Dクラスにも休日をください。 (くるしみまし)
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SCPー504

不定期投稿


「おきろ。異常はないか?」

 

無機質な声が部屋に取り付けられているスピーカーから聞こえてくる

 

「……Dー4218。今起きたよクソッタレ。」

 

俺は上体を起こし、ため息とともに頭をかきながら悪態を吐く。

 

「好戦的ということは、まだ余裕があるということだ。実に素晴らしいじゃないか。それはそうとして、いつも通り4:30までに食堂集合だ。遅れたらそれ相応の罰が降るので気をつけること……以上だ。」

 

するとブツッと音がなり、声は聞こえなくなった。

 

俺はベッドを下りながら机の上にある時計に目をやる。4時を指している時計の針を確認し二度寝という淡い夢は捨て、顔だけを洗い部屋から出る。

 

俺はなんの面白みもない通路を、目にひどいクマをつけ、ボサボサの髪のまま歩き始めた。

 

俺の名前は結城 鬱(ゆうき うつ)

ここは『SCP財団』

 

『SCP財団』とは地球上の異常な物品、存在、現象を確保、収容、保護を専門として活動している秘密組織……らしい。

ちなみにここでは、それらの事をまとめて【SCP】と読んでいる。

 

こいつら曰く『我々は秘密裏に、しかし世界的に活動している』とか『我々のおかげで人は暮らせている』とか『人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない』だとか大層なことを言っている…要は頭のオカシイ集団だ。

 

ちなみに俺が『らしい』という言い方をしたのには理由がある。

 

俺はここの職員ではなく、何も情報を知らされていないからだ。

 

いや…正確には、一応ここの職員ではある。

ただし俺はここで言うところの【Dクラス職員】。元死刑囚だ。

 

先ほども言ったがSCPとはこの世ではありえないような異常なものばかりである。だからこそSCPを観察する上で危険は付き物であり、貴重な職員を危険には晒すことはできない、かといって一般人を使うわけにもいかない。だったらもともと死ぬ予定の死刑囚使えばいい。そうして集められたのがD職員である。

 

しかし、そんなDクラスにも望みがある。1ヶ月間の勤務ののち釈放されるという条件だ。

 

死ぬことが確定していた俺みたいな奴には待ってもない条件だった。

いや、俺みたいなバカじゃなくても1ヶ月の勤務で死刑を回避できるのだ。飛びつかない奴はいないだろう。

 

俺は二つ返事で条件を了承した。

 

まあ………

 

(俺、ここ8年目だけどね……!)

 

実は色々込み入った事情があるため俺と、他に2人ほど長期で勤めてる。

 

一人は黒人の男で、もう一人は白人の男。 二人とも俺の古い友人で、纏めてしょっ引かれた犯罪仲間だ。

 

しかし、今はとある理由で黒人の男としか面識がない。

 

「はあ………。」

 

今更ながらここに来たことを深く深く後悔する。

 

そんな中で俺はふと友人二人の顔を思い出し、懐かしさを覚えてしまう。

 

(久しぶりにあいてぇなぁ………)

 

 

そんな事を考えながらフラフラ歩いていると食堂についた。

 

食堂には他にもやる気のなさそうなDクラスの職員達がいる。全員が各自、席に着くと対して美味くもない質素な飯を頬張る。みんながみんな死にそうな顔をしながらも、ある一つの扉をチラチラ見つめている。

俺も席について目の前のパンとスープを口に押し込む。うん。ただのパンとコーンのスープだ。

 

しばらくすると、扉が開き白衣を着た男が出てきた。

 

あれが、俺たちの事をこき使っているSCP財団の正規社員。彼らは見た目の通り、SCPの生態の解明を主な活動としている。要は博士だ。

 

「……おはよう諸君。今日の君たちの担当を努める………まあ名前なんてどうでもいいか。君たちの中には今日初めて勤務の人がいるようだね……誰かな?」

 

博士はだるそうに頭をかきながら話し始める。

 

ふむ。どうやら新入りがいるようだ……が

 

「博士ー。新入りっぽいのはいませーん。」

 

俺の向かい席にいるチャラそうな男が手を挙げ報告する。

 

俺も辺りを見回してみるが見た感じ、最近見たばっかの奴ばかりだ。

 

「ふむ………遅刻かな。」

 

そこで博士が一度無線を取り出し、何かを指示する。

 

「全員ここで待機。不審な動きがあれば罰を下すので注意するように……では。」

 

そう言うと博士は部屋から出て行った。

 

(ああ……恒例行事か)

全員がそんな感じの表情を浮かべた。

 

 

 

五分とせず食堂の扉が開き、大柄の男が大股で歩いてくる。

 

顔に不機嫌という文字を貼り付けたかのような表情を浮かべ威圧してくる。

 

体格から見てプロレスでもしていたのか腕っ節は強そうだ。

 

「……人が気持ちよく寝てたところを叩き起こしやがって……テメェら俺が誰だかわかってねぇのか?いいか俺は人を5人も殺してやった!全員女や子供だ!どいつもこいつもギャーギャー泣きわめいててなぁ………思い出すだけで笑いがとまらねぇぜ!他にもなぁ………」

 

それから男は自分がどれだけワルなのかを長々と説明してくる。

 

今まで何十人と聞いてきた常套句なので、俺は話も聞かずにただただ飯を頬張りつづけた。他の奴はこのあと何が起こるのか分かっているのでニヤニヤしている。

 

しばらくすると

 

「ああ、来ましたね。」

 

博士が帰ってきた。

 

しかし先ほどとは違うことが一つ。

 

手にトマトを1つ携えて帰ってきた。

 

(あのトマト……もしかしてアレか?)

 

俺は思い当たる節があり視線の端で事の成り行きを見守る。

 

男が博士に近づいて行き、睨みつける。

 

「あんたがここの責任者か?あんたは俺が誰だ「遅刻の理由を」おぉ………。」

 

博士の動じない冷静な対応に、男は少し引き下がる。

 

「Dー138674。遅刻の訳を。」

 

「ッ……寝てたんだよ。」

 

男は出だしを潰されバツが悪そうな顔を浮かべる。

 

「そうか………」

 

博士は顔に満面の笑みを浮かべる。

うわぁ………鳥肌。

 

「君はここが初めてだから仕方ないだろう。 今回はこれを読むだけで罰は無しだ。」

 

そう言うと博士は、男に紙を渡す。

男は目を見開いたあと、顔を歪ませる。

 

「ん?………おいおい、なんの冗談だ?馬鹿にしてるのか?」

 

「いやいや。軽い友好を深めるための軽いジョークさ。」

 

そう言われると男は「チッ」と舌打ちをした後、紙に書いてあった言葉を高らかに読み上げる。

 

 

 

「布団が吹っ飛んだ」

 

 

バチャァ!

 

男の顔が赤いものを撒き散らしながら弾かれた。

 

一瞬の出来事だった。

 

男がダジャレを言った瞬間、男の顔めがけ目で追いきれない速度で飛んで行った。

 

何がって?

 

トマトが。

 

 

「うわああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

実はあのトマトもSCPの一つ【SCPー504 批判的なトマト】

遺伝子的には普通のトマトだが、SCPー504の聞こえる範囲でくだらないことを言ったら、SCPー504は時速百数十キロを記録して音源の方向に飛んでいく。成熟したトマトだけがつるから離れ、腐ったものでも、たまに反応を見せるようだ。

ちなみにトマトはスライスされていても反応し、なぜか食べられたものは反応しない。

 

ジョークのくだらなさの度合いにより速度が変わり400キロを超えた記録もあるそうだ。

 

俺がなぜ詳しいかというと、半年ほど前に担当したことがあるからだ。

 

トマトがぶつかった男は顔に果肉をつけたまま失神してしまったようだ。

 

人が気絶するほどの威力を出すSCPだが、SCPの危険度を表すオブジェクトクラスでは【safe】に認定されている。

 

オブジェクトクラスは数段階に分かれており、俺が知っているのだったら、

 

【safe】収容可能:まあまあ安全

 

【euclid】収容方法未確定:ヤベェ

 

【keter】収容不可能:マジヤベェ

 

がある。

 

そう。人が気絶したりするが、ジョークさえ言わなければただのトマトなので、財団からは安全だと判断されている。

しかしその際にもDクラスの尊い犠牲があったので覚えておいてもらいたい。

 

 

 

Dクラスの男たちが騒いでいる中、博士が咳払いをし注目を集める。

 

「と、まあこのように、遅刻などの違反行為には罰がくだる。各自気をつけるように……………ああ、そうだ。今日はめでたいことがある。Dー4218。」

 

「え、俺?」

 

急に名前を呼ばれ、立ち上がる。

すると、寝不足のせいか眩暈起こし、こけそうになってしまう。

だいぶ疲労が溜まってんなぁ………。

 

「Dー4218。君はめでたいことに……。」

 

「めでたいことに?俺が一体なんだと?」

 

 

 

このお話は

 

 

 

 

 

 

 

「2000日連続出勤だ。これからも励むように。」

 

他のDモブ「「「4218が倒れたぁ!!」」」

 

 

世界最高のブラック企業で働く男のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 




ボチボチ投稿

http://scp-wiki.net/scp-504
著者:BlastYoBoots 様


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SCPー173

今日のSCPは一番有名なSCPです。

でも自分が一番好きなのは2599です。


20XX年X月X日

 

「おはよう。異常はないか?」

 

寝ていたところを、隣から声がかけられ目がさめる。

 

嫌味を言うために体を起こし、隣を見る。

 

ベッドのそばにはいつか見た博士が朝食を持って立っていた。

 

「……お母さん、今何時?」

 

「お母さんではない。午前3時だ。今からSCPの検査を行う。着替えてすぐに出てこい。」

 

博士はそれだけ言うと、部屋の外に出て行った。

 

なんの面白みもない回答に舌を鳴らし、朝飯をかきこむ。

 

(4時間か……かなり寝れたな。)

 

いつもよりも1時間半ほど長く寝れたおかげか、体が軽い。

 

朝飯は目玉焼き、食パン(生)、コーンスープ、ミルクだ。

実の所、ここの飯はそこそこいける。ただ、代わり映えのないメニューなので特に感動などはない。

 

飯を食い終わった俺は作業着に着替え、部屋の扉を開ける。

 

ドアを出てすぐのところに博士が立っていた。

 

「Dー4218。準備完了でぅぁぁ……す。」

 

ビビってるとか思われたくないので、いつも通り欠伸をしながら報告する。

 

「……ついてこい。」

 

それだけ言うと博士は、スタスタと歩き始める。

 

どこ行くかくらい伝えて欲しいものだが、これもいつものことなのでスルー。まあ、博士が直接呼びに来たってことは少人数での作業になるだろう。

 

「……だるっ。」

 

「何か言ったか?」

 

「何も〜。」

 

「「……」」

 

少しの間、沈黙が流れる。することもないし博士にちょっかい出そう。

 

「博士は何食べた?」

 

「……フレークだ。」

 

「へー……ところで博士は彼女いる?」

 

「…………」

 

「……いないのか。」

 

「私語は慎め。」

 

博士を煽りながら移動すること、約5分。

 

一つの扉の前にたどり着く。

扉の周りには何もなく、あえて言うなら管理室だろう場所に登るための階段だけだ。

扉の前にはDクラス職員が2人。警備員が二人立っていた。

 

見たことのない場所なので、どんなSCPかは知らないが、警備の状況と長年の経験による推測から【safe】もしくは【Euclid】だと推測する。

 

「おはよう諸君。君たちの今日の任務はこの中のSCPの排泄物の掃除だ。この中にいるSCPの正式名称は【SCPー173】だ。君たちに言うことは一つ『絶対に目を離すな』。面倒なので説明は省かせてもらう。」

 

ざっくりと説明を受ける。

もうちょっと詳しい説明が欲しいものだが、『詳しいことは伝えず自然体のままの情報を取る』いつもの常套手段なので、最低限の質問で済ませよう。

 

「絶対目を離しちゃいけないなら、どうやって掃除をするんだよ?」

 

「二人が【SCPー173】を監視。残った一人が清掃だ。」

 

「……了解。」

 

とりあえずわかったことは『姿を視認さえしていれば恐らく安全』ということだけだが、清掃活動のみということは、ある程度の生態が判明していると思っていい。危険度は低いほう……だと思いたい。

 

(今日は早く帰れるかもな)

 

いろいろと考察しているとDクラスの二人組が俺の方に寄ってくる。

 

片方はロン毛の男、片方はショートボブの黒人。 二人とも見たことある顔だ。

 

「よお。あんたもここの担当なんだな。」

 

ロン毛が話しかけてくる。

 

「まあ、ただの清掃だ。手っ取り早くすませようぜ。」

 

ボブの方も笑顔で話しかけてくる。

 

「おう、よろしくな。……清掃の仕方は聞いたか?」

 

二人とも頷く。

 

「じゃあ役割決めるか。 監視を二人、清掃係一人。まずは清掃係は俺からでいいから、疲れたら交代しようぜ。」

 

「「OK」」

 

二人の了承も得れたので、警備員にドアを開けるように言う。

 

「監視は行っているので行動次第によっては罰を受けてもらう。気をつけるように。」

 

「りょうかーい。」

 

博士に対してプラプラと手を振り、部屋の中に入る。

 

 

 

部屋に入った瞬間目に入ったのは、床に広がる無数の赤黒いシミとそれを出したであろうSCPの姿だった。

 

そのSCPは鉄筋コンクリートでできたような見た目をしており、体毛などは全くなかった。顔にスプレーか何かでペイントしており、動く気配は全くない。

 

見た目はSCPの中ではマシな方だが、本当に動かないので気味が悪い。

 

(直接何かしてくるんじゃなくて、同じ空間にいると発動するタイプのSCPか?……さっさと終わらせるか。)

 

 

 

 

 

■■■■博士サイド

 

「Dー4218、Dー555872、Dー365748。入室確認しました。」

 

「分かった。監視を続行してくれ。」

 

Dクラスが全員収容所に入ったのを確認し看守に指示を出す。

 

Dクラスの男どもは特に問題なく作業を始める。滞りなく進むのは良いことだ。私が楽で済むからな。

 

あいつらはクズがゆえによく問題を起こす。そんな奴らの担当をするのは非常に面倒で私は好まない……まあ、中にはそんな問題を起こしたクズへ■■■の処置を与えるのが好きな奴もいれば、自分の✖️✖️✖️✖️にする奴もいるがな。

 

「はあ……この仕事辞められたらどれだけ楽か。」

 

ここはブラック企業だ。

 

毎日毎日Dクラスのお守り、危険生物の観察、休暇もない。給料はとんでもない額だが、まず外出が許されない。

 

というよりSCPについて知りすぎてしまったため、辞めるにしても〇〇〇〇の処置を受けるだろう。

 

「……早く部屋に戻りたい。」

 

俺は椅子に腰掛け、テーブルに置いてあったコーヒーの入れてあるカップを手に取り口に運ぶ

 

「は、博士! Dー4218がっ!?」

 

看守が急に大きな声を出す。

 

「ん?どうしぶふぉっ!?!?」

 

「ヘアッ!?」

 

そして看守に盛大にコーヒーを吹きかけた。

しかし、そんなことは気にしていられず、モニターに視線を釘付けにする。

 

「と、止めますか?」

 

本来なら止めるべきなんだろうが……

 

「……いや、続けろ。 久しぶりに笑えることをしてくれる。」

 

俺はこの施設で数少ない珍場面を目に焼き付けることにした。

 

 

 

 

 

結城 鬱 (Dー4218)サイド

 

「(ゴシゴシ)落ちねーなぁ……この汚れ。」

 

俺は一生懸命磨いていた。

 

(▪️$▪️)\ (・ω・=)ゴシゴシ

 

SCPー173の顔面を。

 

床の汚れはすぐ落ちたのに、こいつの顔についてる汚れが全然取れない。あんまりにもしぶといのでイライラしてきた。

 

「おまwあぶねーぞw」

「あぶねぇってw」

 

ボブとロン毛は腹を抱えてゲラゲラ笑っている。

俺がこんなにも頑張っているのに失礼な奴らだ。

 

しかし、俺はこんなときのために覚えていた【汚れ落とし48の秘儀】を行使して全身全霊を持って汚れ落としにかかる。

 

 

『ご苦労。もういいぞ。』

 

両足にたわしを挟んで大回転をする38手目でせめている時、急にスピーカーから音声が流れる。

 

「ゼェゼェ……ま、まだ、汚れが。」

 

『いや、それは油性だから落ちない。いいから離れろ。』

 

「…………おまっ。」

 

大幅に体力を消耗したせいか、それともわかった上で20分以上放置した激しい怒りによってか知らないが目眩がする。

 

仕方ないので俺は、散らかっているタワシやモップを拾い上げトボトボと部屋の出口に向かって歩く。(ちなみに他の二人はすでに出口付近に立っており、SCPの監視をしている。)

 

『最後に命令がある。』

 

またもスピーカーから声が流れてくる。

 

これ以上俺に何をしろというのか、流石にもう体力が無いんだけど。他の二人も面倒くさそうな顔をしている。

 

『そこで全員《瞬き》をしろ。』

 

「「「……はあ?」」」

 

声が綺麗にハモった。

 

俺も長いこと働いてるけど、いままでの中でもトップクラスに馬鹿馬鹿しい命令だ。

 

「瞬きだけでいいのか?危険性は?」

 

『そこなら恐らく問題ない。タイミングは任せる。それではよろしく頼む……ククッ。』

 

そう言うとスピーカーはブツッと音を立て声は聞こえなくなった。

 

「……どうする?」

 

ボブが俺の顔を覗き込んで聞いてくる。

 

皆最初は苦笑いだったが、余りにも不気味なのでためらっているようだ。

 

「まあ、やるしかないだろ。安全……かどうかは分からんけど、しない限り出してもらえないだろうし。」

 

俺は投げやり気味に二人に尋ねてみる。

 

「それもそうか……。」

 

ボブもロン毛も納得してくれたようだ。こいつらも死刑囚なだけあって肝が据わっている。

 

俺らはSCPー173の方向を向いた。

 

一度ゴクリと唾を飲み込み掛け声をかける。

 

「いくぞ……せーの。」

 

暗転

 

からの

 

 

「「「ッッッッッッ!!!???」」」

 

173の顔面ドアップ

 

俺たちが瞬きをした瞬間に、確かに部屋の角にいた173が移動してきた。

俺たちの目の前に。

 

それだけではなく173は手を俺の首に回していた。

 

その手は無機物らしい見た目の通り異様に冷たく。しかし怪物らしい殺意が手から伝わってくる。

 

ああ……こいつは間違いなく。

 

 

(【Euclid】だ……)

 

ドタっ

 

「「4218が倒れたぁ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

【SCPー173 彫刻ーオリジナル】

SCPー173はコンクリートと鉄筋で構成された彫刻のような形をしています。顔の模様はクライロン社製のスプレーです。SCPー173は誰かに見られているときはただの彫刻です。しかし、実際には生きており非常に好戦的である。

 

SCPー173から目を離すと高速で対象に近づき、首を絞めるか首をへし折るかの方法で殺害します。瞬き程の短い間でも目を離すと攻撃されます。

 

SCPー173はコンテナに保管されており、コンテナに入らなければならない場合は、必ず3人以上で入室してください。

 

コンテナ内のシミは血と排泄物の混合物です。職員は定期的に清掃してください。入室した職員のうち2人は常にSCPー173を注視していてください。

 

死亡例は■■■人です。

 




(=´∀`)人(´∀`=) 幼女好きー

http://scp-wiki.net/scp-173
著者:Moto42 様


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SCPー020ーJP ①

今回長くなりそうなんで少し分けます。

ちなみに今回はコメントにあったSCPを採用してます。よければリクエストにも答えようと思います。


20xx年x月x日

 

SCPー173 検査後

 

俺はSCPー173に襲われ気を失ったのか、気がついたら通路のベンチの上に寝かされていた。

 

 

「次の任務はこいつだ。」

 

 

例の博士からそう言って俺に紙の束が渡される。

 

「……」

 

起きて2分で次の仕事を渡される。こんなブラック企業はなかなかないだろう。

せめてもの抵抗で俺はガン無視を決め込む。立場にこれだけの差がなければどつきまわしていた。しかし、そんなことしたら何されるかわかんないから黙って資料に目を通す。

 

ちなみに俺の首には、SCPー173に首を掴まれたときにできた赤黒い痣がくっきりと付いている。正直、呼吸をするだけでもズキズキ痛む。湿布くらいよこしてもいいと思うんだ。

 

「先程は詳しい説明が無かったが、まあ気にするな。命があるだけでも良しと考えてくれ。」

 

博士はDクラスが負傷したときの定型文をなんの感情もなく口にする。

 

かまってられないので、俺は俺で資料に書いてある情報を簡潔にまとめる。

 

クラスは【safe】

SCPー020ーJP 【翼人】か。

でほかには……なんか読むのもめんどくさいな。

 

適当に読み飛ばしていると一番最後に任務が書いてあった。

 

一文をみて固まる。

 

今、声を大にして言いたいことは「こいつら頭イってんじゃねぇの?」

 

「思ったことは口の中に止めておくことをオススメする。」

 

声に出てたみたいだ。しかしそんなことは関係ない。

 

「…………おい」

 

博士を睨みつける。

 

「なんだ?手短にすませろよ。」

 

博士は資料と思われる紙の束をペラペラとめくりながら気だるそうに答える。

 

「今日はSCPを2体相手にしなきゃいけないとか、適当な謝罪とか、お前の顔面を見飽きたとかはもうどうでもいい、慣れてるからな。」

 

「おい。最後のはただの嫌味ではないか?私はまだ君とは2回しかあっていないのだが?」

 

そんなことはどうでもいい。

 

思いっきり博士の顔を睨みつけながら資料を突き出す。

 

 

「《SCPと3日間の間、寝食を共にする。》てどういうことだよ!?」

 

 

博士は少し驚いた顔をしたが、直ぐに薄ら笑いを浮かべる。

 

「ああ。めでたいことだな。我がSCP財団でも初めての試みだ。君はその体験ができるんだ、とても名誉なことじゃあないか。それにオブジェクトクラスは【safe】なんだろ?そんなに気負う必要はないさ。」

 

(こ、このやろう……!安全だと思うならわざわざDクラスを使うなよ!?)

