fate / archer in IS (タマテントン)
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1話

いやホント気まぐれでなんです

何かスミマセン



[side:???]

 

ドゴン!!

 

この世の片隅の廃墟の一室に突然大きな音が響き渡る。部屋には煙が充満し、その煙が徐々に晴れると、そこには、ボディアーマーに紅い外套を纏った男、アーチャーが衝撃で壊れた机や椅子の上に座っていた。

 

アーチャーは辺りを見回し、周りに誰もいないことを確認すると、深くため息をついた

 

「マスターらしき人影はなしか…。呼び出されたわけではなく、放り出されるとはな。それに加え、前情報も無い上に魔力供給も儘ならないとは、難儀なものだ。」

 

アーチャーはゆっくりと腰を上げ、壁際まで歩き目を閉じて壁に手を当てる。

 

「ーーーー同調、開始。」

 

アーチャーは慣れ親しんだ解析魔術を使い建物の様子を調べる。

 

「…ふむ。完全な廃墟だな。水すら通っていない。放置されて五、六年といったところか。一つ下の階に子供が一人、それを取り囲むようにして大人が数人位置している…か。」

 

(…ん?先ほどの音が聞こえていたか。数人こちらに来ているようだな。)

 

男は霊体化し、しばらくすると、拳銃を持った三人の男たちが部屋へと押し入ってきた。

 

(なるほど。素人ではないということか。だが、この程度なら…。)

 

アーチャーは実体化し、手に鉄塊を創り出すと、それを持ったまま素早く三人に肉薄する。

 

「っ!?なにm…グハッ…。」

 

「どうsウッ…。」

 

「う゛…。」

 

音を最小限にして三人を無力化すると、手元の鉄塊を消し、縄を出現させると、三人を縛り、床に転がす。

 

「どうやら、あまり穏やかではなさそうだ。下にいる少年も何かしらに巻き込まれているのだろう。」

 

言って部屋を出ると速やかに少年の位置する場所まで駆けて行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「…やはり。思った通りか。」

 

アーチャーは陰から様子を見ると、身動きができないように捕縛された少年と、銃をもった大人がいた。

 

「人数は10人程度か。無力化するのは簡単だが、さて…。」

 

なるべく少年には危害を与えないようにするために、正面からの接近を避け、闇に乗じて攻撃することに決め、手に黒い洋弓と刃を潰した矢を投影し、大人たちに向けて矢を放った。

 

「え、なんだ!?何が起きたんだよ!?」

 

突然かなりの勢いで飛来してきた矢に当たって、次々と大人たちが倒れたことにより、少年が怖がってしまった。

 

「チッ…何なんだくそ!!」

 

そんな中一人の女が矢の当たった部分をさすりながら立ち上がる。

 

「ほう…着弾点をずらされたか。どうやらすこしばかりやるようだ。」

 

アーチャーは暗闇から姿を現し、女の前に立った。

 

「なんだテメェは!?一体どっから湧きやがった!」

 

「なに、突然ここに放り出されただけだ。私自身はしがない弓兵さ。」

 

「弓兵だと…?ふざけやがって!ぶっ殺す!!」

 

女はそう言い放つと、突然体が光だし、その光が収まると蜘蛛のような機械を身に纏った。

 

「なんだこれは…?」

 

アーチャーがそう言葉を零すと、女はニヤリと歪に笑う。

 

「これが何かだと…?ISに決まってんだろうが!!」

 

女はアーチャーに向かって銃を乱射する。アーチャーは素早く身をひるがえし、柱の陰に身を隠す。女の銃声は鳴りやまず、ひたすらアーチャーに暴言を吐き続けていた。

 

「IS…?一体なんだあれは?まぁいい、それは後回しだ。このままあの女性がヒステリーを起こして少年に危害を加えるかもしれん。手早く済ますとしよう。」

 

アーチャーが物陰から飛び出ると、女はそれを追随するように銃を連射させる。

 

「なんなんだこいつは!?」

 

アーチャーは壁や天井を使い立体機動をする。アーチャーの動きに女は驚き、さらに攻撃の数を増やす。しかし、アーチャーには掠りもせず接近を許してしまった。

 

「遅い!」

 

アーチャーは蹴りで銃を弾き飛ばし、さらに女の顎をかすめるように蹴る。顎をやられたことにより、女は前に倒れ込む。そこからアーチャーは女の腹部に蹴りを放ち、相手を壁に突っ込ませる。女は壁を突き破り、そのまま脱力し、気絶した。

 

「パワードスーツ…というやつかね?まさか、私の動きを追い、あまつさえ射撃を行うとは…それほど生ぬるい動きをしたつもりは無かったのだがね。さて、無事か?少年。」

 

アーチャーは縄で縛られた少年を助け出すと、少年は驚いた表情をする。

 

「あんたは一体…?」

 

「私か?そうだな、私の事はアーチャーと呼んでくれ。」

 

アーチャーはそういうと、何かの気配を感じ窓の外を見る。すると、IS一機が遠くから猛スピードでアーチャーたちのもとに来ているのを発見した。

 

「あの白いISとやらは君の知り合いかね?君に少し似ている女性だが。」

 

アーチャーの言葉を聞くと、少年はハッとした表情を浮かべる。

 

「それは千冬姉だ!!間違いない!」

 

「家族か、なら私はここで退散しよう。随分と切迫した表情をしている。ここで犯人と間違えられてはたまらないからな。」

 

アーチャーは背を向けてその場から去ろうとする。少年が何かを話そうとしていたが、先ほどのISがすぐそこまで接近していたので、部屋を出て霊体化し、その場から離れた。

 

建物から出たアーチャーは自分のいる場所を把握するために屋根から屋根へと移動を続ける。長距離を移動すると、アーチャーはこの地の手がかりを見つけた

 

「あれは…ケルン大聖堂。ということはここはドイツか。」

 

(この風景。まさしく私の生前と同じ時代だと推測するが…だとしたら先ほどのISとやらは一体何だ?確かに私の生前の記憶は曖昧だが、あんなものがあれば記憶に残っていても良いはずだ。あれほどの兵器は戦場でも見たことがない。)

 

アーチャーはケルン大聖堂の中に入り、人目のつかなそうな場所にある椅子に腰を下ろす。

 

「現界直後に事件とは…これはまた気の滅入る話だ。それにしても……信仰の集まる大聖堂であれば魔力の消費を抑えられると踏んで忍び込んだのは良いものの、なんだねこの魔術基盤は。誰もこの地を使っていないというのか?だとすればこの地の魔術師はあまりにも無能だと言わざる得ないな。いや、魔力を供給できない私にとっては感謝しなくてはならないか。」

 

(これだけ大源(マナ)の満ちている地があれば最早居るだけでも魔力は回復するだろう。しかし、なぜこのような霊地が手つかずのまま残っているのか…。さらに、ISとは何か…。疑問に思うことは尽きないがそれよりも、なぜ私が現界することになったのか…。まずはこれを最優先事項として調べるべきだろう。)

 

アーチャーは今後の方針を決めると、後はただひたすら魔力が回復するのを待ち続けた。

 

 

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アーチャーは現界してから、数日を大聖堂で隠れて過ごし、魔力を満タン近くにまで回復させた。

 

「よし、これで普通にしていればしばらくは魔力切れの心配はないだろう。」

 

アーチャーは人々が寝静まった夜に世話になったケルン大聖堂の掃除を済ませたとに出立し、霊体化をしたまま町を散策する。

 

(夜とはいえ流石に赤原礼装では目立つだろう。かといって投影した服など危なっかしくて着れたものではないからな。その内どこかで服を調達する他あるまい。む?)

 

アーチャーは道端に捨ててある新聞に目が留まった。

 

「これは確か先日の少年の…。」

 

新聞には日本人の女性の写真が載っていた。その女性とは先日助けた少年が姉と呼んでいた人物だった。

 

「ISの世界大会、モンド・グロッソか。ここまで大々的に新聞に載っているとはな…。なるほど、今まで可能性の一つとして考えてはいたが、並行世界と考えてまず間違いないだろう手始めに、ISの知識を入れなければな。世界でこれほど重要視されている技術だ。常識程度は知っておく必要があるだろう。私自身が自由意思を持っている時点で誰がどういうつもりでこの世界に放り込んだのかは甚だ疑問だが、私の成すべき事とは何か…。判断材料がない今、私は私のやり方を貫くとしよう。」

 

アーチャーは再び歩を進め、まだ閉館している国立図書館へと足へ運ぶ。案内図を見ると、ISのコーナーが大きく書かれており、そこへと足を運んだ。人がいないことを確認すると実体化し、ISの本を手に取る。

 

しばらくただひたすらにISの本を読み進めていく。

 

ISには絶対防御があり、命の危機に陥る攻撃はそのシールドがガードしてくれること。ISの装着は男にはできないこと。それによって女尊男卑の世の中になったこと。ISの生みの親が篠ノ之束という人物であること。そして、その肝心の博士が行方不明であること。

 

「絶対防御に軍事利用の禁止…か。そんなもので安心できるのであればこの世の中に戦争など起きなかっただろうにな。」

 

アーチャーは嘲笑しながら先日の少年を誘拐したと思われる一団の中にいた女が使っていたISを思い出した。さらに本棚にある本の背表紙に目を通していくと興味深い内容が目に留まり、それを手に持った。

 

「ん?この資料は…篠ノ之博士がこの世にISを発表した時の論文か…。いやはや、まさかこんなにも若い博士だとは思わなかった。」

 

アーチャーがその論文を読み終わると、開発者の意向と今のISの扱いの差に眉をしかめる。

 

「…なるほど。宇宙への進出か……彼女自身は純粋に宇宙に興味があっただけなのかもしれないな。だが、彼女一人の力で世界が変わったと言っても大袈裟ではない。若いが故にISによって女性が力を持ち女尊男卑の世になると予測できなかったのか、はたまたそうなっても構わないと思ったのか。どちらにしてもこれは流石に女尊男卑の社会に進み過ぎたな。」

 

アーチャーが一通りの情報を頭に入れると、本を元に戻す。

 

「こんなものか。ある程度の知識は入れられたな。この分なら専門的な分野にも手を出してよさそうだ。」

 

アーチャーは早々に図書館から立ち去り、建物の屋根に飛び移る。

 

「さて、ISの事を隈なく知るには篠ノ之博士に会うことが一番だが、ここまで徹底してISの情報を秘密にしている人間が簡単に説明するわけもないか。まずはイギリスに行って魔術師の有無を確かめなければなるまい。」

 

アーチャーはそう呟くと、霊体化して姿を消した。

 

 

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アーチャーはドイツから霊体化のまま飛行機に乗り、真夜中にイギリスに入って、ヒースロー空港からビック・ベンを目指す。距離にして大体20㎞以上の道を疾走する。

 

ロンドンの街並みを懐かしみながら走り続ける。しかし、所々朧げな記憶の中にあるロンドンとは異なる部分がある。軽い違和感を感じながらアーチャーは時計塔へと到着した。

 

「……やはり。魔術師は存在しないのか。」

 

時計塔の様子を見るが、辺りにいるのはそこにいるのは警備員だけで、魔術師の痕跡すら見つけることができなかった。アーチャーは都合がいいと思った。生前は自分にとって邪魔だった魔術協会が存在しないと知って行動範囲が大きく広がったからだ。しかし、その顔が変化することはなく、どこまでも無表情だった。

 

「この身にできるのは醜悪な正義の味方を体現するだけだ。」

 

アーチャーはそう呟くと、時計塔を後にする。ほかにも、聖堂や寺院、教会にも向かってみるも満ち溢れた大源(マナ)だけしか発見することができず、再び夜を迎えてしまった。

 

「ふぅ…。魔術師に関しての問題はこれでクリアできたか。次はISについて詳しく学ばねばなるまい。特に女性のみという部分には些か疑問があるが、まずはISに解析魔術をかけなければ始まらんか。」

 

アーチャーは再び霊体化し、デカデカとIS研究所と書いてある看板を見つけ、忍び込んだ。空いている窓を見つけ、そこから侵入すると、倉庫のような部屋を掃除している男の研究員らしき人間がいた。

 

「くそ!男だからって理由でなんで掃除させられなきゃならないんだ!僕は研究員だぞ!?用務員じゃないってのに!」

 

愚痴を言いながらもせっせと掃除する男をわき目に、アーチャーは研究所の中を進んでいく。奥へ入ると、そこでISの実験をしている部屋を見つける。ガラス張りの部屋の中で金髪ロールの少女が青いISを動かしていた。部屋の周りには、モニターと向かい合っている研究員が数値の変動一つ一つを見逃さないように集中してみている。女の研究員の一人がマイクで部屋の中にいる少女に声をかける。

 

「セシリアさん。訓練お疲れさまでした。それではこれからデータの解析をしますので、今日はもう上がっていただいて結構です。」

 

「わかりましたわ。」

 

ISに乗った少女はISを解除すると、実験室から出て行った。

 

(む、丁度終わってしまったか。タイミングが悪かったようだ。何か得られると思ったが、仕方あるまい。先程の少女と偶然を装い知り合いになることができれば何か聞けるかもしれん。)

 

アーチャーは外に出て、先程のISの操縦者を待ち伏せる事に決めた。

 



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2話

アーチャーが外に出て大きく飛び研究所の屋上で金髪ロールの少女を待っていると、黒い車が入り口に止まった。

 

(む?何か嫌な予感がする。)

 

すると、IS研究所から出てきた金髪ロールの少女は黒い車に乗り込みそのまま去っていった

 

(くっ、送迎車か。道端でどうにか話を聞こうと思ったのだがな。今日は思惑がとことん外れる日だっ。)

 

アーチャーは屋上から黒い車を眺める。

 

「さて、今日唯一の手掛りを失ってしまったか…。毎日ここに来るとは思えないし、一週間もかかろうものならこの身が持たん。また一からやり直しだな…。」

 

未練がましく車を眺めていると、その周辺に不審なものが見えた。

 

(む?あの車は…。)

 

金髪ロールの賞が乗っている黒い車の後をつけるようにして黒いワゴン車が走っていた。

 

(怪しいな。一応様子を見るか。)

 

アーチャーはワゴン車の様子を自慢の目で見ていると、黒い車の進行方向にワゴン車が停止し、中から数人黒ずくめの男達が黒い車に向かって走って行く。男たちの手には銃があり、彼らの目には殺気を含んでいることを確認した。

 

「街中で銃を持ち出すとは、これはまた随分と物騒な世界に来てしまったものだ。」

 

アーチャーは黒い洋弓を投影し、狙いを定める。

 

「2キロ半といったところか。」

 

アーチャーは男たちの足元へ矢を放つ放つ。放たれた矢は男たちの足元に刺さり、男たちは慌てたように物陰に隠れる。

 

「ふむ、良い判断だ。私も無駄な殺しはしたくないのでな。さて、意図を汲んでくれれば良いが。」

 

アーチャーはそう言うと、ワゴン車のタイヤを居抜いてパンクさせる。それを確認した黒い車の運転手はアクセルを踏み、その場を走り去る。後部座席に乗っていた少女は矢を放った人物を車の窓から必死に探していた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「やれやれ、ドイツに、イギリス。二連続で事件に会うとは、我ながら余程事件に好かれているらしい。次はそうだな…フランス辺りにでも行けば再び事件に会えそうだな。」

 

アーチャーはそう自嘲気味に呟く。投影したものを消し、アーチャーはワゴン車に乗っていた男たちの元へ行く。

 

「な、何者だ!?」

 

男たちの一人がアーチャーの存在に気付き、銃をアーチャーに向けながら尋ねた。

 

「全く、物騒なことこの上ないな。私は、そうだな…一応ここでも、アーチャーと名乗っておこうか。君たちの方こそ、いったい何者かね?幼気な少女を襲うなど褒められたことではないと思うのだがね。」

 

