異世界転生したけど一周回って冷静になるよね。 (暁月煌)
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学園編
転生後の定番


記念すべき?一話!


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 今の世界から別世界へ行ける。そう聞いたらどう答えるだろう。今の世界が退屈だと思う人は間違いなくYesだと思う。もちろんボクはYesの人だ。世界が退屈だった。 ずっと違う世界に行きたかった。ファンタジーって憧れますもんね。

 

 

「...どうしてこうなった。」

 

 

 ボクは確か授業中に寝て、夢を見てたはず…何故この景色なんだ?

 

 青い空!白い雲!そして見渡す限りの草!...ん?草?なんで草で視界が遮られてるんだ?まぁいいか。

 

 

「確かに別世界は望んだけど、本当に転移するとは...」

 

 

 取り敢えず町を探すか。しかし前が見えない。文句ばかり言っても仕方がないので真っ直ぐ進む。とにかく進む。すると意外にも10分掛からない程度で町が見つかった。

 

 

「ほわぁー広っ!」

 

 

 黒い平らなアスファルトの地面。多くそびえ立つの高いビル。太陽の熱光が様々なところから照り返してきて非常に暑い。兎に角この世界について知りたいから近くにあった和風な造りの建物に入ることにした。

 

 

「こんにちはー...」

 

 

 かなり明るい室内で控えめに入って行ったのに速攻で受付のおばちゃんが気づいた。

 

 

「いらっしゃい。あらあらこんなお嬢ちゃんがうちにどうしたんだい?」

 

 

「あのーここってどこですか?」

 

 

 今気になっていることを直球で聞いてみた。

 

 

「はっはっは!面白いこと聞くねぇ。ここはね、グランって言う国の副都リブラムだよ。ちなみにうちは宿屋『朝霧荘』ってとこでリブラムでは珍しい温泉が湧いてる宿屋さ!」

 

 

「こんなとこで立ち話もなんだし」と言っておばちゃんは奥の部屋に入れてくれた。色々聞いたことをまとめると、リブラムは比較的平和な都市で周りにエネミー?って言う怪物も存在するが、強い奴は居ないらしい。ちなみにエネミーを倒す仕事もあるらしく、ギルドに加入して行うらしい。どうせなら、と思いギルドの場所を聞いたがおまけに衝撃の事実も知った。

 

 

「嘘でしょ...」

 

 

「いやいや本当だよ?鏡に映ってるじゃないか。」

 

 

 何故か幼女だ。8歳位だろうか、髪は桃色のロングだ。身長もちんちくりんだ。言うまでもなく胸部には絶壁がそびえ立つ。…胸が痛い。あ、胸無かったわ。くそう!

 

 

「まぁ大きくなったら行ってみるといいさ。」

 

 

 いやいやおばちゃん笑いながら言ってるけど、せっかく転移したんだし退屈な時間は過ごしたく無いから。ついでに大きくなったらとかやめて!?無い胸をこれ以上抉らないで!

 

 

「そ、そのギルドって何歳くらいから加入出来ますかね?」

 

「一応年齢制限は無かったと思うわよ。」

 

 

 良かった!多分色々言われると思うけどなんとかギルドに入ってやる!

 

 

「そういえばお嬢ちゃんなんで一人なんだい?」

 

 

 おっとまずい。これは今転移って言っても信用されないよね。多分。なんとか適当に理由をつけないと。

 

 

「えっと、それは...」

 

 

「話しにくいかい?」

 

 

「...はい。すみません。」

 

 

「いいよいいよ大丈夫。取り敢えず名前はなんて言うんだい?」

 

 

星河月夜(ほしかわつくよ)です。」

 

 

「そうかいそうかい珍しい名前だね。私のことはマキノと呼んでおくれよ。」

 

 

「わかりました。マキノさん。色々とありがとうございました。そろそろ失礼します。」

 

 

「また何かあったら訪ねておいで。」

 

 

「はい!」

 

 

「あっそうだ、ちょっとお待ち。」

 

 

 そう言ってボクを呼び止めたマキノさんは奥から何かを取り出してきた。

 

 

「はい、お小遣い。見た感じツクヨちゃん無一文でしょ。気持ちだけ受け取っておいて。」

 

 

 そのまま取り出してきた金貨を握らせてくれた。

 

 

「あ、ありがとうございます。ではこれで。」

 

 

「バイバイ。」

 

 

 取り敢えず金貨を1枚貰ったけど...うーん、お金の基準も分からんから取り敢えず無視!兎に角ポケットに突っ込む。

 

 

「よーし!先ずはギルドにれっつごー!」

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 黒を基調とした無機質なデザインの高いビル。入り口には『リヴラム支所』とだけ書かれているが此処で間違いないだろう。自動ドアっぽい所から入るみたいだ。中に入ると、よく分からない青いウィンドウがたくさん浮いていた。

 

 

「ほぇ〜すっご...」

 

 

 何も分からないので先ず受付のお姉さんに聞いてみることにした。結果ボクでもギルドの加入は無料で可能らしい。ただし年齢的にクエストが受けれないから、受注可能な年齢になるまで養成学校で勉強する、ということだった。また、加入前に簡単な試験があり、その結果で戦闘スタイルの違う3つのコースに分かれるそうだ。まぁそれはいいけど...学校...よりにもよってまた学校ですか...

 

 

「じゃあ取り敢えずギルドに加入したいので試験お願いします!」

 

 

 受付のお姉さんは驚きつつも笑顔で奥へ案内してくれた。あれが世に言う営業スマイルってやつだな。

 

 

「それでは、試験の説明をします。試験内容は仮想エネミーとの簡単な戦闘をこなして頂く"だけ"です。武器《ウェポン》は此方で用意致します。仮想ですので死ぬことはありません。安心して戦闘を行って下さい。説明は以上です。質問は御座いますでしょうか?」

 

 

「大丈夫です。」

 

 

「では、此方へどうぞ。」

 

 

 そう言われて入った部屋の中は少し広めの立方体の部屋だった。暫くすると自分の手に勝手に剣が出現し、部屋の中心に戦車の様なやつが出現した。だが、戦車ほど硬く無い様に見える。そして黒いボディに蒼い線が入っているのが特徴だ。キャタピラは…無いようだ。

 

 出現後、頭上の青いウィンドウに「START」と表示されて戦闘が開始された。...結果は惨敗。硬くなさそうとは言ったが本当に雰囲気だけだったようで、攻撃が全て弾かれボクがギブアップして戦闘は終了した。

 

 全くもってだめだ、勝てん。というか腕力がなさ過ぎる。これで終わりかと思ったら、今度は赤い石のついた木製の杖が出現した。

 

 

「では、次は《マギア》の使用試験です。使い方は分かりますか?」

 

 

 いやなんだ《マギア》って。使い方なんてもっての外だ。分かんないよ。

 

 

「分かりません。」

 

 

「はい。では、心の中で自分の思う攻撃のイメージをして思い浮かべたものの名前を口に出して下さい。」

 

 

「了解です!」

 

 

 なんだろう。取り敢えず魔法の様だし魔法といえば、先ずは炎だよね!そう思いながら燃え盛る炎をイメージする。

 

 

「"炎"!」

 

 

...あれ?何も起きないよ?するとお姉さんは納得した様な表情でボクにこう告げた。

 

 

「なるほど。《マギア》への適性は皆無ですね。」

 

 

 冷たい!冷たいよお姉さん!救済措置とか欲しいよ〜...しかし剣もダメ魔法もダメとか終わってるでしょ。冒険者とか夢のまた夢じゃん!い、いやまだ大丈夫だ。まだ転生特典があるはず...!