 

俺は知っている。【safe】が別に『安全』ではないことを。

 

【safe】とはあくまで、『収容可能』なだけなのだ。

 

『収容可能』と『安全』は全く違うということに、ここにきてから嫌という程知らされた。前のトマトもいい例だ。

 

俺は少しでも生存率を高めるために、資料に目を通すことにした。

 

 

結果

 

 

かつてないほどヌルい仕事のようだ。

 

 

〜移動〜

 

 

 

とある扉の前にたどり着く。扉にはSCPー020ーJPと書いてある札がかけられていた。

一応施錠されてはいるが、やはり【safe】クラスだからかSCPー173に比べたらかなりゆるい警備だ。

 

「なあ。」

 

博士に呼びかける。

 

「どうした。」

 

博士は退屈そうな顔でてきとうに返してくる。

 

無気力な顔を見る限り、今回の実験が退屈で仕方ないのだろう。博士もついさっきこのSCPについて知ったみたいだし。

 

「本当に俺でいいのか?」

 

なぜ俺がこんな心配をしているのかというと、SCPー020ーJPは『両手が翼なだけで体の弱く、知能の低い、ただの少女』だからだ。

 

俺は仮にも死刑囚だ。何かやらかすとかは考えていないのだろうか?

 

「お前は今『自分が何かやらかすとは考えないのかこのアホどもは』とか考えているな?」

 

なん……だと……!

 

「こいつ……心を読んだ……!」

 

博士は俺を見てフッと鼻で笑う。

 

「顔にそう書いている。……私は、まだ君と会って2日しかたっていないがなんとなく君が選ばれた理由は分かるぞ?」

 

博士は自信満々の顔でそう言ってくる。

 

「理由ってなんだよ?」

 

博士は俺を指差す。

 

 

「君はもう折れているだろう?」

 

 

一瞬固まる……言葉が出なくなる。まるで自分の部屋に土足で上がられたかのような不快感が襲ってくる。

 

しかし……博士の目を見て力を抜く。

 

(……まあ、考えてみればそりゃそうか。)

 

口を開けようとしたときに横から声がかけられる。

 

「開錠はした。すぐに入るように。」

 

「ん?おう。」

 

監視員に連れられ部屋に入る。

 

扉が閉まり切る前に振り返り博士の方を向き一言。

 

「あんたもな。」

 

そして扉は閉まった。

 

 

 

 

 

「さてと……」

 

部屋の中には机と椅子。簡易トイレ、ベットがあり、少々の木が生えていた。部屋の真ん中には10代前半ほどに見える少女がいた。

 

ある一点を除いたらどう見てもただの女の子だが、両腕が鳥のような翼になっていた。

見た感じ俺と同じ日本人のようではある。

 

少女は不思議そうにこちらを見ている。

特におびえた様子はないので、人には慣れているみたいだ。

 

何も言わずこちらを見てくる少女に少々きまずさを感じる。

 

(どうする……おれから話しかける方がいいのか?)

 

今まで年下の女の子と話したことなどないので、中々言葉が出ない。

 

「……?」

 

少女が首をかしげる。やはり急に来たおれを不審に思っているのかもしれない。

 

「き、今日から君と3日間一緒に住むことになった結城 鬱て言うんだけど……よ、よろしく。」

 

変に緊張してしまい口が回らない。

 

少女は何も言わずに俺を見つめる。

 

(ああ……そういえば喋れないんだっけ。)

 

資料には言葉を話した記録が無いと書いてた事を思い出す。話せないとは書いてないが記録がないなら話せないと考えていいだろう。

 

少女は結局、俺から視線を外し部屋の奥にある椅子に座る。

 

俺は俺で少女とは対局の壁に背を預け、座り込む。

 

沈黙によって嫌な空気が流れる。

 

(ああ……この任務意外ときついかも。)

 

少女どころか女性と話したことすら基本無かった俺にはわりときつい任務なんじゃないかと後悔する。

 

 

だがしかし

 

 

ここで引いたら『女の子にすら話しかけられない童貞』の称号を得てしまう。

 

俺がそんな不名誉な称号が似合う男な訳がない。

 

こうなったら、こんなときのために温めておいて俺の圧倒的ユニークなギャグで腹筋爆発させてやる。

 

「むうんっ!」

 

「……!」

 

俺は覚悟を決め立ち上がる。少女も急に立ち上がった俺に驚いてか、こちらを振り向く。

 

(言うぞ……言ってやる!)

 

覚悟を決めたというのに動悸が上がり、呼吸も激しくなる。

まだ覚悟が足りない! もっと心を燃え上がらせるんだ!

 

「はあ……はあ……!」

 

この程度で息を荒げるな!一秒間に10回の呼吸を意識しろ!

お前はコミュ症でいいのか?否、断じて否!

 

「お、お嬢ちゃん……今から、お兄ちゃんが、面白いことするからね? えへ……えへへ。」

 

笑みを作れ!まるで無垢な少年時代に戻ったかのような笑みを浮かべるんだ!

 

一歩一歩ゆっくり距離を詰める。怖がらせないように忍び足で近づく。

 

少女が震えているように見えるのは恐らく気のせいだろう。

 

残り3mほどの距離にまでなった時に覚悟を決め上着とズボンに手をかける。

 

 

 

「エントリーナンバー1番 結城 鬱! 2秒で服を全部脱ぎ去った後に腹芸をします!結城……行きまあああァァァあふん……。」

 

首に何か当たったと思ったらおれの意識はそこで切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めてから博士に見せてもらった映像には、涙目でふるえ上がってる少女に変質者の様に近づく男が映ってた。てか俺だった。

 




投稿が早くなりたい・・・訳でもなくなってきた

http://ja.scp-wiki.net/scp-020-jp
著者:クラウン 様


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SCPー020ーJP ②

夜中の三時くらいに書いてたので文章がおかしいかもしれません。

・・・まあいっか(・ω・)


20xx年x月x日

 

SCPー020ーJP同居 2日目 AM8:30

 

「お、おはよう・・・。」

 

「・・・・・・(ガタガタ)」

 

俺氏。少女に本気でビビられ傷心。

原因は昨日の俺の奇行だろう。

 

うん・・・まあ、我ながらあの姿にはドン引きだった。

気絶したのは麻酔針を首筋に打ち込まれ眠ったからだそうだ。その後、博士に見せてもらった映像には少女の前で全裸になろうとする男の姿があった。もちろん俺だ。

 

流石に半日時間を置いた程度では少女の好感度は最低値から変わっているはずもなく、半径10メートル内に近づこうものなら全力で逃げられる。心が折れそうだ。

 

一度遠くに離れると警戒レベルを下げてくれたのか睨むのをやめてくれた。

 

どうしたものかと頭を悩ませるが打開策が見つからず、ただただ無駄な時間が過ぎていく。

 

(下手に話しかけるのは逆効果だよな・・・。)

 

俺は少女に警戒されないように部屋の隅で空気と同化した。

 

 

「おい、起きろ。」

 

ゴスっと頭を殴られる。

 

どうやら寝てしまっていたようだ。頭を殴ったやつの顔を見ると博士だった。

 

「優しく起こしてくれてもええやん・・・。」

 

「Dクラスにそんな気を使うと思うのか?」

 

まあ、それもそうか。

この扱いに対して疑問を持たなくなった自分が悲し・・くすらなくなってきた。

 

とりあえず立ち上がる。

 

するとフワッといい匂いがし、そちらに目をやると食事が用意されていた。

 

少女のは良く見えないが、俺のは・・・ほお・・・。

 

見た感じ牛肉とマッシュルームを赤ワインをベースにしたソースで煮込んだ物だと予想される。色を持たせるために人参、ジャガイモ、レタス、アスパラが添えてある。

 

言いたいことは分かる。

『なんでDクラスがそんな豪華な飯を食ってんだよ。』だろ?

 

もちろん俺も最初はそう思ったさ。ただ知ってるか?

 

アメリカでは死刑囚は執行日の前日に好きなものを食わせるんだよ。

分かったか?

 

まあ、理由はそれだけじゃなくて5年前に料理好きの職員が派遣されて食事環境が大幅に改善された。

 

だけど問題もある。

 

料理自体は凝っているものの、手間を省くためか年の初めにアンケートをとりメニューが決まる。

 

なので同じメニューが続くこともしばしば。

 

ただし今日はあまり見かけないメニューだったので正直嬉しい。

 

「お前の分だ。」

 

「・・・・・。」

 

職員の一人が少女の目の前に食事を置く。

 

俺はスプーンをとって早速いただこうと思ったが少女の飯が気になる。

 

少女の顔を見てみると浮かない顔をしている。

 

(なんだ・・・?)

 

少女がなぜあんな顔をしているのか気になり、勇気を出して距離を詰める。

 

少女はビクッと俺の方を振り向く。

流石にまだ俺の事は怖いのだろう。

 

しかし、何故かどうしても気になり更に近づき少女の隣に立つ。

 

「ご、ごめん。別に何かするわけじゃないから。」

 

俺は自分より10以上年下の少女にビクビクしながら皿を覗き込む。

 

(・・・・・なんだこれ?)

 

皿に盛られていたのはおかゆを更にドロドロにした様な食べ物だ。

 

ちなみに見た感想はというと『不味そう』。

 

「・・・これ、美味しい?」

 

「・・・・・(ブンブン)」

 

少女はこれでもかと首を振る。

 

やっぱり不味いんだ。

 

「味見してもいいかな?」

 

「・・・・・(コクリ)」

 

俺は自分のスプーンで少し少女の食べ物を掬い口に運ぶ。

 

「(モグモグ)。・・・マズっ。」

 

ビックリするほど無味無臭。

なんだろうこの他に例えるものが見つからない食べ物は。

 

例えるなら卵の生の白身と味のない米をミキサーでかき混ぜた感じ。

 

なんでこんな物を・・・と思ったが少女は確か流動食しか食べれないと資料に書かれていたのを思い出す。

 

にしてもここのコックならもっとマシなのを作れるはずだ。

 

・・・さてはSCPだからって手を抜いてるな?

 

少女は更に近づき器用に羽で皿を持ち

 

「・・・・(グイッ)!」

 

口にソレを流し込み始める。

 

涙目になりながら出来るだけ早く片付けようと一生懸命飲み込む。

 

しかし皿になみなみ注がれた流動食はなかなか減らない。頭で分かってはいてもなかなか飲み込めないのだろう。残してしまえば良いものを一生懸命飲み込もうとする。

 

一度口を離しもう一度トライする。

 

キツそうな顔をしている少女の姿は見ていられるものではない。

 

またも口を離すがまだ5分の1ほどしか減っていない。

 

「・・・・・(ぷるぷる)。」

 

それを見て泣きそうになっている少女を見て俺は

 

 

「ワアウマソウダ!俺にも食わせろぉ!!」

 

「・・・・!!?」

 

急にキレた。

 

少女から皿を奪い取った俺は腰に手を当て思いっきり皿を仰ぐ。

 

少女とは比べものにもならない速度で流動食を口に流し込む。

 

「・・・げぇぇっぷ」

 

そして僅か20秒程で完食する。

 

少女はポカンとした顔で俺を見つめる。

 

そして俺は自分の牛肉の赤ワイン煮込みを

 

「ぶるああああああ!!」

 

鬼の様な形相でぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

 

レタスとアスパラガスを自分で食い、人参、ジャガイモ、牛肉はこれでもかとぐちゃぐちゃに潰す。

 

3分ほどで綺麗に盛り付けられていたはずの料理は赤黒いペースト状の何かになった。

 

俺はペースト状になったソレをチョビッとスプーンですくい少女に差し出す。

 

「・・・・(オロオロ)。」

 

少女は状況を飲み込めずオロオロしている。

 

「俺にもどうしたらいいのか分かんないけどさぁ・・とりあえず、はい。アーン。」

 

少女は驚いた顔をして俺の顔をまじまじと見つめる。状況がまだ掴めていないようだ。俺自身もSCPにお節介やいてる自分に驚く。

 

「ほらっ。危ないかもしれないから少しずつにしとくから食え。」

 

少女は口を開いてスプーンを加えようとしたが、何故か途中で止まる。

 

その目は「私にこんなことをして意味があるの?」とでも言いたそうな目をしていた。

 

 

イラッ☆

 

 

「はい。アーン!!」

 

 

「・・・・・!?」

 

少女の口にねじ込む。(深い意味はない)

 

少女は諦めたように咀嚼を始める。

 

そして

 

「・・・・!!」

 

目を見開く。

 

「・・・・(バサバサ)!」

 

笑みを浮かべて翼をバサバサと振っている。

 

どうやら気に入ってくれたようだ。

 

そらそうだ。グチャグチャで見た目も悪いけど味自体はアレよりマシだよ。

 

一人で勝手に納得していると

 

「・・・・。」

 

・・・少女が物欲しそうにこちらを見ている。

 

餌を与えますか?

はい◀︎

いいえ

 

スプーンに少しだけ掬うと

 

「・・・・(ンアッ)。」

 

少女が口をカパっと開いた。

 

スプーンを口の中に入れると少女は幸せそうな顔をして咀嚼する。

 

ゴクンと飲み込むと少女は今度は自分から口を開く。

 

そんな少女の顔を苦笑いしながら見ていると。

 

「・・・・(バサバサ)!」

 

少女が怒った顔で翼を振る。

 

(こ、これは一応怖がられなくなったってことでいいのかな?」

 

 

 

 

俺はその後もずっと少女に『あーん』をすることになった。

 

 

 

 

 

〜博士サイド〜

 

「・・・・・・。」

 

映像にはDクラスの男が少女に餌やりをする映像が永遠流れてる。

 

「・・・『はい。あーん』てやつですかね?」

 

監視の一人が話しかけてくる。

 

「そうだな。」

 

淡白な答えを返す。

 

「・・・・・SCPとはいえあの少女。結構美人ですよね。」

 

「そうだな。」

 

監視と目を合わせる。

 

「「・・・チッ!」」

 

自然と二人とも舌打ちをしていた。

 

 




次でSCPー020ーJPの話は終わります。


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SCPー020ーJP ③

恐ろしく早い投稿。俺じゃなきゃ・・・誰でもできるか。


20xx年x月x日

 

SCPー020ーJP 同居 3日目 AM9:00

 

翼人と同居しているおかげで博士に起こされることなくゆっくりと起きれた。

 

「・・・まだ寝てるな。」

 

少女の方を見るとまだベットの上で横になって眠っている。

 

起こしてあげようかな?

 

立ち上がり、ベットに近づき少女の顔を覗き込む。

 

「・・・・(ーωー)スヤァ」

 

(起こしたら可哀想か。)

 

とても愛らしい寝顔を見たら起こす気など失せてしまった。

 

(それにしても可愛いな。)

 

少女の頬を少しつついてみる。

 

(やわらけぇ・・・。)

 

「・・・・(ごしごし)(ーωー)スヤァ。」

 

少女は突かれたところを軽くこすってまた眠った。

 

「むふ・・ふふふ。」

 

変な笑いが漏れてくる。

なんだろうこの守りたくなる感じ・・・もしかして、これが母性!

 

「いいや。単にロリコンなんだろ。」

 

「ーーーーーーーッ!?!!?」

 

博士が横から顔を出してきて声にならない悲鳴をあげる。

 

「ど、なん、え、ちょっ!?」

 

「私は君たちの監視を命じられているんだ。いつでも来るのは可能に決まっているだろう?」

 

少女の方をちらっと見る・・・良かったまだ寝てる。

 

俺の声で起こすことはなかったようだ。

 

それにしてもどんなタイミングで入ってきてんだよ。

 

「はあ・・・で、何の用だよ?」

 

「朝食を運んできた。食った後は自由行動。以上。」

 

そう言うと職員が飯を運んできた。

 

俺のは・・・パンとベーコンエッグ。普通ではあるが朝からハンバーガーとかよりはマシだろう。

 

(問題は・・・良し。)

 

俺に続いて少女の飯が運ばれてきた。それは以前の卵白のような味気なさそうなものではなく、美味しそうで温かみのあるポトフだった。

 

実は昨日、少女が眠った後に博士に直談判した。断られたが今度は顔見知りのコック長のところに行き、日本人の最終兵器『DO☆GE☆ZA』で頼み込んだところなんとか了承された。

 

因みに俺の要求は「SCPー020ーJPの飯に手を抜くな。」という簡単なものだ。

 

俺が二人分の食事を受け取ると博士と職員は部屋から出て行った。

 

さてと、これ以上この少女を眠らせていたらせっかくのポトフが冷めてしまうので起こそう。

 

「おーい。起きろー。」

 

少女の肩を軽くポンポンと叩く。すると少女は目を擦りながらゆっくり体を起こす。

 

「・・・・(ズリ)」

 

少女は俺を認識するとベットの上で少し俺から距離をとる。

 

まだ少し警戒されているようだ。

 

・・・少しだけ傷つくな。

 

「朝飯だよ。食べるだろ?」

 

「!・・・・(ズリ)」

 

ポトフを目の前に出すと、今度は距離を詰めてきた。

 

俺は少女の膝の上に盆に乗ったポトフの皿を置いてあげ、自分のパンを食べる。

 

何てことはない。少しバターの風味が聞いたただのパンだ。

 

「・・・・(バタバタ)!」

 

少女は皿を持とうとして熱かったのか両翼をバタバタと振っている。

 

「ああ、ごめんごめん!熱かったか・・・ほれ。」

 

俺はスプーンでポトフを少しすくって、少女の前に出す。

 

少女は躊躇うことなくスプーンを咥え、幸せそうな顔を浮かべる。

 

「・・・そういえば。」

 

俺はふと少女の本来の名前を知らないことに気づく。

 

少女に聞こうと思ったが、少女は喋れない上にペンも持てないのでどうやって聞こうか考えてみる。

 

「君の名前は何かな?」

 

駄目元で聞いてみる。

 

少女は浮かない顔をしている・・・まさかとは思うけど

 

「名前・・・ないのか?」

 

「・・・・・・・・・・(コクン)」

 

少女は少しだけ頷く。

 

(・・・・・・。)

 

誰に対してか分らないが激しい怒りが湧いてくる。

 

この少女に名前がない・・分らない・・・・まさかな。

 

俺は最悪の想像を取り敢えず切り捨てる。

 

「もし良かったらさ。」

 

少女に取り敢えず提案を持ちかけてみよう。

 

「・・・・・?」

 

少女は首を傾ける。

 

「俺が簡単な名前をつけようと思うんだけど。」

 

「・・・・・!」

 

少女は目を見開き、そのまま固まってしまった。

 

・・・やっぱり流石に俺みたいな奴に急に言われても困るよな。

 

「ごめん・・・今のは忘れ」

 

「・・・・(コクン)」

 

少女が頷いた。

 

今、確かに、間違いなく。

 

「えっと・・今の頷きは・・・OKてこと。」

 

「(コクン)」

 

今度は間を置くことなく、しっかりと頷いた。

 

「・・・・ふぐぅっ!」

 

「・・・・!?」

 

あ、これヤベェ。嬉しすぎて泣きそう。

 

昨日の少女の態度がまさかこうなると思わなかった・・・反抗期の娘がデレたらこんな感じなのかな?

 

「任せろ!お父さん一生懸命考えるから!」

 

「・・・・!?!?」

 

俺は飯を掻き込み、名前を考え始めた。

 

 

「クソゥ・・・なぜダァ!?」

 

「・・・・・(^ω^;)」

 

俺は今まで様々な名前をあげたが全て却下を受けてしまった。

 

「なぜダァ・・・!ヨシエもサチコもチエコもニャル美もレオニンもクレしんもドラミもプリンセスキャンディも素晴らしい名前だというのに何故!?」

 

少女は苦笑いを浮かべるだけである。

 

これが産みの苦しみか・・・!

 

「・・・はあ。流石に簡単には決められないよなぁ。」

 

少女は申し訳なさそうな顔をする。

 

この子が悪いわけじゃないのになぁ・・・。

 

「変に頭を使うからダメなのかなぁ・・・もう単純にツバサとか?安直すぎるか。」

 

「・・・・(バシバシ)!」

 

少女が俺の手を叩いてくる。

 

もしかして

 

「ツバサがいいのか?」

 

「・・・・(ブンブン)!」

 

少女は顔を縦に激しく振る。

 

「そうか・・・そうか! ツバサか!うん。そう言われるとピッタリだな!」

 

「・・・・(バサバサ)!」

 

少女・・いや、ツバサもかなり気に入ってくれているようで手をブンブンと振っている。

 

「ツバサ!ツバサ!ツバサ!ツバサ!」

 

「・・・・(ブンブン)!」

 

俺たちはまるでアイドルとファンのようにはしゃぎまわった。

 

 

「時間だ。お勤めご苦労。」

 

ツバサとはしゃいでいると博士が部屋に来た。時間を見ると午後の6時過ぎていた。

 

(ああ・・・もう終わりなのか。)

 

楽しかった時間はあっという間に過ぎてしまった。

 

やっと打ち解けられたことなのに。

 

ツバサを見るとなんとなく悲しそうな顔をしている気がしている。

 

「そっかぁ・・・じゃあ、仕方ないな。」

 

「荷物は特にないだろう?準備が出来たら部屋を出ろ。俺は外で待ってる。」

 

博士は直ぐに部屋の外に出た。

 

 

 

「・・・俺もう帰らなきゃいけんみたいだな。」

 

ツバサに話しかける。

 

「・・・・(コクン)」

 

「3日だけど俺は楽しかったよ。ツバサは迷惑だったろう?」

 

「・・・・(コク(ブンブン)」

 

一瞬頷きそうになってた気がするけど、首を横に振ってくれた。

 

「ツバサがよければだけど、会えたら今度また合いに来てもいいかな?」

 

「・・・・(コクン)」

 

頷いてくれた。

俺はDクラスだからどうなるか分からんけど、会うことを拒まないでくれた。

 

俺はもうそれだけでも来れてよかったと思う。

 

「もう行かなきゃな。」

 

最後に翼の頭を少しだけ撫でる。

 

「じゃあな。好き嫌いせずに元気で過ごせよ。」

 

翼に手を振りながら部屋の外に出ようとする。

 

ツバサは片翼を手を振るように振りながら見送ってくれる。

 

(・・・ん?)