アーチャーは片目を瞑りながら男たちにそう言うが、男たちは質問には答えず、皆が銃をアーチャーに向ける。

 

「なるほど、それが答えか…。」

 

アーチャーは肩を竦め、溜息をつきながら男たちを見る。すると、落ち着きお取り戻した男たちの中で、リーダー格が前へ出てくる。

 

「そういうことだ。申し訳ないが一緒に来てもらおうか。大人しくすれば危害は加えない。」

 

「……そうだな。丁重に断らせて頂こう。」

 

「そうか…やれ。」

 

男たちは一斉にアーチャーに向かって射撃を行うが、銃声はほとんど聞こえなかった。

 

(夜でサプレッサー付きとはいえ、発砲してくるとは。)

 

アーチャは建物の壁を使い銃弾を躱し、手に短剣を投影すると、それを男たちの銃めがけて投擲していく。

 

「ぐあ!」

 

「っ!!」

 

男たちは衝撃により銃を手から放してしまう。

 

「さて、無駄な抵抗は止め給え。これ以上は手加減はせんぞ。」

 

アーチャーは鋭く殺気を出しながらそう勧告すると、男たちはその気迫に飲まれて後退る。

 

「畜生!化け物め!うっ!」

 

「くそ、ガキの分際でこんな手駒を引き入れやがったのか!ガハッ!」

 

アーチャーはそう憤る男たちの首の後ろに打撃を加え、リーダー格の男以外を気絶させた。

 

「……くそ、好きにしろ。俺らはただの破落戸だがそれなりのプライドがある。仲間は売らねえ。」

 

リーダー格の男は諦めた様子でうつむきながらそう答えた。

 

「何を勘違いしているかは知らんが、私はさっきの少女とは無関係だ。」

 

アーチャーがそう言うと、リーダー格の男は態度を一変させアーチャーに食い掛る。

 

「無関係だと!?ふざけるな!お前の気まぐれで俺たち、俺たちはなぁ!!」

 

リーダー格の男は興奮した様子で、アーチャーに掴みかかった。しかし、アーチャーは技をかけて男を倒した。

 

「君にどんな事情があるかなんてことは些末事だ。君たちが殺気をもってあの少女に襲い掛かろうとしたことは事実だ。救える命は救う主義でね、ただそれだけのことだ。」

 

男は倒された上体を起こし、壁にもたれかかる。

 

「俺たちの仲間が黙ってねえからな!お前を探し出して絶対に殺しt、うっ…。」

 

アーチャーは魔術を使い、相手を眠らせた。

 

「仕方あるまいこいつらには半日眠ってもらおう。そうすれば誰かしらが気づき警察に連絡するだろう。」

 

アーチャーは気絶させた他の男たちにも魔術をかけ、その場を離れた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

アーチャーはその後情報収集をしていたが、結局大した収穫もなく、再びヒースロー空港にいた。

 

「イギリスには篠ノ之博士に関する手がかりはなしか…。仕方あるまい。そう何度も密入国するのは気が進まないが…。」

 

アーチャーはそう言いながらイギリスを旅立っていった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

アーチャーはイギリスからフランスへと旅立つ。アーチャーがシャルルドゴール空港に到着したころには既に夕方になっていた。人目につかないよう霊体化した状態で街中を歩く。すると、体調の悪そうな見た目の若い女性が自分に似た少女を連れていた。

 

「お母さん、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫よ。少し休めばよくなるから…。」

 

しかし、その女性は壁に寄りかかり、その場に座り込んでしまう。それを見ていたアーチャーは声をかけた。

 

「……フゥ。調子が悪いのかね?マダム。」

 

アーチャーがそう声をかけると、女性は弱々しくアーチャーを見た。

 

「すみません…。お邪魔でしたでしょうか…?すぐにどきます…。」

 

女性は無理に体を動かそうとしたため、アーチャーがそれを止める。

 

「無茶は止したまえ。すぐそこに公園がある。そこで休んでいるといい。」

 

「ですが、配達の仕事が…。」

 

「それは私がやる。君は良いから座っておけ。」

 

アーチャーは負担の掛からないように女性に肩を貸し、女性が手に持っていた荷物と配達先の紙を取ると、女性を公園のベンチに座らせた。女性は返事をする元気もないのか、申し訳なさそうな顔をしており、少女はどうして良いか分からず、オロオロしていた。アーチャーはそんな少女になるべく優しく声をかけた。

 

「君はお母さんについていたまえ。」

 

少女は一瞬だけ唖然としたが、すぐに言葉を理解して返事をする。

 

「はい!!」

 

「いい返事だ。すぐに戻る。」

 

アーチャーはそういうと走り去っていった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「仕方あるまい。耐久性に問題があるとはいえ、ボディアーマーに赤原礼装では不審者と変わりない。服は投影品で我慢するしかないか。」

 

アーチャーは自身の服装をガラスケースに飾ってある服一式に変え、配達品を送り先へと届けていく。英霊のスペックをフル活用し、配達を速攻で終えると、アーチャーは店先においてある飲料水を手に取る。

 

「金の持ち合わせは無いが…。仕方がない。」

 

アーチャーは自身の知りえる最高級の鋭さを持つ包丁を投影し、それをさらに投影した箱で包むと、紙に『最高品質の包丁をあなたに。その代り、水を一本いただきます』と書き、それを置いて去った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

アーチャーが急いで先ほどの公園に戻ると、女性の顔色が少しだけよくなっていた。

 

「あ、申し訳ありません!あの、本当に何とお詫びしてよいのやら…。」

 

「ごめんなさい!」

 

女性と少女はアーチャーに向かって深く礼をする。

 

「いや、私が勝手にやったことだ。礼には及ばん。それよりも、君は病人だろう。少し良くなったからといって、無茶をするとまた悪化するぞ。家はこの近くか?もし遠いのであれば近くまで送ろう。」

 

「ですが、そこまでして頂くわけには…っ。」

 

「っ!?お母さん!」

 

女性は言葉を最後まで言い切ることができず、脱力してその場に倒れそうになるところを、アーチャーが咄嗟に支えるが、女性はそのまま意識を失ってしまった。

 

「…酷い熱だ。ここまで無茶をしていたとはな。私をアーチャーという。君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「シャルロットです。」

 

「よし、ではシャルロット。君のお母さんは私が運ぼう。道案内を頼めるかね?」

 

アーチャーはシャルロットにそういうと、シャルロットはそれを引き受けた。10分ほど案内されるとシャルロットとその母親の家に着く。シャルロットはポケットから自宅のカギを取り出し、玄関を開錠する。

 

「どうぞ。」

 

少女に招かれ、アーチャーは家の中へと入る。家はあまり大きくなく、リビングにはソファと机と引き出しが得るだけで他には何も置いていなかった。アーチャーは女性をソファに寝かせる。

 

「仕方ない。シャルロット、冷蔵庫のものを少しだけ使ってもいいかね?これから夕食の時間だろう。君と君のお母さんの分の夕食は私が作ろう。」

 

シャルロットは母親を心配そうに見つめ、首を縦に振る。

 

「さて、手早く済ませるとしよう。」

 

アーチャーは速攻で料理を作り、皿に盛り付ける。そして机に持ってい行くと、シャルロットはソファに寄りかかりながら眠っていた。

 

「ふむ…。なるべく急いだつもりだったのだが、それぞれ二人に異なる品を作ったのが原因だな…。30分もかかった私の落ち度か。」

 

アーチャーは皿にラップをかける。

 

「このままカギをかけずに外に出るわけにもいくまい。」

 

アーチャーは部屋をぐるりと見渡す。

 

「ふむ、確かに整理整頓はされているが……。」

 

アーチャーは窓の淵を人差し指で撫でると、微かに指に埃がつく。

 

「………投影開始。」

 

両手に掃除道具を投影する。

 

「確かに奇麗だろう。だが、それでは足りない。」

 

アーチャーは生前に呼ばれたブラウニーの二つ名に恥じぬ働きをしていった。

 

 

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「ん…うぅ…。」

 

女性は陽の光を感じ、ゆっくりと目を覚ます。

 

「あれ…?えっと、昨日は確か…。」

 

女性は上体を起こすと、自分の娘がソファに寄りかかって寝ているのを発見する。女性は少女を抱き、ソファに寝かせる。

 

「そうだ…。昨日体調を崩して…。」

 

辺りを見回すと、玄関へ続く廊下で壁にもたれかかりながら目を瞑る男性を見つける。

 

「迷惑かけてしまいましたね…。」

 

更に机の上には朝には少し多めの量の料理が置いてあり、ラップがかかっていた。

 

「おいしそう…。それに、部屋もなんだか綺麗になってる気が…。」

 

女性は感心しながら周りを見ていると突然声がかかる。

 

「体調はどうかね?」

 

アーチャーは目を覚まし、立ち上がる。

 

「あ、えっと。何から何まで本当にすみません。何とお詫びをしたら良いのか…。えっと、私はカトリーヌと言います。貴方は…?」

 

「私はアーチャーという。私が勝手にしたことだ。何かを思う必要はない。君は病み上がりだ、しばらく待っていたまえ。温め直そう。」

 

アーチャーは皿を取り、レンジに入れよとするが、長く使われていないのか少しガタが来ていた。

 

「ふむ、仕方あるまい。」

 

アーチャーは一度料理をキッチンに置くと、レンジに手を添える。

 

「ーーーー同調開始。」

 

使い慣れた詠唱を行い、レンジの構造を把握する。

 

「…回路が断裂しかかっているな。これでは漏電の危険があるか…。他も少し調整が要るな。すまないが、少しだけ待っていてくれ。」

 

アーチャーはそう声をかけると、レンジを修理し始めた。

 

しばらくすると、修理が終わり、暖められた料理がカトリーヌの前に出された。

 

「うわぁ〜。すごく美味しそう。あ、シャル、起きなさい。もう7時になるわよ。」

 

カトリーヌは少女を揺すると、目を擦りながら少女が起き上がる。

 

「はぁい…。あ、昨日のオジちゃんだ。」

 

「そこはせめてお兄さんと言ってほしいなぁ!いや、済まない。取り乱してしまった。さぁ、取り敢えずは冷めない内に食べたまえ。」

 

昨夜夕食を抜いたために、腹をすかせている二人は直ぐに朝食をとった。

 

 

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女二人は朝食を終え、身支度を整えるとアーチャーと机を挟んで向かい合うようにして座った。

 

「今回は助けてもらうどころか、こんなに美味しいご飯を作っていただきありがとうございました。」

 

「ありがとうございました。」

 

カトリーヌが深々と頭を下げると、シャルロットも真似るようにして頭を下げる。

 

「全く、君も存外に頑固だな。分かった。有難くその感謝を受け取ろう。それで、体調はどうだ?」

 

「はい、お陰様でこの通り元気です。」

 

カトリーヌは力こぶを作るようにするが、微塵も力強さを感じることが出来ないほど細い腕をしていた。

 

(この腕…細いというレベルではないな。栄養失調気味か。冷蔵庫の中身もほとんど無かった。加えて、この部屋の生活痕跡からすると、夫はいないのだろうな。)

 

「君は病み上がりだ。今日一日は休んでいたまえ。それではな。」

 

アーチャーはそう言うと席を立ち、玄関へ向かおうとする。

 

「どこか行くのですか?」

 

カトリーヌは不思議そうにアーチャーに尋ねると、アーチャーは深く溜息をついた。

 

「フゥ…、カトリーヌ。私は確かに君を介抱したが、君と私はそもそも昨日が初対面だ。もう少し危機感を持ちたまえ。私が暴漢だったら、君たちは危険極まりない状況にあるのだぞ?」

 

アーチャーがそう言うと、カトリーヌは不思議そうな顔をしたが、何を言ったのか理解すると突然笑いだした。

 

「…笑うところではなかったのだがね。」

 

アーチャーは呆れたようにカトリーヌに視線を向けるがカトリーヌは笑うことをやめなかった。

 

「フフ。そうね、たしかに不用心だったわ。でも、それなら私が倒れている間に行動に移しているはずでしょう?なのに貴方はこんな美味しいご飯を作った上に、部屋の掃除までしたみたいだもの。それでそんなことを言ったら笑ってしまうのも仕方ないわ。」

 

「…全く、私はどうも強かな女性と縁があるらしい。」

 

アーチャーはそう呟き額に手を置いた。



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3話

カトリーヌに呼び止められ、アーチャーは再び席についた。

 

「それで、なぜ私を呼び止めたのかね?理由ぐらいは聞かせてくれてもいいだろう?」

 

「特に理由はありません。ただ少しでも御礼がしたかったから、ご飯をご馳走しようと思ったけれど、貴方の料理があまりにも美味しかったから…。今何が御礼になるか考えているの。」

 

「気にするな…と言っても君は聞き入れないのだろうな。」

 

ウンウンと何をしたらいいか唸るカトリーヌに、シャルロットが提案する。

 

「じゃあ私が肩たたきします!」

 

「ふむ、それは良いな。それで私達の貸し借りは無しにしよう。」

 

アーチャーがそういうと、カトリーヌは納得の行かないという顔をする。

 

「…それじゃあ釣り合わないじゃないですか。」

 

「何も言う。人の価値観は人それぞれだ。私にとっては、逆に気が引けてしまうくらいの交換条件さ。私はしたい事をしただけだ。それなのにお礼を言われる方が釣り合わない。」

 

「貴方も頑固ですね。」

 

「フッ。よく言われたさ。」

 

シャルロットはアーチャーの後ろに回り、肩を叩く。

 

「…硬い。」

 

「はて、そんなに凝っていたかな?」

 

どれどれ、とカトリーヌもアーチャーの背後に回り、肩に手を置く。

 

「うわ!?すごい!?まるで岩か何かに触っているみたい!」

 

カトリーヌとシャルロットは興味深そうに肩を叩いたりもんだりする。

 

「…人の体で遊ばないで欲しいのだが?」

 

アーチャーの言葉も虚しく無視され、しばらく二人にいいように遊ばれた。

 

しばらくしてからアーチャーは家を出ようとするが、今度はシャルロットに引き止められ夕飯を一緒に食べることになった。夕飯はカトリーヌが作っており、その間はアーチャーはシャルロットの相手をしていた。

 

「う〜〜。わかんないぃ〜。」

 

「日本語の勉強か。この年から外国語の勉強とはISの影響か、大変だな。しかも小学生がやるレベルではないな。」

 

シャルロットは助けを求めるようにアーチャーを見る。

 

「仕方ない…。シャルロット、読解をするときはなるべく重要な場面に線を引くようにするといい。」

 

「重要なところって??」

 

「例えばここの『ーーーだと、読者は思うだろう。しかし、私はーーーだと思っている。』の部分。これは作者が自分の考えを述べているポイントだろう。設問でこの部分が訊かれていなくとも、この作者が何を思っているのかを知る大切な部分だ。逆を言えばここの部分を頭に入れていなければ、後に結論として出てくる『故に私はーーだと考えている。』が何故そういう考えに至るのかが分からなくなるだろう。作者が自分の考えを述べたと思ったらそこに線を引くといい。それだけでも理解が深まる。」

 

「うん、わかりました!」

 

シャルロットはアーチャーからのアドバイスを聞くと勉強に集中した。すると、こちらを見ていたカトリーヌが口を開く。

 

「わざわざありがとうございます。私は生活の知恵だけしか持っていなくて…。娘に勉強を教えることもできないんです。あまりいい母親とは言えなくて…。」

 

カトリーヌは少し自嘲気味にそうつぶやく。アーチャーはそれを聞き首を横に降る。

 

「いや、それは違う。少くとも体調が悪くても仕事に出て頑張るような母親が悪いはずがない。君は十分によくやっている。」

 

アーチャーがそう言うと、カトリーヌは笑みを浮かべる。

 

「やっぱり貴方は優しい人ね。」

 