 

 

「最後に銃器の射撃試験を行います。」

 

 

 きっと...きっと、これなら特典がある!そう信じている!

 

 

 出現したのは一丁のハンドガン。黒くて角張っている。

 

 

「それでは現れる的に出来るだけ早く、正確に弾を当てて下さい。...始め!」

 

 

 開始早々から3枚以上的が出現する。ボクは何も考えずに撃つ。ただひたすら撃ち続けた。さてどうだろう。結果は命中率60%、反応速度の平均は0.15秒(的が出てから動き出すまでの時間)とまぁまぁ普通だった。...普通だったのだ。

 

 

「これで試験は終了です。ギルドの会員証を発行しますので、カウンターまでどうぞ。」

 

 

「はーい...」

 

 

 ダメだ。ダメダメだ。転生特典なんて無いじゃないか!予想をはるかに超える悪成績に肩を落としながら、ボクはカウンターまで戻った。そしてお姉さんから1枚の硬いプラスティック?性のカードを貰った。これが会員証だろう。

 

 

「これで、あなたもギルドの一員です。先ずは、此れから行くことになる養成学校がどれかと、あなたの能力《ステータス》を見てみましょう。此方の台にセットして下さい。」

 

 

 会員証がぴったりとはまる台に会員証をセットすると、周りに浮いているのと同じ様な青いウィンドウが出てきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

名前 星河月夜

 

タイプ

 

コードネーム 

 

《ステータス》

 

HP 15/15

 

MP 0/0

 

 

ATK 52

 

DEF 34

 

SPD 100

 

INT 27

 

《マギア》

 

 

《アーツ》

 

 

《スキル》

 

体力無限、回避技術Lv.1、超遠距離射撃補正Lv.15、特殊銃器使用Lv.2、銃器具現化

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 うわ!スキルすごーい!これが転生特典かな?体力無限ってなんなの!?チートじゃん!

 

 因みに《スキル》とはその名の通り特殊能力の様なもので、スキル名の所にLv.が付いているのが通常スキル、付いていないのが固有スキルと別のものらしい。また、《ステータス》に関してはATK、DEF、SPD、INT、で攻撃、耐久、速さ、賢さの4つが数値化される様で、現在人間で確認されている最高値がそれぞれ900程らしい。まぁあくまで"人間で"だけど。と強調してお姉さんが教えてくれた。

 

 

「これはまた、レンジャーコースまっしぐらな能力ですね...それに固有スキルを2つも持っているとは、スキルには恵まれていますね。」

 

 

 お姉さんも驚いてくれたようだ。よしよし。なぜかすっきりした。因みに養成学校の3つのコースは 『ファイターコース』『レンジャーコース』『ウィザードコース』とあり、『ファイターコース』は近接戦闘が主流で、『レンジャーコース』は遠距離攻撃(射撃)が主流、『ウィザードコース』はマギアによる戦闘、補助を主流とするコースだ。これも全てお姉さんが教えてくれたことだ。

 

「そうなんですね...分かりました!これからよろしくお願いします!」

 

 

「はい。では最後に養成学校へ行くための書類を渡しておきます。此方は学校長に直接渡して下さいね。」

 

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

 そう言ってボクはギルドをあとにした。そしてまだ太陽が沈みかけであることを確認し、養成学校学校へと向かった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 転生者だったわ。初めて見たけど恐ろしいわね。転生者は発見次第保護、養成学校へ編入って言う国の方針があるけど理解不能ね。

 

 どうせ軍に置くつもりでしょうけど、裏切りでもあった時にどうするのでしょう。まぁ今の所私には関係の無い話だから余り気にしなくて良さそうね。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 さて町の中心から東の外れまで来たわけなのだが...

 

 

「学校ってこんなんだっけ...?」

 

 

 やたら高いビル2棟からなるレンジャー養成学校を前にして、ボクは2度目の学校へその重たい足をしっかりと踏み出した。

 

 




拙い文章、申し訳ありません。面白いと思って頂けたら次も読んでくださるとありがたいです。


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学園とルームメイトと

かなり短いですね。はい。投稿ペースはこれ以上上げられない気がします。


現在ボクは長く垂らした銀髪と栄養失調を起こしてそうな、青白く痩せた身体が特徴的な男の人と対面し座っている。かれこれ15分位何も話さずこの状態である。

 

 そろそろボクも居心地が悪くなってきた。元々忍耐力にはあまり自信がないんだ。男の人が最初に出された紅茶を飲む。つられてボクも

気を紛らす為に紅茶を飲む。あまり味が感じられない。また少ししたら、秘書のようなスーツっぽい服の女性が入室してきた。

 

 

「失礼します。」

 

 

「どうぞ。あぁレイラ、やっと正式なのが出来たかい?」

 

 

「はい。こちらです。どうぞ。」

 

 

いまいち状況が理解出来ないけど、秘書の方はレイラさんって言うらしい。そして、何か書類のような物を渡していた。それを切っ掛けにやっと会話が始まった。

 

 

「お待たせして申し訳ございません。どうもこんにちは。私はレンジャー養成学校『鷹ノ眼学園』の学園長、カイル=グラン=ウィンチェスターと言います。ギルドからの書類、拝見させてもらいました。ホシカワツクヨさん、ようこそ『鷹ノ眼学園』へ。」

 

 

 なんだかかなり丁寧でゆっくりとした口調だ。年下であるボクに対してるとはあまり思えない態度で話している。どうもこの人はこのなりで学園長らしい。まだ若そうなのに。などと考えている間にも学園についての説明は進んで行く。

 

 

「ツクヨさんには此れからこの学園に、特待生として編入してもらいます。因みに拒否権は存在しません。国の方針ですので。」

 

 

「はぁ...」

 

 

拒否権無しって、えぇ?人権とか確立されて無いのかな?なんにせよ色々と疑問が絶えない。

 

 

「と言うことでギルドの依頼を受けられる年齢になるまで、この学校で能力を磨いて頂きます。レイラ、よろしく。」

 

 

「はい、秘書のレイラ=ルセイオスと申します。ツクヨさん、編入準備を致しますのでどうぞ此方へ。」

 

 

 そのまま部屋を出て行ったレイラさんについて行き、向かいの部屋に入った。そして制服の採寸や、学園内でのルールや時間割等々の話を聞いたりした。因みにレイラさんも銀髪でショートヘアである。ちょっとだけキリッとした目で、眼鏡を掛けている。如何にも秘書って感じの人だ。

 

 

「では、明日より編入です。教室は第2棟3階の1-Cです。遅れず来てください。また、学生寮が学園の隣にあります。鍵を渡しておきますのでそこで暮らしてください。」

 

 

「は、はい。ありがとうございました。」

 

 

 かくしてやっと1日目が終わった...しかし不安しかない!どうしてこうなった感が満載なのだ!と言うか今日明日で編入できてしまうとは…驚きだ。因みに学生寮は本当にすぐ隣だった。

 

