貴女の為の物語 (ぬえぬえ)
しおりを挟む

貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)

「書いてって言ってるのにー!!」

 

「ついてくるなと言ってるだろうが」

 

 

 白の壁と長い通路が何処までも伸びる廊下をひたすら歩き続ける。その後ろをまるで生まれたての雛のように慌ただしく後を追い、プリプリと怒りながら文句を飛ばす幼女が一人。

 

 

 透き通るような白い素肌に薄紫色の瞳。ふんわりとウェーブのかかった銀色の髪が黒を基調とした白のフリルにキノコの模様があしらわれたドレスと共に上下に、大きなリボンは彼女の感情を表しているように左右に揺れる。その小さな口は餌を求める雛鳥のように喧しく喚き散らし、その小さな手は俺の背中へと伸ばされ、申し訳程度に服を掴んでいるのだ。

 

 

 この幼女の名前はナーサリー・ライム。

 

 

 元々が『童謡』と言う、多くの子供たちが夢を見て、空想の中で願った概念であったために不完全な存在だったのを、俺が『誰が為の物語(nursery rhyme)』と名付けたことで完成した英霊だ。俺とは名付け親や『童謡(彼女)』に深く関わった生涯であった等々、様々なケースで何かと共通点が挙げられる存在でもある。

 

 そんな彼女も我らが馬鹿(マスター)の度重なる爆死の末にやってきたのだが、召喚された初日に人の仕事場に入室(ダイナミックエントリー)、開口一番に「人魚姫を書き直せ!!」と叫ぶとんでもないファーストコンタクトを叩きつけてきた。嘆かわしいことに、ロンドンの面影が欠片も感じないトンデモお転婆娘に昇華(?)されてしまったのだ。

 

 ある種トラウマと化した最悪のファーストコンタクト以降、顔を合わせるごとに突っかかっては「あの話を書き直せ!!」だの「続きを書け!!」だの言ってくる傍迷惑な存在と化してる。因みに、ファーストコンタクト直後にオカン(エミヤ)に首根っこ掴まれて引きずられていく姿は最ッ高に滑稽だったな。

 

 

 とまぁ、そんな迷惑幼女にほとほと迷惑している俺は――――――もう名乗らなくても分かるだろ? その辺い転がる石ころに等しい三流サーヴァント。引き運が最底辺な馬鹿のせいで未だに最前線で働かされている可哀想なキャスター、ハンス・クリスチャン・アンデルセンだ。

 

 何故、こんな残念な状況に陥っているのか、それは昨日の種火集め終わりに始まる。

 

 度重なる種火集めによる過労を理由に起訴し、激しい(毒)舌戦の末に半泣きのマスターから休日を勝ち取ったのが昨日。奴は後輩と第六天魔王の二人に慰められ、その様子を見た節操無しで定評のある円卓騎士と魔王のために世界を歪めたヤンデレシスコンが極限まで開いた眼から血涙を流している脇をすり抜け、仕事場に逃れた。

 

 そして、一週間前に「神が舞い降りた!!」と叫んでから寝食を忘れひたすらにペンを走らせる同室の演劇作家、ウィリアム・シェイクスピアに「気分が良いから」と言って極限まで苦みを追求した熱々のコーヒーを嫌がらせ(プレゼント)して眠りにつく。

 

 翌日、いつもより遅い時間に起きると言う幸福を噛み締め、その恩恵をおすそ分けしようと白眼剥いて泡を吹いている彼に再び嫌がらせ(プレゼント)をお見舞い。イイコト(・・・・)をしたと晴れ晴れとした気分で食堂を目指していたら幼女に捕まり現在に至る、と言うわけだ。

 

 

 なんで今日に限ってこの幼女に捕まるのだろうか。いや、俺が『幼女』と揶揄出来るほどの外見でないのは重々承知している。(誠に遺憾であるが)傍から見たら我が儘な妹に振り回される哀れな兄に見えるだろうな。生憎、妹と言う存在が居なかったから特に何も感じないが。

 

 

 あぁ、せっかく俺の俺による俺だけのための可憐で優雅な自堕落ライフを決め込もうと思っていたのに……(プロローグ)から破綻する休日(物語)など、駄作中の駄作ではないか。

 

 

「マスターに今日暇だって聞いたから、いつもの『忙しすぎて死にそう』は通用しないわ!! もう悲しいお話(バットエンド)は見飽きたの!! だから、私が見たことのない幸せなお話(ハッピーエンド)を書いてちょうだい!!」

 

 

 なおも後ろで喚き散らすナーサリー。そうか、やけに今日は諦めが悪いと思ったらあの馬鹿(マスター)の仕業か。そうかそうか、そっちがその気なら俺にも考えがある。

 

 こんな物語(はなし)を書いてやろう。ヒロインはこのカルデアに居る女ども全員(・・)だ。一人の男を取り合う女どもとその状況に胃を穴だらけにしながら走り回る憐れな男、拗れに拗れたドロドロの人間関係に塗れたとんでもないバッドエンドをお見舞いしてやろう。

 

 

 さぞ、俺好みの物語になるだろう。その憐れな最期の幕引きにこの一言を添えよう――――――『リア充爆発しろ』とな!!

 

 

 

 

「Mr.アンデルセン」

 

 

 後ろで喚くナーサリー、そして沸々と煮えたぎる真っ黒な不幸(ストーリー)を思案していた俺に声がかかる。声の方を見ると、昨日馬鹿を慰めていた一人。

 

 献身的な性格から奴を『先輩』と慕う最初の英霊であり、(デミ)であるが故に色々と不完全ながらも常に奴の隣に立ち続け、共に大小様々な山場を潜り抜けてきた――――などと、これでもかと言うほど詰め込まれた圧倒的ヒロイン属性とそのポジションを防衛し続ける後輩、マシュ・キリエライトだ。

 

 まぁ、最近どっかの魔王に奪われつつあるようだが。

 

 

「最近頭角を現してきた魔王からヒロインポジを奪還したいのか? ベタなところで言えば、最期に奴の身体に縋り付いて泣き叫ぶ役が妥当だな。元々献身的な性格だからキャラ崩壊も少なくて済む、何よりそれだけ美味しいところを持っていけば十分だろう」

 

「……何の話をしてるのでしょうか?」

 

 

 ポジションについて問いかける俺に彼女は苦笑いを浮かべながらそう返した。彼女は俺の愛読者(ファン)、愛読者を大切するのは当たり前のこと。故に、登場が確定している彼女には一番美味しい役どころを与えたいのだ。

 

 そんなの作家として駄目だろう、だと? 残念、俺は()作者だから問題ないのだ。駄作者は愛読者を愛する、決して後ろで喚き散らす幼女から逃れるために利用しようとか、そんな汚い考えではないぞ。

 

 

「残念だけど、あたしが先に書いてもらう(・・・・・・)のだからね!!」

 

「はい、どうやらそのようですね」

 

 

 後ろのナーサリーが放った強めの一言と、そしてその言葉に残念そうに肩を落とすマシュ・キリエライト。と言うか、書いてもらう(・・・・・・)、だと? まさか俺に物語を書けと言うのか? 確かに作品について色々と言われたが、あの場に居た貴様なら『休日』に対する俺の妄執を分かってくれると思っていたのに。

