問題児と一緒に変態赤龍帝も来るそうでよ? (暁紅)
しおりを挟む

変態赤龍帝が異世界に飛び立つそうですよ?

 

その日普通と呼べるか微妙だが、平凡的な普通の高校生兵藤一誠は帰宅する足がかなり軽くなっていた。

 

兵藤一誠は駒王学園と呼ばれる元女子高に出会いを求めて入学するも、その学園の中で出会った2人の生徒と一緒に変態的な行動をするため『変態三人組』と呼ばれ女子から恐れられている。

 

そんな事をしている一誠だが、その日は学校が終わったタイミングで、アイドルをしているような可愛い他校の女子から告白されていた。

 

無論一誠は二つ返事で承諾する。

 

だがこんな変態行動をする物を好きになる者がいるのだろうか?答えは誰しもがNoと答えるだろう。しかし残念な事に一誠にはそこまで考える脳が存在せず、彼女が出来たとはしゃいでいた。

 

「うっひょ!!!まさか俺にも彼女が出来るとは!!!そうだ、デートのプランも考えなくちゃな」

 

映画館、ゲーセン、公園などのデートの定番スポットの事を歩きながら考えているせいで、ポケットに入っている封書に気づく事が出来なかった。

 

 

家に帰るとリビングにいる親に挨拶をすると、自分の部屋のある2階へと急いで駆け上がる。

 

少し慌てすぎて階段を踏み外しそうになったが、手を回してバランスをどうにか保ち落ちずに住んだ。

 

上がった先にある短い廊下も駆けて、自分の部屋のドアを捻り開けると、すぐにベットに飛び込む。

 

一誠のベットはいつもフカフカの状態をキープしているので、数回ベットの上で跳ねる。

 

自然にバウンドが収まると枕に顔を当てて叫ぶ。一誠は時々嬉しい事があると大声で叫びたくなる。だが、下手に大声を出すと周りにも迷惑がかかるので枕で音を消して叫んでいる。

 

「春が来たァァ!!!!!!!最っ高だぜぇぇぇ!!!!」

 

かなり音が枕により抑えられていて、ドアが閉められているおかげで外には完全に聞こえていないが、もし枕が無かった場合先程の外で喜んだ時よりも大きな声が出ている。

 

彼女ができた嬉しさなどからか、または枕がかなりフカフカなのが理由か分からないが、そのまま数時間に渡り熟睡をしてしまった。

 

 

「イッ.........ッセ......イッセー!」

「うぅん...何だよ母さん」

「もうやっと起きたわね。ご飯の時間よすぐ降りてきなさい」

 

先に母は部屋から出てもうそんな時間かよと机の上にある電波時計を見ると、短い方の針は6時を過ぎ7時手前まで動いていて、長い方の針は55分を指していた。

 

ご飯の前に着替えようとも思ったのだが、空腹に耐えきれなかったお腹が唸り声を上げる。

 

着替えても着替えなくても一緒かとそのまま階段を降りリビングへと行く。

 

リビングに入るとすぐに一誠の鼻には大好物である唐揚げの揚げたての匂いが飛び込む。

 

それを嗅いだだけでまたお腹が唸り声を上げる。

 

「おっ来たなイッセー。さっさと座れ食べるぞ」

 

グラスに瓶のビールを注いでいて、イッセーを招き寄せたのが兵藤一誠の父兵藤一新である。

 

一新のかけているメガネはかなり使い古され微かにレンズが欠けたりしているが、何故かそのままにしており、頬が少しこけていて仕事の大変さを物語っていた。そんな一新が母の証言によると昔はかなり凄かったとの事だが、今の常時笑っている姿を見ると想像ができない。

 

「ほらさっさと座りなさい」

「今座るよ」

 

一誠の食事などを作っているのが一誠の母兵藤麗華だ。

 

髪は腰まで伸びていてかなり長いが今は後ろの方で一つにまとめている。実年齢は自分の口から語る事は無いが、見た目的に30代後半だろうと思っているが麗華にそれを言うとかなり嬉しそうな顔をするのでもう少しいっている可能性がある。

 

麗華の作った唐揚げを一新と取り合い、山のようにあった料理はあっという間に消え、今は食後の会話をしていた。

 

その会話もそろそろ風呂かなと思い立ち上がると、ふと右ポケットに違和感を感じてポケットに手を入れると、何か紙のような物を感じとりあえず取り出す。

 

「なんだこれ?こんなのもらったっけ?」

「どうしたイッセー......それは...なるほどなついに来たか...」

 

一新は独りでに納得して頷いていて、一誠はなんの事だよ?と聞き返そうとするとソファに座っていろと言われる。

 

座る意味が無いと断ろうとしたが、一新の身に纏う雰囲気がいつものふわふわした物ではなく、真逆の真剣な雰囲気になり目が険しくなっていた。

 

いつもと違う雰囲気に圧倒されソファに崩れるように座る。すると、一新はリビングから出て代わりに洗い物をしていた麗華が、腰に巻いていた短いエプロンで手を吹きながら近づいてくる。

 

手に付いていた水を完全に拭き取ると、エプロンと髪をまとめていたゴムを外し椅子にかけると、一誠の前にあるソファに座る。

 

「イッセー実はね秘密にしていた事があるの」

「秘密?」

「えぇそうよ。箱庭については多分誰かしらが説明するからいいとして、イッセーの出生についてよ」

 

『箱庭』と気になるワードも出たがそれよりも気になるワードがでた。『出生の秘密』一体どんな事が語られるのかと緊張してでた唾を飲み込む。

 

「イッセーにはね本当はもう2人の姉か兄がいるはずだったの」

「はずだった?」

「イッセーが産まれる前にね2人身ごもったの、けどその2人ともお腹の中で死んでしまった」

 

イッセーは驚いて固まる。

自分は死と言う言葉から最も遠い存在だと思っていたからだ。

 

なのに自分には兄が姉が2人いてその両方が流産していると聞かされれば、誰しもが驚き理解に苦しむだろう。

 

「医師からはもう難しいだろうと言われたの...けどねイッセーが産まれた」

「俺が」

「本当に嬉しかっただからイッセーには」

「一番誠実に生きて欲しいと『一誠』と名付けた」

 

一新が扉をあけ紫色の風呂敷に包まれた小さい何かを持ってきていた。

 

その物体を一誠達の前に置くと、麗華の隣に腰を下ろす。

 

「でもなんで今そんな事を」

 

確かにこの話はいずれする事になるであろう内容だが、決して今のように突然するような物では無い。

 

その理由に一新は一誠が取り出した封書に指を指した。

 

その封筒を見つめるととある違和感を感じた。何かがおかしいずっと見つめながら考えると、何がおかしいのか分かった。

 

封書には本来あるべきはずのシワが無かった。

 

いや何言ってんだかこいつ、シワなんか封書に普通ねぇだろ。と思うだろうがこれを取り出したのはズボンのポケットからだ。さらに言えばポケットの奥行ぴったりの場所に入っていて、かなり動いたりしている。

 

普通の封書ならば大なり小なりシワが付くものだ。しかし、この封書にはそれが一切ない。まるで何か特殊な力に守られているように。

 

その封書は封が閉じられ中に何かが入っている。それを見れば理由がわかるかもしれないと手が伸びる。

 

一新は伸びている手を止めさせ紫色の風呂敷を解き、中にあった小さな木箱を開け中にはカイムラサキ色の板が入っていた。

 

「これはギフトカードだ」

「お賽銭?」

「近いが残念だ。簡単に言えばドラえ〇んの四次元ポケットだと思え」

「なるほど四次元ポケットか...」

 

四次元ポケットとは言い得て妙なのかもしれない。ギフトカードには色々な物が入り、それが自由に取り出せる。正しく四次元ポケットその物だった。

 

一新はギフトカードを持ち一誠に投げつける。それを難なくキャッチした一誠は、突然身体中に微量の電気が流れる。

 

「うぉっびっくりした」

「中身はイッセーにやる。だがそれを取り出すには白夜叉の所にいけ」

「白夜叉?そんな奴知らないってか聞いたこともないけど」

 

『箱庭』に続き『白夜叉』と言う新たな意味不明ワードが出てきた。

 

だんだんと増える謎に一誠の少ない脳みそが爆発しそうになる。

 

「イッセー後は任せた」

「大丈夫イッセーなら絶対出来る」

「だから何なんだよ」

 

一新は封書を取るとイッセーに向けて差し出す。

 

「これを開ければ全てがわかる。母さんと父さんの秘密もな」

「秘密?」

「あぁこればっかりはここでは言えない」

 

自然と視線が封書に落ちる。

 

一新の話が確かならこれを開けば『箱庭』などの事も分かるのだろう。

 

一度深く空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を吐きゆっくりと封書の密閉している部分に手を伸ばし、ピリっと音がなり開かれ中の紙を取り出す。

 

紙は二枚おりになっていてそれを開くとそこには

 

悩み多し異才をを持つ少年少女に告げる。

 

その才能を試すことを望むならば、

 

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

 

我らの″箱庭″に来られたし。

 

 

その手紙を開いたのは一誠だけでなく、突然空から落ちてきた物を開けた超人高校生。猫が加えて持ってきたぼっち少女。密室投函された高飛車お嬢様。

 

計4人が開けた瞬間全員の視界は一変し、安定していたはずの足場は消え、肌に当たる強い向かい風。

 

現在の位置上空4000mに放り捨てられ、全員が落下の圧力に苦しんでいる4人+αの先には水面が近づき、4つの大きな水柱を作った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おぱーい事件はディナーの後で

 

水柱を作った3人は湖から出て、びしょびしょに濡れた服から水を絞り出す。

 

「全く信じられないわ!突然呼び出して上に、空に放り出すなんて!」

「右に同じだクソッタレ。水がなかったら即ゲームオーバーだぞ。これならまだ岩の中に呼び出された方がマシだ」

「石の中に呼び出された動けないでしょ?」

「俺は問題ない」

「そう身勝手ね」

 

黒髪でどこかのご令嬢のような少女と、金髪でヘッドホンを大事そうにしているヤンキー気質な少年は、鼻を鳴らして互いにそっぽを向く。

 

かなり険悪な雰囲気の中、もう1人の三毛猫を抱えている少女は呟く。

 

「ここ何処だろ?」

「さぁな。まぁ世界の果てっポイのも見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

少女の呟きに少年は答える。

 

普通はよくあの状況で遠くを見れたなと思うのだろうが、彼らはさも当然のように流している。

 

ある程度の水を絞り出し脱ぎたいのを我慢できるまでになると、周りにいる2人に確認の意味を込めて問いかける。

 

「なぁ、もしかしてお前達の所にも変な手紙が?」

「そうだけど、オマエって呼び方は訂正して。私は久遠飛鳥よ。今後は気をつけなさい。それで貴方は?」

「春日部耀。以下同文」

「そうよろしく春日部さん。それでいかにも野蛮そうな貴方は?」

「高圧的な自己紹介ありがとよ。見た目通り野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪め快楽主義者と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と容量を守った上で適切に接してくれよお嬢様」

「取り扱い説明書をくれたら考えるは十六夜君」

「いいぜ。今度作っておくから覚悟しとけよ、お嬢様」

 

3人の独特な自己紹介が終わり、グチグチと嫌味を述べる。

 

「しっかしいきなり呼んで放置ってどうなんだ?」

「そうね。何をすればいいのか分からないわ」

「なら、そこに隠れている奴にでも聞くか」

 

十六夜が向けた視線に他の2人も集まる。

 

そこに隠れている黒ウサギはビクッと揺れ、草むらが揺れる。

 

「貴方も気づいていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ負け無しだぜ?そっちのお前も気づいてたんだろ?」

「風上に立たれれば嫌でも分かる」

「へぇ...面白いなお前」

 

十六夜は春日部のまるで『嗅覚』によって見つけたような言い方に興味がそそられる。

 

それよりも今はそこにいる奴だと視線を戻す。

 

何せ突然呼び出され、水浸しにされ服もおしゃかだ。どんな温厚な人物でもイラッと来るだろう。それがこの問題児3人。一体何をするのか分かった物では無い。

 

そして、軽く殺意の篭った視線を集めていて黒ウサギは、ビクビクしながら草むらから飛び出す。

 

「そんな怖い顔をしないで下さいよ。御3人様...御三人様?」

 

黒ウサギは出て気づいた。

 

呼んだのは3人でなく4人だったはずだ。

それなのに今目の前にいるのは3人だけ、おかしいと首を傾げる。

 

「どうしたんだうさ耳女」

「うさ耳女とは失礼な。私には黒ウサギと言う由緒正しい......て、それよりももう1人いませんでしたか?」

「「「もう1人?」」」

「ええそうです。もう1人呼んだはずなのですが...」

「あれの事か?」

 

十六夜は湖の上でうつ伏せで浮き上がってくる一誠を指さす。

 

指を指された方を見てもう1人を見つけた黒ウサギは顔を青ざめる。

 

「何で助けてくれないんですか!」

「めんどくさいし」

「同じく」

「私も」

「あぁもうこの問題児様方がーー!!」

 

黒ウサギは本来こんなはずでは無かったのにと、心の中で呟きながら湖に浮かんでいる一誠を引き上げた。

 

 

一誠を引き上げ木に凭れ掛かるように置きびしょびしょになった黒ウサギは、服の袖を絞り水を出していた。

 

「うぅまさか濡れる事になるとは...これなら濡れてもいい格好にすればよかったです」

「おいおい今に聞き捨てならねえ言葉が聞こえたな。他人は濡らしておいて自分は濡れる気はねえだと?面白い冗談を言うな」

「いやその違うのですよ」

 

冷や汗を流しながら否定する。彼らは問題児一体何をするのか分かった物では無い。もしかしたら責任として何かしろと言ってくるかも分からない。

 

「そうだな......えい」

 

十六夜は少し悩むフリをしながら近づき自分の好奇心のままに黒ウサギのうさ耳を鷲掴みにする。

 

多少濡れてはいるが触り心地は抜群。次は乾いてる時にでも触りたいなと思う。

 

「気持ちいの?」

「あぁ乾いてたら最高だな」

「そう...私も触るわ」

「ふぎゃぁ!」

「私も」

「あふぅ!!」

 

3人はうさ耳が本当に繋がっているのか引っ張ったり触ったりと、自分勝手に触りまくった。

 

時間とは無慈悲で数十分にも渡り耳を弄られ続けた。

 

うさ耳弄りから解放された黒ウサギは、自分のうさ耳が付いている事を確認すると多少の問題はあったものの、予定通り世界について語った。

 

3人は興味津々と言った様子で流石は問題児様方だと思う。

 

そこでまずは移動をしようと言うと、誰が一誠を持つのかと言う話になる。

 

「俺はパスだ。男を持つ趣味はねえ」

「私はそんな力は無いわ」

 

2人が断ると残るは1人だけ。春日部はため息を吐き一誠をおんぶする。少し重いかったが春日部にとっては軽い分類だった。

 

 

 

身体は上下に激しく揺れ、そのせいで不完全ながら意識を戻した。

 

(どこだここ?何かの乗り物?)

 

辺りを見回すも視界はまだ暗闇のなか。

 

人間は不完全な状態で起こされるととる行動は限られる。

一誠の場合はまず手を動かし何があるのかを確認する。

 

もミュ

 

柔らかいマシュマロを触った感覚だった。それは夢にまで見たおぱーいだが、いかんせん小さすぎる。

 

「男?」

 

元浜達などとよくこれが女の感触だ!などとふざけて触りあっていたので、ついその癖で男と呟いてしまう。

 

すると、今度は手を何者かに捕まれそのまま浮遊感に襲われる。

 

飛んでいる時に感じた風圧によって目を覚まし、丁度そのタイミングで地面とファーストキスをした。

 

「ぺっ!うげぇ...砂が......てか何ここ?それにさっきの感触は...」

 

完全に目覚めた一誠が周りを見ると、うさ耳を生やした少女黒ウサギとお嬢様の雰囲気を出している久遠飛鳥は白い目で見つめ。

 

先ほどまで完全に無感情だった春日部耀が、胸を手で隠しながら顔を紅くして殺意の目で見てくる。

 

それで何をしたのか理解ができた。

 

「男の娘の胸か」

「違う!!!!」

 

春日部の綺麗な蹴りが一誠の顎に直撃し、春日部のズボンは短いボトムスだったので、一誠の変態的な視界には微かに移った。

 

全男子の憧れの的白いパンツが。

 

その喜びもつかの間、近くにあった木に頭から突き刺さる。

 

 

 

「殺す絶対に殺す」

「落ち着いて春日部さん」

「落ち着いて下さい耀さん」

 

殴り殺そうとする春日部の両手を一人づつ抑え、どうにか殴り殺さないようにしている。

 

一誠の知識にはこのような場合の対象法は皆無だった。なのでとりあえず感想を述べることにした。

 

「えっと...その...まだ希望はあるぞ?多分」

「殺す!!この手で殺し尽くす!!!!」

「なっ!貴方も問題児様ですか!!何故火に油を注ぐような事を言うのですか!!」

「小さいのはみんなコンプレックスだろ?」

「えぇ確かにそうですとも。しかしそれは時と場合を考えてください!!!」

 

春日部は黒ウサギや飛鳥の説得によりどうにか攻撃をやめ、乱れた服を正す。

 

それでもなお、一誠には殺意の視線を送っていた。

 

どうにか落ち着くと黒ウサギから、この世界についての説明を聞く。

 

ここが一新の言っていた『箱庭』と呼ばれる世界である事を、その『箱庭』では新羅万物ありとあらゆる物が存在していて、ギフトゲームが世界の基盤として成り立っていることを。

 

(漫画や小説みたいな話だな...そうだこの機会だし白夜叉について聞くか)

 

「なぁ白夜」

「あぁ!!!もう1人のthe俺問題児的な方は何処にいるのですか!」

「十六夜君のこと?それなら彼『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』って言って駆け出して行ったわよ」

「なんで止めてくれなかったんですか!!」

 

黒ウサギの怒りは最もだ。

 

箱庭の果てには強力なギフトゲームをしている幻獣達がいる。確かに彼らは強力なギフトを持っているが、幾ら何でもいきなり幻獣わ倒せる程化け物じみていないはずだ。

 

それを知らない2人は何故そんなに怒っているのか分からないと言った表情をとる。

 

「なんでと言われても...止めてくれるなよ言われから」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったんですか!」

「黒ウサギには言うなよと言われたから」

「ギルティです!絶対に嘘です!本当はめんどくさかっただけでしょう!御2人様!!」

「「うん」」

 

2人の息の合った行動は黒ウサギの心にダメージを与えるには充分でその場に崩れ落ちる。

 

新たな同胞が異世界から来て、これからって時にまさかの自由行動。それも世界の果てときた、胃は締めつけられ痛くなるのは必然だった。

 

黒ウサギとしてはこのまま即ゲームオーバーを放置する事は出来ない。

 

「このまま道沿いに歩いてください。そして大きな門が見えたらジン坊っちゃんを呼んでください」

「貴方はどうするの黒ウサギ?」

「私は今からあの問題児様を連れ戻します!!」

 

頭を切り替え立ち上がった黒ウサギは、その場で少し屈み両足に力を込めると、艶のある黒い髪は毛先の1本1本余すことなく淡い緋色へと変化する。

 

そのまま地面を砕くほどの威力で飛び上がると、一瞬のうちに姿が遠くに行き見えなくなっていく。

 

黒ウサギの巻き起こした突風は3人の髪などを巻き上げる。しかし誰もが喋ろうとしない。

 

3人の間には気まずい空気が流れている。

 

先程まで胸をもんで罵倒しあっていた2人が、いきなり仲良くしろと言われて仲良く会話など出来るはずもない。それに巻き込まれた飛鳥も何を話せばいいのか分からず、アタフタとしている。

 

「...と、とりあえず行きましょう」

 

飛鳥は黒ウサギの言った通り進む事にした。どうにかジンと呼ばれる人物がこの空気を壊してくれる事を祈って。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一誠の神器遂に目を覚ます。赤龍帝目覚めの時

 

 

場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ぺリベット通り・噴水広場前。歩き続ける事五分、目の前には大きな壁が現れそれはある一定の区画を囲うように円状に広がっていた。

 

ひとまず黒ウサギの言っていた通りジンと言う人物を探す。丁度外と中を繋ぐ階段の前で蹲っているダボダボの服を着ている少年に聞く。

 

「ジン坊ちゃんって人はいるかしら?」

 

声をかけられ顔を上げる。

 

「その呼び方。もしかして黒ウサギの言っていた人達ですね」

「貴方がジン坊ちゃん?」

「そうですよ。あれ?それじゃあ黒ウサギは何処に?」

「まぁそれはおいおい話すわ。今はその...後ろをどうにかして欲しいわね」

 

ジンが飛鳥の後ろを見るとそこは極寒地獄だった。

いや実際には冷気で凍るなどは起きていないが、一緒に並んで歩いていた一誠と春日部の目は死んでいて、そっぽを向き合い口を開こうともしていなかった。

 

何があったらこうなると若干頬を釣りながら壁の中へと入っていく。

 

外から見ると中の様子など見えず、小さな建物でもあるのかな?と思っていると、太陽に届こうと高くそびえ立つ建物、地面を焼き尽くさんと輝いている太陽があった。

 

 

「中に入ったのに太陽があるの?」

「この場所は太陽が苦手な種族のために作られた物で、この中であれば太陽の光を浴びても大丈夫です」

 

太陽の苦手な種族。

飛鳥はあまり俗世に関わりが無く、パッと思いつくの一つだけだった。

 

「吸血鬼でもいるの?」

「いますよ」

 

ジンの即答に驚く。

 

飛鳥の知っている吸血鬼とは自分の赴くままに他者の血を吸い、干からびるまで血を抜くというある意味人にとっては敵的存在だ。

 

見た限り所々に人間もいるようなので、普通はそんな敵を生かすような真似はしないはずだ。

 

だがここは箱庭だった。飛鳥達の居た世界とはまるで違う世界。この世界であれば吸血鬼は悪い者ではないのかもしれないと納得した。それに今は後ろにいる冷戦状態の2人をどうにかしなくちゃいけないと、ジンにアイコンタクトをとる。

 

 

そのアイコンタクトの意味を一瞬で理解したジンは、テーブルを囲んでお茶をすれば多少は良くなるだろうと喫茶店へと案内する。

 

丁度目に付いた『六本傷』の旗を掲げているカフェテラスに座る。

 

「いらっしゃいませーご注文はどうしますか?」

 

入ってすぐ猫耳を付けた女性が、短いスカート可愛く揺らして注文を聞いてくる。入ってすとは随分と気が早いものだと思ったが、特にめぼしい物は無いので注文はジンに任せた。

 

「えっと紅茶2つと緑茶を2つ...あと軽食にコレとコレと」

『ネコマンマを!』

「はいはーい。ティーセット三つにネコマンマですね」

 

ん?と春日部以外が固まる。

それは誰もネコマンマなど頼んでいないからだ。

春日部はさっきまでの不機嫌が嘘のように目を輝かせる。

 

「もしかして三毛猫の言葉分かるの?」

「そりゃ分かりますよ。なんたって私は猫族ですよ」

 

頭部に付いている二つの猫耳をピクピクっとさせる。

 

「あなたもしかして動物と会話できるの?」

「うん生きているなら誰とでも」

「それは...素敵ね。じゃああそこにいる鳥とも?」

「出来るよ...呼ぶ?」

「今はいいわ」

 

よし来たいい流れ。2人は心の中でガッツポーズをとる。

春日部の表情は穏やかになり優しい笑顔を浮かべている。

 

機嫌が良くなった

 

『お嬢、お嬢。いい加減仲直りした方がいいちゃうか?』

「仲直り...あの変態と?」

『そなこと言ったて...悪気は無いと思うで。落下してる時もあいつが庇ったから大丈夫やったんや、結果としてあいつは溺れたようやけどな』

 

春日部は意外な事を聞き目を丸くする。

 

あの時は突然触られ男と言われ頭にきたからといって少しやりすぎたかもしれないと思う。が、その一方であっちも悪いと思っていた。

 

対して一誠は

 

(やべぇ...謝りたいけどタイミング掴めねぇ...よしここは腹を括って)

 

タイミングが掴めずにいた。

 

「「あの」」

 

2人は丁度同じタイミングで声を掛け合ってしまう。

 

「先に貴方が」

「いや、そっちが先に」

「貴方が」

「そっちが」

 

ピシ

 

2人の間の空気がまた凍りつく。

 

一体どんだけ仲が悪いんだと言いたくなってきていた。犬猿の仲とはこの事なのだろう。

 

 

凍った空気が分からない程馬鹿なのか、それとも知った上でやって来たが分からないが、ピチピチのスーツを着た大柄な男が空いていた席に音を立て座る。

 

「おや?これはこれは、誰かと思えば東区画最弱のコミュニティ、名無しの権兵衛のリーダージン君では無いですか」

 

その男が席につくと、睨み合っていた2人も流石に男の方を向いた。

その男の登場にジンは下を向く。

 

これは喧嘩している場合ではないと、一旦さっきの事などを忘れ男の話に耳を傾ける。

 

「ノーネームですよ。フォレス・ガロのガルド=ガスパー」

 

ジンの声には怒気が混ざっていた。それから察するに何かしら因縁があるのだろう。

 

すると、ガルドは机を叩き身体を乗り出して大声をだす。

 

「黙れ名無しめ。聞いた話では新しい人材を異世界から呼び出したそうじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させている物だ。そうは思いませんか?御三方」

 

話を突然振ってこられてもイマイチ現状を説明されていないので、何が?としか答える事が出来ない。

 

「普通なら、同席を求めるならば氏名を名乗った後に、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

「おっと、失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、って待てやゴラァ!誰が烏合の衆だ!誰が!」

 

ジンに横槍を入れられ馬鹿にされ激怒し姿が変化する。

 

口は大きく開き、その歯は獰猛な肉食獣のように鋭利に尖り、爪も肉を切り裂くように鋭くなる。

 

「口を慎め小僧...紳士で通ってる俺でも我慢出来ねえ事はある」

「森の守護者だったころの貴方なら尊敬と礼儀をしっかりしていました。しかし、今の貴方はただ手に入れた力を振り回す子供です。そんなあなたに何をすればいいのですか?」

「それなら貴様はなんだ?確かにお前らは過去は強かった。だが結局は魔王に負け廃れた。それなのにいつまでもそのコミュニティを残して何がしてぇ?」

「少し待ちなさい」

 

このまま口喧嘩をしているいつ飛びかかるか分からない2人に、飛鳥が両手を広げて割って入る。

 

「何を言ってるのかよく分からないけど、とりあえずジン君、説明をしてもらっていいかしら?」

「そ、それは...」

 

ジンは言い淀み口を開こうとしない。

 

それもそうだろ。誰が好き好んで自分のコミュニティは壊滅したんだと言えるだろうか。

 

そうしているとこれは好奇と思ったガルドが代わりに説明を始める。

 

まずコミュニティの説明から始め、コミュニティの重要性を語った後、自分の力の強さを示した。

 

彼らのコミュニティはここら辺にある程の店の権利を持っていて、証拠として『六本傷』の旗が証明していると語った。

 

ご自分の自慢が終わると、遂に本題であるジンのコミュニティへと話が移る。

 

「さて、ここからが貴方達のコミュニティの問題。実は貴方のいるコミュニティは数年前までは、この東区画最大手のコミュニティでした」

「あら、意外ね」

「まぁリーダーはそこにいるジン君とは比べ物にならないぐらい優秀な別の人物でしたがね。ギフトゲームにおける戦績で人類最高の記録を持っていたようですしね」

 

ガルドは他人の武勇伝を語るのは嫌なのか、つまらなそうな口調で語る。

 

所詮は過去の話。今の最大手のコミュニティは『六本傷』と言っても過言ではない。

 

「そのコミュニティはとある日、絶対に敵に回してはいけない存在『魔王』に滅ぼされてしまいました」

「「「魔王?」」」

 

彼らの中の魔王だと、基本城の中でふんぞり返り勇者に滅ぼされる存在だ。しかしここ箱庭では別の意味として使われている。

 

「魔王とは自由にギフトゲームを開催でき、挑まれれば最後絶対に断ることが出来ない。そして、貴方達のコミュニティは魔王に負け全てを失った」

 

ジンは下を俯き、3人の間に静寂が起こる。

 

飛鳥が紅茶を優雅に喉を潤すために含むと、音を立てないようにカップを机に置く。

 

「なるほどね。大体理解出来たわ。つまり魔王とはこの世界で特権階級を振り回す神などで、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として遊び壊された。そういうこと?」

「そうですとも。そんなコミュニティをジン君は未だに残しています。全てを絞り尽くされ、名も旗も主力人員も失った彼らに何ができますか?この世界ではそんな彼らに誰も信用せず仲間も集まらない」

 

ガルドは手を大きく振り豪快な笑顔で嘲笑う。その屈辱にジンは膝の上に置いていた両手を強く握りしめる。

 

「私はそんなコミュニティを支えている黒ウサギが不憫でなりません。ウサギと言えば箱庭の貴族とされ何処のコミュニティでも、破格の待遇で愛でられるはず。なのに彼女は糞ガキ共のために身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティをやりくりしている」

「......そう。それで貴方は何でそんな事を親切に話してくれたのかしら?」

「単刀直入に言います。黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」

「な!何を言って」

 

ジンはガルドの突然の発言に我慢していた怒りを爆発させ席を立つ。

 

ジン達とて何も無償で飛鳥達を呼び出したのではない。最後の希望。全てを立て直すためにと少ないお金を払って召喚していた。

 

そして今まで自身のコミュニティを語らなかったのもそのため。せっかく呼び出したのに他のコミュニティに行く。最も最悪なパターンだ。だからこそ細心の注意を払ってきたのに、その全てを目の前の男は無駄にした。

 

「黙れ!ジン=ラッセル。てめぇが名と旗印を変えていれば最低限の人材は集まったはずだ。それを貴様の我が儘でコミュニティを追い込んでおいて、どの顔で異世界から人材を呼び出した?」

 

ジンは正論を言われ黙ることしか出来なかった。黙ったのを確認すると飛鳥立ちに向き直る。

 

「それでいかがですかこのお話は?」

「結構よ。ジン君の所で間に合ってるもの」

 

ガルドは鳩が豆鉄砲を食らったように唖然とする。

 

飛鳥はさも当たり前のように言い放ち、紅茶を三度含むと耀に話しかける。

 

「春日部さんは今の話どう?」

「どっちでもいい。私は友達を作りにきたから」

「そうなら私が友達第一号に立候補していいかしら?」

「久遠さんは」

「飛鳥でいいわよ」

「うん。飛鳥なら私の知ってる女の子と違うから大丈夫かも」

 

2人は見合うと笑い合う。こちらの2人は仲がいいようだ。

 

ガルドは焦り気味に残っているもう1人の男に目線を向ける。

 

「俺はうーーん。ジンの所でいいかな。特に目的があって来たわけじゃないし」

「な...理解しているのですか!それは」

「黙りなさい」

 

ガルドの口は自身の意志とは関係なしに口を強制的に閉じた。

 

本人は何が起きたか理解出来ず、口をどうにか開こうとするも何か別の力がかかっているのか一向に開こうとしない。

 

「さて、今度は私の質問の番ね。貴方はそこに座って、私の質問に真実のみで答えなさい」

 

今度は椅子にヒビが入る勢いで座る。

 

やはり動こうと手を足を動かそうとしてもピクリとも動かない。

 

「お、お客さん当店で揉め事は」

「丁度いいわ、第三者として聞いて言って欲しいの。ねぇジン君。コミュニティそのものをチップとしてかけてギフトゲームを行うのは、そうありえる事なの?」

「い、いえやむ得ない状況なら稀に。しかしコミュニティをかけるのはかなりレアなケースです」

 

そうと呟くとガルドの方を向き質問をする。

 

「そうよね。来たばかりの私たちでもわかるわ。そのレアケースが貴方にばかり頻繁に起こる...なぜかしら?答えてくださる?」

 

さっきまでの拘束力が嘘のように口が開き、ガルドの意志とは関係なく語り出す。

 

「強制させる方法は簡単だ。子供女を人質にとって強制した」

「まぁ随分と野蛮ね。それでその人質はどこに幽閉しているのかしら?」

 

飛鳥は酷く当たり前の事を聞いた。だが、ガルドからは驚きの一言が語られる。

 

「もう殺した」

 

その一言に当たりの空気は凍りつく。

その空気の中ガルドは語り続ける。

 

「初めてガキ共連れてきた日、泣き声が頭にきた殺した。流石にその後は自重しようとしたが、また泣きわめいたうるさいから殺した。その日以降連れてきたガキはすぐ殺した。けど、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。だから始末したガキは遺体の証拠が残らないように腹心の」

「黙」

 

飛鳥の能力は相手に命令しなくては力が発揮されない。だからこそ唖然としすぎて『黙れ』の命令が遅れる。

 

飛鳥は慌てて言おうとしたが、その言葉が完成する前にガルドの巨体は宙に浮かびカフェテラスから外に吹っ飛ぶ。

 

ガルドのいた席には拳を前に突き出している少年がいた。

 

「おい、黙れよ。それ以上その汚ねぇ口を開くな!!」

 

一誠は変態と呼ばれていても、非人道的な行動をしようとは思った事がない。しかし、目の前の男はそれをまるで武勇伝のように自慢げにしていた。

 

全く持って許せない。だからこそ自然と拳が伸びた。

 

いつもの一誠ならばガルドの巨体を吹き飛ばす事など出来ないが、今の一誠は違った。

 

殴った右手には二の腕まで伸びる赤い篭手が付いていて、手の甲の部分にある緑色の水晶からは『Boost』と音が流れていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白髪幼女先輩とご対面です

 

「なんじゃこれぇ!!!」

 

ガルドを殴った自分の腕を見て叫ぶ。

 

一誠には自分の腕に赤い篭手などつけた記憶が無い。てか、この篭手自体全く知らない。

 

どうにか取ろうと引っ張ったり、隙間に手を入れるが一向に外れない。

もしこれが取れないと一生このままなのかもしれない。

 

ご飯を食べる時も、自慰行為もする時も...利き手が使えない......考えただけでゾッとする。

 

「この、この!!」

「落ち着いてください一誠さん。多分それはギフトの類です。消えろと念じれば消えるはずです」

「本当だな、消えろ...消えろ」

 

一誠が念じるとすぐに篭手が消える。

 

消えて良かったと安堵の息を吐く。

 

(これで出来るな。良かった...出来なくなるとか死ぬかと思った)

「それは...何故何故何故」

 

ガルドは篭手を見た瞬間、一誠の事を化け物を見る目で怯えていた。

 

何故そんなに怯えているのか分からないが丁度いいと飛鳥は近づき語りかける。

 

「ふふ、私達とギフトゲームをしなさい。期限はそうね...明日がいいわ。ギフトゲームはよく分からないから貴方が決めなさい。それと、勝てたら人質の件は黙っててあげる。けど負けた時は覚悟しなさい」

 

ガルドは涙を浮かべその場から走り去っていく。

 

あれ?逃げるの?と全員同時に思っていた。

 

 

 

 

 

日が暮れる黒ウサギ達と合流すると案の定全ての事情を聞いた黒ウサギは、うさ耳を逆立てて怒っていた。

 

「なんであの短時間にフォレス・ガロのリーダーと接触して喧嘩をうる状況になるんですか?それにゲームの日取りは明日?それも敵のテリトリーで戦う?準備している時間もお金もありません!その辺分かっているのですか4人とも!!」

「「「「ムシャクシャしてやった。反省もしてない」」」」

「黙らっしゃい!!」

 

誰が言い出したか分からないが、口裏を合わせたように一語一句間違えずに返答する。

 

その返答に激怒して髪が緋色に変化しどこからか取り出したハリセンで4人の頭を叩いていた。

 

それを見て内容を理解した十六夜は頷き、黒ウサギ達の間に入る。

 

「まぁいいじゃねえか。見境なく喧嘩を売ったわけじゃねえんだから、許してやれよ」

「十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんが、このゲームでは我々に何もメリットがない物何ですよ!」

 

黒ウサギが持ち出した『契約書類』は主催者権限を持っていない者が、ゲームを開催するのに必要なギフトである。

 

この『契約書類』を持ってきたのは逃げ帰ったガルドの代わりに、その手下の白髪の男でワーウルフのドルン=ワイツァが慌てて走って持ってきた。

 

その時は丁度黒ウサギと合流した時で『契約書類』を見て叫んだのは言わなくても分かるだろう。

 

そして、その『契約書類』には飛鳥の言った通り、こちらが勝てば罰を与え負ければ見逃すと言った事が書かれていた。

 

「私はね黒ウサギ。道徳云々よりも、あの外道がのうのうと野放しにされている事が許せないの。それにここで逃せば、いつかまた狙ってくるわ」

「し、しかし」

「僕もガルドを逃したくない」

 

2人の凛とした眼差しと、語られた言葉に諦めたようにため息を吐く。

 

それに十六夜が入ればどうとでもなると考えた。蛇神を倒した破格のギフト。ガルド程度なら簡単に倒せるだろうと、しかし問題児は予想の斜め上を行く。

 

「それでは十六夜さんくれぐれもお願いしますよ」

「何がだ?」

「ですからこのギフトゲームを」

「何言ってんだよ。俺は参加しねえぞ」

「当たり前よ」

「な、何を言ってるんですか!ちゃんと協力しないと」

「そういうことじゃねえ。これはコイツらが売って、ヤツらが買った。そこに俺が入るのは無粋だって言ってんだよ」

「あら、分かってるじゃない」

 

方や世界の果てを見ると言って蛇神を倒し、方やコミュニティのリーダーに喧嘩を売り、自分達の力だけで戦うと言う。

 

問題児だとは思っていたが、ここまでだとは思っていなく、黒ウサギの胃はマッハで穴が空きそうだった。だからもうなるようになれと諦めるように肯定した。

 

 

黒ウサギは頬を叩いて切り替えると、十六夜の戦利品である水樹の苗を大事そうに持ち上げ、これからするべき事を決める。

 

「ジン坊ちゃん。お先に帰っておいてください」

「けど、黒ウサギ」

「明日がギフトゲームだとするなら、早い内にサウザンドアイズに行って、ギフト鑑定をした方がいいと思いますので」

 

 

ジンはそうだねと頷くと、小走り気味に自分達の住まいへと帰還する。

 

それを見送った後今度は突然どっかに行くなんて問題児が出ないように、目を光らせながら歩いていく。

 

誰も脱走することなく黒ウサギの後に静かについて行くと、道中綺麗に咲き誇る桜が目に入る。

 

「桜の木?のわけが無いわね。花弁の形も違うし、真夏になっても咲き続けるはずがないわ」

「いやまだ初夏になったばかりだぞ、気合のある桜ならまだ残っててもおかしくないだろ?」

「え?今って桜のシーズンの春だろ?」

「...秋だと思うけど」

 

うん?と4人の話が噛み合わず頭を傾げる。

 

それを聞いていた黒ウサギがクスッと笑う。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。元いた時間軸以外にも歴史や文化、生態系なども所々違うと思いますよ」

「それってパラレルワールドってやつか?」

「近いですが違います。立体交差平行世界論と言って...説明するとギフトゲームが始まる日までかかるので、これはまたの機会に」

 

立体交差平行世界論とは簡単に言うと、平行世界(パラレルワールド)が並列に広がっているので一生関わる事がないが、立体交差平行世界では何らかの要因αによって世界同士が干渉し関わり合う事が出来るようになる事を言う。

 

今回はその何らかの要因αが箱庭、黒ウサギ達と言うことになる。

 

そんな小難しい話をしていると、黒ウサギは足を止める。サウザンドアイズに着いたようだ。

 

店の掲げている旗は『六本傷』とは違い、蒼い生地に2人の女神が向かい合っている物だ。

 

すでに日も暮れて看板を下げようとしている割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込んでストップをかけるが、

 

「まっ」

「待ったは無しですお客様。うちは時間外営業はしておりません」

「コンビニがどれだけ優秀だったか初めて理解したぜ」

「あぁ同感だな。商売っ気が無さすぎる」

「そう思うならどうぞ他所の店へ。それと貴方がたは今後一切のこの店への出入りを禁止します」

「出禁!?たったこれだけで出禁!?少しお客様を舐めすぎだと思いますよ!?」

 

日本であれば快く開くと思うのだが、やはりこれは名と旗印が無いのが大きいのだと十六夜は考えた。

 

その予想は見事的中で、コミュニティの名前を聞かれた黒ウサギは言い淀んでいた。

 

このまま押し黙るのは癪に障るので代理として答える。

 

「俺達のコミュニティ名はノーネームなんだが?」

「なるほど...それでは旗印を見せて貰ってもいいでしょうか?」

 

十六夜は相手の店員の腹黒さにすぐさま理解した。この店員は旗印を無いのを知っていながら会えて言ってきているからだ。

 

なにせ普通の客なら閉店間際でも入れるのが店の常識だろう。それなのに俺らを見ても片付けの手を止めることがなかった。

 

てことはノーネームの団員を全て記憶していて、その中に黒ウサギがいたからこそ門前払いをしているのだろう。

 

一層の事このまま殴り込んでやろうか?と思い始めた時、店内から謎の叫び声が駆け寄ってくる。

 