 

ツバサの口元を見るとパクパクと動いてる。

 

その口は、俺の気のせいかもしれないけど。

 

 

『ありがとう。またね。』

 

 

と動いてるような気がした。

 

 

 

「ご苦労。明日からは通常の任務に戻ってもらう。」

 

扉を出ると博士が待ち構えていた。

 

「あのさぁ・・・一ついいかな?」

 

「なんだ?手短に済ませろよ。」

 

博士はダルそうにこちらを見る。

 

「たまにでいいから・・・ツバサに合わせてくれねぇかな。」

 

かなり無理な頼みをしたと思ったのだが博士は特に驚いた様子もなく、むしろ腹立たしいとでも言いたげな顔になっている。

 

「腹立たしいことに・・・今日、貴様と会っている時の「SCPー020ーJP」は脳波が非常に安定していてストレス解消になっていることが分かった。なので貴様には定期的に020ーJPのストレス解消係になってもらうことになった。」

 

え?

 

「てことは・・・?」

 

「チッ・・・財団の命令でアレに定期的に合うようにしろ!分かったな!」

 

ま、マジスカ。

 

今初めて財団に感謝している。

気が効くじゃんかよおい!

 

「ありがとう博士!まじ愛してる!」

 

博士の両手を握りしめブンブン振る。

 

博士はただただうざそうな顔をしている。

 

いやぁ〜よかったよかった。めでたしめでたし!

 

 

 

とはいかんよな。

 

 

 

俺には聞いておかなければないことがある。

 

「・・・なあ博士。」

 

「なんだ。」

 

「これはふと疑問に思ったことなんだけどさぁ・・・まさか、例えばの話だ。」

 

「勿体ぶらずにさっさと言え。」

 

博士は握られている手をグイグイと引っ張る。

しかし俺はその手を離さないように握りしめる。

 

「まさか・・・ツバサみたいなのをお前らが作ったんじゃないだろうな?」

 

博士が動きを止め、その代わり鋭い目線をこちらに向ける。

 

「・・・何が言いたい?」

 

「そのまんまの意味だよ。財団ぐるみの人体実験を失敗してできた『失敗作』をあえてSCPとして保存するような真似は・・・してねぇだろうな?」

 

これはあくまで俺の妄想だ。

しかしこの妄想は現実であってもなんら不思議ではない。だからこそ、無駄だとしても聞かなくてはいけない。

 

「・・・貴様がそれについて知る権利はない。立場を弁えろよDクラス。」

 

そう言うと博士は俺の手を振りほどき、どこかへ歩いて行ってしまった。

 

「否定・・・しねぇのかよ・・・!」

 

 

俺はただ歯を食いしばりながら、自分の力のなさを嘆くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

【SCPー020ーJP 翼人】 【safe】

 

SCPは見た目は10〜12歳程度の少女であり、体の大部分は人間に酷似しているが両腕が鳥の翼のようになっている。SCP-020-JPは、サイト-8141の人型生物収容室に収容されています。3日に一度サイト内を散歩させてください。基本的には危険性はないが衝動的な行動をとることがあるので、担当職員は常に腰紐付きリードを手放さず、緊急の場合はスタン警棒を使用してください。

 

レベル2以上の職員はSCP-020-JPと接触可能ですが、故意にSCP-020-JPを驚かすような行動は控えてください。食事として、ふやかして潰した穀類と野菜を1日3回与えてください。餌やりの際、『担当職員は指定の仮面を着用してください。』

 

上記の『』は訂正します。

少女に対して大きな不安、ストレスを与えることになってしまいますので多人数で来室することや仮面をつけるのは今後控えてください。

 

『可愛いものを愛でるのは、万人に許された平等の権利』というのは言い訳になりません。

 

 

 

 




次回はそろそろあのクラスを出そうかな。


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SCPー682

今回は二つに分けます。次回は明日か明後日までには投稿します。


20xx年x月x日

 

朝、誰に起こされるわけでもなく、自然と目をさます。

 

時計に目をやると午前10時を指していた。いつもならもっと早くに博士が叩き起こしに来るのだが、今日は自分のタイミングで起こしてもらえた。

 

バッチリ熟睡することができ、体も軽い。

 

「・・・・よし!」

 

俺はベットから起き上がり。

 

椅子に座り、紙とペンを準備し

 

「お父さん。お母さん。先立つ不幸を・・・」

 

遺書を書き始めた。

 

 

「失礼するぞ。準備はできたか?」

 

扉から博士がノックも無しに入ってくる。

 

「・・・・できたぞ。」

 

俺はあからさまに低いテンションで返事を返す。

 

「そうか・・・もう貴様ならわかっていると思うが、今日担当してもらうSCPのオブジェクトクラスは【safe】でも【Euclid】でもない。オブジェクトクラス・・・【keter】だ。」

 

「・・・・・・・。」

 

これが俺のテンションが低めの理由だ。

 

皆はもう知っていると思うが、例外を除いてオブジェクトクラスは大きく3つに分けられている。

 

一つ目は【safe】。

収容方法が確立しており、比較的安全なクラス。

 

二つ目は【Euclid】。

収容方法が確立しておらず、超危険なクラス。

 

そして3つ目は・・・【keter】。

収容不可能。もし施設の外に出たりしたら『人類』の危機になるであろうSCPにつけられるクラス。

 

こうやって叩き起こされる事なくゆっくり寝れたりした日はだいたい『体力万全の方が長くデータ取れるからね☆』みたいな理由があり、十中八九【keter】を担当させられる。

 

ここの財団そんなヤベェのがいんのかよ!と思う奴も多いと思う。だがそんな君たちにこの言葉を送ろう「メチャクチャいる。」

 

俺もそんなに多くは担当したことがないが、確実に二桁は担当している。

更に言うと、その殆どで俺は死にかけている。

 

だが【keter】だからと言って今すぐヤバい奴だけではない。俺が担当したときは運良く活動していなかったとか、危険性がまだなかったなんていうのもある。

 

「ちなみになんて奴なんだ?」

 

遺書を書きはしたものの、まだ助かる可能性だってある。今までだって何とか生き延びてきたんだ。相手によってはもしかしたらなんとかなるかもしれない!

 

 

「【SCPー682 不死身の爬虫類】だ。」

 

 

「イィヤァあだああああああああ!!」

 

前言撤回。最高にやばい奴だった。

 

 

「はぁ〜〜〜・・・」

 

思わず何度目かもわからないため息を吐いてしまう。

 

「そう何度もため息を吐くな。こちらまで憂鬱になる。」

 

博士も暗い顔で話しかけてくる。いつも死んだ魚の顔をジャガイモに貼り付けたような顔面をしているが、今は腐った卵を焦げたフライパンに落とした時の様な絶望的な表情をしている。

 

いつもなら博士はニヤニヤ俺たちが苦しむ様を楽しむ所だろうが、【keter】ばかりはそうも行かない。

 

博士たちが余裕を持てるのには理由がある。

それは『自分の安全が保障されている場合』だ。

しかし【keter】は『収容不可能』なのだ。形だけの収容をしてはいるものの、基本的には意味がない。つまり、いつ脱走するかは気分次第なのだ。

 

ここで簡単な問題だ。

 

化け物の近くにいる奴と遠くにいる奴。どっちが死ぬ可能性が高い?

 

Dクラスの俺はもちろん、職員も監視、観察が必要になる自然と近くの監視室にいなければならない。

 

まあ、そういう事だ。

 

「あぁ、おい。」

 

「何だ?」

 

博士が俺に急に話しかけてくる。

 

「お前は【SCPー682】について知っているみたいだな。なぜ知っている。」

 

いやっ・・・知ってるもなにも

 

「俺【682】を2回担当したことあるし。」

 

「は?」

 

博士がアホヅラを浮かべる。こいつのこんな間抜けな顔は初めて見たので心地が良い。

 

「じ、じゃあ貴様は二度【682】の前に立ち、生きて帰ったというのか?」

 

珍しく博士は取り乱している様子だ。

 

あー・・・確かに普通の人間がアレの前に立って、まさか生還するなんて思わないよな。

 

「うん・・・生きて帰ったというよりは、死んで見逃された感じだけどな。

 

「はあ?お前は何を言って・・・?」

 

「ほら着いたぜ。あんたにはあんたの仕事があるだろ?お互い頑張ろうぜ。」

 

博士と駄弁っているとある扉の前に着いた。

その扉は恐ろしく重厚な作りをしており、監視が二人ほど扉の前に立っている。扉には単純なつっかえ棒から、構造が全く分らないようなロックが数多にかけられていた。

【Euclid】の【173】と比べても、こちらの方が遥かに強固である事が分かる。

 

ただ俺は知っている。

【682】の前ではこの設備が意味をなさないことを。

 

「・・・待っていました。」

 

監視が話しかけてくる。その目には憎悪がこもってる。

 

俺なんかしたっけ?

 

「・・・ここ3日程【682】が貴方に合わせろと暴れていまして・・・奴は収容室からは出ていませんが博士が2人、職員が5名程食い殺されています。ここの監視は私が3人目です。」

 

「な、なんかすまん。」

 

「・・・さっさと終わらせてください。」

 

そう言うと監視はカードキーのようなものを取り出し、壁に設置されたパネルにカードキーを当てると扉が横にスライドして開いた。

 

あんだけロックしてあるのにカードキーだけかよ・・・

 

「・・・・意味がないですから。」

 

こいつも心を読んできやがったよ・・・

そんな顔に出やすいのかな、俺?

 

そんな事より、こいつも無駄だって分かってるんだな。

 

なぜ無駄なのかはすぐ分かる。

 

俺は監視の横を通り部屋に入る。

 

それと同時に強烈な激臭が漂ってきた。

これは【682】の収容方法に関係している。

【682】は縦5メートル、横5メートルの強酸で満たされたプールに沈められている。そのせいでこの部屋にはいつも激臭が漂っている。

 

あいつはまだ出ていない。後ろを見るとすでに扉は閉められている。

 

もう、外には出れない。

 

「・・・・・ぅし。」

 

俺は覚悟を決め息を大きく吸い込み。

 

「クソトカゲェ・・・出て来いヤァ!?」

 

全力で叫ぶ。 部屋の中で俺の声は何度も反響し、響き渡る。

 

すると

 

酸のプールからコポコポと気泡が浮かんでくる。

 

俺は気泡が出てる位置をじっと見つめる。すると黒い影がだんだんと浮かんでくる。俺の動悸も影が大きくなるにつれて加速する。

 

思わず逃げてしまいたくなったが目を離したら余計に危険だ。俺は体の震えを止め影を睨む。

 

陰が最大限大きくなり、水面が膨らんだと思った瞬間

 

パァアン!

 

弾けた。

 

出てきたのはトカゲだった。

 

ただしサイズは4メートル近くあり、見た目は酸に浸かっていたせいで至る所の骨が見えている。しかし恐ろしいことに全身の酸によって溶かされたであろう傷がみるみる内に回復していく。

そう。この再生力こそ奴の不死身たる所以。

 

こうして俺の前に現れたこの巨大な爬虫類こそ、俺が知る限り最も強力なSCP。

 

『よく来た・・・忌まわしき男。』

 

「・・・おはよう。だいぶヤンチャしたらしいな。」

 

 

【SCPー682 不死身の爬虫類】だ。

 

 

 




今回使用させていただいたSCP
http://scp-wiki.net/scp-682
著者:Dr Gears 様

皆様のおかげでお気に入り登録が300人を超えました。様々な感想もいただけたのでこれからも頑張ります。


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SCPー682 ②

おっし。宣言通り投稿できました。


20xx年x月x日

【SCPー682 収容所】

 

プールから飛び出した【682】は俺を睨みつける。全身が酸によって溶かされたにもかかわらず、全く効いた様子はなくプールから上がってきた。

 

『………貴様が来るまでに数匹食らってやった……全員食えたものでは無かったから酸に溶かしてやったぞ……』

 

【682】は再生した声帯で、グチャグチャと音を立てながら声を発する。声自体も、カエルを潰した時のようなしゃがれた声をしており聞き取るのがやっとだ。

 

「……ハッ!ちゃんと掃除して偉いじゃないか。骨を見せてるのは新手のファッションかなトカゲくん?」

 

俺は何とか声を絞り出す。

実のところ内心くっそびびってはいるがSCP、特にこいつには舐められたくない。

 

『………ククッ。貴様だけだぞ……私にそんな態度をとれるのは。』

 

口を歪めて【682】は唸るように笑う。口の端には肉が付いているが、口の先の方はまだ再生しておらず骨だけなのが不気味さを加速させる。

 

一瞬匂いと見た目により吐きそうになってしまった。

 

「で、俺を呼んでたらしいじゃないか?そんなに寂しくなったのか?」

 

俺は全神経を【682】に向ける。気さくに話しかけてくるこいつは歩くだけでも人を轢き殺すことができる程の馬力がある。

 

【SCPー682】の特徴は全生命体の中でもトップクラスの高いスピード、パワー、反射神経を有している。

 

しかしそれだけなら問題はない。こいつの真にヤバい能力は圧倒的な【再生力】。

身体の八割以上を破壊されても瞬く間に回復するという。

 

例えるなら《傷を負った瞬間に回復する戦車》だ。

 

『………まあ、何だ。最近ふざけた博士が私を破壊したがっててな。私は……だんだん積もっていくのを感じたぞ。』

 

「…………何がだ?」

 

俺は足に力を込めつつ、【682】の返答を待つ。

 

【682】は俺の目を真っ直ぐ見ている。再生が完了していないがハッキリ言える。

奴は俺をまっすぐ見つめている。まるで………

 

『怒り………だ。」

 

品定めをするように。

 

その瞬間俺の全身の細胞が叫んだ。『そこに居たら死ぬ』

 

俺は考えるより先に横に飛んだ。

 

そして

 

『ーーーーーーーーーーーッ!』

 

さっきまで俺がいた位置を巨獣が走り抜けて行った。

 

有り余る力で踏み抜かれた鉄板でできた床は、ベッコリと凹んでいた。

あそこにいたらと思うとゾッとする。

 

「殺す気か!?」

 

『………なにを言ってる?』

 

【682】は俺の方に振り向き首を捻る。

可愛くねぇ……!

 

『そのために呼んだんだ。』

 

【682】はまた大口を開けて突っ込んできた。

 

こいつが俺を呼んだ理由は多分

ただのストレス解消だろう。

 

 

「クッソ……いいぜ、付き合ってやるよ!」

 

 

 

 

それからは命の削りあい…………などではなく

 

 

 

 

命の献上だ。

 

【682】の攻撃を完璧に躱せていたのは最初の10分だけ。

一撃ごとに精神力、集中力、そして体力を急速に削られていった。

15分ほど経つと躱しきれずに足の肉をえぐられた。

次は脇腹。

次は頬。

次は腕。

それを繰り返した。

 

体の至るところから出血し、血だるまになった俺はとうとう

 

グシャァ!

 

「……うっ、グアああああ!?」

 

とうとう左腕をまるまる噛まれ、捕まった。

 

「は…なせぇええええ!」

 

【682】はニヤニヤしながら噛む力を強めたり弱めたりして俺の反応を楽しんでいる。

何度も顎に蹴りを食らわせるが、弱り切った俺の蹴りなど効くはずもなく、【682】はビクともしない。

 

『……とうとう捕まってしまったなぁ……。」

 

【682】は必死にもがく俺をしゃがれた声でいやらしく笑った。

 

「………ッ。」

 

食われる。

最初にそう思った。だめだ。それだけはダメだ!

 

どうする?どうしたら逃げれる?

考えろ!考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!

 

そしてとうとう俺はある結論にたどり着いた。

 

対抗するからダメなんだ。

 

「………はなしてくれよぉ。」

 

『…………………はぁ?』

 

俺は情けない声で懇願する。

 

「死にたくねぇよ……見逃してくれ……。」

 

俺はもう完全に反逆する意思を無くし、懇願する情けない男になった

 

しばらく驚いたように見えた【682】の目つきが一気に変わった。

まるで汚物を見ているかのように覚めた目つきだ。

 

『完全に貴様に興味が失せた……酸に溺れて死ね。』

 

【682】は俺のことをほとほと呆れたように見る。

 

【682】はブンッと首を振ろうと力を込める。少し俺の体が浮き1秒後には酸の海に落ちているだろう。

 

これを待ってた。

 

「……ウッ、らあ!」

 

俺は即座に右拳を振り上げ。

何のためらいもなく【682】の眼球に突き刺す。

 

『………グッ。』

 

【682】は眼球を潰された痛みか、視界が片方消えた驚きからか、俺を酸の上ではなく、真反対の壁に放り投げた。

 

「ガハッ………!」

 

壁に打ち付けられた俺は意識を手放しそうになる。

しかし、何とか意識を繋ぎ止めてしゃがみ込んだまま【682】をみる。

 

【682】はゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 

ああ、くそ。これは流石にムリだ。

せっかく腕を解放できたのに逃げる体力は全く残ってない。死ぬ気で解放した腕も、骨は折れ、肉が裂け、皮一枚何とか繋がっている様な有様だ。

 

俺は最早抵抗する体力すらなく。【682】から目を離さないようにすることしかできなかった。

 

とうとう【682】は俺の目の前までやってきた。よく見ると、俺が潰した右目は既に回復していた。

 

『……驚いたぞ。……貴様らごときに傷を着けられるとは。』

 

「…………ぅ…ぁあ。…ペッ。」

 

何とか声を出そうとしたが上手く出ない。

俺は喉に詰まっていた血と痰を吐き出す。

 

「……やりすぎだ。マジで死ぬって……俺。」

 

【682】は俺を見ながら、またいやらしく笑う。

 

『私は…そうならないから……貴様を選んだ。これ以上壊れられたら楽しめなくなる……私は十分に楽しめた。今日のところは私が大人しくしてやろう。』

 

 

「………大人しくなるまでにどんだけヤンチャすんだよ。見ろこれ、千切れかけてるぞ?」

 

【682】の前で腕をプラプラさせる。

 

【682】はまたしゃがれた声で笑う。

 

『…目障りだな……千切るぞ。………気が変わる前に消えろ。』

 

【682】はそう言うと背を向けた。

 

やっと終わったが【682】の気分を害する前に部屋から出よう。恐らく博士も監視していたであろうから開けてくれるはずだ。

 

「……ッ。あれ?」

 

俺は立ち上がろうとしたが足に力が入らず、腰が上がらなかった。

 

『…………チッ。』

 

【682】から舌打ちのような声が聞こえ、【682】の方を見ようと思った瞬間。

 

「ん?ゲボォッ!!?」

 

脇腹にバキバキと音を立てながら【682】の尻尾がめり込む。

 

俺は床を何度もバウンドし、ゴロゴロと転がる。

殺されるのかと思ったが扉の前まで運んでくれたらしい。

扉が開き監視が出てくる。

 

監視は俺の脇を抱え引きずりながら外に運ぶ。

 

「……もう暴れんじゃねぇぞ…いい加減俺でも…しんどいからな。」

 

『…………私が外に出るよりマシだろう?』

 

そう。俺がこの仕事を最終的に受け入れるのは、こいつが俺に目をつけてからは【682】は一度も脱走しようとしていない。

 

俺が【682】の要望に応えなかった時点で死者の数は跳ね上がるだろう。

というか、それ以前に【682】のストレス発散は財団から俺への正式な任務なので、断った時点で何をされるか分かったもんではない。

 

「……クソがっ。」

 

目の前で扉が閉まる。

 

【682】の姿が見えなくなるのと同時に俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

3日後。博士が俺の部屋にやってきた。

何の用か聞こうと思ったが先に博士が口を開いた。

 

 

「貴様は……何なんだ?」

 

 




次回は主人公の過去の話になると思います。


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SCPー914

はじめに言っておきます。

更新遅れてすみませんでした。
さらに言うと今回完成度低めです。


20xx年x月x日

現在の時系列から約8年ほど前のある日。

 

 

 

俺はこの日、あるSCPの検査に呼び出された。

 

ここはSCP財団とかいうふざけたところで、死刑囚の俺たちは1ヶ月の間ここで勤務ののち外に解放され、刑罰を免除するというのを条件に監禁されている。

 

いざ来てみると訳のわからない化け物の相手をさせられている。そのせいでどれだけ死ぬ思いをしたか。

しかし、そんな生活も今日で最後だ。今日で30日。俺はこの任務さえ終われば晴れて開放って訳だ。

 

「今日、君に検査して貰うのはこのSCPだ。」

 

「うをッ!?急に開けるなよ!」

 

俺の目の前にいる博士がカードキーを壁のタッチパネルに当てると目の前の扉が開く。

 

俺はどんな化け物が出てくるのか分からないのでビクビクしながら扉の中を覗く。

 

中を覗いて一番最初に見えたのは、よく分からない機械?だった。

大きな箱が端についており、真ん中のゼンマイなどが丸見えの機械から端の箱へパイプで繋がれている。

 

「…………何だこれ?」

 

「ん?こいつか?こいつはなぁ……」

 

博士に尋ねる。パッと見た感じだと素人の俺には『ごつい機械』としかわからない。

博士はニコニコと人当たりの良さそうな笑顔でこちらを振り向く。

今回担当する博士は初見だが、ニコニコと人相もいいし、話し方にも好感を持てる。赤い宝石のはまった首飾りをかけているイカした博士だ。

今までの博士に比べたら人間的に当たりだと思う。

 

「こいつの名前は【SCPー914 ぜんまい仕掛け】だ!」

 

 

 

〜博士説明中〜

 

 

 

「………ここまでがこのSCPの異常性だ。」

 

博士からSCPの説明を受けた。

俺はザックリ説明を受けて分かったことがある。

今回はかなり安全なSCPだと思う。

なぜなら、このSCPは簡単に言うと『万能改造機』なのである。

 

このSCPの使用法は《入力ブースである左の箱に指定はないが何かを置く。中心の装置に取り付けられているノブを回す。セットされたノブの場所によって改造の結果が変わる》というものだ。

 

出力は5つに分けられており。

Rough、coarse、1:1、Fine、Very Fineに分けられている。

 

