Fate/Resurrection フェイト/リザレクション (ジャンマル)
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新たな夜明け

 第五次聖杯戦争。あらゆる最強のサーヴァントが召喚され、歴代でも最高規模となった聖杯戦争は、終結後、遠坂家当主とロード・エルメロイ二世によって解体されたはずだった。しかし、第五次聖杯戦争から15年、聖杯完全解体から5年後、突如として解体されたはずの聖杯がその姿を現した。

 これは前代未聞の現象であり、ロード・エルメロイ二世と遠坂家当主はその現象について研究を始めていた、

 

 だがしかし。聖杯が出現。ということはすなわち、聖杯戦争が起きるということである。その聖杯はアンリ・マユには汚染されてはいないが……未知の聖杯によって選ばれし七人が揃いつつあった――

 

「おーい! 二人とも―!」

 衛宮弥生。それが私に与えられた名前であり、同時に指名だった。衛宮を継ぐ者は切嗣の代から聖杯戦争を経験することでその魔術の真価を発揮してきた。私も――参加しなければいけない。

「ふぁー、眠い」

 彼は遠坂両。私とは兄弟であるが性が違うのにはちゃんと理由がある。遠坂は衛宮士郎と遠坂凛の結婚により実質的にその血統を断つことになる……はずだった。しかし遠坂は日本でも有数の代を重ねてきた魔術の家計だ。当然凛さんもそれをわかっていた。だからこそ、遠坂に両を渡したのだ。……エルメロイさんを今は親同然とみているけど。

「まーた聖杯の研究?」

「ここ最近ずっとだよ……疲れるってのにエルメロイさんが寝かせてくれなくてさ~」

 両は聖杯の研究をしている。聖杯戦争――その真意にたどり着いたのはエルメロイさんと凛さんだけだから。でも、それでも聖杯にはまだ秘密がある。そう踏んだエルメロイさんは消えた遠坂凛の穴を埋めるべく、実の息子である両を研究の助手に選んだ。もちろん、エルメロイさんは今日本滞在だ。

「お二人さん、今日もお熱いねえ~」

「こら、優也!!」

「ごめんごめんって」

 私は、魔術師の家計に生まれた現代魔術師。まあ、父さんは今行方がつかめないんだけどね……母さんはいる。そして、血縁がつながってるのが、遠坂両。うちの母さんと両の母親は実の姉妹で、父さんは二人の内どっちをとるかでももめたんだってさ。やれやれ、だよねえ。

 そんな父さんも行方不明になって、両は次期当主として聖杯の研究だったりと、私の毎日もそこそこ平凡ではないのです。

 あ、そうそう。もう一人の間桐優也。彼も私と血縁がつながっているというか、実質的なな姉弟です。何しろ母親と優也のお父さんが兄弟だとか……まあ、仕方ないか。

「なあ、俺達マスターになったりしてな!」

「聖杯戦争の? ばっかじゃないの。ただでさえ忙しい両がマスターになるわけないでしょ!」

「いやいや、俺だってマスターに憧れてるって!」

「でも……聖杯戦争、起きたら私たち敵同士……なんだよね」

「……」

「家族で殺し合いなんて、私嫌だよ……」



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聖杯に選ばれしもの

「はいはい! 暗い話は終わり! 学園が俺たちを待ってるぞ!」

「そうだね」

 

 二人は気を使ってくれたんだろう。だけど、気を使う必要なんてなかった。だって――だって――

 

「ねえ、話があるの」

「?」

「私……選ばれたみたい」

「マスター……に?」

「うん……」

 そう。私には令呪が宿る前兆があった。その証拠に、手の甲にあざ出ている。すぐに消えるだろうが、絶対無敵の命令権。三回までなら英雄の行動すら制限させる最強の武器となる。

 そもそも聖杯戦争とは何か。

 聖杯に選ばれし7人のマスターが、それぞれ

 セイバー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、ライダー、そしてバーサーカーの7騎を従え争い合う。それが聖杯戦争だ。そして、令呪はその7騎。英霊。通称サーヴァントと呼ばれる英雄たちを従えることが出来るマスター権だ。そしてそのマスター権は絶対無敵の命令権だ。

 そんな命令権を私は手に入れる……つまり、聖杯に選ばれたんだ。そう、父さんと同じように。

 私の父親、衛宮士郎も聖杯戦争に参加し、無事生還している。まあ、色々あったみたいだけど…

 まだ見ぬ夢の果て。航海の先へ行くための試練。父さんはそう言ってたっけ……

だけど、いまだにその意味がつかめない。わからない。航海の先って? 何なんだろう……

 

弥生「私。参加する。聖杯戦争に」

「……行くんだな。言峰協会に」

「ええ」

 

 そして私はその日、学校を休んだ、そして一人向かった。言峰協会に。そう、マスター登録するために――

 

