この素晴らしいハグレ王国に祝福を! (ひまじんホーム)
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~プロローグ~

 プロローグです。
 冥界とか地獄とかについての解釈は、はむすた氏がざくざくアクターズの前に制作したフリーゲーム「らんだむダンジョン」のアイテム図鑑が基になってます。


~冥界~

 

四万八千里もの広大な大地を有する冥界。その殆どは草木も生えない死の世界が広がるばかりであり、現世で死後、冥界に堕とされた者はみな、その景色を見て己の死を悟るという。

そんな冥界に新たに堕ちてきた男が一人。

 

(ここは・・・)

 

うすぼんやりしながらも意識を取り戻した男は周囲の状況を確認した。何も見えない程暗いのかよく分からない。

 なんとなく何もない場所なのは判ったが、如何せん意識がはっきりしない。男は自分の意識を確かめる為、頬をつねようと自信の顔へ手を伸ばす。しかしつねることが出来ない。ならばと起き上がろうとするが起き上がれない。

どういうことだ?と漠然とした疑問を抱きながら誰か人がいないかと声を上げる。しかし声が出ない。 手も足も動かない。声も出ない。先程は暗闇だと思ったがおそらく目も見えていないのだろう。

 

色々と試してみるが、それが無駄であると理解すると、今度は自分の記憶の糸を手繰り始める。こんな状況に冷静でいられたのは男が生前に相当の修羅場を潜ってきたからか、はたまた自らが死んでいることを遠回しに理解したからか。

そして男は思い出す。自身の人生を。ただ宿敵を倒すために起こした戦争。ただ宿敵を倒すために装着したバイオ鎧、それでも勝てずに鎧に取り込まれた最期。思い出してみれば成る程、自分の体は動かないのではない。バイオ鎧に取り込まれて体の殆どが失われたのだ。

男は記憶の断片を取り戻しながら同時に一つの強い感情を思い出した。それは絶望という悪感情。天才との力の差への絶望。手駒を集め、自身の全てを擲ってなお届かない壁への絶望。世界に絶望を振り撒いた男は絶望のうちに滅ぼされた。

なまじ動くことの叶わない男の思考は深い深い絶望の悪感情に塗り潰される。

どれ程の時間が経っただろうか。人間は完全な暗闇では数時間で気が狂い始めるらしいが、男ももはや思考すら放棄しかけた頃、ふと気配を感じた。

 

「ヒュー、ヒューッ、なんだかとてもおいしそうな匂いがするから来てみたら、人間の魂が落ちてたよ。」

 

耳もないはずだがその声は聞こえた。

(何者だ・・・?)

 

口もないはずだが問いかけた。

 

「ヒュー、ヒューッ、ぼく?ぼくはね悪魔だよ。なまえは・・・忘れちゃった。」

 

(ここは・・・どこだ?)

 

「ヒュー、ヒューッ、ここは冥界だね。僕は本当は地獄の悪魔なんだけど、最近おいしいごはんを作ってくれていた人間がこわれちゃって困っていたんだ。そんなときにおいしそうな匂いがしてきたから来てみたんだ。ぼくはキミみたいな絶望の感情がだいすきなんだよ。」

 

(俺を食らうのか?)

 

「ヒュー、ヒューッ、 食べないよ。僕らが食べるのは人間の悪感情だけだからね。君からは凄くおいしい絶望の感情を感じるよ。」

 

 

(そうか・・・)

 

男は一瞬安堵したものの、体を失って身動き一つできない現状なぞ、いっそ喰われてしまったほうが良かったのでは、と思い直す。

 

「いいよ。その感情凄くおいしいよ。もっと絶望の感情を食べさせてよ。」

 

(ちっ・・・)

 

 男の精神が闇に堕ちれば堕ちるほど喜ぶ様は正に悪魔といったところか。

 生前ならば、この気に食わない悪魔に一発くれてやるところであるが、あまりに絶望的な状況に反抗する気すら起きない。

 

(ん?待てよ?悪魔だと?そういえば召喚士協会で読んだ禁書に・・・)

 

 男が思い出したのはかつて自身が所属していた召喚士協会で禁書とされていた悪魔召喚について書かれた書物。

 過去の戦争の引き金となった召喚技術に大きな制約をつけている世界である。ましてや世界の理を崩壊させかねない悪魔召喚に関する書物(通称:黒の聖書『Bible black』)は召喚士協会の禁書庫で厳重に保管されていた。男は自身が協会から追い出される前に金と家の権力でその書物を読む機会を得ていた。

 思い出せ・・・。男は過去の記憶に意識を集める。あの天才の様に一度読んだ書物の一言一句を記憶できるわけではないが、およその内容は思い出せるはずだ・・・。

 たしか・・・、悪魔はその能力に応じて格がある。低級から上級、さらにその上に立つ悪魔貴族、そして地獄王や冥王。低級悪魔は人語を理解せず人を喰らう為、こいつは少なくとも上級以上の悪魔のハズだ。

 そして、悪魔は人の願いを叶える存在だ。相応の代償と引き換えに。ならば・・・

 男はこの状況を脱する為、この推定上級以上悪魔を利用することを考えた。

 

「ヒュー、ヒューッ、どうしたの?なんだか絶望の感情が弱まってきたよ。もっと僕に君の絶望を食べさせてよ。」

(・・・なぁ悪魔、もっともっと大量の絶望を喰いたくはないか?)

 

「うん。食べたいよ。だからもっと絶望しておくれよ。」

 

(悪魔よ、俺と契約しろ。こんなちっぽけな人間なんか比べ物にならない位の絶望を喰わせてやる)

 

「ヒュー、ヒューッ、本当かい!?いいよ、契約しよう!君の望みはなんだい?」

(今の俺には体がない。お前の体を貸せ。それで世界を絶望に染め上げてやる。)

 

「世界を!?それはスゴいね!想像しただけで酔っぱらってしまいそうだよ!じゃあ契約するから僕と君の名前を交換しよう。」

 

(俺の名は、マクスウェルだ。)

 

 と、自分の名を名乗ったところで先程の会話を思い出す。

 

(ん?お前さっき自分の名前を忘れたって・・・)

 

「ヒュー、ヒューッ!マクスウェル!君はマクスウェルって言うんだ!思い出したよ!僕もマクスウェルって言うんだ!」

 

 

悪魔マクスウェルと、咎人マクスウェル。

 

頭を持たないマクスウェルと、体を持たないマクスウェル。

 

 

絶望を求めるマクスウェルと絶望を与えるマクスウェル。

 まるでお互いがお互いの失くしたパズルのピースを埋め合わせるかのような二人。

 

 

 斯くして、二人の「マクスウェル」は契約を交わした。

 




~地獄とか冥界とか~

 人間の魂は死後、閻魔大王によって審判を受け、善性が高い者から順に天界・天国・極楽・蓮獄、地獄・冥界に振り分けられる(ってことにしといてください)。
 天界は神様や神レベルの人が、天国極楽はそこそこの善人がいくとこ。
 蓮獄と地獄は更正余地のある罪人の魂に色んな罰を与えて叩き直すとこ。蓮獄のほうが軽いらしい。
 冥界はどうしようもない悪人が堕ちるとこで、いわゆる魂の最終処分場。
 元々は冥界が全ての役割を担っていて、罪人は皆冥界に堕ちてたんだけど、冥王に力が集中することを恐れた古い神々によって地獄が新設された。
 一時期は冥界と地獄で死者の魂の奪い合いをしたりして、戦争も起きていたが、役割分担がはっきりしてからは争いはない。
 ちなみに罰を与える為の設備が不要になった冥界では、拷問部屋を貸物件として売り出しており、希望する悪魔へ割安で貸し出してるらしい。マクスウェルはそういう部屋の一つを借りてアルダープをいたぶっていたという設定。


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第1話 始まらなかったスペースオペラ

いきなりクライマックス。
状況がわからない方はゲームをプレイしてみてください。


~シャトル(宇宙)~

 

「オープン~・・・パンドラ!」

 

 ハグレ王国が国王、デーリッチがキーオブパンドラを掲げて叫ぶ。そして真っ暗な宇宙空間が眩い光で満たされると、マリオンからの猛攻に傷つき倒れた仲間達が今再び立ち上がる。

 

「まだ・・・、立ち上がるというのか!」

 

 星の守護者マリオンはかつてない強者、否、強者「達」を前にして、その目を驚愕に見開く。

 マリオンの審判の力は絶対だ。たとえ1対8という数の不利があっても、どんなに強大な力の持ち主であろうと、この圧倒的な力に吹き飛ばされれば、誰もが膝を折ってきた。

 しかし、この者たちはどうだ?どれだけ吹き飛ばそうと、一撃で沈めようと、何度も、何度も、何度も、何度も立ち上がりキバを向いてくる。その目には絶望の色など、欠片も見当たらない。

 敵の弱点は判っている。敵の急所はあの青髪の少女だ。彼女が持つ、その身の丈の半分はある、あの大きな「鍵」だ。彼女があの「鍵」の力を使い、倒れた仲間をことごとく復活させ、しかも立ち上がった仲間をより強化している。

 

 何度も繰り返された敵の行動パターン。解析は出来ている。マリオンに組み込まれた戦闘に特化した超高性能のAIは複数の攻略方法を導きだした。

 しかし、計算以上の力で抵抗してくる敵にギリギリのところで攻めきれない。近接攻撃は硬い前衛に阻まれ、切り札マリオンメテオすらイカヅチ妖精が前面に出て耐えきった。マリオンストレートで各個撃破を狙うも、一人一人が国王を護り、倒れ、その後に国王は鍵の力で仲間を強化復活させる。そうこうしているうちに、徐々にダメージは蓄積され、出力を限界まで高めたことによりエネルギーも枯渇してきている。マリオンにも限界が近づいているのだ。

「お前達は何者なのだ?何故、審判の力にに抗うことが出来る?神か・・・仏か・・・?ならばこの天をも砕く力に耐えられるか!?」

 

 マリオンは更に出力を上げる。その速度は音を置き去りにし、その一撃は天上を貫く。

 マリオンは今一度スロットを回す。出目は流星。狙いはあの少女。国王と呼ばれた青髪の少女デーリッチ目掛けて極限まで速度を高めたマリオンSクイックを放つ。

 

「ここは俺に任せろ!大防御!」

 

 しかし通さない。通させない。その背中はいつだって国王を護ってきた。

立ち上がるや否や、相手の注意を引き付ける魔導盾ヒキヨセルドを装備した、王国の赤き双璧が片割れ、ニワカマッスルがズイッと前に出る。

 マリオンはその速度を保ったまま、盾もろとも相手を砕かんとニワカマッスルに拳を突き出す。しかしオープンパンドラで強化された筋肉は巨岩すら打ち砕くマリオンの拳に耐えきる!

 攻撃を防がれたマリオン。そこにほんの一瞬のスキが生まれる。そして、そのスキをハグレ王国は見逃さない!

 

「M21グラニュー砲!」ダァン!!

 

「ぐっ、ッハァ!」ガァン!

 

 ドリンピア星王女ドリントルによるヘッドショットを狙った狙撃。完全にスキを突いたその一撃はマリオンの眉間に命中する。

 この世界に存在するあらゆる金属よりも高い硬度を誇るコスモニウムで造られたマリオンの頭部は、破壊には至らないものの、鈍い音を立てその衝撃に大きく仰け反る。ここに千載一遇のチャンスが生まれる!

「爆連ヴォルガノン!」

 

 炎帝と呼ばれた大賢者ヴォルガノンが編み出した、持てる魔力の全てを火力に変換する大魔法。唱えるはヴォルガノンが孫娘、ヴォルケッタ。

 

「くっ、マリオンエレキテル!」

 

 マリオンは爆炎に視界を奪われながらも超威力の広範囲雷攻撃を放つ。狙いを定められずとも、大量にばら蒔かれた雷球は全員に大ダメージを与える。

 

「緊急リカバー薬!」

「なっ!?」

 

 がしかし、マリオンの反撃を予測していた王国の参謀ローズマリーは攻撃とほぼ同時に回復薬を蒔き、ダメージは瞬時に回復される。

 マリオンの体勢は崩れたままだ!「ゴッドブレス!ヅッチーちゃん!決めて!」

 

 福ちゃんこと福の神が単独で行使できる神の奇跡。対象に神の祝福をもたらし全能力を強化する支援魔法を放つ。

 

「魔神降ろし!任せたわよ!ヅッチー!!」

 

 降霊術の名家ラージュ家に産まれた希代の天才ミアラージュ。彼女は絶大な魔力を持つ神を降ろし、仲間の魔力を瞬間的にであるが、爆発的に高めることができる。

 

「いっくぜぇぇぇ!タ・ケ・ミ・ナ・カ・タ・バーストォォ!」ズガァァァアン!

 

 妖精女王の血を引く妖精王国のリーダーにして、雷を自在に操るイカヅチ妖精ヅッチー。パンドラゲート、ゴッドブレス、魔神降ろしと、バフ盛りマシマシに超強化されたヅッチーの全魔力を込めた一撃がマリオンを貫いた。

「グッ、ハァ・・・みごと・・・だ」

 

 星の守護者マリオンはハグレ王国の連繋の前についに倒れ伏す。

 

―――

 

「はぁ、はぁ・・・。か、勝てたのか?」

 

 全員が死力を出し尽くし、満身創痍である。ここで第2回戦なぞあったら堪ったものではない。

 

「あぁ・・・完敗だ・・・。マリオンの負けを認めよう。」

 

「じゃあ、約束です!私達の話を聞いてくだ・・・」

 

「待て待て待て、何を言っておるか・・・!まずは、安全を確保する方が先じゃろう?これも、約束じゃったな?まずは、わらわ達を元の場所に戻しておくれ!」

 

 ここは次元の塔からも隔離された宇宙空間にある。座標も分からない場所ではキーオブパンドラによる空間転移も封じられ、最悪、この場所の足場ごと破壊されれば全滅は必至だ。

 ローズマリーとドリントルは先ずは身の安全の確保の為に詰め寄る。

 

「あー、駄目駄目。二人ともそんな言い方じゃ駄目でち・・・。ここは国王に任せるでちよ。びしっと言ってやるでち!」

 

 デーリッチはマリオンに詰め寄るローズマリーとドリントルを諌め、一人前に出てマリオンと向き合う。

 

「マリオンちゃん!」

 

「マリオンはマリオンだ。ちゃんはいらない・・・。」

 

 マリオンは超高性能な戦闘用アンドロイドであるが、こうして並ぶと、10歳そこそこのデーリッチと外見年齢は殆ど変わらない。

 デーリッチはしっかりとマリオンの手を取り、目を合わせ、ニコーッと笑いかけ、告げる。

 

「スープとお肉、とーっても美味しかったでち!!ありがとう!!」

 

 どこまでも曇りのない純粋な笑顔で。思いの丈を伝えた。一触即発の緊張感が一瞬で緩み、その場にいたデーリッチを除く全員が「は?」という顔できょとんとする。

 

「なに?」

 

 

 アンドロイド故に論理的な思考が染み付いたマリオンにはその言葉の意図が分からない。

 

「ほらっ、みんなも突っ立ってないで!お礼お礼!」

 

「え、ええ・・・?だけど・・・。」

 

 匙を向けられたローズマリーはまだ先程のテンションを切り替えられていない。

「美味しかったでちよね!?」

 

 笑顔のまま、言い聞かせるように。

 

「あ、は、はい、美味しかったです・・・!どうも、ありがとう。」

 

 デーリッチの言葉に冷静さを取り戻したローズマリーも感謝の言葉を伝える。

 

「そういえば、とても美味しかったですわね!あれはすぐに用意できる料理じゃないですわ・・・!」

 

 福の神福ちゃんも続く。

 

「あ、ああ、すまんな。美味しかったのに残してしまって・・・。」

 

 ドリントルも冷静さを取り戻す。

 

「何を言っている。あれは、ただ、お前達の注意を引き付けるために・・・。」

 敗者として、機体が破壊されることも覚悟していたマリオンは一人だけ話の流れに付いていけない。

 

「いや、忘れてないでちよ。歓迎の気持ちは本当だって、自分で言ってたじゃないでちか・・・!」

 

「・・・。お前らは・・・いや、お前はそんなことを言うために、マリオンに勝ったのか?」

 

 濡れ衣を着せられて殺されかけた相手に礼をするなど、マリオンの思考回路では理解できない。何か別の企みがあるのか、そうでなければ真の馬鹿者である。

 

「い、いやぁ、それもあるけど、実はこの後に続く頼みがあってぇ・・・。」

 

「そうだろうな・・・。なんだ?」

ここでマリオンは正常な思考を取り戻す。交換条件か・・・、予想はできた話だ。奴らは宇宙戦艦の部品に興味を示していた。マリオンの機体を破棄しない代わりに宇宙戦艦を寄越せ、とでも言うのだろう。

 お人好しな者たちだ。戦争に勝ったのだから、マリオンも破壊して宇宙戦艦も奪ってしまえばいいものを。

 だが、戦艦が目的というならば、マリオンは従わねばならない。なぜならば艦長であり、主砲でもあるマリオンは謂わば戦艦の核でもある。ユニーク機体であるマリオンには予備機もなく、替えが利かない。

 

「あの料理!実はデーリッチまだ途中だったんでちよねー!」

 

 ん?リョウリ?

 

「ちょっと席を外しちゃったけど、まだ、食べられるでちよね!?食べてもいいでちよね!?」

 

 料理・・・?さっきの料理のことか?

 一度は機能回復したマリオンの思考回路が再び混乱する。

「ど、どうだろうか・・・。だいぶ冷めて肉が硬くなっていると思うが・・・。あぁ、でも温め直せば・・・。」

 

 何だ?まだあの料理に何かあるのか?交渉の場として、会食の場をセッティングしろとでも言うのか?

 

「うひょー!温め直せるんでちかー!?もう、決まりでちー!即効、シャトルに戻るでちよー!」

 

 いや、違う。あの様子は本気で料理が食べたいだけのようだ。

 どうやら奴は真の馬鹿者のようだ。

 しかし、見ていて気分が良い馬鹿者だ。

 マリオンはアンドロイドだが人間の感情というものが少しだけ理解できた気がする。

 

「・・・不思議な奴だな・・・。」

「ヅッチーが一番乗りだぜー!」

 

「あっ、ヅッチーずるいでちー!」

 

「おら、ガキどもはしゃぐんじゃない。」

 

「「「あ、あのぉ、じゃあ私達もついでに頂いてもいいです?」」」

 

 訂正する。

 

「不思議な奴らだ・・・。」

 

―――

 

~宇宙シャトル(食堂車)~

 

「めっちゃジューシー!これでちよ、これ!」

 

「どうも、すみませんね。我が儘言っちゃって。」

 

 デーリッチは温め直した料理が出されるなりすぐにかぶりつく、とてもご満悦な様子だ。ローズマリーも申し訳なさそうにしながらも、しっかりと料理を頬張っている。

「いや、問題ない。まさか、こんな流れになるとは思わなかったが・・・。」

 

「それで、どうでしょうか?信じて頂けます?さっきの話、私達のこと。」

 

 事の発端は一ヶ月程前。天界に大きな混乱をもたらした「天界空間転移事件」に遡る。

 元々、福の神福ちゃんはフクという禍神だった。禍神フクは強力な力を持っていたものの、ハグレ神であった彼女は天界では孤立しており、禍神フクの仲間は姉妹神の御影星という禍神だけだった。二柱の禍神は自分達の居場所を確立するために天界の権力争いに身を投じた。

 ハグレ神であった二柱の力は絶大で、瞬く間に天界を掌握し、その名を轟かせた。しかしその後、目的であった自身の居場所を守ることを重んじたフクと、更に権力の拡大を図ろうとした御影星との間に軋轢が生まれ、今度はフク対御影星という天界を二分する争いに発展。

 結果として戦いはフクの勝利で終わり、御影星はフクの手により封印された。

 その後、自身の目的の為に大きな争いを生み出してしまったことを悔いたフクは、禍神としての力を封じ、禍神転じて福の神となったのだ。

 そして時は一ヶ月程前、長い年月を経て封印が解かれた御影星は、福の神に成り下がったかつての戦友であり宿敵でもあるフクへの復讐を計画する。天界における秘匿の奥義書、「風の書」「土の書」を奪い、そこに書かれてた強力な転移術により、天界の一部を切り取り次元の裂け目に封じ込めた。御影星はそこへ更に宇宙空間の一部をマリオンが乗る宇宙戦艦「神の船」ごと天界に送り込み、天界の破滅を企てた。

 福の神福ちゃんはハグレ王国の協力を得て事態の解決に当たり、禍神の力を使うことなく御影星の再封印に成功したが宇宙空間の転移術は完成してしまっていた。一方で勝手に喚び出されたマリオンは困惑していた。突然空間ごと転移されたが、これが故意の召喚であることを理解したマリオンは、最初に接触してきた上に事情を理解していたハグレ王国一行を事件の首謀者と判定。罪人としてハグレ王国に審判を下したが、覆され、今に至る。

勝手に喚び出され戦艦を破壊され自身もボロボロにされるなど、この一件の最大の被害者は間違いなくマリオンである。

 

「マリオンが信じようと信じまいと、負けたのだから、結論には意味が無いぞ?」

「私達は信じて頂きたいのです。意味があろうと、なかろうと。」

 

「何故だ?」

 

「あなたが悪い人に見えないから。気に入ったからですかね。」

 

「・・・。」

 

 マリオンは顔を赤くして俯く。マリオンはストレートな好意を向けられることに慣れていない。

 

「あれれ?黙っちゃった?ねぇ、どうしたの?照れちゃったの?マリオンちゃんかわいい!」

 

 そんな様子に、見た目は同い年位の女の子を相手にしたデーリッチが茶々を入れる。

 

「うるさい!しかし、まぁ、そうだな。わからなくも無い。ヘッドがこれでは綿密な悪巧みなどとは無縁だろう。お前達の言うことを、マリオンは信じることにする。だから、お前達も裏切るな。犯人であれば、マリオンは悲しいぞ。」

「大丈夫です。私達は本当に違いますから。」

 

 まさに、レベルを上げて物理で倒せばいい某攻略本の著者が言う、「話し合いから行き違いで喧嘩に発展しちゃったけど殴り合ってたら最後には友情が深まっちゃった、あの感じ!」である。

 敗者マリオンは相手の主張を受け入れる義務もあるが、それ以上にこの者達の言うことは信じていいと思えた。死力を尽くして戦ったにも関わらず、その相手に一片の曇りのない笑顔を向けられるお人好し国王に、マリオンは心惹かれていたのかもしれない。

 

「ところで、マリオンちゃ―マリオンはこれからどうするのかしら?」

 

 話が一段落したところで福ちゃんが問いかける。

「うん?」

 

「こんな所に一人でいて、何かあてはあるの?戦艦も壊れちゃったみたいだし・・・。」

 

 ちなみに壊したのはハグレ王国である。

 

「ううむ・・・。それについては悩んでいる。犯人を捕まえるというのは、もう意味の無いことだし・・・。だからといって、帰る方法を探すにも、まったく取っ掛かりがない。何より、この身体とシャトルで動くのはこの世界では目立ちすぎるようだ。」

 

 宇宙戦艦が動けば宇宙空間を旅して故郷の星を探すことも出来るが、航行可能距離が短いシャトルでは直ぐにエネルギー切れを起こして宇宙を漂流するのがオチである。

 

「じゃあ、うちに来るでちか?」

「うち?」

 

「うちの王国は種族のるつぼなんでちよ。ロボットもいるし、牛人間だって、たこ足の人だっているでち。マリオンちゃん一人が混ざったところで、全然、目立たないでちよ。帰る方法を探すならそれがいいでち。」

 

「マリオン・・・ちゃんはいらない。しかし、そうだな。一人でいるよりは、遥かに情報も入るだろう。だけど、お前達にメリットはあるのか?」

 

「はふ?」

 

「私の世話をすることに、何のメリットもないだろう?それとも、戦闘兵器として使うつもりか?」

 

「でーっちっち!」

 

「人と人が出会うのに、メリットなんていらんのでちよ!気に入ったから、一緒に歩く、それで十分でち。それともマリオンちゃんは、デーリッチ達が気に入らないでちかね?」

「・・・マリオンは・・・。」

 

「いや、よく分からない。好きとか嫌いとかで、行動を決定したことがない。」

 

「じゃあ、今日を記念日にするでち。好きとか嫌いとかで決定した日!」

 

 ニコーッと一切の曇りないその笑顔は心の底からマリオンを歓迎していた。

 

「・・・お前達はそれでいいのか?」

 

「歓迎しますよ。」

 

 二人のやり取りを聞いていたローズマリーは途中からこうなることを予想出来ていたようで、すんなりと了承する。後ろの方ではニワカマッスルが「またか~」と漏らしていたり、ミアラージュが「やれやれ」といった表情で成り行きを見守っていた。

 思えば別名お人好し王国とも呼ばれるハグレ王国のメンバーはその大半が元々は王国と敵対し刃を交えた者たちである。戦い終わってノーサイド。昨日の敵は今日の友。ハグレ王国に自然と根付いた不文律である。

 

「宇宙友達が増えるのか!?それはありがたいのう・・・!」

 

 声を上げて喜ぶのはドリンピア星王女ドリントル。クーデターにより星を追われ、追っ手から逃げる最中に宇宙船が故障し、星に帰れなくなった彼女とマリオンの境遇はよく似ている。

 

「マリオンちゃんみたいな子なら大歓迎ですわー!」

 

 福ちゃんも賛成のようだ。

 

「ううむ・・・。しかし、そうだな。この世界のデータも増やしておきたいし、邪魔にならないと言うのなら、行ってみるかな?」

「うんうん!」

 

 デーリッチは頭に被ったおもちゃの王冠が落っこちるほど大きく、勢いよく頷いた。

 

「それじゃあ、これから宜しくお願いしますね!」

 

「王国についたら案内するぞい!わらわに任せい!」

 

「て、手加減してくれな?あまりちやほやされると、感情回路がパンクする。」

 

「うふふふっ・・・!」

 

 こうしてまた、ハグレ王国に「いつも通り」心強い仲間が加わるのであった。

 

「それじゃあ改めて、料理を頂くとしようかな。」

 

 柄にもなく話がまとまるまで遠慮していたらしいニワカマッスルが席に戻って肉料理を食べ始めると、皆自分の席について食事を再開するのであった。

―――

 

~1時間後~

 

「へっへ~ん!四カド全部ヅッチーがとった~!」

 

 ヅッチーが最後のカドである右上のカドに白石を置くと、右辺上辺斜め3列が一気に白に変わる。まだ数ヶ所空白はあるが、この1手で大勢は決した。

 

「あぁ~!?デーリッチの黒が一気に白になったでち!?」

 

 直前まで黒で埋まっていた3列が一瞬で白に変わり、敗北が決まったデーリッチが悲鳴を上げる。

 

「これでヅッチーの3連勝な!相棒はオセロは苦手かい?」

 

 ちなみにこの国王、王国のペットである三つ首犬のベロベロスや、赤ん坊竜の地竜ちゃんにも敗北している。

「う゛ぅ~・・・こんなハズは・・・、もう1回!もう1回勝負でち!」

 

 食事を終え、後は目的地である天界の鉱山洞窟に戻るのみ。ハグレ王国の面々は各々時間を潰していた。

 デーリッチとヅッチーは携帯用オセロで、ヴォルケッタはローズマリーに勉強を見てもらってる。ミアラージュは読書、福ちゃんとドリントルは世間話に花を咲かせ、ニワカマッスルは食後の惰眠を貪っている。

 

「あなたたち!もう少し静かにできませんの!?」

 

 ヴォルケッタは、最近王国に帰属した天才召喚士シノブが書いた魔導理論書を読んでいた。時おり、ローズマリーに解らない部分を聞きながら勉強に勤しんでいたが、わんぱく国王達の騒ぎ声に我慢が出来なくなったらしく声を上げた。

「ヴォルちんもさ~、こんな所で勉強なんてしてないでオセロで勝負しようぜ?」

 

「やりません!わたくしは今勉強中でしてよ!」

 

「あ~!ヅッチー!デーリッチとの勝負はまだ決着ついてないでちよ!」

 

「だってさ~、相棒じゃ弱っちくて相手になんねぇんだもん!」

 

「なぬ!」ガーン

 

「ん?もしかしてヴォルちんは負けるのが怖いのか?そうだよな~勉強ばっか得意でもゲームで勝てるわけじゃないからな~。」

 

「ほう・・・、この大賢者ヴォルガノンが孫にして天才炎術士ヴォルケッタに向かって、負けるのが怖い、ですって!?いいでしょう、かかってらっしゃいな!」

 声を荒げながらも、どこか楽しそうにも見えるヴォルケッタ。結局いつものように3人一緒になってやいのやいのと騒いでいる国王二人と貴族の娘。

 

 思い思いに時間を過ごすハグレ王国の面々だったが、ふと、マリオンが何かに気付いたような素振りを見せる。

 

「おかしい・・・」

 

「どうしたんですか?マリオン。」

 

 その様子を見たローズマリーが声をかける。

 

「シャトルが出発してからかなりの時間が経つのにまだ先程の洞窟に着かない・・・?」

 

 シャトルに乗り込んでから、話をしていた時間を含めると、少なくとも1時間程経過している。

「えっ!?そういえば・・・、確かに行きは40分程度で到着しましたね?」

 

「現在自動走行中だが、機体の調子が悪いのかもしれん。ちょっと確認して・・・、ん!?手動運転に切り替わっている!?」

 

「どうしたんですか?」

 

「この船は本来、艦長であるマリオンの手足と同じだ。遠隔操作により、マリオンの命令通りに動く。しかし今、この船は手動運転モードに切り替わっていて、マリオンの制御下を外れている。」

 

 口調は冷静だが、マリオンの表情からはかなりの動揺が見てとれる。尋常ではない様子に他のメンバーも顔を向ける。

 

「それって、誰かがこの船を乗っ取ったってこと?」

 スペースジャック・・・。厨二病をこじらせた王国のムチムチポークこと、サイキッカーヤエちゃんならばこの心踊る展開に歓喜したかもしれないが、比較的まともな感性を持った今のメンバーには緊張が走る。

 

「そうだ。何者かはわからないが、その者は今、運転室でこの船を操作している。」

 

「しかし、解らない・・・。この船にはお前達8人以外に乗ってきた者はいなかった。ネズミ程の大きさでもなければ、質量センサーに反応があるはずなのだが・・・。」

 

「ネズミ・・・ね。」

 

「ネズミか・・・。」

 

「あ~、ネズミ・・・。」

 

 ネズミという言葉に、いまだに眠りこけているニワカマッスルを除く、ハグレ王国の全員の想像が一致する。

 謎は全て解けた。

 

「どうした、お前たち?何か心当たりがあるのか?」

 

「いや~・・・、ネズミといえば、ピンポイントで思い当たる奴がいるでちね・・・。」

 

 ホシの名は、はむすけ&どらごん。人語を話すハムスターのはむすけ、無類のパワーを秘めた竜の子供どらごん君のコソ泥コンビは、過去に何度もハグレ王国に大迷惑をかけてくれている。

 基本的には単純思考なおとぼけコンビだが、そのトラブルメーカーぶりは伝説の魔獣である地竜を復活させかけたこともあり、なかなか侮れない。

 センサーに感知されなかったということは、今回ははむすけの単独行動といことか。

「じゃあ、まぁ、ちょっと運転室に行って犯人をシバいてくるかの。マリオン、運転室に案内してたも。」

 

 犯人の目星がつくと、先程までの緊張が嘘のように、雑な対応になった。

 

「わかった。ついてこい。」

 

「ありがとうございます、マリオン。あっ、ヅッチー、ニワカマッスルを起こしてあげて。」

 

「あいよ。サンダー。」ドーン

 

「グギャー!」ナニガオキタ!?

 

 一行はこの期に及んで眠りこけているニワカマッスルを叩き起こして運転室に向かった。

 

―ー――

 

~シャトル(運転室前)~

 

(きゃぷてんおぶざしっぷぉ~ぉ!あしたからおまえがかじを~とれぃ~♪)

 運転室前に来ると、陽気な歌声が聞こえてくる。こちらの接近には気付いていないようだ。

 

「なにやらえらいゴキゲンな歌が聞こえるが、この声からしてホシははむすけで間違いないようじゃな。」

 

 ドリントルが扉に耳を当てながら中の状況を確認する。

 

「下手に抵抗されて、事故を起こされては堪らない。扉を開けたら素早さの高いデーリッチとヅッチーが最優先ではむすけを確保。ニワカマッスルは退路を塞いでおいて。マリオンは操縦をお願いします。他の皆は抵抗された場合に備えて、動けるようにしておいて。」

 

 ローズマリーが指示を出すと、全員が無言で頷く。

 

「じゃあ、扉の前に配置について、合図で飛び込むよ。」

 

 ローズマリーがドアの横に立ち開閉ボタンに手を添え、デーリッチとヅッチーを先頭、その後ろにマリオン、ニワカマッスルが控えている。

 

「せ~の!」ポチッ プシュン

 

 ローズマリーがボタンを押すと、空気が抜けるような音を立てて扉が開く。各自打ち合わせの通りに散開する。

 

「よ~そろ~ぉ♪おれたちの・・・って、なんだキミたちは~!」

 

 

――――

 

~シャトル(運転室)~

 

 懸念されたほどの抵抗もなく、あっさり捕まったはむすけは、頭に大きなたんこぶをこさえてグルグル巻きにされている。

「さて、まずは何でこんなことをしたのか説明してもらおうか?」

 

 ローズマリーが刑事ドラマの刑事さながら、はむすけに取り調べを行う。

 

「ふん。このはむすけ様が簡単に口を割るとでも?例え口が裂けても何も話すことはないね。」ペッ

 

「あ?黒こげにしてほしいか?」ギロッ

 

 この期に及んで尊大な態度を取るはむすけに、ローズマリーが本気の睨みを効かせる。

 

「レアな鉱石が採れないかと鉱山に行ったら怪しい乗り物があったので、金目の物目当てに忍び込んで、特に何も見つからなくて悔しかったのでこのシャトルをかっさらっていこうと思いました。すみませんでした。」

 ビビってペラペラと供述を始める。いっそ清々しいまでの小者っぷりである。

 

「ドラゴンはどうした?」

 

「どらごん君は鉱山で採れた鉱石を持って1度アジトに戻りました。すみませんでした。」

 

「どうやって運転していた?」

 

「テキトーにボタン押してたら手動モードになったって表示が出て、これはしめたと思って、あとはテキトーに。すみませんでした。」

 

 宿題を「本当はやったのに持ってくるのを忘れました!」って応えたら「じゃあ家まで取りに行ってこい」と言われてしまった小学生さながらに、急に大人しくすみませんを連呼するはむすけ。実に小者である。

「ハァ・・・、まったく相変わらずだなぁお前は。」

 

 大きな溜め息を吐いて、ローズマリーが呟く。ここで一旦はむすけから注意を逸らし、マリオンに向き直る。

 

「マリオン、シャトルの運航は順調ですか?」

 

「大丈夫だ。問題ない。」

 

 運転席のマリオンが応える。所謂死亡フラグに聞こえなくもないが、順調な様子である。

 と、ローズマリーの注意が離れた途端に芋虫みたいに転がっていたはむすけがモゾモゾと動き出す。

 

(フフフ、ボクの本当の狙いはシャトルじゃあないんっすよねぇ・・・)

 

 全く反省していない様子のはむすけは、まだ何かを企んでいるようだ。

 

(こんな縄でボクを縛るなんて出来ると思わないことっす!)

 

 ローズマリーが後ろを向いている隙に、げっ歯類ならではの固い前歯で体に巻かれたロープを噛み切り、そのまま外の景色に夢中になっていたデーリッチに体当たりをかます。

 

「はぶっ!?」

 

 たかがハムスターと侮ってはいけない。スピードに特化したはむすけの体当たりは、ニワカマッスルが全力投球した小石を投げつけられるようなもの。完全に不意を突かれ、脇腹にもろに体当たりを喰らったデーリッチは3m程吹き飛ばされて壁に打ち付けられる。

 その時、いつも肌身離さず持っていたキーオブパンドラを落としてしまった。

「その鍵もらったっす!」

 

 デーリッチが持つ大きな鍵「キーオブパンドラ」、別名:最初の召喚士の鍵と呼ばれたそれは、戦闘中に見せた強力な蘇生効果だけでなく、空間に「穴」を開けて空間転移したり、逆に世界に空いた「穴」を塞いだり、結界を問答無用にぶっ壊したり、世界のバランスをぶっ壊しかねないトンでもない魔力を秘めたチートアイテムである。

 本当はそれ以外にも反則級の能力があるが、現状デーリッチに使いこなせる鍵の力は精々がテレポートと空いたゲートを閉じるくらいである。

 神が選ばれし者に授けるアーティファクトをも超えた、ワールドアイテム級の代物であるキーオブパンドラは、過去に何度もハグレ王国の危機を救ったが、その分、外部の者にもその存在が知られてしまっていた。無論、はむすけ&ドラゴンもキーオブパンドラのことは調査済みであった。

「ゲート・・・オープン!」

 

 デーリッチがキーオブパンドラを落とすや否や、はむすけは自分の体よりも大きな鍵に跨がって空間転移の呪文を叫ぶ!

 

 ・・・が、鍵は一瞬輝き反応するが、特に何も起こらない。

 

「あ、あれ?」

 

「はむすけ君?キミは一体何をしているのかな?」

 

 騒動に気付いて振り向いたローズマリーが問う。眉をひきつらせ、背後にゴゴゴというオーラが見えるレベルで怒っている。メチャクチャ怒っている。話し方が丁寧な分、余計に怖い。

 

「あ、あはは・・・ちょっとおたわむれをですね、ええ。」

 

「ファイヤ。」ボウ

 

「んぎゃぁぁあ!?あちちち!すみませんでした!勘弁してくださぁい!」

 

 死なない程度に絶妙に手加減された炎魔法がはむすけの毛皮を焦がす。数秒間ゴロゴロ転げ回っていたはむすけからプスプスといい匂いがしはじめたところではむすけの意識が飛ぶ。辛うじて死んではいない。

 

 と、そこへ運転席のマリオンが大声を上げる。

 

「なんだこれは!?緊急回避行動をとる!総員、伏せろ!衝撃に備えよ!」

 

 マリオンが叫ぶと同時に、ガァン!という大きな衝撃がシャトルに響き渡る。全員がマリオンの合図で体勢を低くしていたが、転んだり壁に激突したりと少なからぬダメージを負う。

「いたた・・・、どど、どうしたんでちか!?」

 

「次元断層だ!これに飲み込まれたら大変なことになる!」

 

「何ですか!?それは!?」

 

「空間に大きなズレが生じて、異空間との境目に穴があく現象だ!一体どうして突然!?」

 

「空間・・・穴・・・もしかしてキーオブパンドラが!?」

 

 ローズマリーが先程の出来事を振り返り、呟く。

 

「さっきは不発かと思ったが確かに鍵は一瞬光っていた・・・。使い慣れない者が高速移動中に無理やり使おうとしたから鍵の力が暴走したんだ!」

 

「マリオンちゃん!どうすればこの状況を脱せられるでち!?」

「無理だ。シャトルは急には止まれない。何とか軌道を変えようとはしたが、次元断層に吸い込む力のほうが強いようだ。これ以上はどうもできん。それと、ちゃんはいらない。マリオンはマリオンだ。」

 

「「そんな~!?」」

 

 もうお手上げな状況でもしっかり訂正を入れてくる辺り、まだ余裕があるように見えるが、全くそんなことはい。

 

 ハグレ王国一行とマリオン、そしてハムスターを乗せたシャトルは成す術なく次元断層に吸い込まれていくのであった。

 




今回登場したキャラがざくアク側のメインメンバーです。
まだ話に絡んでくる人とか、居残り組の話も構想はしてますが、本編から外れる部分は書ききれるかはわかりません。
8人しか選べないってツラい。


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第2話 森の熊さん

 カズマさんサイドです。
 原作完結後の世界の設定はWeb版のエピローグとか小説の小ネタとかを繋ぎ合わせて、「こんなことがありそう」くらいでゆる~く考えて作ってます。後で何とでも出来るようにね。
 設定のピースを埋めるのに、適当なオリジナルキャラが出たりしますが、そんなに重要な役回りになることはありません。
 クリスの扱いは悩みましたが、どんな感じに落ち着いたかは読んで頂いてお察しください。


~冒険者の街アクセル~

 

 人類の仇敵である魔王が倒されて数ヶ月。

 ベルゼルグ王国の最新の歴史書には、力無き冒険者の少年が力無き者の為に剣を取り、厳しい試練の末に、女神エリスと女神アクアというこの世界を代表する二柱の女神からの信頼と寵愛を賜り、終には仲間達と力を合わせて魔王を討ち果たす、というサクセスストーリーが記されている。

 永らく魔王軍の脅威に晒されていたベルゼルグ王国の人々にとっては、念願の、はたまた諦めかけてすらいた平和な日々をもたらした冒険者は、まるでお伽噺の主人公の様に人口に膾炙され、「勇者」として人々の尊敬を集めていた。

 

 という、国が表向きに用意した完全に嘘っぱちとも言い切れない、しかし、事情を知る者からすると見過ごせないレベルで脚色された設定に上手いこと乗っかった、当のお伽噺の主人公は魔王討伐で得た莫大な賞金を元手に、合法的に自堕落な日々を送ることに成功していた。

 

 

「パス。まだ寒い。」

 

 もう雪融けも終わり、外は春もうららかな陽気に活気づく。人も、虫も、花も、野性動物も。

 魔王を討伐した勇者パーティの一人、推定人類最強の火力であるアークウィザード、めぐみんが、もう暖かい時季にも関わらずコタツに引きこもるパーティのリーダー、サトウカズマをクエスト依頼に誘うも、即答で断られる。

 

「全く、相変わらずどうしようもない男ですね。」

 

 誘いを断られためぐみんもその返答は予想していたようで、さして怒るわけでもなく、溜め息混じりに苦言を提す。

 いつもならここまででカズマの説得を諦めて、めぐみんと同郷で幼馴染みの紅魔族ゆんゆんを誘って魔王城跡まで日課の一日一爆裂に赴くところであるが、この日は事情が違っていた。

「しかし、今日はこのまま放っておくわけにはいきません。ギルドからカズマを指名で依頼が来ているのです。さっさと起きてギルドに行きますよ!」

 

「断固拒否します!」

 

 先程より強い拒絶を返し、顔が埋まるくらいまでますますコタツの中に引きこもろうとするカズマ。

 慣れたやりとりとはいえ、喧嘩っ早い気質のめぐみんは流石にちょっとムッとして布団ごとカズマをコタツからひっぺがそうと手を伸ばす。

 慌てた様子のカズマは必死に布団を押さえながら自己の正当性を主張する。

 

「ばっかお前。ギルドから指名なんてそんなの厄介事に決まってんだろ!?俺はもう厄介事や危険な事に首突っ込まないって決めたっつーの!そんなの修行とか言ってドラゴン退治やってる暇人なマツルギにでもやらせればいいだろぉ!?」

 肩書きだけとはいえ、とても勇者の発言とは思えない。ついでに名前も間違えている。

 

「暇人なのはあなたの方でしょう!カズマ!」

 

 めぐみんがカズマの押さえているコタツ布団に手をかけ引っ張るが、そこは最弱職の冒険者とはいえそれなりに高レベルのカズマさん。同じく高レベルとはいえ、後衛職のアークウィザードなめぐみん一人の力ではカズマを引っ張り出すまでには至らない。

 暫し硬直状態となるが、そこへパーティ随一の力持ちダクネスがフル装備に着替えて階段を降りてくる。

 

「なんだ。まだコタツから出ていないのかカズマは。」

 

 不正が発覚した後、失踪した前領主アルダープの後任としてアクセル領主となったダスティネス・フォード・イグニスの一人娘、本名はララティーナ。

 魔王討伐後も暫くは、魔王軍とのアクセル防衛戦に参加した冒険者への褒賞金の分配や、アルダープの汚職の後始末に追われる父を手伝っていたが、最近はイグニスだけでも処理できる程度に仕事量も落ち着いてきたので、冒険者稼業を再開している。

 

「ダクネス!手伝ってください!二人でカズマをコタツから引っ張り出しますよ!」

「ああ、わかった!」

 

 前衛職の中でも、とりわけ防御力に特化したクルセイダーにとっての防具とは、固いだけでなく相手の攻撃に踏ん張れる為の重さも重要である。

 ダクネスが着ている鎧にはこの世界で最も固く、そして最も重いアダマンタイトがふんだんに使われており、フル装備をしたダクネスは成人男性を数人抱えて動き回っているようなものである。ちなみにこの鎧は魔王討伐時の褒賞としてベルゼルグ第一王女アイリスから賜ったもので、ダクネスは褒賞金の殆どをエリス教会の孤児院とアクセルの街に寄付したらしい。

 そんな貴族の鑑のような心清らかなダクネスだが、仲間を守るクルセイダーとして腹筋が割れるくらいにマッチョなのは仕方がない。そう、仕方がないのである。

 ダクネスがコタツの両端を掴みヒョイと持ち上げると、コタツの四つ足に器用に両手両足を絡めてしがみついているカズマの腹部側が顕になる。

 

「やーめーろーよー!はーなーせーよー!」

 

「今です!隙あり!」

 

 めぐみんは両手両足が塞がって完全に無防備になったカズマの脇腹をくすぐる。

 

「ぶはっ!?やめろめぐみん!?わはっ、わはははは・・・は!」ボテッ ビターン

 

 脇腹をくすぐられて力が抜けたカズマは受け身もとれず情けなく顔面から落下した。

 が、落下した後もめぐみんのくすぐりは止まらない。

 

「わはははは、め、めぐみん。やめろって、わはは、」

 

「クエストに出るというまで止めませんよ?」

 

「わはっ、わかった!わかったから!クエストでもなんでも行くから止めてくれっ!ひぃ~。」

 

「わかった?わかりました。でしょう?」

「わかりました!わかりましたからぁ!止めてください~!」

 

 と、カズマから泣きが入ったところでめぐみんの手が止まる。

 

「全く。どうせこうなるんだから、手間かけさせないでください。ダクネス、協力感謝致しますよ。」

 

「きゅう~・・・」ポー

 めぐみんがダクネスの方に振り向くと、何やらダクネスは顔を赤くしてモジモジしている。

 

「め、めぐみん。朝からそんな大胆なプレイをするなんて・・・。後で是非私にも・・・!」

 

「お断りします。」

 

「キャウン!」ビビクン

 

 バッサリ切られたダクネスが悶えていると、玄関に人影が二つ。アークプリーストのアクアと盗賊のクリスである。

 

「ちょっと、カズマ~?まだなの~?こっちはもう、準備万端なんですけど!」

 

 アクアは天界に戻った後は自由に天界と地上を行き来しており(というより仕事そっちのけでカズマ邸に入り浸っている時間のほうが長く)、自由奔放に冒険者生活を謳歌していた。たまに仕事で忙しいエリスを強引に引っ張り出して一緒に行動している。

 

「やあやあ、相変わらず賑やかだね~ここは。こんにちは。約束を果たしにきたよ。」

 

 時折テレポートで天界にあるエリスの執務部屋に顔を出すカズマは、たまには一緒にクエストを、という約束をエリスと交わしていた。しかし、冬場はまともなクエストが少なく、春になったらなったで活動を始める冒険者の死者が増え、エリスが本業で忙しくなったのと、カズマが危険なクエストを避けたがるのと相まって、なかなか約束を果たせないでいた。

 

 今回はギルドからの依頼で流石のカズマもクエストを受けるだろうと踏み(嫌がっても強制的に受けさせ)、クリスをアクアが呼びに行き、その間にカズマを叩き起こす算段だったらしい。

 

「おぉっ!クリスじゃないか!?まさか今日は一緒にクエストを!?何だよ~お前達それを先に言えよな~。早く準備して行くぞ!」

 

 色物ばかりのパーティメンバーと反対にエリス様は正統派ヒロインと呼んで憚らないカズマは、クリスを視界に捉えるや否や、この熱い手のひら返しである。クズマとかカズマとか呼ばれる所以でもある。

 

「うわぁ・・・」ヒキー

 

「カズマ、さすがの私でもそれは・・・」

 紅魔族の村でお互いを好きだと打ち明けたのはなんだったのか。

 結婚式に乱入して自分の持つ知的財産のほとんどを擲ってまで自分をバツイチにしてくれたのはなんだったのか。

 カズマを巡る人間関係は当の本人がいつもこんな調子なので一向に進んでいない。

 先程までコタツファイトしていた色物ヒロイン枠の2名が白い目で見ているが気にしない。カズマは自室へかけ上がり急ぎ出掛ける準備を始める。

 

「クリ・・・いえ、エリス様、最近忙しくされていたようですが、今日は本業のほうはよろしいのですか?」

 

 女神エリスは、魔王との戦いの後、カズマの悪知恵によって降臨させられた際にパーティメンバーに本来の姿を見られたことで、盗賊クリスがエリスの分身であることは既に知られている。

 

「ダメだよ~ダクネス。私がこの姿でいるときは君の親友で盗賊のクリスなんだからね?君がダスティネスではなく、ダクネスとして冒険者をやっているのと同じさ。敬語もナシだよ。大体女神だからって今更気を使われてたらアクア先輩だってやりにくいでしょう?」

「えっ?私は敬ってくれても全然OKよ?寧ろ女神としてもっとチヤホヤしてほしいくらい!」

 

「ああ、そうだな。今更アクアに畏まるというのも無理な話だな。」

 

「え~!なんでよ~!」

 

「たはは・・・。」

 

 あ~そういやアクア先輩はこういう人だったと苦笑いしながら、ダクネスと今までと変わらない間柄を続けられることを嬉しく思うクリス。

 

「そうそう。で、今回私がパーティに参加しようと思ったのがさ、約束を果たすってのもあったんだけど、最近ちょっと嫌~な予感がしていてさ・・・。皆には話をしておきたかったんだ。」

 

「「「嫌な予感?」」」

 

 この場にいる全員の顔つきが真剣なものになる。この世界で最も信仰されている女神が嫌な予感がすると言う。敬虔なエリス教信者のダクネスは勿論、めぐみん、そしてアクアもクリスの話に耳を傾ける。カズマはまだ自室で着替えをしていてこの場にはいない。

 

「そう、なんとなくなんだけど、今世界のあちこちでこう、濁りみたいなものを感じるんだ。もしかしたら、新しい魔王が生まれる予兆かもしれない。」

 

3人が息を飲む。先代魔王が倒れてまだ一年も経っていない。魔王軍に侵略され、破壊された建物や農地にはまだ復興途中のところもある。当然、大切な人を失った人の心も癒えていない。それだけの傷痕を残しながら新しい魔王?冗談ではない。

「まぁ、現時点じゃまだ何とも言えないんだけどさ。ただ、もしそうだとしたら、必ず今代の「勇者」が話の中心に置かれるはず。世界はそうやって出来ているからね。そして今日、ギルドから「勇者」へ向けた依頼がきた。果たしてこれは偶然なのかな?」

 

 淡々と言うクリスの話に聞き入る3人。いきなり魔王誕生とか言われてあっけにとられるが、これだけは言えた。

 

「「「今の話はカズマには決して話さないようにしよう!」」」

 

 この話を聞けばせっかくやる気になったカズマは確実に逃げ出すだろう。四人は固く口を結んだ。

 

 

~ギルドまでの道中~

 

「髪の毛一本からできる慈善活動で~す!ご協力頂ける方を募集していま~す!」

 

 ギルドまでの道すがら、カズマと同じくらいの年頃を思わせる数名の男女が通行人へチラシを配っている。

 何人か奥のテントの方に連れられ、書類を書いたりしている。

 

「なにやってるんだアレ?」

 

 さっさと用件を済ませたいカズマは、足を止めはしないが、隣にいたダクネスに問いかける。

 

「最近王都で生き物からマナエネルギーを取り出す研究をしている団体がいてな、その実験に使うのに髪の毛を集めてるんだそうだ。と、お父様は仰っていた。」

 

「マナエネルギー?ってマナタイトとかに埋まってるやつ?」

 

 あまり聞きなれない単語だが、マナという言葉から魔王討伐時にも馴染み深いアイテムを連想する。

 

「マナエネルギーとはどんな物体にも含まれている、魔法の源となる力のことです。普段は空気中にもあるので意識もされませんが、マナエネルギーがなければ魔法が使えないばかりか、植物は育ちませんし、動物も生きていけません。マナは水にも多く含まれますが、逆に砂漠のような場所は全くマナエネルギーが無く、生き物が住めない土地になります。」

 

 ダクネスに替わり、パーティで最も魔法の知識があるめぐみんが答える。

 

「つまり、人間はマナがないと、爆裂魔法を放った後の役に立たないめぐみん状態になるってわけか。」

 

「その言い方は喧嘩を売っているのですか?いいですよ?受けてたちましょう!」

 

 目を紅くし、マントを翻しながら抗議をするめぐみん、を、軽くいなしてカズマは話を続ける。

 

「で、あの連中は何者なんだ?」

 

「研究団体の職員といったところだろう。しかし、国の公的な組織ではないし、彼らの素性はよくわかっていない。髪の毛といえど安易に体の一部を提供するような真似は避けるべきだというのがお父様からの言い付けだ。」

 

「ふ~ん・・・。まぁ、そういうのは関わらないのが一番だよな~。アクアみたいのが引っ掛かって、あとで揉めるのがオチだわ・・・って、アクアは?」

 

 まさかと思って先程までアクアが歩いていたはずの後ろの方に振り返るカズマ。しかし、時既に遅し。先程のテントのところで熱心に説明を聞いて書類を書いてるアクアの姿と、「先輩、おいてかれますよ~(汗)」とアクアを急かすクリスの姿が。

 

「あんの馬鹿は~!」

 

 全く後先考えず行動するアクアに腹を立てたカズマはテントの方に駆けていく。

 

「あっカズマ!聞いて聞いて!すっごいのよこの人たち!髪の毛から取り出したマナで医療とか砂漠の緑化とかの慈善活動をしてるんだって!」

 

「こんのポンコツ自称女神がぁ!」ゴツン

 

「んみゃあああ!?」

 

ーーーーー

 

「ヒック、ヒック、わだじ、わるぐないのに~。なんでよ~!」

 

 理不尽な暴力に晒されたと主張し、泣きわめくアクアと、よしよしと(無い)胸を貸してそれをあやすクリス。クリスの慣れた様子からこの二人の女神は元々そんな間柄なのだろう。