 

 いや、待て。これはまさか――――

 

 

「き、貴様も馬鹿(アイツ)の手先なのか……?」

 

「あ、いえ、マスターは関係ありません。ただ、ちょっと書いていただきたい物語がありまして……」

 

 

 俺の言葉に彼女は即座に否定した。声や表情は変わってないところを見るに、本当のことだろう。まぁ、『アイツ』が誰なのか分かっている時点で色々と突っ込みたいところだが、今回は許そう。しかし彼女が俺にお願いか、珍しいこともあるものだ。

 

 

「よし、先ず話だけを聞こう」

 

「何で!? あたしが先でしょ!?」

 

「話を聞くだけ(・・)だ。『書く』なんて悍ましい言葉、一言も言ってない」

 

 

 俺の言葉にナーサリーが叫ぶ。煩い奴だ、全く。と言うか、同じ俺にお願いする立場なのにこの態度の差は何だ? こればかりは愛読者だからとか関係ないぞ。むしろ、お前は彼女から腰と頭の低さを学べ。そしてそのまま俺を一生養え。

 

 それならお好きな作品をいくらでもお望みのままに書き倒してくれるわ。まぁ、その殆どが『駄作』と呼ぶことすら憚られる代物になるのは確定だが。

 

 

 

 

 

「『家族』について、一つ物語を書いて欲しいんです」

 

 

 マシュ・キリエライトは何処か躊躇うような表情でそう漏らした。その言葉に、後ろのナーサリーは「はて?」と言いたげに首を傾げた。俺も彼女に同感だ。むしろ、作家にとってこの手のお願いが一番難しいと言える。

 

 

「『家族』、とは漠然とし過ぎだ。『親子』とか『夫婦』とか『兄妹』とか、もう少し絞り込まなければ書けるモノも書けん(俺にとっては好都合だが)。それに、俺が書く『人間』の話はもれなく最悪の幕引き(バッドエンド)になるぞ?」

 

「だから何でそうしちゃうのよ!!」

 

「この世で全員が仲良く手を繋ぎ笑顔で終われる結末があると思うか? むしろ、それの何処が面白い? 皆が笑顔になって手を取り合って笑い合う、そんな『虚構の幸福』なんぞの何処が面白いと言うのだ。それに、そんな話(ハッピーエンド)なんぞこの世に腐る程溢れているだろうが。何故わざわざ俺が新しく書かねばならん」

 

 

 キーキーと喚くナーサリーを適当にあしらいつつ、『仕事したくない』をオブラートで何重にも包んだ言葉を吐き出す。まぁ、『虚構の幸福』に夢を見ること自体、愚かで底知れない絶望への片道切符だからこそ書かないわけだが、所詮この世に絶望したへそ曲がり者の戯言だ。わざわざ明言する必要もない。

 

 

「とまぁ、恐らく貴様の望む話とはかけ離れたモノになるぞ? それでもいいのか?」

 

「はい、ハッピーエンドかバッドエンドか、そう言うのは問題ないので。むしろ、そう言ったモノが無い物語を、普通(・・)のお話をお願いします」

 

 

 彼女の言葉に、俺は更に眉を潜めた。『普通』? ますます分からなくなってきたぞ。物語に『普通』を求めてどうするのだ。

 

「私、生まれてからずっとカルデア(ここ)で生活していましたから、『家族』と呼べる人はいません。それに、人から見れば私の境遇は『特殊』であるらしいので、皆さんが感じる『普通』と言う感覚もいまいち分からないんです。有るのは与えられた本の中だけ、その中で一番読み込んだのが貴方の作品でした。貴方の作品で、私はたくさんの『家族』を見ました。その殆どは悲しいお話ばかりでしたが、その中にある暖かいお話は『家族』がいかに暖かく、いかに素晴らしいかを知ることが出来ました。だからこそ、沢山の『家族』を描いた貴方に『普通の家族』がどのようなモノか、教えていただいきたいのです」

 

 

 そう言って、マシュ・キリエライトは深く頭を下げ、その姿に俺は思わず頭を抱えた。俺が此処に召喚されたのは初期だったから彼女との付き合いも長く、そして彼女の出自も前にドクから聞いている。

 

 

 自らをこの世に産み落とした母親、そして父親などの『家族』は愚か『人間』と言う存在すらも知らない。そのくせ目覚めた瞬間に己の存在意義を、そしてその終わり(・・・)を知っている、そんな矛盾を孕んでいる。また、彼女の持つ知識は全て(・・)与えられた本から得たモノばかり、現実(真実)と触れあうことが出来たのはつい最近なのだ。

 

 初めて会った時も、何処か地に足が付いていない不完全な存在に見えた。何を見ているのか、何を考えているのか、何をしようとしているのか、全く分からない。アイツがその手を握っていなければ瞬く間に何処かへと吹き飛ばされそうな程軽く、脆く、儚く、己の存在すらも手放しているような、それが彼女だった。まぁ、俺たちと共に沢山の特異点()を走り抜ける中でだいぶ変わったのだが。

 

 そんな彼女が『家族を知りたい』と思うのも、まぁしょうがないと言えよう。むしろ、その情報源が俺の作品だけで大丈夫なのか、とさえ思う。自分で言うのも何だが、俺の描く『家族』もなかなか特殊なモノだからな。数々の名作を生み出しまくった演劇作家の方が向いている。

 

 

 また、本来普通ではない(・・・・・・)ことを土台に妄想や鬱憤を好き勝手書き散らすのが『物語』と言うモノ。そこに『普通』を入れたらどうなる? それはもはや『物語』とは言えない。事実を後世に伝えるための『記録』、または何の変哲もない日常を記した『日記』になってしまう。そんなものの何処が面白いと言うのだ。

 

 それに彼女は少々俺を誤解している。色んな境遇の『家族』が書けるのなら『普通』も書けるよね? なんて子供のような理論で言われても、こっちとしては出来るわけないだろう、と言うしかないのだ。

 

 

 これも演劇作家の方が……面倒だ、アイツに投げてしまえ。

 

 

「そう言う、奇抜で驚天動地な物語は俺なんかよりも適任な英国演劇作家がいるだろう。奴に頼め」

 

「それが……『普通』と言った瞬間に見たことが無いほど激昂されまして……『普通、平凡、凡人、凡庸、常識、正論等々等々、面白ければ全て良し!! と謳う吾輩が尤も忌み嫌う言葉ですぞ!! 良いですか? そもそも面白いと言うのは……』と言う感じで『面白い』について延々とご教授してもらい、最終的に断られてしまったんです」

 

 

 俺の言葉に何処か疲れた様な表情で項垂れるマシュ・キリエライト。あぁ、そう言えばあの演劇作家は『普通』にカテゴライズされるモノ全てを嫌っていたな。アイツ自身の人生が色々とアレだったから、ネジの一つや二つ弾け飛んでいるのかもしれん。俺が言えたことではないが。

 