「やあ、弥生」

「綺礼おじさん」

「ここに来たということは、そう言うことだな」

「……うん」

「先日ここに衛宮士郎、君の父親が来た」

「え……?」

「君がマスターになったらよろしく、とな」

 父さんが、ここに……来てたんだ。日本に。でも、そんな事じゃない。大事なのはこれからだ。

「ではここで召喚するがいい。君のサーヴァントを」

「うん……凛さん、おじさんの形見、使うね」

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

祖には我が大師シュバインオーグ。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

 

―――――Anfang(セット)。

――――――――――――

――――――――――――

――――――――――――

――――――――告げる。

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

 

※されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

※汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」



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「さあ、これが君のサーヴァントだ」

「……サーヴァントアーチャー。召喚に応じて参上した。君が私のマスターか?」

「うん。そうだよ」

「……まさか、君とはな」

「え?」

「いや、なんでもない」

「何でもないなら零体になってるなってる! その状態じゃ外もまともに出れないわ」

「ふむ。そうだな。ではお言葉に甘えるとしよう」

 

 アーチャー……最強のセイバーを召喚したかったけど、アーチャーも中々に強力なクラスだ。最有の三騎。アーチャー、ランサー、セイバー。その中のアーチャーが引けたのだ。悔やみがあっても後悔はない。ああ。そっか。失礼だよね、アーチャーに。

 

「ねえアーチャー」

「なんだ?」

 

 零体になりながら心の中に話しかけてくるアーチャー。私はそれを受け入れ、返事を返す。

 

「アーチャーは何処の英霊なの?」

「すまない。記憶の一部が欠損しているようだ――」

「んなわけないでしょ、阿呆」

「なっ、この声は――」

 お、お母さん!? なんでここに――ああ、そうか。今日はその日だったね。今日はちょうどお母さんが日本に来ている日だった。でも、相変わらずお父さんはいない。どこにいたんだろう――あの人は。

「まーたあんたが召喚されたの……」

「む、失礼だな君は」

「別に何とも思わないけどねー」

「あの、凛さん。知ってるんですか?」

「知ってるも何も15年前の私のパートナーよ」

「えー!?!?」

「ふふ、驚いた?」

 お母さんがいることのが驚きだよ……まあ、でもそこはどうでもいいか。アーチャーはお母さんのパートナーだった――か。どんな英霊なんだろう? 楽しみと同時に不安もあった。もしかして置いてけぼりにされるんじゃないかという不安。もしかしてマスター失格なんじゃないかという不安。いろいろな不安が重なって、重なって――というか私の願いはどうなるの? お母さんとお父さんの失踪の真実を知りたいっていう願いでしょ? まあ。別にいいんだけどさ……

「あんたどうせ私たちが急にいなくなった理由聖杯に聞くつもりだったでしょ」

「……」

 いいところ突かれる……でも、それでもお父さんの失踪理由についてはお母さんも知らないらしい。世界のために俺のできることをする――そういって家を空けたらしい。なんて身勝手な父親……でも、それでこそお父さんて感じもした。

 

―協会裏―

 

「よかったの?」

「何がだ?」

「あんた……英霊としての道を選んだわけでしょ?」

「まあ、それがあいつの進んだ道だからな」

「せいぜい、弥生の前では紳士にふるまいなさい」

「もちろん」

 

 ――この時二人は確信に触れていた。故に――その後の消息は今度こそ本当に不明なのである。



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もう一つの契約

 失踪をした母と父。二人を探す旅は終わりだと思っていた。だけど、終わっていなかった。終わってなかったから、戦う理由にしようとした。甘いのかな? 私って。

「……俺もだ」

「え?」

「遠坂両……マスター登録完了だ」

「両も……?」

「おう」

 だけど、不思議なことがあった。私のサーヴァントだ。

「言峰さん、アーチャーはどうしました?」

「む。見ていないな」

「……失踪したとみて間違いないな」

「な、なんてこと」

 アーチャーと共にお母さんも失踪している。これはもう隠しきれることではないと踏んだのか、言峰さんが話を割る。

「最近この街では失踪する人間が多く出ている」

「え……」

「おそらくサーヴァントのせいだろうな」

「……魔力を増やすための餌ってとこですか」

「呑み込みが早いな、両くん」

「でもなんでサーヴァントであるアーチャーも?」

「此度の聖杯戦争はな、サーヴァントを倒せばその魔力を根こそぎ奪える、というものがあるんだ 」

 それはすなわち、アーチャーは魔力目的で失踪した――いや、さらわれた、ということだった。だけど、本当にそうだとしたら魔術協会的にはやばいのでは?

