白猫あうあう物語 (天野菊乃)
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原作前
アイリス、大地に立つ。


改:2024/2/3


 ───『白猫プロジェクト』というゲームをご存知だろうか。

 そう、あのガチャ運が恐ろしく低いあのゲームだ。配布キャラだけでは絶対にクリアが不可能だとも言われるとも言われる伝説のゲーム。私はそんなゲームを一ヶ月ほどして、アカウントが何故か消滅。後に配信されたバトルガールハイスクールに逃避した現役大学生であった。

 さて、なぜ私がこんな話をしているかと言うと。

 

「白猫プロジェクトの世界に行きたくないですか?」

 

 神々しい雰囲気を放った白い民族衣装を着たお姉さんが目の前に現れたからです。彼女はそうやって私に柔らかく微笑みかけると、静かに語りかけてきました。

 

「私は神です」

「自称、ですか?」

「貴女は死にました。不慮の事故で」

「唐突なのですね」

「だから白猫プロジェクトの世界に転生したくないですか?」

「絶対に嫌です」

 

 あんな最初しか主人公が活躍出来ないゲーム転生したらどうなるかわってるんですか。私に死ねと。そういう事ですか。

 

「ストーリーにしか沿わないんですよね?」

「それはもちろん」

「キャラチェンジとか出来ないんですよね?」

「現実の人間がキャラクターチェンジなんて出来ますか?」

 

 なるほど、彼女の言うことは尤もである。

 ちなみに、星4ガチャの排出率は恐ろしく低い。もし、ここで星4キャラを引けなければ───

 

「…………。念の為聞きますが、転生先は?」

「主人公かアイリスですよ、おめでとうございます」

 

 それならバトルガールの世界に行って女の子とイチャコラしている方がいい。

 ろくに戦えない主人公とろくに戦えないヒロイン。転生したら先ず詰むだろう。

 

「女子大生だったんですね、そんな体型で」

「すみませんね!こんな体型で!いたくてこんな体型でいる訳じゃありませんよ!!」

 

 年齢は確かに19ではあるが、体型は小学生の頃からまるで成長していない。親戚の小学生と同じくらいの体型で、その友達は自分よりも胸がある。

 悲しいかな、これが現実だ。ボンキュッボンになる前に死んでしまった。

 

「否定権、ないので」

「じゃあせめて主人公転生はやめてくださいお願いします」

「はいがんばってください」

「話を聞いください!?」

 

 こうして無理矢理転生させられました。おばあちゃんお母さん、私を助けてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生先はアイリスであった。

 主人公じゃないことには助かりましたがここで一つ言わせてください。

 

「なんで森の中に転生させたの?」

 

 あまりにも酷い。私が前世で何をしたというのだ。

 ちょっとお母さんの作った料理をつまみ食いしたり、お父さんが大事にしていたツボを壊しただけじゃないですか。あまりにも理不尽すぎませんか、と思わず天を仰ぐ。空はうんざりするほどの晴天だったが、生い茂った木々のせいで僅かな光しか差し込まない。

 そんなことよりもキャトラはどこだろうか。

 

「アイリスー!アイリスー!!」

 

 上から声がした。聞き覚えのある声に視線を動かすとそこには。白色碧眼の猫がいた。キャトラだった。

 

「助けてー!助けてー!!」

 

 変なツタに捕まってました。ツタはうねうねと蛇のように動く触手のよう。

 リアルで見ると気持ちが悪い。

 残念なことに魔術師のアイリスにはこれをどうする手段はない。一応、杖はあるが使い方なんてわからないし頭に雷マークを刻んでいるハリーしているポッターではあるまいし杖を持った瞬間に髪の毛が上がったりもしない。それに、呪文も何ひとつとして知らないのである。万が一、億が一にも呪文を知っていたとしてもそれはきっと自爆して辺り一体が焦土になるのは目に見えている。

 それにキャトラのツタを解こうとしたら絶対によからぬ展開になるのは目に見えていた。

 答えは決まった。ここでアイリスが取るべき選択、それは───

 

「主人公が来るまで、待つ」

 

 それしかないだろう。




あうあうー!梨花に呪われたのですよー!!


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アイリス、捕まる。

改:2023/02/12


 あれからかれこれ数時間ほど経過しただろうか。

 キャトラは未だにウネウネとした触手の中にいた。

 アイリスも正座しながら、身体の確認。そこで、アイリスという少女が美少女であったことを再確認した。

 肌ツヤがいいなんてものでは無い。その肌はまるで陶磁器のよう。シミひとつ見つからず、余計なシワもない。それに胸も原作だと控えめな癖にいざなってみると普通にスタイルいい。

 ただ、転生前の身体とは背丈から体付きから何もかも違うので、慣れるのには時間がかかるかもしれない。

 

「アイリスー!! アイリスー!! 」

 

 と、現実逃避はこの辺にして。

 キャトラは今日も元気なようだ。まだこの肉体になってから数時間しか経過していないのだが。いつになったら彼女は触手の養分になるのだろうか。

 無論、アイリスは助けない。転生していきなりあんなことやそんなことになるの嫌なのだ。一生純血でいると決めてから十数年と一日。今考えれば、誕生日の次の日に死んだのか、と思う。

 純血喪失を見るのは好きだが、自身喪失したいかと言われれば話は別になる。オトコハケダモノ。これが世界の真理だ。

 

「……それにしても来ないなぁ」

 

 流石堀江由衣ヴォイス。どんな声出しても可愛いのだ。

 そういえばキャトラも堀江由衣ヴォイスなんですよね。嘘だと叫んで鳥を驚かせてみたいもの。

 しかし、いつまで経っても主人公がやってこない。一体どうしたのだろう。

 

「アイリスー!! アイリスー!!」

 

 主人公とアイリスが出会った時のことを思い出す。

 あれは確かアイリスが気絶して───え? 

 

「まさかこれに捕まれと?」

 

 そこでまさかと思う。もしかしなくてもこの気味の悪いツタに捕まらなければならないのかと。そんなのは絶対に嫌だと思い、駆け出そうとしたその時、私の足を何者かが掴んだ。

 振り向き、足元を見遣れば愉快な───こっちから見れば全然愉快じゃない───ツタがあしにまきついていた。

 

「あ、これ終わった……ここはなんて言うべきなのか……むぐっ!?」

 

 口の中にツタがねじ込まれる。所謂、触手プレイもの。見るのもはばかられていたが、登場人物の女の子たちはきっとこんな気持ちだったに違いない。

 せめてキャトラだけでもと思い、キャトラがいた方を振り向けば白猫の姿は既になかった。

 ああ、意識がどんどん遠ざかる。生まれ変わったら神様の目玉を抉り出して目玉焼きにしてやりたいところだ。

 

 

 

 

 鬱蒼とした森の中を一人の少年が歩いていた。

 少年の名前はアキト。冒険者を夢見る少年である。

 立ち入り禁止区域と言われているこの場所だが、アキトはそんなことも気にせずいつもこの森に潜っては戦闘技術を上げている。

 年々、モンスターたちが凶暴化しているが、彼にとっては格好の餌。自身の力の糧となれと言わんばかりにモンスターを蹂躙していた。

 そんな彼だったが、今日は違った。

 

「……どこなんだ、ここ」

 

 折角迷わないように道を作ったというのにその道が一切見当たらないのである。

 どうやら、モンスターと戦っているうちに道から外れてしまったようだ。

 

「……。どうしたものかな」

 

 後頭部をかきながら周囲を見渡すアキト。草むらの茂みからグレイルジャガーが飛び出してくるも、流れるような動作で一閃。血飛沫がアキトに振りかかるが、もう慣れているのか嫌悪感も出さずに現れる敵を切り払っていく。

 

「……ついてないな、本当に」

 

『黒の剣』。そう呼ばれる剣を肩に担ぎながらアキトは呟く。

 

「遺跡付近まで行けば、何かわかるかな?」

 

 ヘレナという女性に無理矢理入れられた黒いメッシュの部分を弄りながら森の中を進んでいく。

 

「それにしても随分奥まで進んだな。初めてくる場所かもしれないな」

 

 鬱陶しげに呟く。どうやら本格的に迷い出したらしい。夜までに帰れない場合、最悪野宿になってしまう。野営セットは持ってきていないため、正直避けたいところではあるのだが。

 

「……少し急ぐか」

 

 目の前に現れた星たぬきを甲割りで一閃すると、そこから出てきた赤い塊を回収する。

 ルーン。モンスターを倒すことによってで入手できる。赤橙黄緑青紫の6色存在し、それぞれにルーン、ハイルーン、スタールーンが存在する。

 これは赤く丸い形なので、赤のルーンと呼ばれる。

 それを腰に付けあるポーチの中に放り込み、アキトは再び歩き始める。

 しばらく歩いていると、アキトの視界に何かが飛び込んできた。

 純白の白い毛並みに首元には青いリボン。青眼をこちらに向けて悠然と佇んでいたのは───一匹の白猫だった。

 

「……?」

 

 アキトは目をゴシゴシと擦り、再度目の前を見る。変わらずそこには白猫がいた。

 

「……なにかの幻覚か?」

 

 アキトは頭を振り、もう1度目の前を見るが白猫がいる。

 どうしてこんな森の奥に白猫がいるのだろうか。

 

「おい白猫何でここに……って言葉は通じないか」

 

 アキトはどうしたのものかとガシガシと髪の毛を掻く。

 その時だった。

 

「アイリスを助けて!」

 

 鈴のような声がアキトの耳に入った。アキトは目を丸くして白猫の方を見る。

 

「アイリスを助けて!!」

「……幻覚の次は幻聴か。疲れてるのかもしれんな」

 

 アキトは立ち去ろうとするが

 

「着いてきて!」

 

 白猫がアキトのポーチを飛んで奪い、そのまま何処かへと走り去ってしまう。

 アキトはしばらく固まっていたが、やがて何が起こったのかを確認すると

 

「返せこのクソネコ!!」

 

 自身のポーチを奪った白猫を追いかける。

 鬼ごっこを数分続けていく内に開けた所に出た。

 怒りに満ちた表情で周囲を見渡しながら剣を構える。

 

「……どこいった……捕まえたら今日の晩飯にしてやる……!」

 

 青い瞳を怒りの炎で燃やしながら黒の剣を構える。

 ヘレナがこの光景を見たら「どうしてこんな不良少年に……」と泣くかもしれないが、アキトは気にしない。

 そんな中だった。何かが地面に投げれらた。アキトのポーチである。

 

「よくノコノコ出てきたな、今夜の晩飯にしてやる」

「アイリスを助けて!」

「ネコの要件なんて知るかよ」

 

 アキトは剣を振り上げ、白猫の命を狩り取ろうとした。しかし、アキトの攻撃は空を切った。

 白猫が避けたのかと思うが違う、白猫が空に吸い込まれるようにしてどこかへと消えていたのだ。

 

「ギニャァァァァ!!!?」

 

 白猫が吊り上げられた。

 アキトはため息を吐きながら釣り上げられた白猫の方までゆっくりと近づく。

 

「何してんだよお前。逃げるな晩飯」

「見てないで助けてよ! え、って言うか晩飯!?」

「俺のポーチを奪ったんだ。晩飯になれ。それが嫌なら惨たらしく死ね」

「謝るから! 謝るからぁ!! 私とアイリスを助けてー!!」

「断る」

 

 アキトは剣の切っ先を白猫へ向けた。と、その時。

 

『キシャァァァ!!!』

「……うるさいな、なんだよ」

 

 アキトは声の主を見る。

 グラマラス・クイーン。植物の癖に顔がある寄生型植物モンスター。周囲の生態系を破壊するため、危険生物として指定されている。

 

「……邪魔だ。退けよ 」

『キシャァァァ!!!』

「……俺もお前の獲物なのかよ」

『キシャァァァ!!!』

「耳障りだ、失せろ」

 

 アキトは手に力をためると刀身から黄金の光が発生する。

 それを掲げると、黄金の光は天高く伸びる。

 それは叩き斬るためだけに作られた技。その名も───バスターソード。

 

「終わりだ」

 

 光の刃がグラマラス・クイーンの頭部を切断する。東部を失った身体は緑色の血を撒き散らしながら数秒間暴れ、そして力なく地面に倒れた。

 

「……植物系統のモンスターの体液は汚いな」

 

 アキトは剣に付いた緑の血を振り払い、地面へ突き刺す。

 

「おい白猫、生きてるか」

「あ、危ないじゃないのぉ!! 死ぬところだったわよ!! 私とアイリス!!」

「本当はお前なんて助けてやる義理なんてないのに助けてやったんだ。感謝しろよ」

 

 アキトは白猫を自身の顔の近くまで持ってくると、睨めつけた。

 

「それで、そのアイリスって言うのは」

「あ、あそこで気絶している娘よ!」

 

一瞬、アキトの目がアイリスに釘付けになるも、すぐに咳払いをした。

 

「……ふーん」

 

 アキトは興味無さそうに白猫を放るとアイリスと呼ばれる人物の元へ向かう。その際、「ギニャァァァァ!!!」という声が聞こえたが、アキトは無視をした。

 

「叩けば起きるか?」

 

 少女の元まで歩み寄り、生きているか確認するために頬を軽く叩こうとして、思わず手を止めた。

 陶磁のように白い肌。絹のように長い銀髪。均整のとれた身体に、整った顔立ち。どれほどの数の神に愛されたらこのような容姿を手に入れられるのだろうか。

『美しい』その三文字がよく似合う少女が草むらに横たわっていた。

 アキトは数瞬瞑目してから、少女の肩を軽く揺すった。

 

「なあ、あんた大丈夫か」

「……」

「自分の名前はわかるか?怪我はないか?」

「……あと、5分」

「おい」

「っ!」

 

 少女は目を見開いてから飛び上がるように起きると、キョロキョロと辺りを見渡す。そして自分の身体をぺたぺたと触ると、安心したようにため息を付いた。

 何しているんだこいつ、と訝しげに眉を顰めると、アキトは口を開いた。

 

「おい」

「はい?」

「アンタがアイリスで間違いないな?」

 

 アキトは少女を見ながらそう言ったのだった。




改訂:冷徹な主人公から少し冷たい印象を受ける主人公にキャラ像を変更。ただ、こいつは「みんな、いこう!」と言わないところは共通。
主人公はアキトという名前に。容姿はゼロクロニクル時の主人公をそのまま初期状態にした感じです。
赤髪に黒メッシュを入れ、黒の剣を持っている。闇能力は使えないので基本ステータスは1回目覚醒より少し強い程度。


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アイリス、恐怖する。

改:2022年2月12日


 白馬の王子様、というものを信じるだろうか?

 歳半ばも行かない少女が、誰しもが一度は夢見るに違いない。そんな存在だ。

 そんなアイリスにも白馬の王子様が現れた、なんて一瞬思ったのだが。

 

「───アンタがアイリスか?」

 

 底冷えしたような声に、ガラの悪い目つき。これが白馬の王子様というのは嫌すぎる。

 そこで、目前にいる少年を見て、ああと納得するも、疑問に思う点がいくつも生まれた。背後に突き刺さっているのは、この人物によく似た青年が使用していた剣だからだ。しかし、その剣を使ったのはチュートリアルの時の一度のみで、他で使用しているところは見たことがない。

 そして、気になるのは赤い頭髪に刻まれた黒いメッシュ。原作にはない特徴に一瞬、誰だと思ってしまったのはこのせいかもしれない。しかし、その瞳の色を見て考えを改めた。

 青空のように澄んでいて、綺麗な青色をしていた。そこでようやく、この人が主人公なのでは、と思う。

 しかし、凄んだだけで息の根を止めれそうな目は何なのだろうか。いつものニコニコは何処へいったのだろう。

 いつまでたっても答えないアイリスに痺れを切らしたのだろう、赤髪の少年は目線を鋭くしてもう一度訊ねてきた。

 

「もう一度聞くぞ。アンタがアイリスか?」

 

 茫然自失としているアイリスに赤髪の少年は小さく息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「このまま置いていくか」

「貴方の言う通り、私がアイリスよ」

 

 このいつ何が襲いかかってくる森に一人取り残されるのは嫌だった。アイリスの答えに少年は振り返る。

 

「そうか。お前はあそこで叫んでるバカネコの飼い主か?」

「バカネコ?」

 

 少年の後ろで「ギニャァァァァ!!!」と叫ぶキャトラ。

 

「飼い主ではないけど」

「ほう」

「一応私の友達よ」

 

 ここでもしキャトラ殺されたら話が終わってしまったかもしれない。立ち上がった少年を制することに何とか成功した。

 

「友達?」

 

 主人公はわけがわからないといった表情を浮かべながら首を横に傾げる。正直、アイリスだって何を言っているかわからない。正気を疑われても仕方ないだろう。

 

「じゃあこのバカネコとお前は友達と?」

「そうよ」

「斬る」

「なんでぇ……?」

 

 親切に答えたというのにこの仕打ちだ。泣きそうになってしまう。

 理由を訊ねると、横暴ではあるが、分からなくもない理由であった。

 

「俺のポーチを奪ったんだ」

「そうなのキャトラ?」

 

 そこで悶えてるいるキャトラに問いかける。

 

「し、仕方ないじゃない!アイリスを助けるためだったんだし!!」

「逃げたのはキャトラよね?」

「そ、それは……!」

「それに人のものは取っちゃいけないよ」

「う、うぅ……」

 

 自分を助けるために危険を顧みず行動を起こしてくれたのだろう。そこは感謝するが、だからといって自分が大切にしているものを奪われたら誰だって怒る。聖人君子ならもしかしたら怒らないかもしれないが、今回は相手が悪かった。

 キャトラを抱き上げて目前まで持ってくる。

 

「ほら、謝ろう?ね?」

「ア、アイリスゥ……」

「私も一緒に謝ってあげるから」

 

 キャトラにそう言うと、少年の方を振り向いた。

 

「あ、あの……」

「……」

「……先程はキャトラがあなたに迷惑を掛けて……」

「……」

「すみませんでした……」

 

 斜め45度の綺麗なお辞儀。完璧だ。心の中で自分自身を賞賛していたその時だった。

 

「……頭下げてるんだ?」

 

 欠伸混じりの低い声が頭上から聞こえ、よろけそうになってしまう。

 目を剥きながら少年を見つめると、彼は後頭部をかきながら答えた。

 

「話が長くて退屈だったんでな」

 

 ここまで人を思いっきり殴りたいと思ったのは初めてかもしれなかった。しかし、ここで殴ったら返り討ちにあうのは目に見えている。

 心の中に灯った闘争の炎を沈め、小さく息を吐いた。

 

「……で?いつまでアンタらはそうしているつもり?」

 

 少年は目をゴシゴシと擦ると、青い瞳をこちらに向けながら言う。

 

「えっと……いいの?」

「頭下げてるってことは謝ったんだろ?ならいいよ」

 

 大きな欠伸をしながら答えた。

 

「それで、バカネコは謝ったのか?」

「謝ったわよ!それに私はキャトラよ!!」

 

 謝ってないでしょうが。言いたい気持ちは山々だったが、ここでもあえて言わないようにする。

 少年は頷きながら腕を組んだ。

 

「わかった白猫」

「バカネコから白猫になっただけじゃなーい!!」

 

 ギャーギャー言っているキャトラを無視して少年はアイリスの方を向く。

 

「アンタ……えっと……アイリスだっけ?」

「あ、うん。そうだけど」

 

 かつての本名は忘れた。この世界で暮らす上で都合が悪いと思った神さまが勝手にそうしたのだろう。名前が二つあるのは不便だ、神様なりの配慮だったのだろう。

 少年は深刻そうな顔をしながらアイリスの肩をガシッと掴んだ。

 その際、ひんやりとした手が肩を刺激して思わず小さな悲鳴を漏らしてしまう。

 少年は鬼気迫る表情でアイリスに訊ねた。

 

「アイリス、あんたこの森の抜け方、わかるか?」

「えっ……?」

 

 どうやらこの森から抜けるのは時間がかかるのかもしれない。




書いた当時はまだ『黒の剣』が実装されていなかった(はず)


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アイリス、連行される。

2023年2月16日:改


 鬱蒼とした森の中を歩くアイリス一行。気がついたら日が落ちていた。まだこの世界に来てから目覚めている時間が少ないせいか、時間が過ぎるのがとても早く感じる。

 

「……着いたぞ」

 

 ところで、主人公の名前が判明したのだ。どうやらアキトという名前らしい。某叛逆アニメの番外編の主人公の名前がそんな名前だった気がするが、ここから先は考えないようにする。なぜなら、先ほどから主人公改め、アキトが睨め付けてくるからだ。

 眉間に皺を寄せて、彼の放つ闘気が周囲の人々を寄せ付けない。それは、大変有り難いのだが、こちらの精神がゴリゴリと削れているような気がする。

 アイリスは生唾を飲み込みながら、目の前を先導するアキトに声をかけた。

 

「えっと……アキトさん?」

「さん付けはいい。別に、歳もそんなに変わらないだろ」

 

 チュートリアル剣を何処かへと運び、無防備な状態となったアキトは言う。恐らく、獣人のバロンに預けたのだろう。

 

「……アキト?」

「なんで疑問形なんだ……まあ名前がわかるなら別に構わんが」

 

 アキトのまとう雰囲気がわずかに和らいだような気がした。

 アキトは一瞬考えるように目を瞑ってから、思い出したかのように訊ねた。

 

「そうだ、アイリス。金は持ってるか?」

 

 ここで現在の持ち物チェックだ。現在、身に纏っているものは、巫女服、杖。以上。それ以外は何も無い。だんだんと血の気が引いていくような気がした。

 

「……キャ、キャトラ」

「何よアイリス」

「どうしよう?」

「お金が無いの?」

「う、うん……」

 

 キャトラはなぜかあっけらかんとしている。

 

「私たちいつも野宿だったじゃない」

 

 キャトラの爆弾発言に戦慄するも、キャトラはそんなアイリスなど露知らず、続ける。

 

「いつもアイリスが防御魔法張ってたじゃない。だから、今までこうやって何もなかったわけだし」

「だから安全なのね……」

 

 自分の身が綺麗であったことの証明はできたが、悲しいことにそれでお金が湧いてくるわけではない。

 どうしようか、金子を調達しようにも、この時間に、しかも無戸籍の少女を雇いれる場所なんて限られてくるだろう。

 そんなアイリスを見て、アキトは首を傾げた。

 

「……金持ってないのか?」

「う、うん……」

「今までどうやって暮らしてたんだよ」

 

 尤もである。アイリスは言葉に詰まりながら、天を仰いだ。

 仕方がないだろう。精神だけとはいえ転生者なのだ、そんなこと言われても困るだけだ。

 そんなアイリスの様子を見兼ねたか、アキトは再度考えるような素振りを見せる。

 

「…………ナ……こなら……丈夫か?」

 

 何か小言を呟いたかと思うと、アイリスの手首をつかんだ。

 

「え」

「ちょっと来い」

「キャ、キャトラァァァァ……」

「が、頑張ってアイリス!!」

 

 そんな人生お疲れ様でしたみたいな目で見るなと口を大にして言いたいアイリス。この白猫とアイリスは一心同体なのだ。

 しかし、よく考えてみると何かと裏切る行為が多く見受けられるので、運命共同体は前言撤回することにする。万が一にも太陽が西から上がったとしても認めることはない。

 

「離して」

「断る」

「私を████████(18禁用語)とか████████(自主規制)とかそんなの事するんでしょ?」

 

 そんなアイリスの言葉にアキトは冷ややかな目を向けた。

 

「……は?」

 

 若干顔を赤らめながらも、絶対零度の視線。穴があったら入りたいとはこのことを言うのだろう。

 アキトは咳払いをしてからアイリスに訊ねた。

 

「アイリス、初対面の人間にそんなことすると思うか?」

「オトコハケダモノとそう習ったわ」

「……間違ってはいないが、俺をそんな奴らと一緒にするな。最低限の常識くらいは持ち合わせているつもりだ」

 

 アキトの真っ直ぐな視線にアイリスは僅かに目を細めた。そして、心の中で激しく謝罪をする。

 アキトは小さく息を吐いてから、再び歩き始めた。

 

「とりあえず着いてこい。多分、安全地帯だと思うから」

 

 未だに赤い顔をしながらアキトはアイリスの腕を牽引しながら歩く。

 

 ───こんな(ひと)が世の中にいるんですね。

 

 アイリスは心の中で静かに呟く。男という生き物は野蛮な生き物だ。そう信じて生きてきた。しかし、目前の青年はどうだ。戦いに関しては間違いなく野蛮だが、その他の面に関しては不器用ながらも交渉の余地がある。

 自分はどこまで薄汚れているんだ、と自責の念に囚われて数分。酒屋と宿舎が合併したような建物の前についた。

 

「……ちっ、今日に限ってもう終わりかよ」

 

 舌打ち混じりにアキトがドアノブを捻り───その前に、アキトは一瞬こちらを振り返り、忠告した。

 

「いいか、よく聞けよアイリス。ここから先、何が起きても驚くな」

「そんな危ないところなの……?」

「今日は多分な……」

 

 言いながらアキトが足を踏み入れた瞬間、アキトの肉体が真横に移動した。

 視線を移動すると、アキトに抱きつく美女がいた。すさまじい勢いで突進したからだろう、備え付けの机は壊れていた。

 美女は顔を持ち上げてからアキトの顔を数回見渡してから声を荒げた。

 

「帰りが遅くて心配してたのよ!?どこいってたの!?」

「……森で遭難したんだよ」

「連絡くらい寄越しなさいよ!」

「……どうやって伝えるんだよ」

 

 アキトは抱きつく美女の顔を掴みながら言う。

 

「お陰で今日の店の切り盛り大変だったのよ!?」

「俺より店の心配か」

「当たり前よ!従業員私しかいないのよ!?」

「そんな事俺が知るか。とりあえず話を聞け」

 

 辟易とした表情でアキトはアイリスを部屋に招き入れた。

 

「とりあえず……アイリス、自己紹介してくれ」

 

 アキトの第一声にアイリスは静かにお辞儀をした。

 

「お初にお目にかかります。私はアイリスというものです」

「えっ、ハニュウちゃん?」

「耳着いてますか」

 

 声優は同じだが、性格はまるで違う。オヤシロ様モードになれば多少は近くはなるだろうが。

 

「嘘嘘冗談。アイリスちゃんでしょ?ちゃんと聞いてたわ」

「なら最初からそう言え」

「よろしくねミルヒオーレちゃん」

「アキト、この人本当に大丈夫なんですか?」

 

 目の前の彼女も転生者なのだろうか。気になってしまう。

 

「はい、じゃあ冗談はここまでにして。宜しくね、アイリスちゃん。私の名前はヘレナ。好きに呼んでね」

「あ、はい。それじゃあヘレナさんと」

「ちなみにアキトの姉よ」

「え」

 

 アキト君の方を向きます。諦めたようにため息を吐いているが、その目からは「抵抗」という二文字が抜け落ち、代わりに「殺意」の二文字が宿っていた。

 

「……本来の要件に入るぞ。ヘレナ、ここにアイリスを居候させてやって欲しい 」

「あなたの家でいいじゃない」

「初対面の男の家なんて嫌だろ」

「あらあら……」

 

 ヘレナはくすくすと笑いながらアイリスに近づくと、耳元で囁くように言った。

 

「アキトはヘタレだから心配しなくても大丈夫よ」

「それは知ってます」

「殺すぞお前ら」

 

 聞かれていたようだが、聞いていないふりをする。

 アキトはしばらくヘレナとアイリスを睨みつけていたが、やがて諦めたのか息を吐くと、二階へと続く階段に足を運んだ。

 

「とりあえずヘレナ、アイリスに部屋の案内とその他諸々、任せたぞ。女同士なら積もる話もできるだろう」

 

 アキトはそう言って、姿を消したのだった。



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大驚失色

改:2023年2月20日


 ヘレナの宿舎で休息を取り、既に一日が経過しようとしていた。

 アキトの昔話に会話が膨らみ、気がつけば日が上りはじめていた。徹夜なんて何度もしたことはあったのだが、この身体は徹夜に慣れていなかったのだろう。身体があまりいうことを効かない。

 うん、と伸びをしてから周囲を見渡した。

 

 ───さて。アキトはどこにいるのだろうか

 

 ヘレナ曰く、朝は海で剣の稽古していると聞いていたが、あの特徴的な頭髪をした青年の姿がどこにも見えない。

 場所を間違えたのだろうか、アイリスが首を傾げながらその場を立ち去ろうとすると。

 

「…………誰だ」

 

 底冷えするような声と共に放たれるのは背後から全身の毛が逆立つような殺気。まさか朝から殺気を浴びせられるなんて思いもしていなかったアイリスは思わず尻餅をついて、砂浜に倒れ込んだ。

 振り返ると、そこには木剣の刃先をこちらに向けながら、呆れたように見下ろすアキトの姿があった。

 

「……も、木剣だからといって刃先を向けるのはどうかと思いまふ……!」

「……なんだ、昨日の」

 

 アキトはため息を吐いてから、剣を地面に突き刺しながら手を差し伸ばした。

 

「助けはいるか」

「ご、ごめんなさい……」

「……いい。むしろ謝るのは俺の方だ」

 

 アイリスはどうにもアキトの手を掴む気にならず、自力で立ち上がると何度もお辞儀をした。アキトはその度に「いいよ」と欠伸を噛み殺しながら繰り返すのみ。

 しばらくして、アキトは目を擦ってから周囲を見渡し、そしてアイリスの方を見やった。

 

「……それで、俺に何か用があったんだろ。あんたのことだ、態々邪魔しに来たわけじゃなさそうだ」

 

 ハッとなり、ランチバックを手渡そうと口を開いた。しかし。

 

「……ん……ら、ラ…………を……!!」

 

 先程の恐怖のせいで上手く言葉を発することができなかった。訝しげにそんなアイリスを見つめていたが、やがてランチバックの存在に気づくと、アキトはああとつぶやいてから小さく頷いた。

 

「ヘレナの朝食か。届けに来てくれたのか?」

「……ぁい」

 

 未だに上手く言葉を発することができないアイリスにアキトは眉間に皺を寄せた。

 

「ちゃんと返事しろ」

「……こ、腰が……」

「……悪かったよ、この時間に浜辺に近寄る奴は少ないんだ、だから気が立ってたのかもしれん」

 

 アキトは意外と素直に謝ってから、アイリスが手に持っていたランチバックを受け取った。そして、中身を確認してからやや小さめのパイをアイリスに手渡した。

 

「え?」

「どうせ何も食べてないんだろ、何か腹に入れとけ」

「……ありがとう、アキト」

「礼には及ばん」

 

 静かな時間がアキトとアイリスの間に流れた。



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アストラ島篇
アイリス、原作突入する。


【2023年12月8日改訂】


 アイリスがこの世界に転生してから1週間が経過した。ふと浜辺に視線を向けると、今日もアキトは自己鍛錬を怠っていなかった。

 こうも見向きもされないと流石に堪える。中身は19歳の女子大生なのだ、声くらいかけてくれてもいいだろう。幼女体型だったため、女子大生と言っても信じてもらえないことが多々あったが。

 

「……」

 

 そこでふと考える。本来ならば、アイリスとアキトはカイルが島に上陸してから出会う筈だった。それだというのに、いくら待てど彼はやって来ない。一向に来る気配がない。そして海の方から浜辺でイメージトレーニングを一人で行うアキトの姿をもう一度見やる。

 

「……それにしても」

 

 アキトの剣術は荒々しいが、洗練されていた。

 握っているのは模擬戦闘用の木剣だが、目前に置かれた大木には傷がゆっくりと刻まれていく。ソウルを用いた剣技ではなく、ただの剣戟。数分して剣を一文字に振うと、大木は音を立てながら横に倒れた。

 彼が人間かどうかを疑いながらアイリスは小さく拍手をして呟いた。

 

「……すごいなぁ」

「慣れればアイリスでも出来るんじゃないの?」

 

 確かに転生前は剣道やってたが、それも護身程度だ。アイリスの剣術では喰らいつくことすらできないだろう。

 

「ううん、私じゃ無理よ。私は魔術師だからね」

 

 それでもやれることはある。こうしてアキトの訓練風景を見ている間にも魔力の訓練をしている。身体の中にある魔力をコントロールしながらゆっくりと外に放出していく。それが魔術師の基礎訓練らしい。

 

「ふーん」

「だから私はこれでいいの」

 

 そう言いながら、再び魔力を高めていく訓練。

 一先ずはバーンナップを安定させるところからだろう。以前発動しようとして半径50mを焼け野原になったのは記憶に新しい。その時のアキトの引き攣ったような顔は鮮明に思い出すことができる。

 

「……ふぅ」

 

 どうやらアキトの訓練がひと段落ついたらしい。タオルを手に取り、アキトの方に歩み寄る。

 

「お疲れ様」

「……アイリスか」

 

 アイリスから受け取ったタオルで汗を拭うアキト。その様子を見つめていると、アキトは罰の悪そうな顔をしてこちらを見つめてきた。慌てて目と話題を逸らす。

 

「それにしても今日も随分とやったのね」

「……最近よく木が生えるからな……ちょくちょくこうやってやっていかないとここら一帯ジャングルみたいになっちまう」

「嫌なの?」

 

 そう言うと、アキトは眼球運動のみで森を見つめた。

 

「───グラマスクイーンともう一度会いたいか?」

「是非ジャングルにはしないで」

 

 アイリスがそう言うと、アキトは薄く笑う。なにが面白かったのかはわからない。

 

「……あ、そうだ」

「なに?」

 

 そして、アキトは思い出したかのように木剣をアイリスに渡してきた。

 

「……え?」

 

 あまりにも突然の出来事にアイリスは目を白黒とさせる。その間にアキトは自分の持ってきた荷物の中からもう1本の木剣を出した。

 何かとても嫌な予感がした。

 

「……えっと?」

「手合わせしてくれないか、アイリス」

「いや、私魔術師なのだけれど」

「杖を偶に剣と同じ動作していたぞ」

 

 確かに剣道有段者で全国大会にも出たことはある。しかし、それは過去の栄光であるし、未だにこの身体を使おうとすると、体格差が変わった弊害があるのだろう。少し反応が遅れてしまうのだ。そのうち慣れるだろうが、それでも今撃ち合うのは些か分が悪い。