以前の検査らしいのだが、写真用紙に印刷された、モナ・リザのコピーを元に実験した結果を博士から聞いた。

 

Roughの場合では、モナ・リザのコピーは紙切れの写真用紙とインクの溜まりに変わったらしい。

 

coarseではプラスチックシートとインクの溜まり。

1:1ではウィトルウィウス的人体図のコピー。

Fineの場合は、写真用紙ではなくキャンパスに書かれたモナ・リザのコピー。

VeryFineでは木製のパネルに書かれたモナ・リザのコピー……しかも解析の結果によると、信じられない話だが16世紀初期に書かれたものらしい。

 

おそらくRoughに近ければ悪い結果。VeryFineに近ければ良い結果になると考えていいだろう。

 

「これは・・・すごいな。」

 

思わず口から感嘆の声が漏れた。

 

「ああ、すごいとも。ものの数秒で物を改造するだけでも利用価値は非常に高い上に、VeryFineともなるともはや改造ではなく、錬金術の域と言ってもいいだろう。」

 

博士はオモチャを見るような目で【914】を見る。まあ、それもそうだ。これだけの物ならそこらへんの砂利ですら宝の山になる可能性がある。

 

で、結局。

 

「………凄いのは分かった。結局俺は何をすればいいんだ?」

 

問題はそこだ。改造するだけの任務なのにDクラスの俺が必要な理由がわからないのだ。

 

「……………………」

 

「どうしたんだ博士?」

 

博士の動きが止まる。俺は博士の肩を叩き反応を見る。

 

博士は少し間を置き、ニコッと笑う。

 

「………なぁに。ただ私の実験に観客が欲しかっただけだよ。」

 

「ふぅん。」

 

まあ、今回の博士は問題も特になさそうだから良いけどさ。

 

 

〜15分後〜

 

 

それからは博士が用意していた物を【914】の中に入れ実験を始めた。

 

リンゴ、イヤホン、メガネ、マスク、ネズミ、拳銃、etc……とにかく博士は何でも【914】の中に入れていった。

俺は見ていただけなのだが、これがまた面白い。

【914】の力によって作られた物も面白いものが多かった。氷がアイスシャーベットになったり、宝石のついた指輪が巨大な岩になったりしたのにも驚いたが、それを見た時の博士のオーバーリアクションが面白い。

 

俺も博士に釣られゲラゲラ笑う。

ほんの一瞬だがここが地獄であることを忘れてしまうほど…………

 

「いや〜!あんた最高だぜ!こんなに笑ったのは久しぶりだよ。」

 

博士の背中をバンバン叩く。

博士はくすぐったそうに笑う。

 

「ハハハ!楽しんで貰えたようで何よりだよ!」

 

博士は好青年のような、気持ちの良い笑顔を浮かべる。

ここの職員は全員が死んだ魚のような顔をしているのに対し、この人はえらく気さくに笑う。

 

「実はさぁ。俺、今日でここ30日目で勤務を終えるんだけどさ……あんたみたいな人に最後に会えて良かったよ。」

 

俺は博士に手を差し伸べ握手を求める。

 

俺は今までこいつら全員の事を憎んでいたが、自然と自分から手を差し出してしまった。

自分でも驚きだが、この人になら友達になれるとさえ思っている。

 

「………ああ、私も楽しかったよ。本当に今日はありがとう……」

 

博士は俺の手を握ってくる。

 

 

「俺も楽かっ……うおっ!?」

 

 

礼を言おうとした瞬間博士が俺の体をグイッと引く。

 

博士の顔が急激に近づく。

 

博士は笑っていた。

しかし先程までのような笑顔ではなく、酷く歪んだ獣のような笑顔だった。

 

「何……を!?」

 

全身に悪寒が走る。

 

この手を離さなきゃヤバい。全身の細胞がそう叫んでくる。

 

博士の手を振り払おうとしたが、既に体制は崩されてしまっていて抵抗虚しく投げられてしまった。

 

「イテッ……て、え?」

 

尻もちをついた俺がいた場所は【914】の入力ブース内だった。

 

「…………ちょ、まっ!?」

 

急いで出ようとしたが目の前で扉が閉まる。

 

「な、何やってんだよ……博士!?」

 

俺は扉をドンドンと叩く。

しかし鉄でできた扉はビクともせず、虚しく音だけが反響する。

 

少し待っても反応がない…悪ふざけにしてはたちが悪すぎる。

 

「……この【914】には過去数度の調査実験が行われている。私と君みたいにだ。」

 

俺はもう一度扉を叩こうとしたところで博士の声が聞こえる。

俺は手を止めて博士の話を聞く。

 

「以前調査したものは拳銃、酒、モナリザのコピー、ツナサンドなどの他愛もないものばかりだった。まあ、私はその実験を担当していなかったから詳しいことは分からないがな。」

 

博士は淡々と語る。

何が言いたいんだこの人は……?

 

「ただ……実験結果が書かれていた書類に一つ、どうしても気になる実験結果が残されていてな。私はソレが気になって仕方ないんだよ。」

 

「はあ?……いや、おい…まさか、やめろ!!」

 

一瞬何を言っているのか分からなかったが、理解する…してしまった。

 

(こいつ……俺で)

 

 

人体実験するつもりだ。

 

 

 

「ふっざけんな!?出しやがれぇ!」

 

扉をガンガン叩く。

拳から血が出てきたが関係ない。俺はがむしゃらに扉を殴った。

 

「はっはっは!安心したまえ。【914】から正常に君が出ることができたら命を奪うような真似はしないよ。」

 

「ちょっと待て!?その言い方だと正気じゃなくなる可能性があるのか!?しかもその時は命の保証は無いって言ってるようなもんじゃねぇか!?」

 

外からノブを回す音がする。設定レベルを決めているのだろう。

 

 

「私は少し離れた部屋から見ているよ。幸運を祈っているぞ『残機』くん。」

 

 

 

バタンと扉の閉まる音がする。

 

それと同時に【914】が唸りをあげる。

どうやら改造が始まったらしい。

 

俺は抵抗をやめ座り込む。

博士への怒りや、気を許した自分への不甲斐なさなどの感情が渦巻いて、どうしたらいいか分からない。

 

「あと……1日だったのになぁ………」

 

あと1日で外に出て。普通に飯食って、普通に友達に会って、普通に暮らせたのかと思うと泣きそうになってしまう。

 

あの博士が1:1なんていう甘い設定にするはずがない。

おそらくVeryFineかRoughだろう。

 

「はあ……ま、いっか。」

 

俺は完全に諦め装置の中で横になる。

 

正直ここで働き始めて1週間くらいで死ぬ覚悟はできてたおかげか、死を案外すんなりと受け入れられた。

 

後悔はあるがどうでもよくなってきた。

唯一心残りがあるといえば俺がまだ童貞なことくらいだしな……所詮その程度だ死んだからってどうということはない。

 

そう考えると来世が何になるのか他のか楽しみになってきたな。

 

 

 

「死にたくねぇ……。」

 

俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから8年後

 

 

 

「で?それから?」

 

博士がぐいっと顔を近づける。

むさい男に顔を近づけられ強烈な嫌悪感を抱く。

俺は自分の部屋で博士と向かい合って昔話をしていた。

 

「それからって………特に大したことはねぇよ。俺は別にどこも変化なく【914】から出てきて、笑顔で歩いてきた博士ぶん殴って、いざ解放されるかと思ったら検査中に回復力が尋常じゃないくらい上がってて、SCPの検査に便利だからここに囚われてるってわけ。分かったか?」

 

俺はめんどくさくなり、一気に捲したてる。

 

「ま、待て待て!それじゃ、何か?【914】で不死身になったから財団に協力させられているってことなのか?」

 

何を言ってんだこの不細工は?

さっきからずっとそう言っているではないか?

 

「……いや…なぜ…財団は…つを…収容……」

 

博士が小言でブツブツ何かを呟く。

 

もうなんか博士の意識は俺から外れたみたいなので俺は【682】から受けた傷が開かないようにベットに横になる。

 

(そういえば……あの博士は何者だったんだろう?)

 

俺はそんなことを考えながら眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SCPー914 ぜんまい仕掛け】

 

SCPー914は巨大なゼンマイ仕掛けの装置です。

重さは数トン、18㎡の広さがあり、ネジ、歯車、その他ゼンマイでできています。

 

SCPー914の入力ブースにものを置き、ノブをいずれかの場所にセットしキーを回すとSCPー914はブースに入ったものを改造します。

セットされたノブの場所によって、改造の品質が変わります。

 

SCPー914での人体実験は禁止されています。

 

 

追記

 

Dクラス職員『結城 鬱』をSCPー914➁にするかは検討中です。

 

報告は以上です。

 

 

 




ストーリーが絡まったものを書くのが難しい……
一応これからも頑張ります。

http://scp-wiki.net/scp-914
著者:Dr Gears
実験記録著者:Dr Gearsらの合作


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SCPー2599

投稿遅れてすみません。

スト5とFGOにどっぷりハマってしまい書くことを後回しにしていました。
これからは早期投稿を前向きに善処します。


20xx年 x月x日

 

ガツッ!

 

「………ぐえっ!」

 

額に鋭い痛みが走る。

ベットで横になっていた俺の額に鋭角なものが突き刺さる。

 

あんまりにも急な一撃をくらい額をさすりながらベットから体を起こすとブサイ…博士が立ってた。

 

「……またあんたかよ。」

 

この博士はここ最近俺につきっぱなしの博士だ。暇なのか?

いい加減違う顔を見たいものだ。

 

博士も同じことを考えていたようで溜息を吐きながら俺の方を見る。

人の顔を見て笑うとはとことん失礼な博士だ。

 

「私だって貴様の顔なぞもう見たくもない。しかも、今回は私にはなにも面白みのない話だからな。」

 

「面白くないってお前……。」

 

博士はそう言って頭をかく。

面白くないってことは……危険度の低いSCPなのか?

それでもSCPを相手に取る俺には十分心身への負担があるんだが。

第一面白みを求められること自体おかしいと思うんだ。俺は。

 

「今度は何をさせるつもりだよ?個人的には清掃とかの楽な作業が良いんだけど?」

 

まあ清掃作業もSCPー173の例があるから安全とは言い切れないけど…。

できるなら【safe】クラスがいいなぁ。そうしたら多少は心に余裕が…

 

「安心しろ……今回は【Euclid】だ。」

 

博士はまたも心を読んできた

ノゾミハタタレター。

 

「しかし。」

 

博士が顔に苛立ちを浮かべながら俺の方を睨む。

 

「今回のSCPは貴様に対して敵意はない。私からもアレに命令することは許可されていない。正直に言ってしまえば貴様の行動次第では危険度もほぼゼロになると考えて良いだろう。」

 

博士はブスッとした顔でそう付け足す。

 

……一見ほっとする場面かもしれないが、博士は危険度が無いとは一言も言ってない。

完全に安全性が確証できないので油断は禁物だ。あくまでも相手は【Euclid】クラスの化け物なのだから。

 

「で、結局俺は何をするんだ?」

 

俺は覚悟を決め博士に問う。

 

博士は資料を机に置き

 

「【SCPー2599 不十分】を相手に会話を行ってもらう。」

 

そう告げた。

 

 

 

「ここが【2599】のいる部屋か………。」

 

俺は博士に連れられとある扉の前に立つ。

 

扉の前にはお約束の警備員が立っていた。

それはいつものことなのでそこまで気になるような事では無いのだが……おかしな点が一つある。

 

警備がザルすぎる。

 

パッと見てわかる設備は暗証番号を打ち込むであろうパネルのみである。

扉は鉄製の物ではあるが、【173】の時と比べても大きさも厚さも段違いなことがわかる。

俺も様々なSCPを見てきた。【Euclid】だって相当数見てきた。正直そこら辺の職員よりも多く見てきたという自負はある。

だからこそ言えるのだが『この設備はありえない』。

 

【Euclid】は『収容方法未確定』

つまり完全に収容することはできないが簡易的な収容は可能なのである。【Euclid】は【keter】に比べて危険度は低く設定されているが、どの収容所も【keter】と大差ない設備だった。

しかし目の前のこの扉は【safe】より多少マシなレベルだ。

 

「………本当にここなのか?」

 

思わず博士に聞いてしまう。

 

「言いたいことは分かるがここで間違いない。こいつ相手にはこれで問題ない。」

 

博士がどこか含んだ言い方をする。

 

博士の態度的にこれ以上聞いても無駄だろうと察し、俺は入る覚悟を決める。

 

監視はタッチパネルを操作し扉を開ける。

俺は覚悟を決め部屋の中に入った。

 

 

 

中に入ると少女が一人立っていた。

見た目は14程に見え顔立ちは整っており黒髪だ。見た感じ日本人のように見えるが……壁に付けられていたパネルに朝鮮系だと書いてあった。

 

「だれですか?貴方は職員の方ですか?」

 

少女は訝しそうな顔で話しかけてくる。

彼女からしたら見ず知らずの男が急に入ってきたんだ、そら警戒するわな。

 

「あー…まあ職員ではあるかな。驚かせてごめんね。」

 

俺はツバサの時のような変な緊張はせず言葉を返す。

確かな自分の成長を密かに喜ぶ。ありがとうツバサ。

 

「職員の方でしたか……それで今日は一体何しに来られたのですか?」

 

………会話が成り立つ。

正気は失ってはいないようだ。

だが【Euclid】の奴には173みたいな意味の分からない化者が多い。目の前の少女も今は大人しいが本性は分からない、俺を欺くための姿かも知れないからな。

 

いくら少女といえど俺の心がそんな簡単に揺らぐことはない。

 

「………俺はちょっとした仕事できたんだ。まあ、君とお話しするだけなんだけどな。」

 

俺は目の前の少女を最大限警戒しながら、かつ警戒させないように返答する。

 

目の前の奴は化け物【Euclid】なのだk……

 

「お話!私今まで質問攻めで飽き飽きしていたんです。ここの職員の方々は皆さん疲れているようで話しかけるのも悪かったし……いえ。今は関係ありませんね。お話ししましょう!好きな食べ物の話とか、学校の話とか、外の話とかいっぱい!」

 

少女は俺の手を急に取りピョンピョン飛び跳ねながら眩しい笑顔で笑う。

 

その笑顔に邪気などなくどう見ても年相応の……相応の…可愛らしい、お、女の子で……だ、だけど【Eucl……

 

プツン

 

 

「ごめ゛ん゛なざい゛ぃぃぃ!」

 

俺大号泣。

 

「ええ!?ちょっ、どうしたんですか!?泣かないでさい!」

 

「私の心が汚れてましたぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

前言撤回

俺氏。少女に完全に気を許す。

 

 

30手前のおっさんに少女の笑顔はダメだって。

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「すごく落ち着いた(^^)」

 

俺は5分ほど少女になだめられ正気を取り戻す。

まさかこんなに自分が異性に弱いとは思わなかった。確かに8年くらいむさい男達しか見なかったからなぁ……。あんな笑顔向けられたらそらおっさんの涙腺程度が我慢できるわけがない。

 

自分の少女に対しての弱さを再認識したところで彼女に向き直る。

 

見れば見るほどただの少女である……本当にSCPなのか?

 

俺は少々危険だが少女に検査のようなものを仕掛けてみようと思う。

 

「えっと………自己紹介してくれないかな?」

 

まずは相手のことを知らないとな。

正直これをして何か変わるとは思えないが彼女の名前を知らないと会話に困るしな。

 

しかし少女はなぜか申し訳なさそうな顔をしている。どうしたんだ?

 

「わ、私の名前は……ジーナ・チ□△○。」

 

「え?」

 

最後の方が不思議な発音で聞き取れなかった。

 

「ご、ごめん。もう一回言ってくれる?」

 

 

俺がそう頼むと少女はますます顔を曇らせ頭をさげる。

 

「……ごめんなさい。」

 

「え…ど、どうしたの?」

 

俺は急に頭を下げられた意味がわからずワタワタする。

え?てか俺のせい?だとしたら死にたいんだけど。

 

「私は……何もできないんです。いえ、何かしようとしてもズレてしまうんです。それを直すためにここにいるのに……結局私は変われてない。」

 

「…………よければその話詳しく教えてくれないかな?」

 

今の少女の言い方から察するに、恐らくそれがこの少女の異常性だろう。

俺は少女の悲しそうな顔を見て傷に塩を塗っているのではないかと不安になりながらも聞いてみることにした。

 

少女はおれのかおをみつめたあと、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「私にも詳しいことは分かりませんが…私は人に言われたことを断れないし、完璧にこなせないんです……自分で同じ行動をしようとした時は問題なくこなせるような簡単なことでも人に言われると途中までしかできなくなるんです。……でも逆に人に言われたことなら『ありえないようなこと』でも途中まではできるんです。」

 

「………『ありえないようなこと』て言うのは例えば何があるのかな?」

 

「前に職員の方から『空をとんでみせろ』といわれました……私も驚いたのですが私は結構高くまでジャンプしたんです……多分5メートルくらいの高さまで。」

 

「それは………。」

 

思わず唾を飲む。

目の前の少女はとてもそんな大ジャンプができるような体つきではない。というかかなり華奢な方だろう。

つまりこの子の異常性は『人に言われたことなら不完全だが遂行できる』ということだろう。しかも人の命令には逆らえないと……。

 

だが…それだけでは【Euclid】クラスに認定されるとは思えない。

 

「他にどんな検査をしたのかな?」

 

もう少し探りを入れてみる。

この子に敵意がないことは分かっているけど、危険性がハッキリしないと正直目の前の少女を信用しきれない。

検査の内容からどうして危険度が高いのか判明するかもしれない。

 

「他に……えっと…わ、私は前に……。」

 

少女は口をモゴモゴさせる。

何か思い当たったようだが話そうかどうか悩んでいるように見える。しかし、少女は俺の顔をチラッと見た後観念したように目を瞑る。

 

「…………以前大きなトカゲさんの前に連れて行かれたことがあります。私に職員の方がした指示は『SCPー682を200%死ぬまで攻撃しろ』というものでした。」

 

「……………!」

 

少女の口から衝撃の話が伝えられる。

だって普通信じられないだろう。目の前の少女があのオブジェクトクラス【keter】クソトカゲを相手に生還しているというのだから。しかも、俺ですら手も足も出ないような化け物を相手に財団は少女に攻撃しろと言ったのか……!

 

「………け、結果は?」

 

俺は今にも少女に色々問い詰めたいが、なんとか平静を保ち少女にゆっくり質問する。こんなに動揺したのは久しぶりだ。

 

「………私は部屋に入ってプールの中からトカゲさんを引きづり出して思いっきり殴りつけました。トカゲさんの肉片が飛び散って…それでも私は休むことなくトカゲさんを攻撃し続けました。殴って、蹴って、千切って、捻って、抉って……ありとあらゆる手でトカゲさんを殺そうとしました。………わ、私は…そんな事したくなかったのに……その時は無感情に、体が自分のものじゃないみたいに勝手に動き続けて………しばらくしたらトカゲさんが何か叫んだんです。そうしたら私なぜか気を失ってしまって……すみません。ここからは私にもよく分からないんです。」

 

 

 

「……………………。」

 

 

俺は今どれだけ間抜けな顔をしているだろう。

あのクソトカゲは一匹で軍や国どころではなく、人類を脅かす程の脅威だ。しかしその化け物を目の前の少女は『人に言われたから』という単純な理由で瀕死にまで追い込んだのである。

……あのトカゲのことだ。この少女の異常性を予測して、何か対抗策でもうったのだろう。

 

でもまあ……今の話で分かったことはある。

 

 

この少女は……間違いなく【Euclid】だ。

 

 

 

 

「気持ち悪いですよね……私。」

 

少女が俯きながらそう言ってくる。

その声は震えて泣き出しそうだ。

 

「人に言われたからってトカゲさんを殺そうとしたり…なのに当たり前のことはできなかったり……私は所詮『不完全』だから。」

 

目の前の少女に対して普通の人だったらどう声をかけるだろうか。

同情して慰めるか。それとも励ましてあげるか。

 

俺は……彼女に対して親近感を覚えた。

 

もちろん彼女の苦しみを共感したのではない。

彼女の疲れ切った心に対して言い知れぬ親近感を覚える。

 

自分でなんとかしよう、しなきゃ。とは分かってるけどどうにも出来なくて…争うことすらやめようとしている……。

 

そんな彼女の姿を見て俺は……彼女に対して

 

 

 

 

「気持ち悪いよ。」

 

 

 

 

最低な一言を放った。

 

 




マーリンをお出迎えして、やっと人権ゲットです。


SCP-2599。

本家(英語)
http://scp-wiki.net/scp-2599
著者:weizhong


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SCPー2599➁

皆様のおかげでお気に入りが700人を超えました。本当にありがとうございます。

これからもマイペースな投稿になると思いますがよろしくお願いします。


「気持ち悪いよ。」

 

少女に対して俺は言い放った。

彼女の目を真正面から見つめ、何のためらいもなく告げる。

少女は俺の顔を見たまんま固まってしまった。もしかしたら泣き出すかもしれないと思い覚悟を決めて少女の反応を待つ。

 

「.……………ははは。」

 

しかし予想とは違い少女は小さく笑う。

しかしその笑顔は、まるで向日葵のような愛らしい先ほどまでの笑顔とは違い、『ああ、やっぱりな。』というような悲しい笑い方だ。

 

 

「分かってる……つもりだったんですけどね。……でも…人に言われるとやっぱり少し応えますね……ははっ。私、私は………。」

 

少女が今にも消え入りそうなか細い声で言葉を紡ぐ。

顔からどんどん表情が消えていく。何もかも諦めたような生気のないこの顔。逃げることも、治すことも、戦うことも、弱音を吐くことも、希望を持つことも諦めたかのような顔。

 

この顔を俺はよく見る。

きつい検査があった日。人体実験をされた時、死にかけた時、死にたくなった時、死ねなかった時、鏡で見続けた顔。

 

 

『何で自分だけ?』

 

人と違うといことは時に何事にも耐え難い苦痛だ。何か特別な力を持っていたとしても人に受け入れられず、自分が望んでいない、活かせる場所がない……そんな時に自分の中に生まれるのは……深い絶望だ。

 

まさに目の前の少女はその絶望に今飲まれようとしている。

俺がそうさせた。

 

だから…………

 

「ジーナちゃん。」

 

「………………なんですか?」

 

俺は自分に指を向ける。

 

 

「俺の両腕を切り飛ばして。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の絶望を拭うのも俺の役目だ。

 

 

ジーナは俺に傷つけられた時よりも絶望的な表情を浮かべる。

そしてとうとう大粒の涙を流し始める。そしておそらく彼女の意思とは裏腹に彼女は俺に向かって歩き始める。

 

「なんで……そんなこと言うんですかぁ!!?」

 

あと5m

 

少女が絶叫する。

俺は逃げそうになる足を必死に押さえつけ彼女がくるのを待つ。

 

「いやだいやだいやだ!…したくないのに! でも、しなきゃ!またあの人みたいに殺しちゃう!逃げて逃げないで! だって言われたから!」

 

あと3m

 

彼女の頭の中で何かが鬩ぎ合っている。

どうやら前にも人を殺すように言われたことがあるみたいだな。……どうせDクラスだろうけど。

 

とうとう少女との距離が1m無い程に近づき、少女が手を振り上げる。

俺はくるであろう痛みを目を閉じて待つ。

 

「ごめん……なさい…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで時間が止まったかのように長く感じる。

まだか………まだかまだかまだかまだかまだか。

 

怖い、とてつもなく怖い。

自分の一部が切り落とされることが分かっている。

それがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。

 

それがすぐだったのか、それとも体感した時間と同じだったのかは分からないが…………

 

 

ヒュンッ

 

 

左肩に何かが走る。

 

恐る恐る目を開けた。

 

まず目に飛び込んできたのは体の右側。特に右腕が真っ赤に染まったジーナの姿だった。

 

次に見つけたのはジーナの足元にまで広がっている赤い液体。

 

そして自分の足元を見たとき見つけたのは………

 

「う、ああ……。」

 

自分の左腕だった。

 

 

 

 

「うッ……ぐああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

今まで体感してきた中でもトップクラスの痛みが左肩に走る。

 

腕の付け根部分からはありえない量の血が溢れ、まるで焼けた鉄板を押し付けられながらド太い釘でもうち来れているかのような痛みが永遠襲ってくる。

 

悲鳴をあげるつもりは無かったのだが、想像以上の痛みに声を抑えずにはいられなかった。喉が避けたのにも気付かず叫び続ける。

目からは止めどなく涙がこぼれる。

膝から崩れ落ち自分の切り口を手で抑えようとする。

意味もないのに額を何度も床に叩きつけ額からも血が流れる

血が抜けすぎたせいか視界が暗くなっていく。

 

まるで引っ張られたかのように後ろに体を預け

 

(…あ…ダメかも……。)

 

上向きに倒れこんだ。

 

 

自分からどんどん血が抜けてるのがわかる。

 

だけど、だんだん痛みも引いてきたぞ……ただ…眠い。

 

どうしようもなく眠い。

 

この眠気には勝てる気がしないなぁ。

 

あれ?なんで勝たなきゃいけないんだ?