「ひいっっっっさしぶりだのぅぅぅ!!!くぅぅぅろぉぉぉうさぎぃぃぃぃ!!」

「うぎゃあ!!!!」

 

中から出てきた着物服を着ている白髪幼女が、黒ウサギの腹部に飛び込み一緒に浅い水路まで飛んでいく。

 

まさかの珍事件に頭が痛いと店員は頭を振る。

 

「なぁこの店にはドッキリサービスがあるのか?なら他のパターンも」

「ございません」

「有料でもか?」

「やりません」

真剣に説得しようとする十六夜に、真剣に本気で断ろうとする店員。一見ふざけているように見えるが互いに本気だった。

 

「白夜叉様!!なんでこんな最下層に!!!」

 

白夜叉、その言葉を聞いた一誠は一新の言っていた事を思い出す。

 

『中身はイッセーにやる。だがそれを取り出すには白夜叉の所にいけ』

 

一新の言っていたことが正しいならあの幼女に会いに行けと言っていたことになる。

 

もしかして聞き間違えたか?と首を傾げながらズボンのポケットの中にあるギフトカードに触る。

 

黒ウサギはどうにか白夜叉を引き剥がし、店側に投げるが足元が湿っていて、つい滑り一誠の方に飛ばしてしまう。

 

「あっ」

「うわ!危な!」

「ゴデバァ...お、おんし......殺す気か」

 

一誠は咄嗟に受け止めようと手を前に出すと、普通なら腹部を受け止めることが出来たのだろうが、生憎と幼女は背が小さく、喉に拳を叩き込む事になった。

 

「流石にそれはどうかと思うぜ」

「変態はどこまでいっても変態」

「ううんそうね...」

 

問題児3人と1歩後ろに引いて汚物を見るような目で見ていた。

 

なにせ目の前で幼女の殺人未遂......誰でも引くことになるだろう。

 

違うと弁明しようと、手に持っていた白夜叉を黒ウサギに投げ返して、またカオスな空間となっていた。

 

この店のオーナーでもあった白夜叉は謝罪をすると共に店の中へと案内して、自分の私室へと案内される。

 

私室に案内された5人は白夜叉の言う通り、近くにあるソファーへと腰を下ろす。

 

「さて、改めて自己紹介をするかのう。三三四五外門に本拠を構える、サウザンドアイズの幹部白夜叉じゃ」

「?外門って何?」

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若ければ若いほど、外壁の中の方に行き力も強大になっていくのですよ」

 

黒ウサギは分かりやすく適当な紙にパパッと外壁を書き、4人に見せる。

 

「超巨大なタマネギ?」

「いやバームクーヘンだろ?」

「私もバームクーヘンだと思うわ」

「バームクーヘンだな」

 

過去においてこの門をバームクーヘンだの巨大タマネギだとと例えた人物はいない。まさかの例えに肩をガックリと落とす。

 

黙って聞いていた白夜叉は面白いのうと笑う。

 

「実に面白い例えをするのう。ならばじゃ今いるこの場所はバームクーヘンの薄い皮の部分じゃな。そして、そのすぐ隣は世界の果て...つまり強力なギフトを持った幻獣達がうようよおる。そう、その水樹の持ち主のようなな。して、誰がどのようにして勝った?知恵比べか?勇気を試したのか?」

「いいえ。この十六夜さんが素手で倒しました」

 

自慢げに言った黒ウサギに白夜叉は驚く。

 

「なんと!まさかそこの童は神格持ちか?」

「それも違うと思います。もし神格を持っているならば見れば分かるはずです」

「確かにな...ならば何が?」

 

神格とは与えられるとその種の最高のランクに昇格させるものだ。

 

蛇神もその一つで、蛇に白夜叉が神格を与え巨大な水の蛇神として誕生させていた。

 

そして、その神格持ちを倒すとなると同じ神格持ちで無ければならない。眼には眼を歯には歯を神格持ちには神格持ちをと。

 

どんな理由で倒せたのか皆目検討がつかずかんがえていると、あのヘビの神格わ与えたのが白夜叉だと知った十六夜は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「なぁ、お前はあのヘビより強いのか?」

「当たり前じゃ、私はこの東区画の階層支配者だぞ。この東区画の四桁以内にあるコミュニティでは並ぶ者のいない、最強の主催者なのだからな」

 

最強の主催者...3人の問題児を滾らせるのには十分な物だった。

 

「ふふ、つまり貴方を倒せば私達のコミュニティは東区画で最強ってわけね」

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

「うん楽」

 

3人が闘気をむき出しで白夜叉を見ると、白夜叉はお前はと一誠を見る。

 

「いやいやいや。俺普通の高校生だぜ?無理無理」

「そうか」

「な御三方本気ですか!」

「まぁまて黒ウサギ。私も最近暇でな丁度遊びたいと思っておった」

 

黒ウサギの発言を止め立ち上がると懐から旗印と同じ紋が入ったカードを取り出す。

 

「して、おんしらに問おう。おんしらが望むは挑戦か?それとも......決闘か?」

 

刹那、全員の視界は瞬く間に変化する。

数々の記憶にない場所を転々と移動して、最後に辿りついたのは白い雪原と凍る湖畔......そして、水平に太陽が回る世界だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一誠のギフトカードの中身

 

 

突然の変化に4人は唖然と立ち尽くす。

 

一瞬、瞬き一つで世界は変化した。和室の面影は一切なく、それには星が一つだけ浮かんでいて、緩やかに世界を水平に廻る白い太陽。

 

変化というよりは世界を作ったようにすら感じる。

 

唖然としている3人に白夜叉は、凄味のある笑みを浮かべ三度問う。

 

「さて今一度問おうかのう。私は″白き夜の魔王″......太陽と白夜の精霊、白夜叉。おんしらが望は試練への挑戦か?それとも対等な決闘か?」

 

十六夜はこの状況でも白夜叉の発した言葉を一語一句聞き間違えること無く理解し、頭の中で整理をする。その時間数秒にも満たないが白夜叉の正体を考えつく。

 

「そうか......白夜と夜叉。なるほどな、てことはこの場所にある全てはオマエを表現してるってことか」

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、この世界の果てから薄明の太陽が現れ全てを照らす。

 

白夜は真夜中になっても薄明で明るく、決して暗い夜が来ない現象を指す。北極圏や南極圏で多く見られる現象だ。

 

そして、夜叉。

インドや仏教にその名が記されていて、鬼神とされている。

 

この箱庭において最強と名高い精霊と神霊、その両面を持っている。だからこそ彼女は箱庭の代表になれる強大な魔王だった。

 

 

さっきまで意気揚々としていた3人は押し黙り今起きている事をゆっくりと理解する。

 

十六夜は諦めたようにため息を吐きゆっくりと口を開く。

 

「参ったやられたよ。降参だ白夜叉。今回は黙って試されてやるよ...魔王様」

「ふはは負けを認めてなおその態度か、良い良いぞ。して、他の童達も同じか」

「ええ試されてあげる」

「右に同じ」

 

十六夜に先を越された悔しさで歯切れが悪い。

一連の流れをヒヤヒヤと見ていた黒ウサギは安心した肩から力を抜く。

 

「全くもう!黒ウサギを殺す気ですか。全くもう!新人に売られた喧嘩を買うなんて冗談にしても寒すぎます!それに魔王だったのも、もうかなり前じゃないですか!」

「ん?そうじゃったか?最近歳でな」

「今更年寄りアピールしないで下さい!」

 

挑戦する事が決まった事で全員の耳に今まで聞いた事の無い鳴き声が聞こえる。

 

あの動物が友達と言い張る春日部ですら、聞いた事がないという。

 

驚いた反応を楽しんだ白夜叉は向こう側にある山脈に手招きをすると、またあの鳴き声が聞こえ、体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げ空を滑空してくる。

 

遠く小さかった身体は近づけば近づくほど良く見え、その姿をしっかりと見た2人は目を輝かせる。

 

鷲の頭と翼に獅子の下半身を持つ生物。そんな生物は一誠ですら知っている。

 

「グリフォン...嘘...」

「グリフォンだと...ふぉぉぉ!!!マジかよ!!」

 

春日部と一誠は対照的な態度だが両方とも嬉しい喜びだった。

 

春日部は親との約束、一誠はゲームの世界に憧れていたから......

 

グリフォンが到着するとサウザンドアイズの旗印の紋が刻まれた羊皮紙が現れ、白夜叉が指でなぞると文字が浮かび上がる。

 

ギフトゲーム名″鷲獅子の手綱″

 

・プレイヤー一欄  逆廻十六夜

          久遠飛鳥

          春日部耀

 

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 『力』と『知恵』と『勇気』の何れかでグリフォンに認められる。

敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″サウザンドアイズ″印

 

すごい勢いで読み終えた春日部がピンと手を上にあげ先発は自分が行うと言う。

 

反発するかとおもった十六夜と飛鳥は以外にもすんなりと先発を譲る。

 

春日部はグリフォンの近くに行くと、姿をじっくりと鑑賞して満足がいくと、本来言葉が通じないはずのグリフォンに声をかける。

 

「えっと...その初めまして、春日部耀です」

『なんだと!!貴様言葉が理解できるのか!!』

 

そも、グリフォンは幻獣と呼ばれ物で、その種族によって言葉がバラバラだ。なので人間がどう頑張ろうと言語を覚えるのは至難の技だ。

 

それを目の前の少女はいとも簡単に行って見せた。それには白夜叉も感嘆の吐息を洩らす。

 

言語が通じるのが分かった春日部は、1度喉を鳴らして声を整えると言葉を続ける。

 

「私を貴方の背に乗せてください。誇りを賭けて勝負をしてください」

『ほほう......』

「勝負内容は貴方が飛んできたあの山脈を、時計回りに一周してまたここに戻ってくる。私がその間に振り落とされれば負け、落ちなければ勝ち...ダメっかな?」

『いいぞ。しかし、貴様は何をかける?背から小娘一人落とせねば、私の名誉は失墜する。それと対等な物がお前にあるか?』

「命をかけます」

 

春日部は表情を変えずに、あらかじめ考えていたように即答する。

 

黒ウサギと飛鳥が否定をしようとするも、春日部は頭を横に振って命をかけるのをやめようとしない。それでも引かない2人に十六夜と白夜叉が邪魔をするなと言い放ち、口論している間にグリフォンへと春日部は近づく。

 

グリフォンは少し考え背に乗せる事を了承した。

 

緊張しながら乗り手綱をしっかりと握りしめ春日部の挑戦は始まる。

 

 

 

グリフォンは空を飛ぶというよりは空気を踏みしめるようにして進んでいた。

 

それは別に比喩ではなくグリフォンの特殊なギフトだった。空を踏みしめ進む。進む速度は普通に飛行するよりも遥かに早く、グングン進んでいく。

 

流石に十六夜の第三宇宙速度には程遠いが、その速度は戦闘機より早い速度で進んでいた。

 

グリフォンは十分程度で山を回りきり、ゴールラインの場所を越え春日部の勝利が決まった。

 

が、勝利の余韻に浸る暇なく手綱から手が離れ、春日部は真っ逆さまに落下する。

 

「まずい!」

「まて黒ウサギ。一誠お前が行け」

「え?俺?」

「あぁ女の黒ウサギが行くよりお前の方がキャッチできるだろ」

「よし任せろ!」

 

十六夜の口車に乗せられてると知らずに意気揚々とかけて行き、落下地点の下に入り両手を広げ、

 

「よしこぐべらぁ!」

 

春日部は空中で体制を整え、一誠の顔面を踏み台代わりに踏み、グリフォンのように空気を踏みしめて空に飛び上がる。

 

春日部のギフトの力とは動物と話すだけでなく、友達になった動物のギフトを使用することができるというものだった。

 

しかし、それだけでは山を一周するのに身体が耐えられるはずがないので、何かしら別の能力もあるのだろうと十六夜は予想していた。

 

階段を下るようにゆっくりと地面に着地すると一誠の方を見て嘲笑気味に言葉を放つ。

 

「ごめん。存在が小さすぎて踏み台かと思った」

「いやそれなら仕方ないな。うん......そうだ、疲れたろ?肩揉んでやるよ」

「いやいい。変態に触られたくない」

「いやいやいや、遠慮はやめとけ。本気でやってやるからよ!」

 

互いに向き合い両手を組み合わせて押し合う。本当はお前ら仲いいだろと思いたくなる光景だ。

 

全く奴らはと頭を横に振りグリフォンに労いの言葉をかけ帰宅させると、黒ウサギに何の用できたのか聞く。

 

「して何用で来たのだ?」

「今回はギフト鑑定に来たのですけど」

「ギフト鑑定ときたか...専門外どころか無関係なのだがな...今回のギフトの報酬としてやろうかの」

 

白夜叉が手を数回叩くと三人の前にそれぞれ色が別な特別なカード、ギフトカードが配られる。

 

「ギフトカード!!」

「お中元?」

「お年玉?」

「全然ちがうわ。これはな」

「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」

「これはな...」

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

「ええい少し黙らんか!!」

 

一誠と春日部の頭を扇子で叩き伏せる。

 

地面に頭を擦り付けた2人は顔のみを傾かせ白夜叉を見る。

 

「「何?」」

「なぜ少し怒っておる。全く...話を聞け」

 

白夜叉からギフトカードの便利性を語られ、3人は興味深く見ているとふとあることに気づく。

 

「おい白夜叉、一誠の分がねえぞ」

「しまった忘れとった」

「ぷぷ忘れられてる」

「よしそこになおれ、お前は女としてじゃなくて敵として殴る。それと、俺ギフトカード持ってるから要らねえよ」

 

全員が頭を横に傾げる。

 

一誠の今言った言葉が真実ならば既にギフトカードを手に入れている事になる。しかし、ギフトカードとはそう簡単に手に入るものではない。

 

ここら辺にいる下級のコミュニティでは持っている者は少ない。それをこんな名も旗印もないコミュニティに渡すなど大盤振る舞いがすぎる。

 

「なんじゃと、童持っておるのか!」

「うんほれ」

 

ズボンのポケットに入っていたカイムラサキ色のギフトカードが出てきた。

白夜叉はそのカードを見た瞬間1人の男が浮かび上がる。

 

兵藤一新。

過去名と旗印があった時の黒ウサギ達のコミュニティに所属しており、数々の伝説を作った男だ。

 

 

その中でも特に目立つのは聖剣が関わるものだ。

 

所持聖剣数は100を超えてから数えるのをやめ、聖剣コレクターとして有名でもある。ついた通りなが『剣王』や『聖剣馬鹿』などだ。

 

その所持していた聖剣の中でも、魔王と戦う際に使われた7本の聖剣がある。それを七聖剣と呼ばれている。

 

そんな男も名と旗印を奪った魔王に敗北し、姿を消していた。死ぬとは思えぬと思っていなかったが、まさか子供がいるとは思っていなかった。

 

だがもしかしたら拾っただけという事もある。

 

 

「童!名はなんという」

「兵藤一誠だけど」

 

その言葉に白夜叉だけでなく黒ウサギも驚く。

 

正しく兵藤一新の息子なのだ。

 

しかし、そうなるとおかしな点がある。

この箱庭にいる時とある女性と付き合っていた。

 

姫路麗華。

人間でありながら幻獣種の存在である魔法使いと呼ばれる人種で、その潜在魔力は他の魔法使いの追随を許さず、神に匹敵するのではとも言われていた。

 

その2人は馬鹿夫婦のようでもし子供が出来たら新たな英雄となると噂されていたが、世界はそんな2人を嘲笑うように子供が作りにくい身体にしていた。

 

だから目の前にいる一誠はかなりの奇跡なのだと思ったが、2人の子供であれば並外れた魔力のはずなのだ。しかし、一誠から感じるのは赤子より小さい魔力だった。

 

どういう事か考えつつも、一誠の持つギフトカードを見ると『赤龍帝の篭手』『⊇⊃⊃⊂∋⊂∈』『デュランダル』があった。

 

赤龍帝と引っかかる言葉もあったが、それよりも文字化けしている物が問題だった。

 

(馬鹿な文字化けだと...あのラプラスの紙片だぞ......となるとますます母が麗華の説が高まるな。しかし、そうなるとこの魔力の低さは...)

 

ブツブツと考え始めた白夜叉を尻目に、黒ウサギがギフトカードを覗き『デュランダル』を見つける。

 

「な、デュランダル!!!」

 

デュランダルは聖剣の中でもかなり有名だろう。数々のゲームの中でも強大な力を奮ってきた聖剣だ。

 

敵に渡らないようにへし折ろうと岩に叩きつけるも、逆に岩が真っ二つに割れ傷が一つもつかなかった。

ローランも歌の中でその切れ味は語っており「切れ味の鋭さデュランダルに如く物なし」と

 

デュランダルは七聖剣の一つでもある。

魔王との戦闘で失われたと思われていたが、まさか本人が持っていたとは思っても見なかった。

 

デュランダルという有名な聖剣の名前を聞いた十六夜は興味を示す。

 

「それってローランのデュランダルか?」

「うむそのはずじゃよ」

「なら見ようぜ。何でもかなり綺麗だって言うじゃねえか」

 

白夜叉は過去に見たデュランダルの輝かしい姿をまた見たいと、現在の所有権が一新のままなのを一誠に書き換え一誠に渡し、デュランダルを取り出してもらう。

 

周りにいた全員も固唾を飲んで緊張する。

 

一体どんなに物が出てくるのかと......

 

出てきたのは全員の予想を上回る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

錆びて輝きも神々しさもない、オンボロ剣と成り果てたデュランダルだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一誠は実は突発性ハレンチ症候群かな?

 

白夜叉の覚えているデュランダルとは形が同じロングソードであったが、鞘は黄金色には輝いておらず錆びついている。

 

「どういう事だ...一体何が...」

「おい一誠触ってみろ」

「分かった...痛っ!」

 

一誠が恐る恐る手を伸ばしデュランダルに触れると、触れた場所から拒絶するように電撃が流れる。

 

痛みはそこそこあったので咄嗟に離れると、浮かんでいたデュランダルは地面に落下する。

 

「ふふ...拒絶されてる......」

「な...痛くなんかァァ!!ないィィィ!!しィィィ!!!」

 

電撃で拒絶されると分かっていながらも、歯を食いしばってデュランダルを鷲掴みにする。

 

やはり電撃が飛び散っているがそれでも一向に離そうとしない。

十六夜は頑張っている一誠に近づくと紐で手と剣を固定する。

 

頑張れと意味を込めて背中を叩きニヤニヤとした表情で元の位置に戻る。

 

一誠はその場に倒れ込みドタバタ暴れる事数分。遂に耐えきれず離そうと手を離すが、紐のせいで離れない。

 

どうにか離そうと手を激しく振るとだんだん紐が緩み始め、デュランダルは手から離れ飛んでいき春日部の顔面に直撃する。

 

全員に静寂が訪れる。

その静寂を破ったのは一誠の笑い声だった。

 

「くふ...あはははははは!!顔面くふふふふ!!もう無理あはははははは!!」

 

その場で蹲って腹を抱えて笑う。

 

飛鳥達が止めようとする前に春日部の方から殺気が放たれた。その殺気で空気が一瞬で凍る。

 

顔面に当たっていたデュランダルが地面に落ちると、春日部の般若に歪んでいる顔が現れる。

 

「えっと...その...ごめん...」

「ユ......イ」

「え?」

「ユルサナイ」

「えっと...」

「ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ」

「ひぃぃ!!」

 

春日部の姿はその場から掻き消え一誠は嫌な予感がして咄嗟に身体を逸らすと、逸らした場所に春日部の本気の拳が通り過ぎる。

 

拳により巻き起こった風は一誠の髪を揺らす。

 

「なぁ逆廻...」

「なんだ一誠?」

「遺言いいか?」

「いいぜ」

「女のおっぱいを触りたかった」

「コロス」

 

春日部は宙に飛び上がり殴るために拳を突き出すと、一誠を守るようにデュランダルが割り込み拳を受け止める。

 

拳を受け止めた瞬間錆がボロボロと落ち始め、燦々と黄金の鞘が輝く。

 

それは過去に白夜叉が見たデュランダルと全く同じ物だった。

 

「へ?生きてる?」

「これが本物のデュランダル...ヤバぇな...」

 

過去十六夜は地球の有名な綺麗な名所を見て回った。確かにそれらは美しく感動はしたが、それをはるかに上回る感動が襲っていた。

 

十六夜おも感動させた輝きは怒り狂っていた春日部の動きを止め冷静さを取り戻させていた。

 

「アレ?...私は何を?」

「何もしてないわよ、ねえ一誠君?」

「おおう...そうだな...うんそうだ」

「?にしてもそれ戻ったね」

 

落ちたデュランダルを持ち上げた一誠はせっかくならばと鞘から抜く。

 

すると、先程まで錆びていたとは信じられない白銀の刃が現れる。

 

デュランダルは七聖剣と言われるだけはあり数々の死線を越えてきた。普通は一つの死線を越えれば剣などは大なり小なり傷がつく。

 

しかし、デュランダルにはそれらが一切見られない。逆に綺麗すぎて一誠の顔が映っていてる。

 

不壊(デュランダル)と言われたりもするが傷が一切つかないとは次元が違うとしか言い表せない。

 

「すげ......」

 

真剣を初めて見た一誠ですらその凄さは理解できる。

 

いくら傷がつかないとは理解していても慎重になるのが人間だ。剣に傷がつかないようにゆっくりと鞘にしまう。

 

しまい終えた剣は赤龍帝の篭手と同じ感覚でギフトカードの中へと戻す。

 

「お主は自分の父の事を知らないのか?」

「全く聞いた事がないから少し知りたいな...」

「ふむ黒ウサギ後で教えてやれ」

「はいわかりました」

 

うさ耳をピンと張り命の恩人の一人でもあった一新の事を伝える事を承諾する。

 

「少し時間が取られたな、してお主らはどうだ?」

 

忘れてたと各々は自らのギフトカードに向き合うと2人は納得の行く結果が出た。

 

春日部は『生命の目録(ゲノム・ツリー)

飛鳥は『威光』

 

だが十六夜はニヤニヤと自分のギフトカードを見た後白夜叉に見せる。

 

「なぁこれってよ壊れてんのか?」

「何?どれ見せみろ...そんな馬鹿な...『正体不明(コード・アンノウン)』だと......ありえん...全知全能のラプラスの紙片が判別できないだと...まだ文字化けの方が理解できるぞ...」

 

文字化けは何かしら別の要因があると判断できるのだが、ギフトの名前が何かすら判別出来ないとなると、十六夜のギフトがそれ程特異だと物語っている。

 

もしかしたらギフトを無効化したのかもと考えたがそれこそありえないとすぐに否定する。

 

何故なら黒ウサギの話が本当ならば神格保持者すら倒す事ができる強大な奇跡を持っているのに、その奇跡を打ち消す力も身体に宿すなど矛盾でしかない。

 

その矛盾とラプラスの紙片の問題、どちらが可能性が高いかと言われればラプラスの紙片の方だろう。

 

そのまま5人と1匹は店を後にし魔王によって破壊された黒ウサギ達のコミュニティの住処に到着した。

 

見るまでは楽しげな雰囲気があったのだが、見た瞬間顔色が一瞬で変わる。

 

本来ならば美しく客人をもてなすはずの街路は砂に埋もれ、木造の建物は殆どが腐って倒壊している。鉄筋や針金などもあるようだが錆びついていて折れ曲がっている。街路樹は石碑のようになっていて手入れがされている形跡が少しも見られない。

 

十六夜は腐っている倒壊している木造の一部をむしり取ると、少し握っただけで粉々に砕けちょっとした風に灰のように吹き飛ばされる。

 

「なぁ黒ウサギ、魔王のギフトゲームがあったのは一体何百年前だ」

「僅か三年前です」

 

馬鹿げているにも程があった。

この崩壊具合を見て十六夜は昔探索した古い神殿を思い出した。

 

それらよりもはるかに酷い状況がたったの三年前に引き起こされた。それだけで敵となる魔王がどれだけ強いのか理解出来た。

 

「魔王か......予想していた奴より斜め上を行ってるなこりゃ...けどいい具合に面白そうじゃねえか」

 

獰猛な笑みを浮かべいつか戦う魔王に闘争心を燃やしていた。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

ガルドは自分の屋敷に鬼気迫る様子で帰ると、毛布にくるまり歯をがたがたと震わせていた。

 

(あんなのに勝てるものか!!無理だ無理だ無理だ!なにせ()種だぞ!()種とは核が違う()だ)

 

ガルドは一誠に殴られた時にその赤い篭手から龍種の気配を一瞬だけ感じていた。

 

龍種とは純血だと最強種の一角で、純血ではなくとも到底ワータイガー如きが勝てるはずが無い。それは亀が人間と戦って勝つぐらい覆らない世の理だ。

 

もし可能性があるすれば神格や鬼種があれば人間対犬ぐらいには勝率は上がる。

 

それほど神格や鬼種は優れた物なのだが、それらを手に入れるにはいささか時間が足らない。

 

「あれは不味い不味いぞ。人間が龍の力を持っているなんて聞いてない」

 

ガタガタと震えるガルドに閉めていたはずの窓からそよ風が吹き、

 

「情けないな。三桁の外門の魔王の配下がコレとはな...」

「貴様何者だァ!!」

 

自慢の獰猛な歯と爪を尖らせ威嚇するが相手の女は余裕の表情で佇む。

 

その女の美しい金髪はそよ風で揺れる度に美しさを底上げする。歳は春日部達の二、三歳上だろうと思われる。

 

「ふふ。あまり粋がるなよ。貴様程度が鬼種の純血だある私に勝てると思っているのか?」

「馬鹿な!純血だと!」

 

純血とはガルドなどの他種族が混ざりあった成り上がりとは違い、系統樹の頂点に位置する。

 

龍種と同じで勝てるはずがない。

 

みるみる戦意は無くなり後ろに身体をよろめかせ、本棚に当たり大量の本が雪崩のように落ちる。

 

「落ち着け。別に悪い話ではない。あの名無しには少し因縁があってね、だから君に鬼種をプレゼントしようと思ってきたのだよ」

「鬼種のギフトだと!」

 

まさにこの時ばかりは神を崇拝してやろうかとも考えた。

 

が、この鬼種を受け取ると今いる『六百六十六の獣』を裏切ると通りだ、そのためすぐに受け取ると返事をする事は出来ない。

 

「何が目的だ...」

「名無しにしか用はない。まだ考えるのであれば私は帰るがどうする」

「分かった受け取る。しかし種族を変化させるのにはどれぐらいかかる?」

「それなら簡単だすぐ終わる」

 

女はガルドの目で追えない速度で動き背後をとると、そのまま顔を首に近づけ女の歯が皮膚に突き刺さる。

 

「がぁ...ぐぁ...」

 

(ヴァンパイア...の純血...だと...)

 

ガルドは抵抗する事すら出来ずにどんどん血が吸われ遂にはその意識を完全に失う。

 

鬼種のギフトが渡し終わったのか突き刺さっていた歯を抜き、口周りに付いている血を舐めとると入ってきた窓に戻り黒い羽を生やして飛び上がる。

 

「楽しみにしているぞ、新生ノーネーム」

 

女は闇夜に消えていった。

 

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

あの後黒ウサギから父親兵藤一新の事を説明され、軽く頭が爆発しそうだったので一足先にお風呂に入っていた。

 

大理石で囲まれた湯船に浸かると自然とため息が漏れる。

 

「はひぃ......疲れたぁぁ......」

 

タオルを数回折り頭に乗せ蹴伸びをする。

 

今までの疲れが解けるように気分だった。

 

湯船に使っているとなんだか眠くなってきて欠伸が出る。湯船に使って眠くなるのは失神と言われている。

 

一誠はそれに逆らうこと無く大理石に頭を乗せ少しだけと眠りに入る。

 

 

 

『相棒!』

「うおっ!なんだいっ......たい......」

 

寝ていたはずの一誠は怒鳴られるように起こされ誰だよと相手を見ると、全身真っ赤な赤き龍だった。

 

その姿形は日本の蛇型のものではなく、洋風な手足のあるタイプだった。

 

「なんだお前」

『やっと声が聞こえたと思ったらこれか。まぁ今で1番異常な現象にあってる時点でまともな反応は期待してないがな』

 

龍は羽を広げ大きさをアピールすると同時に威嚇もする。

 

『俺の名前はドライグ。ア・ドライグ・ゴッホだ。赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)とも呼ばれているな』

「えードラゴンなのにバハムートとかじゃないのか」

『相棒あんな魚もどきと一緒にするな。それに俺の方が有名で』

「いやバハムートの方が有名だろ」

 

バハムートは他の読み方としてベヒモス、ベヒーモスなどがあり、その正体は龍ではなく魚となっている。

 

ダンジョンズ&ドラ〇ンにて龍の姿として登場し、他のゲームでも龍として現れている。そのせいで龍と勘違いしている人が多い。

 

一誠もその質で、ゲームなどからバハムートが龍だと思い込んでいた。

 

「魚なのか...まぁ別にどうでも良いけど...えっとドライグでいいか?」

『あぁもちろん』

「えっとそれでここは一体なんだ?」

 

辺りを見渡すと無限に続く白き空間で、そこにぽつんと一誠とドライグがいる。

 

白夜叉と同じように世界を作ったとかではないようだ。もし世界を作ってそこに飛ばしていたのであれば、一誠が服を着ていることがおかしいからだ。

 

『わかりやすく言えば精神世界だな』

「精神世界...何かアニメ見たいでカッケェな」

『そうだろそうだろ。それで相棒には話しておくことがある。それは相棒の宿敵白龍皇のことだ』

「白龍皇?」

 

ドライグは楽しかった思い出を思い出すように語り出す。

 

昔二天龍と恐れられた赤い龍であるドライグと白い龍であるアルビオンは良き友として生活をしていた。

 

肩を並べ神と喧嘩をしてみたり、仲良く食事を一緒に取ったりと、しかしある日事件が起きた。

 

ドライグが大切に取っていたプリンをアルビオンが無断で食べてしまった。それに激怒したドライグは攻撃を始めたちまち世界を巻き込む大喧嘩となった。

 

結局決着はつかずに途中で神に神器(セイクリッド・ギア)に封印されうやむやになってしまった。

 

そして、神器に封印された2人は人間に武器としてさずけられ、時々激突し勝負をつけようとしていた。

 

その白龍皇と戦うのが一誠の宿命だと言う。

 

「なぁプリンが原因なのか?」

『あぁ今でもあの時の恨みを忘れられない』

 

まさかのしょうもない理由にほとほと飽きれる。

 

どうすっかなと考えているもふと思った事があった。

 

「なぁドライグ」

『なんだ』

「現実世界の俺どうなってんの?」

『今は...湯船に頭突っ込んで寝てるな』

「それを先に言えぇぇ!!!そのままだと死ぬだろが!今すぐ起こせ!」

『そうだな眠る時間にまたこちらに呼ぶとしよう。それと起きてすぐは気をつけろよ』

 

そう言うとドライグの姿は掻き消え、一誠は眠気に襲われ瞼が落ちる。

 

 

 

湯船に沈んでいた一誠は突然起き上がり、大きな水柱を作る。

 

「はぁ...はぁ...死ぬかと思っ......た...」

 

一誠が視線を上げるとそこには一糸まとわぬ姿の黒ウサギ、飛鳥、春日部がいた。

 

飛鳥と黒ウサギは既に湯船に使っているのでその豊満な胸を堪能する事は出来なかったが、春日部は入ろうとタオルを取り足を入れている所だった。

 

「「キャァァァァァ!!!」」

 

一誠はこの時慌てていて気づいていないが、今の一誠も裸なのでそのまま立ち上がると足のスネぐらいしか湯船に入っておらず、男の大切な聖剣の部分は丸見えである。

 

「コロス」

「そそそうだ春日部、無いと思ってたけど微かにあるな」

 

これでどうだと言い放つと、隠すことをやめ拳を構え殺気を放ちながら近づいてくる春日部が

 

「抹殺の」

「ちょっま」

「ラストブリット!!!」

「ひでぶ」

 

春日部の全力の拳は的確に一誠の腹部を貫き、壁を突き抜け第一宇宙速度となってどこかの森へと裸で飛ばされる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲームには勝ったが勝負には負ける

ガルド達『フォレス・ガロ』の本拠地に着くが何か不気味な雰囲気が漂っていた。

 

今回ギフトゲームが行われる場所ははゲームのために創られた舞台区画ではなく、メンバー達が住んでいる住居区画だ。

 

さらにその区画一体に草木が生い茂りとても人間が生活出来るものでは無い。

 

「森?」

「虎が住むならおかしくないだろ」

「いえ、ここは普通の居住区画のはず......これは...鬼化!」

 

黒ウサギが大声を上げて驚き、ジンも何か思う所があったのかゲーム内容が書かれている『契約書類(ギアスロール)』を、貼られていた門から強引に切り取り内容を確認する。

 

ギフトゲーム名″ハンティング″

 

・プレイヤー一欄  兵藤 一誠

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

          ジン=ラッセル

 

・クリア条件 本拠地にいるガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。指定武具以外は″契約(ギアス)″によってガルド=ガスパーわ傷つけるのは不可能。

敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″フォレス・ガロ″印

 

読み終えたジンは自分の失敗に顔が青ざめる。

読み終えたのを確認し黒ウサギは大きな声を出す。

 

「まずいのですよ!」

「うん?まずいのか?」

「かなりまずいです。これは自分の身を契約(ギアス)と言うなの絶対の盾で守っているのですよ!例え飛鳥さんのギフトで操る事も、春日部さんの力で傷をつけることも、一誠さんのデュランダルで切ることも出来ないのです」

 

これこそが白紙でギフトゲームを受けてしまったジン達の大きなミスだった。

 

今回負ければ死ぬと言っても過言ではなかったが、だからと言って命をかけるとは思っても見なかった。

 

しかし、ガルドが一誠達に勝つにはこれしかないのも事実。そこまで頭が回らなかったジンが悪いとも言える。

 

黒ウサギは肩を落として落ち込む。

 

その肩を飛鳥が叩き任せなさいと言ってギフトゲームの会場へと門を開け4人は乗り込む。

 

 

 

門を開け中に入ると自然に門が閉じ完全に退路を塞いだ。

 

会場を覆う草木は太陽の光を遮るように高くそびえ立ち、街路と思われる場所にあるレンガは植物の根によってバラバラにされ、道ではなく無くなっていた。

 

もし今不意打ちをされればこちらはなす術なくやられる事だろう。

 

その事もあってか3人は辺りに何かいないかと神経を尖らせている。

 

「ジン君そっちは?」

「今は大丈夫です...」

「大丈夫だよ。辺りには誰もいないから」

 

春日部は匂いを嗅ぎながら答える。

 

春日部のギフトは友達が多ければ多いほどその効果を上げるギフトでもある。

そのおかげで、通常の人間ではありえない身体能力を扱い、嗅覚と聴覚は十六夜よりも優れている。

 

「へぇ...犬()友達なんだな」

「うん犬()友達だよ」

 

もを強調して返すとあっそと言いながら一誠はそっぽを向き「ぼっち乙」と呟く。

 

先も説明した通り春日部の聴覚はかなり鋭敏で、どこぞな難聴系主人公とは違いバッチリと聞こえていたので、仕返しとして足を前に出して引っ掛け転ばせる。

 

地面にヘッドスライディングを華麗に決めた一誠は起き上がり、ズボンに付いた土を叩くと何事も無かったように歩き出し数歩進むと回し蹴りの要領で春日部の足のみを絡みとり転ばせる。

 

「ごめん足が滑った」

「なら仕方ないね......腕が滑った」

「腕が滑る?ありえないだろ」

 

春日部の拳を一誠は拳をぶつけることで防いでいた。

語らなくても分かる通りこの後ガルドとの戦いより先に、仲間内での戦闘が始まった。

 

飛鳥とジンはこの2人の喧嘩に関わらない方がいいと気づいたので無視をする事にする。

 

 

 

2人額から流れる汗をハンカチなどで取るとさすがに疲れたと倒れていた木に座る。

 

かなりの時間指定武具についての事を探し回ったが、何も出てこなかった。ヒントのヒの字も無い。

 

「何か意見はない?」

「残念ながら」

「ない」

「何も無いならさ、ガルドの所に行こうぜ。自分を殺せる武器なら自分の近くに置いて守るだろ」

 

一誠は今地に伏せられ右手を背後に回し捻られ身動きを完全に封じられている。

よくその状態で話せたなと思いつつ考える。

 

確かに普通に考えて唯一自分を殺せる武器をそこら辺の草むらに放置などはしない。

でも、数分唸り続け出した答えは、

 

「行きましょう。ここでうだうだ考えてても進まないわ。けどそうなると...」

「大丈夫もういる場所は分かってる」

 

春日部は森を少し抜けた先にある大きな館を指さす。

流石は春日部さんと言いながら館へと向かう。

 

ジンは1人この鬼化について考えていた。

 

今まで見てきた限りかなりの範囲が鬼化している。この範囲を鬼化できる者はそうはいないだろう。

 

ジンは1人だけ心当たりがある。

 

が、ありえないと頭を振る。彼女がそんな事するはずがないと...では誰が?知識の浅いジンは正解を出すことは叶わなかった。

 

 

 

館はやはりと言うべきなのか全体がツタに覆われ、とても生物が住めるとは思えない状況だった。

 

ツタは壁を越え屋根まで侵食し、窓ガラスは全て割られそこから中にツタが入っている。

 

館は見た相手に自分の力を見せつけるために豪華に綺麗にしている。元はここもそうだったのだろうが、今は完全に廃墟となっている。

 

扉の部分には何もなくそこから中へ侵入することが出来た。中もやはり荒れに荒れていた。

 

「春日部さんガルドは上よね」

「うんそう」

「なら一応1回この階を見ましょう」

 

飛鳥の提案を否定する者は現れず、そのまま一階部分の探索を行う。

 

探索の結果はゼロだった。いや一つだけ分かった事がある。それはここにはガルドしかいないこと。

 

普通なら自らのアジトに足を踏み入れ物色をしている敵を見逃すなどありえない行為だ。それを許していたということはこの近くにメンバーが誰1人いないのが分かる。

 

それが、ガルドの力の期待からいないのか。あるいはガルドが捕食したのか。

確証のある答えはないが今はそれよりもガルドの所へと向う事にする。

 

2階へと続く大きな階段を上り2階が近づくとジンの方を飛鳥は向く。

 

「ジン君貴方はここにいなさい」

「なっ...そんな僕にも行かせてください!絶対に足でまといには」

「違うわ。足でまといじゃないの。ジン君の力を見込んで退路を守って欲しいのよ」

 

ジンはそれも否定しようとするが、この先は何が起こるか分からない。念には念を入れ退路を守った方がいいのは明白。

 

若干不満はあるが渋々階段を下り退路を守ることにする。

 

変な物音を立てないように差し足忍び足で階段を上がると目の前に大きな扉があった。

春日部のギフトによってこの先にいるのが分かっているので、一応それ以外の部屋から探す。

 

「だめね何も無いわ」

「うんない」

「それじゃあ行くか」

 

3人は扉の前に着くと大きな扉を三人で押して開ける。

 

開けた先にいたのは昨日あったガルドではなく、完全に暴走して虎の怪物になったガルドが壁に突き刺さる白銀の十字剣を守るようにいた。

 

「GEYAAAAAAAAAA!!!」

 

虎の怒号は3人が耳を塞いでいても身体の芯まで響いてくる。

 

その怒号は下にまで聞こえていたのでジンは慌てて駆け上がってくる。

 

ジンが扉を開け部屋に入るのと虎が一誠達を敵と判断し突撃してくるのは同じタイミングだった。

 

「何がァッ」

「キャッ!」

 

飛鳥は春日部に吹き飛ばされ丁度ドアを開けたジンを押し倒した。

飛鳥が何か言う前に春日部は叫ぶ。

 

「逃げて!」

「けど」

「早く!」

 

飛鳥は自分の力の不甲斐なさを悔やみながらジンにギフトで逃げるように言い、2人は館から飛び出ていく。

 

虎の突撃を防いだ2人は虎の手を蹴り上げ距離をとる。

 

「なぁ春日部アレ」

「うん多分アレが指定武具」

「なら春日部が取れ。俺はアイツの気を引く」

 

一誠は自分の肉体能力を8倍にして前に出ると、近くにあった本を広い虎に向けて投げつける。

 

本が当たった虎は春日部の事を無視して完全に一誠に狙いを定めている。

 

「こいよ犬っころ!遊んでやる!デュランダル!」

 

虎はその口を大きく開き噛み殺そうとするが、口の中にデュランダルの刃がねじ込まれ途中で止まる。

 

一誠が虎と戯れている間に春日部は気配を消してゆっくりゆっくりと壁に突き刺さっている剣の前に行く。

 

虎の意識がこちらに向く事は無く安全に辿り着いた。

 

(良かった...後は抜くだけ......)