 

「どうしてもやらなきゃダメ?」

 

 上目遣いでそう訊ねるも、アキトにそれが通用するわけもなく。

 

「駄目だ」

 

 即座に断られてしまう。

 

「……私、魔術師だよ?」

「問題ない」

「問題大ありだよ」

「いくぞ」

「話聞いてよ!?」

 

 アキトは構えのない状態でアイリスに渾身の突きを放つ。咄嗟に剣先を軽く払い、軌道が大きくずれ、アキトの突きは空を切ります。

 

「……へぇ」

 

 アキトの目が僅かに細まる。

 そこから先は語りたくもないが、防戦一方であった。

 アキトが振り下ろした剣を避け。アキトが薙ぎ払った剣を避け。アキトが突き出した剣を避け。たまに払い除けるなどしてなんとか避けていた。

 数十分ほど経ってようやくアキトは満足したのか、肩で息をするアイリスから奪い取った。

 

「……お、終わったの?」

「ああ。剣士としてのセンスはある」

 

 いい練習相手を見つけたと言わんばかりに口角を上げるアキトの顔を見ながらアイリスは小さくため息を吐いた。そんなアイリスの様子を知らず、アキトは親指で荷物の方を指す。

 

「さ、ヘレナの飯食べようぜ。冷めてるが味は保証できる」

「う、うん」

 

 時折見せる優しさがとても居心地が悪い。時には魔力コントロールを。時には島の案内を。男は何かと下心を持つものだ。きっとなにか企んでいるに違いない。

 それだというのに、彼の横にいるのはとても心地がいいのだ。過去の出来事すら払拭してしまう勢いで───。

 首を横に振って考えを消す。考えても仕方がない。今はヘレナのご飯を食べるとしよう。

 なぜか朝はパイしか作らないが、そのパイがなかなか絶品なのだ。お店に出しても普通に売れそうだというのにヘレナさんは「嫌よ、これは貴女とアキトのためだけに作っているの」と言っていうことを聞かない。本人がそれでいいのならいいのだが。

 パイを咀嚼しながらアイリスとアキトの間に沈黙が流れる。

 

「……天気がいいな」

 

 アキトはパイを食べながら呆然と呟く。

 

「天気がいいと嫌なの?」

「いや、天気がいいに越したことはないよ。だけどここ数日ずっと天気がいいから……なにかが起きそうなんだよな。おいキャトラ、俺の飯を取ろうとしてんじゃない」

 

 アキトは木剣をキャトラの足元へ突き刺す。キャトラは後方に飛んでそれを避ける。

 

「ギニャァァァ!!危ないじゃないのよー!」

「だったら俺の飯を横取りしようとするな」

 

 もうこのやり取りにも慣れた。

 

「ほら、カニカマ上げるから」

 

 ランチバッグからカニカマを出してキャトラに渡す。キャトラは喜んでそれに飛びつく。

 

「でも……確かになにか起きそうよね 」

 

 そう呟くと、水平線の向こう側からなにか小さなものが見えた。

 それは一見漂流した木材かと思うが、上に人が乗っている。どうやら、一足遅れてカイルがやってきたようだ。

 

「……あれは」

 

 アキトも何か気づいたようだ。これでようやく原作が進むと思ったその時だった。

 

「なにしてるの!?」

「攻めてくる前に落とす」

「駄目だよ!?」

 

 黒の剣の柄に紐を括り付けて投げようとしているアキト。

 

「外したらどうするの!?」

「外したことはないから大丈夫だ」

「じゃあどうやって回収するの!?」

「紐に括りつけてある。引っ張れば戻る」

 

 アイリスはあいた口が塞がらなくなってしまう。アキトは何も言われないことをいいことに槍投げの要領で駆け出す。

 

「とりあえず撃ち落とす。敵だったら面倒だ」

「ちょ、ちょっと」

 

 黒の剣の一閃は小舟に向かって掃射され───小舟に激突したのであった。



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アイリス、安堵する。

「し、死ぬかと思ったぜ……」

「だ、大丈夫ですか?」

 

 見事海辺まで泳ぎきったカイル。背中には巨大な槍を担いでおり、よくここまで来れたと感嘆してしまう。

 

「なんだ、沈まなかったのか」

 

 紐で回収した黒の剣を担ぐように持ちながら、カイルを見下ろすアキト。そしてそのまま剣の切先をカイルに向けた。

 

「ま、待て!俺は敵じゃない」

「そんなことはどうだっていい───選べ。刺突斬。好きなものを選ばせてやる」

 

 自分にはそんな酷い選択肢はなかったが、キャトラは似たようなことをされていたなと思い出すアイリス。

 そう言うアキトを見上げながらカイルは堪らず呟いた。

 

「少しは殺気を隠して話をしろ───なんでそんなこと残虐なことが出来るんだお前は」

 

 仕方のない話だ。島の外を知らないアキトは社交性というものが皆無に等しい。そのため、異様なほど余所者に対してキツく当たる傾向がある。月に一度訪れるという行商人の船を飛ぶ斬撃で切り刻んでいたのは記憶に新しい。

 しかし、ここでカイルが死んでしまうのは原作的にもよくない。アイリスは傍観をやめて、アキトの肩に手を置いた。

 

「……アキト」

「なんだ」

「話くらい聞いてあげよう?」

 

 流石に可哀想だ。そう言わんばかりの目線をアキトに向けると、数秒ほど目を閉じたのち、アキトはわかったと呟く。

 

「アイリスに感謝しろ。お前の一縷の望みを聞いてやる」

「なら俺の話を聞いてくれ」

「断る」

 

 わかったと言う言葉を辞書で引いて来て欲しいものである。この男は何もわかっていなかった。アイリスはアキトの後ろで思わず頭を抱えた。

 

「なんで俺の話を聞かないんだよ?」

「この島を征服するつもりだろ?」

「そんなことするつもりはないが?」

「嘘だな」

 

 思わずアイリスが転生する前、地元で流行っていたやけに人を疑う病気のことを思い出してしまう。あれは苦い記憶だ。

 

「俺は冒険家なんだ」

「誰が信じるかそんなこと」

「古代人や飛行島のことについて調べてたんだよ」

「嘘だな」

 

 間発入れずに一瞬で返答する姿は強者故に持つものなのだろう。こうであると言う、絶対的な自信ゆえに。しかし、その疑心暗鬼は如何なものだろう。

 

「ねえ疑心暗鬼」

「アキトだ」

「この人に言ってることは嘘じゃないと思うよ?」

「……なぜそう言い切れる?」

 

 眼球運動のみでアイリスを見やるアキト。その透き通った瞳孔の細い青い瞳は一瞬、恐怖心を奮い立たせるも、すぐにその恐怖を拭って構える。

 

「なんとなく、かな」

「そのなんとなくで背後を狙われたらどうするんだ」

 

 いくら自分に『知識』があるとはいえ、アキトにはそれがない。それを伝えたところでアキトが不信感を抱いて終わるだけだろう。

 仕方ない、とアイリスは首を振るって答えた。

 

「その時はアキトと私で容赦なく燃やして切り刻んで野菜たちの肥料にしましょう?」

「わかった」

 

 それでいいんですか。思わず喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 アキトはもう一度カイルの方に視線を戻してから口を開いた。

 

「よかったな、お前の命は少し伸びた」

「少しなのか!?」

「お前が後ろから俺たちを狙いさえしなければ」

「しないから安心してくれ……」

 

 事実、カイルはそのような行動を行う人間ではない。そことのところは安心してもいいだろう。

 ふと、ここでキャトラがいないことに気づく。普段ならこう言う人との出会いは自ら突っ込んでいくと言うのに、キャトラは一向に姿を見せなかった。

 

「ふふふ、このパイなかなかいけるじゃないの……」

 

 アイリスから後方十数メートル。そこでご飯として取っておいたヘレナのパイに貪りついていたキャトラがそこにいた。

 アキトもそのことに気づいたのだろう。パイに夢中になっているキャトラの足元に剣を突き刺した。

 

「ギニャァァァ!!」

「俺たちの飯を奪ってまで食う飯は美味いか?今日という今日は許さん」

「アイリスー!!アイリスー!!」

 

 キャトラにそう助けを求められるも、キャトラの身から出た錆だ。アイリスはキャトラを無視してカイルに回復魔法をかけるのであった。





ちなみに転生アイリスの髪型はゼロクロニクル時のアイリス(転生前もそうだったから)


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アイリス、攫われる。

「俺の力を見たい?」

「ああ」

 

カイルにそう言われ、思わず眉を顰めるアキト。無理もないだろう。会って間もない人間にそんなことを言われれば、誰だってそんな反応をするはずだ。アイリスはそんな様子を遠目で眺めていた。

 

「手合わせしてもらいたいと?」

「違う、俺の狩りを手伝え」

「断る」

 

迷うことなく断るアキト。カイルとの狩りに意味を感じられなかったのだろう。アキトはこの周辺のモンスターならば、苦戦することはないし、今更共同で狩りをしてなんになる、と言うことなのだろう。頬杖をつきながらそんな様子を眺めつつ、頭の中に浮かんだ奇妙なフレーズを口遊む。

 

「……あうあうあううあううあうあうあううああうあうあう」

 

もしかしたら疲れているのかもしれない。

 

「おいアイリス」

「はうッ!?」

「いや驚かせてないだろ」

 

奇妙な歌を歌っていたせいだろう、奇妙な声が口から漏れた。

 

「ど、どうしたの、アキト」

「いや、話し聞いていた通り、金髪槍野郎に狩りに誘われたんだが」

 

相変わらず口の悪いこと。しかし、あんなに渋っていたのに結局行くことにしたのか、とそんな風に言いたげな視線をアイリスはそんなアキトに送った。当の本人はそれをスルーしていたが。

 

「うん」

「アイリスは来るか?」

「私はいいかな」

「そうか」

 

アキトは黒の剣を担ぐと、森の方へと向かう。

 

「なるべく早く戻る。おい金髪、行くぞ」

「ちょ、おい待てよ」

 

そんなアキトたちを見送った後に、アイリスはゆっくりと立ち上がった。どうせ彼らが帰ってくるのは日が暮れる頃だろう。それまで山菜でも積みに行こうではないか。そう思っていた時期が私にもありました。

「またこれ……?」

 

またグラマラスクイーンに捕まったのだ。この運命からは逃れられないのだろうか。思わずため息を吐いてしまう。

あの時も貞操が守られていたことしか記憶にないが、今回もそう行くとは限らない。反抗しようとバーンナップで焼き払おうと試みたが、そのグラマラスクイーンには火炎耐性があったのか、なぜか攻撃が通らなかった。

 

「キャトラは……いないか」

 

いなくてよかった。心の底からそう思う。もしこの状況をきっと、キャトラの話のネタにされていただろう。もしこの場にアキトがいれば───そう思うと、今回の狩りにはついて行くべきだったのかもしれない。蔦がアイリスの背中を撫でる。

───。

 

「……悪意があるような縛り方にしか思えない……わよね」

 

なんで亀甲縛り?

先程からどうも神経を逆撫でするような触れ方をするグラマラスクイーン。この植物がそう言う趣味があるとは到底思えないのだが、もしかしたらその常識すら変わっているのかもしれない。そう考えていると、グラマラスクイーンの蔦がアイリスの胸に絡み付いた。

 

「ちょ、どこ触って……!?」

 

必死に蔦を解こうと体を動かすも、動かせば動かすほど蔦が強く絡み付いて動きを探してくる。

 

「っ!!?」

 

痛みと変な感覚が同時に押し寄せて───光景がフラッシュバックする。

 

『〇〇、一緒にお風呂に入ろう』

『〇〇、一緒に寝よう』

『〇〇ー?』

『〇〇?』

『〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇……』

「い、いや……」

 

過去の光景を思い出す。

父親に言われた記憶。同学年の男子共に言われた記憶。

全てが忌まわしきすべて忘れようとした記憶。

……嫌だ、嫌だ……。怖い、怖い……!

 

「だ、誰か……助け……むぐっ!?」

 

再び、口元を触手で抑えられる。

意識が遠ざかる……だが、必ず一矢報いてやる───!

そう思いながら再び意識を失うアイリスなのであった。

 




次回

チョ☆ロ☆イ☆ン☆爆☆誕

追記

念願のノア様(双剣)が当たりました。
私にもう怖いものなどないから、早くアイリスさんと黒の王子が欲しいです。なんで私の友達は全員当たってるのに私は当たらないんだ?


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アイリス救出大作戦 その1

「アイリスが帰ってきてない?」

「そうなのよ山菜取りに行ったきり……帰ってこなくてね」

 

 ヘレナからそのような返答が返ってきてアキトは思わず眉を顰める。

 アキトはアイリスが道に迷ったのかということを一瞬考えたがすぐにその考えを捨てた。

 アイリスは自分と2度と見知らぬ所には足を踏み入れない、という約束をした。だから、迷うなんてことはないのだ。

 だとしたらもう一つの選択肢───アキトは自然と体が動いていた。

 

「どこ行くの」

 

 ヘレナがアキトの手を掴み止める。

 

「……」

「アキト。貴方が行ったところでアイリスが見つかる可能性なんてないでしょ」

「……」

 

 最悪の選択肢がアキトの頭の中をグルグルと回る。

 

「離せ」

「無理よ」

「離せって言ってるだろ」

「駄目」

「…………」

 

 アキトはゆっくりと息を吸い込むと完全に意識を殺す方向へと切り替える。

 

「……同じことは二度も言わない。離せ」

 

 アキトから発せられる濃密な殺気。

 その殺気によって酒場に来ていた客たちは次々と倒れていった。

 ヘレナとカイル以外は。

 

「どうしてそこまで熱心になるの」

「アイリスが危ないかもしれないんだ」

「だからといって彼女が危ないとは限らないわ。1%でも無事だとしたらそれを信じてみるのも手よ」

「じゃあその1%ですら無事じゃなかった場合はどうしろって言うんだよ」

 

 アキトはステーキナイフをヘレナに向ける。

 

「……ここで止まっているくらいなら、俺は言葉より先に行動する」

 

 アキトはそう言ってヘレナの前に代金を払うと『憩いの場』から立ち去った。

 

「……なあ、あんた」

 

 と、そこでカイルがヘレナに話しかけた。

 

「……アレはあんたが本心で言った言葉か?」

 

 ヘレナは沈黙していた。

 ヘレナは無言で棚から何かをカイルに渡した。

 

「……これは?」

「明日のパイよ。アイリスと2人で食べなさい……って伝えてきてくれるかしら?」

「ああ、わかったぜ」

 

 カイルはそう言うとアキトの後を追いかけた。

 

 

 アキトはバロンの鍛冶屋へと向かっていた。預けていたものを一時的に返してもらうためである。

 

「バロン」

「今日は店終いだ、帰れ帰れ」

「アンタに許可をとりに来た」

 

 バロンはアキトを追い払おうとしたが、その言葉を聞いて、追い払おうのをやめる。

 

「……詳しく聞こう」

「アイリスがいただろ」

「ああ」

「アイリスが攫われた可能性がある」

「それなら黒の剣でも変わらないはずだ」

 

 バロンはそう言ってアキトに黒の剣を渡そうとする。

 だが、アキトはそれを受け取らない。

 

「頼む。万が一ということもあるんだ」

「だから黒の剣で行けと───」

「最近モンスターの進化が異常に早いのは知ってるはずだ」

 

 アキトのその言葉を聞いて、バロンは大きな溜息を付いた。

 確かに、ここ最近ここら一帯のモンスターの凶暴化が激しくなり、進化も進んでいる。本来ならば、現れるはずのないモンスターも現れ始めているのだ。

 

「……止めても無駄なようだな」

「ああ」

「……勝手にしろ。どうせこの島でお前の剣を鍛えれるのは俺だけだ」

 

 アキトはその言葉を聞くと、黒の剣を手に取り、鍛冶屋を飛び出した。

 

「なあ、アキト」

 

───と、そこでカイルに呼び止められる。アキトは足を止めてカイルの方へと振り返った。

 

「なんだ」

「『許可』とは何のことだ?」

 

カイルの言葉にどうはぐらかそうか迷ったが、諦めてすぐに答えた。

 

「俺のこの剣はソウルを込めることによってその形を変化させることができる」

「───なっ」

 

カイルが目を丸くする。それもそのはず、その技術は文献だけにしか記されていない数万年前の技術だからだ。

 

「おまえ、その剣をどこで───」

「さあな。だが、俺は上手くソウルを扱えないんだ。一度それでこの島の生態系を狂わしたことがある」

 

アキトが自らの中に眠るソウルをうまく扱えていたのなら話は変わっていただろう。しかし、アキトは蛇口を軽く捻ったくらいでしか自分の力を引き出すことができない。

結果として起きてしまうのが力の暴走。敵を捕捉し、大地を駆け抜け、獣のような雄叫びをあげる『逸脱した狂戦士(ヘレスティック・バーサーカー)』。

 

「だからバロンのおっさんに力を使うなと言われていた」

「───だが、今回はそれを使う。そうだな?」

「悠長に構えている場合でもないだろ?」

 

アキトは「行くぞ」と一言つぶやくとカイルと共に森の中へと向かった。



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アイリス救出大作戦 その2

「邪魔するなッ」

 

 は黒の剣でモンスターを薙ぎ払っていく。目の前に変異化したジャガーが迫るが、それを『ダブルスラッシュ』で薙ぎ払う。

 

「お、おい……アキト?」

「なんだよ」

「こいつら強すぎないか?」

 

 ここのモンスターはあまりにも強くなりすぎている。これは、異常と言っても過言ではない。かつてアキトが生態系を狂わしたことはあったが、変異種が出現したことは一度もなかった。

 アイリスがここに訪れたことが原因なのか。アキトはその考えをすぐに捨てる。

 きっと他の原因なのだ。アイリスは関係ない。

 

「アキト。お前の戦いぶりを見ている限り、心配はしていないがソウルの解放はしないでおけよ」

「わかっている」

 

 かつて。暴走し、自分の無力さを体感したアキトは、力を上手く扱うため、基礎能力の上昇を図った。今の強さを手に入れることはできたが、それでも力を解放すると、意識を破壊衝動に乗っ取られそうになる。

 

「……使うことにならないといいんだがな」

「伏せろ、アキト!!」

 

 アキトが考えに耽っていた束の間、カイルが大声を上げた。が、コンマ一秒反応が遅れた。横薙ぎに振るわれた太い蔓がアキトの腹を叩いた。

 地面を何度か跳ねながら勢いを殺し、一撃を放った相手を睨みつける。

 

「こいつは……!!」

 

 グラスマスクイーン。しかし、妙だアキトの知っているそれとは色が違う。

 

「……グラスマスクイーンの亜種か!!」

 

 カイルがそう叫ぶと、それに呼応するかのようにグラスマスクイーンの口から毒霧が吐かれる。アキトとカイルは真横に跳躍して毒霧を回避、武器を構える。

 

「……こいつ!」

 

 血が出んばかりに黒の剣を握り締める。黒の剣にソウルを流し込み、一撃必殺の技を放とうとしたその時だった。

 

「アキト! 見ろ!」

 

 カイルがそう言い、指をさしたその先。そこには、蔦に絡まったアイリスが。

 

「くそっ!」

 

 黒の剣に注ぎ込んだソウルを霧散させ、地面を蹴る。今放とうとしていた技は『バスターソード』だが、この技を叩き込んでしまった場合、アイリスが無事でいられる保証はない。即座に蔦を切り裂く方向に思考を切り替えた。

 

 

「っ!?」

 

『ダブルスラッシュ』を放とうとした瞬間、横から恐ろしい速度で振るわれた別の蔦によってアキトは真横に薙ぎ飛ばされた。

 

「アキト!」

「大丈夫だ!」

「そうじゃない、次が来るぞ!!」

 

 カイルはアキトに目配せしながら、槍を構える。

 黒の剣を地面に突き刺し、杖代わりにして立ち上がろうとして、そこでアキトは一つのことに気づく。

 自分の身体が重くなっているのだ。気が遠くなっているのかと思うが違う。アキトの意識は鮮明で、意識の混濁もない。そうなると、答えは一つしかない。

 

「状態異常か……!」

 

 この個体は()()()()()()()()()。もっと違う何か。

 

「……グラスマスは毒。だがこれはアクーアと同じ水系統の状態異常……」

 

 このグラスマスクイーンは、毒と水の二つの状態異常を操ることができるのだ。

 

「こんな亜種、聞いたこともないぞ!? ギルドは何をしてやがる……!!」

「言ってる場合か…!」

 

 アキトとカイルは再び武器を構えた。



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アイリス救出大作戦 その3

話が浮かばない


「アキト。ソウルを武器に流し込め。そうすれば、またやりようはあるんだろ?」

「……話を聞いていなかったのか? 暴走するリスクがあるんだぞ」

「安心しろ。もし暴走したら、お前を止めてやるからよ」

 

 カイルが唇の端を歪めてそう答える。アキトはしばらくカイルの目を見つめてから、やがて諦めたようにため息を溢した。

 

「…任せたぞ」

 

 迷っていることでは前に進めない。失敗を恐れる事は確かに大事な事ではあるが、それで足踏みしていては越えられる壁も越すことができない。

 やるしかない。今はこの手しか残されていないのだから。

 

「───バーサーカー、発動」

 

 それと同時に黒の剣の刀身が伸び、分厚い金属へと変貌する。月の意匠が鍔に出現し、紫と黒を主体とした部分が赤く染まる。

 

【壊せ】

 

 破壊衝動がアキトを襲う。剣を中心に凄まじい力が身体の中を駆け巡る。目に映るものはすべてが敵。アキトの青い瞳が黄金に染まっていき、髪が血色に染まる───瞬間、アキトの方をカイルが掴んだ。

 

「力を制御するんじゃない。力を上手く流すんだ」

 

 今アキトが攻撃をすれば、カイルは一溜りもないだろう。今のアキトは理性の吹き飛びかけた狂戦士一歩手前だ。そんなアキトの方を掴むなんて自殺行為でしかない。そんなカイルを目で補足してから───アキトは息を吐き出した。

 

「……カイ、ル。悪いがどいてくれ」

「───どうやら、力に使われることはなかったようだな」

「ああ、だが……長くは持たない。一撃で、決めるッ」

 

 何とか理性を繋ぎ止めながら、アキトは最早大剣と成り果てた黒の剣を頭上に掲げた。

 赤紫色の闘気がアキトを包み込み、ソウルが剣に集約されていく。

 

「───いくぞ」

 

 剣を両手で持ち、地面を駆ける。振るわれた蔦を、放たれた毒を回避しながら剣の間合いまで接近。アイリスがいる限り、バスターソードは放てない。ならば、使う技は一つ。

 

「グランディ───ヴァイドォオオ!!!」

 

 バスターソードを優に越える破壊力を持つ一撃。バスターソードを放っていた場合、アイリスを盾に使われる可能性があっただろうが、この技ならそうはいかない。タイミング、スピード、パワー共にバスターソードを上回る。その代償として身体に激しい痛みが走るのだが、いい方だろう。

 グラマラスクイーンの身体を袈裟懸けに切り裂き、胴体と頭部を切り離す。

 

「カイル!」

「───ああ!」

 

 アキトの背後からカイルが飛び出し、槍を構える。

 

「トルネードブラスト!」

 

 風を切り裂きながら振るわれた槍の一撃がグラマラスクイーンの頭部に突き刺さり、その命を刈り取った。グラスマスクイーンの体がソウルへと還元され、蔦に囚われていたアイリスが地面めがけて落下する。

 

「アイリス!」

 

 黒の剣を地面に投げ捨て地面を滑り、寸前のところでアイリスを抱き抱えることに成功する。地面に直撃する前に間に合ったことに安堵の息を吐きながらアイリスの顔を見やる。

 息はしている。怖い思いをしただろうが、命に別状はなかったようだ。

 アイリスをゆっくりと地面へと下ろしながらアキトは黒の剣と黒の大剣を回収していく。

 

「アイリスは大丈夫そうか?」

「……ああ、なんとか。でもきっと怖い思いをしたよ」

 

 カイルはアイリスの顔を見つめながら続ける。

 

「早く村に戻ろう。あいつが消えたことで、モンスターたちがやってくる可能性がある」

「……ああ、そうしよう」

 

 アキトは再びアイリスを抱き抱えると、カイルと共に村へと向かった。




光の王と黒の王子強すぎませんか?
課金せずに当てれたのでラッキーでしたね。ジェルは2955個消費しましたが


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アイリス救出大作戦 その4

やっとここまで来たか。
今回いつま以上の酷い完成度なので見なくてもいいですよ。


目覚めた時、まず周囲の確認でした。

私の周りには点滴?のようなもの。そして、木の壁。そして見慣れた赤髪……赤髪?

 

「……アキト?」

 

恐らくアキトくんです。アキトくんは下を俯きながらコクン、コクンと静かに吐息を立てながら寝ています。

 

「……そういえばなんでアキトが?」

 

これが謎です。本当に何故アキトくんがいるのでしょうか?

ここは私の部屋なはず……あれ?ここ私の部屋じゃない……?

さぁぁと顔が青くなっていく。

あれ、何でここにいるんだっけ?なんでアキトくんがここにいるの?

え、なんで?

 

「あう!!?」

「……なんだ?」

 

アキトくんが私の大声で目を覚ましたようです。というかいつも冷静ですね。

 

「な、なんで私がここに!?」

「話すと長くなるんだが……」

「いやいい!襲ったの!?襲ってないの!?」

「命の恩人になんてこと言うんだ」

 

アキトくんは不機嫌そうにこちらに顔を向けます。

 

「体は大丈夫か?」

「お、襲ってはいないのよね!?」

「おい……ってまあ仕方ないのか」

 

アキトくんは大きなため息をつきながら私に近づきます。

 

「こ、来ないで!」

「別に何もしないんだけど……ほい 」

 

口の中に何かを入れられます。

甘い風味にシャクシャクとした食感。これは林檎?

 

「……これは?」

「ここら辺で採れる果実。名前は知らないけど、味は保証する」

 

アキトくんは赤い果実を私に見せます。

……どこからどう見ても林檎です。この世界にもあったんですね。

 

「……落ち着いた?」

「あ、うん」

 

私の暴走を止めてくれたようです。感謝なのです。

 

「……ありがとう?」

「まあな……で、どうしてここにいるか説明するのだが」

 

アキトくんは林檎にかぶりつくとムシャムシャと食べていきます。いい食べっぷりですね。

 

「お前はグラスマラス……モドキに拘束されていた」

「モドキ?」

「覚えてないか?青いグラスマスみたいな植物系モンスター」

 

あ、だんだんと記憶が明確になって行きます。確か私が亀甲縛りで拘束されて、胸をひたすら触られて……その後滅茶苦茶コショコショされた気が。

……怖かったなあ、あれ。

 

「貞操は無事なのね……よかった」

「よくないだろ」

 

安心しているとアキトくんが怒ったような口調でそう言います。

 

「え、なんで?」

「最悪殺されるかもしれないんだぞ?何安心してるんだよ」

 

アキトくんの目は真剣です。

 

「どうしてそんなに真剣なの?」

「馬鹿か!」

 

私の頬に衝撃が走ります。

前を見ると叩いた動作をした後のアキトくんがいました。

……私は叩かれたのでしょうか?

 

「なんで叩いたの?」

「っ……!生きていなきゃな……この痛みも分からないんだぞ!!」

 

……?何言ってるのでしょうか。

 

「なんで……?」

 

死ぬってなんだっけ?あれ、何でここにいるんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───危ない!

 

 

───いやぁ!!死なないで!!死なないでよ!!

 

 

───○○!私を置いていかないでよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁれ?」

 

死ぬ時のヴィジョンが明確に頭の中で浮かぶ。

車に轢かれそうになった猫を助けようとして……跳ね飛ばされて…………血だらけになって……。

 

「……ぇ、な、に……こ、れ」

 

助けて。助けて。

 

通り過ぎていく人達。私の様子を見ている人達。助けようとしない人達。

 

嫌だ、死にたくない。死にたく……ないよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁ!!!」

 

これは誰の記憶?私の記憶?ナニコレ……キモチワルイ。ヤメテ、ナンデコンナモノヲミセルノ?ドウシテ?

ワタシガナニヲシタノ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前なんてなぁ!俺の性処理道具でいればいいんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁ!!!いやよ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ダレノコエ?キキタクナイ。キキタクナイヨ。ナンデコンナヒドイコトイウノ?

 

「助けて!誰か助けてよぉぉ!!!」

 

デモ、ダレモタスケテクレナインダロウナ。アノトキダッテ……ダレモ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいアイリス!!」

「っ!」

 

誰カノ一喝デ現実ニ戻サレタ気ガスル。

……ダレ?

 

「落ち着け!」

「……アキ、ト?」

「そうだ!」

 

アキトクンハ私ノ手ヲツカム。

寒気ガスル。触ラレタクナイ。

 

「離して!」

「離すか!」

 

アキトくんハ私ノ手ヲ強ク握ル。

 

「離して!酷いことしないで!!」

「しない!そんなこと絶対にしない!!」

 

ソンナコト……誰ガ信ジラレルト言ウノ!?

 

「無理よ!みんなそう言っていつも嘘をつくの!!」

「俺は嘘をつかない!安心しろ!!」

 

次ハ私ヲ強ク抱キ締メル。

 

「っ!嫌だ!近寄らないで!!」

 

首筋ニ噛ミ付ク。

首カラ血ガダクダクト出テイル。口ノ中ニ鉄ノ味ガ広ガル。

 

「……っ!!」

「離してよ!!」

「……離すもんか」

「どうしてよ!」

「誓ったからだよ……」

 

……ナニヲ?

 

「なにを!?なにをよ!!」

「2度と失わないようにだ……!」

「そんな口だけで!」

「……今度こそ守るためだ…あの時の手を2度と手放さないためだ!!」

 

……アキト?ナンデ……目ガ、黄色ク?

 

「アイリス……()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

……ぇ。

 

「……そんな嘘……いらない 」

「嘘じゃない……」

「私は……穢れてる」

「穢れててもいい……」

「……私は……貴方が思っている以上に穢れてるの……」

「穢れているからなんなの……?だからって見捨てるのか……?そんなの……可笑しいだろ!」

 

アキトクンは……私ヲ……しっかり見て……言う。

 

「……本当に?本当に私を守ってくれるの?」

「本当だ!」

「穢れてるよ?」

「だから!構わない!俺はアイリスを守る!」

 

金色の瞳で、彼はそう言う。

 

「……本当なのよね?」

「ああ!……っ!」

 

途端にアキトくんは首元を抑えて蹲ります。首から血が沢山……

 

「ご、ごめんなさい!」

 

すぐさまヒールをかける。

だんだんと傷口が消え、血も収まる。

 

「……本当にごめんなさい、どうかしてたわ」

「いやいいよ……俺ももっと落ち着いたてから話すべきだった……」

 

……アキトくんの目はもう青色に戻ってます。

……幻覚だったのかな。

 

「……さっきの言葉、本当?」

「なにが……」

「私を守る……ってこと」

 

嘘……じゃないと信じたいな。

 

「嘘じゃない。安心してくれ」

 

そう言うとアキトくんは目を閉じます。

 

「え?アキト?アキト!?ねえ、目を開けて!!?」

「眠いんだよ……アイリス探してたから」

 

アキトくんに怒られてしまいました。

アキトくんはそう言って立つと扉の方へ向かっていきます。

 

「……ここはヘレナの部屋の一室だ。今日はここで休んどけ」

 

そう言うとアキトくんは出ていきます。

 

「ァ、アキト!」

「……なに?」

「あ、ありがとう!」

 

アキトくんはキョトンとしていましたが、

 

「……どういたしまして?」

 

満面の笑顔で言いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ、なんでしょう。この胸の高鳴りは。

 

……え、なんですか?

 

 

あうあう!おばあちゃん!!!なんですかこれ!!

 

 




チョロイン爆誕かな。

次からはやっと本編に入っていけそうです。





気づいたらお気に入り30人突破してました。
すごい見切り発車小説なのにありがとうございます。


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アイリス、恋をする。

タ・イ・ト・ル・通・り。

この話は物語と一切関係しません。所詮、自己満足ものなので見ても見なくても変わりません。









少し過去の話をしましょう。

 

転生前、私は普通に大学生をしてました。していたのですか……

 

「小学生は小学校に行かなきゃダメでしょ!」

「わ、私は大学生なのですよー!!」

 

当たり前の如く、門前払いを受けたりすることが多々ありましたし、

 

「君、身分証明書見せて」

「あうあうあうー!私は19歳なのですー!!」

 

夜中に出歩いてると警察に捕まることなんて何回あったでしょうか。

あ、ちなみにコスプレしててもよく捕まりましたよ。小学生がこんな所に来てはいけないとのことです。

 

あまりにも成長しないので一度病院へ行こうとしたらお母さんに止められました。

 

私が幼児体型なのは特に病気でもなく、ただ遺伝的な問題だそうです。

……確かに、私のおばあちゃんも私と同じような体型でしたから。

 

まあ幼児体型……ってほど幼児体型ではないんですよ、胸だって少しは膨らんでますし。せいぜい6年生程度ですがね。

おばあちゃんは……ロリババアです。確かもう67とか言ってましたが、外見私と変わりませんし皺がありません。せいぜい違うといえば髪が白髪な程度です。

……だから一緒に歩いていても双子の姉妹とかしか思われません。まあ、割引してくれるのでそこは特権でしょうか?

 

さて本題。

私は男の人が苦手です。特にロリコン。

二次元ならいくらでも恋できますが、三次元になると話は別。

とても怖いです。理由は……あまり気持ちのいいものではありません。

言葉を濁して言えば、乗り越えられない永遠の傷を負わされました。

だから嫌いなんです男の人なんて。

だから愛することなんて一生ないと思っていたのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイリス……()()()()()()()()()()()()()()()……』

「……っ!」

 

顔がボンッ!と赤くなる。

枕に顔を埋めてゴロゴロとベットをのたうち回る。

 

……どうしてアキトくんに惚れてしまったんだろうなぁ。

多分、あの言葉に嘘偽りはないのだろう。私は嘘に敏感なのです。

だから……素直にあの言葉は嬉しかったのです。

 

「……なんであんな恥ずかしい言葉平然と言えるのかな……」

 

アキトくんは毒を平気で吐くし、容赦なく殺気を放つ。

だけど……私を抱きしめたあの腕の中は……温かくて……優しかった。

 

「……《守ってみせる》か 」

 

……彼なら……私の初めてをあげても良いかな……

 

「って私は何を!オトコハケダモノだよ!!煩悩退散!煩悩退散!!煩悩退散っ!!!」

 

この日の夜は眠れませんでしたのです。

あうあう……。おばあちゃん……私はどうすればいいのでしょうか。




あ、評価9を2つもありがとうございます。


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アイリス、恋をする。part2

……あの、私の見間違えですよね?
……評価10と9が3つって……見間違えですよね!?