 

「まったく、素性もよくわからん奴にホイホイ関わるな。」

 

 手のかかる子供を叱るようにアクアを説教するカズマ。先輩大好きなクリスも何だかんだでアクアのことを思って叱るカズマのことは信用していたりする。

 

「はぁ~・・・。」

 

 たったギルドまで行く間に一悶着。早速今回のクエストに並々ならぬ不安がつのるカズマであった。

 

 

~冒険者ギルド~

 

「いらっしゃいませ~!あら、サトウカズマさん!やっと来られたんですね!こちらにどうぞ!」

 

 アクセルの冒険者ギルドにおいて男性冒険者から圧倒的な支持を受ける看板娘、娘?のルナがカズマパーティの姿を視界に入れると元気な声をかけてくる。今回は冒険者ギルドからの依頼ということと、他の冒険者に話が拡まるのを避ける為、窓口ではなく奥の応接室に通される。

 五人はルナに案内された部屋で各々寛いでいる。公共施設であるギルドであるが、さすがに来客用の部屋ともなれば絵画なの調度品が置かれており、待ち人の目を楽しませる作りになっている。

 

「へぇ~ギルドにもこんな部屋があったなんてな。」

 

「ねぇねぇ、カズマさん!この絵、なかなかのものだわ!この水と芸術を司るアクア様を唸らせるとはきっと名のある画家の作品に違いないわ!」

 

「お前は酒と宴会芸の女神だろうが。何が芸術だよ。芸術に謝れ。」

 

「なんですって!このクソニート!」

 

 このパーティではもはやお約束となった掛け合い漫才を始める二人。とても女神がしていいとは思えない形相でカズマの襟元をガックンガックン揺らすアクアと、ムキになるアクアを鼻で笑うカズマ。

 そんなこんなで騒いでいると、ドアをノックする音が聞こえ、大柄ながら温和そうな壮年の男性が入ってきた。

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません。アクセル冒険者ギルド長のカプリコと申します。」

 

「あ、冒険者のサトウカズマです。」

 

 先程まで口喧嘩をしていたアクアを脇に置き、カズマも丁寧に挨拶を返す。相手に丁寧な物腰で挨拶されると、こちらも相手に合わせて頭を下げてしまう、日本人ならではの感性であろうか。

 

「この度はご足労頂き感謝致します。」

 

「いえいえ。」

 

 普段はゲスマとか呼ばれるカズマであるが、きちんと礼儀を弁えた相手には畏まってしまう。勇者と呼ばれるようになっても小心者な根っこは変わっていない。

 

「さて、早速ですが、今回の依頼についてお話しさせて頂きます・・・。」

 

――ー――

 

 ギルドからの依頼は要約するとこうだ。

 昨夜未明、アクセルの街近くの森で眩い光と大きな衝撃音があり、ギルドに通報があった。最初はいつもの爆裂魔法のことかと思ったギルドだが、最近頭のおかしいその使用者が毎日魔王城へ爆裂魔法を撃ちに行っており、昨日も魔王城へ行っていたことも把握していた。

 すぐさま別の可能性を考慮して、ギルド職員と衛兵で調査したところ、森の中に謎の建造物を見つけたとのこと。

 未だに捕まっていない前魔王の娘との関係は不明であるが、大きな爆発の痕が残る森の状況と、謎の建築物が敵対勢力の拠点である可能性を否定できないことから、ギルドは事件の危険性を推定A級以上と判断。

 現状、アクセルの街最高の冒険者(ということになっている)カズマのパーティにご指名で調査、場合によっては討伐の依頼が入った次第である。

 

 

~アクセル近辺の森~

 

「帰ってもいいですか?」

 

「しばきますよ?」

 

 件の森の入口まできて、早速やる気をなくすカズマ。魔王軍の残党の可能性を聞いてビビっているらしい。一方、後ろのほうでコソコソ話しているダクネスとクリス。

 

「クリス、今朝の話と今回の依頼というのは関係ありそうか?」

 

「ん~どうかな?こんなに分かりやすく魔王軍が動くなら私ももっと具体的な調べがつきそうなものだけど・・・。ただ、この依頼がちょっと特殊なのは間違いなさそう。」

「それはどういう・・・」

 

 ダクネスが言いかけると、先頭のカズマがピタッと足を止め、前方に注意しながら告げる。

 

「しっ、敵感知に反応があった。お前ら構えとけ。」

 

 何だかんだしっかり自分の役目を果たすカズマがパーティに警戒を促す。

 

「この反応は・・・、一撃熊か!?畜生、なんでこの世界の生き物はこんなに逞しいんだよ!ちょっとくらい遠慮しやがれ!」

 

 ベルゼルグでは最近強力な野生モンスターが街近くにも出没するようになってギルドが対応に追われている。魔王軍という天敵がいなくなり、今まで成りを潜めていた野生モンスターの活動が活発化しているのである。

「カズマ、ここは私の爆裂魔法で!」

 

「私が前に出て囮になろう!」ハァハァ

 

「私は後ろで応援してるから!」

 

「お前らちょっと黙ってろ。」

 

 相変わらずまとまらないパーティである。放っとくと勝手に自爆する色物ヒロイン達を制して作戦を練るカズマ。

 

「一撃熊のクリティカルは高レベル冒険者でも一発KOされることもある。接近戦は避けるぞ。俺とクリスが潜伏使いながら射程距離まで移動、クリスがバインドで縛り上げたところを俺が狙撃で仕留める。めぐみんは討ち漏らした場合に備えて呪文詠唱、ダクネスはめぐみんを守っててくれ。アクアは俺とクリスに支援魔法を頼む。」

 危険性を極力排除した一見卑怯とも言える作戦だが、常に安全を確保しながら戦うのが冒険者として長生きできるコツである。小心者なカズマであるが、そういう意味では冒険者向きな性格なのかもしれない。まぁ、結局無茶して何度も死んでいるわけだが。

 

「へぇ~ちゃんとリーダーやってるじゃん。なかなか的確な指示だったよ後輩君。」

 

「それはどうも。先輩。」

 

 防御特化の前衛、作戦指揮と攻撃補助の中衛、火力特化の後衛と回復支援特化の後衛。字面だけ見れば非常にバランスのとれたメンバー、しかもその内三人が上級職ときている。

 しかし、尖りすぎたパラメータと頭と性格の残念さと相まって、彼女達に好き勝手に行動させるとロクなことにならないのは長い付き合いでよくわかっている。このパーティはやはりカズマが中心にいないと機能しないのである。

 

「さて、そろそろ見えてくるかなっと・・・、ん!?あれは!?」

 

 敵関知の反応があった場所からおよそ40メートル程の地点、一撃熊の姿を視界に入れようとカズマが目を凝らして千里眼を発動させる。見えたのは一撃熊と、それと対峙している少女が二人。一人は青い髪を両サイドに束ねた頭に王冠を被った珍妙な格好、もう一人は白いシャツに赤いスカート、森にいるにしては明らかにおかしな格好、どちらも年の頃は10歳くらいであろうか。

 なぜこんな所に子供が?という疑問もあったが、これは放ってはおけない。ロリコン気のあるカズマにとって幼い少女が傷付くことなど許しがたい事態である。

 カズマは一瞬クリスに目配せを送り合図をすると、二人は一気に駆け出す。

 が、二人は信じられない光景を目の当たりにする。

 

「レイジングウィンド!」ビュワー

 

「フルスイングタイガー!」パコーン

 

 白シャツの子が聞いたこともない呪文を唱えると強力な風がカマイタチとなって一撃熊を切り刻みながら浮き上がらせる。そこへ青い髪の子が持っている杖をゴルフのようなスイングで振り回してかっ飛ばす。 軽く10メートル程はかっ飛ばされた一撃熊は絶命したようだ。

 

「う~ん、なかなか強いモンスターもいるようでちね。まぁデーリッチの手にかかればチョチョイのチョイなんでちけどねぇ。」

 

「ほら、そうやってすぐ調子に乗るのがアンタの悪い所でしょう?油断して怪我なんてしたらまたローズマリーに怒られるわよ!?」

 

 カズマとクリスは潜伏状態を解かずにその様子を見守る。明らかな異常事態から察するに、今回のクエストの関係者である可能性があると考えたからだ。

 

「もう、ミアちゃんは悪の秘密結社の一員なのに真面目過ぎでち。」

 

(悪の秘密結社!?)

 

「あんたが緩すぎるのよ!王様なんだからちょっとは自覚しなさい!」

 

(王様!?)

 

(この感じ・・・、もしかしてあの子アンデッド?しかも王様?アンデッドを従えた王様って・・・??)

 

 あの戦闘力に、悪の秘密結社、王様、アンデッド。そしてギルドから言われた魔王の娘。不穏なキーワードが出揃い、怪しさMAXである。

 とはいえ、一撃熊を軽く葬る相手。見た目は幼い少女だが、全く油断はできない。もし相手が敵対勢力であればまともにやり合っても勝てない可能性が高い。

 少し旬順してみたが、ここで剣を交えるにはリスクが高すぎるし、秘密結社というからには仲間がいる可能性がある。しかし情報を得ないと動きがとれない。

 多少リスクはあるが、二人は退路を確保しつつ接触を試みることにした。あくまでも偶然出会った風を装って。

 

「お?何でこんなとこに子供がいるんだ?」

 

「キミたち、森は野生のモンスターが出るから危険だって大人に言われなかった?」

 

 ややクサイ芝居じみた言い方になったが、特に怪しまれたわけではないようで、子供達からは普通の反応が帰ってくる。

「あっ、こんなとこで人に会えるなんてラッキーでち!お兄さん達は近くの街の人?」

 

「そうだけど・・・。お前達は?この辺じゃあまり見ない格好だけど?」

 

「私達は迷子?みたいなものなのよ。ちょっと街を探していたのだけれど、もしよろしければ案内しては頂けないかしら?方角を教えて頂けるだけでも構わないわ。」

 

 この付近にはアクセル以外の街はない。であれば、こいつらは何処から来たんだ?この変な格好もここいらでは見かけない服装だ。

 普通の人なら、この状況でこんな怪しい子供達を相手にしないだろう。ましてや安楽少女の変種ではないかとさえ疑われて警戒されてしまいかねないレベルである。 しかし、カズマはこの状況に少々心当たりがあった。自身も似たような状況を経験していたからだ。この世界では見慣れない服装、妙に世間知らずな反応、チートな能力。こいつらまさか異世界人か?という可能性に行き当たり、カズマは問いかけようとするが、相変わらず空気を読まない自称女神によって遮られる。

 

「カズマ~!クリス~!どうしたの~!?急に走り出すから見失っちゃったんですけど~!」

 

「あっ、アクアさ~ん!こっちで~す!」

 

 後方に控えていた三人がクリスの呼び声に気付いてやってくる。

 

「全くもう!何なのよ二人して、女神であるこの私を置き去りにするなんて!そこに直りなさい!」

 

 置いていかれたことにご立腹なアクア。素直に正座するクリス。無視して話を続けようとするカズマ。

 と、そこへ向こうからも呼び声が聞こえる。

 

「デーリッチちゃ~ん、ミアラージュちゃ~ん、一度休憩しますわよ~」

 

 福ちゃんがデーリッチとミアラージュを呼びに来る。

 

「福ちゃ~ん!こっちに来るでち~!人がいたでち~!」

 

「あらまぁ、本当に?」

 

 数秒待つと、白いレオタードのような格好にサンタ帽のような物を被った妙齢の女性が現れる。ニコニコ顔の温和そうな大人の女性、しかも巨乳、しかもレオタードである。ついつい鼻の下が伸びるカズマに、女性陣の目が突き刺さる。

 福ちゃんと呼ばれたその女性が此方を見やると、ニコニコしたまま驚きの声を上げる。

 

「まぁ!?あなたアクアちゃん!?アクアちゃんね!」

 

 クリスに偉そうに説教をかましていたアクア。思いもよらぬ方向から名前を呼ばれて振り返る。

 

「はあぁ?この高貴なアタシをちゃん付けで馴れ馴れしく呼ぶのなんて年増の福の神様くらいよ!何よアンタ!ニコニコ顔まで福の神様みたいな顔しちゃって!」

 

「誰が、年増ですって?ア・ク・アちゃん?」ニコニコ

 

 表情はニコニコしたままだが、福ちゃんから発せられる冷たいオーラによって周囲の温度が10℃程下がる。

 

「えっ?えっ?この冷気はまさか、本当に福の神様?」

 

「ちょっと、オシオキが必要ですわね。」ゴールデンハンマー

 

「んみゃぁぁああ!」

 

 

 森の中にアクアの悲鳴が木霊した。

 




 登場人数の問題でカットした没ネタ(妄想)集 その①

◆貧乏店主の魔道具店を繁盛させようと奮闘するベル君の道具屋物語

◆紅魔の村を訪れたウズ大先生と紅魔族随一の小説家あるえの合作、そして腐に染まるゆんゆん

◆地竜ちゃんに付きまとわれる元ドラゴンナイトさんの冒険記

 時間があったら短編ifでも書きたいけど、無理だろうな・・・。


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第3話 仕事探しは

 キャラ紹介&設定説明回。
 後半長々と説明してるのはこの後の話の中核になりますので、読み飛ばさないほうがいいです。
 作者はこんな細かいことを考えられるほど頭が良くないので、この設定は基ネタがあります。知ってる方なら2話でピンと来てると思います。まぁ二次小説だしいいよね。
 あと、原作はあくまでもざくざくアクターズですので、このすばファンの方にはカズマパーティの活躍が物足りなく感じるかもしれないです。


~アクセル近辺の森シャトル墜落原場~

 

「え~と・・・つまり、あんたらは異世界の住人で、事故でこの世界に来てしまったと・・・。」

 

 普通ならにわかに信じられる話ではないが、自身が転生者のカズマと、女神であるアクアとクリスの3人はすんなり受け入れた。

 一瞬目を丸くして絶句していためぐみんとダクネスも、よく考えたら既にこのパーティの過半数がこの世界の人間ではないことを思い出し納得する。

 

「ええ、そうなんです。」

 

 ハグレ王国を代表してローズマリーが答える。

 

「で、そちらの方は?うちのアクアとお知り合いってことは神様?」

 

 自業自得とはいえ、いきなりパーティメンバーをぶっ飛ばされたカズマはやや警戒気味に訪ねる。

 

「私は福の神をやっております、福ちゃんとでもお呼びください。アクアちゃんとは、え~と・・・、先輩と後輩関係ってところかしら?ね?アクアちゃん?」

 

 叩かれた頭に両手を当ててうずくまり、セルフヒールをかけていたアクア。声をかけられてビクゥと屹立して福ちゃんに向き直る。

 

「せ・・・せせ先輩!?福の神様に対して、そんな・・・!?」

 

 アクアがやらかしてオロオロしたり泣きわめいたりする姿を見るのは慣れているが、こんなに滅茶苦茶にパニくっているアクアは始めて見る。ニコニコしてて優しそうに見えるけど、そんなにヤバい神様なのか?

「ハッ!!そうよカズマ!頭が高いわよ!ほら!みんなもクリスを見倣って!ひかえおろう!ひかえおろう!」

 

 言われてカズマは脇にいたクリスを見る。

 片膝を付き、左手を胸に当て、右手は結んで地に当てかしづいている。神様式の敬礼なのか?ついでにダクネスもクリスに従って既にかしづいている。

 

「あらあら、直ぐに気付かなかったけれど、あなたはエリスちゃんね?」

 

「はい。ご無沙汰しておりました。まさかこのような場所でお会いするとは・・・。」

 

 クリス・・・、いや、エリス様も福の神様と面識があるらしい。アクアのように取り乱しはしないが、よく見ると微妙に手が震えて額に汗を垂らしている。かなり緊張しているようだ。

 

「な、なぁ、アクア。福の神様ってそんな偉い神様なのか?」

 

 女神2柱の尋常ではない様子にカズマが恐る恐る訪ねる。

 

「ばっかねカズマ!偉いなんてもんじゃないわよ!福の神様っていったら正一位太上だいじ「ふんっ!」ドスッ ドサッ

 

 何かを言いかけたところで、突然アクアが意識を失い、崩れ落ちる。

 恐ろしい程早い手刀。カズマでなければ見逃しちゃうね。というか、他のメンバーは死角になっていて見えていなかったようだ。

 

「あらあら、アクアちゃんたらはしゃぎ過ぎよ。こんなところで寝ちゃったらダメよ?」

 

「えっ、あんた今?」ナグリマセンデシタ?

「アクアちゃんには困ったものね?」ニコニコ

 

(ヤバい!この神様はヤバい!)

 

「アクアちゃん。私達は先輩と、後輩、よね?ほら、エリスちゃんも顔を上げて?」

 

「えっ!?は、はい・・・。ってアクア先輩が!?」

 

 カズマの危機感知センサーが針を振り切らんばかりにビンビンに反応している。これはいかん。過去最大級に関わっちゃダメなやつだ。

 

「やっぱり神様って福ちゃんに会うと皆、滅茶苦茶ビビってるでちね?」

 

「う~ん、福ちゃんの過去は聞いたけど、相変わらずだなぁ・・・。」

 

 最近似たようなシチュエーションが続いて、事情も把握しているハグレ王国の面々は冷静に成り行きを見守っていた。

―――――

 

「では、お互い自己紹介しましょうか。」

 

 参謀ローズマリーからハグレ王国の紹介がされる。

 ハグレは、彼らの世界で異世界から召喚された者がそう呼ばれていること。不遇な扱いや差別をされていたハグレや、気の合った者が集まってハグレ王国が大きくなっていったこと。

 デーリッチとローズマリーの二人で始めた王国が、今やあらゆる人種のるつぼとなり、彼らの世界に大きな影響力を持つようになったこと。

 

「神に、悪魔に、宇宙人に、異世界人・・・。」

 

「妖精に、アンデッドに、ドラゴンに、ゴーレムに・・・。」

 

 ダクネスとめぐみんも信じられないという顔をしている。とはいえ、アクセルの街も今挙がった種族の半分が暮らしており、異常事態具合でいえばお互い様である。

 

 

「濃すぎるだろ!なんつ~集まりだよ!うちの問題児達がかわいく見えてくるわ!」

 

「ほう、問題児とは誰のことか答えてもらおうか?ん?」

 

「か、かわいいだなんて・・・。こんな公衆の面前で私を口説いてどうする気だ・・・!」ポッ

 

「どうもしねーよ!?めぐみんも一々爆裂魔法をチラつかすのはやめろ!」

 

 誰がどう見ても問題児である。

 ツッコミしてても話が進まないので、カズマもパーティ紹介をする。

 

「俺はサトウカズマ。冒険者をやっている。こっちの黒いのがめぐみん。白いのがダクネス。そっちでヨダレ垂らして寝こけてるのが自称女神のアクア。それを介抱してる心優しい盗賊のクリスは、この世界で一番信仰を集める女神エリス様の仮の姿だ。」

「黒いの!?」ガーン!

「白いの!?」ビビクン!

 

 明らかに依怙贔屓された雑な紹介をされ、ショックを受けるめぐみんとダクネス。何かダクネスは顔を赤くしている。

 紹介に不満顔のめぐみんはおもむろにズイッと前に出て、高らかに名乗りをあげる。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法使いにして最強の魔法、爆裂魔法を操るもの!」

 

 バサッとマントをはためかせ、左手で三角帽子の前ツバを摘まみ、右手で杖を構え、ビシッとポーズを決める。いつも通りの紅魔族流の名乗りだ。

 その姿がハグレ王国のメンバーの琴線に触れたらしい。

 

「かっこいい!」キラキラ

「かっけぇ!」スゲェナンダアレ

 

「くっ、ワタクシより目立つなんて・・・。」クヤシイデスワ

 

「い・・いや、それほどでも・・・。」

 

 戦闘中の魔王軍幹部にすら馬鹿にされた紅魔族流の名乗りだが、かつてこれ程歓迎されたことがあっただろうか。珍しくめぐみんが照れている。

 

「なあ相棒、これは負けてられないよなぁ!?」

 

「もちろんでち!デーリッチ達もかっこ良く自己紹介するでち!」

 

 というわけで、ハグレ王国のメンバーも紅魔族流の自己紹介をすることになった。

 

「我が名はデーリッチ!ハグレ王国の国王にしてキーオブパンドラを操りし者!」ビシッ

 

(えっ、キーオブパンドラ!?まさか!?)

 

 アクアの介抱をしていたクリスがキーオブパンドラという単語に反応してバッと振り返ったが、それに気付いた者はいない。 自己紹介は続く。

 

「我が名はヅッチー!妖精王国のリーダーにして、雷を自在に操るもの!」ビリビリー

 

「我が名はドリントル!ドリンピア星の皇女にして、故郷の未来を憂うもの!」キラッ☆ミ

 

「我が名はニワカマッスル!ハグレ王国随一の筋肉にして、パーティをあらゆる暴力から護るもの!」ムキッ

 

「我が名はミアラージュ!ラージュ家古神降霊術の使い手にして、不死の体を持つもの!」スラッ

「我が名はヴォルケッタ!大賢者ヴォルガノンの孫娘にして、炎魔法を操るもの!」ドーン

 

「我が名は福ちゃん!福の神にして、神の祝福を授けるもの!」ニコー

 

「わ、わが名はマリオン!ハグレ王国の新入りにして、星を守護するもの!」アセ

 

「我が名はローズマリー!ハグレ王国の参謀にして、国王を補佐するもの」ピシッ

 

「我が名ははむ「以上がハグレ王国のメンバーです。」」

 

 ネズミが何か言いかけたようだが、ローズマリーがカットする。ハグレ王国の自己紹介は終わっている。

 

「お、お~!カズマ!この方達は紅魔族の流儀を完璧に理解されています!なんと素晴らしいことでしょう!これはついに紅魔族の時代が、もとい私が新たなる魔王として君臨する時代がきたのです!」

 ひとしきりの自己紹介が終わり、めぐみんが興奮して紅い眼をより一層紅く輝かせて物騒なことを言っている。

 

―――――

 

「俺達はこの森の調査に来たんだが、この乗り物?はともかく、こっちの爆発痕はなんだ?」

 

「そういえば私たち、ギルドの依頼で来たのでしたね。忘れることろでした。」

 

 お互いに自己紹介を終え、カズマは本題に入る。直径10数メートルにも及ぶクレーターは尋常ではない破壊行為があったことを物語っている。大方の予想は出来るが、ギルドからの依頼はこの件の調査である。

 

「あ~これはヴォルちんが・・・」

 

「し、仕方ないじゃない!ピンチだったんだから!」

「俺は悪くねえぞ!」

 

 話としてはこうだ。

シャトルごとこの世界に飛ばされた彼らが最初に感じたのは浮遊間。自分達が浮いてるかと錯覚した直後、それが落下していることに気付いた時にはもう手遅れだった。自由落下のまま地面に墜落したシャトル内では、誰も身構えることもままならず全員が大ダメージを受けていた。

 そこへ大きな音に気付いた野生モンスターが取り囲む。幸い死人はいなかったが、気を失っている者、怪我により動けない者が多く、ハグレ王国の面々は絶体絶命のピンチに陥っていた。

 そんな中で比較的怪我が軽く、立ち上がることができたのがヴォルケッタとニワカマッスルだけだった。

 まず、ニワカマッスルが前に出て『大防御』で瀕死の仲間を守る。そしてヴォルケッタが奥の手『大逆転フェニックス』を使う。それはデーリッチ、ヅッチー、ヴォルケッタの3人が瀕死の時にのみ使える秘技中の秘技。ヴォルケッタ自身を回復し、炎魔法力を超強化した上で超必殺技『爆星ヴォルケッタ』を解放する。

その威力は凄まじく、取り囲んでいたモンスターの半数以上を森の一角もろともぶっ飛ばした。残りのモンスターはあまりの威力に怯え、逃げ出し、危機を脱したという。

 その後、気が付いたデーリッチと福ちゃんのヒールで全員を回復し、夜明けを待って周辺の調査を始めていたところ、カズマ達と出会ったということである。

「これ程の魔法を一人で放ったってのか?めぐみんの爆裂魔法並みの威力だな・・・。」

 

 カズマがクレーターになっている森の一角を見ながら呟く。今まで幾度となく見てきためぐみんの爆裂魔法。最近益々威力が上がって手がつけられなくなってきているようだが、これ程の威力が出せる魔法がめぐみんの爆裂魔法以外にあったとは。

 と、カズマの呟きを聞いてムッとしためぐみんが対抗意識を燃やす。

 

「これは・・・、私の爆裂魔法に対する挑戦状ということですか。そうですか。いいでしょう!受けてたちましょう!」キラーン

 

「な、なんという威力!是非とも一度受けてみたい!」ハァハァ

 

 ついでにダクネスも興奮していた。

 

「お前らややこしくなるからちょっと黙ってろ!」

 

 ツッコミばかりしていては一向に話が進まない。カズマは問題児二人に大人しくしているよう、釘を刺す。

 

「事情は大体分かった。まぁ神様連れてる上に、そのなりで悪人てこともないだろう。事故というのも本当の様だし、ギルドには魔道具の暴走事故による旅行者の遭難とでも報告しておくわ。」

 

「それは助かります。我々も揉め事を起こしたり、変に注目されては困りますので。ありがとうございます。」

 

 ローズマリーはカズマの機転の効いた対応に感心しつつ感謝の意を伝える。

「で、アンタらはこれからどうするんだ?帰るアテはあるのか?」

 

「それが、非常に困ったことになっていまして・・・。デーリッチ、キーオブパンドラを。」

 

「おうでち!」

 

 呼ばれたデーリッチがキーオブパンドラを掲げ、意識を集中する。鍵の先端がほんのり光るが、そこでデーリッチの集中は切れる。

 

「う~ん。やっぱり元の世界から遠すぎるのか、座標が特定できないでち。」

 

「その鍵は何なんだ?」

 

 武器にしても道具にしても異質な大きな鍵。小さな女の子が大きな鍵を振り回してるのは絵的にはファンシーで微笑ましいが、鍛冶スキルや盗賊スキルの応用で多少目利きの心得もあるカズマには、それが尋常ならざるものであるのはなんとなく分かったいた。

 

「キーオブパンドラといって、転送装置みたいなものです。任意の場所に瞬間移動したり、別の世界へ通じる穴を開けたり閉じたりする機能があります。しかし、ご覧頂いたように、これを使って戻ることはできない。あとは我々が乗ってきたシャトルを直せたらいいのですが・・・。」チラッ

 

 ローズマリーに促され、スペースシャトルの持ち主であるマリオンが代わって応える。

 

「シャトルの機能は完全に故障してしまっている。設備も材料もないこんな場所で修理することは不可能だ。」

 

 確かに、こんなファンタジー世界にスペースシャトルなんて持ち込まれても修理なんてしようもない。カズマがかつていた日本ですらようやくロケットを飛ばせるようになった程度の技術力だ。

 別の方法を考えたほうがよさそうだ。

 

「アクアやエリス様の力で異世界に送ることは出来ないのか?ほら、俺をこの世界に送ったように。」

 

 そういえば、とカズマは気絶しているアクアとそれを介抱するクリスの方へ向き直る。

 クリスは申し訳なさそうにしながら、口調を女神モードに変えて応える。

 

「私の力で送れるのは死者の魂だけなんです。これはアクア先輩でも同じで、死者を導く役目の女神では、魂を転生させることしかできません。おそらく、福の神様ですら生身の人間を異世界へ転送するのは難しいのではないかと・・・。」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。物体を異世界へ行き来させるには世界に穴を開け、繋ぎ、閉じる、という極めて特殊な能力が必要になります。おそらくは、天界の神々を見回してもその能力を持つ者がいるかどうか・・・。」

 

 よく考えたら、神様の力で帰れるなら、彼らは福の神様の力で帰れている。

 あ、でも生身がダメなら、とカズマが提案する。

 

「じゃあ、アンタら1回死んで、元の世界で転生するのは?」

 

 流石クズマさんの異名は伊達ではない。自分自身が何度も死んで生き返っているのもあるが、マトモな感性では思い付かないことをさらっと言ってのける。

 

「うわぁ・・・」

「鬼畜・・・」

「恐ろしい男じゃ・・・」

「クズマ・・・クズマだ・・・」

 

 その場にいる全員がカズマから1歩後ずさり、ドン引きしている。

 

「却下です!本当に何を考えているんですか!あなたは!」

 

 女神モードのクリスがカズマを叱りつける。本気で怒っている様子にさしものカズマも鬼畜案は取り下げる。

 

「つってもよー、神様でも無理なら打つ手ないぜ?」

 

 カズマがお手上げポーズをとる。何かと機転の効くカズマでもこの状況をどうにかする案は出せないようだ。

 そこへ、先程から何か考えていた様子の福ちゃんが口を開く。

 

「エリスちゃんは、此処からなら天界に戻れるのよね?」

 

「はい。私の管轄する世界ですので。」

 

「そうしたら、天界のラヴァーズちゃんに救援を頼んでもらえないかしら?あまり気は進まないけど・・・、天界で顔の広いラヴァーズちゃんなら、なんとか出来るんじゃないかと思うの。」

「ラ、ラヴァーズ様にですか!?」アセ

 

「ええ。あの女たぬk・・・、もといラヴァーズちゃんとは旧知の仲なのよ。女神園で色んな女神を育てたりもしているから、変わった能力を持った神のことも詳しいはずよ。」

 

 愛の女神ラヴァーズ。人々の愛を司る神様。キューピッドを配下に持つ天界有数の実力者である。先日、冬の女神セドナの反乱を調停に導き、戦の神オーディンとの派閥争いにも勝利し、日の出の勢いで天界での影響力を拡大中の超大物女神である。

 

「し、承知致しました!行って参ります!」

 

 クリスは未だに気絶しているアクアをダクネスに預け、一足先に天界に戻った。「取り合えずはクリスさん、いや、エリス様に任せておけばいいのかな?」

 

 何とかなりそうな様子に、ローズマリーが少し安心した様子で問いかける。

 

「そうね。ちょっと時間はかかると思うけど・・・。」

 

「時間?」

 

「ラヴァーズちゃんはそれなりの立場の神だから簡単に話ができるわけではないの・・・。多分、1ヶ月くらいはかかるんじゃないかしら?」

 

「「「いっかげつ!?」」」

 

 その場の全員が驚く。天界上位の神様に会うのは大変なことらしい。

 

 

―――――

 

~カズマ邸~

 

 いつまでも森の中で立ち話するのもなんなので、一行は一度カズマ邸に戻り、これからの動きについて話し合うことにした。 家主であり、パーティリーダーのカズマとローズマリーが代表となり今後の方針について話し合っている。

「寝泊まりくらいならウチの空き部屋使ってもいいぞ?二人一部屋で使えるくらいの空きはあるし。」

 

 元貴族の別荘であるカズマ邸は無駄に広い。普段使わない部屋や、物置にしている部屋もあるが、少し掃除すれば仮宿としては充分過ぎるほどだ。

 

「それは願ってもいない申し出です。是非ともお願いします。しかし、1ヶ月もの間、ご迷惑かけっぱなしというわけにはいきません。我々も自活する為の生活基盤を整えようと思います。手っ取り早くお金を稼ぐなら、やはり冒険者が一番でしょうか・・・?」

 

 キチンと方向性を持ったローズマリーの返答にカズマは感心した。誰かに依存するわけでもはなく、自己満足でもなく、現実的にやれることをやろうとする姿勢に。

 流石は一国を築いた参謀である。

 

「まぁそうだな。ギルドで登録料払えば誰でも冒険者になれるし、冒険者カードは身分証明にもなるから、この世界で生活するには色々と便利だぜ。」

 

「登録料?あっ、お金がかかるんですか?うぅむ・・・。」

 

「大した金額じゃないし、そんくらい貸してやるよ。」

 

 別にあげてもてもいいのだが、奢ってやるよ、とならないのは相手にあまり気を使わせないようにしたカズマなりの気配りである。

 

「いいんですか!?何から何まで・・・、本当にありがとうございます!必ずお返ししますので。」

 

 礼を言いながらカズマの手をギュッと握るローズマリー。クール系美人に手を握られ、童貞卒業未遂のカズマは顔をちょっと赤くして照れている。

 一方で、ローズマリーはふと目線を感じ、チラと横に目を送るとめぐみんとダクネスがこっちを見ているのに気付いた。ちなみにアクアは未だに寝こけている。

 視線を感じたローズマリーは、なるほど、と手を離す。

 

「あっ、これは失礼。つい・・・。」

 

「いや、いいんだ。え~と、じゃあ、大体話も決まったし、ギルドへ行こうか。調査の報告もしなきゃならないからな。ついでに案内するぜ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

 斯くして、一行はギルドへ向かうことにした。

 

―――――

 

~ギルドへの道中~

 

 めぐみんは気絶したままのアクアの面倒を看るため屋敷に残り、カズマ、ダクネス、ハグレ王国メンバー9人とはむすけでギルドへ向かった。

 平時でさえ街の名物パーティであるカズマパーティが、珍妙な格好をした面子を連れている様は、控え目に言って物凄く目立つ。大袈裟に言えば仮装パーティみたいになっている。

 

 ハグレ王国の面々も異世界情緒を堪能しようとキョロキョロ周りを見回していて落ち着きがない。

 そんな中でもローズマリーがテントで呼び込みをしてる集団を目に留める。

 

「髪の毛1本から出来る慈善活動にご協力を~!」

 

 もう日も傾き始める時間になるが、朝も目にした団体が未だに活動を続けていた。

 

「あれは何をやってるんですか?」

 

「あぁ、生き物から取り出したマナを活用する研究をしてる団体らしい。医療とか砂漠の緑化とかに役立てるんだとさ。」

 

 朝ダクネスから聞いた話をそのまま伝える。

 

「生き物からマナを、だって・・・?まるでバイオ召喚装置だ!」

 

「バイオ召喚装置?」

 

「我々の世界で、ハグレ王国を最大の危機に陥れた男が作った忌まわしき装置です。捕らえた人間の魔力を核として、無理矢理マナを取り出して巨大魔物の召喚に使っていました。魔物との戦いは大陸を巻き込んだ大規模な戦争になりましたが、帝都3王国連合軍が辛くも勝利し、すんでのところで核にされていた女性を助け出すことができました。」

 

「そんなことが・・・。」

 

 さしものカズマも驚愕するが、一方で納得もする。先程垣間見た、デーリッチとミアラージュ、どう見ても10歳程度の女の子が見せたあの戦闘力。きっと他にもいくつもの修羅場をくぐってきているに違いない。見た目はふざけているハグレ王国だが、実力は確かだ。

 

「彼らがそんなことを企んでいるとは思いませんが、我々もあまり良い印象がない技術です。ね、デーリッチ?あれ?デーリッチ?」

 

 くるっと振り返ると、さっきまですぐ後ろでヅッチーにオセロの再戦要求をしていたハズのデーリッチの姿がない。

 しまった!という様子で辺りを見回す国王の保護者ローズマリー。

 

「あ、いた!ちょっと、デーリッチ、ヅッチー!何してるの!?」

 

 先程のテントで熱心に話を聞いて紙に何か書いているデーリッチとヅッチー。ローズマリーが駆け足で呼びにいく。

 

「あ!ローズマリー!この人たちすごいんでちよ!髪の毛から取り出したマナを集めて難病治療に役立てるらしいでち!」

「すげーよな!」

 

 キラッキラの笑顔で応えるデーリッチとヅッチー。が、保護者ローズマリーはご立腹である。

 

「今大変な状況なんだから、勝手な行動で団体行動を乱さないように!ほら、行くよ!」

 

「「え~!」」

 

 ローズマリーに引き摺られて渋々団体に戻るデーリッチとヅッチー。

 今朝のやりとりがフラッシュバックしたカズマはローズマリーの肩に手を置いた。

「アンタも、苦労してるんだな。」

 

 カズマは、先程何となく、ローズマリーに好感を持てた理由が解った気がした。

 

―――――

 

~冒険者ギルド~

「じゃあ、俺は奥で依頼の報告をしてくるから、何か分からないことがあればダクネスに聞いてくれ。」

 

 と、言い残し、カズマはギルドの奥へ消えた。後を任されたダクネスは了解した、とハグレ王国の面々に向き直り、説明をする。

 

「えぇと、では、ハグレ王国の皆は受付で順番に冒険者登録を済ませてきてくれ。4つ窓口があるから適当に別れて並ぶといい。登録料として一人千エリスずつ渡しておこう。」

 

「「「は~い!」」」

 

 ダクネスから説明を受け、各自窓口に並んだ。何だか孤児院の子供たちを連れ添っている気分だ。

 最初に順番が回ってきたのはデーリッチだった。

「いらっしゃいませ~。えっ?冒険者登録ですか?あなたが?」

 

「ダメでちか?」

 

「えぇと、冒険者登録に年齢制限はございませんが・・・。」

 

 こういう反応になるのは予想できていたので、ダクネスがフォローに入る。

 

「あぁ、この子たちなら大丈夫だ。後見人が必要なら私がなろう。」

 

「えっ?ああ、いや、後見人を立てる必要はありません。ダクネスさんからのご紹介でしたら問題ありません。」

 

「すまない。よろしく頼む。」

 

「ありがとうでち!ダクネスおねえさん!」

 

 デーリッチがダクネスに満面の笑みでお礼を言う。普段無愛想なダクネスだが、つられて頬が緩むのを感じた。

 受付のルナが白紙の冒険者カードを差し出し、説明をする。

 

「えっと、では、こちらのカードに触れてください。それであなたの能力が分かりますので、能力に応じてなりたいクラスを選んでくださいね。選んだクラスによって、経験を積む事により様々なクラス専用のスキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえてクラスを選んでください。」

 

「あ~なるほど。ここでデーリッチのとてつもない能力が明らかになってちょっとした騒ぎが起きるわけでちね?」

 

 実際、かなりの経験を積んでいるデーリッチは基本ステータスだけなら強者揃いのハグレ王国でも上位に位置する。

 デーリッチは鼻歌混じりに、自信満々でカードに触れた。

 

「・・・はい、けっこうです。デーリッチさん、ですね。能力は素早さと魔力がやや高いのと、知力は・・・残念、ですね。あれ?幸運値が非常に高いですね?サトウカズマさんより幸運値が高い方なんて、中々いらっしゃいませんよ。でも、どうしましょう。このステータスだと選択できる職業は基本職である冒険者しかないです。まぁ最近はサトウカズマさんの影響であえて冒険者を選ぶ方もいらっしゃいますが・・・、よろしいですか?」

 

「「えっ!?」」

 

 表示されたステータスに、ダクネスとデーリッチが声をあげる。

 

「そんなバカな!?そんなに低いステータスなわけがないだろう?そのカードが壊れているのではないか!?」

 

 直接見たわけではないが、デーリッチが一撃熊をあっさり倒したという話をカズマから聞いていたダクネスがカウンターから乗り出して抗議する。

 

「え、ええ?では、その、もう一度、こちらのカードを触ってみてください。」

 

 ルナから新しいカードを出され、デーリッチはカードに触れる。しかし、表示されるステータスは先程と変わらない数値だった。

 

「ま、まあ、レベルが上がればステータスも上がりますしね!そうすれば他の職業へ転職もできますし、冒険者だからって悪い事ばかりでは無いですよ?なにせ、全てのクラスのスキルを習得できますから!」

 

 どうやらルナは冒険者しか選べないことに納得出来ていない為の抗議だと思ったようだ。冒険者職のメリットを必死に説明している。

(どういうことだ?こんなステータスではマグレでも一撃熊にダメージなんて与えられないはず・・・。)

 

「あの~?」

 

「あ、あぁ。すまない。では、それで登録を頼む。デーリッチもよいか?」

 

「ん~・・・、まぁ仕方ないでち。冒険者でお願いします。」

 

 一悶着あったが、デーリッチが冒険者登録を終えると・・・

 

「おおっ!?体力筋力がかなり低いですが魔力知力はなかなかに高いです!これなら少しレベルが上がればアークウィザードにもなれますよ!」

 

 これはローズマリーへのコメント。

当のローズマリーはこんなものかな、と思ったが、ちょっと待てよ、元々体質が弱いとはいえ、今の自分が一般人に比べて体力が低いなんてことがあるだろうか?

 この表示されたステータスはまるで初めてデーリッチと出会った頃のイメージに近い。もしかして・・・。

 

―――――

 

全員が冒険者登録を終え、各自のステータスと選択した職業を確認し合う。

 

デーリッチ:冒険者

素早さと魔力がやや高い

幸運メチャクチャ高い

知力は残念です

 

ローズマリー:ウィザード

体力筋力が低い

魔力知力なかなか高い

 

福ちゃん:アークプリースト

全体的にそこそこ高い

素早さだけやや低い

魔力非常に高い

幸運メチャクチャ高い

 

ヅッチー:エレメンタルマスター

体力だけかなり低い

素早さ高い

魔力非常に高い

知力そこそこ

 

ヴォルケッタ:ウィザード

魔力知力なかなか高い

幸運がかなり低い

 

ドリントル:アーチャー

全体的にそこそこ高い

 

ミアラージュ:アークウィザード

体力かなり低い

魔力知力非常に高い

 

ニワカマッスル:戦士

体力筋力非常に高い

魔力知力は残念です

 

マリオン:ルーンナイト

全体的にかなり高い

幸運だけかなり低い

 

はむすけ:盗賊

筋力体力魔力が非常に低い

素早さ非常に高い

 

知力はまぁまぁ高い

幸運が非常に高い

 

 

「デ、デーリッチだけ冒険者とは・・・」ガーン

 

「まーそう落ち込むなって相棒。レベルが上がれば転職もできるんだろ?」

 

「はむすけですら職業につけたのに・・・。」

 

「というか、はむすけ登録できたのか・・・、ガバガバじゃのう、冒険者ギルド。」

 

「おいそこのドリル姫!僕に言いたいことがあるなら聞くぞ!」

 

「誰がドリル姫じゃ!」スパコーン!

 

「イタッ!スミマセンでした!(くそ~今に見てろよ~。)」

 

 カードを見せ合い、お互いのステータスに勝ったの負けたのと一喜一憂している面々をよそに、じっと考え込んでいたローズマリーがうん、やはりそうだ、と納得した様子で口を開く。

「デーリッチ、気にすることはないよ。このステータスは今の私たちのレベルを反映したものではないようだから。」

 

「ほぇ?」

 

 ちょっと泣きそうになっていたデーリッチがローズマリーへ向き直る。

 

「??どういうことだ?」

 

 先程から納得いかなかったダクネスが聞き返す。

 

「説明の前に少し確認させて頂きたいことがあります。ダクネスさん、この世界ではいわゆる『経験値』や『レベル』はどのようなものだと考えられていますか?」

 

「ふむ、私たちの世界では経験値とは魂の欠片だと言われている。あらゆる生物は魂に経験を蓄えていて、我々は敵を倒したり、生命力に溢れた野菜を食べたりすることで、他者の魂の欠片を経験値という形で得ることができる。経験値を一定以上蓄えるとレベルが上がり、急激な成長を遂げることができるな。」

 

「なるほど、その辺りの仕組み自体は我々の世界とそう変わらないようですね。では、魂について、『モールド』という言葉を聞いたことがありますか?」

 

「モールド・・・?いや、聞いたことがない。」

 

「そう、この『モールド』というものが重要なのです。モールドについて説明するにはまずは生命について説明しなければなりません。生物を構成する要素は、『肉体』と『魂』に分かれますが、実はそれぞれの活動は独立しています。肉体は物質で形成されているので普通は食事と適度な運動で安定して活動できますが、魂が活動するのに必要な『魂珀』は非物質であるマナを素としているので非常に不安定です。そこで、マナを魂珀という魂が使えるエネルギーに変換し、更に肉体と魂を繋ぎ合わせ安定させるのが『モールド』と、我々の世界では呼んでいます。」

 

「ふむ、つまり我々が普段取り込んでいる魂の欠片とは、魂のエネルギーである魂珀のことだということか?」

 

「そうです。そして、レベルアップとは取り込んだ魂珀を使ってモールドを再構成するということなんです。イメージとしては、エネルギーをより多く貯められるように器を大きくする、といったところでしょうか。」

 

「成程、異世界の知識とはとてつもなく進んでいるものなのだな。しかしそれが今回、ステータスが表示されないことと、どんな関係があるのだ?」

 

「このモールドというのは人によってその性質が異なることは想像できると思います。例えば性格は勿論、得意な魔法属性だったり、固有のスキルだったり、個人によって様々な特徴が現れます。では、誰でも同じスキルを習得できる、この冒険者カードとは、一体何なのでしょう?」

 

「冒険者カードとは?考えたこともなかったな。」

 

 ダクネスは自分の冒険者カードを取り出し、まじまじと見つめる。幼少の頃に父に持たされ、特に疑問を持つことなく今まで使ってきた。

 

「ここからは、私の想像も含まれますが、恐らくこの冒険者カードはその人が今まで得た魂珀を読み取り、モールドの形を数値化しているのでしょう。倒したモンスターが表示されるのもいわゆる経験値、『魂珀』を計算する為の機能だと思います。そして、モールドの再構成をスキル習得という形で成長の指向性をサポートしている。では、私たち異世界人のモールドを構成する魂珀は一体どこから得たものなのか?」

 

「それは、貴女方の世界で倒したモンスターや摂取した食物からだな。」

 

「そうです。では先程説明したように、モールドは個人でもその性質が異なります。この世界の生物のモールドを読み取る冒険者カードは、果たしてこの世界と全く繋がりがない異世界の生物のモールドを読み取ることができるだろうか?答えはノーです。冒険者カードのステータス表示には、私たちの世界で得た魂珀は読み取れなかった。と、いうことです。」

 

 これが異世界の知識か・・・。ダクネスは驚愕した。ただのステータスの表示に対する違和感からこれ程の仮説を導き出せるものなのか?この世界では生命を定義することもされていないというのに・・・。

 ダクネスは今、本当の意味で彼女らが異世界人であると認識できた。

 

「貴女方の世界の知識とはとてつもないものなのだな・・・。」

 

「??いやいや、この冒険者カードなんていうモノを造り出しているこの世界の技術の方がよっぽど驚嘆に値しますよ。」

 

「制限はあるとはいえ、モールドの成長を安全に人為的な操作ができるこのカードはトンでもない代物ですよ?誰もが無駄のない成長ができますし、ある一つの力に特化することもできる。成りたい自分になれるということですね。先程、私は肉体と魂の活動は別のモノだと言いましたが、極端なことを言えば、モールドを操作する技術は応用すれば魂だけを他人と入れ換えたりするようなことも可能になるのです。私たち世界ではそんな技術はありません。」

「なるほどな、何が優れているか比べても仕方のないということか。ご教授頂き感謝する。ローズマリー殿。」

 

「いえいえ、そんな大それたものではありません。それよりも・・・、デーリッチ!ほら!起きて!」

 

 ローズマリーは途中から眠りこけていた、デーリッチを起こす。

 

「あれ?魂珀プリンはどこ?」

 

「何を言ってるんだキミは。ほら、ヨダレを拭いて。」

 

「は!あぁ、デーリッチは寝てないでちよ!?魂珀プリンの器が大きくなってレベルが上がるってことでちよね!?」

 

「う~ん、所々聞いてはいたようだけど・・・。まぁつまり、このカードには異世界で得た経験値が反映されてないから、表示されるステータスが低いのは仕方ないってこと。だから気にする必要はないんだよ。」

 

 先程の説明の結論を二行にまとめてデーリッチに話す。

 

「なるほど!わかったでち!」

 

 頭の冠が落ちるほど大きく頷くデーリッチ。落ち込んだ様子は微塵もない。

 




 登場人数の問題で没になった妄想ネタ集②

◆こたつドラゴンからコタツカウンターのスキルを教わるカズマ。最強のこたつ無双伝説が今、始まる。

◆新魔王に造られたデストロイヤーX。立ち向かうのはメニャーニャの手により蘇った古代の超兵器ターンビーダンガル。パイロットはエステルさん。キメ台詞は「通るさ(ry」

◆カナヅチ大明神にサービスパープルの称号をつけられるウィズ。何かよくわからんうちに新サービス戦隊のメンバーを集める旅に出る羽目に。


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第4話 お金って大事

お金稼ぎ回その1。


~カズマ邸~

 

「ただま~」

「あ、おかり~。」

「お邪魔してま~す。」

 

 ギルドへの報告を終えたカズマと合流した後は、今日はもう遅い時間なので屋敷に戻ることにした一行。

 目を醒ましたアクアとめぐみん、人手が必要だからとめぐみんに呼び出されたゆんゆんが出迎える。

 3人で食事の支度をしてくれていたらしく、テーブルには食器が並べられ、キッチンからはスープの食欲をそそる香りが漂う。

 

「人数が多いのであまり手の込んだものは用意できませんでしたが・・・。足りない椅子や食器はゆんゆんが来客用に買い揃えてから全く使われていなかったものを持ってきて貰いました。」

 

「ちょっとめぐみん!?それじゃ私の家を訪ねる人が一人もいないみたいな言い方じゃない!?」

 

 ゆんゆんはカズマパーティと共に魔王討伐に参加した冒険者の一人。めぐみんとは同郷の紅魔族で、自称ライバル関係である。

 ずっと安い宿屋や馬小屋で寝泊まりをしていたが、魔王討伐で得た多額の褒賞金で小さいながらも一軒家を購入した。が、相変わらずのボッチなので、訪ねてくる者もおらず、ウキウキで買い揃えた椅子や食器、寝具やら何やらの多くが未使用のままとなっていた。

 

「は?いないじゃないですか?」

 

「い、いるわよ!郵便屋さんとか、最近は訪問販売の人がよく来てくれるようになったんだから!ほら、この全自動卵割り機とか、お客さんが来て卵を沢山割らないといけないときに便利だって勧めてくれたんだからね!コレすっごいんだから!今日だってアクア様から大絶賛よ!」

 

「「「うわぁ・・・。」」」

「どんなけチョロいんですか、あなたは・・・。」ハァ

 

 自信満々にボッチ生活を告白するゆんゆんに一同がドン引きする。

 

「なぁめぐみん、ゆんゆんを独り暮らしさせるのって危なくないか?」コソッ

 

 カズマがわりと本気でゆんゆんを心配して、そのライバルに問いかける。

 高レベルで上級職のアークウィザード、めぐみんと違いバランス良く上級魔法だけでなくテレポートなどの補助魔法も習得し、更に短剣での近接戦闘もそこそこにこなせる万能タイプのゆんゆん。人見知りで他の冒険者に声をかけることが出来ないでいるうちにソロで依頼を受けることが多い。なまじ大抵の討伐依頼はソロでこなせてしまうが故にボッチ症状を更に進行させている。

 

「あぁ見えて自分で決めたことには頑固な娘ですからね。どっかで痛い目にあわないと分からないのでしょう。」

 

 そう言いながらも、自称ライバルの家に足しげく通い、「カズマのテレポートだと魔力切れが心配ですから」と言いながらゆんゆんを魔王城への一日一爆裂に同行させているのは、めぐみんなりに幼馴染みを心配してのことだろう。

 

「まぁ、そんなどうでもいいことは置いておいて、自己紹介くらいしたほうがよいのではないですか?」

 

「くっ、た、確かに・・・コホン。わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、いずれは一族の長になる者!」

 

「長って、めぐみんちゃんの村の?」

 

「ええ、ゆんゆんは紅魔族の長の一人娘なんですよ。」

 

「へぇ~、きっとめぐみんちゃんみたいな凄い魔法使いなんでちね。よろしくでち!ゆんゆんちゃん!」

 

 片足を上げた、鶴のポーズで紅魔族流の自己紹介をするゆんゆんに、握手を求めて手を差し出すデーリッチ。

 それに対して何故か半歩後退るゆんゆん。

 

「あ、握手だなんて・・・、私たち初対面なのに、そ、そういうのはもっとお互いを知ってからのほうが、その、いいの?」

 

「ねぇヅッチー、デーリッチ何か変なこと言ったでちか?」ヒソヒソ

「いや、何もおかしなことはなかったと思うぜ?」ヒソヒソ

「もしかしたらこの世界での握手は何か特別な意味があるのではなくて?」ヒソヒソ

 

 デーリッチ、ヅッチー、ヴォルケッタのかしまし3人娘がゆんゆんの奇行を分析する。

 そこへめぐみんが助け船を出す。

 

「本当に面倒くさい娘ですね。初対面だから握手するのでしょう。」

 

「ふぇ!?ほ、本当に、私なんかと握手してくれるの?もしかしてこの娘天使?」

 

 言いながらゆんゆんがおずおずと右手を伸ばすと、デーリッチがそれをガシッと掴み上下にブンブン振るう。ついでにヅッチーとヴォルケッタとも握手を交わす。

 

「これで、デーリッチたちとゆんゆんちゃんはお友達でち!」

 

「オトモダチ?おともだち・・・、お友達!?めぐみん、どうしよう!私にお友達ができたわ!」ズットモダョ!

