「リボーン。君ならば雲雀恭弥に話を通して私を転校させることが出来るか? 彼は納得する理由もなく転校を認めると思えなくて、困ってるんだ」

「……………」

 

 返事はなしか。殺さないという甘い選択は彼に残ってないのか、逆にもっと私に興味を持ったか、答えはわからない。だが、例え興味を持ったとしても、私の存在を許さない人物がいる。殺される可能性は……低いと思いたい。彼の行動は沢田綱吉の判断に任せるしかない。彼を止めれるのは沢田綱吉だけだからな。

 

「……私に関わろうとするな。……呪われた赤ん坊、いい返事を期待している」

 

 危険度をわからせるために言ったのだが、少しやりすぎだったかもしれない。「呪われた」と言った瞬間に私はリボーンに殺されてもおかしくないのだから……。ふと見れば、獄寺隼人がダイナマイトの準備をしていた。

 

「神崎っておもっしれーのな!」

「さっきから何言ってるのだ? これも作戦か?」

 

 ずれた言葉が耳に入ってきた。しかし、その天然ぶりに安堵して呼吸が出来た気がする。そういえば……もう彼らから話しかけられることはないのか……。彼はよくわかっていないが、周りが防ぐだろう。

 

 ……思わず笑ってしまった。少し残念な自分がいる。

 

「……何度も話しかけてくれて本当は少し嬉しかったのか……」

「ん? なんていったんだ?」

「棒倒し頑張って。先輩も頑張ってください」

「ああ! もちろんだぜ!」

「任せておけ! 沢田! 勝つぞーー!!」

 

 つぶやいてしまったが、彼らには聞こえなかったらしい。聞こえなくて良かった。私は彼らに嫌われる存在でちょうどいいのだ。……リボーンには聞こえたかもしれないが。まぁ聞こえていれば……転校が出来るようにしてくれるかもしれないといい方向で考えることにする。

 

 棒倒しの入場が始まると先生が注意したので私はその場から離れた。彼らが棒倒しに集中できるかはリボーンの腕に任せよう。

 

「さようなら……」

 

 姿が見えなくなくなったが、今度は彼らに向かって言った。……返事はなかった。

 

 

 

 

 

 棒倒しは原作と違い、沢田綱吉が死ぬ気弾に撃たれることなく棒から落ちて終わった。私は棒倒しの結果を見届けた後、体調が悪いといい早退した。

 

 原作がずれたが、私が居なければまた戻ることを願って2週間ほどズル休みをした。そして何度も見舞いに来た兄に「バカでゴメン。勢いで行動してしまった……。あの時はこれが正解と思ったんだ。私のせいで終わっちゃうかもしれない……ゴメン」と謝り続け困らせてしまった。

 




題名の「揺れる」は主人公の心のことでした
あっち行きーこっち行きーというイメージで書きました
そして勢いで行動しちゃいましたww
だから多分普段の主人公とぶれてる印象になると思います


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矛盾。予知

 ツナは浮かない顔でベッドに転がり、枕元に置いてるあるものを見つめた。彼自身もそれを何度見たかわからない。傍から見ればおかしいだろう。ただの『冷却ジェルシート』を使わず見つめているのだから……。

 

「今日も学校に来なかったな」

「……うん」

 

 普段の彼ならば、学校のことを知っているリボーンに対して疑問に思うのだが、素直にリボーンの言葉に返事をした。今の彼にとってはリボーンの行動は気にならないことだったのだ。

 

 サクラの衝撃的な発言からツナは、いつ獄寺が行動に起こすか気が気でないのだ。今はツナとリボーンの言葉で抑えているが、いつ暴走するかわからない。そもそも、ツナにはサクラがどうしてあんな言葉を言ったのかはわからない。ツナは棒倒しが終わってすぐサクラに会い「冗談だ」と言ってほしかった。しかし、サクラは早退し休み続けている。まるでサクラがツナの前に現れないようにしてウソではないと証明するように――。

 

「……どうして、オレにこれを渡したんだろ……」

 

 もしサクラが言った言葉が本当だとすれば、サクラからすればツナは疫病神、死神と言ってもいいだろう。お互いにいえることだが。

 

 ツナはサクラが助けてくれたり心配してくれたことを思い出す。たとえサクラのせいで死ぬかも知れないとわかっても、どうしてもツナはサクラを嫌うことは出来なかった。サクラがマフィア関係だとしても。だから会って話したいと何度も思ってるがサクラは学校に来ない。そして話したいと思ってるにも関わらず、自らサクラの家に会いに行く勇気がない自身に落ち込むのだった。

 

 そんなツナの様子を見てリボーンは悩んだ。いつもならばツナに発破をかけるのだが、今回ばかりはそう簡単には判断できなかったのだ。『呪われた赤ん坊』という言葉を知っているのは極一部の人間である。サクラがこの言葉を知っているだけで危険と判断できる。が、リボーンはサクラがあえてこの言葉を使ったと予想している。まるでサクラがリボーンに殺されることを望んでるかのように……。

 

 さらに、リボーンはサクラの言葉がウソではないと踏んでいた。ただマフィアに関わりたくないだけなら、先日のように言えばいいだけである。わざわざサクラが『呪われた赤ん坊』という言葉を使ってまで話すリスクが説明できない。

 

 説明できなくてもツナにとって危険な存在なのは変わらない。それにもかかわらず、リボーンはサクラに手を下していない。ここで間違ってはいけないのは、リボーンは手を下さないのではない。――手を下したくないのだ。

 

 リボーンがそう思ったきっかけは、サクラが望んでツナを殺したいと思っていないからだった。サクラがツナ達に話しかけられて嬉しかったと呟いた言葉が聞こえたのもあったが、1番の理由は肩に手を置かれて取り乱したサクラがツナを見て安心したからである。

 

 矛盾。

 

 ツナと関われば死ぬと知っているサクラがツナを見て安心した。だからこそリボーンは悩んでいるのだ。ディーノの調査を待たずにサクラを殺すのは簡単だ。しかしリボーンにはそれが出来なかった。もしディーノの調査でも何もわからなければ……1つの可能性が生まれるからだ。

 

 予知。

 

 それで全て説明できるとリボーンは思ったのだった。サクラがツナに対して恐怖を抱かないことも、予知の内容によればリボーンが最強の殺し屋、呪われた赤ん坊ということも知ることが出来る。そして自身と関わることで不幸な未来がみえてしまった場合……この前のサクラの行動は不思議ではない。もしサクラが予知をできるのなら……リボーンは手を下したくないのだ。リボーンは未来をみえることで運命に翻弄され苦しんでる人物をよく知っているからだ。

 

 もしサクラが予知できるのなら、どれほどの力があるのかも関係なくリボーンはこれ以上サクラに苦しんでほしくないと思っている。リボーンはヒバリに頼んで転校の許可をもらうことが1番いいと理解しているためツナに発破をかけることも出来ないのだ。もちろん、全てディーノの調査によるのだが。

 

 

 リボーンは安易にツナに声をかけれないため、会話はなく部屋の空気は良くなかった。そんな中、ドアが開かれる。

 

「ガハハハ!! ランボさん、いいものもらったもんね! ほしいと言っても絶対あげないもんね!」

 

 ランボが嬉しそうにやってきたのだった。部屋の空気をかえるためには良かったのだが、ランボは空気を読めていなかった。

 

 ランボはリボーンに何度もお菓子を見せびらかしたが反応がないため、手榴弾を投げた結果、返り討ちにあい泣き出したのだ。気分が落ち込んでるツナはリアクションもなく、学習能力のない奴……と少し呆れていた。

 

「ったく……」

 

 ツナは愚痴りながらもランボの面倒を見ようとベッドから起き上がる。そしてツナは返り討ちにあいながらも貰ったお菓子を放さないランボに少し感心したのだった。

 

「ほら、これ以上リボーンを怒らせれば大事なお菓子が食べれなくなるぞ。母さんに頼んでお茶を用意してもらって食べよう」

 

 ランボは泣きながらも頷いたため、ツナはランボと手をつなぎ1階に降りる。ツナは泣いているランボのために話題を振ろうと考える。

 

「そのお菓子はどうしたんだ?」

 

 いつものようなアメではなく、さらにツナも見たことがない袋だったのだ。

 

「あのねー、道を歩いていたらもらったー」

 

 ランボの言葉にツナは本気で呆れた。知らない人から貰ったお菓子をランボは食べようとしていたのだから……。

 

「知らない人から貰ったものを食べるなって言ってるだろ」

「知ってるもんねー。この前、ツナのチームをずっと応援してるのを見たもんね!」

「それって……知らないのとかわらな――」

 

 ツナはランボの言葉にある人物を思い出す。ランボから特徴を聞き出すのに苦労はしたが、間違いないと思った。お菓子を貰う時に妹の話ばかりしていて、元気がない妹のために作ったと言ったのだから……。ツナは急いでランボにどこに会ったかを聞き、母親にランボを預け出かけたのだった。

 

 

 

 

 

 ツナは桂と一緒に喫茶店でお茶を飲んでいた。ランボが言っていた場所の近くで桂はたくさんの人に囲まれていたため、見つけるのは簡単だったのだ。幸い桂はツナのことを覚えており、桂から声をかえてくれた。勢いで飛び出したもののなんて話しかければいいか悩んでいたツナは安堵したのだった。

 

「あの……神崎さんは……」

「……元気とは言えない。僕が作ったお菓子もあまり食べてくれなくてね。余ったものを配っていたのさ」

「……そうですか」

 

 ツナは一瞬だけだったが桂が疲れた顔をしたのを見て、当たり障りのない言葉しか言えなかった。そしてツナは桂の様子からしてツナとサクラのことは知らないと予想した。ツナの中で桂のイメージは妹のことしか考えていないと思ってしまうぐらいの変人だった。その桂がツナに問いただすこともなく、ツナの前でコーヒーを飲んでるのだから……。

 

「君がサクラの心配してくれて嬉しいよ」

「え……?」

「サクラは僕のせいで友達ができなくてね……。僕がかわっているせいでサクラ個人を見てくれる人が少ないんだ。サクラが君のような子と出会えて良かった……。ありがとう」

 

 ツナは桂に返事を返すことが出来なかった。自身のせいでサクラは元気がないと知っているのもあったが、そのことを桂に話す勇気もない自身にも情けなくなったのだ。そして、サクラがどれだけの勇気を振り絞ってツナに言ったのか、少し分かった気がした……。

 

「……すまないね。君に僕の願いを押し付けてしまった」

「いえ……」

「……君には話してもいいかもしれない。僕はサクラと海外に住もうか悩んでるんだ」

「え!?」

「僕は少し前までフランスに留学していてね。そこで居た先生がフランスで新しく店を開く計画をしていて誘われていたんだ。サクラと離れるのは心配で1度は断ったんだが、いつでも歓迎するって言ってくれてるんだ。……大丈夫だよ。もし行くことになっても両親は仕事の関係でしばらくこの街から離れられない。サクラと一緒に年に数回は帰ってくるつもりだよ」

 

 ツナは悩んだ。サクラの話が本当ならば、ツナとサクラの関係を考えると海外に行ったほうがいい。しかし、それは嫌だと思う気持ちもあるのだ。

 

「あ、あの!!」

「なんだい?」

「か、神崎さんと……話をさせてください!!」

 

 ツナはサクラが海外に行くにしても、このまま別れるのはどうしても嫌だったのだ。少しその場の勢いで言ったのもあり、ツナは自身の行動に混乱した。が、桂の顔を見て落ち着いた。そして、ツナは穏やかな笑顔の桂を見て恥ずかしくなったのだった。恥ずかしいと言っても普段のような恥ずかしさではなく、少し誇らしげな恥ずかしさだった。

 

「ちょうど無理矢理でもサクラを外に出そうと思っていたんだ。君もサクラの部屋の中で会うより外の方がいいだろ?」

「は、はい!!」

 

 ツナは桂の提案にすぐ乗った。ツナには女子の部屋へお邪魔するのはハードルが高いと思っていたので、桂の提案は有り難かったのだ。

 

 この後ツナは桂と連絡先を交換し、また明日と約束して別れたのだった。

 

 

 

 

 

 一方、その頃……。

 

「これからどうするんだ? ボス」

「ん? そうだな……。新しくできた弟分に会ってみたいが……先にリボーンと話したい。わざわざ日本に来た意味がねーからな」

 

 とある人物が1人の部下を連れて日本に着いたのだった。

 




次は主人公視点に戻ります


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ツッコミ

 私は久しぶりに外に出た。そしてありえない光景を目にしている。

 

 ……少し時間を戻そう。

 

 私は原作が壊れるのが怖く、しばらく引きこもっていた。しかし引きこもるにも限度があると気付いたので外に出た方がいいのではないか。と思い始めていた。

 

 誰かに言われたからではない。両親は「学校に行きなさい」や「外に出なさい」、「動きなさい」などを言わない。もちろん心配しているのだが、無理強いをするつもりはないらしい。そして兄は私にもの凄く過保護で甘い。外に出たほうがいいと思い声をかけるが、私が本当に外に出たくないならば兄が必ず折れるのだった。

 

 正直、恵まれた家族に生まれて良かったと思う。ただ、1つだけ問題がある。兄は私を心配し元気付けるために毎日お菓子を持ってくるのだ。気持ちが沈んでるので大好きなケーキを食べるのは心が休まり、初めは私も嬉しかった。ただ――太るのだ。

 

 食べては寝てを繰り返してるせいか、お腹周りの肉が気になることになってしまった。誘惑から逃げるため、ケーキを極力見ないようにしているのだが、上手くいかない。兄が私のために作ったんだ、一口は食べてあげたほうがいい。という、悪魔のささやきが聞こえすぐ折れて食べてしまうのだ。それでも「肉がーー!!」と思い、半分ほど残し我慢しているが、太るのは太る。

 

 そして私は思ったのだ。リボーンに殺された時に太ってるのは嫌だ。流石に葬式の時に意外と太ってたんだ。という不謹慎な話は出ないだろう。しかし話題が出なくても嫌なものは嫌だ。死ぬかもしれないとわかっているんだ。恥ずかしい体系で死んで後悔はしたくない。それに……もし、死ぬ気弾を撃たれてそれで復活するのも嫌だ。恥ずかしすぎる……。恐らくこれは微妙な乙女心なのだろう。

 

「誰が乙女だ!!」

 

 鳥肌が立ちながら自身にツッコミを入れた。そして複雑な気分になった。

 

「何を言ってるんだい。サクラ以上に乙女という言葉が似合う人がいるわけないだろう?」

 

 いつの間にか兄が部屋に入っていた。私が突如おかしいことを言ったにも関わらず、普通におかしい返事をかえす兄はおかしい。……日本語が変だが、なぜかあってる気がする。

 

「サクラ、散歩しよう。少しは外に出て動かさないと身体に悪いよ」

 

 今日も兄は私の心配をし声をかけにきたらしい。ダイエットのために外に出たい。しかし、外に出る勇気はない。結局、兄の誘いを断り腹筋でもしようと思った。

 

「そんな気分じゃない」

「……ふむ。わかったよ! サクラは動くなくていい。僕が運ぶからね!」

 

 言うと同時に兄は私を抱きかかえようとする。慌てて逃れようとするが兄の方がスペックが高く逃げれない。それでもジタバタもがきながら声を出す。

 

「離せ! ズラ!!」

「ズラじゃない桂だ!!」

 

 私は動きを止めた。逃げれないと悟ったわけではない。兄が……ツッコミした――。

 

「ついにその言葉……」

 

 しばらく私が感動に浸っていると、1階にたどり着いていた。もう少し余韻に浸せてほしいと本気で思ったが、諦めて兄に声をかけるために服を引っ張った。

 

「お兄ちゃん、自分で歩くから」

「っ! これが萌え!!」

 

 兄の言葉に私はドン引きした。さっきの感動を返せ。

 

 私の態度に気付かないのか、兄は嬉しそうに私をおろした。そして、張り切ってエスコートしようとする兄と少し距離をとりながら、私は久しぶりに外に出る決意をしたのだった。

 

 

 

 

 

 家を出て2つ目の角を曲がった時に私はありえない光景を目にした。なぜここに居るのだ。

 

 跳ね馬ディーノ。

 

 彼が地面に転がってる姿を見て、私は動揺した。転がってるのはどうでもいい、想像できる。それより……なぜここに居るのだ。そして、動揺しながらも私は気付く。今は彼がここに居ることを考えるべきではない。兄を止めなければならないことに――。

 

 兄は正義感も強い。兄にとって、人助けをするのは日常なのだ。転がってるディーノを見れば助けるに決まっている。案の定、兄は今すぐ駆け寄ろうとした。私は急いで兄の腕を掴もうと手を伸ばす。今回は珍しく私の手は空を切らなかった。

 

「サクラ、大変だよ!! 今すぐ助けなければ!!」

 

 兄は急ぎたいが、私に腕を掴まれているので動こうとしない。恐らく兄は私の手を振り払うことが出来ないのだろう。そんな兄を見ながら私は行くなという意味で首を横に振る。

 

「どうしてだい!? 彼は倒れているのだよ!」

「……彼をよく見て。転んだ彼が顔を起き上がらせ、こっちを見てる気がしない?」

「そうだね! つまり僕達に助けを求めているのだよ!」

「それなら声を出す」

 

 私の言葉に兄は冷静さを少し取り戻す。少しなのは声が出せないほど弱ってるかもしれないということに気付いていないからだ。今回の場合はディーノなので、その心配は必要ない。

 

 兄はもう駆け寄ることはしないと判断したので腕から手を離す。そして兄の肩に手をかけて言った。

 

「未だに起き上がろうとしないんだ。彼は――地面が好きなんだよ。人の趣味に口を挟んではいけないよ。見て見ぬフリをしてそっとしてあげよう……」

「――僕は危うく間違いを起こすところだった! ありがとう、サクラ! 助かったよ!」

 

 ……兄は単純だった。騙した私がいうのもなんだが、やはり心配だ。すぐさま兄は道を引き返し、私達は見なかったことにしようとした。しかし私達は足を止めることになる。

 

「ちょっと待て!!! オレはそんな趣味じゃねぇ!!」

 

 いつの間にか起き上がったディーノのツッコミのせいだった。思わず舌打ちをしたくなったが、冷静に考えると誰でもツッコミしたくなるよなと思った。

 

「心配しなくていい。僕達は誰も言わないさ。行こう、サクラ」

 

 全力のディーノのツッコミだったが、残念ながら兄は出会ったばかりのディーノより私のことを信頼する。つまり私が否定しない限り、ディーノは地面が好きな人と兄は認識するのだ。何とも不憫である。流石、ツナの兄貴分だと思った。……不憫にしたのは私だが。しかし、否定する気はなかったので兄にエスコートに従って、兄の返答で声を失ってるディーノから離れようとした。しかし、急にエスコートしている兄の足が止まった。

 

「……どうしたの?」

 

 私は兄がディーノに興味を持ってしまったのかと思った。いつの間にか原作に絡んでる兄だ。不思議ではない。

 

「すまない、サクラ。僕としたことがサイフを忘れてしまったよ。取りに行くから少しここで待っててほしい」

「え……ちょっとまっ――」

 

 すぐさま走り去っていった兄を見て私は唖然とした。ここで待つとか無理だろ。原作キャラというのもあるが、何より気まずすぎる……。私はディーノから離れようと少しずつ距離をとる。

 

「オ、オレはそういう趣味じゃねぇって!!」

 

 動揺するディーノが迫ってくる。もちろん私はディーノがそういう人物ではないと知っている。が、もしこの状況を第三者から見ればかなり危険人物にしか見えないだろうなと頭の隅で思ってしまった。やはり不憫だと思い彼と話す事にした。……彼が不憫なのは私のせいだが。

 

「知ってるよ。兄が君に絡みそうだから咄嗟についたウソだ。……本当は地面好きじゃなく、キャバッローネの10代目は部下思い――だろ?」

 

 私の言葉に一瞬ディーノは警戒したが笑った。逆に一体なにが面白いんだと私の方が警戒しそうになった。が、ディーノという人柄は原作知識で知っているため警戒するだけ無駄と思い力を抜いた。

 

「リボーンも甘いな……」

 

 思わず呟く。ディーノが原作と違い日本に居るのは私が原因だろう。そして、ディーノが動くのは限られている。恐らく今回はリボーンの差し金で動いている。ディーノの人柄を考えると私をすぐさま殺す気はないということがわかる。彼は9代目からの頼みで獄寺隼人を試し、最悪の場合は海外に逃がそうとする人物なのだから……。まぁその人柄を知ってて頼んだ9代目も甘い気がするが。そう考えると今回はリボーンではなく、9代目の指示かもしれないと思ったがディーノの言葉で否定される。

 

「リボーンは女には優しくするのがモットーだからな」

「……そうか。じゃぁ私をどうすることにしたんだ?」

「さぁなー。オレにもわからねぇ」

 

 ディーノの言葉に思わず首をひねる。わからないので聞くことにした。

 

「なぜ君は私の前に現れたんだ?」

「ん? オレか? オレは会ってみたいと思っただけだぜ。いくら調べても一般人のお前が、マフィアのことに詳しいって聞いて興味を持ったんだ。リボーンの話を疑うわけじゃねーが、オレと会えば本当に詳しければ何か反応するかも知れねーって思ったしな。……少し予想外の反応だったが――」

 

 それはすまぬ。兄が居たからしょうがなかったんだと心の中で言い訳をする。

 

「――もっと楽に生きていいんじゃねーか? お前が何を抱えてるかわからねぇ。が、周りを頼っていいんだぜ? 話したくねーなら話さなくていい、オレは力になるぜ」

「出会ってすぐの奴に言う言葉じゃない」

 

 私の言葉に「そうか?」と言いながらディーノは笑った。本当に人が良すぎる……。

 

「……実行するかは君の自由だ。このまま沢田綱吉と会わずイタリアに戻れ。彼と初めて会うのは12月3日がいいと思う」

 

 ディーノは一瞬驚いた顔をしたが「わかった」と返事をした。つまり彼はまだ沢田綱吉と会っていないのだろう。もう会ってるかもしれないと思っていたので少し安心した。ただ、人が良すぎる。出会ってすぐの奴を信用しすぎだ。

 

「少しは警戒をしろ」

「何か意味があるんだろ?」

 

 意味があるのかわからない。私のせいでもう原作がずれているのだから……。ただ、少しでも戻り、原作通りに生きてほしいと思った。

 

「それにもうオレはお前を信用することにしたからな」

 

 私は笑った。これが『ボス』なのかと思わず笑ってしまったのだ。私は笑いをおさえ、彼に真面目に言った。

 

「君に忠告をする。私と関わるな。いつか後悔するはめになる。――私のことを信用するんだろ?」

 

 意地悪だな。と、自身で思った。信用するなら関わるなと言っているのだから……。それに恐らくディーノはリボーンから全て話を聞いている。先程の言葉で遠まわしに私と関わると死ぬということも彼には伝わっただろう。部下がいないので少し心配だが、彼は大事なところでは『ボス』になるので正しく伝わるような気がする。

 

「後悔するかはオレが決めることだぜ。だからオレは誓うって言う。ぜってー後悔しねーよ。――よし、決めた。12月3日にまた会おーぜ」

 

 今度は笑わず呆れた。しかしまた会いたいと思った。

 

「わかった。でも君から会いに来るな」

「ん? お前から来てくれるのか? 待ってるぜ」

 

 返事はしない。12月3日の予定は空けておくが、会えるかはわからないからだ。

 

「おっと……もう時間がないみてーだな。また会おうぜ! じゃぁな!」

 

 ディーノが慌てて去ろうとした。理由はすぐにわかった。兄が走ってくるのが見えたので彼は気を遣ったのだろう。

 

「さーくーらー!!」

 

 ……兄は叫びながら走っているらしい。まだ少し遠いが聞こえてしまった。恥ずかしいからやめてくれと思ったが、先にツッコミしたい人物がいる。

 

「去るんじゃないのか?」

「おっかしいな……。なんで今日はこんなに転ぶんだ……?」

 

 寝転がってるディーノに部下がいないからだ。と、ツッコミしたくなった。そんなことを考えてる間に兄が私の目の前にきた。兄が謝っているが、私はディーノと2人で話すことが出来たので不満は一切ない。兄が私の名前を叫んでいたのは恥ずかしかったが、まだ許容範囲だ。なので、気にしなくていいという意味で兄に「行こう」と声をかけた。兄は私の言葉に頷き、エスコートしようとしたが、突如振り返り言った。

 

「すまない。僕に地面の良さがわかればお勧めの場所を教えることができたのだが……力になれないようだ。だが、応援はしてるよ! 頑張りたまえ!」

 

 私達は「だからオレはそんな趣味じゃねぇーー!!」というディーノのツッコミを聞きながら歩き出したのだった。

 




ディーノさんが不憫に……。でも主人公の好感度は高いw


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距離感

 ディーノの叫び声を聞いてから数分後、私は兄のエスコートで公園に着いた。たまにはこういう場所もいいと思ったが、沢田綱吉が見えたので道を引き返すことにする。

 

「サクラ、どこへ行くんだい?」

「帰る」

 

 答えると同時に兄が私の腕を掴んだ。普段なら肩や腰に手をまわすので何事だと思い兄を見る。疑問はすぐに解けた。沢田綱吉が兄にお礼を言ったのだ。

 

「サ、サクラ……。彼はサクラのことを心配していたんだ。だからその……黙っていてすまなかったよ。誰にも会いたくないって言いそうな気がして――」

 

 兄にしては珍しく弱気だ。私の機嫌が悪いと肌で感じているのだろう。兄よ、弱気になる必要はないぞ。もう手遅れだからな。

 

「お兄さんは悪くないんだ! オレが頼んだせいなんだ……」

「……ちょっと外して」

 

 兄に目配せして言えば、もの凄い勢いで離れていった。どれだけ私が怖いんだ。そこのところを兄とじっくり話したい気分になる。

 

 気を取り直すため咳払いをし沢田綱吉を見る。睨んだつもりはないのだが、目が合うと彼は息を呑んでいた。ビビリ過ぎだろ。私は暴力は振るわないぞ。それに私が怒っても兄にしか効果がないと思う。

 

「……用件は?」

 

 あれほど忠告したのにも関わらず私と会うのだ。何かあるとしか考えられない。

 

「え、えっと……話をしたくて……」

 

 「だから用件を言え。話があるのはわかってる」と言いそうになった。言わなかったのは彼の用件が話をしたいということに気付いたからだった。沢田綱吉の性格を原作知識で知っていて助かった。知らなければ腹が立っていただろう。

 

「私はもう君と仲良く話すことはない」

 

 はっきりと言った。甘すぎる彼にはこれぐらいがいいのだ。だから言葉が出ない彼に更に追い討ちをかける。

 

「死ぬ気弾について少し思うところがある。君は後悔する中で希望を見つけるから生き返る気がする。私と関わるとその希望を見つけることが出来なくなる。だから私と関わるな。……私のことを気に病むことはない。これは利害の一致だからな。私は君が希望をみつけられなくなるのは困る。君が死ぬと私も死んでしまうからな。私は死にたくはないのだ」

 

 頼むから君は原作通りに進んで強くなってくれ。素晴らしいぐらいの他力本願である。ここまで来ると自画自賛してもいいだろう。少し誇らしげに「さようなら」と声をかけた。今回も返事がないが気にはならなかった。私は今、間違った方向で威張ってるからな。

 

 沢田綱吉との話が終わったので周りを見渡し兄を探す。兄は私が怒っているのを忘れているのだろうか。子ども達に混じりブランコをしていた。

 

「とぉ!」

 

 呆れながら迎えに行けば、叫び声をあげながらブランコから飛び降りていた。放置して帰ってもいいのだろうか。全力で他人のフリをしたい。

 

「みたかい? サクラ! なかなかの記録だっただろ!?」

 

 逃げる前に兄が私に詰め寄ってきたので、とりあえず私はスパーンとハリセンで一発殴った。そして数秒だけは倒れてる兄に向かって説教する。

 

「子どもがマネをしたらどうするんだ。危ないだろ。そもそも何歳だ。子どもに譲れ」

「な、並んで順番を待ったのだよ!?」

 

 悲痛な表情を浮かべる兄を見て、私はドン引きした。……このままここに置いて帰ろう。私は早足に兄から離れ、家を目指すことにした。

 

「ま、待ってくれ! サクラ! 僕1人で遊んで悪かったよ! 次はサクラと一緒に乗るから……許してくれないかー!」

「誰が乗りたいって言った!!」

 

 しまった。つい、足を止めて振り返りツッコミを入れてしまった。振り返ったので兄が嬉しそうに駆け寄ってくる姿が見え、私は頭を抱えた。

 

「頭が痛いのかい!? 大変だ! すぐに治さなければ!!」

「……お兄ちゃんが10分間ここから一歩も動かなければ治るよ」

「わかった! 僕は動かないよ!」

 

 10分もあれば家に帰れってお母さんに「疲れたから寝る」といい、部屋のドアを閉めれる。水分をとる余裕さえありそうだ。

 

「サクラ、動いても大丈夫なのかい? 僕と離れるのは危ないよ! さーくらー! ああ……どうして僕は動けないんだ!!」

 

 ……可哀相な気がしてきた。兄が不憫すぎて。一瞬、足を止めたが兄の行動に怒っていたことを思い出し帰ることにした。ただ、10分だけにして良かったと思った。

 

 

 

 

 

 しばらく歩いていると公園の方から騒がしい声がしてきた。兄かと思ったが、まだ10分も立っていないので首をひねる。

 

 ドドドドドと、音が近づいてくるので振り返ってみた。

 

「……変態だ」

 

 思わず呟く。何度かパンツ一丁の沢田綱吉を見たにも関わらず思ってしまったのだ。私は走る。リアルでは彼の進行方向に居るのは怖すぎるのだ。

 

「死ぬ気でサクラと話す!!! とぉ!!」

 

 沢田綱吉が叫びながら私の身体を飛び越え、逃げないように私がの目の前に立っていた。彼と目が合い私は思った――本日2度目の「とぉ!!」だと……。その後、彼は私に用件があることに気付いた。

 

「……今度の用件は何?」

「え、えーっと……あの……」

 

 私と話すために死ぬ気になったらしく、私に追いついた時点で死ぬ気モードは終了していた。彼の考えがまとまるまで待たないといけないのだろうか……。思わず溜息が出てしまった。

 

「ご、ごめん!! え、えっと!!」

「そっちじゃない」

 

 遅いから溜息をついたわけじゃない。と、否定したのだが彼には伝わっていないようだ。しょうがないので、上着を脱いで彼に押し付ける。着てきて良かったと思った。

 

「え……?」

「風邪引く」

「あ……ありが―――」

「10代目! 今すぐそいつから離れてください!!」

 

 沢田綱吉が何か言おうとしていたが聞こえず、獄寺隼人の声が聞こえてきた。姿は見えないので私の背後の方から来ているのだろう。振り返ってはいないが、ダイナマイトを持ってると思ったので手を上げることにする。上着が落ちてしまったのはしょうがない。彼も獄寺隼人の声でビックリして離してしまったのだろう。

 

「ご、ごめん!!」

「触ってはいけません! 10代目!! クソッ 果てろ!!」

 

 果てろという言葉と同時に私の足元にダイナマイトが見えた。この距離だと沢田綱吉にも当たるだろ!?と、ツッコミしたいがそれをする時間も無い。残念ながら腰が引けて足は動かないようだ。私が出来るとすれば――彼を突き飛ばすぐらいだな。彼が死ねば私も死ぬのだから助けるのは当然だろう。

 

 ドンッという効果音がつくぐらいの勢いで彼を突き飛ばせば、反動で私もダイナマイトから離れることが出来た。少しだけしか離れなかったが、ラッキーだなと思った。そう考えるぐらい時間はゆっくり感じ、痛さを我慢するために目を閉じた。

 

 

「………いてっ」

 

 尻餅をついたらしい。お尻が痛い。……ダイナマイトは?

 

 恐る恐る目をあければ沢田綱吉が目の前にいた。私は彼を突き飛ばしたのではなかったのか?と、思ったが膝を突きながら私の様子を見てるので、ちゃんと突き飛ばしていたようだ……多分。最後まで見ていないので正確にはわからないのだ。

 

「怪我はねぇか?」

「ん? ……ああ。君の仕業か」

 

 声をかけられた方を見て納得した。何をしたのかはわからないがリボーンが助けてくれたのだろう。

 

「……助かった。ありがとう」

「悪いのはこっちだ。謝る必要はねーぞ」

「そうだよ!! 本当にごめん! オレ達のせいで……。獄寺君も謝って!!」

「で、ですが……元々はこいつが10代目に危害を――」

 

 手をのばす。……思ったより柔らかいな。逆立ってるのでもう少し硬いと思ったのだが。

 

「なっ!?」

「んなーー!?」

 

 顔が真っ赤だ。落ち着かせるために頭を撫でたのだが、更に落ち着かなくなったのかもしれない。それだと意味はないので手をさげる。

 

「あ……あの……。今のは――」

「怪我はない。それに彼は正しいことをした」

 

 気にするなという意味で私は立ち上がり去ることにする。話せば話すほど彼は私のことを気にすると思うしな。本当に彼は甘すぎるのだ。……ディーノも甘いと思う。だが、あれでも裏の世界のボスだ。選択を強いられれば必ず決めれるので心配はしていない。

 

「……リボーン、またな」

「ああ」

 

 去る前にリボーンに声をかければ、返事がきた。これから私をどうするつもりか気にはなるが、私にはもう決定権はないので流れに任せることにしている。煮るなり焼くなり好きにしろ状態である。

 

「……ちょっと待ってよ!! こんなの絶対おかしいよ!! 神崎さんは大怪我するかもしれなかったんだよ!? それに……オレはまだ納得してない! オレはもっと話したいんだ!!!」

 

 驚き沢田綱吉を見れば肩で息をしていた。なぜここまで必死なのだろう?と首を傾げる。最初はディーノと同じで『ボス』だからと思ったが、どこか違う気がする。説明しろと言われても説明できないが。

 

「獄寺君だって神崎さんに本を薦めてもらって喜んでたよね!?」

「で、ですが―――」

「―――やっぱりこんなのおかしいよ!!!」

 

 手を伸ばす。2度目だからか彼はあまり驚かなかった。

 

「……また明日」

 

 呟くように言ったが、彼には聞こえていたらしい。目が輝いている。

 

 私は少し恥ずかしくなり慌てて彼から逃げるように去れば、「また明日!!」と叫んでいた。……頼むから静かにしてくれ。

 

 異様に立ち去るのに時間がかかると思いながら角を曲がれば兄が居た。あまりにもニコニコと笑っているので無視することにした。兄はそんな私の態度に気にもかけず、私の後ろを着いてくる。

 

「やはりサクラはかわいいね!」

 

 着いてくるなら黙ってろと思う。

 

「今度、僕にも紹介してほしい。サクラの友達なんだろ?」

「……違う」

 

 また明日とは言ったが、仲良くするとは言っていない。

 

「まさか……恋なんだね! 僕は嬉しいよ!!」

「それはもっと違う」

 

 呆れながらツッコミを入れてしまった。そうなると彼との関係はなんだ?

 

 クラスメイト?

 

 それはもう無理だ。私はモブキャラ「クラスメイトK」としては生きるのは無理だ。友達ではない。友達とクラスメイトの間? いや、どちらかというと―――。

 

「出来の悪い弟?」

 

 これが1番しっくりくる気がする。不憫すぎて心配になる感じだ。思わず手を伸ばしたくなる。普段は仲良く話すこともなく、困ってる時には手を貸す。……おかしくはないな。そう考えるとさっきのは彼のワガママを聞いてあげたくなった感じなのか。一人納得して頭を縦に振る。

 

「……不憫だ。彼が不憫すぎると思うのは僕だけなのだろうか……。恋は冗談だけど……友達と認識してもらえずに年下扱いとは――」

 

 最後の方は小さな声だったのでよく聞こえなかったが、私も彼は不憫だと思ってるぞ。だが……兄と私の『不憫』が違う気がする。

 

「しかし……サクラの弟と思えば羨ましい!! 僕がかわってほしいぐらいだよ!」

 

 考えに没頭しようとしたが、兄のバカな言葉で集中力がなくなってしまった。そしてツッコミをする気力もなくなってしまったので、しばらくの間、妄想に没頭してる兄を怪訝な目で見ることにする。

 

「見つめられると僕はサクラに酔ってしまうよ! はっ!? この状況に相応しいいい名前を思いついたよ! サクラクラ病と命名しよう!」

「それだけは勘弁だ!!!」

 

 本気で嫌がる私を見て兄は残念そうに諦めたようだ。――助かった。いろいろ危なかった……。

 

 安堵していると兄が私の頭を撫で始めた。今度はなんだと思い兄を睨む。

 

「サクラ、明日はどうするんだい?」

「……学校には行く」

「彼は大丈夫だよ。僕が断言する」

「……距離感がわからない」

 

 私から積極的に話しかけることはない。私は原作を壊したくないのはかわってないのだ。ただ……彼が困っていれば手を出すと思う。いや、手を出してしまうという表現が正しい気がする。本当に困った弟だ。

 

 悩んでもその時にならないとわからない気がしたので兄の手に甘えて考えを放棄する。

 

 そしてふと思う。これから先、私の方が兄から離れること出来ない気がする――。いろいろ思うところがあるのは否定しないが、私は兄とのこの距離感が好きなのだ。

 

 ……絶対兄には教えないけどな。

 




難産だった……w主人公の分岐点だったので悩んだ、悩んだ
実は恋愛抜きで話を大まかに3つルートを頭の中に用意してました
これが正解かは私にはわからないww
まぁどのルートを選んでも書いてるときに後悔すると思うww
1つだけ言うなら……ボツルートの1つには雲雀さんが登場したのでまた違う意味で後悔してますww

次は裏話?の予定です 


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狂ってる男

 逃げるように去ったサクラをツナはしばらく見ていたが、リボーンの言葉によって動き出す。

 

「サクラが貸そうとしていたんだ。着た方がいいんじゃねーのか?」

「あ!」

 

 ツナは慌てて地面に落ちていた上着を拾い汚れを軽く手で払った。そして一瞬だけ躊躇したが、リボーンの言ったとおりだと思い、袖を通したのだった。

 

 一方、獄寺は先程のツナの言動で悩んでいた。本来ならツナの意思を尊重しなければならない。しかし危険な人物との接触は右腕として見逃すことは出来ない。結局、彼はツナを説得することを選んだ。

 

「……オレは反対です!!」

「獄寺、ツナが決めたことだぞ」

 

 獄寺の抗議もリボーンが一蹴し黙らせる。しかし、獄寺が納得していないのは誰の目から見ても明らかだった。ツナは怖かったが、勇気を振り絞り声を出す。

 

「オレには神崎さんの言ったことはよくわからない。でも……神崎さんが学校に来ないのは寂しいんだ。友達だから……神崎さんはそう思ってないかもしれないけどね……」

 

 ツナは最後の方は少し自虐的に言った。そんなツナの姿を見た獄寺は何も言えなくなった。少しの間沈黙が流れたところでツナが再び口を開く。

 

「会いたいって、ずっと思っていたんだ。でも、オレは神崎さんのお兄さんに手助けされるまで勇気が出なかった。今ならわかるんだ。オレはずっと神崎さんにまた拒絶されるのが怖かっただけだって……。女子の家とかそんな理由で会いに行くことが出来なかったんじゃない。ただ、怖かっただけなんだ」

 

 ツナは思い出す、桂が手をまわしたことにサクラは怒っていた。その後、サクラと目が合った時にツナは凄く怖くなったことを――。しかしツナを見るサクラの目は優しかったので勇気が出て、話したいと伝えることができた。その結果、サクラに話すことさえ拒絶された。ツナは何も言えなくなりサクラの後姿を見ることしか出来ず、この気持ちにやっと気付いたのだ。

 

「何も話せなかったことに凄く後悔したんだ。友達なのにって……。そう思ったらすぐに答えが出たんだ。友達だから譲っちゃいけない。オレの気持ちを伝えないといけないって。上手く話せなかったけど……明日また会える――」

 

 獄寺はツナの嬉しそうな顔を見てサクラを認めるしかないと悟った。しかし、危険人物ということが頭にあるため、理解はしているが納得はできないでいた。そんな獄寺の様子に気付いた人物がいた。

 

「獄寺、何か勘違いしてねーか? サクラはただの一般人だぞ。サクラがマフィアのことを知ってるのは、お前らが棒倒しの練習時にオレが話したからだぞ?」

「そうなんスか!?」

「ああ」

 

 全て丸く治めるため、リボーンはウソをついたのだった。リボーンはこれが最良の選択と判断したからである。

 

「じゃぁあの女は……なんであんなことを――」

「ただマフィアと関わりたくねーからだろ」

「え……。つまりあれは……神崎さんのウソだったの……?」

「ああ」

「そ、そうだったんだ……」

「あの女……人騒がせな……」

 

 獄寺はブツブツと呟きながら怒っている姿を見てツナは怯えた。が、ウソとわかりサクラと一緒に居ても大丈夫と安心したのだった。そしてツナは思った――。

 

「……全部お前のせいじゃん!!」

「言っただろ。今回はオレが悪かったって」

 

 悪びれず言ったリボーンにツナは「こいつと関わるとほんとロクなことがねぇ……」と呟き、怒りを通り過ぎ再確認したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にツナと会っていかねーのか?」

 

 その日の夜、リボーンはイタリアへ帰るディーノの見送りにきていた。

 

「ああ。お前の話だとあいつらはもう大丈夫なんだろ?」

「……12月3日に会いに来るのか?」

「そのつもりだぜ。心配ねーて、オレの勘だがあいつは大丈夫だ」

「オレもその心配はしてねーぞ」

 

 リボーンはもうサクラのことを警戒してはいない。12月3日に何かあったとしてもサクラは話すと思っているのだ。

 

「あいつの兄か……」

 

 ディーノはリボーンの返事を聞き、すぐに何を警戒してるのか気付いた。リボーンに報告したのはディーノだったため、当然といえば当然だった。

 

 ディーノはロマーリオを見る。そして、サクラとディーノが2人で会っている間にロマーリオは桂と会っていた話を思い出した。

 

 

 

 

 

 ロマーリオはサクラと接触するディーノを心配し、ディーノに内緒で後をつけてようとしていた。しかし、ボスのディーノをつければ見つかる可能性が高い。そのためサクラの後をつけていたのだった。もし、サクラが危険人物なら尾行に気付くことももちろん考えていた。その場合は自身が死んでもロマーリオの行動は仲間には伝えていたため、サクラの危険性はボスに伝わると考えていたのだ。しかし、ロマーリオの前に現れたのは桂だった。

 

『僕をつけているかと思ったけど君の狙いはサクラだね? サクラが家から出なくなったのは君のせいかい?』

 

 ロマーリオは息を呑んだ。桂の口調は優しいものだった。首筋にナイフを突きつけていなければ――。

 

 ロマーリオはディーノの右腕であり、戦闘においても一般人に背後をとられることはまずない。しかし、実際にはロマーリオは桂にあっさりと背後をとられたのだ。

 

『あまり遅くなるとサクラに気付かれるからね。早く済ませようか……。君はなぜサクラをつけたのかい?』

 

 ロマーリオは答えない。マフィアの情報を話せるわけがないのだ。

 

『ふむ。サクラの可愛さに気付いた君には賞賛を与えたい。だが、行動が間違ってるよ。……今回は大目に見よう。次からは堂々と会えばいい。サクラは優しい子だからね。君とだって話してくれるさ』

 

 ロマーリオは困惑した。桂の言動から考えるとマフィアのことを知らないことがわかるのだ。

 

『ただ、次にサクラを困らせると――殺すよ?』

 

 桂は話すと同時にナイフを持つ手を力を入れた。少し血が出たところでロマーリオを解放し、桂はその場から去って行く。ロマーリオは妹のためだけにここまでする桂は狂ってると感じた。サクラがマフィアと関係しているかはわからない。たが、この男は危険だ。ロマーリオがスーツの内ポケットに手が入れた時、桂が突如振り返った。

 

『やめておいた方がいい。それを使っても君を殺すから』

 

 誰もが見惚れるような笑顔と声で話す桂は異常で、ロマーリオの動きを一瞬止めるには充分だった。そしてロマーリオは気付く、銃を持ってることに気付いたにも関わらず解放したことを――。

 

『大変だ! そろそろ戻らないとサクラが心配してしまう!』

 

 ロマーリオは慌てて去る桂を見ることしか出来なかった。指一本でも動かせば殺されると直感したからだ。今、手を出せば自身だけで済まない、ボスのディーノまで辿りつくと思い動けなくなったのだ。それほど数分の間で桂の異常さを肌で感じ、ロマーリオは桂に呑まれてしまった。

 

 ディーノはサクラと別れた後にこの話を聞き、ロマーリオが抱いた印象とディーノが感じた印象が違いすぎ混乱した。リボーンからの情報もそのような話は一切ない。しかし、ロマーリオがウソをつかないのはディーノが1番知っているため、リボーンに報告したのだった。

 

 

 

 

 

 しばらくの間、沈黙が流れたがディーノは明るくリボーンに話しかけた。

 

「あいつさえ間違わなければ大丈夫だろ? 心配する必要はねーって」

「……ああ。サクラは道を間違えるとは思えねーからな」

「そういうことだ」

 

 サクラさえ間違わなければ問題ない。そう結論しディーノはイタリアに戻って行った。

 




ちょっと読みにくいかも
過去に戻る時に区切りいれた方がいいのかな?
気になるなら入れます

わかると思いますが……
前の話で兄がサイフを忘れたというのはウソだったということです
兄はサクラの前以外では安定の残念じゃありません
違う意味の残念かもしれませんけどね


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寄り道

転校手続きは難しいことなのか?という有り難いご意見がありましたがこのままにします
いろいろ調べた結果、子どもが転校したい(いじめなどの原因を含めて)と訴えた場合、親の意見はかなりわかれるようです
その中で転校はしないが通わなくていいと逃げ道を作るというのもあったので、無理に変更する必要はないと判断しました

私が作る話なので矛盾が多いと思います。すみません
ということで、無理と思えばUターンですよ!ストレスが溜まるですから!(合言葉)
では、駄文ですがこれからも頑張りますね。期待はしないでくださいww


 昨日は久しぶりに学校へ行ったが問題なかった。元々友達がいない私は休んでいても変化が起きるわけがないのだ。強いて言えば、沢田綱吉達から挨拶があったり放課後遊びに行こうと誘われたぐらいだな。挨拶は軽く返したが、放課後は予定があるからと断った。沢田綱吉は落ち込んでいたので「また今度」と言えば復活した。が、なぜか少し態度が良くなった獄寺隼人が「10代目の誘いを断るとは……」とブツブツ呟き怒っていた。しょうがないので「久しぶりにベッドから起き上がったから予定が詰まってる」と、言えばしぶしぶ納得したようだった。正直に「マンガを読みたいから」と、言わなくて正解だったと思う。たいした予定ではないように見えるが、この私が約2週間ずっとマンガを読まなかったことを考えると、沢田綱吉の誘いを断るのは当然なのだ。

 

 そして今日は学校が休みなので朝から本屋に向かっている。家族には悪いが、私はもう開き直って原作キャラと会ってもいいと思ってるので、堂々と道を歩けるようになったからである。……雲雀恭弥とは会いたくないが。

 

 ……しまった。

 

 私は立ち止まりキョロキョロと見渡してみたが雲雀恭弥は出没していなかった。一瞬、フラグを立ててしまったかと思ったが大丈夫だったようだ。次から気をつけよう。

 

 気を取り直し本屋に向かうことにする。

 

 今日は兄からお小遣いをもらったので開店と同時に本屋に入るつもりなのだ。……少し浮かれてるのは自覚しているぞ。開店と同時に入ると決めた時点で気付いている。それでも止めれないのだ。それに今日は兄が一緒に居ないので気兼ねなく本を選べるのだから……。

 

 普段なら兄が一緒に居なければ本を買ってくれない。そして、兄が居ると注目を浴びるため、ゆっくりと選べない。もちろん兄は待ってくれるのだが。それでも気になるのは気になる。しかし、今日は違う。兄のお金で1人で買い物なのだ。最高である。

 

 そもそもなぜ今日が特別なのかというと、兄が私に黙って沢田綱吉と会わせようとして怒らせたのが原因だった。……そう、家に帰った後にお小遣いを要求したのだ。その結果、一万円ゲットだぜ!

 

 ……ノリで誤魔化してみたが、少し罪悪感が出てきた。もう怒ってないのにせびったからな……。しょうがない、帰りにラ・ナミモリーヌを覗き何か買おう。仕事の邪魔かもしれないが、兄が喜ぶのは間違いないからな。

 

「神崎!」

 

 この声は……と、思い振り返ると山本武だった。彼はよく私の名前を呼ぶ気がする。本当にいつ彼の好感度をあげたのだろうか。謎である。

 

「今からツナの家に行くけど、神埼も一緒に行かねーか?」

 

 少し考える。……明日は食い逃げの日だが、今日は原作ではない。食い逃げのことを考えると少し彼らが不憫と思ってしまう。3ヶ月間ずっとバイトだったからな……。不憫と思ったが、助言する気はない。

 

 話を戻すことにする。原作と関係ないといっても、山本武は問題ないかもしれないが急に私が行けば迷惑だろう。

 

「ぜってぇツナも喜ぶぜ!」

 

 ……そういうものなのか?経験がない私にはわからない。

 

「それとも今日も用事なのか?」

 

 用事はないが予定はある。彼らは一体いつこの違いに気付くのだろうか。少し心配になる。教える気はないが。

 

「少しなら……」

 

 悩んだ結果、行くことにした。正直、知識があるとしても沢田綱吉の家には興味があるのだ。

 

「ハハッ! いこーぜ!」

 

 笑ってる山本武を見て思う。彼は今日も元気だな。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の家の前に着けば獄寺隼人がいた。沢田綱吉は人気者だな。1人感心している間に2人が口論していた。獄寺隼人の一方的な気もするが。しょうがないので彼らの会話が終わるまで私は家を眺めることにする。玄関から見える2階の部屋が沢田綱吉の部屋なはず。

 

 私が確認している間に彼らは口論?しながらも家へ入っていく。チャイムを鳴らしていたが、勝手に入っていいものなのか?と、少し疑問に思った。しかし、仲がいい同士ではこれは当たり前のことかもしれない。私はどうするべきかと悩んでると「ぼーっとしてねぇで来いよ」と獄寺隼人が振り向きながら言ったので入ることにする。

 

 我が家のように入っていく彼らについて行けば、2階のとある部屋で止まった。先程、確認した場所だったので私の知識は間違っていないことがわかった。

 

「オレの人生は終わったんだーー!! もーー自首するしかないーー!?」

 

 このセリフは……と思い、部屋の前に行こうとした足が止まる。その後にハルが刑務所などと叫んでいたので間違いない。これは原作だ。

 

 恐らくこの部屋の中でモレッティが死んでいる。いや、正確には生きているのだが……。まぁそれはいい。本来ならこの原作は一週間前にあった。私のせいでずれたのか……?そもそもモレッティは日本に遊びに来たから寄っただけのはずだ。なぜ今日いるんだ。

 

 ……落ち着こう。今、COOLからHOTになるのはまずい

 

 連呼して叫ぶ度胸がなかったため、私は少し落ち着いた。考えてみれば、モレッティが一週間以上日本に滞在している可能性もあるのだ。私のせいでずれ、原作が今日になっただけかもしれない。

 

 とにかく私はここから立ち去るべきだろう。忍び足で降りようと決意する。

 

「か、神崎さんも居るのーーー!? お、終わった……」

「突っ立ってねーで入って来いよ。サクラ」

 

 逃げられない。リボーンに見つかっていたらしい。またレベルの差か!と逆切れしそうになったが、ばれてしまったので大人しく部屋に入ることにする。1度でいいからお前らレベルがオレ―――私を語るかと言いケンカを売りたい。もちろん、穏やかな心の持ち主の私には出来ないが。この前のことは自身でも驚いてるほど珍しいことなのだ。あれはリボーンの言動がきっかけで激しい怒りによって目覚めた戦士なのだろう。しかし残念ながら私は地球育ちの地球人なので鍛えても簡単に戦士にはならない。

 

 非常に残念と思いながら部屋に入ると沢田綱吉と三浦ハルが泣いていた。それを見て、くだらないことを考えすぎたと私は少し反省した。気を取り直し周りを見渡すと、三浦ハルと目が合った。一瞬三浦ハルは私のことが気になったようだが、状況が状況なので絡んでこなかった。正直ありがたい。私もどうすればいいか悩んでいるのだ。

 

 ふと足元を見れば、ケーキの箱があった。恐らく今日の三浦ハルは沢田綱吉に屋形船を見せに来たのではなく、ケーキを持ってきて原作のようになったのだろう。彼女は原作と違い私服で、ケーキの箱が歪んだ状態で床にある。恐らく間違ってはないはずだ。このままではケーキが獄寺隼人と雲雀恭弥のせいで食べれなくなる。歪んでるぐらいなら食べれるが、ダイナマイトが当たるとどうなるかわからない。持っておこう。

 

 私がケーキを抱えてる間に説明が終わったようだ。なぜなら原作通り獄寺隼人がモレッティに根性焼きをしようとしているからである。……この位置は危険だ。部屋の1番近い位置にいる私はDrシャマルに絡まれる可能性が高い。トイレにでも逃げたがったが、廊下で鉢合わせすると危険なのでドアから1番遠い場所に移動する。三浦ハル、私のために原作通り犠牲になってくれ。

 

 移動している間に酔っ払ってるDrシャマルがやってきた。沢田綱吉が必死に患者を診てくれと頼めば三浦ハルの方へ向かった。ご愁傷様である。

 

「キャアアア!!」

 

 ナイスパンチだが、こっちに飛ばすな。

 

「なんだ、こっちの可愛い子ちゃんか」

「黙れ。王妃に手を出した変態」

 

 間一髪だったようだ。私にはDrシャマルの動きが見えなかったが、王妃という言葉で停止した。そして停止したことでやっと気付いたのだった。私の胸の前に手があったので本当に危なかったことを……。しかし、まさかあれで停止するとは思わなかったな。もしかすると彼は王妃に手を出したことを嘆くほど後悔しているのだから、トラウマになっているのかもしれない。嘆き弾は意外と凄い力を秘めていることがわかった。

 

「どうして知って――」

「ハルや神崎さんじゃなく、患者はこの人です!!!」

 

 私に聞こうとしたようだが、Drシャマルは沢田綱吉の言葉で動き出した。……私が思っていたより問題発言だったようだ。国際指名手配なので調べればわかることと思っていたが、マフィア関係にしかわからないことかもしれない。

 

 これはまずいと思いリボーンを見ると目が合ったと思えば一瞬で足元に居た。と、思ったら……ピョンピョンと器用に飛び跳ねて私の肩に乗った。意外と重いので降りてほしい。

 

「……重い」

「わりーな」

 

 抗議したがスルーされた。両手で彼を抱っこすれば楽になる気もするが、ケーキがあるのでこの状態で我慢する。

 

「シャマルのことも知ってんだな」

「少しだけ。……モレッティのことも」

「そうか」

 

 下手に隠しても意味がないと思い、覚悟して言ったのだが「ツナ達には黙ってろよ」と言われただけだったので拍子抜けした。そして私は元々原作を壊す気はなかったのでリボーンの言葉に素直に頷いた。私の頷くところを確認してリボーンは肩から降りていった。私が重いといったので降りてくれたのかもしれない。

 

 リボーンと会話が終わるとDrシャマルが帰ろうとしていた。私に何か聞くかも知れないと思っていたが、リボーンと私が話してるところを見てやめたのだろう。……多分。

 

 もう少し考えたいが、これから一刻を争うことが起きる。そろそろ外からバイクの音が聞こえ始める。早くここから離れなければならない。

 

 慌てて廊下に出ようとすれば「神崎さん、ちょっと待ってーー!!」と、沢田綱吉に声をかけられた。見捨てないでという表情つきで。助けてあげたいが私も怖いのだ。彼と会って沢田綱吉を助けるほどの力も勇気もないのである。そもそも私は彼に近づきたくもない。

 

「……トイレ、場所案内して」

「え!? わ、わかった」

 

 流石、頼まれたら断れないランキング1位だ。この状況でも案内してくれるとは……。

 

 少し関心をしたがすぐに本当に原作を壊していいのか?と、頭によぎる。このまま彼が離れても獄寺隼人はダイナマイトを投げるだろう。話の流れは問題ないかもしれない。しかしモレッティと沢田綱吉との絡みが少なくなるのは大丈夫なのか。確か、モレッティはここで沢田綱吉と会ったから沢田家光に手を貸す決意をしたはずだ。……クソッタレ。と、自身に向けて放つ。原作を壊す度胸もないくせに、なぜ私は「また明日」など彼に声をかけたり、この家に来たのだ。

 

「神崎さん……?」

 

 頼んだくせに動こうとしない私を見て沢田綱吉が心配したようだ。そして心配している彼の顔をジッと見て私はこれでいいんだと思えた。

 

「10代目の手を煩わせるわけにはいけません! ぼけっとしてねーでついてこい」

「え!? で、でも……」

「彼でもいいよ」

 

 沢田綱吉は私の言葉を案内してくれるなら誰でもいいという風に受け取ったようだ。実際のところは彼が案内してくれればダイナマイトを投げることがなくなるので、彼でもいいという意味である。

 

 原作を回避するために私は彼の後ろを大人しくついて行った。が、少し廊下を出たところで沢田綱吉の叫び声が響いてしまったのだ。当然、獄寺隼人は私を放置し「10代目に何か!?」と言いながら、沢田綱吉のところへ行ってしまった。

 

「……失敗した」

 

 思わず呟く。流石に今から戻る気はしないので大人しくここで待つことにする。しばらくするとドカンという音と共に風が廊下に流れて来た。恐らく原作通りに進んだのだろう。ご愁傷様である。

 

「あまり暴れちゃダメよー。 あら? ツナのお友達? それも女の子じゃない!」

 

 どうやら廊下で突っ立ているせいで沢田奈々に見つかってしまったようだ。

 

「……こんにちは」

「こんにちは。どうかしたの?」

 

 どうかしたと聞かれれば、危険人物とダイナマイトから避難していると答えたくなる。会話が苦手な私でもそれはまずいと思うので、頭を回転させ何かいい言葉がないかと搾り出す。

 

「……三浦ハル――ちゃんがケーキを持ってきてくれたのでお茶を頼もうかと――」

「まぁ! ハルちゃんが! すぐに用意するわね。でも……ハルちゃんは?」

「……少し歪んで落ち込んでるみたいなので私が代わりに」

「そんなこと気にしなくていいのに……。すぐに用意して持っていくわね!」

「散らかしてしまったので30分ほどお時間を貰ってもいいですか?」

「もちろんよ~」

 

 何とか誤魔化したので、沢田奈々にケーキを預け部屋に戻ることにした。

 

 部屋に戻ると沢田綱吉と三浦ハルが力尽きていた。山本武はモレッティを指差して笑い、獄寺隼人はリボーンに向かって笑っていた。しょうがないので1人で部屋の片付けをする。服はたたみ、本は本棚に戻せば少しはましだろう。家事を全くしない私でもそれぐらいは出来るのだ。

 

 しばらくの間、黙々と片付けていると沢田綱吉が「ツナも動け」とリボーンに蹴られていた。

 

「……………なんで普通に掃除してるのーー!?」

 

 今ので沢田綱吉が復活したようだ。ただ、汚いから掃除をするのは普通ではないのか?と首をひねる。

 

「いや、掃除をしてくれたのは嬉しいんだけど……。神崎さんはビックリしなかったのかなーって……」

「ビックリしたといえばビックリした」

 

「原作がずれて今日モレッティに会うと思わなかったしな」と、心の中で続ける。沢田綱吉は納得しているかわからない返事をしていた。

 

「ツナさーん!? ハル……ハルはツナさんにとケーキをお持ちしたのに……どこかに行っちゃいました……。ハル、ツナさんを思ってお母さんと一生懸命作ったのに……」

「ケーキは1階にある。後で持ってきてくれるって」

「はひ!? そうなんですか!?」

 

 三浦ハルのテンションの高さに後ずさる。一瞬だが、兄と同じような視線を感じたせいだろう。そんな私を見て沢田綱吉が慌てて間に入り、私に三浦ハルを紹介していた。

 

「ハル。オレのクラスメイトの神埼さん。えっと――」

 

 沢田綱吉は困っていた。三浦ハルを紹介した時には「緑中だけどいろいろあって知り合って、変わってる奴だけど悪い奴じゃないんだ」など言っていた。しかし、私の場合とは接点が少ないため言葉が浮かばないのだろう。

 

「あ! 本が好きだよね!! オレ、読書感想文の本探しを手伝ってもらったんだ!」

 

 沢田綱吉の中で私は本好きと認識しているらしい。間違ってはいないが、本は本でもマンガだぞ。頭が良さそうに見えるので教えるつもりはないが。

 

「ハルも手伝ってほしかったですー」

 

 三浦ハルにお勧めの本は何かと考える。料理本がいいだろう。ある程度出来なければ未来で困ることになるからな。マグロ料理が載ってる本を探そう。……読書感想文には合わないな。

 

「はひ。ツナさん、サクラちゃんは落ち着きのある方ですね」

「少しはハルも見習えよな」

 

 それは言っちゃいけないことだぞ。案の定、沢田綱吉は三浦ハルに怒られていた。すると、それを見た獄寺隼人が三浦ハルに文句をいい、山本武が宥めていた。

 

「仲がいいですね」

「ああ」

 

 その様子を見ていたモレッティがリボーンに話しかけていた。どうせ目をつけられてるのだと思い、彼らに近づく。

 

「サクラは混ざらねーのか?」

「混ざり方がわからない」

 

 正直に言えば、リボーンは少し間を置いて「そうか」と返事をした。

 

「こんにちは。先程は驚かしてすみません。どうしてもボンゴレ10代目に『アッディーオ』を見てもらいたくて――」

「サクラは初めからおめーのことを知っていたから問題ねーぞ」

 

 一瞬、驚いた顔をしたが「そうですか」とモレッティをが言った。恐らく彼は私がマフィア関係者と思ったのだろう。違うのだが……。否定しても納得しないだろうなと思ったので諦め言いたいことだけ言う。

 

「出来れば、マフィアに睨まれたくない」

 

 出来ればと言ったのは半分無理と諦めてるからである。しかし、言わないよりはいいはずだ。

 

「そういうことだ。黙ってろよ」

「はい。わかりました」

 

 どこまで信用できるかわからないが、最強の殺し屋のリボーンが黙ってろと言ったので期待はしたい。

 

「……気をつけろよ」

 

 私の言葉に2人は顔を見合わせてから私の顔をのぞいた。本来なら下手なことは言わない方がいい。しかし、出会った人がこれから死にかけると知ってるのに何も言わないのは嫌なのだ。そう、これは私のワガママである。私が言ったせいで彼は死ぬかもしれない。そうなるとゴーラモスカを止めれなくなり沢田家光が死ぬ確率が高くなる。そして……沢田綱吉の死ぬ確率が高くなる。

 

「それ以上は言わなくていいぞ。それにおめーのおかげでモレッティはこれから気を引き締めれるんだ。それだけで充分だぞ」

「そうですよ。ありがとうございます」

 

 モレッティにお礼を言われ、少し泣きたくなった。謝りたいのだが、声を出すと泣いてしまう気がして首を横に振った。

 

 彼を止めて私がゴーラモスカの停止方法を教えればいいのだ。そうすれば彼はXANXUSに殺されかけることもない。私の知識を話せば何とかなる可能性が高い。だが、私はその知識でこれも知っているのだ。XANXUSがゴーラモスカのことを知ってる奴は生かす気がないことを――。

 

 先回りしXANXUSを抑えることも出来るかもしれない。だが、リング争奪戦がなくなれば原作の未来に繋がるかわからない。そう考えるとモレッティが瀕死の状況で『アッディーオ』を使いXANXUSの目から逃れ、モスカの停止方法を知らせるのがベストなのだ。

 

 と、自分に言い聞かせてるが、結局のところ私は自分の身が1番なのだ――。

 

「神崎さん、どうかした? あ! リボーン!! また神埼さんに余計なことをいったんだろ!!」

 

 私が否定する前にリボーンが「さぁな」と言った。甘いなと苦笑いすれば、「こいつの冗談だから!」と、沢田綱吉が必死に訴えてきた。

 

「わかってる」

「良かった……。あ! 掃除ありがとう! 凄く助かったよ」

「ん。もう少しする」

 

 まだ汚いしな。この状況ではケーキを食べれない。

 

「ほんと!? ありがとう!!」

 

 彼のお礼は落ち着く――。そう思いながら私は掃除を再開した。

 

 

 

 

 

 この後、私は彼らとケーキを食べて別れ、予定通り途中で本屋に行き帰った。自己嫌悪に陥ったのに本屋に寄れたのは沢田綱吉のおかげだろう。

 

 少し苦笑いしながらベッドに寝転び、マンガを読み始めた。が、何かひっかかり起き上がる。しばらく考えても思い出せなかったので、そのうち思い出すだろうと判断しマンガを読み始めた。

 

 思い出したのは「サクラ、帰ったよ!」という兄の声を聞いた時だった。

 




もう少しカットできる気もしますがこれで許してください


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密かな野望だってばよ!!

 今日は私の密かな野望を実現するために原作に介入する。この前、沢田綱吉の家に行ったのに会わなかったからな……。今度こそと思い、学校に残っているのだ。と、言っても原作が終わるタイミングに顔を出すだけだが。

 

 私はこの日のために本を読んで勉強した。……身についたとは思えないが、やらないよりはいいだろうと思っている。他にも最終手段として準備している物もある。わざわざ昨日買い物に行ったのだ。普段、私が食べているものとは違うしな。……兄からもらったお小遣いで買ったことは気にしてはいけない。あれはもう私のお金だ。

 

 しかし、少し後悔することがある。実は昨日会ってるのだ。その時に関わればよかったと思ったが、あの空気の中で私は動くのはきつい。それに、野望のために彼に会いたいとは思っているが、保育係になる気はないのだ。

 

「うわああああ!!」

 

 凄い泣き声が聞こえてきた。原作が終わるまでリボーンに気付かれないようにしたいと思っていたが、問題なさそうだ。このまま2階の廊下で音を拾えばいい。視線を送れば気付かれると思うしな。

 

 しばらくボーッとしながら聞き耳を立てていると、泣き声が1度止まり静かになったと思えば、また泣き出した。恐らく最初の泣き声は獄寺隼人のせいで、2度目が山本武のせいなのだろう。そろそろ1階へ降りる準備をしよう。

 

 

 

 

 

 靴を履き替えてゆっくりと行けば、原作のずれはなかったようで大人ランボが泣いていた。完璧のタイミングだな。自画自賛してもいいかもしれない。

 

「か、神崎さん!!」

「はひ! サクラちゃん逃げてください!! その人、エロくてヘンタイです!! 近づくのは危険です!!」

「うわあああああ!!」

 

 ……出直すか。わかっていたつもりだったが、思っていたより状況がひどい。しかし、三浦ハルの言葉で更に傷ついていたはずのランボの顔が不意にあがる。

 

「……サクラさん?」

 

 大人ランボは私のことを知っているらしい。……反応が妙だな。泣いていたはずのランボが目をパチパチさせている。……驚いて涙も止まった?

 

「も、もしかして……若きサクラさん……ですか?」

 

 聞かれたので頷く。が、三浦ハルはすぐわかったのに、なぜここまで自信がないのだ。サクラさんと呼んでる時点で交流はあった気がするのだが。……10年後の私はそれほど変わったのか?

 

「!? ど、どうした!?」

 

 思わず大きな声を出す。私が頷けばランボがまた泣き出したのだ。いつものように泣き出したのなら驚かなかったのだが、ランボは声も出さずに泣いているのだ。

 

「ラ、ランボ? どうしたの!?」

「あほ牛……?」

「おい……大丈夫なのか……?」

「はひ……。エロい人ですが、どうかしたのでしょうか……」

 

 私だけじゃなく彼らもランボの反応に困っているようだ。しかし、その空気は一瞬で壊れる。リボーンがランボを蹴って、倒れたランボを引きずって行ったのだ。

 

「お、おい!? どこ行くんだよ!?」

 

 慌てて沢田綱吉が彼らの後を追いかけようとしたが、足が止まる。理由は私が行くなと手で制したからである。

 

「私が見にいく」

「で、でも……」

「私のことだ。話す必要があれば必ず伝える」

 

 私の言葉に沢田綱吉は何も言えなくなった。ランボの泣き方を見て彼も嫌な予感がしているのだろう。私は彼の頭を撫でてからランボ達の元へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

「来たのか」

 

 時間が少ないので頷くだけにし、大人ランボを見る。泣き止んで真剣な表情だった。

 

「あまりこういうのはよくねーんだが……未来で何があったんだ?」

 

 そういえば、原作でランボは未来のことをあまり話さなかった気がする。ランボ自身もこういうことはよくないと理解しているのだろう。一瞬、ランボは迷った表情をしたが「オレも詳しく知りません……幼かったので」と、前置きしてから話し始めた。

 

「急に居なくなったんです。若きボンゴレ達も手を尽くして探したようですが――」

 

 最後に言葉を濁したのはそういうことだろう……。しかし、居なくなっただけでは情報がなさすぎる。

 

「……兄は? 私の兄は?」

 

 私が居なくなったとなれば、兄は大丈夫だろうか。1番心配したのはそこだった。

 

「桂さんは今もサクラさんを探して……時々、ご両親に会いに日本に帰ってるようですが――」

 

 「そう」と、返事をしたつもりだが声は出なかった。……ランボが幼い時と言っているんだ。何年探してるんだ……。それに日本以外にも――。

 

「今でもボンゴレ――ツナさんはみんなで撮った写真を大事に持ってます……。みんな、必死に探して……。オレもいっぱいお世話になったのに……。サクラさん! 気をつけてください! お願いします!!!」

 

 私は時間をかけゆっくりと頷いた。真剣に受け止めたとわかってほしかったからだ。ランボが安心したような顔をした瞬間、幼いランボに戻った。時間切れなのだろう。

 

「あれれ? お前だぁれ?」

「……ん。私はサクラだ」

 

 ランボと視線を合わせるために私は座り込み、買ってきた飴をあげようとカバンの中を探った。ブドウ味があったので手に広げ見せながら「あげる」と言った

 

「ママンとツナが知らない人に貰ったらダメって言うもんね!!」

 

 チラチラと飴を見ながら話すランボに苦笑いしながら「さっき名前教えただろ?」と言えば、嬉しそうに受け取り食べ始めた。その様子を微笑ましく見ていると、失敗したことに気付く。つい声を出してしまったので「どうしたんだ?」とリボーンに聞かれた。

 

「……物で釣るのは良くないと本で書いていたな、と――」

 

 何のために勉強したのか……と本気で思った。最終手段として用意していたのにすぐやってしまうとは……。悔やんでもしょうがないので、わかっていても出来ないこともあると、開き直ることにする。

 

「子ども好きなのか?」

「あまり」

 

 恐らく私の返事にリボーンは疑問を浮かべただろう。表情は変わらないが。

 

 少し沈黙が流れたので飴を必死に食べているランボを見る。……彼に手伝ってもらおう。本当はこんなタイミングで密かな野望を実行するつもりじゃなかったのだが。

 

「ランボ、お願いがあるんだ」

「ランボさんはウルトラ強いヒットマン!! オレっちを雇うのは高いんだぞ!!」

 

 私のカバンにまだ飴があることに気付いているのだろう。目がカバンに一直線だ。「飴でいい?」と返事をすれば「今回はそれでいいもんね!!」と物に釣られていた。

 

「……だってばよ。って言って?」

「だってばよってなぁに?」

 

 大量の飴をランボにあげた。あげる前に小さくガッツポーズしてるところをリボーンに見られていたが気にしない。それほど余は満足なのじゃ。……口調も変になったな。

 

「……今のは何か意味があるのか?」

「私のテンションをあげる効果はあった」

 

 私の返事を聞けばリボーンは気にしなくなった。彼も今から沢田綱吉のところへ戻らないといけないことをわかっているからだろう。

 

 

 

 飴に目を輝かせてるランボを抱き、彼らの元に戻れば驚かれた。飴の量もあるが、私のテンションが高かったのもあるだろう。鼻歌を歌っていたからな。

 

「ど、どうだったの?」

「もう私は問題ないと思う」

 

 この私は今の私はという意味である。未来の私は残念だが、パラレルワールドとして割り切る。今の私はこれからリボーンが目を光らせるので大丈夫だろう。素晴らしいほどの他力本願である。それにリボーンを見れば私の言っていることが伝わったようで、「ああ」と返事していた。

 

 沢田綱吉達はまだ心配してそうだったが、最終的に私の態度とリボーンの言葉を信用したらしいので、安心してランボをあずけて帰った。

 

 ランボにはあげなかった不思議なアメを食べながら考える。ケイタイを持ったほうがいいかもしれない。マンガを買う量が減るかもしれないが、両親に頼んでみよう。

 




今回もタイトル詐欺に見えるw


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交換

 廊下を歩いてるだけだが、妙に落ち着かない。私は急に立ち止まり振り返ってみると慌てて隠れる兄が居た。……あれで見つからないと思ってるのか。後でビデオは没収だな。

 

 しかし、兄のバカの行動はいつものことである。私が落ち着かない原因ではない。やはり自身の手元にある物が原因なのだろう。……慣れないことをするものじゃないな。帰るか。

 

「ちゃおッス、サクラ」

 

 なぜここに居る。いや、沢田綱吉が入院している病院なのだ。廊下に居るのは不思議ではない。だが、なぜこのタイミングで出てくるのだ。

 

「ツナの見舞いか?」

 

 曖昧に頷く。見舞いでもあるし、違うといえば違う。そもそもリボーンはなぜ私が沢田綱吉がここに居ると知ってることを聞いてこないんだ。私は昨日の原作には不参加だったんだぞ。

 

「サクラの本当の目的はツナの誕生日祝いか?」

 

 わかってるくせに聞くなよ、という意味で睨む。リボーンは私の睨みを気にせず、「こっちだぞ」といいながら歩き出した。どうやら案内してくれるらしい。場所は受付で聞いているが、甘えることにする。そして、このまま無言で歩くのも変だと思い、話しかける。

 

「……君の分は用意していないから」

「問題ねーぞ。オレは昨日祝ってもらったしな」

 

 あれは祝いというのだろうか。リボーンのただの暇つぶしな気がする。ちなみに私も山本武に誘われた。その日は兄と一緒にケイタイを買いに行く約束をしてるといい断ったが。

 

「……今思った。そもそも君は祝ってもらう歳じゃないだろ」

 

 口元がわずかに上がったリボーンを見て、あれはただの暇つぶしだったと確信する。強制参加じゃなくて良かった……。

 

「ツナはここに居るぞ」

 

 この病室か……と、目線を部屋に向けている間にリボーンは居なくなっていた。

 

「1人で行けってことか……」

 

 軽く深呼吸をし扉をコンコンと叩いた。しかし、返事はない。どこかに出かけてるのかと、一瞬思ったが彼は筋などを痛めてるはずなので、極力出かけようとは思わないはずだ。もしかすると聞こえなかったのかもしれない。今度は強めに叩く。が、返事はない

 

 どうするべきか……と、ドアの前で顎に手をおき悩んでいたが、兄の「ガンバレ! サクラ!」という声がうるさかったので入ることにする。もちろん入った後、扉は閉めた。

 

 兄からの視線に解放されて沢田綱吉のことを思い出す。

 

「…………」

 

 眠っていた。道理でリアクションがないわけだ。彼の周りを見渡すと少し散らかっていた。私の知識であった病室でするささやかな誕生会はもう終わったようだ。恐らく彼は疲れて眠ってしまったのだろう。

 

「…………どうすればいいんだ」

 

 起こさないように小さな声で呟く。彼に渡そうと思っていたが、眠っているのは想定外だ。知ってるなら先に教えろよ、リボーン。

 

 しばらくボーッと突っ立っていたが、枕元に置いて帰ることにする。恐らく彼はやっと眠れるようになったのだろう。体中が痛くて昨日は寝れなかったと思うしな。そう考えると、彼はしばらく起きることはないだろう。私は彼が不憫すぎて起こす気にもならないしな。

 

「誕生日おめでとう」

 

 そう小さな声で言って枕元にプレゼントを置いた。

 

 帰ろうとドアに手をかけた時、沢田綱吉が居る方から大きな音が聞こえた。見えてはいなかったが、彼が悲惨な目にあったと想像できるのが不思議だ。リボーンに起こされたのだろう。

 

「いってぇーー!!」

 

 起きてしまったので挨拶をしようと、振り返ったが沢田綱吉以外いない。

 

「…………」

「…………」

 

 しばらく沈黙が流れた。そして気付く、今のは私ではないぞという意味で必死に首を横に振る。

 

「だ、大丈夫だよ! 今のは神崎さんじゃないってわかってるよ」

 

 その後に小さな声で「どうせリボーン仕業だと思うし……」と呟いたのは聞かなかったことにする。私が原因の可能性が高いからな……。責任から逃れたいのだ。

 

「どうしたの?」

「……誕生日」

「え?」

 

 察しろと指で彼の枕元に置いたプレゼントを指す。「もしかして……オレの……」といいながら袋を開けてる姿を見て帰りたくなる。……視線を窓に移そう。

 

「……………何してるんだ」

 

 自分でも驚くぐらい低い声が出た。私の声を聞いて沢田綱吉が謝っていたので「そっちじゃない」と教える。君は何も問題ない。問題があるのはこっちだ。

 

「えーーー!? この人何してるのー!?」

 

 どうやら私の視線を追って沢田綱吉も気付いたらしい。

 

「僕のことは気にしなくていい! そのまま続けたまえ!」

 

 無理だろ。窓の淵に手をかけながらビデオをまわす兄に私達はドン引き中なのだ。そもそもここは3階だぞ。ミノムシの変装して兄の隣でぶら下がってるリボーンも止めろよ。……リボーンが面白そうなことは止めないか……。思わず溜息が出そうになるが呑み込み、沢田綱吉に頭を下げる。

 

「……バカな兄で悪い」

「き、気にしなくていいよ! 最近、こういうの慣れてるし!」

 

 変なところで沢田綱吉と親近感を覚えてしまった。向こうもそう思ってるのだろう。同士だ……と、目が物語っていた。

 

「……それ持ってる?」

 

 もう彼らは放置するのが一番だろうと思い、沢田綱吉に話を振れば開けかかっていた袋に視線を戻していた。

 

「……これ、最近出たゲームだ!! 持ってないよ! でもいいの……?」

 

 少し値段がするので気を遣ったのだろう。しょうがないので「半分兄が出してくれた」と、ウソをつく。半分本当だしな。それに少し高くなったのは沢田綱吉が喜ぶものが私には分からず、知識にあったゲームを選ぶしかなかったからである。

 

「神崎さん、ありがとう! お兄さんも!!」

 

 下手なことを言うなよという意味で兄を睨めば「……サクラの思いが詰まってるのだ。大事にしたまえ!」と、もの凄い迫力で言った。ビデオをまわしていなければ、少しは格好が付くのだが……。

 

 プレゼントを渡す用が終わったので手持ち無沙汰になる。リボーンと違い、すぐに彼と話す話題が出てこないのだ。これは気まずい空気が流れる前に帰ったほうがいいのだろう。

 

「眠ってるところ悪かった。また学校で」

「え!? もう!?」

 

 去ろうとした足が止まった。振り向き彼を見る。

 

「ご、ごめん!! 用事があるんだよね……」

 

 用事はない。……予定もない。帰ったらマンガは読みたいと思っているが。

 

「……借りる」

「う、うん! 使って!!」

 

 少し悩んでベッドの横にある椅子を借りて残ることにしたのだが、話題が出てこない。……沢田綱吉も出てこないのだろう。視線を何度も感じ苦笑いしてしまった。

 

「え? え? え?」

 

 私が笑ったので自身に何かあると思ったのか、キョロキョロと確認していた。「何もないよ」と言えば安心したようだ。

 

 ふと、ポケットの重さに気付く。この話題を出したいと少し思った。

 

「……昨日、ケイタイ買ったんだ」

「そうなの!? じゃぁ交換しようよ!!」

 

 その言葉に頷いたが、操作方法がまだよくわからないことを思い出す。ケイタイと沢田綱吉を交互に見て、任せようと決断し「まだよくわからない」といい預けた。彼は戸惑いながら「赤外線でいいよ!」と言っていたが、私が首をひねった姿を見て諦めたようだ。

 

「神崎さんって機械苦手なんだね」

 

 そこまで苦手じゃない。が、2つのケイタイを操作しながら質問する君よりは出来ないと思う。なので「ケイタイは初めてだから特に」と答える。

 

「買い換えたんじゃなくて、今まで1度も持ってなかったんだ」

「ん」

「そうなんだ。今時珍しいよね」

 

 それもそうだろう。中学で持っていないのはクラスに1人ぐらいだからな。つまり、その1人が私である。お金があまりないシモンファミリーさえ持ってるしな。

 

 少し思考が脱線してしまった。彼の言葉に返事しよう。

 

「必要性を……感じなかったから……」

「そ、そうなんだ……」

 

 気をつかわれた。やはりこのセリフを言えば、現実の場合も相手は答えにくくなるのか。1つ勉強になった。

 

「留学中、気軽に連絡がとれず僕は寂しかった!!」

 

 沢田綱吉にスルーしろと念じれば通じたらしい。何も言わずガーンという顔だけしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 途中からリボーンも会話に加わり、面会時間いっぱいまで病室に居た。最後まで兄はスルーしたが。

 

 帰りは行きと違い、荷物は減り軽くなったがアドレス帳は増えた。そして、落ち着かない気分も今は悪くない感じだ。

 




この話を書いたイメージ
W主演・・神崎サクラ、沢田綱吉
特別出演・・リボーン
エキストラ(音)・・神崎桂

……友情出演でもないww
でもインパクトはリボーンより強い。おかしいww


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初めての勝負

 ふわあああ。と、あくびが出る。今日の授業は寝そうで危なかった。昨日の夜に少し夜更かししたせいだな。

 

「珍しいね。寝不足?」

「ん。本の続きが気になって夜更かしした」

 

 隣で歩いていた沢田綱吉に聞かれたので教えた。彼は私の返事に関心したような顔をしていたので、本の種類がマンガというのは気付いていないらしい。もちろん教えるつもりはない。

 

 会話がなくなったので、チラッと隣を見る。違和感はない。本当にいつの間に当然のように彼と一緒に帰るようになったのだろうか。思い出せないので首をひねる。

 

「どうしたの?」

 

 考え事をしていたことを彼に気付かれたようだ。1人ではわからないので彼に聞いてみた。が、彼もわからないのか首をひねっていた。

 

「……10代目が退院した日からスよ」

 

 獄寺隼人の言葉に2人で「あ」という感じで思い出す。まだ筋がおかしくなってる彼が心配で一緒に帰ったのだった。そして、そのままズルズルと一緒に帰るようになったのだ。心配という割りに行きは一緒ではないし、原作と関わる日は先に帰ってるが。

 

 しかし、よく覚えてるな。という感じで獄寺隼人を見る。沢田綱吉を挟んでいるではっきりとは見えないが。それでも視線を感じたのだろう。「んだよ」と、声をかけられる

 

「兄と似てると思っただけ」

「あんな奴と一緒にするんじゃねぇ!!」

 

 なぜか怒鳴られた。彼は沢田綱吉、兄は私が好き。だから細かいことまで覚えてるのではないのかと思ったのだが。

 

「僕を呼んだかい!?」

「……悪かった」

 

 素直に獄寺隼人に謝る。これと一緒にされるのは死んでも嫌な気持ちがわかったのだ。しかし彼は私の謝罪は聞こえなかったようで、突如私の横に現れた兄を害虫のように「どこから湧いてでやがった!」と叫んでいた。

 

「ふっ。僕はサクラの行く先々にいつでも居るのさ」

 

 ドン引きである。沢田綱吉に位置を変わってくれと目で訴えたが、彼もドン引き中だった。しょうがないので兄に話しかけることにする。

 

「真面目に」

「最近、スリやひったくりが発生してるようじゃないか。母上には僕が買い物に行くと声をかけているのだが、サクラは学校があるだろ? 僕は心配でね。念のために迎えに来たのだよ」

 

 「最初から真面目に話せよ……」と心の中でツッコミしたのは私だけではないだろう。

 

 しばらく呆れていたが、兄の言葉でスリやひったくりの原作を思い出す。確か、一週間後に解決するはず。まさかこんなに早くからスリやひったくりが発生していたとは思わなかったな。ただ、このタイミングで沢田綱吉達がこのことを知ってもいいのかと心配になる。

 

「君達、なに群れてるの?」

 

 背後の方から美声攻撃をくらい、肩がビクッとなったのは3人だった。唯一反応しなかった兄は声をかけられた方に優雅に振り返っていた。ビクッとしていた彼らは兄から一歩遅れて振り返ってた。私は振り返りもせず、部活でこの場にいない山本武が羨ましいと思う反面、声だけお願いします。と、のんきに思っていた。が、「サクラの好きそうな声だね」とボソッと兄が言ったので慌てる。彼らにはギリギリ聞こえないレベルの声だったが兄を睨むために振り返る。それに彼と会ってしまったのは兄が私達の足を止めたせいな気もするしな。

 

「……ああ。また君達か」

 

 振り返った時に雲雀恭弥は沢田綱吉達を見ながら言っていた。もちろん美声で。その後、彼は兄をチラっとみるだけで見向きもしなかったので知らないのだろう。体育祭の応援で知っているはずなのだが、普段の兄は正義感の塊なのだ。風紀を乱すことはないので目をつけられず興味もなかったのだろう。ある意味で兄は有名だったので心配事が消え安心した。しかし、安心したのも束の間で、私と目が合うと僅かに口角が上がった気がしたのだ。

 

「そういうことね」

 

 私と沢田綱吉をチラチラと交互に見て呟いた。一体1人で何を納得したのだ。と、思わず聞きたくなる。怖くて聞きたくないが。いや、美声だけは聞きたい。何という矛盾……頭を抱えたくなる。

 

「そういうことさ!」

 

 そして、兄。絶対わかってないのに余計なことを言うな。本気でこの場に座り込み頭を抱えたくなる。

 

「君達と遊びたいけど、僕は今忙しいんだ。また今度ね」

 

 よくわからないが、彼が忙しいので助かるようだ。美声を聞いて咬み殺されない。素晴らしいことだ。生きてて良かった。彼が出る原作と関わる気はないので、彼の言う今度は一生来ないと思い、先程の美声の余韻に浸ることにする。うむ。余は満足じゃ!

 

「ちゃおッス。ヒバリ」

 

 どこから湧いてきた。思わず獄寺隼人と同じツッコミをしそうになる。雲雀恭弥もリボーンも黒い。そしてどこからか湧く。ゴ――。

 

「ゴホン!」

 

 急にリボーンからプレッシャーを感じたので咳払いをし誤魔化す。雲雀恭弥は咳払いしてから私を見たので、これは腕の差なのだろう。恐るべし、リボーン。失礼なことを考えた私は大丈夫だろうか。しかし、元はと言えばリボーンが私の余韻を潰したせいである。普段の私ではそこまでひどいことは考えないのだぞ。と、1人開き直る。リボーンは寛大だったようで、そんな私の態度に気にせず雲雀恭弥に話しかけていた。

 

「ヒバリ、ツナ達と引ったくり犯をどっちが早く捕まえるか勝負しねーか?」

「……赤ん坊。僕は自らの手で風紀を乱すものに鉄槌を下したいんだ。誰の手も借りるつもりはない」

 

 珍しくリボーンが雲雀恭弥を怒らせた気がする。咬み殺すまでは怒ってはいないが、機嫌が悪くなり空気が張り詰めた。そんな中、私は思った。少し怒ったその美声もナイスである。

 

「だが、おめーも早く風紀の乱れをなくしたくねーのか? それにツナ達が捕まえたとしてもヒバリに引き渡すと約束するぞ」

 

 リボーンの話を聞いて雲雀恭弥には悪くない話だなと思った。彼が先程忙しいと言ったのは引ったくりのせいだろう。それに原作ではこれから一週間は捕まらない。まぁこのことを知ってるのは私だけだが。

 

「勝負に勝てば、ヒバリのいうことを1つ聞くぞ」

「……うん。君の案にのってもいい」

「ちょっと待ってください!! ヒバリさん! ……勝手に話を進めるなよ! リボーン!! オレはいいって1度も言ってないんだぞ!!」

 

 沢田綱吉の切実な叫びだったが、獄寺隼人は雲雀恭弥に一泡吹かせたいのでやる気であり、元よりリボーンがきくわけがないのでスルーされた。ご愁傷様である。

 

「じゃ、ツナと獄寺チーム。サクラと桂チーム。ヒバリは1人だが、ツナ達より情報を知ってるんだ。文句ねーだろ?」

「いいよ」

「よくない」

「ん? なんだ、サクラ。わかって思うが不公平を防ぐために2人組みにするのは決定事項だぞ。それともこの組み合わせに反対なのか?」

 

 そっちじゃない。組み合わせなどどうでもいい。私は人事と思って美声の余韻に浸っていたのだ。参加しても適当にすればいいかと一瞬考えたが、兄が私と2人で組むと聞いて目を輝かせてしまってるのだ。つまり、面倒なことになるので参加すること自体が却下である。「別に僕は問題ないけどね」という美声はいい。内容は私の思いとずれてるので問題だが。

 

「リボーン、なぜ私も参加することになってるんだ。簡潔に述べてみろ」

「オレの気分だ」

 

 なぜか負けた気がする。私は間違ってないはずなのだが……。「心配しなくていい。僕が引ったくりなんかにサクラを指一本触れさせはしないよ! そして引ったくりを捕まえる僕を見て『お兄ちゃんカッコイイ』と言わせるのさ!」というやる気の声を聞こえて項垂れる。ふと沢田綱吉と目が合い、仲間意識が芽生えた。沢田綱吉も同じ気分なのだろう。私がリボーンと話してる間に獄寺隼人に説得?させられていたのだ。

 

「しょーがねーな。ツナが勝てば一週間勉強は休みだ。そしてサクラも勝てば何でも1つ聞くぞ」

 

 思わず魅力的な言葉に顔をあげる。何でもだぞ……何でも……。しかし、リボーンが言ったことだ。結局はぐらかされることが多いと私は思い出したのだ。

 

「……その条件では飲めない。彼が何でも1つ聞いてくれるならいいけど」

 

 雲雀恭弥を指を指しながら言った瞬間に私は調子に乗ったと気付く。獰猛な目をした雲雀恭弥と目があってしまったのだ。誰だ、雲雀恭弥の目について語り合っていた女子は!どこがいいのか教えろ!恐怖にしか感じないぞ!!

 

 もうここは兄に助けを求めるしかない。私のために盾ぐらいしてくれるだろうと期待して兄を見れば「ぼ、僕に頼みがないのは実の兄だからだよ! 決して僕が頼りにされてないわけじゃないんだよ!」と、泣きそうになっていた。うん、少し黙っててくれ。

 

「いいよ、それで。君が勝てればね」

 

 なぜか嬉しそうに了承した。が、負けた時は危険だと感じた。最悪の場合、日付は原作とずれたが遠まわしにヒントをだし沢田綱吉に譲ろうとか思っていたが、自分の身の安全のために勝つ決意をする。私は死にたくないのだ。

 

「じゃ、捕まえたらオレに連絡な。よーい――――」

 

 パン!という音が響いた。この音は風紀を乱したことにならないのか?恐らくリボーンだから許されたのだろう。羨ましい限りである。

 

 ボーっと考えてる間に沢田綱吉は獄寺隼人に引っ張られていった。ご愁傷様である。雲雀恭弥というとフラッと商店街の方へ歩いていった。被害が多い場所なのだろう。

 

「さぁ! サクラ、僕達も行こう!」

 

 いつの間にか復活した兄が私の腰に手をまわしエスコートし始めた。方向は雲雀恭弥と一緒で商店街だった。兄も少しは情報を知っているのだろう。

 

「……ちょっと待って」

「ん? どうかしたのかい?」

 

 兄の質問には答えない変わりにスタート地点から移動していないリボーンに話しかける。

 

「引ったくり――スリの犯人だけを捕まえればいいのか?」

 

 間をおかずにリボーンは「ああ」と答えた。返事の早さからしてリボーンはもう犯人の目星をつけているのだろう。本当に原作と違い早すぎるなと思ったが、私のせいでリボーンは周りを警戒してることを思い出した。また私のせいかと軽く落ち込んだため、兄のエスコートに身を任せることにした。

 

 

 

 

 

 

「サクラ、何か知っているのかい?」

 

 商店街に着いてすぐ兄に聞かれた。兄の前でリボーンと話をするべきじゃなかった……。と、今になって後悔する。

 

「……スリの犯人を知ってる」

 

 捕まえるためには兄の協力が必要不可欠である。いろいろ面倒なことになるが兄には全て話してしまおうと思い、素直にスリの犯人を知ってると話した。兄は私が変な記憶を持ってると知って一体どんな反応するのだろうか。しばらく私の言葉に固まっていた兄だったが、急に動き出した。

 

「うぐっ!」

「サクラ無事でよかった!!」

 

 痛い。急に抱きしめらるな。それに人が見ている。恥ずかしい。いろいろ言いたいことが山ほどあるのだが、「スリを目撃してしまったんだろう。すまない。僕がそのことに気付いていれば……」と、言われると何も言えなくなった。

 

 当然、私はスリなんて目撃していない。私は原作知識で犯人を知っているだけなのだ。兄は私がスリを目撃したと勘違いしただけでこれほどまで心配している。……全て話すのはやっぱりやめた方がいい気がした。ボンゴレ狩りのことを知れば、兄がどんな行動に移すか検討もつかない。私を幽閉すると言い出しても驚かない……。

 

 私が遠い目をしていると兄が離れた。恐らく気が済んだのだろう。

 

「サクラは目撃者だからね! 僕に任せたまえ! これでも僕は少しは強いのだよ!」

 

 言われなくても、こき使うつもりだ。という言葉は何とか呑み込んだ。本音を言えば可哀相だからな。しかし、問題がある。兄が私と違いハイスペックなのは知っているが、優しい性格なのも私が1番知っているのだ。1人では危ないのではないだろうか。相手は犯罪者なのだ。

 

 ――道具を使えば私でも足手まといにはならないだろう。

 

「危ない。先に私でも使える道具を買いに行く」

 

 防犯グッズで探せば問題ないのだろう。取り扱いしてそうな店に行こうとしたが、兄が動こうとしないので「どうした?」と声をかける

 

「……サクラ! 先に犯人を教えてくれないか? 道具を買いに行くとしても相手が分かったほうが選びやすいのだよ」

 

 兄の言葉に一理あると思った。兄に道具を選んでもらい、使い方のアドバイスをしてもらったほうがいい。犯罪3兄弟は私のことを知らないので安全だしな。まぁ兄は勘違いしているので遠目から教えることになると思うが。

 

 兄の言葉に納得して私達は先に犯罪3兄弟を探すことにした。

 

 

 

 

 

 意外にもすぐに見つかった。『ゆすりの二郎』が目立つのだ。今までこの街で歩いていて捕まらなかったのが不思議である。

 

「ふむ。彼らが犯人なんだね」

「ん。スリをしたのは長髪の方だけど」

「わかったよ。サクラ、必要な物はロープだね。僕はこのまま監視をすることにするから買ってきてくれないかい?」

 

 確かに私がケイタイを買ったので連絡が取れるようになった。1人は監視した方がいいだろう。だが、なぜロープなのだろうか?私が上手く使えると思えないので首をひねる。

 

「足に引っ掛けたることができるし、端を結んで投げるだけでも凶器にもなる。それに捕また後にも役に立つのさ。サクラは当然、足を引っ掛ける係りだよ!」

 

 なるほど。3人揃ってダラダラ歩いてるだけなのだ。意外と上手く行くかもしれない。兄にわかったと返事をし、兄から貰ったお金で買いに向かう。

 

 別に私が催促したわけではないぞ。兄がくれたのだ。……有り難く使うが。

 

 

 

 

 

 

 ロープを買うぐらいならば、私が1人で買っても店員に不審に思われることはなかった。兄はそういうことも考えていたのだろう。やはり私と違って頭がいい。

 

 連絡した場所で兄と合流しようとしたのだが、騒がしい。……兄が人を寄せ付ける体質ということを忘れていた。尾行に1番向いていないタイプだ……。溜息を出しながら騒ぎの中心に向かった。

 

「……なんだ……これは」

「サクラ!!」

 

 兄は私を姿を見ると尻尾を振ったように迫ってくる。かまってる状況ではないので無視をする。

 

 ――本当に一体何があったのだ。犯罪3兄弟が完全にのびているぞ。まさか……兄が……。と思い、無視していた兄を見る。私に無視されてネガティブホロウ状態の兄を見て、それはないと判断した。しかし、状況がわからない。周りもよくわかっていないようで落ち込んでいる兄に聞くことにする。

 

「……何があったの?」

「サクラァ!! 僕の話を聞いてくれのかい!? 実は彼らが急にケンカをしだしたのだよ。しばらく様子を見ていると拳で語り合い和解したらしい。しかし、あまりにも弱っていたからね。このチャンスを逃すのはもったいなくて、不意打ちで気絶させてもらったのさ!」

 

 その状況なら兄でも問題なかったのかもしれない。周りは「桂さんすごい! カッコイイ!」と褒めているが、怒らずにはいられない。

 

「危ないって私は言った。そこまで弱っていたなら私が帰ってからでも問題なかったはずだ」

「ご、ごめんよ……。サクラ……。僕が悪かったよ……」

 

 もう少し続けたかったが、商店街で正座しながら妹の説教をきく兄はシュールすぎるのでやめた。怒りが静まったわけではないぞ。家に帰ってから、みっちり怒ることにしただけである。

 

 兄にロープを渡し拘束を頼み、私は原作通りカバンの中に証拠のサイフがあることを確認する。……気付くとなぜかリボーンも一緒にカバンを覗いて確認していた。

 

「証拠もあるし、今回はサクラの勝ちだな。やるじゃねーか」

 

 まだ連絡していないのになぜリボーンがいるのだ。尾行していたのかと思ったが「僕が連絡したのだよ」と兄が言ったので言わなければ良かったのになと思った。リボーンが私達を尾行していれば、兄が無茶なことをしていても安全だったのだ。しかし、尾行していなかったので説教の時間は減らない。

 

「サクラ、ヒバリに何を頼むんだ?」

 

 リボーンに言われて思い出す。そういえば、そんなことを約束したな。兄のバカな行動のせいですっかり忘れていた。

 

 欲望のままに言えば、耳元で何かささやいてほしい。言えばドン引きされるので頼むつもりはないが。……クソ!もったいない!!

 

 1人心の中で嘆きながら現実的に考える。自分の身のことを考えると『私を咬み殺さないこと』がいいと思ったが、彼は約束をしていても咬み殺す時は咬み殺す。それこそ1度だけしか我慢しない気がする。一生とかは無理だ。彼が許可する内容で我慢させないもの。その条件で考えると――。

 

「――私の話に耳を貸すこと。聞かずに判断されるのは勘弁だ。耳を貸し納得しなければ好きにすればいい。私も含めてだ――」

「……なるほどな。オレからヒバリに伝えたほうがいいんだろ?」

「助かる。もし彼が嫌がった場合は考え直す。彼は嫌な場合は死んでも聞かないのはわかってる」

 

 「わかったぞ。まぁその条件なら問題ねーと思うぞ」というリボーンの言葉を聞いて安心した。彼が譲れる範囲がわかってるのはリボーンが1番と思うしな。

 

「サクラ、本当にそれでいいのかい?」

「ぅ……。いいんだ」

 

 兄よ、誘惑するな。こんないい条件は一生あるとは思えない。私だってかなり我慢してるのだ!!

 

「リボーン、後は任せていいか?」

「ああ。問題ねーぞ」

 

 リボーンに返事を聞き、急いでその場から去った。ここにいると誘惑されるのだ!!

 

 

 

 

 その後、家に帰り兄に説教した。想定していた時間より短かったが。理由は――。

 

「ちゃんと彼の声が録音できていただろう?」

 

 勝負事の話をしている時に、兄はちゃっかりと私のためにケイタイで録音していたらしい。グッジョブである。

 

 

 

 浮かれてる私は当然知らない。目を覚ました犯罪3兄弟が「なんだ、あの男……」と震え上がっていたことも、リボーンが兄の強さを計っていたことも、兄がそのことに気付き連絡したとウソをついたことも――。

 




自分でも笑いを書いてるのかシリアスを書いてるのかわからないww


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12月3日

 平和である。

 

 雲雀恭弥は譲れる範囲だったらしく、特に何もなく平和な日々を過ごした。そもそもあれから雲雀恭弥に会ってないしな。調子に乗って咬み殺されるのはバカと私は理解しているのだ。それに何度も言うが、彼とは会いたくない。声に興味があるのは否定しないが、会いたいとは思わない。

 

 慌てて周りを見渡す。またフラグを立ててしまったかと思ったがセーフだった。よく考えれば、モレッティの時も大丈夫だったな。あの時は原作知識があったおかげで会わずに助かったかもしれないが、元々私は主人公体質ではないのだ。考えたからといって会ってしまうわけがない。全て私の心配しすぎだったのだろう。

 

 ……その前にここには雲雀恭弥は来れないな。

 

 簡単なことに気付かなかったのはこの私が珍しく小説を読んでいるせいだ。決して私がバカだからではない、と思いたい。……まぁ人目があるからと、マンガじゃなく小説を読んでいるので見栄っ張りというのは否定しないが。

 

 それにしても遅いな……。30分ほど待ったのだが。もう待つのをやめようかと思う気持ちもあるのだが、結局気になると思うので待つことにする。それに、心配する兄から逃れてここに来たのだ。簡単に諦めるのはもったいない。

 

 もう少し待つため再度本に目を通そうとした時、隣の部屋が騒がしくなった。どうやら待ち人が来たようだ。まぁ後30分以上は待たないといけないと思うが。といっても、今から私もお風呂に入るので30分ぐらいは問題ないのである。

 

 そう、今私は銭湯に来ているのだ。ディーノとの約束を守るためである。原作通りに彼が沢田綱吉と会えていればここに来るとわかっていたので待っていたのだ。『予定を空けておくが会えるのかわからない』とは私のせいで原作がずれれば会えないという意味だったのだ。

 

 無事に原作が進んだことに安堵し、ゆっくり浸かれると思いながら脱衣所から風呂場に進む。しかしふと足が止まる。……イーピンが居たのだ。1人でこっちに入るのか……。悩んだ末、声をかけることにした。

 

 本音では子どもはあまり得意ではないし会話が苦手。さらにイーピンとはまだ接触したことがないのだ。1人でこっちに来たということは問題ないということだろうと思い、気にせず風呂場に行こうとしたのだが、なぜか沢田綱吉の顔が浮かび、気付けば足がイーピンの方へ向かっていたのである。

 

 急に知らない人が目の前に来たのでイーピンは首をひねっていた。そして私は困惑していた。足が向かった時点で声をかけようと決意したのはいいが、中国語なんて話せない。いや、よく考えろ。原作でイーピンは沢田綱吉の言葉に恥ずかしがっていたじゃないか。日本語は理解できるはずだ。

 

「……私、沢田綱吉、知り合い。君の事、知ってる」

 

 なぜか片言で話してしまった。イーピンが外国人だからだろうか。少し変だったが、イーピンは私の話が通じたらしく頭を下げていた。つられて私も頭を下げる。

 

「えっと……だから、一緒に入らない?」

 

 私は進化したようで少し片言がましになった。イーピンの反応を見ると私を睨んでいた。嫌だったのかと一瞬思ったが、イーピンは慣れるまで照れて睨らむことを思い出した。ついでに照れると爆弾の危険性も思い出した。まぁ私は気の利いたことが言えるわけがないので問題ないだろう。

 

 

 

 

 隣は騒がしがったが、イーピンは大人しく、予想通り私が気の利いた話題を出せるわけもなく女湯は静かだった。それでもお互いに背中を流したりしたので悪い空気ではないのだろう。本音はイーピンの手伝いをしようとしただけで私の背中は良かったのだが、イーピンがスポンジを持ってやる気満々だったのでお願いしたのだ。

 

 イーピンが必死になって洗ってくれたのでお礼を言えば、普通に喜んでいた。短時間で慣れるとは裸の付き合いというのは凄いものである。妙なところで感心した。

 

 お互いに体を洗ったところで事件が起きる。隣からランボが飛んできて湯の中で溺れていたのだ。イーピンがすぐに向かったが、体格の問題でランボを救えることは不可能だったようで私がひきあげる。

 

「が……がまん……。うわああああ!」

 

 ……どうしろというのだ。とりあえず、鼻水が湯に入るのは汚いので湯から遠ざける。その時に私の肌に鼻水がついた気がするので私も泣きそうになった。最終的にイーピンが洗ってくれたのにと、腹が立ったので強制的にランボの髪の毛などを洗う。手榴弾などが出て来たので、桶に入れておいた。全て洗った後に、ピンが抜けなくて良かったと今更ながら安堵した。その場のノリというのは恐ろしいものである。

 

 私にされるがままのランボは泣き止み殿様気分になっていた。いろいろ面倒なのでツッコミはせず、風呂に浸からせることにする。ただイーピンと違い、ランボは暴れる危険性があったので脇に手をいれて動きを封じて一緒に入った。私もゆっくり浸かりたいのだ。

 

「ちゃおッス」

 

 おい。なにナチュラルにこっちに居るんだ。君がこっちに来るのはまずいだろ。一応、肩まで浸かってるが近くに来ると見えるのだ。私の無言の訴えが聞こえたのかリボーンは男湯の方をずっと見ていた。

 

「ランボが戻ってこねーから、ツナがうるせーし見に来たんだ」

 

「……ああ。なるほど」

 

 確かに見た目は子どものリボーンが女湯に行くしかなかったのだろう。彼は紳士らしいので若い女性は私以外に見当たらないのもあったと思うが。現に1度もこっちを見ない気がする。もしかしたら私の姿を確認した時から男湯の方を見ていたのかもしれない。

 

 リボーンがこっちが見ないと信用できたのでランボを見る。リボーンに男湯に連れ帰ってもらおうと思ったのだが、「いやだ、いやだ。ランボさんはこっちで居るもんね!」とバタバタと暴れ始めた。小さいといっても力が強い。手を離してしまいそうだ。

 

「この位置で暴れるとまた溺れる」

 

 私の言葉にランボが動きを止めた。溺れたのが少しトラウマになっているのだろう。

 

「リボーン、こっちで面倒みる。後で服とタオルだけ更衣室に持ってきてくれると嬉しい」

 

 リボーンは「わかったぞ」と言って飛び跳ねながら男湯の方へ消えていった。……腰に巻いたタオルがよく落ちなかったな。

 

「え!? ランボの面倒を見てくれるって!?」

 

 沢田綱吉の声が響き聞こえてきた。すると、「ガハハハ! ランボさん、こっちにいるもんねー!」と、ランボが負けずに叫んでいた。イーピンも何か言っていたが、私にはわからなかった。恐らく叫んだランボを怒っていると思うが。

 

「すいません! 本当に迷惑かけてすみません!」

 

 沢田綱吉の謝る声が聞こえて、女湯に向かって頭を下げてる姿が想像できた。気にするなという意味で、ランボとイーピンに「肩まで浸かって100数えたら出よう。後でジュースおごってあげる」と言った。大きな声で2人で仲良く数え始めた。これで彼は安心しただろう。……2人とも100まで言えなかったのは計算外だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 風呂からあがりランボを降ろせば、脱衣所で走り回りだした。イーピンも追いかけ始めてしまったので困ったことになってしまった。私は追いかける気はしなかったので、バスタオルを広げて通り道をふさぐ。狭い場所なので上手く行くと思ったが、小さくてもマフィアらしく簡単に逃げられた。私は諦めて自分の服を先に着ることにした。何事も諦めが肝心である。

 

 服を着ながらランボの服を発見する。リボーンが置いてくれたのだろう。仕事が早い男である。もてるはずだと、思った。

 

 私が服を着終わるところでイーピンは我に返ったらしく、私に頭を下げてから身体を拭き始めた。どうやら自分のすることを思い出したらしい。ランボは追いかけっこの相手がいなくなり面白くなくなったのか、裸のまま椅子に寝転び始めた。

 

「イーピン、着替え終わったし先に飲んでいいよ」

 

 私からお金を受け取ったイーピンは1人でも問題ないようで自動販売機の方へ行った。ふと横を見るとランボは慌てて服を着ていた。それを見て私は「自分で着れるのは偉い」と、褒めた。お世辞ではなく本心である。実際、ランボにどうやって着せるべきか悩んでいたのだ。ラッキーである。

 

 イーピンは牛乳を買ってきたらしい。頭を下げていて聞いたことがあるような中国語を使っていたので恐らくお礼を言ったのだろう。お礼はいいので変わりに「サクラはオレが守る」といいそうな人を紹介してくれといいたかったが、中国語を話せないので諦めた。非常に残念である。白まんじゅうがほしい。

 

 残念感を漂わせながらイーピンにすぐ戻るといい、私は着替え終わったランボと自動販売機に向かう。「ランボさんはブドウ♪ ブドウのジュース♪」という斬新な歌を歌っていたので紙パックのブドウジュースを買ってあげた。私はスポーツ飲料を選んだ。

 

 一口飲んだので私は、ランボが大人しくジュースを飲んでる間に髪を乾かすことにする。イーピンにもドライヤーの使い方を教えてあげた。髪は少ないがやはり女の子なので気になると思ったのは正解だったらしい。丁寧に乾かしていた。ちなみにランボには勢いで拭いた。ジュースが飲み終わるまでの時間との勝負だと思ったのだ。

 

 案の定、ジュースが飲み終わればまた暴れ始めそうだった。このままだとまた走り回る気がしたので慌ててリボーンにメールを送る。リボーン達はもう準備が出来ていたようで、「わかったぞ。外に出て待ってるな」とすぐに返事が来た。

 

 イーピンに外に待ってるといえば自分でコートを着始めたので、私も自分のコートを着てからランボにコートを着せる。また暴れると面倒なのでそのまま抱き上げて外に出た。

 

 外に出ると沢田綱吉の姿が見えたのでランボが私の腕から抜け出して走っていった。イーピンはランボをまた追いかけていった。本当に元気だな。私はかなり疲れた気がする。

 

「えーー!! ランボ達の面倒を見てくれたのって神崎さんだったのーー!?」

「……そういうことかよ。道理でリボーンが簡単に任せたと思ったぜ……」

 

 沢田綱吉に抱きついたランボが私の存在を教えたらしい。イーピンはディーノに教えていたようだ。挨拶するべきだと思い、彼らのところへ向かうことにする。

 

「神崎さん、ゴメン! ちび達の世話してくれて……」

「すまん! オレが女湯に飛ばしちまったみたいなんだ」

 

 ランボが女湯に現れた原因が判明した。ディーノは部下が居ないので銭湯でも何かやってしまったらしい。ありえそうなことなので驚きはせず、彼らに返事をする。

 

「気にしなくていい。それにイーピンは1人でも問題なかった」

 

 沢田綱吉も迷惑をかけるのはランボと思うところがあるのか、抱き上げてるランボを見ていた。

 

「おっぱいあったー」

 

 反応はバラバラだった。ディーノは急に空を見て、リボーンは平常心、イーピンは驚いて沢田綱吉は「なっ、なっ、なっ」と言葉にならないことを発していた。ちなみに私は熱いので恐らく顔が赤くなってるだろう。

 

「……気にしなくていい」

 

 辛うじて言えたのは先程と同じ言葉だった。原作でもランボはそういう発言をしていたので、これは忘れていた私のミスなのだろう。もしくは女湯にランボを飛ばしてしまったディーノのミスである。沢田綱吉が気にすることではない。と、思う……。

 

「……じゃぁ」

 

 もうこの場にいるのに耐えれなくなり、ランボ達の荷物を無理矢理押し付けて去ることにした。沢田綱吉の引き止める声が聞こえたが、立ち止まれないのは許してほしい。

 

 

 

 

 

 

 足早に歩いていると、急に腕を掴まれた。集中して歩いていたので気付かなかった……。必死に掴まれた腕を振る。しかし、恐怖で力が上手く入らないし声も出せなかった。

 

「す、すまん! オレだ! ディーノだ!」

 

 顔を見れば本当にディーノだった。この道は少し暗かったが月明かりで顔を判別するぐらいは問題なかった。つまり、私はかなり焦っていたようだ。思わず安堵の溜息が出る。

 

「危ないから送ろうと思ってよ。逆にオレが怖がらせちまったな……」

 

 ディーノは気を使ってくれたらしい。彼らしいといえば彼らしいが……

 

「……送ってくれるのはいいけど、慣れない日本なのに1人で帰れるの?」

「あ」

 

 これも彼らしいといえば彼らしいと思ったので苦笑いした。

 

「まっ……何とかなるさ。送るぜ」

 

 これは確実に何時間も迷子になる。送ってもらった後、リボーンに連絡しようと思いながら、ゆっくりと歩き始めた。

 

「お前から会いに来るって言ったのに来ねーなと思ってたんだぜ。まさか銭湯で会うとは……。あの時、お前はエンツィオがツナん家の風呂を壊して、オレが銭湯に行くとわかっていたのか?」

 

 ディーノの問いに悩む。なんと答えるべきかわからないのだ。

 

「……わりぃ。話さなくていいと言ったのに聞いちまった。今のはなかったことにしてくれ!」

 

 悩んでる間にそういってディーノは立ち止まり私に向かって頭を下げた。『ボス』なのに簡単に頭を下げるとは……。それもまたディーノのいいところなのだろう。

 

「五分五分だ」

「え?」

「君が銭湯に行く可能性は五分五分だった。私のせいで君の運命をかえてしまったんだ。だからこの前、君に助言をいい少しでも戻そうとした。上手く戻るかわからなかったから五分五分」

「お前は……戻るほうに賭けたからあの場にいたってことか?」

 

 ディーノの問いには返事をしなかった。彼は確信を持って聞いてると思ったからである。ふと公園に目が止まったので入りブランコに座ることにした。話が長くなる気がしたのだ。ディーノはブランコには座らず、もし私が漕いでも邪魔にならない位置で立っていた。それを見て兄とは違い大人だなと感心した。

 

「……なぁ、どうして戻らないといけねーんだ? エンツィオがツナん家の風呂を壊さなくていい未来でもオレは問題ねーと思うんだが……」

「どれがきっかけになるかわからない。細かいところをいれると私が知ってるだけでも――君は5回以上は死にかける。ボンゴレ10代目候補は数える気にもならない」

 

 私の言葉にディーノは沈黙ししばらく風の音だけが聞こえた

 

「……全て話して回避すればいいは無責任な発言だよな……」

 

 ディーノも気付いているのだろう。1つ歯車が狂えば、簡単に命を落とすかもしれない、そういう世界に生きてることを――。

 

「リボーンに聞いたか? 未来の私が姿を消したって。ずっと考えていたんだ。最近、あれは私自身が選んだ道かもしれないと思うようになった。……彼の顔を見れば許してもらえる気になるんだ。でも、ダメなんだ。私がわかることは少なすぎる。私の居ない未来が正常なんだ――戻そうと思っても1人の力では限度がある。それに私は自身の身を優先してしまう」

 

 この前だって雲雀恭弥に負ければ自身の身が危険と感じ知識を使って好き勝手にやったのだ。私は自己犠牲という考えはもっていない。

 

 私は平和にマンガを読めればいい。……今まではそう思っていた。

 

 もちろん自己犠牲という考えは持ってない。しかし、マンガを読めればいいというだけではない。なぜか沢田綱吉の顔が浮かぶのだ。そのせいかわからないが、知識が足りないと思うようになった。

 

「……リボーンには話したのか?」

 

 首を横に振りながら言った。

 

「彼に直接話す勇気は私にはない。彼にとって私は優先順位が低いからな」

 

 私は沢田綱吉と話したりしているので、一般人に比べると優先順位は高いだろう。しかし、関係者の中では私は低い方だ。

 

「ちなみに沢田綱吉は論外だ。彼は幼く優しすぎる。そして力がない。だから君に話した」

 

 まだ2回しか会っていないのだ。それなのにディーノに話したのは、我が身を優先したまでだ。彼ならば上手くリボーンに伝える可能性が高く、力があるので困ったときに何か手を打ってくれると思ったからである。

 

 ザッという音と同時に私の視界に足が見えたので顔をあげた。ディーノが私の目の前に来たらしい。

 

「……なんだ? 君を利用しようと考えているから失望したか? 私は最初からそういう奴だぞ」

 

 一体何を勘違いしていたのだという意味でディーノを見る。彼にしては珍しく眉間に皺を寄せていた。ふと頭に何かが乗る。ディーノの手のようだ。

 

「お前は子どもだろ。子どもが大人に頼るのは当たり前だ。……今まで1人でよく頑張ったな」

 

 ガシガシと頭を撫でられたので下を向く。「お前……髪、ちゃんと乾かせよ!?」と叫んでいたのでタオルを頭に乗せれば、ディーノが四苦八苦しながら拭いていた。タオルの端を私が掴んでいたので拭きにくいと思うが、文句は一切言わなかった。

 

 

 

 

 髪を拭き終わり、いろいろと落ち着いたので水分補給する。飲みながらスポーツ飲料を買って正解だったなと思った。冷たいのは我慢する。

 

 その姿を見て慌ててディーノが自動販売機へ走っていった。何か温かいものを買いに行ってくれたのだろう。

 

「サクラ!!!」

 

 兄の声が聞こえた。幻聴と思いたかったが、「とぉ!!」と言いながら駆け寄ってくるので本人なのだろう。

 

「サクラ! 心配したのだよ! いつまでたっても帰ってこないし……。ケイタイもマナーにしたままで気付かなかったのだろう?」

 

 言われて気付く。カバンに入れっぱなしだった。

 

「こんな遅い時間に外に出るのは反対だったんだよ! いつでも出れるようにすると約束したから僕は許可したんだよ!」

 

 兄が珍しく私を説教し兄のようだった。少し驚いているとディーノが帰ってきた。状況を理解したようで私の隣にたって「すまん!」と頭をさげた。

 

「君は確か――地面が趣味の人だね!」

 

 兄の言葉に転びそうになった。そういえば、そういうことになっていたな。隣を確認すれば若干だが顔を引きつらせていた。この状況だとツッコミしにくいのだろう。

 

「……どういうことだい?」

「すまん。オレがこいつを引き止めてしまったんだ」

 

 私が兄の問いに答える前に、ディーノが私の頭をガシガシと撫でながら謝った。

 

「違う。私が話そうと思って先に公園に入った」

 

 本当のことを兄に教えれば「そうだったか?」とディーノは笑いながらガシガシと私の頭を撫でる。彼が手を離さないのはいい位置に私の頭があるからだろう。失礼な話である。もっともディーノが持ってるココアに釘付けになってる私の目もかなりの失礼だと思うが。

 

 私の視線に気付いたのか、「わりぃ」と言いながらココアを渡してくれた。頭に手が乗ってることは許してあげよう。私は心が広いのだ。

 

「……そんなバカな。僕のポジションが……」

 

 ぶつぶつと呟きながら兄が走り去っていった。

 

「お前の兄貴、どうかしたのか?」

「さぁ」

 

 兄がおかしいのはいつものことである。しばらくすれば家に帰ってくるだろう。ディーノには兄のことは気にしなくていいといい、送ってもらった

 

 

 

 別れ際、「いつでも連絡してもいいからな。一人でぜってぇ悩むなよ? なっ!」と、言いながらディーノがアドレスを渡してきた。

 

「ちょっと待って。君の部下の連絡先もほしい」

「ん? じゃぁロマーリオでいいか? おっと、その前にロマーリオのことはわかるのか?」

 

 首を縦に振る。ロマーリオは知ってるので教えてくれるとありがたい。

 

 私の返事をみてもディーノは驚きもせず教えてくれた。私は数週間後にディーノがケイタイを壊すことを知ってるので、これで問題ないと安堵する。そしてふと思ったので聞いてみる。

 

「……用がないのに連絡してもいい?」

「ああ! もちろんいいぜ!」

 

 許可がもらえたので今度送ることにしよう。しかし、何を送ればいいのかわからないな。少し悩んでる間に家に着いたのでお礼を言う。すると、頭をまたガシガシ撫でられた。気付けば頭に手があるのでそれほどいい位置なのだろう。

 

 念のためにディーノと別れる前に沢田綱吉の家を教えれれば理解しているようで安堵した。そういえば、1度も転んでないな……。

 

「どうかしたのか?」

 

 私の視線に気付いたのかディーノが聞いてきたので「なんでもない」と答える。私はあまり信用がないようで「本当か?」と何度も聞かれてしまった。少し適当に返事をしだしたところで、やっとディーノは納得したようだった。

 

 彼が1人で帰るのが心配で少し見ていようと思っていたが、ディーノは私が家に入るまでは帰らないというので「おやすみ」といい、家に入った。靴を脱ぎながらリボーンにメールを打っているとお母さんが駆け寄ってきた。

 

「遅かったじゃない。心配したのよ。 あれ? お兄ちゃんは?」

「さっき会ったけど、どこかへ走っていった」

 

 お母さんは「サクラと会ったなら大丈夫ね」といいながらリビングへ戻っていった。私はいろいろと疲れたのでリボーンの返事を確認してすぐに眠った。

 

 

 誰も兄のことを気にしなかったが、朝に汗だくになって帰ってきたのは家族全員で驚いた。

 




もう少しカットすればよかったかも。


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ハイキング

「たのもーー!」

 

 朝からうるさい。どこの道場破りだ。呼び鈴を使え。いや、呼び鈴もうるさく、朝から迷惑なのは変わらないので使うな。

 

「待たせたね! では行くとしよう!」

「ああ! 極限、今日こそはオレが勝ーつ!!!!」

 

 何でもいいからさっさと行け。それに毎朝同じ事を何度言うんだ。いい加減にしろ。そんな感じで言いたいことは山ほどあるが、寒いし眠いので布団から出る予定はない。

 

 これは兄が一晩中走った次の日から毎朝続いている。あの日、私と別れてから兄はいつの間にか笹川了平と走っていたらしい。そのままどこまで走れるかという競争をし、気付けば朝だったので帰ってきたと聞いた。バカと本気で思った。絶対に意気投合とかという次元の話ではない。断言できる。

 

 そもそも兄は今1番忙しい時期ではないのか。今日は23日だぞ。昨日は夜中に帰ってきたし、今日と明日は店で泊まることになるぐらい忙しいとか言っていたのに、なぜ今日も走る。本物のバカである。

 

 せっかくの休みなのでもう少し寝ようと思ったが、電話がかかってきてケイタイを見れば知らない番号だった。こういう時、やはりケイタイを買うんじゃなかったと思う。無視をしてもう1度寝ようとすればまたかかってきた。今度は知っている番号だった。しかし、相手はロマーリオだったので首をひねりながら出た。

 

「……もしもし?」

「わりぃ。オレだ。ディーノだ」

「ああ。壊れて番号がかわったのか……」

 

 先程の電話はディーノだったのか。そういえば、壊れた時のためにロマーリオの連絡先を教えてもらったが、結局自身から連絡する勇気がなかったのだ。

 

「お前が断った意味がわかったぜ……。あれは……来なくて正解だった……」

 

 それはそうだろう。巨大化したエンツィオに追いかけられると知ってて行きたいと思うのは少数派だ。現実で「一狩り行こうぜ!」と誘われても私には無理である。ただ、それにしても思う。

 

「……君は怒らないのだな」

 

 会話の流れからしてディーノは気付いている。私がこうなることを知ってるのに何も言わなかったことに……。この前、私が説明したからといっても知っているなら教えろと言いたくなるのが人間の性だと思うのだが。

 

「当たり前だろ。それより、今日もツナ達と出かけようと思うんだが……」

「多分、大丈夫」

「ツナん家で待ってるぜ!」

 

 ……切れた。何時に集合なのだ。もしかして今からなのか……。出かけると言っていたしな。諦めて布団から出て準備するとしよう。……動きやすい服にした方がいい気がする。スカートやブーツは却下だな。1番の被害は沢田綱吉だが、巻き込まれる可能性も否定できないからな。一応、私は女子なのでそこまでひどいことにはならないと思うが。

 

 それにしてディーノは簡単に当たり前と返事したな。『ボス』というのは恐ろしい。ここまで来るとそう思ってしまう。まぁその返事を聞いてすぐに大丈夫と言った私も『ボス』の器に引き寄せられているのだろう。そう考えると沢田綱吉が嫌いじゃないのも……。いや、あれは不憫で心配になるからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の家に着いたが、どうするべきか。もちろん誰かと違って「たのもーー!」と叫ぶ気はない。しかし、こんな朝早くに呼び鈴を鳴らしてもいいのだろうか。

 

「ちゃおッス。待ってたぞ」

 

 いつの間にかポストの上にリボーンが居た。さっきは居なかったはずだが……。気にしても意味がないと思ったのでスルーする。

 

「桂はいねーのか?」

「兄は仕事。それに私達はいつも一緒にいるわけじゃない」

 

 あれでも兄は社会人なのだ。合間を縫ってはいつも私のそばにいるので勘違いされやすいが。

 

「兄をファミリーにいれようと考えるなよ。兄がハイスペックなのは知ってるが、裏の世界で過ごせるタイプじゃない。それに、兄は彼より私を優先すると思うし」

「もうサクラ以外には興味がないと断られたぞ」

 

 リボーンの口から恐ろしい言葉が放たれた。なぜ私は兄がこの場にいないのにドン引きしないといけないんだ。恐ろしい破壊力をもつ兄がいて悲しくなった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はかわって山奥である。

 

「なんでまたここにこなきゃいけねーんだよ……」

「いいじゃねーか。この前はドタバタしてゆっくり出来なかったしよー」

 

 獄寺隼人の意見に激しく同意する。少し前に遭難した山奥に来て、平常心でいる山本武が恐ろしい。もちろん連れてきたディーノも恐ろしい。沢田綱吉なんて顔が真っ青になってるぞ。恐らくこの場所がトラウマになってるのだろう。まぁ乗り心地がよかったため車で起こされるまでずっと眠り、大物っぷりを発揮していた私も大概だが。

 

「それで何すんだ?」

「ん。リボーンも知らないのか?」

「ああ」

 

 リボーンが知らないとは珍しい。私も原作ではないので何をするかわからない。ディーノは一体何を考えてるのだろうか。

 

「この前、ツナのガールフレンドがここの山奥にあるケーキ屋の話をしてただろ? 明日クリスマスイブだしちょうどいいと思ったんだ」

「ガールフレンドじゃないですから!! あれ? でもそれなら……ハル達も誘えばよかったんじゃ……」

「それも考えたんだが……山道を歩くのは辛いと思ったんだ。だからお土産に何個か買ってかえるつもりだ。後でお前らが届けてやってくれ」

「じゃ、私のも」

 

 さて、車の中で待機するか。

 

「お前は心配しなくていいぜ。疲れたらオレがおぶってやるから」

 

 ちょっと待て。それはもっと嫌だ。

 

「ツナのファミリーを誘ったのは体力強化も兼ねてるんだ。無理はしなくていいが、お前も少しは鍛えた方がいい」

 

 恐らくディーノは私が言ったことを気にして、原作より沢田綱吉達を鍛えようとしているのだろう。そして、私も最低限の体力をつけたほうがいいと考えた。ケーキをエサにするとは中々の腕前である。ただ、私は引きこもり体質なのだ。登らずにケーキを食べたい。しかし、ディーノの言い分もわかるので少しだけ駄々をこねることにする。

 

「きゅ、急に山奥に入ってはいけない病が……」

「ははっ! 神崎は面白いこと言うんだな!」

 

 なんということだ。私の全力の回避ボケを天然スルーだと!?これだから天然は恐ろしいんだ。クソ、せめて「くだらないこといってないで、さっさと覚悟決めなさい!」という感じでツッコミをいれてほしかった。この中でツッコミ属性が高い沢田綱吉は何をしているんだ。沢田綱吉を見れば、私と同じように胸を押さえて「オ、オレも入っちゃいけない病が……」と呟いていた。まさか山道を歩くと聞いて私に便乗してボケにまわるとは……!そして、リボーンは密かにパチンコを持ち長鼻に変装にしていた。

 

「――ツッコミ不在か!!!」

「うるせー! お前、さっきから何1人ごちゃごちゃ言ってんだよ!!」

 

 哀れむような目で獄寺隼人を見れば、たじろいでいた。全く、ボケもツッコミもせず水を差すとは右腕失格だぞ。

 

「はぁ……。わかった。疲れたら私はその場に残るから帰りに回収してくれればいい。もちろんその時は私の分も忘れずに」

「ああ。それでもいいぜ」

 

 獄寺隼人は私の最初の溜息が自身に向かって放たれたことに勘付いたようで怒っていた。ちなみに、最後まで無事に私が話せたのは山本武が抑えてくれていたおかげである。

 

 

 

 

 

 はぁはぁ……、と自身の息遣いだけが聞こえる。汗をかいてるのも嫌だ。もう帰りたい。

 

「神崎さん、大丈夫?」

 

 辛うじて大丈夫と返す。しかし、まさか沢田綱吉に心配されるとは――。

 

「先に、行って、いい」

「気にしなくていいよ。オレもこれぐらいのペースがいいし……」

 

 沢田綱吉の視線の先を見てそうかもしれないと思った。競争といい、ハイスピードで登っていく山本武と獄寺隼人に付いていくなら私と一緒の方がいいだろう。

 

「あんまり無理すんじゃねーぞ。ディーノも無理はするなと言ってたしな」

 

 リボーンの言葉に曖昧に頷く。私だって途中で諦める気だった。しかし、ディーノが保護者として山本武と獄寺隼人に着いていったので、今ここに居るのは沢田綱吉とリボーンだけなのだ。私がここでリタイアすれば沢田綱吉は私を置いて登っていくとは思えない。

 

 私もディーノと同じで少しでも沢田綱吉には鍛えてほしい。しかし、それは私が原因のせいなので無理矢理に鍛えさせたくはない。今回の山登り、最初は私に乗ったが、彼はそこまで嫌がってないのだ。このチャンスを逃すのはもったいない。これぐらいの辛さは我慢する。

 

 

 

 

 と、思ってた時もあった。もう無理だ。兄に甘やかされて育った私には根性というものがない。兄よ、なぜ今日に限って私のそばにいないのだ。おんぶプリーズ。

 

「私はここで休んでるから、買ってきて。出来れば大量に」

 

 残念ながら兄がここに居ないので、沢田綱吉に現実的な話をする。

 

「え……で、でも……」

「大丈夫。ここは休憩所を兼ねた広場だと思うし」

 

 ここはぽっかりと道が開けて分かりやすい場所なので1人で残っても問題ないだろう。いくらなんでも私の存在を忘れて帰ることはないと信じている。もし置いていかれたと思ったなら一人で降りて帰るけどな。普段なら忘れられても問題ないのだが、兄は今日帰ってこないのだ。迎えは期待できない。だから置いていかれたと判断した時点で帰る気満々だ。そういう意味でもこの場所ならば、1人で戻れる距離でちょうどいいのだ。

 

「じゃ、楽しみにしてる。よろしく」

 

 沢田綱吉に気にするなという意味で淡々と別れを言った。

 

「サクラがそういってるんだ。行くぞ」

「うん……わかった……」

 

 チラチラと沢田綱吉が振り返りながら登っているので、手をシッシッという感じで振る。さっさと行ってくれ。私のためにケーキを買ってきてくれるなら多少のことは許すから。ケーキを買わず、さらに存在まで忘れたら許す気はないけどな。

 

 沢田綱吉の姿が小さくなったので、その場に座り込む。これからどうするべきだろうか。引きこもり体質の私は、外で過ごす方法は何も思いつかない。寝ることは出来るが、ここで寝るのは勘弁である。

 

「……小説でもいいから持って来るべきだったな」

 

 文庫サイズだとポケットに入っただろう。読みが甘かったなと1人反省する。……することがないので反省するしかないともいう。

 

 反省も数秒すれば飽きてしまったので、好きなキャラランキングでも考えよう。難しいのが、顔や声だけにするか、性格もいれるのかだ。それで微妙に順位がかわってしまうのだ。今度、フゥ太に正確なランキングをしてほしい。

 

「うおおおお!!!」

 

 大きな声が聞こえたので顔をあげる。もの凄い勢いで沢田綱吉のパンツ一丁がこっちに向かってやってきた。二度目だが、怖すぎる。木の後ろに隠れたが、すぐに見つかった。はぁはぁ……と、言いながら迫ってくるパンツ一丁。何度も言うが怖すぎる。沢田綱吉は私の心境に興味がないようであっさりと私の動きを封じた。まじで怖すぎる。

 

「ど、どうし……ひっ!」

 

 いつの間にか沢田綱吉の死ぬ気状態の顔が目の前にあった。怖すぎて声が裏返る。

 

「死ぬ気でサクラをケーキ屋に連れて行く!!」

「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇぇぇー…………」

 

 私の悲鳴は無視され沢田綱吉に横抱きで運ばれる。所謂、女子の憧れのお姫様抱っこ状態である。しかし、私はこの手のタイプの空気は読めないようだ。

 

「酔う! 酔うって! せめてゆっくり運んでくれ!」

 

 ハイスピードで運ばれたせいで、上下に揺さぶられ、私はいろんな意味で危険なのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 揺れること5分。何とか私の女の尊厳は守られ、ケーキ屋にたどり着いた。しかし――。

 

「……しまってるな」

「そうみたいだね……」

 

 諦めて帰った後で知ったが、クリスマスにわざわざ山奥に買いに来る人もいず、店主も年末は山奥で過ごさないので20日ごろから閉めているらしい。

 

 私に残ったのは次の日の筋肉痛だった。下山をなめた結果である。

 

「すまん! オレがちゃんと調べていれば……」

「……気にするな」

 

 最近、この言葉ばっかり使ってる気がすると思いながら、クリスマスイブに私の家の玄関前で謝ってるディーノを許した。それに私より沢田綱吉のところに謝りに行ったほうがいいと思うぞ。リボーンに聞けばが彼は歩くのも辛いぐらいの筋肉痛で寝込んでるらしいからな。

 




たまには主人公を痛い目に合わせようと考えた話
なぜかツナ君も痛い目にあう。不思議ですねw


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兄は私の兄

 今日はどうするべきか――。

 

「「はぁ……」」

 

 溜息がかぶったのでお互いに顔を見合わせる。

 

「お前ら、どーしたんだ? 悩みでもあんのか? オレでいいならいつでも聞くぜ!」

「10代目! 何か悩みでも!? 右腕のオレに話してください! 右腕のオレに!!」

 

 本当にいつも山本武は元気だな。……獄寺隼人はそれ以上沢田綱吉を前後に揺さぶるのは止めておいた方がいいと思うぞ。魂が出て行きそうな気がする。

 

 私の念が通じたのか、獄寺隼人は動きを止めた。今日も彼は不憫だな。

 

「か、神崎さんから……」

「多分、君と一緒。今日の授業参観が憂鬱なだけ」

「10代目がそんなくだらねー悩みなわけねーだろ!! ですよね! 10代目!!」

「え!? あ……まぁ……うん……」

 

 完全に脅しである。「10代目はお前みたいに能天気な頭じゃねーんだ」と私に文句をいっている獄寺隼人の後ろで沢田綱吉が手を合わせて謝っていた。気にするなという意味で頷けば、「今度から気をつけろよ」と獄寺隼人に言われた。反省したと勘違いしたのだろう。ラッキーである。

 

「そろそろチャイムが鳴るから」

「……あ! そうだね! みんなも席に戻ったほうがいいよ!!」

 

 獄寺隼人に悩みを聞かれると困ると思ったので助け舟を出してあげた。私の意図に沢田綱吉が気付くか心配だったが、問題なかったようだ。恐らく彼も私と同じで時間を理由に逃げたことが何度もあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は来た!」

「……来なくても良かったのに」

「僕以上にサクラの授業参観に来るのに相応しい人物はいないよ!」

 

 思わず出た本音はきゃーきゃーと叫ぶ声に紛れたと思ったのだが、兄には聞こえていたようだ。聞こえているならなぜ帰らないのだ。不思議である。「そもそも1番相応しいのは専業主婦のお母さんの方だろう。保護者だし」と言えば、兄はキョトンとした顔で言い放った。

 

「知らなかったのかい? 毎年行われる『サクラちゃんクイズ大会』で僕は1度も優勝の座を譲ったことがないのだよ。母上はなかなかの強敵だが、いつも僕には叶わないのさ! だからここに来るのは僕が1番相応しい!」

 

 なんだ、その大会は……。家族揃って何をしている。サクラちゃん大会という名前からして、考えたのはお母さんだろう。何というバカなことを考えてしまったんだ……。いや、毎年あるという話からしてお母さんが1番後悔してる気がした。お父さんは完全に巻き添えだな。

 

「……そろそろチャイムが鳴るから」

 

 いつものように時間を理由に私は逃げることにした。

 

 席に着き、後ろを振り返る。……なぜ兄はここまで目立つのだろう。血が繋がってることが不思議なぐらいだ。実際、私達は兄弟に見られないしな。しかし、私も兄も両親に似ているといわれる。本当に世の中不思議である。まぁ似ていなくてもあまり気にしない。似ていなくても私の兄ということにはかわらないからだ。ただ、兄ほど容姿端麗じゃなくてもいいが、もう少し美人だったら良かったなと思う時がある。

 

 考えているとチャイムが鳴ったので正面を向く。これで兄は私に手を振るのをやめただろう。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ恐怖の授業参観の始まりだ。ランボが教卓で遊んでる様子を見て笑っているのも今のうちだ。最後まで兄は余計なことしないことを願いたい。

 

「あれぇ? 京子だけじゃなくサクラもいるもんね! ランボさん遊んでいく!」

 

 ……原作と違い私の名前も増えたようだ。沢田奈々に抱き上げられてるランボに言われてしまった。笹川京子は優しそうに手を振っているが、私はシッシッという感じで手を振る。

 

「あ!」

 

 沢田奈々の声が響いたと思うとランボが私の目の間に居た。先程の声は腕からランボが抜け出したせいらしい。

 

「お年玉ちょーだい!」

「コラ! ランボ!!」

 

 沢田綱吉の怒鳴る声を聞きながら、ランボとはしばらく会っていなかったことを思い出す。そして、ランボの願いのお年玉は私がほしいと思った。ポケットにあった飴を渡すことにしよう。

 

「……久しぶり。これで我慢しろ。ほら、イーピンも」

「あらぁ~。良かったじゃない。ありがとうね。ええっと――」

 

 沢田奈々がジッと私の顔を見てるので首をひねる。すると「サクラだもんね」とランボが言えば、沢田奈々がポンッと手を叩き「サクラちゃんね! ほんと、ツナも隅に置けないわ~」と言った。沢田綱吉が驚き叫んでいたが、私は先程の視線は名前を知りたかったのかと納得していた。

 

 私が納得している間に椅子が倒れた音が聞こえたので、その方向を見れば獄寺隼人が倒れていた。これはビアンキが入り口に居たせいだった。あちらこちらでドタバタしすぎだろと本気で思った。緊急事態といって先生が教室から離れようとしたので「私も手伝います」と言った。これ以上、巻き込まれるのは面倒なのだ。

 

「先生、私が獄寺君の手伝いをします!!」

 

 その後に「私が!」「私が!」という声が続いたので、先生が呆れながら教室に居るようにと言った。獄寺隼人がモテモテなことに初めてイラっとする。

 

 逃げれなくなり、諦めの境地に入っているとリボーンの授業が始まった。瞬く間に黒板いっぱいに計算式が書かれていた。難しそうに見えて答えが普通というのが不思議である。

 

 パンッと音がしたので、リボーンのチョーク攻撃が始まったらしい。全く見えなかったが、クラスの男子が倒れていたので間違いないだろう。

 

「あまり感心しないね! 私語はつつしむのは当然のことだが、教師が恐怖で黙らようとするのは褒められることじゃないよ!!」

 

 正論だった。正論なのだが、頭を抱える。兄よ、黙っててほしかった!クラスに居る連中も「おおー! すごい……。流石、桂さん……!」といって兄を煽るな!

 

 頭をしらばく抱えていたが、兄が倒れるような音がしない。恐る恐る振り返ると兄は元気そうだった。リボーンは兄のことを知っているので見逃してくれたのだろう。思わず安堵の溜息が出た。

 

 その後、ランボが現れたりして最後には原作通り沢田綱吉が死ぬ気で教えていた。これには兄は口出さなかった。恐らく沢田綱吉が人を傷つけなかったからだろう。

 

 私は原作通り進んだことに安堵して気付かなかった。これがまだ序の口だったことに――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事?に授業参観が終わったので兄が余計なことをする前に帰ることにしよう。帰る前に居心地の悪そうな沢田綱吉に声をかければ「また明日!」と返事をし、少し元気になっていた。

 

「やはりサクラはいい子だね」

 

 兄は私の頭を撫でて呟いたが、よくわからなかった。それに私は「帰りにケーキでも買って帰ろうか」と兄が続けた言葉に反応した。小さくガッツポーズし少し急かせば兄が苦笑いしていた。それを見て物につられる姿を見た時の反応が一緒で兄弟だなと思った。

 

 兄にエスコートされながら歩いていると校門の様子が少し変なことに気付く。何事かと見渡せば、雲雀恭弥の姿を発見してしまった。彼は風紀が乱れないように見張っているらしい。生徒達は群れていないことを証明するかのように家族と離れて歩いていた。彼はしばらく動かないようだったので、帰るためには私達もそれに習うしかないのだろう。

 

「……少し離れて歩こう」

「どうしてだい!? ……僕は何かしてしまったんだね!!! 今すぐ直すよ!!!」

 

 雲雀恭弥が兄の大きな声に反応したようだ。目があってしまった……!

 

「お、お兄ちゃん。今すぐ離れて!! 群れると危険だから!!」

 

 私の必死の叫びも兄には届かず、逆効果だったらしい。抱きしめられた。このまま泣いても許されるような気がする……。

 

「君達――」

「すまない。今は取り込み中なんだよ。少し向こうに行っててくれないかい?」

 

 ……もう泣いてもいいだろう。話を聞いてももらっても咬み殺されると断言できる。

 

 ガン!という音が響き、先程まで感じていた温もりが消えた。正確には離れたといったほうがいいのだろう。しかし、倒れてる兄を見てそんなことはどうでも良かった。

 

「……お、お兄ちゃん!!!!」

「呼んだかい?」

 

 「は?」と、間抜けな声が出る。そして、私の横で立ってる兄を頭の上からつま先まで眺めた。いつも通り元気そうに見える。先程、兄が倒れたように見えたのは気のせいだったのだろうか?

 

「……へぇ」

 

 美声を聞き、彼の存在を思い出す。慌てて美声がしたほうを向けば、トンファーを持ち不適な笑みを浮かべていた。その姿を見て腰を抜かしそうになったが、兄が支えてくれたので倒れることはなかった。

 

「やめておけ。死人が出る」

 

 今まで聞いたことのない兄の低い声だった。こんなに怒ってる兄を私は見たことがない。兄の挑発に「それは僕のことをいってる?」と返事を返した雲雀恭弥も怖かったが、私を優しく支えてくれる兄の方が怖いと感じた。

 

「もちろん――私のことさ!!」

「花のおっさんか!?」

 

 懐から出したハリセンで叩く。ドキドキした私がバカだった。いい音が響いたが「最近、ネタの種類が偏りすぎだ!」といい、倒れてる兄の頭にもう一発叩く。完全に八つ当たりである。

 

 頭にバツマークが2つある兄の首根っこをつかみ、重くはないがズルズルと引きずる。

 

「どこへ行くんだい?」

 

 残念ながら逃亡は失敗と知らせる美声が聞こえた。もう少し呆気に取られてほしかったのだが……。

 

「それに校則違反だよ。武器の携帯が認められているのは基本的に僕だけだ」

 

 ハリセンも武器になるのかよ……。恐怖より呆れの方が強かった。

 

「サクラ、彼はなぜここまで怒ってるのだい?」

「彼は人が群れてる姿を見るのと風紀が乱れるのが嫌いなんだ。まぁ群れてる方はそこまで厳しくはないが、風紀が乱れる方は許さない。後、彼は退屈している」

 

 いつの間にか起き上がってる兄に教える。概ね間違ってないはずだ。学校行事で群れていることには彼は怒らない。そう考えると厄介なのは風紀を乱す方なのだ。しかし、兄はそれより私が最後に言った言葉に反応したようで「退屈?」と聞き返してきた。

 

「彼は飢えてるといってもいい。今はあまり彼の相手が出来る人物が現れていないからな」

 

 もう少しすればましになるはず。という言葉を心の中で続ける。彼は沢田綱吉、リボーン、ディーノと出会い変わっていくはずだ。譲れないところは変わらないが。

 

「君は僕の何を知ってるっていうんだい?」

 

 本能的に危険と思った。悠長に話しても大丈夫だったのは、ただの彼の気まぐれだったのだ。もう諦めるしかない。救急車は呼んでもらえるだろう……多分。

 

 兄は武器を所持していなかったので逃げれる可能性が高いと判断したので「お兄ちゃん、逃げて!」と叫ぶ。盾になってほしいと思っているが、それは冗談の範囲である。本音は逃げてほしいのだ。しかし、『お兄ちゃん』と叫んだにも関わらず兄は話を聞かずに私を抱きしめていた――。

 

「そこまでだぞ」

 

 リボーンの声が響く。兄の腕の隙間からのぞくと『リボ山』の姿が見えた。恐らく大勢の生徒が見ているので変装したまま来たのだろう。雲雀恭弥は素直に動きを止めたので、リボーンの変装を見破っているようだ。……あの変装は見破るとかの話ではないと思う気もするが。

 

「赤ん坊、邪魔しないで」

「ヒバリは賭けに負けてサクラの話を聞く約束をしてるんじゃねーのか?」

「話? 僕が納得するようなことはこれから聞けるとは思えないけど」

 

 私を見ながら言ったので、彼にとって私は『これ』扱いらしい。賭けに勝ったにも関わらず扱いがひどい。咬み殺されそうになってる時点で扱いがひどいと思う気持ちもあるが。

 

「サクラはヒバリのことをどれぐらい知ってんだ?」

 

 兄に離れてもらいリボーンを見る。真っ直ぐ私の顔を見ているので話せということなのだろう。大きな声で話す内容ではないので小さな声で言った。

 

「……誕生日は5月5日。好きな言葉は咬み殺す、ワオ。好きな寿司ネタはかんぱち、ヒラメのえんがわ。好きな食べ物は和食、ハンバーグ。好きなカキ氷は宇治金時。小さい動物は嫌いじゃない。ケイタイの着信音は校歌。学校の屋上でよく昼寝をし、冬でも日向があたれば寒くないらしい。学ランが落ちないのは気合。4月4日に入学早々、風紀委員長になった。群れたり風紀さえ守れば意外と優しいらしい。家は和風で並盛と書かれた掛け軸がかかってると思う。興味があるのは赤ん坊と呼ぶリボーン、沢田綱吉はよくわからない。まだあるけど今言えるのはこれぐらい?」

 

 身長と体重も知っているが、それは今ではないので言わなかった。後は桜や六道骸が嫌いになることも知っているがこれも今のことではないので話せなかった。

 

「――言っておくが、サクラはオレのこともどれだけ知ってるのか気になるぐれーだからな」

「…………」

 

 リボーンと雲雀恭弥の反応を見ると話しすぎたらしい。中途半端では意味がないと思ったのだが、限度というのがあったようだ。これでも考えてトンファーの秘密などは黙っていたのだが……。

 

「サクラ、僕のことはどこまで知ってるんだい!!」

 

 兄は私が話してる内容に気にもせず、期待を込めた目で私を見ていたので「私の兄」と答えた。

 

「ほ、ほら……もう少しあるだろ? 彼みたいに――」

「兄は私の兄。それ以外に何か必要? それだけで充分――お兄ちゃんは私のお兄ちゃん」

 

 号泣しだした兄を放置してリボーン達を見る。少し顔が熱いが彼らはそれには何も反応しなかったので助かった。

 

「……気がかわった」

 

 雲雀恭弥はそう呟き、校舎の中に入っていった。どうやらリボーンのおかげでうまく逃げれたようだ。

 

「助かった。リボーン」

「オレは何もしてねーぞ。サクラ自身で回避したんじゃねーか」

「……じゃぁ借りはなしで」

「ああ」

 

 以外にもあっさりと返事をした。リボーンに借りが出来ると碌なことがないと思っていたので助かるのだが……。なぜか裏がありそうと思ってしまう。

 

「あれ? 神崎さん? まだ帰ってなかったんだ」

 

 怪しんでリボーンを見ていれば沢田綱吉達が来た。獄寺隼人はビアンキがいるので山本武に運ばれていた。

 

「いろいろあって」

 

 適当な返事をしたが、兄の姿を見て沢田綱吉達は納得したようだった。面倒なので誤解したままにしておく。

 

「サクラ! 僕が腕によりをかけてケーキを作ってあげるよ!」

「ん。時間がかかると思うから今日は買って、それは明日でいいよ」

「そうだね! 今日、仕込みをしておくよ!」

 

 沢田綱吉の「ぇ……」と呟いた声は聞こえなかったフリをしてケーキ屋に向かった。

 

 

 

 

 

 家でケーキを食べながら気付く。助けるつもりなら沢田綱吉を死ぬ気にしても良かったのではないかと――。

 

「……やられた」

 

 恐らくリボーンは私の知識のレベルを知りたかったのだろう。今頃になって気付いた。特に問題はないのだが、少し悔しくなった。

 

「それはサクラを唸らせるぐらい美味しいのかい?」

 

 私のつぶやきを兄は勘違いしてくれたので訂正せず頷くことにした。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 一般的に人々が寝静まるころ、部屋でチョークを触る1人の男が居た。

 

「……これは僕の力を量りたかったのかな? 彼はまだいい、サクラと仲が良さそうだし、サクラが頭を抱えてる時にしか投げてこなかったからね。……やんちゃそうな彼はどうしようか。サクラを傷つけようとしたのだから――」

 

 サクラの知らないところでどうやって痛い目にあわせるかな。と、しばらく悩んでいたが、「彼がサクラの好みの声と忘れていたね」といい、今回は未遂だったので見逃すことにした。

 

「最近、賑やかだ。これは力を持つ僕のせいなのかな? それともサクラの――」

 

 男は思考を止めるために頭を横に振る。何かを隠していることには気付いているが、男と違い弱い。身体も心も――。気付かぬフリをし話してくれるまで待つことしか男には選択肢が残されていないのだ。

 

「本当にいつからサクラが飛びぬけたんだろう。僕は両親も同じぐらい大事に思っていたはずなのに――――」

 

 男の疑問に答えるものはいない。ただ、夜が更けるだけだった――。

 




もう少し原作と絡めても良かったかもしれない


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雨模様

 また彼の周りが賑やかになったな。

 

「ツナ兄ーー!」

 

 頑張れという意味で沢田綱吉の肩に手を乗せる。手を置いたことで私に助けを求めるような目を向けられた。

 

「……好かれるのはいいことだ」

 

 慰めの声をかけておく。悪気があっての行動ではないとわかっているため、沢田綱吉は何ともいえない表情をしていた。

 

「あ! もしかしてサクラ姉!?」

 

 ……なぜ私と沢田綱吉の周りをグルグル嬉しそうに回るのだ。私は彼に好かれるようなことをした覚えはないのだが。そもそも自己紹介をした覚えもない。

 

「なぜ君は私のことを知ってるんだ?」

 

 私の質問にフゥ太が動きを止めて、ジッと見上げてきた。こういう視線は苦手なので逃げたくなる。

 

「ツナ兄の友達は把握済みさ! なーんてね、ランボに聞いたんだ」

 

 飴玉もらってきてという伝言つきだったらしい。しょうがないので飴を3人分渡す。当たり前のように、ポケットにランボ用の飴がなぜあるんだと自身にツッコミを入れたい。今度、1度だけでいいから『サクラちゃーん』と呼んでもらおう。それで何もかも許せる。

 

「ったく……ランボの奴……。神崎さん、本当にいつも助かるよ」

 

 沢田綱吉に気にするなと声をかける。それより本当に彼はいつでもどこでも現れるんだな。私達は別々に行動していたのだが、偶然同じタイミングで職員室に用事があったらしく出会い。帰りに先生に捕まり頼み事されて理科準備室に来ている。つまり、沢田綱吉がここに居るのは獄寺隼人も知らないことである。彼は沢田綱吉にストーカーと認識されても否定できない気がする。

 

「ほら、オレ達は準備があるから」

「はぁい……」

 

 しぶしぶ去っていく姿を見て沢田綱吉は罪悪感を覚えているようだ。家に帰れば普通に居るぞ。そういえば……今日は雨が降りランキングがでたらめになるんだったな。濡れる前に早く帰ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 無事に帰宅できた。お母さんに雨が降りそうと声をかければ慌てて取り込み始めた。兄は仕事が休みらしくお母さんを手伝ってるようだ。出来た息子である。残念な娘の私は着替えることにする。スカートは寒いのだ。

 

 着替え終わると同時に扉が開かれた。ギリギリセーフだったが、文句を言うことにする。

 

「ノック」

「着替えていたのだね! それはすまなかった!」

 

 謝ってるが全く反省している気配を見せないので溜息が出る。「幸せが逃げてしまうよ!」と心配されたのでイラっとした。

 

「……それで何」

「そうだった! 地面好きな彼がサクラを訪ねて来ているのだよ!」

 

 早くそれを言え。向かいながらいつ来たかと聞けば、ついさっきらしい。洗濯物を取り込みしているときに兄がディーノに気付いたので呼び鈴が鳴らなかったようだ。

 

「よっ! 元気にしてるか!」

「……バカだろ」

 

 玄関で能天気そうに待っていたディーノのを見て言い放つ。

 

「なんだよー。久しぶりに会ったんだぜ?」

 

 兄が覗いてるので下手なことを言えない。靴を履いて外に出ることしよう。「ん? どこか行くのか?」とディーノが言っているが無視をして歩き出す。予想通り、私の後にディーノがついてきたので、角を1つ曲がったところで向き直る。

 

「どうかしたのか?」

「お人よしの君のことだ。日本に来て顔を見ないという選択は出来なかったんだろう。私は元気だから、早くイタリアに戻れ。もしくはランキングフゥ太に会いに行け。私はゴズペラファミリーが活動し始めたことはわかるが、武器庫の規模はわからないんだ」

「――すまん」

 

 一体何について彼は謝ったのだろうか……。深く考えたくない、そう思った。

 

「時間がもったいない。これ以上被害を出すな。早く行け」

「本当にすまん!」

 

 走り去っていくディーノを見ながら思わず呟いた。

 

「謝るのは私のほうだろ……」

 

 ポツポツと雨が降ってきたが、私はその場から動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ立ち尽くしていたんだろうかと、傘を目の前に差し出されて気付く。

 

「風邪引くぞ」

「……ん」

 

 今更な気もするが、持ってきてくれたので使うことにする。

 

「リボーン、その――」

 

 自分から声をかけたくせに言葉が詰まる。謝っても意味がない気がしたのだ。

 

「サクラ、ツナん家に泊まってけ。桂にはオレから連絡しておくぞ」

「――迷惑だろ」

 

 一体何が迷惑かははっきりと言えなかった。

 

「誰も文句いわねーぞ。ランボ、イーピン、フゥ太もサクラに懐いてるし、ママンも賑やかなほうが喜ぶぞ。ツナは……風呂にいれねーと、って感じでアタフタするぐれーだな」

「……その姿が想像できるのが不思議だ」

「ああ。じゃ、行くぞ」

 

 リボーンの後ろについて歩く。時々、私の足が止まるがリボーンは振り返らずに待ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっ神崎さん!? どうしたの!? ビショビショじゃないか! 風邪引いちゃうよ!! 母さん、風呂ーー!!! ちょっと待ってて、タオル持ってくるから!!」

「ほらな」

 

 リボーンの言葉に思わず笑った。慌ててタオルを持ってきてくれた沢田綱吉に「助かる」と礼を言う。そのままお風呂を借り、入ってる間に泊まる流れになっていた。服は兄が持ってきてくれたらしい。

 

 晩ご飯をご馳走になり沢田綱吉達とゲームしたりして過ごした。誰も何も聞かなかったのは正直ありがたかった。

 

 ただ、寝る直前に問題が起きた。

 

「……流石に悪い」

「サクラは雨に濡れて体力が落ちてんだ、ちゃんとしたベッドで寝た方がいいぞ。ツナもそういってんぞ」

「ちょっと待った!」

「なんだ、ツナ。サクラが風邪ひいてもいいのか?」

「よくないよ! 元々リボーンの言うとおりオレは床で寝るつもりだったよ! オレが言いたいのはそっちじゃなくて――オレと神埼さんが同じ部屋で寝るのが問題なんだよ!!」

 

 沢田綱吉の言葉に首をひねる。別に問題ないだろ。同じベッドで寝るわけじゃないし。

 

「なんで何とも思わないのー!?」

「リボーンも同じ部屋で寝るから一緒だろ。このハンモックはリボーンじゃないのか?」

「そうだけど……こいつは赤ん坊じゃん!」

 

 どうやら私がリボーンは赤ん坊じゃないことを知ってるせいで、話が噛み合わなかったらしい。私からすれば、たとえ沢田綱吉がリビングで寝るといっても、リボーンと同じ部屋ならそれについては何も解決しないのだが。

 

「うるせー。さっさと寝るぞ」

「いってーー!!」

 

 結局、リボーンが沢田綱吉に蹴りを入れて黙らせた。床に敷いた布団の上にちょうど転がすおまけつきで。……蹴られる前にベッドに入ろう。

 

 リボーンの指摘通り、私は疲れてるようですぐに眠れそうだった。

 

「私は気にしないから。……ベッド、ありがとう。おやすみ」

 

 2人の返事を聞いた後すぐに私の記憶はなくなった――。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 サクラの寝息が聞こえてきたので、ツナは安堵のため息を吐く。そして、起こさないように注意しながらリボーンに声をかけた。

 

「リボーン、起きてる?」

「なんだ?」

「あのさ、神崎さんが話したくないことを無理に聞こうとは思わないけど、どうしたんだ? 普段のお前なら、母さんと一緒に寝るように言うだろ?」

 

 ツナは今回の件はリボーンらしくないと思ったのだった。いつも自身に強引なことをさせるが、リボーンは女子に甘いことにツナは気付いてる。だからツナはちび達の面倒を見るため一緒に寝るはめになると思っていた。しかし、実際のところは自身と同じ部屋に寝ることになり、一緒に寝たがったチビ達をサクラが気づいていない間にリボーンは追い払ったのだった。

 

「オレはツナと一緒の方がいいと思っただけだぞ」

「……わかった。お前がそう思ったならオレはここで寝るよ。オレは同じ部屋で寝ることに落ち着かないだけだし……」

「襲うなよ」

「襲わないよ!!!」

 

 大声でツッコミを入れてしまい慌ててサクラを見る。サクラは熟睡していたようで起きず、ツナはほっとしたのだった。

 

 しかし、あの大声で起きなかったのでツナはリボーンが言った通りサクラは雨に濡れて体力が落ちていると思い、風邪ひかなければいいけど……と心配しながら眠りに落ちたのだった。

 




……笑いがほしい!


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約束

 今日は1年間の中で私が最も嫌いな日だ。面倒な日と言ってもいい気もするが。とにかく、今日は朝からテンションが低い。私はこの前の事件?のことをまだ引きずっているのだ。正直、勘弁してほしい。

 

 私はあれから沢田綱吉達と微妙に距離をとっている。

 

 元々、自身の身の危険を感じない限りは原作を壊す気はなかった。もちろん上手くはいかなかったが、何度か沢田綱吉の顔を見て動いたことがあるのことは否定しない。が、それでも今まで自らの意思で原作に絡もうとはしなかった。動く時は原作が終わってからか、原作に巻き込まれた後だったと私は思ってる。

 

 この前の時もくだらない内容だがフゥ太にランキングをしてほしいと考えた。だが、あの日の雨が降る前にランキングをしてほしいとは思わなかったのだ。だから私は家に帰った。それなのに――。

 

 ――頭を振る。これ以上は考えてはいけない。私は自身が1番大事で何でも優先することを理解している。これ以上考えれば、私は――全て彼らのせいにし恨んでしまう。

 

 それだけは嫌だ――。

 

 だから私は彼らと微妙に距離をとっている。話しかけられれば返事をし一緒に帰ることもするが、放課後に誘われれば何か理由をつけて断っているのだ。……そう、私は完全に彼らを避ける勇気もないのだ――。

 

「……自己中で最悪」

 

 思わず呟く。結局、私は自身が傷つかないために選択すらしないのだ。

 

 学校に行く準備が出来たので溜息を吐きながら階段を降りると、兄と会った。私の溜息が兄のせいと勘違いしたのだろう。謝っていた。その姿をみて、一瞬忘れていた今日が面倒な日ということを思い出した。

 

「……1日ぐらい、我慢するよ」

「やはりサクラに迷惑をかけるのは心苦しい! 迎えにいくよ!」

「仕事があるでしょ。それにもっと面倒なことになる」

 

 昔のことを思い出したのか、兄は口を噤んでいた。その姿を見て私は気合を入れ、兄に行ってくると声をかけて学校に向かった。マスクをつけるのは忘れずに――。

 

 

 

 

 

 

 帰りには意味はないが行きだけでもと思い、マスクをしたのは正解だったようだ。学校の校門まで無事着いた。しかし、ここからが問題である。教室に行くまでにどれぐらい時間がかかるのだろうか……。

 

 まず最初に下駄箱。予想通り私の靴は見えなかった。しかし、迷惑になるので自身の靴は後回しにし、靴箱から溢れ出ている物から処理することにする。用意していた紙袋につめてる間に手渡されて増えるのも予想通りである。

 

「……お前、なにしてんだよ」

「神崎さん!? どうしたの!?」

 

 沢田綱吉と獄寺隼人が登校して来たらしい。箱を黙々と袋につめている姿に疑問に思ったのだろう。

 

「今日はバレンタインだから」

「も、もしかして……それって全部チョコなの……?」

 

 沢田綱吉の言葉に頷く。そして彼はガーンという顔をしていた。獄寺隼人は「……げっ、今日なのかよ……」と嫌そうに呟いていた。私と一緒でいい思い出がないのだろう。

 

「て、手伝うよ。……女子同士なのに凄いね……」

「勘違いしてないか? これは全部、兄へのチョコだ」

「えーーー!? そうなのー!?」

「ん。普段は兄が手をまわしてくれるおかげで私に被害はないが、バレンタインだけは効果がないんだ」

 

 兄はもてるためバレンタインは毎年もの凄いことになる。兄が私に甘いことが有名なので、私に渡せば必ず兄の手に渡ると思う人が多い。

 

 普段は兄が手をまわしているのだが、なぜかバレンタインだけは兄の言葉の効果がなくなる。恐らく1人じゃないからだろう。何人も同時に破るため強気になるのだ。兄はバレンタインという理由だとしても私に迷惑をかけたことには変わらないので、実は私に渡した時点でその人への好感度はもの凄く低くなるのだが。

 

 もちろん兄は私に迷惑をかけるのが嫌なので、1度だけだが私が預かったチョコを受け取らないことがあった。兄からすれば、来年から持ってくるのは自身の方に誘導すればいいと思ったのだろう。しかし、何を勘違いをしたのかはわからないが、私がやきもちを焼き、純粋な思いを踏みにじりチョコを捨て兄に渡さなかった最低な人物ということになった。すぐに兄が訂正をしたので大事にはならなかったが、嫌な思いは残った。それから家族で話し合った結果、チョコは必ず受け取ることにしている。

 

 そういうことがあり、私はバレンタインは面倒で嫌いな日なのだ。

 

 いろいろ考えている間にチョコがいれ終わったので、手伝ってくれた2人に礼をいう。しかし、彼らはまだ手伝ってくれるらしく、教室まで持ってくれるようだ。

 

「助かる」

「いいってば。それにしても神崎さんのお兄さんって凄いんだね。オレ、こんな量初めて見たよ」

「一体あのヤローのどこがいいんだが……。それに渡すほうも渡す方だ。妹に渡してもらおうとする考えがオレにはわからねぇ……」

 

 獄寺隼人が同情してるような目を私に向けて言った。が、君がそれを言っていいのか……。君は直接渡そうとしても断るだろ。私は君に渡そうとする人に少し同情する。

 

「あ。さっきは助かったけど、今日は私の近くに居ないほうがいい」

「え!? どうして?」

「答えはすぐにわかると思う」

 

 獄寺隼人が「はっきり言えよ!?」と怒っているが、無視をして教室のドアをあける。

 

「なっ……まじかよ……」

「……ウソ」

 

 私の机の上で山のようになってるチョコを見て、彼らは絶句したので理解しただろう。私は見慣れた光景なので驚きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 経験上、歩き回ったほうが渡される量が増えるので教室で大人しく居た。そして放課後になった瞬間に教室から出た。何があっても帰るつもりだったので、先に沢田綱吉にメールをしたのは正解だったと思う。彼はメールを読んだ途端に手伝うという話をしに来たのだ。断るのには苦労したが、放課後に呼び止められ原作がまた壊れることを思うと大したことではなかった。

 

 両手いっぱいに荷物を持っていると、当然マスクの効果はなく次から次へと渡される。重くて手が辛いので立ち止まりたいが、そうすると量が増えてしまう。出来るだけ我慢するしかない。

 

 何とか靴箱までたどり着き、またチョコを袋につめる。何度目になるかわからないが、私に恨みでもあるのかと本気で思った。特に手紙を見ると燃やしたくなる。チョコだけでも重いのだ。紙の重さには腹が立つ。

 

「……草壁」

「はい」

 

 美声が聞こえたので振り向けば雲雀恭弥と草壁哲矢だった。チョコを草壁哲矢が没収しようとするので慌てて止め、マスクを取り顔を見せて説明する。また恨まれるのは勘弁なのだ。

 

「それについては心配に及びません。あなたの家にお届けするだけですから」

 

 思わず草壁哲矢を上から下へ見てしまう。そして、興味がなくなったように去っていった雲雀恭弥の後姿を見つめる。――守りさえすれば意外と優しいという知識を思い出す。

 

 この時の私の行動を説明することは出来ない。ただ、気付くと足が動いていた。

 

「――雲雀恭弥、待ってくれ!」

 

 草壁哲矢に礼も言わず、私は走り出し叫んだ。放課後なので私の行動に驚いた生徒達の姿を見えたが、気にはならなかった。そして彼は私の声で一瞬だけだが立ち止まり、「ついてきなよ」と私を見ずに言い歩き出した。

 

 彼の後を追えば、応接室に入って行ったので私も続いた。普段ならばリボーンが居たとしても彼と話す気にもならない。しかし、今の私は躊躇すらしなかった。

 

「それで何?」

 

 雲雀恭弥が嫌そうに入ってきた私に声をかけた。彼なりに私の話に耳を貸す約束を守っているのだろう。

 

「どうして君は強いんだ――。私は君のように譲れないものなんてない。強いてあげるなら自身なんだ……。だから誰かを傷つける。傷つけると分かってるくせに自身が大事で去ることも出来ない。そんな弱い自分が嫌いなんだ――」

「……君の言ってることはよくわからない」

 

 雲雀恭弥の言葉に落胆する気持ちと納得する気持ちがあった。自身でも何を言ってるのかわからないのだ。彼にわかれというのは到底無理なことである。

 

「周りに振り回されない君の強さを知りたかったんだ――。悪かった」

 

 私は彼が1番強いとは思っていない。それでも彼に聞いたのは周りに振り回されない強さがあるからだ。沢田綱吉達は周りを思いすぎて聞けなかった……。

 

「そうじゃない。僕が言いたいのは君が悩む意味がわからないってこと」

 

 思わず雲雀恭弥の顔をジロジロと見る。今の私の目は頭大丈夫?という風にケンカをうってるかもしれない。

 

「はぁ……。例えば、君が風紀を乱して僕が咬み殺すとするよ。君からすれば、僕という存在が居なければ傷つかなかったかもしれない。もちろん、君に風紀を乱された人物は喜ぶ。だけど、君が咬み殺されたことによって、君という存在のおかげで抑えれた人物がもっと風紀を乱すかもしれない。それをまた僕が咬み殺す――。僕は君が悩む意味がわからない。君が居なくなれば誰も傷つかないとは限らない。それと君は僕の強さを知りたかったみたいだけど、それはまた違う話だ。さっき言ったことを理解した上での行動だからね。その前で止まってる君にわかるとは思えない」

「……それでも私が居なけれ――違う、君の言ったことが正しい。私はもう居るんだ……」

 

 原作を知ってる私が居る時点で原作とは違う。私が自身を優先したせいで沢田綱吉達が死ぬかもしれない。でも、知識がある私が居るから助かる可能性もある。未来はもうずれているのだから……。もちろんこの知識をいつ使うかはわからない。原作にどれほど関わっていいかもわからない。でも、ここに居てもいい気がした。

 

 ――死にたくない。それを譲れない気持ちにして何がおかしいんだ。なぜなら、それが私なのだ。余裕があれば彼らを気にかければいい。それも私だ。自己中で何が悪いんだ。私は自身の気持ちや身体を優先する。大きな代償を払うことになるかもしれない。だが、彼らを優先しても払うかもしれないなら、私は私らしく生きる。

 

「はぁ……わかったなら出ていきなよ」

「あ。悪い」

 

 雲雀恭弥に言われたので慌てて部屋から出る。そして気付く。礼を言うのを忘れたことを……。しかし、もう1度入る勇気は今の私にはないので帰ることにする。彼は私の礼を聞いても何も思わないだろうしな。

 

 靴箱に着いたが草壁哲矢の姿とチョコはもうなかった。そして、恐らくこれから出るチョコも彼が届けてくれるのだろう。何ともラッキーである。私は応接室を出てからつけたマスクがずれていないか確認して外に出た。

 

 

 

 

 

 無事に家にたどり着けば、思わぬ人物が家の前で立っていた。

 

「この前は本当にすまん!」

「……寒いだろ。私の部屋でいいか?」

「い、いや……止めておく。オレは男だからあがるのはよくねーだろ。どこか他のところで――って、大丈夫なのか……?」

「ん。私は気にしないけど、ファミレスでいいか。今日はカフェは混んでると思うしな。荷物置いてくる」

「お、おう」

 

 どこか動揺するディーノを見て少し笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ファミレスにディーノが居ると目立つ。そのせいで兄と一緒に居る時のような隣に居る私への不満な視線を感じる。日が悪いのもあると思うが。まぁディーノと居れば兄へのチョコを渡そうという猛者は現れないようだ。イケメン効果万歳である。

 

「食べてもいい?」

「ああ。何でも好きなものを頼んでいいぜ」

 

 おごらせる気で言えば、それ以上の言葉が返ってきた。流石、ボスである。甘えてケーキと紅茶がほしいといえば、注文してくれた。兄と同じぐらいエスコートが上手いかもしれない。もてるはずだ。

 

「ディーノは相手が居ないのか?」

 

 私の言葉にディーノは盛大にむせた。

 

「ゴホッゴホッ……い、いきなりどうしたんだ?」

「今日がバレンタインだから思っただけ。反応が面白くて満足したから答えなくていい。別に興味ないし」

 

 私の言葉にディーノは顔を少し引きつって「そうか」と返事をした。中学生にからかわれるボス。なんとも不憫である。……不憫にしたのは私だが。

 

「君が来たってことは、向こうは片付いたんだろう?」

「あ……ああ……」

「ならいい。それにもし君がまた私に気をつかい連絡をしてきたなら、私はもう頼むつもりはなかった」

 

 ディーノが口を開きかけた時に注文が届いた。店員が離れたので、また私が口を開く。

 

「ウソだ。君の協力がなくなるのは惜しいからな。それに君は必ず1度はリボーンに連絡したのはわかってる」

 

 あの時、リボーンが傘を持ってきたのは偶然ではないことぐらい私にもわかる。これ以上、私を傷つかせないために戻るしかなかったディーノは、日本にいるリボーンを頼ることにしたのだろう。

 

「正直に話せば、君に連絡しようと何度思ったかわからない」

「……すまん」

「言っておくが、君に謝るためや被害状況を聞きたかったわけじゃない。もちろん君に八つ当たりするためでもない。さっきも言ったが、君から連絡をしない理由はなんとなくわかる」

「……じゃぁ、どうしてだ?」

「私のために早く片付けようとして君が無茶しそうで怖かったからだ」

「っすまん!」

「謝るのは私のほうだろう。私はどこかで君の――君達のことを信頼していなかった」

 

 冷静になった今なら分かる。彼らにとって原作キャラじゃない私は優先順位が低いと私は思っていた。10年後のランボの涙、文句を言わず髪を乾かしてくれたディーノ、立ち止まるたびに待っててくれたリボーン、何も聞かずにそばに居てくれた沢田綱吉。彼らの優しさを私は何もわかっていなかった。いや、違う――気付かないフリをした。

 

「私は怖かった。君が無茶するから怖いんじゃない。君に――君達に恨まれるのが怖かった」

「そんなこと思うわけねーだろ!? オレだけじゃねぇツナ達だって!! 断言できるぜ!!」

「――たとえ私が自身のことしか考えていなくても、たとえ私のせいで君達の運命をかえてしまっても、たとえ私がこの世界で歪な存在だとしても、君達はそばに居ることを許してくれる――今はそう思える」

「……そうか」

 

 話が終わったのでケーキを食べることにする。しかし、ディーノが私の頭をガシガシ撫でて邪魔をする。「食べにくい」と抗議すれば謝りながら手が離れたので許すことにした。私は心が広いのだ。

 

「しっかし……オレの立つ瀬がないぜ……。いつの間にか成長してるしよー。まっ良いことだけどな! きっかけはツナか? それともリボーンか?」

 

 頭をかきながら話し始めたと思えば、嬉しそうに身を乗り出して聞いてきた。きっかけは雲雀恭弥だろう。しかし、彼の名前を教えれば興味を持つ気がする。もう未来が変わっても気にはならないが、ディーノの苦労が増える気がするので誤魔化すことにする。

 

「……未来の君の教え子」

「オレの教え子!? そうか……オレに教え子が――」

 

 嬉しそうに未来を想像しているディーノの姿をみて、不憫だと本気で思った。深く聞いてこないのは私が誤魔化してることに気付いてるからだろう。……助かった。そして、ディーノがしばらく未来の期待から帰ってこない気がしたのでメニューを開きパフェを注文した。

 

 

 

 

 少々食べ過ぎたせいで、制服のスカートが苦しい。横っ腹が痛くなりそうな気がしたのでゆっくり歩くことにする。ディーノは文句も言わずに付き合ってくれるようだ。

 

「イタリアに戻るのか?」

「いや、しばらく日本に居るつもりだ」

「ああ。なるほど」

 

 原作と違って日本に来るのが早かったが、同じタイミングで帰るのだろう。彼はこれから雪合戦と山本武のトレーニングに付き合わなければならないしな。

 

 横目でディーノを見る。原作を壊す時は事情をよく知ってるディーノと一緒の方がいい気がする。だが、あの雪合戦に参加する勇気はないな……。もちろん、山本武のトレーニングも却下である。次は……合コンだな。雲雀恭弥以上に内藤ロンシャンとは絡みたくもないのでこれも当然却下である。そうなると次は……結婚式。それも微妙な気がした。6月だしな……。

 

「どうかしたのか?」

「君は忙しいんだなと思って」

「そんなことねぇって。帰ってもまたすぐに来るぜ!」

「いや、いい」

 

 ディーノが「なんだよー」と言ってる声は無視する。忙しい時に無理に来てもらうほどのことでもない。困ったときは呼ぶつもりだが。

 

「……1つ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

「ディーノは沢田綱吉に君のその刺青――紋章が浮かび上がったときのような試練がおきるのを防ぎたいか?」

「――わからん」

 

 意外だった。彼は確かキャバッローネのボスの紋章が浮かび上がったときに父親を亡くしてるはずだ。そんな思いを沢田綱吉にさせたくはないと思っていると予想していたのだが……。

 

「オレがわからねーのはそういう意味じゃないぜ? オレはツナには辛い思いをさせたいとは思ってねぇよ。だけど……回避したとしても試練はやってくる。――必ずだ。それなら、何も知らねーオレよりお前が判断したほうがいいと思ったんだ。もちろん、オレはお前やツナの力になる――」

「……ん。わかった。困った時は助けてくれ」

「ああ。約束だ」

 

 歩きながらガシガシと頭を撫でられているとスーパーの前だったので寄ると伝える。付き合わなくても良いと言ったが、ディーノはついてくるようだ。

 

「何を買うんだ?」

「お菓子」

「……まだ食うのかよ」

 

 ディーノが思わず呟いた言葉が聞こえたので睨む。そもそもケーキやパフェとお菓子は違うのだ。そこのところをじっくり語りたい。面倒なのでしないが。

 

 お金を払おうとすればディーノが出そうとしたので、必死に止めた。普段なら払ってもらうが、今日はダメなのだ。

 

「たいした金額じゃねーんだ、気を使う必要はないんだぜ?」

「50円ぐらいしたチョコが兄へのバレンタインなんだ」

 

 払わせなかった理由を知れば、ディーノが驚いていた。

 

「海外ではバレンタインは男性が女性に送るのが習慣と言って、兄は私にくれるんだ。そしてホワイトデーというのは海外ではないんだろ?」

「ああ」

「返すことも出来ないから、小さい頃に私はバレンタインデーにチョコを渡したんだ。兄が嬉しそうに受け取ったのはいいが、真面目に渡したせいでお返しがもの凄いことになった。日本では男性はホワイトデーに最低でもバレンタインデーの3倍返しが礼儀らしいけど、兄は10倍ぐらいにして返す。だから渡さなければいいと判断すれば、落ち込んで面倒なことになった。最終的にこれに落ち着いた」

「……お前の兄貴はずっとそんな感じなのか?」

「私が物心ついた時ときにはもう――」

 

 恐らく私は遠い目をしているだろう。といっても、子どもの時はこれが普通だと思っていたのだが。

 

「何かきっかけとかあったんじゃねーのか?」

「元々そうだったらしいけど、小さい頃に私が事故にあった時に加速したらしい。私はその時のことをよく覚えてないけど」

「……なるほど」

 

 立ち止まりディーノを見れば「どうかしたのか?」と聞かれた。今までなら1人で考えていたが、ディーノを信用し質問することにする。

 

「兄が……どうかしたのか? 話の流れで兄と私のことを聞いたのは理解できる。でも君の性格を考えるときっかけとかの興味をもつより、兄と仲がいいことは悪いことじゃないとか言う気がした」

「あー……正直に話すぜ。お前の兄貴がお前への執着が少し強すぎると感じたんだ。だから何かあったんじゃねーかなと気になったんだ」

「ん。ならいい」

 

 ディーノが疑問に感じるのは無理はないと思ったので、また歩き始めることにする。彼も沢田綱吉達と一緒で『兄だから』と流されないタイプなのだろう。

 

「ん? お前の家はそっちじゃねーだろ?」

「沢田綱吉達を助けに行こうと思って」

「ツナ達に何かあるのか!?」

「仲のいい女子にチョコフォンデュを作ってもらって、そろそろ出来上がるはず。ただ、チョコにつけるクラッカーをビアンキが焼いている」

「それで……マシュマロとかを買ってたのか……」

 

 首を縦に振り頷く。

 

「どうする? 君は男だから食べるように言われるかもしれない」

「……なんとかする」

 

 何度も殺されかけたらしいのに行くようだ。気休めに「頑張れ」と声をかけておいた。そして、やはり彼は不憫だなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の家についたので呼び鈴を鳴らせば、フゥ太が顔を出した。

 

「サクラ姉!? それにディーノ兄も! ツナ兄にだよね! ちょっと待ってて! ツナ兄ーー!」

 

 一言も発していないのに話が進んだ。不思議である。フゥ太に呼ばれた沢田綱吉は慌てて来てくれたようだ。

 

「よっ! 元気にしてるか! 弟分!」

「ディーノさん! えっと……どうかしましたか? 神崎さんも一緒だし……」

「オレはただの付き添いだぜ」

「そうなんですか? 神埼さん、どうしたの? オレに用事?」

「ん。ただのお菓子の御裾分け。みんなで食べて」

 

 ラッピングをしていないのでバレンタインとは言わない。お礼を言われて家にあがるように声をかけられたので入ることにした。

 

 リビングに通されると怪しい煙が出ているクラッカーとチョコが並んでいて、リボーンは眠っていた。フリかもしれないが。

 

 笹川京子と三浦ハルに挨拶されたので、慣れないながらも返事をする。ランボは私へよじ登ろうとしていたので抱きあげた。

 

「ランボ、良かったな。神崎さんがお菓子持ってきてくれたぞ」

「やったもんね!」

 

 喜ぶのはいいが、私の腕の中で暴れるな。地面に落としてしまう。

 

「ツナ、サクラが持ってきたのは何があるんだ?」

「珍しいな、お前が興味をしめすなんて……。つーか、さっきまで眠ってたんじゃないのかよ!?」

「いいから教えろ」

 

 いつの間にか、リボーンは起きていたらしい。そして、沢田綱吉がマシュマロやドーナツ、クッキーと教え始めると私の顔を見てニヤッとリボーンが笑った。

 

「ちょうど合うじゃねーか。ツナ、一緒に並べろよ」

「ほ、ほんとだ!! 神崎さんありがとーーー!!」

 

 救われたような顔をした沢田綱吉を見てホッと息を吐く。どうやって誘導するべきか悩んでいたのだ。最悪、ディーノが何とかしてくれた気もするが。そのディーノは私の頭をガシガシと撫でていた。気分がいいので許すことにする。

 

 

 

 

 

 和やかにチョコフォンデュを食べていたが、1つだけ問題が起きた。誰もビアンキが作ったクラッカーを食べようとしないのだ。

 

「あなた……リボーンへの愛を邪魔する気なのね……」

 

 危険を察知した私はこう答えた。

 

「私はディーノが買ってくれたのを持ってきただけ」

 

 「なっ!?」というディーノの声は気にしない。困った時は助けてくれるという約束だったからな。

 




分岐話で苦労しました……


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綺麗な花火

 なぜこんなことになってるのだろうか。もう原作に関わってもいいと思っているが、この原作には参加したくはなかった――。

 

「サクラ、何して遊ぼうか!」

「――私は爆弾を防げるぐらいの頑丈なカマクラがほしい」

「まかせたまえ! 僕が世界一頑丈なカマクラを作ってあげよう!」

「何いってやがる!! やるのは雪合戦に決まってるだろ!!」

 

 気のせいだろうか。獄寺隼人がいった『やるのは』が『殺るのは』という風に聞こえたのは。ディーノが慌てて2人の仲裁に入ってるにも関わらず、私はそんなことをのんきに考えていた。現実逃避ともいう。

 

 そもそも私がここに居るのは笹川了平が兄を誘ったせいである。兄が参加して原作がずれても気にはしなくなったが、最後の爆発は防がなければ兄が死ぬと思ったから来たのだ。その前にあの爆発で生きている沢田綱吉達がおかしすぎる。

 

 私が疑問に思ってる間に兄と笹川了平は猛スピードで雪を集めていた。獄寺隼人を見れば、ディーノと山本武に宥められていたみたいだ。

 

「極限!! カマクラを京子達に見せ、喜ばせる!!」

「ふむ! その粋だよ! 笹川君! やはり妹のために頑張るのは兄の役目なのだ!」

 

 ……2人の息があった理由がわかった気がした。

 

 

 

 

 カマクラが出来上がったころに沢田綱吉達が来た。カマクラは出来上がってしまったので原作通り雪合戦はするのだろう。私は女子なので見学にしてほしい。ルール説明を聞きたいと思ったが、子ども達の存在を忘れられてるようなので相手をすることにする。子ども達はカマクラに興味があったようなので、少し窮屈だが一緒に入りお菓子をあげた。

 

 しばらく彼らとお菓子を食べているとリボーンがやってきた。ルール説明をもう1度してくれるらしい。話を聞けば、原作と同じルールである。ただ、人数の関係で私も強制参加だった。私はディーノ達と一緒の西軍で、兄は沢田綱吉達と一緒の東軍だった。

 

「兄がよく許したな」

「了平がサクラを責任をもって守るといって友情を深め大丈夫だったぞ」

 

 その笹川了平は私が居たとしても攻撃は最大の防御!とかいいながら、原作通り突っ込んでいきそうな気がするのだが。とりあえず私は塹壕から顔を出さない方向で行こう。

 

 

 

 

 

 

 30分後にディーノが呼びに来たので諦めて外に出ることにする。ランボははしゃぎ疲れていたので抱きかかえて西軍の塹壕に向かった。

 

「……チッ、役にたたねー奴しかいねーじゃねーか。いや、10代目が勝つためにはその方が――」

 

 ブツブツ呟いてる獄寺隼人はかなり怪しかったのでスルーする。ディーノと笹川了平は私に雪玉を作るように頼んできたので、適当に作ることにする。途中で雪玉は関係がなくなるからな。

 

「あ。ちょっと待った」

「ん? どうかしたのか?」

 

 忘れてたと思いながら、塹壕の前に出てしゃがみこみ地面をペシペシと手で叩く。少し柔らかくおかしな地面があったので、そこを集中的にペシペシと叩く。ディーノは私の後ろで様子を見ていたが、気になったようで声をかけてきた。

 

「そこに何かあるのか?」

「多分、ここにロマーリオ達が潜ってるはず」

「っ!? ロマーリオ達が!?」

 

 ディーノの声に反応したようでロマーリオ達が勢いよく出てきた。そのせいで私に雪がかぶり冷たく、助けるんじゃなかったと本気で思った。しかし、いいことを思いつく。

 

「選手交代。ロマーリオよろしく」

「ダメだぞ。ディーノ、部下は帰らせろ。ルール違反だ」

 

 リボーンに言われ、帰っていくロマーリオ達を見て自身の身の危険を感じた。原作を壊しすぎて予測不可能になってしまった……。ディーノに礼を言われたが、テンションは最悪だった。

 

 

 

 みんなオラに元気をわけてくれーと思いながら玉を作っていると開始の笛の音が響いた。私は覚悟を決め、膠着状態の間に気絶する前に『さよなら』の言葉の後に誰の名前を言うべきか考えることにする。しかし『さん』付けで呼んでる人がいないことに気付きショックを受けた。

 

「心配するな。オレ達が守ってやるから」

「そうだ!! 極限にオレ達に任せろ!!」

 

 手を止めた私が不安に感じてると勘違いしたディーノと笹川了平が声をかけてくれたようだ。少し期待した途端に「うおーー!!」といいながら突っ込んでいく笹川了平を見て、何とも言えない気持ちになった。

 

 こっそり覗き観察すれば、山本武の雪玉を笹川了平は完璧に弾いていた。しかし、すぐに状況がかわった。「うおっ! 流石……オレの認めた男だ!」と笹川了平はいいながら、兄の雪玉を何発か当たっていた。兄は器用だな。

 

「あぶねーから、あんまり顔を出さねーほうがいいぜ。じゃ、オレも参戦するか!」

 

 私が覗くのをやめたのを確認してディーノが投げ始めた。どちらかというと私はディーノの攻撃の方がどこに行くか予想できないので怖いのだが。

 

「いい感じだったのに……やっぱりディーノさんは凄いよ! で、でもディーノさんは部下がいないとダメダメな体質だったんじゃないのーー!?」

 

 沢田綱吉の叫びを聞いて横目でディーノを見る。そして、初めて会った日以外は私の前で転ばないことを思い出す。

 

「やはりな。ディーノはサクラをファミリーの一員と同じように見てるみてーだな」

 

 リボーンの解説が聞こえたので「まじか……」と思わず呟いた。偶然じゃなかったのか……。原因は私が弱いからと思ったが、それならば沢田綱吉も同じようなものだろう。謎である。

 

「サクラのファミリーは僕だよ! 笹川了平、勝負はまた今度だ! 僕は彼を倒さなければならない! ディーノと言ったかい? 忘れては困る! 僕がサクラの兄なのだ!! たとえ出番がなくても僕はずっとスタンバってるんだよっ!?」

 

 雪玉を作りながら考えに没頭しようとしたが、兄の叫びを聞いてどうでもよくなった。

 

「なんでお前の兄貴は怒ってんだ……?」

「さぁ。舞台裏で体育座りでもしてたんじゃない?」

「――お前らの言ってることもよくわかんねーが、売られたケンカは買うぜ!」

 

 なぜか兄と同じ括りにされてしまった。私からすれば今のディーノと兄は同じぐらいのバカに見えるのだが。

 

 2人が必死に投げ合ってる間に笹川了平の活躍により押し始めたようだ。すると原作通りイーピンが餃子拳で攻撃し始めたようだ。私はディーノが使う雪玉をせっせと作ってるので見てはいないが、沢田綱吉の声で状況がなんとなくわかるのだ。

 

「まずい……このままでは10代目が――」

 

 私の隣でブツブツ呟いてる獄寺隼人が危険な気がする。頼むから私にはダイナマイト投げないでくれよ。私の念が通じたようで獄寺隼人は笹川了平にダイナマイトを投げて寝返った。

 

「やべぇ……いっきに状況がフリだぜ……」

「そういうのがありなのかい? ならば僕はサクラの味方になる!」

 

 ディーノの部下がいないので私も危険を感じていたのだが、あっさりと兄が寝返ってこっちに来た。寝返るのは別にいいが、抱きしめるのは勘弁してくれ。……く、苦しい。

 

 解放されたので兄を見る。見た感じ怪我はないようだ。恐らくディーノが手加減してくれたのだろう。しかし、ディーノの雪玉は私が作っていたのだ。兄はどうしていたのか気になり聞いてみた。

 

「僕がサクラの作った雪玉を壊すわけがないだろう? 大事に掴み、投げ返したのさ!」

「投げ返して潰せば、兄が壊したのと一緒」

 

 私の言葉に兄はネガティブホロウ状態になった。冷たいから止めておけ。

 

「お前らそんなことやってる場合じゃないぜ。ボンゴレ対オレ達になりそうだ」

「ふむ? ならば、ボンゴレ対サクラを守り隊だね!」

 

 兄が考えたチーム名に私とディーノの顔は引きつった。私達が却下しようと口を開け方時に第3勢力の毒牛中華飯が現れてしまい、チーム名の変更の機会を逃してしまう。

 

「んじゃ第2ラウンドスタート!」

 

 リボーンの声が響いたが、私達はすぐに動かない。原作と違い、急遽組んだチームなのだ。息が合う可能性は低い。

 

「まず、これを渡しておくぜ。ロマーリオ達が置いていってくれたんだ」

 

 そういってディーノは私と兄に実弾入り雪玉を渡した。……簡単に渡したことにドン引きしたが、毒入り雪玉が飛んできたので慌てて撃つことになる。しかし、私だけ撃っても落とすことが出来ない。1人で「むぅ」と唸り悔しい思いをする。狙撃の王への道のりは厳しそうだ。

 

「牽制で十分役にたってる。そのまま頼むぜ」

「ん。わかった」

「また僕のポジションが……!?」

 

 なぜか兄がショックを受けていた。といっても、毒入り雪玉を全て叩き落しているが。それにしても、これからどうするべきか悩む。そろそろ沢田綱吉の方に集中砲火するはずだ。思ってるそばから始まったようだ。

 

「サクラ、どうかしたのかい?」

 

 兄は手が止まった私が気になったようだ。

 

「そろそろ怖いな、と」

「大変だ! サクラに怖い思いをさせてしまったようだ! ディーノ、君にレオンを奪う美味しい役目を与えよう!」

「ああ。こっちはオレ1人で十分だ。任せろ!!」

 

 兄はそういうと私を横抱きにし、華麗にダイナマイトの攻撃を避けてカマクラの方向へ走り出した。ディーノには「階段に気をつけろよ」と声をかけておく。私の姿が見えなくなった時点で言っても意味がない気もするが。

 

 私達がカマクラにたどり着いた時に巨大エンツィオが現れ倒れる音が響いた。ディーノと山本武は雪玉になっていたので助言の意味はなかったようだ。

 

「ふむ。なかなかの大きさのスッポンだね! 美味しいのだろうか」

「食べる気なのかよ!?」

「当然だよ!」

 

 意外なところでエンツィオの危機だった。まさかここに来て「一狩り行こうぜ!」というノリを現実で見れるとは思わなかったな。

 

「一狩りはいいから、沢田綱吉の近くにいるイーピンを思いっきり空へ投げて。簡単に説明すると、もうすぐイーピンが自爆するはず」

「それはイーピンがさよなら……と呟く感じなのかい?」

「大丈夫。イーピンは無事」

「ふむ。ならば、僕が投げた後に『綺麗な花火だ!!』と言ったほうがいいのだろうか。イーピンは女性だしね。しかし語呂が……」

「確かに悩むところだけど、投げた後は伏せた方がいい。それと時間がもうない」

 

 私が的確なツッコミを入れると兄は慌てて走っていった。しばらくするとカマクラを揺らすほどのズゴオオオ!!という音が響いた。崩れるかと一瞬思ったが、問題なかったようだ。

 

 カマクラから出てみれば沢田綱吉はレオンを持ち、怪我をしていなさそうだった。私にしては頑張ったほうではないだろうか。自画自賛しよう。

 

「やはり僕がサクラの兄だ! ずっとスタンバってない君には負けないよ!」

 

 兄が雪玉になってるディーノに向かって元気そうに叫んでいたので、ハリセンで一発叩くことにする。先に助けてやれ。そして、一緒に雪玉になっていた山本武が「ハハッ! やっぱ神崎の兄貴はおもしれーのな!」といっていた。その状態で笑ってる余裕がなぜあるんだ。不思議である。

 

 すぐさま兄が復活し「これは部位破壊は出来るのだろうか……」と悩んいたが放置した。ツッコミをいれるのも面倒になってきたのだ。ディーノは慌てていたが。

 

 そして、合流した沢田綱吉と相談し、先にディーノと山本武を助けることにする。人数の関係でエンツィオに埋もれてるかもしれない人物は救出不可能と判断したのだ。

 

 無事に全員怪我もなく救出されたが、私だけ風邪を引いた。熱にうなされながら、やはり迂闊に原作に関わるのは危険だと思った。




最後までタイトルを「ずっとスタンバッてました」にしようか悩んだ


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花より団子

いつもと違い、会話文が多いです。
多分、雰囲気も違います。
伏線も入れてませんので読み飛ばしても問題ないと思います。


「なんと! 今日はサクラちゃんもお誘いしましたー!」

「こんにちは。サクラちゃん」

「ちょっと、ハル。無理矢理連れてきたわけじゃないわよね?」

「違います! ハルはちゃんとお誘いしました! ……ちょっと不安だったのでツナさんとリボーンちゃんにご相談しちゃいましたけど……2人とも大賛成だったんですよー。でも、もしかするとこれはサクラちゃんからすれば気を悪くすることだったかもしれません……。ハルの根性なしです……」

「……気にするな」

 

 辛うじてそれだけ言えた。実際、黒川花の言うとおりで無理矢理だったからな。……三浦ハルが悪いわけではないが。なぜなら私がここに居る原因は兄が先回りし三浦ハルに大量のお菓子を渡したせいなのだ。当然、お菓子を受け取った三浦ハルは私が行く気だと思って声をかける。ここで私が行かないとは言えない空気だったのだ。以前なら言えたかもしれないが、行かないと言えばお菓子を返しにくると想像がついたので、行く選択をした気もしなくもない。

 

 とにかく私はもう誘われないように静かにすることを決意する。話は彼女達に任せて私はお菓子を食べよう。

 

「そして、ここにあるお菓子は全てサクラちゃんのお兄さんの桂さんが『サクラの初の女子会だ! これは僕のプレゼントさ!』と言って、頂いちゃいましたー。凄い量だったのでハルはお断りしようとしたのですが……全てお兄さんがこの日のために手作りしたということなので、遠慮なくもらっちゃいましたー。とっても美味しそうですー」

「うん! お兄さんにお礼を伝えてね!」

「……気にするな」

 

 これは好きでやってるんだ。お礼なんて伝えなくても問題ない。だから気にせず食べてくれという意味で手で食べるよう促した。

 

「はひ! では、頂きましょう!」

「「「いただきまーす!!」」」

 

 声をそろえた彼女達とは違い、この世の全てを食材に感謝を込めていただきますと、私は心の中でいい食べ始めた。

 

「すっごく美味しいわね。でも……サクラのお兄さんってほんと妹バカって感じよねー。容姿だけみればカッコイイのだけど……。もったいない……」

「そうですか? ハルからすれば桂さんは親しみやすいですけど……」

「私もハルちゃんと一緒かな? お兄ちゃんは桂さんと会ってから凄く楽しそうだよ」

 

 このシュークリームが美味しすぎる。中のクリームは上が生クリームで下はカスタードクリーム。この2つが口の中で混ざり合い絶妙なハーモニー。食べれば食べるほど口の中に広がる味がなんとも言えない……!