寝れませんでした。

寝ようとするとアキトくんが頭の中を過ぎるんです。

あの綺麗な笑顔。透き通るような青い瞳。炎のような赤い髪。ホワイトライオンのように白い肌。ああ、彼のすべてが欲しい。

気づけばそう思うようになってました。

……どう考えても私は変態ですね。

 

「ん、アイリスか。おはよう」

 

今日もいつも通り、海へ出かけるとアキトくんがいました。

ジャケットを羽織っておらず、今の彼はインナーだけの姿。程よく引き締まった筋肉がよく生えてます。

……いけない鼻血が。

 

「……アイリス?」

「ふぇ?」

「……熱でもあるんじゃないか?」

 

アキトくんが私のおでことアキトくんのおでこをくっつけます。

 

……。

 

…………。

 

………………。

 

……………………はぅぅぅ!?

 

「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう!!?」

「どうした」

「ア、アアアアアアアアアアキト!?」

「なんだ」

「ち、ちちちちちかい!!」

「?」

「か、顔!近いからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ああ、そういうことか」

 

そう言うとすぐにアキト君は顔を遠ざけます。

 

「……なんで悲しそうな顔してる?」

「ふぇ?」

 

え、なに。私アキトくんなしじゃ生きれなくなってるの?

こ、これはやばい。本格的にやばい。私のお父さんみたいになっちゃう。

……いえ、あの人は本当のクズですから忘れましょう。

……ふぇぇ、まだ顔が赤いよぉぉ。

 

「……もう少し休んだ方がいいんじゃないか?」

「だだだだ大丈夫!大丈夫だよアキト!!」

「……そうか?」

 

その困惑顔やめてください。どれだけ貴方私をドキドキさせれば気が済むんですか。

あ、そうだ!今日は頑張ってアキトくんのためにご飯を作ってきたのでした!サンドイッチというなんとも簡単なものですが、いつも以上によく出来た気がします。自信作です!

さあ、アキト君に食べてもら…………

 

「……どうした?」

 

……やべえ渡し方がわかりませんよ!?私男の人にご飯とか作ったことないし……強いて言えばおじいちゃんですよ!?(※おじいちゃんは普通なのです)

それに加えて渡し方ですか!?出来るわけないじゃないですか!!

 

「……アイリス?」

「……へ?ふ、ふぁい!!」

「いや緊張する必要ないからな?」

 

そうなんです、そうなんですよ。確かに緊張なんてする必要ないんですよ。でもね、アキトくん。

お姉さんリアルで恋したことないからさ!わからないんだよ!!どうしろと!?

 

「……ぉ、お…と…」

「……?音がどうかしたのか?」

「ちが……ぅ……おべん……とう 」

 

言えた!言えたよおばあちゃん!!アキトくんに言えましたよ!!見ててくれてますかおばあちゃん!!

どこからかよくやりましたねと聞こえてる気がします!

 

「……アイリスが作ったの?」

「ぅ……ぅん」

「だから緊張しなくていいって」

 

そう言うとアキト君は私からランチバッグを受け取ります。

 

「中身は?」

「サ、サンド……イッチ」

「へえ」

 

そう言ってランチバッグを開けます。

 

「おお……美味しそう」

 

アキトくん、目が輝いてる!

ふふふ、こう見えても私は家事が大の得意ですからね。山菜だって摘めますよ!!

 

「それじゃあいただきま……」

 

アキトくんがサンドイッチを手に取って口に運ぼうとした瞬間

 

「いただいたわ!!」

 

白いニャンニャンがサンドイッチを奪っていきました。

キャトラさあ……

 

「……おいクソネコ」

「にゃに!欲しかったらここまでおいでー!!」

「……今日という今日は猫の丸焼きだ!」

「ギニャァァァ!!?」

 

ああ、アキトくんとキャトラの鬼ごっこが始まりました。ああ……お弁当、渡せなかったな……。キャトラのせいで全部ひっくり返っちゃったよ……。

……ちょっと悔しいかも。

回収して捨てよう。また明日作り直してアキトくんに渡そう。そう決意して引き返そうとした束の間、

 

「……おいアイリス、それどうするの」

 

キャトラを紐で吊るしあげたアキトくんがいました。本当に何でもできますね。

 

「どうするのって……捨てるのだけれど」

「なら俺にくれ」

「いや、でも砂まみれだし」

「いいから」

「……アキトがそう言うなら」

 

砂がついたサンドイッチを渡すとアキトくんはそれを平らげていきます。

……ってちょっと!

 

「アキト!?」

「……砂が混じってる」

「当たり前よ!?」

「でも美味しいよ」

 

笑顔でアキトくんは言う。

……そこで笑顔は反則だよ……。

 

「あ、明日も作るね!」

「うん、待ってる」

「……!」

 

顔が真っ赤になってる気がする。

 

「そ、それじゃあ!!」

 

私はアキトくんに背を向けてここから韋駄天の如く駆け抜けました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中でコケたのはアキトくんには言わないでください。シーですよ?

 

……それにしても

 

『うん、待ってる』

 

……あの顔で!あの笑顔で!あの梶ボイスで!!

あんなこと言われたら心がドキドキしますよ!?

 

もう私……どうかしちゃってますよ……あうあう……。




次回からは遺跡探索がやっと。やっと始まる筈。

……明日死ぬんじゃないか。私

……絵とか描いてみようか|ω・`)


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閑話休題

息抜き


「……むにゃ?」

 

爽やかな眠りから覚めた私はお腹の上に心地のよい温かみを感じた。顔を上げて確認するとそこには白猫が。

十中八九、キャトラである。

 

「……キャトラ、起きて」

「……あと30分」

「髭引っこ抜くよ?」

「おはようアイリス!今日もいい天気ね!!」

 

流石猫。髭は苦手なようです。

 

「さて、今日も一日頑張るぞい!」

 

髪を結びポニーテールにして、お弁当の制作に入ります。

 

「キャトラー?お弁当どうするー?」

「私はいいわ!」

「アキトから奪うなんてことしないでね?したら……」

「わかった!わかったわよぉ!!」

 

ジトーとした目を向けたらキャトラは悲鳴のような声で叫びます。

……前世でもこの目を向けたら友達から怖がられてたなぁ。この世界でも有効なんですね。

 

「さて、何を作ろうかな」

 

サンドイッチでもいいのだけれど、こう、少し凝ったものも作りたい。かと言って朝からそんなに多く食べるわけにもいかない。どうしましょう。

 

「……あ、そうだ。これなら……」

 

頭の中にパッとあれが浮かびます。そうだ、あれにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ、アイリス」

「お、おはようごじゃ!おはようごさいましゅ!!」

 

噛んだ。なんでアキトくんの前はこんなに緊張するんですか……

 

「アイリス、深呼吸だ」

「う、うん」

 

吸って吐いて吸って吐いて……。

大分落ち着きました。

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

アキトくん苦笑してます。うう、恥ずかしい……。

 

「今日もお弁当?」

「う、うん!」

「へぇ……なんだろう」

 

アキトくんの目が輝いてる。

うう……可愛いなぁ……。

 

「今日はおにぎりだよ」

「おにぎりか……」

 

ランチバッグを開けるとアキトくんはおにぎりを取ります。

……そういえばいつもなぜかアキトくんウェットティッシュみたいなの持ってるんですよね。あれなんなんでしょう?

まあ、それよりも……

 

「アキト」

「ん?」

「お、美味しい?」

 

おにぎりなんだから味は同じだろ、とか言われそうな気がしますけど……

 

「美味しいよ。味付けもちゃんとしてあって」

 

……やった!小さくガッツポーズを思わず取ってしまう。

アキトくんは1個、2個と平らげていきます。私も少しずつおにぎりを食べました。

 

「アイリスー!」

「なに?」

「私を解放してよー!!」

 

つまみ食いをしようとしたキャトラはひもで縛っておきました。

私たちが食べているところを遠くからでも眺めていてください。

 

「うう……アイリスー!!」

「聞こえなーい。アキトどう、美味しい?」

「中の具から1から作ったのか?」

「一応はね」

「すごいな」

 

幸せな時間なのですよ……あうあう☆




次回からしっかり入りますから。

どうでもいいんですがアイリス様のポニテって似合いそうですよね……


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遺跡探検 その1

遺跡探検がやっと始まります。


うーん!今日も空気が澄んでいて美味しいですー!!

 

「お、おい!待て!!」

「問答無用」

 

うんうん。アキトくんとカイルさんは今日も仲良く戦闘ごっこをしています。

ところでアキトくん。アキトくんはなんでそこまで戦闘能力が高いの?歴戦の勇者みたいなカイルさんの方が強そうだけど。

 

「ま、待て!このまま続ければ俺の槍が折れる!!」

「そしたら素手での殴り合いだ」

「戦闘狂かお前は!?」

「よく言われるよ」

 

そんなやり取りが一時間ほど続きました。私は木陰に隠れてウトウトしていました。すると、周りに沢山のリスたちが!!

 

「……なんで全匹雄なの?」

 

私は植物だけではなく動物にまで好かれるのか。

 

「はいはい、どいて……」

 

そう言おうとした瞬間、リスが動いた!

目を閉じるが、衝撃は一向に来ません。恐る恐る目を開けると

 

「ぎにゃー!!」

 

キャトラが集団リンチにあってました。

 

「……またなにかしたの?」

「なにもしてないわよー!!」

 

なるほど。動物からは私は異性として見られていないわけか。安心安心安心院さん。なんだこれ。

どうでもいいですが今日の気分はサイドテールです。巫女の服と呼ばれる服も、今日は長さを調節してミニスカにしてます。完全に出来心です。

 

 

お弁当を食べ終わりました。カイルさんは身体の何部分かに包帯を巻いています。対してアキトくんは無傷です。

歴戦の勇者(?)を相手にして無傷で勝つアキトくん。

……私の惚れた相手すごい人ですよ。

 

「……アイリス、ほっぺに米ついてる」

「え?」

「ほら」

 

そう言ってアキトくんは私のほっぺからお米をとります。

 

……。

 

…………。

 

……………………。

 

「あうっ!?」

 

顔がボンッ!と赤くなる。手は慣れても他の部位はまだ慣れません。

 

「あぅあぅあぅぁぅぁぅ……」

「お、おーいアイリス?」

 

アキトくんが心配そうに私に声をかけます。はう、触らないで。今触れられたら私絶対気絶しちゃうからー!!

 

「もうお前ら結婚しちまえよ」

「け、けっこ!?」

「冗談でも言うのはやめろ」

 

カイルにチョップを食らわして黙らせるアキトくん。心做しか顔が赤いのは気の所為?

 

「いってーな!殴ることないだろ!!」

「チョップだ」

「そういうことじゃねーよ!!」

 

冷静だ……アキトくん。何かを誤魔化すかのように髪を掻いていますが。

 

「……そろそろ教えろ。なんでお前がこの島に来たのか」

 

無理矢理話変えましたね!アキトくん!!

 

「無理矢理だな」

「斬るぞ」

 

チュートリアルブレードを何処からともなく出すアキトくん。王の財宝ですか?

 

「悪い悪い。いや……この島にある筈の遺跡を探索しに来たんだ。前にも話したら?俺は冒険家だって」

「そんなこと言ってたか?アイリス」

「言ってたわ」

「……言ってたかな?」

 

あの時殺す気満々でしたからね。覚えてないのも仕方ないでしょう。

 

「そろそろ活動しようと思うんだ、遺跡探検をな」

「遺跡探検か……」

 

アキトくんが何故か気まずそうな顔をします。何故でしょう、チュートリアルブレードを睨んでいます。

 

「……俺もついていこう」

「お、そいつは助かる。元々頼むつもりだったからな」

「……」

 

アキトくん、ものすごーく機嫌悪そうです。なんでですか?

 

「それじゃあ、準備が整ったらお前呼びに行くわ」

 

そう言ってカイルさんは痛む体を引きずりながら去っていきます。やっぱり痛いんですね。

 

「……あの遺跡か」

「どうしたのアキト?」

 

心配です。アキトくん、なにかを耐えてるような感じですし。

 

「……いや、あそこはそう簡単に出入りしていい所じゃないだろうと思ってな」

「アキトは行ったことあるの?」

 

そう言うとアキトくんは無言で立ち去っていきました。

 

「……どうしたのかな?」

 

心配です。

おばあちゃん、どうしたらいいのでしょう。教えてください。

え、自分で考えろ?

 

あうあう……こういう時はどうしたらいいか誰か教えてください。




ランニングに乗ってますね……これ。ど、どうしようプレッシャーが凄いです。いっしゅんでも短い夢を見させていただき感謝です


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遺跡探検 その2

安定の雑魚完成度でございます。

そういえば一回ランキング載りましたね、あうあう物語。驚きました。

永遠を称する者 -Eの暗号- に評価4個もつけてくださり誠にありがとうございます。




遺跡の目の前へとやって来ました。

遺跡の入口はジョジョよろしくゴゴゴ……といった擬音が目に見えるようです。見えません。

 

「……来たのか」

 

アキトくんの到着です。

振り向けばいつものアキトくんです。

 

「こんなところ好き好んで誰が入りたいと思うんだか……」

 

ブツブツと何か呟いています。

気に入りませんね。

 

「アキト!」

「ん?」

 

驚かないのかぁ……。

 

「なに」

「何でそんなに遺跡を嫌がるの?」

「あー、そういうことか」

 

アキトくんは考える仕草を数秒ほどしてから私に顔を向けると

 

「教えない」

 

転びかけました。期待させといて教えないパターンですか!?

 

「そんなに面白くない。俺がここを嫌がる理由を聞いてもな。それよりほら、金髪が来た」

 

何が何でも名前を呼ばないみたいです。アキトくん。

 

「悪ぃ!遅れた!!」

「お前から時間厳守と言ったよな……?」

「待て待て待て!それしまえ!!」

 

チュートリアルブレードをカイルさんに向ける。

 

「……ちっ」

 

舌打ちしましたよアキトくん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中は薄暗いです。ここから出てくるモンスターたち、怖いんだろうな……

 

「ふん!」

 

飛び散る血飛沫。大剣に絡みつく血痕。そして爛々と輝く蒼い瞳。

前言撤回、怖いのはアキトくんです。

 

「でりゃ!」

 

カイルさんの自慢の槍で貫かれていく魔物たち。ただアキトくんよりも倒せる数が少ないのか、一撃では仕留められていないですね。

というかアキトくんがイレギュラーすぎるのか。

 

「切り開く!」

 

木っ端微塵にやられていく魔物たち。

モンスターの群れを雑草のように読んで字のごとく切り開いていきます。

私ここ少し苦戦したところなのにアキトくん疲れた様子も見せずに突破していきます。

モンスターたちが慌てて逃げようとしてもアキトくんはモンスターの群れを片っ端から斬っていきます。

 

「……可哀想だよ」

 

流石に同情せざるを負えない。なんだこの地獄。アキトくんの方が余程魔物ですよ。あれ、もしかして私魔物に惚れた?

あ、目の前にキャットシャドゥが。

 

「燃えて!」

 

バーンナップ。周りにいる魔物達は燃え盛る炎で苦しむ!

というかそんなことしたら私も悪魔じゃないですかやだぁ。

……かと思いきや。

 

「……元気になってない!?」

 

満身創痍だった体が回復してません?え、なんで?可笑しくないですか?

うわっ!飛びかかってきた!

 

「ふん!」

 

剣の一閃で周りのモンスターたちが次々とルーンに変わっていく。

アキトくんのお陰……

 

「……なにしてるんだよ」

 

……あれ?アキトくんの黒い髪の部分が広がってる気が……

 

「……アキト髪……」

「……ん?ああ、返り血か……通りで髪が重いと思った」

 

怖いこと言わないでくださいよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。カイルさんに開けるなと言われた宝箱を開けようとしたらそれがモンスターで。

私は再び攫われたのでした。

どこへ連れていかれるのでしょう……あうあう……




アイリスさん?ああ、彼女は被害者ですよ。


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遺跡探検 その3

投稿できそうだったので投稿。


『よう、久しぶりだな』

「……はい?」

 

誰ですか貴方……。明らかに悪!と言った感じの霧が辺りを漂ってます。

 

『あ?覚えてねえのか?』

 

霧から怒りにも似た声が聞こえます。

 

「知らない」

 

だって本当に知りませんもん。

 

『てめぇ……!』

「殴ります?殴りますか?霧の分際で私を殴りますか?」

『……こんな性格だったか?こいつ』

 

私は元からこんな性格ですが何か?

 

「どうせ、ミミックなんて汚い手を使わなきゃどうせ貴方は私には干渉出来ないのでしょう?なら……私はアキトを待ちます」

『……はっ!言ってくれるな!!……っておい待て。アキト……だと?』

 

その様子だとアキトくんを知っているようですね。

 

『あいつまで……復活してんのか!?俺が最後の力を振り絞ってまで封印した筈なのにか!?まさか……自力で!?』

 

……何言ってるんですか、この人。梨花ぁ!この人(霧です)怖いのですよー!!あうあうあう!!

言いたかっただけかのです。後悔はないのです。

 

『畜生……いっそのこと殺しておきゃ……無理か』

 

さっきから急に回想に入ってるんですがこの霧。

今の内に逃げますかね……扉がないのです!!

……アキトくん、ここを見つけるまで待つしか無さそうです……。

 

『畜生!こうなったら奥に眠っている()()()を使ってアキトを葬り去るしかねえ!』

 

そう言って消えていく霧。あ、扉見えました。

今の内に逃げましょう。

音を立てず、ゆっくりと扉へ向かおうとすると……

 

「……あう?」

 

足が何かに絡まれている感じがしました。

下を見るとピンクの蔦みたいなものが。

いや、待ってください。これ蔦じゃないですよ。粘液ベタベタですよ。これ多分舌ですよ!?

 

「あう!?」

 

気づいた時にはもう遅し。私は宙吊りになる。スカートが翻る───

 

 

 

 

 

───のはなんとか防いで手で抑えますが後ろ隠れてる気がしません。まあスカートはそこそこ長いので見えることはないとは思いますが……

 

「……き、気持ち悪い」

 

ミミックからたくさんの触手みたいなものが出てくる。足に絡みつきお腹に絡みつき、胸に絡みつく。変なゴツゴツしたものが気持ち悪い。

なんで私はこんなににも人外モンスターから好かれるんですかぁ!!前はコボルトにも欲情されましたし!!

呪いですか!?これは呪いなんですか!!?

 

「でも……毎度毎度同じ展開には……!ならない!!」

 

ミミックの触手を絡みつかれていない自由な手で燃やす。その際、少し服が焼けて胸と脚が少し露出しましたが……今はそんなこと気にしている暇はありません。

 

「私だって!一人で戦える!」

 

そう言って魔法で杖の先から刃のような形を作る。長さは私の身長の半分ほど。それでも杖の長さで大分リーチは稼げている。

ミミックは私を睨むと突進してくる。

 

「遅いわ!」

 

ミミックの突進を避け、刃でミミックを攻撃。少し少しジリジリと攻撃を仕掛けていく。そしてミミックの動きが鈍くなった瞬間。私は勝利を確信した

 

「はっ!」

『ピギィ!』

 

……筈だった。

ミミックはぎこちない動作で避けると口からなにかを出します。それが私の服に当たると……

 

「えっ!?」

 

胸元の服が少し溶けました……ってちょっと待ってください。これまともに動いたら見えちゃう……!

 

『キシャァァ!!』

 

そう言って口から服溶解唾(命名)を沢山口から出してくるミミック。

肌に当たっても何も無いくせに服に当たると溶ける。なんですかそのエロゲ展開。というかちょっと待ってください。もう下の下着見えそうだし上に関しては危ないのですが……!もう見えちゃ行けないところまで見えますよ!?お嫁に行けなくなるんですが!?

 

「……もう知らない!!」

 

バーンナップを発動。元々ボロボロだったミミックは一瞬で倒すことが出来ました。

 

……出来たのですが、私の服……ボロボロなんですよね……。脚のラインとか見えてますし、胸も抑えてないと見えちゃうし。

スカートを一部分破り、胸に巻き付けてなんとか代用。一応、これでしばらくはなんとなりそうです。

 

……それにしても。

 

「ここどこ?」

 

絶賛迷子中です。あうあう……




アイリスさま初勝利。乙女の色々なものを代償にして。


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遺跡探検 その4

ドラゴンまで進まないなぁ。



うぅ……どこですかぁ、ここ。

辺りは暗いし地面はゴツゴツ、オマケにモンスターの声が聞こえると来た。怖いですよ怖いですよ。あうあう……

 

「おい」

 

あう……誰かの声が聞こえますよ……誰でしょうか……

 

「アイリス」

 

……なんで私の名前知ってるのでしょう。

 

「アイリス返事しろ」

 

……この声!まさか!!

 

「アキあう!?」

 

デコピンされました!!酷いです!!

 

「ボロボロじゃねえか」

「それはミミックが原いあう!」

「あいつ、開けるなって言ってたよな?言ってたよな?」

「アキト!痛い!痛いからー!!」

「カイルみたいにボコボコにされたいか?」

 

それだけは死んでもゴメンなのです。

あんな血だらけボロボロになったら女としての人生が終わるのですよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一回遺跡の入口へと戻り、私の服を変えてからまた遺跡探検再開なのです。僕達は迷いながら辿り着く場所を探し続けなのです。

悲しくて涙流してもいつか輝きに変えてみせますよ!!ショータイムでふ!!盛大に噛みました。

 

気を取り直して。遺跡は不思議が沢山なのですよ。

 

「(ふんすっ!)負けない!」

「気合い入っているのはいいがヘマだけはすんなよ」

「あうっ」

 

なんて痛い所を付いてくるんだ……アキトくん!

 

「宝箱は無視していいからな?」

「えっ」

 

私が……宝に弱いことをまさか知っていますね!?ジョセフ・ジョースター見ているな!?

……言いたかっただけです。

 

「無視していいからな?というか無視しろ。俺たちが取るから」

「……はい」

 

カイルさんは遺跡に書いてある文字の解析をするべく少し奥の方にいるらしいです。悪いことをしたかもしれません。

 

───私がヘマをしたから。

 

「おい」

「あうっ」

 

頭にチョップ入れられました!私こう見えても主席なんですよ!?過去のことですけどね!!それでもバカになったらどうしてくれるんですか!?

 

「自分のせいとか考えていただろ」

「……っ!」

「確かにお前は失敗したよ。その失敗のせいで時間も大幅に遅れた。俺たちの静止も聞かずに勝手に宝箱開けたりしてな」

「あう……」

 

返す言葉もありませんが、そこまで言う必要ありますか!?

 

「だが失敗は誰もがすることだろうが」

「……えっ?」

「え、じゃない。その失敗を次に活かせばいいだろ」

 

そう言って口角を上げるアキトくん。

うう……やっぱりいい人だよ……それにしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公君ってこんなキャラだっけ。

やっぱりアキトくんは不思議が沢山なのです!

 

「余所見するな」

「あうっ」

 

いつも通り、頭にチョップを入れられました。あうあう……




早く付き合えよお前ら

【宣伝】黒鳳蝶の少女、というオリジナルを投稿し始めました。


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遺跡探検 その5

移籍探求書くの飽きてきた……早くネタに戻りたい(屑)


カイルさんと合流しました!

なんでキャトラがここにいるのか謎だけど全員集合です!

 

「お、帰ってきたんだな」

「遅いわよ!アイリス!アキト!!」

「ごめんなさい」

「あ?」

 

アキトくん!こわいから!!

 

「おい金髪。どうしてお前はこんな所にいんだよ。先に行けと言っただろうが」

「いやな?よくわからん石版を見つけたから引き返してきて……!」

 

アキトくんがチュートリアルブレードを横薙ぎにします。

 

「危ないだろうが!」

「手が滑った。悪いとは思ってない」

 

ニコニコしながら言うアキトくん。

……ただの悪魔だ。

 

「行くぞ。時間が惜しい」

 

アキトくんはそう言うとカイルさんを蹴飛ばし、道を案内しろと促します。

高笑いをしながら。何であんなに顔がキラキラ輝いてるんですか……これはもう悪魔じゃない、魔王だ!

 

「わかったから蹴るな!!」

 

古参冒険者の面影もありませんよこの人(カイルさん)

 

「キャトラ、私たちも行くよ」

「いえっさー!!」

 

アキトくんたちの後ろに私とキャトラは続きます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが石版か」

「そうだ……いてて」

 

ずっと蹴られ続けてましたからね。カイルさん。

 

「男だろ。情けない」

「お前が蹴らなきゃ痛くねえんだよ!!」

「記憶にない」

 

明らかに憂さ晴らしですよね。これ。

アキトくんは石版に近づくとふむふむ、と呟いてから

 

「……さっぱりわからん、なんて書いてあるんだ?」

 

首をかしげる。

ずっこけましたよ。

 

「今日の晩飯じゃないの?」

 

とキャトラ。アキトくんに近づきつつあったキャットシャドゥがいる群れに投げられるキャトラ。ぎにゃぁぁ!!という声が聞こえますがこの際無視です。

 

「悪魔だよ……お前」

「悪魔結構」

 

数分してキャトラが戻ってきました。シャドゥたちは何処へ。ゼェはァぜぇはァいってます。

 

「殺す気!?」

「晩飯になりたいんだろ?」

「魔王!」

「魔王結構」

 

アキトくんはそういうともう一度石版を睨みつけ……首を傾げます。

 

「わからん」

 

やっぱり分からないんですね。仕方ない……ここは私の出番ですよ!頑張るぞい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、活躍しましたよ!見事石版を読み取りカイルさんたちを驚かせましたよ!やったね、アイちゃん!う、頭が。

 

「邪魔」

 

アキトくんは次々に襲い掛かる敵を切り払って切り払って切り払って……。ルーンが沢山出てきます。私はそれを回収していきます。カイルさんは……

 

「おい待てアキト!」

 

アキトくんの後ろを追ってます。

 

うーん!今日も平和なのですよ!

 

……あうあう言ってませんね。あうあうなのですよ……!

 

「アイリス……それ、言うタイミングが違う」

「し、知ってるよ!」

 

何気に思考を読むのをやめて!?




手に入れたものが全て過ちでも……



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遺跡探検 その6

連続投稿。秋休み中なので投稿していこうかと。


「ここが最深部みたいだな」

「ああ」

 

とうとう奥まで来てしまいました。

……途中でカイルさんが錆びた剣を手に入れたんですよ。あれ、どうするんですかね。あんな武器役に立ちそうもないのですが。

 

「……開けるぞ」

 

アキトくんが目の前にある巨大な扉を───蹴り開けます。

 

「おい!」

「……うるさいぞ金髪」

「開けたって……限度ってもんがあるだろ!?」

 

カイルさんが悲鳴じみた声を上げる。確かに、ここの島のボスの扉を蹴って開けるとか有り得ませんね。

 

「……!何かいる!」

 

アキトくんが、瞬時に臨戦態勢に入る。凄まじいほどの殺気。ドラゴンからではなく……アキトくんから。

……ねえ、この人、ラスボスじゃないよね?大丈夫だよね?

 

『ぐぁぁぁぁ!!』

 

禍々しいオーラを放つドラゴンが私たちの目の前に立ち塞がる!

 

「……勝てる、か?」

 

とカイルさん。

 

「に、逃げるのよ!」

 

とキャトラ。

 

「ほう……」

 

とアキトくん。何楽しそうにしてるんですか。

 

「…………って、なんで咆哮だけで杖が折れるの!?」

 

折れた。折れたのである。咆哮だけで折れた。

 

「…ぁぁ!!」

 

ドラゴンは口に何かをチャージ。

ブレスですね。

私は横に逃げる!

 

「……ファイアブレスか」

 

アキトくんはチュートリアルブレイドを持ってドラゴンに近づく。

 

『きしゃぁぁ!!』

 

ブレスを発射した!

 

アキトくんは口角を上げると剣を前方に突き出して更にスピードを上げる。

 

……()()()()()()()()()

 

「「はぁ!?」」

 

カイルさんとキャトラは素っ頓狂な声を上げる。私は絶句ですよ。カウンターするかと思ったらブレスを突っ切って切り裂いていくとは……頭が可笑しい。

 

「バスター……」

 

アキトくんは剣に力を込める。

どうやら決めるらしい。

 

「ブレイド!」

 

腕に向かって思いっきり剣を薙いだ。

 

……だが。

 

『がぁぁ!!』

「なに?」

 

腕に切れ込みは入りはしましたが……あくまでそれだけ。

アキトくんは驚愕に目を見開く。

ドラゴンの頭突き!アキトくんは吹き飛ぶ!

 

「……ちっ!」

 

アキトくんは空中で三回転するほど地面へ着地した。

どんな身体能力してるんですか。

アキトくんはドラゴンを睨みつけると私たちに向けてこう言い放った。

 

「───アイリス、カイル。数分でいい。標的になれ」

「はぁ!?」

「ア、アキト!?何言ってるの!?」

「時間が無い。散れ!」

 

私とカイルさんは散ります。ドラゴンのターゲットは……カイルさん。どうやら私ではなかったようです。

 

「今回の旅はついてねえなぁ!おい!!」

 

Don't mind.

私からはこれしか言えません。

 

「あーちくしょう!」

 

カイルさんのスキル発動!空中に飛躍し、刺突の雨がドラゴンを襲う!

そして咆哮で吹き飛ばされるカイルさん!

何やってるんですか!?

 

「悪い!ミスった!!」

 

ミスらないでくださいよ!!

って今度は私がターゲットですか!?

今杖持ってないんですよ私!?

 

「わわわ!」

 

私は必死で走り回りますが、ドラゴンの咆哮で転んでしまいます。

やっぱりついてないじゃないですか!もう嫌だぁ!

そう思って目の前を見るとカイルさんがいつの間にか手放したのか、先ほどカイルさんが宝箱から入手した錆びた剣が。

 

「……こういう時になんで杖がないの」

 

溜息しか出ませんよ。本当に。

でも……ないよりはマシです。

私がその錆びた剣を掴むと

 

 

 

 

 

 

 

───辺りが光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

白い空間でした。

あれ、私死んだんですか?

 

「違うわ」

 

堀江由衣VOiCE。振り向けば、アイリス様が……ってアイリス様?

 

「アイリスさま!?」

「あなたもアイリスよ?」

 

アイリス様はクスクスと笑います。

そういえば色々と違う点がありますね。髪の毛とか服とか雰囲気とか。全体的に神々しい?

 

「ア、アイリス様はなぜここに?」

「だからあなたもアイリス……まあいいわ。あなたは私の武器を触ったの」

 

アイリス様の武器?私そんなのいつ触りましたっけ。

 

「今あなたが持っている錆びた剣よ」

「えっ、これなんですか!?」

 

どう考えても切れ味の悪い巫山戯た剣ですよねこれ!?

 

「なかなかの言われようね」

「ご、ごめんなさい!」

「いいわよ、事実だしね」

 

……あれぇ、アイリス様ってこんなキャラだっけ。

 

「これは……かつての私が使っていた武器なの……名はレクス・ルクース」

 

まあ随分と神々しい名前で。

 

「貴女は……いえ。新しい時代のアイリス。この剣を使って……闇を───」

 

再び私の目の前が光り輝く───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!アイリス!!」

 

カイルがそう叫ぶ。目前までドラゴンが迫っていたからだ。だが

 

「たぁ!」

 

ドラゴンの腕が───

 

『ぐぁぁぁ!!?』

「……なに?」

 

───切り落とされたのだ。アキトの剣ですら傷一つ付けるのが限界だったあの腕を。

 

「……私を、甘く見ない事ね」

 

カイルが声の主を見ると。

 

 

 

 

 

 

───左手に光り輝く剣を持ち、服装が多少変わったアイリスが立っていた。




アイリスさま……覚醒しませんよ。一時的です。
この作品の根幹は『イチャイチャラbあ、なにするやめ……』


アイリスさまに邪魔されました。


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遺跡探検 終局

これ作るのに1時間かかりましたので何度か編集が入るかと。


(───それでいられるのは少しの間だけよ)

 

大丈夫ですよ。一時的だとしても私が今使っている武器が杖ではなく剣なら……

 

「たぁ!」

『ぐぁぁぁ!?』

 

私が勝てないのはアキトだけです!

 

「……私を甘く見ない事ね」

 

……口調が高圧的になってる気がしますが気にしません。

服装も微妙に変わってますね。ミニスカみたいになってますし、一部だけですが鎧もつけてますし。

まあ気にしませんけどね!

 

「負けない……」

 

ドラコンが怒り狂ってブレスを放ちますが、手を目の前にやり障壁を貼るとその攻撃を防ぐ。

ブレスが止むとすかさず剣を構え、ドラゴンの顔近くまで跳躍。剣を眉間へ突き刺す。ただの突き技ですけど。

 

『ギィャァァァァァ!!?』

 

効いているようですね。剣を眉間から取ると、顔、首、胴体、と次々に切り裂いていく。その度に青い血が辺り一面に飛び散る。

 

『グゥォォォ!!』

 

ドラゴンが尻尾を振るう。あれでも攻撃を喰らうのだから嫌なものですよ。

ですが……

 

「らぁ!」

 

新たに現れた第三者によって尻尾を切り落とされる。ドラゴンが絶叫を上げる。地獄絵図だ。

 

「……アイリスか」

「アキト……」

 

アキトくん、君臨です。格好は全体的に黒くなり───ってちょっと待ってください。なんでチュートリアルモードになってるんですか。少し外見違いますけど。イケメンに磨きがかかってますけど。

 

「詰めが甘い」

「……あうっ、酷いです」

 

言われた。いや、私だって頑張ってますよ?というかアキトくんが可笑しいんです。空間認識能力とか絶対にありますって。

 

「……説教は後にするとして。いけるか?」

 

アキトくんは金色の瞳を私に向ける。私はその答えに笑みで返す。

 

「ええ、勿論」

「そうか……ならついてこい!一気にカタをつける!!」

 

アキトくんはチュートリアルブレードに魔力を込める。すると剣から血のようなオーラが溢れ出る。

 

「……ん!」

 

私もレクス・ルークスに魔力を込める。すると、黄金のオーラが溢れ出る。

 

「いくぞ!」

「ええ!」

 

私とアキトくんは跳躍するとドラゴンの顔に目掛けて己の技を放つ!