 考えてもしかたがないので諦めて思考を放棄し、自分の部屋に入ろうとした時に事件が起きた。ネームプレートを見る限りボク以外の名前がある。なんとルームシェアだったのだ。しかもなんの手違いかしらないが、一緒に住むのが男子なのだ。大事だからもう一回。男子なのだ!何故分かったかって?名前の文字の色が違ったからね。名前は…ゼン=リーフェイル?何はともあれ一旦諦めるしかないか。最悪学園に頼めば部屋位何とかしてくれるだろう。などと考えつつ鍵を回し部屋へ足を踏み入れる。

 

 

「お邪魔しまーす...」

 

 

って言うけどこれから住む自分の部屋なんだよね〜。男子の住んでいる部屋だから少し警戒したのだがまだ例の男子は居ないみたいだった。其れだけは神様が慈悲を下さったのかな?まぁ待つとしよう。 テキパキと準備と片付けを済ませ、二段ベッドの下に陣取る。部屋の中はよく掃除がしてあって中々の清潔感を保っていた。

 

  因みに何故下のベッドかって?そりゃあ下なら襲われてもすり抜ければ逃げやすいじゃないか!だって男子だよ?何が起こるか分からないじゃないか!と言うか上はなんか荷物置いてあったしね。色々考えていると、待つ事既に20分程度経っていた。しかし、一向に帰って来る気配が無い。

 

...どっかで野垂れ死にしてるのかな?其れはそれで有難いけど...なんて言うボクの希望論をぶち壊しながら『彼』は部屋に入ってきたのだった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「ただいま!我が家!あー今日も疲れたわぁー!」

 

 

今日も朝から実習実習実習実習実習…やめてほしいね!…まぁ、座学一日よりはマシだけど。

 

そう言う訳で疲れを癒す唯一のオアシスが我が家(学生寮の部屋)なんだよ!

 

あ、因みに俺の名前ゼン=リーフェイルっていうんだ!…え?誰に喋ってるんだって?気にしたら負けだよ!てか声に出してないしな!ガハハ!

 

 

ー風呂場ー

 

 

「いやぁ〜風呂が気持ち良いですわー。」

 

 

まぁ風呂が沸いてたのは何故か気になるけど、気持ち良いからなんでもよし!え、女の子が居たって?やだなぁ〜そんなの幻覚にきまってますよ。俺の部屋に女の子なんてきたらもう…うへへーになっちゃうよ。うへへーが何かって?想像にお任せしますよ。まぁお腹も減ったし、あんまり長く入っていると上気せるからそこそこで出よう。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「……………解せぬ。」

 

 

何故だろう彼は一回こっちを見たはずだ。鈍感なのかな?いや、あれは現実から逃げた目だった。

 

そうだ。そうに違いない。そうであろう。その筈だ。

 

 

「はぁ…ボクやっぱ一人部屋が良い。」

 

 

そんな事を呟き自分の不運を嘆いていると、風呂の扉が開く音がして黒髪を濡らした男が出て……

 

 

「服を着ろぉぉぉぉぉおお!!」

 

 

「ぶべらっ!」

 

 

 なんで裸!?パジャマか部屋着位着ようよ!情景反射的な感じで殴っちゃったじゃん!第一君の部屋とはいえ家の中で裸で髪も乾かさず出てくるのか!?普通は違うよね!?しかもさっきボクの事見てたよね!?なんで子供とはいえ女の子の前に裸で出てこれるの!?羞恥心とかないの!?欠損してたの!?忘れたの!?どっかに捨ててきたの!?あれ?なんかニヤニヤした顔がボクを見てる………ん?

 

 

「赤くなってる幼女がいるぞ。かわゆい。へぶ!」

 

 

「うるさい!」

 

 

あぁ、また殴っちゃったじゃん。変なこと言うから。

 

 

「いてて。容赦ないなぁ。ん?と言うか痛いのか。幻覚じゃない…本物?……本物!?」

 

 

 そう言って独りでに理解した変態はドタドタと別の部屋に走っていき、ものの10秒ほどでジャージに着替えてでてきた。そして戻ってくる勢いそのまま滑り込み土下座をかましてきた。すごいキレイに決まっている。

 

 

「ごめんなさぁあい!」

 

 

顔がすごい。ペンキでも被ったかのような赤さだ。こう言うのを、真っ赤と言うのだろう。

 

 

「うるさい。近所迷惑です。」

 

 

「あっはい。申し訳ございません。」

 

 

今回は仕方ないから許してやるか。

 

 

「はぁ...まぁいいけどさ。次から気をつけてよね。」

 

 

「了解であります!」

 

 

なんなんだこの子。態度だけじゃなく喋り方まで変わってるぞ。側から見たら変人もいいとこだよ。正直に言って少し怖い。

 

 

「と、取り敢えず一緒の部屋っぽいから自己紹介でもしよっか。」

 

 

「はい!自分の名前は……」

 

 

「はい!待った!ちょっと待った!…その喋り方やめない?」

 

 

「わ、分かった。」

 

 

「よし。じゃあ再開で。」

 

 

「えーっと…俺の名前はゼン=リーフェイルって言うんだ。因みにクラスは1-Dだ。…最底辺だけど突っ込むなよ!んで、得意な武器は『ショットガン』だ。取り敢えずよろしく。」

 

 

ここにきてまた一つ分かったことがある。あ…リーフェイル氏がどアホって事じゃないよ?それは皆んな知ってるから。 何かっていうとクラスの事についてだ。リーフェイル氏が1-Dで自分は最底辺と言っていた、と言う事はクラスは何らかの成績順で上から{A} {B} {C} {D}と言うように分けられているはずだ。因みにボクは1-Cらしい。…うん。編入生だしね。下から二番目でも仕方ないよね。しかしこの世界について聞きたいことが物凄く沢山ある。丁度いいから自己紹介の後にこのアホ=リーフェイル氏に色々と聞こう。

 

 

「はい、じゃあボクの番だね。ボクは星河月夜。クラスは1-Cで編入生だよ。よろしく。」

 

 

編入生だと言ったときにリーフェイル氏が悩んでいた。何を悩んでいたんだろう。

 

 

「おう。よろしく。」

 

 

リーフェイル氏は尚も何か言い淀むかのように難しい顔をしている。しかし何かを決心したかの様にボクに確認の様な質問を投げかけてきた。

 

 

「いきなりで悪いんだがツクヨって転生者だよな?」

 

 

「……は?」

 

 

どう言うことだろう。転生っていう概念があるのかな?それとも何処かの偉い魔法使いの方が意図的に召喚でもしてるのだろうか。しかし、もう既に破天荒な生活の予感しかしない。どう足掻いても避けられそうに無さそうだ。まぁ何はともあれ極めつけはこれ、

 

 

『この世界には転生者なるものが存在するようだ。』

 

 

 明らかに大丈夫じゃない響きだよね。特典の超絶恐ろしい能力で戦争とかしてそうだよね。マキノさんはリブラムは"比較的"平和って言ってたけど、こんな能力持ってる人がわんさかいる世界だったら平和な場所なんてないと思った方がいいよね。

 

 

 学生寮の一室にて話す幼女のその幼い顔には、歳に合わない苦虫を噛み潰したような絶望の色が浮かんでいた。その表情は自分の行く末を理解した物なのか、それとも只、ルームメイトに絶望していただけなのか。それは知る由のない事である。さて、これからはそんな幼女が戦争の道具にされながらも人間として成長して行く物語を語って行こうか。

