ゴッドイーターイーター (杉の根)
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束の間の日常

昔に戻りたい。

 

いや、俺が昔に戻った所で猶予が出来るだけか。

 

まあ、誰が何年戻ろうがこの事態は防げなかったと思う。

 

 

始まりはいつだったか、確か2050年だっけ?

アラガミとか言う生物が見つかった。

はじめは大発見だと騒いでいたが最近では絶滅の危機だと騒いでいる。

 

人間のせいでアラガミが、じゃなくアラガミのせいで人間が、だが。

 

それでもはじめのうちは日本には上陸してなかったし、大変そうだけど絶滅は大袈裟だろとか思いながら、マンションの一室でネット見ながらポテチを食っていた。

 

それがこのザマだよ。

 

今じゃ、鉄パイプの骨組みとダンボールの壁の小屋でフェンリルの公営ラジオを聞きながら蒸したジャガイモを食っている。

当然、調味料なんてものはない。

 

まぁ、ひどい時はでかいトウモロコシ一つなんてこともある。

それに比べりゃ今日の数品ある飯は大分ましだし、まだ命がある辺り幸運なんだろう。

それでも昔を思わずにはいられない。

 

そんな事を考えている内に二人分の配給を食べ終わった。

 

ん?何故二人分かって?

 

隣の小屋の奴が自殺したいっていうものだから俺の持っていた縄を貸すのと交換したんだ。

今頃ビビって自殺を延期しているかも知れないし、敢行しているかもしれない。

奴いわく、今の時代死んだ方が幸せらしい。

 

一緒に死なないかと誘われたが正直理解できない。

 

調味料がどうとか文句を言った後で言うのも如何かと思うが、味気なかろうが腹が減ってりゃ、それなりに美味しく食べられる。

 

ささやかではあるが他にも幸せなんて幾らでもある。

 

そう返したら、奴はその程度で満足できるのが羨ましいよと言って去っていった。

 

奴からすれば俺は劣った知性なのかもしれない。

俺より小難しく、良く言えばより複雑な考えをしていることは認めよう。

だが、自殺に駆り立てるような知性を持っていることを誇られてもな。

 

まあ、適者生存という奴だ、奴は今の環境に適応できなかった。

生物としては俺の方が少しは上等だと思う事にする。

 

とりあえず腹ごしらえは済んだし、仕事でも探しにいくか。

こんな外周に仕事がある可能性は低いが、探さないとその数少ない仕事を他に取られちまう。

 

ネットなんて使えるような電子機器なんてほとんど難民の俺らじゃ手に入らない。

そういうのは使い道が多すぎていくらあっても足りないからな、仕事にも困るような奴には手の届かない代物だ。

 

となればどいつもこいつも仕事がありそうな場所に張り込むわけで、当然渋滞するわけだ。

そんな状況じゃ動こうとしたって動けない。

 

特に装甲をアラガミに破られたって放送とサイレンが流れてからはな、隅っこの方に移動するので精一杯だ。

 

できれば内側への道に行きたかったんだが、アラガミのお世話になる前につぶれて死にそうで諦めた。

まあ、いつも通りの小型数匹なら避難誘導もゴットイーターも間に合うと思うが大型で足が早い奴だとやばいかもしれん。

 

幸いそれぞれ勝手に建てた小屋のおかげで少し道をそれれば入り組んでいる。

かくれんぼに最適だ。

 

落ち着いて考えてみりゃ「破られそう」じゃなくいきなり「破られた」ときたもんだ。

大型アラガミじゃねぇとできそうにないよな。

小型数匹なんて楽観はしないほうがいいかもしれねぇ。

 

大型で足が速いといえばヴァジュラか?

ヴァジュラは視覚メインらしいし小屋の一つに隠れてりゃまず助かる。

運悪く通り道にならなければだが。

 

ほかの遅い奴ならここいらまで来る前にゴットイーターとやり始めるだろう。

人が集まる場所はこういう時のために元々奥にあるからな。

 

念の為、小屋の一つに隠れておくかね。



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まあこれも日常ではある

小屋に入ろうというところで戦闘音が聞こえてきた。

特徴的なパイプからの大音量がここまで響いてくるし、コンゴウか?