 

「どうもしなくていいですから、さっさとご飯にしましょう。冷めてしまいます。」

 一人でブツブツ「友達・・・ズッ友・・・ウフフ」とか呟いてるゆんゆんをよそに、各々席について食事を始めた。

 

―ー――――

 

「さて、無事にみんな冒険者登録が終わって、明日から私たちも冒険者稼業を始めるわけだけど、一つ重大な問題がある。」

 

 食事が終わり、各々が解散する前にローズマリーが真剣な面持ちで話し始める。

 

「重大な問題?」

 カズマが聞き返す。

 

「そう。ヅッチー、ミアちん、キミ達はマナジャムの手持ちはあとどれくらいある?」

 

 元々頑丈なタイプではないにも関わらず無茶な魔法習得を行い、マナ欠乏症の持病を持つローズマリー、生命そのものがマナで構成されている妖精という種族のヅッチー、アンデッドとしての体を維持する為に定期的にマナの補充が必要なミアラージュ。

 彼女達はそれぞれの事情によりマナ不足が命に関わる者たちである。シノブが品種改良を施し、現在は妖精王国で栽培されているマナの実を煮詰めたマナジャムを定期的に摂取することで健康を維持している。

 

「あ~それは重要なことね。私は1ヶ月は大丈夫よ。」

 ゴトンッと鞄から取り出した大瓶をテーブルに出すミアラージュ。

 

「ヅッチーも10日分くらいは常備してるぞ!」ドヤッ

 

 コトッと小瓶を取り出してみせるヅッチー。

 

「「えっ!?」」

 

「なんだよー?ミアちんよりちょっと少ないだけだろー?」

 

「やはりそうか・・・。私は毎日マナジャムを補給する必要があるわけではないから緊急用にだけ備えているが、あまり多くは持ってない。ヅッチー、キミは私たちがこの世界に最低どのくらい滞在しなければならないか覚えている?」

 

「1ヶ月だろ?あっ・・・。」

 

「状況を飲み込めてくれたようだね。」

 

 女神エリスが天界へ救援を呼びに行くのに要する時間は少なくとも1ヶ月。場合によってはそれ以上かかる可能性もある。

 彼女達の生命活動維持に必要なマナジャムが不足しているのである。

 

「というわけで、私達はこの世界でお金を稼ぐだけでなく、マナの補給源を探さなければならない。カズマさん、この世界でのマナの補給方法を教えて頂けませんか?」

 

「う~ん。マナの補給源といえばマナタイトって鉱石が一般的だな。ただ、質の良いものはかなり高価だからおいそれと買えるもんじゃないな。あとは・・・、ローズマリーさん、ちょっと手を出してくれ。おいアクア、こっち来い。」コイコイ

 

 真面目な話に飽きて、数枚の台布巾を組み合わせてゼル帝そっくりな人形を創っていたアクア。女神アクアは水だけでなく芸術の象徴でもあるというのは本人の談だが、本当に無駄なところで神らしい能力を発揮する。

 カズマの手招きに応じてトテテと近づいてカズマの横に立つアクア。

 

「なによカズマ?私はゼル帝人形の創作に忙しい・・・って、ひゃああああ!?」

 

 カズマは右手でローズマリーの手を、左手でアクアの手を取りドレインタッチを発動させる。

 

「っ何すんのよ、こんのクソニート!」ゴッドブロゥ!

 

 いきなりのドレインタッチに猛抗議し必殺の右拳を繰り出すアクア。それを回避スキルでひょいひょいとかわすカズマ。圧倒的な幸運値の差が為せる技である。

 一方でローズマリーはカズマの手から熱いエネルギーが流れ込むのを感じる。

 

「これは・・・、ミアラージュのソウルスティールのような特技ですね。あなたはアンデッド特有のスキルが使えるのですか?」

 

「これが冒険者クラスの唯一の強みさ。スキルポイントさえあれば見たことあるスキルは大抵習得できるんだ。で、こいつでマナの補充はできそうか?」

 

「そうですね・・・。いや、このスキルでは効果は薄いでしょう。」

 

「なんでだ?」

 

「今送られた魔力はアクアさんの魔力でした。これは魔力の質そのものがアクアさん固有の魔力だということです。他人の魔力では、魔法を放ったり傷を治したりはできますが、体に定着させることは出来ないのです。応急処置にはなるかも知れませんが・・・。」

「ふ~ん、そういうもんか。」

 

「紅魔族ローブが他人のものを使えないのと同じですね。」

 

 あまり魔法に明るくないカズマにめぐみんがフォローを入れる。

 

「あ~なるほど。」

 

 先天的に魔力が有り余る紅魔族は適度に魔力を発散しないと、体内に溜まった魔力が暴発してしまうことがある。紅魔族が皆着ているローブは余分な魔力を発散させて魔力の暴発を防ぐという重要な機能がある。

 以前、めぐみんが1着しかない紅魔族ローブを魔改造スライムに喰われたときは、めぐみんがいつ爆発するかわからない爆弾岩みたいになってたっけ。

 

「しかし、ドレインタッチがダメならマナタイトも使えないんじゃないのか?」

 

「それは大丈夫だと思います。マナタイトから吸収できるマナは、個人の魔力に変換される前のもの。誰が使用しても問題ないはずです。」

 

 この場で最も魔法に明るいめぐみんが解説する。

 

「マナタイトか・・・。ウィズの店にまだ売ってるかな?いや、売ってるんだろうなぁ・・・。あの悪魔が大量に仕入れてそうだ。」

 

「悪魔?」ピク

 

 悪魔と聞いてちょっと眉を吊り上げる福ちゃん。

 

「アクセルにはワケの分からん物ばかり品揃えしたがるポンコツ店主が経営する店があるんだが、そこで働いている悪魔が見通す悪魔って呼ばれててな。人の考えとか未来とか何でも見通せるらしい。」

 

「悪魔が店番とは中々物騒なお店ですね。」

 

「あんまり驚かないのな。まぁ、ギルドも存在は把握してるんだが、人を殺さないことをポリシーにしているから、人類に直接危害を与えるワケではないし、下手に手を出しても勝ち目がないから放置されてるんだ。まぁ、関わるとロクなことにならないから、普段はあまり遇いたくない相手には違いないが。」

 

「なるほど。ではその見通す悪魔がこの状況を予知して、既にマナタイトを準備していると。」

 

「まぁ、そういうこった。」

 

「では、明日はそのウィズさんという方のお店に行くことにします。私と、マナ不足の可能性があるヅッチー、ミアちん・・・、あと福ちゃんは依頼には参加せずに一緒に来てくれ。カズマさん、ご紹介お願いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ。」

 

「では、明日は魔道具屋を訪ねるチームとギルドへ依頼を受けに行くチームに別れよう。ギルドチームはドリントルが指揮をとってくれ。」

 

「任されたわい。」

 

「では、議題は以上です。何か追加はありますか?」

 

「ひとつだけいいか?」

 

「カズマさん、どうぞ。」

 

「その、さん付けで呼ぶのやめてくれ。なんかムズムズする。敬語もナシで頼むわ。」

 

「え?いや、しかし・・・。」

 

「敬語を使うほうが失礼ということもある。」

 

 ここまで黙っていたダクネスが言う。つい今朝方、クリスとのやり取りを思い出しているようだ。

 

「なるほど。わかりました。改めてよろしく、カズマ。」」

 

「おう。」

 

「それでは、会議を終了とします。解散。」

 

「「「はい!」」」

 

 ハグレ王国の面々が乱れず返事をする。見た目はふざけてるとしか思えない連中だが、こういうところは妙に締まっている。

 

「お前らいつもこんな会議してんの?」

 

「ええ。王国会議は建国からの恒例で、全員で方向性を決めるようにしています。」

「ふ~ん。」

 

 個性溢れる面子。尖った資質。それをコントロールする参謀。カズマはハグレ王国に、どこか自分のパーティとよく似たものを見つけていた。

「何です?」

「いや、何でもない。」

 

 カズマはローズマリーも苦労してるんだろうなぁと、自然と憐れみの眼差しを向けていた。

 

―――――

 

~翌朝~

 

コッケコッコォォォオ!!!

 

 キングスフォード・ゼルトマン、通称ゼル帝、命名はアクア。希少なフェザードラゴン種(と、アクアが言い張っている鶏)であり、カズマの朝の目覚めに欠かせない存在。

 ゼル帝の時告げによりカズマパーティの1日は始まる。

 

「お~っす。」

「おはようございます。」

「おはよ~。」

「はよ~。」

 

 各々起きてきて、挨拶を交わす。

 朝食当番はダクネスとミアラージュ、ヴォルケッタが担当しており、皆より一足先に起きて用意をしていた。

 パンと野菜とスープだけの簡単な朝食だが、女性比率が高いのでそれで充分らしい。ニワカマッスルだけパンを多目に貰っている。

 

「じゃあ、昨日の話の通り別れて行動しようか。」

 

 朝食を食べ終え、一同は二手に別れる。ウィズ魔道具店チームにはカズマとアクアが、ギルド依頼チームにはめぐみんとダクネス、ゆんゆんが一緒についてきている。

―――――

 

~ウィズ魔道具店~

 

「ちわ~す。」

「いらっしゃいませ~!あらアクア様にカズマさん!」

 

「あれ?今日はバニルはいないのか?」

 

「はい・・・。何やら大事な用があるとかで、ここ数日姿を見せてくれないんです。あと、カズマさんが来たらコレを売り付けておけ、とだけ。」

 

 ウィズが出したのは大量のマナタイト鉱石。やはりというか、流石の見通す悪魔。こちらの事情は既に把握しているらしい。

 

「やっぱり用意してあったか。だけどウィズ、今日用があるのは俺たちじゃなくて、こいつらなんだ。」

 

「あら、変わったお友達ですね?妖精さんにアンデッドさんに・・・、えっ神様!?」

 

「こんにちは。ローズマリーと申します。こちらはミアラージュとヅッチー、あと福ちゃんです。」

 

「は、はわぁぁぁ!まさか福の神様が来るなんて!?わ、私、浄化されちゃうんですか!?」

 

「そうよ!あの寄生虫悪魔は察して逃げ出したみたいだけど、福の神様が来たからには今日こそ退治してやるわ!覚悟しなさい、このクソアンデッド・・・っていったぁい!」パコーン!

 

 アクアの後頭部を福ちゃんが打出の小槌で小突く。頭空っぽなせいか思いの外良い音がした。

 

「誰もそんなことしませんわ。害のある相手かどうかなんて見れば分かります。」ヤレヤレ

 

「は、はあ・・・。私はウィズ魔道具店店主のウィズです。」

 

 カズマからウィズに事情を伝える。異世界云々はぼかして、ハグレ王国のこと、彼女達の命の為マナタイトが必要であることを話す。

 

「そんなわけでマナタイトが必要なんだけど、コイツらもそんなに資金があるワケじゃないんだ。割安で売ってもらえないか?」

 

「ええ、構いませんよ。バニルさんからも「お得意様になるから親切にしろ」と言われてまして、是非他の商品も見ていってください!」

 

「サンキュー!助かるわ!」

「ありがとうございます!」

 

 ウィズの快諾に礼をする二人。

 そこへ、これまで黙っていたミアラージュがウィズに話しかける。

 

「あのぅ、ちょっといいかしら?」

 

「なんでしょう?」

 

「あなたもアンデッドなのよね?どうして私と同じ症状が出ないで生活できるのかしら?」

 

「え?そうですね・・・。私が自分に使ったのが不死の呪法だからでしょうか?元々肉体があったものを維持しているだけなので消耗が少ないのだと思います。ミアラージュさんに使われた反魂の呪法は一度失った肉体を再構成して魂を無理矢理に繋ぎ止めるものです。ですからマナの消費が段違いに多いのではないでしょうか。そもそも反魂の呪法で蘇った方が自我を保って生活が出来ているのが奇跡としか言いようがないことなのですが・・・。」

 

「そう、そうよね・・・。」

 

 古神降霊術の事故で一度失ったこの命。哀しんだ両親は禁忌を犯して自分を蘇らせた。そして血を求めて正気を無くした自分の為に生き物を殺し始め、それが家畜から人間になるのにそんなに時間はかからなかった。その蛮行を止めるために自分の手で愛する両親を殺して、挙げ句に可愛がっていた妹にこの忌まわしき体を討たせようとした。

 しかし、妹が引き連れてきたハグレ王国は自分に再び人として生きる道を与えてくれた。いや、その道を作らせてくれた。

 これからどんなに罪を償おうと両親を殺した十字架は背中のランドセルと供に背負い続ける覚悟だが、一方で失った人生をもう一度歩きたいと願う。

 なんだかウィズのぽわぽわした放っておけない雰囲気が妹とよく似てるのもあって、その生き方をどこか羨ましく思ってしまう欲深い自分の浅ましさを呪う。

 アンデッドとなってなお人として生きようとしているウィズに惹かれていたのもあるだろう。

 

「ねぇ、よかったらこのお店で働かせて頂けないかしら?」

 

 ミアラージュはもっとウィズと話がしたいと思った。より近い場所で。より深くその生き方を知りたいと思った。

 

「え?ええ。最近カズマさん考案のグッズが売れるようになってお客さんも増えていますし、丁度バニルさんがいなくて最近大変なので助かるには助かるのですけど・・・。あまりお給料をたくさん出せるわけではないですが、いいんですか?」

 

「構わないわ。どうせマナの消耗を避ける為にギルドの依頼をこなすことは出来ないし、ハグレ王国でも色々な魔道具を創っているからその知識でも役に立てるわよ。いいでしょ、ローズマリー?」

 

「うん。ウィズさんがよければ。」

 

「歓迎しますよ!」

 

「じゃあ、決まりね。今日からでもいかがかしら?」

 

「ええ、では早速、商品を知って頂くのに在庫確認をお願いします。」

 トントン拍子でミアラージュの就職が決まり、幸先の良いスタートである。

 

「では、私達はお金が用意でき次第、マナタイトを引き取りに伺います。ウィズさん、ミアラージュをよろしくお願いします。」

 

―――――

 

 ウィズ魔道具店を後にしたところで福ちゃんがローズマリーに訪ねる。

 

「あのぅ、ローズマリーさん。私がこちらのチームに入ったのには何か理由があります?」

 

「うん。私達もミアちんのようにお金を稼ぐ手段を得ないといけないんだけど、福ちゃんには以前のようにニコニコ福ちゃんチェックをしてもらいたくて。」

 

「あら、やっぱりそうですの。」

「なんだ?ニコニコ福ちゃんチェックって?」

 

「福の神としての福ちゃんの力で商売の先行きを占ってもらうんだ。ハグレ王国の立ち上げ当時にはとても助けられたんだ。」

 

 ハグレ王国立ち上げ当時、この場所には福がないからとハグレ王国に加入した福ちゃん。ハグレ王国が最初に始めた商売はハピ子が発案した福ちゃんの姿をあしらった福ちゃんキーホルダーの発売だった。これが大陸でヒット商品となり、得た資金でハグレ王国の礎が築かれたと言っても過言ではない。

 その後、Mドリンクの低人気や、サイキッカーでも曲げられないスプーンが売れないこと、こたつ喫茶ブームを予見するなど、福ちゃんはあらゆる商品の将来性をズバリ言い当て、ハグレ王国のご意見番として確固たる地位を築いている。

 

「つーことは、あんたらも何か商売を始めようとしてるってことか?」

 

「そう、薬屋を始めようと思っていたんだ。ヅッチーには交易でのノウハウを活かして材料の仕入れや配送を担当してもらおうと思っているんだ。」

 

「資金はどうするんだ?」

 

「店舗を持つと固定費がかかるから、販売方法はお店や病院への卸売りをメインにしようと思う。簡単な回復薬ならこの浮遊鍋で部屋で作れるしね。材料費は手持ちの不要な装備や素材を売って元手は作ろうと思っている。」

 

 ローズマリーは昨日の今日で既にプランを用意していたらしく、行動に迷いがない。

 今は貯金暮らしのカズマだが、将来は不労所得で安心快適な生活を目指している。今日はウィズの紹介だけして解散する予定だったが、一から商売を始めようというローズマリーに興味を持ち、同行してみることにした。

 

 

―――――

 

~武器屋~

 

「えっ、この杖が80,000エリスだって?冗談じゃない。他所に持っていかせてもらいます!」

 

「ま、待ってくれ。わかったよ90,000、いや95,000エリス出そう!」

 

「最初からその金額を言ってくださいよ。あとはこの剣ですが・・・。」

 

 ローズマリーは不要な装備と言っていたが、それらはなかなか質の高い物ばかりである。福ちゃんの目利きで一つ一つ相場価格を確認した上で、相場以上の値段を引き出す強気な交渉も相まって売却金額は最終的にはなんと1,200,000エリスにもなった。

 

「あんたすげぇな。」

 脇で見ていたカズマはローズマリーの交渉能力を素直に称賛する。

 

「いやいや、あれは昔デーリッチと放浪生活をしていたときに身に付いただけのものだよ。福ちゃんの目利きがあったから強気に出られただけだし。」

 

「お役に立てて何よりですわ。」ウフフ

 

 福を司る神様か、商売をする上ではマジでチートだな。パチンコで解放台だけを選んで回すみたいなもんだ。それに比べてウチの穀潰し借金駄目神は・・・。とか思いながらアクアに目をやりながらタメ息を吐くカズマ。

 

「なぁ~に~カズマさん?タメ息なんか吐いちゃって、もしかして私に見とれてた?」ウププ

 

 白い目でアクアを見ながら、もう一度大きくタメ息を吐くカズマであった。

 

 

 




 ちょっと中途半端ですが、文字数が行ったので今回はここまで。
 ミアちんはウィズとの死生感談義が書きたくてメインパーティに入れました。ウィズとヘルちんのキャラが似てたってのもあります。
 余談ですが、ざくアクとこのすばでポジションが被る人物は、好きなキャラでも敢えてパーティから外してます。エステル&メニャーニャとめぐみん&ゆんゆんがとか、アルなんとかさんとマツラギさんとか、ジュリア隊長とダクネスとか、こどらとゆんゆんとか、ヤエちゃんはまんま紅魔族だし、ポジションが似てるキャラって結構多いんですよね。
 あとは、マリーだけでも優秀すぎるのに、メニャーニャとプリシラまでいたら無敵過ぎてしまうというのもありました。
 まぁ、上に挙げたキャラも後で出てくるんですけどね。


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宿屋イベントその1 一目惚れ

 らんだむダンジョンから恒例の宿屋イベント。
 こんな感じで思いついた小ネタを挟んでいきます。


~カズマ邸~

 

 それは一目惚れだった。「彼」と始めて出会ったとき、自分の中の何かが震えるのを感じた。触れ合いたい。抱き締めたい。でも駄目だ。今は周りに皆がいる。夜になったら「彼」の寝床に忍び込むのだ・・・。

 

 会議が終わり、お風呂を借りた。他の皆は公衆浴場へ行ったのだが、アンデッドの私があまり町中をウロウロするのは良くないということで屋敷のお風呂を借りることになったのだ。アクアさんはとても神力の強い女神様らしく、彼女が入った後のお湯は聖水のような神気を帯びており、湯に触るとピリピリするので浸かることはできなかった。無論これだけ迷惑かけている身で文句を言うつもりなど微塵もないが、自分がアンデッドであるという事実を突きつけられたようで、少しだけ寂しさを感じた。

 私の寝室はドリントルと一緒の部屋が割り当てられた。チャンスだ。ドリントルはお肌のケアを気にする為にあまり遅い時間まで起きていることはない。まぁ、もしも部屋を抜け出すときに気付かれても「ちょっとお花摘みに」とでも言っておけばいいのだが、他の者に勘づかれる危険性は少ないほうがいい。

 

 斯くして時は満ちた。同室のドリントルに気付かれないよう静かに毛布をめくり部屋の入り口へ向かう。音を立てないよう、慎重に、慎重にドアノブに手をかけ・・・

「ジャガイモじゃが!?」

 

ビックゥ!と猫のように全身の毛を逆立たせながら、恐る恐る振り返ると、毛布をはだけさせて大の字でグースカ寝ている星のお姫様のあられもない姿。なんだ、タダの寝言かと、改めてドアノブに手をかける。キィィと僅かにドアが軋む音がするが、ドリントルが目を覚ます様子はない。成功だ。第一関門は突破できた。

 

 部屋を出て階段を降りて一階に向かう。さて、ここが第二関門だ。私達が借りていたベッドは前の持ち主だった貴族に仕えていた使用人が使っていた物なのだそうだが、実は一つだけ足りなかった。そこで、一人だけ一階暖炉前のソファーで寝ることになったのだが、唯一男性のニワカマッスルが名乗りを上げてくれたというわけだ。ニワカマッスルは本当に男気溢れる良い男なのに、脳味噌まで筋肉なのが本当に勿体ないのよね。

 なんて思いながら階段を降りきると、グースカグースカ大きなイビキが聞こえてくる。さて、油断してはいけない。普段はとぼけた脳筋男もハグレ王国創立期から前線を支え続けた歴戦の勇士。不用意に物音を立てては確実に目を覚ますだろう。コッソリコッソリ、玄関を目指す。よし、もう少し・・・、

「ハッスル!マッスル!」

 

またもやビックゥ!として振り返る。やはり寝言のようだ。しかし、どいつもこいつもなんて寝言なのよ!とこんな状況でもなければ全力でツッコミを入れてやりたい。

 

 どうにかこうにか玄関を出て外へ出る。さあ、最後の関門だ。愛しの「彼」の寝床の前に仁王立ちをして、様子を伺う。どうやらぐっすりとよく眠っているようだ。「彼」は鳥類だけあって夜に弱い。

 

「さあ、モフらせてもらうわよ!キングスフォード・ゼルトマン!」

 

 「彼」こと、ゼル帝が眠る小屋の扉を開け中に入る。ゼル帝が目を覚ます様子はない。ドキドキしながらそのフワフワの羽毛に手を伸ばす。

 

ヒョイッ

 

 避けた。

 え?まさか起きてる?いやいやそんなはずは・・・。もう一度手を伸ばす。

 

ヒョイッ ペッ

 

 また避けた。さらにツバを吐いてきた。

 まさか鶏にツバを吐かれるとは、2度に渡る人生でも初の経験である。って、本当に寝てるはずよね!?もうこうなったら無理矢理にでも・・・!

 

ゲシッゲシッ ペッ

 

 蹴られた。蹴られた上にまたツバ吐かれた。

 上等じゃないの。こうなったら維持でもモフってやろうじゃない。

 

ゲシゲシゲシゲシ ポイッ

ゲシゲシゲシゲシ ポイッ

 

 な、なんということ・・・。こども空手トーナメントで無双を誇ったこの私が鶏相手に手も足も出ないとは・・・。フラッ

 小屋を背に腕組みをしてしばし考えていると・・・。

 

「誰かいるのか?」

 

 玄関からニワカマッスルが出てきて声をかけられる。しまった、夢中になりすぎて音を立ててしまっていたか。 マズイ、この状況はマズイ。ここで正体を知られてはならない。もし見つかってしまえば、普段はクールなのに本当は可愛い物好きキャラにされてしまう。もしそんなことになれば、明日からヅッチー辺りがベロぐるみを来て悪ふざけをしてきかねない。なんとかして誤魔化さねば・・・!

 

「コッ、コケ~コッコ。」

「なんだ鶏かよ。」

 

 あ、危なかった。こんな時間に鶏が鳴くわけないだろと自分にツッコミを入れたくなる誤魔化しだったが、相手が脳筋ニワカマッスルで助かった。本当に。

 

 はあぁ、と大きなタメ息を吐く。きっとこの鶏は人になつかないのでしょうね。今日はもう諦めて部屋に戻りましょうか・・・。

 

―――――

 

~翌朝~

 

「なんじゃ、ミアラージュ、よく見たらおヌシところどころケガをしとるのう。」

 

「え、ええ、昨日森の中で擦りむいたみたいね。」

 

 そんなことより朝食当番だから急いで準備をしなくては、と誤魔化しながら、窓を開けて外の光を取り込む。

 ふと、眼下にデーリッチとヅッチー、ニワカマッスルが朝の散歩から帰ってきたところらしく、門から入ってくる姿が見える。そこへ小屋の中にいたゼル帝が器用に小屋の戸を開けて、デーリッチに向かって駆け出す。

 

「コッコケ~、コケ~!」

 

「わわっ、危ないから急に飛び付いて来るなでち!」

 

「なんかこいつ妙にデーリッチになついてるよな。」

 

「そんなことないでちよ。ほらヅッチーも、モフモフ。」

 

「おお~モフモフ。」

 

 子供たちと戯れるゼル帝。

 

「なんで~!?」

 

ミアラージュは一人悔しさに涙を流すのであった。

 




 ヒヨコ時代のゼル帝はバニルに刷り込みしたせいでアクアになつかないという感じでしたが、鶏になってからはどうなんでしょうかね。
 基本的にデーリッチはあらゆる種族から愛される子なのでこんな感じです。


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第5話 ヌルゲー

 ちょっと身の回りがごたついて遅くなりました。次回からは早くなるよ!

マリオンちゃんかわいい←コモンセンス


~冒険者ギルドまでの道中~

 

 ハグレ王国のクエストチームはデーリッチ、ドリントル、ヴォルケッタ、ニワカマッスル、マリオンの5名に、はむすけがくっついている。カズマパーティからはダクネス、めぐみん、おまけのゆんゆんが付き添っている。

 

「おまけって何よめぐみん!なんか私の扱い酷くない!?」

 

「知りませんよ。誰に言ってるんですか?」

 

 新しくできたお友達との初クエストということで、呼ばれてもいないのにウキウキで参加を申し出たゆんゆん。昨夜はその感動を里の両親に伝えようと便箋20枚に渡り書き綴ってしまった。

 

「めぐみんちゃん!ゆんゆんちゃん!ダクネスお姉さん!今日はよろしくお願いしますでち!」

 

「こちらこそよろしくお願いします。」

「よろしくね!デーリッチちゃん!」

「ああ、よろしく頼む。」

 

 一行はぞろぞろとギルドへ向かった。

 

―――――

 

~冒険者ギルド~

 

「冒険者ギルドに入ると、壁の掲示板に現在受けられる依頼が貼り出されてます。その中から自分達の力量と照らし合わせてこなせそうなクエストを選んで受付に申告するんです。基本的に、あるクエストに対して1つのパーティが受注を申告すると、他のパーティはその依頼を受けられません。また、クエストが進行中のパーティが別の依頼を並行して受けることも出来ません。クエスト結果は成否に関わらずギルドに報告をして終了となります。」

 

 クエストを受けるにあたり、めぐみんから簡単なレクチャーを受けるハグレ王国の面々。

 

「まぁ、冒険者稼業は習うより慣れろ、ですからね。まずは適当なクエストを選んでやってみるのがいいと思うのです。最近は魔王軍がいなくなった影響で害獣の討伐クエストが充実していますね。」

 

 充実、という言い方は少々不謹慎な言い方だが、魔王軍がいなくなっても冒険者稼業が成り立っているのは、活発化した野生モンスターによる被害が増加しているからであるのは、否定できない事実である。

 特にアクセルは元々魔王軍絡みのクエストも少なかったので、以前より依頼の数は多いくらいで、ギルドの職員も頭を悩ませている。

「なるほどのぅ。なになに?ジャイアントトード討伐一匹につき1万エリス、畑を荒らす野良牛退治10万エリス、白狼の群れ討伐30万エリスか。ふ~む、いまいちパッとせんなぁ。」

 

 顎に手を当てながら貼り出された依頼を確認していくドリントル。なかなかお眼鏡にかなう依頼は見つからない。

 

「これなんかどうでち?」

 

 デーリッチが背伸びしながら大きな熊の絵が描いてある依頼書を指差す。

 

「どれ、アクセルの森に大量に侵入した一撃熊の群れ掃討1頭につき20万エリス、未確認の大型個体の目撃情報アリ、か。稼ぎは良さそうじゃが、危険はないのかの?」

 

「一撃熊って昨日カズマお兄さんと会う前に出会ったモンスターなんでち。ほら、冒険者カードの討伐数に加算されてるでしょ?デーリッチとミアちんで無理なく倒せるくらいだったでちよ。」

 

「なるほど。肩慣らしには丁度よさそうじゃの。どうじゃ?めぐみん、ダクネス?」

 

「ほほぅ、なかなか良いチョイスです!強力な魔物を一瞬で吹き飛ばす我が爆裂魔法の威力をとくと御覧頂きましょう!」

 

 

「是非もない!前衛として存分にこき使ってくれ!」ドキドキ

 

 目を紅く輝かせながら賛成するめぐみん。両手を拡げてなにやら嬉しそうに話すダクネス。ちょっと顔を赤くしてハァハァしてるが、それに気付く者はいない。

 

「ほいじゃ、決まりじゃの。受付で申告してくるので、しばし待っておれ。」

 

 ドリントルが受付へ向かう。

 

 その後、低レベルの冒険者には受けさせられる依頼ではないとルナからストップがかかるトラブルがあったが、ダクネスとめぐみんが間に入る形をとることで依頼を受けられるようになった。

 

―――――

 

~アクセル近くの森~

 

「さて、昨日振りじゃの。」

 

「一撃熊の目撃情報は昨日私達が出会った場所から少し奥の方が多いそうです。まずは昨日の場所まで行きましょう。」

 

 ダクネスとめぐみんが先導し、あとのメンバーが続く。敵感知のスキルを持つ者はいない為、目視で周辺を注意しながら進む。

 

「少し、よいか?」

 

「ん?どうしたんじゃ、マリオンちゃん。」

「マリオンだ。ちゃんはいらない。」

 

 森に入って少し進んだところでマリオンが指揮をとるドリントルに問いかける。

 

「マリオンの審判を覆したお前たちのことだ。野生モンスターごときに遅れは取らないだろう。しかし、マリオンは集団戦闘の経験が皆無だ。このまま戦闘をするとお前たちの足を引っ張る可能性が高い。マリオンは作戦の指示を求める。」

 

「う~む、マリオンが足を引っ張るなんてまずないと思うがの。まぁよい。ほいじゃ、今回は集団戦に慣れることを目標に、前衛に立って敵を見つけたら適当に殴ってて貰おうかの。それに合わせて他の者で援護に回ろうぞ。」

 

「わかった。つまり遊撃手として敵陣に切り込み、敵を殲滅しろということだな。責任重大な任務だ。マリオンは全力を持ってその信頼に応えよう。」

 

 

「え?あ~、まぁ、そんなところじゃな。宜しく頼むぞ。マリオン。張り切りすぎて攻撃の余波が味方に当たらんようにな。」

 

 ガッカリされるかと思ったが、想像していたのとちょっと違う反応が返ってきて戸惑うドリントル。まぁやる気出してくれてるしまぁいいか。

 しかしマリオンはドリントルの想像よりもはるかに、それはもうヤル気満々だった。

 

―――――――――

 

「もう、マリオン一人でいいんじゃないかな?」

 

 本来前衛でパーティの盾役となるニワカマッスルが腕を組んだまま呆れた様子で呟く。

 マリオンは「適当に敵を殴ってて」というドリントルの指示を言葉通りに実行していた。しかし、結果はドリントルの想像のナナメ上。マリオンが右手に装着しているマリオンイーグルは必殺必中の拳。その巨体ゆえ高い耐久を誇る一撃熊が、悉くマリオンの一撃で沈められていた。

 

「う~む・・・、援護をするスキもないのぅ。」

 

 そんなことを言っているうちにまた1体、マリオンストレートを喰らった一撃熊の巨体が宙に舞う。

 これで討伐数は合計12体。その内訳は、遠距離で敵影を補足して狙撃したドリントルが1体、側面から不意打ちで襲いかかってきたのをライトオブセイバーで迎撃したゆんゆんが1体、残りは全てマリオンによるものである。

 

「むぅ、このままでは私の活躍の場がなくなってしまいます。」

 

「爆裂魔法の出番なんて元々ないんじゃない?」

 

「なにおう!?偶々タナボタで1体倒せただけのくせに、我が爆裂魔法を貶すとは生意気です!」

「あら?もしかして、めぐみんまだ1体も倒せてないの?じゃあ今日の勝負は私の勝ちね!」

 

「くっ、ゆんゆんの分際で煽ってくれますね・・・。まぁいいでしょう、まだチャンスはあります。美味しいところを持っていく紅魔族の真髄をよく見ておきなさい。」

 

 何かにつけて勝負に持ち込む紅魔族コンビ。タナボタだろうと何だろうと、1歩リードしているゆんゆんが勝利を意識してめぐみんを煽っている。

 

「な、なんという攻撃力!是非ともこの身で受けてみたい!」ドキドキ

 

「止めとけって。俺も何度ぶっ倒されたかわからんが、興味本意であんなん喰らったら命に関わるぞ。」

「貴方はあのパンチを生身で受けたというのか!?なんて羨ましい!」ポ

 

「・・・あんた今、羨ましいって言った?」

 

「言ってない。」フイッ

 

「いや、言ったよな?」

 

「言ってない。」プイッ

 

 あ~これはアレなパターンだ。ニワカマッスルは、ほんの二・三言、言葉を交わすだけで何かを覚ってしまった。せっかく、美人のクルセイダーと一緒に前衛を組めてちょっとワクワクしていたのに、現実は厳しいものである。

 

「ちょっと、デーリッチ!これではワタクシの出番が無さすぎて、腕慣らしもクソもないですわ!あの子に少し加減するように言ってやってくだりませんこと?」

 

 

「う~ん、それもそうでちねぇ・・・。お~い!マリオンちゃ~ん!」

 

「む?マリオンはマリオンだ。ちゃんはいらない。どうした、デーリッチ。マリオンにはまだ回復は不要だぞ?」

 

「え~と、マリオンちゃ・・・、マリオンのおかげで大分敵の頭数を減らせたでち。大活躍してくれたから少し休憩をとってほしいのでちよ。」

 

「そうか?まだお前たちと戦ったときの1/10の出力も出していないぞ?まぁ、ボスの判断ならばその通りにしよう。」

 

 まだ余裕綽々なマリオンだが、デーリッチの指示によって後衛に下がる。代わりに前に出たのはヴォルケッタ。

 

 

「さあ~て、ようやくワタクシの出番が来たようですわね!焦らされた分、本気でぶっぱなしますわよ!」

 

 ヴォルケッタは愛用の豚印の杖をくるくる回しながらバーンインストールを唱える。周囲のマナの悉くががヴォルケッタに取り込まれ、炎魔法の魔力に変換されていく。溢れ出す魔力によって、ヴォルケッタの足下の草が焦げ付く。

 

「さあ、黒焦げになりたいやつから出てきなさいな!」

 

 前衛のニワカマッスルとダクネスより数歩前進して声を上げるヴォルケッタ。その声に呼応するがごとく、前方の茂みから一頭の熊が顔を出したつかの間、ヴォルケッタ目掛けて猛烈な勢いで突進を仕掛けてきた。

 が、それをヴォルケッタはかわそうともせずに正面に見据えたまま呪文の詠唱を終わらせる。

 

「爆連ヴォルガノン!!」

 

 祖父ヴォルガノン直伝の極大炎魔法が、突進してきた一撃熊に向かって何発も叩き込まれる。巨大な火柱が昇り、周囲を炎に染め上げる。そしてその炎は術者であるヴォルケッタ自身すらも巻き込んでしまう。

 

「お、おい!ヴォルケッタが火柱に巻き込まれたぞ!」

 

 慌てふためくダクネス。

 

「ん~、まぁ大丈夫だろ。」

 

 平然と見ているニワカマッスル。

 

「何を悠長な!これほどの爆炎を生身で受けて大丈夫なわけがあるか!あぁ、私が代わりに受けたい!いや、受けなければなるまい!今助けりゅぞ!ヴォルケッタ!」ダダッ

 ヴォルケッタを助けるという大義を前にして、自分の願望を成就せんとダクネスが炎の渦に飛び込む。

「え?いや、おい、待てよ!」

 

 あまりに突飛な行動に反応が遅れ、ニワカマッスルの制止は間に合わなかった。

 

「あっつう゛ぃやぁあはぁん!」アァイイ!

 

 苦悶と恭悦の入り交じった何とも表現し難いダクネスの絶叫が響く。

 

「ちょ、なんですの!?アナタ!怪我するから離れてなさいな!」

 

 対して火中に在りながら特にダメージを受けた様子もなく、ダクネスに離れるよう促すヴォルケッタ。そしてヴォルケッタを炎から押し出しつつ自分は火柱の中心に行こうとするダクネス。二人はお互いに相手が炎の外に行くよう立ち回り、結果、もつれあってわけわからない状況になっていた。

 時間にして十数秒、火柱が収まり黒煙が晴れると、そこに残っていたのは直径10メートル程の焼け跡。そしてあちこち火傷をしているダクネスと、ダクネスにまとわりつかれているも至って無傷のヴォルケッタ。

 

「え、あの人、ヴォルケッタさん?何であの炎の中で無傷なの!?」

 

 自身も高レベルのアークウィザードであるゆんゆんには今の魔法がどれ程の威力であったのか、この場にいる誰よりも理解できていた。

 

「ヴォルちんは炎魔法のスペシャリストでちからね~。」

 

「いやいや、答えになってないわよ!?デーリッチちゃん?」

 

「?魔法使いの人って、得意魔法の属性に耐性を持っているんじゃないんでちか?」

「え?あ、もしかしてそっちの世界ではそうなの?」

 

 そうなのである。

 ハグレ王国の世界では、魔法を習得する際にはまずその魔法の耐性を身に付けるのが一般的である。それは誤爆により自身がダメージを受けないようにする安全面の対策と、その魔法の理論的基礎を理解する研究面での理由からである。

 冒険者カードで大抵のスキルを習得できるこちらの世界と違い、あちらでは固有のスキルが重宝される。読むだけでスキル習得ができるスキル書という物もあるが、貴重なうえに使い捨てであり、しかも一般化されたスキルは研鑽された固有スキルに劣るという欠点もある。なので、あちらの世界では自分だけの武器になる新しいスキルを自分で作り出すのが普通である。その為に習得する属性魔法に対する深い造詣と理解が必要になるが、その過程で対応する属性の耐性が自然と身に付くのである。

 ちなみに殆どの魔法使いは1つの属性を究めることに生涯を掛ける。稀に複数属性の習得を試みようとする者がいるが、その多くは莫大なマナ消費の反動に耐えられず魔法を使えない体になったり、中途半端になり大成しないで終わる。ハグレ王国の参謀ローズマリーも反対属性にあたる炎と氷という習得難易度最大の2属性を習得する代償にマナ欠乏症を抱える体質となってしまった。3つ以上の属性魔法を習得できた魔法使いはそれだけで歴史に名を残すことができる程の偉業というのがあちらの世界における魔法使いの常識である。

 一方で、一つの属性の研鑽に生涯を掛け、歴史に名を刻んだ偉大な魔法使いも勿論いる。ヴォルケッタの祖父ヴォルガノンがそれにあたる。

 爆炎の賢者「炎帝ヴォルガノン」の異名で讃えられた祖父をこよなく尊敬するヴォルケッタは、自らを「真・炎帝」と自称しては周りに痛い子として見られている。しかしながら、受け継がれた才とたゆまぬ努力は、14歳という若さにしてヴォルケッタを高位の魔法使いに成長せしめた。

 ヴォルケッタの信条は祖父に倣い、「一に火力、二に火力、三四も火力、五も火力」である。そして、そんな彼女が一切の手加減なく全力全開で放った炎魔法は、如何なる強力な魔物だろうがなんだろうが吹き飛ばし、消し炭すら残さない。

 残さないのだが・・・

 

「なんでアナタはぴんぴんしてるんですの!?」

 

 直撃ではなかったとはいえ、自身が全力で放った炎魔法の渦に飛び込みながら、全身に軽い火傷を負っただけのダクネスに驚きを隠せないヴォルケッタ。現にターゲットになっていた一撃熊に至っては消し炭すら残っていない。

 

「ふぅ・・・、素晴らしい威力の炎魔法だった。まだチリチリと私の肌を痛め付ける、その余韻が、た、たまらにゃい。」アヘー

 

 恍惚とした表情でワケのわからない事を口にするダクネス。傷は軽いものの、精神にダメージが残ってしまったのだろうか。

 

「ヒール!」

 

 その様子に慌ててデーリッチがヒールをかける。たちまちにダクネスのダメージは回復される。

 

「ハッ!あまりの快感に意識が・・・あれ?治ってる?」

 

「だ、大丈夫でちか?」

 

「む?今のはデーリッチのヒールか?くっ、余計なことを・・・あ、いや、ありがとう。助かった。」

 火傷が治まって少し冷静さを取り戻したダクネスが何故か残念そうにお礼を言う。

「ちょっとアナタ!危ないじゃない!というか大丈夫なの!?火傷の痕残ってない!?」

 

 せっかく廻ってきた自分の活躍にケチをつけられた文句と、それ以上にダクネスへの心配を口にするヴォルケッタ。普段は高飛車セレブを気取っているが根はとても優しい少女なのである。

 

「ああ、大丈夫だ。私は防御スキルに特化したクルセイダーだ。炎耐性もそれなりに習得している。ヴォルケッタ、アナタこそ平気なのか?」

 

「自分の魔法で傷付く三流魔法使いなんてハグレ王国にはいなくってよ!」

 

「そうか、余計なことをしてしまったようだな。すまないことをした。」

「構いませんわ。それに身を呈して仲間を庇う騎士の鏡ともいえる姿、尊敬に値致しますわ。ありがとう。ダクネス。」

 

「こちらこそ、素晴らしい魔法を見させて頂いた。ありがとう。ヴォルケッタ。」

 

 何だかんだで握手を交わしてお互いを認め合う二人。これから中々良い関係が築けそうだ

 そんな感じで友情を深める少女たちを、ちょっと離れたところから白い目で見ていたニワカマッスルが一人呟く。

 

「いや、誰か突っ込めよ。」

 

 心優しき純真な少女達が変態の扉を開くことがないよう、ニワカマッスルはその一言以上の深入りはしないことにした。

 

「固有スキル・・・、耐性の獲得か。私もできるかな・・・。」

 一連のやりとりに思うところがあったゆんゆんが、アゴに手を当て真剣な面持ちで何かを考えていた。

 

「?どうかしたんでちか?ゆんゆんちゃん?」

 

「ん、ううん。なんでもないわ。」

 

「そうでちか?」

 

 ゆんゆんの様子がちょっと気になったデーリッチだったが、一応まだ戦闘中なので、それ以上には詮索しないでおいた。

 

「ふむ。まぁ粗方倒せたようじゃし、ここいらが潮時かのう?もう少し手応えがあってもよかったがの。」

 

 全員の前に出てドリントルがクエストの完了を宣言しようとする。

 

「あ、ドリントルちゃん。それダメなフラグでち。」

 油断大敵。終わったと思ったときが危ない時である。

 皆の前に出ていたドリントルの後ろの茂みがガサガサ揺れる。

 

「ん?」

 

 ドリントルが振り向くと、そこには先程まで相手していた一撃熊の2倍はあろうかという体躯、そして白い毛皮。まるで雪山かと見まがうような巨大な白熊が、腕を振り上げ今にも殴りかかろうとしていた。

 

「グオオオォ!!」ブオン

 

 咆哮と共に降り下ろされる右腕、不意を付かれたドリントルは反応が一手遅れる。

 

「危ねぇ!」ガキーン

 

 しかし、そこは流石のニワカマッスル。仲間の暴走は止められなかったが、敵の攻撃からはしっかりと仲間を守る。

 

「ニワカマッスル!助かったぞい!」

 

「姫さんは下がってな!こいつはちっと歯応えがありそうだ!」

 

 身長2メートル程度の赤い牛と4メートルはあろうかという白い熊、しかし、受けた感触では力は互角。

 

「っらああ!」

 

 ニワカマッスルは受け止めた右腕をはね除け、その勢いを回転運動に変換して体を捻った体制で飛び上がり、回し蹴りを顎に決める。

 

「ゴアァァオ!」

 

 完璧に決まった蹴りも決定打にはならず、白熊も一瞬よろけるがすぐに立て直す。体制を低くし、突進攻撃を仕掛ける。巨体からのぶちかましにニワカマッスルは腕を十字にクロスさせ防御の構えで受けるが、堪えきれず後方に吹き飛ばされる。

 

「くっそ~!回し蹴りが完全に入ったのに!」

 

 派手に吹き飛ばされたニワカマッスルだが、ダメージはそれほどでもなく、すぐに立ち上がり、再び白熊と対峙して首をコキコキ鳴らしている。まだまだ余裕がありそうだ。

 

「ふふふ・・・。」

 

 と、そこでニワカマッスルの後方から不適な笑い声が漏れる。

 

「あん?なんだ?」

 

「ふわっはっはっは!真・打・登・場!」

 笑い声の正体はめぐみんである。

 

「野生モンスターが群れを成す時には必ずボス個体がいる。とうとう姿を現しましたね!この時を待っていましたよ!最後に美味しいところを持っていく紅魔族の流儀をとくとご覧あれ!」

 

 思えばヴォルケッタの爆炎魔法を目の前で見せられた爆裂魔法至上主義のめぐみんが黙っているわけなどないのである。

 両眼を紅く燃やしためぐみんは既に高速で詠唱を終え、爆裂魔法の発射準備が整っていた。

 

「ちょ!?めぐみん!?待って待って、みんなぁ~!さがってぇ~!」

 

「え?え?」

「なに?なんですの?」

「なにが始まるんじゃ?」

 

 突然慌て出したゆんゆんの様子に何事かと浮き足立つハグレ王国の面々。

 

「いいから!とにかく!はやくにげてぇ!」

 

 訳も分からず取り合えず下がるハグレ達。

 

「おい俺は下がれねぇぞ!」

 

 白熊と対峙してるが故に一人取り残されたニワカマッスル。

 

「バインド!はやく下がるんだ牛男!」

 

 助け船を出したのは巨大な白熊とは対極の存在。小さな小さなはむすけだった。覚えたてのバインドは拘束力は弱いが不意を付けたことで白熊に一瞬の隙が生まれる。

「助かったぜ!はむすけ!」

 

 全員が爆裂魔法の射程から外れたのを見計らって、めぐみんは練り上げた魔力を開放する!

 

「エクスプロージョン!」チュドーーーーン!

 

 耳をつんざく轟音と共に、先程のヴォルケッタの魔法より更に二まわりは大きな火柱が上がる。

 

「な、なんて威力なの・・・。」

 ヴォルケッタがやや悔しそうな顔でその火柱を見上げながら呟く。爆裂魔法は白熊の巨体を完全に捉え、跡形もなく消し去った。

 

 

―――――――

 

~冒険者ギルド~

 

「どういうことなの・・・」

 

 ドリントルからクエスト完了の報告を受けたルナが絶句している。

 

「討伐総数14、ボス個体も撃破ですって・・・?」

 

 確かに勇者パーティの協力があった。

 ルナが想定していたのは堅さに定評のあるクルセイダーが敵を引き付けて、頭のおかしい爆裂娘による一撃離脱だった。それなら比較的安全に、上手くいけば中々進捗しない討伐依頼でも複数個体の討伐可能性もあると判断した。だからクエスト受注を許可した。しかし、結果は討伐の殆どが一人の女の子によるもので、他のメンバーにも怪我人すらもなく余裕でクエストをこなしたのがわかる。

 色々と気になることもあったが、高難度依頼が一つ片付いてギルドとしては非常に助かったのと、サトウカズマの関係者となればそんなこともあるだろうと、深く考えないことにした。

 

「ええと、ではドリントルさんのパーティには討伐報酬2,800,000エリスに加え、ボスモンスター討伐による追加報酬が1,000,000エリス、合計で3,800,000エリスの報酬をお渡しします!」

 

ウオオオォォ!と冒険者達から歓声が上がる。

 

「おいおい!魔王討伐後で最高金額じゃないか!?」

「おいネエチャン達!奢ってくれよ!」

「ふっ、新たな英雄の誕生か。」

「あのドリントルって女。マブくね?」「いや、俺は青い髪の子のほうが・・・」

 一部おかしなことを言ってる奴もいるが、ハグレ王国はアクセルの冒険者ギルドにおいて鮮烈なデビューを飾ることになった。

 




 スキル習得云々はサガフロの術資質をイメージしといてください。魔法を使うだけなら買えば使えるけど、資質がないと高位術は使えなかったり、閃いたりできないってこと。このすば世界は冒険者カードという便利な物が出回ってるせいで、自分で固有スキルを作り出す人が少ないという設定。実際カズマが初級魔法を応用してみただけで驚かれるのはそういうことなんじゃないかなと思ってます。
 ローズマリーはデーリッチと放浪生活する中で1属性では対処できない敵に苦戦したことがきっかけで、2属性習得をしています。ただ、マナ欠乏症については才能がなかったわけではなく、録な環境もない中で独学で強引な習得を行った為じゃないかと思います。それだけでもとんでもないことだったりします。
 王国で3属性持ちはシノブとメニャーニャ。あともしかしたらミアラージュ。3人とも歴史に名を残すレベルの天才です。3属性に加えて最上位の回復支援魔法まで使えるシズナさんは伝説級。


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宿屋イベントその2 友達増やせ!