「今回の一件は既に上に報告済みだ」

「じゃあ、私のサーヴァントは――」

「安心しろ。今回の聖杯戦争は最大二騎と契約可能だ」

「何故?」

「はぐれサーヴァントを出さないためだろうな」

 そんなルールあったんだ……

「どれ、召喚して見せよ」

「はい……」

 

 

「サーヴァントライダー――召喚に応じ参上した」

「ライダー。私があなたのマスターよ」

「ほう。こんな小娘がか」

「そこまでにしなよ、オデュッセウス」

「ほう。貴様はマスターか。何故ここにいる?」

「ここは言峰教会。いてもおかしくないだろ?」

「なるほどな。さしづめ、サーヴァントがやられた、といったところか」

「負けてはいないわ。失踪した――って言った方がいいかもね」

 はは、それは滑稽だな! そういってライダーは笑い飛ばした。だけど、私はそうはいかない。

「ライダー。それ以上の発言はマスターへの侮辱とします」

(いつもの弥生とは違う……そうか。彼女は魔術に関しては性格が変わるって凛さん言ってたな)

「ライダー。この街で起きたことは知っていますね?」

「まあ、わからないといえばウソだな」

「ならば話は早い。その拉致・監禁を行っている――そうね、キャスターかもしれない……とりあえず、そのサーヴァントを倒しに行くわ」

「ほう。そうすりゃマスターはサーヴァント二騎持ちってわけか」

「そういうことね」

「勝利に近づくのはいいことだ。さて、いくか」

 こうして、今冬木で起きている事件解決に乗り出すことにした。



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サーヴァント・キャスター

 事件解決のため、まずは情報集めから始める。とはいっても、どこから情報を聞き出せばいいか……そうだ。情報といえば――魔術の世界に足を運びながら情報屋をやっているあの人なら。

 沓呂木・J・アルフォス。彼ならばわかるかもしれない。とはいっても、確実性がないのは確かだ……

「マスター。やれることはやるべきだ」

「そう……ね」

「気をつけろよ? そいつは手段選ばねえかもしれねえぜ?」

「信用しろとは言わぬ。ランサーのマスターよ。だがな、時に信用していないとダメな場面なんてたくさんあるぞ?」

「……何が言いたい」

「信用しろとは言わぬが、仲間である以上は信用してほしいな」

「……わかったよ」

 不満げに言ってはいるが、信用はしているだろう。史実上の彼はその機転と発想からトロイア戦争で活躍した。彼のトロイの木馬がなければスカイアは負けていたのは確かだ。今回の聖杯戦争でも彼の機転と活躍に期待したいが――

「さて、どうするかな、マスター」

「両のサーヴァントはその気になれば倒せないものはないでしょう。彼のサーヴァントは世界を大きく変えた英雄といっても過言ではありません」

「そうだな。その槍に触れれば神霊さえも殺すだろうな」

「はいはい。協力関係とはいえそれ以上俺のサーヴァントの話はなしだ」

「そうね。有益な情報を与えすぎるのも協力関係とはいえ危険だわ」

「警戒心が強いねえ」

「あなたはどうしてそう呑気なのよ」

「ちゃんと考えは考えてるぜ? 情報がなさすぎるんだよ」

「サーヴァントの情報?」

「ああ。わかってんのはマスターのサーヴァントだったアーチャー、そしてこいつのランサーだけだ」

「そうね。確かに情報不足すぎるわ」

「ま、今回の騒動はキャスターに間違いねえな。一つ。魔力をためて損がないクラスであること。二つ、ここまでばれなかったのは結界があったから。それを作り出せるのは間違いなく魔術に精通しているクラスだ」

 ライダーの推測は続く。

「三つ目。この聖杯戦争において「契約できるのはニ騎」というルールの存在だ」

「それは今回の件と関係なくない?」

「いや。大事なのは魔力量だ」

「え?」

「サーヴァント一騎から採取できる魔力量――当然並じゃないのはわかるな?」

「ええ……」

「つまりだ。サーヴァントなんて上玉、「一騎のサーヴァントがほしがるか?」ってことだ」

「でも魔力量が増えるのはいいことじゃない?」

「そりゃそうだ。だがな、増えすぎた魔力、どうなると思う?」

「……暴走する」

「そうだ」

 話が見えない。何を言おうとしているの?

「もし片方が大型魔術師。片方がコスパよく宝具を乱発出来てそのたびに魔力を欲していたらどうだ?」

「確かに可能性はあるわね……でも、さすがにその推測は深追いしすぎじゃない?」

 でも、確かに聖杯戦争は既に始まっている。宝具を乱発できるサーヴァント――そんなのがいるんだろうか?