 

中型でも簡単に装甲破れるのか。

もうちょいちゃんとした装甲にしてほしいね。

増築工事で働き口が増えたら尚良い。

 

とりあえずさっさと隠れちまおう。

避難民仲間の間じゃコンゴウは耳がいいって噂だからな。

まあ、コンゴウなら防衛隊を抜けはしないだろう。

奴らは足止めに関しては一流だ。

 

 

 

そうして近い小屋に入ると先客がいた

 

ほら、例の自殺志願者だ。

人の流れに押し流されてるうちに俺んちの辺りまで来ていたようだ。

 

それにしてもわざわざ延期したのか?

顔青くして震えやがって。

お前の場合は死に方が変わるだけだろうに、情けねぇぞ。

 

「冗談言ってる場合か!アラガミ来てんだぞ!」

 

土壇場でビビってる所に警報がなって、より強く死を意識したことで気が変わったのか。

死ぬにしても食われるのは嫌なのか。

 

いいことを教えてやろう。

首吊りってな、結構苦しむ。

糞尿ただ漏れは死んだ後だから良いとしても窒息だからな。

刑でやるような首吊りは足場外してからの落差がでかいからな、その衝撃で死ぬ。

けど、自殺でやるような椅子を自分で蹴飛ばしてとかだと死にぞこなって苦しむ羽目になるぞ。

食われるのがいやなら首吊りも向いてないと思うぞ。

後声落とせ。

 

「う、ぐ、とにかく避難だ!」

 

だから声落とせって言ってんだろ。

お前の意識を落とそうか?

さっきの音はかなり近かっただろうが。

今来てんのはコンゴウだぞ。

 

ようやく黙ったか。

まだ気づかれていないといいが。

 

すっかり逃げるタイミングを失っちまった。

もう音が近い。

今から外に出ると見られるかもしれない。

 

 

どうも中型数匹、小型多数の群れのようだ。

それとゴットイーター達は遠くで戦闘の真っ只中だ。

ここまで侵攻されてる辺り、この群れも全体の一部でかなり大規模な襲撃かもしれないな。

 

やばいな、奴ら鼻が利かないってわけじゃない。

戦闘中ならともかく落ち着いて探されたら小屋の中でも見つかるかもしれん。

とは言っても人が走って逃げられる相手でもないしなあ。

 

しゃーない、おいお前。

 

「ひっ!な、なんだよ」

 

このままここに隠れるってのも手の一つだが二人で別の道を走って逃げる手もあるがどうする?

 

「・・・1,2,3でどうだ?」

 

いいだろう。

 

 

 

3!

 

 

 

 

 

結論から言うとあいつは出てこなかった。

俺は少し走ってからオウガテイルと出くわし、コンゴウの回転突進でオウガテイルと仲良くミンチになった。



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新生活の初めのうちは慌ただしいものである

なんだ?

 

 

 

 

 

上手く頭が働かん。

 

 

 

生きてるのか?

 

 

 

「うわああああ!やめろおぉー!」

 

あいつの悲鳴が聞こえてきた。

同種の悲鳴に本能的に危険を感じたのだろうか?

一気に思考が覚醒する。

 

目覚ましとしちゃ最悪の部類だが、効果が高いのは認めざるを得ないようだ。

 

だが何故奴はあんな行動を?

 

そもそも装甲を破られたら破られた場所に急行して内部への進行を防ぐのが定番で、その為の準備を誰よりもしているのが防衛班だ。

このアラガミどもはゴットイーターと一戦交えたか、戦っている仲間の横を通り抜けたか、どちらかの可能性が高い。

その直後にゴッドイーターとよく似た生物が物陰から飛び出してきたら不意打ちを警戒するのは当然だろうに。

俺が弱くても次はゴットイーターみたいな奴が出てくるかもしれないと思うだろうからな。

コンゴウを含む複数のアラガミに臨戦態勢で警戒されたなら、ただの人間には隠れるなんて無理ゲーもいいところだ。

 

自ら一番死にやすい選択とはな。

まぁ、そもそも自殺志願者だし不思議でもないか。

 

 

 

さて、俺の方はっと。

俺が生きてる辺りオウガテイルはクッションになってくれたのかね?