 

 

 

だって痛かったし。疲れたから……

 

 

 

 

 

……あれ?俺腕切られた後何しようとしてたんだっけ………?

 

 

 

 

 

 

「……………さい。」

 

何かが聞こえた気がした。

 

気のせいかと思いもう一度闇に体を委ねようとした時。

今度ははっきりと聞こえた。

 

 

「ごめんなさい…!」

 

 

 

 

目を見開く。

そして思いっきり自分の傷口を殴りつける。

 

「…………いであっ!」

 

「……………ふぁ!?」

 

体をなんとか起こす。

 

あっぶねぇ!?寝るところだった!

 

ただでさえ女の子傷つけた上でトラウマだけ残して退場しようとするとか、どんな鬼畜だよ俺!?

 

ジーナは急に飛び起きた俺を驚いた顔で見つめる。

しかしそんな彼女に構う暇は今の俺にはなく慌てて隣にあった自分の腕を拾い上げ自分の傷口に本来あった形と同じように押し当てる。

 

「いってぇ!?」

 

さっきの気付が想像以上に効き、意識がはっきりしているため痛みをばっちり100パーセント感じる。

 

ただ……腕が切り落とされたの自体は初めてじゃないおかげか、痛みに慣れてくる。経験て大事だね!

 

 

ジーナは俺が何しようとしているのかわからず俺の肩を揺らす。

いてぇ!揺らさないで!

 

「な、何してるんですか!?そんな……傷に腕を押し当てたところで治るわけないじゃないですか!それより他の職員の方に言って早く病院に……!」

 

「俺は……死刑囚だ。俺が死んだところで誰もどうも思わねぇよ。」

 

ジーナが固まる。

俺の突然すぎるカミングアウトに思考が追いつかないようだ。

まあ確かに

 

いきなりきた男に暴言吐かれて、無理やり腕切り落とさせられて、その上「死刑囚でした」って、俺にも意味わからん。

 

「で、でも職員だって……さっき…。」

 

「……職員でもある!ただその話をすると長いからそれは置いといて…とにかく俺は死刑囚だ。生きている価値すらないドクズだ!……それにな………。」

 

俺は抑えていた腕を話す。

 

ジーナが信じられないほど目を見開く。

 

「う、うそ.……。」

 

先ほど切り落とされた俺の腕は僅か30秒程押し付けただけで本来あった場所にくっついていた。

 

「俺は………君と同じ化け物だよ。」

 

 

「ていう訳で俺は不死身とまではいかないけど、恐ろしく傷の治りの早い化け物になったんだよ。」

 

ジーナに俺が化け物に変わった経緯を話す。

特に面白い話でもないのだが、ジーナはとても真面目に話を聞いてくれた。

この子は見た目14位に見えるけど、精神的にはよく育っている賢い子だ。だからこそここまで悩み、苦しむのだろう。

 

「それはなんというか…かわいそう……。」

 

そう呟いたジーナに俺は指をさす。

 

「俺可哀想だろ?」

 

「は、はい。可哀想です。」

 

急に指をさされ驚いたようだが、ジーナはこくんと頷く。

 

「ただねぇ……世間は俺のことを『気持ち悪い』て言うんだよ。」

 

「そ、そんなことは………!」

 

否定しようとしたジーナに俺の傷跡を見せる。

 

切られた傷口は赤紫色に腫れ上がり、まだ繋がりきっていないところからは膿のようなものが出ている。

 

その傷を見てジーナは唾を飲み込む。

 

「気持ち悪いんだよ…俺は。」

 

そう。それが現実だ。

どんなに悲劇的なドラマがあろうと、どんなに本人が望んでなかろうと、どんなに本人が苦しんでいようと、そんなことを知らない人からしたら俺は『気持ち悪い』存在なんだ。

 

「ただ……辛いことをまた言ってしまうよ。ジーナちゃん……君も世間から見たら異物なんだ。これは俺たちの力じゃどうすることもできないし、もし治ったとしても世間の目は変わらない可能性だってある。それは分かるよね?」

 

ジーナは無言のまま頷く。

俺がまず最初にジーナにするべきことは現実を受け入れさせることだと思った。これが正解かどうかなんて俺には分からない。いや…きっと間違いなんだろう。本来なら『そんなことないよ。』とか『君はみんなと変わらないよ』とかの、優しい言葉をかけるべきなんだろう。

 

それでも俺は口を止めない。

 

「俺は『君のその体質は絶対に治る。』なんて無責任なことは言わない。もしかしたら一生その体質と付き合っていかなきゃいけないかもしれない。……だから、少しだけ気持ちが楽になる方法を教えてあげよう。」

 

「少し楽になる……ですか。」

 

ジーナが首をかしげる。

 

そう……我が母国の若い世代が得意としていた……。

 

 

 

「『愚痴る』ことだ!」

 

説明しよう。

愚痴るとは愚痴をこぼすこと!以上である!

 

「ぐ、愚痴るですか……。具体的に何をすればいいんですか?」

 

しかしジーナは『愚痴る』がよく分かっていないようだ。

 

「ん?…まあ、嫌な奴の悪口言ったりとにかく不満なことがあれば口に出せばいいんだよ。日本のドラマとかアニメでは海に向かって叫んだりしてるけど。」

 

まあ、あれを『愚痴る』と言って良いのかは知らないけど

 

ジーナはそれでもモジモジしている。

 

「ひ、人の悪口とかよく分からないですし…そ、それに……少し恥ずかしいかな…なんて思ってたり……。」

 

ふむ…確かにジーナは見た感じ感情を表に出すのはそんなに得意では無さそうだな。

どれ……手本を見せてあげようかな。

 

「じゃあ俺がやるから真似してみてね。コツは恥ずかしがらないことと、感情を爆発させること。じゃあいくよ。」

 

俺はそう言うと立ち上がり、息を全部吐いたあと思いっきり吸い込む。

 

そして目を閉じてここに勤めてきた8年間を思い返す。

 

あの日にはこんなことがあった。また別のあの日にはあんなことも起きた。そのまた別の日にはまさかあんなことが起きるなんて……休みをいつ貰ったのかも忘れ、死にそうな顔で作業し続けた。今となっては全部俺にとって忘れることのない思い出になった。そんな俺の8年間。

 

もう………本当に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここの職員の奴ら全員死に晒せぇえええ゛え゛え゛え゛ぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力で叫ぶ。

先ほどの俺の叫び声など比較にもならないほどの怒号。

その声はなんども部屋の中で反響し、声の力なのか机の上の花瓶も倒れた。

 

これまで溜め込んできたものを全てをぶちまけるように、怒りや悲しみその他もろもろを詰め込んだ俺の全力の咆哮。

 

何度も俺の声は部屋の中で反響し、音が聞こえなくなったところで息を一つ吐き

 

「ふ〜……スッとしたぜ。」

 

体の中に溜まった鬱憤全てを吐き出せたのか、スッキリとした良い気分になり世界も色付いて見える(なお無機質な室内)

 

俺はジーナの反応が気になり目をやる。

 

「す、すごい………。」

 

ジーナが目を見開いて俺のことをじっと見つめる。

それだけではなく、パチパチと手を叩いて目からは涙を一滴こぼす。

 

「あんなに…あんなに心に響く声は初めて聞きました。……まるであの一声から貴方の苦労の8年間が見えてくるようでした………。」

 

ジーナはその後も涙をポロポロと流しながら俺の事を哀れみと尊敬の入り混じった瞳で見つめる。

 

今更ながら再確認したことがある。

 

 

(この子は本当に良い子だ。)

 

 

常人ならどん引いて当たり前の光景だったという自負はある。というか俺もめのまえでやられてたら引く自信がある。

しかし彼女は俺の不恰好さより、言葉に詰められた思いに意識を向けた。今時ここまで相手を思える子供……いや、人間は珍しいだろう。

 

「………ジーナちゃんもやってみたら?」

 

「わ、私がですか!?無理です無理です!」

 

何気なぁく進めてみたのだが超全力で断られた……あれ?なんで中学の時に女子からフラれた時のことを思い出したんだろ…俺。

 

「……そんなに嫌かなぁ?」

 

俺は少々傷つきながらも何故か聞いてみる。結構良い案だと思っているので理由だけは聞いておきたい。

 

「いえあの…嫌なわけではないんですけど………何というか……。」

 

ジーナは何か言いたげにモジモジしだす。

 

「何というか?」

 

モジモジしているジーナに顔を近づけ言葉を聞き取ろうとする。見方によっては少々危ない光景だが俺にロリコン特性はついていないので至って健全である。

 

 

 

 

「恥ずかしいかな……なんて。」

 

 

 

ジーナは照れくさそうにはにかみ、頬を染め呟く。

 

俺はジーナから一歩離れる。

 

いや、特に離れたのに理由はないんだけど……なんかあの子の近くにあれ以上いたら何かに目覚めそうで怖かったから距離をとってみた。

 

「ま、まあ。恥ずかしいのは仕方ないか……じゃあ俺みたいに大声じゃなくて良いから俺に対して気に入らないこととか、してみたいことを話してみて。というかそれが本来の『愚痴る』だから。」

 

よくよく考えたら俺のは『愚痴る』じゃなくて『吠える』だしな。

まあ重要なのはいかにストレス発散できるかだし、問題はないよね!

 

 

 

「えと…あの、じゃあ…と、友達に…家族に合わせてほしい…です。」

 

 

ジーナは少し恥ずかしそうにそう呟いた。

 

それは俺のような邪念や恨み辛みが篭った汚い感情によるものではなく、一人の少女の愛おしい願いだった。

 

そう。これで良いのだ。

 

もし聞いてくれる人がいるのなら、どんなに小さな不満でも良いから吐き出す。それでその人が変われるわけではない。救われるわけでもない。ただ楽にはなる。

 

所詮その場しのぎだという奴もいるが……この子に関してはその『その場』をしのがなければならないほど追い詰められているのだ。

 

こうして愚痴をこぼしている間は自分のことを正当化することができるのだから、今の彼女にはちょうど良いだろう。

 

「い、今みたいな感じですか?」

 

「………うん。そんな感じだ。じゃあ今度は俺の番だな。」

 

おれはもう一度息を大きく吸い込み

 

「休みをよこせえええッ!!」

 

もう一度叫ぶ。

 

そして次はジーナの番だという風に目線を向ける。

 

「もっと…おめかししたいです。」

 

そしておれの番。

 

「keterを3日連続で続けたりするなあああ!」

 

そしてジーナ。

 

「そ、外に出たいです!」

 

ジーナの声が少し大きくなる。

 

俺「クソトカゲを早く始末しろおおおおお!」

 

ジ「暖かい布団で寝たいです!」

 

俺「博士は美人だけに絞れえええええええ!」

 

ジ「ゲームで遊びたいです!」

 

俺「連続勤務2000日ってどういうことだあああ!?」

 

ジ「着替えまで監視するのはやめてください!」

 

俺「この変態どもが何しとんじゃああああああああ!?」

 

 

 

 

そんな感じで俺とジーナは10分近く叫び続けた。

 

声も枯れ果てて喋るのすらまともにできなくなった頃、部屋の扉が開き例の博士が入ってくる。

 

「………ご苦労。今日の作業はこれで終了だ…ついてこい。」

 

「………もうか。」

 

俺はジーナの方を振り向く。

 

ジーナは黙っておれを見返してくる。

 

「あぁ〜……その…まあ何だ……。」

 

何か話そうと思っていたのだが言葉が出てこない。

こんな時に自分のコミュ力の無さを後悔する。

 

しかし

 

 

「またあってくれますか?」

 

ジーナがそう言ってきた。

彼女にトラウマになるような辛いことをさせてしまったような俺に対して彼女は真っ直ぐ俺を見てそう言った。

 

「…………ああ。絶対にまた来るから。」

 

俺は少し照れくさくなり目線を逸らしながらもそう言った。

 

俺はその後は何も言わず部屋から出る。

 

そして俺とジーナの短いような長いような1日は驚くほどあっさり終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談になるが、後日ジーナのもとに訪れるとフカフカの布団と中古のゲーム機、数枚の衣服が増えていた。

 

頼んでみるもんだな………。

 

 

 

 

 

 

 

 



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SCPー261①

テストがあったので投稿遅れてしまいました。
今回は生存報告も兼ねて、話がまだ中盤ですが投稿させていただきました。
しかし、今回はもっと重要な話があります。

それについては後書きに書きますので良ければ見ていってください。


20xx年xx日 AM 3:30

 

俺は今日も今日とてSCPの検査にかりだされていた。

いつも通り朝3:00に起き、身支度を済ませ、大食堂で飯を食い、検査場所に移動する。何てことはないいつも通りの毎日。

今日俺たちが連れてこられたのは、この施設の二階に設置してある『職員休憩室』だ。

 

今日の俺には余裕がある。

いつものように冷や汗を書きながら身構えることも、虚ろな顔でため息を吐くこともない。

 

「〜〜〜〜♪」

 

「珍しいな。あんたが鼻歌歌うなんて。大体いつも意味分からん言葉ブツブツ言ってんのに。何だっけアレ?『オキョウ』とか言ったか。」

 

「ん?まあな(笑)」

 

隣にいる無精髭を生やした体格の良い米人が話しかけてくる。

自分でも気づかないうちに鼻歌を歌っていたようだ。

 

「今日あんたの担当何体だよ?ちなみに俺は最悪…4体だ。」

 

ここでは1日に複数体担当させられることがある。

基本は多くても3体なのだが、彼の4体はとてつもなく多い数だ。おそらく担当するはずだったやつが死んだかなんかで、彼に仕事が回ってきたのだろう。

まあ俺は一時間おきに一体担当させられた日もあったけどな……20体目で気を失ったんだっけか。

 

「俺は今日2体だ。しかもどっちも【safe】な上に初見じゃない。俺にとっては休日と変わらんな。」

 

「まじかよ!?くそお一体そっちで引き受けろよ……。」

 

絶対ヤダ。

第一俺が得た情報も、俺の涙ぐましい努力のおかげだ。この施設の博士とD職員全員俺と同じく不幸になって仕舞えば良いんだ。

 

「貴様たちは騒いでないで話を聞いたらどうなんだ………。」

 

目の前にいる初見のメガネをかけた博士が俺たちに対し、ため息まじりにそう呟く。

 

「ああ聞いてる聞いてる。」

 

「俺は聞かなくても大体わかるし。」

 

米人が適当に返事をし、俺は俺で適当に流す。

 

「ほお……ではこのSCPが何かを説明して貰おうじゃないか。」

 

博士はムッとした後、メガネを触りながら俺に答えを求めてくる。

ふーむ……俺の事が初見だということは下っ端か新入りだな。DクラスごときがSCPについて詳しく知っているはずがないとたかをくくっているのだろう。

 

俺はめんどくさく思いながらもSCPの解説を始める。

「はあ……いいぜ。こいつの呼び名は【SCPー261】魔法の自動販売機だ。」

 

博士がギョッと目を見開く。

俺は畳み掛けるように言葉を続ける。

 

「このSCPー261は、正面のグラス・パネルのない大きな黒い自動販売機に見え、右側に小さなキーパッドがある。SCP-261は横浜で回収された。SCPー261は、インターネット上で流布していた「魔法の自動販売機」に関する「都市伝説」の調査の後、財団の目に留まった。」

 

博士がぽかんと口を開ける。

 

隣でそれを見た米人が腹を抱えてゲラゲラ笑っている。

 

「SCPー261に金銭が入れられて、3桁の数字をキーパッドに入力すると、SCPー261はランダムなアイテムを販売する。SCP-261は円以外の通貨を受け付けず、拒否された通貨は返却口に堆積された。これらの販売物が出現する方法は不明。ドアが開いている時や内部に記録機器を配置した時は、SCPー261は動作しない。………満足か?(ドヤァ」

 

博士は手に持っている資料を何度もペラペラとめくっては同じところを読み返している。

 

俺はドヤ顔で博士のことを見つめる。

 

やがてゴホンッと咳を一つ。

 

「よ、よく知ってるじゃないか。どこで知ったのかは知らんがそういうことなら話は早い。これから君たちにはこの自動販売機で食品、飲料を計10個ずつ買ってもらう。必ず手持ち金は使い切るように。検査はそれで終了だ。」

 

博士はバツが悪そうにそう告げる。

 

やっぱりな。

前に担当した時とほど同じような任務だ。

 

博士は手に提げていた袋からジャラジャラと小銭を取り出す。全て500円玉のようだ。俺と米人に100枚ずつ配られる。

 

俺は見慣れているとはいえ、あまりの数にギョッとしてしまう。米人はなんかスゴイキラキラした瞳で五百円硬貨を眺める。

 

「日本人スゲェ……こんな緻密な作りの硬貨を大量生産してるのか……何で逆にあんたみたいに大雑把な人間が日本人なのかが分からん。」

 

日本人を褒めつつ、俺だけけなすのはやめろ。

 

それにしても………数が多い。

 

前は10枚ほどだったのに対し、今回はその10倍………何だろう嫌な予感がする。

 

 

「ほら……さっさと始めちまうぞ。」

 

俺は少しだけ緊張しつつ、SCPー261の前に立つ。

 

このSCPの使い方は先程言ったように、小銭を入れ、適当な数字をキーパッドに3桁打ち込む 。

金額、数字に応じて出るものは異なってくるが危険度は低いものが多い。

 

俺は小銭を入れ適当に3、4、8と特に意味もない数字を打ち込む。

 

しかし俺はこれで何が出るのか実のところ把握していたりする。

勿論、前に検査した時に得た情報だ。

 

出てきたのは菅に入ったダイエットコーラ。

プルタブに指を引っ掛け、引っ張るとカシュッと耳当たりの良い音を立てて、飲み口が開く。久しく聞いてなかったこの音に、少しばかり感動する。

 

俺は手に腰を当てて、グイッと缶を煽る。

その瞬間、口と喉の奥で炭酸が弾ける。痛くすら感じるが、この痛みが懐かしくて更にグビグビと飲み進める。

 

そして缶一本からにしたところで口を離し

 

「……………カアァ〜〜!」

 

喜びの声を漏らす。炭酸は強めだが、この無駄に甘ったるい、懐かしい感覚の飲み物に言い知れぬ喜びを覚える。

久しぶりに飲んだら、やたら美味く感じるのは何故だろう。

 

米人はゴクリと生唾を飲み、俺を見ている。

そして「俺も!俺も!」とか言いながら500円玉を取り出し自販機に入れる。

俺の位置からはどの数字を押したのかはよく見えなかったが、ガコンと音がなり、米人が取り出し口に手をツッコミアルミ缶を取り出す。どうやら俺と同じ飲み物ではあるようだが

 

「おっシャァ!出た出た!どれどれそじゃあ早速一口………。」

 

米人はプルタブを引っ張り飲み口を準備すると、缶のなかに入った飲料を思いっきり煽った。

見た感じ日本の飲み物のようだ……間の表面に商品名が書いてある……ええっとぉ………。

 

 

「グェロォォマアズゥウウ!!?」

 

青汁だった。

 

すげえな…この自販機、青汁とかも出んのな。米人は短い悲鳴をあげながら青汁を吹き出した。まあ流石に外人は青汁を飲み物として認識できるかも微妙だしな。俺でも間違いなく吐く。