 ともかく、頼みの演劇作家は既に撃沈したとなれば他に誰が居るだろうか。ブリテン王の話しかしない花塗れの魔術師に、『ねっとすらんぐ』とか言う奇怪な言葉を巧みに操る髭面オタク、自らをクズであると公言して無駄話と下ネタに全力を注ぐ天才音楽家、そのほか特定の人物の話になると目を輝かせて饒舌になるメンツ等々……駄目だ、ロクな奴がいない。むしろ悪影響を与えかねんぞ。

 

 

 ……はぁ、仕方がない。

 

 

 

「今回だけだが、どうなっても知らんぞ?」

 

「本当ですか!!」

 

「ちょっと!! あたしは!!」

 

 

 ため息交じりに吐いた俺の言葉に、マシュ・キリエライトは目を輝かせて、後ろのナーサリーは目を鋭くさせて声を上げた。割と近くで叫ばれたために耳を抑え、双方に目を向ける。

 

 

「『駄作者は愛読者を愛す』、それを実行するだけだ」

 

「だ、だったらあたしも愛読者で――――」

 

「一つ問おう。お前は自分が書きたくて書いた物語を、他人から『納得いかない、書き直せ』と言われたらどう思う?」

 

 

 なおも食い下がるナーサリーに己がやっていることがどのようなモノであるかをぶつける。案の定、彼女は押し黙った。己の行動がどんなことであったか、ようやく理解したようだ。まぁ、そんな彼女も愛読者であるわけで、突き放しっぱなしじゃ作家として生きていけない。

 

 

「マシュ・キリエライトの件が終わったら、新作を書いてやろう。最悪の幕引き(バッドエンド)ではない、最低でもまともな終わり(トゥルーエンド)にまでは持っていく、そんな物語を書こう。それでどうだ?」

 

「ホント!!」

 

 

 俺の言葉にしゅんとしていたナーサリーは勢いよく顔を近づけ、爛々と輝く目を向けてくる。俺は己の欲望に従って好き勝手書き散らす駄作者であるが、同時に愛読者の期待に応える作家だ。伊達に物書きで飯を食ってきた訳ではない、その辺のフォローも慣れたモノだ。そう心の中で呟きながら、彼女の言葉を肯定した。

 

 

「絶対よ? 絶対だからね!! じゃあ、楽しみにしてるわ!!」

 

 

 俺が新作を書き下ろすと宣言したことがよほどうれしかったのか、ナーサリーはその言葉と共に見た目相応の笑顔を浮かべながら勢いよく走り去った。カルデアのチビッ子たちに教えに行ったのかもしれんな。こりゃ後で縋り付かれるかもしれん。さっさと仕事場に戻ろう。

 

 

「あの、ありがとうございました。せっかく羽を伸ばせる休日に無理言ってしまって……」

 

「俺の気まぐれだ、気にするな。それと『今日中に書き上げて』、なんて無茶はよしてくれ。絶望のあまり座に還りたくなる」

 

「そ、それは困ります!! いつまでも待ちますから還らないでください!!」

 

 

 俺の言葉に慌てるマシュ・キリエライト。よし、これで言質はとった。このまま書き上がりを引き延ばして、いつしかこの約束自体が有耶無耶に……なんてことはしないからな。作家故、愛読者を裏切るような真似は絶対にしない。

 

 それに、あれ程俺の作品を褒めてくれたのだ。その言葉に応えなければ作家として、人として文字通りのクズになってしまう。また『世界三大童話作家』なんて大層な看板も背負っているのだ、恥ずかしい真似も駄作も書けん。俺の持ちうる全てを持って、彼女の望む物語(モノ)を見せてやろう。

 

 

「では、執筆に入らせてもらう」

 

「お願いします!!」

 

 

 そう言って立ち去る俺の背中に、今日一番の元気な声が聞こえる。その言葉を受け止め、俺は頭の中で筆を手に取った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貴女のための物語(アイネン・ゲシヒタ・スゥア・ズィ)

「……乗らん、全く乗らん」

 

 

 仕事部屋で椅子に全身を預けながら、俺は天井に向けて身体中の全てを曝け出すかのように深く深く息を吐く。煙草でも吸っていれば口から漏れる煙で遊べたのだが、子供の姿ではそれが許されないのが億劫に感じる。

 

 その体勢のまま、前にある仕事机に目を向けると、途中まで書き綴った原稿が10枚程。次に俺の足元に目を向けると、グシャグシャにした紙くずがこれでもかと散乱している。

 

 それらが、ここ数日自らが生み出したモノ。それを駄作と呼ぶか秀作と呼ぶかは人それぞれだが、作者(おれ)にとってはどれもかしこも等しく『駄作』だ。

 

 

「……この世の終わりかと思うほど筆が乗らんぞぉ」

 

 

 再びぼやきつつ、手に持った羽ペンを放り投げる。放り投げたそれはクルクルと回りながら宙を舞い、やがて散在している紙くずたちを蹴散らしながら床に落ちた。

 

 

 紙くずたちが擦れる音、羽ペンが床に落ちる音、自らが身体を預ける椅子が軋む音。暇つぶしに作家らしい言葉に置き換えてみよう。

 

 

 紙たちが踊りながら讃美歌を奏で、羽ペンがステージ上でタップダンスを披露し、椅子がその素晴らしさにスタンディングオベーション。

 

 

 駄目だ、その程度のモノしか浮かばない。

 

 

 大体何だ紙が奏でる讃美歌って。只単に肉体と肉体をぶつけ合っているだけではないか。

 

 羽ペンがステージ上でタップダンスぅ? リズムもくそも無くただ適当に床を鳴らしているだけではないか。その程度、小僧(おれ)でも出来るぞ。

 

 椅子がその素晴らしさにスタンディングオベーション? 既に立っている(・・・・・・・)ではないか、それに手も叩けぬ。ヤツ自身が音を出すにはもう床に倒れるしかないぞ? それこそ、羽ペンのようなタップダンスではなく、文字通りに己を犠牲にするブレイクダンスでな。

 

 

 ……誰が上手いことを言えと言った駄作者(馬鹿め)が。(きさま)はとっとと羽ペンを手に取り物語を書かねばならんのだ、さっさと動け愚か者。

 

 

 何故俺は自分を罵倒しているのだ? 駄目だ、頭が回らなくなってきた。よし、こんな時は……―――

 

 

「ほう、露出癖の噂は本当だったのですな」

 

 

 ふと椅子から身を起こした時、背後からそう声を掛けられる。それに錆び付いた車輪を無理やり回すが如くグギギギッと首を回し、その言葉を発したであろう同室者を睨み付ける。

 

 

「おや、どうされました? 脱がないのですかな? あまりの清涼感に叫びそうになる、とおっしゃっていたではないですか……それとも興が冷めたのですかな? まさか吾輩直々にお手伝いをして欲しいとでもおっしゃるのですかな? 吾輩、残念ですがそういった趣味は持ち合わせていないので」

 

「余計な癖を付け加えるな」

 

 

 ご立派な髭面にぶん殴りたくなるような笑みを浮かべ、その男―――――――ウィリアム・シェイクスピアは俺に対する在りもしないレッテルを口々に溢してくる。そのお返しに俺は冷徹な言葉と視線を投げかける。勿論、そこから壮絶な舌戦を大真面目に展開しようという気はヤツ、そして俺もない。現に俺はため息を吐き出しながら再び椅子に身を預け、ハッハッハッと仰々しく笑うヤツの手には湯気を立ち昇らせる己と俺のマグカップがあった。