周りに見当たらないし死んでないにしても暫くは動けないと見ていいかな。

となると問題はコンゴウだが。

 

そのコンゴウさんは俺には対して興味がないご様子。

 

気が変わる前に視界から外れたいところだが。

 

・・・なのだが。

 

どうにもうまく立てねえ。

 

なんだ?

腕が短いっていうか無いのか?

ちぎれたのかね、こりゃ俺もやばいかもしれん。

 

それでも時間を稼げば救護班が間に合うかもしれない。

止めを刺されないように逃げよう。

 

・・・?

 

走り方がおかしい。

 

なんて言うか倒れた状態から走り出そうとすると前傾姿勢になり過ぎてまた倒れたりするもんだが、今はそのまま走れている。

むしろしっくりくる。

 

骨格から歪んでるのか?

それにしても走れないならともかく走りやすくなるなんてあるものなのか?

 

丁度よく後数歩の位置に窓ガラスがある。

悠長に状態を確認する暇はないが、全体をざっと見るくらいはしてもいいかもしれない。

 

 

 

・・・オウガテイル?

 

俺がか?

 

窓の向こうにじゃなくてか?

 

ちょっとガラス割ってみよう。

俺の頭は甲殻に覆われているしそもそもオラクル細胞だし怪我はしないだろう。

頭突きでいいか。

 

頭突きで呆気なくガラスは割れ、俺は傷一つ負う事もなかった。

 

ガラスの向こうには何もいない。

俺がオウガテイルの姿をしているってことで間違いなさそうだ。

 

ん?

何故だろう、自然に頭突きをしていた。

 

普通は破片で怪我しないか躊躇うもんだが。

 

これはどういう事だ?

 

 

 

突然コンゴウの怒号と爆発音が聞こえてきた。

割と近く、さっきのコンゴウで間違いない。

 

人間側の増援か?

 

この見た目じゃアラガミごとぶっ殺されちまいそうだ。

こんな鉄火場では弁解する暇もない。

 

一先ず逃げよう。

 

今は割と静かになってしまっているが、最初に騒がしかった辺りを目指そう。

多分、そこの近くに装甲を破られた部分があるはずだ。

 

 

 

 

 

 

取り合えず穴が見える場所までは行くことができた。

 

しかし、ここから先はかなり難しそうだな。

 

ゴッドイーターが二人張り付いている。

通常の歩兵もいる。

 

これがゴッドイーターだけで、外から穴を目指すアラガミと交戦中とかだったら後ろから不意打ちして後は走り抜けるのも手だったんだが・・・

 

装甲の高所に設けられた見張り台にいる奴、穴を何やら粘土みたいなので埋める奴、それを護衛する奴。

単純に目が多すぎるし、一人二人食っても大した意味はない。

ある意味ゴッドイーターより厄介かもしれん。

 

これは見つからずに行くのは難しいな。

 

できれば外から新しく仲間が来るのを待って挟撃をしたいところだが、襲撃が始まってそこそこ時間がたっているはず。

もう近場の奴は品切れだとかで、追加は時間がかかるのかもしれない。

そうしている間にも穴は小さくなっていく。

 

・・・ん?仲間?

いや、不意打ちだの食っても意味はないだのなんかアラガミ側に引きずられてないか?

 

まあ最も生き残って繁栄するものは最も適応したものであると言うし、体がアラガミになっちまった以上アラガミの生き方に合わす事を考えないでもない。

しかしこれは、乗っ取られることを警戒すべきか。

でも乗っ取ったのは俺の方か?

 

うん、とりあえず後回し。

とにかくこの場を切り抜けて生き残ってから考えよう。

 

 



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