 

「あんた達はよくわかってないだけよ。サクラのお兄さんと付き合ってみればすぐわかるわよ」

「え? なにが?」

「……ハルもわかりません。なにがわかるんですか?」

 

 パイシュー発見。これはさっきと違い、噛むたびにサクッ、サクッという音が聞こえるぐらいの食べ応え。これだけでも十分な気がするが、中のクリームがまた絶品。先程と違いを楽しめるように、カスタードクリームだけにしたのか。……違うかもしれない。生クリームと一緒に混ぜたのか。もの凄く滑らかだ……!

 

「本人の前でこういっちゃなんだけど、あのタイプは絶対彼女よりサクラを優先するわね」

「でも、家族を大事にするのはとってもいいことですよ?」

「甘いわね。あれは病気よ。病気。もうサクラしか見えていなーいっていう病気よ」

「びょ、病気ですか!?」

「ええ。断言できるわ」

「……ごめんね、サクラちゃん。花が失礼なことを言って」

「気にするな。私もそう思うし」

 

 それよりこのクッキー。食感はもちろんのこと、食べた後に口の中に広がるバニラの香り。一見、メインの引き立てと思わせるシンプルなデザインだったが、余計なものをいれないためだったのか。これは思わず何度も手が進んでしまう。

 

「ほらみさない! 当事者のサクラでさえ、思ってるのよ!」

「ハルには……よくわかりませんでした……。はひ? サクラちゃんそちらのクッキーを美味しそうに食べていますね」

「ん」

「……はひー! 京子ちゃんも花ちゃんも食べてみてください!! 凄く美味しいですー!」

「ありがとう。ハルちゃん。……おいしー!」

「どれどれ。……本当に美味しいわね。ちょっとこれ売ってないの?」

「今度、聞いておく」

「私にも教えてね!」

「ハルもお願いします!!」

「ん」

 

 兄に聞いて売ってるようなら先に沢田綱吉に教えてあげよう。ホワイトデーにちょうどいいからな。少し甘いのが続いたので、しょっぱいものが食べたい。……流石、兄だ。私の気持ちを予想していたのだろう。ポテトを薄揚げにしているものがあった。これは晩ご飯に並ぶこともあるので手間はそこまでかからないのだろう。しかし、揚げてるところを見たことがない。レンジで何かしていたような……。わからないので考えを放棄する。私は食べれればいいのだ。……程よい塩加減だが、あまり油っぽくない。これもクッキー同様止まらないタイプである。つい、手が進む。

 

「お兄さんがあんな感じだと、あんたが恋したときに大変なことになるんじゃないの? まっこれは京子のところも言えそうだけど」

「え? 私?」

「そうよ。京子のお兄さんだって京子が大好きでしょ。『極限、交際は認めーん!』って言いそうだわ」

「……なんとなくですが、ハルも想像できます……」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんは認めてくれるよ」

「その認めてもらうのは大変な気がするけど、その点で考えると沢田はクリアしてるわね」

「ツナさんがですか?」

「そうね。他にもサクラのお兄さんも認めてるわね」

「そうだったんですかー」

「それで、サクラはどうなのよ? いい人とかいないの?」

 

 急に話題を戻すな。三浦ハルと笹川京子の微妙な関係に気付いて、深く話すのを避けたい気持ちもわからなくはないが。

 

「特に」

「ふぅん。でもあんた、沢田達とはよく話すじゃない。それに雲雀恭弥とも何かある感じだし、金髪のイケメン外国人とよく歩いてる姿も確認できてるわよ! 白状なさい!」

「……白状もなにも彼らとはこれといってない。強いて言うならば信頼できる相手だ」

 

 前者は少し誤魔化しているが、後者は最近わかったことなのでウソではない。私は動揺をせず、紅茶に手をのばす。……この茶葉は私の好きなアッサムとダージリンをブレンドしたものだ。兄は紅茶まで用意していたのか。少し呆れるが、正直ありがたい。たまに紅茶といって表示もロクにせず、アールグレイを出すところがある。あれはフレーバーティーで慣れない者には飲みづらい、ちゃんとアールグレイと表示しろ!!……一瞬、誰かに思考が乗っ取られた感じがしたが、恐らく私の気のせいだろう。

 

「本当に何もないようね……。誰かいい感じの――」

「はひー。美味しいお菓子ばっかりで幸せですー」

「私も!」

「――美味しいのは私も認めるわよ。認めるけど、女が4人も集まってるのになんで恋愛の話が続かないのよ……」

「だって、とっても美味しいよ?」

「そうですよー」

「はぁ……。私はイケメンの牛柄のシャツの人とちゃんと話せなかったし――」

 

 ポテトの薄揚げと紅茶のおかげでリフレッシュできた。少し重たいと考え、最初に手がのびなかったマドレーヌを食べることにする。表面はパリッとしていて中はしっとり。バターが多いかもしれないが、レモンの風味で後味は爽やかだ。今回、兄はたくさんの種類を食べれるようにするために、香にもかなり気をつかってるのかもしれない。私と同じように敬遠してそうな彼女達に勧めてみる。

 

「――あんた達、ちょっと聞いてるの!?」

「はひ!? ちゃんと聞いてますよー」

「うん。花、サクラちゃんが勧めてくれたマドレーヌも美味しいよ?」

「あら、ありがとう。――じゃないわよ! 本当に私の話をちゃんと聞いてるの!? 私は牛柄のシャツの人に会いたくて会えない、この焦がれる私の気持ちを少しわかってほしいのよ!!」

「理屈じゃない」

「そう! そうなのよ! この気持ちは理屈じゃないの! サクラ、わかってるじゃない!」

 

 私の気持ちはわかってもらえなかったようだ。非常に残念である。まぁこのボケは原作のことを知っている私にしかわからない種類なので許すが。

 

「それでこの前に沢田の家に会った時は――」

 

 黒川花の話を聞き流しながら、私はお菓子を食べることにする。それにしても今日のお菓子は美味しすぎる。思わず手をパンッと一発叩きたくなった。恐らく彼女達はわからないのでしなかったけどな。

 




……飲めない。あれは理屈じゃないw

ボツネタ
塩じゃなく、のり塩で3日間だけタイトルを『クラスメイトKですよ』に変更。
(ハーメルン様の利用規約にちょっとかすりそうで、私がびびったため断念)


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場所取り

 上機嫌で歩く容姿端麗の男が居た。彼の名は神崎桂。彼が上機嫌なのは愛して止まない妹と同じ名の花が咲いているからである。

 

「ふむ。このあたりにしようか」

 

 桂は妹のサクラと午後から花見をしようと約束しているため、彼は妹を喜ばすために内緒で場所取りにきていたのだ。早朝から来たのは桜並木の中で1番景色のいい場所をサクラに見せたかったから。そのため、ビニールシートを敷き、約束の時間まで過ごすことにした。

 

 

 

 桂が場所取りをしてから30分たったころ、1人の男が桂に話しかけた。

 

「やぁ、また会ったね」

「君は確か……雲雀君だね!」

「そうだよ」

 

 桂の前に現れたのは雲雀恭弥だった。雲雀は花見をするために来たのだが、先客がいることに気付いた。普段なら咬み殺し追い出すのだが、その相手が赤ん坊と同じぐらい興味を持ってる兄弟の片割れの桂だったため話しかけた。雲雀はたった1度攻撃を仕掛けただけで桂の強さに気付き興味をもったのだった。そして、雲雀から話しかけることは珍しいことを知らない桂は疑問も持たずに返事をし、会話が成立したのである。

 

「ねぇ、僕と勝負しない?」

「悪いが、それは遠慮させてもらうよ!」

「逃げるの?」

「違うよ! 僕は風紀を乱すようなことはしたくないのさ!」

 

 桂の言葉に雲雀は黙る。挑発したつもりが、自身が大事にしている風紀を持ち出されるとは思わなかったのだ。一方、桂からすれば雲雀が言い返せないのは予想通りだった。桂はサクラが話していたことを信用しただけである。

 

 妹バカの桂だが、頭はいい。雲雀の情報を知っているので簡単に対処できるのだ。もし前回みたいにトンファーで殴られても、桂は急所を避け手を出さなければいいと考えていた。桂は妹が絡まなければ、理由もなく手は出さない。なにより常識では考えれないが、自身が殴られることは切り札がある彼にとっては怒る理由にならないのだ。恐らくそれが桂と戦いたい雲雀にとって1番の難点であった。

 

 そして、雲雀は憶測の段階だが、咬み殺そうと攻撃をしかけても桂がやる気になる可能性の低さに気付いていた。なぜなら、以前に雲雀が攻撃し再度仕掛けようとした時も妹を守ること以外に手を出そうとしなかった。だからこそ雲雀は桂に話しかけたのだ。

 

 今の現状では圧倒的に雲雀は不利。しかし、運は雲雀に味方した。

 

「……じゃぁ、出てってくれる? 今日、ここは風紀委員が占領することになってる。僕は1人で桜を楽しみたいからね」

「1人で……?」

「うん。だから出て行って。もし君がここで花見をしたいなら僕と勝負しよう」

 

 雲雀は桂がここに居る理由はわかっていたため、それを利用としようと考えた。元々、占領するつもりだったのもあるが。そして、桂の驚いた反応を見て、彼と勝負が出来ると内心喜びながら桂に提案したのだった。

 

「……わかった。その勝負、受けることにするよ!」

 

 桂は少し悩み、了承した。

 

 これで雲雀の思惑通りになったのだが、彼は知らない。桜並木が占領されたとしても、移動すればいい。まだ早朝なのだ。と考える桂はこの場所にこだわってるわけではないことを。その桂が了承したのは雲雀の言った『(群れる人間を見ず)1人で(桜並木の)桜を楽しみたい』を『(誰も見えないようにして)1人で(神崎)サクラを楽しみたい』という意味にとらえたからだった――。

 

 

 

 

 

 ツナは獄寺・山本と共に花見の場所取りのために、桜並木にやってきた。そして、ツナは遠目に不良がいることを気付き引き返そうとしたが、その不良が唖然としている姿を見て疑問を浮かべる。

 

「どうかしましたか? 10代目」

「あの不良っぽい人……何に驚いてるのかなーって……」

 

 ツナの言葉によって獄寺と山本はあたりを見渡せば、山本が桂とトンファーを出してる雲雀が見えた。その様子を見て、ツナ達は慌てて駆け寄ったのだった。

 

 駆け寄り、ツナ達は先程会った不良と同じように唖然とした。何度も桂を狙ってるトンファーは空を切り、肩で息をする雲雀。トンファーをかわしている桂はケイタイで電話をするほどの余裕。そう、自身達をボコボコに咬み殺したことがある雲雀が、桂に遊ばれているのは誰の目でも明らかだったのだ。

 

「まさかここまでとはな」

 

 ふいに聞こえたリボーンの声でツナは意識が戻る。

 

「リボーン……ど、どういうこと……? 神崎さんのお兄さんってあんなに強かったの……?」

「ツナ、お前は桂の強さの一端を見たことあるだろ? まぁオレもあそこまで強いとは思ってなかったたが……」

 

 リボーンに言われ、ツナは思い出す。3階の不安定な足場しかない窓の外から、ビデオを回し続けていたことを。京子ちゃんのお兄さんと凄いスピードで競ってる姿を。桂がリボーンの投げたチョークを受け取ったことを。雪合戦の時にディーノと渡り合っていたこと、更に桂はディーノが投げた雪玉を壊さず受け取るほどの技量の持ち主だった。

 

 確かにリボーンの言ったとおり、ツナは桂の凄さを知っていた。しかし、ツナにとって桂は妹のサクラが大好きということを除けば、普通の人だったのだ。この光景を受け入れられるかとは別問題である。

 

 そんなツナの困惑を振り払うように桂が「ふむ。わかったよ!」と大きな声でいい、電話を終えた。

 

「助かったよ。いい暇つぶしになった」

「っ!」

 

 桂が雲雀に挑発したと思った瞬間、雲雀は今日1番の速度でトンファーを振り下ろした。が、空振る。振り終えた雲雀が気付いた時には全てが遅かった。桂は一瞬で雲雀の隙だらけの背後に移動していたのだ。ツナには雲雀のトンファーでさえ目で追えず、桂が瞬間移動をしたように雲雀の背後に移動したことしかわからなかった。

 

 ドサッという音が聞こえ、雲雀の両足が地面につく。ツナは一体何があったのかわからず、あまりの力の差に地面に足がついた雲雀を心配した。

 

「秘儀! ひざカックン!」

 

 妙な沈黙が流れた。

 

 ひざカックンとはただの相手のひざに衝撃を与えるだけであって、秘儀でもない。しかし、そのただのひざカックンを雲雀にし地面に足をつけたのだ。一体、これがどれぐらい難しいことか計り知れない。だが、真剣に考えたくないという心理が生まれたのだった。

 

「約束は地面に足がついたほうが負け! 僕の勝ちだよ!」

 

 桂はツナ達の心境を知らず、もしくはあえて知ってて宣言したのかはわからない。が、「……約束は約束だ。桜を楽しめばいい」と、普段は咬み殺すを楽しむこと以外の感情を表に出さない雲雀が、歯を食いしばりながら言い、疲れ果てたせいかフラフラとしながら去っていったのだった。

 

 その雲雀の姿を見てツナは声をかけようかと思ったが、リボーンに止められ諦めた。その後すぐに「君達も花見かい?」といつもと同じようにツナに話しかける桂を見て、安堵したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 私は今までこれほど必死に自転車を走らせたことがあったのだろうか。

 

「兄のバカ……」

 

 口に出しながら漕がなければやってられない。なぜ兄はあそこまでバカなのか。確かに私は兄と一緒に花見をしようと約束をした。だが、昼に行こうと約束したはずだ。なぜ先に場所取りに行ってるのだ。私の予定では雲雀恭弥に勝った沢田綱吉達に一緒にいいかと頼むつもりだったのだ。そもそも私が楽していい場所をゲットしようとしたのが悪かったのか――。

 

 ――いや、兄が悪い。

 

 そう思うことにした。お母さんから兄が花見の場所取りに言ってると聞いた私の心境を考えろ。急いで電話をすれば、他にも場所があるのに原作が起こる桜並木に居るといい、更に沢田綱吉達の姿を確認したというのだ。そして、兄に「雲雀君と花見をしたいかい?」と聞かれ焦った。私は何度も「一緒にしたいとは思わないが、雲雀恭弥には絶対手を出すな!!!」と念を押し電話を切り、慌てて着替え自転車を漕ぐ今に至るのだ。私のせいで兄が咬み殺されると思うと本当に最悪である。

 

 肩で息をしながら自転車から降りる。そして、きっちり自転車置き場に起き、鍵を閉める自身にドン引きした。どこまでも私は自身のことを優先するのだ……。

 

 少しテンションが下がったが、急がなければならないことを思い出す。慌てて走り出そうとした時に雲雀恭弥の後姿が見えた。

 

「……うまくいったのか」

 

 雲雀恭弥がフラフラしながら歩いてるので原作通り進んだことに安堵する。急ぐ必要もなくなり、歩いて兄の居るところに向かうことにした。

 

 

 

 しばらく適当に歩いていると、兄と沢田綱吉達がビニールシートの上で座ってるのが見えた。そして、道を引き返す。

 

「オレ達は赤い運命の糸で結ばれているんだ。かわいこちゃーん!!」

 

 このオッサンはいつか懲りることがあるのだろうか。そう頭の隅に思いながら、全身に鳥肌が立ちながら逃げた。

 

「サクラが嫌がってるじゃないか! 離れたまえ!!」

 

 珍しく兄が人を殴り驚いたが、キス魔を倒してくれたのだ。倒れてるキス魔を見て、私は感謝の気持ちしか出てこない。

 

「僕が居ながら、怖い思いをさせてすまなかった!!!!」

「わ、わかったから……く、苦しい……」

 

 私は珍しく声に出し、兄に抗議した。兄にしては力が強すぎだったのだ。兄は自身の力加減のミスにショックを受け、落ち込んでいたため許すことにする。私は心が広いのだ。

 

「気にしないから、花見しようよ」

「ああ……サクラはなんてやさしい子なんだ……」

 

 そういうのはいいからエスコートしろ。しかし、兄が動こうとしないので首をひねる。声をかけようとした瞬間、兄がひざをついた。

 

 ――桜クラ病

 

 Drシャマルは何を考えているんだ。トライデント・モスキートを使いすぎだろ!?そもそも、なぜ一般人の兄に使ったのだ。いろいろ問いただしたいが、気絶してるDrシャマルには聞けないので諦める。今は兄の容態の方が大事なのだ。

 

「お兄ちゃん……た、確か桜クラ病は桜の下に囲まれていると立っていられないだったような……。今すぐ帰れば……」

「……ふっ。 僕はいつでもサクラに酔ってるじゃないか! さぁ花見を楽しもう!!」

 

 そういっていつも通りに私をエスコートし始めた兄に驚き、されるがままになる。

 

「どうかしたのかい?」

 

 兄が桜クラ病にかかったと思ったのだ。元気そうな兄を見て、安堵の溜息が出る。Drシャマルを殴った後にひざをついたということだけで私は勘違いしたのだろう。

 

 心配事がなくなったので、私は沢田綱吉達と花見を満喫したのだった。

 




しゅ、主人公の存在感が……

ちなみに桂さんは手は出してないです。
膝をつかったのでw


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少女の頼み

 ジッと紙を見つめる。

 

「また一緒のクラスだね! 今年度もよろしくね!」

「……ん」

 

 なぜ当たり前のように私の隣に笹川京子が居るのだ。少し驚きながら返事をし、私はA組ということを知る。何とも微妙な感じだ。沢田綱吉達と一緒で少し嬉しい気持ちもあるが、思いっきり巻き込まれそうな気がする。なぜなら、彼らと同じクラスになったのはリボーンの差し金としか思えないのだ。

 

 複雑な気持ちで教室に向かってると胴上げをしてるバカが見える。当然、私はスルーした。

 

 

 

 

 原作通り沢田綱吉が笹川京子と話しているなと思いながら、席に座りボーッとしていると内藤ロンシャンと目が合った気がした。

 

「はいはーい。オレ、内藤ロンシャン。トマゾファミリーの8代目でーす」

 

 ウザイのでカバンから本を取り出し読み始める。まぁウザイのは嫌だが、私のことを忘れてると知れたのはいいことだった。

 

「え? 何? ツンデレ?」

 

 今の行動のどこにデレがあったのだ。もちろんツッコミはしない。が、少し面倒になったのでケイタイを取り出す。

 

「ん? 交換? でもオレさ~、彼女いるんだよねー」

「雲雀恭弥に電話するだけだ」

 

 私の言葉に内藤ロンシャンは動きを止め、もの凄い勢いで離れていった。原作と違い、私の行動で雲雀恭弥のことを知り恐れているのだろう。問題があるとすれば、私の声が聞こえた人が「やっぱり、あの噂は本当だったんだ……」といい、内藤ロンシャン以外にも離れたことである。と言っても、静かになったので私は喜んでいるのが。ちなみに黒川花が言っていた噂を有効活用し、雲雀恭弥の名前を出しただけである。実際には電話番号なんて知るわけがない。

 

 そういえば、雲雀恭弥の咬み殺し度があがっていると耳にした。恐らく桜クラ病のせいだろう。サクラという名前の私は近づくだけ危険なので、会わないように努力しよう。……いつもと一緒だな。

 

 しばらくすると原作通りにリボ山が来た。興味はないが、本を読んでいると絡まれると思ったので片付けて、ボーッとすることにする。

 

 

 

 

 

 私がボーッとしてる間に、沢田綱吉と内藤ロンシャンの自慢大会という名の嗜虐大会が始まっていた。知らない間に推薦などが終わっているな。不思議である。……念のために口元を確かめよう。

 

 私が口元を確認しているとテルミが去っていった。一言、斬新だった。

 

「ツナには彼女はいねーが、仲のいい女子はいるだろ? ツナのいいところ言ってもらえばいいじゃねーか」

 

 リボーンの言葉に嫌な予感がする。今の言葉は原作になかった。動揺している沢田綱吉を見て、笹川京子にいいところを言ってもらえる場合と言ってくれない場合の想像をしているのだろう。しかし、お互いに非常に残念なことになる気がする。

 

「確かに相手が女子の意見を入れたんだ。10代目もそのほうが……。妙なセンコーだが、わかってるじゃねーか」

「まぁな」

 

 なぜ獄寺隼人はリボーンと気付かないのだ。そして、本気で慌ててる沢田綱吉をみて不憫だなと思った。

 

「おい! てめぇに重要な役を任せるのは癪だが――神埼! 10代目のいいところを話せ!」

 

 あからさまに驚いた顔をして、ほっとしたような、少しもったいないようなという表情をする沢田綱吉。そして、私はもの凄く面倒という表情をしているだろう。獄寺隼人に睨まれているので渋々答えるが。

 

「……彼は勉強が出来ないし、根性もあまりないのですぐに逃げようとする。周りからすればダメダメ」

 

 沢田綱吉がわかりやすいぐらいに落ち込んでいるし、獄寺隼人が今にもダイナマイトが投げそうだ。

 

「だけど、本当に誰かが困ってる時は逃げずに立ち向かう強い優しさはもってる。……もういいだろ」

 

 寝る。今すぐ寝よう。机の上で寝る体勢をつくったが、すぐに眠れるわけでもなく、内藤ロンシャンの嘆きまで聞いてしまった。

 

 

 

 揺さぶられて顔をあげる。見上げれば沢田綱吉達だった。本当に私は眠ってしまったようだ。寝ぼけながら彼らを見つめる。山本武に帰ろうと誘われ、獄寺隼人はさっさと起きろといい、沢田綱吉は私が疲れているかもと心配していた。

 

 ふと気付けば涙が出ていた。そして、涙を流す私に彼らは驚き慌てる姿を見て、笑ってしまった。

 

「か、神崎さん……?」

「ん。こういうのも悪くないと思っただけだ」

 

 よくわかってない彼らを放置し、私は袖口で涙をゴシゴシと拭う。そして、拭いながら説明する気はないと誰かに誓う。目が覚めて彼らを見て友達と思ったなんて、恥ずかしくて絶対言えないのだ。

 

 

 

 

 

 帰り道、彼らは私の様子を見ていたが問題ないと判断したらしく普通に話題を出し始めた。

 

「力が及ばず……学級委員長の座をトマゾファミリーなんかに……申し訳ありません!」

「ご、獄寺君、顔を上げて!! オレは気にしてないってば!!」

「でも、おしかったよなー」

 

 どっちが選ばれても一緒だ。2人とも学校を休みだすからな。

 

「神崎さん、ありがとう」

 

 急に名前を呼ばれたと思ったら、沢田綱吉にお礼を言われた。よくわからなかったので首をひねる。

 

「あの時、お世辞でも嬉しかったよ」

「……私はウソをついた覚えない」

「えっと、つまり……それって……」

 

 沢田綱吉は3人が肯定の顔をしていたので、戸惑っていた。だが、少し頬が赤くなっていたので悪い気はしていなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 そのままの流れで沢田綱吉の家に行くことになった。謎である。謎と思いながらもちょうど用事があり断る必要もないのでお邪魔すると、玄関でランボに飴を催促された。いつものようにポケットから取り出し渡す。イーピンとフゥ太は見当たらないので、このまま会わなければ沢田綱吉に預けておこう。

 

「神崎って面倒見いいのな!」

「それはない」

 

 私の場合は被害が広がらないまでに対処し、対処できなくなった場合は放置する。本当に面倒見がいいというのはどの状況でも放置はしない。

 

「オレも山本と一緒で神崎さんは面倒見がいいと思うよ」 

「……見ればわかる」

 

 彼らは私の指を追って、私達が話してる間に獄寺隼人はランボをボコボコにしようとしてることに気付く。そして予想通り慌てて止めるのは沢田綱吉と山本武であって、私は見ているだけである。

 

「自身が出来ることで面倒が回避出来るならするが、無理と判断したら何もしない。だから違う」

「なんで冷静に話してんのー!?」

 

 泣き叫んでるランボを抱きながら沢田綱吉にツッコミされる。……ボケたつもりはないのが。少し納得できないと思いながら家にあがった。

 

 沢田綱吉の部屋に入るとリボーンが居た。起きた時に見当たらなかったので、私の予想通り帰っていたようだ。

 

「ちゃおッス」

「ん。リボーン、頼みがある」

 

 挨拶もそこそこに用件をすますことにする。偶然にも沢田綱吉が飲み物などを取りに行き、獄寺隼人と山本武が温度差の激しい言い合いをし、誰も私達に注目していないのだ。

 

「なんだ?」

「仲介人兼護衛を頼みたい」

「……やべーことなのか?」

 

 リボーンの雰囲気と声のトーンが変わった。私がリボーンに頼むのだ。危険なことだと思っているのだろう。しかし、本当に危険なことを頼むなら私は彼らの前で話さないぞ。それにリボーンに頼もうと思ったのは、ディーノよりリボーンの方が適任と考えたからである。

 

 更にいうと原作通りに進むなら無理して頼む必要もないのだ。念のためレベルである。だからリボーンに頼みをきいてもらえないなら会わない。1人で彼に会いに行くのは、ネギタイを巻くぐらい嫌だ。……そもそも治療を頼みたいわけではないのだが。少し思考がずれたと思いながらリボーンに返事をする。

 

「ある意味。Drシャマルと真面目に話したいんだ」

「わかったぞ」

 

 リボーンはいつもの雰囲気に戻ったと同時に沢田綱吉が帰ってきたので話を打ち切る。リボーンから日時の連絡がくるだろう。私はそれを待つだけである。

 

 用件が済み、気が楽になったので遠慮せずお昼をご馳走になった。その後、沢田綱吉達とテレビゲームした。

 

「か、神崎さんってゲーム得意なんだね……」

 

 引きこもりをなめるなよ。と、威張ったりせず「そこそこ」と答える。それにプレイ時間は私の方が長いのに兄の方が上手いのだ。理不尽である。

 

 時々、負けたりしながら私は彼らと楽しんだ。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 リボーンとDrシャマルは保健室で、先程会った1人の少女のことを考えていた。

 

「――オレはどうしたほうがいいんだ? オレの意見としちゃ、かわいい子ちゃんの願いは聞いてやりてーが、医師の立場からすれば簡単に頷くことが出来ねぇ」

「じゃ、あいつの条件で用意することは出来るんだな」

 

 簡単に頷くことが出来ないということは、用意は出来るということ。リボーンはそのことにすぐ気付き、Drシャマルに確認した。

 

「おいおい……おめぇさん本気かよ……。あの条件も怪しすぎるだろ……」

 

 Drシャマルの言うとおり、少女の条件は怪しすぎた。マフィアに勘ぐられてはいけない、もちろんボンゴレも。更にDrシャマルは普段と変わらないように行動すること。つまり保険医の仕事もしなければならないのだ。

 

「そもそもそんな状況にさせなければいいじゃねーか。おめぇさんが居れば何とかなるだろ。あの子も無理ならいいと言っているんだ」

「……あいつには不思議な力がある」

「不思議な力だと?」

「あいつは未来が見えている。予知じゃねーぞ、別の力だ。ディーノが聞いた話によると、あいつはあいつがいねぇ未来が見えているんだ。オレの予想だが、無理にならいいというのはあいつがいない未来では問題ねーんだ。だからこそ、用意できるならしたいんだろう。だが、おめぇに頼むことで未来がずれる可能性もある。それを恐れてあんな回りくどい条件を言ったんだ」

「……つらすぎる力だな」

 

 雨の中、動けないでいた少女をこの目で見た。近づきすぎても傷つけてしまうと判断し、少女を好いているチビ達を追っ払い、ツナの優しさに触れさせることしか出来なかった。その時のことを思い出しながらリボーンは小さな声で「ああ」と返事をした。

 

「かわいい子ちゃんのために頑張っちゃおうかな~」

 

 少し重くなった空気をかえるため、ヘラヘラと宣言するDrシャマル。リボーンはその意図に気付きニヤリと笑って「頼んだぞ」と声をかけたのだった――。




頼みの内容は簡単なのでわかると思います。


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マフィアランド

 私は根っからの引きこもり体質のようだ。豪華客船に乗ったとしても部屋から出ず、小説を読んでいると自身でそう思ってしまったのである。まぁ乗客がマフィア関係者というのもあるが。なぜなら目をつけられたくない私は外に出る時は変装をしなければならないのだ。変装といっても帽子とサングラスだが。ちなみに変装はリボーンが用意してくれた。リボーンが言い出した時は嫌な予感しかしなかったが、普通で驚いたのは今朝のことである。

 

 今日はやりでも振ってくるんじゃないかと失礼なことを考えていると、扉が開かれた。私は気にせず、そういえば戦争は起きたなと、のんきに思っていると「なんでーー!?」という叫び声が部屋に響いた。

 

「ん。ランボは寝させておけばましになるだろ」

「う、うん。そうだね。ありがとう」

 

 食べ過ぎて気持ち悪くなってるランボを沢田綱吉から預かり、布団をかけてあげる。時々、さすってあげればいいだろう。

 

「じゃなくて!! なんで神埼さんがここに居るの!?」

「リボーンがこの部屋を使えばいいって」

「もしかして……神崎さんはリボーン達と一緒に船に乗ったの……?」

 

 一緒に乗ったのは事実なので頷く。

 

「神崎さんも無断乗船ーー!?」

「違う」

「そっか! 神崎さんもお茶の景品で当たったんだね! ごめん、悪いけどランボの看病頼んでもいい!?」

「それは別にいいが――」

「ありがとう!」

 

 教えてあげようと思ったのだが、沢田綱吉は行ってしまったので諦める。念のために袋を用意してからランボの背中をさすってると大人イーピンがやってきた。

 

「ここ部屋ですよ!! 沢田さん!?」

「ラーメンは諦めろ。ここは10年前の世界だ」

 

 ずっとドアを叩かれるのもうるさいので教えた。すると、大人イーピンは私の存在にやっと気付いたようで驚いていた。

 

「サクラさん!? お久しぶりです。お元気でしたか?」

「私は元気だが、10年後の私が元気かは知らない」

「何言ってるんですかー、サクラさん!」

 

 大人イーピンは鈍感だったのを忘れていた。幼い沢田綱吉を見ても気付かず普通に話していたのだ。話が通じると思ったのが間違いだった。

 

「川平のおじさんのお家どこかわかりますか?」

「……さぁ」

 

 川平のおじさんという名を聞いて、チェッカーフェイスを思い浮かべてしまった。下手なことは言えば、意識もしくは存在を消されてしまうので知らないフリをするしかない。復讐者に目をつけられるのもまずいしな。

 

「早くしないとラーメンのびちゃうんです!!」

「時が解決してくれるさ」

 

 大人イーピンは私の話を聞いていないようで、慌てていた。もう私は面倒になったのでスルーする。しばらくすると、よくわからない言葉が聞こえてきた。いつものイーピンだったので時間が過ぎたようだ。

 

「あ。イーピン、ランボの面倒見てくれないか?」

 

 何かいいながら頷いていたので、私の言葉は通じていたのだろう。帽子をかぶりサングスをかけ、やっと私は部屋から出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 少し歩き回ると目的の場所を発見した。ドアの前で少し悩み、ノックをしてみる。反応がないので周りを確認してから「沢田綱吉が大変だ」と言ってみる。

 

「10代目に何か!?」

 

 勢いよくドアが開かれて焦る。自身でも棒読みすぎると思っていたのだ。ここまでの反応されるとは予想外である。

 

「神崎!! 10代目に何かあったのか!?」

「さっきのはウソ」

「ウソ……だと!?」

 

 キレると思い、身構える。しかし、彼はキレずに安心していた。その姿を見て、少し罪悪感を覚えた。

 

「おまえ……何してんだよ。一瞬、誰かわからなかったじゃねーか」

 

 そういえば、彼はすぐに私と気付いたな。ますますリボーンの変装に気付かないのが謎である。

 

「いろいろあって。それより、リボーンが君の手続きもしてくれてるから隠れなくていい」

「リボーンさんが!?」

「ん。君の侵入に気付いていたみたい」

「さすが、リボーンさん!」

 

 真っ赤なウソである。船に乗るときに私がリボーンに頼んだのだ。沢田綱吉が原作通り走り回ってるのは恐らくだが、侵入者がまさか手続きしている人物と気付いていないからだろう。私が早く獄寺隼人に問題ないと伝えればよかったのだが、手続きが終えてすっかり忘れていたのだ。

 

 獄寺隼人が沢田綱吉のところに案内しろといったが、走り回ってると思うので1度部屋に案内をすることにする。闇雲に歩くのは勘弁なのだ。部屋さえわかれば1人で探して戻ってくることも出来るだろう。

 

 偶然にも部屋の前で沢田綱吉と会った。リボーン達も一緒に居たので、もうマフィアランドに向かってると知ったのだろう。タイミングが良かったらしい。

 

「うげっ!」

 

 前言撤回。タイミングが良すぎたらしい。そういえば、獄寺隼人は無断乗船の他にビアンキと会うのを避けるために隠れていたのだった。倒れてる本人も手続きしたことを知り、忘れていたのだろう。沢田綱吉は獄寺隼人に慌てて駆け寄っているのを横目でみながら、私はビアンキに近づく

 

「リボーンが私に用意してくれたみたいだけど、あなたに似合いそうと言ってました。せっかくなので、どうぞ」

「そうなの!? ……似合うかしら? リボーン」

「似合ってるぞ」

 

 私が持っていたサングラスをビアンキが一瞬で奪い、リボーンに見せていた。リボーンが話をあわせてくれて助かった。ウソだとばれれば、ビアンキに殺される気がするからな。

 

 

 

 

 

 

 船から降り、リボーンから新しく貸してもらったサングラスをかけ周りを見渡す。思っていたより子どもが多く驚いた。そして、帰りたくなった。人の多さに酔いそうなのだ。

 

「10代目! どこから行きましょうか!!」

 

 私と違って彼は元気になったようだ。残念ながら沢田綱吉は今から入島手続きだぞ。彼に答えを教えてもいいのだが、結局裏マフィアランドに連れて行かれる気がしたので教えない。相変わらず不憫である。そして、その不憫な後姿を見送ったので私はリボーンを見る。

 

「やはりサクラの目的はこっちなんだな」

 

 リボーンは私の目的に予想を立てていたようだ。2日ほど前に、私がリボーンに頼んでここに来たのである。目的を考えるのは当然な気もした。

 

「じゃ、行くか」

 

 そのためかリボーンは反対することなく、案内してくれるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 用意してくれたジュースを飲み、本を読む。時々、聞こえてくる沢田綱吉の叫びは気のせいだろう。しかし、あまりにも助けを求められるので顔を上げて答える。

 

「私には彼らを止めるのは難しい。頑張れ」

「そんなーー!?」

 

 そう叫んだ沢田綱吉は海に落とされていた。不憫である。

 

「それでこいつはなんなんだ? コラ!」

「おめぇに用があるんだ。 そうだろ? サクラ」

「厳密に言うと違う。君達にだ」

 

 2人揃って「オレ達に?」と返事をかえされた。姿が赤ん坊なので何とも奇妙な感覚である。

 

「疑問をもたれることなくヴェルデと常に連絡を取れるか?」

 

 2人は顔を見合わせから返事をした。

 

「オレは無理だぜ」

「オレも無理だな。あいつは自己中だからな」

 

 予想通りの答えだったので落胆はしなかった。それに本命はこれじゃない。これだけならば、リボーンに頼んで聞いてもらえばいい。私はどうしても今からする質問の反応をこの目で見たかったのだ。

 

「ヴェルデに何かあるのか?」

「無理ならいいんだ。それより、もう1つ聞きたい。この島のセキリュティを信用して聞く。――君達は呪いを解きたいか?」

「詳しく話せ、コラ!!」

「コロネロ、止めろ。――頼む」

 

 リボーンが珍しくコロネロに頼んだおかげで、ライフルは背中に戻った。

 

「サクラ、オレ達のためにおめぇが苦しむ必要はねーんだぞ」

「……ん、私は自身が1番大事だと思ってる。だから聞いておかないと動けなくて後悔する気がしたから言った。私は器用じゃないし、力もない――覚悟だって弱い。聞いたところで動けない可能性の方が高い。でも、しないより良い気したんだ」

 

 リボーンが私の顔をジッと見ていたが、私はコロネロを見て言った。

 

「リボーンが居るとしても危険なことを言ったのはわかってる。だから多少のことなら、自分以外のために知りたがった人の方が許せたんだ。……悪い」

 

 頭をさげて謝る。話せないことになのか、自身のせいで呪いが解けなくなるかもしれないからか、よくわからないが、謝りたかった。そして、すぐに顔をあげて2人の顔を見て言った。

 

「私は自身が大事だから、君達が幸せにならないと困るんだ。頑張ってくれ」

 

 なんとも他力本願である。しかし、リボーンはすぐに「わかったぞ」といい、コロネロはよくわかってないにも関わらず「いいぜ」と言った。

 

「……そろそろ助けてあげたほうがいい気がする」

 

 沢田綱吉の声が聞こえなくなってきたので教える。コロネロが助けにいってくれたようだ。それを見て、小さな声になったが「リボーン、ありがとう」と言った。

 

 私はリボーンを大人のように接したり、呪われた赤ん坊と言ったことがある。何か知ってると気付いてるにも関わらず、リボーンは1度も聞いてこなかった。いろんな意味を込めた私のお礼にリボーンは「問題ねぇぞ」と返事した。男前過ぎるだろと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の叫びを聞きながら本を読んでいると電車がやってきた。そろそろ砲撃の音が聞こえてくると思ったので、リボーンとコロネロの近くに移動する。

 

「どうした? サクラ」

「君達の近くが1番安全な気がする」

「え? 安全って?」

 

 沢田綱吉にも聞こえたようで質問されたが、内藤ロンシャンが降りてきたため話が流れる。そして恐らく戦争がおきて、私の言葉は完全に忘れ去られるだろう。

 

 音が凄いと思ってると、リボーン達は眠っていた。

 

「神崎さん、行こう!!」

「私はリボーン達が起きた時に、君達が向かったと教えるためにここに残る」

「危ないよ! 避難しなきゃ!」

 

 必死に説得するので困る。沢田綱吉の近くに居る方が危ないし、ウザイ奴もいる。城についても料理を作るのは苦手だし行きたくない。そもそも彼らが起きればすぐに終わるしな。

 

「私は足が遅いし、君達だけで家族の様子を見に行った方が早い」

「で、でも……!」

「それに砲撃が近くに落ちてきた場合、彼らは起きると思う」

「……そうかも」

 

 最後の言葉が決め手だったようで、沢田綱吉達は「気をつけてね!」といい走っていった。その姿を見届けた後、「起きてるだろ?」と言ってみる。

 

「よく気付いたな」

「なかなかの腕だぜ、コラ!」

 

 どう考えてもこの緊急事態に寝るほうがおかしいだろ……。彼らが寝たのは沢田綱吉の動きを見たかったと予想しているが。

 

「スカルにも聞いたほうがいいんだな」

 

 リボーンは君達という言葉にスカルも入ってることに気付いてるようだ。

 

「元々、期待はしてないけどな。それに彼が上手くやれるとは思えないし」

 

 スカルにはそういう種類の信用はないらしい。2人揃って頷いた。

 

「他の奴にも聞いてみるか?」

「……これ以上は怖い」

 

 ここに行けば会えるから聞いただけなのだ。引き際を間違えれば、未来が変わりすぎる気がする。リボーンも納得したらしく、何も言ってこなかった。

 

「どこか安全なところはあるか? リボーンと一緒に行き沢田綱吉と合流してもいいが、私は足手まといだろう。コロネロは上空から攻めるだろうし」

 

 私の言葉にコロネロが驚いていた。彼らが考えてる行動を言ったからだろう。リボーンが驚いていないのは慣れてしまったからだと思う。

 

「ここに残れ。オレが面倒みてやるぜ、コラ」

「助かる」

 

 コロネロが守ってくれるらしい。ここに飛んでくる弾を上空で弾を落としてくれるのだろう。私は暇なので本を読むことにする。コロネロが「なかなか肝が据わってる奴だぜ!」と言ったので本を開こうとする手を止める。

 

「君の腕を信頼してるだけ。ラルの腕を信頼してるともいうが」

 

 コロネロの戦闘シーンはあまりないのだ。どちらかというとラルの人柄と腕の方がわかる。そういう意味でコロネロは安心できるのである。

 

 そして、私の言葉を聞いて「下手なとこは見せれねーな」とリボーンがコロネロに挑発まがいのことを言っていたが、私は本を読みたいのでスルーした。

 

 

 

 

 

 終わったぜという言葉に顔をあげる。思ったより本が進まなかったな。

 

「お疲れ。あっちはもう終わってるはず」

「お前はどこまでわかるんだ?」

 

 コロネロは話の流れで私がいろいろわかることには気付いてるが、どこまで知っているか気になったのだろう。

 

「ルーチェやアリアの方がいいと私は思う。まぁ君が初対面の時にラルを口説き3ヵ月無視されたということはわかるが」

 

 コロネロの反応は微妙だった。恐らくそのことを知ってるからではなく、役に立たないことだったからだろう。私もそう思から気持ちは凄くわかる。

 

「あ。女子と風呂入るのは止めとけよ。ラルに会った時に伝えるからな」

「は、入るわけないぜ! コラ!!」

 

 笹川京子と入ることを知っているので言えば、なぜかコロネロは焦っていた。普段から入ってるかもしれないと思い、疑いの目で見ると更に焦っていた。……判断が難しい。これはラルに嫌われることに焦ってるからだろうか……。

 

「どっちでもいいか」

 

 興味がそこまでないので思考するのをやめた。コロネロが何か言っていたが、本を読むためスルーする。

 

 

 

 

 コロネロの説得?が沢田綱吉とリボーンが迎えに来るまで続いたので、沢田綱吉が気になり聞かれので教える。

 

「恋愛はほれた方が負けって意味だ」

「どういうこと? それに恋愛って勝ち負けとかじゃないような……」

 

 三浦ハルに似たようなことを言われるはずだぞ。というツッコミは我慢し、少年マンガの主人公は鈍感が多いしな。と思いながら温かい目で見る。

 

「な、なんでそんな目でオレを見るのーー!?」

 

 温かい目で見たつもりが、鈍感キャラ以外のマンガを探していたせいで遠い目になっていたようだ。

 

「ハーレムになるためにはしょうがない」

「意味わかんないからーー!!」

 

 真面目に答えたのにツッコミされた。理不尽である。

 




ハーレム=鈍感


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小さい活躍

 帰りたい。今すぐ帰りたい。……帰ると面倒なことになるので帰らないが。

 

「……最悪」

「ご、ごめん……」

 

 謝られたが、沢田綱吉が悪いわけじゃない。1番最初のきっかけはまた兄が余計なことをしたせいなのだ。

 

 今日、私は学校が終われば家から出ないと誓っていたのに、ランボが私の家で兄の作ったお菓子を食べていたのだ。それを見て慌てて沢田綱吉の家に連れて帰るはめになった。なぜなら今日はヴェルデの光学迷彩で暗殺されそうになる日なのだ。ランボが居なければ話が進まないと思ったのである。無事に家に連れて行った時点で私のミッションは終了したはずなのだが、ランボが私から離れないのでしぶしぶ2階にあがったのが間違いだった気がする。

 

 ……なぜ私がチビになってるのだ。

 

 どうやらランボは私の家に来る前に10年バズーカをジャンニーニに預けていたらしい。原作と違い、ランボは嬉しそうに受け取り試し打ちすれば、ランボを抱き上げてる私が被害になるのは予想できる範囲だろう。もちろん私は逃げようとしたが、遅かったのである。ちなみに、見上げて確認すると獄寺隼人は大きいままだった。

 

 そもそもランボが居なくても、最終的にはリボーンが何とかした可能性も高い気がする。今日は厄日のようだ。

 

「……つーか、ちっこくなった癖に落ち着きすぎだろ……」

 

 その言葉にイラッとする。元々は君がチビになるはずだったのだ。それなのになぜ私が……!

 

「ご、獄寺君! 今日は帰って!! せっかく来てもらったのにこんなことになっちゃったし!!」

「そうスね……。武器もダメになっちまったし……。今日のところは帰ります。また明日学校で! レポート楽しみにしています!」

 

 この状況で平常心で沢田綱吉がレポート作れば怒るぞ。そもそも君は私と同じ班だろ。私の心の広さでやめておこうと判断していたが、ピアニストになりたいと書いてやる。と、心に決め睨んでいれば沢田綱吉が慌てて獄寺隼人を送り出した。恐らく私の機嫌の悪さを感じているのだろう。

 

「か、神崎さん……元に戻るまでオレの家でゆっくりしていいから……」

「……ここで大人しくしてるから、彼女の相手してあげなよ」

 

 遠い目をしながら返事をした。彼が降りた後に暗殺者のことをリボーンに相談しよう。

 

「京子ちゃんには帰ってもらうよ。神崎さんに何かあったら怖いし……」

 

 彼は笑って言ったが、恐らく心の涙を流しているのだろう。不憫すぎると思ったので提案する。

 

「彼女にはリボーンの友達が遊びに来てるって言えばいい。私は彼女から見えなくて君には見える位置で本を読んでいるから。せっかく、彼女が来てるんだ。悪いだろ……」

「神崎さん……!」

 

 感動するような目で見られたので、後ずさる。沢田綱吉にされても今まで何も思わなかったが、身長差のせいで威力が増え、兄が喜ぶ時のような感覚になったのだろう。

 

「そういうわけだからリボーンも付き合って」

「わかったぞ」

 

 リボーンを1階に連れて行くことに成功したようだ。私にしては頑張ったほうだろう。自画自賛しながら沢田綱吉のズボンを引っ張る。

 

「どうしたの? 神崎さん」

「連れてって。1階に降りれない」

 

 普段なら嫌だが、沢田綱吉に抱き上げてもらった。なぜここに住んでいる人物は器用に階段を降りれるのだ。謎である。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、もう1個ちょーだい」

 

 階段を降り終わり地面におろしてもらうと同時に、ランボにせがまれる。小さくなってすぐにランボに飴を渡し誤魔化したが、食べ終わってしまったらしい。ポケットから飴を取り出し渡せば、また大人しくなった。どうやらランボは飴をあげ続ける限り、私にケンカを売るようなことはしなさそうだ。

 

 リビングにお邪魔すると、山本武が居て暗殺者も侵入していた。原作より1階に降りるのに時間がかかったせいだろう。笹川京子達が無事なようで安心した。リボーン近づき、どうにかしろと言う。

 

「武器が全部使いもんにならねー」

「……君の腕なら物を投げるだけで倒せるだろ。レオンだって居るし」

 

 リボーンは私の言葉が聞こえてないような態度をとりはじめた。殴ってもいいだろうか……?

 

「神崎、お前も来てたんだな!」

「違う。私は神崎サクラの従兄弟だ」

 

 山本武にツッコミしながら彼の顔をジッと見る。私は獄寺隼人みたいに高くジャンプすることは無理だな。そして、山本武が今の私の話を聞くとは思えない。

 

「わー。サクラちゃんの従兄弟なんだね。こんにちは」

「こんにちは」

 

 返事をして、すぐ却下だと思った。彼女に危険なことを頼むのは出来ない。そうなると……やはり沢田綱吉に教えるしかないだろう。この場合は私の話を信じてくれると思うが、沢田綱吉が倒せるかどうかである。姿も見えない状態で後悔するとは思えない。

 

 ……なぜ私はここまで真剣に悩んでるのだ?

 

 ギリギリのところでリボーンが助けるだろう。私が悩む必要なんてない気がする。

 

 よし、本を読もう。部屋の隅に座り本を広げているとランボがやってきた。

 

「オレっちのアメ!」

 

 いつの間にか私のポケットに入ってる飴はランボの物になったらしい。溜息をつきながら渡そうとポケットに手を突っ込んでいると、ふと気付く。ランボにはあれが見えてるはずだ。

 

「あれ、倒せない? 当てれば全部あげる」

「楽勝だもんね!」

 

 そういった後、ランボは手榴弾を頭から取り出して投げた。全員、距離が離れるから大丈夫だろうと思いながら、本で頭を守ることにする。沢田綱吉がランボの名前を叫んでいるのは気のせいだ。

 

 スガン!!という音が響き、煙が凄いことになった。

 

「……ランボの奴……京子ちゃん、みんなも大丈夫ー!?」

「うん。凄いおもちゃだね。ビックリしちゃった」

「ハハッ。オレも驚いたぜ。最近のはすげーのな!」

 

 ……天然、恐るべし。私と同じような反応をしていた沢田綱吉が、ついに暗殺者の存在に気付いたようだ。そして、リボーンがなぜか私の隣に居た。

 

「出来ねぇと決め付けてすぐに諦めんな。おめーにだってやれば出来るんだ」

「やっとオレっちを見直したな! リボーン!」

「お前じゃねぇ。黙ってろ!」

「……ガ、ガマン……うわああああ!」

 

 ランボの泣き叫んでる姿をみて、不憫だと本気で思った。光学迷彩にダメージを与えて見えるようにしたのは彼のはずだが……。思わず殴り飛ばされたランボに駆け寄った。

 

 

 

 

 

「君は出来る子だ」

「グスッ……。オイラは凄腕のヒットマンだもんね……」

「ん、凄かった。約束どおり飴あげる」

 

 私がランボを慰めてる間に沢田綱吉の死ぬ気によって暗殺者は倒されていた。沢田綱吉は2人にすごいと褒められていたが、一瞬だけこっちを見た。

 

「いや……今日のはオレじゃなくて――」

「ランボ」

「――うん。ランボとこの子のおかげだよ」

 

 思わず溜息を吐く。私は何もしていないのに褒められればランボと獄寺隼人が可哀相だ。そう思ってると、またリボーンが私の隣に立っていた。

 

「わかってねーようでツナはわかってるんだぞ。おめーが頼んだからランボは投げたってな」

「……元々は小さくなった獄寺隼人が活躍した」

「ここに獄寺はいねーぞ。あいつは帰ったからな。今回はランボとおめーが活躍して褒められるようなことをしたんだ。誰も攻めはしねーぞ。素直に喜んどけ」

 

 言い終わると同時にリボーンはベランダへ向かった。恐らく暗殺者の後始末をしに行ったのだろう。

 

「凄かったよ!」

 

 優しい手つきで頭を撫でられたので顔を向けると、しゃがんだ笹川京子だった。気分は悪くなかったので、そのまま撫でらることにした。私は心が広いのだ。

 

 

 

 原作通り、時間がたっても元の姿に戻らないので晩ご飯をご馳走になる。意外と箸が難しかったので、スプーンとフォークを使いモグモグ食べた。食べ終わり一息ついた時に呼び鈴がなる。

 

「食事中に失礼! 今日もサクラが世話になってすまないね! これは僕からのほんの気持ちだ」

 

 兄が他人の家にも関わらず、ズカズカとリビングまで踏み込んできてしまった。隠れる時間もなかったな。それに沢田奈々に渡した物はなんだろうか。お菓子なら、家に帰れば私の分があるのだろう。楽しみである。

 

「おや? サクラは?」

「えっと、神崎さんはそのー……」

 

 沢田綱吉が必死に誤魔化そうとしていたが、兄は私と目が合ってしまい、私に釘付けになった。チビになっているのが、私と気付いたのだろう。私は諦めて説明することにする。面倒だが、兄は私が話せばわかってくれるはずだ。そう思い、口を開きかけた瞬間、兄は膝をつき私の手をとり言い放った。

 

「大きくなったら、僕と結婚してほしい!」

 

 冗談と思ってる沢田奈々とよくわかっていないランボ以外は固まった。なぜなら兄は色気を撒き散らして言っているので、真剣と気付いてしまったのだ。最大級のドン引きである。身内の私でそう思うのだ。沢田綱吉達は恐ろしいほどドン引きしているだろう。

 

「急に驚かしてすまないね。しかし、君は僕の心というとんでもないものを盗んでいったのだよ」

 

 微妙な言い回しである。これは私に「はい」と言えということなのか。恐らく1日の終わりという時間帯というタイミングのせいで、兄の中のとっつぁん感が出てきたのだろう。……とっつぁん感ってなんだ。

 

 兄のせいで私はツッコミ能力がおかしくなったようだ。このモヤっと感をなくすために、ハリセンを取り出し、スパーンと兄を叩いて一言。

 

「また、つまらぬものを斬ってしまった」

「……無念……」

「神崎さん達なにやってんのーー!?」

 

 ……しまった。沢田綱吉の家にいることを忘れて、いつのもノリでやってしまった。

 

「これが僕とサクラの愛情表現なのさ!」

「兄がひとりでやってるだけ」

「……そうだよね」

 

 沢田綱吉の中で私の言葉は聞かなかったことにしたようだ。普段の行動のおかげだろう。そして、兄はハリセンで叩かれたことによって、私がサクラと気付いたらしい。

 

「ふむ。何となくだが、状況は理解したよ。理想の女性と思って口説いてしまったのはしょうがないことさ」

 

 サラっと問題発言をするな。

 

「心配しなくてもいい。両親には僕が説明するさ。食べ終わってるようだし一緒に帰ろう!」

 

 思わず本当に大丈夫かと兄を見る。私の手をとった時のような色気はなくなっていたが、不安である。

 

「家にミルフイユがあるのだが……」

「世話になった」

 

 沢田奈々に頭を下げ、すぐさま帰ることにする。片付けなどに気をつかわなくていいのはチビにしか出来ないことだしな。

 

 兄に抱きかかえられ、帰ろうとすれば、玄関まで沢田綱吉とリボーンが見送りしてくれるようだ。

 

「元に戻ったら連絡してね?」

 

 わかったと、返事をしようとした瞬間に身体が戻ったので兄から離れる。すると、兄がネガティブホロウ状態になった。

 

「小さいサクラの写真を撮りたかった……!」

 

 沢田綱吉達に「また明日」といい、ハリセンで叩いた兄を引きずりながら私は帰ったのだった。

 




ヅラさんのインパクトは恐ろしい。
主人公の成長話だったのに……。


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フラグ

 マンガを読み、マンガを読み、マンガを読みと有意義に過ごした夏休みがもう終わる。沢田綱吉に何度か遊びに行こうと誘われたが、断っただけの価値はあった気がする。まぁ沢田綱吉達を避けたいという意味ではないので、夏祭りの屋台などには兄と一緒に顔を出したが。

 

 今回、断ったのは夏休みが終われば何が起こるかわからないからだ。マンガを読んでおかないと後悔する気がしたのだ。もちろん私は死ぬつもりはない。だが、状況によってはマンガを読む時間がなくなる気がした。……そんな状況にするつもりはないが。そのために行動するのだ。

 

「おや? サクラ、本屋かマンガ喫茶に行くのかい?」

 

 行動するために外に出ようとすれば、声をかけられる。しかし、兄でさえ私が外に出る用事はマンガしかないと思っているようだ。失礼である。

 

「……知り合いに会いに行く。ファミレスで待ち合わせしてるんだ」

「ふむ。僕も途中まで一緒に行ってもいいかい? 少し外で歩きたい気分なのだよ」

 

 特に断る理由もなかったので、一緒に出かけた。

 

 

 

 いつも通り兄は私が退屈にしないように話しかけ、周りに気を配りながらエスコートする。こうして歩くと思う。本当に兄は外で歩きたい気分だったのかと。

 

「どうかしたのかい?」

「……本当に私のことが好きだな」

「もちろんだとも!」

 

 かなり恥ずかしい言葉を言ったかもしれないが、兄のはっきり言った返事の方が恥ずかしい。

 

「サクラに友達が出来れば、寂しくなると思っていたけど……あまり変わらなくて嬉しいしね」

 

 当たり前だろ。友達が出来たからといって兄と距離をとる必要がどこにある。確かに調子に乗るといろいろ面倒があるが、私は兄と一緒にいるのも好きなのだ。

 

「おごってくれるし」

 

 口から出たのはかわいくない言葉だと自身でも思ったが、兄は私の本当の気持ちに気付いてるようで、嬉しそうに笑っていた。

 

「……サクラ。夏休みは時間がある限り本を読んでいたようだけど、これから何かあるのかい?」

 

 兄の言葉に一瞬足が止まる。だが、すぐに何もなかったように「いつものことだろ」と言い返す。事実、私は時間があればマンガを読むのだ。

 

「気のせいならいいんだ。ただ、何かあるなら話してほしいと思ったんだ。僕はサクラのお兄ちゃんだからね」

 

 家族だから巻き込みたくないんだ。という言葉を辛うじて呑み込んだ。……私が沢田綱吉達と関わると決めた時点で巻き込んでるが。それでも、話す気はない。もう兄が手を出せる範囲は超えてしまった。これからのことは力がないと死んでしまう。

 

「……いつでも私の味方でいてくれればいい」

 

 下手に誤魔化すのをやめて、何かあると認めるが内容は話さない。という返事を選んだ。隠し事する私に兄はどういう態度をとるか気になり、目を向ける。

 

「何を当たり前のことをいってるんだい? 僕は世界中を敵にまわしてもサクラの味方だよ!!」

 

 どこかの主人公がいいそうなセリフをいう兄に笑い、ツッコミをいれる。

 

「死亡フラグが立ちそうだ」

「本当だね。でも僕がサクラを死なせるわけないよ!」

 

 ますます死亡フラグが立った気がする。私だけじゃなく兄もだが。

 

 ……ファミレスにつけば別行動になるのがやばい気がする。私は大丈夫だと思うが、兄が心配だ。パイナッポーに気をつけろとでも言ったほうがいいのか?しかし、パイナッポーは今日刑務所から脱獄するので大丈夫なはずだ。それに忠告したほうがますます死亡フラグが立ちそうである。ただ、立てすぎれば生存フラグになることもある。いろいろ話した場合、私の役目が終わるということで死亡フラグが立つので判断が難しい。いや、その前に私が死亡フラグとツッコミを入れたので大丈夫な気もする。

 

「死亡フラグは奥が深い」

「物語には重要だからね。しょうがないさ」

 

 兄と死亡フラグについて語り合っているとファミレスについたようだ。窓側の席にディーノが居るのが見える。

 

「送ってくれてありがとう」

 

 兄に礼をいい、ファミレスに入ろうとすれば腕を掴まれる。なんだと思い、兄を見ると眉間に皺をつくりディーノを見ていた。そういう顔をしてもカッコイイのが謎である。一瞬、くだらないことを考えたが兄の行動に呆れる。何度か、兄がディーノをライバル視していたのは気付いていた。恐らく兄という立場を取られるのが嫌だったのだろう。

 

「いくら私がディーノを兄のように慕っても、兄に敵うわけないだろ」

 

 何度も思うが兄は私の兄なのだ。比べることが出来るわけない。私の気持ちが通じたようで兄の手が緩んだ。しかし、離そうとはしない。思わず兄と掴まれてる手を交互に見る。

 

「……なんでもないさ!」

「何かあるだろ」

 

 ツッコミを入れたが、兄は私の腕を放し頭を撫で誤魔化した。もっと深く聞いた方がいい気がしたので、口を開こうとすれば兄はディーノを待たせてることを理由に帰ろうとする。

 

「……言いたくないならいい。でも忘れないで。私はいつでも兄の味方だ」

「それは…………心強いよ」

 

 私の言葉に兄は一瞬固まったが、嬉しそうに笑った。その姿を見て大丈夫と判断し、ディーノのところへ向かうことにする。

 

「じゃ、後で」

「お菓子を用意してるよ。だから気をつけて帰っておいで」

 

 私が小さくガッツポーズをすれば兄は苦笑いし、もう1度私の頭を撫でてから帰っていった。

 

 

 

 

 

 私が店に入るとディーノはすぐに手をあげた。入り口で兄と話していたことに気付いていたかもしれない。

 

「待たせた」

「問題ねぇって」

 

 ディーノは遅れたことにも怒りもせず、私を座らせメニューを見せる。私のことをよくわかってるじゃないか。と、思いながらプリンアラモードと紅茶を注文する。

 

「獄寺隼人に話は終わったのか?」

「ん? ああ。悩んでるみてーだったが、お前の様子を見ると大丈夫のようだな」

 

 少し悩んだが、頷く。教えてもディーノが彼の決断の邪魔をしに行くとは思えないからな。本題にすぐ入りたいのもあるが。

 

「それで、君はどうする? 電話で話したとおり、君の負担が多くなるかもしれない」

「もう返事はしただろ?」

 

 会えば変わるかもしれないと思って聞いたのだが、ディーノの答えは変わらないようだ。

 

「それでオレはどこにいればいい?」

 

 下手に動くのもまずいが、フォローできる場所にいないといけないとディーノも気付いてるのだろう。

 

「……7日と8日は沢田綱吉の家で過ごし泊まりたい」

「わかった。お前も泊まれるように話をもっていくぜ」

 

 泊まりたい。という言葉だけで、私も含まれることに気付くとは……。理由はわからないが、私と一緒にいればボス体質になることに幸運を感じる。簡単に話が進む。

 

「今回、どれぐらいやべーんだ?」

「レオンの尻尾が切れるぐらい」

 

 私の言葉にディーノは黙ったが、すぐに私の頭をガシガシと撫でる。店員がプリンアラモードを持ってきたから止めろ。私は食べたいのだ。念が通じたようでディーノはやめた。……やはり特質系に憧れる。

 

「私は下手に未来を変えようとするつもりはない。……荒れるから覚悟したほうがいいかもな」

「……わかった」

「あ。それと守ってくれよ。私が狙われる可能性もある」

「それを早く言えよ!?」

 

 私の言葉にディーノが立ちあがった。目立つから止めてくれ。プリンアラモードが食べにくい。

 

「最後の方では一般人の沢田綱吉の友達も狙われるんだ。ちゃんと一般人の方にはリボーンが対策を立てていた。が、私は特殊だろ? 私に人手を割き未来がずれるのが怖いから、君に頼んだのもある」

「わかった。ん? もしかしてお前が知ってる未来だとオレは役に立たなかったのか……」

「そうでもない」

 

 原作ではディーノはリボーンに頼まれて情報を集めた。情報がなければ彼らはもっと動きにくかっただろう。私が情報を教えることが出来るからディーノはこっちに来てもいいと判断したのだ。

 

「お前のおかげでもっと役に立てるんだ。ありがとな」

「……君が役に立つ時は非常事態なのだが」

「細かいことはいいんだよ」

 

 細かくないだろと思いながらディーノを見る。食べる手は止めないが。彼は私の頭をガシガシ撫でてきた。食べにくいから止めてくれ。……まぁ彼の言葉で悪い気がしないので何も言わなかったが。

 

「7日か~。それまで日本でゆっくりすっかなー」

「君はイタリアに戻ることになるぞ」

「ん? あいつは大丈夫なんだろ?」

「明日になればわかる。お土産よろしく」

 

 私の催促にディーノは「任せとけ!」と返事をし、思い出したように今回もお土産があると言う。今、渡そうとしないのは荷物になるからだろう。恐らく中身はチーズやハム、お菓子だな。楽しみである。

 

「お前の兄には相談しないのか?」

「危ないだろ。それに沢田綱吉の友達として狙うなら女子と思う」

「……趣味ってことか」

「ん。女子が好きとははっきり言ってはないが、無防備な人間の驚いた顔を見るのが好きらしい。兄はそれに当てはまる気がしない」

「……とにかく最低な奴なのはわかった」

 

 口いっぱいにクリームをつめながら首を縦に振る。ディーノは私の顔を見て気が抜けたようだ。失礼である。

 

「まっ心配するな。もしもの時はオレが何とかする。ツナ達だって守ってみせるぜ」

「……守るだけじゃダメな気もするけどな」

「ん?」

 

 ディーノに聞き返されたが、返事はしなかった。私の予想だが、骸を倒すだけではダメだ。少しだけでも救わないといけない。だから私はここまで面倒なことをしてるのだ。骸を倒せばいいだけならディーノに全て任せてる。

 

「難しい選択だ」

 

 思わず呟いてしまった。これからのことを考えるとフゥ太達を見捨てることになる。後悔しないためにマフィアランドまで行ったが、結局迷うし辛い。

 

「さっきも言ったが……ありがとな。お前のおかげでオレは役に立てる」

 

 ディーノの言葉はありがたかったので今度は否定せず、私は頷いたのだった。

 




日常編はこの話で終わりです


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黒曜編
認識のズレ


黒曜編です。

一人称と三人称が混ざり読みにくいと思います。
後、原作でわかるところはカット、もしくは詳しく書いてません。
もちろん駄文です。
それでも読む方はよろしくお願いします。


 モグモグとご飯を食べる。私も図々しくなったものだ。他人の家に泊まり、ご飯をご馳走になるとは……。

 

「ディーノさんはいつまでこっちにいるんですか?」

「そうだなー……。しばらくは居るぜ」

 

 私の顔色を窺うな。リボーンに気付かれるだろうが。……もう気付いてるか。リボーンは私とディーノが昨日から泊り込んでる時点で何かあるとわかっているはずだ。

 

「そういや、昨日と今日に風紀委員がやられたらしいぞ」

「えー!? そうなの!?」

「あらあら、大丈夫よー」

「……悪い」

 

 動揺し、最後の一口のハンバーグを落としてしまった。まさかこの話題が半日も早くなるとは思わなかったのだ。当然のように、2人にこの事件が重要と気付かれた。リボーンはまだ私の周りを警戒してる可能性もあると思い、ズレを防ぐためわざわざ沢田綱吉と一緒に居たのだが、意味がなかった気がする。

 

「そのやられた風紀委員はどんな感じなんだ?」

「重症で発見されてるらしいぞ。やられれた奴はなぜか歯を抜かれてるんだ。全部抜かれた奴もいたらしいな」

「まじでー!? ずっと家に居てよかったー……。不良同士のケンカに巻き込まれたら最悪だったよ。ね、神崎さん?」

「ん。そうだな」

 

 沢田綱吉に返事をしながらディーノを睨みたくなる。私が話さないと判断してリボーンに聞いただろ。

 

「よし。ツナ、町の平和を守るのはボスの仕事だぜ」

「ちょっ……ディーノさん!?」

 

 ディーノに頼るべきじゃなかったと本気で思った。だが、ディーノがここで何も言わないのもおかしい気もする。……ズレを少なくするためにロマーリオ達がイタリアに残ることにしてよかった。ディーノが暴走しようとしても必ず失敗する。

 

「イーピン、一緒に風呂入る?」

 

 頷いたイーピンを見て、沢田奈々に許可を貰い入りに行く。風呂場に辿りついた時にドタドタと何かが転がるような音が聞こえたのは気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 目覚ましが鳴ったので起き上がり、2人を見る。今日もよく眠れないかもしれないと思ったが、眠れた。2人が添い寝してくれたおかげだろう。まだ夢の中の2人に布団をかけなおし、着替えて洗面所に向かった。その後リビングに向かう途中で寝起きの沢田綱吉と出会う。

 

「おはよ。神崎さん」

「ん、おはよ。……リボーンとディーノは?」

「オレの部屋にいるよ。話があるみたい。すぐ終わるって言ってたけど……。ランボとイーピンは?」

「夜更かししすぎたみたい。気持ち良さそうに眠ってる」

「チビ達はいいよなー。学校がなくて」

「そうだな」

 

 2人の話の内容が気になったが、お腹が減ったため後回しにする。

 

 ご飯を食べていると、2人が降りてきた。話の内容を聞こうとすれば、沢田綱吉が先に気になって質問していた。並中生がやられた内容について話していたらしい。リボーンはもう無差別に並中生がやられてることを知っていた。しかし、関連性がまだわかっていないようだ。

 

「が、学校休んだほうがいいんじゃ……」

「……通学路は風紀委員が強化してるだろ」

「そうだな。ツナ、休むなよ」

「えー!?」

「心配ならリボーンも一緒に居れば大丈夫だろ」

「しょーがねーな。オレも一緒にいってやってもいいぞ」

「それならいいけど……」

 

 あからさまな誘導にリボーンは乗ってくれたようだ。恐らくだが、学校に行かなくても問題ない。ただ、病院に行くフラグを折るのはまずい気がするのだ。そこでリボーンは歯の数がランキングになってると気付くからな。

 

「ツナ達は学校だからなー。オレはどうすっかなー」

「良かったらディーノさんも一緒に……!」

「却下。私達を送った後、迷わず帰れるとは思えない」

「心配すんなって。道は覚えたぜ」

「……リボーンが居れば大丈夫ですし、ディーノさんは家でゆっくりしてください」

「わーったよ」

 

 しぶしぶ返事をしたディーノを見て、下手な動きはするなと釘を刺すことに成功したようだ。元々、ディーノは日本に居ないのだ。これ以上、ズレればわからなくなる。出来るだけ大人しくしてほしい。

 

「ツナ、さっさと用意しろ。サクラはもう着替え終わってんだぞ」

「ご、ごめん!」

「まだ時間があるから大丈夫。焦らなくていい」

「ありがとう! つーか、着替えようとしたのに追い出したのはお前じゃん!」

 

 慌てて着替えに向かった沢田綱吉をみて、溜息が出る。ズレを戻すためにここまで頭を使うことになるとは思わなかったのだ。

 

「本当にオレはここで待機するしかねーのか?」

「言っただろ。君が役に立つ時は非常事態だ。それにまだ始まったばかりだ」

「やっと言ったぜ。今回の事件がツナに関係してるってな」

 

 2人の顔を見て嵌められたことに気付く。ずっと私は明言を避けていた。しかし、今の言葉はディーノに頼ってここに居るように頼んだ内容と同じだった。

 

「サクラ、ランボだけじゃねーんだぞ。おめーが頼めば動く奴はな」

「1人で悩むより一緒に悩もうぜ。心配するな。オレ達はツナに黙っていた方がいい内容は話さねーよ」

 

 大人2人に勝てると思ったのが間違いだったな。私の意志が緩まった時に聞いてくるとは……。横目で確認すると沢田奈々が見当たらない。タイミングも狙っていたのだろう。

 

「ツナもしばらく戻ってこねーぞ。教科書を隠したからな」

「……どうなっても知らないぞ」

「オレはツナの家庭教師だぞ。またビシバシ鍛えれば問題ねぇ」

「それにお前だって関係ねー奴を巻き込みたいとは思ってねーだろ?」

 

 完全に負けたと思った。

 

「フゥ太の並盛中ケンカの強さランキング」

「……なるほど。ランキングを元に歯でカウントをしツナにケンカを売ってんのか」

「ちょっと待て。ランキングなんて簡単に入手出来るわけ……」

「フゥ太を助けてくれ……」

 

 声が震えた。自身の選択に後悔しか出てこない。だから……話したくなかったのかもしれない。声に出せば、自身が最低と突きつけられる。

 

「サクラは悪くねぇ。オレがツナを甘やかしたせいだ」

 

 違うという意味で首を横に振る。声を出し否定しようとすれば泣いてしまう気がしてのだ。そんな時間すらもったいない。私は落ち着かないといけないのだ。

 

 深呼吸していると着信音が響いた。表示を見ると兄からである。もしかすると事件を知り、私の心配をしているのかもしれない。私はもう1度深呼吸し電話に出た。

 

「……もしもし?」

『よかった……。サクラは無事だったんだね』

「ん。……私は?」

『落ち着いてきいてくれ。笹川君が襲われてしまったんだ』

 

 なぜ兄が知ってるのかと思い、すぐに返事は出来なかった。兄は私が驚いたと勘違いしたようで話を続けた。

 

『僕は笹川君と毎朝走ってるのを知ってるだろ? いつもの時間になっても笹川君が来なく、様子を見に行けば、襲われた後だったみたいでね……。僕がもう少し早く家を出ていれば……』

 

 肩の力が抜けて椅子にもたれ、「お兄ちゃんが無事でよかった……」と呟く。兄が笹川了平と走りこみをしているのを忘れていた。もし兄も一緒に被害にあっていたと思うと、私は後悔しかしなかっただろう。

 

『僕は頑丈だからね。心配しなくても大丈夫さ。それより、サクラは大丈夫なのかい? 僕が迎えに行くまで沢田君の家にもう少し世話になったほうがいい。僕は笹川君の家族が来るまで病院に居るべきだと思うからね』

「お兄ちゃんも病院で居た方がいいよ。私は外に出るつもりはないから安心して」

『わかったよ。ならば、僕は笹川君の怪我が治るように願いを込めて踊ることにするよ!』

 

 なぜ踊るのだ。謎である。ツッコミを入れるべきなのかもわからない。

 

『心配しなくてもいい。オヤジから学んだ、由緒正しい神に捧げる神秘的な踊りさ』

「……魔方陣を描くつもりか!」

『さすが、サクラだ! よくわかったね!』

 

 恐らく兄は電話越しであの独特なポーズをとってるのだろう。もう少しヒントを出せ。わかりにくくてツッコミが遅れてしまったではないか。しかし、兄のバカな――変態な行動のおかげでいつもの調子に戻った気がする。ただ、喜んでいいのかわからない。何とも微妙である。

 

『そうだった! 念のために伝えておくよ。黒曜中の学生には気をつけたまえ』

「え……?」

『犯人が去っていくところを見たのだよ。追いかけても良かったのだが、笹川君を置いていくことは出来なくてね』

「……それ、誰かに言った?」

『雲雀君に教えたよ』

 

 兄の言葉に固まる。原作より早く雲雀恭弥は正体を突き止めたかもしれない。

 

『サクラ? どうかしたのかい?』

「なんでもない。お兄ちゃんは病院で大人しくいるように」

 

 兄が余計なことをしないようにと念を押して電話を切り、リボーンを見た。

 

「どうしたんだ?」

「……雲雀恭弥と連絡が取れるか?」

「ちょっと待ってろ」

 

 電話が繋がらない姿を見て焦る。もう遅かったかもしれない……。

 

「次は、何があるんだ? そのヒバリっていう奴がどうにかなるのか?」

「雲雀恭弥は花見の時に桜クラ病にかかった。それのせいで一方的にやられるんだ」

「……ヒバリは桜クラ病になんてかかってねーぞ?」

 

 電話をかけながら話を聞いていたようでリボーンが言った。しかし、ちゃんと伝わってなかったようだ。

 

「3月31日の花見の時に雲雀恭弥に殴られたDrシャマルが、トライデント・モスキートを発動させただろ」

「……してねーぞ」

「ごめん! 教科書が見つからなくて遅くなっちゃった!!」

 

 沈黙が流れた。空気を読まずに戻ってきた沢田綱吉の言葉のせいではない。沢田綱吉が入ってきた瞬間にレオンの尻尾が切れたからだった――。

 




き、期待しないでください……(逃


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屈辱の選択

 状況を把握していない沢田綱吉以外の空気は重く、「ど、どうしたの……?」という彼の質問には誰も答えようとしなかった。そして、いち早く状況を受けとめたリボーンが、私に質問してきた。

 

「……サクラ。草壁哲矢、獄寺のことはわかるか?」

「草壁哲矢は詳しくわからないけど、並盛病院の近くだったはず。獄寺隼人は学校をサボり帰ってる時の商店街で起きた。でもわからない……」

「それだけでも十分だ」

「えっと……何の話してるの……?」

「ツナ、獄寺と連絡とれるか?」

「え? は、はい」

 

 沢田綱吉が獄寺隼人に電話してる姿を見ながら「充電がきれる」と、沢田綱吉に聞こえないようにボソっと呟く。2人が驚いたように私の顔を見た気がした。すぐさま、リボーンが私の肩に乗る。重いが、内緒話をするためとわかっていたので文句は言わなかった。

 

「獄寺隼人は遅刻してきたはず。まだ家に居る可能性もある」

「わかったぞ。サクラが今1番やべーのは誰と思うんだ」

 

 思わずリボーンを凝視する。私に判断しろというのか……。

 

「オレ達が何とかする。なっ?」

 

 ディーノの言葉とリボーンの信頼する視線に投げやりになって答える。

 

「1番危険なのは獄寺隼人と雲雀恭弥。沢田綱吉を守って獄寺隼人は毒を食らう。種類はわからないけど、解毒はDrシャマルが出来る。彼が倒れた時は山本武が来たことによって追い払うことが出来た。順位で担当者が別でもめたくない理由で。雲雀恭弥は私にもどうなってるか全くわからないからだ」

「担当者が別ってことは複数犯なのか?」

「今は3人。3.5人と言ってもいいが。これから増えるから人数は気にするだけ無駄。もう少しすれば周りの強化した方がいい」

「わかったぞ。フゥ太は大丈夫なのか?」

「……まだ安全なほうだ」

「そうか。後は病気にかかってねーヒバリだと問題ねーと思いたいが……」

 

 尻尾が切れたことを考えると危険なことは変わりないと気付いてるのだろう。

 

「今の雲雀恭弥では勝てないと思う。相性が最悪なんだ。主犯は術士」

「「術士……」」

 

 雲雀恭弥は強い。が、幻術の桜で動けなくなった原作のことを考えると、幻術を使われれば勝ち目がない。使うまでに雲雀恭弥が六道骸を倒せば問題ないのだが……。やはり尻尾を切れたことを考えると厳しい気がする。

 

「デ、ディーノさん。獄寺君に繋がらないんですけど……」

 

 気付いてないのか、かけたことによって充電が切れたのか……。理由はわからないが、状況はあまり良くないことだけはわかった。

 

「2手に分かれるしかねーな」

「ああ。ツナには荷が重い、オレが乗り込むぜ。最悪、ヒバリって奴を助けるだけになるかもしんねーが……」

 

 ディーノは守りながらでは、術士を倒せる可能性の低さに気付いてるのだろう。しかし、ディーノ1人では乗り込めない。部下をイタリアに置いて行ったのはまずかったな。……覚悟を決めるしかないのだろう。

 

「……ディーノ、私も行く」

「ちょっと待て!? お前は危ないだろ!」

「それしかねーのか……」

「おい!? リボーン!? なんで反対しねーんだ!?」

「サクラが居た方が確率がたけーからだ。それにサクラから言ったんだ。止めたって無駄だろ?」

 

 リボーンの言葉に頷く。

 

「えーっと、みんな何の話をしてるの……?」

「ツナ、獄寺を探すぞ。山本にも連絡しろ」

「え? お、おい! 急に引っ張るなよ!? 少しは説明しろよ!!」

 

 私は叫びながら連れ出される沢田綱吉には目をくれず、ディーノを見る。

 

「オレは反対だ」

「私が教えないと乗り込む場所もわからないだろ」

「……どうしても行くのか?」

「自分で蒔いた種だ」

「お前は何も悪くねーだろーが……」

 

 悔しそうに言ったディーノの姿を見て、少し気持ちが楽になった。

 

「あ。行く前に君に認識してほしいことがある」

「なんだ?」

 

 この後、私が言った言葉にディーノは怒ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 私が生き残るために言ったのだが、怒られるとは理不尽である。と、ブツブツ文句をいいながらディーノの後ろを歩く。情報を話し終わったが、未だに腹が立ってるのだ。

 

「もう敵陣なんだ。気を引き締めろ。頼む」

「……ん」

 

 状況が状況なので真剣になる。ディーノの歩いた道以外を踏めば、危ない可能性もあるのだ。ディーノは私と一緒で初めて歩く場所なのに、ガラスばりの動植物園の場所がわかってるかのように避ける。知識があっても詳しい場所がわからない私だけでは簡単に落ちていただろう。

 

 ディーノの後姿を見て――思う。本当に強かったんだな、と。

 

 私の知識ではあまりいいところがないので信頼しきれてなかったのかもしれない。だから私はディーノにあんなことを言ったのだろう。信頼し任せていいかもしれないと思った。

 

「……君が居なくても写真は入手できるのか?」

「大丈夫だ。オレが居なくても向こうにはオレの部下がいるんだ。すぐに送ってくる」

 

 写真は骸たちの写真のことだった。私が骸たちの名前や容姿を教えたのだが、写真を用意したほうがいいと判断したようだった。私に絵の才能があれば問題なかったのだが。

 

「にしても、お前を信用してねーわけじゃないが……お前が言った特徴って――」

「見ればわかる」

 

 パイナッポー頭と伝えれば誰でもわかると私には自信がある。この自信はなんだとツッコミを自身にしたいぐらいだ。

 

「ここか……」

 

 私が妙な自信をもってる間に黒曜ヘルシーランドの建物についたようだ。今まで襲撃がなかったのは雲雀恭弥が黒曜生徒を倒したことと、あの2人が恐らく4位と3位狩りに出かけているからだろう。そして、六道骸は……雲雀恭弥の相手をしてる可能性が高い。

 

「1つだけ壊されてない非常用梯子がある」

「退路を絶ってるのか……」

「逃げれそうか?」

「やるしかねーだろ」

 

 確かにと思い、頷く。退路を絶ってることは、最悪の場合、逃げようと考える私達にも厳しい条件なのだ。特に私が降りようとする間はディーノが1人で負担を背負うことになる。……最初から私は非戦闘員だったな。今更の話だ。

 

「任せろ」

 

 そういって、ディーノは歩き始めた。私が見えなくなった瞬間に転んだので、もの凄く不安になった――。

 

 

 

 

 

 非常階段がある部屋に入ると金属音が聞こえてきた。しかし、音の間隔が短くなってる気がする。ディーノを見ると頷いたので何か動きがあったということなのだろう。

 

「……行くぜ」

「ん」

 

 一瞬だが、ディーノは私を登らせるか迷ったようだった。止めなかったのはここで置いていく方が危ないと判断したからだろう。本当に、今更の話である。

 

 梯子を登ればすぐに3階に行く階段が見え、私達はすぐに3階に行くことをにした。フゥ太がもしかすると2階のどこかに居るかもしれないが、金属音が聞こえなくなった今は3階を優先するしかなかった。それに、原作では雲雀恭弥がやられてる時、フゥ太は六道骸の近くに居たはずだ。

 

 3階の映画館に足を踏み入れるとすぐに雲雀恭弥が倒れていたのが目に入った。見たところ怪我は少ない。それは私達に視線を向けた六道骸もだった。……面倒になり幻覚をつかったのかもしれない。それだけ雲雀恭弥は強かったのだろう。

 

「クフフフ。今日は訪問者が多い日ですね。待ち人ではなさそうですが……」

 

 本命は沢田綱吉のことだな。大人のディーノと腰の引けた女の私ではボンゴレ10代目とは思えなかったのだろう。

 

「お前がパイナッポー野郎か」

 

 ……ディーノ。確かに私はパイナッポー頭と言った。言ったが、ここでパイナッポー野郎と言う必要はないだろう。しかし、顔が引きつってる六道骸を見て、わざと怒らせてる可能性に気付いた。恐らく私を標的にしないためだ。

 

「こいつ、強かっただろ? ご自慢の格闘能力だけでは勝てねーみたいだしなっ!」

 

 再度挑発したと思えば、ディーノがムチを振るった。もうすぐ城嶋犬が帰ってくることも教えたので時間もないことを知ってるのもあるのだろう。

 

 ディーノと六道骸は激しい攻防を繰り広げているようだが、私は見ずに行動を起こすことにする。私が2人の戦いを見ようとしても見えるわけがないのだ。時間の無駄である。ディーノが上手く六道骸を誘導してるらしく、私は簡単に雲雀恭弥に近づくことができた。

 

 ジロジロとうつ伏せで倒れてる雲雀恭弥を見る。傷が――あった。雲雀恭弥は骸の武器――三叉槍に傷つけられていた。

 

「パターンBだ!」

 

 ディーノに叫ぶ。傷ついていない場合はAだった。これは本人の前で情報を知ってると悟らせないために決めた合言葉だった。つまり……ディーノが格闘能力と言ったのは私のためなのだろう。

 

「お前の相手はオレだ」

「ぐっ」

 

 骸が一瞬私に意識を向けたようだった。私はビビっていまい一瞬動きを止めてしまったが、深呼吸し雲雀恭弥を起こすことにする。骸に悟られれば終わりなのだ。

 

「いい加減に起きろ!」

「……何してるの?」

 

 目を覚めた雲雀恭弥に焦る。最初はユサユサ揺らしていたが、起きないことにイラッとし、ついにハリセンで叩いてしまったのだ。

 

「兄以外で叩いたのは君が第一号だ。おめでとう」

 

 睨まれた。起こしたのに理不尽である。

 

「幻覚で気絶したところを起こしたんだ。多めにみてほしい」

 

 一応、私の話を聞いてくれるようなので教えれば助かったようだ。しかし、機嫌が悪い。何も言ってこないのは「君の助けはいらなかった」とは言えないと気付いているのだろう。

 

「……あれらが君のいう僕の相手が出来る人物?」

 

 一体何のことかと首をひねる。察しない私をバカと思って溜息をつくな。

 

「今はあまり僕の相手が出来る人物が現れていない。そんな感じのことを言ったよね? そして今、君が現れた。――君は未来も見える」

 

 雲雀恭弥は六道骸とディーノを見渡してから言った。一体、私はどれほど彼に目をつけられていたのだろう。少し怖くなったが、状況を思い出し無理矢理にでも自身を落ち着かせようと考える。雲雀恭弥が今にでもディーノをぶっ飛ばして戦いに戻ろうとしているを見て、呆れて落ち着いたのは予想外だったが。

 

「そう判断したなら私の話に少しは耳を貸せ。……あの三叉槍で傷つけられたか?」

「それがなに?」

「三叉槍で傷つけられると契約したことになり、身体をのっとられる。それが向こうの切り札だ」

 

 私の声で動きが止まった。束縛を嫌う彼にとって身体をのっとられるのは屈辱しかないのだろう。

 

「彼には契約解除方法を伝えてる。が、下手に追い詰めると切り札を出される。そして、仲間がそろそろ戻ってくるし、もう1人強いのがここに居るはずだ。だから今、私達は1度ひきたいと考えている。向こうの気ままで幻覚をつかってないだけだしな。彼は君が起きてることに気づいてるのも忘れるな」

 

 起き上がってる雲雀恭弥に手を出さないのは気にするほどの相手ということだ。幻覚にかかる相手なのだ。そう思われてもしょうがないだろう。

 

「それとも私を咬み殺し聞きだすか? 借りのある私に――」

 

 私は雲雀恭弥にとって、どちらを選んでも屈辱しかない最低の選択を迫ったのだった。

 




……ディーノさんの活躍場面のはずなのに描写がないww


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異常な敵

 サクラが雲雀に最低の選択を要求してる一方で、ツナはリボーンに説明され必死に獄寺を探していた。もちろんサクラのことが心配だが、ディーノと一緒に居ることを考えれば安全なのだ。

 

 リボーンの道案内でマンションの前につく。ツナは初めての獄寺の家だったが、眺めることもせず呼び鈴を何度も鳴らした。

 

「うっせー!? ……10代目!? すみません! すみません!!」

 

 あまりのうるささに苛立ちながら出てきた獄寺はツナの姿を見た途端に謝りだす。ツナはそんな普段とかわりない獄寺を見て安堵したのだった。

 

「良かったー! 獄寺君! 無事だったんだね!」

「……無事とは?」

「この土日に並中生徒が襲われてる。おめーも狙われるんだぞ。もっとも1番の狙いはツナだけどな」

「本当ですか!? 今すぐオレがぶっ飛ばしてきます!」

 

 獄寺が今にも街に出て行こうとするので慌ててツナは止める。ツナからすれば外に出るのは自殺行為しか見えないのだ。

 

「や、山本と合流しようよ! 山本も狙われてるみたいだけど……。えっと、順番?があって先に獄寺君から狙われるってリボーンがいうし……」

「野球バカの助けはいりません!! 全てオレに任せてください!!」

 

 ツナは間違った。ランキングの順位を話さないほうがいいと判断したのは正しかったが、山本の助けを獄寺が必要とするわけがなかったのだ。ツナの静止を振り切り、獄寺は外に出たのだった。

 

「ま、待って! 獄寺君! 君は狙われてるんだ!」

「見つけた。並盛中学2-A出席番号8番……獄寺隼人」

 

 リボーンは相手の力量を観察しながら、サクラの話とのズレについて考える。獄寺が襲われるのはもう少し後。しかし現に今、目の前に居る。リボーンはサクラが知っているより雲雀が敵の正体の情報を早く掴んだため、全ての行動が早くなったかもしれないと予測する。

 

「やべーな」

 

 思わず呟く。全ての行動が早くなってるのならば、草壁哲矢が襲われる時間も早くなる。つまり、サクラ達がいる敵のアジトにもう1人の敵が戻って来る時間がサクラの予想より早くなることを意味する。

 

「獄寺、ここで倒しちまうぞ」

「もちろんッス」

「お前までーー!?」

 

 文句をいうツナを引っ張りながらリボーンは特殊弾の数を確認する。ディーノとサクラが来た時点でレオンに作ってもらったが、3発しか用意できなかった。死ぬ気弾はレオンの体内に3日間埋め込めて変化し出来る。先程レオンの尻尾が切れてしまったので、これ以上は作れなくなったのだ。

 

「ご、獄寺君大丈夫かな……」

「獄寺がやられたら、おめーの番だぞ」

「えー!? ムリムリムリ!!」

「あいつはここで倒すべきだ。サクラ達の安全を確保してーならな」

「そうだった……。神崎さんとディーノさんは敵の本拠地に乗り込んでるんだった……」

「今、なんていったんだい?」

 

 ふいに聞こえた声に驚き、ツナは後ろを振り返る。角の向こうの戦闘に意識していたせいで、後ろから近づく存在に気付かなかったのだ。声をかけた人物の気配がなかったのもあるが。

 

「サクラはどこにいるんだい?」

「オ、オレの家に……」

「沢田君。正直に話したほうが君のためだよ」

 

 いつものように優しく話す桂だったが、目が笑っていなかった。この時、初めてツナは桂に恐怖を感じた。桂は何かがおかしいと――。

 

「心配すんな。サクラはディーノと一緒だ。ツナと居るよりはるかに安全だぞ」

「初めからそう言ってくれればよかったんだよ。彼の強さなら大丈夫だね」

「ああ」

 

 ツナは安堵する。先程の桂はおかしいと思ったが、いつも通りに笑ってる姿を見て気のせいだったと思ったのだった。

 

「そういえば、君達に預けた方が良かったかい?」

「え? 一体何をですか?」

「笹川君を襲った黒曜生徒を気絶させたんだよ。僕は平和主義で生きてるのだが、サクラが外に出れなくなるのは困るからね。つい手を出してしまったよ。それで黒曜生徒は襲われそうだった風紀委員に預けたのだが、この状況を見ると君達の方がいいと思ったのだよ」

 

 角の向こうで獄寺が黒曜生徒と戦ってることを知り、桂は失敗したと思ったのだった。一方、ツナは桂が倒してくれたことに感謝し、リボーンは表情には出さなかったが桂の状況判断の早さに驚いたのだった。

 

「気にしなくていいぞ。おめーのおかげで助かったぞ」

「本当にありがとうございます!!」

 

 2人は桂に礼を言う。もう1人の敵を桂が倒したことによって、乗り込んでいるサクラとディーノの負担が減ったからだ。

 

 礼を聞いた桂が「そうだろう! さぁ僕を敬いたまえ!」という残念な発言を発した直後、ダイナマイトの破裂音が今までより大きく聞こえてきたのだった。

 

 その音を聞き、慌てて角からツナは顔を出す。ツナが見た光景は「10代目を狙ったんだ。容赦はしねー」と呟いた獄寺が追い討ちでダイナマイトを投げたところだった。獄寺はサクラが知ってる知識よりも油断をしていなかったため、念を押しダイナマイトをさらに投げたのだ。それを目撃したツナが獄寺はやっぱり怖いと思ってしまったが。

 

「獄寺、やるじゃねーか」

「リボーンさんにそういってもらえるなんて……光栄ッス!」

 

 獄寺はリボーンに褒められツナの様子には気付かなかった時、足音が聞こえてきた。派手に戦ったせいで野次馬の可能性もあったが、敵の可能性もあるためツナと獄寺は警戒する。リボーンと桂は足音で誰が来るのかわかっていたので、警戒しなかったが。さらにリボーンはこの状況で手紙を読むほどの警戒のなさだった。

 

「わりぃ! 遅くなった! 大丈夫だったか?」

「山本!?」

「けっ。おめーの出番なんて必要ねーんだよ」

 

 獄寺は倒れる黒曜生徒を指をさし、遅れてきた山本に10代目を守ったのは自分だと見せつけようとした。が、叶わなかった。なぜなら黒曜生徒が明らかにおかしな様子で起き上がったのだ。出血量と傷の具合から見て、起き上がったのが異常というのもあるが、傷を気にせず立ち上がったことに違和感がうまれたのだ。まるで、痛みを感じていないように――。

 

「な、なにか変だよ……」

「ああ。あの傷で立ち上がるなんてやべーぜ」

「そうじゃなくて……なにか変だよ!」

「どういうことスか!? 10代目!! ――あ!」

 

 獄寺は失言に気付く。戦っているときに敵はファミリーの構成とボスの正体を聞き出そうとしたのだ。つまり、まだ10代目が誰かわからない状況だった。しかし、ついいつものようにツナを見て10代目といってしまった。

 

「…………」

 

 黒曜生徒は無言でツナを見つめていた。そして、怪我を全く気にしていないように血を噴出しながらヨーヨーを振るったのだった。

 

「10代目!?」

 

 叫びながら獄寺はツナを守るために盾になる。そして彼と同時に動いた人物が居た。その人物は山本武である。獄寺より前に出て山本バッドで無数の針を叩き斬ったのだ。

 

「ふぅ。あぶねーとこだったな!」

 

 山本は軽い調子で言ったが、警戒は解いていない。が、「油断するな。野球バカ」と獄寺に怒られたのだった。ツナはこの状況でもいつもの2人に安堵しそうになったが、無数の針が襲ってきたため叶わなかった。

 

「その針に当たるんじゃねーぞ。恐らく毒針だ」

「「っ!?」」

 

 リボーンの発言に焦りの声をあげた獄寺とツナ。そして、山本が斬っている間にダイナマイトを投げようとした獄寺の手が止まった。

 

「10代目、お逃げください!」

「こ、腰が抜けて……」

「なっ!?」

 

 動けないツナを見て獄寺は悩む。ダイナマイトを投げれば、全て終わる可能性が高い。しかし、ツナがそばに居れば躊躇してしまうのだ。もし倒せなかった場合、自身の投げたダイナマイトの煙幕から毒針が飛び出てくれば、山本でも斬れる可能性が低い。まして相手は念には念をとして投げたダイナマイトをくらっても起き上がったのだ。リスクが高すぎる。

 

 そんな中で獄寺は1人の男と目があう。

 

「ボケッとしてねーで10代目をこの場から遠ざけろ!? おめーになら出来るだろ!?」

「ん? そっちでいいのかい?」

「いいもなにもそれがいいに決まってるだろ!!」

 

 桂はサクラの安全のため、またサクラの友達のために手を貸してもいいかなと考えていた。黒曜生徒を倒すという意味で。しかし、獄寺の口から出たのはツナを遠ざけてほしいという頼みだった。自身が倒せばすぐに終わると桂は思ったが、進んで手を出すのは好まなかったので、獄寺の頼みを聞くことにした。

 

「では、失礼するよ」

 

 そういって、桂はツナを肩に担ぐ。獄寺の担ぎ方の批判には「お姫様抱っこはサクラだけだからね!」と言いかえし走り去ったのだ。当然、その後を黒曜生徒は追いかけようとするが2人に憚れる。

 

「お前の相手はオレ達な!」

「オレ1人で十分だ」

 

 文句を言いながら、獄寺は敵を見る。重体と呼べる身体で動くことに少し恐怖を感じるのを打ち消して、大量のダイナマイトを投げたのだった。

 

 反撃が来ると身構えていた2人だが、襲ってはこない。しかし、煙が晴れてくると立ち上がっている姿が見えたのだった。明らかに先ほどより怪我の量が増えている。つまり、獄寺の攻撃を当たっていたことを意味する。

 

「……これ以上はやべーんじゃねーのか?」

「警戒を解くんじゃねー!!」

 

 獄寺は山本に文句を言いながら、尋常ではない敵の姿に嫌な汗が流れていることを自覚していた。汗を拭う間もなく、相手のヨーヨーを持つ手が動く。獄寺は動き回り避ければ、ツナを危険にさらすため、気にくわないが山本に任せることにした。そして、獄寺の行動を理解し山本が叩き斬る。が、相手が攻撃してくるたびに飛び散る尋常ではない血の量を見るたびに動きが鈍る。戦力では獄寺達の方が有利だが、精神面で圧倒的に不利になり獄寺達は普段通りの動きが出来ず、長引けば長引くほど獄寺達が危険な状況だった。そんな中、2人の精神を持ち直すほどの頼りのある声が響く。

 

「死ぬ気で2人を守る!!」

 

 死ぬ気のツナである。彼は桂に運び込まれたが、自身のために残った2人を心配し、守らず逃げた自身に後悔したのだった。

 

 黒曜生徒に真っ直ぐに突っ込むツナ。相手がヨーヨーを使うため、中・遠距離の攻撃手段がなければ懐に潜り込むのが最善策なのだ。

 

「10代目!?」

「ツナ!?」

 

 2人は焦る。信頼はしているが、毒針を使う相手にツナが突っ込むのは反対なのだ。死ぬ気のツナは2人の様子に気もくれず、猛スピードを突っ込む。当然、敵の黒曜生徒は何もせず待ってるわけがなく、攻撃を仕掛けた。

 

「うおおおお!!」

 

 ツナは叫びながら毒針を交わし始める。しかし、敵に懐に飛び込んでくると気付かれていれば、全て避けれるほど相手の強さは甘くない。

 

「10代目ーー!!」

「ツナー!!」

 

 2人は叫んだ。獄寺達からみれば、ツナが避けると無理と判断し、自ら当たりに行ったようにしか見えなかったのだ。

 

「きかーん!!」

 

 そんな2人を安心させるような声をあげながら、ツナは毒針を防いだのだった。片手にまな板を持ちながら……。

 

「役に立ったようだね!」

 

 タイミングを計ったように桂が叫ぶ。実際、タイミングを計っていたのだが――。

 

 まな板は桂がゴミ捨て場から拾い、死ぬ気になったツナに持たせたのだった。

 

 滅多なことでは捨てないまな板が、偶然にもゴミ捨て場にあったのことに疑問を持つのが普通だが、あいにく死ぬ気とツナと世界が自分を中心にまわってると思ってる桂だったので、このことにツッコミされることはなかった。ちなみにこの謎は永久に解けない。

 

 桂の叫びが響き終わった後、まな板という奇抜な武器を使いながら、ツナは黒曜生徒の懐に潜り込み、鳩尾に一発いれたのだった。

 

「……危なかったー」

 

 いつものツナに戻り、自分がしたことに冷や汗をかく。

 

「10代目、危険です! 念のために離れてください!」

 

 獄寺の注意が聞こえたが、ツナは警戒を解いたまま動こうとしなかった。ずっと感じていた嫌な感じが消えたからである。安心してしまい、再度腰が抜けたのもあったが。

 

「大丈夫だよ、獄寺君。みんな、怪我はなかった?」

 

 いつものツナの様子にここに居るものは安堵したのだった――。

 




戦闘描写が難しすぎる……


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足手まとい

 雲雀恭弥が出直すと選択したので行動することにする。しかし、あまりにも悔しい思いをしながら言ったので、つい「今度、ムチを使ってる方とはいっぱい戦えることになる。パイナッポーは時期が来ればありえるかも」と教えてしまった。頼むから嬉しそうに私を見ないでくれ。咬み殺される恐怖しか感じない。

 

「できれば、先に行ってほしい。ムチの方は体質のせいで、私が居ないと弱くなるんだ」

 

 真面目に言ったのに、バカを見るような目をしないでほしい。しかし、雲雀恭弥は反対意見を言ってこなかったので、何か思うことがあり素直に帰ることにしたようだった。普段もこれぐらい大人しければいいのだが。そう思いながら私は息を吸い込む。雲雀恭弥の逃げる時間を稼ぐのもあるが、私達が来た時に隠れた彼を救いたいのだ。……沢田綱吉、力を貸してくれよ。と、思いながら叫ぶ。

 

「フゥ太! お前は何も悪くないんだ!! だから、帰って来い!!」

「…………サクラ姉ーーー!!」

 

 ちょっと待て。それは予想外だ。私に向かって嬉しそうに走ってくるな。逃げたくなる。もちろん空気を読んで逃げないが、子どもといっても彼の全力突進をくらって私は無事なのだろうか……。と、思いながら抱きとめる。勢いを殺せず尻餅をついたのは……しょうがない。

 

「大丈夫!? サクラ姉!?」

「だ、大丈夫だ……」

 

 心に傷を負っている彼に心配されるのは何とも情けない。しかし、良しと思う。マインドコントロール中ではない時に、望む言葉を言ったおかげで彼は気絶しなかったらしい。私がおんぶを出来るか怪しかったのでラッキーである。

 

「なるほど。ただの時間稼ぎだったわけですか。ならば話がはやい」

 

 声だけは意識をしていたためすぐに反応できた。危険と判断し、フゥ太を突き飛ばす。痛いかもしれないが我慢してほしい。私にしては上手くいったのは、2度目だからだろう。地面が割れる。恐らく骸が好きな火柱が現れるだろう。

 

「っ!?」

「骸から目を離すな!!」

 

 ディーノが六道骸から目を離したので火柱に当たりながら慌てて叫ぶ。

 

「ほぅ」

「だ、大丈夫なのか……?」

「幻術について語った奴を知ってるんだ」

 

 変態にしか思えなかったグロ・キシニアのことである。脳にありもしないことを思い込ませでっちあげる技と知り、私は可能性を考えた。骸が出す幻術の好みを知ってるのは有利ではないか、と。もちろんそれだけではない。こういうのは惑わされない妄想力が大事なのだ。ある意味、妄想力勝負なのだろう。私は常にマンガで妄想をしているのだ。引きこもりの妄想力をなめてもらっては困る。威張れる内容ではないが。

 

 正直、うまくいったのはディーノが骸の集中力の邪魔をしてるのとリングの力がないのもあるだろう。……予想ではディーノの力が大きい。目を離せば死ぬ可能性も高い気がした。

 

「先にそれを言っておけよ……」

 

 言わなかったのは防げるとは思わなかったのが大きい。それを知らないディーノは私に文句をいいながら、骸と向き合っていた。弱い私達が狙われたのもあったせいか、怒ってそうだ。そして、私はまた突進される。……お尻に青あざがついたらどうするんだ。

 

「とても興味深いですね。――もう終わりにしましょう」

 

 ディーノを牽制しながら、六道骸は呟いた。幻術と思い身構えたが、骸は学習したらしい。フゥ太を抱きとめることが出来ないぐらい私が弱いということを。

 

「サ、サクラ姉……」

「……フゥ太。走れるか?」

 

 頷いた姿を見て覚悟を決める。蛇、恐らく毒蛇に囲まれながらフゥ太に作戦を伝える。私がディーノの方に逃げるからフゥ太は出口まで一直線に走れ、と。反対だったのか、服を握りしめてきたので笑って「大丈夫」と伝える。この作戦の方が生き残る可能性が高いのだ。私が逃げればディーノがやられ、私とフゥ太が逃げれる可能性は低すぎる。私がディーノの方にたどり着ければディーノは私を背負いながらでも逃げようとするはず。さらに私は女子なのでDrシャマルに治してもらえる。つまり、私は逃げないほうが生き残る可能性が高いのだ。そうでなければ、こんな作戦を立てない。私は死にたくないのだ。

 

「本当に幻術に強いらしい。彼女はあの毒蛇は本物だと気付いてるようですね」

「なっ!?」

 

 君の行動を知ってるだけで私は幻術には強くないぞ。そう思いながらジリジリと迫ってくる蛇に焦る。嫌な汗が流れていることを感じるていると、六道骸に背中を見せスキを作ってでもディーノがこっちに向かってきた。嬉しいが、君がやられれば私は死ぬんだぞ、と思った瞬間、毒蛇が飛んでいく。

 

「…………」

 

 無言で睨まれながら思う。なぜ君がここに居るのだ。フゥ太を突き飛ばした時には居なかったので、先に帰ったと思っていたのだが……。

 

 まさか――と思った。幻覚の防ぎ方を教えなかったことに彼は怒ってるかもしれない。幻覚さえ防げれば彼は切り札を出す前に倒せると思っているのだろう。確かにそうかもしれないが、原作でリングを使って幻覚を防いでいたことを考えると、恐らく雲雀恭弥にはこの防ぎ方は出来ない。そして何より、これは防いでるだけで見破ってはいない。骸は幻覚で隠す使い方はせず、派手な技を使うのを好むからこの方法は有効なのだ。雲雀恭弥に教えれるレベルではない。つまりそのことをグロ・キシニアは悟らせないようにして、クローム髑髏を追いつめた。恐ろしい男である。

 

 説明すれば納得すると思うが、面倒と思った。もちろんトンファーを使って全てぶっ飛ばしてくれたおかげで助かったことは否定しない。が、出来れば君は私に近づいてほしくないのでさっさと帰ってほしかった。なぜなら、雲雀恭弥がのっとられ一撃でも当たれば、私は死んでしまう自信があるのだ。ディーノが近くにいて彼の相手を出来るならいいが、この微妙に離れた状況では危ないだろ。私はディーノの弱点だとちゃんと認識してるのだ。……認識して――。

 

 思考が止まりそうになった時に銃声が響いた。

 

 雲雀恭弥に見下ろされ、私は恐怖で動くことが出来なくなった。が、頭は冷静でフル回転していた。

 

 憑依弾をこのタイミングで使ったのはラッキーと安易に考えそうになったが、まだ隠し持ってる可能性も高い。ファミリーを潰してることと沢田綱吉の身体をのっとる予定だったことを考えると、復讐者に没収されるまで大量に持ってることが予想できる。しかし、チャンスなのは変わりない。触媒として使ってる槍は倒れてる六道骸の近くにあるのだ。問題は私が彼の攻撃を耐えれるかだな。

 

 ――無理だ。死ぬ。死にたくない。――死にたくない。

 

 ふと腰に力を感じる。フゥ太が私の服を握りしめてるようだ。元々、密着していたため私の震えに気付いてしまったのだろう。

 

 一瞬でいい、一瞬さえあれば――ディーノが触媒の槍を壊せる。

 

 そう思っていたとしても、私の身体は正直で声も出せなかった。が、無事だった。

 

 風を感じただけで痛みはこないのだ。私の目では何が起きたのかはわからない。わかるのは、ディーノが雲雀恭弥の片腕をロープで縛り、恐らく振り下ろそうとした雲雀恭弥のもう片方のトンファーを素手で掴んでいたことだけだった。

 

 ……助かった。が、安心したのは束の間だった。ディーノは素手でトンファーを掴んでいる。嵐戦の時に雲雀恭弥はトンファーから棘らしきものを出していたのだ。

 

「手を離――」

 

 最後までは言えなかった。もう手から血がポタポタと落ちていたのだ。しかし、ディーノは手を離そうとせず、言った。

 

「お前には恨みはねーが、手荒なことをするぜ」

 

 次に気づいた時には雲雀恭弥はぶっ飛ばされていた。正確には放り投げられたのほうが正しいかもしれない。そのため気絶はしていないようで、雲雀恭弥はもう一度私達に襲いかかろうとしていた。

 

「すまん」

 

 ディーノが呟いたと思うと私は浮遊感を味わい、腹に圧迫感を感じる。ディーノが肩に私を背負ったようだ。荷物担ぎには文句はいわない。もう片方の手でフゥ太をもってるし、私の担いでる方の手からは血が出てるのだ。特にその手を使って私の腰にまわして支えてるので、腰から冷たさを感じるのもあった。

 

 槍をどうにかすればいいのではないかと思ったが、ランチアの姿が見えてしまった。ディーノは彼の気配に気付いていたのだろう。

 

「走るぜ」

 

 そう声をかけてディーノは走り出す。私に気をつかってるようであまり腹に肩が食い込むことはない。しかし、雲雀恭弥達との距離が縮まってるので、2人を抱えて逃げるのは無理がある。何とか2階にまで降りたが、非常階段で降りるのはきつい。

 

「私を降ろせ!」

「黙ってろ! 舌を噛む!」

「なら、私達に気を遣うな! 多少の揺れなら我慢できる!」

「僕も大丈夫だよ!」

「――しっかり捕まってろよ!」

 

 ちょっと待て。それはないだろ。確かに少しは我慢するといったが、2階の窓から飛び降りるな。

 

「~~~~!!」

 

 無事に着地したようだが、私は声にもならない叫びを出してしまった。ちなみにフゥ太は思いっきり叫んでいた。

 

「すまん」

 

 もう1度謝ってディーノは走り出す。荷物担ぎのため後方を見ていると、雲雀恭弥達は窓から見ているだけで降りてこない。深追いは禁物と思ったのか、追いかける必要はないと判断したのか……。後者の方が強い気がした。私は雲雀恭弥と話していたのだ。また来る可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 完全に追ってこないと判断したのか、ディーノは私達を降ろし自身の服をちぎって止血し始めた。

 

「僕のせいで……」

「これぐらいすぐ治る」

 

 そういってディーノは怪我をしていない手でフゥ太の頭を撫でていた。

 

「お前が悪いわけじゃねーから謝らなくていいんだぜ。だから気にすんな。なっ?」

 

 この言葉はフゥ太の後ろに居る私にも言ってる気がした――。

 




脱出成功?


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溜息

 ディーノが沢田綱吉達と連絡し学校の保健室で合流することになった。怪我をしているディーノがしたのはどうかと自身でも思ったが、私のケイタイは落としてしまったのだ。恐らく2階から飛び降りた時だろう。壊れていた時はディーノに弁償してもらうことにする。今、勝手に決めた。

 

「神崎さん、血が……!?」

 

 私を見るなり沢田綱吉が真っ青な顔をしていた。腰に血がついてるせいだろう。ディーノの血と教えるとさらに驚いていた。

 

「しくじったのか」

「ああ。ミスっちまった」

「……私が欲張ったからだ」

 

 リボーンとディーノの会話を聞いて、つい口に出してしまった。フゥ太を助けるために叫んだのは私の独断だったのだ。それまでディーノは上手く六道骸に私の存在を意識させないように誘導していた。一体どれほど高度なことだったのだろう。これは恐らく私が想像しているより難しいことのはずだ。

 

「おめーの判断に任せるって言ってたんだ。これはただ要望に応えれなかったディーノのミスだぞ」

「そういうことだ」

 

 今は納得することにする。考えるのは後でもいい。今は状況を把握するのが先だろう。特にロープでグルグル巻きにされた柿本千種のことが気になるしな。

 

 

 

 

 

 話し合った結果、原作通り殴り込みをすることにしたらしい。当然だろうと思った。話を聞いた感じでは柿本千種のゾンビのような行動は憑依弾が原因としか考えれない。もう骸はボンゴレ10代目が沢田綱吉と気付いている。逃げれば被害が広がるのは明らかだ。そう考えると私達を逃がしたのはボンゴレ10代目の正体に気付いたのもあったかもしれない。

 

 ただ、原作と違ってビアンキは行かないようだ。獄寺隼人が怪我をしていないのでこの場にいないのが原因だろう。リボーンに聞けば、フゥ太と沢田奈々の護衛を頼んだらしい。笹川京子と三浦ハルの護衛は原作通りだったので問題ないだろう。問題があるとすれば――。

 

「心配すんな、ツナ。9代目の手紙にオレがフォローしてもいいって書いてるんだ」

 

 殴り混みについて沢田綱吉を説得しているディーノを見ると、溜息しか出てこないのは気のせいだろうか。それに原作より手紙が来るのが早い気がする。私とディーノが泊まりにきた時点で9代目に連絡し許可をもらう要請でもしていたのだろう。

 

「私は留守番の方が嬉しいのだが」

「ああ。お前はもう無理しなくていいぜ。Drシャマルと居る方が安全だしな」

 

 違う意味で危険だ。

 

「か、神崎さん……」

 

 すがるような目を向けられ、さらに溜息が出る。私の幸せはどこに行ってしまったんだろうか。ディーノに頼んだ時点で消えてしまったのかもしれない。

 

「頼みを聞いてくれるならいいけど」

「なになに!?」

 

 どれだけ必死なのだ。部下が居ないディーノのドジっぷりを見ているとわかる気もするが。

 

「縛ったままでいいから、彼を連れて行ってもいい?」

「え!? ……わ、わかった」

「ちょっと待て。それは危険だろ?」

 

 憑依弾のことを知っているディーノは反対するのも当然か。これはただの私の我侭なので諦めてもいいのだが――。

 

「ツナが許可したんだ。ディーノが反対しても意味ねーぞ」

「……わーったよ。オレが連れて行くでいいよな?」

 

 ディーノにしては珍しく強めの口調だった。私に確認はするが、縛っていても敵を沢田綱吉達が背負うことは反対なのだろう。元々、連れて行くことに反対なのもあるが。つまり、あれはどうしても譲れないという意味で強めに言ったのだろう。

 

「ん。頼む」

 

 私は初めからディーノに運んでもらうつもりだったので、反対はしなかった。

 

 

 

 

 

 獄寺隼人と山本武が前方を歩き、次にリボーンと沢田綱吉。その後ろで私がボーッと歩き、ディーノが1番最後を警戒しながら歩いていた。本来ならば乗り込んだディーノが先頭の方がいいと思うのだが、獄寺隼人が譲らなかったためこの配置になったらしい。

 

「理由を聞いてもいいか?」

 

 警戒しながらもディーノは質問してきたようだ。恐らく柿本千種を連れて行く理由を知りたいのだろう。

 

「……独りは寂しいだろ」

 

 前方に歩いている彼らを見ながら言った。彼らと出会って気付いた感情である。独りだけ離れた場所から復讐者に連れて行かれるのは寂しいと思ったのだ。私の言葉にディーノは「そうか」と小さな声で返事をしたのだった。

 

 それにしても、いろいろ思うところがあるな。復讐者は全て終わってから来るのだ。やはり手の内を見せたくない気持ちが強いのだろうか。それともボンゴレリング継承者の沢田綱吉に興味があるのか……。両方だろう。何もしらない復讐者からすれば、この戦いで沢田綱吉が死んでもいいのだ。

 

「そういえば、桂さんはどこに行ったのかな?」

「兄がどうかしたのか?」

 

 急に兄の名前が出たので驚く。兄は病院に居るはずだが。

 

「えっと、神崎さん達が乗り込んでる間に、桂さんがもう一人の黒曜生徒を――いっでぇーー!」

 

 どうやらリボーンに殴られたようだ。もちろん私の目では追えない速さである。

 

「おめーを迎えに来たんだ」

「……大丈夫だったのか?」

「ディーノと一緒に居ると知れば病院に戻って行ったぞ。了平からの連絡で捕まえていた黒曜生徒が逃げ出したと知ったのもあるだろう。あいつは了平と仲がいいからな。ちなみに見張ってた草壁哲矢はやられたらしいぞ。歯を抜く暇はねーみてーだったが」

 

 初耳である。彼らから城嶋犬も捕まえていたが、逃げられてしまったという話を聞いていたが、まさか笹川了平からの情報だったとは。

 

 恐らく城島犬を捕まえたのは雲雀恭弥である。彼の強さならば、黒曜に向かう前の短時間で倒せるし、草壁哲矢が見張っていたことも納得できる。ただ「極限、覚えとらん!」とよくいう笹川了平が詳しい情報を知っていたことに驚きなのだ。……彼は病院にいるのだ。原作では草壁哲矢が病院近くで襲われたことや、やられれば運ばれる場所が病院ということを考えれば、そこまで驚くことではないはずだ。恐らく病院ではその話で持ちきりなのだろう。

 

 しかし、草壁哲矢はやられたのか。せっかく助かりかけたのに、運の悪い男だ。

 

 歯が抜けてないだけましかと思いながら入り口を過ぎるとすぐに1人目の敵が現れた。原作と違いバーズのようだ。話を聞くのも気持ち悪いと思ったが、原作通り人質をとっていたので聞くことになった。そして、沢田綱吉を殴れというので遠慮なく殴ることにする。男なら我慢しろ。

 

「うわー!」

「神崎てめぇ!」

 

 獄寺隼人にきれられるが、この中で私が殴るのが1番痛くないと思ったのだ。そもそも、私の方が地味に痛い気がする。私の様子を見て文句を言わなくなったので良しとする。沢田綱吉は殴ったのが私だったので驚いてるようだ。

 

「……悪い」

「う、ううん!!」

 

 次はナイフで刺せというので、地面に落ちたナイフを私が受け取りに行く。ディーノとリボーンがジッと私を見ている気がするが、何も言わなかったので、私が何かするとわかっているのだろう。私が彼女達には護衛をつけていることを、2人が知っているのもあると思うが。

 

「聞き分けがいいですね」

 

 ニヤニヤと笑う変態に苛立ちを我慢しながらナイフを拾い、ボソッと呟く。

 

「もしかすると、私の手がすべってナイフを投げてしまい、興奮して鼻血を出してるオッサンに掠ってしまうかもしれない」

「――ひ、人質がいるのですよ!?」

「ん。偶然にもこのナイフに即死するほどの毒がぬりこまれていない限り、不利だな」

 

 バーズは自身が何を渡したのか、やっと気付いたようだ。

 

「君が指示を送るのと、これから投げるナイフ、どちらが早いだろうか?」

 

 原作で状況が不利と悟った瞬間に逃げたことを考えると、バーズは指示を出すとは思えないしな。

 

「は、話せばわかりますよ! だからそのナイフは――」

「そういえば、彼女達には護衛をつけていたんだ。交渉の余地もなかったな。……ずっと思ってたんだ。君――きもい。じゃ、後はよろしく」

「最後までしねーのかよ!?」

 

 そういいながら獄寺隼人は、バーズに大量のダイナマイトを投げたのだった。バーズが原作より死にかけてるのは気のせいだろう。パソコンで確認すれば、原作通り無事に護衛をし彼女達は大丈夫のようだ。

 

「……神崎さんは怒らせない方がいいかも」

「違うぜ、ツナ。あいつだけじゃねぇ、女性ってのは怒らせない方がいいんだ……」

「聞こえなかったフリをしてあげる」

 

 コソコソ話していたボスコンビにあえてはっきり言った。全く、失礼な話である。

 

「あ。M・M……」

「ん? どうかしたのか?」

「ビアンキが――」

 

 いないからどうしようかという言葉は最後まで続かなかった。犬が襲ってきたのだ。犬は犬でもえぐられた方のイヌである。原作通りなら、結局城島犬がやってくるのだが。

 

「固まるんだ!」

 

 バーズは捨て駒として考えられていたのかもしれない。バーズをやった後に、連携が崩れるタイミングを狙っていたのだ。原作より六道骸は本気かもしれない。恐らくディーノと私が1度乗りこんだせいだ。

 

 考えたい気持ちもあるが、足手まといの私は固まることに専念することにする。といっても、私はディーノと沢田綱吉の近くに居たので運が良かった。獄寺隼人と山本武との合流は難しそうだが。リボーンは山本武達の方に居るようだ。掟で手を出せないがアドバイスは出来る。そのためディーノとは別れた方がいいと思ったのだろう。

 

「オレから離れるなよ」

 

 ディーノは固まった私と沢田綱吉に声をかけ、ムチでえぐられたイヌを倒していく。ムチの攻撃範囲が広いおかげで近寄ることも出来ないようだ。向こうも倒しているが、血がべっとりかかってる。ディーノと一緒の方で良かった。

 

「す、すごい……」

 

 沢田綱吉が呟くのは無理もないだろう。ディーノは柿本千種を肩から担いだ状態でしているのだ。私とフゥ太の時と違って気を遣わなくていいとしても、片手でこれほどの動きが出来るとは――。

 

 しかし、相手もバカではないようだ。ディーノがカバーをしにくい場所と正面を同時に攻撃してきたらしい。沢田綱吉に任せたと言っているが、任された本人はかなり焦ってるぞ。不安である。

 

「10代目ー!」

 

 「なっ」と叫んだのは誰だっただろう。恐らく3人ともだろう。沢田綱吉のフォローしようとした獄寺隼人が、私達の周りにダイナマイトを投げてきたのだ。驚きしか出てこない。

 

 ドカンという音が聞こえ、意外と無事だったと安堵すれば、私と沢田綱吉はゴホゴホと咳き込んだ。煙が凄いのだ。元気過ぎるのも困ったものである。

 

「お前ら、伏せろ!!」

 

 咳き込んでいなかったディーノの焦る言葉に、私は反応できなかった。沢田綱吉も出来ているのかも怪しい気がする。煙で見えないので答えはわからないが。

 

 私が感じれたのは私の頭上近くで何かが当たった音と、衝撃、浮遊感だけだった。

 

「いっ!」

「うひょー!」

 

 痛くて声をあげたが、彼は私の言葉に耳を傾ける気はないようで走る。痛い、痛い、痛い。走るたびに葉っぱなどに当たってる気がする。しかし、血が出るほどでもないので、気絶はできないようだ。もういっそのこと気絶していたいのだが。

 

 彼に連れ去られながら考える。最初の衝撃は彼に捕まえられた時のものだろう。浮遊感は私が浮いたからだ。では、頭上近くで何かが当たった音は――謎である。ディーノの目を盗んで、私を捕まえることが出来るほどのことが起きたことしかわからない。……獄寺隼人が余計なことをしなければ問題なかったような気もするが。また溜息が出た。本当に私の幸せはどこに行ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 辺りを見回したが、雲雀恭弥は居ないようだ。憑依弾の効果が切れれば暴れるとわかってるため、原作通り閉じ込めたのだろう。そもそもこの場には六道骸と城島犬しかいないようだ。

 

「犬、僕は彼女と話があります。ボンゴレの相手を頼みますよ」

「わかったら。終わらせるびょん」

「ええ」

 

 なんということだ。パイナッポーと2人っきりになってしまった。それに城島犬の口ぶりからして、ここに誰も居ないのは沢田綱吉達に総攻撃を仕掛けに行ったからかもしれない。……ディーノはヘナチョコになったので、不安しか出てこないのは気のせいだろうか。いや、彼らの心配をしている場合ではない。私の方がピンチである。

 

「「…………」」

 

 対峙してるが会話はない。六道骸はイヤホンで沢田綱吉達の会話を聞くほどの余裕らしいが、私は下手に動けば殺されるのでジッとするしかない。

 

「ほぅ。掟で手を出せませんか。それも特殊弾は残り2発。頼りの男も彼女が居なければ力が出せない体質とは――」

 

 ぶつぶつ呟く六道骸はかなり怪しい。私に内容を聞かせてる意味もある気もするが。しかし、特殊弾が残り2発とは――原作より多いな。まぁ数が多いからといって安心できるかは別の話だが。

 

「――動じませんね。それほどボンゴレ10代目を信頼しているのか。ただのバカなのか」

 

 バカとは失礼である。私をバカというなら、彼をパイナップルバカと内心で呼ぶことにしよう

 

「本題に入りましょうか。あなたの行動に不可解なことが多数ありました。1つ目、雲雀恭弥に見下ろされた時の恐怖の違い。2つ目、匂いを調べればあなたは他の建物に目移りすることもなく真っ直ぐこの建物に向かっていた。倒れていた黒曜生徒を追ったわけでもないでしょう。彼はこの建物以外でも倒していましたから。もちろん雲雀恭弥に発信機がついていないことも確認済みです。3つ目、足手まといのあなたがなぜ一緒に来たのか。これは先程答えがわかりましたね。4つ目、なぜあなたは僕の名を知っているのでしょう。あなたと一緒にいた彼が教えたとは思ません。彼は裏の世界の人間です。裏の世界で僕は記録を残すようなヘマをしませんから」

 

 パイナップルバカはベラベラと語る。語られても私はまたミスったとしか思えないのだが。

 

「僕ぐらいになるとわかるのです。裏の世界の人間かどうか……。はじめはあなたは表の人間にしか見えませんでした。今となっては裏でも表でもない人間と認識しています。そろそろ、本題に入りましょう。あなたは何を知っているのですか?」

 

 バカの一つ覚えみたいにみんな私に何を知っているのか?と、聞く。……パイナップルバカだったな。

 

「たいした内容ではない」

「それを判断するのは僕ですよ」

 

 非常に困った。黙り込めば私から聞き出すためにパイナップルバカはマインドコントロールしそうだ。それなら自身から話した方がいいだろう。

 

「知ってるのは君の未来?」

「……ほぅ。予知能力を持っていましたか」

「予知ではない。わかる未来もあるだけ。これから君は寒くて真っ暗な場所に行くことになる。これはもう回避出来ない」

 

 城島犬と柿本千種を見捨てれば回避出来るかもしれないが、復讐者の能力を考えると多少の違いで捕まるだろう。そして、2人を見捨てれば六道骸はあの場所から出られる可能性が低くなる。

 

「助言するとすれば、選択を間違えるな。君が自身でも回避出来ないと判断した時、選択を間違えれば身動きが完全に出来なくなる」

「面白いことをいう人だ。僕に助言するとは……。しかし、あなたはボンゴレの味方です。僕が助言を鵜呑みするとお思いですか?」

「好きに判断すればいい。ただ、厄介なことに私の願いを叶えるには君の味方もしなくてはいけない時もあるのだ。……これはボンゴレたちには秘密にしてくれよ。ややこしくなるから」

 

 ポロッと本音をこぼせば、変な笑いをしていた。知っていたが、間近で聞くとドン引きである。

 

「私からはもう話さないぞ。下手に話せば、私だけじゃなく君にとっても不都合なことがおきる。マインドコントロールするかは君の好きにしろ」

「わかりました」

 

 わかってねぇだろ、と本気で思った。なぜ契約しようとしているのだ。

 

「この行為の意味も知っているのですね」

「……それは思考まではわからないのか?」

「ええ」

「私は弱いぞ」

「それでも利用価値は十分ありますからね」

 

 私は隠そうとせず、堂々と六道骸の前で大きな溜息をついたのだった。

 




遠慮なく殴った主人公はいろんな意味で大丈夫なのかと心配ですww


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桂の迷い

 サクラが連れ去られ姿が見えなくなった途端、えぐられた死体が襲ってこなくなった。1人冷静なリボーンの指示により、集まることになった。

 

 そんな中、ディーノは自身の至らなさに腹を立てていた。なぜなら、煙で見えなくなった時に、サクラを掴んでいれば防げた可能性もあったからだった。

 

 あの時、ツナだけじゃなくサクラにもえぐられた死体が襲ってきていたことにディーノは気付いてたが、自身に襲ってくる死体を倒してからでも間に合うと判断し、問題視していなかった。死体なので一撃さえ当てれば倒せるからだ。

 

 問題は煙で何も見えなくなったことだった。ダイナマイトでツナに襲ってくるえぐられた死体は倒せたが、またすぐにツナに襲ってきていたのだ。それでもディーノは冷静に伏せろと2人に指示を出した。しかし、2人とも動く気配がなかったため、ディーノは自身に襲ってくる死体には目もくれず、ツナとサクラを襲ってくる死体を倒すことを優先することにした。そして、多少のダメージを受けたが、2つの死体には一撃を当てた。が、サクラは連れ去られてしまう。

 

 他に近づいてくる気配はなかった。近づいてきたなら、視界が悪くてもディーノは気付く自信がある。考えられるとすれば……サクラを襲ったのが死体ではなく城島犬だった――。

 

 城島犬はディーノ達の周りにダイナマイトが転がったのを見て、えぐられた死体と入れ替わり、自ら突っ込むことにした。予定外の行動になるが、城島犬は賭けにでたのだ。一撃をもらうだけでスキをつける可能性が高く、サクラを拉致できると思ったのだ。

 

 今回、いくら血の臭いで鼻が機能していないからといっても、ディーノはサクラから城島犬の情報は聞いていた。それなのに動作が同じだったというだけで警戒を怠り、狙いがツナではなくサクラと気付けなかったのがディーノの敗因だった。

 

 こうしてディーノの一瞬のスキをつき、サクラは連れ去られた。

 

「た、大変だ……神崎さんが……。ど、どうしよう……」

「ツナ、悪い。9代目にはオレから説明して謝る。だからもうオレに任せてくれねーか? 守ると約束したのはオレだ」

 

 即座に獄寺隼人は反対したが、ツナはディーノの発言に了承したのだった。

 

「行くぜ」

 

 そう言って先頭を歩き出そうとしたディーノが転ぶ。

 

「そうだったーー!! 神崎さんが居ないとディーノさんってダメダメだったんだーー!!」

 

 思い出したようにツナは叫ぶ。ディーノはなぜ転んだかもわからないようだった。

 

「サクラが心配だが、ディーノはヘナチョコでオレは掟で手がだせねー。死ぬ気弾も後2発しかねーし、ウルトラヤベェ状況だな」

 

 頼りになるディーノがダメダメになったことや今の状況を聞き、精神的に1番のダメージを受けたのは沢田綱吉だった。ちなみに、少し前から目が覚めていた柿本千種がディーノに転んだことにより肉体的に1番のダメージを受けた。縛られているため何も出来なかったのだ。

 

「わ、わりぃ……。足がすべっちまったんだ。大丈夫か?」

 

 敵にも関わらず、心配するディーノ。自身のせいというのもあるが、サクラの言葉が気にかかるのもあったのだ。そして、襲撃される直前にサクラが話そうとしていたことも思い出す。

 

「M・Mって奴のことを――教えるわけねーよな……」

 

 もう少し詳しく話を聞くべきだったとディーノは後悔する。危険な相手として、六道骸、城島犬、柿本千種、ランチアのことは教えてもらった。が、ディーノから見ればヂヂとジジは十分危険な相手だった。M・Mもかなり危険な相手かもしれないと思ったのだ。

 

「とにかく……行くしかねぇ」

 

 悩んでも状況がよくなるわけではない。進むしか道しか残されていない。そう思い気合を入れて再び先頭を歩こうとしたディーノだったが、ツナ達に必死に止められ最後尾を歩くことになった。

 

 

 

 

 

 ツナは恐怖で震える足をおさえながら、必死に歩いた。サクラが連れ去られたことに後悔しているのはディーノだけではない。ダイナマイトを投げた獄寺もそうだが、手を出せなかったことを山本も後悔している。怖いという理由で逃げ出すことも出来ない空気が流れていたのだ。そして何より、ツナがサクラに着いて来てほしいと目で訴えなければ、こんなことにはならなかったという思いの方が、恐怖よりはるかに強かったのだ。

 

 ツナはふと足を止める。前方を歩いている獄寺と山本の足が止まったからだった。

 

「ど、どうしたの?」

「この先で話し声がします」

「え!?」

 

 ツナは驚きながらも聞き耳を立てる。男女の声のようだった。気付かれないよう少しずつ近づいていけば、声がはっきり聞こえはじめる。そして、片方の声はツナ達がよく知る人物だったので慌てて走り出したのだった。

 

「ば、化け物――」

「……そうかもしれないね。さて、これ以上やるのかい? 僕は君が持っているケイタイを返してもらえればいいのだよ。それはサクラのだからね」

 

 ツナ達の予想通りで片方は桂の声だったが、あまりにも状況がおかしい。片方の声の主はディーノの部下が調べてくれた脱獄囚の女だった。その脱獄囚が桂に怯えてる。桂が強いことは雲雀との戦いで理解はした。が、脱獄囚は怪我をしているようにも見えない。一体、何に怯えてるのかわからないのだ。

 

「ありがとう」

 

 ケイタイを返してもらった桂は誰もが見惚れるような笑顔で礼をいった。3人に向かって――。

 

 ここでツナ達は理解した。詳しくはわからなかったが、桂は3人を相手にしていたのだ。サクラのケイタイを返してもらうためだけに――。それだけでもどこか恐怖を覚えるのだが、桂だけじゃなく3人も怪我をしている様子がないのだ。それがますます恐怖を増大する。

 

「君達は彼らに用事があるようだね。……ふむ。出来れば、僕じゃなく沢田君が相手をしたほうがいいと思うよ。僕がこれ以上手を出すと壊してしまいそうだ」

 

 桂はツナに頼んだ後、M・Mの近くに移動し「邪魔するよ」といい声をかけ隣に座った。理由は城島犬より相性が良くないことと、M・Mならば隣に座るだけで動けなくなると判断したからだった。桂なりの手助けである。獄寺からすれば、桂のを行動はどんな状況でも口説こうとするシャマルと同類にしか見えなかったようだが。

 

 ツナは桂が倒してくれないことにショックを受けたが、ツナを指名し壊してしまうと言った時の桂の目が、辛く悲しそうだったので何も言えなくなった。

 

「10代目、任せてください」

 

 ツナ達が止める間もなく、ランチアにダイナマイトを投げる獄寺だが、鋼球を振り回され当たることはなかった。そして、そのスキに城島犬が獄寺を狙おうとしたが、山本武によって憚れる。

 

「おまえの相手はオレな」

「邪魔だびょん!」

 

 こうして2つの戦闘が開始したのだった。ちなみに、ディーノは獄寺が狙われてることに気付き、ムチを振っが自身に当たり「おめーは手をだすな」とリボーンに釘をさされていたのだった。

 

 

 

 

 

 戦況はすぐに傾いた。

 

 城島犬は山本のスキをつき、ツナを狙おうとしたため、原作とは少し違った形だったが、肉を切らせて骨を断つ作戦で1分も経たずに勝利したのだった。サクラが連れ去られたことで、珍しく山本が怒っていたのもあったが。

 

 もう一方は厳しい状況だった。獄寺の攻撃はことごとく鋼球によって防がれるのだ。そして、ここでも狙われるのはツナであり、獄寺は一歩も動けなかったツナを突き飛ばし庇ったため、木に叩きつけられ気絶した。

 

 残ったのはツナと負傷しながらも城島犬を倒し合流した山本武、役に立たないディーノ、掟で手が出せないリボーンだけだった。

 

 溜息を吐きながら桂は立ち上がる。このままではツナ達が死んでしまうかもしれないと判断したのだ。ツナはその様子を見て喜んだのだが、まだ桂は手を出すつもりはなかった。

 

「沢田君、僕は君を評価しすぎたようだ。君の感じた違和感のせいかもしれないけど、彼は沢田君を守って倒れたのだよ。そのことを理解してるのかい?」

「え……」

「ツナ!?」

 

 ツナの声は山本の声にかき消される。スキを見せたツナに鋼球が迫っていたからだった。そして、ツナを守るために今度は山本が盾になろうとしている。その時になって、ツナはどこか楽観視していたことに気付く。雲雀がやられ、サクラが連れ去られたにも関わらず――。それはランチアがあったかくて怖い感じがしなかったせいだった。だが、ランチアの攻撃により獄寺はツナを守って気絶している。

 

「今しかねーな」

 

 桂の言葉に導かれ、ツナは後悔する。死ぬ気弾のリスクがなくなったためリボーンは躊躇なく撃ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ツナが死ぬ気になり、やっと勝負になったことに安堵する桂。

 

 桂は自身の力に嫌悪している。それは相手に恐怖しか抱かせないからだ。だからこそ、桂は手を出すことを望まない。そして何より、彼が最も恐れたのはサクラに怯えられることだった。

 

「羨ましい――」

 

 誰にも聞こえないような声で桂はささやく。桂はツナやディーノの戦い方に惹かれるのだ。決して、自身には手に入れられないと思い――。

 

 そして、桂は笑う。

 

 一歩踏み出し使い方さえ間違わなければ、桂の力は恐怖ではなく希望を与える種類なのだ。しかし、サクラに怯えられたくないという思いだけで、そのたった一歩が踏み出せない自身の弱さに笑ったのだった。

 

 戦闘に意識を向ければ全てが終わっていた。桂やツナが感じた通り、相手は迷いながら戦っていたようだった。桂はツナが勝った姿を見て安堵する。もし自身が本気を出し戦うことになれば、相手も本気を出すことになるため迷いがなくなり、戦闘マシーンのようになる可能性が高かった。そんなことをしてしまえば、一歩を踏み出すことが一生出来なくなる。

 

 そして気付く。桂は相手のためではなく、自身のためにツナに戦ってほしかったことに――。

 

「やはり僕の弱点はサクラだね」

 

 桂は自身の弱さを認め、今まで以上に何があってもサクラは守ると決意した。

 

 その時、桂の前にサクラが現れたのだった。

 

 

 

 

 サクラが現れたことに気付いたのは、もちろん桂だけではなかった。が、誰も駆け寄ることはなかった。

 

 ツナは何か嫌な感じがし、リボーンはサクラが解放されたことに違和感を覚え、ディーノは最悪の状況を想像し、桂は直感でサクラではないと気付いたからだった。そして、山本はランチアの鋼球で倒されていた。

 

「や……山本ォ!? ランチアさ――」

 

 一瞬、ツナは状況についていけなくなった。完敗と宣言し、六道骸に操られていたということや本当の名前を教えてくれたランチアとはもう争うことはないと思っていたのだ。しかし、ランチアを見て何か嫌な感じがすることに気付く。――そう、今のサクラと同じような感覚に。

 

「憑依弾だ! 六道骸に身体をのっとられている! 神経をマヒさせろ!」

 

 唯一、サクラから骸の切り札を聞いていたディーノは、すぐにツナ達に知らせ、自身が運んできた柿本千種の神経をマヒさせる。サクラが現れたことでディーノの体質が改善され、対処する動きが誰よりも早かったのだ。もっとも、のっとられたサクラで戻るのは皮肉な話でもあるが。

 

 ツナはディーノの言葉で違和感の正体がわかり「どーしよー」と焦る。が、リボーンは「おめーが止めてやれ。これ以上苦しませるな」という言葉に冷静になった。その姿を見て、リボーンは最後の死ぬ気弾を撃つことにした。

 

 本来ならばこのタイミングで使うべきではない。六道骸がまだ現れていないのだ。それなのにリボーンは撃つことを選んだ。意外な人物が足手まといになったせいだった。

 

「神経をマヒできれば、今すぐこいつを解放できるんだ!」

 

 ディーノは桂に叫んだ。雲雀恭弥と城島犬の相手をしながら――。

 

 しかし、それでも桂は動けない。M・Mには簡単に出来たのだが、サクラには出来なかったのだ。ディーノが変わりにしようと思っても、2人が邪魔をする。先に片付けようとしても息が合ったように2人が動く。骸がのっとっているのだから、意思の疎通が完璧なのは当然のことだった。さらに幻術まで相手はつかうため簡単に駆けつけられない。何より厄介なのは、雲雀恭弥がディーノと手を合わせるたびに強くなるのだ。

 

「こいつは覚悟していた! もし誰かが憑依されるような状況になれば自分にさせろ。そして、さっさとマヒすればいい。のっとられても自分は弱いから簡単だろ?って言ったんだ!」

 

 これはサクラが乗り込む前にディーノにいい、怒られた内容だった。サクラはディーノがのっとられた方が死ぬと理解していたために言ったのだ。もちろん当然のように、サクラはその後に「運んで連れて帰れよ」と言っていたのだが。今の状況では話す必要がないのでディーノは伝えなかっただけである。

 

 リボーンは状況を不利と感じる。ツナはランチアの相手しかできない。ディーノは2人の相手をし、この密集した場所のせいでツナの戦いを邪魔しないように気を遣わなければならないのだ。自身が手を出せない今、桂の行動で戦況が左右する。

 

「桂! おめーがサクラを助けてやらねーでどうするんだ!」

 

 ディーノとリボーンの説得により桂が決意を固めようとした時、ゴキッという音が響く。サクラの腕が腫れていた――。

 

「動けば彼女がどうなるかわかりませんよ。僕は痛みを感じませんから、こういうことが簡単に出来るのです」

「「っ!?」」

 

 ツナとディーノは一瞬動きを止めたが、戦うことを選んだ。サクラの能力は低い。桂の腕があれば、次にサクラを傷つけられるまでに神経をマヒできると信頼しての行動だった。

 

「おや? 彼らは止まりませんね。君はどうしますか? クフフフ。迷う必要はありませんよ。君は僕と同じですから」

「……そのようだね」

 

 骸に賛同し桂は動く。サクラを通り過ぎツナのもとへ――。




すみません。補足です。
ヅラさんはサクラと連絡がとれなくケイタイのGPS機能を使って探したため、あそこにいました。(サクラとケイタイを買いに行った時にいろいろしていたという裏設定)
本文に入れれそうなら、どこかで入れます。


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恐ろしい男

 桂はツナに近づきながら言う。

 

「仕方のないことなのだよ。恨まないでほしい。僕はサクラが1番大事なんだ」

 

 死ぬ気のツナは鋼球を防ぎながら桂を見た。2人にはそれだけで十分だった。

 

「うおおおお!!」

 

 ツナは叫びながら桂を――通り過ぎ、サクラをマヒさせたのだった。

 

 一方、桂はツナと同じく素手で鋼球を受け止めるという離れ業をしランチアをマヒさせた。その後すぐに城島犬をマヒさせる。ディーノは負担が減ったため、雲雀恭弥をマヒさせることに成功した。「ヒバリっつったか? なめてると痛い目にあいそうだったぜ……」と呟きながら――。

 

 全て片付き終わったと同時に桂はサクラに駆け寄り、死ぬ気モードが終わってしまったツナからサクラを受け取る。

 

「あれから怪我は増えていないと思います……。マヒさせちゃったせいで、しばらく起きないと思いますけど……」

「気にする必要はない。僕では躊躇して失敗すると思い、君に任せてしまった。それに彼の解放は君がしたかっただろう。すまなかったね」

「いえ、オレはみんなを解放したいと思ってたので……。だから、神崎さんも……」

「……ありがとう」

 

 骸の話をランチアから聞いていたツナだったが、サクラを大事そうに抱きしめてる桂を見て、改めて決心する。

 

「六道骸だけは何とかしないと!!」

「ほぅ。僕をですか」

 

 桂は瞬時にサクラを抱きながら六道骸から距離をとる。が、骸に予想されていたようで火柱に直撃した。

 

「!? 桂っ!」

「……桂さん!?」

 

 桂の力量ならば逃げれることが出来たが、今はサクラを抱いていた。ディーノにサクラを押し付ける方を優先したため自身が逃げる時間はなかったのだ。

 

 全身が焼け倒れこんだ桂を見て、表情には出さないがディーノとリボーンは怒りを覚える。が、2人より怒りを覚えた人物が居た。

 

「……お前みたいなひどい奴、許さない。骸に勝ちたい」

 

 そう呟いたのはツナである。そして、レオンが羽化したのだった。

 

 サクラが起きていたなら驚いていただろう。原作と違い、ツナはリボーンに導かれもせずに本音を出したのだから。

 

 原因は単純で原作より短時間に続けて事件が起こったため、ツナの本音がすぐに出ただけだった。ただ言った本人は無自覚だったようで、レオンの羽化に「な、なに!? なに!? レオン!?」とパニックになっていたが。

 

「ツナ、落ち着け。これはオレも経験したことだ」

「ああ。オレの相棒のレオンは生徒に試練が訪れるのを予知するとマユになるんだ」

「そーだったの!? あ! だからマユになった時にディーノさんが真剣な表情だったんだ!」

「そういうことだ。今からお前専用の武器がアイテムが生まれるぜ。オレの場合はエンツィオとこのムチだった!!」

 

 ディーノの語尾が強くなったのは、黙ってみてるわけがないと思い、ムチで骸を牽制をしたからだった。もちろんディーノはツナに任せる気でいる。ツナがもう大丈夫と思ったのもあるが、桂が必死に守り自身に預けたサクラを危険にさらすことは出来ないのだ。

 

「毛糸の手袋ー!?」

 

 リボーンに言われツナが手袋をつけている間、ディーノはもう1度時間稼ぎするために動こうとしたが止まる。

 

「ふむ。なかなかのセンスだね」

「お、おまえ……」

 

 驚きもあって止まったのもあるが、ディーノはいつの間にか隣に居る人物を見て何ともいえない気持ちになったのだ。元気なことは良いのだが、先程までの自身の中での怒りはなんだったのかと――。

 

 しかし、その人物はディーノの気持ちに気付かず、骸を殴っていた。

 

「もうサクラを利用しようと考えないでくれ! それと確かに僕は目的のためには手段を選ばない人間だが、周りに助けを求めないほど愚かではない!! 後、少し痛かったじゃないか!」

「えー!? 桂さん、もう起き上がれるのー!?」

「当然だとも! でも後は君に任せた!」

「えええ!? あれ? 何か手袋に――」

「サクラァー!」

 

 特殊弾があったといいたかったツナだったが、一発殴ったことで気が済んだらしい桂の声にかき消されてしまったのだ。ツナが横目で確認すれば、桂はもうディーノからサクラを受け取り、抱きしめていた。もしサクラが起きていれば、新アイテム披露の空気を壊すなとツッコミを入れていただろう。

 

 この微妙な空気の中、リボーンは特殊弾を受け取り、ツナを撃ったのだった。

 

 そして、特殊弾を撃たれたツナは聞いた。「すまない、サクラ。……沢田君、君に任せたよ」という悔しそうな桂の声を――。ツナは知る、桂は骸を一発殴っただけでは気が済むわけがなかったことに――。

 

 考えればすぐわかることだった。桂はサクラのことをあれほど大事にしていたのだ。そのサクラが理不尽に傷つけられれば、許せるはずがないのだ。それでもサクラの安全を優先した桂の気持ちをツナは受け取ったのだった。

 

 次に聞こえたのはサクラの声で「許してくれ」という一言だった。ただの中学生のサクラにとって、原作通りに進まないことは相当のストレスだったのだ。自身が間違えればツナ達が死ぬかもしれないという極限状態で骸と契約をしてしまい、気を失ってる中でもツナに謝っていたのだった。しかし、ツナは骸にのっとられたことについて謝ってると思い、サクラが謝っている全ての意味には気付かなかった。

 

 全ての意味に気付かなかったことをツナが後悔するのはもう少し先のことである――。

 

 

 

 

 

 

 ツナの様子が変わったことを確認した桂は行動を起こす。桂がツナに任せたのはサクラを守ることを優先する以外の意味もあったのだ。

 

「――死ぬ気の炎」

 

 ツナを見守ることに決めたディーノが桂の手を見て呟いた。

 

「彼らに出会うまでは僕はずっと変なものと思っていたよ」

「……そうか」

 

 桂はサクラの折れた腕に炎を灯した手を近づける。すると、腕の腫れが徐々に引いていく。

 

「傷が治せるのか!?」

「僕自身を治すのと比べると時間と炎の量が倍以上増えてしまうんだ。それに……体力は戻せない」

 

 ディーノは納得した。素手で鋼球を受け止けたり、先程の火柱の攻撃もその力で治したのだろうと――。さらにケイタイを取り戻すために3対1で戦ったにも関わらず、怪我をした様子がなかったのもすぐに回復できれば説明できる。化け物と呼ばれた意味も――。

 

 恐ろしい男だ。

 

 ディーノは素直にそう感じた。

 

 どのマフィアも桂をほしがるだろう。スペックの高さだけでも目を見張るレベルにも関わらず、怪我をしてもすぐに治るのだ。今まで目をつけられず、兵器として生きていないことが奇跡なのだ。

 

 桂がこの力に満足していないのも大きい。桂はサクラをすぐに治せなければ意味がないと思っている。まだまだ成長できる。

 

 満足していないのは桂の言動から見て、後悔したことがあったのだろう。それは恐らくサクラの事故だとディーノは予測した。

 

 サクラへの執着が加速するほどの事故が起きたにも関わらず、怪我の痕が見当たらなかった。見えない位置だった可能性もあるが、事故のことを話した時に、サクラが気にする素振りを全く見せなかったことにディーノは違和感を覚えていたのだ。

 

 桂は力をつかってサクラを治した。が、サクラの意識は戻らなかったのだろう。……力を隠すのは当然と思った。桂からすれば、もし自身の力のせいでサクラが狙われてしまえば、取り返しのつかないことになる。事故で力は万能ではないと気付いたのだから――。

 

 サクラの事故は桂が初めて自身の力で思い通りにいかなかったことかもしれない。これほどの力があれば必ず慢心する。気付かせたのはサクラだ。だから――大切な存在になった。

 

 どれだけ努力したのかはわからない。ただ、サクラがこれまで平和に生きていたのは桂が隠してきたからだろう。尊敬を込めて、ディーノは桂が恐ろしい男だと思ったのだった。

 

「困ったときは声をかけてくれ。力になるぜ」

 

 サクラを治療している時に声をかけたのはディーノの優しさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サクラの治療が終わったころ、ツナと骸の決着がつき、復讐者が現れたのだった。

 

「独りは寂しい、か……」

 

 ディーノはサクラがこうなることを知っていたため、柿本千種を連れてきたことに気付く。ディーノは彼らがしたことは許されることじゃないとわかっているが、なんとかしたいと思った。しかし、相手が悪い。復讐者に逆らうのはファミリーのボスとして許されない判断なのだ。

 

「サクラ!?」

 

 桂の声が響く。顔色は良くないが、サクラが目を覚ましのだ。そのことに桂の次に反応を示したのは復讐者だった。

 

「オマエハ、ナニヲシッテイル」

 

 即座にディーノとリボーンは構える。骸達のことに手は出せない。が、サクラは何もしていないのだ。復讐者でも、もしもの時は手を出す覚悟をした。桂は復讐者が急に現れた力を警戒し、サクラを抱きしめる力を強め、ツナは状況がわからずサクラと復讐者を交互に見ていた。

 

「……私の目的……は……君達と……似ている……」

 

 意識が朦朧する中で、サクラは必死に言葉を選んだ。そして、力尽きたように眠ったのだった。

 

「…………」

 

 復讐者は何も言わず、骸たちを連れて行き帰っていった。が、彼らが消えたとしても安堵する者はいなかった。

 

 

 

 こうして事件はサクラの未来に不安を感じる形で幕を閉じたのだった――。

 




……事故のことをしつこく書いたので、伏線とばれたかもしれませんね。
後日談が2話ありますが、一応これで黒曜編は終わりです。
ちなみに、もし獄寺君ルートだった場合は前々回のあの話からルート突入しましたw

ここからは桂さんの能力説明。

能力:超高速自己修復能力
リングがなくとも手に灯せるほどの晴の活性の炎が体内に流れているため、すぐに怪我が治せる。
回復ではなく修復能力といえるぐらい、怪我だけではなく病気にも強い。(ウイルスにも勝つほどの自然治癒力を活性することができる)
ただし、治療用匣兵器と比べると他人の治療には向かない。元々の自然治癒力が強い桂だからこそのスピードであるため。


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それぞれの思い 3

 寝ぼけながら起き上がると、兄が私の名前を呼んでいた。なぜ兄が黒曜に?と疑問に思ったが、見渡せば病院のようだったので納得する。私が生きているということは大丈夫だったのだろう。沢田綱吉が成長したのかはわからないが。兄に聞いてもわかるわけがないので今は保留にする。

 

 とりあえず、私はもう1度寝転び「ハッ!」という感じで起きてみた。

 

「……サクラ。僕でもこの状況でそれはしないよ……」

「ごめん、お兄ちゃん」

 

 ちょっとやってみたかっただけなので素直に謝る。

 

「今日、何日?」

「10日だよ」

 

 時計の針は12時を指していて明るい。つまり私はほぼ1日眠っていたようだ。兄が心配するのも頷ける。

 

「サクラが目を覚ましたと伝えてくるよ」

「ん、ありがと」

 

 兄が両親に連絡しにいったが、どう説明するべきか悩む。

 

「大丈夫か?」

 

 いつの間にかリボーンが目の前にいた。口裏を合わせるために来てくれたのだろう。流石である。「問題ない」と返事をし、話を進める。急がないと兄が帰ってきてしまうのだ。

 

「サクラはツナ達が襲われたのを見て、気を失ったことになってるぞ」

 

 身体を動かしても違和感がないので、怪我はないのだろう。そのため、気を失ったという誤魔化し方になったようだ。

 

「助かる。……彼らは?」

「山本と獄寺は気を失っただけだからな。もう元気だぞ。ディーノは手の怪我だけだ。雲雀は怪我をしてねーから、そのまま行っちまった。ただ、ツナがな……」

 

 リボーンが暗い表情をしたので身構える。が、リボーンは冗談が好きだったことを思い出す。

 

「筋肉痛で動けないのか?」

「もうわかっちまったのか」

「もっと沢田綱吉が深刻な状態であれば、リボーンだけで来ないだろ」

 

 必ずお人よしのディーノも来る。妙な確信を持ってしまった。

 

「骸達は連れて行かれたのか?」

「……ああ」

 

 原作通りに進まなかったが、結末は同じになったようだ。後は六道骸の判断に任せよう。助言はしたしな。

 

 しかし、私ものっとられたはずなのに怪我がないとは……。念には念をということでディーノに教えて正解だったな。自画自賛したいぐらいだ。そう思うとやはりディーノに怒られたのは理不尽である。後で何か強請ろう。

 

「全く覚えてねーのか?」

 

 のっとられた時のことを言ってるのだろう。さっぱりなので頷く。少し間をあけて「そうか」とリボーンは返事をした。その間が気になったが、考えるのはやめた。私の口から変な笑い声が出た話など聞きたくはないのだ。

 

「リボーン、特殊弾は小言弾だったか?」

「ああ」

 

 沢田綱吉が筋肉痛ということだったので大丈夫だと思っていたが、つい聞いてしまった。とりあえず、終わりよければ全てよしと思うことにしよう。

 

 自身でよくやったと自画自賛しているとノックの音が響いた。ノックがしたということは兄ではないようだ。「問題ない」と返事する。

 

「神崎、大丈夫か?」

「……よぉ」

 

 山本武と獄寺隼人だった。若干、獄寺隼人が気まずそうに見える。もしかするとあの時にダイナマイトを投げたことを気にしているのかもしれない。

 

「大丈夫。後、気にするな」

「べ、別に気になんてして!! ……悪かった――」

 

 かなり小さな声だったが、聞こえた。

 

「負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる」

「あれは負けたとかじゃねー!!」

 

 少し違ったか。私は調子が悪いらしい。病み上がりのせいだろう。γと戦った時にもう1度言おう。それにしても、獄寺隼人のツッコミレベルがあがった気がする。少し右腕に近づいたな。

 

「ハハッ。お前ら仲いいのな!」

「野球バカもかよ……」

 

 もう獄寺隼人は疲れていた。まだまだ右腕の道のりは厳しいようだ。まだまだだね。

 

「おや? 何やら楽しそうだね」

「バカが増えやがった……。ここにはバカしかいねーのかよ」

 

 獄寺隼人ちょっと待て。私を兄と同類にするな。

 

「サクラ、一体なにを話してたんだい? 僕も混ぜてくれ」

「彼のツッコミレベルをあげようとしたけど、もう疲れたらしい」

 

 私が説明すると獄寺隼人が暴れようとしていた。山本武、そのまま頑張って抑えてくれ。

 

「なるほど、状況はわかった。ならば、僕からも獄寺君に一言を言おうではないか。――まだまだだね!」

 

 獄寺隼人が完全にキレたようだが、私はそれどころではない。兄と同レベルというショックで寝込みたい。……もう寝てしまおうか。

 

「おめーら、サクラの見舞いに来たのか、邪魔しに来たのかどっちなんだ?」

 

 流石、リボーンである。たった一言で彼らを黙らせ反省させた。そう考えると、兄はたった一言で賑やかにさせたので凄いのだろう。主に残念な方向で。

 

「わりぃ、神崎」

「君が謝る必要はないと思う」

 

 巻き込まれた山本武に謝られたので、そう返せば兄と獄寺隼人が持ち直した。君達はもう少し反省しろ。しかし、相手をするのも面倒になってきたので、寝ることにする。

 

「また寝る。後で彼のところに見舞いに行く」

「わかったぞ」

 

 気を遣ってくれたようで、兄以外は出て行ったようだ。肝心な人物が動こうとしないので溜息が出る。

 

「お兄ちゃん」

「なんだい?」

「家に帰って寝なさい」

 

 子どもにいうように言い聞かせれば、兄は渋々頷いた。

 

「心配かけてごめん。ずっと、そばについてくれてありがとう」

 

 布団に潜りながら帰ろうとする兄に言った。兄が息を呑むような音が聞こえたので、さらに恥ずかしくなる。さっさと帰ってくれ。

 

「――サクラが気にする必要はないのだよ」

 

 兄の優しい声を聞きながら、再び私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目が覚めるとディーノが居た。私が目を覚ました時に会えなかったため、起きるのを待っていたのだろう。彼も獄寺隼人と同じでいろいろ責任を感じている気がするからな。

 

「眠ってる姿を見るとは変態だな」

「変態じゃねぇ――こともないのか……。すまん」

 

 冗談をいい、空気をかえようとしたのだが失敗したようだ。彼の中で子どもといっても異性の眠ってる姿を見るのはダメだったらしい。

 

「私が知ってる未来より、怪我が少ない。君は多くなってしまったが」

「オレのことはいいんだ。お前を守る約束を果たせなかった……。すまん!」

 

 謝られると困ったものである。私は怪我がなく、骸と話せる機会が得れたので気にはしていないのだが。

 

 少し悩み、口を開く。

 

「ケーキ食べ放題」

「は?」

「ホテルのケーキ食べ放題で手をうってもいい」

「……なんだよ、それは……」

「交渉」

「――もっといいもんおごってやる」

 

 ディーノの言葉にガッツポーズする。原作に出てきた高級ホテルでケーキを作ってもらおう。ただし、テイクアウトだな。あの場所で食べれば、私は緊張して味がわからなくなる自信がある。

 

「あ。そうだった」

 

 浮かれて忘れていたことを思い出す。ディーノが「なんだ?」と聞いてきたので、少し考え言い放つ。

 

「今回はうまくいっただけかもしれないし、次は君達に言われても話さないぞ」

「……それはオレが――」

「君のせいじゃない。それにもう手遅れなんだ」

 

 ディーノが今からイタリアに戻ってからでは遅い。沢田家光に連絡をとれば防げる可能性もあるかもしれないが、その場しのぎなだけで必ずどこかでXANXUSは暴れる。もう実子じゃないことを知ってるからな。私の言葉だけでずっと独立部隊のヴァリアーを抑えることが出来るとも思えない。それならば、原作通りに進ませて助言をしたほうがいい。

 

「お前は……大丈夫なのかよ……」

「次は私に被害が来る可能性が低い」

 

 リング争奪戦で決着がつかなければ、沢田綱吉の周りの人物を殺すことは出来ないはずだ。下手に手を出すとXANXUSを失脚させるいいネタになるからな。

 

「そういうことじゃねぇ。お前の心が心配なんだ……」

 

 少し話がかみ合ってなかったようだ。

 

「また私は選択するからな。罪悪感はある。次は――君に恨まれるかもな」

 

 確か、9代目とディーノは仲が良かったはずだ。助言はするつもりだが、今回のように私の知らない間にズレが起き、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

「何度いえばいいんだ。オレは――誰もお前を責めたりはしねーから安心しろ」

「もし獄寺隼人に知られれば責められる自信はあるぞ」

「……その時はオレとリボーンが守る」

 

 ディーノも獄寺隼人の認識は私と同じだったらしい。慌てて返事する姿に笑えば、ディーノがガシガシと私の頭を撫でてくる。心配ばっかりかけてる気がするので、文句は言わなかった。

 

「困ったときはまた頼んでいいか?」

「――もちろんだ」

 

 ディーノが私の目をみて返事をしたので、安心した。今回のことで責任を感じられる方が私は疲れるのだ。

 

「桂とは会ったのか?」

「少しだけど。何かあったのか?」

「……いつも通りだったか?」

「私にはいつも通りに見えたけど、眠ってなさそうな気がしたから寝ろと言った」

「そうか……」

 

 返事をしたと思えば、また私の頭をガシガシと撫でてきた。ディーノは兄がずっと眠ってなかったことを知っていたのだろう。つまりこれは褒められているようだ。

 

「ディーノ」

「なんだ?」

「難しいかもしれないけど、もうお兄ちゃんには心配かけたくない」

「それは――」

「もちろん両親にもかけたくはない。だから、もっと君に迷惑をかけることになるかもしれない」

「――迷惑だなんて思ってねーよ。オレがしたいんだ。だから困った時は頼ってくれよ?」

「ん。わかった」

 

 次はもっとうまく動かないといけない。彼とは接触しとくべきなのか……。考えに没頭しそうになった時、また頭をガシガシと撫でられる。今度はなんだと思い、ディーノを見る。

 

「今は休め。なっ?」

 

 兄にしたことをディーノにされてしまった。兄弟そろってバカなようだ。

 

「……おやすみ」

「ああ。おやすみ」

 

 ディーノが部屋から出て行ったので、私は眠ることにした。

 




次の話は三人称と一人称が混ざります。


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それぞれの思い 4

 黒曜の事件が落ち着いたため、ディーノはイタリアに戻ってきていたが、浮かない顔をしている。その様子をみたロマーリオが心配し声をかけることにした。

 

「ボス」

「ロマーリオか……」

 

 ロマーリオの顔を見ても浮かない顔をするディーノ。今でもディーノは黒曜事件のことを反省している。なぜなら、桂の能力のおかげでサクラは怪我が治っただけなのだ。自身を頼ったサクラを守れなかった事実をなかったことにはできない。

 

 さらに桂の手助けも出来なかった。サクラが桂を巻き込みたくないと相談された時に、桂は頼ってほしいと思ってると話そうしたが言えなかった。もう巻き込んでることをしれば、サクラが苦しむ気がしたからだ。そして、桂はサクラが何も覚えていないことを理由に話さないと決めた。知らない方が安全という理由で……。

 

 ディーノは不器用な2人に何も出来なかったと落ち込んでいたのだった。

 

「落ち込むなというのは無理があるかもしれねぇが、お嬢さんは無事で本人も気にしてないんだ。ボスが気にすれば、お嬢さんが気に病むことになる」

「……わかってはいるんだ。だけどよ――」

 

 ディーノは理解しているが、感情が追いついていないのだ。ボスといってもディーノはまだ若い、ロマーリオは導き、時には見守るのが自身の役目だと思っている。そして、今回は導くことを選んだ。

 

「ボス、次に取り返せばいいんだ。また頼むと言われてるんだろ?」

「……そうだな。その時のために鍛えることにするぜ」

「ああ。オレも――オレ達も付き合うぜ」

 

 ロマーリオの返事を聞き、ディーノは顔をあげた。そして、心配をかけていたのはロマーリオだけじゃなかったことを知る。

 

「お前ら……。行くぜ!」

 

 その時のために、ディーノ達は修行に適した場所に出かけたのだった。

 

 

―――――――――――――――――

 

 一方、サクラはディーノ達のことなどを全く気にする様子もなく、事件が落ち着いたのでツナの家に訪れていた。

 

 ツナは上機嫌でサクラを家にむかえる。今日は珍しくサクラからツナの家に行きたいと言ったのだ。ツナはサクラを巻き込んでしまったことに後悔し、明日からの学校をどうすればいいか悩んでいた。そのため、ツナは退院する時にサクラに声をかけられ、喜んで承諾していたのだ。

 

「神崎さん! あがって、あがって!!」

「ん。これ、兄が作ったケーキ」

「え? 本当に!? ありがとう!」

 

 サクラは兄に強請り作らせたケーキをツナに預け、見かけたランボとイーピンとフゥ太に「君たちの分もある」といいながら飴を渡す。そんないつも通りのサクラの様子に再びツナは安堵したのだった。

 

 

 

 ツナはサクラとチビ達が遊んでる様子を眺めていると、リボーンがいつの間にか隣に居たため身構える。気配を消しながら近付いてきたため、ロクなことではない気がしたのだ。

 

「サクラのことが気になるのか?」

 

 ツナは拍子抜けする。もっと恐ろしいことを言われると思っていたのだ。しかし、なんとなくリボーンが気配を消して近付いた意味に気付く。サクラに聞かれたくない話だと――。

 

 ツナは事件があった時はいっぱいいっぱいで気付かなかったが、よく考えるとサクラの行動はどこか変だった。そういう意味を含めツナはリボーンに「気になるよ。友達だし」と正直に答えた。

 

「聞かないのか?」

「聞きたいような、聞かない方がいいような……うーん……」

 

 ツナは優柔不断だった。しかし、ふと何か思いついたようにリボーンに目を向ける。

 

「お前はなんとなく知ってるんだろ? ディーノさんも何か知ってそうだし……。オレはリボーンとディーノさんの判断に任せるよ。もちろん、神崎さんが話すって決めたなら聞くよ。友達だから」

「……そうか」

 

 ツナの答えは他人任せのようだが、サクラの心を優先させていたためリボーンは何も言わなかった。何より、ツナの答えはリボーンの機嫌を良くさせるには十分だった。悲しそうにサクラとの関係を曖昧に言っていたツナが何度も「友達」と言ったのだ。ツナがサクラのことを受け止めれる日は近い。成長していく姿を見れるのは家庭教師のリボーンからすれば、嬉しくないはずがないのだ。

 

「ビシビシ鍛えるからな。覚悟しろよ」

「なんでそうなるんだよ!?」

 

 ツナは上機嫌なリボーンの言葉に項垂れたのだった。

 

 そこに2人の会話が聞こえたサクラがやってきたので、ツナは少し浮上したが叩き落される。

 

「今から腕立て伏せをするだけでも効果はある」

「確かにな。ツナ、やれ」

「えーー!? ――いってー!!」

 

 文句を言った途端、ツナはリボーンに蹴られる。サクラに助けを求めようとしたが、腕立て伏せの話題を出したサクラが手助けするわけもなく「君なら出来る」と応援されてしまい、諦めて腕立て伏せを始めるツナだった。

 

 

 

 ツナがヘトヘトになった頃、またチビ達と遊んでいたサクラが戻ってきたのを見て、少し気持ちが浮上する。しかし、疲れた自身を労わってくれるのではなく、ツナに頼み事あるため戻ってきたようで密かに落ち込む。それでもサクラからの頼み事だと思い真剣に聞けば、頼み事というほどの内容ではなかった。

 

「写真? オレの部屋で?」

「そう」

「それぐらいなら別にかまわないけど……」

「ありがと。後、君が写ってくれると嬉しい」

「う、うん?」

 

 ツナはサクラに言われるままベッドの前に移動すれば、パシャっという音が部屋に響いた。

 

「ええ!? もう撮ったの!?」

「ん。日常っぽいのがほしかっただけだし」

「そ、そうなんだ……」

 

 サクラは1枚だけで問題なかったらしく上機嫌だった。ツナはその姿を見て、神崎さんってどこか変だよな、と再確認したのだった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 家に帰りながら思う。本当にあれはレアだった。なぜなら、この前に部屋を片付けを手伝った時にはあのカレンダーはなかったのだ。この時期にしか見れないのだろう。

 

 レアというのは恐ろしい。見れただけで喜んでいたのだが、つい写真まで撮ってしまった。少し沢田綱吉に疑問にもたれてしまったが、今回はしょうがないと言い聞かせる。レアだからな。

 

 

 上機嫌で歩いていると、曲がり角で人と衝突しかけた。誰だと思ってみると、持田剣介だった。衝突しかけただけなのに、少しビクビクしているようだ。そういえば、彼は沢田綱吉に髪の毛を抜かれ、今回の事件で歯を抜かれるという不幸の連続だったな。

 

「沢田綱吉」

 

 ボソッと呟けば、キョロキョロとあたりを見渡し始めた。かなりの重症のようだ。不憫すぎるので助言する。

 

「――と、関わりたくなければ――」

 

 驚いて私を見ている気がするが、そのまま続ける。

 

「『クフフフ』と笑えば、沢田綱吉から逃げていくかも」

「……クフフ?」

「そう。カリスマ性を溢れさせた感じで」

「クフフフ」

「おお」

 

 つい声を上げて喜んでしまった。これは助言ではなく、私の好奇心だったようだ。喜びすぎて大事なことを伝え忘れそうだったしな。

 

「彼の前でしばらくの間は有効。だけど、雲雀恭――」

 

 最後までは言えなかった。もう遅かったらしい。

 

「ドンマイ」

 

 イラついてる雲雀恭弥に向かって言ったのか、不運な持田剣介に言ったのかはわからないが、言いたくなった。

 

「……何してたの?」

 

 過去形で聞かれた。あれから会っていなかったが、すぐに咬み殺さないところをみると彼の中で私の話を聞くのは悪くないことと判断したのだろう。

 

「ちょっとした出来心で」

 

 いかにもバカな犯人が言いそうなことを言えば、雲雀恭弥は溜息を吐いていた。彼は私をバカと思っているようだ。失礼である。今のはボケたのだ。

 

「……怪我はもういいの?」

「――頭、大丈夫か?」

 

 私の発言に雲雀恭弥は怒ったようだ。苛立ちながら去ろうとしてる。

 

「怪我はないから」

 

 私に背を向けて歩き出した雲雀恭弥に向かって叫んだ。一瞬、私の声に反応したようだが、彼はそのまま振り返りもせずに去っていった。

 

「悪いことをしたか……」

 

 少し反省する。流石に「頭、大丈夫か?」はひどい。咬み殺されずにすんだのが奇跡だと思う。

 

 しかし、雲雀恭弥が私を心配するような発言をするとは……。かなり驚いてしまったが、彼なりに思うことがあったのだろう。

 

 彼は私を睨んでる途中から意識がなくなったはずだ。そして、意識が戻れば閉じ込められいれば、何があったのか想像がついてしまったのだろう。

 

 恐らく彼は私を咬み殺しても罪悪感はない。が、のっとられた状況で私を咬み殺すのは嫌なのだ。……私からすれば、たいして変わらないのだが。

 

「サークラー!」

 

 後ろから聞こえたと思い、振り返れば溜息が出てしまった。兄が手を振りながら駆け寄ってくる姿が見えたのだ。恐らく私を迎えに来たのだろう。

 

「サクラ、まだ退院してから日がたってないんだ。疲れただろう? 僕が抱っこしてあげるよ!」

「歩けるから」

「無理はしてはいけないよ! さぁ、僕に任せたまえ!」

「恥ずかしい」

「堂々とすればいいのさ! 僕らの愛を見せ付けることが出来るのだから!」

 

 兄を説得する方が疲れると思いながら、嫌なので説得する。面倒だったが、なぜか日常に戻った気がした。

 




これで黒曜編が完結です。
また書き溜めに入ります。予定では2月下旬からVSヴァリアー編をします。
気長にお待ちください。

レアのヒントは13巻にあります。


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VSヴァリアー編
逃亡


お待たせしましたー。
本日よりVSヴァリアー編を開始します!
目標は2、3日に1話の予定ですが、スットクは6話しかありません。
かなり厳しいので、遅いときは4日ほど待ってもらうことになるでしょう。
出来るだけ頑張りますので、許してくださいw

今回もガッツリ一人称と三人称が混ざります。
黒曜編より読みにくいかなーと思ってます。
もちろん駄文です。

それでも読むという方はよろしくお願いします!