 

「レティセンス───」

「アーク───」

 

私のこれについては名前を決めてません。なので、私のおばあちゃんがやっていたゲームの主人公の最終必殺技にします。

 

「リベリオン!」

「スラッシュ!」

 

黒と白、光と闇の斬撃がドラゴンを頭から両断した。

ドラゴンの肉体のみ残った。

……ちなみにアキトくんは両断した後に闇の光を纏った回転切りをさらにお見舞いしていました。

オーバーキルってあのことを言うんですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

私が一息つくと、変身?みたいなのが解除されていつも通りに戻ります。

……いえ、いつも通りではないです。スカートそのままですし。

 

「きゃっ……!」

 

慌ててスカートを元に戻す。カイルさんはまず見ておらず、目の前にいたアキトくんは横へ視線をずらしていました。思いっきり目撃してましたよ、あれ。

 

「あうあう……」

 

……1度ではなく2度も見られるとは……淑女失格ですね。

ちなみにアキトくんも元に戻ってます。

それにしてもアキトくんのあの技───つまり、レティセンスリベリオンの事ですが寡黙な叛逆……って意味ですかね。私にはよくわかりません。

 

「……あれ?」

 

大切なことを忘れている気がする。

なんだっけ……あ、そうだ!確か……!

 

「カイルさん!避けて!!」

「……あん?……ってなんだ、こいつ体が溶けて……」

 

ドラゴンの肉片が溶け、闇となりカイルさんを飲み込む。

 

「……っ!?ぐっ……!?」

 

カイルさんを飲み込んだ闇は瞬く間に大きくなり───私をキャトラを、そしてアキトくんを飲み込む。

 

「わわわわ!?体が……!?」

「……っ!」

 

やがて完全な黒が訪れる。

 

……。

 

 

…………。

 

 

 

「……よう、アキト」

 

カイルさんがアキトくんの名前を呼ぶ。

 

「なんだ」

 

相変わらずですね、アキトくん。

 

「まったく、大変なことになっちまったな。どこまで続くんだかこの闇は……まあ仕方の無いことか。冒険にアクシデントは付き物だからな……」

「……」

「……なんてな。悪かったな巻き込んじまって」

 

……いけない!はやく明かりを照らさないと!

 

「カイルさん!アキト!私の声、聞こえますか!?」

「……その声、アイリスか。君こそ大丈夫か!?」

「少し待ってください!今光を……」

 

確か、呪文は……もう!あんなの覚えられるわけないですよ!!

 

「───カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム……」

 

あれ、なんで覚えてるんですか……これってまさか、アイリスさまの記憶……?

 

「不思議な子だ。詠唱を聞いているだけなのにどこか安心するような……」

 

闇が晴れる。

 

「おかえりなさい!みなさん!!」

 

私は笑みを向ける。これからカイルさんが消えるかもしれないのに満面の笑みなんて無理です。

 

「ねえ、こっちこっち!外に繋がってるみたいよ!!」

 

キャトラは私たちを呼ぶ。

 

「行きましょう!みんなで、一緒に!!」

 

私はそう言うと駆ける。

……無理です。あの場所にいるなんて。

すると、ある一つの記憶が私の中を過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

───私の総ての力と引き換えに───この世界の均衡を取り戻します。

 

 

 

 

───〈カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム〉───

 

 

 

 

───さようなら。()()()()

 

 

 

 

 

 

……え、なに?この記憶……分からない……わからないのですよ。でも……心が……苦しい。

……どうしてなのですか?なんで胸が苦しいんですか……?あうあう……




カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム。
あの謎めいた詠唱の言葉らしいですよ。
ちなみに最後のアイリス様の描写は原作リスペクト。開発中の奴から引っ張ってきました。詳しくは『白猫 アイリス 詠唱』で調べたら出てくるかと。

やっと第1の島が終わりましたね。
アイリスさまの武器がレクス・ルークスとかいうキチガイ武器になりましたがこれからもフラグはバンバンと建てていくでしょう!いや建ててくれ!(懇願)

……さて、次はアイリスさま抜きの話かな?(カイルさんとアキトくんの描写)


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終焉の時

連投


 アイリスが奥の方へと消えていったから十数秒。その場から一切動こうとしないカイルの姿を見て不審に思ったアキトは思わずカイルに訊ねた。

 

「……来ないのか、ようやく念願の飛行島を見つけたんだぞ?」

 

 近づこうとして、カイルは「来るな!」とただ一喝する。

 

「悪いなアキト、ここでお別れだ……」

 

 カイルがこちらに姿を見せた時、アキトは思わず絶句した。

 

「……お前、それは一体───」

 

 カイルの身体の半分ほどを蝕む闇。それのせいでうまく動けないのか。それとも何かと戦っているのか。カイルは脂汗を顔に浮かべ、息を荒くしながらそこに立っていた。

 

「あのドラゴンは仮の姿に過ぎず、この闇こそが本体だったということさ。そして───次の闇の主は俺だ」

 

 アキトは顔を顰めるとアイリスを呼び戻そうとする。彼女ならば、きっと闇とカイルを切り離せる───。

 

「やめろ、彼女を呼び戻したところでこれはもうどうにもならない……それに闇が訴えかけてくるんだ。アイリスを殺せ……ってな」

「……っ!」

「どうやらあの子はこいつにとって重要な鍵を握っているらしい」

 

 カイルは壁にもたれかかり、ずるずると地面に座り込む。

 

「もう一度俺がアイリスを見たら……俺は俺でいなくなるだろう」

 

 アキトはたまらず歯噛みをし、近くの壁を殴った。その拍子で皮膚が破れ、血が溢れる。

 

「そんなことすんなって。念願の飛行島まであと一歩まで辿り着いたんだ。それだけで十分だよ」

「……畜生、またこれか」

 

 ───また救えないのか、俺は。悲痛な声でそう呟くと、カイルは困ったような顔をしてから、何かを思い出したかのように「そうだ」と声を漏らす。

 

「……お前にこれを渡す」

 

 失念に暮れるアキトの足元にボードのようなものを放る。

 

「ルーンドライバーって言うものだ……だからそんな顔すんなよ。死ぬってわけじゃないんだしよ……この闇を抑え込んだから───お前らのところに行くから」

 

 カイルは笑いながらアキトをみやった。

 

「……約束、してくれ。また会えるって」

「ああ。だから振り返るなよ? 俺をお前の足枷にしないでくれ」

「……ありがとう」

「お前らが止まらない限り、俺も進み続ける。だから、止まるんじゃねえぞ。止まったら、許さないからな……!!」

 

 涙を殺す。もう二度と会えないかもしれない。だけど、カイルがそう言うのだ。ならば、その言葉を信じて、進み続けるしかない。アキトはルーンドライバーを拾い上げてから、ゆっくりと駆け始めた。

 



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アイリス、地獄を楽しむ

───私の総ての力と引き換えに───この世界の均衡を取り戻します。

 

 

 

 

───〈カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム〉

 

 

 

───さようなら。()()()()

 

 

 

 

ふむぅ……私にこんな記憶ありましたっけ。何度か告白されたことはありましたがこんなことは言ったことありません。それにカリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム……。この詠唱が何なのかすら私には理解不能ですから。

 

───さぁて。そろそろ本題に入りましょう。

 

「アイリスー!高いわよー!!」

 

……私、今飛行島にいます。はい。

アキトくんがやって来たと思ったら急に地面が揺れだして空高く上がっていきました。

アキトくんは「おんぼろ宿屋があったから立て直してくる」と言って青い星たぬきとそこら中にいた赤い星たぬきを調教という名の拷問をして刃向かえないようにしてから手伝わせています。

……魔王(サタン)だ。

 

「アイリス」

「なに?」

「失礼な事考えてないよな?」

「まさか、魔王(アキト)に失礼な事なんて考えるわけないじゃない」

「……?」

 

魔王と書いてアキトくんとルビを振る。

くぅ……これいいですね!これからはこういきましょうか!

……めんどくさいのでいつも通りでいいです。

というかなんでここにいるんですかこの人。さっきまで星たぬきさんたちとキャハハウフフしてたじゃないですか(死語)。

 

「宿屋は?」

「ああ、たぬきに任せてきた」

 

宿屋にいるたぬきさん達を指で差す。

表情は変わりませんが鬼気迫る表情でやっています。

「サボったら死ぬ……サボったら死ぬ……」オーラ出てますよ。アキトくんなにしたんですか。

 

「……さて、アイリス」

 

アキトくんはそんな私の思考に気づいていないのか、こちらにゆーっくりと満面の笑みを向けながら近づく。

え、なんですか。嫌な予感がするんですが。

 

「なんだあの腑抜けた剣術は」

「……え?」

「杖だからと思って大目に見ていたが、なんだあの隙だらけの剣は。速度もない、キレもない。なによりも力がない」

「……え?」

「というわけで」

 

アキト君が私の肩をガシッとか掴む。

……嫌な予感がしかしない。

 

「今から鍛錬だ。俺がみっちり鍛え上げてやる」

「……わ、私ご飯作ってこないと」

「ヘレナに任せる」

 

アキトくんはお姫様抱っこで私を担ぐとどこかへと運び出した。運んだ先は……剣術場。

顔が熱くなるのと青ざめるのが同時にやってくる。

 

「なに、手加減はしてやる」

 

アキトくんの手加減はボコボコにするということ。

あうあう、おばあちゃん。私生きて帰れるでしょうか……



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アイリス、語られる。

相変わらずの低クオリティ。


あぅ……疲れました。何なんですかアキトくん。

彼は私に剣術という名の拷問を叩き込んでくれました。先手必勝急所は確実に狙え。クソ野郎ですか貴方は。

 

約束された(エクス)───」

 

そんな中私はある技を獲得しました。剣に生命の光を収束させ、放ち叩き切る。その名は───

 

「───勝利の剣(カリバー)!!!」

 

堀江由衣VOICEで約束された勝利の剣(エクスカリバー)を言ってみたもののやはりしっくりきません。やはり川澄綾子VOICEでないと。まあ名前はこれでいいです。

 

「……時間がかかりすぎだ」

 

アキトくんにはそう言われてしまいましたが、これはすごい一撃になると思うんです。チャージに1分ほどかかりますけど。

 

今日はアキトくんの剣技を見学という形で見ています。私は剣道をしていたので型とかしっかりしていないと落ち着かないのですが、アキトくんは型を取らない俗に言う自由型というやつですね。

構えを取らず隙だらけのように見えますが、彼の野生にも似た動体視力のお陰で攻撃してもすぐ防がれるかカウンターです。一言で言い表すなら虎。

あ。アキトくんがバスターソードを放った。実験になったコボルトさんたちお疲れ様です。ルーンは貴重なレベルアップアイテムなので大事にしていますがアキトくんカンストしてるんですよねぇ……。

 

「わかったか」

「わかりません」

 

あんな出鱈目な戦い方を出来るのはアキトくん一人のみかと。本能のままに振るう剣に迷いなんてありませんからね。

 

「……はあ、教えるのって大変なんだな」

 

アキトくんの黒いメッシュが風で揺れる。そういえばそれって地毛なんですかね。

 

「アキト」

「なんだ」

「その黒いのって……地毛?」

「黒いの……ああ」

 

アキトくんは何かを思い出したかのようなポンと手を打つと自らの持つ剣を見始めた。

 

「───そうだな。あれは数ヶ月前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキトは今日も海辺で鍛錬を積んでいた。巨大な岩を動かし、砂浜を全速力で走り、その後に基礎トレをする。最後に剣の鍛錬に入るのだ。

そんな時間を邪魔する女性が一人。

 

「ねえ、アキト?」

「……よく飽きないな」

 

ヘレナ……とか言っただろうか。妙に少年に纏わり付く女性だった。年齢は18という。アキトは碧眼をヘレナに向けながら鬱陶し気に追い払おうとする。

 

「別にいいでしょう?それになんで人を避けるのかしら」

「俺は遺跡の中で倒れていたんだ。村のみんなも気味悪がっているに決まってるよ」

 

アキトは目覚めた時、記憶が一切なかった。分かっていたのは自分の名前のみ。ふらつく体を支えながら遺跡の中を歩いているとアキトは2本の剣を見つけたのだ。

それが何なのかはアキトには理解出来なかったが、引き寄せられるように剣に近づいた。

だがそれが駄目だった。剣を握った瞬間、誰かの記憶が流れてきたたのだ。

 

 

 

 

 

───黒い鎧を見に纏い、翼を広げ空を駆け抜ける。

 

───光の速さで幾つもの軍勢を薙ぎ払っていくその姿はまるで鬼神のよう。

 

───守れなかった少女が崩壊と共に、堕ちていくその姿を見つめる己自身。

 

 

 

 

 

 

これらの事はアキト自身、全く身に覚えがない。だがその顔は自分と同じで。

 

「……誰なんだろうね。あれ」

「なにかしら?」

「…………。なんでもないよ。それで今日はなんの用だよ」

 

アキトはバロンと名乗る獅子の青年から渡された翼を模した剣をくるくると手の上で回しながら言う。

ウィングソードと言うらしい。なんでもこの島で1番速い鳥を核に使ったスピードに特化した剣なんだとか。

だが、アキトの力についていけないらしく、5分も使っていれば折れてしまう云わば欠陥品。作った本人は「そんなにヤワな剣ではないのだが……」とのこと。

壊した金はいつも「試作品を試してるんだから。今度はもっと強い剣を作ってくれよ」と言い、アキトは払うことは絶対にしない。

 

「ふふふ、実はね」

 

ヘレナは籠の中から壺のようなものを取り出す。

 

「これをアキトのアタマに塗りたくろうと思って!」

「……何するつもりだ」

「大丈夫!髪の一部分を黒くするだけだから……!」

 

アキトは頭の中で再び謎の記憶が過ぎる。

……アデル、という名の飄々とした青年が頭の中で駆け抜けた。

 

「……やめてくれ。アイツと一緒にされるのは……癪に障る」

「あら?アイツって?」

「……俺の嫌いな奴のことだよ」

「嫌いな人なんているのね……あなた」

 

目的さえ違えたけれど、彼は共に闇の王を目指した同士だった。

彼の最後は記憶の中のアキトに似た青年に斬られ、消滅したのだが。

 

「前髪だけ!前髪だけでいいから!」

「だからアイツと一緒になるのは嫌なんだって」

「アイツって誰よ」

「……教えない」

 

所詮、記憶の中の人物なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「関係ないじゃないですか」

「ヘレナに睡眠薬を盛られて無理矢理黒いメッシュを入れられた。一度入れると落ちないらしいから仕方なくこのまま」

 

 

 

アキトくんの新たな事実を知った瞬間だった。



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為し遂げたアイリス

入院期間が終わり、一段落ついたので投稿します。

……にしても相変わらずの低クオリティだなあ。


あれから数ヶ月が経ちました。

おばあちゃん、私はしっかりやれているでしょうか。

 

───羽入、あなたはしっかりやれていましたよ。

 

そうですか───ありがとう、なのですよ。

 

私も冒険家になったことですし、これから色々と頑張ってみようと思うのですよ。アキトくんのサポート……とか。

剣の腕もアキトくんの半分の実力を出せるくらい上がりましたしこれからは足を引っ張らないようにするのです。

 

「アイリス」

「あうっ!」

 

……やっぱり締まらないんですよね。知ってましたが。

 

「ここにいたか」

 

こことは星がよく見える建物の上の事です。

ここの景色を……みんなで見たかったものです。そう、カイルさんも一緒に。

 

「……カイルのことか?」

 

アキトくんは私の心象を理解したのか、声をかけます。エスパーですか。

 

「……俺がもう少し強ければな、助けられたかもしれない」

 

アキトくんは申し訳なさそうに呟く。

 

「貴方のせいではないわ……私が……もっと強ければ」

「……俺を超えない限りは無理だが」

「ここは同情してよ」

 

私がそう言うとお互いに苦笑し合う。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……なんか喋ったら?」

 

しびれを切らしたのかアキトくんが言う。

 

「アキトは……あの島、好きだった?」

「……まあな。宛もない俺を匿ってくれたのはアイツらだし」

「島のみんな事も好きだった?」

「まあね……ってまだ死んでないだろ」

「あうっ」

 

頭に軽くチョップを入れられる。

いつもの殺気が篭ったものではなく、歪だが少し優しい感じがして私は思わず笑ってしまう。

 

「アキト……」

「今度は何?」

「好き」

「…………は?」

「………………………………へ?」

 

って私何言ってんですか!?

 

「あっ、あう!?」

「それはこっちのセリフだよ……」

 

み、ミスした……でももう流れに乗ってしまえ!ええい!

 

「アアアアキト!」

「……なんだ」

 

私は立ち上がってアキトくんに向き合う。相変わらず綺麗な碧眼だ。

 

「わ、私は……! アキトが……す、しゅきです! あぅぅ……!」

 

思いっきり噛んでしまう。

 

「……落ち着け。伝えたいことをゆっくりと話すんだ。俺はどこにも行かないから」

 

アキトくんは立ち上がって私を見る。やっぱり身長差がありますよね。私とアキトくんって。

 

「アアアアキト!」

「だから落ち着けって」

「好き!」

「率直だな」

 

アキトくんは苦笑しながら私の頭を撫でる。

 

「……あぅ?」

「ありがとう」

 

アキトくんがそう言うと私は思わず泣き出しそうになる。

 

「え、えっと……それって!」

「……だけどちゃんと段階は踏んでくれ……流石に恥ずかしい」

 

アキトくんは目をそらしながら言う。

 

「こ、答えは……イエス……?」

「…………まあ」

 

私は思わず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の唇を奪ったのだった。




ということでこれで一応完結………にしようかなあ。続けてほしいという意見があれば続けるかも。
新しいものの執筆もしたくてね?

それでまあいま考えているのは

牙狼(オリ主)×ミサキ(バトガ)
原作は牙狼。白銀の鎧を纏う青年とミサキのイチャイチャラブストーリーを書きたいという欲からこんな突拍子もない物が生まれた。

もしくは
闇の王子×ハイスクールDxD
か。
仮面ライダーでハイスクールDxDやろうと思ったのですがどうせなら白猫やってみようと。


やるなクソ野郎という人は感想で言ってくれれば。

ではさようなら。また逢う日まで





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特別な季節編
シャララランラン。クリスマス。


メリーロストクリスマス!
年末に備えてR18二次創作書いたりGuilty Bulletの更新したりデータが吹き飛んだりと散々なことが起きた一年。
結果、体が耐えられなくなりついに倒れました。皆様は体を大事にしましょう。

たまにはこう言う息抜き投稿もいいですね。何も考えずにキーボードを打つのは楽しいです。なので文脈とかは変です。


 銀髪の少女、アイリスは強ばった面持ちで机に置かれた大量の料理とにらめっこしていた。

 今日は年に一度のクリスマスで、アイリスが一年のうちで楽しみにしている行事のうちの一つである。ちなみに、一番はお正月である。

 愛する人のために料理を振る舞う、というのは常にやっていることではあるがクリスマスとなるとやる気がさらに満ち溢れてくる。

 結果、料理を作りすぎてしまい、気づいた時にはもう既に遅かった。

 

「……あう、どうしてこうなるんですか……」

 

 最近なりを潜めていたドジっ娘がこんな所で発動するとは思いもしなかったアイリスは、頭を抱えながら蹲っていた。

 

「あう……ど、どうすれば」

 

 ───すべて食べて事なきを得るか。

 無理である。アイリスは少食なので、これだけの量の料理を一気に食べれば間違いなく、綺麗なお花畑を背景にしばらくお待ちくださいの文字が流れることになるだろう。

 ───それならすべて燃やして事なきを得るか。

 それはアイリスが尊敬する自身の祖母との約束を破ることになるので、その考えを直ぐに捨てる。

 

「何してるのですか?」

 

 アイリスの頭上から今最も聞きたくない声が聞こえてきた。

 アイリスは顔をゆっくりと上げて、嫌そうな顔を浮かべた。

 サファイアブルーの綺麗な髪に、ルビーのように紅い双眸。陶磁のように白い肌にはシミひとつなく、その均整の取れた体の上からチャイナ服を身に纏った少女。

 

「……ノアさん」

「……私の顔を見るなりそういう表情を浮かべるの早めて欲しいのです」

 

 いずれ語ることになるであろう、彼女もまた異世界転生者である。

 本名はチノと言うらしいが、それはまたいずれかの機会に語るものとする。

 

「とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着きましょう」

「……あう」

「……現実逃避したくなる気持ちもわかりますし」

 

 何か、聞き捨てならない言葉を聞いたような気がした。

 

「……どういう意味?」

「いえ……私も……その……」

 

 ノアは視線を泳がせた後、諦めたように息を吐くとワゴンを三つ持ってきた。

 そこには様々なケーキが載せられており、その数は十数個を超える。

 

「……」

「……ネモのことを考えていたら、腕が止まらなくなったのです」

 

 仕方がないことなのです、とボヤくノアの頭をアイリスは鷲掴みすると、声にならない声で叫んだ。

 

「なんであなたはこう面倒事を持ってくるんですかぁ!だから嫌いなんですよ!!ノアさんのこと!!」

「私だって悪気があるわけじゃないんですよ!!アイリスだって人のこと言えないじゃないですか!!」

「あ!人が気にしてることを!!」

 

 いがみ合っていたアイリスとノアだったが、しばらくして頭を抱えた。

 

「「この量の料理どうすればいいのでしょう……」」

 

 しばらく悩んだ末、アイリスは手をポンと叩いた。

 

「……ルウシェさんに、相談しましょう」

 

 

 ✧

 

 

「───ということがありまして……」

「あ、あはは……そ、それは災難でしたね」

 

 冷や汗を垂らしながらルウシェは言う。無理もないだろう。

 

「あ、アイリスだ」

 

 背後に大量のピザを積んだ赤髪の少女ことキアラ。話を聞かなくてもわかる、レクトを考えていた結果だろう。

 

「やっほー、アイリスー!」

 

 チェリーパイを大量に詰め込んだ箱を背後に置くシエラ。その背後に控えるフレイヤはやれやれと言わんばかりに首を振っている。どうやら作りすぎたのだろう。

 

「……やっぱりこうなっちゃったかー」

 

 苦笑いを浮かべながら笑うティナ。どうやら、最初からこうなることは予想出来ていたらしい。

 

「いや、シエラさんはただのおすそ分けだと思うんですよ。でも、アイリスたちのは───」

 

 背後に聳える巨大な調理済みの食材の山。ため息をついてからティナは言う。

 

「ただの馬鹿、かな」

「あ、愛する人のために作るのが何が悪いんですか!」

「珍しくアイリスと意見があったのです」

「レクトくんに沢山食べてもらいたかった」

 

 ギャーギャー喚く少女三人。ティナとルウシェはどうしようかと首を傾げたその時だった。

 

「あ、あのー」

 

 部屋の端で控えていたエレノアがおずおずと手を上げた。

 

「エレノア、なにかしら」

 

 殺気立っているアイリスに若干脅えながらも、エレノアは口を開いた。

 

「飛行島のみんなを集めて、クリスマスパーティ……というのは?」

 

 エレノアの言葉に部屋がシンとなる。エレノアはどぎまぎしながらいかがでしょうかと呟く。

 そこからの行動は早かった。

 アイリスが島中の限られた人間に急遽パーティを行うことを告知。時間は夕方からを指定。それまでに料理の鮮度を保つ魔法をすべての食材にかけておき、腐敗を防ぐ。

 そして、時間になった。

 もし来なければこの量の食材をアイリスたちがすべて食すことになる。アイリスは自分のカリスマ性を信じて待つこと数分。

 島中の人間が一斉に集まってきた。

 

「どうしてこんなっ!?」

 

 アイリスはここでまた自分がドジをやらかしたかと思うが違う。耳を凝らせば、「光の王が料理を振る舞ってくれる」という曲解した情報が伝わっていたのだ。

 足りるだろうか。思わず後ろを振り返る。そして、アイリスは頬を引き攣らせた。

 さっきよりも量が増えている。ふと、ルウシェとティナの方を見ると二人はあらぬ方向を向いていた。どうやら、彼女たちも料理を作りすぎてしまったようだ。

 

「……ル、ルウシェさん!」

「ごめんなさーい!」

 

 夕暮れ時の空の下、アイリスの声とルウシェの声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 パーティも終焉に近づきつつあった。

 アイリスはアキトを探すべく湖畔へとやってきていた。

 

「……アキト?」

「……アイリス?」

「やっぱりここにいた」

 

 寝そべっていたアキトは眠気眼を薄く開くと、また目を閉じた。

 

「疲れたの?」

「いきなりスピーチしろとか言われれば誰だってそうなるだろ」

 

 言われて、あうっと情けない声を上げるアイリス。

 

「隣、座るね」

「……ああ」

 

 ぶっきらぼうに答えるアキトを横目にアイリスは夜空を見上げた。

 

「月が綺麗だね」

「……確かにな。悪くない」

「そういう時は、君の方が綺麗だよって言うの」

「……そういうもんか」

「そういうもの」

「……。…………。………………。はあ。アイリス、君の方が綺麗、だ」

 

 疲れた様子でアキトが言う。

 タルタロスの一件以降、アキトは変わった。

 色んなことに積極的になり、かなり優しくなった。あのままのアキトでもアイリスは愛していたが、今のアキトでもアイリスは愛している。

 

「アキト」

「なんだ」

「ありがとうね」

「……俺は何もしていない」

「知ってるよ。パーティのこと、みんなに広めたの、アキトなんでしょう?」

「……さあな!」

 

 アキトは僅かに赤くなった顔を隠すように立ち上がった。

 

「酒でも飲んでくる!」

 

 アキトはそう言って広場へと足を運ぶ。

 

「アキト!」

 

 そこでアキトは足を止めて、振り返る。瞬間、アキトとアイリスの唇が重なった。アイリスは小さく微笑んでからウィンクをすると

 

「───ありがとう。アキト。メリークリスマス」

 

 アイリスはアキトの呆けた顔を見て、そう言った。




ノアさんも実は転生者だったんだよ!

な、なんだってー!

名前は最近見た心がぴょんぴょんしそうなキャラクターから取りました。
名前は香風チノという名前です。心がぴょんぴょんしそうですね。
前世は中学生でカフェの一人娘でした。やっぱり心がぴょんぴょんしますね。
難民キャンプはルルイエにあります。SAN値を減らしに行きましょう。


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デート作戦

知ってるか?ゼロクロニクルでなければ0:00投稿じゃなくていいことを!!

日刊ランキング第6位ありがとうございました。

「ほぐぁ!?」

って変な声出ましたからね、責任取って鉄血のオルフェンズの結末を誰か変えてください。


「デート?」

「え、アキトと付き合ってるんでしょ?」

 

光の王の運命とか闇の王子の運命とかは最近知りましたが、正直知ったこっちゃないので無視しています。どうも、アイリスです。

レストランで優雅に紅茶を啜っていると目の前に座っているティナさんがフォークを落とした。くぎゅう、しっかりしてくださいな。

 

「してないの!?」

「しなきゃ駄目なの?」

「駄目だよ!」

 

私の襟首を掴み、揺するティナさん。

ああ、やめて。胸が揺れるの。揺れるの、心じゃなくて胸が。咲いていたのは薔薇じゃなくて百合になっちゃうから。

 

「あ、ごめん」

 

くぎゅう声だから許す。それにしても……

 

「……デート、かあ」

 

正直、あのアキトくんとデートに行きたいかと言われれば行きたい。ただ……すぐにナニカが起きそうな気がしてね。

 

「ルウシェさんもそう思うよね!?」

「はい!」

「いつからここにいたんですか聖女様」

「天井に張り付いてました!!」

 

それは洋梨忍者(フラン)さんの仕事ですよ、取っちゃだめです。

 

「最近何気に髪型変えてるんだからそろそろアキトも気づいてあげてもいいと思うんだけど……」

「確かにそうですよね!最近のアイリスさんの髪型、とってもお似合いですし!」

「ありがとう」

 

でもね、この髪型はね、SAOのアリスの髪型真似してるだけなんですよね。

 

「……うーん、そうだ!」

「どうしたの?」

「海に行こうよ!!」

「……海?」

 

海ですかぁ……けど何故だろう?

 

「水着きてさ!飛行島のみんなと遊ぼうよ!! 」

「わー、いい考えですね!」

「……、…………はい?」

 

飛行島のみんなと?

 

「私は遠慮しておきます」

「なんで!?」

「なんでですか!?」

「人型猫さん達が……」

「「ああ……」」

 

変なところで仲いいですね、貴女たち。

まあなんの因縁か、人型猫さん達が水着とか着てると欲情するんですよね。

昔、アキトくんのグランディヴァイトを受けた筈なのに前よりもアプローチが多くなってきてる気がする。

 

猫は猫同士、猫とにゃんにゃんしててください。

 

「じゃ、じゃあさ!メンバー考えておくからさ!!ね!?お願い!!」

「むぅ……そんなに言うなら」

 

受けなくもないですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

海は広いな大きいな。なんて歌詞を思い出しますが、最近顕現、動かせるようになった翼のお陰であまり広いと感じません。畜生、人としての感覚がどんどん遠退いていくのですよ。

 

「……で、これはどういうことかな?」

「え、考えた結果だけど」

「……」

 

見渡す限り、知り合い。それは本当に有難いのですが……

 

「ネモ、いくのですよ」

「待てノア。準備運動をだな 」

 

青いクラゲことノアさん。機龍の貴公子ことネモさん。

 

「騎士様!海ですよ!海!!」

「準備運動をしっかりしろ」

 

幽波紋使い聖女ルウシェさん。同じく幽波紋使いのアシュレイさん。

 

「やったらーい!」

「こっちくんじゃねえ!!」

 

極熱天使ルカさん。冷徹悪魔レインさん。

そして───

 

「……あの?」

「なんだ」

「この前の件は誠に失礼───」

「執拗い」

 

未来から遥々やってきたエレノアさんに痒いからと言う理由で私に斬られたというアキトくん。

 

この組み合わせはなんぞや。

 

「……どうなってるんですか、本当にもう」

「本日はあうあう言わないんですね?」

「いつまでも子供じゃないですよ私は……」

 

私をなんだと思っているのやら。




ゼロクロニクルはもう少し待って、今2000字だから(おさまらない)


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アイリス、メリークリスマスandノア、メリークリスマス

ジングルベル、ジングルベル鈴がなる。

書いてて悲しくなったので悲しいコメントを送ってくるのはやめてください。





冗談です。



まあ、今回言いたいことは……



……砂糖を撒き散らさないでくれませんか、カップルさんたち。


「あうあうはううあううはうあうあううあはうあう~♪」

 

ボクは羽入と申します。実はタカノが嫌いです(なのです☆)

 

今日はハッピーメリークリスマース!

転生前はおばあちゃんとお酒飲んだりおつまみ食べたりしてましたよ!!外見が幼児でも私は成人でしたからね!

アイリスとなった私は現在、お仕事をしています。やり方は簡単。

 

「───光よ、すべてを照らせ!」

 

星たぬきさんたちが作った電光ライトを私の力、つまり光の能力で照らしています。

私の魔力で作った光は私から離れても12時間は光り続けるのでイルミネーションには最適なのですよ。

 

「───何がどうなってんだこれ?」

 

アキトくん絶句してますね。だってサプライズですから。世界中がドライブなのですよ。にぱー☆

 

「クリスマスよ、アキト」

 

私はアキトくんの腕にむぎゅっと抱きつく。勿論、胸を押し付けて。

本来なら絶対にしたくないことですがアキトくんですから。私の彼氏ですから。

 

「ア、アイリス?」

 

アキトくんが顔を赤くする。

ふふふ、照れてる照れてる。アキトくんは初だからこういう事されると駄目なことくらい知っています。

 

「ク、クリスマスってなに?」

 

そういえばアキトくんたちの世界にはキリストさんはいませんでしたね。仕方ない、教えて上げましょう。

 

「うーん、本来のクリスマスはイエス・キリストの降誕を祝う祭でね。毎年12月25日に祝われるのだけれど、正教会のうちユリウス暦を使用するものは、グレゴリオ暦の1月7日の該当する日にクリスマスを祝うのね。ただ、キリスト教で最も重要な祭と位置づけられるのはクリスマスではなく、復活祭であのよ……って聞いてる?」

「……すまん、まったくわからん」

 

うーん、アキトくん脳筋だから仕方ないかあ……。

 

「まあ……復活祭、というのはもう結構薄れてきちゃってるからね。一部の人は除くけどね。今は楽しむ日とかになってるよ」

「そ、そうか」

「あとは……」

 

羞恥と思考で頭が回ってない無防備なアキトくんの唇に私の唇を重ねる。

 

「ちょっと変わっちゃうけどカップル同士がこんな感じで愛を確かめ合う日……でもあるかな?」

 

アキトくんの顔が茹で蛸みたいに赤くなる。

私も自然と顔が赤くなってる気がする。いつまで経ってもこの行動だけは慣れませんね……。

こんなことで顔が赤くなるのなら彼に……ってはっ!私は何を考えてるの!?

 

「あうあう!」

「……お前が動揺してどうするんだよ……」

 

アキトくんが大きなため息をつく。

 

 

 

 

 

雪が飛行島を白く染め上げる。

 

 

 

 

まだ私たちの夜は始まったばっかりなのです。

 

 

 

 

 

「ネモ、見て回るのです」

「……待て、ノア」

 

……!来ましたね、我が宿敵……!!