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サーヴァント・ランサー

 沓呂木を探し始めて一時間。一向に見つからない。それどころか、彼が住んでいたマンションから彼の痕跡が消えている。間違いない――確実に、絶対に、この事件に巻き込まれたのだろう。ならば、彼のいない分を埋めるしかないか……

「ライダー」

「む?」

「あなた魔力の波長を合わせられるのよね?」

「もちろん」

「キャスターレベルのでかい魔力、あわせられない?」

「……やれなくはない」

「やれなくはない、じゃなくてやるのよ」

「はいはい……まったく。乱暴なマスターだ」

「文句はやるべきことをやってからよ」

「あいよ」

 波長を合わせられるのは彼が彼が女装したアキレウスを見分けることができた、という逸話がスキルになったものだ。それが彼の固有スキル、「目利き」だ。だが、目利きとはいっても魔力の波長を合わせ、感じ取る。というものになっている。

「……近いな」

「両。ランサーの準備」

「了解」

(統率力――彼女は間違いなく複数のサーヴァントを束ねる指揮官になりうるだろう)

「裕也見てねえのも気になるんだが」

「あいつなら今頃家じゃない?」

「だといいんだけどな……」

 ライダーの案内の元、事件の発端であるサーヴァントを探しにいく。

 オデュッセウスの宝具は大軍宝具。この狭い街の中で使うにはリスクが高い。ならば、敏捷で尚且つ対人宝具であるランサーの出番だ。ランサーの宝具は「聖者を穿つ槍」。これならば――あるいは。その宝具は対象の英霊がかつて負った罪や傷をそのひと突きで再現することのできる槍だ。しばらくは動きが止まるだろう。

「マスター。注意しとくがサーヴァントの能力、宝具を過信するのは厳禁だ」

「わかってる。今、最善策を考えてるから話しかけないで」

 私は戦略を練ることに長けている。それは昔お父さんが言った言葉だ。その通りだった。潜在的な何かを感じ取れるのだろう。それは――戦略というより一種の未来予知だった。魔力を通して伝わったあらゆる情報をもとに未来予知を行う。これには当然魔力を使う。

 だけど、それが私の魔術ではない。これは副産物だ。本来の属性は錬鉄。もっとも、女だから使うな。とお父さんやお母さんに釘を打たれている。もっとも――自分の危機には使用を許可する。というギアスがかけられているが。

 その気になればお父さんの使用できる固有結界すら展開可能だろう。だけど――もう一つの武器として宝石魔術を持っている。錬鉄と宝石。二つの属性を持ち、魔力の残高によっては半永久的に錬鉄で宝石を。宝石で攻撃を。ということも可能だ。だけど――私が錬鉄可能なのはあくまで簡単なもの。潜在能力はあるんだろうけど……



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キャスター

 サーヴァント。英雄を聖杯により受肉化させた英霊。それに選ばれるのは知名度や実績のある英雄だけではない――知名度がなくとも実績があれば聖杯に選ばれる。そんなものだ。それ故に、キャスターの目的は自分の名を知らしめること。

 本来聖杯戦争は秘密裏に行われるもの。目撃者は抹消しなければいけない。だが――キャスターは何を血迷ったか、誘拐犯としてニュース沙汰にもなっている。当然、魔術協会もこれを許容しない。魔術協会より放たれたエージェントがいたのだが――やはり英霊。魔術師では歯が立たない。そこで、魔術協会よりの伝言として言峰協会より弥生に電話がかかってきた。

「弥生か?」

「ええ」

「魔術協会が今直々に君たちにキャスターの討伐を命令した。できるか?」

「出来ます」

「よろしい。では、健闘を祈る」

 弥生たちは情報を集めきるのと同時に言峰から情報を受け取っていた。

「行くよ、両」

「おう」

 いよいよ――開戦の時は近い。

 

「なあ、キャスター」

「なんですか? マスター」

「お前の宝具は「世紀の大脱出」(フーディーニ)でいいんだよな?」

「いかにも」

「それさ……宝具ばれたら真名もばれるじゃん」

「いかにも!」

「おいおい……」

「ですがマスター。私の宝具はいかなる呪縛・宝具から大脱出を図れるものでございますよ」

「そりゃあそうだが……」

 ハリー・フーディーニ。脱出王と呼ばれた彼は、脱出マジックの新世代を築いた男である。当然、当時のマスコミは彼を売り込みたかったし、彼の売り込みがうまかったのもある。それゆえ、彼は一躍スターとなった。

「でもなんでキャスターなんだ?」

「奇術師がキャスターで呼ばれるのは不思議ですかな?」

「まあ、そりゃあ……」

「マスターこそ一般市民ではないですか」

「魔術回路ってのはしっかりとあるんだろ?」

「ですな」

 市ヶ谷和樹。本当にごくごく普通の一般人である彼が聖杯に選ばれた理由。それには理由があった。それは、此度の聖杯戦争の「本当の目的」に最も近い位置に彼がいたからである。

 聖杯戦争の魔術世界の脱却。一般人に聖杯が魔術回路を埋め込むことにより魔術師として参加を促す。それは真・聖杯が願望を、人間の夢を求めるがためである。願望器――もはやそれは魔術の世界においておくのはもったいない。そう聖杯が判断したのか――はたまた、裏で操るものがいるのか。その謎は現在魔術協会が調査中である。

 