カトリーヌがそう言うと、アーチャーは笑みを浮かべる。しかし、それは決して穏やかなものではなく、カトリーヌから見ると、自分を否定しているようにも見えた。

 

(優しい…か。一体何故こんなことをしているのだろうな。守護者となった私には必要のないことだ。この世界は平和とは言い難いが、それでもISという抑止力により大々的な戦争には至っていない。篠ノ之束を探し出し、彼女に問題が無ければ早々に消えるとしよう。)

 

「シャルロット。そろそろ出来るから机の上を片付けてくれる?」

 

「はーい。」

 

シャルロットは言われた通りに勉強道具を片付け、キッチンから料理を運ぶ手伝いをする。アーチャーも手伝おうとしたが、御礼も兼ねているとカトリーヌに言われ、椅子に座って待っていた。カトリーヌとシャルロットによって料理が食卓に並べられる。三人が席に着き、夕食を食べ始める。夕食が終わるとシャルロットはこっくりこっくりと舟をこぎ始める。カトリーヌはシャルロットにベッドで寝るように言い、シャルロットをベッドで寝かせた。

 

「そういえば、アーチャーさんはどこに住んでいるんですか?」

 

カトリーヌはアーチャーにそう尋ねる。無論アーチャーは家など持っていないので、その場で頭をフル回転させ、自分の履歴をでっちあげる。

 

「私は日本から今日こちらに着いたばかりでね。今は知り合いのところに住んでいるが、近々そこを出て宿を探すつもりだ。」

 

「日本から…もしかして日本人ですか?」

 

「あぁ。戸惑うのと無理はない。この褐色の肌に灰色の髪など、アジア人の特徴からかけ離れているからな。体格も日本人離れしていることは自覚している。」

 

「ハーフとかではないのですか?」

 

「両親の事は覚えていなくてね。」

 

「あ、すみません…。」

 

カトリーヌは申し訳なさそうにアーチャーを見た。

 

「気にする必要はない。もう何年も前の話だ。」

 

アーチャーはそういったが、カトリーヌは申し訳なさそうな顔をしたままだった。

 

「それでは私はそろそろお暇する。君も今度からは自分の体調に気を付け給え。」

 

アーチャーはそういうと、カトリーヌの引き留める声を無視して外へと出た。アーチャーは大きくジャンプし、屋根の上に上った。カトリーヌはアーチャーを追って外へ出たが、アーチャーの姿が見えないと渋々家に戻っていった。

 

「さて、何の用かな?」

 

アーチャーが虚空に視線を向け、質問を投げかける。すると青い光の粒子が出現し、それが人の形を成していく。

 

「アハハハ!!お前面白いね!すごく面白い!!この天才の束さんにもわからなんて信じられないよ!」

 

自身を束と呼ぶウサ耳を付けた妙齢の女性が独り言のように笑いながら何かを言っている。

 

「おい、お前。随分前からこの束さんの事調べまわってたよね!それで?何か知りたいことでも分かったかな??」

 

(さて、意図せず目的の人物が現れたのは良いが、随分と難儀な性格をしているらしい。天才と呼ばれた人間にまともな人間はいないのは道理だな。)

 

「いや、残念なことに特に何もわからなかったよ。君には聞きたいことがあったんだ。ISを何故作ったか…その理由が知りたくてね。」

 

アーチャーがそう尋ねると、束は胡散臭い笑みを消し、不思議そうにアーチャーを見る。

 

「…へぇ。IS字体が目的じゃないんだ?」

 

束の声のトーンが下がり、素の彼女が表へ出てきた。

 

「あぁ、あれを手に入れようだとか、君からそのことについて特別な情報を得ようというわけでもない。ただ、君からあれを生み出した真意を聞きたいと思っていた。」

 

アーチャーから質問を聞くと、束はアーチャーの目をまっすぐ見て答える。

 

「ふ〜ん。大した理由じゃないよ。宇宙に行きたかった。ただそれだけ。大事な人と宇宙に行けたら、すっごく面白そうでしょ!でもこの世界は馬鹿しかいない。誰も私を理解できない。それは私が大事に思っている人たちも同じ。私は大事に思ってるし、それはあっちも同じ。でもね、理解はしてない。それでも私はその人たちに理解してほしいとは思ってない。私はただ大事な人を守りたいだけ。国の争いなんて勝手にしてろってこと。それで大勢の人が死のうと、国が滅びようと私には関係ない。だけどそれをちーちゃんたちは良いとは思わない。貴方は普通の人とは違うね。誰なのかな?あなたの事を調べても全く出てこないし、貴方のその鋭い瞳。一体何をすれば、そんな人を切り殺しそうな眼になるのかな?」

 

束は自身の苦悩をアーチャーに打ち明けたが、すぐにペースを戻してアーチャーをからかう。しかし、そこには先ほどのような敵意は見受けられなかった。

 

「さてな。一応名はアーチャーと名乗っておこう。少しばかり危ういな。それでもまぁ、自身より他人が大切だなどと言いださなくてよかったよ。出なければ私は君を粛清しなければならなかった。」

 

アーチャーが口元を歪めながらそう言うと、束は再び警戒心を上げる。

 

「ふーん。大きなお世話だよ。大きい口を叩く奴なんてのは大勢いたけど…貴方はどうかな!!」

 

束が小さい固形物をアーチャーに向けて投げるとその固形物が光を放ち、そこからISが現れる。

 

「流石はISの生みの親だ。パイロットなしでは動かないと聞いたが、すでに自動制御まで可能にしていたとはな!」

 

アーチャーは大きく飛び上がりISから距離を取る。

 

(ここは住宅街だ。まずは場所を変えなくては。)

 

アーチャーはそのままISに背を向け走り出す。

 

「なに?あんなにデカいことを言っておいて逃げるの???アハハハハ無様だねぇ!!ISなしにその機動力は驚いたけど、私の作ったISを貫通できるのかな??」

 

アーチャーは束の挑発を無視して広場を目指して走り回る。束はISの肩に乗りアーチャーを意味深にみている。アーチャーは広場に到着すると立ち止まり、束の方をみる。束はISから飛び降り、少し離れたところに着地した。ISはアーチャーと束の間に立ちふさがった。

 

「鬼ごっこはお終いかなぁ??なら、そろそろ貴方の力を見せてよね!」

 

束は手首に着けた腕時計型のリモコンを操作すると、ISは大きく飛び上がり上空からアーチャーに向かって小型ミサイルが10個ほど発射される。

 

(数が多いあれだけの量を避けるわけにはいかんな。)

 

アーチャーは黒弓と矢を投影し、ミサイルに向かって連続的に放つ。アーチャーから放たれた矢は寸分違わず全ての小型ミサイルに的中し、地面に着弾する前に破壊される。

 

(何あれ…?いきなり手元に武器が?もしかして、IS?いや、でもあいつは男だし…。)

 

束はポケットの中から小型の機械を取り出して戦闘中のアーチャーに向ける。

 

アーチャーは手元の弓矢を消し、なんの変哲も無い剣を取り出してISに斬りかかる。しかし、バリアのようなものに当たり、手元から剣が弾かれる。

 

(今のは…絶対防御というやつか?いや、絶対防御とはパイロットの生体反応に応じて出現するものだと資料に書いてあった。ということは、今のはただのエネルギー障壁か。たかが機械に防がれるとは、手加減が過ぎたか。)

 

アーチャーは慣れ親しんだ夫婦剣の片割れである陽剣干将を投影する。それを見ていた束は笑みを消し、現れた干将をジッと見つめていた。

 

(何?何なの??ISの反応はなかった。いや、そんな事より…あの剣から感じる不思議な圧迫感はなに?)

 

束の動揺を他所にアーチャーは大きく飛び上がりISに接近する。ISは剣を取り出し、アーチャーに向かって剣を振りかぶり、そのまま振り下ろされる。アーチャーはそれを干将で受け流しながら回転し、勢いをつけてISを蹴り落とした。アーチャーは剣をいくつも投影し、ISの関節部分に音速で射出する。すると剣は障壁を貫き、ISを地面に縫い付けた。

 

(魔力温存の為に手抜きの干将を使ったのは事実だが…まさか罅が入るとはな…。大した力だ。)

 

アーチャーは投影した干将に僅かに罅が入っていることに気付く。一方束は拳を握りしめながら声を絞り出すようにしてアーチャーに話し掛ける。

 

「ねえ…貴方のそれ、一体何…?」

 

束の目線の先にあるのはISを縫い付けている剣群ではなく、アーチャーの左手にある干将に向けられていた。

 

「なに…とはどういうことかな?見ての通り短剣だが?」

 

アーチャーがそう答えると、束は怒ったようにアーチャーに詰め寄る。

 

「そんなのは見ればわかるよ!じゃなくて、その短剣から感じる不思議な感じは何って訊いてるの!!」

 

束は拳を振り上げ、アーチャーに向かって放つが、アーチャーはそれを自分の手掴む。束は自分の拳が難なく受け止められたことに驚くが、それどころではないと短剣の事をアーチャー問い詰める。

 

アーチャーはもしやと思い、束の体に解析魔術を掛けた。

 

(ーーーー同調開始。…なるほど通りで干将の神秘を感じ取れるわけだ。彼女は魔力を保持しているというわけか。私達魔術師とは構造が違うな。体の中心部分に魔力が溜まっている。)

 

アーチャーは抵抗している束の手を離すと、束はバク転をして、アーチャーから距離を取る。

 

「良いだろう。君に私のことを話すのはやぶさかではない。だが、場所を変えたい。少し長くなるのでな。紅茶の一つでも淹れよう。」

 

アーチャーはそう言うと、束に背を向けて大きく飛び上がり広場の柵を超え建物から建物へとジャンプをして移動していく。束は、キョトンとしていたが、すぐに我を取り戻し、ISを粒子化して仕舞うと、急いでアーチャーの後を追いかけた行った。



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4話

アーチャーと束はノートルダム大聖堂にいた。アーチャーは長椅子にどっかりと座っており、束はアーチャーの目の前で息を切らして地面に座り込んでいた。

 

「…驚いたな。まさか、生身のまま私に追い付くとは。いやはや…君は本当に人間かね?」

 

「ハァ…ハァ…貴方、こそ…何で、そんなに平気な、顔、してるの…ハァ…ハァ‥」

 

束は汗をかきながら恨めしそうにアーチャーを見る。アーチャーはそんな視線を涼しい顔で受け流し、大きく溜息をついた。

 

「振り切って有耶無耶にしようと少し考えてはいたが、君のその形振り構わずに追ってきた無様さに免じて質問には答えよう。好きに問いたまえ。」

 

アーチャーの言葉にムッときた束だが、呼吸を整えて落ち着くと、アーチャーに質問をする。

 

「フゥー。それじゃあ訊くけど、貴方は何者?」

 

「私が何者か…。先程にも言ったが、名はアーチャーだ。今はこの名に意味などないがな。それでも呼ばれ慣れた名と言えばコレだろうな。」

 

アーチャーは視線を外へやり、懐かしそうに目を細める。

 

「それじゃあ、どこからきたの?言っておくけど、どの国も調べられる所は全部調べたから。嘘言ったらすぐに分かるよ。貴方はドイツに突然現れた。それまでどこで何をしていたの?」

 

「…まさか、世界中に監視の目を持っているとはな驚いたよ。君は世間の言う通り相当に優秀な人物らしいな。」

 

「そういうの要らないから早く答えて。」

 

束はジッとアーチャーを見つめる。

 

「全く君は答えを急ぎすぎる。女性であるなら少しばかり優雅さを身に着けたほうが良いのではないのかな?走ったから喉が渇いただろう?一応君が来るまでの間に紅茶を用意しておいた。」

 

アーチャーはそう言い立ち上がると、奥から紅茶を持ってきた。

 

「一応冷たくしてある。一気に飲んでは腹を冷やす。ゆっくり飲み給え。」

 

束はアーチャーから紅茶を受け取ると、匂いを嗅いで薬な入っていないかを確かめてから紅茶を飲んだ。

 

「…おいしい。」

 

束がそう呟くと、アーチャーは当然だと言わんばかりに笑みを浮かべる。束はその表情に苛立ち、一気に紅茶を飲み干す。

 

「全く、一気に飲むなというのに…。お代りはいるかね?」

 

アーチャーは束に紅茶のはいったポットを見せる。

 

「……ん。」

 

束はそっぽを向きながらアーチャーにカップをつき出した。アーチャーがそれを受け取ると、紅茶を入れながら束の質問に答える。

 

「どこから来た…か。さて、嘘が通じないのであれば素直に言うほかあるまい。私は幽霊というやつでね、一時的に現界しているだけだ。」

 

「はい?幽霊??」

 

束は何を言っているんだこいつという表情でアーチャーを見る。

 

「説明が必要かな?」

 

アーチャーは紅茶を束に差し出す。束はそれを受け取りながら首を縦に振る。

 

「とはいっても、特に説明することなどないのだがね。私は死んで、何の因果かこの世に再び現れた。そのまんまなのだがね。」

 

「死んでる…。幽霊って、物体には干渉できないんじゃないの?」

 

「さて、他がどうかなど私の知る限りではないが、私はできる。それだけだ。」

 

「じゃあ、弓とか剣とかを出現させたり、ISと張り合う膂力は何?ただの幽霊だとは思えないんだけど。」

 

アーチャーはティーポットを置き、椅子に腰かける。

 

「さて、どう説明したものかな…。それは生前から私が持っていた特殊能力だ。死後になって獲得したというわけではないのでね。幽霊云々は関係ない。」

 

「ふぅーん、特殊能力ね。ならあれって創ってるの?取り出してるの?」

 

「質問攻めだな。少しは遠慮というものをしてほしいのだが。」

 

「好きに問えって言ったじゃん。」

 

「答えるかどうかは別だとも。まぁいいだろう。あの剣や弓は私の中に存在していてね。それを取り出しているに過ぎん。そうたいしたものではないよ。」

 

「ふーん。」

 

束は何か考え込むように顎に手を当て目を瞑る。

 

「どうかしたかね?」

 

アーチャーがそう問うと、束は目を開け、立ち上がった。

 

「ううん。なんでもない。まぁ、そういうことにしといてあげるよ。それよりもさ、ウチにおいでよ。もう少し詳しく知りたいけど。私もう疲れたから休みたいし。」

 

「君の家?君は世界から逃げ回っていたのではなかったのかな?それをこんな得体のしれない男に住処を教えるなどどういうつもりだ?」

 

「別に逃げ回ってないし。ただ回りが鬱陶しいから避難してるだけ。別に知られたのなら他に隠れ家作ればいいだけ。凡人ごときに見つかっても大したことないからね。」

 

「…そうか。では、君の言うとおりにしよう。」

 

アーチャーは束に連れられて行くと、人参の形をした機械の塊が置いてある場所に着いた。

 

「一応聞こう。これは何だね?」

 

アーチャーは人参型の機械を見て束に尋ねる。

 

「これがないと戻れないんだよ。でもこれ中は一人しか入れないからアーチャーはここの取っ手の部分に捕まってね。」

 

束はアーチャーにそう言うと人参型の機械に乗り込むと、端末を操作する。アーチャーはまさかと思いながらも言われた通り、人参型の機械にしがみつくようにして取っ手につかまる。

 

「うん、ちゃんと掴んでるね!それじゃあレッツゴー!!!」

 

束は端末の赤く丸いボタンを押すと人参型機械の先端部から火が噴出され、空高く飛んでいった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「…さて、地獄に落ちろと言いたいが。ひとまずそれは置いておこう。」

 

アーチャーは現在空に浮かぶ円盤型の飛空艇に乗っていた。

 

「よくもまぁ、これほど巨大なものが見つからないものだ。」

 

アーチャーは感心しながらも周囲を見渡す。

 

「まぁ、それなりに仕掛けもしてあるからねぇ〜。束さんにかかればそれくらいは余裕だよ。」

 