 基本的にメインストーリーが進まないエピソードを宿屋イベントとしています。
 時系列が本編と前後したりしますので、ご注意ください。



~冒険者ギルド~

 

 一撃熊討伐クエスト完了後カズマ達と合流し、酒場ではハグレ王国の歓迎会を兼ねた宴会が開かれていた。他の冒険者も物珍しさから宴会に合流し、ギルドの中は大変な騒ぎとなっていた。

 そんな中で、喧嘩っ早いめぐみんがヴォルケッタに爆裂魔法の素晴らしさを説き始め、同じく煽られ耐性0のヴォルケッタが如何に祖父ヴォルガノンが偉大な魔法使いかを語り、お互いヒートアップしてきたところにアクアが「どっちの魔法の方が強いの?」とガソリンをぶちまけたせいで取っ組み合いの喧嘩になったところ、それぞれカズマとローズマリーに怒られてシュンとしていた。

 ゆんゆんは先程ヴォルケッタの前にめぐみんと今日の勝負の結果について言い合っていたが、めぐみんが喧嘩相手を変えてしまってから話し相手がいなくなり、隅の方で独りジュースをすすっていた。

 

 

「ゆんゆんは凄いな」

「ふぇっ?」ガタッ

 

 突然声をかけられて思わず立ち上がるゆんゆん。声がした方向に顔を向けるとマリオンが立っていた。マリオンは感情表現が苦手なのか、ずっとポーカーフェイスを保っている。

 

「マリオンちゃん?私が凄いって?」

 

「マリオンはマリオンだ。ちゃんはいらない。ゆんゆんはマリオンに出来ないことを簡単にやってみせた。だからマリオンはゆんゆんを尊敬している。」

 

「私が?マリオンちゃ、マリオンに出来ないことを・・・?」

 

 今日の戦闘でのマリオンの活躍は衝撃的なものだった。ほぼ単独で、一撃熊を10体相手に無双出来る冒険者なんて王都の高レベル冒険者を含めても一体どれだけいるだろうか。自分は偶々1体倒せただけだし、ライバルのめぐみんはボスモンスターを倒している。ちなみに今日の勝負は討伐数勝負なので、二人とも討伐数1で引き分けにしたかったが、ボスモンスターを倒しためぐみんに丸め込まれ、高純度マナタイトを取られてしまった。

 そんな自分がマリオンちゃんに出来ないことが出来るとは?一体どういうことだろう。

 

「うむ。ゆんゆんはたった1日で3人も友達を作っていた。マリオンも友達が欲しい。マリオンに友達の作り方を教えてはもらえないだろうか?」

 

「へ・・・?はぁぁぁあ!?」

 

 マリオンからお願いされたのは、まさかの友達の作り方教えて!である。そんな方法ボッチ歴イコール年齢のゆんゆんに分かる訳がないし、何故ゆんゆんにそんなことを頼むのか理由が分からない。

 

「いやいやいや!?ムリムリムリ!?ていうかそんな方法知ってたら私が実践してるからっ!?」

 

「?マリオンは見ていたぞ?ゆんゆんは昨日、デーリッチ、ヅッチー、ヴォルケッタの3人と友達になっていただろう?どうすれば友達が増やせる?マリオンはまだ人間の感情というものがよく分からないのだ。友達名人のゆんゆんに教えて欲しい。」

 

「と、友達名人!?」

 

 人生十四年。学校で二人組を作るときは必ず先生と組んだ。誕生日は独りでご馳走を食べる日だった。ボードゲームはめぐみんとやるまで一人用の遊びだと思ってた。サボテンのサボちゃんは今でも大切な友達だけど、言葉が通じる友達が欲しいなってずっと思ってた。

 そんな自分が友達名人。友達、名人だ。確かにデーリッチ達には友達と言われた。握手をした。一緒にクエストをした。もうこれは紛れもない友達だろう。結果、友達慣れしていないゆんゆんはちょっぴり浮かれていた。

 

「私が・・・私が友達名人・・・めいじん・・・」ウフフ

 

 熱に侵されたような怪しい表情をしていたゆんゆんだったが、まだ人の心の機微に疎いマリオンには余裕の笑みに見えたらしい。「うむ。頼もしいことだ。どうだろう、ゆんゆん、引き受けてはもらえないだろうか。」

 

「ま、まかせてちょーだい!」

 

 つい勢いで答えてしまった。

 もう嫌な予感しかしない。

 

―――――――

 

「まず、そもそも友達とはどういう状況になれば友達になるんだ?」

 

「う~ん・・・、一緒に遊んだり、ご飯食べたり?かなぁ?あ、でもデーリッチちゃん達とはクエストはしたけど遊んではいないわね・・・。めぐみんはライバルだから友達とは違うし・・・。お互いが友達だって認めたら友達になるのかも。」

 

 友達とは何か?哲学的な問いである。あまりにも経験が少ないゆんゆんは、経験談ではなく本で読んだ一般論で答えるしかないが、それほど外れた解答ではないだろう。

 

 

「なるほど、こちらだけが友達だと思うだけでなく、相手に友達だと認めてもらわなければならない、ということか。何か証拠になるものを用意しようか。」

 

 マリオンもなるほど、と納得している。が、何かずれている。

 

「では、どうしたら相手に友達だと認めてもらえるだろうか?」

 

「う~ん、友達ですか?って聞いてみるとか。」

 

「それは既に友達になった相手への質問ではないか?」

 

「あ、そうね。じゃあ友達になってくれますか?だね。」

 

「いきなり友達になってくれ、では断られないだろうか?」

 

「じゃあ、相手が断りにくい状況にするとか?ご飯とかお酒をきっかけにするといいかも?」

 

 

「それは素晴らしい考えだ!ありがとう、流石はゆんゆんだ!早速実践してこよう!」

 

 宴会はまだ始まったばかり、マリオンは喧騒の中に歩を進めた。

 

―――――――

 

「一杯どうだ?ここはマリオンが奢ろう。」

 

「お?気前がいいじゃねえか?流石はハグレ王国様々だな!」

 

 最初のターゲットはくすんだ金髪に碧眼のチンピラ男のダストである。タダ酒を期待して宴会に顔を出したが、期待通りの誘いに思いきり乗っかる。

 

「そうか、ではマリオンが注ごう。グラスを出すといい。」

 

「へへっ、たっぷり注いでくれよ。」

 

 本日の戦闘で大活躍したとはいえ、見た目は10才そこそこの新米冒険者の少女に躊躇なく奢らせるあたり、流石はカズマと並んでアクセルのクズコンビと呼ばれるだけのことはある。

 

 がしかし、ダストは直ぐにそれを後悔することになる。

 

「ゴクゴクゴク、プハー!やっぱり奢られる酒は最高だぜ!」

 

 マリオンによってなみなみと注がれたシュワシュワを一気に飲み干す。絵面といい、発言といい、わりと真剣にクズ野郎だった。

 

「飲んだな?気に入ってもらえて何よりだ。これでマリオンとダストはもう友達かな?」

 

「あん?いいぜ。奢ってくれるやつはみ~んな友達だ。」

 

 

「そうか!友達なのだな?嬉しいぞ・・・!ダスト!では、コレにサインしてはもらえないだろうか?」

 

「ん~なんだこりゃ?友達契約書?へあ?」

 

 一杯飲み干して盛り上がった気分が一気に醒める。これはアレだ。長く冒険者をやっていると誰もが1度は出くわす、悪名高きアクシズ教徒の勧誘の手口だ。

 しかしこの状況はマズい。ダストは既に出されたシュワシュワを飲んでしまっている。しかもタダ酒狙いで来た為に手持ちの金はない。相手は一撃熊を単独で倒したと聞いている。逃げられそうにない。

 

「え~と、僕たちまだ知り合ったばかりでトモダチとか、早すぎるんじゃないでしょうか?」

「そんなことはないぞ?一緒に酒の席を囲えば冒険者は皆仲間になれると聞いた。」

 ヤバいヤバい、これはヤバい。逃げ切れない。初心者殺しに追いかけ回されたときよりヤバい。

 

「あの、ちょっと仲間が来てるはずなので呼んできてもいいですかね?」

 

「ん?構わないぞ。その仲間にも奢ってやろう。」

 

「お?そ、それは有難いな。じゃあちょっと失礼するわ・・・。」

 

 そして、ダストは戻って来なかった。

 

―――――――

 

 そんなこんなで数人に声をかけては逃げられてるうちにマリオンとゆんゆんの周りには誰もいなくなった。

 

「ちょっとちょっと、一体何をしているんでちか!?なんか苦情が殺到してるでちよ!?」

 

 騒ぎを聞き付けたデーリッチが駆けつけてきた。

 

「おお、デーリッチか。デーリッチに言われた通りに友達を増やそうとしていたのだ。これがなかなか上手くいかなくて困っている。最初の数件はあと一歩のところだったのだが、段々マリオンの周りに人がいなくなってしまった。」

 

「え、ええ?みんな気さくな人達に見えるんでちけどねぇ・・・。」

 

 話を聞いて首を捻るデーリッチ。カズマパーティのメンバーはもとより、他の冒険者達もノリの良い人ばかりでハグレ王国との相性はよさそうなのだが。

 

 

「そうだろう?この友達契約書にサインをしてくれるだけでいいのにな。」

 

「・・・うん?」

 

 何か変な物が出てきた。

 

「だから、この友達契約書に。」

 

「ちょ、ちょっとなんてもの作ってるんでちか!?これをみんなに押し付けたんでちか!?」

 

「駄目だろうか?」

 

「駄目でちよ!!友達は契約書とかで確定させるものじゃないでち!心の中で認め合うものでちよ!?」

 

 思いもよらない代物が出てきて声を上げてしまうデーリッチ。

 

「ああ・・・。デーリッチが馬鹿だったでち!良かれと思った提案だったんでちがあ・・・。」

 

 

 額に手を当ててう~んと唸るデーリッチ。早く王国に馴染んでもらおうと出した友達を作るという指示は、とんでもない方向に逸れてしまっていた。

 

「ううん?」

 

「マリオンちゃん、すまんでち!デーリッチのせいでマリオンちゃんを孤立させることになってしまった。あの指示は忘れてくださいでち。デーリッチはみんなの誤解を解いてくるでち。」

 

「待て、待ってくれ。なぜデーリッチが謝る?お前に一体何の非があるというのだ?」

 

「デーリッチが愚かだったんでち。デーリッチの勝手な想いでマリオンちゃんに無理な指示を出してしまった。デーリッチはマリオンちゃんに早くみんなと仲良くなって欲しかっただけなんでち。」

 

 

「ふむ・・・、しかし、それは君の意図を上手く読めなかったマリオンの責任だろう?君の謝ることじゃない。」

 

「い、いや、でも・・・!」

 

「それより教えてくれ。どうして、君はマリオンを他のみんなと仲良くさせたいのだ?」

 

「え?」

 

「そんなことをして君に何のメリットがあるのだ?それをずっと聞きたかった。」

 

「だって、友達って素敵じゃないでちか。」

 

「うん?」

 

「デーリッチは友達を凄く大切に思ってるでち。マリオンちゃんも、もちろんそうでち。だから、マリオンちゃんの友達が増えて、マリオンちゃんが幸せそうなら、デーリッチもまた幸せなんでち。」

 

「マリオンを大切に思う?一体、お前はマリオンのどこが気に入ったのだ?」

 

「ちっちゃくて、かわいくて、やさしくて、まじめで、つよいところ、でちかねー?」

 

「・・・。」ポ

 

「あれれ?足りないでちか?それなら、えーっと・・・。」

 

「や、やめてくれ・・・!もういい!なんとなくだけど、友達という概念が分かった。そうか、こういう気持ちなのだな・・・。」

 

「ほえ?」

 

「友達の押し付けは間違っていたようだ。証拠は残せないけれど、のんびりと、友達を増やしていくことにするよ。」

 

「おお!」

 

「ところで、友達名人に一つ聞きたい。友達を増やすのに一番必要な能力とはなんだろうか?」

 

「能力でちか?能力はいらんでちね?」

 

「ほう?」

 

「必要なものは、笑顔と時間だけでちよ。それに・・・。もう出てきたらどうでちか?ゆんゆんちゃん。」

 

「ひゃい!?」ビックゥ

 

 机の陰から様子を伺っていたゆんゆん。隠れていたつもりはないようだが、ずっと口を出せずにモジモジしていた。

 

「ゆんゆんか、君にもすまないことをした。せっかくアドバイスをしてくれたのにマリオンは台無しにしてしまった。」

 

「そっ、そんなことないよ!私だって、友達名人なんて呼ばれて嬉しくなって、本当は自分で友達作ったことないのに偉そうにアドバイスなんかして・・・。」

 

 

「二人とも、そうじゃないでちよ。ゆんゆんちゃんはマリオンのことを想ってアドバイスをした。マリオンちゃんはアドバイスをしてくれたゆんゆんちゃんに応えようと頑張った。お互いがお互いのことを想いやっていたんじゃないでちか?」

 

「そうだけど・・・。」

「そ、そうだが。」

 

「そうやって想いあった二人はもう、友達なんじゃないんでちか?」

 

「「!!!」」

 

「ほら、握手、握手。」

 

 デーリッチに促され握手をする二人。涙目ながらもおずおずと手を出し嬉しそうなゆんゆん。微小ながら無表情を崩し、頬を染めるマリオン。

 二人はまっすぐ向き合って、目をあわせる。

 

「よろしく、お願いします・・・!」

「こちらこそよろしく、ゆんゆん・・・!」

 

 その後、3人でマリオンの誤解を解いて廻った。その時に、顔を赤くしながら謝るマリオンの姿が冒険者達に大層気に入られ、「マリオンちゃんかわいい」コールが巻き起こり、マリオンがオーバーヒートしてしまう事件が発生した。翌日、アクセルの街では「マリオンちゃんかわいい禁止令」が発令されることになった。

 アクセルの街は今日も平和である。

 




 ぶっちゃけこの話を書きたくてSS書き始めたようなものです。

 この話を読んだあなたはきっとこう言うだろう。

「マリオンちゃんかわいい!」


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第6話 アンノウン

 ようやく本編が動き出す雰囲気です。
 戦闘シーンで全員に活躍させようとすると冗長な感じになってしまう。かといって登場しておいて一言も喋らないのもどうかと思うし。
 この辺は登場人物を増やした段階で分かっていたこととはいえ、やっぱり難しい。
 これからまだ人数増えるというのに。


 ハグレ王国が鮮烈なデビューを飾ったその日、それを遥か遠くから観測する者たちがいた。

 

 

~???~

 

「上手くいったようだナ?」

 

 濃紺のヘソ出しシャツにミニスカートというラフな格好をした少女が玉座に腰掛け、向かいあった男に報告を求める。

 

「左様に御座います。」

 

 白黒の仮面にタキシードを着た、長身の男は恭しく頭を下げながら答える。

 

「しかし、あの様な童共が我が目で見通せぬとはにわかに信じられませぬな。」

 

「奴らは私の地上侵略を武力で止めやがった。魔力を解放した今でも勝てるかどうかわからん。」

 

「ご冗談・・・ではないのでしょうな。」

 

 契約を重んじる悪魔は嘘偽りを嫌う。気まぐれな主上とはいえそれは事実なのであろう。

 

「奴の動きはどうだ?」

 

「着々と勢力を伸ばしておりますな。上位悪魔でも奴の支配下に入る者が出てきております。」

 

「hmm・・・。こちらも急ぐ必要があるか・・・。」

 

 少女は少し思案して次の計画を告げた。

 

―――――――

 

~数日後カズマ邸~

 

 ハグレ王国はデビュー以降、高難度クエストだけでなく、畑仕事の手伝いから土木工事までこなす超便利屋集団として、わずか数日でアクセルでは知らない者がいない程の人気者になっていた。また、ローズマリーの薬屋も、回復手段が少ないこの世界において即効性の高さが評価され、道具屋や病院を中心に順調に販路を拡大している。ちなみに、調合に失敗した薬もなぜかとある魔道具店の店主がいたく気に入り、高値で買い取ってくれている。

 これまで稼いだ金額は7,000,000エリスを越え、その中からカズマから借りた登録料は勿論、宿泊や諸々のお礼として相応の金額をカズマに支払っている。

 おおよそ活動基盤が安定してきたところで、ローズマリーがカズマに次の計画を相談している。

 

「王都に行きたい?」

 

「うん、高額のクエストは大体こなしてしまったし、あまり私たちが依頼を独占するのは他の冒険者に迷惑をかけることになるんだよね?ギルドの方にもそう薦められたみたい。」

 

 お互いに慣れてきて、ローズマリーの話し方も親しい相手に対する口調に変わってきている。

 

「いいんじゃないか?丁度俺たちも王都に行く用事があったからテレポートで連れていってやるよ。ゆんゆんも一緒に連れていけば1度に8人は行けるだろ。」

 

「テレポート?へぇ、この世界には便利な魔法があるんだね。あ、でもそれならデーリッチだけ連れていって貰えたら大丈夫だよ。」

 

「?何で?」

 

「デーリッチが持っているキーオブパンドラがあれば1度行った場所に空間転移できるからね。初めて会った時見せたあの鍵だよ。」

 

「マジか。確か異世界への転移装置とか言ってたけど、テレポートもできんのそれ。」

 

 なんというチートアイテム。テレポート専門のアークウィザードがいるくらいだ。あの鍵があったら食うのに困らないだろう。

 

「なぁ、その鍵う「売らないよ?」」

 

「ちぇっ。」

 ローズマリーはこの数日でなんとなくカズマの考えが読める程度には親しくなっている。カズマ自身もテレポート自体は使えるし、あったら便利だな程度での提案なので断られたら特に交渉するわけでもなく諦めた。

 

 

「ところで、先程王都に行く用事があると言っていたけど・・・。」

 

「ああ、王城から晩餐会の招待状が届いていてな。」

 

「え?それって凄いことじゃない?」

 

「まぁ、一応魔王倒した勇者だからな、俺。」

 

「え?えぇぇ!?」

 

「あれ?言ってなかったか?アクセルじゃ知らない奴はいないぞ?」

 

「いやいやいや!?日がな、こどら並みにこたつに入り浸って「明日から本気だす」とかいうニート根性を地でいくクズマさんが!?アクア達にセクハラすることが趣味の変態鬼畜ゲスマさんが勇者!?」

「おい!あながち間違ってないがそこまで言われると俺も傷付くからな!デリケートなんだぞ!俺は!ってか、クズマとかゲスマってあだ名は誰から聞いた!」

 

 間違いを指摘するならば、カズマは女として認識していないアクアに対してはセクハラしていないところだろう。カズマのセクハラ被害者は大抵はめぐみん、ダクネス、ゆんゆんである。

 しかし、ローズマリーが、アクアがセクハラ被害者だと言うということはつまり・・・。

 

「アクアが嬉々として話してくれましたよ?」

 

「やっぱりか!あんのクソ駄目神がぁ・・・。あとでバインド&ドレインタッチの刑だな。」

 

 カズマがジト目で広間の方を睨むと、自分の知らないところで死亡フラグが立っていることなど露知らず、アクアは子供たち相手に手品を披露して喝采を貰っている。

「ええと・・・、じゃあカズマ達は晩餐会に出る為、王宮に行くんですね?」

 

 少し険悪な雰囲気にこれはマズいとローズマリーは無理矢理話を戻す。

 

「ん?ああ。本当は晩餐会なんて貴族の集まりは面倒臭くて行きたくないんだが、かわいい妹に会う為だからな。」

 

「え?妹がいるんですか?」

 

「ああ、ベルゼルグ第一王女のアイリスは俺の妹なんだよ。」

 

「え?えぇぇぇえ!?」ガタッ

 

 先程、カズマが勇者だと聞いたとき以上に驚いてしまった。まさかカズマが王族だったとは・・・。

 

「何を馬鹿なことを言っている!カズマが王族なわけがないだろう!」

 横から出てきたダクネスがちょっと本気で怒った様子で口を挟む。

 

「何を言ってるんだダクネス。アイリスは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶんだぞ?これが妹じゃなくてなんなんだよ?」

 

「純心なアイリス様に悪影響を与え、あまつさえ兄と呼ばせるふざけた行いに、王城へ出入り禁止にされたのを忘れたのか!?」

 

「え~?俺王城でのことは変な薬飲まされたせいで記憶ないんだけど?」

 

「え?え?」

 

 ローズマリーは話の流れが分からず混乱している。

 

「ばっちり覚えているではないか!気を付けろローズマリー!この男は幼きアイリス様をたぶらかした性犯罪者だ!魔王討伐で出禁が解かれたとはいえ、王城では重要監視対象にされている危険人物なんだぞ!」

「なにそれ!?俺も初耳なんだけど!?」

 

「たわけ!本来ならお前を王城に行かせられるわけがないだろう!アイリス様たってのご招待だからと私が責任を持ってお前の監視をするハメになってしまったのだぞ!」

 

「え、えぇと?つまりカズマが王族というわけではなく、王女様に兄と呼ばせる変態行為で城を出禁にされたということ?」クズマサン・・・

「大体そうだけど!言い方!」

 

 とまぁ、そんなこんなでギャーギャー騒いだ翌日、カズマパーティは王城へ、ローズマリー、ヅッチー、ミアラージュのマナ節約組はアクセルでお仕事、後のメンバーはゆんゆんと合流して王都の冒険者ギルドへ向かうことになった。

 

――――――――

 

~王都の冒険者ギルド~

 

 カズマ達と別れたデーリッチ達はゆんゆんの案内で王都の冒険者ギルドへ来ていた。ゆんゆんは王都でも活動をしていおり、新勇者サトウカズマや魔剣の勇者ミツルギと共に魔王討伐に参加した凄腕アークウィザードとして結構な有名人である。しかし、同時に高難度のクエストをソロでこなす孤高のアークウィザードとしても有名で、ゆんゆんに声をかけるものは少ない。というか一人でボードゲームをしたり、声をかけられると逃げたりしていたせいで声をかける者がいなくなったという方が正しい。

 そんなゆんゆんを見つけて声をかけるイケメン剣士が一人。

 

「やあ、ゆんゆん。久し振りだね。今日は王都でクエストかい?」

 

 一目で分かる程強力な魔力を秘めた大剣を携え、装着方法のよくわからないゴテゴテした派手な装飾の鎧、細身ながら鍛えられた肉体に端整な容姿。いかにも勇者といった出で立ちの男、魔剣の勇者こと、ミツルギキョウヤである。

 

「あっ、ミツルギさん。はい、今日はお友達と一緒にクエストを受けに来たんです!」

 

「え?お友達?」

 

 ゆんゆんのぼっち性はミツルギもよく知るところである。過去に優秀な後衛を欲したミツルギは熱心にゆんゆんをパーティに誘ったことがある。しかし、その人見知りな性格からか断られた経緯がある。(とミツルギは思っているが、実際はミツルギの後ろでプレッシャーをかけてきたクレメアとフィオにビビった為だったりする)

 

「そうです!こちらのハグレ王国の皆さんです!」ジャーン

 

 ゆんゆんが後ろに控えていたメンバーを紹介すると、ミツルギもそちらに視線を送った・・・ところで目を丸くする。

 10歳そこそこと見られる少女が3人、1人は頭にハムスターを乗せている。やけに露出の多い大人っぽい女性2人。そして筋肉を顕にした上半身裸のムキムキビーフである。

 

「な、なかなか個性的なお友達?だね?」ヒク

 

 ゆんゆんの紹介を受けて各自挨拶をしたところで、頬を引きつらせながら控え目に印象を語るミツルギ。独特の感性を持つ紅魔族にあってゆんゆんは比較的常識的な方だと思っていたが、その認識は改める必要があるかもしれない。

「そういえば、今日はクレメアさんとフィオさんは一緒じゃないんですか?」

 

「ああ、今日は夜に王城に呼ばれているから夕方までは自由行動にしていてね。二人は服や小物を買いに行っているよ。僕は買い物の必要がないから、簡単なクエストでも受けて時間を潰そうと思って。」

 

「あ、ミツルギさんも招待されていたんですね。」

 

「も?」

 

「はい。カズマさんたちも招待されていて、先に王城に行ってるはずですよ。」

 

「うげ!」

 

 正攻法を重んじるミツルギにとって、搦め手で相手を出し抜くカズマは天敵とも言える。カズマの力を身をもって経験しているミツルギは、カズマの真の恐ろしさを知る数少ない人物のうちの1人であり、あまり顔を会わせたくないのが本音だ。

 ちなみにゆんゆんが呼ばれていないのは、ゆんゆんはカズマパーティの一員だと認識されており、招待状もカズマパーティ一行に対してのものであった。しかし、実際はゆんゆんはカズマパーティではないので、1人だけ招待されなかった形になってしまった。ぼっちの為ならトラブルさえ呼び込むゆんゆんはもしかしたら本当に呪われているのかもしれない。本人が気付いていないようなのが幸いだ。

 

 

「ミツルギお兄さんはカズマお兄さんのことが嫌いなんでちか?」

 

「そ、そんなことは、ないよ?」

 

 子供故のド直球の質問に歯切れが悪そうに答えるミツルギ。

 

「それよりもゆんゆん、せっかくだから一緒にクエストを受けないか?そちらの皆さんもどうですか?」

 

 話題を変えようと、合同クエストの提案をするミツルギ。

 

「え?え~と、私はいいですけど・・・。」チラッ

 

 ゆんゆんはデーリッチとドリントルに視線を送る。

 

「デーリッチは構わないでちよ?一緒の方が楽しそうでち!」

 

「妾も構わんぞ。」

 

 というわけで、ミツルギをパーティに加えてクエストをすることになった。

 

―――――――

 

~王都郊外~

 

 受けたクエストは街道に近くの岩場に巣を作ったスコーピオン討伐、報酬は1,500,000エリスである。

 夕方までに帰ってこれる距離と、そこまで高難度ではない依頼という条件に丁度当てはまったクエストであった。

 

「スコーピオンとやらはどんなモンスターなのじゃ?」

 

 街を出て、街道沿いを移動しながらドリントルがミツルギに訊ねる。

 

「スコーピオン単体は尻尾の毒にさえ注意すれば大したモンスターではありません。しかし、虫系モンスターの例に漏れず群れで襲い掛かってこられると厄介なのと、女王となる個体は他の個体よりはるかに大きく固い甲殻を持ち、ある程度の攻撃力がないとダメージが通りません。女王を倒せれば他の個体は生きていけなくなります。」

 

「要は雑魚が集まらないように露払いをしながら、女王を倒せれば勝ちということかの。」

 

「そんなところです。」

 

「では、前列はニワカマッスルを盾役に、ゆんゆんとヴォルケッタが範囲魔法で雑魚を露払い、デーリッチが回復担当。後列はミツルギ殿とマリオンで女王を叩きつつ、妾とはむすけで支援、福ちゃんが回復担当。囲まれないように注意するのじゃ。」

 

「了解!」

「おう。」

「おうでち。」

 

 パーティメンバーを前列・後列二つに分けた役割分担。8人で1パーティを組むハグレ王国ではお馴染みの戦術である。強敵相手にも前列交代を駆使することで、最低限の損害で戦える固い戦術である。

 見た目がアレなのと、数人を除いてレベル20以下というパーティに若干の不安があったミツルギだが、その士気と統率の高さにはベテラン冒険者のそれを感じ少し安心している。

 

 

―――――――

 

~スコーピオンの巣~

 

「弛緩毒狙い撃ち!」パァン!

「バインド!」

 

 ドリントルが対象の物理防御を下げる弛緩毒を込めた弾丸を撃ち込み、すかさずはむすけがバインドで動きを制限する。

 スコーピオンクイーンは瞬間、バインドを解除しようともがき、大きな隙が生じる。

 

「これでトドメだあぁぁぁ!」

 

 魔剣グラムの加護を受けたミツルギが吼える。飛び上がって上段に振りかぶってからの唐竹割りはスコーピオンクイーンの胴体を真っ二つに切り裂く。断末魔を上げるスコーピオンクイーンは体液を撒き散らしながら崩れ落ち、やがて動きを止めた。クイーンを守っていた雑魚個体も糸が切れた傀儡人形のように動きを止める。

「凄い一撃でしたわね。」キュア!

 

 福ちゃんがスコーピオンクイーンの毒を含んだ体液を浴びたミツルギに解毒魔法をかけながら労う。

 

「ありがとうございます。冷気魔法だけでなく、解毒魔法なんて高度な回復魔法まで習得されているとは素晴らしいですね。」

 

「あら、誉めたって何も出ませんわよ?」ニコニコ

 

「い、いや、そんなつもりでは・・・。アセ」

 天然たらしなミツルギだが、別に女性経験が豊富というわけではない。年上の女性には弱いようである。

 

「お~い!そっちも終わったでちか~?」

 巣の入口の方で雑魚の掃討をサポートしていたデーリッチが声をかける。雑魚の動きが止まったので、クイーンの決着がついたと判断し連絡に来たようである。

「こっちも片付いたぞい!そちらへ向かうから待っておれ!」

 

 ドリントルが返事をして入口で合流することになった。

 

――――――

 

~王都への帰り道~

 

「いや~今日も楽勝でちたね~。流石は我らがハグレ王国!」

 

「こら、デーリッチ!そうやって調子に乗って油断するのがアナタの悪い癖でしてよ!」

 

 さして手こずることもなく、予定よりも大幅に早く、昼前にクエストを完了してしまった一行。いつも通り調子に乗るデーリッチをヴォルケッタがたしなめる。そんな様子を見ていたミツルギが思っていた疑問を口にする。

 

「そういえば、さっきからハグレ王国って言ってるけど、そういう設定なのかい?」

 

「ハグレ王国はハグレ王国でちよ?デーリッチが王様なんでち!」

 

「へぇ~、それは凄いね!」

 

 ミツルギはそういう子供の遊びなのだろうとは思ったが、納得できないこともある。

 この子も含めたハグレ王国の戦闘力はちょっと異常なレベルであると言っていい。ドリントルの作戦の下、一緒に前衛を組んだマリオンは上級職であるルーンナイトにしてレベル20を越えていたが、スコーピオンクイーンを相手に単独で圧倒し、先程の福ちゃんに至ってはレベル10そこそこにして高難度の解毒魔法を習得し、更にアークプリーストでありながら冷気の攻撃魔法を使える。外で戦っていたヴォルケッタの魔法はゆんゆんと並ぶ程強力なものだったし、何よりもニワカマッスルの分厚い筋肉がスコーピオンの針を通さなかったのには驚愕した。そしてこの小さな女の子デーリッチがこのパーティの王(リーダー)であるという。

 こういうデタラメなパーティには覚えがある。女神アクア様を共にしたサトウカズマのパーティである。しかも彼らと知り合いでもあるという。もしかしたら彼女達も似たような事情のパーティなのでは?と、ミツルギは問いかけようとした。

 

「ねぇデーリッチ、キミたちはもしかして・・・」

 

「おいおい、ありゃなんだ!?」

 

 ニワカマッスルが上空を見ながら声を上げる。全員が視線を向けると、上空にクラゲにも似た巨大な影。それがこちらを目掛けて猛スピードで近づいて来ていた。

 

「突っ込んで来るぞ!避けろ!」

 

「きゃあ!」「わぁ!」

 

 ズドォーンと、大きな地響きと共に目の前に降り立った巨大なモンスター。ニワカマッスルが察知できたおかげで直撃を喰らった者はいないが、突然の出来事に隊列が乱れ、行動が遅れた。その隙に飛来したモンスターは凍てつく冷気のブレスを放つ。ゴォォォという唸りと共に吐き出された強烈な冷気に防御は間に合わず、全員が大ダメージを受けた。

 

「リカバー!」

 

 デーリッチが慌てて全体回復魔法リカバーを唱える。先制攻撃で受けたダメージは瞬時に回復され、パーティは体勢を整える。そして信じられないものを見た様な顔した、否、実際に信じられないものを見たミツルギとゆんゆんが敵の攻撃を喰らったことよりも驚いていた。

 

「ぜ、全体回復魔法!?デ、デーリッチちゃんそんなことできるの!?」

 

 この世界ではレベルが上がりにくいプリースト職は人気が低く、回復魔法を使える者は貴重な存在だ。ましてや高レベルのアークプリーストともなれば冒険者パーティでも王国騎士団でも引く手数多である。ミツルギは冒険者稼業をする中で多くのアークプリーストを見てきたが、全体回復ができるアークプリーストなんて存在しない。敬愛する女神アクア様でさえ、全体回復魔法を使う姿は見たことがない。

 

「こやつは・・・、クリスタルネウザー!?どうしてこんなところに!?」

 

 ドリントルがモンスターを見据え、見覚えのある姿にその名前を告げる。

 

「クリスタルネウザー?水晶洞窟で見た?」

 

「そうじゃ、更には帝都決戦に送り込まれた超大型魔物の中にもいた奴と同じじゃ。」

 

 向こうの世界で出会った魔物がどうしてこちらの世界に?いや、向こうでも異世界から召喚されたのだから、もしかしたらこの世界から召喚されていたのか?

 

「キミ達はあのモンスターを知っているのか!?」

 

「話は後じゃ!先ずはこやつを片付けるぞ!」

 

色々疑問はあるが、取り敢えずこの状況をなんとかしないといけない。ドリントルは全員に指示を飛ばす。

 

「奴は雷と投擲に弱い!マリオンは近距離、ゆんゆんは中距離からの雷属性で攻撃を!デーリッチと福ちゃんは回復に専念!眠り、毒攻撃は優先して回復!マッスルとミツルギは回復役に攻撃が行かんように守りを重視!奴が空中に逃げそうになったら妾とヴォルケッタで牽制、はむすけは動きを止めるんじゃ!」

 

「「「おう!」」」

 

 かつてレジスタンスを率いて宇宙海賊と渡り合ったドリントルの指揮能力は高い。過去の戦闘経験から有効な作戦を瞬時に立案し、パーティを動かす。

 

「大防御!」

「ソードガード!」

 

 ニワカマッスルとミツルギの二枚盾。ST攻撃を主体とする敵には回復役の安定は生命線となる。2撃目のブレス攻撃に備えて、後衛を完全に守る。

 

「マリオンストライク!」

「ライトニング!」

 

 マリオンは空中を漂うクリスタルネウザーの更に上まで飛び上がり雷を乗せた強襲パンチを放ち、その動きに合わせてゆんゆんは中級魔法のライトニングで支援攻撃を行う。

 先制のブレス攻撃で優位になったと思ったら一気に反撃を喰らい一旦距離を取ろうと空中へ飛び上がろうとするクリスタルネウザー。

 

「シンカーレーザー」

「爆炎ヴォルトントン!」

 しかし、それを許さぬ二段構えの陣形。ドリントルは内角高めから低めにえぐり込むようにコントロールされた曲がり落ちる謎のレーザーで浮上を抑え込み、ヴォルケッタが空を飛ぶ謎の豚に乗って上空から押さえ付けるように爆撃。勿論マリオンに当たらないよう、コントロールされている。

 四方から攻撃を喰らって混乱したクリスタルネウザーは上に飛べなければ横にと、ニワカマッスル、ミツルギに向かって相手を砕き潰すような猛烈な突進をしてきた。

 

「ふんっ!」

「はああっ!」

 

 地面が抉れるほど強烈な突進を二人がかりで止める。ガードの上からでも絶大な衝撃。それなりのダメージは受けたが、後衛には届かせない。

「「ヒール!」」

 

 デーリッチと福ちゃんで其々を回復。受けたダメージは直ぐに回復され、再び陣形を整える。

 一方のクリスタルネウザーはぶちかましが止められ、大きな隙ができる。

 

「バインド!」

 

 デーリッチの頭に乗っていたはむすけが、その隙をついてバインドで念入りに動きを止める。

 

「ライトニング・ストライク!」

 

 完全に無防備となった相手にゆんゆんによる上級雷魔法が頭上から降り注ぐ。

 

「マリオンストレート!」

 

 トドメはマリオン。一気に間合いを詰め、強力なパンチを叩き込む。クリスタルネウザーはその体を半月状に凹ませながら吹っ飛ばされ、絶命した。

 

―――――――

 

「なかなか危なかったですわね。」

 

 福ちゃんがホッとしながら、周囲を確認する。

 

「まったく!デーリッチがフラグを立てるからですわ!」

 

「えぇ・・・、デーリッチのせいじゃないでち・・・。」

 

 いわれのない非難を受けるデーリッチだが、少し調子に乗って油断していたのは事実なので、反省はしている。

 

「ところでミツルギ殿、今のモンスターはこの世界ではよく見るタイプなのかの?」

 

「この世界?やはりあなた方は・・・。いや、とんでもない。僕も王都でそれなりに冒険者をやっていますが、初めて見ましたよ。こんなのが頻繁に出現したら王都はひとたまりもありません。むしろあなた方にこそ心当たりがあるように見受けられますが?」

 

「そうじゃのう・・・。何度か戦ったことがあるが、何と説明したらよいか・・・。」

 

 言葉に詰まったドリントルはデーリッチの方を見る。デーリッチは頷いてドリントルに代わって続きを話す。ハグレ王国のこと、異世界のこと、そこで起きた出来事。あまりこの世界の住人に広めるべきではない話だが、デーリッチの人を見る目はミツルギが信用に足る人物として、包み隠さず話すことにした。

 

「信じられない話だけど、それならキミ達の強さや見たことない魔法にも説明がつく、か。じゃあ、今のモンスターはキミ達の世界から紛れ込んだ可能性があると?」

 

 ミツルギはカズマ同様に自身も転生者であり、異世界の存在を認識している。また、女神アクアやエリスが現世に降臨することを目の当たりにしていることもあり、理解が早い。

 

「そういう訳でもなさそうなんじゃ。」

 

「というと?」

 

「さっきのクリスタルネウザーというモンスターは確かに向こうの世界で戦った相手じゃが、向こうの世界にとっても召喚によって呼び出された異世界のモンスターだったんじゃよ。」

 

「え?じゃあ、今のモンスターはこの世界に召喚されたきた可能性があるってことかい?」

 

「そうじゃ。そして奴は妾たちをピンポイントで襲ってきた。ちょっと偶然にしては出来すぎている気がするのう・・・。」

 

 嫌な予感に冷や汗をたらすドリントル。全員同じことを考えたようで一様に緊張が走る。

 

「まぁ、ここで話していても仕方がないだろう。一度王都に戻ろう。ギルドには僕から報告をして、他の冒険者からも情報を集めることにしよう。キミ達も何か対策を立てる必要があるだろう。」

 

 時間はまだ昼に差し掛かるところ、一行は重い足取りでギルドに戻った。

 

―――――――

 

~???~

 

「アンノウンに向けた大型魔物が倒されたようです。」

 

 白衣を着た研究者と思われる女性が報告を上げる。

 

「ほう・・・。やはり只の冒険者というわけではないようだな。そいつらの情報は取れたか?」

 

 同様に白衣を着た青年が応える。どうやら青年の方が立場が上であるらしい。

 

「魔剣の勇者ミツルギの一行が未確認モンスターの存在をギルドに報告したようです。」

 

「魔剣の勇者か、ならば正面からやりあってはこちらの損害が増えるだけか・・・。」

 

「いかがいたしましょう?我らが研究過程で手に入れた2本の青色の髪の毛・・・。モンスターや魔族とは違う、他の人間とは異なるイレギュラーな性質はいまだに解析ができておりません。」

 

「これ以上派手に動いては我々の存在を感付かせることになる。次の計画が動き出すまでは魔剣の勇者の動向を監視しつつ、サンプルの解析を進めておけ。」

 

「承知致しました。」

 

 白衣の女性は部屋を後にした。

 




 書こうとして困った。マツルギさんの戦い方がよく分からん。


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第7話 クレアさんからの依頼

 ついにざくアク新章が完成したそうです!来週からしばらくはゲーム三昧だろうなぁ・・・。
 あっ投稿遅れてすみません。忙しかったのとそのせいで体調崩してたのと色々でした。二ヶ月近く開けてしまってる間にUAが倍くらいに増えてた・・・。
 数少ない大事な読者様を裏切らないよう、最後まで書ききる所存です。宜しくお願い申し上げます。


~王城 アイリスの私室~

 

「お兄様!」ガバッ

「おぶっ!?」

 

 カズマ達が部屋に通されると、ベルゼルグ第一王女ベルゼルグ・スタイリッシュソード・アイリスはカズマに勢い良く抱きついた。まだ幼き少女とはいえ、その胆力は王族の血統と美味しい食事、適度な運動によって育まれ、一流冒険者のそれと並ぶものである。腹部に重い一撃を受けたカズマだが、お兄ちゃんとは妹の愛を受け止めてこそのお兄ちゃんである。なんとか踏みとどまり、愛する妹へにっこり笑顔で挨拶を返すカズマ。

 

「よ、ようアイリスも元気そうで何よりだ。」ヨロッ

 

 若干よろけながらも兄としての威厳を保ったカズマ。続いてダクネス、めぐみん、アクアが順に入ってくる。

 

「アイリス様、本日はお招きに預り光栄至極にございます。」

 

 ダクネスが貴族らしく恭しくかしづく。

 

「お久しぶりです。」

「こんちわ~!」

 

 続いてめぐみんとアクアはわりと普段通りの言葉使いで挨拶を交わす。

 

「皆さん、お久し振りです。あとララティーナ。この場には私の友人を招いたのです。ここでは王女ではなく、一人の友人として接してください。」

 

 時には勇者の義妹、時にはちりめん問屋の娘、時にはめぐみん盗賊団の団員、果たしてその正体は!?と、王女アイリスとカズマ達との関係は一言では言い表せない程に複雑である。公式にも共に隣国エルロードへ赴いた際には魔王軍の企みを打ち砕いたりもしている。何ともややこしいが、曰く、友人というのが収まりがよさそうなところである。

 

「し、しかし・・・。」

 

「反論は認めません。」

 

「はい・・・。」

 

 ニッコリとダクネスに向かって有無を言わさないアイリス。

 

「あ、そうそうお兄様。何やらクレアが話があるそうでして、この早い時間にお呼びしたのもその為だとか。」

 

「ぅえっ」

 

 カズマはクレアの名を聞いて辟易する。カズマにとってクレアは初対面でダクネスに斬りかかった危険人物であり、事あるごとに自分と可愛い妹を引き離そうとするお邪魔虫である。また、クレアと共にアイリスの教育係を務めるレインについては嫌ってる訳ではないが記憶消去ポーションを飲まされた件は今でも根に持っている。

 

「相変わらずお兄様はクレアが苦手でいらっしゃいますのね。」

 

「苦手なんかじゃないよアイリス。あの白スーツは、ただ敵なだけさ。」

 

 

「相変わらず貴族に対する口の聞き方がなっていないようだな。貴様は。アイリス様、彼らの手続きが終わりました。」

「お久し振りです。皆様。」

 

 カズマ達の入城手続きをしていたらしいクレアとレインが続いて入ってきた。

 

「ご苦労様です。クレア。あと、今日は喧嘩はダメですよ。」

 

「うっ、心得ております。」

 

 クレアとカズマは本質的なところで真逆の存在である。クレアにとって以前に痛い目に会わされた手前、その実力は認めているが、人格という部分は絶対に認められない。そんな相手である。

 

「コホン。勇者サトウカズマ殿。貴殿に話があります。私からのお話を聞いて頂きたいのですが。」

 

「え?やだよ。」

 

「っ、貴様という男は~!」

 

「いけません。クレア様。相手の思うツボです。」

 

 殴りかかりそうになるクレアをレインが必死に止める。

 

「俺は今日はアイリスに呼ばれて来たんだぞ?何でお前と話をしなきゃならんのだ?」

 

「お兄様。クレアから話をしたいと申し上げたじゃありませんか。」

 

「アイリス。それとこれとは話が違うんだ。」

 

「お話、聞いてくれないのですか・・・?」ジワッ

 アイリスが上目遣いでカズマにすがるように言う。

 

「うん、聞く~。」コクリ

 

 お兄ちゃんは妹のお願いを決して断ってはいけない。これはお兄ちゃんがお兄ちゃんである為の鉄の掟である。

 カズマはあっさり手のひらを返してクレアに向き直る。

 

「で、話ってなんだよ?白スーツ。」クルッ

 

「私を白スーツて呼ぶなと言っているだろう!貴様と言うやつはどこまでも・・・。」ギリギリ

 

「なんだよ、せっかく聞いてやろうってのに話さないのか?」

 

「ぐぬぬ・・・、まぁいい。ここは私が折れよう。勇者であるサトウカズマ殿に折り入って頼みたい事がある。」

 

 

「断る。」

 

「まだ何も話してないだろう!?」

 

「お前、勇者としての頼み事なんて絶対危ない事に決まってんだろ!断る!」

 

「なっ!?貴様、それでも王家に認められた勇者か!?ダスティネス卿から聞いているぞ。日々コタツで自堕落な生活を送っているとな!少しは国家の為に働いたらどうなんだ!?」

 

「国家の為、だと?わっはっは!俺が日々国の為に仕事をしていると知らないようだな!」

 

「「「はあぁっ!?」」」

 

 その場にいたアイリスを除く全員がそんなわけないだろとカズマに突っ込む。

 

「なんだよ~。お前ら俺がいつもコタツで新商品の企画を作ってるの知ってるだろ?」

 

「それは知ってますけど、不労所得が~とか言って自分の欲望丸出しではないですか?」

 

 疑問を返すのはめぐみん。一緒に住んでるからよく分かるが、普段のカズマはクエストにも行かずにコタツで設計図のような物を書いている姿をよく目にする。が、その背中は自分の欲望の為に動いているようにしか見えない。

 

「ふふん。それこそが国の為の仕事なんだよ!」

 

「ど、どういうことだ?カズマ?」

 

「今こそ教えよう!俺がコタツで商品開発をしているワケを!」

 

 やけに演説口調で話し始めるカズマ。聞いてる者を口車に乗せる高等テクニックだ。こうなってはもうカズマのペースである。

 

「俺は魔王がいなくなった後のこの国を憂いているんだ。」

 

「平和な世界になって良いではないか?」

 ダクネスが聞き返す。

 

「本当にそうか?魔王軍に対抗するために組織された王国騎士団、傭兵団、魔導師団。魔王軍との戦争参加による報償金を目当てに王都に集まった冒険者。そいつらに装備や道具を作ったり売っていた鍛冶屋や商人。戦争という巨大な消費市場を失った今、こいつらはどうやって生活する?平和な世界に強力な軍隊は維持費ばかりかかるぞ?」

 

「そ、それは・・・」

 

 クレアは反論に詰まる。実際、戦争がなくなったことで騎士団を縮小する案も議会で検討されているからだ。

 

「食糧の問題もある。魔王軍に荒らされた農地が復興中とはいえ、収穫には2年はかかるし、今以上の農地が必要になるだろう。今までと違って戦争で死ぬ人間がいなくなれば人口爆発が起きるぞ?人口が倍になった時に食糧は行き渡るのか?」

 

「農地の復興は現在最優先に行われていますが・・・。各地の領主の抵抗が強く、新しい農地の開拓は、す、進んでいません・・・。」

 

 レインも反論ができない。

 

「極めつけは外交だ。今までは魔王軍の矢面に立っていたことで他国からの資金援助が得られた。しかし戦争がなくなれば他国は資金援助をする理由がなくなる。今まで援助された資金で武器や資源を輸入していたベルゼルグだ。他国に輸出できる物が少ないベルゼルグと交易する国がどれだけあると思う?」

「確かに友好国のエルロードからの援助金も、名目は戦時援助金ではなく、復興援助金に変わり、金額も減っています・・・。」

 

 アイリスが答える。

 

「ベ、ベルゼルグが国として色々と大変な状況なのは解りました。でも、それとカズマがぐうたらしているのが何の関係があるのです?」

 

 めぐみんがずぃっと身を乗り出して聞いてくる。

 

「俺は商品開発をすることで雇用を生み出している。」

 

「はっ!雇用だと?貴様は鍛冶屋の親方にでもなったのか?」

 

 クレアが嘲笑混じりに言い放つ。

 

「以前言わなかったか?俺には個人的な資産が20億エリスはあると。魔王倒すのに1度全部使っちまったが、今はまた30億エリス程に増えている。」

「さ、さんじゅっ・・・」

 

 20億エリスの資産がある。確かにレインがカズマに記憶消去ポーションを飲ませるときにカズマが口にしていたことだ。

 しかし魔王討伐の報償金だけでは30億エリスにはならない。一体どんな手品を使ったのか、とレインはゴクリとツバを飲む。

 

「俺が企画した商品は知り合いを通して契約した職人に製造してもらってたんだが、それじゃ効率が悪くてな。丁度、戦争が終わってから仕事にあぶれた鍛冶屋や商人が多くいたからいっそ雇うことになったんだ。その人数は短期の者も合わせれば100人近くになる。」

 

「ひゃ、100人だと!?そんな組織があれば我々が認知していないハズが・・・。はっ!?まさか最近急激に勢力を伸ばしているバルター商会はアクセルが本拠地だったが・・・?」

「そうそれ。俺は商品を開発して権利料を貰うだけ。運営は全部バルターにやらせてる。」

 

「な、なんだと!バルターとはアレクセイ・バーネス・バルターか!?最近ダスティネス家での務めを終えて屋敷で姿を見なくなったが、そんなことをやっていたのか!?」

 

「あっ、ちなみにバルターにはダクネスの親父さんからの依頼でって体でやってもらってるから。」

 

「な、な、な・・・。」

 

 ダクネスが驚愕の事実によろける。

 

「で、そこで作ってる商品の中でもジッポとかコタツ、大人の風船なんかはヒット商品で他国へ交易品として輸出もされてる。まぁこの辺の商品は権利ごと売ってるから俺の利益にはならんがな。さて、困窮するベルゼルグにおいて、仕事を失った人々に雇用を生みだし、輸出できる特産品を作り出した俺の功績は国家にとって何もしていないことになるのかな?ん?」

「ぐぬぬ・・・。」

 

 クレアはもう何も言い返せないようだ。

 

「凄い!素晴らしいですわお兄様!お兄様は戦うだけでなく、人々の生活を救おうというのですね!アイリス、感激致しました!」

 

「おう。アイリスの為にお兄ちゃん頑張るからな~。」

 

 大分調子に乗って態度が大きくなるカズマ。何も言い返せない貴族と持ち上げる王女。最早大勢は決したと思われたが、思わぬところからカズマに背中刺す刃が放たれた。

 

「う~ん・・・。カズマさんがさっきから言ってるのって、昨日マリーが言っていたことそのまんまよね?」

 

「「「え?」」」

 

 放っとくと振り切れた幸運値のお陰で大抵の事がうまくいってしまうカズマだが、そうはならないのは幸運値最低の駄目神が一緒にいるからである。

 

「な、何を言ってるんだよ、アクア~?俺はずっとこの国の未来の為にだなぁ・・・。」

 

「え~?でも昨日マリーがベルゼルグについて調べたって言って、カズマさんに話してたじゃない?仕事が~とか、外国が~とかマリーが言ってたことそのまんまだったわよ?カズマさんもへぇ~初めて知ったわって感心してたじゃない?」

 

「おいバカやめろ。」

 

「ほぉ~・・・、初めて知った。か。」

 

「うぐっ。」

 

 クレアからの追及に冷や汗を垂らすカズマ。

「今の話ってよく考えたらカズマは商品開発をして儲けてるだけで、頑張ってるのはバルターさんだけでは?」

 

「はうっ。」

 

 めぐみんも痛いところを突いてきた。

 

「バルター殿がお父様からの依頼でやってるのは本当か?それは本当にお父様の依頼なのか?」

 

「ごふぁ。」

 

 ダクネスも復活してきた。

 四面楚歌となったカズマにもう逃げ道は残っていない。

 

「で、でも!お兄様がやったことがベルゼルグにとって良いことには変わりありませんよね!?」

 

 捨てる駄目神があれば拾う妹あり。唯一カズマを信じるアイリスが助け船をだす。

「そ、そうだぞお前ら!経緯はどうあれ俺がやってることはベルゼルグにとって必要なことなんだ!そうだろ!?」

 

 必死に自らを弁明するカズマ。皆も冷静になったようで、口調が柔らかくなる。

 

「まぁいい。物を作って儲けることは悪いことではない。だが、こちらの話は聞いてもらうぞ。」

 

「え?」

 

「あ?」

 

「はい。」

 

 カズマに逃げ道はなかった。

 

―――――――――――――――――――

「で、話ってなんだよ。」

 

「貴殿は最近王都で騒がれている青髪女性連続失踪事件について聞いたことがあるか?」

「いや、全く知らん。」

 

 青髪と聞いてカズマはチラッとアクアを見る。そういやこの駄目神も一度失踪した前科があったっけ。

 

「この1週間で既に5人だ。立て続けに青い髪の女性の捜索願いが出された。髪が青い女性なんてそんなに多くない。我々はこれは何らかの目的を持った誘拐事件であると確信している。」

 

 どうせ拐うならこの駄目神を拐っていってはくれないだろうか。いやでもそれはそれで面倒なことになりそうだからやっぱやめてくれ。

 

「随分と物騒な話だな。頼みってのはその事件の解決に協力しろってことか?」

 

「察しが良くて助かる。」

 

 

「いやいやいや、そんなんお前警察とか体は子供で頭脳は大人な探偵にでも頼めよ。事件の捜査なんて俺達は素人も良いところだぞ!」

 

 俺は眠ってる間に事件を解決するような特殊能力は持ち合わせてはいないっつーの。

 

「早とちりをするな。捜査はこちらでする。更に言えば、犯人の目星はついている。」

 

「??ならさっさと捕まえちまえよ?」

 

「今回貴殿らに協力を仰ぐのは、貴殿らが以前アルダープの一件に関わっているからだ。」

 

「アルダープだって!?」

 

 アルダープといえば、あいつの陰謀でダスティネス家が抱えた借金のカタにダクネスが無理矢理結婚させられそうになったのを俺が全財産はたいて買い戻したんだよな。あの悪徳変態ハゲ貴族め、行方不明になってるけど、もし見付けたら俺の必殺偽エクスプロージョンを喰らわせてやる。

 

 

「今回の事件はアルダープの事件と極めて状況が似ている。犯人の目星はついている。あとは証拠を掴んで乗り込めばいい。しかしその証拠が出てこない。潜入させた捜査官は魂を抜かれたように何も覚えていない。」

 

「まるで悪魔が悪さでもしてるみたいだな。」

 

 そういや、あんときダクネスの親父さんへの呪いの件とか何とかどさくさに紛れて全部バニルのせいってなってんだよな。今なら分かるけど人を殺さないことをモットーにしてるバニルが、そんなことしないだろうと思うが実際どうなんだろう。

 

「そう!悪魔だ!」

 

「は?」

 

「アルダープの一件でダスティネス卿のお父上、イグニス殿は何者かからの呪いを受けていたと聞く。そして頼れる者がいなくなったダスティネス卿はアルダープとの結婚を決意するに至った。アルダープの悪事の証拠が出てこなかったこといい、状況が出来すぎている。我々はアルダープの事件を整理する中である悪魔の存在を確信するに至った。」

 

 

「まさか、バニル?」

 

「それはお前たちが討伐した魔王軍幹部だろう。バニルも魔界に戻されたとはいえ危険視しなくてはならない悪魔だが、バニルではない。その悪魔の名は悪魔公爵マクスウェルという。」

 

「マクスウェル?」

 

「アルダープの館に残されたアルダープの私記の記述と王立書庫の文献を照らし合わせて得られた名だ。真実を捻じ曲げる能力を持つと言われている大悪魔だ。」

 

「真実を捻じ曲げる・・・。それで不都合な事実を歪めて証拠が出ないようにしていたってわけか?」

 

 じゃあ、あの件でバニルは無罪だったってワケか。まぁあいつには全財産持ってかれた恨みもあるから絶対謝らないけど。

 

「そういうことだ。公爵級の大悪魔が相手だ。相応の報償金は用意し「よし、断る!」」

 

「・・・は?」

 

「だから、断るって。」

 

 全く、どいつもこいつも無茶なこと言ってきやがって。公爵級の大悪魔?そんなん無理に決まってんだろ。最弱職の俺にどうしろってんだよ。

 

「いや、今の流れで断るってお前・・・。」

 

「どうせ一度撃退した俺達を勇者だなんだとおだてて乗せようって腹積もりだろうが、残念だったな。俺にお約束は通用しな「お兄様!」。」

 

「なんだアイリス?今大事な話をしているんだが。」

 

「お兄様は紛れもない勇者です!アイリスはお兄様なら必ず負けないと信じています!だから!だから・・・。」ウル

 

「えっちょっ・・・」

 

 アイリスも。

 

「あ~カズマさんが女の子泣かせてる~。さっすがニートでクズなクズマさんね!」

 アクアも。

 

「カズマ、私は何だかんだで頼りになる男だと信じていますよ?」

 

 めぐみんも。

 

「私からも頼む。王都で悪魔が暗躍など見過ごすわけにはいかない。」

 

 ダクネスも。

 

 どいつも。

 

 こいつも。

 

 ・・・あ~もう!

 

「しょおがねえなあ!!!」

 

 俺ならやってくれるとか思ってやがる。まったく、本当にしょおがねえ奴らだ。

「さすがはお兄様です!」

 

 まぁ、かわいい妹の笑顔が見れたからよしとするか。

 

――――――――――――――――

 

「で、犯人ってのは誰なんだよ?」

 

「犯人の名は『原初の森』を名乗る組織だ。」

 

「う~ん、知らんな。」

 

 カズマは腕を組んで心当たりを探るが、特に思い付くことはない。

 

「聞いたことがあるぞ。生き物からマナを取り出す研究をしているという連中だな。」

 

 ダクネスが横から言う。

 

「ああ、アクセルの街で髪の毛集めてた連中か。」

 

 カズマも手をぽんと叩いて1週間程前の出来事を思い出す。

「あ~、ハグレ王国の連中に出会った日にテント立ててなんかやってた奴らだな。あん時アクアがふらふらしてたから叱ったんだっけ。」

 

「知っているようだな。あれだけ目立つ活動をしながらも、王国にも教会にも属さない組織なぞ怪しすぎて調べてくれと言っているようなものだ。当然我々も以前から監視していた。しかし、金の流れ、構成員の出自、何を調べても怪しいのに証拠だけが得られない。そして今回、行方不明になっている女性は、全員がその団体に髪の毛を提供していることが判明している。」

 

「なるほどな。どうにか悪魔の影響を受けずに内部から調べられないと状況は変えられないか。」

 

 カズマもう~んと唸りながら策を練るが、なかなかいい案が浮かばない。

 すると横から話し半分に聞いていたアクアが口を挟んできた。

 

「へぇ~偶然ね!私もその人達に髪の毛渡したわよ!」

 

「「「は?」」」

 

 場の空気が固まる。

 

「や~ね~。カズマさんも見てたでしょ?この私が慈善活動に協力をするのを!まっ、女神として当然のことをしただけなんですけど?ゲスが服を着て歩いているゲスマさんには考えもつかない善行でしょうけど!」

 

「お・・・おま・・・。」

 

「なぁに?この私の尊い行いに言葉もないようね?」

 

 カズマはアクアの馬鹿さに口をパクパクさせていた。が、そのときカズマの頭脳に電流が走る!

「おい、クレア。拐われた女性は青い髪で、原初の森に髪の毛を提供してたんだよな?」

 

「あ、ああそうだが・・・。」

 

「悪魔の影響を受けずに内部に潜入できる奴がいたら捜査が進むよな?」

 

「そんな人間がいるのかは知らないが、まぁ、そうだな・・・。」

 

「作戦が決まったぞ。」

 

 

――――――――――――――――

 

「い~や~よ~!なんでわだじなのよ~!?」

 

 劣り捜査官、もとい囮捜査官に任命されたアクアがジタバタと駄々をこねる。

 

「カズマ、確かに条件からするとアクアが適任だとは思いますが、少々危険が過ぎるのではないですか?」

 

 めぐみんが泣き喚くアクアをあやしながらカズマに問いかける。

 

「いや、悪魔が相手ってことならむしろアクアなら安心だろ。」

 

「それはまぁそうなんですが・・・。」

 

 言葉に詰まるめぐみんを横目にカズマはアクアの肩に手を置き、目を合わせて、優しい口調でアクアに告げる。

 

「なぁ、アクア、俺はお前を信じているんだ。お前は今までだってあのバニルや魔王相手にだってひけをとらなかっただろ?女神アクアはやればできる子なんだろ?」

 

「そ、そうよね。魔王すら弱体化させた偉大なる女神である私が悪魔に恐れをなしたなんて言われたらかわいい信者達に嫌われちゃうわね!やるわ!私やってやるわ!」

 

 チョロい。もう長い付き合いになるが実にチョロい。ゆんゆんとは別のベクトルでチョロい駄目神アクアはまんまとカズマに載せられてやる気を出した。

 

―――――――――――――――

 

~夜 晩餐会~

 

 第一王女アイリスが主宰する晩餐会は冒険話が好きなアイリスの趣向に合わせ、貴族だけでなく、名のある冒険者が招待されている。煌びやかな衣装に身を包む貴族と違い、冒険者は些かラフだったり、装飾鎧で着飾ったりしている。

 そんな中、一際目立つ赤い豪奢な装飾が施された鎧を来た男がカズマに近づいてきた。

 

「こんなところにいたのか。探したぞ、サトウカズマ。」

 

「よお、マツルギじゃないか!久しぶり。」

 

 手を上げ軽い感じで挨拶を返すカズマ。

 

「ミツルギだ!もうそれなりの付き合いなんだから名前くらい覚えたらどうだ!」

 

「そうそう、ミツルギな、ミツルギ。で何か用かよ。」

 

 興味なさそうにカズマは適当な返事を返す。その様子にミツルギは眉をひそめながらも本題を切り出す。

 

「今日起きたことを君にも伝えておかなくてはいけないと思ってね。」

 

 ミツルギは昼間の出来事をカズマに話す。ゆんゆんやハグレ王国と出逢い、一緒にクエストを受けたこと。正体不明のモンスターの存在。ハグレ王国の過去。

 

「ハグレ王国の皆さんは今キミの家に住んでいるんだろう?これから何か危険なこともあるかもしれない。どうか、彼女らとアクア様を守ってくれ。」

 

「あ、アクアならちょっと頼まれ事で囮捜査官やってもらうことになったぞ。」

 

「おい、その話詳しく。」

 

 ガチの目でカズマに詰め寄るミツルギ。今にも魔剣グラムを抜かんとするほどの怒気を纏っている。

 

「いや、まぁ話せば長くなるんだが・・・。」

 

 クレアとのやり取りを洗いざらい話すカズマ。だって怖いんですもん。機密?守秘義務?なにそれ、美味しいの?