「ねえ、両。聖杯が望むのって何だろうね」

「なんだよ、急に」

「聖杯は願望器なのよね?」

「そうだな」

「なら、聖杯自身にも望みはあるんじゃない?」

「むう、難しい質問を……」

「それが引っ掛かってるのよね……今回の件とかかわってそうで」

「何故そう思う?」

「直感ね」

「おいおい……」

 両はこういっているが、弥生の直感はよく当たるのである――



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市ヶ谷和樹

 キャスターの魔術工房にいよいよ乗り込む。特定したのはやはりライダーのスキルが大きいだろう。そして――

「そこまでよ!!」

「あ、あなたは?」

(なに……? 魔力を感じるのに……この嫌な感じは……)

「マスター、後ろ!!」

「!」

 炎系の攻撃魔術。でも、この魔力量――少し少ないような気がする。

「くっ、やはりこんなものか――」

「どういうこと?」

「考えるのはあとだ。一気に方をつけるか?」

「慌てないで。ライダー、一回消えて」

「なんだと……?」

「大丈夫」

「……」

 すう。一瞬で零体になる仕組みはいつ見ても少し不気味だ。だけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。こいつの、この男の素性を知る必要がある気がした。

「ねえ、あなた。正規の魔術師じゃないわね?」

「どういうことだ? 弥生」

「少し黙って」

 そういって両を黙らせ集中する。この男の正体を突き止めるために。

「正規……? なんのこと?」

「魔力の波長が体とバラバラよ。つまり、魔術を扱うことに慣れてない一般市民である可能性がある――」

「魔術の初心者かもしれませんよ?」

「それはあり得ない。基礎を学んでいない状態で魔術行使をしようとすれば多少なりとも身体的デメリットが生まれるはずよ」

「……」

「いかにも。マスターは一般人である」

「な、キャスター!!」

(マスター。ここはすべて話した方が得策だ)

(……わかった)

「こそこそ何を話しているの?」

「いや、何でもない」

 怪しい。そうは思いつつも話を進めることにした。何故彼らが聖杯に選ばれたのか――彼らの願望は何なのか――そんな些細なことでいい。今回の一件の動機がわかればいいのだから。

「その様子からすると話し合い……しかないようですね」

「ええ。話し合いの後にあなたを魔術協会に突き出すか決めます」

「弥生!? 何言って――」

「両。少なくとも彼を魔術協会に渡せばただじゃすまないわ」

「へえ、あなたのサーヴァントはそんなに睨んでるのに僕の身を案じてくれるんですか」

「それは話し合いの後に決めるといったはずよ?」

「……」

 さて。本題に入る。まずは彼が何者なのか。どういった経緯で参加することになったのか。それを聞かなければいけないだろう。だけど、本当に慎重に行う必要がある。魔術の世界に精通していない彼だ、おそらく身が危ないと感じたら貴重な令呪を使ってでも私たちを殺しにかかるだろう。まあ、さっきの攻撃からしてキャスターは攻撃性に欠けるのだろうけど……

「あなた、名前は?」

「市ヶ谷和樹」

「出身は?」

「北海道」

「何故、冬木に?」

「聖杯に選ばれたから」

 やはり何かがおかしい。一般市民が聖杯に選ばれた理由は? 何故そこまでして聖杯戦争を公にしようとするの?

「とりあえず警戒は解きましょう。ライダー」

「……不本意だが」

 そういってライダーは外の見張りに行くことになった。さて――ライダーは気が短い。なるべく早めに終わらせよう。



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第四次聖杯

 ――体は剣で出来ている――

 

 ノイズが走る。どこか、懐かしいノイズが。このノイズは何だろうか――でも、私の記憶にはそんな言葉はないし覚えもない。

 

 ――血潮は鉄で心は硝子――

 

 これは――詠唱? そういえば、サーヴァントとつながっている時、お互いの夢を見ることがあるんだっけ? なら――だとすれば――これは、ライダーの記憶? いや、そんなはずはない。ライダーに詠唱はない。だとすれば、アーチャー……? でも、なんでアーチャーが詠唱を?

 

「――よい」

「……」

「――よい。弥生!!」

「両……?」

「両……? じゃねえよ、今まだこいつの尋問中だろ」

「そ、そうだった……」

「……? すげえ汗だぞ?」

「い、いえ。気にしないで」

 あの記憶は、つらい。辛すぎる。それに、あれが真実なら、アーチャーの真名は――

 いや、今は考えるのを辞めよう。あいつにもう一度会って、突き止める。このことは今後は考えるのを辞めます。

「では市ヶ谷さん。あなたの聖杯に選ばれた理由――徹底的に調べます」

「は……?」

「わりいな。こいつには未来予知とか、相手の記憶を探れるそういう能力があるんだ。もちろん、魔術と別でな」

「そうなんですか……」

「……集中する。黙って」

「おう」

 こいつの過去を覗き見る――

 

 うっ……こいつ、一般人じゃなかったの? ならなんで――

 

 

 こんな殺人鬼が――!!