 

春日部は安心しきっていて剣を抜く時に集中力が切れたのか、壁に刃物があたる音が鳴る。

 

それに春日部は気づけず、虎は戦っていた一誠から視線を曲げ、音がなった方を見る。

 

剣を抜こうとしている敵を見つけ狙いを変更する。

 

「まずっ、クソったれ!!!春日部屈めぇぇ!!!」

「え?」

 

剣を抜いた瞬間何かが春日部を包み込み、顔の半分に何か生暖かい液体がかかる。

 

顔に付いた液体を空いている手で拭い見ると、手が真っ赤に染まっていた。だがこれは自分の血ではない。では、誰の?その事はすぐに分かった。

 

「怪我...ない...か......」

「一誠...」

「あぁ.....まじ最......悪だ」

 

春日部を覆いかぶさるようにして庇った一誠の血だった。

 

虎の鈎爪により背中は引き裂かれ、口からはその影響で吐血しそれが春日部の顔に付いていた。

 

「なんで」

「今は...逃げるぞ!!」

 

ほぼ限界の身体を無理に動かし、赤龍帝の篭手が展開されている左手のみを16倍にして、床に叩きつけ床を崩落させる。

 

虎は抵抗虚しく床の崩落に巻き込まれ1階に瓦礫と共に落ちる。

 

その隙に瀕死の一誠と剣を持ち窓から外に飛び出て森の方へと逃げる。

 

 

館から少し離れた場所にある森に着くと、木にもたれかかるように一誠を下ろすと、自分が羽織っていた衣類を脱ぎ血が流れている場所に当て簡素な止血を行う。

 

「なんで...なんで庇ったの...嫌いなんじゃないの...」

「...知らね...身体が...勝......手に動い...てた...」

 

一誠の顔から血の気がだんだん引いていく。

 

もしあの時一誠が庇わなくても、今の一誠ほど傷つく可能性は低かった。

一誠はあの時身体中に回していた力を全て脚力に回したせいで、肉体の防御が素に戻り肉体は引き裂かれた。

 

春日部には肉体を強化する手が無い訳では無い。が、それはもしも(if)の話だ。

 

それに例えその事を知っていたとしても一誠が庇わなかったか?と言われればNOと答えるだろう。それが兵藤一誠と言う男だ。

 

「待っててすぐに倒してくる」

「それ...なら...コレを...」

 

一誠はドライグに教えて貰ったもう一つの力を使う。

 

赤龍帝の篭手の基本能力は倍加だ。

他にも後2つ程あるがその一つは使えず、これから使う力に関しては昨日の夜に目覚めたばかりだ。

 

『Boost』と5回なりると次に『Transfer』となり、春日部の背中を叩いて力を倍加させる。

 

これこそがもう一つの能力。譲渡。

赤龍帝は過去にも多く存在し、中にはこの力だけで成り上がった者もいる。

 

自分の上昇した力を確かめるように手を開閉すると、最後に力強く拳を握る。

 

「ありがと」

「頑張...れよ......春日部...」

「耀でいいよ一誠」

「ハハッ...了解...耀...がん...ば......」

 

一誠は言葉を言い終わる前に意識を完全に失う。

 

早く勝って一誠を助けると誓った春日部はこの一帯を全力の力を使って知覚する。

 

 

 

一誠の倍加は1回の『Boost』で2倍、2回以降は2倍の2乗となっていく。

なので譲渡された力は2倍×2倍×2倍×2倍×2倍となって32倍となる。

 

その力を手に入れた春日部はこの『フォレス・ガロ』の本拠地の広さ・障害物・どこに誰がいるのか。その全てが手に取るように分かっていた。

 

「凄い...こんなの始めて」

 

春日部自身ですらその情報量の多さに頭が爆発しそうだが、それでも身を挺して守ってくれた一誠を早く助けるために気合いで動いていた。

 

今春日部はガルドがいる場所に向かっている。現在ガルドは飛鳥達を襲っていて、早く向かわねば2人も危うい。

 

春日部は足場にしていた木を踏み壊して加速する。

 

 

 

「ジン君!逃げなさい!」

「GEYAAAAAA!!」

 

飛鳥は何故かここにいるガルドから頑張って逃げていた。

 

春日部達との合流を前にガルドと合流するとは思ってもみなかった。

 

 

今はジンにギフトをかけどうにか躱してはいるものも、そう長く持つとは思えなかった。

 

(十六夜君や春日部さん。一誠君のように肉体が強ければ...)

 

飛鳥のギフトは4人の中で1人だけ己の力で戦える物ではない。

他者を従わざる。一見強そに思える力だが、これは絶対の力ではない。暴走状態のガルドにはそのギフトが効く気配がない。

 

「植物よ!拘束しなさい!!」

 

鬼化した植物達はガルドの足を枝で手足を捕縛し動きを一瞬だけ止める。

けれどそれは一瞬で強引にその拘束を引きちぎってまた攻撃を始める。

 

黒ウサギに教えて貰った自分のギフトの新たな可能性で植物を操っているが、それは未だに付け焼き刃のようなものでしか無くまだまだ爪が甘い。

 

最悪このままでは負けるかもしれない。

 

少しだけ諦めを考えた時身体の半分を血で染めた春日部が上空から剣を振りかぶって落下してくる。

 

虎は咄嗟に後ろに飛ぶが気づくのが遅く、白銀の十字剣によって前足に傷がつく。

 

「春日部さん!!!血が」

「大丈夫。これ私の血じゃない」

「へ?そうなの?」

「うん」

 

春日部は怯んだ虎に追撃をかけるために木に飛びつき、その木も破壊して加速する。

 

その速度は凄まじく、十六夜の第三宇宙速度には届かないが、第二宇宙速度はでており、ガルドは何が起きているのか理解が出来ていない。

 

ガルドの周りを円状に回り、徐々にその円を小さくして近づく。

 

どうにか攻撃を当てようと適当に爪を引き下ろすが、誰にも当たらず空を切る。

 

「これで終わり」

 

その言葉が耳に届いた頃には胸を剣が貫き春日部達の勝利が決まった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

問題児達の異世界生活はまだ始まったばかりだ。改

かなり長くなりました。
それとこれは前に投稿したのを改編した物なので、前に見た人は追加された最後の部分を見れば大丈夫だと思います。


 

夢を見た......

 

空は暗く星が一つすら輝いていない。

 

その空間にいるのは1匹の三つ首の龍と1人の男。

 

何を会話してるのか分からないが、三つ首の龍は楽しそうに笑っていた。

 

男は龍を睨みつけ、七つの聖剣。七聖剣を空に展開し究極の一撃を放つ。

 

それは空を壊し、地を壊し、空間を壊す。

天地開闢の一撃。

 

それを龍は嬉々とした表情で受け止め...

 

 

「う...ん...ここは?」

「目覚めましたか。少し待っていてください」

 

いつの間にか入っていたベットの横にいたのは、いつぞやの女店員だった。

 

女店員が立ち上がると、戸を開けてどこへと行く。

 

一誠は何か夢を見ていたそんな気分がしたが、特に覚えていなかったので深く考えることをせず、天井を見上げる。

 

「知らない天井だ」

 

木の天井を見て当たり前の事を口にする。

これに関しては昔から1度でいいからやってみたかったのだが、なかなかやる機会が無かったのでおふざけ感覚でやってみた。

 

なんかいいな。出来ればもう1度やりたいな。

と思い次は何を言おうかなとしていると、戸が開かれ白夜叉が部屋に入ってくる。

 

「起きたようじゃな」

 

白夜叉は一誠と視線を合わせるために畳の床に、持ってきてきた座布団を乗せその上に座る。

 

一誠は下半身を布団に入れたまま上半身のみを上げる。すると視線が合うどころか白夜叉の身長が小さいので胸を見つめる事になる。

 

そんな事はどうでもいいと扇子を取り出し、えいと一誠の頭を強打する。

 

「馬鹿者。死ぬ気か全く」

「やっぱり死にそうだった?」

「あぁそうじゃ。もしわしが手当しなかったら死んでおったわ」

 

あの時は自分でも薄々感ずいていた。

 

てか死んだとすら思っていたのだが...白夜叉には素直に感謝をしなければと思う。

 

「ありがとな。それでゲームは」

「うむ。お主らの勝ちじゃ。が、ゲーム終了後春日部は倒れたの。安心せい生命に別状はない」

 

 

春日部はあの時自分の限界を大きく越える力を行使していた。それはガルドを倒した辺りで身体が持たず気絶と言う形で現れた。

 

それでも白夜叉の言った通り命に関わるものではない。例えるならば容量を越えたスマホが強制的に落ちるのと同じような物で、時間が経てば元に戻る。それに何方かと言えば一誠の方が重病だ。

 

背中は大きく引き裂かれ、背骨も少し欠けていた。白夜叉は傷の跡を完全に消す事を諦め、命を救う事を優先した。

 

結果として生きているのだから良かった。

 

「良かった...」

「安心したついでにもう一つ。すぐにまた大きなギフトゲームを行う事になるぞ」

「またか...」

「そこでじゃ、4日間修行をつけてやる。どうする?嫌ならやめるが」

 

両手を目の前で組んで考える。

 

今回のギフトゲームは自身の実力不足で大怪我をして、全てを他人に任せてしまった。

 

負ければ十六夜が抜けると言うのにだ。

 

力があれば...だが一誠は少し前まで高校生。いかに親が強かろうが、命をかけた戦いをして強い訳ではない。

 

十六夜のように異常な強さはない。

春日部のように人間以外の力を使えない。

飛鳥のように他者を支配する力はない。

 

それでは何が自分にある?自問自答する。

そして出した答えは

 

「修行してくれ。いやお願いします師匠」

「よし良く言った!」

 

白夜叉は先日行ったように世界を変えると一誠への特別な修行を行う。

 

 

 

まず知識としてペルセウスを知っているだろうか?

 

有名なのは生き物を無条件に石化させる能力を持ったメドゥーサを、盾を上手く使い倒した事だろう。

 

だがそれは通過地点でしか無く、その後に切り取ったメドゥーサの頭を使いクラーケンを退治した。

 

コミュニティ『ペルセウス』はそれらの伝承を使い伝統的なギフトゲームを開催していた。

 

一つしかない目を奪われ脅迫されメドゥーサの位置を教えたグライアイ。メドゥーサの頭を使われ退治されたクラーケン。

その2体を退治するとコミュニティ『ペルセウス』と絶対戦えるギフトゲームだ。

 

今回元『ノーネーム』であるレティシア=ドラクレアを助けるためギフトゲームを挑んだが、現『ペルセウス』の当主であるルイオスはやだと断る。

 

ルイオスは黒ウサギと交換ならいいとしたが、飛鳥達がそれではいどうぞと行くわけがなく、そこで十六夜は上記のギフトゲームをクリアしレティシアをかけたギフトゲームを開催する事になる。

 

ギフトゲーム名″FAIRYTALE in PERSEUS″

 

・プレイヤー一欄  兵藤 一誠

          逆廻 十六夜

          春日部 耀

          久遠 飛鳥

 

・″ノーネーム″ゲームマスター ジン=ラッセル

・″ペルセウス″ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒。

敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏または失格。

     プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・舞台詳細・ルール

  *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

  *プレイヤー達はゲームマスター以外のホスト側の人間に姿を見られてはいけない。

  *姿を見られたプレイヤーは失格扱いとなり、ゲームマスターの挑戦権を失うが、挑戦権を失うだけでゲームを続行できる。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″ペルセウス″印

 

この事が書かれた『契約書類(ギアスロール)』を見た6人の視界は歪み、ギフトゲームの始まりの場所、白亜の宮殿の門に変わる。

 

「お」

「久しぶり!」

 

一誠は5人と合流はせずに白夜叉から渡せれた物で転移し、5日ぶりの再会を果たした。

 

「良かったな春日部」

「別に」

「どうかしたのか?」

「一誠が居ないってずっとソワソワしてたからな」

「ソワソワしてない」

 

そっぽを向いて否定をする。

その時顔が真っ赤になっていたが、一誠は気づかない。

 

十六夜の言った通りずっとソワソワしていて、飛鳥達が座って作戦を考えている時も1人だけ立っていてずっとグルグルその場を回っていた。

 

春日部が顔を赤らめるというのはかなり珍しいので、飛鳥もその流れに乗る。

 

「そうよ。目覚めたらすぐ聞いてくるのよ一誠はどこ?ってね」

「聞いてない」

「あぁ...何かごめんな心配かけて」

「うるさい!」

 

照れ隠しかは知らないが春日部の拳が一誠の腹部に突き刺さる。

 

殴られた一誠は数回むせると『契約書類』を見て思った事を聞く。

 

「なぁ十六夜。見られてはならないってどうするんだ?」

「それなら方法がある。必要なのは向こうからやって来るからな」

 

なんの事だ?と頭を傾げる。周りを見ると他の4人は理解しているようだった。

 

今回行われる作戦は役割分担が重要だった。

ジンが兵士に見つかれば一発でノーネームが負ける。となるとルイオスまでは誰かが一緒に行かねばならない。

 

敵は隷属させた魔王を有している可能性があるので、この中で1番強い十六夜は確定。春日部はハデスの兜を剥ぎ取る仕事があるので、途中まで十六夜達と同行する。

 

余った2人、飛鳥と一誠は大きく騒ぎを起こして気を引く役割だった。

 

「おら!ドラゴンブレス!!」

 

自身の魔力を球状にして赤龍帝の篭手で倍加の力とともに放ち兵士達を打ち倒しながら大きな音をだして注意を引く。

 

瓦礫が宮殿から落下し大量の土煙を巻き上げる。

 

(修行して良かったな。結構力がついてる)

 

師匠と死にもの狂いで戦っていた時は感じなかったが、今は自分の力がかなり底上げされているのがわかった。

 

次はどうしてやろうかなと考えていると突然頬が強打され吹き飛ばされる。

 

「な、なんだ!ドライグ分かるか」

 

瓦礫にめり込んでしまったが、すぐに出るとこういう時頼りになるドラえもん(ドライグ)の名を叫ぶ。

 

赤龍帝の篭手の宝玉の部分が光り輝き直接脳内に語りかける。

 

『姿を消してる奴がいるな』

(姿を?てことはハデスの兜か)

『そうだろうな。だがレプリカだなよく見れば分かるぞ』

 

たまたま一誠の所に来たのは本物のハデスの兜ではなくその劣化版で、姿は消せても音や匂いまでは消せない。

 

それをドライグのアドバイスで気づいた一誠は、足元をよく確認する。

 

すると、砂利が人間の足跡の形で沈み近づいてくる。

 

数回息を吐いてタイミングを合わせ拳を前に突き出す。

 

何かを殴った感触がした後柱が砕け散り瓦礫となると、その上に人が現れ兜がこちらに転がってくる。

 

「なぁドライグこれどうする?」

 

左手で兜を持ち上げ叩きながら聞く。

 

折角の戦利品なので何かに使いたいのだが、使い道としては被って姿を消して覗きをするぐらいしか思いつかない。

 

『そうだな...貰うか』

「貰う?いいのかそれ?」

『パクるわけじゃない』

 

声だけだが今のドライグの表情は簡単に分かった。きっと邪悪な笑みを浮かべている事だろう。

 

相棒(ドライグ)の事が分かるようになって嬉しい反面こんな事が分かってもと微妙な気分でいると、何か嫌な予感がして宮殿の方を見る。

 

「ドライグ何かやばくね?」

『相棒!石化の攻撃だ!』

 

ドライグの言った通り宮殿の方から飛んできた黒い何かが当たった場所は石になっていた。

 

一誠は神話にこれと言って詳しくないが、石化と言われれば思いつくのがメドゥーサだろう。

 

ペルセウスとメドゥーサは切っても切り離せないのだろうと結論づけ、今は何をすればいいのかを考える。

 

「飛鳥と耀はどっちが遠い」

『お嬢様の方だな。まな板は近い』

「分かった」

 

ギフトカードからデュランダルを取り出し

 

「飛鳥を守れ!」

 

刃がむき出しになった状態で飛鳥のいると思われる方向へ投擲する。

 

デュランダルはそのまま一直線に進んでいき飛鳥の元へと向かう。

 

それで一誠は倍加している時間も惜しいとさっき倍加したままの状態で屋根の上に飛び上がる。

 

「耀の位置は!」

『そこから200...いや250真ん中に進め』

「クソ!間に合え!!」

 

急いで真ん中に向かうが、それよりも早く放たれた謎の力は空中で爆ぜ多方面に襲いかかる。

 

ペルセウスのメンバー達でさえ聞かされていなかったのか、逃げ惑いながら石化されていく。

 

ペルセウスのメンバー達を見捨て耀の元へと急ぐ。

 

まだ飲み込まれる前に耀の姿が目に入るが距離はまだそこそこあり届かない。

必死に手を伸ばすが一誠の小さな手では届きそうにない。

 

こんな時に白夜叉との修行中にドライグに言われた言葉を思い出した。

 

 

 

『あと何かが変化すれば到れるな』

「到れる?何にだ?」

『今より上の力だ』

 

白夜叉との特訓は通常の時間に換算して5ヵ月分はくだらない。そのおかげで神器の奥の手【禁手(バランス・ブレイク)】に到れる可能性が出てきた。

 

しかしまだ何かが足らず到れない。

まるで歯車がかけた時計のように。

 

 

(力があれば...そうすれば...)

 

「力が欲しいの?」

「え?」

 

辺りの風景は一変する。

 

必死に手を伸ばしていた先にいるはずの耀は消え、全てが真っ白で無限に広がり続ける不気味な空間だった。

 

そして、耀の代わりに目の前にいるのはフードを深く被っている謎の女。

 

「誰だお前?」

「力が欲しいの?」

「うんまぁな。仲間...違うな友達を助ける力が欲しい」

 

フードの女は空白の空間から杖を取り出し構える。

 

英雄に値する力(・・・・・・・)を...違うわ。英雄にならねばならない(・・・・・・・・・・・)としても?」

「それで友達を助けられるなら欲しい」

「英雄は貴方の考えているほどいいものでは無いわ」

 

そも英雄とは人間はありえない力を有し、それと対等に戦える敵がいるからこそ英雄と呼ばれる。

 

もしその敵がいなければ人外とされ忌み嫌われる。

 

その事を知ってなお

 

「力が欲しいよ」

 

力を欲した。

 

友達を守るために。あの時春日部を守った時身体が勝手に動いたと言ったが、内心その理由を理解していた。

 

友達が目の前で傷つくのを見てられない。

 

それが、あの時身体を動かしたのだろう。

 

フードの女は一誠の目を見つめ本気だと知ると頬を上にあげて笑う。

 

「あひひははは!!」

「なっ、笑うなよ」

「ごめんごめん。うんこれでこそ一誠よね」

「え?」

 

女の持つ杖が一誠の腹部に当てられると身体の奥底から何かが上がってくるような感じに襲われる。

 

「何を?」

「一誠貴方ならその力を使いこなせるわ!」

「力...」

「うんさぁ、友達を助けるでしょ。行ってきなさい!」

「うん分かったよ...母さん」

 

女の姿が消えると空白の空間も消え失せる。

 

 

現実世界に戻ってきた一誠は自分の身体の中にある力を解放する。

 

『これは!到るというのか!何が起こった!』

「それは後回しだ!今は助ける!!!!」

 

一誠の左手を覆うだけだった赤龍帝の篭手は、その覆う面積を一瞬で増やし全身を赤き鎧で覆う。

 

その鎧を身にまとった一誠は途方もない力により伸ばしていた手が耀の肩に届き、抱き抱えるようにして引き寄せる。

 

左手で耀をがっしり掴み、空いている右手で石化をする謎の力を叩き壊した。

 

「大丈夫か?耀」

「その声一誠?うん大丈夫だけど」

「まぁ聞きたい事は分かるが、俺も良くわかんね。だから今はこれよりも飛鳥の所に行くぞ」

 

耀が何かしらの反応をする前に左で抱き上げて、地面を蹴り飛ばして飛鳥の所へと向かう。

 

飛鳥の所を向かう最中にも石化の影響を見ることができた。

 

逃げる途中で石化された兵士。さっきまで耀と死闘を繰り広げた兵士などなど色も何も無い灰一色の世界。

 

その世界にひとつの輝きがあった。

 

「飛鳥怪我ないか?」

「え?...誰かしら?」

「俺だよ俺」

「俺さん?ごめんなさい俺って人は知らないわね」

「一誠だよ飛鳥」

「え......一誠君なのね。びっくりしたわ、まるで違う感じだったから」

 

その事は抱き上げられている耀も感じていた。

 

門の前であった時あの時はまだ人間と言った感じだったが、今は何方かと言えば白夜叉に近しいものを感じていた。

 

本人はそうは思っていないようだが。

 

デュランダルをギフトカードにしまい耀を離す。

 

「それでどうする?」

「そうね...十六夜君の所に運んでくれるかしら?ここにいても暇だもの」

「よしじゃあ行くか!」

 

2人を抱き抱え十六夜達のいる宮殿へと向かう。

 

ここで一つアクシデントが起きてしまう。

 

今一誠は抱き抱えるようにして片手で一人づつ持っている。

 

春日部はどこがとは言わないがスリムでしっかりと抱き抱えられる。

 

しかし飛鳥はその我が儘ボディのせいで腕を回して辿り着いたのが胸だった。

 

「あん......つよぉ...いぃ...」

「コロスコロスコロス」

「誤解だァァァ!!」

 

地獄絵図とはこの事だろう。

 

飛鳥は胸を揉まれているのをどうにか我慢し、春日部は肘を何回も何回も叩き込んでいる。

 

この地獄を終わらせるためには早く十六夜の所に行かねばと足に力が入る。

 

闘技場のような場所には滑り込むように到着する。

 

その時ちょうど目に入ったのは、一誠達より何倍も大きい巨体の敵が十六夜によって上空に上げられ、そのまま叩き落とされた瞬間だった。

 

「何あれ化け物すぎじゃね」

「皆さん無事だったんですね!」

「ええそうね...怪我はないわ......一誠君後で覚えておきなさい」

「はい」

「春日部さんも蹴るなら後で一緒にしまょ?」

「うん分かった」

「何があったかは聞かない方がいいですね」

 

黒ウサギはどうせ一誠が何か変態的な事をしたのだろうと予想し、そっとしておく方がいいと深くは追求しなかった。

 

巨体の悪魔アルゴールは再び石化の光線を放つ。あの時一誠が力で破壊をしたが、十六夜は力ではない別の力で粉々に踏み砕いた。

 

「馬鹿な!!!」

 

ルイオスは今まで装ってきた冷静さを全て捨て叫ぶ。

 

それもそのはずだ。今目の前で起こったのは白夜叉がありえないと捨て去った能力だったからだ。

 

一体どうすれば相反するはずのギフトがその身に宿るのか理解ができなかった。それこそ正しく『正体不明(コードアンノウン)

 

ルイオスはあんな化け物に勝てないとその場にへたり込み負けを宣言しようとするが、十六夜はまだまだ満足できねえと立ち上がれと言うがそれは無理だと黒ウサギは告げる。

 

「残念ですがこれ以上は出てきません。アルゴールが拘束具に繋がれている時点で察するべきでした。ルイオス様は星霊を完全に支配できていないのです」

 

ルイオスは黙れと怒りの篭った目で見つめるが、それでも否定の声を出す事はしない。否定をしても制御出来てないのは見て分かる事だからだ。逆にここで否定をすれば余計恥をかくことになる。

 

それでも十六夜はヤリ足りなかったらしく、脅しをかける。

 

「なぁこれで負けたらお前ら旗印がどうなるか分かってるよな?」

「な何」

 

彼らノーネームの目的はレティシアだったはずだ。それなにの旗印の名前が出るのはおかしい。

 

「そんな事後でも出来るだろ...そうだな次は名前貰うぜ。それが嫌なら来いよ、俺を満足させてみろ!」

 

この戦闘で力の差が分かった。

 

ルイオスの奥の手であるアルゴールが無力化されたのだ、この後いくら再戦しても勝てないだろう。

 

親の七光りと言われたルイオスでもそれだけは嫌だとハッキリと言える。

 

戦意喪失しかけていた身体を強引に立ち上がらせ、ギフトカードから武器を取り出して突撃する。

 

誇りと思いをかけて......

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

結果を簡単に言えばルイオスはあの後一方的にやられた。そして、レティシアはノーネームの元に戻ってくる。

 

本来は4人でレティシアの権利を分けるはずだったのだが、一誠が自分だけ辞退して別の物を報酬として貰った。

 

その報酬の受け渡す手続きはかなり面倒で、届けられたのはギフトゲームから3日後となった。

 

「うひょぉぉ!!これで除き放題だ!!」

 

ハデスの兜を掲げ自室で叫ぶ。

 

あの時ドライグはどうにかルイオスと再戦して奪い取れと言う天才的な意見を出していた。

 

その意見通りに、ボロボロになったルイオスを強引に起こして再戦しハデスの兜を勝ち取った。

 

「ひひ誰の覗こうかな」

「ふーん誰を覗くの?」

「まず耀は論外だろ見ても楽しくないからな。となると黒ウサギと飛鳥...」

 

普通に受け答えしたがここは自室だ。

他人の声など聞こえるはずが無い、では誰だと恐る恐る後ろを振り返ると、そこには般若の顔をしている耀がいた。

 

「どどどないしてここにおるんでしょうか」

「ご飯呼びに来た」

「そそっかそれじゃあいつから聞いてた?」

「うひょぉぉの所から」

 

最初からかよ!!と叫びたいが今はそれよりどうにか訂正をしなければいけない。

 

「覗きなんて」

「何で私を覗かないの!!!」

「そっちかよぉぉ!!」

 

耀の拳は一誠の顎に直撃し上空にかち上げると、上に飛んでる途中で蹴りを連続で叩き込みまくる。

 

すでに一誠の意識は無い中5分間も部屋から「私はそんなに魅力がないか!!!」などの女の声が聞こえ続けたそうだ。

 

彼ら問題児4人の異世界生活はまだ始まったばかりだ......

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「ふむ...一新貴様の息子のギフト...正体が分からんな」

 

白夜叉はルイオスとノーネームの試合を見返していた。それは十六夜もそうだが、注目すべきは一誠だった。

 

ギフトネーム赤龍帝の篭手。

 

赤龍帝と言う言葉に思い当たる節は無いが何か引っかかっていた。

そして、赤い龍と言われ思い当たるのが、ウェールズの伝説に登場する赤い龍『ウェルシュ・ドラゴン』

 

だがそんな有名所が人間の身に宿るのかと言う問題がある。

 

1人考えてその答えが出るほど知識が豊富な訳でないので、そこは専門家に任せようと連絡を取った。

 

「やっとでおったか」

「すみません少し忙しかったもので」

「いや構わんそれを理解していながら連絡をしておるからな」

 

その通信相手の顔は見えないが、その声からは凛としたオーラが含まれていて、どこぞの王だと思えたが声が高く性別は女だとも思った。

 

今でこそ国のトップは女がしていても大丈夫だが、昔は男が基本だ。特にこの世界では伝統のある地域では男がトップを取ることが多い。

中には女がトップの所もあるが......

 

白夜叉は何と伝えようか迷いながら

 

「お主の耳に入れておいて欲しい事があってな...アーサー王」

 

相手の少女の名前を呟いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

衝撃のホニャララ

サブタイが適当になっていく


 

「あの問題児様方はぁぁぁぁ!!!」

 

朝を鳴いて告げる鶏のように黒ウサギは1枚の置き手紙を見て叫び、その叫びはノーネーム本拠地全体に響き渡った。

 

置き手紙の内容は

『黒ウサギへ。

北側の四○○○○○○外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭りに参加します。貴方達3人も後から必ず来ること。

黒ウサギは私達に祭りの事を意図的に黙っていたので罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合3人ともコミュニティを脱退します(・・・・・・・・・・・・・・・・)。死ぬ気で探してね。

PSジン君は道案内に連れていきます。』

 

そうそれは黒ウサギがひた隠しにしていた理由でもあった。もし問題児(十六夜)達が知れば確実に参加すると言い出して聞かなかっただろう。

 

北側に行くのもタダではない。

貧乏な現状のノーネームではとてもではないがその移動に金を払うことは出来ない。

 

なので今回はこれをあえて逃して、次に行われる南側の方に行くために資金を貯めようとしていた。

 

が、その思惑は見事に裏目に出てしまい、逆に問題児達の心に火をつける事になってしまった......

 

そこで黒ウサギはある事に気づいた。

 

手紙には3人と書かれていた。

朝から見かけていない問題児は逆廻十六夜・春日部耀・久遠飛鳥。

1人一誠だけは何人かの同胞が目撃している。

 

慌てて他の同胞に話を聞くと一誠は自室にいるとの事。

 

急いで二階にある部屋に向かい、到着してすぐにノックをせずにドアノブを捻り押す。

 

しかし鍵がかかっているのか開く気配がない。念のためと何回も押すがやはり開かない。

 

「は?待てちょっとま」

 

中にいる一誠は何やら言っているようだがそれを無視して、ドアを蹴破り中に入る。

 

蹴破られたドアは窓のガラスを粉砕して外に飛び出していき、中にいた一誠は服を何一つ着ておらず生まれたままの姿で、その下半身についている男の象徴を黒ウサギに見せていた。

 

「「いやぁぁぁ!!!!」」

 

今度は2人の叫び声がノーネーム中に響き渡り、黒ウサギの目をつぶったパンチが何も悪くない一誠の意識を刈り取る。

 

 

 

ルイオスとの一件いらい毎朝トレーニングをするようになった。理由としては一誠の赤龍帝の篭手の能力は、現状の力を全て倍加させるものだ。

そのために体づくりを始めている。

 

まだ皆が寝静まり、日が完全に明けきっていない内に、動きやすい短パン半袖の服に着替えランニングを数時間して帰宅する。

 

その日も普通にランニングを終え帰宅してきた。何やら騒ぎ声が聞こえたりもしていたが...

 

部屋に戻るととりあえず鍵をかけてから、鏡の前に立ち裸になる。

 

「ほほぉ...そこそこ筋肉ついてきたな...」

 

自身の腹筋をなぞったり、一部の筋肉だけを動かして満足げにニヤついたりしている。

 

そんな事をして1人楽しんでる時突然ドアが開かれかける。いつもの日課で鍵をかけていたのでどうにか今の状況を見られる事は無かったが、それでも何度も何度も開こうと鍵がかかっているのに押すので鉄と木がぶつかり合う音が鳴る。

 

「は?待てちょっとま」

 

もしかしたらすぐにでも突撃してくる可能性もあるので、ベットの上に放ってあるパンツを掴みに行くが、ドアが軋む音がなりそちらを見た瞬間ドアは鍵ごと吹き飛ばされ窓から外に飛び出していく。

 

あまりのショッキングな出来事に掴みかけていたパンツの事を忘れドアの方を立ち尽くして見せてしまう。

 

一誠には女の裸を覗く趣味はあるが逆に裸を見せる趣味はない。だから女のように叫ぶが、それと同時に拳が飛んできた。

 

 

 

とこう言った具合で朝の内に事件が起きた。

 

「うむ聞いた限り黒ウサギが悪いな」

「はぁ...鍵もかけてたのに強引に破るとか...ビッチに程があるな...桃ウサギ」

「桃ウサギじゃないです!黒ウサギです!!」

 

あの後絶叫にいち早く反応したレティシアが駆けつけ、とりあえず黒ウサギを外に放り出して一誠を起こして服を着せてから話を聞いた。

 

だが今はその話はいいと事の発端になった置き手紙について話し合う。

 

「それでどうすんだ?」

「金庫の金には手をつけられていなかったから、境界門(アストラルゲート)は使われてないな」

 

レティシアの言った境界門(アストラルゲート)とは外門と外門を繋ぐシステムだ。ペルセウスとの決闘の際もそれが使用され一瞬で移動していた。

 

が、それを普通に使おうとすると多額の代金が発生する。1人につき金貨1枚。十六夜達はジンを連れ合計4人なので使うとしたら金貨4枚が必要となる。

 

金貨4枚はほぼノーネームの全財産と言ってもいい額だ。

 

それを黒ウサギは『箱庭の貴族』なので無料で使う事ができる。

 

黒ウサギはどうにかすぐに追えるだろう。しかしそうなるとレティシアと一誠はどうなるのか。

 

わざわざ金貨を払うのかと言われれば渋ってしまう。なので今回この案件を持ちかけてきた″サウザンドアイズ″に赴き無料で使えないかと交渉に行く事にした。

 

黒ウサギは髪を淡い緋色に変化し、かなりの速度で跳躍しながら北側へと向かう。

 

黒ウサギを見送った2人は急いでサウザンドアイズに向かうと、いつもの店員さんが立って待っていた。

 

「ようやく来ましたか。それではこちらへどうぞ」

「えっ?どういこと」

「白夜叉様からすでに話は通っています。境界門(アストラルゲート)をご使用になるのでしょ?」

「助かる。迷惑をかけるな」

「いつもの事です」

 

女店員さんの顔をよく見ると薄らと隈が出来ていた。今はその隈を隠す暇すら惜しいと言う事なのだろう。

 

心の中で感謝しながら廊下を歩き、一つの赤い扉の前に着く。その扉はこの建物の和風さを完全に無視した洋風のものだ。

 

「こちらをどうぞ。それでは仕事がありますので」

 

一度軽く会釈をして来た道を戻っていく。

 

帰っていく背中がどこか辛そうに見えた......今度何か買ってあげようと心に決める。

 

「それじゃあ行くか」

「あぁ。黒ウサギの方が早く着いてるかもしれないからな」

 

ドアノブを捻り押して中に入ると辺りの風景は一変していた。

 

さっきまでいた場所は住宅街のように建物がひしめき合っていたはずなのに、今は高台のような位置に目立つように建てられている建物にいた。

 

偶然近くにあった窓から外を眺めるとかなりの絶景が広がっていた。

 

景色眺めるのも程々に切り上げ十六夜達を探そうとした時、曲がり角から白夜叉と春日部が歩いてきた。

 

「む、おんしらやっと着たか」

「すまない...それと黒ウサギがどこにいるか知らないか?」

「黒ウサギならあっちじゃな」

「一誠後は任せる」

 

レティシアは指を指された方向に駆け出し、背中に蝙蝠のような羽を作り空を飛び上がる。

 

とりあえず座った方がいいだろうと廊下をさらに少し歩き、客室らしき場所に案内しそれぞれは座布団の上に座る。

 

「一誠何をしたかは聞いておるのか?」

「まぁ一応は」

「うむそうかなら話が早いな。実はなこやつが」

「まって白夜叉、私から話す」

 

春日部は数回喉を鳴らした後に息を吸って

 

「私と付き合って欲しい」

 

衝撃的な一言を発した。

 

 

 

 

 

黒ウサギから逃げるように移動しながらも、街の観光はしっかりと2人はしていた。

 

「にしても凄いわこれ...夢見たい」

「確かにこりゃスゲーな」

 

今は祭りなのかは知らないが、至る所に綺麗で鮮やかなガラスプレートが飾られていて、街を照らすようにキャンドルが自立して歩いている。

 

飛鳥のいた時代ではありえない光景だった。

 

「二足歩行のキャンドルスタンドに浮かぶランタン...ねぇ十六夜くんカボチャのお化けはいないのかしら?ハロ何とかってお祭りに出てくる妖怪なのだけれど」

「おいおい箱入りが過ぎるぜ...お嬢様の言ってるやつは、ジャック・オー・ランタンの事だろ?...あぁそうかお嬢様は戦後まもない時代から来たんだったな」

 

日本ではハロウィンが広く浸透し始めたのは一九九〇年、その時は今のようにやれ仮装だ、やれパレードだなどと言う事は無く、かなり地味めなものだった。

 

逆に今起こっているあの現象がおかしいとも言える。

 

当たり前のようにハロウィンについて語れた十六夜に、飛鳥は察してしまう。

 

「そう...十六夜くんの時代にはもう珍しい物じゃないのね」

「まぁな。その口ぶりからしてお祭りは好きなのか?」

「ええ好きよ。ただ1度も行けた事が無くて、小耳に挟んだ程度よ。こんな能力があったから隔離されていたせいでね」

「お嬢様なら抜け出しそうなもんだけどな」

「この手紙が来なかったらすぐ抜け出してたわ。終戦のお祝いにハロウィンに行ってわ」

 

飛鳥は儚げな面持ちで呟くように言った。

あんまり深く聞くことでもないなと、何か話題をそらそうと辺りを見回す。

 

すると不自然に人溜まりが出来ている場所があった。

問題児2人には何か面白いイベントか?と興味津々で覗きに行くと、自身の目を疑う光景があった。

 

「おかわりください」

「もう勘弁してくれぇぇ!!食材がねぇぇ」

「もうですか...仕方ありません。支払いをお願いしますねランス、私は次の店に行きます」

「ちょっと待ってください、アー...ルトリアさm...ん」

 

この店のオーナーであろう大男が泣きながら土下座をしている所だった。

 

しかしそらならまだ何か事件をやらかしたのだろうと思ったが、誤られている2人の少女達の雰囲気からしたらとてもそうは感じられなかった。

 

金髪の少女の目の前には大量に山積みにされた食器が重なっている。

 

(おいマジかよ...あれ全部食ったのかよ)

 

十六夜はなぜこんなに見ている人が盛り上がっているのか、それが理解出来た。

 

見た目もかなり美しくどことなく凛とした金髪の少女が、大量の食材を食べていた。それも店主を泣かせる程に。

 

そんな光景であれば観客も集まるだろう。

 

さらに言ってしまえばこの店は料理を注文するスタイルではなく、自分で好きな料理を好きな分だけ取るという食べ放題の店だった。

 

食べ放題の店では通常の店より多く食材を仕入れている。その大量の食材を全て平らげた。

 

それでも金髪の少女はあまり満足しているようには見えず、次の店へと向かっていた。

 

金髪の少女の代わりに紫髪の少女が通常の料金より多額の金額を払っていた。

 

「ねえねえ十六夜くん」

「お嬢さま、あれは真似しない方がいいぞ。あんなん普通食べきれねえよ」

「ええそうですとも。無理は厳禁ですよ」

「アレ見たら少し腹が減ったな」

「そうですか。それでは御二人様、お食事を用意しますので黒ウサギニオトナシク捕マッテクダサイ」

 

黒ウサギは笑顔で言うがその瞳は一切笑っていない。

 

「「断る!!」」

 

2人は息を揃えて言い放ちバラバラに別れる。

 

黒ウサギの身体能力を持ってすれば飛鳥を捕まえるのは簡単だ。

しかし十六夜を捕まえるのはかなり難しい。

 

ならば狙うならば十六夜だと狙いを定めて襲いかかる。

それすらも読んでいた十六夜は不気味な笑みを浮かべ逃走をはかる。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王一団襲来

先日暇つぶしにランキングを見ていたらなんと、日間ランキング41位を獲得しました。
ホント皆様のおかげです。
これからも頑張って行きますのでよろしくお願いします。

後半文がグダってるから書き直すかも


 

「私と付き合って欲しい」そう言われれば当然恋愛の付き合うだと思う。が、春日部の言った意味は違った。

 

「期待でもしたの?」

「いやまぁ普通アレ言われたらな...はぁ...」

 

ため息を吐きながらも巨大なゴーレムの攻撃を持ち前の剣で地面へと受け流す。

 

現在行われているのはとあるギフトゲームだ。

 

ギフトゲーム名″造物主達の決闘″

 

・参加資格及び概要

・参加者は創作系統のギフトを所持

・サポートとして、一名同伴可能

・ギフト保持者は創作系以外のギフトの使用を一部禁ず

・決闘内容はその都度変更

 

授与される恩賞について

・改装支配者の火龍に勝者のプレイヤーが進言できる

 

《b》宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

        ″サウザンドアイズ″

          ″サラマンドラ″印

 

春日部は迷惑をかけて怒らせてしまった黒ウサギお仲直りするためにこのギフトゲームに参加した。

 

上記の内容通りサポート役を誰か1人つける事ができる。応募期限がちかいので今すぐにお願いできる人物に限られる。

 

そして、すぐに話せたのが一誠かジンのみ。となればやはりちゃんと勝ちたいから一誠を選んだ。

 

2人は闘技場のような形をした所で準決勝が行われていた。2人の相手はコミュニティ″ロックイーター″に所属している自動人形(ゴーレム)だ。

 

身体はかなり大きく縦に一誠3人分、横に5人分はある。それでも以外に速度は早い。しかし、今の2人にとっては会話をしながらでも充分戦える程度だった。

 

「ふぅ...んよか」

「まぁまだ2回目だしな告白されるの」

「は?」

 

春日部の友達に冷気を放つ者などいないはずなのだが、今は確実に出ている。その証拠にゴーレムの動きが一時的に停止した。

 

「ホント?」

「まぁな。こっちに来る前に告白されて付き合ったんだけど、突然失踪したから別の人と付き合ってると思うぜ。はぁ...勿体ない事したな...」

 

ゴーレムは停止していた体を無理やり動かす。多少石同士がぶつかり合ってかけていっているが、特に問題は無いと拳を振り下ろす。

 

その拳を春日部は下に俯いたまま片手で掴んだ。

 

その行動に観客はもちろん見ていた三毛猫は歓声を上げる。まさか掴むとは思っていなかったからだ...歓声が上がって数秒、それらは全て悲鳴へと変わった。

 

掴んだ手を力の限りに任せて上に放り投げ、グリフォンから受け取った風のギフトを使って手元にミキサーのように回転し続ける風を発生させ殴りつけた。

 

風は見た目の通り直撃した場所から粉々に砕く、それでも全てとはいかず観客の方を飛び散り、無論そのような場合の対策を行わないわけが無いが反射的に悲鳴をあげ視界を両手で覆い隠した。

 

「彼女いた?嘘絶対に嘘...嘘...嘘だ......」

 

ブツブツ呟きながら足早とその場をさり、白夜叉の掛け声が虚しく響くだけだった。

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

今回のお祭り『火龍誕生祭』にノーネームはただ呼ばれたのではない。

白夜叉より指名されて参加する事になったに過ぎない。

 

ガルドとのギフトゲームの時十六夜は声高らかに宣言した。

 

旗印も名もないノーネームが信用を得るためにジン=ラッセルを売り出すと、それもただ売り出すだけではない。魔王問題を全て引き受けるとも言った。

 

これを耳にした白夜叉はこれ幸いとノーネームに依頼を出した。

 

「火龍誕生祭にて魔王襲来の兆ありと」

「な、」

「へぇ...マジかよ...」

 

2人は反応がそれぞれ違うが両者とも驚いているのに違いはない。

 

2人は昼間の追いかけっこの末街中を破壊して回るというかなりの問題行動を起こしてしまい、現在は″サラマンドラ″の当主サンドラの部屋に招かれていた。

 

そこで初めて今回の依頼の内容を聞かされた。

 

「今更降りるとは言わせんぞ」

「もちろんだ。降りる気なんてサラサラねぇ。それで俺達は何をすればいい?」

 

白夜叉は良い返事だと頷くと懐から1枚の封書を取り出す。

 

「なんだそれ?」

「うむこれはな、サウザンドアイズの幹部が未来を予知した物だ」

 

白夜叉の所属するサウザンドアイズは目にまつわる特殊なギフトを所持ている者が多い。

 

今回はその中でもかなり特殊な未来を観測できるギフトで、その者が『火龍誕生祭』に魔王が現れると予知した。

 

十六夜はその情報を鵜呑みにしていいのかと疑問に思う。

 

「その情報の信憑性は?」

「石を上に投げれば下に落ちる、という程度にはな」

 

その答えに首を傾げた。

 

どう考えても当たり前の事のはずだ。

星には必ず重力がある、だから石を投げれば何か仕掛けがない限り上に上昇するなどありえない。

 

「てことは絶対に当たるって事か?」

「あぁその通りだ。さらに言えばこの封書には、『誰が投げたのか』『どうやって投げたのか』『何故投げたのか』それらが記されている物だ」

 

十六夜は余計に頭を傾げ、他の者は空いた口が塞がらない。

 

犯行、動機、犯人が分かっているのにまるで事前に防ぐ事が出来ないと言っているようだっからだ。

 

サンドラの兄マンドラは顔を真っ赤にして怒鳴りあげる。

 

「なんだと貴様!!それだけ分かっていながら魔王が来るだけしか伝えんだと!!我らを弄ぶ気か!」

 

途端に白夜叉はバツが悪そうに明後日の方向を向く。

 

頭の中で今まで手に入れた情報を整理し改めて聞く。

 

「今回の魔王襲来を裏で操ってるやつは、口に出すことが出来ない立場の相手って事か?」

 

ジンは何かに気がついたのか口元を右手で覆う。

 

(十六夜さんのいっている事が確かなら...まさか...)