 

「はぁ~・・・。キミってやつは・・・。」

 

 

 ミツルギはこめかみを押さえながらカズマに苦言を呈す。

 

「今回の件は俺は悪くないからな。文句があるならクレアに言ってくれ。」

 

 元々依頼をしてきたのはクレアだが、アクアを囮に使うのを提案したのはカズマだ。勿論その辺はぼかして話している。

 

「わかった。僕もクレア様の所に行ってくる。」

 

 

 

 

 そうして、ミツルギの参戦が決まった。

 




 魔法陣グルグル見てたら思った。チクリ魔とカヤが並んでる姿がデーリッチとローズマリーにダブって見える。チクリ魔に至っては話し方も似てるしね。
 そういやこのSSでデーリッチまだ何もしてないな。


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宿屋イベントその3 ダイヤモンドアース

 久しぶりの投稿。色々と思い出しながら書いたあまり意味のない雑談回です。

 新章水着イベントはやっとアイテムコンプ完了して一段落したので、さぁSS再開しようとしたものの、少々問題が。
 古代人とか悪魔関連の設定で不明な部分は当初オリジナルで補強しようとしてたのですが、新章で新しいキャラとか設定も出てきたので少し方向転換が必要になりました。
 ちょっと間長くなるかも。


~カズマ邸~

 

「はよ~・・・、あれ?誰もいないのか・・・。」

 

 ハグレ王国の連中と出会って3日が経った。何かと目立つあいつらだが、あっという間に街の冒険者達に溶け込んでいた。昨日もクエストを終えた後、ギルドの酒場で他の冒険者も交えて宴会が開かれ、俺自身も飲み過ぎて二日酔い気味である。昼近くになって目を覚ましたが、どうやら仲間達はハグレ連中と一緒にクエストに出掛けたらしい。

 昨夜は子供たちを遅くならないうちに保護者のローズマリーとドリントルに任せて帰らせ、その後はアクアと福ちゃん、マッスルアニキと最後まで飲んでいた。その中で共通の話題であるアクアの話を肴に盛り上がった。

 最初はアクアをからかうネタになるかと期待して話を聞いていたカズマだったが、福ちゃんの語るアクア神話はなかなか興味深いものだった。

 なんでも、アクアはアトラ様という偉大な神様から生まれた血統書付きの神様だとか。このアトラという神様は原始の世界において、無数に降り注いだ火の玉によって地上全てが火の海になったとき、その身を水に換えて全ての火を消したという偉大な神話を残している。

 しかしこのアトラ様、水になって火を消したのはいいが元の姿に戻れなくなったという、何ともスケールの大きなおっちょこちょいな一面を持つ。で、そのときに生み出された水の一滴がアクアになったとのこと。

 結果的には自身を犠牲にして地上を救ったアトラ様は天界ではとても尊敬される神とされており、その子にあたるアクアも新世代を担う神として期待を寄せられていた。しかし、すくすく成長したアクアはご存じの通りおっちょこちょいな性格を色濃く受け継いでおり、女神園でも最凶のトラブルメーカーとして愛の神ラヴァーズ様をして頭痛のタネだったとか。

 その後は色々と暴露話をされて涙目になったアクアが福ちゃんに泣きついたり、こっちに八つ当たりしてきそうになったところに酒を飲ませて返り討ちにしたりした。

 まぁ、記憶があるのはそのくらいで、その後は酒がまわってあんまり覚えていない。帰り道で福ちゃんが「アクアちゃんをよろしくね。」と言っていたのだけ何故か覚えている。

 

 と、昨夜の出来事を思い出して、コタツで自分でいれた紅茶を啜る。う~ん、やっぱり人に入れてもらった方が美味いな。今度ダクネスにちゃんとした入れ方を教えてもらおう。

 そして、段々と頭がハッキリしていく中で、今日はどうしようか考える。てか福ちゃんもマッスルアニキも昨日あんだけ飲んで朝からクエスト行くとかタフすぎだろ。アクアも相当飲んでたハズだが、おそらく福ちゃんに連れてかれたのだろう。

 

 あれ?もしかして俺一人だけおいてきぼり?誰も声かけないとかちょっと寂しくない?俺一応パーティリーダーで勇者だよ?いやさ、クエスト誘われても断るけどさ。よし、あいつら帰ってきたら、風呂に入ってる最中に隙間からフリーズの魔法で湯冷めさせてやる。

 段々と変な悪巧みに思考がそれてしまったが、丸一日を無駄にしてしまうのは惜しい。せめて新商品のネタでも考えようとペンを手にする。が、何も浮かばない。すぐに思い付くものは既に商品化しているから、当然と言えば当然だが。

 

「う~ん・・・、ダメだ。何も思い付かない。」

 

 何も書かれていない羊皮紙を前に耳にペンを乗せながら、腕を組んでう~んと考える。

「ん~・・・、駄目だな。腹も減ったし、ちょっと散歩でもして気晴らしするか。」

 

 何も思いつかないときはいくら考えても無駄。こんなときカズマは外をブラつくようにしている。

 最初は日本にあったものを中心に商品開発していたカズマだったが、簡単に作れる物は構想含めて大抵をバニルに売ってしまったので、最近はオリジナルのアイディア商品の開発に勤しんでいる。

 実は、ゆんゆんが買わされた全自動卵割り機がその一つだったりするのは秘密である。まぁあれは半分冗談で作ったつもりだったが、まさか本当に買うやつがいるとは思わなかったなぁ。

 なんて考えながら前にアクアがバイトしていた総菜屋でサンドイッチとコロッケを昼飯にと購入する。 サンドイッチをかじりつつ、ブラブラとあてもなく歩いていたが、なんとなくウィズ魔道具店に足を伸ばしていた。

 

 

「いらっしゃいませ~!あらカズマ君じゃないの。買い物?」

 

 エプロンを着用したミアラージュが応対する。このエプロン、バニルが同じの着てたが、ウィズ魔道具店のユニフォームなのだろうか。尤も、仮面にタキシードの大男のそれと違い、容姿は10才程度の少女のミアラージュのエプロン姿はとても可愛らしい。まぁ実年齢はカズマよりも歳上なのだが。

 

「おっす。ってその見た目でカズマ君はやめて。カズマでいいよ。もしくはお兄ちゃんでお願いします。」

 

「デッドリーポイズン喰らいたいのかしら?」

 

「すみません。」

 

 見た目は幼女だが中身はお姉さん。多分怒らすと恐いタイプだろう。うん。まぁウィズとはアンデッド同士で気が合うみたいだ。

 

「あら、カズマさん!今日はお一人ですか?」

 

 裏で帳簿をつけていたウィズが出て来て挨拶する。

 

「よう、ウィズ。通りかかったんで寄ってみただけなんだが。」

 

「あっそうだ!カズマさんにオススメの商品があるんですよ!ちょっと待っててください!」

 

 ややテンションの高いウィズがパタパタと小走りで裏から持ってきたのは、デフォルメした豚の顔をあしらったキーホルダー?だった。

 

「これです!その名もセレブーブーまあくⅡ!」

 

「セレブーブーまあくⅡぅ?」

 

 ウィズ魔道具店で売られるものはどれも凄い効果があるが、それを補って余りある欠陥を併せ持つのは周知の事実。カズマは差し出されたキーホルダーを警戒するようにそっと手に取りまじまじと見る。

 

「で、効果は?」

 

「はい!これは仲間にピンチを知らせる魔道具なんです。ダンジョンや森で仲間とはぐれてしまった時に、このヒモを引くと大きな音を出して仲間に知らせるんです!」

 ん~、それだけ聞くとそんなに悪いモノじゃないように聞こえるが・・・、まだだ、絶対にそれだけで終わらないのがこの店の魔道具だ。

 

「なんでまあくⅡなんだ?」

 

「実はこの魔道具、元々ミアラージュさんが自分のお店で売っていた子供用の防犯グッズだそうで、ウチで売り物にならないかと、見本用に一つ持ってきて頂いていたんです。そして今朝、二人で性能を確認していたところに丁度ひょいざぶろーさんが商品の納品に来られまして、この可愛らしい造型センスと込められた強い魔力に痛く感銘を受けたみたいなんです。で、是非ミアラージュさんと話がしたいとおっしゃられたのでお通ししたところ、モノ作り談義で大いに盛り上がられまして、お二人の手であれよあれよと改造が施されて冒険者向けの魔道具に生まれ変わりました!」

 

 出来上がったモノの仕上がりを高く評価しているのか、ウィズが少し興奮した様子で早口に話す。ウィズが自信を持って勧めてくるモノに録なモノがないのはいつものことだが、それ以上に聞き捨てならない名前が聞こえた。

 

「その名前は聞きたくなかった。」

 

 ひょいざぶろー。めぐみんの父親。カズマからすれば何かと頭のおかしい紅魔族にあって一際やべーやつと認識している人物である。

 自分の娘が腹を空かせてザリガニ獲りやクラスメイトの弁当強奪をしながら、なんとか日々の糧を得ているなかで、当の本人は売れないポンコツ魔道具を量産。しかも少し手を抜いて無難な物を作れば日々の生活に困らない程度の収入が得られる腕はあるのに職人としてのプライドがそれをさせないらしい。

 めぐみんの妹こめっこがいつも腹を空かせているのを不憫に思っていたカズマも、バルター商会で嘱託として働くことを勧めたのだが、断られてしまった。カズマは仮にめぐみんと結婚することになっても絶対に同居だけはしないと決めているのは、カズマがクズマだからではなく普通の感覚だろう。

 

「で、改造してどんなポンコツ機能が増えたんだ?」

 

「ポンコツじゃありませんよ!いいですか?まず、音量が大きくなりました!」

 

「音量が?そんな凄いことなのか?」

 

「はい!この魔道具の音量は込められた魔力量で決まるのですが、性質が違う二人分の魔力がミックスされたことで、アクセル中に聞こえる程の音量に、しかもどんな分厚い壁も貫通して音が届きます!」

 嬉々として性能を語るウィズにカズマは頭が痛くなる。

 

「なぁウィズ、そんな音を至近距離で聞いたら助けを呼ぶ前にダメージ受けないか?」

 

「え?え~と、でも、二人分の魔力を込めることで新しい性質が生まれるって本当に凄いことなんですよ?大発明ですよ?」

 

 カズマのツッコミに対して、ウィズはお茶を濁して、如何にこの発明が凄いか説いてきた。あ~やっぱり実用性はないかと思っていたが、その予想はウィズの横から返ってきた返答に覆される。

 

「ああ、自分へのダメージなら心配ないわ。その豚の耳の部分が外れるようになってるでしょ?それが耳栓になっているのよ。私の魔力を込めてるからそれを装着すれば消音できるわ。」

「へぇ~、あ、ホントだ。」

 

 カズマは耳の部分をつまんでカチャカチャ回すとポロっと耳が取れたのを確認して頷く。ウィズがフフンと、得意気な顔を見せる。

 

「で?まずってことは、まだ何かあるのか?」

 

「よくぞ聞いてくださいました!二つ目の新機能は、自爆機能です!」

 

「じば・・・!?」ポロッ

「あっ!と。」パシッ

 

 物騒な単語が聞こえて思わず持っていたセレブーブーまあくⅡを落としそうになったところをミアラージュがうまくキャッチした。

 

「危なかったわね。衝撃で爆発していたかもしれないわよ?」ハイ

 

「あ、ああサンキュー。って何!?爆発すんのコレ!?そんなもの持たさないで!?」

 

「ふふ、冗談よ。そんな簡単に爆発はしないわ。」

 

「な、なんだよ~。びっくりさせるなよ。じゃあ爆発には何か操作が要るのか?」

 

「その豚の鼻のところが外れるようになってるでしょ?それがリモコンになるのよ。」

 

「ふむふむ。」

 

「そうしたら鼻の裏側にボタンがあるんだけど、爆発させるときはそのボタンを押しながら破壊の呪文を唱えるの。」

 

「破滅の呪文?」

 

「そう、「パルス」って。」

 

「ブフォ!」

 

 なんだか聞き覚えがありそうでギリギリない破滅呪文を聞いて思わず吹き出すカズマ。

 

「ひょいざぶろーさんが偶然手に入れたフライングストーンていうレア鉱石を回路に組み込んだの。何でもある日空から降ってきた女の子を助けたら貰ったらしいわよ。」

 

「父さん、ラュタは本当にあったよ・・・。」

 

 思えばデストロイヤーなんて古代の超文明が闊歩してる世界だ。今更空飛ぶ城くらい出てきたっておかしくないよな。しかし、日本人に「ファンタジー世界に来て期待する展開は?」ってアンケートをとったら3位くらいに入るであろう胸アツイベントを、まさか子持ちで甲斐性なしのオッサンが消化してしまったなんて。日本からのチート持ち転生者に知られたら暴動が起きそうだ。よし、俺も盗賊一家に仲間入りしてゴリアテ強奪してこよう。「あの~カズマさん?」

「なんだよウィズ。俺は今から甲斐性なしのオッサンの手からシータを取り戻しに行かなきゃならないんだ。」

 

「シータって誰!?しっかりしてください!カズマさん!」

 

「ん?なんだここは天空の城じゃなかったのか。」

 

 ショックのあまりおかしな思考に走ったカズマにウィズがツッコみ、カズマは我にかえる。

 

「それで、どうでしょうカズマさん?このセレブーブーまあくⅡは?」

 

「う~ん・・・。」

 

 聞かれてカズマは少し考える。いつもならウィズが勧めてくるひょいざぶろーさんの魔道具なんて事故物件確定の代物だが、どうもミアラージュが手を加えたことで実用性もありそうだ。爆発ポーションに導火線つけただけの偽エクスプロージョンよりは些か安全にも見える。

 

「でも、お高いんでしょう?」

「そうですね~。でもカズマさんにはいつもお世話になってますし、お得意様を紹介して頂いたご恩もありますから、150万エリスでいかがでしょう?」

 

「ふむ、まあいいか。買った。」

 

 まぁピンチのときの切り札としてはアリだろう。と、カズマは購入を決めた。

 

――――――――――――

 

~カズマ邸~

 

 ウィズの店を出たあと適当に街をブラついていたが、ダストが風呂屋を覗いて警察にしょっぴかれてたり、エリス教会の壁に落書きをしていたアクシズ教徒をエリス教徒のお姉さんが追いかけ回していたが、特に目新しいこともなく、家に帰ることにした。既に時刻は日も傾き始め、クエストに出ていた連中も帰ってくる頃合いだ。

 

「ただま~」

「あ、カズマお兄さんおかえりなさいでち~。」

「おっ!兄ちゃんやっと帰ってきたぜ!」

 

 出迎えたのはデーリッチとヅッチー。お子様キング達とは一度オセロで無双してからなつかれるようになった。二人とも呼び方は違えど俺を兄と呼ぶ。ふむ、アイリス、こめっこに続き順調に妹が増えていってるな。

 

「あ、カズマさんおかり~。お土産ないの~?」

 

 暖炉前のソファーを陣取っていたアクアが気だるげに声をかけてくる。

 

「ねぇよ。ちょっと街歩く度に土産買ってられるか。」

 

「あ~!それが二日酔いにも負けずにクエスト頑張った女神様への態度?ねぎらって!この勤労の心に満ちた私をねぎらって!」

 

「あ~はいはい。ご苦労さん。」ポンポン

 

 俺が面倒くさそうにアクアの頭をポンポンしてやると、嬉しそうな顔して大人しくなった。なんかこいつチョロさが上がってないか?

 

「にへへ。ってあれ?カズマ、その紙袋はなぁに?」

 

 アクアは俺が脇に抱えた紙袋を目ざとく見つけて訪ねる。

 

「ん?あぁ、これは今日ウィズの店で買ってきたんだ。見るか?」ガサゴソ

 

「なぁにこれ、ブタのキーホルダー?あんたそんな趣味あったっけ?」

 

 紙袋から取り出したそれをシゲシゲと眺めながら訪ねる。

 

「あら?それセレブーブーじゃないの?」

 

 そんなやり取りに気付いたヴォルケッタがアクアの手にあるブタを指差して会話に入ってくる。

 

「ん?知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、ワタクシがミアラージュさんに商品提案して作って頂いた魔道具でしてよ。」

 

「あぁ、ミアラージュが自分の店で売ってた商品を冒険者向けに改造したって言っていたな。言われてみればこのブタのデザイン基ってヴォルケッタの杖に付いてるブタか。ブタが好きなのか?」

 

「まぁ、別にワタクシがブタが好きという訳ではなくてよ?お祖父様から頂いた杖がそういうデザインだったというだけで・・・。」

「ヴォルちんはな、お祖父ちゃんに貰った杖をそれはもう大事にしてるんだぜ。」

「お祖父ちゃん想いのいい子なんでち~。」

「ちょっ!?あなた達!また勝手に人をいい子キャラにしないで頂けるかしら!?」

 

 ヴォルケッタが慌ててお祖父ちゃん大好きキャラを否定するが、もう手遅れ。あらゆる愛の形をを肯定する水の女神様が乗っかってくる。

 

「ねぇヴォルちん!私はお祖父様を愛するのって素晴らしいことだと思うの!お祖父様から貰った杖でお祖父様から教わった魔法を撃つなんてとっても素敵なことよ!恥ずかしがることなんてないんだから!」

 

 いつの間にあだ名で呼ぶような間柄になったのか。アクアがそれはもういい笑顔で爆連ヴォルガノン級の追い討ちをかける。意図せず死体蹴りをするのはアンデッド特効属性の為だろうか。もうやめて。ヴォルケッタのライフはもうゼロよ。

 

 

「あの子たち・・・、あの年にしてなんという容赦のない責め・・・。これはかなりの逸材・・・!」グッ

「ダクネス、純真無垢な少女を変態に巻き込むのはやめてくださいね?」

 

 テーブルの方からその様子を見ながらダクネスがモジモジしていた。

 

「ま、まぁなんだ、その趣味は人それぞれだしな。」

 

「だから違うと言っているでしょう!?」

 声を荒げて喚くヴォルケッタ。が、もはやカズマ達の中でもヴォルケッタのキャラ付けは決まってしまったらしく、生暖かい目で見ている。

 

 そんなこんなしていたら、2階の部屋で薬の調合をしていたローズマリーが降りてきた。

 

「カズマ帰ってきたのかい?ちょっと話が・・・って、どうしたの?」

 

「あ~これは・・・。」

 

 デーリッチが状況を伝えると、ローズマリーはやれやれといった様子で言う。

 

「ヴォルちんのお祖父さんは高名な魔法使いで、ヴォルちんにとっては師匠にもなるからね。尊敬しない方がおかしいし、あまり茶化すものではないよ。」

 

 ローズマリーがヴォルケッタのフォローに入り、この場を収める。

 

「ところで、そのアクアが持ってるのはセレブーブー?なんでこんなところに?」

 

 ローズマリーがふと、アクアが手にしていた見覚えのあるブタのキーホルダーに気付いてたずねる。

 

「ウィズの店で買ってきたんだ。ミアラージュがハグレ王国で売っていたやつを冒険者用に改造したらしい。名前はセレブーブーまあくⅡだって。」

 

 ローズマリーはアクアからセレブーブーを受け取って、ジーっと見ながら、ハッと何かを思い付いたような顔をすると、カズマに問いかけた。

 

「へぇ~、改造したってことは値段もけっこう張ったんじゃない?この商品はたかいぞう(、、、、、)なんちゃって。」

 

 

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

 

 

「ん?どうしたのみんな?あれ?今の寒かったかな・・・。」

 

 ローズマリーが皆の反応に戸惑っていると、おもむろにデーリッチがガタガタと椅子を持っきた。いつの間にか羽衣を装着したアクアがその椅子の上に立つ。両手をやや広げたその姿はアクシズ教会で奉られている神像さながら、この世の全てを受け入れ、許すと言わんばかりの神々しさであった。

 デーリッチとヅッチー、ヴォルケッタが、アクアの前で手を組み、祈りを捧げるようにしてひざまづき、告白する。救われない友を救う為、神に祈る。

 

「女神様、ローズマリーのダジャレが寒い件ですが・・・。」

 

「なんか始まった!?」

 

「ダイヤモンドアース・・・、今ローズマリーさんが放った魔法の名前です。これは、かつて冬の女神すらも凍てつかせた禁断の魔法。このままではローズマリーさんのダジャレで世界は氷河期を迎えてしまうでしょう・・・。」

 

「やっぱり・・・!」

 

「やっぱりってなんだよ!てか、この展開見たことあるんだけど!?」

 

「女神様、ローズマリーの、ダジャレセンスの無さは医学では治せませんでした。どうか女神様のお力で、ローズマリーを救ってあげてください!」

 

「残念ながら・・・、神の力の及ぶ範囲では・・・。」

 

「そんな・・・!」

 

「えっ、神様でも無理ってショックなんだけど。」

 

「じゃ、じゃあ、ローズマリーは・・・!今後何十年もダジャレを言うたびに、傷つかないといけないんでちか!?お願いです、女神様!ローズマリーはとても良いやつなんです!ダジャレが寒いことを除けば、本当に良いやつなんです!」

 

「強調すんな。」

 

「うわ~ん!!」

 

「気をしっかり持ってください、デーリッチさん。水の女神アクアは罪を悔い、許しを請う者を拒みません。たとえローズマリーさんのダジャレが神をも凍らせる寒さでもその罪を許します。」

 

「えっ?ダジャレが寒いのって罪なの?」

 

「でも・・・、許されるだけじゃあローズマリーは救われないでち・・・!」

 

「これから何十年先の未来、ローズマリーさんのダジャレ寒い寒い病が緩和するか、悪化して世界を凍らせるか、それは神にすら分からないのです。ならば今だけでも、共に、笑いましょう。たとえ、ダジャレが寒かったって、それを超える愛が胸にあれば微笑むことが出来ます。その愛が、温もりが、皆の暖かい心が1つになるとき、永久凍土よりも凍りついた寒いダジャレは救われるのです・・・!!」

「女神様・・・!!」

 

 

 

「っというわけで、ローズマリー。悪いんだけど、今のダジャレ、もっかい言ってくれるでち?」

 

「無茶振りが過ぎるわッ!!」

 

 

 

 

 ちなみにこの後、夕飯にお呼ばれしたゆんゆんが再び女神様に祈ることになりました。

 無限ループって(ry




ローズマリーはやればできる。できる子なのだから。
ダジャレが寒くてもそれはローズマリーのせいじゃない、誰も笑ってくれないのは世間が悪い。
寒いのが嫌なら言わなければいい。言わぬが花という言葉があるのだから。
迷った末に言ったダジャレはどちらを選んでも後悔するもの。どうせ後悔するのなら今は笑える方を選びなさい。
汝老後を恐れるなかれ。貴方が将来笑っているかそれは神ですらわからない。ならば今だけでも笑っていなさい。
エリスの胸はパット入り。


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第8話 劣り捜査

 ちょっと話の展開変えようとプロット考えてたら3ヶ月も空いてしまった。ちょっと短いけど投稿癖つけないかんので取り合えず。
 原作ざくアクは超大型アプデに引き続きキャラ設定集を作成中とのこと。楽しみ過ぎて毎日夜も眠れない。はむすた氏はきっと神なのだろう。マスハピ尊い。


~王都・商業街~

 

 ベルゼルグ王都の商業街には武器屋や魔道具店が所狭しと建ち並ぶ。行き交う人々と、それを呼び込む商店が生み出す喧騒は以前と変わらず、しかしその様相は少々異なっていた。武器屋には包丁が、防具屋には衣料品が、魔道具店では効果よりも見た目を重視した装飾品が、道具屋ではご家庭で役立つ便利グッズが。魔王軍との戦争が終結したことで戦いの為の道具の需要が減り、人口増加による市場の拡大が見込まれる日用品が多く並ぶようになった。

 そんな商業街をフリフリキャピキャピ歩く、いかにも頭の軽そうな青髪の少女が一人。アクアである。時おり気になった店に入って冷やかしては店主に追い出されている。

 その様子を少し離れた場所から潜伏スキルで身を隠しながら伺う男が一人。カズマである。店に入っては追い出されているパーティーメンバーの姿にやきもきしながら後を追う。

 更にその周りにはカツラギと王国騎士団の精鋭が一般人に扮して配置をされている。マツラギはアクアが追い出される度にその店に突入しようとするが、なんとかクレアが抑えて店の名前をメモするに留まっている。

 ダクネスとめぐみんは城で待機だ。ダクネスの貴族特有の容姿といい欲望に忠実なドMな性格といい何かと目立つし、めぐみんについては今回爆裂魔法の出番はなさそうだから。

 

「しかし、さっきからアクアの奴は何をしてんだ?」

 いくらアクアが神界を代表するトラブルメーカーとはいえ流石に入る店入る店で追い出されるのは些か異常事態である。

 カズマは潜伏スキルを使ったままアクアが入っていった道具屋に入り、会話が聞こえる程度まで近付き聞き耳を立てる。

 どうやら髭面の店主とアクアが言い争いをしているようだ。

 

「だ~か~ら~!この街は性悪悪魔のせいで大変な事になってるの!この私に協力してほしいの!」

 

「なんなんだい、アンタは?そんなことあるわけないだろう。冷やかしなら出てってくんな!」

 

「信じてくれないなら仕方ないわ。私の正体を明かします!私の名前はアクア。アクシズ教徒が崇める水の女神アクアよ。分かったら私の話を聞いてほしいの!」

 

「あああ、アクシズ教徒だって!?てやんでぃ!おらぁどんな嫌がらせされても絶対入信なんかしねぇかんな!分かったら出てってくれ!早く出てけ!」

 

「な、なんですって!?それが神に対する態度なの!?ちょっとアンタ!神罰喰らわせてやるから覚悟s・「この大馬鹿スカタンクソ駄目神がぁ!!ゲンコツ」あいたァ!」イターイ!

 

 あまりのアクアのお馬鹿っぷりに我慢できなくなったカズマが途中で話に割り込みアクアにゲンコツを落とす。

 

「何?お前バカなの?バカだよな?そういやお前バカだったわ。ごめん、知ってた。」

 

 つい手を出してしまったが、これが潜入の為の囮作戦である都合上、カズマが衆目を集めるのも良くない。沸騰した怒りをアクアに対する憐れみに変えることでカズマは何とか冷静さ取り戻す。

 

「何よ!協力してくれる人は多いほうがいいじゃない!私だって頑張ってるんだから!今回はちょっと失敗しちゃったけど・・・。そんなに怒んなくてもいいじゃない!カズマのばーかばーか!」(・┰・)ベー!

 

 アクアは理不尽な暴力には徹底抗戦の構えだ。カズマに語彙力の足りない頭の悪い罵倒を浴びせる。

 一方そんなアクアの様子があまりにも憐れでため息すら出ないカズマは色々諦めたように溜め息を漏らす。

 

「ハァ・・・、アクア、お前さっきの作戦会議は聞いてただろ?お前の役割は何だ?」

 

「私の役割?この街に巣食う根暗クソナメクジ悪魔を見つけ出してボコボコにするこt「アホかぁぁぁあ!」」ヒィッ

 

 作戦名:アク悪アクトレス(アイリス命名)。正式名称は「アクアが悪魔を招き寄せて一網打尽だぜやったね大作戦」。アクアの役割は、街をブラブラしながら声をかけてくる奴に騙されたフリをしてホイホイ付いていき、連れていかれた先で悪魔の気配があれば、周りを張っているカズマ、ミツルギ、騎士団に報せるだけ。要となるアクアの頭の悪さを考慮した極めてシンプルで確実性の高い作戦である、はずだった。

 しかし、遥か神界に座す駄目神様の御心は下界の矮小な人間の想像が及ぶものではない。アクトレス(女優)どころかアクト(演技)をレス(無く)したアクアによって作戦の中核がバキバキと音を立てて崩れる音が聞こえた。

――――――――――――――

 

~夕方 騎士団詰め所~

 

「結局、何事もなかったな。」

「仕方ないだろう。相手が動くのを待つ作戦だ。元より今日だけで進展するとは思ってはいないさ。」

 

 時刻は夕方、特に事件もなく全員騎士団の詰め所に戻り、めぐみんとダクネスも合流した。あの後アクアには改めて作戦内容を言い聞かせ、脱線しようする都度カズマによる教育的指導が入ることとなったが、半日マークして何も成果が得られなかったのはアクアが目立ち過ぎたせいなのか、偶々なのかは解らない。元々相手の動きを待つ形の作戦なので、これで作戦失敗というわけではないのだが・・・、カズマにはどうも昨日から何かが頭に引っ掛かってるが思い出せないことがあった。

 

「なぁクレア、今まで誘拐された人はみんな王都で拐われたのか?」

 

「いや、王都以外ではアクセルでも1件誘拐事件は起きているな。」

 

「そうか、アクセルでも・・・。そういや原初の森はアクセルでも髪の毛を集めていたんだよな。なぁめぐみん、ダクネス、あのとき原初の森の奴ら見て何か気付いたことないか?」

 

「カズマ?何か気になることでもあるのですか?」

 

「いや~、な~んか、凄く、重要なことを忘れているような気がしてな。」

 

 カズマ自身モヤモヤした物があるのだが、どうにも形にならない。あの日の出来事を順を追って確認していく。

 

「あのときは確か、ギルドに行く途中にアクアが寄り道してカズマにどやされていたな。」

 

「そう、それは覚えてる。」

 

「その後ギルドで依頼を受けて、森に行ったとこでハグレ王国に会ったな。」

 

「そうだな。」

 

「私は福の神様に会った後、な~んでか記憶ないのよね~。」

 

「その理由は知らなくていいと思うぞ。」

 

「その後、一度屋敷に戻った後、ハグレ王国のメンバーが冒険者登録する為にもう一度ギルドに行ったな。そういえばあのときデーリッチ達も寄り道してローズマリーn「それだぁぁあ!」は?」

 

 モヤモヤしていた物の正体に気付いたカズマはダクネスの回想を大声で遮る。

「デーリッチとヅッチーはあの時原初の森に髪の毛を渡していた!更にデーリッチの髪は青色だ!何で気付かなかったんだぁぁぁああ!」

 

「「「な!?」」」

 

「おい、サトウカズマ!さっきからハグレ王国だのデーリッチだの誰のことを言っている!?お前達の知り合いに青髪の者がいるのか?」

 

「そうだよ!お前ら直ぐにアクセルに戻るぞ!」

 

「「「「デーリッチが危ない!」」」」

 

 




 ハーメルンの仕様をイマイチ把握してなかったけど、気付いたら平均評価めっちゃ高くてなんだか申し訳ない。多分ざくアクファンの皆の期待評てことなんでしょう。改めてよろしくお願いします。
 この作品の物語考えながら、筆が進まないときにダンまち世界で福の神ファミリアが無双するSSのプロット考えてたりします。形になりそうだったら書くこともあるやも。


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宿屋イベントその4 新しい力(ゆんゆん編)

 本編より長いサブイベントってどうなんすかね。
 どの話も本筋の中で語りきれないエピソードなのでそのうち本編に繋がる予定です。濃いストーリーを本編に盛り込む能力がない作者の苦肉の反則技です。
 ちなみに宿屋イベント扱いのエピソードはあと3話程ストックがあったりしますが、本編のストックはゼロ。
 最近は身のまわりも落ち着いたので3ヶ月は空かないと思うけど、本編の筆が進まなかったら宿屋イベントが続くかも。
 遅筆ですみません。


~カズマ邸~

 

 夕食後は自由時間である。ボードゲームをしたり本を読んだり筋トレしたり、各々自由な時間を過ごしていた。

 ローズマリーは一人部屋に戻り明日売る分の薬の調合をしていた。愛用の浮遊鍋いっぱいに煮詰められた緑色の液体をぐるぐるかき混ぜながら、別の磨り潰した薬草を放り込む。それをまた暫く煮た後、おたまで掬って空ビンに注いでいく。最後にコルクで蓋をして完成。同じ行程を繰り返して、30本の回復薬が出来上がり、それらを箱詰めしていく。本職が薬師というだけあって手際がよい。

 

「さて、こんなところでいいかな。」

 

 薬の調合は慣れたものではあるが、ほんの1グラムの分量違いで失敗作になることもある作業なのでとても神経を使う。何故か失敗作の薬を喜んで買ってくれる人もいるが、それは本意ではない。

 取り合えず予定していた仕込みを終えてホッと一息付いているとコンコンとドアをノックする音。誰か訪ねて来たようだ。

 

「ローズマリーさん、いますか?」

「はい?どうぞ。」

 

 キィィとドアを開けて入ってきたのは気恥ずかしそうに手をモジモジさせているゆんゆんが立っていた。

 

―――――――――

 

「魔法資質を修得したい?」

「お願いします!」

 

 ゆんゆんが顔を真っ赤にして一生懸命にペコペコしている姿は、傍から見ればどんな悪いことをしたのかと心配になる程であった。

 

「私に教えられることなら別に構わないけど・・・、でも魔法なら私よりゆんゆんの方が専門化だし、私に教えられることなんてないんじゃないかな?」

 

 ローズマリーは炎と氷という相反する2属性の資質を持ちながら、それぞれを高度なレベルで操ることができる。これは彼女達の世界でもとても珍しい技術だ。しかしその反面、資質を得る過程での無理が祟り、ローズマリーはマナ欠乏症という持病を持つようになってしまった。

 そんなリスクを負わずともこの世界には冒険者カードがあり、レベルを上げてスキルポイントさえ獲得すれば強力な魔法も習得できるし、スキルポイントを余分に割り振れば、威力や詠唱速度も上げられるという。現にゆんゆんは上級魔法だけでなくテレポートなどの補助魔法も習得済みだが、同じ魔法でも他の冒険者よりも数段威力が高いようだ。紅魔族という種族特性もあるが、ゆんゆんは魔法技術においてはこの世界有数の実力者である。

 

「その・・・私、魔法使いとしてめぐみんに負けたくないんです!めぐみんは爆裂魔法しか取り柄のないポンコツだけど、魔王軍の幹部を何人も倒してて・・・こないだのクエストだってボスを倒したのはめぐみんでした。私は紅魔学校の時からいつだってめぐみんに勝てなくて・・・。いずれ里の長にならなきゃいけないのに、このままじゃ、ダメなんです!負けたままじゃ里の皆に認めて貰えないんです!」

 

 ゆんゆんは目に溢れそうな程の涙を浮かべながらも、強い眼差しをローズマリーに向ける。ライバルに負けたくない。誰よりも優れた魔法使いにならなくてはならない。それが義務感から誰かに与えられた感情ではなく、自身が越えるべき壁と認識したとき、人は本当の意味で成長する。魔王討伐パーティーの一員として名誉を受けた身でありながら、ゆんゆんは驕ることなく精進を続けた。そして今尚立ちはだかる高い壁に立ち向かう新しい力が欲しかった。

 

「なるほど・・・、軽い理由ではないようだし、決意は固いようだね。」

 

「それじゃあ・・・!」

 

「うん、構わないよ。元々魔法使いの素養のあるゆんゆんなら恐らく私のようなリスクも少ないだろうし。」

 

「よろしく・・・お願いします!」

 

――――――――――――――――――――

 

~翌日 アクセル郊外の平原~

 

「さて、事前に確認したところどうやらゆんゆんは雷属性の適性が高いようだ。そこで、今日は特別講師の方をお呼びしています。では先生、どうぞ。」ササッ

 

「マリオンだ。よろしく頼む。」ペコリ

 

「え~と・・・?」

 

 魔法資質を得る訓練と思っていたゆんゆんは戸惑いの表情を隠せない。マリオンは確かに雷属性のスペシャリストだが、あくまでも近接タイプで使う雷もゴーレムとしての能力だ。まぁ何か理由はあるのだろうと考えながらローズマリーの説明を聞く。

 

「ではまず、魔法資質を得るとはどういうことかを説明しよう。魔法資質を得るとは、その①耐性を得ること、その②出力をコントロールできること、その③変質ができること。これらが出来るようになってその属性の資質を得たことになります。」

 

「あの、質問いいでしょうか?」

 

「どうぞ。」

 

「今私は冒険者カードのスキルで魔法耐性や出力調整ができます。変質というのはちょっと分かりませんが、その②までは習得できているということでしょうか。」

「ふむ、とてもいい質問だね。その件についてはまだあくまでも私の推論になるんだけど、私は冒険者カードのスキルと私達の魔法資質は全く別の能力だと考えているんだ。」

 

「別の能力ですか?」

 

「冒険者カードのスキルは私もこの数日でいくつか習得してみたんだけど、似たような魔法でも魔力の使い方は違うみたいなんだ。」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、自作の魔法は体内からマナを練り出すように放つんだけど、スキルの魔法は出来上がった金型にマナを通すように放つ感じかな?私達の世界にも魔法書やスキル書って物があるけど、丁度それに似たような感じだね。この感覚は実際に比べてみれば分かると思うよ。あ、でもマナを使うことには変わらないから、経験が全く無駄になるわけでもないと思うよ。」

 

「なるほど、分かりました。」

 

 正確には分からないのが分かったというところか。ゆんゆんは自分の体内からマナを練り出す感覚というのは今まで感じたことがない。それをこれから身に付けていくんだとその言葉を心に留める。

 

「じゃあまず、その①耐性を得ることから始めよう。これは自分の魔法でダメージを受けないようにする訓練だ。その属性に自分のマナをぶつけて打ち消す技術を身に付けるんだ。そこでマリオンの力を借りることになる。じゃあマリオン、宜しく。」

 

「うむ。任された。」バチバチ

 

「あの、その属性に自分のマナをぶつけて打ち消すって・・・もしかして・・・?」

「流石に察しがいいね。私達の世界で魔法使いを諦める人の殆どはこの段階で挫けるんだ。」ニコッ

 

「あの!?何でニッコリしてるんですか!?あぁ!マリオンの両手がバチバチいってますぅぅう!」

 

「大丈夫。ゆんゆんなら直ぐに身に付けられるよ。」

 

「安心してくれ、ゆんゆん。マリオンは友達の為なら全力を尽くすぞ。頑張れ、ゆんゆん。」バチバチ

 

「いぃぃいやぁぁあぁぁあバババババ!」ビリビリ

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・。」ビリビリ

 

「流石だねゆんゆん!こんなに早く雷耐性を身に付けるなんて!」

 

「あ、ばば、ありばとう、ございばす・・・。」ビリビリ

 

 死ぬかと思った。死に物狂いでマリオンの雷撃に魔力をぶつけた。ただ魔力をぶつけただけじゃダメで、受けた雷を体で感じとって、無我夢中で同じ力をイメージしてぶつけたら少し威力が和らいで、ちょっとずつ修正をしていったら何とか無効化できた。これが、ローズマリーの言う耐性を得るということなのだろう。まだ体にも頭にも痺れが残ったままゆんゆんは礼を口にする。

 

「マリオンの機械の体から発せられる雷の力は純粋な雷の力なんだ。出力は大きいけどその分魔力の解析はしやすくて、訓練には向いている。ただ、実戦では使い手によって魔力の質が異なるから半減が精一杯だろうね。マリオンの攻撃も本来は物理との会わせ技になるから、無効化は難しいだろうね。」

 

「そう、ですか・・・。」

 

 ようやく痺れが取れたゆんゆんはなんとか答える。

 

「それじゃあ、痺れも取れてきたようだし、その②出力のコントロールをしようか。」

 

「あ、ひょっ、ちょっとだけ待ってください!」

 

「ああ、安心していいよ。その②は多分あまり訓練の必要はないから。」

 

「え?」

 

「ゆんゆんは元々魔法力を使うことには慣れてるだろうからね。ほら、今マリオンから受けた雷を掌でイメージしてごらん。」

 

「はあ・・・。」パチ

 

 言われた通りにゆんゆんは目を閉じて掌に意識を集中させる。するとパチパチと小さな雷が掌で弾けている。

「あっ・・・わかる、この雷は今まで使ってた魔法と違う・・・。」パチパチ

 

「そうそう、そのまま体内のマナを掌に絞り出すイメージをしてみて。」

 

「はい。」バチバチバババババ!

 

 ゆんゆんが更に意識を掌に集めると雷は更に勢いよく弾け出す。

 

「そしたら今度は掌を前に付きだして、その力を解き放って!」

 

「はい!」バババシュン!

 

 ゆんゆんは目を開けて目の前に向けて雷を打ち出す。威力は普段使う中級魔法のライトニングより少し弱いくらい。しかし明らかに今までとは違う魔力の使い方を経験したゆんゆんは新しい力の芽生えを確かに感じた。

 

―――――――――――――――――――――

 

「さて、大分雷の扱いに慣れてきたね。」

「はい。今ならカースドライトニングと同じ位の雷魔法を打てそうです。」バチバチ

 

 最初はどうなるかと思ったが紅魔族の特性やゆんゆん自身の積み上げた経験もあるだろう、普通才能ある者でも1ヶ月はかかる道を僅か数時間でこなしてしまった。

 ゆんゆんは短時間でここまで鍛えたローズマリーを尊敬の眼差しで見ているし、また、ローズマリーも淡々と話しているように見えるが内心は冷や汗をかいていた。

 

「じゃあ、最後のその③変質について、だね。」

 

「はい先生!どんなに辛い特訓でも頑張ります!」キビキビ

 

 今ならローズマリーが脱げと言えばゆんゆんは躊躇なく脱いでしまうだろう。全幅の信頼を寄せたゆんゆんはローズマリーを先生と呼び始め、動きも目に見えてキビキビしている。

 

「では、私が教えられるのはここまで!解散!」

 

「はいっ!・・・へ?」ガクッ

 

 力一杯の返事をしたあと言われたことを考えてガクッとするゆんゆん。

 

「あ、あの~?ローズマリーさん、今解散て言いました?」

 

「うん解散だ。ここから先はゆんゆん自身で作らなくちゃいけない。」

 

「私自身で、作る、ですか?」

 

「そう、変質っていうのは魔法の力を自分の力に合わせて変化させることなんだ。さっきマリオンは純粋な雷を使うって言ったけど、普通は皆自分に合わせて力を変質させている。極端な例だと悪魔族なんかは闇属性を混ぜて暗闇効果を付与させたりしているね。そうやってゆんゆん自身の魔力特性に応じた新しい魔法を作るんだ。それが出来たとき、ゆんゆんは雷の魔法資質を得たことになる。」

 

「私自身の魔力特性・・・。」

 

 苦労して手に入れた力。しかしここまでは貰い物の力。そしてここからは自分で作り出す力。ゆんゆんは自分の掌を見つめながらちっぽけな自分が手に入れた大きな可能性に思いをはせる。

 

「雷の力は色んな応用が出来て面白いんだよね。うちの拠点でも超電磁ビッt「ちょ、ちょっと待ってください!」ん?」

 

「あの、せっかくなので、まっさらな状態から自分なりに考えてみたいな~なんて思ってまして・・・。」

 

「そう?まぁそれもそうだね。」

 

 ローズマリーも納得して余計なアドバイスは避ける。が、何かを思い付いたように一つ提案をした。

「そういえば、さっきゆんゆんはマリオンの雷を完全に無効化出来たよね?これってマリオンの雷が純粋な雷の力っていうのもあるけど、元々の二人の魔力の質が相性いいんだと思うんだ。もしかしたら・・・。」

 

 ローズマリーの提案はこの世界ではまだ確立していない魔力の使い方。異なる力を合わせて新しい性質を生み出す技術。合体技である。

 

「えっそんなこと可能なんですか!?」

 

「面白そうだな。試してみる価値はあるだろう。」

 

 それが実を結ぶことがあるのかそれは作者にも分からない。




 拙いクロスSSですが、もし感想等あればお気軽にどうぞ。


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宿屋イベントその5 爆焔と爆炎

 ゆんゆん強化に引き続き、めぐみん&ヴォルちんの強化ストーリー。宿屋イベその2と同様に構想段階から絡ませたかった二人です。
 もとネタが好きすぎてちょっと引きずられたのと、原作エピソードが少ないヴォルちんの性格がイマイチ掴めてないせいか、読む人によっては違和感持たせてしまいそうで怖い。


―ヴォルケッタの独白―

 

 確かに孤立気味でしたわ・・・。

 王国でもデーリッチやヅッチーと一緒のとき以外は上手く皆の輪に溶け込めていませんでしたし、元々社交的なほうではありません。加えて、自分で嫌になるほどの自尊心というものが人を遠ざけていたこともありましたわ。そのせいであのとき彼女とはケンカをしてしまいました。

 だから、その、仲直りをしなければという気持ちもありましたし、自分から切り出しにくかったことを、あちらから話しかけてきてくれた事が嬉しくて。つい調子を合わせて嘘をついたのは悪かったなと思っていますのよ。本当ですわ。

 

 

「やっぱりそうなんですね!?ようやく同士に巡り会えましたよ!実は私もなんです!」

 

 だから、その、彼女から「爆裂魔法は好きですか?」と訊かれた時には悩みました。

 

 爆裂魔法を始めて見たときは自分の魔法と比べて少し、ええ、少しだけ高い火力を見せつけられたのが悔しくて、酒場で喧嘩をしてしまう程でしたわ。でもお爺さまの「一に火力二に火力、三四も火力、五も火力」という教えを当に体現したその魔法を使いこなす彼女は、その意味ではワタクシの理想の魔法使いであり、悔しさと同時に憧れのような複雑な感情が芽生えていたんだと、後になってから気付いたものです。だからその問いにイエスと応えてしまっても嘘にはならないだろうと安易に思ってしまいました・・・。これで広がる輪があるならば、些細な誤魔化しは許されるのではないか。これでも友達が増えるのならば・・・。そんな風に考えてしまいました。

 それが、とてもとても愚かな行為だと気付くまでには、一分とかかりませんでした。

 私の好きと、彼女の好きには、とても大きな隔たりがあったのです・・・!

 私は、今、凄く後悔しています。つい流れで私も爆裂魔法が好きとか言ってしまって。それが彼女の興奮に火をつけてしまって。

 

―――そのせいで、今、私は何もないだだっ広い草原に立っています。

 

「やー!今日は天候に恵まれましたね!雲一つない青空ですよ!」

 

 否、私にとっては何もないただの草原でしたが、彼女にとっては違うのでしょう。

 

「今日は絶好の爆裂散歩日和です!」

 

 爆裂散歩って何!?

 

「どうですか、ヴォルケッタさん。絶好の爆ビューでしょう?」

 

「ば、爆ビュー!?」

 

「この辺りは穴場なんですよ。街から徒歩で来れますが、街道からは外れているので街や他の冒険者の迷惑になりませんし。モンスターの群れと遭遇することもありません。」

 

「は、はぁ・・・。」

 

「まー、冒険者の活動が盛んな季節に入るし、カエル狩りクエストのパーティと出くわすくらいは覚悟していましたが、これ幸い、今日は私達で独占ですよ!」

 

「え、ええ、幸運でしたね・・・?」

 

「なんだか歯切れが悪い・・・?もしかして体調が優れませんか?」

 

「い、いえ、そういうことではないのですが、昨日、ちょっと寝付けなかったみたいで・・・。」

 

「そうでしたか。私も興奮が抑えられずに少々寝不足気味なのですよ。気が合いますね。私達。」

 

「そ、そうですわよね。お互い無理はしないようにしないといけませんわね!ですから程々に切りあg・・・」

「ご安心ください!今日はマリーさんからサンプルとして頂いた特製のメンタルグランパを持ってきているのです!これなら二発は爆裂魔法を撃てますよ!まるで夢のようなアイテムです!」

 

「ずこーっ!!」

 

――――――――――――――――

 

「エクスプロージョン!」チュドーン!

 

「・・・。」

 

 膨大な魔力の奔流。偶々飛び出してきたジャイアントトードを目掛けて放たれた爆裂魔法は対象を消し飛ばし、残されたのは焦げ臭い大地と巨大なクレーター。流されて同行した爆裂散歩とやらであるが、間近でこれだけの魔法を見せ付けられるとまた思うところもある。

 

ドサッ

 

 何て考えていたら魔力を使いきった彼女がうつ伏せに倒れていた。

 

「すみませーん。カバンに入れてあるメンタルグランパを飲ませて頂きたいのですがー。」

 

「あ、ええ、はいどうぞ。」

 

「ありがとうごさいまーす。」ゴクゴク

 

 彼女を仰向けに抱き起こし、カバンから取り出した薬瓶を彼女の口にあてがうと、後は自力で薬を飲み始め、あっという間に2本のメンタルグランパを空にした。

 

「ぷはー!このマリーさんの作る魔法薬は素晴らしいです!魔法力を瞬時にここまで回復できるとは!とてつもなく苦いのが珠にキズですが。これがあれば何度だって爆裂魔法を撃つことができます!所持制限があるのが残念でなりません!」

 

「で、ですねー。最高ですよねー。」

 

「かつてカズマがいた世界の知識では、全ての宇宙の始まりは巨大な爆発から生まれたと考えられていたそうです。つまり爆裂魔法というものは究極の破壊魔法であると同時に究極の創造の力を孕んでいると言ってもよいでしょう。すなわち私達は爆発魔法を通して世界の歴史を見ていることと同じ。私達は爆発魔法を見ているのではなくて、私達が爆裂魔法に試されているのかもしれません!私達がこの世界の創造を知るためには、爆裂魔法という破壊を通さなくてはいけない。大変、面白く興味深いことなのですよ!!」

 

 そう、キラッキラの笑顔でひたすら爆裂魔法の魅力について早口で捲し立てる彼女を見て、私は言葉に詰まった。

 

(この人は、一体何を言っているんだ?)

 

 生まれてきてから私は「出来る側の人間」だって意識はずっと持っておりました。大抵のことは人並み以上に出来たし、炎魔法の使い手としては一流以上の自信があります。そんな私が、これほどまでに理解に苦しむことがあったでしょうか。そんな私が、まさか、栗のような口をして、十秒以上も何も言い出せないでいるなんて!

 何を?どう返せばいい・・・?

 振り返った彼女の目は、日も当たってないのに爛々と輝いている。・・・なんだか答えを待っている子供のようにも、紅目の、そう、魔王にも見えた。

 その瞬間に背中に悪寒が走った・・・!ま、まさか、私は試されているのかっ・・・!?私の嘘は既にばれていてっ・・・!?どんな返答をするのか試しているのか!?

 悪寒は既に全身に広がっていた・・・!私は激しく後悔していた、興味本意で爆裂魔法の世界に踏み込んだことをっ・・・!散歩だなんて、とんでもない!試されているのは私・・・!?私は怒らせてしまったのか・・・!?紅目の魔王・・・めぐみん・ザ・ルビーアイを・・・!

 

「あ、あの?ヴォルケッタさん?」

 

「はいっ!?な、なんでしょうルビーアイ様!?」

 

「ル、ルビー?」

 

「い、いえ、失礼しましたわ!深い見識をお持ちでっ・・・!私のような下っ端ではとてもとても!」

 

 

「いえいえ。同じ爆裂道を歩むヴォルケッタさんなら、もっと深い見識を持っているでしょう。」

 

「い、いいえ、とんでもない・・・!」

 

 

「・・・もしかして、そんなに好きでもないですか?」

 

「えっ!?」

 

「爆裂魔法。そんなに好きでもないのに、ついてきてくれたんですか?」

 

「え、だ、だからその・・・!ち、違うのですわ!ある程度は興味はありましたし、ルビーアイ様に逆らう気は決して!」

 

「大丈夫ですよ。落ち着いてください。」

 

「ええっ・・・!?」

 

「なんとなく、分かっていました。こちらに来てからの反応がおかしかったので。」

「あ・・・。」

 

「大丈夫です。責める気なんてありませんよ。私はむしろ感謝しているのです。楽しかったですし。この機会に爆裂魔法の素晴らしさを少しでも伝えたいと私一人で突っ走ってしまったようです。しかし、だったらどうしてついて来てくれたんです?ヴォルケッタさんにメリットはないでしょう?」

 

「あ、あの・・・。ごめんなさい。」

 

「はい?」

 

「ワタクシ、ハグレ王国では合流してから日も浅くて、デーリッチ達がいればいいけど、いないとあまり仲良くできる人も多くないから・・・。それに、貴女とは仲直りもしたいと思っていましたし、誘われて、とても嬉しかったのですわ・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「ヴォルケッタさん。ケンカしたきっかけはむしろ私の方にありますし、その話はもう止めましょう。あなたがそれを持ち出す度に、お互いに暗い気持ちになってしまいます。仲直りしなければと思っていたのは私も同じです。」

 

「はぁ・・・。」

 

「そんなことよりお互いに利益のある話をしましょう。例えば、あなたの魔法、爆連ヴォルガノン、でしたっけ。」

 

「え?」

 

「この世界には爆裂魔法に並ぶ威力のある魔法は存在しません。が、あの時、あなた方が墜落したという現場に残っていた爆発痕。あれについては私の爆裂魔法に並ぶ威力だったと見ています。あの魔法を撃ったのはあなたなのでしょう?」

 

「えぇ、でもあれは、限定した条件下でしか使えない特殊技で・・・。」

 

「そんなことを言ったら我が爆裂魔法も街中やダンジョンでは使えませんよ。いいですか、ヴォルケッタさん、私はあれを見てからあなたに負けたくないという気持ちが溢れて、抑えられなくなっているのです。実を言うと今日の爆裂散歩はあなたに私の爆裂魔法を貴女に見せ付けたいという気持ちもあったくらいです。」

 

「そんなこと・・・。」

 

「我がライバルを自称するゆんゆん相手でもこんな気持ちになったことはないのです。こと、爆裂魔法で私を脅かす人が現れたのではないかと。」

 

「・・・。」

 

 彼女に対するモヤモヤした感情、その正体が何なのか解ってしまった。そう、彼女はあり得たかもしれない理想の私。ワタクシと同じだけど同じ道を歩まなかった私。認めたくなかった。ワタクシのちっぽけな嫉妬心。

 彼女の爆裂魔法は一人では使えない魔法。必然的にパーティとして活動する必要がある。他の冒険者からチラと聞いた話では、彼女は爆裂魔法しか使えないピーキーさに色んなパーティで加入を断られ、最終的には半ば無理矢理にカズマさんのパーティに加わったのだとか。斯くして彼女は自分の理想を曲げなかった。自分が目指す理想の自分の姿を追いかけてそれを手に入れた。

 対してワタクシは、ワタクシはちっぽけなプライドが邪魔をしてパーティを組むのを嫌って、「火力至上主義」を掲げておきながら、小技も覚えないと戦えなかった。何が大賢者ヴォルガノンの孫よ!ワタクシはお爺さまの教えを何一つ体現できていないじゃない!