 

「どうした?」

「両。こいつは消す」

「おい」

「こいつは生かしておけない……現に――こいつは、こいつは!」

 殴った初めて、人を殴った。心が痛む……だって、誘拐されていた人たちは、関係ないアーチャーに殺されてるし、殺し合いを強要させられてるんだよ? 許せるわけないじゃん。許せないよ――!!

「こいつみたいな下衆が選ばれてるのは納得がいかない――!」

「でも、言峰さんには何も言われてないだろ!?」

「こいつがA級なら殺しの許可が下りてるわ……」

「……後悔しないんだな?」

「うん……」

「つらくないんだな?」

「うん……」

「だったら――」

「その役目はサーヴァントの役目だ」

「ライダー……」

「下がってろ」

 いつになくシリアスな口調でしゃべるライダーに、少しだけ同情した……だけど、ライダーだって本当は嫌なはずだ。殺しなんて――生前に苦しむほど行ってきたはずなのだから。でも、だとすると、殺しをさせられたアーチャーは――

「マスター。下手な同情は敗因になるぞ。生き残りたきゃやめろ」

「うん……」

「まあ、ここにいてもあれだ。アーチャーのとこでも行って来い」

「ありがとね……」

「気にするな」



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第五次聖杯戦争①

 アーチャーの記憶にあった中でも特別異彩を放っていたのは、第五次聖杯戦争に関する記憶である。父である衛宮士郎が勝利を収めたその戦いは、様々な陰謀が交差し、そして終わった。だが、アーチャーもその戦いに参加していたという。それも、別の世界でも呼ばれたりして。無数に存在する世界線でも、英雄は一人しか存在しない。だからこそ、強さを発揮できるのだ。別の世界線での経験と一つになって、英雄として完成するのだ。

 アーチャー。彼の真名はエミヤ。まぎれもない、どこかの世界線のお父さんが行きついた理想の先なのだ。だが、その過去はつらく、とても人に見せれるようなものでも、話せるようなものでもなかった。故に彼は五次聖杯戦争では記憶の欠陥が生じている。で貫こうとしたのだ。

 時には最後まで生存し、時にはお父さんのために力を貸す――生前いびつな生き方をしてきた彼にとって、それは救いだったのだろうか。そんなはずはない。彼を救うとしたら、人生を一生与えても与えきれないだろう。彼の受けた絶望は傷が深く――そして彼は人類のために死んだ。

「そうだ。そして私は再び呼ばれた」

「……でも、どうして?」

「私が呼ばれたのは必然だ」

「え……?」

「この聖杯戦争の先に待つのが――過去の私の過ちだとすれば?」

「ま、待って!! だとしたら――」

「此度の争いの黒幕は紛れもない。衛宮士郎だ」

「そんな……」

「絶望したか? 失望したか? だが。それがエミヤという男が歩んだ道だ。これから紡ぐ未来に彼の心に希望などないし、今後もできやしない」

「……」

 確かにエミヤである彼はあの時、最後にお母さんと約束している。彼が、衛宮士郎がひねくれものに、英霊エミヤにならないようにする、と。だけど、こうして今お父さんはエミヤよりひどくいびつな人生を歩もうとしてる――

「! 弥生!!」

 銃弾が横をかすれる。あと一秒でも遅ければ死んでいた――

「あれは――起源弾……魔術回路を破壊する魔術師殺しの銃弾か……!!」

「どうした? 君の理想はそんなものか? 士郎」

「……切嗣。何故ここにいる?」

「決まってるじゃないか。アサシンとして呼ばれたんだよ」

「だが、あんたの理想は間違ってる」

「ああ……知ってるさ。だからこそ、聖杯に願うんだよ。人生を――やり直したいってね」

「……!!!」

 アーチャーの眼力が今までとは違くなっている。

「俺の理想を笑うならそれでいい――だが、だがな。あんたに憧れて俺は――俺は!!」

「固有結界……やはり、噂レベルの魔術師になっているか……!」

 私は察した。あれはおじである衛宮切嗣であってそうではないもの――ゆがんだ存在、反転した存在。そう――

 

 オルタ――いや、使徒だ。



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二人のエミヤ

「マスター、やつは危険だ。一気に片を付ける。宝具使用許可を!!」

「いいわ、あなたの全力―――この私に見せなさい!!」

「了解した!」

「ライダー、あなたは両を!!」

「あいよ」

「――体は剣でできている」

「やらせないよ」

 アサシンのエミヤは起源弾を打つ。魔術による防御は貫通するといっていた。ならば――

「アーチャー――詠唱を維持したまま霊体に!」

 令呪による命令。これならば――!!