 

深くなっていく夜の闇の中、学生寮の一室だけは光が洩れその光はその夜消えることはなかった。

 



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登校、会長との邂逅

ちょうどよく切れたので短めです。感想ありがとうございます。


都市国家グラン近郊、シンシスの大森林。

 

 

「アルノー、右三人。」

「了解っす隊長!アルノー=グラン=リヴレン目標を撃ち抜くっす!」

「いちいち名乗るなよ、東洋の武士じゃあるまいに...」

「ま、まぁ文献読んでから武士道にはまりっぱなしだからねぇ」

「シイナ後ろ、見て。」

「はいよー」

 

 

 指示は出す、最善策を採ってはいるが完全にその場しのぎだった。

こうしている間にも包囲網は狭くなり、彼らに迫っている。数えきれない数の敵を殺し、自分たちの進む道を確保して逃げ続けていたが、限界が近かった。

 

 

 周りにいた仲間、共に逃げようと言ってくれた親友達も一人、また一人と減りついには居なくなった。先程まで話していたのに。走った。走った。前だけを見て、力の限り。

 

 

ーーだが、無慈悲にも呪文は響き渡る。

 

 

「汝、異端にあり。平穏を乱す者に裁きを。我求むは閃光。散らせーー『星降(ほしふらし)』」

 

 

 空に魔方陣が広がり、視界が白でいっぱいに...

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「~~~~!!」

「お、起きたかー。早く準備しろよー。」

 

 

 どうやら夢だったようだ。と言うか悪夢だった。あんな簡単に人が死ぬのは見ていられない。しかし、妙に現実味のある夢だった。しかも...

 

 

「おーい!生きてるかー!」

「~~~~~!?」

「なっ、なんだよ?どうしたんだ?」

 

 

 朝から心臓に悪い奴だ!本っ当に無神経と言うか、鈍感と言うかわかんないけど!ボク一応女の子だよ!?その顔に急接近するとかだめでしょ!?…と言うか死んだような目をしてぼーっとしていたのか!?ボクは!?うぅぅ…

 

 

 

「と、取り敢えず準備早くしねーと遅れるぞ。急げよ!」

「あ、うん。」

 

 

 そういえばまともに喋ってなかったな、と声が裏返ってから気づいた寝起きだった。

 

 

 玄関に届いていた制服を身に纏い学園へと向かっているのだが...隣にリーフェイル氏がいるのです。凄く近いのです。リア充かよ!と突っ込みたいのです。主に自分に。転生前は男子と関わる事すらしたことが無かったので、改めて考えると隣で歩いているってだけで暑くなってくるのです。特に顔が。

 

 

 歩いていると様々な人がリーフェイル氏に話しかけてきた。彼は人気者なのだろうか。

 

 

「おっゼン!おはよ!」

「あぁロージか、おはよう。いつも元気だなお前は。」

「当たり前だろ!それしか取り柄無いしな!ガハハ!てか、隣の子誰さ?彼女か?ん?ん?」

「「違いうわ(います)!!」」

 

 

 見事にハモってしまった。

 

 

 そしてニヤニヤとしながらリーフェイル氏に詰め寄っている。この世界の男子はすぐニヤニヤしてる気がする。

 

 

「はは~ん、そこまで息ぴったりだと説得力皆無ってもんだよなぁ?この際言い逃れは無駄だぜ?ゲロっちまえよ!付き合ってんだろ~?ん?ん?」

 

 

ーーードガッ。

 

 

 鈍い音と共に彼が保健室行きとなったのは至極当然の事だろう。そして倒れる寸前の彼の顔が恍惚としていてこれから関わらないようにしようと月夜は心に決めたのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 所変わって此処は『鷹ノ目学園』第2学棟3階1-cの教室。なんだか普通だなぁーと思いつつボクはクラスメイトの前で自己紹介をしている。

 

 

「星河月夜と言います。これからよろしくお願いします。」

 

 

 特にトークスキルとかを持っている訳ではないので、何の変哲もない只の挨拶をする。誰でも出来る挨拶だ。

 

 

「ではホシカワは後ろから二番目の席だ。」

 

 

 金髪でオールバックの如何にもチャラそうな奴が隣だ。面倒事の匂いがプンプンする。しかし担任は強面のお兄さんで怖いので、月夜は逆らわない様にしようと心に決めたのだった。

 

 

 …しかし普通だ。普通過ぎる。これでも月夜は前世?では多くの創作品を見ている。読書、特にライトノベルに関しては学校で一番多く読んでいたと自負している。その知識から転生ならばもう少しイベントが有っていいと思った。まだ一時間すら授業を受けてはいないけれど、もっとこう…"俺と決闘しろ!" とか有るかと思っていた。

 

 

 午前の授業が終わっても密かに期待していたイベントがは起こることはかった。しかし、昼食の時間にボクは生徒会室に呼ばれた。

 

 

「いきなり呼び出して申し訳ない。生徒会会長のルルク=ニル=ホーエンだ。早速だが呼び出した用件はこれだ。」

 

 

そう言って金髪碧眼のイケメンエルフ様は一粒の種を渡してきた。向日葵の種位の大きさで少し黒の混じった赤い色が特徴的だ。 

 

 

「その種は『知識の種(ちしきのたね)』と呼ばれるものだ。その種を育てて出来る植物は、視覚、聴覚、触覚が備わった気持ち悪い見た目の実をつける。そしてその実が体験した内容を種に保存する。その種を飲み込んだら、その内容が知識として摂取した者の脳に記憶される訳だ。」

 

 

 そう言うと会長さんは持っていた種をこちらに投げて寄越してきた。

 

 

ーーードクンッ。

 

 

「え?」

「気づいた様だね。その種は触れた者の鼓動と同調して脈動するのさ。驚いたろ?」

「はい。凄く。」

「ふふっ。それだけ目を真ん丸にして驚いてくれて、用意したかいがあって嬉しいよ。それと、早速だけどそれ飲んでね。」

 

 

 会長さんは優しく微笑みながらそう言った。飲むのか、"コレ"を。改めてその種を眺めてみるが、見れば見るほど気持ちが悪い物だ。ついでに軽く助けてって意を込めて会長さんを見上げてみるが…

 

 

「大丈夫。飲んでも害はないよ。この僕が保証しよう。」

 

 

 くそう、微笑みを返された!普通にカッコイイ!ええい!悩んでも変わらない!神よ、ボクにどうか御加護を!覚悟を決め一息に飲み込む。

 

 

「ん?んんっ!?」

 

 

 頭の中が掻き回されるような感覚にえずきそうになり必死に耐えていると、急に目の前の景色がグニャリと歪む。そこでボクの意識は途絶えた。

 



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種の記憶

UAって少し増えてるだけでも嬉しくなります。


 目を開ける。しかし再現なく広がる完全な暗闇のせいで目を開けているかすらわからない。軽く手を開いたり閉じたりしてみる。感覚はあるが果たして手が無事な状態なのかは確かめられない。無の空間ではする事もなく、ただ漂うだけなので暫く漂うことにした。

 

☆☆☆☆☆☆

 