「フロアマスターが招いた...」

 

口から零れるように呟いた。

ジンの辿り着いた結論は本来あっていいものでは無い。

 

秩序を守るための階層支配者が自ら秩序を乱そうとしている。

 

「いや確実にそうだとは言えん。今回の予言の内容は一切の他言を禁止するとされていてな、予言者しか詳しくは知らん。しかしサンドラの誕生祭に北のマスター達が非協力的だったのは認めるしかない」

 

本来であれば東の階層支配者である白夜叉が『火龍誕生祭』に関わるのはかなり異常な事だった。

 

それでも協力者として呼ばれた理由は、北の階層支配者に尽く断られ関係の良好だった白夜叉に回った。

 

結果として運が良かったのかもしれないと思うほかない。

 

ジンは数十秒押し黙っていたが、緊張したのか声が最初裏返りながらも返事をした。

 

「わ、わかりました。今回魔王襲来には我々ノーネームは両コミュニティに協力します」

「良い返事だ。そこまで緊張せんでいい、魔王は私が相手する。お主らは露払いをしているだけでいい」

 

今の話を聞いていた問題児は笑いながら質問する。

 

「魔王ってのを初めて見るから今回は引くが...もし偶然魔王が別の誰かが倒しても問題ないよな」

「よかろう。隙あらば魔王の首を狙え」

 

黒ウサギはまさかの発言に呆れながらも交渉は成立した。

 

 

 

十六夜はその後来賓室で一誠とともに女性店員と歓談に勤しんでいた。

 

拠点の移動した方法などを話していたのだが、正直そこまで頭の良くない一誠には何が何だか分からず身体を仰け反らして伸びをした。

 

伸びをした先から風呂から上がりたてのようで、未だ髪は完全に乾ききっておらず微かにはだけた肌は火照っているように感じる。

 

風呂上がりの女には妙な色気があるとは言われるがそれは初めて目にして理解出来た。

 

「おぉ...」

「これはいい眺めだな一誠」

「そうだな、黒ウサギや飛鳥はその我が儘ボディが目立つ浴衣のせいで、いつも以上にその豊満な乳房を魅力的に見せてる」

「スレンダーな春日部とレティシアは髪から滴る水が鎖骨のラインをスウッと流れ落ちるさまは」

「おバカ様ぁぁ!!」

 

黒ウサギはどこからとなく取り出したハリセンで2人の頭を叩く。

本日2度目のハリセン先輩の出番。

 

問題児3人が来てからもうハリセンは肌身離さない身体の一部のような物になっている。

 

叩かれた直後でも問題児兼変態(白夜叉・十六夜・一誠)の3人組は互いの趣味を確認しあった所で互いに熱い握手を握った。

 

 

翌日待ちにまった決勝が始まる。

 

まずフィールドに案内されるのはノーネーム。

 

2人は別段仲良さげに喋りながら入場とはならず春日部が先に入場してから、その後を追うように一誠が入ってくる。

 

そして次に入場するは″ウィル・オ・ウィスプ″だ。

手始めの挨拶としてか耀目掛けて火の玉が飛んでいく。

 

「わっ!」

 

突然の事に驚きお尻から倒れそうになる。

一誠は咄嗟に手を伸ばし優しく抱き止める。

 

「大丈夫か?」

「別に...」

「なんだ怒ってんのか?」

「別に...」

 

困ったと思いながら髪をかき乱す。とゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。

 

「おいおいこんな所で夫婦喧嘩か?お暑いねぇ」

「YAFUFUUUuuuu!」

 

観戦席からもフューと茶化すように口笛が至る所でなる。

 

春日部は違うと小声で否定しながらも顔を赤面させて俯く。

 

最初にからかい始めた張本人である。

″ウィル・オ・ウィスプ″所属のアーシャは、ゴスロリの独特なスカートを揺らしながら頭上から火の玉に乗って降りてくる。

 

その隣には飛鳥が先日話していたカボチャの頭にマントを羽織った人物、ジャック・オ・ーランタンも一緒に降りてくる。

 

観客席にいた飛鳥は隣に座っている十六夜の肩を必要以上に叩いて興奮を表していた。

 

「おぉ...すげー!!本物かよ!!!」

 

一誠は支えていた手を離して、鼻息を荒くして興奮気味でジャックに飛びつく。

突然支えが無くなった春日部は後頭部を地面に叩きつけ、その痛みに悶絶する。

 

「なぁ...私の事無視か?」

 

アーシャの質問に答える者はいなかった。

 

 

 

啜り泣くアーシャを無視しつつゲームは進行していく、白夜叉は招待状の番号を宣言しそれと合致しているコミュニティの所に行くと、そのコミュニティの旗印を確認して次の舞台を設定する。

 

やはりというべきか柏手一つでゲーム盤を作った。

 

 

一誠と春日部は過去にグリフォンと戦った時に感じた世界の移動をまた感じ、辿りついたのは視界の殆どが樹の根に囲まれていて、足場も樹の根の世界だった。

 

「ここは...根に囲まれ場所?」

 

耀は強力な嗅覚を持って土の匂いを嗅いでここが根に囲まれている場所だと理解できた。

 

しかしその独り言は一誠だけに聞こえた訳ではない。

 

「へぇ...ここは根の中か...」

 

明らかな挑発を春日部は無視してとりあえず得られるだけの情報を得ようとする。

 

すると、すぐに4人の前に黒ウサギが次元を割って現れ、手に持つ契約書類を掲げる。

 

ギフトゲーム名″アンダーウッドの迷路″

 

・勝利条件

・プレイヤーが大樹の根より野外に出る

・対戦プレイヤーのギフトを破壊

・対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合または降参した場合

 

 

・敗北条件

・対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合

上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

読み終わるなや否や根全体を揺るがす衝撃が発生した。その発信源は春日部の隣にいた一誠からだった。

 

一誠はデュランダルを取り出し、魔力で多少身体を強化してジャックへと斬りかかった。

 

そのまま2人は流されるままにその場から遠ざかり、ある程度離れた場所で互いに飛び退き合う。

 

「なぁジャックさん少し遊ぼうぜ」

「まさか貴方から仕掛けてくるとは....」

 

先程まで喋ろうとしてこなかったジャックは突然流暢に話し始める。

 

先程まで喋って来なかったのはアーシャが自分の力で勝ちたいと言っていたからだ。しかし今は状況が違った。

 

ジャック・オ・ーランタン。

彼はアーシャの作り上げた作品ではなく、生と死の境界にした悪魔。

ウィラ=ザ=イグニファトゥスの最高傑作だった。

 

その実力は春日部が1体1で戦ったとしてもおおよそ負けてしまうだろう。

 

何せウィラが作った事により最強最悪の能力が付加されている。

 

『不死』

その名の通り決して死ぬ事がない。まさに最強の能力と言える。

 

さらにほかにも炎を操る自前の能力も持っている。それを一瞬で察知した一誠は会えて囮役をかった。

 

この別れ方をすると分があるのはノーネームの方だった。

 

一誠の相手は不死。

だが時間稼ぎが出来ない相手ではない。

 

春日部とアーシャは身体能力・感知能力共に春日部の方が上。どう考えても勝てる試合だ。

 

なので今の一誠の仕事は時間稼ぎをする事だった。

 

「デュランダル!!」

 

デュランダルを一度鞘にしまい、改めて抜刀し直す事によりその切れ味を格段に上昇させる。

 

空間を切るとまではいかないが、辺りの根は斬撃によって切り裂かれていく。

 

「くっ...手を抜けないませんね!」

 

自身の周りに火の玉を何十個も作り出しまとめて放つ。

それでも数秒の後に綺麗に捌かれる。

 

今すぐにでもアーシャの援護に行きたい所なのだが、それを許す一誠でもない。

 

2人は拮抗しながらも戦い続ける。

 

そのまま2人に決着がつくこと無くゲーム終了の放送がなる。

 

『勝者、春日部耀』

 

結果はノーネームの勝利だった。

 

 

「クソ!!あともう少しだったのに!!」

「アーシャ落ち着きなさい...今回は私の失態でもあります...」

 

もしジャックがあの先制攻撃を避けて2人を相手に出来ていれば勝者も変わっていたかもしれない。

 

しかしそれはもしもの話。いつまでもそんなもしもの話にこだわっていても意味は無い。

 

アーシャは耀にライバル宣言してジャックと一緒に帰っていく。

 

勝者である筈の耀は勝ったとは思えないような暗い顔をしていた。

 

(また助けられた...)

 

これで助けられるのも3回目。

いくら今回はサポートとして参加してもらったからとは言え、一番の強敵を相手にして貰い簡単に勝てるようになっていた。

 

それなのに勝者の名前には耀の名が上がる。

 

美味しい所でだけ貰うばかりで何も返せていない。いつか何か返せたらいいなと思いながら十六夜達と合流する。

 

「おめでとう春日部さん!」

「うん勝った、ブイ」

 

ピースをして自身の喜びを最大限アピールする。

 

十六夜も先の戦いを思い返す。

 

あのジャックともしも戦う場合自分で勝てるのかと...あの時のあれはまだ本気では無いのだろう。

 

ジャックはまるで使い慣れない獲物を扱うように多少のぎこちなさがあった。特段気になるという訳ではない、だが強者と戦うには明らかに不利な物なのは確かだ。

 

そんな時ふとある事に気がついた。

 

「白夜叉、アレはなんだ?」

「何?」

 

白夜叉も上空へ目を向け、他の観客達も続々と上空を見上げる。

 

空から黒い封書が雨のようにばらまかれている。

 

それを掴み取り中を見ると

 

ギフトゲーム名″The PIED PIPER of HAMELIN″

 

・プレイヤー一欄

  ・現時点で三九九九九九九外門・四○○○○○○外門・境界璧の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉

 

・ホストマスター側 勝利条件条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害

 

・クリア条件

  ・ゲームマスターを妥当。

  ・偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″グリムグリモワール・ハーメルン″印

 

誰の声か分からないが一人の叫び声が響いた。

 

「魔王が...魔王が現れたぞぉぉ!!!」

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

遡ること数分前境界璧・上空2000m地点。五つの人影があった。

 

一人は露出が多いながらも白装束の服を着ている白髪の女は、二の腕の長さぐらいのフルートを弄りながら会場を見下ろす。

 

「プレイヤー側で相手になるのは五人かしら?」

「いやあのカボチャには参加権がねえ。1番やべえのはあのデュランダル持ちだな」

 

白髪の女に答えるのは、黒い軍服を着た黒髪の男。その手に持つ笛はその男の全身ほどある。

 

「俺が兵藤一新の息子をやる。別に構わないよな?」

「構わないわ...それが契約内容だしねフラガ」

 

二人目の男は腰にレイピアのように細い長剣を差していて、全身をタイツで覆い肩と膝のみにプロテクターをつけている。

 

フラガと答えたのは斑模様のワンピースを着た幼女。

 

その後に控えるすでに人間ですらない巨大な怪物。そのフォルムは滑らかで、所々に穴が空いている、

 

斑模様の幼女は四人の顔を見て黒い封書を取り出す。

「さぁギフトゲームを始めるわ。手筈通りに」

「おう」

「ええ」

「ハハ」

「BRUMUUUM!!」

 

この直後地上に黒い契約書類が配られた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

赤龍帝vs謎の全身黒タイツ前編

皆さんお久しぶりです。色々ゴタゴタしていましたが何とか復活。久しぶりに書いたのだ少し変かもしれませんが宜しくお願いします。

ついでに久しぶり過ぎて内容を忘れた人のため簡単なあらすじを
何やかんやで異性転生した一誠→色々触りながらギフトゲームに勝利→何か招待され行ったら魔王襲来。こんな感じです。


今日の九時頃に後半を投稿予定ですのでそちらもどうぞ宜しくお願いします。

それとfate最高でした。桜好きとしてはここまでスポットライトが当たっていると嬉しくて、涙が流れそうになりました。本当に素晴らしかったです。



黒い契約書類が舞い降り阿鼻叫喚としているさなか、さらにその場を騒然とさせる現象が発生する。

 

それは本陣営のバルコニーにて、何の前触れもなく白夜叉を黒い風が球体状に覆った事から始まる。

 

「なんだと!」

 

咄嗟にその場にいた数人が白夜叉に手を伸ばすが、黒い風が触れるのを妨害し、そのまま突風を巻き起こしてバルコニーから弾き飛ばす。

 

その後数分も経たずに空から魔王と思わしき集団が降下し始め、バルコニーの下付近でちいさな爆発音と共に空中にて二人の男が殴り合いの戦闘を開始する。

 

この時一誠は春日部と一緒にバルコニーへと向かっていた。

 

バルコニーに付くと先に付いていた飛鳥が侵入を妨害している黒い風に体当たりをしていた。

 

「飛鳥この中に?」

「ええそうよ。けどこれが邪魔をして」

「なら三人とも離れろ」

 

一誠の掛け声の通り三人が扉の前から離れると、その手に取り出していた『デュランダル』を力いっぱい振り下ろす。

 

青い刃は魔力により光り輝き、黒い風の対照的に光の魔力の渦を発生させ激突する。

 

「くッ」

 

魔力の渦はは黒い風と激突した直後に視界全てを白く染め上げる光を放つが魔力の渦は消し飛ばされ、刃は見事に弾かれる。

 

『デュランダル』を握っていた両手にはまるで素の拳で鉄の扉を全力で殴ったような痛みが走る。

 

それでもめげずにもう一度魔力を溜めて振り下ろす。

 

その結果は変わらず刃は弾かれる。

 

「なんだこれ」

契約(ギアス)で守られてる?」

「そうじゃな、何かしら契約書類(ギアスロール)に出ておらんか?」

 

黒い風の向こうから聞こえてきた白夜叉の通りに確認をすると

 

※ゲーム参戦事項※

   ・現在プレイヤー側のゲームマスターの参加条件がクリアされていません。

   参加をする場合は参加条件を満たしてください。

 

書かれているがその条件何処にも記載されていない。これこそが魔王達の仕組んだ作戦の一つで、白夜叉を封印するために参加条件を記載しなかった。

 

現状これ以外の情報源が無いため条件を満たすことはほぼ不可能。白夜叉の復帰は無いと思った方がいい。

 

元魔王であり東区画最強の階層支配者の参戦不可は初めての魔王戦となる飛鳥達に取っては、いささか不安が過ぎることになる。

 

そこへ陽気な声で白装束の女が二匹の火蜥蜴を連れて現れる。

 

「あら?本当に封印されてるじゃない。そうなっちゃ最強も形無しね」

「貴様!サラマンドラの同志達に何をした!」

 

笛を得意げに回している女の周りに立っている二匹の火蜥蜴は、サラマンドラに所属している者達であり。

 

口からは小さな火の粉溢れさせ、目は血走っていて魔笛によって操られているのは間違い無かった。

 

「そんな簡単に情報を上げるわけないでしょ。それとそこで話していたのは誰かしら?」

 

女はオーケストラを指揮する指揮者のように笛を上に上げると、火蜥蜴達は飛びかかり逆方向へと吹き飛ばされる。

 

「あらまぁ...」

「逃げるぞ!」

 

一誠は一瞬で『禁手化(バランス・ブレイク)』し火蜥蜴達を殴り飛ばした。

 

一応殺さないように手加減はしたが当分動けないようにはしている。

 

四人はその場から空に飛び上がり一瞬で離れる事に決める。空を飛ぶ力を持っていないジンは一誠に抱かれ、飛鳥は春日部に抱かれ飛ぶ。

 

女は空を飛ぶ春日部をまじまじ見つめ、舌なめずりをしたターゲットに決めると魔笛に唇を添え演奏する。

 

音色は不協和音のような嫌な感じではなく、ずっと聞き入っていたい魅入られる音で、人一倍強い聴力を有している春日部は

 

「だめだこれ」

「え?きゃ!」

「ちょっ」

 

魔笛に惑わされ身体の自由を奪われる。

 

咄嗟に空中で飛鳥を投げ渡し怪我をさせないようにしたが、投げ飛ばされた先で胸に一誠が頭を埋めてしまい、投げなければ良かったと後悔することになる。

 

「えっち」

「いや、今の俺関係なくね?」

「一誠...もぐ?」

「何をだよ!」

「ナニをだよ?」

 

声は笑っているように聞こえるが目が笑っておらず、ずっと見つめていると闇そのものを覗いているような目だった。

 

それよりも今はこんなコントをしている場合ではない。

 

この状況かで最善の選択肢を考える。

 

「ごめんなさいねジン君。春日部さんを抱えこの場から逃げなさい」

「はい」

 

命令を受けた途端にジンの目からハイライトが消え、地面に倒れている春日部を抱え走り出す。

 

飛鳥を申し訳なさそうに見てからジンの背中を追い始める。

 

 

 

 

 

闘技場からはかなり離れ、今いるのは多くの一般的な建物が立ち並ぶ住宅街だった。

 

魔王が現れた事で辺りに人は一人も居らず、遠くの方で聞こえる爆発音以外は静かで不気味な雰囲気が漂っている。

 

この場所まで来れば命令を完了した扱いなのかジンの手から春日部が落とされ、目にハイライトが戻る。

 

「ごめん...私のせいで」

「いや、耀のせいじゃない......」

 

一誠は辺りにただならぬ雰囲気を感じ警戒態勢に入る。

 

二人は特に何も感じていないようで頭を傾げていたが、突然背後の建物が縦に真っ二つに裂ける。

 

金属と金属のぶつかり合う強烈な音が鳴り響いた時に一体何が起きたのか理解した。

 

「フュー、さっすが」

「褒められても嬉しくない!」

 

建物が裂ける直前。咄嗟に身体が動いたと言うよりは、感で自然と身体が動いたの方が的を得ている。

 

『デュランダル』を取り出して背後に向いて剣を地面スレスレから上に切り上げた。

 

結果は分かっているように相手の剣と歯ぎしりし合う事になる。だが敵の男が使う剣はレイピアのように細く、何故『デュランダル』と歯ぎしり出来るのか分からない。

 

さらにおかしいのが、いくら身体の自由を奪われたからと言って、春日部が一切知覚出来なかった事だ。もし感で動いていなければ確実に切られていた。

 

男は剣を一回納刀すると両手を前に突き出して拍手をおくる。

 

「いやーうん流石だね。これでこそ俺の見込んだ男だよ」

「だから嬉しくないって」

 

改めてじっくりと男を見ると怪しさが満載だ。

 

服の代わりに着ている黒いタイツの肩と膝のみを覆う黒いプロテクター。ここまで黒で揃えているにも関わらず、腰に差してある真っ白い剣。その白さは全体の黒さと相まって余計に目立っている。

 

怪しさ以外を全く感じない男が指パッチンを鳴らすと、何も無かった空間から白い『契約書類(ギアスロール)』を出現させ一誠に投げつける。

 

一度右手で弾いて落としそうになったがどうにか両手でキャッチして、中身を確認する。

 

DEAD or DEAD

 

プレイヤー一覧 兵藤一誠

        Fragarach

 

・クリア条件 どちらかが死ぬまたは相手が違反を犯した場合

 

・敗北条件 このギフトゲームをしているプレイヤー以外の他者を再起不能または致命傷を負わせた者と死んだ者が敗北となる。

 

・勝者報酬 倒したプレイヤーの全てを得る

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

        ∈⊆∧∨⊃_∈⊆∋

 

最後が文字化けしていて読む事が出来ないがゲーム内容は理解出来た。だからこそ

 

「受けられるわけないだろこんなの」

 

そうこのゲームでは絶対に相手の命を刈り取らねば追われない本当の『デスゲーム』だ。

 

受ければ殺さなければいけない。そのためこんな物を受けられないと『契約書類』を捨てようとすると

 

「本当に良いのか?お前に差し出す最初で最後のチャンスだぞ?」

「何がだ?」

「自己紹介してなかったな...俺の名は兵藤一新の使った七聖剣が一つ、フラガラッハ。フラガと呼んでくれ」

「フラガラッハ...」

 

目の前の男は自身こそが『フラガラッハ』だと言い放った。

 

白夜叉から知らせれた七聖剣の五つの内の中に『フラガラッハ』は存在している。それに聞いていた話とも合致する。

 

曰く剣身はかなりの細身であるが何物にも勝る切れ味を持っていて、身軽に動ける事からかなりの凶悪性だった。

 

そうすれば『デュランダル』と打ち合えた理由にもなり得る。となると、これは七聖剣を手に入れるまたとないチャンス。

 

投げようとして上げた手を下ろし

 

「分かった受ける。ただしそこの二人を逃がさせてくれ」

「......いいだろう。俺が興味があるのは貴様だけだからな兵藤一新の息子」

「ありがとう。ジン頼むわ」

「でも」

「絶対に勝つからさ」

「分かりました。絶対に勝ってください」

「おう」

 

ジンは顔を赤くして全力で持ち上げ走り去っていく。そのとき春日部の心の中にひとつの不安が過ぎった。

 

ここから離れてはいけない。

 

しかし、今の彼女には身体を動かす術はなくどんどん離れて行くことになる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

赤龍帝vs謎の全身黒タイツ後半

後半です。まだ前半を見てない人はそちらを見てね


 

 

二人が走っている間はフラガと一誠の間には無言の沈黙が流れる。これは決して会話が出来ないのではなく、相手の挙動一つ一つを読み取り有利に戦おうと集中しているために起こっている。

 

そして、二人の後ろ姿が建物の角を曲がって消えた所で、どちらが合図をした訳でもなくその場から姿が掻き消える。

 

瞬間二人の離れていた丁度中間地点で互いの剣が激突し火花が飛び散る。

 

細身の剣身に太さのある巨大な剣。旗から見れば釣り合うことのない剣同士がぶつかり合って勝利したのは、まさかのフラガの方だった。

 

「ヒッ!」

「くそ!」

 

弾かれる後方に倒れようとしている『デュランダル』を全身の力を使って強引に引き戻して振り下ろす。

 

さすがにこれを受けるのはマズいと思ったのか剣で受け止める事を諦め後方に飛んで回避する。

 

標的が居なくなり空気を切り裂いた『デュランダル』は地面に叩きつけられ土煙を巻き上げる。

 

「な!」

 

巻き上げられた土煙により一誠の姿はフラガの視界から完全に消え失せる。

 

そも一誠には剣の師範代は居らず自己流だ。そのため基礎となっているのは喧嘩技術。

 

近場にある物を卑怯と言われても勝ち、最後に立っていれば勝者。

 

先程の大ぶりは確実に避けられる。そんな事は振り下ろし初めた瞬間に何となく分かった。

 

だがそれを生かさない手はなく、避けられるならば次の手に繋げばいい。その布石として土煙を巻き上げた。

 

土煙によって姿を隠すと魔力の球体をフラガの四方を囲むように配置する。

 

「チッ!やるな視界を奪って撹乱か!!」

 

土煙を払うように剣を振るうが、細身の剣では少しだけ土煙を退かすだけで劇的な効果はない。

 

(どれを殺る...外せば殺られる。クソ、下手に手が出せねぇな)

 

今下手に攻撃に移り外した場合当てやすい的の出来上がり。屠られるのは必然。なのでセオリーはここを動かない。と普通ならば思うわけだが

 

「俺にそれは効かねぇよ!」

 

細身の剣に魔力を纏わせ斬撃を飛ばすように円状に魔力を飛ばす。

 

飛ばされた魔力は土煙を退かすと共に魔力の反応を全て(・・)を切り裂いた。

 

「それこそ分かってたよぉぉ!」

「上か!」

 

一誠は作を二重三重(・・・・)と重ねて強化していた。

 

魔力の反応を全て身代わりとする事で上への注意を逸らし不意をつくことに成功する。

 

だが、それをも考慮していたのがフラガで不敵な笑みを浮かべる。

 

「残念だな読んでたぜ!」

 

聖剣フラガラッハには他の聖剣とは違い自我が備わっていた。自身の担い手を選ぶため肉体を魔力で作り上げ、そこに自我を押し込め今のフラガが完成した。

 

兵藤一新から離されて以来ずっと担い手を探すために数々の強者に勝負を挑み、いつしか勝てる者は居なくなっていった。

 

このままでいれば自我の剣にとって地獄の錆び付く未来が待っている。それだけは嫌だ、どうにか回避する方法を探していた時に兵藤一誠を見つけた。

 

ガルドとのギフトゲームを目撃し、ペルセウスとの戦いで確信した。最後の挑戦者はこの男しかいないと。

 

その時この魔王達の話を聞き、一誠と戦う事を条件に協力する事にした。

 

それがこれだ。あんまりにもおつむのなっていない作戦。さっさと殺してもう錆び付く未来しかないなと諦めた時ある違和感に気づく。

 

空から振り下ろされるデュランダルの刃に剣を当てることで逸らし、首を切ろうとしていたのだが剣が軽いのだ。

 

いや『デュランダル』が軽いのではなく。剣に力がこもっていない。

 

土煙で隠れていた姿が見えた瞬間驚愕に頬が引き攣る。

 

(誰もいないだと)

 

『デュランダル』の持ち手の部分には本来いるべきはずの一誠の姿が見えず、代わりに視界の端から赤い拳が見えた。

 

顎に直撃した一撃は骨の砕ける音を鳴らした後宙へと上げ飛ばし、建物を数軒なぎ倒して瓦礫に囲まれながら停止する。

 

「ガはッ」

 

口からは血が垂れ人間体になって以来久方ぶりの出血をする。

 

身体全体に響いた一撃は全身を一時的に痺れさせ身動きを完全に封じた。その状態のフラガに一誠が近づき『デュランダル』の先を向ける。

 

「もうお前の負けだ諦めろ。お前が開始したゲームだろ?ならお前なら止められ」

「無理だな。俺を殺す以外ありえない...さっさと殺せ」

「殺せるわけないだろ」

 

一誠は今までの戦いで敵の命を奪う事を自身の手で奪う事を考えた事が無かった。間接的に手を貸した事もあったが全ては後の祭り。どうする事も出来ない。

 

しかし、今回は話が違う。自身でも分かっていた通り殺さなければ終わらない。

 

そんな彼には生きるために他者を殺す事が出来ない。それも平和な日本の地で生きていた彼には仕方がないのかもしれない。

 

だがそんな言い分はフラガには通用しない。

 

「ふざけるなよ...殺せないだと」

「殺せないよ俺には...」

「ふざけるなぁァ!!」

 

まだ動けるはずのないフラガが突然起き上がった事に驚愕し、防御が間に合わず『デュランダル』の付け根を狙われ吹き飛ばされ、腹部を全力で蹴られる。

 

口から飛び出たのが唾ではなく血だと気づくのにそう時間は要さない。

 

蹴り飛ばされ一誠ほゴムボールのように地面を弾み続け 、鎧の重みから地面に軽く沈むようにした弾みを辞めた。

 

鎧に頭を振られ続ければ最悪脳震盪も起きておかしくなかったが、幸い何も起こらず全身にある痛みだけだ。

 

頭を振りながら姿勢を上げると

 

『相棒!!』

「な、」

 

ドライグの声によりフラガの急接近に気づき咄嗟に右手を前に出す事で振り下ろされる剣を防ごうとする。

 

この鎧の強度は凄まじく並の物であればダメージすら受け付けない。先程の地面バウンドでも土埃が付いている程度で、何も欠けていない。

 

フラガは瞬きの間に間合いを詰め『フラガラッハ』を振り下ろす。

 

本来であれば『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』に当たった剣は弾かれるか停止する。だが『フラガラッハ』はドライグと一誠の予想を越えた動きを見せた。

 

鎧に当たった『フラガラッハ』は速度を止める事はなく、そのまま切断した。右手の肘から先の部分が宙に飛び上がり鮮血が舞う。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛!!」

 

手を切られたショックにより『禁手化』が解け、悲鳴を上げるまもなく顎を突然の強打が襲う。

 

無防備だった一誠の顎の骨は砕け散り口が開かなくなる。

 

こればっかりは相手が悪かったとしか言えなかった。『フラガラッハ』にはいくつかの特殊能力が付いていて、その内の一つは今は使用出来ないが他は使える。

 

その内の一つが『鎧切断(アーマー・ブレイク)』この名の通りの効果だ。

 

『フラガラッハ』はマナナン・マクリルよりルーに与えられたとされている剣で、その一撃は鎧で受け止める事が出来ないとされている。

 

結局のところ『赤龍帝の鎧』も『鎧』には変わりなく『フラガラッハ』で断ち切れないわけが無い。

 

後は骨に当たらないように肘を狙う事で刃を傷つけずに切断した。

 

「死ね...」

 

興味を失った。失望した。色々な思想が入り交じっているが全てに共通しているのが『マイナス的な感情』だった。

 

振り下ろすなんて非効率な真似はせずに、剣を持っている肘を曲げその状態のまま後ろに引いて、レイピアの特性を存分に生かした突きを放つ。

 

▼▼▼▼▼▼▼▼

 

ジンに抱えられ遠ざかっている春日部は先程の事が気になっていた。

 

このまま離れ続ければ一誠に一生会えなくなる。そんな考えが未だに頭から離れない。

 

一誠の実力はこの一体でも十六夜と同じで頭一つ以上飛び抜けている。とてもではないが負ける姿が見えないし、負けるはずが無いとも思っている。

 

だが頭からこの事が離れる事は無い。

 

自分の手を見ると多少震えてはいるが握る事が出来たので、戦闘は無理だが戻る事は出来るはずだ。

 

「ごめんね」

「え?うわぁぁ!!」

 

そう思えば後先考えずにすぐに戻る。抱きかかえられていた状態で、足に風を纏わせジンを軽く飛ばす。

 

自由になった事で空に飛び上がり飛んで戻る。足も震えているので走るより飛んだ方が早かった。

 

早く早く。何よりも早く。速度はみるみる上がり自身の最速を越えかなり離れていたはずなのだがあとは角を曲がるだけになった。

 

近づいてる途中にも建物が崩壊する音が聞こえたりしていたのでかなり心配していた。そして、丁度角に差し掛かった時一誠の右腕が宙を舞った時だった。

 

「あ...あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一誠の飛び散る血を見た春日部は何を思ったか戦えないのに戦場のど真ん中に飛ぶ。

 

すでに思考は身体に追いついておらず、無自覚で行っている事だろう。

 

足元付近にある地面を風で砕き、突き出していた剣の前に自身を置く。いつぞやの時と同じように守るために。春日部のこの行動はフラガに取っては致命傷だった。

 

ギフトゲームの敗北条件の一つに、《b》一誠以外に致命傷を与えるまたは殺した場合は敗北となる《b》と書かれているため、心臓に吸い込まれている剣を止めるしか無かった。

 

戦闘にて負け下されるのはいい。だがルール違反をして負けるのだけは死んでも納得が出来ない。まさにルールを縦にした最強の盾だった。

 

「チッ。めんどくせぇ事してくれたな女!」

「一誠は傷つけさせない。もう絶対にあんな姿見たくない!」

「そうかそうか。なら退く気は無いんだな」

「ない」

 

戦闘出来れば良かったのだが今はそれが出来ない。一誠を守るように両手を広げているがただの見掛け倒しだ。

 

ルールを知らない春日部は倒されたら終わり絶対に攻撃は避けなくちゃと思っているが、ルール上最強の盾が出来上がっている事を知らない。

 

フラガはため息を吐いて髪を掻き毟り斑少女(ペスト)より渡されたある物を口から取り出す。

 

その身体は魔力で出来上がっているので人間にはありえない芸当が出来ても何ら不思議ではない。

 

先に紹介した通り魔力で身体が出来ているならば一体誰の魔力を使っているのか、それは自分自身の限り少ない魔力だ。

 

普通に考えて剣に宿る魔力など高が知れている。それなのに何故作れたのか。答えは『契約書類』に書かれていた。

 

勝者には倒したプレイヤーの全てを得る。そう全てを得たのだ。魔力、力、生命力、潜在能力。それの全てを吸収し自身の糧としてきた。

 

殺した人間の数は百を超えた辺りから数えるのをやめたので具体的な数は分からないが、それでも沢山殺したのは覚えている。

 

その殺しの中にはこのように肉の壁を用意した物もいた。その場合は肉の壁を躱し殺していたが、春日部はそんなヤツらとは格が違うのは対面して分かった。

 

なので奥の手として貰っていた切り札を解放する。

 

口内の唾液まみれの小さな小瓶の蓋替わりに付いている木のコルクを指で弾き飛ばして、中に封印されたいた黒い風を解き放つ。

 

この黒い風は白夜叉を封印した物とは別物で、心臓を持っている者に等しく死を届ける死の風(ペスト)でこのような事態になった時に使えば、ルール敗北なく肉壁を殺す事が出来る。

 

現在の彼らの目的上すぐに死ぬ事はないが、それでも身体の自由を多少奪う事が出来るはずだ。

 

自由になった黒い風は一直線に飛び一誠のため避ける動作取らなかった春日部に直撃し、その場で踞せる事に成功する。

 

「どうだペストの味は...興味も無いんだがな」

「ま、て」

「黙れよ俺は今イラついてんだよ」

 

ルールでは再起不能や殺すのがご法度なだけで小突く程度は問題がない。身動きの取れない春日部を足先で軽く蹴り、肘を抑え蹲った一誠の前に立つ。

 

春日部は必死に手を伸ばすがその手が届く事は無い。一誠に近づく死。剣が心臓を突き穿つ前に雷鳴が轟く。

 

審判権限(ジャッジマスター)の権限が発動されました!これよりギフトゲーム″The PIED PIPER of HAMELIN″及び″DEAD or DEAD″は一時中断し、審議決議を開始します。プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中断し、速やかに交渉テーブルの準備を開始してください」

「月の兎の耳は誤魔化せねぇか。しかないな、次会った時は殺してやるよ小僧(一誠)

 

突き出していた剣を納刀し忌々しそうに雷鳴を鳴らした黒ウサギを睨みながら、ペスト達の元へと戻る。

 

ジンは全てが終わったタイミングでこの場に到着し、

 

「黒ウサギ!一誠さんと耀さんが!!!」

 

支援を要求した声を発し、それに気づいた黒ウサギとその仲間がすぐに二人を救助し治療を始めた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突必死。最終局面突入!!!