 電話を切り、重い腰をあげる。心の準備はしていたが、少し億劫なのだ。しかし、行かないという選択は私の中ではもう残されてはいない。そのためお母さんに出かけると声をかけ、待ち合わせの場所に向かった。

 

 待ち合わせに向かう途中に、少し悩んだが電話をかけた。もしかすると向こうが出れない状況かもしれないと思ったが、問題なさそうだった。相手は相変わらずのお人よしのようで、私に気を遣い、いつも通りの声である。

 

『よっ。珍しいな、お前から連絡するのは……どうかしたのか?』

「同盟の君が来ないとヤバイ状況になる。君と一緒に来た人物はまだ手が出せないんだろ?」

 

 何度も同じ失敗をディーノが繰り返すとは思わなかったが、念のために真っ直ぐ沢田綱吉のところへ行けと助言する。

 

『……わかった。ツナ達と一緒なのか?』

「今から合流する。もしもの時は引き伸ばす努力は――」

『――ちょっと待て! すぐにオレが行くからお前は手を出すな!』

 

 最後まで話を聞け。努力はするが、期待するなと私は言いたかったんだ。それに最悪の場合、私はリボーンを盾にする気だったしな。しかし、ディーノが原作より早く来れそうなので、良しとしよう。

 

「ん、わかった」

『ぜってぇ無茶するなよ!』

 

 そういって、ディーノは電話を切った。全く、私が無茶するわけないだろう。ディーノは一体何を勘違いしてるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉達と合流するとランボに飴をせがまれる。いつものようにポケットから取り出し渡すと、ランボが我侭を言い出した。

 

「オレッち、そっちがいいもんね!」

 

 今日は普段私が食べている『ふしぎなアメ』以外の種類を用意していたため、珍しい飴がほしくなったようだ。少し悩んだが、ランボに渡す。ランボは嬉しそうに食べ始めたが、しばらくすると泣きそうな顔になっていた。

 

「ラ、ランボ!?」

 

 やはり沢田綱吉はランボの保育係のようだ。ランボの異変にすぐに気付いたからな。

 

「いつもの飴をあげるから、それをここに出せ」

 

 ランボにティッシュを渡し、今まで食べていた飴を吐き出させて新しい飴を渡した。何味を食べさせたのか、気になったようで沢田綱吉が聞いてきた。

 

「普通のレモンだけど、のど飴」

「それでランボは食べられなかったんだ」

「ん。のど飴は子どもの舌には刺激が強いからな。こうなると思った」

「なんで食べさせたの……?」

「経験させた方が早い」

 

 沢田綱吉が「え」と呟いた声は聞かなかったことにする。それにどちらかというと感謝してほしいぐらいだぞ。今、ペットショップを通り過ぎたからな。下着のくだりは自身で回避してくれ。私はリボーンに用事があるのだ。

 

 沢田綱吉を見捨てて、山本武のところにいく。リボーンは山本武の肩の上に乗ってるからな。

 

「神崎も勝負しようぜ!」

「……次の機会で」

 

 私の顔を見ていきなり話題をふるな。普通は話の内容がわからないぞ。知識でゲーセンで勝負すると知っているからいいものの……。まぁどう答えても勝負は出来ないが。

 

「リボーン、コーヒー飲まないか?」

「ちょうど飲みてーところだぞ」

 

 店を指しながら言えば、リボーンはすぐさま山本武の肩を降り、私の足元に来た。恐らく、話があるとわかったのだろう。

 

 念のため、本当にコーヒーとココアを頼む。もちろんエスプレッソコーヒーである。ちなみに注文はしたが、リボーンが好きというのを知ってるだけで、私はエスプレッソコーヒーが普通のコーヒーと何が違うのかは知らない。

 

「あれから腕立て伏せを続けてるのか?」

「……続けてはいるが、小言弾は使えねぇな」

 

 予想通りの答えなので、特に気にはならなかった。切羽詰る状態でなければ、死ぬ気弾を使っての特訓が出来ないからな。

 

「レオンに頼んで、死ぬ気弾を作り始めた方がいい」

「問題ねぇぞ。大量に作ってくれてるからな」

 

 リボーンは原作より用意周到のようだ。恐らく今までの私の言動のおかげ?だろう。

 

「京子達に危険が及ぶのか?」

「……ギリギリまで待ってほしい。私は彼女に言ってほしいんだ」

 

 笹川京子が沢田綱吉の隣に座る姿を見ながら言った。私が彼女の言葉を言ってもいいが、嬉しさが何倍も違うからな。

 

「ツナはサクラの言葉でも喜ぶぞ」

 

 リボーンの気遣いに苦笑いしていると、大きな音が響いてきた。

 

「もう時間切れか。後は頼んだ」

「ああ」

 

 リボーンが走ってる姿を見て状況を確認する。私は沢田綱吉達から少し離れた位置に居るし、原作でもこの建物の近くには来なかったので、動かないことにした。

 

 遠くから見てると沢田綱吉がバジルに踏み潰されていた。相変わらず不憫である。そして、派手な登場をしたスクアーロを見て、のど飴を渡すタイミングがないかと真剣に考えそうになった。

 

 リボーンが彼女達の誘導を始めた時に、私の方を見たので、さっさと行けという意味で手を振った。

 

 

 

 

 

 

 2人がやられ、沢田綱吉が死ぬ気になった姿を見て、知識通りに進んでるとココアを飲みながら感心していれば肩に手を置かれた。驚きながら振り返る。

 

「もう少し、安全な、ところに、いろよ……」

 

 息を切らしたディーノだった。まだ死ぬ気がとける前だったため、かなり急いで来たことがわかった。しかし、急に肩に手を置くのは止めてくれ。もう少しでココアをこぼすところだったぞ。

 

「急がないとあっちがやばい。でも彼が持ってる偽物のリングは持って行かせた方がいい」

 

 今の間に沢田綱吉の死ぬ気が解けてしまったからな。ディーノは私の難しい注文に文句も言わず、向こうへいった。が、私のためにロマーリオを残してくれたようだ。他の部下はディーノと一緒に行ったので大丈夫だろう。

 

「怪我はしてねぇか?」

「大丈夫。それに、ここは安全なはず」

「……そうか」

 

 ロマーリオとは特に会話することはなかったが、私の心配をしてくれていたようだ。

 

 

 

 しばらくすると、ディーノがうまくやったようで、スクアーロが去って行った。私にはよく見えなかったが。なぜなら、ロマーリオがスクアーロから見えないように移動したため、私からも見えなくなってしまったのである。少し見たい気持ちもあったが、私への気遣いに感謝した。

 

 全て終わったと思ったので、山本武と獄寺隼人に近付く。

 

「10代目は!?」

「大丈夫。ディーノが間に合った」

 

 何も言い返さなくなった2人へ、救急セットが入ってるポーチを置く。

 

「……わりー」

 

 これ以上は声をかけない方がいいと思ったが、山本武に謝られたので「気にするな」と返事をした。私が伝えたせいで原作より早く悔しい思いをしてしまったな。

 

「……君達の無事な姿を見れば、彼は喜ぶ」

 

 リボーンに足手まといと言われることになるが、お互いに大丈夫な姿を見せた方がいいと判断したのだ。

 

 2人を見送った後、ロマーリオに「もうボスのところに戻っていい」と声をかける。

 

「お嬢さんはどうするんだ?」

「私は特殊だろ? 門外顧問と会った方がいいと思って」

「行くならボスと一緒の方がいい。詳しく話してねーんだ」

 

 ロマーリオの言葉に首をひねる。

 

「リボーンさんの判断で、お嬢さんのことはボンゴレにも報告してないんだ」

「……悪いな」

「オレたちは好きでやってんだ。お嬢さんが気にすることじゃねーぜ」

 

 私が謝った意味をロマーリオは理解しているようだ。リボーンがそう判断でしたことで、恐らくディーノ達はかなり気を遣って調べたり行動をしたはずだからな。

 

 結局、私は病院について行くことにした。ディーノはこれから雲雀恭弥の相手で忙しくなるからな。

 

 

 

 

 当たり前のように病室で本を読んでいると沢田綱吉に「どうしてここにいんのー!?」とツッコミされた。

 

「成り行き」

「そ、そうなんだ……」

 

 沢田綱吉が納得したようなので本の続きを読むことにする。

 

 私が居たとしても話す内容は原作と同じ内容だろうと思い、本に没頭していると腕を掴まれた。一体なんだと思い顔をあげると沢田綱吉だった。

 

「家に帰って補習の勉強しなきゃ!! ね、神崎さん!!」

「私は補習を受けていないのだが――」

「――か、帰ろう!!」

 

 ちょっと待て、なぜ私と一緒に帰ろうとするのだ。よくわからないが、あまりにも沢田綱吉が必死だったので、流されるように帰ってしまった。

 

 

 

――――――――――――――

 

 残されたディーノは唖然としていた。サクラに詳しく話を聞くつもりが、まさかツナと一緒に帰るとは思わなかったのだ。

 

「……バジルは囮だったんだな……」

 

 リボーンの声で我に返り、バジルも知らなかっただろうということや相当なキツイ判断ということを伝えた。そして、ディーノが知っているもう1つの情報も伝える。

 

「それにあいつもだ。『偽者のリングは持って行かせた方がいい』そう言った」

「……そうか」

 

 リボーンもある程度は予想していたが、バジルは囮ということまで知っているとは思っていなかった。

 

 2人は考える。どれだけサクラには辛い選択だったのだろうか――……と。

 

 サクラはディーノにわざわざ言ったのだ。恐らく偽者のリングを持っていかせなければ、ツナ達に不利なことが起きたのだろう。そのためにはバジルが傷つくことに目をつぶらなければならない。

 

「ツナはわかっててやったのか……。そうじゃねーのか……」

「さぁな。オレにもわかんねーぞ」

 

 ツナには何かを感じて一緒に逃げたのか。それとも単に一緒に逃げる仲間がほしかったのか。答えはわからなかったが、2人は前者の理由でツナがサクラを連れて行ったことを願ったのだった――。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 気になることがあり、スクアーロは走りながら考えていた。もちろん警戒は解かずに。

 

 短い時間だったが、スクアーロは跳ね馬の部下が自身から誰かを守るように行動していたことに気付いたのだ。そして、その部下がディーノが1番信頼している部下だったのも気になる要因の1つだった。

 

 普通ならば、あの場面で優先するのはボス候補のツナである。もちろんボス候補の友人という意味で護衛したという可能性は否定できない。が、わざわざ1番信頼する部下をつけ、あの場から離れさせようとしなかった説明がつかない。スクアーロがひっかかるのは当然のことだった。

 

「ッチ」

 

 せめて顔を見るべきだったと舌打ちをする。今から戻っても立ち去った後だろう。何より、スクアーロはハーフボンゴレリングを、自身のボスであるXANXUSに届けなければならないのだ。

 

「何を企んでる、跳ね馬ぁ゛」

 

 声に出したが答えは返ってくることはなかった――。

 




こんな感じでVSヴァリー編はどうしても視点と場面がコロコロ変わります。
出来るだけ減らしましたが、これ以上は厳しかった……。


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門外顧問

 昨日は沢田綱吉と帰ってしまったせいで、今日の予定が詰まってしまった。少し面倒と思いながら、いつもより早めに家を出ることにすれば、兄に声をかけられた。

 

「珍しいね。日直なのかい?」

「違う。用事があるんだ」

「……僕も一緒に行ってもいいかい?」

 

 なぜ兄は学校に用事があるんだ?と思い、首をひねる。

 

「今日からしばらくの間、笹川君との走りこみは休みになったのだよ。ゆっくりしてもいいのだが、朝の空気は吸いたくてね」

 

 笹川了平はコロネロとの特訓があるからな。朝のランニングは中止になって暇になったのだろう。特に断る理由がなかったので、一緒に行くことにした。

 

 

 

 

「やはりサクラと歩くと空気がいつもより綺麗に感じるよ!」

 

 一緒だぞ。と心の中でツッコミをする。

 

「そういえば、今日のサクラの用事はなんだい?」

「……先生に頼んで用意してもらったものを取りにいく」

「ふむ。そうだったんだね! てっきり僕は――」

 

 言葉が続かなくなったため、兄を見ると頭を撫でられた。恐らく誤魔化そうとしたのだろう。残念ながら、続きを私が気になってしまったのでそれは不可能である。睨めば兄は観念したようだ。

 

「――僕はサクラの騎士だからね! サクラの歩く道を守るだけさ!」

「話、繋がってない」

 

 睨んでも兄は私に宣言したことで満足してしまったようだ。1人で勝手に完結するな。話を戻せなくなったが、兄の言葉が気になった。

 

「……兄には兄の歩く道があるんだ。私に合わせる必要はない」

 

 私に合わせてしまうと兄も危険な道へ進むことになる。もう私のせいで危険な道に入ってるかもしれないが、危険度が違いすぎるからな。

 

「僕は好きでサクラに合わせているんだ。だから――僕を巻き込んでいいのだよ」

「――ちょっと待て。私が何か仕出かすような言い方をするな」

「サクラは僕の妹なのだよ? ありえないとは言い切れないさ」

 

 納得したくはないが、言い返せない。不思議である。

 

「だから安心して僕を巻き込むがいい」

 

 巻き込むつもりは一切ないが、なぜか兄の言葉に私は頷いてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 早く学校に来たつもりが思ったより遅かったらしい。獄寺隼人がDrシャマルに修行を断られるところに遭遇してしまった。

 

「可愛い子ちゃーん」

 

 変態が駆け寄って来るのでハリセンをかまえる。が、いつの間にか頬にキスされていた。思いっきりハリセンで叩くことができたが、気は晴れない。とりあえず、キスされたところを袖で拭き、獄寺隼人の服にすりつける。

 

「なにすんだ!?」

「君の師なんだろ? あきらめろ」

 

 師がろくでもなく、弟子が後始末することはよくあることだ。これは受け入れるしかないことなのだ。

 

「オレはこいつの師匠じゃねーよ」

 

 起き上がったDrシャマルが言った。私に向かってなのか、獄寺隼人になのかはわからないが。しかし、獄寺隼人は自身に向かってと思ったようで「くそっ」と言いながら、去って行った。

 

「可愛い子ちゃんがこのタイミングで来たってことは……あれが必要なことになるのか……」

 

 Drシャマルは察したらしい。そして私は彼の反応を見て、準備ができてることがわかった。

 

「ん。取りにきたが、君が渡した方が不自然じゃないか……。それに安全そうだ」

「わかった。必要な時に声をかけてくれ」

「……1つだけもらってもいいか?」

「もちろんだ」

 

 1つもらったので、教室に戻ることにする。そろそろチャイムがなりそうだしな。歩き出したが、思ったことがあったので足を止める。

 

「最後まで責任を持てとは言わないが、教えたのは君だろ。それに彼はもう子どもじゃないんだ。言葉で理解できると思うけど?」

「……可愛い子ちゃんの頼みなら断れねーな」

 

 頭をかきながら、Drシャマルは獄寺隼人が歩いていった方向へ行った。また原作を壊してしまったが、いいだろう。怪我がなく気付ける方がいいからな。

 

 

 

 

 

 

 授業をうけながら考える。休憩時間にディーノのところに行きたいが、話せるだろうか。まぁディーノのことだ。私が咬み殺される前に助けてくれるだろう。

 

 ガラっと扉が開く音がした。誰か遅刻でもしていたのだろうと思ったが、周りの様子がおかしいので顔を上げる。……なぜここにいるのだ、雲雀恭弥。

 

「神崎サクラ、いる?」

 

 クラス全員の視線を感じるが、私はその視線よりも雲雀恭弥が私の名前を呼んだことの方に意識が向く。――録音したかった。

 

「着いてきなよ」

 

 目が合ったと思えば、ご指名されてしまった。しかし、私は彼に名指しで呼び出される理由に心当たりがない。それに原作では彼はディーノを咬み殺したがっていたはずだ。ここまで考えて、やっと私は答えがわかった。

 

「……彼と一緒に居たメガネをかけた髭のおじさんでも体質は改善される」

「ふぅん。ならいい」

 

 大当たりのようだ。私は1度彼に「ムチの方は体質のせいで、私が居ないと弱くなるんだ」と言ったことがあった。そのせいで彼は私がいないとディーノと楽しめないと思ったのだろう。……危ないところだったな。もう少しで何日も彼らに拘束されるところだった。

 

「あ。でも後で顔を出すぞ。彼に用事があるんだ」

「…………」

 

 何も言い返さずに雲雀恭弥は去っていった。少しの時間ならば、いいようだ。ラッキーである。ただ、この視線を何とかしてから去っていってほしいものだ。

 

「ゴホン!」

 

 わざと大きく咳払いをすれば、授業が再開した。そのおかげで大量の視線からは解放されたが、溜息が出るほど疲れてしまった。やはり雲雀恭弥と関わると碌なことがない。

 

 

 

 

 昼休みに屋上に行けば、2人は戦っていた。恐らくずっと戦っていたのだろう。私にはバカにしか見えない。

 

「悪い、恭弥」

 

 ディーノは私がいることに気付いたようで雲雀恭弥に謝りこっちに来た。雲雀恭弥は溜息を吐いているが、怒ってはないようだ。しかし、あまりに時間をとるのは危険と判断したので、さっさと用件を済ませることにする。

 

「ロマーリオに聞いた。門外顧問を会うのは君と一緒の方がいいと」

「……そうか。急いだほうがいいのか?」

「君の都合がつくのが、もう今日の放課後ぐらいしかない」

「まだ時間はあるはずじゃ……」

「確かにある。が、明日から君は寝る間を惜しんで、彼とずっと相手にすることになるからな」

「まじかよ……」

 

 ドンマイである。恐らく彼の相手がこれほど大変だと思わなかったのだろう。

 

「……無理ならいいが、こいつを攻略するヒントをくれねぇか?」

「無理だ。私ですら知識をフルに使って、なんとか咬み殺されずにすんでるのだ。それに君は強いから私より標的になる確率が高いしな」

「悪かったな」

 

 ディーノが私の頭をガシガシと撫でながら謝ってきた。知識が役に立たなかったことを私が気にしてると思ったのだろう。

 

「でも、未来では君は立派な彼の師匠だったぞ。まぁ雲雀恭弥は師などいらないといい、君を咬み殺そうとしていたが」

 

 私の言葉を聞いて、頭を撫でている手を止めディーノは嬉しそうに笑った。『師などいらない』ということは、師として認めているとも言えるからな。そういえば、ディーノは不安になりながらも彼の家庭教師をしていたな。自信が出たのだろう。

 

「頑張れ」

 

 放課後にまた顔を出せばいいと判断し、私は教室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 放課後、何とか雲雀恭弥から逃れたディーノと合流し、沢田綱吉の家に向かった。チャイムを鳴らせば、出迎えてくれたのはイーピンだった。何を言ってるかわからないが、飴を渡し家にあげてもらう。沢田奈々は沢田家光に用事があることに少し疑問に思ったようだが、快く迎えてもらえた。

 

「まだ帰ってきてねーみたいだな」

「ん。修行の様子を見に行ってるはず。確か、君達のところにも来たはずだ」

「そうなのか?」

 

 ディーノの言葉に頷く。しかし、ドジ状態じゃないディーノが気付かないとなると、門外顧問はかなり強いようだ。

 

 しばらくの間、ランボ達と遊んでいると帰ってきたようだ。なぜなら、玄関の方がドタバタとうるさくなったのだ。

 

「なに!? ツナの彼女が挨拶しにきている!?」

 

 大きな声が聞こえてきた。それも最大級の勘違いである。扉が開かれると、キリッというような表情をした門外顧問がいた。恐らく、カッコイイ父親というイメージで顔を出したのだろう。残念ながら、先程の大声は聞こえているぞ。

 

「彼女じゃない。それに私は門外顧問に用があって来た」

 

 私の言葉を聞いて、ランボ達を追い出し扉を閉めた。ディーノがいることに気付いたのもあるだろう。

 

「……どういうことだ?」

「オレとリボーンの判断で黙っていたんだ。こいつは――」

「歪な存在」

「――オレ達はそう思ったことは1度もねぇ!」

 

 的確に説明したつもりが、ディーノを怒らせたようだ。

 

「詳しく話してくれ」

 

 下手に話せば更に怒らせる気がしたので、ディーノに全て任せることにした。べ、別に面倒だったわけではないぞ。

 

 

 

 

「――事情はわかった。このことは秘密にしておくよ。それで、オレへの用はなんだ? 危険だと思いながらも君がオレに会いに来たんだ。何か重要なことがあるんだろ?」

「まず18日の夜にはヴァリアーが日本に来るぞ」

 

 私の言葉に2人が驚いた。予想よりずっと早かったのだろう。

 

「夕方まで彼らは修行したほうがいいからな。君にランボのことを頼みたいんだ。もちろん、君がまだ手が出せないのはわかっている。だが、居場所がわかっていれば彼らが動きやすくなる」

「そういうことなら、もちろん協力するよ」

「正直、頼む必要はないことかもしれない。でも、イーピンがランボを守るため怪我をするんだ。軽い怪我だとしても、幼い子なんだ。どうしてもこれは黙ってることが出来なかった」

 

 ディーノが私の頭をガシガシと撫でた。いつもより少し力が強い。身体が揺れるから止めてくれ。

 

「……君にヒントだ。私は幼い相手以外のことは黙ってるということだ」

「わかったよ。ありがとう」

 

 門外顧問に礼を言われ、少し驚く。

 

「オレへのヒントという言葉で、かなり絞れるよ」

 

 もう気付いたようだ。私からすれば、会ったことがない9代目より沢田綱吉の方が重要だからな。わざとこの言葉を選んだのだ。

 

「後、君達に1つ質問だ。――私はXANXUSとの接触は避けたほうがいいのか?」

 

 もちろん私は接触したくはない。死にたくないからな。だが、2人の反応を見て危険度を知りたかったのだ。

 

 ――2人は真剣な表情で頷いたのだった。

 




……雲雀さんの出番を増やしたいw


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不穏な感情

 教室で笹川京子が沢田綱吉に詰め寄ってる姿をみて、今日からリング争奪戦が始まると思った。もちろん、私は今日から始まると知っていた。昨晩もリボーンからの連絡で、誰も怪我を出さすにランボを保護をできたと聞いていたからな。ただ、間近で原作シーンを見てしまうと、今日から始まると実感させられたのだ。

 

「神崎、大丈夫か?」

 

 山本武に声をかけられ首をひねる。これでも頭は大丈夫なつもりだぞ。

 

「真っ青じゃねーか」

 

 自身が思ってるより、不安になっているようだ。そういえば、胃が少し痛い気がする。

 

「……保健室、行ってくる」

 

 山本武は付き添うつもりだったが、丁重に断った。彼と一緒にいる方が、リング争奪戦のことが気になってしまうからな。

 

 廊下を歩いているとリボーンが居た。相変わらず神出鬼没すぎるだろ。

 

「心配すんな。ツナ達はぜってぇ勝つぞ」

「ん。ありがと」

「……サクラ、しばらく日本から離れるか?」

 

 礼をいい、保健室に向かおうとした足がリボーンの言葉で止まる。しかし、たとえ日本から離れたとしても私は気になるだろう。それならば、彼らの近くに居る方がいい。小さな声になってしまったが、「大丈夫」といい保健室に向かった。

 

 

 保健室に行けば、獄寺隼人が居た。そういえば、飛行機を作っていたな。このタイミングでも作ってるとは思わなかったが。

 

「……Drシャマルは?」

「便所だ」

「そう。ベッド借りるから、襲わないようにしてくれよ」

 

 ブツブツと文句をいっていたが、ここで寝るなと言わなかったので、了承ということなのだろう。少し眠ることにした。

 

 

 

 

 

 起きるとDrシャマルの顔だったのでハリセンで叩くことにする。兄にもすることなので、私にしては動きがいい。が、簡単に避けられる。

 

「あぶねーあぶねー。少しは元気になったようだな。けど、無理はしちゃいけねー。まだ眠ってろ。眠れねーなら寝転んでるだけでもいい」

 

 あっさりと離れたので、診察していただけなのかもしれない。少し悪いことをした気もするが、普段の行いのせいだろう。自業自得である。

 

「そこまで酷くはねぇが、薬を用意しておく。ただ、薬を飲んで完治するとは思わないほうがいい。原因はストレスだ。それを取り除くのが1番だが――」

「んだよ!?」

 

 Drシャマルがを呆れたような目で見たことに彼は気付いたようだ。

 

「かー! これだからお前はガキなんだ」

 

 私が思うのは変だと思うが、察しろというのは無理があるぞ。2人が言い合いすると思ったので、呟くことにする。

 

「これ以上、修行が遅れてどうするんだ。恐らく君が1番遅れてるぞ」

 

 獄寺隼人の反応を見る前に私はカーテンを閉めたのだった。

 

 ボーっと天井を見ながら考える。私はこれからどうするべきなのだろうか……。原作でDrシャマルが言ったとおり、人に教えられたものでこれから生き残れるとは思えない。しかし、私が出来ることといえば、それぐらいしかないのだ。ディーノのように修行をつけれる強さもないしな。

 

 あまりにも自身が無力で少し泣いてしまった――。

 

 

 

 

 

 

 

 ……いつの間にか眠っていたらしい。ケイタイを見るともう放課後の時間だった。目をこすりながら身体を伸ばす。昼寝をしすぎて夜に眠れないかもしれないと思いながら、カーテンを開けると獄寺隼人とDrシャマルだけじゃなく、沢田綱吉達も居た。

 

「あっ! 大丈夫!?」

 

 沢田綱吉の質問には答えず、彼の頭に手を伸ばす。顔を赤くしながら驚く彼を見て、なぜか安心して笑ってしまった。

 

「君を見ていると、しっかりしないといけないと思えるんだ」

 

 私の言葉に沢田綱吉はショックを受けたようだ。恐らく間違ってとらえたのだろう。助けたいという気持ちが強くなるという意味で言ったのだが。しかし、面倒なことになるので勘違いさせたままにする。

 

「リング争奪戦、頑張って」

 

 驚いて固まった彼らを無視して、私は家に帰ることにした。保健室を出ると「リボーン、神崎さんを巻き込むなよ!!」というツッコミが響いたのは気のせいだろう。

 

 

 帰るとき、学校の校門に兄が居るのが見えた。何をしているのかと思って目をこらえると、笹川了平と何か話しているようだ。

 

「応援しているよ!」

「ああ! 任せておけ! 極限、オレが勝ーつ!!」

 

 ……ちょっと待て。兄はどこまで知ってるのだ。聞こえた会話がかなり怪しい内容だった。

 

「お兄ちゃん!!」

「サクラぁ!」

 

 思わず叫べば、嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。いくら兄が美形でもドン引きし、足が一歩下がってしまう。が、これでも我慢した方である。先程の会話が気になるからな。

 

「……何の話してたの?」

「笹川君の応援さ! 今日は相撲大会らしいからね!」

 

 私の心配しすぎだったようだ。安心して兄のエスコートで帰った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 サクラの部屋から漏れる光で眠っていることを確認してから寝るのが桂の日課である。

 

 今日はいつもの時間帯で消えることがなかった。普段ならば、ふざけたフリをして部屋に入る桂が躊躇した。サクラが眠れない原因に想像がついたからである。

 

 もちろん桂はサクラの知識のことは知らない。が、リング争奪戦の話を笹川了平と一緒にリボーンから聞いていたのだ。ツナと仲がいいサクラがこのことを知れば、眠れるわけがない。何よりサクラは誰かと話していた声が聞こえた。それは笹川了平の試合を見に行き、桂が帰ってきた時のことだった。

 

 桂はサクラのことを1番わかっていると自負している。もしリング争奪戦のことを知ってるならば、サクラは心配になり、必ず見に行くだろう。サクラのことを考えれば、止めるべきである。しかし、桂はサクラの意思を尊重したい。そのため、桂はサクラに気付かれないように守ることにした。

 

 ――無意識に桂の手に力が入った。

 

 桂は自身を抑えるのに必死になる。心のどこかで、リング争奪戦が起こる元凶を壊せばいいと思うのだ。ヴァリアーだけならばまだ自身の中で納得できるところがあるが、その中にサクラの友達のツナ達が含まれていた――。

 

「ふぅ……」

 

 落ち着かせるために息を吐く。ただ、妹のサクラを守りたいだけなのだ。それが徐々に狂いだしている。桂はツナ達を傷つけば、サクラの心が傷つくことを理解していたはずなのに――。

 

「……何をしている」

「サ、サクラ!」

 

 サクラの声で現実に引き戻され、桂はサクラのドアの前で立っていたことを思い出す。とっさに言い訳をしようとしたが、珍しく頭が回らず言葉が出ない。

 

 冗談も言わない桂を見て、サクラは偶然だったと判断する。しかし、冗談だけでなく言葉も返って来ない。桂の顔を見ればその理由がすぐに判明した。

 

「顔、真っ青」

 

 サクラは背伸びをし、額に手を伸ばそうとしたが出来なかった。届かなかったわけではない。桂に伸ばした手を掴まれたのだ。

 

 桂が拒絶する反応を見せると思わなかったサクラは驚いた。しかし、よく見てみると手を振り払われたわけではなかった。大事そうに手を掴んでいたのだ。

 

「……少し、このままでもいいかい?」

 

 サクラは頷いた。手を離せば何か取り返しのつかないことが起きる気がしたのだ。

 

「……一緒に、寝る?」

「いいのかい? 僕はサクラを抱きしめて眠っちゃうよ!」

 

 いつものような兄の返答を聞き、サクラは「布団は別に決まってるだろ」とツッコミを入れた。

 

 床に布団を敷けば一緒でもいいという言葉を含んだ返答を聞いた桂は、苦笑いする。サクラに気を遣わせていることにやっと気付いたのだ。そして、さっきまでどこか歪んでいた気持ちも消えた。心に余裕が出来た桂はこのチャンスを逃すわけもなく、サクラの部屋で眠ることにした。

 

 サクラは布団を敷き終わった桂にゲームのコントローラーを渡す。

 

「もう遅い時間だよ」

「たまにはいいだろ。同じ部屋で寝ることなんて滅多にないんだ」

「本当にいいのかい? 落とし神モードに入っちゃうよ!」

「ギャルゲーじゃないから」

 

 くだらないことを話しながらゲームを楽しんでしまったため、父親に怒られるまで2人は眠ることはなかった――。

 




ひとつ前の話の桂の言動が少しわかったと思います。


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ランボ

「どこいったのー!?」

 

 修行に身が入らず家に帰ってきたツナは叫んだ。なぜなら、修行に身が入らなくなった原因のランボが家にいないのだ。誰にも何も言わずに出かけてしまったらしい。

 

 ツナはパニックになったが、これで良かったという気持ちもあった。ランボが戦うこと事態がツナはおかしなことだと思っていたからだ。

 

「――サクラを探すぞ」

「神崎さん?」

 

 リボーンがつぶやいた言葉にツナは首をひねる。しかし、ツナが聞き返してもリボーンは答えようとせず、外へ向かってしまう。ツナはリボーンの様子とサクラのことが気にかかり、慌てて追いかけるはめになったのだった。

 

 

 

 リボーンが真っ先に向かったのはラ・ナミモリーヌだった。リボーンが店を入るところを見えたツナは考える。京子とハルがこの店のケーキが好きだったことは知っているが、サクラが好きだったのかはわからない。そのためリボーンの行動に首をひねりながらも追いかけるしかなかった。

 

 リボーンはサクラのことを一番知っているのは桂だと判断し、店に向かったのだ。もう店は閉店している時間だったが、桂は居た。リボーンがサクラを探している理由に想像がつき、桂は協力することにした。

 

 桂は購入時に勝手に設定したケイタイのGPS機能をつかい調べると、サクラは家に居た。ケイタイを忘れた、もしくはわざと置いて行った可能性があったため、電話をかける。もちろん桂は悟られるようなミスはしない。余ったケーキがいるかという内容でかけたのだった。

 

 

 

 

 ツナが店に到着すると、リボーンは店から出たところだった。やっと追いついたツナは抗議をする。

 

「リボーン! 先に行くなよ!」

「サクラの居場所がわかったぞ。サクラの家だ。灯台下暗しだったわけだ」

「? そりゃ、神崎さんは家に居るだろ」

 

 ツナも修行がなければ家に帰ってる時間なのだ。何も知らないツナにはその言葉の意味が到底理解できるものではなかった。

 

 

 

――――――――――――

 

 チャイムの音が聞こえ、嫌な予感がする。普段はこんな時間にチャイムは鳴らないのだ。

 

「ねぇねぇ、これなぁにー?」

「……ん。これは――」

 

 ランボの問いに答えようとしたが出来なかった。部屋のドアを開き、リボーンと息の荒い沢田綱吉が居たからだ。とりあえず、文句を言うことにする。

 

「――ノック」

「ご、ごめん!!」

 

 リボーンに文句を言ったつもりだったが、沢田綱吉に謝られた。許してあげたい気持ちがあったが、部屋にはマンガとゲームが大量にあるのだ。今すぐ出てってほしい。

 

「サクラ、今日はランボの試合だぞ」

 

 恐らくリボーンは私が知ってるのをわかっている。あえて言ったのだろう。

 

「断る。彼は小さいんだ」

「相手はもうランボをターゲットにしちまっている。棄権しても意味ねーぞ」

 

 そんなことは知識でわかっている。わかっているが、誰も手が出せなくなる試合よりは安全なのだ。

 

「や、やっぱりランボを試合に出すのは――」

「いくいくー」

 

 沢田綱吉が味方についたと思ったが、本人が行きたがる声を出した。頼むから意味をわかってから言ってくれ。

 

「ランボ、行くと痛いし泣くことになるんだぞ」

「オレっちは最強のヒットマン!」

「ランボはチビでガキだが、守護者ってわかってんだ」

 

 リボーンの言葉に私と沢田綱吉は黙った。絶対わかってないという意味で。

 

「――君に頼みがある」

「え? オ、オレに?」

「手を出せば失格になるが、迷わずランボを助けてくれ」

 

 沢田綱吉は私の顔を見ながら「うん。わかった。約束する」と答えた。これで少しは安心出来る。真剣に話した時の返事では、彼はウソをつかないからな。

 

「行くぞ」

「ん。用意するから、ちょっと待って」

「ええええ!? 神崎さんも行くのー!?」

 

 沢田綱吉の叫びを無視し、私は雨に濡れても大丈夫な服装に着替えたのだった。もちろん、彼らは部屋から追い出したぞ。

 

 

 

 

 学校に着くと山本武達に驚かれた。相手をするのは面倒なので建物に入ることにする。

 

「おい! どこに行くんだよ!?」

「屋上」

「なんでそんな場所――」

 

 獄寺隼人が私に文句を言おうとしたところでチェルベッロが現れた。すぐに戦闘フィールドが発表されるだろう。聞く必要がない私は屋上に向かったのだった。

 

 屋上へ向かってる途中で彼らに追いつかれ、山本武に話しかけられる。決して私の足が短いからではないと思いたい。

 

「神崎も小僧からマフィアごっこのことを聞いたんだってな!」

 

 マフィアごっこでスクアーロに斬りかかる山本武がおかしすぎる。ツッコミたいが、面倒なことになるので頷くだけにするが。

 

「極限に、桂はここに来ていることを知ってるのか?」

 

 真っ先に兄の話題が出るとは、どれだけ仲がいいのだ。少しドン引きしながらもまた頷く。出かけようとした時に兄が帰ってきてしまったのだ。心配だといい、許可しないと思ったが意外にもあっさりと了承した。恐らくリボーンと沢田綱吉が責任を持って家まで送ると約束したからだろう。

 

 屋上につき、彼らが驚いてるのを横目にチェルベッロのことを観察する。私でも彼女達のことはよくわからない。未来でミルフィオーレとともにいたが、白蘭の味方というわけでもないのだろう。なぜなら、ボンゴレ15代目の時にもチェルベッロらしき人物が登場している。敵とも味方とも思わないのがベストだな。

 

「やはり来たのか……」

 

 門外顧問達が来たようだ。しかし、知識より来るのが早い。恐らく小さな子の場合は手を出すということを言っていたので、予想していたのだろう。私がここに居ることに、何か言われると思っていたが、何も言ってこなかった。確かにそれはありがたいが、沢田綱吉が私達が知り合いなことに驚いてるフォローもしてほしい。私に「なんで知ってるの!?」とか聞かれても困る。

 

「……この前、会った」

「おう。そうだぞー」

 

 ウソはついていないが、なぜか罪悪感が出た。門外顧問の方は堂々としすぎだろ。

 

 私たちが話している間にランボはバトルフィールドに興味津々だった。それを見てチェルベッロが説明していた。本人は全く聞いていないぞ。ドンマイである。

 

 獄寺隼人がランボの角に「アホ牛」と書いてる間に私は移動する。門外顧問の後ろで隠れさせてもらおう。

 

「ん? 神崎はどこ行ったのだ?」

「ここに居るぞー」

「おお! ここにおったのか!」

 

 あっさりと教えるな。笹川了平に引っ張られながら、門外顧問に「覚えてろよ」と吐き捨てる。間抜けな格好で言ったが、効果があったようだ。焦っている。恐らく、私にはいろんな知識があると知っているからだろう。

 

 肩を組まれ、逃げれないので早く終わらせる。獄寺隼人と一緒で無言だが。

 

 なんとか無事に終わったが、私は精神的ダメージを受けたようだ。雨ではなければネガティブホロウ状態になった自信がある。テンションが下がってる状況だったが、知識で同じでもう一度沢田綱吉がランボに大事な話をしていたので、そこに邪魔をすることにする。

 

「もう一度いうぞ。ランボ、私は反対だ。君は痛い思いをすることになる。だから一緒に帰ってケーキを食べないか?」

「ランボさんは強いもんね」

 

 ケーキを使っても意思は変わらないようだ。……終わればケーキを食べると言われたが。

 

「わかった。行ってこい。必ず彼が助けてくれる」

「それはなりません。失格になります」

「失格になってもいいなら、助けていいんだろ?」

 

 チェルベッロは何も言い返してこなかった。ヴァリアーが私のことをバカな奴のようにを見ているが、珍しく気にはならない。ただ、レヴィ・ア・タンが私を見て、鼻で笑ったことには腹が立つ。変な目で見られるのも嫌だが、これはこれで腹が立つ。少し苛立ちながらも必要なことを済ませる。

 

「チェルベッロ、確認だ。ギブアップと宣言した場合とフィールドから出てしまった場合はどうなるんだ?」

「その場合は相手側の勝利になります」

 

 20年後のランボを説得すれば、まだ可能性があるかと思いながら、バトルフィールドから離れる。顔を見ると腹が立つからな。

 

 

 

 

 

 フィールドに雷が落ち、ランボの泣き声が響く。

 

 ――他にも方法があった。

 

 試合に出さないためだけならば、もっといろいろ出来たのだ。それなのに私はしなかった。レヴィ・ア・タンの技を獄寺隼人に見なければならない。という気持ちもあったのだ。結局、私は原作通りに行かなければ怖いのだ。自身が死にたくないためだけに――。

 

 急に肩に衝撃がきた。どうやらリボーンが私の肩に乗ったようだ。

 

「ランボが自分で選んだ道だ。おめぇは何も悪くねぇ」

 

 何か返事をした方がいいと思うが、私が何かを言うのは間違ってる気がして、黙ってランボの様子を見ることしか出来なかった。

 

 目を向けると、ランボが泣きながら10年後バズーカを使うところだった。ドカンという音で現れた大人ランボは私の知識と違い、餃子ではなくパスタを食べていた。……微妙な違いすぎて何ともいえない。

 

「やれやれ、せっかくご馳走になっていたのに」

 

 現れた時のセリフも違っていた。これも微妙な違いすぎる。しかし、沢田綱吉が大人ランボと入れ替わってしまったことについて、謝ってる姿は一緒だった。知識通り、前日に大人ランボに止められていたのだろう。

 

「やれやれ、謝らないでください。わかっていましたから。それに若きボンゴレ、こう見えてもオレはやる時はやる男ですよ」

「うん。知ってる……知ってるよ!!」

 

 感動的シーンのはず。この後にすぐやられると知ってる私からすれば微妙すぎるが。少し微妙すぎて肝心なことを忘れていた。早く大人ランボに助言を言うべきだ。そう思ったが、声が出たのは「は?」という言葉だった。

 

「えええええーー!?」

 

 沢田綱吉が叫ぶのは無理もないだろう。あの感動的シーン後、ランボはあっさりと「では」といい、自身に10年バズーカを撃ったのだ。残念すぎる。

 

 しかし、悪いことではない。むしろ良いことだ。20年後のランボが戦える時間が長くなる。そういえば、先程の大人ランボが、この時代に来るのはわかっていたというようなことを言っていた。これは未来の私が助言したからかもしれない。未来の私は気が利くようだ。流石である。

 

 20年後のランボが現れ、知識通りにこっちを見て沢田綱吉達との再会を喜んでいた。白蘭が攻略してしまった未来では沢田綱吉達は死んでるからな。無理もない。ただ、私を見て泣きそうになるのは止めろ。君は何歳だ。その前に……似たようなことがあったな。嫌な予感がする。今度は何だ――。

 

「気をつけて――」

 

 20年後のランボの声が止まる。レヴィ・ア・タンが痺れを切らして攻撃してきたのだ。しかし、何を言おうとしたのかはわかった。また「気をつけてください」だ。

 

 どういうことだろうか。大人ランボは私の姿を見ても何も言わなかった。未来が変わったのだろうと勝手に判断していた。違うのだろうか。それともまた別の問題が起きたのか。

 

 ――何か、何か重要なことを忘れている気がする。

 

 激しい音が聞こえ、思考が途切れる。20年後のランボが電流を地面に流したので、先程の音は相手の技だったのだろう。獄寺隼人が無事に技を見たので、もしもの時は大丈夫だと思った。

 

 ランボの大技のリーチが伸びる。そして、時間はまだ残っている。

 

 勝てるかもしれない――。

 




……1番フラグがたってるのは、ランボじゃない?
そう思ってしまう、今日此の頃ww


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ツナの覚悟

 私がフラグを立てたせいなのだろうか。まだ決着がつかない。いや、正しくいうならば、20年後のランボは圧勝だった。無事に攻撃が決まり、レヴィ・ア・タンは意識があるようだが、身体が痺れて動けなくなってるからな。

 

「ランボ、相手の首にかかってるリングを集めれば終わりなんだ!」

「アホ牛! 急げ!!」

 

 彼らの必死の説明だが、残念ながらランボは入れ替わる前に受けた雷でグズっている。両手に飴を持っているようだが、難しい話を聞けるような状況じゃないぞ。そして、この状況でもモスカがレヴィ・ア・タンに止めを刺さないのはまだ勝てる可能性があるからだろう。痺れが取れてしまうとランボの負けは決定だからな。

 

「チェルベッロ。沢田綱吉を応援している私がフィールドに入ってしまった場合は?」

「勝負への妨害とみなし、雷のリングならび大空のリングはヴァリアー側のものになります」

 

 大空のリングは責任ということでらしい。全く、面倒なルールである。

 

「ランボ、こっちに来い。ケーキ食べるんだろ?」

「バッ!」

 

 フィールドに入らないギリギリのところでしゃがみ、手招きをすれば、獄寺隼人は私の言動に驚いてるようだ。相手が起きてしまえば、ランボは終わりと考えれば、この選択は悪くないはずだ。

 

「オレも神崎に賛成なのな。問題ねぇって、オレ達が勝てばいいだけの話だろ?」

「そうだ。昨日のオレの試合は勝ってるのだ。振り出しに戻っただけで、焦る必要はない!」

「……オレもランボがリングを揃えれるとは思えないし、もう1度バズーカに使うかもわからないし、神崎さんに賛成かなーって……」

「……そうスね。アホ牛の分はオレが勝てば問題ねぇ。アホ牛、さっさと戻って来い!」

 

 彼らはあっさりとランボは負けてもいいという選択をした。恐らく、最初の方に容赦なく殴られてるシーンを見たのと、勝負には勝ったからだろう。

 

 もう1度、名を呼べばランボはグズりながらもこっちに来た。鼻水を垂らしながら抱きつかれるのは勘弁なので、ティッシュがポケットにあって良かったと本気で思った。

 

「危ないっ!」

 

 ランボが私にたどり着く直前に沢田綱吉の焦った声が聞こえた。目線が低かった私は、顔をあげると何か黒いものが目の前に迫ってるのが視界に入った。そして、その後から記憶はない。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 サクラとランボを抱きかかえながら、2人ともに怪我はなく気を失っただけの様子に安堵する。その一方で、先程の相手の行動を思い出し、ツナはいつもより眉間に皺が寄る。しかし、眉間に皺を寄せたはツナだけではなかった。なぜなら、レヴィがサクラに向かって電気傘を投げたのだ。

 

「……ありがとう。リボーン」

 

 周りが自身の炎に驚いてる姿には目もくれず、ツナはリボーンに礼を言った。いち早く気付いたツナがサクラを助けようとしたが、超モードにならなければ間に合いそうになかったのだ。

 

『!?』

 

 濃厚な殺気がこの場に居るものに向かって放たれる。先程までツナの炎の大きさに驚いていたヴァリアーが、戦闘体勢になるほどのものだった。

 

「あいつの仕業だな」

「ああ」

 

 リボーンとツナは心当たりがあったため、驚きはしない。だが、ツナはサクラを抱きかかえる手に力が入る。ここで離れてしまえば、サクラとはもう会えない……そう、直感した。

 

「なぜサクラを狙った」

 

 ツナの問いには誰も答えようとしない。ヴァリアーからすれば、濃厚な殺気の方が重要で、ツナの疑問はたいしたことではなかったのだ。サクラへの攻撃は、ただ試合を終わらせないために、ランボの足止めだった。直接ランボを狙わなかったのは、すぐに殺ってしまえば、レヴィの気がすまなかったからである。

 

「オレは友達……仲間のために戦う。ボンゴレリングや時期ボスの座のためには戦えない。でも、この戦いの結果で、仲間を失うというなら、オレは……オレ達は負けない」

 

 ツナの言葉の意味は、ヴァリアーへの宣誓布告。そして、殺気を放っている人物に向かっての宣言だった。

 

「ほざくな」

 

 濃厚な殺気にものともしないXANXUSは甘い言葉を吐いたツナに殴りかかる。原作と違い、濃厚な殺気により空気が張り詰めていたことや、超モードがとけていない状況だったため、XANXUSの行動にツナは気付いていた。が、避けようとしなかった。ツナが避ければ、サクラ達に負担がかかる可能性があったのだ。

 

「ぐっ!!」

 

 超モードでの死ぬ気のコントロールの修行はまだのツナだったが、ぶっつけ本番でやってのけXANXUSからの攻撃を軽減する。そのことに表情には出さなかったが、リボーンは驚き、そして再認識する。ツナは守りたいという気持ちで強くなるということに――。

 

 突如、濃厚な殺気が止む。

 

 信頼してくれたかはツナにはわからない。だが、覚悟は伝わったようだ。しかし、XANXUSはツナの覚悟を一蹴し、笑い飛ばす。超モードが溶けてしまったが、ツナは睨み返したのだった。

 

 XANXUSはツナの様子を見て、9代目と同じような感覚を覚え、原作通り9代目と同じような目に合わせるような意味深な発言をしたのだった。

 

 その言葉に反応したのは沢田家光とリボーンだった。しかし、反応は様々だった。初めは両者ともにXANXUSを警戒していた。が、沢田家光は何かを思い出したようにツナを見つめたのだ。正しくは、ツナに抱きかかえられているサクラだったが。

 

「家光」

 

 リボーンはXANXUSを警戒し目を離さなかったが、サクラを守るように移動する。それはヴァリアー側が違和感を覚えるには十分なことだった。そして、唯一この中で似たような場面に遭遇した人物がいた。

 

「う゛お゛ぉい。随分、その女を大事にあつかうじゃねーか!!」

「何か知ってるのかい?」

「跳ね馬が護衛をつけるほどだぁ!」

 

 証拠はなかった。カマをかけただけである。しかし、それだけで十分だった。先程より、リボーンと沢田家光の警戒が強くなったのだ。

 

 状況がわからないツナ達だったが、サクラに危険が及んでることだけは理解し、戦闘態勢に入る。

 

 チェルベッロはこの状況に焦り、「お止めください。ここで戦えば、リング争奪戦の意味がありません!」と、声をだす。しかし、お互いに警戒を解くことはなかった。そんな中、呑気な声が響いた。

 

「さぁくらー!」

 

 声が聞こえる方を向くと、桂がいた。状況がわからないように桂は首をひねるが、サクラの姿を見ると嬉しそうに笑う。

 

「沢田君、サクラは疲れて眠ったのかい?」

「え……。あ、はい」

「それは迷惑をかけたね! 学校に忍び込んで、サクラが肝試しに行くと言った時に止めればよかった。遅いと思って僕が迎えに来たのは正解だったね!」

「は、はい……」

 

 桂はツナと話しているが、サクラにしか目が向かない。そんな桂の迫力にツナは押され、よくわからないまま話をあわせたのだった。

 

「サクラは今日も可愛い寝顔だね。記念に写真を撮っておこう」

 

 言ったそばからパシャッとケイタイで写真をとる。口元を緩め写真とサクラを交互に眺めている桂は、よく知っているツナ達でもドン引きの行動だった。

 

「おっと、僕としたことが……いつまでも沢田君にサクラを抱かせてるとは! まだお嫁にはいかせないよ!」

「え……」

「どうしてもというのなら、僕を倒してからにしたまえ! さぁ、かかってくるがいい!」

「あ、あの……」

「ふっ。少し言ってみたかっただけさ!」

 

 ツナは脱力しながらサクラを引き渡す。桂に振り回されてるとしか思えなかったのだ。桂はツナの気も知らず、サクラを受け取ってすぐに「さらばだ!」といい、去ろうとする。ツナはもう桂の行動にツッコミを入れる気力はなかった。

 

「…………っあ!」

 

 ツナは声をあげる。XANXUSが背後から桂に殴りかかったのだ。サクラじゃなく桂を標的にしたのはXANXUSの直感だった。

 

 ツナにはXANXUSの行動は不意打ちにしか見えなかったが、桂はあっさりと避け、フェンスの上に器用に立っていた。

 

「やはり、簡単には行かないね」

 

 呟くように桂は言った。ツナ達が桂を軸として見ることがないため、ヴァリアーも桂の行動で全て誤魔化せない可能性も考えていたのだ。

 

「今度ははっきり言うよ。サクラに手を出そうと考えるならば、僕が相手になる。かかってくるがいい。返り討ちにしてあげるさ」

 

 桂はXANXUSの目を見ながら、大きな声で宣言した。それは隣の屋上にいる人物にも聞こえるようにするためだった。

 

 挑発に乗ろうとしたヴァリアーだが、桂の姿が消える。屋上から飛び降りたのだ。慌てて地面を見るツナだったが、桂とサクラの姿はもうなかった。

 

「また腕をあげたな」

 

 リボーンは桂の足から死ぬ気の炎が出ているのが見えていた。知らぬ間に治療以外の炎の使い方を桂は覚えていたようだ。

 

「あいつ……強かったのよ……」

「ははっ! 負けてられねーな!」

 

 桂の強さをよく知らなかった二人は唖然としたが、受け止める。了平は桂の強さを知っていたので、山本の言葉に頷くのだった。

 

 桂とサクラが居なくなり、場が落ち着いたところで、チェルベッロが進行を再開したのだった。

 

 

 

 試合の結果は、サクラを助けるためにツナはフィールドに入ってしまったため、大空と雷のリングはヴァリアー側のものになったのだった。

 

 しかし、ランボの怪我は少なく、軽く手当てすれば治る程度だった―――。




ある意味、安定の桂さんでした


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デコピン

 ムクリと起き上がり、首をひねる。私はいつの間に眠ってしまったのだろうか。ベッドに入った記憶が全くない。最後に覚えているは沢田綱吉の焦る声だった気がする。

 

「!?」

 

 気を失ったことを思い出し、私は慌てて起き上がり1階に降りたのだった。

 

 1階に降りると家族全員そろっていた。お母さんが私を見て、お風呂入ってきなさいという。それはありがたいのだが、昨日のことをなぜ何も聞いてこない。私の疑問に気付いたようで、兄が教えてくれた。

 

「昨日、サクラは眠ってしまい、沢田君が運んでくれたのだよ。ちゃんと、お礼をするんだよ」

 

 よくわからないが、リボーンが気を利かせてくれたのだろう。しかし、運んだのは沢田綱吉なのか。今回は筋肉痛になっていないことを願う。あの時は、遠回しに重いと言われてる気がしてショックだったのだ。

 

 とりあえず、詳しくは獄寺隼人にでも聞こう。彼は保健室にいるはずだ。兄に頷き、私は風呂に入ることにした。

 

 

 

 学校へ行こうとすると兄がついてきた。

 

「ランニングは?」

「笹川君の怪我の具合のこともあるからね」

 

 兄は暇なようだ。そして、寂しいのだろう。今まで私は兄とあそこまで息があった人物を見たことがない。笹川了平が守護者になったため、これからは過ごせる時間も少なくなるかもしれないな。

 

「……マフィアとか興味ある?」

「マフィアかい? ……ふむ。サクラが興味あるのならば僕もある!」

 

 兄は興味がないようだ。それならば、私から詳しく教えるつもりはない。笹川了平に任せよう。

 

「サクラは興味があるのだろう! さぁ! 話したまえ!」

「興味ない。マフィアとか物騒だからな」

 

 沢田綱吉達のことがなければ、関わりたくもないのだ。何度も言うが、私は死にたくないのだ。

 

「すまない、さくら! さっきはウソをついたよ! 僕はマフィアに興味がある!」

「そう」

 

 返事をすれば、なぜか兄がネガティブホロウ状態になった。面倒だったのでスルーし歩けば、ネガティブホロウ状態で着いてきた。……気持ち悪い。

 

「全力で他人のフリするぞ」

「ぼ、僕が悪かった! 許してくれたまえ!」

 

 すぐさま立ち上がり、懇願してきたので許すことにした。私は心が広いのだ。それにしても、他人のフリというキーワードも兄には効果があるのか。覚えておこう。

 

 

 

 

 学校の校門をくぐると、なぜか兄も一緒に入ってきた。余程、暇なのだろう。しかし、いくら雲雀恭弥が学校にいないと言ってもこれはまずい。後日、咬み殺されるだけである。

 

「不法侵入」

「僕とサクラは一心同体さ。ほら、誰も気付いてないだろう!」

 

 兄の言うとおり誰も気付いてない。私の存在をだが。恐らく兄が周りの視線を集めているため、私の存在感が薄くなったのだろう。

 

「学校に何かあるの?」

「僕達の間には誰にも入れ込めないのさ」

 

 直訳?すれば、私と離れたくないという意味なのだろう。……はっきり言え、面倒である。

 

 しかし、兄がここまで我侭を言うのは珍しい。この前の夜も変だったので、いつもより気になる。

 

「……少し待ってて」

 

 嬉しそうに待ってる兄を見て、今日は休むことにした。両親は兄が許可を出した場合は何も言わないしな。

 

 

 用事を済ませるために保健室に向かう。知識通り、獄寺隼人が折り紙を作っていた。

 

「お前、大丈夫なのか?」

「ん。私が気絶した後のことを教えてくれ」

「……おめーが心配するようなことはねーよ」

 

 一瞬、獄寺隼人が迷った気がした。口は悪いが、彼も女子に甘い。チョイスの時も笹川京子達には話さないほうがいいと言っていたしな。

 

「なら、今日の試合も見に行こう」

「バッ! 来るんじゃねー!」

「私の勝手だろ」

「……き、気が散るんだよ!」

 

 私が気絶している間にあまり良くないことが起きたようだ。今日は兄と一緒に過ごす予定だったが、リボーン達と一緒に居た方がいい気がする。後で連絡しよう。

 

「それ」

「んだよ」

「その紙は折り紙じゃなくメモ用紙だ」

「んなの、わかってんだよ」

 

 ブツブツ文句を言いながら、折り紙をつくり始めたので、私の助言は聞き流されてしまったようだ。しょうがないので、飲みすぎで眠ってるDrシャマルをハリセンでスパーンと殴り起こす。

 

「もうちょっと優しい起こし方が、オレの好みなんだが……」

「ちゃんと教えず寝たのが悪い」

「何やらかしたんだ、お前」

「紙ヒコーキを折ってるだけだろーが!」

 

 Drシャマルが気まずそうに私の顔を見ながら頭をかいていた。何も教えずに眠ったことを思い出したようだ。

 

「隼人、気合を入れろよ。可愛い子ちゃんがオレ達のところに来たんだ」

「はぁ~!?」

 

 今の言い回しは気になる。Drシャマルはいろいろリボーンから聞いているかもしれない。しかし、獄寺隼人には伝わらなかったので、口論になりかけていた。私は巻き込まれると面倒なので、帰ることにする。だが、一言だけ言わさせてもらう。

 

「油断せずに行こう」

「なにいってんだ、おめー」

「可愛い子ちゃんにおめーはねーだろ、ったく。可愛い子ちゃん、このバカにはオレからちゃんと教えとくから」

 

 Drシャマルには伝わった気がしたので、任せることにした。遠まわしで獄寺隼人にどれだけ伝えられるかは全て彼次第だな。そう思いながら、私は保健室から出て行ったのだった。

 

 

 

 保健室から出てすぐにリボーンに電話をかける。急いだほうがいい気がしたのだ。

 

『ちゃおッス』

「カオス」

 

 あえてこの言葉を使う。状況によっては間違ってないはずだ。

 

『……コロネロがおめーについてる』

 

 対策を立ててるところを見ると、恐らくリボーンは私に隠す気だったのだろう。私が普段どおり過ごせるために。

 

「どうりで獄寺隼人が何も話さないくせに、試合には見に来るなと言うわけだ」

『……そうか。サクラはどうしたいんだ?』

「目をつけられたなら、君達と行動した方が安全な気がする」

『じゃ、夜にツナと一緒にむかえにいくぞ。そのままツナの家に泊まるからな。準備もしてろよ』

「ん。わかった」

 

 打ち合わせが終わったので、さっさと電話を切る。これ以上、修行の邪魔をすれば、私の死亡率があがるからな。

 

 

 校門へ戻ると兄とコロネロが一緒に居た。リボーンの話では私に隠れて護衛してるはずではないのか。

 

「サクラ、おかえり! 彼にサクラとは知り合いと聞いたよ!」

「久しぶりだな、コラ!! お前の兄貴はおもしろい奴だな。了平が認めるのも理解できたぜ、コラ!」

 

 兄は面白いというより変態と思うのだが。そして、変態なところを認められても困る。本気で他人のフリをしたい。

 

「サクラ、本当に休めるのかい?」

「あ」

 

 兄に言われて思い出す。職員室に行くのを忘れた。もう1度行こうとすれば、引き止められた。兄が電話をかけることにしたらしい。

 

 兄に任せてる間にコロネロに話しかける。

 

「隠れて見張る予定じゃなかったのか?」

「……お前の兄貴に気付かれた」

 

 アルコバレーノが素人の兄に見つかるのは問題だろ。コロネロは私が怪訝な目で見ているのに気付いたようだ。

 

「気付いてねーのか? コラ」

 

 話がわからず首をひねっていると急に肩を引き寄せられる。兄が電話を終えたようだ。

 

「さぁ! デートしようではないか!」

「……家に帰りたい」

「わかったよ! では、僕達の愛の巣に帰ろう!」

 

 コロネロの負担を考え、家の方がいいと判断したが、兄の言い回しを聞きデートの方が良かったと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 チャイムが鳴ったので、沢田綱吉達が迎えに来たのだろう。玄関に向かおうとすれば、また兄に引き止められる。

 

「サクラ、どうしても行ってしまうのかい!?」

「毎日電話かけるから」

「……っ!? サクラからの電話……いつでも待ってるよ!」

 

 兄が嬉しそうにクルクル回ってる姿をみると、私の心配しすぎなのかもしれないと思い始めた。ツッコミが面倒になったので放置し、玄関に向かうことにした。

 

 少し待たせたと思っていれば、両親が沢田綱吉達に挨拶をしていたようだ。リボーンはいつも通りだが、沢田綱吉はどこか居心地が悪そうだ。恐らく両親に私をよろしくと頭を下げられ、困ったのだろう。

 

「神崎さ……」

 

 沢田綱吉の言葉が止まる。恐らく私が見えたので声をかけようとしたが、私の後ろでクルクルと回ってる兄も一緒に見てしまったからだろう。沢田綱吉がドン引きするのも無理はない。血の繋がった家族でさえ、兄の行動は予測不可能だからな。

 

「行ってくる」

 

 両親とクルクル回ってる兄に見送られながら、私は出かけたのだった。

 

 外に出てすぐ、沢田綱吉の腕の中にいるランボのことを聞けば、昼に遊び疲れて眠ってるだけらしい。ランボらしい理由で安堵していると沢田綱吉に名前を呼ばれた。

 

「ん。何?」

「絶対、勝つよ。だから安心して」

 

 私は驚き、沢田綱吉の顔をジロジロと見てしまった。彼は冗談ではなく。本気で言ったようだ。恐らく、私がリング争奪戦のことをリボーンから聞いたと思って、わざわざ言ってくれたのだろう。

 

 少し悩み、手を伸ばす。沢田綱吉はまた私に頭を撫でられると思ってるようだ。しかし、今回は違うぞ。

 

「いてっ!」

 

 そこまで痛くないだろう。眉間に皺があったのでデコピンしただけなのだ。しかし、私達の様子を伺っていたバジルがかなり驚いていたので、予想外すぎる行動だったのかもしれない。

 

「無理してカッコつけなくていい」

 

 私は笹川京子達と違い、彼らと関わると決めた時点である程度は覚悟しているのだ。

 

「……無理なんかしていないよ。オレは本気でみんなと――君といつもみたいに過ごしたいと思ってるんだ!」

「……ん。悪かった」

「え!? や、オレこそ……ごめん!! 急に大声出しちゃって……」

 

 沢田綱吉は何も悪くないだろう。私が彼の覚悟をなめていたのが悪いのだ。それにまたどこかで私は彼らと違うと一歩引いていたのようだ。それを彼は感じたのだろう。

 

「本当に君は内側に入ってくるのが上手い」

「え?」

 

 私の言葉を聞き逃したようだ。しかし、もう1度言うつもりはない。ただ、これだけは伝えた方がいい気がした。

 

「褒めた、だけだ」

 

 内容を聞き逃したのに、沢田綱吉は顔が真っ赤になった。彼には悪いが、褒められ慣れをしていない反応に、笑ってしまった。

 




『ネガティブホロウ状態で着いてきた』……ゴ○○リを想像してしまった。


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水滴

 私が笑い終わると、沢田綱吉がバジルを紹介し始めた。

 

「沢田殿からも紹介がありました。バジルと申します!」

「ん」

 

 妙な沈黙が流れた。「よろしく」とでも言えば良かったのかもしれない。

 

「か、神崎さんは人見知りっていうのかな……? えっと、悪い子じゃないんだ!」

 

 私が考えていると、慌てて沢田綱吉がフォローしたようだ。ナイスである。しかし、ずっと沢田綱吉に頼るのも悪い気がするので、私からも話しかける努力をする。そうは言っても、私に気の利いた言葉が出るわけがないので、沢田綱吉の言葉を借りることにした。

 

「……フラフラしてるが大丈夫か?」

「は、はい!! 初めての超モードでちょっと疲れただけです。心遣い感謝します!」

 

 沢田綱吉が声には出さず「言っちゃったー!?」という感じのリアクションをしていた。リング争奪戦のことを知ってる時点で、黙ってる必要はないと思うのだが……。

 

 そう思っているとリボーンがベルフェゴールのことを語りだした。それを聞き、獄寺隼人を心配していた沢田綱吉が、私の存在を急に思い出したようにこっちを見た。

 

「いろいろ知ってるから」

「そ、そうなんだ……」

 

 リボーンより知っているという言葉を含んでいたが、沢田綱吉は気付かなかったようだ。

 

「サクラ、おめーはどう思うんだ?」

 

 ここで私に聞くのかよと心の中でツッコミをしてしまった。内容は違うが、代わりに沢田綱吉がツッコミをしてくれたようだ。ナイスと思ったが、助言ぐらいはしてもいいだろう。

 

「頭脳戦」

「「え?」」

 

 私が呟いた言葉に沢田綱吉とバジルが驚いたような声をあげた。

 

「そのままの意味だ。今回は頭脳戦でもある」

「リボーンさんや親方様も相手は戦闘において天才と……」

「センスだけじゃなく、戦闘に対しても頭が回るから天才というんだ」

 

 頭が悪ければ、ワイヤーとナイフの両刀づかいなど出来るとは思えない。そういえば、マーモンも似たようなことを言っていたな。

 

「つまり言動に騙されるなってことだ」

「わ、わかった。でも、どうして神崎さんがそんなことを……」

「さぁ?」

 

 私にもわからない。なぜ私はこんな知識を持ってるのだろうか。沢田綱吉達は私が話す気がないと思ったようで、深くは聞いてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 獄寺隼人が来ないことで沢田綱吉達が焦っている中、私は廊下に座り込み、本を読む。しかし、ヴァリアーの方から視線を感じ、集中できない。本当に私が眠ってる間に何があったんだ。怖くてもう聞きたいと思わないが。……少し気分転換を兼ねてトイレに行こう。私が立ち上がり歩き出そうとすれば、沢田綱吉が駆け寄ってきた。

 

「神崎さん、どこ行くの?」

「……トイレ」

 

 沢田綱吉は私が心配で着いてこようとしたらしい。挙動不審になったからな。

 

「彼らを見張ってくれればいい」

「で、でも……向こうは全員いないし……」

「今日、XANXUSは来ない」

 

 私の言葉にヴァリアーが反応した気がする。小さな声で話していたつもりだったが、暗殺部隊のヴァリアーには聞き取れる声量だったらしい。

 

「う゛お゛ぉい!! 今のは聞き捨てなれねぇぞぉ! うちのボスがなんだとぉ!?」

 

 リボーンが私の前に立ち、警戒していた。この状況で手は出せないだろうと判断し、私は無視をしトイレに向かうことにする。その時に「僕、ちょっとトイレ」という言葉を思いついたので、意外にも私は平常心のようだ。

 

 

 

 

 

 トイレから出ると沢田綱吉が居た。待たれると何とも微妙である。私の気持ちに気付いたようで、謝ってきた。

 

「ご、ごめん! その……心配で……」

「わかってる」

 

 私の言葉に彼はほっとしたような顔をした。

 

 コロネロに昨日の試合で大空のリングも取られたと聞いた。恐らく私のせいだろう。しかし彼は何も言わない。私が謝ったとしても、彼は私のせいではないと言うのだろう。周りに誰もいないので、今まで気になっていたことを聞いてみる。

 

「何も、聞かないのか?」

「え!?」

「私がどこか変だと流石に気付いてるだろ」

 

 沢田綱吉が弱弱しく頷くのをみて、隠し通せているとは思ってはなかったが、私は気付いてほしくなかったという気持ちの方が強いと知った。

 

「む、無理に話さなくていいんだ! 話さなくても神崎さんを守ることには変わりないから……」

 

 話している内に弱気になったのだろう。声が小さくなっていった。もっと自信を持てばいいのに。

 

「――サクラだ」

「え?」

「サクラと呼べばいい。死ぬ気の君は私の事をサクラと呼ぶ」

 

 慌ててる沢田綱吉を放置し、私は試合会場に戻ることにした。……自信をもたせるために言ったが、少し恥ずかしくなったのだ。

 

 

 

 

 

 先程より視線を感じるようになったが、あまり気にならず本に集中できそうだ。恐らく沢田綱吉のおかげなのだろう。

 

 本を読み出したところで爆発する音が聞こえた。獄寺隼人が来たようだ。知識のある私は話を聞く必要がないと判断し、このまま読み続けることにした。

 

「かわいい子ちゃーん! ぐぺっ!?」

 

 今回はハリセンが当たったようだ。痛がってるDrシャマルを放置し、本を読み続ける。が、「おめーら、何しに来たんだよ!?」と獄寺隼人に怒鳴られる。なぜかDrシャマルと一緒の扱いにされた。いろいろ失礼である。

 

「……わざとなのか?」

 

 獄寺隼人にいろいろ思うことがあったが、私はDrシャマルに向かって呟いた。知識では彼はチェルベッロのところに行ったはずだ。しかし、彼は私のところに来た。恐らくヴァリアーへの牽制という意味があったのだろう。

 

 感謝出来ないのは、今までの彼の行動のせいな気がする。決して私が素直じゃないからではない。これは断言できる。

 

 

 

 

 

 

 爆発音が響く。音楽プレイヤーでも持ってこれば良かったと後悔した。それにしても私が試合に全く興味のない様子を見せても、誰もツッコミを入れなくなったな。それほど獄寺隼人の試合に意識が向いてるのだろう。私も少し気になり、顔をあげれば、王子が豹変しているところだった。

 

 マーモンの解説を聞いていると、片割れは生きてるけどなとツッコミしたくなる。別に真6弔花ではないことを考えると、必死に黙ってる必要はない気もした。まぁ面倒になることになるので結局言わないが。

 

「ふぁ」

 

 あくびが出た。結果がわかってるものからすれば、この時間は長い。更に、リボーン達がベルフェゴールの身のこなしが凄いと言ってるが、私には全く見えず、目が疲れただけだったのだ。

 

「か……――応援しようよ! 獄寺君が頑張ってるんだよ!?」

 

 名前もはっきり呼べない沢田綱吉に怒られる。だが、私にだっていろいろあるのだぞ。私が無関心を貫き通してる1番の理由は、言ってはいけないことを黙ってるためである。

 

「見えねーが、サクラはおめーらと同じぐれー応援してるぞ」

 

 リボーンのフォローに頷きながら、再び私は本を開いたのだった。

 

 本を読み始め数分後、再び爆音が響いた。どうやら怒涛の攻めが終わったらしい。

 

「油断せずに行こう」

 

 ボソっと呟けば、反応したのはDrシャマルで「隼人!?」と叫んでいた。しかし、肝心の獄寺隼人は彼の焦りを察することが出来なかったようだ。知識通り、取っ組み合いになった。

 

「沢田綱吉」

「な、なに!?」

 

 声をかければ獄寺隼人のことで頭がいっぱいだったのか、焦っている返事だった。

 

「君の言葉なら彼に届く。頑張れ」

 

 驚いたような顔を向けられる。変な言葉を言っただろうか。……言った気がする。しかし、しょうがない気がした。もうハリケーン・タービンの爆破が始まっているが、Drシャマルが何も言わないのだ。私の言動のせいで迷ってる気がする。やはりリボーンから話を聞いてるのだろう。彼が勝てれば、私の気が楽になるからな。

 

「この勝負を負ければ、もう後がない。彼はそのことを理解している」

「獄寺君……!」

「……私は、死んで、ほしくない」

 

 声が震え、本に水滴がついた。たとえ私が存在していても、彼らが獄寺隼人を必ず説得する。それがわかっているはずなのに、怖くなったのだ。ベルフェゴールが生きていたからといって、彼が残れば生き残るとは限らない――。

 

「……サクラ……?」

「っ隼人! リングを敵に渡して引きあげろ!」

 

 沢田綱吉はDrシャマルの声を聞き、覚悟を決めたようだ。

 

「獄寺君! みんなとこれからも一緒に遊ぶんだ! 君が死んだら意味がないんだ! だから戻ってくるんだ!」

 

 リボーンにハンカチを渡され、有り難いと思いながら借りる。ふと視線を感じる。ランボが起きていたようで、沢田綱吉の足の隙間から心配そうに私を見ていた。

 

「ん。大丈夫」

 

 しゃがみこみ、視線を合わせて教える。沢田綱吉なら説得できるという意味も込めて――。

 

 

 

 

 

 

 沢田綱吉と山本武の後ろに出来るだけ隠れるようにする。獄寺隼人は自身で頑張れ。ボロボロかもしれないが、火事場の力を発揮し、爆発から逃げれた君なら大丈夫だ。

 

 ドガッドカッという音が近づいてくる。魔王降臨だな。

 

「校内への不法侵入、及び、校舎の破損。連帯責任でここにいる全員咬み殺すから」

 

 久しぶりに聞く彼の声はやはり美声だった。

 

「特にこそこそ隠れてる、そこの君。逃がさないよ」

 

 冷や汗が流れる。雲雀恭弥は私に未来がわかる力があると勘違いしているのだ。校舎がボロボロになることを知っていて黙っていた私を許すつもりはないのだろう。

 

 「ちょっと待て。私は未来がわかるわけじゃないんだぞ!とある知識がだけだ!そこを勘違いしては困る!」と、心の中で抗議する。『とある知識』の中に校舎がボロボロになることが入ってることに気付かれそうな気がするのだ……。

 

 少し考え、山本武とリボーンに丸投げする。私は口を開くだけで咬み殺されそうなのだ。

 

 

 魔王静まりたまえーと、祈っていれば、知識どおり進み、彼の怒りがおさまる。……私に対してはおさまっていないようだが。現在進行形で睨まれピンチである。

 

「ひ、雲雀さん……」

「うるさいよ」

 

 たった一言で沢田綱吉は言い返せなくなった。出来れば、先程のような感じで頑張ってほしかったのだが。

 

「か、彼の話を聞かなかったのは君だろ」

 

 更に視線を感じるようになった気がする。そして、ふと思う。なぜ私が睨まれられなくてはならないのだ。理不尽である。つい苛立ち睨み返してしまった。

 

 突如、雲雀恭弥はトンファーを直し始めた。いったいどういうことかと首をひねってる間に、彼は山本武に「負けないでね」といい、帰って行った。謎である。

 

「あれでもあいつはサクラのことをわかってるからな」

「あの、雲雀恭弥が?」

「ああ」

 

 リボーンに聞き返し確認をとってしまった。それほど意外だったのだ。確かに彼は最後の方では少し理解できる人物になっていた。それでも強い人物のみにだったはずだ。

 

 彼の中で何か変化でもあったのだろうかと、うんうんと唸ってるとヴァリアーが帰っていった。すると、少し気が楽になる。恐らく視線が減ったからだろう。

 

「いってぇ!」

 

 大声に思わず振り返るとDrシャマルが獄寺隼人の治療をしていた。男は診ないんじゃなかったのか。少し治療が荒い気がするので、イヤイヤなのだろう。

 

「いってぇんだよ! ヤブ医者!」

「可愛い子ちゃんを泣かせた罰だ。それに、おめーの治療も可愛い子ちゃんのためにしてるんだ」

 

 獄寺隼人だけでなく、この場にいる人物に見られ、顔が熱くなってきた。

 

「な、泣いてない!」

 

 墓穴を掘った気がする。視線が生温かいものにかわった。恥ずかしい……!

 

「そーいや、ツナ。神崎のことをいつの間にサクラって呼ぶようになったんだ?」

 

 山本武の発言で、沢田綱吉に視線が集まる。彼の顔が赤くなったのを見て、天然に初めて救われたと思った。

 




サクラがヒロインっぽくみえたw


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優先順位

 最高である。堂々と学校を休み、本屋に来れる日が来るなんて思っていなかった。

 

「本当に本が好きだな……」

 

 ディーノの声は無視する。私は今本選びに忙しいのだ。おごってもらう立場というのは気のせいである。最近、人の目ばかり気にするところで本を読んでるせいで、未読の小説がなくなったのだ。もう一度読み直すのもいいが、買ってもらえるなら買うという選択しか私には残ってない。

 

 そもそも私を連れ出したのはディーノだ。気を遣う必要がないと思う。……まぁ連れ出したのは、私が沢田綱吉の修行の邪魔になるかもしれないと考えていたからだと思うが。

 

「ん? これだけでいいのか?」

 

 ディーノに数冊見せれば、少ないような反応をされる。が、買うのは漫画じゃないのだ。斜め読みが出来ない私にはこれで十分である。

 

 ホクホク顏でディーノから本を受け取る。最初はディーノが持とうしたが、持ちたいのだ。これは私の物である。必ず試合中に読もう。沢田綱吉の家だと子ども達がいるからな。

 

「お前の兄貴が甘やかす理由がわかったぜ……」

 

 物に釣られやすい性格で悪かったな。腹は立つが、これは離さない。

 

「そういえば、雲雀恭弥に私のことを何か話したか?」

「いや、話してねぇが……。恭弥がどうかしたのか?」

「学校がボロボロになることを知っていた私を咬み殺すのをやめた」

 

 ディーノが何かしたと思ったのだが、違うようだ。やはり雲雀恭弥はよくわからない。

 

「わかったんだろ。黙っていたのは、恭弥のためだったってな」

 

 少し理解できた気がする。憶測だが、雲雀恭弥は頭がいい方だろう。私が睨み返したことによって、察したのかもしれない。雲雀恭弥が学校にいれば、修行の進行具合が変わったはずだからな。

 

「自信がなさそうだったが、ちゃんと師匠になってると思うぞ」

「オレは……まだまだだ」

 

 リボーンと比べてるのかもしれない。ディーノはまだ若いのだ。そこまで気にする必要はないと思うが、目標は高いほうがいいのだろう。

 

「ん。頑張れ」

「ああ」

 

 頭をガシガシ撫でられながら、沢田綱吉の家に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 暇である。とてつもなく暇である。

 

 巨大スクリーンの光で本を読んでいると、ディーノに没収されたのだ。とりあえず、返せと視線を送り続ける。

 

「目、悪くなるだろ? なっ」

 

 そうかもしれないが、読みたいのは読みたいのだ。どれだけ我慢したと思ってる。それに山本武にラッキーナンバーを教えた時点で私の役目は終わったのだ。

 

「サクラも一緒に山本の応援しようよ!」

「応援はしている。だから読む」

 

 断固たる決意を持って、ディーノの前に手を出す。使い方を間違ってるかもしれないがそれは気のせいである。

 

 2人は顔を見合わせた後、諦めたように本を返してきたのだった。

 

 

 

 

 

 笑い声が響く。

 

「……うるさい」

 

 しまったと思ったときは遅かった。肌にビリビリ感じるのは恐らく殺気というものなのだろう。まさか笑い声が、スクアーロの負けで笑ったXANXUSの声だったとは。本に集中しすぎて試合が終わったことに気付かなかったな。とりあえず、ディーノに丸投げしよう。困ったときは助けてもらう約束だったからな。

 

「ヘルプ、ミー」

「……おまえなぁ……」

 

 棒読みで言えば、ディーノに呆れられた。それでも守ってくれるようだが。もっとも、私が狙われるようになると友達思いの沢田綱吉達が黙ってるわけがないので、チェルベッロが慌てて止めることになったけどな。

 

 落ち着いたのを見て、うむ、ご苦労。という感じで殿様気分を味わってるとディーノに注意される。

 

「頼むから、もう少し後先考えてから発言してくれ……」

 

 失礼な。私は考えているから、いろいろ黙ってるのだぞ。

 

「――すまん。今のはオレが悪かった」

 

 急にディーノが謝ってきた。謎である。よくわからないが、許すことにした。

 

 私達が話している間に山本武はスクアーロを助けようとしていた。チラッとディーノを見る。今日は私と一緒にいたが、大丈夫だろうか。いや、ディーノのことだ。必ず山本武のために行動しているだろう。

 

 モニターに視線を戻せば、視界をふさがれる。ディーノの手のようだ。チョイスの時、笹川京子達のために似たいようなことをするはずだからな。見せない方がいいと判断したのだろう。

 

「私はただの一般人じゃない。だから大丈夫だ。それに、だろ?」

「……それでもだ」

 

 やはりディーノは対策を立てていたようだ。それでも、もし私の知識とずれた時のことも考えての行動だった。ディーノは甘いな、と思いながら、ゆっくり息を吐く。知らぬ間に、肩に力が入っていたらしい――。

 

 

 

 

 

 

 

「え!? ディーノさんのところで泊まるの!?」

「ん。君のお母さんには伝えてある」

「……オレは初耳なんだが――」

 

 とりあえず、ディーノの言い分は無視する。

 

「高級ホテルに興味があるんだ」

「それは、そうかも……」

「おめーは朝から修行だからな。行けねーぞ」

 

 興味がありそうな沢田綱吉の気持ちを、リボーンは簡単にへし折った。流石である。まぁ彼も高級ホテルに何度か行くことになるからな。継げといわれたり、ヴァリアーと隣でご飯を食べることになったり――なかなかの不憫である。久しぶりに同情した。

 

「ちょ、なにその目はーー!?」

 

 沢田綱吉の肩をポンッと叩き、ロマーリオに山本武の治療を任せ、私とディーノは学校から出たのだった。

 

 

 しばらく歩き出すと警戒しながらディーノが声をかけてきた。私が無理を言ったのだ。何か用事があると思っているのだろう。

 

「もう1度確認する。部下を忍び込ませてるんだろ?」

「ああ。山本を救うためにだったけどな。今、オレの部下達が動いてくれている。オレもすぐに向かうつもりだったが――」

「わかってる。私は病院のベッドを1つ借りれればいい」

「――そうか」

 

 高級ホテルという話はウソと気付いているはずだが、ディーノは少しすまなさそうな顔をした。気にするなという意味で「話は車の中の方がいい」と声をかける。ディーノは何も言わずに頷いたのだった。

 

 車に乗り込むとさっそく話し始めることにする。

 

「沢田家光に助言。そこにいるのは『影』だ」

 

 ディーノは息を呑んだ。いったい誰が影なのか、わかったのだろう。

 

「影とわかっても、本部に突入しなければならない。だろ?」

「あの人は……イタリアに居ろってことか……」

 

 首を横に振る。居ろというわけではない。日本に戻ればどうなるかわからないだけなのだ。9代目の姿を見た沢田家光が手を出さないとは限らないからな。

 

「大丈夫だ」

 

 頭をガシガシと撫でられ、身体が揺れる。酔いそうになるから止めてくれ。

 

「君にも助言。スクアーロは死なせるなよ」

「そのつもりだが――」

 

 よくわかってなさそうなので、はっきりという。

 

「彼が死ねば、私達の死亡率が大幅にあがるぞ」

「なっ!?」

 

 驚いてるディーノを無視し、私は目を閉じた。ポケットの中にあるものを触りながら、大丈夫と自身に言い聞かせる。そして、思った。

 

「……元々得意じゃなかったが、人と話すのが嫌いになりそうだ」

『ちゃおッス』

 

 目を開くとディーノの手が私の頭上にあった。またガシガシ撫でようとしたのだろう。車内のどこに隠れているのかと、リボーンを探しているディーノに教える。

 

「ただの目覚まし」

「は?」

「リボーンに頼んだんだ」

 

 生徒時代の名残で探してしまったのだろう。ドンマイである。

 

「……こんな時間に目覚ましなのか?」

「兄に電話するのを忘れそうだから」

 

 毎日電話すると約束したからな。もし忘れてしまうと面倒なことになるから、わざわざ目覚ましをしてるのだ。

 

「なんで、リボーンの声なんだ……?」

「目覚ましだから」

 

 首をひねってるディーノを無視し、兄に電話をかける。

 

『サクラ、今日はどうだったかい!?』

「……ん。ディーノに本を買って貰った」

 

 兄のテンションの高さに若干引きならがら、今日の出来事を教える。もちろん、リング争奪戦のことは話さないが。

 

 しばらく兄と話していると視線を感じ、ニヤニヤしていたディーノをハリセンで叩く。当たったがディーノはケロっとしていた。無性に腹が立つ。兄がうるさいが、切ることにした。

 

「悪かった。兄が好きなんだなっと思っちまってよ」

「逆だろ」

 

 兄が私のことが好きなのだ。そこを間違っては困る。

 

「もしあいつに彼女が出来れば、どうする?」

 

 ディーノはいったい何を言い出すんだ。よくわからないが「好きにすればと思う」と返事をする。

 

「お前と話す時間が減ってもか?」

「減るわけないだろ」

「優先順位が変わる可能性があるだろ?」

 

 よくわからなくて首をひねる。兄が私を優先しないことがあるのだろうか。

 

「お前だって、ツナ達と仲良くなって、桂と話す時間が減ったんじゃないのか?」

 

 そういえば、私に友達が出来ても、あまり変わらなくて嬉しいねという感じのことを言われた気がする。

 

「あいつは寂しいと思うかもしれないが、引けるってことだ」

 

 つまり、ディーノは私が引けないと思ってるということなのか。兄は笹川了平と友達だろ。そのことに私は文句を言ったことがないはずだぞ。

 

「私は兄と笹川了平の友情?の邪魔をしたことはないぞ」

「よく考えろ。笹川と話している時にお前がやってきたら、どっちを優先していた?」

「当然、私だろ」

 

 『お兄ちゃん』と呼べば、必ず私の方に来るからな。

 

「そういうことだ」

 

 ディーノは何か納得しているようだが、私には兄が私のことが好きと再確認した話にしか思えなかった。

 




雲雀さんと桂さんの話になると執筆スピードがなぜかあがるw


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貸し借り

 病気でもないのに、病室で本を読んでいると迎えが来たようだ。ディーノは忙しいようなので、試合は諦めていたのだが、合間を縫って手配してくれたらしい。ズレのことを気にしている私のためだろう。試合をちゃんと見ていないため、気付かれていないと思ったが、バレバレだったようだ。

 

「見に行くぜ、コラ!」

 

 妥当な人選だなと思った。コロネロは霧の試合に興味があり、口がすべらない強い人物だからな。

 

「笹川京子とお風呂入ってきたのか?」

「は、入ってないぜ!」

 

 反応が微妙すぎて、どっちでもいいかという結論になった。コロネロが焦ってるのはスルーする。

 

 

 

 道中、コロネロに対戦相手のことを聞かれたが、答えなかった。どうせすぐにわかるからな。

 

 学校についてからは私が案内すれば、早く着いたらしい。沢田綱吉が頬にキスされているシーンだった。私のせいでコロネロの登場シーンをつぶすことになるので、1度扉を閉める。

 

 少しボーッとするしかないと思っていると、もの凄い勢いで扉が開かれる。

 

「は、入っていいから!!!」

 

 真っ赤な顔をした沢田綱吉だった。彼はいっぱいいっぱいのはずだったので、恐らくリボーンが教えたのだろう。別に気を遣わなくても良かったのだが。まぁいいというのなら、入るけどな。

 

 私が体育館に入ったのを見て、再びクローム髑髏を仲間にするかと話し合いが始まった。

 

「てめーもちったぁ考えやがれ!」

 

 いつも通りに本を読もうとすれば、獄寺隼人に怒鳴られた。しょうがないので、口を開く。

 

「じゃぁ賛成」

「じゃぁって……てめぇ!」

「まーまー。落ち着けって」

 

 答えたのになぜ怒鳴られる。理不尽である。もう山本武に任せて私は本を読もう。

 

 

 

 

 沢田綱吉達の声は慣れたので気にならないが、火柱は邪魔だ。

 

「……読めない」

「極限、平気なのか!?」

 

 火柱の近くにいながら、ボソッと呟いたことに気付いたようだ。沢田綱吉達に驚かれる。

 

「火柱は幻覚と理解すれば、これぐらいなら防げるだろ」

「そういわれたって……うわぁ!」

 

 火柱が凍るのを見て、沢田綱吉達は驚いた声をあげる。だから、それは幻覚だ。

 

「サクラが術士につえーんだ」

 

 リボーンとコロネロは幻覚にかかったようだ。……そういえば、そうだったな。まさか私がかからないとは思わなかった。もしかすると私の勘違いで知識だけではなかったのかもしれない。それぐらいでしか説明出来ないのだ。私がいくら相手の好み、これからの行動がわかるといっても、強力な幻覚にはかかるはずだ。そして、思った。……微妙すぎる。

 

 例え、私が術士に強くても、骸や幻騎士のように体術を使える術士なら一発でアウトだ。マーモンのファンタズマが興奮しないところを見ると、私は幻術を使えるような特殊な人間ではないのだろう。そして、見破ってるわけではないかもしれない。もし相手が術士と気付かなければ、私は攻撃に当たるかもしれない。実験したくはないので、するつもりはないが。そもそもそんな術士と戦うという危ない経験をする予定はいらない。

 

 だが、もしもの時と考えた時、私は知識とこの微妙な能力で生き残らなければならないのか。その前に、この知識は何だ。考えてもわからないので、溜息をつくことしか出来なかった。

 

「クフフ クフフフ」

 

 人が悩ませている時にこの笑い声は腹が立つ。しかし文句を言うと殺されるかもしれない。諦めて本を読むことにした。

 

 

 

 

 

 沢田綱吉の「え?」と驚いた声に顔を上げる。もう試合が終わってるはずなのだが。顔をあげれば、視線が突き刺さる。この場にいる人物全員に見られているようだ。

 

「君の仕業?」

「心外ですね。僕は事実を言ったまでです。あなたは彼の企てに気付いているのでしょう?」

 

 やはり余計なことを言ったのは六道骸だったようだ。私は黙秘権を執行することにした。しかし「クフフフ」と笑ってる姿に腹が立ち、ポケットに入っていたものを投げつける。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちする。不意打ちを狙ったはずなのに、キャッチされたことに腹が立ったのだ。もうさっさと用件を済ますことにしよう。

 

「彼女に、だ」

 

 六道骸は何も言わずに、ポケットにしまった。恐らく後で渡すのだろう。

 

「む、骸に何を渡したの……?」

「渡したというより、借りを作った、だな」

 

 私がいるからと骸が動かなかった場合が困る。ランチアが来なければ、沢田綱吉にリングを渡すタイミングがなくなるのだ。つまり、ボンゴレリングを砕く未来が出来ない可能性が出てくる。ラル・ミルチの反応からして、未来の沢田綱吉はランチアからもらったリングを使っていた可能性が高いからな。

 

「言っておくが、それを用意してくれたのは彼らの仲間だ」

「……いいでしょう」

 

 パイナップルバカと心の中で連呼していたが、本当のバカではないはずだ。今ので沢田綱吉達に借りを返せというのは通じているはずだ。そして、その借りを返す方法はXANXUSの企てではないこともわかるはず。六道骸は私がわざと黙ってることに気付いているはずだからな。

 

 六道骸との駆け引きが終わったので、ボーッとすることにした。少し疲れたのだ。

 

 

 

「――ラ、サクラ!」

 

 はっと顔をあげる。沢田綱吉が心配そうに私を見ているので、何度も名前を呼んでいたらしい。ボーッとしてるつもりが、これからのことを真剣に考えてしまったな。

 

 本当に9代目を助けなくていいのだろうか。原作通りに進めるのが正しいのだろうか。そればっかりが頭に浮かんでしまうのだ。

 

 リボーンはわかっていたのかもしれない。近くにいればいるほど、不安が強くなる。だから海外に行くかと聞いたのだろう。ルーチェ、アリア、ユニはどうしていただろうか。わかっていても何も言わずに、受け入れていた気がする。

 

 私には無理だ。そう思った。

 

 何を見てしまっても笑え。それがどれだけ難しいことなのか。まぁ、だからこそ影では泣いていたのだろう。

 

「本当に大丈夫!?」

 

 沢田綱吉に顔を覗かれ、一歩下がってしまう。もう限界かもしれない。原作を知っている私なら、彼らのために出来ることがあるかもしれないと思った。だが、実際はどうだ。私の存在が彼らの首を絞めてるのではないのか。私は彼らと近づきすぎたのだ。

 

「余計なことは考えるんじゃねぇぞ。サクラは10年後のランボの言葉を忘れちゃいけねーんだ」

 

 リボーンに言われ、思い出す。彼らは急に消えた私をずっと探していたことを――。

 

「ん。大丈夫」

 

 不安そうな顔をしている沢田綱吉に向かって、上手く出来たかわからないが笑いながら言った。

 

「……彼女は誰が運ぶんだ?」

 

 私の知識ではわからないため、聞いてみた。少し誤魔化したのもあったが。驚いた表情をしている沢田綱吉達に溜息が出る。彼らはチェロベッロに任せる気だったのか。流石にそれはないと思いたい。

 

「誰でもいいなら、笹川了平がするか? 君なら慣れてるだろ」

「えー!?」

「……妹がいるからという意味だ」

 

 まぁ未来でもお姫様抱っこをするからという意味もあったが。私は少し恥ずかしそうな沢田綱吉を放置し、笹川了平の手伝いをする。もっとも、私は三又槍を拾うぐらいだが。

 

「極限、どこに運べばいいのだ?」

「……病院」

 

 少し返事が遅くなってしまった。早めに仲良くなるために、笹川了平の家でもいいが、今から連れて帰れば問題になるだろう。山本武も同じ理由で無理だ。沢田綱吉の家には私がお邪魔している状況だ。流石に頼みにくい。獄寺隼人は警戒して寝れなさそうだ。……元々、あまり眠れなかった気もするけどな。

 

 結局、病院にいるディーノの部下にクローム髑髏のことを丸投げし、私達は帰ったのだった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 山本武達と別れ家に帰る途中に、ツナは横目でサクラを見た。一瞬だが、霧戦の後のサクラはツナを拒絶したように見えた。だが、今のサクラは、いつも通りに見える。ツナは気のせいだったんだと結論した。

 

「いってぇー!」

 

 ツナは頭を抱える。そして、原因は確認せずともわかるようになった。ツナはリボーンに文句を言おうとして時、サクラが視界に入る。サクラの驚いたような表情から呆れたような表情をしっかりと見てしまった。情けない気持ちが出てくる中、ツナはいつものサクラだと再確認した。

 

「……私の顔に何かついてるのか?」

「ち、違うよ!」

 

 ジッとサクラの顔を見ていたことに気付かれてしまったようだ。少し顔が赤くなりながらもツナは誤魔化すが、サクラがため息をついてしまった。

 

「だ、大丈夫だよ。本当に何もついてないから!」

「じゃぁ何?」

「……どこにも行かないよね……?」

 

 サクラの目が見開く。よくわかっていないツナが、核心をつくとは思わなかったのだ。しかし、それと同時に納得した。ツナならありえることだと――。

 

 ツナはサクラの反応を見て、変なことを言ってしまったと焦る。慌てて何か言い訳をしようとしたが、うまく言葉が出てこない。そんな、ツナを見てサクラが声をかける。

 

「もし私が急にいなくなれば、君達は探すんだろ?」

「当たり前だよ!!」

 

 サクラは笑った。嬉しそうにというわけではない。しょうがないという笑いだった。

 

「君が悪い奴だったら、良かったのに……」

 

 思わず呟いたサクラの言葉に、ツナが驚きの声をあげれば、サクラは楽しそうに笑った。その様子を見て、ツナも一緒に笑ったのだった――。




今回はちと短かったです。申し訳ないです。


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※ いらない気もしますが、流血?注意です。


 目の前の光景を見て、叫んだ。

 

「私は、こんな未来を望んだんじゃないんだ……!」

 

 私はただ沢田綱吉にモスカの中に9代目といると教えただけなのだ。教えれば、9代目を傷つけずに助けれると思ったからである。

 

 だが、この状況はどうだ。

 

 沢田綱吉は無事に9代目を助けた。が、傷つけずに助けたことにより、XANXUSが暴走したのだ。そのため、背後から沢田綱吉は攻撃を受けた。私の目の前で――。

 

 私はわかっていたはずだ。XANXUSはいつ暴走するかわからないことを。そして、沢田綱吉は修行で疲れている状態だったことを――。

 

「違う! 違うんだ!」

 

 涙で視界が歪む。私は沢田綱吉達の負担を減らそうと思ったんだ。少しでも、彼らが傷つかないように……!

 

「ぶはーはっは!!」

 

 XANXUSの笑い声が響く。まるで最初からこうすれば良かったんだと言ってるようにも思えた。私は怖くて――この光景を見る勇気がなくて、目を開けることが出来なかった。

 

「ぶっ、ははは!! 最高だ!」

 

 崩壊の音が響く。そして、笑い声も大きくなっていくように感じた。まるでこの世界が壊れることに喜んでいるように聞こえる。

 

「お前、最高」

 

 耳元で囁かれた。いったい、誰にだ。そして、気付く。さっきまでの笑い声はXANXUSじゃない。性別は同じようだが、声が違う。いつの間に変わっていたのだ。慌てて振り向いたが、目を手でふさがれた。

 

「み、る、な」

 

 これは誰の声だろうか。聞きなれた声だった。この1年で会話したことがある声だ。声フェチの私なら冷静に考えれば、すぐにわかることだった。私の目をふさいだ手がベットリ濡れて、独特な臭いがしなれば――。

 

 この臭いは知っている。怪我をしたりする時に嗅いだことがある。だが、鼻につくほど強烈に感じたことは今まで1度もなかった。

 

 私はついに声も出せなくなる。なぜなら、私の目をふさいだ手が、徐々に下がっていくのだ。まるで力尽きたように――。

 

 景色が見え始める。笑っている男の顔を見て、目の前が真っ暗になった――。

 

 

 

 

 

 私は目を開け、身体を起こした。そして、ビッショリとかいた汗が不快と感じだ。

 

 嫌な夢を見た。……夢だった、と思う。あまりにもリアルすぎた。それにあの男はなんだ。恐怖の塊だった。決して、逆らってはいけない。そう身体が、脳が一瞬で理解した。

 

 ガタガタと身体が震えだす。もし私が話したことによって起こる未来だと考えると怖くなった。

 

「サクラ、わりぃーが起きてくれ。ツナが行っちまった」

「あ……あ……」

 

 リボーンが、扉の向こうから呼んでいる。返事をしようとしたが、喉に何か引っかかったようにうまく言葉が出てこない。ガチガチと歯の音が響く。

 

「サクラ、しっかりしろ」

 

 私の様子がおかしいと感じたリボーンが、扉を開けて見に来たようだ。優しく頬を叩かれる。

 

「リ、ボーン……。わ、私の、せいで……」

「大丈夫だぞ。ツナ達は無事だ」

「ち、違う! 私が話してしまったせいで!!!」

「……わりぃ、サクラ」

 

 リボーンの呟きが聞こえた後すぐに、首に何か衝撃が走ったのだった。

 

 

 

――――――――――――

 

 リボーンはそっとサクラを寝かせ、涙を拭った。その後、すぐに優先順位を考える。ツナの行き先は見当がつくため、あっさりと後回しにし、電話をかける。

 

「シャマル、今すぐツナん家に来てくれねーか? 精神安定剤が必要かも知れねぇ」

 

 誰が、とは言わない。Drシャマルも聞き返しもせず、「すぐ行く」と返事した。

 

「ママンかビアンキに頼むべきだな……」

 

 サクラの汗を見て、呟く。精神状態が不安定な時に風邪をひけば、サクラの容態が酷くなると思ったのだ。

 

 事情の知らない2人に、もしサクラが起きてしまった時を考えると少し心配だが、男に着替えを任せることは出来ない。自身が付き添ってもいいが、サクラはリボーンも大人と知っているのだ。サクラのことを思うと、扉の前で待機するべきと判断したのだった。

 

 そうと決めればと、リボーンはビアンキと沢田奈々に声をかけるために行動したのだった。

 

 

 

 安心し待合室で眠ってるツナに軽く殺気を放ちたくなるのを我慢し、リボーンはディーノのところへ向かう。

 

「んだよ、リボーンか……」

 

 ディーノは気配を消して近づいた人物の正体がわかり、ほっと息を吐く。が、リボーンの真剣な表情に気を引き締め、どうかしたのかと尋ねた。

 

「さっき、サクラに精神安定剤を打った」

 

 ディーノはリボーンに問い詰めたい気持ちもあったが、サクラがそこまで追い詰められていることに気付かなかったことはディーノも同罪なのだ。必死に我慢し「わかった」と返事をしたのだった。

 

「今、サクラはぐっすり眠ってるぞ。それにDrシャマルがそばについている。安心しろ」

 

 そんなディーノの葛藤に気付いたようで、リボーンはサクラの状況を教えた。その言葉でディーノは多少たりとも安堵し、冷静になる。

 

「……いったい、何があったんだ?」

 

 サクラが不安定になる可能性があったのは、ディーノも理解している。だが、何かきっかけがあったと考えたのだ。サクラは出来るだけ試合を直視しないようにして、精神バランスを自身で調節し保っていた。それに気付いたからこそ、ディーノは雨戦の時に本を返したのだ。そのサクラが精神安定剤を打たなければならない事態になれば、何かきっかけがあったとしか考えれなかった。

 

「おそらく予知夢をみた」

「それは――」

 

 絶対にないとディーノは続けれなかった。サクラ本人の話では予知ではなく、自身がいない未来がわかるだけと言っていた。サクラは否定するだろうが、この世界のマンガ――原作があることを知らないディーノ達からすれば、それは予知と変わらないことだった。サクラの言葉だけを信じて、予知ではない能力と考えたこと事態がおかしかったのだ。

 

「サクラは話してしまったせいでと、言った」

「話したことで起きた未来をみちまったのか……」

 

 精神が不安定になるほどの未来を――。サクラが混乱した姿を想像し、ディーノは何も出来なかった自身が悔しくなった。

 

「問題は何を話そうとしたのか……」

 

 サクラが話すときはツナ達のため。それを十分に理解しているからこそ、2人は内容の重要さに気付く。だが、サクラから聞き出すことは出来ない。たとえ、サクラが大丈夫と言っても話させない。2人は確認せずとも、これは決定事項だった。

 

 2人はサクラの言動を思い出す。そして、たどり着く。

 

「9代目」

 

 声が重なり、顔を見合わせ2人は頷いた。それしか、ないと。

 

 ヒントはあった。『ディーノに恨まれるかもしれない』、『幼い相手以外のことは黙ってる』、『XANXUSの企て』そして、サクラが話した方がいいと思う内容。伝えた相手とこの戦いに関することを考慮にいれれば、限られていく。

 

 最大のヒントは、『9代目は影』と言い、本物の9代目のことは話さなかった。もちろん知らない可能性もある。が、それならば知らないと話しているだろう。サクラは自身のせいで誰も死んでほしくないと思っているのだから……。更に、サクラは助言の時、曖昧な言葉は使わないようにしている。もし使う時は『かも』『はず』という言葉を必ず使う。自身の言葉がどれだけ重要なのか、理解しているからだ。そのサクラが言わなかった。黙っている可能性の方が高い。

 

「だが、これでは動けねーな」

 

 9代目についてサクラが話そうとしたということは恐らく当たっている。が、それ以上のことはわからない。下手に動いて、身動きが出来なくなるのは本末転倒だった。

 

「ああ。そして、手がかりはイタリアにあるってことか……」

 

 ディーノはサクラが『9代目は影』と自身に教えたタイミングが気になっていた。サクラは家光に会った時になぜ言わなかったのか。そのためディーノは緊急連絡を入れることになった。どこかサクラらしくない。先に知っていれば、争奪戦が終わってからでも本部を乗り込むことも出来たのだ。乗り込む直前で知れば、影をそのまま放置することはできない。今ならわかる。サクラは家光が本部に乗り込むのを待っていた。そして「影とわかっても、本部に突入しなければならない、だろ?」と念を押し、誘導していた。

 

「家光の連絡を待つしかねーな」

「ああ」

 

 焦る気持ちもあるが、自身達にも重要な案件がある。ディーノはスクアーロの存在を隠し治療すること、リボーンはツナを鍛え上げることだった。

 

 

 

 リボーンはディーノと別れ、待合室に向う。ぐっすり気持ち良さそうに眠っている姿を見て、溜息が出た。

 

 気付いてるようで、気付かないツナを一発殴る。いつもより力が強くなるのは、サクラのことを考えれば、当然のことだった。

 

「起きろ、バカツナ!!」

「いってぇーー!?」

「行くぞ」

 

 痛がってるツナを銃で脅す。もう時間がないのだ。

 

「行くってどこにだよ!?」

「修行に決まってるだろ。バカツナ、もしもの時、どーすんだ?」

 

 ツナとリボーンでは『もしもの時』のとらえ方が違う。ツナにとっては雲雀が負けてしまう未来。リボーンにとってはサクラが話さなくても、起きるかもしれないサクラが怯えた未来だった。もちろん、リボーンは違いに気付いている。時間があれば、リボーンはサクラのことを教えていただろう。しかし、その時間すらなかった――。

 

 

――――――――――――――

 

『ごめんなさい……』

 

 目をあける。耳元で誰かに言われた気がしたのだ。しかし、あたりを見渡してもDrシャマルしかない。今のは女性の声だった。謝られていたのに、心地よい声だった。出来れば、もう1度聞きたい。夢だったのだろうか。

 

「目が覚めたのか……」

 

 その言葉に頷くと、パジャマが変わっていることに気付く。……治療行為の一種とわかっているが、一発ぐらい殴ってもいいだろうか。

 

「オレじゃねーよ。ったく……リボーンの奴め。手を回しやがって……」

 

 ちゃんとリボーンが手配してくれたようだ。流石である。恐らくビアンキか、沢田奈々だろう。もしくは両者かもしれない。

 

「今、何時だ」

「まだ眠ってろ」

 

 Drシャマルが教えようとしないので、自身で確認することにした。が、近くに時計がない。

 

「今、何時だ」

 

 もう1度、問う。首を横に振るだけでDrシャマルは何も言わない。時計を隠している可能性に気付く。カーテンも閉め切った状態で、昼なのか夜なのかもわからない。慌てて起き上がろうとしたが、Drシャマルに肩をつかまれ、動けなくなる。

 

「ドクターストップだ。後はあいつらに任せろ」

 

 それは出来ない。私の知らない男がいたのだ。思い出すだけでも恐怖を感じるが、今動かなければ何のために私がいるのかわからない。

 

 力を抜き、深呼吸する。Drシャマルは私が諦めたように思ったのだろう。残念ながらそれは違うぞ。

 

「きゃああああ!」

 

 Drシャマルは滅多に大声を出さない私の悲鳴に驚いたようだ。が、驚いてる隙に動くとわかったのか、すぐさま私の肩を抑えた。

 

「諦めろ。可愛い子ちゃんの力では、オレには敵わないぜ」

 

 確かにそうだろう。一般人の私が殺し屋に敵うと思うほど、バカではない。私の狙いにDrシャマルが気付いたのは勢いよく扉が開かれた時だった。

 

「ポイズンクッキングⅢ!!!!」

 

 ピクピクと痙攣しているDrシャマルに罪悪感を覚えながら、パーカーを掴み部屋から出ようとする。

 

「まっ、待て!」

「女の敵、滅びなさい!」

 

 流石、ヒロイン達の姉貴分である。たいして仲が良くない私を2度も守ってくれるとは……。若干、ドン引きしながらも、礼を言う。

 

「いいわよ。いくらリボーンの頼みだとしても、この男と2人っきりにさせたのが間違いだったのよ」

「……カ、カッコイイ」

 

 思わず呟いた。ヒロイン達が慕う理由がわかる。もう1度、礼をいい。私は外に飛び出したのだった。走りながらケイタイを見る。時間は11時を少し過ぎていた――。




……シリアス……だと!?
(多分、私が1番驚いてますw)


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一歩

 ディーノとロマーリオは原作と違い、学校にいた。サクラの様子を聞き、試合を見に行った方がいいと判断したのだ。もちろん、スクアーロの病院移動は済ませ、部下に見張らせている。

 

 今のところ異変はないので、ディーノは試合前の教え子に声をかけることにした。

 

「よぉ、恭弥」

「何しにきたの」

「恭弥の試合を見に来たといいてーが、ちょっと気になることがあるんだ」

「……ふぅん」

 

 雲雀はサクラのことを頭に浮かべた。が、一瞬で消え去る。目の前に獲物がいるのだ。特に椅子から動こうとしない男に用がある。自身の邪魔さえしなければ、好きにすればいいと判断したのだった。

 

 ディーノはいつもと変わらない教え子にやれやれと思いながら、まわりを警戒する。まだ異変はない。ルール説明を聞いても、フィールドが了平の言ったようにまるで戦場ということ以外、不審な点はなかった。

 

 ついに勝負開始という声がチェルベッロから宣言された時、ディーノのケイタイが震える。画面を見れば、サクラからだった。慌てて電話に出る。

 

『学校に救急車を呼べ!』

 

 ディーノが口を開くよりも先に、サクラの助言が耳に入ってしまった。瞬時に、教え子に目を向ければ、モスカを倒した爆発音が響く。その爆発音の中、ディーノは「お兄ちゃん」というサクラの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 サクラは学校に向かいながら、学校に救急車を呼ぼうとしたが、手を止める。9代目が入院したことは世間に知られてはいけないことだろうと思ったのだ。そのため、ツテがあるだろうディーノに連絡したのだった。

 

「サクラ、どうしたんだい? そんな格好で」

「……お兄ちゃん」

 

 そっと耳からケイタイをおろし、通話を切る。サクラは先程の会話を聞かれたのかもしれないと思ったが、桂の様子を会話からして、知らないと判断する。

 

「沢田君とケンカでもしたのかい?」

 

 桂はパジャマの上にパーカーを羽織っただけのサクラが、この場にいても不思議ではないような理由を口にする。

 

 もちろん、そんなわけがないと桂が1番わかっていた。なぜなら、ヴァリアーに宣言してすぐ、桂は仕事を辞めてずっとサクラの護衛をしていたのだ。ツナ達を信用していないわけではないが、仕事に手がつかなくなるのは目に見えていた。だからあっさりと辞め、まだ時間に融通ができる父親の仕事を継ぐことを選んだ。

 

 そこまで覚悟を決めたからこそ、サクラから話してくれるその日まで、桂は知らないフリを続ける。サクラに自身の気持ちを押し付けないために――。今回は詳しくはわからないが、抜け出してきたのだろうと推測したため、サクラの前に姿を現し声をかけたのだ。

 

「……違う。行かなくちゃならないんだ」

 

 初めは適当に誤魔化そうとした。ウソをついでも、桂を振り切ってでも、サクラは学校に行こうとした。でも口から出たのは正直な気持ちだった。

 

「そうかい。ならば、僕も一緒に行こう!」

 

 サクラは首を横に振る。桂の目は見れなかった。悲しそうな顔をしていると思ったからである。だから、もう1度正直な気持ちを伝える。

 

「『いってらっしゃい』って言って。……私から送り出してほしいと頼むのはレアだぞ」

 

 途中で恥ずかしくなり、サクラは威張った。桂は浮かれることもなく、サクラの後ろに移動する。そして、その背を押した。

 

「さぁ! 行って来るがいい!!」

 

 振り返らずに頷く。怖いが、必ず自身の味方をしてくれる桂に背を押されたのだ。サクラはもう逃げない。彼らとこれからも過ごすためには、この目で見なければならないのだ。何が起こっても、だ。サクラは覚悟を決め、走り出した。

 

 

 

 桂は動かない。サクラを守るため、自身も学校に行かなければならないが、すぐに追い抜くことはできる。だから、この光景を目に焼き付けることにしたのだ。

 

「まるで、羽が生えたようだよ」

 

 誰がなんと言おうとも桂の目にはそう見えた。桂はサクラがまた一歩大人になったと実感しているのだ。いずれ、桂の助けもいらないぐらいサクラは成長することになるだろう。しかし、そのきっかけの1つに自身の力が必要だった。それが何より桂は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 サクラが学校にたどり着いた時にはモスカが暴走していた。崩壊の危険を考え、建物から距離をとりながら、山本武達と合流をまず目指した。

 

「あぶねぇ!」

 

 ディーノは叫んだ。この騒ぎの中、近づく足音が聞こえたのだ。目を向ければ、サクラに向かって爆弾が落ちるところだったのだ。しかし、サクラに爆弾が当たることはなかった。無事に回避したのだ。もちろん、サクラが避けれるわけがない。助けてもらったのだ。

 

「邪魔だよ」

「雲雀、恭弥……」

 

 急に引っ張られ、尻餅をついた状態で、サクラは上から下まで雲雀を観察した。助け方がかなり手荒だったことを踏まえると、本人の可能性が高い。が、雲雀の足には怪我がなかった。

 

 これはサクラの助言のおかげだった。救急車が必要になる理由がXANXUSと戦っている教え子だと、ディーノは勘違いたのだ。そして、モスカが起動したことにいち早く気付き、ロープを使って助けていたからだった。ちなみに雲雀がサクラの近くに居たのは偶然である。雲雀はXANXUSより暴走し学校を壊すモスカを優先し、フィールドから出ていただけだった。

 

 そんなことを知らないサクラは雲雀を怪しむ目で見る。その視線に気付いた雲雀がトンファーを構えたことにより、サクラは本人と確信したのだった。

 

「ん。それでこそ君」

 

 失礼な言葉を吐きながら、サクラは雲雀の腕を掴む。もちろん、雲雀は振り払った。

 

「君の腕を見込んで頼みがある」

「いやだ。僕はあれを壊す。君を助けたのは学校で死なれると風紀が乱れるからだ」

「それを私がわかってないと思ってるのか」

 

 時間にして数秒、にらみ合った。そして、「早くいいなよ」と雲雀が折れた。これはサクラの今までの言動。そして、サクラとディーノに借りを返すためである。

 

 もし事情の知っているディーノが近くにいれば、サクラは雲雀に頼まないだろう。だが、ディーノは今、XANXUSを牽制している。XANXUSはツナの守護者や同盟のディーノ達には手を出せない。だから、モスカを暴走させた。しかし、サクラは違う。この中で唯一サクラは曖昧な立場である。もしサクラに何かあってもモスカの暴走を止めようとして起きた事故と押し通せることができる。雲雀を助け、サクラが無事だと確認できた時から、XANXUSの近くにいたディーノは動けなくなったのだ。

 

「強者の気配を感じないか?」

 

 雲雀はサクラの質問の意図を理解した。見える範囲ではない人物を探していることに。雲雀が真っ先に気付いたのは今にでも飛び出しそうな桂だった。まさか兄の強さを理解していないと思わず、雲雀は口に出さなかった。

 

 一方、サクラも雲雀の返事を待つ間も、あたりを見渡し探していた。視界にディーノとXANXUSが対峙しているように見えたが、後回しにした。夢で見た男の方がXANXUSより危険なのだ。

 

「……本当にいるの?」

「わから――」

 

 ただの夢だったならそれでいい。そう思いながら、サクラはわからないと言おうとした。自身より強者を求める雲雀の方が見つけれる可能性が高いと判断したからである。しかし、男を見つけたのはサクラだった。

 

「……?」

 

 雲雀はサクラの目線を追った。が、何も見えない。ただの空だった。

 

 

 男は空中に浮いているため、サクラは見上げることしか出来なかった。男を見ても、夢の時のような恐怖は感じない。ただ、そこにいる。それだけだった。

 

 男に意識が向いたのはサクラだけでなく、桂もだった。雲雀と同じようにサクラの目線を追えば、桂には見えたのだ。

 

 2人の視線を感じたのか、男は口を開く。

 

「素晴らしい愛だ。精々、楽しむがいい」

 

 サクラは振り返る。夢の時のように耳元で言われた気がしたのだ。しかし、男はいない。慌ててもう1度見上げれば、ただの空だった。

 

 桂も男から目を離したつもりはなかったが、背後をとられ囁かれた。桂は数秒考え、違うと首を振る。男の気配は感じず、サクラも同じような反応をした。同じタイミングで、だ。つまり、あれは耳元で囁かれたわけではない。脳に響いたのだと桂は気付いたのだった。

 

 男の言葉からして、この場にもういないと2人は判断する。2人は先程の言葉の意味を考える。サクラはツナ達に対してと捉え、桂はサクラに対して捉える。

 

 2人が完全に一致したのは、あの男はもういないことと敵という認識だけだった。

 

 

 

 

 

 雲雀がサクラの頼みを聞いたことにより、モスカの暴走を抑えたのは原作通りツナになってしまった。

 

 ツナの涙を見て、サクラは罪悪感が募った。夢で見た男が実際に居たことを考えると、話さなかったことが正解かもしれない。が、サクラが上手くやれば、夢の通りにならない可能性もあった。もっとも、リボーンに眠らされた時点で、その可能性がほぼなくなったが。

 

「……僕は君に死んでも感謝はしない」

 

 サクラの近くに居た雲雀はトンファーを構えながら呟いた。いきなりのことでサクラは怪訝な目で雲雀を見る。サクラからすれば、雲雀が感謝するはずないとわかっていた。そのため、雲雀の言葉は当然のことを言っているとしか思えない。

 

「だけど、役に立つとは思ってる」

 

 雲雀はツナを見ながら言った。サクラはツナが強くなる、この状況を作った――壊さなかったことを言っていると理解した。が、サクラはもう1度考え直すことにした。リボーンとディーノが雲雀はサクラのことをわかっていると発言していた。あの雲雀が呟いたのだ。サクラのために言った、他の意味が含まれているかもしれないと思ったのだ。

 

 そして、本当の意味でサクラは雲雀の言葉を理解した。誰、もしくはどこに基準を置くかによって、サクラの気持ちは変わることを――。

 

 もしサクラが雲雀を基準に見ていれば、そこまで罪悪感は持たなかっただろう。先程のサクラはツナ達を基準に見ていた。だから、辛くなった。

 

 サクラは深呼吸する。1度、原点に戻ろうと思ったのだ。ツナ達と友達になると決めたはサクラの意思である。イレギュラーの自身がいるからこそ、ツナ達には原作のようなハッピーエンドをむかえてほしいとサクラは思っている。そのためにはこの状況が必要なことだと思えるようになり、気持ちが軽くなった。

 

「咬み殺されるのは嫌だが、君みたいな奴がいて良かった」

 

 サクラは本音を漏らした。サクラにとって、雲雀の存在はとてもありがたかった。なぜなら、ツナ側でこの状況を喜んでいるのは雲雀ぐらいなのだ。もちろん、雲雀がXANXUSに強者と戦いたいという気持ちを利用され、ムカついてることはわかっている。が、最後まで大人しくしていたことを考えると喜んでいる方が強かったことは、原作を知っているサクラにはわかることなのだ。

 

 雲雀はサクラに興味がなくなり、もう何も答えない。サクラはそれもありがたい思ったのだった。

 




蛇足な気がして、原作でわかるところはカットしました
次の話はどこから始めようw


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ダメツナ

「ツナさんの驚く顔が楽しみですー」

 

 語尾にハートマークがありそうだ。そう思いながら、私はなぜここにいるのだろうかと考える。沢田綱吉と一緒に学校へ行く途中で、彼の額にデコピンをしたまでは問題なかったはずだ。

 

「あなた達、行くわよ」

 

 やはり原因は沢田綱吉と別れて教室に向かってる時に、彼女に見つかってしまったせいだろう。昨日のこともあったので、断れなかったのだ。……感謝という意味ではなく、恐怖で。

 

 私が考えている間に、彼女達は屋上の扉を開け、沢田綱吉に駆け寄ったようだ。

 

 

 少し悩み、私は彼女達と離れ、隠れて見守っているリボーンの隣に座り本を開く。

 

「混ざらねーのか?」

「そのまま、そっくり返す」

「オレはこっちでも問題ねーんだ。おめーは違うぞ」

「私の日常はこんな感じだ」

 

 リボーンの言いたいこともわかるが、私は元々キャアキャアと叫ぶタイプじゃない。私は彼らの騒がしい声を聞きながら、本を読む。これが今の私の日常な気がする。……随分、変わったな。

 

「本当にそうなのか?」

 

 どういうことだと顔をあげれば、リボーンは屋上から飛び降りて行った。言い逃げである。途中で止められると気になる。

 

「ガハハハ! サクラみっけ!」

 

 ランボがいつの間にか隣にいて、私の顔を指でさしていた。全く、保育係は何をしている。人の顔に指をさすなとちゃんと教えろ。呆れながらも、ランボが褒めてほしそうだったので、飴を渡す。

 

「はひ! サクラちゃん、なんでそんなところにいるんですかー!」

「そうだよー。こっちにおいでよー」

 

 ランボの声が聞こえていたようで、しぶしぶ立ち上がり、ランボと一緒に彼女達の元に向かった。ランボに飴を渡してしまったので、イーピンとフゥ太にも渡すことにする。

 

「ぷっ」

 

 軽くふいた音が聞こえたので、その方向を見れば沢田綱吉だった。私の目があったことに慌てたことを考えると、私を笑ったのだろう。どこか変なところがあったのだろうか。

 

「その、いつもポケットに飴が入ってるんだなーって思って」

「……君達と出会ってからだ」

 

 確かに彼らと出会う前からも飴はよくポケットに入っていた。しかし、毎日欠かさずあったのかと聞かれると、それはない。でも、いつの間にか、これが当たり前になっていた。ポケットに飴が入ってることにすら、ツッコミしなくなった。だから、ふと思った。

 

「……いつか」

「ん?」

「いつか、君達と一緒にいるのが――」

「え? 最後の方、なんて言った?」

 

 周りの音が騒がしく聞こえなかったようだ。そのことに安堵し、どこか落胆した。

 

「気にするな。些細なことだ。それより、ランボがおねしょしたらしいぞ」

「えー!? ランボー!?」

 

 慌ててる彼らに苦笑いしながら、私は手伝うために一歩踏み出した。そして、一瞬だけだが動きを止め、笑ってしまった。どうやらリボーンの方が私のことをよくわかっていたらしい。

 

 

 

 

 

 私はランボを抱きかかえながら、沢田綱吉とリボーンと一緒に大空戦が行われる学校に向かっていた。いいタイミングだと思ったので、聞いてみる。

 

「少し迷ってる。私のせいでXANXUSがすぐに本気になるかもしれない」

「え?」

「だから、君の負担が大きくなる可能性もある」

「うん。わかった」

 

 今、私は相当マヌケな顔をしているだろう。しかし、これは正しい反応な気がする。私はかなりおかしなことを言ったはずだ。それをあっさり「うん。わかった」と済ませた沢田綱吉がおかしすぎるのだ。

 

「大丈夫。負けないよ」

 

 私の目を見て言った沢田綱吉は真剣だった。だから、私は言った。

 

「……ダメツナなのに?」

「えーー!?」

 

 叫んだ彼を見て私は笑った。これが大空なのだろう。いつか私は彼らと一緒にいるのが当たり前になる。そう思える日が来る気がした。

 

 

 

 

 

 初めて私は本を読まずにルールを真面目に聞いた。観覧席にいることになるが、今回は私も参加している気分なのだ。守護者は各バトルフィールドに移動するということになったので、声をかける。

 

「円陣、する」

「神崎も極限気合が入ってるな!」

 

 そうかもしれない。自ら円陣に参加したいと考えるとは私だって思わなかった。願掛けのようなものかもしれない。

 

「沢田ファイ!!!」

「……ォー」

 

 その割りに声が小さいのは気のせいである。

 

 円陣が終わったので、フィールドに移動しようとする彼らを引き止める。

 

「どうかしたのか? 神崎」

「これ、君達に」

 

 今日、学校へ行った時にDrシャマルから受け取ったのだ。人任せじゃなく、私から渡すべきと思ったからな。

 

「んだよ、これ。気色悪ぃ……」

「Drシャマルに頼んで用意してもらった。困ったときに飲めばいい」

「極限にこれは飲めるものなのか!?」

 

 笹川了平の気持ちもわかる。解毒薬がまさか怪しい色をした液体とは私だって思わなかった。まぁDrシャマルが用意したので、偽者という心配はない。まずそうだが。

 

「あれ? オレには?」

「君の分はなし。念のため、ランボの分は獄寺隼人が持ってろ」

「なんで……オレが!! それに10代目にはねーってどういうことだ!」

 

 獄寺隼人はキレているが、沢田綱吉は安心したような顔をしたぞ。全く、2人とも失礼である。

 

「彼には必要ないからだ。それに雲雀恭弥もいらないと思う。ほしいなら渡すけど」

「いらない」

 

 会話だけは聞いていたらしい。そして、雲雀恭弥は極力借りを作りたくないという考えはあっていたようだ。もっとも、得体の知れないものを飲みたくないという気持ちもあったと思うが。

 

「クロームもいらないの?」

「持ってる、ボス」

「そうなの!?」

「後は頑張れ」

 

 それだけ言ってバトルフィールドに向かう彼らを見送った。私に出来るのはもう応援しかないのだ。他にあるとすれば、リボーンから離れないようにするぐらいだろう。先程からヴァリアー側からの視線がきついのだ。何を企んでるか気になっているのだろう。

 

「リボーン」

 

 声をかければ、リボーンは私の肩に乗った。どうやら同じようなことを考えていたらしい。流石である。

 

 この状態でチェルベッロの話を聞いていると、守護者全員に毒が注入されたようだ。焦る人物が多い中、私はほっと息を吐く。毒の種類を『デスヒーター』とチェルベッロが言ったのだ。私のせいでずれていれば、どうしようかと思った。……たとえずれていても雲雀恭弥が何とかした気もするが。しかし、原作と違いランボの意識があるのだ。いつまで痛みに耐えれるかはわからない。早く解毒した方がいい。

 

 説明が終わり、沢田綱吉が吹っ飛ばされる。私の肩の上からリボーンが撃ったはずだが、全くわからなかった。銃を見るとサイレンサーがついていた。どうやら私の耳の心配もしてくれていたらしい。

 

「なめんなよ。オレを誰だと思ってる」

 

 特殊弾を撃ったことについて言ってるはずだが、私への心遣いについて納得してしまった。流石リボーンである。

 

 リボーンを肩に乗せたまま、観覧席に移動する。だが、観覧席に入ってもいいのだろうか。

 

「どうしたんだ?」

「入ってもいいか悩んでる」

「何かあるのか?」

「ん。観覧席に罠が仕掛けられてる」

「先に話せ! コラ!」

 

 私とリボーン以外はもう入っていたので、怒鳴られた。しかし、原作でも彼らは入っていたのだ。怒られるのは理不尽である。

 

「そのようなことはありません。急いでください」

「おいおい、どうするんだ……」

 

 沢田綱吉側は私の話を信じているようだ。しかし、どうすることもできないだろう。まだヴァリアーは罠を発動しているわけではない。そのため、チェルベッロは気付いていないのだ。入るしかないだろう。

 

 罠があるとわかっているのに入るのは妙な感覚だった。それにしても、リボーンは私の肩から動こうとしなかったので、私の行動に反対する気はなかったのだろう。一応、手を打っているが、ここまで信頼されると困る。困るといっても、沢田綱吉達を裏切るつもりはないのでそういう意味ではないが。

 

 しかし、私が試合を真剣に見ても本当に意味がないな。全く見えないのだ。沢田綱吉が垂直に校舎の上に立ったところで、やっと彼の姿が見えたレベルである。リボーンが憤怒の炎について語っているが、私は移動することにする。本当に知識がなければ、どうなっていたかと思う。

 

「サクラ殿?」

「頼んだ」

 

 バジルを盾にするように捕まる。なぜなら何かに捕まらないと、私の踏ん張りではガチンコ勝負の影響で吹っ飛ばされる気がするのだ。

 

「うわぁ!」

 

 来るとわかっていたのに、情けない声が出た。だが、ここまで爆風が来るとは思わなかったのだ。Drシャマルが、咄嗟に私の肩に手をまわしてくれて助けてくれたようだ。しかし、なぜか嫌悪感を抱いてしまう。不思議――ではないな。普段の行いが悪いからだ。だが、まぁ礼ぐらいは言うべきだろう。

 

「助かった」

「可愛い子ちゃんのためなら当然のことだ」

 

 ふとDrシャマルと兄は似ていると感じた。ふざけないところでは彼も兄も真面目だからな。範囲が可愛い子か私を優先するかの違いである。

 

「なんだ? さては、オレにほれたな」

 

 ジッとDrシャマルの顔を見ていれば、盛大に勘違いをしたようだ。頼むから兄はこのように歳をとらないでくれ。この場にいない兄に伝えたくなった――。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 ロマーリオは溜息を吐いた。自身のボスであるディーノが、大空戦を気にし、落ち着いていないのは誰が見ても明白だったのだ。ディーノの態度は部下の前で示しがつかない行動だったが、そのことについては誰も何も言わなかった。

 

 もしディーノが試合内容が気になっているならば、誰かが注意していただろう。試合が始まってしまえば、ディーノにできることはないのだから。

 

 しかし、ディーノが落ち着かない理由は観覧席にいるサクラのことだとロマーリオ達は理解していた。もちろん、ディーノの師であるリボーンがついているので、心配する必要はないとわかっている。が、ディーノがサクラが助ける時のために、修行していたことを。前回、守れなかったことに悔しい思いをしたのを知っていた。だからこそ、誰も言わなかった。

 

「ボス、ここはもうオレ達に任せてくれ」

「だが……」

 

 ついに見かねたロマーリオが代表し声をかける。しかし、ディーノは言葉を濁した。ロマーリオ達を信頼していないわけではないが、もしここで試合を見に行き、ロマーリオ達に何かあればサクラも傷付けることになる。さらにサクラはディーノを頼らなかった。正しくはサクラはディーノにスクアーロのことを頼んだ。この意味をわからないほど、ディーノは盲目ではなかった。

 

「お嬢さんもファミリーの一員と思ってるのはオレ達だけなのか?」

「……そうだな。オレが間違っていた」

 

 ディーノの体質改善は、ディーノがサクラをファミリーと同様に守ると決めたからである。つまり、ディーノが決めた時点で、サクラはロマーリオ達にとっても、大事なファミリーの一員だ。

 

 ファミリーを守るために、理由はいらない。至らないところを助け合うのがファミリーである。ファミリーを助けるために、遠慮する必要などないのだ。

 

「ここは任せてくれ。こいつが起きれば、すぐにオレ達も向かう」

「ああ!」

 

 ディーノは駆ける。守ると決めた1人の少女のために――。

 




花粉症でへばってました。すみません。

念のため補足。
桂さんは学校の敷地内にいませんが、サクラが見える位置にはいます。


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守護者達の戦い

「極限に楽になったぞ!」

 

 サクラが渡した解毒薬を1番最初に飲んだのは、意外にもあまり話したことがない笹川了平だった。理由は単純で、仲の良い桂の妹が言ったからである。

 

「待ってろよ。ヒバリィー!」

 

 なぜサクラが解毒薬を持っていたかという疑問には気付かず、了平は薬を受け取らなかった雲雀を助けに行くという使命に燃えていた。

 

「む、忘れるところだった! 極限太陽!!」

 

 ギリギリのところでリングが必要と思い出し、派手にポールを倒す。そして、了平はベッドに拘束されているため問題ないだろうと判断し、ルッスーリアの解毒をし、雲雀の元に向かったのだった。

 

 

 

 次に解毒薬を飲んだのは獄寺だった。サクラが渡したのもあるが、Drシャマルが用意したのた。少し効果があればいいという思いで飲んだのだった。その結果――。

 

「……治った?」

 

 獄寺が疑問を口にするのは無理はない。多少ふらつきはあったが、先程まで感じていた痛みが全てなくなったのだ。いくらDrシャマルが用意したといっても、これは明らかにおかしなことだった。この解毒薬をDrシャマルに頼んだサクラのことが頭によぎるが、考えている時間はない。ランボの解毒薬は獄寺が持っているのだ。

 

 しかし、その数秒が命取りとなることもある。ドコォォ!と爆音がし、嵐のポールが倒れたのだ。それは原作より早い時間だった。了平が倒したポールの音をXANXUSに聞かれてしまったのだ。

 

「しまっ……!」

 

 ベルフェゴールの前に嵐のリングが転がる。すぐさま獄寺がダイナマイトを投げるが、負傷しながらも解毒されてしまった。獄寺は戦ったからこそ、相手のしつこさを知っている。簡単にランボの元に行かせてはくれないだろうと――。

 

「つーか、なんでお前元気なの?」

「やるしかねぇ!」

 

 獄寺がダイナマイトを構えた時、ある人物の姿が目に入る。その人物はベルフェゴールに向かって、武器を振り下ろした。殺気を背後から感じたベルフェゴールは咄嗟に転がるように避ける。ベルフェゴールが攻撃した相手の顔を確認したのを見て、その人物は口を開いた。

 

「僕は彼らと違い、強いからね」

 

 ベルフェゴールの疑問に答えながら、挑発した。獄寺隼人も一緒にだが。

 

「校内で死なれると風紀が乱れるんだ。……さっさと行きなよ」

 

 続く言葉に文句をのみこみ、獄寺は屋上に向かうことした。足止めのため、ベルフェゴールにダイナマイトを投げて雲雀に叫んだ。文句はのみこんだが、どうしても一言だけは伝えたい言葉があったのだ。

 

「この借りはぜってぇいつか返す!」

 

 雲雀はそれについては返事をしない。

 

 獄寺を助けたのは、あくまで1番死にそうなランボが校内で死なれるのは困るからである。何より、サクラの言動のおかげで、薬が必要になる事態に陥り、自力で解けるとわかっていたのだ。それだけわかれば、毒にやられる前から、それ相当の覚悟は出来た。そのため、借りはあるようでない。

 

「さぁ、はじめようか」

 

 雲雀は獰猛な笑みを浮かべ、トンファーを構える。理由はわからないが、獄寺の投げたダイナマイトはナイフの軌道線上ではない、不自然な切れ方をしたのだ。とっくの前に、雲雀の興味は獄寺の言葉よりベルフェゴールに移っていた。

 

 

 先に動いたのはベルフェゴールだった。現在の状況を確認するスキはないが、リングを持っていない状況でも獄寺は解毒できたのだ。他の守護者も解毒していると考え行動した方がいいと判断したのだ。

 

 あらゆる方向から雲雀にナイフが襲う。絶体絶命のピンチのはずだが、ディーノと散々戦った雲雀には、直線的な攻撃をさばくほど簡単なことはなかった。ただし、ナイフの先にワイヤーがついていなければ――。

 

「うししっ」

 

 頬から血を流れる雲雀に追い討ちをかけるように、再びナイフを投げ始めるベルフェゴール。しかし、それは失敗だった。

 

 雲雀は全てのナイフを撃ち落したのだ。

 

 そして、ギィィィと耳につく音がなる。これは雲雀が頬をきった場所にトンファーをおろし、ワイヤーに引っかかった音だった。

 

 雲雀はもう2度も間近で同じ現象を見ていた。そして、投げたダイナマイトがナイフの軌道線上で切れなかったことに獄寺は驚きもしなかった。ナイフに何かあると違和感を覚えるには十分だったのだ。

 

「ワイヤー、なのかな?」

 

 淡々とした口調で確認する雲雀に、ベルフェゴールは恐怖を感じた。殺し屋としての己の勘が警報を鳴らしたのだ。

 

「パース!」

 

 ベルフェゴールは少しでも時間稼ぎとし、もう1度ナイフを投げる。雲雀が撃ち落している間に、XANXUSが偶然にもあけた壁の穴から1階へ飛び降りたのだ。

 

 しかし、飛び降りた先も安全ではなかった。雲雀を探していた了平と解毒を終えた山本に挟まれ、見上げると雲雀がいつでも1階に飛び降りれる状況だった。

 

「これってピンチじゃね?」

 

 そう呟いたベルフェゴールは山本達の活躍により、拘束された。残ったのは不完全燃焼した雲雀の不満だけだった。 

 

 

 

 

 レヴィを倒しランボを助けた獄寺は、山本達と合流し体育館に向かっていた。

 

「おめーらも、あれを飲んだのか?」

「ああ。そうだぜ?」

 

 山本の返事を聞き、獄寺は思わず舌打ちをした。

 

 獄寺はサクラのおかげで助かっただろうと薄々わかっていた。そして、自身を含め2人があっさり飲んだのはサクラが渡したから。彼らとサクラにはそれほど信頼関係があったのだ。だが、サクラのことがわからない。そのことに苛立ちを抑え切れなかった。

 

「ヒバリ、てめぇは―― 」

「あいつは気になることがあるといい、どこかへ行ったぞ」

「はぁ!?」

「極限、団体行動が出来ん奴だ」

 

 獄寺は頭をかく、雲雀がサクラのおかしな行動に気付いているかもしれないと思っていたのだ。実際はとっくに雲雀は気付いてるのだが、そのことを獄寺は知らない。

 

 獄寺は雲雀がサクラに何かするかもしれないと考えたが、今は試合中。観覧席にいるサクラに聞き出すのは難しい。なぜ、雲雀が今向かう必要があるのか。雲雀が行く可能性があるとすれば、校内で死なれると風紀が乱れるということ。そこで1つの可能性が生まれた。

 

「あのバカッ!」

 

 XANXUSの前で解毒薬を渡し、それを飲んだ自身達が回復すれば、怪しまれるに決まっている。しかし、あのタイミングで渡さなければ、確実に飲むか怪しいところだった。

 

「くそっ! おめーらは体育館の方へ行け!」

 

 普通ならば、優先事項は体育館にいる霧の守護者の様子を見に行くことだ。しかし、獄寺はUターンし、安全なはずの観覧席に向かうことにした。山本たちの呼び止める声を無視して――。

 

 

 

 獄寺には何か考えがあるだろうと判断し、山本達は体育館に到着した。このまま乗り込もうとしたが、出来ずにいた。

 

「ねぇねぇ。行かないのー?」

 

 獄寺が忘れ――置いていったランボの存在である。

 

「ここは年長者のオレが! 極限ー!」

 

 どちらかがランボと残るべきだろうと判断したのは同じだったが、相談もせずに了平が体育館に突っ込んでいく。それを唖然という表情で山本は見送ったのだった。

 

 了平が特攻してから数分後、体育館から光が漏れ、爆発が発生した。それは了平の技、極限太陽だった。しかし、了平とクロームの姿は見えない。

 

「ちょっとここで待ってくれねーか?」

 

 様子を見に行くため、山本がランボに声をかける。が、足元にいたはずのランボがいないのだ。

 

「ガハハハ! ランボさんも手伝うもんね!」

 

 声がした方向を向けば、体育館に手榴弾を投げるランボがいた。

 

 すると、体育館の方から、地震のように地面が振動しはじめる。これは了平の仕業だった。マーモンによる幻覚のせいで闇雲に技を放っていた了平が、ランボの手榴弾の光で一瞬だけ解放されたのだ。そのスキをつき、足元に今までの何倍もの威力の極限太陽を放った。

 

「やべっ」

 

 山本はランボを抱え、体育館から少しでも離れようと走る。爆風に煽られながらも、持ち前の運動神経でバランスを保ち、振り返る。

 

「地面がえぐれてる……」

 

 体育館が吹っ飛んだことも驚きだったが、地面にクレーターのような穴が出来ていたのだ。

 

「先輩!? ドクロ!?」

 

 あたりを見渡せば、瓦礫の下から二つの影があった。1つは了平、もう1つは骸だった。あまりにも至近距離だったため、骸は幻覚でクロームを守ったのだ。

 

「やれやれ……」

 

 骸があきれたように呟くと、すぐにクロームに戻る。力があまり残されていない状況で、入れ替わったのだ。かなりの無茶になり、クロームのことを頼むことも出来なかった。

 

 もちろん、山本と了平は駆け寄り、クロームは無事に保護された。ただ、マーモンの姿と霧のリングは見当たらなかった。

 




……戦闘描写は本当に難しい。


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証明

 どうしてそうなる!?と何度叫びたくなったか。

 

 解毒薬を渡せば、彼らが死ぬ確率が下がると思っていた。だが、私の考えは初っ端から否定された。

 

 まず笹川了平のポールの倒し方が問題だった。なぜ派手な技を使ったのだ。XANXUSに気付かれただろ。まぁ私がポールの倒し方を予想していなかったのが1番の原因だったのかもしれないが。

 

 本当に、対抗手段として嵐・雷・霧のポールが倒された時はどうしようかと思った。

 

 嵐のポールを倒されたのは原作通りだったが、ベルフェゴールと獄寺隼人が対峙することになってしまったのだ。つまりランボの命が危険になる。観覧席で見ているだけの私にはどうすることも出来ないのだ。冷や汗しか流れなかった。

 

 本当に雲雀恭弥が化け物で助かった。ちなみに、これは褒め言葉である。

 

 恐らく原作より、ポールが倒されるのが早かったはずだ。沢田綱吉とXANXUSのガチンコ勝負後すぐに晴のポールが倒れる音が響いたのだ。その後、XANXUSが行動したことを考えると、少しの違いかもしれないが早くなったのは間違いない。雲雀恭弥がなぜすぐに解毒できたかはわからないが、彼がいなければランボは助からなかったかもしれない。グッジョブである。

 

「おい、女」

 

 恐らく私に言ってるだろうが、私は女という名前ではないぞ。まぁ怖いので、顔は向けるが。

 

「どこで知った」

 

 はて?という意味で首をひねる。XANXUSはいったい何について言ってるのだろうか。心当たりがありすぎて、わからない。

 

「オレが用意した。武器の持込が可能なんだ。ルール上は問題ねぇはずだろ」

 

 どうやら解毒剤についてだったらしい。そして、Drシャマルは女好きじゃなければ、もっとモテるだろうに……と、思ってしまった。まぁ本人の自由だが。もちろん私は遠慮する。

 

 庇ってもらってるのに失礼なことを考えていると、沢田綱吉がXANXUSに「オレとの戦いに集中しろ」と言った。もの凄くありがたいが、私を庇ってくれる人物が多すぎだろ。今まではこんなことがあっただろうか。兄を優先する人物しかいなかった気がする。いや、少しは自惚れてもいいかもしれない。私がかわったから、周りもかわったのだと。

 

 ザッと土の音が聞こえたので、振り向くとディーノがいた。スクアーロはどうしたのだ。その前に、よく一人でここまでたどり着いたな。

 

「悪い、遅くなった。大丈夫か?」

「微妙」

 

 ディーノが観覧席に入りながら聞いてきたので、戦況を教えた。原作より良いとは言えないが、悪いとも言えない。マーモンも解毒してしまったので、クロームがピンチだからな。まぁクロームが解毒できていなければ、もっと戦況は悪かったと思うが。

 

 ディーノは私の言葉を聞いて難しい顔をし、ムチをかまえたようだ。確かに微妙と言ったが、戦闘態勢になるほどではないぞ。謎である。

 

「内部からの攻撃で爆発する仕組みだ」

「そうか」

 

 返事をしたが、わかっているのだろうか。ムチはなおしたようだが、警戒を解いた気がしない。

 

「微妙だが……――」

 

 口を閉じる。危うくXANXUSの勝ちは絶対にないと教えてしまうところだった。そんなことを口に出せば、殺されるに決まっている。ディーノのせいで、死にかけたな。どうも滅多なことで怒ったりしないディーノがピリピリすると、話してはいけないことまで教えそうになる。

 

「確かに戦況は微妙だが、彼らは大丈夫。だろ?」

「ああ」

 

 問いかければ、沢田綱吉が返事をしXANXUSへ向かっていった。頑張れと心の中で呟き、見送っているとディーノがボソっと呟いた。

 

「微妙って戦況のことかよ……」

 

 それ以外に何があるのだ。しかし、ディーノが脱力し、Drシャマルが声を殺すように笑ったので、何かあるのだろう。気になる。私の気持ちに気付いたようで、Drシャマルが教えてくれた。

 

「可愛い子ちゃんがピンチだと思ったんだろ」

 

 そういえば、ちょうどディーノが来た時はXANXUSが私を睨んでいた気がする。つまりディーノは勘違いしたのだろう。ドンマイである。

 

 沢田綱吉の戦いに目を向けると、もうスピードが追いつけなくなっていた。やはり私のせいで、XANXUSが本気になるのが早い気がする。沢田綱吉にXANXUSの連射攻撃が当たり、落ちていく。レオンの装備があるため大丈夫と思うが、目の前で見ていると心配になる。

 

「目障りだ。消えろ」

 

 寒気がした。今まで何度か殺気をあてられたが、その何倍もの恐怖を肌で感じている。気づけば、炎がこっちに向かって放たれた。コロネロがぶっ飛ばそうとしたが、内側からの攻撃で爆発すると助言したため、私の肩から降りたリボーンが他の方法を考えろと言っている。

 

「何か考えがあるのか!? コラ」

「赤外線センサーもろともぶっ飛ばす威力だ。壊れてから撃つ方法があるが――」

 

 視線を感じ、悟る。どうにかしてくれと他人任せだったのが、仇となったらしい。私だけ死ぬかもしれない。恐らく至近距離で迎え撃つことになれば、私の身体がもたないのだろう。彼らの反射速度なら、逃げることも出来るだろうしな。

 

「すまん!」

 

 ディーノの声が聞こえたと同時に温もりを感じる。ちょっと待て、その助け方はどうなんだ。もちろん、抱きしめられてることには怒ってはいない。緊急事態なのだ。それぐらいはわかる。だが、それではディーノがヤバイだろ!?

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

 どうやらディーノは私を抱きかかえながら、逃げる気のようだ。それならば、私はディーノの言うとおりにするべきだろう。邪魔になるわけにはいかない。

 

 恐怖で震える手に力をいれ、服にしがみつく。怖くて目は開けれなかった。

 

「っ!」

 

 ディーノが息を呑む声を聞こえると、すぐに衝撃が来た。が、私が予想していたより遥かに少ない。それに移動した気配もなかった。気になるので、ディーノからさっさと離れ、現状を確認することにした。

 

 ……状況は何となくわかった。彼が軌道を逸らし、助けてくれたのだろう。だが、なぜこのタイミングで。確かに話を聞いていた彼ならば、使える可能性はある。更に彼の戦闘センスがあれば、防ぐのは不可能でも逸らすことが出来るだろう。しかし、まさかこのタイミングでリングに炎を灯すとは予想できなかった。

 

「恭弥……お前……」

 

 ディーノがもの凄く感動しているが、雲雀恭弥の機嫌は最悪のようだ。相手がリングの力を使っていない状況だからな。悔しいのかもしれない。まぁXANXUSがリングを使った状況であれば、軌道も逸らせなかったと思うが。

 

 彼がリングに炎を灯せたのは、やはりディーノの行動が大きいのだろう。そうでなければ、彼がこのタイミングで炎を灯すことは出来ないはずだ。もっとも、ディーノに影響を与えたのは私だと思うが。

 

 少し考えていると、頭にコツンと何か当たったので見上げる。……ちょっと待て。逸らすなら、ちゃんと逸らしてくれ。声にならない悲鳴をあげる。モニターの一部が落ちてきそうだぞ!?

 

「果てろ!!」

 

 スローモーションのように、はっきりと空中で爆発が起きたのが見えた。先程の声を考えると獄寺隼人がダイナマイトを投げたのだろう。一部が小さくなったのはありがたいが、その小さくなった一部が当たっても私は死ぬ気がする。それぐらい微妙な大きさなのだ。

 

 すると、目の前が真っ暗になり、次に明るくなった時には全て終わっていた。どうやらリボーンが赤外線に当たらないよう上手く銃で砕き、死ぬ気になったバジルが器用に掴んだようだ。グッジョブである。

 

「おめーのどでかいライフルでは、出来ねぇからな」

「んだと、コラ!?」

 

 状況が状況なので、2人の言い合いは本気じゃなさそうなので放置する。私は目が痛いのだ。ギリギリにディーノが服を使って守ってくれたようだが、細かいのが入ったらしい。パチパチとまばたきしていると、Drシャマルが目薬をくれた。本当に至れり尽くせりである。

 

 目薬をさしていると、地響きが起きた。モニターは白黒になっていたが、何とか映っていた。

 

 クローム髑髏とマーモンが戦っていたはずだが、いつの間にか笹川了平が原作のように体育館をぶっ飛ばしたらしい。ただ、地面に向かって殴ったように見えるのは気のせいだろうか。まぁ無事なら問題ないか。

 

「10代目、こっちは任せてください!!」 

「すまない」

 

 獄寺隼人の言葉を聞き、沢田綱吉は死ぬ気の零地点突破を使うことにしたようだ。炎を放出しだしたからな。

 

「気をつけろ!」

 

 沢田綱吉に向かって叫べば、視線が集まった気がする。が、XANXUSは私を見ずに沢田綱吉の炎の動きを見ていた。もうすぐ、本気になる。

 

 

 

 さっきの状況でも見えなかったのだ。本気のXANXUSの動きが私に見えるわけがない。光ったと思えば、いつの間にか沢田綱吉が倒れていた。

 

 復活するまでの時間が長く感じる。私のせいで、もし何かあったらと思うと、怖いのだ。

 

 急にガシガシと頭を撫でられる。この状況で何をしてるんだと思ったが、私のせいらしい。不安で無意識にディーノの服を掴んでいたようだ。

 

「大丈夫だ」

「……ん。それは私が1番わかっている」

 

 私のせいで何かあるかもしれないが、沢田綱吉は負けないと言ったのだ。私はそれを信じればいいだけである。

 

 だから、沢田綱吉が復活したのを見て、泣きそうになったが我慢する。その代わりに「ありがとう」と呟くのは許してほしい。私が彼らのそばにいても大丈夫と証明してもらった気がしたのだから――。

 




サクラには恋愛の「れ」の文字もないようです……w


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リング

 原作通り、沢田綱吉が超直感で零地点突破・改を生み出した。もう大丈夫だろうと安心していると、他の守護者達も揃ったようだ。仕向けたのは私だが、本当に原作より早い。

 

「霧の相手はこっちにきてねーか?」

「いねぇのか!?」

「ああ。リングも見当たらなかった」

 

 よりによって厄介な相手を逃がしてしまったようだ。術士に対抗できるのはクロームぐらいしかいない。だが、その肝心のクロームは眠っているようだ。笹川了平の大技によって、気絶したのだろう。

 

「……タイミングが悪い」

「どうかした――スクアーロ!? 意識が戻ったのか……」

 

 私がボソっと呟くとディーノが気になったようだが、現れた人物に意識がいったみたいだ。

 

 さて、どうしたものか。もし私の目にマーモンがみえれば、教えるべきだろう。ギリギリだが、ルールはセーフのはずだ。今までの試合で何度か助言してるからな。ただ、スクアーロが至近距離にいる状況でも大丈夫なのだろうか。

 

 結局、観覧席にいる人物達を信頼するしかない。

 

「任せた」

 

 全く困ったものである。私のたった一言で観覧席にいる彼らは警戒する。どっちが信頼しているのかわからない。……お互い様か。

 

 探している間に、XANXUSの手が凍ったようだ。しかし、まだマーモンの姿はない。私に見えないだけなのだろうか。それとも本当に現れていないのか。答えがわからない。

 

「零地点突破、初代エディション」

 

 沢田綱吉の声が聞こえた時、マーモンが見えた。声を出そうとすれば、口を塞がれる。

 

「なっ!?」

 

 驚いてる彼らを安心させよう。やはり幻覚と理解している私には効果がないらしいのだ。だが、得体の知れないものに巻きつかれてる姿を彼らに見られるのは嫌だな。さっさとやめてほしい。

 

「大丈夫。マーモンはそこ」

 

 居場所を教えれば、スクアーロの抗議の声が聞こえるのは気のせいである。私はさっさと倒してほしいのだ。

 

「僕に手を出さないほうが君達のためさ。観覧席に仕掛けた罠を発動してもいいのかい?」

 

 獄寺隼人達の動きが止まった。そして、リボーン達からは私へ視線が集まる。が、迂闊に答えることが出来ない。私が知っている罠は赤外線が解除できないことだ。しかし、私の行動のせいでヴァリアーの警戒が強まっている可能性がある。絶対に大丈夫とは言えないのだ。

 

「観覧席には爆弾をしかけていたのさ。発動させたくなければ、リングは渡してもらおうか」

 

 チェロベッロの1人が、ヴァリアー側の不正を止めようとして殺られた。原作と同じ人物のようだが、いい気はしない。

 

 肩に手を置かれ、見上げるとディーノだった。何とかするから安心しろと言っている気がした。恐らく、予想外のことが起きていると気付いたのだろう。

 

 少し冷静になったので、口を開く。

 

「リングを渡せ」

「バカ! そんなことにすれば……クソっ!」

 

 獄寺隼人がイライラしながら、マーモンにリングを投げつけた。他のリングも投げたため、全て相手に渡る。しかし、まさか雲雀恭弥があっさりと投げるとは思わなかったな。

 

「バカばっかりで助かったよ。これでボスは再び復活する」

 

 バカとは失礼な。XANXUSの復活は予定通りなんだぞ。このまま試合が終われば、私が復活させた。だから、あっさりとリングを渡せといったのだ。

 

「君の予想通り、リングには秘められた力がある」

「わかってて渡せと言ったのかい? 本物のバカがいたようだね」

「わかってないのは君の方だ。ボンゴレリングには正統後継者を選ぶ力があるんだ」

「正統後継者? ボス以外に相応しい人物はいないね」

 

 マーモンがXANXUSの方へ向かったようだ。獄寺隼人達は動かない。私とマーモンの言い合いに獄寺隼人達は唖然としているからな。いったい何を言ってるのかわからないのだろう。いや、私がこんなことを知っていることに驚いてるのかもしれない。ちなみに、微妙に知っている雲雀恭弥は気にせず、追いかけていった。まぁ何かあると気付いてるため、まだ手を出すつもりはないらしいが。

 

「……止めるなら今だぞ。スクアーロ」

「てめぇ……まさか……」

 

 暴れると察知したのか、ディーノの部下が更に銃をつきつけた。しかし、彼は気にせず暴れ始める。すかさずディーノが私の前に立ち、彼を拘束した。よく見えなかったが、恐らくスクアーロは私を殺そうとしたのだろう。

 

「離せぇぇ! 跳ね馬ぁ!!」

「それは出来ねぇ」

 

 ディーノは私にスクアーロの姿を見せないよう配慮もしてくれたようだ。今の彼を見れば、私は恐怖しか感じないはずだ。直接見ていないにも関わらず、私を殺したいという思いがビシビシと伝わってくるからな。

 

 モニターに視線を移すと、マーモンがXANXUSのところへたどり着いたようだ。それを見て、慌てて獄寺隼人達も向かった。もう少し詳しく話してもいいだろう。

 

「もっと早く、伝えればよかったと思う。怒りに狂ってるように見えるが、彼も本物の大空だ。君の思いも、包容する器があった」

 

 彼の炎は嵐も混ざってるかもしれないが、大空なのだ。揺りかご事件から目を覚まし、怒りを増大させても、闇の炎はうまれなかった。この意味はとてつもなく大きい。

 

「……まぁ黙ってた私が言えた義理じゃないか」

 

 だからといって、言わなかったことに後悔はない。私は沢田綱吉達の味方になることを選んだ。それに私は元々器用な人間ではない。協力を得てる状況で、家族と沢田綱吉達で精一杯なのだ。これ以上は無理である。

 

 そっと目を閉じる。XANXUSの血を吐く声が聞こえた。恐らくリングが拒んだのだろう。もう私に出来ることはない。後は彼らに任せるしかない。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

「邪魔しないでくれたまえ!」

 

 珍しく桂は苛立っていた。こっそりサクラを見守っていると、謎の集団に襲われたのだ。

 

 桂は知らないが、相手は幹部の次に強いヴァリアー隊だった。しかし、所詮は幹部より弱いのだ。桂には及ばないはずだった。

 

「君達、鬱陶しいよ!」

 

 サクラのことが気にかかるのもあるが、問題は桂が苛立つほどの数なのだ。ヴァリアーは桂がどこかで見ているだろうと予想し、大量に送り込んでいたのだ。

 

 桂は了平のような集団にも使える大技を持っていない。桂の戦い方は超高速自己修復能力と炎を使っての身体能力強化である。

 

 ツナの戦い方を見て、桂は炎による高速移動も出来るようになった。が、放出するのは活性の炎なのだ。了平のような技を覚えなかったのは、相手に向かって撃てば、治療してしまうという大きな欠点があったからである。もちろん、炎を放出できなくても桂は集団に対抗できるほど十分に強い。が、1度に大量の人数を倒すことは出来ない。

 

 桂からすれば、とても戦いにくい相手だった。しかし、それは相手も同じだった。

 

 数で攻めても簡単には当たらない。たとえ当たったとしても、すぐに回復するのだ。戦う時間が長ければ長いほど、恐怖は増幅する。少しでも桂が疲れた姿でも見せれば精神的に楽になるのだが、そんな様子は一切感じさせない。むしろ、回復する時間が早くなっていく。

 

「化け物……」

 

 相手の呟きに桂の動きが止まる。桂は生まれた時から、なぜか人に好かれやすい。だが、能力を使えば、手のひらを返したように必ず化け物と呼ばれるのだ。

 

 サクラはそんなことをしないと頭では理解している。が、桂は話す勇気はまだ持てなかった。

 

「ぐっ」

 

 桂は血を吐いた。動きを止めたことによりスキが生まれ、桂の心臓に槍が刺さったのだ。それでも、桂は死なない。槍を引っこ抜けば、すぐに治るのだ。ここまでくると桂自身でもどうすれば死ぬかはわからなくなった。もしかすると脳がつぶれれば死ぬかもしれないが、治る可能性もある。

 

「僕も怖くなってきたよ」

 

 思わず桂が弱音を口に出てしまうほど強大な能力だった。それでも桂が狂わないのは、サクラを守れる力になるからだ。ふと頭をかすめる。もしサクラが自身の力を必要としなくなるほどの相手を見つければ、どうなってしまうのかと――。

 

 桂はすぐさま打ち消した。サクラが幸せなら、自身も幸せになるはずだ。それにまだサクラは自身の力が必要なのだ。

 

「……早く君達を片付けないといけないね! 君達を見逃せば、サクラが危険になりそうだからね!」

 

 サクラの幸せのために、依存し重荷になってはいけない。一方で、まだ大丈夫という2つの心に揺れていたことに桂は気付かなかった――。

 

 

 

 

 謎の集団を片付け終わったころ、1人の男が桂の前に現れた。

 

「確か君は……」

「ランチアだ。お前がやったのか?」

「そうだよ」

「……ボンゴレに礼を言いにきたが、遅かったようだな」

 

 ランチアは桂の強さを覚えていたため、驚きはしない。そして、桂に恐怖も抱かなかった。

 

「ならば、頼んでもいいかい?」

「なんだ?」

「こういうのを用意していたからね。向こうの様子を見に行ってほしいのだよ」

 

 ほぼ初対面のランチアに桂は頼み事をした。桂にとって、初対面の相手に頼み事することはよくあることだが、自身の力を知っている相手に頼むのは珍しいことなのだ。頼もうにも恐怖を抱かれるため出来ないといったほうが正しいが。

 

「お前は行かないのか?」

「僕はこのような有様だからね」

 

 血で汚れた服装を指し、もっともらしい言い訳を桂は口にする。ただ、サクラに会う勇気がないだけなのだが。

 

「……そうか」

 

 ランチアは深く聞かない。力があれば、それ相当の悩みや考えがある。ならば、自身はできることをするまでである。

 

「ありがとう」

 

 桂は礼をいいながら、ランチアを見送った。ツナ達の仲間は自身に恐れない。サクラには及ばないが、桂にはありがたい存在だった。

 




私の気分によって変わりますが、後1話か2話でVSヴァリアー編は終わるでしょう。
70話ジャストを狙ってたんですけどねww


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パーティ

 目が覚め、リビングに向かう。やはり自身のベッドだとよく眠れた気がする。……戦いが終わったので精神的に楽になっただけかもしれないが。

 

 大空戦の最後はあっさりと終わった。

 

 ヴァリアーが私達を人質にし道連れにしようとしたが、クロームが起きたことで形勢が傾いたのだ。そして、すぐにランチアが現れたのも大きいだろう。

 

 そういえば、「報告します!」という感じの流れがなかったな。まぁ特に問題はないだろう。

 

 とにかく決着がついたため、私は彼らの保護を受けなくてもいいということになり、久しぶりに家に帰ってきたのだ。

 

 そして、今日は相撲大会の勝利を祝うパーティである。名前が違うのはランボが入院しなかったからだろう。

 

 実はこのパーティが楽しみだったりする。

 

 

 

 ご飯を食べ終わり、少々浮かれ気分で準備していると兄がやってきた。

 

「準備は出来たかい!?」

「……お兄ちゃんも行くんだ」

「当然だよ! 笹川君が勝ったのだよ! 僕が祝わなくてどうすんだ!」

 

 男の友情というものだろう。まぁ関係のない黒川花もいるので別に問題はないか。

 

 

 兄が両手いっぱいに何かを持っていた。中身は恐らくケーキだろう。楽しみである。しかし、仕事はいいのだろうか。

 

「仕事、ちょうど休みでよかったな」

「そういえば、サクラには話してなかったね。仕事はやめたよ」

「は?」

「父上の仕事を手伝うことにしたんだ」

 

 あっさりと言った兄に驚く。せっかく留学したのに仕事を辞め、さらに分野が全く違うお父さんの仕事を手伝うとはどういうことだ。まさか――。

 

「お父さんの具合が悪いの……?」

「ん? 心配しなくても父上は元気だよ!!」

 

 恐る恐る聞いてみたが、大丈夫らしい。しかしそれならば兄が手伝う必要があるのだろうか。

 

「でも今日は最後の休みだよ。明日からは父上の仕事で忙しくなる。だから、サクラはしばらく大人しく過ごすんだよ」

「……私が暴れるような言い方だな」

「しばらくはケーキを作る時間もないからね」

 

 ちょっと待て。まるで私に甘いものを与えないと駄々を捏ねるようではないか。……少しだけ否定できない気がする。だが、私はそこまで我慢できない子どもじゃないぞ。

 

「お兄ちゃんが決めたなら、私は応援するだけ」

「ど、どうしてなんだ……!」

 

 兄が急に叫びだすため、怪訝な目を向けてしまった。もしや、あまりにも感動しすぎて、ついにおかしくなったか。

 

「どうして僕は荷物を持ってるんだ! サクラを抱きしめれないじゃないか!」

 

 本当に兄がケーキを持ってて良かった。公衆の前で抱きしめられるのは勘弁である。

 

 

 

 

 ご飯を食べる前に、沢田綱吉のところには挨拶した方がいい気がする。兄とわかれ、声をかけに向かった。

 

「お疲れ様」

「う、うん。ありがとう」

「それは私のセリフ」

 

 よくわかってなさそうなので、ちゃんと伝えることにする。

 

「君は約束を守っただろ。だから、ありがとう」

「や、負けるわけにもいかなかったし……」

 

 顔を赤くしながら答えるのを見て、本当に褒められることに慣れていないなと思う。

 

「それでもありがとう」

 

 真っ赤になった沢田綱吉を見て、もう十分伝わっただろうと満足する。後はヒロイン達に褒められればいいだろう。

 

 用件がすんだので、モグモグとひたすら口を動かす。ただで食べれる高級寿司は最高である。

 

「ハハッ! 親父の寿司を気に入ってくれて嬉しいぜ!」

 

 山本武に声をかけられ、頷く。本当に美味しいのだ。

 

「そうだ! 神崎! 説明しろ!!」

「んーん?」

 

 獄寺隼人に聞かれ、何を?と言ったつもりが、口の中に詰め込みすぎたようだ。言葉になっていない。

 

「……後でいい」

 

 後でいいなら、話しかけるな。私は忙しいのだ。山本武が私達のやり取りをみて笑っていた。いつもならイラっとするが、今回はしょうがないことだ。自覚している。

 

「喉、詰まらすぜ?」

「んーんーん」

 

 今度はディーノに心配されたので、大丈夫と答えた。また言葉にはなっていなかったが。お茶を渡されたので、一服することにした。

 

「ん、次は――」

「楽しみにしているところ悪いが、ちょっといいか?」

「なに?」

 

 寿司に釘付けになりながら、返事をする。次のターゲットを探しているが、耳は傾けてるつもりだ。

 

「今日の夜にはイタリアに戻らねーといけねーんだ。リボーンもいるから大丈夫と思うが、気をつけろよ?」

「……ん、わかった」

 

 明日にはそのリボーンがいなくなるため、返事が遅れてしまった。しかし、ディーノは寿司に集中していると勘違いしたようで、深く聞いてこなかった。そもそもディーノが聞いてきたとしても何もできないしな。それにディーノは忙しいのだろう。今回の事件を知っているディーノはボンゴレの建て直しに手伝うことになってるはずだ。それでもパーティに顔を出すのは沢田綱吉達を安心させるためだろう。

 

「何かあったら、連絡しろよ?」

「助かる」

 

 沢田綱吉達がいなくなれば、もし何かあった時に頼れるのはディーノになるだろう。忙しいかもしれないが、ここは頼るしかない。私の返事にディーノは満足したようで、頭をガシガシと撫でたのだった。

 

 ディーノと話が終わったので、お寿司に意識を戻そうとしたが、兄の気配がないことが気になった。いつもディーノが私にかまうと、ライバル意識を燃やしていたはずだが。

 

 周りを見渡すと壁にもたれている兄がいた。パーティとかになると張り切るタイプなのだが。

 

「どうしたんだ?」

「……サクラが大きくなったと思っていたのだよ」

 

 何か変わったところがあっただろうか。キョロキョロと自分の身体をみたが、いつも通りである。先ほどの行動を思い出すと、口いっぱいにお寿司を食べていた。……どこに大人になったと思うところがあったのだ。しかし、感傷的になってる兄を見ると思うところがあったのだろう。少し悩み、口を開く。

 

「前に言ったけど、兄は私の兄。たとえ私が大人になったとしても、お兄ちゃんには甘えるつもり」

 

 家族だからな。歳をとっても気をつかわず甘えれる存在だろう。

 

「困った子だね」

 

 兄に優しく撫でられ、恥ずかしくなって逃げることにする。兄はそんな私の反応を見て笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティから2日たった。つまり沢田綱吉がリボーンを探す日である。

 

「彼らの旅路に幸多からんことを――」

「サークラちゃん!」

 

 急に部屋の扉を開けられ、上機嫌なお母さんにテンションについていけない。私の心の中では今シリアスなのだが。

 

「お出かけするわよー!」

 

 お母さんは私の気持ちに気付かないらしい。いつものことだな。流石についていく気はしないので、断ると続くお母さんの言葉に一瞬思考が停止した。

 

「今、なんていった……?」

「ふふ。ビックリしたでしょー! サクラちゃんを驚かそうと思って黙ってたのよ。まっ契約の関係で詳しく話せないのもあったんだけどね」

 

 お母さんに返事が出来ない。私はそれどころではないのだ。

 

「さぁ、行くわよ! 今日はお父さんとお兄ちゃんの晴れ舞台よ! でもお兄ちゃんはおまけになっちゃうけどね」

「会場って、どこ……?」

「並盛商店街よー」

 

 お母さんの呼び止める声を無視して、走り出す。しかし、走り出したのはいいが、どうすればいいのかわからないのだ。

 

「そ、そうだ。電話……!」

 

 ケイタイを取り出し、兄に電話をかける。が、繋がらない。

 

 考えればわかる。イベントが始まる前は忙しいはずだ。いくら兄でもすぐに電話には出れない。

 

 なぜ気付かなかったのだろう。お父さんの仕事の関係で引っ越してきたのはわかっていたはずだ。たとえ、わかっていたとしても何も出来ないかもしれないが、対策ぐらいは出来たはずなのだ。

 

 いや、今からでも遅くはない。間接的に関わってるだけなのだ。お父さんはただ地下商店街の空間のデザインをしているだけだ。もちろんデザインだけじゃなく、現場に行って力仕事とかも必要だとは知っている。恐らく兄は主にそっちの手伝いになるだろう。しかし、それを考えると嫌な予感しかしないのだ。

 

 とにかく相談しなければ――いったい誰に……?

 

 白蘭の危険性を話さず、頼めることなのか。無理だ。どうしても話さないといけなくなる。話せば、ボンゴレ匣が出来ない未来になる可能性が高くなる。黙ってることしか、出来ない……。

 

 10年後の私が姿を消したのは……関わらせないためなのか……?

 

 私が消えれば、両親や兄は仕事が出来るだろうか……?

 

「わ、私は、彼らじゃなく、家族を選んだのか……」

 

 声が震えた。ボンゴレ匣が出来る未来を作るためだと、自分に言い聞かせることも出来る。でも、話せなかったのは彼らを信用できなかったからだ。

 

 着信音が響く。兄が着信履歴に気付いたのだろう。ほとんど無意識に通話ボタンを押した。

 

「――っ!」

 

 息を呑む。兄だと思っていた。まさか彼からだと思わなかったのだ。私の様子が変だと気づいたのか、心配するような声が聞こえた。

 

「た、助けて……」

 

 ずるいと思う。頼らないのに助けてという。これ以上は話せなくて通話をきった。

 

 ついに、私は歩くことも出来なくなり立ち止まってしまう。

 

 そして、身体に何か当たった――。




VSヴァリアー編・完

未来編(前編)は6月上旬に予定しています


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未来編(前編)
脱出


お久しぶりです。ちびっこです。
この1ヶ月、私はダラダラ過ごしてました←
それでも報告を何点か。

まず、挿絵を書いていただきました。
キャラ設定のところにあるので興味がある方はどうぞ。
サクラが可愛くてヤバイですw

次に……雲雀恭弥誕生日企画としてコラボ話を作りました。
「クラスメイトK」と「ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?」のコラボです。興味ある方は、「クラスメイトKがドジっ娘の世界にて大暴れ!? 」で探せばすぐに見つけれると思います。
本編に出てくる謎の男が登場しています←

次は「クラスメイトK」のUAが10万越えしました。
ありがとうございます。
違う場所でアップした小話を活動報告に記念としてUPしました。
ただし、原作キャラだけで書いた小話です。本編とは一切関わりありません。

後は……近々ハルハルインタビュー「クラスメイトK」バージョンを活動報告にUPする予定です。
また報告しますね。

では、最後に今日から更新を再開したいと思います。
あまりストックはありませんが、なくなるまでは2日に1度を更新しようかと予定しています。
活動報告で呟きましたが、未来編から糖分があります。
お気をつけて。



雲よりはるかに上で1人の男が居た。

男は無言でただ地上を見下ろす。

それは男の日課だった。

 

――もうすぐだ。もうすぐでこの平凡な毎日が終わる。

 

男はニヤリと笑う。

向こうの手駒が壊れれば、男の手駒が解放される。

手を打たれていたことに苛立ったが、今となっては小さな誤差だ。

 

向こうの手駒に絶望を味あわせることが出来ないのが癪だったが。

 

「人間は脆い。脆すぎる。だから面白い」

 

男の呟きが木霊した――。

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 何かに当たった。嫌な予感しかしない。すぐにふわっと身体が浮いたと思えば、どこかに移動しているような感覚になった。間違いなく、アレだろう。

 

 よし、入江正一を殴ろう。

 

 先程まで泣いていたのが嘘のように、私の頭はそれでいっぱいだった。

 

「うわっ」

 

 バランスを崩し、後ろへ倒れる。衝撃はあったが、痛くはなかった。どうやらベッドの上らしい。

 

「大丈――」

 

 スパーンと音が響いてから気付く。私のベッドの近くに居るのは兄と思い、声をかけてもらったのにビニールハンマーで殴ってしまった。しかし、ここは10年後なのだ。もしかするともしかする。顔面にヒットしているビニールハンマーをそっと外した。

 

「いててて……」

 

 将来へ期待していた気持ちが、すぐさま消える。なぜ彼がここに居るのだろうか。いや、少し違う。なぜ私がここに居るのだ。上から下まで眺めるように見る。幻覚でもない限り、彼で間違いないのだろう。思わず名前を呟いてしまう。

 

「入江、正一」

「――雲雀君の言ったとおりだったね。話が早くて助かるよ。さっきのはちょっと驚いたけど……。初めまして、神崎サクラさん」

 

 さっきというのは私にビニールハンマーで殴ったことだろう。問題ない、それは予定通りである。

 

 入江正一の反応を無視し、辺りを見渡す。……やはり私の部屋に似ている。入江正一をハリセンではなく、ハンマーで殴ったのはそれが原因だろう。私はいつものように枕元にあるハンマーを探してしまったのだ。ここは10年後と理解してるはずなのに、だ。それぐらい、ここは私の部屋に似ていた。

 

 私の部屋じゃないと思うのは、部屋が大きいのだ。さらに、ベッドに繋がってる大きな機械――恐らく医療器具の存在が象徴するように違うと判断するには十分だった。私の部屋にはこれほど大きなものは入らない。

 

「ゆっくり話をしたいけど、あまり時間が無いんだ」

 

 入江正一の言葉にハッとする。そういえば、彼は監視されている状況のはずだ。

 

「私と会っても大丈夫なのか?」

「――ああ、そうか。僕が監視されていることは知っているんだね。大丈夫だよ。僕はメンテナンスのため、週に1度はここに通ってるんだ」

 

 つまり、ここに来るのはいつもの行動なのか。それならば問題ないかもしれない。

 

「それに、ここは唯一白蘭サンからの監視が逃れられる場所だからね」

 

 そういう場所もあるのだろうか。少し疑問に思ったが、入江正一の話を先に聞いたほうがいいだろう。

 

「念のために確認するけど、さっきの質問で僕がボンゴレ側の人間ってわかってると思っていいんだね?」

「ん。君がミルフィオーレの服を着ていることも」

「――僕達の作戦も?」

「丸い装置がゴールのことか?」

 

 私の言葉に入江正一は息を呑んで、頷いた。

 

「そこまでわかっているなら、大丈夫だね。今すぐここから出るんだ」

「は?」

 

 ちょっと待て。もう少し説明しろ。

 

「説明したいのは山々だけど、本当に時間が無いんだ。大丈夫、雲雀君からも君の能力は完璧じゃないと聞いているよ。ちゃんと脱出方法はこの紙に書いてるから」

 

 紙を押し付けられ、本当に時間がないと悟る。彼の言うとおり、動くしかないのだろう。しかし、どうしても確認したいことがあった。

 

「1つだけ質問だ。10年後の私は――人質状態だったのか?」

 

 ここから出なくてはいけないこと。ベッドに繋がっている医療器具。そして、私が知っている未来に似すぎていること。たとえ家族のために彼らと関わらないように思ったとしても、本当に私は逃げれたのだろうかと疑問に思ったのだ。しかし、私がたどり着いた答えだとすれば、可能性はある。私は白蘭に捕まって何も出来なかったのではないか、と――。

 

「……うん」

 

 結局、私は彼らの足を引っ張っただけなのか。そして、私を逃がすために入江正一は危険を冒している。

 

 彼が私の能力は完璧じゃないとわかってるのは当然だなと思った。完璧なら捕まるはずがないからな。恐らく彼は私と話すまで、その能力があるのかと疑っている気持ちの方が強かっただろう。

 

 とにかく、私は文句など言えない立場だ。ただ、入江正一が不安そうに私を見ていたので、問題ないと笑った。少しぎこちなくなったのは許してほしい。

 

「今すぐ、行ってもいいのか?」

 

 話しかけにくいだろうと思い、私から話を戻すことにした。

 

「いや、僕が行ってからにしてほしいんだ。メンテナンス時には問題なかったということにしたいから」

「わかった」

 

 返事をしたが、それでも入江正一は疑われることになるだろうと思った。まぁ白蘭にはとっくの前から入江正一が裏切ってるとバレているという意味では、問題ないのかもしれないが。

 

「気をつけて」

「それは僕じゃなくて、神崎さんだよ。上手く合流するんだ」

 

 入江正一の言葉に頷き、私は彼が出て行く姿を見送ったのだった。

 

 

 

 流石、入江正一だ。紙にはわかりやすく道順を書いていた。ただ、大きな疑問がある。私はこんなにも堂々と廊下を歩いていいのだろうか。正確には小走りなのだが。それでも私の小走りなのだ。大丈夫なのかと心配になる。

 

 次のページをめくると気になる言葉があった。道順と逆方向に行けば、メローネ基地に繋がると書いていたのだ。入江正一からすれば、絶対に間違うなという意味で書いたのだろう。もちろん、私は入江正一の言葉に従ってこの場所から出るつもりだ。

 

 私が気になったのは、ここがメローネ基地ではないということだ。私が知らないだけで隣接している施設があったということなのか。それとも私だけのために作った場所なのだろうか――。

 

 結局、わからないので後で考えることにした。最悪、雲雀恭弥に聞けばいいだろう。今から彼らと合流するからな。……まぁ出来れば雲雀恭弥には頼りたくはないが。

 

 そんなことを考えている間に大きな扉にたどり着いた。この扉を出れば、外に繋がるはずだ。しかし、扉は開きそうにない。入江正一に貰った紙にも何も書いていない。少し違うな。正確には「神崎さんなら大丈夫と思う」と書いている。そこは大事なところだろ!!と本気で思った。

 

 しょうがないので、ボンゴレアジトのように指紋認証かもしれないと思い、壁をペタペタ触ることにした。すると何かボタンのようなものを押してしまった。少し警戒すると、ウィーンという音が聞こえて目の前に画面が現れた。その画面には『問題です』と書いていた。

 

「ここでクイズかよっ!?」

 

 思わずツッコミをしてしまった。言っておくが、私はそんなに頭が良くないぞ。私の心情を無視するように画面には問題が表示されていく。まぁここで空気を読まれると違う意味で焦ると思うが。

 

「……なんだ、コレ。『神崎サクラが生まれた日時』?」

 

 よくわからないが、キーボードが下にあったので入力する。ピンポーンという音と画面に正解という文字があった。

 

「こんなの調べれば誰でもわかるだろ」

 

 ここのセキュリティは大丈夫なのかとツッコミしたい。すると、次の問題が表示された。どうやら一問だけではなかったようだ。

 

 

 

 セキュリティは大丈夫なのかとツッコミしようと一瞬でも考えたのが間違いだった。次で10問目である。急いでる時はどうするつもりなんだ。

 

「次は――『神崎サクラが初めて歩いた日』。こんなの誰がわかるんだ」

 

 そう思いながら入力する。それにさっきから私の問題しか出てこないのだが。大丈夫なのか、セキュリティ。……意味は違うのに、同じツッコミに戻った。不思議である。

 

 入力が終わると、今までより大きな正解音が響いた。どうやら今ので終わったようだ。案の定、扉が開いた。

 

 顔だけ覗き込んでみると、路地裏のようである。10年後の世界なので詳しい場所はよくわからないが、問題はない。私には入江正一に貰った紙があるのだ。

 

 次のページをめくると先程より詳しく書かれていた。読んでみると、ここに書いてある時間に従って、道を歩かなければいけないようだ。恐らくボンゴレ狩りをしているミルフィオーレ上手く誘導し、抜け道を作ったのだろう。至りつくせりである。

 

 ただ、もし私が時計を持っていない時はどうするつもりだったのだろうか。実はケイタイを過去の世界に置いてきてしまったのだ。正しくは10年バズーカとぶつかった拍子に落としてしまったのだが。私はそのことに気付いていたので、あの部屋から時計をパク――持ってきていたので問題は起きなかったが。

 

 やはり入江正一はどこか抜けているのだろう。白蘭にバレバレだったしな。

 

 それにしてもこの時計は高そうである。女物なので私のものであっていると思うが、この私がそんな高そうな時計を買うのだろうか。いつから持っているかは知らないが、白蘭に捕まる前なのは確実だろう。綺麗だが、使っているのはわかるからな。

 

 少し疑問に思ったが、歳をとれば考えも変わるだろうという結論にすることにした。本に埋もれているイメージしか出来ないのは気のせいである。

 

「行くか」

 

 くだらないことを考えている間に時間になったので動き出す。そして、思った。

 

「……時間はあってるよな?」

 

 私は人質状態だったのだ。それも恐らく動けないレベルだったはず。つまり、未来の私がしばらく使うことがなかった時計だ。ズレている可能性を全く考えていなかった。

 

 どうやら私も相当抜けているようだ。入江正一のことを言えないな。

 

 少し悩んだが、今から戻るという選択肢は出来なかった。時間がもうないのだ。そのため、高級そうな時計だし大丈夫と信じることにした。

 

「急ごう」

 

 入江正一に貰った紙を握り締め、私は沢田綱吉達と合流するために歩き出したのだった。




主人公はこんな場所からスタートw


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別離

 息を潜めながら、頭の中で入江正一に文句を言い続ける。

 

 指示通り動き、私は待ち合わせ場所の森の中に無事たどり着いた。が、しばらくすると現れたのは、ボンゴレ関係者ではなく、ミルフィオーレだったのだ。

 

 今はなんとか隠れてやり過ごしているが、私は木に埋もれるようにしゃがんでるだけなのだ。いつまで持つだろうか。誰でもいいから早く迎えに来てくれ。

 

 ガサリという音が背後の方から聞こえる。頼むから味方であってくれと願いながら、恐る恐る振り返る。目があった人物を見て、私は声を出すことが出来なくなった。しかし、それはお互いのようで時間にしては数秒だと思うが、見つめあった――。

 

 先に現実に戻ったのは相手のようで私の目の前に一本バラの花を差し出して言った。

 

「僕たちの出会いの記念に――」

 

 当然、私はそれを無視し受け取らない。私は他のことに頭がいっぱいなのだ。

 

「出会ってすぐに伝える言葉じゃないかもしれないが、僕は運命を感じたんだ」

 

 なぜ入江正一と同じ服を着ている。まだ黒の方ならば、理解できたかもしれない。いや、どっちを着ていたとしても私は同じような反応をしただろう。

 

「僕と結婚してください」

 

 10年たったとしても私が見間違うわけがない。自信を持って言えるからこそ、その服装を着ていることが信じられないのだ。

 

「さぁ、僕に欲情したまえ!」

 

 スパーンと頭を叩いて一言。

 

「いつまで妹を口説いてるんだ!」

 

 ピクピクと倒れている兄を見て、溜息しか出なかった。だが、どこか安心した。ホワイトスペルの服を着ていたが、10年たっても兄は兄のようだ。

 

「サクラ、すまなかったね。理想の女性にめぐり合えたと思ったのだよ」

 

 いつの間にか起き上がった兄が私に謝っているが、10年前にも同じようなことを言っていたぞ。やはり兄は変わっていなかった。素直に喜べないのは気のせいだろう。

 

「……ふむ。ついにあの計画が始まったんだね。でもどうしてサクラが――」

 

 急に兄がブツブツと呟き始めた。かなり怪しかったが、気になる言葉があった。私の姿を見て、『あの計画が始まった』と言った。兄はタイムトラベルが起きることを知っていたように聞こえるのだ。

 

「サクラ、ここまでどうやってきたんだい?」

 

 真面目に聞かれたので、答えることにした。兄には本当のことを話しても大丈夫だろう。兄だからな。

 

「入江正一に助けてもらった」

「……ああ、そうか。彼はボンゴレ側の人間だったのか。それは、悪いことをしたね」

 

 よくわからなくて首をひねっていると兄に抱きしめられた。

 

「な、なんだ! いきなり!」

 

 意外にもあっさりと兄は私を解放した。普段ならば、もっと長いのだが。……物足りないという意味ではないぞ。ただの疑問である。

 

「サクラ、少し痛いかもしれないが我慢してほしい」

 

 いつの間にか注射器を持っている兄を見て後ずさる。勘弁してくれ。痛いのは嫌だ。

 

 結局、あまりにも兄が真剣だったので、渋々腕を差し出す。なぜ、こんなことになってるのだ。「うぅ」と情けない声が出たのはしょうがない気がする。

 

 注射しているところを見るのが嫌で目をそらしていると、針が刺さっていた場所が急に温かくなった。いったいなんだと思って目を向けると、兄の手から炎が出ていた。

 

「は?」

「これでもう病気に罹らないよ」

「ん?」

「ああ、そうだ。これはサクラが持っている方がいいかな?」

 

 兄に布袋を渡され、受け取る。袋に入ってるが、手のひらでも持つことが出来そうな大きさだ。持ちにくいので中身は出さないが。

 

 それにしても、さっきからよくわからないまま話が進んでいく。1度、私が理解する時間を貰おう。

 

「ちょっと――」

 

 声をかけようとしたが、言葉が止まってしまった。なぜなら、兄がリングに炎を灯し、匣を開いていたのだ。いったいどうなってる!?辛うじて出た言葉は――。

 

「パンダ?」

 

 そう、私の目の前にパンダがいるのだ。私と同じぐらいの身長でかなり大きい。

 

「可愛いだろ? この匣も渡しておくから、炎を注入してもらうといい」

 

 再び兄から受け取る。右手に布袋、左手には匣兵器。入江正一の手紙はポケットにしまって正解だった気がする。

 

「おっと、先程のバラも忘れないでくれたまえ」

「増えてないか!?」

 

 さっきは一本だったはず。しかし、なぜか花束のような量になっていた。右手で布袋を持ちなが花束を支え、抱えるように持つ。恐らく傍から見ればかなり怪しいだろう。

 

「サクラ、元気に過ごすのだよ」

「……どういう意味だ? うわっ!?」

 

 浮いたと思えば、パンダにお姫様抱っこされていた。触感はもふもふである。

 

「心配しなくても大丈夫さ。ただのパンダじゃないからね。もちろん白蘭に気付かれないよう細工しているから、堂々と外でも使えるよ。だから、いつでも出しておくがいい。きっと役に立つ」

 

 何か、何か雲行きがおかしい気がする。

 

「ちょっと待って」

「サクラ、幸せになるのだよ」

「ちょっと待ってってば!! お兄ちゃん!!」

「……さぁ、行くがいい!」

 

 離せともがいても、このパンダは私を離そうとしない。兄にいたっては、私がこれだけ叫んでるのにも関わらず、見向きもしない。今までこんなことがあったのだろうか。

 

「待って! 嫌だ!! お兄ちゃん!!!!」

 

 ボロボロと涙を流しながらずっと叫んでいると、パンダが「パフォ」と鳴いた。すると、身体が温まってきて、私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

『お兄ちゃん!!』

 

 とっくの前にサクラの声は聞こえなくなっていたが、桂にはいつまでも聞こえていた。サクラの叫びを無視したため耳から離れないというのもあったが、サクラの声を聞いたのも久しぶりだったのだ。いつまでも耳に残るのは当然のことだった。

 

 桂は頭を振って切り替える。いつまでも余韻に浸りたいが、一刻も早くサクラの安全を確保しなければならない。

 

 サクラにはワクチンを打ったが、元凶を取り除かない限り、安心は出来ないのだ。

 

「白蘭……!」

 

 桂の濃厚な殺気が広がり、鳥がいっせいに羽ばたいた。

 

「――そうだった。彼らを処理しないとね」

 

 今まで我慢していた殺気を出したことにより、桂は少し冷静さを戻し、サクラと気付いた瞬間に捕まえていた存在を思い出した。今までサクラが叫んでもミルフィオーレが現れなかったのは、桂が行動を起こしていたからである。

 

 

 

 

 桂が向かった先には一種の造形作品のようにバラが咲いていた。ただし、バラのツルがいったい何に巻きついているかを見てしまうと、綺麗とは口が裂けても言えなくなる。

 

「た、隊長……どうして……」

「僕が思ったように絡まないのが難点だね」

 

 1人の男の口が上手くふさがっておらず、耳障りな声が聞こえたため、桂は愚痴る。

 

 元々、ツルバラは枝を誘引しなければ巻きつかないものである。しかし、急激な成長のせいでバランスを保つために巻きつくのだ。もっとも、折れることがないほどにバラの枝が活性しなければ起きない現象だろうが。

 

「そういえば、どうしてって言ったかい? 答えは簡単だよ。僕は1度も君達の仲間になった覚えがないだけさ」

 

 桂は指を弾き、彼らに仕掛けていた罠を発動させた。すると、彼らの身体から植物が生え始め、彼らから生気が消える。桂は最初から彼らを殺すつもりだった。先に動きを封じたのは、殺して血の匂いが充満すればサクラに気付かれるというだけの理由だった。

 

 桂は顔色を変えず、その様子を見ていた。もう嫌悪感すら抱かない。だから、桂はサクラと一緒に居ることができなかった。

 

「最期にサクラと話せてよかった……」

 

 そう呟いた桂はケイタイを取り出し電話をかけ始める。相手がすぐに出たため、桂は話し始めた。

 

 用件を伝えると相手は怒った。が、桂は無視をしそのまま切る。そして、そのケイタイを壊した。もう連絡をとる必要はなくなったという理由で。

 

 桂はサクラが去っていった方向をジッと見つめた。匣兵器を渡したことを考えれば、サクラが無茶をしなければ大丈夫である。桂の匣兵器は賢く、必ずサクラをボンゴレアジトまで届けるだろう。もちろん桂もサクラの安全のために行動するつもりだが。それにもしもの時を考え、電話をかけたのだ。ここまで対策すれば大丈夫だろう。

 

 しかし、それでも桂は自身がそばについて守れないことが不安なのだ。たとえそれが自身で選んだ道であっても。

 

「本当に図々しい願いだよ。僕がしたことは許せることじゃないとわかってる。だけど、サクラを守ってほしい――」

 

 桂は今までつけていたリングを捨て、懐に隠していたリングを取り出しつける。今つけたリングも悪くはないが、ランクは先程までつけていたリングの方が良かった。だが、そのリングはミルフィオーレから渡されたものである。白蘭を倒すためだとしても、桂はもうそれをつけたくなかったのだ。何より、今つけたリングはサクラが倒れた時に治療に役立つかもしれないと預かったものである。桂にとって大切なリングだった。

 

 ふと桂の表情が緩まる。このリングを預かった時のことを思い出したのだ。

 

「彼は僕にあげたつもりなんだろうね。もう直接は叶わないけど、必ず返すよ。――ディーノ」

 

 桂はサクラと違う道を歩き出す。もう振り返ることはなかった――。

 



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予想外の事態

『サクラがうまれて本当に良かったよ』

『……そうね。あのままお兄ちゃんが成長すれば、心配だったもの。サクラちゃん、ありがとうね』

 

 小さい頃、頭を撫でられながら両親によく言われた。意味はわからなかったが、褒められてることだけはわかった。

 

『サクラ! 今度はあれで遊ぼう!』

『お兄ちゃん、待って!』

 

 兄に誘われ、両親から離れる。兄は私が来るまでずっと待ってくれた――。

 

 

 

 

 

 目を開ける。懐かしい夢を見た気がする。

 

「良かった! 目が覚めて!」

 

 ぼんやりとしながら、声をする方を向けば沢田綱吉がいた。

 

「夢――じゃないか」

 

 沢田綱吉の後ろに10年後の山本武が居るのを見て、あれは現実だったと理解する。恐らくここはボンゴレアジトだろう。クロームが運ばれる部屋に似ている。

 

 周りを見渡すとバラの花と袋、匣兵器がベッドの横に置いてあった。あのパンダは私を運んだ後に戻ったのだろう。と思ったが、私のお腹近くでモゾモゾと何かが動くので布団をめくれば、50cmほどのパンダがいた。……小さくなってる。

 

「そいつはおめーを運んだ後に縮んだぞ」

 

 私の疑問に気付いたのか、リボーンが教えてくれた。しかし、そんな匣兵器があるのかとツッコミしたい。まぁこの時代でも匣兵器はよくわかってないことなのだ。気にするだけ無駄だろう。

 

「神崎、桂に会ったのか?」

 

 10年後の山本武に聞かれたので頷く。彼は何があったのか知ってるはずだ。

 

「てめぇ! いい加減にしろ!!」

 

 怒鳴る声が外から聞こえたと思えば、扉が開いた。そこにはラル・ミルチと焦ってる様子の獄寺隼人がいた。

 

「どけ。この女を生かしておくのは危険だ」

 

 ラル・ミルチが私に武器を向ける理由を察してしまった。乾いた笑いが出る。全部私のせいだ。

 

 少し考えれば、すぐわかることだった。私は兄がミルフィオーレにつくための人質だ。あの扉の問題は全て『サクラちゃんクイズ大会』に出題されたものである。以前、その大会の存在を知った私が興味本位で聞いて、記憶が残るほど兄に熱弁された。私から話題を出したため、あまりにも嬉しそうに話をする兄を止めることが出来なくなったのだ。だから、私はスラスラと答えることが出来た。兄は必ず答えれるだろう。本当に皮肉な話である。

 

「今ならまだ間に合う。殺せ――」

 

 次に気付いた時には頬に痛みがあった。目を見開く沢田綱吉を見て、驚いてるのは私だけじゃないらしい。私を殴った男は一言だけ呟いた。

 

「周りをよく見ろ」

 

 言われたとおりに見渡す。沢田綱吉達の心配そうな顔を見て、少し冷静さを取り戻す。そして、私の頬にパンダが触れるのを感じ、抱きしめる。パンダの目が悲しんでるように見えたのだ。その目が兄を思い出させた。抱きしめていると、頬に触れたパンダの手が暖かくなる。兄の炎は晴だった。治療しているのかもしれない。

 

「もう大丈夫。ありがとう、リボーン」

 

 嫌な役だったと思う。女性に優しいリボーンが叩かなければならないほど、私の発言は彼らを動揺させるものだった。もちろん私の心配をしているのもあるが。

 

「ラル・ミルチ。さっきのは前言撤回させてもらうぞ」

「……どうしてオレの名を知っている!!」

「コロネロと反応が似ているな」

 

 すぐに武器を構えるところや怒るところなんてそっくりだ。私が1人で感心しているとリボーンが同意した。沢田綱吉達はなぜコロネロの名前が出たのか疑問に思っているようだが、スルーすることにした。今すぐ重要なことではないからな。

 

「守護者を集めることは話したのか?」

「ああ」

 

 つまり、ボンゴレ狩りのことを知っているのだろう。沢田綱吉達がアジトにいる時点でも思ったが、私は随分と眠っていたようだ。

 

「話は明日でも出来る。君達もゆっくり休め。いろいろあったんだろ?」

「で、でも……!」

 

 心配そうな顔をする沢田綱吉に苦笑いする。まだ先程の言葉を気にしているらしい。しょうがないので、デコピンをお見舞いした。

 

「うわっ!?」

「10代目!? 神崎、てめぇ!」

 

 急にデコピンされショックを受けた沢田綱吉と怒る獄寺隼人を見て、いつものように思えた。もう大丈夫だろう。

 

「サクラの言うとおりだ。おめーら、今日はもう寝ろ」

 

 リボーンの後押しが聞いたようで、彼らはしぶしぶ眠ることにしたようだ。だが、部屋に出て行こうとしたはずの沢田綱吉が急に振り返り私を見た。

 

「神崎さんはオレ達と違って、誰かに10年バズーカを当てられてこの時代に来たんだよね? その、助けてって――」

 

 驚いて沢田綱吉の顔を凝視する。そして、彼らと家族を天秤にかけたことを思い出し、顔を伏せる。目を合わせることが出来なかったのだ。

 

「や、気にしなくていいよ! 覚えてないのなら、しょうがないし!」

 

 彼は私の反応を見て、手がかりがわからないことに落ち込んでると思ったようだ。違うのだが、否定せずに頷くことにした。しばらくの間、沢田綱吉はオロオロしていたが、リボーンに蹴られたため出て行った。

 

 顔をあげ、もう1度まわりを見渡す。私が沢田綱吉達に眠れと話題を出した意味に、彼らは察しているようだ。

 

「兄がミルフィオーレについた理由は見当がつく。だからこそ知りたい。私の身に何があったんだ」

「待て! お前の知ってることを先に吐け!」

 

 山本武を見ていたが、ラル・ミルチに顔を向ける。私を警戒しすぎの彼女を見て苦笑いが出てくる。彼女の反応が普通なのだろう。沢田綱吉達が特殊すぎるのだ。

 

「全てを話すことは無理だ。理由は君達のため」

「ふざけるな!!」

 

 これでは話が進まないと肩をすくめ、リボーンに助けを求める。

 

「サクラはオレ達が未来に行くことを知っていたのか?」

「知っていたといえば、君は怒るか?」

「オレを見くびるんじゃねーぞ」

 

 リボーンの反応に私は吹きだす。リボーンの質問は私が知っていたと確信していた気がした。だから私は質問し返したのだ。すると、まさかこんなにも男らしい返事がかえってくるとは思わず、吹きだしてしまったのである。

 

 私達の会話に驚いたのはラル・ミルチだけじゃなかった。どうやら10年後の山本武も私のことを知らなかったらしい。

 

「未来がみえる力があるわけじゃない。でも、知っている未来がある」

「本当か……? 神崎」

「この状況でウソをついてどうするんだ」

 

 山本武に呆れたように言えば、「それもそうだよな」といい、笑った。10年たっても彼の雰囲気は変わっていない気がした。

 

 しかし、私の発言で怒る人物がいた。やはり沢田綱吉達が特殊すぎるのだと再確認した。

 

「ラル、落ち着け」

「お前らはなんで落ち着いているんだ! こいつはこの状況を知っていて黙ってたんだぞ!!」

「サクラの力は家光も知っていた。それに――……」

 

 ラル・ミルチは家光が知っていたことにも驚いた。が、その後にリボーンの続けた言葉を聞いて、呆気にとられている。

 

「彼女が驚いて声も出せなくなったぞ」

「サクラはオレ達の呪いがとける未来にいきてーと思ってるのは事実だからな」

 

 間違ってはいないが、溜息が出る。肝心なことを話していないのだ。

 

「私が知っている未来では私が存在していない。それと、私が呪いを解きたいと思ってるのはこの時代の君達じゃなく、10年前の君達。理由は罪悪感がうまれるから」

「ってことは、この時代はその呪いっていうのを解くのが無理なのか?」

 

 10年後の山本武はリボーン達の呪いを知らないらしい。この時代に来たことで知ったのだから、当然かもしれない。笹川了平すら話してもらえなかった内容だしな。

 

「いや、可能性はある。この時代には匣兵器があるからな」

 

 ボンゴレリングはないが、予備の炎を蓄える匣兵器があるのだ。出来なくはないだろう。

 

「だから私は知りたいんだ。私の身に何かあったのか」

「わかった。オレが知っていることを話すぜ」

 

 話が戻ったことに安堵する。呪いを解くために知りたいというのはウソではないが、一番ではないのだ。そのことに罪悪感を覚えながら、私は山本武の話に耳を傾けたのだった。

 

 

 

 話を聞いたが、山本武も詳しいことを知らなかった。私はリング争奪戦後に姿を消したらしい。だが、律儀に月に1度は手紙と写真を送っていたようだ。そういえば、10年後のイーピンが「お久しぶりです。お元気でしたか?」と私に聞いたことを思い出す。ランボが私を見ても泣き出さなかったのは、手紙が届いてるためそこまで心配していなかったからだった。もっとも、手紙から私の居場所を調べてはいたが、見つけることができなかったらしいが。

 

 そして、兄は私を探す旅に出ていたようだ。

 

「オレも詳しくはわからねぇんだ。だけど多分、神崎のことはディーノさんがずっと前から知っていた」

「ディーノが協力してたってことか……」

 

 リボーンの呟きになるほどと納得した。お人好しのディーノのことだ。私が何も話そうとしなくても手を貸してくれたのだろう。

 

「ああ。それに、オレ達が神崎の行方を知ったのはディーノさんからの連絡からだ」

「なら、ディーノと連絡を取ってくれ」

 

 今、彼は第14トゥリパーノ隊と戦っているが、話ぐらいは出来るだろう。詳しいことは彼が来てからでもいいしな。

 

「…………」

 

 山本武の返事がなく、首をひねる。

 

「ボンゴレ狩りが起きてるのは知ってるが、連絡ぐらいは取れるだろ」

 

 何か迷ってる様子の山本武を見て、アジトが危険になると判断したなら無理にしなくてもいいかと思い始めた。私の行方を知った後からの方が問題だと思うしな。

 

「後で合流するはずだから、その時に聞く。話を進めてくれ」

 

 ディーノは沢田綱吉達の修行を見なければいけないので、時間があるかはわからないが、何とかなるだろう。

 

「――神崎、話は出来ないんだ。キャバッローネは壊滅した……」

「は?」

 

 山本武の顔をジロジロと見る。何を、言ってるんだ。

 

「お前の兄が殺したんだ」

 

 混乱する頭の中で、ラル・ミルチの声だけがはっきりと聞こえた。

 



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不可解な行動

 あまりにもラル・ミルチが突拍子もないことを言ったので、夢かと思った。だが、この場の空気の重さで現実だと理解する。

 

「……詳しく話してくれ」

 

 声がかすれたが、ラル・ミルチの目を見て言った。山本武では私に気を遣って、話せないかもしれないと判断したのだ。

 

「オレが知ってる情報では、神埼桂はキャバッローネを壊滅――跳ね馬ディーノを殺ったことでミルフィオーレに入隊した」

 

 心臓の音が耳元でなってるのではないかと錯覚しそうだった。それぐらいうるさかった。

 

「ディーノはそんな簡単に殺られる男じゃねーぞ」

「キャバッローネが壊滅した時はまだ、ミルフィオーレ――当時のジェッソファミリーはそこまで大きなマフィアではなかった。それに、神崎桂はキャバッローネと交流があったと聞く。そのためオレ達は神崎桂を危険視した。そして、ボンゴレが何人か送り込んだが、全て返り討ちにあった」

 

 再び、沈黙が支配する。重い空気の中、口を開いたのは10年後の山本武だった。

 

「ツナは――オレ達は治療のための交換条件だったと予想している」

 

 誰のとは言わなかったが、バカな私でもそれぐらいわかる。

 

「……だからツナがすぐに動いたんだ。これ以上、戦わないようにって」

「これはボンゴレでも大いにもめた。結局、9代目も賛成したことでオレ達はキャバッローネの件は目を瞑ることになった」

「……よく、説得できたな」

 

 リボーンの言葉に心の中で激しく同意した。キャバッローネはボンゴレの同盟の中で勢力が3番めに大きいのだ。いくら平和主義な考えでも、説得するのは不可能に近い。内部分裂が起きただろう。

 

「順を追って話せば、オレ達は様子が変だとディーノさんから連絡を受けたんだ。すぐにツナと獄寺が向かった。だけど、その時には遅かったんだ。そして、先に駆けつけていた桂がツナに土下座して頼んだんだ。救ってくれって。

 キャバッローネより勢力が強いボンゴレなら治療法を見つけれるかもしれないという僅かな可能性にかけて」

 

 言葉が出なかった。あの自信満々な兄が土下座したと聞いて……。私は姿を消したんだぞ。

 

「ご、ごめん」

 

 謝って済む問題でもない。まして、泣く資格もない。それなのに、涙が出る。止めたくても止まらないのだ――。

 