 1時間程漂っていただろうか。急に無の空間に穴があき、光が差し込んできた。光は一気に闇を呑み込み、ボクに視覚を与えてくれた。完全に闇がなくなる頃にはボクの視界は明瞭なものとなっていた。

 

 

「おい!これはどうゆう事だっ!」

 

 

 大きな城の一室で誰かが言い争っている。ボクは窓から覗いているようだ。禿げているおじさんが凄い形相で眼鏡をかけた男の人に詰め寄っている。

 

 

「さぁ?何の事でしょうか。その書類がどうかしましたか?」

「しらばっくれるのもいい加減にしろよ!この『勇者召喚策』はお前が提案したものだろ!」

「ええ、確かに。私が提案したものですが。何か問題でも。」

「あぁ、あぁ!問題しかねぇよ!何だって別の世界から部外者を喚ぶんだ!勝手にこっちの世界に召喚して戦争させるんだろ!?そいつらの人権はどうなる!」

 

 

 禿げているおじさんは至極まともなことを言っている様だ。対する男の人は、正直嫌いなタイプだ。

 

 

「くっ、クフッ、クハハハハハッ!!」

「な、なにがおかしい!」

「いやいや、軍部のトップの方が人権を説くとは世の中も変わりましたねぇ!」

 

 

 そこまで言って男の人の愉快そうな顔が急に歪む。

 

 

「しかしねぇ、僕は戦争のなく、平和な世の中ってものが大っ嫌いでしてねぇ!」

 

 

 ふと男の人がこちらを見る。そして忌々しげな表情を浮かべ手を翳した。すると彼の手に炎が浮かび真っ直ぐに飛んできた。当然植物の視点になっているので、避けることは出来ない。直撃。目の前が炎でいっぱいになり、ボクの視界はもう一度無の世界に落ちた。

 

☆☆☆☆☆☆

 

 「気絶してしまった...か。」

 

 

 『鷹ノ眼学園』の生徒会会長、ルルク=ニル=ホーエンは種を呑み込んで気絶してしまった、と言うよりは記憶の世界に入った、と言った方が正しいが、白目を剥いている目の前の幼...少女を見ると気絶したと言わざるを得ない感じだった。そして笑いを堪えるのに必死であった。

 それは置いておいて彼女が倒れてしまった原因は自分にあるのは明白なので、保健室まで運ぶことにした。

 

 

「...よっと。うん。軽いな。」

 

 

 年齢を聞いた訳では無いが、彼女の軽さに対しルルクの頭には年相応と言う言葉が浮かんだ。例え転生者が怪物じみた能力を持っていたとしても、体自体は普通の人間なのだ。とルルクは考えていた。そして心もまた、普通の人間なのだ、と。

 

 

 三年前、王都ハイファムでは多くの国民が悲しんだある"出来事"があった。当時、軍部のトップでありながら戦争に勝つことのみではなく国民の命を第一に考え、王に進言できるほどの立場があったため、絶大な人気を誇っていた者がいた。

 

ーー王国軍総司令『ヘガロス=グラン=マーロン』。

 

 彼が殉職したと言う知らせが王都に入り、瞬く間に国中に広がった。今では只の不幸な"出来事"と周知されている。しかし、一部の者はその"出来事"が本当は誰かによる計画的な"犯行"だと気づいていた。更に、ルルクにはその全容が見え始めていた。恐らく主犯は、侯爵以上の者であること、王国軍の内部に主犯の協力者が居ること、そして目的が『勇者召喚策』を王に認めてもらうと言う事だ。

 

 確かに異世界から人を喚ぶ事によって、この国はかつてないほどの発展を遂げている。『鷹ノ眼学園』の校舎等もそうだ。"ビル"と呼ばれる建物で、異世界の人がもたらした知識によって建てられた。

 

 しかし、良い点ばかりではない。今まで何人も強力な戦闘スキルを持った勇者が召喚され戦場へと駆られたが、その殆どが帰らぬ人となっている。勝手に喚ばれて戦争に行かされて、死ぬのだ。そんなこと有ってはならないが、事実起こっているのだ。しかし、許容しておく訳にはいかない。ルルクはこの国がこれ以上非人道的な道を辿らないよう、あの日から水面下でずっと動いてきたのだ。

 

 そして、今回の召喚で彼女、『星河月夜』が召喚されたことにより人員は揃った。あとは、彼女が成長したら作戦に移るだけだ。

 大きな使命感を改めて感じながら、ルルクは月夜の目覚めを待った。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

ーーガバァ!!

まるで悪夢でも見たかの様な勢いで布団を跳ね上げる。同時に視界の右端には心底驚いたといった顔の生徒会会長が映っていた。相変わらず整いすぎの美顔だ。と、顔が普通に戻り話しかけてくる。

 

 

「やぁ、元気な目覚めだね。おはよう。聞くまでもないかもしれないが、調子はどうだい?」

「おはようございます。調子は最悪ですよ。」

「おっと、それは残念。しかし今すぐにでも動いてもらわなければならないのでね。着替えてくね。」

「...はぁ。わかりました。」

 

 

 文句すら言わせてもらえなかっただと!?終始彼のペースに乗せられている気がして悔しい。取り敢えず立ち上がっても問題なく、歩くのも大丈夫そうだ。確認しながら、更衣室へ向かい、制服に着替える。...なんだ?なんで、着替えないといけな...い?そこまで考えてあることに思い至る。

 

 ま、まさか、会長に着替えさせられたの!?え、じゃあ、見られたってこと!?

 

 

「はあぁぁぁ...」

 

 

 割りと大きな溜め息だった。会長には後で絶対文句を言うとして、考えると恥ずかしいから早く着替えて会長の所に行くことにした。

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 そもそも今すぐ動かなければならない事情とはなんだろう。あまり良い事は起こらなさそうだ。しかし、これではじめの懸念は取れたわけだ。

 初日から生徒会会長に会って、なんか食べさせられたと思ったら、これまた凄い大変な物を見せられた訳だ。予想してた、もとい望んでいたものとは少なからず違うけど、割りと大きなことに巻き込まれている気がしてならない。

 

 月夜もまたルルクと似た大きな何かを感じていた。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「それで、なんでツクヨはそんな顔を真っ赤にしているんだい?」

「そんなの決まってるじゃないですか。」

 

 

 月夜はぼそぼそと呟く。絶対に文句を言うと決めていたのに、実際会ったら何故かなにも言えなくなってしまう。顔を直視出来ないのだ。なんか空気が居たたまれない感じだから頑張って話を逸らす。

 

 

「そ、それより、なんで、ボクはこんなすぐに動かなければならないんですか?一応ボク、今日が入学初日ですよ?」

 

 

 思いの外声が大きくなってしまって、すれ違った生徒に一瞬見られてまた恥ずかしくなる。

 

 

「それがね、普通に入学してたら事前に知らされている事なんだけど、この学園は入学した3ヶ月後に国から視察が来て、将来卒業した後で国軍に取る人の目星を付けていくんだ。だから、視察の前で実技披露をしなければならない。」

「え、じゃあボクもやるんですか?初日ですよ?無理ですよ?」

「大丈夫。君を引き抜かれると僕にも色々と不都合が生じるからね。盛大に失敗して欲しい。」

「そ、そうですか…ええ、では頑張って失敗します。はい。」

「そう落ち込まないでくれ、要は君に居て貰わないと僕は困ってしまうんだ。頼むよ。」

 

 

 くそう!なんだこの女たらしめ!でも、ちょっと言われてみたい感じ台詞(セリフ)のだったし?イケメンだし?こう、胸の辺りがキュンってしちゃっても、仕方無いよね?ま、まぁ嬉しかったし、ちょっとした恥ずかしさは我慢して、失敗しよう。うん、そうしよう。

 

 そして、ボクは視察が来ていると言う部屋の前に着いた。不思議と緊張はしていなかった。先程の事で少し浮かれていたのかもしれない。この視察、実技披露でこの先が決まると言うのに。



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視察員と射撃

遅くなりました!申し訳ないです!