 

「な、何ダァこりゃ!?まるで数多の薬草を煎じて湯に溶かし、持てる限りの青臭さを前面に押し出したかのような飲み物は!?てかアンタさっきから腹抱えて笑ってんじゃねぇよ!」

 

理解力すごいなおい。

米人は口から青汁を滴らせながら俺たちに指を向け声を荒げる。

 

「すwみwまwせwん」

 

俺は米人の反応が面白くて腹を抱えてゲラゲラ笑う。

見ると博士も口元を押さえてプルプル震えている。そらそうだ。あれを見て笑うなってほうが無理な話だ。この施設にいてこんなに笑ったのは久しぶりだ。

 

「くっそ〜……次はあんたが買えよ。あと、前に買った奴はダメだかんな!」

 

「分かった、分かった。」

 

どうやら米人は俺にひどい目に会うことを期待しているようだ。。

完全に自爆しただけなのになあ。

 

ふう……しかし俺は8年間もこんなクソみたいなブラック企業で生き続けているんだ。今まで生きてこられたということがあり、運に関しては相当な自信がある。

 

俺は五百円硬貨を自販機に投入し1、7、3とてきとうな数字を入力する。

261は少し機械的な駆動音を立てた後、取り出し口にガコンと音を立てて、商品を落とす。

 

俺は取り出し口に手を突っ込み、商品を手に取る。

 

触った感じ飲み物ではなさそうだ。この自販機からは飲み物だけでなく、数多の食品も排出される。前だったらガムとかスナック菓子などの菓子系が多いイメージだったな。

 

俺は躊躇うことなく取り出し口から自分の手と共に、商品を取り出す。そして全貌が明らかになった商品。

その形は何と………

 

 

「……………え?」

 

 

 

男性器の形をしていた。

 

 

しばし時が止まる。

俺も博士も米人も俺の手に握られたナニかに目線を釘付けにして固まる。ナニの形をしたそれは16センチほどの長さで、表面にはアルミホイルが貼られている。少しアルミホイルを剥いでみると中にはチョコレートが入っており、甘い匂いが鼻をくすぐる。

 

なるほどなるほど……つまりこれは。

『チ○コの形をしたチョコレート』てことか。

 

俺は大きく息を吸い込み

 

「下ネタじゃねぇか!!」

 

「うわあああああ!!?」

 

思いっきり米人に投げつけた。

 

「な、何すんだお前ゴラァ!!?」

 

全力で投げつけたのにもかかわらず、米人はチョコを砕かないように器用に受け止め、汚いものを持つようにチョコを摘んで持つ。

 

「アンタなんてもん投げつけてくんだよ!どうすんだよ!?俺持っちまったよ!」

 

俺はフウと息を一つ漏らす。

 

「どうやら……それはチョコレートみたいだ。俺でさえここに来てからチョコなんか数度しか目にしたことがない。お前だって久しく食べてないだろ?」

 

俺は遠い目をしながら語りだす。

 

「ま、まあ確かにチョコなんて久しく食ってないけどさ……それがどうしたんだよ?」

 

米人は首をかしげながら俺に真意を聞いてくる。

 

俺は親指を立て、爽やかな笑顔で笑いかける。

 

 

 

「食えよ。俺からのプレゼントだ。」

 

「ふざけんなぁあああああ!!」

 

 

米人は俺に向かって、汚物型チョコを向けて突貫してきた。

 

あいつの体格に組み伏せられたらさすがに逃げれない。ここは何が何でも逃げ切らなければ。そうでなければあの尾筒型のチョコを口に叩き込まれる。

俺は筋力は平凡だが、体力と逃げ足には自信がある。あいつが疲弊したところでチョコをあいつか博士の口に叩き込む。その為には長い鬼ごっこが必要になる。

なぁに逃げ切っても構わないのだろう?

 

 

 

〜5分後〜

 

「捕まえたぞオラァ!!」

 

「は☆な☆せ!」

 

あっという間に捕まってしまった。こいつプロレスラーみたいな体格してるくせに足も速く、体力も尋常じゃない。

 

「へへ…こちとらラグビーで飯を食うのが夢だったんだよ。あんたなんかに逃げられるほどやわな鍛え方してねぇよ。それにとあるおっさんから特殊な呼吸法も教えて貰ってるからこのくらいじゃ息切れ一つしないぜ。」

 

ちくしょう。どこの英国紳士だよ.

 

米人は俺の上に馬乗りで座っている。

まるで丸太のような足で腕をがっちり押さえられており、必死に抵抗するがビクともしない。

 

米人は俺の口を左手でつかみ、無理矢理口を開かせる。

そして右手に持った汚物型のチョコの照準を俺の口に合わせる。

 

「んおおおおおおおおおお!!?」

 

俺はジタバタともがき苦しむ。あれはチョコレートだと頭では分かっているのだが………あれを食ったら男として何かを失う。

 

「さあ……食えやあ!!」

 

「のおおおモゴォ!!?」

 

俺の口にチョコが押し込められる。

どうやら結構良いチョコのようで、非常に香りも高く、上品な甘みでうまい。

しかも、口の中で勢いあまり砕けたチョコの中からどろっ何かが溢れてくる。

これは………ホワイトチョコだ。溶けたホワイトチョコが出てきやがった。

 

口の中に広がる甘みの楽園と、脳内で出来上がった地獄絵図により頭がパンクしそうになる。自分の中で何かが砕けた音がする。

 

チョコを食べ進めるのと同時に、体から力が抜けていく。

 

あ、あれ?目から何かが溢れてくるなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

この後、部屋の中で一人の男は『お婿にいけない…。」と泣き続け

 

一人の男は、「男の口にアレを無理やり突っ込むって……俺なにやってんだ……。」と後悔し

 

一人の男はあまりの見苦しさに吐き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。重要な話というのはですね………
お気に入りが1000人を超えました!
実は総合pointが1000超えた時点で報告しようと思ったのですが、前にランキングの30位以内にランクインしたことがありまして、爆発的にお気に入りが増え、気付いたら1000人を超えていました。
この作品を投稿し始めた当初は30人が目標だったので、非常に驚いています。
よければこれからも皆さん読んでいただけたら嬉しいです。
本当に読んでいただいてる皆様には感謝しています。

今回のscp
SCPー261 著者名 Dr Gears
http://www.wikidot.com/user:info/dr-gears




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SCPー261②

約2ヶ月ぶりの投稿……遅れてしまい本当に遅れてしまい申し訳ありません。
違うんです。地球防衛軍とモンハンが悪いんです。

ほんと許してください!なんでもしますからぁ!


20xx年

前回のあらすじ:男たちの熱いレスリング♂

 

俺たちは正気に戻り、自分たちの行いにひどく後悔しつつ実験を再開することにした。

 

「……次は俺か。もうこんな任務さっさと終わらせちまおうぜ。」

 

米人は500円を袋から取り出すとおもむろに投入口に入れる。

そして適当な数字をピピピッと押す。先程から汚物を吐き続けていた博士もなんとか平常心を取り戻したのか、口をぬぐいながら俺の隣に立つ。

 

「うぷ…………これで何本目だ?」

 

「これで5本目だ。管理者のくせに把握していないでどうすんだよ。職務怠慢か?」

 

俺は溜息をつきながらヤレヤレと首を振る。

 

「誰のせいだと……。「お?なんだこれ。」

 

博士がなにか言いかけたところで商品が出てきたようで、米人が缶を取り出す。

 

見てみると黒い缶で、中に何が入っているか判別できない。

 

「なんだよそれ?」

 

「分かんね……とりあえず飲んでみるか。」

 

米人はカコッと缶を開け、口元に運ぶ……が寸前で止まる。

 

そして顔を思いっきりしかめたと思ったら缶を捨てる。

捨てられた缶からはドロッと少し黄ばんだ色の液体が漏れ出す。

 

米人は鼻を抑え缶を睨みつける。

 

「いきなり缶を投げ捨ててどうしたんだ?」

 

俺は米人の行動がいまいち理解できずに首をかしげる。

 

「おい、あんた!食品以外が出るなんて聞いてねぇぞ!?」

 

米人は俺に向かっていきなりキレる。

俺は不思議に思い、米人が投げ捨てた缶を見てみる。

 

別に不思議なことは無いように思ったが、どこか嗅いだことのある匂いが部屋に漂う。

 

「もしかして…………。」

 

俺は黄ばんだ液体に鼻を近づける。

すると鼻の奥を貫くような刺激のある匂いが液体からしてくる。

 

間違いないこの匂いは

 

「ガソリンじゃねえか!」

 

米人がキレた様子で缶を蹴飛ばす。

彼の丸太のような足で蹴られた缶は空中で粉微塵になり、あたりにガソリンをまき散らした。

 

こえ〜……この自販機ガソリンとかも出てくんのかよ。

 

俺が以前検査した時には10個の内ほとんどががスナック菓子や、飲み物だったので油断していた……1個だけヤバイのが出たがそれ以外は至って安全だった。相手はあくまでSCP。もっと注意してかからないとな。

 

俺は米人にもっと注意するように声をかけ、自販機の前に立つ。

 

俺は袋から500円玉を取り出し緊張しながらもボタンを押す。

押した番号は263。特に意味はない。

 

ガコンと音を立てて取り出し口に商品が落ちてくる。

 

恐る恐る手を突っ込み、商品を触れる。

触った感じからして缶のようだ。

手を引き抜こうとしたが、相手がscpだと自覚し直してしまったためか体が固まる。

 

(またガソリンとかじゃねぇよな……ええい、どうとでもなれ!)

 

思い切って手を引き抜く。

俺の手に握られていたのは緑色の缶だった。

ラベルには日本語でデカデカと商品名が記されているため、一応日本の商品みたいだが……

 

 

 

『3種の緑色ピーマン100パーセント生搾りスパークリング!』

 

 

 

(の、飲みたくねぇ……)

 

見るからに不味いことは確定している。さっきのガソリンよりも危険なんじゃねぇのかコレ?

 

商品名は日本語で書かれているので米人は「なんだこれ?」と訪ねてくる。

 

なので俺は旨い酒だと言って米人に渡すと彼は嬉しそうに受け取り、缶を開け一口煽る。

 

 

「ボブドベランチュ!!?」

 

 

結果、彼は青汁の時の数倍部屋を転げ回った。

 

 

 

 

ここからは順調に検査が進んだ。

 

 

7本目……米人は謎の缶詰を取り出す。

パッケージが英語なので読めなかったのだが、開けて見ると肉のような謎の個体が出てくる。非常に美味だったが何の肉かは結局分からなかった。

 

8本目……今度は俺のよく知るお菓子が出てきた。

ただパッケージには『やんや○ぼー。ピーチ味』と書かれていた。意外にイケた。

 

 

 

 

 

「よし。じゃあ次は俺か。」

 

「ちょっと待て。」

 

9本目を買おうとした米人に博士が声をかける。

 

「なんだよ?さっさと終わらせて次の検査に行きたいんだけど?」

 

「はぁ〜……お前ら忘れているかもしれないが、私は『金を全て使い切るように。』と言ったはずだぞ?」

 

博士はため息をつきながらそう伝える。

 

そんなこと言われたっけか?全く覚えていない。

第一気づいていたのなら、もっと早くに行って欲しいものだと思う

 

「おいどうすんだよ?まだ俺とあんたを合わせて…………何枚だ?」

 

「今まで8本買ったのなら、残り192枚。96000円残っている。」

 

博士が簡単な計算をしてくれる。

この程度の計算でドヤ顔をしている博士にイラっとしながらも、袋から小銭を鷲掴みする。そして自販機の前に移動し硬貨を連続投入していく。

 

「残ってるんだったらまとめて使うだけだよ。俺が後からもう一本買えるように500円だけ残して使い切っちまおうぜ。」

 

「まじかよっ。めんどくせー……。」

 

米人もイヤイヤながら手持ちの袋から500円硬貨を纏めて取り出し、次々と自販機につぎ込んで行く。

 

 

 

数自体は結構あったがさほど時間を取らずに100数十枚の500円玉を入れ終わる。

 

「数字はどうする?」

 

「うーん……特に考えてないけど、まあ俺の誕生日に合わせて1、1、4にするけど構わないだろ?」

 

米人の質問に俺は一言「別にいいぞ」とだけ返す。

すると米人の男はポポポンとパネルをタッチする。

 

今更だが投入した金額によって出る内容は変わるのか?

90000円越えの商品……500円でガソリンが出たりするのに、100倍以上の価値のものってなんだ?

 

ベチャッ

 

投入口に何かが落ちた音がする。

 

 

それは今までの固形物が落ちたような音ではなく、何か液状のような物が落ちたような……そんな音だった。

 

 

ベチャ べチャ

 

音は一度だけでなく、何度も不定期な感覚で続く。

聞くだけでその音は耳の奥をかき回されたような不快感が襲う。

 

嫌な予感がする。

カラダ中に鳥肌が立ち、寒気がする。

全身の細胞が逃げ出せと叫んでいる。

歯が震えガチガチと音を立てる。

 

何が落ちているのかなんて分からない。どんな色なのかも検討がつかない。

 

ただ何かが来る。

 

俺は泣き出したくなるようなこの感覚に覚えがある。

今まで何ども体験した。

そしてその後は必ず死にかけてきた。

 

俺がこのくそったれな施設で働き始めてから8年間。

 

この感覚を感じた後には

 

 

 

決まって【keter】の前にいた。

 

 

 

 

ガタン

 

取り出し口の蓋がひとりでに開く。

その瞬間、異臭が辺りに漂い始める。

米人と博士も異変に気付いたようで自販機から距離を取り注視する。

 

ソイツが取り出し口からずるりと出てくる。

 

思わず絶句した。

今まで俺は様々な化け物を見てきた。

 

しかし……しかしだ

 

ここまで醜い生き物は見たことがない。

 

全身が黒いジェルのような物でできており、無数の触手のようなものが体から伸びている。

全身に骨のような白い物体が見え隠れしており、全身のいたるところに口のような機関がある。その中でも中央あたりにある口はひときわ大きく、見ると口の中に口がある。

全身がグジュルグジュルと嫌な音を立てながらうごめいており、見ているだけで吐き気を催す。

 

全長は1m程だが、その小さな体にこの世の醜さを全て詰め込んだような見た目をしている。

 

 

「う…………」

 

博士がそいつを見てうめき声をあげる。

博士の方を見ると、俺とは比較にならないほど震え上がっており目には光がない。

そして

 

「うわああああああああああ!!」

 

喉が張り裂けんばかりの悲鳴をあげる。

 

俺はアレに目を向けなおす。

 

アイツは未だに体をうねらせており、何を考えているか全くわからない。

 

 

「なんなんだよ………お前は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SCPー???? 【無形の落とし子】

 

 




次回は2月以内に出します。
できれば上旬以内に…………


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SCPー????

この投稿の速さ。
有言実行できて何よりです。


20xx年

 

小さい頃、カエルを殺した。

 

足元に飛び出してきたカエルを踏んでしまい、嫌な音をたてながらカエルは死んでしまった。

 

下を見ると内臓が飛び出し、体が血に染まり血の泡を吐いた肉塊があった。

 

私はそれを見て罪悪感を感じつつも、その醜さから目を背けたくて逃げ出してしまった。

 

小さい頃のトラウマというやつだ。

 

しかしこの施設にきてから私は今まで色々な醜いものを見て来た。

 

自分ではもう慣れたと思ってきた。

何がきても私は動じないと、もう大丈夫だと、そう思ってきた。

 

 

今日までは。

 

なんなんだアイツは。

 

黒いゲル状の見た目、大きく開いた口、空を切り裂く触手、大きく開かれた口、鼻をくすぶる異臭。

 

自分の中で何かが崩れてしまった音がする。

それに合わせて動悸が早くなり、息遣いが荒くなる。

 

今まで見てきたもの…潰れたカエルや、巨大なワニ、腐った男。そのどれもがおもちゃに見えてしまうほどの異形。

神の設計ミスによって誕生してしまった奇形。

 

そんな見たことも聞いたこともないような化け物だが一つだけ分かることがある。

コイツはこの世界にいてはいけない存在だ。

 

恐ろしく邪悪で、冒涜的な姿。

 

コイツをこの世に野放しにしてはいけない。

 

抹消しなくては……抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ

 

 

「何なんだよ……お前は!」

 

俺は目の前にいる化け物にそう叫ぶ。

 

ここで8年間勤めてきたが、こんなに気持ち悪い生物は見たことがない。

 

邪悪という言葉を形にしたような目の前の化け物は、何を考えているのか想像もつかないが一つだけ分かることがある。

 

コイツはヤバイ。

 

俺の全身の細胞が逃げろと叫んでいる。

この感覚は最近だったらクソトカゲの前に立った時に酷似している。

 

ということは

目の前のコイツは『クソトカゲ並みに危険』だと思って間違い無いだろう。

 

(どうする……逃げるか?)

 

どうやらアイツには目のような機関はなさそうだ。全力で出口まで走り抜ければ気付かれずに逃げ切れるかもしれない。

 

俺は息を殺して、決してヤツから目を離さず距離を取ろうとした

 

その瞬間

 

 

パアン

 

 

部屋に甲高い破裂音が鳴る。

 

俺は自分の右隣から発生した音の正体を頭では理解しているのだが、思わず向いてしまう。

 

そこには予想通り、拳銃を化け物に向けた博士がいた。

観ると博士はカタカタと震えており、目を見開いている。その目の中には光がなく、ブツブツと何かをつぶやいている。

 

「お、おい!そいつどうしたんだよ!」

 

米人が俺に叫んでくる。

米人の方を向くと、動揺はしているようだが先程までと様子の変わらない米人の姿があった。

博士の方は恐らく気が動転しておかしくなってしまったのだろう。

 

声を返そうとした時

 

「死ね死ね死ね死ねえええええ!!」

 

パアン

パアン

パアン

 

 

 

雄叫びをあげながら博士が射撃した計3発の銃弾は見事全弾命中した。

 

 

しかし

 

「…………(ウジュルジュル)」

 

化け物は全く動じた様子がなく、打ち込まれた弾丸は受け止められ体内に取り込まれてしまった。

 

(効かないのか……?)

 

どうも物理攻撃が通じないようだ。

個体だったら対処法は色々あるのだが、なにぶん液状の化け物なんて見たこともない。

 

俺はどう動いていいかわからず一瞬固まってしまう。

 

 

一瞬だった。

 

 

ヒュンと空を切る音が聞こえる。

 

あまりにも一瞬の出来事で目で追いきれなかったのだが、化け物から黒い何かが伸びたのは分かった。俺の隣を過ぎたような気がする。

 

そしてその黒いのは奴の触手だったのだと数秒遅れて理解してしまったようだ。

 

奴が触手を一振りするとビチャっと赤い液体が床に飛び散り床を汚す。

 

俺は嫌な予感がし、博士の方を見る。

 

「え………………。」

 

博士が声漏らす。

みると博士の胸元にポッカリと穴が空いており、血がとめどなく溢れてくる。

 

「あ…う……クソがっ!」

 

博士は拳銃を構え直し化け物に向ける。

発砲しようとトリガーに指をかける……しかし

 

ヒュン

 

また化け物から触手が伸びる

 

今度はしっかり目で追えてしまう。

伸びた触手は博士の頭部に向かって一直線に伸び、目前で鎌のように変形して……振り降ろされた。

 

「あ………………。」

 

何かを悟ったように、顔を絶望に歪める。

博士の首から血の泡がブクブクと湧いてくる。

 

そして、博士の首は顔を絶望に表情を歪めながら……床に落ちた。

 

 

 

俺は静かに撤退するなんて甘い考えを捨て去り、米人の方を向き叫ぶ。

 

「壁に背をつけて出来るだけ離れてろ!」

 

米人は小さく頷くと化け物とは真反対の壁に背をつけ、化け物を睨む。

 

本来なら助けを呼んでもらいたいところだが……Dクラスが頼んだところで射殺されるのがオチだ。

かといって逃げ出したら後ろからグサってこともあり得る。

 

だから今俺ができることは二択。

 

助けが来るまで奴の相手をするか、ヤツを仕留めるか。

 

幸いここは職員休憩室。休憩に戻った職員が来て応援を呼んでくれるかもしれない。

物理攻撃が効きそうにないヤツを仕留める方法は……今の俺たちには厳しいだろう。

 

俺は俺でバケモノから5mくらいのところに陣取る。

 

だからここで俺が取るべき行動は……クソトカゲの時と一緒か。

 

「いいぜ……とことん付き合ってやるよ。」

 

俺が覚悟を決めたのを察したのか、触手がこちらを向く。

 

触手が向かってくる。

 

形状は先ほどと同じく先端が鎌になっており、鎌は俺が射程内に入ると横一文に振りはらいにかかった。

 

それを俺は1歩後ろに下がり回避する。

 

触手は一度化け物のもとに帰る。

 

すぐさま触手が飛んでくるかと思ったが、化け物はこちらの様子を伺うように動かない。

 

俺はそれを確認したら真横に飛び博士の元へ行く。

そして地面に落ちていた拳銃を拾い上げ残弾を確認する。

 

銃はベレッタM9。

残弾は六発。

 

ここでバケモノに目を向けると、触手を振り上げていた。

 

「ヤベッ……!」

 

鎌は凄まじいスピードで俺の頭をかち割りにきてる。

 

慌てて横っとびで回避する。

肩に少しかすってしまったがなんとか回避が間に合った。

 

「クソッ!?」

 

俺は体勢を崩しながらも化け物に射撃をする。

 

パアン

パアン

パアン

 

三発即座に射撃。

しかし銃を使うのなんて初めてなので二発は見当違いなところに飛んでいってしまう。

 

唯一化け物に当たった弾丸も、博士の時同様受け止められてしまった。

 

残り三発。

 

また鎌が迫ってきている。体勢を崩しているところに真上からの鎌の振り下ろし。

 

床を転がりなんとか回避する……横薙ぎとかだったら詰んでいた。

 

慌てて立ち上がり体制を整える。

 

「ふう……。」

 

なんとか一息つく。

 

当たればどれも致命傷は間違いない。

いくら俺が死ににくいとはいえ俺が戦闘不能になってしまったら米人はもちろん、何人被害者が出るかわからんからな……ただ、問題は奴の攻撃が予想以上のスピードだという事だ。

 

あのクソトカゲに比べれば鎌は小さく避けやすいが、それでも一撃一撃に集中力を相当持っていかれるためクソトカゲの時みたいにジリ貧になる可能性が高い。

 

化け物の触手の動向を観察しながらそんなことを考えていると

 

 

ビュッ

 

 

またも触手が飛ぶ

 

今度は米人の方に

 

(しまっ……!)