 

 

 どちらかが行き詰まったら片方がお茶を淹れる―――『締め切り』と言う言葉に怯える作家同士による、惨めで滑稽な傷の舐めあいだ。

 

 

「では、せめてもの慰めに、吾輩からの嫌がらせですぞ」

 

「そこは『プレゼント』とでも言い換える所だろうが」

 

 

 笑いを噛み殺しながらマグカップを手渡すシェイクスピアに不満たらたらの顔を向けながら苦言とぶつける。しかしヤツはどこ吹く風、殺しきれない笑いに身体を振るわせながら自らが淹れたカップを傾けるのみ。その姿にジト目を向けつつ、俺もカップを傾けた。

 

 相変わらずこいつはいつも紅茶を、それも砂糖もミルクも入れないストレートを寄こしてくる。本場出身だから不味いわけではないが、精神と体力をすり減らす文筆業を営む俺にとっては少々、いや大分物足りない。だから『ミルクたっぷりのココアにしろ』とか、『眠気を吹き飛ばすエスプレッソを寄こせ』とか、毎度毎度のように文句を垂れている。が、それが功を奏したことは一度もない。

 

 

 まぁそれこそが『嫌がらせ』であるから仕方がない。そのお返しに、俺もヤツの苦言に耳を貸したことは一度も無いのだがな。

 

 

「で、筆が乗らぬ原因とは何ですかな?」

 

 

 諦め半分でカップを傾ける俺に、ヤツは薄ら笑いを浮かべながらそう問いかけてくる。その知ったような顔に本の一つでも投げつけたくなったが、それをしたところでヤツがどんどん騒がしくなるだけ。事態を悪化しかねない、なので大人しくその言葉に乗せられておこう。

 

 

「興味が湧かんのだ、執筆対象に……」

 

 

 その言葉と共に、今しがた机の上にあった原稿用紙を引っ掴んでヤツに投げつける。それを澄ました顔で全てをキャッチし、彼はその中身に目を通し始めた。その顔は感情の一切が抜け切っている。あらゆる先入観を排除し、真剣に物語に向き合おうとするその姿は流石と言えよう。

 

 

 

 さて、ではここで何故俺がこうも行き詰っているかの説明をしよう。ことの発端は数週間前、マシュ・キリエライトに言われたこと。

 

 『普通の家族』の物語を書いて欲しい――――と言う、作家殺しとでも言うべきお願いだ。

 

 何となしにそれを引き受け俺は早速執筆作業に移ったのだが、それが地獄の始まりだった。

 

 

 先ず、『普通』だ。俺たち作家は『普通でない』ことを足掛かりとして物語を形成する。故に物語で『普通』を描くのは先ず不可能、『普通』を描いた時点で物語ではなく記録や記憶などに変わってしまう。つまり、『普通ではない』と言う物語の前提が破綻してしまうのだ。

 

 次に、『家族』だ。生前、俺は様々な『家族』を描いてきた。身分は庶民や王族、動物や物。その仲は良好であったり破綻寸前だったり、既に破綻していたりと、思いつく限りの形を書いてきたつもりだ。しかし、そのどれもこれもが『家族』と言う枠組みの一部分でしかない。それ以外の『家族』は星の数ほど存在し、俺だけでは全てを描き出すことが出来ないし、むしろしたくない。しかし、彼女が求めているのは『家族』そのもの。この世に存在しうる全て(・・)の『家族』を求めているのだ。

 

 

 不可能に不可能を上塗りしたそれに、俺は頭を悩ませた。どう想像力を働かせても、結局それは全体の一つでしかなく、全体そのものを映し出すことは出来ない。俺だけではどうしようもないではないか、どの道を進んでもに行き止まり状態だ。

 

 

 そこで俺は一つ妙案を、今となってはそれこそが更なる地獄の蓋を開けたのだが、とにかく一つの手を思いついた。それは周りを巻き込むこと、要するにこのカルデアに所属する人間からサーヴァントに『普通の家族』について取材をすることだ。

 

 これだけ時代や文化、思想や趣向が入り乱れる場所にいるのだ、きっと俺が思いつかないような『家族』がある。それをすり合わせて行けば自ずと全体そのものになるのではないか、と言う希望的観測に近い甘々な考えであったのは認める。

 

 と言うか、その時が筆が進まないストレスと全裸でカルデア中を走り回る(気分転換)しているところを見つかってマスターに説教されたなどで正常な判断が付かなくなってしまったのだろう。とかく、上手く回らない頭のまま始めたその時の自分に、今の自分はこう言ってやりたい。

 

 

 

 カルデア(ここ)に居る者で、『普通』なヤツが居る訳ないだろうがぁぁぁあああ!!!!

 

 

 

 そうだろう、そうだろうよ。此処にいるヤツは大体魔術師かそれに属する家の者たちばかり。世界全体を見ればそういった関係者のモノは極々少数なのだ、そんな極々少数の者しかここには居ないのだ。必然的に『普通ではない』話ばかり飛び出してくる。一族の権力闘争? 飛び級で卒業? 禍々しい研究の数々? これの何処が『普通』と言うのだ、むしろ『普通ではない』を更に掘り下げているだけではないか!!

 

 では人間ではないサーヴァントならどうだ? 聞くまでも無い、『否』だ。サーヴァントとして座に召された者が生前『普通』な生活を送っていたのでも? 壮絶な人生と血のにじむような不幸や明らかに人為的に操作された幸福に見舞われたリなど、『物語』の要素が入り混じっている者ばかり。そうだろうよ、人が語り継いだ伝説やおとぎ話を元にした者たちだ、彼ら自体が『物語』なのだ、そこに『普通』があるわけないのだ。

 

 

 つまり、取材を試みても結局は同じ穴の狢同士、語れる話は似たり寄ったりで俺が求めている解答を持つ者はいない。要するに、ただ単に無駄骨だったと言うわけだ。いや、無駄骨だけならどれだけ良かったから。

 

 

「アンデルセン様? 私と旦那様(ますたぁ)の『儚くも美しい恋物語』は何時出来ましょうか? え、何を言っているのか分からない? 何をおっしゃいますか、前に私たちの馴れ初めをお聞きになったでしょう? あれは私たちの物語を書くつもりだと思った(聞いた)のですが……よもや嘘だとはおっしゃいませんよね?」

 

 

「アンデルセン殿。その……マシュに物語を書いていると聞いたのだが、是非とも私の意見を取り入れてもらえまいか? 先ず、父親と言うモノは威厳に満ち溢れており、目の敵にするようなモノではないこと。そして、寛大な心を持ち合わせており、どんな女性に対しても敬う心を忘れず対等に愛す……って、何処へ行かれる!? まだ私の話は終わっていませんぞぉ!!」

 

 

「アンデルセン殿!! あのデミサーヴァントに物語を書くと聞きましたよ!! ここは是非とも僕の話を取り入れてあのマスターとくっつけてやりましょう!! そうすれば姉上は帰ってこられる……あんな幸薄そうな男なんかに姉上を任せるなんて、到底出来ません!! さぁ、一緒にあの男を消す……失礼、排除する策を練りましょう!!」