「この体は――無限の剣でできていた!!」

「くっ……!」

 あたり一面が剣の丘となる。これが――アーチャー、エミヤに許された唯一の宝具。そして、大魔術、固有結界。

 その威力は絶大で、ここにいる間は彼の魔術である武器の投影が容易となる。

「行くぞ、切嗣」

「いいさ――決着をつけよう」

「はああああああああああ!!」

 ――決着がつく。アサシンの体を――アーチャーの剣が切り裂いた。

「見事――だ――」

「……切嗣の理想は――目指した先は――そこじゃないだろ……?」

「そうだ……僕は、英雄になりたかったわけじゃない――」

 そう言い残し、アサシンは消滅した。

「アサシンは倒したけど、気を付けて。特別ルールや野良サーヴァントと契約されたら痛手よ」

「そうだな……聖杯は君にこそふさわしい」

「ねえ。アーチャー……ううん。お父さん」

「……私はあくまであったかもしれない衛宮士郎の可能性だ。とても君の父親では――」

「でも、お父さん、衛宮士郎ということに変わりはないわ」

「……」

「……?」

「いや、何でもない」

「ライダーには悪いけど、倒したわ」

「ま、きにすんな」

「でも弥生。この聖杯戦争――君の家族がことごとく召喚されている……気を付けろ」

「もちろん。何かあるのはわかってる」

 市ヶ谷は魔術協会に引き渡すことになり、私たちの任務はとりあえずは終わり、そして――ここからが本当の戦いだった。最優であるセイバーは敵に回っている。それに、アサシン、ライダー、アーチャー、キャスター、ランサーが判明している以上、残るセイバー、バーサーカーは聖杯戦争でもダントツのクラス二つだ。サーヴァントが二人いるとはいえ、油断できない。むしろ、ここからは文句なしの本気で行かなければ……

「そういや、聞いたか?」

「ん?」

「裕也の奴――マスターらしい」

「え……?」

 私と両は衛宮士郎と遠坂凛の子供で、裕也の母である間桐桜は何を隠そう、お母さんの実の妹だ。つまり、家族である。私たちもそう、家族なのだ……

「家族同士の殺し合い――これは、調べる必要がある」



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激突する英雄

「はあああああ!!」

「あまい……甘いぞ! セイバー!!」

「バーサーカー……戦いを楽しんでいるな!!」

「いかにも……」

「貴公の卓越した戦闘技術――そしてその戦闘を楽しむ性格――」

「いかにも。ウル―ヴ・ヘジンとは俺のこと」

「……私は円卓の騎士、ギャラハッド」

「やはりか。だが、剣の英霊でありながらなんだ? その宝具は」

「私は円卓の中でも守りの英雄……ならば盾なぞ不思議じゃないだろう?」

 聖杯戦争の最高峰クラスであるセイバーとバーサーカー。二人は今、お互いを高めながら戦っている。そして、その行きつく先になにがあるのか。マスターは見守るだけだった。

「宝具は解禁しない……」

「決着をつけんというのか?」

「サーヴァントがほかにもいる……そいつをおびき寄せる」

「ふん、気に食わんがそいつを倒すまでは協力してやる。生き残る確率と聖杯を手にする可能性が増えるならな」

「もちろん決着はつけるさ。この――陰でこそこそいている奴を消した後にな」

「おもしろい……面白いぞおおおおおおお!!」

 バーサーカーが襲い掛かる。だが、ギャラハッドはそれを巨大な盾で防ぐ。そして、次第に陰で見ていた英霊は、戦闘に参加する。

「……」

「貴様、アサシンだな?」

「そうだ」

「……アサシン……?」

 セイバーの元にはなぜか情報がいち早く入っている。そう、アサシンは敗れたという情報もだ。つまり、彼のマスターは聖杯戦争を掌握している人物となる。それはただ一人――

「アサシン。貴様敗れたのではないのか」

「僕はアサシンであってアサシンではない」

「なにを言ってる?」

「使徒化――というのは知っているか?」

「たしか、一般人が吸血鬼にのようになったものだったはず……」

「そうだ。そして、それこそが僕の宝具だ」

「貴様……一般市民を巻き込んだな!!」

(理性がないはずのバーサーカーが怒りをあらわに……というかこいつ、狂戦士の由来であるから理性を失わないのか……)

「アサシン、覚悟しろ。お前が挑むのは正真正銘のバーサーカーだ」

 バーサーカーが宝具を解禁する。

「行くぞ――覚悟しろ、アサシン!!」

 宝具解放の一歩前。セイバーは何を悟ったのか、盾を構え腰を入れる。

「『静かに激しく荒れ狂う(ベルセルク・ド・バーサーカー)!!』」

 あたり一面が消し炭になる。そして、セイバーは今、耐えるのに必死だった。だからこそ、アサシンなんてもはや消滅するしかなかった。バーサーカー……その枠に収まりきらない、それがヘジンだった。



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聖杯戦争

 その異常に気付いたのはバーサーカーだった。

「おい、マスター。この聖杯戦争――異常だぞ」

 そういってバーサーカーは消滅する。また、消滅する間際にセイバーにこういった。

「現存する5騎を集めろ。その時、真の聖杯は現れる」

 と……聖杯戦争の名を模した別物だったのだ。だが、その真相を知るのはおそらく主催者である者だけだろう。故にバーサーカーは集結を待っていたのだ。すべてのサーヴァントの。