束は椅子に座りPCを操作しながら話した。

 

「何をしているんだ君は?休むためにここに戻ったのではないのかね?」

 

アーチャーがそう尋ねると、束は操作をやめずに返事をする。

 

「天才はやることが多いのさ。今ちょっと調べ物をしてる最中だったからね。貴方のせいで止まってけど。」

 

「それはすまなかったな。それで、休みを削ってまで何を調べている?」

 

アーチャーがモニターを覗くと、そこには『冬木市爆破テロ発生 被害総額は100億円』と大きく書かれた記事を見る。

 

「…なんだね?これは。」

 

アーチャーがその写真をみて束に尋ねた。

 

「ん?書いてある通り爆破テロについてだよ。」

 

「そうではなくなぜテロなどを調べている?確かに規模は大きいが睡眠時間を削るほどでは無かろう。」

 

「…ISが使われてたから。」

 

「…。」

 

(ISか…。やはり兵器として運用されているのは当然か。絶対防御に手抜きとはいえ私の投影に罅を入れる破壊力。そちらの方面で使用されるのは自明の理だ。しかし、今はそれよりも…。)

 

アーチャーは自分の手を見る。すると、アーチャーの手の輪郭が青く透けた。すぐにそれは収まるが、アーチャーは自分にあまり余裕が無いことを理解し、それを見ていた束がアーチャーに詰め寄る。

 

「ちょっと!!今の何!?まさか本当に幽霊なの!?」

 

「少しは落ち着き給え。」

 

詰め寄る束の頭を押さえ、小さくため息をつく。

 

「フゥ、信じていなかったのかね?まぁ、突拍子もない話だとは思うが。」

 

「そりゃ、ちょっと頭のアレな人かなって思ってたけど。っというかそれ大丈夫なの?消えたりしない?」

 

 

「君に言われてはお終いだな。問題はない。回復する手立ては一応ある。あまり効率的とは言えないがね。それよりも君は早く休みたまえ。」

 

「わかったけど、回復する手立てって?本当に幽霊だとしたらー…んー、人の魂を喰らうとか?」

 

「君は、確かに天才なのだろうが、非科学的な考えは平凡そのものだな。とはいえ確かに魂食いは有効な手立てだ。だが、私はそこまでしてこの世にとどまろうとは思っていない。人の信仰が集まる場所。そこが私の回復場所だ。人の想いには力があってな、その力を少しばかり頂戴することによって私自身の力に変えている。たしかに今私はギリギリだが、存在するだけであれば1日はもつ。明日私を地上に降ろしてくれれば問題ない。」

 

「ふぅーん、わかった。それじゃあ私は…ん?電話だ。」

 

突然束の携帯に電話がかかる。

 

「その電話が終わったら休み給え。私もそろそろ活動を休止する。とはいっても寝ているわけではない。

何かあれば呼ぶがいい。」

 

アーチャーはそう言い残すと部屋を出て行った。

 

「はーい。んー、こんな時間に誰からかなぁ?まぁ、ちーちゃん以外には考えられないけど、もすもすひねもすぅ束さんだよ~。っとちーちゃん切らないで!…アハハハ、それで何かあったの??……ふーん。そうなんだぁ、身元不明の捨て子ねぇ。束さん的にはどうでも良いんだけど、愛しのちーちゃんの為なら一肌脱いじゃうよ!それで名前は??ふむふむ、えみやしろう…。衛星の衛に宮、士官の士に太郎の郎で衛宮士郎ね。わかった。そんじゃ、探してみるねぇ。バーイバーイ。」

 

束は電話を切ると、目薬を差して目頭を揉む。

 

「はぁ、ガキの戸籍探しなんてちーちゃんの頼みじゃなきゃ絶対やらないんだけどなぁ。」

 

束は親友の為に一仕事しようとパソコンに向かった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

[side:???]

 

 

朝になり、俺は目を覚ます。爺さんが死んで間もなかった。正義の味方になりたかったと語った爺さんの夢を受け継ぎ、これから正義の味方になろうと決意した後に黒い孔に飲み込まれて真夜中の見知らぬ場所に飛ばされた。

 

飛ばされた場所の見た目は洋風の町に見える。俺は途方に暮れた。俺は正義の味方にならなくちゃいけないのに、こんなところで立ち止まるわけにはいかないのに。そう嘆いていたら、女の人に声をかけられた。

 

「おい、お前日本人か?子供がこんな時間に出歩くものじゃない。親はどこだ?私が送ってやる。」

 

黒髪で、美人。まるで刀のような人だと思った。

 

「ここが…どこだかわからないんだ。気づいたらここに居て…。」

 

「迷子か…。外国で子供を一人にするとはな…。旅行か?」

 

「いや、俺はさっきまで自分の家にいたのに…。どうなってるんだ?」

 

「それは私が聞きたいことなのだが…。ふむ、迷子で少しパニックになっているのか。仕方ない、束に調べされば一発だろう。名前は何という?」

 

「衛宮士郎。」

 

「衛宮士郎だな。わかった。少し待っていろ。」

 

女はどこかに電話をかけると通話相手に士郎の名前を告げ、早々に電話を切った。

 

「これで大丈夫だろう。とはいえ。もう夜遅い。家がわからないのだろう?なら一晩家に来い。」

 

「え、でも迷惑じゃ…。」

 

「子供がそんなことを気にするな。ついてこい。」

 

女はそれだけ言うと士郎に背を向けて歩き出す。

 

「あ、ちょっと待って!お姉さんの名前は!?」

 

「私は織斑千冬だ。」

 

千冬はそれだけ言うと再び歩き出した。士郎は千冬のあとを追いかけ走って行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:archer]

 

「ん、ふぁ〜。良い匂いがするなぁ…。今は…7時16分…。まだ、1時間半しか寝てない…。仕方ない…天才束さん特製のエナジードリンクを飲むしかないかぁ〜…。」

 

束はそう言うと、寝間着のまま冷蔵庫の中のエナジードリンクを求めるためにリビングへと歩いていった。

 

「全く…。女性であるのならもう少し慎みを持ったらどうかね?」

 

束がリビングにつくと、作ってからあまり活用していないキッチンに立つ弓兵の姿があった。

 

「貴方…一体何してるの??」

 

「見ての通り君の朝食を用意しているのだが?」

 

「何でそんなことをしてるの?って意味。」

 

束は呆れた目線をアーチャーに送るが、アーチャーはどこ吹く風で束の前に料理を並べる。

 

「う…美味しそう…。」

 

「一般的な女性の食事量にはしてあるが、もし過不足があれば言ってくれ。」

 

「ううん、大丈夫。じゃあ頂きます。」

 

束は恐る恐るアーチャーの料理を口に入れると、あまりの美味しさに驚く。

 

「…美味しい。」

 

「そうか、それは何よりだ。」

 

アーチャーのドヤ顔に少しだけムッとする束だが、それがどうでも良くなるくらい料理が美味しく、そちらに集中する。

 

束は出された料理をすべて平らげ、食後にアーチャーの淹れた紅茶を飲む。

 

「んー!良いとこのお嬢様になった気分だよ。」

 

「君がその気になればその程度の暮らしはできるだろう。」

 

「私は近くに他人を置きたくないんだよね。」

 

「難儀なものだな。それで、いつ頃地上に行けるのかな?まぁ、私としては飛び降りても構わないのだがね。」

 

アーチャーは食器を洗いながら束にそう言った。

 

「これから設定するよ。日本の神社で良いでしょ?」

 

「あまり小さなところだと困るがね。回復はするだろうが時間がかかる。いっそのこと神社で働ければ良いのだがな。」

 

「わかったよ。適当に見繕っておくねぇ。」

 

束はそういう目的地の設定のためにと部屋を出て行った。

 

 

 



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5話

間違っているところがありましたら即刻直しますので是非とも教えてください


「side:tabane」

 

「なに…これ?孔?はぁ…通りで…。」

 

束は液晶をタッチしながら自分が世界中に散りばめた監視カメラから得たある動画をみていた。

 

「うーん…。」

 

束は端末を操作し、あるページをモニターに出す。

 

「やっぱり、衛宮士郎なんて人間はいないなぁ。アーチャーといいこのガキといい、変なことばっかりで疲れるよ。しかもアーチャーは出て行っちゃうしさ。」

 

欧州から日本へ向かう途中、中東でISによるテロが発生した。その速報を丁度テレビで見ていたアーチャーはこの場で降りると言い、窓の外から飛び出して行ってしまった。

 

「はぁ…。少し調べようかなぁ。アーチャーの事もあるし、もしかしたらあの孔はあの世に繋がってたりするかもしれないし。」

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

[side:archer]

 

「ふぅ…。これで全員か。」

 

アーチャーは中東のテロに巻き込まれた現地住民の救助をし終え。廃墟の屋上にいた。

 

「この目の見える範囲にはもう人はいないな。無事助け出せたか。」

 

救いを求めている人を目にすると救おうとしてしまう。これはどうしようもないほど体に染み付いてしまった癖だ。生前、変わることのなかった鋼鉄の意志。しかし、死後にはそんな意志でさえも砕け散った。だが、意志が砕け散ったとしても、体に残る反射までは消えなかった。

 

「…このまま消えるのも悪くはないが。今はまだもう少し…。」

 

アーチャーは霊体化し、魔力の回復が見込める地を目指して行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:shirou]

 

 

少年、衛宮士郎が織斑千冬に拾われてから数年が経ち、中学3年生となった。

 

「色々な事があったな…。」

 

士郎は朝食後の当番となっている洗い物をしながらそう呟く。

 

篠ノ之束という人からの連絡では、俺の戸籍は存在しなかったらしい。そこで千冬さんが篠ノ之束に頼み込んでどうにか俺の戸籍を作ってもらった。千冬さんは、気にするな。と言ってくれたけど、恩返しがしたかった俺は千冬さんの身の回りの世話を申し出た。ドイツ軍のISの教官として働いていた千冬さんはいつも帰りが遅い。だから家事をするのは大変だろうって思ったんだ。ドイツ軍の施設で暮らすはずだった千冬さんは、本来なら深夜過ぎになっても起きる、なんてことにはならなかったと思う。だけど俺の面倒を見る為にドイツ軍での居住の準備ができるまで、繋ぎとして借りていたアパートの契約を延長してそこで一緒に住ませてくれた。

 

「まぁ、今は日本に戻ってこれたんだけどな。」

 

そう、今俺は日本にある織斑家に住まわせてもらってる。日本に帰って初めにしたことは自宅の確認だった。何となくこの世界が自分の知ってる世界ではないということは薄っすらと理解していた。結局冬木の街を見つけることはできても、自分の家は見つけられず、織斑家の世話になることになった。千冬さんは月に数回しか帰ってこないが、一夏とは良い友人関係を築き、なんとか協力しあって暮らしていた。近々高校受験を控える俺たちは互いに励まし合って頑張っている。

 

「よし!洗い物はこれで終わりだな。一夏はどっか出かけてるみたいだし、千冬さんは休日なのに仕事に行ってるなんて大変だよな。」

 

今の時期俺のやることと言えば受験勉強だ。千冬さんは大学まで面倒を見る。金の心配はするなと言ってくれたが、勿論そんなに甘えるつもりはない。高校を出たら仕事に就きたいと考えてはいるけど、それは俺の目標である正義の味方になる道ではない。

 

「ま、今は勉強しなきゃな。」

 

 

と言って千冬さんからもらった自室で勉強を始めるものの集中ができない。正義の味方になる方法を考えるといつもこうなる。このままでは正義の味方になれないんじゃないかって不安と焦りに駆られてしまう。

 

「仕方ない。少しだけするか。」

 

俺は机に向かうことをやめ、机の上に置いてあるハサミを左手に持って部屋の中央に座る。そして目を閉じ、頭の中でイメージをする。

 

「――――投影、開始」

 

投影魔術を行使し、右の手の上にハサミを投影する。

 

「よし、今回は結構いい感じになったぞ。」

 

切嗣と共に住んでいた家では、切嗣が俺の魔術の練習用に廃材を沢山くれたから強化魔術の練習道具には困らなかったけど、今住んでいるのは織斑家だ。廃材はそう多くないし、あってもすぐに強化を失敗してダメにしてしまう。だから俺は投影で日用品を投影してはそれを強化する練習をしている。が、俺が投影で作り出したものは中身が空っぽで実物よりも強度が弱い。だから、一瞬で壊れて魔力に還ってしまうが、これをやめるわけにはいかない。効率が悪いがあまり良くないことはわかっていたが、何度も繰り返すうちに気付いたことがあった。それは、自分はハサミや包丁、カッターなどの刃物の投影が得意だということ。刃物に関連したものを投影するとき、他の物を投影するときよりも魔力の消費が少なく、軽く使えることもわかった。今では刃物の投影は日課に組み込まれている。しかし、強化の魔術はほとんど成功していない。

 

「よし、これで強化を成功させられれば…。」

「――――同調、開始。」

 

集中に集中を重ねる。己を透明にし、体の意識を強化対象の刃に重ねる。魔力を流し込むが、ハサミにヒビが入る。

 

「くっ…うっ!!」

 

士郎は魔力を制御しようとハサミは魔力に耐えきれず粉砕する。

 

「ハァ…また駄目か…。いや、まだまだっ」

 

士郎は再びハサミの投影を開始した。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「おい、一夏。お前本当に迷ってないんだな?」

 

「あ、あぁ…多分、きっと、恐らく…迷いました。」

 

士郎と一夏は藍越学園を受験するために会場に来ていた。試験会場に着き、教室まで一夏の案内を信じて士郎は歩いていたのだが、人の気配がなくなり、倉庫のような所に辿り着いた。

 

「時間があるから良いものの…。しっかりしてくれ一夏。」

 

「悪い士郎。でも係員からもらった奴にはこっちだって書いてあるんだけどなぁ…。」

 

二人が引き返そうとした瞬間に突然二人の真横にある扉が開く。二人は驚いてそちらを見るがそこには誰もいなかった。

 

「ビックリしたぁ…。なんでいきなりドアが開いたんだ?」

 

「そんなの俺が知るかよ。って、ここISの保管庫じゃないか?こんなに近くで見たのは初めてだ。」

 

二人はISに近づく。

 

(そういえばISって女の子以外は乗れないんだよな?よし、――――同調、開始。)

 

士郎はISの構造を見るために魔術を使う。すると突然頭に膨大な情報が流れ込んでくる。

 

「くっ…何だ、これ。」

 

士郎は目を瞑ってそれに耐える。しばらくしてから目を開くと、ISが光を纏っていることに気付く。

 

「どうなってるんだ…?」

 

「おわっ!!」

 

一夏の悲鳴が聞こえ、士郎はそちらを向いた。すると、一夏も士郎と同じようにISに触れるとISが光を纏い佇んでいた。

 

「おい、これどうなってんだよ!?」

 

一夏が士郎に尋ねるが、士郎も、知るか。といって手元を見る。

 

(どうなってるんだこれは?)