 

 

 

 

 

 私が落ち着いたころに、リボーンが質問してきた。

 

「桂がどこにいるかわかるか?」

 

 首を横に振る。私も何をしているかわからない。

 

「この時代に来て、桂と何をしたか教えてくれ」

 

 入江正一のことは黙っていたほうがいいだろう。言葉を選びながら話す。

 

「……注射された。これで病気に罹らないって言われた。後、荷物を受け取った。そこにある袋とバラとこのパンダの匣。炎を注入してもらえばいいって……白蘭に気付かれないように細工してるから、いつでも出しても大丈夫、きっと役に立つからって……」

「……そうか」

 

 初めから兄は白蘭を裏切る気だった。そう感じた。

 

「それで嫌な予感がして、お兄ちゃんを引きとめようとしたら、このパンダに眠らされた。後はリボーン達の方がわかると思う」

「桂はボンゴレアジトの場所を知っていたんだな……」

 

 リボーンの言葉に頷く。私が場所を教えたわけではないのだ。つまり、この情報だけでも、兄は危険な橋を渡っていることがわかる。

 

 なんとかして兄を止めなければならない。恐らく兄は白蘭と敵対する。だが、周りを見渡してそれが不可能だと悟る。山本武は明日には入れ替わる。今から行動を起こしてもらうのは、危険すぎる。リボーンとラル・ミルチの体調を考えれば、無理をさせるわけにはいかない。

 

 こういう時にいつも頼っていたのはディーノである。しかし、彼はもういない。私のせいで――。

 

「……君達は守護者集めに専念してくれ。兄は白蘭を標的にし、イタリアへ行く可能性が高い。日本はあまり影響がないはずだ」

「……桂のことはいいのか?」

「それが最短の道のりのはずだ」

 

 もっともディーノがいないので、雲雀恭弥を誰が鍛えるのかという問題が起きるが。

 

「悪いが、今日はこれぐらいで勘弁してくれ。情報を整理したい。どこまで話していいのか難しいんだ」

「……わかったぞ。だが、無茶はするんじゃねーぞ」

 

 リボーン達の見送り終わると、重い溜息が出た。

 

「お兄ちゃんが、ディーノを殺した、か……」

 

 小さな声で呟いたつもりだったが、部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、私は黙ってリボーン達の会話を聞いていた。悩んだ結果、沈黙を貫くことにしたのだ。もちろん問題があれば、口を出すつもりだが。

 

「白蘭を獲る。単独でな」

「無理だ」

 

 その割に、原作通りのラル・ミルチの暴走に口を出してしまった。困ったものである。

 

 ラル・ミルチに睨まれているこの状況をどうにかしたい。そもそも、私は本当のことしか言っていないのだが。

 

「私が思いつく限りで白蘭を倒す方法は4つ」

 

 私の発言に食い込み気味になった。

 

「だが、その内の3つは限りなく不可能に近い。理由は時期が悪い、私の知識が足りない、ボンゴレを助けるメリットがない」

「その3つは他の奴の協力が必要なんだな」

「ん。全て頼る相手が別にも関わらず、同じ理由で無理なんだ。私の予想では、話をもっていった時点で殺される確率が高すぎる」

 

 復讐者とチェッカーフェイスとシモンファミリーだからな。復讐者はチェッカーフェイスと戦うために、手の内を出すつもりはないだろう。チェッカーフェイスはアルコバレーノの世代交代のみで、わざわざボンゴレのために力を貸さない。シモンファミリーはリングの場所がどこにあるかわからず、現時点でボンゴレに頼られても助けないだろう。そもそも本部がやられたことを考えると『罪』が無事なのかも怪しいが。

 

 しかし、私の知識がもう少しあれば、もっと上手く。さらに交渉することが出来たかもしれないのだ。

 

「じゃ、やることはかわらねぇな」

「ああ。守護者の皆を集めよう」

「お前達はお前達で勝手に動け。オレは行く」

 

 部屋から出て行こうとするラル・ミルチの反応と比べると、2人は私に気を遣ったとわかりやすい。

 

「コロネロの敵を討つ気だな」

「彼は喜ばないぞ」

「お前に何がわかる!」

「君の名前を出せば、コロネロの反応速度が良くなる。だから君を大事にしていることぐらいはわかる」

 

 今度は何も言い返さずにラル・ミルチが出て行った。

 

「わりぃーな、サクラ」

「彼女の反応が普通だ」

 

 ラル・ミルチと入れ違いに沢田綱吉と獄寺隼人が入ってきた。知識通りである。少し違うとすれば、沢田綱吉は私の方に駆け寄ってくる。

 

「大丈夫……?」

 

 心配そうな顔を向ける沢田綱吉にデコピンを2日連続でお見舞いする。未来にきて不安になってるのに私の心配までしなくていい。

 

「君は今から笹川京子達を助けにいくんだ。気合入れろよ」

「え!? 京子ちゃん達を!?」

 

 相変わらず彼女の名前を出せば、反応がいい。わかりやすすぎて苦笑いが出る。

 

「おい! どういう意味だよ!」

「そのままの意味だ。ランボとイーピンが彼女達をつれて、このアジトへ来る。が、敵に襲われてる状況だ」

「大変だ! 急がないと!」

「急ぎすぎるとスレ違いになると思う。君達は山本武からこの時代の戦い方を教わりながら向かえばいい」

 

 私の言葉に疑問を持たないことを考えると、過去から来ている2人は完全にテンパっているようだ。山本武に丸投げしよう。

 

「後は……5丁目の工場跡地に繋がってる入り口があるだろ。そこから出れば大丈夫のはずだ」

「助かった。後は任せろ」

 

 山本武に肩を叩かれながら言われた。彼も気を遣ってくれたのだろう。私と兄のせいでずれてる可能性があるからな。

 

 彼らを見送ったので、机の上にある写真に目を落とす。

 

「何かあるのか?」

「六道骸も元気そうだなと思って」

 

 リボーンがよくわかってなさそうなので、ヒバードの横に写ってるフクロウをトントンと指で叩く。

 

「骸の匣兵器」

「じゃ骸の居場所もわかってんだな」

「一応、な」

 

 私の歯切れの悪い返事を言っても、リボーンは何も聞いてこなかった。どこまで話すかは私の判断に任せているということだろう。

 

 何度も思うが、ここまで信頼されると困る。私はこっそり溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 サクラが溜息を出したころ、メローネ基地に居る入江正一はパニックになっていた。入江正一の予定では彼はここに居るはずではないのだ。

 

「桂、戻ったなら報告しろと言っただろ」

「それは難しいね。僕は報告よりサクラの顔を見る方が優先だからね」

 

 入江正一は廊下で偶然出会った桂の返事を聞き、呆れたように溜息を吐く。もちろんフリだ。この基地でサクラの顔を見ることが不可能なのは、逃がした入江正一が1番知っている。そのため、桂はサクラと無事に会えたことがわかる。何も知らなければ、大騒ぎしているはずだ。桂はサクラが安全な時間を稼いでいるのだ。

 

 ただ、サクラから入江正一のことを聞いたのかは判断できなかった。が、たとえ聞いていたとしても、入江正一のすることはかわらない。

 

「君が白蘭サンからある程度の自由を許されてるのは知っている。だけど、ここは僕の基地だ。僕に従ってもらわなければ彼女の治療は――」

 

 濃厚な殺気を向けられ、入江正一は言葉を発せれなくなった。胃がキリキリするが、今のは自身の立場を考えると正しい発言だったと入江正一は自身に言い聞かせた。

 

「僕はやるべきことはしているはずだよ。この前渡されたリストは全て消した」

「……そ、そう」

「だから少し僕はゆっくりさせてもらうよ。久しぶりに日本に戻ってきてサクラが喜んでるんだ。何して楽しませようか悩ましいよ」

 

 桂の発言は狂気と言ってもいい。サクラは寝たきりで、治療のためベッドから離す事も出来なかったのだ。それなのにまるで目が覚めたように話している。過去からサクラが来たことを知っていれば、何も思わないことかもしれないが、桂は寝たきりのサクラの話をする時も、常にこのように話していた。

 

「わ、わかった。次に僕が声をかけるまでは休んでいい」

「それは助かるよ。ありがとう」

 

 礼をいい、桂は優雅にサクラの部屋に通じる道へ向かった。桂が去ったことで、やっと入江正一は息を吐くことが出来た。

 

「大丈夫ですか。入江様」

「……ああ。だけど、なんで白蘭サンはあんな奴を好きにさせてるんだ」

「私どもにはわかりません」

 

 クスクス笑いながら話すチェルベッロを見て、入江正一は溜息を吐いた。本当に白蘭が何を考えているのか入江正一はわからないのだ。

 

 桂を従わせるために、サクラを人質にとっただけならまだ理解できる。だが、サクラの治療施設には監視カメラをつけず、さらに盗聴を妨害する機械を設置する許可まで白蘭は出した。

 

 白蘭の能力を使えば、簡単に突破できるだろう。しかし、そんな様子はない。サクラの容態によって、桂が裏切るとわかっているはずなのに、だ。

 

「桂につけた監視はどうなってる」

「いつもと変わりありません」

「また撒かれたのか……」

 

 桂には部下が数名居るが、彼らは桂を崇拝している。上官である入江正一やボスである白蘭が命令しても何も話さないのだ。もっとも、そんな部下を桂は殺したが。

 

 入江正一は頭をかく。桂はミルフィオーレに所属しているが、独立していると言っても過言ではない。ますます白蘭が桂を放任している理由がわからないのだ。

 

「僕の手には負えない。白蘭サンに報告するよ」

 

 結局、入江正一は桂の行動に悩んでいるフリをし、報告中に少しでも白蘭の考えを読もうと考えたのだった。

 



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暴走

 賑やかである。

 

 笹川京子達が来るだけでこんなにも変わるとは思わなかった。ラル・ミルチが苛立ち面倒をみようと思ったのもわかる気がする。まぁこれでもカレーの鍋を焦がすのは防いだのだが。

 

「サクラちゃん、どこに行くんですか?」

「……私にしか出来ないことをしようと思って。だから家事は君達に任せたい」

 

 彼女達が頷いたので私は部屋を出ることにしたが、足を止める。

 

「どうしたの?」

「手を出してくれ」

 

 ポケットに入っていた飴を彼女達に全て渡した。ランボに目を向けながら、驚いている彼女達に説明する。

 

「少ないけど、ないよりはましだろ」

「すっごく助かりますー」

「それで全部だから」

「わかった。でも、全部もらっていいの?」

 

 頷く。私は我慢出来るし、私がランボに渡す機会が少ないしな。すると、彼女達はもう1度私に礼を言った。本当に助かったのだろう。普段の行いが少しは役に立ったと思いながら、今度こそ私は部屋から出たのだった。

 

 

 用意された部屋に戻り、自己嫌悪に陥る。

 

 私は沢田綱吉が怪我をして戻ってきたことに安堵した。

 

 間違ってはない。原作通りの未来に進んでるということだからな。だが、正しいというわけでもないだろう。

 

 これ以上考え込むと危険な気がして、ベッドに寝転ぶ。バラの匂いがする。枕元に花を飾ったのは私なので、匂いがするのは当然と言えば当然なのだが。枕を探り、兄から預かった袋を覗く。

 

「どういうつもりで渡したんだか……」

 

 袋の中には匣兵器があったのだ。兄はパンダを出した時に『この匣も渡しておくから、炎を注入してもらうといい』と言った。そう、『この匣も』と言ったのだ。つまり兄は間違って渡したわけではないということだ。

 

 沢田綱吉に頼めば開けれるかもしれない。リングのない私がこの匣兵器を持っているよりは有効活用できるだろう。しかし、私はこれを彼に渡すつもりはなかった。渡したくなかったといった方が正しいかもしれない。

 

 悩んだ末、ポケットに空きができたので、そこに入れておくことにした。

 

 

 

 

 

 作業が終わり机に突っ伏す。肩がこった気がする。少し身体を伸ばしているとノックの音が聞こえた。「開いている」と声をかければ、顔を覗かせたのは沢田綱吉だった。

 

「晩ご飯、食べない……?」

 

 もうそんな時間がたったのか。どうやらかなり集中していたようだ。慌てて机の上を片付ける。

 

「悪い、待たせた」

「何してたの?」

「出来るだけ君達が怪我をしないように、と思って」

「え?」

「……肩、痛むか?」

 

 原作と違い、彼は三角巾で固定していない。兄の匣兵器のパンダが治療してくれたのだ。それでもしばらくは無理に動かさない方がいいらしいが。それに、ほぼ治ったといっても怪我をしたことには変わりない。

 

「大丈夫だよ! もう普通に動かせるし!!」

 

 必死に元気とアピールする沢田綱吉に「傷が開くぞ」と苦笑いしながら注意する。どこかホッとしたような沢田綱吉の様子を見て思う。原作では彼は自身のことでいっぱいいっぱいだったが、兄のことを聞いたため、私の心配をしているようだ。

 

 私のことに気を遣えば、ディーノのようになる――。

 

 そう注意しようとしたが、言えなかった。口に出すのが辛かったのだ。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 ツナは朝からトイレの場所を探していると、リボーンとジャンニーニが居た部屋にたどり着く。彼らの話によると外にはミルフィオーレのブラックスペルが大量にいるということだった。

 

 突如、機械音が鳴り響く。救難信号をキャッチしたのである。画面に映ったのは雲雀が飼っているヒバードだった。このヒバードには発信機がつけられていたのだ。

 

 音を聞きつけ、次々に人がこの部屋に集まってくる。その時、弱まっていた発信機の信号が並盛神社で完全に消滅する。外に敵がウジャウジャいるが、唯一の雲雀の手がかりになる。このまま指をくわえているのはもったいない。

 

「……サクラはまだ寝てるのか?」

 

 ふとリボーンが口にする。この騒ぎにサクラが現れないこと疑問に思ったのだ。

 

「あの……」

 

 恐る恐る声をかけた人物に一斉に目を向ける。注目されたことで再び口を開こうとすれば、大きな声がさえぎった。

 

「ツナさん! 大変です!」

 

 さえぎったのは慌てて走ってきたようで息を切らした三浦ハルだった。

 

「京子ちゃんがいないんです!!」

「そこにいるだろうが」

「はひ? 京子ちゃん!!」

 

 獄寺の呆れたツッコミだったが、京子の姿を見つけて歓喜する。

 

「良かったですー! 置手紙があるから心配しましたよー」

「ごめんね、ハルちゃん。お兄ちゃんが心配で……でも、外に出る前にサクラちゃんに止めらたんだ」

「そうだったんですかー」

 

 ほとんどの人物が2人の会話に違和感を持たなかったが、リボーンがあることに気付く。

 

「京子、詳しく話せ。京子は外に出ようとしたのか?」

 

 あまりにも真剣なリボーンの様子に京子は足元に視線落とす。迷惑をかける行為だったと自覚しているのだ。

 

「み、未遂だったんだし……そんなに怒らなくても……」

「ありがとう、ツナ君。でも、私が悪いの。……ごめんなさい。私、どうしてもお兄ちゃんのことが心配で外に出ようとしたんだ。でも出来なかったの。サクラちゃんに気付かれちゃって扉の前で声をかけられて怒られたの……」

 

 ツナはそこまで京子が追い詰められていたことを気付かず、驚く。そして、サクラが止めてくれたことに安堵した。

 

「京子を止めた後、サクラはどうしたんだ?」

「えっと、私が出ようとした入り口は壊れてるから、簡単に出れるんだって。だから私が出ないように見張ってるから、リボーン君にこれを渡してって」

 

 京子の手には手紙があった。リボーンはすぐにそれを受け取り、一般人の京子達を部屋から追い出した。嫌な予感がしたのだ。

 

「……おめーら、まずいことになったぞ」

 

 手紙を読み終えたリボーンが呟いたことで、彼らは疑問を浮かべる。

 

「サクラが外に出た」

「ちょ、どういうことだよ!!」

「ジャンニーニ、1つだけ出入り口が壊れてるんだろ?」

「……は、はい。先程まで私もすっかり忘れてまして……D出入り口の内側からのロックを修理中でした……。調べた結果、開いた形跡が――」

 

 驚いているツナ達をラル・ミルチは一括で静まらせ、リボーンに確認した。サクラは裏切ったのかと――。

 

「裏切ったとか何だよ! そんなことより、早くサクラを見つけないと!」

「相手に渡る前に急いで見つけなければという意味では沢田と同じ意見だがな。それほどあの女は危険だ」

 

 口論になりそうだったが、リボーンからの殺気で静まる。場が落ち着いたことを見計らい、リボーンはツナに声をかける。

 

「ツナ、サクラは不完全だが未来がみえる」

「え……?」

「恐らく今回はその力をつかって外に出た。サクラにはどの扉が壊れてるかはわからなかったが、京子が出る扉が壊れてるというのはわかっていた。だから京子の後をつけた」

 

 リボーンの推測どおり、サクラの知識ではD出入り口の扉が壊れてることはわかるが、正確な場所はわからなかった。場所を確認するのは怪しまれる行為になるため、京子の後をつけたのだ。

 

「この手紙にはヒバードの救難信号の意味が書いてあった。他にもおめーらが強くなるためのアドバイスもあった」

 

 ツナは息を呑む。昨日の夜にサクラが何をしていたのか聞いた。その時に、ツナ達が怪我をしないようにと言っていたのだ。恐らくその手紙を書いていたのだろう。つまり、その時から外に出る気だったということだ。

 

「ちょっと待ってください! あいつはボンゴレ狩りが起きる未来がみえていたのに、オレ達に黙ってたってことスか!?」

「獄寺、落ち着けって」

「これが、落ち着いていられるかよ!?」

「……サクラがみえる未来では、サクラとおめーらとは一緒にいねーんだ。おめーらも心当たりあるだろ。おめーらと距離を置こうとしていたことに……。あいつはわかっていたんだ。おめーらと一緒に居れば、未来がかわる。それはいい方向にとは限らねぇ。実際に10年後のサクラはミルフィオーレに捕まっていた」

 

 ツナは思いだす。気付けば、距離が開いていた。仲良くなってからも、いつの間にか距離が出来そうで必死になったことを――。

 

「サクラは……苦しんでたの……? どうして、どうして教えてくれなかったんだよ!! リボーン!!」

「オレもディーノも、サクラを泣かせた。そんなつもりはなかった。何をきっかけに追い詰めるかわからなかった」

 

 リボーンは悩んだ末、精神安定剤を投与したことを話さなかった。そこまで話してしまうと、ツナ達が立ち直れるかわからないと判断したのだ。

 

「サクラはおめーらに生きてほしいと思ってる。外に出たのは恐らく誤差を減らそうとしたんだろう」

「誤差……?」

「サクラが関わったことで、確実にずれているとわかることがあるからな」

「神崎、桂――」

 

 先程まで黙っていたラルが口を開いた。もし今までの話が本当だとすれば、神崎桂がミルフィオーレにいるのはサクラのせいである。サクラのために桂は入隊したのだ。確かにサクラなら止めれる可能性はある。だが、ボンゴレアジトにサクラを避難させたことを考えると止めれる可能性はかなり低い。

 

「……助けなきゃ! これ以上苦しめちゃダメだ! オレ達が強くなればいいだけなんだ!」

 

 ツナの言葉に獄寺と山本は頷いた。

 

「なら、急ぐぞ。サクラが無茶する前に……!?」

 

 リボーンが気を引き締める言葉をツナ達にかけたとき、再び緊急信号の機械音が響き渡ったのだった――。

 



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崩壊

 息が切れる。普段から運動すれば良かったと後悔した。ディーノの言うとおり体力をつけるべきだったな。

 

「いたぞ! こっちだ!」

 

 また見つかったようだ。慌てて走り出す。街中で見つかったため相手が匣兵器を使えない、もしくは匣兵器を持ってないぐらいの下っ端だったことに運が良かったのか、それともヒロインではない私はすぐ見つかると法則に嘆けばいいのか――。

 

「パフォ!」

 

 まぁ運がいいほうだろう。追いつかれそうになると、兄のパンダが眠らせてくれるのだ。晴の活性でなぜ眠らせれるかはわからないが。

 

 それより気になるのはなぜ小さいままなのだろうか。自力で走ってくれるので問題がないといえばないのだが、大きくなって私を運んでくれると嬉しいのだが。

 

 突如、目の前でバチッという音がして顔をあげる。

 

「こりゃ外れのほうだったか。いや、ある意味当たりか?」

 

 空から降りてきた人物に顔が引きつる。最悪だ。リボーンの手紙にヒバードを追いかければ、γによって獄寺隼人と山本武が重体に陥ると書いたことを考えると、騒ぎを起こした私の方にくる可能性が高い。最初から危険とわかっていたことではないか。

 

「さて、大人しく話してくれれば楽だが、その匣兵器はどこで手に入れた?」

 

 答えるわけにはいかない。これ以上、兄に迷惑をかけれない。

 

「だんまりか。まぁいい」

 

 いったい何がいいのか。答えはすぐにわかった。γが私に手を伸ばしてきたのだ。連れて行くのか殺すのかの二択だろう。

 

 連れて行かれるなら、兄と会えるかもしれない。が、ブラックスペルではなくホワイトスペルの方が安全だった気がする。さっさと捕まっていた方が良かったかもしれない。γは危険すぎる。

 

「パフォ!」

 

 手が私に届く前にパンダがまた助けてくれたようだ。しかし、γは眠る気配を見せない。

 

「あいにく、効果はねぇ。その技は急激な晴の活性により、身体がついていかず眠りに落ちる。それさえわかれば対処は簡単だ」

 

 γは炎で盾をつくり、パンダの炎に当たらないようにしていた。そういうカラクリで眠っていたのか。驚きながら、頼みの綱がなくなったことに気付く。万事休すである。もっとも、パンダは技が使えなくても私を守るつもりのようで、一歩前に出た。時間を稼いでくれている間に逃げたほうがいい気がする。

 

 しかし、その望みも立たれる。パンダが匣に戻ってしまったのだ。γが何かした感じはない。恐らく炎切れだ。そもそも兄の注入だけで今まで良くもっていた方である。

 

 一歩ずつ下がろうとしたが、足がもつれて尻餅をつく。動けなくなったところに手が伸ばされ、ぎゅっと目を閉じた。

 

 しかし、痛みも衝撃もなく頭を撫でられた。どういうことだと思っていると背後から溜息混じりの声が聞こえた。

 

「ったく、1人で無茶するなって何度も言っただろ?」

 

 気付けば、涙が頬を伝っていた。振り向かなくてもわかる。私の頭を撫でるのは兄を除けば、彼しかいない。

 

「っきみ、が、いないから、だ」

「それは……すまん」

 

 理不尽な私の文句にも彼は謝った。本当にお人よしである。いつの間にか腰に手をまわされたと思えば、立ち上がっていた。今度はしっかり歩けそうだ。

 

「王子様が登場ってか? しかし、おめーは死んだはずだ。……桂の仕業か」

 

 γの声に今の状況を思い出す。泣いてる場合ではない。涙を拭きながら考える。

 

 目をつぶっていたのでよくわからないが、彼が現れたことによりγの動きが止まっただけだろう。そして、まだ振り返ってないので絶対とは言い切れないが、γの言葉と背後から感じる気配で彼は10年後の姿だ。

 

 つまり、兄はディーノを殺してなかったのだ――。

 

 いろいろ話を聞きたい。しかし、そのためにはγをどうにかしなくてはいけない。

 

「まぁいいさ。話は痛めつけた後だ」

 

 腰にまわしていた手の力が強まる。安心するが、片腕で何とかなる相手なのだろうか。

 

「そのリングでいつまで持ちこたえるかな」

 

 背後から歯が食いしばる音が聞こえた。それだけで状況が悪いと理解する。咄嗟に声が出た。

 

「ポケット!!!」

 

 単語だけだったが、腰に回してる手の感触で気付いたのだろう。ディーノはすぐに私のポケットから、匣兵器を取り出し炎を注入した。

 

 わかっていたが、驚く。目の前に大きな馬が現れたのだ。驚くのはしょうがない気がする。そして、それは相手も同じだったようで、動きを止めた。もっともγは大空属性の調和を警戒しているのかもしれないが。

 

「……ディーノ」

「わかってる」

 

 私がこの匣兵器を使えといった時点で気付いていたようだ。そもそもディーノの匣兵器なのだ。私よりこの匣兵器の特徴を知っているのは当然だ。

 

 なら、後は時間を稼ぐだけだな。ディーノだけなら問題ないかもしれないが、私がいるのだ。少しでも時間はあったほうがいい。

 

「近いうちにユニは元に戻る」

 

 目を見開いたγを合図にディーノが動き出し、馬にまたがった。そしてディーノは再び私の腰に手を回し、馬に乗せて駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 知識通り、数ある匣兵器の中でトップクラスの速さのようだ。目立つため、いろんな敵に追いかけられるが、ぐんぐん離している。

 

 問題があるとすれば、尻が痛い。後でパンダに治療してもらおう。他にも私は横乗りだった。馬に乗るのも初めてな私にはハードルが高すぎる。結果、ディーノにへばりついている。

 

 少し早い気がするが、ドクッ、ドクッというディーノの心臓の音が聞こえる。本当に生きている――。

 

「もう心配なさそうだぜ。大丈……!? 悪い、怖かったに決まってるよな……」

 

 泣いてる私にディーノはまた頭を撫でた。だが、それは逆効果だぞ。もっと涙が止まらなくなり、焦っているディーノに説明する。怖くて泣いてるわけじゃないのだ。

 

「ぢがっ――」

「……悪い。オレも桂が今どうしてるかは詳しくわかららねぇ。多分白蘭のところに向かった。心配するな。あいつは強い。けどな、お前が何かあれば、あいつは揺らぐ」

「ぢがぅ――」

 

 確かに私は兄のことを知りたかった。が、この涙は違うのだ。

 

「ぎみが、いぎでで、よがっ――」

 

 最後までは言えなかった。強く、そして優しく抱きしめられたのだ。そのおかげで、私の涙腺は完全に崩壊した。

 

 

 

 私が落ち着き始めるとディーノはゆっくりと離してくれた。正直、とても助かる。完全に落ち着いてしまうと顔から火が出そうな気がする。

 

 まだ少しエグエグと喉を鳴らしていると、私の顔にディーノの手が添えられた。どうやら、手で涙を拭おうとしているらしい。しかし、それは逆効果だった。顔に触れた手が温かくて再びディーノが生きていると感じるのだ。ウソではないと証明するために、私の顔に添えているディーノの手に自身の手を上から重ねる。また涙が出そうだ。

 

「……サクラ」

 

 出そうだった涙が引っ込む。今、私の名を呼んだのはディーノなのだろうか。なかなか私好みの色っぽい声だった。確認するために重ねていた手を離して見上げると、ディーノが息を呑んだ。いくら泣きすぎで変な顔になってるとはいえ、失礼である。

 

 睨むとディーノは手を離し、項垂れるように私の肩に額を置いた。

 

「犯罪、だよな――」

 

 ボソッと呟いたディーノの言葉に首をひねる。いくら私が不細工な顔をしてもディーノはそういうことをいう男ではない。では、いったい何が犯罪なのだろうか。

 

 しばらく考えていると、ディーノが背筋を伸ばして私の頭を撫でた。誤魔化されている気がする。

 

「とにかく降りるか。このままだとまた感知されて見つかる」

 

 今の状況を思い出し、慌てて降りようとしたが、降りれるわけでもなく、結局ディーノに降ろしてもらった。

 

「スクーデリア、ありがとう」

 

 ディーノが匣に戻す前に声をかける。この馬がいなければ、かなり危なかった。兄から預かっていて本当に良かった。

 

 スクーデリアがこっちに来るので、首をひねる。何か変なことを言ったのだろうか。しかし、ディーノの匣兵器が私に危害を加えると思わないので、動かずジッとすることにする。すると、私の頬に擦り寄ってきた。気にするなと言ってるのだろうかと勝手に解釈し、恐る恐るたてがみに触れ撫でた。嫌がる素振りを見せないので、しばらくサラサラな毛並みを堪能する。私が気が済んだタイミングでスクーデリアは匣に戻っていった。

 

 振り返りディーノを見ると、リングにチェーンを巻いていた。そのリングは私が知らないリングにみえる。私がリングに興味を持ったと思ったのか、渡してきた。やはり知らないリングでγが言ったとおり、あまり性能はよくないのだろう。

 

「君の本当のリングは?」

「……砕かれてるだろうな」

 

 それがどういう意味かは私にでもわかる。ディーノのリングは代々キャバッローネに受け継がれていたはずだ。そして、砕かれたことに兄が関わってることも、私のせいだということも安易に予想できることだった。

 

 動かない私の手を引き、ディーノは何があったのかを語った。

 

 

 

 

 10年前、ディーノは電話で私の声を聞き、すぐさまリボーンに連絡をしたらしい。無事に見つけることが出来たが、首を振るだけの私を見て、リボーンとディーノの判断で日本を離れさせたようだ。そして、私が居場所を教えることに頑なに拒んだため、2人は折れたらしい。まぁ月に一度は手紙を書くことを条件につけたみたいだが。

 

 初めは外にも出なかったらしいが、ディーノと一緒なら少しずつ外に出かけるようになったらしい。そしてある日、道端で私は声をかけられた。声をかけたのは兄の留学先のルームメイトだった。

 

 彼曰く、ほぼ毎日のように私の写真を強制的に見ていたのですぐにわかったらしい。何とも恥ずかしい話である。

 

「その時に気付くべきだったんだ。桂が留学していた時期ってことは、お前の写真は小学生の頃だった。いくらなんでも無理があったんだ」

 

 言われて見ると、おかしな話だなと思った。いったいいつ話しかけられたかは聞いていないが、少なくても5年はたっているだろう。5年もたてば、普通はわからない。歳をとっていたならまだしも、私は子どもだったのだ。

 

 結果、その日を境に私は体調を崩した。

 

 その後は山本武から聞いた話とほぼ同じだった。もっとも、兄とディーノは組んでいたようだが。2人が組んだ1番の理由は、私がディーノに意識を失う前に「白蘭に気をつけろ」と言ったからだった。その白蘭がタイミングを見計らったように兄の前に姿を現れたのだ。自分なら治療できるかもしれないと言って――。

 

 ディーノが死んだという証拠として、リングと匣は白蘭の手に渡らせた。私に渡しながら説明する必要はないのだが、わかりやすくていいとする。そして、似たような体格の男の死体を用意して誤魔化し、今までディーノは私の家の地下で住んでいたらしい。

 

「バカ、だな」

 

 話を聞いて、その一言がすぐ頭に浮かんだ。

 

「白蘭が危険とわかっていただろ。そもそもなぜ交渉しようと思ったんだ」

「それは……あのままだとお前が――」

「だったら尚更だ。私が死ぬ前に残した言葉だぞ。それだけでどれだけの危険人物か、君ならわかるだろ!」

「承知の上だ」

 

 平然と返すディーノに苛立ちが募った。

 

「君はキャバッローネのボスだろ!? たとえ兄と組んでいたとしても、君がいなくなれば、住人やファミリーはどうなるかわかっていたのか!」

「オレの最期の頼みを聞いて、桂はオレのシマとファミリーには手を出さない、そういうシナリオだった。オレがおちれば、ボンゴレがすぐに駆けつけるのはわかっていたしな。それにロマーリオ達は今でもシマに残ってみんなを守ってくれてる」

 

 開いた口がふさがらない。今、私と話しているのは本当にディーノなのか? 彼は住民とファミリーをあれほど大事にしていたのではないのか。

 

「……君には失望した」

 

 勝手なことを言ってる自覚はある。誰のせいかもわかっている。だが、ディーノが住民とファミリーを天秤にかけて、私を選択したことが許せなかった。ましてディーノはいったい何年の間、隠れて生活していたのだ。

 

「そうだな。ボスとしての選択は間違ってる。だけどな、お前を選択しなくても結果は同じだったんだ」

「……どういうことだ」

「後からわかったことだが、オレは白蘭に目をつけられていた。いつからかはわからねぇ」

 

 どういうことだ。白蘭が警戒するのはボンゴレだろう。それなのになぜディーノが真っ先に目をつけらたのだ。

 

 考えられるとすれば、パラレルワールドの私のせいだ。お人よしのディーノに頼み、私はいろいろしたのだろう。その結果、白蘭に警戒された。単純な話である。

 

 しかしそれは後にわかったことである。言い訳に過ぎない。納得できるわけがなく、再び私はディーノを睨んだ。しばらくするとディーノは諦めたような顔をした。

 

「……オレが耐え切れなかったんだ。お前が――サクラが死ぬことに――……」

 

 思考が止まりかけた私を無視するかのように、ディーノは話し続ける。

 

「サクラが倒れた時、オレはボスじゃなく1人の男だった。だからロマーリオにキャバッローネを頼み、オレの首を差し出してサクラが助かるならそれで良かった。……ファミリーのみんなに怒られたよ。シマのみんなもオレの気持ちなんかバレバレだってな。首を差し出すんじゃなくて、男なら一緒に帰って来い。それまでシマのことは任せろ。そう言われたんだ」

 

 とてつもなく、顔が熱い。これはまるで――。

 

「いつからかはわからねぇ。気付いた時にはもう――」

 

 頬に手が添えられ、私は真剣な表情のディーノから目を逸らすことが出来なかった。

 

「サクラ、オレはお前のことが――」

 

 ゴクっと喉がなった気がする。そして、周りの音が聞こえなくなるぐらい、心臓の音がうるさかった。

 

 そしてついに私はおかしくなり、ボワンという変な音まで聞こえた。

 

 そう、『ボワン』という音だった。

 

「……ディーノ」

「やっぱりこの時代に居たのか。無事みたいで……少し顔が赤いな。大丈夫か?」

 

 過去から来たディーノを見て、私は思いっきり脱力した。

 



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フラグ乱立

 時はサクラが未来に行ってしまったところまで遡る。

 

 何となく電話をかけたディーノだったが、サクラのおかしな様子に慌てて動き出す。日本に行くのは決定事項だが、あまりにも時間がかかる。そのため、ディーノはリボーンに電話をかけたのだった。

 

 しかし、かえってくるのは機械音。1日前にリボーンは未来へ行ってるため、繋がらないのは当然のことだった。

 

 次にディーノが電話をかけたのは弟分のツナだった。今度は無事に繋がり、今すぐサクラのところへ向かってくれと頼む。

 

「助けてくれって言ったんだ。嫌な予感がする。今すぐ向かってくれねぇか?」

『もしかしてサクラの身にも何かあったんじゃ……』

 

 ツナの言葉にディーノは珍しく眉間に皺を寄せる。他の誰かにも何かがあったと言っているのだ。無理もないことだった。

 

「ツナ、そっちで何が起こってるんだ」

『そのリボーンが――』

 

 ツナの話を聞き、ディーノはリボーンと連絡を取れなくなった理由を知る。そして、ツナはちょうど大人ランボに話を聞こうとするところだった。

 

「事情はわかった。先に大人ランボから話を聞いてくれ。もしかすると、あいつは巻き込まれたのかもしれない」

 

 あれほど念を押して、何かあれば連絡しろと言った。そのことを考えると、サクラが予期せぬことが起きたとディーノは推測したのだ。

 

 そして、いくら待ってもツナからの返事はなかった――。

 

 

 

 ディーノが日本についた頃には一歩遅く、山本達もすでに居なくなっていた。しかし、桂と雲雀には連絡がついた。

 

 桂の話では壊れたケイタイが見つかっただけで、サクラの足取りはまだわかっていない。そのため、笹川了平と共に日本中を探し回るつもりらしい。雲雀も似たようなもので、足取りは一切わかっていないようだ。

 

 並中の応接室に邪魔をしていたディーノは雲雀を見る。雲雀はディーノがいることに鬱陶しそうな表情をしていたが、気にせず声をかけた。

 

「恭弥、もしかするとあいつらを探しても意味はない」

「……君は何を掴んでるの?」

 

 先程までの態度が一変し、探るようにディーノを見る。並中の生徒がいなくなったことは、雲雀にも見逃せないことなのだ。彼らの心配ではなく、風紀が乱れるという理由で。

 

 わかっているからこそ、ディーノは雲雀に声をかけたのもある。もし自身の推測が正しければ、守護者の彼も関わってくる可能性が高い。そして、話を聞いても愛弟子は冷静だと思えたのだ。

 

「オレの勝手な予想だ。あいつらは10年後の世界へ行ったかもしれねぇ」

 

 雲雀は何も返事をかえさない。普通ならば一蹴するが、発言したのはディーノである。バカバカしいと切り捨てることは出来ず、沈黙を貫くしかなかったのだ。

 

「もしそれが本当ならお前も行くことになるだろう。といっても、10年バズーカを持ってるランボも消えたことを考えると、その方法がわから――」

 

 途中で言葉を切ったディーノに不審な目を向ける。

 

「――そうか、その方法があったのか!」

 

 1人納得しているディーノに雲雀は殺気を放つ。ちゃんと話せという意味もあるが、ディーノの様子に苛立ったのだ。

 

「わ、悪い。10年バズーカを使えば、10年後の世界にいけると気付いたんだ」

 

 雲雀は話が見えなかった。話の流れで10年バズーカというものを使えば、10年後の世界にいけることがわかる。しかしそれを持ってるのは10年後へ行ってしまったランボという人物である。どうすることも出来ない。もっとも、あのリボーンがヘマをするとは思えないことと、自身も行く可能性があることを考えると黒幕の存在がいるかもしれないが。もし居たとしても、その黒幕がわからないから、どうしようもない事態になっているのではないか。

 

「なるほど、ボヴィーノファミリー!」

「ああ。そうだ、ロマーリオ。ボヴィーノファミリーなら、持ってるはずだ」

「はぁ……。そのボヴィーノなんとかって何?」

 

 先程まで黙っていたディーノの部下とディーノが盛り上がり始めたので、ついに雲雀は呆れながら話を促した。風紀の乱れを戻せる可能性があるため、聞かないという選択は出来ないのだ。

 

「その10年バズーカはボヴィーノファミリーに伝わる武器で、ランボはボスから預かってる。恐らく予備、最低でも弾があるはずだ」

「ふぅん。じゃぁそのボヴィーノなんとかを咬み殺せばいいんだね」

 

 場所もわからないのに出かけようとする雲雀をディーノは慌てて止める。相手は中小マフィアなのだ。手を出せば、どうなるかはわからない。

 

「落ち着け。たとえお前が咬み殺したとしても、10年バズーカは秘匿されている武器だ。殺されたって口を割らねぇよ」

 

 不満そうな顔をして雲雀は席に着く。リング争奪戦で雲雀がマフィアというものを少しは知ってて良かったと、ディーノは心底思った。

 

「じゃぁ、どうするつもりなの?」

「ん? 頼むんだよ」

 

 ディーノは咬み殺すより簡単なことだという態度で言う。秘匿されている武器と言ったのはディーノではないのかという意味で、雲雀はさらに呆れた。見かねたロマーリオが補足する。

 

「これでもオレ達キャバッローネは、巨大マフィアのボンゴレの同盟国の中でトップ3に入る。対して向こうは中小マフィア。次期ボンゴレ10代目の守護者の中に部下を入れてもらっている立場と、他のマフィアからはそう見られている。ボスが頼めば、無下にする事は出来ないんだ」

「まっこういうのはしたくねぇんだけどな」

 

 簡単に言えば、力関係を利用し、お願いするのだ。ディーノが好まないのも無理はない。

 

「褒められることじゃねぇからな。それにその方法だと使えるのはボスだけだ」

 

 いくら力関係が上だとしても、条件が提示されるだろう。秘匿されている武器を使わせてもらうのだ。当然のことである。そして、その条件の一つに秘匿を守るためキャバッローネのボスのみという条件が必ずある。2人はそう確信していた。

 

「そういうわけだ。オレから連絡がなければ、あいつらも10年後に行って帰ってこれねぇことが起きてると考えた方がいい。そして、お前も巻き込まれる可能性が高いと思ってくれ」

 

 雲雀の返事はまたもなかった。納得できない気持ちもあるのだろう。しかしディーノを止めなかった。情報が少ない中で、可能性が1つつぶれるだけでも、風紀を守りたい彼にはありがたいことなのだ。

 

 そして、提示された条件を全てのんで、ディーノは10年後の世界にやってきたのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

「……君はバカか」

 

 話を聞いて本気で呆れた。確かボヴィーノファミリーはイタリアにあったはずだ。何度、飛行機に乗ったんだ。そもそも簡単なように話しているが、他のファミリーに頼む時点で話が大きい。私が想像しているより、はるかに凄い力が動いてる。つい本音を言ってしまった私は悪くないと思う。

 

「助けるって約束したからな」

 

 顔が真っ赤になったのがわかった。10年後だったが、同じ人物が言ってるのだ。意識するなというのが無理な話である。

 

 しかし、意識するのは私だけなようで、ディーノは私の体調を心配していた。無性に腹が立ったので、殴った。ぽふっという弱々しい音しか鳴らないが。

 

「何か持ってるのか?」

 

 痛くはなかったようだが、感触で何か持っていることにディーノは気付いたらしい。手には10年後のディーノが使っていた指輪と匣兵器がある。そういえば、説明の時に渡されたままである。――かなり運が良かった気がする。

 

「……ディーノ、リングは持ってないよな?」

「ん? あるぜ。恭弥の戦い方を見て、やっぱりこれからの時代に必要と思ってな」

 

 つまり、敵に見つかるということではないのか。炎をともしてないので、近くにゴーラ・モスカが現れない限り大丈夫だと思うが、チェーンは巻いたほうがいい気がする。

 

「ディーノ、このリングに見覚えは?」

「見たことはねーな」

 

 少し悩み、このリングはここに置いて行くことにする。チェーンが1つしかないのだ。優先するのは強力なリングである。諦めるしかない。とりあえず、ディーノに巻けといってる間に、出来るだけ見つからないように土に埋めることにしよう。場所は忘れないように覚えておこう。

 

 土を掘りながら溜息がでた。彼を置いていけばドジを発動し、最悪の場合は殺されてしまう。かといって、この時代の戦い方を知らぬ彼と一緒に乗り込むのは危険だ。私の命だけならまだしも、ディーノを巻き込むわけにはいかない。もうアジトに戻るべきだろう。

 

 それに10年後のディーノの話では、兄はイタリアへ行ってる可能性が高いらしい。私が無茶しないように兄はディーノに頼んだという話だった。どうやら兄は私が会いに来ようとすることを読んでいたらしい。ディーノがすぐにボンゴレアジトに来なかったのは、私を油断させるためだった。1人で無茶すると思ったのだろう。失礼である。……間違ってはいないが。

 

 ちなみにタイミングよく現れたのは、兄の匣兵器の炎のレーダーを見て動いたからだった。兄に細工をしていると聞いたが、それは敵のミルフィオーレだけのようだ。それもそうだな。味方にする必要がない。まぁボンゴレアジトにはやっていたらしいが。そもそも私の家の地下はどうなってるのだ。今は無理かもしれないが、見に行ったほうがいい気がする。これも覚えておこう。

 

 無事に埋め終わり手をパンパンと叩いてると、ディーノにハンカチを渡された。手が土だらけになることに溜息が出たと思ったらしい。まぁ汚れるのは1人でいいと私が言ったことや、彼の優しさから来た行動かもしれないが、遠まわしに女子力が低いと言われる気がする。……悪かったな。

 

 ――何かがおかしい。

 

 そもそも、だ。別に女子力が低くてもいいじゃないか。有り難く借りるのが私なのだ。いつもならそうしていたはずだ。なんだ、このモヤモヤは……!

 

「……ディーノが悪い」

「オレが悪くていいから、状況を教えてくれ」

 

 ディーノの言葉に我に返る。考えてる場合じゃないのだ。急いでアジトに帰らなければならない。ここからだと……並盛神社が1番近いな。もしかすると10年後のディーノは雲雀恭弥のアジトを目指していたのかもしれない。気のせいかもしれないが。

 

「道案内はする。だけど、私達は追われてる。上手く切り抜けれるかは君の腕にかかってる」

「わかった。任せろ」

「……君にばっかり負担をかけて、ごめん」

 

 ディーノが急に屈み、私と目線があう。そして、頭をガシガシと撫でながら言った。

 

「覚悟の上だ。さっきは約束したからって言ったが、それはオレが守りたいって思ったから約束したんだぜ。だからオレは勝手にこの時代へ来たんだ。お前が気にすることじゃねーんだよ」

 

 確かにディーノが自分で決めてこの時代に来た。原作と違う行動であるから間違いないのだろう。しかし、それは私がいるせいなのだ。彼に何が起こるかわからない。生き残るために、彼は必死に鍛えなければならない。

 

「っ!」

 

 頭を強い力で撫でられた。お人よしのディーノにしては珍しい行動だった。

 

「大丈夫だ。なっ?」

「……もう1つ、約束してくれないか?」

「ああ。いいぜ」

「死なないでくれ。自身を大事にしてくれ」

 

 お願いだから死なないでくれ。ユニのおかげでみんなが生き返るとしても、私のせいで死なないでくれ。ディーノが死んだと聞いて、私は自身の存在がとてつもなく怖いものだと思ったのだ。だが、自ら死ぬ度胸もない。危険な外へ飛び出したのは兄に会いたい気持ちもあったが、生きてるのが怖くなったのだ――。

 

「わかった。約束する」

 

 真剣に返事をしたディーノの様子に安堵する。10年後のディーノは私に特別な気持ちがあった。確定するのはどうかと思うが、ほぼ間違いないだろう。だが、今のディーノにはない。そのことが、私を安心させるのだ。

 

「オレからも1ついいか?」

「……なんだ?」

「誰かが死んでも、それはお前のだけのせいじゃねぇ。たとえ誰かがお前をかばって死んだとしてもだ。そこには必ずそいつの意思がある。全部お前のせいにしちまうと、そいつの意思はどこに行くんだ? そいつの生きていた証を忘れないでやってくれ」

 

 すぐに言葉が出なかった。だけど、返事をしないといけない。そう思って私は口を開いた。

 

「――死亡フラグがたった」

「お前なぁ……」

 

 今度はディーノが項垂れたのだった。



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頑固

 先程まではふざけた感じだったが、今は黙々とディーノが歩いた道を進む。1度、黒曜ランドで経験していて良かったとつくづく思った。命が狙われている状況で、ぶっつけ本番で出来るとは思えないからな。

 

 ディーノが手で私を制したので立ち止まる。私にはさっぱりわからないが、何かあるのだろう。

 

「並盛神社近くで戦闘音がする」

 

 ディーノの耳はいったいどうなってるのだろうか。まだかなりの距離があるぞ。不思議に思いながら、戦闘音について考える。しかし、さっぱりわからない。私の行動のせいで、雲雀恭弥とγの戦いのフラグは折れたからな。ただ、少し気になることがある。γは「こりゃ外れのほうだったか?」と言ったのだ。つまりもう1つ何かあったということだ。

 

 獄寺隼人達のために伝言を残したが、私を探してるのかもしれない。

 

 一歩踏み出そうとして、ディーノに肩を掴まれる。そして、首を横に振られた。確かに私が今行ってどうなる。獄寺隼人達じゃない可能性もある。そして、もし彼ら達だった場合、私は足手まといだ。

 

「……悪い」

 

 バカな行動しかけたことに謝れば、フッと笑った。大丈夫という意味だろう。

 

「任せる」

「ここから他の出入口は距離があるんだな?」

 

 私が知っている出入口はという意味で頷く。まぁ全てを知っていたとしても、負傷者を抱えて戻るのは危険という距離だったのだ。素人の私が動くのと負傷者は然程変わらないからな。どっちを選んでも危険になるだろう。それならば、負担を背負ってるディーノに判断してもらった方がいいと思ったのだ。

 

「このまま進むぜ。戦闘音がするってことは味方もいる可能性が高い。もちろん危ないと判断すれば引き返す」

 

 異論はないので頷く。先程から声を極力出さないのは、気付かれる可能性があるからだ。実際に私がわかる範囲でも、何度か追手をやり過ごしている。近くに敵がいるか判断できない私は話さないほうが安全なのだ。

 

 再び、ディーノの歩いた道を黙々と進む。彼の背中を見て安心する反面、少し怖いと思った。

 

 

 

 

 

 

 並盛神社に到着した。戦闘音は彼らの仕業だったらしい。少し遠くに倒れてる太猿、野猿、γを見ながら思った。γをやれるのは彼ぐらいしかいないので、この惨劇の犯人は雲雀恭弥で間違いないのだろう。ということは、γは私達と別れてからこっちに向かったのか。やられ損である。もっとも、私の去り際の発言が関係しているかもしれないが。彼からすれば、少しでも情報を集めたいだろうからな。

 

「また失敗したか?」

 

 私の言葉にディーノが反応したが、スルーする。今はアジトに戻るのが先決なのだ。

 

 少し悩みディーノの腕を掴んで引っ張った。彼だけ残されてしまうと困るのだ。ディーノは抵抗もせずに、私について来る。別に嵌めるつもりはないが、もう少し警戒しろと思う。

 

「これは……」

 

 幻覚の隠し扉に気付き、ディーノは驚くような声を出した。ちなみに私はここに入り口があるのを知っているが、入り方までは知らないのでキョロキョロしている。沢田綱吉のアジトのような造りならいいのだが。

 

「あった」

 

 探しているものが見つかったので、思わず声が出てしまった。少し考え、ディーノにここへ手を置けといった。

 

「これって指紋認証じゃねーのか? オレでも大丈夫なのか?」

「わからない。けど、私より確率は高い」

「ん? ここはツナのアジトなんだろ?」

 

 そういえば、話していなかった気がした。

 

「違う。10年後の雲雀恭弥のアジト」

「恭弥の!? そっか、教え子だもんな」

 

 妙に嬉しそうなディーノにさっさと手を置けと睨む。そして、彼が手を置いた瞬間、ピピッという音がし、警報のアラームがなった。

 

「……まぁそうだよな」

 

 どこか諦めたディーノの反応を見て、声をかけることにした。

 

「置いていくぞ」

「いや、だけど――」

 

 ディーノの反応を無視し、私は扉を開ける。

 

「ちょっと待て!? さっきの警報はなんだったんだ!?」

 

 私が知るわけないだろう。ピピッと扉が開く音がしたから私は入ろうとしただけである。

 

「君の存在が不愉快だからだよ」

 

 ディーノから目を離し前を向けば、ムスっとした雲雀恭弥が居た。そして、思った。美声のレベルがあがっている。

 

「生きてて良かった……!」

 

 場違いな言葉を発し、2人から視線を感じるのは気のせいである。

 

「ん、ん! やっぱり君は驚かないんだな」

「……着いてきなよ」

 

 咳払いして誤魔化し、雲雀恭弥に話をふれば否定をしなかった。つまり、私の考えは間違っていなかった。雲雀恭弥は死んだはずのディーノの指紋登録をしていた。彼もディーノが生きていると知っていた人物なのだろう。

 

 10年後のディーノの話を聞いて少し疑問に思ったのだ。私の家の地下で隠れ住んでいたが、食事とかの問題があるはずだ。兄が用意していた可能性もあるが、そんな危険なことは出来ないだろう。私の両親の可能性もあるが、買出しの量などでバレる。そのため協力者は他に居ると思ったのだ。沢田綱吉の可能性もあったが、彼の方が可能性が高い。なぜなら、未来でも彼は並盛を牛耳ってる。マフィア関係者を使わず、根回しが出来る人物なのだ。

 

 よくやるな。と本気で思った。彼はいったいどれだけ知らないふりをしているのだ。……人のことは言えない気もするが。

 

 雲雀恭弥についていくと、ボンゴレアジトにたどり着いた。原作通り話をしに行こうとしたタイミングなのだろう。沢田綱吉を咬み殺すタイミングともいえるが。

 

「サ、サクラ! よかったー! ディーノさんと無事に会えたんだね!」

 

 雲雀恭弥の横から顔を出すと沢田綱吉とリボーンに安堵され、罪悪感が募った。

 

「ディーノがうまく説得したんだな」

「説得というより強制終了になっただけだ」

 

 話の流れで10年後のディーノが彼らに連絡していたとわかる。が、彼らはまだ知らないようなので指をさして教えた。

 

「ディ、ディーノさんも入れ替わってるー!?」

「ん。困ったことになったんだ」

「え? ってことは……サクラの知ってる未来と違うの?」

 

 沢田綱吉の言葉に驚き、目を見開く。リボーンをみれば悪びれもせず「緊急事態だったからな」と言った。

 

 一歩ずつ後ずさる。が、背中に何かがあたりこれ以上は下がれなくなる。原因はディーノの身体だった。

 

「はぁ……。出直すよ、赤ん坊」

「わりーな、雲雀」

 

 ちょっと待て。君は空気を読むようなキャラじゃないだろ。それに、沢田綱吉を咬み殺すフラグは折れたかもしれないが、話を誤魔化すことも出来なくなったではないか。

 

「あいつも気にしてるってことだ」

「……私の能力が必要になるかもしれないからだろ」

 

 ディーノにツッコミすれば、頭を優しく撫でられた。

 

 ――パシッ。

 

 部屋に響いた。

 

 驚いている沢田綱吉とリボーンの姿が目に入る。が、恐らく私の方が驚いている顔をしているだろう。自身でもディーノの手を叩いてまで、振り払うつもりはなかったのだ。

 

 後ろで息を吐く風を感じ、振り向くのが怖くなった。謝ろうと思っているが、喉が鳴るだけで声が出ない。

 

「ディ、ディーノさん! サクラも悪気があったわけじゃ……!」

 

 私の驚いた顔をばっちり見てしまったためか、沢田綱吉がフォローにまわったようだ。彼もディーノの溜息が聞こえたのだろう。無理もない、わざと吐いたような溜息だったからな。

 

「心配しなくていいぜ。こいつの性格はわかってる」

 

 怒っていないようだ。そのことに安堵したのが間違いだったようで、肩をつかまれ無理矢理振り向かせられたことには、かなり驚いた。

 

「この時代のことはまだ何も知らねぇ。お前がいなかったらアジトに辿り着くことさえ出来なかっただろう。それに未来への恐怖を抱く気持ちもわかる。だけどな、もう少し頼ってほしいんだ」

「……もう、頼ってる」

 

 ディーノは私を真っ直ぐ目を見て言った。だから正直に話した。

 

 この時代に来て、彼にどれだけ頼っていたかわかった。未来の私が困っても、私が未来に行くことになっても、ディーノがいるから何とかなると思っていた。ディーノが死んだと知り、私の選択肢は大幅に減ったのだ。

 

「すまん。オレの言い方が悪かった。――もっと頼れ。まだまだ大丈夫だぜ。ツナもそうだろ?」

 

 振り返れば、急にディーノに話を振られて慌てている沢田綱吉がいた。

 

「……大丈夫に見えない」

 

 呆れながらツッコミすれば、沢田綱吉の視線が定まった。

 

「オレ、この時代に来て、いっぱいいっぱいだった。だけど、そうじゃなかったんだ。ずっとオレはいっぱいっぱいでサクラが苦しんでるのも全然気付かなかった。……ううん、本当は気付いていた。でもディーノさんとリボーンは事情を知ってるみたいだし大丈夫だって勝手に思っちゃったんだ。神崎さんがアジトから出て行って、リボーンから話を聞いて、オレ後悔しかしなかったよ。ごめん、オレが頼りないばっかりに――」

 

 謝られると気まずい。確かに私は幼くて優しすぎるため、彼を頼りにしなかった。事実なのだが、彼と目を合わせることは出来なかった。なぜなら、頼れば必死に応えてくれる人物だと私は知っていたのだ。知識とは関係なく、だ。

 

「オレを――オレ達を守ってくれてありがとう」

 

 乾いた笑いが出た。私は礼を言われるようなことをしていない。全て私が原因で起きた事である。ただの尻拭いをしているだけなのだ。決して褒められることではない。

 

 だが、妙に嬉しかった。

 

「……私のせいで、君達が死ぬかもしれないんだぞ」

 

「私のせいで、未来が大幅にずれてるぞ」

 

「私のせいで、君達の負担が多いんだぞ」

 

「私の知識が役に立たないかもしれないぞ」

 

「私は自身の命を優先するぞ」

 

 

 

 他にもたくさん彼らにいろいろ言った。二人揃って否定したり大丈夫だという。ついに私は折れて呟いた。

 

「君達は頑固すぎる」

「おめーもだぞ」

 

 ずっと私達のやり取りを黙って聞いていたリボーンのあまりにも的確なツッコミに私達は笑いあったのだった。

 




すみません、次の更新は3日~4日後です。
ちょっとライブへ行ってきますw


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作戦会議

 詳しい話をしようと思ったが、笹川京子達の乱入で中断になった。ビアンキ達と一緒に来たので、もう帰っていたらしい。ずれているのは雲雀恭弥のバトル時間が長くなったからだろう。

 

 それにしても柔らかくていい匂いがする。これがヒロインの力なのか。

 

 少々思考が脱線したが、この状況をなんとかしなければならない。今の状況は自業自得だからな。

 

「ごめん。君の気持ちも考えればよかった」

 

 私を抱きしめている笹川京子の背中をポンポンと叩きながら謝る。滅多に泣かない彼女が泣いているのは、私が脱走したのは自分のせいかと思ったのかもしれない。

 

 ついに耐えきれなくなったのか、三浦ハルも泣きながら私達を抱きしめた。そういう趣味は全くないのだが、こういうのも悪くないと思った。

 

「あなた達が無事でよかったわ」

 

 私達全員に優しくビアンキが頭を撫でた。カッコ良くて優しい姉御である。

 

 密かにビアンキに憧れていると、ドアが急に開き驚く。それは私だけでもなく、彼女達も状況を確認した方がいいと判断し、自然と離れた。

 

 ドアの方向を見ると獄寺隼人と山本武が居た。所々に傷があるが、大きな怪我はないようだ。

 

「神崎! オレらが組めねぇって勝手に決めんじゃねぇ!」

「ははっ」

「てめぇ何笑ってやがる!」

「だってよ、本当に最初は全然息が合わなかったじゃねぇか」

「う、うるせぇ! 今は問題ねぇだろうが!」

 

 一体どういうことかと首をひねってると、リボーンが私の肩に乗り説明してくれた。私は手紙で今回の件はコンビネーションが良くなるきっかけが起きるが、死ぬ確率が高いから外に出すなと書いた。それを読んだリボーンが2人のコンビは最悪で足手まといになると言ったらしい。そのため沢田綱吉とラル・ミルチは外に出たが、彼らは外に出れなかったらしい。そして、もうこんなことがないように修行を始めたようだ。

 

 ちなみに沢田綱吉とラル・ミルチは外に出てたのは、雲雀恭弥に会いに行くためだった。私の手紙通りに起こってるとは限らないという判断でだった。もっともディーノが私を助けるという連絡があったため、リボーンの判断で彼らの留守番が決まったらしいが。

 

「でも君達が外に出なくて正解だったと思う。逃げるスキをつくるためにγを挑発したから」

 

 静まり返った。笹川京子達も私と一緒でよくわかっていないようで、首をひねっていた。いったいどうしたのだろうか。

 

「む、無茶すんじゃねぇ!」

 

 獄寺隼人の言葉をきっかけに、私は盛大に怒られたのだった。

 

 

 

 

 

 結局、私への注意はラル・ミルチが帰ってくるまで終わらなかった。10年後のディーノが居たから挑発したのだが。まぁいろいろ思うことがあるが、文句は言わない。今回は私が悪い。

 

 ラル・ミルチから紙袋を受け取る。手紙に彼女達の分の買い物を頼んでいたが、私の分も買ってきてくれたようだ。彼女は私が戻ることに反対していないということなのだろうか。聞きたい気持ちもあったが、ばっさりとリボーンの指示だと言われそうなので止めた。

 

 

 そして私は今、情報交換の場に参加している。雲雀恭弥は今日はもう来るつもりはないようで、原作通り草壁哲矢が参加していた。そして、獄寺隼人達も参加していた。大怪我がないので当然のことである。

 

 黙って話を聞いていたが、私と知っている内容とはほぼ変わらない。違うのは敵のAランク以上の人数が増え、そこに兄の名前があったぐらいだろう。

 

 彼らは一通り話し終わったため、私に視線が集まる。私の番だろう。

 

「私が知っている未来と少しずつズレている。それをしっかり頭に入れてくれ」

 

 話をちゃんと伝わっていたのか、私が未来のことを知っていること誰もにツッコミせず、真剣に頷いたのだった。

 

「君達の持ってきた情報はほぼ間違っていないだろう。ビアンキが持ってきた場所から潜入していた。相手の主力の戦闘スタイルは後でまとめて紙に書いてリボーンに渡す。どこまで教えるかは君の判断に任せる。それとさっきも言ったが、γを挑発したため彼の行動は要注意」

 

 草壁哲矢の話で雲雀恭弥がγの相手をして咬み殺したとは聞いた。が、彼は原作通りに酒を飲んで暴れてはいないだろう。それぐらい私の言葉は彼にとって重要なことだった。その時間さえ惜しいはずだ。

 

「問題は戦力の低下と第14トゥリパーノ隊」

「トゥリパーノ隊?」

 

 沢田綱吉が質問してきたので、本来なら10年後のディーノが相手をしていると教えた。

 

「でも第14トゥリパーノ隊なんて無かったと思うけど……」

「ええ。第14チリエージョ隊だわ」

 

 情報収集に長けている2人から思わぬ言葉が聞こえてきた。顔も能力も知らない相手だったが、私の知識とのズレに恐怖を覚える。少し落ち着くためにお茶を飲もう。

 

「サクラ――」

 

 ディーノに名前を呼ばれ、コップを落とし割ってしまう。大惨事である。慌てて拾い集めようとすれば、危ないという理由でビアンキに止められた。申し訳なさ過ぎる。

 

「大丈夫だ。なっ?」

「……君のせいだ」

 

 私が落ち込んだと思い、声をかけてきたディーノに責任を押し付ける。彼が私の名前を言わなければ大丈夫だったのだ。私は間違ってはいない。

 

「すまん」

 

 だが、ディーノが真剣に謝ってきたので焦る。ただ今まで呼ばれなかったことと10年後のディーノの行動を思い出すだけで、別にディーノが悪いわけじゃない。別に名前ぐらい呼んでも問題ないのだ……と、頭の中でグルグル思考が回っているとリボーンの言葉に我に返る。

 

「チリエージョはイタリア語で桜だ。……14番隊長が桂なのか?」

 

 ただの私の勘違いである。恥ずかしい気持ちが一瞬出たが、兄の名前が出たため耳を傾ける。しかし、誰も何も答えようとしない。恐らく私に気を遣っているのだろう。否定もないからな。

 

「――問題は戦力だけと考えていいか」

「ったく、もう少し素直になれよ……。桂のことが心配なんだろ?」

 

 視線が突き刺さり、私は観念し話し始めた。

 

「10年後のディーノの話ではもう日本にいない可能性が高いって言ったんだ。私を逃がすために別れてからは少しはいたと思うけどって……」

「どこへ向かったとかは言わなかったのか?」

「イタリアだ。はっきりとは言わなかったが、人質の私がいなくなったのだ。本部に向かったのだろう」

 

 沈黙が流れる。この現状で白蘭がいる本部に乗り込むことは不可能なのだ。まして私は本部のことはわからない。私のわがままで動くことは出来ないのだ。

 

「兄のことは彼に任せるしかないんだ」

「えっと、彼って誰なの?」

「六道骸」

 

 私が名前を出せば、彼らから「骸!?」と声を揃えて返事がかえってきた。草壁哲矢が叫ぶのは珍しい。

 

「私が知ってる未来では、骸が倒されたのはデマだ。彼は今ミルフィオーレの本部に潜入している」

「骸は復讐者の牢獄から出れたんだ!」

「喜んだところ悪いが、まだ牢獄の中だ。のっとった身体でってことだ」

「そっか……」

 

 少し落ち込んだ沢田綱吉を見て、本当に六道骸のことを心配しているんだなと思った。

 

「雲雀恭弥の方で怪しい男の情報は掴んでるんだろ?」

「っ!」

「その男が動いているはずだ」

「……わかりました」

「後、さっきの戦いで雲雀恭弥が指輪を何個使ったか知りたい」

「雲雀に伝えておきましょう」

「それだけでも十分だ」

 

 たとえ教えてくれなくても、指輪の残り数が重要なことだとわかるだろう。彼は頭がいいからな。

 

「話を戻すぞ。気になる場所があるが、今の君達では無理だ。ラル・ミルチに頼んでもいいが、君達を鍛えれる人物がいなくなる。それに彼女がこれ以上外に出るのは反対だしな」

「気になる場所はどこなんだ?」

「私の家の地下だ。10年後のディーノがそこで住んでいたと聞いたんだ。兄と連絡を取っていたことを考えると何か手がかりがあるかもしれない」

「サクラの言うとおり、話はこいつらを鍛えてからだな」

 

 チョイスが始まる前の時間に行けば安全かもしれないが、その時にはもう遅いかもしれない。私のワガママだが、少しでも情報がほしい。私の考えていることがわかったのか、ディーノが私の頭を乱暴に撫でた。任せろといっているのだろうか。

 

「君が1番心配なんだけどな。本来ならこの時代に君は来なかった。だから、どうやって君を鍛えればいいのか私にはわからないんだ。ただ、私は君の奥義や匣兵器の能力は知っている。少しは役に立つはずだ。他にも彼らの怪我がない分、修行時間が長くなったのはラッキーだった。確か獄寺隼人と山本武が回復するのに10日かかったからな。そして、この匣兵器だ」

 

 沢田綱吉に向かって投げれば、慌ててキャッチしていた。投げた私が思うのも変だが、落としていれば殴っていたぞ。

 

「晴の匣兵器だが、君とディーノなら開けれるだろ」

 

 私がいいたことを察したのか、沢田綱吉は炎を注入した。

 

「パフォ!」

「怪我の治療ができる分、効率は良くなるはずだ」

 

 沢田綱吉のところから、すぐさま私の足元に来てじゃれ付くパンダをみて思う。このパンダは兄の匣兵器だな。懐き方が尋常じゃない。

 

「私はプラスマイナスゼロだと思ってる。後は君達次第」

 

 立ち上がり動き出した彼らを見て、仲良くなって本当に良かったと思えた。

 

 私が感動に浸っていると、廊下からガジャーンという音が聞こえて、ある意味もっとも重要なことを忘れていたと気付く。

 

 ――ロマーリオが居ないんだった。

 



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彼の思い

短いため、もう1話投稿したかったけど時間がなかった!
すみません!!


 夜中のことである。

 

 ディーノは眠らなければならない時間だが、カーテンに視線が向く。正しくは、カーテンの向こう側にいる人物が気になって眠れないのだが。

 

 カーテンの向こう側にいる人物はスヤスヤと眠っているため、起こさないようにディーノは息をゆっくり吐いた。

 

「さっさと寝ろ」

 

 注意され、ディーノはカーテンの向こう側の気配を探る。起きた気配はないようで、安心して小声で返事をする。電気は消えているが、ハンモックの上からディーノを覗いているリボーンの姿がはっきり見えた。

 

「……起こしちまったか?」

「オレはボディガードだからな」

 

 ニヤリと口角をあげたリボーンを見て、ディーノは少し苦い顔になる。布一枚を挟んだ状況で異性が眠っていることを考えれば、お互いに監視するのは当然のことなのだが、それほど信用がないのかと思う気持ちもあるのだ。

 

 もっとも、ディーノはなぜ同じ部屋に異性と一緒に寝ることになったのか、未だに理解出来ていないのだが。

 

「なぁ、リボーン」

「なんだ?」

「……なんでもねーよ」

 

 喉から出そうだった言葉を辛うじてディーノは呑み込んだ。これだけは言ってはいけないと判断したのだ。

 

「選んだのはおめぇだぞ」

「……わかってる」

 

 ディーノの気持ちなど、リボーンには筒抜けだった。

 

 

 

 眠るために目を閉じれば、昨日――この時代に来てからの行動を思い出す。

 

 最初は頬が赤く、熱があるのかと思った。だけど、よく見ると目が真っ赤で腫れていた。余程怖い思いをしたのかとすぐに理解できた。ただ泣き止んでいて、この時代に来た時に自身の目の前に居たことを考えると、10年後の自身が何とかしたと判断した。だから、何があったのかを聞くのはやめた。無理に思い出させない方がいいと思ったのだ。

 

 問題はこれからの行動だった。どうすればいいのか、わからないのだ。意気込んで未来に来たのはいいが、助けるために来たはずの目の前の少女を頼らなければ何も出来なかった。

 

 この時代に来てすぐのことだからと言い訳はできる。だが、10年後の自身ならば、何も問題なかったのではなかったのではないか。一瞬、頭をよぎった――。

 

 無事にアジトに着き、会議が開かれた。少し前に来たツナ達もまだこの時代の戦い方をよく知らないため、守護者を集めつつ鍛えるという方針に決まった。

 

 少なからず安堵する自身がいた。

 

 まだ十分取り戻せる。リングを使っての戦い方は知っていて、部下達と訓練をしていた。匣兵器の扱い方や対処法を覚えればいい、そう思った。

 

 その日の夜、リボーンにこの10年に何があったかを聞いた。少女に10年後の自身から聞いた情報をその都度補足してもらい、今日の会議の内容に話が繋がったのだった。

 

 もっとも、同じ部屋で寝ることになるとは予想できなかったが。もちろん、アジトを抜け出したことを考えると誰かが見張った方がいいとだろう。しかしそれならば、同性のビアンキで問題ないのではないだろうか。少女のためにしっかりとそれを伝えれば――。

 

「……効率の問題」

 

 かえってきた返事に首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 次の日、修行が始まった。

 

 ムチに炎を纏って振れば、驚いた顔を向けられる。問題なく使いこなせているらしい。しかし、それだけでは10年後の自身には及ばない。予想通り、匣兵器は後回しにこのまま鍛えたほうがいいとアドバイスをもらった。

 

「それに君は肉弾戦の方が好きらしいからな」

 

 桂の匣兵器との意思疎通に悩んでる姿を見て、少し納得する自身がいた。

 

 しばらくすると、どこか疲れた様子だったので、休憩を入れる。この修行場には2人しか居ない。ツナ達の修行がズレることに恐怖を抱くだろうと判断し、一人で鍛えるべきだと判断したのだ。しかし気を遣いすぎたせいか、自身の修行の進み具合が気になるようで、この部屋で自身と一緒に過ごすことにしたらしい。少女を1人にするのは不安なので、そのことについては口を挟まなかった。

 

「どうかしたのか?」

「……その、兄がつけそうな名前を考えていたんだ」

 

 話を聞けば、名前を教えてもらわなかったらしい。桂の匣兵器なので、新しく名前をつけるわけにはいかない。そのため、悩み疲れたのだろう。

 

「サクラ……じゃないのか?」

「そ、それはもう試した」

 

 顔を真っ赤になりながら否定する姿を見て、余計なことを言ってしまったと思った。自身の名前をつけたと思って呼び、否定の反応をされれば、かなり恥ずかしいものである。誤魔化しを含めているが、自身の本音を伝える。

 

「大丈夫だ。お前なら必ずわかる」

「……ディーノ」

「なんだ?」

「いや、後でいい。だから夜に時間くれないか?」

 

 二つ返事で引き受けた。

 

 

 

 その日の夜――数時間前のことである。

 

「疲れてるのに、悪い」

「問題ねーぞ」

「ああ。気にすんな」

 

 寝る直前に声をかけられた。修行が終わっても話そうとしないので聞いてみれば、リボーンと一緒の時がいいと言ったため、こんな時間になったのだ。

 

 もっともまだまだ起きれるので、リボーンの言ったとおり問題はない。少女の口を開くのを待った。

 

「兄に――兄について教えてくれ。兄がミルフィオーレ――マフィアに居ても、君達は驚きもしなかった。君達の方が兄のことをわかっているみたいなんだ」

 

 意味を理解するのに数秒かかった。

 

 声が震えていた。顔を見れば無理して笑っている。……この時代に来て、何日たってる。

 

 問う勇気も無かったのかもしれないが、ずっと知りたかったはずだ。

 

 『後でいい』はいつからだ。いつから、どれだけ気を遣わせていた。

 

 この時代に来て何も知らなかった自身のために――。

 

「ディーノ、オレから話すぞ」

 

 リボーンの言葉で我に返る。何も話そうとしない自身を、いっぱいいっぱいだった自身を、目の前の不安そうにしている少女に悟らせないように、リボーンは自身に声をかけたのだ。

 

 まだ頼ろうとしてくれてるんだ。堂々としなければならない。これ以上、1人で無茶させるわけにはいかない――。

 

 

 

 

 

 

「教えてくれてありがとう」

 

 話を終わると礼をいい、すぐにカーテンを閉めようとする行動を止めることは出来なかった。

 

 何度か泣いている姿を見たが、今はこのカーテン分の距離がある。電気を消してあげる優しさしか出来ない。

 

 電気を消そうとした時にリボーンから視線を感じる。

 

 ――強くなれ。

 

 声はなかったが理解出来た。

 

 リボーンはこのアジトから出れない。だから1人で外に出るという無茶をした。そして、過去から来た自身には、今までのように頼ることが出来ないのだ。

 

 強くなれねーと――。

 

 悔しい気持ちを抑え、一刻も早く強くなることを誓ったのだった。

 




ディーノさんは恋愛感情はないという話。
後、地味にディーノさんの前では泣いてますが、主人公は滅多に兄の前で泣くことはありません。
それだけ桂さんはサクラを守ってたってことです。


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君の名は?

 私は兄の何を知っていたのだろうか。

 

 今まで兄のことは私が1番わかってると思っていた。しかし、ふたを開けてみればこの有様だ。私は兄の表面しか見ていなかったのだ。

 

 そもそも、だ。兄は私のことを本当に好いていたのだろうか。

 

 優しく頭を撫でられた。期待して顔をあげる。が、ここに兄がいるわけがなかった。

 

「……ディーノ、修行は?」

「休憩中だ」

 

 隣に座ったディーノを見て思った。いったい私は何をしているのだろうか。ディーノに気を遣わせて修行の邪魔をしている。

 

 本来なら今すぐに私は出て行くべきだろう。だが、ディーノの体質のことがある。ロマーリオ達がいれば問題ないのだが、こっちには来れないようだ。ディーノが生きてるとばれたことで、キャバッローネのシマでボンゴレ狩りが急増しはじめたのだ。もっとも、想定の範囲内だったらしく何とかなってるらしいが。それに私の両親の保護もしてくれているようだしな。少し話そうかと思ったが、やめた。10年後の私は話せる状態じゃなかったのだ。これ以上、混乱させないほうがいいと思ったのだ。

 

 それにしても――怒られたり、嫌われた方が楽な気がする。

 

 修行で疲れているはずの沢田綱吉達も、私と会うたびに声をかけてくれる。1番私の被害を受けているディーノでさえ、この様子だ。ここにいる人物は優しすぎるのだ。

 

「もう大丈夫。ありがとう」

 

 いろいろ思うことがあるが、これ以上邪魔をしてはいけない。

 

「……ディーノ?」

 

 動かないディーノに疑問を浮かべる。私の声が小さくて、聞こえなかったのだろうか。もう1度口を開こうとしたとき、ディーノから声をかけられる。

 

「10年後のオレはどれぐらいの強さなんだ? いや、何か基準があったほうがわかりやすいかと思ってよ」

 

 強さを教えるなんて難しいに決まってるだろ、という文句が顔に出てたのか、ディーノは言い募った。まぁディーノの言い分もわかる気がする。確かに目標というものがあれば、わかりやすいのである。沢田綱吉の場合は試練を乗り越え、使いこなす。獄寺隼人の場合はSISTEMA C.A.I。山本武の場合は時雨蒼燕流である。

 

「君の奥義はそのムチを死ぬ気の炎で纏い、超高速で振っていた」

「なるほどな」

 

 ディーノ自身も何となくわかっていたのだろう。後は匣兵器だな。ディーノから没しゅ――預かっていた匣を見せれば、彼は納得しながら呟いた。

 

「まっ使いこなせないと意味ねぇよな」

 

 やはり勘違いしているようだ。「少し違う」と教える。

 

「少し、違うのか?」

「ん。大空の匣兵器はデリケートらしい。下手にあけると暴走するし、使いものにならなくなる」

「そうなのか!?」

「知識で10年後の君がそう言っていた。だから正しく開匣すると言ったほうがいいかもしれない」

 

 難しい顔をしながら私が持ってる匣兵器を見ているので、ディーノに渡すことにした。

 

「……いいのか?」

 

 これは持っててもいいのか?という意味なのだろう。恐らく私が預かっていた理由がわかったから確認したのだ。

 

「君の匣だ。それに君なら大丈夫だろ」

 

 私には話を聞いたディーノが興味本位で開けるとは思えない。暴走すれば、どんな被害になるかもわからないのだ。元々、ロープに炎を纏える時点で早めに説明して渡そうと思っていたのもあるが。

 

「ありがとな」

「……別に、君の匣兵器に触りたいからだし……」

 

 気恥ずかしくなり、ディーノがいる方と反対側を向けば、この世の終わりのようにショックを受けているパンダが居た。

 

「……似すぎだぜ」

 

 ディーノの呟きに主語はなかったが、なぜか誰と比較しているか、わかってしまった。

 

 

 

 ディーノが修行に戻ったので、私は気を取り直しパンダと向き合った。

 

 沢田綱吉に匣を開けてもらった後、ラル・ミルチに大空属性の炎をでは治療は不可能だといわれた。が、パンダは治療することが出来た。実際治療したところを見たわけではないが、死ぬ気の炎の色が大空ではなく晴だった。ディーノが開けた場合も同じだったので、この匣兵器自体に何かあるのだろう。

 

 そもそも知識のある私がこの勘違いに気付かなかったのは兄が『きっと役に立つ』と言ったからだ。ディーノの匣兵器と一緒に渡し、10年後のディーノが無事だったことを知った瞬間、ディーノに開けてもらえという意味に思ったのだ。現にディーノが開けても治療が出来るようなので、間違ってはないはずだ。

 

「……ああ! 暑苦しい!」

 

 ついに、鬱陶しいほどに私に引っ付こうとするパンダに文句を言った。考えに集中できないのだ。

 

 私の言葉に落ち込むパンダを見て、罪悪感が募る。誰かと違い、パンダは思わず抱きしめたくなるほど可愛いからだ。

 

 しかし、このパンダは匣兵器なのだ。治癒能力が高いかもしれないが、γと戦おうとしたことを考えれば、出来るはずだ。パンダが戦えれば、ディーノの修行に役立つはずなのだ。が、このパンダはなかなか戦おうとしない。

 

 ナッツみたいに臆病なら理解できるのだが、私から離れようとしない。離れない理由が私を守るためにというならまだ納得できるが、ただ私に抱きつきたいからである。

 

 そっとパンダを抱き上げる。かまわれるのは嫌だが、自ら相手にする場合は問題ないのだ。……自覚している。私はワガママなのだ。

 

「私の頼みを聞いてほしい」

 

 ジッと見つめながら言えば、パンダは頷き大人しく命令を待っていた。ここまでは何度も成功している。

 

 次に、期待をした目で見るパンダに命令をする。すると、その場で落ち込むのだ。

 

 思い返すと今までのパンダの行動は、自発的だった。私の怪我はもちろんのこと、沢田綱吉の怪我も勝手に治療し始めたのだ。

 

「……どうしても名を呼んでほしいのか」

 

 激しく首を縦に振るパンダに困り果てる。私の予想だが、このパンダは頭がいい。緊急事態ならば、こんなワガママを言わず、勝手に最善の行動をするだろう。そうでなければ、私はアジトから出てすぐに捕まっていた。

 

 今まで何度も助けられたので、希望を叶えてあげたい。しかし、パンダの名前に心当たりが無いのである。

 

 とりあえず、玄馬、シャオメイ、パンダマンなどパンダで思いつくのは言ってみたが不発に終わる。密かな期待をして、エリザベスと呼んだがこれも不発だった。

 

 そのため昨日、今まで目を背けていた兄のことを教えてもらったのである。結果、パンダの名前になるようなヒントは無く。私が落ち込むだけであった。

 

 兄のことだから、私が思わずツッコミたくなるような名前をつけると思っていた。でもいくら考えても私がわからないような名前かもしれない。私は兄のことを何も知らなかったのだから――。

 

「わっ」

 

 急に抱き上げていたパンダが暴れ始めたので、慌てて地面に降ろす。すると、ディーノの方へ向かっていく。もしかして、私を気遣い、ディーノの修行相手をしてくれるのかもしれない。期待してパンダの様子を観察すると、ディーノのズボンに噛みつき引っ張っていた。

 

 ……遊んでほしかったのか?

 

 あまりにも残念すぎる行動でしばらくの間脱力する。そして修行の邪魔になるので回収するため立ち上がろうとしたが、やめた。ディーノがパンダを抱えて、私の方へ来たのだ。

 

「悪い」

 

 流石に迷惑をかけたと思ったので素直に謝り、パンダを受け取る。が、私の手に渡ったタイミングで匣に戻った。炎切れなのだろうか。あまりにも戻るのが早い気がする。引っかかるが、とにかく気まずいので出していた手を引っ込め、もう1度謝る。

 

「……悪い」

 

 ディーノは私の頭をポンポンと叩き、再び隣に座った。先程、休憩したばかりのはずだが。

 

「ディーノ?」

「1人にするなって」

「は?」

「桂が怒っていたんだ」

 

 この部屋にはディーノがいたのだ。1人じゃないだろ。それに兄じゃなく、パンダが言ったのだろう。……その前に、パンダは日本語を話せないぞ。

 

 ツッコミを入れるべきか悩み、チラッと隣を見れば、リングに炎を灯した状態で匣と睨めっこしていた。

 

「ここで修行するのか?」

「ん? 邪魔か?」

「……邪魔、ではない」

 

 私の返事を聞き、ディーノは修行を再開した。もう1度パンダを出してもらおうかと思ったが、名前が浮かばないので先に考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「――今は我慢しろ、なっ?」

 

 近くで声が聞こえたので、目を開ける。……目を開ける?

 

「わ、悪い!」

 

 いつの間にか眠っていた。眠っていただけならまだしも、ディーノの肩を借りて眠っていた。最悪である。飛び退くように離れれば、ディーノと目が合った。

 

「すまん。起こしちまった」

 

 気にした様子もないディーノにホッとした瞬間、耳元に息がかかった。

 

「うわぁぁ!」

 

 情けない悲鳴をあげ、今度はディーノにしがみつく。これでもう大丈夫だと安心したかったが、髪をツンツンと引っ張られた。ディーノは当然だが、このアジトにいるメンバーはそんな手荒なことをしないので恐怖が募る。

 

「デ、ディーノ!!!」

「スクーデリア」

「……スクーデリア?」

 

 恐る恐る振り向けば、スクーデリアが私の髪をムチャムシャと食べていた。

 

「……この行動は?」

「ずっと、遊んでほしそうだったからなぁ」

 

 つまり私がぐーすかと眠っていたせいか。早速、ディーノから離れ、よしよしと撫でてみるとと嬉しそうだ。

 

「匣、よく開けれたな」

 

 私の記憶ではさっぱりだった。つまり眠ってる間にあけたのだ。成長の早さに驚きである。

 

「お前のおかげだぜ」

「ん? どういうことだ?」

 

 私が問いかければ、ディーノは言葉を濁したので睨んだ。

 

「その、な。お前の顔を見てると、あけても大丈夫な気がして……。や、疚しい気持ちがあったわけじゃ――」

 

 睨む力を強めれば、慌てて弁明し始めた。元はと言えば、眠ってしまった私が悪い。が、きっちり釘は刺しておこう。

 

「お人よしの君のことだ。私が眠ってしまったのか、確認するために顔を覗いたんだろ。それに、君が『子どもの』私にやましい気持ちを持つわけないしな」

「あ、ああ……」

 

 同意したので、これで大丈夫だろう。少し強調しすぎたかもしれないが。とりあえず、さっさとこの話題から離れるのがベストである。

 

「名前、すぐにわかったんだな」

「ん? 10年後のオレも同じ名前をつけたのか?」

 

 スクーデリアを撫でながら頷く。やはり簡単にわかるものなのだ。兄の好きなものは私という基準で考えるのが間違っているのだろう。しかし、私がツッコミたくなるような名前ではない場合だと、何も思いつかないのだ。

 

「桂は必ずお前が思いつく名前をつけるぜ」

「……思いつくのは全部試した」

「お前が1番いいと思った名前は?」

「エリザベス」

 

 即答してしまった。兄の匣兵器はエリザベスという名前が1番面白く合ってると思ったのだ。

 

「エリザベスってことはメスだったのか」

「? エリザベスはオスだろ」

 

 あの足はおっさんだ。

 

「ん? エリザベスは女性名だぜ?」

「……ディーノ、開けてくれ」

「任せろ」

 

 現れたパンダを見る。スクーデリアと仲が良さそうな姿を見て、落ち込んでるところをスルーすれば、このパンダは可愛い。それに兄も「可愛いだろ?」と言っていた。つまり、このパンダはメスなのだ。

 

 まさか、と思った。そんなバカな、とも思う。恐る恐る私はその名を口にした。

 

「……フミ子」

「パフォ!」

「そっちかよ!?」

 

 嬉しそうに返事をしたパンダに勢いよくツッコミしてしまったのは、兄のせいだと思う。

 




銀魂ネタでした


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危機感

 あれからパンダ――フミ子はディーノの修行を手伝ってくれている。フミ子の戦い方は男らしかった。正直、メスだと思えない。

 

 肉を切らせて骨を断つという諺がある。守るものが居なければ、フミ子はその諺に相応しいような戦い方をする。ただし、肉を切らせてもすぐ治るのだが。戦ってる方からすれば、嫌な相手だろう。私はフミ子に頼んでる立場なのですぐ傷が治るので少し気が楽だ。もっとも、精神的には疲れると思うので、夜には思いっきり甘やかせている。

 

 そしてディーノいわく、フミ子は兄のミニチュア版らしい。悪く言えば劣化版である。兄よりも弱いし、傷の治りが遅いのだ。ただしこれは戦闘に関して、である。

 

 フミ子は治療が得意なのだ。戦闘しながらだと傷の治りが遅いが、治療だけに専念すれば早いのだ。問題があるとすれば、治療のレベルにあがるにつれて強制的な眠気がくることとだろう。もちろんそれは悪い点ではない。私が外に出ても逃げれたのはこの特色を生かしたからだ。γには防がれたが、初見ではかなり有利だろう。

 

「だけど、小さい」

「大空の炎では無理なのかもな」

 

 私の呟きにディーノが反応したようだ。私も原因はそれだと考えていた。フミ子は晴の匣である。大空の炎をでは100%その特性を引き出すことは出来ない。元々、大空の炎で晴の特性を生かしている時点で異常なのだ。

 

「笹川了平に頼むしかないか……」

 

 兄が居ない今、彼に頼むしかない。

 

 ……兄は大丈夫なのだろうか。10年後のディーノが私に何かあれば兄は揺らぐといった。私はそれを守ってこのアジトで大人しくしている。が、嫌な予感がする。

 

「ああ。小さいままでも戦力としては十分な気もするが、用心するに越したことはねーからな」

 

 ディーノの言葉で我に返る。また思考がずれた。

 

「少し違う。大きくなったフミ子の能力を知りたいだけで――」

 

 炎の注入はディーノがいい。と続きそうだった言葉をなんとか呑み込んだ。私はいったい何を思ったのだ。……私と笹川了平の交流が少ないからである。ただ、それだけだ。

 

「能力? 他にもあるのか?」

 

 ディーノを見て、頭によぎった言葉を私は頑なに封印し、返事をする。

 

「フミ子は頭がいいと思う。だから気になった。私をこのアジトに運ぶために眠らせたけど、何時間も眠らせる必要があったとは思えない」

「……よし、聞きに行くか」

「は?」

 

 兄に聞ければ話は早い。しかし、それが出来ないから困ってるのだ。

 

「恭弥なら知ってるかもしれねーだろ?」

 

 ポンッと手を打つ。そういえば彼は10年後だった。こっちのアジトに顔を出さないのですっかり忘れていた。

 

 聞かなければいけない話があったのでディーノの意見に賛成し、雲雀恭弥のアジトに向かったのだった。

 

 

 

 

「何の用」

 

 相変わらず酷い扱いである。声は素晴らしいが。

 

 雲雀恭弥の機嫌をとるのはディーノに任せて私は室内を見渡す。知識でわかっていても、地下に和の空間があることに驚きなのだ。この前は見る時間がなかったしな。

 

「神崎桂の匣兵器? 僕が知ってると思うかい?」

 

 兄の名前が聞こえたので慌てて振り向いたが、残念な結果だった。だがまぁ納得できた。匣の特性を知られれば不利になる。教えているとすれば、仲の良かった笹川了平か10年後のディーノだろう。

 

「でも彼が死ぬ気の炎の研究をしていたことは知ってる」

「兄が研究?」

「彼の死ぬ気の炎が特殊というのはもう聞いているよね?」

 

 雲雀恭弥の言葉に頷く。ディーノの話によると、兄はリングを嵌めなくても晴の活性の炎を出すことが出来た。そして炎を体外に出して傷を癒すことよりも、体内で自身の傷を癒すほうが得意だと聞いた。だからフミ子の匣をつかっているのかと私は考えたのだ。

 

「死ぬ気の炎の譲渡だったかな」

「恭弥、そんなこと可能なのか!?」

「知らないよ。でも君も手伝っていたはずだよ。神崎桂の死ぬ気の炎を譲渡できれば、病を治せた可能性があったからね」

 

 死ぬ気の炎――生命エネルギーを譲渡する。ディーノの言った通り、可能なのだろうか。しかし、これで私の家に行くべきだということがはっきりした。10年後のディーノが手伝っていたのだ。必ず何か残っているはずだ。

 

「……手伝って……くれるわけないよな」

 

 当然というように彼はお茶を飲み始めた。返事も返さないとは相変わらず扱いが酷い。

 

「オレがいるだろ?」

 

 確かに大空の匣兵器を開けることができたならば、最悪の場合は何とかなるかもしれない。ムチの方もラル・ミルチと戦うことが出来るぐらい進んでいる。正直、ここまでディーノが短時間で強くなるとは思わなかった。だが、不安なのだ。

 

「いや、いい」

「心配するな。これでも強くなったんだぜ。10年後の恭弥にだって負けねーよ」

「へぇ」

 

 素晴らしい美声だった。10年後の彼が興味を持ったときの反応はこれほど破壊力抜群なのか。心の中でガッツボーズしながら「ほ、本気にするなって! わかりやすく言っただけだぜ!」と焦ってる声はスルーする。例として彼の名前を出したディーノが悪い。

 

「本当に君はすぐ逃げる」

 

 今度は溜息交じりの美声を聞けて再び感動していると、雲雀恭弥と目が合った。僅かに口角が上がった気がする。そう思ったときには腕を引っ張られバランスを崩した。

 

 ――君もそう思うよね?

 

「ふぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 奇声をあげて耳を隠しながら距離をとれば、勢いよく背中に襖が当たった。

 

「大丈夫か!?」

 

 ディーノの声は無視する。なぜなら私にもいったい何があったのかわからない。気付けば、色気のある声で囁かれた。とりあえず、私は行動を起こす。

 

「ま、まいりました……」

 

 絶対服従の土下座である。ディーノに何があったのか聞かれるが、必死に首を横に振る。答えれる内容ではない。いや、内容は答えれるが、反応の理由を詳しく語りたくはないと言ったほうが正しい。

 

「恭弥、何をした!?」

「さぁね」

 

 ペコペコと土下座していると、なぜかディーノがムチを取り出した。……雲雀恭弥が嬉しそうなのは気のせいだろうか。もしや、と思う。

 

「デ、ディーノ! 別にたいした内容じゃないぞ!」

「それのどこがたいしたことじゃねーんだ」

 

 困ったことにお怒りである。

 

「危険ですので、こちらへ」

 

 いつから草壁哲也は私の隣に居たのだろうか。いや、私から近づいたといったほうが正しいか。せっかくの和式が……と思いながら、草壁哲也の後ろに移動する。

 

 自身の安全を確保してから草壁哲矢に止めないかと聞いてみた。笹川了平の時は必死に止めていたはずだ。

 

「いつものことですので……」

 

 少し疲れた様子で答えた草壁哲也を見て、2人が再会すればバトルすることが予想できた。ドンマイである。少し同情したので話題を変えることした。

 

「そういえば、リングのことは言ったのか?」

 

 リングを使って戦っているので心配になった。もっとも心配するだけで、止めはしないが。私がこの2人のバトルを止めれるわけがないからな。

 

「はい。ですが、恐らく心配ないかと……。恭さんは生活を支える代わりとして、リングを要求していたので」

 

 たとえ師匠であっても、ただでは動かない。流石雲雀恭弥である。恐らく用意はロマーリオ達がしていたのだろう。ディーノは動けないからな。

 

 ますます苛烈になっていく2人の戦いを観戦しながら、なぜこのようなことになったのかと考える。普段から強気で過ごしてるのがいけなかったのか。そもそも、だ。雲雀恭弥が私になぜあんなことをしたのか。

 

 ……雲雀恭弥にもバレバレだったのか!

 

 10年後のディーノのせいで、ややこしいことになった。そして、今のディーノが怒ってる理由は深く考えないほうがいいだろう。彼は普段の私と違うため、心配して怒ったのだ。「いつからかわからねぇ」とか言っていたが、まだである。実際に10年後のような甘い雰囲気は1度も感じたことはない。だから違うと結論づけて私は再び封印した。

 

「……いやああああぁ!」

 

 手で顔を覆う。ディーノの件が私の中で片付き、安心して気付いた。

 

 なぜ、雲雀恭弥は囁いたのだ。

 

 ディーノの方に意識が行き過ぎて気付かなかった。10年後の雲雀恭弥に、声フェチと……バ・レ・て・るーーーー!

 

 無理だ。羞恥で死ねる。一刻もここから逃げ出すために、私は沢田綱吉のアジトへ走り去ったのだった。

 

 

 

 

 

 適当に入った部屋のスミで長い間体育座りしていると、リボーンがやってきた。

 

「みんな、おめーを探してるぞ」

「……それは悪い。お腹が減ったら戻る」

 

 今すぐいつも通りするのは無理なのだ。時間がたてば恥ずかしいという気持ちは治まったが、1人でいると兄のことを考えてしまい、動くことが出来なくなった。これは下手にテンションをあげてしまった弊害なのかもしれない。

 

 気を遣ってくれたのか、リボーンは何も言わずに部屋から出ようとした。が、つい名を呼んでしまい引き止める。

 

「なんだ?」

「お兄ちゃ――」

 

 途中で口を閉ざす。リボーンにそれを言ってどうするんだ。どうすることも出来ないのだ。

 

「言っていいんだ。声に出していいんだ」

 

 顔をあげて扉の方を見れば、息を切らしたディーノがいた。そして、近づいてくるディーノを私はどこか他人事のようにボーッと見ていた。

 

「泣いていいんだ」

 

 いつものように頭を撫でられた瞬間、我慢していたものがあふれ出した。

 

「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、待ってって言ったのに止まってくれなかった。幸せになれってなに。会いたい、会いたいよ……!」

 

 私の言葉に全て「そうか」とディーノは相槌を打った。決して会いに行こうなどという無理な約束はしなかった。だから本音を言い続けれたのかもしれない。

 

 

 

 落ち着いて顔をあげれば、ディーノとリボーンだけではなく、沢田綱吉達の姿もあった。取り乱した姿を見られたと思うと顔を逸らしたくなるが、先に言わなければならないことがあった。

 

「わ、悪い。修行の邪魔をした」

「……強くなるから! オレ達、強くなるから! だからサクラはもっとオレ達を頼ってよ!」

 

 すぐに返事は出来なかった。なんと答えればいいのかわからなかったのだ。

 

「おめーら、気付くのがおせーぞ」

「なっ!?」

 

 私も彼らと一緒に叫びたくなった。なぜリボーンは挑発してるのだ――。

 

「おめーらは危機感が足りてねぇ。おめーらはサクラの用意した安全な道をただ歩いてるだけなんだ。サクラが無茶なことを言わねぇのはおめーらが弱い――覚悟が足らねぇからだ。事実、黙ってることがあるだろ?」

 

 リボーンの問いに思わず目を逸らす。知識と違い、彼らは怪我をしていない。そのためすぐに個別トレーニングを始めることが出来た。が、私は何も言わなかった。γとの戦いを回避したため、彼らはこの時代に馴染むのにもっと時間がかかると判断したのだ。

 

 そして何より私は沢田綱吉の試練について、何もアドバイスをしなかった。

 

「言い訳するんじゃねーぞ。ディーノはすぐに気付いた」

「ま、オレも恭弥と戦えるところを見せねぇと安心させることは出来なかったけどな」

 

 驚きながらディーノを見ると、頭を撫でられた。

 

 確かに彼の成長は早いと思っていた。だが、私のためとは思わなかった……。それにさっきの戦いも――。

 

「サクラ、こいつらにもう1度アドバイスしてくれねーか?」

 

 リボーンに言われ、沢田綱吉達の顔を見る。彼らは真剣な目をし、手に力拳を作っていた。ディーノをチラっと見れば頷いたので、私は口を開いたのだった――。

 



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悪夢、再び

 悪いことをしているわけではないが、キョロキョロと周りを見渡し部屋に入る。いつもならディーノの近くに居ることにしているが、今日は別行動である。

 

 彼は今、沢田綱吉の試練に付き合っている。私はあれを間近で見る勇気がなかったのだ。他にも私がそばに居れば、ディーノが強くなってしまうので、試練の妨害をする可能性もあるしな。

 

「……困った」

 

 しばらく機械と睨めっこしていたが、操作方法がよくわからない。まず、電源を入れるのはあってるだろう。その後がサッパリである。もうスタートボタンを押してもいいのだろうか。

 

「どうしたの?」

 

 声をかけられ、咄嗟に持っていたものを身体で隠す。

 

「いや、その……」

 

 挙動不審だったと思うが、笹川京子はずっと私の言葉を待っていたので観念し、隠したものを笹川京子に見せる。

 

「大丈夫だよ。みんなのと一緒に洗えるよ」

 

 なぜか悪いことをして汚してしまった物を恐る恐る差し出してる子どものような気持ちになった。……そうじゃないのだ!

 

「その、自分で洗って返したいんだ……」

 

 キョトン?というような表現がしっくりくるような表情を笹川京子はしていた。ちなみに私はそれをみて視線が泳いでしまった。

 

「手洗いしよっか」

「……手洗い?」

「うん。手で洗うんだよー。簡単だよ?」

 

 簡単という言葉に飛びついて、私は首を縦に動かしたのだった。

 

 笹川京子が「ちょっと待ってね」と声をかけたので大人しく待っていると、三浦ハルとイーピンがやってきた。なぜ人数が増えたのだ。簡単と聞いたはずなのに不思議である。

 

「ハル達も一緒に頑張りますよー!」

 

 今日の洗濯物のタオルを手洗いすることになったらしく、気合をいれた三浦ハルを横目に、私は笹川京子の指示を待つ。

 

「汚れが取れにくいかもしれないから、ちょっとつけよっか」

 

 洗剤が入った水にしばらくつけておくらしい。ジッと見つめているのもどうかと思ったので、三浦ハルの手伝いをした方がいいのだろうか。イーピンも頑張ってるが、泡だらけになってるしな。声をかけよう。

 

「はひ! 手伝ってくれるんですか?」

「……練習」

 

 私の言葉に彼女達がクスクスと笑い出したので、誤魔化したのがバレているようだ。

 

 

 

 

 彼女達にはアイロンの仕方まで教えてもらったので、無事に任務が達成した。もっとも、本人に返すという1番の難所が残っているが。……ポケットに入れておこう。

 

 ドクン――。

 

 急に心臓の音が大きく感じた。1度ではない、継続している。

 

 ……気持ち悪い。

 

 壁に手をつき、ゆっくりしゃがむ。深呼吸した方がいい気がする。

 

「サクラ!?」

 

 沢田綱吉の声がする。ドタバタと駆け寄ってくる音が聞こえたと思うと近くで止まった。すると、背中をさすってくれた。少しずつ楽になる。

 

「悪い、助かった……」

「本当に大丈夫?」

 

 心配している沢田綱吉を安心させたいが、無理はせずに休むことにしよう。1人で部屋に戻ろうとしたが、彼は送ると譲らなかったので甘えることにした。

 

 彼と会えたということは、試練は無事に終えたのだろう。しかしそんな言葉を話す余裕も無かった。

 

 部屋に入ると転がってるディーノが居て、久しぶりにドジを発動しているのを見た、とのんきに思った。もっとも私を見たので、彼はすぐさま復活するだろうが。

 

「悪い、ちょっと気持ち悪い……」

 

 ディーノが起き上がったのを見て、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

「いやあああ!!」

 

 悲鳴をあげ、起き上がる。

 

「大丈夫か!?」

 

 カーテンが開くと、ディーノとリボーンの姿があった。2人とも寝巻き姿だったので、もう夜中なのだろう。どうやら私の悲鳴で起こしてしまったようだ。息を整えながら、心配している2人に声をかける。

 

「……怖い夢を、見ただけ」

「何をみたんだ?」

 

 リボーンに聞かれたが、首を横に振る。忘れたわけじゃない、言いたくないのだ。

 

「誰かに話した方が楽になるって言うだろ?」

「……私が死ぬ夢を見ただけだ。シャワー浴びてくる」

 

 彼らの声が詰まったスキに早口で言い。私は部屋を出たのだった。

 

 歩きながら先程の夢を思い出す。本当に嫌な――ありえない夢を見た。

 

「お兄ちゃん……」

 

 頭を横に振り、考えを打ち消す。早くシャワーを浴びて、忘れよう。そう心に決め、私は早歩きしながら向かったのだった。

 

 

 

 

 シャワーから戻ると2人は起きていた。心配したのだろう。申し訳ない気持ちになる。

 

「ただの夢だから」

「詳しく教えてくれねーか?」

 

 リボーンの言葉に首をひねる。なぜ詳しく話さないといけないのだろうか。本人が大丈夫だと思ってるんだぞ。

 

「頼む」

 

 しかし、ディーノが真剣に言ったので諦めて口を開く。私の話を聞けば、ありえないと思うだろうからな。

 

「お兄ちゃんに刺された」

 

 淡々とした口調で話したつもりが、彼らは妙に真剣なオーラが漂い始めた気がする。……これは夢の話だぞ。

 

 呆れながらベッドに入れば、ディーノがもっと詳しく話してくれと言う。溜息を吐きながら話す。今日は妙に眠いのだが。

 

「夢だから場面が飛ぶぞ。景色は洋風な感じだったから、日本じゃない気がする。ディーノが居たと思う。その次にはミルフィオーレの本部っぽいところに居た。で、兄がいたから駆け寄れば刺された。……そうそう、白蘭のニターと笑った顔を見たから飛び起きた気がする」

 

 そうだった。あまりにも兄に刺されたことがありえないことだったので、いつの間にかそっちに意識を向いていた。私は白蘭のニタッとした笑いに嫌悪感を抱いて起きたのだ。なぜ忘れていたのだろか。あれほど気持ち悪くなる笑い声はなかった。

 

「ん……?」

「他にも何かあるんだな」

「大したことはないぞ。声がなかったのに、白蘭の顔を見たときは笑い声が聞こえたな、と思って」

 

 それに妙に頭に響いた声だった。今思うと、白蘭の顔より声に嫌悪感を抱いたのかもしれない。

 

「違う。あれはあいつの声か」

 

 白蘭の声と思っていたが、雲戦で見た変な男の声だった。あの男は妙に存在感が薄い。いや、認識すれば誰よりも濃いのだが。事実、すぐに思い出せなかった。

 

「あいつって誰だ?」

「イレギュラーな存在。多分、あいつのせいで私が存在している気がする。『素晴らしい愛だ。精々、楽しむがいい』って言われたしな」

「なんでそんな大事なことを黙っていたんだっ!?」

 

 あの時、あいつの存在に気付いたのは私だけだったしな。雲雀恭弥は見えなかったと思うし。言い訳は出来るが、私のためにワナワナと震えているディーノを見て、すぐに話せば良かったと反省した。

 

「ディーノ、落ち着け」

「……っ。そいつについて教えてくれ」

 

 教えるほどの内容もないが、私が知っていることを教える。

 

「――という感じで、あれほど印象に残っていたのに、夢を見るまで忘れていたんだ」

 

 私の話を聞いて2人は悩みだした。恐らく雲戦の時に彼らも気付かなかったため、難しい問題になってるのだろう。

 

「そいつは何もしてこなかったんだな」

「ん。声だけ」

 

 そうなのだ。あれほど恐怖を覚えたのだ。あの男が何かすれば簡単に原作が崩壊するはずだ。気になるといえば、私が嫌な夢を見る時は必ずあの男がいる。

 

「サクラ、体調がわりーのに遅くまで悪かったな」

 

 やっとリボーンが私に気を遣ったようだ。さっさと眠りたかったので助かった。

 

「ん。おやすみ」

 

 再びカーテンを閉め、今度こそ寝ることにする。布団に潜った時にはまだ薄く明かりがついていたので、2人はまだ起きているつもりかもしれない。そう思いながら、私は眠りに落ちた。

 

 ……が、悪夢を見続け、私は数時間おきに飛び起きることになった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 鼻歌を歌い、どこか機嫌の良さそうな白蘭にレオナルド・リッピに憑依している骸は話しかけられた。

 

「……は?」

「だからさ、彼は取り扱いが難しいんだ」

「元、第14チリエージョ隊の神崎桂氏のことでしょうか?」

「そうだよ♪ 彼って強いし、頭もいいでしょ? 操り人形にするにはもったいなくてさー」

 

 骸は白蘭に返事をせず、よくわからないという顔をする。資料を見れば、妹を人質にとったことで桂は操り人形になっているとしか思えないのだ。

 

「今の彼はまだ意思を持ってるからね」

 

 つまり白蘭は桂がもし力がなく頭が悪ければ、ユニのように扱うつもりだったということがわかる。もっともその場合では目をつけられることもなかっただろうが。

 

「壊し方を間違うと面倒なんだよねー。だからさ、彼が基地に来た時は真っ直ぐ僕のところに連れてきてね。これは命令だよ♪」

「それは……!」

 

 反対意見を出す間もなく部屋を出ていく白蘭を骸は慌てて見送った。

 

 ディーノの生存情報が流れたと同時に姿を消していた桂が、動き出した。なぜ数日たった今、動き出したのかはわからない。

 

 考えられるとすれば、今じゃなければならなかった――。

 

 しかし、それは憶測にすぎず、もっとも重要な理由が不明だ。

 

 骸は少し悩んだが、桂のことは放置することにした。桂を助ければ、自身の計画が崩れる可能性が高い。この選択が後に自身の計画を潰すことになると気付かずに――。

 



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鋭すぎる指摘

 数え切れないほどの悪夢を見た。特に最初は兄に刺される夢を何度も見た。

 

 まだ刺されるだけならいい。私の意識が残っていて、必死に手を伸ばして兄を掴めば、自身が何をしたのか気付いたらしく、悲鳴のような叫びを聞く夢を見たこともあった。はっきり言って最悪である。

 

 しかし、ここまで悪夢を見続けるとわかることがある。

 

 私が飛び起きるのは兄に殺される時のみである。正しく言うと兄に殺され、あの男が現れ飛び起きる。兄の悲鳴のような叫びを聞く夢もあの男が現れたしな。

 

 兄に刺される以外の悪夢というと、所謂事故という内容で私が死ぬ。問題は場所である。メローネ基地なのだ。

 

 近づくつもりはないと結論付けていると、行かなければ沢田綱吉達の誰かが死ぬ夢を見た。これは私に行けという意味なのかと本気で考えるぐらい内容が酷かった。というのも、1度の夢で数パターンの誰かの死を見たのだ。ディーノに起こしてもらわなければ、ずっと見続けていたかもしれないと思うとゾッとした。

 

 そして悪夢を見続けて、ディーノとリボーンに内容を話す日を過ごし気付いた。何度も見続けのでわかったのだ。沢田綱吉達は私の顔色の悪さに心配しかしてこない。だが、あの2人は初めから私の夢の内容をを真剣に聞いていたのだ。これを心配性だからといって切り捨てることが出来なくなった。

 

 案の定2人に話を聞けば、予知夢の可能性が高いという話だった。特に1番最初に見た夢の内容は2人の身に覚えがあったようだ。兄に会いたいという私の希望を叶えるため、イタリアに渡るか相談していたらしい。

 

 ここまで来るとバカにすることも出来ず、私は覚えてる限りの内容をノートに書き始めた。もちろんその夢を見て私が思ったことや、今日の出来事を書くことにした。夢の内容に繋がると気付いたからである。

 

 そして今までの夢から考えた結果、ありえないと思いたいが私は兄に刺されるためイタリアには行ってはいけない。他には私がメローネ基地に行かなければ、誰かが死ぬ。そして、行けば私が死ぬ可能性がある。

 

 私がメローネ基地に行かなければ誰かが死ぬと断言したのは、起き上がることもなく1度の夢で見続けたこと。行った場合は死ぬ前には必ず何か選択していたこと。

 

 つまり、間違った選択をすれば死ぬと考えられる。

 

 それなら大丈夫かもしれないと思ったが、夢なのだ。場面が飛びすぎて、どこでどの選択をすればいいのかわからない。さらに難しいのが、同じ夢を見たことがあると思った時に、その時と逆の選択をした場合も死ぬことがあるのだ。

 

 どちらを選んでも死ぬのかと思ったが、その次に見た夢では逆の選択で生き残ったのだ。もっとも、その後の選択を間違って死んだが。

 

 正直なところ、お手上げ状態である。ディーノとリボーンも糸口さえ掴んでないようだった。

 

 そんな風に毎日過ごしていると、寝つきが悪くなった。まぁ当然だろう。眠れば悪夢を見るのだ。ぐっすり眠れるわけがない。少しだけ人の気配がすれば眠りやすくなることがわかったため、不規則な生活をおくっている。

 

 所謂、昼夜逆転生活である。

 

 ディーノの修行中または食堂などで眠ったり起きたりを繰り返し、夜は資料室で時間を潰している。もちろん彼らは私の生活を心配している。が、どうしようもない。それが1番楽なのだ。

 

 それに資料室というだけあって、いろんな本があった。私は小説も読むこともあるので、活字に抵抗はなく片っ端から読み始めた。

 

 今のところ1番期待していた死ぬ気の炎については私の持っている知識とほぼ代わりは無い。1番の成果は、確認されてる匣兵器の資料があったことだ。これは役に立つだろう。ただしフミ子のように大空の炎を注入して、本来の属性の炎を出すという匣は載っていないが。

 

 他はこのアジトの仕組みがわかった。ジャンニーニにパスワードや鍵、他にも認証などをしなければならないが、それさえわかれば少しぐらい操作できるだろう。それぐらい機械に強くなった。

 

 これほどの記憶力があれば、テストも楽な気がすると一瞬思ったが、興味の違いで不可能だと気付いた。やはり10年後の最新機械と考えると、興味が湧くのだ。スラスラ覚えることができた。まぁ資料を片手に操作機器を見れたのも大きいだろうが。やはり本物を見比べれると覚えやすい。時間はたっぷりあったしな。

 

 ……さらに女子力が低くなったと思うのは気のせいである。

 

 集中力が切れたので、腕時計を見る。そろそろ笹川京子達が起きる時間だろう。彼女達の料理を作る音を聞きながら一眠りすることにしよう。私は食堂に向かったのだった。

 

 

 

 

「っ!?」

「きゃっ!」

 

 ガバッと飛び起きると可愛らしい悲鳴が聞こえた。すると私の目の前には三浦ハルが居た。周りを見渡すと全員揃っていたので、朝食が出来たためいつものように起こそうとしたのだろう。

 

「わ、悪い。大丈夫か?」

「ちょっと驚きましたけど、ノープロブレムです! それよりサクラちゃんの顔色が……」

「夢見が悪いだけだから」

 

 大丈夫という意味で笑えば、彼女の目が潤みだした。これはまずいと判断し、何とかして安心させようと思い、口を開く。

 

「だ、大丈夫だ。眠れない時は薬を飲んでるし……」

「え!?」

「薬ってどういうことだ!」

 

 ……墓穴を掘ったようだ。元々私は口下手なのだ。原作知識と関係ないところではなんと言っていいのかわからない。

 

「薬は私が処方してるわ。それにリボーンも知っているわよ」

 

 姉御!と心の中で称賛する。彼らはビアンキが言ったからなのか、渋々納得した。やはり怒らせれば1番怖い女性の言葉は大きい。

 

 ほっと息を吐き、夢の内容を考える。今日の夢はいつもと雰囲気が違う。そして腕時計で時間を確認する。

 

「何をみた」

 

 眉間に皺を寄せる私にいち早くリボーンが気付いたようで声をかけてきた。彼女達がいるので、言葉を選びながら返事をする。

 

「夢で兄をみた」

 

 最近は兄が出てくる夢を見ていないことをリボーンとディーノは知っている。これだけで重要度がわかるはずだ。

 

「……ご飯食べる。いつも助かる」

 

 正直、時間が惜しい。が、これからのことを考えると食べるべきだ。席をつき、手を合わせて食べ始めた私を見て、沢田綱吉達も空気を察したのか、慌ててご飯を食べ始めたのだった。

 

 

 

 

 作戦室に移動し、内容が内容なので草壁哲也にもきてもらった。集まったところで私はポツポツと夢で見たことを語る。まだ予知という力を自身でも信用していない。夢を元に動いていいのか不安なのだ。行動すれば、大きく原作とずれるかもしれない。

 

「骸がやられる!?」

「別にそこは驚くところじゃない。本来なら今から7日後に、白蘭にやられていた」

 

 私の言葉に沢田綱吉は言葉を失ったようだ。

 

「のっとってる身体の実体化が取れなくなって、かなり弱ったが骸は生きていた。問題は助け出され回復するまでの間、クロームへの幻覚が切れたことだ」

「やべぇな」

「ん。7日後なら彼女はこのアジトに来ていて、雲雀恭弥の助言により彼女は生き延びた」

「恭さんの!?」

 

 驚かれたが、草壁哲矢を呼んだ理由はそこじゃないんだけどな。雲雀恭弥達は六道骸がのっとっている人物をマークしている。そのため動きを調べてほしいために呼んだのだ。まぁ彼なら何も言わなくてもこの情報を話すだけで調べるはずなので、いちいち口に出してツッコミしないが。

 

「やられた原因は同じだったが、もし今、六道骸がやられればクロームは助からないかもしれない」

「助けに行かなくちゃ!」

「クロームは入れ代わった姿で、黒曜ランドに居る」

「その、骸は……?」

 

 沢田綱吉の性格を考えると両方だと思った。だから六道骸について話さなかったかもしれない。

 

「確実に六道骸を助けるなら、兄を倒せ。私の夢では、骸をやったのは兄だ」

 

 沈黙が支配する。話の流れで倒すのは白蘭だと思っていたのだろう。私も言葉を選んで話していたしな。

 

 ポンっと頭の上に手が乗る。席が足りないので立ちながら話を聞いていたディーノの仕業だろう。

 

「助け出されるまでの間ってことは、その方法を知ってるんじゃないのか?」

「……連絡するつもり。彼しか助けることが出来ないと思うし」

「彼って誰なんだよ」

 

 獄寺隼人に聞かれ教えてもいいのか少し悩んだが、問題ないと判断し話す。

 

「暗殺部隊ヴァリアーに所属している骸の弟子、フラン」

「えーー!?」

 

 沢田綱吉の絶叫が響き渡り、ラル・ミルチにうるさいと怒られていた。ドンマイである。

 

「中身はかなり残念だけど、腕はいい。術士で考えるとトップ3に入るレベルだ」

「フランの名は聞いたことがあるが、それほどの腕という情報はないぞ!」

「言っただろ。中身がかなり残念って。六道骸の頭にパイナップルの幻覚を作るのは彼ぐらいだ」

「ぶっ!」

 

 何人かが吹いた。彼らも内心で、パイナッポーと思っていたのだろう。

 

「なら、オレ達はクロームを優先すべきだな」

 

 全く動じなかったリボーンが話を戻した。流石である。

 

「それと誰が黒曜ランドに残るか、だ」

「残る?」

「タイミングが少し怪しいが、六道骸がグロ・キシニアにクロームが黒曜ランドにいると情報を流す」

「なんでそんなことを骸が!?」

「彼の中ではクロームが倒す予定だったんだ。本来なら倒せていたしな」

 

 本当にタイミングが怪しい。正直グロ・キシニアが来なければ、困る事態が起きる。夢だと六道骸が倒された時間は夕方だった。白蘭はどちらを向かわせるかの判断を骸にさせるのだろうか。……白蘭の性格を考えると可能性は高いな。あれは遊んでいる。

 

「グロ・キシニアに骸が倒されたこと――骸が乗っ取っていたことを知られれば、その情報は怪しむんじゃねーのか?」

 

 リボーンの意見はもっともである。誰かが残り、大量の人数を送り込まれればまずいからな。

 

「まずグロ・キシニアは情報を得ても誰にも話さなかった。怪しんだとしても六道骸がやられれば、クロームの持ってるボンゴレリングを手に入れるのは容易い。手柄という意味で大きい」

「そのグロ・キシニアが半年ほど前に六道骸を倒したという噂がたっています。真意は不明ですが、何者かに憑依した骸と戦ったことがあるのかもしれません。相当腕の立つ強物なのは確かです」

 

 草壁哲矢の補足により、グロ・キシニアが1人で来る可能性が高いと思い始めたようだ。さらにダメ押しする。

 

「そして、グロ・キシニアはクロームに興味がある。一途な想いをブチ壊して、トラウマを植えつけるのが好きらしい。後、悲鳴が好きだと思う。骸の前でいたぶりたいらしいぞ」

「……そんな奴ばっかりかよ……」

 

 ディーノにはバーズの趣味も話したこともあるので思ったのだろう。まぁそれに関しては私も深く同意する。

 

「話はわかったが、危険を冒してまで残る理由があるのか?」

「12日後のメローネ基地への殴り混みの時に困る」

「殴り混み!?」

「それも12日後!?」

 

 なぜ驚いてるのだろうかと首をひねる。するとディーノに、そういうことは早く言ってくれと言われた。

 

「君達の修行の進み具合から見て問題ない。それに本来なら今から殴り混みすると決めたのは5日前だった」

 

 そうなのだ。現時点で原作の5日前レベルまで修行が進んでいる。はっきり言って余裕だ。

 

「あ、でも。グロ・キシニアと戦った日から5日後に殴り混みすることになるかもな」

「5日後と考えて行動したほうがいいみてーだな」

「オ、オレ……全然ヒバリさんに勝てる感じがしないんだけど……いでぇーー!」

 

 沢田綱吉は弱音を吐いた瞬間にリボーンに蹴られていた。ドンマイである。

 

「そろそろ雲雀恭弥からヒントをもらえるはずだぞ」

「え? ヒント?」

「……私が言うと答えになる。頑張れ」

 

 沢田綱吉の修行は雲雀恭弥に任せていいだろう。戦っている彼がタイミングを間違えるとは思えない。

 

「とにかくグロ・キシニアと接触したい。彼と接触出来るかで殴り混みの勝機が大幅にかわる」

「いつ接触できるかわからねーのか?」

 

 リボーンの言葉に頷く。本来なら彼は今から7日後に来る。が、ズレる可能性が高い。骸がやられれば、グロ・キシニアが早めに移動するかもしれないからだ。

 

「オレが残るぜ。ツナ達が残ればその間に修行が出来なくなっちまうからな」

「私も行くから頼んだぞ。ディーノ」

 

 反対するディーノの声は無視する。しょうがないことなのだ。沢田綱吉達も何か言いたいオーラが出ているが、反対することは出来ないのだろう。

 

「覚悟は出来てんだな」

 

 リボーンが確認してきたので頷く。目が覚めたときから覚悟はしていた。

 

「クロームを迎えに行くのは沢田綱吉とラル・ミルチに任せていいか?」

「ああ。問題ない」

「わ、わかった」

 

 本当ならラル・ミルチを外に出したくは無いが、危険を回避できる可能性があり、今の実力でもなんとかなるのはこの2人だろう。

 

「ジャンニーニ、大きくてもいい。無線のようなものがほしい」

「わかりました」

「じゃ、用意してくる」

 

 まだ反対するディーノを無視し、私は部屋に戻る。すると、リボーンが追いかけてきた。

 

「本当に覚悟は出来てるのか」

「大丈夫」

「おめーもグロ・キシニアの趣味の対象に入ってるんだぞ」

「……わかってる」

 

 2つの意味をちゃんと理解し、私は返事をしたのだった。



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壊れた男

閑話っぽいもの。
短いですし読まなくてもいいですが、「っぽいもの」なので伏線は入ってます。


 無機質な目。

 

 腕から血が流れていても、痛みも感じないようだ。ただ、そこに居る。

 

 ……少し違う。感情というものを知らないだけで、子どものように無垢なのだ。

 

 そして、その子どもに覚えさせようとしているのだ。壊すことを――。

 

「くっ」

 

 観察をしていた骸だったが、相手と比べられないほどの自身の傷の大きさに思わず声が出る。

 

「うん♪ 問題なさそうだね♪」

 

 この場に相応しくないような明るい声が響く。発したのは白蘭だった。

 

「……彼に何をしたのですか?」

 

 しらばく会っていなかったが、骸は目の前にいる人物と何度も会ったことがある。正直、骸は彼と関わっていい思い出はない。それぐらい苦い思い出ばかりなのだ。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 彼の妹を傷つけたことがあったため、妹の消息がわからなくなった時に真っ先に疑われたのだ。いったいどうやって探してるのかわからないが、骸が憑依した人物の前に現れる。これから作戦を決行する時にも現れたりもする。

 

 いい加減、関わっていないとわかっているはずだ。それなのに骸の前に彼は現れる。そのため骸は彼に聞いてみたのだ。彼の返事は――。

 

「僕とサクラが関わったことがある人物の中で、君が1番性格が悪いからさ!」

 

 胸を張って答えた桂に、つい骸は攻撃をしかける。骸は目的のためには、手段を選ばない。が、苛立ったのだ。

 

「おっと、危ないじゃないか。……ふむ。しょうがない。話してあげよう。僕が探しても見つからないんだ。誰か協力者がいるのは間違いないよ。僕達の知り合いの中で、それが可能な人物を考えれば簡単さ。協力者はディーノだ」

 

 攻撃の手を止める。骸もあまりの桂の鬱陶しさにサクラの居場所を掴んでいた。そしてどこかで切り札として使おうと考えていた。が、桂はもう知っていたのだ。

 

「サクラは意味も無く姿を消したりしない。何か理由があるんだよ。僕から会いに行ってはいけない。困らせたくはないからね。だから、その時が来るまで僕はサクラを探し続けるんだ」

「……それと僕の前に現れるのは関係あるのですか?」

「君の性格が悪いからさ」

 

 先程とは違い、桂は真面目なトーンで言った。そのため骸はあまり苛立たなかった。桂の言いたいことがわかったというのもあったが。

 

「サクラの邪魔をする可能性が高いのは君なんだ。目を離すわけにはいかない」

「……あなたはどこまでも妹バカなのですね」

「ほめてもらっても困るね!」

 

 胸を張って答える桂を見て、骸は溜息をついた。

 

 桂の性格からして、骸が手を出さないと言ってたとしても聞かないだろう。桂を殺るにはリスクが高すぎる。桂の弱点であるサクラはキャバッローネが守っている。何より、桂は邪魔をしにくるが骸の作戦に致命的な邪魔をしたことがないのだ。サクラさえ関わらなければ、本格的に邪魔する気はないのだろう。

 

「ここまで来れば、堕ちても治りませんね」

 

 骸の呆れた言葉に桂は嬉しそうに笑ったのだった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 骸は到底信じられなかったのだ。あの妹バカの桂が、このような状況になってるのか。

 

 ユニとは、違う。

 

 彼女は無機質な目のままだ。桂は感情を1つずつ覚えようとしている。

 

「彼って自信過剰でしょ。僕が用意した飲み物を警戒せずに飲んじゃうぐらいにね♪ まっ彼は毒が効かないから、飲んでも大丈夫と思ったんだろうけどね。実際にユニちゃんと同じものを飲ませても上手くいかないんだ」

 

 桂なら、敵陣であっても優雅に飲む。骸のアジトで勝手にくつろいでいる姿を目の当たりにしたことがある骸は妙な自信をもってしまった。

 

 問題は毒やユニに飲ませたものでも効かない桂がなぜこのようなことになってるのか、だ。

 

「怪我してもすぐ治っちゃうし毒も効かない彼だけど、あることをすればすぐにおかしくなっちゃうんだ」

 

 もったいぶるように白蘭は話す。が、骸は反応しない。少しでも身体を維持し、情報を聞き出したいのだ。

 

「骸君はもう限界みたいだし、教えてあげるよ。答えは記憶の消去」

「……まさか」

「その、まさかだよ♪」

 

 今の桂はサクラを忘れている――。いや、忘れたから桂はおかしくなった――。

 

 しかし、そんなことはありえるのかと骸は考える。桂は魂さえ壊れない。それなのにサクラの記憶を忘れた。桂は死んでも治らないと思わせるほどの妹バカのはずだ。

 

「顔に出てるよ、骸君♪ でも僕も不思議なんだよねー。何をしても効果がないのに、あれほど大事にしていたサクラちゃんの記憶は簡単に消えるんだ。……まるで、サクラちゃんの記憶がないのが当然のように――」

 

 骸には真実はわからない。が、この状況を伝えるべきだ。たとえサクラの記憶がなくても、桂を止めることが出来るのはサクラしかいない。

 

 根拠もないが骸はそう確信した。そして、随分桂に毒されているとも思った。

 

 

 

 しかし骸が余裕をもったのはここまでだった。実体化を解いてずらかることも出来ず、自身に振り下ろされる桂の手を見るはめになったのだ。

 

「その感覚を忘れないうちに、どんどん行こうか♪」

 

 血まみれの手を見つめていた桂が、ゆっくりと頷いた。

 

 その様子を見て白蘭達は笑みを浮かべたのだった。



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白旗

 暇である。黒曜ランドに行くまでは忙しかったのだが。

 

 まずヴァリアーの説得。向こうの代表がスクアーロだったため、ディーノが間に入り話を進めた。といっても、すぐに信用するわけがないので雲雀恭弥の時のようにヴァリアーの個人情報を話した。

 

 しかしそれでも簡単に信用しなかったため苛立ち、スクアーロの髪のヒミツを暴露した。面白半分に話を聞いていたベルフェゴールが爆笑していたのは気のせいだろう。後でスクアーロがブチ切れても私は知らない。話を聞いてもらえるようになるのが重要なのだ。

 

 そして話を聞いてもらった結果、フランを向かわせるかはヴァリアー側の判断に任せることになった。こっちの心情としては六道骸を助けてほしい。が、ヴァリアー側を危険に晒すことは出来ない。元々状況をフランの耳に入れておきたいだけで、その判断には全面的に同意だった。

 

 だが、少しでも助けれる時間があるようにそっちに向かうのは恐らくヴィオラ隊と教える。他にも数日後に6弔花の1人と戦うこと。その時にXANXUSのワガママでスクアーロが苛立つというどうでもいい情報まで教えてあげた。またもベルフェゴールが爆笑していたのは気のせいだろう。

 

 そして私達が動くことにより、大規模作戦は早めた方がいいかもしれないと伝えた。恐らく今頃ボンゴレと同盟の首脳が作戦を立てているはずだ。もし本来の時間通りにするならそれはそれでいい。が、私達のアジトは奇襲されるのを逆手にとってミルフィオール日本支部の主要施設が破壊出来る。そのため、グロ・キシニアに出会う日によって大幅に早まり、そちらと足並みを揃えることは難しいということは知らせておくべきだと思った。もちろんこっちの成功率をあげるためにも、笹川了平に早く戻って来いと伝えるのも忘れなかった。

 

 正直、ヴァリアーやボンゴレ、同盟の首脳がいったいどれほどこの情報を信用するかはわからない。原作でも過去から来た沢田綱吉達のことも半信半疑だった。少しでも信用してもらえるとすれば、ディーノの存在だろう。

 

 ディーノは私の能力を知っていた。つまり、彼らは勘違いしてくれるのだ。ディーノは私の能力の重要さを理解し、味方を騙してまでスキを見て助け出そうとしていた、と。

 

 まぁそんなに話が上手く行くわけがないと思うが。私は兄の妹なのだから――。

 

 そのため、イタリアで何が起きる――6弔花がどの方角から攻めてくるというような詳しい話はしなかった。私の情報で引っ掻き回すのは良くないからな。ただ日本――沢田綱吉達は私の情報で動くということは伝えることが出来ただろう。

 

 次にクロームの説得。といっても、あまりこれは苦労しなかった。話を沢田綱吉に任せたのもあるし、骸の救出については考えていることを伝え、何よりクロームが死んでしまえば、六道骸が救出された時に動けなくなると伝えれば覚悟を決めたようだ。

 

 それでも最善ではなかったが。なぜなら、クロームと六道骸が話せれば1番良かったのだ。それさえ出来れば、危険になることもなかったはずだ。

 

 これについては無視する六道骸が悪いと思うことにした。原作でも無視をしていたのだ。流石にこれも私のせいと考えれば精神的に疲れる。

 

 他にもいろいろ問題が起きた。例えば黒曜ランドの電波障害が酷いが、離れれば無線が使えた。もちろん私とディーノは一緒に移動し無線を使っている。1人残ってグロ・キシニアと会うとか勘弁だ。ディーノのドジも発動しても困るしな。後は風呂に入れないという問題ぐらいだ。水があったので、濡れたタオルで拭いたりするので我慢している。思い出すとキリがない。が、なんとかなっている。

 

 ……いろいろ振り返って現実逃避をしているが、そろそろ現状を受け入れるべきである。どうすればいいのだろうか。そもそも、私は普通に寝ていたはずだ。

 

「……………」

 

 ダメだ。全く言葉が思い浮かばない。言葉が出てこないので身じろいでみた。

 

「ん?」

 

 どうやら気付いたようだ。と、一瞬安心したのが間違いだったのか。優しく頭を撫でられた。いつもと変わらないのだが、これほど恥ずかしいことだったとは……!

 

 しばらくの間心の中で悶えていたが、まぶたが落ちてきた。そういえば、さっきは普通に目が覚めた気がする。久しぶりに悪夢を見なかったのか……。

 

 頭に乗る手の安堵を覚え、私は今の現状などどうでも良くなり再び眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

「……すまん。起きてくれ」

 

 ディーノの声に目を開け、慌てて膝から降りる。私が目をこすってる間にディーノは窓の方へ行き、外の様子を窺っていた。どうやら人の気配がしたようだ。

 

 すぐに動けるように立ち上がる。が、ディーノがいつもの雰囲気で戻ってきたので大丈夫のようだ。

 

「もう1度、寝るか?」

 

 地面に座り膝をポンポンと叩くディーノを見て、遠い目をしたくなった。とりあえず無難に「目が覚めた」と答える。ディーノの行動にツッコミするのは野暮である。なぜなら、彼は下心はなくただの親切心で言ったとわかってるからだ。

 

「……確かに、負けだな」

 

 ボソっと呟く。昔、沢田綱吉に教えたことを思い出してしまったのだ。まさか自身で体験することになるとは思わなかったが。

 

 頭を切り替えよう。もう目を逸らすつもりはないが、今はそれどころではない。考えることは山積みなのだ。少し水でも飲むべきか。

 

 顔を見て口を閉じる。先程と違い、再び真剣な顔に戻ったディーノを見て緊急事態と理解したのだ。案の定、すぐに私を庇うように立ち入り口を睨んでいた。

 

「オレから離れるなよ」

 

 何度も首を縦に振る。声に出して返事をした方がいいかもしれないが、緊張でカラカラに喉が渇き、上手く出せなかったのだ。

 

 そんな私の様子に気付いたのか、ディーノはフミ子の匣を開けた。元気良く出てきたフミ子は私の足元でゴロゴロし始めた。可愛いが、残念すぎる。

 

 匣を開けたディーノの方が気まずいようで、心の中でドンマイとエールを送る。ちなみに正式な匣の持ち主は私の兄ということは忘れることにした。私は都合のいい頭をしているのだ。

 

 ただ、フミ子がこの状況でダラダラするだろうか。まだ敵が現れていないので、声をかけることにした。ディーノならば、話しかけられても集中は切れないだろう。

 

 しかし、それは叶わなかった。ディーノが先に口を開いたからである。

 

「向こうは1人じゃねーみたいだ」

 

 私の予想が外れたらしい。だが、問題ない。こうなる可能性も考えていた。そもそも残るのはディーノと誰も反対しなかったのは修行のこと以外にも、逃げれる可能性が高いからだ。彼にはスクーデリアがいる。

 

 しかし、ディーノは匣を開かない。思わず服を引っ張る。

 

「……ああ、悪い。相手は2人みたいなんだ」

 

 納得しかけたが、2人でも危険ではないのか。足手まといの私がいるのだ。私の疑問の答えを教えよるようにディーノが言葉を続けた。やはり私はどこかで怖いと思ってただろう。結論を急ごうと焦っていた。

 

「少し変なんだ。2人が戦っている。今オレ達が動けば刺激する。どう転ぶかわかねぇ」

 

 動きたくても動けないってことか。この戦っている2人のどちらかが味方の可能性もあるが、心当たりがないのだ。笹川了平にはまっすぐアジトへ行けと伝えている。沢田綱吉達の定期連絡ではこっちに来るという話はなかった。

 

 つまり危険を犯してまで助けに行く必要性がないということになる。ここに私ではなく、ロマーリオがいれば、ディーノは行ったと思うが。

 

 しばらくすれば、私の耳にも戦闘音が聞こえてきたが、静かになった。いったい何が起きてるのだろうか。もの凄く気になるがディーノに全て判断を委ねる。

 

「こっちに来る。1人だ。いつでも逃げれる心構えをしてくれ」

 

 1人ということは、倒したということだろう。とにかく私はディーノの言うとおり、咄嗟に掴まれても驚かない心の準備をしておこう。

 

 ジャリっと歩く音が止まる。いつの間にかフミ子がディーノより前に出ていた。

 

「っ!」

 

 扉の方から姿を現した男を見て、声が詰まる。今のディーノは直接会ったことはないが、資料で顔を知っていたので戦闘態勢になっていた。

 

 やはり私は疫病神かもしれない。余計なことをしすぎたのだ。怪我を負ってまで彼がここに現れたのは私が原因だ。

 

 必死に頭をめぐらせる。同じ手は何度も通用しないだろう。フミ子が眠らせようとしないのが証拠だ。しかし、出来れば戦闘は避けたい。敵なのだが、彼に死なれては困るのだ。

 

 思わず舌打ちしそうになる。ディーノに伝えておけば良かった。このタイミングに10年後のディーノが使った行動を教えることは難しい。だが、それでもしなければならない。それが私の役目だ。

 

「ディ――」

「待て! オレはお前達と争うつもりはない! ……今は」

 

 相手の声に遮られ、口を開いたまま状態のまま固まる。ディーノが動いた微かな音に我にかえる。

 

 もしかして今のはディーノが試したのだろうか。相手の出方を伺うために――。

 

 ディーノは彼から視線を離さないため、残念ながら確認は出来ない。が、ディーノがヘマをすると思えないので間違いないだろう。

 

 彼の言ったことは本当なのだろうか。知識があるため判断が鈍る。私は彼が後に仲間になることを知っているため、無条件に信じそうになるのだ。

 

 ポフっと足に柔らかい感触した。視線を下げれば、遊んでほしいらしくフミ子が駄々をこねていた。フミ子は警戒を解いている。

 

「……ユニのことを聞きたいんだな?」

「ああ」

 

 ディーノに視線を送れば、頷いた。ディーノは警戒を解かずにいてほしいというのが伝わったのだろう。

 

「指輪を外せ。君は中距離戦闘もこなせる。それにコルルとビジェットが厄介だからな。念のため警戒はしているが、こっちも争うつもりはない。理由はユニのためだ」

 

 私の言葉に動揺したようだが、γは戦闘態勢をとることはなく指輪を外した。

 

 さて、どこまで話すべきか……。



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自覚

 全く、さじ加減が難しい問題ばかり押し付けられてる気がする。しょうがないことだと思うが。

 

「……ユニの様子がかわったのは白蘭に飲まされた薬のせいだ。そしてその効果がもうすぐ切れる」

 

 γは私の話をどこまで信用するのだろうか。少し考え、ディーノに視線を送る。目が合ったので大丈夫だろう。

 

「こっちの都合上、あまり深くは話せない。が、君には選択してもらう。ボンゴレと組むのか組まないのか」

「……ガキの話をすぐに鵜呑みすることは出来ない」

 

 まぁ当然の判断だろう。

 

「君がここに現れたのは私の一言が気になり、片っ端から私達が関係しそうな場所をまわっていたんだろ。そして、彼女のことになると気性の荒い君が大人しくこっちの指示に従ったのは、逃げられる確率が高いと判断したからだ。君はディーノの匣兵器を見ているからな」

 

 指示を出したのは私だったが、γの性格からして大人しく従ったことに違和感があった。そこでγの立場から考えてみればすぐにわかった。彼にとって話を聞けず逃げられるのはもっとも避けたいことではないか、と。

 

 恐らく私の出した案は悪くない内容だったのだ。もちろんリングを外し殺される可能性もあるだろう。しかしここには素人同然の私が居る。ディーノがこの場で殺す可能性は低い。悪くない賭けのはずだ。

 

 そして何より彼は先程の戦闘が響いてる。私でもわかる。血の匂いがする。

 

「私達はグロ・キシニアをつかってメローネ基地を攻略するつもりだった。が、君のせいで予定が崩れた。その穴を埋めるためには手段を選ぶつもりはない。ここまで言えばわかっただろ。君に拒否権はない。――なめるな」

 

 兄やディーノだけじゃないんだ。私のせいで、何人もの犠牲が出ていることに気付かないわけがないだろ。そこまで私はバカではない。

 

 私の言葉で空気が張り詰めた。僅かでもγが動けば、ディーノは攻撃するだろう。あれだけ挑発したのだ。ディーノが動かなければ取り返しのつかないことが起きるからな。なぜなら私はたった一撃で死ぬ自信がある。

 

「……わかった。お前らと組む」

「ん。早速だが君に頼みがある」

「ちょっと待て。そんな簡単に信用するな」

 

 私がγに頼もうとすれば、ディーノから注意が入った。私は思わずポンッと手を叩く。1つの段取りが抜けてしまっていた。

 

「大事なことを君に話すのを忘れていた。私はこれ以上彼女の袖を濡らしたくはないと思ってる」

「袖?」

 

 ディーノが聞き返してきたが、私は頷くだけにする。この言葉だけの方が彼によく伝わるはずだからな。

 

「……くっ、はははは」

 

 γがいきなり笑い出した。ディーノはさらに警戒を強めているが、もう問題ないだろう。

 

「嬢ちゃん、オレを試したのか?」

「いや、どちらかというとこっちの覚悟を伝えたかった」

「そうか」

 

 話が進む私達にディーノがついていけなくなってる。しょうがないので説明する。

 

「さっきの言葉で私がユニのことをどれだけ知ってるか教えたんだ。彼女達はわかりにくいからな。あれだけで十分だっただろ?」

「彼女達?」

「そう、彼女達だ」

「……ああ。十分だ」

 

 ディーノには意味が伝わらなかったが、γの態度を見て深く聞くのはやめたようだ。その代わりなぜそっちを先に話さなかったのかと聞かれた。

 

「理由はさっきも言ったとおりこっちの覚悟を知ってほしかったから。彼には1度メローネ基地に戻ってもらうつもりなんだ。でも、そこで彼は揺さぶられることが起きるはずだからな。いくら私が口で伝えたとしても彼は悩むと思ったんだ」

「……お前も未来がみえるのか?」

「一応」

 

 説明するのも面倒になったので、ついに肯定した。まぁ定期連絡で、クロームと合流した日に六道骸からの幻覚が途絶えたと聞いたときに、沢田綱吉達に私が予知夢を見ているのは間違いないと判断されたしな。その割には今日γと出会う夢を見なかったのだが。

 

「あ」

 

 そういえば、夢でγと行動するシーンがあった。私はてっきりメローネ基地で出会って説得したのかと思っていたが、このタイミングで先に接触していたのか。全くわかりにくすぎる。

 

「どうかしたのか?」

「夢の内容に納得したことがあった。後でちゃんと報告する」

 

 ディーノもこの場で聞くべき内容ではないと判断したらしく、深く聞いてこなかった。

 

「話をする前に……フミ子、眠らせない程度で頼めるか?」

 

 せめてγを応急処置レベルで治療するべきだろうと思ったのだ。難しい注文をしたが、フミ子は頷いたので問題なかったようだ。

 

 

 

 

 γとの打ち合わせは思ったより簡単に済んだ。それも当然で私がわかる範囲が少なすぎるため、γの判断に任せることが多すぎるからだ。まぁ私の予想が大きく外れていなかったのもあったが。

 

 そう、γが戦っていた相手がグロ・キシニアだったことだ。

 

 ちなみに一応味方同士なのになぜ戦ったのかと聞いてみれば、なりふり構ってなかったらしい。情報が少ない中で、こんな場所でグロ・キシニアと出会えば聞き出したくなるのもわからなくもないが。

 

 とにかくグロ・キシニアをγがやったため、γは裏切り者として報告されるだろう。後先考えず行動しすぎである。今まで必死に隠してきたのはなんだったのだ。まぁ殺せば証拠は残らず、ボンゴレがやったと勘違いするという考えで行動しているんだろうが。相変わらずマフィアの考え方は物騒すぎる。今はグロ・キシニアの息があったことを喜ぼう。死んでもらっては困る。

 

 ……雲雀恭弥がクロームに向かって言った言葉と同じことを考えているな。なぜ相手がグロ・キシニアなのだ。絵を想像してしまい、気持ち悪くなった。最悪である。

 

 下を向いた私を見て、ディーノは悩んでるのかと思ったらしく、安心させるために私の頭をガシガシと撫でた。γが見ているので、手を振り払ったが少し気分が上昇した。……我ながら単純である。

 

 そんな感じで私の頭では少し脱線していたが、口から出る言葉は真面目な話だった。

 

 γには何事もなかったようにメローネ基地に戻り、匣兵器を受け取ってもらう。そして、すぐさま私達のアジトに来る。後はグロ・キシニアに裏切り者と報告されるのを待つだけである。

 

 はっきり言って作戦という作戦でもなかった。打ち合わせが短く済んだのは当然のことだった。

 

 それでも地味にすることがある。

 

 まずγに発信機がつけられているのかの確認だ。裏切り者と判断されず、ただのマフィア内のトラブルと思われていれば、他の作戦を考えなければならない。まぁ問題なく付けられていたが。念のため、発信機はこっちで預かることにした。γに付けっぱなしの場合、もし彼の身に何かあった時に困るからな。

 

 次にグロ・キシニアをフルボッコ。口に出せば、もの凄く軽い言葉だろう。しかし実際にはエグイ。身体を動かせないように、しゃべれないように顎の骨を砕くのだ。それも気絶している相手にだ。外道である。これは私に気を遣ったのか、γが手を下した。正しくは私に見せずにγとディーノだけで行うつもりだったが、私がいなければディーノはドジなのでγが全てやったはずだ。彼らが実行しているであろう時間は、私も頭が嫌なループに陥っていたのでフミ子を抱きながら過ごし、疲れて戻ってきたγを見て気付いたのだった。これについては本当に悪いと思った。

 

 最後はもしもの場合について。例えば匣兵器を受け取れなかった時はどうするのかという話だ。ここは正直にγに話した。匣は幻騎士から渡されるのだが、幻騎士に預けた時のユニは正常なのかはわからない、と。これはユニがγが死なないように戦力の底上げのために渡したのかもしれないし、幻騎士が勝手にもってきたのかもしれない。原作でも詳しくは書かれてはないのだ。

 

 ユニが逃げている時にγが助けるとわかっていたから渡したのかと考えたが、ユニの様子を考えれば可能性は低い。戦力の底上げだった場合、γ対獄寺隼人の戦いはなくなるため渡す必要がなくなる。結局いろいろ悩んだが、わからないものはわからない。4日たっても渡されないようなら、私達と合流という話になった。

 

 後は細かいことだった。γとの合流は今私達が使ってる無線を渡すことで決まった。つれてきてもいいのは太猿と野猿のみ。当然のことながら、合流時に怪しい反応があれば合流は不可。この合流時の危険な役は私達がするんだろうなと遠い目をしていれば、フミ子がポンポンと私を叩く。……適任がいた。

 

 フミ子は私に害をなすと判断すれば容赦しない。もしもの時は相手を眠らせてもいいし、防がれても自身を治療すれば簡単に死ぬことはない。そしてフミ子は基地の場所を覚えているし、レーダーにうつらない。

 

 それにもしフミ子がスクーデリアに乗ることが出来れば、もっと安全だ。危険と判断すればスクーデリアに乗って逃げればいい。さらにスクーデリアの匣をフミ子が持っていれば、逃げ切った後はフミ子が自力で戻ってくればレーダーにうつらないので無事に戻れる可能性は高い。もちろん2つの匣を失うリスクはある。が、私の夢ではメローネ基地でγと組んで行動していたことを考えると保険にかけすぎなぐらいだ。

 

 γがいるので念のためスクーデリアのことを伏せてディーノに話せば、少し悩んだが悪くないという返事だった。やはり合流時が1番危険だという考えは間違ってなかったようだ。本人もやる気のようだし、連絡をもらえばフミ子がそっちに向かうということになった。γが胡散臭さそうな目でフミ子に向ければ、どこから取り出したのかわからないが笹を食べながら転がっていた。残念すぎる。

 

 他にも頼み事をしたが、最終的にはγの判断に任せるといい、私達は別れた。見張りをつけることは叶わないので裏切る可能性もあるのだ。アバウトぐらいがちょうどいい。

 

 γを見送った後、ディーノの意見を聞いてみた。

 

「裏切らねぇだろうな。あいつは裏切り者扱いになれば、ユニって子と会うためにはオレ達と手を組むのが1番いい。裏切り者扱いにならないためには、グロ・キシニアを殺すしかない。そのタイミングは今しかない。基地に戻れば手を出せる可能性が低いからな。多少の状況が悪くなっても裏切れねぇ。まぁ、あいつがユニって子をどれだけ大事にしてるかによるが……。その心配はしなくていいんだろ?」

 

 それについては自信を持って頷く。

 

「それにな、予知されると思ってしまえば、下手な行動はできなくなるんだぜ?」

 

 ついディーノを凝視してしまった。自身が裏切る可能性を低くしてることに全く気付かなかったのだ。

 

「やっぱり気付いてなかったのか」

 

 ディーノに頭をガシガシ撫でられたが、今度は手を振り払わない。嫌な夢ばっかり見ているだけで、役に立ってるのかわからなかったが、今はっきりと自覚できた。

 

 思わずディーノの服を掴み、下を向きながら声を出す。

 

「ほ、ほめても何も出ないぞ」

「……そうだな」

 

 数滴、何かが落ちたことにディーノはツッコミしなかった。

 



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変化

挿絵頂きました。……1ヶ月以上前に←
私だけ堪能しててすみませんでした!
『キャラ設定&挿絵』のところに増えてます!
興味のある方はどうぞ!


 連日繰り返される手合わせのレベルを超えた戦いに、ディーノはどうするべきかと悩む。フミ子と基地に戻ってきた了平のおかげで傷は治り、さらに強くなっていくため止める口実がないのだ。それにお互い明日にはメローネ基地に殴りこむことを忘れてないようで、作戦会議までに決着をつけるという話だった。

 

 ならば、ディーノがわざわざ悩む必要がないように思えるが、戦っているのは獄寺とγで2人が戦いだしたきっかけは、サクラの独断でγを仲間にしたのが原因なのだ。毎度の如くサクラに後処理を押し付けられているディーノが気にかかるのは当然のことだった。

 

 一方、その原因を作ったサクラはというと、いつの間にか起きていたようで隅の方で資料を見ていた。一応、責任は感じてるらしくγ達の動向を監視する役目を受け持ってるディーノと離れる気配はない。が、止める気はないらしい。ツナに賛同を得た時点で問題ないと判断したようだ。

 

 ちなみにサクラはγの監視ではなく、ディーノのドジを防ぐ監視をしているのだが、ディーノはそのことに気付かず責任は感じていると勝手に勘違いしているだけである。

 

 一向に気付く気配のないディーノが、それにしても……と、サクラの手元の資料の内容を思い出す。γと別れ、アジトに戻ってきた次の日にサクラは雲雀のところへ向かい、家の地下への行き方を聞いたのだ。サクラは雲雀が10年後のディーノの世話をしていたと気付いていたにも関わらず、雲雀に聞けば見つからずにいけるという可能性に今更ながら気付いたのだ。なお、気付いたきっかけはサクラが夢でみたからである。

 

 地下には機械があったが、何に使われるかわからず触ることが出来なかった。そのため資料を持ち帰ったのである。しかしその資料もはっきり言って理解できる内容とは思えない。ディーノが軽く見ただけでも5ヶ国語以上の言葉が使われていて、数式をみてもわからなかった。恐らく10年間に発見された公式も使っているのだろう。ディーノですらお手上げなのだ。サクラにわかるはずがないのである。

 

 しかし、それでも桂のことがわかるかもしれないと思い、サクラは辞書を片手に資料を読むのをやめない。ディーノやリボーンも手伝ってはいるが、成果はないといっていいレベルだった。

 

 正直、ディーノは止めさせたいと思ってる。この時代に来て明らかにサクラは痩せた。ぐっすり眠れない日も続き、目には隈が出来ている。何より、精神が弱っている。泣いているのが日常になりつつあるのだ。そんなサクラが強がり、γに啖呵を切った時は見てられなかった。

 

 少しでも休んでほしい。資料を取りあげるのは簡単だ。だが、それをすればサクラは壊れるかもしれない。資料を読むだけで気を紛らわせることが出来るのだから――。

 

「おめぇら、そろそろ時間だぞ」

 

 ハッと声をしたほうへ振り返り、時間を確認する。熱中した2人を止めるのがディーノの役目なのだが、サクラのことで悩み気付かなかった。

 

「すまん。リボーン」

「まったくだぞ。って言いてぇが、気持ちはわからなくもねぇからな」

 

 リボーンの目から見てもサクラの限界が近いと思うのだ。行動を共にする時間が長いディーノの方が、心配になるのは当然のことだ。

 

 視線を向けられているサクラは熱中してるようで気付かない。ペンを必死に動かしてるところを見ると、辞書を見ても理解出来ずメモをし、後で質問するつもりなのだろう。2人は顔を見合わせ、一緒に声をかけに向かった。

 

「サクラ、作戦会議が始まるぞ」

 

 リボーンが声をかけてもサクラの手が止まらない。再び2人は顔を見合わせる。目で会話しディーノが肩を揺らすと決まった時、サクラの手が止まり、立ち上がった。

 

「よし、行くか?」

 

 ディーノの言葉を聞き、サクラが頷き歩き出す。いつもよりサクラの歩くペースが早いのは時間に遅れてるからだろう。慌てて追いかけようとしたとき、ディーノの足に何か引っかかる。

 

「パフォ!」

 

 フミ子だった。サクラが置いていってしまったのかと思い、抱き上げる。肩にはリボーン、腕にはフミ子を乗せ、ディーノは慌てて会議室に向かったのだった。

 

 

 

 

 会議室に足を踏み入れた途端、ディーノ達は空気が変だと気付く。γ達がいるからかと一瞬思ったが、この空気の中でカタカタと鳴り続ける音に違和感を覚えた。

 

 音の発信源を見れば、サクラだった。機械を操作しているらしい。画面を覗き込んだが、プログラムのようなものをうっていることしかディーノにはわからない。

 

「こ、これは……」

 

 ジャンニーニの驚く声が聞こえ、この場にいるサクラ以外の人物が視線を向ける。

 

「し、侵入しています。恐らくメローネ基地のコンピューターに……」

 

 一斉にサクラへ視線が向かう。そのサクラは気にもならないようで、手を止める様子はない。

 

「サクラ……じゃない」

 

 ツナの声にサクラの手が一瞬止まる。が、再び何もなかったように動かした。もちろんその変化を見逃すはずがなく、ツナ以外は戦闘態勢に入る。

 

 これに慌てたのはツナだった。

 

「ちょ、ちょと待って! 怖い感じはしないんだ!」

「ですが、10代目!!」

「ジャンニーニ、こいつは何をしてるんだ?」

 

 警戒を止めずに、リボーンは確認することにした。もめている時間はないと判断したのだ。

 

「……ミルフィオーレのアジトの図面が流れてきています」

「え? でもそれは必要なくなるんじゃ……」

 

 サクラから入江正一の匣兵器を聞いていたツナは疑問を口にした。γはサクラに頼まれある程度のアジトの図面を覚えて来た。そのため骸から資料が届かなかったが何とかなるだろうと判断したのだ。たとえ完璧な図面があったとしても、途中から使えなくなり意味がないというのが大丈夫と判断する理由だった。

 

「……必要なんだ。これがないと彼女――この子が死んでしまう」

 

 答えたのはサクラだった。もっとも今の言葉でサクラ本人ではないと白状しているが。

 

「お前は何が目的だ?」

 

 殺気を隠そうともせず、ディーノは質問した。ディーノも正直に答えるとは思っていない。が、サクラの口から、本人の意思と関係なしに発せられたことに怒りを覚えたのだ。言葉使いが似ていることにも苛立つ原因の1つだ。

 

「悪い。この言葉使いの方がいいと思ったんだ。……これは嫌でしょ?」

「っ!」

 

 明らかに違う口調に驚いたわけではない。ディーノは心が読まれたことに驚いたのだ。

 

「読んだわけじゃないぞ。そっちをつかった未来をみただけだ。……質問に答えるか。ある人物を救うためだ」

「それはサクラじゃねーんだな」

 

 リボーンが確認する。先程までサクラのことは『彼女』もしくは『この子』と言い、サクラの死を阻止するためにミルフィオーレのサーバーに侵入しているのだ。サクラだった場合、今更ボカす意味はない。

 

「ああ。これ以上は話せない」

「さっきから黙って聞いてりゃ……神崎の身体を使うんじゃねぇ! おめーが出てきてすりゃいいだろうが!!」

「お、おい。獄寺……」

「ぼ――私が直接出てくるためには条件が整わないと無理だ。まぁ心配するな。彼女の身体を使うのはもう難しいだろう」

「そうなの? ……あ!」

 

 緊迫している状況にも関わらず、いつもの口調でツナが質問してしまう。ふとサクラが笑い、目が合ったツナは赤面した。見下して笑われたからではない。まるで優しく見守られているように微笑んだからだ。

 

「彼女が壊れるんだ。いくら相性が良くても、私達の力の差がありすぎる」

「え!? サクラは大丈夫なの……?」

「今は彼女が弱ってる。だから出来たんだ。抵抗する中で実行してしまえば、彼女が廃人になってしまう。まぁ他にも条件はあるが、知らなくていい」

「わ、わかった」

 

 ツナの返事にサクラは満足そうな顔をする。が、すぐに引き締め口を開く。

 

「彼女を出来るだけ休ませてくれ。今日1日は私の影響で予知が見れないだろう。それとこれを……君に渡しておく」

 

 ふわふわと紙が浮き、ディーノの手元に来る。よく見れば、先程まで何か書いていた紙だった。

 

「フミ子は持ち主の死ぬ気の炎とリングの炎を混ぜ合わせて注入すると大きくなる。だから属性の問題じゃない。彼以外に最大限の力を発揮することはできないんだ。そこで、だ。君にも最大限に発揮できるように彼女のアジトにアクセスして、その匣をアップデードできるようにした」

 

 チラリとディーノは抱えているフミ子を見る。サクラがのっとられてる状況でもフミ子は平然としていた。フミ子は随分前からサクラじゃないと気付いていたのだ。だからディーノに運んでもらった。そのことに今更ながら気付く。冷静なら気付くことが出来たはずだ。ディーノは深呼吸してから質問をする。

 

「……それをオレに言ってどういうつもりだ?」

「彼女にこっそり渡そうとすれば、彼女はアップデートしないだろう。私が勝手にしようとしても、ここでは無理だ。だが、君に渡しても君1人ではその紙に書いてる意味が理解できない」

「あいつにこれがわかるのか?」

「……心当たりないのか?」

 

 ディーノは否定できなかった。10年後にきてから――予知をみてからサクラの物覚えは良くなった。今までのサクラではアジトの構造を覚えることが出来るとは思えなかったのだ。それでもあの資料を見たときはさっぱりわからなかったので、気のせいと思っていたのだ。

 

「時間はかかるかもしれないが、理論がもう証明されているんだ。彼女は理解出来るようになる」

「……そうか」

 

 これでまたサクラの価値があがった。恩恵を受けている身ではあるが、本人が望まない力が増えるのは祝福できるはずもない。

 

「後もう1つだけ伝えておく。私と出会ったことにより、私と同等の力を持つ者の存在を認識できるようになった」

 

 この言葉の意味に気付いたのは、サクラの話を聞いていたディーノとリボーンだ。

 

「ただし効果が強すぎる。魂に刻まれてしまうんだ。例を話せば、未来の笹川了平としか会っていないにも関わらず、過去にいる笹川了平にも見えるようになってしまった。……これを良いと言えるかは正直私にはわからない」

「つまり過去にいる了平があの男を見つけてしまって危険な目にあう可能性があるというなのか?」

 

 サクラは首を振り「それはない」と言った。その話が本当なら特に悪い点があるように思えない。が、彼女はとても悲しそうに呟いたのだった。

 

 詳しく話を聞きだそうとしたときに、廊下からこの部屋に向かっている足音が聞こえてくる。京子達かもしれないと意識が向いた時に、サクラは再び口を開いた。

 

「……君達の幸せを願ってる」

 

 呟き終わった途端、膝から崩れ落ちるサクラ。ツナ達が慌てて手を伸ばそうとした時に、風が通過する。

 

 ――サクラは地面に身体をうつことはなかった。

 

 誰もが驚き口を開かない。先程到着したばかりで1番サクラから離れた位置にいたはずだ。だが、誰よりも速かった。男の身体能力を考えると不可能ではないが、普段の行動からは考えられないのだ。

 

「…………」

 

 男は無言でサクラを見下ろしていたが、興味がなくなったらしくディーノにサクラを渡し去っていく。普段の男に戻ったようにも見えるが、その手つきが割れ物を扱うようだった。

 

 しばらく男が去った後もツナ達は動けずにいた。あまりにも衝撃が大きすぎたのだ。それはサクラの身体がのっとられたことすら霞んでしまうほどだった。

 

「……寝かせてくるぜ」

 

 いち早くディーノが復活し、サクラを部屋に連れて行く。

 

 ベッドにサクラをおろした後、サクラの頬を撫でる。普段のディーノならば、撫でても頭だっただろう。ディーノ本人は自身の行動の変化に気付かない。無意識だった。

 

「ぜってぇ守ってやるからな」

 

 1番初めに誓ったのは公園の時。あれから何度も泣かせたし、治ったとはいえ怪我も負わせた。当然ディーノが全て悪いわけじゃない。夢で泣くことなどは防げるものではないし、サクラが原因も多々ある。だが、ディーノは全て守ってやりたいと思い、何度も誓うのだ。

 

 しかし今回はいつもと何かが違った。

 

 きっかけは今までの行動の積み重ねかもしれないし、先程の教え子の行動だったのかもしれない。

 

 答えはわからない。

 

 が、この日をきっかけにディーノの中で何かが変わった。

 




いろいろ、すみません。(何がとは言わない)


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再び

 何か音がした気がする。

 

「っ! 起きたのか……」

 

 ボーッとしているとディーノに声をかけられた。……どうやら私は眠ってしまったようだ。最後の記憶では獄寺隼人とγが戦っているのを見て、彼らは元から相性が悪かったのかと思ったところで途切れてるからな。それにしてもフラグを折ったのに仲が悪いとは困ったものだ。

 

 眠る寸前に何をしていたのかを思い出し終えたので起き上がろうとして気付く。腕に何かコードのようなものがついている。目で追ってみると、点滴だったのでギョッとする。よく考えると、床が冷たくないし硬くない。私はいつベッドに移動したのか。それにディーノの服装が違う。

 

「やっぱり……覚えてなさそうだな」

 

 不思議そうに首をひねってる私を見て、ディーノが確認するように聞いてきた。全く覚えてないので頷く。少し悩んだようだが、ディーノは話し始めた。

 

 

 

 

 ディーノの話を聞き、思わず眉間に皺がよった。勝手に身体をのっとられたのだ。嫌な気分になるのは当然だ。私はそこまで心が広いわけではない。

 

 とりあえずディーノが預かった紙を受け取り見てみる。が、よくわからなかった。本当に私に理解できる内容なのかというツッコミをしたいぐらいだ。

 

「今日1日で何とか出来る内容じゃないな」

 

 期待してるかもしれないので、先に伝える。このレベルの問題を解くにはそれこそ入江正一やスパナの協力が必要だろう。ジャンニーニと私だけで解けるとは思えない。まして明日はメローネ基地に乗り込むのだ。時間が足りなすぎる。

 

「……今、何時だ?」

 

 ふと気付く。私は眠っていたのだ。それこそ点滴が必要なレベルで。ディーノを見たが、答えようとしない。

 

 違和感はずっとあった。私がディーノの服が違うと断言できたのは、スーツを着ていたからだ。この時代にきてから――……今まで私は1度もスーツ姿のディーノを見たことがない。

 

 つまり、彼は乗り込むつもりだったのだ。

 

「バッ! ……何とかしろ」

 

 怒鳴ろうとしたが、なんとか我慢した。彼の性格はわかってる。それに元々は起きなかった私が悪いのだ。まぁそれでも腕を差し出し点滴を外せと言うのだが。

 

 ディーノは諦めたように針を抜いた。全く、私が起きなければ本気で置いていくつもりだったな。

 

「彼らは?」

「もう向かってる。恭弥は別だが……」

 

 原作通りのようだ。一時はどうなることかと思ったが。

 

 雲雀恭弥が1人で大人数を引き受けるという話をした途端、沢田綱吉の反対が凄かったからな。なので、私は雲雀恭弥を説得出来れば誰か残ればいいという風に丸投げした。結果、沢田綱吉は修行で咬み殺されるレベルがあがった。ドンマイである。

 

 恐らく彼は強いから問題ないということを身体で教えたのだろう。決して面倒ことを丸投げされたことに苛立ち、沢田綱吉に八つ当たりしたわけではない。……はず。

 

 ま、まぁ大丈夫だろう。彼だってわかってるのだ。入江正一が仲間でこれぐらい想定の範囲内だと言えないことを。……多分。

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

 ブルッとしたのは雲雀恭弥のせいだったので問題ないといい、着替えるためにディーノを追い出したのだった。

 

 

 

 扉を開けるとディーノとγ達がいた。流石にもう置いていくことはしなかったようだ。実際は起きてしまったので、置いていっても1人で勝手に行く判断したのだろう。正解である。

 

「私達も行くぞ」

 

 偉そうに声をかけたが、先頭で歩かずディーノの後を着いていく。我ながら残念すぎる。 

 

 ディーノの足が一瞬だけ止まったので覗けば、アジトの出入口のところでクロームが居た。見送りに来たのだろう。幻覚は安定しているが、原作通り彼女は後で行くことになってるからな。もちろんランボは必ず連れて行くようにと伝えている。

 

「…………」

 

 無言である。クロームは見送りにきたが、あまり接点のない私になんと言えばいいのかわからないのだろう。友達いない暦がほぼ同じなのだ。気持ちは凄くわかる。それでも見送りにきたのは、いい兆候なのだろう。私が黒曜アジトにいる間にちゃんと食事を取って笹川京子達と話せるようになっていたからな。

 

「この作戦が成功すれば、六道骸の情報がつかめる」

「!」

「いろいろ情報が少なくて、悪い」

「……ううん。気をつけて」

 

 彼女も文句を言わないな。クロームが突入する正確なタイミングがわからないし、六道骸がやられるのを知っていて黙っていたにも関わらず――。

 

 私の考えに気付いたのか、ディーノがいつものように私の頭をガシガシと撫でるのだった。

 

「ん? なんだ?」

 

 一瞬、私に声をかけたのかと思ったが、ディーノはγに声をかけたようだ。

 

「……いや、なんでもない」

 

 曖昧な返事だな。だが、私はγの様子を見てなかったので考えてもわからない。なのでディーノを見る。目で大丈夫だと言ったので気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 またこの場所に来ることになるとは思わなかったな。と、思いながら路地の行き止まりに立つ。

 

「間違いないか?」

 

 ディーノの確認に頷く。γ達もこの出入口は知らないので私が答えるしかないのだ。ここはメローネ基地の隣にある兄のアジトの出入口なのだ。ディーノとγが行き止まりを調べてると、画面が現れ『問題です』という一文が出た。

 

「なんだ……これは……」

 

 γの呟きに激しく同意する。私も同じことを思ったぞ。

 

「お前がいれば、簡単に開くという話じゃなかったか?」

「間違ってないぞ。これを解けるのは私の家族ぐらいだからな」

 

 白蘭も能力を使えば、解けるだろう。もっともわざわざ体力を消耗してまで解きたいとは思わないだろうが。

 

 黙々と解いていくと、後ろの方でドン引きしている気配がするのは気のせいだろうか。……問題はランダムで以前解いた問題は2問しかなかったとことは黙っておこう。これ以上ドン引きされたくない。私は兄と違って普通の感性の持ち主だからな。

 

 全ての問題が解き終わり振り向くと、野猿が「すっげー。変な問題を全部解いたぜ!」と言った途端、γに殴られていた。……うん、いいぞ、もっとやれ。

 

「行くぜ」

 

 ディーノの声に我に返り、緊張しながら私は再び敵のアジトに足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 慎重に進んでいくディーノに着いていきながら、あたりを見渡す。やはり裏切った兄の手がかりを求めて、探し回ったのだろう。部屋の扉が壊れていた。

 

 そして、とある扉の前で足が止まってしまった。

 

「この部屋なのか?」

 

 私は頷くこともせず、部屋を見つめる。すると、なぜか眠ってる私に兄が話しかけてる姿がすぐに浮かんだ。返事も出来ない私に、だ。

 

「……悪い、時間を取らせた」

 

 ディーノが声をかけたそうにしていたので、無理にでも笑うことにした。悠長に話す時間もないのだから。

 

 前を向いたディーノの手が硬く握りしめていたのを見て、少し気持ちが上昇した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 γはディーノの手が硬く握られているのを見て、こっそり溜息を吐いた。

 

 γ達が大人しくサクラ達の後についていくのは、メローネ基地との戦いでボンゴレが勝利しなければ、γ達の目的であるユニの奪還が厳しくなるからだ。

 

 サクラと再び出会った時は確かにγにとって状況が悪かった。が、サクラの提案に乗らず、二重スパイという方法もあった。素人同然のサクラや子どものボンゴレと行動するのもやはりリスクが高かったのだ。なので、サクラから話を聞ければ裏切ることもできた。

 

 しかし、γはサクラ達と組んだ。

 

 γが決断した理由は、サクラがユニに似ていると思ったから。似てるといっても顔や能力が同じだからではない。サクラのディーノへ寄せる信頼が自身達と重なったのだ。

 

 その感覚は一緒に行動するようになり、日に日に増えていく。それはγについて来た太猿と野猿も同じだった。

 

 はっきり言って完全に信用するのは危険すぎる。それでも感情がγの判断を鈍らせる。

 

「(まいったな……。厄介な奴と組んでしまった)」

 

 そんなことを考えていたγがサクラと目が合う。

 

「最悪の場合、私達を捕まえたと言って身の安全を確保しろよ。……最悪の場合だぞ」

 

 サクラの考えは捕まったとしても、入江正一が向こうにいる限り殺されはしないだろうという意味で言った。しかしそれを知らないγは虚をつかれた。

 

「(おいおい……オレは敵だったんだぞ)」

 

 サクラは返事も聞かずに振り向いたのを見て、γは再びこっそり溜息を吐く。ユニに害を与えない限り裏切ることは出来なくなるほど情がわいてしまったことに気付いたからだった。

 

 

 

 

 

 一方、サクラより先に侵入していたツナ達はとある人物と対立していた。その人物と出会うだろうとサクラから話を聞いていたため出会ったことには驚いていないし、ツナはサクラから見逃してもらえる可能性がある策を教えてもらっている。そのため対立する必要はないかもしれないのだ。しかし、相手の言動によりツナ以外は戦う気になっている。特に了平とラルが。

 

 そう、対立している人物はジンジャー・ブレッド。直接手を下したわけではないが、コロネロの仇には違いない相手なのだ。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 倒すために前へ出ているラルに声をかけるツナだったが、止まる気配はない。ラルは怒りを必死に抑えてはいるが、もうジンジャー・ブレッドを逃がす気はさらさらないのだ。

 

「こーゆー時、どーすれば良かったんだったっけ!?」

 

 ツナは慌ててサクラから渡されたジンジャー・ブレット対策を書いている紙を取り出し読む。戦わずに済むならツナは出来るだけ避けたいのだ。たとえ、相手が悪い奴だとしても。

 

「えーっと……もし戦闘になりそうだったら『チェッカーフェイス』と叫べ?」

 

 こんな単語で止まるの?と思ったツナだったが、視線を感じ顔をあげる。

 

「うわっ!?」

 

 いつの間にか目の前にジンジャー・ブレットが移動していて、ツナは驚き尻餅をついてしまう。もちろんすぐに獄寺達がフォローにまわり警戒するのだが、ジンジャー・ブレッドは気にも留めない。先程までの飄々とした態度もなくなり、殺気を放ち別人になったようだ。

 

「こ、交渉したいんだ。君が探している人物の拠点だった場所の1つを教えるから、オレ達を見逃してほしい」

「沢田!?」

 

 ツナは覚悟を決め、元々伝えるつもりだった言葉を伝える。すぐにラルから反対の声があがるが、ツナも引くつもりはない。ジンジャー・ブレッドと戦えば、無傷では済まないという話なのだ。現にサクラからここで出会えば不意打ちで攻撃されると助言されていたにも関わらず、ラルは回避できなかったのだから。

 

「……僕と交渉ね」

「そう、なんだ。でも白蘭を倒すまでそれは話せない……じゃなくて、話すつもりはない」

 

 サクラは伝え間違えるなと念を押されていため、ツナは慌てて言い直す。

 

「フフッ♪ そんな内容で僕と交渉できると思ってたのかよ」

「う、うん。それしか教えてくれなくて……でも時は近いって言ってたよ」

 

 ツナは深く内容をしらない。そのため『時は近い』という意味を話せる日が近いという風に捉えてる。しかしジンジャー・ブレッドには正しく伝わる。勘付かれないようにサクラが言葉に気をつけて話していることに気付いているからだ。

 

「交渉成立。君達は見逃してあげるね」

 

 パチンと指を鳴らすと、ラルの傷口から蜘蛛が出てくる。そのことに1番驚いたのはラルで、サクラが回りくどいことをしてまで守ろうとしたのが自身だと知る。

 

 ……実際はただのサクラのわがままだが。

 

 当然、サクラはラルが自力で解決できることを知っている。が、この時代には匣兵器があるため、呪いを解く可能性があるならば無理をしないほうがいい。そして詳しく話せない分、サクラには負い目がある。自身の精神安定のためにこの戦いを回避したいだけなのだ。

 

 なんとかラルが気持ちを押し殺し、無事にジンジャー・ブレッドとの戦いを回避したツナ達だったが、最後まで「『君達は』見逃してあげる」の言葉の意味に気付くことはなかった。

 




桂「僕の出番が少なく、寂しい思いをしてないかい? ……そうだろう。そうだろう。さぁ存分に僕を見るがいい!!(パシッ)……ふむ。僕が出てきたのはアジトの出入口を説明しようかと思ってね。みんなも知っての通り、問題はたった10問さ。徐々に難易度が高くなっていくのが特徴だよ。第一問には10問用意してある。その中からランダムで出題するのさ。第二問からも同じように設定してあるよ。つまり、全部で100問あるのさ。簡単だろ? ……難しい? 理解出来そうにないが、しょうがないね。アドバイスしてあげよう。僕は優しいからね! 間違っても1問目からやり直しになるだけだよ。ほら、簡単だろ? 扉を開けることが出来れば、少しはサクラの相手として認めてもいいかなと思ってるよ。最低条件はクリアしてるからね。ああ、本当に僕はなんて優しいんだ!」

作者から一言「桂さんを書きたかっただけです。すみませんでした。ちなみに問題は全て入力式です。……つらたん」


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分断 1

お久しぶりです。
大変お待たせしましたー。

トラブルがない限り、5日連続更新です。


 無事に警備システムを破壊できたことにホッとするツナだったが、ラルに一喝される。

 

「破壊したことで敵に気付かれたんだぞ! 気を抜くな!」

 

 すぐにツナが気を引き締めた姿を見て、ラルは余計な一言だったと気付く。そしてもう1つ気付いた。ジンジャー・ブレットとの出会いのせいで1番冷静さに欠けているのは自身だと。

 

 ふと肩に手を置かれる。了平だ。

 

 師匠がコロネロで、この世界で生きた了平の手だ。ラルは振り払うことはしなかった。それにラルが薄々勘付いていることに了平は気付いているのだろう。

 

 移動しながらラルはツナ達を観察する。彼らは気付いた様子もない。

 

 サクラがこの中で1番の足手まといをラルと判断したことに……。

 

 実際は戦闘を回避できるなら回避した方がいいというサクラの安易な考えだ。しかし、次のポイントへの移動のための囮をラルが担当しようとすれば、サクラがツナでなければならない、と言ったのだ。

 

 当然、自称右腕の獄寺は反対した。ツナを1人で危険に晒すわけにはいかないのだ。しかし、サクラの一言で押し黙る。

 

「彼じゃないと死ぬ」

 

 サクラの顔にある隈はただの寝不足じゃないと知っていれば、誰が反対できるのか。ツナに対してのアドバイスは「全力でやれ」という至極簡単なものだったが、サクラの意見が覆ることがなかった。

 

 つまり、ラルはこの短い時間で2度サクラに庇われていることになる。ラルが勘違いするのも無理はない。

 

「……バカか」

 

 思わず出た言葉はたった一撃で死んでしまいそうなサクラに向けてだった。

 

 

 

 

 

 

 

「くはっ!」

 

 路地裏で1人の男が少年の首を絞めていた。

 

「早く吐きたまえ」

 

 首を絞めているにも関わらず、男は少年に問う。男は誰もが見惚れるような顔だったが、あっさりと首の骨を折りそうなぐらい目には狂気を含んでいた。

 

 そう、ここは10年前の世界。

 

 首を絞められている少年は入江正一で、男は桂である。

 

 普段の桂ならば、素人の少年にここまで手荒なことはしなかっただろう。しかし、今回はいつもと違う。サクラの居所が掴めず何日もたっている。やっとのことで見つけた手掛かりを前に我慢することなど不可能だったのだ。

 

 もういっそのこと殺してしまおうか。手掛かりは彼の自宅を調べればいいじゃないか。桂は手に力を入れようとした時に鈴のような声が聞こえた。

 

 ――お兄ちゃん。

 

 慌てて手を離し周りを見渡すが、誰もいない。居るのは咳き込む少年だけだ。

 

「……うん、そうだよね。サクラ」

 

 我に返った。桂の腕があれば、気付かれずに少年の家に入り探ることだって出来る。サクラが悲しむ方法を選ばなくていいのだ。

 

 再び桂は少年の首に手をあてる。そのことに少年は肩を震わせるが、痛みは来ない。どちらかというと暖かい……。

 

「すまなかったね」

 

 少年の治療を終えた桂は手を離し、去ることにした。これ以上少年の前にいても怖がらせるだけなのだから。

 

「ちょっと待ってください! か、神崎桂さん!」

 

 いきなり現れ、首を絞めた男を呼び止めたことに桂は疑問を感じる。が、止まらない理由はない。復讐してきたとしても桂には返り討ちに出来る強さがある。

 

「その、僕にもよくわからないんだけど……これを渡さないとダメみたいなんだ……」

 

 手紙だった。

 

 少年は桂が受け取ったことに一先ず安堵する。一先ずなのは、手紙には一言しか書いていなかったからだ。先ほどまでの桂の行動をみれば、再び首を絞められるかもしれない。が、渡さないという選択は少年にはない。脅迫されているからだ。

 

 はっきり言って、好きな子の名前を暴露されてるより首を絞められる方が問題なのだが、子どもだからなのか、桂に謝られたので大丈夫と思ってしまったのだ。

 

 再び桂は少年に手を伸ばす。ビクりとした少年を見て一瞬手を止めたが、少年の頭に優しく撫でた。

 

「ありがとう」

 

 手紙を大事にしまって、今度こそ歩き出す。

 

 桂はもう焦ることはなかった。手紙にサクラの字で『待ってて』と書いていたのだから――。

 

 桂にはサクラがどこに居るかはわからない。が、『待ってて』と言ってるのだ。つまり必ず桂の前に戻ってくる。それだけ十分だった。

 

 しかし、桂は知らない。この手紙は白蘭によって崩壊した未来から送られたもので、その未来ではサクラが死んでいることを……。

 

 これは姿を消したサクラが約束した月に一度の手紙で書いたものだった。桂に向けて出せなかった時のものをディーノが捨てず残していたのだ。もちろん残っていたのは運もあっただろうが、ディーノがサクラのために大事に保管していなければ、とっくの前に消失していたものだろう。

 

 崩壊した未来の正一は桂の危険性を身をもって知っていた。過去の自身をつかって、ツナ達に10年バズーカを当てた新たな未来を作ると決めた時、正一は桂の存在に悩んだ。

 

 10年前の桂ならば、ツナ達の味方だろう。サクラは入れ替わって元気になり、未来の自身が解放すれば人質ではなくなるのだから。

 

 だが、白蘭は桂を壊す方法を知っている。

 

 新たな未来の桂も壊されてる可能性が高いが、たとえ入れ替えたとしても同じことを繰り返すだけなのだ。それならば新たな未来の自身の作るだろう装置の負担を減らすことにした。もっとも、手紙が見つからなければ、計画に支障をきたす可能性が高いので未来にさっさと送っていただろうが。

 

「サークーラー!」

 

 こっそり渡してきたことを思い、探すフリを続けることにした桂はこのことに気付くことはなかった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 ブルっときた。

 

「……こっち」

「本当に大丈夫なのか……?」

 

 γの呟きはスルーする。ディーノがフォローしているし大丈夫だろう。私はそれどころではないのだ。何度も悪夢を見たせいか、分かれ道などを選択するときに1つ以外の道は悪寒が走るのだ。夢の内容を書いたノートを持ってきたが、身体で覚えているようだ。……多分。

 

 だがまぁ、大丈夫だろう。実際に私達が突入した時点でメインルートの封鎖が始まっていたが、まだ誰とも会っていない。

 

 もっとも封鎖が始まったのがジンジャー・ブレッドが報告したなのか、交渉によって見逃されて警備システムが破壊されたことで気付かれたのかはわからないが。やはり電波が悪すぎる。連絡を取りたいものである。

 

「こちら、サクラ。予定通り進行中」

『…………』

 

 返事がないと妙に恥ずかしい気がするのは気のせいだろうか。

 

「全然使えねーな!」

 

 相変わらず思ったことをはっきり言う男である。しょうがないので、野猿に説明する。

 

「使えないように見えて、ボンゴレアジトには届いてる時があるんだ。そろそろ沢田綱吉がやられるはずだから、こっちの情報だけでも教えたほうがいいと思うしな」

「……今、変な言葉が聞こえたのは気のせいか……?」

「ん? ボンゴレアジトに届いてることか?」

「そっちじゃねぇ!」

 

 なぜかディーノとγからのダブルツッコミがやってきた。不思議である。

 

「ツナがやられるってどういうことだ!?」

「教えたら君達は止めるだろ?」

 

 ガクッとディーノは項垂れた。お疲れである。

 

「オレ達がボンゴレと組んでるのは利害が一致してるからってわかってるのか?」

 

 γの言葉を聞いてディーノは私を守るように移動した。忙しそうである。

 

「これも予定通り。もう1人、仲間に引き入れる」

「……相手は誰だ?」

「心配しなくても幻騎士のような裏切り者じゃない」

 

 考え込んでるγにもう少し教えることにしよう。変な気をおこしても困る。それにディーノが私を守りながらも沢田綱吉の心配をしてそうだしな。

 

「彼を仲間に引き入れなければ、この戦いは負ける。だから沢田綱吉を行かせたんだ」

「はぁー……ったく、わーったよ。お前がそこまで言うんだ。ツナじゃねーといけねぇんだな」

 

 警戒しながらも納得するとは器用なものだ。問題のγ達はどうだろうか。

 

「……こっちでいいのか?」

「ん」

 

 γ達が歩き出したので、ディーノと目が合い、私は笑ったのだった。

 

 

 再び歩き出した私達だったが、γ達が前に出たことによりディーノが1番後ろで警戒する形になった。当然、私はど真ん中である。

 

 そのため私の異変に誰よりも先に気付いたのはディーノだった。

 

「γ、ちょっと待て!」

「……違う! 走れ!!!」

 

 私の震え方が尋常じゃないことに察し、ディーノがγを呼び止めようとしたが、間違いである。今すぐこの場所から離れなければならない。

 

 この中で1番走るのが遅いのは私だ。つまり最後尾にいるディーノも、このスピードに付き合うことになり遅くなる。このままではまずい。

 

 同じようなことを思ったのか、ディーノが謝りながら私を抱き上げた。慣れたものである。……横抱きというのは勘弁してほしかったが。

 

 ゴゴゴという音が聞こえ始めると、床が動き出した。あまりにも揺れがすごく、飛んでいきそうだ。慌ててディーノにしがみつく。

 

「兄貴!」

 

 太猿と野猿の声が聞こえ、その後すぐにディーノが「あいつら……」と言った。しがみつくことに必死な私は、揺れが収まるまで何が起きてるのかわからなかった。

 




ちょっと三人称が多くなります。


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分断 2

 揺れが止まった。思ったより時間が短かったな。

 

「……もう大丈夫だ」

 

 ディーノの声に我に返り、距離をとる。といっても、抱きかかえられている状況なので、ほんの少ししか離れることが出来ないが。

 

「わ、悪い……」

 

 とりあえず、しがみついたことを謝る。緊急事態なので謝らなくてもいい気もするが、あれは抱きついたといってもいい。恥ずかしい気持ちを抑えるためにも謝ったほうが精神的に楽なのだ。

 

 しかしそんな私の焦りに気付かず、ディーノは顔を覗き込んできた。ち、近い……。

 

「怪我はないか?」

「……ぁ……ぅ……」

 

 なんだ、その中途半端な返事は!!と心の中で自身でツッコミをしているが、そろそろ限界だ。緊張しすぎで涙が出そうである。

 

「パフォ!」

「ぅぐっ!?」

 

 どこから湧いてきたとツッコミしたいが、フミ子の体重全てが鳩尾にクリーンヒットしたのでそれどころではない。ディーノは慌てておろし、咳き込む私の背を撫でてくれた。

 

 私は咳き込みながら、フミ子を見る。ディーノが匣から出した素振りは一切なかった。炎を全て使わず残していたと結論する。なんて自由気ままな匣兵器なのだ。全く、主は誰だ。まぁ心配しているようなので怒りはしないが。……べ、別に身内びいきではないぞ。

 

「もう、大丈夫」

 

 いろいろ、と。そう心の中で付け加えながら、ディーノを見る。……うん、大丈夫だ。おっふと言わなくて正解だったと思えるぐらい大丈夫だ。

 

「γ達は?」

 

 やっと周りを確認できた私はγ達がいないことに気付く。そういえば、何か叫んでいたな。ディーノに説明してもらえば、γ達と分断されたらしい。正しくは野猿と太猿が分断されたそうだったので、γが無理に彼らの方へ行ったらしい。全く、無茶をする。どうせ無茶をするなら、彼らをこっちに引っ張ればいいものの……。と、思うものの何も出来なかった私が口に出せるはずもなかった。とりあえず、健闘を祈る。

 

 改めて周りを確認すると、違和感があった。部屋と部屋との継ぎ目に段差があるのだ。匣兵器としての役割があるこの基地では、全ての部屋が立方体に作られている。段差が出来るはずがないのだ。

 

 さらに私達の前には扉が2種類ある。入江正一が、選択する道など用意するだろうか。

 

「妙だな」

 

 ディーノも同じことを思ったらしい。壁を触って確かめていた。その隣でフミ子も触っていたので、つい和んでしまった。

 

「パフォ」

「これは……!」

 

 ディーノが驚いているので近づく。いったい何があったのだろうか。

 

「バラ?」

 

 バラにしか見えないのに、思わず確認してしまった。壁の隙間からバラの花が咲いていたのだ。驚くしかない。

 

「この隙間にカビが生えていたんだよな?」

「ん。晴の活性でそれを利用して動く仕掛けだったはず」

 

 しかし実際にはカビではなく、バラが咲いていた。

 

「……桂の仕業だ。バラの花が咲いたのは今フミ子が炎を流したからだ。桂はこの基地の仕組みに気付いて、罠をはっていた。それでも基地が動いてしまったのは、成長するのに時間がかかったからだ。お前はそれをオレ達に教えたかったんだろ?」

 

 フミ子が頷いた。

 

 兄は思ったのだろう。この匣兵器を使うのは緊急事態だ。例えば、私達が乗り込んだ時とか。

 

「入江正一は焦ってるだろうな」

 

 心の中で合掌する。……後で、胃薬をあげよう。Drシャマルが用意してくれた物だから、少し良くなるはず。

 

「だろうな。まっ、オレ達も困っちまったけどな」

 

 それもそうだろう。移動させられる予定で行動していたのだ。他人事ではない。

 

 先程までのように動くべきだろうか。しかし安全な方ばかり進み、目的地にたどり着かないのも困る。せめて現在地がわかればいいのだが。……いや、まてよ。

 

「ディーノ、私の感覚では移動した時間が短い気がする」

「それであってると思うぜ。オレには基準がわからないから確信を持って言えねーが、桂のせいであまり動かせなかったのは間違いないだろう。床がずれてるのがその証拠だと思うぜ?」

 

 その言葉を信じて地図を見る。そしてディーノに質問する。この部屋の前後はどのように動いたのか、を。

 

 もちろんそれだけでは情報が足りない。

 

 先程の部屋でいた私の恐怖。恐らくあの場所のままだと、もっとも会いたくない相手と遭遇することになったのだろう。この基地でもっとも会いたくないのは、幻騎士――。

 

 しかし幻騎士は山本武と戦うはずだ。知識で戦っていた。γが味方になった時点でそれはズレているかもしれないが、私が入江正一なら幻騎士とぶつけるだろう。2人は剣士なのだから。つまり幻騎士は山本武と戦うはずだった場所に移動している途中だったと考えるべきだ。

 

 2人がぶつかり戦ったであろう場所は、わかる。雲雀恭弥と幻騎士が戦った場所と同じなのだ。研究所は移動していないので、知識と照らし合わせれば割り出せる。

 

 他にも細かなヒントを見逃すな。知識では入江正一が匣兵器を起動すると決めたのは、獄寺隼人達が研究所に目前だったからだ。

 

 逆算だ。逆算して、全ての条件を当てはめろ。

 

「お前……」

 

 無数の選択の中では最短の道を探せ。入江正一の頭の良さを信じろ。

 

 難しく考えるな。ただの変則立体パズルだ。

 

 周りに空洞がなければ移動が出来ないんだ。大きく考えすぎるな。コンパクトにそして全体を見るんだ。

 

 違う。これをこっちに移動すれば行き詰る。

 

 落ち着け。ミルフィオーレの立場に居る入江正一の気持ちになれ。優先順位は研究所の安全だ。

 

 考えろ、考えろ、私には知識があるんだ……!

 

「っ! ディーノ、わかったぞ!!」

 

 まるでピースが当てはまったように理解し、喜びが爆発した。もちろん、全てがわかったわけじゃない。だが、おおよそだが今どこに自身がいるのか、この部屋の近くには何の部屋があるのか理解できた。完璧に理解するには歩いて部屋を確認していくしかないだろう。それでも入江正一が動かそうとしたルートがわかったのだ。これはディーノに報告するしかないじゃないか!