 

「……?アイリスなのです」

「さっきぶりですね、ノアさん」

 

青髪赤目の少女……ノアさんとネモさんが歩いてやってくる。

 

「こんなところで会うとは奇遇なのです。アイリスはアキトと見て回ってるのですか?」

「そうですよ、ノアさん。ノアさんも……そうなのですね?」

「……なのですは私のセリフなのです」

「いいえ、私のセリフなのです」

 

私とノアさんの間にバチッと何かが走った気がする。

 

「私がなのですキャラなのですよ!」

「いいえ!わたしなのです!」

「私なのです!」

「いいえ!私なのですよ!!」

 

あうあうなのですVSゆらーりなのです。負ける訳にはいかないのです……ここで負けたら……これからなのですキャラを通せなくなるのですよ!

 

「こうなったら……」

「こうするしかないのです……」

 

私がレクス・ルークスを取り出す。ノアさんはジェリーフィッシュを構える。

 

「「勝負なのです!」」

「「いい加減にしろ」」

「「あうっ!」」

 

私の頭に衝撃が走る。

涙目で後ろを見ると呆れた表情のアキトくんが。

 

「お前は何がしたいんだ」

「命がかかってるんです!キャラの!!」

「……本当に何言ってんだ」

 

アキトくんが私の頭をポンポンと叩く。

 

「あうっ」

「痛くないだろ……」

「……言ってるだけなのです」

 

軽く拗ねるとアキトくんは目を丸くして───苦笑いします。

 

「ほら行くぞ」

「え、でも……なのですキャラの戦いが……」

「美味いものでも食べに行こうぜ」

「……で、でも……」

「……膝枕してやる」

「……」

「………………お姫様抱っこしてやる」

「いきましょう!アキト!!」

 

もうノアさんなんてどうでもいいです!いきましょう!!アキトくん!!

 

「……ほら」

 

アキトくんにお姫様抱っこされる。

ふふ、嬉しいな……愛する人にお姫様抱っこしてもらえるなんて。

 

「レッツゴーですよ、アキト」

「わかったわかった」

 

アキトくんはそう言うと私と共にこの場から立ち去ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________

ノアside

 

「おいノア」

「……なんですか、ネモ」

 

ネモが話しかけてくるのです。どんな内容が何なのかはすぐにわかりますが……

 

「なんで白の巫女といつも喧嘩になる?」

「私とキャラが被るからなのです」

 

私は生まれた頃からなのですキャラを貫き通してきました。そして私に勝てるなのですキャラなど現れないと思っていました。

 

───ですが、彼女はそんな時に現れたのです。

 

 

 

 

「あうあう!大変なのですよー!!」

 

 

 

 

心の中がザワザワしたのです。

今まで何人もの偽物なのですキャラを見てきました。

でも……彼女は別でした。

一見、なのですキャラには見えない彼女……実はとんでもないなのですキャラ属性を持ち合わせていたのです。

 

「……負ける訳には、いかないのです」

 

ネモを、彼女に取られないために。

 

「……馬鹿か」

ネモは私の頭を軽く叩く。

 

「……どうせお前のことだ。俺が白の巫女に取られないかとか心配してるんだろ?」

「……!なぜわかったのですか!?」

「……はあ」

 

ネモは私の目をしっかりと見る。

 

「有り得ないから安心しろ」

「……本当なのですか?」

「本当だ」

「なら私にキスしてください」

 

冗談半分、本心半分でネモにそう言う。

ネモは躊躇いもなく私に唇を重ねてくる。

 

「……!?」

 

言い出しが私とはいえ、思わず驚いてしまう。

 

「……なに間抜けた顔してんだ。言い出したのはお前だろ」

「た、確かに……言い出したのは私ですけど……」

 

あたふたしながら右往左往する。

ネモは私に優しく笑うとぎゅっと抱きしめてきたのです。

 

「安心しろ……っておい、ノア?」

「……もう少し……このままでいて欲しいのです」

 

私がこう言うとネモは大きな溜息をつきますが、すぐに優しい声をかけてくれました。

 

「───数分だぞ」

「ありがとう、なのです」

 

光が輝く中、私とネモはしばらく抱きしめあったままだった。




書いてて泣きたくなった……。





ハイスクールD×Ø Black or White

下編 近日公開予定。

※私のお気に入りユーザー限定で投稿している小説です。
ハイスクールD×Dは人気な作品なため、このような形で小説投稿をさせていただいています。


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アイリス、お正月にて。

一月最初の投稿があうあう物語ってなんなんですかね。

したいから投稿してるんですけどね。


あうあうはううあうう(ry

カットされたのですよー!あうあうー!!

 

どうも、アイリスです。

私がこの世界、白猫プロジェクトの世界に呼び出されてまさか年を越すとは思ってませんでした。

これもすべて、オヤシロ様の力のお陰。

 

……さて、脱線はここまでにして。

久しぶりに着物なるものを着ました。前世は家の関係でよく着せられてましたがここの世界でも着るとは。胸がそこそこ大きい人って着物似合わないんだけど大丈夫かな、と思いましたが杞憂に終わりました。

なぜなら───

 

「まさか、ヘレナさんが私のスリーサイズを知っていたなんて」

 

何故か私のスリーサイズを知っていたヘレナさんが私にあった着物とサラシを作ってくれていました。

ヘレナさん、何故私のスリーサイズを知っている……。誰にも教えたことないというのに……。

 

「まあ、細かいことを気にするのはやめましょうか」

 

考え始めたらキリがない。もう一度身だしなみを整えよう。

白い着物に青い花をああしらったこの着物、真珠のついた簪。あとは軽く化粧をするのみ。

化粧道具を取り出し、鏡の前に座ったところで───また一つ、疑問が生まれる。

 

「……化粧ってどうやってするんだっけ」

 

私は生まれてこの方、化粧というものをしたことがない。おばあちゃんにしてもらったことはあっても私自身が進んでやった事はないのだ。

───お化けみたいになるのもなんだし、この際しなくていいか、と考える。

 

「駄目よ、女の子はキチンと綺麗にしないと 」

「へ、ヘレナさん!?」

 

急に私の後ろに立ったヘレナに思わず驚愕する。

この人、もしかしなくてもアキトくんと同じ身体能力の持ち主なのではないか?

いや、それはないか。アキトくん自分のことを猫だと名乗る虎ですけど。

 

「はい、終わったわよ」

「早いですよ……」

 

いつの間にか私に化粧をしたヘレナさんが後ろでニッコリと笑う。

……本当だ。うっすらとだけど化粧してある。凄まじいスピードですね、ヘレナさん。

 

「……さ、アキトのところ行ってきなさい!」

「はーい」

 

背中を押され、アキトくんのところへ向かう。

辺りをキョロキョロと見渡し……見つけた。

 

「アキトー!」

 

アキトくんがそう呼んだ私の声に反応して視線をこちらに寄越す。

……アキトくん、着物じゃなくてスーツなんですね。着物なのは……あ、星4の価値がある人達は沢山着物着てますね。

とりあえずアキトくんの元へと近づく。

 

「あけましておめでとう、アキト」

「ああ、あけましておめでとう」

 

腰には……レイピアだろうか。常に臨戦態勢のアキトくんがいた。

 

新年から物騒なアキトくんであった。




投げやり投稿ですまない……!


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時をまたぐ

平成最後の投稿。ワールドエンドはモチベーションが上がり次第、投稿します。多分。



「あっという間でした。時が流れるのは……」

 

思えば、この世界にやってきたのも二年前。時が流れるのはあっという間であった。結局、元の世界に戻る方法は見つからず、今もアイリス様の体を依代として時代をまたごうとしていた。

 

「おばあちゃんとか私の友達、元気かな……」

 

星空を見上げれば、甦る親しかった人達の顔。何もかもが懐かしく思えてくる。もう、戻れないのだろうか。

 

「……ここにいたのか、アイリス」

 

そんなことを考えていた刹那、私の後ろに()()()をした少年が現れた。アキトくんである。とある理由により、常日頃から『闇の後継者』としての姿を保っている。理由は───後々、語るとしよう。

 

「アキト」

「こんな所にいたら風邪ひくぞ。早く宿に戻った方が───」

「星、綺麗だよ」

「……確かに、な」

 

ここの世界は私がいた頃の地球とは星座が違う。完全なる異世界だけれど、星の美しさはどこに行っても同じだった。星に見とれていると、アキトくんが私を徐ろに抱き寄せてきた。突然のことに狼狽する私に、アキトくんは小さく呟いた。

 

「……ごめん。しばらく、このままで居させてくれ」

「……いい、けど」

「ありがとう」

 

アキトくんらしからぬ言葉に動揺しつつも、アキトくんの背中に手を回す。アキトくんは黙ったまま私を抱き寄せたままでいた。

何秒、何分か経った頃だろうか。アキトくんはその口をゆっくりと開いた。

 

「……俺は、この戦いが終わったら、もうお前とは関わらないようにしようと思うんだ」

「……アキト?」

「俺たちは確かに強くなった。かつての力を取り戻し、過去に交わした記憶を思い出し……」

 

私の場合は、『見せられた』の方が適切である。

 

「俺は……遠い昔、君との約束を破ってしまった……」

 

アキトくんはその事を結構気にしてしまっているようだ。

 

「……『闇の王』と『世界の我儘(バール)』との決着が着いたら俺は……もう君とは───」

 

溜息をつきながら、アキトくんの両頬を手で包み込むと、そのアキトくんの口を私の口で塞いだ。

 

「むぐっ……」

「……あのね、アキト。私、怒るよ?」

「ァ、アイリス?」

 

アキトくんの金色の瞳を見つめながら、小さく笑いかける。

 

「私はね、アキト。そんな過去とか力とか気にしない。約束なんて、遠い昔の話」

 

独断で世界を壊滅まで追いやった過去(アイリス様)。独断でアイリス様との約束を破った嘗ての彼(アキトくん)

 

「それにね、アキト。世界の均衡を守るためなら、お互い離れていちゃいけないと思うの」

「でも……光と闇は───」

「交わっちゃいけない?そんなことは無いわ」

 

空を見上げる。

 

「光は闇があるからこそ輝ける。あの星のように───光だけが強くても駄目」

「……アイ、リス」

「そのためには『闇の王』を倒して、アキトが王にならないと。最高最善の闇の王に。違う?」

 

アキトくんは私の言葉に一瞬、目を丸くすると力なく笑った。

 

「お前には助けられてばっかりだな……アイリス」

「ふふん、その通りです。しかも、もしアキトくんが私の目の前から消えるというのであれば地獄の果てまで追いかけてやりますよ」

「……変わらないな、お前は」

 

私とアキトくんは共に笑うと、その影がまた重なった。



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ZERO CHRONICLE ─開闢─
見知らぬ場所で


───これは物語の理から外れた物語───



───これは語られなかった可憐な白と寡黙な黒の物語である───




 白猫プロジェクト、というゲームをご存知だろうか。

 ガチャ率がものすごく低く、配布キャラだけでは絶対にクリア不能とまで言われたあのゲームだ。配信開始してから数ヶ月ほどでやめてしまったため、現在どうなっているかは不明なゲーム。

 さて、なぜこんな話をしているかと言うと。

 

「白猫プロジェクトの世界に転生したくないですか?」

 

 神々しい雰囲気を放った白い民族衣装を着た美少女が目の前にいたからである。

 いきなりなんなんですか貴女。そう呟く前に、少女が口を開いた。

 

「私は神です」

「自称……ですか?」

「貴女は死にました。それも後ろからスタンガンで気絶されられた後、十字架に磔にされて杭を1本1本───」

「そんなひぐらしみたいな死に方したんですか!?」

「いえ?」

 

 なんなんですかこの人。初対面の人間に失礼だとは思わなかったのだろうか。

 

「とういうことで白猫プロジェクトの世界に転生したくないですか?」

「どういう経緯でそうなったのかは分かりませんがお断りします」

 

 

 

 ───あんな最初しか主人公くんが活躍出来ないゲーム転生したらどうなるかわってるんですか?

 

 

 

「ストーリーにしか沿わないんですよね?」

「それはもちろん」

「キャラチェンジとか出来ないんですよね?」

「もちろん」

「…………転生先は?」

「主人公かアイリスですよ、おめでとうございます」

 

 

 

 あはは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶 対 に 嫌 だ!!

 

 それならバトルガールの世界に行って女の子とイチャコラしている方がいい!私女だけど!!ミサキちゃん可愛いじゃん!!

 

 

 

「……そういえばあなたの経歴を見ていたのですが……女子大生だったんですね、そんな体型で」

「すみませんね!こんな体型で!いたくてこんな体型でいる訳じゃありませんよ!!」

 

 

 

 なかなか毒を吐いてくれるなぁこのボンキュボンお姉さんは!!

 確かにわたしは幼児体型ですよ!!身長140cmの幼児体型ですよーだ!!

 神様ならなんでも許されるのか!?そうなのか!?

 

 

 

「話を戻しますが否定権はないので」

 

 笑顔でよくそんなことを言えますね。あなた悪魔ですか?

 

「神ですが?」

「……もういいです、どうせ転生は取り消せないみたいだし……せめて主人公転生はやめてくださいお願いします」

「はいがんばってください」

「話聞いてましたかぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───こうして、私ことアイリスの一世一代の頑張り物語が始まったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───始まったのですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同情ありがとう───だが、要らん!!」

 

 

 主人公に似た赤髪の青年がいきなり襲い掛かってくるというのはどういう冗談だろうか。

 

「地に堕ちてから物を言え!!」

 

 こんな厨二臭いキャラだったかと、思わず頭を抑えそうになる。

 ここでは仮に主人公(仮)と名付けるとして、彼が振るうその私強靭な爪が胸元に直撃する───前に、その攻撃は届くことが無かった。

 赤髪の青年が縦に割れたからである。

 

「……!?」

 

 そこから現れたのは黒い頭髪の青年だった。

 ───女子も羨むであろう白い肌、綺麗な黒髪の一部を赤く染め上げ、その間から覗く黄金の瞳は正に夜空に登る満月。

 某キングダムがハーツしそうな改造服の上に必要最低限の鎧を装備し、お世辞にも筋肉があるとは思えない肉体に不釣り合いな黒と赤の巨剣を握った青年が目の前の主人公(仮)を叩き斬ったのだ。

 

「……ぇ?」

 

 まるで見覚えがない。それは確かだ。それなのに、目前の青年をどこかで見たことがあるような気がしたのだ。

 そう、まるでチュートリアルに操作したあの黒髪の───

 

「……黒、髪……くん?」

 

 少女の口から思わずそんな声が漏れた。

 そう、彼はチュートリアル時に操作した黒髪の主人公によく似た人物だったのだ。

 

「───すまない。アンタを傷つけるような真似をして」

 

 黒の青年は固く閉ざされた口を音をしっかり発音するかのように開いた。

 梶ボイス。ということは、この黒の青年が主人公───なのだろうか?

 

「王を守れ!」

 

 白髪の顔の整った男が少女の目の前に立つ。王という人物が誰なのかは分からないが、鎧甲冑を着た兵士たちが少女を囲うように守備動作に入ったため、少女自身がその『王』であったことを理解する。

 

「───蛮族め……貴様らは人ではない!!」

「……」

 

 男が黒の青年を睨む。

 さすがにこれは頂けない。少女は立ち上がって男を止めようとする。

 

「ま、待ってくだ───」

「ファイオス!その男を捕らえよ!!」

 

 私の隣に立っていた老人が男改めファイオスに命じた。

 

「黒のやり口はよくわかった……!僅かでも心を許した───俺が馬鹿だった!!」

 

 黒の青年にその剣先を向ける。

 

「そっちがその気なら───地上ごと消し去ってくれる!!」

 

 ファイオスの後ろから更にたくさんの兵士が現れ、黒の青年を囲む。

 

 ───いけない!このままでは彼が───!!

 

「……」

 

 こんな状況で黒の青年が何かを呟く。

 

「……なにを言っている?」

「───言いたいことはそれだけか?」

 

 金色の瞳をファイオスさんに向ける。

 その瞳に映し出される感情は───虚無。憤怒も絶望も失望も……何も含まれていない。

 思わず背筋に寒気が走った。

 

 ───どうして、あんな表情が出来るのだろう。

 

 少女は彼が気になった。

 

「言いたいことはそれだけか。アンタらだって俺たち黒の関係の無い民を散々虐殺してくれるだろ」

「嘘を附け!我らがそんなことをするはずが───」

「……嘘かどうかはアンタが考えろよ。だがな、これだけは言っておくぞ」

 

 黒の青年は一度言葉を区切るとその言葉を発した。

 

「───人間の心には光があれば闇もある。それは黒も白も関係なく住み着いている。それは勿論、ファイオス殿。アンタにもだ」

「ほざけ!!」

 

 ファイオスさんが黒の青年に切り掛る。黒の青年は剣を一瞬構え───すぐに下ろした。

 

「……ぐっ!?」

 

 黒の青年が苦悶の声を漏らし、地面に蹲る。

 ファイオスさんはゴミを見るような目で黒の青年を見た後、彼を蹴り飛ばす。

 

「───連れいけ!!」

「「「「「はっ!!」」」」」

 

 黒の青年はファイオスさんの後ろから現れた兵士たちに担がれ、何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ───さて。ここで問題が起こった。

 

 

 一人取り残された広々とした大聖堂のような部屋で、少女は思わず頭を抱えた。

 

 

 ───私は、アイリスさんに転生したんですよね?

 

 身体を震わせながら自身の手元を見下ろす。

 全く見覚えのない黄金の篭手。全く見覚えのない衣装。全く見覚えのない宝剣。

 そして、全く知らない壮大な展開

 

「こ ん な 壮 大 な 物 語 知 ら な い ん で す け ど!?」

 

 小さく呟いてしまうのは仕方ないだろう。

 

「面目ありません。あの者の真意、気付くべきでした」

 

 さっきの老人が少女に話しかけてくる。残念ながら見覚えはまるでない。

 しかし、何かを頼るような目に、少女は何としても答えなければ、と考えてしまった。

 

「ファイオスが駆け付けなければどうなっていたことやら……」

 

 そんなことは無い。例え、ファイオスが駆け付けなくても、黒の青年が少女を助けてくれていただろう。

 

「狡猾な相手です。バールを倒した一瞬の隙を狙ってくるとは……」

 

 知らないワードが連続で出てくるあまり、頭痛がした。

 

「……聞いていますか?」

「聞いていますよ?」

 

 ここはきちんと返しておこう。痛む頭を抑えながら何とか答える。

 

「おいたわしや……そこまで疲弊しながらあの者の相手を……」

「は、はあ……?」

「表には警護の騎士がいます、ゆっくりとおやすみなさいますよう」

 

 あなたのせいで疲弊しているんですけどね、とは口が裂けても言えなかった。

 

 

 

 ───とりあえずここがどこだか分からないので探検……でもしましょうか!!

 

 

 

 

 

 

 

 ───後に私はこの行為を大きく後悔することになるのだが、この時はまだ何も知らなかったのである……

 

 

 

 

 

「あうあうー!どこですかここー!!!!!!!」

 

 

 

 

 ───まだ知らないのである。大事なことなので二回言った。

 




アニメ版ゼロクロニクル絶対許さないあまのです(数年経過した今でも割とキレてる)

ここから下は読んでいない人はネタバレ注意。
と言ってもあとがきから読む変わり者なんて私くらいなんじゃないでしょうか。




今回の転生はゼロクロニクルアイリス。
いきなりアデルに襲いかかられるサイッコーのヒロイン。あとチョロい。
アイリスがアデルにいきなり襲いかかられたことにより、アイリスの意識がどっかいったのでこんなことになった。南無。
一つ気になったのですが、なんで私が書くアイリスさまはいつも変なタイミング、変な場所に転生させられるんですかね。


本作アイリスさまと主人公くんは半ばオリジナルと化しているので気にしたら負けです。


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脱獄

闇の王子視点


 水の滴り落ちる音で意識が戻った。体の至る所に感じる激痛に身を捩りながら目をゆっくりと開ける。

 

「……っ」

 

 捕縛され、投獄された時に転がったのだろう。衣服や髪が泥に塗れ、僅かに血が滲んでいた。

 泥を払い、檻に手をかけると先程起きた出来事を思い出す。

 

「……どうしてあの時」

 

 ───光の王を守ったのか。

 

 白との親睦を深めに来たのだから当然とも言えた。

 だが、自分が知らない内に白を討つ運命をアデルが請け負っていたとしたら。

 連行させることが、黒の王国にとってよかったのか。

 

「……あの時、俺は───何を選んだんだ?」

 

 泥で汚れた掌を見つめていたその時───

 

「っ!?」

 

 上から光が溢れ出す。光の中からは一つの影。

 体を捻ろうにも、体が激痛のせいか上手く動かせない。

 避けることが出来ないまま、上から落ちてくる人間に衝突した。

 

「……っ?」

 

 目の前が暗い。目を潰されたのかと思うが違う。視力はしっかりとある。ならなぜ───

 

「……」

 

 自分の頭の部分に手を伸ばす。

 

「……?」

 

 自分の顔には無い感触が手に広がる。

 永遠と触っていたいようなそんな感触。

 その正体を確かめるために手を動かす。

 

 ───ふにょん。ふにょん。

 

 未知なる柔らかさ、そしてハリのある弾力。

 首を傾げ、何度もその正体を確かめるために手を動かす。

 

「───ひ、ひゃぁあ!!」

 

 耳元で大音量の悲鳴が上がり、後頭部が激しく地面に叩きつけられた。倒れていたにも関わらず、体を殴り飛ばすその力には感服する。

 何度もバウンドを繰り返し、檻に激突してから重力に従って地面に落下する。

 

「……ったた」

 

 新たな衝撃で思考が回復したので、上半身をノロノロと起こす。

 目の前に、ペタりと座り込んだ女性。

 白の王国特有の巫女服に簡素だが頑丈そうな鎧、剣帯からは黄金の剣。どうしたことか、曰く言い難い怒気の篭った目で睨みつけてくる。顔は真っ赤に染まり、両腕は胸の前で交差されて───

 

「……ッ!?」

 

 掴んだものの正体を察する。それと同時に、今現在陥っている危機的状況に遅れて気づく。戦いによって鍛え上げられた危機回避施行などさっぱり忘れ去り、壁際まで後ずさる。

 

「な、なぜ貴女がここに……?」

「……」

 

 アイリスは無言で檻の前に手を翳す。

 一瞬、右手が輝いたかと思うと牢獄が夢の中の出来事のように音もなく開いていく。

 

「は、話はここを出てからします!」

 

 アイリスはここから出るために前進すると───

 

「あうっ!?」

 

 鉄格子に頭をぶつけ、(うずくま)っていた。

 

「───本当になんで、思ったんだろうか」

 

 溜息をつきながらその場で蹲るアイリスに、ため息を吐きながら近づくアキトであった。






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黒の王子

「───見張りの一人もいない……まさか、貴女が?」

「……はい」

「……貴女の命を狙った同胞だと言うのに、逃がそうとしているのですか?」

 

 共に来たアデルの罪は、同じ特使の罪。

 このまま処刑をただ待つ身だった。それを今ここで解放してくれるというのならば。

 

「……ここで終わるわけには行かない。牢番たちには申し訳ないけど」

 

 アイリスは人目を掻い潜り、誰もいない草木の生い茂った場所へと導いていぅた。

 

「……ここは?」

 

 アイリスはここまで来て、緊張の糸が切れたのか、膝から崩れ落ちた。思わず手を差し伸べ、それを抱き止める。

 

「……大丈夫、ですか?」

「……こうして、手をとりあえば───」

「……?」

「───私たちは支えあえる、のに……」

 

 王の間で見た時の神々しい【光の王】としての姿はそこにはなく───

 

「光だけではない……世界には闇もあって……安らぎを与えるのは同じ……なのに……」

 

 控えめに支えた肩は不安で震えていた。

 自然と言葉が漏れる。

 

「───守る───」

「……え?」

 

 聞き取られなかったことに感謝して言葉を続けた。

 

「俺の願いも同じだ。黒も白も関係ない。みんなが幸せになるなら。どんなに汚れても、どんなに罪を背負ったとしても、貴女を支えてみせる。その道を進ませて欲しい───!」

「……」

 

 アイリスの肩に手を置いたまま、自然と見つめ合う距離にそっと手を離す。アイリスの瞳がわずかに揺れたような気がした。

 アキトは息を小さく吸うと、目を鋭くして続ける。

 

「俺は《闇の王》の後継者───黒の王子です」

「は、はい……感じていました」

 

 アイリスは戸惑いながらもアキトの声に反応する。

 

「必ず、王の座を引き継ぎます。この世界に平和を齎しましょう。約束します」

「───ありがとう、ございます……」

 

 力なく微笑むアイリス。

 

「白は光、黒は闇。天と地、己の居るべき場所で支え合いましょう」

 

 アイリスは小指を前に向ける。

 

「───約束、です───」

 

 アキトはその意図に気づくと、ゆっくりと小指を伸ばし、絡ませ合った。

 

「……わかりました。それまでは───」

 

 強い意志の込められた瞳。

 それは少しだけ微妙に絡まり、そして───

 

「……っ」

 

 ───アキトは避けていた。それ以上の言葉を紡ぐのはよからぬ事だから。だが、それでも伝えなければ───

 

「向こう……影が……?」

 

 兵士の声が響く。

 

「俺はもう行かなければ。感謝します、俺のために」

「わ、私のことなら、大丈夫ですから……」

「待っていてください。その日が来るまで───」

「……はい」

 

 黒の王子は背中を向けて走り出そうとした際、ふとアイリスの方へを見る。

 思わずアイリスは身構える。

 

「……白と黒は交わらず両端で釣り合い、均衡を齎す……だけど、君は一人じゃないから」

 

 黒の王子は走り出すと白の王国から飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

「アイリス様! 何処へ行っていたのですか!!」

 

 アイリスが王の間へと戻ると、大神官がアイリスの元に駆け寄る。

 

「……少し、散歩へ」

 

 気分が悪そうな顔をしながら、アイリスは大神官の言葉に反応する。

 

「早くお休みになってください。明日もはや───」

「───なら、今すぐ此処から立ち去って貰えますか?」

 

 アイリスは微笑を浮かべて大神官に答える。大神官はアイリスに何かを言おうとして口を噤んだ。

 

 ───あれほど常に笑顔を絶やさなかったアイリスが笑っていなかったのだ。

 口元は笑っている。だが、問題はその目だ。白銀に輝くその瞳は大神官でさえ見たことがなかった。

 思わず恐れを為した大神官は軽く悲鳴を上げながら数歩後退る。

 

「し、失礼致しました!!」

 

 そう言うと大神官は王の間から逃げ出すように出ていく。

 その後ろ姿をしばらく見ていたアイリスは数秒ほど経過してから倒れ込むようにして、玉座に座った。

 

「……はあ、どうなってるんですか、これは───」

 

 転生を果たしてからアイリスは右往左往しながら、《始祖のルーンの間》に来ていた。

 光り輝くそれに興味本位で触れた途端、この世界のルールが頭に流れ込んできたのだ。唐突に流れ込んできた情報に頭に激痛が走り、思わず悲鳴をあげ、走り回りながら痛みが収まるのを待っていると、地面の感覚が無くなり、牢屋へと落ちた。

 その際、先程の黒の王子に会い───約束を交わしたのだ。

 

「……これ、本当に白猫プロジェクトの世界なんですか? 間違ってませんか、作品」

 

 アイリスは大きなため息をつきながら天井を仰ぎ見る。

 高級そうなダイアモンドなど煌びやかな宝石で彩られた天井。地震が来たらなど考えたが、ここはまず空中に浮かぶ島なので地震が起きることはまずない。

 

「……それに、この剣ですよ」

 

 腰に携えた剣を抜く。普段はレクス・ルークスという名の剣なのだが、転生したアイリスが抜くと形状が変り、名前まで変わってしまうのだ。

 

 ───エル・ドゥ・リュミエール。それが今のアイリスが持つ剣。

 魔法攻撃と斬撃攻撃を切り替えられる、当時の白猫プロジェクトにはなかった武器だ。

 使い方は《始祖のルーン》が教えてくれた。だがしかし、これを用いた戦いの経験が圧倒的に少なすぎる。

 肉体が万が一に使い方を知っていたら、使えるかもしれないが───。

 

「……あう、どうしたらいいんですか……おばあちゃん」

 

 ───嘗て、仲間たちと一緒に運命に立ち向かったという外見年齢が変わらない祖母のことを思い出す。

 今のアイリスには仲間はおろか、友達すらいない。

 

「……まあ王子様とは約束したけど」

 

 ───ふと、黒の王子のことを思い出す。

 

 全世界の女性が羨む陶磁のような肌。漆黒に濡れた黒い頭髪に血が刻まれたような赤いメッシュ。自ら光を放つ金色の瞳。

 

 ───何もかもがアイリスのどストライクだった。

 

「……相談、したいな」

 

 ───すべてが終わるまでは会わない。

 そう約束してしまったアイリスはこの行き場のない感情をどうしようかと考えていた。

 

「……」

 

 黒の王子の微笑みがアイリスの頭を過ぎる。

 アイリスは顔をボンッと赤くするとあたふたと慌てる。

 

「ち、違う! 私はちょろくなんかない!!」

 

 そう言って黒の王子に胸を揉みしだかれたことを思い出す。

 

「そ、そうよ! 胸揉まれてるもの! これは恋じゃない! 恋じゃないんですよー!!」

 

 アイリスの大声が王の間に反響したのはまた別の話。



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決戦前夜

 ───黒の王子が白の王国から舞い戻ると闇の王はその『特異性』を明確に示した。

 際限のない力の膨張は王の代替わりなど感じさせない。

 まるで循環を拒むかのように。

 だが、それと同時に危機感も感じていた。

 

 ───黒の王子『アキト』のことである。

 

 スキアーズの剣を持ってきた当時はただの少年に過ぎなかった彼はみるみるその頭角を表していった。

 最初は偶然かと思っていた。だが、それはある一つの事件によって覆されることになった。

 

 ───闇の王ですら管理できなかった四魔幻獣の闇を───

 

「……四魔幻獣の闇もこんなものか。所詮は造れられた道具。大したことないな」

 

 倒すどころか自分の力にして見せたのだ。

 

『……どうにか、しなくては───』

 

 

 

 ✧

 

 

 

 

「───それまで」

「俺はまだ───」

「───構えが数mmほどぶれていますぞ」

 

 ヴァルアスがそう言うと、仕方ないと言わんばかりにアキトは剣を鞘に収めた。

 剣から溢れんばかりに放たれていた『闇の力』が鞘に収まることによってその力を潜める。

 

 ───闇蝕の剣。アキトが折れた剣と魔幻獣の核を利用して鍛え上げた剣である。

 

「……特使の任務に戻られてから決意が新たになりましたかな」

 

 アキトは黒く重い雲を見上げながらヴァルアスに問いかけた。

 

「ヴァルアス」

「なんでしょう?」

「正しいのだろうか」

「……なにがです?」

 

 その言葉にアキトは視線をヴァルアスに向けながら言葉を続ける。

 

「最も濃い黒の民が王となって国を導く───」

「───この国において、王とは闇なる力の根源でありますれば。その意思に従うは、古来よりの習いでございます」

「それが(ことわり)だから、か……」

 

 その様子を見兼ねたヴァルアスはアキトに詰め寄ると襟首を掴む。

 

「滅多なことをお考えになられてはなりません。闇が包み込むのは存在そのもの。善も悪も全て」

「……」

「闇とは決して晴れてはならぬものなのです。場のある限り、広がり続けていくもの」

 

 ヴァルアスの目がキッと細くなる。

 

「───それがこの世に生まれてよりの真理で御座います」

「……それに疑問を抱いたものはいないのか」

 

 アキトはヴァルアスの腕を強引に振り払うと襟を直す。

 

「……と言いますと?」

 

 はて、と言わんばかりに首を傾げるヴァルアス。

 

「光と闇の在り方が今のままで正しいと誰が言い切ることが出来るのか」

「……陛下もまたそれをお考えになられているのかも知れません」

 

 ヴァルアスの言葉にアキトは本気で言っているのか?と言わんばかりに目を細める。

 

「王が言っていることはまやかしじゃないのか?全てが黒く染まれば世界中に安寧が齎されるなんて───有り得るはずない」

「……そこから先は、あなたが王になって考え、導いていくことになってから考えることです。憶測で未来を批判するのは私の仕事ではないので」

 

 アキトは普段の表情に戻す。

 

「……わかっているさ、そんなこと」

「なら今は己を更に鍛えねばなりませんな。貴方様の世が来ましたら───自分の信じる道のために私をお使いくださいませ」

「ありがとう、ヴァルアス」

 

 そう言うと、アキトは闇蝕の剣を抜いた。

 その行動にヴァルアスも再び剣を構える。

 

「さあ、礼を言うのにはまだ早いですぞ。早く剣の腕を私より超えて頂きませんと」

「時期に抜いてやるさ……」

 

 そう言うとアキトとヴァルアスは地面を蹴り、剣をぶつけあった。

 

 

 

 ───その数日後。

 

 ───ヴァルアスは弟子達に別れを告げ、戦地へと旅立って言った。

 

 ───その数日の内に弟子の一人はヴァルアスの腕を超えたという。

 

 

 

 

 

 ✧

 

 

 

 

 バールを討ってから数日が経過した。

 誰もが予想した通り、白の王国は闇の激しい侵攻に晒されていた。

 

「───小娘ェ!!」

 

 回数を重ねる毎に闇の王は膨張を遂げていく。

 滅ぼされるは白か黒か。

 次が最後の決戦になることを誰もが予感していた。

 

 白の民は白の国の勝利を疑わない。

 なぜなら《始祖のルーンの加護》が自分たちにはあるからと。

 自分たちには白の王───アイリスがいるから、と。

 

「……あうあう……勘弁してくださいよ。この前まで私女子大生ですよ?なにさせるんですか……」

 

 アイリスは転生してから初めて立つ戦場に怯えながら呟く。

 アイリスの後ろには誰もいない。

 

「……できる、できる、君ならできる」

 

 某テレビのCMでお馴染みの台詞を呟きながら剣を抜刀する。

 

「───この一戦で終わらせる!」

 

 そうしないとアイリスのストレスがともかく危ない。

 

 

「……これが終わったら、ゆっくりお茶でも飲みましょうかね」

 