 彼女、めぐみんは私と同じ志を持ち、ワタクシと違う道を歩いてきた。そして今、二つの道が交差しようとしている。めぐみんは今、このワタクシにチャンスをくれている。ワタクシが再び理想の私を追いかけるチャンスを。

 

「めぐみんさん!私、いえ、ワタクシは貴女に挑戦状を送りますわ。」

 

 ちっぽけなプライドに妥協してきた私、ハグレ王国で変わり始めた新しいワタクシ、仲間と一緒に戦うことで強くなったワタクシ。今、目の前に立ちはだかる高い壁に全力のワタクシで負けたくない、否、勝ちたい。

 

「ふっふっふ。いいでしょう!受けて立ちましょう!」

 

 めぐみんは紅く輝く目を更に輝かせ、勇者を待ち受ける魔王の如く不敵に笑う。

 

 

「では、ここは紅魔族の流儀に乗っ取り、名乗り口上からの撃ち合いといきましょうか!」

 

「ええ!いいですわ!」

 

 二人の若き魔法使いはお互いの杖を握り締め、ポーズを決めて高らかに名乗りを上げる。

 

 

「我が名はめぐみん!」

「我が名はヴォルケッタ!」

 

 

「紅魔族随一の魔法使いにして魔王を葬りし爆裂魔法を操りし者!」

「大賢者ヴォルガノンの魂を受け継ぎし爆炎の魔法使い!」

 

 

「ヴォルケッタを我がライバルと認め、此の戦いの勝利を望む!」

「めぐみんを我がライバルと認め、此の戦いの勝利を望む!」

 

 

「「いざ、尋常に、勝負!」」

 

――――――――――――――――

 

「・・・・・・・。」

「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

 膝に力が入らない。立っているのがやっと。全身全霊で放った爆連ヴォルガノンはかつてない威力でジャイアントトードを消し飛ばして、でも、勝ったのは隣でうつ伏せで倒れているめぐみんだった。

 

「めぐみんさん・・・やっぱり凄いですわ。」

 

 ヴォルケッタは先程と同じようにめぐみんを抱き起こすが、回復薬はもうないので近くの岩影にもたれさせて休ませる。

 

「我が爆裂魔法は究極の魔法。負けることなどあり得ません。が、ヴォルケッタさんに負けたくない気持ちで撃った今の一撃は、爆裂マイスターカズマでも98点を付ける出来でした。90点レベルだったら負けていましたね。」

 

「ふふふ・・・。」

「ふふふ・・・。」

 

「何だか私達、良いライバルになれそうですね。今日は私が勝ちましたがこれで終わらせるつもりはないのでしょう?ヴォルケッタさん、いえ、ヴォルケッタ?」

 

「もちろんですわ。めぐみん。」

 

 昨日の敵は今日の友。紅魔族の口上から始まった二人の勝負は、ハグレ王国の不文律で締められた。

 

「爆裂道を歩む同志として、ライバルとして、これから宜しくお願いします。」

 

「こちらこそ。ん?爆裂道?」

 

「そうですよ。これからは爆裂散歩にはヴォルケッタにも参加してもらいますからね!」

「ふっふっふ。めぐみん、ワタクシが歩むは爆裂道に非ず!炎の大賢者ヴォルガノンの魂を受け継ぐ爆炎道でしてよ!」

 

「なっ!?あなたはまだ爆裂道の素晴らしさを理解していなかったと言うのですか!?」

 

「ほっほっほ!ワタクシが歩むは爆炎道!貴女とはいずれ決着をつけることになるでしょう!震えて眠るがいいですわ!」

 

「なにを~!!」

 

 混じり合う爆裂道と爆炎道。互いに高みを目指す若き天才達は新たな可能性を切り拓いていく。

 

 その後、めぐみんが歩ける程度に回復するのを待って街に戻った二人。ついでに行ったカエル狩りをギルドに報告したところ、草原に大穴を開けたことが発覚し二人揃って怒られましたとさ。

 




 ハーメルンでざくアクSS書く人増えないかなぁ。
 あ、感想評価はお気軽にどうぞ。


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第9話 ハグレ警察~純情派~

 先に断っておきますが、このサブタイトルには何の意味もありません。何か別の作品を連想したり登場人物名から何かを深読みする方もいるかもしれませんが、あの作品とは一切関係ありません。ハグレ警察とはハグレ王国の正式な警察組織であり何か別の組織の名前をパクったなんてことはありません。パクるのは警察の仕事ですから。
 そんなことは置いといて、ま~た3ヶ月空いてしまって申し訳ない。宿屋イベントネタはポンポン思い付くのに筋は決まってるはずの本編の筆が中々進まない。そんなに大長編を書くつもりはないのだけれど。


~その頃エリス様~

 

「はぁ~私って幸運を司る女神なのにこの巻き込まれ体質は何なのかしら?」シュバババババ

 

 エリス様はため息混じりに今の自分の状況を嘆きながら、自分の身長程もあろうかという書類の山を目にも止まらないスピードで捌いていく。地上で盗賊職をしながら鍛えた動体視力と手の速さ器用さがあって成せる技である。

 福の神フクちゃんから無茶振られたラヴァーズ様への謁見手続きを済ませたエリス様。通常なら数週間かかる手続きを人脈という人脈、あの手この手を尽くし、僅か1週間に縮めてみせたエリス様の手腕は間違いなく優秀だといえる。

 しかしラヴァーズ様へ謁見するということは、しばらく自分の担当世界を空けることになるので、先に終わらせられる仕事は終わらせておかなければならないというわけだ。仕事の合間の気分転換に降り立った地上で突然降って湧いた繁忙期には愚痴の一つも言いたくなるのは仕方がないだろう。

 

「しかし、あの子の持っていたキーオブパンドラ・・・。あれは人々の夢が作り出した言わば人工の神器。もしあれが本物だったとして、何故あの子が?福の神様には何か目的があるのかしら?」シュバババババ

 

 超高速で手を動かしながらも、下界で出会った、福の神様と共にいた異世界の少女のことを思案する。使いこなせば世界間移動すら可能にするキーオブパンドラは世界のバランスを崩壊させかねないアイテムとして天界では危険視されており、発見され次第破壊されたり天界の倉庫に送られて厳重に保管されているようなシロモノだ。福の神様がその事を知らない訳もなく、それを放置してるということは何か考えがあってのことのはずだ。

 

「まぁ、でも、福の神様のことだから、何か私では及ばないような理由なのでしょうけど。」ハァ

 

 考えるだけ無駄、という結論だけ残したところで手を止める。高く積まれた書類の山は既に、ない。

 同時にサポート役の天使が現れて、時を告げる。

 

「エリス様、そろそろ出発のお時間です。」

 

「ありがとうございます。準備は出来ていますので、直ぐに発ちます。」

 

 エリス様はスッと立ち上がり、丁寧に椅子の位置を正してから執務机の前に立つ。手にした錫杖で床をコツンと叩くと何もない空間に門が浮かび上がり、次第に実体化していく。

 

「では、留守の間は任せますよ。何かあれば地上に降りているアクア先輩に動いて貰ってください。」

 

「はぁ・・・アクア様に、ですか。何も起きないことを祈るばかりですが・・・、承知致しました。お気をつけて。」

 

 天使の反応に苦笑いしながら、エリス様は門をくぐって旅立った。

 

――――――――――――――――

 

~少し時は遡りアクセルの街~

 

 王都でマタラギと合同で受けたクエストを完了した後、アクセルに戻ってきたハグレ王国の面々とゆんゆん。クエストは成功だったにも関わらず、顔色は皆一様に真剣な面持ちである。早急に出処不明の大型魔物への対策をしなければならないからだ。

 カズマ達は王城での晩餐会に招かれておりそのまま泊まるそうなので、今日カズマ邸に帰ってきたのはハグレ王国のメンバーとゆんゆんだけである。

 

「う~ん・・・。クリスタルネウザー・・・か。」

 

 ドリントル達からの報告を聞いたローズマリーは唸るように呟き、対応策を練る。

 

「まさか偶々飛ばされてきた先で見知った魔物に出会うとは思いもよらない事態だ。しかし、このままでは情報が少なすぎて対応がとれない。これが偶然か、私達を狙ったものなのか、その判別すらできない状況だからね。そもそもが私達はこの世界のことすらよく知らないということもある。まずは情報を集めたい。」

 

「そうじゃの。わらわ達も取り合えず金を稼ぐことばかりであまり足下を見てなかったような気がするわい。して、どう動いたらよいかの?」

 

 ドリントルも同意する。

 

「うん、まずは冒険者ギルドで話を聞いておこう。変わった魔物の例や他にも何か事件が起きてないか、ギルドで何か把握していることもあるかもしれない。」

 

「そうじゃな。明日はクエストの前にギルドから聞き込みをしておこうか。」

 

「他の冒険者からも聞き込みをしたほうがよいのではないかしら?」

 

 福ちゃんも参加する。

 

「そうだね。確かギルドで酒場店員の募集をしていたし、ウェイトレスの仕事をしながら聞き込みをすると効率がよさそうだ。」

 

「クエストはどうする?」

 

「皆が頑張ってくれたおかげで資金は順調に貯まって、ある程度の蓄えもあるけど、今後もし私やミアちん、ヅッチーも戦闘に参加しなければならない状況があればマナタイトの消費も増えるだろう。なるべく収入を得られるようにはしておきたい。クエスト組はアクセル周辺でこなせるクエストを請けながら情報収集にあたってほしい。王都での活動はカズマ達が帰ってきたら相談しよう。」

 

 ローズマリー、ミアラージュ、ヅッチーの3人は各々仕事をしながらの情報収集に。あとのクエスト組は依頼をこなしつつ、情報収集に充てることになった。

 

「何があるか分からない。皆、くれぐれも用心してあたってほしい。解散。」

 

「「「はい!」」」

 

 現状やれることは多くない。見えない脅威の存在にローズマリーは一抹の不安を拭えないまま、この場は解散となった。

 

―――――――――――――――――

 

~冒険者ギルド~

 

 アクセルの冒険者ギルドは突如現れた新ヒーロー達の登場に連日沸き立っていた。珍妙な格好をした連中だが、次々と高難度のクエストをこなしつつ、街の清掃や子供のお守りまでするハグレ王国を名乗る謎の集団。殆ど女性のパーティーということもあり、男性冒険者を中心に一部ではファンもつきはじめている。ちなみに牛男にもひっそり筋肉教の信者がいるが今後それが語られることはないだろう。

 

「あら、皆さんおはようございます。昨日から王都のギルドに行かれたのでは?」

 

 酒場で朝食を貪る冒険者達の傍らで机を拭いていたルナがドリントルを先頭に入ってきたハグレ達に声をかける。

 

「そうなんじゃがのう。ちょっと話が聞きとうてな。」

 

「話・・・ですか?」

 

 怪訝そうな様子でルナが聞き返す。

 

「何、大したことではない。最近街で変わった事件や新種の魔物の目撃情報なんかについてギルドで把握していることはないかの?」

 

「事件と、魔物、ですか?あぁ、そういえば昨日王都の郊外で正体不明の強力な魔物の出現情報があったとかで、今朝火急の便で冒険者へ注意喚起を促すよう本部からの指示が下りてますね。何でも、あの魔剣の勇者ミツルグさんが苦戦を強いられたとか。皆さんも見慣れない魔物を目撃したら無理に戦わず、応援を呼ぶようにしてくださいね。」「あ、あぁ。そうするようにしよう。他にも何か変わったことはないかの?」

 

 カツラギと一緒に戦った件はややこしくなりそうなので伏せておく。ギルドですら未確認魔物についての情報が届いたばかりということは魔物についての新しい情報は期待できなそうだと判断し、事件について尋ねた。

 

「そうですね。一昨日になりますが、商業街で道具屋サクラを営むヨシノスケさんの娘さんのエリーさんが失踪したとかで捜索願いが出されてるそうで、ギルドにも捜査協力の依頼が出されています。普段全くといっていい程に事件が起きないアクセルでは珍しい大事件ですね。」

 

「失踪事件?えらい物騒じゃな?」

 

 存外に大きな事件が起きていたことにドリントルは驚き、聞き返す。

 

「はい。警察の方で捜査中とのことですが、足取りは掴めず、迅速な解決が求められる為にギルドにも捜査協力の依頼が出されたようです。」

 

「なるほどのぅ・・・。しかし、う~む・・・。」

 

 失踪事件というと大きな事件だが、自分達が求めている案件とは繋がりは薄いようにも思える。依頼が出されたばかりということはギルドにも大した情報はないのだろう。

 

「何か気になることでも?」

 

「あ、いや、妾達も探し物をしていてな。今の話からだとあまり関係はなさそうじゃと思うての。ところで今日は何か手頃なクエストがないかのう?」

 

 ギルドからはこれ以上の情報は得られなさそうだと判断し、今日出されているクエストに話を移す。

 

「え~と、それでしたら、討伐クエストは高難度のものは皆さんに片付けて頂いたので、ジャイアントトードか野良牛退治くらいですね。あとは先程の失踪事件の捜索、建築現場のアシスタント、配達、街の清掃、あっギルド酒場の臨時ウェイトレスも募集してますよ。」

 

 基本的に公共施設であるギルドには仕事斡旋としての側面もあり、モンスター討伐のような危険なクエストだけでなく、一般の仕事も紹介している。しかも実入りの大きな討伐クエストはこの数日であらかたこなしてしまった為、てっとり早く稼げる仕事は残ってないらしい。残った仕事でアクセル周辺で出来るクエストというと、便利屋みたいな仕事が多くなる。ハグレ王国は仕事があれば何でも請けていたので凄腕と知られた今でもギルドからは難易度に関係なく仕事を提示される。

 

「そうじゃのう・・・。」

 

 建築現場のバイトよりはまだカエル狩りのほうが手っ取り早く稼げるが、情報収集を平行して行うのを考えればギルド酒場にも人を回したい。などと思案していると、じっと口を挟まないようにしていたデーリッチから声がかかる。

 

「ドリントルちゃん!」クイクイ

 

「ん?なんじゃ?デーリッチ?」

 

 いつもの幼い少女ではなく、普段は見せない真剣な顔を覗かせるデーリッチ。それは彼女が本気で誰かを救おうとしたときに表れる王としての顔。

 

「ドリントルちゃん!その事件の捜査に協力するでち!デーリッチは誰かが酷い目に合っているかもしれないのにそれを見過ごすことはできん。」

 

 強い目。ギュッと唇を噛みしめてそう告げるデーリッチには、オセロに負けてすぐ涙目になる普段の面影はなく、決意の色が灯る。

 

「デーリッチ・・・。そうじゃな。それがハグレ王国じゃったの。」

 

「おうでち!」

 

 そんなわけで、情報収集兼酒場ウェイトレスとしてヴォルケッタ、ジャイアントトード狩りにマッスル、マリオン、ゆんゆん、失踪事件捜査にデーリッチ、ドリントル、福ちゃん、はむすけ(デーリッチの頭に乗ってる)で当たることとなった。

 この失踪事件の捜索が真実への近道とはこの時は誰もが知るよしもなかった。

 

 

―――――――――――――――

 

~アクセル警察署~

 

「え~と、ではこちらがエリーさんの似顔絵と特徴、事件の経過をまとめた資料です。」

 

 警察官の人から行方不明の女性の情報を受け取る。

 

「ふむ、年の頃は20くらいか。綺麗な青い髪のおなごじゃな。」

「デーリッチとお揃いでち~。」

 

「このエリーさんが自分の意思で姿をくらませた可能性はありませんの?」

 

 福ちゃんも確認する意味で問いかける。

 

「エリーさんの父ヨシノスケさんの証言では親子仲は良好で自ら家出をするような可能性はないそうです。」

 

「最後に彼女の姿を確認出来たのは?」

 

「三日前の夕方に仕事先の服屋から出て、そのまま自宅に帰らなかったようです。おそらくその間に何かの事件に巻き込まれた可能性が高いと思われます。通報は一昨日になってからですね。」

 

「目撃者などはおらんのか?」

 

「現在、聞き込みを続けておりますが・・・有力な手掛かりは掴めていないのです。」

 

「なるほどの・・・中々手強そうな事件じゃの・・・。」

 

「皆さんにご協力頂きたいのは些細なことでもいいので何か手掛かりになることを捜索して頂きたいのです。得られた情報に応じて報酬をお支払いします。」

 

「あいわかった。妾達に任せるがよいぞ!」

 

 ドリントルは右拳を作り胸をどんと叩き、警察署をあとにした。

 

――――――――――――――――

 

~アクセルの街 商業街~

 

「お邪魔しま~す。」

「いらっしゃいませ~。」

 

 商業街の一角、大通りに面した道具屋サクラは、立地に恵まれたのか店主の努力によるものか傍目には分からないが、絶え間ない客入りに賑わっている。店内を見渡すと二人の店員が忙しなく動き回っており、どこぞの魔道具店とは違い順調な経営が窺える。

 しかし、そこには本来有るべきものがなかった。店主の姿が欠けていた。

 

「すまぬが、冒険者ギルドから依頼を受けたドリントルという者じゃが、店主のヨシノスケ殿はおられぬか?」

 

「ギルド?あぁ・・・エリーさんの件ですね・・・。店長は一昨日から殆ど寝てなくて、今は少し眠ってもらってます・・・。」

 

「そうか、ならばあまり無理をさせる訳にはいかんな。そなたらに話を聞こうにも忙しそうじゃし、また出直すとしよう。手が空くのはどのくらいの時間になるかの?」

 

「すみません。なにぶん店長がいなくて手が離せなくて・・・。夕方、お店を閉める頃にはお客さんも減ると思いますので・・・。」

 

 ドリントル達はまた夕方にと約束を取り付けて道具屋を離れた。

 

 

――――――――――――――――

 

~アクセルの街 道中~

 

「ふ~む・・・。なかなか有用な証言は得られんの。」

 

 ヨシノスケさんのお店には夕方にまた行くとして街中で聴き込みをしていたが、新たな進展はなく、ドリントルが力なくこぼす。 そこへ、何か思い付いた様子の福ちゃんが呟く。

「聴き込み自体は警察の人もしているでしょうし、別のアプローチを考えた方が良いかもしれませんわね。」

 

「別なアプローチって・・・、何か考えがあるんでちか?」

 

 福ちゃんの含みのある言い方にデーリッチが聞き返す。

 

「確証があるわけではありませんが、今回の事件、目撃者が不自然に少ないように思います。」

 

 いつものニコニコ顔を崩した福ちゃんが思案げな様子で答える。

 

「確かにそうじゃが、それは偶然か、犯人の手際が良かったからではないかの?」

 

「勿論、その可能性はあります。しかし、エリーさんが失踪したという時間と場所、人通りの多い商業街でまだ陽のある夕方に起きた事件にしてはあまりにも証言が少ないように思います。」

 

「つまり?」

 

「魔法やスキルの力で人目を避けることを可能にした、のではないかと。おそらくは姿を隠したり転移したりするような。ならば、それが可能な人物のほうを絞り込んであたってみてはいががでしょう?」

 

「なるほどの。姿を隠す魔法ライトオブリフレクションも転移魔法テレポートも、魔法使い系職業の高位魔法という話じゃったな。盗賊職の潜伏スキルも難度は低いが盗賊職の人数は多くない、か。いずれにしても使える者は限られるな。闇雲にあたるよりは効率は良さそうじゃ。しかも冒険者カードを持っていれば身元も割れやすかろう。」

 

「でも、どうやって魔法を使える人を探すんでちか?悪い人だったら素直に答えてくれるとは思えないでちが。」

 

「カズマさん達が帰ってきたら心当たりを聞いてみるのは良いでしょうけど・・・、こと魔法についてはアクセルにはスペシャリストがいるでしょう?」

 

「なるほど、ウィズか。彼女なら妾たちよりコチラの世界の魔法事情も、アクセルの街の冒険者にも詳しいじゃろうな。ほいでは、ウィズ魔道具店で話を聞いてみるかの?」

 

 と、3人(と1匹)が今後の動きを決め、ウィズ魔道具店へと足を進めた。

 

 

 

(・・・・・)

 

 その様子を見張る者の存在に気付かずに・・・。

 

 

――――――――――――――

 

~ウィズ魔道具店~

 

「こんにちは~!」

「いらっしゃいませ~、あら?どうしたの?今日はクエストに出てると思っていたのだけれど?」

 

 店に入るとエプロン姿のミアラージュが出迎える。王国では土産物屋だけでなく仮装大会の運営までこなす彼女の仕事ぶりは、なんとも慣れ落ち着いたものである。

 ミアラージュと挨拶を交わしていると奥からウィズも顔を出してきた。

 

「いらっしゃいませ。あらみなさんお揃いで、何かご用ですか?」

 

「こんにちはウィズさん。今日はウィズさんにお話を窺いたくてお邪魔させて頂きました。」

 

「私にですか?」

 

―――3人はウィズに事情を説明した。

 

「なるほど、状況からすると犯人は高位の魔法を使える者の可能性が高いでしょう。」

 

「盗賊の線はないのかの?」

 

 ドリントルが聞き返す。

 

「潜伏スキルだけでは犯行は難しいかと思います。被害者の方も襲われれば声を上げますし暴れもします。一瞬で気絶させたとしても現場の地理から考えて目撃者が全くいないのはやはり不自然です。テレポートでその場から存在自体を消し去ったと考えるのが妥当でしょう。」

 

「なるほどのぅ。」

 

「しかし、この街で高位の魔法を使える方ですか・・・。私の知る限りでは、私と、ゆんゆんさん、あとはカズマさんくらいでしょうか。」

 

「そんなに少ないのか?っというかカズマも!?」

 

 思わぬところでカズマの名前が出て驚かされるが、今回は関係ないので置いておく。

 

「ええ。勿論、私もこの街の冒険者全ての方を存じてるわけではありませんので、確たることは申し上げにくいのですが・・・。そもそも、アクセルは駆け出し冒険者の街ですから、テレポートを使える程の方ならそれなりに名前が売れている可能性が高いです。何かしらの事情がない限りは高レベルの冒険者の方は他の街へ行った方が稼げますからね。例外としてテレポート屋の方もいらっしゃいますが、彼らは魔法を悪用できないように私用を制限されています。」

 

「では、犯人はこの街の者ではないと?」

 

「私の知る限りではその可能性が高いかと。ただ、そうなると犯人の絞り込みは難しくなりますね。」

 

「・・・いえ、そうとも限りませんわよ?」

 

「福ちゃん?」

 

「他所の街から来たのであれば門番の人の目に触れますし、見知らぬ人物を見なかったか当たっていけば足跡を辿れる可能性がありますわ。」

 

「なるほど。」

 

「ウィズさん、貴重なお話ありがとうございました。今度は商品を買いに来させて頂きますわ。」

 

「いえいえ、お役に立てたのなら何よりです。皆さんにはマナタイトだけでなく色々お買い上げ頂いてますから。」

 

 ハグレ王国にとってウィズ魔道具店との関わりはマナタイトの購入が第一目的ではあるが、一方ではレアアイテムに目がない彼らにとってウィズの店は宝の山にも見えるらしい。各々の自由に出来る範囲の金額で商品を買っていたりする。

 そうして、軽く挨拶をして出ていこうとするドリントル達をミアラージュが引き留める。

 

「あ、そうだ。コレ、役に立つと思うから持っていくといいわ。」ハイ

 

「なんじゃこれは?かわいい人形じゃな?」

 

 ミアラージュが手渡したのは金髪の少女をデフォルメした可愛らしい人形だった。

 

「魔除けの人形よ。邪悪な魔力に反応して、近くに悪いやつがいたら教えてくれるわ。」

 

「それはありがたい。しかし、便利な品じゃが商品ではないのか?」

 

「ええ、それ作ったのはいいのだけれど、私もウィズもアンデッドなせいか、ちょっと魔力を出すとすぐ反応してしまって煩くて困っていたのよ。棄てるわけにはいかないし、持っていってくれると助かるわ。」

 

「それはまぁ、難儀なものじゃな。そういうことなら有り難く頂いておくわい。」

 

「私はこれくらいしか手伝えないけど、頑張ってね。」

 

「おうでち!」

 

 そうして、ウィズ魔道具店での聴き込みを終え、街の門番へ話を聞きに行くのであった。

 

 

――――――――――――――

 

~アクセルの街 入口~

 

「あ~?他所の街からテレポートが使えるやつが来てないかって?」

 

 ウィズ魔道具店を出た後、街の門番を訪ねた3人(と1匹)。ウィズとの話にあった、テレポートを使える者に心当たりがないか聴き込みをしている。

 

 

「そうなんです。心当たりはありませんか?」

 

「そんなこと言ってもなぁ~。テレポート屋はしょっちゅう行き来しとるし・・・。あっ、でもこないだえらい美人がテレポートで街の前に来て驚いたなぁ。」

 

「えらい美人?」

 

「そうそう3日くらい前か。緋色の目に、燃えるような紅い髪、で真っ赤なローブ。美人な上にそんな出で立ちだったからよく覚えてる。紅魔族とは違うがありゃ相当な魔法使いだったろうなぁ。」

 

「ふむ・・・、時期といいタイミングが良いの。して、その女はどこへ行ったかわからぬか?」

 

「さぁ?何日か街のなかを見て回るとか言ってたからまだ街にはいるんじゃあないか?」

 

「ふ~む、とすれば街の中を探してみるか、いやしかし、もうじき夕方か。道具屋サクラにも行っt「おい、モンスターが来たぜ!」って、なんじゃデーリッチ、変な声を出して。」

 

「デーリッチじゃないでち!」

 

「は?」

 

「おい、モンスターが来たぜ!おい、モンスターが来たぜ!」

 

 ふと、目線をデーリッチの手元に送ると、デーリッチが持っていた人形が可愛らしかった姿の面影をなくし、キリッと太い眉毛に野太い声で危機を報せていた。

 

「う、わわわぁ!」ポイー

「おい、モンスターg・・・」

 

 その余りに不気味な様子に思わずデーリッチから人形を取り上げ投げ捨てるドリントル。

 

「なんじゃこの面妖な人形は!まったく!悪趣味が過ぎるわ!」

 

「ドリントルちゃん!それどころじゃないでち!モンスターが!」

 

「む?」

 

 ドリントルが振り向くと、そこに揺らめいたのは、紅蓮の焔。

 

「こんにちわ。お嬢さん達・・・。」

 

 誰もが認める美しい顔を妖しく歪ませ。

 

「私はそこの冠を被ったお嬢ちゃんに用があるの。」

 

 心の底まで燃やし尽くされるかのような圧倒的な魔力を背に。

 

「邪魔をすると・・・、死ぬわよ?」

 

 立っていた。

 




 会話ばっかりで動きが少ない回でしたが、次回辺りから大きく物語が動きます。次回はもうちょっと早く書き上げたいですね。
 あっ、感想等はお気軽にどうぞ。


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第10話 新魔王

 ちょっと短いけど、キリがいいので今日はここまで。
 このすばの魔王の娘っていまだに設定がロクに公表されてないんですよね。あんまり原作の設定を手前でいじくるのは好きではないのですが・・・、今回のSSのストーリー上、わりと重要な位置になるキャラなのでらんダンの方と繋げてそれっぽい設定を用意。あと、男王と女王では王位継承後の名前が変わるってことにしといてください。
 もし、今後原作で色々明かされた後にこのSS読むことになった方には多大なる違和感があるかと思いますが、ご容赦ください。


~アクセルの街 入口~

 

「な、何奴!?」

 

 アクセルの街入口で門番への聞き込みをしていた3人(と一匹)へ声をかけてきたのは、噂に違わぬ焔のごとき美女。ドリントルは他者を圧倒するその佇まいに驚きの色を隠せずにその素性を問う。

 

「知りたい?でも、教えてあげる義理はないわねぇ。」クス

 

 その様子を嘲笑うかのように女は片手を頬に添え妖艶に微笑む。

 

「この感じ・・・、あなた魔族、ですわね?」

 

「あら~、あなた勘がいいわね?そういうあなたの正体も教えて頂けないかしら?」

 

 フクちゃんがその気配から正体に気付くが、彼女もまたフクちゃんの正体に感付いているようだ。

 

「フクちゃん、魔族って?」

 

 神やら悪魔やら妖精にタコ足娘など、あらゆる種族がごった返すハグレ王国にしても魔族と呼ばれる種族はいない。デーリッチがフクちゃんに相手の素性を聞く。

 

「魔族とは、遥かな昔に人の身でありながら悪魔の眷族になった者たちの末裔。魔の力を得て神々とその眷族である勇者と敵対する種族です。そして、時代ごとに現れる魔族の王を、私達神々は、魔王、と呼んでいます。」

 

「魔王・・・。」

 

 魔王ヤサカキョウイチ。彼がサトウカズマパーティーによって討伐されたことはこの世界の人々の記憶に新しい。異邦人であるハグレ王国民の彼女達も昨夜カズマとローズマリーの間で交わされた衝撃の事実に皆驚きを隠せなかった。

 

「この世界の魔王は数か月前にカズマさんのパーティーによって倒されたと聞きます。しかし、彼女から発せられる魔力の奔流は正しく魔王と呼ばれる者のそれ。だとすれば彼女は、行方不明とされていた・・・。」

 

「正解よ。さて、自己紹介は必要なさそうだし・・・、いくわよ?・・・インフェルノ!」ゴオオォ!

 

 魔族の彼女は、フクちゃんが出した解答に褒美と言わんばかりに猛烈な高位火焔魔法で返す。

 

「アイス!っつう・・・!」ピシィ!ジュワー!

 

 相対するフクちゃんも同時に強烈な氷魔法でそれを相殺するも、抑えきれずにダメージを喰らう。

 

「ヒール!」

「ひつじショット!」パン!パン!パン!

 

 すかさずデーリッチの回復魔法が入り、ドリントルは牽制射撃で間合いを取る。

 

「「フクちゃん!」」

「くぅ、二人とも、ちょっとマズい状況です・・・。彼女、かなり強い。私達だけでは勝てないかもしれません・・・。なんとか撤退するか、他の皆と合流することを考えましょう。」

「な!?」

 

 相対したフクちゃんから知らされる事実。受け止めた魔法力は紛れもない魔王級。壁役がいない中、この火力を受けきることはできないと判断した。

 

「あら、連携は中々ね。でも・・・、カースドライトニング!」バシュッ!

 

「わわわ!」ササッザァー!

 

 今度は痛烈な雷魔法が鋭い矢となりデーリッチ達を襲う。なんとか横っ飛びで避けるもその攻撃は止まらない。

 

「カースドライトニング!カースドライトニング!カースドライトニング!」バシュッバシュッバシュッ!

「わきゃっ!」

「ぐっ!」

 

 連続で射出された雷の矢が高速で突き刺さる。初撃で体制を崩されたドリントルとフクちゃんに直撃する。

 

「つぅ、ヒール!」

「ヒール!」

 

 デーリッチがドリントルへ、フクちゃんは自身でヒールをかけダメージを回復して体制を立て直すが、状況の不利は変わらない。何よりも、いかに戦闘経験豊富なデーリッチ達といえども、相手の真意が分からない中で全力で殺し合いができるほどには無法者ではない。

 一応、言葉は通じる相手である。せめて敵の狙いだけでも聞き出せないか、会話を試みる。

 

「な、なんでこんなことするんでちか!?」

 

「あら、なんで?とはご挨拶ね?探していたのでしょう?この私を!インフェルノ!」

 

「わ、わ!?じゃ、じゃあキミが誘拐犯なんでちか!?」

 

 放たれた火焔魔法をなんとか避けながらデーリッチは聞き返す。

 

「ええ、そうよ察しが悪いわね!知力が足りてないんじゃないかしら!?」

 

「今は知力の話は関係ないでち!んんん~・・・デーリッチ覇王拳!」ボッ!

 

「フフ、ドコを狙っているのかしら?」ヒョイ

 

 竜の赤子や犬相手にオセロをして敗北してしまうハグレの王様は、顔を真っ赤にして挑発にのせられてしまう。

 コタツドラゴン直伝の虎の巻、デーリッチ覇王拳を放つも簡単にかわされてしまう。

 

「落ち着けデーリッチ!ヤツの思うツボじゃ!」

 

「アナタ、デーリッチちゃんに用があると言っていたわね?一体何が目的なの!?」

 

「そんなことわざわざ教えるわけがないでしょう?さて、そろそろ終わりにしましょうか?」ゴォォ!

 

「ま、マズい・・・、大技がくるぞ!」

 

 女はローブの中から1本の棒を取り出す。否、それは棒ではなく、儀式槍。女の身に纏う魔力が更に勢いを増し、手に持った槍へ流れ込んでいく。

 ドリントルが警戒を促す。が、打つ手がなく身構えることしかできない。

 

「焼き付くしてあげるわ!魔王の焔、メギドフレイム!」ゴオオオオオ!!ドォォォオン!!

 

 空間を歪ませながら現れたのは直径10メートルはあろうかという巨大な火球。3人(と一匹)の頭上に現れたそれは直後、落下しながら大爆発を起こす。

 

「横に跳べぇ!」

「「「きゃあぁぁっ」」」

 

 ドリントルの合図ですんでのところで回避を試みたことが効を奏し、威力を軽減したものの、それでも甚大なダメージを受け、3人とも瀕死に陥る。

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・、なんとか、皆と合流しないと・・・あ!そうでち!」ガサゴソ

 

 何とか仲間に危機を伝える方法がないかと、カバンをまさぐるデーリッチ。そして、それはあった。カズマと一緒に王都へ行ったときに、王城に爆発物は持ち込めないからと預かった魔道具が。見慣れた豚の顔をあしらったマスコットキーホルダー、セレブーブーまあくⅡが。

 

「この紐を、思いきり、引っ張る・・・!」プツン

 

 デーリッチは借り物を無断で使ってしまうことを心の中でカズマに謝りながら、それを起動する。

 

『ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!ブヒー!』

 

 とてつもなく巨大な音量でアクセル中に豚の鳴き声が響き渡る。特殊な魔法がかかったその音は、例え耳を塞いだところで遮断する術はない。

 

「な、なん『ブヒー!』なのよ!この『ブヒー!』音!煩い『ブヒー!』ったら!もう!『ブヒー!』止めな『ブヒー!』さい!止めろぉ!『ブヒー!』」

 これまで余裕の笑みを絶やさなかった魔族の女に始めて感情の色が灯る。耳を塞いでも防げない。大声で喚き散らすがその声も豚の鳴き声に阻まれて届かない。

 

「ええい!『ブヒー!』その『ブヒー!』キーホルダー『ブヒー!』ね!寄越『ブヒー!』しなさい『ブヒー!』!」

 

 女は鳴き声の元凶であろう豚のキーホルダーをデーリッチから奪い取る。

 奪い取ったところでその魔道具を見てふと、女は違和感を覚える。ブヒブヒ言ってる鳴き声からしてこれは豚をあしらったキーホルダーには間違いないだろう。しかしこのキーホルダーには豚の象徴とも言える鼻の部分が無かった(、、、、、、、、、)のである。

 

「この『ブヒー!』音を解除『ブヒー!』するには『ブヒール!』、『ブヒー!』ええい、『ブヒール!』破壊して『ブヒール!』しまった『ブヒー!』方が早『ブヒー!』いか!」

 

 あまり深く考える余裕がなかった女はキーホルダーに鼻がないことを気にするよりも、音を止めることを優先しセレブーブーを破壊しようと試みる。そして、一瞬彼女達への注意を逸らしてしまった。

 そのスキを見逃さなかった3人は突如立ち上がり、魔族の女から素早く距離を取る。瀕死だったハズの相手が急に起き上がったことに一瞬は驚くが、既に圧倒している相手である。慌てず、目下の懸念である豚の魔道具の破壊を優先する。そして、それは致命的なミスだった。

 距離を取ったデーリッチは、豚の鼻の部分と思しき物体を左手のひらに乗せ、右手で鼻の先っぽを押し込んでいる。

 そしてデーリッチの口許が動く。

 

『ブヒー!』『パルス!!』『ブヒー!』

 

 豚の鳴き声にかき消され、その声は人の耳には聞き取れなかったが、その破滅の呪文は確かに魔道具へと届いた。

 

「んっ!?」ブブブブッ

 

 女は手に持っていた豚のキーホルダーが突然震えだしたことで芽生えた危機感に、それを投げ捨てようとするが、それは叶わなかった。

 

 

ズッドオォォォオン!

「くっ、ぎぃああああ!」

 

 

 めぐみんの爆裂魔法にも匹敵する程の威力を伴った大爆発をもろに喰らった女は、上空に打ち上げられ、そのまま自由落下して地面に打ちつけられる。

 

「「やった!?」」

 

 ドリントルが爆発の威力を見てガッツポーズをする。あの大爆発をまともに喰らって無事で済むわけがない。

 

「しかし、デーリッチちゃん。あの一瞬でよくもまぁ、こんな作戦を思い付きましたわね。花丸ですわ!」

 

「いや~、照れるでち~。まぁ?ハグレ王国の王様が?知力が低いとか言われて?黙ってられなかったというか?」

 

 普段、頭脳戦で褒められることが極端に少ない王様はここぞとばかりに鼻高々に調子に乗る。

 が、仮にも敵は神々と対立する魔族の末裔。戦いはまだ、終わっていない。

 

「ゴホッ・・・、ちょ、調子に乗るんじゃあないわよ!カースドライトニング!」バシュッ

 

 深紅のローブを血に濡らし赤黒く染めた女は更なる魔法を放つ。が、蓄積されたダメージのせいか、狙いが定まらない。

 

「ちょ、ちょっと待つでち!そんな体で無茶したら命に関わるでちよ!さっきの音を聞いて、直に他の仲間も駆け付けてくるでち!ここはもう大人しく退くでちよ!」

 

「煩い!あんな手に引っ掛かった自分が愚かだったわ!もう遊びはナシよ!カースドライトニング!カースドライトニング!」

「わわっ!」スカッ

「ほっ!」スカッ

 

 デーリッチが必死に撤退を促すが彼女は聞く耳を持たず、体力とは裏腹にまだ余裕のある魔法力にモノをいわせてごり押しをしてくる。

 しかし、精細さを欠いた魔法を大人しく喰らう程、ハグレ王国の戦いは温くない。

「もう諦めなさい!これで引き下がるならばこれ以上の攻撃も詮索も致しません!だから!」

 

「ええい!黙りなさい!ならば切り札を出すまで!」

 

「切り札、ですって!」

 

 女が切り札と言いながら取り出したそれは、ただの石ころ。どう見てもただの石ころだった。

 女はその石ころを高々と掲げて叫ぶ!

 

「喰らえっ!クリムゾンストライクメビウスアンフィニティボール!」

「「「技名ながっ!」」」

 

 その技名の長さに思わずツッコミを入れてしまうのもこの技の恐ろしさである。掲げた石ころから打ち出された3つの火球は正確にコントロールされ3人それぞれに向かっていく。

 

「ぐふっ!」ドテッ

「がっ!」ドサッ

「がはっ!」バタッ

 

 一撃。大勢を決したかに見えた状況は一瞬で逆転した。3人同時に戦闘不能に追いやられ、デーリッチ達の敗北が決定した。

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・、まさかここまで手こずらさせれるなんてね・・・。」

 自身を絶対強者と疑わず、今回の相手も子細なしと踏んでの戦いだった。思わぬ苦戦にこの者達が今後の計画を揺るがす可能性がよぎる。

 

「今回はこの子の確保が目的だったけど・・・、他の奴らには死んで貰っといた方が良さそうね。」

 

 デーリッチを脇に抱えながら、先程焔の魔法を打ち出した槍をフクちゃんの胸に突き立てようと構える。

 

「そうはさせねぇ!サンダー!」バシュン

「くっ!」サッ

 

 横から放たれた雷魔法を、構えを解いてかわし、距離を取る。

 

「セレブーブーの音に何事かと駆け付けてみれば・・・、オマエ!相棒をどうしようってんだ!」

 

 シュンライステップで速度を上げ、いち早く駆けつけたのはイカヅチ妖精ヅッチー。見るからに親友の危機に怒りを顕にする。

 

「こんなに早く援軍がくるとは・・・。仕方ないわ、ここは退散しましょう。この子は貰っていくわね。」

 

「おい!何なんだよ!?オマエは!」

 

「そうねぇ。名前くらいは名乗っておきましょうか。私の名前は魔王ヤサカ、ヤサカセリネよ。じゃあね。・・・テレポート!」シュン

 

 転送魔法が発動してヤサカセリネを名乗る女はその場から消え去った。デーリッチを連れて・・・。

 

「待てよ!デーリッチ!デーリッチィィイ!」

 

 残されたヅッチーの親友を呼ぶ叫びが草原に虚しく轟いた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

~???~

 

「アメィジング!今代の魔王は中々やるじゃないか。」

 

「どうやら最初の魔王の槍、這う者メギドは既に継承されていたようでございますな。そして、あの石ころ・・・。」

 

「石Lv.99か、勇者と先代魔王が相討ちになったことによる産物だろうな。よくもまぁあの崩壊したダンジョンから掘り出せたものだ。」

 先の戦いを見通していた観測者達。どこか楽しむ様子でその結果を分析していた。

「さて、ワタシ達も忙しくなるぞバニル?アー、ユー、レディ?」

 

「承知致しております。イリス様。」

 

 冥王姫、手繰る魂のイリス。彼女の計画が動き出そうとしていた。

 




 ブヒーの間にブヒールが混じってるのは誤字ではないです。やられたフリをしながら鳴き声を隠れ蓑にヒールで回復していたという描写です。その後に急に起き上がったのはそういうカラクリです。分かりにくかったらすみません。
 今回出てきた、セリネ、這う者メギド、最初の魔王、石Lv99、この辺の単語が並んでピンときた方は、らんだむダンジョンのアイテム図鑑マスター。偽天使の剣も妄想が拡がりますね。
 今後のお話が容易に想像できてしまうレベルの猛烈なネタバレになりますので、ピンとこなかった方は安易にググったりしないようにしましょう。


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第11話 忘れてたアイツ

 ちょっと短いけど上げときます。しばらくシリアスが続くからこの辺をさっさと通過してしまいたい。
 シリアスばかりだと気が乗らないで余計に投稿遅くなりそうなので、ちょっと前に書いてた、ざくアクとダンまちのクロス物を気分転換用に書き始めました。
 それでも亀更新には違いないと思いますが、どうか宜しくお願いします。


~カズマ邸~

 

「「「デーリッチが拐われた!?」」」

 

 魔王を名乗ったヤサカセリネが去った後、ヅッチーに続いて到着したローズマリーの持っていたポーションにより、瀕死の状態だったフクちゃんとドリントルはなんとか回復。続いて集まってきたマッスル達と合流し、一旦、カズマ邸に戻って状況を確認しようという中で、更に慌てた様子で王都から自宅へテレポートしてきたカズマ達が合流した。

 およそ2日ぶりにメンバーが揃うも、デーリッチを欠いた中、重苦しい雰囲気で会議は始められた。

 

「幼子を拐うとは何と卑怯な!拐うのならば、この私が拐われるべきなのに!なぜ私を拐わない!?この私を!」ドンガシャン

 

 ダクネスが激昂を抑えきれずテーブルを叩いて悔しがる。

 

「「「ダクネス(またドM病が)・・・。」」」

「「「ダクネス(騎士のカガミだ)・・・。」」」

 

 カズマパーティとハグレ王国とで同じようにダクネスの名を呟くが感想には若干の差がある。

 ハグレ王国のメンバーもまだ出会って数日の関係でしかないダクネスがそれほどまでにデーリッチの事を想ってくれることを頼もしく思う。

 

「嫌な予感が当たっちまったな・・・。」

「デーリッチお腹空かせてないかしら?」

「一刻も早く助けに行きましょう!」

 

 カズマ達の反応はそれぞれだ。

 

「敵は確かに魔王ヤサカセリネと名乗ったんだね?」

 

 一際険しい表情のローズマリーがフクちゃんを尋問するかのように訊ねた。

 

「はい、はっきりと名を名乗ったのはヅッチーちゃんに対してですが、私との会話でも先代魔王の娘ということを否定しませんでした。」

 

 その話に真っ先に反応したのは、ダクネス。

 

「なんということだ・・・。せっかく平和な世界になったというのに、再び魔王が現れるとは・・・。ん?そういえば、先日、エリス様は新魔王が現れる可能性を予見していたな。確信は持てていないようだったが・・・。」

 

「確か、世界に澱みのようなものを感じる。でしたか。アクアは全く気付いていないようでしたが。」

 

 めぐみんもアクアをチラと見ながらその時の会話を思い出す。

 

「あ、あれは、エリスがこの世界の管理担当だからなの!私は転生担当だからそういうのは分からないの!」

 

 アクアの言は本当のことなのだが、どこか言い訳がましく聞こえるのは普段の信用の問題だろうか。

 

「なぁ、俺そんな話初耳なんだけど?」

 

「「「だってカズマに言ったらビビって引きこもるから。」」」

 

「お、お前らな・・・。いや、否定はできないが。」

 

 22文字に渡る長文を息ピッタリにぶつけてくる愉快な仲間たちに、何も言い返せないカズマ。悔しかったので、後でアクアの酒を水に替えておくことにする。

 

「ところで、カズマ達はデーリッチが狙われる可能性がわかって戻ってきたようだけど?」

 

「それは、俺達が王都で請けていたクエストの途中で思い当たったんだが・・・」

 

 カズマは王都でクレアから請けた依頼の内容を簡単に話す。青い髪の女性が拐われる事件、原初の森を名乗る組織、公爵級悪魔の暗躍、アクアの囮捜査、ほんの二日間の出来事ながら非常に密度の高い内容となった。

 

「奇しくも、カズマ達とデーリッチ達は同じ事件を追っていたわけか・・・。しかしそうなると、その公爵級悪魔と魔王ヤサカは同じ組織、又は協力関係にあるということになる。そうなれば敵は想像より遥かに強大な勢力ということになるな・・・。」

 

 ローズマリーは眉間の皺を更に深くして考え込む。

 

「目標が一つに定まった、と考えた方が精神衛生上は良さそうじゃがの。」

 

「なるほど・・・。モノは考えようとはよく言ったものだね。」

 

 ドリントルのフォローにローズマリーも少し表情を和らげる。

 

「ところで、原初の森が青い髪の女性を狙うのは何故なのでしょう?」

 

 フクちゃんが敵の目的を整理しようと投げ掛ける。

 

「ふむ、彼らはそもそも髪の毛からマナを取り出す研究をしているという話だったね?青い髪には何か特別な意味があるのだろうか?」

 

「正確には、敵が狙っているのは一度奴らに髪の毛を渡したことがある、青い髪の女、だな。」

 

 カズマが先程簡単に話した内容を補足する。

 

「一度髪を渡した?」

 

「あぁ、失踪した被害者は全員が原初の森に髪の毛を渡したことがあった、と王都の警察の捜査でわかっているそうだ。俺達はそれを逆手にとって、髪を渡したことがあるアクアを囮にしようとしていたんだが、途中でデーリッチも青い髪で、髪を渡していたことを思い出してアクセルに戻ってきたんだ。って、どうしたマリー?」

 

 カズマの話の途中でハッとした表情でローズマリーが顔を上げる。

 

「・・・もしかして、敵の狙いは青い髪の女性ではなく、目的の人物がたまたま青い髪の持ち主だったってことなんじゃないか?」

 

「どゆことだ?」

 

「つまり、敵はたまたま手に入れた髪の毛から何かを見つけて、それが青い女性の髪の毛だったからその持ち主を探している。」

 

「そんな、たかが髪の毛でそんなこと・・・。」

 

「人の毛っていうのは人の気に通じていてね、その人のマナを色濃く表すんだよ。以前、ダクネスにはモールドの話はしたよね?要は髪の毛を調べるということはその人のモールドを調べるようなものなんだ。そして、私達の仲間にはこの世界では間違いなくイレギュラーとされるモールドの持ち主が多い。神であるアクアやフクちゃん、異世界人の私達ハグレだ。これは私達本来のステータスが冒険者カードに反映されていないことからもはっきりしている。そんな髪の毛を悪意のある研究者が調べたらどうなるか。」

 

「え~と、つまり・・・。」

 

「奴らの狙いは十中八九アクアかデーリッチ、またはその両方だったってこと。そして、デーリッチが捕まってしまった今、残るのは・・・アクアだ。」

 

「え゛っ!?あたし!?」

 

 長い話に耐えきれずうつらうつらし始めたアクアが突然匙を向けられてすっとんきょうな声を出す。

 

「私の記憶が確かなら、あのときヅッチーも一緒にいたけど、髪を渡したのはデーリッチだけ。名前を書くようになっていた紙もあの時持ってきてしまっていた。アクアも髪の毛を渡したときに名前までは書かなかったんじゃないかな?」

 

「ん~、言われてみれば、性別とか髪の色とか書いたけど、名前は書いてなかったわね。」

 

 アクアは人指し指をアゴに当ててその状況を思い出す。

 

「多分だけど、特殊な髪の毛を見つけたはいいけど、名前を書かなかったことで彼らは個人を特定できなかったんじゃないかな?だから青い髪の毛の持ち主の中で、髪の毛を渡したことがある人物をしらみ潰しに拐っていった。」

「なるほど。」

 

「・・・さて、敵がデーリッチを拐った理由はおよそ予想がついたけど、本題はこれからだ。」

 

 全員がゴクッと喉を鳴らす。

 

「デーリッチは何処に連れ去られたのか?」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 ローズマリーにとってはあらゆる事象よりもデーリッチが優先される。本来、ローズマリーはデーリッチが拐われたという状況でこうして冷静に会議をしていられるような人間ではない。かつてデーリッチが異世界に飛ばされてしまった時にも冷静さを失い、その身を削るような捜索活動に、ローズマリーの身を案じる声が王国民から挙がった程だ。

 ではなぜ今、会議をしていられるのか。その理由は至極単純、動き出そうにも情報が無さすぎて動けないからだ。

 

「髪の毛を集めている連中とっ捕まえて締め上げるのはだめなのか?」

 

 物騒な言い方をするのはニワカマッスル。

 

「それが可能ならば手っとり早いけど、この数日はアクセルでは奴らの姿は見ていないんだ。」

 

 だが、それを否定する訳ではなく可能ならばそれを実行することもいとわないと、ローズマリーの目には怒りの炎が灯っている。

 

「そういえば昨日今日では、王都でも見なかったな。奴ら、活動を控えているのかもしれないな。」

 

「奴らの最終目的が何なんなのかは分からない。しかし、街から姿を消したということ、わざわざ名を名乗る真似をしたということから考えると、奴らの計画は新しい段階に進んでいると考えていいだろう。地道に奴らの足跡を辿るほどの時間の猶予はない。何とか奴らのアジトを割り出せないか。」

 

「・・・なあ、敵の目的はアクアなんだろ?だったらもう一度、アクアに囮をやってもらうしかないんじゃないか?」

 

「ふぁっ!?」

 

「それは・・・、でもそれしか方法はないのか・・・?」

 

 ローズマリー達にとってカズマやアクアは異世界で居を提供してくれた恩人である。いや、そうでなくともデーリッチを救う為とはいえ、他の誰かを危険にさらしてよいものか?それは、デーリッチが何よりも嫌う方法だ。

 

 しかし、現状他に打つ手がないのも事実。と、ローズマリーが葛藤している間、場が静寂に包まれる。そんな中、屋敷を訪れる者がいた。

 

 

コンッ!コンッ!

 

「火急の用にて夜分遅くに失礼する!サトウカズマ殿はご在宅か!」

 

 カズマ邸の玄関をノックする音と家主を呼ぶ女性の声。

 

「あん?この声は・・・クレアか?任務途中ですっ飛んできたからその事か?でも一応ちゃんと断ってきたハズだが・・・。」

 

 カズマが怪訝そうな面持ちでドアに向かう。

 

ガチャッ

「良かった、居たかサトウカズマ!」

 

「こんな時間にお前自らどうしたんだよ?ちゃんと戻るって言っただろ?」

 

 何かと顔を会わせる度にケンカになる間柄。わざわざ屋敷に来てまで文句を言われては堪らないとカズマも少しキツい言い方をしてしまう。

 

「どうもこうもない!この魔物はキサマが使役しているのか!?」

 

「はあっ?魔物?」

 

 クレアが見せてきたのは鳥籠、の中に入れられたハムスターだった。

 

「あれ?お前はむすけじゃないか。何してたんだよ?」

 

「何でもなにもないやい!せっかく命からがら敵地から抜け出して来たっていうのに、コイツらボクを捕まえてこんな籠に入れてからに!」

 

 事情はよく分からないがえらく怒っている様子のはむすけ。ん?何かこいつ今トンでもないこと言わなかったか?