やっちまったぜ。とだけ言おう。多くは語らない。


「まずホスト側に問います。今回のゲーム不備はありませんでしたか?」

「不備はないわ」

 

十六夜が勝手に斑幼女のあだ名を決めた幼女は面倒くさそうに返事を返す。黒ウサギが反論を返す前に斑幼女が口を挟む。

 

「一切不備はないわ。もし信用出来ないなら貴方の耳で確かめたらどうかしら?」

「本当にいいのですか?」

「ええ構わないわ」

 

黒ウサギが耳をピクピク動かして数秒。箱庭の中枢からは不備はなしと返答された。

 

「本当のようですね」

「言ったでしょ不備はないと」

 

背もたれに寄りかかりながら余裕の笑みを浮かべる。多分幼女達もこうなる事は読んでいたのでだろう。

 

だが、今の十六夜はその事を考えるより一人の男に集中していた。

 

等身並の笛を持ったヴェーザー河の化身でもなく。

飛鳥と戦ったラッテン(ネズミ)でもなく。

サンドラが倒した白い巨人シュトロム()でもなく。

黒ウサギと話している斑幼女(ペスト)でもない。

 

細身のレイピアに近い剣を腰に指している男だ。ジンの話が本当ならばフラガラッハとの事だ。

 

「なぁそこの全身タイツ。お前本当にフラガラッハか?本当なら何でこんな所にいやがる」

「おっ?俺のこと知ってると見たぜ少年。まさか少年にも知られてるとはな嬉しい限りだ。だが残念その質問には答えられねぇ。何せ記憶が無いからな」

「記憶がない?」

 

フラガは身体の前で手を組んだ状態のまま頭だけを縦に降る。

 

考えて見ればおかしな事だらけだった。彼の神話を使ったのは太陽神ルーだ。

 

有名所で言うならば『クーフーリン』の父親に当たるのがルーだ。北米神話のグングニルなどにも影響与えている超大物だが今は置いておく。

 

神話に置いてかなりのチートな位置にあるフラガラッハが、神の手から離れ放浪している事がおかしすぎるのだ。彼の発言を信じるならば記憶喪失との事だが、剣に記憶があるのか疑問点は残る。

 

「そうか...なるほどな...黒ウサギ。一誠の治療をやめろ」

「な!仲間を見捨てろと言うのですか!」

「違う。何もアイツを見捨てるなんて言ってねぇ。治療をやめて血管を繋げろ。最悪あのまま出血しするぞ」

 

黒ウサギは首を傾げながらも外にいる仲間に十六夜の言葉を伝え方針を変更する。

 

今一誠は切られた手を修復するため色々な治療ギフトを使っているのだが全く効果が見られていない。それもそのはずだった。確証がなく話せなかったが目の前にいるのが大方フラガラッハだと判断できれば原因も分かる。

 

フラガラッハで切られた傷は一切の治療が出来ない。投擲武器としても使えるフラガラッハに搭載された最強ともいえる力。古今東西探してもこれに追随する程の聖剣は殆どない。

 

となれば今の治療は全て無駄。傷が治らないならば血管をどうにか繋いで、出血しだけは回避しなければいけない。

 

(チ。たくこんなの俺の仕事じゃねえんだけどな。早く起きろよ一誠、今は少しでも戦力が欲しい。なにせ目の前のこいつ(フラガ)に勝てるのはお前か俺だけなんだからな)

 

現在戦える戦力はかなり少ない。少数精鋭で活動するノーネームも飛鳥は行方不明。一誠は腕を切断され意識が未だに戻らない。春日部はペストをもろに受け戦闘に参加させられない。

 

黒ウサギならばもしかすれば勝てるかもしれないが、怪しい所がある。レティシアは言わずもがなだ。

 

深いため息を吐きながら困り果てているジンに助け舟を差し出す。

 

 

 

 

ジンの口戦によりどうにかギフトゲームの再開期間を一週間後に伸ばし、今は話し合いから六日後。再開まで残り二十時間あまりとなった時の隔離部屋にてだった。

 

春日部の部屋には十六夜がおり一誠の部屋には黒ウサギが待ち構えていた。

 

だがこの六日間一向に目が覚めず、このままギフトゲームに参加出来ないのではと思い始めた時、唐突に一誠は目を開け覚醒する。

 

「...生きてる?...」

「よかった!よかったのですよぉぉぉ!!!」

 

黒ウサギに抱きつかれ胸に顔を沈める。彼女の胸は現状ノーネームの中でも最高峰の代物に顔を埋めるのだ、昔の一誠ならば何かしら反応したかもしれない。

 

だが、今の一誠は何も反応しない。と言うよりも感覚が一切ないのだ。

 

匂いや視覚はしっかりとあるのだが、まるで麻酔がかかっているように身体が自由に動かせず、顔付近も布で覆われたように真っ暗なだけで柔らかさなどを一切感じられない。

 

「一誠さん!よかったよかった!」

「苦しい」

 

慌てて飛び退きベットに横たわっている一誠を壁に持たれかけさせるようにして状態を上げる。

 

慌てて手を振り軽く挙動不審になっている黒ウサギを他所に、自分の記憶に取ってはつい少し前の時の出来事を思い出す。

 

脳を支配するのは腕の切り目から感じる冷たい風に、風に打たれる度に身体の全身に回るある感情。

 

痛い。痛い。いたい。いたい。イタイ。イタイ。

 

意識は薄れゆく。その時視界を白い布が覆った。それが春日部だと気づいた時には意識が完全に飛んでしまった。

 

「黒ウサギ...耀はどうなった?」

「えっと...その...今すぐにはどうにもならないので大丈夫です...」

 

自分の無くなった右手を見ると何やら布ような物が貼られていて、それにより血管を繋いでいるのだと考え、痛みはないので気にせずに聞く。

 

さっきまでドタバタしていた黒ウサギは途端に静かになり、下を俯きながら答える。

 

「何があったんだ?」

「言わなければいけませんか?」

「頼む」

「では」

 

そのあと黒ウサギから聞かされたのはあまりにも衝撃的な事だった。

 

春日部が自分を庇い黒死病(ペスト)を受けてしまった事。ただすぐに死ぬレベルではなくもって明後日だと。

 

その事を踏まえジンは再開期間を設定したらしく、死にものぐるいで明日は勝ちに行くとの事だ。

 

しかし、今一誠が考えているのは自分の力の無さだった。

 

高校生の時はハーレム王になるだとかほざいていたが、そんな事は夢のまた夢だったと突きつけられた現実。力が足りないのだ。自分の仲間も守れないようじゃ、好きな人を守る事なんて出来もしない。

 

歯が軋むのが分かる。強く噛み締めたせいで唇の横から血が垂れる。

 

「一誠さん!」

「大丈夫だから少し一人にしてくれ」

「ですが...」

 

無言の圧力。黒ウサギを見つめると渋々従い部屋の外へと出ていく。

 

今の一誠には不安要素が多い。本当に一人にしていいのか疑問点は多いがここから先は彼自身の問題。他人が口を出していい問題でもないので部屋を後にする。

 

一人部屋に残った一誠は布団を強く握りしめシワまみれにする。

 

「なんで...もっと力が...力があれば」

『力が欲しいか?』

『力が欲しいの?』

『力を欲するか?』

 

耳ではなく脳に直接多数の声が響き渡った。

 

 

 

翌日。遂に再戦の火蓋は幕を降ろされた。フラガラッハはギフトゲームをクリア出来ていないので、戦力外とし他の者達を対処することにした。

 

神格を授けられたヴェーザーに相対するは、人間を超えているとしか言えない男十六夜だ。

 

二人の戦闘は激しさをまし拳と拳がぶつかり度に空気を震わせ、衝撃波で辺りの建物が揺れたり倒壊する。

 

そんな二人の影に隠れ兵藤一誠が部屋から出た。

 

今は戦時と言うこともあり負傷者の治療のため人がかなり行き交い、いちいち顔を歩いている人の顔を見る者もいない。

 

結局誰にも止められる事無くとある場所へと足を向けて歩いていた。

 

歩くと言っているが背中を少し曲げ下を向きながら足を引きずっている。丁度一誠を探していたフラガはトボトボ歩いている一誠を見つける。

 

「見つけた。これで終わりだァ!」

 

こちらも発見したなら相手にも発見される可能性がある。なので先手必勝あるのみ。

 

自身の最速の一突き。剣は一つの槍とかし空気の壁を突き破る。

 

姿は消え、音を捨て、存在を捨て、穿つは必殺の一撃。力を確認する必要もない。ただ殺す事に特化した一撃。

 

これを避けられた者はいない。最強の一撃。

 

一誠のほぼ目と鼻の先で突然剣が停止する。

 

「ッ!!」

 

感じたのは並々ならぬ殺気だった。たったの人睨みで全身は恐怖で硬直しピクリとも動かない。冷や汗が流れるたび凍りつくような寒気も感じる。

 

絶対に抗えない強者に挑む弱者の気分。例えるならば獅子に挑む一匹の蟻だろうか。勝てるはずのない絶対的な溝が瞬間的に察知できた。

 

剣を突き出した状態で停止しているフラガの横を一誠は素通りしていく。

 

通り過ぎてから五歩行った所で恐怖から解放され、多少身体が動かせるようになりすぐに後ろを振り向く。

 

「てめぇ!素通りだと!舐めるなよガキィィ!!!!」

 

怒声を上げ再度一撃を放とうとした時不思議な物を見た。

 

先程見た時は一誠の右手は何も無かったはずなのだが、今は何故か血が滴っていた。

 

ただ隣を通り過ぎたはずの彼にありえるはずのない現象。なにがあったのかその思考に至る前に視界の上下が反転する。

 

(は?何があっ...た......)

 

反転した視界のすみに本来見えるはずのない自身の足が見えてしまった。その事から首を切られたのだと気づいた時には力尽き死んだ。

 

勝者になった一誠の前に『契約書類(ギアスロール)』が現れるが受け取らず、地面に落とし踏み進んでいく。

 

それでも勝者となった一誠のギフトカードに吸い込まれるようにフラガラッハは消えていった。

 

この事を目撃した者はおらず、止める者はいない。

 

 

 

ギフトゲームは終盤に差し掛かり、飛鳥が赤い巨人と復活した事によりラッテンを撃破。十六夜がヴェーザーの奥の手ごと撃破。ジンが真実のスタンドガラスを掲げ砕いた事で、ゲームの半分を攻略し残るは魔王本体の撃破だけとなった。

 

ペストと激突しているのは、サンドラ、黒ウサギ、十六夜、飛鳥の四名だ。

 

十六夜はヴェーザーとの戦闘により片腕を封じられているが、黒ウサギには秘策があるとの事でその時間稼ぎに追われていた。

 

「まだか、黒ウサギ!」

「もう少し待ってください!」

「ふっ、何を待っているか知らないがさっさと終わらせる」

 

命あるものへの絶対の死。黒き風をは夏が十六夜の謎のギフトにより文字通り蹴り砕かれる。

 

ペストにとっては十六夜ほど戦いづらい相手もいない。それによりどうにか時間稼ぎをしていた時、戦闘をしていた五人全員が同時に寒気を感じる。

 

まるで半袖で雪山に放り込まれたような寒気。ガタガタ肩は震え始め、十六夜とペスト以外はまともに立つことすら出来ない。

 

この現象を引き起こした本人の声は生気の篭っていない、ハイライトの消えた目で黒ウサギを見つめ聞く。

 

「ペストはどいつだ?」

「あ、あの斑模様のか方ですす」

「あいつか...」

 

指させれた方にいたペストを睨みあげる。

 

「あいつが......あいつが......」

 

一誠の周りに緑色の玉が数個浮遊し始める。

 

精霊かと思ったが決してそんな物ではなく、もっとおぞましい物だった。負の概念の結晶体とでも思えるそれは一誠と共に言葉を発し始める。

 

『我、目覚めるは』

<始まったよ><始まってしまうね>

 

魔力が高まり初め空気が震える。空間が軋む。

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり』

<いつだって、そうでした><そうじゃな、いつだってそうだった>

 

全員の寒気は次第に大きなっていき十六夜も前身が震え始める。

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う』

<世界が求めるのは><世界が否定するのは>

 

一歩。一歩。着実に前にゆっくりと進む。

 

『我、赤き龍の覇王と成りて』

<いつだって、力でした><いつだって、愛だった>

 

勝手に出現した鎧は大きく変貌を遂げ始める。

 

腕は長くなり指先は研がれ鋭い爪になり、腰からは長い尻尾のような物が生え、背中からは赤い龍の羽が生える。

 

《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだな!》

 

悲痛な叫びが篭手より放たれる。異世界に来ても変わることのなかった悲しき赤龍帝の末路を嘆く。

 

「「「「「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう」」」」」

 

魔力は爆発をうみ辺りの建物を吹き飛ばす。幸いだったのはまだこれがペストの生み出した、別空間の建物だった事だ。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)

 

赤き龍はその真の姿を現し顕現する。存在そのものが破滅の象徴。破壊、粉砕、消滅。最強最悪な龍。

 

あまりの強さに二天の龍と恐れられ、神器へと封印された龍の力を解放する忌むべき力『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を発動させた。

 

『GEYAAAAAAA!!!』

 

この世を呪う怒号をあげ付近の建物を全てなぎ払い、巨大なクレーターを自分の真下に生成した。

 

 

 

 

 

時間は少し遡り一誠が龍へと至る少し前。黒き風により拘束されている白夜叉は予言を思い出していた。

 

『火竜誕生祭にて魔王襲来の兆しあり』

 

あの時は隠していたが実はもう一文続きがあった。

 

『赤龍が現れ破壊をもたらす』

 

この予言を書き残した後意識を失い。一体何がどうあって赤龍が現れるのか分からなかった。

 

しかし、突然空より龍が舞い降りるなんて事はありえない。となると、残るは一人赤龍帝の篭手なるギフトを持っている一誠が暴走した場合のみ。逆にそれしか考えられなかった。

 

白夜叉はここで嫌々ながらもとある場所へ連絡を取った。連絡を取らない事には越した事は無かったのだが、状況が状況なため神話的にも赤龍と深い関わりのある達へとこの事を伝える事にした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利を約束されたなんか

今回かなり胸糞展開があるのですが、やってしまった物は仕方がない。チラ見してダメだったらそく止めることを忠告します。

あとTSされた人物もいるので宜しくお願いします。


黒ウサギは今まで生きてきた人生の中で初めて自分が月の兎であった事を嘆いた。

 

審判をするに辺り多種の生物の声を聞かねばならないため、春日部と同じく生物の声を聞く事が出来る。基本ギフトゲームは言葉が通じなければ通じないそいつが悪いと、実力が無い方が悪い事になっている。

 

そのため、彼女の持っている能力はマイナスに働く事はなく、プラスにしか働かない。いい事づくめだけだと思っていた。

 

だが違った。龍になってしまった一誠の怒号は正しくこの世を呪いに呪った物だった。

 

天を呪い。血を呪い。世を呪い。命を呪い。生きとし生きる物全てを呪う。

 

何故裏切った。何故殺した。何故死んだ。何故産んだ。何故いる。何故何故何故何故。その叫びは一誠一人のものではなく延々と呪いのように蓄積されてきた赤龍帝の篭手の負の物だ。この事を知らない黒ウサギにとってはこの世全ての呪いとでも取れる物だ。

 

自慢のうさ耳を押さえつけ体操ずわりで小刻みに震えている。唇からは「嫌だ」この言葉が繰り返し流れるだけで、目からは涙が流れている。

 

「黒ウサギ!おい!チッだめか。どうなってやがる。いや分かってるには分かってる。ただ、信じられねぇだけだ」

 

天に向け吠える一匹の龍を見上げながら呟く。

 

浮遊して近くにいたペストは震える身体を押さえつけ、最強最悪の一撃を放つ。黒死病(ペスト)生命あるもの全てを狩り殺す凶悪な力。

 

先程は生命のない赤い巨人が相手だったので効かなかったが、姿形は龍に変形したとはいえ生命あるものに違いはない。

 

「なッ」

 

だがすぐに無意味だったと思い知る。

 

龍は食べ物を食べるかのように黒死病(ペスト)を噛み砕いた。普通ならば無理な芸当。十六夜ですら砕くのが限界だ。

 

しかし、それを可能にする方法があった。

 

ペストは十三世紀~十四世紀にかけ流行した黒死病(ペスト)であり『幻想魔道書群(グリモワール)』の斑模様の死神ではない。

 

本来なら生まれるはずでは無かった彼女は箱庭に産み落とされると同時に、彼女を召喚した魔王が死んだため自由が与えられそこで決意した。

 

『怠惰なる太陽に復讐してやる』

 

そもヨーロッパにてペストが流行してしまったのは、太陽の力が弱まり作物が育たず栄養失調になる者が続出し、太陽光が弱まったせいで人類の免疫力が低下したのが原因とされている。

 

もし太陽が出ていればこんな事にならなかったのかもしれない。だが原因は他にもあるのだが近場に復讐先があったのが白夜叉(太陽)だっただけの事。でも復讐はきっちりとやり遂げるその為にここまで準備をしてきた、なのにたった少しのイレギュラーでそれは叶わなくなる。

 

一誠はフラガラッハを手に入れた事により記憶を読み取り一時的に太陽神の擬似神格とでも言えるものを発動させていた。人間には到底無理な物なのだが、赤龍帝の篭手には全能神とされる神ヤハウェが関わった事もあり奇跡的に成り立っている。

 

本当に奇跡的なもの。多分この時ばかりの力となるであろう物だが、そのおかげがペストを物ともしなくなった。

 

『GEEYYYAAAAAA!!!』

 

腰を僅かに振り地面にあるだけで地割れを起こしている尻尾でペストを叩き落とす。

 

避ける事も出来たかもしれない。だが今の彼女にはそんな事まで考えている余裕が無かった。

 

「ガハッ!」

 

蚊を叩くようにして潰された彼女の身体はもうピクリとも動かない。手足全てが逆の方向に曲がり首も力なく勝手に下を向いてしまう。

 

殆ど瀕死状態の彼女を見下ろす龍はゴミをつまみ上げるように器用に二本の指で持ち上げ、頭を上に上げ獰猛に煌めく牙を見せつけるように開き、口の上で彼女を離した。

 

「あぁ...復讐......した...かったな...あの...太よ」

 

口の中に入った瞬間その口は閉ざされ。肉が硬いものに擦れるような気色の悪い咀嚼音を上げながら何回も何回も噛み締める。

 

飛鳥は咄嗟にその場に蹲り嘔吐してしまう。彼女に至っては十六夜のような卓越した精神や、春日部のように生物の死を常に感じる。そんな生活をしてこなかった。

 

終戦直後の世界から来たとは言え基本囚われの姫状態だった彼女には、目の前の光景は信じられないものだった。先程まで人の形をして話していた者が、今ではただの食べれる肉片とかした。

 

本当の死と呼べる物を知らなかった彼女にはとてつもないダメージで、サンドラも口元を抑えながら龍を睨みつけている。

 

一体何分たったか。永遠とも取れる咀嚼音が終わると、ゲームクリアを告げる『契約書類(ギアスロール)』が現れるが、誰もその事に素直に喜べる物はいない。

 

なにせ目の前の一誠だった物は全てが終わったと言うのに、未だに龍より戻ろうとしない。となればすぐに予想が立つ。あれは暴走しているのだと。

 

龍は足元にいる十六夜に目を向け足を踏み下ろす。

 

「仕方ねぇ!黒ウサギ持ち上げるぞ!」

 

体操ずわりの黒ウサギをそのまま抱えるように持ち上げる。お姫様抱っこのような物になりいつもの彼女なら慌てふためいて面白い反応が見れるだろう。だが今はそれが無い。

 

自身の耳を掻き毟るように爪を立てずっと小言を呟いている。

 

建物を破壊して飛び出て直後先程までいた場所には龍の足が下ろされ、クレーターが出来粉塵が舞っている。

 

攻撃を外した龍は次の目標を決める。

 

すでにサンドラは姿を隠しているので何処にいるか分からない。なので目の前で蹲っている少女を狙う。

 

飛鳥の乗る赤い巨人『ディーン』は命令があってこそ真価を発揮する。現状飛鳥が命令できないようであればただの鉄の塊だった。

 

口からは火がほとばしり龍の定番炎のブレスを吐こうとしているのが分かる。

 

十六夜は飛んで助けに生きたいが、今抱える黒ウサギが手一杯でもう一人は無理に近い。

 

「クソがァァァァ!!!!」

 

足元が爆ぜ飛鳥を見捨てる選択を取る。もし助けに行けばミイラ取りがミイラになる最悪の結果になってしまう。

 

頭の回転が早い十六夜はすぐに戦力差を理解し今の自分では勝てないと判断した。奥の手を使えば別かもしれないが正直当てられる気がしない。

 

ここまでは普通の人間であっても考え至る事だろう。十六夜を普通の人間と同じ物差しで測るべからずとはよく言った物だ。

 

「しゃらくせぇ!!」

『GEY?』

 

意識のない暴走状態な龍ですら首を傾げる。目の前のこいつは馬鹿なのではないか?逃げればいいものをと。

 

驚いた。確かに驚いた。しかし、所詮は驚く程度。手を止める理由には至らない。

 

口に貯めに貯めた火炎を吐き出す。これは別になんの変哲もない炎。焼き付くそんな思いの困った炎に過ぎない。

 

まるで太陽が近づいてくる。そう感じた十六夜は自分の足を信じられなくなりそうになる。

 

太陽なんて代物が壊せるのか?分からないだけど、そんな事で弱音を履けない!

 

口元は危機が迫る中でも獰猛に笑い。蹴りを叩き込むために動かし

 

「良くやった少年。君のおかげで間に合った...全て遠き理想郷(アヴァロン)!!」

 

突然視界を遮るように入ってきた黄金の鞘。青が入り交じり鞘の神々しさを底上げしている。

 

そして、その鞘から広がる障壁のような物は太陽のような一撃を弾き返した。

 

一瞬驚愕し反応が遅れた龍は自身の放った一撃をダイレクトに受けるが、自分の攻撃で大怪我する龍でも無い。

 

少しばかり肉や鱗が焼け特有な匂いが立ち込めるがそんな事よりも、跳ね返した現象を引き起こした金髪の少女を見下ろす。

 

全体を青で覆うドレス。どことなく品が現れ王の風格が読み取れる。ドレスには本来会うはずのない鎧が付いている。

 

胸、胴、手首、前腕部、足。計五箇所を覆う鋼色の鎧は手入れが行き届いているためか、太陽の光を眩しそうに反射している。

 

凛として立ち尽くす彼女に十六夜は見た事があった。まだこの場所に来た時に見た大食いをしていた人物としてだ。とても今の姿とは似ても似つかない。

 

空中に無限に飛べるほど人間離れはしていない十六夜は重力に従い落下し、少女の隣に着地する。

 

「少年。良くやりましたね。後は任せなさい」

「おい待てよ。何勝手に話進めてんだよ。俺も」

 

少女は頭を横に振る。小さな衝撃に部分鎧から鎧どうしが擦れる音が鳴る。

 

「貴方では力不足です」

「なんだ」

「現に貴方は一度逃げた、別にその件は問いません。それに最後には挑みました。ならば及第点です、時間も稼いでくれた事でサンドラも逃がすことに成功しました。そちらはどうですか」

「はっ、無事救出しました」

 

瞬間移動をしたように紫髪の彼女は現れた。金髪の少女とは裏腹に全身を黒染めのスーツで着込んでいて、長い髪を後ろで留めちょっとした動きに触手のように敏感に動いている。

 

その少女の手には気絶している飛鳥がいた。ついでに『ディーン』も後ろにはいない。ギフトカードにでも戻ったのだろう。

 

「そうですか。ならやります」

「はっ、少年この子を頼む」

「あぁ」

 

ついつい飛鳥を預かり二人を抱えたままもあれなので、ひとまず瓦礫に持たれかけさせる。

 

「あの龍をどう思いますかランスロット?」

「正直人間が龍になるなど聞いた事がありません。しかし、あの龍からは微かに人間の気配も感じます。なので戻せる可能性はあるかと」

「なるほど...」

 

彼女は顎に手を当てどうしようか考え始める中十六夜には別の衝撃があった。

 

『ランスロット』紫髪の少女はそう呼ばれ否定する様子もなく受け答えをしている。こと箱庭においては神などがいるならば神話の登場人物などもいるのではないかそう考えていた。

 

実際にジャック・オー・ランタンなんて物ともであったのだが、まさか円卓の騎士最優とされた騎士のランスロットと出会う事なるとは思っても見なかった。

 

そう考えると金髪の少女の正体もある程度予想がつく。あのランスロットが敬意を払って行動している事から彼女の名は

 

「アーサー王どうなさいますか」

「とりあえず殺さない程度に殺します。そうすれば解けると思うので」

「了解。臨戦態勢に入ります」

 

ランスロットは全身を包むフルプレートの銀の鎧をギフトから装備する。武器として二本の槍を取り出し握ると、赤い血管のような物が走り槍自体が黒く変化する。

 

アーサー・ペンドラゴンその人は鞘をしまうと伝説に名高い黄金の聖剣エクスカリバーを龍に向け掲げる。

 

「赤き龍よ。覚悟せよ!我が名はアーサー・ペンドラゴン。貴様を倒す者だドライグ・ア・ゴッホ!」

『GYYYAAAAA!!』

 

アーサーの宣言に答えるように龍も怒号をあげる。それを皮切りに因縁の勝負の幕が下ろされる。

 

 

 

「ふん!」

『GGAAAAAA!!』

 

全身を覆っている鎧の筈なのだが、とてつもなく身軽そうにランスロットは動き回り、龍の周りを撹乱するように駆け頭に向け二本の槍を投擲する。

 

龍は下腹から迫る槍に気づくと手で払い除け足元で動き回る羽虫を蹴散らすため、羽で飛び上がり火炎を撒き散らす。

 

手持ちの武器がない彼女は近くに転がっていた鉄パイプを二本持つと、槍と同じような文様が浮かび上がり、高速で回転させることで火炎を弾く。

 

どんな鉄パイプを持ってしてもあの火炎を防げるとは思えないのだが、これも何らかのギフトによるものだと思えば納得できる。

 

「空を取られれば厄介だな...アレを使うか」

 

ギフトカードから取り出したのは自分の身体と同等はありそうな巨大なガトリング砲だ。こちらも黒くなり銃弾がとてつもない速度で放たれる。

 

本体重量115kg弾倉も合わせ200kgを超える重量軽々しく持ち上げている彼女の力は化け物としか言いようが無かった。

 

『GYAッッ!!』

 

悲鳴に近い短い音を上げ、羽にはガトリング砲により穴が無残に空き、空を舞う事が不可能になり地面に真っ逆さまから落下していく。

 

頭から落ちた龍は頭を振り目を開き見上げた先には光の柱が立っていた。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。受けるが良い!約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」

 

光の柱は龍を押しつぶすように振り下ろされ、龍は光に身体全体を塗りつぶされていき完全に龍は消し飛ぶ。

 

世界に最も有名な約束された勝利の剣(エクスカリバー)が解放され残ったのは、半壊した建物立ちと生まれたままの姿の一誠だけだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

寝起きの逆ラッキースケベはやめられない。

ちょっと長くなったので分割なり。

それと一応覇龍についての説明をしたけど、何かしら問題または聞きたい事が合ったらお願いします。


 

(やめてくれ何で...何で)

「火を放て」

「死ね魔女め!」

「よくも騙してくれたな!!」

「しんじゃえ!しんじゃえ!」

 

罵声が十字架に磔にされている金髪の女性にかけられる。子供から大人まで誰しもが加減なしに言い放つ。

 

磔の女性は今いる国を守るために神器『赤龍帝の篭手』を発現させ禁手に至り見事侵略軍を撃退した。

 

が、その時の姿は悪魔その物だった。元から赤い全身を覆う鎧が侵略軍の兵士の血によりもっと赤く染まり、至る所からうめき声や悶え苦しむ声が聞こえる。

 

武器を捨て命乞いをしている相手も容赦なく心臓をくり抜き絶命させていく。

 

彼女の通った後には生命は生きていない。恐ろしいその光景を見た人々は国を守った英雄に対して、嫌悪感を抱き数年に及ぶ戦争に参加させた後魔女として処刑をしようとしている。

 

十字架の近くには火の松明を持った男が三人いて下から徐々に引火させていく。

 

(何でだよ!何で!)

 

火が近づいてくる間も女性は大人しく目を瞑り死を待つ。それに反乱するように彼女の中にいる一誠は暴れるが、身体の所有権は一誠にはないので動かす事は出来ない。

 

彼女は遂に全身炎に包まれ皮膚が焼け落ち肉が焦げるも、後悔の声や恨みの声は上げずただ笑顔を絶やさずに燃やされていく。

 

全身を燃やさせる痛みは彼女だけの物ではなく、一誠にもその痛みはあった。

 

普通であれば精神崩壊してもいい痛みだが、三回目ともなれば多少慣れてくる。

 

一誠は彼女に宿る前にもっと多数の赤龍帝に宿り、赤ちゃんから成長して最後は無残に惨たらしく残酷に殺された。

 

国に裏切られ、仲間に裏切られ、友に裏切られ、家族に裏切られ、白銀の鎧の男に心臓を握りつぶされ、自分の手で死んだ。

 

数々の死を経験してきたが『英雄』と呼ばれた彼らの死は決まって裏切りに満ちていた。

 

『英雄』は自分と同等かそれ以上の敵がいて初めて『英雄』になれる。ではいなければどうなるのか、それは簡単だ。ただの『化け物』だ。

 

赤龍帝の篭手を目覚めさせた者は揃って寿命では死ねない。何かしらの要因で死んでいる。

 

一誠もそうなってしまうのだろう。どうなるのか未来を考える前に次の人生を繰り返す。

 

(今度は...普通だ)

 

最後になって欲しいと願いながら体験する人生はごく平凡だった。今までは戦争や紛争ばかりだったが、彼の人生は平凡で平和に満ち足りている。

 

だが、赤龍帝の篭手を発現させた物の人生を体験しているならば、彼もこのままという訳にはいかないのだろう。

 

そう思った矢先世界は炎に包まれた。

 

正確に言えば家が燃え始めた家族が目の前で朽ち果てていくと言った方がいいだろう。これを引き起こした犯人である白銀の鎧の男が高笑いをして言い放つ。

 

「この世は力無きものは生きてはいけない」

 

齢十五歳の少年の胸には深々言葉が突き刺さり自分の無力さを呪った。平凡な毎日を送りたかっただけなのに、その力が無かったのだと。

 

そこで一気に神器が覚醒し赤龍帝へと至り、白龍皇を殺した。家族の死は悲しかったがそれよりもこれで平凡な生活を送れると思い少し嬉しかった。

 

だが、龍は争いを誘う。二度目の白龍皇との激闘。全盛期は越え衰えていたがどうにか倒した。しかし、その戦闘のせいで彼は普通の生活を送れなくなるほど深刻な障害が残ってしまう。

 

手足は常に震え、表情筋が死に絶え動かせなくなり口も開かない。ろくに生活が出来なくなった彼は自らその命を断つため、紐を天井に吊るしドライグの叫び声を無視して全体重をかけた。

 

「は!...はぁ...はぁ...生きてるのか?...」

 

地面らしき物に寝っ転がっていた一誠は悪夢から覚めるように飛び上がり首筋を撫でる。首には何ともなく正常だったが、頭の中は異常まみれだった。

 

悪夢とは片付けられないたくさんの人間の記憶が脳に存在していた。転生し体験した事をそっくりそのままに。

 

「あらお目覚めかしら。どうだった私たちの記憶は」

「あんたは」

「そうね。自己紹介をするわ、私の名前はエルシャよ。貴方と同じ赤龍帝ねまぁ過去のが付くけど」

 

目の前に立つ黒い人影が宣言する。そこで気づいた今いる場所の現状に、辺りに灯りらしき物は一切なく続くは無限の闇。母さんがいた空間に似ているが同じとは思えなかった。

 

「貴方の考えはだいたい分かるわ。精神世界に近いと思っているのでしょ?」

「なんで」

「そのぐらい分かるわ。それにここは貴方の精神世界ではなく、赤龍帝の篭手の精神世界。わかりやす言えば怨霊の集まりね」

 

彼女の宣言に反応するように背後に大量の人影が現れる。その人影を割りながら一人の人影が近づいてくる。

 

怨霊の群れを抜け一誠の前に立つと、無言で未だ座っている一誠を見下ろす。

 

「彼はベルザード。あなたも体験したなら分かるんじゃないかしら?白龍皇を二回倒した最強の男よ」

「あの時の...」

「お前は俺達の記憶を全て見ても英雄になると言えるのか」

 

男の重々しい言葉は重圧となって一誠にのしかかる。

 

彼ら過去の赤龍帝の記憶を全て見たからこそ分かる。多分このまま行けば自分の最後もろくな死に方をしないだろう。

 

もしかしたら十六夜辺りに殺されたりするのかもしれない。でもそれは言ってしまえば未来の話。今を生きる一誠がそれで生き方を諦める理由にはならない。

 

「なるさ、英雄に!だって俺は母さんと父さんの息子だからな!」

「そうか...だそうだぞお前達」

 

男が後ろを振り向き言い放つと怨霊達から黒い影が離れ、元の人間体に戻っていき笑顔を浮かべこの場から消えていく。

 

それと同時にこの空間も白くなり目の前の二人も同じで色が戻っていく。

 

女は長い金髪を横に振り見事に引き締まった美貌を見せびらかし、男は短く乱雑に切られた黒髪を堂々とした表情で見せつける。

 

「えっとこれは...」

「うふふ、おめでとう。さすがはドライグが命を張るだけはあるわね」

「え?」

「そうね...ドライグの事とこの現象を語るには貴方が至った力について説明しなければいけないわ」

 

手を合わせ音を鳴らすと、何も無かった空間に椅子三つと机の上に淹れたての紅茶三つが現れる。

 

エルシャとベルザードが座り慌てて一誠も椅子に飛び乗り、三人とも紅茶を啜る。

 

「まずは覇龍についてよ」

 

紅茶のカップを机に置き真剣な眼差しに変え説明を始める。

 

「あの力は貴方の生命エネルギーを使ってなれる禁断の奥の手よ。無論使った物は死ぬわ」

「それじゃあ俺は現実世界で...」

「死んでないのよ。三つの奇跡のおかげね」

 

中指・親指・人差し指を上げ少しだけ揺らしながら話を進める。この時ベルザードは本を読んでいて全く会話に参加してこない。

 

「まず一つ貴方の莫大な魔力のおかげ」

 

一誠には両親から譲り受けた莫大な魔力がある。全魔力を総動員して肩代わりをしたようだ。

 

無論莫大な魔力を身体から一瞬で消し身代わりにするなど、人体に何も影響が出ない訳がない。

 

今の自分の状態を一誠は確認出来ないから気づいていないが、髪の半分が白髪に変化し、左上半身上と頭の左半分の皮膚が浅黒く変化している。

 

それでも人間の少ない寿命は風前の灯になっている。

 

「次にドライグの奮闘ね、正直これは少しでもこの時間を作るためね」

 

過去の赤龍帝の記憶全てを見せるにはいくら何でも一日では終わらず、どうにか外と時間をずらしても一週間はかかっていた。

 

もしその間に死んでしまえば三つ目が行えず死んでしまう可能性がある。なのでドライグが身体を張って時間を稼いでいた。

 

「最後はあの時の怨霊達が貴方を生かすために変わり身になった事ね。あぁそれと私達は数少ない怨霊じゃない方なの」

 

徐々に折っていった指は三つとも全て折られ条件の全ては解説された。

 

一誠が何故記憶を見ていたのかは怨霊として赤龍帝の篭手にいた彼らが、今までの一誠を見てきた中で自分達の記憶を見ても『英雄』になりたいと言えば変わり身をすると意見が纏まったからだ。

 

そして、それは決行され一誠は最後まで意思を変えることなく『英雄』になると宣言した。

 

怨霊達は最後に本当の本物の『英雄』が見れ満足した表情で、浄化するように消えていった。

 

そのおかげで一誠の肉体は危機的状況から脱出、寿命も元通りとはいかないが平均寿命までは生きられる程には戻っている。

 

「そっか...そんな事が」

「本当は私達も逝く予定だったんだけどね、何かお前達は残れって言われちゃって」

「これからもこの中でお前を見ている」

「ふぅ...おっす!先輩達の名に恥じないように頑張ります!」

 

今の自分があるのが先輩達のおかげなのだと自覚し気合いを込め直して声を上げる。

 

「何だこの手!!」

 

その時に自分の浅黒く変色した手に気づき仰天の叫び声を上げ、最後まで締まらない後輩だと苦笑しながら髪のことも伝え反応を楽しんだ。

 

 

 

 

二人の先輩に見送られ現実世界に戻ると二度目の同じ光景が目に飛び込む。

 

「知らない天井だ...なんて言えないな」

「む、目覚めおったか!全く心配させおって」

 

目を開いて戯言を呟く一誠に白夜叉が近づき、額をいつも持っている扇子で軽く叩く。

 

白夜叉なりの照れ隠しに苦笑いを浮かべ、少し席を外すと言い部屋から出ていく。

 

一人きりになった一誠は天井に眩しく輝く光源帯に左の掌を被せ、現実の身体も浅黒くなっているのを確認する。右手はあいも変わらず肘から先は一切ない。

 

ひとまず状態を起こし首を回し、凝り固まった身体を解していく。一週間も眠っていると伝えられた時は驚きはしたが、以外と身体に不調は見られない。

 

「このぶんなら大丈夫だな...うぅん......」

 

布団から立ち上がり軽く体操でもしようとかとすると、着ていると言うより羽織っていた浴衣が落ちて生まれたままの姿になる。

 

タイミングよくその瞬間に白夜叉が戸を開け直接バナナを目にする。後ろにいる紫髪の女性は顔を両手で覆ってはいるが、指の隙間から必死に見ている。

 

「いや俺は悪くない」

「はぁ...時と場合を弁えろ馬鹿者が!」

 

全裸の一誠に先程の優しい小突きではなく、かなり激しい勢いで扇子をたたき落とした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おnewの聖剣ゲッツ

好きな作品の設定等が反映されています。多少無理があるかもしれませんがそこら辺はどうぞよろしくお願いします。


「全く懲りんなお主も」

「事故なんだけど」

「知っとるか?加害者がいくら事故と言っても、わしら被害者の心に受けた傷は」

「えっBB」

 

何かが白夜叉から高速で放たれ、一誠の額に衝撃が走り一瞬だけ意識を失って頭から倒れ、床に座って話をしていたから土下座のような体制になる。

 

上手く額を跳ね手元に戻ってきた扇子を掴み、口元を覆うように開く。

 

「次巫山戯たことを言えば消し炭にするぞ童」

「すんませんした」

 

放たれた威圧は隣にいたランスロットですら鳥肌が立ち、直で受けている本人は意識を取り戻し頭を上げることなく謝り本当に土下座をする事になる。

 

と、いつもの遊びを終わらせた所で出されているお茶を三人とも啜り一息をつく。

 

「それでだ。何があった?」

「いやーまぁ色々かな」

 

おちゃらけた風に言っているが白夜叉は先のお巫山戯の時点から明確に一誠が変わっている事に気づいていた。

 

先の一撃は本来後ろの障子に飛ばすぐらい力を入れていたはずだ。流石に部屋の中なので加減はしたが、前までの一誠であれば確実に吹き飛んでいた。

 

投げた瞬間気づいたのだ。飛ばされた扇子を一誠は見切り、後ろに飛ばされないように身体に力を入れた事を。

 

多分避ける事も可能だったのだろうが、あえて避けなかったのは反省の意味もあったのだろう。

 

片腕が無くなり変質した髪や肌。それのせいもあるのかもしれないが、纏っている雰囲気も大きく変貌している。

 

「まぁいい、それよりも今は別の話だ」

「別?」

「うむ。おんしを助けたのはここにいるコミニュティ『アヴァロン』に所属しているランスロットとアーサー王だ」

「あぁ、その件に関してはご迷惑をかけました。本当にすみませんでした」

 

ランスロットの方に向いた一誠は潔く頭を下げる。

 

いくらあの時の記憶が朧気だと言えど迷惑をかけた事には代わりがないのだ。

 

深い謝罪に慌てて両手を振りながら頭を上げてくださいと言う彼女の大きな胸は、暴れ狂う牛のように暴走する。

 

「「メロン」」

「くぅぅ!」

 

変態二人の反応は全く同時で同じ言葉だった。

 

それが自分の胸に対して言われたのだと理解したランスロットは、近くにあった座布団で二人の頭を強打する。

 

叩かれた二人は両手を身体の前で組み、その動きの時の胸もガン見して心の中でガッツポーズをしている。

 

「く、貴方が本当に値するのか悩ましいです。アーサー王は何を考えているのか」

「値する?なんだそれ?」

「七聖剣の一つエクスカリバーのギフトゲームじゃな」

 

先程までの巫山戯た態度は一変し真剣な目でランスロットを見つめ始める。それだけ、七聖剣は彼の中で大きい存在である事も指している。

 

「やはり私は帰りま」

「お願いします!俺に受けさせてください」

「...本気ですか?」

「本気だ、です」

 

立ち上がり帰ろうとする彼女の前に入り頭を下げる一誠。

 

「はぁ...分かりました。どうせ一度きりのチャンスですしね。それと敬語は入りませんよ兵藤一誠、なにせ同い年です」

 

その言葉に衝撃が変態の全身に駆け巡る。

 

一誠と同い年。という事は16~17歳となる。その若さでありながら黒ウサギと同等、いやそれ以上のプロポーションを持っているのは化け物としか言い表せなかった。

 

「まさかそんなに若いなんて」

「以外だのぅ...」

「いつもそうの反応。私ってそんなに老けてますかね?」

「「さ、さあ?」」

 

小首を傾げて聞いてくる彼女に、身体の色気が凄まじいのですよと言えばまた話の腰を折る事になりめんどくさいので、指摘はせずに心の中でさらに成長することを祈るばかりである。

 

「まぁいいです。今はこれが先です」

 

黒染めのスーツにより余計に締め付けられた胸の間から白い一枚の紙が出てくる。

 

いつから入れていたと野暮な質問はせずに受け取り、妙に生暖かい紙を開き中身に目を通す。

 

ギフトゲーム名″Pull through the sword″

 

・参加条件

  英雄たる存在である事

  一度も挑戦した事が無いこと

 

・勝利条件

  伝承通り岩から剣を引き抜け

 

・敗北条件

  剣を引き抜く事が出来なかった場合

 

・勝利報酬

  英雄たる武器

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″アヴァロン″印

 

見終わった直後に辺りの景色は変わり果てる。

 

空には雲一つなく美しき太陽の光により黄金に輝くススキ。

 

その中目の前には一つの平たい直径三メートル程の石があり、その中心部に黄金の剣が突き刺さっている。

 

剣が目に入り自然と唾を飲み込む。デュランダルはかなり美しくこれ以上無いだろうと思っていたが、半分程しか見えていない状況でも分かる。これが一番美しいのだと。

 

「簡単だ。引き抜くだけ、それさえ出来ればお前の物だ。お前の父一新は容易く抜いて見せた、ならばお前も出来るだろう」

 

励ましとも取れる説明を受け手を剣の柄へと伸ばし握る。

 

まるで重力が数十倍になったように身体に負荷がかかる。まだ触れただけなのだがその場に膝をつけ、額からは汗が流れ落ちる。

 

「なせば大抵なんとかなる!!!!」

 

身体を押しつぶさんばかりの負荷を強引に跳ね除け、上に持ち上げる。

 

剣は突っかかる事無くいとも簡単に岩から抜ける。

 

やっと刀身全体を見せた聖剣をしっかりと拝むため、上に掲げ見る。無駄な造形などほとんど無くひたすらに剣が太陽に照らされ光輝き、剣を縦に割くように別れ片方が地面に落ちる。

 

剣が地面に落ちる虚しい音が響く。

 

「なん...だと...」

 

試合開始前から試合終了の合図がなる。まさかの聖剣が真ん中からへし折れた。

 

引き抜いただけでこれだった。口から魂が出て身体が白くなる。終わった...全てが終わってしまった。

 

「何をそんなに驚いている?これはそう言う物だろう。聖剣『邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)』名前の通り双剣だ」

 

地面に落ちた方の剣を持ち一誠に差し出す。が、片腕のない一誠は右手で受け取る事は出来ず二つの柄を片手で掴む。

 

かなり持ちにくく不格好な双剣をギフトカードに入れ手軽にする。ついでに勝利を告げる『契約書類(ギアスロール)』を懐に入れる。

 

「うん?てかこれ俺が手に入れていいのか?だってアーサー王って言ったらエクスカリバーだろ?」

「なんだ知らないのか。エクスカリバーは二つあるぞ」

 

そう。選定の剣であるエクスカリバーと、モードレッドとの戦闘後湖に返させたエクスカリバーは別物であった。

 

選定の剣は一度湖に返されていて、二本目を受け取りその後も使い後に返された。

 

何故返されたのか?実はエクスカリバーが折れたのだ。天辺から柄の中心まで綺麗に真っ二つだ。

 

円卓の騎士達の間で理由は深くは分かっていないが飯の不味さに怒ったアーサーが暴れたのが原因ではとされている。

 

湖の妖精達は予定より早い破壊に驚き慌てて急造したのが、現在アーサー王が使っている方のエクスカリバーである。

 

その事からもしもの事を考え折れたエクスカリバーを打ち直し『邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)』になった。