 

 

 とまぁ、こんな感じに話を聞きつけた一部の馬鹿どもが言い寄る様になってしまったのだ。それも何度も、最初のヤツに関してはほぼ毎日だ。そして、俺は口に出してないことをするつもりも、あの子の父親像を歪めるつもりも、況してやあの馬鹿(マスター)を排除する気も無い。なのに、ただでさえ筆が進まない上に欲に塗れた馬鹿どもが催促してくるのだ、辟易するなという方が無理な話。それでもやれと言うヤツは、もれなく駄作中の駄作の主役に宛がってやるから覚悟しておけ。

 

 

 取り敢えず、そんな状況だ。一応、先の奴らを黙らせるために物語を書いてはみたが、如何せん興味が無い話を押し付けられただけなので、その全てに興味の欠片も感じない。故に筆が進まない。また催促に来る。更に辟易する、と言う地獄のスパイラルに陥っているのだ。

 

 いや、分かっている。自分が蒔いた種なのは重々承知している。しかし、それでもこれはあまりにも酷い。何故俺は自らにこんな苦行を強いているのだろうか。今となってはそれすらも分からなくなってきたぞ。

 

 

 

「なるほど、貴殿の心中はお察ししましたぞ」

 

 

 俺が寄こした原稿を読み終えたのか、不意にヤツがポツリと呟いた。その顔にはまだ感情が戻っていない、何やら考え事をしているのか、それとも俺にぶつける感情を選んでいるのか、どちらか。

 

 

「一つ確認なのですが、これは誰のために書いているのです?」

 

「は?」

 

 

 感想をぶつけられるとでも身構えていた手間に質問が飛んでくると、それも分かり切ったモノが来ると思わなかった。故に思わず聞き返すと、ヤツは感情の読めない顔を俺に向けてくる。

 

 

「この物語は、誰のために書いているのですかな?」

 

「……知っているだろう? マシュ・キリエライトだ」

 

「ほう。して、その理由は?」

 

 

 再び問いかけられた質問に返すと、またもや問いを投げかけられる。その問いに、俺は答えようとした。だが、途中で言葉が詰まった、何故か詰まってしまった。

 

 

 『彼女に頼まれたから』、そう頭の中に浮かんだ。だが、そう口に出来なかった。何故ならその次に問われるだろう問いに、何故それを受け入れた(・・・・・・・・)のか、という問いに引っかかったからだ。

 

 

 俺は仕事は嫌いだ。しなくていいと言われれば飛び上がって喜びその者に接吻するだろう。いや、テンションによってはこのペンを叩き折るかもしれない。とにかく、仕事をしなくていいのであれば喜ぶ、喜んで惰眠を貪り、駄弁り、周りを煽る。英霊の身体を生かしてこの身が朽ち果てるまで怠惰を満喫する意気込みだ。

 

 

 そんな俺が、何故か彼女のお願いを聞き入れた。俺が最も嫌う仕事を、それも無茶苦茶な無理難題も添えられて、だ。いつもの俺なら聞く耳すら持たずに断る、もしくはマスターにやったように動員できるだけの毒舌を用いて叩きのめすだろう。

 

 もし、俺が断れば他の誰かが教えただろう。その誰かが花塗れの魔術師か、クソオタクな海賊か、下ネタ大好き天才音楽家か、はたまたそれ以外か。いや、誰かなんて俺が知ったこっちゃない。彼女が誰からどんな知識を得ようが、俺には何ら関係ないことではないか。例え彼女がクズになろうが、サブカルに染まろうが、下品に成り下がりようが、俺には何も被害も影響も心残りもないはずだ。

 

 しかし、俺はそれを良しとしなかった。よしとしなかった結果がこれであり、そしてこれが予想出来なかったわけではない。だが、俺はそれ良しとせず、結果苦労を背負った。振り払えたはずの火の粉を、その灰までも被っているのだ。おまけでナーサリーにも物語を書く約束を取り付けた、これは灰塗れの癖に傍にあった灰で汚れた水を更に被ったようなものだ。

 

 

 それは何故か、何故なのか。ただ単に彼女が愛読者だからか、それとも俺が駄作者だからか。果たしてそれは俺が大嫌いな仕事を引き受けることよりも重要なことなのだろうか、灰を被る程のことか、更に汚れた水を被る程のことか、己に不幸が降りかかろうともどうにかすべきことなのか。

 

 

 

 自分よりも彼女を優先するべきことなのか。

 

 

 

「なるほど、分かりましたぞ」

 

 

 そんな問題に頭を悩ましている俺の耳にヤツの言葉が、そして目の前にヤツの掌で遮られた。熟考していた手前いきなりのことにカップを取り落しそうになるも、その心配は遠く意識の彼方へ飛んでいってしまった。

 

 

 何故なら、目の前でヤツが今しがた読んでいた原稿を両手で掴み、原稿を掴む片腕が僅かに上がったから。それが意味すること、それが何か分かってしまったからだ。

 

 

 

「やめ――――」

 

「どっせい!!」

 

 

 俺の声を掻き消す様にヤツの野太い声が響き、それに呼応するように上げていた肘が勢その腕ごと勢いよく振り下ろされ、同時に俺の耳に紙を引き裂く音が響いた。それは幾重にも響き、同時にヤツの手が忙しなく動く。

 

 

 やがて、音が聞こえなくなった時にはヤツの足元にはこれでもかと乱暴に引き裂かれた紙切れが―――――――俺が血と共に吐き出した駄作があった。

 

 

 

「貴様、正気か!!」

 

「ハッハッハ、あまり大声を出すと倒れますぞ?」

 

 

 血と睡眠時間とストレスの結晶を細切れにされた俺は勢いよく掴み掛るも、ヤツはいつも通り笑いながらそんな戯言を吐き出す。それが更に頭に血を昇らせ、その襟を締め上げる力を強める。すると、余裕ぶっこいていたヤツの顔が青くなる。だが、その顔は何時までも笑いだった。

 

 

「いやはや、まさかそこまでご執心とは思いませんでしたぞ」

 

「一体何の話をしている!? ともかく何故俺の原稿を破いた!! あれはマシュ・キリエライトに――――」

 

だからこそ(・・・・・)、です」

 

 

 その言葉と共に、俺の怒号を真正面から受けたヤツの顔が真顔になる。その変化に俺が面を喰らった瞬間、その一瞬を持ってヤツは己の襟元から俺の手を引き剥がし、逆に俺の背中を掴んで持ち上げた。突如、身体が浮き上がったため地面から離れた手足ではどうにもならず、俺は振り子のように揺れるヤツの腕にされるがまま、次の瞬間空中に放り出された。

 

 

「ぐおっ!?」

 

 

 床に着地する瞬間思いっきり尻を強打し、変な声を上げて尻を抱えた。視界の外で、ゲホゲホとヤツの咳が聞こえ、その方に視界だけでも向けて睨み付ける。対して、俺が視界の中でヤツは喉を摩っているも、俺の視線に気付くと笑顔を向けてくる。それに、頭に血が上ることは無かった。何故なら、激痛が走る尻に血が巡っていたからだ。