 

アイツの存在を忘れてた!

米人は体格もいいため横薙ぎにでもされたら回避ができそうにない。

 

俺は慌てて化け物に射撃する。

 

パアン

パアン

 

残弾は残り一発。

 

しかし弾丸は化け物のすぐ後ろの自販機に命中する。

 

触手が米人のすぐそばまで迫り、斬りかかろうとした……が

 

「ぐぅ…………え?」

 

触手は米人の目前で止まり、米人が驚いた声を上げる。

 

触手は化け物の元に戻り、化け物はほんの少しだけ横に移動する……しかし、俺はその瞬間を見逃していなかった。

 

 

「こいつの弱点は火だ!」

 

 

米人に吠える。

 

「まじか!……でもどうしてわかったんだよ!?」

 

米人も俺に向かって叫んでくる。

 

「化け物が自販機に弾丸が当たった時に出た火花を嫌がったように見えた!だからお前への攻撃も途中でやめたんだ……と思う。とにかく俺に考えがあるから自販機で2、8、4の商品を買ってくれ!あいつは俺が惹きつける!」

 

ぶっちゃけ確証はない。

しかし光は見えた。作戦は今考えた。

ここで来るかどうかも分からない助けを待つよりは助かる可能性がある。しかも上手くいけばあいつを仕留められるかもしれない。

 

俺は拳銃を懐にしまい、米人にポケットに入れてあった500円硬貨をパスすると同時に化け物に向かって走り出した。

 

米人も化け物が少し離れた場所にある自販機に向かって走り出す。

 

化け物はまず俺に向かって触手を伸ばす。陽動には成功したようだ。

 

形状は博士の胸を貫いたときの槍のように見える。

狙いは俺の腹部。ちょうど鳩尾のあたりだ。

 

だったら好都合。

 

あえて俺は足に込め、加速する。

そのまま触手は俺の腹へと吸い込まれて行き。

 

「アッ……ぐうぅ!!」

 

腹部を貫通する。

 

意識が飛びそうになるほどの度し難い痛みに襲われながらも、足に入れた力は弱めず突進する。

 

そして化け物の上に覆いかぶさるように倒れる。

化け物は酷い異臭で涙が出てくる。

 

「これでいいのか!?てかあんた大丈夫なのかよ!?」

 

米人の声が聞こえる。

見ると手には液体の入った瓶が握られている。

 

「気にするな……!それよりも…それを俺に渡せ……その後蹴ってでもいいから……俺をあそこに運んでくれ!」

 

そう言いながら俺はある場所を指差す。

 

俺は痛みで気が飛ばないように歯を食いしばり、米人に指示を出す。

 

「ああもう…どうなってもしらねぇぞ!」

 

そういうと米人は俺に瓶を投げつけ、俺に向かって走ってくる。

それを俺はなんとかキャッチし懐に抱え、化け物にもガッチリと手を回す。

 

暴れる化け物を体重と腕力でなんとか押さえつける。

 

 

「オォラァ!!」

 

米人の声が聞こえたと思った瞬間、横っ腹にありえないレベルの衝撃が走る。

 

ベキベキベキと骨が折れた音がし、内臓も破れたかもしれない。

 

蹴っ飛ばされた俺は化け物に必死にしがみつき、化け物とともに数m蹴っ飛ばされる。

 

ゴロゴロゴロと転がりある場所にたどり着く。

 

「ぐ…………あっ……!」

 

俺はなんとか上体を起こし懐にしまった拳銃を取り出す……その時

 

ズシャ

 

自分の右胸あたりに鋭い痛みが走る。

見てみると化け物の触手が貫通した背中越しに、鎌で俺の胸を貫いていた。

 

しかし

 

俺は止まらない。

 

「なあ…………知ってるか?」

 

俺は化け物の前に瓶を掲げる。

鎌がグリグリと傷口をえぐる。

 

「今俺たちはあの米人が飲みかけて、その後ぶちまけたガソリンの上にいる。」

 

意味なんか伝わらないと分かっているが語りかける。

 

「そしてこの瓶の中に入っているのは《アルキルアルミ》て化学物質だ。前に俺が検査したとき出たもんだけどよ……ちょっと不思議な特性があるんだよ。」

 

俺は化け物の上に瓶を押し付ける。

 

「その特性ってのはさ……空気に触れた瞬間に…………。」

 

今度はその瓶に拳銃を押し当てる。

化け物の鎌が首にかかる。

その鎌が俺の首を切り裂きにかかろうとした瞬間、俺は化け物に告げる。

 

 

「発火するんだよ。」

 

パアン

 

トリガーを引くと当たり前のように瓶は割れる。

 

すると

 

 

「ーーーーーーーーーーッ!!?」

 

化け物の体が火に包まれ、化け物がけたたましい悲鳴をあげる。

 

ガソリンに引火した火は弱まることを知らず、化け物を通して俺の体にも燃え移る。

 

俺は暴れ狂う化け物を最後の力で押さえ込み、決して逃さないようにする。

 

全身が火を包む。

熱い。冗談抜きで死ぬほど熱い。

 

あまりの熱さに意識を失うどころか、むしろ覚醒する。

 

体全身に火が周り、皮膚を筋肉を骨をじわじわ焼く。

 

吸い込む空気も熱風で体の内側から焼かれる。

 

(……焼死ってこんなにきついのかよ!)

 

俺は自分が考えた作戦だったが時間稼ぎの方がよかったかもしれないと後悔する。

 

気のせいか全身を使って抑え込んでいる化け物が縮んでいる気がする。

 

 

どのくらいの時が経ったのか?

しかし化け物の悲鳴が聞こえなくなり、目も見えなくなってしまった頃

 

とうとう身体中の感覚が一切なくなってしまった。

最初はあんなに辛かった暑さも今では感じない。

 

化け物はどうなったのか……

まだ俺の下にいるのか?

それとも抜け出してどこかで暴れまわっているのか?

 

確認しようにも瞼が焼き付いてしまい離れない。

 

今は化け物がどうなったのか知りたい……誰か、誰でもいいから教えてくれ。

 

 

 

 

 

 

「ご苦労。貴様は最善の行動をとったと私が認める。」

 

今まで聞こえなかったはずの耳がその声だけは広い当てた。

 

体に纏わりついていた何かが取れたのがわかる。

 

「ゴヒュ……ハァ!ーーースゥ!」

 

気道を確保する。

 

自分の体に纏わり付いていたのが炎だと理解する。

 

なんとか息を吹き返した俺に先ほど聞こえた声がまたかかる。

 

「火は今鎮火した。謎のSCPは貴様との心中している最中塵になったそうだ。貴様はその醜い体の回復にでも勤しむが良い。」

 

答えは突然やってきた。

 

どこか聞き覚えのあるその声の主を見るために無理矢理体を起き上がらせ、手で瞼を開く。

 

視界の先にいたのは。

 

 

「おはよう。気分はどうだ?」

 

 

最近見慣れた不細工な博士だった。

 

 

 

 




話は変わりますが、お気に入りが1600人を越え、感想が90件を越えました!

これからも頑張ります。2月以内にはもう一本あげれると思うんですが……


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その後のお話

何とか月に二階の投稿できました……
それと言い忘れていたのですが皆様のおかげ様でお気に入りが1700件を超え、感想も100件を超えました!
今後も更新は続けて行きますのでよろしくお願いいたします。


20xx年

 

SCPー???? 鎮圧後

 

 

「お前は……本当に化け物だな。」

 

博士がいきなり俺に向かって失礼なことを言ってくる。

人の悪口を言ってはいけないと数学の時間に習わなかったのだろうか?

しかし、助けてもらった手前もある。ここは俺が寛容な心で許してやろう。

 

2時間ほど前に謎の化け物と焼身自殺を共にしていたところをこのメガネが嫌な意味で似合う不細工な博士に助けてもらった。

俺があの化け物に抑え込んでいるときに米人が助けを呼びに言ってくれたそうだ。そして脱走と勘違いされて銃弾を一発撃たれたが、事情を把握した博士が火だるまになっていた俺を、消化器を使い助けてくれたようだ。

 

なんというか……まあ、運が良かった。

あのまま焼かれ続けていたら流石の俺でもやばかった。俺と面識のある博士とたまたま米人が出会い、たまたま米人が銃弾を食らっても余裕で走ってられるくらい頑丈なやつで助かった。

 

おかげさまで、丸焦げになっていた俺も3時間ほどかかったが全回復した。

目も耳もしっかり機能しているし、焦げた肌も下から新しい皮膚が再生した。

服がなくなってしまったので博士に新しい服を貰い、着替えていたところだ

 

おし。着替えも終わったし、博士に何個か質問をしたら次の任務に行くとしよう。

 

「今回ばかりは助かった…素直に感謝しとく。それにしてもどうして助けたんだ?俺はDクラスなんだし別に見捨てても良かったんじゃないか?」

 

そう。ずっと気になっていたのだが、博士は別に俺を助ける必要がなかったのだ。俺はあくまでも【Dクラス】捨て駒だ。なので俺が一人死のうが、博士の待遇に変化はないだろう。だからこそなぜ助けたのかがずっと疑問だったのだ。

 

「………例えば貴様が任務を終えて自室に戻ったとする。するとそこには轟々と燃えている男が部屋のど真ん中でうずくまっていた。どう思う?」

 

「あぁ〜……すまんかった。」

 

どう考えても邪魔だ。そういえばここは『職員休憩室』だ。博士も恐らく休憩でも取ろうかと思っていたのだろう……そしたら急に大柄なDクラスから助けを求められ、いざ行ってみたら知ってる奴が燃え盛ってんだから迷惑な話だ。

 

あたりは消化器の粉で見るも無残な状況になっている。

さっきからルンバのような掃除機が何体も稼働しているが、しばらくは煙ったいだろう。

 

まあ博士は俺を助けたんじゃなくて、単純に邪魔だったからあの様な対処をとったのだろう。なんというかこの博士もだいぶついてないよな。

 

「じゃあもう一個質問なんだけどさぁ……アイツは一体なんだったんだ?博士もこの部屋の監視カメラの映像を見たろ?アイツはこの施設内にいるSCPなのか?」

 

俺は今まで様々scpを目撃してきたが…あそこまで醜悪な生物は見たことがない。クソトカゲもショッキングな見た目をしていたがクソトカゲとは全く別種の気持ち悪さだった。

 

俺はこの施設で長く働いているため、大体のこの世の裏の顔に触れたという自負はあった。しかし…しかしだ。

今日その考えはあの化け物を見た瞬間に完全に覆された。

あれは本当に俺たちと同じ生物なのか?もしかしたら全く別の世界から来た侵略者ではないのか?……そんな妄想をしてしまうほどアイツはおぞましい姿をしており、人が立ち入ってはいけない世界を覗き込んだような気がした。

 

もしあんな奴がゴロゴロいるのだとしたらゾッとする。

 

「……私もあの様な化け物は見たことがない。様々なデータベースを漁っているがどこにも奴に関する文献は出てこないな……少なくともSCPとして収容はしていないとは思うが。」

 

「そうかぁ……。」

 

博士は知らないのか……まあ、どうせこの博士は下っ端だろうからな、情報を公開されてない可能性もあるがSCPではないと思うことにしよう。正直あんな奴の検査とか絶対したくないしな。

 

「分かった。サンキューな。とりあえず俺は次の検査があるから移動するわ。」

 

俺は博士に別れを告げ部屋を出ようとしたら「いや待て。」とはかせによびとめられた。

 

「貴様は検査も終わらせずどこに行くつもりだ?」

 

「はあ?」

 

何を言ってるんだ?俺は確かに任務は遂行したぞ?

 

俺が意味がわからんという顔をしていると博士が資料をポンポと叩く。

 

「貴様の任務は『商品を10個買う』だろ?」

 

その通りだ。だから俺はちゃんと10個…………。

 

ん?

 

「あ」

 

「さっきあの自販機を検査したが今日は9回使用した形跡しかないぞ?」

 

博士は溜息をつきながら告げる。

 

今まで出てきた商品は

 

1個目:ダイエットコーラ

 

2個目:青汁

 

3個目:チ○コ型のチ⚪︎コ

 

4個目:ガソリン

 

5個目:冒涜的な飲み物

 

6個目:謎の缶詰

 

7個目:ヤン◯ンぼー

 

8個目:謎の化け物

 

9個目:発火する薬品

 

確かにまだ9個しか買っていない……いつから勘違いしていたんだ?

 

「まじか……俺貰った金は使い切っちまったぞ。」

 

勘違いしていた俺は持っていた金を全て使い切ってしまった。何か買うにしても金が……。

 

「おい。」

 

博士が声をかけてくる。

正直今はこいつに構っている場合ではないのだが博士の方を向くとこちらに向かって小さな何かを投げてくる。俺はそれを慌てて手で取り、見てみると500円玉だった。

 

「え?どうしたんだよこれ?」

 

博士に尋ねる。確かに俺と米人で使い切ったはずだが……

 

「あの米人が一個くすねていた。身体検査をした時にポケットから出てきたので没収していた。もともと使い切るのが目的だったのだから気にせず好きなものを買えば良い。」

 

ああ、なるほど。そういえばアイツ500円玉に興味を示してたな。

さて……それじゃあ何を買ったものか。今俺は何か飲む気にはなれないしなぁ……博士は博士で普通に自分で入れたコーヒー飲んでるし。

早く任務を終わらせて次の場所に……

 

「ああ。そうだ。」

 

手をポンと叩く。

いいこと思いついた。うん、そうだそうしよう。

あれなら飲めるだろうしな。

 

「買うものは決まったのか?」

 

博士が話しかけてくる。

俺は一言「おう。」とだけ返事を返し、自販機の前に立つ。そして以前も押したことのあるナンバーを叩く。するとガコンという音と共に商品が落ちてくる。

 

手に取るとあの時と同じように暖かい。気づいたら博士も隣にまで近づいてきており、俺の手に握られている商品を覗き込んでくる。

 

「なんだ……思いついたと言った割には大したもの買ってないじゃないか?」

 

博士は心底残念そうな顔をしている。俺が何か変なものでも買うと思っていたのだろうか。

 

「いいんだよ。俺が飲むわけじゃないし。」

 

そう言うと博士が首をかしげる。

俺はそんな博士は放っておいて、俺は次の検査場に歩き出した。

 

 

俺は『職員休憩室』を後にしたあと、とある部屋の中でSCPの検査を行っていた。まあ今俺は座ってるだけなんだけど。

 

それにしても美味そうに飲むなぁ……

 

「うまいか?ツバサ。」

 

「………………(ブンブン)」

 

俺が尋ねると彼女は首を縦にブンブンと振った。

どうやら気に入ってくれたようだ。

 

彼女の名前はツバサ。ここでは【SCPー020ーJP】として登録されてしまった、ただ翼が生えているだけの少女だ。

 

鳥っぽいから好きかもなと思い、先程『職員休憩室』でコーンポタージュを買ったのだが正解だったようだ。

 

「………………(♪♪)」

 

「ああ!ツバサ溢れてる溢れてる!」

 

 

 

その後、検査終了の合図がかかるまでの数時間俺はツバサと戯れ続けた。

 

 



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SCPー085

はい。皆さんの言いたいことは大体わかります。
なので先に言わせてください。

すみませんでしタァ!

言い訳させていただくと自分が少し真面目に勉強しないとやばい状況におかれまして、しばらくの間そちらに専念させていただいてました。
とりあえずひと段落したので投稿させていただいた所存なのですが、おそらく次回も少し期間が空くと思われます。
正直な話をすると実に4ヶ月近く放置していたのでお気に入り件数や評価はガタ落ちだと思っていたのですが、どちらもむしろ伸びており感謝と申し訳なさしかありません。

こんな自分でよければ今後ともご愛読よろしくお願いいたします。


20XX年 ○月□日

 

今日の俺は気分が良い。

思わず任務に向かっている途中だというのに腕を大きく振りスキップしてしまうほどだ…はたから見たらいい年した男が鼻歌交じりにスキップしているという大変珍妙な場面ではあるが、そんなこと今はどうだっていい。重要なことじゃあない。

 

もちろん俺だって意味もなくハイテンションになっているわけではなく、ちゃんとした理由がある。

そら理由もなくハイテンションになっていたら、それこそやばいやつだと思う。

 

今日俺は【safe】クラスのSCP一体の検査だけなのだ。

しかも俺と同じDクラス職員から食堂で『俺の検査したSCPの中では一番安全だと思う。むしろ俺が気を使った。』と言っていた。

ぶっちゃけSCP相手だから【safe】クラスでも安心できるかと聞かれれば全く安心できないのだが、それでもいつもに比べれば気分が良い。

 

というか最近財団が俺に優しい。昨日の検査も問題が起きて謎のSCPの対処をしたとはいえその後の検査ではツバサと戯れただけですんだからな……。まさかとは思うが今後、とんでもなくしんどいのがくるから優しくしてる…………なんてことはないな!今はそんなことはどうだっていい。重要なことじゃあない。

 

とにかく今日は存分に楽させてもらおう。

 

今日の任務はとても簡単だ。

 

とあるSCPと同じ空間で担当の職員が良いと言うまで同じ部屋で過ごすというだけのものだ。

他のDクラス職員の証言からして安全性には期待していいと思う。

今回の任務はおそらくツバサの時と同じような『時間はかかるけど危険性が少ない任務』なのだろう。

 

そして俺も最近わかるようになって来たのだが、ただ『一緒の空間にいろ』という任務はそのSCPが大体検査が終了していて、最後の締めとして行われることが多いらしい。この前とある博士から聞き出した。その博士によると最近危険度の改変が多かったため最終審査のために行う事が多いそうだ。

 

任務の期間は管理者が良しと感じるまでと長期になる可能性はあるがむしろその方が助かる…………変に【Euclid】だの【keter】の相手をさせられるよりはマシと言うものだ。

 

そんなわけで上機嫌のまま廊下を歩いていると目の前に今回の任務を担当するのだろう博士が資料に目を通しながら指定された部屋の前に立っていた。

 

「えへへぇ、ごめぇん。待った〜?」

 

「ん?………ああ、貴様がDー4218か。私が今日から貴様の検査の監視を行う。勝手な行動は慎むように、わかったか?」

 

「あ、はい。」

 

博士はこちらに気がつくと生気のカケラもない顔を資料から持ち上げ、俺の一昔前の少女漫画のようなノリではなったギャグを流しつつ挨拶をすませる。

博士のあまりにも冷たい態度に一気にテンションが平常時まで下がる。

 

さっきまで自分の中で膨れ上がっていた何かがしぼんで行くのを感じつつ、俺は博士から今回担当するSCPの資料を受け取る。

 

ちなみに数多くいるDクラスの中でも担当するSCPの資料が渡されるのはごく一部の職員だけである。

理由は数個あるが基本的に知られても問題ないと判断されたSCPのみで、悪用されにくいものの情報は今回みたいに資料として手渡しされることがある。

 

まあ……危険度低いだけじゃなくて、危険すぎてどうしようもないやつとかも公開されたりするけど。

 

「すでに把握はしているだろうが今回の任務は私が『良し』と言うまでその資料に記載せれているSCPと同じ空間で過ごしてもらう。トイレの際は室内のカメラに向かってサインを出せ。それから食事に関しては………………」

 

博士が今回の任務についてツラツラと説明を始める。

俺は博士の説明を適当に聞き流しつつ資料に目を通し始めると今回担当するSCPの名前を見つける。

 

 

「…………というわけで貴様が今回検査するのはSCPー085【手書きのキャシー】だ。」

 

 

これが俺の実に2ヶ月部屋の外に出て行くにも及んだ過去最長の任務の始まりだ。

 

 

 

 

「それでは私は監視室に移動する。くれぐれも監視されているということを忘れず下手な行動は慎むように。」

 

博士はそれだけ言うと扉を開け外へ出る。扉が閉まるとすぐにピーッという機械的な音がなりロックがかけられる。

 

「さてと……。あれかな?」

 

俺は振り返り自分が今いる部屋の全容を確認する…………まあ、全容も何もこの部屋には机しかない。ここからではよく見えないが机の上には数枚の紙があるように見える。

 

俺は特に警戒もせずにその机の上にある紙の近くまで歩み寄り目を向ける。

そこに描かれていたのは白紙に描かれた1人の女性だった。

 

その女性の絵は決して相当上手いというわけではないが……何か作者の特別な気持ちのようなものがこもっているのは分かる。この女性が作者にとってどのような存在なのかは俺には知る由もないが素直に『いい絵だな』と感じる。

 

そして俺の目の前に描かれた女性をしばし観ていると。

 

「…………!」

 

彼女が微笑んだ。

目の錯覚でもなんでもなく。絵が動き、形を変えた。

しかし俺も事前に資料にある程度目を通しておいたので、少し動揺したものの彼女に微笑みを返す。

 

これが彼女の異常性。要は『動く絵』だ。

とあるSCPの実験の最中に誕生してしまったSCPで、完全に自我を持ち、紙の中であれば自由に動くことができるようだ。

彼女は喋れないし、こちらからの声も向こうに届くことはないが互いの姿は視認できるようだ。視界から得られる情報であれば大体の意思疎通は可能らしいのでとりあえずこんなこともあろうかと覚えておいた手話で話しかけてみる。

 

ん?あれ……手話なんていつ覚えたっけ?