 

「ディーノ?」

 

 首をひねる。ディーノは私と違い、何か不安そうに見える。

 

「……1人で行くな、頼むから――」

「一緒に行くに決まってるだろ。私が1人で行くと思ってるのか?」

 

 全くディーノは何を考えてるのだろうか。思わずさえぎって言ってしまったじゃないか。まさか私が敵陣に1人で向かっていくと思ってるのか。そんな危ないことはしないぞ。

 

 ……いや、その、数週間前のことは忘れたわけじゃないぞ。反省している。……ごめんなさい。

 

 急にオドオドしだした私を見て、ディーノが笑った。失礼である。まぁ謝りながら頭を撫でたので許してあげよう。私は心が広いのだ。

 

「それで何がわかったんだ?」

「そうだ! ディーノ、聞いてくれ!」

「わかった。わかった。だから落ち着け、なっ?」

 

 なだめられたが、再び喜びを爆発させた私にはきかず、興奮しながらディーノに説明したのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

「どうなってる!?」

 

 自身の思ったとおりに基地を動かせなくなった正一は、原因を探っていた。

 

「ダメです!! 無数の枝が頑丈に絡まりブロックの移動ができません!!」

「なんだって!? 枝……、桂の仕業か!?」

「恐らく」

「くそっ! いくら白蘭サンのお気に入りでも野放しにしておくべきじゃなかった!」

 

 正一は苛立っていた。演技ではなく本当に。本来の目的はこの戦いで彼らを鍛えること。正一はこの戦いで死んでしまった場合はしょうがないと割り切っているが、救える命は救うつもりだ。その手段として用意していたのが正一の匣兵器だった。

 

 それが本来なら味方のはずの桂に妨害された。

 

 桂は正一が味方と知らなかったので、その行動を責めるのは無理がある。だが、苛立つのは苛立つのだ。

 

 それでもまだ正一は冷静だった。すぐにまだ使える機能を調べ始めた。

 

「やるしかない……」

 

 限られた機能で正一の戦いが始まる。

 

 表向きの優先順位はボンゴレの排除と研究所の安全。しかし本来の優先は彼らを鍛え、研究所というゴールに向かってもらうこと。しかしそれを成功させるためには幻騎士を倒さなければならない。他のミルフィオーレは正一でも何とかなるだろう。だが幻騎士がいれば、たとえツナ達がゴールに辿りついたとしても助からない。それほど力に差がある。

 

「幻騎士に繋げてくれ! 今の揺れですぐに気付くはずだ! 研究所までの最短ルートを伝える!」

 

 まずは1人になった山本が戦う予定だったが、それは出来なくなった。2つに分断してしまった彼らのどちらに幻騎士を向かわせるかは、正一の判断に委ねられた。

 

 

 

 

 

 一方、スパナに捕まっているツナは少し前まで落ち込んでいた。

 

 サクラに全力を出せとアドバイスをもらっていたのに、負けてしまったのだ。もっと死ぬ気になれば勝てたんじゃないかという気持ちが大きく、後悔する気持ちを抑えられなかった。

 

 それでもスキを見て逃げ出そうとしたり、次は負けないと思えるようになったのはツナが強くなったからだろう。リボーンと出会う前のツナだったら、どうせオレはダメツナだしと諦めてしまっていたのだから。

 

「(みんな、大丈夫かな……)」

 

 獄寺達と一緒に行動していた時はサクラの話通りだった。自身の失敗さえなければ、上手くいったのではないかという後悔が再びツナを襲う。が、すぐにその気持ちを押さえ込む。先ほどの地震――正一の匣兵器を使った後はサクラにも予測が難しいと言っていたのだ。その匣兵器を使われた今、落ち込んでいるヒマはなくなったのだ。

 

 スパナの様子を見つつ、ツナは死ぬ気丸を探す。正一の匣兵器の影響でドラム缶が倒れ、どこにあるかわからなくなってしまったのだ。幸いにもグローブは近くにあったが、死ぬ気丸はどこかに転がってしまった。

 

 手錠からのびている鎖の音を立てないように立ち上がり、ゆっくり移動しながら探す。その甲斐があって、死角になっていた場所で見つかる。喜んで手を伸ばした時に――。

 

「ボンゴレ」

 

 ――話しかけられた。

 

 ビクリと身体が跳ね、恐る恐る振り返る。ばっちりと見られてしまったらしく、ツナは絶対絶命のピンチだった。

 

 数秒、見つめ合う。先に視線を逸らしたのはツナだ。正しくはツナが先に他の人の気配を感じ、振り向いたからだった。

 




没ルート。
主人公はディーノさんと分断され、γ達と行動。
そのルートで半分ほど書いたけど、気に入らなくて全部消した。
ディーノさんが心配でうろたえる主人公は可愛かったんですけどねww


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幻騎士

 ツナは現れた人物を見て、ホッと息を吐いた。それは相手も同じだったようで、ツナ達の顔を見ると警戒を解いた。

 

「……なるほどな。必要なピースはお前だったのか」

 

 同じジッリョネロファミリーの自身が声をかけたとしても、スパナは動かなかっただろう。サクラがツナに任せたのも頷けた。

 

「え? 必要なピース?」

「この戦いでこいつを味方につけねぇと負けるって言ったんだよ。アイツが」

 

 アイツと言われ、ツナはすぐにサクラを思い浮かべた。

 

「ツナがここに来ることになるのも知っていたのか」

「ええー!!」

 

 リボーンの言葉にツナは声をあげる。先程はそうだったんだと納得しただけで、そのことまで気付いてなかったのだ。そしてあまりにも驚きすぎて、この場に居るはずもないリボーンと会話していることにも気付かない。

 

「騒ぐな」

「ひぃ!」

 

 再びスパナに銃を向けられ、ツナは怯える。そしてその様子を見てゲタゲタと野猿が笑い出し、太猿に大声を出すなと怒られていた。

 

 少し前と違い、温かい雰囲気が流れている。

 

 改めてツナは実感する。サクラの言うとおりγ達を仲間にして正解だった、と。彼らはボンゴレ狩りを実行し、京子達にも手を出した。しかしそれは理由があったからだ。本来の彼らの性質は今のような温かいものなのだ。

 

 サクラのおかげで気付けたとツナは思っているが、そのことをサクラが知ればそれは違うと断言する。サクラは知識があるからγ達を信用できた。それでもツナが居なければ味方にしようと考えなかっただろう。1度敵対した相手でも包み込むことができる大空のツナがいるから、サクラは安心して動けるのだ。

 

 この温かい雰囲気が流れるのはツナが居て、初めて成り立つものである。新参者のγ達ですら気付き始めているにも関わらず、本人は全くわかっていなかった。

 

 

 

 

 

 二手に分断されてしまい、山本とラルは話し合っていた。作戦通りに白い装置を目指すのは当然だが、サクラの話では未来が読めなくても幻騎士との戦いは避けられないと言っていたのだ。無鉄砲に飛び出すわけにいかない。さらに彼らはサクラ達と違い、研究所が近かったため、真っ先に動かされ床のズレが起こらなかった。正一の思惑通りに動かされたと思ってしまい、慎重に動く道しか残されていなかった。

 

「作戦を優先する。どちらかが研究所に辿りつけばいい」

「そこはみんな一緒なのな。オレ達は誰かを犠牲にして進むつもりはないぜ」

 

 普段は天然の山本だが、ラルの言葉の意味を理解し反論した。それにサクラの話だと、幻騎士は10年後の雲雀より強いだろうと言ったのだ。1人も見逃すとは思えない。

 

「1人で勝てねーなら、みんなで勝つんだ。野球と一緒でチームプレイだぜ」

 

 笑いながら話す山本をラルは観察する。

 

 山本は修行の試験に合格した後、リボーンから告げられていたのだ。幻騎士には勝てない、と。もちろんそれをリボーンに教えたのはサクラである。そして、伝えるかの判断をリボーンに任せていたのだ。

 

 基地に乗り込む前日に教えれば、士気が下がるのも理解している。強さを数値化しても伸び盛りなツナ達には関係ないというのもリボーンは理解していた。それでも伝えたのだ。

 

 このままでは本当に勝てる見込みはゼロだと判断して――。

 

 リボーンには剣士の世界がわからない。そのため精神や身体を鍛えることは出来るが、剣士として育てることは出来ない。手は全て打っておくべきなのだ。

 

「どれだけつえーのか、楽しみだな!」

「気を抜くな。行くぞ」

 

 リボーンから話を聞いていたラルだったが、前向きな山本を見て大丈夫そうだと判断し歩みを進めたのだった。

 

 

 そして2人は再び入江の研究所の近くまでやってきた。あっさりと来れたのは、サクラから1度目の地震では入江の研究所の移動はないと聞いていたからだ。さらに入江の匣兵器を知っていたため、感覚でどの方向に移動させられたのか覚えていたのだ。

 

 余談だが、2人が気付いたということは、ディーノも当然移動されたおおよその位置もわかっていた。しかしそれでも困ったと思ったのは、完璧に移動が終わらなかったからである。ディーノ達がいるところは中途半端に移動しているので、進んだとしても行き止まりにあう可能性が高い。壁が壊れるならいいが、耐炎性の壁だと無理に突破出来ない。尚且つ、サクラがいるのだ。派手な行動をし、敵に気付かれたくないのもあった。もしサクラがルートを理解出来なければ、いったいどうなっていたのか。地図が必要といった言葉が頭をよぎるなというのは無理な話である。

 

 その点、山本達は多少派手な行動をしても問題はなく、場慣れしているラルが先行し見に行くことも出来た。敵と出会わなかったのもあるが、サクラ達ではこうもうまくいかなかっただろう。

 

 ここまで順調に進んでいた山本達だったが、とある部屋の前で足を止まる。濃厚な殺気が漂っていたのだ。

 

 2人は顔を見合わせ、いつでも逃げれるように警戒しながら部屋を覗く。

 

「!?」

 

 飛び出したのは同時だった。互いに出し惜しみもせず、仕掛ける。

 

 ラルが霧ガントレットを使い、6本の炎の弾を撃つ。雲蜈蚣を使わなかったのは相手が手足れで、避けられる可能性も考え追尾機能のある方を選んだからだ。もちろんラルはこれが決定打になるとは思っていない。かすり傷を負わせれば十分だろうと判断している。ラルがこの技を使ったのは防御しなければならないからだ。炎を出すにしても、剣で斬るにしても僅かだが必ずスキが生まれる。もちろん幻騎士の足元近くにいる者に被害を出すようなヘマをラルはしない。

 

 次に繋ぐ。

 

 ラルは自身の戦い方を熟知している。自身が強力な一撃を放つよりサポートに回る方が勝機を見出せ、必ず山本が敵に突っ込むと判断したからだ。たった一瞬で、だ。

 

 このラルによる判断力の高さのおかげで、山本は何もためらいなく相手の懐に潜ることが出来た。

 

 鮫衝撃――。

 

 山本はスクアーロの技を使った。時雨蒼燕流を使わなかったのは、スクアーロの言葉が浮かんだのも選んだ理由の1つだ。突っ込みながら相手が恐いと感じていたが、是が非でも勝たなければならないと思ったのだ。幻騎士の足元近くには仲間の獄寺が倒れているのだから。

 

 剣が交わる音が響く。

 

 獄寺に止めを刺すために近づいていたため、幻騎士は本物だった。雨の炎による沈静と技の効果によるマヒにより動きが鈍くなった幻騎士を、山本は斬り飛ばすことにした。このまま戦闘すれば、仲間に被害が及ぶ。

 

 山本の攻撃の効果と自らの状況を察知したのか、咄嗟に幻騎士は剣を手放し、器用に足で掴み投げる。あっさりと山本に防がれていたが、沈静の効果で動きが鈍った攻撃が有効打になるとは幻騎士も考えておらず、距離を取ることを目的としていた。その結果、次に山本が仕掛けるにしても再び突っ込まなければならない位置まで下がった。

 

 山本は追撃は出来なかったものの、獄寺を救うという本来の目的は果たすことができ、図らずも距離をとることが出来たのだ。その距離をいかせる技の燕特攻を放つ。

 

 そして、山本が作ったスキをラルが見逃すわけもなく、距離をとった幻騎士に雲蜈蚣を使い、逃がさぬよう動きを封じる。

 

 コンビネーションは最高だった。やはりラルのサポートが良く、山本がのびのびと動けたのだ。地味にサクラが個別に特訓する助言をしなかったので、ラルが山本の動きを良く知っていたのが効いていた。

 

 何より、相手が強敵というのも大きい。本来の力より発揮することが出来た。

 

 

 

 

 が、1つの判断ミスをしていた。

 

 山本の初手は鮫衝撃ではなく、時雨蒼燕流・十の型、燕特攻を使うべきだのだ。

 

 あの時、仲間の危機に雨燕を出す時間が惜しかったのもあるが、燕特攻の技の性質上、幻騎士の足元近くに居た、獄寺を巻き添えにしてしまうため出せなかったのが一番の原因だろう。

 

 結果、山本の技は外れた。

 

 厳密に言えば少し違う。雲蜈蚣に捕まえられていた幻騎士は本物ではなかったため、当たるはずもなかったのだ。

 

 山本達は驚き、目を見開いた。

 

 入れ替わったタイミングは予想できる。雲蜈蚣が転がってるところから見て、捕まえていた時点で幻覚だったのだろう。そして、鮫衝撃の攻撃は山本の感覚では本物だった。つまり後ろに回避した時に幻術で偽物と入れ替わったことがわかる。問題はいつ入れ替わったか、気付かなかったことだ。

 

 ラルのゴーグルでも炎の気配を察知することが出来なかった。機器を騙すほどの腕だということだ。つまり幻騎士の幻術を見破るすべを山本達は持ち合わせていない。

 

 ここで経験の差が浮き彫りになる。ラルは雲蜈蚣でシールドをはることが出来た。対して山本は必ず決まるという油断が僅かにうまれてしまった。

 

 ――爆音が鳴る。

 

 幻騎士の幻海牛。

 

 シールドをはったラルはなんとか防ぐことが出来た。山本はというと……。

 

「油断するんじゃねぇ……。野球バカ」

 

 獄寺のSISTEMA C.A.I.のおかげで危機を回避することが出来た。獄寺は山本達が来る前に幻海牛を見ていたのである。なぜなら獄寺は至近距離で戦うことを避けたため、幻騎士が使っていたのだ。

 

 

 

 少し時間をさかのぼる。

 

 サクラの予想と違い、入江が先に幻騎士と遭遇させたのは獄寺達だった。なぜ彼らを選んだかというと、獄寺達の方が研究所に近かったからに尽きる。

 

 入江も獄寺達より剣士の山本に幻騎士をぶつけたいと思っていた。しかし中途半端に移動したせいで、このままでは経験を積まずに研究所にたどり着いてしまう。元々獄寺達には別の相手をぶつけようとしていたが、それが叶わなくなったのもある。その知識がサクラにはなかったので、予想が外れたのだ。

 

 恐らくサクラがこれを知っていれば、心の中で兄に対して文句を言い続けていただろう。もっとも、桂がもし怒られたとしても『それは、悪いことをしたね』とサクラの前で言っただろう?と開き直っていただろうが。

 

 そんな経緯もあり、獄寺達は幻騎士と遭遇したのである。

 

 前衛は了平、後衛に獄寺という形が自然と決まった。

 

 以前誰とも組めなかったことで戦闘に参加出来なかったことがあったため、意外にも共闘することに獄寺の抵抗がなかったのだ。作戦会議でサクラが幻騎士を警戒し続けていたのもあっただろうが。

 

 ――戦いはすぐに苛烈になった。

 

 了平はたとえ相手が剣の武器だとしても、高速治癒をフル活用し果敢に拳で攻め、獄寺も幻騎士の死角に周り多彩な技を繰り出したのだ。超攻撃タイプの2人が揃えば、苛烈にならないわけがない。

 

 リングに差がある了平が幻騎士と渡り合えたのは、治癒の力があったのも大きいが、大技に頼らず細かく攻撃をし続けたからだ。もしここで大技を使えば、一瞬で幻騎士にやられていただろう。もちろんジワジワと削られていくことになるが、その分獄寺が生きる。SISTEMA C.A.I.は防御も出来るが、まともに剣士と戦うには相性が悪いのだ。了平が居なければ、恐らくすぐに決着がついていた。

 

 そのことを理解していた了平が、幻騎士に幻術を作る時間を与えるはずもない。

 

 体術に自身がある幻騎士でも、鍛えた肉体に自信があり、尚且つ怪我を省みずに着実に攻め続けることを覚悟した相手をすぐに倒せはしない。

 

 そして獄寺の存在だ。霧の炎は硬度が低い。5つ波動を操る相手の技を片手間で防ぐのは困難だ。了平にぶつけ自滅してくれれば楽だったのだが、獄寺の攻撃は計算されている。当たるはずもない。もっとも了平の動きを計算できる獄寺だからこそ上手くいったのだろうが。

 

 そこで幻騎士は幻海牛の匣を使ったのだ。幻術で隠すことは出来なかったが、獄寺の攻撃回数を減らす効果はある。

 

 この勝負は時間との戦いだった。了平が倒れるまでに決着をつければ、獄寺達の勝利である。

 

 そして僅かな差で獄寺達は負けたのだった。

 

 

 

 

 獄寺達は負けてしまったが、山本の危機を救えたのは匣兵器の存在を知るまで追い詰めたからだ。そして獄寺が怪我を負いながらも再び起き上がることが出来たのは、ほとんどの時間を了平が幻騎士を引き受けたからだろう。

 

 といっても、状況は悪い。

 

 幻騎士を倒すには幻術をどうにしかしなければならない。そしてそれを防ぐ手段はないといっていい。怪我を省みず鍛え抜かれた肉体で戦える了平や、10年後の雲雀のような処理できなくなるほどの技術・強さに、まだ山本は達していない。戦い続ければその領域に辿りつくポテンシャルがあるが、獄寺達との戦いで幻騎士は幼いといって侮ったりはしない。ラルの呪いが影響なく、獄寺も元気ならば可能性はあったかもしれないが。

 

 原作より命の危機が迫っていた。

 

 たった一人の男の存在で勝機が見えない。敵ながらあっぱれである。

 

 そんな圧倒的不利な状況の中、場違いな獣の鳴き声が聞こえ始める。互いに警戒を怠らず、発信源に目を向ける。

 

 カンガルーの中からそれは現れた。

 

「瓜……なのか?」

 

 ボロボロになった獄寺を守るように現れた一体の豹。

 

 了平がリングの差で倒しきれない可能性を考え、漢我流で瓜を成長させていたのだ。

 

 幻騎士にむかって唸り声をあげる瓜。山本達はほんの僅かに見えた勝機にかけたのだった。

 




今の私の腕で書いた精一杯の戦闘描写でした。


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止められない

 私の誘導でディーノと行動していると、沢田綱吉と合流しないのかと聞いてきた。やはり心配なのだろう。しかし、それはきっぱりと拒否する。

 

「下手に近づきたくない。彼がX BURNERを完成させた時、近くにある部屋を4つほどぶっ飛ばすからな」

「……そうか」

 

 ディーノも納得したようだ。会いに行って巻き添えを食らえば本末転倒だからな。

 

「私はγ達と合流したいな」

 

 移動しながら部屋を確認しているので、入江正一が動かした配置が完璧に判明しつつある。が、それでも難しいだろう。

 

「あいつらも移動してるだろうからなー」

 

 そうなのだ。いくら部屋の配置がわかっても、γ達の移動までを予測するのは出来ない。ルートが複数もなければ合流することも可能だっただろうが。

 

「幻騎士の部屋に向かってもいいが、彼らがたどり着くかは別だしな」

 

 γは知識と違い、幻騎士から匣兵器を返してもらってはいない。これからの戦いにγは必要と思ってるはずだろう。正直、私はあっても戦力面では対して変わらないと思っているが。

 

 もっとも、持っておきたい気持ちはわかる。

 

 その気持ちがわかったからこそ、基地に1度戻るγにアドバイスをしたのだ。入江正一がメローネ基地の指揮を取ると宣言したときに、反対せず姫のためには何でもするという意思を示せば、幻騎士と接触すれば渡される可能性は高い、と。

 

 しかしそれは叶わなかった。γは実行したが、幻騎士と接触したが渡されることはなかったのだ。そのためγは私の指定した制限時間と天秤にかけ、諦めたのだった。正確には、私というより匣とユニを天秤にかけたのだろうが。

 

「行ってみるか?」

 

 γ達と合流できた方が、ディーノの負担が減る。会える可能性があるのなら行きたいが、時間は大丈夫だろうか。……特に恐怖を抱かないので、行っても問題ないようだ。ディーノの提案に私は頷いたのだった。

 

 しばらく進み、とある部屋に足を一歩踏み出した時に、私の身体に衝撃が走った。尻餅を付き、イテテテと思いながら顔をあげると血が落ちたのが見えた。

 

「ディーノ!?」

「来るな!!」

 

 駆け寄ろうとした私だったが、ディーノの気迫のこもった声にひるむ。

 

「甘い甘いバァ~~♪」

 

 この場の雰囲気に合わない声が聞こえ、私は発信源を探すために顔をあげた。

 

「……ジンジャー・ブレッド」

「予定とは違ったけど、まぁいいよね」

 

 ゾクリと恐怖が走る。頭の中ではなぜここにジンジャー・ブレッドがいるのかと考えているが、言葉を発することは出来なかった。

 

「さぁ僕の知りたい情報をはいてもらうよ」

 

 私を隠すように前に移動したディーノの傷を見て、心臓の音がうるさくなった。

 

 そんな中でもパチンという指を鳴らす音ははっきり聞こえた。

 

「いやああ!!!!」

 

 悲鳴のような声だったと思う。何か考えて発した言葉ではなかった。

 

 足に力が入らず、その場にへたりこむ。涙を流れるだけで何も考えれなくなった私を救ったのは、頬に触れた熱だった。

 

「――ぃ! おい! しっかりしろ!」

「…………ディーノ?」

「ああ! オレだ! わかるか?」

 

 焦点が定まらない私に何度も声をかけていたのかもしれない。視界に映ったディーノはどこか焦っていて、私が頷いたのを見てホッと息を吐いていたのだから。

 

「フッフフ♪」

 

 脅しだ。私がジンジャー・ブレッドの指を弾く行為の意味を知っていると確信してやったのだ。

 

「フミ子、動くな!」

 

 仕掛けようとしたフミ子を止める。私のために行動しようとしていたのに、きつい口調になってしまった。

 

 全て私のミスだ。

 

 私は見誤ったのだ。ジンジャー・ブレッド――復讐者がどれだけチェッカーフェイスに復讐したいと思っていたのかを。

 

 ジッと彼を見る。彼は私の心配しながら警戒を続けていた。私は白蘭を倒せば生き返ることを知っている。だけど今、彼を失うことが耐えられない。今ならわかる。10年後のディーノの気持ちが……。

 

 心が、折れる。

 

 彼がいなければ、彼が私の心を守ってくれなければ、兄を救う希望を持つことも出来なかった。それぐらい彼は私の中で大きな存在なのだ。彼が死んでしまえば、私は再び動けなくなる。

 

 ――違う。

 

 ただ。

 

 ただただ。

 

 好きなんだ――。

 

 どんな理屈を並べても、この感情には勝てない。話せば、未来が変わってしまうかもしれない。アルコバレーノ達を救うことが出来ないかもしれない。でも、ディーノには生きてほしい。

 

「話す! 話すから――」

 

 ビキッ、ピキッと壁が割れ始めたことに驚き、言葉が続かなくなる。そして、轟音と共に魔王が降臨した。

 

 彼のバックには増殖し大きくなったハリネズミがいて、魔王に相応しい派手な登場だとのんきに思ってしまった。

 

 その魔王はジッと私達の顔を見た後、ジンジャー・ブレッドに目を向けた。そして、ハリネズミをジンジャー・ブレッドにぶつけた。

 

「なんでだよ!?」

 

 思わずツッコミをしてしまい、ゆっくりと魔王がこっちに振り向く。ゴゴゴゴと効果音が聞こえそうなのは気のせいだろうか。だが、それでも言いたいことがある。

 

「一歩間違えば、ディーノが死んでいたんだぞ!?」

「っ!?」

 

 沢田綱吉達にはジンジャー・ブレッドの攻撃は食らうなというアドバイスしかしなかったので、そのことを知ったディーノは驚いていた。が、とりあえずスルーである。なぜなら完全に動かなくなってるからいいものの、もし操ってる人形が壊れていなければ、ディーノは助からなかっただろう。復讐者は闇の炎しか使えないので、人形がなければ成長させることは出来ないだろうからな。

 

「それが何? それまでの男だっただけの話だよ」

 

 口をパクパクするしかなかった。何を言っても、通じない気がする。魔王だからか!

 

「お前のアドバイスを聞いていたのに、攻撃を食らったオレが悪かったんだ」

 

 おかしい。私が変なのか。なぜディーノも魔王の味方をする。

 

「パフォ」

 

 ポンッと私をたたき、慰めるようとするフミ子を見て、私は思いっきり脱力したのだった。

 

 

 

 

 私が復活した頃には、雲雀恭弥は居なくなっていた。先に進んだのだろう。あまり時間がないからな。

 

 ディーノはというと、ジンジャー・ブレッドの形跡だったところから匣兵器を回収していた。炎切れするまでは使えなくても持っていた方がいいと判断したようだ。ディーノが気付かなければ、私もそうしていただろう。

 

「……赤くなっちまったな」

 

 戻ってきたディーノに言われ、首をひねる。

 

「すまん。オレのせいで……」

 

 ディーノの手が頬に触れ、泣いたことだと察した。しかし、ディーノに責任があるとは思えない。あの攻撃はランダムに増え続ける防ぎにくいはずだ。熱反応に気付いたラル・ミルチでさえ、カスっていたのだから。さらに狙いは私だった。感謝はしても、責めることはない。

 

「……怪我」

「ん? これぐらい問題ねーよ」

 

 まだジンジャー・ブレッドの匣が戻ってないので、フミ子で治療することが出来ない。もしかしたら大丈夫かもしれないが、怖いからな。

 

 咄嗟にリングの炎で防いだため、かすり傷程度で済んでよかったのか。それとも、私のせいでディーノが死ぬかもしれないところだったと考えた方がいいのか……。

 

「ディーノ……」

「どうした?」

 

 声が少し震えてしまったためか、ディーノが心配そうにしていた。

 

「ごめん。今回、わからなかった」

「なんだ、そんなことか。こういう時のためにオレがいるんだ」

 

 私の頭をガシガシと撫でながらディーノは言う。が、この道を進むことを決めた時に私は恐怖を感じなかったのだ。見過ごせる内容ではない。

 

「大丈夫だ。助かってる」

 

 されるがまま頭を撫でられながら思った。この戦いが終われば、ロマーリオに来てもらおう。白蘭は小休止といい、手を出さなくなるから問題ないはずだ。

 

 復讐者が自ら来ないのはジンジャー・ブレッドと繋がってるのを奥の手として残しておきたいからだろう。準備が整えれば、復讐者は来る。私のそばに居るのは危険すぎるのだ。

 

 彼に何かあると私は耐えれない。

 

「……ありがとう」

 

 珍しく素直に伝えることが出来れば、ディーノは驚き、そしてふわりと笑った。こういう顔を見れるから、苦しいのに止められない。

 

 どうか、どうか好きになったことだけは後悔させないでくれ、と心の中で祈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 相談した結果、私達は幻騎士の部屋を諦め、雲雀恭弥の後を追った。彼がこのアジトで暴れ始めたので、もう時間がないと判断したのだ。

 

 スクーデリアに乗ったのもあるが、雲雀恭弥が壁を壊していったので追跡が楽で、すぐに追いつくことが出来た。問題は部屋を見ても全く状況が読めないことだった。

 

 満身創痍。

 

 雲雀恭弥以外のボンゴレ勢にピッタリ当てはまる言葉だ。いや、彼女達は大丈夫そうだな。肩で息をしているだけのクロームを見ると、ボロボロの彼らと違い、少し遅れてやってきたのだろう。草壁哲也とランボは元気そうだしな。

 

 対して敵はというと、肩で息をしていたがまだ戦えそうである。

 

「総力戦になったのか?」

 

 入江正一もハラハラドキドキだろう。私もこの状況は予想外である。

 

 胃薬は絶対に渡そう。と頭の隅に思いながら、雲雀恭弥を見る。

 

「小さいな」

 

 思わずボソッと呟けば、睨まれた気がする。彼も年頃の男だったようだ。

 

 くだらないことは頭の隅に追いやり真面目に考える。10年後の雲雀恭弥が戦った時間はなかったと思う。私達はそれほど遅れてはいないはずだ。……珍しい。彼が時間配分を間違えるとは。いや、少し違うのか。ディーノを助けるために貴重な時間を割いたのかもしれない。

 

 入れ替わってしまったので真意を確かめることは出来ないが、私がすることは1つだろう。

 

「雲雀恭弥、足元に転がってる匣にリングの炎を突っ込んだ方がいいぞ」

「……へぇ。いい度胸だね。僕に命令するんだ」

「命令じゃなく、提案だろ。あーそうか、あの時は偶然で今は出来ないのか。悪い」

 

 激しく炎が吹き出た。わざと挑発したのだが、背中に嫌な汗が流れる。ディーノが後ろにいるので、やめてほしい。死にたくなる。

 

「雲の人、後ろ!」

 

 クロームの叫びで幻海牛を防ぐことが出来たようだ。知識通りに進むと思い黙っていたのだが、さらに私に向かっての殺気が増えた。

 

「提案も命令になるみたいだからな」

 

 再び挑発する。実はこの挑発する未来をみた気がするのだ。何が何でも匣をあけてもらうぞ。ディーノもそれをわかっているのだろう。特に止めはしない。まぁ雲雀恭弥が私に攻撃を仕掛ければ手を出すと思うが。

 

 結局、雲雀恭弥はムスっとした表情で匣に炎を突っ込んだ。それを見て、ディーノに小声で指示を出す。

 

「至急、草壁哲矢の方に集めてくれ」

 

 至急と言ったので、何も聞かずディーノは動き出した。ただ、私を降ろさずにディーノが降りるとは思わなかったが。おかげで慌てて手綱を握る。

 

 ど、どうすればいいのだ!?

 

 頼りない騎手にも関わらず、スクーデリアは草壁哲矢の方へ移動してくれた。頭のいい馬である。偉そうに私の前に座ってるだけのパンダと違うな。

 

「パフォ!?」

 

 どうやら心の声が駄々漏れだったようだ。ドンマイである。

 

「この後にいっぱい頼むことになるから、今は戻ってて」

 

 ショックを受けていたフミ子だったが、大人しく匣に戻っていった。やはり炎が残ってさえいれば、勝手に戻ったり出てきたりするのか。なんて自由気ままな匣兵器なのだ。誰かさんにそっくりである。

 

「始まったか」

 

 暴走である。……しまった。呟けば良かった。腕が落ちてしまったようだ。

 

 若干ショックを受けながら、やるべきことをする。基地を動かせない入江正一の代わりに、彼らを脱出不可能な部屋に連れていこう。

 



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影響

 目をあける。しばらくボーっとしていたが周りを見て、状況を把握する。悲鳴をあげなかったのは、気付薬を吸って起きたからだろう。

 

 私達は無傷で閉じ込められ、沢田綱吉達は入江正一と敵対しているところを見ると、全て上手く行ったのだろう。兄のせいで少し心配だったが、良かった。それに逃げ道がない場所に彼らを誘導したのはいいが、抵抗力が弱いせいか、睡眠薬を吸って真っ先に眠った気がするからな。こっちも少し心配だったのだ。まぁγ達がいないことは気になるが。

 

 入江正一の話を聞きながら、チラチラとディーノが私の様子を見ている気がする。誘導したことを疑ってるのではなく、私の顔色が悪いことを心配しているのだろう。自身でも血の気が引いていると思ってるからな。お人よしのディーノがこの状況で心配するのは当然である。

 

 私はちょうどいいのでこの状況を利用することにした。ディーノは私が自身のせいでこの状況に追い詰められてしまったとショックを受けてるように見えているはずだ。そして、私の顔色が悪かったのは演技だったと勘違いするだろう。

 

 しばらくすると、ディーノが私の顔をはっきりと見た。私に何を聞きたいのかわかった気がしたので、頷く。リボーン達は人柱という話は本当だから。

 

 私でもディーノの手がギリっと力強く握られているのがわかった。赤ん坊ということに不思議は思ってても人柱までと考えてなかった自身に苛立ったのか、話してくれるまでには信頼が足らないことに悔しく思ったのか、はたまた私が思いつかないようなことを考えてるのかもしれない。

 

 何にせよ、ディーノが大事に思ってる――尊敬している師を救えない可能性を作ってる原因の私は、相応しくないのだな、と思ってしまった。

 

 決して叶う恋ではないと思いたいのかもしれない。私の勘が、感覚が、先程の夢が現実になると訴えているから……。

 

「パフォ!」

 

 シリアス真っ只中であるはずの空間に、能天気そうな鳴き声が聞こえて現実に戻る。

 

 フミ子の近くでチェルベッロが眠っている。銃の音はなかった。

 

 入江正一の見せ場なので空気を読めとツッコミするべきなのか、それとも良くやったと褒めるべきなのか、なんとも微妙である。本人は褒めて褒めてと訴える目を向けるので、善意でやったのだろう。もしかすると、後でいっぱい頼むの内の1つがこれだと思ったのだろうか。私はみんなを回復してほしいという意味で言ったのだが。

 

 とりあえず、先に労う声をかけた方がいいだろう。

 

「……お疲れ」

「はは……。本当に桂さんは規格外だ……。でも、助かったよ……」

 

 膝が笑い始めた入江正一に、心底お疲れと思った。まさか炎を注入していないのに出てくるとは思わなかったのだろう。それに兄のせいで計画がかなり崩れているだろうから。

 

 グンっと肩を引かれ驚いていると、目の前にディーノがいた。

 

「説明、してくれ……」

 

 なぜだろう。妙に彼が疲れきっていた。

 

「入江正一は味方。成長おめでとう。次は本当の目的である白蘭を倒そう」

 

 簡潔にまとめれたことに自画自賛していると、ディーノの背後でワナワナと震えてる人物が多く見えるのは気のせいだろうか。

 

「殴るなら、あっちで」

 

 指をさせば、彼らは勢いよく振り返った。「ヒッ」という悲鳴は聞かなかったことにしたかったが、恩があるので助けることにする。

 

「10年後の沢田綱吉と雲雀恭弥も一緒に立てた計画だ。彼だけ責めるのは間違ってると思うぞ。そして多分、ディーノも関わってたと思う」

「僕は生きてることも知らなかったんだけどね。今なら雲雀君と繋がっていたと思えるよ」

「ディーノがこの時代に来るのは予定外だったんだろ? 装置の数は足りるのか?」

「大丈夫。来る可能性もあるって雲雀君から聞いていたから」

 

 10年後のディーノの気持ちがバレバレだったから、恐らくその可能性を考えたのだろう。それは正解だったのだが、妙に恥ずかしい気持ちになるのは気のせいだろうか。それに諦めようと考えていたのに、10年後のディーノを思い出すと可能性があると思ってしまう。……本当にこの気持ちは厄介だ。

 

「あ、あのさ……サクラはいつから知ってたの……?」

「君と友達になる前から?」

「そ、そうだったんだ……」

「まぁ私のせいでズレてる点が多いけどな」

「ご、ごめん!!!」

 

 この場合、なんと返事すればいいのだろうか。困って眉を寄せるしかなかった。

 

 私のせいで静まってしまったのでどうすればいいのか悩んでいると、リボーンが「正一、もうあいつらを外に出してもいいんじゃねーか」と言った。暴れだす空気ではなくなったのと、空気を戻すために言ったのだろう。入江正一もその意図に気付いて操作したのだった。

 

 装置から出れたので、身体を伸ばす。やはり閉じ込められていた感覚が強いのだろう。開放感がある。

 

 ふと視線を感じたので振り替える。雲雀恭弥にジッと見られていた。

 

「……なに?」

 

 返事はない。相変わらず扱いが酷い。まだ黙ってたことを怒ってるのだろうか。それとも挑発したことなのか。とにかく、無言でジッと見られるのは居心地が悪い。逃げたくなる。

 

 逃げると気付いたのか、近づいてきたので身構える。こういう時、ボクシングをしたことがないのに、つい構えてしまうのが不思議である。

 

「な、なんだ。私は手応えがない相手だぞ」

 

 威張っていうのもどうかと思うが、事実である。

 

「はぁ……」

 

 ちょっと待て。人の顔を見て溜息を吐くとはどういうことだ。失礼すぎる。いろいろツッコミたいが、興味がなくなり去って行ったので良しとする。触らぬ神(魔王)に祟りなしだ。

 

「恭弥はなんだったんだ?」

「さぁ?」

 

 返事をしながら、来るならもう少し早く来てくれてと思うのは私のワガママなのだろうか。まぁディーノは入江正一から匣を受け取り、フミ子を使ってみんなを治療をしていたので無理な注文だっただろうが。

 

「ちょっとγのこと聞いてくる」

「それなら聞いたぜ。ツナが知っていた。匣を探しに行ったみてーだ」

 

 沢田綱吉と会っていたのか。ついでにリングも探してるだろう。γにはそのリングは壊れると伝えているからな。

 

「あ、そういえば気になってたことがあったんだ。ちょっと行ってくる」

 

 大事なことを忘れていたので、入江正一に会いに行く。ディーノも着いてきたようだ。

 

「神崎さん。いろいろ助かったよ」

「ん。それより聞きたいことがある。彼らを送る時間はあってたのか?」

「え? そりゃ少しは誤差があったけど、大体あってるけど……」

 

 やはり変だな。といっても、考えてもよくわからないが。

 

「どうかしたのか?」

「10年後の雲雀恭弥に確認すれば今日と話していたが、本来の時間と違うんだ。5日ほどずれている」

 

 六道骸が兄にやられたことで、奇襲する日が早まったはずだった。が、雲雀恭弥は元々その日に乗り込む予定だったのだ。彼は沢田綱吉達を導き、白い装置に着いてから入れ替わる気だった。そして今から来るボンゴレリングを持った笹川了平のおかげで助かることになる。

 

 でも5日ほどずれているはずだ。

 

 入江正一が送る時間はあっていると言う。そこから逆算して計画を立てたのはこの時代の彼らはおかしいわけではない。問題は、修行の時間がこれだけで足りると判断した崩壊された未来の入江正一だ。フミ子の能力を知っていたのだろうか。だが、兄が敵になるかもしれないと思わなかったのだろうか。

 

 ……ふと思った。

 

 10年バズーカを使ったにも関わらず、ピッタリ移動できなかったはずだ。その時空のズレを計算して入江正一達は沢田綱吉達の来る時間がわかった。その計算式が知識と違っていたら……?

 

 まさか、私は時空のズレまで影響を与えているのか……?

 

「おい!?」

「…………悪い」

 

 思わず立っていられなく倒れそうだったところをディーノが支えたようだ。ディーノが慌ててフミ子を呼んでいるが、精神的なものなので効果がないと思う。ただそれを口にする気力もなかったので、されるがままになる。それにフミ子のおかげで眠るのもいいだろう。どう考えても話が大きすぎる。現実逃避したいのだ。

 

 それでも必要なことは伝えるが。

 

「無線でγ達にそろそろこっちに来いと伝えてくれ。ユニに会えなくなるといえば、とんで帰ってくるだろ」

「まさか……」

 

 そういえば、入江正一は白蘭がやりそうなことは想像ついていたんだったか。なら、安心して任せていいだろう。後は……これも必要か。

 

「逃げずにちゃんと白蘭のことを彼らに話せ」

 

 息を呑んだ入江正一を見ながら、私は眠りに落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 無事にイタリアの総力戦も勝ち、喜びも束の間に現れた――真6弔花。

 

 その中に見知った顔がいる。それだけでも動揺してしまうのだが、彼の目は何も映していない。何も見ていないわけではない。背筋が凍るような冷たい目をしていたのだ。

 

 ツナ達でもかなりの動揺が走ったのだ。身内のサクラが知れば、どれほどショックを受けるのか。

 

 眠ってて良かったと思う反面、夢で見ていたのではないかという心配が募るツナ達。

 

 10日後に行われるチョイス。

 

 たった1枚の紙がサクラと桂の命運を握ることにまだ彼らは気付いていない。

 




未来編(前編)完。

次の話から最終章、未来編(後編)に入ります。
一週間ほど休みますね。
更新ペースはゆっくりでしょう。

そしてキリがいいので、明日か明後日の活動報告にハルハルインタビューを載せます。
ではでは。


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最終章。未来編(後編)
準備


休ませてもらった間に、旅行や小話、短編の更新などで気分転換できました。
ありがとうございます。

ゆっくり更新になると思いますが、今日から再開しますね。
では、最終章です。


 1日ぐっすり休んだおかげで、体調が良くなった。フミ子の回復が効いたのかもしれない。今度からはちゃんと頼むことにしよう。もっとも、その今度があるのかはわからないが。

 

「サクラちゃんも一緒に行こうよ」

 

 ご飯を食べていると笹川京子に話しかけられた。全く話を聞いていなかったが、地上散策のことだろう。さっきまで私は部屋に籠っていたので声をかけたようだ。

 

「……行こうかな」

「本当ですか!?」

 

 彼女達は断ると思っていたのかもしれない。喜んでいた。

 

「でも、今すぐは無理だぞ」

 

 キョトンとした顔をする彼女達の横で、緊張が走った彼らの反応を見て笑いそうになった。

 

「安心しろ。悪いことじゃない。ただ、ご飯を大量に作ってから行かないといけないんだ」

「ご飯?」

 

 はてなマークを浮かべる彼らを見て、ついに私はガマンできずに吹き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……別に着いてくる必要はないぞ」

「そういうなって」

 

 バジルと無事に合流を果たし、地上散策に来たのだが、なぜか一緒にディーノがついてきた。ロマーリオも一緒である。変な時間に眠ってしまったため夜中に目を覚ました私は、ディーノに断りもせず勝手に連絡を取って呼んだのだ。ちょうど時差の関係でタイミングが良かったのもある。

 

 それにしてもロマーリオは元気だな。日本に来てすぐ動けるとは……私ならもう少しゆっくりしたい。

 

「なぁ。本当にお前は来ないのか?」

「当たり前だろ。君達に付き合う体力はない」

 

 本音である。鍛えるためとはいえ、雲雀恭弥と一緒に行動するのも嫌なのだ。だからロマーリオを呼ぶことに成功したのだ。建前で言っただけでは、恐らく彼らを説得することは出来なかっただろう。

 

 何度か繰り返したやりとりをしていると、家が見えた。地下からは入ったが、正面は見ていない。もちろん普段生活しているだろう場所にも入っていないため、少し緊張した。

 

「……あんまり変わってないな」

 

 外から見た感じは10年前と同じだった。意を決して家にあがる。

 

「…………」

 

 無言で進むしかなかった。上手く言葉にすることが出来ない。

 

 私の場合は彼女達とは違う。ほぼ10年前からこの家に私は帰っていないのだ。少し変わっていても10年前と似ていると思っていたのが間違っていたのだろう。

 

「大丈夫か……?」

 

 お人よしのディーノが思わず声をかけるのも当然だろう。

 

 この家は……もう何年前から誰も住んでいない。

 

 決して埃まみれというわけではない。掃除はしているのだろう。だが、生活をしている家ではなかった。

 

 よく考えればわかることだ。私が両親の立場ならここに住みたくはない。この土地で住んだ期間は短いが、私との思い出があるのだ。ここに住み続けるのは辛いだろう。

 

「ロマーリオ、2人は……元気だったか?」

「ああ」

 

 私のためにそう答えのだろうか。それとも本当に元気なのだろうか。知りたいが、それを聞く資格は私にはないと思った。もちろん泣く資格もない……。

 

「ん、大丈夫。また家族揃って住むことができる」

 

 覚悟は――出来た。

 

「行くぞ」

 

 家から出ようとしたが、ディーノが動く気配がしなかったため声をかけた。私の声にハッとしたのか、慌ててこっちに来る。

 

 ディーノらしくないので少し心配したのが間違いだったのか、ガシガシと頭を撫でられた。急に何をする。

 

「くっ……」

 

 ディーノを睨んでいれば、変な声が聞こえたので2人で顔を向ける。どうやらロマーリオの声だったようだ。しかし、なぜロマーリオは腰を曲げ、さらに口を手で抑えてまで笑いを堪えているのだろうか。

 

「どうしたのか? ロマーリオ」

「ボスはやっぱりボスだぜ」

 

 日本語が変だぞとツッコミしたいが、未だに肩を震わせてるロマーリオに言っても理解出来ないと思ったのでやめた。もうロマーリオのことはディーノに任せて私は沢田綱吉達との合流場所に向かおう。カギもディーノに投げればいいだろう。

 

「先に行ってるぞ」

「おい! ロマーリオ、笑ってないで行くぜ」

「ういっ!」

 

 ディーノがすぐに来たので後ろを振り返れば、ロマーリオが戸締りしているようだ。フォローが出来るぐらいに戻ったらしい。

 

「ったく、1人で行くなよ」

「平和だとわかってるからな」

「そうだとしてもだ。オレが恭弥の修行を見てる間は大人しくアジトに居ろよ?」

「大丈夫。ずっと引きこもるつもり」

「約束だぜ?」

「ん」

 

 会話をしていた私達は気付かなかった。カギを閉めたロマーリオが「将来が楽しみだ」と呟いていたことに――。

 

 

 

 

 

 久しぶりの教室である。もちろん沢田綱吉達と一緒だ。

 

 ちなみにディーノ達は雲雀恭弥のところへ向かった。別れ際に再び1人で行動するなと念を押され、心配性が悪化してると思ったのはヒミツである。声に出せば、話が長くなる気がしたのだ。

 

 席に座ると彼らのように叫びはしなかったが、素直に懐かしいと思えた。彼らが授業態度について話をしたくなるのも何となくわかる。それぐらい彼らと過ごす学校生活が日常だったのだ。

 

「……楽しかったな」

 

 ボソッと呟けば、一斉に振り向かれた。

 

「な、なんだ?」

「……ううん。オレも楽しかったなって思って!」

「だな! 楽しかったよな!」

 

 笑顔の彼らを見て、素直に頷くことが出来た。本当に楽しかった……。

 

「……そろそろ行くぞ」

「え? もう?」

「ランボがお漏らしして、君が大変な目にあってもいいなら座ってるけど?」

「んなっ!?」

 

 彼の反応を見て、私はまた吹き出したのだった。

 

 結局、私達はすぐに三浦ハルと合流した。やはりお漏らしは回避したいらしい。もっともよくわかってない笹川京子は着いてきただけだと思うが。

 

「え? 本当にいいの?」

「たまには、な」

 

 この時代にきて、ランボのトイレの世話ぐらいなら出来るようになった。正確にはランボが私のところにも来るので、覚えるしかなかったのだが。

 

 とにかく誰かが世話をしなければならないので、珍しく私が立候補したのだ。

 

「ありがとう。助かるよ」

「……気にするな」

 

 ランボを抱き上げ、トイレに向かったのだった。

 

 問題なく全てを済ませ、ランボの手を洗ってあげていると声をかけられた。

 

「ねぇねぇ、どうしたの?」

 

 最初は何を言ってるのかわからなかった。が、鏡に映った自身を見てランボが心配するのがわかった。コツンと優しくランボの額と自身の額をあわせる。

 

 なんて……私は情けない顔をしているのだろう。

 

「ごめんな、ランボ」

 

 本で読んだ通りだった。子どもは大人の気持ちに敏感だ。私にされるがまま、ランボが静かにしている。あのランボが、だ。

 

 額を離すときにはいつもと同じに戻ってる。だからもう少しだけこのままで……。

 

 

 

 

 夕方に入江正一達のところへ行けば、忙しそうだった。が、手は止めてもらう。何のために彼女達を送り届け、クロームとバジルを連れてきたのかわからなくなるからな。

 

「やぁ、差し入れは助かったよ。みんな揃って、どうしたんだい?」

「え? 正一君から大事な話があるって聞いていたんだけど……」

 

 沢田綱吉が確認するように私の顔を見たため、はっきりと「ウソ」と伝える。彼らが驚いたり、暴れたり、それを止めようとする反応に慣れてるため、私は気にせず話しかける。

 

「入江正一、私は伝えたはずだぞ。逃げずにちゃんと白蘭のことを彼らに話せ、と」

「……うん。そうだね。ごめん……」

 

 私達の会話で何かあるとわかったらしい。彼らは静かになった。

 

「謝らなくていい。今話さないと後悔すると思っただけだ」

「……ありがとう」

 

 礼を言われることでもない。入江正一が話せなくなるだろう原因は私にあるのだ。

 

 

 この後、彼らは入江正一の話を静かに聞いていた。

 

 話が大きいので、困惑する表情も時折見せた。が、話が終わる頃にはしっかりとした顔つきだった。恐らく入江正一の気持ちがわかったのだろう。どれだけの覚悟をしてこの戦いに挑もうとしているのかを……。

 

「話してくれて、ありがとう」

 

 沢田綱吉だけが言ったが、この場にいる誰もが思ったようだ。彼らの顔を見ればわかる。

 

 そして、そこに水を差すのが私である。

 

「君達はそこまで背負わなくていい」

「ええ!?」

「サクラの言うとおりだぞ」

 

 私が気を遣わなくても、リボーンが話すつもりだったようだ。

 

「おめーらは正一の覚悟を知ってるだけで十分なんだ。世界の命運なんてでけーこと考えずに、10年前の平和な世界に戻るために戦うんだぞ」

「で、でも……」

「今日、学校へ行った時の気持ちを忘れたのか?」

 

 流石である。リボーンは一緒に行っていないのに沢田綱吉達の気持ちを理解している。

 

「ここで1つ私から朗報。白蘭を倒せば、10年前の世界にちゃんと帰れる」

「平和な世界に……」

 

 効果は大きいようだ。今まで私は白蘭を倒してからどうなるか、はっきりと口にしていなかった。入江正一が味方になり装置はここにあるが、本当に帰れるかは不安だったはずだからな。

 

 リボーンがニヤリと笑った。私がタイミングを考え、わざと今まで言ってないと気付いたからだろう。まぁ入江正一が倒せば帰れるとは言えなかったのもあったのだが。

 

「難しく考える必要はねーんだ。お前らが10年前の平和な世界に戻ることが出来れば、ついでにこの世界も救われるんだからな」

「ついでにって……」

 

 呆れながらリボーンにツッコミをしている沢田綱吉だったが、表情が明るい。上手く肩の力を抜くことが出来たようだ。

 

「さて、スパナは話を聞きながらも手を動かしていたんだ。ジャンニーニは?」

「当然ですよ!」

「じゃ、機動力の案はどうなんだ?」

「そちらもばっちりですとも! スパナに負けてられませんからね!」

 

 何でも私に頼る考えになっていないようだ。ホッと息を吐く。

 

 私が1番心配しているのは考えを止めてしまうことだ。彼らの考えが間違っていれば、私は訂正するだろう。だが、余程のことがない限り簡単に答えを教えるつもりはない。

 

 といっても、私を成長させるためにリボーンが上手く誘導し、教えてる嵌めになってることもあるだろうが。

 

 とにかく競い合ってる2人を見れば、チョイスの提案は任せていいだろう。私は他のことに専念したいしな。

 

「頑張るか」

「うん!」

 

 呟いたつもりだったが、沢田綱吉が反応した。彼は平和な世界に戻るために頑張るのだろう。……彼らは、だな。

 

 彼らと違った覚悟を秘めていると気付かれないように私は動き出したのだった。

 



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資格

 ふあああ。とあくびがでる。

 

 どうしても知ってる内容だと退屈に感じてしまう。10年後のディーノじゃなく過去のディーノが話している違いはあるが、ほぼ同じになるだろう。詳しい話は聞いていないが、全員入れ替わってしまったので、年長であるディーノが仕切ることになったしな。

 

「じゃぁツナ! お前から修行内容を言っておくぞ」

「は、はい!」

「大空の匣はデリケートっていうのは理解したな?」

「……はい」

 

 ディーノが先に伝えていたはずなのに、昨日の夜に開けて暴走させたらしい。沢田綱吉が落ち込むのは当然だな。

 

「開匣しても大丈夫と思ったら、開けるんだ」

「もう少しヒントを出せよ」

 

 思わずツッコミを入れてしまった。知識とあまりにも違い過ぎる。

 

「そう言うが、オレは大丈夫だと思ったから開けたからなー」

 

 なんということだ。未来のディーノと違う開け方をしてしまったがために、上手くヒントを教えれないようだ。

 

「ディーノさんはどうして大丈夫だと思ったんですか?」

「ん? 確か――」

「正しく開匣できるまで1人。匣兵器と一緒にいて、トラブルが起きても使い手もずっと一緒にいること。それがヒント」

 

 ディーノの言葉を遮って、早口で正しいアドバイスを教える。ディーノが開けれるようになった時のことを詳しく話されれば、私がダメージを受ける。

 

「でもディーノさんはその時サクラといたんじゃ?」

「ディーノが開けた時、私は眠ってた」

 

 沢田綱吉の疑問にすぐさま答える。ディーノの見せ場を減らしているかもしれないが、こっちは必死なのだ。腕にもたれてたということは絶対に話させない。

 

 うーんと悩み始めた沢田綱吉をみて、上手く回避できたことに喜ぶ。さっさとディーノに話を進めろと目で訴える。

 

「ツナの疑問もわかるけどな。オレもこいつと一緒にいなければもっと苦労した気がする。けどな、起きていればいつまでも気付かなかったと思うぜ。オレがいえるヒントはここまでだ」

 

 ディーノのヒントを聞いて、なんとなくだが理解できた。私の存在はきっかけにもなかったが、匣兵器と向き合っていなければ気付かなかったのだろう。私が起きていれば、その僅かな違いに気付かなかったのかもしれない。

 

 沢田綱吉の修行の話が終われば、ラル・ミルチやγ達が手伝うことになる以外は特に変わったことはおきなかった。

 

 

 

 もっともこの問題が起きるのだが。その日の夜に起きたボイコットである。当然私の答えは決まっている。

 

「サクラもそっちなのー!?」

「当たり前だろ。美味しい料理を食べたいからな」

「そんな理由ー!?」

 

 何を言ってるのだ。食欲は3大欲求の1つとされてるんだぞ。重要である。

 

「じゃ、頑張れ」

「え!? 助けてくれないの……?」

「さっきも言ったが私は彼女達の味方。それにジャンニーニ達の手伝いで忙しい」

 

 この理由で家事を免れているのだ。手を抜けるわけがない。一応女子ということで睡眠時間は確保させてもらっているが、やることが多すぎる。彼らの目を盗んである物を作ってるのも原因の1つだと思うが。

 

「そうですよ、10代目。サクラさんのおかげで随分助かってるんですから」

 

 もっと褒めてもいいんだぞ。と思いながら、相変わらずの女子力の低さに遠い目をしたくなる。服装もつなぎ率が高いしな……。

 

 軽く溜息を吐いてから、彼に頼られたので案だけは出す。

 

「彼女を頼れば?」

「オレも彼女達の味方だ」

 

 無茶をしなかったため知識と違いラル・ミルチが起き上がれるため、声をかけてみれば女子の味方だったらしい。まぁその可能性もあったため特に驚きはしなかったが。

 

「γ達は?」

「これはボンゴレの問題だろ。オレ達は好きにするさ」

 

 確かに、と思った。γ達が沢田綱吉達を手伝う義務はない。家事全般で世話になってる女子達の手伝いの方がまだ可能性があっただろう。

 

 知識と違うところはディーノの存在ぐらいだが、彼は戻ってこないと思うしな。

 

「……文明の利器、カップ麺がある」

 

 ショックを受けている沢田綱吉達を放置し、私はお風呂に入ることにした。

 

 

 

 身体を伸ばしながら、ゆっくり浸かる。細かい作業をしていたので疲れてはいるが、体調はいい。あの夢を境に全く見なくなったのが関係しているようだ。やはりあの夢の通りに進むのだろう。

 

 ……違う。あの夢の通りに進ませるのだ。そうすれば、私の願いは叶えられる。

 

 それにあの夢は場面が途切れることもなく、チョイスの流れを――私の願いを叶えられるまでの流れを全て見ることが出来た。ヒントは十分にある。必ず、成功させる。

 

「フミ子」

 

 プカプカと湯船に浮かんでいたフミ子を呼べば、クロールでこっちに来た。いったい兄は何を仕込んでるんだとツッコミしたくなった。

 

「……フミ子は私を救うために作られ――生まれたのか?」

「パフォ!」

「兄は、当然リスクがあることを知っていたんだな?」

 

 威勢のいい返事はなかったが、フミ子はコクリと頷いた。これで大空の炎でもフミ子の能力を使えるようにした理由もわかった。そしてフミ子の能力を最大限に発揮出来るのも兄だけにした理由も……。

 

「……バカ。バーカ、バーカ。お兄ちゃんのバーカ」

 

 風呂場で喚けば気が晴れるかと思ったが、むなしくなっただけだった。

 

「……それに、私もバカなんだよな。お兄ちゃんと一緒で」

 

 もしかすると私の方がバカなのかもしれない。兄は実行しなかったのだから。でもまぁ似たようなものだろう。兄はフミ子の能力が不完全でまだ実行できなかっただけだからな。

 

「なぁフミ子、私ってやっぱりブラコンか?」

「パフォ」

「少しは悩めよ」

 

 あまりにも返事が早かったので、ついツッコミをしてしまった。でも事実なのでしょうがないのかもしれない。

 

 

 

 

 チョイス前日、リボーンとディーノに呼び出された。同じ部屋で眠ってはいるが、時間が合わないから声をかけたのだろう。

 

 だが、何かあっただろうか。ボイコット事件も知識通り終わったしな。まぁ話を聞いた彼女達にまた抱きしめられ泣かれてしまったのだが。それ以外には特に変わったこともない。

 

 それに私がぐっすり眠るため、予知をみていないとわかってると思うのだが。チョイスのことについては話す気はないと宣言している。その時に彼らは反対しなかった。だから彼らは聞いてしまうと負ける可能性が高いと判断したはずだ。それなのに、このタイミングで呼び出すのか。

 

 部屋に入ると2人が待っていた。どうやら私が最後だったらしい。時間前だったので、謝らないが。

 

「なんの用事だ? 忙しんだが」

「サクラ、あの紙の内容をおめーはもう理解してるんじゃねーのか?」

 

 相変わらずズバッと確信をつく男だ。ディーノだけならまだしも、リボーンを騙せることは出来ない気がする。

 

「理解したけど、必要ないと判断した」

「それを決めるのはお前一人だけじゃねぇ」

「彼らは関係ないだろ」

 

 呆れながら言い返す。フミ子は兄の匣兵器で私のために置いていったのだ。このことに関しては沢田綱吉達にとやかく言われる筋合いはない。

 

「あの紙を受け取ったのはオレだ。聞く権利はあるだろ?」

 

 やられた。先に理解したのか確認したのはそのためか。

 

「……あの紙は捨てたから覚えてない」

 

 これもウソではない。流石にあの複雑な式を覚えるのは厳しい。理解したとしても再び書けるかは別だ。

 

「ここにある」

「……そんなに信用なかったのか」

 

 まさか書き写してるとは思わなかった。

 

「それは違うぜ。信用はしている。だけどな、お前の性格もオレは理解してるつもりだ。一人でまた抱え込む気がしたんだ。お前は家族のことになると視野が狭くなる。……あいつもそれがわかってオレに渡したんだろうな」

 

 あいつというのは私をのっとった人物のことなのだろう。余計なことを……。

 

「正直に話してくれ。入江達からじゃなく、オレはお前から聞きたい」

 

 私が話さなければ彼らに渡すということなのだろう。それは……困る。彼らが理解できれば、沢田綱吉達に知らされる。そうなると私の願いは叶えられなくなるかもしれない。

 

 リボーン達は譲歩してるのだろう。私が黙ってる内容は厄介だと気付き、それでも沢田綱吉達に知らせないようにしているのだから。

 

 ここで私が選択できるのは3つ。入江正一達が理解できないと賭けて話さない。正直に話す。最後に――ウソをつく。

 

 私の中で葛藤が起きる。どれが正解なのだ。チョイスの流れは夢で見たが、ここの判断はわからない。グルグルと浮かんだ言葉がまわり続ける。

 

 そんな私の肩に手を置き、目を合わせて彼は言った。

 

「そのまま返すぜ。……そんなに信用ないのか?」

 

 どうして私は彼に弱いのだろう。どうして私は彼を好きになってしまったのだろう。

 

 たった数日。たった数日で私は後悔してしまった。

 

 原作キャラを好きになるつもりはなかったのに。こんなにも大事な存在になるなんて思わなかった。

 

 それでも、それでもやっぱり私は自身が1番大事なのだ――。

 

「……ディーノ、私のために死んでくれるのか?」

 

 答えをわかって聞いた私に、彼を好きでいる資格はもうない。

 



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友として

 念入りに朝から最終確認をする。機械のトラブルがあって失敗しては意味がないからな。

 

「サクラ」

 

 今度は誰だと思い、振り返るとリボーンだった。その手には服があったので届けにきてくれたのだろう。

 

「助かる」

 

 しっかり受け取りながら礼を言う。恐らくこれは特別製だ。私の話を聞いたリボーンが何もしていないわけがないからな。

 

「ディーノはもう来たのか」

 

 私の指を見て確信したようだったので、肯定も否定の返事もしない。その代わり1つ質問する。

 

「彼を止めないのか?」

「あれでもオレの元生徒だぞ。これぐらいの修羅場は何度も超えている。それにオレはあいつの覚悟を止める気はねーぞ。おめーだって諦めれるのか?」

 

 無理だな。私は1人でも実行する気だったのだ。可能性があるなら賭ける。ディーノもそういうことなのだろう。

 

「……協力、感謝する」

「オレとレオンより、ディーノに伝えるんだぞ」

 

 ぐっと言葉に詰まる。まだ言っていないことがバレていたようだ。小さな声になってしまったが「約束する」と返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

「よっ、と」

 

 彼の過保護っぷりをどうにかしてほしい。確かに私は炎で急に移動させられることになるとは伝えていた。伝えていたが、移動する直前に横抱きにする必要はあるのだろうか。まぁ足をくじいてしまえば、絶望的になるのは事実だが……。

 

「大丈夫そうだな」

 

 いろんな意味で大丈夫じゃないが、頷く。彼も私の身体のことだけで言ったわけじゃない。超炎リング転送システムに炎を吸い取られてないかを確認したのだろう。急遽作ることになった手袋だったが無事に作用したようだ。

 

 もっとも、作り方を紙に書いていなければ出来なかった気がする。いったいどこまで私をのっとった人物は先をよんでいるのか。少々不気味に感じる。が、作らないわけにはいかなかった。恐らく白蘭に私達の策略が見つかる可能性を減らしたいがためにこの手袋はある。これで役割は十分果たしたのでもう必要はない。外しておこう。

 

「やっ♪ ようこそチョイス会場へ」

 

 白蘭の声に緊張が走る。ディーノもこの状態は良くないと思ったのか、すぐに降ろした。そして私を隠すように前に出た。

 

 この場では安全だと知っていたはずのディーノがなぜそんな動きをするのかと疑問に思ったが、すぐに答えはわかった。出来るだけ私に見せたくなかったのだろう。兄の姿を――。

 

「……お兄ちゃん」

 

 ポツリ呟いたが、兄は反応を示さない。ついディーノの服を掴んでしまった。こんなこと今まで一度もなかった。兄はどんなに小さな声でも私の言葉には反応した。

 

 背中をポンポンと叩かれ、息が止まっていたことに気付く。ゆっくりと深呼吸する。わかっていたことではないか。私は夢で見ていたのだから。

 

 私が落ち着いたころにはバトル参加者が決まっていた。

 

 ミルフィオーレは晴1、霧が2。

 

 ボンゴレは大空1、雨1、曇1、無属性2。

 

「……っ」

 

 息を呑んだのはディーノのようだ。このことに少なからず安堵した。私だけじゃなかったのだ。わかっていたのにショックをうけたのは彼も一緒だ。

 

「……無属性は僕とスパナが適任だ」

「却下だ。スパナじゃなく、私が出る」

 

 沢田綱吉達の驚いた顔が見える視界の端で、白蘭の薄気味悪い笑いがあった。彼は私と違った方法だが、わかっていたのだ。必ず私が出てくることに。

 

「ちょっと待って! そんなの絶対ダメだよ!」

「私が出ないといけないんだ。許可してくれ――ツナ」

 

 とっくの前から原作キャラとして見ていなかったし、友達と認めていた。だけど、フルネーム呼びをやめることは出来なかった。妙に照れくさくて。

 

 目を逸らさず言ったことで彼は気付いてくれるのだろうか。友として頼んでるということに。

 

「~~~っ! お願いだから無茶しないでよ!」

「努力はする」

 

 私の返答にどうして許可しちゃったんだろうという感じで頭を抱えたツナを見て、思わず笑ってしまった。

 

 ツナの許可が出たことで、参加するのは沢田綱吉・山本武・雲雀恭弥・入江正一、そして私ということになった。相手はトリカブト、猿(幻騎士)、兄。

 

 知識と違って相手はたった3人しかいないのだが、苦戦することになる。やはり本来ならこの場にいるはずのデイジーより兄が戦闘タイプというのが大きい。どれだけ大きいかというと、今回ミルフィオーレ側には拠点というものが存在していないほどだ。

 

 ふとデイジーはどうしてるのだろうかと思ったが、今の私に他人を気にしてるほど余裕はない。

 

 なぜなら……。

 

「ミルフィオーレの標的は桂。ボンゴレの標的はサクラちゃん♪」

 

 彼らから目を向けられたので、無言で頷く。わかっていたことなのだ。

 

「どうして――」

 

 黙っていた私を責めようとしていたツナの声も途中で止まる。私の胸から炎が出始めたのだから。

 

「ちょっと待って! こんなの……!」

「問題、ない」

「問題ないわけねーだろうが!」

「ああ! ヘタすら炎を出してるだけで死んじまうぞ!」

「いいから進めろ。そんなに……もたない」

 

 汗を流しながら話す私の言葉は重く、彼らは口を閉ざし一刻も早く終わらせようとしだした。それはありがたいのだが、相手の標的は誰かちゃんと理解しているのだろうか。必死になって進めようとしている彼らを横目に見ながら、ディーノに聞いてみた。

 

「あいつなら大丈夫だ。そんなことより、本当に大丈夫か……?」

 

 ダメだ。彼も同じタイプだったらしい。もしかするとディーノは彼らより酷いかもれしない。これから何が起きるのか教えているんだからな。

 

 しかし彼らが焦ってる様子を見れば見るほど、私は落ち着いてくる。だから今なら言える気がする。

 

「ディーノ、ありがとう」

「……バカやろう。不吉なことを言うな」

 

 ちょっと待て。誰も聞いていないと思ったので伝えたのに、それはないだろ。思わず睨んでしまった。

 

 

 

 

 

 基地ユニットの入り口をふさぐ。ルール上、この中に入らないといけない。なので必ず最後に入ろうとする彼に声をかけるためである。

 

「邪魔だよ」

「君に頼みがある」

「やだ」

 

 反応は予想していたが、イラッとする。

 

「スキを作るから、捕まえて」

「どうして僕が?」

「君は必ずする」

 

 話は終わりという意味で私は中に入る。そしてさっさと席に座る。出来るだけ消耗は避けたい。

 

「サクラ……」

 

 心配そうな表情のツナに心配するなと手を振る。知識と違い、獄寺隼人が居なくて良かった。彼が居れば怒られた気がする。そんなことを考えながら、入江正一に声をかける。

 

「私は、サポートしか出来ないと思う」

「大丈夫。僕らに任せて」

 

 私達が確認している間に、3分が経過した。チョイス開始である。

 

 ここから先は知っている。

 

「あ! ヒバリさん!」

 

 バトルが始まると彼がすぐに動こうとしたので、声をかける。

 

「彼の話を聞いた方が戦えるぞ」

 

 さらにムスっとした顔になったが、立ち止まったのでこれで大丈夫。彼は戦闘が出来るなら多少の我慢はする。それに群れて戦えという内容じゃないしな。

 

「僕達は時間との勝負になる。本当なら攻守にわかれて戦いたいけど、その時間も惜しい。一気に攻めたいと思う」

 

 話を聞きながら、私は炎のデータ解析をし囮の炎を飛ばす。これだけは急がないとまずい。

 

「僕が基地でデータを解析し、指示を出す。それに従ってほしい」

「解析は終わったぞ。いつでも大丈夫」

 

 私の言葉を聞いた途端に雲雀恭弥が動き出した。それを見て慌ててツナ達も動き出す。

 

「オレ達も急ぐぜ!」

「サクラ、気をつけて!」

 

 私は彼らの言葉に手を振ったりすることは出来なかった。なぜならそんな暇すらないのだ。

 

「は、はやい……」

 

 囮を片っ端から片付けるのは予想していたが、これほど早いとは思わなかったのだろう。一瞬だけ驚いて動きが止まった入江正一だったが、すぐに彼らは指示を出し始めた。もちろん囮を出しながらだ。

 

 それにしても、この量の囮を作るのにどれだけ時間をかかったのか兄に教えたい。片っ端から壊されると涙が出そうだ。炎を出しすぎて頭がボーッとしてるのも関係していると思うが。

 

「基地を動かせ」

「えっ?」

「動かさないといけないんだ」

「……もしや、未来がみえてるのかい?」

 

 ツナ達への通信を切る操作をしながら、彼と観覧席にいる味方に教える。チェルベッロにも聞こえているだろうが、もういいだろう。

 

「この勝負、負けるのが正解なんだ」

「それじゃぁ……!」

「兄の手によって、標的の炎が消されるのが正しいルートだ」

 

 具体的なことは言わなかったが、それはどういう意味なのかは理解しただろう。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 サクラの声を聞いた観覧席側は静まり返った。サクラの予想通り彼らは理解はしたが、感情が追いついていないのだ。

 

「……どういうことだよ! 気付かなかったのかよ! 跳ね馬!?」

 

 真っ先に反応したのは獄寺だった。内容の濃さではディーノの方が上かもしれないが、サクラと過ごした時間は彼の方が長い。八つ当たりだと自覚しているが、怒らずにはいられなかった。

 

 そんな弟の暴走を止めようとビアンキが動こうとしたが、ディーノが手で制す。彼は知っていて黙っていたのだ。責められてもしょうがないと思っている。それでもこれだけは正さなければいけない。

 

「あいつを信じろ」

 

 サクラは再びみんなと過ごせる未来のために今あの場に立ってるのだ。

 

 ディーノの言葉を聞き、サクラの覚悟を感じ取ったのか画面を食い入るように見る。だから彼らは気付かなかった。ディーノの手にはサクラと同じ指輪がはまっていることに――。

 



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舞う男

念のため。
『流血注意』。ほんの少し『残酷な描写』です。


 ひらり、ひらりと舞う。それは見とれるほど美しく、尋常でない男の動きに疑問をもたなくなるほどだった。

 

 桂は空を飛ぶ匣兵器を使わずに移動する。細かな動きが出来なくなるからだ。もちろん匣兵器を使えば炎の節約という面では大きい。が、桂には有り余る死ぬ気の炎が体内に流れているため、デメリットが存在しない。

 

 白蘭の指示は、第一に敵の標的の抹殺。その次に邪魔する者がいれば、排除すること。このたった2つである。実は今の桂には簡単な指示しか出せないのだ。相手を壊すことしか興味がなく、連携というものも出来ない。味方ともども消してしまう。一歩間違えれば、白蘭さえも危うくなる存在だった。

 

 その桂を上手く使えている理由は、白蘭が桂の本能を引き出し教えたからだ。答えがわかれば至極簡単なのだが、これに気付くまでは白蘭でも苦労した。

 

 サクラを先に殺してしまうと桂は生きる意味を失う。この後にサクラのことを忘れさせても意味はない。何もかも破壊するという暴走が始まるだけだ。サクラが生きている状況で敵対した場合の桂の強さを知っていなければ、その暴走の巻き添えで死んでいたと白蘭が断言するほど危険だった。

 

 しかしサクラが生きていれば、桂は最後には必ずツナ達の味方につく。最終的にはサクラの気持ちを優先するからだ。過去の入江正一を使い、10年前から計画をたてることは出来たがその時にはもうサクラとツナ達は友達だった。妨害するには遅い。

 

 あらゆる方法を探った。白蘭はなんとしてでも桂を手に入れたかった。破壊する桂の表情、動き、全てに魅了されたのだ。

 

 そして見つけた――。

 

「この兄妹って、面白いよね」

 

 モニターで観戦していた白蘭が口を開く。

 

「サクラちゃんがピンチになると桂が出てくるし、桂がピンチになるとサクラちゃんが必ず出てくるんだ。素晴らしい兄妹愛にも見えるけど、実際はどうなんだろうね」

「と、いいますと?」

「僕の勘だけどあの2人の間にあるのは兄妹愛じゃないと思うんだ。もちろん2人は正真正銘血の繋がった兄妹だけどね」

「ニュニュウ~。びゃくらんの話、よくわかんない」

「僕がいいたいのは、あの2人には何かあるってことだよ。そしてそれを今から壊すんだ♪」

 

 サクラの記憶だけが簡単に消えるのも関係しているだろうが、その何かに興味はない。白蘭がほしいのは殺人兵器の桂なのだ。

 

 白蘭の予定では桂の頭脳が必要なくなれば、すぐにでも壊す手筈だった。それが正一の邪魔により、過去のサクラと入れ替わってしまった。サクラに動かれると桂が手に入るリスクが高くなるため、白蘭が自ら指導する羽目にもなった。

 

 早く完成させたい。そう思っていたが上手く行かない。

 

「んー、やっぱり楽しみは少し遅くなっちゃうかなぁ」

 

 桂の前に現れた男を見て、白蘭は残念そうに呟いた。決して桂が負けるとは思ってはいない。尚且つ、彼が現れる可能性が高いと思っていたのだ。

 

「でも、桂が倒す方が楽なんだよね。彼も面倒だし」

 

 桂と雲雀が対峙している姿を見ながら白蘭は呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 気配を感じ、バイクから降りた雲雀はイヤホンを壊した。これ以上指図を受けるのは耐え切れなかったのだ。ただ、ほんの少しだけサクラの話を聞いていても良かったと思えた。この広いフィールドで指示もなく敵と出会えるかはわからなかった。もっとも今から相手する敵のことで頭がいっぱいになるので忘れるのだが。

 

 待つこともなく雲雀の視界に桂が入ったのだが、向こうは気付かない。――否、雲雀に興味がないのだ。

 

「ふぅん」

 

 すぐさま雲雀は増殖した小さなロールを桂が壊そうとした囮に当てる。ここでやっと桂は雲雀を認識する。そしてトンファーを構えた雲雀は、邪魔する者だった。桂は排除するために動き出す。

 

「はじめようか」

 

 雲雀は一切躊躇するつもりはない。桂との再戦を彼はずっと望んでいた。不意打ちで攻撃しなかったのも、勝負だからだ。ただし今回は命をかけて。

 

 互いが相手に向かっていき、交差する。その僅かな間に金属音が5回響いた。

 

「……?」

 

 雲雀はほんの少し首を傾げる。互いに怪我がないのはわかっている。全ての手を止められたが、相手の攻撃も全て防いだ。気になるのは、桂の両手にナイフが握られていることだ。

 

 桂の能力を考えれば、素手で問題ないはずだ。武器を持ったとしてもナイフを選ぶ理由がわからない。桂のスピードを考えると重量があるものや長物よりナイフの方が確かに良い。しかし、それを選んだならなぜ追撃しなかったのか。

 

 気にはなったが、雲雀はあっさりと考えを放棄した。偶然なのか、何かあるのかは戦っていけばわかることなのだ。考え込む時間があれば、戦えばいい。雲雀は駆け出した。

 

 相手の攻撃範囲の一歩手前で遠心力を使い、トンファーを振り下ろす。重い一撃だが、これで桂の両手を防げるとは思ってはいない。だが、一瞬のスキを作り懐にもぐりこむ時間はある。その時間を使い、雲雀はもう片方のトンファーで横から殴りつけた。

 

 鈍い音が響く。雲雀の一撃で桂の腕がおかしな方向へ曲がった。が、その腕を使って雲雀の首元にナイフが迫る。腕が折れた程度ではすぐに完治してしまう。

 

 焦ることもなく雲雀は桂の身体に蹴りを繰り出す。桂を離しナイフが届かないようにするためだ。が、雲雀の足は空を切った。桂が攻撃を中止し、下がったのだ。

 

 再び距離が出来る。

 

「ねぇ、本気出しなよ」

 

 挑発に取れるが、雲雀は大真面目だった。桂の強さはこんなものではない。一方的にやられた時の方が強かった。なぜなら雲雀の蹴りに当たったとしても、桂には関係ないはずだ。そのため雲雀は次の攻撃も用意していた。にもかかわらず、桂は下がった。はっきり言って無駄な動きだ。

 

「…………」

 

 桂からの返事はない。だが、笑った。

 

 ゾクリとする感覚に雲雀は襲われ、思わず桂から距離をとる。それは正解だった。いつの間にか先ほどまで雲雀が居た場所に桂が居る。

 

 目を離したつもりはなかった。桂が居たであろう場所は地面が陥没し、石が空を舞っている。ただ、桂は足に力を入れ迫っただけだった。

 

 雲雀は防戦一方になる。何とか急所を逸らしているが、徐々に追い詰められていく。ボンゴレ匣を使ったにも関わらず、だ。

 

 雲雀とてバカではない。このままでは一方的にやられると感じ、ボンゴレ匣の形態変化のアラウディの手錠で桂を捕まえようとした。締め上げても桂なら回復するかもしれないという考えもあったが、スピードを殺すには問題ないと思ったのだ。

 

 そして多少手傷を負ったが、手錠はかかった。増殖し桂の動きを封じることにも成功した。が、それは一瞬だった。

 

 手錠に亀裂が入り始めたのだ。調和による石化のような現象だったが、近くにいた雲雀には何が起きたのかはすぐに理解できた。雲の炎を上回る晴の炎を手錠に流し、力技で壊したのだ。

 

 戦ってる雲雀にはわかった。あの時より桂は弱くなった。しかしそれを圧倒的なポテンシャルだけで自身を追い詰めてるのだと。

 

 桂は舞う。桂が舞えば、石や埃、そして血しぶきも舞い上がる。しかし桂の服には何もつかない。それはもう芸術のようで、相手が強ければ強いほどそれらは舞う。気付けば、戦っている相手すら魅了する。そしてそれは相手に止めを刺すまで続くのだ。

 

 その舞が突如止む。雲雀ではない。彼はもう立ってるのがやっとだ。桂には声が聞こえたのだ。その声が先程より大きな音で桂の耳に届く。

 

「お兄ちゃん!」

 

 視線を向ければ、額に汗をにじませた少女がいた。桂は少女の声や状態には興味はない。その胸から出ている炎に注目した。

 

 桂は笑った。とても嬉しそうに。

 

 優先順位は標的の抹殺。もう邪魔することは出来ないであろう雲雀にはもう用がない。

 

 駆け出そうとした桂だったが、少女の姿はそこにはもうなかった。しかし、近くにはいた。桂の前に顔を出したくせにスケボーに乗り少女は逃げていたのだ。当然桂はそれを追う。

 

 少女が乗っているのは電動スケボーらしいが、桂から逃げるにはその程度のスピードでは話にならない。が、邪魔が入る。壁からレーザーが放たれたのだ。が、桂はそれを防ぐこともせず進む。人の気配を感じないのもあるが、怪我は直ちに治るのでこの程度ならば防御すら必要がないのだ。それでも少女が逃げるルートにレーザーが放たれるのは邪魔になる。少女が建物を使い、レーザーから放たれた瞬間に視界から外れるのも、なかなか追いつかない原因だ。

 

 しかし、いつまでもレーザートラップがあるわけがない。ゆえに桂は少女に追いついた。

 

 背後から敵の大空と正面から基地ベースが桂に迫っているが、少女に止めを刺すには十分な時間だ。

 

 急に目の前に現れた桂に少女は目を見開き、反射的にスケボーを止めることしか出来なかったようだ。そんな素人相手に桂は時間をかけない。ただ、ナイフを心臓に突き刺すだけだった。

 

 いとも簡単に口から血を流しながら少女は崩れ落ちていく。あっけないものだった。

 

 だが、突き刺す瞬間に少女の一言が耳に残った。

 

「私の、勝ちだ」

 

 崩れ落ちていくはずの少女の目はまだ死んでいなかった。



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接触

念のため。『流血注意』です。


 基地ユニットを移動させながら、入江正一に説明する。ツナ達が兄のもとへ行っているが、たどり着くのは雲雀恭弥だけになると。ちなみに彼らは別々のルートで向かっている。全滅を避けるためだ。それに敵の数よりこっちの人数が多いのも別れた理由だ。瞬殺されない限り、必ず1人はすぐに標的のところへいけるはずだからな。

 

「綱吉君と山本君は、足止めされるんだね?」

 

 頷く。恐らく雲雀恭弥が出会える――チョイスに参加することになったのは白蘭が手をまわしたからだろう。彼はディーノの弟子だからな。私のせいでディーノが目を付けられたほど変わったなら、弟子である雲雀恭弥が1番影響を受けるはずだ。そして私は兄のことが1番わからない。素直に彼がボンゴレリングを渡すとは思えないことを考えると、チョイスで彼を無気力化した方が手っ取り早いのだ。まぁ入江正一にはこんな詳しく話す気はないが。

 

「雲雀恭弥を助けるためには私達が動くしかないんだ」

「それなら、僕だけが行けばいいんじゃ……」

 

 標的である私が近づく必要がないと思っているのだろう。しかしそれではダメなのだ。

 

「今の兄はこの炎にしか興味を示さない」

 

 入江正一が行ったとしても、雲雀恭弥を殺し、邪魔しに来た彼を殺すだけだろう。

 

「だから私が兄をひきつける。入江正一は雲雀恭弥を回収してくれ」

 

 基地ユニットに隠していたスケボーを取り出す。対策を立てていることを見れば、入江正一も簡単に反対できなくなったようだ。それにしても入江正一は凄いな。会話の合間を見て音声を切り返し、ツナ達のサポートをしているのだから。

 

「で、でもそれじゃぁ、神崎さんの安全が……!」

「言っただろ。チョイスは負けるのが正解だと。それにこれは私にも利点がある」

「え?」

「兄を元に戻す」

「なんだって!?」

 

 このタイミングで彼らの近くに敵が現れるので、一旦会話は中止になる。知識と違い、彼らは同時に対戦することになるので、流石に会話しながらでは難しいのだ。それでも基地ユニットを動かしながら通り道にレーザートラップを取り付けていくのだが。

 

「ひ、雲雀君!?」

「鬱陶しくてイヤホンを壊しただけだ」

 

 心配しているであろう彼に真実を話す。それにしても相変わらず扱いが酷い。慣れていない入江正一なんて胃をおさえてるじゃないか。Drシャマルの薬で治りかけたのに、かわいそう。

 

 他人事に思いながら、彼らが戦闘に入ったので話を再開する。

 

「兄を戻すためには雲雀恭弥がキーになる」

「雲雀君が?」

「ん。彼なら私に止めを刺してる時に、兄を拘束することができる」

「止めってダメじゃないか!」

「それしか方法がないんだ。私と兄ではスペックに差がありすぎて触れることも出来ない」

 

 兄を戻す条件に接触が必要とわかったので、入江正一は押し黙る。彼もわかっているのだろう。私が話すルートが最善だと。なんだかんだいいながら、私の手伝いをしているからな。

 

「君ならもうわかってるだろ。どこに向かえばいいのか」

 

 外に出る準備をしながら声をかける。レーザートラップの位置で私の進むルートがわかるのだ。この位置から兄に気付かれないように雲雀恭弥を回収し、私に追いつけるルートは1つしかない。

 

「僕のせいで……!」

「白蘭はそうかもしれないけど、兄は違う――」

 

 私の中である仮説が生まれているが、話す必要はないと判断した。――違う、考えたくもないのだ。

 

「――とにかく、君の腕を信用したから実行するんだ。頼んだぞ。兄が元に戻れば、私への治療は間に合うんだからな」

 

 レーザートラップの操作出来るのは彼しかいない。イヤホンで会話できるが、空間把握能力と状況把握能力は必須である。そして同時進行で雲雀恭弥の回収と説得をしなければならないのだから。

 

「……僕に任せて!」

 

 覚悟を決めた入江正一の声を聞きながら外に出る。出る前にチラリと見たモニターでは、ツナはトリカブトを倒したと勘違いしているところだった。ヒントを教えようか一瞬頭をよぎったが、夢と違うことをするのが怖かったので止めた。山本武は問題ない。勝てないと宣言され、さらに話を聞けば複数で挑んでも一歩のところで負け、そのことに腹が立ったスクアーロが鍛え上げたのだ。知識より強くなってるかもしれない。それでも位置の関係で間に合わないのだが。

 

 外の空気を目一杯吸い込み吐いた。スケボーを走らせながら自身の状態を確認する。やはり緊張はしている。するなというのが無理な話だ。この機会を逃せばチャンスはない。

 

 白蘭は兄の戻し方を知っているかはわからないが、私と接触させるのは避けたいと思っているはずだ。夢で見た雲雀恭弥との戦い方でもわかる。兄は武器にしか接触を許していない。あれは私に止めを刺す時を意識して戦い方を教えたのだろう。

 

 そのことを踏まえると私の予想では白蘭は知らない気がする。悪夢を見始めたころに、兄に刺される夢を何度も見たのだ。どうしても白蘭は兄の手によって私に止めを刺したいのだろう。しかしそれをチョイスで実行するにはリスクが高すぎる。

 

 いや、そうじゃないのか。ボンゴレ匣が出来た未来、のっとった人物にヒントをもらえたからリスクが高く感じるのだろう。白蘭は私が生き残った場合の経験をしていないのだから。

 

 考えながら進んでいると、兄と雲雀恭弥の姿が見えた。兄を呼んだつもりだったが、声がかすれた。夢で見たときは大事なシーンでミスるなよと思っていたが、緊張で喉がカラカラだったので回避できなかったことだったらしい。

 

 ゴクリとツバを飲みこみ、もう1度声をかける。

 

「お兄ちゃん!」

 

 兄の顔は見ない。見れば、私は動けなくなる。私を知らない顔で兄に見られるのは何よりも怖いのだ。だから私は声をかけてすぐに逃げ出した。

 

 怖い、怖い。

 

 普段の私はこんな無茶をしようと思わない。

 

 兄を――お兄ちゃんを戻すんだ。

 

 それだけを思い、スケボーから落ちないように走り続ける。道さえ間違えなければ、入江正一が私と兄の位置を見て上手くやってくれるのだ。

 

 無我夢中で走り続けると、急に兄が私の前に現れた。思わず急停止する。転ばなかったのが奇跡な気がする。そして顔をあげれば、視界に基地ユニットが見えた。屋根に乗ってるのは彼なのだろう。私に助けられた借りを返しにきてくれたようだ。

 

「私の、勝ちだ」

 

 多分、私は笑っていただろう。気付けば心臓にナイフが刺さっていたが、何も思わなかった。必死にまだ終わってないと言い聞かせ、崩れ落ちそうになる身体を気合で踏ん張り、手を伸ばす。

 

 触れようとすれば、逃げようとする兄が拘束されていた。

 

 頬に手が触れる。

 

 たった、これだけのことでいい。

 

「サ、クラ……?」

 

 ああ。兄だ。いつもの兄だ。私は『お兄ちゃん』と返事できただろうか。口の中がいっぱいで上手く話せてない気がする。

 

「僕が……、僕が……やった……?」

 

 ダメだ。このままじゃダメだ。伝えなければ、兄が壊れてしまう。それに夢で見た叫びは聞きたくない。

 

 だからもう1度手を伸ばそうとしたが、空を切る。視界が変わっていき、青空が見えはじめた。

 

 その代わりとても温かいものが触れた気がする。ああ、ツナの身体があったかいのか。

 

「……ごほっ」

 

 おかしいな。うまく話せない。夢で見た私はどうだっただろうか。もっとはっきり話せたはずなのに。

 

「お兄さん! サクラを治して! お兄さん!!!!」

「僕が……僕が……」

「標的の炎を厳密にチェック致しますのでおさがりください!」

 

 あまり耳元で叫ばないでほしい。私の言葉が届かないじゃないか。

 

「おさがりください!」

「うるさい!!! お兄さん、サクラを治して!! まだ間に合うから!!」

「僕が……サクラを……!」

 

 うるさすぎる。あまりにもイラっとした。

 

「耳元で叫ぶな! 兄もぶつぶつ言ってないでさっさと治療しろ!」

 

 スパーンといい音が響き、静まり返る。

 

 ……うん。つい、やってしまった。夢と違い、感動的にはならずハリセンで兄を殴ってしまった。

 

『サクラ……?』

 

 珍しく兄とツナの声がかぶった。立ち上がってる私に何かいいたいのだろう。話は後で聞く。とにかく治療してほしい。私は大丈夫だが、このままでは彼が危険だ。

 

「ごほっ」

『サクラ!? 血が……!』

 

 声をかぶらせるんじゃなくて、早く治療してくれ。そう思いながら、ゆっくり倒れはじめる。

 

「サークラー!?」

「お兄さん、早く、早く治療して!!」

「任せたまえ! サクラ、しっかりするんだ! 僕の腕の中で死ぬのはもっと歳をとってからだよ!」

 

 もうツッコミする力がないようだ。ディーノのおかげで簡単には死なないと考えていたが、出血多量で死ぬ可能性もあるんだったと今更ながらに気付いた。

 



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神聖

 兄に治療してもらい、復活した私はまず水で口をすすぎ顔を洗った。話すべきことはあるのだが、このままだとホラーにしか見えないと思ったのだ。

 

「ゴ、ゴメンよ。説明してもらってもいいかな? 確かに心臓にナイフが刺さったと思うんだけど……」

 

 彼らは様子をうかがっていたのだが、代表して入江正一が聞いてきたようだ。

 

「レディの扱いがなってないね! 男は黙って待つものだよ。サクラの声を聞いて安心したい気持ちはわかるけどね!」

 

 なぜだろう。元に戻ったはずなのに、兄は大丈夫なのかと考えてしまう。

 

 若干遠い目をしながら、私は口を開く。これ以上引っ張れば、トリカブトが仕掛けてくるだろう。

 

「チェルベッロ」

「はい」

「私達の失格負けだ」

 

 驚いた声をあげたのは誰だろうか。複数いた気がする。兄は少し眉間に皺がよっていた。恐らく刺した記憶は残ってるので全て覚えてるのだろう。

 

「……説明してもらってもよろしいでしょうか?」

「ん。私達はルールを破り、途中からもう1人参加している」

「え? ど、どこ?」

 

 ツナがキョロキョロし始めたので、幻覚で隠れているのと思ったようだ。

 

「フィールドには入ってないぞ。だが、私の治療――生命維持をしたんだ」

「……私達では判断ができません」

 

 わからないなら、話さなくても良かったのかと一瞬だけ思ったが、兄と私はもう殺し合いが出来ないのでどちらが折れるしかないのである。それに降参が出来ない可能性が高いので、真実を話すのがいい。

 

「フミ子」

 

 私の呼びかけに姿を現したため、この場にいる全員が驚いたようだ。まぁフミ子がリングに変わってるとは思わなかったのだろう。

 

「まさか、サクラ……」

「そう、お兄ちゃん達の研究を完成させたんだ。死ぬ気の炎の譲渡――つまり、匣兵器を使って私は生命エネルギーをもらって生きながらえた。もらった相手は観覧席にいるから反則負けってことだ」

 

 こんな強引な手段だと思わなかったのだろう。彼らは言葉を失っていた。兄だけはいつも通りだった。

 

「よく頑張ったね、サクラ」

「ヒントがあったんだ。それに……お兄ちゃん達がほとんど完成させてたからだし」

 

 兄に頭を撫でられたが、私1人では完成することは出来なかった。ヒントはもちろん、完成までもう一歩のところまで迫っていたのだ。なぜなら大きくなったフミ子は、生命エネルギーを譲渡することが出来るのだから。

 

 死ぬ気の炎というのは生命エネルギーである。だから垂れ流し続けると下手をすれば死ぬ。兄はこう考えたのだろう。渡し続ければ生き続けるのではないのか、と。

 

 問題は受け取ることが出来ないということだ。そこでフミ子という匣兵器を間に挟んで解決させた。しかしここで新たな問題が起きる。フミ子が治療すると、急激な晴の活性により身体がついていかず眠りに落ちる。その能力を改造させたので、生命エネルギーを渡しても眠ったままになってしまったのだ。これでは私を目覚めさせることは不可能だったため、兄は実行できなかったのだ。

 

 本当に実行できなくて良かったと思う。渡し続けるということはフミ子に注入し続けなければならない。本来なら起きるはずがない私を無理矢理起こすのだから。つまり死ぬ気の炎を灯すことが出来なくなれば、私は再び倒れる。

 

 ここで私は気付いたのだ。未来に来てすぐ、兄は私に何かあったときのために、生命エネルギーを譲渡していたことに。もし何かあって私自身が生命活動を停止しても、兄からもらった生命エネルギーで維持している間にフミ子が治療すれば死ぬことはないからな。

 

 ただ、兄と別れてからボンゴレのアジトまで何分かかったのか。大量に死ぬ気の炎が流れている兄が注入したにも関わらず、フミ子は大きくなっていた時間は短い。普段のフミ子が2日ちょっと活動出来たことを考えると、効率が悪すぎるのだ。

 

 目覚めれることが出来れば、果たして兄はどれだけ死ぬ気の炎を注入していただろうか。もし死ぬ気の炎を灯すことが出来ないほど消耗してしまった時、目を覚ました私を見てしまった兄は命を削ってでも炎を注入し続けるのではないのだろうか。

 

 だから、誰も――10年後のディーノが使えないようにしたのだ。

 

 そして医療が発達し、本来の方法で私が目覚めた時に、大空のディーノでも治療できるようにフミ子を改造し残そうとしていた。

 

「……知ってしまったんだね。サクラ、ゴメンよ。僕にはこの方法しか思いつかなかったんだよ」

「お兄ちゃんのバカ!」

「僕でもこれは少し胸にこたえるよ」

 

 少しなのか。もっと反省しろ。言いたいことは山ほどあるが、我慢する。実行しなかったし、倒れた私も悪いのだから。

 

 チラリとチェルベッロを見る。そろそろ決断してくれないだろうか。

 

「大丈夫さ。僕の計算では問題ない時間だよ」

 

 ホッと息を吐く。観覧席から連絡を取れない状況では確認しようがなく、どれだけディーノが無茶をしたのかわからない。兄はそんな私の気持ちに気付いたのだろう。

 

「性能はあまり変わらなかったんだね」

「そうなんだ。その代わりに対のリングになってて、どちらかの生命エネルギーが切れかけると炎を吸い取るようになってるんだ。出来るだけ無駄な消耗は抑えれると思う。10年後の私には微妙だけど、今の私にはちょうど良かったから」

「元々、僕らは奇跡を起こそうとしていたからね。それが正しい進化だったんだよ」

「……ん。ただ、これを使うには互いとフミ子との信頼関係が必要なんだ」

 

 他の人ではフミ子が拒絶するのだ。こっそり改造し、フミ子が身振り手振りで私に教えた時はショックを受けた。死ぬ気の炎がフミ子を経由して命を支えあうシステムなので当然のことかもしれないが、ディーノ以外が使えないとなると実行する気にはならなかったのだ。だから問いだされるまで黙っていた。

 

 また私の気持ちを察したのか、兄がポンポンと頭を撫でる。

 

「僕のせいで辛い思いをさせてしまったね」

 

 無言で首を振る。決めたのは私だ。

 

 ――お兄ちゃんが元に戻れたなら、それでいいんだ。

 

 そう言葉にしたかったのだが、口には出せなかった。恥ずかしかったわけじゃない。怖くて言えなかったのだ。

 

「ボンゴレファミリーのルール違反により、勝者は――ミルフィオーレファミリーです!!」

 

 チェルベッロの声で現実に戻される。

 

 それにしても入江正一の過去の話を先に話してもらって良かったと思う。私のせいで話すタイミングが完全になくなったからな。

 

 チェルベッロが宣言したため、観覧席でいた彼らが合流する。心配しているであろう彼らに手を振る。ディーノも思ったより元気そうで安心した。少し話したかったが、非常に残念なことに彼らが来たということは白蘭達も来るということである。

 

「いやぁ、予想外なことが多くてすっごく楽しめたよ」

 

 パチパチと手を叩きながらやってくる白蘭はニッコリと笑っていた。激情するより怖く感じるのは気のせいだろうか。

 

「サクラ、僕から離れてはいけないよ」

 

 兄の言葉に素直に頷く。多分私は1番白蘭の怒りをかっている。

 

「サクラちゃんが桂を元に戻すなんて思いもしなかったよ。本当に――」

 

 私を守るために兄が前に出てるのだが、ガタガタと震えてしまう。見えていないのに、ネットリ絡み付くような視線を感じるのだ。

 

「僕達の愛は不変だからね。羨ましいと思っても君には一生経験できないことさ」

 

 兄が前を見ていて良かった。私は多分泣きそうな顔をしている。

 

「でもまぁ君達の負けだよ。約束は守ってもらうよ。ボンゴレリングは全ていただいて、君達は――」

「待ってください! 白蘭さん! 約束なら僕らにもあったはずだ!」

「いや――」

「大丈夫! 僕に任せて!」

 

 負けるのが正解と言ったので、入江正一は再戦できると思ってるようだ。止めようとしたが、元気いっぱいの入江正一は話を進めていく。……ああ、非常に残念なことになるぞ。

 

 案の定、断られた。

 

「ええ!?」

 

 断られるとは思わなかったのだろう。入江正一は驚いた声をあげた。

 

「……私が悪かった。チョイス自体が無効になるんだ」

「やだなぁ、サクラちゃん。大好きなお兄ちゃんが戻って、喜びすぎて妄想に取り付かれちゃったのかなぁ」

 

 兄の後ろからちょっとだけ顔を出し、白蘭を見る。私の見せ場かもしれないが、怖くてこれ以上は無理なのだ。

 

「君ならわかるだろ。チョイスを無効に出来る人物が1人いることに」

「……姫」

 

 いち早く彼女が現れたことに気付いたのはγだった。

 

 彼女の歩みはとてもゆっくりだった。だが、誰も止めないし急かさない。それほど彼女が纏ってる空気は特殊だった。そんな中、γだけは彼女が止まるであろう場所の近くで膝をついていた。話したいこともたくさんあるのだろう。本当は抱きしめたいのであろう。それでも膝を突き、彼は待っていた。そのことに愛を感じた。

 

「遅くなりました」

「……問題ないぜ、姫」

 

 交わした言葉は少ないのに、通じ合ってる2人はとても神聖で思わず見惚れてしまった。

 

「……何をしている?」

「今からでも間に合うと思うのだよ」

 

 いきなり膝をついた兄はとても残念だった。

 

「……おかえり」

「待たせてしまったね、サクラ。本当にすまなかったよ」

「……ん」

 

 兄のワガママに付き合ってあげた私は出来た妹だなと自身で思ったのだった。



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白昼夢

 私達がくだらないことをしたため、空気が元に戻った。……良し、としよう。話を進めなければならないのだから。

 

「彼女が元に戻ったなら、わかるだろ。大空のアルコバレーノにはチョイスを無効に出来る権限がある」

「ええええー!?」

 

 沢田綱吉の大きな声が、いつの間にか悲鳴にかわった。見なくてもわかる。リボーンがやったのだろう。その間に私は視線を送る。打ち合わせをしていなかったが、頷いたのでわかってくれたようだ。

 

 これで彼女達は大丈夫だろう。少しばかり省略したため、白蘭達が手を出すタイミングが早くなるはずだからな。それに基地ユニットを動かしたため、知識と違って超炎リング転送システムの場所から離れているのだ。先に手を打たなければ、彼女達の身が危うくなる。

 

 後は……と、考えようとしたその時に自身の身体が舞った。

 

 痛くはない。が、止めどなく溢れる血に死を悟る。フミ子の形態を解いた私がバカだったようだ。ディーノに一般人の彼女達を保護しろと目で伝えたのも間違いだったらしい。

 

 兄が私を助けるために空を舞った。が、恐らく間に合わない。私は血を流しすぎた。

 

「…………」

 

 だからせめて白蘭が兄の後ろにを居ることを教えようとしたが、口をパクパク動かすだけで声が出ない。喉もやられてるようだ。

 

 心臓が刺された時も思ったが、痛くはない。致命傷だったため、痛覚がマヒしてるのかもしれない。まぶたが重くなり私はそっと目を閉じた。

 

 

 

 

「う゛お゛ぉい!!」

「――っ!」

 

 声に驚き目を開ける。そして首をひねった。私は死んだのではなかったのだろうか……?

 

 身体をペタペタさわる。特に何も問題なさそうだ。

 

 周りを見渡すといつの間にかユニを守るために戦うと決めたところまで進んでいた。流れを知ってる私は退屈で眠ってしまったのだろうか。本当に……?

 

 なんとなくだった。ただ、なんとなく私は近くにあったスケボーにのり移動した。

 

 地面が割れる。私が今まで居た場所に恐竜が現れた。

 

「……はぁ、はぁ」

 

 驚きすぎて周りの音が聞こえない。自分の息遣いだけが耳に入る。

 

 後一歩遅れていれば、桔梗の地中からの攻撃で私は死んでいた。恐怖で頭がおかしくなりそうだ。

 

「逃げろっ!」

 

 その声をきっかけに兄が動き出し、私はいつの間にか横抱き状態だった。安心し顔をあげた私だったが、兄の表情を見て慌てて首の後ろに手をまわした。

 

 少しでも私の熱を感じ、生きていると感じれるように――。

 

「……すまない、サクラ。僕が油断したせいで怖い思いをさせてしまったね。もう大丈夫だよ」

 

 話す声がいつもの兄だったので、何度も首を縦に動かす。

 

 周りが慌ただしく動いてる様子から、逃げるために争いが始まってるのかもしれないが、私は兄にしがみつくのを止めなかった。……いや、止めれなかったのだ。

 

「サクラ、このまましっかり捕まっておくんだよ」

 

 コクリと頷くと、風を感じた。そーっと覗き見ると、視界いっぱいにバラが広がる。

 

 以前にも同じようなことを感じた気がする。しかし今回はバラの花だけじゃなく、ツルもあった。そしてそのツルには白蘭や真6弔花が絡まっていた。

 

「……凄い」

 

 兄が走ってるようなので、全体がよく見えるようになって気付いた。範囲が広い。……広すぎる。私が思わず不安を忘れ呟いたほどである。

 

 本当にどこまで広がるのだろうか。白蘭達は少しずつ移動しているのでわかりにくいが、置いていってしまったスケボーがあるので一目瞭然だ。

 

「……お兄ちゃん」

 

 思ったより低い声になった。だが、もし私が考えていた通りなら、怒らずにはいられない。そして私の機嫌の悪さに気付いたのか、兄は肩を跳ねて言い訳し始めた。

 

「サクラの喜ぶ顔が見たくて……」

 

 どうやら私が危惧していた通りだったようだ。兄は私が凄いと言ったため調子に乗ってバラを大量に咲かせたらしい。

 

「真面目に逃げろよ!?」

「それについては問題ないさ。僕は大真面目だよ。サクラの命がかかってるからね」

 

 それなら炎を無駄に消費するなと言いたい。

 

「それにほら、目的地だよ」

 

 私は後ろを向いてる状態なので気付かなかったが、超炎リング転送システムのところまで来たようだ。他のみんんは大丈夫なのだろうかと思ったが、兄の背からは白蘭達しか見えなかったので、私達が最後尾だったようだ。彼女達はディーノの誘導で基地ユニットに乗って移動しただろうしな。

 

「サクラ」

「なんだ?」

「ここでお別れだ」

 

 ちょっと待て。そう言葉にしようと思った時、兄に優しく抱きしめられた。

 

「あれの攻略方法を彼が知らないとは思えない。すぐに追いつかれる」

 

 私を降ろしながら話す兄はとても真剣で声をかけることが出来なかった。

 

「時間があれば、もう少し伝えたい言葉もあったんだけどね」

 

 近づいてくる白蘭を見ながら兄は残念そうに呟き、そして駆け出した。

 

「……待って、お兄ちゃん!」

 

 また、だ。また伸ばした手が空を切り、兄は私の言葉に見向きもしない。

 

「お兄さん!」

 

 私の声で気付いたのか、炎を込めようとしたツナ達が叫んだ。

 

 誰か、誰か止めてくれ。誰でもいい。……お兄ちゃんを!

 

「――骸の、骸のパイナップルバカーーー!!」

 

 思いっきり叫んだ。……訂正しよう。思いっきり叫んでしまった。

 

「あなたが僕のことをどう思ってるか、よーくわかりました」

 

 兄よ、戻ってきてくれ。白蘭より彼に殺されそうだ。謝ろうかと思ったが、どう考えても怒ってるので不満を口にすることにした。

 

「カッコつけようとして出てくるのが遅いからだ」

「クフフフ」

 

 武器の向ける方向が変だと思うのは気のせいなのだろうか。パイナップルバカに敵の位置を教えた方がいい気がする。私の安全のために。

 

「方向がわからなくなったのかい? 敵はあっちだよ!」

 

 いつの間にか兄が戻ってきていた。そして私が考えていた内容まで伝え、さらに骸を白蘭の方向へ身体を押した。流石、兄である。

 

「……この兄妹はどこまで人をバカにすれば済むのですか」

 

 少し悩み、兄と目を合わせて揃って返事する。

 

「さぁ?」

 

 怒りを我慢をしながら白蘭の相手をする骸を見ながらドンマイと思った。

 

「君なら大丈夫さ! さぁ、サクラは安全な場所へ移動しようか」

「ん」

 

 兄にエスコートされながら、私は基地ユニットの中に移動する。

 

「沢田君、もう大丈夫だよ!」

「え……。あ、はい」

 

 一緒に基地に入り、ひょっこり顔だけ出してツナに伝えた兄はやっぱり大物だと思った。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 超炎リング転送システムが無事に起動したことを見送った骸は逃げる準備を始める。

 

「君をやった相手を助けるとはどういう心境だい? 骸クン」

「特にどうも思いませんよ」

 

 淡々と告げる骸に白蘭は挑発する。

 

「骸クンも丸くなったなぁ~」

「クフフ」

 

 しかし、あっさりと骸は聞き流した。

 

 地味にだが、桂との付き合いは長い。ふざけた態度をとってるように見せて、桂は反省していたことぐらいわかるのだ。その証拠に小言を言わなかった。冗談だったがサクラに武器を向けていたのに。

 

 さらに押し付けるように見せながら、桂は死ぬ気の炎を送ってきた。今までサクラを傷つける可能性のある骸には1度もしたことはなかった。それだけ骸にこの場を任せたことが申し訳ないと思っていたのだろう。

 

 ただ、骸でもわからない桂の行動があったが。

 

「……まぁいいでしょう。僕の目的は果たされました。大空のアルコバレーノがあなたの手に渡らなければ充分ですから」

 

 そう1人で納得し、桂のおかげで回復していた骸は、白蘭に止めを刺される前に消えたのだった。

 

「うーん」

 

 残された白蘭は不満そうな声をあげる。ユニに逃げられたのも不満だったが、桂を野放しにしてしまったことが1番気に食わなかったのだ。

 

 そんな彼の元に、守護者が集合する。

 

「申し訳ありません! 白蘭様!」

 

 白蘭の不満を感じ取り、その原因である桔梗が頭を下げる。

 

「しょうがないよ。僕もあれを避けれるとは思わなかったし」

 

 桂が元に戻った時、白蘭は桔梗にサクラを殺すように命令していた。桂を殺すにはそれが1番早いからだ。ユニを傷つけず、さらに桂に気付かれずにサクラを殺せるのは地中からの攻撃が1番確率が高いはずだった。

 

「ユニちゃんの仕業かなぁと思ったけど、そんな時間はなかったんだよね~」

 

 偶然という一言で片付けていいのか。

 

 チョイスといい、何の変哲もない一般人レベルのサクラが何度も偶然を起こし助かり続けれるとは思えない。

 

 サクラのことは桂に関係するため多少は調べている。どこの未来でもツナ達から離れ、ディーノと一緒に居た。だからこの世界もすぐにサクラを寝たきりにすることが出来たのだ。

 

「……跳ね馬?」

 

 なぜサクラは跳ね馬と一緒に居たのだろうか。

 

 初めはただの家出にディーノが協力し、途中から離れれなくなったと考えていたのだ。白蘭が何もしなければ、二人は恋人関係の未来に行くはずなのだから。

 

 しかし、本当にそうなのだろうか。

 

 ディーノの性格はどの世界でもほぼ同じだ。そもそも世界が違うからといって性格が違うということはほぼない。そうでなければ行動パターンが変わってしまい、この世界以外の全てを白蘭が攻略するのは不可能だ。

 

 何かきっかけがあれば、変わっていくだろう。だが、小さな生物が一匹死んでしまったところで世界が止まるわけではない。逆も然り、世界が変わるようなきっかけに関わらなければ、影響を受けるものではない。

 

 その点、ディーノは不思議な存在だった。性格はほぼ同じにも関わらず、行動パターンが大幅に違う。彼に影響を与えるような大きな事柄も特になかったはずなのに、だ。

 

「やっぱりサクラちゃんは桂の妹ってことなのかな?」

 

 確信はないが、それが1番説得力がある。

 

 ついに、白蘭は気付いてしまった。

 

 余談だが、世界を跳べる白蘭がこんなにも時間がかかってしまったのは、ディーノの情報操作が大きい。さらにどの世界でもサクラはディーノの世話になっていたのだ。違いがなく、そう簡単に気付けるものではなかったのだ。

 

「まっ、することは変わらないんだけどね♪」

 

 サクラに何か力があるかもしれないが、所詮サクラ自身は無力だ。何度も殺せたのだ。それは間違いない。そして、ユニを得るために邪魔になるだろう存在の桂を消すためには、サクラを消すのが1番手っ取り早い。

 

「ユニちゃんを捕まえるのに桂が邪魔してくるなら、遠慮なくサクラちゃんを殺ってね」

 

 必ず桂はユニよりサクラを選ぶ。匣兵器のおかげで死なないかもしれないが、桂の動きを止めることは出来るのだから――。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 誰もいなくなったはずのチョイス会場で少しマヌケな声が響く。

 

「うわー、凄いバラだねー」

 

 ふらりと現れた少女は桂が作ったバラを見て声をあげる。しかしすぐに持っていた刀でバラを斬り始めた。

 

「あった、あった♪ スケボー見っけ♪」

 

 嬉しそうに少女が抱きしめたスケボーはサクラが置いていってしまったものである。

 

「おーサクラちゃん、ばっちりだね。あの難しい説明でよく作れたなー」

 

 のんきに感想を漏らしながら、少女は誰もいない道で乗り心地を確かめる。少女の目には包帯が覆い、何も見えてないはずなのに、だ。

 

「あー、はいはい。わかってるよー神様。って、私も一応神様か」

 

 誰かと会話するように呟く少女はかなり怪しいものだった。もちろん少女は気付いていない。

 

「まぁ適当にどこかで過ごすよ。下手に見ちゃうと手を出しそうだし。……ダメなんだよね?」

 

 数秒後、少女は大きな溜息を吐いた。

 

「これでも納得して手伝ってるんだよ? だからこれ以上は謝っちゃだめだよ。お父さん」

 

 最後の言葉を呟いた瞬間、少女はニコニコと嬉しそうに笑い、次にスケボーに乗りながら空を舞ったのだった。

 

「まぁせっかく会えるのに、役割が死神っぽいのはちょっと……とは思うけどね」

 

 少女がツナ達の前に現れる時は、近い――。




一応、補足。
最後のは読者サービス?です。
ネタバレになっちゃった人はごめんなさいw
わからない人はわからなくて大丈夫です。
サクラサイドで必要なことは書きます。
ちょうど設定が良かったから彼女を使っただけです。


作者の反省。
(日常編の時に調子にのって出そうと考え、流れを決めたのを後悔してます。こんなに見る人が増えるとは思わなかったんだ……)


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バカな子

 横抱きは彼らにとって基本なのだろうか。視界の端に見えるものは気のせいだと結論し、兄におろしてもらう。

 

「本当に大丈夫なのかい? サクラは血を流しすぎていると思うよ」

 

 やはり気にしてるのだろう。兄は心配そうな顔をしていた。

 

「危ないと思ったらちゃんと声をかける」

「……もし僕に任せてもらえるなら快適な移動を約束するよ」

「お兄ちゃん以外、誰に頼むんだ」

 

 何を言ってるんだという風に兄を見ると、目をパチパチさせていた。

 

「サクラはディーノにしてもらったほうが嬉しいはずだからね」

 

 盛大にむせた。

 

 兄が慌てて背を撫でてくれるが、睨みつける。小声で誰も聞かれなかったから良かったものの、ばれていたらどうするつもりだったのか。……まぁ兄がそんなミスをするとは思えないが。

 

「間違っているかい?」

「……間違ってはないけど……」

 

 ボソっと呟けば、兄が満足そうな顔をした。やりにくい。

 

 目をそらせば、雲雀恭弥が学校に向かっているところだった。誰も落ちていないのだが、心配だから行くらしい。身体はボロボロなのによくやる男だ。

 

 恐らく彼は兄が治療すると言っても拒否するだろう。なので、迷ってそうなディーノで行って来いと目で伝える。私も一緒に行ってもいいのだが、彼は嫌だろう。特に兄に負けた後なのだ。私が行けば、兄もついていく気がする。まぁ学校に現れる可能性もゼロではないしな。

 

 私の考えが読めたのか、ディーノは頭をかきながらこっちに来た。

 

「すまん! 桂、こいつを頼む!」

 

 律儀な男である。早く行きたいのに、わざわざ声をかけるとは。

 

「君が頭を下げる必要なんてないさ。僕がサクラを守るのは当然のことだからね」

 

 気のせいだろうか。兄にしては口調がきついと思う。いつもの兄なら「当然だよ! 僕がいれば百人力さ!」と返事しそうなのだが。

 

「お兄ちゃ――お、おい!」

 

 兄に声をかけようとしたが、リボーンに引っ張られる。赤ん坊の癖に力が強すぎるぞ。本当に彼らの身体はどうなってるんだか。

 

「ほっとけ。あいつらだけの方が話が進む」

 

 リボーンがいうのだから、そうなのだろう。気にはなったが、私は引っ張られるままボンゴレアジトに入ったのだった。

 

 

 

 ボンゴレアジトに入ってすぐに着替えた。本当は風呂に入りたいが。

 

「あれ? もう着替えたの?」

 

 どうやら彼らはまだ食堂に居たようだ。

 

「ん。君達も急いだほうがいいぞ。もうすぐ襲撃されるからな」

「えーーー!?」

 

 何を驚いているのだろうか。白蘭の能力はかなり前から知ってるはずだろ。ツナの叫びを聞いていると兄の姿が見えた。もうディーノとの話は終わったらしい。リボーンの言う通りである。

 

「おや? ここに居たのかい?」

「服。ディーノのだけど、別にいいだろ」

「急いだほうがいいんだね。わかったよ」

 

 理解力が高くて助かる。器用にバラで簡易更衣室を作り、いそいそと着替え始めた。流石、兄である。ただ、そのバラの後始末はどうするのだろうか。……今はいいか。

 

「着替えてる時間がもったいないんじゃ……!」

「その服で逃げる気か? 目立つぞ」

 

 γ達のような大人ならまだしも私達は中学生なのだ。街中だと浮いてる気がする。同じことを思ったのか、私の言葉に彼らはすぐに動き出した。忙しそうである。まぁそういう私達も移動するはめになるのだが。食堂がどうなってるかは書いてなかったからな。着替えている場所の近くの方が安全だ。

 

「似合ってるかい?」

「ん、念のため移動するぞ」

 

 誰も文句言うことなく着いてくる。本当に理解力が高くて助かる。

 

「サクラさん、あの――」

「悪いが先に質問させてもらうぞ。最後の戦いは森なのか?」

「――はい」

 

 つまり流れは変わってないと見ていいのだろう。γ達の存在を確認されているが、なんとかなるのか。いや、なんとかするのか。

 

「やはりあなたは私と一緒で未来がみれるのですね」

 

 ブツブツ呟き始めた私にユニが声をかけてきた。ユニはどこまで知っているのだろうか。疑問が顔に出ていたのか、ユニが教えてくれた。

 

「正確にはわかっていません。でも予知をしてサクラさんが現れると、未来が広がるのです」

「……君に負担をかけてたみたいだな」

 

 こっちも必死だったので謝る気はないが、悪いとは思った。

 

「いいえ。ありがとうございます。あなたのおかげで直接返すことが出来ました」

 

 いったい何のことだろうかと思っていると、ユニはγに匣兵器を渡した。まさかまだ持っていたとは……見つからないはずだ。

 

「すみません、γ。あなたが探していたことを知っていましたが、どうしても私から返したかったのです」

「問題ありません、姫」

 

 また2人だけの世界が出来上がった気がする。もうそろそろお腹一杯になるぞ。そして兄よ、また羨ましくなって何かしようと考えているな。

 

「……しょうがないね。今回は諦めるよ。サクラ、これをつけるんだ」

 

 睨みが効いたのか、諦めたらしい。そして素直に受け取ろうとしたが、兄が持っているものを見ると指輪だった。思わず2度見をし、手が止まった。これはフミ子の匣兵器だ……。

 

「僕が安心して戦えないのだよ。それとも僕とお揃いが嫌かい?」

 

 おどけながら兄は話していたが、真剣な気がする。だから渋々受け取って、つけることにした。

 

「ありがとう、サクラ」

 

 褒められるように頭を撫でられたが、足手まといの私が悪いと思う。謝ろうとしたが、襲撃が来てそれは叶わなかった。

 

 その代わり別の言葉を伝える。

 

「抱っこ」

「――くっ! サクラが可愛すぎる!!」

 

 床をダンダンと叩き出した兄を蹴ってもいいだろうか。もう少し空気を読め。兄ならスクアーロが攻撃を防いでることに気付いてると思うのだが。

 

「大船に乗ったつもりでいたまえ!」

 

 何でもいいからさっさと移動しろよと思いながら頷く。兄はあっさりと私を横抱きしに、走り始めたのだった。

 

 そして、楽をしていている私はというと……眠気と戦っていた。やはり血を流しすぎたらしい。

 

「……ツナ」

「どうしたの?」

「スクアーロに無線。型を使うな、他の世界で攻略されている」

「わ、わかった!!」

 

 伝えないほうがスクアーロは安全だろう。だが、彼は教えなかったことに気付けば、怒るだろう。そういう男なのだ。命より強さに誇りを持ってる。

 

「お兄ちゃん、10分後に起こして」

「……わかったよ」

 

 溜息をつきながら返事したのは、本当はもっと眠ってほしいのだろう。

 

「死ぬなよ……」

 

 眠る前にもう1度振り返り、私は呟いた。死んだとしても問題ないと知っていても願わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 腕が痛い。兄にしては手荒な起こし方な気がする。そう思いながら目を開けると、兄は誰かを睨んでいた。10分ぐらいは大丈夫と思ったのは間違いだったのだろうかと考えたが、兄もリボーンと一緒で川平のおじさんを警戒しているようだ。……先に文句を言うか。

 

「痛い」

「!? すまない! サクラ!」

 

 抱きかかえてる私を揺らさずに頭を下げるとは器用だな。

 

「とりあえず警戒を解け」

「大丈夫なのかい? サクラを疑ってるわけじゃないのだよ。ただ、あまりにもタイミングが良すぎてね」

「この場所に決めたのは君達だろ」

 

 呆れて言えば兄は警戒を解いたが、リボーンはまだ銃を向けたままだった。

 

「サクラ、本当に問題ねぇんだな?」

「敵対しなければ大丈夫」

「……わかったぞ」

 

 しぶしぶという風に手を下ろしたリボーンを見て溜息を吐く。何度も思うが、私を信用しすぎだ。敵対するようなことをもうしているとは考えないのだろうか。もっとも教えるつもりはないが。

 

「じゃぁあたしはこれで失礼するよ」

 

 その言葉に顔を向けると、目があった。合格という意味なのだろうか。

 

 兄はこの世界を壊す可能性がある。まぁこれはトゥリニセッテを使って壊さないので見逃してもらえたのだろう。問題は私の存在だ。彼は恐らく気付いてる。私が正体を知っているのに黙ってることを。

 

 少し悩んだが、考えを放置することにした。不合格と判断すれば、彼はすぐに私を殺せるはずだからな。考えても無駄だ。

 

「ソファー」

 

 そんなことより、これからのことを考えた方が有意義である。去っていく彼のことを気にせず、私はおろしてと兄にお願いしたのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 一方、そのころ学校では雲雀がディーノにケンカをうっていた。

 

「目障りだ」

「おい、恭弥。そういうが、その傷だと真6弔花を1人で相手するのは無理だぜ」

「保護者面しないで」

 

 普段のディーノならば笑って聞き逃しただろう。だが、彼は桂に言われた言葉が耳に残っていた。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

『どうして僕に頼んだんだい?』

『そりゃ、お前ならあいつを守れる強さも覚悟もあるからで……』

『その選択はあってると思うよ。でもその前にどうしてサクラを説得しなかったんだい?』

 

 一瞬だが、ディーノは言葉に詰まる。サクラは雲雀の気持ちを考えて、視線を送ったと気付いていた。だから追いかけると決めたのだ。

 

『サクラの力に、もう僕は予想がついてる。だからすぐに従ってしまう気持ちもわからなくはないよ。でも君はサクラを守ると決めたんじゃなかったのかい?』

 

 サクラが嫌だといえば、桂に任せる選択もあったのだ。

 

『君はサクラに甘えすぎている。沢田君の方がわかっていそうだ。彼は頑固そうだからね』

 

 桂は話しながらも仕方のないかもしれないと思っていた。自身が壊れていた間、サクラを支えたのは彼だ。誰よりも一緒に過ごした分、徐々に気付かなくなったのだろう。しかし、言わずにはいられなかった。

 

『雲雀君の傷は僕のせいだ。でもこの状況を作ってるのは僕だけの責任じゃない。――君は彼の師匠なのだろ?』

 

 雲雀が群れることを嫌いなことは知っているなら、サクラを守りながら彼の面倒を見るのは不可能だとわかっているはずだ。選ばなければならない未来を作らないようにもっと彼を鍛えることは出来たのではないか。桂はそう言っているのだ。

 

『サクラはバカな子だよ。力がないのに、みんなを守ろうとしているんだ。だからディーノ……サクラに頼られてる君は判断を間違っちゃいけないんだ。もしもの時に死ぬのはサクラからだ』

 

 今までは上手く行ったかもしれない。しかし、次も成功するという保証はどこにもないのだ。

 

 現にサクラの力がなければ取り返しのないミスをしていた。フミ子の力を解いた状態で、ディーノはサクラの頼みを聞いて一般人の彼女達を保護したのだから。

 

 桂にも油断があったので口には出さなかったが、ディーノはそのことに気付いた。

 

『しばらくの間、サクラのことは任せるがいい』

 

 ディーノは基地の中に入っていく桂を見ることしか出来なかった。

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 保護者面。確かにそうかもしれない。だが、怪我をしている雲雀を1人にする選択もできなかった。

 

「……恭弥、強くなってもらうぜ」

「はぁ。今度はなに?」

「前はツナのためって言っただろ? 今回はこの世界のため。お前は風紀のためかもしれねぇが……。まっ、それは今はいい。今度は――オレのために強くなってもらうぜ」

「ふぅん。僕は君を咬み殺せるなら文句はないよ」

 

 やる気満々の2人にロマーリオ達が思わず声をかける。今はそんな場合じゃないと。

 

「心配すんな、ロマーリオ。その時は治してやるよ」

「必要なのは君じゃないの?」

 

 止まらないと気付いたロマーリオと草壁はやれやれと肩をすくめるしかなかった。10年前から来た2人なのに、いつものが始まった、と……。



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匣兵器

「寒くないかい? やはり僕の腕の中で……」

 

 兄の言葉を無視し、火に当たる。川平不動産で真6弔花を退けた後にもう1度眠ったので、身体の調子は戻った気がするのだ。それに私がすぐに襲撃されると伝えたため、非常食を持ってこれたのも大きい。温かい物を食べれば、心も身体も休まるからな。

 

「……お兄ちゃん」

「やっぱり寒いのだね! さぁいつでも来るがいい!」

「どう、思う?」

 

 両手を広げる兄を無視し、私は真剣に相談する。頭の良い兄の方が状況をちゃんと理解している気がするのだ。それに私1人で考えてしまうと、自身に都合のいいように考えたくなる。

 

「……そうだね。僕はサクラの力を試した気がするよ」

「ん、わかった」

 

 やはり私はチョイスでやりすぎたらしい。だが、これが最後でもあるし、兄が私の知ってる兄に戻ったので別に後悔はなかった。

 

 まぁ川平不動産でアドバイスしすぎたのは失敗だったかもしれないな。といっても、トリカブトが来るタイミングと桔梗達からの攻撃があると教えたぐらいなのだが。後はほとんど兄がやった。バラをつかってシールドを作り、私を含めた一般人を守ったのは兄だからな。

 

 兄の話によると、バラは地上から離れれば離れるほど強度が弱くなるらしい。そのため地上で守るにはちょうど良かったのだ。1番の心配は桔梗の地中からの攻撃だが、バラのせいでユニがどこにいるかわからなかったため使う可能性は低かった。さらに地面にはバラの根があるため、突き破ってきたとしても前兆があるという。もっとも兄いわく、そんな簡単に突破出来ないらしいが。それでも念を押してシールドの中に兄も居たので、私達は全く問題なかった。

 

 シールドの外はというと、知識通りクロームの匣兵器が活躍したようだ。襲撃のタイミングもわかっていたので、退けるのは楽だったらしい。だから追う案も出たみたいだが、行動を読んでることに驚きもしなかったのでリボーンの判断で深追いするのはやめたのだ。

 

 この真6弔花の反応を兄はユニの予知ではなく、私の力を試したと感じた。正直、私とユニの力は似ているはずだ。ユニとずっと関わっている白蘭じゃなければ、違いに気付かないと思う。本当に厄介な能力だ。

 

 それに大きな問題が起きる。白蘭に気付かれたなら、この後の未来が少し変わるかもしれない。

 

 違う、もう変わっている。ユニと真6弔花は接触がなかったのに、ユニはこの森で最後の夜を迎えるとわかっていた。特殊な炎粉はユニではなく他の誰かにつけられているということだ。

 

 ……兄に相談しよう。

 

 私が全て話しても1番影響を受けないのは兄だ。兄なら私の頭では思いつかない案が出るはずだ。それに私と違って――強い。

 

「あの、さ」

 

 違う。そうじゃない。私の言葉を待ってる兄を見て思った。相談するよりも先に、説明しなければならない。そしてずっと黙っていたことを謝らなければならない。

 

「サクラ、ダメだよ。それは言ってはいけないよ」

 

 気合を入れて顔をあげた私だったが、兄に止められた。

 

「サクラの気持ちもわかるよ。僕もサクラに謝りたいことがいっぱいあるからね。だけど、謝る相手が違うのだよ」

 

 よくわからなくて首をひねる。私のせいで散々巻き込んでしまった兄に謝らなくて、誰に謝れというのか。

 

「過去の僕にだよ」

 

 そっと私の頭を撫でて話す兄は大人だった。

 

「未来のサクラの責任を過去のサクラが背負う必要はないのだよ。それにね、未来のサクラに責任があるとすれば、それは僕の責任でもあるんだ」

「それは、違う」

「違わないよ。僕はずっと気付いていたんだ。サクラが何かを隠してるってね。でも……聞こうとしなかったんだ。ディーノのところに隠れてる理由も聞かずに、僕はずっと探すフリをしていただけだった」

 

 驚き、目を見開いた。兄はずっと知っていたのか。隠し事をしていることはバレているとわかっていたが、まさかディーノに保護されていたことも知ってるとは思わなかった。

 

「僕は何を怖がっていたんだろうね。サクラはこんなにも良い子で、未来の僕のために無茶までしてくれたのに……。だから僕は過去のサクラに謝るのは間違ってると思うんだ。――ありがとう、サクラ。僕を元に戻してくれて」

 

 目頭が熱くなった。

 

 今なら聞ける気がする。兄を元に戻すと決めた時から、ずっと怖くて、目を逸らして、それでも頭の隅で残ってしまってずっと怯えていた。でも今なら大丈夫だと思う。兄は笑って「何を当たり前のことを言ってるんだい?」と返事をしてくれる。もしくは怒るかもしれない。でも否定はしないだろう。

 

「わ、私も怖がってたことがあるんだ」

「家族を巻き込むことかな?」

「それもあるけど、違うんだ。お兄ちゃんに答えてほしいことがあって――」

 

 ザッという砂の音が聞こえ、振り向く。そこにはツナとナッツがいた。ナッツがいるということはブレインコーティングをするために声をかけてに来たのだろう。何もこのタイミングじゃなくても。

 

「沢田君、すまない。少し後にしてくれないかい? 僕達は大事な話をしているんだ」

「す、すみません!!」

「……大丈夫。そっちを済ませよう」

「サクラ、本当にいいのかい?」

 

 兄の言葉に頷く。もう言葉にする勇気がなくなったのだ。今までなら話せたし、一切疑うこともなかったのに、もう簡単に出来ない。兄が示せば示すほど、不安になるなんて思わなかった。

 

「……わかったよ。沢田君、話してみたまえ」

 

 ツナの話を聞いて、兄が立ち上がった。それを見て、思わず手を伸ばす。兄は私を起こすために手を握ったので、起こしてもらった後も離さずにそのまま歩けば兄が嬉しそうに言った。

 

「今日のサクラは、甘えん坊だね」

 

 否定はしない。兄に触れていなければ不安になるのは本当のことだ。

 

 

 

 

 

 

 ユニの予知、私の知識、兄による治療。これによって原作より遥かに安全だ。それなのにどうしてこんなにも不安な気持ちになるのだろう。

 

 夜が明けて戦闘が始まり、爆破音が聞こえるからなのか。または何かが起こるからなのか。ただ兄に触れていないからなのか。原因はわからない。ただ、ただただ怖くてたまらない。

 

「は、はい! ……ヒバリさんとディーノさんがもうすぐ来るって!」

 

 ツナの声にピクリと反応する。ディーノが知識と違い、雲雀恭弥とずっと一緒にいることは知っていたが、このタイミングでディーノも合流するとは思わなかった。大丈夫なのだろうか。ディーノが強いとわかってはいるが、今から混戦状態になるのだ。何が起こるかはわからない。

 

 ポンっと頭に手が乗る。兄の手だった。

 

「僕も行ってくるよ」

 

 慌てて服を掴む。それだけはダメだ。昨日は私の側から離れる気はないから守りの地点には行かないと言っていたじゃないか。

 

「僕の予想だとね、ディーノが死ぬのはまずいと思うのだよ」

 

 誰にも聞かれないように耳打ちした兄の言葉に首をひねる。

 

 昨日の夜に兄には全て話していた。GHOSTの能力、ユニの力、ボンゴレリングの秘密。だから兄は知っているはずなのだ。死んでも生き返ることを。それなのになぜ行くのだろうか。

 

「このタイミングという意味だよ。サクラのおかげで対策はばっちりだしね!」

 

 もしGHOSTに兄の死ぬ気の炎を吸われれば、ツナでも勝てなくなるかもしれない。しかし兄は死んでも指輪――フミ子の形態変化は解かないだろう。だからその対策として私が作った手袋を兄は持って行くつもりのようだ。炎が吸い取られなかったのはチョイスの移動時に証明されているからな。

 

「……それにサクラは僕のために諦めてしまった気がするのだよ。ここで僕が彼を守れば、サクラはまた気兼ねなく接することが出来るだろ? おっと、僕のことは気にしなくていい。僕も恩を返したいと思っていたからね」

 

 兄はいつ気付いたのだろう。好きという気持ちは隠さなかったため、諦めてるとは思わないと考えていたのだが。

 

「僕がわからないと思ったのかい? あんなにも会話を避けていたのに」

 

 兄は私が気付かれたことに驚いたのが不服だったらしい。少し不満そうな顔をしていた。

 

「もちろんサクラを置いていくのは不安だよ。でも、これが僕達を繋いでくれる」

 

 指輪を見つめ、その後に兄の顔を見て私は頷き服を離した。この繋がりがあるから大丈夫だと思えたのだ。

 

「気を、つけて」

「ありがとう、サクラ」

 

 ぎこちなかったかもしれないが、笑って見送れたと思う。戦闘に役立たない私に出来るのはそれだけなのだから――。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 戦場に着いた桂は真っ先にディーノを探した。

 

「ここに居たんだね」

 

 幻覚で真6弔花を足止め中に無事にディーノを見つけてホッと息を吐く。説得するためにサクラにいろいろ話したが、桂はこのタイミングでディーノに死なれるのが1番まずいと思っていたのだ。

 

「桂!? どうしてここに……あいつはいいのか?」

「心配しなくてもサクラは誰よりも安全だよ」

「だけど――」

 

 さらに言葉を続けようとしたディーノだったが、桂の指に嵌めてあるリングに目がいく。

 

「ん? これかい?」

「……ああ。フミ子じゃねーよな?」

「もちろんだよ。フミ子は君が持ってるじゃないか」

 

 だよな。とディーノは頷く。先程まで雲雀を鍛えることが出来たのはフミ子を持っていたからだ。そして夜明けに間に合うように雲雀を説得させ、フミ子をつかって治療させて眠らせたのだから。

 

 では、それはなんだという風に再び目を向ける。

 

「おや? 知らなかったのかい? ミルフィオーレの幹部にはメイン匣とサブ匣が配られるのだよ」

「それは知っていたが……」

「もっとも僕の場合は同じものを用意しろと言ったけどね。もちろん治療タイプの匣兵器だよ。僕があそこに居たのはサクラを治すためだ」

 

 桂の譲れないところだったのだろう。ディーノは桂の気持ちがわかった気がした。そして同じものを用意させたのは改造すると決めていたからだとすぐに予想が出来た。

 

「お前はそこまでたどり着いてたってことか……」

「それは少し違うかもしれないね。僕がたどり着いた時はもう遅かったよ。でもまぁサクラに会わなければ、閃かなかったと思うけどね」

 

 桂の言葉から、過去のサクラが来てからたどり着いたということがわかる。そして過去のサクラと別れてからすぐに行動を起こさなかった理由は研究をしていたからということも。

 

「能力は同じなのか?」

「まさか。僕がサクラの命を危険に晒すものを渡すと思うかい?」

「っ!」

「そうだよ。これは一方的だ」

 

 つまりフミ子と違い、桂の命が危険になってもサクラに影響はない。

 

「あいつはそのことを……」

 

 ニッコリと笑う桂にディーノは言葉を失った。桂らしいといえば、桂らしい。だが、それはサクラを騙してるのと一緒だ。

 

「サクラのことは心配しなくていいのだよ。これはフミ子より強力だからね。心置きなく戦いたまえ」

 

 戦えるわけねーだろというディーノのツッコミは、幻覚が終了したこととは関係なく桂に届くことはなかった。



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分岐

本日、2話連続更新です。
これは1話目です。


 こいつ、すげぇ……。

 

 ディーノは心の中で呟く。桂の戦い方に戦闘中でありながらも舌を巻いたのだ。

 

 チョイスの時はいたぶりながら相手を壊す印象が強かった。しかし今は味方が戦いやすいように動き、危険な攻撃は桂が受け持ち、さらにスキを見ては相手に決定打を入れようとしている。

 

 攻撃に参加する数を考えると爆発力が減り弱くなった印象もあるが、一緒に戦ってるものからすれば、彼ほど背中を任せれるものはいない。なにせ攻撃を受けてもすぐに治るのだ。他の者と比べると安心感に差がありすぎる。

 

 そして攻撃に転じれば、真6弔花が桂を避けるのだ。特に嫌がるのがブルーベルである。そのことから絶対防御領域の力より桂の活性の力の方が強いとわかる。ブルーベルをフォローするために桔梗が動くのだが、地中からの攻撃は桂のバラにより察知され脅威が軽減されている。1番桂にとって相性が悪いザクロは、ボンゴレとヴァリアーの手により桂に近づけもしない。

 

 連携など取らない人物が揃ってる中、桂を中心に歯車が噛み合う、圧倒的なカリスマ性。だが、それはツナのように全てを包容するのではなく、全て桂色に染めてあげてしまうのだ。良い意味だけではなく、悪い意味でもだ。

 

 しかし、その危うさが今はない。このまま行けば、時間の問題だ。だからこそ、この場にいるものは警戒した。白蘭は必ず何かしかけてくると。

 

 そしてそれはやってきた。

 

「……GHOST」

 

 ディーノは近くに居たためその言葉を発した人物が誰か気付いた。そのためすぐに声をかけようとしたが、桂はもう駆け出していた。

 

 桂の渾身の攻撃だったが空振りに終わり、サクラの話通りだと確信する。炎を吸いとり、ツナを引っ張り出すために投入されたのだろう。

 

 しかしそれでは疑問が残る。サクラの力に気付いたなら、他にも対策を立てるはずだ。現に桂からは死ぬ気の炎を吸うことができないし、もう片方の手袋を持ってるディーノも気付けば使うだろう。

 

 たった2人だが、白蘭の計画の邪魔になるのは確実だ。どうしても腑に落ちない。

 

「桂、何か知ってるなら説明しろ!」

「……ディーノ、サクラの力は知識と予知だけであってるかい?」

 

 説明を求めたのはディーノの方が先だったが、桂の真剣な様子に返事をすることにした。

 

「ああ。あいつの力は――」

 

 言葉に止まったディーノに、桂は肩をつかみ必死に声をかける。

 

「サクラの力は他にもあるんだね!?」

「力といっていいのかわからねぇが、あいつは幻覚に強い。この中でも上位に入るはずだ」

 

 動きを止めた桂のためにディーノは守るように動き出す。そして疑問を口にする。

 

「あいつは大丈夫なんだろ!?」

「……僕が間違っていた。戻らないといけない! ディーノ、君も来るんだ!」

 

 サクラが避難している場所に向かった桂を見て、ディーノは戦況を1度だけ見て断ち切るように駆け出した。

 

「桂、説明しろ!」

「白蘭の狙いは僕達を戦場から離すことだと思う」

「ちょっと待て! それだと相手の思惑通り動いてることになるだろ!」

「仕方がないのだよ! 僕1人だけでは防げるかはわからない!」

 

 桂の焦る様子を見て、息があがることになるがディーノは詳しい説明を求めた。

 

「GHOSTは沢田君にしか対処できない。だから彼はあそこから離れることになる。白蘭はそれがわかっていた」

「そうなるとしても、あそこにはリボーンがいるだろ」

「敵は術士だ。サクラしか気付かない可能性が高い。しかしサクラは戦闘に関しては素人だ。彼にサクラの反応だけで敵の居場所が読めるとは思えない」

「そうかもしれねーが……」

「彼の腕の良さは僕もわかってる。だけど、守る人数が多すぎるのだよ」

「……狙いはユニやあいつじゃねーのか!?」

「その通りだよ。サクラを殺せる可能性は低いと彼は知っているからね。壊すならこっちだ」

 

 自らの心臓を刺しながら話す桂をみて、ディーノは苦い顔になる。桂はサクラに何かあれば、今度はどうなるかはわからない。何よりサクラが傷つくと知り、それを防ぐのに自身が必要というなら向かわないわけにはいない。GHOSTを何とかするためにも、これは必要な離脱だった。

 

 桂も苦い顔をしていた。ヒントはサクラから貰っていた。

 

 ユニには特殊な炎粉がつけられていない。戦闘に向かないものはユニと一緒に桂のシールドに守られていた。つまり戦場にいる誰かにつけられている。白蘭はユニの位置を正確にわかっていなかったのだ。

 

 そのため真6弔花すら、囮に使った。

 

 彼らが派手に動けば動くほど、ユニを探していることに気付かれない。ツナの性格を考えれば、ユニを守ると約束しても仲間から離れる可能性は低い。必ずすぐに駆けつけれる距離にいるだろうと世界を翔べない桂でも予想できる。

 

 もし桂が気付かなかったり行かなかったりすれば、ユニがさらわれるだろう。そのついでにサクラも壊されるのだ。許せるはずもないし、サクラを元に戻すためにはユニの力が必要になる。

 

 ツナが残ったとすればGHOSTが野放しになり、ユニの居場所がわかった時点でGHOSTが向かうことになる。現象ならば手出しは出来ないだろうが、混乱は必ず起きる。一般人が多いことを考えると1番避けたいものだ。たとえツナがユニを連れて移動するとしても、サクラ達が無事なのかはわからない。

 

 桂が行けば、ツナを誘導しサクラの知識通り結界が出来る。そして、もしそこに手袋の存在に気付いたディーノを残していれば、殺されていた可能性が高すぎる。それを避けたいと思っている桂に選択は残ってなかった。

 

 たとえユニとサクラが気付いたとしても、守りの手を緩めるわけにはいかない。そこから崩されるだけだ。白蘭の方が数手先を読んでいたのだ。

 

 もしサクラだけが見える状況で、彼女達が亡くなってしまえばどうなるのか。ゾッとする未来しか浮かばない。

 

「あれは……」

「急ぐよ、ディーノ!」

 

 ツナがGHOSTの元へ向かった姿を見え、焦る気持ちを抑えながら二人はサクラの元へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 ツナを見送り、ユニが連れて行かれるのも時間の問題だなと思った。だからついユニの顔をのぞいてしまった。

 

 私と目があったユニはニッコリと笑う。黙っていろという笑いなのか、私が気にすることではないといっているのかわからなかったが、とにかく彼女は凄いということだけは断言できる。

 

「サクラ!」

 

 兄の声が聞こえたので振り向くと、肩で息をした兄とディーノがいた。何をそんなに慌てて来たのだろうか。

 

「かわったところはないか!?」

 

 ディーノの言葉に首をひねりながら、周りを見渡す。特に何もないんだが……と返事をしようとしたところで視界に何かが見えた。

 

「そこだねっ!」

 

 見えた途端、すぐ兄の声が聞こえた。あまりのスピードで何かが起きたかはわからないが、最初に見えたものはわかった。

 

 どうして、ここにいる。

 

 私が驚いてる間に、銃声が聞こえたのでリボーンの仕業だろう。そして舌打ちが聞こえるなと思いながら、再び周りを見渡す。今は見えないので、さっきのは見間違いじゃないのかという気持ちが強かったのだ。

 

 居た。私の見間違えじゃなかった。どうして……。

 

 驚き声も失っている間に、再び見失う。それに見失う直前に見えたのはディーノのムチだった気がする。いったい、どうなってるのだ。

 

「サクラ、焦らずに落ち着くんだ。後ろからの攻撃は僕が通さない」

 

 ゆっくりと息を吐く。兄の存在が心強かった。

 

「敵の姿は見えたかい?」

「……今はわからない」

「見えてるだけで十分だよ!」

 

 語尾が強くなった兄が気になり振り向きたかったが、我慢する。状況ははっきりとわかっていないが、相手は強い。油断すれば一気にやられる。恐らく背後では兄がリングをレーダーのように使って、守ってくれてるはずだ。ただ範囲の問題で、私達全員を守れないのだろう。

 

 兄が守るタイミングで相手を捕らえることが出来れば苦労がないのだが、相手は幻騎士だ。そう簡単に行かないだろう。

 

 そもそもなぜ幻騎士が居るのかと思ったが、よく考えれば彼の最期を見ていない。桔梗がチョイスに参加しなかったのでチョイス中に殺されていなかったのだ。勝手にあの後に殺されていると思ってた。知識による弊害だな。

 

 見えた。

 

 声を出そうと思ったが、出す前に再びディーノがムチで攻撃していた。不思議である。

 

「捕まえた!」

 

 止せ。それはフラグだ。

 

 案の定、何をしたのかわからないが抜け出されていた。残念すぎる。

 

「……すまないね。僕がいいところをとってしまったようだ」

 

 首をひねる。何事もなく空を飛んでる幻騎士が見えている私には、兄の言葉が理解出来ないのだ。

 

 しかし、それはすぐにわかった。幻騎士の腕からバラが生えはじめたのだ。すぐに腕を斬り離した幻騎士だったが、バラの成長の勢いは止まらない。

 

「無駄だよ。もう手遅れさ」

 

 目の前の光景が怖く、震えていた私をディーノが優しく抱きしめた。熱を感じ、ホッとしていた私は気付かなかった。兄が今どんな顔をしているのかを――。

 



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責任

本日、2話連続更新です。
これは2話目です。
まだ1話目を読んでない方は前のページへ。


※念のため
『残酷な描写』です。


 落ち着いて気付いたが、この状況はもの凄く恥ずかしいのではないのか。おたおたしだした私のためにディーノが背中をポンポンと叩く。

 

 ん、落ち着く。……そうではないのだ!

 

 思いを断ち切りディーノから離れると、ビアンキが笹川京子達を抱きしめていたので特に変なことではなかったらしい。私が勝手に意識をしすぎてるだけなのだろう。妙に疲れた。

 

 極力、幻騎士の方を見ないようにして兄を探す。私の背後に居たはずなのに居ないのだ。

 

「お兄ちゃん?」

「どうしたんだね?」

「わっ!」

 

 驚いて声をあげてしまった。いつの間に私の隣に居たのだ。

 

「すまない。驚かしてしまったね」

「ん、大丈夫」

「いったい何をしたんだ?」

「ヒミツだよ!」

 

 会話の流れからして、ディーノもよくわかっていなかったようだ。しかしなぜ兄は教えないのだろうか。

 

「まぁ凄いことは私にもわかった」

 

 気にはなるが、話したくないのなら無理に話さなくていい。あまり手の内を教えると兄に不利なことが起きるかもしれないしな。

 

「なぁに、簡単だよ! ただ二度目の攻撃時に特殊な種を彼の身体に仕掛けていただけさ!」

 

 私の気遣いを返してくれ。私に凄いと言われただけで、あっさりと吐くな。

 

 兄が通常運転すぎて和やかな雰囲気が流れ始めたところに、共鳴音が鳴り響く。ついに始まったようだ。

 

 ズボッという音が聞こえたので見ると、兄が地面に手を突っ込んでいた。他の人たちはユニに夢中で気付かないようだ。

 

「何をしている?」

「少し試してみようかと思ってね」

 

 兄の言葉が終わると同時に地面から大量のバラが生える。今まで何度も見ていたが、成長速度が違いすぎる。直接地面に死ぬ気の炎を流しているからだろうか。そんなことを私が考えてる間に、バラはユニの結界ごと捕らえる。止まったようにみえたが、徐々にツナの方へ向かっていく。兄の額にうっすら汗が出ているところを見ると、かなり辛そうだ。

 

「っく!」

「お兄ちゃん!」

 

 無理しなくていいと声をかけようとしたが、その前にブチブチと切れる。いくら兄のスペックが高いといっても大空の共鳴には勝てなかった。

 

 膝をついて立ち上がらない兄が心配で、私は覗き込む。やはり辛かったのだろう。汗が噴出していた。

 

「先に行ってくれ」

「オレも残る。だからあっちを頼む」

 

 全員に声をかけたつもりだが、ディーノが残る気のようだ。私1人で大丈夫だと思ったが「お前1人じゃ運べないだろ?」といわれれば黙るしかない。

 

「……もう少し、休めば問題ないさ」

 

 リボーン達を見送った後に、ディーノのが肩を貸そうとすれば兄が言った。私とディーノは顔を見合わせ、もう少しの間だけこのままにすることにした。

 

「心配かけてしまったね」

 

 私を安心させるためか、兄はいつも通りの笑顔だった。だが、額の汗を見ると無理をしてるのがわかる。せめて拭いてあげようと思いポケットを探れば、ディーノから借りたハンカチがあった。

 

 ディーノに返すため洗ったものだったが、ここは割り切る。ハンカチを持参していない私が悪いのだ。また洗って返せばいい。……今度は私が洗うかはわからないが。

 

「サクラ、大丈夫だよ」

 

 私がハンカチを使う前に、兄は自身のハンカチで拭き出した。……気付いたのかもしれない。これはディーノから借りたものだと。兄は私が普段ハンカチを持ってないことを知っている。

 

「どうして……無茶したんだ?」

 

 最初は私に拭いてもらわなかったのだ。と聞こうとしたが止めた。兄は私の気持ちを察して自ら拭いたのだ。近くにディーノがいるため下手につつかない方がいい。それに無茶した理由も知りたかったしな。兄は私の話を聞いて無駄と知っているのだから。

 

「運命に抗うのはどれだけ難しいか知りたかったのかもしれないね」

 

 兄の言葉がよくわからなくて首をひねる。話をもう少し聞きたかったが、兄は立ち上がり歩き出したので聞き逃してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 私達が到着すると、ちょうど再びボンゴレリングに炎がともったところだった。偶然と片付けれないようなタイミングである。

 

 あまりにも現実離れした光景に、息を呑む。儀式のように感じているのかもしれない。

 

 だが、残念なことに儀式が終わってしまうと私のスペックでは彼らの動きが速過ぎて全く見えない。目が疲れるだけである。

 

「行ってくるよ、サクラ」

 

 目をパチパチさせていれば兄に声をかけてきた。いったいどこにいくのだろうか。

 

「次は結界を破るのだろ?」

「ああ。なるほど」

 

 匣コンビネーションシステムをするためにバジルの元へ行くのだろう。だが、大丈夫なのだろうか。兄は炎をかなり出したはずだ。

 

 顔に出てたのか、兄は私の頭を優しく撫でた。心配するなと言っているのだろう。

 

「サクラ、いい子でいるんだよ」

「ん」

 

 兄に言われた通り、大人しく待つことにしよう。もう決着は近い。

 

 兄達を見送りツナの方を向いたが、やはり動きが見えない。止まったタイミングにそこに居たのかと思うレベルである。

 

 私が若干遠い目になったぐらいで、周りが騒がしくなった。準備が整ったらしい。

 

 バジルが結界に向かっていく姿を見ながら、ふと気付く。兄はいつ指輪から戻したのだろう。アニマルタイプじゃなければ、炎を集めることは出来ないはずだ。手を見ると指輪がなくなっていた。いつの間に。

 

「ふむ! 僕が想像していたより窮屈じゃないね!」

 

 目をこする。結界の中で変なものが見えた気がする。見間違いだろう。

 

「サークラー」

 

 私に向かって手を振っていた。どうやら見間違いじゃないようだ。何をやってるんだ!?

 

「まさか僕に殺されるために来てくれるとは思わなかったよ」

「面白くない冗談を言わないでくれたまえ」

 

 白蘭に声をかけられた兄はとても嫌そうな顔をした。なかなかの嫌われっぷりである。そんなことより、なぜ兄があそこにいる。そもそもγはどうしたんだ。なぜ当たり前のように結界の外でいるのだ。

 

「僕がわざわざここに来たのは、彼女に用事があったからだよ」

「私ですか……?」

「そうだよ。どうして君が命をかける必要があるのだい?」

「他には方法がないんです。ありがとうございます」

 

 兄はユニを説得しに行ったようだ。γが行けば、2人とも亡くなると私が教えたからだろう。

 

「ならば、僕がいいことを教えてあげよう。他の方法があるのだよ」

「え……?」

 

 膝を突き、ユニの手を持った兄は妹の目から見てもカッコイイと思えた。

 

「僕が相手だと不服かもしれないが、そこは許してくれたまえ。数分の我慢さ」

 

 ちょっと待て。兄は何をしているのだ。ユニに指輪を嵌めてるように見えるのは私だけなのだろうか。……止めておけ。それは叶わぬ恋だぞ。

 

「あの、これは……」

「ん? 説明がまだだったね。たとえ君が命を注いでもそれのおかげで寿命は減らないよ」

 

 ……そんな便利な道具があるわけがない。

 

 それに嵌めたのは指輪。私は似たような性能を知っている。しかし似ているだけでそんな機能はなかったはずだ。

 

「それをつけている間に何かあったとき、僕が全て肩代わりするからね」

「……!」

「僕の意思で外せるようになってるから無理だよ」

 

 兄はとても優しく語り掛けていたのに、私には理解出来なかった。だから、ただ叫ぶ。

 

「お兄ちゃん!!!」

「ごめんよ。サクラにも騙すようなマネをして。僕の最期の頼みだ、許してくれないかい?」

 

 そんなの許せるわけがないだろう。だが、兄の目は本気だった。

 

「僕はね、責任を取るのは彼女じゃないと思うのだよ」

「……責任なら私が1番あるだろ!!」

「違うよ。僕は自分で決めて手を汚した」

 

 それも私のためだろう!!

 

「嫌だ! 嫌だぁ!! 嫌だぁぁぁぁ!!!」 

「サクラ、わかってほしい。僕はそれを償いたいんだ」

「それなら、それなら……一緒に!! 私も一緒に!!」

 

 結界へ近づこうとすれば、腕を掴まれた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! 私も一緒に連れてって!!!」

 

 兄に向かって手を伸ばす。ディーノが止めることに腹が立った。

 

「ディーノ、離せ!!」

「……それだけは無理だ」

「離せ!!! それが最善なんだ!! 私が死ねば、全てが上手く行くんだ!!」

 

 パシッと音が鳴り、気付けば頬に痛みが走っていた。

 

「……桂にあんな顔をさせるな」

 

 ディーノに言われ、兄の顔を見るととても悲しそうな顔をしていた。

 

「桂の言葉をちゃんと聞くんだ」

 

 グズっと鼻をすすり、目をゴシゴシと袖で拭いて顔をあげる。だが、すぐに涙で視界が歪む。

 

「……サクラの諦め癖は僕のせいかもしれないね」

 

 そんなことはないと首を横に振る。言葉が上手く出なかったのだ。

 

「サクラ、よく周りを見るのだよ。サクラが頼れば、必ず助けてくれる良い人達ばかりだ。まぁ当然かもしれないね。サクラの友達なのだから」

「……ん」

「何事も諦めちゃいけないよ」

 

 はっきりと言わなかったが、恋のことも含んでると思う。兄はずっと気にしていたから。

 

「わかったかい?」

「……うん」

「過去の僕もいるんだ。大丈夫だよ」

 

 耐え切れずグズグズと泣き出すとディーノが頭を撫で始めた。

 

「サクラのことを頼んでもいいかい?」

「ああ。任せろ」

「桂!!」

 

 笹川了平の大きな声に顔をあげる。2人は特に語ることもなく、握った手を突き出していた。それだけで何かが通じたらしい。

 

「僕を受け入れてくれてありがとう。とても楽しかったよ」

 

 最期に兄は私に向かって笑って、そしてゆっくりと倒れたのだった。

 



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兄妹 1

※念のため
『残酷な描写』です。
お気をつけください。


 ふらふらと兄に近づき、膝をつく。

 

「……お兄ちゃん」

 

 声をかけたが起き上がることもなく、兄の身体にしがみつき涙を流す。ユニの肩代わりをしたが、身体は残ったのだ。

 

 ツナが白蘭を倒し、平和な世界になった。アルコバレーノも無事に復活した。それなのにどうしてこんなにも悲しいのだろう。私が全て話してしまったからなのだろうか。

 

「話さなきゃ良かった……」

「恐らく、桂はユニの力を知っていました。僕のところに何度か出入りしてましたから」

「骸……?」

「ただの独り言です」

 

 彼のいってることは本当なのだろうか。答えを知りたくてももうわからない。

 

「お前のせいじゃない。あいつはずっと前から覚悟していた。上手く説明できねぇが、そんな気がしていたんだ。だから、お前が責任を感じて泣いてるとあいつは悲しむぜ?」

 

 ディーノが私の頭を撫でながら話すので、涙がもっとあふれ出した。

 

「まっ、今日ぐらいはあいつも許してくれるか」

「……ディ、ノ……にいちゃん、が……死ん、じゃった……」

「ああ。そうだな……」

 

 私が泣きやむまでずっと付き合うだろうとわかっていたが、ディーノの優しさに甘えることしか出来なかった。どうしても思ってしまうのだ。兄は笑って起き上がるのではないか、と。 

 

 だが、そんな都合のいい話があるわけがなく、兄の心臓の音は完全に止まっていた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 私がまた呟いた後に、パチパチパチと拍手の音が聞こえた。誰だか知らないが、私を怒らせるには十分な行動だった。兄が死んで拍手するなど、許せるわけがない。だから私は音がしたほうを思いっきり睨んだ。

 

「お前らも見えるのか?」

 

 拍手した人物は雲戦の時に見た男だった。そして男の言った内容に私も疑問を感じた。あの時、私以外に認識できなかったはずだった。しかし今はツナ達が男を警戒し、武器を向けてる。だが、ヴァリアーやγ達は警戒してるが、若干方向がずれているところを見ると認識できていない気がする。もっとも戦闘タイプのアルコバレーノの方向はずれていなかったが。

 

 私もなぜツナ達は見えるのかと疑問に思ったが、後回しにする。この男が今現れた理由の方が重要なのだ。涙が止まってしまうほどである。

 

「まぁいい。お前はオレの予想を超えた。まさかこいつが死ぬなんて思いもしなかった」

 

 男は残念そうに私を見て言ったが、恐怖とかは感じなかった。そんなことより気になったのは、兄をこいつと呼んだことだ。兄の知り合いなのだろうか。

 

「おかげで桂を使い、この世界を滅茶苦茶にしようとしたオレの計画が台無しだ」

「……桂を使って?」

 

 気力を使いきったはずのツナがいつの間にか起き上がっていた。

 

「オレの最高傑作だったんだがな。こんな馬鹿げたことで死ぬとは思わなかった」

「うおおおお!! 桂の生き様をバカにするのは極限にオレが許さーーーん!!」

 

 ふざけるなと私が行動を起こす前に、笹川了平が男に殴りかかっていた。

 

「っち。面倒だな」

 

 私にはよく見えないが、音からして1度も攻撃が当たっていないらしい。それどころか話す余裕すらあるようだ。

 

「いいのか? 桂の魂はオレが持ってる。……いつでも壊すことが出来る」

 

 その言葉に笹川了平はピタリと動きを止めた。それを見て男が溜息を吐く。言わなければわからないのかというようなバカにした溜息だった。

 

 気付けば男の手の上でふわふわと何かが浮いていた。何名からか視線を感じるので答える。震える声になったが、しっかり伝えた。幻覚じゃない、と。

 

「『真実の目』か? 知識といい、また弱弱しい能力を授けたな。あいつと繋がりを持つためにこれ以上与えることが出来なかったのか?」

 

 私を見ながらブツブツと呟く男の言葉に青ざめる。誰かから能力を授かったことではない。そんなことはどうでもいい。問題は男の最後の言葉だったのだ。

 

「……話すな。それ以上話すな!!!!」

「何があった!?」

 

 ディーノの焦る声すら、聞きたくないという風に耳を塞ぎ、ガタガタと震え始める。知りたくない、これ以上知りたくない。

 

「……はははは!!! これは傑作だ!! 気付いててごっこ遊びをしてたのか!!」

 

 ……ああ。耳を塞いでるのににどうして男の声は聞こえるのだろうか。

 

「話すな!! 話すな!!! 話さないでくれ……」

 

 こんなことを言えば、助長するとわかっている。だが、言わずにはいられなかった。

 

「お前のことなんて桂は何とも思ってねーよ」

 

 ツナ達が否定しているが、私には否定する声を出すことが出来なかった。

 

「はっ。桂がこいつを気にかけたのはこいつの能力のせいだ。……忌々しい。これのせいでオレの計画がつぶれたんだ」

 

 私の中でガラガラと何かが壊れるような音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 チョイスの時、兄に触れれば元に戻る夢を見た。

 

 鼻で笑うような内容だ。私に対して冷たい目を向けた兄が、私を刺そうとした兄が、それだけで治るなんてありえない内容だと誰もが思うだろう。……私以外は。

 

 現にディーノとリボーンも本当に大丈夫かと確認してきた。だから私は夢で見たから大丈夫と押し通した。死んでも話せなかったのだ。

 

 私のことを知らない兄が、本当の兄なのかもしれない、なんて……。

 

 夢を見てから、小さい頃に私が産まれて良かったと言った両親の言葉がこれほど重く感じたことはなかった。

 

 両親の言うとおり、兄は私と会って変わったのだ。……違う。私に触れて変わったのだ。

 

 私がツナに触れて、知識を得た時のように――。

 

 この時から私は思ってしまったのだ。兄は記憶を――兄は感情を植えられたのではないか、と。

 

 もちろん私はすぐに兄の眠っていた感情が解放されただけという可能性も考えた。ツナは何も知らず、私は思い出したように知識が流れたのだから。

 

 だが、それはないという可能性が強かった。なぜなら、兄は忘れたのだから。一向に私の知識は消える気配がないのに。

 

 もちろん誰かに話せば、他の世界を翔べる白蘭がやったから忘れた可能性があると言うだろう。しかし、それなら解放するのは私じゃなくても良かったと思うのだ。兄と私は歳が離れすぎている。他人のツナに触れて私は知識を得ることが出来たのだ。兄より後で産まれた人物じゃなければいけないのならば、兄が触れそうな人物にすればいいだけのことだ。7年も時間をかける必要があるのだろうか。

 

 私がツナに触れてから知識を得たのはズレを減らすためだと考えられる。だが、どうしても兄が7年も時間をかける必要があるのか説明することが出来なかった。

 

 それにスペックの低い私が、兄に触れるのはとても難しい。もし兄が感情を忘れた時のことを考えるなら、私じゃない方がいい。

 

 だからツナと兄は何も関係なく、全て元始は私だという考えが胸にストンと落ちたのだ。

 

 それからはとても不安だった。私に弱く甘いのは本当の兄ではなく、能力のおかげで大事にしてくれてるんじゃないのかという考えが頭から離れなくなった。

 

 私はどうしても不安になり、兄の首に腕を回したり手を握ったりすることを止めれなかった。触れていれば、私のことを忘れないのだから。

 

 そしてそれをすればするほど、兄は嬉しそうに笑うのだ。不安は減ることはなく増す一方だった。

 

 だが、こんなこと誰にも話せなかった。

 

 もし私のことを知らない兄が本当の兄なら……チョイスの時に兄が誰かを殺してしまえば、生き返れないかもしれないのだ。

 

 知識のある私が問い詰められるまでディーノに頼めなかったのは、本当に死んでしまうかもしれないから。『私のために死んでくれるのか?』という言葉は本気で言ったのだ。兄が変わってしまっても、それは白蘭の悪事に入らないのだから……。

 

 本当の兄はあの冷たい目だとしても、それでも、それでも私は兄が好きなのだ。

 

 たとえ植えられた感情だとしても、私は兄のことが大好きだ。

 

 気付いていて好きだと思う私は男が言ったように『ごっこ遊び』かもしれない。何も知らないフリをして、仲の良い兄妹を演じていたとも言えるのだから。

 

 ……兄はどうなのだろうか。

 

 もう声を返すことが出来ない兄に、聞きたい。

 

 ――それでもお兄ちゃんは、私のことが好き?



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兄妹 2

本日、3話連続更新です。
これは1話目です。


 崩れ落ちたサクラをディーノが支え、顔を覗く。

 

 感情が見えない。

 

 泣くことも出来ないほど、サクラは傷ついてしまったのだ。

 

 もしサクラから話を聞いていれば、笑い飛ばせる内容だったかもしれない。が、桂さえもこの隠し事に気付かなかったのだ。回避するのは難しいことだった。

 

「しっかりしろ!!」

 

 ディーノが声をかけても無反応で、それを見た男は笑い出した。とても嬉しそうに。

 

 しかし男の反応を見ても誰も動けなかった。男の手の上に桂の魂があるからではない。本物の魂かわからないものに躊躇はしない。ただ、男の威圧が強まり動けないのだ。手を出せば殺されると本能が、魂が訴えているのである。

 

「やめなさい」

 

 鈴のような声が聞こえ、ツナ達は息を吐く。呼吸を忘れるほど、男に飲まれていた。

 

 ツナ達が我に返り声の主を探せば、目に包帯をした少女がサクラの隣に居た。そしてふわりと笑った少女に目を奪われる。しかし奪われた時間は一瞬で、急に現れた少女に警戒し始める。包帯に目がいったが、少女は刀を持っていたのだ。特に男の姿を見えなかったはずのヴァリアーやアルコバレーノが男と少女に殺気を放っていた。

 

 2人はそんな彼らの態度を無視し、互いに対峙する。先に口を開いたのは男の方だった。

 

「誰だ」

「あの人の代理よ」

「ああ!?」

 

 とても嬉しそうに笑っていた男だったが、突如怒鳴り声をあげる。しかし、ツナ達は先程のように呼吸を忘れるほど男に飲まれなかった。理由は男の視線が少女に向けられていたからだ。少女はそのことをわかっているのか、男をさらに挑発しだす。

 

「あの人はとても忙しいからね。あなたなんかに時間を割いていられない、私1人で十分よ」

「……はっ。眷属程度でオレに敵うと思ってるのか」

 

 少女の魂胆に気付いたのか、男は冷静になり嘲笑う。が、少女は全く気にせず、まるで見えてるかのように周りを見渡した後、ディーノに顔を向ける。

 

「大丈夫よ。ちゃんと届くから。あなたの言葉も、あなた達の言葉も」

「本当に……?」

 

 そんな言葉をかけられるとは思わなかったディーノは言葉につまり、ツナが先に反応したのだった。そのため少女はツナの方へ向きなおし、声をかけた。

 

「もちろん。サクラちゃんにとって、あなた達と過ごした日々は掛け替えのないもの。だから声をかけてあげて」

 

 なぜかその言葉にツナ達は大丈夫だと思え、サクラの名を呼ぶ。その姿に少女はとても嬉しそうな顔をし、声をかけない人物達に顔を向けては苦笑いした。

 

 そして少女は深呼吸し、再び男に向き直った。

 

「高みの見物のつもり?」

「そんな余裕はない。オレはお前を使ってどうやってあいつを引きずり出すかを考えることに忙しいからな。……お前には遠慮はいらない」

 

 口角をあげた男の表情が見えてるのか、少女は眉間に皺を寄せた。不快なものを見ているようだった。

 

「手を出さないでね」

 

 釘を刺した後に「まぁそんなスキないと思うけど」と呟きながら、少女は刀を抜く。そして男に斬りかかったのだった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 何も聞きたくない。

 

 何もいらない。

 

 違う。私には何もない。

 

 お兄ちゃんと過ごした日々が偽りなら、私には何も残らない。お兄ちゃんと過ごした思い出しかないのだ。もちろん両親との思い出はある。が、そこには必ず兄がいた。

 

 私には何もないのだ。

 

 ――本当にかい?

 

 お兄ちゃんの声が聞こえた気がして、顔をあげる。しかし、倒れている兄しかいない。

 

 やっぱり何もないのだ。

 

「サクラ!!」

 

 再び目を逸らそうとしたが、誰かが私を呼んだ気がする。

 

「サクラちゃん!!」

 

 ほら、また。

 

「戻ってくるんだ! みんなと一緒に過去に帰るんだ!」

 

 みんなって誰だろう。兄はもういない。過去に戻ったとしても、良いことがあるのだろうか。過去に戻れば、兄は全て知ってしまう。

 

 怖い。

 

 兄が冷たい目をして私を見ても耐えられる。伸ばした手が届かないことも耐えられる。だけど、伸ばした手を払われると耐えられない。

 

 戻りたくない。

 

 そう思ったとき、誰かに手を掴まれた。

 

「桂と会うのが怖いなら一緒に行こう。だから、戻って来い! サクラ!!」

「大丈夫だよ! またみんなで雪合戦とかしようよ!!」

「……うん」

 

 気付けば、勝手に返事をし涙が出ていた。 

 

 彼が着いてきてくれるなら会えると思ったのだ。それに、みんなと会いたい。私に出来た初めての友達に。

 

「あんまり心配かけるなよ」

 

 ディーノは私の手を握り、もう片方の手で私の頭をガシガシ撫でていた。だから簡単に口から出た。

 

「……ごめんなさい」

 

 私が素直に謝ったことに驚いたのか、ディーノは言葉に詰まっていた。それだけなら許せるが、少し顔が赤いのはなぜだ。笑いを耐えてるなら殴るぞ。

 

「邪魔しちゃうのは心苦しいけど、ちょっといいかしら?」

 

 いつの間にか私の隣に息を切らした女の子が居た。誰だろうか。それに、彼女が乗ってるスケボーは見覚えがある気がする。

 

「ああ、これね。ちょっと借りてるの」

 

 視線がスケボーに向いていたからか、私の疑問に返事をしてくれたようだ。

 

 それにしても彼女が話しながら刀を振り回してるのはなぜだろうか。少し疑問に思ったが、よく見ると男が攻撃を防いでるような動きをしている。私には見えないが、何か攻撃をしているのだろう。

 

「ごめんなさいね。今なら私の言葉が届くと思うから、危険を承知でこっちに来たのよ」

 

 誰だか知らないが、何か私に言いたいことがあるらしい。

 

「彼の魂があそこにあるから、本気を出せないの。だから助けてくれない?」

「……どうしろと?」

 

 ディーノが話を聞いてから返事しろと言ったが、無視する。兄の魂が関係しているなら、手を貸してもいいと思えたのだ。

 

「あなたが思ってるほど彼とあなたは繋がっていないわ。ただ、ほんの少し魂が惹かれあう」

 

 上手く返事することが出来なかった。彼女はいったい何を知っているのだろうか。

 

「よく考えて、あなたが今ここにいるのはあなたの意思よね? 記憶を得て関わると決めたのはあなたのはずよ」

 

 彼女の言葉は間違ってはいない。最初は彼らと関わる気なんてなかった。だが、「また明日」とツナに言ったのは私だ。

 

「彼も一緒よ」

 

 ふわりと笑って言った彼女は目の前から消えた。視線をあげれば、あの男と戦っているようだ。はっきり見えないが、音でわかる。それより彼女の言葉だ。

 

 兄は、気付いていたのだろうか……?

 

 答えはわからない。だが、知りたいと思えた。過去に戻り兄と話したい。

 

「お兄ちゃん……。お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」

 

 上手く説明することは出来ないが、兄にすがって名を呼んだ時とは違った。ディーノもそう感じたのか、私を応援するかのように手を力強く握ってくれた。

 

 そして、幻想のような時間がやってきた。

 

 男の手元にあったものが、私の声に導かれるように目の前に来た。恐る恐るだが手を伸ばす。触れているような触れていないような不思議な感覚だった。

 

 私はディーノから手を離し、そっと両手で包み込む。壊れないように。離れていかないように――。

 

「……ガキが!」

 

 男から向けられたのは憎悪だった。だが、死んでも離さない。

 

「あなたの相手は私よ」

 

 彼女の言葉が聞こえると同時に、風が吹き溢れる。これだけの風が吹けば立つのも辛いはずなのに、しっかりと地面に足がついていた。風は嵐になり、空には分厚い雲が増え、気付けば雨が降り、雷が鳴っていた。

 

「この世界ごとオレを消すつもりか!? ここはあいつが執着した世界だろ!?」

 

 男は舌打ちし消えた。が、すぐに現れた。私にはよくわからない。ただ彼女が刀を振ると、空気――空間が斬れたように見えた。

 

 風などで周りがよく聞こえないはずなのに、彼女の声ははっきりと聞こえた。

 

「あなたが悪しき力を使えば、その分だけ私達も力を使える。この世界を壊さないために。それ以上の力を私達が使うと、この世界に悪影響が出てしまう。だからあなたを捕まえることが出来なかった。この世界を守ることを優先したから」

 

 この現象は彼女が力が使ったからだろう。だから男は焦っている。本来なら私も焦らないといけないのだが、なぜか大丈夫と思えた。

 

「だからあなたは安全地のこの世界に逃げ込んだ。神崎桂の魂を使って」

 

 手元を見る。彼女の話が本当なら、この手の中にあるものを守らないといけない。もう私はこれが兄の魂にしか思えないのだ。

 

「でもその選択は失敗よ。この世界には彼らがここにいる。記憶と魂が惹かれあう力だけで十分で、残すことが出来た」

「……計算があわねぇだろ。これだけの力を残すなんて無理だ! それにあいつの目もあるだろうが!!」

 

 男は動けないのか、喚き散らす。その分、冷静な彼女の声は耳に入ってきた。

 

「私はあの人の眷属じゃない。私は神と人との間に産まれた子ども。だからとても歪で、天候を狂わせるなんて簡単なこと。神の力なんて、あなたを閉じ込める時にしか使っていない。彼女の目は私の目をあげただけ」

 

 ぎょっとした。男の早とちりであっさりと捕まえることが出来たのかと思っていれば、最後に聞き流せない言葉があった。

 

「気にしなくていいわよ? 私は見えなくても問題ないの。他の方法ではっきりわかってるから」

 

 そういえば、彼女が見えないと思わなかった。普通に刀も振るって戦っていたのだから。たとえ、これが彼女のウソだとしても、私より強そうである。それに返してといわれても、断るぞ。

 

 気にするのをやめようと思ったとき、男が叫ぶ。聞くに堪えない暴言の嵐だった。彼女はブツブツと何か呟いていたので、男をどうにかする準備に入っているようだ。気付けば、彼女の背には翼が生えていたしな。

 

 もう少しの辛抱かもしれないが耳をふさぎたい。が、残念ながら私の両手はふさがっている。

 

「これ以上、聞かなくていい」

 

 そういって私の耳をふさいだのはディーノだった。

 

 ……ああ、そうか。やっと気付いた。あの手はディーノだったのか。夢で私の目をふさいだのは――。

 

「『神』の名に誓い、私は彼を『抹消』する!」

「バカな、そんなことをすればお前も……!」

「さようなら♪」

 

 こうして、あっけなく男は消えた。

 

 消えた時にラスボスっぽい癖にすぐに終わったと思ったが、空気をよんで黙っておいた。



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別れ

本日3話連続更新です。
これは2話目です。
まだ1話目を読んでない方は前のページへ。


 男が消えた後、ゆっくりと天候が戻っていく。あれほど荒れていたのがウソのようだ。そして、雲の割れ目から出てきた太陽に照らされた彼女は、翼のこともあり天使に見えた。また翼の色が銀のせいで、輝いているのもある。

 

 私がボーッと彼女を見ていると、微笑んで降りてきた。

 

「彼の魂を守ってくれてありがとう」

 

 無意識だった。あれほど守ろうと思っていたのに、手を広げ彼女に見せた。

 

「私が責任を持って……といいたいけど、それは難しいの。でも私の父が、必ず」

「……ん、わかった」

 

 私が返事をした瞬間、空に向かって飛んでいった。今度は引き止めず、無言で見送る。

 

「もう大丈夫。父が受け取ったわ。これで彼の魂は父が記憶した。だから彼の魂は必ず父の元に戻る」

「……そう」

 

 兄の魂は受け取ったのになぜそのような言い方をしたのだろうと一瞬考えたが、理解できた。不安を取り除くためだろう。過去にいる兄、パラレルワールドの兄は生きているのだから。

 

「聞きたいことは? あなたは権利がある」

「特に」

 

 もしかすると彼女の父があの男が言っていた「あいつ」のことかもしれない。が、聞くのはやめた。いろいろ言いたいこともあったのだが、どうでも良くなったのだ。

 

 兄が救われたならいい。あの男の手元から離れただけで私は十分で、彼女の父なら大丈夫と思えた。

 

「……少し昔話をするわ」

 

 別にいいと言ったのだが……と思ったが、それは私だけだったようだ。だから彼女は語った。

 

 

「何でも出来る優秀な神がいた。そしてそれを妬んだ神がいた。妬んだ神は優秀な神を困らせようとした。優秀な神は怒り、その神の力を落とし閉じ込め異変を対処し戻すことができた。

 

 それからいくつもの時が流れ平和だった。しかし、優秀な神を妬んだのは一人ではなかった。

 

 解放された妬んだ神は、過去に戻った。力を取り戻すために。結果、妬んだ神は完全ではないが、力を取り戻すことができた。

 

 その影響で1つの世界が歪み、時の流れも狂った。

 

 居場所がなくなった魂はあふれ出した」

 

 

 彼女は淡々と過去形で話していた。だが、ここで口調が戻った。

 

「当然よね。その世界は急に過去に戻ったもの。今まで生きていた人たちは過去では生まれていない。維持しようとしたけど、敵わなかった」

 

 今まで淡々と話せていたのは関係なかったから。恐らく彼女が維持をしようとしたのだろう。

 

「もうその後は想像できると思うわ。溢れた魂を使って妬んだ神はこの地に下りた。その時にその魂は優秀な神の管理から外れてしまった」

 

 その魂が兄だったのだろう。それで、私という存在がうまれた。

 

「どうしても1度は父の元へ返さなければいけなかった。……ごめんなさい」

 

 頭を下げた彼女を見ても、怒りは沸いて来なかった。どちらかというと、これで良かったんだと思えた。

 

「……君は、どうするんだ?」

 

 自身でも口から出た言葉に驚いた。なぜそのようなことを聞いたのだろうか。似たようなことを考えたからかもしれない。彼女も自身の事を歪と言ったから。

 

「父の元へ行くわ」

 

 歪かもしれないが、居場所はあったようだ。……私と一緒で。

 

 すると、ガシャンという音が聞こえた。何が起きたか理解したと同時に、唖然とした。

 

 いったい何をやってるんだ、彼は……。そんなに巻き込まれたことに苛立ったのか?

 

 彼女の反応を見ると苦笑いしていた。驚いた様子がないところを見ると、わかっていたのかもしれない。

 

「ねぇ、君が存在していた世界は消えたんだよね?」

 

 思わず首をひねる。なぜ彼はそう思ったのだろうか。確かに、当事者のように維持した時の話はしていた。だが、その世界で彼女が存在していたと普通考えるだろうか。彼女の父をサポートしていたという風に捕らえるはずだが。

 

「……そうか。1度目の異変の時か」

 

 ディーノが何か気付いたようなので、説明しろと袖を引っ張る。

 

「外から戻せるなら、お前が苦労する必要なかっただろ? だから1度目の異変を戻したときも誰かいたはずなんだ。こいつ以上に適任はいないだろ。こいつの話が本当なら人の血も、神の血もひいているからな。……それだけ1度目の異変の大きさが異常だったってことだけどな」

 

 ディーノが最後に呟いた言葉に目を見開いた。彼女はどれだけの苦労したのだろうか。

 

「あなたの方が大変だったと思うわよ。彼の使った力が多ければ多いほど、父は私を通して力を振るうことが出来たから」

 

 ……それは聞きたくなかった。なぜなら私が弱くて彼女が強いのも、そういうことなのだろう。悲しくなってきた。

 

「早く答えなよ」

 

 私が落ち込んでることをスルーするとは、相変わらず扱いが酷い。

 

「この世界に私は存在しない」

 

 下を向いていたが、思わず顔をあげた。とても残酷なことを彼女がはっきりと言ったから。

 

「大丈夫よ。父の元へ行くから」

 

 彼女は笑っていた。維持できなくなったときから、わかっていたことなのかもしれない。だが、気付けば口を開いていた。

 

「……それでいいのか?」

「ええ。影響でこんな姿に戻っちゃったけど、私は十分生きたから」

 

 つまり見た目と年齢があってなかったらしい。ふと彼女が空を見た。それだけで時間がもう残ってないことに気付いた。

 

「この刀とスケボーは返します。この世界のものだから。……離してもらえますか?」

 

 しばらく2人は見つめ合っていた。しかしなぜ彼女は無理矢理外さないのだろうか。彼女なら、出来ると思うのだが。外すために彼が歩き出したので、気にするだけ無駄かと判断した。

 

 しかし彼は何を思ったのか、グイッと手錠を引っ張った。

 

「~~~~っ!?!?!?」

 

 声にならない悲鳴をあげた。だが、それは私だけじゃなかったらしい。誰もが驚き、口をパクパクしていた。

 

 とりあえず背伸びをし、ディーノの頬をつねる。反応はない。夢だったのだろうか。

 

 ……そうである。彼があんなことをするわけがない。

 

「あ、あなた達の幸せを願ってます」

 

 気のせいだ。彼女の顔が真っ赤になり、逃げるように空へ飛んでいったのも、全部気のせいだ。現に彼は何もなかったように平然として、どこかへ行ったじゃないか。

 

 ただ、思った。

 

「今までで1番の悪夢を見た」

「……そうか。あれは夢か」

 

 私達はなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 起き上がり身体を伸ばす。今日でこの部屋ともさよならだ。

 

「……電話しよう」

 

 私はこの世界でやり残したことを考えた時に、両親の顔が浮かんだのだ。関係を修復するのは未来の私の役目だが、兄が死んだことは私が伝えるべきと思ったのだ。

 

 ロマーリオに連絡方法を聞き、電話をかける。手は震えていた。

 

『はい。もしもし?』

 

 反応からして私からとは聞いていないようだ。お母さんの声は10年前とあまり変わらなかった。

 

「……私、サクラ」

『…………』

 

 しばらく待ったが返事がない。聞こえなかったのだろうか。もう1度伝えようとしたら、父の声が聞こえてきた。

 

『……本当にサクラなのか?』

「ん。……ごめん」

 

 過去の私にはあまり実感がなかったため謝るのが遅れてしまった。だが、10年も会っていないというのは2人を苦しませるには十分な時間だった。お母さんの泣き崩れた声やお父さんの震えた声で私を呼んだだけで理解できた。

 

 2人がこんな状態なのに兄のことを話していいのだろうかと一瞬頭をよぎったが、兄の最期は私にしか伝えることが出来ない。

 

「お兄ちゃんがさ、死んだんだ」

 

 もっと何か言おうと思っていた。しかし口から出るものは簡単な言葉だった。

 

『……桂はサクラに会えたのか?』

「うん。いっぱい、いっぱい、助けてもらった。最期の最期まで」

『……そうか。それなら、桂は幸せだったね』

 

 言葉が上手く出なかった。どこかで私は責めてほしかったのだ。

 

『サクラ、桂の最期の言葉は?』

「僕を受け入れてくれてありがとう、とても楽しかったって……」

『うん。そうだろうね』

 

 お父さんの優しい声が胸に響く。

 

「お父さん、お母さん……、ごめんなさい……」

『桂のことで謝ったなら、お父さん達は怒るよ』

「だって……」

『だって、じゃない。桂はとても楽しかったと言ったんだろ? サクラが謝るのは間違っている』

 

 グズグズと鼻をすすりながら、お父さんの言葉を必死に考える。

 

『それにね、桂はサクラが桂のことで謝る姿なんて見たいと思ってないよ。幸せになってほしいと願ってるはずだよ』

「……言わ、れた。幸せに、なれ、って」

 

 ああ、そうか。今気付いた。お兄ちゃんは過去の私と会った時から、考えていたんだ。ユニの代わりに死ぬことを……。

 

『もうわかるね?』

「……う、ん。あのね、お兄ちゃん、とっても、カッコよかったよ。知らなかった、ところでも、いっぱい、助けて、くれてた……」

『桂らしいね。お母さんも頷いてるよ』

 

 私が知る限りの未来の兄のことを両親に話した。途中からはお母さんも会話に参加し、お兄ちゃんのバカな話で一緒に笑った。

 

 電話が終わり部屋から出ると、予想通り彼は居た。

 

「ありがとう」

 

 私は誰も近づかないように配慮してくれたディーノに笑顔で礼を言ったのだった。

 

 

 

 

 

 過去に帰るため、匣兵器と別れの言葉を交わしている彼らを横目に見ているとツナに声をかけられた。

 

「サクラはしないの?」

「当然だろ。過去に連れて行くことになるし」

「ダメだよ。正一君が過去に存在しない匣兵器を持ち帰るのはよくないって。……あれ? もしかして……!」

「ん、ヴェルデのサービスらしいぞ」

 

 喜んでる彼らを見た後、私は視線を落とす。

 

『パフォ!』

 

 私の足元にふっつく2体のパンダに苦笑いする。まさかもう一体いるとは思わなかった。

 

 全て終わった後にユニが抱いていたのを見たときは、フミ子にしか見えなかった。そのため声をかければ落ち込むので不思議でしょうがなかった。

 

「ほんと、お兄ちゃんらしい。……フミ子、エリザベス。これからもよろしく」

『パフォ!』

 

 元気に返事をした2体のパンダを見て、今度は声をだして笑ってしまった。

 

 笑いすぎて目元を拭っていると、未来の物を持っていることを思い出した。他の物はアジトに置いてきたのに、これだけすっかりと忘れていた。

 

「入江正一」

「どうしたの?」

「これ、未来の私に渡してくれないか。未来の私の大切な物なんだ」

「うん。わかった」

 

 高そうな物というのもあってか、大事に預かってくれた。

 

 それにしても未来の私は、素直じゃないらしい。貰えるものなら貰うタイプの私だが、高そうなものは躊躇するはずだ。まして保護してもらってる立場なのだから。

 

 使っていたということはそういうことだ。

 

 彼はみんなにバレバレと言っていたが、未来の私にもバレていたのだろう。だから、未来の私は受け取ることが出来たのだ。

 

「ん? 何かいいことがあったのか?」

「別に」

 

 彼を不憫にするのは私なんだなって思っていたのはヒミツだ。



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桂とサクラ

本日3話連続更新です。
これは3話目です。
まだ1話目、2話目を読んでない方は気をつけてください。



 目に飛び込んだ光景は私の家だった。

 

 戻ってきた。ついに戻ってきたのだ。

 

 だが、一歩が踏み出せなかった。ディーノの服を握り締める。彼は急かすこともなく、ただ私の頭をポンポンと撫でてくれた。

 

「い、行くぞ」

 

 何度か深呼吸した後、自身に言い聞かせるようにディーノに伝える。そうしないといつまでたっても動けない気がしたのだ。

 

 私が一歩踏み出そうとした時、ザッという音が聞こえた。

 

 振り向けば、そこには兄が居た。汗をかき息が乱れている。いつもの優雅な雰囲気は一切なかった。

 

 一歩ずつゆっくりと兄が近づいてくる。家の中に居ると思っていた私は、突如現れた兄に対応することが出来ずに動けない。私は怖くて視線が徐々に下がり、ディーノの服を握り締める手に力が入る。

 

 ついに私の視界に兄の足が見えた。だが、何も起きない。声をかけられることもなかった。

 

 だから恐る恐る私は顔をあげた。兄は不安そうな顔をしていた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 小さな声だったと思う。はっきりと言おうとしたが、喉につまり上手く出せなかった。しかし兄にはちゃんと聞こえていたようで、私に手を伸ばした。

 

 だが、触れる直前に止まった。

 

 躊躇されたことにショックを受けそうになったが、よく見ると手が震えている。

 

 お兄ちゃんも怖いの……? 私がお兄ちゃんに拒絶されるのが怖いのと一緒で。

 

 気付けば、私はディーノの服から手を離し兄の胸に飛び込んでいた。兄はゆっくりと優しく私を抱きしめた。

 

「……サクラ」

「お兄ちゃん……」

「僕を受け入れてくれて、ありがとう」

 

 私は力いっぱい兄を抱きしめた。それは私のセリフだ。

 

 

 

 数日後、私は兄と一緒に空港にいた。散々迷惑をかけたので、空港までディーノを見送りに来たのだ。ちなみに数日後になったのは、私の勝手な判断でロマーリオを呼んだからである。1人で帰らすのは不安だったのだ。

 

「ほんとにいいのか?」

「もちろんだよ。フミ子は君に懐いている」

 

 何の話かと思えば、アニマルリングをディーノにあげるつもりらしい。私は口に出さないことにした。未来の兄がディーノのためにフミ子を改造していたこともあるので、2人が納得する形にすればいいと思ったのだ。

 

 ちなみに私の手にもリングがある。兄に根負けし、エリザベスの形態変化の片割れをつけることになったのだ。もちろんもう片方は兄がつけている。

 

 強さを隠すことがなくなった兄は容赦がなかった。本当に。それはもう数日でノイローゼになるほど、説得させられた。

 

 若干遠い目をしていると、兄の強引な説得によりディーノが貰うことになっていた。

 

 しかし、こうなると私も何かディーノにあげたほうがいい気がしてきた。私の方が迷惑かけているのに、何もしないというのは流石に問題だと思ったのだ。

 

「じゃ、元気でな。何かあったら連絡しろよ?」

「ん。でもお兄ちゃんがいるから、前ほど迷惑かけないと思う」

「バーカ。迷惑なんて思ったことねーよ」

 

 ガシガシと頭を撫でられ、嬉しくなる。ディーノならそう返事してくれると思って、言ったのもあったのだ。

 

「……そうだ。ディーノ」

 

 しゃがんでほしいと手で合図する。すると、彼は耳を向けるようにしゃがんでくれた。恐らくこっそり伝えることがあると思ったのだろう。あっさりと彼は騙された。

 

 ディーノの頬にそっと押し当てる。

 

「っ!?」

 

 驚いて言葉の出ないディーノを無視して、帰ろうという意味で兄の腕に抱きつく。すぐに兄は通じたようで、出口に向かってエスコートしてくれた。

 

 数歩進んだところで、顔だけ振り返って声をかける。

 

「お礼」

 

 まだ頬を押さえて唖然としてるディーノに小さく噴出す。しかし実行した私が気になるのも変だと思うが、ロマーリオが腹を抱えて笑ってるのはいいのだろうか。

 

「サクラ、帰りにどこか寄ろうか」

「お兄ちゃんが作ったホットケーキを食べたい」

 

 すぐさま前を向き返事をすると、兄が苦笑いしていた。だから、私は聞いた。

 

「……怒ったり反対しないの?」

 

 未来の兄は応援してくれたが、隣にいる兄は違う可能性もある。まして相手はマフィアのボスだ。叶う叶わない以前に、手放しで喜べる相手ではない。それに兄が嫉妬しないのも不思議だと思った。

 

「サクラの応援をするに決まってるじゃないか! 僕はサクラのお兄ちゃんだからね!」

 

 兄の言葉に、腕に抱きつく力を強める。

 

 未来から帰ってきて、私は決めたことがある。ほんの少しでもいいから、素直になる、と。

 

 もっと兄と話していれば、防げたことがいっぱいあったと思ったのだ。

 

 だから私は言葉にする。

 

「お兄ちゃん、大好き!!」

 




ありがとうございました。


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~あとがき~

※注意 あとがきです!!
本編に関係ありません。

本編を読みたい方は戻ってください。
そして今日は3話連続更新してますので、気をつけてください。



 ども、ちびっこです。

 

 まず先に……今日は3話連続更新してます。まだ読んでない方は戻ってくださいね。ネタバレがあります。

 

 

 では、お礼を。みなさん、ありがとうございます。

 

 1年ちょっとという地味な長さに、お付き合いありがとうございました。

 

 完結というのは労力がいるもので、多少サボったりしながらも無事にたどり着くことができました。

 

 活動報告で呟きましたが、この話を書くと決めた時は、これだけの人に読んでもらえるとは思ってませんでした。正直前作の半分いけば、いい方かなと思ってましたww

 

 ほんと、ビックリしました。

 

 他にもこの話はいろいろ試したことも多く、いろんな経験をさせてもらった気がします。作風を変えたり、アンケートでルートを決めたりw

 

 特にルート投票は私が思ってる以上に、皆さん真剣に考えてくれて驚きました。そして、アンケート締め切ってから完結するまで1年たってるという申し訳なさ!