 

そんな事どこぞの詳しいオタクかとあるブランドの影響化にある者しか知らない事を、一誠が知っているわけもなく説明されてやっと納得がいく。

 

「意外だなそんな事あるのか」

「私達はその時代に生きていた訳では無いから何とも言えないけれど」

 

辺りを見渡していたランスロットはこの世界の綻びを確認する。雲一つない空にはヒビが入りポロポロ空が落ちてくる。

 

「時間が無い。兵藤一誠私と戦え」

「俺と?」

「そうだ。それを持つのであればその担い手たるか実力を知りたい」

「いいぜ。丁度動きたかったしな、それと俺の事はイッセーって呼んでくれ、元の世界だとそう呼ばれてたし」

「そうか、ならばイッセーハンデはいるか?」

 

片腕のない事に対してなのだろう。実力を知りたいと言うには剣の腕。

 

剣を片手で持つのは曲芸士か達人のみ。一誠が異世界で何をやっていたのかを聞いている彼女は、それを考慮し聞いた。

 

片手と両手で剣をぶつけ合わせれば片手の方が負けるのは常識。なのだが一誠は首を横に振る。

 

「なぁドライグ神器って思い次第だったよな?」

『そうだが...なるほどなそういうことか』

 

赤龍帝の篭手を出し前に突き出す。

 

部分禁手化(ポーション・バランス・ブレイク)

 

無い右肘の先に左と同じ篭手が現れる。思いの力で形を変える神器だからこそできる荒業だ。

 

あったときと同じように動かせるのを確認し『邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)』を取り出す。

 

黄金の剣は二対に別れ左右の手で剣を構える。ランスロットの中段に構える姿とは違い、素人感丸出しのただ剣を持つだけだ。

 

だとしても、一誠から放たれる剣客のオーラは並の者ではない。

 

「先手必勝!」

 

先に仕掛けたのはランスロットだった。

 

幾度の戦場を駆け抜けてきた彼女には二十歩程の距離を一瞬で移動することが出来、一誠の背後に周り切り下ろす。

 

認識外の速度からの斬撃。元一般人が止められるはずもない一撃だったが、背中に右の剣を添わせて防ぐ。

 

「な、くッ」

 

止めたのと同時に左手の剣を振り返らずに振り抜く。瞬時に察した彼女はその場から飛び上がり一回転して地面に這うように着地する。

 

一誠は今の一撃を止められた事に内心驚いていた。ランスロットの動きは全く見えず、何処にどう移動したのかまるで分からない。

 

では何故防げたのかそれは『感』としか言えない。

 

『感』には二種類があり、天才のそれと経験に基づく物だ。一誠は後者にあたり、幾千の過去の赤龍帝の記憶が統合された一誠は戦闘経験だけで言えば人類最高峰となっている。

 

「ならばさらに早く動くだけの事!」

 

クラウチングスタートの要領で急加速して接近する。彼女の戦闘スタイルはアーサー王のように力で押すのではなく、速度で翻弄しダメージを蓄えさせく物だ。

 

地面は抉れクレーターが出来上がりどれだけの加速か物語っている。

 

さらに、一撃だけの斬撃ではなく高速で振ることによりほぼ同時の四連撃を繰り出す。

 

頭、心臓、喉仏、金的。最悪死に至る男の四大弱点を的確に切りかかる。

 

「こんな感じか?」

 

それをいとも簡単にコピーし同じほぼ同時の四連撃で弾く。

 

ありえないと呟くより早く新たに八連撃の同時攻撃が襲ってくる。ランスロットでさえ最高は六連撃。それなのに目の前の少年は初めて四連撃を成功させた後、その二倍も容易くやってのけた。

 

拘束解除(リストレイント・アンロック)

 

ランスロットの身体に幾何学的な模様が浮かび上がりガラスが砕けるような音ともに消える。

 

これは彼女自身が自分にかけた封印を解いた証だ。いくら鍛えに鍛えたとしても彼女の肉体は十六夜のように化け物じみておらず、一般人よりは遥かに強い程度だ。

 

そのため、常時全力で入れば数分で身体が崩壊し動けなくなってしまう。だから封印を施し力を制御している。その封印を解除した事により魔力も爆発的に大きくなり、筋肉が膨張する。

 

途端。彼女は残像をその場に残し後方に飛び去る。一誠の放った八連撃は残像を切り刻む。

 

「あっぶな。身体が思ってる通りいかないな」

 

実は今一誠は八連撃を寸前止め負けを認めさせようとしていたのだが、頭で思っていた通りに身体は動かずにそのまま切り刻んでしまった。残像だったのが良かったとしか言えない。

 

理由として膨大な知識に身体が追いついていない。分かりやすく言うならば一誠は童貞だが、経験では非童貞である。

 

これが頭でも起き、過去の赤龍帝達との身体の作りの違いから上手くコントロール出来ずにいた。

 

だが、それもこの一回限りだ。一度したミスをそう何度も繰り返す程愚かな事を一誠はしない。ズレるならばそれを織り込んで動かせばいい、それだけの簡単な作業だ。

 

「イッセーお前の力を認める。だがら一度攻撃をしてこい、受け止めてやる」

「なるほどな!いいぜ、なら少しだけ本気でやるか」

 

一度屈伸をしてから垂直に飛び始める。

 

何をしていのか訳がわからない。そんな表情の彼女だが分からない何かがあるのだと剣を正面に構え備える。

 

それでも一誠はずっと垂直跳びを続けている。するとしだいに

 

「あれ?音が遅れて聞こえる」

 

本当に音がずれ始める。着地をして飛んだ後に着地音が聞こえる。摩訶不思議な現象。

 

人間の身体構造上永久に目を開く事など出来ず、飛んだタイミングで瞬きをする。それが大きな過ちだった。

 

「ふん」

 

一誠はその場から消え失せ。瞬きをし終わった時には既にランスロットの背後に周り、剣を振り抜いていた。

 

加速する前にいた場所から彼女のいる場所まで一直線に地面がえぐれ、暴風が白夜叉の白髪を靡かせる。

 

「え?」

 

突風が通り抜けた感覚の後足から力が抜け崩れ落ちる。どうにか足に力を入れようとするがピクリとも動かない。

 

背後からはゆっくりと近づいてくる足音が聞こえ、まるで死の宣告をする死神のように感じてしまう。

 

「これで俺の勝ちだよな」

「あぁ私の負けだ」

 

剣を地面に置き両手を掲げ負けを認める。一誠はやっと終わったと剣をギフトカードにしまい蹴伸びをして、ランスロットを抱き上げる。

 

「にゃ、にゃにをする!」

「ちっと力を入れすぎたみたいだからな。多分あと数十分は動かないと思うぜ足」

 

今までの人生において他人を助けることはあっても、こういう風に抱き抱えられ助けられる経験は初めてで頬が赤くなる。

 

てか、円卓の騎士にはろくな男がいないことを考えると、初めて本物の紳士?に出会えたのかもしれない。

 

 

 

元の部屋に帰還すると久々に風呂に入りたいと言い出した一誠に風呂場の場所を教えた。確かこの時間は誰かの入浴時間だったような気もしたが、あいつなら大丈夫だろうと特に止めはしない。

 

「これでやっと帰れる...早くアーサー王の元に」

「む?聞いてないのか?」

「え?何をですか」

 

全てを答える前に一枚の封書が差し出される。首をひねりながら受け取り背面を見ると『アヴァロン』のマークがあり、急いで中の手紙を確認する。

 

拝啓ランスロット卿へ

 

この手紙が読まれているという事は剣を抜いたのでしょう。まぁめんどくさくてこれしか書いていないのですが。

 

と、あまり長く書くのもめんどくさいので単刀直入に記します。

 

貴方はコミニュティ『ノーネーム』に移り兵藤一誠を監視して、次暴走した時は殺しなさい。拒否権はありません。

 

追記 別にあなたの大きな胸が嫌だからとか、全然そんな理由じゃありませんよ!そう全然そんな理由じゃ......巨乳し』

 

この後は文字が乱雑過ぎて解読が不可能だった。

 

飛んでもない文を読まされたランスロットは握っていた手紙に力が篭もり、

 

「うぁぁぁ!!」

 

一気に破り捨てた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戻ったきたI。問題児バトル勃発

やっと書けた。うん最近は色々あって筆がちょっと乗らなかったです。すみません。

それと温泉回は次回になりますね。書こうとしたら長くなりそうだったので。

さてあの銀髪の少年を出す事も決まったし頑張らなくちゃね


「うぅーん久しぶりに帰ってきたな。1ヶ月ぶりぐらいか?」

「私は初めてですよ。一誠様に付き合ってたせいでな」

「けどさ、どうにか新たに二本ゲット出来た訳だしいいだろ」

 

一誠達は目覚めてからすぐに七聖剣を手に入れるために軽くギフトゲーム巡りをしていた。

 

その甲斐あって新たに二本の七聖剣を手に入れ、現在所持数は五本となった。

 

現在所在が分かっていた七聖剣は全て集め終わり、もうする事が無いので一月ぶりにコミュニティに帰宅を果たす。

 

門は相変わらずボロボロだが、中の土地は少しだけ生命が満ちてきている。

 

「これが...ノーネームか...」

「おう。とりあえず誰か捕まえて...あっおーーい!黒ウサギ!!!」

 

久しぶりの帰還に何かしら変化が起きている可能性もあるので、それを確認するため誰かを探すと、遠くの方に黒ウサギがいるのが見え手を振って大きな声で呼ぶ。

 

声がギリギリ聞こえたのか辺りを見渡し、一誠を見つけた途端髪を緋色に変化させ一気に近づく。

 

「お帰りになられたのですね!色々白夜叉様から聞いていましたよ。色々文句を言いたいのですが、今からサウザンドアイズに行かねばならないのでまた今度に致します!」

「おっおう」

 

黒ウサギはそのまま急いで門を駆け抜けていく。それだけ急ぎたかったんだろう。

 

今の時刻は丁度昼食時なので食事場へと足を運ぶ事にした。それと同時にノーネームを紹介しながら進んでいるのだが、

 

「危ない怪我はなかったか?ないなら良かった」

「私が代わりに取ろう」

 

転び始めた少女を抱き抱え怪我ないか確かめながら立たせ、高い位置にある物を取ろうとしている少女の代わりに取るなど紳士的な行いをランスロットが行っている。

 

流石は騎士だと言わんばかりの事をしている。それに対し一誠はいつもの事をしていた。

 

「危な!...違うこれは事故だァァ!!」

「俺が代わりに...もう好きにしてくれ」

 

転びかけている少女を抱き抱えるが自分も転び、胸を鷲掴みにした状態でその場に倒れ平手打ちを食らう。

 

次も高い位置にある物を代わりに取るのだが、雪崩のように落ちてきて少女に怪我をさせないように押し飛ばしたのだが、股に一誠は顔を押し付け陰部に蹴りを食らってしまう。

 

これぞ変態紳士の所業である。

 

「こんな者の手に宝剣が...」

「ランスロットも見てただろ?事故だろどう見ても」

 

陰部を抑えながら言っては説得力は皆無である。

 

 

 

 

軽く案内していると鼻腔をつく美味しそうな匂いを感じる。自分の嗅覚を頼りに進んでいきある部屋の前に辿り着く。

 

全体が木でできた扉で中から美味しそうな匂いが漂っているようだった。

 

本能に従いノックをせずに中に入る。

 

「いえっいー!元気にしてたか?」

「え」

 

中で食事をしていた全員の手が停止する。

 

まるで亡霊を見るようなそんな視線を全員が送っていた。中でも春日部は涙を流しながらだ。

 

場違い感極まりないテンションで中に入った一誠は、ランスロットに頭部を叩かれる。

 

「少しは空気を読め馬鹿者」

「いや、壁越しだし無理じゃね?」

「それでも貴様は英雄か?無理など口にするな、何でも出来るとな」

 

子供をしかる親のように説教を始める。と言ってもこれが毎日のように行われているのでいつも通りであった。

 

しかし、一人だけ納得が出来ていない者がいた。

 

「やめて一誠が可哀想」

「可哀想だと?はぁ分かっていないな。イッセーは叱らねばならない、それともなんだお前のように未だ名前呼びのやつがこいつの事を知っていると?笑止。寝言は寝ていえ小娘」

「...貴方こそ誰?てかそもそもここは私と一誠のコミュニティのはず。なのに何で部外者がいるの?貴方こそ頭がおかしいと思うよおばさん」

「「チッ」」

 

すでに馬尾罵声を浴びせ始め終いにはメンチを切り始めた二人は身体を近づけるが、ランスロットのマシュマロに弾き返されその場に倒れる。

 

残念な胸を一見し鼻で笑う。目の前に君臨する黒ウサギより巨大な胸を睨みつけ、ひとまず鷲掴みにする。

 

「いたたいいいい!!!」

「くっこんな物...こんな物」

 

睨みながら親の敵をマシュマロの形を変形させていく。やればやるほど春日部の心は痛くなっていき、やられているランスロットは物理的に胸が痛くなっていく。

 

犬猿の仲のような二人を見ながら笑っている十六夜の隣に一誠が座る。

 

一度だけ一誠の変化してしまった身体を見ていたがそれでも動いている姿を見ると生きているのが不思議に思ってしまう。

 

さらに、今の一誠が纏ってる雰囲気が明らかに強者のそれで、挑んでも勝てるかどうか分からない。それほどまで何故か強くなっている。

 

今から殴りかかって挑んでもいいのだが、今はサウザンドアイズに報酬を貰いに行かねばならない。

 

「よし。全員揃ったようだし行くか」

「行くってどこだよ?」

「そう言えばまだ一誠には言ってなかったな。まぁ色々あってなギフトゲームの報酬をもらいに行く、サウザンドアイズにな」

 

十六夜は獰猛な笑みを浮かべる。なぜ笑うのか分からず子首をかしげながらもサウザンドアイズへと向かう。

 

 

いつもの歩道を進みながら軽く駄弁りながら歩いていると、いつもの顔がサウザンドアイズの前で箒を履いている。

 

「な、どうぞお帰りください」

「おいおい、顔みてすぐに帰れは店としてどうなんだ?」

「私はここを預かる身。進んで問題児を中に入れるわけには行きません」

「なるほどな、なら仕方がないか。邪魔するぜ」

「帰れ!」

 

握っていた箒が柄から折れるほど力強く握り、敬語も忘れ唸り始める。意地でも進めないように門の前に立ち尽くし何がなんでも入れる気がない。

 

面白い。そんな表情を取り軽く肩を数回回し始めボクシングの構えをとる。

 

両者激突必死。何か小さな衝撃が走れば爆発する爆弾。店員も折れた箒を構え衝突の体制になる。

 

こんな往来で喧嘩を始めれば近隣に迷惑がかかり出入り禁止になりかねない。なので一誠が間に入る。

 

「やめ」

 

それが開始の合図となり十六夜は全力とはいかないが拳を突き出し、店員も箒を穿つ。

 

拳は一誠の頬を抉り箒の突きは尻に深々と刺さる。

 

「うぎゃぁあ!!」

「おいおんしらぁぁ!」

 

拳の方が威力が高かったせいで箒が半ばで折れ、拳の力に従い門の方に飛んでいく。

 

その時丁度暖簾を潜ってきた白夜叉に激突し一誠と白夜叉が絡みまくる。またもや一誠のラッキースケベが発動してしまった。

 

どうすればそうなるのか分からないが、地面に倒れ背後から和服の隙間に両手を入れ生乳を揉みしだき、両足が二人で絡まり身動きが取れない。

 

「俺性欲ないから何も問題はない!」

「ワシに問題あるわァァ!!」

 

一誠は弁明するも生乳を揉まれれた白夜叉は激怒し、そのまま肘で鳩尾を叩きつけ地面にくの字でめり込ませる。

 

はだけた和服を両手で抑えどうにか見えないようにし、最後に顔面を踏んで近くの部屋に駆け込む。

 

数分経つとしっかりと着付け直した白夜叉が現れ、目が笑っていない笑みを浮かべながら一誠に近づき、この身体のどこにそんな力があったのか分からないが頭を片手で掴んで持ち上げる。

 

そして、床に叩きつける。

 

「忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ」

 

何度も何度も何度も叩きつけた。

 

記憶を消すには脳に強い衝撃を与えればいいと言うが、これでは記憶が消える前に一誠が死んでしまう。

 

「はぁ...はぁ......はぁ...よし。行くぞお主ら」

「「「「はい」」」」

 

もはや言い合う気すら起きない。額から血を垂れ流し目を覚まさない一誠の首根っこを掴んで、引きずりながら進んでいく。

 

実はこれも数回起きていたのでランスロットは特に驚いていないが、他の三人は驚いていた。

 

 

「ここでまっとれ」

「じゃあ先に入るぜ」

 

襖を開くと中に極上の光景が広がっていた。

 

サイズが合っていないピチピチのミニスカ和服を着ている黒ウサギに、先程仲間にした黒ウサギと同じかそれ以上のプロポーションを誇る、同じ服を来ている蛇神。

 

「眼福だな」

「なっこの問題児様!!早く閉めてください!!」

 

手元にあった物を適当に投げつけるが十六夜は簡単に全てを交わし、全て白夜叉に的確に当たっていく。

 

もう打ち合わせしてたのではとしか思えない。そんな面白現象に変態紳士こと兵藤一誠が入らないわけが無い。

 

「もう少し腹部の締めつけを強くした方がいいな」

「あぅ......どこ触ってるんですかこの変態様がァァ!!」

「もうダメだ...お婿に行けない」

 

もはや地獄絵図と変わっていっているこれを止めることが出来る人物は一人たりといない。

 

 

その後多少時間はかかったものも当初の予定通り『外門利権証』を手に入れた。

 

『外門利権証』とは外門通しを繋ぐ『境界門』を操作したり、広報やコーディネートを一任する証である。

 

とてもではないが旗なし名無しのノーネームには受け取れない代物ではあったが、元はノーネームに合ったもので十六夜が取り戻したので丁重に承った。

 

 

その夜。一誠の復活などの諸々の事を同時に祝うため宴を開いた。

 

そこで二人の料理人の対決が行われた。

 

黒ウサギと一誠である。一体どちらが先に手を出したのか忘れたが何かのいざこざから対決にまで広がったのは分かる。

 

「一誠様。残念ながら私の勝ちは譲りません。なにせ魚料理は得意分野なのです」

「いや俺が勝つ。じゃあ審査委員長の逆廻頼むぜ、お上がりよ!」

 

二人の料理が出揃う。

 

黒ウサギが出したのは素揚げにした魚に特製の餡をかけた物で、そこそこ美味しいと好印象だった。

 

対して一誠の出した物は開かれた魚の揚げ物だった。

 

「この匂い...なるほどなそういうわけか」

「さすが十六夜。耀も分かるんじゃないか?」

「うん。この匂いならすぐに分かる」

 

黒ウサギははてと首を傾げている。一誠が何を作ったのか分からないようだ。

 

とりあえずひと口を食べる。外はカリカリ中はフワフワの美味しいお柿揚げであった。

 

一口めで勝敗は決し、勝者は一誠で料理バトルは幕を下ろす。

 

白熱した料理バトルの終了後互いは熱い握手を交わし、子供達へと振るうためさらに大量の料理を作り始める。

 

調理中の技術などで盛り上がっている中一人だけが少し離れた場所で三毛猫と会話していた。

 

「やっぱり凄いね十六夜は。今の私じゃ勝てない...それに一誠の連れてきたあの人ランスロットも多分私じゃ無理」

『そんな事ないでお嬢。なんとかなるで』

「ううん。見た瞬間分かった。私とはレベルが格段に違う...はぁ...行きたかったな」

 

今回三人の間で軽いゲームが行われていた。

 

アンダーウッドの大瀑布で行われるゲームにノーネームがVIP待遇で招待されたのだ。是非とも行きたいと思ったが、居残りが一人欲しいとの事でどれだけノーネームに貢献したかで行ける人物を決めることにした。

 

その結果は聞かなくても分かってしまう。十六夜の成果の黒ウサギ達の喜びようがとてつもなく、飛鳥は土壌を整備し農作物が多少なり育てられるようにした。

 

自分は言ってしまえばルール違反をして手に入れた成果。負けは決まってしまった。十六夜には意地でも勝ちたいそんな思いで望んだゲームに負け、三毛猫に愚痴を零すようにしながら自室へと戻っていく。

 

その時の三毛猫をよく見ていたならこのあとの惨事は回避出来ていただろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

温泉での定番的な出来事

疲れた。何か書くペースが遅くなっていく...疲れかな?
まぁどうでもいいや。早く一誠の覇龍制御版書きたいから頑張ります


 

「はぅっ」

「変な声だすなよ」

「そんな事言ってもお前の手つきがっぁやらしっいからぁっ」

 

声だけ聞いていれば明らかに如何わしい事をしているように思ってしまうが、健全とまではいかないが単に髪を洗っているだけである。

 

彼女の長く艶のいい紫髪が白い泡に包まれていく様は絶景である。さらに、身体にはタオルなど一切巻かず胸を片手で押さえ込んで見えないようにしている。

 

抑え込まれて出来た谷間を水滴が下る様子は男二人の心を鷲掴みにしている。

 

恥ずかしそうにしている彼女だが、何故ここに風呂場にいるのか。それは彼女自身のプライドからだった。

 

アーサー王に命令されたのだ、監視しろと。それが例えトイレの時でも、男子特有の一人になりたい時でも、痴女と呼ばれ辱めを受けようとも変わらない信念だった。

 

実際に一誠が用を足してる時に背後に立ったり、自分の時に外にずっと立たせたりしていた。

 

そんな彼女だったが、さすがに今回のは中々心に来てるらしく涙を浮かべている。

 

「今度何でもいうこと聞くからごめんな」

「何でもですよ、拒否は許しませんから」

「おう」

 

立ち上がって嬉しそうな笑みを一瞬浮かべるが、たゆんたゆんな胸が立ち上がった衝撃で弾み隠されていた山頂がその姿を現す。

 

山頂には淡いピンク色の出っ張りがあり、持ち前の傷のない白い肌により出っ張りを余計際立たせている。

 

「oh...yeah」

「この......変態ッッ!!」

 

顔がみるみる赤くなり茹でダコのようになった彼女の、怒りの渾身のひと蹴りは見事顎に直撃し、身体を宙へ浮かせ吹き飛ばす。

 

飛んでいく先は未だ一度も一誠による悲劇を受けていないリリの元だった。

 

髪を十六夜に洗われその気持ちよさで背後の事に気づいておらず、反応できたのが髪を洗っていた十六夜だけだった。

 

飛鳥や春日部や黒ウサギならまだしも、未だ子供であるリリに手を出せば自ずと犯罪になってしまう。春日部も怪しいところではあるが。

 

では今あるこの現状を打破する方法はただ一つだ。

 

「しゃらくせぇ!」

 

蹴り出した本人であるランスロットへ変態を蹴り返すこと。

 

リリに合わせしゃがんでいた体制からすぐに立ち上がり、左足を地面を力強く踏みしめ腰から回転させ、遠心力の乗った回し蹴りを繰り出す。

 

いつもならば繰り返す事は容易い。だが、今回は条件が違った。あのラッキースケベ王子こと兵藤一誠だ。この程度で回避できるわけが無い。

 

突如転がってきた小さな石鹸が的確に十六夜の左足に入り込み、その場でスリップさせる。

 

「ま」

 

一体どっちの声だったのか。それは今では定かではないがこのあとのアレを思えば両方だったのだと思う他ない。

 

突然倒れた十六夜と一誠が何故か絡まり合い結果として大きな音を出して二人して倒れ込む。

 

ようやく後ろの騒がしさに気づいたリリが振り向くと衝撃的な光景があった。

 

十六夜が大の字で床に倒れ。その上から一誠が右足をまたの下に置き左手で胸を触りつつ、空いている右手を顔の横について壁ドンのような事をする。壁と言いつつ床なのは気にしない。

 

「イッセ×イザ」

 

男と男が絡み合う酷い光景を見たリリの口から零れた言葉だった。無論この日を境に二人を見る目が変化したのは言うまでもない。

 

 

 

女子三人組で身体を洗いあいっこしながら騒ぎあってる中、男二人は湯船に胸元までつかり満天の星空を見ている。

 

改めて思えばこのように落ち着いて会話をする機会はほとんど無く、珍しい出来事でもあった。

 

「なぁ一誠聞いてもいいか?」

「おうどんとこい」

 

視線を空から下ろし互いに女子達を眺めるようにしながら会話を続ける。

 

「一誠のギフトに龍が宿ってるのは分かった。それじゃあお前らの世界には白竜や何かしらの人外はいるのか?」

「いるぜ。白竜は当たり前として、天使、堕天使、悪魔、妖怪、神他にもまだいると思うぜ」

「そうか...」

 

十六夜は一誠の言葉を聞き羨ましそうな声を漏らす。

 

なにせ、十六夜の世界には悪魔などの人外は一体もいない。見つかっていないだけでもしかしたらいるかもしれないが。

 

何も無い平和な世界において十六夜の力は災害そのものだった。ちょっと力加減を間違えれば世界が壊れてしまう。

 

何度も願った。人外と戦いたい。だが、そんな事は許されない世界だ。

 

その事を知らない一誠は首を傾げ疑問符を浮かべるも、自分から話さないのはそれだけ重い話なのだろうと聞くことはしない。

 

この後すぐ風呂から上がりヘッドホンが無くなったのに気づき慌てる事になる。

 

 

翌日。早朝から十六夜は一人ヘッドホンを探して動きまくっていたが、結局見つからず頭に何かないと不安なのでひとまずヘアバンドを付けていた。

 

「結局見つからなかったの?」

「あぁダメだなこりゃ。今回俺はパスだ春日部が代わりに行ってくれ」

「見つからないなら私達が」

「やめとけ。そんな時間が勿体ない、お前らだけで行ってこい」

 

いつもと違う髪を右手で掻きむしりながらめんどくさそうな顔をする。

 

一方近くにいたランスロットは別の事で大きな声を上げてしまう。

 

「もう一度言ってくれ」

「何度でも言うぜ。ランスロットも耀達について行ってくれ」

「ありえない。ありえなさ過ぎる...」

 

頭を抑えながら現状を理解できないと吐き捨てる。まさか一誠本人から仕事を辞めるように言ってくるなんて思ってすらいなかった。

 

「無理だ。何がなんでも無理だ。私は王からの命令で」

「だけどさ。今はこのノーネーム所属なんだから、多少交友関係は気づいた方がいいと思うだよな。何安心しろ、こっちなは十六夜がいるから」

「だが......」

 

確かに考えてみれば監視ばかりに気を取られ進んで交友しようとしていなかった。これでは今後の事に支障がでる可能性もある。

 

いくらアーサー王の事を言っていても事実所属コミュニティはノーネームなのだから。

 

多少しぶりながらもゆっくりと首を縦に振る。ただし条件として覇龍を使わない事、全身禁手を使わない事を約束させられた。

 

 

 

どうにか送り出し二人は朝食を食べ終え散歩を開始する。男二人の散歩ほど味気ない物も無いので、レティシアとリリも加えての散歩だ。

 

前までの死んだ土地から一変し、今ではちゃんと生きた土のいい香りが鼻に入ってくる。

 

軽い感動を覚えながら進み話は盛り上がり自分の過去を暴露する事になっていく。

 

やはりなのか一誠の世界の事を話すと驚かれまるでギフトゲームのない箱庭だと言われた。

 

「私は宇迦之御魂神より神格を授かった白狐が祖だと伺ってます」

「宇迦之御魂神か...随分と大物だな」

 

驚きと共に納得の表情でリリを見つめる。

 

宇迦之御魂神(ウカノミタマ)とは須佐之男(スサノオ)神大市比売(カムオオイチヒメ)の間に生まれた女神で、名前の『宇迦』は穀物・食物の意味である。なのだが、今では多岐に渡り商業・興業などでも信仰を集める。

 

伏見稲荷神社の主神であり、そのためお稲荷さんとして広く知られている。それを考えればリリにある狐のような耳や尻尾に納得がいった。

 

「なるほどな......じゃあ今いないのはやっぱり魔王に攫われたのか?」

「はい。本来は私はまだ未熟なので受け継ぐはずではないのです」

 

下を俯く自分を卑下し始める。本当は飛鳥には頼らず自分の力で治す。それが土地を預かる者としての責任なのだ。

 

そうすればここまで生活が苦しくなるはずもなく、もう少しましな生活を送っていたはずだ。

 

「まぁいいじゃん。今はこうなったんだし」

 

小さいリリが俯いてさらに頭が低くなったので一誠は膝を折ってしゃがみ、しゅんと萎んだ髪を撫でる。

 

下を向いていて分からないが泣き消えそうな声で「はい」と呟き目元を袖で擦ってから顔を上げる。

 

元気になったようなので立ち上がり会話を再開する。次に過去を暴露したのはレティシアだ。

 

「私は知っての通り元魔王だが、二人は知らないだろうがゲームにクリアされて隷属した訳でない」

「うん?どういう事だそれ?」

 

レティシアの言ったことは些かおかしかった。そも魔王を隷属させるにはゲームを完全にクリアしてやっとする事ができる。

 

なのに隷属されている本人がゲームクリアされていないと発言したので、矛盾を感じた。はたまた十六夜達の知らない何かがあれば話はまた別だ。

 

「話せばかなり長くなるので掻い摘んで話すと、ゲームから切り離されたが一番いい表現だ」

「じゃあ切り離されたゲームはどうなったんだ?」

「さあな詳しくは知らないがどこかに封印されているらしい。知った所で封印を解く気はないな」

 

首を横に何回も降って知らない事を体全体だ現す。どんなゲームだったのかも気になるが、順番的に自分の番になってしまう。

 

「そこまで隠す話でも無いしな...俺の育った施設の話をするか」

 

初めて語られた十六夜の過去はそれなりに重かった。

 

生まれながらにこの超人の力を持っていてそのせいで親はいない。引き取られた先では違法を暴露しまくり多額の金はあるが、誰も引き取らなくなるそんな事になる。

 

その生活で得た金全てを賞金にした人生最初のゲームを開催するも、中々クリアする者は現れず本格的に人間に絶望し始める。

 

そこで後に多大な影響を受けることになる金糸雀と出会う事になる。

 

そして『カナリアファミリーホーム』なる十六夜の大切な家族が出来た。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一誠の新たなる力。そして、悲しき別れ

何か話が急に進んだ?てか七聖剣やっと全て登場です。


 

「やはりいつ見ても自然の景色は素晴らしいな、心が安らぐ」

 

心地の良い風がランスロットを包み込み、先程まで荒れていた心が落ち着いていく。

 

とは言っても未だ心はボロボロだ。

 

 

目の前に広がるのは超巨大な巨木。それの根から大量の水飛沫を上げる滝。一誠達の元いた世界では決して見ることの出来ない景色だ。

 

現に隣にいる耀と飛鳥は度肝を抜かれ目を輝かせながら滝の先を見ている。

 

ランスロットは過去に数度見た事があったのであまり驚きはしないが、それでも心奪われる物はある。

 

「これがアンダーウッド...凄い」

「えぇ全くよ。凄いわ凄すぎるわ春日部さん!」

 

そう今いるのはアンダーウッドと呼ばれる場所である。彼ら三人の問題児が戦果で勝負し誰が先にいくのかで揉めていた。

 

アンダーウッドは二つの現象がありそう呼ばれている。先に上げた滝もその一つでもう一つが、地下に広がる都市である。

 

滝の水が勢いよく用水路を流れ、灯りの代わりに水晶が光り輝いている。並の都市では叶わない都市だ。

 

二人が驚きを隠せない中さらなる驚きが襲う。

 

唐突に巻き起こった風が自然の流れを無視して髪を巻き上げる。この時春日部の鼻はいつぞやの友達を認識していた。

 

『友よ、ようこそ我が故郷へ。歓迎するぞ』

「久しぶり」

 

その巨大な鷹の羽を羽ばたかせ挨拶をしてきたのは、春日部と決闘を繰り広げたグリフォンだった。

 

「ここが貴方の故郷だったんだ」

『そうだ。収穫祭で行われるバザーにはサウザンドアイズもでるのでな、その護衛だ』

 

背中を少し震わせ後ろにある巨大な戦車(チャリオット)を見せつける。

 

ここでグリフォンは首を傾げいつもの顔ぶれにない新参者を見つける。

 

『お前は確か...アヴァロンの』

「ランスロットだ。今は移籍しノーネームではあるがな」

 

過去に遠くからではあるが見た事はあったグリフォンは驚きつつもある程度納得する。おおよそ赤龍帝絡みなのだろうと。

 

「え、まって言葉分かるの?」

 

自然と会話をして気づくのに遅れたが、グリフォンと会話をするには特別なギフトがいるはずだ。

 

黒ウサギは月の兎の特権によるもの。

春日部は生命の目録(ゲノム・ツリー)によるもの。

 

ランスロットの伝説にはその系統の物は一切無いはずだ。だから喋れないと思っていたのだが

 

「アーサー王があった方が便利だと、無理やり取らされたのだ。私はいらないと言い張ったのだけれど」

『さすがはアーサー王と言ったところか』

「ふーん。別に興味無いからいいんだけど」

「安心しろ私もお前には興味はないさ」

 

二人は互いに指同士を絡ませ力で強引に粉砕しようとし始める。

 

二人はまさに、水と油。猿と犬。混ぜるな危険であった。グリフォンはゆっくりと頭を黒ウサギに近づけ小声で話す。

 

『いつもこうなのか?』

「ええいつもこんな感じなのです」

 

本当にこのままで大丈夫なのか微かな不安を覚えながら五人を乗せ空に舞い上がる。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

ところ変わって一誠は白夜叉に何故か呼び出されていた。そのため、十六夜達と別れ一人偽幼女の元へと来ている。

 

「何が楽しくて一人虚しくこんな事に...」

「なにちと聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと?」

 

二人は対面式に座布団に座り、茶と煎餅を片手に会話をしている。

 

白夜叉が手に持っていた茶を一気に飲み干し、机に置いてから真面目なトーンで話し出す。

 

「うむ。お主自分の父兵藤一新について、どこまで知っておる?」

「七聖剣を使ってたとかなら」

「やはり知らんかったか、なら改めて言おう。お主の父がクリア出来なかった魔王のゲームについて」

 

最初に話されたのは父が箱庭を去る理由になった物だった。

 

拝火教神群が一体『アジ=ダカーハ』生まれながらに魔王を宿命ずけられ人類最終試練(ラストエンブリオ)でもある。

 

黒ウサギの故郷も破壊したのは『アジ=ダカーハ』であり、あまりの異常な強さに一新は敗れ去ってしまう。

 

その力の大きな要因として、傷を負えば負うほど自分の分身を生み出す。その分身もかなりの力を持っているため厄介だ。

 

そして、次は一新が受けた最初の魔王ゲームである。

 

『レティシア=ドラクレア』のギフトゲーム『SUN SYNCHRONOUS ORBIT IN VAMPIRE KING』である。

 

数々の魔王を討伐し箱庭の騎士とまで称される強さだったが、一人の部下が暴走し殆どの純血吸血鬼が殺され、暴走して開催してしまったゲームだ。

 

この件にはグリモワールの前リーダーも関わっていて、唆されかなりの難関ゲームになってしまった。

 

結果として金糸雀と一新の判断で魔王の力と切り離す事によって、今は普通に生活できるようになった。

 

「なるほど...そんな事が...ところで何でこの話を今?」

「この先必要になると思ってな。お主はそういう事を引き寄せやすい体質だからのう」

 

本来はこう立て続けに不穏な事が起こるはずが無いのだ。なのにこう起こっているとなると、いずれ激突する可能性があるので最も関連している一誠に伝えたのだ。

 

実は暇そうなのが一誠しか居なかったという理由もある。

 

「おっけー。覚えておくよ、てかそろそろ行かないとな」

 

二人は話過ぎていたせいか外は暮れ始めている。

 

あまりにも遅いと黒ウサギ達が怒りそうなので、重い腰を上げアンダーウッドへと向かう事にする。

 

その時だった。強大な者の気配を感じた。位置は遥か上空からだ。

 

咄嗟に上を見上げ何の気配か探るが一誠は分からない。しかし、白夜叉は何の気配か気づいたようで、慌てて外へと飛び出す。

 

白夜叉の異様な慌てぶりに驚きながらも外に飛び出る。

 

遥か上空から現れたのは全身白く二つの頭を持つ龍だった。

 

「なんだあれ?」

「アジ=ダカーハだ」

「な」

「ただ本体ではない。その分身体で奴らは第一世代の神霊級じゃな」

 

目の前にいるのが父さんの敵なのだと理解すると瞬時に鎧を装備し、一本の剣とも槍ともとれる武器を強く握る。

 

一誠は上空の龍を睨みつけ覚悟を決め背中に羽を生やし空へと飛び上がる。

 

ぐんぐん加速し、手に持つ剣を全力で投擲する。

 

「哈ッッ!」

『GEYA?』

 

投擲された槍は空気を切り裂き一体の龍の心臓を抉り取る。まるで神話の通りに敵を貫く。

 

その剣の名は『ミストルティン』バルドルを死に至らしめ、ラグナロクの始まりとなった事件を引き起こした剣である。

 

北欧ではヤドリギを意味する言葉でもあり、そのため形状は槍と剣の狭間に位置している。

 

ミストルティンは軽い円を描きながら手元に戻っていく。掴むとギフトカードに戻し次の剣を取り出す。

 

今度取り出したのは西洋の黄金の剣である。剣から放たれるオーラに双頭龍は即座に危険だと察知し離れ離れになる。

 

剣の名は『フロッティ』かの有名なジークフリードが、悪龍ファフニールを討伐し手に入れた聖剣である。

 

そのため龍殺しの特性を持っていてそれに双頭龍は反応したのだ。

 

「おら!」

『GYA!』

 

フロッティを両手持ちにして一生懸命振り抜くが、双頭龍の方が上空での戦い方は上手で巧みに躱している。

 

双頭龍は口から炎を迸らせ始め、爆炎を吐き出す。

 

剣に魔力を集中させ爆炎を細切れにしていく。爆炎を切り終えると双頭龍の拳が迫ってきていた。

 

「クソが!」

『GEYAAAAAAA!!』

 

咄嗟に剣の背を拳の前に出し全魔力を放出し防御の姿勢を取る。拳が剣にぶつかった瞬間、まるで爆発したような強烈な音がなり吹き飛ばされる。

 

羽を羽ばたかせ減速していくがそれでも地面まで落下していく。どうにかギリギリ間に合い少しだけ砂埃を上げ着地する。

 

「すまんな助かったぞ」

「いやまだ四体いる。中々強いな」

「不意打ちとはいえ普通に倒せるお主はそこそこ異常じゃぞ」

 

慌てて駆け寄ったきた白夜叉が労いの言葉をかける。一誠としてはまだ満足出来ていないので追撃をかけようとするが、それを止めさせ申し訳なさそうな顔で言葉を放つ。

 

「他の階層支配者も他の魔王から襲われているらしい」

「まじか、それじゃあ十六夜達も」

「うむ。まぁ童どもなら大丈夫じゃ、問題は他にある」

「問題?」

 

白夜叉から語られたのは衝撃の一言だった。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

アンダーウッドはケルト神話に登場する巨人に襲われていた。だが甚大な被害は無かった。

 

巨人が弱かったわけではない。春日部が少しだけ危ういレベルには強い。それでも甚大な被害が無いのは最強の二人の騎士が居たことだ。

 

一人は分かる通りランスロットだ。的確に尚且つ素早く巨人の弱点を突き破壊していった。

 

その早業を殆どの者が目で追えていない。

 

そして、もう一人がコミュニティ『クィーン・ハロウィン』に所属し、女王騎士第三席『顔亡き者(フェイスレス)』の称号を承った謎多き騎士だ。

 

その戦い方はランスロットに引けを取らず、遠距離は剛弓で中距離は連接剣で近距離は剛槍で倒していく。

 

三つ全てを扱う技量もさる事ながら、的確に状況判断し被害を比較的出さずに倒す騎士の頭脳も素晴らしいと言う他にない。

 

「これでひとまず終わりですね」

「そうだな。にしても久しいな顔亡き者(フェイスレス)

「それはこちらのセリフです。まさかノーネームに移っていようとは」

「色々あったんだ、あまり聞かないでくれ」

 

二人の騎士は巨人の屍の上で友達と会話をするように極普通に喋りあっている。

 

その光景はかなり異質なのだが、常識に疎い二人はそこまで気にする事は無い。

 

そんな二人に髪を変化させた黒ウサギが突撃してくる。

 

「大変大変なのですよ!!」

「どうした黒ウサギ?敵がそっちにも出たのか?」

「いいえ、違います実は」

 

衝撃の言葉を聞いたランスロットは嘘だと呟きながらその場で意識を失う。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

場所は移り変わる。南の階層支配者であるコミュニティ『アヴァロン』は、丘の上にある小さな城を根城にしている。

 

下にある城下町はいつも賑わっていて移住者希望者が大量に現れる程だ。無論城も同じく、質素ではあるがどことなく気品に溢れた素晴らしい城だ。

 

だが、今はその城から黒煙が天へと上り壁がボロボロと崩壊し始めている。

 

「はぁ...やられましたね...はぁ...」

「さすがだなアーサー王。今のを避けるか」

「ですがもう左手が動きません。健を切られましたね」

 