 

 

「何故……破いたぁ……」

 

 

 だから、代わりに問いをぶつけた。問いと共に恨みがまし気に睨み付けながら。すると、何故かヤツはキョトンとした顔をして、次に大きなため息を吐いた。まるで、まだ分かっていないのか、と言いたげに。

 

 

 

「もう一度、聞きますぞ。貴殿は、誰のためにその愚作を書いていたのですかな?」

 

「……さっきも言っただろ。マシュ・キリエライトだ」

 

「では、何のために?」

 

 

 先ほど同じ質問に先ほどと同じ答えを返すと、今度もまた同じ質問を……いや、違う。これは違う質問だ。先ほどは『理由』を問われた、そして今も同じく『理由』を問われている。しかし、その『理由』が違うのだ。先ほどは何故そんなことに至ったのかの経緯を、要因を問うていた。だが、今はそれをやった先、目標を問うているのだ。要因は先ほど迷った通りだが、目標なら既に見えている。

 

 

「彼女に『普通の家族』を見せ――――」

 

貴殿(・・)の『普通』を、ですかな?」

 

 

 俺の言葉を遮るように、ヤツが声を漏らした。いや、吐き捨てた(・・・・・)。その顔を見ると、そこには明らかに目の前に映る者を侮辱する目が合った。その映る者とは誰か、嫌でも分かった。

 

 

 

「……貴殿は吾輩がその言葉を心の底から嫌っているとご存知でしょう。して、その理由は如何か?」

 

「……面白くないからだろう」

 

「そうです、『面白くない』からです。その言葉が、その言葉が作り出すもの全てが面白くないからです、面白くなくなる(・・・・・・・)からです」

 

 

 

 そう言い切ったヤツは俺から目を離し、先ほどまで俺が腰掛けていた椅子を引き寄せてそこに腰を下ろす。そして、たばこでも加えているように唇を尖らせた。

 

 

 

「貴殿は、吾輩が悪魔の女、魔女としてコケ下ろしたオルレアンの乙女をご存知だろうか。と言っても、ここには居ませんから会ってないかもしれませんが……オルレアンの乙女、聖処女ジャンヌダルクと言えば分かるでしょうな」

 

 

 ヤツは遠くを見つめるような眼差しを浮かべて語っている。その姿を、俺は噛み付くことなくただ黙って聞くことにした。それが、もっともよい選択だと思ったからだ。

 

 

「彼女は吾輩に、正確には吾輩の国にとってまさに悪魔でした。何の前触れもなく彗星の如く現れ、為す術もなく蹂躙され続けていた敵を枯れ草に水を与える如く蘇らせ、烈火のごとく我が軍を押し返し、最後には国の外に追い払った。それなのにわが国ではなくあちらの人間に貶められ、自らが守り抜いた国に殺されると言う何とも数奇な最期を迎えた、憐れで美しき、何とも『面白き』人物。実は吾輩、彼女生涯を聞いたときに心の底から魅了されましてな。彼女の生涯をこの目で見れなかったこと、彼女の傍で共に戦えなかったこと、彼女に殺されなかったことを、あの時は心の底から後悔しましたなぁ」

 

 

 何処か懐かしむように、ヤツは言葉を続ける。だが、その横顔には懐かしむと言うよりも、悔いるような雰囲気を孕んでいるようであった。

 

 

「そのせいか、仲間と共に作る作品の中に彼女を登場させることになりましてな。私はそこで存分に彼女の魅力を詰め込み、書き綴り、表現できる全ての手を施して彼女を生み出しました。彼女の生涯はこんなにも素晴らしく、これほどまでに美しく、至高と言って良いほど『面白い』、と。しかし、誰も見向きもしませんでした。当たり前です。彼女は我が国にとって敵であり、それも宿敵中の宿敵、悪魔の女なのですから。彼ら彼女らにとって、ジャンヌダルクは悪魔の女であることが『普通』なのだから。故に、彼女が大活躍する話に人々は嫌悪感しか示さず、罵声ばかり喰らいました。吾輩の技術が足りないのであれば、それを補おうと幾重にも改稿に改稿を加えましたが、結果は同じ。誰も見向きもせず、ただただ汚らわしいものを見るように、家畜の糞のように踏み付けられました。だが、それもある一点を変えただけで瞬く間に傑作への道を駆け上がった。そう、我が愛しき聖処女を周りが蔑む悪魔の女に陥れたのです!!」

 

 

 声を張り上げ、両腕を真上に振り上げる。まるで舞台の上で立ち、遠く離れる大勢の観客に届くよう、喉を震わせ、目を、口を開き、あらん限りの声で訴えかけるように。

 

 

「かの者たちは自分がそうであると、先生が言っていたと、大人が言っていたと、言われたこと、知っていることが全てであると勝手に思い込んでいるのです。勝手に思い込み、自分が持ちうる知識の中だけでテリトリーを形成し、その外側に無数にある存在たちを認めようとしない。近づこうものなら容赦ない罵声を浴びせ、踏みにじり、唾を吐きかける始末……そして近づいてきた存在が自らのテリトリーを壊さないのであれば、もしくは壊さないようにした(・・・・・・・・・)ものであれば易く受け入れようとする。そんな輩が口をそろえて言うのが『普通』なのです!! ただ己のテリトリーを守るためだけに、さも周りもそうであると言い張るその証拠として、免罪符として、断罪状として突き付けるのが『普通(それ)』なのです!!」

 

 

 血反吐を吐き出す様に、ヤツは言葉を続ける。そこに在ったのは、怒り。彼が心から惚れ込んだ聖処女を否定した人間たちへか、はたまたその『普通』に合わせてしまった自らへか、分からない。

 

 

「しかも、非常に煩わしいことにこの『普通』と言うのは万国共通ではない。国家、地域、街、近隣住民、果ては家族の中でさえも違うのです。一人一人が『普通』を持っており、そしてその枠組みから外れたものを快く思わない!! これは如何に!! 如何にいたせば良いのか!! 誰かが『普通』であると断言しようが、この世のどこかには必ずそれを受け入れず、あまつさえ石を投げつける者がいる!! あぁ、『普通』とは何か? 『普通』とは一体誰のものか? どれに合わせれば(・・・・・・・・)良いのか!! 出来るはずがない!! なのに、人間はそれをさも当たり前のように振りかざしてくる!! そんな不確定で曖昧で不完全なものに吾輩が面白きことと断言したものが、人が、出来事が蹂躙されていく!! なんと悲しいことか!! なんと罪深いことか!! 少数派に立ったら最後、どうあがいても消えていくこの運命!! なんとも儚く嘆かわしいことか!!」

 

 

 そこで言葉を切ったヤツは乱れた息を整えるためか、傍の冷めきった紅茶を一息で飲み干した。カップを下げ、一息ついたヤツの顔は、いつも傲岸不遜に笑う当代きっての天才劇作家の顔ではない。ただただ大切にしていたおもちゃを目の前で壊された子供のような、悲しさと悔しさと情けなさが入り混じった、複雑な顔だ。

 

 

 だが、それも次の瞬間いつもの劇作家に戻る。

 

 