 

 なので、投票していただいた方にもう1度お礼を。本当にありがとうございます。

 

 

 

 えーと、ほんの少しばかり裏話を。

 

 まずあらすじに伏線をはったのでドキドキしてました。『触れる』という言葉がこんなにも気を遣うことになるとは思ってませんでした。特に終わりの方ww

 

 まぁそれは軽い方なんですよね。私の中で1番困ったのは……

 

 桂さん、大・人・気!!

 

 完結したので、やっと言えます。桂さんは亡くなるために作ったキャラだったんです。最初は過去の桂さんが死ぬ予定だったんです。

 

 それがこの人気ぶり。……何とか、何とか彼が幸せになる道を!!と思い、ラストを変更しました。それが最終話のサクラの最後のセリフですね。日常編の途中からこれに繋がるように書き上げていきました。

 

 それでも未来の桂さんが急に死んじゃったらまずいかと思い、におわすように書きました。『別離』のところの桂さんのセリフで「最期」という漢字を使うだけじゃまずいかと思いましてww

 

 ディーノさんの死亡フラグを折ったのも、死ぬのは未来の桂さんとわかるようにするためでした。ちなみに『フラグ乱立』で折ってます。細かく言えば『フラグ』で「死亡フラグがたった」とツッコミすれば大丈夫な気がするという文で伏線をはってます。この時点で過去の桂さんも死亡フラグを折ってました。『フラグ』でサクラが過去の桂さんにツッコミをいれてますからね。

 

 こ、細かすぎる……!と自分でも思ったので、バレバレな感じにしました。その分、未来の桂さんの最期に力をいれたつもりです。

 

 

 で、このラスト変更に伴って、私の暴走が始まりました。

 

 前作のキャラを出すという暴挙です。ど、読者サービスってことで……(震え声)

 

 申し訳ないです。とても反省しています(土下座)

 

 

 ま、まぁ!彼女は彼女の話があるということで、最低限のことだけを書いたつもりです。それにね、ぶっちゃけ神の話とかどうでもいいんですよ。そこに重点を置くつもりはなかったので。

 

 この話のテーマは『兄妹の絆』ですからね!(←誤魔化そうとしています)

 

 

 

 えーと、これ以上細かい裏話は明日あげる活動報告でします。

 

 内容は↑で書いた試したことの内容を少し。バッドエンドバージョンはどんな感じだったのかとか。今後の活動とかですね。

 

 また一週間ほどだけ、ログインせずに感想をかけるようします。何かいいたいことがあれば、どうぞ。豆腐メンタルの作者ですがお答えしますww

 

 

 長々と書きましたが、今までありがとうございましたー!!



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本編中の小話
こぼれ話(2つ)


活動報告にあげたこぼれ話です。

①は「綺麗な花火」の最後に入れ忘れた話。

②は「花より団子」の時に思いついた話。


こぼれ話①

 

 熱にうなされながら「原作には迂闊に関わらない」とブツブツと呪いの言葉を吐く。この前、雨に濡れたときは問題なかったのに、なぜ今回は風邪をひいたのだ。あの時は気をつけていたからかもしれない。

 

「サクラ、大丈夫かい……?」

 

 不安そうに部屋に入ってくる兄に大丈夫という意味で手をあげる。しかし、兄は通じなかったようで辛そうな表情をし私の手を握る。

 

「僕にもっと力があれば……」

「……ただの風邪。すぐ治る」

 

 あまりにも不安そうだったので笑いながら声をかける。

 

「……うん。わかったよ。今日も彼らが来てくれたようだよ」

「ん。聞いた。早く治すために寝るよ」

「僕が眠るまでそばについてるよ」

 

 普段なら追い出すのだが、今回は甘えることにする。

 

「……いつもありがとう」

 

 ボソッと呟いて寝ることにする。兄の喜んでる姿を見るのが恥ずかしくなったのだ。その後すぐに私は眠りに落ちた。

 

 夢の中だったが、ずっと兄の手があたたかく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

こぼれ話②

 

 一体これはなんだ?と思い、首をひねる。

 

「あ、あの……今日はホワイトデーだから……」

 

 それはわかっている。今日は兄が家の前でお返しをばら撒いていたからな。ちなみにランボが受け取っていたのは見ないフリをした。意味がわかってないと思ったからな。

 ……話を戻すことにする。沢田綱吉はなぜ私に渡すのだ。私はバレンタインに何かあげた記憶がないぞ。

 

「もしかして……気に入らなかった……?」

 

 不安そうな顔をしていたので、思わず受け取ってしまった。沢田綱吉は安心したような表情をしたので、今更返すわけにはいかない。有り難く貰うことにする。

 

「……あけていいか?」

「うん! いいよ!」

 

 会話が続かず、袋をあけることにしたのはいいが、不安そうな視線を感じ失敗した気がした。開けてみると有名な店のホワイトチョコだった。もの凄く嬉しいのだが、意外と値段がするのを知ってるので戸惑う。悩んだ末、1つずつラッピングされていたので手に取り沢田綱吉に渡す。

 

「え?」

「あげる。一緒に食べた方が美味しいから」

「……ほんとにいいの?」

 

 首を縦に振り、手のひらに乗せる。沢田綱吉が気にせず食べ始めたので私も食べる

 

「美味しい。ありがとう」

「オレの方こそありがとう。バレンタインのお礼だったのに……」

「気にするな。元々、あれはバレンタインじゃなかったし」

 

 そういいながら休憩時間に2人で交互に食べていると男子の視線を感じた。

 

「……悪い」

 

 次の休憩時間ぐらいに、彼は男子に囲まれると思ったので謝る。彼はよくわかってないようで「どうしたの?」と聞かれたので、誤魔化した。……笹川京子にはフォローしておくから許してくれ。

 

 

 

 

 何とかフォローを終えて家に帰ると兄のばら撒きが終わっていたようで、普通に家に入れた。

 

「サクラちゃん、荷物届いてたわよ~」

「ん。わかった」

 

 一体、なんだろうか。ネットでマンガを注文した記憶はないのだが……。箱を見てみるとディーノからだった。なんだろうかと思い、箱を開ける。

 

「おお。クッキーだ」

 

 ホワイトデーということで送ってくれたらしい。理由は沢田綱吉と同じなのだろう。海外ではホワイトデーがないのにマメである。もてるはずだ。と、思いながら素直に喜ぶ。ディーノは沢田綱吉と違い『ボス』である。これぐらいのお金ならば気にならないのだ。

 

 モグモグと食べていると兄がやってきた。そして「お返しさ!」と、いってケーキとネックレスを渡される。……50円ぐらいの物を渡したはずなのに恐ろしいことになった。

 

「……多すぎる」

「今年はライバルが多いからね!」

 

 全く反省したように見えなかったので諦める。その代わり、今度どこかに出かけようと約束することにした。兄が嬉しそうに踊っていた。……埃が舞ったことにイラっとし、つい怒ってしまった私は悪くない。

 



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4月1日

活動報告にあげた小話です。
2014年4月1日に書きました。





 鏡の前で悩む。今日はどれを着た方がいいのだろうか。

 

「僕はこれをオススメするよ!」

 

 兄の言葉に頷く。確かに、遠出をする予定なのでスカートより、ショートパンツの方がいいだろう。後はまだ寒いのでこれにタイツでも履けばいいか。

 

 服が決まったのはいいことだ。しかし、なぜ兄がここにいるのだ。私は自室で悩んでいたはずだが。

 

「サクラが僕を呼んでる気がしてね!」

 

 顔のいい兄がウインクしながら話せば、世間一般的にはカッコイイのだろう。身内の私からすればただのドン引きである。とりあえず、ハリセンで一発殴り命令する。

 

「着替えるから出て行け」

 

 酷く落ち込みながらノロノロ歩く兄に、服を選んでくれたお礼を伝えれば、スキップしながら去っていった。実にわかりやすい。

 

 着替えて一周まわってみる。変なところはないだろうか。心配だ。しかし、兄が選んだのだ。センスという意味では大丈夫だろう。

 

 

 

 出かける前にもう1度鏡を見る。

 

「ふむ。世界一可愛いよ!」

 

 私の背後に立つな。鏡にはいる。私は髪の毛がハネてないのか確認したいのだ。気が散るだろ。

 

「サクラちゃん、この帽子はどう~?」

 

 兄に文句を言おうとすれば、お母さんもやってきた。洗面所が狭くなる。

 

「ほら、やっぱりこっちの方がいいわよ~」

「流石、母上だね!」

 

 勝手に頭に帽子を載せられ、苛立つ。せっかくセットしたのだぞ。それに帽子はいやだ。

 

「子どもっぽいから、いらない」

「まぁ!」

 

 抗議すれば、なぜかお母さんのテンションがあがった。謎である。帽子を外そうとすれば、兄に腕を掴まれる。なんだと思って顔を見上げると、真剣な顔をしていた。

 

「子どもっぽくてもいいじゃないか。サクラは子供なんだから、甘えるつもりで行ってきなさい。お兄ちゃん命令だよ!!」

「だけど……」

「無理に背伸びする必要はないのだよ。僕が認めた相手だ。サクラのことをちゃんとわかってるよ」

「……ん」

 

 それもそうだなと納得する。今まで私はいろいろ見られているのだ。今更である。ありのままの私で行こう。

 

「気をつけるのだよ!」

「楽しんでいってらっしゃいね~」

「帰りは送ってもらいなさい」

 

 だからといって、家族総出で見送るのは勘弁してほしい。私はそこまで子どもではない。

 

 

 

 

 待ち合わせ場所へ向かっていると、無意識に足早になる。少し深呼吸し落ち着くことにした。この前、逃げないと言われたしな。

 

 しかし、すぐに足早に戻る。これはうまくコントロールできないようだ。

 

 

 また予定より早く待ち合わせ場所に着いた。キョロキョロと見渡したが、相手はまだのようだ。今までいくら私が早く来ても、彼は先に来ていた。ケイタイの存在を思い出し、慌ててみる。しかし、何も連絡はない。

 

 ……私が早く着すぎただけだろう。それだけだ。下を向いてしまうのは、ヒマなだけである。

 

 トントンと肩をたたかれ、声もかけられた。そして、安心した。私の好きな彼の声である。

 

「遅い」

 

 そう呟きながら、振り向けば……。

 

 

 

 

「ふ、振り向けば誰だったの……?」

「気になるから早く言ってくれ」

 

 君達は子どもか。静かに人の話を聞くことは出来ないのか。困ったボスコンビである。

 

「……振り向けば、目が覚めた」

「えー!? ここまで話して顔を見てないのー!?」

「まじかよ……」

 

 目が覚めたとは言ったが、顔を見てないとは言ってないぞ。そのことを教えれば、せかされた。

 

「だ、誰なの!?」

「ここまで焦らすってことはオレ達が知ってる奴なんだろ?」

「……ん。振り返れば、雲雀恭弥だった」

 

 一瞬だけ、沈黙が流れた。

 

「……それは、下手なホラーより怖いぜ」

「ヒバリさんが相手とか……ないよ! 絶対ないよ!」

 

 2人ともなかなか失礼である。私が帰るというまで、2人は雲雀恭弥に彼女が出来れば、地球がひっくり返るとなどと盛り上がっていた。

 

「え? もう!?」

「さっき来たばっかりだぜ?」

 

 私は話をしに来ただけなのだ。用事が終われば帰る。

 

「君達の反応、面白かったし。それにさっきの反応を雲雀恭弥に教えれば、面白いかなと」

「「……え」」

 

 声をそろえて固まった。ボスコンビは本当に仲がいいな。

 

「冗談だ。今日はエイプリールフールだぞ」

 

 2人は安心して、私を見送った。いい暇つぶしになったな。

 

 

 

 

 

 サクラが帰った後、ツナはあることに気付く。

 

「あの、ディーノさん」

「どうかしたのか?」

「今、気付いたんですけど……どこから冗談だったと思います……?」

「……わからん」

 

 答えはサクラしか知らない。 

 

 



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誕生日

活動報告であげた小話です。
雲雀さんバージョンが短かったので、ディーノさんのと一緒に。

二つとも日常編。


①ディーノの誕生日

 

 沢田綱吉達に見送られ、ディーノと歩いてるとふと思った。

 

 今日は沢田綱吉を助けるためだったが、ビアンキの怒りをかってしまった。しかし、考えればわかることだ。今日はバレンタインだからな。せっかく作ったクラッカーを食べてもらえないのは悲しいことである。ビアンキが怒るのも無理はない。自身が逃れるためにディーノを押し付けたが、ちゃんと謝った方がよかったかもしれない。

 

「どうかしたのか?」

「ん。ビアンキに悪いことをしたなと思って」

「……オレは殺されかけたんだが……」

 

 ディーノの呟きは聞こえなかったことにする。困ったときは助けてくれるという約束だったからな。

 

「どこに行くんだ?」

 

 家とは違う方向に歩けば、ディーノが気になったようだ。

 

「ラ・ナミモリーヌ」

「……まだ食うのかよ……。こういうのは言っちゃいけねーことだが、太るぜ?」

 

 ボフッという音がした。私の右ストレートでは威力が少なすぎるようだ。コートに当たったような音しかしない。

 

 これでは私の怒りはおさまらないので、近くにいる人に声をかける。

 

「……助けてください。この人、ストーカーです」

「オレが悪かった! だから許してくれ!!」

 

 土下座しそうな勢いで謝ったので、許すことにした。私は心が広いのだ。ちなみに、私が声をかけた見知らぬ人にもディーノは謝罪していた。まぁ当然のことである。

 

「お疲れ」

 

 戻ってきたディーノに声をかけてあげれば、なぜか脱力された。不思議である。

 

 

 

 店に入れば、兄が居た。そして兄の隣を見て、何とも言えない気持ちになった。なぜケーキ屋に兄へのチョコ置き場があるのだ。ドン引きである。

 

「サクラ!!」

 

 そんな私の気持ちを気付かない兄は嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「どうかしたのかい? おや、君は……地面好きの人だね!」

「だからオレはそんな趣味じゃねぇ!」

「僕はサクラの兄の桂だ。また僕の、僕の妹が世話になってるようだね! すまないね!」

 

 ディーノの全力のツッコミはスルーされたようだ。不憫である。

 

「それより、サクラどうしたのかい?」

「ん。ケーキがほしくて」

「そうなのかい? ならば、僕が買って帰るよ」

「人に渡したいんだ。だからショートケーキを1つほしい」

「わかったよ。僕に任せたまえ! 彼には出来ないことだからね!」

 

 兄は気合を入れて、厨房?に入っていったようだ。

 

「……お前の兄貴、オレに冷たくねーか?」

「兄が変なのはいつものこと。気にしたほうが疲れる」

「そういうもんなのか?」

「そういうものだ」

 

 ディーノと話をしていると兄が戻ってきたようだ。手に箱があるので、恐らく私が頼んだものだろう。

 

「待たせたね! 先に言ってくれれば、もっといろいろ出来たのだが……」

「大丈夫。ありがとう、お兄ちゃん」

「っ! 羨ましいと思っても君には得れないものだよ! なぜなら、僕がサクラの兄だからだ!」

「そ、そうか……」

 

 兄をディーノに押し付けてる間に会計をする。かまっていれば話が進まないからな。私が戻ってくる姿を見て、ディーノはほっとしたようだ。

 

「お待たせとお疲れ」

「……ああ。ん? 任せとけ。必要な時には声をかけてくれ」

 

 ディーノに箱を渡せば、荷物持ちにしたと思ったようだ。失礼である。

 

「あげる」

「は?」

「そのケーキは君のだ」

 

 私の行動にディーノは驚いてるようだ。本当に失礼である。

 

「ど、どうしてなんだい!」

 

 しかし、もっと上がいたようだ。私が人にケーキをあげることがそんなに珍しいのか。そこのところじっくり教えてもらおうか。……面倒なのでしないが。

 

「誕生日を祝う時間がなかっただろ」

 

 ディーノは自身の誕生日より治安を優先すると思うが、私のせいで原作より早く日本に着たかったはずだからな。まだロマーリオ達に祝ってもらってない気がしたのだ。

 

「……そうか。ありがとうな!」

 

 ディーノに頭をガシガシと撫でられていると兄がネガティブホロウ状態になっていた。静かなので今のうちに帰ろう。ただ、このままでは仕事に影響がある気がしたので、ドアを閉める直前に兄に言う。

 

「チョコ……楽しみにしてもいい?」

「もちろんだとも!!」

 

 ……兄は単純だった。

 

 

 

 家に送ってもらってる間、ディーノはご機嫌だった。鼻歌を歌いそうな勢いである。しかし、急に足を止めたので、ディーノを見れば真剣な表情だった。

 

「お前はオレの誕生日もわかるのか……」

「ん。気を悪くしたのなら謝る」

「ならねーよ。ただ、オレはマフィアのボスだからな。……オレのせいでお前に何かある可能性も否定できねぇと思ったんだ」

 

 ディーノに言われ、やっと気付いた。今でこそ私は知識が少なすぎると思っているが、他の者からすれば私は知りすぎているのかもしれない。

 

「いいか? 少しでも違和感を覚えれば、必ず教えろよ」

 

 私はディーノの目を見て頷いた。すると、また頭をガシガシ撫でられた。いつもより力が強い気がするのは気のせいだろうか。

 

「心配するな。必ずオレ達が守ってやるから」

 

 オレ達の中には沢田綱吉やリボーンも入ってるのだろう。

 

「頼りにしている」

「ああ。任せろ」

 

 また強く頭を撫でられたが、いやな気はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

②雲雀恭弥の誕生日

 

 新聞紙で作った兜を兄がつけているのを見て、今日が子どもの日だと思い出す。ついでに雲雀恭弥の誕生日ということも思い出してしまった。

 

「私には関係ないか」

 

 沢田綱吉とディーノには祝ったが、雲雀恭弥はしなくていいだろう。

 

 ふと頭にポフっと何かが乗る

 

「これで、おそろいだよ!」

 

 どうやら兄は私が呟いた言葉に反応して、私も兜がほしいと思ったようだ。残念ながら、全くこれには興味がない。しかし、せっかく兄が作ったのだと思い、今日1日は部屋に飾ることにした。

 

 今日も家でダラダラと過ごしていると、お母さんに買い物を頼まれた。面倒だったが、残ったお金はお小遣いにしていいと言ったので、やる気が出た。どうやら私は単純のようだ。

 

 

 結局、手元に300円残った。いったい何に使おうかと考えていると、こっちに向かって歩いてくる雲雀恭弥の姿が見えた。ジッと手元にある300円を見つめる。

 

「おばちゃん、100円のコロッケ1つ」

 

 あげたてホヤホヤのコロッケを受け取り、キョロキョロと周りを見渡す。すぐに見つかった。

 

「雲雀恭弥!」

 

 私が叫ぶと、おばちゃんやお客さんがギョっとした顔になる。私は気にせず、足を止めた雲雀恭弥に向かって歩き出す。

 

「……君が僕を呼んだの?」

「ん」

「なにこれ」

「100円のコロッケ」

 

 答えるとバカを見るような目で見られた。失礼である。君が何かと聞いたんだろ。

 

「いらないなら、私が食べるだけ」

 

 口をつけようとすれば、奪われた。全く素直じゃない男である。コロッケを渡せば用がないので、さっさと去ることにする。彼に関わると碌なことがないしな。

 

「いったい何のマネだい?」

 

 歩き出すと声をかけらたので、足を止めて口を開く。

 

「誕生日だから」

「……そう」

 

 お互いに用がなくなったので、私達の反対方向に歩き出したのだった。

 

 



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未来の2人の小話
引きこもったサクラ


活動報告にあげた小話です。

未来編の2人。
時期はサクラがディーノさんに保護されてる時
七夕記念に書いたみたいです。


 どうしてこうなった。

 

「ちゃんと歩くから」

「ダメだ」

 

 相手に聞こえるように溜息を吐いたが、全く気にしないようで歩くスピードは変わらない。

 

 まぁディーノの言い分もわかる気もする。滅多に部屋から出ようとしない私を何とかしたかったのだろう。ただ、夜にいきなりやってきて、「屋上に行こうぜ」と声をかけるのはやめてくれ。一応、私にも準備というものがある。

 

 それに、この手はなんだ。

 

 先程、離してくれと遠まわしに言ったが、聞き入れてもらえない。私がディーノの目を盗んで逃げれると思ってるのだろうか。どう考えても無理だぞ。

 

「着いたぜ」

 

 声をかけられ、顔をあげる。ディーノが屋上への続くだろう扉を開けようとしているところだった。手を離せるチャンスかと思ったが、簡単に開けた。無念である。

 

 ディーノに引っ張られるまま、外へ出た。が、特にコレといって何も無かった。

 

「日本じゃ今日は七夕って聞いたんだ」

 

 私の疑問が顔に出ていたのか、ディーノは屋上に連れてきた理由を教えくれた。

 

「こっちじゃ見れねーけどよ。空は一緒に見れると思ったんだ」

 

 返事はかえせなかった。私のワガママで彼らから離れたのだ。それについて返す資格がない。

 

「……綺麗だな」

 

 だからこの景色の感想を言った。ディーノは何も言わず、私の隣にいてくれた。

 

 

 しばらく星を見ていると、重要なことに気付いた。しかし隣を見て、口に出すのはやめた。気付かなかったフリをした方がいいと思ったのだ。

 

「……みんな、元気か?」

「ああ。元気だぜ」

「……私の家族も……?」

「大丈夫だ。桂もだ」

 

 今になって思う。手紙を書くように説得してくれて、本当に良かった。後になって書こうと思っても、書けなかっただろう。月に一度の手紙がこれほど私を支えるとは思わなかった。

 

「……ありがとう」

 

 私の言葉に反応したのか、少し強めに私の手を握った。そして、いつものように彼は「気にするな」と言った。

 

 もう彼にどうやって借りを返せばいいのか、わからないな。何をしても足りなさ過ぎる。

 

 特に私の保護をしてすぐは大変だっただろう。何せ、私は食欲がなくなったのだ。結局あの時は、ディーノが四苦八苦して作ったから食べた気がする。……そうだった。火傷だらけの手を見て食べないという選択は出来なかったのだ。

 

「……お人よし」

「ん?」

「君がお人よしって再認識しただけだ」

「そうでもねーよ」

 

 いったいどの口が言うのか。顔に出てたのか、ディーノは空いている方の手で自身の頭をかきながら言った。

 

「オレだって、お前じゃなきゃここまで――……」

 

 急に言葉が止まったので、ディーノの顔を覗く。すると、目を見開いていた。もしやアレに気付いたのだろうか。

 

「な、なんでもねーよ!」

 

 自身の頭にあった手をもってきて、私の頭をガシガシと撫でた。恐らく誤魔化しているのだろう。彼は日本とイタリアには時差があると気づいてしまったのだ。彼らが空を見てるとは限らないので、先程の発言は残念すぎるからな。

 

「そろそろ戻るか!」

 

 顔を真っ赤にして提案するディーノを見て、すぐさま頷いた。私だったら、早く1人になって悶えたいからな。だがまぁ、気持ちは嬉しかったので今度は私から声をかける。

 

「またここに来たい。君の時間がないなら、許可をくれるだけでいいから」

「っ、絶対一緒に行くから。なっ!」

 

 私が滅多にどこかに行きたいと言わないためか、ディーノは必死だった。気持ちはわかるが、必死しすぎる。なぜなら――。

 

「……手、痛い」

「すっ、すまん!!」

 

 今度は勢いよく手を離された。……ディーノにしては落ち着きが無さすぎる。流石にミスに気付いただけで、これほど動揺するとは思えない。まぁドジのディーノなら理解できるが。

 

「ディーノ、大丈夫か?」

「……ちょっと待ってくれ」

 

 私に声をかけてすぐにディーノは深呼吸をし始めた。自身でも落ち着きがないと思ったのだろう。

 

「わりぃ。もう大丈夫だ」

「そう」

 

 あまり無理するなと声をかけたかったが、無理をさせているのは主に私のせいだと思ったのでやめた。

 

「よし、帰るか!」

 

 いつの間にかまた手を握られていた。歩きながら声をかける。

 

「帰る時に逃げるわけないだろ」

「……ダメだ」

 

 ついに指を絡めてまで、しっかりと握られてしまった。いつの間にかディーノは過保護になっていたらしい。もっとも、今までの私の言動せいだろうが。しょうがないので、手は諦めることにした。

 




思ったより小話を書いていたことにビックリ。
見逃してない限り、今書いてるのはこれだけ。


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IFルート
獄寺隼人の場合


リクエスト作品。
「もしもサクラが獄寺君と付き合ったら?」
こんな感じかなーと書いた短編です。続きませんw

※IFルートです。
サクラの相手はディーノさん以外は認めない!という方は見ないでくださいね。


「んだと!? もう1度言ってみろ!!」

「だから、その君の行動がツナを困らせてる」

 

 教室の一角で言い争う声が響くが、誰も気に留めない。決して冷たいわけではない。

 

 これが日常なのだ。

 

「オレの行動のどこが10代目を困らせてるんだよ!?」

「常識で考えろ!」

 

 何度も言うが、これは日常である。

 

 しかしあまりに酷くなると、この学校の風紀を守っている雲雀恭弥がやってくる。すると、クラスメイトは原因であるツナに視線が注ぐ。なんとかしろ、と。

 

「2人とも、落ち着いて……」

 

 クラスメイトから視線を浴び、逃げることが出来ないツナは恐る恐る声をかける。

 

「10代目!」

「……悪い」

 

 獄寺はツナの登場に喜ぶ。サクラはツナに迷惑をかけてると気付き、気まずそうな顔をしている。

 

 2人の対称的な反応にツナは苦笑いするしかない。どちらもツナのために言い争ってるから尚更だ。

 

 ちなみにここまでが日常である。

 

 ここからは日によって変わる。どちらが正しいか獄寺がツナに詰め寄る時もあるし、話が流れたり、山本が笑い飛ばしたり様々だ。

 

 そして、今日は獄寺が苛立ち早退するパターンだった。

 

「すみません。10代目、オレ帰りますね。口うるせー奴がいますし」

 

 獄寺があえて聞こえるように言ったのはわざとだろう。ツナは隣から流れる空気が変わったことに、冷や汗をかきながら獄寺を見送った。

 

「……ツナ」

 

 ごくりと喉が鳴る。隣の人物はたとえ怒っていても、ツナに八つ当たりすることはない。ただ、ほんの少し物騒なことを口にするだけ。

 

「彼の恥ずかしい話を世間に暴露するか、雲雀恭弥に有益な情報を流すか、それとも兄を一日中張り付けるか。どれがいいと思う?」

 

 笑えない。彼女は実行できることしか言っていない。そして、その彼がツナでも問題ないであろうと予想できるのがもっとも笑い事に出来ない理由である。

 

「彼の場合、3つ目が1番嫌がらせになると思うんだが」

 

 オレの場合は……?と思わず口にしそうになった言葉をツナは飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 サボった獄寺は悪態をつきながら歩いていた。

 

「かわいくねー女」

 

 口を開けば、文句を言う。その割りに獄寺以外の人物には言わない。ますます苛立つ。

 

「おや? 獄寺君じゃないか」

「げっ」

 

 正面から歩いてくる桂が獄寺は苦手だった。年上は全員敵と思っている獄寺だが、桂には絡まないようにしている。桂は動きが無駄に大げさで(でも洗礼されている)、常に上から目線で、冗談か本気で言ってるのかわからない。相手にすればするほど獄寺は疲れ、桂は元気になるのだ。絡みたくないという考えに到るのは至極当然だった。

 

「ふむ。僕の推理が正しければ、君は学校をサボってるね!」

 

 昼間から制服を来て歩いていれば、誰でも思いつく。推理にもなっていない。

 

 なんとか獄寺はツッコミたい気持ちを我慢した。無視するのが1番簡単に逃れられると獄寺は知っている。

 

「原因はサクラと口論したからと見た」

「てめぇ、なんで知ってやがる!?」

 

 そう返事をして、獄寺はハッと自らの失態を悟る。案の定、桂は先程よりニコニコしていた。

 

「僕にわからないことなんてないのさ! サクラ限定だけどね!」

 

 ポーズまで決めて言った桂にイラっとしたが、獄寺は我慢し横を通り過ぎる。これ以上絡まれないためにも無視することに限るのだ。

 

「まぁ待ちたまえ。僕が耳寄りな情報を教えてあげよう」

 

 獄寺は足を止めた。桂の言葉が気になったからではない。横に通り過ぎたはずの桂が、瞬時に獄寺の前に現れたからである。

 

 ギリっと歯に力を込める。桂の動きは見えていたが、反応は出来なかった。

 

「……邪魔するなら、てめぇでも容赦しねぇ」

 

 苛立ちの限界を超えたのか、悔しさなのか、強がりなのか。とにかく獄寺は桂にケンカを売るぐらい腹を立てていた。

 

「ふむ。すまなかったね」

 

 獄寺の怒りを感じたのか、桂は一歩横に移動する。その余裕の態度にも苛立つが、これ以上絡みたくない獄寺は舌打ちをして歩き出す。

 

「その場の勢いで、サクラに口付けしてしまった君にはちょうどいい情報だと思ったんだけどね」

 

 足が動かなくなった。止めたのではない、動けなくなった。

 

 そして桂の言葉の意味を長い時間かけて理解し、徐々に顔に熱が集まりだす。

 

「……なっ、なっ、なっ」

 

 なんでてめぇが知っている。

 

 そう言いたかったが、上手く口は動かない。振り向くのが精一杯だ。だが、桂は察した。

 

「言っただろ? 僕にわからないことはないのさ。サクラの様子を見ればそれぐらいわかるよ」

 

 言葉が出なくなってる獄寺を無視し、桂は話を進める。

 

「サクラはね、頭ではいろいろ考えてるのに、口に出すのが苦手なんだ。能力を抜きにしてだよ。思ってることを言ってどこまで冗談と受け取ってもらえるか、わからないんだ。だから口に出さない。サクラは僕のノリに付き合うほど明るい性格なのにね。とても臆病な子だよ。……でも君になら言える。少し違ったね、君に関しては緩めることが出来るんだ。それでも肝心なことは言えないんだ、臆病だから」

 

 桂は獄寺に言葉の意味を理解してもらうためにゆっくりと話した。そのため、獄寺は反射的に何も言い返せなかった。

 

「それとサクラは嫌だと思えば、避けるよ。たとえ、その場の雰囲気に流されそうだとしてもね」

 

 用が済んだので、桂は動かない獄寺を放置し歩き出す。だが、途中で止まり思い出したように再び声をかける。

 

「僕の言葉を信じられないなら、試してみるがいい」

 

 今度こそ用がなくなったと桂は歩き出す。サクラが言い過ぎたと落ち込む日をこれ以上来ないことを願いながら……。

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 家に帰ろうとしたサクラは、校門に立ってる獄寺を見て一瞬驚く。

 

「ツナなら、先に帰ったぞ。今日は家族でご馳走食べに行くから早く帰って来なさいって言われていたらしい」

 

 知ってることは教えたので、サクラは帰ろうとしたが、進行方向に手を出され立ち止まる。眉を寄せながら獄寺を見たが、顔は見えない。何かに警戒しているのだろうかとサクラは周りを見渡しても戦闘能力がないサクラにはわかるはずもない。そのため獄寺の様子を見て判断するしかしかなく、もう1度獄寺を見た。

 

「……帰るんだろうが」

 

 ボソッと呟いた獄寺の言葉にサクラは首をひねる。が、それは一瞬のことで2人は歩き出した。

 

『…………』

 

 2人は無言だった。しかし、この空気にいつまでもサクラが耐えることが出来ず、何とか言葉をひねり出し言った。

 

「……耳、赤いぞ」

 

 よりにもよって、サクラは獄寺の行動を理解出来たきっかけを口にしたのである。

 

『…………』

 

 再び沈黙が流れる。次に耐え切れなくなったのは獄寺だ。

 

「……っるせぇ! てめぇだって、赤いだろうが!」

 

 再度沈黙が流れたのは言うまでもないだろう。お互いの精神を削っただけなのだから。

 

 だが、2人は決して手を離さそうとしなかった。

 




この2人の場合は言い争いしながら付き合うタイプだと思いました。
そして告白とかはないです。


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雲雀恭弥の場合

リクエスト作品。
軽いですが無理矢理描写があります。ご注意を。

※IFルートです。
サクラの相手はディーノさん以外は認めない!という人は読まないでくださいね。


 昼食後の授業はなぜこんなにも眠くなるのか。

 

 眠っちゃダメだ。

 

 頭に入っているかは別だが、授業は真面目に聞くのが私のモットーである。夜に兄に解説してもらうためにもノートは取っておきたい。しかし、陽当たりの良い窓際に座っているのもあるのか、身体がポカポカし眠気を誘う。

 

 眠っちゃダメだ。

 

 少しでも効果があると願って、頭をブンブンと振る。隣の席のクラスメイトが驚いているが無視だ。私は必死なのである。それでも、私を眠りに誘う。

 

 次の対策として、手の甲を摘んでみた。が、これもあまり効果がなかった。ここまで来れば、意地である。脳内で眠っちゃダメだという言葉を繰り返した。

 

 

 

 授業が残り10分を切った。ここまで来れば、私の勝利である。……眠気に打ち勝ったというより、気持ち悪くなってきて目が覚めただけだが。

 

 しかし体調を崩す心当たりがない。朝に兄は何も言われなかったし。まぁこれ以上悪くなれば、エリザベスが頑張ってくれるだろう。

 

 …………。

 

 なんだか頭も痛くなってきたな。まぁ後8分ぐらいなら我慢出来るはずだ。もう少しで授業が終わるのに先生に報告すれば、注目を集めてしまう。それは嫌だ。

 

 …………。

 

 思わず時計を確認した。まだ後5分もあるぞ。観察日なら、兄はとっくの前に来ていている。つまり今日は仕事なのか。くそっ、タイミングが悪い。

 

 エリザベスの形態変化である指輪を見る。まだ発動しないのか。発動しているなら、兄がそろそろ来るはずだ。窓の外を見ておこう。外の景色を見ていれば、気持ち悪さはなくなるかもしれないし。

 

 ……まずい、頭がガンガンしてきた。それに気持ち悪さも増した気がする。ボヤけた視界の中、黄色いものが見えた。……ヒバードか? かまってる元気はないから、しっしと手を振った。

 

 どこかへ行ったのを見てホッと息を吐いたのが悪かったらしい。いっきに何かが流れ込んでくる。ちょっと待て。経験上、それは厳しい。私には耐えられないから止めろ!

 

 ……良かった。これで見えない。

 

 教室がざわついた。休憩時間に入ったのだろう。……助かった。ツナに電話を頼むか。ちょっと疲れて目が開けられそうにないから。

 

 ぐぃっと肩を引っ張られた。お兄ちゃんやツナにしては手荒である。

 

「だ、れ……?」

「……見えてないの?」

 

 この声は雲雀恭弥だと思う。彼が現れたからざわついたのか。え?どこにいるんだ。真っ暗だぞ。手を伸ばせば、握ってくれた。ちょっと安心する。

 

 安心したのも束の間、頬に何かが触れたので身体が跳ねた。

 

「僕だよ。……大人しく、戻ってくるんだ。君がみているものは現実じゃない。未来だ」

 

 そう言われ、あまりの情報量に拒絶したことを思い出す。だから何も見えなくなったのだ。

 

 今ならわかる。あれほど眠かったのは予知をみるためだったのだ。私が受け入れようとしなかったので暴走した。病気や怪我ではないから、エリザベスが発動しないのである。

 

「待って、怖い。量が多くて、閉じたんだ。戻るには開かないといけない」

「知らない。はやくしなよ」

 

 相変わらず扱いが酷い。仕方ないので、深呼吸を繰り返す。そして勢いをつけるため、息を止めた。

 

「うぅ……」

 

 何の未来か、いつの未来か、全くわからない。映像の切り替わりが速すぎる。いったい私に何を見せたいんだ。……って、痛っ! 一瞬手が痛かったぞ!?

 

「探らなくていい。戻ってくることだけ考えて」

 

 そうだった。とにかく見ないフリをする。閉じ込めるんじゃなくて、見ないフリ。そしてふわふわと身体を浮かべるような感覚をイメージする。映像の波から出てくるんだ。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 なんとか戻って来れた。呼吸を整えながら、目の前に居た人物を見る。……おおう、眉間にシワを寄せていた。なかなか機嫌が悪そうである。

 

「ごめっ、ありがと、助かった」

 

 怖いが助けてもらったのは事実なので、お礼を言った。ツナ達も心配しているだろう。早く安心させないと。しかしなぜか顔が動かない。目の下を拭われた感触で思い出した。そういえば、彼は見えていない私と視線を合わせようとしていたな。

 

「わっ、悪い!」

 

 片側は彼の手があったのでわかりにくかったが、ボロボロと泣いていたようだ。もう片方を拭おうとする前に、彼が優しく拭ってくれた。

 

「ん、ありがと」

 

 もしかすると彼の左手は私の涙でビショビショかもしれないな。

 

 って、変じゃないか?

 

 つい癖で甘えたが、雲雀恭弥はそんなことをするタイプじゃなかったよな……? よくよく考えるとツナ達ならもっと私に声をかけそうである。あまりにも静かすぎる。

 

 原因はやはり目の前にいる人物だろう。しかし彼は相変わらず眉間にシワを寄せていた。……もしかして心配している顔なのか?

 

「雲雀、恭弥……?」

「たてる?」

「お、おう」

 

 返事をしたものの、うまく力が入らない。まだ身体は混乱中なのかもしれない。

 

「……無理なら力を抜いて」

 

 それは大丈夫な気がする。ゆっくり息を吐いて、脱力していく。手から何がが離れる感触で思い出した。彼の手を握っていたことに。

 

 いや、多分握るとかそんな可愛らしいものじゃない。溺れそうな感覚から抜け出すために思いっきり握り締めたのだ。いくら彼が頑丈でも、無我夢中で握った力はかなり痛かったはずだ。

 

「ご、ごめっ」

「いいから、黙って」

 

 口を閉じた。それで彼の気が済めばいいなと願って。

 

 しかしまた予想外の出来事が起きた。なぜ私は彼に抱き上げられているのだ。

 

「ま、待って。ツナ達に運んでもらうから」

 

 おおう、また先程の顔である。どっちかわからないから困る。それでも必死に口を動かす。

 

「や。君は群れれば蕁麻疹が出るんだろ。後は友達に頼むぞ。大丈夫、見えている。君のことがちゃんと見えているから」

 

 私が持つ彼女の目と視線が合わなくなったから、彼はここまで私のために動いてくれた。だから安心してほしくて、視線が合うと伝えたのだ。私のために積極的に動くのは彼らしくない。

 

 ジッと見つめ合う。つい視線を逸らしたくなるのを必死に我慢した。ここで逸らしては意味がないからな。……気のせいか? 彼の顔が近づいていないか?

 

「……んーっ!?」

「うるさいよ」

 

 彼はバカなのか! いや、私がバカなのか!? 触れる前になぜ察しなかった!

 

 ……いやいや周りを見てみろ。誰もが驚いているじゃないか。彼がキスをするなんて誰も思わなかったはずだ。そもそも人にいきなりキスして、驚いた私に向かっての第一声がうるさいってどうなんだ! 私は悪くないだろ!? 原因は100%雲雀恭弥にある! これは間違いない!

 

 言いたいことは山程あるはずなのに、パクパクと口を動かすだけで声は出ない。人は驚きすぎると声を失うようだ。

 

「まぁだけど、思ったより……悪くはないかな」

 

 この言葉で私の中でプチっとキレた。

 

「悪くないってなんだ! 私のファーストキス返せっ!?」

 

 雲雀恭弥の胸倉を掴む。咬み殺される恐怖なんて、どうでもいい。キスして比べるな! それに私は彼女のように大人しい人物ではないぞ!!

 

「返してほしいの?」

「……違う! いや、返してほしいが、それは違う! もう一度しろとは言っていない!」

「はぁ。これ以外でどうやって返すの? もう少し考えてから口にしなよ」

 

 うがぁぁぁ!と叫びたくなる。なんだ、この理不尽!

 

「……私はファーストキスだったんだぞっ!」

 

 視界を歪めながらも元凶を睨みつける。教室じゃなければ、泣き喚いていただろう。……家に帰ったら泣くのは決定事項だ。

 

「泣かないで。君に泣かれると……困る」

 

 なぜ眉間に皺を寄せて私の顔を覗き込むんだ。心配しているつもりなのか!?

 

「だったら……するなよっ!」

「嫌だったの?」

「当たり前だろ! キスは好きな人とすることなんだぞっ!」

「へぇ」

 

 あぁ、もう! どこからツッコミすればいいかわからない。なぜそこで感心する。彼の言うことがまかり通っていた弊害なのか!?

 

「それなら、君が僕を好きになれば問題ないんだね」

「はぁ!?」

「違うの?」

「常識で考えろっ! こんなことをした君を好きになるわけないだろ!? 好感度は最悪だぞ!」

 

 再び彼は感心したような声を出した。……なんだが疲れてきた。先程から糠に釘である。

 

「……とにかく、おろしてくれ。もう自分の足で歩けるし、危険人物から一刻も離れたい」

 

 そう言うと彼は周りを睨みつけた。……彼の辞書の中に、恋愛の常識とかはないようだ。

 

「き、み、が、危険なんだ! わからないなら人に聞け。……私に聞こうとするな! 君が本気で知りたいなら、草壁哲也ならどれだけ非常識だったか、一から教えてくれるはずだっ!」

「そう」

 

 一応納得したらしく地面におろしてもらえた。すぐさま、ツナの後ろへと逃げる。戸惑いながらもツナは庇ってくれた。普段なら逃げ出すツナでも、今回ばかりは雲雀恭弥から守らないといけないと思ったようだ。

 

「またね」

 

 全力で聞かなかったフリをする。しばらく動かなかったようだが、彼は去っていったようだ。

 

「サクラ、ごめん!」

「……君が悪いわけじゃないし、それにアレは防げなかったと思う」

 

 流石にツナに八つ当たりするほど自身を見失ってはいない。他の者達は声の掛け方がわからないようだし。謝ってくれただけ凄い方なのだろう。今の私にはそれを感謝するほどの余裕はないが。

 

 ……そうだった、今度こそツナに頼もう。私は今ゴシゴシと口を袖で拭くことに忙しいし。

 

「悪いけど早退するから、お兄ちゃんを呼んでほしい」

「わ、わかった」

 

 待っている間に笹川京子がハンカチを貸してくれた。どうやらわざわざ濡らしてきてくれたようだ。普段なら躊躇するが、今日はありがたく使わせてもらった。

 

 

 

 今日は最悪だったと私はこの時に思っていた。まさか今日からが彼との攻防の始まりになるとは、思いもしなかったのである。

 

 そして、怪我を負いながらもやってくる彼の執着に更なる恐怖を覚えるのも、この時の私は知らなかった。

 

 ……もちろん一生の付き合いになることも。



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山本武の場合

本日2回目。もう1つは『同窓会』です。

リクエスト作品。
作者はなぜか山本君のイメージが上手く掴めないので、モブ視点の一人称で書きました。誤魔化したともいう。

※IFルートです。
サクラの相手はディーノさん以外認めないという人は読まないでくださいね。


 最近、オレのダチの山本が面白い。

 

 ダチっつても、クラスメイトの域だ。話はするし、授業でペアを組めって言われも嫌とは思わない。でも放課後に遊ぶかって聞かれたら微妙なところ。遊ぶメンバーに居ても変とは思わないけど、わざわざオレが山本の名を出して誘うことはない。よくある、ふつーのダチだと思う。

 

 で、オレの趣味は人間観察。知られるとヤな顔をされるから言わねーけど、これが結構面白いんだ。ぜってーオレと一緒で黙ってる奴がいると思う。まっそれはいいか。

 

 クラスの奴らは最近の沢田の変わりように盛り上がっているが、人間観察が趣味のオレからすれば山本の方が面白いと思う。

 

 最初に変だと思ったのは、山本の自殺騒ぎ。ジョークってなってるけど、オレの予想じゃアレはマジ。マジだから山本は沢田と一緒にいる機会が増えた。オレでさえ、沢田はふつーにすげーと思うんだ、山本はオレの何倍もすげーと思ってると思う。

 

 まっここまでは察せれる流れ。山本を面白いって思わない。それだけならオレも沢田を観察してたと思う。山本はあれからツナ以外にも声をかける奴が増えたんだよな。……獄寺じゃねーからな。あれはツナを通じてだから別。

 

 お? きたきた。噂をすれば。山本も懲りずに向かって行った。

 

「よっ、神崎」

「…………」

 

 自殺騒ぎ後から始まった恒例の山本の朝の挨拶。今日も神崎はガン無視。最近じゃ視線さえ向けない。

 

 しかしまぁ神崎の反応も悪いよな。山本本人と男はなんも思わねーけど、女は睨んでる睨んでる。山本は人気があるからしょーがねーけど。神崎以外、山本が女子に今までわざわざ挨拶しに行ったことはねーし。女はそういうの結構鋭いから嫉妬がやべぇ。オレは面白いからいいけど。

 

 今までのオレの観察では、山本は天然だけど、気の無い奴にまで話しかけるほど空気を読めねー奴じゃないと思う。あの騒ぎの後からだから、神崎はツナと似たようなことをしたんだと思う。でもそれだと神崎は避ける必要はねーんだよな。

 

 だから神崎を本気で観察してみた。まず暗い。姿勢が悪いとか本をずっと読んでるとか関係ない。纏ってる空気が暗いんだ。誰とも関わりたくないオーラが出ている。後、無表情だからすっげー怖い。でもブスじゃない。割と良い顔立ちはしている。顔がいいから、さらに無表情で怖いのかも。性格は朝の光景を見る限りじゃ微妙。暗いし。でも山本に沢田のようなとをしたんだろ? 悪い奴じゃねーんだろうな。声は小さい。音楽のテストで聞いたぐれーだけど。体型は普通。そこそこ胸もありそーだし、太ももも割といい感じにある。

 

 ……ん? 普通にアリだな。オレは遠慮するけど。暗過ぎて一緒にいるとぜってー疲れる。山本みたいな明るいタイプじゃねーときついだろ。

 

 で、これから面白そうっていうタイミングで夏休み。残念。

 

 

 夏休み中、山本とは一回遊んだ。10人ぐれーとだけど。でも折角の機会だ、周りが気付いてねー時に山本に探りを入れた。

 

「なぁ、夏休み何して過ごしてんだ? 野球してるのは知ってるからそれ以外で」

 

 少しは絞らねーと、山本は野球の話ばっかりするからな。露骨に神崎の名は出さない。それはオレのポリシーに反する。

 

「んー、ツナと遊ぶことが多いぜ。獄寺も一緒な」

 

 妥当な流れ。山本の性格なら獄寺とも上手くやるだろーし。夏休み明けはこの3人が揃ってるところをよく見ることになるんだろうな。

 

 山本にオレはどうかと聞かれたが、仲のいい奴らと遊びに出かけてるっていう毎年恒例の面白味もねー夏休み。遊ぶのは面白いけど、刺激が欲しい。つーか、可愛い彼女が欲しい。イチャイチャしてぇ。まっ天然の山本に欲望をぶつけても仕方ねーから無難に答える。

 

「今日見てーにダチと遊んだり、宿題してる」

「オレも1つ終わらせたのな!」

 

 1つだけかよとは言わない。山本の場合、この時期に1つ終わってるだけマシ。時間があれば野球ばっかするから、小学校から宿題忘れの常連だ。

 

「何終わらせたんだ?」

「本のやつ」

「お? 一番面倒そうなの終わらせてるじゃん」

 

 これは本当に意外だった。教科書を読めば寝る山本が読書感想文を終わらせてるなんて、明日槍でも降ってくるんじゃねーか。

 

「ハハ。実はよ、神崎にみてもらったんだ」

 

 噴きそうになった。そこで神崎の名が出てくるとは思わなかった。我慢したオレ、超エライ。

 

「神崎と遊んだのか?」

「遊びたかったんだけどよ、忙しいって断られたんだよなー」

「遊んでねーのに、どうやってみてもらったんだ?」

「神崎が図書委員で学校に来ている時に教えてもらったんだ」

 

 山本って意外と積極的なのか。つーか、図書委員とか良く知ってたな。ふつー、ダチでも委員とか微妙だぞ。

 

「その時、神崎の兄貴と会ったけど、すっげー面白い人だったぜ」

「神崎って、兄が居たのか」

「ああ。神崎にさ、花束渡していたし、すっげー仲良いと思うのな」

 

 ……それは仲良いだけで済まされることなのか? ぜってぇシスコンだろ、その兄貴!

 

 それにしてもそのシーンを見たかった。面白かっただろうなぁ。関わりたくはねーけど。

 

「まっ宿題見てもらえたんだから良かったな」

「んーでもよ、宿題よりももっと話したかったんだよな。2学期にはぜってぇ友達になるぜ」

 

 ……ただ単に話したかっただけなのか? 恋愛感情はゼロってことか? 山本の天然が行き過ぎただけってことか?

 

 まじかよ、神崎は女だぜ。それも人付き合いが上手くないタイプ。山本がツナと同じ感覚で接すれば、ぜってぇ神崎が勘違いするって。それは面白いって思えないし、山本のことを嫌いになりそう。

 

 ……オレのキャラじゃねーのになぁ。でも山本を嫌いたくはないんだよ。

 

「なぁ、山本。……お前、神崎のこと好きなのか?」

「おう!」

 

 うわー、いつもと同じノリで返された。予想通りだけど、そりゃないって。

 

「だったら、もっと考えて行動しろよ。お前がこのままいけば、神崎は泣くぞ」

「え……。なんでだ?」

 

 友達になりたいっていうだけあって、泣かすのは嫌みてーだ。山本はいつもと違う真面目な雰囲気でオレをみていた。

 

「お前が男で、神崎が女だから。……オレも男と女の間に友情は存在すると思う派だ。けど、難易度は同性同士よりよっぽど高いと思っている。お前、仲良くなりたいって必死になってるだろ? お前が必死になればなるほど、神崎が勘違いする可能性もあるんだぜ?」

「……そっか。ちょっと考える」

 

 そう言って無理に笑った山本をみて、悪い事をした気持ちになった。

 

 ……オレ、山本の誰とでも仲良くなる感じも好きだったんだな。

 

 

 

 

 気まずい気持ちで学校にやってきた。今日から2学期が始まるけど、山本はどうするつもりなんだろうか。

 

 神崎が登校してきたのが見えて、思わずオレは山本の姿を確認した。山本はそんなオレを安心させるかのように、ニッと笑ってから動き出した。

 

「よっ、神崎」

「…………」

 

 1学期と全く同じ。宿題を見たと山本に聞いていたが、神崎は山本を見もしない。……もしかしてオレ、余計なことした? 仲良くなったと思ったのは勘違い?

 

「神崎。オレさ、夏休み中に考えたんだ」

 

 オレの焦りを他所に山本は神崎に話しかけていた。この時点で1学期とは流れが違う。周りも驚いたのか、視線が集中した。

 

「オレ、神崎のこと好きみてぇなんだ。だからこれからも声かけるから、よろしくな」

 

 山本の突然の告白にクラスがわいた。オレは山本と神崎から目を離せなかった。騒ぎながらもそれはオレだけじゃなかったようで、久しぶりに神崎が山本に視線を向けた途端、静かになった。

 

「断る」

 

 まじかよ、即答で断った。しかし山本は嬉しそうに笑ったぜ。マゾっ気があるのかもしれないと一瞬思ったけど、1学期の時から考えるとオレが山本の立場なら笑う。

 

「……あれを恩に感じたなら関わらないでくれ」

「んーでもよ」

「私は友達が欲しいとは思わないんだ。君は今いる友達を大切にしろ」

 

 神崎って実は周りを見ていたんだな。山本が友達になりたい気持ちだけで行動していたことをわかっていたみてーだ。山本の天然センサーは正常だったんだな……。

 

「ハハ、もちろんだぜ! 友達は大切なのな!」

「わかってるなら、無駄な行動はやめて、沢田綱吉達のところに行くべきだ」

 

 1学期の山本なら納得はしねーけど、さっきから対応は間違ってねーからなぁ。周りもいつもの山本の天然が出たと思い始めてるし。

 

「ツナ達は大切にするぜ。友達だかんな。でもよ、神崎とは無駄な行動になるかはこれからじゃね?」

「だから私は友達はいらないって言ってるだろ」

 

 でもなぁ、今の神崎の目の前にいる山本は1学期と違うんだよなぁ。……オレのせいで。

 

 神崎には悪いけど、オレは山本が何を言うか楽しみで仕方ねーんだ。これだから人間観察はやめれない。

 

「ん? オレ、神崎とは友達じゃなくて恋人関係になりてぇんだけど」

「……は?」

 

 さっきはクラスがわいたが、今度は静まった。

 

 山本ってやっぱすげぇ。今まで無表情だった神崎に変化を起こした。拒絶していたオーラも緩んだ気がする。山本を見れず視線が泳いで真っ赤な顔をしている神崎は、ふつーに可愛い。何とかしていつものように振る舞おうとしている姿は見てて癒される。

 

 神崎は疲れそうって言ったのは誰だよ!? ちくしょう、オレだよ!!

 

「やっぱ、神崎はこっちの方がいいのな! 兄貴と話してる時はこっちだったからまた見たかったんだ」

「う、うるさい! ちょっと黙ってろ!」

 

 オレもまだまだだなぁ。普段見ていた姿は取り繕った姿だったのか。言葉づかいはわりーけど、それがまた可愛くみえるなー。真正面から見ている山本、まじ裏山。

 

「と、とにかく私は君のことを好きじゃないから。もう私と関わるな!」

「んー……ならよ、友達から始めようぜ」

 

 流石山本だぜ。超ポジティブ! 心が強い!

 

「な、なんでそうなる!?」

「だって神崎はオレのこと良く知らねーだろ?」

「……君だって私のこと、知らないじゃないか!!」

「神崎!!」

 

 バンっと手で机を叩き神崎は立ち上がり去っていった。山本が追いかけたからすぐそこで捕まえると思うけど、神崎の声はさっきみたいに恥ずかしがっているような感じじゃなく、悲痛な叫びだった。

 

 ……だよな。誰も動かない。オレも見に行けねーよ。

 

 オレ達がみていた神崎が取り繕ったものだ。誰も今まで気付かないぐらい完璧だったんだ。余程の理由もなく、そんなことはしない。気付いてあげれなかったオレ達じゃ声のかけ方がわかんねぇんだ。

 

「山本が行ったんだ。大丈夫だよ」

 

 暗くなった空気をかえる一言だった。

 

 いったいどれぐらいの奴が沢田もすげーって気付いてるんだろうな。今、イジられてるし気付いてない奴の方が多そうだ。でもふつーあの空気じゃ言えねーって。大丈夫だと信じ切った目だったから、オレ達もそう思えたんだし。

 

 その後、リボ山っていう教師がきて沢田と獄寺が呼び出された。何したんだか。

 

 山本と神崎も帰ってこねーから気にはなるけど、そっちは大丈夫だとしか思えないんだよなー。

 

 あー、オレも彼女欲しい。



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神崎桂の場合(設定変更あり)

リクエスト作品。
義兄妹設定で幼少期頃の桂さんの心情です。
作者があまり近親相愛が得意じゃないので本編のままだとこのルートは考えもつかないのですが、リクエストが義兄妹設定だったので簡単に書けましたw

注意事項としては……
IFルートなのでサクラの相手はディーノさん!と思っている方は読まないように、といういつもの。
近親相愛が絶対にダメな人は読まないでね。義兄妹が大丈夫な人はいけるはず。…多分。
次は義兄妹設定に伴い、他の設定もチラチラ本編とは違うこと。
また過去が違うので性格もかわっています。お前は誰だ!と思うかもしれません。
最後に無駄に長い。一万字超えたw
では、読む方はこれを頭にいれて読んでくださいね。


 僕は変だ。

 

 周りがやっと話し始めたころに、僕は大人が何を話しているか理解していた。一度実践すれば、体格などの物理的に不可能なこと以外は全部出来た。

 

 一番変なのは僕の手に炎が灯ること。親に見せれば、気味が悪いような顔をされて殴られた。怒られたのはこれを見せたからだと理解した頃には手が止まって、僕を見て怯えていた。この意味を理解するのには少し時間がかかった。

 

 次の日から親は帰ってこなくなった。そのことには特に何も思わなかった。ただご飯を食べないと、と思っただけだった。

 

 冷蔵庫をあけて、見よう見まねで包丁を動かす。思ったより重くて手を切ったけど、すぐに治った。周りを思い浮かべて、親の怯えた目の理由がわかった。僕は変な子どもだったようだ。

 

 ご飯を食べれば当然食材はなくなる。考えて少しずつ食べたけど、やっぱりなくなった。買おうにもお金もなかった。だからスーパーでパンを毎日盗んだ。その生活に慣れた頃には電気とガスが止まった。理由はわからない。水道は大丈夫だったのは良かった。

 

 ある日、いつものようにスーパーでパンを盗んで外に出ると腕を掴まれた。誤魔化せない状況だった。

 

 どこか違う部屋に連れられ、座って待つように言われた。警察の人が来るみたい。逃げちゃおうかなと思ったけど、僕を捕まえた人もいるからやめた。だからその間、僕を捕まえた人をみる。普通の大人にしか見えない。でも普通の大人なら今まで誤魔化せたのに。

 

「おじさんの名前は?」

「ん? おじさんの名前は神崎紅葉だよ。君の名も教えてくれる?」

「…………」

「そうか」

 

 おじさんに頭を撫でられた。教えなかったのに、悪いことをしたのに、変なの。

 

「おじさんは僕を殴らないの?」

 

 僕が疑問を口にすれば、驚いたような顔をした。これを聞くのは変なことらしい。周りと一緒にするのは難しいなと思っていると、抱っこされた。

 

「おじさん、急にどうしたの? 僕と一緒でおじさんも変なの?」

「……おじさんも君も変じゃないよ。普通だよ」

 

 おじさんは僕と違って、変な人じゃないらしい。仲間じゃなかった。でもおじさんはちょっと変だと思う。

 

 警察の人が2人来て、僕は女の人と話して、おじさんは男の人と話をするみたい。おじさんが違う部屋で話をしたいって言った。僕が変だとわかったからかも。ポンポンと優しく背中を叩いてくれるけど、気味悪くないのかな。

 

「すぐ戻って来るよ」

「ウソはいいよ」

 

 おじさんもみんなと一緒だったんだ。僕と目を合わせてくれるから、やっぱりちょっと変だけど。

 

「本当だよ」

「同じこと言って、パパもママも帰ってこなかったよ?」

 

 今度はぎゅっとされた。おじさん、やっぱり変。

 

「……おじさんもここでお話するよ。ウソつきと思われるのは嫌だからね」

 

 言葉通り、おじさんはどこにも行かなかった。抱っこしたまま、警察の人に僕を捕まえた時のことを話をしていた。おじさんは僕が1人で歩いてるから気になってずっと見ていたんだって。気づかなかったなぁ。

 

 その後、僕もいろいろ警察の人に聞かれた。僕が黙ってるとおじさんに名前で呼びたいって言われたから今度は教えた。家にも行きたいって言われたからそれも教えた。変なおじさんならいいかなって思ったんだ。

 

「桂、今日はおじさんの家にお泊まりしよう。お泊まりはわかる?」

「わかる。でも僕、変だよ。いいの?」

「大丈夫だよ。持って行きたい物をとっておいで。おじさんは桂から見えるところに絶対いるから」

「わかった」

 

 おじさんに警察の人が声をかけたから聞きながら準備しようとしたのに、おじさんは何も話さなかった。変なのと思っておじさんを見れば「子どもの桂は知らなくていい話だからね」と僕に言って、紙に何かを書いていた。僕が聞こうとしていたことに気付いていたみたい。おじさんは僕を捕まえたし、鋭いのかも。

 

「声が聞こえないとウソつきと思われるかもしれないね。桂、今日は何を食べたい?」

「お腹に入れば何でもいいよ」

「じゃいっぱい食べて一緒にお風呂入って寝ようか」

「え? 僕と?」

「桂以外に誰がいるの?」

 

やっぱりおじさんは変だ。

 

「……ああ、でも3人で寝ることになるかな」

「3人?」

「おじさんには可愛い奥さんがいるんだ。おじさんの奥さんは小さい子どもが好きでね、桂がいけば大喜びするから覚悟しといた方がいいよ」

「……僕がお邪魔するとおじさんの奥さんが嫌がるよ。やっぱり行かない」

 

 ちょっと興味があったのに、おじさん以外にも人が居たんだ。

 

「おじさんが選んだ人だよ。嫌がるわけがないよ。桂は会ったことがない人もウソつきと決めるの?」

「でも僕は変だよ」

「うーん、そうだねぇ。もし少しでも桂が嫌だと感じたら、おじさんと一緒にここに泊まろう」

「ここ、電気がつかないから夜寒いよ? 僕は小さいから毛布に包まればあったかいけど、おじさんは寒いと思う」

「おじさんはまだ20代だから大丈夫だよ。それに寒ければ桂を抱きしめればいいからね」

「僕が寒い」

 

 おじさんは笑った。笑った理由はよくわからないけど、今日の夜は楽しみだった。

 

 僕の準備が終わるとおじさんはまた僕を抱っこして、家へと向かった。警察の人はおじさんの家には来ないみたい。おじさんが家に入ると、パタパタ音がして女の人がやってきた。

 

「お父さん、この子は誰?」

「おじさん、話してなかったの?」

「うん」

 

 おじさん、やっぱりちょっと変。

 

「この子は桂、これから一緒に住むから」

 

 そんな説明じゃ、僕の家に戻ることになると思う。変な僕でもわかる。

 

「お父さんだけ、ずるいわ!」

「はいはい」

 

 よくわからないまま、僕はおじさんの奥さんに抱っこされた。そして僕をぎゅっとして、ぐるぐる回り出した。僕は大丈夫だったけど、おじさんの奥さんは気持ち悪くなったみたい。おじさんがまた僕を抱っこしながら背を撫でていた。

 

「おじさんはウソつきじゃなかっただろ?」

 

 ウソつきじゃないけど、おじさんの奥さんを見ているとなんか頷きたくなかった。変なの。

 

 ここが僕の新しい家になって、おじさんが僕のお父さんでおじさんの奥さんが僕のお母さんになったのは僕が4歳になる頃だった。

 

 

 

 それから僕が小学校に入学する年にお母さんが子どもを産んだ。この時、僕はとうとうこの日がやってきたと思った。お父さんとお母さんにはお世話になったから、恩を返すためにも出て行くべきだと思ったんだ。僕はやっぱり変だし。

 

 お母さんの妊娠中はお父さんに頼まれたのもあるけど、お母さんはちょっと変だから、スキップとか平気でするんだ。怖くて目が離せなかった。

 

 でも無事に産まれたからもう大丈夫。

 

 2人のおかげで僕は普通の過ごし方を覚えたから、今度はうまく行くと思う。サクラっていう子のためにも僕はいない方がいいんだ。

 

「桂、サクラを見ててくれないか? お父さん達は少しお医者さんと話をしてくるから」

「え、でも……」

「お腹はいっぱいだし、おしめはさっきかえたよ。それにお父さんと一緒に練習したから桂なら大丈夫だよ」

「お願いね、桂」

 

 お父さんとお母さんの頼みだから、サクラを見ることにした。出て行くのはこの後でも出来るし。

 

「お父さんとお母さんはいい人だから、サクラは幸せになれるんだろうね」

 

 僕が呟いているとサクラは急に泣き出したから慌てて駆け寄る。

 

 お父さんと一緒に赤ちゃんの人形を抱く練習をしたけど、サクラを抱くのは怖かった。人形と違って、柔らかくて僕が力をいれると壊しそうだし。

 

「サクラ、泣き止んで。泣いているとお父さんとお母さんが悲しむよ」

 

 上手くいかない。ほとんどの子達はこれで泣き止んだのに。

 

「痛いの痛いのとんでいけー」

 

 これもダメみたいだ。子ども騙しの呪文なのに、サクラには効かない。

 

 このままだとお父さんとお母さんが本当に悲しむ。僕が抱いても大丈夫か調べるために、ちょっと指で触ってみる。ふにゃふにゃして、やっぱり怖い。

 

 ……あれ? 泣き止んだ。

 

 僕は拍子抜けして、指を引っ込めた。すると、またサクラが泣き出した。だからまた指でサクラを触る。……泣き止んだ。

 

「サクラは僕が触ってないと泣くのかな?」

 

 ふにゃっとサクラは笑った。僕の言葉がわかっているのかも。

 

「でも僕はもうすぐ居なくなるよ」

 

 サクラはさっきと比べ物にならないぐらい大泣きし始めた。お腹はいっぱいってお父さんが言っていたし、おしめかも。でもオムツを見ても、サインは出てない。それ以外だと……眠たいのかも。

 

「サクラ、おやすみ」

 

 声をかけてもサクラは寝ようとしない。泣いてばっかりだ。やっぱりお父さんとお母さんが言ってた通り、赤ちゃんは抱っこして寝かさないといけないんだ。

 

 僕が壊してしまう気がして怖かった。でもこのままだとサクラは泣き止まないし眠れない。僕は悩んで、結局抱き上げた。

 

 僕が抱いたらサクラはキャッキャとはしゃぎだした。寝なくていいの?

 

「……僕もお父さんとお母さんにぎゅっとしてもらった時は嬉しかったなぁ」

 

 僕が好きって言ったら幼稚園で笑われたから普通になるためにやめたけど、本当はもっとしてほしかった。……サクラならぎゅっとしても変じゃないよね?

 

「サクラが嫌がるまではいいのかな」

 

 サクラはどんな反応するかなと思ったら、瞼が落ちていた。いつの間に寝たんだろ?

 

 眠ったからベッドに戻そうとすると、また泣き出したから慌てて抱っこする。……赤ちゃんは難しい。

 

 今度こそ寝たかなって思った時にお父さんとお母さんが帰ってきた。

 

「……ああ、眠ったんだね。桂、抱く時怖くなかった?」

「うん。怖かった。僕が壊しちゃいそうで今も怖い」

「それは違うよ。桂は今、サクラを守っているんだよ」

「守る?」

「そう。桂がもし今、手を離しちゃうとサクラは何もできず落ちちゃうのはわかるよね?」

 

 お父さんの言葉に頷く。サクラはふにゃふにゃだもん。僕が手を離したら大変なことになる。

 

「怖いのは桂がサクラの命を握っているからだよ」

「……お父さん、かわって」

「桂が疲れたならかわるよ。でも今はまだ大丈夫だよね?」

「僕じゃダメだよ。だって僕は変だもん」

「たとえ変でも桂は今、サクラを守れているじゃないか。ダメなことではないよ」

「変な僕でも守れるかな……」

「お父さんとお母さんは桂なら守れると思って、任せて離れたんだよ」

 

 お父さんに頭を撫でられてるとポタポタ目から何かが出てきた。変な僕でも涙が出るみたい。お母さんが優しく拭いてくれるからもっと出てきて、2人を困らせてると思ったけど、お父さんもお母さんも笑顔だったから泣いてもいいってわかったんだ。

 

 

 

 

 

「んちょ、んちょ」

「サクラ、危ないよ」

 

 サクラは少し大きくなって最近歩けるようになった。目を離すとすぐにどこか行こうとするから、お父さんとお母さんはハラハラしている。僕も危なっかしくて声はかけるけど、2人ほどじゃないと思う。

 

「でも僕がこのぐらいの時は、危ないことはしなかったのになぁ」

 

 歩きたくても、バランスが取れなかったからね。まずは安全なところで練習して、転ばないと確信してから動きまわったよ。

 

「まったく、僕がいなくちゃサクラは泣くのに」

「にいちゃ?」

「ううん、なんでもないよ」

「あい!」

 

 サクラに教えても理解しないみたいだし。返事だけは元気いっぱいで可愛いけどね。

 

「あ」

 

 手を挙げて返事をしたのが悪かったみたいで、サクラは転んでしまった。やれやれとため息を吐いてから、サクラに駆け寄る。

 

「サクラ、大丈夫?」

「あのね、にいちゃ、ココ、と、ココ、痛いの」

「はいはい、わかったからジッとしてて」

 

 お父さんとお母さんが近くにいないか確認して、手に炎を灯す。もうこの時点でサクラは痛がってないけど、治さないとスネちゃうんだ。

 

 サクラが僕の炎を知っているのは、少し前にサクラが転んで怪我をしたのがきっかけ。よくわかんないけど僕は炎を浴びせなきゃって思ったんたんだ。後のことなんてその時は考えてなかった。サクラが喜んで治ったのはいいけど、あれからずっとこの調子。

 

「治ったよ」

「にいちゃ、すごーい!」

 

 僕の炎を見て、そんなことを言うのはサクラぐらいだよ。でもいつかは怯えちゃうんだろうね。

 

「お父さんとお母さんにはナイショだよ」

「ナイチョ!」

「ナイショね。話しちゃうともうやらないからね」

「ナイチョ、ナイチョ、ナイチョー♪」

 

 ……でもまだ大丈夫だと思う。怪我をすると思い出すけど、それまでは思い出さないし。それにしても変な歌。そもそも歌なのかな?

 

 僕はこの時、忘れていたんだ。サクラを初めて抱いた時、お父さんに命の重さを教えてもらったのに。

 

 本当に突然のことだった。僕とサクラが歩いていると車が突っ込んできたんだ。

 

 覚えてないからほとんど無意識に行動したんだと思う。目を開けたら手を繋いで歩いていたはずのサクラを抱きしめていたから。

 

 それでもサクラは僕と違って、怪我をしていた。折れてるみたい。もちろん僕はすぐに治した。頭も打ってれば怖いから、ちゃんと頭にも炎をあてたんだ。

 

「サクラ、治したからもう大丈夫だよ」

 

 声をかけたけど、サクラから返事はなかった。気を失ってるみたい。僕でもビックリしたからサクラはもっとビックリしたと思うし、しょうがないよね。

 

 2人とも怪我はないから大丈夫って僕は答えたけど、念のため病院に行くことになったんだ。僕の言った通り、調べても怪我はどこにもないってお医者さんも言ったから、まだサクラは目を覚ましてないけど、お父さんもお母さんも少しはホッとしたみたい。

 

「サクラ、早く起きないかな」

 

 サクラが起きたら僕が治してあげたんだって教えよう。またサクラはキラキラした目で僕を見るんだろうね。……でもいくら待っても、その日は起きなかったんだ。

 

 次の日にまた病院にきたけど、サクラは眠ったままだった。だからお父さんとお母さんが離れたスキに僕はもう一度手に炎を灯して、今度は全身に浴びせた。早く起きないかな……。

 

 3日目になると僕はお父さんとお母さんに言われても、サクラから離れなかった。夜もお父さんとお母さんは交代でサクラを見てるんだから、僕が見ててもいいじゃないか!って怒れば、許してもらえた。

 

「サクラ。僕だよ、桂だよ。早く一緒に遊ぼうよ」

 

 何日たったか、覚えてない。とにかく声をかけ続けた。サクラが喜んだこととか、なんでもいいから目を覚ますきっかけになりそうなことを言ったんだ。

 

 ……このままサクラが目を覚まさなかったらどうしよう。サクラしかいないのに。僕の変なところを見ても凄いって言ったのはサクラだけなんだよ。サクラが目を覚ましてくれないと、僕は……。

 

「……ぃ、ちゃ」

 

 聞こえた声に顔をあげる。

 

「サクラ!」

 

 僕の声に反応して、ヘラっとサクラは笑った。慌てて僕はナースコールを押して、お父さんとお母さんを呼びに行った。

 

 

 

 僕はそれからサクラを大事に、大事に育てた。でも失敗もいっぱいした。

 

 例えばもう怪我をさせないようにと思って、僕がずっと抱っこしていればサクラは腕の中で暴れた。だから歩き方を一から教えた。すると、サクラは考えているのか、もっと転びそうになってもっと目が離せなくなった。でもそろそろ僕の炎に疑問をもつころだと思うから今のままはダメだと思うんだ。結局、危なくなる前に僕が助ければ良いって気づいたんだ。サクラをいつでも助けれるように僕は身体を鍛えた。鍛えた結果、いろんなところから声をかけられたけど、僕の身体はサクラを守るためにあるから全部断った。

 

 他にもサクラは可愛いから、スキのないように育てようとした。僕が出来ることを全部教えていれば、サクラが僕を避け始めるし、理由を聞けばわんわん泣かれた。「お兄ちゃんみたいに出来ないんだもん……」と。これには僕は反省するしかなかった。僕が変だというのを忘れていたんだから。でもサクラは凄いと思う。変じゃないのに努力だけで箸の持ち方と字だけは僕とそっくりになったんだから。もう十分頑張ったのだから、僕はいっぱい甘やかした。でもやり過ぎはダメだったようで今度は「お兄ちゃんより下手だけど、出来るもん」と言って怒られた。お父さんの注意を聞いていれば良かったと本気で後悔した。

 

 後は、小学校の時もそうだったけど、中学になるともっと僕はモテるようになった。でも僕にはサクラがいるから断った。ちゃんと説明して断ったのに、サクラに危害を加えようとする人まで現れた。僕が間一髪のところで守ったけど、サクラは人が怖くなったみたいで、僕達以外の前では話さなくなった。僕は出来るだけ側に居るようにした。サクラは僕にベッタリになった。凄く可愛い。問題は僕が人の心をよくわかっていないからサクラに被害がいったこと。だから、どうやって断ればいいかなどのアドバイスを女性の母に頼んだ。アイドルのようにすればいいのよ!という案を実行してみれば、キラキラした目で僕を見るけど、近寄っては来なくなった。でも父に今度からは2人では決めないようにと念をおされた。ダメだったみたい。僕は母の案は完璧だと思ったけど、父の言葉は守らないとね。

 

 いろいろ失敗はあったけど、順調だったと思うんだ。サクラが小学校の高学年に入るまでは……。

 

「お兄ちゃん」

 

 今日もサクラは僕に抱きついて来た。甘えん坊のサクラも可愛い。ただ最近膨らんできたサクラの胸が当たると、ドキドキする。

 

 僕は男だし普通の反応だと思う。サクラはお父さんとお母さんの子どもだけど、僕の妹とは思ったことはないから。血は繋がってないしね。だからこれは変じゃない。それにサクラは可愛いからね!

 

 でもサクラは僕のことを兄として見ている。

 

 今まで何度か僕はサクラのお兄ちゃんじゃないよって教えたけど、サクラはその度に「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだもん。私のこと嫌いになったんだ」と言って泣く。だから僕はもう言わないことにしている。サクラを泣かせたくない。

 

 だけど、サクラが成長して行くにつれ僕は怖くて仕方がない。

 

「……サクラ、好きな人は出来てないよね?」

「毎日聞いてもかわらないってば。お兄ちゃんよりカッコイイ男の子いないもん」

「なら、僕と結婚しようよ」

「だから兄妹じゃ結婚出来ないんだって」

 

 サクラはクスクスと笑って否定するけど、僕達は結婚出来るんだよ? 泣いちゃうから言わないけど。

 

「もし私に好きな人が出来たら、お兄ちゃんはヤキモチ妬きそうだね」

 

 ヤキモチだけで済むとは思えない。僕が何も言えなくて黙っているとサクラはまた笑って言った。

 

「私の結婚式とか泣きそう」

「……泣かないよ。でもちょっと待った!って感じでサクラを奪いに行くけどね」

「まさかのそっち?」

「当然だよ。奪われてくれるかい?」

「やだ」

 

 ……誰かに奪われるぐらいなら、いっそのこと。

 

 強く、強く抱きしめる。僕の腕の中にサクラがいる。このまま目を閉ざせば、サクラはどこにも行けない。永遠に僕のものになる。

 

「にい、ちゃ、くるしっ」

 

 サクラの苦しそうな声で正気に戻る。僕は何をしようとしていた……?

 

「びっくりしたー。どうしたの?」

「サクラ、すまない」

 

 サクラから離れないと。僕はサクラを傷つける。忘れていたつもりはなかったけど、僕は変だった。

 

「お兄ちゃん?」

 

 サクラの疑問の声を無視して、僕はサクラを引き剝がし部屋にこもった。

 

 

 

 ドアの向こうから聞こえ続けていた声が止んで、ホッとしたのは一瞬で、すぐに寂しくなった。自分から離れたのに。

 

「桂、お父さんだ」

 

 父の声に立ち上がる。あの時に僕を捕まえた父なら、僕を止めてくれる気がする。そう思った僕は父を部屋に入れた。

 

 部屋に入れたものの、何から話せばいいのかわからず僕はベッドに腰をかけることしか出来なかった。だからなのか、父は僕の机にあるサクラの写真を見ながら口を開いた。

 

「サクラは桂に嫌われたと思い始めているよ」

 

 立ち上がりそうになった足を、僕は両手で押さえ込んだ。

 

「桂はそれでいいのかな。後悔しない?」

 

 父は僕に発破をかけている。やっぱり鋭い父は僕の気持ちに気付いていた。

 

「……いつから? どこで?」

「桂はサクラに『桂だよ』と言って、一度も『お兄ちゃん』とは教えようとしたことがなかったからね」

 

 最初からだ。僕でさえ気付いていなかった、無意識だった行動の時から……。

 

「……サクラはお父さんの子なんだよ! 大切じゃなかったの!?」

「サクラはお父さんの娘だ。もちろん大切だと思っているよ」

「だったら、どうして僕を止めなかったんだ! 大切ならどうして!」

 

 八つ当たりの自覚はある。でもサクラを守ろうとしなかったのが許せなかった。お父さんなら僕を止めれたのに!

 

「サクラと同じぐらい、お父さんの息子である桂のことも大切だからだ」

 

 父の言葉に怒りを通り越したのか、萎んだのか、よくわからないけど僕は力が抜けた。

 

「……父上は」

「桂とお父さんしか居ないんだ。取り繕う必要はない、甘えなさい」

 

 そこで興奮した時、昔の呼び名を口にしていたことに気付いた。

 

「お父さんは悩まなかったの?」

「大切にしている息子の恋を邪魔したいとは思わないよ。兄妹でも桂とサクラは血が繋がっていないんだから」

 

 血が繋がっていれば、邪魔をしていたってことだ。僕なら自覚する前に手を打つ。父もきっとそうだ。

 

「悩みはしなかったけど、桂なしでは生きられないようにサクラを育てようとした時は困ったかな。こればかりはサクラのために少し阻止したよ。……ああ、これはまだ自覚がなかったんだね」

 

 僕の表情を読み取ったようで、父は笑っていた。僕は心当たりがありすぎて恥ずかしくなった。サクラに怒られて反省したつもりだったけど、あれも父の誘導だったんだ。だって僕はあれから父の言葉を素直に聞くようになった。気付いてなかったよ……。

 

「お父さんはね、止める必要がないものは止めなかったよ。けど、止める必要があるなら全力で阻止する。そこにお父さんの気持ちは考慮しない」

 

 背筋がのびた。父が甘いだけの人間じゃないことは知っている。でもウソはつかない。僕のために始めたことを今でも守り続けている。

 

「お父さんは桂の恋を止める必要はないと判断した。この意味、桂ならわかるね?」

 

 僕は父の目を見ながら頷いた。サクラは僕が何をしようとしたかわかってないけど、父は気付いている。気付いてるからこそ、言ったんだ。正直、僕はまだ自分を信用出来ないけど、父は僕が暴走しても止まると思っているなら少し心が軽くなった。

 

「でもお父さんから真実をサクラに話すつもりはない。これもわかるね?」

 

 頷く。父から教えれば、サクラは信じると思う。そして今まで行動からサクラは僕の気持ちにも気付く。僕からすれば、凄く魅力的な方法。だけど、その方法はサクラの逃げ道を塞ぐ。目の前にいる父がそんな愚かなことをするはずがない。しっかりと母にも口止めをしている。

 

「ここまではお父さんの気持ちや考え。大切な息子が後悔しそうだったから、少し発破をかけたけど、これからはどうするかは桂が決めることだよ」

 

 僕だけを肩入れ出来ない父の譲歩だ。教える必要はなかったのだから。

 

「……諦められないよ。でも少し、サクラと距離を取りたい」

 

 まだ怖い。サクラを傷つけそうで。

 

「リスクがあるのはわかっているね?」

 

 わかっている。距離を取れば、サクラが他の男に取られる可能性が増すことも。

 

「わかってるならいいよ。具体的にどうしたいのかな」

「一人暮らししようかな」

 

 父の返事がなかったので、視線を向ける。今更父が反対するとは思わないけど……。

 

「……ああ、悪いね。断ろうと思った依頼を受けてもいいかなと思い始めてね。ここから交通の便が悪くて、受けるなら引っ越ししないと厳しかったんだ。桂にこの家の管理を頼めるならアリだなって。もちろん桂さえ良ければだけどね」

「どこ?」

「並盛。桂の足ならここから30分ってとこかな」

 

 ……やっぱり父は鋭い。僕が普通の枠から出ないように力をセーブして過ごしていたことにも気付いていた。それに僕が見立てた時間と一緒だ。

 

「いいの?」

 

 僕からすれば都合のいい展開。一人暮らしを始めるよりはサクラを説得しやすくなる。僕は簡単に様子を見に行けるけど、サクラから僕に会いにいくのは厳しい距離だ。でもこれは僕に肩入れしすぎになるんじゃないのかな。

 

「これはお父さんの都合だからね」

 

 理由がわからず、父の顏をジッと見つめる。目は合わなかったけど、僕の視線に気付いていたのか、父は少し笑ってから口を開いた。

 

「信用はしているけど、心配していないという訳じゃないんだよ。……知らない土地に桂1人を行かせたくないというお父さんのワガママ。親バカと笑ってくれていいよ」

 

 父の言葉通り、僕は笑った。……泣きそうになったのを誤魔化すために。

 

 

 

「お兄ちゃん、本当に行かないの……?」

「ここからの方が大学が近いからね」

 

 引っ越し当日でも駄々をこねるようにサクラは僕に抱きつき、なかなか離れなかった。……そう育てたのは僕だけど、凄く嬉しかった。

 

「サクラが会いたいと言えばすぐに駆けつけるよ。約束する」

「ほんと……?」

 

 サクラのひたいにキスをする。今の僕達の関係ならギリギリ許される範囲のスキンシップ。サクラは目を丸くしたけど、嫌がらなかった。

 

「もちろんだとも。僕はサクラを愛しているからね!」

 

 サクラは嬉しそうに笑った。本当の意味には気付いていないけど、僕の心は満たされる。

 

 

 その後、サクラの顏を見に行った時に、サクラの隣にいた男に殺気をあててしまい、彼と一緒にいたらしい赤ん坊に拳銃を向けられるのはまた別の話。




設定変更の内容。
実はサクラの知識はなし。その分、父と桂の繋がりが強くなっています。真実の目、サクラと桂の繋がりはそのまま(桂さんの感情の芽生えは父とサクラの二段階設定)。予知は桂さんと離れたことで不安定になり開花。性格は人見知りの甘えん坊(常におまけ後のサクラみたいな感じ)。オープンの桂さん大好きっ子。言葉遣いもそこまで悪くない。
桂さんの性格はどちらかというと父似に変更。憧れからそうなりました。
母はもちろんですが、父も性格はそのまま。桂さんが影響されているだけで、実は父は変わらずなのです。本編でも桂さんは父の言葉は聞いていますし、基本子ども主体なのも一緒。ただ、このIFでは出会いが出会いなので、桂さんにかなり気を配っています。

で、もしこのまま原作を進めるなら、桂さんがサクラを巻き込んでしまうことに苦悩する感じ。リボーンは桂さんに興味を持ってしまったのでサクラを巻き込みますからね。サクラは京子ちゃん達のような立ち位置になるかな?でも予知が出来始めるので、黒曜編ぐらいからややこしい立ち位置に。
桂さんから少しずつ距離をとられたサクラは、桂さんと歳が近いディーノさんに相談します。桂さんがそれを目撃。ドロドロー?
白蘭さんの口からサクラは血の繋がらない兄妹と知ってしまうような流れで書くかなー?
未来編でユニの代わりに桂さんが肩代わりするのは一緒。なので、ラストを結界に弾かれるギリギリのところで、結界を挟みながらのキスシーンを目指して書く感じ?
この時の桂さんが10年後か過去から来た桂さんなのかは謎ww作者も知らないw

ここまでイメージしましたが、書く気はないので安心してくださいw書く気があったら流れは書きませんw
このIFルートの最後の数行のために考えたので、せっかくだからーと思って書いただけです。
では、長々と失礼しました。


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継承式編&虹の呪い編(おまけ)
雲隠れ


リクエスト作品。
「もし継承式編も書いたなら」

最初の1話ぐらいなら大丈夫かなーと思って、書き上げました。


 マンガを読もう。今日の放課後の予定が決まった。……今日も、と言ったほうが正しいか。

 

 未来の世界から帰ってきて落ち着いた私は、束の間の平和を満喫していた。束の間というのは、これから起こることを知っているからだ。

 

 未来で私はバランス調整のために原作知識を得たことを知った。いや、正確には兄のために知ったと言ってもいいだろう。

 

 そして、その兄はもう問題がない。兄が死んでも、必ず彼女の父の元に――正しい場所に魂がかえる。もう心配することはないだろう。

 

 ただ少し気になることがあった。私の悪夢について、彼女は何も言わなかった。兄に相談すれば『サクラが元々持ってる力というだけの話だよ』と軽い感じで言われた。流石にそれはないだろうという顔をすれば『サクラは僕の妹なんだよ?』と言われて納得してしまった。

 

 だからといって、特に変わることもない。なぜなら、あれから特に夢をみていない。それに兄も黙っておけばいいといっていた。それもそうだ。私はユニのように自由につかえないのだ。当てにすることも出来ない。

 

 私が出来ることと言えば、たまに何となく嫌な予感がするので、直感を信じて行動しているぐらいだ。少しラッキーになったぐらいに思えばいいレベルだろう。誰かに話す内容でもない。

 

 疑問が解決したので、私は継承式編までゆっくりと過ごすと決め、今に(マンガを読む毎日に)至るという感じだ。

 

 しかし継承式編はいつ始まるのだろうか。集団転校生の噂はまだ聞かない。雲雀恭弥から探りを入れればすぐにわかるのだが、極力会いたくない。それに下手に聞けば、彼は勘ぐるだろう。

 

 まぁ今更、原作からズレるとか気にはしないけどな。兄も居るし、何とかなるだろう。

 

 危険なのはD・スペード。彼にのっとられている加藤ジェリーも同様に危険だ。厄介なのはD・スペードにも未来の記憶が流れていることだ。つまり私と兄のことも知っているだろう。

 

 ……ちょっと待て。

 

 とんでもないミスをしてる気がする。

 

「助けてドラ……じゃなくて、助けてお兄ちゃん!」

「僕を呼んだかい!?」

 

 バンっと扉から現れた兄を見て思う。いつからスタンバっていたのだろうか。

 

 

 

 最初の方は遠い目をしていたが、私たちは真剣に話し合った。

 

 そして、兄も私と同じような考えに行き着いた。

 

「やっぱり死亡フラグたってるよな」

「盛大にね!」

 

 軽い感じで言ったのは、私に気を遣ってるのだろう。

 

 はぁと溜息が出る。何が嬉しくて、命を狙われなくちゃいけないんだ。でもまぁ今気付いて良かっただろう。もう少し遅ければ、命がなかった気がする。兄の言うとおり、私は盛大に死亡フラグがたっているのだから。

 

 よく考えればわかることだった。私は未来の記憶がわかるとD・スペードにバレている。計画に支障が出る可能性が高い。そんな私を野放ししたままにするわけがないだろう。特に問題は私の能力だった。戦闘力がない私を無気力化するのは簡単で、殺すまでいかない可能性もあった。しかし私は幻覚が効かない。D・スペードと相性が良すぎるのだ。

 

「僕が今のうちに倒してこようかい?」

「それもありだけど、逃げられない?」

「…………」

 

 黙り込んだので、兄も勝機が薄いと考えたのだろう。下手に兄が接触すれば、D・スペードは機会を次にするだろう。上手く倒せそうになって、肉体から魂になってしまうと兄の炎の性質上、倒すのは難しくなる。肉体を持たない状態になれば、炎で倒すしかない。しかし兄はどうしても威力をあげようとすれば、元々もってる炎まで放ってしまう。つまり治療してしまうのだ。匣兵器のエリザベスも炎で攻撃すれば、治療してしまう。魂だけになると眠らせることが出来るのかは微妙だ。

 

 第8属性の炎を得る間に倒したいが、倒せないということだ。

 

 さらに私は兄に説明する時に第8属性の炎のことは話さなかった。否、話せなかった。復讐者が管理しているので、下手に話せば彼らがやってくる。このタイミングでそれは避けたい。

 

 兄も私が何か黙っていると気付いたようなので、はっきりと「これだけは話すとヤバイ」と言った。はっきりというのは、私が兄に未来の内容を教える時、連想ゲームのように話すからだ。今まで読んだマンガや小説の知識をフル活用して、兄だけにわかるように説明している。

 

 回りくどいことをするのは、兄が誰もいないといっても、復讐者の覗きかたを考えれば、はっきりと話すのは危険だと判断したからだ。復讐者がマンガや小説を読んでるとは思わないし、マニアックなことを混ぜているので調べようとすれば時間がかかるだろう。そもそも彼らはマンガや小説ネタとわかってるのかも、怪しい。たとえ気付いたとしても、時折混ざるサクラちゃんクイズ大会の内容で詰まる。まさかあの内容を残してないと思う。それ以前にあれを真剣に聞こうと思ったとは考えられない。まぁどうしても兄に伝わらなかった時は耳打ちするけどな。滅多にないが。

 

 いろいろ工夫してるにも関わらず、第8属性の炎についてだけは話せなかった。嫌な予感がするから。

 

「学校はやっぱり危険?」

「……現実的に考えると僕が四六時中、側にいることは出来ないからね。クローム髑髏を頼むのもありだろうけど、やっぱり難しいと思うよ」

 

 まぁそれはそうだろう。トイレに行くにもついてもらわなければならなくなるからな。守護者とは少し違うが、クローム髑髏が兄が護衛出来ない場所を一人でフォローするのは難しいだろう。

 

「しばらくは海外に雲隠れだね」

 

 兄の言う通り、日本から離れるしかないのか。

 

「迷惑かけるのは減るって言ったんだけどなぁ……」

 

 はぁとため息が出る。言って早々、頼る羽目になるとはなんとも情けない。

 

「いい機会と思えばいいんだよ。初めての海外でも彼がいれば、不安はないだろ?」

「お兄ちゃんがいるもん」

「僕は行かないよ?」

 

 なん、だと……!?

 

「僕だって行きたいさ! サクラの初めての海外旅行だからね! でも仕事があるのだよ」

「そういえば、お父さんの仕事を手伝ってるんだったか」

 

 正直どこにでも現れるので、いつ仕事してるのか謎だ。

 

「父上は融通してくれるけど、流石に海外旅行しながら仕事すれば怒られるよ。場所か違うだけでサクラを観察するのは同じなのにね!」

 

 プンプンという擬態語が聞こえうなぐらい兄は怒っていた。内容はもの凄く残念だが。

 

「まっとにかく彼に電話しようか」

 

 そういうと兄は電話をかけ始めた。

 

「もしもし、ディーノかい? 今すぐにサクラの元に来たまえ。拒否権はないよ!」

 

 それだけを言うと兄は切った。もう少し説明してやれ。ディーノが不憫すぎる。

 

 数秒後に私のケイタイが鳴り始めた。兄にかけても無駄と判断したのだろう。間違ってはいないが、その選択は良くない。予想通り私が電話を出ようとすると、兄にケイタイをとられた。

 

「この時間が命取りになるんだよ。全く、君はサクラが死んでもいいのかい? 見損なったよ」

 

 それだけ言うと兄は再び切った。お人よしのディーノは慌てて来る羽目になるだろう。不憫である。

 

「さて、サクラも準備しようじゃないか」

「……そういえば、パスポートを持ってないぞ?」

「心配しなくて大丈夫だよ。ディーノがなんとかするさ」

 

 合掌。

 

「サクラは自分の心配をした方がいいよ。長期間休むには雲雀君の許可がいるだろ?」

「……任せた」

「彼がそれで納得するとは思えないよ」

 

 行きたくないという意味で動かなければ、兄に横抱きにされて移動する羽目になった。もちろん抵抗したが、強さを隠さなくなった兄は、容赦がなかった。

 

 

 

 

「やぁ雲雀君!」

「…………」

「…………」

 

 無駄に元気な兄、死んだような目をしている私、ノックもせずに入ってきた兄と私を無言で睨む雲雀恭弥。なかなかシュールである。

 

「お兄ちゃん、おろして。私が話すから」

 

 残念そうだったが、無事におろしてもらうことが出来た。

 

「しばらく休みたい」

「……理由は?」

 

 おお。日ごろの行いが良かったのだろう。まさかすぐに私の意見に耳を傾けるようになるとは……。ちょっと感動である。

 

「死ぬ可能性が高いから」

 

 ピクリと雲雀恭弥の眉があがった。

 

「狙われる。兄の目が届きにくい学校が1番私を殺しやすい」

「正確には狙われている、だよ。視線を感じたからね」

 

 慌てて兄の方を向くと、真剣な顔をしていた。先程までのふざけた態度はわざとだったようだ。

 

 ガタッと音がしたので振り返ると、雲雀恭弥が引き出しから何かを取り出していた。

 

「……この紙にサインしなよ。理由は書かなくていい」

 

 恐る恐る紙を取りに行くと休学届けと書いている紙だった。彼の目の前では書きにくいので、ソファーに座らせてもらおう。

 

「雲雀君、少しの間だが君にサクラを任せていいかい?」

「お兄ちゃん?」

「狙いは僕かもしれないからね」

 

 D・スペードの腕があれば、兄に気付かれるようなヘマはしない。誘っている可能性もあるのか。

 

 雲雀恭弥と一緒にいるのはもの凄く嫌だが、腕はいい。私の目があれば、すぐに殺されることはないだろう。

 

「……そこから動かないでよ」

 

 動かなければ咬み殺さないという意味のようだ。それぐらいなら大丈夫だろう。同じ空間に居たいとは思わないが、我慢は出来る。

 

「わかった!?」

 

 語尾が跳ね上がり、思わず動きそうになった。まかさ私が座ってるソファーの肘掛けにもたれかかるように彼が来るとは思わなかったのだ。トンファーとロールを出してるところを見ると、彼は本気らしい。校内で死なせたくない理由とわかっているが、ほんの少し、ほんの少しだがドキっとした。

 

「頼んだよ、雲雀君」

 

 雲雀恭弥の行動で安心したのか、兄は外に飛び出していった。窓から出て行ったにも関わらず、雲雀恭弥は怒っていないらしい。

 

「…………」

「…………」

 

 気まずい。コミュニケーション能力が低い2人がそろってしまった。

 

「……君が調べる方にならなかったんだな」

「目的が彼だとしても、君が狙われるからね」

 

 当然のように彼は言った。悲しい事実である。

 

「…………」

「…………」

 

 再び沈黙が流れる。会話が続かない。

 

「……気をつけろよ」

「僕の心配をする余裕があるの?」

 

 これには黙るしかない。

 

「君はもう少し気をつけた方がいい。予知以外にも利用価値があるからね」

 

 予知のことはバレていたようだ。彼が気付いてるなら、リボーンとディーノにもバレていると考えた方がいい。しかし予知以外にも何かあっただろうか。兄はもう大丈夫なはずだ。よくわからなくて雲雀恭弥の方を向けば、覗き込まれた。ち、近い……。

 

「この目も十分価値がある」

 

 至近距離でジッと見つめられているが、不思議と恥ずかしくはならなかった。彼は私の目から彼女の姿を見ていると思ったから。

 

 バンッという扉の開く音に、私と雲雀恭弥は揃って目を向けた。

 

「恭弥、サクラを見なかっ……」

 

 目の前にいたため、言葉が途中で切れる。そして私が咬み殺されそうと思ったのだろう。気付けば私の横にいて、さらに腕を引っ張られ立ち上がることになった。

 

「ディーノ?」

「……ん? わ、悪い!!」

 

 謝ったし、許してあげよう。そこまで痛くなかったしな。

 

 チラッと視線を向ければ、本物と判断したらしく、雲雀恭弥はトンファーをしまって離れていった。

 

 しかしなぜディーノがここにいるのだろうか。

 

「日本に来てたのか?」

「……ああ。つっても、電話があった時はまだ空港だったけどな」

 

 つまり、いいタイミングだったようだ。

 

「何があった?」

 

 説明しようとした時、ケイタイが鳴る。画面を見ると、兄からだったので先に電話に出ることにした。

 

「お兄ちゃん?」

『サクラ、僕を待たずに日本から離れたまえ。父上と母上からは僕から説明するよ」

 

 ここに彼がいると知っているようだ。ディーノから連絡があったのだろう。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

『逃げられたよ。でもそこから距離があるからね。今のうちに移動した方がいいと思ったのだよ』

「ん、わかった。後で連絡する。気をつけてね」

『サクラも気をつけたまえ』

 

 返事をし、電話を切る。ディーノには悪いが、説明は後回しだ。兄が私を見送るのを断念したことを考えると、急いだほうがいい。

 

「ディーノ、悪いが今すぐ私を海外に逃がしてくれ。かなり危険な状況のようだ」

 

 ディーノの眉間に皺がよったと思ったときには、私の身体が浮いていた。

 

「えっ?」

「しっかり捕まってろよ。恭弥またな」

 

 私が現実に戻ったのは、イタリアへ向かってる飛行機の中だった。




これで終わろうと思ったんですが、せっかくなのでイタリアでの生活も書こうかなと考えています。


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ディーノのシマ

前の話のリクエストの続き。
中途半端?ですが、これで終わりです。

……という予定だったんですが、リクエストがあったので最後まで行きます。


 私は叫びたい気持ちでいっぱいだった。ディーノに人前で横抱きで運ばれるなんて想定外過ぎる。薄っすら残ってる記憶では車をつかっていたので、時間は短かったと思いたい。それでも今回はいつもと違って、ツナ達だけの前ではない。いったい、どれぐらいの数の生徒に見られたのだろうか。放課後だったが、クラブがある生徒は残っている時間だ。恥ずかしくて、もう戻りたくない。

 

「それで何があったんだ?」

「……ん? ああ。命を狙われるだけ」

 

 ディーノの問いに、軽く答える。もう私は精神的に瀕死だからな。

 

「継承式が関係しているのか?」

 

 聞こえてきた言葉に反応して、ディーノの顔を見てしまった。観念したように口を開く。

 

「関係しているといえば、関係している。直接関係してるわけではない」

 

 根本はボンゴレ初代の時の話なのだ。XANXUSの時と一緒で実行しなくても回避できることではない。それより私は気になったことがある。なぜディーノが継承式のことを知っているのだろうか。まだ学校では集団転校生の話を聞いていない。本来ならこの時点でディーノは知らないはずだ。

 

 少し考え、口にする。遠まわしになるかもしれないが、これも関わってる気がしたのだ。

 

「どうして日本にきたんだ?」

「……9代目がお前のことを知ったからだ」

 

 一瞬迷ってからディーノは言葉にした。私は天を仰いだ。9代目のことがすっかり抜けていた。

 

「9代目はツナにボンゴレを継いでもらいたいと考えた。だが、お前が心配だった。決めたことでお前が苦しめるんじゃないかってな。だから9代目から話を聞いたオレが日本に向かったんだ」

「……そうか。ありがとう、ディーノ。もちろん9代目も」

 

 昔みたいに甘いと突っぱねることはやめた。その甘い考えで私は助かっているのだ。だから素直に感謝する。

 

 すると、撫でるように頬に手を添えられた。少しくすぐったくて、笑ってしまう。

 

「ごほっ、ごほっ」

「ロマーリオ、大丈夫か?」

 

 ロマーリオの咳に反応し、ディーノの手が離れてしまった。少し残念である。と、思っていたら頭を撫でられた。どうやらロマーリオの心配をしながらも私のことを気にかけてくれてるようだ。

 

 

 

 イタリアまでの時間は長いので、暇つぶしにキョロキョロと見渡す。プライベートジェットなんて乗れる機会は一生に一度あれば凄い。堪能しようと思う。……ベッドまであるぞ。

 

 ディーノは話しやすいので、マフィアのボスと忘れてしまいそうだが、こういうのを見ると雲の上の人だと再認識してしまう。だから素直に楽しめなくなる。まぁ狙われていることを考えると、プライベートジェットで良かったのだが。パイロットもファミリーの一員らしいしな。

 

「はぁ」

「どうした?」

 

 感嘆と落ち込みが合わさった溜息にディーノが反応してしまったようだ。

 

「ディーノは凄いな。……いや、よく頑張ったんだな」

 

 父親の死を乗り越え、財政を立ちなおす。これはディーノが努力したからだ。それにディーノの性格ならば、このような飛行機は興味がないだろう。彼ならそのお金をシマの人達のために使いたい。だが、財政を立ち直らせた証明や他のマフィアに侮れないようにするために必要なことだ。結果的にシマの人達に守ることに繋がるのだから。

 

 私がそんなことを言うとは思わなかったのか、ディーノは驚いていた。つい悪戯心がでて、普段私にするような感じでディーノの頭を撫でた。

 

「っ寝る」

 

 ……くそ、失敗した。ちょっとした悪戯心だったのに、ディーノがあんな風に笑うなんて思わなかった。赤くなった顔を見られないように、慌てて私はベッドに潜り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 無事にイタリアについたので、すぐにディーノの家というより屋敷にお邪魔すると私は思っていた。だが、私は手ぶらである。生活グッズはディーノ達でも揃えられるだろうが、服とかは厳しい。プライベートジェットでイタリアについた私達より先回りするのは不可能だと判断し、今の間に買い物をすることになったのだ。

 

 案内された店で即決していく。というより、店の人が勝手に選んでくれる。

 

 住民を大事にしているディーノは、街中を歩くと話しかけられるのだ。そして私の服を探していると知ると、後は早かった。あれよとあれよと決まっていく。

 

 まだディーノは住民と話しているので、私は手持ち無沙汰になる。会話に混ざろうにもイタリア語なので、何を言ってるかわからないしな。

 

 ふとアイスを売ってる店が目に入った。もの凄く興味がある。ロマーリオに視線を送ると頷いたので行ってもいいようだ。

 

 忙しそうなディーノは放置し、ロマーリオと一緒に店を覗く。アイスじゃなくてジェラートのようだ。以前に兄から聞いた話によれば、ジェラートはソフトクリームとアイスクリームの間の柔らかさらしい。

 

 ロマーリオに頼めば1つぐらい奢ってくれるだろうと考え、真剣に悩み始める。すると、肩を叩かれ振り向くとアイスが目の前にあった。

 

 首をひねってると突き出されたので、つい受け取ってしまう。アイスを渡した人物を見ると、ちょっと太ってる元気の良さそうなオバさんだった。話しかけられてるが何を言ってるのかわからない。ロマーリオに助けを求める。

 

「食べてくれってさ。彼女のおごりだそうだ」

「いいのか?」

「ああ。食べてほしいって言ってる」

 

 ロマーリオが大丈夫というなら問題ないだろう。日本語でだが、彼女にお礼を言ってからお言葉に甘えていただくことにした。普通に食べやすくて美味しい。思ったより日本と味は変わらない。私の舌では違いがわからないだけかもしれないが。

 

 うまうまと食べていると、ディーノが慌ててやってきた。

 

「彼女が奢ってくれた」

 

 私に奢ってくれたのはディーノと一緒に居たからだろうと思って、真っ先に伝える。ディーノは返事をすると彼女に向き合った。礼をするのだろうと思い、頭を下げるタイミングを見計る。

 

 が、様子がおかしい。

 

 ディーノが怒られてるように見える。言葉がわからないのだが、そんな雰囲気がビシビシと感じる。チラチラと私に視線が向けるので、首をひねるしかない。仕舞いには、ディーノの背中をバシっと叩いていた。

 

「……大丈夫か?」

 

 叩かれた拍子に隣にきたので声をかける。彼女の剣幕が凄くて心配だったが会話に入れない。ロマーリオに視線を送っても首を横に振ったので、私にはどうすることも出来なかったのだ。もっとも、ジェラートは食べていたが。

 

「……ああ」

 

 少し疲れたような返事がかえってきた。マフィアのボスは大変らしい。

 

 ディーノ達の話は終わったので、もう1度彼女に頭を下げてから私は歩き出す。今日ぐらいしかゆっくり歩けないので、出来るだけ見てまわりたいのだ。

 

「ん?」

 

 そっとジェラートを持っていない手を握られたのでディーノを見る。兄と違って緊張するので止めてほしいのだが。

 

「食べながらだと危ないだろ? それにオレがこうしていれば、誰も手を出さねぇからな」

「なるほど、スリ対策か」

 

 納得して頷く。日本と違い、海外ではスリや置き引きなどがあるからな。

 

「……まぁ、そんなところだ」

「だが、盗まれるようなものは持ってないぞ?」

「念のためだ」

 

 相変わらずの過保護である。まぁ日本と違い知り合いに見られることはない。緊張はするが、決して嫌ではないので、ディーノに流されることにした。

 

 ディーノが軽く振り返り手を振ったので、私も振り返ってもう1度軽く頭を下げる。すると、彼女はなにやら満足そうに頷いていた。

 

「世話好きでいい人だ」

 

 ディーノと一緒に居たというだけで見知らぬ私に奢ってくれたのだ。それは間違いない。さすがディーノのシマの住人である。私が思わず呟いた言葉に、ディーノは深く頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 大きい。そして多い。

 

 それがディーノの家についた時の感想だった。

 

 大きいはディーノの家の大きさだ。知識では山本武が驚いてたぐらいしか情報がなかったため、想像以上の大きさで驚いたのだ。

 

 そして、多いはファミリーの人数である。黒のスーツを着た大人が並んでるので、なかなかの迫力である。

 

「……お前ら」

 

 ガクッと疲れたような反応するディーノに首をひねる。もしかするとこの人数はディーノも想定外だったのかもしれない。

 

 ディーノがイタリア語で何か言ってるようだが、彼らはニヤニヤしてるので聞き流しているようだ。言葉がわからない私にも察することが出来るほどなので、ディーノの顔がひきつるのも当然だと思った。

 

 少し空気を変えるためにディーノの服を引っ張る。ここに居る人たちに私は世話になるのだ。日本語でしか話せないが、挨拶する機会ぐらい作ってほしい。

 

「ん? どうした?」

 

 ……近い。それにいつもより、ディーノの感情が顔に出ている。とても嬉しそうだ。やはり家は気が休まるのだろう。

 

「紹介して」

「ああ。おまえら、知ってると思うがこいつはサクラだ。サクラがいる間は日本語で会話しろよ」

「世話になります」

 

 頭を下げたのはいいが、顔をあげれば視線が突き刺さる。明らかに人数が並盛中学の在校生とより多い。思わずディーノの後ろに隠れてしまう。

 

 すると、囃し立てる声や、口笛の音がする。といっても、イタリア語なので雰囲気で囃し立てると予想しただけだが。

 

「おめーら……」

 

 ついにディーノの我慢の限界がきたらしい。それを肌で感じた彼らはサッと逃げていった。動きがはやい。さすがマフィア。

 

「……部屋に案内するぜ」

 

 誰もいなくなったので部下がするようなことをディーノがする嵌めになったようだ。ドンマイである。

 




~ボツネタ 1~

 隣のディーノの部屋をノックする。

「どうした? まっ、とにかく入れ」

 許可を貰ったので遠慮なく入る。そして、ソファーに枕を置いて寝転び、バスタオルを広げる身体にかける。

「おやすみ」
「……ちょっと待て!」

 チッと舌打ちをする。呆気にとられたままで良かったのに。

「寝れないのか?」
「……まぁそんなところだ」

 歯切れの悪い返事をするしかなかった。今回は悪夢で寝れないわけじゃない。

「ホームシックか……」

 はっきり言うな、恥ずかしい。

「……しょうがないだろ。長期間家族と離れるなんて滅多にないし、未来ではそんなことを考える心の余裕はなかった」
「まぁそうだよな……。でもダメだ。寝るならベッドにしろ。オレがこっちで寝るから」
「身体のサイズを考えるとこっちが正しい」
「ダメだ」

 これには困った。ワガママを言ってるのは私だ。しかしディーノは譲らないだろう。だが、ディーノをソファーで眠らせるのは罪悪感がある。

「一緒のベッドに寝るしかないのか」
「どうしてそうなる!?」

 なかなかのツッコミのキレである。

「問題なのは私も理解しているが、2人の妥協点はこれしかない。幸いにもベッドは大きい」

 ダブルベッドよりも大きいのだ。端と端で眠れば、問題ない。それに未来では同じ部屋で寝ていたのだ。今更の話でもある。

「ダメだ」

 頑固である。諦めるしかないようだ。

「邪魔をした」
「……すまん」
「いや、今回は私が無理をいった。ディーノは悪くない」
「……そうか」
「ん。おやすみ」
「ああ、おやすみ。……ちょっと待て」
「なんだ?」
「部屋に戻るんだろうな」
「いや、ロマーリオのところへ行く」
「ダメに決まってるだろ!?」

 なぜだ。ロマーリオならば、私の提案を呑んでくれるはずだ。安心できるし、親子に近い年齢なので私に手を出そうとは思わないだろうしな。

 そもそも子どもの私に手を出そうと思う方がおかしい。

「……わかった。お前の案を呑むから」

 渋々、本当に渋々という感じで私を受け入れた。そんなに嫌だったのかと思うとちょっとショックだ。

 それでも寂しいので遠慮なくベッドで寝転ぶのだが。

「ゆっくり眠れよ」
「ん、ディーノは寝ないのか?」
「ああ、まだすることがあるんだ。少し明るいがそこは我慢してくれ」

 机の上にある電気だけなので、問題ない。それにどちらかというと安心する。

「大丈夫」
「おやすみ」

 軽く頭を撫でられ、私は心が温まり眠ることが出来た。



 翌朝、目が覚めるとディーノは仕事をしていた。

「……眠らなかったのか?」
「ちょっと終わらなくてな」

 ウソだ。ディーノは私がベッドをつかってるから眠らなかったのだ。

「……ごめん」
「サクラは悪くねーよ。……どっちかというと、オレの中の問題だ」

 よくわからなくて首をひねっていると、頭を撫でられた。また誤魔化された気がした。



~ボツネタ 2~

 朝食を食べようと食堂に向かおうと部屋を出れば、ディーノの部屋の前で誰かいた。

「おはようございます。サクラさん」
「おはよう」

 なぜかディーノの部下は私に敬語で話す。そして私も敬語をつかおうとすれば、ダメだと言う。よくわからない。

「そうだ。サクラさん、頼み事をしてもいいでしょうか?」

 世話になってるのは私の方なので、内容を聞くことにした。

 話を聞くと、彼はディーノを起こしにきたらしい。だが、ディーノは寝起きが悪くていつも困ってるらしい。そこで私が声をかければ、いつも違うので目が覚めるかもしれないと彼は言う。別段難しいことではなかったので了承した。

「ディーノ、ディーノ」

 声をかけながら肩を揺らす。それにしてもディーノの寝起きが悪いとは知らなかった。未来ではそんな素振りを見せなかったのは、ツナ達が居たからだろう。

「サクラ……?」

 寝起きが悪いのがウソのように、苦労することもなく彼は起きた。

「ん。おはよう、ディーノ」
「ああ、おはよう」

 そういって、彼は私の頬にキスをした。

「え」
「え?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……すまん、寝ぼけていたみたいだ」
「いや、ここは海外だ。私は気にしない」
「…………」
「じゃ」
「お、おう」

 私は食堂に向かうのをやめて、ベッドで悶えた。



~ボツネタ理由~

2つともボツネタです。
よく考えるとディーノさん、このタイミングではまだ無自覚でした。


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今なら

継承式編の続きを書かないと言ったのはウソです。
いろいろ考えた結果、更新はゆっくりになりますが書くことにしました。

時期系列を勘違いしたので、前の2話分を若干修正しています。
ディーノさんはまだ無自覚だったw
前話の後書きに書いたのは完全にボツネタ扱いにしてくださいね。

後、継承式編のための伏線をはってないので、グダグダになる可能性があります。
おまけと思ってください。

では、覚悟のある方はどうぞ。


 ディーノの家で過ごして、しばらくたった。初めの方は自身の家と全く違うので戸惑った。側に護衛がいるのは多少経験があったので問題なかったが、食事の時には給仕されたり、生活に支障が出た時のために執事のような人が後ろに控えたりするのだ。

 

 何度かディーノにそこまでしなくていいと訴えたが、あまり効果はなかった。ボスにも関わらず、部下達に丸め込まれたらしい。でもまぁ部屋では1人きりにしてくれた。もちろん迂闊に窓には近づかないことなどの注意点はある。私が細かな注意点を守ると約束するほど、1人で過ごす時間がほしかったのだ。

 

 つまり部屋を一歩でも出ると何人も人がつくことになる。最初のうちは本当に嫌だった。

 

 だが、マナーなど何も知らない私を見ても、彼らはいやな顔ひとつしなかった。言葉遣いも普段ディーノに向けてつかってるようなものでいいという。興味本位で私が簡単なイタリア語を聞けば、丁寧に教えてくれる。

 

 ここまでお客様扱いをしてくれると、図々しい私は慣れてしまった。いや、私でなくても慣れてしまうだろう。それほど彼らは私が気をつかわないように最大限の配慮をしてくれている。戸惑う時間は短かった。

 

 今ではむしろディーノの昔話をしてくれるので、彼らと一緒にいるのも面白いと思うほどだ。

 

 しかし、今日の兄からの電話で私は転校生がやってきたことを知ってしまった。

 

 兄からの連絡では特に何も起きていない。だが、とてつもなく不安だ。

 

「おーい、いるんだろ?」

 

 ハッと顔をあげる。ノックの音に気付かなかったようだ。慌てて部屋のドアを開けに行く。

 

「ごめん、遅くなった」

「それはいいんだ」

 

 ディーノの優しい声に泣きそうになる。意地でも泣かないが。

 

「外に出ないか?」

 

 首を横に振る。1人で過ごしたい。それにイタリア語バージョンの日本のマンガを用意してくれてるし、部屋にこもるのは苦痛ではない。

 

「まだ庭の案内をしてなかっただろ? オレの家は庭も自慢なんだぜ」

 

 危険を避けるためではなく、無理にでも連れ出す口実としてわざと案内していなかったようだ。気持ちは受け取って断ろうとしたが、珍しく強引なディーノに負けてしまった。

 

 

 

 確かに綺麗な景色だが、私の足は重い。見兼ねてディーノが私の手を引きながら話題を振るが、気の利いた返事をすることが出来なかった。

 

 しばらくするとディーノの足が止まった。私の足もつられて止まり、ディーノを見る。人のいいディーノでも生返事を繰り返す私に呆れてしまったのかも知れない。

 

「……逃げたわけじゃねぇよ」

 

 話がわからなくて首をひねる。

 

「お前がイタリアに来たのは逃げたわけじゃないんだ。あいつらのために、お前はここに来たんだ」

「……違う。私は死にたくないからここに来たんだ」

 

 ずっと考えないようにしていた。私はまたツナ達を見捨てたことを。兄に全て押し付けて私はイタリアに逃げたんだ。

 

「お前より、オレの方がお前のことをわかっている。だから、自分を責める必要はないんだ」

「……私より?」

「ああ。桂よりは負けるかもしれねぇけどな」

 

 それはそうだろう。兄に勝つのは無理だ。

 

「今、勝つのは無理って思っただろ」

 

 ディーノのほんの少しムッとしたような声に気付けば笑っていた。

 

「笑ったなー。よし、近いうちに桂を追い越すからな!」

「ディーノが兄のような変態になったら困る」

 

 意地になったディーノに思わず真面目にかえしてしまった。すると、今度はディーノが笑っていた。

 

「……ここでもお前に出来ることはある」

 

 何がいいたいのかわからなくて首をひねる。

 

「イタリアに居ても、お前ならツナ達の助けになることは出来る」

 

 そうかもしれない。私には知識がある。相手は私が未来を知っているとわかっているかもしれないが、どんな未来を知ってるかはわからない。

 

 兄を救い終わり役目が終わったはずの知識だが、私はまだ未来を知っている。この価値を私は理解しているつもりだ。……苦しめられているからこそ。

 

「……ディーノ、力を貸してくれ」

「ああ」

 

 その言葉を待っていたように彼は返事をした。

 

 

 

 

 部屋に戻りディーノと2人で話し合う場をつくったが、彼には兄とは違って詳しく話すつもりはなかった。兄のように言葉を濁して通じる可能性が低かったのもあるが、必要性をあまり感じなかったからだ。

 

 ディーノは全て話してもらって動きたかったかもしれない。しかしその立場で兄がもう動いている。優秀な人物を同じ立場にするほど、余裕はない。私が兄のように信頼できる人物は少ないのだから。

 

 ……それに私に甘すぎる兄以外の意見もほしかった。

 

「今回は未来へ行った時よりも危険だ」

「あの未来よりもか……」

 

 知識と違いディーノは記憶ではなく、白蘭の怖さを肌で感じている。だから今回の件の危険さがわかりやすかっただろう。

 

「まず敵対する相手に、私の能力などがバレている。10年後の記憶が流れてしまったんだ」

「わかった」

 

 ディーノが驚かなかったところをみると、私がイタリアに逃げた時点で予想していたのだろう。

 

「その敵対する相手と和解した方がいい」

「……和解か」

 

 未来編と違い、継承式編は倒せばいいという話だけではない。ツナ達のこれからを考えるなら、後に仲間になる白蘭よりも、大空の7属性と対になり、ツナ達が話しかけやすい彼らの方が仲間にしたほうがいいからだ。

 

 ……本当に今から考えると未来編は楽だった。

 

 昔の私と違って、今は頼ることが出来る。もし知識を得てすぐの時に私がもっと素直だったら、入江正一が持っている10年バズーカを奪う方法を選ぶことも考えただろうし、ディーノに頼んで白蘭を探してもらい監視してもらえばよかった。倒せばいいだけの白蘭は、私がもっとも攻略しやすい相手だったのだ。……もっともあの時はそんな選択は考えられなかったが。

 

「お前のその言い方だと、和解出来なくてもいいんだな。だけど、お前が知ってる未来では和解しているってところか……」

 

 ディーノの言葉に頷く。

 

 私は知識でしか知らないシモンファミリーより、ツナ達やリボーンの方が大切だからだ。シモンを倒してしまえば、私は後悔する心が残ることになるだろう。それでも私はツナ達が死に、リボーン達の呪いが解けなくなる未来よりはずっといい。

 

「ディーノの協力があれば、今なら簡単に倒せる」

 

 兄とは違い、ディーノは炎の攻撃でD・スペードを倒せる。第8属性の炎を得てない今なら逃がすことはない。倒すということになれば、D・スペードは加藤ジェリーをのっとっている状態なのでシモンとは和解することは出来ずに、倒すことになるだろう。でも今ならまだツナ達に残る心の傷は少ない。

 

 そしてもしシモンを倒してしまった場合、リボーン達の呪いを解くのは難しくなるかもしれない。復讐者と接触できるタイミングがわからなくなるからな。だが、復讐者と違って、シモンは絶対に必要なキーではないのだ。

 

 ……まぁ代理戦争で戦わずに復讐者が私の話を聞き、協力してもらえるのが前提条件になるが。争いになれば、シモンがいないと確実に負ける。

 

「ディーノには、この選択を先にして欲しい」

 

 私が1番傷つかない道を選ぶと決まっている兄には、この選択を迫る必要がなかった。だが、ディーノは違う。

 

「わざわざ答える必要があるのか?」

 

 ディーノが私が傷ついてもいいと思っているわけではないことを知っている。それでも、選択を迫らない理由にはならない。私を第一に考えている兄と、私やツナ達を大事にしているディーノでは、答えは違ってくるからだ。

 

「最後まで話を聞け。まず和解した場合のメリットを話すぞ」

「ああ」

「ツナ達が大幅に強くなる。リボーンが幸せになる確率があがる。ツナ達に心強い味方ができる。精神的にもだ。……後、私が知っている未来の知識がもうすぐ終わることも考慮した方がいいだろう」

 

 ディーノが驚いたような顔をした。そういえば、いつまで私が未来に関する知識があるのか話したことがなかった気がする。まぁ今はそれはいいだろう。

 

「細かいのをあげればキリがないだろうが、大きくはこの3つだと思う」

「そうか」

 

 私の頭で考えているので、何か見逃してる可能性もあるけどな。当然ディーノもわかっているので、わざわざ言わない。好き好んで自身で私の頭の残念さを説明したくはない。

 

「問題は和解に至るまでの危険性」

 

 これだけのメリットがあるにも関わらず、私はディーノに選択させようとしている。それだけでディーノはデメリットの大きさに気付いているのだろう。彼はジッと私の言葉を待っていた。

 

「私の知っている未来では、和解までに笹川了平が回復させることが出来ないほどの怪我を……山本武がおった」

「なっ!?」

「とある方法で怪我は治ったぞ。その未来では、な」

「…………っ!」

 

 もう気付いたのだろう。私と一緒に居れば、ディーノは頭がいいからな。

 

「でも、その未来には私がいない――」

「言うなっ! もう理解した! だから言わなくていい!!」

 

 いつの間にか、私はディーノに抱きしめられていた。

 

 本当に彼は優しい。私の……――私達の負担を少しでも軽くしようとしてくれる。だからこそ、ディーノには最後まで話さなければならない。逃げたわけじゃないと言ってくれたから。

 

「――……つまり兄も居ないんだ」

 

 兄は回復に特化した匣兵器を持ってて、生命維持も出来る。それにユニの件が特殊だっただけで、肩代わりをしたとしても兄ならばすぐに治る。

 

 そして兄の死ぬ気の量は多い。心臓にナイフが刺さった私を生かすことが出来るほど。

 

 D・スペードはそれを知っている。

 

「今なら、倒せるんだ。兄には無理でも、この話を聞いたディーノなら……」

 

 シモンとD・スペードを救えず、私が傷つくかもしれないが、今ならツナ達は誰も傷つかない――。




はっはっは。
あまーーい話だと思っただろ。
シリアスじゃないと誰が言ったぁぁぁ!



……すみません、意味不明なキャラになりました。
たとえおまけでも続きを真面目に書けば、甘い話だけにはならないのです。


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お節介

気分が乗ったので投稿。
それにしても、ケイタイで打つのはしんどい。
超忙しいから余計にイライラしました。
パソコンが欲しい(切実


 どうして私には戦う力がないのだろう。せめて自分自身を守れることが出来れば、日本にいることも出来たはずだ。

 

 兄は苦しんでいないだろうか。責任を感じていないだろうか。未来の時のように1人で背負ってしまわないだろうか。知識よりツナ達が危険にあったとしても兄だけのせいではないのだ。確かに兄の能力を警戒され、中途半端な怪我で終わらない可能性が高くなった。だが、兄の能力は後手にまわることを考えると、警戒されているのは兄1人だけではなく、私達の能力となるはずだ。

 

 だから……1人で背負わないで。

 

 ポンポンとあやすように私の背中をディーノが叩く。……別に泣いてはないのだが。

 

「お前の言いたいことはわかったから。オレの話も聞いてくれ。なっ?」

「……決まったのか?」

「ったく」

 

 ガッと力強く肩に手を置かれ、顔を覗くようにディーノが屈んだ。

 

「決めれるわけねーじゃねぇか。お前の気持ちを聞いてねぇからな」

 

 よくわからなくて首をひねる。先ほど話したはずだ。

 

「あれは考えであって、お前の気持ちじゃねぇだろ? お前はどうしたいんだ?」

 

 言葉が詰まる。私の返事は決まっていると言っていい。なぜなら一番私が傷つかない道を選びたくなるからだ。それに私だって出来ることならツナ達とシモンファミリーが一緒に過ごす未来をみたい。私の脳裏に浮かぶのはツナと古里炎真が笑いあってる姿なのだから。

 

「…………」

 

 目を背けようとしたが、ディーノは許してはくれなかった。

 

「困難な道だとしても、お前とツナ達が一番幸せになる方を選ぶ。そう考えるのは桂だけじゃないんだ」

 

 大きい。ディーノが大きい。彼の器の大きさを初めて見に染みて気付いた。

 

「それにな、お前は大事なことを忘れてるぜ。お前を傷つけて得た平穏をあいつらが喜ぶわけがねぇだろ?」

「…………ツナには怒られたくないかも」

 

 ツナに怒られるとどれだけ自身がダメダメだったのかと落ち込んでしまいそうだしな。

 

 ほんの少しツナに対して失礼なことを考えているとガシガシと頭を撫でられた。

 

「もうオレの返事を聞かなくていいだろ?」

 

 コクリと頷くとディーノが笑った。……また見惚れたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 継承式まで後2日。

 

 ツナの部屋に一部不参加ではあるがボンゴレとシモンが集まっていた。リボーンが同盟ファミリーがやられたことを教えるために声をかけたからである。

 

「つ……つまり……正体不明の敵がオレ達を狙って、そこら辺をうろついてるってこと!?」

 

 同盟国のギーグファミリーがやられたことで、ツナが事実に気付き声をあげる。

 

 緊張が走っている中、ポンポンと机を叩いた男に視線が集まる。

 

「落ち着きたまえ」

『!?』

「えー!? 桂さんいつの間にー!?」

 

 ボンゴレとシモンが突如現れたことで殺気をむける中、ツナがツッコミする。びびってるわりにツナは1番余裕があるらしい。

 

「そんなに見つめられるとテレるじゃないか」

 

 ……訂正しよう。彼が1番余裕があるようだ。もっとも、ツナと比べること自体が間違っているかもしれないが。

 

「……紹介してもらっても?」

 

 ツナが男の名を叫んだことや、ボンゴレが警戒を解いたことでシモンも警戒を緩め、アーデルハイトが代表し説明を求める。

 

「ええっと……この人は……」

「僕の名は神崎桂。妹のサクラが好きで、大好きで、愛している、ただの一般人さ!」

 

 その時点で一般人ではない。当然、ボンゴレもシモンもドン引きである。

 

「……そ、そうだ! サクラは今どこに居るんですか? 急に休学しちゃうし……雲雀さんに聞いても正式な許可はとってるっていうだけだし……」

 

 意外そうにツナの顔を見る桂。何度も家に訪ねて来ていたのは知っていたが、桂は放置していた。まさか雲雀に話を聞きに行くほどサクラのことを心配しているとは思っていなかったのだ。ほんの少し桂の中でツナをサクラの婿候補ランキングの順位をあげておく。

 

「そうか! あいつの協力があれば……っつ!」

 

 殺気をあてられ、獄寺は身構える。ポタリと流れた獄寺の汗を見たところで、桂は表情を緩めツナを見た。

 

「サクラは安全なところにいるよ。狙われてるのは君達だけじゃない」

「そんなぁ!」

 

 桂の言葉にツナは勢いよく立ち上がる。完全に納得したわけじゃないが、ボンゴレ10代目候補である自身が狙われるのはまだいい。守護者である獄寺達が狙われるのもツナは申し訳なく思うのだ。多少の知識があるかもしれないが、一般人枠に入るサクラを狙うのは言語道断だった。

 

 そもそもツナはもうサクラや桂を巻き込みたくないと思っている。未来の桂が死んだ時のサクラの涙は今でもツナの中で来るものがあるのだ。

 

「落ち着きたまえ、沢田君」

「で、でも!」

「さっきも言ったが、サクラは安全なところにいるよ。そうでなければ、僕がボンゴレへ殴り込みに行っているさ」

 

 シーン……と静まり返る。笑えない。桂は本気だ。

 

 ツナが落ち着いて座ったのを見て、満足した桂は話を戻す。

 

「僕はね、君にケンカを売りに来たわけじゃないんだよ。ただ10代目を継ぐか継がないか……君の気持ちを聞きに来たんだ。君の年齢を考えると酷な事を言っているとわかっている。でも君の気持ちを知らなければ、こちらも動きようがないからね」

 

 ゴクリとツナの喉がなった。今までその場の雰囲気に流されていたのは、自身のことなのに真剣に考えていなかったからだ。目を見ればわかる。ツナ以外が答えても桂は納得しない。

 

「オレは……」

 

 ツナは周りに目をむける。そして、ギュッと目をつぶってから桂に向き合った。

 

「みんな、ごめん。オレはボンゴレ10代目にはならない」

「理由を聞いてもいいかい?」

「いろいろ理由はあるんだけど……やっぱり1番は、みんなを危険に巻き込みたくない」

 

 ツナを10代目にと押せ押せだった獄寺達も、ツナの気持ちを知って言葉がつまり何も言えなくなった。

 

 しかし、桂だけは違った。

 

「巻き込みたくなければ、権力を得るのが手っ取り早いじゃないか。例え今断ったとしても、君はボンゴレ10代目候補なのだから危険は常に付きまとう。君以外に候補は居ないのだろう?」

「そ、それは……」

 

 ツナの視線が下がったのをみて、桂は軽く溜息をつき口を開いた。

 

「勘違いしてないかい? 僕は継げと言いたいわけじゃない」

「えっ?」

「仕方ないね、教えてあげよう。沢田君、君は周りに恵まれていることを自覚してほしかったのだよ。君の気持ちを言葉にすれば、彼らはわかってくれる。悩んでいるならば、悩んでると言えばいい。候補である限り危険が伴うけれど継ぎたくないならば、そう言えばいい。危険だから、継がないからといって、君の友達は離れていかないよ」

「……桂さん」

 

 桂はツナに微笑んだ後、ゆっくりと周りを見渡した。

 

「少しは反省したかい?」

 

 うっと言葉に詰まった者が大半である。今回、桂はツナに怒っていたのではなく、勝手に暴走した周りに釘を刺しにきたのだ。

 

「以心伝心というのは難しいからね。君達も気をつけたまえ」

 

 桂がツナ達のためになぜここまでお節介をしたのか、やっと獄寺達は理解した。……同じ過ちを繰り返さないためだ。

 

 すぐさま獄寺、山本、了平はツナに頭を下げたのだった。

 

「ちょ、みんな頭をあげて! オレがはっきりと言わなかったのが悪かったんだし!」

「そうだとも」

 

 桂が偉そうに肯定したことで空気が緩む。もっとも獄寺はイラっとしたが。

 

「……そこまで気がまわるんなら、気付け、よッ!!」

 

 ドカッという音と共に桂が吹っ飛ばされる。ツナ達は突如現れた人物に驚いだだけでなく、桂を殴ったその行動に驚いた。

 

「デ、ディーノさん!? ええっ!! なんでーー!?」

 

 ツナが声をあげるのも無理もない。ディーノが いきなり殴ったのだ。部下がいなければドジではあるが、温厚な気質で頼れる人物という認識なのだ。不意打ちで話し合いもせず、真っ先に手を出すイメージはない。

 

「悪いな、ツナ。途中から話は聞いていた。今んのところは継ぐ気はないってことでいいんだな?」

「え? あ、はい」

「そうか、わかった。ちゃんと9代目に伝えろよ。9代目も話せばわかってくれるからなっ」

 

 桂に対して手荒な行動をしたが、ツナに対してはいつもと雰囲気が変わらないため、会話が成立した。しかしそれはツナ達にだけであって、桂に向き合えば真剣な顔に戻る。

 

「……ディーノさん、なんか今日変じゃないか?」

「ああ。かなりキレてんな」

「ディーノさんがぁ!?」

「よく見ろ、部下がいねぇじゃねぇか」

「ほ、ほんとだーー!?」

 

 ツナがこっそりとリボーンと話している間に、桂は何事もなかったように起き上がった。かなりの威力でディーノが殴ったが、もう治ったようだ。

 

「少し痛かったじゃないか」

「痛くしたんだ」

「……サクラは?」

「オレが信頼している人に預けた」

 

 今度は桂がディーノを殴った。この2人の空気にのまれて、リボーン以外は動けない。

 

「っつ」

「僕は君を信用してサクラを預けたんだ! 見損なったよ!」

「……オレはその人ならサクラを任せられると思って預けたんだ。それすら許容出来ないなら、はなっからお前が側にいてしっかりと守れ! 中途半端に手放すんじゃねぇ!」

 

 気付いたような反応をした桂を見て、ディーノは肩の力を抜いた。桂相手に何度も殴るのはディーノでも骨が折れるのだ。最初に殴れたのもこの場にディーノが現れるとは思っていなかったからだ。

 

「お前らは無意識に惹かれ合う。お前があいつを気にしている同じ分だけ、あいつもお前を気にしてるってことだ。……そしてお前と違って無自覚な分、あいつの方が脆い」

 

 桂が側にいるのは当たり前という考えがサクラには根付いてる。それを壊すには未来のサクラがやったように、もう会わないというレベルの覚悟がいる。魂から惹かれ合うのだから。

 

 しかし、未来の世界の経験から、サクラはもっと桂に歩み寄る道を選んだ。つまり悪く言うならば歩み寄った分だけ、サクラは桂に依存しているのだ。

 

「……彼らに説教する資格がなかったようだね」

「ったく、ほんとお前らはそっくりだぜ。家族のことになると視野が狭くなるところなんて特にな」

 

 はぁと軽く溜息を吐いた後、ディーノはツナへを見た。

 

「いろいろと悪かったな、ツナ」

「いえ!」

 

 ぶんぶんと手を振って大丈夫とツナは示す。いきなりのことで驚いたのは事実だが、桂とサクラに必要なことだったのだから……。

 

「ありがとなっ。じゃ、次はお前らに関わりのある話をすっか」

「え? なんですか?」

「ボンゴレに敵対している相手のことだ」

 

 あまりの迫力で動けなかっただけで、シモンファミリーにはそこまで関わりのない話だった。しかし、ディーノの言葉で真剣に耳を傾け始める。

 

「何か掴んだのか?」

 

 この場を代表として口を開いたのはリボーンだった。もちろん、マフィア方面からの情報、もしくはサクラの方から得たのかという2つの意味が含まれていた。

 

「ああ。お前ら、シモンファミリーがやったんだろ?」

「やっぱりそうなのか。サクラが姿を隠してまで回りくどいことをするなら、ツナが気に入った相手だからとしか説明出来ねぇからな」

「やっぱ、リボーンは気付いていたのか。そうなると、恭弥も気付いてそうだな……」

「サクラは詰めが甘いからな」

「そこがサクラの可愛いところじゃないか!」

 

 話が通じ合ってる大人組に、またシモンの動きを封じるように牽制した大人組に、ツナ達はついていけなかった。

 

「え、なんで……。炎真君、違うよね……?」

「……本当だよ」

 

 観念したというよりも、この状況でも諦めるつもりがないから答えたのだ。炎真が開き直ることで、争う覚悟をファミリーに示すために。

 

「そこで、お前らシモンファミリーに提案だ。お前らが欲しがってる『罪』を渡すから、場所を改めてツナ達と勝負しないか?」

「……こちらにとって都合のいい話を信じろと?」

「まっ、それだけ聞くとそうだよな。だけど、こっちにもメリットはあるんだ。それにシモンもボンゴレも過去を知った方がいいからな」

 

 ディーノの言葉にピクリと反応したのは桂だった。『罪』だけではなく、そこまでサクラが話したことに驚いたのだ。さらに復讐者に囚われたままになる危険性まで知った上で、提案したディーノにも。

 

「疑い続けてこのまま捕まるよりはいいだろ? こっちにはギーグファミリーを殺った証拠があるんだぜ?」

「そうなのか?」

「正確には殺ろうとした証拠だけどな。一流の術師に手伝ってもらって、ギーグファミリーは無事だ」

「……やっぱり彼女には消えてもらうべきだったね」

 

 ポツリと物騒な言葉を吐いたのは炎真だった。あまりにも信じられなくてツナは声をかける。

 

「サクラを狙ったのも、炎真君達なの……?」

「そうだよ」

「どうして!! サクラは関係ないじゃないか!」

「大いに関係するよ。僕達は君達よりも彼女の方が厄介だと考えていたよ。それだけ彼女の力は脅威だ」

 

 冷たい目で語る炎真にツナは何も言い返せなかった。桂がお節介をしたもう1つの理由に気付いたからだ。ツナの友達の中で、もっとも脅威がありながらも弱い人物はサクラだ。桂はツナにサクラも覚悟が出来ていると伝えたかった、と……。

 

「炎真つったか? それはウソだろ。ボンゴレに恨みがあっても、お前にはサクラを殺せねーからな」

「…………」

「あいつを狙ったのはお前の指示じゃねぇ。もしくはお前の指示でサクラではなく桂を狙えって言ったか、だな」

「サクラは可愛いからね。君には殺せないよ」

 

 サクラから話が聞いている桂もディーノと同じ考えなので肯定した。もっとも、ちょっと内容はズレていたが。

 

 サクラを殺すには厄介な存在として必ず兄の桂の名があがる。妹を殺された炎真にはこの兄妹の組み合わせはトラウマに入るのだ。冷徹になれるなら、雲雀と2人の時を狙うだろうし、他にもチャンスはあったはずだ。イタリアへと離れたサクラに一度も仕掛けようとしなかったのも可笑しな話だ。

 

「ツナ、お前が感じたものは間違ってないぜ。だからこそ、あいつらの気持ちを受け止めてやってほしいんだ」

 

 コクリと頷いたツナは冷たい目をした炎真と真正面から向き合った。

 

「オレさ、戦いとか嫌いだし怖いけど、炎真君達のことをもっと知るために必要なら戦うよ。だって、オレはもうとっくに炎真君が大切な友達だと思ってるから」

 

 ツナの覚悟を聞いたディーノは炎真に『罪』を投げ渡した。そして彼らが去っていくのを黙って見送ったのだった。



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待機

短いけど、キリがいいので。


 まだなのか、ディーノ。

 

 現在、私はディーノの帰りを心待ちしている。正直なところ、今までで1番で待ちわびてる。

 

「遠慮しなくていいんだよ。サクラちゃん」

 

 コクリと頷き、ケーキに手を伸ばす。しかし残念なことに味がわからない。恐らくこのケーキは高い。なんてもったいないことをしているのだろうか。思っていてもわからないものはわからない。

 

 早く帰ってこい、ディーノ。

 

「大丈夫じゃよ」

 

 私がツナ達の心配をしていると思って声をかけてくれたのだろう。だが、残念。相手は私である。自身のことでいっぱいいっぱいでツナ達のことは二の次なのだ。

 

 しかし否定するのも無視するのもまずいので、ニコリと微笑んでおく。

 

 私が愛想笑いするなんて珍しいと思っているだろ。仕方ないじゃないか、私の目の前に座っているのは9代目なんだぞ!

 

 ちなみに誰に向かって言ってるのか、ツッコミしてはいけない。久しぶりにボッチレベルが戻るほど混乱中なのだ。

 

 くそっ、なんでこうなったんだ。ディーノに根負けしたのが悪いのか。本当になんで私はディーノを好きになってしまったのだ。惚れた方が負けという言葉をずっと証明する羽目になりそうだ。

 

 しかしだからといって、なぜ9代目に私を預けたのだ。確かに彼のツテの中で、今最も警備体制が整ってるだろう。私を預けるにはちょうど良く、さらに私を傷つける心配をしてなくていい人物だろう。特に隣の部屋と比べるとそう思う。

 

 隣の部屋にはスクアーロとマーモンが居るからな!

 

 ちなみにツテのないマーモンが居るのは、同盟であるギーグファミリーを助けるためである。物凄くお金がかかってそうだが、これはボンゴレ持ちな気がする。今は別料金かもしれないが。

 

 それにしても未来に来た時も思ったが、ディーノは実行力がありすぎる。自身が持ってるツテを最大限に活用して、手助けしようとする。おかげで私の胃がストレスでおかしくなりそうだ。

 

 軽く整理すればわかると思う。まず兄の匣兵器であるエリザベスの形態変化のリングをつけ。ディーノの匣兵器であるフミ子の形態変化のリングもつけ。目の前に9代目。部屋の中には9代目の守護者。隣の部屋にはスクアーロとマーモン。

 

 ……どんな対応だよ!?

 

 脳内でおかしなテンションになるのは当然だと思う。そして、ツナ達のことが二の次になるのは仕方がないと思う。私は悪くない。ディーノが悪い。

 

 ちなみに知らない人達ばかりに囲まれることになるので、私のためにディーノはロマーリオを置いていった。ロマーリオには悪いが、正直微妙である。ロマーリオの立場では9代目と会話は出来ないからな。それでも居ないよりも居る方が嬉しかったのだ。私がディーノの体質をすっかり忘れ、その提案に飛びつくほどに……。

 

 まぁフミ子のリングが反応していないので大丈夫だろう。……多分。

 

 ちょっと待て。ディーノが帰ってくるのが遅いのは部下がいないからなのか?

 

 なんてことだ。数時間前の自身に説教したくなった。

 

 脳内でいろいろ考えていると9代目がジッと私を見ていた。表には出してなかったはずだ。現に9代目は怪しい目を向けずに、ニコニコと微笑んでいるからな。しかしなぜ嬉しそうな顔をしているのだ。……気になる。

 

「……何か?」

 

 うん、もうちょっと言葉を選べ。すぐさま自身にツッコミを入れるほど、これは酷い。思わず助けを求めるかのようにロマーリオを見る。私の気持ちを通訳してくれ。

 

「よいよい、わしはおじいちゃんと思って接してもらえれば嬉しいからのぅ」

 

 それは無理だろと心の中でツッコミする。

 

「本当に気にする必要はないんじゃよ。未来の記憶はわしにも届いておる。わしはディーノが赤ん坊のころから知っておるからのぉ。ディーノもわしをおじいちゃんのように慕っておる。だからサクラちゃんも気にする必要がないんじゃ」

「ぶはっ」

 

 私の後ろにいたロマーリオがふいた。急にどうした。

 

「あんなに小さかったディーノに、こんな可愛い彼女が出来るとは感慨深いのぉ」

 

 噎せた。ロマーリオは笑いを堪えながらも背中をさすってくれた。私の身体のフォローをするなら、大ダメージを受けた私の心をフォローしてくれ。

 

「……ごほっ。その、なんだ。未来のディーノはあれだが、今の私とディーノはそんな関係じゃない」

 

 すぐベッドを用意してくれ。悶えたい。

 

「なんと、そうじゃったか。老ぼれの早とちりじゃったか。すまんのぉ」

 

 体温がやばい。顔が熱すぎる。本当に未来の記憶どうなってる。そんな情報は流れなくていいだろ!

 

 ……前言撤回する。ディーノ、しばらく帰ってくるな。

 

 この空気に耐えれなく、自然と視線が下がる。これでも先程まで心の隅では、私の話を信じて9代目は大事な『罪』を渡す決断をして良かったのだろうかとか、心配していたんだぞ。もうどうでも良くなったが!

 

 しかしその情報も流れたなら、ディーノはよく無事だったな。彼が狙われてもおかしくはなかった。優先順位が『罪』とボンゴレだったからだろう。ギリギリなところを私達は渡っていたようだ。

 

 他のことを考えて羞恥に耐えていると周りの空気が変わる。まさかシモンファミリーが来たのか? もしもの時の対策として、知識とは違うホテルに私達は居るのだがバレてしまったのか。

 

「ウチのボスです」

 

 いつの間にか電話していたロマーリオが答えたことにより、空気が緩む。だが、私は微妙な気持ちになった。帰ってくるなと思ったタイミングでくるな。

 

 バンッと勢いよく扉が開く。ディーノらしくない開き方だな。

 

「僕はきたっ!」

「……お兄ちゃん!」

 

 兄の姿が見えた途端、先程の羞恥などは明後日の方向へと飛んで行った。兄が両腕を広げて私を待っているので、そこに飛び込む。私にしては珍しい行動なのだが、兄は戸惑いもせず膝に手を入れて私を抱き上げた。

 

「お兄ちゃん、怪我ない?」

「もちろんだとも」

 

 兄の顔を見てから大丈夫と判断し、首に抱き着く。本当に無事で良かった。未来の時のように無理をしていないかずっと心配だったのだ。この反動は仕方ないと思う。

 

「……すまないね、サクラ」

「どうしたの? お兄ちゃん」

「こんなにも甘えるサクラを見れば、どれだけ心配かけたかわかるからね」

「気にしなくていいよ」

 

 兄が無事ならそれでいいのだ。9代目や9代目の守護者、兄と一緒にきたディーノに温かい目で見られているが、そんなことどうでもいいぐらい私は兄が無事で嬉しいのだ。……ちょっと待て。なぜそこにいる沢田綱吉。

 

 兄とディーノに隠れて気付かなかっただけで、ツナとリボーンも居たらしい。リボーンは別にいい。だが、同級生のツナにこの状態を見られたと思うと恥ずかしい!

 

 兄をポンポンと叩けば、私の意図を察した兄はすぐにおろしてくれた。そして、私は何事もなかったようにツナに向き合った。

 

「……君たちも元気そうだな」

「う、うん」

「それで誤魔化せるほど、ツナの頭は悪くねぇぞ」

 

 相変わらずリボーンはズバッという男である。

 

「うぅ、今のは見なかったことにしてくれ」

「サクラがそういうなら……」

 

 ツナはそういってくれたものの、やはり恥ずかしくてどこかに隠れたくなる。流石にこのタイミングで兄の後ろはない。そうなると普段ならばディーノの後ろに隠れると即決するが、9代目達の目があるのでできない。

 

 動けなくなっていると、ディーノがポンポンと私の頭を撫でてから、ツナの視線を遮るような位置に立った。すると、ロマーリオと9代目の守護者の1人が我慢出来ずに噴き出し、他のメンバーは優しい目でこっちを見ていた。いたたまれない!

 

「ん?」

 

 視線に気付いたのか、ディーノは不思議そうに周りをみていた。お願いだから気付かないでくれ。

 

「どうやら、君が随分サクラを可愛がってるという目で見ているようだね」

「まっ、可愛い妹分だしな」

 

 ディーノが私を子ども扱いしていることは、わかっていたことではないか。ただ、心の中で落ち込むのは許してほしい。

 

「サクラの兄は僕だよ! 君にそのポジションを譲る気は一生ないからね!!」

「わかった、わかった」

「わかってないよ。僕はプンスカだよ!」

「わーってるって」

 

 急に対抗しだした兄をディーノが軽く流していた。兄の扱いに慣れてきたな。もう任せよう。物凄く騒がしくなっているが、9代目は微笑んでいるのでいいだろう。

 

「カオス」

「だな」

 

 とりあえずこの状況を一言で表せば、リボーンが同意した。

 

 達観し始めた私達と違って、ツナは「これからのこと話し合うんじゃなかったのー!?」と叫んでいた。ドンマイである。




シリアスは続かない!!w


作者の疑問。
ボンゴレのためというのが前提にあるけど、どんな気持ちでスクアーロは依頼を受けたんだろ…。


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会議

 先ほどの雰囲気はどこへ行ったのかというくらい真面目な空気である。この中に私と兄が居るのが不思議な感じだ。それも重要なポジションで。

 

 ちなみに今はリボーン、ツナと雲雀恭弥を除くツナ達の守護者、9代目と9代目の守護者。ディーノとロマーリオ、スクアーロとマーモンがいる。

 

「シモンファミリーがもつ炎は、君達のもつ7属性の炎と対だ。『罪』の血を浴びたリングでは今の君達と勝負にならない」

「なぜ『罪』を渡したぁ!!」

 

 私の行動に慣れているツナ達は何も言わなかったが、スクアーロからはツッコミが入った。

 

「それが最善の道だと判断したから」

 

 スクアーロが私の言葉で黙り込んだ。彼も未来から記憶が届いてるので納得するかは別だが、話はわかるのだろう。

 

「君達のリングもバージョンアップするしかない。判断は任せる。君達の覚悟で成功が決まるからな。失敗すればもうリングは使えない。ちなみに成功率は50%」

「50%だと……!?」

「わかった」

 

 微妙な確率に反応した獄寺隼人だったが、ツナは動じずに返事したのでつい視線を向ける。それは私だけじゃなかったようで、この場にいるものの視線を集めていた。

 

「炎真達と分かり合うために必要なら、覚悟は出来ている」

 

 死ぬ気モードではないのに、ツナが強気である。もっと自信を持てばいいのにと何度か思ったことがあるが、いざツナが強気になると目を合わせれなくなった。……眩しいのかもしれない。私はここまで真っ直ぐになれないから。

 

「いや、もちろん9代目が許可してくれたならだけど……」

 

 急に弱気に戻ったツナを見て、思わず笑ってしまった。私が笑ったことで、真っ赤な顔になった彼を見て本当の気持ちに気付いた。眩しいと思ったのは事実だが、どこかで私は彼に嫉妬していたのだろう。彼は成長したが、私は成長していないから。同級生なのも大きい。ディーノみたいにツナが年上なら私はここまで思わなかったはずだ。

 

 後ろに立っていた兄が私の頭をゆっくり撫でた。これは言葉を交わしなくてもわかる。兄は私のペースでいいと甘やかしてくれているのだ。ありがたかったので、兄の気の済むまで撫でていいぞ。恐らく1分ほどだろうし。

 

「まどろっこしい、オレ達にやらせろぉ!」

 

 9代目が返事をする前にスクアーロが吠えた。対の炎といっても、暗殺のスペシャリストのヴァリアーなら確かにやりようはあるだろう。

 

「もう『罪』を渡した後なんだ。彼らと和解するルートが最善だ」

「関係あるかぁ!」

「……君達にもメリットはある。少なくとも、彼らがいれば君達のボスが片腕を無くす確率は下がる」

 

 私の言葉に一番反応したのは、スクアーロでもマーモンでもなかった。勢いよく立ち上がり椅子を倒すほどだったので、自然と9代目に視線が集まる。私は咳払いをしてから話を続けた。

 

「……彼らがいれば、私が動きやすくなるのは事実だ」

 

 復讐者がシモンファミリーとスカルからバトルウオッチを盗むのはわかっている。その時に復讐者と接触出来れば、争いは回避出来る。ツナの成長はなくなるだろうが、私はもう気にしない。私が知ってる範囲が終わるのもあるが、ツナ達を信用すると決めたのだから。

 

「9代目、どうすんだ?」

「……この件は綱吉君達に任せる」

 

 私は思わず当然だというように頷いた。先ほどの反応から、XANXUSの片腕をなくしたくないと一番思ってるは9代目だとわかるからな。

 

「勘違いしないでほしい。わしは『罪』を渡すと決断した時点で、綱吉君達に任せるつもりじゃったよ。……後押しになったのは否定しないがのぅ」

 

 複雑すぎて、言葉をかけにくい。先ほどは話すこともあり、気を遣って私が口を開いたが、今回もした方がいいのだろうか。

 

「オレ達を信用してくれて、ありがとうございます」

 

 いろいろ悩んでいるとツナが頭を下げた。慌てて、獄寺隼人、山本武、笹川良平が続くように頭を下げた。私もした方がいいのかもしれないが、気恥ずかしいのでやらなかった。……素直になれと心の中で自身にツッコミしてるので許してくれ。

 

「あの、サクラ……」

 

 呼ばれたので振り向けば、真剣な表情をしたツナがいた。彼の空気に飲まれたのか、気付けば私は姿勢を正していた。

 

「その、オレ達に力を貸してくれない?」

 

 なんだそんなことか。ちょっと緊張していた私は脱力した。

 

「別にかまわない。だが、私に出来ることはもうほとんどないぞ」

「そうなの?」

 

 コクリと頷き、口に出しながら指で数え始める。

 

「ギーグファミリーは無事だし、山本武の意識不明の重体は回避しただろ」

「ん? オレ?」

 

 驚いてる山本武はスルーする。

 

「今更クローム髑髏を人質に取ることはないだろうし」

 

 ツナ達はここに来た時に獄寺隼人達が居なかったのは、念のためにクローム髑髏とランボを保護するために動いていたからだしな。

 

「コヨーテ・ヌガーの死亡も回避した」

 

 9代目の周りが少しざわついたが、正直いって、これに関しては私の中ではついで感覚なのでこれもスルー。

 

「敵を誘き寄せるために開いた継承式でツナ達がボロボロになるのも防いだしな」

 

 そこそこ回避出来たなと思わず自画自賛するように何度も頷く。すると、いつの間にか視線が集まっていた。

 

「な、なんだ」

「みんなサクラにお礼をいいたいのだよ」

「……それならディーノに。私は彼に説得されなければ、ここまで動かなかったし、実際に手を回したのは彼だ」

 

 兄に対しても言えることかもしれないが、恐らく兄はそこまで動かなかっただろう。私を何よりも優先するからな。細かな調整や手回しはしない。

 

「バーカ。お前がいなきゃ、オレは何も出来なかったんだ」

 

 そう言って隣にいたディーノが手を伸ばして撫でてくれた。が、私は1つ文句がある。

 

「褒めてるなら、バカはないだろ」

「事実だからなー」

 

 あまりにもニコニコしながら言ったので、毒気を抜かれた。そして、ディーノの顔を見て彼のことを思い出した。

 

「雲雀恭弥は説得出来そうなのか?」

 

 ディーノが問題ないと言ったので放置してたが、まだ姿を現さないので心配である。今回、山本武がやられなかったので雲雀恭弥が動く理由はないのだ。

 

「恭弥が来ねー方がおかしいぜ」

 

 私の知らないところで何かあるようだ。ディーノが軽い感じで答えてるし、必ず来るのだろう。しかし理由はなんだろうか。首をかしげると兄が私の肩に手を置いた。どうやら兄も心当たりがあるようで教えてくれるようだ。

 

「彼はサクラのために来るのさ!」

 

 兄の言葉にギョッとした。私のために彼が動くとは思えないのだが。そもそも理由がない。兄は勘違いしてるんじゃないだろうか。兄みたいに全員が私に甘い訳がないんだぞ。

 

「この件を解決しなければ、サクラが学校に通えないんだよ。彼が動く理由には十分さ」

「ああ、学校の風紀のためか」

 

 私のためと兄が言うから、驚いたじゃないか。風紀のためと正確な情報をいってほしい。兄に呆れて溜息を吐いているとディーノが先程と違って難しい顔をしていた。

 

「ディーノ?」

「……いや、オレの思い過ごしならいいんだ」

「フラグがたった」

 

 ディーノが残念な子を見るように視線を送ってきた。……どう考えても私は悪くない。悪いのは妙な言い回しをしたディーノである。

 

「……まっ、恭弥なら大丈夫か」

 

 怒らなかった自身を褒めてやりたい。なぜならフラグをへし折ろうとした先程の私のツッコミを、ディーノが今の発言で無に帰したのだ。

 

 今度は兄と私がディーノを残念な子だというような視線を送り、加えて溜息も吐いたのだった。

 

 余談だが、なぜかロマーリオは爆笑していた。場所が場所なので口を手で押さえていたが、あまり意味はない。

 

 気を取り直して、私はツナと向き合う。

 

「大事なことを伝え忘れた。古里炎真は家族を亡くしている。で、その犯人は君の父親と思い込んでいる」

「えっ!」

 

 私の言葉にツナだけでなく、この部屋にいる全ての人物の視線を集めることになった。

 

「『血の洪水事件』といえば、聞き覚えがあるんじゃないのか?」

 

 事件名を呟くように復唱した9代目がしばらくすると思い出したようで顔色をかえた。その時、パタンとドアが開いた音が聞こえ、視線だけ動かす。現れた人物をみて、少し悩んだが当初の予定通り話すことをした。

 

「『血の洪水事件』については別に深く知る必要はない。犯人は沢田家光ではないしな。ただ、ツナは憎しみを古里炎真から向けられる。そして君が何が正しいのかわからなくなったところを……雲雀恭弥が導く未来があったが、まぁいいだろう?」

 

 本人に問いかければ、軽く溜息を吐いた後に口を開いた。

 

「場所はどこ?」

「太平洋にある無人島としか私は知らない。9代目が集めた情報で詳しくわかる」

「そう」

 

 雲雀恭弥の問いに答えていると、ツナ達が私と雲雀恭弥を交互に見ていた。

 

「なんだ?」

「いや、えっと、その、サクラはヒバリさんと仲がいいんだなーって」

「今のどこをみて、そう思えるんだ……」

 

 つい呆れたようにツッコミしてしまった。

 

「え? でも……」

「君は彼に質問されて、黙秘出来るのか?」

「……ハハハ」

 

 笑って誤魔化したな。まったく、話してはまずい内容の時の私の気持ちを少しは考えてほしい。例えば、今回の件でいうと六道骸について、とか。

 

 教えたことにより、六道骸が復讐者のところから出れるフラグを折りそうだからな。そうなると後々困る羽目になりそうで話せない。それにも関わらず雲雀恭弥に睨まれる未来がやってくるかもしれないのだ。

 

 つまり問題なければ、進んで答えたくなるのは当然でもあるのだ。

 

 つらつらと考えていると、雲雀恭弥が現れたことで条件が整ったのか、たまたまなのかは知らないが、ふらっとタルボじじ様がやってきた。彼は私の知識でも謎の多い人物である。だが、悪い人物ではないだろう。後は任せた。というか、本当にやることがないのだ。

 

「お兄ちゃん、ヒマ」

「僕に任せたまえ! サクラの好きな作家の最新作があるよ!」

「流石、お兄ちゃん」

 

 目の前に出されたので、パシッと本を掴む。チラッとツナ達を見て大丈夫だろうと判断した私は本を開いたのだった。




次で継承式編は終わりかなー。
サクラがついて行く理由がないので、解決後までいっきに飛びますからw
本当に本編に入れなくてよかった…w


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新たに

 ふわぁぁと欠伸が出る。久しぶりの学校なので、思っている以上に疲れているようだ。

 

 チラッと横目でツナと古里炎真をみる。鈴木アーデルハイトからの罰を受け終わったようで、彼らは普通に授業を聞いている。

 

 ……悪くないな。

 

 頬が緩みそうになるのを必死に耐える。だが、我慢できそうにない。私はこの未来を私は見たかったのだ。仕方がないことなのだろう。

 

 またディーノに借りが出来たな。そろそろ真面目に何か返した方がいい気がする。10年後へ行った時のように未来が見えるようになれればいいのだが、今のところサッパリである。……今度、相談するか。

 

 とりあえずディーノへの礼は先延ばしにして、次の問題であるアルコバレーノの呪いについて考える。

 

 ツナ達がシモンの聖地に乗り込んだ時、私は彼らについていかなった。理由は簡単で戦闘能力のない私がいっても足手まといになるからだ。それなら残ったほうがいい。

 

 その間、私は何をしていたかというとタルボじじ様に頼み事をしていた。リボーン達の呪いをとくための装置を私が知っている限り伝えたのだ。

 

 マーモンがいたので言葉を濁していた部分もあったが、タルボじじ様は察していたようで金銭の請求はなかった。確かマーモンが新しいヴァリアーリングを作った時は全財産がなくなったはずだからな。大部分が素材の値段かもしれないが、私が頼んでる装置も普通の素材が使われているとは思えないのだが。まぁ下手につついて要求されれば困るので私は口を閉ざしたけどな。

 

 後は兄に手伝って貰えればなんとかなるだろう。今回の報酬として9代目から物資の提供を約束してもらえたし。

 

 いい感じだと頷いていると教室の扉が開き、現れた人物をみて静まった。

 

「神崎サクラ、いる?」

 

 デジャブである。確かに私はもう一度聞きたいと思ったが、妄想で十分である。現実では望まない。心の中で文句を言っても話が進まないので口を開く。

 

「フランス」

 

 主語はなかっだが察したようで、雲雀恭弥はムスッとしていた。逃げられたことにムカついているのだろう。

 

「……黙っていた理由はないよね?」

 

 ピンチである。怒りの矛先を私に向けたようだ。勘弁してくれ。

 

「……学校に来るまで、今日だと気付かなった」

 

 事実である。休学届けの取り消しのためにいつもより早めに家を出れば、ツナ達がシモンとガヤガヤしていたのだ。当然、巻き込まれるのが嫌で私は他人のふりをして職員室へ向かった。……酷いと自覚しているので、ツッコミはしないでくれ。

 

 誰に言い訳しているのだろうかと思っていると雲雀恭弥に睨まれた。

 

「し、仕方がないだろ! 私は君への連絡手段がないのだ」

 

 内藤ロンシャンがウザかったため、過去にあるように装ったことがあるが雲雀恭弥の連絡先を私が知るわけがない。彼に黒曜ランドに行っても無駄だと教えることは不可能だったのだ。

 

 私の返答に雲雀恭弥は何を思ったか懐に手を伸ばしていた。びびった私は逃げ腰である。……お兄ちゃん、ディーノ、ヘルプミー。

 

 雲雀恭弥が懐から出したものを私に飛ばしてきた。軽く悲鳴をあげたが、私でも見える速度だったためキャッチできた。

 

「……なんだ、これ」

 

 思わず呟いた。何を渡されたがわかっているが、脳内で理解するのを拒絶して出た言葉だった。

 

「わかっていると思うけど、用もなく連絡すれば咬み殺すから」

 

 不吉な言葉を残して雲雀恭弥は去って行った。

 

 おい、この空気どうにかしろ!

 

 雲雀恭弥の言葉から私の手に握られている紙に何が書かれているのかわかったのだろう。教室中の視線がその紙に集まっていた。そして、受け取った私に対し恐れを抱いた空気がこの場を支配する。

 

 頭を抱えた私は悪くないはずだ。

 

 この後すぐにチャイムが鳴ったため、教師はそそくさと出ていき休憩時間になった。そのため私の周りには誰もいなくなった。

 

 本当に雲雀恭弥と関わるとロクなことがない。軽く溜息を吐いた私は兄に貰った本を開いた。ぼっち歴が長い私には慣れたものである。……以前より虚しさが増しているが。

 

「サクラ」

 

 名前を呼ばれるなんて思わなかった私は、勢いよく顔をあげた。そして、ついこの言葉が出た。

 

「おお、心の友よ」

「ハハハ……」

 

 私の棒読みが酷かったのか、または今朝彼が困ってる時に他人のふりをしたにも関わらず、調子のいいことを言ってるからか、ツナは苦笑いしていた。

 

 悪いな、劇場版がないので私が頼りになる味方の機会は永遠に来ないのだ。

 

「で、どうした?」

 

 くだらないことを考えていたが、真面目にツナと向き合う。彼は優しさからこの空気を見かねて、声をかけてくれたのもあるだろう。だが、古里炎真を連れてきていたので、他にも何か用があるはずだ。

 

「サクラに紹介しようと思って。ほら、エンマ」

「……こんにちは、サクラさん」

「コ、コンニチハ」

 

 思いもしない流れに片言になってしまった。そのため視線が泳いでいるとツナが笑ってるのが見えた。すぐさま睨む。

 

「ごめんごめん。でもサクラはオレ達が友達になることしか考えてなかったんだなーって」

 

 すぐに言い返すことが出来なかった。私がシモンファミリーと友達になる未来は考えてもいなかった。チラッと古里炎真をみてみる。

 

「……サクラさん、ありがとう。サクラのおかげで、ツナ君と友達になれたんだ」

「それは違う」

 

 私が居なくても彼らは友達になれた。私と兄が居たことでややこしくなったのをディーノが直しただけにすぎない。……やはりディーノへの礼をそろそろ真面目に考えるべきだな。

 

「違わないよ。ね、エンマ」

「うん」

 

 ツナと古里炎真の顔を見て、やれやれという感じで息を吐く。だが、悪い気はしない。

 

「サクラ、今日の放課後にみんなとパーティするんだ。サクラも一緒に行こうよ!!」

「……今のところ、放課後に予定は何もない」

 

 彼らから視線を逸らして返事をすれば、ツナと古里炎真がクスクスと笑う声が聞こえた。この空気に耐えれなかったので、慌てて話題を振る。

 

「お兄ちゃんとディーノは?」

「ディーノさんもいるよ。サクラのお兄さんはサクラの返事次第って言ってたから……」

 

 参加ってことだな。

 

「大人数だな」

「山本が店を貸し切りにしてくれたんだ。……山本のお父さんがお寿司握ってくれるって」

 

 山本武の家と聞いた途端、期待したようにツナの顔を見たので教えてくれた。おそらくリボーンとディーノのおごりだろうと私は察しているが、遠慮はしない。放課後が楽しみである。

 

「サクラさんって、意外とわかりやすいんだね」

「エンマもそう思うんだ」

「うん」

 

 ちょっと待て。そんなに私はわかりやすくないはずだぞ。私自身でも言葉足らずと思うぐらいだからな。

 

「骸はいないみたいだし、クロームは京子ちゃんが声をかけてくれたみたいだし、後誘ってないのはヒバリさんだけなんだ」

 

 ……空気は読まないぞ。

 

「頑張れ」

 

 私が本に視線を戻そうとしたのでツナは私の前で手を叩いた。拝まれてもしないぞ。ツナは知らないだろうが、私の中で雲雀恭弥の声がどストライクなのだ。雲雀恭弥に電話なんてすれば、咬み殺される前に悶え死ぬ。絶対に電話なんかしない。もしも伝えることがあれば、ディーノに丸投げしよう。そうしよう。

 

「どうしても声をかけたかったのなら、さっきすれば良かっただけだろ」

「ハハハハ……」

 

 笑って誤魔化したな。まぁ気持ちはわかるため、私もこれ以上責める気はない。

 

「彼のことだ。誘ってはいるはずだ」

「そうなの?」

 

 私は頷いた。ディーノは断れるだろうとわかっていながらも、声をかける。雲雀恭弥にトンファーを振るわれても、何度でも声をかけるだろう。そういう男だ。

 

「君も……君達もやりそうなタイプだし、何となくわかるだろ」

 

 私の言葉を聞いて、ツナは古里炎真を、古里炎真はツナを見て納得したらしく、笑いあっていた。

 

 どうやらその時に私も笑っていたらしく、家に帰れば兄がニヤニヤとその写真を眺めていたので、いろいろとドン引きした。




継承式編が終わり。
このまま、おまけ(虹の呪い編)も書こうかなーと思ってます。
パソコンを手に入れるまでまだ時間があるし。


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リング

進んでないようで、地味に進んでる話。


 ……もう少し休息がほしいと切実に思う。

 

 実際のところ、薄々気付いていた。雲雀恭弥が骸と会えなかったことからフランスに行っただろうと私は判断したのだ。つまり、クローム髑髏が転入してくる時期がきてもおかしくないのだ。

 

「はぁ」

 

 大きな溜息を吐き、私はケイタイを持って立ち上がる。そして、らしくはないが教室から出て行く前に声をかけることにした。

 

「しっかりしろよ」

「え……?」

「ただの助言」

「サクラちゃん!」

 

 クローム髑髏と一緒に居た笹川京子に呼ばれたが、振り返りもしない。これ以上は私が言っても意味がないからな。

 

「……ありがとう」

 

 ただ、その後続いた2人の言葉に一瞬だけ足が止まってしまったのは仕方のないことだと思った。

 

 屋上にはツナ達が集まっているので、中庭へと向かう。ここならまだ人通りが少ない方だろう。

 

『どうした? なんかあったのか?』

 

 日頃の行いなのか、用がないと電話をかけないと彼は思っているようだ。……間違ってないか。

 

「悪い、そっちは夜中だろ」

『これぐらいならいつも起きてるぜ』

「……君が起きそうな時間にかけ直す。寝ろ」

 

 言うだけ言って私は切った。眠っていたなら、軽い気持ちで話せたのに……。

 

「まぁそうだよな」

 

 ケイタイの着信を見て、思わず呟いてしまった。

 

「身体壊すぞ」

『そんなヤワな身体してねーよ。で、どうした?』

 

 むぅと眉間にシワが寄る。

 

「言いたくなくなった」

『桂に話せないことなんだろ? 待ってろ、そっちに行くから』

「急にリボーンに呼び出されて、また日本に来ることになるから、そのつもりで準備した方がいい。……それだけ」

 

 早口で言った。私はただ、シモンのことでディーノに負担をかけたから、心構えしていれば少しは違うだろうと思って電話をしただけなのだ。ディーノが来ては本末転倒である。

 

『……そうか。だからオレが遅くまで起きてるって知って、後にするって言ったのか』

「ごめん」

『なんでお前が謝るんだ、お前はオレのことを思って電話かけてくれたんだろ?』

「だって、毎日こんな遅くまで起きてるなんて思わなかった……」

 

 睡眠時間を削って今少し無理をすれば、後が楽になると思っただけなのだ。私が頼るから、彼はずっと無理をさせていたのかもしれない。ディーノのボスなのだというのをもっと自覚しているべきだった。彼は私と出会う前から忙しい立場の人なのだ。

 

『そんな寂しいこと言うなって』

「……私は何も言ってないぞ」

『ああ。でも考えたろ?』

 

 言葉に詰まる。そもそもなぜバレているのだ。

 

『距離なんて取ろうとしないでくれ。寂しいだろ? な?』

 

 ……寂しい、か。兄はいつも私の側に居るから、ツナ達と出会わなければ、理解出来ないことだっただろうな。

 

「じゃぁ君の要望通り、無理難題をふっかけることにする」

『ああ。任せろ』

「君の言葉に甘えてさっそく。眠ってから動き出せよ」

『……わーったよ』

 

 不貞腐れたようなディーノの反応に思わず、クスクスと笑ってしまう。

 

「残念だったな。兄も似たようなことするから、慣れているんだ」

 

 私のためにと無茶をする時が何度かある。緊急事態などの余程な理由じゃなければ、私がちゃんと頼めば兄は必ず休んでくれるからな。

 

『桂と一緒の扱いかよ……』

「私に弱いという意味では君も一緒だ」

『ちげぇねぇ』

「いつもありがとう。おやすみ」

『気にすんな。オレが好きでやってんだ。じゃぁな、おやすみ』

 

 流石に私に嘘をついてまで動こうとはしないだろう。ホッと息を吐いて顔をあげる。そろそろ戻らないとチャイムが鳴ってしまう。

 

「ねぇ」

「うわっ」

 

 ……いつから居たんだ、雲雀恭弥。ちょっとしたホラーだぞ。そもそも最近遭遇率が高すぎじゃないか?

 

「今の跳ね馬?」

「そうだが?」

「そう」

 

 彼の中で納得したらしく、私の疑問は無視された。相変わらず、扱いが酷い。……折り返し電話して、雲雀恭弥が君の存在を気にしていたとディーノに伝えた方がいいのか?

 

「……授業始まるから」

 

 もっとも、今は雲雀恭弥から逃げるべきだろう。風紀を乱さないためだと訴えるように私は彼を横切る。

 

「待ちなよ」

 

 しかし彼からは逃げられない。これがレベルの差である。仕方なく視線を向ける。すると、私を呼び止めたくせに、雲雀恭弥は周りを見ていた。用がないなら、戻らせてくれ。

 

「……君の兄は近くにいないの?」

「ん? 兄に用なのか? 悪いが、私の頼みで昨日から家にいない」

 

 周りに目を向けていたのは、兄を探していたからなのか。……雲雀恭弥にも兄が私をストーカーしているとバレているようだ。恥ずかしい。

 

「放課後に合流する予定だから、伝えるぞ?」

「それじゃ、遅い」

 

 そこまで急ぎの用なのか。兄のテンションは疲れるから避けていたが、仕方ない。電話をかけるしかないか。

 

 しかし、私が懐に手を伸ばすよりも早く、雲雀恭弥は電話をかけていた。今の流れから相手は兄だろう。……兄の番号を知っていたことに驚きだ。

 

『やぁやぁ雲雀君! どうかしたのかい?』

 

 私の耳にも兄の声が聞こえた。もう少し声を抑えろ。雲雀恭弥も物凄く嫌そうにケイタイを耳から遠ざけてるぞ。

 

「僕の気のせいじゃなければ、君の妹……身体壊してるよ」

「は?」

 

 雲雀恭弥の言葉に驚き、思わず額や頬を手で触り確認する。

 

「いや、問題ないぞ!?」

 

 確認が終わればすぐにツッコミしたが、兄との通話は終わっていた。今から私が何を言っても、飛んで帰ってくるぞ……。

 

 遠い目をしていると、雲雀恭弥は歩きだした。一向に動こうとしない私に向かって彼は言った。

 

「荷物取りに行くよ」

「だから問題ないぞ?」

「早くしなよ」

 

 私の話を聞け!と思わずツッコミする。もちろん心の中である。大人しく動くから、トンファーをチラチラするのは止めてくれ。

 

 私と雲雀恭弥が言い合ってる間に授業が始まっていたので、静かに教室の扉をひらく。

 

「遅い! 授業が始まって何分たっているんだ!」

 

 扉が開いた音で反射的に怒ったようだ。このまま怒られ続けられるのは理不尽だったので、つい呟いてしまった。

 

「不可抗力」

 

 私が反論したことで、顔を真っ赤にした教師が一瞬で真っ青になる。どうやら、廊下にいる雲雀恭弥の姿を見たようだ。慌てて頭を下げ始めた教師を素通りし、私は自分の机へと荷物を取りに行く。

 

「サクラ、どうしたの?」

 

 荷物を片付けていると、ツナがこっそり聞いてきた。私もこっそり返事をかえす。

 

「雲雀恭弥が早退しろって。彼の目には私の顔色が悪くうつっているらしい」

「え? 大丈夫なの?」

「今のところ、問題ない。彼が兄に電話していたから、どのみち帰らされるから帰る感じ」

「そうなんだ……」

 

 興味津々な周りの目と違って、ツナは私の体調が本当に大丈夫なのかと真剣に観察するような目だった。そしてそれはツナだけじゃなかった。……いつの間にか随分と増えたな。

 

「じゃ、また」

「うん。ゆっくり休んでね。お大事に」

 

 ……いや、だから体調は悪くないんだが。もうツッコミする気力もなかったので、私はコクリと頷いて教室から出た。

 

 私が教室から出ると雲雀恭弥は歩きだした。……距離が離れすぎると彼の足が止まることから、これはついていくべきなんだろうな。

 

 結局、雲雀恭弥から数メートル離れた距離感のまま家まで歩く羽目になった。もちろん数メートル離れているので会話はない。しかしここまで離れていれば、会話がなくても気まずい思いはしなかった。

 

「えーっと、ありがとう」

 

 もうちょっと何とかならないのか。目を泳がせながら、礼を言った自身にツッコミをいれる。せめて、えーっとは止めろ。

 

 雲雀恭弥は軽く溜息を吐いて去っていった。その後ろ姿を見て、パチンと自身の頬を叩いた。

 

「今日だけじゃない。この前も、ありがとう! おかげでまた学校に通えた!」

 

 よく考えると私は継承式編の礼を1つもしていなかった。雲雀恭弥にとって、メリットはほとんどなかったはずだからな。唯一あったとすれば骸との再戦だが彼は居なくなったし、結末で偶然得れたものだった。つまり兄の言葉もあながち間違いじゃなかったのだ。風紀の乱れを直すために動いたという前提があるにせよ、私のために彼がわざわざ動いたのは事実だ。

 

「……何かあれば、言いなよ」

 

 足を止め、ポツリと彼は言った。

 

 ああ、そうか……。彼が連絡先を教えたのは私の身の安全のためでもあったのか。今、やっと気付いた。彼の連絡先を知っていれば、会いに行かなくても休学の許可を得られただろうしな。

 

 私の返答を期待してなかったのか、彼はそのまま去っていった。兄やディーノとは違い、素直に雲雀恭弥に頼るイメージは全くつかないが、身の回りにはもっと気を配ろうと思った。

 

 家に入るとドアの音に反応したのか、母親が玄関にやってきた。

 

「……あらあら、大変だわー。ゆっくりベッドで休みなさい」

 

 母親がおっとりすぎて、全く大変だと思えないが、親の目から見ても私は体調を崩しているらしい。熱はないと思うのだが、大人しくベッドで寝よう。

 

 部屋に入り、楽な格好に着替えてベッドに潜る。いつもなら、鍵を閉めているが今日は開けっ放しでいいだろう。入れなければ、兄が騒ぐと思うし。

 

 ピピっという機械音がしたので、ベッドに入った時からつけていた体温計を外す。

 

「36度3分……」

 

 やはり熱はないな。だが、ここは大人しく眠ろう。

 

 すぐに寝付けなくゴロゴロしていれば、ドタバタと足音が聞こえてきた。近づいてくるなと思った時には、勢いよく扉が開かれていた。……カギを閉めなくてよかったな。兄に壊されるところだった。

 

「サクラァ!!」

「ノック」

 

 定番化しているツッコミに兄は見向きもせず、不安そうな顔をして私の手を握った。

 

「……お兄ちゃん、大丈夫だから」

「…………これでもエリザベスのことは信用していたんだよ。でも雲雀君の言葉を聞いて、いてもたってもいられなかったのだよ」

 

 普段の態度からは想像つかないが、兄もトラウマになっているのかもしれない。

 

「少し疲れてるだけだ。お兄ちゃんの体質と匣兵器のおかげで、私はそう簡単に死なないから」

 

 存在ごと消されるというような理不尽がなければ、もう少し兄を安心させることが出来る言葉をかけれたが、これが精一杯だ。

 

「お兄ちゃんこそ、気をつけて。これ、一方通行でしょ?」

「……気付いていたのかい?」

「今まで1度も私から無理矢理奪うなんてことなかったのに気付かないと思ったの?」

 

 呆れながら言った。匣兵器を改造出来る兄が、フミ子の形態変化と同じシステムのままにするわけがない。それにもしフミ子と同じなら、ずっと私につけるように兄が言うはずがない。もし兄が怪我して治るまでの僅かな間に、私が生命力を吸われて死ぬかもしれないからな。

 

 フミ子の形態変化が使える条件が難しいのは当然だ。片方に何かあれば、生きながらえるかもしれないが、どちらも死ぬこともある。生半可な覚悟では使えない。……使ってはいけないものなのだ。だからフミ子は互いの覚悟を感じ取って、使用できるかの判断もしている。フミ子が親しくなければ判断出来ないから、未来ではディーノ以外が使えなかったのだ。

 

 そこまでわかれば、エリザベスの形態変化が未来でユニに使えたのは、一方通行だったから。兄の意思でしか外せないのは、兄の覚悟だけが必要だから。あの時が特殊だっただけで、普通は相手側にデメリットはないからな。

 

「気付いていて、つけてくれたんだね」

「それでお兄ちゃんが安心できるならいいと思えたんだ」

 

 笑みがこぼれる。情けない笑みだ。本当に私達兄妹は歪んでいるんだなと改めて自覚したのだ。

 

「お兄ちゃん、大丈夫だよ。私は外してって言わないし、外そうと画策しないから。今回はまだエリザベスが発動するほど体調を崩したわけじゃなかったからだよ」

 

 はっきりと声に出したことで、もう戻れないだろうなと思った。私には兄が必要で、兄には私が必要なのだ。

 

「僕はそんな関係お断りだよ」

「……えっ、なんで?」

 

 兄の拒絶の言葉に悲しみなどの負の感情は浮かばず、驚きしかなかった。それほど兄の反応は予想外だったのだ。

 

「僕はサクラのお兄ちゃんなんだよ。サクラが心配なのは兄として当たり前の感情で、深い意味なんてこれっぽっちもないよ」

 

 兄の顔をジッと見たが、ウソには思えない。私は自身の指にはめてあるリングを見る。

 

「サクラが気に病むというなら、今すぐ外すよ」

「本当に……?」

「もちろんだとも。このリングはサクラを守るためにつけてもらったんだよ! このままだと本末転倒だからね!」

 

 兄を見ながら、リングを外してみる。

 

「とれた……」

「くっ!」

 

 リングに意識を向いていると、兄が声をあげて手で顔を覆いだした。

 

「お兄ちゃん?」

「すまない。僕が思ってた以上に、悲しくなってしまったのだよ……」

 

 兄の言葉にすぐに嵌めようと決意する。

 

「これでサクラに『お兄ちゃんのおかげで助かったよ。ありがとう』とハニカミながらお礼を言ってもらえる機会がなくなるかと思うと……!」

「……おい」

 

 思わず低い声が出た。

 

「僕の出番が少ないのだよ! 最近サクラはディーノにばかり頼るからね。そのリングが使えないとなると僕の存在意義に危機が迫ってきているのだよ!」

 

 兄の必死さに引いた。私には幻覚はきかないはずなのに、血の涙が流れているように見える。

 

「……いや、まぁ体調崩してるみたいだし、お兄ちゃんがいいならつけるけど」

「もちろん、いいとも!」

「えーっと、じゃあ」

 

 おかしい。まさか外して数分後につけることになるとは思わなかった。

 

「サクラ、僕は頼りになるだろう!?」

「そうだねー」

 

 棒読みだったが、兄は喜んでいた。兄のテンションが面倒になったので、寝るといい追い出した。ウソではないしな。

 

 眠ったのが良かったのか、眠ってる間に匣兵器が発動したのかわからないが、次の日には家族が心配している雰囲気はなくなった。

 

 そのため、学校行く前に兄にリングをかえすことにした。

 

 だが、何も言わなかったからか、もしくは何もなかったからか、あまりにも兄がショボンとするので、またリングをはめてしまった。

 

「……おかしい、結局いつもと変わらない」

 

 はぁと軽く溜息を吐いてから、私は軽い足取りで学校に向かったのだった。

 

 

 余談だが、数日後にディーノがやってきた。どうやらツナから私が体調崩してたと聞いて、駆けつけてきたらしい。もちろん、しばらく離れても問題ないように全て片付けてからだが。同じ失敗は繰り返さなかったようで何よりである。

 

「人の心配より、自分の体調に気をつかえよ? な?」

 

 ただ、説教は勘弁だ。

 

「お前は身体が弱いんだからな?」

 

 私の身体が弱いわけではなく、ディーノ達がおかしいのだ。そこのところをしっかりと理解してほしい。……面倒なので何も言わないが。とりあえずディーノの話に合わせて頷く。

 

「……聞いてねぇだろ。ったく」

 

 途中から聞き流したのがバレたようだ。

 

「心配かけたのはちゃんと理解している」

「それならいいんだ」

 

 褒めるようにディーノが頭を撫でたので、プィっと横を向いた。

 

「反抗期か?」

 

 笑いながらツッコミされ、「べつに」とスネたように返事をかえす。ディーノに頭を撫でられるのは好きだが、子ども扱いはしないでほしいのだ。

 

「なんつーか、恭弥と反応が似てきたな」

 

 ガーンとショックをうけた。

 

「す、すまん。そんなに嫌だったのか……」

「当たり前だろ。これでも私は女だぞ。可愛くないと思われたくない」

「ん? 可愛いぜ?」

 

 ……無自覚で誑したぞ。これだから、鈍感タイプの主人公属性は厄介なのだ。こうやって天然でハーレムを作っていくからな。モブの敵、滅びろ。

 

「顔真っ赤だぜ!? まだ体調が治ってねーのか!?」

「……フミ子」

「パフォ」

 

 相変わらず、自由気ままな匣兵器である。主はディーノのはずなのに私が呼べば出てくるし。

 

「一発ぐらい殴っといて」

「パフォ!」

「なっ、フミ子っ!?」

 

 私は頭を冷やすために、コンビニにアイスでも買いに行ってくるか。フミ子の分も用意してあげよう。……ついでに彼の分も。




近づき過ぎた2人の関係を桂さんが戻すために、頑張ってサクラを誘導しました。

ちなみに、ディーノさんが桂さんを殴らなければ、この兄妹は歪んだまま進みました。


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新たなアジト

「暇人か」

 

 そんな訳がないと理解しているはずなのに、放課後になると校門に現れるディーノに思わずツッコミをいれてしまった。もっとも私のせいで早く日本に来る羽目になり、近いうちにリボーンに呼び出されるとわかっているから戻るに戻れないだけなのだが。

 

「いいじゃねーか。お前は今日も用があるのか?」

「ん」

 

 本当に用事がつまっているので、一緒に帰っているツナ達にディーノの相手を丸投げする。丸投げといっても、彼らは彼らで楽しんでいるので無理矢理押し付けているわけではない。休憩時間になるとツナ達から話を聞いているので知っているのだ。

 

 ちなみに昨日はシモンファミリーも一緒だったらしい。継承式編で私のフォローにまわったことで、シモンの聖地へ行ったりしたので彼らと関係が深くなったのだ。たとえば古里炎真はツナと一緒で、密かにディーノを憧れていたりする。古里炎真本人は隠しているつもりのようだが、バレバレである。

 

 私達が授業を受けている間は雲雀恭弥の相手をしたり、リボーンの無茶振りで振り回されているはずた。……休めてないな。

 

「じゃ」

 

 残念ながら、ディーノのフォローをする時間もない。彼らと別れ、私は兄の元へと向かった。

 

 

 

 ……おかしい。彼らと別れたつもりなのに、なぜディーノはついてきてるんだ。

 

「用があると言ったはずだぞ」

「オレが一緒じゃダメなところなのか?」

 

 足を止めて、真剣に考える。絶対にダメなのかと聞かれると多分大丈夫だ。私の勘がそう言っている。ただ……。

 

「ついてきても、することはないぞ?」

「それは問題ねーよ」

 

 ディーノ本人がいいというなら、いいか。私は気にするのを止めて歩き出した。

 

 マンションの前で立ち止まった私をディーノが不思議そうに見ているが、無視する。毎回入る前に覚悟をいれなければ辛いのだ。案の定、マンションに入るとエントランスホールにいるコンシェルジュに声をかけられる。

 

「おかえりなさいませ、サクラ様」

 

 気持ち悪いから様呼びは本当にやめてほしい。これさえなければ、まだ何とかなるのに。

 

「おや? こちらは……」

「キャバッローネのボス、ディーノ。同盟国だし、問題ないだろ」

「はい」

 

 もうちょっと何か言われたりするかと思ったが、簡単に通ったな。ディーノがくる可能性を聞いていたのかもしれない。……ありがたかったが、なぜかニコニコと微笑んでるイメージが浮かんでしまう。

 

「……行くぞ」

 

 歩き出そうとしたところで肩をガシッと掴まれる。なんだと思って振り向けば、ディーノが項垂れていた。

 

「……今度は何に足を突っ込んでるんだ」

「まるで私がいつも厄介ごとに自ら進んでるような言い方だな」

「オレにはそうにしか見えねぇ……」

 

 失礼な。どちらかというと私はツナと一緒で巻き込まれ体質である。……口に出せば虚しくなるのでツッコミはしないが。

 

「話は部屋に入ってからだ」

 

 ディーノもそれはわかっていたようで、今度は引き止めることはなかった。

 

 エレベーターに入ると、階層ボタンの下にある鍵穴に鍵をさす。開閉ボタンを同時押しながら鍵を回せば、指紋認証の機械が出てくるので手をかざす。問題なく出来たようなので、エレベーターは階層ボタンにはない地下へと進んだ。

 

「ツナのアジトに似てるな……」

「ん。設計者が一緒だし」

 

 私がそう言ったところで、エレベーターの扉が開いた。

 

「サクラ、おかえり!」

「ただいま」

「おや? 今日は彼も一緒なんだね」

「ああ。にしても、これはいったい……」

 

 ディーノが周りを見渡しながら呟いているのを横目に見ながら、私は簡易更衣室へと向かう。このままでは動きにくいからな。

 

 急いで着替え終われば、ディーノは兄の邪魔をしないように離れたところから見ていた。

 

「ついていけないだろ」

「……ああ。あいつは何してんだ?」

「匣兵器を作ってる」

 

 驚いたようにディーノが振り向き、私を見た。

 

「兄は未来で匣兵器の研究をしていただろ? その時の記憶が届いてるから、頭の中に設計図があるんだ」

「なるほど。でもそれはお前もだろ?」

「無理だ。設計図と材料がすべて揃っていたなら、わからないが……」

 

 ディーノは大きな間違いをしている。複雑な設計図を覚えられるほど、私の頭は良くない。作り慣れていたならまだしも、一度も作ったことがないんだぞ。設計図がなければ、話にならない。

 

「桂が書けるなら一緒のことだろ」

「それは違う。この時代にない素材が多数ある。それを作り上げるか、代替品を探さなければならない。兄と違って私には閃きの才能がないからな。手伝えているのかも正直微妙なところ」

「そんなことはないよ! サクラがいなければ完成しそうにないんだからね!」

「そう、ありがとう」

 

 私が礼を言ったことで、兄は満足したようで作業に戻った。気をつけないと自分を下げた発言をすれば、兄の手を止めてしまう。

 

「今はツナ達以上に強いやつはいないが、匣兵器を作ってマフィアに流れてしまえば、また争いが起きるだろ。だから、ここで作ってる」

「やっぱり危険なことをしていたのか……」

 

 対策をしているのに呆れたように言われてしまった。

 

「私達は用が終われば、これ以上は作らない」

「あのなぁ」

 

 説教か始まりそうだったので、慌てて口を開く。私達だってマフィアの恐ろしさを多少はわかっているつもりだ。

 

「だから9代目の協力を得たんだ。未来の記憶が届いてる9代目は無理に開発を進めない。それでも一部抑えられない勢力や時代の流れのために、私達は開発を終えれば、資料などをそのままボンゴレに引き渡す」

「……身の安全の交渉に使ったのか」

 

 呆れたようにディーノが溜息を吐いた。交渉に使った時点で危険な橋を渡っていると思っているのだろう。

 

「そこまでして必要なことだったのか?」

「誰かが危険な橋を渡らなければならないからな」

「だったら、お前らじゃなくていいだろ……」

 

 チラッとディーノを見て、それは無理だなと心の中で反論した。兄が私が危険な目にあうとわかっていながらも協力したのは、ディーノに死にそうな目にあってほしくないと私が心の底から思っているからだ。

 

「ごめん」

 

 それでもディーノが本気で私達の心配をしているとわかっているので素直に謝った。

 

「……オレの方からも上手くお前らのことを誤魔化すから安心するんだ」

 

 そう言って、ディーノは私の頭を撫でた。子ども扱いされているとわかっているが、今回はディーノの手を振り払うことはしなかった。

 

「おや? もう夕方なのですね」

 

 突如聞こえてきた声にビクッと肩が跳ねた。顔を向ければ、ジャンニーニがそこに居た。彼は今日も居たのか。気付かなかった。服が汚れていることから、部屋の拡張をしていたのかもしれない。

 

 ジャンニーニは気がきくようで、挨拶を終えればディーノにソファーへ誘導しお茶を勧めていた。今まではかなりのおっちょこちょいだったが、未来の記憶が届いて多少は改善されたらしい。そのため知識でリボーン達の呪いを解くときに居なかったのは、ボンゴレで引っ張りダコの状況だからだ。今回は9代目の依頼という形なので、最優先でこっちへ来られたらしい。

 

 彼がディーノの相手をしてくれているので、私も作業に入る。兄が私でも出来る内容のは残してくれているからな。正直、私の手を借りなくても兄さえいれば何も問題ない気がするが、いつ代理戦争が始まるかわからないので仕方がない。それに兄にだけ負担をかけたくないし、やれることはやるつもりだ。

 

 

 

 

 今日はこれ以上出来ることはないので身体を伸ばす。……疲れた。

 

「お兄ちゃん、どう?」

「もうすぐ、ひと段落するよ」

「そう」

「サクラはこれとこれならどっちがいいと思うかい?」

 

 兄の両手には設計図があった。代替品を作る設計図なのだろう。

 

「……こっち」

「わかったよ!」

 

 間違っていても知らないぞ。まぁ兄がやる気になったからいいか。片付けを終えたので、暇をしているだろうディーノのところへと向かう。

 

「ついてきても微妙だっただろ」

「そんなことねーよ。それに知らねー方が後悔したぜ……」

「そう」

 

 私もソファーに座ろう。着替えはもうちょっと休んでからにする。リラックスしているとディーノが私の頭を撫ではじめた。思わず視線を向ける。

 

「嫌か?」

「……別に」

 

 可愛くない返事だと自身でも思う。でも、子ども扱いはしてほしくない。かといって、嫌かと聞かれると嫌ではない。複雑な心境なのだ。

 

 素直じゃない私の返事でも、ディーノは手を止めることはなかった。満足そうな顔をしているし気にならなかったようだ。

 

 ディーノの顔をジッと見ていると、気付けば私は手を伸ばしていた。

 

「ん?」

 

 疑問そうな彼の声を無視し、私は彼の左胸からそっと触れながら手を下げていき、視線も一緒に辿る。お腹近くまで下ろしたところで、我に返った。何をしているんだと私は軽く息を吐き、手を離す。

 

「ごめん。なんでもない」

 

 明らかに怪しかったので、それだけでは納得しなかったようで、頬に手をそえられ視線を無理矢理合わさせられる。無理矢理といっても痛くはなかったが、無理矢理なことには変わりないので睨む。

 

「死なねぇよ」

「っ!」

 

 相変わらず何も話そうとしない私を説得する言葉をかけると思い込んでいた。

 

 ディーノはさっきの行動だけで、気付いたのかもしれない。ディーノが怪我をするかもしれない箇所を私が撫でていたことに。

 

「絶対にお前より先に死なねぇ」

「……君より私の方が若いぞ?」

「それでもだ」

 

 あえて冗談交じりに答えたのに、ディーノの返事は真剣なままだった。なので、私も真面目に答えた。

 

「この世に絶対はない。……現にお兄ちゃんは死んだ」

 

 私の中で兄は絶対だった。私がツナ達と仲良くなったことで殺されることになっても、私が先に死ぬと思っていた。私よりも先に兄が死ぬなんて思いもしなかった。10年後の時代の話という風に私は割り切れない。

 

「……そうだな」

 

 この話は止めだとディーノの腕を掴む。いい加減、頬から手を離してくれ。

 

 素直に下ろしたことにホッと息を吐く。どうも私は神経質になっているようだ。正直、ここまで話す気はなかった。……後で謝らないと。

 

 やはり今回はいつもと違うのだ。毎回似たようなことを思っているかもしれないが、今回は本当に本当である。

 

 復讐者は手段を選ばない。未来の時のように見逃せてもらえるとは思えない。今回は代理戦争中で手の内をさらしてももういいのだ。

 

 だから白蘭の時よりも、シモンの時よりも怖い。

 

 ……せめて、あれから復讐者と協力する話を知っていれば、多少はましだったんだろうなと思う。

 

 だからといって、ディーノは何も悪くない。私を安心させようと、頼っていいと声をかけてくれるディーノに八つ当たりのようなことはしてはいけない。

 

「ディーノ、その、ありがとう」

 

 私にしてはちゃんと言えたと思う。少しは素直になって言葉にする努力の成果が出ている気がする。

 

「……あの時、引き止めたのはオレだったな」

 

 思わず私は首を傾げた。私が素直に言ったのだから、ディーノは褒めたりしそうと思っていたのだ。ちょっと予想外の反応である。

 

「お前を1人にはしねぇよ。死ぬ時は一緒だ。……フミ子、形態変化」

 

 目の前に2つリングが現れ、ゴクリと喉が鳴った。このリングの特性にディーノが気付いていないはずがない。

 

「……正気か?」

「ああ」

 

 私は深呼吸を繰り返す。ディーノが本気で言ったなら、私はちゃんと伝えなくてはいけない。

 

 ゴホンッと咳払いし、ディーノと向き合う。

 

「……ディーノ、重い」

「は?」

「だから重い。もう一度、さっきまでの自身の言動を振り返ってみればわかるはず」

 

 わからないと怖い。

 

「…………いやっ、そういうつもりで言ったわけじゃっ!! つっても、そんな変わらねぇのか!?」

 

 慌てて否定した後に、ディーノは気付いたようだ。どっちにしろ、かなりヤバイ発言にしかならないことに。

 

「君がこっちの道にくるなら、僕はいつでも歓迎するよ!!」

「お前、いつから居たんだ!?」

「ずっと居ただろ」

 

 私は冷静にツッコミをいれる。兄がもうすぐでひと段落すると言ったんだ。空気を読んで黙っていただけで少し前には作業を終えていたはずだからな。

 

 兄とディーノが騒いでる横で、私はほんの少し表情を緩める。正気かとツッコミ出来るぐらい冷静だったが、かなり嬉しかったのだ。言葉を選び間違ったりしただけで、彼が伝えたかったのはちゃんとわかったからな。

 

「もう皆さんは作業を終えたようですね。私はもうすぐかかりますので、こちらのことは気にせずに帰ってくださいね」

 

 ……居たのか、ジャンニーニ。

 

 兄とディーノは言い合いで忙しそうなので、表情を戻した私が代表して返事したのだった。



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真夜中に

よいお年を!