 

「なにっ!やはりキサマがこの魔物を操っていたのか!?コイツは魔王が現れたなどという妄言で王都を混乱に陥れようとした争乱罪の容疑がかかっている!そして身元を聞けばキサマの家を指定してくるではないか!キサマもそれに加担しているとなればタダでh・・・「クレア、ちょっとお前黙ってろ。」なんだとぅ!?」

 

 煩いクレアを黙らせ、カズマははむすけに顔を近づけて、今の言葉を確認する。

 

「・・・おい、はむすけ!お前今敵地から抜け出して来たって言ったか!?」

 

「どうしたのだ、カズマ?何か揉め事か?」

「何かあったの?」

 

 何やら揉めている様子にダクネスやローズマリー達も様子を見に来た。

 

「そうっスよ!あの時、ボクはデーリッチと一緒に拐われたけど、あいつらボクの存在に気付いてなかったから、スキを見て逃げ出してきたんだ!何とか皆と合流しようと街の人に話しかけてたらコイツらヒトのこと喋るモンスターだなんだって、冗談じゃないっスよ!」

 

 

「・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・・で。」

 

「で?」

 

「「「でかしたぞぉお!!はむすけぇ!!」」」

 

「な、何だ!?どういうことだ!?」

 

 思わぬ所から現れた救世主の登場に大歓声が上がる。一人事情が飲み込めないクレアが右往左往している。

 お前ヒトじゃないだろとか、今の今まではむすけの存在を忘れてたゴメンとか、そういうことはこの際、置いておく。

 

「はむすけ!敵のアジトに案内してくれ!」

 

「「「デーリッチ救出作戦だ!」」」

 

「誰か説明をしてくれ~!」

 

 

 

 

 デーリッチ救出作戦。あの時(、、、)と同じ様に大切な友達を救う為、大切な友達と共に歩む為、彼らは立ち上がった。

 




 前話で、(と一匹)てわざとらしく、しつこいくらいに書いてたのはこの為の伏線でした。文字数稼ぐ為じゃないよ!
 次回はデーリッチ視点、そしてついにあの人達が?


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第12話 デーリッチ救出作戦

 はむすたさんのブログでマクスウェル救済ストーリーを考えてるなんて話がありました。もしかしたら、この話のマクスウェルさんは正史から外れてしまう(既に外れてるけど)かもしれませんが、ご容赦ください。
 バトルシーンは書くのも読むのも苦手です。だって痛いの想像するの嫌じゃないですか。


~時は遡り 原初の森アジト~

 

「暫くこの部屋で大人しくしていなさい。」ポイッドサ

「むぎゅぅ~。」ゴロン

 

 魔王ヤサカセリネとの戦いに敗れた後、彼女に連れ去られたデーリッチ。ここが何処かは分からないが、光が射し込まずひんやりした床の感じから地下ではないかと思われた。

 デーリッチは意識こそ戻ってはいたが、手足を縛られた上、口を塞がれ魔法も使えず、戦いで受けたキズもそのままにボロボロの状態である。

 

(ローズマリー・・・みんな・・・ごめんなさい。デーリッチまた失敗しちゃった・・・。)

 

 心にあるのは親友と仲間たちへの贖罪。敵の目的は解らねど、こうして自分が連れ去られてることを鑑みれば敵は自分を狙って襲撃してきたことは明白である。まして撃退出来る余地があったにも関わらず情けをかけた挙げ句にこうして捕まってしまったのだ。

 

(でも・・・、諦めてなんかやらないでち!必ず助けは来る。デーリッチは、負けない!)

 

 しかし涙は流さない。少女は知っている。必ず仲間達が助けに来てくれることを。ならば自分のやるべきことは諦めないこと。キーオブパンドラさえ取り返せれば転移で脱出出来る。それが無理でも少しでも時間を稼ぐ、少しでも情報を集める。まだ戦えるから。

 今は芋虫の様な状態ではゴロゴロと転がることしかできない。それですら戦いで受けたキズに滲み、激痛をはしらせる。なんとか放られた部屋の状況を確認すると、幾つかの箱が積まれた簡素な倉庫のような部屋。扉には格子が嵌まった窓があるが、当然鍵はかかっているだろう。

 

(なんとか脱出を・・・、でもどうやって・・・?せめて体が動けば・・・。)

 

 デーリッチの基礎能力はその見た目にそぐわずかなり高い。魔法タイプとは言えそこらの冒険者など相手にならないほどで、本来なら紐縄くらいなら力ずくで引きちぎることも出来ただろう。

 だが、自分自身弱っている上、縛っている縄には魔法でもかかっているのか、ちょっとやそっとで解けそうもない。せめて塞がれている口さえ開ければ、回復魔法が使えるのだが・・・。

 と、デーリッチがゴソゴソともがいていると、スカートのポケットが一人でにモゾモゾと動いた。

 

(・・・!?)

 

 その生々しい不快感に冷や汗を足らす。暗くてジメジメした場所である。もしかしたらゴキブリでも服の中に入り込んだのかもしれない。こんなことになるなら食べかけのビスケットなんかポケットに入れとくんじゃなかった。以前チョコをポケットに入れたまま洗濯して他の洗濯物を汚してしまいローズマリーから大目玉を食らったこともある。言い付けを守らなかったデーリッチは悪い子です。ローズマリーごめんなさい。

 と、心の中で母親代わりの親友へ二度目の謝罪をしていたら、ポケットから一匹のネズミが飛び出してきた。

 

(?!)

 

「ふう・・・、息苦しかったっす。」

 

(お前、はむすけ!?)モガモガ

 

「しっ、今拘束を外すから黙ってるっす。」ヒソヒソ

 

 はむすけはデーリッチを拘束していた縄と猿ぐつわをその強靭な前歯で噛み切った。

 

「ヒール。助かったでちよ。ありがとう、はむすけ。でもお前、いつのまにポケットの中にいたんでちか?」

 

 デーリッチは自分の傷を癒しながらはむすけに問いかける。はむすけはいつも自分の頭の上の王冠の中が定位置だったはず。自分の記憶が正しければ、戦闘が始まって気付いたらいなくなっていたが、いつのまにポケットに潜り込んだのだろうか。

 

「あんな激しい戦いの中で頭に乗っていられるわけないだろう?途中で少し離れたとこからスキを窺っていたんだ。で、なかなかチャンスがないな~って思ってたら、デーリッチが連れ去られそうなったから、こっそりポケットに忍び込んで付いてきたのさ。」フフン

 

「いや、お前それ逃げてただけじゃないでちか。まぁ助けられたには違いないでちけど・・・。」

 

 ドヤ顔で武勇伝を語るはむすけに苦言を呈さずにはいられないが、結果的に助けられた身としてはそれ以上の言葉は飲み込んでおく。

 

「この後はどうする?」

 

 キズも回復したデーリッチ。後はここをどうにか脱出しなければならないが、どう動くべきか?

 

「はむすけはこの施設の出口は分かるでちか?デーリッチは意識が朦朧としててあまり覚えてないんでち。」

 

「いや、ボクもポケットに入ってたから外は見えてないっす。」

 

 建物の構造が分からないと脱出の成功率は大きく落ちる。何となく地下だということは分かるが、それは窓という脱出口が存在しない、つまり脱出経路の少なさを意味する。デーリッチが脱出を試みても出口までに発見される危険性はきわめて高い。デーリッチが自由に動けていることから、今度は、はむすけの存在にも気取られてしまうだろう。

「敵がまだはむすけの存在に気付いていないうちに、はむすけはさっさと脱出してしまった方が良さそうでちね。それで皆と合流して応援を呼ぶでち。」

 

「デーリッチ、それは・・・。」

 

 つまり、デーリッチはこの場に残るということ。敵のアジトの真っ只中で助けを待つということ。国王を自称するとはいえ、まだほんの10歳の少女があっさり下した決断。それが正しく合理的なものだとしても、小悪党のはむすけですら、すんなり受け入れるのには躊躇してしまう。そんな提案だった。

 

「なあに、デーリッチのことは心配いらんよ。うまく時間を稼ぐように立ち回るだけでち。」

 

 少女の腹は決まっていた。こんな子供が、この状況で自分の役割を理解していて、覚悟を決めていた。

 はむすけは、いつか悪徳サーカス団からどらごん君を助けて一緒に逃げ出した事を思い出す。ずっと解らなかった。天才である自分があの時何故、見つかる危険を犯してまでどらごん君を救う事を選んだのか。目の前の少女があの時の自分と重なって、その答えがようやく解ったような気がした。

 そしてかつての自分と重なった少女の提案に応えずにはいられなかった。

 

「わかった。ボクは急いで皆を連れてくる。デーリッチは・・・無茶するなよ。」

 

「お?はむすけがそんなこと言うなんて、どういう風の吹き回しでち?」

 

「う、うるさいやい!時間がないんだ、直ぐに行動するぞ!」

 

 真っ赤な顔で照れ隠しをするはむすけにデーリッチがニヤニヤしながら茶化す。

 

「デーリッチが自由になったことが分かると敵の警戒も強くなるハズっす。暫くは大人しく捕まったフリをしていた方がいい。幸い、ケガは治したといえ服はボロボロだし血の痕もそのままだ。グッタリしていれば相手に気付かれることはないだろう。拘束は自分で解ける程度に緩く絞めてカムフラージュしておくから、いざというときは自分で拘束を外すんだ。」

 

「成る程、わかったでち!」

 

 はむすけは落ちていた紐縄でデーリッチを縛ると、扉の鉄格子の隙間から外の様子を窺う。やはり相手も油断しているらしく、特に見張りはいないようだ。

 

(頼んだでちよ!はむすけ!)

 

 デーリッチが心の中ではむすけへエールを送ると、はむすけは振り返り、何も言わずに右手(右前足?)の親指を器用に立てると、ドアの外へ出ていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

~しばらくして原初の森アジト~

 

(はむすけは皆と合流できたでちかね。)

 

 はむすけが出ていってから体感で1時間は経っただろうか。デーリッチは少しでも外の様子を探ろうとドアの近くで外の音に聞き耳を立てていた。2度ドアの前を通過する足音が聞こえたが、この部屋に入ってくることはなかった。

 

(退屈・・・でち。)

 

 囚われの身でそんなことを思えるのは、彼女の器の大きさか、それとも仲間に対する絶対の信頼に依るものかは分からない。しかし、時間が経てば経つ程、自分に有利になるこの状況。既にある程度の時間は稼げたと思われる。少し楽観的になってしまったのだろう。

 

 

コツコツ・・・

 

(!)

 

 3度目の足音。しかし、このヒールを叩く足音には聞き覚えがある。ここに運ばれる時に朦朧とした意識で頭に響いていた足音。そう、魔王ヤサカセリネの足音である。

 それに気付いて、楽観した意識を切り替えたデーリッチは壁際から離れて最初に倒れていた辺りにモゾモゾと移動する。少しでも怪しまれなくするためだ。

 

 

「お嬢ちゃ~ん、起きてるかしら?まさか死んだりしてないわよね~?」ガチャッ

 

「ん~・・・」グッタリ

 

 軽い口調で入ってきた彼女は戦闘で着ていた赤いローブではなく、研究者然とした白衣を羽織っていたいた。その変化に反応することなく、デーリッチは精一杯の瀕死の演技で応える。

 

「よしよし、息はあるようね。これから貴女を研究室の方に移すわ。あなたと同じように連れてきたお友達もいるから楽しみにしてなさい。」

 

「むぐむぐ・・・。」モゾモゾ

 

「ふふっ、そんなナリで抵抗したって無駄なことくらい分かるでしょ?別に命を取るわけじゃないんだから大人しくしてた方が得よ?」

 

「むぐ・・・?」ピタッ

 

「まぁ、死んだ方がマシと思える状況にはなるけどね。」クスッ

 

「むぐぐ・・・!」モゾモゾ

 

 命を取らないと聞いて、一瞬抵抗を緩めたが、それ以上の苦しみを与えるという。瀕死の状態は演技とはいえ、その言葉にデーリッチの背には冷や汗が流れた。

 

 

―――――――――――――――――――

~研究室~

 

「さあ、研究室に着いたわ。これから貴女の体を調べさせてもらうわ。それが終わったら後はバイオ召喚装置のコアとして生かさず殺さず使い続けてあげるわ。」

 

「むぐ(バイオ召喚装置!?)!?」

 

 バイオ召喚装置。人間の持つマナを無理やり吸い取って巨大魔物を召喚する忌まわしき装置。かつて悪の召喚士マクスウェルが発明し帝都決戦で使用されたその装置は、大量の巨大魔物を召喚し、彼女達の世界を大混乱に陥れた。そしてそれは、帝国、ハグレ王国、妖精王国、エルフ王国、さらには傭兵団やかつて帝国と敵対していたサハギンやケモフサ村のハグレ達、大陸に住まう者全員が力を合わせることで撃退された。

 そして首謀者であった太古の森のリーダーマクスウェルは、ハグレ王国との最終決戦で自らが開発したバイオ鎧に取り込まれ、壮絶な最期を遂げたのだった。

 その忌まわしきバイオ召喚装置が何故ここに?偶々同じものがこの世界でも作られた?それともマクスウェルの関係者がこの世界に? 色々考えてみるが、その原因は解らない。ただ一つバイオ召喚装置に取り込まれることは避けなければならない。

 

(頃合いを見て逃げ出さないとマズいでちね。)

 

 デーリッチがふと周りを見ると管の通ったカプセルのような容器があった。多分、あれがバイオ召喚装置だろう。時計塔で見たグロテスクな内蔵器官の様な物ではなく、純粋な機械のような見た目だが、中には警察署で見た似顔絵そっくりな女の人がいた。おそらく彼女が依頼で捜索していたエリーさんだろう。他にも同じ物とおぼしき装置が幾つかあった。エリーさんの他にも連れ去られた人がいるようだ。

 

「ふふっ、あのカプセルが気になる?貴女もこれからあの中に入ってマナを吸いとられるのよ。先に色々調べてから、だけどね。」

 

 白衣を羽織ったヤサカは採血用の注射器を手にしていた。デーリッチはまだ動くべきでは無いと、それに耐えようと目を閉じてた。そして、針がデーリッチの腕に刺さろうとした瞬間、研究室に入る者がいた。

 

「その必要は無くなった。」ガチャッ

 

 入ってきた白衣の男の顔を見てデーリッチの顔は驚愕に染まる。つい先程、思い出していた男の顔がそこにあったからだ。

 

(マクスウェル!?)

 

「あら?所長自ら研究室に来るとは珍しいですね?何か問題でも?」

 

「ソイツが持っていたカギに見覚えがあってな。まさかと思ったが、お前達もこの世界に来ていたとはなぁ!ハグレ王国!」パァンッ!ドサッゴロゴロ

 

 所長と呼ばれたマクスウェルは寝台の脇に立つと、力を込めてデーリッチの頬を張り飛ばした。乾いた音と共にデーリッチは突然の打撃に受身も取れずに床に転がった。

 マクスウェルはデーリッチに噛まされた猿ぐつわを解き、胸ぐらを掴んで声を荒げる。

 

「答えろ。何でテメェらがココにいる?まさか俺を追ってきたってわけじゃあないだろう?」

 

「な・・・んで、マクス・・・ウェルが・・・?」

 

「あぁ?聞いてんのは此方だろうがよ?」ボコッ

「ごふっ!」

 

 今度はデーリッチの腹を殴り付ける。

 

「ハァハァ・・・、この世界に・・・来たのは、ただの偶然、でち。転送、事故で飛ばされたん、でち・・・。」

 

「はぁ?んな偶然があるわけねぇだろ?目的は何だ?吐けオラ。」ガッゴッ!

「ぐっ、がっ!」

 

 今度はデーリッチの顔を殴打する。切れて血が流れる口内から鉄の味がする。まだだ、まだ耐えられる。少しでも時間を稼がないと・・・。

 

「本当・・・でちよ。デーリッチも、驚いてる。」

 

「ちっ。まあいい。だが、都合が良かった。お前が持ち込んだキーオブパンドラ。これがあれば、俺の計画は一足飛びで完遂する。」

 

「計・・・画・・・?」

 

「一度は俺の計画を台無しにした罰だ。お前はシノブの代わりのバイオ召喚装置のコアとして俺の為に精々働くがいい。」

 

 デーリッチの言葉の真偽を探ることを止め、マクスウェルは脇にいるヤサカに、デーリッチをバイオ召喚装置に設置することを命じた。

 状況は一対二。脱出を試みようにも出口も分からない、圧倒的に不利な状況。弱っているように見えるのは、これまでは演技だったがマクスウェルの尋問で演技とは言えない程度にはダメージを受けてしまった。

 もう少し粘るべきか、しかし、バイオ召喚装置に取り込まれれば、ゲームオーバーだ。ならば、ここで行動するしかない。デーリッチは意を決して、身構える。

 

「ライトオブセイバー!」

「「!?」」ズサッ

 

 突如発せられた詠唱に反応し、マクスウェルとヤサカはその場を飛びずさり攻撃をかわした。

「ちっくしょ~ハズしたか。完璧なタイミングだと思ったんだけどなぁ!」

 

「カズマお兄さん!」

 

 潜伏で接近してからの必殺魔法。こんなえげつない攻撃をしてくるようなゲスは数多いる冒険者の中でも一人しかいない。彼はその型破りのゲスさで魔王ヤサカキョウイチを葬った最も新しい伝説。最も新しい勇者、サトウカズマ。その人である。

 

「カズマだと!?まさか勇者サトウカズマか!?」 

 

「何だテメェらは?どうやって入ってきた?」

 

「クッサ!アジト入ってから悪魔臭プンプンしてたけど、コイツが一番クッサいわ!鼻が曲がりそう!」

 

「ああ?誰がクサイだコラ!」

 

 カズマに続いてアクアが顔を出す。率直な発言が丁度良い挑発になったようで、マクスウェルの意識はアクアに向けられた。

 

「マリオンストレート!」ギュン!ドゴォ!

「ごはっ!」

 

 そして、そのスキを突いてマリオンの必殺パンチがマクスウェルに炸裂した。壁に打ち付けられたマクスウェルは直ぐには立ち上がれない程のダメージを追った。

 

「何なのよ貴女たち!?どうやってここに!?見張りの悪魔どもは何をしているの!」

 

「さあな?そのうち物音に気付いて駆けつけるんじゃねえの?」

 

 カズマに注意を向けると今度は横からゆんゆんが飛び出す。

 

「ライトニング!」バシュッ

「カースド、ライトニング!」バシュン

 

 ゆんゆんが威嚇でライトニングを放つとヤサカは反射的に使いなれた上級魔法カースドライトニングで受ける。が、魔王といえど上級魔法には一瞬のタメが必要で、それが致命的なスキとなる。

 

「フルパワータックル!」ドッゴォ!

「ぐふっ!」

 

 その一瞬を見逃さないのがハグレ王国である。側面に回り込んだニワカマッスルの全力のぶちかましが決まりヤサカもスタン状態となる。

 

 

「「マクスウェル様!」」

 

「アイス!」

「ソードダンス!」

 

「ぐわぁ!」

 

 外にいたと思われる手下の悪魔達が駆け付けるが、福ちゃんとミツルグの連携に阻まれる。

 突然顕れては、あっという間に研究室を制圧してしまったカズマ達。

 

「「「助けに来たよ!デーリッチ!」」」

「みんな・・・。」

 

 デーリッチは涙を浮かべて仲間達を迎える。が、戦いはまだ終わっていなかった。

 

「ったくよお、相変わらず目障りな奴等だなぁ!テメェらはよお!」

 

 まるでダメージがなかった(、、、、)かのように立ち上がるマクスウェル。

 

「諦めなさいマクスウェル!この人数を相手に勝ち目はありません!アジトの外にも私達の仲間や騎士団が囲んでいます!逃げ場はありませんよ!」

 

 カズマ邸で無事に仲間たちと合流したはむすけが案内したのは王都の外れにあるとある悪徳貴族の別荘だった。有力な情報を得てクレアは直ぐに騎士団を揃えて突入しようとしたが、ローズマリーがそれを止めた。敵がはむすけの存在に気付いていないなら、此方の突入も敵に気づかれないようにして不意を突くべきだ。という提案に乗り、カズマの潜伏とゆんゆんのライトオブリフレクションの重ねがけにより、隠密性を極限まで高めた潜入作戦は見事に成功したと言えるだろう。

 ここまでは。

 

「あぁん?諦める?何をだ?お前らみたいなザコが何を諦めさせてくれんだ?」ゴォォォ

 

「うぐぅっ!なに・・・これ・・・?」ガクッ

 

 悪魔の気配に誰よりも敏感なアクアがマクスウェルが放つ底知れない邪気に当てられ、嗚咽を漏らす。

 

「あんまりこの力(、、、)を使うと代償(、、)がデカいから控えていたが、悪感情はこれからいくらでも(、、、、、)補充出来るからな。」ゴゴゴゴゴ

 

「何?これは・・・?」ブルッ

 

 今まで様々な禍神や悪魔と対峙してきた福ちゃんですら感じたことのない邪気を受けて知らぬうちに体に震えが走る。

 

「さて、散々俺の計画を邪魔してくれたお前らには最高の絶望〈エサ〉になって貰おうか。」

 

 体は黒い靄に覆われ、背には漆黒の羽根、手には鋭い爪。されど頭部はそのまま。その歪な姿は見る者全てにが嫌悪感を与える。

 

「マクスウェルその姿・・・・、やはり貴方は!」

 

「あん?見りゃわかんだろ?」ザシュゥ!

「がっ、は!」ドサッ

 

「「福ちゃん!」」

 

 マクスウェルが答えると同時に福ちゃんの胸部から鮮血が飛ぶ。不可視の一撃に構えることすら出来なかった福ちゃんはその場に崩れ落ちる。

 

「次はさっき殴ってくれたガキだオラぁ!」ヒュッ!

「なっ!?がっ!」バキィィッ!

 

「マリオンちゃん!?」

 

 今度はマリオンに見えない一撃が突き刺さる。たった一撃でマリオンの生体部品に深刻なダメージを刻み込む。ハグレ王国は自分達の最高戦力が一瞬で沈められたことで一様に動揺が走る。

 しかし、それでも彼らの瞳は絶望に染まることはない。

 

「私とニワカマッスルが前に出る!皆は一度引いて立て直せ!デコイ!」

「漢の仁王立ち!」

「頑張って!ダクネス!マッスル!アーマード!」

「リカバー!」

 

 ダクネスとマッスルが前に出て仲間を庇う体制を取りアクアが防御支援魔法を重ねる。この世界に並ぶ者が無いほどの堅さを誇る最強の二枚盾が完成する。そのスキにデーリッチの全体回復魔法で体制を立て直す。

 

「無駄無駄無駄ぁ!」ドッ!ゴォ!バシュッ!

「くっ・・・なんという攻め!ああ!」バキィィッ!

「ライトニングストライク!」

「ラウンドリップセイバー!」

「ダクネス!ヒール!」

 

 ダクネスが倒れるも、その間にゆんゆんとミルルギによる波状攻撃。

 倒れては仕掛け、仕掛けては倒れ、激しい攻防が続くも状況は変わらず膠着常態となる。

 

「インフェルノ!」

「うおぉぉぉらぁあ!」

 

 その合間にヤサカも復活して上級魔法で攻撃をしてくる。何とかマッスルが耐えるが、マクスウェル側に手数が増えた状況は完全にジリ貧となっていた。

 しかし、マクスウェルは自分が優勢にも関わらず、何故か苛立っていた。

 

(ちっ、ザコの分際でしぶとい。このまま続けていけばそのうち潰れるんだろうが、この状況でこいつらは自分達が負けることを、絶望の悪感情を、微塵も感じていないのが気に入らない。何故だ?何が奴らを動かしている?)

 

 戦闘力では圧倒するものの、押しきれない状況に、マクスウェルは一度冷静に相手の布陣を見直す。そして、ある事に気付く。

 

(奴らが守るように控えるあのガキ、そして勇者サトウカズマ、か。どう見ても、奴らの中でも役立たずにしか見えないが、その存在が奴らの心に希望を生んでいるとしたら・・・。)

 

「そうか、分かった。」ニヤ

 

 マクスウェルは醜く口を歪め、大きなカギを手に取った。

 

「それは、デーリッチのキーオブパンドラ!?何をする気だ!?」

 

「テメェらは殺しても蘇生魔法でポンポン生き返りやがるからなぁ。お前らの希望を消し去る方法を考えたってわけだ。」

 

「何だって!?」

 

「次元の扉よ開け!ゲートオープン!」

 

「「「!?」」」

 

 マクスウェルがキーオブパンドラを高く掲げて叫ぶと、目の前に黒い点が現れ、それは次第に大きくなり直径2メートルを越える大きな穴となった。

 デーリッチはその穴に見覚えがあった。かつてザンブラコ洞窟で巨大タコすら飲み込もうとした、そして時計塔ではあの魔導の巨人と呼ばれたシノブを窮地に追いやった次元の穴。

 そして、その穴は明確にデーリッチを狙って放たれた。

 

「じ、次元の穴が飛んでくる!?」

 

「この体になるとこんなコントロールもできんだよ!そのまま異世界に消えちまえぇ!」

 

「わ、わ、吸い込まれるでち!避けれない!」

 

 次元の穴は周辺を吸い込みながら少しずつデーリッチに近付いていく。デーリッチは何とか机にしがみついて堪えるがそこから動けない。

 

 

「アイス!あれが、あの時の穴と同じ物なら攻撃を当てれば威力が弱まるはず!皆!集中攻撃を!」

 

「ライトニングストライク!」

「ライトオブセイバー!」

「マリオンストレート!」

「フルパワータックル!」

「シャイニングボルト!」

 

 福ちゃんの指示でこの場にいる全員で総攻撃を当てる。

 しかし、次元の穴は止まらない!

 

「な、なんで!?効いてない!?」

 

「あの時は最初にキーオブパンドラで次元の結界を破ったから攻撃が通ったんでち!でもキーオブパンドラが!」

 

「ギャーッハッハ!そのまま吸い込まれちまえ!」

 

「結界?だったら・・・アクアッ!!」

「え?私?」

 

「お前なら結界ぶっ壊せんだろ!早くしろ!」

 

「そ、そうだったわ!行くわよ!セイクリッドォスペr「おっと、そうはさせねぇよ!」ザシュッ!ごふっ!」

 

 結界破壊魔法の途中でマクスウェルの凶爪がアクアの胸を貫く。アクアはその場に崩れ動かなくなる。

 

「おいアクア!?しっかりしろ!おいったら!!」

 

「ごほっ、カズ・・マ、ごめ・・・んね。これ、ダメ、みたい。」

「おい!ダメって何だよ!?アクア!ヒール!ヒール!ちっくしょう俺のヒールじゃ間に合わねぇ!誰か回復魔法使えるのは・・・。」

 

 カズマは仲間を見渡す。回復魔法が使えるデーリッチは次元の穴に引っ張られ、福ちゃんは穴を挟んで部屋の反対側。他に回復魔法が使える仲間はいない。そして皆少なからず穴に引っ張られているせいでこちらに回り込むことは出来そうにない。

 

「ウッソだろ?おい、お前女神なんだろ!?こんなとこで死ぬんじゃねぇよ!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!ヒール!畜生MPが!」

 

「カズ・・・マ、私・・・より、敵を、あんた勇者、なんだから。」

 

「こんな時だけ勇者なんて呼ぶなよ!てか、喋るな!」

 

「おいおい、感動の場面の最中にわりぃけどよ、お前には存在ごと(、、、、)消えてもらわなきゃなんねぇんだわ。ほらもう1個、ゲートオープン!」

 

「何だと!?」

 

 マクスウェルは更にもう1つ次元の穴を呼び出し今度はそれをカズマに放り投げる。至近距離から放たれたそれは堪える間もなく、あっという間にカズマを暗黒に引き込む。

 

「ちっくしょおぉぉお!うごけねぇぇえ!」

 

「「「カズマ!!」」」

 

「ギャーハッハッハ!そのまま消えちまえ!勇者ぁ!」

 

「ア・ク・・」キュウゥゥゥン

 

 そして、カズマは次元の穴に飲み込まれた。まるで其処には元から誰もいなかった(、、、、、、、、、、)かのように。

 

「さあて、一丁上がりっと。そっちもそろそろ限界じゃねえか?そっちのクソ女神もお陀仏したみたいだなぁ?」ゲラゲラ

 

 デーリッチの方も仲間たちによる次元の穴への攻撃が試みられるが、効果は薄く、尚も次元の穴はデーリッチに向かっていった。

 

(このままじゃ・・・どちらにしろ避ける手はない、でも、せめて・・・。)

 

 デーリッチは何を思ったか、しがみついていた手を離し、その両手をアクアに向けた。

 

「レイズ!」

 

「「「デーリッチ!?」」」

 

「ごほっ!なん、で、デーリッチ・・・!」

 

 デーリッチのレイズでアクアが息を吹き返すが、両手を離してしまったことで今度こそデーリッチは次元の穴に吸い込まれてしまった。

 

「「「デーリッチ!!」」」」

 

「みんな、ごめんなさい・・・!でもデーリッチは大丈夫だから!絶対に戻ってくるから・・・!!だかr・・・」キュウゥゥゥン

 

「ギャーハッハッハ!お二人目ごあんな~い!ってか!」ゲラゲラ

 

「てめえ、よくもデーリッチをぉぉ!」

 

 尚も下卑た笑いで挑発してくるマクスウェルにニワカマッスルが捨て身のタックルを仕掛ける。

 

「おせぇよ。」ヒョイ

 

 が、冷静さを欠いた攻撃はいとも容易くかわされてしまう。

 

「さてと、テメェらの心の拠り所って奴は無くなったわけだが、そろそろ終わらせてやるよ!」

 

(ダメ・・・、このままじゃ全滅する。私に出来ること、これしか・・・でも・・・。)

 

「??・・・!ゆんゆんちゃん!お願い!」

 

 ゆんゆんが何か躊躇する様子に福ちゃんが気付き、その意図を理解して、促す。

 

「福ちゃん・・・はい!」

 

「お?何だ?まだ足掻くのか?そろそろ諦めろや。なあ。」

 

「行きます!テレポート!もう一回!テレポート!」シュシュン!シュシュシュン!

 

「何だと!?」

 

 高等魔法テレポートの連続詠唱。優秀なアークウィザードが揃う紅魔族の中でもこんな芸当が出来るのは何人いるだろうか。本来4人までしか転送できないテレポートで無理矢理それ以上の人数を送る超高等技術だ。普段めぐみんに付き合って長距離のテレポートを毎日のように使用して熟練度を上げまくったゆんゆんだからこそ使えるようになった。

 

「ちぃ、逃げられたか!」

 

「外の騎士団や奴らの残党と合流するつもりでしょう。先に外を掃除しておきますか?」

 

「いや、いい。折角外に集まってくれてるんだ。このまま次の計画を進めて奴らの絶望に染まる面を見てやろう。」

 

「次の計画?それにはまだ生け贄が足りなかったかと思いますが?」

 

「必要がなくなった、と言っただろう。このキーオブパンドラがあればな。」

 

「そのカギにはそれほどまでの力が?」

 

「そういうことだ。さあ、召喚装置を起動させろ!」

 

 マクスウェルの計画は新たなステージへ進む。

 

――――――――――――――――――――

 

~王都の外れ原初の森アジト前~

 

「ローズマリーさん!」

「福ちゃん!?どうしてここに!?作戦は!?」

 

「作戦は・・・失敗しました。マクスウェルは想定を遥かに越える強敵でした。私達はマクスウェル、ヤサカとの戦闘に敗北。そして・・・デーリッチちゃんが・・・。」

 

「デーリッチが!?」

 

「マクスウェルの手によって異世界に飛ばされてしまいました・・・。」

 

「くっ・・・、何てことだ!」

 

「マリー!カズマが!カズマも異世界に飛ばされちゃったの!」

 

「カズマ?誰のこと?」

 

「!?なに言ってるのよマリー!カズマよ!ゲスでいつも女の子にセクハラすることしか考えてないサトウカズマよ!」

 

「アクア達の仲間にまだ私達が知らない人が?」

 

「私もサトウカズマなんて人は知りませんよ?」

 

「めぐみん!?めぐみんまでどうしちゃったの!?ふざけてる場合じゃないのよ!?ねぇったら!」

 

 ローズマリーもめぐみんも、福ちゃんもまるでサトウカズマという人物がそこにいなかったかのような様子にアクアが混乱する。

 しかし、そのことを考える間もなく、事態は更に混沌を極める。

 

「おい!なんだあれは!?空に!」

 

「「「空?」」」

 

 一同が一斉に空を見上げる。其処には何か巨大な物体が浮かんでいた。

 

「何だあれは・・・城!?」

 

「見覚えがある・・・、まさかあれは・・・パンデモニウム!?」

 

 月明かりを背景にうっすら見えるそれは巨大な城。段々と目が慣れてその全容が分かると、更にその城を背にした巨大な人の姿が映し出される。そして、徐々にその人物の像がはっきり見えると、それが先程戦っていた相手、マクスウェルだと分かった。

 空に浮かぶ巨大なマクスウェルのシルエットは口を開き、そして宣言した。

 

『こんばんは、愚かなる王と、それに従う愚民どもよ。我が名はマクスウェル。悪魔公爵マクスウェルだ。』

 

「マクスウェル・・・一体何を?」

 

『愚民どもよ、絶望せよ。我は今ここに、世界征服の完了を宣言する!』

 

 ――そして世界は、絶望に包まれた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

~とある森~

 

 険しい山道を一人の少女が歩いている。年の頃はわずか12~14程であろうか。背には矢筒、右手に弓、腰には剣を携え、武装はしているが、魔物も発生する危険なこの場所には似つかわしくない人物だ。

 しかし、彼女はそんな道を鼻歌混じりに歩を進め、時折遠目に獣を見つけては矢を放ち、一撃の元にそれを葬る。大好きな〈おねえちゃん〉達に教わった狩りの腕はメキメキと上達し、〈おねえちゃん〉の家の裏山なら一人で入っても大丈夫だとお墨付きを貰えた程だ。

 少女は初めての単独行にウキウキとした気分で道を進んでいた。

 

 

ドサッ

 

 

「ん?何だろう、今の音?雪なんかもう残ってないし。お猿さん〈おねえちゃん〉が木から落ちでもしたのかな?」

 

 本人に聞かれたら怒られそうなルビを冗談混じりにつけながらも、周囲の状況に気を巡らす。単独行ではちょっとした不測の事態が大事に至ることもある。

 発言とは裏腹に、真剣な面持ちで音のした方へ向かう。そして見つけたのは・・・。

 

「女の子?何でこんなところに?って、酷い怪我!急いでべネットおねえちゃんの家に運ぼう!」

 

 気を失っている女の子にヒールで応急措置だけ施し、少女はその子を背に担いで、急いで山を降りていった。

 

 




 話の切れ目としてはこれで1章完て感じでしょうか。どうもこの数話上げても評価とお気に入り数が変動しなくなっててちょいと寂しい。みんな気軽に評価してくれてもいいのよ?
 ちなみに世界征服宣言については、これエルフを狩るモノたちまんまやん、て突っ込んだ方握手。エル狩はファンタジーギャグ漫画としては最高傑作だと思ってますので、どっかで使いたかった。3話辺りで察した方もいるかと思いますが、この後ちょっと胸くそな展開もあるので要注意。
 しかし、マクスウェルさん強すぎですね。どうやって倒すんだろこれ。(まだ考えてない)


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第13話 チームべネット

 ちょっと半端なとこで切れちゃうけど、文字数行ったので分割。
 アナンタさんかっこいいよアナンタさん。レイチェルとかツンデレーデさんの登場を期待してた方はごめんなさい。


~神界 ラヴァーズ宮殿~

 

「・・・というわけでございまして、不慮の事故で異世界に飛ばされてしまった福の神様と、その圈族の皆さんを元の世界に還す為、ラヴァーズ様の御力をお借りできないかと思い、参上致しました次第でございます。」

 

 エリス様は神座に佇む上位神ラヴァーズ様の前に片膝を立てた姿勢に恭しく頭を垂れ、厳かに謁見に臨んでいた。

 

「へ~ふ~ん・・・ププッ。」

 

 しかし、エリス様の陳情を聞いていたラヴァーズ様は何故か意地の悪い顔で笑みを漏らしていた。

 その様子に気が気でないエリス様は無礼と分かってはいたがおずおずとラヴァーズ様に問いかけてしまう。

 

「あ、あの・・・私なにか粗相をしてしまったのでしょうか?」

 

「ん?あ~違うわよ?エリスちゃんのことじゃないのよ。しかし、いや~あの女ギツn・・・もとい抜け目ないフクちゃんがね~。カニカマチャーハンの件で散々バカにしてくれたバチが当たったのね。きっとそうだわ。」

 

「カニカマチャーハン?」

 

「おっと、声が漏れてたわね。まぁフクちゃんとは長い付き合いだし恩を売・・・じゃなくて、協力の手は惜しまないわ。」

 

「は、はあ。ありがとうございます。」

 

 何だか腑に落ちないがラヴァーズ様の協力を得られることになったエリス様は(パット入りの)胸を撫で下ろしていた。

 

「え~と、じゃあエリスちゃん。これから地上に行くから一緒についてきてもらえるかしら?」

 

「え?地上・・・ですか?」

 

 神力を行使するならば神界であるこの場所が最も力を発揮しやすいはず。わざわざ神の力が制限されてしまう地上へ向かうことにエリス様の頭には疑問が浮かんだ。

 

「そ、私の自慢の娘達を紹介してあげるわ!」

 

「はあ・・・え?娘!?」

 

 神界の重鎮にして絶世の美貌を誇る愛の女神ラヴァーズ様に子供がいるなど聞いたこともない。かつては美の神フレイヤ派と愛の神ラヴァーズ派に神界が二分され、あわやラグナロクが起きかけたという伝説が残っている。もし他の神々に気付かれぬように子供が出来ていた、なんてなれば神界を揺るがす大スキャンダルである。

 エリス様はその爆弾発言に思考が停止し、固まってしまった。

 

「じゃあちょっと行ってくるわね!カンヘル!留守をお願いね!」

 

「かしこまりました。」

 

 ラヴァーズ様は宮殿の守護者カンヘルに申し付けをすると、驚きの事実に固まっているエリス様の手を引いて宮殿の入口に設置された魔法陣から地上へ旅立っていった。

 

――――――――――――――――――

 

~だんじょんむら情報屋~

 

 ここは平和なだんじょんむら。村外れにある巨大なダンジョンの攻略を目当てに冒険者が集まり、その冒険者相手への商売を生業とする村。つい最近そのダンジョンを舞台に、世界の行く末を決める死闘が最強の冒険者パーティと世界の調整者との間で行われたりもしていたが、それを知る者はごくわずかである。

 

「女の子を拾ったんだって?べねっち?」モグモグ

 

 件の最強の冒険者パーティ、チームべネットのリーダー(?)、アナンタは日課となっている岩砕きトレーニングを終え、お昼ご飯に大好物のカレーライス(四杯目)を頬張っていた。

 

「犬猫みたいな言い方するな。それに連れてきたのは私じゃない、アイだ。」

 

 チームべネットのリーダー、べねっちことべネットは、いつも通りの不機嫌そうな顔でぶっきらぼうに答える。チームの頭脳でもある聡明な彼女は、これから巻き起こるであろう騒動を予見して溜め息を吐いていた。

 

「べねっちがここにいるってことは命に別状はないんだろう?なんでそんな憂鬱そうな顔をしてるんだい?」スミマセーン!オカワリー!

 

 幼い頃からの付き合いである。アナンタは目の前のカレーライスに集中しながらもそんなべネットの様子を見逃さず、その理由を聞く。

 

「アンタ、まだ食べるの・・・。あぁ、まぁその子はまだ気を失ったままだが、今はシズナが診ているから大丈夫だ。」

 

「シズナちゃんが?そりゃ大変だ。マオちゃんが旅立ってからアイちゃんへの溺愛ぶりにブレーキが効かなくなってたし、その子可愛がり殺されたりしないかな?」

 

 幼き元魔王マオちゃん。彼女はこの世界の先代魔王アールマザーによって産み落とされた最後の子。しかし、六魔の一角である九尾の傀儡として利用された挙げ句、九尾の計画の犠牲となり死に瀕したところをチームべネットに救われた。そして、それ以来新米冒険者としてだんじょん村で活動していたが、先日元魔王という肩書きに注目した宇宙商人にスカウトされ、マオちゃん自身も一人前の冒険者として故郷に錦を飾るべく新たな世界に旅立っていった。ついでにシズナの自称ライバルを名乗るツンデレーデ・・・もとい、アデライーデもお宝目当てに付いていったそうな。

 可愛いものに目がないチームべネットの自称甲賀プリーストのシズナも、その旅立ちを涙を飲んで見送った。しかしそれからというもの、行き場を失った愛情の矛先がアイちゃん一人に向かうことになってしまったのだ。

 

「可愛がり殺されってお前・・・、いやしかし今のシズナならあり得るか。料理だけはさせないように釘を刺して・・・って、違う違う。そうじゃない。そんな心配はしてない。」

 

「??じゃあなんなのさ?」モグモグ

 

 アナンタはわりと本気で、その子が可愛がり殺されることをべネットが心配してると思っていたらしい。怪訝な顔で再度問う。

 

「考えてみろ。魔物が出る山に普通の女の子がいるわけがないだろう。ましてうちの裏の山なんて街道もないし近くにはだんじょん村しかないんだ。迷い込んだにしても不自然にも程がある。何よりもその子の服装だ。」

 

「服装?」モグモグ

 

「ああ。焦げ痕と血でボロボロだったよ。明らかに自然についたモノじゃない。」

 

「!!」カチャン

 

 始めてアナンタがカレーライスを食べる手と口を止める。

 

「それって、つまりその子が何者かに襲われていたってこと?」

 

「そういうことだろうな。まぁ、アイがその子を見つけたときにはそれほどの大怪我はしていなかったらしいから、気を失う前に回復魔法だけでも使ったんだろう。だが、命は助かったとはいえ、あまり穏やかな話にはならないだろうな。」

「なるほど、事件の匂いがするね。まぁ、どんな事情であれ女の子を傷つけるような奴がいて、助けが必要な子がいるんだ。私たちがやるべきことは決まってるさ。」モグモグゴチソウサマデシタ!

 

「ま、そういうことだな。」

 

 実に5杯ものカレーライスを平らげたアナンタがその瞳に焔を灯して席を立つ。向かう先は当然、べネットの家。

 

――――――――――――――――――――

 

~べネットの家~

 

 べねっちの家は公民館や冒険者ギルドがある村の中心部から西に外れた山の麓にある。喧騒を嫌いながらも心の奥底では孤独を恐れる寂しがり屋な側面も持つべねっちは、村から適度に離れたこの距離感が気に入っているようだ。

 みたいなことをべねっちに言ったら真顔でぶっ飛ばされた。まったく、べねっちったら、この照れ屋さんめ。ってこら、早苗さんアローはシャレにならないから仕舞いたまえ。いやマジで危ないからそれ。即死武器だから。おいこら!私が悪かった!謝るからそれしまって、ほら。ごめんなさい!

 そんなこんなで、いつものように友情を確かめあっていると、べねっちの家が見えてきた。

 

「ただ~いま!」ガチャ

 

「おいこら、お前の家じゃないぞ。」

 

 幼少の頃から幾度となく敷居を跨いだアナンタにとっては最早自分の家とも相違ない。まさに勝手知ったるお前んち。

 

「あら、お帰りなさいアナンタにべネット。」

 

「お姉ちゃんたちお帰りなさ~い。」

 

「だから、この家は私の家だと・・・まぁいい、シズナ、その子の様子はどうだ。」

 

 べネットは溜め息混じりに件の少女を見ながらその様子を確認する。

 

「外傷は軽いものだし、直に目を覚ますとは思うんだけど・・・、余程怖い目に合ったのか、時折魘されてるのが気になるわね。」

 

「魘されてる?」

 

「寝言でね、『ごめんね、失敗しちゃった』って何度も何度も謝ってるんだ。こんな小さな子がこんなに思い詰めて・・・きっと何か余程のことがあったんだよ。」

 

 少女を拾ってからずっと付き添っていた雪女一族の末裔、アイちゃんが代わって応える。

 

「う~ん・・・ローズ・・・マリー・・・ん・・・む?」パチッ

 

「!!!」

 

「ここは・・・?知らない天井でちね?」ムクッ

 

 ここにはいない親友の名を呟きながら少女は目を覚ました。まだ状況は掴めていないが直前まで気を失っていたとは思えないほどには寝起きは良さそうだ。

 

「私はべネット。ここはだんじょんむらの外れにある私の家だ。ウチの裏の山でお前が倒れていたのをそこのアイが見つけて拾ってきた。少し怪我をしていたようだから回復魔法はかけたが、まだどこか痛むところはあるか?」

 

 あまり人との距離感を掴むのが上手くないべネットは少し無愛想ながら少女の体調を伺う。

 

「!!なんと、デーリッチは気絶してしまっていたんでちか・・・。おねえさんたち、助けてくれてありがとうございますでち!体の方はこの通り、大丈夫でち!」ブンブン

 

「か、かわいい!!」ダキッギュー

 

「わ、わ、なんでちか!?」

 

「かわいい!かわいい!」ハグハグナデナデ

 

 ぼんやりした意識がハッキリしてきて自分が助けられたことを知ると、丁寧にお礼を口にするデーリッチ。そしてその子供らしい健気な様子をいたく気に入ったシズナが辛抱たまらんと本能に任せてギューっとハグをする。デーリッチも突然の出来事に驚くが、相手が恩人ということもあり、無理矢理引き剥がすこともできずに成されるがままになっている。

 

「く、くるしい・・・でち。」

 

「こ、こら、シズナちゃん!相手は病み上がりなんだから負担かけさせちゃダメだって!」

 

「はっ!?私としたことが、冷静さを見失ってしまった!?」

 

「かわいいものを前にしてキミが冷静だったことなんかないだろうに・・・。」

 

「そんなことないわ。あっそうよ!ねぇあなた、お腹は空いてないかしr「あ~!シズナちゃん!ご飯はね、べねっちが用意してくれる事になってるから大丈夫だよ!ね!べねっち!?」

 

「お、おう。シズナはその子を診てやっていてくれ。その方が安心だ。食事の支度は任せろ。」

 

「そお?じゃあお願いするわね。べネット。」

 

 極めて自然な流れで危険な発言をするシズナを見事な連携を駆使して全力で封じ込めるアナンタとべネット。

 シズナの料理センスは人智の域を越えている。ある時は豚カツを作ろうとしてパン粉がなかったから代わりにチョコレートでコーティングしたとか、またある時はコーヒーに生のイカを丸ごと入れてゲソコーヒーとかいう異次元物質を産み出したりとか。発想が突飛すぎてそれを受け入れられるのはおそらく同じレベルの天才だけであろう。どんなに辛いことがあっても、明日にはきっと花が咲くと信じていつも笑っていたあの第一勇者候補のレイチェルでさえ、その料理を前にして生まれて初めて涙を流したことは、既にダンジョンむら伝説として語り草となっている。

 

「ところで私たちの自己紹介がまだだったね!私はアナンタ、今話をしていたのはべねっち、キミに抱き付いていたのがシズナちゃん、キミを拾ってきたのがアイちゃん、私たちはこの4人でパーティを組んでこのだんじょんむらで冒険者をやってるんだ。キミはどうして山で倒れていたんだい?」

 

「だんじょんむら・・・?う~ん・・・やっぱりここは・・・。あ、デーリッチはデーリッチというでち。あの、おねえさんたちはベルゼルグ王国って知ってるでちか?」

 

 聞き慣れぬ地名に自分の置かれた状況を察したデーリッチは、自身の体感では先程まで自分がいたハズの場所について訪ねる。

 

「ベルゼルグ王国?聞いたこともないな。シズナは知らないか?」

 

「私も聞いたことない地名ね。よほど遠い国なのかしら?」

 

 しかし、帰ってきた答えは残念ながら想像した通りだった。デーリッチはマクスウェルが作り出した次元の穴に吸い込まれ別世界に飛ばされたということだろう。デーリッチ自身もあの世界には1週間と少し程度滞在していただけだが、さすがに同じ世界の人で魔王軍と対峙していたという大国を知らないということはないだろう。「そう・・・でちか・・・。」

 デーリッチの思考はその事実に辿り着き表情に陰を落とす。ここが異世界だと分かったとして力なき自分に何が出来るというのか。

 キーオブパンドラを奪われ、頼りになる親友も王国の仲間もいない。異世界で新たに友となった勇者と愉快な仲間たちもいない。あるいはカズマは同じ世界に飛ばされた可能性もあるがそれを捜索する手立ては今のところ、ない。

 知らずデーリッチの目には涙が浮かぶ。

「ごめんね、みんな。でも、デーリッチは、絶対に・・・。だから・・・!」

 

 しかし、涙は雫となる前に拭われた。

 デーリッチは子供である。普段は仲間に意地悪されては泣かされることなんてしょっちゅうである。ローズマリーに叱られておやつ抜きにされた時にはわんわん泣いている。そんな年相応な感情を持つ子供である。

 デーリッチは国王である。お人好し王国の王様の仕事は王国民を一人残らず笑顔にすることである。皆を笑顔にするためには絶対に泣いてはいけない時がある。不安なとき、絶望に負けそうなとき、皆を元気にする為には泣いてはいけない。そんな年不相応な理性を持つ国王である。

 ハグレ王国民はそんな子供のデーリッチが大好きで、そんな国王のデーリッチを敬愛している。

 だから、苦しいときにデーリッチは泣かない。皆の笑顔が見たいからデーリッチは辛くても笑う。そして諦めない。歯を食いしばって溢れそうな涙を我慢する。

 

「う~ん・・・、話しづらいことなのかな?私たちのことは信用してくれていいよ。荒事にも慣れてるし。」ニカッ

 

 辛そうな顔をするデーリッチに向けてアナンタは目線の高さを合わせて笑いかける。その世界の全ての絶望を照らす太陽のような笑顔にデーリッチは引き込まれる。

 それは、たった今デーリッチが見失いかけた自分が理想とする王様の姿。自分の心に浮かぶ陰を照らしてくれた笑顔に、デーリッチも彼女達ならば助けを得られるかもしれないと、話してみることにした。

 

「・・・突然こんなこと言って信じてもらえないかもしれないでちが・・・、デーリッチはこの世界の人間じゃないんでち。別の世界から飛ばされてきたんでち。」

 

 デーリッチ達の世界では召喚魔法で呼び出された者も事故等による異世界からの来訪者もまとめてハグレと呼ばれ、大なり小なり世界にトラブルをもたらす厄介者として扱われている。また、カズマ達の世界の様に異世界に対する見識のない世界で異世界から来ただのと公言していたら頭のおかしい人間だと思われてしまう。

 デーリッチは異端と蔑まれる可能性を危惧しておそるおそるといった様子で身の上を打ち明ける。

 

「異世界?あ~もしかして裏ダンジョンから迷い混んで来たのかな?まったく、女神さまにはちゃんと戸締まりをするよう言っておかないと。道理で知らない国の名前が出てくるわけだよ。」

 

「えっ?いや、驚かないんでちか?というか裏ダンジョンて?」

 

 数秒前の自分の覚悟は何だったのか。デーリッチは想定以上に軽いノリで返された挙げ句に、ダンジョンの戸締まりとかいうスケールが大きいのか小さいのかよくわからない話についていけず、質問を重ねてしまう。

 

「裏ダンジョンていうのは、元々この村の名物だった表のらんだむダンジョンとは別に、ダンジョンの神様が新しく創ったダンジョンなんだ。天界とか異世界とか色んな世界に繋がっちゃってるからたまにキミみたいに迷い混む人がいるんだ。」

 

「そ、そうなんでちか?」

 

 天界広しと言えども、ダンジョンを司るという世にも珍しい女神様。その名はメガミオブダンジョン。愛称はメガちゃん。元々この地にあった表ダンジョンで一人寂しくダンジョン作りの修行をしていたところ、ダンジョン攻略に訪れたアナンタ達に優しくされ、なついた挙げ句、村にまでついて来てそのまま居着いてしまった。

 裏ダンジョンとは、表ダンジョンに封印されていた滅びの竜アジ・ダハーカを倒して暇していたアナンタ達の遊び場兼メガちゃんの神としての修行場所として、今なおメガちゃんによって拡張が行われている超巨大ダンジョンなのである。

 

「待ってアナンタ。デーリッチちゃんは裏の山に倒れていたのよ。裏ダンジョンとは関係ないんじゃないかしら?」

 

「ん?言われてみたらそうかも。」

 

 デーリッチを膝に乗せてその髪を愛でながら丁寧にツインテールを作っていたシズナが話に加わる。

 この村で何かが起きるときは大抵ダンジョン絡みである。アナンタが短絡的になるのも仕方ない。

 

「ていうか、その子から事情を聞いたほうが早いんじゃない?」

 

「そらそうだ。とはいえまだ頭の整理も出来ていないだろう。少し腹を満たして落ち着くといい。ほら、おかゆだ。」

 

「あ、ありがとうございますでち。」

 

「私が食べさせてあげるわね!」

 

 アイちゃんが軽く突っ込みを入れているとべねっちがキッチンから戻ってきた。その手にはミルクの甘い香りの漂うおかゆのよそられた器が。お米の名産地ブロッコリー村産米を100%使用した、べねっち特製おかゆミルクである。

 シズナがデーリッチを膝に乗せたまま、スプーンで掬ったおかゆを軽く冷ましては二人羽織のような体制でデーリッチの口に運んでいる。

 特に怪我もないデーリッチは別に食べさせてもらう必要はないのだが、恩人の善意を無下にすることも出来ないのでされるがままに受け入れている。

 他の三人もその様子にほっこりしてしまい、無理に引き剥がすこともないだろうとシズナの好きにさせている。別に体よくシズナがキッチンに立つ展開を封じることが出来て安心しているわけではない。

「あれ?べねっち、私達の分は?」

 

「ああ、多目に作ってあるから後で・・・って、お前さっきあんなにカレーライス食ってまだ食うつもりか!?」

 

「カレーは飲み物だからね。仕方ないね。」

 

「おかゆはデザートとでも言い出しそうだな。」

 

「あははは。」

 

「クス。」

 

 そんな仲間同士の気安いやり取りを見ていたデーリッチにも自然と笑みがこぼれる。優しい温かさのおかゆミルクが胃袋を満たし、デーリッチの緊張も解れてきたようだ。

 

「やっと笑ったね。ちょっとは落ち着けたかい?」

 

「えっ?」

 

 不意に優しい目を向けたアナンタにデーリッチは戸惑う。

 

「とっても、哀しそうな顔をしていたからさ。どうだい?べねっちは顔に見合わず料理が上手いんだ。」

 

「誰が顔に見合わずだ。誰が。」

 

「あはは、とっても美味しかったでち!ごちそうさまでした!」

 

 心からの感謝を最高の笑顔で伝える。それはデーリッチが使える仲良し道の奥義。

「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおうかな。」

 

「はいでち。」

 

 べネットに促されこれまでの事を話すデーリッチ。時に悔しそうな表情も見せながら一生懸命話した。仲間たちを助けたい。自分が行かなければ仲間たちが危ない。強い光を目に宿して語るデーリッチに、アナンタは頷き返し、べネットは静かにその瞳に炎をたたえ、アイは服の裾をギュッと握りしめ、そしてシズナはデーリッチを優しく抱き締めた。

 

「なるほどね。そのマクスウェルって奴を倒さないとその世界が危ないってことなんだね。これは久し振りに腕がなるよ。」

 

「え?一緒に戦ってくれるんでちか?」

 

「当たり前じゃないか。私達は最初からキミの力になるつもりで話を聞いていたからね。」

 

 身の上を話したとは言え、自然に、当たり前だと言わんばかりに協力を申し出るアナンタ。他の3人も気持ちは同じ様だ。

 

「アナンタ、強敵相手にワクワクするのはいいが、異世界にはどうやって行くつもりだ?」

 

「ん?女神さまにお願いしたら何とかならないかな?」

 

「テキトーに世界を移動するだけならともかく、任意の世界に行くのはメガちゃんでも難しいと思うわよ?」

 

「そういうモノなの?」

 

「移動先の座標がわかればまた違うと思うのだけれど・・・。」

 

「座標でちか・・・。せめてキーオブパンドラがあれば・・・。」

 

 座標と聞いてデーリッチ失ったキーオブパンドラを思い出す。思えば偶然拾っただけのものだが、1年以上苦楽を共にした相棒である。自分の力では元々ある次元の穴を拡げるか閉じるかくらいしかできず、自由に世界を移動できる程の力はない。。しかし、王国の座標は忘れるわけがないし、カズマ達の世界も座標は確認している。そんなに離れていない世界ならばキーオブパンドラを通じて方角くらいならば分かるはずであった。

 

「キーオブパンドラ?ならあるぞ?何に使うんだ?」

 

「ふぇっ!?」

 

 マクスウェルに奪われてしまったキーオブパンドラがここにある。あっさり返ってきた答えにデーリッチは思わず吹き出すように声をあげてしまった。

 

「キーオブパンドラってあのデカイ鍵型の杖だろ?ダンジョンで拾ったアイテムの中でも伝説級のヤバい代物については普段は四次元ポーチにしまって、私達以外には取り出せないようにしているが・・・、その中にキーオブパンドラもあったはずだ。」

「そ、それ!見せてもらえないでちか!?」

 

「ん?いいぞ。アナンタ。」

 

「はいよ。」

 

 そうやってアナンタはポーチから大きな鍵を取り出した。

 

「これは・・・、本当に本物のキーオブパンドラでち!む~ん!」

 

 デーリッチはシズナの膝から降りて、キーオブパンドラを手に意識を集中する。魔力を流していくと鍵の先端がぼんやりと光る。

 

「あ、見つけたでち。カズマお兄さんの世界!」

 

 希望の目が繋がった。ここから世界が認識出来たということは、この世界で次元の穴が見つかれば、この世界から2つの世界を行き来できるということだ。

 

「へぇ~、そういう使い方も出来るのね。デバフ用のアイテムだと思っていたわ。」

 余談だが、シズナもキーオブパンドラを拾ってから何度か使ったことがあるが、その使い方はパンドラの箱から飛び出した負の要素を呼び出して敵の能力を下げるという使い方だった。ワープ機能があるのは判っていたが、自力でテレポートも分身もわりと何でも出来てしまうシズナにはあまり有用な道具ではなかったのだろう。

 

「へ~、よくわからないけど何とかなりそうなんだね?それじゃあ女神さまの家に行こうか。」

 

「はいでち!」

 

 斯くして5人はダンジョンの神、メガちゃんの家に向かった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

~ダンジョン村メガちゃんちまでの道中~

 

「アナンタさん!アナンタさん!アナンタさん!アナンタさ~n「わあっ!?何だ!?」ドゴォ!へもげ!」ズルズルドサッ

 

 べネットの家からメガちゃんちに向かう途中、通りかかった鍛冶屋から突然飛び出してきた羽を生やした生き物に突撃され、アナンタはついうっかり的確に会心の一撃をお見舞いしてしまった。

 その生き物は鼻血を撒き散らしながら鍛冶屋の壁にとてつもない速度で打ち付けられ、崩れ落ちる。どう見ても死んで当然、生きてて畳上、全治2ヶ月コースの威力の攻撃だったが、それは何故か幸せそうな顔を浮かべていた。

 

「いきなり飛び出してくるからうっかり竜王の拳を出しちゃったじゃないか。いきなりなんなのさ、カナちゃん。」

 

「イテテ・・・、やっぱアナンタさんのパンチは効くなあ!咄嗟の反応なのに何故か最強技を繰り出して的確にえぐり混む、そこにシビれる!憧れるぅ!でも私、諦めない!頑張れ私!」ムク

 

「え?え?」

 

 どう見ても致命傷レベルの攻撃を受けて、何事もなかったように起き上がる謎の生き物。よくよく見てみれば自分の親友にして相棒ヅッチーとよく似た容姿、妖精だった。

 ただ生まれ、消えるように儚く死んでいく力なき妖精という種族。異種族との関わりを避け、隠れるように暮らしていた妖精達にもある時、異端児が生まれた。生きることに何の意味も持たず生きてると言えるのか、そんな疑問を持った幼い妖精が、ある日雨の中カナヅチを背負って森を飛び出した。人里でがむしゃらにカナヅチを振り、武器を鍛え続けた妖精は、やがて異種族との交流を築く程の成功をおさめた。そして、その動きは臆病だった妖精達に拡がり、多くの妖精が「希望」という感情を胸に、今や世界の至る場所で妖精の姿を見かけるようになった。

 ぼろ雑巾の様になったその妖精を見て、ヒールをかけるかレイズをかけるべきか思案していたデーリッチだが、回復そのものが不要な雰囲気に一人だけ戸惑いを隠せなかった。

 

「いやー、こないだアナンタさんから頼まれてたインスタント飛行船の修理が終わったんでお渡ししようかと!」

 

「だったらそう言えばいいじゃないか。抱きついてくる必要はないでしょうに。」ハァッ

 

「そこはほら、私とアナンタさんとのいつものスキンシップじゃないですか!やだ、何だかこの言い回し恋人同士みたい!」キャッ

 

「キミは頭の中だけは本当に花の妖精だよね。」

 

「いや~そんな褒められたら照れちゃうわね!ところで、そちらのお嬢さんはどなたです?」

 

「ほぇっ!?」

 

 おかしな方向に色々ハイレベルな会話に全く話に付いていけず呆然としていたデーリッチは、突然匙を向けられておかしな声をあげる。

 

「あぁ、この子はデーリッチ。山で倒れてたのをアイちゃんが助けてきたんだ。」

 

「へぇ~デーリッチちゃんね~・・・。デーリッチちゃん・・・。デーリッチだって!?」

 

「ん?お知り合いかい?」

 

「デーリッチもなんか見たことあるような気がするでちねぇ?」ウーン?