「故に吾輩は物語を、『普通ではない』物語を書き続けました。『普通』が不確定要素であるならば、吾輩の手で確定してしまえばいい、誰もが『普通ではない』と共通の認識を持つように仕向ければいい、『普通』からかけ離れた過ぎて自分のテリトリーには決して入ってこない、決して相居ることのない存在であると思わせばいい。誰もが喜び、怒り、悲しみ、楽しいと、誰もが同じ感情を持ってしまうほど突拍子もない、驚天動地な作品を生み出せばいい。例えそれが吾輩が面白くなくても、周りを驚かせるためなら喜んで煮え湯を飲みましょう。例えそれが嫌悪の塊でも、周りを楽しませるためなら喜んでこの身を差し出しましょう。『普通』を押し付けられないのであれば、喜んでこの身を火中に投じましょうぞ。何故なら、それが吾輩なりの『普通』を全否定する術であり、物語を紡ぐしか能が無い、台詞の端々に皮肉を紛れ込ませることしか己を出せない憐れな落ちこぼれ俳優が作り出した『普通(テリトリー)』であったからですぞ」

 

 

 先ほどの気迫は何処へやら、ヤツはそこで言葉を切るとズズイッと顔を近づけてくる。それに思わず後退りするが、襟を掴まれて逃げられなくされた。

 

 

「そんな『普通』をかの少女に押し付ける気ですか? 貴殿のひねくれた価値観の元に生み出された、貴殿の色に染まり切った『普通の家族』を。それこそ、真っ白な彼女が貴殿の色に染め上げられてしまうと言うもの。貴殿はそれでも良いのですか? いや、それが本望かもしれませぬが」

 

 

 そう、最後の一言は煽る様にヤツは吐き出した。同時にわざとらしく歯を見せ、あの腹立つ顔を見せつけながら。その顔に、俺は何も言えなかった。

 

 その言葉は否定出来よう、この髭面を叩きのめすことも出来よう。だが、そこで終わりだ。叩きのめしたその先が無い。その先にある、『彼女の願い』をどうすればいいのか、それが分からないからだ。

 

 

 仮に俺がこいつの言葉を鵜呑みにし、俺の色に彼女を染めないよう彼女の願いを断ったとしよう。そうすると、彼女は他の英霊に聞きに行くだろう。そしてそれは、その英霊の色に染まると言うことだ。それでは意味が無い、むしろもっと悪い(・・・・・)展開だ。何せ、俺は彼女が誰の色にも染まって欲しくないからだ。

 

 しかし、彼女はむしろそれを望んでいる。いや、恐らく誰かの色に染まろうなどとは微塵も思っていないだろう。ただ純粋に知識として知ろうとしている。知識として蓄える時点で染まることと同義であると分かっていないのだ。だから、やめろとは言えない。言ってしまえば、それこそ俺の『普通』を押し付けるだけだ。

 

 

 故に、答えが出ない。いや、選択できない。出ているものは全て誰かの色に彼女が染まってしまうことになる。そんなの、もはや彼女ではない。誰かの人生(物語)に出てくる、一登場人物に過ぎない。そして、俺はそれを望んではいない。彼女が立つべきは脇役ではなく主役だ、それも最近ようやく立てるようなったのだ。であれば、主役のまま人生(物語)を進めてほしい。俺の色ではなく、誰の色でもなく、彼女の色で美しく彩って欲しい。

 

 

 周りから与えられたものではない。彼女の『普通』を持って欲しい。

 

 

 

「では、吾輩はこれで」

 

「え、お、おい!!」

 

 

 未だに出ぬ答えに頭をひねっていると、ヤツが声を上げていきなり立ち去ろうとした。慌てて手を伸ばし、ヤツの服を掴もうとするも、寸でのところで霊体化したため触れることは叶わなかった。ただ虚空に手を伸ばす俺に、まるで耳元で囁くようにヤツの声が聞こえた。

 

 

 

『もし行き詰っているようでしたら、マスターに聞いてみてはどうですかな? そちらに関しては、恐らく誰よりも分かってらっしゃるかと』

 

 

 その言葉を最後に、完全にヤツの気配が消えた。恐らく部屋を出て何処かへ行ってしまったのだろう。というか、あの口ぶりからして奴はそっち(・・・)の答えも分かっているな。くそ、さっさと教えればいいものを。

 

 しかし、マスターか……盲点であったわけではない。むしろ、ここにいる人間の中で最も適任だと断言していた。断言していた故に、外したのだが。そう、ちゃんとした理由があったから外しただけだ。別にあいつに頼るのが癪に障るとか、そんなんじゃない。

 

 

 くそ、これも俺の『普通』か。こんな汚らわしい色に彼女を染め上げてしまうなんてごめんだ。そう心の中で吐き捨て、俺は部屋を出る。

 

 

 

「アンデルセン様」

 

 

 扉が開いた瞬間横から声を掛けられ、振り向くと俺に物語を書けとせがんでくる馬鹿の一人、柔和な笑みを浮かべた清姫が立っていた。彼女はその整った顔を更に綻ばせ、何処か期待するような目を向けてきた。

 

 

「どうですか、書けまし―――」

 

「生憎、そんなものに現を抜かしている暇は無い」

 

 

 彼女を言葉を遮るように吐き捨てる。途端、周りの気温が一気に急上昇した。それは、目の前に立つ清姫が先ほどのか弱い少女の姿から一変、感情が抜け落ちた顔を向け、その口や背後から火の粉を立ち登らせているからだ。

 

 

 

「まさか、嘘を?」

 

 

 何処か、最後通告に近い言葉を清姫は吐き出す。たいていの者、特にマスターはその様子にあたふたし色々と取り繕おうと更に自分を追い詰める。それほどまでに彼女のそれは脅威に映った。

 

 

 

「マスターの場所を教えろ」

 

 

 だが、()の俺はそれに怖気づくことは無かった。彼女に詰め寄り、逃げられない様その手を掴み、不機嫌であると顔にデカデカと書いた顔を彼女に近付けた。その手を握るは、そして彼女に近付くは、火の中に手を突っ込む、火に顔を晒すことと同義だ。故に、掴んだ手に熱を、そして鋭い痛みを感じたがそれは一瞬で消え去った。

 

 

 いきなり手を掴まれ、顔を近づけられた清姫が驚き、いつもの姿に戻ったからだ。彼女は驚いた表情で黒くくすんだ黄色の瞳を大きく見開き、俺を見つめる。俺がその目を見つめると、彼女はそっと視線を外した。

 

 

 

「食堂に……いらっしゃいます」

 

「そうか」

 

 

 視線を逸らしながら答える彼女の手を離し、脇目も振らず歩き出した。背後からパタパタと言う足音と着物が床をこする音が聞こえるも、すぐに止んだ。それを耳に入れながら、俺はただ歩き続けた。

 

 

 

 

「盲目、ですわね」

 

 

 

 そう、清姫が漏らすのを聞こえたが、振り返りその意味を問いただす気にはなれなかった。そのまま、俺は食堂へと歩を進める。

 

 

 やがて、目的の元に辿り着く。中に入ると、何人かの英霊に囲まれながら楽しそうに飯を喰らうマスターの姿を見た。脇目も振らずそこに近付いていく。その時、俺が浮かべていた表情血気迫るものであったのか、マスターはじめ囲んでいた英霊たちの顔が強張っていくが、それを気にする余裕は無かった。