 

手詰まりの状態で二人は佇んでいると、ドアが開き、女性が部屋に入ってくる。

 

「誰!?まさかISが男に反応している!?そんな。」

 

二人の男は唖然とその場に佇んでいた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

「はぁ…。今日は疲れたな。」

 

「全くだ。お前が道を間違えるからだぞ?一夏。」

 

「仕方ないだろ。係員から受け取った地図にはそう書いてあったんだって。」

 

士郎と一夏はあの後検査の連続で夜までかかり、志望校を受けることができなかった。二人は帰宅早々リビングの床に寝そべり脱力する。

 

「しろー。」

 

「なんだー?」

 

「俺たちってこれからどうなるんだー?」

 

「IS学園の入学だろ。これはもう決定事項だって言われたじゃないか。」

 

士郎はゆったりと起き上がる。

 

「それに、形だけでも試験は受けないといけないんだ。あの分厚い参考書貰ったろ?あれを少しでもやってせめて入学してからの授業には遅れないようにしないと。ほら一夏、飯にするぞ。今朝の残りだからすぐにできる。お前はその間に風呂を洗っておいてくれ。」

 

「あぁー…わかったぁー…。」

 

二人は己がするべき仕事に取り掛かる。こうして夕食、入浴を済ませ、二人は自室へと戻る。

 

「もう12時か…今日は大変だったな…。だけど魔術の鍛錬だけはサボるわけにはいかないな。」

 

士郎は床に座り込み、手を前に出して目を閉じる。

 

「――――投影、開始。」

 

士郎は手元に使い慣れた包丁を投影する。

 

「ふぅーー…。よし、」

「————同調、開始。」

 

投影した包丁に魔力を流し込む。

 

「————っ。」

 

包丁が流した魔力に耐え切れず破損する。

 

「くっ…。」

 

士郎は包丁に流していた魔力を止める。

 

「ハァ…ハァ…集中できてなかったか。」

 

士郎はひび割れた包丁を見て溜息をつく。

 

「壊れた投影物を魔力に還らないようにするのはできるようになったんだけどな。」

 

士郎は魔力をカットして投影物を消し、床に寝そべる。

 

「こんなんじゃ駄目だ。俺はこのままじゃ。IS学園を卒業したら大半は大学に行くかIS関連の仕事に就くかのどっちかだ。標準科目もやるにはやるけど。ほとんどがISの勉強で潰される。入学は決定してるし、やめるなんてことはできない。打つ手なしかよ、畜生…。一刻も早く正義の味方にならなきゃいけないのに……こんなところで道草喰ってる場合じゃないのに…。」

 

士郎は顔を押さえて考え込む。自分が憧れた正義の味方。切嗣の夢。それて自分がそれを成し遂げなければならないという使命感。色々なものが頭の中をよぎる。

 

「…せめて入学後に勉強で時間を取られないようにするために今のうちに覚えられることは覚えなきゃな。」

 

士郎は頭の冴えないまま机に向かった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「衛宮士郎です。趣味はガラクタ弄りです。よろしくお願いします。」

 

士郎は自己紹介を終えると席に着いた。今日はIS学園の入学式だった。長い式典を終え、クラスが発表される生徒たちは教室へと向い、今に至る。この学校は敷地がかなり広いく、校舎も同様だ。教室に着いた士郎らは五十音順で自己紹介をしている。なので士郎の後、すぐに一夏の番になった。

 

「織斑一夏です………以上です。」

 

座ろうとした一夏の頭に拳が強打する。

 

「なにが『以上です』だ馬鹿者。せめて衛宮ように趣味の一つでも言えんのか。」

 

いつの間にか一夏の後ろにいた千冬は大きくため息をついた。

 

「千冬ねえ!」

 

一夏は自分の姉の存在に気付き、驚きの声を上げると、再び拳で頭を叩かれる。

 

「織斑先生だ。」

 

「はい…。」

 

千冬の目が士郎を捉える。

 

(俺も織斑先生と呼べってことか。)

 

士郎は『了解した』という意味で小さく頷く

 

(まさか千冬さんが教師だったとは。また迷惑を掛けてないようにしなきゃな。)

 

千冬が自己紹介を済ますと、クラスから歓声が沸き上がる。

 

(すごい人気だな。まぁ、ISに携わる人間で知らない人はいない程の人だから当然か。)

 

自己紹介を終え、休み時間になると、他クラスから沢山の人が教室に訪れてくる。

 

(動物園のパンダにでもなった気分だ。一夏は…っと。)

 

士郎の席は真ん中右寄りの一番後ろで、一夏の席は真ん中左寄りの一番前だ。士郎は一夏の席を見ると、女生徒と共に教室を出ていくのを発見する。

 

(まさか、この状態で一人にされるなんて…。)

 

士郎は休み時間中ずっと好奇な視線を受け続けた。休み時間が終わると早速授業が始まった。士郎はあらかじめ予習をしていたため、なんとか授業についていける状態だったが、一夏は全く予習をしていなかったため、微塵も授業についていけない。その時このクラスの副担任である山田真耶が丁度一夏に尋ねた。

 

「ここまでの授業で何かわからないことはありますか?質問があれば何でも聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから。」

 

すると一夏は青い顔をしながら手を挙げる。

 

「先生…。」

 

「はい何でしょう?」

 

「ほとんど全然わかりません。」

 

一夏がそう答えると、焦ったように真耶生徒らにわからないところはないか尋ねるが、誰も手を挙げなかった。

 

「マジかよ…。士郎。お前わかるのか!?」

 

一夏は後ろの席に居る士郎に尋ねる。

 

「わかるも何も、これまだ貰った参考書の一番最初に書いてあったところじゃないか。」

 

「マジかよ…。」

 

一夏が頭を抱えていると千冬が一夏の元へと歩いていく。

 

「お前、入学前の参考書はどうした?必読と書いてあったはずだが?」

 

「あの分厚い本でしたっけ?」

 

「そうだ。」

 

「…間違えて捨てました。」

 

一夏がそう答えた瞬間に出席簿で叩かれる

 

「再発行してやる。一週間で頭に叩き込め。」

 

「あれを一週間!?それは「やれと言っている。」…はい。」

 

千冬の眼光に負けた一夏はうなだれるようにそう返事を返した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

授業が終わり、士郎は机の上に出した教科書をしまっていると、一夏が金髪の少女に話しかけられているのが視界に映る。

 

(早速話しかけられてるな。顔は千冬さんににてカッコいいからな。)

 

そんなことを考えながら次の授業の準備をしていると、一夏の声が聞こえてくる。

 

「一つ良いか?代表候補生って…何だ?」

 

一夏の言葉を聞きクラスの皆がずっこける。金髪の少女は信じられないものを見た様な顔をする。

 

「信じられませんわ!日本の男性とはこれほど無知なものですの!?」

 

士郎はその言葉を聞き、誤解を解かねばと一夏の元に向かう。

 

「待ってくれ!それは誤解だ!一夏は例外だ。一緒にしないでほしい!」

 

士郎がそう言うと一夏は眉を顰める。

 

「おい、士郎。そりゃないだろ。お前は代表候補生って何かわかるのかよ?」

 

「読んで字のごとく、IS代表の候補の事だろう!これは最早専門知識じゃなくて一般常識だぞ。まったく。」

 

士郎はやれやれと肩を竦める。

 

「彼女は自国のIS代表候補生を務めるほど優秀ってことだろう。」

 

士郎がそう言うと、金髪の少女は気を良くしたのか、ニヤリと自信ありげに笑みを浮かべた。

 

「その通り!エリートなのですわ!全く、授業もロクについてこれない男性がこの学校に居るなんて不思議で仕方ありませんでしたけど、一般常識程度は知っている男性がいてよかったですわ。ミスタ、お名前をもう一度教えてくださります?」

 

「衛宮士郎だ。君の名前も教えてほしい。」

 

「よろしくてよ。イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ。私と知り合えたことを光栄に思いなさい。」

 

二人が自己紹介をすると、丁度チャイムが鳴り響く。

 

「あら、もうチャイムが鳴ってしまいましたのね。話の続きはまた今度ですわ。」

 

セシリアはそれだけ言うとさっさと自席へと戻っていった。

 

 

 

 



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6話

一日目の授業がすべて終わり、士郎は一夏と共に学生寮に向かう。

 

「おい、士郎…。」

 

「あぁ…我慢だ一夏。」

 

士郎と一夏の後ろには大勢の女子がついてきていた。

 

「初めだけだ。その内飽きるだろう。」

 

「そうだといいけど。」

 

士郎と一夏は軽口をたたきながら歩き、学生寮に到着する。

 

「そういえば、士郎。お前の部屋はどこなんだ?」

 

「えっと…1026号室だな。一夏もだろう?」

 

「ん?俺は…1025号室だ。」

 

「へぇ~そっか。」

 

「あぁ。」

 

「…ってなんでさ!?部屋って二人部屋だよな!?」

 

「あぁ、そういってたけど。」

 

「じゃあ何で一夏と同じ部屋じゃないんだ!?おかしいだろ!」

 

「そういえばそうだな。それじゃあ寮長に言ってみるか。」

 

士郎と一夏は二人で寮長室に行くが、部屋には誰もいなかった。

 

「寮長って先生だもんな。今は仕事してるか…。」

 

「仕方ないか。一夏、一度部屋に行くぞ。」

 

二人はそれぞれ与えられた自室へと向かった。

 

「ここか。それじゃあな一夏。」

 

「おう、じゃあな士郎。」

 

士郎は部屋に入り、部屋を見渡す。

 

(結構きれいだな。パソコンも置いてあるし、ん?ここはキッチンか。トイレは共用って言ってたな。ここがシャワールームだな。同居人は居ないみたいだな。荷物は置いてあるからどこかに行ってるのか。)

 

士郎は荷物を置き、パソコンを起動させる。士郎はある動画サイトを開き、あるワードを入れ検索をかける。開かれた動画を士郎は食いつくように見る。

 

「俺もいつかはこいつみたいに…。」

 

士郎が動画を見ていると、扉が開く。

 

「あれぇ?衛宮君だー。私は布仏本音だよ。よろしくねぇ~。」

 

眠そうな目をした女生徒は士郎に挨拶をすると奥のベッドに腰掛ける。

 

「よろしく。衛宮士郎だ。悪い、何かの手違いで君と同室になったみたいだ。後で寮長のところに行って、部屋割りについて相談してみるから、少しだけ我慢してくれ。」

 

「んー?別に気にしなくていいよー?」

 

「そういうわけにはいかないだろ。そろそろ寮長が帰ってるかもしれない。俺少し行ってくるよ。」

 

士郎は部屋を出て寮長室へ向かう。寮長室に到着し、ノックする。

 

「誰だ?」

 

ノックをすると中から声が聞こえてくる。

 

「この声は…織斑先生、衛宮です。」

 

「士郎か。入れ。」

 

士郎はドアを開けて中に入る。千冬は手元にある何かの資料を読みながら士郎に話しかける。

 

「今はプライベートだ。先生呼びはしなくていい。それで何か用か?」

 

「あ、いや。同室の人が女の子だったから来たんですけど。」

 

士郎の言葉を聞き、千冬は手元の資料を閉じ、机の上に置いた。

 

「なるほど、一夏と別室だったから何らかの手違いかと思ったわけか?」

 

「はい。」

 

「喜べ、それは手違いではない。そういう元からだ。」

 

「へ?」

 

「なに間抜け面を晒している。元からだ。わかったのなら早く戻れ。悪いが仕事がまだ残っていてな。今は相手をする時間がない。」

 

「わ、わかりました。失礼します。」

 

士郎は千冬の部屋をでて大きくため息をついた。

 

「ハァー…。なんでさ。」

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

翌日、士郎は一夏と共に登校し、席に着く。授業開始のチャイムが鳴ると、千冬が教室に入り教卓に立った。

 

「今日はクラス代表を決める。自薦他薦は問わない。誰か希望が居るか?」

 

千冬がそう言うと、教室中で一夏と士郎の推薦の声が上がる。

 

「俺かよ?」

 

「クラス代表って。今までISを触ったことのない俺が務めるのもおかしくないか?俺は代表候補生のセシリアが良いと思うぞ?」

 

士郎はセシリアを推薦すると、セシリアは机に勢いよく両手を置き、立ち上がる。

 

「当然ですわ!男がクラス代表になるなど、恥さらしもいいところですわ!こんな後進国の国に来ただけでも耐えられないというのに…。」

 

セシリアの言葉を聞き、ムッときた一夏は立ち上がる。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一不味い料理ランキング何年覇者だよ?」

 

「くっ、貴方!私の母国を馬鹿にしましたわね!?決闘、決闘ですわ!」

 

「望むところだ!」

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「しろー!!どうすればいい!?」

 

一夏はセシリアと決闘することになり、放課後になってすぐ士郎に泣きついた。

 

「ハァ…全く。考え無にも程があるだろ…。俺に言われても困るぞ。ISの事はさっぱりだからな。千冬さんに聞いたらどうだ?世界チャンピオンが折角近くにいるんだ。教わらない手はないだろ?」

 

「……いや、千冬姉には頼らない。俺は家族を守りたいんだ。こんなところで千冬姉には頼れない。」

 

「ハァ…お前も頑固だな。」

 

「士郎には言われたくないな。」

 

二人で軽口をたたき合っていると、一人の女生徒が二人の元に近づき、一夏に話しかける。

 

「おい、一夏。お前、あんなこと言って大丈夫なのか?」

 

「箒。いや、まぁ今から頑張れば何とか…。」

 

「ハァ…お前という奴は。」

 

箒と呼ばれた少女と一夏は親しげに話している。

 

「おい、一夏。この人は?」

 

士郎は一夏にそう尋ねると、女生徒が士郎に挨拶をする。

 

「すまない。名乗り遅れた。私は篠ノ之箒と言う。一夏とは幼馴染でな。小学4年生までは同じクラスだったんだ。」

 

「俺は衛宮士郎だ。よろしく。」

 

二人は挨拶を済ませると、一夏が箒に話しかける。

 

「そうだ!箒、頼む!俺にISを教えてくれ!」

 

「わ、私に!?」

 

「あぁ、頼む。お前だけしかいないんだ!」

 

一夏の言葉に箒は顔を赤くして狼狽える。

 

「わ、わかった。そこまで言うなら仕方ない。私が面倒を見てやる。早速教えてるから来い!」

 

箒は一夏の手を掴みどこかへと連れて行った。

 

「本当に大丈夫なのか?アイツ。」

 

士郎は二入と別れ、トイレに行ってから教室にある荷物を取りに行くと、教室に残っていたセシリアに会う。

 

「セシリアじゃないか。まだ帰らないのか?」

 

「あら、貴方ですか。貴方はあの人とは仲が良いのですか?」

 

「あの人って、一夏の事だよな?まぁ、仲は結構いいぞ。一夏の家には小さいときから世話になってるからな。」

 

「あら、小さいときから知り合いですの?」

 

「あぁ、俺、親が居ないからさ。千冬さん…織斑先生と一夏と一緒に暮らしてたんだ。」

 

「あ…それは…。」

 

セシリアは気まずそうな顔をする。

 

「気にしないでくれ。もうずっと前の事だからさ。あいつ結構天然だし、鈍感だけど悪いやつじゃないんだ。だから、あんまり誤解しないでやってくれるか?」

 

「それは…今度の決闘ではっきりしますわ。」

 

「まぁ、それもそうか。一夏もそっちの方が向いてるかもしれないな。ただ、そう悪いやつじゃないってことだけは言いたかったんだ。それじゃあ俺はもう帰るよ。じゃあなオルコット。」

 

「えぇ、衛宮さんもまた。」

 

士郎は荷物を持つと教室を出た。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:archer]

 

「…やれやれ。いい加減諦めてほしいんだが?」

 

アーチャー内戦により廃墟となった建物の中で誰もいない空間に話しかける。

 

「そういうわけにはいかねぇなぁ?」

 

誰もいないはずの場所から一人の女が出てきてアーチャーと向かい合う。

 

「また君か。オータム…だったか?」

 

「化け物に名前を憶えていただけるとは光栄だなぁ!」

 

そう言うと同時にオータムと呼ばれた女はISを纏い、アーチャーに襲い掛かる。

 

「化け物とはまた随分な言い方だ。」

 

アーチャーは腰に付けた干将莫邪を取り出し、オータムの攻撃をいなす。

 

「ハンッ!生身でISとやり合う奴が人間な分けねえだろうが!あの時の借り、今日こそ返してやらぁ!!」

 

オータムはアーチャーに向かって銃を乱射する。

 

「悪いが、今日も逃げさせてもらおう。無駄な戦いは避ける(たち)でな。」

 