 そんなことを考えながら、空が重たくなったかと、錯覚するほど埋め尽くす魔物と、闇を───

 

「打ち払え!」

 

 ───魔力の砲撃で一閃した。




星一配布アイリス≪≪≪≪光の王アイリス(星一)≪≪≪光の王アイリス(魔)≪本作アイリス=光の王アイリス(輝剣)


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闇の王子

あうあうなし。


 黒い肌に筋肉が隆々と盛り上がった腕でバンバンと手を叩く商人の男。

 

「さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい!白との決戦なんて置いとけ!!時代を生きるにゃ食よ食!!」

 

 商人がとんでもないことを言う様子をアキトは近くから見ていた。

 商人はそんなアキトに気づかないのか、気楽に声を掛ける。

 

「どうだい!そこの格好いいお兄さん!今なら安く……ってうお!?」

「……相変わらずケチな商売してるんだな、あんたは」

「アキ……黒の王子様じゃないか!どうしてこんな辺境の地に?」

「戦力外通告を受けたんだ」

「あんたがいれば戦争なんて数日くらいで片付きそうなのにな……まさか、あんた叛逆とかお考えで?」

「……叛逆するなら、まず闇の王を討ち滅ぼそうか。手伝ってくれるか?」

「なかなか正直ですな!もしその時が来たら喜んで手伝いましょう!!」

 

 ガハハ、と笑う商人に苦笑いを浮かべるアキト。

 

「しかし……供の者も付けず市場を散策ですかい?こりゃ一体どう言うわけで?」

 

 アキトの肩をバシバシと叩いていた商人は首を傾げる。

 

「特に何かある訳じゃないんだ。ただ……民の暮らしをこの目で見てみたくなって」

「どうぞどうぞ!むさ苦しいところですがこんな辺境の地ならいくらでも!!」

 

 その言葉にアキトは僅かに表情を暗くする。

 

「……やはり、生活は厳しいのか?」

「まあ……ワシらなんかより兵隊さんたちの方が大変そうでしょうからね」

「本当に辛いのはそれを支える人達だよ」

「勿体ないお言葉で。ですが存外、ワシらは普段と変わりないですよ。勝てば楽になるんでしょう?それまでの辛抱!!」

 

 アキトは何とか作り笑いを浮かべ、言葉を返す。

 

「……そう、だな。そんな簡単なことではないけど……」

 

 最後の方は聞こえないくらいに呟く。

 すると、後ろの方からドタドタと慌てた足音が聞こえる。

 

「あー!あの人知ってるよー!!」

 

 アキトはその声に振り向く。2人組の少女だ。

 

「おうじさまだー!!」

「おうじさま、こんにちは!」

 

 片方の少女がアキトにお辞儀をする。

 アキトは少女に目線を合わせるとにっこりと笑う。

 

「ああ、こんにちは」

 

 その様子に商人は苦笑いを浮かべる。

 

「こらこら、まとわりつくなって。王子様は忙しいんだぞ?」

「そんなことはないよ、おいで」

 

 アキトがそう言うと少女たちは目を合わせて笑うとアキトの腕に掴まる。

 ふと、一人の少女がアキトに問いかけた。

 

「ねえねえ、戦争、勝つのー?」

 

 それを見かねた商人が少女に注意するが、アキトが気にするな、と言うと商人は押し黙った。

 

「って言うか、アンタも人のことは言えないだろ?」

「それもそうですわ!ガハハ!これは一本食わされましたわ!!」

 

 アキトは笑みを浮かべながら商人に言う。

 

 ───そんな時だ。

 

「王子、よろしいでしょうか?」

 

 魔物兵がアキトを呼ぶ。

 オーラが変わったアキトに商人は目を細くすると魔物兵を睨む。

 

「なんだい、あんた達は。人の店の前で何も買わず立つんじゃねえ」

「リンゴ三つだ。これでどうだ」

「お代は?」

 

 魔物兵は鼻で笑ったあとに商人に言った。

 

「王宮にツケておけ」

「なら、今すぐワシの店の前から消えてくれ」

 

 商人は魔物兵を睨みつける。魔物兵も負けずと劣らず商人を睨みつけるが、その間に立つアキトがそれを納めた。

 

「用があるのは俺だろ。関係の無い民に迷惑をかけるな───それで?」

「ただお呼びせよ、と」

「……わかった」

 

 アキトは先を行く魔物兵を睨みながら少女たちに目線を合わせる。

 

「ごめんよ、もっと遊びたかったんだけど……もう行かなくちゃ」

「……大丈夫ですかい?いざとなればワシも行きますが……」

「引退したあんたまで巻き込む訳には行かないよ。大丈夫だ……子供たちを任せたぞ」

「……わかりました、どうかご無事で」

 

 アキトは頷くと先を急いだ。

 

 

 

 

 ✧

 

 

 

 

 闇の王の間にて。

 アキトは巨大な扉の前に立つ。

 

「……本当に待っている者がいるんだな?」

「ええ」

「……」

 

 アキトは無言でその重々しい扉を開ける。

 中から凄まじい勢いで近づくナニカを横に蹴飛ばした。

 

「……お前は」

 

 砂煙の中から一人の少年が出てくる。

 赤い髪に黒いメッシュを入れた金目の少年。

 ───アデル。アキトが容赦なく叩き斬った少年。

 

「───ひでぇじゃねえか。何もぶった斬ることたぁねえだろ。仲間だと思ってたんだがなぁ?」

 

 アキトは目を細めるとアデルを睨みつける。

 

「吐かせ。思ってもいないくせに……それに通りで呆気ないと思ったよ……」

「たりめぇだろ。俺だって一応後継者の一人だ。それも───」

 

 アデルの周りを濃密な闇が覆う。

 

「───おめぇより遥かに《魔》に寄った、な……!」

 

 アデルを見据える。

 

「なぜ光の王を狙った」

 

 アデルは当たり前だと言わんばかりに口を開く。

 

「それが闇の王の望み、ひいては黒の王の意思だからに決まってんだろ?何言ってやがんだ?むしろなんでてめぇが止めたんだよ?」

 

 アキトは口を開こうとしてアデルがそれを塞ぐ。

 

「───って言いてぇところだが、実はあれで良かったんだよ」

「……なんだと?」

 

 アキトは目をさらに細める。

 

「光の王って言ったって実際はただの小娘さ。ああやって揺さぶりゃすぐに迷いが生まれる。そしたら屁でもねえ。同じくらいの力を持つもん同士がやりありゃ折れねえ方が勝つのがこの世の通りさ」

 

 アキトは歯を噛み締めてから叫ぶ。

 

「……下衆が……闇の王の策略か」

「馬鹿にしすぎなんだよ、何奴も此奴も陛下を。より大きく生きようっていう本能があるからこそ知恵が生まれた、違うか?」

 

 アデルはアキトにいやらしく笑う。

 アキトは目を閉じてから目を開いた。

 

「……よくわかった。だからこの場で粛清する、って訳か」

 

 アデルはおかしいものを見たように笑うと、涙目でアキトを見る。

 

「この状況でまだわかんねえアホがいんのか!?イキがんなや!!ま、暗黒騎士のアホもこのことは知らねえけどな!!」

「……なんだと?」

 

 眉間に皺を寄せてアデルを睨みつける。

 

「俺には王の思考がよくわかる。闇にどっぷりだからな」

「お前だって……嘗ては!」

「嘗てぇ?んなもん忘れたよ。まあそんなことたァどうでもいい。おめぇやグローザを遠ざけたのも白に転ぶ危険性があったからよ」

 

 自分ならともかく、王家のグローザが……?

 

「比喩表現だ、間に受けんなバーカ。使い辛ぇってだけのはなしだろ。それに闇の王が本気になりゃてめぇなんてただの石ころだ」

「……」

 

 アキトは無言でアデルの言う言葉を聞く。

 

「───聡明なあの方はそれにも油断しねぇってだけのことなんだよ!!」

 

 本当にもう戻れないのか───アキトは少し迷いながらも剣を抜いた。

 

「……」

「もう話はいいだろ?やんぞぉ!!」

 

 アデルが姿を大きく変わる。

 

 人間だった体は魔物のような肉体へ。

 

「……」

 

 アキトは無言で剣を構えると地面を軽く蹴った。

 

『死ねぇ!!』

 

 アデルの魔力の弾がアキトに襲い掛かる。

 

「───こんなもので闇の王候補を名乗るのか、アデル」

 

 魔力の弾を切り飛ばしながら、アデルに近づく。

 

「……(お前の意思は本当にそれなのか?)」

『喰らえぇ!!』

 

 裂帛の気合いと共にアデルの爪がアキトに襲い掛かった。

 だが───

 

「……これが本気か」

 

 アキトは左手でアデルの爪を掴むと、粉砕する。

 

『───なんだと!?』

 

 アデルはアキトから距離を取ろうとするが───

 

「……もう終わりにしよう」

 

 アキトの振り上げた刃が、アデルを股下から一直線に斬り上げた。

 アデルはケタケタと不気味な笑いを浮かべながらアキトに言葉を放とうとするが、それをすぐにアキトが遮る。

 

「───お前の行動が時間稼ぎなことくらいわかっている。お前は───アデル・カルケードは勝てない戦いはしないはずだろ」

『く、くく。最初からお見通しだった……って訳か』

「……確信に変わったのは斬った時だけどな。それに……この兵の少なさを見れば自ずと導き出せる」

 

 アキトはポタポタと滴る血を切り払うと、アデルに視線を向けた。

 

『王が……始祖のルーンを取り込めば全てが黒に染まる……』

「……やはり、彼はそんなしょうもないことを考えていたのか」

『……何もかもお見通しだったのかよ。畜生が……』

 

 アデルは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 

『お前はいつだってそうだ……俺より先に行きやがって……』

 

 アキトは無言でアデルを見下ろす。

 ソウルがアデルの体から溢れだしている。そう長くないだろう。

 

「……アデル」

『畜生……最後くらい……勝たせてくれてもいいじゃねえかよ……』

「……それはお前の本心か?」

『ったりめだろ……でも……本心ぶちまけられたからまだいいか……』

 

 だが、その顔はどこか満足したような顔で。

 

『……嗚呼、やっぱり……お前には敵わなかったよ……アキト……勝ちたかったなぁ……』

 

 気味の悪い笑みではない、普段のアデルの笑みを浮かべながら、アデルは闇へと還元されていった。

 闇の王の元へ力が行く前に、アキトは闇蝕の剣でその闇を吸い取り、無言で剣を納めた。

 

「……馬鹿野郎。なんで力なんかに呑まれたんだよ……」

 

 アキトはそう言うと天を睨む。

 

「───闇の、王!」

 

 目指すは───アイリスの場所へ。




アデルくんのキャラが変わる。誰だお前。
評価14人もありがとうございます


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光ト云ウ名ノ黒

 騎士が近くの民に叫ぶ。

 

「───王宮へ!早く!時期にここも戦場になります!!」

 

 民を逃がしながら空に浮かぶ闇の軍勢を睨む。

 

「おのれ闇の軍勢め……!神聖なる白の大地で好き勝手しやがって……!!」

 

 騎士が闇に対しての憎悪を増幅したその時だった。

 

「───!?ぐ、ぐぉぉおお!!?」

 

 騎士の体が形を崩し始める。

 人の手だったものは鋭い爪へ。装飾華美な鎧は体の表面を覆い尽くす鱗へ。整った顔は崩れ、ケモノのものへと変貌する。

 

「オ、オオオオ!!がァァ!!!」

 

 闇の魔物へと姿を変えた騎士が白の民へと襲い掛かる。

 別の騎士が魔物と化した騎士へと斬り掛かり、何とかその攻撃を防いだ。

 

「大丈夫ですか!?」

「え、ええ……今のは……?」

 

 騎士が空を睨みながら呟く。

 

「おのれ……闇め……白を染めるほど濃く……」

 

 

 

 

 

 

 

 ───天を舞う白の大陸───

 

 アイリスは光の翼を羽ばたかせ、闇の軍勢を落としていく。

 

「───剣よ!」

 

 魔力で編んだ無数の刃を闇の軍勢へと飛ばす。

 魔力の障壁を貫き、ドス黒い鮮血を撒き散らしながら闇はソウルに還元されていく。

 

「……もう!執拗い!!」

 

 数秒で魔法陣を構築、空中に大量展開し、膨大な魔力を流し込む。

 

「───闇を払え!白き光よ!!」

 

 極薄の刃となった光の剣が闇の軍勢に襲い掛かる。

 音速を超えるその攻撃は為す術なく闇の軍勢を減らしていた。

 少し、また少しとアイリスの心を何かが蝕んでいく。朦朧とした意識の中、空を駆ける。

 

「……はぁ……はぁ……」

 

 アイリスの体力は既に底をついている。一対多なのだ。無理もない。

 それだというのに、力が無限に湧いてくるのだ。まるでどこからか注ぎ込まれているような───そんな時だ。アイリスの体を光が包み込んだ。

 

「───あ、あ……い、意識が……!?」

 

 懸命に藻掻くが抵抗虚しく、アイリスの意識は消えた。

 一瞬顔を項垂れるが、直ぐに顔を上げる。空のように澄んだ碧い瞳は鏡をそのまま埋め込んだような、全てを反射する白銀の瞳に変化していた。

 アイリスは上空へ佇む闇の王の元へと転移すると、剣を引き抜いた。

 黄金の剣身の上から魔力の刃が編まれ、魔法攻撃と物理攻撃両方が出来る剣へ。

 左右非対称だった剣は左右対称に。

 

 ───両者は対峙する。

 

『下は随分と賑やかになってきたな。良いのか?貴様一人悠々と空を飛んでいて。光の王よ?』

 

 アイリスは闇の王の言葉に耳を傾けず、闇の王に突進する。

 

『ぐっ!?』

 

 まさか言葉に耳を傾けないと思っていなかった闇の王は、反応が遅れ、そのまま右腕を焼き払われた。

 アイリスは白銀に輝く瞳で闇の王の落ちていく右腕を見つめる。

 

「───私一人が悠々と空を飛んでいてとか何とか言ってますけど、私は均衡を崩さないために戦っているんです。これは戦争なのでしょう?なら、()()()()()()()()

「……なに?」

「ここは戦場です。ならば、彼等も覚悟の上でしょう」

 

 アイリスは感情の抜けた瞳で闇の王を見据えると呪文を一瞬で唱える。闇の王が手に魔力を込めるが、アイリスの詠唱の方がコンマ数秒、早く唱え終えた。

 

「───エターナル・レイ。時間よ、止まれ」

 

 ───瞬間、世界が静止する。光の王、ただ一人を除いて。

 アイリスは闇の王に近づくとその肉体を切り裂いていく。

 心臓部を守る強固な骨を斬り落とし、角を叩き斬り、邪魔な目玉をくり抜き───普通の人間の精神状態では考えられないような残虐な行為を行っていく。

 

「───時よ、動きなさい」

 

 そして、世界がゆっくりと動き出し始める。

 

「うぐ!?ぐぉぉおおおお!!?」

 

 急な攻撃の嵐に闇の王は反応が遅れる。

 アイリスは何処までも表情を崩さない。何かに従うように。何かに命じられるように、攻撃を遂行するのみ。

 話は無用。そう言わんばかりに、光の翼を広げると、魔力の刃を闇の王向けて掃射。

 

『ぐぅ!?ぐおっ!?ここは一旦引いて様子見を───!?』

 

 何処かへ転移しようとする闇の王の魔法陣を一瞬で塗り潰し、光の光線をぶつける。

 

『おのれ……光の餓鬼がぁぁぁ!!』

「───」

 

 闇の王はアイリスとの交戦を激しくしていく。だが、アイリスの圧倒的な攻撃に為す術なく闇の王は段々とその姿を小さくしていき───

 

『うぉあああ!!おのれぇぇぇ!!!』

 

 ───呆気なく消滅した。

 しかし、アイリスは止まらない。

 ただ無情に。ただ非情に。白の大地で自分を見上げる白の民を。そして、黒の大地にいる民を見やった。

 戦いはまだ終わっていない。敵はまだ存在する。

 まだやらなければならないことは沢山ある。白も黒もすべて()()()()()()()()()()()()()()

 アイリスはおもむろに手を振り上げると、天空に巨大な魔法陣を作り出した。

 狙うは───白の大地。

 

()()()()───焼き尽くせ」

 

 放たれるは黄金の閃光。白の大地に蔓延っていた闇の魔獣たちを一掃する。

 しかし、それだけでは終わらない。兵士たちもその光に飲み込まれ、光が晴れた時には、その姿は炭となって消えていた。

 白の英雄として降り立つ筈だった光の王、アイリス。

 完全に歪んだ形で白の大地に君臨した。

 

 ───光ト云ウ名ノ黒として。




まさかの急展開。ラスボスはアイリスになった……?いえ、彼女は主人公です。
ラスボス?誰でしょうねえ……。

ハイスクールDxDと白猫のクロス……削除しようか迷っているところです。友人に何度も消すのはどうかしてると言われました。

感想など貪欲にお待ちしております。


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闇ト云ウ白ヲ手ニ

2023年2月20日改


 竜騎士部隊の残していった飛竜の背に(またが)り、アキトは天空へ浮かぶ白の王国を目指していた。

 暗雲を突き破り、青い空に到着する。

 

「───どうなっている!?」

 

 そこでアキトは異変に気づいた。

 魔物がいない。いや、全く居ない訳では無いのだ。だが、数が想定したよりも圧倒的に少ない。

 アデルのように闇の兵士たちは力ある魔物へと姿を変えた。亜人兵が言っていたので間違いないだろう。それだというのに魔物の数が少な過ぎるのだ。

 

「……なにがあった?」

 

 闇の王が倒されたのかと考えるが違う。

 もし、闇の王が既に倒されたのならばアキトに闇の力の権限が強制的に伝授される。それが伝授されていないということは闇の王はまだどこかで生きている。

 考えられるはアイリスと闇の王の間に何かが起きた。

 

「まさかッ、アイリス!!」

 

 アキトは手網を握り締めると飛竜の背を叩く。

 低い唸り声を上げると、飛竜は再び空を目指し始める。

 白の大地が見えてきたそんな時だった。

 

「───!」

 

 無数の光の刃がアキト向けて空から飛んできた。

 腰に納めた剣を抜き、闇を纏った斬撃で光の刃を薙ぎ払う。それでも、斬り損ねた光の刃がアキトの体を切り裂き、体から血が滲み出る。

 

「ぐっ……!」

 

 それと同時に肉体の瞬時再生が始まる。肉が切り裂かれる時とはまるで違う、ジワジワと襲い掛かる痛みに僅かに顔を顰めながら白の大地を目指す。

 

『───キシャァァァ!!?』

 

 翼を貫かれ、バランスを大きく崩す飛竜。

 飛竜の背中を蹴り、白の大地に剣を突き刺し、なんとか墜落を回避する。

 

「すまない……!」

 

 飛竜に謝りながら、大地をよじ登り、なんとかして白の大地に辿り着いた。そして。

 

「……これは!!」

 

 ───その大地はアキトが嘗て見たものとは掛け離れたものだった。

 

 ソウルに満ち溢れた大地は罅割れ。

 

 草木の生い茂った森は黒ずみ枯れ果て。

 

 大理石の敷き詰められた床は抉れ、地面が剥き出しに足り。

 

 装飾の施された神殿は跡形もなく破壊され、見る影もない。

 

「───、一体……誰がこんな酷いことを……」

「……お前、は!?」

 

 周囲の惨劇に嘆いていたアキトを呼ぶ声に思わず振り向く。華美な装飾が施された鎧は切り裂かれ、額からは血を垂れ流し、息も荒い。

 

「……ファイオス殿か」

「脱獄した、と聞いていたがわざわざ戻ってきたのか?」

「そんなことある訳ないだろ。それより教えてくれ、これは一体どういうことなんだ?」

 

 アキトがそう言って視線をファイオスに向けると、ファイオスはアキトを睨みつけながら、その口を開いた。

 

「次々に闇に呑まれていく……俺の仲間を見ながら俺は何とか生き延び長らえていた、そんな時───?!」

 

 ファイオスの体をナニカが貫いた。黄金に輝く金属の上から水色の魔力を纏ったその刃はどこか神々しさを感じさせる。

 

「ア、アイリス……様……ど、どうして……」

 

 ファイオスの背後にいたのはアイリスであった。肉を焼く嫌な臭いがアキトの鼻腔を通る。

 アイリスはファイオスの背中から剣を引き抜くと姿を消す。アキトは周囲を警戒しながらもその場に倒れ込むファイオスに近づいた。

 

「……なに、が」

「喋るな、血が出る。それにしても光の王が───アイリスがなぜ白の民に襲い掛かっているんだ?」

 

 ファイオスは口から血を流しながら虚ろな目でアキトを見る。

 

「……そんなこと……俺が……知るか……」

「……酷いな。少し痛むぞ」

 

 アキトは手に炎を灯すとファイオスの胸に押し当てる。

 

「あがっ!?がぁぁぁああ!!?」

「……我慢してくれ」

 

 アキトはファイオスの背中にも同じように炎を灯した手を押し当てる。

 再びファイオスの絶叫。アキトは嗅覚が狂いそうになるのを感じながらファイオスの傷口を縫っていく。

 激痛に慣れたのか、それとも痛覚が消えているのか。ファイオスは縫われているというのに悲鳴の声を上げながった。

 治療を終えると、ファイオスは怨嗟のこもった眼差しでアキトを睨んだ。

 

「もっとマシな、治療法は、なかった……のか?」

「あるならしているさ。だが残念なことに回復魔法は俺自身にしか使えない」

「……お前は、後衛には向かないタイプ……だな。援護魔法も……鍛えておいて……損はない」

「道は誰かが切り開かないと進まない」

 

 終わったぞ、と言うとファイオスを担ぎ、周囲を見渡す。そこで、丁度陰になるところを見つけたので、そこにファイオスを寝かせた。

 

「……なにが、したい?」

「今アンタに死なれたら困るからな」

「……俺は、まだ戦え───」

 

 刹那、魔力で覆った手刀をファイオスの首すれすれまで近づける。生唾を飲む音が聞こえ、緩んだ緊張感が一瞬にして元に戻った。

 

「この攻撃に対応出来ない今のアンタじゃ足でまといだ、って言えば理解してくれるか?」

「……」

「わかったならそこにいてくれ」

 

 アキトはそう言うとその場から立ち去ろうとする。

 

「……なら、せめて……こいつだけでも」

 

 ファイオスがそう言ってアキトに投げ渡す。

 アキトは左手でそれを受け取る。投げ渡したものの正体は白銀の長剣だった。ヴァルアスとの戦いで折れずに耐えたファイオスの愛用している剣である。

 先祖代々から受け継がれ、今のファイオスに受け継がれた年月を重ねた白銀の長剣。

 

「───いいのか?」

「……ここで……動けず戦えない……俺の元にいるよりは……お前が持っていた方がいいだろう」

「……。折るかもしれないぞ?」

「……その時は、その時だ……」

 

 ファイオスはそう言うとゆっくりと目を閉じた。激痛と戦闘の疲労から気絶してしまったのだろう。

 アキトはファイオスから受け取った白銀の長剣を握り締める。

 

「……安心してくれ。アイリスは俺が───」

 

 その場に転がっていた手頃な鞘を拾い、白銀の長剣を納めると建物の陰から出た。

 うんざりするほどの蒼い空と絨毯のように敷き詰められた白い雲。そこに孤独に佇む銀色の髪を持つ少女。

 

「───アイリス」

 

 その声に呼応するかのように、アイリスは天空からゆっくりと舞い降りてきた。その姿は使命を(まっと)うするために神から使いを受けた天使のようにアキトには見えた。

 

「……?」

 

 長い睫毛で何度も白銀の瞳を瞬きさせながら、アキトを見つめる。

 

「……」

「……」

 

 無言で睨み合うこと数秒。

 アキトとアイリスの間に火花が散った。

 アキトの持つ闇蝕の剣とアイリスの持つエル・ドゥ・リュミエールの剣同士が合わさり、火花が散ったのだ。

 アキトはアイリスを睨みながら、アイリスはアキトを無情に見下ろしながら、お互いに剣を交えていた。

 

「どうして……自分の国を!?」

「黒も白も関係なく滅んでしまえば、均衡も保たれたまま世界に平和が訪れる───」

 

 アキトの足元に魔法陣が展開、光の鎖がアキトの身体を拘束する。

 

「……ぐっ!」

「───だから私は……世界を殺します」

 

 何故彼女がそんなことを言っているのかはわからない。

 だが、一つ明確なのは今のアイリスは明らかに変だ。

 

「アイリス!正気に戻れ!!」

 

 その返答は、魔法陣から伸びた光の槍であった。徹底抗戦、そういうことなのだろう。アキトの脇腹を槍が掠める。

 

「……ちいっ!」

 

 闇は光に弱い。普段なら回避すら必要としない攻撃に、身体を焼かれるような激痛がアキトを襲う。

 

「……!」

 

 鎖の拘束を無理矢理暴走させた魔力で暴発させ、拘束から逃れる。

 右腕で脇腹を押さえながら、剣を構える。視界が霞み、足がふらつく。手に持った剣も地面に落としそうになるほど力が入らない。

 そんな瀕死のアキトを逃すほどアイリスは甘くない。そのまま一瞬で距離を詰めると、剣を振り抜いた。

 

「───墜ちなさい」

 

 右肩から袈裟斬りにされ、アキトは白の大地から落ちていった。

 

 

 

 

 

(……ここで、終わるのか?)

 

 遠ざかっていく白の大地を見つめながらアキトは落ちていく。

 

(約束も果たせないまま……終わるのか?)

 

 頭を過ぎるのは後悔。

 自分の人生の振り返りなどではない。ただ一つ、アイリスと交わした約束。

 

(駄目だ……まだ終わっちゃ駄目だ……!)

 

 視界がクリアになる。体は痛むが、魂は生きている。

 

(───アイリスを……助けるんだ!!)

 

 手を伸ばしても届かない。どれだけ手を伸ばしてもアキトの手は白の大地には届かない。

 

(───魔幻獣共……)

 

 アキトが取り込んだ造られた兵器たち。実体こそないが、闇の力はアキトの体の中で生きている。

 

(───俺に……力を寄越せ!!)

 

 闇の大地にアキトの体が衝突しそうになったその時、アキトの体が赤色の光に包まれた。

 

 

 ───光が、晴れる。

 

 

 龍の翼を背中に生やしたアキトは地面に衝突するギリギリの所で止まっていた。

 

「この力なら───!」

 

 アキトは翼を動かし、白の大地を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 ───光という名の黒を手にした光の王アイリス。

 

 

 ───闇という名の白を手にした闇の王子アキト。

 

 

 ───両者の戦いが今、始まろうとしていた。



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白と黒

2023年2月20日改


 破壊の光が白の大地を(えぐ)る度に、白の民たちはアイリスに怯えていた。

 救世主だと思っていた自分たちの(おさ)が一転、破壊者となりて君臨したのだ。無理もない。

 

「───ア、アイリス様!!なぜ我々を狙うのです!?」

「───」

 

 アイリスが手を上げると、光の刃が発射され脳天を貫く。

 

「なぜ……ですか」

 

 くすり。アイリスの顔が無表情から一転、見たものを惚れさせるような微笑みに変わる。が、その瞳には白の民など映っておらずあるのは無限に広がる虚無のみ───

 

「腐り切ったこの世界を正すためですよ」

 

 始祖のルーンが『始祖のルーンの間』を突き破り、アイリスのそばまで近づく。

 

「し、始祖のルーンが勝手に!?」

「───これで、世界を壊す。あなた達にはそのための第一の犠牲になっていただきます」

 

 ザワつく白の民。

 アイリスは微笑みを浮かべたまま、地に足をつける白の民を見下ろす。

 

「ふ、ふざけるな!」

 

 白の騎士団の一人が吠える。今まで積もり積もって積み上げられたものが決壊するように───白の騎士はアイリスを呪い殺すような目で睨みつける。

 

「俺達があんたのためにどれだけ尽くしてきたと───」

 

 瞬間、男の胸を何かが当たった。男は呆然としながら自分の胸を見やり───

 

「───あが、あがぁぁ!!?」

 

 自分に空いた巨大な穴を見て絶叫した。

 

「……私のためにどれだけ尽くしてきた、ですって……?」

 

 アイリスの肩が小刻みに震える。溢れんばかりの銀色のオーラに思わず後退る白の民たち。

 

「……巫山戯るな」

 

 アイリスが剣を天高く掲げると、空から光の刃が白の民向けて振るわれる。

 ある人は頭を貫かれて絶命し、ある人は針鼠のように串刺しになり、ある人は四肢が切り落とされ絶叫をあげる人達───アイリスはその光景をただただ見ていた。

 

「……私は高嶺の花なんかじゃない」

 

 アイリスの銀色のオーラが濃くなり、そのオーラの片鱗がしろよ大地を容赦なく抉る。

 

「……私はあなた達と変わらないたった一人の人間」

 

 その言葉が白の民に届いている訳では無い。ただ、愚痴を吐くようにアイリスは言葉を続ける。

 

「……それだと言うのに、あなた達は!!」

 

 天空に巨大な魔法陣が生まれる。その光景は神々しく見ることができて───

 

「あ、ああ……」

 

 ───同時に、絶望を味わうことが出来た。

 アイリスは剣を頭上に突き上げると、おもむろにその剣先を白の大地に向けて振り下ろした。

 

「消えなさい」

 

 巨大な魔法陣から放たれる光の筋。熱量をもったそれが白の大地に衝突する。かと思われた。

 

「……間一髪、みたいだな」

 

 一人の少年によって光の筋が防がれたのだった。

 神秘のある純白とは違い、神秘が微塵も感じられない漆黒。黒い髪に刻まれた血のようなメッシュに、無骨な黒いアーマープレート。白の民の前に立ち、その身に似合わぬ巨大な左腕でアイリスの攻撃を防いでいた。

 

「お、お前は!?」

「アイリス様の会談にいたと言われる裏切り者!?」

「き、貴様がアイリス様を誑かしたのか!?」

 

 助けられたというのに礼の一つも言わぬ白の民。アキトは目を伏せ、彼らから視線を逸らす。

 蝶よ花よと人を持ち上げておいて、いざとなれば全責任を一人の少女に押し付ける白の民が。

 

「……おい、あんたら」

 

 そんな彼らを、アキトは見ていられなかったのだ。

 

「なんだ!?」

「今、この場で、死にたくなければその口を閉じろ」

「貴様、何を───」

 

 口を開こうとした大神官の横を赤黒い光が通りすぎる。

 頬をツーと赤い血が伝う。

 

「黙れと言ってるんだ。次はその減らず口ごと吹き飛ばすぞ」

 

 息を呑み、恐怖に震える白の民たち。

 アキトはそんなものに目もくれずに龍の翼を広げ、アイリスの元まで飛ぶ。攻撃してくる様子がないことから、少しは話せる余地があると僅かな期待を抱くアキト。

 

「……アイリス」

「あの時葬ったはずなのですが……なぜ生きているのです?」

 

 前言撤回。話すことなんて出来たものではなかった。その一縷の希望が打ち砕かれた気がして、内心歯噛みをしながらアイリスの質問に答えた。

 

「……詰めが甘かった、それだけかと」

「……そうですか」

 

 アイリスはその目をゆっくり閉じると軽く息を吐く。

 

「───それでは今度こそ完全に仕留めないとなりませんね」

 

 アイリスから放たれた光のオーラがアキトの肌をチリチリと焼く。

 闇は光に弱い。闇を照らすのは光。闇が光に勝つことなどなく、光から闇の一方通行。

 

「……どうしても、やるんだな」

 

 だが、いくら光といえどその力を宿すのは一人の少女。アキトは苦い顔をしながら篭手に剣を擦らせ、その際に火花が飛び散る。

 

「───君を、止めてみせる!」

 

 アキトの体から赤黒いオーラが放たれた。



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ゼロクロニクル終わったらワールドエンドかな?
あの髪長い王子様、操作難しくて苦手です。

改:2022年2月12日


 ───蒼い空を覆い尽くさんとばかりにぶつかり合う光と闇。

 

「……」

 

 ───天空都市の戦士、ファイオスはその光景をただ眺めることしか出来なかった。

 

 光が幾多の槍を生み出し、闇がそれを薙ぎ払う。

 闇は必要最低限の攻撃しか繰り出さず、状況は光の方が優勢だった。

 本来なら喜ぶべき光景だ。それだというのに、今は恐怖に震えることしか出来ない。

 

 ───なぜなら、自分たちが仕えるべき王は叛逆の牙を剥き、その王から自分たちを守っているのが闇なのだから。

 

「……!」

 

 光の激流が闇を飲み込もうとする。

 闇は身を捻り、攻撃を避けるが、先ほどよりも放つ力が弱まっているように感じる。

 

「……闇を消し去るほどの眩い光、か」

 

 力と頭脳、そして美貌まで持ち合わせた現代の光の王アイリス。あらゆる才という才を持って生まれてきた彼女だったが、彼女には致命的に足りないものがあった。

 

 ───精神が成熟してなかったのである。

 

 幾ら光の王とはいえ、嘗てはただの少女。突然、すべての民の生命を任されるとなれば、正義感の強い彼女だ。自分を追い詰めるに違いない。

 

 ───彼女は王になるには早すぎたのだ。

 

 まだ成人を過ぎていない可憐で、今にも折れてしまいそうなくらい儚い少女では、幾ら必死で国を守ろうとしても、その小さな背中ですべてを背負いきれるわけがない。

 そんなことも考えず、自分はすべてをそんな少女に託そうとしていたのか、と思わず歯噛みする。

 

「……俺じゃ、アイリスは救えない」

 

 思い返してみれば、アイリスが光に選べばれた時、その顔は喜びに充ちていただろうか。

 

 ───否だ。彼女は悲しく笑っただけだった。

 

「……おい、闇の王子───」

 

 遥か上空でアイリスと対峙する黒い青年を見つめる。

 

 初めは生意気な奴だと思った。闇は所詮は悪なのだと───決めつけていた。

 

 だが、彼は違った。

 

『───人間の心には光があれば闇もある。それは黒も白も関係無く住み着いているんだ。それは勿論、ファイオス殿。アンタにもだ』

 