 

 

 

「面を貸せ、マスター」

 

「え、俺?」

 

「お前以外誰がいる」

 

 

 俺の言葉に呆ける馬鹿の首根っこを掴みズルズルと廊下へ引き摺って行く。馬鹿は訳が分からないと言った表情で己を引きずる俺を見つめ、周りの英霊たちはその様子をいつもの光景のように見つめ、ある者は手を振っている。俺がレイシフトに関して苦言を言うのはいつものことであり、半ばお約束状態なのだ。俺が有無も言わさずこいつを引っ張っていくことに誰も不審がらない。

 

 いつもの苦労がこんなところで報われるとは、と溜め息を吐きつつマスターを食堂から引っ張り出し、廊下に立たせた。立たされたマスターは顔をこわばらせて俺を見ている。恐らく、何かやらかしたと思っているのだろう。いつもであればそうなのだが、今回は違うのだ。

 

 

「最初に言っておく。今から聞くことに答える義務はない、嫌なら拒否しても構わない。だが、可能な限り答えてくれ」

 

「……それって、マシュに関係すること?」

 

 

 俺の言葉に、強張っていたマスターの顔が真剣な顔つきに、そしてしっかりした声で俺に問いかけてくる。流石、幾度となく特異点(物語)を駆け抜けたマスターだ。最初のおどおどしていた頃とは見違えたな、そう絶対に口にすることはない誉め言葉を心の中で溢しつつ、頷く。

 

 

「分かった。で、何を言えばいい?」

 

 

 更に問いかけてくるマスター。その姿に俺も背筋を伸ばし、今まで貯め込んでいた問いを吐き出した。

 

 

 

 

 

「お前にとって、『家族』とはどんなものだ」

 

 

 

 そう問いかけた瞬間、マスターの顔が強張った。それを見て、罪悪感に心が痛むのを堪えつつその言葉を待つ。正直、この言葉をかけることは本当に躊躇したのだ。

 

 

 マスターは自分の家族のことを話したことが無い。いつも俺たちのことを知ろ宇都話題を振り、聞き役に徹した。それはレイシフト先での起こる戦闘を少しでも有利に進めるためであり、自らが判断を下さなければいけない場合の判断材料を得るためだ。元々、魔術などに関係ない一般公募から選ばれた人間だ、経験も才能も乏しいこいつは出来うる限りの知識を吸収するしかないのだ。

 

 だから、マスターは英霊(俺たち)のことを知っている。だが、英霊(俺たち)は此処にやってくるまでのマスターを知らない。日本に居て、ハイスクールを卒業したことまでは知っているが、その家庭環境や友人関係、今までどんなことをして暮らしてきたかなど、知らないのだ。

 

 勿論、それがレイシフトに関係ないから話さなかったのだ。だが、今マシュ・キリエライトは家族を、『普通』の家族を知りたがっている。そして、その普通が、つい一年ほど前まで一般人であったマスターなら、彼女の求めるそれに最も近い答えを出してくれるだろうと思っていた。

 

 

 しかし、彼の家族は一度人理を焼かれた際に巻き込まれて死んでしまった。そしてそれを、こいつは知っている、俺が契約した時には既に知っている。だから、最初に聞かされた時にマスターがどんな顔をして、どんな風に、今のように平気な顔でヘラヘラ笑えるようになるまで、どれほどの時間がかかっただろうか。

 

 勿論、今は人理も修復され、その家族も元気に生きているだろう、だが、一度死んだと言う事実は塗り替えることまできず、本人が気づかない所で負担になっているかもしれない。もし、それをつついてしまえば、コイツはどうなってしまうのか、言えることとすれば、今のようにヘラヘラ笑う機会が確実に減ってしまうと言うこと。そしてそれは、ずっとそばにいたマシュ・キリエライトの笑顔も減ってしまうと言うことだ。

 

 

 ここは、長年引きずり回されてきた俺の勘だ。でも、その可能性も否定できない。であれば、予防線を引くのが賢明だろう。

 

 

 

 

「そんなこと?」

 

 

 そこまで熟考した俺の配慮を、マスターはその一言でぶち壊してきた。その顔は呆けており、次に頬がゆっくりと膨らんでいく。それと同時に顔が薄っすら赤くなり、次の瞬間、大きな笑い声に変わった。

 

 

 

「だ、黙れ!! 笑うな!! せっかく俺が配慮してやったのぃ!!」

 

「ご、ごめん、ごめんて!! で、でも……あのアンデルセン先生が……俺なんかに配慮を……ぶほぉ!!」

 

 

 焦る俺を見て、マスターは再び噴き出した。それを見て俺は強硬手段に出ることを決意し、マスターの頭をヘッドロックし、そのつむじに拳を押し当て力を込めてグリグリする。前に、英霊召喚で止められていた召喚を強行し、俺と第六天魔王で成敗した時の技だ。

 

 

 

「痛てててててててて、禿げる禿げる毛根が一網打尽にされちゃうやめてこの年でまだ禿げたくないよぉぉぉぉおおお!!」

 

 

 そう言って俺の手を逃れようとし、諦めて懇願するマスターの頭皮を一通り蹂躙した後、改めてマスターと向き直る。未だに頭皮を摩っているも、俺の顔を見てすぐに表情を引き締める。

 

 

 

「……で、何だっけ?」

 

「『家族』について教えろ」

 

 

 引き締めたまま頓珍漢なことを言うマスターに頭を抱えつつ、改めて質問を投げかける。それに、マスターは合点がいったように手を叩き、すぐにその表情を曇らせて唸り始めた。そこまで考えこむことか、ただ単に己の家族のことを話せばいいだけだろうに。

 

 

 

「う~ん、いきなり言われてもねぇ……俺にとっちゃ、此処にいるみんなも家族みたいなもんだし」

 

 

 

 そう、マスターがポツリと溢した。その言葉が耳に入り、脳に伝わり、腹に落ちた。同時に、今まで探し求めていた『答え』が現れた。

 

 

 

「そうか、その手があったか!!」

 

「へ、何が?」

 

 

 いきなり大声を上げて立ち上がった俺を鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で見つめるマスター。そんな彼に手を差し伸べ、恐る恐る掴んだ彼を立たせる。

 

 

 

「助かったぞマスター、礼を言う」

 

「え、あ、はい、良かったですねぇ……」

 

 

 

 そう言って、俺は彼の手を離すと廊下を駆け出した。いきなり立ち上がさせられ、いきなり礼を述べられ、そのまま何処かへ走り去った俺をマスターはその表情を変えず見続ける。その視線を受けつつ、俺はスキップしたいのを我慢しつつ歩を早めた。

 

 

 今になって思う。この時の俺はどうかしてた。

 

 疲れがあっただろう、或いは清姫が溢した言葉のように盲目であっただろう。この時、俺はただ己に降りかかる負担が減るとばかりに思っていた。だが、人生(?)そう上手くはいかず、俺に降りかかる不幸は更に何倍の大きさに、そして更に混沌を極めた状態で帰ってくることになるのだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。