「逃がすわけねえだろうが。」

 

オータムはアーチャーが何かをする前に突撃する。

 

「お前のバカげた弓の実力はもう知ってんだ。それに比べりゃテメェの近接攻撃は大した事ねぇ!」

 

「フッ…舐められたものだ。忘れたのか?君は以前私の蹴り一撃で気絶したことを。」

 

アーチャーは相手の懐に潜り込み、腹に強烈な蹴りを打ち込む。蹴られたオータムは壁を数枚破壊しながら吹っ飛んでいく。

 

「む?」

 

アーチャーは蹴りの感触に違和感を感じ、足を止める。

 

「っ…。防御性能を上げてもまだこの威力かよ…。マジで化け物だな…。」

 

オータムは覚束ない足取りで立ち上がる。

 

「なるほど。そう何度もやられてはくれないか。」

 

「そういうこった。今日こそ決着をつけてやる。」

 

オータムは再びアーチャーに向かって銃を乱射しながら突撃する。アーチャーは弾丸を両手に持った干将と莫邪で弾きながら後退する。

 

(更に力を込めて蹴り飛ばしても良いのだが……。)

 

アーチャーは干将莫邪をしまい、一本のを投影し、それを建物の中心に位置する大きな柱に向かって投げて突き刺す。

 

「なんだ?ついに気でも狂ったかよ!化け物!!」

 

「生憎と私は冷静だ。君はしばらくここで埋まっていると良い。」

 

「あぁ?何言ってやがる?」

 

アーチャーは力強く踏み切り、罅の入った窓を割りながら身を外に投げ出す。

 

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 

柱に刺さった剣がいきなり爆発を起こし、瓦礫がオータムの元に降り注ぐ。

 

「この程度は時間稼ぎにしかならんな。今のうちに撤退するのが得策か。」

 

アーチャーは崩壊した建物をしり目にその場を離れて行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「ここ数年会わなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」

 

「まぁまぁ、そういわないでよ~。せっかくアーチャーが逃げるのに一役買ったんだから。」

 

アーチャーは廃墟から撤退している最中に束の隠れ家に拾われていた。

 

「今まで接触が無かった君が、突然私の元に来るなど、何かあると言っているようなものだろう。それで?用件はなんだ?」

 

アーチャーは壁に寄りかかりながら椅子に座る束に尋ねると、束は椅子から立ち上がり、アーチャーの前に立つ。

 

「お願いがあってね!貴方にはIS学園に行ってほしいんだ!」

 

イタズラっ子のような笑みを浮かべながら束はアーチャーにそう言った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:shirou]

 

「おい、一夏。お前今日がセシリアとの対決だけど大丈夫かよ?」

 

士郎と一夏はいつものように周りから視線を受けながら登校しているとき、士郎は一夏に決闘について尋ねる。

 

「あぁ…やばいよ…。箒…クラスメイトの篠ノ之箒って奴に見てもらってたんだけど、結局剣道やって終わっちまった。まぁ、それはどうにかしてやるさ。そんなことより士郎こそこの一週間何してたんだよ?放課後すぐどっか行っちまうし。」

 

「部活に行ってたんだ。」

 

「部活!?いつの間に…。何部に入ったんだよ?やっぱりアレか?」

 

「あぁ、弓道部だ。」

 

「そういえば、士郎って弓道馬鹿上手かったよな。」

 

「そうでもないさ。それより、今日の事だろ?少しでもISの勉強しておいたほうがいいんじゃないか?」

 

「…それもそうか。付け焼刃でもやらないよりはマシだな。」

 

二人は教室に到着し、それぞれ席に着く。授業を受け、放課後となった。士郎は一夏、箒と共に第三アリーナへと向かう。

 

「それで?自信の程はどうなんだ一夏。」

 

「あぁ、何とかするさ。それにしても俺に専用機が来て、お前には無いなんてちょっと気が引けるな…。」

 

「そんなこと気にしなくていいぞ。俺のIS適正はCだからな。適正Bのお前の方に専用機をやるのは当然のことだしな。」

 

「それでもなんかな…。」

 

「そんなことよりこれからの試合だろ。そっちの心配をしろよお前。」

 

「いやぁ、もう逆に開き直ったって感じかな。ここが指定場所だよな。入ろうぜ。」

 

ある扉の前に到着し、一夏はそこに入っていく。後に続くように部屋に入ると中に千冬と真耶がいた。

 

「来たか。織斑。なんだ、保護者同伴か?」

 

千冬からかうような眼差しで一夏を見る。

 

「違うって!それより俺の専用機はどこなんだ?」

 

「あそこだ。山田先生から説明を聞け。」

 

一夏は専用機の元に向かって歩いて行った。士郎と箒は千冬と共にモニターの前に立つ。

 

「織斑先生。一夏に勝機はありますか?」

 

「さぁな。だが、あいつの意外性は中々ものだぞ。それに、あの機体の武器は特殊でな。どれだけ格上の相手でも勝機はある。」

 

「あ、あの織斑先生、衛宮とはどういったご関係で?」

 

箒が恐る恐る千冬に尋ねると、一瞬不思議そうに箒を見たが、少しして納得のいったような顔をした。

 

「そういえば、衛宮はお前と入違いで学校に入ったんだったな。こいつは小学5年の時から家で面倒を見ている。最も、私と暮らしていたのはそれよりも前からだがな。私が一応こいつの後見人になっている。」

 

「あ…そういうことでしたか。」

 

三人で話していると、一夏の準備ができ、アリーナへと飛び出し、試合開始の合図が出された。

 

「ついにか…。」

 

士郎は一夏とセシリアの勝負を見る。セシリアは遠距離攻撃主体で一夏を攻撃するが、一夏が手にしている武器は剣のみ。

 

「一夏の奴何で銃を使わないんだ?素人とは言えこの状況では普通銃を使わないか?」

 

士郎が疑問を口にすると、隣に立つ千冬が返答する。

 

「織斑の機体は近接戦闘特化型だ。故に奴の装備はアレ一本だ。」

 

「…新手のイジメですか?」 

 

「なに、私の現役時代も剣一本だ。」

 

『アンタと一緒にするな』という言葉を飲み込み、士郎は一夏達の戦いを見る。

 

戦いセシリアが遠距離攻撃で流れを掴み、セシリア優勢で進んでいる。一夏はセシリアの攻撃を避け切ることが出来ずに被弾してしまう。

 

「なんか…下手というより、慣れてないって感じですね。無駄な動きが多いというか。」

 

「その程度数秒で慣れてほしいものだが…。」

 

『ダメだこの人。スパルタにも程がある。』という言葉を更に飲み込み、士郎は再び二人の戦いを観る。すると、一夏の動きが目に見えて良くなり始める。

 

(流石だな。剣道も小学生の時は一本も取れなかったしな。やっぱりアイツの才能は千冬さん譲で一級品だ。)

 

しかし、一夏はセシリアを追い詰め、あと一歩の所でセシリアが遠隔操作するブルー・ティアーズによって迎撃され、ロケットが一夏の機体に当たり爆発し、煙が立ち昇る。

 

「なっ、一夏!!」

 

士郎と箒は心配そうに一夏を見るが、隣に立つ千冬は涼しい顔をしていた。

 

「機体に助けられたな。」

 

千冬がそう言うと、煙の中から一夏が出て来る。

 

「機体が変わっている…?」

 

士郎は不思議そうに一夏の機体を見ると、千冬がその疑問に答える。

 

「やっと最適化が済んだのだろう。ここからが本番だ。」

 

千冬の言葉に士郎は注意深く一夏たちの試合を観た。



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7話

間違いがあれば教えて下さい
速攻で直します


[side:archer]

 

「束。悪いが降ろしてくれ。魔力が心許なくてな。そろそろ回復しておきたい。」

 

「えぇ!?またぁ!?4日前にしたばっかりじゃん!今回は戦ったりしてないし、何でそんなに早いの!?」

 

アーチャーと束の二人は束の隠れ家いた。束は作業を止め、不服そうにアーチャーにそう言った。

 

「普通、私のような霊体は1日と持たん。4日も持っていることを褒めて欲しいくらいなのだがな。」

 

「そんなのどうだっていいよ!何かないの!?補給が要らなくなる方法とかは!」

 

束は地団駄を踏みながらアーチャーに詰め寄る。

 

「補給は必須だ。君に置き換えれば食事を辞めろと言われているようなものだ。だが…手間の掛からない方法があるにはある。あまり勧められたものではないがね。」

 

アーチャーの言葉に束はホッとした表情を浮かべる。

 

「なんだ、あるならあるって言ってよ。これ以上他に寄ってたらクーちゃん迎えにいけなくなっちゃう所だったよ。」

 

「クーちゃん?」

 

「私の助手。詳しいことは後で説明して上げるよ。それよりも、手間の掛からない方法ってなに?教えてよ。」

 

アーチャーは溜息をつくと、口を開く。

 

「簡単なことだ。私と君が契約を結び、君の魔力を私に送る。これが一番手っ取り早い。」

 

「契約…ね。何か不利益を被ることはあるの?」

 

束はふざけた雰囲気を消し、真面目な顔になる。

 

「不利益か…。そうだな、私は魔力を殆ど自己生成出来ない。故に魔力を使う際、足りない分を君から貰う。魔力を扱う者を魔術師というのだが、私のようなもの何かのバックアップなしに契約すると自分の使う魔力分がなくなる。だが、魔術を使うことはできない君にとって、不利益などあってないようなものだ。」

 

「魔術師、ね。じゃあなんで貴方はオススメしな言っていったの?」

 

「それは…いや、それはこちらの匙加減だ。私が気を付ければ済む話でもある。」

 

「ならやろうよ!地上に降りる回数を減らせるなら何でもいい。」

 

「フゥ…全く君は。まぁいい。そこまで言うのなら仕方ない。」

 

「さぁ、時間は有限だからね。ちゃっちゃとやっちゃおー!」

 

アーチャーは束にジッとしているように指示を出し、束と自身の周りに魔術陣を描く。

 

「魔術は苦手なんじゃないの??」

 

束は自分の周りに描かれた複雑そうな魔術陣を見て胡散臭そうにアーチャーを見る。

 

「苦手だとも。だからこの大層な魔術陣を補助として描く必要がある。一流の魔術師なら指先一つで全てが済む。……これで良し。ここに血を垂らせ。それで契約が完了する。」

 

アーチャーはナイフを投影し、束に手渡す。束はアーチャーに言われた通り人差し指をナイフで切り指定された場所に血を垂らす。すると束を中心に紅い波紋が広がる。

 

「……これで終わり?」

 

束には自分の体を見るが、特に変わったところが無く拍子抜けしていた。

 

「言っただろう。魔術師でない君には大した不利益は無いと。これで以上だ。後は君らしく好き勝手にすると言い。君の言ったIS学園とやらに着くのも幾ばくか掛かるだろう。私は魔力の消費を抑えるために霊体化している。」

 

アーチャーはそれだけ言うと霊体化し、姿を消した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

一夏とセシリアの決着は予想に反して呆気なくついた。結果は一夏の敗北、セシリアの勝利である。しかし、内容は一夏の優勢であったのだが、自分の武器の特性を見落とし、自滅という形になった。

 

「……。」

 

「頼む、黙らないでくれ。」

 

士郎は一夏に『コイツは何をやってるんだ?』という視線を送りながら、二人は部屋に戻っていく。

 

「そりゃ黙りたくもなるさ。あれだけ追い詰めてたのに自滅なんて。」

 

「うぐっ…仕方ないだろ!自分のシールドエネルギー削りながら使う武器なんて予想つかないし!」

 

「まぁそうだな…今回は代表候補相手に良くやったって褒めるべきなのかもな。」

 

二人はそんな話をしながらそれぞれの部屋に到着する。

 

「まぁ、今日はゆっくり休め。」

 

「あぁ、そうする。」

 

士郎は部屋に入る。

 

「お帰り~。」

 

同室の本音が着ぐるみのような寝間着を着て、士郎を出迎える。

 

「ただいま、布仏さん。ん?そんなにお菓子持ってどこに行くんだ?」

 

「これからクラスの皆で織斑君のクラス代表就任のお祝いをやるんだよ!衛宮君も行く?」

 

「一夏がクラス代表?クラス代表はセシリアじゃないのか?」

 

「なんか辞退したんだって〜。」

 

「なんだって!?」

 

士郎は自室を出て走って一夏の元に行く。

 

「おい!一夏!お前聞いたか!?」

 

「…俺がクラス代表になったってやつか?」

 

「あぁ、もう聞いてたのか。なんだ思ったよりも冷静じゃないか。もっと取り乱していると思ったんだけどな。」

 

「いや、一周回って落ち着いただけだ。」

 

一夏大きく溜息をつきながら項垂れる。

 

「まぁ、元気出せよ一夏。お前には千冬さん譲りの才能が有る。お前が適任さ。それにクヨクヨしてるのはお前らしくないぞ。」

 

「…そうだな。折角選ばれたんだし、やるだけやるか。」

 

「よし、それじゃあ食堂に行こう。みんながお前のクラス代表の就任祝いをするらしい。」

 

「おう、行こうぜ。」

 

二人は食堂に向かって歩いて行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

[side:archer]

 

「アーチャー。あとちょっとで着くよ。」

 

束の言葉にアーチャーは実体化し、キーボードを叩く束の背後に立った。

 

「ようやくか。これなら普通に飛行機で行った方が早く着いたな。」

 

「仕方ないでしょー!だってどっかの政府の追跡機撒くのに最短ルートから外れちゃったんだから!クーちゃん迎えに行けなかったから現地のホテルに延長して泊まってもらってるんだよ。」

 

「そういえば、結局クーちゃんとやらは紹介してもらえなかったな。」

 

「だから仕方ないじゃん!もうアーチャーを届けてから迎えに行くよ。」

 

「まぁ、それは置いておいて、だ。いい加減詳細の説明をしてもらおう。学校に雇われると言っても、どういう立場になる?ISは君の調べで乗れることはわかったが、教職免許は持っていない。用務員でもやればいいのかね?」

 

「ううん。普通にIS学園で調理師の募集があったから申し込んだら受かったよ。アーチャーが何で調理師免許なんて取ってるか疑問だったけど~、アーチャーのごはんは美味しいからね!でも備考欄にISに乗れるって書いたのが一撃だったかな!」

 

「自分の趣味を逆手にとられたか…。」

 

「そういうわけだから。あっちに着いたらISの試験と面接だって。」

 

「随分とリスクの高いことをするな。ボロが出て困るのはこちらではないのかな?」

 

「大丈夫だよ!ちゃんと手は打ってあるからね!」

 

「それもそれで怖いものだが…。」

 

「あ、でも、もう少し待機してね。時間になったらおろすから。そしたらその後は自由に動いて!」

 

「はぁ…。何を企んでいるか知らないが、余り人に迷惑を掛けないことだ。」

 

「いやぁ~、他人なんてどうでもいいし~。私は箒ちゃんとちーちゃんといっ君がいてくれればいいし。」

 

「君はブレないな。そこまで貫き通せるならその思いは間違いなく本物だ。」

 

アーチャーは肩をすぼめながら椅子に脚を組んで座る。

 

「そんなの改まって言うことじゃないじゃん。アーチャーだってそういうの持ってるでしょ?わざわざ紛争地にまで行って人助けしてたじゃん。死んでるのに人助けなんてお人好しにも程があるよ~。」

 

「…そうだな。全くもってその通りだ。作戦の日とやらが着たら教えてくれ。それまで私は魔力の無駄を省くために霊体化しておく。」

 

アーチャーはそれだけ言うと霧のように姿を消した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:shirou]

 

士郎はいつも通り朝早くに目覚め、外に行き、学園の敷地内にある人気のいない森の中へと入っていく。そして足元にある枝を拾い上げる。目を閉じて神経を枝に集中させる。

 