 

「いや、ぜ~んぜん知りませんよ!知りませんとも!」

 

「なんか怪しいなぁ~。」ジトー

 

「でもやっぱり会ったことはないでちね?」

 

「そう!そうでしょう!気のせいですって!」

 

「ふ~ん?おかしな偶然もあるもんだねぇ?」

 

 アナンタもデーリッチも知らない話。この変態妖精カナちゃんは、いまだに虐げられている異世界の力なき妖精達を救うため、異世界との通信技術を開発し、通信が成功した異世界の妖精達に自分の分身を作らせて、技術支援を行っている。ハグレ王国のセクハラ妖精カナヅチ大明神ことカナちゃんは、その内の最も成功した例であるが、セクハラが酷すぎて妖精王国を追放されたり色々やらかしているので、本家カナちゃんとしてはあまり公にしにくい話の様だ。まぁ、デーリッチと邂逅してしまった以上、いずれ遠くないうちにバレるだろう。

「ま、まぁいいじゃないですか!はい、これ!ご注文の品です!」ハイッ!

 

「ん、ありがとう。じゃあ今急いでるから、またね。」ポーチニシマイーノ

 

「毎度あり!またご贔屓に!」ペッコリン

 

 ちょっとしたすれ違いを孕んだこの小さな出会いが後に大きな波乱を生むのはまた別の話。

 アナンタ達は受け取ったインスタント飛行船を四次元ポーチに仕舞い、改めてメガちゃんの家に向かった。

 




 カナちゃんがデーリッチのことを知ってるのかどうかは原作では不明なので直接はあまり関わらないです。地味に大事なポジションですが。
 次回はハグレ王国居残り組エピソード予定です。


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第14話 チームアナンタ

 ちょっと短いけど、次の話が長いのでキリのいいとこであげときます。
 ちなみに筆者が一番好きなざくアクキャラはエステルさんです。


~ハグレ王国拠点~

 

「エステルさん!エステルさん!エステルさん!エステルさ~n「わあっ!?何だ!?」ズドドドン!へもげ!」プスプス

 

 シノブの提案によりハグレ王国に新設されたばかりの王国図書館から拠点に戻る途中、通りかかった土産屋から突然飛び出してきた羽を生やした巨大な物体に突撃され、エステルはついうっかり的確に渾身の炎魔法をお見舞いしてしまった。

 その生き物は黒焦げになりながら、猛烈な熱さに堪えきれずゴロゴロ転げまわる。どう見ても死んで当然、生きてて畳上、全治2ヶ月コースの威力の魔法だったが、その物体は何故か幸せそうな顔を浮かべていた。

 

「いきなり飛び出してくるからうっかりバルカンフレアを出しちゃったじゃないか。いきなりなんなのさ、セクハラ大明神。」

 

「アチチ・・・、やっぱエステルさんの炎は効くなあ!咄嗟の反応なのに何故かTP80消費の最強魔法を繰り出す、そこにシビれる!憧れるぅ!でも私、諦めない!頑張れ私!」ムク

 

 どう見ても致命傷を負いながらも平然と起き上がる謎の生物。よくよく見れば妖精王国の守護神セク・・・カナヅチ大明神だった。

 

「見つけたんですよ!デーリッチの行方を追う手掛かりを!」

 

「だったらそう言えばいいじゃないか。抱きついてくる必要は・・・ん?今なんて?」

 

「そこはほら、私とエステルさんとのいつものスキンシップじゃないですか!やだ、何だかこの言い回し恋人同士みたい!」キャッ

 

「んなこと聞いてねえよ!?んなことより今の話は本当か!?」

 

「えっ?私とエステルさんが恋人同士なのは本当か、ですって!?本当!本当ですとも!」

 

「いい加減にしろ!こちとら毎日徹夜でメンタルグランパ漬けなんだよ!」ボコー

 

「へもげ!」

 

 ローズマリーからのコンタクトクリスタルでの定時連絡が途絶えてからおよそ10日。天界のイザコザが解決して、その後始末という名目で次元の塔へ向かったデーリッチ達。事件の首謀者である御影星を倒した以上は大して危険もないだろうと子供達を行かせてしまったことが、今更ながら悔やまれる。

 残った王国民は総出で寝る間も惜しんで次元世界を捜索し、ようやく天界の大槌洞窟に残された謎の飛行船を発見したが、その後の足取りについては未だに手掛かりすら掴めて居なかった。エステル、メニャーニャ、シノブの召喚士三人娘は他のメンバーを連れて何度も次元移動を繰り返し疲弊していて尚、何か新しい手立てをと、図書館で召喚に関わる文献をかき集めていた。召喚士にあるまじき体力オバケのエステルをして、心身疲労激しい状態ではいつものおふざけに付き合ってやれる余裕はなかった。

 

「イテテ・・・、失礼しました。少々おふざけが過ぎましたね。私もあまりの感激に興奮が抑えきれなかったようです。」

 

「私にはむしろ通常運転に見えたけどな。で?デーリッチ達の手掛かりが見つかったてのは本当なのか?」

 

「はい。神様からの御告げがありました。」

 

「はあ~?おつげ~?」

 

 さっきまで藁をも掴む思いで図書館の文献を漁っていた身としてはどんな小さな情報でも欲しかったが、期待を遥かに下回る曖昧な情報源に、エステルは愕然とする。

 

「あれ?エステルさんは、そもそも私が異世界の妖精神様の声を聞くために妖精達に作れた人工の神だってご存知ですよね?」

 

「あ~?そういや、そういう設定だったな。」

 

「で、その神様なんですがね、私達は便宜上神様とお呼びしているのですが、正確には神ではなくて異世界の偉大な技術者と呼んだ方が正しくてですね。その方は力なき妖精達を救うために異世界の色々な情報をこちらに伝えてくれているというわけなんですよ。通信は基本的には一方通行なんですが、最近ヘルパーさんとお知り合いらしいことが発覚してですね、こちらの情報も間接的に伝えて頂いてるんです。で、先程の通信の中にデーリッチの情報がありまして。」

 

「成程、思ったよりは信憑性の高い情報ってわけか。何て言ってたんだ?」

 

「え~と、じゃあありのままお伝えしますね。こんな感じです。『ヤッホ~分身くん元気~?今日さ~キミのとこの王様、そう、デーリッチちゃんに会ったんだよ。八重歯がチャーミングでかわいい子だよね~。ちょっとやんちゃそうだけど将来絶対美人になるよあの子。今のうちにツバ付けとこうかしらゲヘへ。あれ?でもあの子何でこっちにいたのかな?私も身バレしちゃうとマズいからあんまり話してないんだけどね。アナンタさん達と一緒だったから多分ダンジョン潜りでもするんでしょうけど。もし何か知ってたら教えてくれたらうれしいな。お耳の恋人、カナちゃんでした。』と、いうわけです。」

 

「ノリ軽すぎない!?・・・まぁ、お前がそんなんになってしまった原因がよ~く分かったわ。」

 

「いや~照れますね!」

 

「誉めてないから!」

 

 今や、経済力においては帝都すら脅かす程に成長した妖精王国の礎となった、異世界の技術をもたらしたカナヅチ大明神。しかし、やがてセクハラが酷すぎて一度は妖精王国から追放された過去を持つ。どうやら基となった件の異世界の技術者とやらもクセのあるやつらしい。

 

「変態妖精はともかく、原因も理由も解らないけど、取り敢えずデーリッチはその世界にいるってわけだな。あの口振りだとデーリッチも一人みたいだが、他のメンバーはどうしたんだ?話に出てきたアナンタってのは何者なんだ?ここからその世界には行けるのか?」

 

 エステルもようやく掴めた手がかりに気持ちが急いて質問を重ねてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私もこの御告げを受け取っただけですので、詳細はまだ解りかねます。ただアナンタさんという方は彼の世界において六魔にすら打ち勝った最強の冒険者と聞きます。他の皆の行方は分かりませんが心強い協力者を得られたのは間違いないでしょう。そしてその世界に渡る道はヘルパーさんがご存知のハズです。」

 

「ヘルパーさんが?」

 

「ええ。ヘルパーさん、前任はその世界の担当だったそうですよ。」

「えぇ・・・、前任とか、次元の塔のことといい、あの人本当に何者なんだよ・・・。」

 

 それは永遠の謎である。

 

「ともかく、今捜索に出ている人が戻ったら、一度皆を集めて会議を開きましょう。その間に私はヘルパーさんに話を通しておきます。エステルさんは・・・ロクに休んでいないのでしょう?今のうちに休んでいてください。」

 

「ん?お前一人で召集かけるのは大変だろ?私も手伝うぞ?」

 

「ダメです。エステルさんは休んでください。フラフラじゃないですか。なに、まだ頑張って貰わないといけないんですから、休めるときに休むのも大事ですよ。」

 

 このセクハラ大明神は普段はエロいことしか考えてないクセに、ここ一番というときには実に頼もしい。先程の殴られるような発言も、結果としては疲労が溜まるエステルのストレス発散に一役買っている。真っ先にエステルへ話しに来たのも、特に疲労が激しいエステルを安心させて休ませるつもりだったのだろう。普段セクハラの主な被害者であるエステルも、大明神のそういった気遣いを解っているから気軽にどつく事ができるのだ。

 

「・・・わかった。ちょっとばかり休ませて貰うよ。お前も連絡がついたら休めよ?」

 

「はい。皆にもそう伝えますよ。」

 

 少しばかりの休息を経てハグレ王国が動き出す。

 

――――――――――――――――――――

 

~ダンジョンむら メガちゃん家~

 

「おじゃましま~す!」

「ちわ~!女神様いるかい~?」

 

「はいはいは~い!今行きますで~す!」

 

 玄関口からアナンタが大きな声でメガちゃんを呼ぶ。普段は玄関から直ぐのとこに設置されている作業机の所にいることが多いのだが、今日は奥の応接室にいたらしい。返事をする声が奥の方から近づいてくる。

 

「お姉ちゃん達いらっしゃいませ!これから呼びに行こうと思っていたのでグッとタイミングなのです!」グッ!

 

「それを言うならグッド、だな。」

 

 見た目だけなら女神然としているが、話し方は幼い子供のそれ。しかし、新時代を担う神として造られた(、、、、)彼女は、特異な神力と膨大な魔力をその身に有する期待のルーキーなのである。ちなみに先日、ラヴァース様の運営する女神園を無事に卒園することができました。

 

「あれ?メガちゃんも私たちに用があったんだ?そいつは土偶だね。」ドグー!

 

「それを言うなら奇遇、だな。姉妹揃った途端に漫才始めんな。」

 

 メガちゃんはアナンタをお姉ちゃんと呼ぶが、血縁がある訳ではない。かつて一部の神々により、神の器に強い力を持つ別の魂を合成させて、新時代を担う強い神を造り出すという実験が行われた。しかし、実験に失敗して暴走しては処分されていく合成竜達への対策に、上位神は愛を司るラヴァース様を実験に参加させ、実験体に愛の心を持たせるという試みをした。結果としては実験体の暴走率が激減したが、それでも少なからず生まれては暴走し処分される「失敗作」の存在にラヴァース様は心を痛め続けていた。

 そしてある日、ラヴァース様の手により生まれて間もなく人間界に逃がされた「失敗作」がアナンタである。ラヴァース様は後に成長して自身の前に立ったアナンタの手により討伐されることを願ったが、それをアナンタは許さなかった。アナンタにとっては自分を作ってくれたラヴァース様は紛れもなく母親であり、天涯孤独と思っていた自分の出生がとんでもないものであった事よりも、自分にも母親と呼べる存在がいた事が何よりも嬉しかったのだ。

 ラヴァース様は今では自身が直接手掛けた実験体を自分の子供として認定しており、アナンタ、メガちゃん、そして宮殿の守護を担うカンヘルがそれにあたる。

 

「今ラヴァース様が来ていてお姉ちゃんも呼んできてって仰せられたのです。」

 

「へぇ?母さんから?なんだろう?」

 

 メガちゃんにとってはラヴァース様は母であるが、同時に神としては直属の上司にあたるので、言葉遣いは気を使ったものになっている。

 

(ラヴァース様・・・?何か聞いたことがあるような・・・?)

 

「今ね、エリス様っていう女神園の先輩女神様が来ていて、私とお姉ちゃんにお願いしたいことがあるんだって!」

 

「エリス様?う~ん知らない神様だなぁ。」

 

「あり?そちらの子はどちら様で?」

 

 アナンタと話していたメガちゃんはふとその後ろに揺れる青いツインテールに気付いて声をかける。

 

(エリス様・・・ラヴァース様・・・う~ん・・・ん!?)ピコーン!

 

 アナンタの後ろでシズナに手を引かれていたデーリッチは聞き覚えのある女神様の名前に思い当たりハッと顔を上げる。

 

「こんにちわなのd「あ、あのッ!」」ガバッ!ゴッツン!

 

「「#♀&*・・・!」」ピクピク

 

 メガちゃんが屈んでデーリッチに挨拶をしようとした所にデーリッチが勢いよく顔を上げたことにより、二人の頭が勢い良く激突。両者ノックアウトと相成った。

 

「何やってんのさ・・・、二人とも。」

 

「痛ぅぅ・・・ごめんなさい。デーリッチでち。初めまして。」

 

「うぅ・・・お姉ちゃん並みの石頭・・・。メガミオブダンジョンです。こんにちはなのですぅ。」

 

 お互いに頭を抑えながら自己紹介をかわす。

 

「メガちゃ~ん!何かスゴい音したけどどうしたの!?」

「貴女も頭抑えて大丈夫ですか!?ってあれ?キミは確か福の神様のところの・・・・。」

 

 奥の方からラヴァース様とエリス様が駆け付ける。エリス様は頭を抑えながら謝っている二人のうちの片割れの姿を見て驚いている。

 

「あっ!エリス様!エリス様って、やっぱりエリス様のことだったんでちね!」

 

 デーリッチの方もエリス様の姿に気付き、声を上げる。

 

「あれ?エリスちゃん、その子知り合いなの?」

 

「知り合いと言いますか・・・、お話させて頂いていた救助対象者です。何でこちらの世界に・・・?」

 状況が解らず、全員の頭に?が浮かぶ。

 

「まぁ立ち話も何だし、アナンタ達が来てくれたなら丁度いいわ。奥で話をしましょうか。」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

~メガちゃん家 応接室~

 

「話を聞く限り、かなりマズイ状況みたいね・・・。」ウーム

 

「ちょっと留守の間にそんなことになっているとは・・・。」サーッ

 

「あの戦いの後、皆がどうなったのかも分からないでち・・・。早く助けに行かないと!」

 

 デーリッチが事のあらましを説明すると、ラヴァース様は険しい表情に、エリス様はの表情は青ざめていた。

 

「そうですね。何はともあれ、直ぐに向かった方がよさそうです。メガちゃん、お願いできますか?」

 

「う~ん、エリス先輩の世界の座標が分からないとちょっと時間がかかってしまうのです~。何か目印になるものがあると良いのですが・・・。」

 

「座標ならデーリッチ分かるでちよ!さっき借りたキーオブパンドラで見つけられたでち!」

 

「それは助かるのです!これなら直ぐにでも行けますですよ!」

 

 次元の行き来ができるメガちゃんでもやはり行き先が分からないと難しいらしい。 しかし、それを聞いていたラヴァース様は眉を吊り上げてアナンタに詰め寄る。

 

「借りた・・・?アナンタ、神器級の道具は危険だからホイホイ出してはダメだとあれほど・・・、ましてやキーオブパンドラは世界の均衡に少なくない影響を与えてしまうものです。軽率に使わないようにしなさい。」

 

「ごめんよ母さん。でもこの子、元々キーオブパンドラを持っていたらしくて。敵に奪われちゃったんだって。」

 

「な・・・んですって!?キーオブパンドラが悪魔族の手に渡ったというの!?」

 

「そ、そんなにマズかったでちかね・・・?」

 

 ラヴァース様は驚愕と怒気が混じった声を上げ、デーリッチは気まずそうに聞き返す。

 

「こうしちゃいられなくなったわ!直ぐにでも発ちましょう。事態は一刻を争います!」

 

「ど、どういうことなのさ母さん!?」

 

「悪魔族がキーオブパンドラを手にしたということは、現世と冥界を隔てる次元の壁が壊せてしまうということ。つまり・・・。」

 

「つまり?」

 

「悪魔族が大軍を率いて地上侵攻が可能になったということよ!」

 

「「「何だって!?」」」

 

「メガちゃん直ぐに用意を、私も出ます。デーリッチちゃんはそのキーオブパンドラは使ったら直ぐに返すこと!いいわね!」

 

「は、はいでち!」

 

 斯くしてデーリッチは再び彼の世界に舞い戻る。二柱の神と神をも超越した最強の冒険者パーティーを引き連れて。

 

 




 次回予告、カズマさんの里帰り編。結構長くなりそう。2~3話使うかも?


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第15話 カズマの里帰り

 久しぶりの更新。ちょっと作風が変わったように感じるかもしれませんが、真面目な文章書くの苦手なんです。すみません。
 なろう系異世界モノって元の世界に帰る展開がタブーというか暗黙の了解で避けられてるような気がするけど、まあいっか。


~???~

 

「う・・・ん・・・?」

 

 なんか背中にピキピキと電流が走る様な痛みを感じる。この痛みには覚えがある。そう、あれは確かゆんゆんの引越し祝いにかこつけて宴会をした日の事だ。ライバルのゆんゆんが念願の一戸建てを買ったのに嫉妬しためぐみんが、祝盃を上げようとか言いながら酒の呑み比べ勝負をもちかけた。最初は普通に呑んでいたのだが、途中でアクアがとっておきの銘酒『ばくだん』を持ち込み、自分も呑みたいとか言い出した。それからはもう地獄絵図で、ギルドにいた他の冒険者も混じって呑めや歌えや吐けやの大宴会だった。

 そんなこんなで俺も途中で記憶が途絶えてしまったわけだが、目が覚めたのは家の前の石畳の上だった。まだ春先の、夜は冷え込む中で固い地面で寝ていた俺は、その日は1日ずっと腰痛に苛まれたものだ。つまり、俺が今背中に感じる痛みは、寒空の下、固い地面で寝てしまったときの痛みというわけだ。なるほどなるほど、理解した。

 

「ちくしょう・・・。」グスッ

 

 しかし、あの時との状況の違いを挙げるとするならば、今の俺はさっきまでの出来事をはっきりと覚えてしまっていることだろう。アクアを貫いた悪魔マクスウェルの凶爪。俺の貧弱なヒールでは到底治せない傷だった。何が勇者だ。仲間1人助けられなかった。きっとアクアはあのまま・・・。

 記憶なんて無くなってしまえば良かったのに。目を開けるのが怖い。今の自分の状況を知るのが怖い。どうにもならない現実を見たくない。背中の痛みなんて心の痛みに比べたら軽いもんだ。俺はもう、2度と目を覚ましたく、ない。

 もう何もかも諦めていっそここでこのまま俺も・・・。

 

――死んでしまおうか。

 

 俺の心は絶望に染まってしまっていた。

 

 

『ま~つや~たけ~ざお~♪』

 

 そんな中で耳に入り込んできたのは昔懐かしい竹竿屋の宣伝。竹竿屋か~。昔っから町の中をぐるぐる廻ってるけど、あれでどうやって儲けてるんだろう?そういや竹竿屋は何故潰れないのかなんて本が話題になってたこともあったなぁ。俺は漫画とラノベしか読まないから内容は知らねぇんだけど。でもそんな事考えてたら何だか無性に内容が気になってきたな。まぁ日本に行けることなんて2度とないだろうから竹竿屋が潰れない理由なんて生涯知らないままだろうなぁ・・・。

 ん?まてよ?竹竿屋?何で竹竿屋がいるんだ?ここはどこだ?日本?いやそんな馬鹿な・・・?

 俺は思いもよらない事態に驚愕して、もう2度と開くつもりの無かった目を開けて飛び起きた。

 

「ここは日本なのか!?痛っう・・・。」グギッ

 

 驚きのあまり、自分の状況も忘れて起き上がった俺の腰に電流が走る。しかし、それも頭をハッキリさせることに一役買ってくれた。

 少し頭を振り、今の状況を目視で確認する。

 まず体。腰に痛みはあるが目立った外傷は無い。服装はいつもの冒険者の服。俺自身はあまり直接攻撃を受けた訳じゃないから、服の状態もいい。

 そして周辺。時刻は夕方らしい。ブランコや滑り台があるということは公園だな。しかも、この景色には見覚えがある・・・。

 

「・・・これ、近所の公園じゃねーか!」

 

 そこは、引きこもりニートだったカズマの数少ない外出先の一つだった公園。当時人気だった化けっとモンスターという携帯ゲームで、暇に任せて鍛え上げたレベルカンストモンスターを使って小学生相手にマウントを取っていた日々。自分より弱い相手を見つけては全力で叩き潰す日々。自分にとって数少ない栄光の日々。後にクズマと呼ばれた男の原点がここにある。

 

「あ、起きた~。」

 

「ん?」クルッ

 

 カズマがしみじみと当時を思い出して感慨に浸っていたところ、後方から声がかかり、座った体制のまま上半身を捻って後ろを振り返る。

 

「カズマ兄ちゃん最近来ないな~て皆で話してたんだ。久しぶりに来たと思ったらこんなとこで寝てるし。」

 

 何やら親しげに話しかけてきた少年には見覚えがある。俺の育てたレベルカンストモンスターを相手にしながらも巧みに相性の悪さで突いてくる技巧派だ。まぁ相性の悪さで攻められても此方は更に相性の悪いキャラに切り替えてボコボコにして涙目敗走させていたが。 名前は確かイブキ、ここ象さん公園四天王の一人、『ミスマッチングのイブキ』だ。

「お前は、イブキか。久しぶりだな。」

 

「最近ずっと来なくなっちゃって、どうしたんだよ兄ちゃん?俺たちカズマ兄ちゃんを倒すためにレベル上げしてたのに。」

 

 子供たちにとって自分よりも強い者は尊敬の対象である。プレイスタイルはゲスいカズマだが、その強さを示したことでこの象さん公園最高カーストの座を得ていたのだ。

 

「おう、悪りぃな。ちょっと色々あって最近来れなかったんだ。」

 

「色々?ニートなカズマ兄ちゃんに用事なんてあったのか?」

 

「おいやめろ。」

 

 もう忘れたい過去の事を思い出させるんじゃない。

 

「それはともかく、ちょっと聞きたいことがあるんだが・・・?」

 

「なんだよ?」

 

「今日て何月何日だっけ?」

 

 カズマが象さん公園に足を運んだのは月に数回程度。最近来ないという口振りからすると数ヶ月は空いてるのだろうか。

 

「?兄ちゃん引きこもり過ぎて日付の感覚もなくなったのか?2019年3月29日だぞ。」

 

「2019年?あれから1年くらいか・・・。」

 

 ここは俺が死んで1年くらい後の日本らしい。向こうではもう3年くらいの時間を過ごしたハズだが。世界が違えば時間の進行が違うのか、それとも別の時間軸に飛ばされたのか。よくあるSFの設定を引っ張り出して幾つかの仮説を立てるが結論は出そうにない。

 

 さて、色々と現状の把握は出来た。このまま死んでしまおうかとも思ったがここが日本ならば話は別だ。

 

「イブキ、久しぶりに会ったのに悪りぃな。俺今日はGS持ってくるの忘れてたみたいだ。今日はもう帰るわ。」

 

「なんだよ、つまんねぇの。今度は遊んでくれよな。またな。」

 

 家に帰ってみよう。今、俺が頼れるのは両親しかいない。

 両親は何て言うだろう。怒るかな。泣くかな。いや、そもそも死んだハズの引きこもり息子が突然現れて、それが本人と信じてもらえるだろうか。普通はパニックになるだろうな。

 不安しかない。でもここは日本だ。ギルドで依頼を受けてそこらへんのモンスターを狩ってれば生活できたファンタジー世界ではない。あんなにクソゲーだと思っていたファンタジー世界の生活に慣れきっていたことを自覚して、何だか複雑な気持ちになる。

 

――やっぱり現実の方がクソゲーだわ。

 

 カズマは一つボソッと呟くと里帰りの路についた。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

~ベルゼルグ王国 原初の森アジトの外~

 

『世界征服の完了を宣言する!』

 

 突然王都上空に現れた禍々しい妖気を発する暗黒の城。そして宙空に浮かぶ巨大な影。その実体を持たない虚像は王都だけではなく、人々が生きる全ての都市、街村に現れた。まだ魔王軍の脅威の記憶がその身に残る人々は異変を感じるや否や、夜中にも関わらず寝間着のまま外へ飛び出した。

 

「魔王軍の襲撃か!?」

「なんだありゃあ!?」

「世界征服だと!?」

 

 状況が解らずに人々は動揺と困惑に包まれる。

 

 

『驚いてくれているようだな、愚民共よ。まずはお前たちのお陰で計画を実行に移せたことに礼を言っt「「爆・天・エクスプロージョン!!」」

 

 

――ズッドオオオオオン!!!

 

『のわぁぁぁあ!』

 

 

 話を遮る形で空飛ぶ城に向けて突然放たれた強化版爆裂魔法。めぐみんとヴォルケッタがこっそり研究していた合体技だ。悠々と偉そうに話していたマクスウェルも不意をつかれたその衝撃に情けない声をあげてしまう。

 

「むぅ、強力な結界が張られているようです。」

「なかなか手強いようですわね。」

 

「めぐみーん!?何してくれてるの!?ヴォルちんまで!?」

 

「私は城的な建造物を見ると爆裂させたい欲望を抑えられないのです。」

「丁度めぐみんと研究していた合体技の実験台にぴったりな的でしたので。」

 

 何やら最近二人でコソコソしていると思っていたらどうやら合体技の研究をしていたらしい。ライバルとか何とか言いながら息ピッタリな二人にローズマリーは呆れを隠せない。

『ビ、ビビらせやがって・・・。その程度の攻撃でこの城の結界は壊せねぇからな!話の途中でいきなり撃ってくるとかお前ら頭おかしいんじゃねえの!?』

 

「「むっかぁっ。」」

 

 マクスウェルの言葉にあからさまに不快感を顕にする二人。

 

「良い度胸です。あの男は言ってはならないことを言ってしまいました。私にその言葉を吐いて生きていた者はいません。」

 

「いや、けっこうみんな生きてるよ!?」

 

「めぐみん、悔しい気持ちは分かるが、俯せたまま強がっても格好つかんぞ?」

 

「むう・・・。いずれ吹っ飛ばす。爆裂魔法で吹っ飛ばす。」ブツブツ

 

 めぐみんは動かない体とは裏腹に紅い瞳だけは爛々と光らせ呟いている。

 

『まったくよぉ、折角嗜好を凝らせて仰々しい演出を用意したってのに調子狂わせやがって。いいかお前ら、よく聞け。これは宣戦布告だ。明日日暮れと共に悪魔軍を引き連れてベルゼルグを攻める。震えて待て。』

 

「なん・・・ですって?」

 

 福ちゃんがニコニコ顔を崩して険しい表情で眉をつり上げる。

 

「クレア殿、ここは私たちが引き受けよう!貴女は城へ!」

 

「ダスティネス卿・・・分かった。この場は貴方に任せよう。」

 

 ダクネスがクレアに王城、すなわち国王陛下の元へ向かうよう伝え、クレアも了承する。緊急事態下で最も優先すべきは主君の安全確保、それが騎士の務めである。

 

「騎士団に告ぐ!この場は1班を残しダスティネス卿と冒険者達に任せる!後の者は至急私と共に王城に戻り国王様、姫様の守護にあたる!」

 

 クレアが騎士団を連れて走り出す中、空に浮かぶ悪魔は更に言葉を続ける。

 

『そうそう、街角で髪の毛を集める団体を目にしたことはあるだろう?その節は数多くのサンプルを提供してくれたことに深く感謝しよう。その数は、実に30万にのぼる。』

 

「マクスウェルめ、一体何を・・・?」

 

『それはつまり、30万人分の魔力タンクを手に入れたということだ!』スッ・・・バシュン!

 

「っ・・・痛ぅ・・・!」

 

 宙空に浮かぶマクスウェルがゆっくり上げた右手を振り下ろす。すると騎士団の一人が額を抑えてうずくまる。

 

「おい?どうした!?攻撃を受けたのか!?・・・なんだこりゃ?」

 

「あ、ああ大丈夫だ。突然で驚いたがダメージはない・・・。どうした?」

 

 仲間の騎士が駆け寄り声をかける。うずくまっていた騎士が顔を上げるが仲間のおかしな反応に疑問符が上がる。

 

「い、いや、なんかおでこに『M』てマークが・・・。」

 

『髪の毛を提供してくれた諸君の額に目印を付けさせて貰った。どういう事かは見てもらった方が早いだろう。』ググッ!

 

 マクスウェルが振り下ろした右手を再び掲げて拳を握り混む。

 

「かっ・・・は。」バタッ

 

「「「!?」」」

 

「お、おい?どうした!?何をされた!?」アセアセ

 

 先程、額にマークをつけられた騎士が突然倒れた。仲間の騎士が呼びかけるが意識を失っており、返答はない。

 目に見えない攻撃を受け、その場にいる全員が周囲への警戒を引き上げた。

 

「い、一体奴は何をしたんだ!?」

 

 ローズマリーですら状況が理解できずに混乱している。

 

『さて、今身の周りに倒れた者はいないか?まぁ、死にはしないから安心してくれ。契約に基づきマナを吸いとらせて貰っただけだ。』

 

「マナを吸いとる?どうやってそんなことが?」

 

「契約・・・まさか!?」

 

 悪魔との契約に必要なのは悪魔と契約者同士の名前の交換、そして、契約の証として肉体の一部を捧げること。髪の毛を提供した際に書いた書類はただのアンケートではなく悪魔の契約書だったというカラクリであろう。さすが悪魔汚い。アクシズ教徒もビックリの反則技である。

 

『さて、今宵は直に明けるだろう。次の夜に配下の悪魔を率いてまずはベルゼルグ王国を攻め落とす。抵抗は許してやるが30万人分のマナを取り込んだ悪魔軍に勝てるかな?精々絶望にうちひしがれているといい。』スゥゥ・・・

 

 

 マクスウェルとの戦闘に敗北しデーリッチを失い、その直後に言い渡された宣戦布告。ハグレ王国の誰もが言葉を発することすらできなかった。

 そして、人類最強の魔法を受けて尚、空に悠然と佇む奇妙な城の存在が今の出来事が悪夢ではないことを伝えていた。

 

 

 

 

「それでも、カズマさんなら・・・。」ボソ

 

 アクアだけはここにいない勇者の名を呟いていた。

 

 

 

 




 元々マイペースでやってた作品ですが、半年近くも空けてしまってすみません。
 ストーリー自体は決まってるんだけど、ノリをシリアス調で行くかコメディ調で行くか決められなくて2パターン作ってみたりしてるうちにダンまちクロスの方ばっかり進めてました。これからこっちを数話続けて、それ以降は交互に更新するような形にしていこうかと思います。


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宿屋イベントその6 この翼折られようとも

 気がつけば、前話から早4ヶ月。待ってくれていた方がいらっしゃったなら大変申し訳ない。
 今回はちょっと差し込むだけの閑話ってやつで短いです。
 もうちょい涼しくなって来たら早くなると思うんですが…。


~とある悪魔の見る夢~

 

「ザリーチェ、諦めよ。審判の神セレネは神殺しの禁忌を犯した。けして赦されることはない。」

 

 ――あぁ、またいつもの夢だ。

 私が世界の敵となったあの日の記憶。

 

 

「セレネ様は嵌められたのだ!セレネ様はオリオーン様を真に愛しておられた!そのセレネ様がどうしてオリオーン様を射殺すなどということがあろうか!?」

 

「経緯など関係ない。現に審判の槍はセレネ自身の翼を穿ったではないか。セレネは地上へ堕とされた。二度と天界に戻ることは叶うまい。」

 

「ならば・・・!ならば、私がセレネ様を救うまでっ!!」ググッ

 

「牢を抉じ開ける気か!?よせっザリーチェ!お前も咎を負うつもりかっ!?」

 

「我が主君はセレネ様ただ一人のみ!」ガキン!

 

「ザリーチェ・・・貴様、血迷ったか!枷も解かぬまま逃げきれるものか!?天使兵!脱獄者を捕らえよ!」

 

「邪魔をするな!立ち塞がるならば、誰であろうと、斬る!」

 

―――――

 

 主神の行方を追い、涯て無き世界を渡った。行く先々に待ち構える天使兵。中にはかつて共に戦った同胞もいた。裏切り者と蔑む者、偽天使と罵る者、説得を試みる者、総て等しく切り捨てた。

 あれから一体どれだけ多くの死んだ世界を見てきたことだろう。神剣に塗り重ねられた血はもはや拭い取ることも叶わず、刀身は常にルビーの如き紅蓮の輝きを帯びるようになった。

 自分自身の歴史で塗り変えられた愛剣の姿を見るうちに、私はふと、哀しみに暮れてしまった。

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・。」ボタボタ

 

 たった一人の脱獄者に差し向けられた天使兵。その数一万。その悉くを返り討ちにした天界最強の剣士もついぞ限界を迎える。

 片翼を切り裂かれ既に翔ぶこと能わず、深手を負ったザリーチェは偶然次元の裂け目で見つけた塔に逃げ込み身を潜めていた。

 

(もはやこれまでか…)

 

 主神の元に辿り着くこと能わず、もはや緩やかな死を待つのみ。せめて天使兵共に気取られずに逝ける死に場所を探していた。飛び込んだのは後に次元の塔と呼ばれることになる場所の5階層だった。

 

「コレは驚いた。オマエは天使か?」

 

 不意に声をかけられた。既に霞み始めた視界にその姿は輪郭しか捉えられなかったが、その身に纏う瘴気、それは紛れもなく天に属する者の天敵の証。

 

「まさか・・・!?悪・・・魔だと!?くっ!」

 

 動かぬ体を強引に動かし剣を握る。見えぬ目を強引に見開き敵を凝視する。

 しかし死に瀕した今の体ではそれ以上の反抗も出来ようがない。只々、剣を握りながら睨むことしかできない。

 

「オイオイ、勝手に人の屋敷に入り込んでおいて物騒なヤツダナ。潰スゾ?」

 

 勝手に?屋敷に?朧気な視界では周りの状況も解らないが、どうやら逃げ込んだ場所はこの悪魔の住み処だったらしい。ならば侵入者は自分、握った剣を離し、交戦の意思が無いことを見せる。

 

「戦う・・・つもりは、ない。」

 

「カカカッ!マトモに話す事も出来ないようダが、聞け。オマエは天使の様だが随分なカルマを重ねた様ダ。そうまでして叶えたい望みがあるのカ?」

 

「私は・・・、今一度、主神セレナ様に・・・。」

 

「hm・・・丁度強いコマが欲しかった処ダ。ワタシと契約し、我が配下に降るならば、その望み、叶えてヤろう。」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

 その悪魔は唇を三日月のように歪めながら囁いた。私は相手が悪魔であるにも関わらず、その醜悪な姿に何故だか惹かれてしまっていた。

 

 

「さあ、一度だけ聞こう。今ここで滅ぶか、我が配下に降るか、選べ。」

 

「私は・・・」

 

 この翼折られようとも、悪魔に魂を堕とそうとも、それでも、セレネ様を救うことを諦めたくはない。

 

「私は・・・、堕天使ザリーチェ、貴女の配下に・・・降ろう。」

 

「カカッ。契約成立、だナ。我は冥王シュオルの娘、イリスだ。」

 

 

 斯くして、天界最強の天使ザリーチェは悪魔ザリチェとして生まれ変わった。世界に悪夢を振り撒く存在として。

 

 

 

 




 らんだむダンジョンに登場する『偽天使の剣』のアイテム説明から妄想補完したお話。悪魔ザリチェもらんだむダンジョンに登場する最上位の敵キャラですが、天使ザリーチェとの関連は名言されていません。今話の設定は作者の妄想の産物ですのでご注意下さい。
 あと神セレネが嵌められた~の下りも、ギリシア神話において、セレーネ=ルナ=アルテミスを同一視するという事を絡めて、アルテミスがアポロンに騙されてオリオーンを射殺してしまう物語をごちゃ混ぜにして無理やりくっつけた感じです。
 神話に詳しい人が読んだら何言ってだコイツと思われそうですが、神話とらんダンとざくアクを強引に繋げたらこうなったて感じなのであんまり深く突っ込まないようにお願いします。


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第16話 黒い神話

 やっと涼しくなってきて執筆意欲が湧いてきた今日この頃。今回はちょっち短いけど、あんまり間空きすぎるのも良くないので上げときます。
 コレからはもうちょっとこまめに進めていきますよ。多分。


~とある日の馬小屋にて~

 

「・・・一部に・・・ものの・・・。私のおかげで・・・カズマ氏が・・・つきましては・・・。」

 

「ん?アクア、なに書いてんだ?」

 

 異世界生活を始めて早一週間。今日も今日とて、汗だくになりながらツルハシを振るい城壁を積み上げる一日だった。日々体力の限界に挑み続け、フラフラになる度に振るわれる親方の愛のムチは、日本でエリートニート生活を謳歌していた俺に、風呂の偉大さと、仕事あがりに仲間と飲む酒の美味さを教えてくれた。

 最初は肉体労働は嫌だとか馬小屋は嫌だとか俺と一緒に寝るのが嫌だとか我が儘ばかり言っていたアクアだが、意外にも現状に順応するのは俺よりも早かった。当初は中身はともかく見た目は美人な女の子と一つ屋根の下、少しは甘酸っぱい何かを期待していた瞬間もあったけど、毎日酒瓶を抱えて腹を出しながら酒臭いイビキをかいて寝ているオッサンみたいな奴の姿に、そんな期待はとうに消え失せていた。やっぱ人間て中身も大事だよね。あれ?コイツ女神だっけ?まぁどうでもいいや。

 そんなアクアが今日は珍しく酒飲みも程々に、真面目な顔で何かを書いていた。なんだろう?手紙でも書いてるのかな?

 

「ん?これはね、天界に送る報告書よ。女神ってのは結構忙しいんだから。いい年してヒキニートしてたカズマさんには縁のないものでしょうけど!」

 

「ヒキニート言うな!で、どんなこと書いてんだ?」ヒョイ

 

 この駄目神はことある毎に人の傷を抉ってきやがる。イラッとしたのでアクアの手からその報告書とやらを掠め取る。

 

「あっ、こら!勝手に読まないでよぉ!ヒトの手紙読むとか本当にサイテーね!返しなさいよこの変態!どうt・・・むぎゅ。」ムームー!

 

 何か色々煩いアクアの口を塞ぎつつ、報告書とやらに目を通す。

 

「どれどれ、え~と『女神アクアです。経過報告します。ごく一部にトラブルはあったものの、これまでほとんどバッチリ良好☆むしろ私のおかげで、極めて非力で社会性のない佐藤カズマ氏が救われているようなものです。献身的な私にカズマ氏も心から感謝しているようなので、つきましては、どうか私の帰還の許可を・・・。』って、なんじゃこりゃああああ!」

 

「んもう!勝手に読まないでよ!あんた少しはデリカシーってモノを覚えなさいよね!私だってカズマが夜中にゴソゴソしてるのには触れないであげてるんだからね!?」

 

「おお・・・おま、起きて!?!?いや、それよりおま、この内容なんだよ!ふっざけんなよ!だーれが非力で社会性が無くてニートで童貞だよ!?」

 

「ニートと童貞は書いてないでしょ!なに自己紹介しちゃってんのよ!こんのヒキニート!アンタねぇ、こんな美人の女神様と一つ屋根の下で暮らせて一体何が不満なのよ!?」

 

「はあ!?不満しかねぇよ!チクショー!」

 

『おい!うるせぇぞ』ダァン!

 

「「ヒイッ!?す、すみません!」」

 

 ヒートアップしたところで、隣からお叱りが入る。壁が薄い馬小屋での大声は御法度だ。俺とアクアは冷静になって話を戻す。

 

「ま、まぁ落ち着こう・・・。で?これが報告書ってことはお前はこれを天界?とやらに送るのか?帰れないのにどうやって?」

 

「私の場合はアクシズ教会で祈りを捧げることで報告を送ることが出来るの。いわゆる冒険の書ってやつね。最終的に私たちが魔王を討伐した時にはこの記録が神話となって語り継がれるってワケよ。」

 

「えっ?じゃあ何?お前は俺が非力だのニートだのってのを神話として残そうとしてるの?」

 いやいやいや、何してくれてんの、この自称女神は。

 

「?ホントのことじゃない?何か問題あるの?」

 

「いや問題大アリだろ・・・。神話の中でくらいちょっとはいいカッコさせろよ!」

 

 神話になってまで引きこもりだのニート呼ばわりされてたまるか!全力で回避させてもらおう!

 

「え~?まぁ別にいいけど・・・、私は書くのイヤよ、メンドいし。自分で書きなさいよ。」

 

「ん~・・・わかったよ。紙貸してくれ。これ、宛名とかあるけど、どうやって書くんだ?」

 

「まぁ本来は報告書だからね・・・、でも宛名が空欄だと受理されない可能性が高いわ。誰か適当に知ってる人に宛てて書くしかないんじゃない?」

 

「え?そんなアバウトなの天界って?でも知り合い・・・って、両親くらいしかいなかったけど・・・。」

 

「あっ(察し)・・・、カズマ・・・あんた・・・。なんていうか、ゴメンね?」ホロリ

 

「おいやめろ。こんな時だけ女神みたいな顔するのやめろ。」

 

「いいのよ?カズマ。私はお母さんにはなれないけど、友達くらいにはなってあげれるからね?崇めてくれていいのよ?」

「誰が崇めるか!こんなポンコツ女神!」

 

「あ~!今ポンコツって言った!ニートのクセに非道いこと言った!」

 

『いい加減にしろ!シバかれてぇか!?』

 

「「ヒィッ!?ごめんなさい!?」」

 

 また怒られてしまった。馬小屋を追い出されたら野宿になってしまう。気を付けねば。

 

「まぁいいか、取り合えず両親宛に経過報告を書けばそれが神話に反映されるんだな?」

 

「そうね。あっ、せっかく貸してあげるんだから、私の事もちゃんとアピールしといてよね!」

 

「へいへい。じゃあ一丁この俺が、異世界に来てから類い稀な才能を活かして、順風満帆な生活を送る物語でも書いてやるとするか。」

 そう、この時の俺は理解していなかった。このやり取りが、後にとんでもない事態を引き起こすことを。

 もし俺に歴史を変えられる力があるのなら、この時の自分の過ちを正していただろう。しかし、世界とは常々残酷で、思い通りになんてならないことばっかりだったんだ。

 

 

~佐藤家の食卓~

 

 

『母さん。僕は今、異世界に来ています。まるで生まれ変わったかのように清々しい気分です。家も仕事も見つかって気力十分。何より僕にはなんと女神様が付いているんです。だから心配しないでください。』

 やめてくれ!

 

『父さん。こちらは、異世界の生活にもすっかり慣れて、頼もしい仲間たちと忙しい日々を送っています。仕事も順調で、まれに見るスピード出世だともてはやされています。あまりのリア充っぷりに、疲れや寂しさや憤りを感じる間もありません。』

 

 やめてください!お願いします!

 

 

「・・・。」

「・・・。」

「」チーン

 

 体感で3年振り。日本では1年振りに帰ってきた実家。両親からすれば死んだはずの息子が突然現れて、パニックにでもなるんじゃないかとも思った。何を話そうか、どうやって信じて貰おうか、色々と、本当に色んなことを考えながら帰ってきたんだ。

 そしたら、自分でも忘れていた【神話】ならぬ【黒歴史】を両親に音読されていた。何を言っているか解らないかも知れないが、その言葉通りの状況に俺は気恥ずかしさと羞恥の感情に顔を真っ赤にして震えていた。

 文章を書くなんて小学校の卒業文集で将来の夢を書かされて以来なんだよ!俺もファンタジー小説の主人公みたいに異世界で俺が大活躍する話を書きたかったんだよ!でもこんな文章しか書けなかったんだよ!チクショー!

 

 

「和真・・・。」

「はい、和真です・・・。父さん。」

 

「本当に、和真なの・・・?」

「はい、本当に和真です・・・。母さん。」

 

「リア充、してるのか…?」

「いいえ、嘘つきました。ゴメンナサイ。」

 

 両親の方はというと、俺の名前を呼んでは本当に俺が帰ってきたことを確認している。

 しかし、何処か反応がおかしい。確かに驚いている、驚いてはいるようだが・・・、死んだはずの人間が目の前にいるという非常事態のわりには些か落ち着きが過ぎているような?

 

「あの、何か、二人とも反応が薄くないか?死んだ人間が帰ってきたらもうちょっと驚くんじゃないかと思うんだけど・・・?」

 

「あぁ、それはな、この手紙にも関わる事なんだが・・・。」

 

 俺からの疑問も予想してたとばかりに父さんが話し始める。

「手紙に関わる?てか何でソレがここにあんの?」

 

 あの手紙はアクアが天界に送ったんじゃなかったのか?いや、確かに宛名は言われた通りに両親宛にしてはいたけど…。でも天界への報告用だって…。

 

 と、もやもやと考えていると、全く予想もしていなかった大男がリビングのドアを開けて乱入してきた。

 

―――バァン!

 

「それについては我輩から説明しよう!」

 

 その大男はとても見覚えのある背格好で、黒のタキシードに白いネクタイ、何よりも特徴的な白黒の仮面を被っていた。こんな奴の心当たりは一人しかいない。

 

「はぁっ!?おま、バニル!?何でお前が日本にいるんだよ!?」

 

「フハハハ!先程の浅はかな願望をまるで小学生が無理やり書かされた拙い作文のような手紙を、数年振りに再会した両親に読み上げられた際の羞恥の感情、美味であったぞ!」

 

「ちょ、やめっ!?」

 

「「プッ・・・ククッ・・・。」」プルプル

 

「おい、そこの二人!必死に笑いを堪えてるの分かってるぞ!」

 

「違うのよ和真、母さんは嬉しいの。毎日ご飯を作っては『部屋の前に置いとけババア!』なんて言っていたあなたが私達に手紙を書いてくれる日が来るなんて・・・」ホロリ

 

「やめて!?2重の意味で黒歴史を掘り返さないで!?」

 

「母さん、私達の息子が見違えるようになって帰ってきたんだ。喜ぼうじゃないか。」シミジミ

 

「その反応もやめて!?」

 

 久し振りに会った両親が全力で俺を弄ってくる。解せん。

 

「ふむ、流石に勇者となった小僧の羞恥はまた格別であるな。」

 

「なんなの?次元を越えてまで俺を弄ってそんなに楽しいの?」

 

 半べそになりながらも俺はバニルに抗議する。

 

「さて、我輩も極上のおやつを食らって満足であるぞ。場も温まったところで、本題に入るとしようか。」

 

「もう、勝手にしてくれ・・・。」

 

 唐突に真面目になる大悪魔を前に、俺はもう色々有りすぎてどうでもよくなっていた。

 

 




 何年か振りに両親に会うとなんか緊張しますよね。親も何とか話題を作ろうとして、結婚予定とか地雷を踏み抜いてきやがるせいで余計に空気が重くなったり。そういうことってよくありますよね。え?ない?あ、そう・・・。


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