 

 弥生の元に一通の手紙が届く。それは、多少の魔力を帯びているものだとわかった。

「聖杯戦争、ここに終結す。現存のマスターは言峰教会に集合すべし」

 というものだった。そう――この真聖杯戦争は終結に近づいているのだ。それは、バーサーカーが知った真実に隠されていた。

「どうする?」

「信用するしかねえ」

「一応サーヴァントは三騎。護衛には十分ね」

「ああ」

 そうして彼女らは向かった――聖杯戦争を終わらせるために。

 

「……集まりましたね」

 そこにいたのは――紛れもない、間桐裕也であった。

「裕也……?」

「僕はバーサーカーのたどり着いた真実の元、現存のマスター全員を集めました……そして、今から伝えるのは紛れもない事実――この聖杯戦争に仕組まれた真実です」

 全員が集まったのを確認し、そういった後彼はそのまま協会の真ん中に立ち、そして口を開いた。

「この聖杯戦争はそう――日本の魔術師を一人残らず消すことを目的にした――親族、そう。血縁者をはじめとした関係者だけの戦争だったのです」

「で、でもそうしたら市ヶ谷は……」

「彼は必要な駒でした。魔術師をせん滅した後始まる新時代のためにね」

「新時代……?」

「魔術の繁栄した一族をせん滅。そして始まるのは――魔術を知らない一般人による新たな社会、魔術社会です」

 それは、魔術に精通した者のいない、要は全員が同じスタートラインに立った状態での世界の革新。新たな世界の秩序であった。

 魔術を全員が知れば、聖杯戦争の規模は大規模に膨れ上がり、その分だけ絶望も希望も聖杯に注がれる。そうして完成させようとしていたのが――

 真聖杯であった。

「でも、真聖杯っていっても聖杯と役割は変わらないんじゃ……」

「いいえ。真聖杯の目的は二つの存在の確立です」

「え……?」

「この世のすべての悪。アンリマユ。魔術の希望、天の衣、ヘブンスフィール。その二つを聖杯によって生み出そうとしていたのです」

「何のために……?」

「救えなかった――イリヤ・スフィール・フォン・アインツベルンを再現するためでしょうね」

「……」

「このバカげた戦争の黒幕――それこそ衛宮士郎なのですよ、弥生」



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真実の戦い

 さあ始めよう。真実の戦いを。それは、魔術を残すための戦い。それは、魔術世界を守るための戦い。

「全マスターは協力してやつをとめろ」

「やつ……衛宮士郎ですか」

「あやつは世界線から外れつつある」

「どうすれば……」

「弥生はどうしたいんだ?」

「父さんを……助けたい……」

「その覚悟があれば十分だ」

 始まった最終決戦。その最終決戦に挑むのはセイバー、アーチャー、ライダー、ランサー、バーサ―カー、アーチャー(弥生)……アーチャーは特殊処置によりニ騎いるが、それでも十分な戦力だ。

 対する向こうは人類悪となった衛宮士郎。彼は人間としての力を捨て、守護者になろうとした。だが、それはかなわなかった。だから、聖杯に願い、そして汚染された。この世のすべての悪――それに汚染されれば最後、終わりである。

「でも、なんで小聖杯でもない父さんが汚染を?」

「……聖杯はなんでも願いを叶える万能機だ。そして、冬木の聖杯はこの世のすべての悪に汚染されていた事実は確かにある。それ故に、最悪の形で願いがかなったんだろう」

「……聖杯を切り離すことは?」

「無理だな」

「……殺すしかないってこと?」

「ああ」

 家族同士の殺し合い。当然皮肉なものだ。それが最悪の形でなってしまったのだから、尚更だ。この世界のために父を殺すか――自分のために父を生かすか。究極の選択であろう。その選択を彼女は強いられていた。

「弥生、君の選択に従おう」

 その選択を決めるのは自分自身だ、と。

「ランサー!!」

「マスター、あいつはやばいぜ」

「弥生……君の意思がなければあいつは倒せないし、逆に君の意思であいつをどうにもできる」

「……わたしは……私は!!」

 そして彼女は手の甲にある令呪を見つめて、覚悟した。

「令呪をもって命じる――ライダー、あの人類悪を蹴散らして!!」

「……令呪フルブ―ストの宝具か……仕方ねえ」

 彼の宝具、戦を終わらす最善策(トロイの木馬)が発動する。通常の三倍の能力で。

「元々対軍宝具なんだし……そりゃこの威力になるよな」

 そして――終わった。そう思っていた。

「なんで……?」

 聖杯からの魔力がある限り無限に再生を続ける泥人形。それは人類悪の正体だった。

「聖杯を破壊しないと!!」

「無理ね」

 聞き覚えのある声だった。確かに――その声は身近だった。

「お母さん……?」

「ごめんね、でも、あいつを守るって約束だから」

 戦場はより激しくなった。そして、次々脱落する英霊たち。そして――



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