ちょこーっとだけキュンッとくる発言をされたせいで、緊張してしまった。いや違う、あれのせいじゃない。違うったら違う!…で、失敗するための試験が待っているとしても、やはり過度な緊張は心臓に悪い。今もバクバクしている。足も震えている気がする。そして、ボク達は扉を開けて部屋に入る。

 

 

「お、来たねツクヨくん。」

「鷹ノ眼学園、第一学年cクラス所属、星河月夜たゃっ...只今参りました。」

 

 

 ああぁあ!?噛んだ!!このタイミングで噛んだよ!?穴があるなら入りたいよぉ...

 

 

「…うん。取り敢えず彼の紹介から始めよう。今回の視察員でガリウス=ミレントラントさんだ。」

「グラン国軍第三大隊副隊長ガリウス=ミレントラント中佐です。早速ですが能力の方を測りたいと思っております。移動しましょう。」

「はっ、はい!」

 

 

 そのまま立ち上がり、歩き出したガリウスさんの後を慌てて追う。エレベーターで地下まで下りガリウスさんを先頭に、学園長、ボク、会長さんの順番で歩いていると会長さんが横に来て色々説明してくれた。

 

 

「この地下通路が出来たのはね、つい最近の事なんだ。言わずもがな、理由は分かるよね。」

「転生者が現れたからですか?」

「せいかーい♪その通り。転生者のスキルはどれも馬鹿みたいに強力なものばかりだったからね。どんな効果のスキルか試そうにも地上だと周りにどれだけ被害が及ぶか分からないから地下で試そうって訳。」

「じゃあこの先にその、確認やら実験やらするところがあるのですか?」

 

 

 ボクは円形で光沢がぼやけた銀色の丈夫そうな扉を指差して聞いた。

 

 

「そうそう、ってもう着いてたのか。そう、ここが入り口。因みにこの扉、ドラゴンを突撃させても壊れない位頑丈だよ。」

「そ、そうなんですか...すっごく硬いんですね...」

 

 

 ボクは硬さ以前にドラゴンが居ること自体に驚いたよ。扉は転がるように開くようだ。こんな具合に会長さんとべらべら話していたら遂に視察が出来そうな広い空間に着いた。床や壁は入り口の扉と同じ素材で作られているようで、全面ぼやけた銀色だ。

 いつの間にか会長さんと二人になっていた。学園長と、ガリウスさんはどこにいったんだろう。床と壁の境目が分からないせいで、平衡感覚が狂いそうだよ。

 

 

「あー、テステス。ホシカワツクヨさん。聞こえてますか?」

 

 

 なんか放送が流れた。ガリウスさんの声だ。ここから叫んだところで放送している部屋には届かないだろうから、頭の上で大きく丸を作ってアピールする。あまりの必死さに隣から笑い声が『クスッ』みたいに聞こえたような気がするけど気のせいだ。物凄く具体的に笑い声が分かったけど気のせいったら気のせいだ。ボクの必死なアピールに気が付いてくれたのか、ガリウスさんから返事があった。

 

 

「問題無いようですね。では、これより視察を始めます。まずは、そうですね...早撃ちをしてみましょうか。」

 

 

 ギルドの試験の時と同じように手に銃が出現する。相変わらずハンドガンだ。...システムが同じなのだろうか。これまた試験の時と同じで、的が次々に出てきた。そして言わずもがな、結果も同じ。しかし新しく知ったことはあった。

 

 

「ふむ。反応速度1.5秒ですか。軍に入るには遅すぎますね。」

 

 

 そう!遅すぎるらしいのです!年齢は考慮されているのでしょうか!?正直、この体ですからね、頭で、目で追えていても体が追い付かないのですよ。いや、まぁ、確かに転生前に学校の実験で人間の反応速度は0.2~0.3秒位って習った気がするけど。そう考えると遅いなぁ。ボクと違って今までの転生者はきっと何かしら即戦力になったんだろなぁ。

 

 

「か、会長さん…お、おお、おそっ、遅いって言われちゃいましたよ?」

「うん、上手く喋れてないよ。緊張してる?」

 

 

 そうじゃない!そうじゃないよ、もぅ…会長さん意外と天然なところがあるなぁ。

 

 

「ちっがぁう!ボクの反応速度は普通だったはず!って話!」

「あ、あぁそう言うことか。大丈夫だよ。来る前に言っただろう?」

「そうですけど…」

「まぁまぁ、落ち込むのは後にして次の実演しようね。」

 

 

 くっ!微笑みが強力過ぎる!!なにも…言えない

 

 

「それでは次です。遠距離射撃をしましょう。的は弾が名著する度に遠くに離れていきます。ある距離で、弾を三発外した場合にこの種目を終了します。因みに、的の端にかすったりしたものも外れになります。」

 

 

 ルール説明が終わった様なので再度大きく分かったアピールをする。すると、手元にスコープの付いたライフル、所謂スナイパーライフルが出現した。よく見るとサイレンサーもついているようだ。

 

 

「今出現させたライフルの装弾数は七発です。では、始めます。」

 

 

 遠くの方、かなり遠くの方に何か点が増えた様だ。ボクはバイポットをたて、銃身を安定させある程度当たりをつけてスコープを覗く。肉眼ではおよそ見えるはずのない距離が見えるようになり、中心に赤い丸が描かれている単純な的を捉えた。きっとあの赤い丸を狙うのだろう。距離はどれくらいだろうか等考えてはみたが、考えていても仕方がないので取り敢えず撃ってみることにした。

 

 

ーーーパスッ。

 

 

 減音された発砲音と共に弾が射出され、的に向かう。そして、的の脇を通りすぎていった。外れだ。その後、また同じ距離で二発外した所で的が消えてしまった。くそう、当たらん…

 

 

「終了です。では、最後に自分の出せる最大出力の攻撃を目の前の柱に当ててください。」

 

 

 目の前の床から四角の柱が出てきた。一見壁や床と同じ色、質感で綺麗に見えるがよくよく観察してみると小さな傷が六つ付いていた。…別に頼んでないのにニコニコしながら会長さんが寄ってくる。

 

 

「ツクヨくん。"傷に気づいたね?"」

「うっわ、面白くない!!つまらないよ!?」

 

 

 すごーい!よく即興で思い付きましたね!面白い!