 彼は闇に生まれながら、その心は正しく『光』であった。

 もしかしたら、この国にいる誰よりも眩い光を放っているかもしれない。

 ファイオスは彼に助けられた時───その可能性(ひかり)にかけたのだ。

 

「───俺の力を貸してやったんだ。光の王を……アイリスを、救って見せろ」

 

 ファイオスのその声が風に乗り、そして消えていった。

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 光の槍がアキトに降り掛かる。旋回、なんとか避けようとするが、足に巻きついた光の鎖のせい思うように体が動かない。

 ならばとアキトは右腕と左腕を交差した。

 

「……!?」

 

 アイリスの表情が戦慄に染る。

 槍がアキトに刺さると思った直前、突如現れた巨大な腕がアキトを守ったからだ。それと同時に、アイリスの動きが目に見えて遅くなる。

 

「───今っ!」

 

 アキトが動いた。黒い翼を羽ばたかせ、紅蓮の軌跡を描きながら、アイリスに近づく。

 

「アイリス───」

 

 アキトがアイリスにその右腕を伸ばした時。アイリスの白銀の瞳が細められた。

 咄嗟に体を捻るも、判断が遅かった。身を焼くほどの激しい光がアキトに襲い掛かる。あまりの激痛に、一度距離を取る。

 

「……ッ」

 

 右腕が使い物にならなくなっていた。焼き焦げ、抉れ、腕と判断出来るのは五本の指があるお陰だろう。

 激痛に顔を顰め、絶叫したくなる衝動を抑えこみ、闇を右腕に纏わせる。

 肉が焼ける匂いと同時に、肉体を無理矢理再生する音が鳴り響く。数秒後にアキトの右腕は完全に回復したが、しばらくはあの状態になった右腕のことを忘れられそうになかった。腕を閉じたり開いたりしながら、アイリスを見やる。

 

「……そう簡単には、行かないか 」

 

 既に自由に動けるようになったアイリスを見て、内心舌打ちをする。

 アキト自らが使う重力魔法と四魔幻獣が一角、ラディウス・マグヌスの重力魔法を組み合わせて倍加、通常の人間なら一瞬で身動きが取れなくなるような離れ業をやってのけたのだが、どうやらアイリスにはあまり効果はなかったらしい。

 

「……なら!」

 

 龍にも似た翼を広げると、アキトはファイオスの剣を抜き、アイリスに近づく。同時にレギオ・グランディスの飛翔能力とグラキエス・ドゥルスの雷を使い、速度を強化する。

 アイリスはそんなアキトを見つめながら、小さく口を開く。

 

「───切り裂きなさい、光よ……道を切り開け」

 

 始祖のルーンを使用した詠唱が終わる。

 その瞬間、光輝く剣がアイリスの周りに出現、アキトを貫かんばかりに一斉掃射される。

 

「……!」

 

 アイリスが放つ無数の剣をファイオスの剣から発生するエネルギー波で切り裂きながら突撃する。

 今の状態のアイリスは脅威ではあるが、倒せない訳では無い。しかし、アキトの目的は倒すことでも殺すことでもない。

 守ると約束した彼女を、救うこと。ただそれだけだ。

 

「……アデル……借りるぞ!」

 

 右腕に強固な鎧が現れる。

 これこそが彼が使っていた武装の一部であり、本来の力であった。

 能力は───『力の吸収』。

 

「……くぅ!?」

 

 ここで初めてアイリスの顔が苦しそうに歪んだ。

 その一瞬を逃すアキトでは無い。弾丸のような速度でアイリスに近づく。

 

「……アイリスゥゥゥウウ!」

「……ッ!」

 

 白銀の瞳が驚愕に丸くなり、アイリスの翼が黄金の光を放つ。

 アイリスの最強の技『時間停止』。この技の前にはあらゆる生物は無力。

 勝利を確信したアイリスはその技を発動した。一瞬、眩いほどの光が放たれ、アイリスの周りを除いたすべての生き物が動きを停止する。

 

 ───そのはずだった。

 

「うぉぉおおお!!」

「!?」

 

 光の速さを越す速度で動いていたアキトに、時間停止は通用しなかった。

 

「アイリス! 俺は……君を───!!」

 

 アイリスの元に到達したアキトは口を開くも

 

「ッ!!」

 

 言葉を続ける前に、アイリスは剣を振りかぶり、アキトの左腕を切り飛ばした。

 

「……くっ!」

 

 咄嗟のことに対応が遅れる。ファイオスの剣を握ったままの左手が、重力に従って落下していく。

 それでもアキトはアイリスに近づき───優しく抱きしめた。

 

「……!」

「いいんだ……もういいんだよ」

 

 アキトはこの力をアイリスを抱きしめることに使った。

 光の力による反撃で無数のダメージを食らうが、それでも腕を緩めることは無い。

 途切れそうな意識の中、アキトはアイリスに囁いた。

 

「もう……いいんだ」

 

 アキトの左手に闇が集まり、自動再生する。先程までつけていた鎧の類はなかったが───それで良かった。今必要なのは戦うための力ではない。誰かと手を取り合うための力なのだから。

 

「……もう、君が戦うべき相手はいないんだ」

「……ほん、と……?」

「ああ。本当だ」

 

 アキトがそう言い、アイリスが僅かに力を弱めたその時だった。

 

「!?」

 

 アイリスの体が白銀に光る。アイリスはアキトを突き飛ばしてから距離を取る。

 

「に、逃げ───」

 

 アイリスの意志と反して、体が勝手に動く。次の瞬間、アイリスの体から闘気が放たれた。アキトはその黄金の瞳を細め、アイリスを睨みつけた。

 

「……アイリスに全て背負わせようとするんじゃねえよッ」

 

 始祖のルーンが輝き、アイリスの目の前に巨大な魔法陣が展開される。恐らく、これがアイリスの放てる最強の一撃。

 アキトは身体の中にいる四魔幻獣たちに呼び掛けた。

 

「……ラディウス……グラキエス……レギオ……ヴェータス……貴様らの力を……俺に!」

 

 アキトは、両腕をゆっくり体の前で交差させると、力を溜めるような仕草を見せた。

 闇色のオーラが重々しく震え、炎の如く激しく揺れ動き、厚みを増していく。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 強烈な気合いと共に、アキトの腕が大きく開かれた。

 髪が僅かに伸び、肩口を擽るくらいまで伸び、ボロボロだった戦闘服は、新しい戦闘服に変わる。その眼窩には、黄金の光が満たされていた。

 ───人の魂を奪い、ソウルを喰らう者。闇の王。

 アキトは一時的にではあるが、それになってみせたのだ。

 全身を駆け巡る力の、あまりの強烈さに意識を持っていかれそうになる。アキトは頭を振ると、納めていた闇蝕の剣を高々と掲げる。

 

「……戦いに敗れ、消えていった闇の者たちよ。俺にソウルを……力を───すべて寄越せ」

 

 赤紫色のスパークを全身に纏わせ、剣を中心に巨大な魔法陣を展開する。

 闇と光の嵐が空の色を変える。

 青に、赤に、紫に、白に、黒に。そして、最後には星空へと変化した。

 

「……逃げて!!」

「とどけぇぇええ!!」

 

 光と闇の力が激突し───

 

 

 

 

 

 ───世界は、虹色に染まった。




『次回予告』

ゼロ


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ゼロ

次回が本当の最終回です。


 人は彼のことを咎人だと言った。

 

 白の国で生まれた彼は、誰よりも光に満ち溢れていたが───同時に、誰よりも闇に近かった。

 

 そして、なにより彼の髪の色は泥にまみれたような黒色だったのである。

 

 白は恐れた。このままでは、白の国が滅んでしまうのではないか、と。

 

 だから、彼を黒の国へ追放したのである。

 

 同時に、彼を庇ったその代の光の王を、白の民は断罪した。

 

「殺してやる」と喚き散らしながら、男は白の大地から黒の大地に落とされた。

 

 ───死んだかと思った。誰もがそう思っていた。

 

 だが彼は、その黒の国で王となり君臨していたのだった。

 

 願うは白への復讐のために。

 

 

 

 ✧

 

 

 

「……!」

 

 短い夢から覚めるような感覚に襲われたアキトは自身が落下していることに気づく。もうずっとこの体勢のまま落下していたのか、体が強ばっていて思うように動かない。

 自分が生きていることに内心ホッとすると、アキトよりも速い速度で落ちて行くアイリスを見て、戦慄した。

 

「アイリス!?」

 

 慌てて上体を建て直し、落ちていくアイリスに手を伸ばす。

 満身創痍なアキトだったが、幸いなことに翼は焼き切れておらず、アイリスの元にまで直ぐに近づくことが出来た。

 

 ───手が触れる。離すことなくアキトはその手を握りしめると、アイリスを抱きしめる。

 その身体はやはり、王と云うにはあまりにも小さく、そして儚かった。

 抱き締めると同時に、アイリスの息を確認するが杞憂に終わった。先程の衝撃でアキトと同じく、意識を失っただけだった。

 

「よかった……本当によかった」

 

 翼を大きく広げ減速し、白の大地にゆっくりと着地する。

 隠れていた白の民が次々に瓦礫の中から顔を出す。何人かは今にもアイリスに飛びかからんとする勢いであったが、アキトが放つ闇のオーラが彼らを近づけなかった。

 アキトは白の民に侮蔑の目を向けながら、アイリスをゆっくりと地面に下ろす。

 タガが外れたように、白の民は一斉に叫び始めた。

 

「な、なんでその女を連れてきた!?」

「そ、そうだ!彼女は俺たちを殺そうとしたんだぞ!?」

「そ、そうよ!そんな裏切り者なんて黒の国に連れていけば───」

 

 アキトが右腕を薙ぐ。

 それによって、白の民の数人の人間の首が飛ぶ。

 夥しい程の赤が白を染め上げ、ぶちまけられた。

 

「……そんなんだから、アイリスはアンタらを見限ったんだぞ」

 

 アキトは怒りもせず、白の民を見つめた。

 その目には怒りも憎悪も含まれていない。ただ、無限に広がる虚無。

 

「成人してない少女に国を背負うという使命を負わせるだけで、自分たちは一切汚れない。白いのは外見だけだな」

「ふざけないでちょうだい!」

 

 アキトの話を黙って聞いていたシーマは顔を真っ赤にしてアキトに詰め寄った。

 

「私達は立派にアイリスを支えてきたわ!外部の、しかも黒の王子が勝手に言わないでもらえるかしら!?」

 

 アキトの襟首を摑み、睨み上げる。だが、アキトはそんなものをものともせずただただ無表情を貫き通した。

 

「何か言ったらどうなの!?」

「……」

「何も言えないじゃない!だったら、部外者は黙っていて頂戴!!」

 

 シーマがそう言うと、アキトは眉を歪め、シーマの首を摑み上げた。

 

「こっちが下手に出てれば勝手に色々と言ってくれる。白の魔道士」

「暴力でしか解決できない……黒の民に言われたくない!」

「お互い様だ。あんたらだって、黒の民を拉致同然に攫っていって、彼らを奴隷のように働かせてるだろう」

 

 アキトは首に込める力を緩め、シーマを地面に下ろした。

 蹲り、空気を求めるように咳き込むシーマ。そんなシーマに視線を合わせるために、アキトはしゃがみ視線を無理矢理合わせた。

 

「あんたはアイリスの闇を知っていたか」

「……は?」

「背負い、傷つく度に心の中に闇が広がっていた。その事をあんたは知っていたかのかと聞いてるんだ」

 

 黄金の瞳を細め、何かを感じとったのか、シーマを睨め付けるアキト。

 

「そ、それは……」

「それに───」

 

 アキトはシーマの首筋にファイオスの剣を突きつける。

 

「───闇の王に取り憑かれているあんたが言っていいセリフじゃない」

 

 手に闇のオーラを纏わせ、そのまま切り裂こうとするも、、シーマの首が強固な殻へと変化、アキトの攻撃を防いだ。

 

『……いつから気づいた?』

 

 シーマの声が、低い青年の声に変わる。アキトはシーマを蹴りつけ距離を取ると、背中に背負われた大剣を抜いた。

 

「アイリスと戦っている際───あんたが滅びたのなら、最後の後継者の俺に膨大な闇の力が来るはずだろう。それなのに、それが来ない。そしたら答えは一つしかない」

 

 剣先をシーマに向けながら、アキトは低く呟く。

 

「闇の王は死んでなどいない。心の闇が大きなものに寄生し、その身体を癒していた。違うか?」

『くくく、正解だ!』

 

 シーマの体を突き破り、中から異形が現れる。

 紫色のマルドゥークのような顔に、左右非対称の角を生やし、妖しく光るアキトと同じ、黄金の瞳。三本の腕を宙に浮かばせ、巨大な爪の生えた右腕をアキトに向ける。

 その姿は、アキトが『王の間』で初めて相見えた闇の王の姿だった。

 アキトは《闇蝕の剣》を中段に構え、後方で呆然と立ち尽くす白の民に向かって叫ぶ。

 

「何グズグズしている!早く逃げろ!!」

 

 アキトの言葉に漸く我に返り、逃げ始める白の民々。

 闇の王はその目を妖しく輝かせると、三本の腕を白の民に向けて飛ばした。

 

「───い、いやだぁ!」

「し、死にたくない!」

「た、助けてぇええ!!?」

 

 あまりに滑稽すぎる光景に、闇の王はくつくつと笑いながら、言う。

 

『安心しろ、死ぬことは無い』

 

 白の民が次々に姿を変える。人から魔物に皮を突き破り、次々に姿を変える。

 その魔物はアキトに襲いかかることは無く、闇の王に吸収されていく。

 

「……!?」

『何が起きている、という顔をしているな?』

 

 闇の王は可笑しそうに笑う。

 

『白の持つ魔力を闇の魔物に変え、その魔力で俺は更なる進化を遂げる。こいつらはその為の生贄だよ』

「貴様……!」

 

 アキトは大剣を振りかぶったが、後ろから飛びかかってくる魔物たちのせいで、動きを制限された。

 

「っ!退け!!」

 

 大剣を振るい、魔物たちを切り裂くが、次々に湧いて出てくる魔物たち。アキトはやむを得ない、と言わんばかりに歯を噛み締めると自らの力を解放した。

 アキトの身体を一瞬、赤黒い光が包み、光が晴れると中から先程とは装いが違うアキトが現れる。

 

「……ぐっ!」

 

 アキトを雷の如き頭痛が襲う。闇の王はその状況に気づいたのか、目をいやらしく輝かせた。

 

『どうやら、四魔幻の魔力が原因で、力が安定していないらしいな?』

「うるさい……!」

 

 痛む頭を横に振りながら、闇の王を睨みつける。

 

『くくく……』

 

 闇の王が姿を次第に変えていく。

 紫色の体はドス黒い赤へ。アキトを貫かんとする右腕と同じ左腕が肉体から生え。周りに浮いていた小さな腕は鋭さを増し、数が三本から六本に増える。

 

『───お前を殺し、残ったソウルは俺が(すす)ってやる。安心しろ』

 

 闇の王の肉体の変化が終わるなり、アキトに突進を仕掛ける。《闇蝕の剣》で攻撃を横に流すが、完全に衝撃を流しきれず、右腕から血が伝う。

 

「……っ!」

 

 再び、頭に鋭い頭痛が走り、アキトはその顔を歪ませる。

 

「……《闇の王》!!」

 

 敢えて敵の名を叫び、アキトは翼を羽ばたかせた。

 一気に上昇しながら、大剣を構える。

 

「集まれ!」

 

 消えていったもの達のソウルを無数の刃に生成すると、急降下しつつそれらを一斉掃射。

 

「貫け!」

 

 闇の矢が、闇の槍が、闇の刃が、紅蓮の軌道を描き宙を走る。

 軌跡を追い掛けるように、大剣を振りかぶる。

 闇の王は、一切の回避行動を取ろうとしなかった。

 薄笑いを浮かべたまま、その攻撃を受ける、

 マルドゥークのような肉体に、紅蓮の闇が突き刺さる。

 僅かに身体を揺らしたの隙を見逃さず、アキトは大剣で巨大な目を貫いた。粘液質な闇が飛び散り、アキトにこびり着く。

 そのまま飛翔して距離を取り、素早く振り向く。

 アキトの視線が捉えたものは───

 

『その程度か?』

 

 闇を引き戻し、何事も無かったかのように佇む闇の王の姿だった。散々攻撃した体には傷一つ残っていない。

 

「バケモノか……!」

『それより、それは避けなくてもいいのか?』

 

 闇の王がそう言うと同時に、アキトにこびりついていた闇が爆ぜ、鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ス!』

 

 ───声が、聞こえる?

 

『……ア……ス!』

 

 ───私を、呼ぶ声が?

 

『アイ……ス!』

 

 ───いや、でも……私を待っている人なんてこの世界にはいない

 

『───アイリス!』

 

 ハッとなって目を開いた。血の色をした空。それらを背景に浮かぶ、小さな───それでいて凄まじく巨大な存在感を放つ物体たち。

 片方はマルドゥークのような身体を持つ巨体。もう片方は人、男だった。

 鋼を鍛えたように鈍い光を反射する篭手とブーツ。

 (なび)くコートはボロボロになり、背中に生えた翼は力なく動いている。風で揺れる髪は、夜空のような漆黒───。

 

「王子様!」

 

 空から恐ろしい速度で落下した男の、顔が垣間見えた瞬間、アイリスは吸い寄せられるように彼が落下した元まで駆けていた。

 

 ───早く。

 

 ───早く、彼の元へ。王子様の元へ。

 

 アイリスは、自らが出せる限界の速度を出し、ひたすらに駆けた。

 身体がおかしくなるほどに感じる程に感じる思慕と同時に、針で突き刺されるような痛みがアイリスの頭を貫いた。思わず顔を苦痛に歪める。

 走る度に、数十分前までの光景がフラッシュバックする。

 

 ───人を手に掛けた感触。

 

 ───血を握りしめた感触。

 

 ───生暖かい人の鮮血。

 

 ───その中で、一人君臨する光の王(アイリス)

 

 罪の意識で押しつぶされそうになる。それでもアイリスは闇の王子の元まで駆けた。

 闇の王子が地面に落下する前に、アイリスは両手で闇の王子を抱え、手短な瓦礫へと姿を隠した。

 アイリスは顔を歪めた。

 傷つき、血を流しながら苦悶の声を上げる少年が、そこにいた。

 苦しげな顔を浮かべる闇の王子の顔に、小波のような震えが走った。

 

「……アイ、リス?」

 

 ひび割れ、掠れた声が、傷だらけの唇から零れた。

 

「ごめんなさい……!」

 

 アイリスはそのまま闇の王子の体を優しく、強く抱き締めた。自分の両目から熱い雫がとめどなく溢れるのを感じた。

 意識がなかったとはいえ、アイリスが彼にしたことは決して許されることではない。体を差し出せと言われれば喜んで差し出したし、腕を切り落とせと言われれば喜んで切り落とすつもりだった。だが、彼はふるふると首を横に動かすと、アイリスの目元に手を動かした。

 

「……謝らないで」

 

 闇の王子は力なくアイリスに笑いかけた。

 

「あなたの……君のせいだけじゃない」

 

 アイリスはその時、初めて自分が抱く感情の正体に気付いた。

 

 ───アイリスは彼に助けを求めていたのだ。

 

 だが、不思議と動揺はしなかった。

 

「大丈夫、あとは全て私に任せて───」

「……ダメだ。光の王だけじゃ、あの姿になった闇の王には勝てない」

 

 闇の王子はアイリスに離すように促すと、剣を杖にしながらノロノロと立ち上がった。

 

「……光の王。あなたにこんなことを頼むのは間違っているかもしれない。だけど、頼まれてくれないだろうか?」

「───こんな私でよければ、喜んで」

 

 闇の王子の言葉に、アイリスは首肯。

 

「……ありがとう。トドメは俺が刺します。だから、少しだけでいい、時間稼ぎをして貰えませんか?」

「……!!」

 

 闇の王子のその言葉に、アイリスは目を見開いた。

 

「そんなことをしたら……王子様が!」

「大丈夫。まだ《こいつ》があります」

 

 闇の王子は剣を叩くと、真珠色の歯を見せながら笑った。

 

「任せました、光の王」

「はい……ええっと」

「自分の名前なら、アキトです」

「……わかりました。アキト」

 

 闇の王子───アキトは不敵な笑みを浮かべると、剣を中段に構えた。

 

「ラディウス、グラキエス、レギオ、ヴェータス───お前らの力、()()()寄越せ!」

 

 アキトを中心に闇のオーラが高まる。

 アイリスはそれを見るなり、翼を広げ、血の色に染まった空へと飛び立った。

 

『───ほう、小娘。生きていたか』

「ええ、お陰様でね」

 

 腰に刺さったレクス・ルークスを全速で抜き放ち、目の前で静止する闇の王に剣先を向けた。黄金色の閃光が闇の王の周りに浮かぶ三本の腕を吹き飛ばす。

 

『どこまでも気味が悪い女だ』

「あなたに言われると私も落ちたものね」

『白の国を壊滅にまで追いやった女がよく言う』

 

 闇の王の黄金の瞳に、僅かに揺れるアイリスが映る。

 

「ええ、そうね。意識がないとはいえ、壊滅まで追いやったという事実は無くならないわ」

『くく、なら───』

「でも、ここで貴方を倒す理由とは関係ない」

 

 アイリスは闇の王の言葉を一蹴した。

 アイリスの雪のような肌に白銀の模様が浮かぶ。

 純銀を溶かしたかのようなロングヘアが青い雷を受けてたなびく。鎧のデザインが変化し、流麗な剣もまた、雷を受けて形を変える。

 

「───私の贖罪は、あなたを倒した後にするわ」

『ほざけ!』

 

 きいいいん!と高く澄んだ音が、血の空を貫いた。

 闇の王の攻撃を弾いたが、あまりの衝撃に腕が痺れた。だが、すぐに《慈愛のルーン》で痺れを癒す。

 飛び散った大量の火花が白く焼き付いたままの視界に、次の攻撃の光が見えた。

 一旦距離を取ると、迫り来る爪を横から切り飛ばす。

 攻撃が止まった。互いに睨みながら、アイリスはその口角を上げた。

 

「あなたの負けよ」

『……あん?』

 

 アイリスは剣を持った手を空に掲げ、叫んだ。

 

「破壊の光よ!」

 

 闇の王の周りにいつの間にか張りめぐされた、大量の魔法陣から放たれる黄金の光が呑み込む。

 体の部分を幾つか削ることに成功し、彼のコアが姿を現したが、コアには傷一つ付いていなかった。

 

『……効かぬわぁ!!』

 

 これではまだ足りない。アイリスはそれを知っていた。

 

「ええそうね……だから()()()()()()は彼に譲るわ」

『!!』

 

 その台詞をアイリスがは放った途端。

 アイリスの後ろを、濃密な《闇》が空気を震わせながら通過した。美しい闇の軌跡を散らしながら、猛烈な上段を撃ち込むべく剣を振るう。

 

「───切り裂く!」

 

 《闇》がアキトの持つ剣を包み込む。従来の寒気のするような魔力ではなく───荒々しく、烈火の如き嵐が、眩い軌跡を引きながら打ち出される。

 闇同士が立ち続けに激突する。巨大な閃光と爆発が世界を震わせる。

 

 強く。

 

 ───もっと強く。

 

「おおおおお───ッ!!」

 

 咆哮しながら、爆炎の嵐を突っ切る。剣を再び振りかぶり、剣に闇の魔力を込めていく。

 

『ほざけぇぇぇえええ!!』

 

 闇の王はアキトを迎え撃とうと、強靱な爪を造り、待っていた。闇の王もまた絶叫しながら爪を打ち返してくる。

 魔力がぶつかる度に、放出されるエネルギーが空間を震わせ、稲妻となって轟く。

 

「これで終わりにするんだ───ッ!!」

 

 《シャドーリベレーション》。闇の魔力を込めた一撃。鍔迫り合いになり、闇が激しさを増す。空を黒色に染め上げ、暗雲から雷が轟く。

 

 

 ───永遠に続くかと思われた瞬間は突然訪れた。

 

 

 アキトの《闇蝕の剣》が甲高い音を立てながら、真横からへし折れたのだ。

 空中に、剣の破片が流れる。

 

『俺の勝ちだ───ッ!!』

 

 高らかな哄笑とともに、闇の王の爪が、闇を纏いながら振り下ろされた。

 

「───!」

 

 聞きなれた声が響き、アキトの手に二つの手が《闇蝕の剣》の柄を握った。

 凄まじいオーラの嵐とともに、光と闇が混じり合い───

 

『なにっ!!』

 

 魔力で編まれた刀身を生やした《闇蝕の剣》が、闇の王の爪を受け止めていた。

 剣を握るアイリスが白銀の髪を揺らし、アキトを見た。

 

「いきましょう!アキト!!」

「───ああ!!」

 

 確かな声で叫び返し。

 

「───これで終わりだァァアアア!!!」

 

 光と闇の上段斬りを闇の王に向けて、渾身の力で叩き込んだ。

 白と黒の入り交じった剣は、その腕を斬り、丁度コアの位置で停止した。

 

 瞬間。

 

 闇の王を中心に、黒い波動が空を揺らした。

 闇の王が、重力に従うように地面に落下していく。

 

「……追いかけましょう」

 

 アイリスとアキトはゆっくりと落下していく闇の王の後ろ姿を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 ✧

 

 

 

 

 

 

 

『……まだ、だ!まだ終わる訳にはいかない!!』

 

 コアを破壊され、その巨体を保てなくなって尚、闇の王は立ち上がろうとした。姿が戻る。赤黒いに肉体から紫色のマルドゥークのような体へ。

 

『……まだ……終われない!』

 

 手をゆっくりと動かし、始祖のルーンの間を目指す。

 青紫色の血が白の大地を染め、汚していく。

 

『俺が……やらなければ……俺がやらないと……殺られるだけ殺られ、忘れていったあいつが───ッ!?』

 

 闇の王の手を何かかが貫いた。

 アキトがファイオスから受け取っていた白銀の剣である。

 

『うぐ……ぐっ……』

 

 姿が、変わる。

 マルドゥークのような体から青年男性の体へ。その身に纏う服は朽ち、体の至る所に生傷が刻まれ、本来、心臓があるべき部分は抉れていた。

 

「……まだ、ぁ……まだ……終われない……ッ」

「……いや、もう終わりだ」

 

 頭上から、呟くような声がした。

 顔を上げる。

 翼を広げ、ゆっくりと降りてくるアキトだった。

 《闇蝕の剣》は折れているためか、握っていない。

 

「……これが本当のあんたの姿か」

「黙れアキト!」

 

 立ち上がろうとして、転ぶ。

 アキトは地面に着地して、血反吐を吐きながら手を伸ばす闇の王を見下ろした。

 そして、戦慄の表情を浮かべた。

 彼の顔はアキトの顔に似ている───それどころか、生き別れの兄弟と言っても通用する程だった。

 

「俺が無様か!?ああ、そうだろうな!!」

 

 闇の王は呪詛のように叫んだ。

 

「この国に生まれ、捨てられ、それでも俺の事を信じてくれた《光の王》は裏切り者として処刑され!!」

 

 闇の王はアキトのブーツを掴む。

 

「そして言い放たれた言葉は『お前が闇の人間だからだ』だ!」

「……白に生まれ、闇に追放された男───!」

 

 少し遅れてアキトの元にやってきたアイリス。先程の神々しいオーラは霧散している。

 

「ああそうだ!ここの人間は───俺が《黒髪》だからという理由で黒の国に追放しやがった!」

 

 アキトとアイリスは目を思わず見開いた。そんなことがあったなんて、どの伝承にも記されていなかったからだ。これに関しては《始祖のルーン》にすら記録されていなかった。

 

「それでもなお、俺を白の国にいさせてくれようとした前任の光の王は裏切り者と言われ処された!!」

 

 闇の王の目には憎悪が宿っていた。

 彼が、世界を安息の闇に包むと言ったいう理由───それはここから起因していたのだろう。

 だが、今はそこではない。彼は、闇の王は言ったのだ。本来ならば、絶対に有り得るはずのないその言葉を。

 アイリスは肩を僅かに震わせながら、闇の王に問い掛けた。

 

「……なぜ、それを覚えているのです?」

 

 本来なら、光の王は継承と同時に、前任の光の王の記録は人々から抹消される。現に、アイリスも前任の光の王のことはまるで覚えていない。

 アイリスの問いに答えるように、アキトが闇の王の代わりに答える。

 

「魔物は人じゃない」

「……まさか!」

「彼は、薄れゆく光の王の記憶を失わないために、魔物となる道を選んだのだろう」

 

 魔物は人と違い、知性は発達していない。だから、闇の王は自身の姿を人から魔物へと昇華させることにより、記憶の紛失を防いだのだという。

 

「魔物になる秘術は使い手の感情に左右されるという。闇の王があんな姿になれたのは絶望や憎悪───そして、なにより、白の国への復讐心があったからだろう」

「知ったような口を開くな!」

 

 闇の王は吼える。

 

「お前が俺の何を知っている!」

 

 ノロノロと立ち上がり、手に闇の魔力を収容させる。赤黒い闇の魔力が地面を抉り、雷鳴を轟かせる。

 

「貴様ら共々道連れだぁぁああ!!」

 

 アイリスは何かを感じとったのか、息を呑んだ。

 

「白の国共々貴様らを消せば候補も後継者も跡形もなく消しされるよなぁ!?」

 

 闇の王が吼え、闇の魔方陣を展開しようとして───

 

「か、は……!?」

 

 魔力が消滅する。

 

「……枯渇状態のまま、大技を使おうとするからだ。そうなるって、わかっていただろ」

 

 闇の王は崩れ落ちるようにして地面に倒れた。元々空いていた穴からは耐えず泥のような黒い液体が溢れ落ち、穴を中心に亀裂が広がっていく。そして、その役目を果たしたかのように、闇の王の魔力が宙に浮かんでは消えていく。直ぐにこの魔力はアキトへと継承されるだろう。闇の王は一瞬対抗するような素振りを見せたが、魔力を行使できないことに気付いたのだろう。譫言のように呟いた。

 

「……なぜ、だ……なぜ、俺はお前らに負けた。力も魔力も、お前らの誰も勝っていたはずだ───それなのに、何故」

 

 息も絶え絶えながら、瞬きを何度も繰り返し、アキトたちを見つめる。

アキトは一瞬、考えるような素振りを見せてからその質問に答えた。

 

「呑まれない強さだ」

 

 アキトはただ一言そう言った。

 その際、アイリスにぐさりとその言葉が突き刺さり「あうっ」と変な声を漏らしていたが、アキトは無視した。

 

「呑まれない、だと……?」

 

 闇の王は(いぶか)しげに眉を顰める。

 アキトは首肯する。

 

「どんな困難があっても絶望しない。闇であっても闇に呑まれない。そんな強さ、だ」

 

 闇の王の体が消滅を始める。体が足から消え、光の粒になっては消えていく。

 

「……俺はそんな強さ、絶対に認めんぞ」

「俺は別にそれで構わないさ」

「……だが、昔光の王が俺に言った言葉の意味が───少し理解出来たような気がする」

 

 いつもの気味の悪い笑みではない。何もかもを諦めているが、どこか憑き物の落ちた笑み。

 

「……リーリエ。もうすぐ俺もそっちに行くみたいだ」

 

 リーリエ。それが恐らく、前代の光の王の名前なのだろう。いつの間にか本来の色を取り戻した空の蒼穹(そうきゅう)が何処までも広がっていた。

 

「……今度は、遠回りしないから。今度は、俺がリーリエを守るから───」

 

 闇の王の体が眩く光ったかと思うと───

 

「……逝った、か」

 

 闇の王の姿は消えていた。

 

「彼は、最後まで恨んで消えていったのでしょうか……」

「いや……」

 

 アキトは澄んだ青い空を見上げた。

 

「……少なくとも、最後はその感情はなかったはずだよ。そうだよな……?闇の王……」

 

 アキトのその声に、柔らかい風が通り過ぎた。




【次回】

エピローグ


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終章

終わりです。


 あれから数年という月日が経とうとしていた。

 光の国を壊滅寸前にまで追い込んだというのに、未だに私がこの地位で居られるのは、真相を知る殆どの人達が魔物に変えられて、真実を知るものが少ないというのが理由だ。

 彼らは闇の王が滅んでも、姿が戻らなかった。

 

『───彼らが元に戻ることは無い。闇に触れ、闇に蝕まれ。悪に触れ、闇になった者たちは自我を失い、ただの魔物と化す』

 

 アキトのその言葉に、胸が傷んだ。

 私のせいで、大勢の犠牲者が出てしまったのだ。

 責めてもの贖いとして、自ら命を絶とうと考えたが、死んだところで何もならないと悟り、今もこうして光の王でいる。

 贖罪は魔物として生きるよりはいい、という理由で私がすべての魔物を払い、殺した。

 彼らの声は今でも思い出す。怨嗟の声は今でも夢で出てくる。

 

 ───それでも私はこの『罪』を死ぬまで永久に背負っていかなくてはならない。それが、私に施された十字架だから───

 

「……アイリス様。そろそろお時間です」

「そうでしたね」

 

 今日。戦争が終結してから、初めての謁見(えっけん)である。

 互いの国の王同士が面と向かって会話をし、王宮の間にてお互いの意見を交換し合う。

 これは、先代の闇の王が消滅してから考えられた案であった。

 

「アイリス様」

「……はい、なんでしょうか?」

「黒の王が到着致したようです」

 

 そうこうしているうちに、黒の国から間者が来たようだ。息をゆっくりと吸ってから、喉の奥に詰まった言葉を吐き出した。

 

「直ぐに通しなさい」

 

 久々に彼に会える、と内心ワクワクしながら彼が来るのを待ち続けた。

 

 

 

 

 

 ✧

 

 

 

 

 ───久しぶりに来た白の国は、昔より遥かに居心地のいい国になっていた。 黒に対する嫌悪感や敵対心───というものが減ったという理由が大きいだろう。

 だが、それでも黒をよく思わない者達だっている。

 戦争時代を生き、先代の《闇の王》に家族を魔物に変えられた者達は、未だに計り知れない憎悪を黒に抱いている。

 それは、闇の王を引き継いだアキトにも、勿論影響した。

 