「————同調、開始。」

 

いつも通り魔術回路をつくり、枝に魔力を流して強化する。

 

「っ…。」

 

集中を乱さぬようにゆっくりと確実に魔力を枝に行き届かせる。そして魔力を流し終えると、閉じていた眼を開き、枝を近くにあった岩にたたきつける。すると、枝の先端部分が欠けてしまった。

 

「くそ、魔力がちゃんと行き届いてなかったのか…。」

 

士郎をは新しい枝を探しに行くが10分探しても見つからなかったため投影魔術でナイフを創り、そこに魔力を流す鍛錬をする。

 

鍛錬を終え、学校に行く時間になり、士郎はナイフを消すと校舎へと向かっていった。教室に着くと一夏がうつ伏せになって倒れているのを発見した。

 

「おい!一夏!どうしたんだ!?」

 

士郎が一夏を仰向けにすると、一夏の頬に奇麗な紅葉の後があった。

 

「ん?何だこの跡。お前誰かに叩かれたのか?」

 

すると周りにいた箒とセシリアが説明をした。

 

「衛宮、実はさっき中国からの転校生が来てな。まぁ、省略すると、一夏が悪い。」

 

「なんでさ。省略しすぎて何もわからないぞ。」

 

「簡単に説明致しますと、一夏さんとその中国の転校生がお知り合いでして、約束を反故にしたというか、勘違いしてよりタチの悪いことをしたというか…。」

 

「中国からの転校生で知り合い…?もしかして鈴のことか?」

 

「そうなんだよ…。」

 

一夏が頬をさすりながら起き上がる。

 

「あいつが突然切れてぶっ叩かれてさ。あいつ前からあぁいうところあるよな。」

 

(ん?前に鈴が切れたことと言えば…)

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

(スーパーでの一幕)

 

ある日スーパーで士郎と一夏と鈴は織斑家の夕食の買い物に来ていた。

 

『一夏、俺は野菜を見てくるから、肉は頼むな。』

 

『わかった。じゃあ鈴、肉のところ行こうぜ。』

 

『う、うん!わかった!』

 

二人は一緒に肉売り場に足を運ぶ。

 

『なぁ、鈴。こっちの肉とこっちの肉どっちがいいかな?こっちの方が安いんだけど、こっちの肉は結構良いと思うんだよな。お前の家料理屋だろ?アドバイスしてくれよ。』

 

『えっと…、やっぱりこっちの方かな。いくら安いからってそれよりもこっちの方が良いお肉だし、それを考えたらこっちの方がお得よ。』

 

『やっぱりか!鈴は頼りになるな。』

 

『っ、と、当然よ。……ねぇ、一夏。二人で買い物してると、周りから恋人っぽくみえるかな…?』

 

『ハハハ、まさか。俺たちじゃきっと兄弟に見られてるぜ!』

 

『……。』

 

『ん?おい、鈴。どうかしたか?』

 

『この…馬鹿ぁ!!』

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

(そういえばあの時、すぐ後ろにいたけど、雰囲気的に近付きづらくてしばらく見てたらそうなんたんだっけな…。)

 

「おい、士郎。お前も鈴って切れやすいと思うよな?」

 

一夏が同意を求めるように士郎に尋ねる。

 

「いや、たぶん今回もお前が悪いと思うぞ。」

 

「なんでだよ!」

 

すると突然一夏の頭に拳が飛んでくる。

 

「いってぇ!!な、なんだ??」

 

一夏が振り向くとそこには拳お振り下ろした形で千冬がいた。

 

「チャイムはとっくになっているはずだが?」

 

一夏が周りを見ると、先ほどまで目の前にいたはずの士郎や箒たちは既に着席していた。

 

「あ、あれ?」

 

「良いから座れ。」

 

千冬は軽く出席簿で一夏を小突くと教卓へと向かった。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

1時間目の授業が終わると、勢いよく教室の後ろのドアが開く。士郎は音のする方へ振り向くと、見知った顔を発見した。

 

「ヤッホー士郎。」

 

「よう。元気そうだな鈴。」

 

「まぁね。アンタも相変わらずお人好しそうな顔してるわね。」

 

「なんだよそれ。というか何しに来たんだ?」

 

「ちょっと一夏に宣戦布告をね!」

 

「宣戦布告?何のだよ?」

 

「一夏クラス代表でしょ?だからその宣戦布告。アタシ2組のクラス代表だからね。」

 

「そういえばそうだったな。まぁ、あまり派手にやり過ぎないようにな。」

 

「はいはい、わかってるわよ。」

 

鈴音はそう言うと、一夏の元へと歩いて行った。

 

(鈴も全く大変だな。)

 

士郎は2時間目の準備を始めた。

 



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8話

間違いがあったら教えてください

速攻で直します!


授業が終わり、弓道部の活動に顔を出す。初めは男子の珍しさからか周りのみんなの視線が集中していたが、それも数日で収まり、今では普通に部活動をしている。

 

部活動を終え、ロッカールームでシャワーを済ませて自室に戻る。部屋が暗いことから本音が帰っていないことがわかり、士郎はパソコンの前に座ると、パソコンの電源を付け、ネット検索欄に“正義の味方”と打つ。するとある動画がいくつか出てくる。

 

「………。」

 

士郎は食い入るようにその動画を見る。その動画は中東辺りで現れた人間で、全身を薄汚れたマントで覆っていて、名前、年齢、国籍、すべてが不明だった。ただわかることは女性にしては身長が高いことより性別は男でないかと目星が付いている。

 

動画の内容はこうだ。その男であろう人物がISのテロが起こった現場で人々を救済する。瓦礫をどかして下敷きになった人を救う。銃撃戦の起こった場所で果敢に戦場を走り回り敵を殺さずに無力化する。今ネットで少し話題になっている動画だ。誰がどうやって撮っているかは不明だが、画質が荒かったり、綺麗だったり、手ブレが酷かったり、全く動かなかったり、同じ場面でもアングルが違ったり、撮り方が一定ではないため、一人が取り続けているのではなく、何人もの人が撮っているのではないかと思われている。人々はこの動画をヤラセや、CGだと言っているが、一部の人は正義の味方だと称賛している。数多くある正義の味方の動画で士郎が見ているのは一つだけ。正義の味方と呼ばれる男が唯一武器を使って戦った動画だった。どういう理由でそうなったのかは定かではないが、正義の味方に向かって銃を放つ男を、正義の味方は黒と白の短剣で銃弾を弾き、銃を切り裂いて男を無力化した。この動画が正義の味方の存在をヤラセだと言われる原因の動画でもある。当然。銃を放つ人間に近づき、銃を切り裂くなどありえないと言われても仕方がない。しかし、士郎はその男の太刀筋を素晴らしいと思ってしまった。理由はわからない。ただ今までにも気まぐれで、派手な剣技を何度も見たことがあったが、この正義の味方の剣技はそれを上回るほどに惹かれた。

 

「この黒と白の短剣…いいな。」

 

今まで士郎が欲しいと思ったものはあったが、それは全部自分の為だけではなく他人のためというのも含まれていた。しかし、その剣に関してだけは唯一自分自身だけのために欲しいと思った。

 

「——————投影、開始。」

 

士郎は自分の手の中に二振りの短剣を投影する。黒と白。対になる二つの剣が両手に握られた。

 

「…駄目だな。構造がわからない以上、贋作にすらなっていない。せめて生で一目見られればいいんだけど…。」

 

士郎は投影物を消して再び動画に目を向ける。

 

「目的の像は見えた。後は、俺次第だ。」

 

士郎はパソコンの電源を落とし、魔術の鍛錬の為に外へと出て行った。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

クラス代表当日、士郎は一夏の対戦相手を見る為に掲示板の前に向かうとそこに一夏が居た。

 

「おい、一夏。クラス代表の相手、鈴じゃないか。あいつ中国の代表候補生って聞いたぞ?大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫だ。練習はしてきたからな。やってやる。」

 

「そうか、それなら頑張れよ。」

 

士郎は一夏を応援すると、観客席へと向かった。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

試合が始まり、一夏と鈴音がそれぞれの武器で切り結ぶ。一夏は鈴音の攻撃に翻弄されながらもなんとか攻撃を防ぐ。一夏が自身の不利を悟ると、一度仕切りなおすために距離を取った。

 

「甘い!」

 

鈴音がそう言うと一夏が突然その場から吹き飛んだ。

 

「なんだ?今のは。一夏が急に吹っ飛んだように見えたけど。多分鈴が何かしたんだな。鈴はセシリアと違って遠近両方強いみたいだし、結構不利だぞ。さてどうするんだ一夏。」

 

士郎が一夏の動きを見ていると、突然一夏の動きが目で追えない程に速くなるが、士郎の持ち前の目の良さから見逃さずに済む。

 

一夏が鈴音に向かって攻撃を仕掛けようとした瞬間、爆発音が鳴り響き、グラウンドの中央に何かが落下してきた。

 

「なんだ!?一体何が起こったんだ!?」

 

士郎は席を立ち前の方へと足を運ぶ。煙が晴れると、そこには黒いISが佇んでいた。

 

「IS!?乱入してきたのか!一夏と鈴が危ない!」

 

士郎はどうにかして中に入ろうとするが遮断シールドが張られているため中に入ることができない。

 

(どうすればいい…。魔術を使うか?いや、投影品なんか使っても意味がない…。誰かのISを強化魔術で強化すればこのシールドを壊せるか?それをやるとしたら…セシリアのISが適任か。でも、一体どこにいるんだ!?この観客の中に居るなら探してるだけで手遅れになる。くそ!どうすれば…!!)

 

士郎は迷いながらも観客席を走り回りセシリアの姿を探す。しかし、探せど探せどセシリアの姿は見えない。それもそのはず、セシリアは観客席からではなく、千冬や真耶、箒と共にモニターで試合を見ていたためであった

 

士郎は再びグラウンドに目を向けると、一夏と鈴は空中に静止してなにやら話していた。すると視界の上側に人影が写る。

 

「あれは…。」

 

士郎がその人影を見ると、長身の肌の浅黒い白髪の男が遮断シールドの上から落ちてくるのを発見する。

 

「なんであんなところに人が!?」

 

士郎が焦ってその男を見ていると、男はどこからか白と黒の短剣を取り出しシールドを切り裂いた。

 

「あれは……。」

 

(間違いない、あれは正義の味方が使っていた短剣!ということは、あれはまさか…。)

 

士郎が引き続き男を見ていると、男の体が白く光りはじめる。光が収まると、その男の体には赤と黒のISが纏われていた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

[side:archer]

 

一夏と鈴音の試合開始15分前。

 

「アーチャー。後少しで行ってもらうけど平気?」

 

束はパソコンの前に座り、手元で何やら操作をしながらアーチャーにそう尋ねた。

 

「あぁ、無論だ。とにかく私は私の自由に動けばいいのだろう?心配ごとと言えば、君がくれたISだけだ。」

 

アーチャーは実体化し、左の人差し指にはめた指輪を見る。

 

「なんでよ~。私の技術が信頼できないの~!?」

 

束は操作をやめ、椅子を回転させてアーチャーの方を見る

 

「そういうわけではない。君の技術力が見事なのは初めから理解している。心配なのは私がしっかりと扱えるかどうかだ。それに、第三人目の男性IS操縦者として世界に注目されるのが怖くてね。」

 

「なにが怖いだ。その気になれば世界を破滅させられる力を持ってるくせに。」

 

「さぁ、それはどうかな。普通に考えて世界破滅よりも私の魔力切れが先だ。それに、世界にある450機以上のISを相手に無事で済むとも考えづらいな。」

 

「別に本当にするなんて思ってないよ。ただ、アーチャーの魔術にISが反応する理由は知りたかったんだけどなぁ。」

 

「流石に解剖は勘弁してもらいたい。それなら二人目の男性IS操縦者を解剖でもすればいいだろう。あの子供がISに乗れる理由もわからないのだろう?」

 

「まぁ、それもそうなんだけどさ。本当にあの衛宮士郎って奴の事知らないの?」

 

束は胡散臭そうなか顔でアーチャーを見る。

 

「あぁ、知らないな。第一、私がその少年を見た時に私の雰囲気が変わったなど、抽象的の事を言って関係があると決めつけるのは横暴にも程があるだろう。全くの無関係だ。」

 

「ふ~ん。まぁ、いいけど。あの衛宮士郎って奴がIS学園を卒業したら捕まえて解剖しよっと。それまでは結構忙しいし。その時はアーチャーも手伝ってよね。」

 

「そんなことに私を巻き込むな、と言いたいが。それよりも、今日の一体いつに行けばいい?降ろす場所によっては早く出なければなるまい。」

 

「んー、あと少し待って。」

 

束はパソコンに表示されている時計をジッと見て、そのまま数分が経つ。

 

「……………うん、いってらっしゃい!」

 

束は手元にあった紅いスイッチを押すとアーチャーの立っていた場所が突然開き、上空に放り出された。

 

「なっ!!」

 

アーチャーは驚きつつも空中で何とか態勢を立て直す。

 

(ふぅ、束に怒るのは後にして今どこだ?)

 

アーチャーが雲を抜け地上が見えると、大きな敷地に大きな建物が見えてくる。

 

(ここは…?なるほど、ここがIS学園というわけか。だがなぜこのような形で来ることになった?束は手を打っておくと言っていたが、上空に放り出されたのと一体何の関係がある?)

 

アーチャーは辺りを鷹の目で見渡すと、アーチャーの真下にある闘技場のような場所で黒いISと白と赤のIS三機が戦っているのが見える。

 

(あれは…白いISに乗っているのは衛宮士郎ではないということは、あの時の少年か。赤い方のISに乗っているのは知らないがIS学園の女生徒だろう。そして黒いのは…ふむ、様子がおかしいな。黒いISが放っているレーザーは明らかに威力が競技用のものよりもオーバーしている。そして観客席で光っている赤色のランプ…緊急事態か。仕方ない)

 

アーチャーはそのまま闘技場に向けて落下していく。闘技場の周りを囲っている遮断シールドを干将莫耶で切り裂き、ISを纏う。姿のモデルはアーチャーが戦闘時に使う赤原礼装。装備は近接武器ばかりで、一つだけ遠距離用として弓を搭載している。アーチャーは弓を取り出し、下に居る黒いISに向けて剣を射った。音速で飛ぶ剣は黒いISの右腕を吹き飛ばす。

 

「なに!?」

 

「なんだありゃ!?」

 

鈴と一夏は突然の出来事に目を白黒させて硬直した。

 

「戦いの場で気を抜くな。」

 

アーチャーは一夏と鈴の前に降り立つと、黒いISと相対する。

 

「なに…アンタ誰よ?」

 

鈴が疑わしそうにアーチャーを見る。

 

「なに、自己紹介は後でするとしよう。今は目の前の敵を排除するのが先決だ。」

 

「あ、アンタ!もしかして…。」

 

「自己紹介は後だと言ったはずだ織斑一夏。まぁ、もう終わるがね。」

 

アーチャーは干将莫耶をモデルとしたIS用武器を取り出すと黒いISの元に突っ込み、左腕を切り落とすと、アーチャーはあることに気が付いた。

 

「なるほど、手を打つとはこのことか。」

 

アーチャーはそのまま黒いISの首をはねると黒いISはその場で停止した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

戦闘後アーチャーは教員たちに囲まれ部屋へと連れていかれた。

 

「それで、貴様は何者だ?何故ISに乗れる?」

 

アーチャーの目の前には千冬と真耶がいた

 

「まるで取り調べのようだな。まぁ、君たちに話が行っていなかったのは仕方がないか。まさか早々に頼ることになるとはな。ブリュンヒルデ、束に連絡をしてくれ。君は彼女の連絡先を知っているのだろう?」

 

「何故貴様から束の名前が出る?」

 