 

 

「本音でてるから!そっちが隠す方だからね!!僕だって傷つくよ!?」

「あ、え?ご、ごめんなさいぃ?」

「うん、もういいよ。でね、その傷なんだけど初代の勇者様のパーティーはね、六人だったんだよーー」

 

 

 まぁ、長かった長かった。長話は苦手。取り敢えず会長さんの話を纏めると、初代勇者のパーティーは男五人女一人の六人。リーダー格【戦士】の勇者、ライニー・グラット。【盗賊】の勇者、ムッティ・オラシズマ。【弓士】の勇者、ニーグル・ドメト。【錬金】の勇者、シドウ・カイト。【僧侶】の勇者ウォン。そして、紅一点 【魔術】の勇者、ライラ・メルリア。そう、逆ハーレム。羨ま…けしからん。…………で!傷は、その人達が試したときについたんだぞって話。その他にもそれぞれの勇者について詳細を熱く語ってもらったけど今は割愛。

 

 

「それで、今回も?」

「うん。前言った通りでね。」

「と、言われましてもボクまだ自分の《スキル》の効果すら把握してないから何も出来ませんよ?」

「ん?あぁ、そうか!ガリウス様!ツクヨは何も出来ません。自分の事すらいまだあまり分かっていないようです。」

「ふむ…ではこれで全行程を終了としよう。以上で視察を終了する。解散。」

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 無事に視察は終わり、ボクと会長さんは地上の帰路についていた。気になることが出来た。自分の《スキル》についてだ。まず当面の目標は《スキル》を使いこなせるようになることだね。

 

 

「さーって!明日から頑張るぞー!」

「ツクヨは気合い十分って感じだね。頑張るのは大事だけど休むときはしっかり休むんだよ。ツクヨに倒れられたら僕も困るからね。」

 

 

 そう言って本当に困ったように微笑んで見せる。会長さんはこうゆうときにさらっと優しい言葉を掛けられる。流石の一言だ。一体今までその甘言で何人の女性を勘違いさせてきたのだろうか。全く、困ったイケメンだよ。ボクは…惚れないからな!

 

 

「そうですね。今日は休みます。」

 

 

 出来るだけ素っ気なく対応する。ボクは勘違いしてないからね。

 

 

「ん?大丈夫か!?顔が赤い!しかも額も熱いな…今すぐにでも休んだ方がいい。ちょっと我慢しててくれよっと。《飛遊(フライ)》」

「うぇっ!?わっ、わっ、わああああ!」

 

 

 急に来た浮遊感に驚き思わず叫んでしまった。そして興味本意で下を向いて、後悔した。高い!速い!

 

 

「おちっ、落ちるうぅぅぅぅ!!死んじゃうぅぅぅぅ!!」

 

 

 不覚にも、本日二度目の絶叫を許してしまう月夜であった。

 



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リブラムの防衛:1

UA増えてて嬉しいです。更新頑張るので、感想を(ry


 自分で体調心配しといて何処ぞのアトラクションみたく超高速で急上昇、急降下する会長さんはエルフではなく、鬼だと思います。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 叫び過ぎたせいで息も絶え絶えになりながら見上げたそこは鬱蒼とした森に囲まれた大きな石の祠があった。てかここどこだ。

 

 

「ここはシンシスの大森林。最奥の地。人が立ち入ったことのない未踏の地。そしてボクの隠れ家でもある所。さしずめ、『ホーエンの祠』とでも言ったところかな。」

 

 

 そう言って会長さんは笑った。爽やかな笑顔で人の心読むなし。でもそうか、この会長ロリコンだな!?ボクみたいな幼女をこんな人気の無いところに連れてくるなんて…これからあんなことやこんなk

 

 

「事はしないし、そんな気もない。そもそも僕は成人の女性の方が好きだからね。ってこんな話をしている暇は無いんだ。」

「何故です?と言うか、また心読みましたね!?なんで読めるんですか!?」

「それは僕のスキルのお陰。で、ここに来た理由はもうすぐリブラムが隣国のゼリラフェルンの攻撃を受けるからだ。詳細は省くけど、ゼリラフェルン最強の軍隊が来るらしい。そしたらリブラムの常駐軍程度じゃ一日と持たないだろう。」

「ごめんなさいもう一回…何故です?」

「はぁ…詳細は省くけどっていったよね?」

 

 

あ、そうだった。でも、好奇心って大事だから。

 

 

「いえ、あの、攻めてくる理由だけでいいので教えてくれませんか?」

「仕方ないなぁ、目的だけね。それで我慢してよ。」

「はい!」

「今リブラムには沢山の転生者が居るんだ。それもツクヨみたいに能力に覚醒する前のね。そしてその子らは、能力さえ覚醒させれば軍の大隊と同じ位の強さになる。たった一人でね。そりゃあ奪うにきまってるよね。そして急に副都を襲われたら、グランが怒って報復しないわけないでしょ?ゼリラフェルンはそれを狙ってるの。ーーーはい。お話終わり。祠の裏に地下への入り口が有るから。入って。僕が迎えに行くまで絶対に出ちゃ駄目だよ。いいね?」

 

 

 会長さんは、そこまでまくし立てるように話をしてボクに、隠れるように促した。何故、隣国が戦争をしたがっているのか。何故、リブラムに転生者が沢山居るのか。等々、何故が尽きないけどなんか会長さんの顔が本気で焦ってきていたので、素直に従うことにした。

 

 

「…分かりました。いや、分かってないですけど、まずは従います。」

「そうか!ありがと、」

「ただし!終わったら全部話してくださいね。ほぼなにも知らないまま閉じ込められるんですから。」

 

 

 会長さんが言い終わる前に被せて言った。この世界に来てからまだ一日と少ししか経っていない。それなのにやれ戦争だ、潜伏だ、と訳の分からない事になっているのだ。それ相応の説明を断固として要求しなければならない。と、思っている。

 

 

「…うん、そうだね。いずれ知るしね。分かった。全て話そう。それでいいね?」

「はい。会長さんが来るまで隠れていればいいですよね?」

「うん。中の本でも読んで待ってて。食べ物も自由に食べていいから。じゃあ、行ってくる。」

「はい。」

 

 そして会長さんは、また"飛遊"で飛んで行った。飛んで行ってから気づいた。なんか思ったより素っ気ない送り方をしてしまったなぁと。まぁ、過ぎた事は気にしない。それよりも早く地下へ行こう。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

  薄暗い階段を下りるとそこには…って言おうと思ってたのに階段は思いの外綺麗だし、明るくてちょっと驚いた。そして相変わらずの金属?製の鈍く光る銀色の扉があった。その先には、所謂研究所のような施設があった。沢山の棚があり、本やら試薬やらがきちんと整頓されて置かれていた。

 

 

「思ったより綺麗に掃除されているなぁ。」

 

 

 少し考えて分かった。確かに危険な実験とか精度を求められる実験でゴミが舞ってたりしたら、精度云々を言う前に出来てくるものが変わってしまいそうだ。

 

 

「んー。よし。取り敢えず部屋を全部探検しよう。」

 

 

 探検するとは言ったものの、そこまで広くはなかったせいですぐに探検は終わった。研究室の他には、シンプルだけど一番広かった書庫、何故か大量の樽が置いてあった倉庫、生活感のない寝室とリビング、高そうな調度品をあしらった客室があった。

 

 

「うーん…思ったより広くなかったなぁ。と言うかお腹すいた。食べ物探そう。」

 

 

 そのまま食べ物探しを始める。

 

 

「なーんか、返事がないのに一人で喋ってるって…寂しいなぁー。」

 