まあ、教団の連中に記憶でも操作されたんだろう。気にせずに手話で『こんにちわ』とサインを送る。

 

すると彼女は花が咲いたかのような笑顔をパッと咲かせ、彼女もまた手話で挨拶を返してくる。

 

ふむ……結構友好的だな。これなら変に気張らず任務ができる。

 

とりあえず会話を進めてみるか。手話だけど。

 

『今日から君の検査の担当を務める者です。よろしく。』

 

彼女はそれを見ると、笑顔のまま『こちらもよろしくお願いするわ。』と返してくる。慣れているのか滞る様子なく『ここへ何をしにきたの?』と手話で質問してくる。

 

俺も、俺の全く知らないうちに覚えさせられた手話で応じる。

 

『今日から君とルームシェアをすることになりました。期限は特に決まっていません。しかも、何をするのかさえ聞かされていないので自分も正直戸惑っています。とりあえず何かしておきたいこととかあればどうぞ。』

 

そう返すと彼女は少し考え込むような仕草を取ったあと

 

『とりあえず名前を知りたいわ。教えてくれないかしら?』と訪ねてきた。

 

そういえば自己紹介もまだできていないな。とりあえず手話で……って

 

(名前はどう伝えればいいんだろうか。)

 

手話で名前って無理じゃね?俺が戸惑った様子を見た彼女も俺が名前を伝えるすべを持っていないことに気づき申し訳なさそうな顔をする。

 

どうしたものかと困り果てているところに生気のない声が部屋に設置されているスピーカーから響いてくる。

 

《渡すものがあるので出口付近に寄っておけ。以上。》

 

それだけ伝えるとブツっという音とともに放送は聞こえなくなった。

愛想のかけらもない完全な『命令』に若干ムッとしながらも素直に従い、扉の前に立ち、少しでも仕返しになるようにと俺が高校時代に無愛想な中年の女教師を笑わせるために発明し、笑い転げた女教員の腹筋が重度の肉離れを起こし病院に緊急搬送させたという伝説を持つとっておきの変顔で待ち伏せる。

 

程なくして目前の扉が開かれ、博士と看守のような人物が二人現れる。

 

「会話はこのスケッチブックとペンを使ってするように。アレからもこちらの景色は見えているのでコレに会話内容を示すように。くれぐれもアレ自体にペンを入れる際は油性のペンを使わずこの鉛筆と消しゴムを使うように…………貴様はそんなに処罰を受けたいのか?」

 

博士は俺にスケッチブックと油性のペンと鉛筆消しゴムを渡しながら非常に不愉快だということを醜い顔面を全体的に使って表してくる。

後ろの看守は必死に笑いをこらえているが口を押さえている手の隙間から「プッwくっ……ブホッw」みたいな感じで笑いが漏れている。

肝心の博士は明らかに大げさにデカイ音で舌打ちをし、扉を勢いよく閉めた。

 

俺は渾身の変顔が通じなかったことにショックを受けつつ、キャッシーの元へ戻る。

 

そのまま俺はスケッチブックの一番最初の紙にペンを走らせ、『俺の名前は結城 鬱。君の名前はキャッシーでいいのかな?』と書き込み、キャッシーに見えるように提示する。

 

すると彼女は手を頭の上で重ね肘を張り、大きく◯の形を表す。

 

どうやらキャッシーと呼ぶので間違い無いようだ。彼女の第一印象は落ち着いた女性というイメージだったので、可愛らしいジェスチャーにギャップを感じ小さな笑みをこぼす。

 

俺はスケッチブックを一旦床に置き、手話での会話を続行する。例え財団に植え付けられた技術だとしても使えるものは使っておかないとな。

 

『たがいの名前も分かったところで早速任務に移りたいところなんだけど……今回は俺も何をしろっていうのは別に聞かされてなくて、君と数日ルームシェアをしろとしか言われてないんだよね。だから普段君が何をしているのかを教えてくれないかな?』

 

すると彼女も慣れた様子で手話に応じる。

 

『分かったわ。私が今居る紙の下に何枚か紙があるからそれを並べてもらえないかしら。』

 

俺は言われるがまま彼女の紙の下に重ねられていた数枚の紙を机の上に並べる。

 

一枚目は騙し絵の螺旋階段のようなもの。それは全て上りの階段なのだが4つの全ての階段を上ると下の階段に戻って居るという作りに見える絵だ。

2枚目はどうやら車のようだ。こちらは特にいうこともないのだが、絵として書かれたにしては、まるで本物の車をそのまま絵の中に入れたのかのような緻密な作りというか存在感を感じる。

そして残りの数枚は森の絵画だったり、某有名漫画の1ページだったりと系5枚の紙をキャシーの周りに並べる。

 

彼女は『ありがとう』と俺に伝えると紙をの中央から真横にスタスタと移動を始める。そして紙の端っこまで行き、勢いそのままに紙の中から消える。

 

「……!………はは。すごいな。」

 

俺は視線を横にずらすと目の錯覚を起こす螺旋階段の上にいた。

階段の上から手を振ってきている彼女を見て、思わず感嘆の声を漏らす。こちらの声は聞こえていないのだが、面白そうにクスクスと笑う。

 

資料に書いてあったが意味の分からなかった『平面世界であれば自由に移動可能』の意味がなんとなくだがわかった。

 

恐らく2D空間であればどこへでもいけるということだろう。

テレビとかの電子機器類には移動できないのか聞いてみたが、『しっかり線として繋がってなきゃ無理』なのだそうだ。そこらへんは彼女も良くは理解していないらしい。

 

『だいたいいつもこの階段で軽めに運動したり、別の紙の中にある愛車を乗り回してるわね。たまに白衣を着た男性の方が絵を持って来たりしてくれるけど、大したことは特にしてはいないと思うわ。』

 

彼女はそう当たり前のように俺に伝えるが……いや、普通にすごいことしてるな。

 

『君は絵として書かれたものを自由に動かせるの?』

 

『ええ。あいにく人や生き物は動かせないけどモノであればある程度自由に動かせるけど、それがどうかしたの?』

 

慌ててスケッチブックを手にとり、紙の上にペンを走らせる。

俺はとても簡単なつくりをしている、おもちゃの刀を紙の上に描きだしそのページを千切る。彼女のいる紙の横に千切ったページを置くと、そこに移動してくれないかと頼む。

彼女は特に嫌がる様子もなく、一つうなずくと階段から飛び降り俺の落書きが書いてある紙の方向に走り出した。

 

彼女は何の問題もなく俺の落書きの書いてある紙上に移動する。

 

そこで俺は彼女の言葉の真偽を確かめるようために、『そこにあるおもちゃの剣を手に取ってみてくれ。』と彼女に頼む。

 

変におれのことは警戒していない様子で、言われた通り俺の描いた剣に手を伸ばした。

それまで紙上に固定されていた剣は彼女が触れたとたんただの落書きが質量をもったかのように、彼女のいのままに動き出す。

 

「すげぇ………。」

 

思わず声を漏らした。

博士に渡された物のため確証はもてないが、別にこのペンとスケッチブックが特別なものというわけではないだろう。つまりこれは彼女自身の異能で、三次元からの二次元への干渉が可能となっているのだ。

 

『気は済んだのかしら?他にも何か気になることがあるのだったら私でよければ何でもするけど?』

 

ん?今なんでもって言った?

 

まあ別に変なことを頼もうなんていう気はさらさらないが、とりあえず机の上にある紙に目をやると気になったものがあったので手にとって彼女に見えるように提示する。

 

『もしかしてこれも……?』

 

『ああ、それをうごかせばいいのかしら?いいわよ。私もそれはお気に入りだから見てほしかったのよ。』

 

彼女はそういうとまるで子供のような無邪気な笑顔を向けてくる。

 

俺は先ほどと同じように彼女のいる紙の隣に、俺の持っている紙を並べる。

彼女は何の問題も無く移動し、紙の中央のあるものへ向かっていく。

 

彼女はソレに乗り込んだあと少々してからソレは少しの振動を見せながらゆっくりと動き始める。

 

そう。彼女が乗り込んだのは『車』である。

 

車は本当にエンジンを積んでいるかのような動きで紙上を俺の見える範囲でグルグルと走り出す。

 

ある程度して満足したのか、キャッシーが車の中から出てきた。とてもご機嫌のようで、ニコニコと笑っている。

 

俺もそんな彼女を見て拍手を送る。別に運転技術がすごかったとかそういう訳ではないのだが彼女の満足そうな顔と自由自在に紙上で動き回る顔を見て思わず手を叩いてた。

 

『この車はいったい誰に書いてもらったんだ?びっくりするくらい緻密な作りで絵とは思えないほどだったんだけど。』

 

『そうでしょう。そうでしょう!パーツは研究員の人に書いてもらったのよ。私もお気に入りでよく乗っているの。あなたも気に入ってくれたかしら?』

 

俺は素直に頷く。すると彼女は一層機嫌が良くなったのか多少オーバーな動きで手話を続ける。

 

『話のわかる人で嬉しいわ!私も“コレを作る”のには一年以上かかったから愛着があるのよね。』

 

『…………作った?もしかして君がこの車を組み立てたのか?』

 

『ええ……前に私がちょっと色々あってね。気分転換ように研究員の人たちに協力してもらって作ったのよ。』

 

おぉ………また驚きだ。どうやら彼女はこれを組み立てたようだ。

絵の中で組み立てまでできるとは………やはり彼女のいる世界は二次元ではあるものの基本的な行動は制限されておらず、俺たちと同様に自由に動けると考えて良いのだろう。

 

(本当にすごいな。彼女の力があれば二次元と三次元の干渉も遠くないのかもしれないな……!)

 

俺は自分でも気づいてはいたが、どうも想像以上にはしゃいでいたようだ。

だからなんも気兼ねもなくこんなことを聞いてしまった。

 

 

『前にちょっとって…何があったんだ?』

 

訪ねたすぐ、今まで上機嫌で可愛らしい笑顔を浮かべていた彼女が急に顔を曇らせる。

 

『あっ……えぇと、あまり面白い話じゃないんだけどね…………。』

 

(しまった……!)

 

その瞬間、俺は深く後悔し自己嫌悪に陥る。普段人に接する際は最も注意を払わなければならない、その人だけが持つ『地雷』。

つい気分が上がっていたとは言え完全に俺の落ち度だ……明らかに彼女も言葉を濁していた……。

 

『すまない。言いたくないことだろうから言わなくていい。むしろ俺の気が回らなかった。今の言葉は忘れてくれるとありがたい。』

 

俺はすぐさま謝罪をいれ、忘れてくれるよう促したが彼女は首を横に振った。

 

『いえ……良いのよ。本当に面白くもなんともない話ってだけよ。それに貴方との同棲の期間って指定されていないのでしょう?隠し事をしながら一緒にいるのって息苦しいしちょうど良いじゃない。』

 

彼女は俺を気遣ってそういったのだろうが、言葉の端からは自虐的な含みが感じられる。

俺は止めようと思った。彼女の顔が余りにも悲壮感が溢れていたからだ。

 

「………………。」

 

だが止めれなかった。

もしかしたら彼女の苦しみを少しだけでも俺が和らげることができるんじゃないかと考えてしまった。ジーナの時のように苦しみを共有できるのではと考えてしまった。

 

しかしそれは飛んだ間違いだった。

 

 

『私はね……自分が人間だと思い込んでたの。』

 

「…………ッ!?」

 

その一言で全てを理解し、同時に自分への罪悪感が溢れ出て来た。

自分の考えの甘さに嫌気がさす。

 

『………そんな顔しないで良いわよ。私が勝手にそう信じ込んだだけの話なんだから。』

 

俺は《人間から化け物になる苦しみ》なら嫌というほど分かる。

 

ただ《人間だと思っていたら化け物だった苦しみ》なんていうのは想像もつかない。

そんなの……俺なんかがフォローできる話じゃない。

 

(これじゃあ俺は……ただ彼女の傷を抉っただけじゃないか!)

 

俺はどうして良いかわからず拳を握りしめ、彼女を見つめる。

 

「…………あ。」

 

そんな俺を見て彼女はフッと小さく笑った。

ただそれだけの行動がほんの少しだが俺の心を和らげた。

 

 

『貴方は優しいのね……良いわ。もうちょっと詳しく話しましょうか。【人間だと思い込んでいた馬鹿な女の話】を。』

 

 

 




http://scp-wiki.net/scp-085
著者:FritzWillie


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SCPー085②

はい。リアルが落ち着いたので約1年ぶりの投稿です。無事進学でき、新生活にも慣れてきたのでぼちぼち投稿していきます

リハビリ作品なのでかなり短めです……お許しください


『君は絵の中にいるが“ソコ”は夢のようなものだ。……まあ君にとっては悪夢のようなものだからそのうち覚めるさ。』

 

ガラス一枚越しのように見える彼は、私に向かってそう伝えた。

私には正直いまいちピンときていない。しかし、ここの人たちは私の夢が覚めるように協力をしてくれるようだ。

 

そのために毎日様々な検査を受けることになった。

例えば彼たちがペンを手に持ち私から数メートル離れたところに紺色のジャケットを書き出す。着用するように促せれた私はワンピースの上からジャケットを着る。彼らが書いた飲食物、例えばハンバーガーやワインなどを食す。そんな感じの簡単な作業を毎日続けている。

 

こんなことをしていて意味があるのかとある日聞いた。

 

彼らは『……すまない。もう少しの辛抱だ。』と、どこか哀れむような、申し訳なさそうな顔でそう言う。

まあ私も協力してもらっている立場だ。逆に気を使わせてしまったことを申し訳無く思う。

 

私が検査を受け始めてから未だにこれと言った進展はないけれど、いつかこの夢も覚めてくれるはず。覚めない夢なんてないもの。

 

 

その頃の私はそう考えて疑わなかった…………あの日までは。

 

 

その日も私はいつものように検査を受けていた。別に難しかったり大変な検査ではなく、検査官の人が用意したいくつかの用紙の間を自由に移動するというだけのものだ。

特にトラブルらしきものもなく、無事に検査を終えた。

 

 

「それじゃあ今日の検査はここまでです。今日はこの後に検査の予定もないので、静かに待機していてください。」

 

 

検査官の彼はそう言って私のことが書かれているだろうレポートの紙をまとめだした。

私はほっと一息をつく。別に検査が嫌なわけではないが、なんというか………すこし息詰まるなるような緊張感があり、それが少し苦手だ。

 

静かに私から離れていく彼を見送る。検査は苦手ではあるが、私にとっては一日の中で唯一人と触れ合う機会なので、この瞬間だけはいつも少しだけ寂しくなる。

 

彼が部屋を出ていくと私は今日は何をして時間を潰そうかと考え、振り返る。

 

 

『あれ……?』

 

誰かに聞こえるわけではないが疑問の声を漏らす。

 

私の知らない紙が一枚自分の近くに置いてかれている。

取りに帰ってくる様子がないので、おそらく私に見せるためか、彼が忘れていったのだろう。

 

どちらなのだろう?もし、私に見せる予定の無い紙であれば勝手に見るのは気が引ける。

しかし、正直なところを言うと内容が気にならないわけではない。私に用意されている数枚の用紙の中で一人で遊ぶのは正直飽き飽きなので、少しでも見識が、この狭い世界が広がるのであれば、ぜひとも見てみたい。

 

少しの間悩んだが私は好奇心に後押しされ、その用紙の中へ足を踏み入れた。

 

 

私はこのことを一生後悔するとも知らずに。

 

 

新しい紙の中へ足を踏み入れた瞬間、私の前に文字の山が浮かんできた。しかもそれだけでなく、その文字の内容までまるで早読みのように数秒で理解できる。これもこの世界の私の一つの力なのだろう。

 

しかし、その時の私はそれどころでは無かった。

自分の中に飛び込んできた情報があまりにも衝撃だったからだ。

 

内容をまとめるとこうだ。

 

私はキャッシー……しかし正確には『SCPー085 手書きのキャッシー』という名前が正式らしい。

ここは私が思っていたような特殊な病状を抱えた患者を治療する施設ではなく、異常性のある物質、現象を管理、収容している施設らしい。

私はこの施設で管理されている異常性を抱えたとある『ペン』の実験を行った際に偶然誕生したもののようだ。

つまり…つまり私はもともと人間で、この世界に閉じ込められた悲劇のヒロインなどではなく……この平面の世界に産み落とされた“異常性”というだけだったんだ。

 

「……嘘。」

 

視界がグニャリと歪み足が震える。

 

「…………嘘よ。」

 

吐き気が酷い。頭痛と耳鳴りが激しくなってきた。

 

今まで自分が人間だと信じ込んでいた間……あの人たちが私に向けていたあの視線の意味が分かった。あれは私の境遇を哀れんでいたんじゃなくて……人だと思い込んでいる化け物を哀れんでいたんだ。

 

頭痛と耳鳴りが加速する。

意識が朦朧と し始めた 私の耳に一つの声が 聞こえ てくる……笑い声 だ。

 

「アハハ…………」

 

見回り はさっき終わっ た から彼らの 声では ない……だっ たら 誰の? と少し 考えたが 直ぐに気 づい た。

 

 

 

この 笑い声 の主 は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 

 

 

『で、そこで私はショックで意識を失っちゃったわ。恥ずかしながらあの時の私には【その事実】を受け止められるほどの強さは無かったんだ。この後も私は結局鬱病を患っちゃってさ……この車だって私の気を紛らわそうと思って準備して貰った物なのよ。』

 

どこか寂しそうな目で愛車を撫でる彼女に俺は声をかけられなかった。

 

思った通りだった。

俺は後天的に生まれた怪物だったのに対して、彼女は先天的な怪物…SCPだったようだ。今回の問題はそこではなく、彼女が『その事実』(先天的な怪物)を知らなかったことだ。

 

一体どれほどの衝撃を受けたのだろうか……外の世界を夢見て、いつ終わるかもわからない検査に耐え続け、見えぬ明日を信じていた。

 

それなのに

 

(これじゃ……あんまりにもこの子が救えなさすぎる…!)

 

この子を私利私欲の実験で生み出した財団か、この子に残酷な現実を凡ミスで知らせてしまったアホな職員か、それとも彼女の古傷を抉った自分に対してか……

俺は自分でもどこへ向けて良いのか分からない怒りに肩をふるわせていた。

 

『貴方は優しいのね……私みたいな化け物のために本気で怒って悲しんでくれてる。貴方みたいな優しい人に出会えただけで少し救われるわ。』

 

彼女は無理をして作ったような笑顔でそう告げた。

 

『私はもう大丈夫!もう《諦めた》。むしろ外へ出れないって分かったから潔く身を引けるわ。』

 

先ほどよりももっとワザとらしい笑顔で、そう続ける。

 

『だから……』

 

ワザとらしい笑顔が少し曇理、自分でも気づいていないのだろうが目を軽く軽く伏せ彼女は

 

『私みたいな化け物は……外に憧れちゃいけないの。これで……いいのよ。』

 

 

 

「いいわけないだろうがっ!!」

 

 

 

思わず手話を忘れ、ペンを握りつぶしながらそう叫んだ。

彼女に俺の声は聞こえていないはずなのに、驚いたように目を見開いている。

 

誰が怪物は外の世界に憧れちゃいけないだなんて言った。

誰が少女が夢を抱いてはいけないだなんて言った。

 

「誰か見てるんだろ!今すぐ用意してもらいたいものがある。ありったけの紙と水性でも油性でもいいから絵の具と筆を用意してほしい!頼む!」

 

俺は部屋に設置されたカメラに向かって全力で頭を下げる。こいつらに対して頭を下げるだなんて初めてかもしれないが、今はそんなことどうでもいい。

 

「無理な願いなのは分かってる……だけど、頼む。」

 

頭を下げ続けること数十秒。部屋のスピーカーからノイズが鳴る。

 

「このscpの部屋に紙類を持ち込むことは禁止されている。ペンや筆類も持ち込みが禁止されている。却下だ」

 

 

「……。」

 

ダメか……と諦めそうになったその時

 

『【この部屋に】持ち込むことは禁止されている。』

 

流れが変わった。

 

『今私の手元には“たまたま”コピー用のプリント用紙が余っており、“たまたま”発注ミスで水彩の絵の具がこの部屋に届くとのことだ。』

 

頼んだ俺自身が笑ってしまうようなめちゃくちゃを淡々とした様子で告げる

 

『このプリント用紙と絵の具……廃棄しても構わないんだが、どうせなら有効的な消費をしたいと考えている……そういえばお前は絵を書くのが好きだったよな?好きだろ?好きに決まっている。この任務は長くなりそうだからな……少し部屋の外に出て息抜きに【お絵描き】なんてものはどうだ?』

 

今まで絵が好きだなんて言ったことは無い。こんな急展開なんか予想もしてなかった。一体どんな裏があるのかわからないし、このあと何をされるかなんて分かったもんじゃない。

 

しかし

 

「……ああ。お絵描きは大好きだ!ちょうど絵が描きたくて仕方なかったんだよ。」

 

どうせなら乗るしかないだろ……このビックウェーブに。

 

俺は振り向きキャッシーに手話で

 

「しばらく待っててくれ。俺が外の世界を見させてあげるから。」

 

そう伝える。

彼女は戸惑いながらも小さく頷いた。

 

部屋の扉が職員によって開かれ。連れられて俺は部屋の外に出た。

 

 

 

そして、それから約2ヶ月もの間。俺はキャッシーの部屋には戻らなかった

 

 

 

 

「博士……なんでこんな無茶なこと許可したんですか?」

 

部下の一人が私にそう問いかけてくる。

私は彼に対して向き直り書類を手渡しする。

 

「これは……」

 

「今SCPー085を担当している男の調査資料だ。見てわかる通りこいつが担当したSCPの中には奴が担当してから脳波が明らかにリラックスした値を見せている。」

 

「つまり……彼にSCPー085に対してのリラクゼーション効果を期待しているんですね。」

 

「ああ。新たな調査資料が手に入れば君の昇進にもかかっている。引き続き監視を続け給え」

 

「は、はい!」

 

そういうと彼は顔色を明るくさせ、モニター自分の持ち場に戻っていった。

 

「……………………」

 

ちなみに博士と呼ばれた彼がいったことは

 

(でまかせだけどね!!)

 

伝えたことは何一つ嘘はないが、真意は全く別であった……彼の真意とは

 

 

(二次元の女の子には笑っていてほしいよね!)

 

 

毎日の激務で心すり減らされていた彼の趣味はアニメ鑑賞であり、密かに設立されていた『キャッシーファンクラブ』の会員だったのである。

 

 

 

 

 

 



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