「私の口から説明するよりも彼女から説明を受けたほうが信じるだろう。故に事実が知りたいのであれば彼女から聞き給え。」

 

千冬は舌打ちをすると部屋と出て束に連絡をかけた。

 

「ふぅ…。難儀なものだ。」

 

「あの、貴方は一体…?」

 

千冬が部屋を出た後、真耶は恐る恐るアーチャーに尋ねた。

 

「結局は訊かれるわけか…。まぁいい。私は束の助手のような立場でね。男なのにISに乗れるとわかり、理由調べるために束に拾われたのだ。そして色々ことが済んだ後に今回新しい助手が束の元に来たので、私は暇を出させて貰った。そしたら偶々IS学園が料理人の募集をしていたの発見してね。料理が得意な私はISに乗れるということをプッシュしてここに試験を受けに来たというわけだ。」

 

アーチャーが真耶の質問に嘘の答えを教えると、丁度部屋の扉が開き、千冬が入ってくる。

 

「山田君、何か聞き出せたか?」

 

千冬が真耶にそう訪ねると、真耶はアーチャーから聞き出したことを千冬に報告する。

 

「ふむ、束といっていることは同じだな。いいだろう。疑いは晴れた。」

 

「それは重畳。あのようなことがあった直後だ。怪しまれるのは当然か。」

 

「急で悪いが、早速案内をする。ISが乗れることは私たちや生徒たちが見ているから問題はないだろう。私たちがISに関しては報告しておく。だが、今貴様のISはどこの国家にも所属していない状況だ。使用する際はIS学園に使用許可を申請し、許可が下りた時のみ使用を許可する。それ以外では何があっても使うな。」

 

「了解した。」

 

「学園長にも連絡を取ったところ、面接、料理の採点は私に一任された。面接はともかく、味に関しては私は素人だ。調理師免許はあるようだから、今日の夕食を生徒の希望者に食べてもらい、アンケートを取る形で試験を行う。異論はあるか?」

 

「いや、分かり易くて実に良い。別に皆の舌を唸らせても構わんのだろう?」

 

「フッ。できるのならな。」

 

アーチャーは当然だと言わんばかりに微笑み、厨房へと向かっていった



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9話

遅くなってすみません

間違いがあれば教えて下さい
なおします



[side:shirou]

 

「ねぇ一夏。アンタなんかあの男の事知ってるみたいだったけどどうなのよ?」

 

「えっと、小さい時にちょっと助けてもらったことがあったんだよ。」

 

「ふぅーん。」

 

士郎は一夏、鈴音、箒、セシリアと共に夕食に向かっていた。

 

(あの男の持っていた黒と白の短剣。間違いない…正義の味方が使ってたやつだ。)

 

「悪い皆。ちょっと忘れ物したみたいだ。戻って取ってくる。」

 

士郎はそれだけ言うと走って自室に戻っていった。

 

「あ、おい!士郎」

 

一夏は士郎を呼び止めるが、士郎はそのまま走って行ってしまった。

 

「財布でも忘れたのか?金なら別に貸してやるのにな。」

 

「まぁ、すぐに戻ってくるでしょ。それにアイツって人に手を貸すことはあっても人から手を借りることなんてほとんど無かったじゃない。そういうの嫌なんじゃない?」

 

「そういうわけでもないと思うけど。まぁ、とりあえず先に行って士郎の席取っておくか。」

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

自室に戻った士郎は、早速正義の味方の使っていた双剣を思い出す。

 

「——————投影、開始。」

 

士郎は干将莫耶の投影を試みる。しかし、

 

「ぐっ————ぐあ!」

 

形作ろうとした干将莫耶が突然崩れてはじけ飛んだ。

 

「駄目だ…。あの双剣、魔力を帯びていた。前にそういえば切嗣が言ってたな。『長い年月をかけて物に神秘が宿ることもある。』ってもしかしたらあれはそういう類の物なのかもしれない。だとすると今の俺がアレを投影しようとすると負担が大きいのか…。でも、グレートを落とせば、形にはなるかもしれない。よし、もう一回。」

 

士郎は一人黙々と投影を続ける。

 

「——————投影、開始。」

 

今度は干将だけを投影する。神経が悲鳴を上げようとも、冷静に確実に一つ一つを構成させていく。そうしてどうにかして干将を形作ると士郎は一息ついてベッドに倒れ込む。

 

「やっぱり本物には及ばないか…。でも、やっぱり刃物の投影は結構いい線までいくな。他のものは結構魔力使うしそう何度もできないけど、これほどの剣でも数回は行けそうだな。この剣ならIS相手でもなんとかできるかもしれない。」

 

士郎は今日の出来事に悔しさを感じていた。一夏や鈴音が苦戦しているとき、自分には戦う術がない。それも当然だ。士郎よりも一夏の方がISの適正も高い。だから自分に専用機は無い。それに今は開花していないが千冬の弟なだけあって剣の才能があり、時折素晴らしい動きを見せる。

 

「今日は…何もできなった…。だけど、正義の味方になるにはそれじゃ駄目だ。」

 

士郎は干将をベッドの下にしまう。

 

「また今回と同じ完成度で創れるとは限らないしな。一夏も待ってるかもしれないしそろそろ行くか。」

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「おぉ!今日の夕飯かなりおいしいな!」

 

一夏が声を上げると他のメンバーが不思議そうにみる。

 

「何をそんなに騒いでいる?」

 

「私はいつもと変わりませんが?」

 

「アタシも別に普通よ?」

 

箒、セシリア、鈴音は一夏の料理をのぞき込む。

 

「まぁ、確かにおいしそうではありますわね。」

 

「おう!食ってみてくれ!」

 

三人は一夏にご飯を進められ、頬を赤めらせながらおかずを一つ口に運ぶ。

 

「っ!!」

 

「まぁ!!」

 

「ホントだわ!」

 

三人とも料理の美味さに驚きを表す。

 

「一夏、これって普通の和食よね?」

 

「いや、なんか新しい人が作ったやつで、味のアンケートを取ってたから協力しようと思って頼んだ奴なんだ。」

 

4人で盛り上がっていると、そこに近づく人物がいた。

 

「口に合ったようで何よりだ。」

 

四人が声のする方向を見ると、そこには厨房服を身に纏った肌の浅黒い、白髪の男が立っていた。

 

「あ、貴方は!」

 

「久しぶりだな。私の名はアーチャーだ。よろしく頼む。」

 

「お、織斑一夏です!よろしくお願いします!」

 

「そんなに硬くなるな。私はただの調理師だ。今日はある種試験のようなものを受けさせられていてね。君の食べているソレはいわゆる試験の品だ。生徒の評判によって採用するかどうかを決めると言われていたのだが、どうやら心配はなさそうだ。」

 

アーチャーが辺りを見回すと、一夏の他にもアーチャーの作った料理を食べている人々がみなおいしそうに食べていた。

 

「「「「……。」」」」

 

四人は唖然とアーチャーを見ていた。

 

「む、どうした?」

 

「い、いえ。」

 

「そうか、それでは私は失礼させてもらおう。少し評判を見に来ただけなのでね。何か好みの料理があれば学校の学食HPに料理のリクエストを受け付けている。好きなものがあればぜひ活用してみてくれ。なるべく希望に添えるように努力はしよう。」

 

それだけ言うとアーチャーはその場を去っていった。

 

「いやぁ、スゲエな。ISも強くて、料理も完璧だなんて。」

 

「でも、結構怪しくない?アンタと士郎はテレビで大々的に報道されてたからテレビを見る人ならだれでも知ってたけど、あのアーチャーって人に関して報道なんてされてないわよね?」

 

「あぁ、私も毎日朝のニュースだけは確認しているがそんなことは聞いていない。」

 

「私もですわ。それにグラウンドで見せたあの動き。一朝一夕で身につくものではありませんわね。もしかしたら一夏さんよりも男性のIS操縦者として早く見つかっていたのかもしれません。」

 

「でも、だとしたら何で今更学校に来たんだ?しかも調理師として。」

 

「さぁね、そんなのアタシに聞かれてもわからないわよ。」

 

四人がそう話していると、士郎が料理の乗ったお盆を持ってその場にようやく到着する。

 

「悪い、遅くなった。」

 

「ホントよ。もう皆食べ終わっちゃうわよ?」

 

「すまん。別に食べ終わったら部屋に戻ってくれてもいいから。」

 

士郎は一夏の隣に腰を下ろすと皆の視線が料理に注目する。

 

「あ、それってアーチャーさんの。」

 

「アーチャー?」

 

「えぇ、先程のグラウンドに乱入した黒いISを撃破した方ですわ。」

 

「アイツ…アーチャーって言うのか。」

 

「あぁ、さっき会ったんだけど、その料理はアーチャーさんが作ったらしいんだ。結構皆に評判良いみたいでさ。結構周りから美味いって声が聞こえてるぜ。」

 

「あぁ、俺もさっき本音さんとすれ違った時に勧められたんだ。」

 

士郎は早速料理を一口口に入れるた。

 

「…美味い。」

 

「あぁ、結構美味いだろ?結構士郎の作る和食に味が似てないか?」

 

「あぁ、だけどこの料理は俺の1枚も2枚も上に行ってる。完全に負けだ…。」

 

士郎はアーチャーの料理の腕前に何故が意気消沈した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

翌日、いつものように朝早く起き、魔術の鍛錬のために外の森へと向かう。すると、その向かう途中で廊下の向かいからアーチャーが歩いてくるのが見え、士郎は足を止める。

 

「……。」

 

「……。」

 

お互い無言ですれ違い、アーチャーは士郎とすれ違って数歩歩いたところで足を止めた。

 

「おい、こんな朝早くに何をしている。そっちは外だぞ。」

 

「…別に関係ないだろ。朝はいつも走ってるんだ。」

 

「ふん、そうか。好きにしろ。」

 

アーチャーは何事もなかったかのように歩を進めると、士郎が後ろから呼び止める。

 

「アーチャー…さん。」

 

「…お前にさん付けなどされたくもない。アーチャーで良い。それで、何の用だ?私にはやることがあって忙しいのだが?」

 

「そうかよ。なら担当直入に聞く。アーチャー、アンタ…正義の味方なのか?」

 

「……まさか。そんな下らないものになるわけがないだろう。何故そのようなことを訊く?」

 

「それは……。」

 

「もし…お前がもしそんなロクでもないものになりたいとでも夢見ているのであれば早々に目を覚ますことだ。」

 

アーチャーの言葉に士郎が振り向きアーチャーの背を睨む。

 

「っ!なんでそんなことお前に言われなきゃなんないんだ!俺の勝手だろ!」

 

「それがお前だけで済むのならそうだろうな。」

 

アーチャーは振り向き士郎の目を見る。アーチャーの眼光に士郎は少し怯んでしまう。

 

「正義の味方とは全ての人間を救う存在だ。だが、人の身である限りそのようなことができるはずもない。正義の味方が居るのは御伽噺の世界だけだ。」

 

「っ、そんなことは…。」

 

「今のお前と問答することなど時間の無駄だ。だが、一言だけ言っておく。正義の味方などありもしない理想を目指し、走り続けるのなら、他ならぬお前が後悔する。今の言葉が理解できないのであれば、理想を抱いて溺死しろ。」

 

アーチャーはそれだけ言うとさっさとその場を去って行ってしまった。

 

「くそ…!」

 

士郎はその場の壁を強く殴りつけた。

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

ホームルームの時間になり、士郎は自席に着席すると、一夏が士郎の元に歩いてきた。

 

「よお士郎。なんか今日騒がしくないか?」

 

「そうか?いつもと同じ気がするけど。」

 

「うーん…。まぁ、そうかもな。っと、千冬姉が来た。」

 

一夏が席に戻ると千冬がクラスに声をかける。

 

「これからホームルームを始める。」

 

「今日は皆さんに新しいクラスメイトを紹介します。」

 

真耶がそう言うと、教室に一人ブロンドヘアの男子生徒が入ってくる。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さんよろしくお願いします。」

 

皆がシャルルを男と認識すると、騒ぎ始めたが、千冬の一喝で皆が静まった。

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。各自準備を済ませて第二グラウンドに集合。それから織斑、衛宮。お前たち二人がデュノアの面倒を見てやれ。以上だ。」

 

士郎は一夏とシャルルの元に向かう。

 

「二人とも急いだほうが良いだろ?遅れるとまた織斑先生に怒られるぞ?」

 

「そうだな。とりあえず更衣室に向かおう。」

 

三人は女子の追っ手を振り切って更衣室に向かった。

 

「俺は織斑一夏だ。一夏で良いぜ」

 

「俺は衛宮士郎だ。俺の事も士郎で良いぞ。」

 

「うん。よろしくね。一夏、士郎。」

 

「うお!時間やばいな!」

 

「俺は中に着てるからな。先に行くぞ。」

 

「あ、ずりい!」

 

「今日はあらかじめISの実習ってわかってただろう?一秒でも遅刻したら鉄の如き出席簿で殴られるんだ。手段は選んでられないからな。それじゃ。」

 

士郎は先にグラウンドに出て行った。するとグラウンドにいる1組と2組の集団がある場所を囲い込むようにして黄色い声をあげていた。士郎がその塊の中央を見ると、黒い長ズボンに袖のないボディアーマーを付けたアーチャーを発見する。。

 

「な、なんであいつが居るんだ…。」

 

アーチャーは士郎の存在に気付き、視線をやるが、興味のなかったかのようにすぐに視線を外した。士郎はそんなアーチャーの態度にカチンとしながらも、自身を落ち着かせて所定の位置に並んだ。

 

授業開始時刻となり、千冬がクラスの前に立ち、指示を出す。

 

「それではこれからISの実習を始めるが、その前に君たちに言わねばならないことがある。今日は調理師のアーチャーを特別講師として呼んでいる。昨日のクラス代表戦を見ていた生徒は知っているかもしれないが、コイツは三人目の男性IS操縦者だ。一応こいつの存在は極秘情報として扱っている。来賓の客はアーチャーが乱入する前にシャッターを閉めたのでこの情報は漏れていない。もし知り合いが来ていたとしても情報を漏らすな。報告は以上だ。それでは授業を始める。まずはオルコットと鳳。前にでろ。」

 

アーチャーに対して黄色い声が上がる前に矢継ぎ早に千冬が指示を出し、授業が進んで行く。しかし、士郎の耳には千冬の言葉は届いていなかった。目に写るのはただ一人。千冬の横に立ち、授業を眺めているアーチャーだ。

 

『理想を抱いて溺死しろ。』

 

アーチャーの言葉が士郎の頭の中で反復し続ける。士郎はアーチャーと対面した時、アーチャーを一目見ただけで分かった。『こいつは気に入らない』と。理由は分からない。ただ、だからといってアーチャーの言葉を気に入らないからの一言で投げ捨てることはできなかった。

 

(ふざけるな。俺は正義の味方になるんだ。やる前から否定なんてさせてたまるか。)

 

授業を終え、一夏の昼食の誘いを断り、部屋に戻って干将の投影をする。

 

(アイツの言う通りなんかにさせてたまるか!)

 

本来のランクを遥かに落とした干将の投影を終える。頭の中にはアーチャーの言葉に対する怒りがあるが、彼の技は目標にすべきだと思った。遮断シールドを切り裂いた一閃、ISへの初撃の一矢、そしてISの腕を切り裂いた一閃。千冬と手合わせをしたこともある士郎は千冬ですら凌ぐ剣技の極地を垣間見た気がした。

 

(確かこう振ってたような…。)

 

アーチャーの姿を思い出しながら投影した干将を振る。

 

(違う…もっと速く。感覚じゃない、元より俺には千冬さんや一夏のような才能はない。動作一つ一つを考えて振れ!)

 

「……駄目だな。だけど…。」

 

光明が見えた。アーチャーの模倣は一発では上手くはいかなかったが、士郎の顔は希望に満ちていた。



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