 

 そう、一人ごちる。なにかある、と言う訳ではないが前世?の記憶がよみがえってきた。ここに来る前は高校生だった。頭もそこそこ、顔もそこそこ、運動神経もそこそこ、何か特技があるのかって聞かれても、「特に浮かびません」って答えるしかない、モブみたいな奴だった。ただ、自慢できることと言えば、学校内で屈指の人気を誇る男の子が幼なじみで、割りと連絡とってたって事かな。まぁ、しょうもない事だけど。

 

 

「今頃、行方不明って騒がれてるのかなぁ。これじゃお父さんとお母さんと同じじゃん。」

 

 

 父と母は共働きで、あまり家に居なかったが夜には帰ってきていた。しかし、ある日を境に帰りすらしなくなった。そして、全国で同時に十六人の人が行方不明になると言う怪事件が起こった原因は不明、規則性は皆無で大人から小さな子供まで、北の地方から南までと警察もお手上げな事件だった。もしかしたら…

 

 

「お父さんとお母さんもこの世界に居るのかなぁ?」

 

 

 期待しつつもこの見た目で会っても分からないだろうなぁと落胆する月夜であった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 すでに星が輝くようになった空を一人の男が高速で飛行していた。

 

 

 ゼリラフェルンは情報操作に非常に長けている。今回もそうだ。リブラムに転生者が集まっているなど公開されている情報ではない。国の重役、具体的には公爵とリブラムの各養成学校の校長しか知り得ない事だった。しかし彼らは何処からかその情報を仕入れていた。普通ではあり得ない事だ。暫く飛んでリブラムで急遽敷設した防衛指揮所に着く。

 

 

「あぁ、やっと来たかルルク君。さ、座って座って。」

 

 

 カイル学園長に促される。既に僕以外揃っている様だった。そしてある意味国軍の将軍達よりも強いかもしれない面々だった。剣、魔法、銃の学園長及び生徒会会長が全員集まっていた。

 

 

「すみません。遅れました。それで今、進捗はどうですか?」

「うむ、"敵は東より"と斥候から報告が来た。なので我々は軍をニ分割し、北門と南門に配備する。」

 

 

 少し考えてその魂胆が読めた。敵は情報操作に長けている。ならば、東よりと言って逆から攻めてくるだろう。と、普通なら読むが相手がさらに裏をかいて南北のどちらかから来る可能性が高い。ならば、それに対策してやろうという話だ。ふむ…

 

 

「なら僕は東門に居ましょう。」

「うむ、頼もうと思っていたところだ。剣は北門、魔法は西門、銃は南門、ルルクには東門を頼む。」

 

 

 各学園長は移動能力も桁違いなので全ての門に一人ずつ着く。そして今回剣と魔法の会長は本部から指揮をするので余りの僕が門を守る。と言うか三人の中で一番強いからだね。

 

 

「本来ならもっと綿密に作戦を立てたいが、日は落ち兵士達も配置についたそうだ。我々も動くとしよう。」

 

 

 剣の学園長の呼び掛けに各々が応じる。そして解散していく。さて、僕も移動するとしよう。相変わらずの"飛遊"で雲のない夜空を飛んで行った。

 



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リブラムの防衛:2

非常に短いです。すみません。


 常闇。

 

 

 視界を埋め尽くす黒の世界のなかでルルクは立っていた。パチ、パチと松明の燃える音のみが鼓膜を震わす。周りの兵士達も全神経を研ぎ澄ませて、前方の闇を睨んでいる。

 

 

「そろそろ、攻めてきてもいい頃ですがね。どの門にも変化なし…か。」

 

 

 各門、敵が来たときは連絡を取る事にしてあったのでそろそろ連絡が来ると思っていた。虚偽の情報を掴まされたかと疑いかけたとき、前方で足音がした。それも、段々聞こえてくるのでは無く急にだ。すぐに指示を出す。

 

 

「戦闘配備っ!」

 

 

 皆慌てて各々の得物を構える。連絡要員は他の門へと連絡を取る。足音はすぐそばまで来て止まった。一人のようだ。松明の光に照らされ姿が現れる。

 

 

「どうも皆様こんばんは。こんな夜半まで総員配備とは仕事熱心でございますね。」

 

 

 そこには優雅に礼をする、黒の燕尾服を着た壮年の男がいた。白髪に髭、手には白の手袋が見える。まさに執事のような佇まいである。

 

 

「何者だ。名乗れ。」

 

 

 兵士が一人話しかける。

 

 

「おぉ、私としたことが失敬、失敬。私、魔王軍幹部が一人ロントゥールム、と申します。」

「魔王軍…だと?」

 

 

 魔王は世界を治めるものだ。また、世襲制で今代の魔王は今までの魔王より、統治に無関心なことで話題になっていたので、魔王軍の更に幹部が来るなんて事態は珍しいのだ。また、あくまでも上の者なので貴族でさえ下手にでなければならない相手だ。

 

 

「失礼致しました!して、このような地にいらっしゃるとは如何致しましたか?」

「此方に出向いたのは、我が主のご意向にございます。主はここ最近人族の皆様が召喚していらっしゃる、転生者と呼ばれるものにひどく興味を持たれているようで。それらについて見に参った次第で御座います。」

 

 

 転生者に興味だと…?つくづく今代のは変わっているようだ。一応この門の責任者なので兵士と代わる。

 

 

「こんばんは。この門の責任者のルルク=ニル=ホーエンと申します。我々はどういたしましょうか。」

「そうですねぇ…こんな夜更けですし転生者については明日にします。宿を、手配していただけませんか?」

「承知致しました。宿でよろしいのですか?」

「はい。変に気を遣われてもこちらが疲れてしまいますしね。」

「では、一番環境の良い宿をご用意致します。」

 

 

 近くの兵士を呼び、宿の名前を教えて案内させる。

 

 

「それでは明日、宿でお待ちしておりますゆえ転生者の件、くれぐれもよろしくお願いしますよ。」

「承知致しました。」

 

 

 それだけ言って幹部殿は宿に向かっていった。さて、そろそろ敵襲来ないだろうか…

 

 

☆☆☆☆☆☆ 

 

 

 朝だ。結局敵襲などなかった。ゼリラフェルンによる嫌がらせだろうか。確かに、兵士に深夜の緊急召集による手当てを出したし、対策本部の敷設、城壁の防衛設備の増設などで出費したが、微々たるものだ。ゼリラフェルンともあろう国がこの程度の嫌がらせをしてくるとは考えられない。

 

 

「何か…何かあるはずなんだ…」

 

 

 一人書斎でうろうろと考えていると控えめなノックが聞こえてきた。

 

 

「ルルク様、出発のお時間です。」

「わかった。出よう。」

 

 

 学園長の秘書がわざわざ呼びに来ていた。今日は魔王軍の幹部殿に転生者の召喚について案内しなければならない。はぁ…非常に面倒だ…

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 ホーエンの祠の中では今日も一人の少女が惰眠を貪っていた。

 

 

「うぁー…日の光が無いー。朝晩の感覚がなくなるー……寝るか。さっき起きたばっかだけど。」

 

 

 そういってまた眠りに落ちていった。この少女、完全にダメ人間である。部屋にただ健やかな寝息だけが聞こえる。ホーエンの祠は今日も平穏だった。



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