アーサー王は利き手の左手に力を込めてみるも、一切反応を示さず完全に脱力した様子だ。

 

左手の上腕二頭筋の部分からは血が垂れ、左目からも閉じた状態で血を流している。

 

かなりの量の血を垂れ流してしまい、その場で片膝をついている。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

残る力の限りを込め聖剣を白髪の少年に全力で投擲する。少年は顔を少しだけ曲げいとも容易く避ける。

 

避けられたとしても別にアーサーとしては良かった。この剣を渡すは訳にはいかないので、適当に遠くへと投げたのだから。

 

それに気づいた少年は別に興味はないと言った表情で二本の剣を握りしめる。

 

「ごめんなさい。今すぐとって」

「いやいい。聖剣で興味があるのは七聖剣だけだ」

 

なよなよとした少年が身体を震わせながらビクついているが、ここまで押されたのは彼に原因がある。

 

突如として来訪した彼らは尽く円卓の騎士を倒し、不意をついてなよなよの銀髪の少年がアーサーに触れた。

 

すると、白銀の翼を生やし『Divide』と機械的な音が二回なり全身の力が一瞬で減り、その隙を疲れ白髪の少年の持つ焔の剣により左目と左手が切られてしまった。

 

(しかし、まさかあの剣があちら側にあるとは思わなかった)

 

アーサーは白髪の少年の持つ二本の七聖剣に驚愕を表していた。

 

右手に持つのは西洋の剣ながら剣先のない特殊な形状をしている『カーテナ』

 

左手に持つは七聖剣の中で最も凶悪で最強の『燃やし灰と化す破壊の炎剣(レーヴァテイン)

 

魔剣であり、聖剣であり、神剣である。

 

聖であり魔。魔であり聖。矛盾を内包した破壊の聖剣。

 

刀身は全て焔で出来ている摩訶不思議な剣だ。スルトが持っていたとされている剣だ。

 

このような物を一体一新がどのように手に入れたか分からないが、あまりの凶悪性から殆ど使われる事がなかった。

 

今はその事を置いておくとして、この剣たちは英雄に付くとされている。となると、目の前の白髪の少年は聖剣に英雄だと認められた事になる。

 

兵藤一誠ではなく、白髪の少年が。

 

その事を知ったアーサー王は将来的に二人が激突するのは必至だと思いうかぶ。

 

「何か言い残す事はあるか?」

「ありません、やりなさい」

 

アーサーは抵抗すること無く炎剣に切られ、全身を火で覆われながら城から丘の下へと落下していく。

 

落ちながらも考えていたのは、直感だったが危険を察知しランスロットを他のコミュニティに移せ安全だった事だ。

 

「ランスロット元気で」

 

空を見上げ笑顔を作りながら最後の命を燃やす。

 

 

南の階層支配者『アヴァロン』の崩壊。この情報はすぐにコミュニティに行き渡る事になった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王の素質とは、何なのか未だによく分からない

なんか、深夜テンションで書いてたので多少おかしいかも


現在アンダーウッドの地下都市にて、緊急会議が行われていた。

 

攻めてきていた巨人族は殆ど倒し終えたので、ひとまず会議を設けていた。

 

「レティシアが攫われ春日部も龍の中、戦力のランスロットもあの様子か」

「それは仕方なのないことなのですよ、なんと言ってもアヴァロンが落ちたと聞かされたら...」

 

ランスロットは黒ウサギからアヴァロンが落ちた事を知らされ、その場で気絶してしまい急いで運ばれてきて、いざ目を覚ますと部屋の片隅で両膝を抱え何も発さずに何かを呟いている。

 

そのせいで、ランスロットは戦力外となりノーネーム内でまともに戦える者がかなり少ない。

 

「春日部さんは大丈夫なのでしょうか」

「今は何にもできないからな、春日部次第って事だな」

 

龍の内部にいる春日部のことを黒ウサギは思いながら心配そうな瞳で空を見上げる。

 

 

翌日アンダーウッド本陣にてノーネームの面々と、現リーダーサラ・ドレイクが神妙な顔つきだ話をしている。

 

「これから話すことはここだけの話にして欲しい」

「はい、分かりました」

「実は黄金の竪琴を奪い返された時に、バロールの死眼も盗まれた」

 

 

バロールの死眼は視線だけで殺せと呼ばれるバロールの眼である。それを奪われた情報が漏れれば、せっかく上がった士気が下がる可能性がある。

 

そんな重大な事をノーネームに話したと言うことは、信用のなすところだろう。

 

死眼への新たな対処を講じなければいけなくなってしまった。

 

「それと、残っている北と東の階層支配者の元にも、魔王が現れたようだ」

「そう...ですか」

 

これで、一誠が来るのは殆ど無理となってしまった。ノーネームにて、十六夜と肩を並べられる程の戦力が来れないのはかなりの痛手だ。

 

ジンもそこは理解していて、自分の不甲斐なさに歯を食いしばる。

 

「もしかして、多数の魔王指揮する組織があるのかしら?」

「その可能性は高いですね、こんな偶然は起きるはずがないデス」

「なるほどな、そうなると確かに納得出来るな」

「納得ですか?」

「あぁ、そうだな仮に魔王連盟とでも呼ぼうか。サラマンドラを襲った魔王は、サラマンドラが手引きしたんだが」

「なんだと!」

 

サラは声を荒らげ立ち上がる。

 

元はサラマンドラに所属していたが、三年前にノーネームが襲われた際に、動かなかった事に失望しサラマンドラを去った。

 

それでも気になっていたので魔王の襲撃が少し前にあった事は、情報としっていたのだが、自分達で招き寄せたとは夢にも思っていなかった。

 

「でだ、誕生祭を襲った黒死病の魔王の目的はサンドラではなく、白夜叉だったろ?」

「まさか」

 

言われて気付かされた。ペストは太陽の主権と復讐を目的としていた。

 

太陽の精霊を封印する事の出来る、相性のかなりいい主催者権限(ホストマスター)を彼女は持っていた。

 

「白夜叉様を倒すため」

「その通り。南が撃たれたのも白夜叉が狙われのと同時期。となれば、階層支配者を各個撃破できるように、同時攻撃を仕掛けているだろう」

 

そこまではいい。だが問題は理由だ。

 

階層支配者は全員もれなく十六夜以上の力を持っている。並の魔王であれば勝つことなどできないはずなのだ。

 

だからこそ、倒すには犠牲が出るはず。自ら戦力を削ってでも倒したい理由が、十六夜には皆目検討もつかない。

 

「確証はありませんが、現階層支配者であるサラマンドラ、鬼姫連盟、サウザンドアイズ、休眠しているラプラスの悪魔。前者の三つが壊滅すれば、全ての階層支配者が活動不能になり、全権階層支配者を決める必要があります。それが狙いなのかも知れません」

 

この世界に後から来た十六夜は何のことやら言葉の意味を理解出来ていないのも分かるが、黒ウサギやジン、サラですらフェイス・レスが言った言葉の意味が理解出来ていないようだ。

 

「以前、クイーン・ハロウィンに聞いたことがあります。階層支配者が壊滅または一人になった場合、太陽の主権の一つを与え、階層支配者を選定する権利を与えると」

「そ、そんな事が」

 

箱庭を巡る太陽の主権。

 

空に輝くよく知られた星たちだ。

 

黄道十二宮。赤道の十二辰。この二つの天体分割を用いて作られたのが、二十四の太陽主権である。

 

この権利を持った事があるのは白夜叉と、初代階層支配者であるレティシアだけである。

 

そんな事を露ほども知らない黒ウサギは驚愕に顔を染める。

 

その後も話はまだまだ続く。

 

△△△△△△△△△△

 

「おじさま!UNOしようよ!」

『そんな暇はない。ヴァーリとやっていろ』

「えーー!もうおじさまのいけず。ヴァーリくんやろ!」

「う、うん」

「えへへさっき拾ったんだ。下でね」

「初めて二人でUNOやるよ。いつも一人だったから」

 

十六夜達の遥か上空。吸血鬼の古城の最深部にてアヴァロンを落とした殿下と呼ばれる白髪の少年に、ヴァーリと呼ばれた白い謎の羽を持つ少年が少し年上であろう少女リンとUNOをやり始める。

 

ゲームは中断され暇になったためなのだが、それでもいささかお気楽すぎる。

 

「やったー私の勝ち」

「強いねリンちゃんは」

「まぁーね。次は何する?もう一回やる?」

『ヴァーリ少しこい。話がある』

「は、はい」

「じゃーね。よしチェスでもやるか」

 

ヴァーリは殿下に呼ばれ案内されるままにとある一室へ入る。

 

そこは煌びやかな施しがあったと思われる程壁には色々な跡がある。だが、殆ど崩壊していて原型が分からない。

 

そんな部屋にあるソファに二人は座る。

 

『ここには赤龍帝はいない』

「そうですか...」

『あぁ、どこにいるかは分からんが間に合わんだろうな。一度会っておきたかったが仕方ない』

「ですね」

『それでだ、改めてあの話をして欲しい。白龍皇の話だ』

 

ヴァーリはさっきまでの緩い表情から一瞬で怖ばり、恐る恐るもう一度あの話をする事にする。

 

赤龍帝と白龍皇の因縁をだ。

 

△△△△△△△△△△△△

 

そして、遂に十六夜達が本格的にゲーム攻略に向かう。

 

その為に吸血鬼の古城にいかねばならない。だが、十六夜に空を飛ぶ能力はない。なのでグリフォン達に跨がせてもらい空をかけ龍に向けて飛んでいる。

 

「ハハハ!こりゃいいな!空を飛ぶのがこんなに気持ちいいのか。春日部の気持ちが良くわかるぜ」

「そんな物で満足か?まだ本気ではないぞ」

「よしなら行け」

「任せよ」

「行くな馬鹿者達」

 

炎の羽を羽ばたかせながら飛んでいるサラは、問題行動の目立つ二人を注意に向かう。

 

それでも何ら反省した様子はなく笑ったまま、先に空をかけている。

 

何とも和やかな雰囲気に後ろにいる者達からも笑い声が聞こえる。これが本当に魔王のゲームなのか、疑問に思ってしまう程だ。

 

そう、そのせいで気づくのに遅れてしまう。目の前に現れた漆黒の脅威に。

 

「アレは......たい...ひだ...退避しろぉぉぉぉ!!」

 

気づけたのはサラで、その声と共に突如として現れた黒い球体は形を変え見覚えのある姿になる。

 

雷鳴を背後に背負い、無表情な目で見つめるレティシア・ドラクレアその人だった。

 

サラは仲間を庇い高速で飛んできた槍が突き刺さる。はずだったのだ。突然槍も早く現れた真紅の鎧が邪魔をしなければ。

 

「十六夜!先にいけここは俺が止める」

「ナイスタイミングだ、ここは任せる。それと、下にいるランスロットもだ」

「任せろ」

 

纏まっていれば大きな的になってしまう。そのため編隊を解きバラバラになりそれぞれが龍へと突貫する。

 

レティシアは狙いを定め槍を投擲しようとするが、それを邪魔するように双剣で剣戟を一誠が放つ。

 

槍の投擲の構えから、剣に槍を激突させ狙いを完全に一誠一人に定める。

 

「おい!レティシア!」

「.........」

「だーくそ!ドライグどう思う」

『偽物だろうな、相手は影。相性は最高だ一撃で蹴散らせるだろうな』

「ならそれしかないな。十六夜達も行った事だし」

 

剣と槍同士をぶつけているさなかに、レティシアの腹部を蹴り距離を取る。

 

空に足場などはなく弱い蹴りになるのが必然だが、羽を上手く使いそこそこの威力で蹴り飛ばし、槍の間合いの外に押し出す。

 

そして、すぐに決着を付けるため二本の剣の背面を合わせ、まるで一本の大剣のようにし天高く掲げる。

 

邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)ッッ!!」

 

剣から放たれる聖の力は天高く上り雲を超える。さらに一誠から莫大な魔力が漏れ始め、その全てが剣へと収束していく。

 

危険。瞬時に察したレティシアが槍を投げようとするが、時すでに遅し。

 

最強の聖剣の光はレティシア、影を飲み込み消し炭へとする。

 

多少地面も抉れ吹き飛んだが、どこからか侵略してきた巨人も倒せたのでプラマイゼロだと信じて、下へ降りる。

 

 

 

「一誠さん!良かったのですよ!」

「おう、少し遅れちまったけどな。まぁそれはいいとして、ランスロットは」

「はいこちらに」

 

こんな事を言っては身も蓋もないが、現在の戦力では敵を倒せるとは到底思えない。なにせ、敵の全貌が見えていないからだ。

 

ならば、少しでも戦力が欲しい。確かに自分の居場所であったコミュニティが滅んで落ち込むのも分かるが、いつまでもうだうだされていても困る。

 

木でできた扉を数回ノックする。

 

「入っていいか?...入るぞ」

 

ドアノブを回し中に入ろうとするが、鍵がかかっているのか開かないので蹴り破る。

 

ドアの破片がランスロットに飛ばないように、すぐ目の前に倒れる程度に力を調整して蹴った。

 

中は真っ暗で窓もカーテンを閉めている。

 

完全に隔離された暗闇の角にランスロットはいた。

 

「おい、立てまだお前には」

「うるさい...黙れ黙れ黙れ黙れだ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」

 

体操座りしていたので片手を持ち上げ立たせると、突然激怒を露わにする。

 

「落ち着け、確かにアヴァロンが滅んだのは苦しいけど」

「お前に...お前に何が分かる!あそこは私の居場所だ!アーサー王がいて、円卓の騎士の面々もいて、そこをぉまえが何を知ってると言うだぁぁ!」

 

子供のように泣きわめき一誠の首元の服を掴み壁に叩きつける。

 

ランスロットの言った通り、一誠は何も知らない。一体そこでどんな生活があり、ドラマがあり、人生があったのか。

 

突然知人全てを失った。そんな気持ちを一誠は体験した事は無い。

 

だから、寄り添うなどただの哀れみでしかなかった。

 

物語の主人公であれば、カッコイイ言葉の一つでもかけ泣き止ませるのだろうが、生憎と一誠はそんな事出来やしない。

 

「そうだな、俺は何も知らない」

「だったら!」

「だからと言ってここでお前を見捨てれば、絶対に後悔する!それだけは分かる!」

「ふざけるなぁ、ふざけるなぁぁぁぁ!!」

 

彼女は暴れる。

 

自意識過剰だと思われても皆が殺されてしまったのは自分がいなかったからではと、思ってしまう。

 

でもそれは過去の話であり『IF』の話だ。居たとしても変わらず殺されたかもしれない。

 

いや、逆にその方が楽だったんじゃないか?そう思ってすらいる。皆死に自分だけが一人惨めに生き残った。もう死にたい。死にた

 

「だったら、お前の苦しみを俺が一緒に持ってやる!どうせこれからも一心同体だからな!」

 

何かが砕けるような音が聞こえた。

 

「無理だ!私は」

「無理はない!だって」

 

やめろ、やめろ。それ以上喋るな。聞きたくない、聞きたくない。

 

「未来は俺達が作るんだ!だから無理なんて言葉は必要ない!」

 

あの人と姿が被ってしまう。

 

昔その時はまだランスロットなんて仰々しい名前ではなく、ランと名乗っていてアーサー王もアルトリアだった頃だ。

 

当時とある犬を飼っていた。生まれた時からずっといたせいか、父親や母親と同等の愛情を犬にも持っていた。

 

だが、犬は人間と比べ短命。死は突然訪れ、愛犬と永遠の別れをする事になった。

 

その時も泣き叫んで暴れた。

 

そして、振り回していた拳を受け止めたのはアルトリアで、

 

「嫌だ!嘘だ!生きてけないよ...キャロのいない世界でなんて無理だよ!」

「ううん。無理じゃないよ。だって未来は私達が作るんだから、無理なんて言葉は必要ないよ」

 

そして、満面の笑みで言い放った。

 

『だから、私(俺)にドーンと任せろよ』

 

翌日、アルトリアは泥まみれになりながらも大きな石碑を作り、キャロを盛大に弔ってくれた。

 

奇しくも一誠はアルトリアと同じ言葉を言い放ってきた。

 

悲しいかった気持ちを糧があって今の私がある。今はまだ完全には乗り越えられないけど、一誠がいれば何とかなるのかもしれない。

 

不思議とアルトリアと居る時と同じ気持ちになってくる。胸の芯が暖かくなり気持ち良い温もりが体全体に広がる。

 

「泣き止んだか?」

「うるさい!」

 

先程の適当な拳とは違い、ちゃんと的確に一誠を狙った拳は壁をぶち抜き、何か吹っ切れた表情になる。

 

「はぁ...よし!もう大丈夫、私ならいける」

「なら行くかラン」

「え?」

「いやだったか?ランスロットって長くて噛みそうだから略したんだけど...ダメ?」

「仕方ないから特別に許す。ただし、次呼んだら確実に殺す」

「それ、許してないじゃん」

 

馬鹿みたいなショートコントをして、互いに拳をぶつけ合わせ、今出来る事を精一杯やり始める。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンダーウッドの死闘

すみませんしたァァァ!!

まじで遅くなりました。
言い訳ではないのですが、少しモチベーションが下がっていたのが理由です。誠に申し訳ございません。

どうにかモチベーションを上げ投稿を再開いたしました。

文自体も書くのが少し久しぶりなので、何か間違いなどございましたら何卒訂正をお願い致します。

前置きが長くなりましたが今一度

すいませんでしたァァァ!!




大量の巨人達がここアンダーウッドへと攻めてきているが、未だに深くまで切り込めずにいた。

 

その理由は

 

「喰らいなさい」

「ウォォォォオオオオ!!」

 

黒死斑の魔王こと『ペスト』の強力があったからだ。

 

ペストについては前回のゲームにて完全クリアされたために、その報酬としてノーネームに与えられた。

 

緊急事態につき巨人族に対して大ダメージを与えられるペストが呼び出された。

 

攻めてきている巨人はケルトの巨人であり、ケルト神話群に記載されている巨人族の逸話の一説に、黒死病を操る事で他の巨人族を支配していたとなっている。

 

魔導書から離され弱体化しているとは言え、ペストの黒死病には八○○○万もの死霊というバックアップがある。

 

そのため、巨人族に対し絶対的な優位に立って倒す事が出来ている。が、いかんせん数が多くいくら処理してもしても湧いて出てくる。

 

「鬱陶しいわね!いい加減消えろ!」

「さすが元魔王ね」

「彼女がいなかったらここま危なかったですね」

「ジン坊ちゃんのおかげです」

 

黒ウサギは手に持つ槍でいくらか巨人を倒してから、ジンのすぐ側に着地する。

 

額からは汗が流れ落ち、かなり疲弊の色がみえる。

 

「あっ!ほんとにいた、月のウサギだぁ!」

「何者ですか!貴女は!」

 

安堵していた直後に謎の少女が突然現れた。

 

見覚えのない黒髪の少女の出現に呆気に取られているうちに、盗まれたバロールの死眼から黒い光が放たれる。

 

その光が巨人族に当たると、黒死病で瀕死だった巨人達が立ち上がり、黒死病の影響を受けずに攻撃を再開した。

 

「やられた」

 

ジンは悪態をつきながら自分の不甲斐なさを悔やむ。

 

バロールの死眼により巨人達は黒死病への耐性を取得し、さっそくペストの戦力が削ぎ落とされた。

 

飛鳥や黒ウサギ達も奮闘はしていたが、ペストの黒死病は強力なアドバンテージであったのだがそれもなくなり、まもなくここの前線は崩壊することになる。

 

(どうすれば...やはりそれしかないのか。バロールの死眼を撃ち抜くしか)

 

ジンはこの状況を作る事になった原因を排除することに思い至る。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「これでいいはず」

「ガハハ、さすがは嬢ちゃんだ」な

「私も胸を張れる」

 

全身を正装でつつみ、猫の耳とヒゲを揺らしながら笑ったのはガロロであり、アンダーウッドにとってはかなりの重要人物...人猫である。

 

対して、鎖に手足を拘束されいつものメイド服ではなく、黒を基調としたゴスロリ服を着ているレティシアは弱々しい声で声を出す。

 

春日部は褒められえっへんと胸をはる。が、いくらはっても服は膨らんでいる様子はない。

 

そんな事は気にもとめず急ぎゲームの攻略を始める。

 

「ヤホホホ、あの時よりも格段に強くなってますね」

 

カボチャ頭を震わせジャックは笑いながら手伝う。

 

石室の壁にはいくつかの窪みがありそこにこの城に保管されていた丁度ハマる欠片を付けていく。

 

「確認だけど、レティシア。ここは監視衛星的なものだったんだよね?」

「あぁそうだ。だとしてもそれが何を?」

「うん、今はめてるのは吸血城が正しく飛ぶために使ってたと思われる物。そしてこれが多分...ううん、確実に砕かれた星座なんだ」

 

レティシアはハッと息を呑む。その間にもはめていき計四回装着音が鳴る。

 

ギフトゲーム

SUN SYNCHRONOUS ORBIT IN VAMPIRE KING

 

・プレイヤー一覧 

        ・獣の帯に巻かれた全ての生命体

 

・プレイヤー敗北条件

        ・なし

 

・プレイヤー禁則事項

        ・なし

 

・プレイヤーペナルティ条項

        ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

        ・時間制限は十日事にリセットされ繰り返される。

        ・ペナルティは『串刺し刑』『磔刑』『焚刑』からランダムである。

        ・解除方法はゲームクリア及び中断された際のみである。

 

・ホストマスター勝利条件

        ・なし

 

プレイヤー勝利条件

        一、ゲームマスター『魔王ドラキュラ』の殺害。

        二、ゲームマスター『レティシア=ドラクレア』の殺害。

        三、砕かれた星座を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

        四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

宣誓 上記を尊重し誇りと御旗とホストマスターの名の下に、ギフトゲームを開催する。

        ″        ″印

 

 

春日部がなそうとしているのは第三ゲームクリス条件である。

 

第二はもちろんの事、第一もレティシアの事を指している可能性があるので不可。第四は第三条件だとセットとした考えられる。

 

となると、残るは第三条件のみとなり持ち合わせの情報から推測を行う。

 

砕かれた星座を捧げるとなっている事から何かしら『物』があるのは確かなので、ひたすら集め条件に合いそうな物を選び『天球儀』だったと言うわけだ。

 

「これで最後」

「カポポポやっと終わりますね」

 

十二個目の欠片を手に取り入れる。

 

すると、

 

「............」

「............」

「............なんで?」

 

何も起こらなかった。

 

推測ではこれでゲームがクリアされ、レティシアを助けられるはずなのだが、クリアを証明する契約書類が現れない。

 

何か間違えたのかな?と小首を傾げ、一から頭の中で整理し始めた時だ。

 

「始まった」

「え?」

「ゲームが再開してしまった!私が抑えておける内に勝利条件を完成させろ!!さもないと私が、アンダーウッドを」

 

AGEYAAAAAAAAA

 

目覚めてはならない古龍から雄叫びが上がる。

 

雲を蹴散らしその存在自体が下級の存在達を恐怖のどん底へ落とす。子供や非戦闘員は肩を震わせ泣くことしかできない。

 

「もう一度、もう一度契約書類を見せて」

「あぁ、分かった。だが落ち着けよ嬢ちゃん、あんたなら出来るんだ」

 

失敗ではない。と励ましながら懐から折られた契約書類を取り差し出す。

 

受け取ると凄い形相で睨みつけるように勝利条件を確認するも、まるで分からない。

 

しかし、ここで声に出してしまえば一気に空気は落ち込み、再度の挑戦が出来なくなる確率が高い。なので、こぼれ落ちそうな思いを踏ん張り、心の中でだけ粒やく事にした。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

龍が動き出す少し前。アンダーウッドの最前線では巨人が猛威を奮っていた。

 

「黒ウサギ!」

「この!なんなのですか貴女は!」

「さてね。そんな事よりもっと遊ぼうよ!」

 

ジンの作戦ではバロールの死眼は黒ウサギの持つギフトの一つ『擬似神格・梵釈槍(ブラフマーストラ・レプリカ)』で破壊出来るはずなのだ。

 

バロールの死眼は魔王バロールが持っており、肉体は鋼のように硬く必断の魔剣クラウソラスでも、容易に倒す事はできない。

 

それを一誠の持つフラガラッハを作ったとされるルーが『神槍・極光の御腕(ブリューナク)』により眼を貫いたとされている。

 

神槍・極光の御腕(ブリューナク)には放てば勝利が約束されているとされており、それに最も近いのが黒ウサギの擬似神格・梵釈槍(ブラフマーストラ・レプリカ)である。

 

さすがに投げれば勝ちが決まるのではなく、刺されば勝ちが決まるとされている。だからこそ投擲し眼を撃ち抜きたいのだが、黒ウサギと相対している少女が動きを制限させているのだ。

 

「く、」

「あははは!」

「またです。この私が後ろをとられるとは」

 

突如として後ろに現れた少女に向け槍を薙ぎ払うが、少女がジャンプし棒高跳びのように回避していく。

 

十六夜にすら後ろを取られる事は無いのだが、少女は容易に背後をとる。

 

決してスピードが早い訳では無いのは明白。そうなると大体予想が付いている。

 

「まさか、転移系統のギフトをお持ちで?」

「そこではいって答えると思う?」

「だと思いました」

 

彼女を私では倒せない。それは確信出来ていた。

 

必殺の槍も刺さらなければ意味がなく、少女は座標をずらす事で見事に回避していく。

 

今すぐにでもジン達の方に加勢に行きたいが、少女がそれを許すはずもなくこの場に拘束されている。

 

「どうすれば」

「おこまりか?黒ウサギ?」

「え?」

 

突然声をかけられ振り向いた先には、全身を黒い鎧で包んだランスロットがいた。

 

鎧を着込んでいる事から本気だと察せられる上に、さらにもう一人援軍が来ていた。

 

空気を切り裂き、一本の矢が少女の命を刈り取ろうと肉迫する。

 

咄嗟に気づいた少女は矢を躱し、矢を打ったであろう方向を見る。そこには仮面で顔を隠し弓矢から両手剣に持ち替えていた女騎士がいた。

 

「まさか、二対一?」

「お前はかなり危険だ。それ相応の対処をさせてもらう。行くぞランスロット」

「ええ、了解です」

 

二人は剣先を少女に向け威嚇を行う。

 

先程まで軽く黒ウサギをあしらっていた少女の額に汗が浮かび、苦笑いを浮かべる。

 

二人の騎士が作り出した隙に黒ウサギはジン達の方へ加勢に向かってしまい、それを確認した少女は

 

「お手上げだよ。うん、今回はこれで逃げることにするよ」

「簡単に逃がすとでも?」

「いや、逃がすと思うよ。君の仲間の一人に伝言があるから」

「伝言だと?」

 

剣先は向けたまま聞き返す。少女は笑顔を浮かべ

 

「うん。赤龍帝にね、白龍皇がいるって伝えておいてよ」

「白龍皇...まさかアルビオンがいるのか!!」

「教えられるのはここまでだよ、じゃあね」

「まっ、」

 

その場から少女は初めからいなかったように、物音と一つ立てずに消え去り、琴を引いていたフードの仲間と一緒に撤退していく。

 

その時だった。龍が目覚め動き始めたのは。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

少女の固く強固な決意

どうにか早くかけた。まじで疲れた。

そのせいで原作だと数十ページが残っちまったぜ。やっちまったぜ。





 

契約書類と睨めっこを初め数分。

 

未だに何がダメだったのか分からなかった。レティシアが言った通りにそこまで時間は稼げないので、次第に焦りは思考を停止させていく。

 

そして、全てが抜け落ち思考が停止する。そう真っ白になった。

 

「嬢ちゃんなら出来るはずなんだ。何せお前は春日部孝明の娘だからだ!」

「なんで名前を」

「な、そんなまさかコウメイだと!」

「お前さんもよく知ってるはずだあの男のことを、なにせ俺は何度も命を救われ、ここアンダーウッドも守ってきた凄い男だったんだからな!」

 

ガロロはまるで自分の武勇伝を語るかのように嬉しそうに言い放つ。そこからどれだけ信頼し信用をしているのかか理解できる。

 

春日部孝明元ノーネームの一員であり兵藤一新と肩を並べていた人間にして、春日部耀の実の父親である。

 

そう、春日部は一誠と同じようにノーネームのメンバーの子供であったのだ。

 

この事を知らされていなかった春日部は真っ白になった頭が、途端に黒く染まっていく。大量の情報が脳を駆け巡る。

 

「嘘」

「嘘じゃねぇ!疑うなら帰ったら俺の家にある肖像画を穴あくまで見つめるがいいさ!言葉数が少なくて、不器用で、都合が悪いと小声になる、そのくせ羨ましいぐらいにモテ」

 

 

彼女の記憶にない事だらけだったが、それらが嘘だとは思えない。

 

話を聞くたび身体全体を懐かしく温かい気分が包み込む。

 

「何より、仲間のために力を発揮できる素晴らしい男だった」

 

父の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

全て本当のことなんだと、初めてしれた多くの父の事に停止していた思考は徐々に動き出す。

 

「その娘である嬢ちゃんが、こんなチンケなゲームクリアできないわけねぇ。そうだろ?」

「そうだ。こんなゲームクリアできないわけが無い。だって...だって」

 

自分の想い人であればこの程度片手を捻るように解くだろう。

 

彼女以上の問題児であれば欠伸をしながら呆れた表情で解くだろう。

 

初めての友達ならば笑いながら楽しく解くだろう。

 

そして、春日部耀を救った春日部孝明ならばいとも容易く解くだろう。

 

この程度で躓けない。より強固に意思を固め契約書類を見つめ再試行する。

 

「どうだ?」

 

全神経を過去最大級に動員しているためガロロの声は聞こえず、より深い思考へ至る。

 

「正された獣の帯?」

 

彼女は行き着いた、問題点へと。

 

「正されたって事は、誤りがあったという事!これが勝利条件にかかる言葉なら、獣の帯...王道十二宮...いや、天体分割法そのものに誤りがあったんじゃ」

 

耀は壁の溝にはめられた天球儀の欠片を外し正しく並べていく。

 

白羊。金牛。双子。巨蟹。獅子。処女。天秤。天蠍...

 

「やっぱりだ。蠍座と射手座が繋がらない。太陽の軌道線上にある星は、十二個じゃなくて十三個だったんだ!」

 

そも、十二星座による黄道帯の分割法は遥か古代に作られたものだ。この古城自体が衛星として機能していたのであれば、より近代的で高度な天文学を学んでいてもおかしくない。

 

耀は急いで残りの欠片全てをかき集め並べるも、星座が繋がる事は無い。となれば、抜けている欠片がありそれが攻略の要なのだろう。

 

「みんな今すぐ蠍座と射手座の間にある星座をさが」

『そこまでだ、小娘ッッ!!』

 

これからだという時に敵は窓を突き破り侵入をしてきた。

 

周りが突然の事に気が動転しワンテンポ動きが遅れた中、一人だけジャックは即座に迎撃を行う。

 

ランタンから、業火を三つ召喚し放つ。これが残り最後の業火であったが、敵の強さが大まかながら分かったジャックは躊躇いなく使用する。

 

『小賢しいわ!木っ端悪魔がァ!』

 

が、敵は避ける必要性がないと身体を軽く動かすだけで、業火をあたりに散らした。

 

かすり傷ひとつ負わなかっ敵に驚愕したジャックは、咄嗟に近くにいた子供を押し出し敵に回廊まで弾き飛ばされる。

 

「ジャック!」

「だめ、ハクノ逃げて!」

 

ようやく身体がなれ敵の正体を視認する事が出来た。

 

サウザンドアイズにいるグリーをまんま黒で塗りつぶしたようで、大きく違う点は額にある大きくうねっている角に、胸元にある生命の目録だろう。

 

「グライア生きてやがったのか」

『久しいなガロロ殿。だが、再開を喜ぶ時間はない!コウメイの娘よ、お前が私の標的だ!』

「な、なんで」

『我が名はグライア=グライフ!兄ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ!今一度血族の誇りにかけ決着をつけようぞ!』

 

己をグライアと名乗った黒い鷲獅子は、口を開き雄叫びをあげる。

 

鉄すら容易に切断する爪が耀を引き裂こうと繰り出され、紙一重でよけるも白いワンピースの先が少し裂ける。

 

「今のうちにはやく十三番目を見つけて!」

「しかし、」

「はやく!」

 

ガロロは耀を助けたい。ものの戦闘力が明らかに劣る自分では足を引っ張るだけだと判断し、すぐに背を向け回廊へ駆け出す。

 

遠くなっていく背中をゆっくり眺める余裕を与えてくれる敵ではなく、すぐさま二撃三撃を繰り出す。

 

それもどうにかかわしながら、この場にいても不利だと破壊された窓から外に飛び出る。

 

無論グライアもついていき、焔の渦を作り出し先程よりも多彩な技を放つ。

 

過去一番強いと言って過言でもない敵との相対となる。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「うーーん迷った」

『残念だが俺には分からん、便利なマップ機能なんて物はついてないからな』

「だよな...どうすっかな、勢いで入ったはいいんだけど......」

 

邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)に魔力を回し光を放つと、懐中電灯の代わりと言わんばかりに肩に担いで廃墟街を歩いていた。

 

何故ここにいるのかは理由があった。

 

ランスロットが自ら地上に残り自身の後始末をすると言ったためだ。一緒に地上に残って手伝っても良かったのだが、戦力が固まりすぎるのもダメだと言われ古城へ突入する事にした。

 

レティシアもどきがいなくいとも簡単に壁をぶち抜いて侵入するも、暗闇の上に自分がどこを歩いているのかすら分からないそんな状況だった。

 

なので宛もなくブラブラ欠伸をしながら歩いてると、背後で瓦礫が転がる音が鳴りすぐに振り返る。

 

「誰だ!」

 

部分禁手をし両手持ちをした邪を払う双剣(エクスカリバー・コールブランド)の剣先を向ける。

 

「その剣...あんた一新の息子か!」

「うん?父さんの事知りあい?」

「まぁそんなとこだ、てか今そんな事話してる場合じゃない!」

 

顔だけを覗かせ様子を伺っていたガロロは馴染み深い聖剣を見つけ、笑みを浮かべながら物陰から出てくる。

 

強力な仲間を見つけられた事に安堵のため息を吐くが、相当慌てているのか身振り手振りもかなり大きく大げさになっている。

 

「嬢ちゃんが、春日部耀が大変なんだ!」

「詳しくその話を」

 

耀の身に緊急事態が起こっているのだと知ると、食い気味に何があったか聞き、全身赤い鎧で包むと廃墟を破壊しながら高速で耀の元へ向かう。

 

あまりの速度にソニックウェーブが発生しガロロは廃墟に埋まり、一新と同じように規格外過ぎると笑を零した。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

空での戦闘はやはりと言うべきか空での戦闘に慣れていたグライアに軍配が上がった。

 

このまま空で戦闘を続けても負けると瞬時に判断した耀は、自分の能力が最も輝くである廃墟でのゲリラ戦へと移す。

 

のだが、姿を何度も変化させるグライアになす術なく一方的に押されていた。

 

「はぁ...はぁ...」

『小娘その程度か?』

「このッッ!!」

 

肩で息をするほど疲れている中最近何故か使えるようになった剛腕に従い、姿が変貌したグライアへ突貫する。

 

最初の対面の時は黒い毛が生えたが、その全ては強靭な鱗へと変わり爪や牙がより鋭利に伸びる。

 

四足歩行で立つその様は西洋の龍そのものだった。

 

『しかし、解せんな何故生命の目録の力を使い変幻しない?そのギフトを使えばもう少しマシな戦いになると言うのに』

 

グライアから語られたのは衝撃的すぎる一言であり、硬い鱗に拳を防がれた耀は聞くことしかできない。

 

『それは生体兵器を製造するギフト。使用者は例外なく合成獣となり、他種族との接触でサンプリングを開始する。よもや知らぬまま使っていたのか?』

「サンプリング?...」

『そうだ。先程使っていた剛腕巨人族のものであろう、先日の襲撃の際に奪ったはずだ』

 

嘘だ!と叫びたい。が、グライアの言っていることは否定するには根拠がなさすぎた。

 

突然使えるようになった剛腕。不思議に思っていたがよくよく考えれば巨人族とのあの接触以降から、使えるようになっており友達に巨人族はいない。

 

「あぁぁああ゛あ゛!!」

『哀れだな、知らぬまま父親に化け物にされていたとはな。せめてもの情けだこの技で仕留めてやろう』

 

耀はがむしゃらに殴っていてそこに知性の欠片はない。そのため、龍の行動を見て回避する。そんな考えは存在していなかった。

 

龍の口元から火炎が溢れる。熱量で言うならばジャックの使っていた業火の何倍何十倍の威力があろうかと思われる。

 

首を九十度旋回させたグライアは、腹部を殴っていた耀に向け爆炎を放つ。

 

「一誠...」

 

意識が無くなり狂戦士となった耀は死を感じた直後に口から、彼の名が漏れた。

 

死と言う人類の終着点を前に呟いたまるで無駄なような言葉だが、たしかにその言葉は彼の耳に届いていた。

 

「そこかァァァァッ!!」

 

耀の隣の壁が細切れにされると、赤い鎧が光輝く双剣を携えて駆け出していた。その距離五mはくだらず、もう目前に爆煙が迫っている耀を助けるのは十六夜ですら難しいであろう。

 

そこを一誠は

 

「え、」

「デュランダルゥゥゥ!!!」

 

双剣から最も使い慣れたデュランダルに持ち替え、加速とはまた違う方法で移動し耀と爆煙の間に入る。

 

ここに武術を収めた物がいれば絶句していたであろうが、ここにそんな者はいない。今一誠が行った歩法が縮地だと言うことに。

 

縮地。

武術における最速の歩法である。

 

十歩の距離を一歩で進む。第三宇宙速度などとは違い目で追いかける事は、余程の武人でなければ不可能である。

 

一誠は何かしらの武術を収め縮地を習得していたのではなく、過去の赤龍帝達の経験を元に身体を動かしたに過ぎない。

 

ほぼ負けに近い大博打だったが見事一誠は縮地を成し遂げた。

 

地面に突き刺さったデュランダルにより爆炎は四方に散り、耀を脇に抱えて数十歩下がり一旦距離をとる。

 

『貴様...赤龍帝か...』

「おっ?そっちまで有名なのか?俺」

『ふっ、なるほどただの親の七光りだと思っていたが、以外にそうでもないようだな』

「そう思ってくれたんなら嬉しいぜ」

 

鎧の兜に隠れしたの顔は見えないが一誠の声から笑っているのが分かる。いや、分かってしまう。

 

「大丈夫か耀?」

「大丈...くっ」

「俺が来たからもう安心しろ、後ろで休んでろよ」

 

彼には悪気がないのだろう。純粋に心から思った事を言っているのだ。

 

剣を持ち替えグライアに彼は向き合う。また、また、耀は一誠に守られてしまう。

 

 

 

耀は何度も考えた事があった。

 

好きな一誠に何度も守らていた事について。

 

ガルド=ガスパーの時は庇われ大怪我を負わせてしまった。

 

ルイオス=ペルセウスの時は強くなっていた一誠に簡単に守られてしまう。

 

そう、毎回守られてしまうのだ。確かに一誠は優しく女子を守るのが当たり前だと思っているのだろうが、耀は余計に考えてしまう。

 

『このまま背中を見ているままでは父と同じようにいなくなってしまうのでは?』

 

耀は決して一誠の後ろに隠れ女の子扱いされながら守られたいのではない。

 

一緒に肩を並べ、息をし、血を流し『仲間』として戦いたいのだ。

 

確かに一誠の事は好きだ。好きで好きでしょうがない。もうやけだ愛してると言ってしまってもいいとすら思っている。

 

だが、それらすべての前に同じ仲間なのだ。一誠が肩を並べるのは十六夜や黒ウサギのような強者である必要がある。

 

だが、それには力が足りない圧倒的に。

 

じゃあどうすればいい?今のままでは負けるし、また守られてしまう。

 

分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。

 

生命の目録は未だに分からないことだらけだ。もしかしたらグライアの言っていた事は真実だったのかもしれない。

 

だけど、違う。それは違うと思える。

 

これは力を奪うのではない。思いを絆を繋ぎ力(・・・・・・・・)に変えるギフトなのだと。

 

 

無くなっていた力がより強大になり身体を駆け巡る。

 

「一誠ダメ。こいつだけは私がやる」

 

耀はゆっくりながらもボロボロな身体で立ち上がり、一誠の右手首を掴む。

 

「けど、今の耀は」

「私は弱い。けど...ううんだからいつまでも一誠の背中を見てるだけは嫌だ!一緒に肩を並べて仲間になりたい」

「......本気か?」

「超本気」

「分かった、だけどこれだけ約束な。このゲームが終わったら何でも言うことを聞いてやる、だから...絶対に死ぬなよ」

「うん」

 

展開していた鎧と剣を解除し息を整えその場から走り去っていく。

 

「ありがとう止めないでくれて」

『さっき言っただろう。最初から目的はお前だと』

「だったら見せてあげる私の...絆の力を」

 

耀は拳を前に向け勝利を宣言する。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

春日部耀の思いは一途で強大である。

満を持して降臨。

ふざけましたマジすんません。どうにか誤字はないと願いたいところ.......