 サクラの部屋の電気が消えたことを確認した桂は、こっそりと家を抜け出し公園へとやってきた。

 

「やぁ、待たせたね!」

「いやこっちが無理を言ったんだ。気にする必要はねぇよ」

「それもそうだね!」

 

 胸を張って答える桂にディーノは苦笑いするしかない。そもそもサクラを中心に動いている桂は、言葉にしているが待たせたことを悪いとは一切思ってもいないだろう。

 

「それで僕に聞きたいこととはなんだい?」

「……あいつの能力について、確認だ」

 

 さっきとは打って変わり、緊迫した空気が流れ始める。

 

「お前はわざとオレの前で聞いたんだろ? 教えてもらうぜ」

 

 桂はフッと笑った。合格という意味で空気を緩める。僅かなヒントを見逃さなかったのも、本当なら一番聞きたいであろう内容をディーノは口にしなかったから。

 

「単純な二択なら、今のサクラは外さないよ」

「やっぱ、あがっていたのか……」

 

 白蘭の能力と科学者達の知識が合わさって出来た匣兵器だ。桂であっても設計図が頭にあるだけで簡単に出来はしない。未来の桂は匣兵器を作っていたのではなく、匣兵器の改造を専門にしていたのだから。初めから作れるなら、未来で白蘭に治療に使える匣兵器を用意しろとは言わない。まして、この時代にない素材が必要なら尚更桂の力だけでは無理だった。

 

 恐らく、サクラは予知夢を見ている。外さないのは夢で見ているから。本人に自覚がないのは夢を覚えてないだけだ。匣兵器の研究内容は大したインパクトがないため、起きた拍子に忘れてしまうのだろう。

 

「僕はね、シモンファミリーの考えは正しいと思うのだよ」

「そう、だな……」

 

 兄妹という組み合わせにより、妹であるサクラに手を出せなかっただけで、シモンファミリーは桂よりもサクラの力の方が脅威と感じていた。そしてそれはこれからずっと続いていくと2人は結論を出す。

 

 しばらく沈黙が流れた。

 

「……まっ、オレや9代目がうまく誤魔化しとくから心配するな。無いとは思うが、もしもの時はオレが逃すぜ」

「君はそれでいいのかい?」

 

 桂の言葉にディーノはキョトンとした。サクラ達を逃すのはディーノの中では当然の考えだったのだ。仕方なく、桂はヒントを出す。もっとも、ヒントと言っていいのかわからないぐらい、誤魔化されているが。

 

「サクラと会えなくなんて、人生で損にしかならないからね!」

「会えなくなるもんな……」

 

 手紙のやり取りすら出来ないだろう。その未来を想像したのか、ディーノは顔をしかめた。

 

「オレのとこに入るっつー選択もあるが、お前が居るしなぁ」

 

 未来の世界の時とは違い、桂はサクラの側にいる。依存し合う危険性を桂がしっかり自覚したので、安心して任せられる。

 

 ディーノの中で、予防策だとしても危険度の高い自分の手元に置くという選択は余程のことがない限り、ない。まだ実害がない一部の人物に気付かれているだけなのだ。わざわざ危険な世界に飛び込む必要はない。

 

「寂しくはなるが、オレが手を出す場合は最悪の時だぜ? 仕方ねーよ」

 

 ディーノは浮かんだ感情を忘れるように首を振る。

 

 そもそもサクラ達の保護をする理由としてあげられるので一番大きいのは、シモンの時のように他のマフィアにバレた時だ。その場合はディーノが手を貸すことはあっても、ボンゴレから頼まれない限り、サクラ達の保護の先頭を切るのはキャバッローネの役目ではない。

 

 今までなら、ツナが幼いからといって通っていたことでも、サクラ達は9代目と縁が出来た。もし緊急事態が起きた場合、ボンゴレの意向にそう形になるのだ。

 

 ディーノが独断で動く時。それは限りなくゼロに近いが、ボンゴレ内部で異変が起き、サクラ達の危険が迫った場合だ。無事に逃がした後はどこから漏れるかわからないため、サクラ達との接触は出来なくなる。ディーノが仕方がないと割り切るのは当然だ。

 

 もっとも、9代目やリボーン、10代目候補であるツナ、さらにボンゴレの門外顧問である家光がいる限り、それは起きないだろう。

 

「お前だけ入るっていうのも手だが……」

「お断りさせてもらうよ!」

「まぁそうだよな」

 

 桂がキャバッローネに入っていれば、ディーノが手を回しやすくなるだろう。先頭を切って動いてもおかしくはなくなる。だが、ボンゴレと一緒でキャバッローネもイタリアにあるのもあり、緊急時にはあまり意味がない。

 

 他のマフィアに牽制出来るという点は良いかもしれないが、ボンゴレ10代目候補であるツナの友人だけで十分だ。それでも手を出してくるなら、キャバッローネに入っていたとしても変わりない。

 

 そもそも自分のせいで桂が未来の世界でマフィアに入ることになってしまったことを、サクラは気に病んでいる。今、桂がキャバッローネに入れば、サクラは自分のせいかもしれないと考えるだろう。ヒミツにしたとしても、漏れた場合が危険だ。

 

「ふむ。君の考えはわかったよ!」

「そうか」

 

 軽く返事をしているが、ディーノは試されていることに気づいている。ただ合格か不合格かは正直なところ関係ないのだ。ディーノは今まで通り過ごすだけだ。

 

「サクラは君に会えなくなると泣くだろうねぇ」

 

 呟いた桂の言葉にピクリとディーノは反応を示す。桂は先程の揺さぶりではマフィアのボスとして、妹分のサクラを守る回答をするので、少し方向を変えて攻めてみたのだ。

 

 沈黙が流れる中、無自覚というのは厄介だと桂は感じていた。今までのディーノの回答はマフィアのボスとして正しい。ただ、サクラを前にした途端、ディーノは回答が感情的になるのだ。死ぬ時は一緒だ、というような回答は桂の前では出さない。

 

「……そんな未来にはさせねーよ」

 

 絞り出した答えにディーノの答えに桂は呆れるしかなかった。つい先程は仕方ないと割り切っていたのに、サクラが泣く未来を想像しただけで割り切れなくなっている。そのことになぜディーノは気付かないのか。

 

 桂は不思議に思いながらも、これ以上のヒントを与えるつもりはない。サクラの幸せは願っているがまだ早いと思っているから。

 

「では、僕はもう行くよ!」

「ああ。今日は悪かった」

「気にすることはないさ」

 

 優雅に去って行く桂をディーノは見送った後、サクラが触った箇所を撫でた。

 

「オレがこの位置で食らう相手か……」

 

 真正面から攻撃を受けて防げなかったということだろう。下手をすれば相手に目をつけられれば桂でも守りきれない。いや、もしかするともう手遅れだ。危険な橋を渡っているにも関わらず、桂はサクラから離れているのだから。

 

「それでも、守ってみせる」

 

 何度目になるかわからない誓いを立てた後、ディーノは公園を後にする。

 

「いでっ」

 

 しかし残念ながら、格好良く去れないのがディーノである。

 

 実は桂を殴った時から桂もファミリー枠に入っていたが、その桂が去ってしまったため、ディーノは転んだのだ。そしてサクラとは違い、桂はディーノにはそこまで親切ではないので、部下へ連絡を入れない。結果、心配したロマーリオが見つけるまで、ディーノはホテルへと戻ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 ディーノが街を彷徨っていた頃、リボーンは夢を見ていた。アルコバレーノになるきっかけとなった日の夢である。

 

 一度ツナに心配され起きたものの、再び夢は運命の日へと進んで行く。

 

 見たくもない夢だ。

 

 確かにリボーンはそう思った。

 

 その夢が唐突に終わる。

 

 自身を嵌めた男……鉄の帽子をかぶった男が現れたことで。

 

 鉄の帽子の男の話によると、アルコバレーノの呪いが1人だけ解ける。アルコバレーノ本人ではなく、各々代理を立てて争い、勝者がその権利を得れるものだった。

 

 あまりにも胡散臭く、リボーンは目の前の男の話だけでは参加する気が起きなかったぐらいだ。

 

 しかし、リボーンはアルコバレーノの誰よりも速く「やる」と答えた。

 

 リボーンの返答の速さに驚いている面々の横で、コロネロも参加を表明する。

 

 この2人には共通点があった。目の前の男ではない人物の言葉を信用したのだ。

 

 サクラは言った。『君達が幸せにならないと困る』と。

 

 1人ではない。サクラはアルコバレーノ全員が幸せになる方法を知っているのだ。知っているのに解かなかったのは、何かが不足していたから。

 

 鉄の帽子の男が現れたことで、今しかないと判断したのだ。

 

「リボーン君とコロネロ君は物分かりがいいようだ。彼女のおかげかな」

 

 僅かに2人は反応を示した。サクラのことを知っている。知っていて、サクラを利用しているのか、利用されているのかで話はまた変わる。

 

「彼女も物分かりが良かった。私の目に狂いはなさそうだな」

 

 リボーンとコロネロは目で会話した後、リボーンが口を開いた。

 

「……あいつに何をした?」

「私は何も。先程も言ったが、彼女は物分かりが良い」

 

 リボーンは舌打ちをした。この身体になった時、ロクな最期を迎えることはないと覚悟していた。だが、それはサクラと出会うまで。

 

 幸せにならなければ、サクラが一生気に病む。

 

 リボーンは自身の身体のことよりも、サクラを傷つけたくないという理由で、積極的に動き話に乗ったのだ。だからこそ、鉄の帽子の男の反応に苛立つ。

 

 結局、最後まで鉄の帽子の男の考えはわからないまま、夢は終わる。リボーンとコロネロが参加を決めたことで、他のアルコバレーノもすんなりと参戦となった。

 

 この流れすらもリボーンは誘導されたようで、気に食わない。目を覚ましたリボーンは、すぐに動き出す。

 

「リボーン、身体は大丈夫なの!?」

「心配かけたな、ビアンキ。オレはピンピンしてっぞ。わりぃが野暮用が出来ちまった。ツナ、先にサクラのとこへ行ってるぞ」

「えっ! お、おい!?」

 

 目が覚めず、心配して様子を見ていたのに、リボーンは起きたらすぐに出て行ってしまった。ツナは呆気にとられ、しばらくの間、ポカーンとしていた。

 

「ツナ兄はサクラ姉のとこ行かなくていいの?」

「そういや、リボーンが言ってたような……。って、なんでサクラのところ!?」

 

 フゥ太の言葉で復活したツナは慌ててリボーンを追いかけ、サクラの家へと向かったのだった。




明日も更新。


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話し合い 1

あけましておめでとうございます。
気のままに更新する作者ですが、今年もよろしくお願いします。


 いざ、学校へというタイミングでリボーンがやってきた。

 

「ちゃおッス」

「……今日は休むか」

 

 制服に着替えたが、意味がなかったようだ。まぁ今から着替え直すのは面倒なのでそのままで過ごすが。

 

「雲雀恭弥への根回しはそっちで頼むぞ」

「わかったぞ」

 

 9代目が用意してくれたアジトへ向かうか。正直、どこで話をしても危険度は変わらない。それでもわざわざ移動するのはただ学校をサボることを、両親には知られたくないからだ。兄に頼んで、両親へ手回ししてもらう案もあったが、なんとなく嫌だった。……別に悪いことをしているわけじゃないんだけどな。

 

 いつも通りを装って、家を出ようとすればお父さんに声をかけられた。

 

「サクラ、桂には話しておきなさい。押しかけてくるよ」

「お、おう……」

 

 やはり我が家で一番怖いのは父である。兄が大人しく言うことを聞くはずだ。

 

 出鼻を挫かれた感があるが、私は「いってきます」と声をかけて家を出たのだった。

 

 

 家を出るとリボーンだけでなく、ツナとディーノも居た。どうやら軽く息が上がっているので、2人ともリボーンに振り回されたようだ。

 

 可哀想に、と同情な視線を向けつつ、移動し始める。途中でディーノは行き場所を察したようで、ツナにいろいろと教えていた。リボーンは何も言わないし、驚いている様子もないので、ポーカーフェイスでない限り知っていたのだろう。

 

 アジトにつけば、兄が出迎えてくれた。移動しながら連絡を入れたので、手を止めて待っていたのだろう。

 

「少々狭いが、ゆっくりしていけばいい!」

 

 ここは兄の家じゃないぞ。思わずツッコミしたくなるが、話が進まないので心の中だけに留める。

 

 休憩スペースはあるが、キリのいいところで各々で休憩するか、私達兄妹が一緒に一息いれるための場所なので2人がけのソファーしかない。一応、私は普段利用している側なので地面に腰をかけるべきかと思ったら、ツナとディーノに慌てて止められた。結局、私とツナが座り、ディーノが立つ形になり、リボーンはディーノの肩に座っている。ちなみに兄は作業に戻った。といっても、耳は傾けているだろうが。

 

「リボーンが来たってことは、夢で会ったんだろ?」

「ああ。サクラ、おめぇも会ったのか?」

 

 リボーンの質問の意味がわからず、僅かに眉を顰めたのが自身でもわかった。

 

「あいつはおめぇのことを知ってるようだっからな」

「知ってるだろうな。前に会ったことがあるし」

 

 真剣な表情でリボーンに見られているので、大げさに肩をすくめた。私にはどうしようもなかったのだ。話せなかったのも仕方がないことなのだ。

 

「ちょっと待て。オレらにもちゃんと説明してくれ」

 

 空気を変えるようにディーノが声をかけた。当たり前のように話を進めていたが、何も知らないツナとディーノは話についていけないだろう。それにリボーン達の夢で私の名があがったみたいだし、私もちゃんとした流れを知りたい。雲雀恭弥が桜クラ病にかかっていなかったというような予想外な内容はもう勘弁なのだ。

 

 黙って話を聞いて入れば、私の言動のせいで多少は順序は変わったものの、代理戦争に全員が参加という流れは変わらなかったようだ。

 

「つまり一言でいうと、アルコバレーノの呪いを解くために、力を貸してくれってことだ」

 

 微妙にセリフが変わったな。たとえセリフが変わっても、2人は手伝うと約束した。ここからが本番である。が、そもそもその前にアルコバレーノの呪いとは何かとディーノから質問が入った。

 

「これはオレの本当の姿じゃねぇ。本当のオレは超カッコイイだ」

 

 それについては私も同意見なので、何度か頷く。兄が羨ましがっているのは放置だ。素直になる努力はしているが、兄に面と向かってカッコイイというのは恥ずかしいのだ。

 

「サクラはリボーンの本当の姿を知ってるの!?」

「一応。……ツナはまず赤ん坊のイメージから抜け出せよ。リボーンは私達よりも身長が高いから」

「えーーー!?」

「うるせぇ」

 

 どうやら余計なお節介だったようだ。ツナがボコられてしまった。

 

「おめーら、気を引き締めろ。こっからが本題だぞ」

 

 痛がってたツナとフォローに入ってたディーノが真剣な目をしてリボーンを見た。そのリボーンは私の目を見ていた。

 

「確認するぞ。サクラはオレ達全員の呪いを解く方法を知っているんだな?」

「ん、知ってる」

 

 ウソをつく必要も誤魔化す必要もないので、はっきりと返事をした。

 

「え? でもさっきの話じゃ1人って……」

「だからリボーンはアルコバレーノの呪いを解くためと言ったのか……」

 

 そう。リボーンはオレの呪いを解くために戦ってくれとは言わなかったのだ。

 

「それじゃ、代理戦争なんてしなくていいんじゃ?」

「その代理戦争がカギを握ってるんだろ? じゃなきゃ、こいつが今までずっと黙ってる必要はないからな」

 

 知らない間にディーノの私への信頼度がヤバイことになっていた。慌てて否定する。私はそこまで出来た人ではない。

 

「否定はしないが、それが一番の理由じゃないぞ。下手なことを言えば、殺されると思ったから。どうせ今も監視されているだろうし」

 

 復讐者もチェッカーフェイスも覗き見能力を持っていたのだ。本当に私のプライバシーはどこへ行った。訴えたい。

 

 私の発言にツナはキョロキョロし出し、ディーノは険しい顔になった。

 

「ちなみにツナも時々監視されているはずだぞ」

 

 仲間だという意味で微笑めば、ツナも私と一緒で絶望し始めた。それを見て、ちょっと落ち着いた。我ながら、性格が悪い。

 

「まぁその話は横に置いといて」

「置いとかないでよっ!?」

「私は誰とも敵対する気はないんだ」

 

 監視している者にも向かって言っていることに、リボーンとディーノは気付いている。見せないようにしているが、2人とも武器に手を触れている。

 

「私が言っても信用がないと思うから教えると、この方法を考えたのはツナだ。決して頭がいいと言えないツナが、みんなが幸せになるために必死に考えた案だ」

「……褒めてくれてるんだよね?」

「もちろん」

 

 自信を持って言えば、なぜかツナが落ち込んだ。私にしては素直に褒めたのに。

 

「失敗すれば、アルコバレーノの呪いを受ける覚悟まで出来ているお人好しはそう居ない」

「えっ、ちょっと待って」

「だから失敗したら頼んだ。カッコワライ」

「ちょっと待ってって言ったよねー!? それも棒読みだしっ! 思っててもカッコワライとか普通口に出さないからーー!!」

 

 やばい、ツナの反応が良すぎてもっと何か言いたくなる。そう思っていれば、頭をポンポンされた。やめろという意味でディーノにされたと思ったが、彼は動いていなかった。ということは……。

 

「サクラ」

「……お兄ちゃん」

「ちゃんと伝えないと後悔するのはサクラだよ」

 

 ぐっと言葉に詰まる。

 

「すまないね、沢田君。サクラは素直じゃなくてね。僕達は出来るだけ平和に彼らの呪いを解きたいと動いていてね。僕達が平和に進もうとすればするほど、失敗への恐怖感が増しているのだよ。僕達2人で責任をとれるならまだ気が楽なのだけど、サクラでは責任が取れないんだ。不安を隠すために君をからかったようだ」

 

 兄の服を握る。これ以上は言わないでほしい。兄はそれだけでわかったのか、黙った。今度は真面目にツナと向き合う。

 

「どうしても私はあの未来にたどり着くまでの過程が嫌なんだ。だから、ツナ……頼む。力を貸してくれ」

「うん、わかった」

 

 あっさり返事をしたツナについデコピンした。

 

「いたっ! って、なんでしたの!?」

「ちゃんと意味がわかってない気がしたから」

 

 引っ掻き回せば、その未来に辿り着けないかもしれない。そうなれば、ツナは呪われてしまうだろう。もちろんツナだけじゃない。晴のおしゃぶりを継承するのは兄だろうし、他の属性も私が知っている人物になる可能性が高い。

 

「大丈夫、わかっているよ」

「……ごめん」

 

 私の謝罪がそんなに珍しいのか。ツナの驚いた反応を見て、ジト目で睨んでしまった。……もっとも、心の隅では自身の日頃の行いが悪いだけと、ちゃんと気づいていたが。

 

 ……本当に、君が嫌な奴だったら良かったのに。

 

「え? なに?」

 

 声に出したつもりはなかったが、どうやら呟いていたらしい。ツナが聞き返してきた。だが、もう一度言うつもりはない。嫌な奴だったら、私は何かしようと思わなかったのだから。言ってもしょうがないことなのだ。だから、違う言葉をかけた。

 

「君と友達になれて良かった」

「……オレもだよ!」

 

 私の発言に驚いたようだが、すぐにツナは返事をかえしてくれた。ふふふと笑い声をあげる。なんだが、楽しい。

 

「水を差したくねぇんだけどよ。話を戻すぜ。オレ達はどうすればいいんだ?」

 

 ディーノの的確なツッコミで、浮かれている場合じゃなかったと気付く。私が心の中で反省しているとボコっという音が聞こえた。

 

「ってー! なにすんだよ、リボーン」

 

 よく聞く言葉だが、発したのはツナではなくディーノだった。何があったとツナに視線で訴えたが、ツナもよくわからかったらしい。

 

「弟分に嫉妬とは醜いぞ」

「はぁ?」

 

 ディーノはよくわからなかったようだが、このパターンだとリボーンは適当なことを言わない。つまりディーノはツナに嫉妬した。今までの流れだと私が関係している。

 

「……悪い。私の中では助けてくれるものだと思ってた。君にもちゃんと言わなきゃダメだよな。……ディーノ、力を貸してほしい」

「えっ、あ……ああ。もちろん、協力するぜ」

 

 迷惑をかけている自覚があるのに、図々しくなるとか最悪だ。兄のように甘えてしまった。背伸びでもして大人にならなければ、恋愛対象にすら入らないのに、何をしているんだか……。

 

「何度も言うが、頼ってくれていいんだからな?」

「ん。ありがとう」

「ぜってー、気にしてるだろ……」

 

 礼を言えば、ディーノは頭を抱えた。なぜだ。

 

「あいつのことは気にすんな。話を進めっぞ」

 

 いつの間にか、ディーノの肩からおりたリボーンが話を戻す。……私はツナと一緒に同情の視線を送ったのだった。




明日も更新……?


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話し合い 2

 必要なこととはいえ、脱線し過ぎた。リボーンの言う通り話を戻そう。

 

「お兄ちゃん、状況はどう?」

「そうだねぇ。サクラの要望に叶えられないのは心苦しいけど、量産は出来そうにないよ」

「十分だよ。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 兄にも礼を伝えらなければと思い、本音を言えば、悶えていた。男性の悶える姿なんて、誰トクなのだろうか。

 

 見なかったことにして、ツナ達に向き合う。その頃にはディーノも復活していた。まぁ真面目な話に戻ったのだから、彼なら当然だろう。

 

「まず今回のために私達は匣兵器を作っていると君達は察していると思う」

「えー! 匣兵器作ったのー!?」

 

 そう言えば、ツナは知らなかったのを忘れていたな。心の中で謝りながらも、話を進める。

 

「匣兵器といっても作ったのはバッテリー匣だ」

「ん? そうなのか?」

「いくら兄が頭が良くても、アニマルタイプなどの匣兵器をこの短期間に作るのは厳しいぞ。そもそも匣兵器に拘っているわけじゃない」

 

 私達は死ぬ気の炎を確保したいだけであって、匣兵器がほしいわけじゃない。ただ単にそれの一番の近道が匣兵器だっただけだ。

 

「死ぬ気の炎が必要ってことなんだな」

「ん。ツナがもう一段階強くなれた分の炎を補おうとした」

「え? オレ?」

「君をスパルタで鍛える案もあったが、ピンチにならない限り厳しいと思ったから用意した」

 

 リボーンがヤル気になった。……殺る気といった方が正しいか。

 

「ひぃ!」

「それは時間がある時にしてくれ。あれは賭けだったと思う。最強の殺し屋の君が傷を負うレベルの戦いだから」

 

 リボーンが怪我をするところを想像出来なかったらしい。ツナとディーノは驚いていた。……実際、賭けだったと思うんだよな。成長の兆しは見えていたが、確信があるなら最初からぶつけていたはずだ。もちろんディーノが立てた作戦ではツナが途中参加なので不可能だったのもある。が、合流した時点でも問題なかった。それこそ、リボーンがツナ達にのったタイミングで、作戦変更しても良かったのだから。

 

「……来ないか」

 

 ここまで話したのに、どっちも来ない。……しまったな。せめて先に復讐者に会いに行くべきだったか。いや、兄が手を離せないのに日本から離れるのは不可能だった。許してくれない。ディーノに頼む手もあったが、メローネ基地に殴り込みした時のことがあったので、どうしても頼む気にはならなかった。

 

 ……シモンの聖地に行くのが正解だったのか!

 

 本につられて、失敗したようだ。タルボじじ様より先にあっちだったらしい。

 

「お前、今無茶しただろ……」

「大丈夫、手遅れだ」

 

 再びディーノが頭を抱えた。お人好しも大変だな。

 

「どれぐれー、手遅れなんだ?」

 

 よくわからなくて首を傾げた。リボーンが怪我をするぐらいの相手に目をつけられてると話の流れで気付いているはずだが。

 

「黙ってるつもりだったが、おめーにボンゴレの者をつける話が出てんだ」

 

 つまり相手の実力というより、狙われる可能性を聞きたいのか。

 

「そうだな……。いつ攫われてもおかしくないぐらい」

 

 沈黙が流れた。空気を軽くするためなのか、兄が口を開いた。

 

「攫われる前に、僕が攫いたいよ!」

「まったくだぜ……」

 

 再び沈黙が流れた。その同意はやばいぞ。兄のキャラなら納得出来そうなものだが、真面目なタイプがいうとかなり危険である。そう思ったのは私だけじゃなかったようで、視線を集めていた。

 

「……そういう意味じゃねーからな! こいつはほっとくと何するかわからねーからだ!」

「まぁ絶対に話せばヤバイのは黙ってるのも向こうは気付いていると思うから、攫われてもおかしくないが、いつでも出来ることもあって、見逃されているのかも」

「スルーかよ……」

 

 スルーしたつもりはない。自己弁護しただけだ。

 

「そもそも僕達が集まっている時点で未来は変わっているのだよ。サクラに手を出すのなら、遅すぎる。つまり……」

 

 兄が途中で言葉を止めたので、視線を向ける。続きが気になる。

 

「つまり、サクラに賭けたのだよ。流石、僕の愛して止まない妹だ!」

 

 兄のノリに流されたかったが、出来なかった。チェッカーフェイスも復讐者も私のことを信用した。その意味がわからないほどバカではない。

 

 重圧を感じる。今まで何度も選択し、その度に怖いと思った。でも今回は比べる必要もないぐらい違うとわかる。

 

「サクラ……」

 

 心配そうなツナの顔を見て、少し冷静になる。私一人で背負う必要はない。……いや、違う。私と兄が背負っただけでは実現出来ることではない。ツナは力を貸してくれると言ってくれたではないか。

 

「ツナにしか出来ないことだと思う。本当に頼んでいい?」

「もちろん。なに? なに?」

 

 私は今、リボーンと同じような笑みを浮かべただろう。

 

「彼らの呪いを解くには大量の死ぬ気が必要になる」

「うん」

「だから説得は頼んだ」

「説得?」

「ん。アルコバレーノを除いて、大空の7属性で今の君の炎ぐらいを出せる人が最低で15人は必要だから」

 

 言ってやったと私は物凄くすっきりした顔をしているだろう。

 

「ええっと、オレと山本、獄寺君、お兄さん、ディーノさん、炎真は大空の7属性じゃないし、サクラのお兄さんで、6人? ……後9人!?」

「沢田君、僕をそこの人数に入れないでくれたまえ」

「なんでですか!?」

「僕の炎は特殊だからね。危険な橋は渡りたくない。匣兵器に込める炎は僕の純粋な晴属性のものだから、完全に不参加というわけでもないよ」

 

 私も兄の意見に賛成だ。嫌な予感がするから。

 

「お前が知ってる未来では15人で大丈夫だったんだな?」

「多分」

 

 チェッカーフェイスと尾道を除けば、15人のはず。曖昧な描写なので、少し自信がないのだ。匣兵器はツナが成長しただろう分の炎しか充電できない。もちろん、多めに見積もって計算しているので一人分ぐらいは補えると思うが。

 

「なら、20人を目処に集めっか」

「ええ!?」

「トラブルが起きるかもしれないだろ?」

 

 ツナが絶望的になった。友達の少なさを嘆いているみたいだ。そんなに悲しむこともないと思う。私よりは多いぞ。

 

「ユニの後押しがあれば大丈夫だと思う。条件が整った時、彼女には明るい未来が見えていた」

「そっか! この時代にもユニは居るんだ!」

 

 そういえば、アリアは去っているのだろうか。私が存在していることで、未来が広がりみえている可能性がある。でも……去っているだろうな。ユニとγのこともあるし、何より大空の呪いである寿命は以後減らなくなるだろうが、失ったものが戻るわけじゃない。

 

「でも後誰が手伝ってくれるのー!? どーしよー!?」

「なに言ってんだ。条件が合う奴が並盛に集まってくるじゃねーか」

「え!?」

「各々のアルコバレーノが代理を立てくるだろ? その鉄の帽子の男が言った話の流れから戦闘の可能性が高いしな。条件に当てはまる確率が高いぜ」

 

 正解という意味で頷く。それを見たツナの目に希望が宿る。

 

「ただなぁ……。なんつーか、一筋縄に行かねぇ奴ばっかりな気がするぜ……」

 

 それも大正解なので大きく頷く。

 

「ツナ、頑張れよ」

「なんで他人事なんだよ! お前のことだろ!」

「頼まれたのはツナ、お前だろ。それにオレはオレでちゃんと他のアルコバレーノに話をしに行くぞ。ただどこまで信用するかわからねー」

 

 リボーンの言葉に落ち込む。仕方のないことだが、私の信頼度が低い。ここにいるメンバーからは異様なほど信頼が高いが。

 

「1人しか解けないと決めつけて入れば、彼が声をかければ悪化するかもしれないということだよ? サクラ」

「そうだぞ」

 

 兄とリボーンの言葉に復活する。我ながら単純である。

 

「ディーノさんは手伝ってくれますよね!?」

「ん? ああ。もちろん」

「ディーノはディーノでオレから別件の依頼を頼むから、おめーが中心になって動けよ」

 

 別件の依頼は何だろうか。視線を向けたがリボーンは答えなかった。ディーノも質問しない。私の作戦がダメだった場合のために動くのだろうか。気にはなるが、リボーンは話さない。経験則でわかる。

 

 仕方ないので、どーしよーと頭を抱えてるツナに視線を向ける。

 

「大丈夫、君なら出来る。それに声をかけたら助けてくれる友達がいるだろ」

「……うん。サクラからも声をかけてくれるよね?」

「なぜ?」

「そこを何とかー!」

 

 自慢じゃないが、私はツナより友達が少ないぞ。

 

「友達は君と被ってるし、厄介な人達とは会いたくない」

 

 私がはっきりと言えば、ガーンという顔をしたツナが居た。

 

「そもそも厄介な人達に、私は未だに恨まれてる可能性がある」

 

 ツナがハッとしたように私の顔を見た。もしかして気にしているのだろうか。まぁ私は真正面から戦わず、裏からこそこそ動くのだから、分かりあうのは厳しいからな。

 

「サクラ……、オレ達のためにありがとう」

「べ、別に君達のためだけじゃないし」

 

 ……どこのツンデレキャラだ!

 

 顔が熱い。この空気に耐えられなく、兄の後ろに隠れる。

 

「サクラをこれ以上見るのは有料だよっ!」

「そうだそうだー」

 

 ヤケクソ気味に兄の言葉にのる。私を追い詰めようという人物はいなかったようで、このまま解散となったのだった。

 

 この後、復活を果たした私はツナより遅れて学校へ向かう。なぜか校門に雲雀恭弥が居る。嫌な予感がする。

 

「遅いよ」

 

 着いた早々文句を言われ、応接室に強制連行である。

 

 本当に一体どこで私はフラグを立てたんだ……。




実はサクラがシモンの聖地に行けば、D・スペードに殺される、もしくは重症で意識が戻らないという理由で虹の呪い編は不参加になります。それ以外のルートは私が思いつかなかったので。


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信じる気持ち

 応接室なう。

 

 ノリで誤魔化そうとしたが、やはり厳しい。私の中ではこの前の休学届けを出したときが、この部屋に来るのは最後だと思っていた。いや、そもそも縁のない話だと思っていたのに、今日で3度目である。おかしい。

 

 高価そうで偉そうな1人がけの椅子に座った雲雀恭弥から離れるように、入口の壁側に立つ。……ドアが近いのに遠く感じる。私が逃げ出すよりも先に雲雀恭弥は咬み殺せるから。

 

「さっさと話しなよ」

 

 一体何をだ。主語を言ってくれ。……おい、察しなかったからと言って、あからさまに溜息を吐くな。

 

「別に僕は風紀が乱そうとする人物を片っ端から咬み殺してもいいんだけど? 例えば君とか」

 

 私は悪くない。と言い張るだけで見逃してくれれば苦労はしない。だから私が死んだような目になるのは仕方ないことである。

 

「ディ、ディーノに聞いてくれ」

 

 丸投げした。迷惑をかけている自覚など、消え忘れた。私の反省はいっときなのだ。自身でも思うが、性格が悪い。

 

 ディーノを売ったのに許してくれなかったようで睨まれた。なんてことだ。

 

「……詳しくは話せない。今、言えるのは大量の死ぬ気の炎が必要になるということだけ」

 

 全て話せれば楽なのだが、それは出来ないのだ。ツナが考えた方法では一番重要な役割を果たすのは復讐者が持つ第8の炎である。それを説明すれば、私の作戦が失敗した時は、直接チェッカーフェイスに実力行使に出るつもりの復讐者の計画を崩してしまう。口に出そうとすれば、私は殺されるだろう。

 

「そう」

 

 チラッと視線を向ければ、雲雀恭弥は睨んでいなかった。許してくれたかは知らないが、納得したようだ。

 

「じゃ、私は教室に戻るぞ」

 

 応接室から出ようとした時、ドンっ!!という音と共に私の前にトンファーが現れた。

 

 ……これが所謂トンファードンというものなのか。聞いたことねぇよ!

 

「どこ行くつもり?」

 

 ビクッと肩が跳ねた。不機嫌な声にビビったような反応だが、ただ近くから聞こえた、私好みの低い声に驚いただけである。こんな状況でも自身の思考は残念だった。

 

「そこまでだぞ」

 

 突如現れた赤ん坊の姿に、ドキドキしていた心臓が落ち着いて行く。自身が思っているよりも私はリボーンを信頼しているらしい。

 

「ヒバリ、おめーの考えてることはわかるぞ。ちょうどその話をしようと思ってきたんだ」

 

 リボーンの言葉を聞いて、トンファーが壁から離れる。今回も何とか生還出来そうだ。

 

「サクラ、行っていいぞ」

「えっ、いいのか?」

「ああ」

 

 リボーンの判断なら問題ないだろう。私も好んで咬み殺されたくはないので、さっさと去ることにする。それに何となくだが、リボーンは私に話を聞かせたくないみたいだしな。

 

 気配を消せるわけではないが、雲雀恭弥を刺激したくないので静かに歩く。ジーっと雲雀恭弥から視線を感じたが、私は一度も振り向かなかった。リボーン、上手く彼の怒りを鎮めてくれ。

 

 ……今回も丸投げという平常運転だったな。

 

 

 

 教室に入ると、視線が集まった。授業中に入ってきたこともあるだろうが、ちょっと多すぎる。気にはなるが、まず教師に声をかける。職員室に寄るのを忘れていたしな。

 

「欠席すると連絡があったと思うが、遅刻扱いでお願いします」

「ヒ、ヒバリ君が探していたよ」

 

 視線の意味を理解した。チラッと視線を向ければ、手を合わせてツナが謝っていた。どうやら雲雀恭弥に話をしに行ったらしい。多分、ディーノも一緒だと思うが。

 

 しかし意外だな。ツナが真っ先に彼に声をかけに行くとは。もしかするとディーノはリボーンから別件を頼まれるから、先に済ませようとしたのかもしれない。まぁ私を探していたなら、上手くいかなかったようだが。

 

 いろいろと考えていたが、仕方なく返事をかえす。

 

「さっき会った」

 

 ざわりと揺れる教室。……この反応にも慣れてきたな。ただ気分がいいものではない。

 

「そ、そうか。ヒバリ君と会えたならいいんだ……」

「席に座っても?」

「……ああ。もちろん」

 

 軽く溜息を吐く。私が慣れてきたのだから、クラスメイトも慣れてほしい。いつまでも視線を送らないでくれ。

 

 ざわりと再び教室全体が動揺したので、何が起きたのかと周りを見渡す。雲雀恭弥は現れてないぞ?

 

 不思議に思っていると、私の机の上に黄色い鳥が現れた。どこかへ行けと手を振れば飛び上がったが、頭に重さを感じた。

 

 首を振る。……動かない。

 

 頭上を手で払う。飛び立ったが、しばらくすると頭に重さを感じる。君はプー助か!

 

「……どういうつもりだ」

 

 席を座って数秒で立ち上がる羽目に。誰も何も言ってこないので、別にいいだろう。ガラっと勢いよくドアを開ける。物に当たっているのも、校舎を傷つけるかもしれない行為なのも自覚している。

 

「本当に雲雀恭弥に関わると、ロクなことがない!!」

 

 怒り任せに声を出す。心の中で思うだけでは気が済まないのだ。

 

 再び応接室に戻った私は、ノックもせずにドアをあけた。

 

「ワオ」

 

 何がワオだ。驚いたのはこっちである。

 

「君の鳥が頭から離れないんだが!!」

「今日は君が面倒見てくれるって教えたからね」

「草壁哲也に頼めよぉ……」

 

 怒りを通り越し、私は嘆きモードに入った。それぐらい、雲雀恭弥は悪びれた様子がなかったのだ。

 

「文句あるの?」

「あるに決まってるだろぉ!!」

 

 叫びながら、私は走り去った。言い逃げである。どうせ押し付けられるなら文句だけは伝えたかったのである。

 

 教室が見えたところで私は歩き出す。本気で雲雀恭弥が怒ったなら、私はとっくに咬み殺されているだろう。多分見逃された。……ヒバードが離れていないので、全て見逃されたわけじゃないだろうが。

 

 再び教室に戻ってきた。今度は教師に声をかけずに席に座る。誰も何も言わないし、問題ないはずだ。クラスメイトが全力で視線を合わせないようにしているのも、きっと気のせいだ。

 

 ……友達が出来ないのは私自身に問題あると理解しているが、雲雀恭弥のせいもあると思う。

 

 

 全く身が入らなかったが、授業が終わり放課後である。結局、私と話してくれるのはツナ達だけだった。……元々、ツナ達以外に居ないけどな。それでもこの異様な光景にも屈せず話しかけてくれたのだから、持つべきものはやはり友である。

 

 ツナと山本武と帰っていると、校門にディーノが居た。

 

「よっ。……恭弥の鳥?」

「今日1日、押し付けられた」

 

 これ以上説明は不可能である。ツナ達も苦笑いしか出来ない。本当にあれは強制イベントだった。

 

「あいつはわかりにくいからなー」

「えっ? ディーノさんはサクラにヒバードを預けた理由がわかるんですか?」

「まぁな」

 

 ツナと同様に気になるという視線を送っていたのだが、誤魔化される。

 

「それより今日1日面倒見るんだろ? エサとかあるのか?」

「あるわけないだろ」

 

 私の家に居るのはパンダである。それも匣兵器。鳥を飼う環境など、整っているわけがない。つまり今から買いに行くしかない。お兄ちゃんに相談しないと。お小遣いプリーズ。

 

「なら、オレも行くぜ」

「君はツナの手伝いだろ」

「なぁに、ツナは大丈夫だ。それに教え子が迷惑かけたんだ。師匠が何もしないわけにはいかないだろ?」

 

 大丈夫とか言われ、ショックを受けているツナがここに居るんだが。

 

「それにいくら急いでも、今日はまだ集まってないだろ。ツナもファミリーに頼むなら、1人でも問題ねぇよな?」

「獄寺君達なら……。って、ファミリーじゃないです! 友達ですから!!」

「ん? ツナ、なんか困りごとか?」

 

 山本武にまだ話してなかったのか。……休憩時間は私のフォローをしていたから、当然か。

 

 今日は私とツナは互いに遅刻している。私の方が遅く登校したが、そこまで時間の差はなかった。ツナは先に雲雀恭弥のところを向かったようだし。そしてツナが朝から居なかったため、獄寺隼人は早退したようで、誰もツナに詰め寄らず遅刻した理由などは後回しになったのだ。……いじり体質のクラスメイトは私が一緒に居たので、そんな機会はなかったしな。

 

 それでも今日は部活を休めないかと相談していたのだから、察しろと思う。……山本武だから無理か。

 

「えっと、じゃぁ……お兄さんと獄寺君に声をかけて一緒に話すね」

「おっけー。じゃ、獄寺に連絡すっか!」

 

 獄寺隼人には山本武からではなく、ツナからの方がいいと思うけどな。……これはこれで上手くまわっているのかもしれないが。

 

「じゃ、よろしく」

「サクラ!!」

 

 ディーノとペットショップに行こうとすれば、ツナに呼び止められた。

 

「なに?」

「あれ……? えっと……」

 

 呼び止めた本人が戸惑ってどうする。それともボンゴレの超直感か?

 

「ちっと、待ってろよ」

 

 私が何か起こるのかもしれないと警戒していると、ディーノは肩に手を置いてからツナのところに向かった。頭じゃないことに不思議に思っていれば、ヒバードが居たことを思い出す。……数時間で慣れ始めているな。私の適応能力というよりも、ヒバードが大人しいからだろう。雲雀恭弥に押し付けられたことに思うことはあるが、そこまで迷惑はかかっていないのだ。

 

 私がヒバードことを考えていると、ディーノはツナに耳打ちしていた。残念ながら、私のスペックでは聞こえない。

 

「……そうだったんですね!!」

「ああ。だからツナはそっちに専念しろよ?」

「はい! サクラ、また明日!!」

「ん。また明日」

 

 よくわからないが、ディーノの言葉でツナがいつものように戻った。その流れでツナ達に見送られ、私達はペットショップに向かったのだった。

 

 ペットショップにつけば、店員から必要な物を一式渡された。ちなみにお金は払っていない。

 

「ここまで手を回すなら、説明しろよ……」

「恭弥も悪気があったわけじゃ……」

「頭に乗せているだけで、恐れられるんだが?」

「……すまん」

 

 ディーノに八つ当たりしても意味がないと思い、息を吐き出す。ただ彼は何か察していそうなので、これ以上一緒にいれば、再び文句を言ってしまうだろう。こういう日はさっさと帰るに限る。両親に説明しないといけないしな。

 

 ディーノに荷物を持ってもらい、一緒に帰る。黙ってることにディーノが気まずそうなので、話題を振る。

 

「そういや、君はホテルに泊まってるんだろ?」

「ん? ああ。長期間ツナん家に泊まるのは悪いしな」

 

 子ども達ならまだしも、ディーノは大人だしな。……ビアンキのことはツッコミしないぞ。

 

「高級ホテル?」

「ああ。部下が間違って取っちまったんだ」

 

 間違ったわけじゃないだろ。彼のファミリーの規模なら、そのレベルのホテルに泊まらなければナメられてしまう。日本は高級ホテルの数が少ないしな。

 

「じゃ、頑張れ」

「ん? なんでだ?」

「多分、同じホテルにヴァリアーも泊まる」

「まじかよ……」

 

 珍しく本気で困ってそうだ。

 

「来るだろうと思ってたが、よりにもよって同じホテルなのか……。ある意味、良かったのか?」

「ん? ヴァリアーが来るって予想していたのか?」

 

 確か知識では驚いていたはずだ。

 

「ああ。ツナレベルの炎を出せる奴ってなると、未来の経験が届いた奴になるだろうからな」

 

 私のヒントから、かなり絞っていたのか。だからこそ、厄介なメンバーと気づいていたようだ。

 

「まっ説得出来れば大きいぜ。ヴァリアーだけで5人は集まるんだからな」

「……全員参加出来ればな」

 

 ピタリとディーノの足が止まった。口にした内容が内容なので、予想していたのもあり、すぐに振り向けた。

 

「君も聞いていただろ。片腕がなくなるって」

 

 僅かに目を見開いたディーノの反応を見た後、私は再び家に向かって歩き出した。

 

 すぐに追いかけてきたディーノが何を思ったのか、私の手を握った。

 

「信じろ」

 

 歩きながらも怪訝そうな視線を向けた。もっとも手を振り払う理由がないので、そのままだが。

 

「オレやツナ達、それに桂。そして……お前自身を。なっ?」

 

 なぜか脱力してしまった。軽く息を吸って、ディーノと向き合う。

 

「当たり前だろ。じゃなきゃ、私は動こうとしなかった」

 

 余計なことをしなければ、上手くいくのはわかっているのに手を出したのだ。彼らを信用してなければ、動かない。……信用してくれる彼らがいるから、私は自身を信じることが出来た。

 

 でもまぁ、わざわざ言葉にしてくれたのは嬉しかったので、胸を張って笑いかけたのだった。



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担任

 なんだろう、朝から残念感が凄い。チラッと時計を見るとそろそろ起きないと間に合わない時間だったので起こしてくれたのだろう。だが、目覚ましに校歌とか微妙である。喜ぶのは雲雀恭弥ぐらいだ。……雲雀恭弥のペットなのだから、いいのか。

 

 とりあえず軽く礼を言い、起き上がり行動を開始した。

 

 顔を洗いながら、変だなと思う。今日は私の目覚まし時計と化している笹川了平の声がなかった。眠りが深かったのだろうか。リビングについたところで、答えがわかる。兄が家に居たのだ。

 

 泊まり込みで匣兵器を作っている日以外は、走り込みを欠かさずしていたはずだ。昨日はディーノと一緒に帰って、ヒバードの寝床を作り終えたぐらいに兄が帰ってきたのだ。ディーノに絡んでいたので間違いない。ディーノが帰ってからは私とほとんど一緒に居たし、帰ってきた父に説明を一緒にしてくれた。……うん、間違いなく昨日は家で眠っている。朝帰りではない。尚更、走り込みに出かけていないことが不思議だ。

 

「おはよう! サクラ!」

「ん。走り込みは?」

「しばらくお休みだよ」

「ふぅん」

 

 つまり目覚まし時計を仕掛けないといけないのか。そんなことを思いながら、朝食を食べた。

 

 学校へ出る準備が出来たところで、ヒバードを観察する。エサがなくなっているので、ちゃんと食べたようだ。

 

「君はどうする?」

 

 私が声をかけると首を傾げた。……可愛いな。

 

 写真を数枚撮ったところで、我に帰る。そろそろ行かなくてはいけない。

 

「とりあえず、一緒に行くか」

 

 雲雀恭弥にどうやって返せばいいのかわからないので、そう言葉をかけると頭に乗った。可愛くて頭がいいとか最高だな。ヒバードの人気が高いのはよくわかる。

 

 母が可愛いとテンション高くなっていたが、兄がいないので対応は楽だ。しかし、どこへ行ったんだろうか。母はヒバードの写真を撮って忙しそうなので父に聞いてみる。

 

「お兄ちゃんは?」

「少し前に出かけたよ」

 

 ……珍しい。私が起きているのに声をかけずに出て行くなんて滅多にないぞ。

 

「桂から伝言は預かっているよ」

「なんて?」

「確か『寂しい思いをしてないかい。大丈夫だよ。僕は陰ながら見守っているからね』と言っていたよ」

 

 父の淡々とした話し方だと、兄のセリフは物凄く怖いな。あのテンションだから許されることだったようだ。

 

「望遠用カメラを持って行ったから、ウソはついていないと思うよ」

「……ああ。陰ながら見守るは、盗撮するよってことか」

「そうだろうね」

 

 父に止めて欲しかったという視線を送る。兄は父が言えば、止まるはずなのに。

 

「心配しなくてもいいよ。ヒマそうだったから、仕事を増やしたから。夕方からサクラの頼まれごとをするみたいだし、桂の力量なら登下校ぐらいしか出来ないと思うよ」

 

 ……父が怖い。兄が本気を出せば、ギリギリ終わるだろう量の仕事を割り振ったようだ。さっき止めなかったのは、ヤル気というエサを与えるためだ。そして頑張って終わらせれば、私にかまう時間があるというエサをぶら下げている。

 

「い、いってきます」

 

 さっさと登校しよう。このままでは兄が可哀想だ。早く仕事に向かわせて、夕方に相手をしてあげよう。そうしよう。

 

 

 

 学校につけば、ヒバードが私の頭から飛び上がった。そして、ぐるっと私のまわりを一周してから、屋上へと向かった。……居なくなると寂しいな。

 

 残念ながら、さっさと切り替えなければ。聞こえないと思っているのか、私を見てヒソヒソと会話しているからな。……やっぱり雲雀恭弥に関わるとロクなことがない。

 

 教室に入ると、落ち込んでそうなツナが見えた。獄寺隼人と山本武が一緒に居るので、放置しても問題ないかもしれないが、状況を知りたいのでツナに近づく。

 

 軽く挨拶すれば、ツナから話題をふってきた。

 

「その、今日……朝から骸に会ったんだ……」

「断られたんだろ?」

「そうなんだ……。って、あれ? サクラはショックじゃないの?」

 

 私が軽い口調で言ったからか、ツナが気になったようだ。

 

「まぁ。骸は今の段階では話にのれない理由があるし、ヴェルデは慎重派だろうし」

「理由?」

 

 ツナの目を見て、教えるべきか悩む。焦れたのか獄寺隼人と突っかかられた。仕方ないので本音を言う。

 

「人の命がかかってるから、安易に答えていいのか迷ってる」

 

 ツナは女子のクロームにこれ以上戦ってほしくないと思っているからな。下手に教えてクロームが死んでしまう未来がきても困る。

 

「んー。ツナの目を見て迷ってるなら、やめとけばいいんじゃね? オレなら、その直感を信じるのな」

「……けっ。オメーの直感とこいつの直感を一緒にすんじゃねぇ」

 

 多分、獄寺隼人となりに私の判断を信用していると伝えているのだろう。私が言い淀んだ理由を知って、詫びのフォローもあるだろうが。

 

 とりあえず言葉に甘えて黙ったままでいることにした。本人に助言はしたし、リボーンは気付いているはずだから任せよう。……本当にリボーンへの信頼度が高いな。

 

 ちょうど話が区切れたところで廊下が騒がしくなる。今回は雲雀恭弥ではないらしい。女子がキャーキャーと言っているからな。雲雀恭弥は人気があるが、本人の前であんな声を出せば咬み殺される。

 

 なんだなんだとクラスが気になり始めたところで、チャイムがなり教師が来た。席に座るように言われたが、担任ではなく学年主任だった。もちろん大人しく席に座るが。

 

 話を聞けば、担任は実家の都合とかでしばらくの間休むらしい。つまりその間、学年主任が代わりをするのだろう。

 

 そう思っていたら、臨時の担任が来るらしい。この流れで眉間に皺が寄った。嫌な予感がする。

 

「よっ。少しの間だが、このクラスの担任のディーノだ。教科は英語担当だぜ。よろしくなっ!」

 

 日にちがズレた。確か今日の夜に代理戦争の説明が入るはずだ。つまり4日後が代理戦争の初日である。知識では代理戦争の2日目にディーノは教師になったはずだから、5日もズレている。……きっかけはなんだ?

 

 チラッと視線を向ける。安心させるようにわざとヘラっと笑ったりするが、今のディーノはどちらかというと真剣モードだ。

 

 ……面白くない。

 

 ディーノから視線を外す。周りの反応が面白くない。イケメン爆発しろ!

 

「神崎」

「……はい?」

 

 学年主任に名を呼ばれ、一応席を立つ。

 

「神崎はディーノ先生とは家族ぐるみの付き合いなんだってな。オレがわざわざ声をかけなくてもいいだろうが、初めての担任らしいし、フォローしてやるんだぞ」

「そういうことだから、頼むぜっ」

 

 一体、いつ私はディーノと家族ぐるみの付き合いになったんだ。確かまだ父と会ったことがないだろ。

 

 いろいろ言いたいことはあったが、嫉妬の視線を感じて大人しく席に座る。

 

「そういや、オレ……神崎さんを横抱きで運んでいるところ見たな」

「そんな面白そうなイベントあったのね。私は手を繋いで歩いているのを見たわよ」

 

 名を知らない男子はまだいい。思い出してしまったのだから、仕方がない。もちろん本音は思い出してほしくなかったが。それより問題は黒川花だ。絶対に今のは悪ノリだろ!!

 

「えー、付き合ってるんですかー?」

「大事な妹分だ」

 

 ……本当に面白くない。期待した視線を浴びていることになぜディーノは気付かないんだ。私が近くにいるんだから、ドジじゃないはずだろ。

 

「あ、あの!」

「ん? どした?」

「神崎さんって、ヒバリさんと親しいようですけど、ディーノ先生もですか?」

 

 シンっ……と静まった。確かに彼らにとって大事なことだろう。曖昧にしていれば後々問題になるかもしれない。ただ一点、私と雲雀恭弥が親しいというのが間違っているがな!

 

「ああ。恭弥はオレの弟子だかんなー」

『えーー!!』

 

 私はこの流れを読んでいたので、耳を塞いでいた。クラスメイトの大半と質問タイムとして黙って成り行きを見守っていた学年主任も叫んでいたのだ。なかなかの声量だった。

 

「やべっ。話したのはまずかったか?」

 

 ディーノが視線を送ってきたので、手を合わせた。骨は拾ってあげる。

 

 私の反応を見て、ディーノは頬をかいた。しかし腹をくくったのか、クラス全体を見渡してから言った。

 

「恭弥は気難しい性格をしてるけど、悪い奴じゃないんだ。あいつのこともよろしく頼む!」

 

 ディーノが頭を下げたことでクラスメイトは顔を見合わせていた。雲雀恭弥を怖いと思うが、普通に過ごしていれば被害はほぼない。実際この中で咬み殺されたことがある人物は少ないだろう。雲雀恭弥に関わるとロクなことがないと考えてる私でも、クラスメイトがディーノの言葉に頷くのは当然の流れだと思った。

 

「ありがとな!」

 

 雲雀恭弥の師匠でも怖いイメージはなくなったらしく、クラスにほんわかした空気が流れた。その中でボソッと私が呟く。

 

「師匠面しないでって怒りそう」

 

 小声で言ったが、ディーノには聞こえたらしい。慌てて「恭弥にはさっきのことはヒミツだぜ!」と言っていた。締まらない先生である。



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代理戦争初日

 ……校歌って毎日耳にする曲じゃなかったと思うんだが。

 

 とりあえず寝ぼけながらも礼を言う。ヒバードは親切心から私を起こしてくてるはずだし。ただ、その前に1日だけというのはどこへいった。あれから毎日放課後になるとやってきて泊まっていくんだが。

 

 まぁ別にいいけどな。ここ数日いろいろあった私を癒してくれたから。

 

 ちょっと振り返るだけでも本当に内容が濃かった。

 

 ディーノが先生になったのはいいが、知識では担任じゃなかったこともあり、私がそばに居ないとディーノの手がまわりそうになかったのだ。最初のうちは嫉妬を浴びていたが、私がそばに居ないとへなチョコになるとわかったのか、積極的に側にいるようにという空気が流れた。

 

 ……正直、面白くない。ディーノのカッコ良い姿を見たいだけに私が側にいるのはいいだけであって、不釣合いだという視線はずっと感じるからな。ディーノはディーノで、なぜここまで鈍感なのか。私の機嫌の悪さは察しているのに。

 

「サクラ、サクラ」

 

 危ない危ない。朝からイライラするところだった。流石、私の癒し枠。ちなみに私の名前は兄が頑張って覚えさせていた。ただヒバードは私の名前を覚えてくれたが、兄に懐いているわけじゃない。ディーノやツナもだ。今でも私の周りにしか来ない。不思議である。

 

 次にコロネロが会いにきた。予想はしていたので驚きはなかった。リボーンから説明を聞いたらしいが、私の口から聞きたかったようだ。なので「もちろんラルの呪いも解けるぞ」と先に言ってあげた。照れながらも、私に協力すると言って去った。ちょっと可愛いと思ったのはヒミツだ。

 

 コロネロが去ってしばらくすると沢田家光がきた。なんとなく察したので「父親の威厳を取り戻すのも大変だな」と答えると、引きつった笑みを浮かべていた。ただ私が反対していないという意味で言ったことを察していたらしく、コロネロは当然として、リボーンも交えて話し合うと言っていた。ツナには悪いが、本来なら辿り着いた強さになってほしいので、沢田家光には頑張ってもらいたい。余談だが、ディーノはツナに同情していた。スパルタのこともあるが、ツナ達には裏で同盟を組んでいることを教えないと決まったから。

 

 古里炎真からはもちろん協力するよという言葉をもらった。話を聞けば古里炎真は、自身が代理戦争に参加すると知ったツナから話を聞いてすぐに同盟を組む気になったらしい。が、スカルはツナの言葉を信用せず反対した。その結果、リボーンがボコって協力する流れになった。そもそもリボーンから話を聞いているのに反対したんだと思っていると、なんでもスカルはリボーンのパシリなので後回しにされたらしい。不憫である。

 

 白蘭は知識通りツナの家に現れた時に自ら同盟を持ちかけたらしい。ユニが予知をみてこの流れを知っているのかわからなかったが、ツナの言葉はちゃんと届けると白蘭は言って去ったようだ。そのため同盟も一旦保留に。これはちょっと意外だった。ただユニが日本にきてツナ達と顔を合わせるまで、こちらからはどこにも仕掛けないと言った。及第点だろう。

 

 問題はヴァリアーである。最初、この話にマーモンは乗り気だった。ただXANXASはツナをかっ消すために参加してもいいと思っただけで、協力する気はないという。そして他のメンバーも確証もないのに協力は出来ないという返事らしい。こっちはこっちで動くということで、最終的に対立した。もっとも私は話を聞いただけであって、いろいろあったようだ。合掌。

 

 雲雀恭弥は話を聞いても返答はない。これはフォンが話を持っていけば組む流れだな、と私は察した。ただフォンはこっちの話に乗るかもしれないので、雲雀恭弥に代理を頼むかもわからない。……まぁツナの周りは誰も声がかかっていないので、結局あの2人は組むのだろう。

 

 結果、今日から代理戦争が始まるのに目標の半数も集まらずツナは落ち込んだ。

 

 ツナが走り回ってる裏で、私も一応動いていた。というのも、スクアーロや骸とも接触していたのだ。一応というのは私から会いに行ったわけではないからだ。

 

 スクアーロはディーノと一緒にいる時にやってきた。本当に呪いが解けるならヴァリアーの戦力もあがる。XANXASとレヴィは参加しないだろうが、他のメンバーは協力してもいいという。ボスを裏切ることになるんじゃないのかと思ったが、あれはただのワガママだからいいらしい。そもそも9代目から命令されれば、XANXASはまだしもスクアーロ達は協力するしかないと言った。ディーノと一緒にその手があったと反応すれば、スクアーロがキレていた。自身で教えたのにおかしな奴だ。リボーンは気付いているがツナの成長のためにギリギリまで使う気はないのだろうとディーノが推測して落ち着いた。

 話は逸れたが、とりあえず確証を得るまではマーモンの呪いが解けるために動くということだったので、「最後まで勝ち残っても呪いは解けないぞ。あれはウソ」と教えれば、スクアーロに怒鳴られるだけでなく、ディーノにも怒られた。伝え忘れただけなのに……。確証を得たらすぐに言いに来いとキレながら去って行った。それまでは好きに暴れるらしい。そうは言いつつも自身から仕掛けるのは大空の7属性ではない古里炎真になるんだろうなと思った。

 

 骸と接触したのはスクアーロと会った次の日、兄と一緒にいた時だった。心の中で今日もパイナッポーだなと思っていると、兄が骸を苛立たせていた。骸もイラつくのになぜ兄と一緒にいる時を狙って接触しにきたのだろうか。気になってツッコミしてみれば、骸曰く「この男がいない時にあなたに接触すれば、ネチネチとやってきますからね。この男は本当に性格が悪いのです」らしい。いまいちピンと来なかったので首を傾げていると、「僕と骸君の仲だからね。遠慮するわけがないじゃないか!」と兄が満面の笑みで言っていた。骸が引きつった笑みを浮かべたので、幾度となく迷惑をうけているのだろう。妹の私でも遠慮しない兄とは関わりたくないし。

 兄が一緒にいるせいで話が全く進まなかったが、「クロームの件を抜きにしても、僕は手伝う気はありませんよ」と言いたかったようだ。ヴェルデが信用して協力することになった場合、時計は返しても炎を提供する気はないようだ。……私は骸を引き止める言葉を思いつくことが出来なかった。

 

 正直、ユニチームが手伝ってくれれば人数は足りる。そして成功する未来がユニに見えていれば、他のアルコバレーノもヴァリアーだって積極的に手伝ってくれるだろう。それなのに、なぜか骸の言葉がショックだった。理由はわからない。

 

 そんな中でディーノを通して雲雀恭弥と交流が出来たと思ったのか、昨日からクラスメイトが頼み事をしてくる。忙しいからと言って断ってるがしつこい。今日もタイミングを計って声をかけてきそうな気がする。兄は今日から有給をとって、裏で動いているからなぁ……。憂鬱である。

 

 大きく息を吐く。今日から代理戦争が始まるんだ。私は切り替えるように動き出したのだった。

 

 

 

 

 知識通り、放課後まで何もなかった。もしかすればズレが起きるかもしれないと気を張っていたが、取り越し苦労だったようだ。ツナ達も私から時間を聞き出さなかったのもあって、HRが終わると安心したような息を吐いていた。

 

 さて、これから私はどうしようか。古里炎真はこれからスカルと一緒に帰ると言っていたので大丈夫だろう。もしもの時のために兄は彼らの近くでスタンバってるしな。

 

 ツナはスパルタだが、一応教育なので大丈夫。問題はディーノだが、私が一緒に居なきゃヘナチョコだし。仕事に追われてるから放置しても大丈夫だろう。

 

「じゃ私もここで」

「サクラも帰るの?」

「今日は高みの見物しようかと」

 

 はっきりと言えば、ツナが苦笑いしていた。それでも何も言わないのは彼の優しさなんだろうな。カバンを持って別れを告げた。

 

 文字通り、高みの見物である。学校の屋上にきた私はそう思った。

 

「ちゃおっス」

「いいのか?」

「家光が側にいるんだ。問題ねぇだろ」

「そうか」

 

 会話が一段落したところでリボーンの時計が鳴り響く。すぐさま爆発音が聞こえたが、本当にリボーンは気にした風もなく、会話を続けた。

 

「ユニから連絡があったぞ。この後時間あるか?」

 

 急だなと思ったが、確かユニはギリギリまで日本に来れなかったし、未来が見えているなら今日しかないと気付くか。学校を休めば明日でも問題ないが、ツナ達が気にして未来がさらに変わりそうだしな。そうなると2日目の開始時間も変更しそうだ。……本当にユニの負担が多いな。私の僅かな行動の変化で未来が広がりすぎだろ。

 

「場所を教えてもらえれば、勝手に行くから。そっちは反省会が必要だと思うし」

「……確かにいい位置だな」

 

 獄寺隼人達と雲雀恭弥の戦いを見ながらポツリとリボーンが呟いた。恐らく私への返答でもあったのだろう。リボーンは真剣に戦況を見ていた。残念ながら私の目では彼らの動きは速すぎてよく見えない。が、それでもわかることがある。ただちょっと自信がないので確認する。

 

「誰も壊されてないよな?」

「ああ」

 

 変だな。私の知識では笹川了平の時計がすぐに壊された。しかし現実は無事。笹川了平は果敢に攻めているし、獄寺隼人と山本武は説得しようと声をかけ続けている。

 

「サクラはヒバリのこと、どう思ってんだ?」

「どう、って?」

 

 質問の意味がわからず質問仕返す。

 

「目をそらすんじゃねーぞ」

 

 うぐっと言葉に詰まる。バレていた。そして気付かないフリはダメなようだ。相変わらずスパルタである。……フラグをへし折ろうとしたのにディーノが再び立てたのが悪い。

 

「甘いと思う。彼女が現れた後から特に。……でも混同はしていないぞ?」

「ああ。そのへん、ヒバリは問題ねーだろ」

 

 問題があるとすれば私の方ってことか。耳が痛い。

 

 ポツポツと雨が降り出して、やっと知っている流れになった。笹川了平も一緒に逃げたことで、結局雲雀恭弥は時計を壊さなかったことがわかる。

 

 XANXASは微妙だがヴァリアーは乗り気だったから何も思わなかった。骸率いる黒曜メンバー全員に断られたからショックを受けたのだ。

 

 ……だったら、雲雀恭弥は?

 

 心の中で最終的に彼は私の頼みを断らないだろうなという確信があった。本当に彼は甘くなった。……私に対して。

 

 彼女の目を私を持っているのが前提にあるのは間違いない。それでも、ボーダーラインがかなり低くなっていたとしても、私が彼の逆鱗に触れれば、遠慮なく咬み殺すだろう。ちゃんと私を神崎サクラとして見ているから。

 

 私の最初の予想では、フォンの性格ならツナ達の話に乗るかと思ったのだ。正直、知識通りにこの2人が組むのは意外だったし、同盟を組む気がないのも意外だった。だから今日の勝負を確かめにきた。

 

 ……結果、雲雀恭弥は私に甘いのではなく、甘すぎることがわかった。

 

「まさか鍛える気だったとは」

「ぜってーヒバリは否定するが、間違いねーな。ヒバリの実力なら壊そうと思えばいつでも出来たからな」

 

 確かに私は大量の死ぬ気の炎がいるとは言った。……言ったが、雲雀恭弥はそんなキャラじゃないだろ!

 

 軽く息を吐く。リボーンが私に小言をいうのは仕方ないことだろう。ちゃんと私を見ているとわかっていながらも、彼女の目を持ってるからという理由だけで動いたと、彼の優しさを切り捨てようとしたのだ。

 

「……先に礼を言いに行く」

「そうか」

 

 リボーンに宣言しなくても、どうせ私のことだから後々罪悪感が出て礼を言うだろうが、何かのついでな気がしたのだ。……この前だって、送ってもらったついでだったし。

 

 終了の音が鳴り響く。礼を言いに行くのは決まったが、どんな顔して会えばいいんだか。

 

「迷うんじゃねーぞ。その目があったから、桂とわかりあえたんだぞ」

「それは……わかってる」

 

 何かが欠けていれば、今も兄と一緒に過ごすことは出来なかった。

 

「選んだのはあいつだ」

 

 リボーンの言葉を聞いて、パンッと頬を叩く。グダグタ悩んでいるのは雲雀恭弥に対して失礼だと思ったのだ。リボーンはもう大丈夫と判断したらしく、ユニがいる場所の地図を渡してくれた。

 

「リボーン、ありがとう。忙しいのに」

「ファミリーの一員を鍛えるのは家庭教師の役目だからな」

 

 ニッと笑ったリボーンを見て、なんとなく言いたくなった。ただ恥ずかしいので、別れるギリギリに言った。

 

「私もリボーンは、最強の殺し屋で、最高の家庭教師だと思ってるから。ロクな死に方を期待してない……なんて、言わないでくれよ?」

 

 ピョンと階段を飛び降りる。振り返れば、リボーンが珍しく気まずそうに頬をかいていた。すぐに目があったので、ニッと笑ってやった。




雲雀さんとの絡みを書くべきか悩む。


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性質と性格

 腹はくくったものの、やはり雲雀恭弥に礼を言うのは気まずい。リボーンも言ったが本人は認めないと思うしな。……いつもの如く、言い逃げしよう。

 

 向かっている途中で兄からメールが来た。兄にしては珍しく興奮していたようで、アルコバレーノは凄かったという内容がほとんどだった。どうやらなんとかなったらしい。……兄も似たようなこと出来ると思うんだけどな。

 

 さて、もう何度目かわからなくなった応接室にやってきた。意を決して、ノックをする。

 

 返事がない。

 

 ……ウソだろ。この流れなら普通いるだろ!?

 

 まさか雲雀恭弥を探すところから始まるとは思わなかった。ここでリボーンと再会すれば、もっと気まずい。無性に会いたいぞ、雲雀恭弥。

 

 ……仕方ない、ウロウロするか。

 

「ぶほっ!」

 

 ぶつかって変な声が出た。まさか振り返ってすぐに人がいるとは思わなかった。

 

「邪魔だよ。咬み殺してほしいの?」

「って、雲雀恭弥!?」

 

 慌てて離れて道を譲る。雲雀恭弥は扉を開けていつもの席に座った。私も応接室に入り、そーっと近づいて確認する。……よく見えない。勢い良く変な声を出したけど、セーフだよな?セーフであってくれ!

 

「なに」

「……ヨダレがついてるかもと思って」

 

 言えっていう圧力をかけたのは君だろ。私は悪くない。……すまん、今回は全面的に私が悪かったからトンファーはしまってくれ。

 

 雲雀恭弥は軽く溜息を吐いてトンファーを机に置くと、シャツのボタンを外し始めた。慌てて後ろを向く。

 

「いきなり着替えるなよ!?」

「君が出て行けばいいだけの話だよ。ここは僕の部屋だ」

 

 正論である。……流されるところだった。応接室は部室かも知れないが君の部屋ではないぞ。でもまぁ、ちょうどいいか。面と向かっては恥ずかしいし。

 

「その、今日は言いたいことがあってきたんだ」

「はぁ。今度はなに」

「屋上から見てた。……ありがと」

「なんのこと?」

「ただ私が言いたかっただけ。じゃぁ」

 

 扉を閉めてダッシュした。これは恥ずかしい。なんかラブコメっぽかったし。……いや、雲雀恭弥に対してそういう感情は全くないんだが。

 

 失礼なことを思ってると、私の脳内で雲雀恭弥がキレている姿が浮かんだ。それはこっちのセリフだと言いたいのだろう。現に彼が見誤っていれば、身体能力が低い私はすぐに捕まって彼女のような目に合うだろうし。

 

「サクラ!!」

 

 大声で呼ばれて、急停止。この声はディーノだ。振り返れば確かにいた。が、結構な距離だった。呼び止めるために大声を出したのか。ディーノが走ってくるのですぐ合流できるだろう。私は息切れし始めていたのでツッコミの準備をしながら待った。

 

「名前で呼ぶな、君は教師だろ」

「問題ねーよ。それよりなんで走ってたんだ?」

 

 問題、大アリだ。片手で数えるほどしかないが、いつからか私のことを彼は名前で呼ぶようになり、私は心臓がドキドキするけど嬉しかった。が、今は違う。ディーノが私を名前で呼べば、他の女子生徒も呼ぶきっかけを作ることになるからな!

 

「……セクハラになるぞ」

「げっ!? これもかよ……」

 

 大真面目に頷く。これもというのは初日に私が気安く女子生徒の頭を撫でれば、セクハラする先生だと思い、難しい年頃の生徒からは嫌われるぞと教えたからだ。もちろん手を繋ぐことや、横抱きなど、危険そうなものはいろいろと。……ぶっちゃけディーノの格好良さなら嫌がる生徒は皆無だけどな!

 

「で、なんで走ってたんだ?」

 

 人の苦労も知らないで、軽く流すな。

 

「……別にいいだろ」

「まだ機嫌が悪いのか?」

 

 そう言って、ディーノは私の頭上で手を泳がしていた。いつもの癖で手を伸ばしたのだろう。結局、ディーノは行き場をなくした手で頭をかいた。……参ってそうだ。相変わらず性格が悪い。自身でも機嫌がちょっと戻ったのがわかった。

 

「それで何がわからないんだ。ちなみに私は要件が詰まっている」

「いや、今日はもう終わった。ユニのところに行くんだろ? オレも一緒に行こうと思ってよ」

「ツナ達と反省会はいいのか?」

「ああ。リボーンがいるから大丈夫だ」

 

 問題がないならいいか。兄が居ないので自腹で向かうつもりだったのだ。タクシー代、奢ってくれ。

 

 結局、タクシーは使わなかった。ディーノは車で通っていたらしく、その車で向かうことになったのだ。

 

「ロマーリオがお前と一緒ならいいって言ったんだ。だから助手席に乗せるのはロマーリオ以外で初めてなんだぜ」

 

 ……理由は察した。まぁ余程許可が出たことが嬉しのだろう。ご機嫌で運転している。私も女子では初ということでテンションがあがった。

 

 それにしても仕事が溢れていたはずだが、いつの間に終えたんだ。気になったので、聞いてみた。

 

「一年の数学の先生だったか? その先生が代わってくれたんだ」

 

 関わりを持ったことはないが、私もその先生のことを知ってるぞ。独自の情報網によるとしっかりした先生で面倒見がいいとか。他にも20代後半で独身とか。

 

「……へぇ。結構な量を見返りもなく引き受けてくれたんだ」

「いや、なんか奢ることで手を打ってくれたんだ。先生と食事ってどういうところが普通なんだ?」

「先生同士で食事するとすぐ噂になるぞ。私はオススメしない。それにその先生のことを狙っている先生も居るし、次からはやめた方がいいと思う。要らぬ誤解を立てない方が無難だ」

「そうだったのか……。なら、消え物を贈った方がいいな」

「ん。私から兄に声をかけてあげてもいいぞ。お菓子のことなら兄に任せとけば完璧だ」

「ほんとか! 助かるぜっ!」

 

 ……今までよく無事だったな、ディーノ。

 

「好奇心で聞きたいんだが、今までパーティーとかでパートナーをエスコートした経験はあるのか?」

「急にどうした? まぁいいけどよ……。もちろん、あるぜ。つっても、最近はねぇな。ガキの頃、よく相手のドレスにジュース零しちまってよ。今でも嫌がられてんだよなー」

 

 私だってそれは嫌だな。せっかく着飾ったのに意味がない。それにそれがきっかけで交流をもったとしても、何度もやられれば、断る口実にわざとやってるようにも思えるし。

 

「オレと違ってロマーリオは人気なんだぜ! ロマーリオと一緒に居る時はキャーキャー聞こえるからな。オレはパートナー見つからねーのに、正直羨ましいぜ」

「羨ましいという割に、嬉しそうだな」

「へへっ、まぁな。それもあって今はロマーリオと一緒に出てんだ」

 

 部下が居れば体質が改善されることに気付いた人も居るが、その流れでロマーリオがいれば良い雰囲気にはならないことも気付いてしまうんだろうな。……ディーノが残念すぎる。

 

「とりあえず有意義な情報だった」

「ん? それは良かったぜ」

 

 しばらくディーノの周りは安泰ということを脳内にメモっているとディーノが私の頭を撫で始めた。

 

「ディーノ?」

「あ! やっちまった……」

「まぁ他の生徒や先生に見られてないなら大丈夫だろ」

「おっ、それは良いこと聞いたぜ!」

 

 どれだけ私の頭を撫でたかったんだ……。とりあえず、頭を撫で続けるので「安全運転」とツッコミを入れた。

 

 

 

 知識通り、大きな家だ。これを借りるのにどれぐらいかかるのだろうか。……感心しているのは私だけのようだ。ディーノは場所があっているかの確認をするだけで、家自体には反応していない。金持ちめ!

 

 八つ当たりでポフポフ殴っていると、扉が開いた。車の音というより、この時間に来るとわかっていたのだろう。……彼女は正装だったから。

 

「お待ちしてました」

 

 ディーノと目で会話し、何事もなかったように姿勢を正し挨拶した私達は家にお邪魔した。

 

 部屋に入ると白蘭とγが居た。彼らが立っている前の席にユニが座るのだろう。ユニの対面に椅子は1つしかなかった。ディーノが来るのは見えてなかったのか?

 

「その悪いがもう1つ椅子を……」

「いや、そのままでいいんだ」

 

 ユニを見るとニコリと微笑んでいる。どうやら最初からディーノが座る気がないとわかっていたらしい。

 

 私が席に座ると同時に白蘭が話かけてきた。

 

「や♪ サクラちゃん会いたかったよ♪」

「白蘭! 姫の邪魔をするな!」

 

 ……やりにくすぎだろ。なぜこの中でユニは過ごせるのだ。不思議である。そしてディーノも静かにピリピリするな。そっちの方が怖いから。

 

「今日は桂じゃなくて、跳ね馬ディーノがサクラちゃんのナイトなのかな?」

「ああ。そうだ」

 

 軽く溜息を吐き、私は振り向く。ディーノのことだから気付いているはずだが、視線は合わない。

 

「ディーノ、私は弱いんだよな?」

「ん? いきなりどうした?」

「違うのか?」

「いやまぁそうだが……」

「私もそう思う」

 

 やっとディーノは私を見た。

 

「現に君は何度も守ってくれている。……正直なところ、兄と一緒ぐらい私は君の判断に任せていれば、何とかなると思っている。それぐらい君を信用しているんだ」

「それは嬉しいが……」

 

 まぁこんなタイミングじゃ、素直に喜べないよな。

 

「その君が私でも察するぐらい警戒すれば、私は出来ないなりにも周りに気を配る。だけど、君と違って私は長時間の緊張状態は持たない。集中が切れて弱るのは100%私が先だろう。それだけは念頭に入れて動いてくれよ?」

「……悪かった」

 

 ディーノが纏っている空気が緩む。だから私も肩の力を抜くことが出来た。……ディーノには悪いことをしたなと思いながら、座り直す。

 

「すまない、待たせた」

「いえ、ありがとうございます」

 

 チラッとγに視線を送る。白蘭に対して警戒を解いていないだろうが、少しはユニの心労を減らすことには成功したらしい。

 

「……単刀直入に言うぞ。どこまで見えている?」

 

 ジッとユニに見つめられると、目をそらしたくなるな。別に悪いことをしているわけじゃないのに不思議だ。それでも動かず我慢していると、ユニの目からポロっと涙が落ちた。

 

 大慌てである。

 

「姫!?」

「ディ、ディーノ……大変だ、泣かしちゃった!」

「落ち着けって! こういう時は……」

 

 オロオロするだけで何も出来なかったのは私だけではなかったようだ。誰もがリボーンのようにスマートにハンカチを差し出すことが出来ず、結局ユニが自身の手で目元を拭ったのだから。

 

「すみません。嬉しくって……」

 

 申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、聞こえた言葉に顔をあげる。

 

「全てみえたわけではありません。ですが、サクラさんと会って初めて光がみえたのです」

「……ごめん。未来をみれば君の心が痛むと知っていたのに、無理をさせた」

「いえ、感謝の気持ちしか浮かびません。サクラさんと会えてよかったです」

 

 そう言ってユニが笑ったのでホッと息を吐く。私はユニが思っているような良い人ではないが、私がいれば安心できるならそれでいい。

 

「綱吉クン達と組むってことでいいのかな?」

 

 聞こえた声に反応し顔を向けると、いつの間にか隣のテーブルの椅子に座り、白蘭はマシュマロを食べていた。

 

「白蘭!!」

「ん〜、ちがった?」

「違いませんよ、白蘭」

「そっか♪ みんなも食べる?」

 

 またγがイライラしているな。椅子ごと移動しマシュマロを勧めはじめた白蘭の態度が悪いのもあるが、もうちょっとディーノを見習ってほしい。好きな人だからと甘くなっているのもあるだろうが、ディーノは私に気をつかわせずに警戒を続けているはずだぞ。試しにマシュマロに手を伸ばしてみる。

 

「大丈夫なのか?」

「問題ない。ディーノは食べないのか?」

「オレはやめとくぜ」

 

 ならば、ディーノの分も私が頂こう。白蘭が他の種類のマシュマロも勧めるのでそっちにも手を伸ばす。ユニは嬉しそうにお茶を入れなおしてくると言って席をたった。白蘭を見張るためにγは残るのか。ついていくと思ったのに。……ユニに嫌われたと思ってるのもあるのか。

 

 チラッと視線を送れば、私の行動にあきれていたのか溜息を吐かれてしまった。

 

「お前らは変わってねぇんだな……」

 

 γの呟きに思わず鼻で笑ってしまった。

 

「喧嘩売るとは上等じゃねーか」

「売ったつもりはないぞ。君達と違って私とディーノは一緒に未来で過ごして戻ってきたんだ。一方、君達は記憶と経験だけ。だから君が彼女に未来と同程度の距離感を求めるのは酷だなと」

「……お前に何がわかる!」

「私は未だに兄との距離感を掴めてないぞ? 大切で好きだから臆病になるのはおかしな話ではないだろ」

 

 頭を撫でられ、大丈夫だという意味でディーノに視線を送る。それでも彼は手を止めなかった。

 

「まだ私と兄は今まで過ごしてきた月日という実績があるから楽だ。今までの関係から新しい関係を築けるからな。君達はゼロからなんだぞ? ……下品で極端な話にはなるが、今の君は記憶と経験があるからといって、初心者の彼女に肉体関係を迫っても問題ないと思っているように取らえられても仕方がないぞ」

「犯罪だね♪」

 

 それを白蘭が言うのかよ。思わず笑ってしまった。

 

「そんなつもりは……!」

 

 下品な話をし始めたところで、ディーノの手が止まったな。まぁこれは多分私がそんな内容を口にしたからではないと思うが。

 

 案の定、ディーノはγに声をかけた。

 

「……γ、追いかけた方がいいと思うぜ」

「真っ赤な顔をしたユニちゃんが走って行っちゃったね♪」

「ナンテコトダ、キカレテシマッタヨウダ」

「なにっ……姫!!」

 

 行ってらっしゃいという感じで白蘭と一緒に手を振れば思いっきり睨まれた。あれれー?おかしいぞー?

 

「ったく、他の例えはなかったのかよ……」

 

 叱りながらも彼は再び私の頭を撫でてくれた。素直に褒めてもらえるとは思えなかったし、ユニが部屋に入ろうとしたところを見て下品な話をし始めたのもあり、説教は大人しく聞いた。

 

 説教が終わってもγ達が帰ってこないので、ディーノに座れば?と声をかける。私が再び白蘭と一緒にマシュマロを食べはじめたのも後押しになったのか、ディーノも椅子を持ってきて座りマシュマロに手を伸ばした。

 

「サクラちゃん、さっきのってさ〜。偶然? それとも狙って?」

「その場の流れ。ユニがみえてなかったから出来た」

 

 みえていれば、お茶を入れなおさなかっただろうし。

 

「君が止める可能性もあったけどな」

「あはは。サクラちゃんは僕のことをどう思っているのかわからないけど、僕はそんな野暮なことしないよ♪」

 

 ニッコリと白蘭が笑う姿はウソっぽいと思うのは仕方がないことかもしれない。悪い意味でその記憶が私達にはあるのだから。

 

「ユニのため?」

「そう。ユニちゃんのため♪」

 

 なんてウソっぽい本心なんだ。もちろん本心なのでツッコミしない。

 

「お前らってまともに話すのは初めてだよな?」

「ん」

「それにしちゃぁ……」

「僕と桂があうからね。サクラちゃんとあっても不思議じゃないのかな?」

「なるほど」

「まっ適当だけどね」

「適当なのかよ……」

「うん♪」

 

 ディーノが白蘭とのコミュニケーションに困ってそうなので、ヒントを出す。

 

「多分白蘭の性質はツナと似て、性格は兄の方が近い気がする」

 

 相手を無駄に苛立たせるところとか、世界は自身を中心にまわっていると考えるナルシストなところとか、自分のペースに巻き込もうとするところとか。……好むかは別として、コツさえわかれば会話は出来るはずだ。

 

 多分未来の白蘭は後天的であると言われている性格の、世界は自身を中心にまわっていると考えるところが行き過ぎた結果だと私は思ってる。

 

 そして兄は持って生まれたとされる気質が狂わされ、私と触れて後天的である性格が正しく機能し始めたと考えている。

 

 後天的だから私を忘れてしまい、私を忘れてしまったため正しく機能して今まで培ってきた性格も一緒に消えてしまった。そして狂わされている性質の部分しか残らなくなった。……私はそれでもう結論づけた。兄と一緒に居ることに、これ以上考える必要はないから。

 

「ユニちゃんが綱吉クンと僕が似ているっていう意味、なんとなくわかったかな」

「そう」

「なんとなくだけどね♪」

「ちなみに兄なら『なんとなくわかったよ!』って威張る」

「……よーく、わかったぜ」

 

 今回の例えは良かったようだ。だが、褒めてくれなかった。これは私は悪くない。間違いなく、普段からディーノを振り回す兄が悪い。

 



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隠された言葉

 私と白蘭がくだらない話を続け、ディーノが疲れ始めたころにγとユニが一緒に戻ってきた。新しいお茶を入れてきてくれたようで有り難くもらう。口の中はマシュマロで甘ったるく、この部屋の空気も甘ったるくなったからな!

 

 帰ってすぐに白蘭がγをイジっていたが、その度にユニと目で会話するので、流石の白蘭もやめた。面白くないからと言っているが、ユニが幸せだとわかったからだろう。

 

 ちなみに私とディーノはその間静かにしていた。多分ディーノは空気を読んだからだろう。白蘭の性格は掴んだみたいだし。私はただ爆発しろと言いそうなので黙っていただけである。

 

「サクラさん」

「ばく……なんだ?」

 

 危ない、危ない。γならまだしもユニに向かってツッコミするところだった。

 

「お待たせしてすみません」

「謝る必要はないぞ。煽ったのは私だし」

 

 自身に言い聞かせるように何度も頷く。……ちくしょう、爆発しろ!

 

「ありがとうございます」

 

 ユニの笑顔を見ていると、心が洗い流されていく。……如何に自身の心が狭いんだ。反省。

 

「サクラさん、ありがとうございます」

 

 ユニは笑って言った。私にはわかった。同じようで、先程とは違うこと……。恐らく、みえたのだ。そして声をかけれなかったのだ。だからユニは笑顔をつくって、この言葉を使った。

 

「ユニには無理をさせたから、サービス。γが無茶をする可能性を私は知っていたから」

「あはは。ヤケになったんだ」

 

 白蘭が煽ったがγは何も言い返せなかった。γ自身も心当たりがあったらしい。まぁ裏でコロネロと組んでいるので、そこまで家光がするとは思えないが。ここでもし白蘭が戦線離脱するのは痛手だからな。

 

「まぁそれでもユニが気にするなら、この件が方がついてからでいいから、頼みを聞いてほしいな」

 

 ちゃっかり要求してしまった。どっちにしろ、ユニに会いに来た目的の1つだからいいか。

 

「私はオススメしません」

「……オススメ、か」

「はい」

 

 はっきり返事したユニを見て、出鼻をくじかれてしまった。ユニの言い方だと恐らく私がもう一度頼めば、頷いてくれるのだろう。だが、ユニがオススメしないと助言した。

 

 ぐるぐると考え込んでいると、ガシッと頭を掴まれ無理矢理顔の向きを変えさせられた。……ちょっと痛かったので文句を言おうとしたが、顔を見た途端に押し黙るしかなかった。

 

「オレの言いたいことはわかるな?」

「……スイ」

「何をしようとして悩んでるんだ」

 

 ……今、語尾が疑問系ではなかったぞ。

 

「えーと、うん。ディーノに相談してから頼むことにするから、一度先程の話はなかったことに」

「はい。わかりました」

 

 これでいいんだよな?とチラチラとディーノに視線を送る。白蘭が面白そうにニヤニヤしていたり、γが呆れたように溜息を吐いているが無視だ。今の私はディーノの怒りを鎮める方が最優先なのだ。

 

 ディーノは仕方なさそうに笑ってから頭を撫でてくれたので、判断は間違ってなかったようだ。ホッと息を吐く。

 

「ところでさぁ、ヴェルデチームの弱点ってサクラちゃん知らない?」

 

 白蘭の一声で空気が変わる。特にγからは知ってることをすべて吐けという視線を感じる。

 

「……正直なところ、よくわからない」

「まっそうだよね。知っているなら、僕なら同盟の交渉に使っているもん」

 

 その通りだという意味で大きく頷く。

 

「そして厄介なのが、恐らく骸が一番私の力を警戒している」

「どういうことだ?」

「ツナに同盟の話を断った数日後、私にも接触し断るとわざわざ伝えにきた。私の出方を見ようとしたのだろう」

「骸クン達の新兵器をどこまで知ってるか、確認しようとしたんだ」

「そういうこと。一応、彼らの奥の手を知っているが、君達では厳しい。兄なら問題ない可能性が高いけどな」

 

 溜息が出てしまう。本当に厄介なのが敵にまわってしまった。

 

「ちなみに桂だったらどうするんだい?」

「すぐ治す」

「またなんつーか……」

 

 ディーノが思わずツッコミたくなるのは当然だろう。ただの力技である。それに奥の手と相性がいいだけであって、そもそも兄は術士との相性が良くない。術士というだけなら圧倒的に私の方が相性がいいだろう。……最初に骸と対峙した時はギリギリとしか思えなかったんだけどな。今となっては確認しようがないが、私の負担が少ないように徐々に解放されていったのかもしれない。

 

「その前に、兄は別件で動いているから代理戦争には参加出来ない」

「そこだ。アイツは何をしている。それに同盟を組んだオレ達になぜアルコバレーノの呪いの解き方を教えない」

「γ」

「ですが、姫……」

 

 今まで誰も聞こうとしなかったのは、やはり私に気をつかっていたからか。

 

「話さないのではなく、話せない。でもユニが光を見たんだ。このまま行けば整う」

「サクラちゃんは、僕達にこのまま代理戦争を続けてほしいってことでいいのかな?」

「出来ることなら」

「んーでも僕達は骸クンにまた狙われるかもしれないし。どうしよっか、ユニちゃん」

「……続けます。それしか道はないのです」

 

 決まったな。それだけユニの言葉は重い。そして確信する。2日目に復讐者と接触するのがベストってことを……。

 

「無理だけはするな。それとユニの言葉を信じていれば大丈夫だ。帰るぞ、ディーノ」

「……ああ」

 

 急だったが、ディーノは怒ってないようだ。非常に助かる。

 

 私達が車に乗り込むと、ユニ達が外に出ていた。見送ってくれるらしい。

 

「今日はありがとう。助かった」

「いえ。サクラさん、ディーノさん、お気をつけて」

「ん」

「ああ、任せろ」

 

 返事をしたディーノが車を発進させようとした時、私は口を開いた。今言わないとダメだと思ったのだ。

 

「白蘭!」

 

 ディーノはそのままアクセルを踏んだ。私も気にせず声をかける。

 

「今回来れなかっただけで、兄は君に対して怒ってるわけじゃないから! 私も君が悪夢から抜け出せて、良かったと思ってる!」

 

 白蘭からの返事はなかった。でも驚いた顔を見れたから十分である。満足した私はディーノを盗み見る。

 

「停車させれば、お前は桂のことしか言わなかっただろ? 隠れる場所はねーしな」

「……そうかも」

 

 助手席でシートベルトをした状態なのだ。言い逃げも出来ないし、素直に伝えられるとは思えない。……なんだかディーノに見透かされているようで、恥ずかしい。

 

「で、ユニに何を頼もうと思ったんだ?」

 

 私の中で甘い空気が流れていたのだが、一瞬で冷めた。プイッと横を向く。……もう少し余韻があってもいいじゃないか!

 

「あのなぁ、少なくともユニが薦めないんだ。話せないならまだしも、話せるなら1人で抱え込もうとするな。オレが嫌なら桂にちゃんと相談して決めるんだ。な?」

「別にディーノに相談するのが嫌と思ってるわけじゃないぞ!?」

 

 慌てて否定する。スネただけで相談する気はあった。私の必死さが伝わったのか、ディーノは頭を撫でてくれた。

 

「それに少し冷静になったから……。迷った時点で私は軽い気持ちだったんだと思う。覚悟もなくユニに頼む内容じゃなかった」

「そうか」

 

 未だに頭を撫で続けるのは慰めてくれているんだろうな……。

 

「……予知が出来るようになれば、助かるだろうなと思ったんだ」

 

 ディーノの手が止まった。盗み見してもディーノは当然ながら真っ直ぐ前を向いて運転しているので、何を考えているかわからない。なぜか言い訳するように、また口を開く。

 

「今までも、もっとちゃんと使えていればと何度か思ったし、上手く使えないとまた眠れないことになるかもしれないし……」

「お前が決めたことにオレは反対しない。どっちを選んでもフォローするから、じっくり考えればいい」

 

 よしよしと頭を撫でられ、私は大人しく頷いた。今まで過ごした時間が彼ならどちらを選んでも本当にフォローしてくれる証明しているから。

 

「そういえば、ディーノ」

「ん? どうした?」

 

 あからさまな話題変更だったが、彼はのってくれた。

 

「なんで教師になったんだ?」

「何も聞いてこねーから、てっきりオレは教師になっていたと思っていたが、違うかったのか」

「いや、ごめん。言葉が悪かった。私の知識でも君は教師になっていたぞ。ただ代理戦争がはじまって、ツナ達のそばにいないとフォロー出来ないという理由だったから、本来より早くて気になった」

「そういうことか」

 

 チラッと視線を送る。納得してくれたようだが、答えてはくれない。

 

「教師に拘ったわけじゃねーんだ。リボーンの案が一番都合が良さそうだったから教師になった感じだな」

 

 知識でもリボーンの提案で教師になったから、流れは一緒になったのか。

 

「で、仕事が多くて上手く動けない感じなのか」

「そうでもねーよ」

 

 思わず首を傾げる。休憩時間に顔を出しているからわかる。ディーノはいつも忙しそうなのだ。私がいれば、効率が良くなり片付けられている感じだぞ。自由に動く時間はないはずだ。ロマーリオが学校に進入していれば話はわかるのだが。

 

「本音を言えば、放課後も手伝ってほしいけどなっ」

「……少しなら」

 

 視聴覚室の備品のチェックぐらいなら手伝えるはずだ。ディーノが教師になるタイミングはズレたが、私の記憶ではまだこの仕事は頼まれていない。知識通り、明日の放課後に頼まれるのだろう。

 

「ありがとな」

 

 再び頭を撫でられ、ついに私は「安全運転」とツッコミをいれた。

 

 

 

 無事に家に着いたが、ディーノ1人では帰れない。事故を起こすからな。ロマーリオには連絡を入れていたが、まだ来ていないようだ。

 

「お茶でも飲んでいくか?」

「今日は遠慮するぜ」

 

 なぜ今日に限って断るのだ。自ら死亡フラグを立てるなよ。

 

「オレのことは気にせず、入っていいぜ。ロマーリオが近くにいるからここで待ち合わせなんだ」

 

 流石、ロマーリオだ。間に合わないと判断し、先手を打っていた。

 

「じゃ、遠慮なく」

 

 安心して私は家に帰ったのだった。

 

 時間が時間なので私服に着替える気はなかった。制服のままベッドに飛び込む。

 

「このまま進む……」

 

 多分また怒られると思う。でも話したくても話せない。第8の属性の炎のことを話せば、十中八九ユニが見えた光が消える。

 

 窓を叩く音がして、顔をあげるとヒバードが居た。慌てて起き上がり窓をあける。

 

 ここ数日は校門を出る時ぐらいに頭に乗ってくる。今日はディーノと一緒に車で出たから、もしかすると探していたのかもしれない。よく考えると応接室で雲雀恭弥とあった時、見なかったし。

 

「……ごめん」

 

 私の言葉にヒバードは首を傾げた。私の勘違いならそれでいい。とりあえず部屋に入れよう。暖房がそろそろきいてくるはずだ。

 

 手を出せば、ヒバードは嫌がることもなく指に乗った。窓を閉めていると、ディーノがまだ家の前にいることに気付いた。

 

 ロマーリオの姿もある。なぜ出発しないんだろうかと思っているとディーノは電話しているようだ。車の中ですれば寒くないのに。

 

 電話をしているだけなのに絵になるなと思っていると、ディーノと目があった。なんとなく手を振る。ディーノも振り返してくれたので邪魔じゃないはずだ。まぁこれ以上は邪魔だろうと思ったので窓から離れようとしたが、ディーノが電話を切った。

 

 おやすみ。

 

 多分そう言ったと思う。だから私も「おやすみ」と返した。ディーノはフッと笑って、車に乗り込んだので間違ってなかったようだ。単純思考かもしれないが、今日はいい夢が見れそうだと思った。

 

 ヒバードに餌をあげた後、もう一度寝転ぼうかと思ったところで、一階が騒がしくなる。父が帰ってきたのだろう。つまりご飯の時間だ。

 

 

 もぐもぐと口を動かしながら思う。やはり兄が居ないと寂しい。

 

「サクラ」

「ん」

「さっきのは誰なのかな?」

「さっき?」

 

 父にしては曖昧な表現である。私は口を動かすことで忙しいので要件は手短で頼む。

 

「家の前に停車していた車に乗った男と知り合いと思ってね」

「ああ。ディーノのことか。知り合いだぞ」

「ディーノ? 外国人なのかな?」

「あら? お父さん、ディーノ君と会ったことはなかったかしら?」

 

 会うタイミングがないだろ。父は基本帰ってくるのが遅い。余程のことがない限り、ディーノは私を夜遅くまで連れ回さないし。まぁ心の中でツッコミするだけでディーノの説明は母に任せる。私は食べるのに忙しい。

 

 母の説明だけ聞けば好青年だな。それだけディーノは欠点が少ないのだ。……私か部下が一緒に居れば。

 

「そういえば、桂から何度か聞いた名だったよ。彼がそうだったのか……。しっかりと顔を見るべきだったよ」

 

 父に視線を向けられたので、首をかしげる。何か聞きたいことでもあるのだろうか。

 

「サクラはどう思ってる?」

 

 また曖昧な表現だな。思わず眉をひそめる。

 

「……どうって?」

「お母さんが話すような人なのかな?」

「間違ってはないぞ。ただお母さんが知らないだけで彼は厄介な体質持ちだからな。残念度も高い」

 

 体質のことを聞かれたので仕方なく教える。なかなかご飯が進まない。

 

「あら? でもお母さんはディーノ君の部下と会ったことはないわよ?」

「私でも可。理由は不明」

「彼の部下を除いては、サクラ以外はいないのかな?」

「多分」

 

 父は眉間を揉み始めた。ディーノの残念すぎる体質に頭が痛いのかもしれない。

 

「ディーノ君って若いのに部下がいるのねー」

「というか一番偉いぞ。だから究極のボス体質と言われてる」

「まぁ! もしかして社長なの?」

「ちょっと違うけど、そんな感じ」

「年収はどれぐらいあるのかな?」

 

 なんだろう、父の質問がちょっとズレてる。

 

「知らない。でもまぁホテルのスイートルームに連泊しても問題ないみたい」

「スイートルーム!? サクラちゃん、入ったの!?」

「んーん。ホテルに入るだけで緊張するからヤダ」

「もったいないけど、その気持ちもわかるわー」

 

 今日は珍しく母と話が合う。いつもは父の方が合うんだが。まぁせっかく合うので、母にプライベートジェット機に乗った時のことやディーノの家で過ごして驚いた話をする。

 

 母は私と一緒で考え方が庶民的なのだろう。同じように驚いて話を聞いていた。だが、父は眉間にシワを寄せていたので、うるさかったようだ。食事中なこともあり、母と一緒に謝る。

 

「……少し考え事をしていただけだよ。桂と一度じっくり話をするべきかなって」

「ん? お兄ちゃん?」

「桂に任せっきりなところもあったからね。今思うと引っ越してからサクラと出かける回数が減っていたね。来年からは仕事の量を減らして土日は家に居ることにしようかな。どこか行きたいところがあるなら、お父さんに言うんだよ」

 

 行きたいところと言っても、基本私は引きこもり体質だしな。それに疲れてる父を誘うのは気がひける。どうしても行きたいところがあれば、兄かディーノに言えば連れて行ってくれるし。

 

「サクラ、お父さんに言うんだよ?」

「え。あ、うん」

 

 念を押されたが、当分何も浮かばないだろうなと思った。来年は受験生だし。



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放課後

リクエストの小話作品を話に繋がるよう若干修正し、文字数を増量しました。
これに伴い、小話から「放課後」を削除しました。


 朝はヒバードの校歌で起こされ、学校に行けば休憩時間はディーノの手伝いをし、授業中は知識と違って時間がズレないかドキドキしていると放課後になっていた。……これは精神的にかなり疲れるな。

 

 ディーノに後で行くと口パクし、教室から追い出す。気にはしてそうだが、流石にずっと待つことは出来なかったみたいで職員室に向かった。

 

 ゆっくり時間をかけて片付けをし、ツナ達にはディーノの手伝いをすると言って別行動を促す。ツナ達が帰ったのを確認してから、やっと私は笹川京子に接触できた。

 

「クロームの様子を見に行くんだろ?」

「うん。そうだよ?」

「じゃ、もう一度『しっかりしろ』と伝えて」

 

 私の言葉を聞いて、不安なのだろう。笹川京子の瞳が揺れた。

 

「彼女は気付かないフリをしているだけで、恐らく自身の中でもう答えが出ている」

 

 きっかけさえあれば、ヴェルデの作った装置が無くてもクロームは自身の力だけで内臓を補えるはずだ。

 

「だから私からの助言は『しっかりしろ』だ。それしか言えない」

 

 リボーンの助言を私から伝えるのは違うのだ。リボーンの立ち位置だからこそ、あの助言が生きてくる。だから私はこの言葉を選んだ。

 

「ありがとう! クロームちゃんに伝えるね! 絶対!」

「ん。頼んだ」

 

 笹川京子は走って帰っていった。恐らくクロームに何かあったと察して、アパートに向かったのだろう。

 

 丸投げしたのは悪い気がするが、最初の助言した時に一緒に聞いた笹川京子から伝えてもらうのが良いと思ったのだ。

 

 さて、ディーノと合流するか。

 

 

 

 

「頼む!!」

 

 廊下でクラスメイトに頭を下げられ遠い目をしたくなる。人通りがないところで本当に良かった。まぁ彼はいつも人目を避けてるので、そのことについては心配していなかったが。

 

「この前もいったけど、今は忙しいから」

「オレはいつでもいいから!!」

 

 本当にいつでもいいなら、考えてあげてもいいだろう。普段の私なら絶対に断るが、彼が本気で言ってるとわかっているため、1度ぐらいなら付き合ってもいいかと思い始めたのだ。……け、決して、しつこくてこれ以上相手にするのが面倒になったわけではないぞ。

 

「一ヵ月後でも?」

 

 ガバリという音が聞こえそうなぐらい勢いよく顔をあげ、キラキラした眼差しを向けられる。若干だが、後ずさってしまった。

 

「く、詳しく決まったら声をかけるから」

「サンキュ!!」

 

 嬉しそうに手を振りながら去っていくクラスメイトを見ながら思う。用が終われば、すぐ帰るのかと。

 

 はぁ。と軽く溜息を吐き、頭を切り替える。1つ悩みのタネがなくなったから良しとしよう。

 

 今度こそディーノと合流しようと思ったが、カギはまだ開いていなかった。少し早かったらしい。

 

「わっ!?」

 

 扉にでも持たれて待っておこうと思って振り返えれば、目の前にディーノが居た。あまりにも驚きすぎて声だけじゃなく肩もビクッとなった。

 

「……ディーノ?」

 

 いつもの彼ならすぐに謝ってくるはずなのに、ジッと廊下を見ているので気になった。何かあるのだろうか。

 

「さっきのは?」

「数日で全員の顔は覚えれないか。クラスメイトだぞ?」

 

 ディーノは私がいればドジを発動しないので、私のクラスの顔は1度で全員覚えてる可能性もあるかもしれないと考えていたが、流石にそこまで万能ではなかったらしい。

 

「いや、それは覚えているが……」

 

 そういう意味じゃなかったようだ。では、どういう意味だ。私がツナ達以外と話してることがそんなに意外なのか。まぁ自身でも意外と思ってしまったので、その線はないだろう。……なぜかむなしくなった。

 

 まさか、会話を聞いて勘違いしたのか?

 

「兄を紹介してくれって言われただけ。いつものこと」

 

 そんなわけがないだろうと思いながらも、きっちりと否定しておく。ディーノに勘違いされるのは嫌なのだ。

 

「だけど、どうしてお前が……」

 

 ディーノが途中で言葉を切ったので首をひねる。彼はまた廊下を見ていた。

 

「隠れるぜ!」

「は?」

 

 私を置いてけぼりにして、ディーノはガチャガチャと視聴覚室のカギを開けた。備品の点検をする予定だったはずだからカギを持ってるのは理解できる。だが、なぜ私をそこに押し込むのだ。

 

「うわわぁ」

 

 情けない声が出た。だが、私は悪くないはずだ。ディーノの力で押し込まれれば、どうなるかすぐに想像できたはずなのだ。

 

 現に私は今、ヘッドスライディングする勢いで倒れそうである。

 

「いっ!」

 

 床と激突する前に、腕を引っ張られる。気付けばディーノの腕の中に居てヘッドスライディングは避けられた。が、助かるためには腕に負担がかかったようだ。ちょっと痛かった。

 

「すまん」

 

 耳元で謝られビクリと肩がはねた。

 

 ……そうだった。ディーノの腕の中に居るということは、抱きしめられているということなのだ。

 

「デ、ディーノ……!」

 

 心臓が持たない。だから離してくれと意味で声をかけ、身じろぐ。

 

「シッ。動くな」

 

 ディーノはいつも通り私に言い聞かせようとしたのだろう。何か危険が迫ってると理解しているため、小さな声になるのもわかる。だが、今の状況を忘れてないでほしい。囁きボイス……!

 

 こうかは ばつぐんだ!

 

 ビシリ!と私は動けなくなった。こんなにも人間は動けなくなるものなのかと関心してしまうレベルである。そして図らずも私の弱点を狙ったディーノは、私が言うとおり動きを止めたと思ったらしく外の気配を探っていた。

 

 そのことにイラっとしたが、私は自分の意思では動けないので何も出来ない。それでもディーノが気にしてる外の音は拾うことはできた。

 

 ……誰かが歩いている。

 

 近づけば近づくほど、ディーノが抱きしめる力が強くなっている気がする。

 

 何分たっただろうか。数十秒だったかもしれない。だが、足音が遠ざかるまで時間が狂ったように長く感じた。

 

「ふぅ、もう大丈夫だぜ」

 

 いつものディーノの声に……声量に、呪縛が解けたかのように私は動き出す。正しくは力が抜けて、ずるずると座り込むように落ちていく。

 

 だが、私は床に座ることはなかった。当然だ、ディーノはまだ私を抱きしめていたのだから。

 

「おい!? 大丈夫か!?」

 

 ウソでも大丈夫とは言えなかった。だからなのか、私はディーノの腰周りの服を握ってしまった。

 

「……すまん。咄嗟に隠れた方がいいと思っちまったんだ。あいつ、代理戦争の件でピリピリしててよ。オレだけが出て上手く流せば良かったな……」

 

 どうやらあの足音は雲雀恭弥だったらしい。ディーノは外に出なくて正解だったと思う。彼は代理戦争中だからピリピリしてるわけではないからな。彼が怒ってるのはディーノに対してだけだ。なぜならディーノが雲雀恭弥の師匠という噂が生徒内で流れ始めているからである。この後、雲雀恭弥はディーノが宿泊しているホテルに乗り込むんだろうな。

 

 ……昨日のヴァリアーといい、ズレているはずなのに、知識と同じ流れになるのが凄い。予定調和なのだろうか。

 

 それにしても本当に見つからなくて良かった。あの状況で扉を開けられたら、上手く言い訳できるとは思えない。

 

 特に今はディーノは教師なのだ。彼の前で教師と生徒が抱き合ってるなんて、処刑ものである。いくら彼が私に甘くなったと言っても、許してもらえそうにないレベルの風紀の乱れだろう。

 

 …………。

 

 ボッと顔から火が出そうだ。教師と生徒が抱き合ってる。それも放課後に。いつも以上に意識してしまう。

 

「……なぁ、どうしてお前が紹介する必要があるんだ? 桂はいつでも話しかけられてもいいようにしてるんじゃないのか?」

「もう一度話したらしい。でももっと真剣に話を聞きたいんだって。将来、パティシエになりたいみたい。だから協力してもいいかと思えた」

「……そうか」

 

 上手く話せているのだろうか。私の心臓の音がディーノに聞こえないか心配だ。

 

「将来か……」

 

 ポツリと呟いたディーノの言葉で思った。私の将来に、彼と一緒に居る道はあるのだろうか。顔をあげれば、ディーノと目が合った。

 

「……見るな」

 

 すぐに耐え切れなくなって、目を逸らす。顔の熱がおさまらない。すると、ディーノが喉の奥で声を押し殺すように笑った。

 

「……君が笑えば、私の身体に響くんだが」

「悪い悪い。可愛いなと思ってよ」

 

 これが大人の余裕なのか。妙に腹が立ち、服を掴んでいた手で肉を摘む。といっても肉があまりないので皮を掴んだ気がするが。

 

「いっ!」

 

 今度は私が声を殺すように笑う。

 

「やったな……!」

「きゃっ」

 

 ディーノに身体を支えられてるのをすっかり忘れていた。仕返しに左右に揺らされた。……ちょっと楽しい。ディーノも一緒に揺れているので、楽しいのか笑っていた。

 

 だが、ふとした拍子に私達は我に返った。

 

『…………』

 

 そっと離れる。ディーノの顔を直視できない。多分、彼も似たような気持ちになってる気がする。

 

 こ、これは恥ずかしい……! 子どもに戻り過ぎた!

 

「デ、ディーノ! さっさと備品の点検をするぞ!」

「お、おう」

 

 くそっ、手伝うと約束するんじゃなかった。逃げ出したい。黙々と確認していれば、この空気に耐えられなかったのか、ディーノが話しかけてきた。

 

「ほんと助かるぜ。今日はこれをやったら終わりなんだ」

「それは良かったな」

 

 確か知識では一時間後にツナ達とホテルで待ち合わせだったはずだ。担任の仕事が増えたが、休憩時間に私が一緒に居ることで同じ時間に終わるようだ。これも予定調和なんだろうな。

 

「お前のこの後の予定は?」

「家に帰る」

 

 ……ウソではない。一度家に帰って着替えるからな。ただ騙している気分になり、会話を続けることが出来ない。

 

「なら、時間があるんだろ。進路相談するか? そろそろ決めねーとまずいんだろ?」

 

 うぐっ。ディーノが担任になったせいで、希望高校の欄が空白だったのがバレている。……将来という言葉で目があったのはそういう理由か!

 

「大丈夫。成績があがってきているのもあって、時間を貰ってるから」

 

 本当に不思議な話だが、ドタバタしているはずなのに成績は徐々にあがっているのだ。それにディーノを手伝っているから、内申点も多分あがってる。いろんな先生に名を覚えられるようになったし。……まぁそれは雲雀恭弥の影響もあるけどな。

 

「心配しなくても、この件が終わればちゃんと考える」

 

 真面目に教師をしているディーノには悪いが、まずは今日を乗り切らねばならない。話はそれからだ。……約束したし、クラスメイトの件は先に兄に伝えといておこう。

 

 パンパンと埃を落とすように手を叩く。話しながらも手を動かしていたので備品の点検は無事に終わった。

 

「じゃ私は帰るから」

 

 逃げるように去ろうとしたが、ディーノは私と違ってスペックが高い。空を切ることもなく、簡単に私の腕を掴んだ。

 

「……なんだ?」

「大丈夫だ。なっ?」

 

 安心させるようにディーノは私の頭を撫でた。廊下に出ると出来なくなるから捕まえたようだ。

 

「ん。ありがと」

「ああ。またな」

「また」

 

 今度は止められなかった。少し名残惜しく思いながらも、私は視聴覚室前でディーノと別れたのだった。



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それぞれの思惑

 着替え終わって出掛けるのはいいが、ヒバードはどうしようか。こんなことになるなら、鳥カゴを買っておくべきだったな。雲雀恭弥が用意したものに無かったのが悔やまれる。

 

「ついてくるなよ?」

 

 コテンと首を傾げるヒバード。可愛い。……危ない。可愛さに本来の目的を忘れるところだった。おそろしい子!

 

 動くなよ、動くなよと念じながら部屋を出る。……ヒバードのスペックは普通だったようだ。ホッと息を吐く。

 

 家から出る前に、キョロキョロと周りを見渡す。誰も居ないことを確認して、一歩踏み出せば頭に何かが乗った。それも上機嫌なようで校歌を歌っている。

 

「……そうだよな。雲雀恭弥が飼っている鳥だよな。普通のスペックじゃないよな」

 

 遠い目をしながら堂々と歩き出す。いろいろと私は諦めた。

 

 

 

 

 無事にシモンファミリーが今住んでいる民宿についた。知識では料理をしていたし、シモンはこの民宿ごと借りているのだろうか。謎である。

 

 まぁ今は関係ないのでチャイムを鳴らそう。私がボタンを押そうとしたところで、時計のアラーム音が聞こえてきた。まだ時間はあったはずだぞ!?

 

 ……舞台を整えたつもりか、チェッカーフェイス!

 

 彼は復讐者が飛び入り参加する可能性が極めて高いと思っていた。そして私の話を聞いていれば、狙うならシモンファミリーしかない。だから飛び入り参加者が出てくると気付いているチェッカーフェイスと当事者の復讐者は、シモンと私の接触を警戒していたはずだ。

 

 そして復讐者はシモンを狙うなら、他の参加者がバトルに夢中になっているタイミングで狙うのがベスト。

 

 しかし復讐者が動きやすいようにアラームが鳴るのは、明らかに挑発行為だ。

 

 苛立ちながらも入り口へと手を伸ばす。チャイムを鳴らしている時間がもったいない。ガラッと扉をあけると、武器を構えた状態のシモンファミリーが勢揃いしていた。私の存在に気付いていたのだろう。

 

「サクラ、さん……?」

「ごめん。君達を囮に使った」

「それは……」

 

 古里炎真の言葉の途中でざわりと不快な空気が肌を撫でた。これが第8の炎なのか。……復讐者がやってくる。

 

『バトル開始。今回の制限時間は10分です』

 

 腹が立ったのは事実だ。だが、この展開を予想していなかったわけではない。

 

「お兄ちゃん!!」

 

 私の叫びと共に兄は古里炎真を狙っていた復讐者の鎖を掴んだ。私が見えたのはそこまでだった。それだけ兄が速すぎて音しか聞こえない。シモンも状況を把握したのか動き出したようだ。だが、シモンファミリーは殺される可能性がある。私はすぐに口を開いた。

 

「シモンファミリーは私の案に協力してくれている! 時計がいるなら、渡してもいい! でも私は言ったはずだ! 誰とも敵対する気はない! ……君達は復讐を達成したいんだろ!!」

 

 ゾワっと悪寒が走った。メローネ基地の時とは比べものにならない。しかし、私は逃げなかった。説明するには彼等のアジトに連れて行かれるしかない。

 

「サクラさん!?」

 

 古里炎真の焦る声に反射的に目をつぶる。吸い込まれるように足が浮いた。

 

「させるかよ!」

「うぐっ」

「すまん、痛かったよな」

 

 ……確かにお腹にムチが食い込んでちょっと痛かった。だが、そんなことより声を聞いたことで緊張の糸が切れてしまった。ポロっと涙が一粒落ちる。

 

「復讐者! アルコバレーノウオッチ、ボスウオッチ、バトラーウオッチ、全て揃ってる! これが欲しかったんだろ!?」

 

 ディーノがアタッシュケースを開ける。確かに中身がある。

 

「えっ、誰の?」

「フォンのだ。昨日、恭弥を説得するのは大変だったんだぜ?」

「は? え? というか、なんでこれがいるってわかったんだ? そもそもなんでディーノがいるんだ?」

「質問は全部後で聞くから、落ち着け。な?」

 

 ポンポンと頭を撫でられ、仕方なく口を閉ざす。確かにかなりパニックだったようだ。戦闘が止んでいたことに今気づいた。

 

「桂、いいだろ?」

「……そうだね。君の方が一枚上手だったみたいだしね」

「それは違うぜ。お前はシモンファミリーを守っていたから動けなかったからな」

「サクラの心を守るのは僕の役目だからね!」

 

 なぜディーノは兄がシモンについていると知っていたんだ。バッテリー匣だけでなく、私達は未来で使った手袋を元に、兄の気配を隠す装置も開発していたんだぞ。……恐らくないと思うが、兄に視線を送る。案の定、首を振られた。

 

「さっき桂が言っただろ? お前のそばにいないなら、お前が後悔しないように動いているのは考えなくてもわかるぜ? シモンを囮に使った可能性が出て来た時点で予想がついた」

 

 ……何も聞かなかったのは気遣いではなく、バレバレだからだった。恥ずかしい。

 

「復讐者の協力が必要なんだろ? 今なら話せるか?」

「ここでは出来ない」

「だから桂は止めなかったのか……」

 

 そうなのだ。兄がわざと見逃したところをディーノが私を助けたのである。

 

「こいつと一緒にオレも連れて行くってのは?」

「否」

 

 返事は予想通りだった。元々、彼らは第8の炎のことを知っている私をいつか連れ去るつもりで、代理戦争の参加資格を得るまで後回しにしていただけだ。今はただ手の内を見せずに参加資格を得れる可能性があるので大人しくしているのだ。……ディーノと私の距離が近すぎるのも多少あると思うが。

 

「ユニの言葉があってもか?」

「え? ユニ?」

「……いいだろう」

 

 私の疑問は無視され話が進む。目の前に黒い炎が現れたのでくぐれということだろう。

 

 チラッとディーノに視線を送る。ユニの言葉があるなら彼は行くしかない。

 

「大丈夫だ。な?」

 

 視聴覚室の前で別れた時と同じ言葉だ。彼はその時から覚悟していたのかもしれない。だからいつもより力を込めて殴ることにした。……悔しい。相変わらず全く痛がってないし、パフッという音しか聞こえない。

 

「ディーノ、サクラのことは任せたよ!」

「ああ。炎真達も危険な役を頼んで悪かった」

「……ううん。サクラさん、僕達は聞いていたし怒ってないよ。それに本当は勝つつもりだったから……」

 

 思わず目を見開く。知識よりもシモンファミリーとディーノが良好の関係を築いていたのは知っていた。知っていたが、情報を交換し囮役を買って出るとは思いもしなかった。

 

「……ゴメン。本当にありがと」

 

 復讐者のところへは絶対に行かないといけないとわかっていた。怖かったけど、後はみんなに任せれば大丈夫だと信じて動いていた。まさか私のためにみんなが動くとは思っていなかった。

 

 私の頭上でパタパタと暴れる音がする。……そうだな。最初から1人じゃなかったか。

 

 くそっ、視界が歪む。まだ肝心なところが残っているのに。……パンっと頬を叩く。泣くのは全部終わってからだ。

 

「何も叩くことねぇだろ!?」

「必要だったんだ! いいから行くぞ!」

「待てって! 先に行くな! オレから先に入るから!」

 

 おかしい。先程と違って緊張感がゼロだ。……そして怖くない。

 

「サクラ!!」

 

 聞こえた声に驚き、入る直前に振り返る。聞き間違いじゃなかった。……なんでツナがここに居るんだ。肩で息をしているから急いで来たのだろう。それぐらいしかわからないが問題ない。私の言いたいことは1つしかないのだから。

 

「ツナ、後は頼んだ」

 

 全員でかかればヴェルデも折れるしかないだろう。私がうまく説得出来れば、人数は揃っているし、ユニははっきりと明るい未来がみえるはずだ。後は彼を中心にまとまるだけだ。……不安はない。中心はツナだから。彼に任せれば大丈夫だ。

 

 安心して私は目の前にある炎に飛び込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「サクラ!!」

 

 ツナが必死に伸ばした手は届かなかった。そして同じタイミングで復讐者も一緒に去ってしまう。

 

「どうして誰も止めなかったんだ! ……どうして!」

「サクラがそう望んだからだよ。君も賛同したじゃないか。君達が死なないように進んだ結果さ」

「そんな……」

 

 桂の言葉でツナのハイパーモードが切れる。桂が反対しないはずがないと今更ながら気付いたのだ。それほどツナは頭に血がのぼっていたことを意味する。

 

「もっとも君は情報制限されていたようだけどね」

「え……?」

「ごめん、ツナ君……。僕達も全部知っていたわけじゃないんだ。今日ここにサクラさんが来るのは知らなかったし……」

 

 ツナの必死な姿を見て、実は炎真も驚いていたのだ。そして炎真達も囮役を引き受けたが、詳しいことは何も知らなかった。話の流れで囮役が必要だったのは、サクラが復讐者と接触するためだとわかり、ディーノも一緒だから引き止めなかっただけだった。

 

「見たところ、ディーノも全てわかっていたわけじゃないと思うよ。どうかな、リボーン君」

「そうだぞ」

 

 桂へ返事をしながらもリボーンは空から綺麗な着地を見せた。

 

「お前……いつの間に」

「オレだって、おめーらのお守りをしながらいつでも動けるようにしていたんだぞ」

 

 ツナより到着は遅れたものの、ハイパー化したツナについてきていたことを考えれば嘘ではない。

 

「しかしまさか今日だったとはな……」

 

 やられたとリボーンは腕を組む。もっとも味方と思っていた人物に誘導されたのだから仕方がないとも言えるが。

 

「リボーン、説明しろよ!」

「オレ達は復讐者が乱入する可能性が高いとはわかっていたんだ。サクラが接触したがってることもな」

「なんで止めなかったんだよ、リボーン!!」

「止める気はなかったぞ。……ただ、あいつらを抵抗できねーようにしてからのつもりだった」

 

 ツナはリボーンにも予想外の事態が起きているとわかり、一瞬言葉が詰まった。その間にリボーンは炎真に家を使っていいかと確認する。この状況で断れるはずもなく、炎真は家へとあげた。

 

 席についたところでツナは再びリボーンに詰め寄った。が、獄寺達も向かっていると聞き、ぐっと拳を握りながらもツナは待つことを選んだ。

 

 数分後、獄寺達だけではなく、ユニとγ、さらに家光とコロネロとラルも合流した。

 

「ユニ、説明してくれるな?」

 

 はい以外は許さないというリボーンの圧力がこもった言葉だった。ユニを守ろうとしたγを首を振って制し、ユニは口を開いた。

 

「……リボーンおじさま達があの場に居れば、誰かが亡くなりました。私にはサクラさんだけが連れていかれないようにするしか出来ませんでした」

「それでオレ達の足止めをユニ自らしたんだな」

「……はい」

 

 足止めは全てサクラのためだとわかったので、リボーンはこの件についてもう追求するのはやめた。その代わり別の質問をする。

 

「サクラは無事に戻ってくるんだな?」

「……おそらく。血の跡はありますが、お二人とも笑っている姿が見えたので……」

 

 果たしてそれは無事と言えるのか、と誰もが思ったが口にすることはなかった。




遅くなり、すみませんでした。
ツナ君達サイドを書こうと思っていましたが、1000文字ぐらいで、私の文才ではまとまらないと嘆き始め、活動報告に小話をあげたりして気分転換しましたが、3000文字を超えたところで完全に指が止まりました。

……ツナ君達に情報制限しすぎたせいですね、はい。
仕方なくサクラ視点でディーノさんから種明かしする方法を取りました。
それが書き上がったので、明日と明後日も更新します。


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証明

「うわぁ」

「よっ、と。大丈夫だ」

 

 落ちる感覚に情けない声をあげたのが恥ずかしい。だが、もう少しディーノにしがみついてもいいだろう。……まだ立てそうにないのだ。

 

「……目、つぶってろ」

「ん」

 

 ディーノがそう言ってくれるなら素直に目を閉じる。出来れば私もガイコツは見たくないのだ。多分ツナ達が飛ばされた場所だろうし。

 

「ひゃ!」

 

 時計の音に驚き、さらにディーノにしがみつく。あまりにもビビり過ぎなので、ディーノが優しく背を叩いてくれた。

 

「サクラ、ここに心当たりわかるか?」

 

 ディーノが質問してくれて助かった。何も考えてないより、はるかに楽だ。……いや、そう思って声をかけてくれたのか。

 

「ええっと、多分アルコバレーノの歴史がわかるところ」

「歴史?」

「ん。壁画があって、運命の日が描かれているはず。運命の日っていうのは呪われた日のこと」

「御名答。……少し違うかな。君の知識は僕が思った以上のものかもしれないね」

 

 第三者の登場にディーノが警戒したのは私でも感じることが出来た。

 

 目を閉じながらも光を感じるので、声をかける。

 

「ディーノ、近くに台があると思う。そこに時計を置いて」

「ああ」

 

 私を抱っこしたままだとアタッシュケースはすぐに置けても、ディーノ自身がつけている時計が外しにくそうだった。

 

「……セクハラの一歩手前だったな」

「そっ、そんなつもりはなかったんだ! ……すまん」

 

 謝ったので許してあげよう。実際、かなり怪しかったがセーフだったし。そもそも腰が抜けた私が悪い。

 

「次は彼らがいるところへ行って。ここじゃ多分まだ話せないと思う」

「……こっちさ」

 

 ディーノが慎重に歩き出した。多分もう立てるので声をかけたが、このままの方が都合がいいと言われた。私だけ移動させられることを警戒しているようだ。

 

「もう目を開けてもいいぜ」

 

 言われた通り勢いよく目を開ければ、眩しくて再び閉じるはめになった。勢いよく開けた自身の行動に、落ち着かなさすぎだろと溜息が出た。ディーノが励ますように背を叩くので気を取り直し、バミューダと復讐者の1人と向き合う。

 

「ここなら問題ないよ。洗いざらい、吐いてもらうよ」

「……念のためにいうけど、君達は元に戻れない」

「それは僕ら目的ではないから問題ないさ」

 

 そうだとしても伝えないといけない内容だと思ったのだ。だからバミューダの言葉に溜飲が下がる。……伝えたのは自己満足だったのかもしれないな。

 

「チェッカーフェイスを倒すのはほぼ不可能だ。けど! ……けど、アルコバレーノは君達が管理出来る」

 

 ピクリとディーノが反応したのがわかった。ディーノにリボーン達はちゃんと解放されることを教えたくて、再び口を開く。

 

「火種に大量の炎が必要だが、おしゃぶりがなくても……人柱がいなくても、第8の炎だけで維持が出来るようになるんだ。チェッカーフェイスから7³の管理を奪えれば、君達の復讐が達成すると言えるんじゃないのか?」

 

 沈黙が流れる中、私はバミューダから視線をそらさなかった。

 

「……確かに復讐は達成するね。ただ、君の言葉を信用出来るかは別さ」

「私の命だけじゃ軽いか……」

 

 しかし、他にないのだ。もちろん払う気はないが、勝手に賭けれるものではないからな。

 

「そこにオレの命も上乗せするのを忘れんじゃねーよ」

「君達の命なんてすぐ奪えるのを忘れていないかい?」

 

 ディーノの言葉にツッコミする間も無く、殺気に押し黙ることになる。ただの脅しと思いたかったが、彼らは本気だ。……ディーノじゃ、勝てない。

 

「サクラ、オレを信じろ」

 

 ディーノの言葉に俯いた顔をあげる。そしてバカだなと笑った。

 

「お前が笑ったなら、少しは勝機が見えたな」

「……戦法も何もないぞ。ただの力技」

 

 確認するように視線を向けられたが、これしかないと肩をすくめる。ディーノは何か言いたそうだったが、飲み込んだ。

 

「相談はお終いかい? イェーガー君、頼んだよ」

「ああ」

「お前は危ねーから離れてろ」

 

 もちろん私にではなく、ヒバードに伝えた言葉だった。私と離れるわけにはいかない。つまり強者相手に、ディーノは片手で私を抱き上げている状態なのだ。勝つ確率はほぼゼロである。それでも、足手まといでも、出来ることはある。

 

「後ろ!」

 

 どこにムチを振ったのかは素人の私の目ではわからない。でも、ディーノが攻撃を仕掛けるタイミングはなんとなくわかった。それさえわかれば、イェーガーがディーノの後ろに移動するタイミングもわかる。

 

「パフォ!」

 

 私の言葉に反応したかのようにフミ子がディーノの背を守るように引っ付いた。

 

「ぐっ」

 

 しかしイェーガーは手だけで移動することも出来る。ディーノがどこか負傷したのだろう。それでも私は口を動かす。

 

「彼らを接触させ」

 

 口の中が血まみれになったが、飲み込んだ。一瞬の痛みは気合いで我慢した。ちょっと我慢すれば、兄のおかげで治るのだ。

 

「っ、るな!!」

 

 私の言葉はディーノに届いたようで、2人が近づかない。よく見えないが牽制しているのだろう。

 

「全身の移動は多分もう無理。一部なら出来るかもしれないから、身体の中に移動するかも」

「問題ねーよ、フミ子がっ、治す」

 

 力技と言っていたから、フミ子はディーノの背中にへばりついて守ったのか。いつでも回復出来るように。まぁ私とも離れる気はなかったのもあると思う。ディーノが私も危険な目にあう方法と察して最初に確認していたし。

 

「お前っ、は大丈夫か?」

「うがいしたい」

 

 私の言葉にディーノは笑った。正直、話す余裕はないはずだ。私と話している間も、ディーノは攻撃を防いでいる。でも多分話さないと眠ってしまうのだ。フミ子の炎を浴びて治っているから。

 

 大きく息を吐く。ディーノが命をかけて頑張ったおかげで、私の仮説は証明されたはずだ。

 

「……茶番はもういいだろ! 私達の覚悟は伝わったはずだ!」

「茶番? なんのことだ」

「っ!!!」

 

 ……悪い、ディーノ。もうちょっと頑張ってくれ。

 

「もう証明出来ただろ!」

 

 私への攻撃は一度だけ。兄のリングが発動しなくてもフミ子がいれば、すぐに治るレベルだった。足手まといの私を先に攻撃しなかったのも変だ。兄のリングを発動したのを確認したなら、私の腕や手などを切り落とさなかったのもおかしい。バミューダが自身が動けば、こっちの勝ち目はゼロだし。

 

 ……多分、私の言葉の信憑性を確かめるために仕掛けた。

 

 私は知識から復讐者が乱入することを知っていた。そして復讐者が乱入した状態で、ツナの案に乗ったことに違和感があったのだろう。だから彼らはツナ達に負けた可能性に至ったはずだ。

 

 言葉ではなく、その可能性を証明してみろということだったのだ。

 

「君達に殺す気がなかったのは間違いない! だって、私は今日死ぬ夢を見なかった!!!」

 

 コントロール出来ないから、未来で何度も死ぬ夢を見たのだ。一度も見なかった時点で、私が……私達がここで死ぬ可能性はゼロだ。

 

 ピタリと攻撃が止む。ディーノへ視線を向ければ、大丈夫だというように笑った。……かなり無理させてしまったな。

 

「……君達は最後まで居てもらうよ」

 

 イェーガーの肩に乗って、バミューダ達は去っていった。監視はしているだろうが、その時まで手を出さないということだと思う。

 

 ホッと息を吐いたところで、ガクッと視線がさがる。気付けば、私はディーノの膝の上に座っていた。……血で服が湿っている。

 

「わ、悪い。すぐに降りる!」

「もう治ってるから座ってろ。離れる方が危険だ」

 

 視界が歪みそうになるのを必死に押し込める。少しでも潤んだ目をすれば、その分彼が無理して私を励ます。

 

「サクラ、サクラ」

 

 私を落ち着かせるかのように、頭に乗った。ヒバードも無事で良かった。

 

「フミ子、ありがとう」

「……パフォ」

 

 ちょっと恥ずかしそうに返事をして、フミ子はリングに戻った。炎の使いすぎか、好きな時に出れるように残しておこうと判断したのかはわからないが、戻る前に礼を言えて良かった。フミ子が居なければ、ディーノは死んでいたかもしれないのだから。

 

 チラッとディーノに視線を向ける。私がお礼を言っても、素直に受け取れない気がする。フミ子のおかげで無事なだけで、内容は酷いと思っているだろうし。

 

 だからと言って沈黙は嫌なので、思ったことを口にした。

 

「……君も私も血生臭いだろうな」

 

 ディーノ程ではないが、私も喉が潰されたので服に血がついているだろうし。帰った時のことは考えたくもない。

 

「だろうな。鼻が機能してねぇ」

「私も」

 

 なぜか私もディーノも肩を震わせて笑い合う。多分変なテンションになっているのだろう。

 

「ボロボロだな」

「ああ、ボロボロだ」

 

 それでも今笑えているのはディーノが居るからだろうな。私1人で証明していたなら、例え成功してても笑えなかった。今なら多分受け取ってもらえると思って口を開いた。

 

「ディーノが来てくれて、良かった。ありがとう」

「……そうか。それなら頑張った甲斐があったな」

 

 ちょっと頑張りすぎだと思うが、そうしなければ私が困っただろう。素直にディーノに感謝した。

 

「オレに言ったらなら、ユニにも言うんだぜ? ユニの言葉がなければここに来れなかったからなぁ」

「そういえば、いつ聞いたんだ? ……そうか。あの時の電話か」

 

 昨日の夜、私の家に送った後に電話したのを見たことを思い出し、納得する。ついでに注意もしよう。

 

「車の中で電話していれば寒くないのに……と思ったぞ」

「まっ、もういいか」

「ん?」

「あの時の電話の相手はリボーンだ。ユニチームと同盟を組んだ時点で人数は揃ってるからな。お前が白蘭に継続を頼んで、さらに話せないって言ったろ? 何かまだ隠しているって話していたんだ」

 

 思わず、笑みが引きつった。のんきに手を振った私がバカみたいじゃないか。

 

「車の中じゃなかったのは、何かあった時、わからないだろ? 護衛の意味がねぇ」

「は? 護衛?」

 

 寝耳に水である。

 

「やっぱ全然気付いてなかったのか。ちなみに恭弥が怒ったのはそれが理由だぜ」

 

 開いた口が塞がらなかった。そしてもしやと思い、視線だけ上へと向ける。

 

「後で恭弥にも礼を言うんだぜ。あいつ、オレ達を手伝う気はねぇって言いながらも、校内の風紀の強化つって、見回りの回数を増やしていたからな。リボーンの話じゃ、オレが担任になったのも恭弥が根回ししたからみてーだし。それにここじゃ意味ねーようだが、こいつには発信機がついているぜ」

 

 そんなバカなとヒバードの姿を思い出す。確かに何もなかったはずだ。

 

「まっ、最初は恭弥も手がかりぐらいの軽い気持ちだったんだが、途中からはちゃんとついていたぜ。ジャンニーニが頑張ったみたいだ。脅されたジャンニーニは大変だったみてぇだけどな」

 

 頭の近くに手をあげ、乗り移ったのを確認して手を下げる。探していれば、ディーノが指をさした。……足の付け根のところなんて見るかよ!?

 

「初日だけじゃなくなったのはそういう理由だったんだな……」

 

 リボーンが忠告するわけだ。気付かないならまだしも、気付いているなら礼ぐらい言えと、私でも説教したくなるレベルだ。

 

「時計の件もあるし、ちゃんと伝える。でもよく説得出来たな」

「あいつもそれだけ気にしてたってことだ」

 

 そうだろうなと素直に思う自身と、キャラが違うとツッコミしたくなる自身がいる。……雲雀恭弥を変えたのは彼女の影響だろうな。だが、彼女にもう会えないことを考えると、良い変化と言っていいのか微妙なところだ。

 

「……話を戻すが、ディーノが帰ったのは?」

「あの日はラル・ミルチがきたからだぜ。他にもコロネロやリボーンも交代でみていたぜ」

「もしかしてディーノが教師になった理由は?」

「お前の護衛だな」

 

 穴があったら入りたい。ディーノの手助けをしに行ったのではなく、護衛されに自ら通っていたのか。……ディーノを教師にする計画を立てたのはリボーンだったな。私の気持ちがバレていたよな……。

 

「ちょっと待て。護衛をつけるなら言ってくれれば、協力したぞ」

 

 私だってそこまてバカではない。ちゃんと説明されれば嫌がらないし協力したぞ。私が無自覚だったのだ、かなり護衛し難かったはずだ。

 

「自覚させれば、ボロを出す可能性が低くなるからなぁ」

「……付き合いの長い君が、日中の担当になったのか」

 

 くそっ、浮かれすぎていた。こんな簡単なことに気付かないなんて! そして、本当にボロを出したことが恥ずかしい!

 

「そ、それなら時計は!? なんで復讐者が時計を狙ってるとわかったんだ! いや、その前に復讐者が参戦するってどうやって気付いた!?」

 

 落ちてくように背を叩かれた。興奮しすぎてヒバードも頭に戻ってしまったしな。……落ち着いてられるか!

 

「話すから落ち着けって! 血を流した後なんだ……」

 

 心配そうなディーノの声を聞いて、深呼吸することした。が、血がどこかに引っかかっていたようでむせた。……怪我の量は明らかに少ないはずなのに、なぜ私の方がへばってるのだ。いろいろ思うところはあるが、精神的にも疲れていたので何もいう気にはなれなかった。




本編にのらない裏話。
雲雀さんはリボーンチームのバトラーウオッチをつけています。ディーノさんが放課後に2人の接触をさけたのはそれが理由。
もちろん雲雀さんはツナ君達と別行動しています。そもそも、ツナ君達は雲雀さんが同チームになったことも知らされていませんw
雲雀さんはヒバードの位置を見て、仕方なく向かっていたところでヴァリアーと接触していました。
ヴァリアーはちゃんとシモンは囮と同盟を組んでいたディーノさんから聞かされていました。ただ今日ではないと判断されたので、気付かれないために今日も決行。
情報交換することもなく、なぜかそのままバトルに発展。フォンが呆れながらも見守っていましたw


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説明

 私が落ち着いたのを見て、ディーノは口を開いた。

 

「どこから話すっかなぁ。……そうだな、ずっとオレ達はチェッカーフェイスと戦うと思っていたんだ」

 

 それはそうだろう。私は復讐者が乱入するなんて言わなかったし。

 

「最初に違和感を覚えたのは桂がお前の側から離れたことだな」

「なんで?」

「桂が理由もなくお前の側を離れるかよ。まっそれだけじゃ全くわからなかったぜ? 次に変だと思ったのは代理戦初日のお前の行動だな」

 

 また私なのか。だが、私はただ雲雀恭弥の行動を見ていただけだぞ。

 

「スクアーロとの会話で、ヴァリアーは炎真を襲うって宣言したようなもんだっただろ?」

 

 確かに私もそう思ったな。

 

「それがどうしたんだ? 特に変なところはないぞ」

「それは桂を炎真につけていたからだ。じゃなきゃ、お前は炎真に手を出さないように動いていたと思うぜ。交渉が出来なくて、骸の時は落ち込んでいたって聞いていたしな。まっ一応オレ達もコロネロとバジルをつけることにしたが、お前はそれを知らなかっただろ?」

 

 頷く。彼らが動くと思ってなかった。

 

「お前が炎真の心配をせず、恭弥達の戦いを見ていたから、炎真には桂がついていると予想出来たんだ」

 

 しかしそれはその時だけの可能性もある。知識と違うという理由で兄をつけていただけかもしれないじゃないか。私の反論を予想していたのか、ディーノはまた口を開いた。

 

「余程の理由じゃなきゃ、桂は狙われているお前から離れないぜ?」

 

 その余程の理由が私の心を守るため、か。

 

「そもそも炎真を守るだけなら、あいつが姿を消してオレ達から隠れる必要はないんだ。だから炎真達は囮の役割があると考えた。お前も必要なのは大空の7属性ってはっきり言ったしな」

 

 ……復讐者を誘導していたことにも気付いていたのか。

 

「そこで乱入者の可能性に気付いた。チェッカーフェイスが炎真を襲う理由が浮かばなかったんだ。ツナがアルコバレーノになるっていうお前の言葉から、この代理戦争は次代のアルコバレーノを探すためのものってわかっていたからなぁ。探しているのに、邪魔するかもしれないお前ならまだしも、炎真達を襲う理由がわからねぇ。ツナ達だけを怒らせるっていうなら、まだわかるけどな」

 

 ボロを出すとかいうレベルじゃなかった。ボロボロである。

 

「でもな、乱入者がシモンを狙う理由もわからなかったんだ。代理戦争を無茶苦茶にするっていうだけなら、シモンからじゃなくてもいいだろ? オレ達の知らないアルコバレーノが参戦しようとしていることも考えたが、お前が勝ち残っても呪いが解けないって言ったからなぁ」

 

 私の言動で乱入者の可能性を示していたが、同時に乱入する意味がないと証明していたのか。

 

「そこで、だ。チェッカーフェイスに会うためって考えついたんだ。リボーン達が探しても見つからなかった奴だぜ? ルール説明にも尾道って奴しか顔を出さなかったからな。まっそれしか浮かばなかったんだ」

 

 最後の方でディーノは笑って誤魔化していたが、正解を引き当てているのが恐ろしい。

 

「チェッカーフェイスに会うためなら、乱入せず代理人になると交渉すればいいだけだろ? リボーン達は警戒して断ったかもしれねーが、スカルは頼む相手を探していたんだからな。桂がついていた時点でわかっていたけどよ、力づくで奪うつもりってとこがやっぱり引っかかったんだ」

 

 いったいどれぐらい私と兄の行動に気を配っていたんだろうか。

 

「で、オレ達の記憶の中で1人引っかかる奴がいた。ツナ達が過去の記憶で見た、復讐者と一緒に居た白いおしゃぶりの赤ん坊だ」

 

 自然と肯定するように目を閉じだ。

 

「……アルコバレーノウオッチが必要なら、スカルに頼んでも断られると決まっている。お前の言葉から呪いを解くには大空の7属性の炎が必要だとわかるからな。これで狙うならシモン一択の説明がついた。チェッカーフェイスに会いたい理由はリボーン達が探した理由と一緒だ。いや、それより過激だった。お前の案が失敗した時のために、第8の炎について知られたくはなかった。そして話そうとすれば手段を選ぶつもりはなかった。それがわかっていたからお前は何も話せなかった、だろ?」

 

 ここまで行けば、私でも素直に褒めるしかない。

 

「大正解、凄い」

「……そうでもねーよ」

 

 これを凄いと言わなければ、いったい何が凄いと言えるのだ。

 

「オレ達は今日復讐者が来ると思ってなかったんだ」

「でも君は時計を用意してただろ?」

「ないと判断したのは今日の放課後だったからなぁ」

 

 いったいどこで判断したのだろうか。

 

「昨日は放課後に手伝ってほしいって言えば、少しならって言ったろ? ってことは、放課後までは大丈夫と思ってたんだ」

 

 なんという私の残念感。あっさりと誘導尋問に引っかかっていた。しかしこれでは放課後以降は怪しいと思うはずだ。今日はないと判断するものはない。

 

「で、放課後になったらお前はツナ達が帰るまで動こうとしねーし。まっそれはすぐクローム髑髏の件があったからとわかったけどな」

「……君は職員室に向かったよな?」

「ああ。だからリボーンがついてた」

 

 穴がないなと遠い目をしたくなる。

 

「その後に連絡があったんだ。ユニが今日ツナ達と話をしたいって」

「……それは仕方がない」

 

 これはバカな私でもわかったので、思わず慰めの言葉をかけた。彼らはユニの言葉で今日はないと判断したのだから。

 

「お前が方向からシモンの家に向かってると気付いて、ユニがツナ達の足止めが目的だったとわかった時は、正直かなり焦ったぜ……」

「ドンマイ」

 

 私の軽い慰めにディーノは項垂れだ。しかし他にかける言葉はない。ユニが意味もなくツナ達を足止めしないだろうし。

 

「でも、変だぞ。君はユニの言葉があったから、ここに来れたんだろ? 電話か?」

 

 ギリギリにユニが教えて、リボーンから電話があったのだろうか。騙された後に言われれば、私ならキレそうだ。

 

「いや、なかったぜ。あっちはそれどころじゃなかったと思うぜ。ツナ達は何も知らなかったからなぁ」

 

 確かに。事情を知っていた者は足止めされたと思うぐらいだが、何も知らなかった者からすれば、衝撃は凄まじかっただろう。……そりゃツナが必死に来るか。間違いなく私の本心から出た言葉だったが、後を頼んだと聞いたツナはどんな気持ちだったのだろうか。割と本気でごめん。

 

「でもな、ユニはツナ達は足止めしたが、お前を1人で行かせるつもりはなかったんだ。だから会話の中に隠した。お前も聞いているぜ?」

「は? いつ?」

 

 ありがとう、という言葉は違う。他に変なところはあっただろうか。

 

「最後だ、最後」

「最後って最後か?」

 

 思い出そうとしたが、私の中で最後は白蘭に向けての言葉しか印象に残ってない。

 

「見送りの時にユニが言ったろ? 『サクラさん、ディーノさん、お気をつけて』ってな」

「……あれは帰りの運転のことだろ」

「最初はオレもそう思っていた。でもずっとオレはユニが1人でお前を行かせようとしたことが変だと思ってたんだ。だからあの時に本当の意味に気付いたんだ」

 

 あの土壇場で気付いたのか!? ……本当にディーノの頭はどうなっているんだ。

 

「……いや、もしかするとオレのためか?」

「ん?」

「ユニの行動が変と思うよりも先に、オレがどうしても1人で行かせたくなかったと思ったからなー。だから手を出した。ユニはそれがわかっていたから、あの言葉を使ったのかもな」

 

 ディーノはそれで納得したらしく、笑っていた。……こっちは笑えないから。

 

「ん? 顏、赤くねーか? おい、大丈夫か!?」

「大丈夫。体調は問題なし」

「そうは言っても、無茶した後だぜ!?」

 

 ディーノが焦っているのを見て落ち着いてきた。1人で舞い上がった私がバカだったのだ。

 

「熱が出ても、兄のおかげで大丈夫」

「肩代わりか……」

「ん」

 

 私の喉が瞬時に戻ったのも、兄とエリザベスのおかげである。

 

「……それってお前の意思で外せるのか?」

「ん。流石にこの件が片付くまではつけてほしいって言われているけど」

「なら、あいつもわかってるみてーだな」

 

 ジッと睨め付ければ、ディーノは苦笑いしながらも口を開いた。

 

「エリザベスはユニのために改造されたからな。ちょっとお前には合ってないんだ」

「そうなのか?」

 

 フミ子の形態変化と違って使いやすいと思っていたんだが。

 

「肩代わりして桂が全部治しちまうだろ? そうするとお前の抵抗力が落ちて行きそうだかんなー。最後は外せなくなっちまう」

 

 怪我というよりも病気の方が問題なのか。効果を考えれば、兄の能力のおかげでデメリットはかなり少ないが、やはり甘い話はないってことか。

 

「不安にならなくてもあいつのことだ、落ち着いたらエリザベスの改造を始めるぜ。アジトもあるしな」

「いや、あそこは使えないから」

 

 9代目との約束があるからな。それにどうしようもなくなったら、一生外さなかったらいいだけだ。……その時は兄に何かあればすぐ死ぬかもしれないが、それでもいいし。

 

「はぁ。少しは自分がしたことに気付けって。今回の件でまた9代目が感謝してるんだぜ?」

「なんで9代目?」

「リボーンを救ったなら、感謝するに決まってるじゃねーか」

 

 そういうものなのか?と思ったが、リボーンを兄に置き換えればなんとなくわかった。素直じゃない私でも感謝するだろう。だが……。

 

「お前の知識とやらを信じるのはお前が言うからだ。ったく、今回もそこを忘れていただろ」

 

 ……何も言ってないぞ。

 

「オレも感謝してるんだぜ。……リボーンの呪いは解けてほしかったからな。もちろん他のアルコバレーノもそう思っているぜ? けど、やっぱリボーンはオレの中で特別だからな……」

「だ、大丈夫だ! リボーン達の呪いは絶対に解けるから!」

 

 自身が想像していたよりも大きな声になってしまい、頬に熱が集まるのがわかった。

 

「ぷっ。お前、可愛すぎ」

「笑うなっ!」

 

 ツッコミながらも手を出す。が、ディーノに簡単に掴まれそのまま引き寄せられた。そして、そのまま抱きしめられたのでガチガチに固まるしかなかった。……急にどうした、ディーノ!?

 

「……ありがとな、サクラ」

 

 ディーノの声で肩の力を抜き、身体を預けた。普段の私なら絶対に終わってから言えとツッコミしただろう。でも出来なかった。

 

 ……知識と違って復讐者の服や包帯が脱げていないけど、ディーノはここにあった骨を見ているし、多分呪いが解けなかった場合はどうなるか薄々勘付いていたのだろう。

 

「ディーノ、眠い」

「……寝てもいいぜ。まだもうちょっとかかると思うしな」

「ん」

 

 視界の端で今まで一度も懐かなかったヒバードが、ディーノの頭に乗ったのが見えた。変なところまで雲雀恭弥と似ていると思いながらも目を閉じる。

 

 ……寝たふりのつもりが、いつの間にか本当に眠ってしまった。



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感謝

おまけ最終話


 呼ばれている声がして、目を開ける。一番最初に見えた顔がディーノだったので、つい手が出た。

 

「なんで殴るんだよ……」

「兄だと思って」

「そういうことか」

 

 納得したらしく許してもらえた。兄の変態と知れ渡っているからこそ出来る言い訳である。……本当は照れ隠しだったが。

 

「それでなんだ?」

 

 眠っていた私をディーノが意味もなく起こさないので急かす。……敵というわけじゃないが、安全と保証出来ない場所で、のんきに眠ってしまった私が一番悪いけど。

 

「あれをどう思う?」

 

 ディーノが指をさした方へ向くと、第8の炎があった。起こしたのはこれが現れたからだろう。炎を出したのは復讐者だと思うが、説明ぐらいしてほしい。

 

「多分、くぐっても大丈夫」

「なら行くか」

 

 あっさりと決めたディーノに文句を言いそうになったが、私が言ったから信じるという言葉を思い出して我慢した。

 

「今、何時?」

「日付が変わって30分ぐらいだな」

 

 思わず眉間にシワを寄せた。

 

「どうした?」

「3日目は日付が変わってすぐだったから」

「決着がついたってことか?」

 

 それは私にもわからないので首を振る。でも復讐者の闇討ちは多分なくなっていると思う。ツナの様子からしてあの後にリボーンは説明したはずだ。彼らと離れて行動するとは思えない。

 

「まっ行ってみるしかねーか」

「ん」

 

 ディーノは当たり前のように私を抱きかかえたまま移動し始めた。……楽だから別にいいかと思い始めている自身が一番ヤバい気がする。

 

 ディーノにしがみつきながら、第8の炎の中へとくぐる。恐る恐る顔があげると兄が見えた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 すぐに手を伸ばせば、兄に抱っこされていた。……いつ移動したのか、わからなかったぞ。

 

「サクラにやましいことはしていないだろうね!」

「してねぇよ!」

「なんてもったいないことを! サクラとずっと密着出来る折角の機会を利用しないなんて、僕は同じ男として君が心配だよ!」

「オレにどうしろって言うんだ……」

「大丈夫じゃないのか? ぎゅーとはされたぞ」

「か、桂落ち着けって。それはそう言う意味じゃ……」

 

 兄とディーノに爆弾だけ放り投げ、私は周りを見渡す。私を抱っこした状態じゃ兄も手荒なことはしないだろうし。

 

「……すごい」

 

 思わず漏れた言葉。復讐者とチェッカーフェイスはもちろんのこと、XANXASや骸達も居る。……パッと見だが、今回代理戦争に参加したメンバー全員が揃っている気がする。クロームも元気そうだ。隣には笹川京子達がいる。他にもこんな時間なのにランボやイーピンも居る。……ビアンキはまだわかるが、Dr.シャマルまでいるぞ。

 

 これだけのメンバーを集められる人は1人しか居ない。私が探す前に彼は駆け寄ってきた。

 

「サクラ! 大丈夫!? 痛いところはない!?」

「……いや、ほとんどディーノの血だから」

「そうなの!?」

 

 慌ててディーノにも大丈夫か確認しているツナをぼーっと見ていた。すると、兄の肩にリボーンがのった。

 

「なに驚いてんだ。ツナなら出来るから任せたんだろ」

「確かにそうだが……」

 

 予想以上としか言えない。さっさとしろとXANXASに睨まれ、焦ってる姿はいつもと変わらない。でも彼が本気で動かなければ集まらなかったメンバーだ。

 

 兄の服を引っ張り、少し離れた位置から見たいと訴える。全体が見える位置でみんなを見たいと思ったから。

 

「僕も手伝ってくるよ」

 

 兄は私の頭を撫でた後、彼らの輪に混じった。バッテリー匣なのでこの位置からでも参加出来るが、私が全部見たいと思ってるからだと思う。兄が向かった場所は白蘭と笹川了平の間だった。笹川了平とは拳同士で合わせた後、白蘭と何か話していた。2人とも笑っているから涙が出てきた。

 

「サクラちゃん、一緒に見よう?」

「ハルも一緒に見ます!」

 

 三浦ハルの決定済みの言葉に泣いているのにも関わらず笑った。でも多分それぐらい強引じゃなければ、私は素直に彼女らと見ようとは思わなかっただろう。

 

 夜中なのに、大量の死ぬ気の炎で彼らの顔がしっかりと見える。みんなの顔は失敗するなんて誰も思っていない。だから止まりそうだった涙がまた溢れ出た。

 

 全てが終わるまで時間は然程かからなかった。チェッカーフェイスから無事に終わったという言葉が聞こえたと同時に私は走り出していた。

 

「ま、待ってくれ!!!!」

 

 終わったならさっさと帰ろうとした者も、私の声に一瞬だけこっちを見た。でもそこに居るのは私だ。すぐに興味をなくなる者もいるとわかっていたので、必死に口を開いた。

 

「ありがとう!!」

 

 しっかりと頭をさげた。私の感謝の言葉なんて、時間の無駄だと思う者もいるとわかっている。それでも言わないという選択はなかった。

 

 どれぐらい頭をさげたかはわからない。多分そこまで長い時間はなかったと思う。でも私が顔を上げた時には兄とディーノだけでなく、ツナ達やアルコバレーノ達もが私の周りに集まっていた。

 

 何か言わないといけないと思うが、口を開いてもひっくひっくと喉が鳴るだけだ。もしかすると兄が死んだ時と同じぐらい泣いているかもしれない。多分こんなにも私が泣くと想像していなかったと思う。だから泣き止まないといけないと思ったが、うまくいかない。

 

「サクラ、オレ達はもう大丈夫だぞ」

 

 リボーンの言葉にさらに涙が出た。でも頑張って声をだす。

 

「よか、っだ!! よが、っだ!!」

 

 もっとマシな言葉はかけれないのかと自分でも思ったし、赤ん坊のままがほとんどで良かったと声をかけられても微妙だろう。でもそれしか言えなかった。

 

「ずっとオレ達のことを気にしながら、ツナ達と一緒に居ただろ? 遅くなっちまって、悪かったな」

 

 そんなことはないと必死に首を振る。私はいつも自身のことしか考えていない。普段丸投げの私が行動しようと思ったのも、これからも堂々とツナ達と一緒に居たかったという自分勝手な理由だ。そもそも遅くなったとリボーンが謝ることではない。

 

「サクラはもっと誇っていいんだぞ。ロクな死に方を期待してなかったオレが、生きたいと思ったのはサクラと出会ったからだ。最近の話じゃねぇぞ、随分前からだ」

 

 ずっと胸の奥にしまい込んでいれば良かったのに。リボーンの発言にツナ達がギョッとしているぞ。ただ、その反応がちょっと笑えて、少し落ち着いた。

 

「みんなも、ありがど。とぐに、ツナ、無茶、言っだ。ごめん」

 

 リボーン達からは強くするためにほとんど教えられなかったし、私も話せないくせに最後は全部彼に丸投げした。兄やディーノは大人だし、慣れてきて諦めもついているが、ツナはそうじゃなかったと思う。

 

「謝る必要はないってば。そりゃ最初はちょっとムカついたけど、それはサクラが無茶しようとしたことに気付かなかった自分にだし……。サクラがオレ達を信じて待っているって思うと、嬉しかったんだ」

「……だって、ツナだもん。ツナは、ダメツナなんかじゃない。みんな、私にも、声をかけてくれた、優しい、人達。信じ、ないのが、おがじい」

 

 また涙がボロボロ出てきた。ツナがオロオロしているのが歪んだ視界の中でも見えた。

 

「10代目」

「ツナ」

「え? えっ?」

 

 獄寺隼人と山本武に押され、戸惑っているツナがいる。不思議に思いながら見ていると、ツナと目があった気がした。その次の瞬間、包み込まれた。

 

「こ、これでいいのかな……」

 

 慣れない手つきでツナは私の頭を撫でたり、背をさすってくれた。

 

 

 

 号泣した私は落ち着くよりも先に疲れ果てて眠ってしまったようだ。……自身のベッドの中で頭を抱える。

 

「サクラ、そろそろ起きないと遅刻するよ!」

「……今日は休む」

「沢田君が迎えに来ると言っていたよ?」

「ごめんと彼に伝えて」

 

 布団に隠れるように包まる。昨日の失態を考えると恥ずかしくて死にそうなのだ。

 

「朝からすまないね! 今日はサクラが休みたいと言うんだ」

 

 ツナに電話してくれたようだ。二度寝するか。

 

「サクラ、彼がかわってくれって言ってるよ」

 

 仕方なく、布団から手を出す。兄が手に置いてくれたので、電話だがちゃんと謝ることにした。

 

「悪い、今日は休む」

「そう」

「……ひ、雲雀恭弥!?」

 

 思わず布団の外へとケイタイを放り投げ、耳をおさえる。心臓が飛び出るほど驚いた。今も心臓がドキドキしているぞ!?

 

「……ないとは思うけど、ズル休みをしようと考えていないよね?」

 

 チラッと布団から顔を出す。兄は偉そうにケイタイを持ってたっていた。彼の声が聞こえるのはスピーカーにしたからか。

 

「まぁでも……その時は咬み殺してあげるよ」

 

 ガバリと起き上がる。ジャスチャーで元気だと必死に兄にアピールした。

 

「どうやら僕の勘違いだったみたいだね! サクラは学校に行くのを楽しみにしているよ!」

「……まぁいい。これからは朝から迷惑かけないでね」

 

 必死に頷けば、兄は雲雀恭弥に偉そうだが謝って電話を切った。ドッと朝から変な汗が出たぞ。その原因を作った兄を睨む。

 

「休むなら雲雀君に連絡するように言われているのだろう?」

 

 確かにそうだが、今の流れならツナだろ!?

 

「しばらくお兄ちゃんと遊んであげない」

 

 兄がショックを受けているが放置だ。私は結局ツナが来るまで、無視した。

 

「おはよう、サクラ!」

「おせーぞ」

「ははっ。獄寺はオレ達より来るのが早かったもんな」

「黙ってろ! 野球バカ!」

 

 いつもの彼らだったので、ホッと息を吐いて一歩踏み出す。

 

「おはよ。今日は雲雀恭弥の機嫌が悪いと思うぞ」

「えぇ!? なんで!?」

「ヒバリと会ったのか?」

「んーん。でも電話で兄が朝から絡んでいた」

「チッ、めんどくせーことしやがって!」

 

 くだらない話をしながらツナ達と歩いていたが、ふと足を止める。

 

「サクラ?」

「忘れもんか?」

「いや……」

「ねーなら、さっさと来やがれ。置いて行くぞ」

「……ん」

 

 小走りし彼らに追いつく。そして、チラッと振り返って「お兄ちゃん、ありがと」と口パクする。

 

「やっぱり忘れ物あるの?」

「誰か居る気がしただけ」

 

 ツナ達が確認するが、私達の後ろには誰も居ないので再び学校へと歩き出す。

 

 いったい、どれだけの人が私達が一緒に登校しているか確認しに来ているんだろうな。なぜかちょっと面白くて、笑った。




あとがき。
ディーノさんとの甘〜い話に隠しましたが、普段動かないサクラが自分の命をかけてまで頑張ったのは、ツナ君達とずっと友達で居たいからでした。
よくディーノさんに説得されられて話していますが、サクラが最初の予定から覆してまで話すのは、基本自分と桂さんとツナ君のためなんですよね。
つまり実はサクラの中では、ツナ君>ディーノさん、なのです。本人は気付いてませんが。
さっさと付き合えよと作者も思うんですけど、これが変わらない限り進まない。
まぁツナ君の後には桂さんという大きな壁がありますがww
先は長い。

長々と書きましたが、おまけ話で一番思ったのは、作者の力量がなく、ツナ君達の頑張りが書けなかったのが心残りですね。……精進します。
では、ぐだぐだなおまけ話でしたが、お付き合いありがとうございました。


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本編&おまけ終了後の小話
クリスマス


サクラは中2です。
2015年のクリスマス記念で書いたっぽい


 クリスマス。

 

 私には縁のない1日である。いつも通りに目覚めて起き上がり、ドアを開ける。

 

「メリークリスマース!」

 

 閉めた。

 

 幻覚を見たのかもしれないと思いながら、目頭を押さえる。しかし残念ながら、兄の悲痛の叫びが聞こえてくるので、現実のようだ。……まぁ私には『真実の目』という能力があるらしいので幻覚を見るわけがないとわかっていたが。

 

 軽く溜息を吐いてドアを開ける。

 

「サクラ!!」

 

 ネガティブホロウ状態の兄が、顔をあげた。

 

「……似合ってる」

 

 本当に。

 

「そうだろう! 僕に似合わないものなんてないのさ!」

 

 その姿勢のままで威張るのはわざとなのだろうか。トナカイの着ぐるみをかぶってる兄を見て、本気で考えそうになった。

 

「さぁ! 乗りたまえ!」

 

 スタンバってる兄の横を素通りして私はリビングに向かう。

 

 残念ながらトナカイ姿をした兄は復活が早かった。ネガティブホロウ状態のまま着いてきたのだ。ちなみに私はそれをスルーした。今回は服装のおかげなのか、Gには見えなかったからな。

 

 

 

 ご飯を食べ終わったので、二階にあがろうとすれば兄が声をかけてきた。トナカイの姿のままで。

 

「サクラのサンタ服も用意しているからね!」

 

 ピタリと足を止める。私はマンガ・アニメが大好きだが、コスプレの趣味はもっていない。楽しそうだと思うが、自身がするかは別問題である。

 

「そうなの!? 楽しみだわ!」

 

 ギギギと首を後ろに向けると、お母さんが嬉しそうにしている。これはまずい。ノリが良すぎる2人が手を組むと危険なのだ。助けを求めてお父さんの方をチラっと見ると、手招きしていた。助けてくれそうなので、慌てて向かう。

 

「サクラ、出かけてきなさい。桂もお母さんも外に出ると聞けば、無茶なことは言わないよ」

「おお!」

 

 流石お父さんである。そんな方法があるとは気付かなかった。

 

「サンタ服はスカートだからね。サクラが風邪をひくと2人は判断するよ」

「……知っていたんだ」

 

 ニッコリ微笑むお父さんを見て、それ以上何も言えなくなった。下手につつくのは危険と判断したのだ。

 

 

 

 

 お父さんの助言どおり、問題なく外に出ることが出来た。

 

 が、今日はクリスマスである。辛い。

 

 言っておくが、私以外がリア充爆発しろという光景だからではない。もちろんカップルの数は多い。しかし子ども連れで歩く家族もかなり居るのだ。他にも同性同士で歩く姿もよく見る。1人で居る人もいるのだが、私と違ってヒマそうではない。待ち合わせ前なのか、仕事に行こうとしているのだろう。

 

 結果。クリスマスというのは、恋人がいないことが辛いのではなく、ぼっちに辛い日だった。

 

「………ああ、そうか」

 

 ポンッと思い出したように手を叩く。今年はいつもと違うことを思い出した。

 

 私はぼっちを卒業していたのだ!

 

 ゴソゴソとケイタイを取り出し、画面を見る。

 

 真っ先に浮かんだのはディーノ。だが、彼は日本に居ないだろう。恐らく彼はイタリアでファミリーと一緒にクリスマスを過ごしているはずだ。現実的に今から遊んでもらうのは不可能だ。

 

 それにディーノはマフィアのボスだ。もしかするとパーティに行ってるかもしれない。そして女性に狙われているだろう。

 

 ……住む世界が違いすぎて、自身の力ではどうすることも出来ない。辛い。

 

 頭を振り、ディーノのことは一旦忘れる。好きになった時点でわかっていたことなのだ。考えすぎることではない。

 

 何より、ディーノ以外にも連絡出来る人が私にはいる。

 

 再び画面を見る。そして、固まった。

 

「……連絡していいのか?」

 

 ぼっち歴の長い私は、このような日に人に連絡した経験がない。手が止まってしまったのだ。

 

 そもそも誘ってもらえなかったことを考えると、彼らは家族と過ごしている可能性が高い。果たして私に家族の団欒に入っていく勇気があるのか。

 

 答えは否。

 

 おかしい。ぼっちではなくなったはずなのに、ぼっちだ。

 

「そうだ、彼が居る」

 

 今まで連絡したことがあったのか怪しいが、ケイタイには彼のデータもある。女子に甘い彼なら文句を言いながらも付き合ってくれるだろう。

 

 なので、電話してみた。

 

「………………出ない」

 

 コンビニでバイトしてるかもしれない。非常に残念である。獄寺隼人ならツナの家にお邪魔している可能性もあったので、密かに期待していたのだが。便乗計画も崩れてしまった。

 

 大人しく家に帰るべきなのだろうか。しかし、コスプレは嫌だ。

 

 数秒悩んで、私はマンガ喫茶に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 公園なう。

 

 マンガ喫茶はどうしただと?

 

 ぼっちは考えることが一緒なようだ。満室である。

 

 しょうがないので、時間を潰すためにコンビニで肉まんとホットティーを買って公園に来ていた。1人で喫茶店に入るのはむなしかったのだ。今の状況もかなりむなしいだろうが。

 

 ベンチに座って、はふはふと肉まんを食べながら思った。

 

 ぼっちは卒業することが出来たが、新たな悩みが出来た。それもぼっちの時より悩みが増えたと思う。

 

 だからといって、ぼっちに戻るという考えはもうない。私はいろいろ知ってしまった。悩みが増えたが、それ以上に楽しい思い出が出来たのだから。

 

 ギシッ。

 

 誰かが隣に座ったようだ。肉まんをくわえながら、間を空けるためにほんの少し横に移動する。食べ終わったら早くどこかに行こう。人見知りタイプの私にはこの距離も気まずいのだ。

 

 ……隣から視線を感じる。

 

 殺気にあたる機会が増えたからなのか、そういうことが最近わかってきたのだ。なので、見られるのは間違いないのだろう。まだ食べ終わってはいないが、早く逃げたほうがいい。隣の人物が気になるが、この場合は顔を見ないほうが安全だろう。

 

 スッと立ち上がると、腕を掴まれた。どうやら判断を間違えたようだ。すました態度が気に食わなかったらしい。

 

 腕を掴まれた私だったが、余裕がある。もしもの時はエリザベスが出てきて助けてくれるのだ。なので、相手を睨んだ。

 

「よっ!」

 

 しばし沈黙。

 

「おーい?」

 

 私が無反応だったので、私の目の前で彼は手を振っていた。なので、返事をした。

 

「肉まん」

 

 腕が掴まれた拍子に落ちた物とディーノの顔を交互に見ながら私は圧力をかけたのだった。

 

 

 

 場所はかわって、ファミレス。私の目の前にはパフェがある。もちろんディーノの奢りだ。

 

 ちなみにディーノはもっといいものを奢ろうとしていたが、私が断った。高すぎるものを奢られるのは気を遣うし、妙に恥ずかしくなりそうと思ったのだ。そしてその判断は間違っていなかった。以前ディーノとファミレスに来た時と違って、意識している。それでも食べる手は止めないのだが。いや、正しく言うと気を紛らわせるために食べているのかもしれない。

 

「で、何の用で日本にきたんだ?」

 

 モグモグと食べながら声をかけたので、ディーノに注意された。当然、私はそれをスルーする。

 

「……ったく。今年は部下達が日本で過ごしたいっていうから、こっちに来たんだ」

「そう」

 

 手と口を動かし続けながら思った。私に会いに来たわけではないようだ。まぁついでに様子を見に来てくれるだけでも嬉しいが。

 

「ほっといていいのか?」

「一緒に観光するつもりだったんだが、ロマーリオが気になるなら行けばいいじゃねーかって言ってよ」

 

 チラっとディーノの顔を盗み見る。彼はどういう意味で気になっているのだろうか。

 

「まさか1人で公園に居るとは思わなかったぜ……。てっきり桂と過ごしてると思っていたから、お前ん家に行って驚いたぜ。ツナ達に聞けばオレと同じことを思ったようで、誰もお前の居場所がわからねぇし……」

「で、肉まんを食べてる私を発見した?」

「そういうことだ」

 

 この寒い中、探してくれていたのか。口元が緩みそうなのを必死に耐える。申し訳ない気持ちより、嬉しいという感情の方が強かったのだ。

 

「こういうときは連絡しろよな」

 

 なぜか説教モードに入りそうになったので教える。

 

「獄寺隼人には連絡したぞ」

「……そ、そうか」

 

 ディーノが納得したようなので、上手く説教は回避できたようだ。

 

『……………』

 

 しかし、なぜか沈黙がこの場を支配する。

 

 モグモグと食べながら、なんとか話題を出そうと考えるが出てこない。結局、先に口を開いたのはディーノだった。

 

「……いいのか?」

「なにが」

「その、獄寺と遊びたかったんじゃねーのか?」

「特に。彼がぼっちの可能性が高かったから連絡しただけ」

 

 自身でも失礼なことを言ってる自覚がある。でもまぁディーノなら聞き流してくれると思ったから言ったのだが。

 

「そもそも君が日本に来ていると知っていれば、1番最初に連絡したぞ」

 

 彼は嫌な顔をしない。断言できる。

 

 ツナもしないだろうが、友達だからこそ家族の団欒を邪魔したくはない。どうしても遊びたければ明日遊ぼうと言えばいい。何もクリスマスに言わなくてもいいだろうと思うのだ。

 

 やはりツナとディーノではどこか違う。

 

 友達じゃないのもあるだろう。大人というのもあるだろう。だが、今日という日に会えて嬉しいと思うのは彼だけだ。真っ先に彼が頭に浮かんだのはそれが理由だ。

 

「だから……会いにきてくれて、ありがとう」

 

 恥ずかしくなったので、パフェに集中する。本当に素直になるというのは難しい。

 

 私の言葉に驚いたのか、ディーノから返事はなかったようだ。だが、先程と違って沈黙は辛くなかった。

 

 

 

 ディーノは家まで送ってくれるらしい。

 

 だからお腹が苦しいといい、ゆっくり歩く。少しでも一緒に過ごせる時間を増やせるように。

 

 いつまでたってもハンカチを返さないのも、彼と会える口実が出来るから。

 

 白い息を吐いてるのに文句を言わない彼が、このことを知ればどう反応するだろうか。……多分、困った顔をする。

 

 ……笑ってほしいのに。

 

「そんなに苦しいのか?」

 

 心配そうなディーノの顔が見えて、我に返った。

 

「大丈夫」

「無理するなよ?」

 

 コクリと頷いてると、いつの間にか手が握られていた。相変わらずの心配性である。手を振りほどく気は一切ないが。

 

 手袋をするんじゃなかったと思いながら考える。ロマーリオに連絡するタイミングがなくなった。利き手はディーノが握っている。もう片方の手でも操作は出来るが、手袋を脱がなければならない。

 

 離すという選択肢がなかったため、ついに家が見えてきてしまった。

 

「ん? あれは……ロマーリオ!」

 

 ディーノの声で目を凝らせば、私の家の前にロマーリオが居た。軽く手をあげてるところを見ると、トラブルがあったわけではないようだ。

 

「迎えに来たぜ」

「ったく、いつまでたっても子ども扱いかよ」

「それは違うぜ、ボス。大人だから心配なんだ」

「ん? どういう意味だ?」

 

 2人の会話を聞きながら、私も首をひねった。ロマーリオの言葉の意味が私もよくわからなかったのだ。彼はドジすると思って迎えに来たと思っていたのだが。

 

 ディーノの疑問を無視し、ロマーリオは私の方を見た。

 

「ボスが怖いと思ったら、オレに連絡してくれよ。ボスの暴走を止めるのはオレの仕事だ」

 

 再び首をひねる。ディーノが何か叫んでるが無視だ。

 

「ボス、そろそろ帰るぜ! 時間を作ってまた日本に来るぜ」

「お、おい!? 悪い。もうすぐ飛行機の時間なんだ。また来るからな!」

「ん、わかった」

 

 2人を見送りながら、ロマーリオの言葉の意味を考える。

 

 応援してくれてるのだろうか。ロマーリオはあの見送りの時に私の気持ちに気付いてるはずだからな。もしかすると日本に来たのは偶然じゃないのかもしれない。

 

 だが、私のためにロマーリオが動くだろうか。それに軽はずみで行動することではない。ディーノはマフィアのボスだ。

 

 ……まさか、な。

 

 

 

 家に入ると普段着の兄が玄関まで出迎えてくれた。

 

「お兄ちゃん、今日は夜中までゲームしよ」

「しょうがないね。一緒に怒られようか」

 

 兄はお父さんに怒られるまで付き合ってくるようだ。本当にそれは助かる。今日はほんの少しだが期待してしまって眠れそうにないのだ。

 



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クリスマス(裏)

前の話の裏側です。
当然こちらもサクラが中2。


 クリスマス当日。桂の元に一本の電話が入った。

 

 未来の記憶を得てサクラの能力を知った桂は、自身の持つ力を最大限に発揮することに決めた。自身の容姿を利用することも厭わなかった。その結果、空港関係者から『ディーノという男が日本に来る』という情報を得たのだ。

 

 桂はしばし考える。

 

 今日は一日中サクラと過ごすつもりだったが、サクラのために我慢すると決めた。が、果たしてサクラは桂が言って素直に出かけるだろうか。

 

 傍から見れば、互いに好意を示しているのはバレバレなのだが、下手に周りが動いてこじれてしまっては元も子もない。それにサクラはまだ子どもだ。そのため慎重にならざるを得ない。桂はサクラの幸せを願っているのだから。

 

 考えた結果、桂は父親を頼ることにした。話を聞いた父親は渋い顔をしながら了承した。桂が認めた男なら心配はないとわかっているのだが、父親の立場からすればまだ早いという気持ちが強い。それでも了承したのはサクラの幸せと桂の気持ちを汲んだからだ。

 

「……桂、サクラは大丈夫なんだね?」

 

 念のために確認するのは親心である。

 

「大丈夫だよ、父上。彼は軽い男ではないよ」

 

 自信満々に言い切った桂に、父親は安堵したのだった。

 

 桂があれほど自信満々だったのは、ディーノの立場を考えたからだ。桂はサクラバカなので、全ての男はサクラの可愛さで暴走すると思っている。だがディーノはマフィアのボスなので迂闊な行動が出来ない。そのため、大丈夫と確信しているだけである。

 

 桂が1番厄介だと思っているのはディーノの部下である。特にロマーリオの存在だ。最初の頃はロマーリオがサクラのことを好いているからと勘違いしていた桂だったが、未来の記憶を得た今ではサクラの監視だったと理解している。なので、桂がロマーリオを警戒しいてるのは別の理由だ。

 

 ディーノがボスという立場を考えると、後継者の問題がある。そしてサクラは悪くない条件の人物だった。

 

 キャバッローネはボンゴレ同盟のトップ3に入る。それも先代が傾けた財政をディーノの力で立て直して、だ。ボンゴレの同盟国はディーノに注目を集めている。つまりディーノの結婚はマフィアの勢力図に影響を与えてしまうのだ。

 

 下手に力のある同盟国と繋がりを強くすると、ボンゴレ内部でも危機を覚える人物もいるだろう。いくら忠誠を誓っていても、必ずそう考えてしまう人物も出てきてしまう。地位の低い同盟国を選べば、勢力図がかわってしまう。だからといって、一般人というわけにもいかない。

 

 その点、サクラは密かにボンゴレの保護下にいる人物で、ボンゴレ10代目と親しい間柄だ。ディーノの相手と考えると年齢の差があるかもしれないが、ディーノより下なことを考えると悪くはない。子どもを産める年齢は長い方がいいからだ。

 

 もっとも、ロマーリオはディーノがサクラのことを好いているとわかっていなければ、サクラは候補に入ることはなかっただろうが。

 

 しかし逆を言えば、ディーノがサクラを好いてる限り、ロマーリオは何か手を打ってくる。

 

 現に、自身の気持ちにも気付いてなさそうなディーノがクリスマスに日本に来たのは誘導されたからだろう。サクラの気持ちが離れていかないようにしているはずだ。

 

 サクラが喜ぶとわかっているので送り出すが、サクラの逃げ場は常に確保しておくべきだと桂は考えている。まだ中学生のサクラは目の前の恋愛に一杯で大人の事情など気付かない。……ディーノも気付いてるか怪しいが。

 

「僕もデートの邪魔をしたいわけじゃないんだけど……」

 

 ディーノに気付かれないように尾行をするのは骨を折りそうだ、と桂は溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、どうしたんだね?」

「よっ。ん? あいつ……サクラはいないのか?」

「サクラなら出かけているよ」

 

 桂の発言に驚いてるディーノは、空港から尾行していたことに気付いていないようだ。実は空港から真っ直ぐ家に向かってることに気付いた桂は、慌てて窓から家に戻り出迎えていたのである。

 

「サクラのことだから、どこかで時間を潰してるだろうね。ご馳走の準備があるから僕は忙しくて、寂しい思いをさせてないか心配だよ」

 

 しれっとウソをつく桂。ご馳走の仕込みはサクラが起きる前に終わらせている。

 

「1人なのか!?」

「もしかすると沢田君のところに居るかもしれないよ」

 

 サクラの性格を考えば、居ない可能性の方が高いが桂はあえて言わなかった。

 

「そうか。じゃツナん家に行ってくるぜ。またな」

 

 桂は見送りながら、サクラにしか見えていないことになぜ気付かないのかと内心首を傾げてしまった。桂とも会うのは久しぶりなのだが、ディーノはサクラのことしか聞かなかったのである。

 

 

 気を取り直し、桂は再びディーノの尾行を開始する。行き先がツナの家とわかっていたため、追いつくのは簡単だった。

 

 そして、ツナの家にいないと知れば、駆け出したディーノの後を追う。ケイタイの存在を忘れるほどのディーノの慌てっぷりを見て、少し罪悪感が募った。

 

 公園でサクラを発見したディーノはホッっと息を吐き、疲れたように隣に座る。そして声をかけようとして止まった。

 

 サクラがディーノから隠れるように、はむっと肉まんをくわえる姿に庇護欲がかきたてられたようだ。

 

「そうだろう。サクラは可愛いだろう」

 

 屋根の上で呟く桂はかなりの怪しさだったが、誰にも気付かれなかったので問題は起きなかった。

 

 

 

 

 

 桂はずっと様子を見ていたが、ディーノはサクラのペースにあわせているようだ。ディーノが自身の気持ちに気付いていないだけかもしれないが。

 

 サクラは幸せいっぱいのようで、本人は隠しているつもりかもしれないが、桂の目からみれば尻尾を振りまくっている状況だ。

 

「それで、君は僕に何の用だい?」

 

 視線はサクラから離さず、桂は口を開いた。相手も気付かれるとわかっていたのか、驚いた気配はない。

 

「お前と似たようなものだ。ボスが暴走しないように、な」

 

 ロマーリオは一服して、黙っている桂に再び声をかける。

 

「オレ達は無理強いする気はない。何だったら、あの子にそれとなく伝えるぜ」

「……ふぅ。僕の考えすぎだったようだね」

「それぐらいがちょうどいい。オレ達が特殊なだけだ」

「それもそうだね。サクラが狙われる可能性もあるからね」

 

 今の2人を見て、面白くないと思う人物は必ずいる。警戒しすぎなぐらいがベストである。

 

「ボスがもう少し自覚してくれれば楽なんだが……」

 

 手を繋ぎ歩き出した2人を見てロマーリオが思わず呟く。幸せになってほしいという思いが強ければ強いほど、下手に口に出せないのである。

 

「彼の鈍感さには困ったものだね」

「ちがいねぇ」

 

 苦笑いしながら桂とロマーリオは動き出したのだった。



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正月

時期はサクラが中2です。
2015年のお年玉企画っぽい。


 気を抜けば笑い声をあげそうなので必死に我慢しながら歩く。流石にいきなり街中で笑い出すのは怪しすぎるからな。

 

 なぜ私がこんなにも機嫌がいいのかというと、正月だからだ。いや、正しく言うとお年玉を貰ったからである。

 

 素晴らしい。正月はなんて素晴らしい日なのだ!