まぁどうにかこのクソシリアスな回も終わったので、やっと日常のふざけた回を次回から出せそうですね。良かった。





いざカッコつけて宣言した物のグライアを倒すビジョンは一向に湧かない。作戦を立てるあいだも待ってくれるほどお人好しではなく、すぐさま獰猛な爪で引き裂く。

 

龍となり空間を切り裂く爪は、咄嗟に耀が後に飛んだ事で服の切れ端を切断し空を切る。

 

「どうすれば、」

『どうした!その程度かァァ!!』

 

後ろへ回避した耀に照準を合わせ火炎を吐き出す。今度は威力より速度を優先したため爆炎の時より威力は格段に下がったが、それでも火耐性がそこまで無い耀には絶体絶命だった。

 

足は地上から離れ、今からグリフォンの力を使っても間に合わない距離に火炎は迫る。

 

そんな時だった。走馬灯のように黒うさぎとの会話を思い出したのは。

 

『え?一誠さんのギフトのドライグについて知りたいですか?』

『うん。十六夜が意味深に言ってたから、何かしらの神話に関わりがあるのかなって』

『なるほど、そうですね一応説明を致しましょう』

 

黒うさぎは両手で抱えていた大量の書籍を木の机に置いてから、机の上に無造作に置かれていた一冊の本を拾い上げ適当にページを開く。

 

冒頭は飛ばし中間地点に差し掛かったところでページをめくる手を止め、少し興奮気味に説明を始める。

 

『まずは本名からですね。ドライグ・ア・ゴッホ。これがフルネームですね』

『へぇ...』

『では続けますね、詳しく一から教えると時間がいくらあっても足らないので省略して説明します。

深い関わりはブリタニアにあり、ランスロットさんやコミュニティ円卓の騎士などと深い関わりがあります』

 

コミュニティ円卓の騎士は知らないが、現在ノーネームに所属するランスロットの事を思い浮かべながら説明を聞く。

 

話についてこれてるか一度確認するように数秒休んでから続ける。

 

『結論として言うならば龍の中でもトップクラスの実力を持っていて、火を司っていますね。その炎は全てを灰へと還したとか』

『じゃあ最強の龍なの?』

『いえ、残念ながら黙示録の方にもっとやばいお方がいるので、最強ではありませんがトップクラスなのは間違いはないデス』

『ふぅーん...そうなんだ』

 

残念ながら耀にとってはあまりいい情報を得れたという訳ではなく、から返事をする。

 

まぁ仕方がないデスよねと黒うさぎは苦笑いを浮かべながら、本を机に置き大量の本を持ち上げ部屋を出ていく。

 

微かに残っていたどうでもいいような記憶だったが、今はとても重要な事だった。

 

目の前の黒龍が放った爆炎は全てを灰に還す程強力だったのか?否。断じて否である。

 

そこで思い浮かんだのが赤い鎧だった。

 

『ふん終わったか。いささかつまらん結末だったな』

 

確実に避けもせず彼女に火炎は直撃したと断言できた。グリフォンの時よりも鋭敏に上がった感知器官は魔法や魔術を感知せず、視覚も避ける素振りを見なかった。

 

随分と呆気ない終わりに落胆の声を零しながら、未だに燃え続ける炎を背に去ろうと歩み始める。

 

だが、突如として悪寒が走りすぐに身体を旋回し炎を睨みつける。

 

(なんだ、なんだこれは!)

 

鋭敏に感知器官が上がったからこそ分かる。炎の中にいる化け物を。

 

ただ、正面にいるだけで強靭な鱗がひび割れるような威圧。あまりにも異様で異形な気配。

 

この力を手にしてたから初めてとも言える恐怖を覚える。そして、その恐怖は姿を視認した時より大きくなる。

 

炎が弾け散りそこに居たのは二足歩行の龍だった。

 

全身が赤く紅い。人の形をしているそれは凹凸が激しく、鱗に至っては刃物のように尖っていた。

 

爪は妖しく輝き、顔であろう部分には上向きに湾曲した二本の牙。目には緑色の不気味な光が凍りつくような視線を向けてきている。

 

両の手の甲には妖艶で不気味な色の宝玉があり、胸元にも堂々と存在している。

 

『なんだその力は!』

「これは私と一誠の絆の力だよ」

『聞いてないぞ、そんな力は!』

 

先程までの儚い弱々しい少女はどこかへ消え、自分の力で立っているのは英雄たる存在だった。

 

耀は火炎が迫る中一誠の想いを昇華させ鎧を精製した。

 

劣化赤龍帝の鎧(レプリカ・ウェルシュ・スケイルメイル)

英雄たる彼を連想させるその姿は圧倒的な火耐性に加え、強固な守備に強大な力。その姿たるや本物の一誠と見間違えするほど。

 

だが、この力は今の耀には分不相応であり現界できる時間は持って十秒。その後は意識を失う事は必然的である。

 

その事は説明されるより自分が一番よく理解しており、高速で消えていく身体の力を認識しながら瞬間的に移動する。

 

『消えぁッ』

 

予備動作と移動がほぼ同時になり、予備動作を見て回避しようとしたグライアは突然目の前に現れた耀に驚愕しながら、渾身の右足で蹴り飛ばされる。

 

少し前までの蚊程度の蹴りは今では自分の蹴り以上の威力になり、四つの足で必死に踏ん張るも一気に壁まで押し切られる。

 

『燃え尽きろォォ!!』

 

背中が壁にあり逆に言えば背後を取られる心配が無くなったので、広範囲に火炎を撒き散らす。

 

瞬時に放ったそれがダメージ一つ与えられないなど百も承知、本当の目的は熱の歪みなどから姿が視認できない速度で移動する少女を感知するためだ。

 

感知すれば自身の鋭利な爪で引き裂くことができる。そう確信していた。

 

目には目を、歯には歯を、龍には龍を。日本にはそのようなことわざがあるが、これは対等でなければ意味を成さない。

 

赤ちゃんが青年と喧嘩して傷つけることができるか?

子ライオンが大人ライオンに勝るか?

 

無理なのだ。なにせ同じ土俵にする上がれていないから。それは今の戦闘にも言える事だ。

 

感知できれば引き裂けるそんな自信があったグライアは勘違いをしていた。近接戦をしかけてくると、いや近接戦しか無いのだと。

 

思い込みに近いその選択は大きな失敗だった。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

 

耀は少し離れた位置で腰を落とし、身体の前に小さな炎の圧縮体を作る。爆炎とした時の威力の数倍の力が圧縮されたそれは、広範囲に広がる火炎を吸収しより大きくなる。

 

サッカーボール程になったそれを右手で殴り飛ばす。

 

奇跡的なバランスで保っていた球体は一気に崩壊し、殴られた方向とは真逆にビーム状にして全エネルギーを解放した。

 

巨体であったグライアは身体をひねり躱そうとするが、あまりにも早く到来したそれは片方の羽を焼き尽くし壁から外へと放り出した。

 

「あっ゛...ぁっ...ん......」

 

ぴったし十秒。倒すまでには至らなかったが、撃退には成功し感激する間もなく元の姿に戻り地面に倒れ込む。

 

勝った。そう心の中で喜びながら意識を失う。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「うん、十六夜とレティシア」

「さっきぶりだな一誠」

「久しぶりだな一誠」

「だな、て背負ってんの耀か?敵は」

「いなかったな、倒したんだろうよ。だから安心して今じゃこれだ、ほらそういうのはお前の仕事だろ」

 

背負っていた耀の首根っこを掴みあげ放る。

 

円を描きながら空を舞う華奢な少女を抱きとめる。

 

か細い腕は掴めば折れそうで、小さな寝息を立てる少女はまるで眠り姫のようだ。

 

「なんだかな」

「どうかしたのか?」

「いや、何でもないぜ。それよりも、適当にここ来たから良くわからないんだけど、クリアできるのか?」

「あぁ、余裕だ。今は目的地に向かってるからな、一誠も来るだろ?」

「おう」

 

吸血鬼の古城・最短の崖へ四人は瞬く間に移動する。その間に一人の吸血鬼は声を荒らげていた。

 

「お前達は馬鹿なのか!死地に赴くような物だぞ!」

「だろうな」

「だな。けど、仲間をそう簡単に見捨てられるかよ!最後の最後までやってダメだったら諦める、なんの努力もしないで諦めるなんて性にあわねえ!」

 

何故こんなにレティシアが止めているのかは全て謎を解いたからこそであった。

 

第四勝利条件である”鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て”耀はミスリードであると切り捨て考えていなかったが、十六夜は逆にこれが大事だと考えた。

 

″革命″の綴りは″revolution″であり、もう一つの意味として公転がある。

 

そうすると第四勝利条件の意味合いは変化し”公転の主導者である、巨龍の心臓を撃て”となる。

 

では撃てばいいと考えるが龍の鱗は硬く十六夜ですら苦戦する。さらにゲームを完全クリアしなければ、レティシアは死んでしまう。

 

そんな中第三勝利条件を満たした十六夜によって、ギフトゲーム終了の契約書類が配られその報酬としてロスタイム十二分が発生し、残り十二分以内に無力化しなければいけなくなった。

 

一誠は改めて赤い鎧を着込み羽を出して飛翔すると、十六夜と一緒に空へと飛んでいく。レティシアは静止しきれなかったと、自分の不甲斐なさを悔やみながら空を見上げる。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

アンダーウッド大樹付近では空から襲来する龍を受け止めようと、巨大な真紅の鉄人形が必死に踏ん張っていた。

 

「お願いディーン、踏ん張って!もっともっと大きく!」

『DEEEEEEeeEEEN!!』

 

巨龍の頭部とほぼ同等まで大きなったディーンだが、それでも受け止めきれない。確実に重量が足らないのだ。

 

本来紙珍鉄はどんなに伸びても重量は増えない。だが、飛鳥の命令があれば十倍まで増えるのだ。なのだが所詮十倍。受け止めるにはまるで足らない。

 

どう足掻いても今のままでは受け止めることなどできない。

 

「やめろ、飛鳥!!!早くここから避難を!」

「ダメッ!だって後にはアンダーウッドがあるわ!絶対に受け止める!!ディーン!!」

 

自殺しようとする飛鳥を止めようとセラは手を掴み説得を試みるが、手を弾かれ断固として逃げようとしない。

 

お嬢様でありながら一度決めたことはテコでも変えない。それが久遠飛鳥なのだ。

 

「なぜ、そんな」

「だって巨龍がアンダーウッドを倒したら、私の友人が悲しむわ。そんな姿二度と見たくないの」

 

昔の事を思い出しながら呟く。

 

友人などいなかった飛鳥はここに来て初めて友人ができた。そして、友人の悲しむ姿がどれだけ自分も悲しくなるのか理解した。

 

だからこそもう二度とそんな姿は見ない。見たくないからこそ意地でも止めようと、死を覚悟して受け止めているのだ。

 

「分かったならば、私も同じだけの覚悟を決める」

 

もう止めるのは無理だと理解したセラは帯刀していた剣で、一族の象徴角を切り落とす。

 

とてつもない激痛に襲われ、その場で倒れ込み駆け寄ってきた飛鳥に、震える声で角を差し出す。

 

「龍角ならば、神珍鉄にもよく馴染むはずだ」

「なんでそんな無茶を」

「それは飛鳥に言いたいさ。でも、止められる、いや止めるんだろ?」

「分かった貴方の思い無駄にはしない!」

 

二〇〇年もの間鍛え上げてきた角はとてつもない霊格を誇り、吸収したディーンに絶大な力を授けた。

 

身体からは真紅の風が流れ、明らかに巨龍の進みは遅くなっていき

 

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「GEYYYYYYYTYYAAAAAAAaaaaaAAAA!!」

 

一人と一体の維持がぶつかり合う。

 

巨龍は最後の抵抗にディーンの右腕に噛み付く。

 

鉄が軋み右手にヒビが入る。それでもディーンは諦めず、空いていた左手でつかみあげ空へと放り投げた。

 

丁度そのタイミングでロスタイムは終わり大天幕が開かれ、巨龍は徐々にその姿を透過させていき消えていく。

 

「見つけたぜ、十三番目の太陽!!」

 

そこを狙っていた十六夜は手に光の柱を連ね、浮き彫りになった心臓を穿った。

 

巨龍の心臓からこぼれるようにもう一つの太陽が落ち、待ち構えていた一誠が太陽から庇うように抱き抱え地上へと降りていく。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強く生きろよ一誠!!

思ったより長くなってしまったぜ!!




 

アンダーウッドでの魔王ゲームから半月。半壊していた街は高速で修復されていき、延期になっていた収穫際が開けるまでになっている。

 

その中とある三人は賑わう大通りを抜け、人気の少ない大楼閣へと足を進めていた。

 

「すまんかったな、呼び寄せて」

「別にいいけど、ロリっ子の時に比べボンキュッボンになったな。初めて見た時は別人に見間違えたよ」

「そうかそうか。ほれ触るかこの豊満な胸を」

 

白夜叉は飛鳥以上に大きくなった胸を突き出す。その際に長く煌めく銀髪が揺れ、おもちゃを弄るように浮かべた笑みは大人びた雰囲気と相まって、妖艶な美女と言った様子だ。

 

突然黒うさぎと一緒に拉致された一誠は、最初変貌した白夜叉の姿を見たときにすぐに気付かず、当初は別人だと思っていた。

 

ネタばらしをされた時はすぐには信じられず、何度も頬をつねり現実かどうか確認していた。

 

そんな姿にも中身は一緒なのだと思うと次第になれ、

 

「じゃぁほい」

「うぎゃァァッ!」

「ひでぶぅぅぅぅぅ!!」

 

ラッキースケベではなく、自分の感情に従い果実を一揉みする。

 

感触としては飛鳥や春日部に比べると格段に柔らかく、着物の上からでも手に吸い付き素晴らしい物と賞賛の拍手を贈りたい代物になっている。

 

とは言ってもあの場面です触るとは二人とも思っておらず、予想の斜め上の行動をしてきた一誠に非情な一撃を叩き込んだ。

 

「ば、馬鹿かお主はァァ!!なぜ触る!!」

「だって白夜叉が触れって」

「それは演技に決まっておろう!!本気にする馬鹿がどこにいるのじゃ!」

「ここにいるけど」

「よぉし、そこにおれ確実に殺してやろう!!胸を触ったのじゃそれぐらい覚悟は出来ておろうな」

「そうだな俺が悪い」

 

反省した様子で申し訳なさそうに言う。

 

「ならば」

「だが断る」

 

完全に切れた白夜叉は拳を心臓めがけて放ち、避ける余裕すらなくはるか後方へ吹き飛ぶ。

 

一人門前まで吹き飛ばされた一誠を射殺すような瞳で見つめている白夜叉が、その風貌に合わない全力で駆ける。

 

逃げ道は門の中しかなく、険しい表情の残念美女に背を向け門の中へ飛び込む。

 

外の人気もないのもそうだが、中も中で人の声一つすら無かった。

生き物の気配は殆どなく広大な空間にあるのは静寂のみ。

 

と、周りを見ながら進んでいると、日照りがかなり強くなっている事に気づき額から汗が流れる。

 

「暑っつ!溶けたアイスになりそうだな...ん?」

 

突然強くなった日照りの原因である太陽を睨んでいた時だ、上空から飛来する火炎が目に飛び込む。

 

「ふぅんなんか呆気ないなっと、フラガラッハ!」

 

上空より飛来する煌やかな火炎を、ギフトカードから取り出したレイピアのように細い剣を投げつけ散らす。

 

『熱っつ!馬鹿じゃねぇの!!』

「ほらー俺弱いじゃん。だからお願い」

『てめぇが弱かったら箱庭の殆どが弱いっつの!!』

 

口も何も無い剣から聞こえるのはトゲトゲしい男の声だ。声から察するに三十代ほどの歳だろう。

 

そう影に隠れて火球を放った少女は考える。

 

上空を軽く旋回し一誠の手元に戻り面倒くさそうに刀身を輝かせながら、あたりを索敵する。それを見ている隠れている少女は

 

「何ッ」

 

驚愕を顕にしていた。刀身に一切の傷のない剣に対して。

 

襲撃した彼女の正体は最高位の神鳥『大鵬金翅鳥』である。

 

対神・対龍の最上位の恩恵を誇る彼女の炎はくしくも一誠に対しては効果絶大であり、聖剣で相殺されても大なり小なり傷をつけるはずだった。

 

が、実際は一誠の聖剣フラガラッハは傷など一つもついておらず、敵の首をはねようと殺気を飛ばしてきている。

 

「見つけた」

「早い!」

 

ほんの数秒だけ思考に意識を持ってかれ目を離したため、物音一つ立てず移動する歩法【縮地】に気付かず容易に背後を取られる。

 

彼女は咄嗟に振り向き炎を放とうとするが、すでに剣の間合い。振り下ろされる剣の方が早く、キメやかな白い肌に鮮血を彩ろうとする間際、何故か自分の足に引っかかり剣を吹き飛ばして倒れる。少女を下敷きにして。

 

「いててとんだ災難...あっ」

「あああぁ゛ぁ゛ぁあ゛!!」

 

儚く美しいその美貌を歪ませ少女は変態に絶叫をあげる。

 

見目美しい服はその性質上ある程度肌ははだけ、見えることからブラではなくサラシを巻いていたのだが、一誠はその下に手を入れている。

 

服は剣に引っかかり地面に落ち、崩れたサラシの隙間から挿入された男の二本の腕、またの下には右膝が差し込まれ完全に抑え込まれている。

 

「おち」

「シネェェェェェ!!」

 

奇声を上げながら天めがけ放たれる火炎に包まれ、一時の空中浮遊を味わう事になる。

 

 

 

「ヤムチャしおって」

「全くとんだ無茶をしたものですよ一誠さん」

 

先程の怒りはどこかへ消え今は地面に横たわる男に白夜叉は言葉をかける。

 

全身炎に包まれ全身黒いススに包まれ、口からは黒い煙が立ち込める。空中に飛び上がり地面に落下した時には誰にも助けてもらえず、地面に大きなクレーターを作って横たわっている。

 

黒うさぎは真っ白どころか真っ黒に燃え尽きた一誠を介抱し、座ったままの状態でどうにか上半身だけは起こした。

 

「変態殺す。確実に殺す」

「落ち着け迦陵ちゃん、ワシの分も残しておけよ」

「その呼び方はやめて」

 

一誠に対して手厚い歓迎をした彼女は、その呼び方が相当気に入らないのか眉間に皺がよる。それを見てもやめることなく白夜叉は小悪魔じみた笑みを浮かべている。

 

「うっ、身体めちゃくちゃ痛てぇ」

「自分がした事を理解してください一誠さん!」

「貴様だけは必ずこの手で殺してやる」

「ごめん。わざとじゃないんだ...えっと迦陵ちゃん?」

「その名で呼ぶなぁァァ!!」

 

本日二度目の直火焼きである。

 

 

 

軽いお仕置きがすみ、炭になりかけの一誠の頬を黒うさぎが叩き安否を確認する。

 

痛みにかすかに反応しピクピク時々動く。なので生きていると安堵のため息を吐いてる中、白夜叉は落ち着き気品を取り戻した少女の元へ向かう。

 

「さて、早速だが」

「残念だけど長兄ならいないわよ」

「何だと?」

 

先程までの余裕はどこへやら、予想だにしない返答に情けない声を出す。

 

それも仕方がないと迦陵は苦笑いを浮かべる。

 

「半月前に鬼姫連盟に救援へ行ったきり、一向に帰ってきていないわ。どうせ、何処の土地で遊興に励んでいる事でしょうね」

「この忙しい時にあやつは...」

 

半月前の魔王連盟襲撃の際に、鬼姫連盟に赴いたのは知っており、すぐに出ていったのも知っていた。そのため、てっきり本拠地に戻ってきていると思っていたが、実際には戻ってきておらず何処かの土地で遊んでるときた。

 

白夜叉は目的の人物がいないと知り頭を抱える。

 

「第一候補の牛魔王が無理となるとな...ふむいっそあの小僧達に...いやまだ早いしのぅ」

「言伝ならあずかるわよ?」

「いや、こればかりは本人に直接言わねばならんからな」

 

首を横に振り否定する。

 

「だがまぁお主には話しておいていいかのう。実は私は東の階層支配者を退くとこになってな」

「なぁぁ!?」

 

よく考えれば当たり前の事であり、今の白夜叉は神格を仏門へ返上してようやく下層への手出しが可能になった。

 

今の彼女はそのため安全であると証明できる後ろ盾がいないのである。そのため、必然的に階層支配者としては成り立たず、急ぎ代理を探す必要があった。

 

それも、白夜叉自身に引けを取らぬほど強力であり魔王とのギフトゲームの経験が豊富な強者が。

 

すぐに思い浮かんだのが牛魔王であったのだが、結局本人はおらず一気に振り出しへと戻ってしまった。

 

「そう...なら隠すのは酷って物ね」

「なんじゃ?」

「その手紙は長兄が、助勢に立つ前に貴方へ宛てた手紙よ」

「なんだと」

 

その言葉が本当ならば牛魔王は白夜叉の到来と、その理由を予め知っていた事になる。

 

諦めた表情を見せながら懐から一枚の封書を取り出し白夜叉へ差し出す。

 

手紙には平天の旗が刻まれていて疑う余地はひとつもない。一体何が書かれているのか胸を少しドキドキさせながら封を切る。

 

南の大陸にて、後継の芽在り。心踊らせ参加されたし

 

簡潔ながらも核心をつく言葉が紡がれていた。

 

「くくくく...いやはや、千里より彼方から未来を見るか...笑えてくるな」

 

一度起きた笑いは徐々に巨大化していき、身体を大きく震わせ腹を抱えるまでになる。

 

是非ともその力を使って貰いたかったが、あの男が自分以外に適任がいると言うのだからそうなのだろう。

 

一体どこまで見えているかなど考えるのすら馬鹿らしくなる。

 

「感謝するぞ、迦陵ちゃん、!おかげで光明を得た」

「そうなら、まずは迦陵ちゃんを止めて。それと、逃げようとしても無駄よ」

「うぎゃぁぁぁああ!」

 

言いながらの雰囲気で誤魔化しながら逃げようとした一誠に火球が飛ぶ。

 

不意をつこうと逆に不意をつかれたので避けること叶わず、全身を火だるまにされるも、すぐに白夜叉が火を飛ばし助けてくれる。

 

「助かっ」

 

その時二人の美女が浮かべていた笑みは、生ゴミを見るように腐りきっていてゆっくりと互いに鬱憤をぶつける。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変態とはいかにしてなるのか。

1ヶ月間も空いちまったぜ。
少しモチベが下がってたからまじすまねぇ。書き方も忘れちゃったから、読みにくかったらすまんな。


それと、本当はこの話に挿絵を入れる予定だったが、鎧が上手くかけずに辞めた。デジタル絵を上手く書いてる人達本当に尊敬いたします。


 

 

「ヤハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

「クスッ...」

「ひはふぅぁ」

 

三者三様ではあるがその反応は総じて爆笑だった。

 

腹を抱えその場で蹲るように笑う十六夜。

顔を逸らし目元を覆いながら笑う春日部。

笑いすぎで過呼吸気味の飛鳥。

 

何故そんな反応をしているのか、その理由は単純明快だ。三人の前にいる一誠の姿のせいである。

 

腰に巻かれている唯一の衣類─純白の褌。日本古来より伝わる下着の類のそれだが、一誠は隠すことをせず逆にそれ以外の衣類をすべて脱ぎ去っている。

 

その上失った右手を隠すため部分禁手をしていて、頭部も同じく部分禁手で隠している。

 

どこからどう見ても変態である。

 

 

変態がそこにいる。

 

 

白夜叉(師匠)に騙されたァァァァァァ!!」

 

鎧頭を抱えながら叫んだ声は虚しくも余計白い目で見られることになる。

 

 

 

 

冒涜的なまでの変態格好を取った理由は数時間前に遡る。

 

白夜叉は魔王の襲来により活気が下降気味のアンダーウッドをどうにかするため、とあるギフトゲームを企画した。

 

ギフトゲーム名″ヒッポカンプの騎手″

 

・参加条件

          一、水上を駆ける事が出来る幻獣と騎手(飛行は不可)

          二、騎手・騎馬を川辺からサポートする者を三人まで選出可。

          三、本部で海馬を貸し入れる場合、コミュニティの女性は水着着用。

 

・禁止事項

          一、騎馬へ危害を加える行為は全て禁止。

          二、水中に落ちた者は落馬扱いで失格とする。

 

・勝利条件

          一、アンダーウッドから激流を遡り、海樹の果実を収穫。

          二、最速で抜けた者が優勝。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗をホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。″龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)連盟″印

 

 

全男達が今後先白夜叉へ足を向けて寝れないほどの興奮を見せる。だが、その裏で動く思惑に気づくものは少ない。

 

サラが先日の魔王との一件で角を失い、そのせいで階層支配者を辞退する事となり後釜を決めようとなっているのだ。

 

二翼のヒッポグリフのグリフィスはこの時を狙ったかのように参加を表明し、優勝すれば階層支配者の座を受け継ぐと豪語する。

 

それを阻止するためにもノーネームは参加する事にした。元はただ楽しむために参加だったのだが......

 

と、そんな折一誠は白夜叉から何故か呼び出しを食らっていた。胸を揉んだ件はボコされ帳消しになったはずだと、他の原因数十個程を思い浮かべながら歩を進めている。

 

たどり着いたのは館の貴賓室と呼ばれる場所だ。扉の模様は知識の乏しい一誠ですら見て感嘆してしまうレベルで美しい。

 

普通ならばここでノックをして確認をとるなりするのだが、一誠にそんな考えはなく扉を押し開ける。

 

「なッ─」

「すみませんでしたァァァァ!!」

 

ひとまず原因が多すぎて何で呼ばれたのか考えが纏まらなかったので謝ることにした。

 

日本特有の謝罪方法【土下座】

 

仕方は文字そのままであり、土に座ってひたすらに頭を下げる事である。

 

綺麗にビシッと決まり謝罪の意思は伝わる。が、早速怒られる原因を一つ増やすことになる。

 

「それは今覗いたことの謝罪かァ!随分と堂々とした覗きだなぁァァァ!!」

 

そう、白夜叉は着替えていたのである。忙しいタイミングで呼び出してしまったのだから、謝罪の意を込めて水着姿でも見せてやろうと。

 

しかし、水着より先に裸を見せる事になった。それも謝りながらである。

 

ちょうど地べたに転がっている一誠の頭に渾身の蹴りが炸裂した。

 

箱庭広しと言えどこんな事を出来るのは一誠以外に居ないと断言出来る。

 

 

 

 

「全く...貴様には水着ていど見せるのすら何とも思わなくなってくるな......なぁ変態覗き魔」

「違うそうじゃない」

「言い訳か?いいだろう聞いてやる。だが、もししょうもない事だったら分かっているな」

 

赤く腫れた頬を抑えつつ正座している一誠に降り注ぐのは軽蔑の視線だ。

 

何度目か─百を超えた辺りから数えるのをやめ、する度にボコすのだが一向に治らないラッキースケベ癖。

 

呼び出した場所で着替えてた自分もいけないと思いながらも、普通ノックをするのが常識だろと思っている。思春期の男子ですらその辺は徹底しているのに。

 

身体の正面で組んだ腕を解く事なく、ほれほれと足を前後させる。

 

すると、一誠は何を思ったか突如として立ち上がる。

 

「俺は考えた。覗きをして何を怒っているのかと...答えは簡単だったんだ」

「ほほう」

「自分の裸だけを見られるのか嫌なんだ!だから俺も脱ぐ!!これでお相k」

「違うわァ!」

 

上着を脱げ捨て世迷言を言い始めた一誠に今度はゲンコツで鳩尾を穿つ。

 

「ガはッ─」

「変・態・即・斬」

 

正義の拳に悪は屈した。

 

 

 

 

閑話休題。

 

制裁と言うなの説教を終え二人は向かい合うように椅子へ腰を下ろす。

 

「ここから先はおふざけ無しだ一誠」

 

白夜叉の表情から笑みが消える。真面目なそれこそ魔王のようの表情だ。

 

声のトーンが数段落ちた事でさすがの一誠も自覚し、おふざけを抜いた真面目な表情になる。

 

「お主は、ヒッポカンプの騎手には参加するな」

「もちろん」

「ならばだ、聖剣の使用を禁止する。理由は言わずとも分かるだろうが、一応説明しておこう」

 

椅子に座り直したためたわわに実った胸を揺れ、邪魔なので腕を組んで固定する。

 

「まず一つ目、聖剣と言う武器が強すぎるのが原因だ。その気になればスタート同時に勝敗がつく。それではいささかゲームとして面白味がない。

 

次に二つ目だが...赤龍帝の篭手の禁手禁止だ。これに関しては、お主の今の実力を知って欲しいからだ。全身でなければ、片腕などは使って大丈夫だ」

 

白夜叉の語った事は実に理にかなっている。

 

騎馬への危害は禁じられているが騎手への危害は禁じられていないので、開始の合図とともに聖剣をぶっぱすれば、騎馬を避けながら騎手を倒すことが出来る。

 

それでも残る者はいるだろうが、聖剣の一撃を受けてノーダメとはいかず、かなりのダメージを負い追撃で簡単に倒せてしまうはずだ。

 

それでは意味が無いので、白夜叉は禁止を言い渡した。

 

「そんな強いヤツが出るのか?」

「そうだ。剣術においてはランスロット以上の者がおる」

「ラン以上...それってフェイス・レスか?」

「知っておったか」

「いやー軽く聞いてたぐらいだから、詳しくは知らない。教えてくれなくていいぜ、その方が公平だろうし」

「相分かった」

 

頷き両諾を得て最後のルールを告げる。

 

椅子の横に置いてあった紙袋を二人の間にある透明なガラスの机の上に置く。

 

「それは?」

「これは最後の三つ目についてだ。開けてみれば分かる」

 

首を傾げながら袋を受け取り中身を見る。そこにあったのは一枚の細長い白い布だ。

 

すぐに目を逸らし、目くじらを強く抓りもう一度覗く。

 

シロイヌノガアル。

 

「む?分からんか?褌なんだが」

「ぷはぁ!ふ、褌??」

「うむ。男性目線の事ばかりを考えていたせいかな、女子達から文句が上がってのう...中でもケモ耳娘っ子が兵藤一誠を褌にと講義してきたのだ」

 

一体ケモ耳娘っ子が誰かなのか一誠は分からないが、他のノーネームのメンツに聞けば百発百中で正解を知っていることだろう。

 

「ダメか?無理ならあまり」

「いや、まぁ...うん分かった。仮面つければ恥ずかしさ無い?だろうしまぁ頑張るよ」

「そうかそうか!いやー助かったぞ」

 

交渉が成立し笑顔で立ち上がる。その時の笑みを他に見ていた者がいたのならば、邪悪だったと答える事になる。

 

 

と、そんな事があり今に至る。

 

「飛鳥騎手やる?」

「私?けど、春日部さんの方が」

「ヒッポカンプの速度についてこれる?」

「無理ね。大人しく騎手をやるわ」

 

騎手も決まり大体の役割分担が完了した。

 

十六夜・一誠・春日部が外からの妨害を担当し、飛鳥が騎手としてヒッポカンプに跨る。

 

丁度決め終わった所で参加者は準備を開始してくださいとアナウンスが入り、各々気合いを入れ直しギフトゲームへと向かう。

 

「よしやるか!」

「絶対勝つわよ」

「当たり前ブイ」

「面白おかしくしてやるか」

 

ノーネームのほぼ全戦力を投入したギフトゲームは今始まる。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

外ではギフトゲームの影響もありかなり賑わっている。ほとんどの人が観戦に流れていき、大量の書物が眠っているランスロットのいる場所には人っ子一人いない。

 

(私にはこれ(″武″)しかない。今まではそれで良かったが、ノーネームの一員となった今は少ない知識を増やす必要がある)

 

アーサー王を失い絶望に明け暮れていた過去は一誠に吹き飛ばされ、他の皆に迷惑をかけず戦力になりたいと心が変化し始めていた。

 

ひたすら最優の騎手を目指し力や武ばかりを身につけていった過去の自分が恥ずかしいとすら思っている。

 

「くぅっ......あぁ...これで五十冊目......まだまだ先は長いですね」

 

休みは二時間に十分ペースで取り、一切睡眠を取らずここまで飛ばしてきたランスロットの目にも、さすがに疲労の色が見え始めた。

 

それでもと、次の一冊に手を伸ばそうとした時だ背後に現れた気配に気づいたのは。

 

「それで背後を取ったつもりですか?いささか雑ですよ」

「いや、戦闘をしに来たのではないからわざとだ」

 

言い訳をと本をゆっくり棚に戻して振り向く。

 

そこに居たのはどこかの民族衣装に身を包んだ白髪の少年だった。されど、何処と無く雰囲気が十六夜に近しい。

 

いや、近いようで遠い不思議な感覚だ。

 

不気味ながらも肌が感じる強さはアーサー王にすら匹敵しうる。

 

(だが、まだ若い。せめてあと数年すれば間違いなく、この箱庭においてトップクラスになる)

 

確信していた。信じるに値する力がある。

 

腰に指さっている剣の柄にそっと手を添え聞き返す。

 

「何用ですか。私に用があるような言い方でしたが」

「君には私の仲間になって欲しい」

 

何を世迷言をと即断ろうと口が開く前

 

「アーサー王の事について語ると言ってもか?」

「なに!」

 

エサとしては十分で過剰なくらいに獲物は叫び声をあげる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どったんばったん大騒ぎ

お次が長くなりそうなので今回は短いです。はい

ネタ回はいいね書きやすい


 

「なるほどな...噂では聞いてたが、クソ面倒な事に巻き込んでくれたな」

「是が非でも勝たなくちゃな」

 

ジンより今回のギフトゲームの本意を聞かされた。

 

優勝者が次の階層支配者を決める事となり、サラ達はノーネームに全ての期待を込めたと。

 

軽い噂で聞いていてある程度覚悟をしていたが、余計にめんどくさい事になったようだ。

 

「もう、一言ぐらい言って欲しかったわ」

「サラに美味しいものを奢ってもらうしかない」

 

耀は何を奢ってもらおうかと思考を巡らせる。そこに、万が一【二翼】に負けるなんて考えはない。

 

だな、概ね賛成を表した十六夜は女性陣の衣服に視線を移す。

 

「にしても、白夜叉のやつ本当に水着を貸し出してたんだな。珍しくまともなことをすんじゃねえか」

「どこがよ十六夜くん」

 

少し恥ずかしさがあるのか顔を赤らめ、大きく膨らんだ胸を両腕で押しつぶして忌々しそうに言い返す。

 

パレオによって大体は隠せているものも時々見え隠れする、白い太ももやふくらはぎは視線を釘付けにする。ワンピースなどの長いスカートでいつも隠しているので新鮮味がある。

 

変態的思考になってしまうが羞恥に歪んだ顔と服装は見事にマッチしていて、一時間見たとしても飽きることは無いだろう。

 

それに対して耀は腹を括っているのか特に隠すことをしていない。

 

これ以上発達が見込めないと思っていた胸も微かに成長していてよく目を凝ら──しても成長しているようには見えない。

 

それでこそ耀だと頭を縦に振る褌変態は防御力皆無の鳩尾に拳が突き刺さる。

 

胸はビキニではなくセパレートタイプだが、年相応で似合っている。万人に受ける容姿と合わさり、飛鳥とは違った魅力がある。

 

なのだが今の行動を見ると淑女とは程遠いように思える。

 

「ジロジロ見ないでよ」

「おいおい何言ってんだよ、水着なんて見られてナンボだろ。なぁ一誠」

「全くその通り、こんな機会あまりないから嬉しいよ。それと俺の名前今回限りで変態仮面な、正体バレないようにしたいんだから」

 

今更名を変えた所で兵藤一誠だとバレないと思われるはずもないのだが、その事を伝えるのは面白くないと三人は結託している。

 

「おう分かったぜ変態仮面(笑)」

「了解よ変態仮面(恥)」

「うん変態仮面(悲)」

「よしお前ら表出ろ...ボコボコにしてやる!」

 

本番前だと言うのに彼らに緊張の色は見えずいつも通り和気あいあいとしている。

 

そして、恥ずかしさから皆の前に姿を表せない黒ウサギが意を決して出るのはもう少しあとである。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

ラプラスの小悪魔達が映し出しているスクリーンには後々″ヒッポカンプの騎手″の映像が流れるので、何も映っていない今でも一度たりとも逃さないと宴のようの騒ぎながら視線が集中している。

 

ラプラスの小悪魔とは未来を見通すラプラスの悪魔の端末で群体悪魔である。

 

本日の醍醐味のギフトゲームに皆興味津々のようで、どんちゃん騒ぎをしながら各々の席についている。

 

そんな彼らに声をかける幼女の集団がいる。

 

「斑梨のジュースはどう?斑模様だけど黒死病にはならないわよ」

「やめぇい!お前が言うと紛らわしい」

 

麦わら帽子を深く被り姿を隠しながら、ペストは梨のジュースや切られた物を首から下げた籠に入れながら販売している。

 

後には弱い力でツッコミを入れる会計担当のレティシアもいる。

 

「なんで私がこんなことを」

 

涼しい小部屋で惰眠を貪るはずだったペストは悪態をつく。

 

そんな彼女に仕方が無いだろうと頭を横に振るう。

 

「こういう時に財を稼ぐのも大事だろう...と言ってきた本人がいないがな」

 

二人に販売をお願いしてきたリリはこの場にいない。理由は深く聞いていないが、白夜叉に直談判してくると尻尾を高速で振りながら走っていった。

 

面倒事を押し付けやがって─そう思いながらも販売を二人は続けていく。

 

ちなみに原因のリリは、別の部屋でせっせととある漫画を書き販売していた。売上はかなり上々で″サウザンドアイズ″に仲介を頼み大々的な販売を視野に考えている。

 

と、販売を進めているとスクリーンに映像が映し出される。

 

そこにいるのは和服の白夜叉とお目付け役のいつもの店員に黒ウサギだ。

 

『大変長らくおまた─』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!」

「黒ウサギちゃんの水着最高っっっううう!!」

「フォーー!!待ってました!!」

 

始まりの声をかき消したのは男達の野太い大歓声である。

 

美女達の水着姿に男達のボルテージは鰻登り、この時を忘れまいと目をガン開き脳に焼き付けている者もいる。

 

「白夜叉様万歳!白夜叉様万歳!」

「もう死んでもいいや」

「俺は人間をやめるぞォォォォォォ!!」

 

興奮は最高潮に達し血を吐きながら気絶するものも出始める。

 

そんな彼らにペストは汚物を見るような冷徹な視線を送る。中にはそれで興奮した者もいたとかいないとか。

 

呆れるようなため息を吐きながらその場をあとにしていく。

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

ヒッポカンプの実況席では白夜叉がドヤ顔を決めながらマイクを握っている。

 

『うむ大変元気がよろしい!!諸君らの声はこちらに届いておるぞォォォォォ!!!』

『いい加減にしてください白夜叉様』

 

いつもは割烹着を着ている店員さんだったが、上司の命令を無下にする事はできざ水着を着らされたようだ。

 

それでもそこら辺の女子たちより圧倒的に整った顔にプロポーションは、男達の視線を集めるには十分だ。

 

だが相手が悪かった。隣にいる箱庭の貴族(恥)の方に視線は多く集まる。

 

ビックバン見たく大きく育った胸を押さえつけるビキニタイプの水着もいささかサイズが小さいのか、胸に端が沈み込み少し動くだけで胸が大きく縦に揺れる。

 

うぅぅ。恥ずかしそうにウサ耳の先まで赤く染めながら、もじもじしている姿は男達を悩殺していく。

 

『さて、随分と場が温まって来たようなので一言......相変わらず黒ウサギはエロいな』

『さっさと始めくださいこのお馬鹿様!』

 

どこからともなく取り出されたハリセンが白夜叉を襲う。

 

強打された後頭部を抑えながら立ち上がり

 

『黒ウサギはエロ』

 

無言で二度目の強打を喰らう。

 

もう一度変な事を喋ったら叩き潰すとハリセンを右手に小さく叩きつけながら、殺意の篭った視線で睨む。

 

これ以上弄ると不味いと悟った白夜叉は一度喉を鳴らし声を上げる。

 

『これ以上痛いのは勘弁なので真面目な話をしよう。この度の収穫祭は我々か″サウザンドアイズ″も多く出店しているが、残念な事にゲームの開催まで期間があまり無かった。

 

なので、″ヒッポカンプの騎手″を勝ち抜いた参加者には我々から望みの物を贈呈しようと思う』

 

その言葉にさらなる歓声が上がる。

 

観客席では参加すればよかったと悔やむ者が続出し、参加者も途端に燃えがる野心に空気がピリつく。

 

手網を握る飛鳥は深呼吸を何度も繰り返して心を落ち着かせ、大河の両岸にいる三人に視線を配る。

 

一誠が親指を上にあげ頑張れと口を動かし伝える。

 

(そうね。そうよね、サラのためにも誰にも負けるわけにいかないの)

 

美しいヒッポカンプに乗り轡を握る仮面の騎士フェイス・レスを尻目に覚悟を決める。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。