 

 ……まぁ並盛に引越ししてきたため、例年より少ないのだが。

 

 私は気を取り直し、お年玉の使い道を考える。本を買うべきか、ゲームを買うべきか、それともグッズを買うべきか。

 

 ああ。ニヤニヤするのを止められない。この時間が1番楽しいのである。

 

「サクラ、ご機嫌だね!」

「ん」

「驚かない!?」

 

 急に兄が現れたが、特に何も思わず返事をすれば兄の方が驚いていた。

 

「ついに僕がいつでもスタンバってると気付いたんだね!」

「それは知らなかった」

「ガーン」

 

 その言葉を口に出す人物をはじめて見た。そしてまさかその人物が実の兄とも思いもしなかった。

 

 ちなみに驚かなかった理由は、兄がツナ達と渡り合えるほど強いと知ったし、暇そうだったのでどうせ追いかけてくるだろうと思っていたからだ。

 

「それで何を買うか決めたのかい?」

「まだ」

「ならば、僕に任せたまえ!」

 

 ドンッと胸を叩き、兄はむせていた。何をやっている。

 

「あんたバカぁ?」

「くっ。そのツッコミは予想外だった!」

 

 くだらないことをしながら私達は歩き出したのだった。

 

 

 

 

 兄が最初に連れて行った場所は神社だった。

 

「まずは、初詣だよ!」

「それもそうだな」

 

 お年玉のことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。そして何より兄と一緒に行けば楽になる。このタイミングで行くべきだ。

 

 私の予想通り、兄を避けるかのように人が道を譲る。……別に彼らは兄を嫌いで避けているわけじゃないぞ。興味津々のように見ているからな。声をかけるきっかけさえあれば、すぐに寄ってくるだろう。

 

 なぜか心の中で兄のフォローをしながら、石段を歩き出した。その後手を洗い兄にハンカチを借りて拭き、本殿へ向かった。

 

 混雑のため、鈴は鳴らせないようになっているようだ。残念である。

 

 兄が賽銭をくれたので、それを投げる。後は兄の真似をする。

 

「サクラが幸せでありますように」

 

 心の中で念じろというツッコミを我慢し、私も願う。今年はいろいろ迷ったが毎年恒例の『健康』にした。

 

「さぁ、サクラ! おみくじをしよう!」

 

 兄と一緒に向かうと、驚いた。

 

「大きいな」

「そうだね。これは混ぜるのに一苦労しそうだよ」

 

 おみくじの筒を見ながら兄と話す。普通のもあるのだが、私達の目が釘付けになったのは1mほどある物だった。

 

「サクラ、やってみるかい?」

 

 兄の言葉に頷く。どうやら顔に出ていたようだ。私1人では持てないので兄と一緒に持ち上げて振る。

 

「お、おもい……」

「もう少しだよ! サクラ!」

 

 手をプルプルしながら何とか棒を出した。が、ちょうど数字が見えない。角度が悪かったようだ。

 

「7番だよ」

 

 誰だが知らないが見てくれた。筒を置き、一汗を拭って声をかけてくれた人物に礼を言う。

 

「ありがとうっ!?」

 

 顔を見て声が裏返った。

 

「やぁやぁ、雲雀君。あけましておめでとう。今年もよろしく頼むよ」

 

 なぜ兄は馴れ馴れしく声をかけれるのだ。不思議である。

 

「……騒がしいと思って来てみれば、また君か」

 

 どうやら雲雀恭弥は初詣の風紀を守っていたようだ。そしてまたということなので、兄は何度か彼の前でやらかしているらしい。

 

「サクラが可愛いからね。しょうがないよ」

 

 ダメだ。雲雀恭弥の嫌味も兄には通じていない。

 

「……さっさと行きなよ」

「いいのか?」

 

 しまった。思わず確認してしまった。だが、彼ならこの状況を作った私達を咬み殺すと思ったのだ。

 

「僕は忙しいんだ。かまってる暇はない」

 

 なんと、忙しいときは兄を適当にあしらえばいいと彼は知っていた。

 

「苦労してるんだな……」

 

 睨まれてしまった。

 

 

 

 

 

 兄のおごりで買い食いをして初詣を満喫した後、私たちは本題に入った。

 

「僕のオススメはこの店だよ」

 

 よくわからなくて首をひねる。なぜ兄はこの店を選んだのだろうか。私には縁のない店だと思うのだが。

 

「サクラ、よく考えてみたまえ。来月はイベントがあるじゃないか」

 

 来月というと2月だ。2月といえば、私の嫌いなバレンタインデーがある。目の前に製菓道具・材料店があることを考えると間違いないだろう。

 

「今年は渡したい相手がいるんじゃないのかい?」

 

 ぐっ、と言葉に詰まる。

 

「道具は僕のを使えばいいけど、材料はサクラが用意したいだろ? お金に余裕があるうちに買っておくべきだよ」

「……私でも出来るのか?」

 

 下手な物を渡すなら、買ったほうがいい気がする。それにディーノは舌がいいだろう。

 

「僕がついてるよ」

「……お願いします」

 

 兄に甘えて、私は一歩足を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 お金が余ったが、今日の買い物はもう終了である。慣れないことをしたので疲れたのだ。

 

「あれ? サクラ?」

 

 名を呼ばれたので振り向くとツナだった。とりあえず新年の挨拶をする。

 

「あけましておめでとう」

「あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」

 

 思わず目をパチパチしてしまった。

 

「どうしたの?」

「……何でもない。今年もよろしく」

「うん。よろしく!」

 

 普通に返事がかえってきた。彼にとっては普通のことだったらしい。兄は私の頭を優しく撫でているので、私の気持ちに気付いているようだ。

 

 今年もよろしくという言葉に驚き、喜んだことに。

 

「桂さん、どこか調子が悪いんですか?」

 

 ツナは兄との挨拶を終えるとすぐ、不思議そうに質問していた。

 

「僕は元気だよ!」

「あれ? じゃぁどうして?」

 

 ツナの視線は私が持っている荷物に向けられていた。彼の中では、私は兄に荷物を押し付けるイメージなのだろう。失礼である。

 

「サクラはね、大事な物は自分で持つんだよ。とってーーーーも可愛いだろ?」

「は、はい」

 

 新年早々、気を遣わせるな。

 

「……そうだ。後で家に行ってもいいか?」

「うん。大丈夫だよ。今から帰るところだし」

 

 許可をもらえたのでランボ達のお年玉を渡しに行こう。お年玉と言っても中身は飴だが。

 

 また後でといい、ツナと別れて歩き出すと兄がまた頭を撫でた。

 

「早く荷物を置きに行こうか」

 

 後で、と言った理由に気付いていたようだ。

 

「……お兄ちゃんには敵わないな」

 

 ボソッと呟くと、兄は嬉しそうに言った。

 

「僕はサクラに敵わないよ」

 

 互いに笑みをこぼす。

 

 距離が近づいたので私たちは去年より良い1年を過ごせるだろう。そう自然に思えた。



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バレンタイン

時期はサクラが中2です
2015年のバレンタイン企画で書いたっぽい。


「サクラ、準備はいいかい?」

「……ん」

 

 家でバレンタインのチョコを作るレベルなのに、なぜ兄はコック服を着ているのだろうか。ただのエプロンしかしていない私の方がやる気がないように見える。

 

 ……ツッコミはしないけどな。フリフリのエプロンとか渡されたくはない。私は家庭科実習で作ったエプロンで十分である。

 

「では、美味しいマドレーヌを作るためにまずは準備しようか」

「準備?」

 

 手洗いはしたし、昨日のうちに軽量は済ませ、卵は常温に出しているはずだが。

 

「型にバターを塗ったりだよ」

 

 納得した。兄に言われたとおり、型にバターを手で塗る。兄いわく、ハケを使って溶かしたバターを塗ると書いてるのもあるらしいが、それは手間がかかるだけという話だった。そして、ちょっと多めに塗っても問題ないとか。

 

「ちょうどいいぐらいだね。冷蔵庫に冷やしたまえ」

「冷蔵庫?」

 

 本にはそんなことは書いてないのだが。

 

「冷蔵庫でギリギリまで冷やしたほうが、型からはがしやすいのだよ」

 

 ……不親切な本である。

 

「ちなみに強力粉をまぶすのは型に入れる直前だよ。これも同じ理由さ。それと強力粉がなければ、薄力粉でも大丈夫だよ。その分、ちょっとはがしにくいけどね。後、まぶすときにも説明するけど上手くできる自信がない時は茶漉しで一個ずつふればいいんだ。今回、サクラは茶漉しバージョンでするよ。まぶせば粉が飛び散って汚れるからね」

 

 とりあえず頷く。またその時に説明してもらえるだろうし、汚せば掃除する時が大変だ。

 

「次はバターを湯煎にかけて、あわせた粉をふるんだよ。バターは混ぜる時にあったかい状態の方がいいかな。後、粉はふるう前に泡だて器で混ぜ忘れちゃいけないよ」

「後で混ぜるなら一緒じゃないのか?」

 

 『合わせてふるった粉類を~』と書いていたので、同じ容器に薄力粉とココアパウダー、ベーキングパウダーを入れて量ってはいる。が、それをわざわざ混ぜる必要があるとは思えない。ふるってる途中でも混ざりそうだしな。

 

「ココアパウダーの粒子が細かいのだよ。後で綺麗に混ざるためには1度泡だて器で混ぜてから、ふるった方がいいんだ。製菓本で『合わせてふるった粉類』と書いていれば、数種類の粉を泡だて器で混ぜてからふるったものという意味と考えればいいさ」

 

 ……何度も言うが、不親切な本である。

 

 兄の言ったとおり粉類を混ぜる。綺麗な混ざったと思ったので、ふるいにかけた。

 

「ふむ。大丈夫だね。作り始めるよ」

「ん!」

 

 準備が長かった。やっと作れる。

 

 卵を軽く混ぜて、塩、グラニュー糖、オレンジの皮を入れて混ぜる。

 

 オレンジの皮はなければ無理して入れなくても大丈夫らしい。卵臭さを消すためだけのようだ。元々ココア生地は味が強いため消えやすいみたいだ。無理して入れなくていいというのは、普通に売ってるオレンジは農薬がかかってるから。しっかり洗えば問題ないが風味が消えて意味がない。だから製菓材料店にあるオレンジの皮を使うらしい。気になるなら、普通の店で売ってるバニラエッセンスを入れればいいみたい。

 

 それにしても本に書いていないことが多すぎる。マドレーヌは簡単だよ。と言っていたが、兄が居なければ失敗すると思う。

 

「サクラ、マドレーヌは空気を入れないほうがいいんだ。グルグルと円を書くように混ぜればいいよ」

 

 ほらな。合わせてふるった粉を入れて混ぜていれば、すぐに注意を受けた。

 

「最後は溶かしバターだよ」

「……ちなみに、あったかい方がいい理由は?」

 

 混ぜながら聞いてみた。

 

「このバターが冷えるとどうなるか知ってるよね?」

 

 何を当たり前なことを言っているんだ。思わず睨んでしまった。

 

「もし卵が冷たくて、混ぜている途中でバターが冷えればどうなるかわかるかい?」

「……固まる?」

「そういうことだよ。ダマになっちゃうのさ」

 

 なるほど。いろいろ理由があるようだ。

 

「今回は卵をちゃんと常温にしているから大丈夫だけどね。念のためにやったのさ。それにあたためるのであって、熱くしちゃダメだからね。今度は卵に火が通ると固まってしまう」

 

 ダメだ。混乱してきた。私には難しすぎる。

 

「まぁさっきも言ったけど、本当にこれは念のためだよ。この後、冷蔵庫で冷やして寝かせるからね。あったかすぎるバターを入れれば、冷えるまで時間がかかる」

 

 よくわかった。私にはお菓子作りは向いていない。

 

「ちゃんと混ぜ終わったようだね。2時間ほど冷やそうか」

「ん」

 

 洗い物をし、絞り袋などを用意し終わると暇になった。これだけ時間が余るなら、型にバターを塗るのは後でも良かったんじゃないのだろうか。

 

「間に合うよ」

 

 兄に聞いてみれば、予想通りの答えがかえってきた。

 

「でもサクラはまだすることがあるだろ?」

 

 首をひねる。兄が言った準備は全部したはずだが。

 

「これは保存剤が入っていないんだ。そんなにも長い間、持たないよ」

 

 ……作った意味がない。結局買えってことだったのか。

 

「買ったものを今から送っても、いつごろ着くか知ってるのかい?」

 

 ……明後日。というのは、ないか。……間に合わないじゃないか。

 

「それに輸送費のことは考えていたのかい?」

 

 …………。

 

 ぐうの音も出ないというのはこういうことだったようだ。

 

「そんなサクラのために、僕はちゃんと解決方法を用意してあるよ」

「お兄ちゃん!!」

 

 さすが、兄である。バカな私のためにちゃんと考えてくれていたらしい。

 

「サクラ、ケイタイは?」

「ん」

 

 兄に見せる。これをどうすればいいんだ。

 

「ここには連絡先が入ってるよね? 今から連絡すれば、14日には着くよ」

「……お兄ちゃん」

 

 それはない。チョコを渡すから日本に来いと言えるわけがないだろ。

 

「サクラは渡したいと思ったんじゃないのかい? だからお年玉で材料を買ったんだろ?」

「……そうだけど……いいよ」

 

 相手がイタリアに住んでると忘れていた私が悪いんだ。

 

「せっかく作ったのに?」

「……その分は、私が食べる」

 

 視線が下がっていく。すると、優しく頭を撫でられた。

 

「焼くまでまだ時間がある。ゆっくり考えればいい」

「……部屋にいる」

「わかったよ。……サクラ、後悔しない道を選ぶんだよ」

 

 ずるい。階段を登りながら思う。兄に言いたいことをいわず、私が未来で後悔したと兄は知っているのに。

 

 ボスンッとベッドに倒れこむ。

 

 一体どれぐらいの時間をとらせ、お金がかかるんだ。たいした内容じゃないのに、ディーノにきてくれなんて頼めるわけがない。

 

「たいした、内容じゃない……」

 

 グスッと鼻をすすりながら、自身に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり今日は一年で1番嫌いな日だ。

 

 靴箱や机に勝手に置いてある兄のチョコを見ながら思う。

 

「大丈夫……?」

「……ん」

 

 今年もツナが心配し、声をかけてくれたようだ。

 

「あ、そうだった。これ義理チョコ」

「はは……。ありがとう」

 

 面と向かって義理チョコと言えば、苦笑いされた。それでも最後には笑って受け取ってくれた。ついでにチビ達の分もお願いする。今日は外に出る気がしない。

 

「兄がついてくれてたから味は大丈夫」

「もしかして手作り!?」

「ん」

「サクラ、ありがとう」

 

 手作りだから改めて礼を言ったのだろうか。ほんの少し、心が痛んだ。

 

 

 放課後になり慌てて帰ろうとすれば、靴箱で風紀委員がチョコを回収していった。……彼は覚えていたらしい。

 

「ツナに預けなくて良かったのか」

 

 チョコがなくなり、荷物が軽くなったので問題なかった気がする。

 

 ……まぁいいか。家に帰って食べよう。

 

 靴を履きかえ帰る。なぜか視線が勝手に下がる。

 

「よっ」

 

 兄はチョコの受け取りで忙しいから、紅茶は私が入れないとダメなのか。しょうがない、兄の分も入れてあげよう。疲れてると思うし。

 

「おーい」

「……なに?」

 

 振り向いて首をひねる。なぜ、いるんだ。

 

「荷物はないのか? お前の兄貴に頼まれたんだが……」

「……雲雀恭弥が気を利かせて届けてくれた」

「恭弥が?」

「ん」

 

 思わぬ人物の名前で驚いてるようなので、ちゃんと首を縦に振って説明する。

 

「去年、私が酷い目にあったのを覚えてたみたい」

「そっか」

 

 教え子の優しさを感じ、彼は気分が良さそうだ。残念だが、彼は風紀のために動いたと思うぞ。

 

「……ディーノ」

「どうした?」

「マドレーヌ、食べれるか? その、実は余ってるんだ。味は大丈夫だぞ。兄が見てたから。……無理にとは言わない」

「ちょうど小腹が減っていたんだ。サンキュ」

 

 ポンポンと頭を撫でられ、泣きそうになった。意地でも涙は流さないが。

 

「……ちょっと取ってくる」

 

 ディーノが何か呼んいたが、私はもう走り出していたので止まることは出来なかった。

 

 家の前では兄がチョコを受け取っていた。相変わらず何人いるんだ。そう思いながら横切り家に入る。が、入る直前に足を止めた。

 

「お兄ちゃん、ありがとう」

「玄関に置いているよ」

 

 ありがとう。

 

 今度は心の中でいい、私は玄関の扉を開けたのだった。 

 



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ひな祭り

時期はサクラが中2。
2015年のひな祭りに書いたっぽい。


 私にとって1年でもっとも嫌いな日がバレンタイン。もっとも面倒な日はひな祭りである。

 

 

 

 

 憂鬱だ。普段なら放課後に近づけば嬉しいはずなのに、気が重い。家に帰りたくない。

 

「はぁ」

 

 私が溜息を吐いていると、ツナがこっちを見た。彼は私の溜息に反応するのは仕様なのだろうか。……そんなわけないか。彼は周りをよく見ているだけだ。

 

 HRが終わるとツナが私のところへやってくる。が、話をする時間はないだろう。そういえば、去年も同じようなことを思った気がする。

 

「サクラ、迎えにきたよ!」

 

 私の予想通り、颯爽と現れる兄。なぜ当たり前のように教室に入ってくるのだろうか。雲雀恭弥は何をしている。

 

「咬み殺されるぞ」

「心配いらないよ、雲雀君の許可はとってる」

 

 おい、仕事しろ。そう思ってしまった私は悪く無いはずだ。

 

「さぁ、帰るよ! サクラ!」

 

 さっと横抱きにされ、運ばれていく。ツナ達に挨拶する時間も無かった。

 

 そして、どんどん小さくなっていく校舎を見て思った。……雲雀恭弥は許可したほうが風紀が乱れないと判断したな。それでいいのかとツッコミしたいが、悲しいことにその判断は間違っていない。

 

 私の足で15分かかるはずの家に、数分で到着した。揺れて気持ち悪くなったりすれば文句がいえるのに、兄がそんなミスをするわけもなく、私は遠い目をするしかなかった。

 

 毎年のことだ、もう諦めよう……。

 

 頼りになる父も今日は助けてくれないので、私は腹をくくった。

 

 

 

 

 

「さすがサクラだ。世界一可愛いよ」

「……ありがと」

 

 ほんの少しニヤけながら返事をする。

 

 普段の私なら、兄がまたバカなことを言ってると思うが、今は違う。鏡に映った私は自身でも結構可愛いと思うのだ。鼻歌を歌いたくなる。

 

 ひな祭りは毎年、母と兄の手によって着飾られる。

 

 面倒で憂鬱なのは間違いないが、これでも私は女だ。少しでも可愛くなれば、テンションがあがるのだ。……大丈夫、自身でも難儀な性格だとわかっている。

 

 ちなみに母が私に着物を着せ、兄が化粧と髪を結う。不思議なことに女の私や母より兄の方が腕がいいのである。着物を着せることもだ。しかしそれだけは私が断固拒否し、母がしている感じだ。

 

 パシャパシャと音がする中、両親にも褒められる。ちょっと笑えば、さらに眩しくなった。流石にやりすぎだったらしく、兄が父に怒られていた。これも恒例行事である。

 

 反省しカメラを一旦置いた兄は、スケッチを始める。もちろん誰も驚かない。動くなと言われないので、私は放置している。もう好きにすればいいと思う。

 

 出来栄えに満足したのか、次はケイタイを取り出した。今度はケイタイで写真を撮るようだ。慣れてはいるが、鬱陶しくなってきたので兄の方を見るのをやめた。

 

「……サクラ、外へ出かけよう!」

 

 兄の言葉に反応して私が振り向いたところを連続写真で撮ったようだ。音でわかった。恐らく最後は呆れた顔になっているだろう。

 

「疲れるから嫌」

 

 着物で外を歩くのは大変だからな。

 

「サクラが去年に引き続き、並盛の風景と一緒に撮らせてくれない」

 

 床をダンダン叩き、嘆く兄を見て、溜息を吐いた私の反応は正しいと思う。

 

 

 

 

 兄に手を引かれ、ゆっくりと歩く。兄は足場のいい道をちゃんと選んでるようだ。

 

「どこで撮るつもりなんだ?」

「並盛神社だよ」

 

 その距離なら大丈夫だろう。無理と思えば兄に横抱きされる前に、タクシーを呼ぼう。もちろん兄のおごりで。

 

 そんなことを考えていると、偶然ツナ達と会った。

 

「神崎……? すげー似合ってるのな!」

「う、うん! 可愛いよ! サクラ!」

「……詐欺だ」

 

 三者三様の褒め言葉をもらった。まぁ彼らもこれで女の化粧には気をつけるだろう。

 

 彼らと別れた後、無事に並盛神社で写真を撮り、家に帰った。

 

 残すはご馳走のみ。私は上機嫌だった。

 

 

 

 そろそろ寝ようかという時間に電話があった。ディーノからだ。

 

「どうしたんだ?」

 

 こんな時間にかけてくるのは珍しい。向こうは夕方ぐらいかもしれないが、こっちは夜中だ。余程のことがなければ、ディーノは電話をしてこない。

 

『……あ。そっちは夜中か……、すまん』

 

 どうやらドジバージョンのディーノだったらしい。

 

「大丈夫、まだ起きてた。それで何?」

 

 流石に起こされたら文句を言っていたが、ギリギリセーフだ。

 

『着物姿が似合ってたぜ』

 

 ちょっと待て。どういうことだ。

 

『桂から珍しく写真が送られてくるから、一瞬何事かと思ったぜ』

 

 兄の仕業のようだ。後でハリセンで殴ろう。

 

「削除よろしく」

『そういうなって。すげー可愛いじゃねーか』

 

 ダメだ。向こう大人で褒めるのは慣れている。言葉が続かない。

 

『今度はいつ着るんだ?』

「……来年」

『次は1年後かよ……』

 

 なぜそんなに残念そうな声を出す。外国人からすれば着物は憧れるかもしれないが、去年の正月に笹川京子達の着物姿を見てるだろ。

 

「き、君が頼むなら着てもいいけど」

 

 しかし口から出た言葉は違った。

 

『本当か!? 約束だぜ』

 

 違ったが、ディーノがそこまで喜ぶならいいだろう。ただ……――。

 

「君が頼めば、着物姿ぐらいいつでも見れるだろ」

『そうかもしれねぇが、オレはお前の――』

 

 途中で言葉が切れたので、首をひねる。何か緊急事態が発生したのだろうか。

 

「切ったほうがいいみたいだな。頑張れよ」

 

 ディーノが何か言う前に切った。マフィアのボスも大変だなと思いながら、私は眠りに落ちた。



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ホワイトデー

時期はサクラが中2です。
2015年に作者のノリで投稿したっぽい。


 授業が終わりツナ達と帰っていると校門にディーノがいた。壁に寄りかかって待ってるディーノは少し難しそうな顔をしている。

 

 一時期教師だったディーノは容姿も良いのもあり人気だった。しかし難しそうな顔をしているせいか、遠巻きに見ているだけで誰も話しかけていない。明らかに異常だ。

 

 まぁそのおかげで私達は楽に話しかけることが出来るのだが。

 

「ディーノさん、どうかしたんですか!?」

 

 ツナがディーノに駆け寄って聞いた。

 

「……ん? よっ、ツナ」

 

 ツナ達の顔を見た途端、いつものディーノに戻る。これなら大丈夫かと一瞬思ったが、弟分を安心させようとしているだけなのかもしれない。

 

「何かあったんですか?」

「……何かあった……」

 

 再びディーノが難しそうな顔に戻る。そして、私の方を見た。

 

「いや、何でもねぇよ」

 

 はぁ。と溜息を吐く。どう考えても何かある。私の顔を見てから否定したので、私には話せないことなのだろう。

 

「先に帰るぞ」

「え!? サクラ!?」

 

 ツナの驚いてる声を無視して歩き出す。

 

 ……私が力になれることはもうないのだ。

 

 

 

 

 

 

「これが、普通なんだ。……ん、これが正しい」

 

 ブツブツ言いながら歩くのは怪しいとわかっている。でも自身を言い聞かせるには必要なことだった。そしていつもより少し上を向いて歩く。下を向けば、何かがあふれ出しそうな気がして。

 

 近いうちにこうなるとわかっていた。原作範囲が終われば、私に出来ることはもうないのだから。

 

「……大丈夫、彼らとは友達だ」

 

 ほんの少し繋がりがなくなるだけだ。笹川京子達のように話してもらない立場になるだけだ。友達なのは変わりない。

 

 そもそも戦えない私が前線に近いところにいることがおかしかったのだ。命の危険がなくなるのは喜ばしいことではないか。

 

 納得するように頷く。

 

 それにツナ達とは同じ学校なのだ。何かあっても話してもらえないが、顔が見れば何となくわかる。気晴らしになれるように声をかけるだけで、彼らの役に立つだろう。

 

 ツナ達とは大丈夫。

 

「…………」

 

 グスッと鼻をすする。彼とは距離が遠くなった。……大幅に。

 

 私が言えば、会いにきてくれるだろう。だが、彼から私に会いに来てくれるだろうか。

 

 ……悲しいことに、メリットが見当たらない。

 

 私と彼の関係は友達とはまた違う。ボディーガードと護衛対象という表現の方が正しい。

 

 果たして、守る必要がなくなった者を気にかける余裕があるのだろうか。……いつまで気にかけてもらえるのだろうか。

 

 どうして私は失わないと気付かないんだろう。あんなにいらないと思った知識が、あんなに悩んで嫌になった知識が、今は……欲しい。

 

「わっ!」

 

 グイッと肩を引かれ、力任せに振る向かされる。その勢いで目に溜まっていた水が、ポトリと落ちた。

 

「……何があった」

 

 ビクリと肩が縮こまる。いつもと違って声が低くて驚き、すぐに答えることが出来なかった。

 

「何があったんだ!?」

 

 一体、彼は何に怒ってるんだろう。あまりにも普段の彼と違うので、ジッと顔を見ることしか出来ない。

 

「誰に泣かされたんだっ!?」

「は?」

 

 思わず声が出た。何を言ってるのだろう。

 

「……違うのか?」

 

 コクリと頷く。誰かに泣かされたという話ではない。自身の力がなくなったことが原因だ。

 

「はぁ~……」

 

 すると、力が抜けるような溜息を出し、いつものディーノに戻ったのだった。

 

 

 

 

 ディーノに手を引かれ、歩く。

 

 あの後、怖がらせたお詫びといい、どこかへ連れて行ってくれると言ったのだ。

 

「本当にいいのか? 何か起きてるんじゃないのか?」

「問題ねぇよ」

 

 あんなにも難しそうな顔をしていたのに、問題ないとは思えない。

 

「今、私を優先するのは間違ってるんじゃないのか?」

 

 ディーノは忘れてしまったのだろうか。私はあの雨の日を忘れることが出来ないのに。

 

 ギュッと握られている手に力がこもり、足が止まった。……完全に忘れたわけじゃないようだ。

 

「大丈夫」

 

 恐らくディーノはあの後のことをリボーンから報告を受けてるはずだ。だから安心させるためにいい、空いてる手でディーノが繋いでる方の手の上に重ねた。

 

 離せという意味が通じたようで、ディーノの手が弱まっていく。とても名残惜しいが、仕方がないことなのだ。

 

「……もう守る必要がないんだ。いろいろ知ってる分、多少はあるかもしれないが、もう君が守る必要はないんだ」

 

 ディーノが驚いたように振り返ったので、本当に気付いてなかったらしい。知識がもうない私を同盟ファミリーの中で3番目に大きいキャバッローネが守るのはおかしいということに。

 

「お兄ちゃんがいるけど、ちゃんとリボーンと相談するから。君が安心して任せれる人をつけてくれるさ」

「……わーったよ」

 

 胸が痛くなった。私から言ったのに、ディーノの返事を聞いて辛くなったのだ。

 

「ん。……手を離してくれないか?」

 

 ディーノの目をみることが出来ず下を向いていると、手が握られたままだった。わかったなら、離してほしい。……未練が残りそうだ。

 

 頭を撫でられる。いつもより手つきが荒い気がするのは、最後だからなのかもしれない。

 

 ガシガシ。

 

 ガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシ。

 

 ……長い。そしてちょっと痛い。これはもう文句を言ってもいい気がする。

 

「ディーノ、痛い」

「ん? 気のせいだろ?」

 

 ガシガシ。

 

 ガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシ。

 

 ガシガシガシガシガシ。

 

 ……イラっとしてきた。キッと睨むようにディーノを見上げる。

 

「やっと見たか」

「…………」

 

 冷や汗が流れる。なぜだろう。凄く嫌な予感がする。父が怒る時の雰囲気に似ている気がする。

 

「お前がどう思ってるか、よーーくわかった」

「お、おう」

 

 気後れし、普段使わないような言葉で返事をする。

 

「そうだな。やり直す、か」

「な、何をだ?」

 

 怖いのに、なぜか聞きたくなる。不思議だ。

 

「もうわざわざオレがお前を守る必要がないんだろ?」

「……ん」

 

 再確認しないでほしい。ディーノから聞かれるとかなりのダメージになる。

 

「じゃ、これからオレがお前といるのはそういう意味じゃないってことになる」

「ん?」

「まずは……ホワイトデーのやり直しだな」

「は? もう貰ったぞ?」

 

 ディーノは何を言ってるのだろうか。今年もきっちり14日に届き、いつまでも置いてると食べれない気がして、すぐに食べたのだ。これは間違いない。

 

 食べる前に写真を撮っていると、いつの間にか兄が部屋にいて見られたのだ。恥ずかしくて死にそうだったからよく覚えている。

 

 その後、からかいもせず、紅茶を注げばすぐに出て行ったので私は何とか食べれることが出来た。からかわれていれば、恐らくずっと食べられず賞味期限が切れていただろう。

 

 なので、絶対に食べている。

 

「細かいことは気にするな」

「お、おい!?」

 

 ディーノがスタスタと歩き出したので、私も慌てて足を動かす。手を繋いだままなので、着いていくしかないのだ。

 

「ディーノ、何か問題が起きていたんじゃないのか?」

「もう解決した」

「そうなのか?」

「ああ」

 

 それなら、あの時に言ってほしかった。ディーノと一緒にいれる時間を延ばせたかもしれないのに。

 

「……ディーノ、どこへ向かってるんだ?」

「もうわかるだろ?」

 

 見覚えのあるホテルを見て、顔が引きつる。どう考えても私が入るのは間違っている。9代目やディーノが泊まるホテルに私は堂々と入れるほど図太くはない。……遠まわしにツナが図太いと言ってるのは気のせいだ。

 

「む、無理だ」

 

 しかしディーノの足が止まることはなく、入ってしまった。唯一の救いは私服ではなく、制服だったことだろうか。

 

 周りがキラキラしているように見える。

 

「デ、ディーノ」

 

 腕にしがみつく。ここは場違いだ。

 

「可愛いな、サクラ」

「……わ、笑うな」

 

 クソっ、一瞬ドキっとしてしまったじゃないか! ディーノが笑っていなければ、勘違いするところだった。

 

「心配するな、向かうのはオレの部屋だ」

「君の部屋はどう考えても、このホテルの中で上位の部屋だろ!?」

 

 思わずツッコミした。もちろん小声で。

 

「今から慣れとけば、将来困らないだろ?」

「……こんな高級そうなホテルに泊まる予定はないぞ」

 

 言ってて悲しくなってきた。私の家は貧乏ではないのだが、金持ちというわけでもない。私には縁のない話である。

 

「そうか? オレは必要になると思うぜ?」

 

 ディーノの言葉に少し考えることにした。うーん……。

 

「そうか。お兄ちゃんが連れてくる可能性があるのか」

 

 私と違って兄はガッツリ稼ぎそうだ。足を組んでホテルのソファーに座ってるイメージがすぐに出来た。

 

「今はそれでいいか……」

「ん? なんて言ったんだ」

 

 ボソッと呟いたので、よく聞こえなかった。

 

「今からマナーを知っていれば、苦労しないぜって言ったんだ。桂はどこにでも誘う気がするしな。チケットとか全て用意して渡されれば、断れないだろ? それに桂は有名になっていろんなパーティとかに呼ばれる気がする。その時、お前が結婚してなければ絶対頼まれるぜ」

 

 なぜか否定できない。兄が有名になるのは決定事項な気がする。

 

「大丈夫だ、素質はある。桂にエスコートされてる時は、完璧だ」

 

 これには驚くしかなかった。私は特に意識したつもりはない。それにディーノが断言したのも驚きだ。

 

「ただ……桂にエスコートされた時だけだ」

「それで大丈夫だ」

「そういうわけにも行かないぜ。パーティで、桂が断ることが出来ない相手もいるからな。ダンスを誘われて、お前が1人になるとするだろ。声をかけてきた方も連れがいる。ダンスの邪魔にならないようにエスコートされた時はどうするんだ?」

 

 他にもディーノが具体的な例を話すので、今のままではまずい気がしてきた。

 

「ディーノ、どうしよう」

「まずはオレで慣れればいい」

 

 そういうとディーノが握ったいた手を離し、私の腰にまわした。

 

 こ、これは恥ずかしい!! 兄にされても何も思わないが、ディーノにされると凄く緊張する。

 

「ディ、ディーノ……」

 

 やめて欲しいと目で訴える。

 

「…………部屋まで頑張れば、ケーキがあるぜ?」

「……ケーキ」

 

 もの凄く興味があるが、恥ずかしい思いまでして食べたいのかというと微妙なところだ。

 

「オレの部屋に届けさせるんだ。普通の部屋では食べれないものになるぜ」

 

 ゴクリと喉が鳴った。

 

「家族のお土産も用意するぜ?」

「よし。行くぞ、ディーノ」

 

 敗北である。物でつられた。

 

「ちょっと待て。君にメリットが何もないけどいいのか?」

「心配しなくても、大丈夫だ」

 

 そういえば、ディーノは金持ちだった。これぐらいは全く問題ないのだろう。ボンゴレの同盟の上位にいるとわかっているのに、どうも金持ちとはイメージしにくい。

 

「何か思ったことがあれば、すぐに言うんだ。オレにはわからないからな」

 

 大事なことなのだろう。ディーノは私の顔を覗き込みながら言った。腰に手があるからか、いつもより恥ずかしい。

 

「どうした?」

「……い、いや。大丈夫」

 

 更に近くなったので慌てて返事をする。

 

 ディーノは私の顔が赤くなるのを見て、とても楽しそうに笑っていた。からかって遊んでる気がする。

 

「いてっ!」

「悪い、慣れていないんだ」

 

 すぐさま謝ったので、私がわざと蹴ったと言ったようなものである。

 

「ほんと、可愛いな」

「……今度、眼科へ行った方がいいぞ」

 

 まだからかおうとするので、病院を勧めるとディーノは笑っていた。

 

 まったく、楽しそうで羨ましい。こっちは冗談とわかっているのに、ドキドキしているんだぞっ。



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サクラ咲く

時期はサクラが中3になる年の春
2015年のサクラが咲いていた時期に書いたみたいです。


 化粧をし着飾った姿は、想像以上に綺麗だった。写真で見るのと実際に見るとではまるで違う。

 

 思わず目を見張れば、得意そうな顔をして言った。

 

「兄の腕をなめてただろ」

 

 自慢げに話すのは歳相応の姿で、それはディーノがよく知っているサクラだった。

 

 ディーノはこっそりと息を吐き、いつものように声をかける。

 

「ああ。綺麗だぜ」

 

 嬉しそうに笑うサクラを見て、これでいいと心の中で頷く。焦りすぎて、怯えさせるわけにはいかない。端から長期戦の予定だ。

 

「痛くなったらすぐに声をかけろよ?」

「ん、わかってる」

 

 さりげなく荷物を預かり、手を握る。歩き出した時にほんの少し躊躇したが、顔が赤くなることはなかった。着物の時にいつも桂がしているのだろう。

 

 普段より、ゆっくり歩く。そして、いつも以上に周りを警戒する。慣れない着物に意識が向いているサクラのために。

 

 

 

 

 

 

 きっかけは些細なことだった。

 

 サクラの兄の桂から写真が送られ、直接この目で着飾ったサクラを見れなかったのがとても残念に思ったのだ。

 

 なぜそんなにも残念に思えたのか、ディーノは不思議でしかない。

 

 1つの可能性もあったが、それはないと判断した。サクラは中学生で、自身は大人だ。いくらなんでもそれはありえない。

 

 だが、可愛い妹分の着飾った姿が見れなかったというレベルの残念感でもない。ディーノは首を傾げるしかなかった。

 

「ボス、今年のホワイトデーはどうするんだ?」

「ん? 全部ロマーリオ達に任せるぜ」

 

 ボンゴレは日本と関係が深い。そのためバレンタインは男性からだけでなく、女性からも送ることがある。送られてきた場合は、ディーノは日本の習慣に合わせお返しをいつもしている。といっても、指示を出すだけで用意は部下がしているのだが。

 

「……いいのか?」

「ああ、任せた」

 

 再び悩み始めたディーノは、ロマーリオが確認した意味に気付かなかった。

 

 ディーノが気付いたのはホワイトデー当日だった。女性に頬を染めてお礼を言われ、更に期待するような目で見られた時にサクラの顔が浮かんで思い出したのだ。

 

 やんわりかわし、ディーノはすぐさまその場から去る。確認したいが、人目を避けた場所でなければならない。

 

「ロマーリオ! あいつのホワイトデーはどうした!?」

 

 やっぱりこうなったかと思いながらも、ロマーリオは正直に答える。他の者と同じように返した、と。サクラの物だけ特別にするのはロマーリオの一存では出来ないのだ。

 

 しまったとディーノは頭を抱える。部下達のことだから、サクラが好みそうなものを送っているだろう。だが、ディーノの予定ではちゃんと自身が選ぶつもりだった。ディーノのためにあのサクラが走ってまで取りに行ったのだから。

 

 今から間違ったといって新しいものを用意することは出来ない。サクラが喜んで受け取ってる姿が想像できるから尚更だ。

 

 部下が用意した物で喜んでるのも、どこかモヤッとする。もちろんサクラはディーノが用意したと思っているのだから、サクラが悪いわけではないのもわかっている。しかし、モヤッとするのはモヤッとする。

 

 ただ、その感情が何かはわからない。

 

 いろんな感情が渦巻いてるディーノを見て、ロマーリオは日本に行く時間があると教えたのだった。

 

 

 

 慌てて日本に来たディーノだったが、答えはまだ出ていない。普段なら素直に謝るのだが、サクラの反応が予測できずに出来ないのだ。

 

 しかし正確には、サクラの反応を見て、自身がどのようになるかがわからないからだった。

 

 ここまでディーノが疎いのは、ディーノが無意識にサクラをそういった対象に見ないようにしているからである。年齢差、守るべき対象、ボスという立場……いろんな要素が絡み合い、頭の中で否定する。

 

「ディーノさん、どうかしたんですか!?」

 

 ツナの声で顔をあげると、サクラも一緒だった。弟分達を心配させないようにいつも通りに返事をしたつもりだったが、ツナに何があったかと聞かれてしまう。そのため、サクラに目を向けてしまった。

 

 サクラはわかりにくいが、ディーノを心配そうに見ていることがわかった。自身の中で悩んでるだけで、心配させる内容ではない。だから何でもないと答えた。ただ、何でもないならサクラが帰ってしまのは予想外だった。

 

 サクラの足ならすぐに追いつくだろうと考え、ツナ達を再び安心させるように声をかけ、サクラに会いに来たことを説明し別れた。案の定、サクラが家に着くまでに追いついた。

 

 声をかけようとした時、サクラが鼻をすする音が聞こえ、気付けば身体が勝手に動いた。

 

 ポトリとそれは落ちた。

 

 サクラの様子を見ると、急に肩を引っ張ったことに驚き、涙は完全に引っ込んでいる。だけど、泣いていた。自身が知らぬ間に泣くようなことが起きていたのだ。

 

 何も知らないことに。何も話さなかったサクラに。……何より、先程全く気付かなかった自身に。腹が、立った。

 

 この後すぐに勘違いとわかったが、新たな疑問が増える。

 

 感情の制御が出来なかった。

 

 いつ振りだろうか。

 

 キャバッローネを継いで、真っ先にリボーンに鍛えられたはずだ。感情だけで動くのは危険だからだ。特にディーノはキャバッローネの財政を立て直さなければならなかった。感情だけで何とか出来ることではない。

 

 ……ああ、そうか。

 

 ストン、とディーノの中で収まった。

 

 サクラはもう未来がわからない。関係者なので守る対象に入るが、命の危険は格段に減った。桂の協力がある今、ディーノが――キャバッローネのボスが直々に守る案件ではない。

 

 もう言い訳できなくなった。

 

 ただディーノがサクラを守りたいと思ってるだけなのだ。まして他の誰かに任すなんて、絶対に嫌なのだ。

 

 この感情をディーノはシマの住人から聞いたことがあった。ボスの自身には縁のない感情だと思っていた。

 

 だが、知ってしまった。あんなにも悩んでいたのがウソだったように、落ち着いた。

 

 この感情を捨てなければ問題はたくさん起きるだろうが、覚悟の上だ。

 

 気付かなかった頃には、もう戻れない――。

 

 もっとも、腹をくくって1番最初にすることが、関係のやり直しだとはディーノも予想外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ディーノは桜に見入ってる彼女に声をかける。しかし、反応がない。普段は名前で呼ばないため、呼ばれていると気付いていないのかもしれない。

 

 握っている手に軽く力を入れると、振り返った。不思議そうにしている彼女にディーノはもう1度声をかける。

 

「サクラ、綺麗だ」

 

 ボッと顔が赤く染まる。その反応を見て、ディーノは満足そうに笑ったのだった。



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5月5日

時期はサクラが中3。
2016年の雲雀さん誕生日記念に書いたっぽい


 GWと言っても受験生の身。今年はマンガを読みたい欲求を抑えて真面目に勉強をしている。

 

 そんな私が少し気分転換も兼ねて、一階にジュースを取りに行けば、なぜかリビングにディーノが居た。そして彼の正面には父が座っている。……私の顔を見てあからさまにホッとしたな。まぁ仕方がないだろう。父の顔は笑っているが目は冷たかった。

 

 そういえば、まともに父とは会ったことがなかったか。

 

「……お父さん、何をしてるんだ」

「少しお話をしていただけだよ」

 

 父の言葉を聞いて、ディーノは引きつった笑みを浮かべていた。

 

「チャラチャラしてるように見えるが、彼は真面目な男だぞ。来るたびにお土産をくれるし、ケーキおごってくれるし、遊びに連れてってくれるし」

「それはサクラが喜ぶだろうね」

 

 おかしい、私のフォローは逆効果だったようだ。

 

「……ディーノ、行こう」

「いや、それは……」

「兄に丸投げするのが最善だと思うぞ」

 

 兄に任せてしまった方がディーノのためだ。私がグイグイと腕を引っ張ると、困ったようにディーノは眉を寄せた。父のことを気にしているようだが、父は私に弱い。私が出かけたいと誘っているのを無理に引き止めたりはしないのだ。

 

「……早く帰ってくるんだよ」

「ん」

 

 ディーノは明るいうちに必ず私を送り届けると父に約束してペコペコと頭を下げていたので、引っ張る力を強めた。急かさなければキリがなかったのだ。

 

 家を出ると力を抜くように長い息をディーノが吐いていた。

 

「悪い。昔、兄の関係でいろいろあったから」

「……それだけじゃねぇと思うが」

 

 首をひねれば、なんでもねぇよと頭を撫でられた。誤魔化されたとわかったが、見逃してあげよう。だからもっと撫でてもいいぞ。

 

「それで、何の用なんだ?」

 

 ディーノが日本にやってくる時は大抵連絡がある。今回はなかった。連絡がない時は私を脅かそうとしたり、緊急時やツナ達に何かあった時だ。父が捕まっていたことを考えれば、恐らく緊急時ではないのだろう。そして私を脅かす時は兄が一枚かんでいる。今日は居ないので本当に珍しいパターンだ。

 

「ちょっとお前に頼みがあるんだ。もちろん断ってくれてもいい」

「別にかまわない。出来るかはわからないが」

「すまん」

 

 普段ディーノには世話になってる。協力するのは問題ない。私の知識か予知の力が欲しいということだろう。原作分が終了した時点で私の知識はたいした力になれない。ということは、予知の方か。しまったな、詳しい内容をみようとするには眠る必要がある。家から出るべきじゃなかったか。

 

 とりあえず内容を聞いてからだな。

 

「実は……今日は恭弥の誕生日だろ? あいつの好きなものがわからなくてよ」

 

 思わずガクッとなる。勝手に真面目な内容と勘違いしたのは私だ。だが、それはないだろう。

 

「……彼の好みだけでいいだろ?」

「すまん。助かる」

 

 過去に雲雀恭弥の個人情報をペラペラ話してしまったことがある。多少人付き合いが出来るようになり、あれは悪いことをしたと気付き、私は反省した。なので、今回はちゃんと内容を厳選した。

 

「私が知ってるのは好きな食べ物が多い。だから多分それは参考にならないから除外するぞ」

「……だな」

 

 ディーノが雲雀恭弥を誘い、2人で食事に行く。……絶対にない。

 

「彼は和の物が好きだぞ」

「そういや10年後のあいつのアジトは和風だったな」

 

 私は何度も頷いた。身につくものなら嫌だろうが、日用品なら外れはないだろう。

 

「ディーノが用意したものなら渋々でも彼は受け取ると思うけどな」

「だといいけどなー」

「彼は好意には割りと寛容だ。過去に私からの誕生日プレゼントも受け取ったし」

 

 100円コロッケを誕生日プレゼントといっていいのかは別として、睨んだりするが彼はちゃんと受け取ってくれるのだ。

 

「……恭弥に渡したのか?」

 

 ピタッと足を止めてディーノが聞いてきた。それほど私がプレゼントを渡すのは珍しいのか。ディーノにも一応祝っているんだが。

 

「まぁあの時は成り行き」

 

 そういうと頭をガシガシと撫でられた。よくわからない。

 

「よしっ、行くか」

 

 どうやら買い物まで付き合って欲しいらしく、手を引っ張られた。これでも受験生だぞ。……ジッと繋いだ手を見つめる。

 

「後で何か奢ってくれるなら」

「ああ、もちろんだ」

 

 ……仕方ない、付き合ってあげよう。

 

 

 

 プレゼントを無事に買い終え、なぜか私も学校にやってきた。

 

「彼は学校に居るのか?」

「ああ。草壁哲也からの情報だ」

 

 そういえばロマーリオと草壁哲也は仲が良かったな。もっともディーノに悪意がないとわかっているから草壁哲也も教えたんだろうが。

 

 一時期教師をしていたこともあり、ディーノは迷う素振りも見せず校舎へ入っていく。

 

「屋上なのか?」

「さっき、あいつが飼ってる鳥が見えたんだ」

 

 彼らの視力はどうなってんだか。普通は見えないだろ。

 

「一緒に行くならフォロー頼むぞ。制服じゃない」

 

 彼は私に甘いが、こういうことは許さないからな。

 

「……お前は大丈夫だ」

「それもそうか。私を咬み殺すよりディーノを咬み殺ろしたほうが有意義だしな」

 

 私の言葉にディーノは引きつった笑みを浮かべた。ドンマイである。

 

 ディーノが屋上の扉を開けると、雲雀恭弥は不機嫌そうに体を起こした。その拍子にヒバードも飛び立ち、私の頭へとやってきた。

 

「よっ、恭弥」

 

 軽い足取りでディーノは雲雀恭弥に近づいていく。私ならば絶対に近づきたくはない。ただ、残念ながらディーノと手を繋いでるので行く羽目になるが。

 

 ちなみに今までの経験上、ディーノは簡単に手を離さない。当然、その時々の流れで離すことはあるが、それはディーノからである。私から離すことは成功したことがない。

 

 今回彼が離さないのは大丈夫と思っているからであろう。だが、ジッと雲雀恭弥は私たちの手を見ているぞ。群れるなと目で訴えている。

 

「そう怒るなって。まっここなら大丈夫か」

 

 ディーノが手を離したのでソッと雲雀恭弥から距離をとる。といっても、彼の腕ならこの距離ではたいした問題にならないだろうが。

 

「……それで、なに?」

「お前、今日誕生日だろ? プレゼントだ」

 

 雲雀恭弥の目が細まった。私の予想では怒っているというより気持ち悪いと思っていそうだ。

 

「変なものではないぞ」

「君が選んだの?」

「助言しただけ」

 

 少し興味が出たらしくディーノが持ってる袋をチラッと見た。まぁ趣味があうものなら彼の許容範囲に入ったのだろう。

 

「……そこに置いといて」

「おう」

 

 相変わらず素直ではない。だが、嬉しそうにディーノが笑ったので良しとする。

 

「……君は? 君からの分は?」

「「は?」」

 

 ディーノと声がかぶる。だが、仕方がないだろう。それほど彼が私に催促するなんて予想外の出来事なのだ。

 

「そう」

 

 私たちの反応でないと察した雲雀恭弥は立ち上がって、こっちに向かって来た。まさか用意してないと咬み殺すのか!?

 

「恭弥……?」

 

 もし雲雀恭弥がトンファーを出そうとしたり、殺気を送っていたならディーノは絶対に止めただろう。だが、雲雀恭弥は私が認識できるほどゆっくりと近づいてきた。ちなみに私はそれでも逃げることが出来なかった。これがレベルの差である。

 

「3秒でいい」

 

 雲雀恭弥の言葉の意味がわからず、首を傾げる。私の疑問を他所に、彼はスッと私の頬に手をそえた。

 

 ゴクリと喉が鳴った。それほど彼の目は真剣に私を見ていた。いや、正しく言うと私の目を見ていた。

 

 腰が抜ける直前にディーノが私を抱きとめた。そして雲雀恭弥から隠すように体の向きを入れ替えた。私の位置からは2人の様子はよく見えない。会話もなく、ただ緊迫した空気が流れているのはわかる。

 

 くだらないと思ったのか、雲雀恭弥は溜息を吐いて屋上から去っていった。ディーノからのプレゼントが見当たらないので、ちゃっかり持っていったらしい。ヒバードも彼について行ったようだ。

 

「……大丈夫か?」

「ん。驚いただけ」

「……そうか」

 

 いろいろと思うことがあるのだろう。ディーノから感じる空気は重かった。

 

「……約束どおり、ケーキを食べに行くか!」

 

 気まずい空気を壊すかのようにディーノは私の頭を撫でる。私はされるがままだった。

 

「ディーノ」

「ん?」

「……いや、なんでもない。早く行こう」

「おう」

 

 私に出来ることはないのだ。私は甘えるようにディーノの腕に抱きつき催促したのだった。



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時期はサクラが中3の夏休み。
作者がストレス発散に書いた話。
活動報告に載せた時よりも加筆しています。


 名を呼ばれ、反射的にベッドの横にある100tと書かれているビニールハンマーで殴る。

 

「無念……」

 

 大げさに倒れてる兄を見て、憂鬱になる。なぜ朝一からハイテンションにならなければならないのだ。そもそも鍵はどうした。とりあえず目をこすりながら、身体を起こす。

 

「サクラ! おはよう! 今日も可愛いよ!」

「……おはよ。朝から何?」

 

 夏休みなのだから、受験生といっても多少はゆっくり起きてもいいじゃないか。まだ6時だぞ。

 

「夏休みなのだよ! 海が僕達を呼んでいるよ!」

「幻聴だ」

 

 受験生に誘う内容ではない。ツッコミしたし、もう一度寝よう。寝転び布団をかぶり直す。が、兄があまりにも嘆くので仕方なく起き上がる。

 

「幻覚か……」

 

 さっきまで普通だったのにな……。

 

「サクラは幻覚にかからないよ!」

 

 幻覚にかかった方がましである。ゴーグルと浮き輪をつけて浮かれている兄を見てそう思った。

 

 

 

 兄と一緒に電車に揺られ、並盛海岸へとやってきた。正直憂鬱だ。息抜きのために誘っているんだろうが、疲れるだけである。次の日は筋肉痛だろうし。

 

「サクラ、行こう!」

 

 だがまぁ、ここまで来たら遊ぶしかないだろう。兄の腕に甘えるように掴まった。

 

 兄がピーチパラソルを用意している間に、私は着替える。着替えると言っても、服の下に着ているので脱ぐだけだが。

 

 一応ビキニである。ただしその上に上着も短パンも履いているので色気は皆無だ。兄が嘆くとわかりきっていたので、おだんごヘアに。ちょっと時間はかかったが、これで満足するだしいいだろう。

 

 兄がいる場所に目を向けると、2人の女性に囲まれていたのが見えた。逆ナンである。ケッと僻んでいれば、声をかけられた。

 

「1人?」

 

 数を撃てば当たるかもしれないが、よくやるなと思う。残念ながら私は当たらない方なので答えは一択だ。まぁ声をかけられたので、可愛いと思ってくれたのだろう。悪い気はしないので、兄が来る前に断ってあげよう。

 

「いや」

「オレのツレになんか用か?」

 

 私の言葉を遮るように第三者が現れる。斜め後ろに見上げれば、ディーノが居た。イケメンに睨まれれば、私のように僻んで去るしかないだう。軽い男に心の中で手を合わせた。

 

「……すまん、遅れた。怖くなかったか?」

「大丈夫」

 

 チラッと見るとディーノは水着姿だった。つまり兄の仕業である。私のために誘ってくれたようだ。

 

「毎回、兄の誘いに付き合わなくていいぞ」

「オレも楽しんでるからいいんだ」

 

 肩をすくめる。忙しいのに良くやるな。

 

「オレのことはいいから。今日は息抜きなんだろ?」

「まぁ」

「なら、遊ぼうぜ」

 

 ディーノが手を差し出したので掴む。ディーノはただのエスコートなのかもしれないが、少しの時間でも手を握りながら歩けたことで、密かにテンションがあがった。

 

 私が戻ってくるまでに、兄は断ることが出来たらしく1人だった。

 

「お団子頭のサクラも可愛いよ!」

「ん。ありがと」

 

 予想通り兄は満足したらしく、嬉しそうに写真を撮っていた。一方でなぜかディーノは落ち込んでいる。先に……とかブツブツ言って、しゃがみこんでいるからな。

 

「ディーノ?」

「いや、なんでもねーよ。桂の言う通り、可愛いぜ。……ウソじゃねぇって!」

 

 あからさまなお世辞に微妙な顔をしてしまったようだ。ディーノが慌てていた。私が反応に困っていると、兄がディーノの肩を叩いた。慰めているつもりなのかもしれないが、ドヤ顔である。ディーノが呆れて何も言えず、項垂れるのは仕方がないことだろう。

 

「お兄ちゃん、日焼け止め塗るよ」

 

 助け舟として話題をかえる。いくらハイスペックの兄でも届かない背中は綺麗に塗れないからな。

 

「助かるよ。サクラはいいのかい?」

「いい。脱ぐつもりないから、全部届いた」

「せっかくのイベントが!」

 

 兄は塗っている私の邪魔をしないように、首だけガクッと下に向けた。ちょうどいい、そこも塗るから動くなよ。まぁ兄はそこまで必死に日焼けを防ごうと考えてないだろう。ササっと塗って終わりだ。

 

「ディーノは? それ脱ぐのか?」

 

 兄と違ってディーノは上着をきていた。まぁ私みたいにファスナーを閉めていないが。

 

「……そうだな」

 

 チラッと私が持っている日焼け止めを見たので、貸して欲しいのだろう。兄に手渡す。

 

「塗ってあげて。私はストレッチをしているから」

「……うん、流石僕が育てたサクラだよ。フラグをへし折ったよ!」

「当然。私は2人とは身体のつくりが違うんだ。準備体操は必須だろ」

 

 私1人のために付き合わせるのも待たせるのも悪い。今の間にするのがベストなのだ。さらに何もしなければ、兄がラジオ体操するとか言い出すからな。そんなフラグは先にへし折るに限る。

 

 それにしても男同士だとただ日焼け止めを塗るだけなのに、賑やかになるのか。まぁ静かに念入りに塗っていたら、私はちょっと引く。……いや、ドン引きだな。

 

 さて、怪我防止のストレッチが終わったので海へ入るか。まぁその前に浮き輪に入るが。

 

「……泳げないのか?」

「いや、泳げるぞ」

「そうか」

「そうだよ! 後は息継ぎを覚えるだけさ!」

「それ、泳げねぇのと一緒だからな!?」

 

 ディーノのツッコミは無視である。さぁ海へと突撃だ!

 

「きゃー! 冷たいー!」

 

 慣れれば何も感じないのに、最初は叫んでしまうのが不思議だ。まだ慣れ終わっていない段階で、兄に浮き輪の紐を引っ張られ、ついキャッキャッとはしゃぐ。

 

 いつの間にかディーノが私の横まで泳いできて、ポツリと言った。

 

「お前がここまで声を出して笑ってるの、初めて見たぜ」

「……君も出せっ!」

 

 ディーノの顔面を狙い、思い切り海水をかける。予想外だったのか、ガッツリかかったので声を出して笑う。

 

「やったな……!」

 

 もうここからはただのやり合いだ。兄が私の味方についてくれるので、ディーノの被害は凄かった。まぁディーノも兄も笑っていたからいいのだろう。……もっとも私が一番笑っていたと思うけどな。

 

 私への被害は少なかったが、おだんごヘアは崩れてしまった。兄が直してくれるというので、一旦あがることに。ついでに水分補給をしよう。

 

 水分補給をし、髪の毛もばっちり決まったところで、ざわざわと人が集まってきているところがあるので、ちょっと覗いてみることに。

 

「ビーチバレー大会?」

 

 大会といっても、軽いお遊びみたいだな。飛び入り参加オッケーで商品は海の家で使える2000円分の割引券だし。

 

「興味あるのか?」

 

 じーっと参加資格を見ていると私がやりたいと思ったらしい。残念ながら違うぞ。

 

「兄とディーノで組めば、優勝するだろうなーと思って」

 

 私の言葉に2人が顔を見合わせた。

 

「待ってる間、応援してくれるのか?」

「そりゃまぁ」

 

 言い出しっぺは私だし。2人がやるなら流石に放置して遊ぶ気はないぞ。

 

「優勝すれば、カッコイイかい?」

「……まぁ、そうだな」

 

 兄の質問はズレているなと思いながらも答える。すると、2人はガッシリと手を組んだ。やる気になったようだ。

 

 イケメン2人が参加というだけで注目を集めるのに、その2人が強いのだ。時間の経過と共に観客の人数が増えていく。

 

 2人の連れということで、他の観客より2人の近い位置で観戦しているので、嫉妬の視線が凄いことになってきた。得点を決めるたびに2人とも私に笑顔を向けるのも原因な気もするが。

 

 逃げられないのもあり、なるようになれと開き直って応援した。

 

 小さな大会なので、簡単にあと一回勝てば優勝というところまできた。試合前に水分補給などをするために私のところにきたので、声をかけた。

 

「お兄ちゃん、ディーノ。2人とも頑張って」

「ついに僕の時代がきた!」

 

 声をかけただけなのに兄が変なテンションになったようで叫んでいた。ディーノは兄の言動に苦笑いしながらも、私の耳に顔を寄せた。

 

「ありがとな。優勝してくるぜ」

「……お、おう」

 

 狙ってやったのかと疑いたくなるレベルの行動である。キャーキャーうるさいからそうしただけだろうが。頬に熱が集まったのが恥ずかしい。……恥ずかしながらも脳内で何度も再生した私も大概だが。

 

 私の予想通り、決勝でもサクッと勝ちそうな2人である。点差は圧倒的だ。相手選手が気の毒だなと思ったら、ボールがこっちへと飛んできた。

 

「サクラ!?」

 

 ボールがドンドン近づいてくる視界の端で兄が慌てているのが見えた。

 

「やっ、お兄ちゃんっ!」

 

 いくら何でもできる兄でも、あの位置からでは間に合わないだろうなと頭の隅で思った。死ぬ気の炎を使えば大丈夫かもしれないが、この観客の中では使えないだろう。

 

 ちょっと痛いだろうなと覚悟していたが、なかなかその痛みがやって来ない。恐れ恐る顔をあげるとディーノが目の前にいた。兄よりディーノの方が近い位置に居たし、間に合ったのか。

 

「大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫」

 

 なんとなく気まずい、兄の名を呼んだし。

 

 すぐに対戦相手がきて謝ってくれたので、ホッと息を吐いて謝罪を受け入れた。

 

 ちょっとしたハプニングはあったものの、点差がひっくりかえることもなく、そのまま兄達が勝った。

 

「サクラ、勝ったよ!」

 

 ヒョイっと慣れた手つきで兄が私を抱き上げた。そのままの状態で簡単な表彰式に出る羽目に。ちょっと恥ずかしかったが、テンションが高かったからか嫌がらなかった。しかし司会者に振られたことで、今更ながら失敗だったと気付いた。

 

「勝利の女神から一言!」

「うぇっ!? えーと、2人ともお疲れ様。おめでとう」

「もう一声!」

 

 もう一声ってなんだよ。周りも煽るなよ。兄からやめさせようか?という視線がきたが、首を振る。流石にこの空気を壊したくない。だからといって、何か浮かんだ訳でもないのだが。

 

 悩んでいると兄が私の手の甲にキスをした。盛り上がったので、これで良かったようだ。ホッと息を吐いていると、手を掴まれた。……ディーノもするのか。いやまぁこの流れでやらないというわけにはいかないのか。まぁ手の甲なら大丈夫か。

 ドキドキしながらも大人しくしていると、指先に柔らかな感触がした。

 

「へ……。ぅひゃぁ!」

 

 私の変な悲鳴は観客のヤジで消えた。恥ずかしくて兄に埋もれるように抱きつく。なんかエロかった……!

 

「ディーノ、やりすぎだよ……」

「仕方ねえだろ? お前と同じ場所にしたくなかったんだ」

 

 慰めるように兄がポンポンと背を叩いてくれた。非常に助かる。

 

 優勝賞品の割引券を受け取った私達は、その足で海の家に行くことに。私がまだ完全に立ち直ってないのもあるので、気分転換も兼ねてだと思う。

 

 兄に抱っこされたままなので、一緒に相談して決める。ディーノは知らない。

 

「オレが悪かったから、こっち向いてくれよな……」

 

 流石にそろそろ可哀想なので妥協案を出す。

 

「……後でかき氷」

「ああ! 任せろ!」

 

 許してあげたので、3人で改めて相談する。私がちょっとずつ食べたいというワガママを言ったので、全部で4品注文することに。3品をシェアでいいんじゃないか?と私は思ったが、2人はそれだと足らないらしい。動いたのもあると思うが、男女の差なのだろう。メイン以外にも注文していたようだし。

 

 先に好きなだけ取っていいと言われたので、遠慮なく自身の取り皿に入れる。メイン以外の唐揚げも一個パクった。どうやら注文したのはディーノのようで笑っていた。

 

「いただきます」

 

 もぐもぐと食べ始める。あまり期待してなかったが、そこそこ美味しい。環境がそう思わせているだけかもしれないが。

 

 私が普通に食べている中、なぜか2人は取り合いをし始めた。子どものようで、ちょっと笑える。まぁ2人が争っているスキに横から奪った私も子どもだろうが。

 

 綺麗に完食したので海に入ることに。ちなみにかき氷はおやつの時間におごってほしいとお願いした。

 

 もちろん入る前に日焼け止めを塗り直す。兄が背に塗って欲しそうだったので、ディーノに頼んだ。ショックを兄が受け、それを見てディーノも笑っているが無視だ。私は自身の身体を守るのに忙しいのだ。

 

 では、準備が終わったところで再び海へと出撃である。

 

 出撃と言っても私は浮き輪の上に乗っていた。2人で交代で引っ張ってくれるようだ。食後だから気をつかってくれたのだろう。引っ張らない方は私の浮き輪に捕まり、話し相手になってくれるみたいだ。

 

 先に兄が引っ張ってくれてるので、ディーノと2人っきりだ。さっき言えなかったことを口にする。

 

「ディーノ。その、ボール、ありがと」

「気にすんな。何もなくて良かったぜ」

 

 咄嗟に兄の名を呼んだが、気にしてないようでホッとする。

 

「……楽しいか?」

「ん! 受験生って忘れそうだっ」

 

 後で連れ出してくれた兄にちゃんとお礼を言わないと。

 

「ディーノは?」

「オレも楽しいぜ。知らなかったサクラの一面が見れたしな」

 

 こういう時に名で呼ぶのは卑怯だと思う。でもテンションが高いからか、いつもと違ってテレながらも素直に笑う。

 

「……っ」

「今度は……って、なにか言いかけた?」

「……なんでもねぇよ。今度は、なんだ?」

「いや、今度はみんなで来たいなって」

 

 今年は流石に無理だろうな。特にツナはギリギリだ。私もまた来る余裕はないだろう。一日中勉強しないのは怖い。それでもわからないところがあれば兄に聞けば納得するまで教えてくれる分、他の受験生より楽をしていると思うが。

 

「みんな、か……」

「もちろんディーノもだぞ」

「ああ。それはかまわねーが、オレは2人っきりでもいいんだぜ?」

 

 慌ててディーノを見る。どういうつもりで言ったのか、知りたかったのだ。ディーノはジッと真剣な目で見ていた。

 

 最初に思ったのは、雲雀恭弥に至近距離で見つめられた時と似ている。彼の言葉通り、数秒だけ本来の目の持ち主のように私を扱った。……あの時に、似ている。

 

 その次に浮かんだのは、怖いという感情だった。彼が真剣に言ったなら、ディーノのことが好きな私は喜ぶところのはすだ。だが、怖いと思った。

 

「……ごめん」

 

 ディーノの顔を見れない。もしかすれば冗談を本気にとったことに驚いてるかもしれないし、万が一本気なら傷ついているかもしれない。……でも多分何事もなかったように笑って声をかける。冗談か本気か私に悟らせないのだ。私が気にしないように。

 

 だから彼が何か言う前に慌てて口を開く。

 

「ち、違うんだ、ディーノ! 私は君と出かけるのも、手を繋ぐのも嫌いじゃないんだ!」

 

 ああ。なんで好きとは言えないのだ。伝えたいことは多いのに、上手く話せない。

 

「わかったから。落ち着けって。な?」

 

 ディーノの優しい声でやっと息を吐けた気がする。実際には何度も吐いていただろうが、よく覚えてない。

 

「……怖いと思ったんだ。でもよくわからなくて。君が優しいのは知ってるのに」

 

 それに私はディーノが好きなのに……。感情がぐちゃぐちゃで泣きそうになる。意地でも泣かないが。

 

「大丈夫だ。オレはわかったから。お前がわからなくても問題ねぇよ」

「……ほんとに?」

「ああ」

 

 良かったと息を吐く。ディーノがわかったなら問題ない。だからやっと私はディーノの顔を見ることが出来た。……うん、怖くない。

 

「すまん。怖いと思ったのはオレのせいなんだ。だからお前が気にする必要はないんだ」

「……私に気をつかってるなら怒るぞ」

「それはねーよ。今すぐ落ち込みたいぐらいなんだぜ? お前を怖がらせちゃ意味ねーのにな……」

 

 なんだが本当に落ち込んでいるように見える。だからなのか、スッと言葉が出た。

 

「来年、行く? 一緒に」

「無理しなくていいんだぜ」

「よくわからないけど、怖くなくなった。さっきも言ったけど、君と出かけるのは嫌いじゃないし」

「……そうか。なら、約束な!」

「ん」

 

 ちょっとドキドキだ。いつもと違ってデートっぽい約束だし。……しかし益々さっきは怖くなった理由がわからなくなったな。

 

「そろそろ交代だよ! ディーノ!」

「うわっ」

 

 ディーノと一緒に声をあげた。私だけなら良くあるが、ディーノも驚いたのは意外だ。

 

「脅かすなよ……」

「おや? 僕はいつでもスタンばってるのを忘れてないかい? 狙ってこのタイミングにしたのだよ。褒めて欲しいぐらいだよ!」

 

 兄の言葉にディーノは頬を引きつらせた。……気持ちはわかる。驚かされたのになぜ褒めなくちゃいけないんだ。

 

「さぁさぁ。サクラと僕のために身を粉にして引っ張りたまえ」

「お兄ちゃん!」

 

 普段は兄の偉そうな態度にはツッコミしないが、ちょっと今回は酷い。もう少し言い方があるだろう。

 

「オレは気にしてねーから、いいんだ。でもありがとな」

 

 ディーノがそう言うので渋々引き下がる。でも兄を睨むのはやめない。……と思ったが、すぐにやめた。兄が悶えだしたから。

 

「ちょっと頑張ってくるぜ。それで……いいんだろ?」

「そうだよ!」

 

 ディーノが泳ぎだした後、再び兄を睨む。ちょっとディーノへの扱いが雑すぎる。

 

「僕としては優しい方だと思ったのだけど、サクラがそう思うならやめるよ。ただ彼は気合が入ってるみたいだし、次に何して遊ぶか決めるまで頑張ってもらうのはどうだい?」

 

 確かに……と思う。兄が引っ張っている時よりもスピードがあるのだ。私のワガママでやめるのが一番な気がする。

 

「お兄ちゃん、案を出して」

「そうだねぇ。……僕としたことが忘れていたよ! 水鉄砲を持ってきていたのだよ!」

「……お兄ちゃん、隠しながら持ってこれる?」

 

 見なくてもわかる。今の私は口角があがっている。まぁどうせ私のコントロールではなかなか当たらないのだ。不意打ちで一発ぐらい狙ってもいいはずだ。

 

「お主も悪よのう」

「いえいえ、兄上様ほどでは」

 

 くだらない掛け合いをした後、兄はディーノに一言声をかけてから去っていった。

 

 ……早く戻って来ないだろうか、楽しみである。



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2月4日

時期はサクラが中3。
2016年のディーノさん誕生日記念に書いたっぽい。



「たのもー!」

 

 今日も笹川了平の声で起こされた。彼の声が私の目覚まし時計になりつつあるぞ。軽く心の中でツッコミしてから、起き上がる。ケイタイを見ると2月4日と表示されている。

 

「……無事に届いているといいな」

 

 そう、2月4日はディーノの誕生日である。プレゼントを今日届くように送ったのだが、大丈夫だろうか。兄に頼んで送ってもらったので、こっちのミスはない。輸送の間に何もないことを祈るしかない。手渡し出来ればその心配はないのだが。残念ながらディーノはイタリアに住んでいる。中学生の私にはイタリアまで行く旅費はない。そもそも、学校がある。それに今年は受験だしな。たとえディーノが日本にいるとしても休むつもりはない。

 

 ちなみに雲雀恭弥は卒業したのかもう通ってはいない。ただ、たまに学校にやってきているという目撃情報はある。徐々に未来編のような風紀財団を立ち上げる準備をしてそうな気がする。人生は人それぞれだが、君の将来はそれでいいのか。思わず聞きたくなる。咬み殺されたくないので聞かないが。

 

 ……人のことをとやかく言ってる場合じゃないか。さっさと準備して学校へ行こう。受験まであと数日なのだ。

 

 

 

 

 

 学校が終わったので、今日もツナと一緒に帰る。ちなみに2人なのは、獄寺隼人はサボりで山本武は後輩に引きとめられたからだ。

 

「日に日に顔色が悪くなってるな」

「ははは……」

 

 もう、かわいた笑いしか出ないらしい。高校に受からなければ、ボンゴレのボスになるという道しかないとリボーンに脅迫されているらしく、ツナは必死にリボーンのスパルタについて行ってるからな。

 

「ツナも運動部に入っていれば良かったな」

 

 ツナも、と言ったのは山本武は部活のおかげでツナより苦労しないからだ。おそらく最低限の点数さえ取れば、普通に受かる。兄から聞いた話では、受験なので同じ成績近くの者ばかり集まることになる。当然テストで同じ点数のものも複数いる。そこで内申点が影響してくるのだ。もちろんどの先生は受かって欲しいと思っているので、悪いことはかかない。なので、部活歴や出席率などはっきりと目に見えるもので評価されて受かって行くらしい。そうなると、マフィア関連で休むことが多く、部活で成績を残してないツナはかなり不利なのだ。ちなみに、獄寺隼人はツナと同じ高校ということで、偏差値をかなり落としているので出席率が低くても全く問題ない。

 

「や。オレ、運動はダメダメだから……」

「今のツナなら死ぬ気にならなくても、いいところまで行くと思うぞ」

「そ、そうかなぁ」

 

 本当のことなので、私はツナの照れに引きずられることはなかった。実際、原作開始前と比べて筋肉などがかなりついている。死ぬ気であれだけ動いているのだから、通常時の反射神経もあがっているだろう。

 

「私も部活すれば良かったな」

 

 帰宅部と記入しても意味はないからな。

 

「サクラはいつも通り出来れば問題ないんでしょ?」

「……フラグをたてるなよ」

「……ごめん」

 

 そういうフラグはやめてくれ。これでも中2の春には考えられないぐらい偏差値が高い学校を狙っているのだから。

 

 思わず睨んでしまったが、ツナが謝ったので良しとする。私は心が広いのだ。

 

「ツナ達とはあと少しか……」

「……うん、そうだね」

 

 出会った頃はこんな寂しくなるとは思わなかったな。それに進路が違うという理由でツナ達と離れるようになるとは……。

 

「まぁ高校でも部活するつもりはないから、日曜日とか君の家に行くぞ」

「うん、いつでもきていいから!」

 

 さっき部活すれば良かったと言ったばかりだと? ……ただ内申点の問題だけで、本気でやりたいわけではない。私はワガママなのだ。

 

「じゃ、私はこっちだから」

「また明日」

「ん。あまり無理するなよ」

「ありがとう」

 

 ツナと別れて数分後、家についた。

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

 お母さんが出てきたので、兄はいないようだ。今日は仕事だったか。

 

「着替えてくる」

 

 声をかけて二階へとあがる。やはりこの時期にスカートは寒い。男子が羨ましい。制服の改善を要求する。誰に言えばいいんだろうか。雲雀恭弥になるのか?

 

 雲雀恭弥という理不尽な存在に内心でブツブツ文句を言いながら部屋の扉を開ける。

 

「……は?」

 

 とりあえず、一度閉める。私の部屋で合ってるな。私がもう一度ドアノブをひねる前に、勝手に開いた。

 

「サクラ、おかえり! 僕としたことが、サクラの帰りに気付かなかったよ!!」

 

 無駄にオーバーリアクションで気付かなかったことに嘆く兄が居る。それはまぁいい。いつものことだ。

 

「邪魔してるぜ」

「……なんで私の部屋にいるんだ」

「わりぃ。部屋はまずいだろと断ったんだが、驚いた顔が見たくないかと言われてよ。つい入っちまったんだ」

「心配しなくても、僕が見張っていたよ!」

「その心配はしていない」

 

 すぐさまツッコミをいれ、慌てて部屋を見渡す。見られて恥ずかしいものは出しっ放しにしていないだろうか。

 

「大丈夫さ。僕に抜かりはない」

 

 つい先ほど、私が帰ってきたことに気付かなかったと言っただろ。いや、兄のスペックなら気付いていたが、ディーノがいるから行けなかったのだろう。それなら私の部屋に案内するなといいたい。

 

「僕の部屋で良かったのかい?」

 

 それは却下だ。確か、兄の部屋は私の写真でいっぱいだった。用がなければ、私も入りたくはない。

 

「せっかく日本に来たところ悪いが、私は受験で忙しい」

 

 非常に、非常に残念だが、ディーノと一緒に過ごすことは出来ない。来週だったら良かったのに……!

 

「わかってる。これでも一時期先生だったんだぜ?」

 

 ……私に会いにきたわけではないのか。ちくしょう。

 

「そうか。じゃ、勉強の邪魔だから出てってくれ」

「まぁ待て。実は時間があってよ、しばらく日本に滞在する予定だ」

 

 くそっ。なんでこのタイミングなんだ。

 

「最後まで聞けって」

 

 渋々、最後まで話を聞くことにする。私に対する扱いが雲雀恭弥と似ているのは気のせいだと思いたい。

 

「受験の日まで勉強みれるぜ」

「……勉強、一緒に?」

「そうだ」

 

 にやけた顔を見られたくなくて、下をむく。すると、何を思ったのかディーノが駆け寄ってきた。

 

「迷惑だったか?」

「別に迷惑ではないぞ。どちらかというと助かるな」

 

 また失敗した。可愛くなくてもいいが、もうちょっと素直に言えないのか! そしてなぜ微妙に偉そうなのだ! ……おい、兄よ。録画はやめろ。

 

「そうか。それは良かった」

 

 そう言ってディーノが笑ったので、再び下を向くハメになった。

 

「サクラの許可が出たことだし、僕は部屋を片付けてくるよ」

「桂、本当にいいのか?」

「問題ないよ。君が寝る場所ぐらいすぐに用意できるさ」

 

 兄が出て行くのを見ながら思う。兄の部屋は私と違っていつでも綺麗なので、私の写真を片付けるのだろう。おそらく不自然ではない量にするはずだ。そうでなければ、私が怒る。

 

 ……ちょっと待て。

 

「私の家に泊まるのか?」

「嫌だったか?」

「別に嫌ではない。ただディーノが私の家で泊まるのかと思っただけ」

 

 兄よ、休憩時間のたびにくだらないメールを送ってくるなら、そういう大事なことを報告しろ!

 

「ちょっと私も見てくる」

 

 洗面所とか大丈夫だろうか。ディーノに見られて変に思われそうなものがないか確認しなければならない。

 

「ちょっと待てって」

 

 パシッと手を掴まれたので、足を止めて振り返る。

 

「オレをこの部屋で1人にする気か?」

「さっきも言ったけど、そういう心配はしていない」

「……ったく」

 

 呆れたように息を吐いたと思ったら、引き寄せられた。……抱きしめられてないか?

 

「ディ、ディーノ!?」

「男には注意しろってことだ」

 

 私の焦った声を聞いたからか、ディーノは注意するとあっさりと離した。ちょっとだけ残念である。

 

「……だからそういう顔をするなよ……」

 

 力が抜けたようにディーノがしゃがみこんだ。そういう顔ってどういう顔だ。多少体温があがったが、口元とかは緩んでなかった。兄ぐらいしか気付かない変化しか私はしていないぞ。

 

「……サクラ、オレはまだ聞いてない」

「何がだ?」

 

 しゃがみこんだまま顔をあげたので、つい視線をそらしながら返事をした。破壊力がありすぎる。

 

「今日が何の日か、忘れちまったのか?」

 

 忘れるわけがないだろ。心の中だけは反応がはやい。相変わらず口はすぐに動かない。それでもディーノは急かすことなく待っていた。

 

「……た、誕生日。おめでとう」

「ああ」

 

 おい。催促したくせにあまり喜んでないのは気のせいか!?

 

「仕方ねぇだろ。数ヶ月つっても、差は広がるんだ」

「何の差だ?」

「歳はとりたくねぇって、ことだ」

 

 私は早く大きくなりたいが、ディーノのような大人になると違うのかもしれないな。納得したように頷いていると、あることを思い出した。

 

「……プレゼント」

「そういうのは気にするな」

「違う。ディーノの家に送ったんだ!」

 

 ショックだ。せっかく用意したのに、まさかすれ違うとは……!

 

「帰った時の楽しみってことだな」

 

 ディーノの言葉に私の機嫌が良くなり、口を開く。

 

「あ、あんまり期待するなよ。たいしたものじゃないし……」

 

 途中から自身で言った内容にヘコんできた。ディーノに送られるだろうプレゼントは高価なものばかりだろう。それに対して私はただのハンカチだ。そもそもディーノのハンカチをお守りとし勝手にパクったので、新しいのをかえしたに過ぎない。本当はもう少しいい物を買いたかったが、ディーノが普段から使えるのはブランド物でなければ浮いてしまう。私の手持ちだとハンカチしか買えなかったのだ。

 

「……ごめん」

「サクラ……?」

「いつも貰ってばっかりで。何も返せない」

 

 ディーノが優しく私の頭を撫でた。普段は嬉しいが、子どもあつかいなので泣きそうになる。そういえば、ディーノは何か知らないが差が広がることを嘆いていたな。私は差が縮まらないことに嘆きたい。

 

「予言だ。オレはサクラからいっぱい貰うぜ?」

「……下手なウソだな」

「ウソじゃねーって、予言だからな」

 

 まったく、コントロールは未だに微妙だが予知夢が出来る私に向かって予言するとは。

 

「仕方ない。私ぐらいはディーノの予言を信じてあげよう」

 

 ニッと笑っていえば、ディーノも笑っていた。

 

「サクラは可愛いいな」

「おい、今のは単純という意味で言っただろ。ニュアンスでわかったぞ」

「まっ、どっちでもいいじゃねぇか」

「よくない」

 

 兄が部屋から私が準備していたディーノのプレゼントを持ってくるまで、くだらない言い合いが続いたのだった。

 



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嬉しいウソと課題

時期はサクラが高1になる年の春。
2016年のエイプリルフール企画で書いたかな。
活動報告に載せた時より加筆しています。


「その、好きな人が出来たんだ」

 

 ピシッと固まったディーノを見て思う。彼は似たような内容なのに、なぜ何度も騙されるのだろうか。……もっとも、ウソをついた私が心配することではないのだろうが。といっても、時期が今じゃないだけで、内容自体はウソではない。

 

 ウソの中に本当を混ぜるというのが、バレない秘訣だと私は思ってる。

 

「……だからディーノに聞きたいことがある」

 

 ちょっと顔が赤くなってないか心配だ。未だに驚きのあまり返事が遅いが、これ以上沈黙が耐えれないので早口で話す。

 

「デ、ディーノはどういう女性が好みなんだ。参考までに教えてほしいっ」

 

 頑張った。自画自賛してもいいだろう。

 

 もう気付いているだろう。今日はエイプリルフールなので、ウソをつき騙しながらも、ディーノの好みを聞き出そうという素晴らしい作戦である。

 

 ちなみに誰に語りかけているのか、深くツッコミしてはいけない。ぼっちレベルが戻るぐらい、私は恥ずかしさで軽くパニックなのだ。

 

「……サクラ」

「お、おう」

 

 やはり下の名前で呼ばれるのは慣れないな。

 

「オレは何でもお前に協力するつもりだった。だけど、それだけは協力できねぇ」

 

 ガーンとショックを受ける。ちょっと兄みたいに両手と膝をつきたくなるレベルである。まさかここまでディーノの好みについてガードが固いとは……!

 

「そ、そうか。無理を言った私が悪かった……」

 

 本人に聞けないなら仕方がない。地道にディーノを観察して気付くしかない。……と思ったが、部下からさりげなく聞こう。そっちの方が早い。なぜか知らないが私はディーノの部下に好かれているしな。

 

「いや、お前は悪くないんだ。オレの心の問題だ」

「……そこまで真剣に悩まなくてもいいぞ?」

 

 あまりにも必死に悩んでいるので、もうネタバラししよう。そうしよう。

 

「そうじゃないんだ」

 

 口を開こうとしたが、先にディーノが話し出してしまった。コミニケーション能力の低さがここで出てしまったな。

 

「オレは……お前のことが好きなんだっ!」

 

 ガタッと立ち上がり、ディーノは言い放った。数秒固まった私だが、すぐに立ち直って言った。

 

「……ディーノ、もう少し場所を考えてくれ」

 

 思わずツッコミをしたのは今私達がいる場所がファミレスだからだ。興味津々の周りの視線が辛い。

 

「す、すまん」

 

 私の指摘を聞いてディーノはサッと座った。顔が真っ赤である。

 

「ん。その、なんだ。悪かった」

 

 申し訳ないと思う。恐らくディーノはするつもりがなかったはずだ。きっかけは私のせいだ。素直に謝る。

 

「……いや、オレこそ、すまん」

 

 妙な沈黙が流れたので、ゴホンと咳払いして顔をあげる。ディーノは私の咳払いに反応したのか、真っ直ぐ私を見ていた。

 

「ディーノ、出来れば勢いで言わないほうが良かった」

 

 うっ、と言葉が詰まる。ディーノが落ち込んでるように見える。

 

「……それは悪かった。で、どうなんだ?」

「はっきり言うぞ」

「ああ」

「30点」

「は?」

「咄嗟に考えたウソにしては、頑張った方だと思うぞ。ただ、やはり場所と勢いで言ったのが悪かった」

 

 間違いないと何度も頷く。もう少し本音を言うとすれば、タイミングが最悪である。

 

「まったく。私のウソを見抜くのはいいが、君が無理して私に付き合う必要はなかったんだぞ」

 

 ちょっと理解が追いついていなさそうなので、今の間にプリンアラモードを追加注文する。

 

「それにしてもよく私の『好きな人が出来た』というウソを見抜けたな」

「……ま、まぁな」

「来年のエイプリルフールはもう少し難易度をあげる」

「そうか……」

 

 ……落ち込んでるようにみえる。いや、そうにしか見えない。そのため、もう1度口を開く。

 

「それと私からアドバイス。今回、相手が私だから良かったが、ウソでも君はそういう内容は使わないほうがいい」

「ん? なんでだ?」

「どう見ても君は優良物件だろ。お金と地位があり、イケメンで性格が良し。君と付き合いたい思う人物は多い」

「そうか?」

「そうだ。だから間違っても私以外の女性には言うなよ。面倒なことになるぞ」

 

 自覚してなさそうだったので、私は言い切った。

 

「……お前から見てもそう思うのか?」

「ん。君は私が出会った中で、1番良い男だぞ?」

 

 おい、テレるな。私の方が恥ずかしいんだぞ。

 

 ちなみに兄と父は家族なので別枠扱いである。……これは黙っておこう。

 

「君はもう少し自覚した方がいい。くれぐれも気をつけたまえ」

「……なんで桂の口調なんだ?」

「今の私の気分」

 

 私がそう言うとディーノは仕方なさそうに笑った。

 

 

 

 その後、家まで送ってもらった私は真っ直ぐ自分の部屋に行き、ベッドに寝転ぶ。

 

「……バカ」

「僕を呼んだかい?」

 

 部屋に入ってきた兄を見て、どこにツッコミすればいいかわからない。結局いつもと同じ言葉にした。

 

「……ノック」

「ブレないサクラも可愛いね!」

 

 兄の残念さに遠い目をした後、紅茶がほしいとお願いすれば喜んで用意しにいった。ちょっとやけ食いしたので、本当に助かる。

 

「ディーノのバカ」

 

 静かになったので、もう一度呟いてしまった。だが、これは仕方がない。私は悪くない……と思う。

 

 本当になぜ今日言ったんだ、ディーノ。

 

 ウソなのかすぐに判断出来ずに、なかったことにしてしまったじゃないか!

 

 もしウソだった場合、本気で喜んでしまった時は彼はどうするつもりだったんだ。百歩譲って私が恥をかき、気持ちがバレるのはまだいい。……ディーノのことだから、責任をとりそうで怖い。そういうのは私は望まない。だからなかったことにし、押し切った。

 

 ……まぁあの反応からすれば、本気だったようだが。

 

 つまり、ディーノは私のことが好きなようだ。

 

 自身のことでいっぱいいっぱいで気付かなかったが、少し考えれば思い当たることが多々あった。まぁだから私以外には言うなと釘を刺したのだが。

 

「サクラ、機嫌が良さそうだね」

 

 いつの間にか戻ってきた兄に言われ、思わず頬に抑える。それでも口角があがってる気がするので誤魔化すのをやめた。

 

「ディーノから、いいウソを聞けたんだ」

「それは良かったね、サクラ」

 

 兄に言われ、素直に頷く。

 

 ただ、先行き不安だ。

 

 一応、予知夢が専門だが、これは何となくわかってしまった。私から告白しても、上手くいく未来がまったくみえない。

 

 ……理由は恐らくディーノがいる立場の問題だろう。

 

 冷静になったディーノは私のことを思って諦めさせようとしそうだ。そして私はメンタルはそこまで強くない。1回や2回ならまだ頑張れるが、何度も断られれば折れるぞ。

 

 なかったことにするんじゃなかったな……。

 

 ディーノがもう1度話す未来もまったく見えないぞ。それでも私から告白した時と違って、今のような関係は続きそうだが。

 

「……お兄ちゃん」

「なんだい?」

「今日のお出かけってどう思う?」

「世間一般ではデートというものだよ」

「そうか」

 

 ……このままでいいか。

 

「やっとディーノの気持ちに気付いたのかい?」

「えっ」

「僕が気付かないわけがないよ!」

 

 それもそうかと納得する。兄は私と常にいるし、鈍いわけじゃない。

 

「いつから?」

「彼が自覚したのはちょうど一年前ぐらいだと思うよ」

「自覚したのはって?」

「そうだねぇ。彼は随分前からサクラを好いていたよ。それこそ未来に行ったぐらいからかな」

 

 驚きのあまり兄を二度見した。

 

「恋と明確に変わったのはもっと後だと思うよ。芽生えという意味さ」

「ふぅん」

 

 何事も順序があるってこと、か。私だって、いつからかはわからないしな。意識し出したのは、10年後のディーノがきっかけだと思うけど。

 

「僕からも質問していいかな?」

「なに?」

「ディーノの気持ちを知ったのに、告白する気はないのはどうしてかな?」

 

 さっきの確認で兄にこのままでいいと思ったのがバレているようだ。

 

「んー、うまくいく未来が見えないから?」

「そうだろうね」

 

 当然のように兄が返事をしたので、首を傾げる。

 

「僕がディーノなら断るからさ」

「……彼はマフィアのボスだからな」

「それは関係ないよ」

 

 それ以外に何があるんだ。他は全く思いつかなかったぞ。

 

「もう1つ質問するよ。さっきの答えに繋がるものだから、真面目に答えることをオススメするよ」

「ん」

「サクラはディーノとどうしたい、のかな?」

「どうしたいって?」

「キスしたいと思ったことは?」

 

 兄の発言にむせた。甲斐甲斐しく背をさすってくれるが、原因は兄だからな!

 

「ごほっ。いや、ないだろ。私とディーノだぞ?」

「どうしてだい? 2人は好き同士なのだよ?」

「ええっと、それは……」

 

 なんでだ?と固まる。確かに兄の話は理屈が通っている。

 

「これが解けないと僕はディーノと付き合うのは反対だよ」

「反対、なの……?」

 

 兄が反対するとは思わなかった。ちょっと泣きそうだ。

 

「付き合うのが、だよ。両片思いの状況なら反対しないよ」

「ちょっとわかんない」

 

 付き合うのと両片思いはほとんど一緒だろ。互いの思いを自覚しているかの差ぐらいだ。

 

「そうだねぇ……。サクラはディーノと結婚したい?」

「そ、そりゃ、いつかは……」

 

 恥ずかしくてゴニョゴニョと言葉を濁す。兄がからかわず、教える気でいるから答えることが出来たのだ。普段ならありえないだろう。

 

「それなのにサクラはディーノとのキスは想像出来ない。これがヒントだよ」

「さっきと一緒」

 

 ヒントと言うが、同じことしか言ってないじゃないか。兄を睨む。

 

「あまり教えると答えになってしまうからね! ここまでだよ!」

「教えてくれればいいのに……」

 

 ブツブツ文句を言う。兄が優しくない。

 

「焦ってもロクなことはないよ。それにディーノが本気でサクラを好きだからね。わかるまで付き合ってくれるさ」

「……本気なのかな」

 

 兄は自信満々に言うが、本気かどうかは本人に聞かなきゃわからないじゃないか。

 

「サクラはおかしなことを聞くんだね。彼は今生きているじゃないか」

 

 遊びだったらどうするつもりだったのだ……。ふと頭に浮かんだが、私の心の平穏のために気付かないフリをした。



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初デート

リクエスト作品。
時期は両思いで結婚前です。


 目が回るような毎日というのはこういうことなのかと自身の身体で体感中である。

 

 ディーノは私がプロポーズを受けいれたその日に、その足で父と母に挨拶しに行ったのだ。急な話だったが、ディーノの必死な姿に両親は微笑んで話を聞いてくれた。……父の目は一切笑っていなかったが。

 

 その様子を私は他人事のように見ていた。現実逃避である。かといって、嬉しそうなディーノを見て水を差す気にはならなかったので、密かに喜んでいたのだろう。だから父は話を聞いたのだ。捻くれた私の性格をよく知っているから。

 

 1番の懸念だと思われていたディーノがマフィアのボスということなのだが、思ったよりも問題にならなかった。私の予知の力があがったので、この家で守り続けるよりは遥かに安全だと兄が言ったからだった。

 

 それでも父は唸っていたが、兄は恋人関係の方が危険だといったのだ。物騒な内容に私は父と母と一緒に驚いた。……当然のように、母以外から残念な子を見るような目で見られた。おかしい。

 

 すぐに結婚をしなくても婚約だけはしなければ、私を守りにくいらしい。婚約さえしていれば、何かあった時に正式に他のマフィアにも協力をお願いできるようだ。つまり私に何かあった時はボンゴレがシガラミに囚われぜず、堂々と手助けできるのだ。もちろん周りにも私の存在を周知させることで、私に手を出せば、キャバッローネが敵にまわるぞと周りに威圧出来る。

 

 だからこそ、ディーノはプロポーズだったのだ。そこは結婚ではなく、付き合ってではないのか?と思いながらも、まぁいいかと了承した私が1番わかっていなかったのである。残念すぎる。

 

 ちゃんと説明された後、ディーノにもう一度「オレのワガママなのはわかっている。それでも側に居て欲しい」と言われれば首を縦に振るしかなかった。……家族の前だったので死ぬほど恥ずかしかったが。

 

 この会話を聞いた後に、2人を引き離すか、結婚の許可を出すかの二択しかないため、父は折れるしかなかった。まぁ条件はつけたが。

 

 そこからはあれよあれよと具体的な式の日などが決まった。普通なら式場などの予約に時間がかかるはずだが、ディーノ自身に権力もコネもお金もある。ディーノのファミリーはまだかまだかと待ち構えているし、話を聞いた9代目まで張り切ったため、恐ろしいことになったのだ。あまりのスピードに珍しく父も頬を引きつらせていた。

 

 私はというと、引きつらせる余裕もなく、息切れしかけていた。

 

「……初デートもしてないのに」

 

 ポツリと呟く。ディーノは忙しい合間を縫って日本へとやってきて、私と一緒に式の内容を決めてくれている。両片思い中にデートと呼べるようなものをしていた。だが、それはデートとは違うだろうと私は思うのだ。

 

 結婚して落ち着けば、恐らく出来るだろう。でも、私は今したいのだ。結婚した後ではなく、恋人期間中に一度ぐらいしたいと思うのは私のワガママなのだろうか……。

 

 というわけでグチりにきた。

 

「ツナ、君はどう思う!」

「うーん、そうだね。サクラの言いたいことはわかるかも。でもディーノさんに言えば解決じゃ……?」

 

 確かにそうだろう。彼は私が言えば、すっ飛んでくるはずだ。だからこそ言えないのだ。私の複雑な心境を察したのか、ツナは話題を変えた。

 

「それにしても珍しいね。お兄さんに相談しないで、オレにするなんて……。や、迷惑という意味じゃないから!」

「……お兄ちゃんに避けられてる気がするから」

 

 くそっ、視界が歪む。

 

「サ、サクラ!?」

 

 ツナのアタフタする姿を見て、ちょっと落ち着いた。

 

「ん、ごめん。多分お兄ちゃんはディノに気をつかってる。兄離れさせようって考えているのかも」

「……そっか」

「まぁしないけど」

 

 開き直った私を見たツナは嬉しそうに笑った。ディーノの次に肯定してくれたのがツナなので私も嬉しい。

 

「悪い、もう時間だ。急にお邪魔するし忙しなくてゴメン」

「いつでも来ていいから!」

「……ん、ありがとう」

 

 ツナの家を出ると、待たせていた車に乗り込む。……今日はいったい何着のドレスを試着しないといけないんだろうか。これから必要になるとはいえ、ちょっと憂鬱だった。

 

 

 

 ツナに愚痴った次の日、家を出るとディーノが居た。

 

「サクラ」

 

 間違いなくディーノである。駆け寄りながらも変だなと思う。今日はパーティ用のアクセサリーを選ぶ日だったはずだが。正直、宝石を見ても何がいいかわからないが、つけないわけにはいかない。だから宝石云々は置いといて気に入ったデザインを選ぼうと思っていたのだが。しかし、ディーノが居るということは式の方の打ち合わせだったか。

 

「ごめん、ディノ。今日の予定、覚え間違えていた」

「いや、間違ってないぜ」

 

 不思議に思いながらも、されるがままに頭を撫でられる。

 

「ディノ?」

「……気付かなくて悪かった」

 

 何について謝ってるかすぐにわかった。だからこそツナが話すと思わなかったので、ちょっとショックだ。

 

「ツナから聞いたんだな……」

「ん? ツナからは連絡はないぜ?」

「教えたのはオレだぞ」

 

 突如聞こえた声に反応して、ディーノがすぐさま私を庇うように立ち位置を変えた。しかし今の声は……。

 

「んだよ、リボーンかよ……」

「ちゃおッス」

「気配がなかったから焦ったぜ」

 

 それについては同意する。全く気付かなかった。それにしても先ほどの発言から考えると、リボーンはツナとの話を盗み聞きしたのか。もしくは独自の情報網で聞いたのだろう。……今の季節だと何の虫だろうか。

 

「お節介かと思ったんだが、普段フォローする奴が動いてねーからな。教えることにしたんだ」

「……悪い」

 

 いろいろと気をつかわせてしまった。私のワガママで今日の予定を変更して、どれだけの人に迷惑がかかったんだろうか。

 

「とりあえずここじゃなんだ。車の中に入ろうぜ」

「……ん」

 

 返事をしてすぐにリボーンの姿を探したがもう居なかった。ディーノが気にせず私の背を押すので、私が気付かないところでアイコンタクトでもとっていたのだろう。また気をつかわせてしまったと密かに落ち込んだ。

 

 助手席に座りシートベルトをつけるとディーノが車を出した。車の中で話してから動かすと思っていたので、ディーノの顔をチラチラと見て様子を伺う。視線を感じたのか頭を撫でてくれた。

 

「今日のことで謝るのはなしだ」

「や、でも」

「オレだってもっと謝りたいんだぜ? でもせっかくのデートなんだ、辛気臭いのはやめよう」

 

 喉から出そうだった言葉を飲み込んだ。飲み込んだが、すぐに切り替えれるほど私は器用じゃない。自然と視線が下がる。

 

「まずは着替えに行くぜ」

「え!? 変か!?」

 

 慌てて服装をチェックし直す。最近の私はホテルや高級店によく行くので、ちょっと清楚っぽい服にしているんだが。家族の似合ってるという言葉を鵜呑みにしたのが失敗だったようだ。

 

「可愛いし、似合ってるぜ? ただ思いっきり遊べねーかと思ってよ」

 

 よく見れば、今日のディーノはスーツではなく、カジュアルな服装だった。なるほど、言いたいことはわかった。とりあえずヒールはなしだな。

 

「着替え直すから、戻って」

「まっここはオレに任せろって」

 

 上機嫌で運転しているので、家へ戻る気はないようだ。なんだか楽しそうなディーノを見て、ちょっと笑った。

 

 ディーノに連れられてきた店はカジュアルな服を置いているが、見るからに高級店だった。……まぁそうだよな。

 

 そもそも朝の早い時間から営業しているのはディーノが手を回したからだろう。こういう店じゃなきゃ、融通が利かないだろうし。

 

「お? これ良さそうだな。こっちもありだな。っと、サクラはどれがいいんだ?」

 

 しかしまぁ女の私より楽しそうなのが笑える。TPOは考えるが、私はファションに興味があるわけじゃないからなぁ。ディーノはアクセサリーも拘ってそうだし、多分こういうのは好きなんだろう。

 

「ディノのセンスに任せるぞ? 私はサッパリだから」

「そんなことねーと思うが……まっ、ちょっと待ってろよ」

 

 思わずクスクス笑う。明らかに自身で選べることにディーノは喜んでいる。私が笑ったことで浮かれていたことに気付いたらしく、ディーノの頬が赤くなっていた。

 

「……リボーンから聞いた時、嬉しかったんだ。申し訳ねー顔をしているサクラを見て、なんで先に気付かなかったんだって自分を殴りたくてしかたなかったんだ。それでもよ、やっぱ嬉しいんだ」

「ディノ……」

「だから、反省したり悩むのは後にして、楽しむって決めたんだ。サクラもそうしねーか?」

 

 素直に頷いていた。私も思うところはあるが、嬉しかったのだ。だから甘えるように腕に抱きつく。ディーノは優しく頭を撫でてくれた。

 

 ハッとして、周りを見渡す。店員からの温かい視線に恥ずかしくて逃げ出したくなった。チラッと店の扉の位置を確認していると、ディーノが服を見繕ってくれて試着室へ行くようにと促した。

 

 ……いや、確かに確認はしたが、外には出るつもりはなかったぞ? なんて心の中で言い訳しながらも、試着室へと逃げた。非常に助かる。

 

 落ち着き、着替え終わった私は扉から顔を出す。すぐにディーノが気付いてくれたので、扉を全開にする。

 

「ど、どうだ?」

「可愛いぜ」

 

 満足そうに何度も頷いているのでテレる。それにしても肌触りがいいな。いい素材を使っているのだろう、高そうだ。タグはないので確認出来ないが。

 

 その後、靴から鞄、アクセサリーも全て揃えて店を出た。ディーノも気に入った物があったらしくアクセサリーが変わっていた。ちなみに私がさっきまで着ていた服は後で家に届くらしい。ディーノがお金を払った様子もないし、感嘆の溜息しか出なかった。

 

「ん? どした?」

「私が知っている買い物じゃなかったから、驚いているだけ」

「いつもこんな感じじゃねーよ。街のみんなと触れ合いながら買い物する方が楽しいからな」

 

 以前、ディーノのシマへいった時のことを思い出す。確かにディーノは屋敷に呼び寄せたり、先ほどのようなスタッフが一歩引いた店ではなく、住民と触れ合いながら私の服を買っていた。……住民もディーノも楽しそうだったな。

 

「私も出来るかな……。わ、悪い!」

 

 今日はデートを楽しむという話だったじゃないか。何をしているんだか……。

 

「そういうのは口にしていいんだ。今日のデートについて、反省や後悔するのは考えるのは止めようってことだ。……それによ、知らない土地にくるんだ。不安になるのは当然だぜ。だから遠慮なく話せ。それぐらいの時間ぐらい、すぐに作る」

「……いいのか?」

「あのなぁ、オレが一番怖いのはお前がやっぱり無理だって断られることだぜ? 不安を取り除く時間を惜しむかよ」

 

 本当なのかなと運転中のディーノを盗み見る。あっさりバレて頭をガシガシと撫でられた。

 

「サクラ、毎日忙しいだろ?」

「え、うん、まぁ」

 

 急に話題が変わったので、どもってしまった。

 

「なんでだと思う?」

「必要な物を揃えるためだろ?」

 

 私の回答にディーノは声を殺しながら笑った。意味がわからなさすぎて、この流れについていけない。

 

「間違っちゃいねーよ。だけどな、一緒に住んでからも間に合う物も大量にあるんだぜ?」

「は? え? 急ぐものじゃなかったのか? じゃ、なんで?」

 

 ディーノは疑問がいっぱいな私を見て、ニヤリと笑いにながら言った。

 

「怖気付く時間を与えねーためだって言ったら?」

 

 ポカンと口を開けて間抜けな顔を私はしているだろう。

 

「オレの必死さ、ちょっとは伝わったみてーだな」

 

 壊れたおもちゃみたいになったが、なんとか頷いた。……ディーノの新たな一面を見た気がしたぞ。

 

 よくよく考えれば、雲雀恭弥をうまく誘導出来るのだから、私なんかは簡単なんだろうな。しばらくの間、現実逃避をしても許される気がした。

 

「ついたぜ」

 

 しかしディーノは私に現実逃避する時間を与えなかった。

 

「たまたまだ」

 

 ……狙ってやったのかと警戒していたのが、バレていたようだ。ディーノは気にした風もなく、私をエスコートして車から降ろした。

 

「遊園地?」

「おう! 定番だろ?」

 確かに定番である。それなのにディーノと一緒にまだ行ったことがない場所だった。去年は受験生だったため、彼の誘いに乗ったのは水族館や科学館など少しは知識を得れると、言い訳出来そうなもの以外は断ったからな。

 

 開店直後だったらしく、すぐに入場出来なさそうだ。もっとも5分も待たないだろうが。チケットはもう用意していたので、ディーノと一緒に並び世間話をする。

 

「遊園地はマフィアランド以来だな」

「ん? あそこに行ったのか?」

「コロネロに用があったから。だからアトラクションには乗ってないな」

「それは行ってないのと一緒だろ」

 

 ディーノのツッコミに頷く。

 

「マフィアに目をつけらたくなかったから、裏で居たんだ」

「……正解だな。オレもそう思って選ばなかった」

 

 あの時は知識だったが、今は予知があるからな。まだバレていないが、いつか私が予知出来ると勘付かれるはずだ。話のネタになりそうなマフィアランドは論外だったのだろう。

 

 ちょっとは考えているんだぞとアピールしている間に入園の順番がやっきた。入ったタイミングで貰えるマップをディーノと一緒に広げる。私は子どもの時に来たが、久しぶりすぎてサッパリなのだ。ディーノは調べてはきているが、ここの遊園地は初めてなので先に一緒に見ることにしたのだ。

 

「サクラは乗り物に強いのか?」

「普通だな。乗れるけど、連続は無理な感じ。ディノは……って聞かなくてもいいか」

 

 自ら動きまわれて、スクーデリアのスピードに問題ないのだ。酔うはずがない。

 

「ジェットコースターと急流すべりは絶対に乗りたいな」

「わかった。まずは近いジェットコースターから行くかっ」

 

 ディーノと手を繋ぎ、一緒に向かう。周りが楽しそうに賑わっているので、私もテンションがあがってきた。手をブンブンと振る。子供っぽい行動だが、ディーノは笑って付き合ってくれた。

 

 遠目から見ても、行列がわかる。やはり人気のアトラクションは結構並んでいるな。

 

「ディノ、最後尾はあっちだぞ?」

「いや、ロマーリオの話だとこっちでいいって聞いたんだ」

 

 ロマーリオの情報なら大丈夫だろう。ディーノのエスコートに従う。

 

「……ディノ、何をした?」

 

 ちょっと低い声が出た。シングルライダーのところにいる従業員に声をかけただけで急に慌ただしくなったぞ。嫌な予感しかしない。

 

「そういや、貸切しようとしたら、優遇してくれるって話で落ち着いたって聞いたな」

「君達はバカか! 前日にいきなり貸切にしてくれとか言われたら、迷惑に決まってるだろ!? 開店前の服屋を貸し切るのとは規模が違うぞ!」

「そうなのか?」

 

 繋いでない方の手で頭を抱える。服屋を貸し切った時点で気付くべきだったのだ。そんなフラグの回収とかいらないぞ!?

 

 そういえば、ディーノ達はツナの入院中に拳銃を渡そうとしていたな……。まだ最低限の常識があって良かったと思えばいいのか? 無理矢理貸し切っていれば、ここに来ていた人達を追い返すことになっていたぞ……。

 

「サクラがそこまで言うなら、オレ達が間違っていたんだな。謝罪しねーとな」

「萎縮させない程度で謝罪するんだぞ……」

「ん? わかったぜ」

 

 今までは問題なかったのに、なぜこうなったんだ。初デートで浮かれていたのはディーノだけじゃなかったのか?

 

「……ディノ」

「ん? どした?」

「君の部下達はここに来ていないよな?」

「………………居るな」

 

 今度はディーノが頭を抱えた。ファミリーにデートを見守られているのは流石に嫌だったようだ。

 

「とりあえず、こっち側は受け持つ。そっち側は任せた」

「……すまん」

 

 ディーノは私の頭を撫でてから、部下達に説教しに行った。……私は今から来るだろう偉いさんへの対応に集中しよう。無理矢理貸切にしなかったので、そこまで引きつった笑みをしていないだろうし。……多分。

 

 しかしまぁ初デートは失敗だなと溜息を吐いてしまったのは仕方がないと思う。今度、穴埋めとしてデートを催促しても罪悪感はなさそうだ。……良かったのかどうかは微妙なところである。



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結婚式

リクエスト作品です。
サクラが1番幸せな結婚式はこんな感じかな?と思って書きました。
だから、ちょっと変わった結婚式。


 やっぱりこうじゃないとな、とウェディングドレスを着た自身を見て何度か頷く。

 

「どうかしました?」

「いや、なんでもない」

 

 私についている専属スタッフに怪しまれてしまった。次からは気をつけよう。

 

 しかしまぁ何度も鏡にうつった自身の姿を見ても、これが結婚式って感じがする。イタリアで挙げたのは、結婚式というよりお披露目だった。身内は兄しか参加しなかったし、私はディーノの横に居て、ただ微笑んでいただけだったからな。最後の方は絶対に引きつった笑みだったと思う。……最初からか。

 

「サクラ」

「まぁ綺麗よ! サクラちゃん!」

 

 父と母が覗きに来てくれたようだ。スタッフも気を利かせて離れてくれた。

 

「……お父さん、どう?」

「お母さんの言う通り綺麗だよ」

 

 ちょっとテレる。父に褒められるのが一番恥ずかしいかもしれない。父も褒める方だが、兄と母に比べると少ないし。

 

「あれ? お兄ちゃんは?」

 

 ずっと姿が見えないのだ。早い時間から顔を出すと思っていたのに全く来ないし。

 

「桂は……お父さんとお母さんよりも寂しがっているかもしれないね。もう少し整理する時間がほしいのかな。見かければサクラが待っていると声をかけるよ」

「……ん、お願い」

 

 父の言葉で視界が歪んで来た。慌ててスタッフが目元にハンカチをあててくれたが、まだ始まってないのにこの調子で大丈夫か不安だ。

 

 母と父が出て行った後、ディーノがやってきた。

 

「っ! 綺麗だ……、サクラ」

「そ、そうか? ディノもカッコいいぞ?」

「お、おう。ありがとな」

 

 空気が甘い。互いに照れあってしまった。

 

 気を取り直したのか、ディーノが声をかけてスタッフが下がってしまう。2人っきりだと余計に意識してしまうのだが。

 

「そ、その、お兄ちゃんと会った?」

「ああ。でもすぐどっか行っちまったな。オレの顔を見ていると殴りたくなるみてーだ」

「……そっか」

 

 お兄ちゃんにも見てほしいけど、ギリギリまで来ない気がしてきた。

 

「やっぱり寂しいか?」

「ん」

 

 素直に頷く。私の中でやはり兄は別格なのだ。ディーノと一緒になる道を選んだが、正直今でも兄の方が上だ。ディーノもそこはわかっているし、この気持ちだけはウソをつかないと2人の決めた暗黙のルールでもあった。

 

「……私で本当に良かったのか?」

 

 別にマリッジブルーという訳じゃない。純粋な疑問である。相手が私ということで、何もかも一般とかなりズレているからな。

 

「そんなお前が良いんだ」

「……ん、わかった」

 

 物好きである。本当に物好きである。……そうじゃなければ、私は一生結婚出来なかっただろうが。

 

 時間ということで、ディーノと一緒に向かう。私達は神にではなく、ここに来てくれた家族や友達に誓う人前式を選んだ。イタリアの時とは違い、アットホームな雰囲気である。

 

 人前式だからこそ出来たことなのだろう。ディーノと2人でバージンロードを歩いていると、冷やかしの声がかかる。ディーノが律儀にツッコミを入れるからか、私も思わず笑ってしまった。

 

 流石にバージンロードを歩き終わり、参列者へと向き直れば冷やかしは止まる。次の進行は誓いの言葉だが、私はそっちのけで兄の姿を探していた。

 

「ちょっと待ってろ、連れてくる」

「……ん」

 

 大人しく頷けば、ディーノは私の手の甲に口づけしてから手を離して、バージンロードの道を1人で戻っていった。

 

 スタッフは慌てているが、参列者は親族や友人ばかりなので誰も慌てていない。それどころか声を殺して笑っていた。しかしそれもすぐに終わる。ディーノに引きずられて来た兄を見た途端、彼らは声を殺して笑うことが出来なくなったからだ。

 

「は、離したまえ」

 

 普段堂々としている兄だが、この状況は流石に恥ずかしかったようで抵抗していた。しかしディーノも強い。私の見えないところで攻防が起こっているみたいだが、ディーノは約束通り兄を私の前に連れて来た。

 

「お兄ちゃん」

 

 今もなお抵抗していた兄だが、私が飛びつけば抱きとめてくれた。

 

「サクラ、相手が違うよ」

「あってるもん」

 

 抱きとめてくれた兄だが、やんわりと離れようとするのでスネたように返事をする。

 

「そういや、お前はまだ知らなかったな」

 

 そう言って、私達の誓いの文書をディーノは読み始めた。……誓いというより、結婚する条件だけどな。

 

「1つ、オレらの家に桂の部屋を用意すること。2つ、サクラが日本に帰りたい時は連れて帰ること。3つ、オレが日本に行く用がある時は必ず連れて行くこと。4つ、サクラと桂の過ごす時間は邪魔しないこと。……他にもまだまだあるが、読み上げるのはこれで十分みてーだな」

 

 ディーノの言葉を聞いて見上げる。兄は唖然としていた。

 

「嫌だった?」

「……嫌も何も、サクラはディーノと結婚するのだよ?」

「ん、わかっているぞ?」

 

 私に何か言いたそうな兄だったが、諦めたように首を振りディーノを見た。

 

「君はそれでいいのかい?」

「オレが好きになったのはお前のことが大好きなサクラだからなー」

 

 ディーノの言葉に恥ずかしくなり兄に隠れるように抱きつく。

 

「だから相手が違うのだよ……」

「桂、いい加減に気付け。サクラからお前を取れば、それはもうサクラじゃなくなるんだ」

 

 兄を離さないようにと、ぎゅーと力一杯抱きしめる。振りほどかれれば、どうすればいいかわからないから。

 

「……サクラ、僕が会いに行ってもいいのかい?」

「来てくれないなら、会いに行くもん」

 

 やっぱり距離を取る気だったんだと知り、悲しくなった。

 

「……ディーノ、君も本当にいいのかい?」

「オレが手元に置きたくて、サクラに我慢させるんだ。それぐらい叶えてやらねーで、どうすんだ」

 

 また恥ずかしくなり、兄の身体に隠れるように抱きつく。

 

「遠慮していた僕が……バカみたいじゃないか……」

 

 兄の呟きに顔をあげれば、ポツリと頬に冷たいものが落ちてきた。

 

「……お兄ちゃん?」

「サクラ!」

「うわぁ」

 

 急に抱き上げられて、ビックリして声をあげてしまった。

 

「サクラから僕に会いに来なくていいよ! 僕が会いに行くからね!」

「ほんと?」

「本当だとも! サクラの体力を考えるとそれが最善さ!」

「それは助かるぜ。オレもそこが心配だったんだ」

 

 私が喜んでいる間に、ディーノと兄で私が書いた条件に修正を入れ始めた。抱っこされている状態なので、ちゃんと私も確認する。私の身体を心配しての変更が多いようだ。結構な量で兄の負担が増えてしまったが、良いのだろうか?

 

「僕が喜んでするのだから、良いのだよ」

「ん、わかった」

 

 兄とディーノが考えたのなら、この条件は完璧だろう。ただちょっと文書が汚くなってしまったが。

 

「新しい紙を用意したまえ」

 

 偉そうに兄はスタッフに指示を出し始めた。どうやら書き直すようだ。ここは字が綺麗な私の出番だろうか。

 

「ここは僕に任せてほしい!」

 

 私の字は兄を真似たのだから、当然兄も綺麗だ。兄が張り切っているので任せることにする。

 

「ディーノ、サクラを頼むよ」

「ああ」

 

 ヒョイっと兄の腕からディーノの腕へと移る。今度はディーノに抱っこされた状態で紙を覗き込む。その途中でなんとなくディーノに視線をうつせば、目があった。

 

「サクラ、良かったな」

「……うん!」

 

 ディーノにぎゅっと抱きついた。

 

 私は彼を好きになった。でも多分子どものする恋だった。ふわふわと想像するだけで幸せだったから。今のままで十分で進みたいと思わなかった。だからディーノの本気が怖かったのだ。一度この気持ちを捨てて、やっとそのことに気付いた。

 

「ディノ、ありがと」

「ん? ああ」

 

 目をそらそうとする私を何度も彼は本気でぶつかってきた。挙げ句の果てには、兄とディーノを天秤にかければ兄を選び続けると言った私に、それでいいと言い切ったのだから本当に変わり者だと思う。

 

 でも……だからこそ、もう一度彼に恋をした。

 

「サクラ、ディーノ、出来たよ!」

 

 兄が掲げた紙を、ディーノと一緒に見る。

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

「桂、ばっちりだぜ」

「僕だからね!」

 

 偉そうな兄を見て、みんなで笑う。ディーノに連れてこられるまで、式に参列しなかったのに、と。

 

「サクラ。順番が違うけどよ、もう証人のサインしてもらうのはどうだ?」

「それいいかも」

 

 この流れだとそれが正解な気がする。

 

「オレの方の代表は……リボーン、頼むぜ」

「いいぞ。元教え子の晴れの舞台だかんな」

「サンキュ」

 

 華麗な着地を見せたリボーンは、ツッコミどころ満載の文書に躊躇なくサインした。

 

「サクラ、半人前だがヤル時はヤル男だ。安心して任せていいぞ。家庭教師だったオレが保証する」

「ん、ありがと。そうする」

「ディーノ。サクラはオレの恩人だ。いつでも力を貸すつもりだが、まずはオメーがしっかりと守るんだぞ」

「ああ」

 

 半人前のいう言葉にディーノはスネたようだが、最後には真剣に返事をしていた。

 

「次は……サクラ」

「ん。お兄ちゃん、お願い」

「僕は構わないが……そこは父上や母上じゃないのかい?」

「そうかもしれないけど、この内容だとサインしにくいと思うぞ」

 

 父と母に視線を向ければ、苦笑いしながらも頷いていた。

 

「では、僕がサインするよ!」

 

 兄がサインし終えたところで自然と拍手が起きた。それだけ私達兄妹の歪な関係を心配していたのだと思うと、ちょっと恥ずかしかった。

 

 順序がぐちゃぐちゃになったし別にいいが、なぜ兄が進行しているのだろうか。思わずディーノと目を合わせて笑った。

 

 指輪の交換などを終え、後は退場というところで司会役の兄が言った。

 

「ディーノ、サクラ。誓いのキスを忘れてはいけないよ」

「はぁ!?」

「お兄ちゃん!!」

 

 元々予定になかったことである。ディーノと一緒に抗議するが、兄はどこ吹く風と聞き流し、参列者からは早くしろと野次が飛んできた。

 

 ……おい、今リボーンが3人居たぞ!?

 

 ツナが必死にリボーンの暴走を止めようとしたが、止められるはずもなく、ディーノと顔を見合わせる羽目に。

 

「……嫌か?」

「や、ではないけど……」

 

 ……恥ずかしいではないか。

 

「目、つぶってろ」

 

 ディーノに言われれば、閉じるしかない。くそっ、頬が熱い。

 

「……んっ。ひゃ!」

 

 柔らか感触がしたと思う間も無く、ディーノに抱きしめられた。……助かった。恥ずかしいので顔を隠すようにぎゅうぎゅうとディーノに抱きつく。

 

「悪いな、桂。今のサクラの顔はお前にも見せたくねぇんだ」

「わかったよ! 僕では一生出来ない顔だからね! ここは負けを認めるよ!」

 

 兄とディーノの会話が恥ずかしい。落ち着くようにディーノが背を叩いてくれているが、もうしばらく時間がかかりそうだ。

 

 私が恥ずかしがっている間、ディーノはずっと冷やかされていた。またも律儀にツッコミを入れるので、私も面白くなって笑ってしまった。

 

「お? もう大丈夫か?」

「ん」

「じゃ行くか?」

 

 頷くかわりにディーノを引っ張る。苦笑いしながらもディーノは私のスピードに付き合ってくれた。

 

「あ、そうだ」

「どうした?」

「ツナ」

 

 呼ばれると思っていなかったのだろう。ツナはアタフタしていた。

 

「な、何?」

「はい、あげる」

 

 ブーケをポイっと投げれば、ちゃんと受け取ってくれたので再びディーノを引っ張る。

 

「な、なんでオレ!? オレ、男だよ!?」

 

 あまりにも必死に言うので、足を止める。

 

「好きな人に渡すかなーと思って」

「んなーー!?」

 

 さて、いつものリアクションも聞けたし大丈夫だろう。再びディーノを引っ張る。

 

「ツナのあの様子じゃ無理そうだな……」

「ん。私も無理に一票」

 

 ディーノは苦笑いしていたが、男性のツナに渡すのを止めなかった時点で同罪である。

 

 控え室に戻り化粧直しが終わったところで、ディーノが聞いてきた。

 

「で、あのブーケの中に何隠したんだ?」

 

 いつの間にかスタッフがいないな。ディーノが手を回したのか。

 

「……別にたいしたものじゃないぞ」

「入れるならツナのためになるものだろ。でも用意する時間はなかったよな? ……あの時に作ったバッテリー匣か?」

 

 相変わらず、鋭い。

 

「ツナの奴、いつ気付くっかなー」

「私達がイタリアに行った後」

「……慌てる姿が目に浮かぶぜ」

 

 それでいいんだ。これでまた話せる口実が出来るからな。

 

「桂以外のことでもちゃんと言えよ。気にするかもしれねーが、サクラのワガママはオレからすれば可愛いもんなんだぜ?」

「……ツナ達とまた遊びたいって言ったら?」

「そうだなぁ。せっかくだ、みんなで行く旅行の計画をたてっか! サクラも案を出してくれよ?」

 

 思わずディーノを見た。

 

「どうした?」

「んーん」

「ならいいけどよ」

 

 これから2人で決めて行くんだなと思っただけである。新しく作る道なのに、兄やツナ達がその道に居るのはディーノのおかげなんだろうな。

 

「ディノ、好きだぞ」

「2番か?」

「2番」

 

 顔を見合わせて笑い合う。

 

「それなのにオレと一緒に居る道を選んでくれてありがとな」

「……言ってなかったか? そばに居たい人の1番はディノだぞ」

「押し倒してもいいか?」

 

 ディーノがそんなこと言うなんて珍しいな。まぁ今からは無理だとわかっているからこそ、言ったと思うが。もっとも、下心はゼロじゃないと思ったので真面目にツッコミする。

 

「この後、披露宴。それに18になるまで手を出さないって、父と約束してなかったか?」

「……今、猛烈に後悔しているところだ」

 

 不憫だなと横目で見る。相手の私が16歳だからロリコンって言われているみたいだし。イタリアでは18歳からしか出来ないからか、裏でいろいろ手を回したのも原因の1つだと思うが。まぁだからこそ、父はどうしても結婚するなら、18までは手を出すなという条件を出したのだろう。

 

「まっこれからずっと一緒なんだ。それだけで十分だよなっ」

「ん。ディノが手を離さなかったら大丈夫」

「その心配は必要ねーよ」

 

 ディーノの手を差し出したので、その手を取って立ち上がる。

 

 ……私が手を離そうとしても、ディーノは離さないんだろうな。

 

 そう思った時、ふと未来がみえた。

 

「どうした?」

「なんでもない」

 

 ……今はまだ黙っておこう。話してしまって幸せそうな未来が壊れてほしくないからな。といっても、ディーノが足を止めたのでバレてしまったようだが。

 

「言えないことか?」

「このままなら、ディーノにも見える未来」

「じゃ、ぜってぇ見れるな!」

 

 私の言いたい事がわかったらしく、エスコートを再開した。

 

 ああ、幸せだな……と本気で思った。



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嫁入り日

リクエスト作品。
切りどころが難しく長くなりました。


 私の場合、嫁入り日というのはいつなのだろうか。籍をいれてからドタバタとイタリアと日本を往復していたので、よくわからない。でも多分日本で結婚式後に、ディーノの家に来た日だと私は思う。本格的に住むのはこの日からだし。

 

 だからその日の今日は多分大事な日だと思う。私とディーノにとって。

 

「さぁ行こうか! 新しい僕達の愛の巣に!」

「……うん、空気読め」

 

 思わずツッコミした私は悪くないと思う。そもそも兄は私達を日本の空港で見送ったよな。なぜプライベートジェットに乗った私達をイタリアの空港で出迎えることが出来るのだ。

 

「ディノ、ごめん」

「気にすんな。遅かれ早かれこうなっていただろーし、それに本当は桂が居て心強いだろ?」

 

 残念というより、兄がいてディーノは安心していた。緊張し過ぎで寝付けれなかったのがバレているのかもしれない。

 

「サクラ、ディーノ、早くしたまえ!」

 

 肩の力を抜いた私は兄の腕に捕まる。そして、もう片方の手を伸ばせばディーノは私の隣に来てくれたので、ディーノの腕にも捕まった。

 

 

 空港から真っ直ぐ車でディーノの屋敷にやってきた。いつ見ても大きい。ディーノと結婚したが、自身の家という感覚はまだない。いつかは慣れるのだろうか。

 

「サクラ?」

 

 ディーノに声をかけられ、なんでもないと首を振る。しかし寝付けなったことを察していたディーノが、私の誤魔化しに気付かないわけがなかった。安心させるように頭を撫でてくれた。

 

「大丈夫だ」

 

 手を差し伸べられ、しっかりと握る。なんとなくこれが私達の第一歩だと思った。

 

 緊張しながらも玄関をくぐる。私は集まる視線に覚悟していた。いくらディーノの部下が好意的でも、今日の私の態度は重要だと理解していたのだ。だからこそ、出迎えにロマーリオしか居なかったことに驚いた。

 

「……ったく、そういうことかよ」

 

 ディーノの少し苛立った声にビクッと肩を跳ねた。

 

「ディ、ディノ……」

「わりぃ。怒っているわけじゃねーから」

 

 ポンポンと頭を撫でられたが、全く安心できなかった。好意的だと思っていたが、ディーノの部下に嫌われていたのかもしれない。

 

「桂、すまん。オレの部下の仕業だったみたいだ」

「……僕が思った以上にサクラは彼らに好かれているみたいだね。少しは安心したよ」

「お前がそう思ったなら、あいつらも嬉しいだろうよ」

 

 兄とディーノの会話についていけない。なぜ兄とディーノは私と正反対の印象をもったのだ。疑問でしかない。

 

「目を白黒させるサクラも可愛いのだけど、説明してあげたほうがいいと思うよ。サクラは出迎えがないことで嫌われたとショックを受けていたようだからね」

 

 兄の言葉にディーノだけじゃなく、ロマーリオも焦った声をあげた。どうやら、本当に私の勘違いだったようだ。

 

「違うからな! あいつらサクラのことが好きすぎるぐれーだからな! 今、居ねーのは空港からここまでの道を警備していたからだ」

「警備?」

「ああ。ただの一般人と結婚しねぇと疑ってるところが多いんだ。まぁ実際間違いじゃねーけどよ。今はそれはいいか。つまりサクラのことを探ろうとしていたんだ。空港からずっと視線は感じでいたんだぜ?」

 

 ……全く気付かなかったな。これでも視線に感じやすくなったと思っていたのだが。

 

「向こうもプロだ、サクラが気付かなくても仕方ねーよ。それより問題は視線を感じでいたのに、途中で消えるんだ。ある程度は探られるのはわかっていたから無視していたんだけどよ、それが急に消えるのは不自然だろ? オレも桂も警戒していたんだ」

「……つまり、警備していたみんなが捕まえた?」

「そういうことさ!」

 

 私がたどり着いた答えに、ディーノとロマーリオはあからさまにホッとしていた。……なぜ兄はドヤ顔なのだ。ツッコミはしないぞ。

 

「あいつらもあいつらだぜ。オレに黙っている必要ねぇだろ」

「……なるほど。怒っていたんじゃなくて、スネていたのか」

 

 図星だったのか、ディーノの頬が赤くなった。珍しい反応に思わず笑ってしまった。

 

「ボスも惚れた女の前じゃ形無しだな」

「ロマーリオ、黙ってろっ」

「サクラには黙ってろとは言えないのだから、言われても仕方ないと思うよ」

 

 私もなんだか恥ずかしくなってきたぞ。とばっちりである。

 

「お、お兄ちゃん、部屋に行こう!」

「サクラの誘いを断るわけにはいかないね。ディーノ、悪いが僕達は失礼するよ!」

 

 いつものように兄のエスコートに身を任せていたが、「やっちまった」というディーノの呟きが聞こえたので振り向く。ロマーリオが肩を置いて慰めていたので、大丈夫だろう。私には「やっちまった」の意味がわからないし。

 

「ディーノが気になるなら、ひと段落した後にサクラが顔を出せばいいさ」

「ん?」

「サクラが恥ずかしがると僕の方へと逃げるとわかっていたのに、そっちに誘導してしまったからね」

 

 だから「やっちまった」なのか。よく理解出来た。

 

「……それならディノじゃなくて、お兄ちゃんがトドメを刺した気がするぞ」

「協力関係ではあるけども、僕とディーノはライバルでもあるのだよ。サクラに選ばれるように駆け引きするのは日常茶飯事さ」

「ディノが不利すぎるだろ」

 

 呆れたようにツッコミすれば、兄は少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。

 

 兄の部屋は今日も綺麗である。定期的に掃除してくれているのだろう。

 

「ここがお兄ちゃんの部屋だぞ」

「サクラが選んだのかい?」

 

 家具のことを言っているのだろう。兄が好きそうなデザインばかりだからな。

 

「嫌だったか?」

「嬉しくて言葉が出ないぐらいだよ。時間がない中、大変だっただろう?」

「んーん。ディノが絞ってくれてて、私は選べば良かっただけだったから。お兄ちゃんの好みをディノが理解してくれたから大変だと思わなかったのかも」

「僕の部屋に泊まったことがあるといっても、普段からよく見ていなければ出来ないだろうね」

 

 感心したように兄はいろいろと見ていたので、私はベッドに寝転がることにした。一番最初に私が使っても兄は文句は言わないだろうし。

 

「ふかふかっ」

 

 私が感動していると兄も興味を持ったのかベッドに腰をかけた。しかし、それは私の勘違いだったらしい。兄はベッドではなく私の頭を撫でたから。ベッドのふかふか具合といい、気持ちよくて目を細める。

 

「サクラはこれより大きな部屋で眠ることになるんだね……。これから1人で大丈夫なのかい?」

 

 父との約束がある以上、今まで通りディーノと一緒に眠ることはないだろう。だからこそ、兄は心配し声をかけたのだと思う。目をそらせば、後で泣くのは私だから。

 

「どうだろ、わかんない」

 

 強がりでなく、正直な気持ちだ。兄がいる内は大丈夫だと思う。問題は兄が日本に帰ってからだ。その時にならないとわからない。

 

 先日は慣れない日常で疲れてぐっすりと眠れた。が、兄が心配する通り、寂しくて眠れなくなるかもしれない。もしくは中学の時のように大丈夫かもしれない。……まぁあれは精神的に疲れていたし、ホテル感覚もあったからだと思うが。

 

「恥ずかしいのなら僕からディーノに言ってもいいのだよ? 彼は僕らから離れる寂しさには気付いているだろうけど、部屋の広さから来る寂しさには気付かないだろうからね」

 

 そうだろうなと思う。彼は鍛えているのでどんな環境でも眠れるが、一番落ち着くのはこの屋敷で眠る時だろう。私からすれば広すぎる部屋も、彼……いや、彼らにとっては普通なのだ。

 

「慣れるしかないから、いいよ」

 

 たとえ兄が言ったとしても、私が狭い部屋に移動するわけにはいかないのだから。

 

「サクラ、知っているのと知らないでは話が違ってくるのだよ。……そうだねぇ、僕が彼の立場なら大きなヌイグルミを送るよ!」

「部屋の半分がヌイグルミに占拠されそう」

 

 想像が出来るからか、笑ってしまった。

 

「知らなければ、ディーノは今の僕みたいにサクラが眠るまでは側にいるだけだよ」

「え? ほんとか?」

 

 そんなことをしてくれると思わなかったので、ちょっとテンションがあがった。一方でなぜか兄は額を手で押さえていた。

 

「お兄ちゃん?」

「……僕というより、ディーノが悪いのさ! 甘やかし度が低いのだよ!」

 

 落ち込んでいたと思えば、プンプンという擬態語が聞こえそうなぐらい兄は怒りだした。意味不明である。

 

 

 夜には歓迎会のパーティを開いてくれた。パーティという言葉に尻込みした私だが、部下達が参加するのでツナ達とするような和気藹々としたパーティだった。

 

 しかしまぁ、わかっていたことだが部下が多い。かなりの数が参加しているように見えても、警備をしているものもいるので全員ではないのだ。果たして私は彼らの名を覚えきれるのだろうか。

 

「ゆっくりでいい。あいつらはサクラに名前を覚えてもらいたくて必死みてーだけど、気にすんな」

 

 ディーノは私が必死に名を呟いていたから言ってくれたのだろう。言った途端に部下からブーイングされていたが。それでも互いに笑っていたので、ディーノの発言には賛成のようだ。

 

 一通り回ったのか、皿に料理を大量に乗せて兄が帰ってきた。私のもあるようで有り難く受け取る。兄のと違ってこっちは綺麗に盛り付けられていた。……ちなみにディーノの分はない。どっちも気にしていないようなので、食べることにする。

 

「ディーノ、女性が少なすぎるよ!」

「オレもそう思うんだけどなー」

 

 もぐもぐと食べながらジッと2人を見つめていれば、なぜかワタワタし出した。

 

「違うよ! 僕はサクラ一筋だからね!」

「桂『は』ってなんだ!? オレもそうだかんな!」

 

 落ち着くように口に含んでいるものを飲み込んでから声を出す。しかし感情は隠しきれなかったようで、笑顔になってしまった。

 

「大丈夫。わかっている。後で彼女達の紹介をしてくれれば嬉しいな」

 

 動かなくなった2人を見て、不思議に思いながらも食事を再開する。

 

「……これはきつい」

 

 ロマーリオの呟きに、再び口を開く。

 

「今日が無理なら今度でもいいぞ。でも早く顔合わせしたいな。彼女達は私の護衛につく可能性が高いんだろ?」

 

 兄が少ないと言ったんだ。交代のことも考えれば、女性のほとんどは私の護衛につくことになるだろう。どんな人だろうか、楽しみである。

 

「……確かに、『わかっている』な」

「ん?」

「いや、こっちが深読みしただけだ。悪いが、あの2人にもう一度それを説明してやってくれないか?」

 

 ロマーリオが新しい料理を取りに行ってくれるということなので、その間に頼まれたことをしよう。しかし、なんで2人は固まってるのだ。謎である。

 

 とりあえずディーノからでいいか。兄はうるさそうだし。

 

「ディノ、ディノ」

「…………サクラっ!」

「うぐっ」

 

 抱きしめられた恥ずかしさはなかった。力が強くてちょっと痛いから。

 

「オレはお前が好きなんだ!」

「お、おう。ありがと。でもちょっと緩めてくれれば嬉しいな」

「わかってねーだろっ」

「いや、痛いから! 地味に痛いから!」

 

 微笑ましいと思っていた部下達だが、本気で痛がってる私の様子に慌てて動き出したようだ。が、その前にゴンッという大きな音が響く。

 

「……容赦ないな、フミ子」

 

 威張ったように腰に手を当てポーズをとったパンダは、ついでとばかりに兄の頭も思いっきり殴りに行った。もちろん私は止めなかった。ディーノでこれだったのだ、兄は怖すぎる。

 

 頭にたんこぶを作ったディーノとバツマークをつけた兄は一度殴られたからか、冷静に私の話を聞いてくれた。なぜか2人とも正座していたが。

 

「すまない、僕達の勘違いだったようだね」

「ああ。サクラ悪かった。痛かっただろ?」

「大丈夫。それより立って」

 

 いい加減、注目を集めて嫌なのだ。誰も止めようとしないから余計に。兄はまだしも、君達のボスはそれでいいのか。私が心の中でツッコミしている間に2人は立ち上がった。

 

 そういえば言い忘れていたことがあったな。ディーノに耳を貸せと手招きする。

 

「どうした?」

「浮気すれば離婚だからな」

 

 再びディーノが固まった。あれだけ何度もヒントを出して気付かないと思っていたのか。さっさと復活させるために意地悪する。

 

「なんだ、する気だったのか」

「しねぇよ」

 

 ニヤニヤしながら言ったので、冗談だとちゃんと受け取ったらしく、苦笑いしながら答えてくれた。

 

 ……しかし、本気で彼が誰かを好きになったなら私はどうするんだろうな。

 

 ちょっと想像つかないなとボンヤリしながら思っていると頭を撫でられた。チラッと視線を向けると、余計な心配はしなくていいと目で言われた。恥ずかしい。

 

「サクラ、ロマーリオが新しい料理を持ってきたぜ」

 

 兄のところへ逃げようとしたところで、ディーノに引き止められた。恥ずかしさを隠すように食事に集中する。ふとあることを思い出し、再びチラッと視線を向ければ、ディーノは兄にドヤ顔していた。

 

 ……ついロマーリオの近くに移動した私は悪くないと思う。私で遊ぶな。

 

 

 

 

 

 その日の深夜に思わず呟いた。

 

「……まいったな」

 

 兄の言った通り、ディーノは私が眠るまで側にいてくれた。とても気持ちよく眠りにつけたはずだが、夜中に目が覚めてしまったのだ。

 

 ……うん、これはきついな。

 

 起き上がり、家から持ってきたお気に入りキャラのぬいぐるみを掴む。しょぼい装備だが、ないよりはマシだ。主に精神面で。

 

 部屋の鍵を開け、キョロキョロと見渡す。誰もいないことを確認して、外に出て鍵を閉めた。

 

 それにしても、廊下も広くて長いからか、ちょっと怖い。

 

 一度隣のディーノの部屋に視線を向ける。電気は漏れていないので、眠っているのだろう。

 

 では、当初の予定通り兄の部屋へ向かうことにする。

 

 兄の部屋は残念ながら階が違う。といっても、私の部屋からは近い。ディーノと私の部屋が大き過ぎて、隣より階段を下りた方が早いからその場所にしたようだ。まぁ私とディーノの部屋の扉は近い分、どうしても間取りの関係で隣の部屋は遠くなってしまうからな。

 

 廊下をちょっと歩き、階段を下りようとしたところで足を止めた。誰かがのぼってくる気配がする。慌てて部屋へと引き返す。

 

「誰だっ!」

「うわっ!?」

 

 戻ろうとしたところで、廊下からも人が来るなんて卑怯である。バタバタと駆け寄ってくる足音がする。挟み討ちとか酷い。ちょっと半泣きだ。

 

「警戒を解きたまえ。その子はサクラだよ」

「お兄ちゃんっ!」

 

 なんと、階段からやってきたのは兄だった。思わず飛びついた。

 

「大人しく僕が来るまで待てば、騒ぎにならなかったのだよ?」

 

 私に上着を被せながら、慰めるように兄は言った。恐る恐る顔をあげれば、結構な人数が集まってきていた。もちろんその中にもディーノの姿もあった。……本気で泣きそうである。

 

 部屋が広過ぎて寂しくなったから、兄の部屋に向かったという情けない私の行動を兄の口から説明された。黙秘を貫き通したかったが、流石にここまで騒ぎを起こしたのだから、説明しないわけにはいかなかったのである。一応私もわかっていたので、兄が話す邪魔はしなかった。兄の背にガッシリと抱きついていたが。

 

「……とりあえず、寝直すか」

 

 何か言われると思っていたが、ディーノの一言で解散になる。予想外の流れで謝罪するタイミングも失ってしまった。

 

「サクラ、どうする? 桂と寝るか? それともオレと寝るか?」

 

 ディーノが近づいてきたので、無言で更に兄に抱きつく。

 

「そうか、わかった」

「そうだね。サクラはディーノと眠りたいようだから頼んだよ!」

「は?」

「おや? わからなかったのかい? まだまだだね!」

「いや、でもよ……」

 

 乗り気じゃないディーノをみて、諦めた。兄が察してくれて便乗しようとしたが、流されてくれなかったようだ。

 

「お兄ちゃん、ディノが嫌がってるから……」

「そのようだね。サクラ、僕と一緒に寝ようか」

 

 コクリと頷き、動きにくいと思って一度兄から離れる。その瞬間、抱きあげられた。

 

「ディノ?」

「一緒に寝ようぜ」

「や、でも嫌なんだろ?」

「なわけねーだろ。桂、悪い」

 

 兄はおやすみの挨拶をして去っていった。なぜか威張りながらだったが。

 

 抱き上げられたままディーノの部屋へ行き、ベッドまで運ばれた。……改まって一緒に眠るとなると思ったより緊張する。仕方ない状況とはいえ、何度も一緒に寝たことはあるのに。

 

「目が覚めちまったかもしれねーが、寝ねーと明日に響くぜ。明日は桂と一緒に出かけるんだろ?」

「……ん」

 

 謝るタイミングは今しかない気がする。

 

「あの」

「謝る必要はないぜ」

 

 ゴニョゴニョしていると先手を打たれた。

 

「これから何度も価値観が合わないことが起きる。それは当たり前のことで、どっちが悪いとかじゃないんだ。みんなもそれがわかっているから、何も言わなかったんだ。……どっちかつーと、気付いてやれなかったことに落ち込んでるな。まっそれはオレも含めてだけどな」

「や、ディノ達は悪くないぞ!?」

「な? そう思うだろ? オレ達もそう思うんだぜ? 今回のは生活環境が変わって、相手に合わせようとして起きた問題なんだ。妥協点を探しても、怒ることじゃねーよ」

「……私なら怒るぞ」

 

 そこまで私は出来た人間じゃない。自身のことを棚にあげて、なぜ言わなかったんだと絶対に文句を言う。

 

「そこも価値観の違いだな。気付かなかったことに落ち込むが、どこかで嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「ああ。無理してまでオレと一緒に居ようとしてくれてるって思うんだよ。だから嬉しいんだ」

「……私には出来ない」

 

 ディーノが無理しているのを後から知ったら、恐らく言わなかったことに腹が立ち、さらに能天気に浮かれていた自身がバカじゃないかと思うだろう。

 

「オレはオレの考えが正解だと思ってねーよ。……そうだな。シンプルに考えようぜ。サクラはオレの持っていない考えがあって、オレはサクラの持っていない考えがある。だから気になって惹かれ合うんだ。でも完全な正反対なら反発しあって合わないだろ? 同じ考えもあるから上手くいくんだぜ。今、少しでも上手くいくようにオレ達は、譲れるところは譲って少しずつ反発する箇所を減らしているんだ。それをどう感じているかの差だな。努力して嬉しいなと捉える奴もいるし、無茶するなと思う奴もいる、それは当然だって思う奴もいるな」

「……その人とは関わりたくないな」

 

 そう言いながらも、私はどこかで当然だと思ってる節がある。これが同族嫌悪なのかもしれない。

 

「それがよ、努力している自分が好きっていう奴とか、尽くしてやりたいとか、そう考える奴となら合いそうだと思わねーか?」

 

 ……兄が完全に当てはまってしまった。

 

「本当はもっと複雑なんだろうけどよ。オレの場合、価値観が違って起きた問題なら、そこまで腹が立ったりしねーし、謝ってほしいとも思わねぇんだ」

「……なるほど。道理で雲雀恭弥と上手く付き合えるはずだ」

「なんでそこで恭弥になるんだ……」

 

 落ち込んだ姿を見て、思わず笑ってしまった。

 

「まっいいか。後はそうだなぁ……。そこまでねぇって言っても、オレが怒ることもあるからな。気をつけろよ?」

 

 ……嫌な流れな気がする。

 

「なんとなくオレが怒る時はわかってんだろ? 怒られたくねーなら、ちゃんと話すんだぜ」

「スイ……」

 

 おかしい、いつの間にそんな流れになったのだ。ガンガンと釘を刺されてしまった。

 

「じゃ、今度こそ寝よーぜ。部屋の問題はなんとかすっから、気にすんな」

「え? なんとかって? 私の部屋を狭くするのは無理だろ?」

「まぁ任せとけって。明日話してやるから、今は寝ろ」

 

 ディーノがそういうなら大丈夫だろう。安心した私はポンポンと背を叩かれた結果、簡単に眠りに落ちた。

 

 

 次の日、約束通りディーノの話を聞いた。どうやら私の部屋を間切るようだ。どの部屋も私の部屋なので表向きは問題なく、広すぎて落ち着かない私の願いも叶えられる素晴らしい案だった。流石である。

 

 ディーノが張り切ったのか、私が起きた時にはもう間取り図は完成していた。やはりセンスがいいのか、完璧だった。それでも一日で工事は終わらないので兄の部屋にお邪魔することになった。

 

「お兄ちゃん、本当にいいの?」

「こんなイベント、逃す理由がないよ!」

 

 まぁ兄ならそう答えるか。迷惑なら恥ずかしいがディーノの部屋にお邪魔しようと思っていたが、その案は必要なかったようだ。

 

「それに眠れないのは可哀想だからね……」

 

 どこか遠くを兄は見ていた。昨日の私の行動を思い出しているのだろうか。

 

「サクラ、今度新しいマンガを買ってあげるよ」

「え? ほんと?」

「本当だとも。いつもより少し大人っぽい感じの漫画だけど、面白かったからね」

 

 どんな漫画だろうか、楽しみである。

 

「あ。大人っぽいってグロい系じゃないよな?」

「安心したまえ。過激なものはサクラにオススメしないさ」

「それもそうか」

 

 苦手分野の漫画を送ってきたら、しばらく無視をする自信がある。楽しみにしていた分、怒りもそれに比例するのだ。

 

「……僕もサクラに嫌われたくないのだよ、許してくれたまえ」

「許すも何も、面白くても薦めれば私に嫌われるとわかってるなら、薦めなくていいから。私だって、そんなことでケンカしたくないし」

 

 なぜか兄は笑いながら、優しく私の頭を撫でたのだった。

 

 

 無事に工事も終わり、兄が帰ってしばらくすると、約束通りマンガが届いた。ただし大量に。

 

「なんつーか、凄い量だな」

「私もちょっと驚いてる」

 

 あの時のオススメがどれかわからないな。まぁとりあえず全部読んでから考えよう。そうしよう。……ああ、ニヤニヤが止まらない。

 

「……サクラ、デートしようぜ」

「え? 予定があるんだろ? 昨日誘わなかったし」

「あるっちゃあるが、すぐに終わらせる」

「そうか? じゃそのつもりでいる」

 

 とりあえず出掛ける準備を終えて、待ってる間にマンガを読むことにするか。

 

「ん?」

 

 ふと違和感がして周りを見渡した。よく見るとマンガを運ぼうとしているみんなの肩が震えている。

 

「なんかあったのか?」

「……こいつらのことは気にすんな。準備するんだろ? 部屋まで送るぜ」

 

 私も手伝おうと思っていたのだが、ディーノにエスコートされて断念する。私たちが角を曲がると部下達の笑い声が聞こえてきた。

 

 ……読めたぞ。このマンガは兄のトラップでもあるのか。

 

「や、流石にマンガよりディノを取るぞ?」

「……すまん。割り切ってるつもりだったが、嫉妬した」

 

 この場合、マンガじゃなくて兄にということだろう。

 

「その、なんだ。兄もディノとの駆け引きを楽しんでるみたいだし、私は別にいいと思うぞ? 決定権は私みたいだし」

 

 ……うん、改めて考えると傲慢で酷い。

 

「本当に、いいのか?」

「ディノこそ、いいのか?」

 

 思わず2人で笑った。私達はそれでいいのだろう。さりげなく、髪の毛にキスを落としたディーノは仕事を片付けに向かった。……私も準備するか。



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初めての誕生日

サクラとディーノさんの結婚後。
2017年のディーノさんの誕生日記念に書きました。
活動報告に載せた時より加筆しています。

※激甘注意!!


 普段の私はマンガを読んだりゲームをしたりと全く奥さんらしきことはしていないが、旦那の誕生日ぐらいは頑張る気だ。……結婚してから初めての誕生日だし。

 

「というわけで、ロマーリオ。ヘルプミー」

「……何がというわけかがわからんが、ボスの誕生日だろ?」

 

 ノリは悪いが流石ロマーリオである。よくわかってるじゃないか。

 

「私のお小遣いってどれぐらいある?」

「これぐらいだな」

 

 紙にさらっと書かれた額に目眩がした。いくらなんでも多すぎる。

 

「これでもかなり少なくて悪いと思ってんだ。どこの世界も情報は重要だ。サクラの予知にはそれぐらいの価値があるんだぜ」

 

 そういえば、知識でフゥ太にランキングを頼もうとして、かなりの金額を出していたな。……毎度あれを出そうと思えば破綻する。身内だし少なくて当然だ。そもそももっと少なくしても問題ないぞ。

 

「その分、警護代もかかってるだろ?」

「……外に出てねぇんだから警護も何もねぇぜ」

「や、でも家で居ても」

「常に配置していることだ」

 

 お、おう。少しは外に出ろと遠回しに注意されている気がする。だが、考えてくれ。ディーノが居なければ、何十人も引き連れて歩くことになるんだぞ。申し訳ないし、何より私が歩きたくない。

 

「ま、まぁ明日は外に出るぞ」

 

 大きな溜息を吐かれてしまった。おかしい。

 

 

 次の日、予定通り大量の部下を引き連れての買い物である。

 

 相変わらずディーノは人気者のようで、私にも声をかけてくれる。そして私が何を買いにきていたかわかっているようで、ディーノが見ていたものを教えてくれた。

 

「悩ましいな」

 

 いっその事、全部買うのもありだな。私がお金を持っていても仕方ないし、ディーノがおさめているシマに落とした方がいいだろ。……決して面倒になったわけではないぞ。

 

 決まったなら早い。もう一度戻るか。

 

「サクラ!!」

「ん?」

 

 この声はディーノだ。慌てて周りを見渡すが、囲まれている状態では見えるわけがなかった。もっとも数秒後には見えるようになったが。みんなが道を開けてくれたのだ。

 

 ディーノは私に駆け寄り、抱き締めた。正直みんなが見ているのでやめてほしい。

 

「急にどうしたんだ?」

「ん?」

「今日は家にいるって聞いていたのに居ねーからよ。焦ったぜ」

 

 最初から出かける予定だったが、ディーノにはヒミツのために家にいると伝えていたのだろう。それは理解出来たが、問題はなぜここにディーノが来たのか。ディーノの腕の隙間から私についてきた部下達を盗み見る。ジェスチャーで謝っているので、情報が行き違ったか。……もしくはディーノの行動が早すぎて読めなかったか、だな。

 

「ちょっと買い物したくて」

「そうか」

 

 ディーノ優しく頭を撫でた後、ゆっくりと離れた。が、手は捕まった。

 

「じゃ行くか!」

「もう今日は予定がないのか?」

「ああ。予定が変わってよ。急いで帰って来たんだ」

 

 その急いでが問題だった気がする。ロマーリオを私につけるようになってから、まだそんなに時間がたってないからな。大変そうだ。

 

「いつか怪我するぞ。君が大丈夫でも周りが」

「そんな柔な鍛えかたしてねぇよ。そんなことより何が欲しいんだ?」

 

 無念である。私のフォローは聞き流された。

 

「お持ち帰り出来ない甘いものを探している」

「なら、こっちだ。新しく出来たメニューがあるって聞いたぜ」

 

 ディーノが私の手を引っ張ろうとした時に、用事を思い出したなどのあからさまなウソをついて、部下達が帰っていった。

 

「ったく、あいつら……」

「帰りにお土産」

「だな」

 

 私からも何か用意しよう。また買い物に付き合ってもらわないといけないし。

 

「あ、そうだ」

「なんだ?」

「特に異変は感じなかったが、私がパーティに出る夢を見たぞ」

「……4月の9代目の誕生日パーティじゃねーか?」

 

 それがあったか!と遠い目をする。基本ディーノが断ってくれているが、9代目からの誘いだけは断れない。……流石に行きたくないとワガママは言うつもりはない。一応ちゃんと理解して結婚したつもりだし。

 

「ツ、ツナ達は来ねーだろうが、知った顔もいると思うぜ」

「……知った顔が暗殺部隊ってどうなんだ?」

「微妙だよな……」

 

 大きく頷く。しかし難しい問題でもあるのだ。私が出たがらないのも確かにあるが、マフィアと繋がりがない状態で、予知が出来る私は1人になる可能性があるパーティには危険で参加出来ないのだ。

 

「ユニか来れればいいけどな」

「どうだろ。私と似たような理由でγが却下してそう」

 

 ディーノの足が止まったので、私も立ち止まり視線を向ける。……ああ、謝りたいが謝れないのか。謝れば結婚したことも過ちになってしまうから。

 

「……ディノ、頭撫でて」

 

 苦笑いしながらも優しく頭を撫でてくれた。もうこの話は終わりということでデートに戻る。

 

「ディノ、はやく行こ」

「わかったから、引っ張るなっ。怪我するのはサクラだっ」

 

 ピタリと足を止めて、ディーノへと向きなおる。

 

「危ないと思ったら、ディノが助けてくれるんだろ?」

「……どこで覚えたんだ」

「どこってディノが言動で示したからだぞ?」

「違う。……可愛い過ぎるっていう意味だ」

 

 よくわからなくて首を傾げる。今のどこでそう思ったんだ。

 

「まぁディノに可愛いと思われたいからいいか」

「……ちょっとは我慢しているオレの身になってくれ」

「それはそれ、これはこれ」

 

 そもそも言ったのは私ではなく父だし、約束したのはディーノだ。ただスネたので意地悪する。

 

「なら、にほ」

「ダメだ」

 

 最後まで言えなかった。ただ日本に帰ろうか?と言おうとしただけなのに。

 

「もうサクラが側にいない方が、違和感があるんだ。離すかよ」

 

 敗北である。隠れるようにディーノの腕へと抱きつく。

 

「ほら、行くんだろ?」

「……ん」

 

 腕に抱きついたままディーノの顔を盗み見すれば、また頭を撫でられた。目は合わなかったのにして欲しいと気付いていたようだ。

 

 ……ああ、もう。ディーノを喜ばせたいと思って出かけたのに、喜んでるのは結局私じゃないか。誕生日には絶対仕返ししてやる!

 

 

 

 

 

 今日は待ちに待ったディーノの誕生日である。つまり、ついにきたのだ。

 

 私のターン、ドロー!

 

「……はぁ」

「悪い、ボスじゃなくて」

 

 ロマーリオは悪くない。そもそもディーノでもわからないと思う。

 

「ただのホームシックだから」

「……そうか」

 

 兄なら上着を靡かせ、デッキを持っている仕草をしてくれると思っただけだ。私もロマーリオに出来ると思っていないから、口に出さなかったし。後で電話することにして切り替えよう。

 

 今日は私が喜ばせる番なのだ!

 

「ロマーリオ、今のところ問題はない?」

「ああ。ボスにはまだバレてねぇ。昨日は町のみんなが浮かれてて危なかったみたいだけどな」

「それは良い誕生日になりそうだ」

 

 想像が出来て思わず笑った。私の計画は完璧だったようだ。これなら盛大に祝ってくれるだろう。

 

 実は予定通り大量のプレゼントを用意したのはいいが、普通に渡しては面白味がないと思ってしまったのだ。

 

 そこで私は買った店に一度返却して、誕生日当日にディーノを外へ送り出すので、私からというのは内緒でシマのみんなから渡してほしいとお願いしたのだ。行く先々から受け取れば、ディーノも驚くだろう。

 

「本当にボスと一緒に行かないのか?」

「ん」

 

 みんなが祝えるようにと、プレゼントだけじゃなく、料理のお金も私が全部出したからな。計画の段階で、私の年齢や元々一般人だったことを聞いていて心配する者も居たのだ。稼ごうとすればいつでも出来ると私が言って、それをロマーリオが肯定して、計画が進んだのである。

 

 ここで私が一緒に行けば、また気をつかうだろう。最悪の場合、興ざめだ。それは絶対に避けたい。

 

「夜は家でもパーティを開くんだろ? ……かっ、可愛いって言ってもらうために着飾るから私は忙しいんだ! 行程を見られたくないし、ちょっと追い出してくる!」

 

 私の苦しい言い訳にロマーリオが苦笑いしていたが、それにはツッコミせずに送り出してくれた。

 

 では、隣のディーノの部屋へと突撃だ!

 

 昨日のスケジュールではディーノは疲れていて、この時間はまだ眠っているだろうというのが、ロマーリオの予想である。

 

 ロマーリオには起こそうとする前に声をかけるようにと言われているが、ちょっと驚かせてみようというイタズラ心が出た。そっと扉を開けて、忍び足でベッドに近づく。

 

 ……残念。布団に隠れて寝顔は見れないようだ。

 

 脅かそうと思って来たのはいいが、どうやって起こすか考えていなかった。布団を剥がすのは面白いが、新婚っぽくはない。

 

 よし、再び計画変更だ。ここは優しく起こしてあげよう。

 

 そっとディーノに近づき、手を伸ばす。ディーノに触れようとしたところで、手を掴まれてグイッと勢いよく引っ張られた。

 

「うわぁっ」

「なっ、サクラ!?」

 

 やってしまったなぁとベッドに寝転びながら思った。

 

「大丈夫か!? 痛いところはねぇか!?」

 

 心配そうにディーノが私の顔をのぞいていた。

 

「大丈夫。それとごめん」

「いや……オレの方こそ悪かった」

「んーん。ディノは悪くない」

 

 私がバカだっただけだ。就寝中のマフィアのボスに声もかけずに近寄れば、警戒されるに決まっている。それにディーノは途中で私だと気付いて、力を抜いてくれた。そもそもロマーリオに言われていたのにそれを守らなかったのは私だ。

 

 だからもう一度同じ言葉をかける。

 

「ディノは悪くない」

 

 それでも彼が気にするとわかっていたので、首に手を回して顔を近づける。私が望んでこの世界に来たと伝わることを願って唇に触れた。

 

 ディーノの目が見開いたのを見て、急に恥ずかしくなった。慌てて離れて目をそらす。

 

「……その、誕生日だから」

 

 関係ないだろ!と心の中でツッコミする。しかしそれ以外にいきなりな私の行動を、まともな言い訳が思いつかなかったのだ。

 

「……そうか。今日はオレの誕生日だったな」

「そう! そうだっ!」

 

 ディーノが私の苦しい言い訳に付き合ってくれたので、必死に肯定する。今日が特別な日だから私からしたのだ。普段はしないぞ!

 

「……なら、サクラがプレゼントってことか?」

 

 気のせいか? 急に雲行きが怪しくなったぞ。チラッとディーノを見る。この状況を楽しんでる顔だ……!

 

 まずい、まずい。この流れはキスがくる。

 

 キス自体は嫌いじゃない。だが、この流れからくるキスはディープな方だ。私にはハードルが高い。自身の身体なのにコントロール出来ず、なぜか変な声が出るし、勝手に身体が跳ねたりして、恥ずかしいし。

 

「ち、父との約束!!」

「心配すんな、キスしかしねぇよ」

 

 そのキスも問題だと講義しようとしたが叶わなかった。……それどころじゃなくなったから。

 

 

 朝からぐったりと疲れた……。

 

 ボーッとした頭で呼吸を整えながら変だなぁと思った。いつもならディーノがすぐに頭を撫でてくれて、落ち着かせてくれるのだが。

 

「ディ、ノ……?」

 

 チラッと視線を向けて、後悔する。ゴクッと喉がなったのを見てしまった。

 

 この後の展開を察しないほど、私はバカじゃない。ただ、バカではないが、どうすればいいかは知らない。知識は得れたが学校の授業では具体的なやり方は教えてくれなかった。マンガではそういうシーンがあるが、はっきり描いていないからイマイチわからなかった。兄も知らなくていいと言って教えてくれなかったし。

 

 興味がない、とは言えない。父との約束はあるが、私達は結婚しているわけだし、問題はないはずだ。問題があるとすれば、キスでさえ私の想像よりも翻弄されたのだ。これ以上進めば、ついていけなくなるだろう。

 

 ……そうか! だからマンガでヒロインがこの言葉を使うのだな。この状況になって、合点がいった。私も使うことにする。

 

「その、優しくしてくれ……」

 

 必要だったとはいえ、想像以上に恥ずかしいぞ!? 思わずディーノから視線を逸らした。

 

「〜〜〜っ! フミ子!!」

「パフォ!」

 

 聞こえた言葉に慌ててもう一度ディーノを見れば、フミ子がディーノを殴っていた。結構な威力だったようで、ディーノはベッドの上から落ちた。恐る恐るベッドの上から覗き込む。

 

「えーと……大丈夫か?」

「……ああ」

 

 返事はしたものの、寝っ転がったままで動かない。本当に大丈夫なのだろうか。心配になり、ベッドからおりるとディーノが勢いよく起き上り、頭をさげた。

 

「すまん!」

「……謝られると困る」

 

 どちらかというと私も乗り気だったし。断られたみたいで傷つく。

 

「違う、そういう意味じゃないんだ。……お前に約束を破らせるところだった。オレは怒られたり殴られても、お前を離す気はねぇから覚悟は出来ている。でもお前は違うだろ? お前が気にするような流れになれば、一生この日を後悔しちまう。大人のオレがしっかりしねーといけねぇことだったんだ」

 

 ……確かに私はそこまで考えてなかった。約束を破っても、なんだかんだ言って許してくれるだろうという甘い考えがあった。

 

「ディノ、ありがとう」

 

 ディーノが謝ったなら、私は感謝しないといけないことだと思ったのだ。

 

 ぎゅっと抱きつけば、ディーノはいつものように抱き締めてくれた。

 

「今日は天気もいいし、出かけようぜ」

 

 ……本来の目的をすっかり忘れていた。

 

「や。今日は忙しい」

「オレの誕生日に一緒に居てくれないのか?」

 

 ディーノのちょっと寂しそうな声にアタフタする羽目に。

 

「た、誕生日だから! 夜にパーティがあるだろ! 女の私は準備しないといけないんだ!」

「そのままで十分可愛いぜ。それにオレは一緒にいたい」

 

 ぎゅうきゅうと抱き締められ、用意していた言い訳が完全に使えなくなったと察した。抱き締められてなければ頭を抱えていただろう。それぐらい、ピンチである。

 

 コンコンというノックの音と共にロマーリオが入ってきた。慌てて離れようとしたが、残念ながらガッチリとホールドされていた。

 

「……んなことだと思ったぜ」

 

 この展開を読めていたなら、なぜ教えてくれなかったんだ、ロマーリオ!

 

「邪魔するなよ、ロマーリオ」

「随分前からたまには着飾ってボスを喜ばせるって楽しそうに準備していたんだぜ?」

「……そうなのか?」

 

 必死に頷く。今回は珍しくドレスとかも全部自身で決めたのだ。ゆっくりとディーノが離してれたのでホッと息を吐く。が、ロマーリオのところへ向かえば、なぜかディーノもついてきた。

 

「ボス、外に出て時間を潰してくれ。ボスが居れば、気になって準備出来ないぜ。オレ達のボスはそこまで無粋じゃねーだろ?」

「……わーったよ」

 

 心の中で拍手を繰り返す。流石、ロマーリオである。

 

「外っつてもシマから出ねえからな。終わったら絶対に連絡よこせよ」

「ああ。わかってる」

 

 ロマーリオは天才だな。私が手こずった内容をこうもあっさりとクリアするとは。

 

 ディーノが出かけてからロマーリオを凄いと褒める。

 

「褒めるなら、明日にしてくれ……。今日は誕生日で浮かれてるみてーだし、着飾ったサクラを見て、ボスが理性を飛ばさないか心配だ」

 

 ……もう、一度飛ばしかけたんだが。

 

 私が視線を逸らしたことで察したロマーリオは頭を抱えた。が、頑張ってくれ!



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告白

ギリギリセーフかな?
4月4日はサクラの誕生日なのでその記念です。
エイプリルフールネタがあったけど、書く時間がなかったのでそれも混ぜてます。

そこそこ甘いと思う。


 4月1日。

 

 ……今年もこの時期がやってきたな。といっても、準備は完璧である。結婚してすぐ立てた計画だからな。根回しはばっちりである。

 

 だからつい朝からニヤニヤするのは仕方がないと思う。ロマーリオが温かい目でこっちを見ているのはスルーだ。

 

「ディ、ディノを起こしてくる!」

 

 スルー出来ずに逃げたのは気のせいである。平常運転だ。

 

 ちゃんとコンコンとドアを叩く。同じミスはしない。どうやらディーノは起きていたようで、寝ぼけながらも顔を出した。

 

「ディノ、おはよう」

「おはよう、サクラ。相変わらず、早いな」

 

 それは笹川了平のせいだ。3年間の習慣で早起きに抵抗がなくなってしまったのだ。もっとも、二度寝する時もあるので毎日ではないが。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 いつものように、よしよしと私の頭を撫でてディーノは着替えに向かおうとしたので袖を掴む。

 

「ん? どした?」

「その、似合うか?」

 

 クルッと回転する。新しく買った服なので感想がほしい。

 

「可愛いぜ、似合ってる」

「そ、そうか?」

 

 褒めるのはいつものことなのであてにはしないが、ディーノが良いというなら、 大丈夫だろう。この服を選んで正解だった。

 

「……今日は出かける予定じゃなかったよな?」

 

 いつも思うが、ディーノは私の予定を覚えているのだろうか。覚える気のない私は毎日ロマーリオに聞いているぞ。

 

 しかし困ったな。どう答えるべきか。私が新しい服を着ただけで疑問を持たれてしまった。やはり一緒に住むと難易度があがるな。

 

「予定変更。出かける」

「桂がきているのか?」

「んーん」

「……誰かと会うのか?」

「んーん」

 

 なぜかディーノにジッと顔を見られてしまった。ウソがバレてしまったかもしれない。これは逃げるに限る。

 

「部屋にいるから準備出来たら声をかけて」

 

 パシッと腕を掴まれる。服を掴んだのが仇となったな。ディーノと距離が近すぎて逃げれなかった。観念しディーノの顔を見る。

 

「サクラ、オレのこと好きか?」

 

 これはウソをつくべきなのか?……でもこのウソはつきたくない。フリかもしれないが、気付かなかったことにする。

 

「す、好きだぞ」

 

 それでも恥ずかしくディーノに抱きついた。また優しく頭を撫でてくれたので、さらにギュウギュウと抱きつく。

 

「……すまん」

 

 ポツリと聞こえた謝罪に何事かと顔をあげれば、ディーノの顔が近くにあった。だからそっと目を閉じた。

 

 

 

 ……という流れを、ディーノを見送ってからロマーリオに説明する。ロマーリオも聞きたくないだろうが、そこは我慢してくれ。未だにディーノの謝罪の意味がわからないんだ。

 

「あー……なるほど」

 

 1人で納得し始めたので説明しろと視線で催促する。

 

「ボスはサクラが他に好きな奴でも出来たのかと勘繰ったんだろ。サクラは滅多に服を買わねぇからなぁ」

 

 滅多に、というがそれは着る服が大量にあるからだ。必要性を感じれれば、私だって買うぞ。

 

「兄の名前を出したのも、私が兄かディノと出かけるぐらいでしか、新しいのを出さないから?」

「そういうことだ」

 

 疑ったから謝罪したのか。黙っていればいいのにな。必要となれば割り切ってウソをつけるのに、ディーノ身内には本当に甘くて弱い。……まぁそういうところを好きになったのだが。

 

「ディノって、こういうイベントによく引っかかりそう」

「昔はオレ達を驚かす方だったからなぁ」

 

 1日1回はドッキリするって最初の頃にファミリーのみんなが言っていたな。もちろんその中にはドジもあると思うが。

 

「私は見たことがないけど」

「サクラにはカッコイイところだけ見せたいんだろうな」

 

 声を殺してロマーリオは笑っていた。懐かしくて笑っているのではなく、昔話が私に筒抜けになっていることをディーノが知らないから笑っている気がする。相変わらず不憫である。

 

 さて、化粧もして準備が完了したので予定通り出かけることにする。

 

「留守をよろしく」

 

 部下達に声をかければ、頼もしい返事がかえってきた。今回の私の護衛はなかなかの競争率だったらしいので、外れて落ち込んでいると思って声をかけたが元気いっぱいだったな。私の護衛についても肝心なところは見れないとわかったからか?

 

 車の中でそれについてロマーリオと話していると、隣の部屋で録画しているらしい。バカだろと本気でツッコミした。まぁロマーリオが最終的に許可したのだから私の護衛には問題ないのだろう。見逃すことにする。彼らの目的はディーノだし。

 

 店の個室でお茶を飲みながら待つ。日本にいた頃は和室とかに興味がなかったが、海外にくると畳の匂いに安心する。和室部屋を作ってもいいがお金がかかるし、久しぶりだからいいのだろう。それに長時間正座も出来ないし。

 

 予定より遅れているなと思っていると、ディーノの声が聞こえてきた。この空間には相応しくない声量でディーノが叫んでいるようだ。

 

 イタリア語だが、なんとか聞き取れそうだ。少しは上達しているようでホッと息を吐く。

 

 しかしまぁ、かなり嫌がっているな。みんなはなんて言ってディーノをここに連れてきたんだ?すごい内容を口走っているぞ。

 

 ……私はただ外でディーノと昼ご飯を食べて、この後デートを出来るように予定を抑えて、それをディーノにはナイショという可愛らしいウソをついたつもりだったんだが。

 

 散々抵抗していたディーノだが、観念して扉の前にきたようだ。断ってすぐ帰るからな!と連呼しているので、観念したというより部下に言っても埒があかないと思ったのかもしれない。

 

 ガラッと扉が開くと、ディーノは厳しそうな表情から一瞬でポカン顔になる。

 

「遅かったな」

「……は? なんでサクラが?」

「今日はエイプリルフールだぞ」

 

  慌てて振り向いたが、残念ながら部下達は逃げたあとだ。ディーノが追いかけないので、これは隣の部屋にいる部下達もうまく逃げたな。ネタとしてはディーノの抵抗だけで十分だろうし。

 

「やられた……」

 

 ガクッとしゃがみこんだディーノに追い打ちをかける。

 

「強烈な愛の告白、ありがとう」

 

 カッとディーノの頬が真っ赤に染まる。抵抗したことに嫌味を言わなかったのはディーノがずっと『オレがサクラを愛しているのは知っているだろ!?』とか『サクラを泣かせるようなことはしねぇ!』とか叫んでいたからな。

 

 これを日本語で叫ばれていたら、私は恥ずかしく耐えられなかっただろうな。イタリア語だったので、客観的に捉えることが出来た。

 

「おかしいと思っていたんだ。あいつらが断れない筋だからといって、異性と2人っきりで食事しろなんて……」

「また……それはありえる話だな」

 

 私と結婚したことで、いろいろあったはずだろうし。断れないことも多いだろう。現にパーティに呼ばれる回数は増えたらしいし。私は出てないが。

 

「あっても断るから安心しろ。マフィア界でオレがサクラを溺愛しているのは有名だしな」

 

 ふいた。どうしてそうなった!?

 

「事実だろ?」

 

 ニッと笑った姿を見て、思わず視線をそらす。くそっ、もう立ち直ってしまったようだ。頬が熱い。

 

「まっそうなる方が都合が良かったのもあるんだ。そうすれば、サクラがパーティに出ない理由にもなるし、今度の9代目のパーティでオレがサクラから離れなくても変じゃねーだろ?」

 

 フォローしてもらう身として、文句を言えるはずがなかった。

 

 ただ、先程の強烈な愛の告白を聞いた後だと、わざとや大袈裟に広げているとは思えない。

 

「しょ、食事にしよう!」

 

 いつものごとく、私は逃げたのだった。

 

 

 

 後日、部下達から鑑賞会に誘われたので顔を出す。別に端で良かったのだが、一番見えやすいところを勧められたので座る。

 

 ……うん、これは凄いな。編集しているからこその迫力なのかもしれないが、ディーノの抵抗シーンがヤバかった。あの叫びもなかなかのものだと思っていたが、あれでも店の中だったので抑えていたらしい。

 

 みんな、よくディーノを連れてこれたな。いや、連れてこなければ、それはそれで私を待ちぼうけにしてしまうので必死だったのもあると思うが。

 

「サクラ、ここに居たのか」

 

 ディーノの声にギョッとする。慌てて周りを見渡したが、私以外いなかった。……くそっ、置いていかれた。

 

「…………」

 

 しばし沈黙が流れる。

 

 何を見ていたのかバレてしまったのだから、仕方がない。私は何を言えばいいかわからないし、ディーノも声をかけにくいだろう。

 

「その、ちょっとした出来心で」

 

 懐かしい言い訳をつかい、私は許してもらおうと考えた。まぁディーノはこの内容だと部下達ならまだしも私には怒らないけどな。ただ言い訳したくなる空気が流れていたので口にしたのだ。

 

「いや、オレが悪かったんだ」

「ん?」

「愛情表現が足りないってことだろ?」

 

 ……確信犯だ。ディーノの顔を見ればわかる。全ての流れを当てた上で言ったのだ。逃げることが不可能なら、ここはもう乗るしかない。

 

「仕方ないだろ、ディノが好きなんだから。すぐに物足りなくなる」

 

 私はワガママだからな、とドヤ顔をする。すると、ディーノは心底嬉しそうに笑った。……私からの愛情表現の方が足らないんだろうな。基本、きっかけがないと伝えようとしないし。

 

 立ち上がりディーノの近くへと移動する。そして耳を貸せと合図する。……おい、耳だぞ。頬を出すな。

 

「なんだ、違うのか?」

 

 残念そうに言いながらもディーノは耳を寄せた。それでも雰囲気は嬉しそうなので言葉でもいいのだろう。

 

「その、私はお兄ちゃんが一番好きなんだ」

「大丈夫だ。それはわかってる」

「ん。それで……私がそばに居たいと思った人の一番はディノだ」

「ああ。ありがとな」

 

 終わったと思ったようで、ディーノがこっちを向いた。……面と向かっては言いにくいのだが、今回は我慢しよう。

 

「だからディノは私が一番愛している人なんだ」

 

 ディーノって、私が小っ恥ずかしい言葉を使った時、よくフリーズするよな。

 

 とりあえず時間がかかりそうだし、録画を巻き戻して見直すか。



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同窓会

リクエスト作品。
20歳をイメージして書きました。


 日課である電話をしていると、兄が思い出したように言った。

 

『僕としたこが、忘れていたよ! 並盛中学から同窓会のハガキが来ていたよ』

「欠席で」

 

 即答である。兄もわざわざ伝える必要がないのにと思うぐらいだ。

 

『……ふむふむ、クラスメイトだけで行う小規模の同窓会だね』

「いや、だから欠席で」

『確かサクラのところは3年の時クラス替えがなかったよね?』

「……リボーンが手をまわしたからな」

 

 渋々返事をしながらその時のことを思い出す。突如なくなったクラス替えに、ブーイングや歓喜の声が上がる中、誰の仕業なのか察したのはごく僅かで、ツナは嬉しいのに周りを巻き込んだため、素直に喜べないという微妙な反応をしていた。

 

 後でリボーンにコッソリ話を聞けば、私達をまた同じクラスにしようとすれば目立ってしまうため、この方法しかなかったという割と理解出来るものだった。

 

『2年間も同じクラスだったのだよ? 久しぶりに会いたいとは思わないのかい?』

 

 そうは言っても、結局卒業するまでに仲が良くなれたのはツナ達だけだ。そのツナ達とは度々会っているのだから特に何も感じない。それにクラスメイトと会わなくなって、まだ4年ぐらいだろ。

 

「ん。欠席でよろしく」

 

 まだ何か言われそうな気がしたので、返事を聞かずに電話を切った。兄は今頃ケイタイを床に置いて嘆いているだろうな。……その可能性があったから最初にこの話題を出さなかったのか。それなら話題を出さなかったら良かったのに。思わず溜息が出た。

 

 

 その日の夜、ディーノに甘えていると同窓会に行かないのか?と聞かれた。しつこい。

 

「兄に何を言われた」

「気をつかってる可能性もあるから、オレからも聞いてくれって言われただけだぜ?」

 

 ジッとディーノを見つめる。

 

「悪かったって。オレも警備のこととか気にしてると思ってよ。楽しんできていいんだぜ?」

「……もういいから、何も言わなくていい」

「怒っちまったのか?」

「いや」

 

 宥めるように抱きしめられたが、すぐに離れたいと意思を示す。ゆっくりと離してくれたが、ディーノの目は少し戸惑っていた。多分離れたいと合図を出す前に私も力を入れたからだと思う。怒っているならやらないし、許していたなら離れる必要はないからな。

 

「ディノ、好きだぞ」

 

 いきなりの私の告白に少し驚いたが、ディーノは嬉しそうに笑った。

 

「だから、ディノ、兄がごめん」

 

 私がこういう催しが苦手なことを知っているのにディーノは説得側にまわったのだ。絶対に兄が余計なことを言ったに違いない。

 

 兄は私のために動く。が、たまに行きすぎるところがある。多分今回、目的のためにディーノを傷つけた。ディーノの言動でそれがわかってしまったのだ。……最近、兄と触れてなかったしな。

 

「私はディノと結婚して後悔したことはないぞ。ディノが愛情を注いでくれたからな」

 

 大方、早々にディーノと結婚してことで、友達との思い出を残す機会を奪ったとでも言ったのだ。

 

「忙しい合間を縫って、何度もツナ達と一緒に遊びへと連れていってくれたじゃないか。私は幸せだぞ」

「……まいったな、どこで気付いた?」

「ヒミツ」

 

 教えれば次からわからなくなるじゃないか。ディーノは私の口を割らそうとこしょこしょをし始めた。当然、私もやり返す。

 

 その結果、2人とも息絶え絶えに。ディーノは私に怪我をさせないようにしているとわかっているが、引き分けだったのは嬉しい。

 

「……サクラ、愛してる」

 

 おおう。なぜかディーノはスイッチが入ってしまったようだ。といっても、拒む理由もないので受け入れた。

 

 

 

 

 兄が余計なことをしたので久しぶりにマジ切れしたが、同窓会には参加することにした。もちろん、ディーノのためである。

 

 しかしなぜ集合場所が駅前なのだ。そこら中に配置しているだろうが、守りにくいはずだ。私もツナ達と一緒で遅れて参加すると答えるべきだったか。……まぁツナ達は私が参加することになったから、忙しい合間をぬって顔を出す羽目になったのだが。

 

 予定通り、集合時間の3分前に駅のロータリーについた。防犯グッズを忘れてないか確認して、ロマーリオに頷く。先に外へ出て安全を確認してもらってから、私も車から出た。

 

「楽しんでこいよ」

「ん。後は頼んだ」

「ああ、任せろ」

 

 軽く手を振った後、固まっている集団へと歩き出す。防犯上仕方がないとはいえ、高級車からおりれば相当目立ったようで視線を集めた。

 

 ……鼻の下を伸ばした人物とは目を合わせないようにしよう。

 

「サクラちゃん」

 

 嬉しそうに駆け寄ってきたのは笹川京子だった。マフィアのことを知り、私の結婚相手が有名マフィアのボスだと知っているから気をつかってると昔だったら思っていただろうな。……彼女はただ純粋に喜んでいるだけだ。私と会えたことに。

 

「久しぶり」

「うん、元気だった?」

「ん」

 

 彼女と会話をしていると黒川花がやってきた。相変わらず2人は仲がいいようだ。そういえば彼女は笹川了平と付き合っているのだろうか。兄に聞けばわかるだろうが、聞いたことないし。笹川京子とは話すようになったが、黒川花とはそれほど変わらなかったからな。

 

「京子、本当に神崎サクラなの?」

 

 黒川花の言葉にざわめきが起こった。どうやら私だとわからなかったらしい。まぁ私も似たようなものである。2年も同じクラスだったのに、顔と名前が一致しない。

 

「そうだよー」

「今は神崎じゃないけどな」

 

 ボソッと呟けば左手を掴まれる。指輪を確認した途端、なぜかわなわなと震えだした。

 

「……話してなかったのか?」

「え? 教えても良かったの?」

「……心遣いに感謝する」

 

 ツナも彼女にやられるわけだ。思わず納得してしまった。

 

 黒川花がバッと顔をあげ何か言おうとした時、移動するという流れになった。それでも何か言いたそうなので、後で質問攻めにされそうな展開にこっそり溜息を吐いた。

 

 どうやら小さな洋食屋を貸し切ったらしい。私の後をつけているし位置情報でもわかっているだろう。それでも見れないと思うが念のためにディーノの方にも連絡を入れておく。その後にツナにも連絡する。

 

「どうしたの?」

 

 店に入ってすぐケイタイを打っていたので声をかけられた。

 

「ツナ達のために場所を教えただけ」

「ツナ君達も来るの?」

「どうだろ? 時間があれば行きたいって言ってたぞ」

 

 私のせいで誰かが行くのは決まっているが、彼らは最初から最後まで参加するほどヒマではない。なので、幹事には時間がありそうなら顔を出すと伝えているようだ。

 

 まぁ私には3人とも顔を出す未来が見えているけどな。

 

 見た感じでは笹川京子は嬉しそうだ。みんなに会えるからなのか、ツナに会えるからなのかはわからないが。

 

「沢田のことはどうでもいいのよ! 白状なさい! 京子は日本に住んでいないって言うだけだし、あんたが通った高校は地元から離れていてて本当によくわかんないのよ!」

 

 まだ顔を出していないのに、ツナが私のとばっちりを受けてしまった。可哀想に。

 

 笹川京子が黒川花を落ち着くように宥めている間に、私はドリンクメニューに目を通す。

 

「あんた、相変わらずね……」

 

 まぁマイペースで個人主義らしいからな。黒川花が脱力していると幹事が最初のドリンクを聞いてきたので、赤ワインを頼む。ちょっと驚いたようだが、黒川花の「海外に住んでいるからきっとビールより飲み慣れているのよ」というフォローが効いたようで納得して去っていった。

 

「君も相変わらずだと思う」

 

 笹川京子のフォローもよくしているのを思い出して言えば、なぜか溜息を吐かれてしまった。

 

「京子が話さなかったんだから、もう無理には聞かないわ。でも少しぐらいは教えなさいよ。本当にビックリしたんだから」

 

 話せる範囲ならいいかと思い、軽く頷き口を開く。

 

「16の時に結婚した」

 

 おかしい。黒川花にだけ教えたつもりだったのだが、私を見て驚愕の表情を浮かべた人が多い。

 

「結婚式、すっごく良かったよー」

「……もう何も驚かない自信があるわ」

 

 周りも頷いているのを見て、やはり結婚するのは早かったんだなと思った。再び口を開くまでにドリンクが配られ、乾杯が始まった。

 

 あまり美味しくないなと思いながら喉を潤す。それにしても次はどうすればいいのだろうか。

 

「質問してくれ。教えないのもあるが、これ以上は何を話せばいいかわからない」

「……そういえば、話すのが苦手だったわね。答えれないのは黙秘すれば質問をかえるわ」

「ん。それで」

 

 軽い気持ちで許可したのは失敗だったらしい。黒川花以外からも大量に質問がきたため、笹川京子と一緒に目を丸くする。

 

「私が代表で質問するわ、いいわね? ……え? それから聞くの? ……答えたくなかったら答えたくていいからね。子どもはいるの?」

 

 黒川花のフォローがありがたい。しかし子どもからとは思わなかったな。結婚するのが早かったからか?

 

「子どもは居ない。今相談中」

 

 なぜか楽しそうな悲鳴があがった。

 

「ラブラブってわかったからよ。ズバリ、相手はどんな人?」

「イケメンで性格良し」

「……京子は相手を知っているのよね? どんな人よ」

 

 おかしい。答えたのになぜ笹川京子にも同じ質問をするのだ。

 

「私もそう思うよー。花も『良い男ね』って言ってたよ?」

 

 それはまずいと彼女の言葉を止めようとしたが、残念ながら間に合わなかった。そっと抜け出そうとしたが、こちらも間に合わず。

 

「だ・れ・よ!」

 

 黙秘権は却下された。なぜだ。

 

「…………ディーノだ」

「ディーノ? 誰かしら?」

 

 2週間ぐらいしか担任をしていなかったので、覚えてなかったらしい。ホッと息を吐いたところで、誰かが「そうよ! ちょっとだけ担任だった、ディーノ先生よ!」と叫んだ。それをきっかけに思い出されてしまった。

 

 禁断の関係といい盛り上がっているので、その間私は静かにワインを飲む。笹川京子も謝ってくれたので、許すことにした。私は心が広いのだ……。

 

 今度は違うワインを注文していると、家族ぐるみの付き合いがあったことも思い出したようで落ち着いたらしい。私はそんな設定だったなとすっかり忘れていたが。

 

「卒業してすぐにディーノ先生に告白されたの?」

「……すぐではなかったな」

 

 今度は「やっぱりディーノ先生からだったのね!」と盛り上がった。……こんな簡単な誘導質問にひっかかるとは。ちょっとディーノの妻として、情けなくなった。

 

「じゃ高校は中退したのね」

「ん。生活に慣れる方が大事だったし」

「そうよねー。いきなり海外で生活するのは大変よね。私には無理だわ」

 

 今のは黒川花なりのフォローだったのかもしれないな。

 

「あんた、今は向こうで何しているのよ。専業主婦?」

「……強いて言うなら、部屋でゴロゴロ?」

「ゴロゴロって。……そういえば、さっき高級車だったわね。……よく見れば、あんたの服もブランド物じゃない!?」

 

 よく気付いたな。ラフな服装と書いていたが、この後にツナのアジトへ行く予定なので、ロゴもなく街中でよく見かけそうなワンピースを選んだのに。

 

 頷けば、今度は羨ましそうな息を吐いていた。

 

「夢のような生活ね」

「それは人によるかと思う」

「どうしてよ」

「基本、付き人がいる生活だから」

 

 やはりそれは微妙だったらしく、盛り下がった。私もかなり参って、まだ交流があったロマーリオをつけてもらったからな。

 

「サクラちゃんは幸せ?」

「ん? ああ」

「良かった!」

 

 笹川京子の場合、計算じゃないのが凄い。ほんわかした空気に戻すのだから。しかし、黒川花は流されなったらしく、再び質問に戻った。

 

「今日はここにきて大丈夫だったの?」

「……別に監禁じゃないんだぞ。私が引きこもり体質だからゴロゴロしているだけだ。どちらかもいうと外に出ろと怒られてる方だ」

「それならいいわ。一瞬、その付き人?が店の外にも居るのかと思ったわよ……」

「ん? 居るぞ?」

 

 隠れて護衛する者も居るが、私がすぐに駆け寄れるように目立つ場所にも必ず居るからな。外の光景を想像していると、空気が凍っていた。よくわからないが、今のうちに料理に手を伸ばすことにする。

 

 扉が開く音で視線を向ける。ツナ達がきたようだ。予知通り、3人ともである。

 

 獄寺隼人と山本武は想像していたのか、注目はツナに集まった。ここまでイケメンになるとは思わなかったようだ。中学の時はダメキャラなこともあり、やっかみが凄い。

 

 流れを決めていたように山本武が引き受けて、ツナと獄寺隼人はさりげなく私の隣にきた。まぁ普段はマフィアの相手をしているんだ。それぐらい出来て当然か。

 

 ワインを軽くあげながら声をかける。

 

「同じのでいいか? これは悪くはないぞ」

「や。今日はオレ達は飲む気はないんだ」

 

 ブーイングが怒るがツナは笑って受け流した。

 

「飲むなって言われてるのか?」

「まぁそんなところ」

 

 ツナの方が立場が上なのに、相変わらずディーノの頼みに弱いな。元々頼みごとに弱いのもあるが、大人になればなるほど、世話になっていたと思ってしまうのだろう。

 

「沢田! この子、大丈夫なの!? 常に監視されてるんじゃないの!?」

「え? えーと、監視じゃないと思うけど……」

 

 ツナにどういうことと視線を向けられるが、私もよくわからないので肩をすくめた。すると、獄寺隼人が溜息を吐いてから口を開いた。

 

「日本と比べると海外の方が治安が悪いのは知ってんだろ。誘拐される可能性もあるんだ。で、このバカもそれに慣れているから何も思わねーんだ」

「ああ、そういうこと。付き人兼護衛だったのね」

 

 天才か!そう思ってしまうほど、獄寺隼人のフォローは素晴らしかった。今来たばかりなのにな。

 

「君もコミュニュケーション能力は低かったのに……」

「お前と違ってもうガキじゃねーんだ」

 

 スネたように口を尖らせる。

 

「……サクラはそのままでいいと思ってくれたんだよ。オレもサクラと話ししていると安心するし」

「喋ればすぐに台無しにする感じがコイツらしいスもんね、10代目」

 

 必ずどこか貶さないといけないのか、獄寺隼人。

 

「君達にマナーを教えたのは私なのに」

「はは、そうだったね。あの時は助かったよ」

「先生と呼んでもいいぞ?」

「調子に乗んな、バカ。それとオレは世話になってねぇ」

「え? でも獄寺君も結構忘れていたよね?」

「細かいとこはノーカンっス」

「獄寺君、あの量は無理があると思うよ」

 

 獄寺隼人が項垂れ、私が威張っていると静かだなと思った。周りに目を向けるとなぜかポカーンとしたような顔をしていた。

 

 これにはツナ達も原因がわからなかったらしい。獄寺隼人とアイコンタクトで会話する。それだけでツナは笹川京子と話すきっかけを私達が作ろうと察したのか、苦笑いしてから声をかけた。

 

「京子ちゃん、どうしたの?」

「今でもすっごく仲が良いんだね! ちょっと驚いちゃったの」

 

 ツナは笹川京子と三浦ハルとはたまに会っているらしいが、獄寺隼人達は気をつかって一緒じゃないもんな。彼女も驚くのは当然か。

 

「そうそう。特に沢田なんて、中学の時ちょっと獄寺にビビってたじゃない」

 

 獄寺隼人を見れば、気まずそうに視線をそらしていた。どうやら今はちゃんと怖がらせていたと自覚しているらしい。まぁツナが笑っているので、そっちのフォローをする必要はなさそうだ。

 

「彼らは今一緒の仕事をしているしな。ちなみにトップはツナ」

 

 私の言葉にツナに興味が集中する。獄寺隼人にバカと再び怒られた。これでも考えて言ったんだぞ。なので、質問攻めを受けているツナを助けるために口を開く。

 

「私が良かったんだ。ツナも黙秘権を使ってもいいだろ?」

「別にどんな仕事をしているかぐらい良いじゃない」

「君達のためもあるんだぞ? ツナの仕事には雲雀恭弥も関わっているからな。ちなみに今日旦那が私を送らなかったのは彼の相手をしているから。来る前に軽く覗いたが私では彼がトンファーを持っているのかもわからなかったぞ」

 

 効果抜群だったようだ。ツナに質問しようとは誰も思わなくなっただけでなく、お酒の注文が殺到した。飲まないと中学の恐怖から抜け出せないらしい。……ちゃんと成人しているよな? 雲雀恭弥がやってくるぞ?

 

「ヒバリさん、こっちに居るんだね」

「いつから戻っていたのかは知らないけどな。私達は彼のところに昨日から泊まってる」

「オレでも出来ないのに流石だなぁ」

 

 ツナが勘違いしていそうなので教える。

 

「正確に言うと泊まったのは私だけ」

 

 雲雀恭弥のアジトに居たが、ディーノは一睡もしていないからな。

 

「……サクラ、よく眠れたね」

「慣れと、フミ子のおかげ」

 

 これにはツナも獄寺隼人も苦笑いするしかなかったようだ。

 

「ツナ、そろそろ時間だ」

 

 ツナと獄寺隼人もコミュニュケーション能力があがったが、やはり山本武が飛び抜けているな。大部分を引き付けたにも関わらず、時間前にうまく抜けれるように動いている。さらに会計も済ませているという。

 

 ツナ達と帰る予定だったので、私も準備をする。

 

「サクラ、悪いけど」

「ん、大丈夫」

 

 ……いつもの癖でエスコートしようとしているな。獄寺隼人が気付いたようだが、面白そうなのでツナに身を任せる。獄寺隼人は溜息を吐いたが、山本武はどちらかと言うと私と同じ感覚らしい。笑っていた。

 

 今日何度目のポカーン顔なのだろうか。ツナが私の腰に手をまわしてエスコートしている姿が、様になってるからこそ驚くのだろう。ダメツナはどこへいったと思われてそうだ。

 

「……オレ、やっちゃった?」

「私達が帰った後、盛り上がるからいいだろ」

 

 いつも通りに見えるが、わかる人にはわかる。久しぶりにツナが失敗したと落ち込んでる。

 

 だから笑ってしまった。

 

 懐かしい気持ちになったのは私だけじゃなかったようで、みんなも一緒に笑った。




裏話。
実は最初は25歳で子どもがいる設定で書いてました。
でもリクエスト内容とズレたので消去。
書き直そうと思ったのはいいのですが、年齢変更のせいで妄想がうまく出来ず、つい寄り道を。
遅くなったのはそれが理由。



……寄り道で、アレがうまれてしまったんだ。
ディーノさん、ほんとゴメン。


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