「……なんのつもりだ」

 

 白の国に入るなり、囲まれたアキトはうんざりした様子で民たちを見た。手には火の加護やら、水の加護やらが施された武器を手にしていた。

 

「黒の王が我らの国に何の用だ!」

「謁見だよ」

「また我らの国を襲いに来たのか!」

「そんなわけあるわけないだろ」

「まさかアイリス様を殺しに!?」

 

 酷い言いがかりだ、と愚痴る。確かに数年前は侵攻しに来たが、そもそも黒の国を襲ったのは闇の王であるし、アイリスを襲ったのもアキトの同僚であったアデルである。自分は全くの無関係だというのに、酷い言い掛かりだ。

 

「最初にも言ったと思うけど、謁見だよ。俺はアイリス───光の王と話があるだけだ」

 

 正直に、本当とことを話すも───

 

「嘘だ!俺たちを騙そうとしている!」

「黒の言うことなんて聞けるか!」

「アイリス様と会うだと!?尚更、顔を合わせる訳には行かない!!」

 

 話にならない。アキトはこれが過激派か、と愚痴りながら白の民が持つ武器を睨む。

 ランクはさほど高くはない。これなら、現在武器を持っていない自分でも素手で壊せそうだ───と、地面を踏みしめて、やめる。武力行使では何も解決に至らないことに気づいたからだ。

 つくずく王に向いてないな、と空を仰ぐ。

 

「おい、よそ見をするな!」

「いや、今がチャンスだ!やれ!!」

 

 ───前言撤回。たまには武力行使もしなければならない。アキトは振り下ろされた武器を素手で掴むと、紙を握り潰すようにして砕く。

 

「な、なに!?」

「……」

 

 砕け散った武器の破片に闇の魔力を纏わせ、アキトの周囲に浮かび上がる。

 

「穿て」

 

 武器の破片が白の民に襲いかかる───という直前で、アキトは闇の魔力を増幅、消滅させた。

 突然消えた、魔力の雨に呆然としていたが、現実感を取り戻したのか、顔を真っ赤にしてアキトに詰め寄ってきた。

 

「なんのつもりだ!」

「何のつもりでもない。俺はあんたらを黙らせただけだ」

「ふ、巫山戯るな!このことはアイリス様に言いつけてやる!」

「好きなだけすればいいさ」

 

 詰め寄ってきた民を避け、アキトはアイリスが待つ場所へと急いだ。

 

 

 

「闇の王……殿。長い旅路……おつかれ……さまです 」

「気遣い感謝する。それと、気色が悪いから普段の口調で喋ってくれないか」

「斬るぞ貴様」

「それでこそいつものあんただ、ファイオス殿」

 

 騎士用甲冑は脱ぎ、大神官のような服を見に包んだファイオスはアキトを睨むが、アキトは何も気にせず、ファイオスを見て鼻で笑った。

 

「───似合わないな」

「ほっとけ!」

「いや、本当におかしな姿だよ。道化師か?そんなことよりも撮影のルーンがあれば撮影したいところだ」

「貴重なルーンをそんなもののために使うな!」

 

 そんな談笑を繰り広げながら、面会の場所まで足早に進む。

 

「……それでは、私はここで」

「いつか剣を交えましょう」

「……ああ、いつかな」

 

 大きな扉まで案内され、ファイオスは扉を閉めた。

 部屋の中は巨大なルーンが浮かび、何億ゴールドも掛けたてあろう装飾が施された部屋であった。

 そして、これもまた高そうな机と二つの椅子が並べられており、その椅子の一つにアイリスが座っていた。

 

「……お待ちしておりました」

「数年経った今でも黒との関係は改善したとはいえ、まだ不仲なまま……こんなこと、到底あっていいとは思わないが」

 

 その言葉に首肯するアイリス。

 

「はい。私が信用出来る大臣の方々にも猛反対されました」

「それはそうだ。いや、そうでしょう」

 

 数年前の戦いの後、アイリスは信用出来る者のみで構成された組織を造り上げた。黒にそれほど嫌悪感がない者達のみで構成された組織ではあるが、それでも一度、黒に襲われかけたことがあるアイリスを、一対一で対話をするなど正気の沙汰ではなかった。

 

「ですが、私の第一補佐官であるファイオスさんが私の意思を尊重してくれたので、この無理もなんとか押し通すことが出来ました」

「……あいつもよくやるよ」

「本当ですよ。どうぞ、お掛けください」

 

 言われるがまま、アキトはアイリスと対面する形で座った。

 

「……」

「───其方からどうぞ。話したいことがあるのでしょう?」

「……ずっと、言えなかったことです」

 

 胸を抑えながら、苦しそうに一言一言、言葉を紡いでいく。

 

「……あの時は、申し訳ございませんでした。あと少しで───私はあなたを殺めているところでした」

 

 アイリスは細長い剣をアキトの手元に転移させると、言う。

 

「あの時のことを恨んでいる───というのであれば、私をここで殺してくれても構いません。気が済むまで嬲っても構いません。それで、あなたの気が収まるのなら───」

 

 肩を震わせながら言うアイリスに、アキトは天井を仰いだ。

 

「俺は、あの時のことを一度だって恨んだことなんてない」

「……え」

「完璧な人間なんていない───それは、かつての恩人が教えてくれた言葉だ。それがたまたまあの時だった。ただ、それだけな話だ」

「でも、そのせいで私は大勢の人を───」

 

 アキトはアイリスに視線を向けた。

 

「ああ。記憶が無いにせよ、沢山殺した」

「───!」

「アイリス。あんたの罪はここで死ぬことやましてや強姦まがいのことをされるでもない」

 

 細長い剣をアイリスの真横に投げると、アキトは目を細めて言った。

 

「……その『罪』が過ちだと気づけたなら、それでいい。その『罪』を一生背負えばいい。それは、俺も同じだから───」

「……えっ?」

「いや、なんでもない。それじゃあ、これからの我々の関係について、話しましょう」

 

 話をはぐらかされたことに、なんとも言えない表情を浮かべたが、アイリスは息を吐き普段の様子に戻る。

 

 

 ✧

 

 

「───数年経った今も、国の再建の目処が立たない?」

「……恥ずかしながら。先代が男手をほとんど魔物に変えてしまったもので……」

 

 アイリスはふむ、と手を顎に当てるととんでもないことを言った。

 

「……なら、数名の白の民を其方に移住させてみますか?」

「っ!?」

 

 アキトは思わず目を剥いた。

 前よりも幾分か関係は改善されたとはいえ、未だ対立が続いている白と黒。そんな白の民を黒の国に移住させるなんて───。

 アキトの意図に気づいたのか、アイリスはああと頷く。

 

「私の方からは比較的黒に恨みがない者を連れてきましょう」

「だ、だが……」

 

 そんなこと、上手くいくのだろうか。

 

「失敗ばかり想定していては成功するものもしなくなりますよ?そうでしょう?」

「……」

 

 それも一理あるだろう、と首肯したアキト。

 

「……検討しておきます」

「はい。ありがとうございます」

 

 白と黒の均衡はこの先も続いていく。

 この世界線ならば未来永劫、大陸の崩壊が起こることはないだろう。

 

 

 

 

 

 ───そして、()()()()()

 白の大陸の崩壊から、長い年月が経過し、それからまた、数年。

 白の少女は、朽ちた大地にいた。本来あるべき青色の右目は金色に染まり、白い衣装は所々が黒く染っている。

 髪も本来の銀色の髪ではなく、色素が抜け落ちたような白色に染まり、背中から生える翼も黒く朽ち果てた片翼。

 少女は覚悟を決めた表情でたった一人の最終決戦へと挑むのであった。



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WORLD END -上-
終焉の日


 これは、そう遠くない未来の物語───

 

 幾多の試練を越え───

 

 数多の絆に助けられ───

 

 今、新たな理に手が届く───

 

 そう、これは───はじまりとおわりの物語。

 

 未来に希望をつなぐ物語。

 

 その、筈だった。

 

 

 

 

<終焉の日>と呼ばれる大厄災は世界を一変させた。

 

 天変地異が起き、その被害によって多くの命が失われた。

 次に起きたのはルーンの消失。全てのルーンが力を失い、朽ちていったのだ。

 ルーンの恩恵を失った者たちは、その命を燃やすように争いをはじめた。

 

 ───だが、戦争も長くは続かなかった。

 

 ソウルの枯渇現象により、争う術すら失われていったからだ。精霊や妖精は姿を消し、人々もまた活力と希望を失っていった。

 私は、そんな世界で───多くの絶望を見た。

 生きるために尊厳を捨てていく人々を見た。盗み、奪い、殺しあう人々を見た。

 

 それでも私は抗いたかった。世界は、人は、そのようにできてはいない。

 

 世界は美しかったのだから───

 

 でも、私の抵抗は無駄だった。ちっぽけな私に世界を元に戻す力なんてない。

 

 私は一人で荒野に倒れた。もう立ち上がる気力もなかった。絶望に押し潰された。

 

 そんな時───

 

 

「……そこのあなた、大丈夫?」

 

 

 ───黒い剣を持ったアイリス様と出会った。

 

 

 

 

「エレノア、全部採っては駄目よ。新芽や小さいものは残していくの」

「はい!と言われましても……みんな小さいと言いますか……」

「───可能性に賭けましょう」

 

 アイリス様は一つ一つ見分けながら、その小さな手のひらに草を採集していく。

 

「そうですね。でも、どうして食べられる草とかわかるのですか?」

「これは山菜よ。昔、まだ緑が残っていた頃、冒険のついでにアキトと採ったりしてたから───どうしたの?」

 

 アイリス様は私の表情を見て、首を横に倒した。どうやら、感情が表に出ていたらしい。思わず慌てる私に不審そうに眉を顰めるアイリス様。

 

「言いなさい、エレノア」

「い、いえ……アイリス様が笑っていたので。なんか、嬉しくて。楽しい思い出なんでしょうね。」

「……そうだったかもしれないわね」

 

 アイリス様は懐かしいことを思い出すかのように、目を伏せると立ち上がった。

 

「……他にも食べ物があるかもしれない。探しましょう。」

「はい

 

 背中に黒い剣を背負ったアイリス様の小さな後ろ姿を私は追った。

 

「あうっ!?」

 

 途中で何も無いところでコケたのは見なかったことにしておきましょう。

 

 

 

 

 祈りを終えたアイリス様は手を合わせて小さく呟いた。

 

「いただきます」

「はあ……久しぶりに具のあるスープ……幸せな気分になりますね」

「そうね……ッ!?」

 

 まだ熱いスープを口の中に運んだアイリス様は噎せながら、口の中に風邪を送った。

「ちゃんと冷ましたはずなのに……」と愚痴っていたのは聞かなかったことにしておきます。

 

「アイリス様、まだ、この島を探しますか?」

「……はふっ……そうね、そろそろ次の島へ移動してもいいかもしれない」

「みつかるといいですね、キャトラちゃん」

「ええ……」

 

 アイリス様に助けられた私は、このようにして一緒に旅を続けていた。アイリス様はどうやら、キャトラという名前の子猫を探しているらしい。

 だが、その名前を口にする時、アイリス様は時々泣きそうな顔をする。その表情を消したくて、私は、ことさら明るく振る舞うのだ。

 

「あうっ!?」

 

 やっぱり、なんでもない所でアイリス様は盛大に転びます。

 

 

 

 

「アイリス様、次はどの島に行きますか?」

 

 その言葉に手を顎に当てて考えるアイリス様。

 

「あなたが行ってみたい、思うところはどこなの?」

「あ、ええっと……アオイの島とか、ジモ島とかに……」

 

 アイリス様は長い睫毛に縁取られた大きな瞳を閉じると、唄うように呟く。

 

「どちらも素敵な場所だった。ただ、この島からだと少し距離がある」

「……そうなんですね」

 

 残念そうに言う私の姿を可笑しそうに少しだけ笑い、アイリス様は毛布を被った。

 

「もう休みましょう。明日から、また旅の準備をしないといけないから」

「はい、おやすみなさい。アイリス様」

 

 アイリス様は、目を瞑るとすぐに吐息を立てて寝始めた。

 

 ───アイリス様が抱える悲しみを私は知ることができない。

 歯痒かった。私が笑っていられるようにアイリス様も笑顔にしたかった。

 それだけが私の望みだ。それだけが、なにもないこの世界で私が心に抱いた唯一の希望なのだ。

 

「アイリス様、スープができました!」

「今日もおいしそうね」

「これだけ食材が少ないと……料理も工夫のしがいがありますね

 

 猫舌なのを忘れて、アイリス様はスープを啜る。

 

「ふぅ……お腹いっぱいです」

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまです

 

 今日もアイリス様は心からの微笑みを見せてくれない。

 

「アイリス様、大丈夫ですか?」

「ごめんなさい。少し休ませて……」

「あちらの岩かげで休みましょう」

 

 あれから、どれだけの夜を越えただろうか───

 私たちは、まだ一緒に旅を続けている。最近のアイリス様は元気がない。

 もともと明るい方ではなかったがここ最近は体調もよくなかった。

 

「あうっ!?」

 

 ついでに、なんでもない所で転ぶ回数も増えた。

 

 

 

 

「アイリス様、とっておいた干し肉、ここで食べちゃいましょう!今夜は奮発ですよ!!」

「ありがとう。でも、私はいいわ。あなたが食べて」

「ダメです。アイリス様が食べてください。今朝からなにも食べてないですよね?」

「……そうね。ありがたく、いただきます。」

 

 (放っておくとアイリス様はなにも食べない……本当に死んでしまう……このままではダメだ。でも、どうしたら、アイリス様に生きる希望を持ってもらえるのだろうか?いったい、なにを抱えてこんなに弱ってしまっているのだろう?わからない……)

 

 

 

 突然襲いかかって来たゴブリンの軍勢を退けた私達は岩陰に身を隠していた。

 胸に手を当てて息を整えているアイリス様を見る。

 アイリス様から考えられないほどの荒々しい戦い方に度肝を抜かれていたそんな私に、アイリス様は眼球運動のみでこちらに視線を向けた。

 

「どうしたの?」

 

 アイリス様が大事そうに抱えるその黒い剣から、禍々しくも美しい薔薇色の魔力が溢れていた。

 私は意を決して息を吸う。

 

「……お聞きしたいことがあります。」

「なに?」

「アイリス様、あなたに一体なにがあったのですか?」

「……」

 

 アイリス様は予想通り、その言葉で口を噤んだ。

 アイリス様の心に土足で入り込んでいるのを自覚しながら、私は詰め寄る。

 

「ずっと怖くて聞けませんでした。でも、最近のアイリス様はまるで生きることを諦めているようで───頼りにならないかもしれませんが、私はアイリス様の力になりたいんです」

「……ごめんなさい」

「やはり私ではアイリス様の力にはなれませんよね……」

 

 アイリス様は首を横に振ると、その重い口を開いた。

 

「……違うの。私はあなたを騙しているから。この世界が、こうなったのは私のせいだから」

「……どういうことですか?」

 

 アイリス様は曇天の空を見上げると、何かを思い馳せるように言う。

 

「私は光の王。かつて天上にあった白の王国を統べていた者。理の一端を担っていた者」

「───」

「信じられない?」

 

 少し可笑しそうに笑うアイリス様。

 

「その……だって……おとぎ話の……」

 

 アイリス様は息をそっと吐くとその言葉を口にした。

 

<カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム>

 

 次の瞬間、地面に光が灯り、草の芽が生え始めるが───

 

「ぐっ!」

 

 ───また直ぐに枯れてしまった。

 アイリス様は十数秒かけて息を整えると苦しそうに呟く。

 

「……光は命の輝き。その輝きが失われていく世界。それが、今のこの世界───あなたには話さなければならないわね、エレノア」

 

 アイリス様はそう言って語り始めた。

 

 長い長い、その物語を。

 

 

 

 アストラ島でアイリス様がアキトさんと出会い、飛行島を手にいれた冒険の物語。

 

 大いなるルーンを求め、約束の地にむかうための物語。

 

 失った過去を手繰り寄せるように語るその口調は、淡々としながらも静かな熱を帯びていく。

 

 アイリス様たちは多くの仲間と力を合わせ、大いなるルーンをすべて手にいれた。

 

 そして、宿敵である闇の王と対峙する───

 

「闇の王は周到だった。でも、アキトが、力を解放して───闇の王は倒されたわ。でも、代わりに……あの人は変わってしまった」

 

 アキトは闇の王の力も取り込み、この世界を破壊しようとした。

 戦いの最中、仲間たちも圧倒的な力を持つ彼の前に散っていった。

 止めたかった。止めようとした。でも……

 

 

 

 

 私は世界とあの人を天秤にかけ───私は彼を選んだ。

 

 それだと言うのに。

 

「“彼”は、最後の瞬間、私に振りおろそうとした剣を止めたの。私も止めた。少しでも彼の意識が戻ったのだと───だけど、彼は唇の片端を上げて自分に突き刺した。そして、言ったの。生きてくれ。幸せでいて欲しいって」

 

 

 でも、彼の死には意味がなかった。

 

 アキトから放たれた闇は全てを飲み込んでいったのだ。

 

 光だけではなく闇さえ蝕む呪われた力。それが<終焉の日>の原因。

 

 すべての光が消える時、闇もまた消える。そして全ては無に帰る。

 

 避けられない未来の運命。

 

「これが、この世界を守ろうとしてすべてを壊してしまった王の話よ。彼を止められなかった、私が諸悪の根源なの」

 

 アイリス様は薔薇色の魔力を纏う黒の剣を抱きしめて言った。




闇堕ちエレノアを見てると情緒不安定になる


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終焉の救世主

お久しぶりです。2018年最後の投稿です。




 遥か未来の荒野で。

 アキトとアイリスたちは巨大な悪───闇の王と退治していた。

 

「───とうとう追い詰めたわよ!!」

「私たちは負けない。必ずあなたを倒す。闇の王!」

 

 巨大な魔力がぶつかり合い、火花を散らす。

 緊迫した空気が荒野に流れ、アイリスの頬に冷や汗が伝うのを感じた。

 

「羽虫が……消えてなくなれ!!」

 

 闇の王はその強靭な爪を振るう。

 アキトが剣を横に構え、その爪をしっかり受け止めてすかさずアイリスは光の矛を展開する。

 

「力を与えよ!<破壊>の矛───」

「戯れるな!」

 

 王が目から光線を放ち、アイリスの矛を一気に消し去る。光線が直撃する直前、アキトはアイリスを抱き上げ、回避した。

 アイリスを静かに下ろし、闇の王を睨むアキトの思考に焦りが生まれた。

 

 

 ───このままでは、勝てない。

 

 

 そう思った刹那、アキトの背中にむず痒いような、灼けるような感覚が走った。

 闇の王はそんなアキトたちを嘲笑う。

 

「───均衡?笑わせるなよ、小娘。所詮は詭弁だ。天秤なんぞすでに傾いている!!」

「それを止めるために、私たちはここにいる。あなたの好きにはさせない!」

 

 アイリスが七つのルーンを掲げる。

 

「七つの大いなるルーンよ、砕けた始祖の欠片よ。今ここに真なる姿を取り戻せ───

 

<カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム……>!」

 

 闇の王は始祖のルーンの輝きを見て、その目を細くすると、静かに呟いた。

 

「<始祖のルーン>か……この我がなんの準備もしてないと思ったか……」

 

 突然、闇の王の隻腕がアイリスに向けて放たれた。為す術もなく、正面から激突したアイリスは激しいスパークと共に、吹き飛ばされた。

 闇の王は静かに嗤う。

 

「あの頃から変わらぬ妄言。均衡を求める貴様に変化などありはしない」

「くっ……」

「滅べ、光よ。闇がすべてを染めあげよう……」

 

 闇の王が四本の腕をアイリスに向けたその時だった。

 

「……まだ立ち上がるか、我が後継者よ」

 

 闇を纏ったアキトが闇の王の前に立ち塞がった。

 

「後継者如きがよく足掻く。先に光の王かと思ったが、余程死にたいらしい。貴様から喰らってやろう」

 

 アキトはその言葉に口の片端を上げる。

 

「……何が可笑しい」

「……いや。可笑しいんじゃない」

 

 負けるわけにはいかない───ここで倒れるわけにはいかない。

 

 この身が朽ち果てでも───

 

「───ぬ?」

 

 ───今度こそ俺が!アイリスを守る!!

 

 アキトの周りに膨大な魔力が集まる。アキトという器に収まりきらなかったそれは、アキトの肉体を蝕み、次第にその身体にまで影響を及ぼし始めた。

 短く切りそろえられた黒髪は闇を纏い、光を吸い込みそうな程に暗い黒い長髪へ。

 冒険者が着込むその衣装は一転、朽ち果て、草臥れた黒のロングコートへと形を変え。

 必要最低限の鎧が加えられ、手に持った黒の剣が闇を受けてその刀身を伸ばす。アキトの身長を優に超えるその剣を一回転させると、両の手でそれを支えた。

 自身の変化が終わると同時に、アキトはその黄金に輝く瞳を細める。それと同時に血のように赤いメッシュがアキトの前髪の一部に刻まれた。

 

「……なんだ、それは?その力……」

 

 アキトの変化に顔を顰める闇の王。

 

「アキト、なにが……?」

 

 アイリスは見たこともないその歪な姿に呆然と呟く。

 アキトはアイリスに向けてそっと微笑みかけると、闇の王を睨みつけた。

 空気を震わすほどの魔力がアキトから放たれる。

 そこで全てを悟ったのか、闇の王は目を閉じ、忌々しくその口を開いた。

 

「なるほど……我が魔幻獣の力をかすめ取っていたか。まるで匪賊の所業だな」

「匪賊だろうが関係ない。俺が望んだ力だ」

「……その力ごと、我が喰らってやるわ!」

 

 アキトは肩甲骨の辺りを広げると、そこから突き破るようにして片翼の翼が生える。あまりの激痛に苦悶の声を上げたアキトだったが、すぐに平静を取り戻すと、天高く空へと飛び上がった。

 先程とは比べ物にならない速度で闇の王を翻弄するアキト。

 

「そこだ!」

 

 闇の王が爪を振るう。しかし、その攻撃はアキトの幻影を捉えるのみで、直撃しない。それどころか背後から急接近したアキトに袈裟斬りにされるのみだ。

 

「───ぬぅ!ならば!! 」

 

 手に巨大な魔力を溜め込み、アキトに照準を合わせる。

 アキトは宙に佇み、闇の王を見据えていた。

 

「無茶よアキト!そんな攻撃アキトたった一人が受け止められるわけ───」

 

 アイリスのその言葉が言い終わる前に、闇の王の一撃が放たれる。アキトは右手を前方へと突きだし、真正面からその攻撃を受け止めた。

 数秒の時間が経過し、その光が霧散する。

 アキトが拳を突き出していた。それだけではない。闇の王の肉体を構成するコアが吹き飛ばされていたのだ。

 あの一瞬でアキトは、闇の王に反撃をしたらしい。

 アキトのかつてないほどのパワーアップに戦慄するアイリス。

 

「その力……無の……認めよう……我の敗北を……」

 

 闇の王は静かにその姿を消しながら、呟く。

 

「我は朽ちる……だが、貴様たちも……また……」

 

 そんな不穏な言葉を残して。

 

「負け惜しみも大概にしなさい!アタシたちの勝ちよ!!

 

「クククッ……すぐに……わかる……お前達の救世主は……終焉(おわり)を告げる───」

 

 その言葉と共に、闇の王は爆散した。

 

「やった……の?」

 

 呆然と呟くアイリス。

 

「やったのよ!!アタシたち、遂に……」

 

 歓喜に浸り、アキトの方を振り向くキャトラ。

 アキトも片手を上げ、それに応えようとした時───

 

 

 ───異変は、起きた。

 

「アキト、どうしたの?」

 

 アキトが剣を杖に膝をつき、急に胸を抑え苦しみ始めたのだ

 

「ちょっと!!アキト!!しっかりしなさいよ!!」

 

 キャトラがアキトに駆け寄ると、アキトの体から紅蓮の魔力が柱となり、天へと昇った。

 その衝撃で吹き飛ばされるキャトラとアイリス。

 

「……アキト?」

 

 そこに、アキトはいなかった。

 しかし、それはいた。

 

「くくく、はははははは!!!」

 

 漆黒の長髪は元の長さに戻り、白銀の頭髪へ。

 草臥れた黒のロングコートは仕立てあげられたかのような漆黒のロングコートに。

 顔には呪詛のような刻印が刻まれ、その黄金の瞳もまた紅蓮へと色を変えた。

 

「どういうこと!?アイリス!アキトが!!」

 

 膨大な魔力が空を裂き、大地を割る───

 

「素晴らしい!よくぞここまで虚無を溜め込んだな!闇の王子!!」

 

 アキトは意味不明な言葉を叫びながら、笑い狂う。

 

「なんなの!?なにが起こってるの!?」

「囲え!<慈愛>の檻よ!!」

 

 咄嗟にアイリスはアキトを光の檻で監禁する。

 しかし───

 

「そんなもので我を縛れると思うな!!」

 

 ───それは直ぐに砕かれた。

 

 ジリジリと後退するキャトラ。

 

「アイリス、まずいわ……なんか嫌な予感がする!あの力は、闇じゃない。なんか違う!!」

 

 そんな中、ただ一人アイリスは一歩前に出た。

 

「<始祖のルーン>よ、全ての光を、ここに───」

 

 アイリスのその判断に目を剥くキャトラ。

 アイリスの姿が光を纏い、変わっていく。

 ボロボロだった巫女服は当時、光の王であった時服へと変わり、刃こぼれが起きていた剣は、アイリスの光の魔力を受けて、光の刀身を纏った。

 

「……くっ!」

 

 タダでさえソウルが底をついていたアイリスは目眩を起こし、頭をふらつかせる。

 

「アイリス!無茶しないで!」

「キャトラ、あの人と約束したの。一緒に支えあおうって。だから、止めなきゃ。私の全てを犠牲にしてでも……」

 

 アイリスは力なくキャトラに笑いかける。

 

「まったく……今日はとんだ災難ですよ。あうあうだぜって、言うのかな?」

 

 アイリスは一言そう愚痴ると、その身を投げた。

 

「アイリス───!!」

 

 キャトラの悲痛な叫び声が、荒野に響き渡った。

 

 

 闇の王を打ち倒したその日、世界は死病に取り憑かれた。

 

<終焉の日>と呼ばれる大厄災。

 

 ルーンは光を失い、ソウルは枯れ果て、命が死に絶えていった。

 

 そう、これは、はじまりのおわりの物語ではない。

 

 未来に希望をつなぐ物語でもない。

 

 これは、おわりのはじまりの物語。

 

 これは、私の絶望と贖罪の物語。



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新たな輝き

時系列がだいぶ飛びます。


「フハハハハハ!!いい!実にいい!!これが魔幻獣の力か!!」

 

突然現れた謎の男───ロイド・イングラムにアイリスたちは緩んだ空気を一気に引き締めた。

 

「この力は……<闇>の……」

 

あってはならないはずの力。

ただの人間が手にしてはならない力。

 

───それを目の前の青年はいとも簡単に扱ってみせたのだ。

 

アイリスの頬に汗が垂れる。隣にいたエマは斧を杖代わりにしながら立ち上がり、ロイドに向かって叫ぶ。

 

「おじさん、どうして!?」

「いい加減、くだらん問答には飽きたよ、エマ……おっと!」

 

闇の一部を解放して、ロイドに急接近していたアキトは《レディセンス・リベリオン》を放つ。しかし、闇の斬撃がロイドに届く前に、障壁によって阻まれた。

喧しく笑うロイドに思わず舌打ちをつき、後方は跳躍。アキトは剣の切っ先をロイドに向けながらエマの方を見やった。

 

「アキトさん……すみません……」

「戦う意思があるなら構えろ。目の前の此奴は───敵だ」

 

すると、ロイドは額を抑えて笑い始める。

あまりの気味の悪さに、一層警戒心を高めるアキトとアイリスたち。ロイドはひとしきり笑い終えると、その狂気に歪んだ笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「そう怒らないでほしい。君たちとは、仲良くやってきたじゃないか?善良な考古学者として君たちに情報を与えたこともあったし───時には、こうして自ら赴き、君たちを振り回してもやった。あるいは友情を、共感を、仲間意識を私に感じたのではないかな?私も楽しかったよ。嘘じゃない、本当さ。君たちを欺いてる瞬間、私は生きていることを感じられた!」

 

ロイドの姿が次々に変わっていく。

考古学者、美女、そして研究家───最後にまたロイドの姿に戻る。

アキトは蒼の瞳を細め、眉間に皺を寄せた。

 

「戯言はよせ。そんなこと、微塵も思っていないだろ」

「……流石は闇の王子。よく分かっていらっしゃる……その通りだとも。全部嘘だ。そこの闇の王子の言う通り、実はなにも感じていない。今、この瞬間も、私の心は穏やかだ」

 

ロイドは口元を三日月状に歪ませると、アキト達を見据える。

 

「いい加減、飽きてきたよ。自分にも、この世界にも……」

「到底穏やかなやつが言うようなセリフとは思えないけどな」

 

瞬間、アキトの姿が消えた。地上に広げられた魔法陣がロイドの足を捕え、動きを鈍くさせる。

 

「───ぬ」

 

赤黒い光となり、魔法陣の中を駆け巡り、ロイドの体を切り裂いていく。

《黒の刻》。今のアキトが使える最強の技だ。

 

「これで……!」

 

黒の剣を振りかぶった時だった。アキトの真横にロイドが現れ、アキトを地面に蹴り飛ばした。

速度を殺すことができず地面に直撃したアキトは頭から夥しい量の血を流した。

 

「……最強と言われた闇の王子もここまでか」

「まずい!!防壁展開!!」

 

ルーファスの持つ武器が光の壁を展開し、ロイドの放つ光線を遮る。

 

だが───

 

「くっ……限界か……?」

 

光の壁にヒビが入っていく。未だ地面に這い蹲っているアキトはその光線を睨みつける。

 

───これでも、届かないのか?

 

そう願った時、アキトの身体に少しだが、力が戻ったような気がした。

アキトは足に力を込めながらゆっくり立ち上がる───

 

「させないっ!!<カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム>!!」

 

しかし、その声と共に光線は掻き消え、疲労していたアイリスたちに回復の魔法が掛けられた。アキト一人を除いて。

 

「光線を……掻き消した、だと?」

 

アキトは力を取り戻したアイリスたちを横目に、ロイドとアキトの間に立つ人物を睨んだ。

声からして、女。しかもアイリスとさほど歳は変わらないはずだ。精々、十代中間あたりの年齢だろう。

だが、アキトが驚いたのはそこではなかった。

 

「今のはアイリスの呪文と同じ───」

 

少女は自身に光を集めながら、歌うように詠唱し始める。

 

「───七つの力がうちの一つ、<運命>の歯車よ───

 

───我はその巡りに異を唱える───」

 

その時、アキトはあることに気づいた。

 

「周囲のソウルが……彼女の元に集まってる……?」

 

自然のソウル、死人たちのソウル、そしてアキトの闇のソウルまでが少女の元に集まっていたのだ。アキトは闇の後継者としての状態を解除し、どっと押し寄せてくる疲労による転倒を剣を杖代わりにして防いだ。

 

「───歯車は仮初めの姿───その巡りを逆巻かせ、あるべき真実を示せ。

───七つの力がうちの一つ、<流動>の導きよ───

我はその流れに異を唱える───新たな道を開き、運命を覆せ───」

 

その時、空間が大きく歪んだ。

あまりの力の膨大さに絶句するアイリスたち。一瞬、あたりが眩く輝いたかと思うと、アイリス一行はその姿を消していた。

少女はその場に残ったアキトに目を向けると覚悟を決めたように睨みつけた。

 

「……ごめんなさい。私は、あなたの敵になる道を選びました」

 

少女は目深まで被っていたフードを外すとその顔を晒した。

ブロンドの髪を青色のリボンで括った美少女である。少女は空間から剣を取り出すと、ロイドに剣の切っ先を向けた。

 

「……ロイド・イングラム。この世界を、終わらせたりはしない」

 

あまりにも眩い輝きに、アキトは思わず目を瞑った。



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罪の継承

主人公メイン。


 気づけば暗闇にいた。

 光が指すことの無い暗闇だ。

 

 ここはどこだ。俺はなぜ、ここにいる。

 

 答えるものはいない。そう思われた。

 

『───ようやくこうして話が出来るな。闇の王子』

 

 顔を上げると、そこに居たのはアキトの身を遥かに超える異形のバケモノであった。何本もある手を持ち、巨大な目をギラつかせながら、アキトを見下ろしていたのだった。

 アキトはそのバケモノの正体を知っていた。

 

「……ヴェータス・マヌス!」

『然り。我は四魔幻獣が一角、ヴェータス・マヌスである』

 

 金属のような鱗を上下に動かしながら、ヴェータス・マヌスはアキトを見下ろす。

 

「……恨み言でも言いに来たか?よくも俺を殺しやがって、お前を呪い殺してやる───とか」

 

 アキトはふらつく頭を片手で抑えながら呟く。

 目の前の異形はアキトたちが数分前、倒した魔物であった。戦う最中は意識を持っていることなんて知らなかったが、きちんと喋れる機能はついていたらしい。

 だとしたら、目の前のバケモノは───ヴェータス・マヌスは、アキトのことを恨んでいるに違いない。疲弊する前のアキトですら苦戦していたというのに、魔力が底をついているアキトではまず勝つことが出来ないだろう。

 しかし、身構えたアキトに向かってヴェータス・マヌスが言い放った言葉は予想外の言葉だった。

 

『───いや、闇の王子。貴様には感謝している。我をあの忌まわしき枷から解き放ってくれたのだからな』

 

 予想もしてなかった言葉。アキトは目を丸くした。

 そう言えば、四魔幻獣たちには決まって何者かに動きを阻害されているという共通点があった。それが目の前のヴェータス・マヌスのいう枷、というものなのだろう。

 

「……四魔幻獣の一角に感謝されるなんてな。天地がひっくり返っくりかえるんじゃないか?」

『随分と面白い冗談を言う。我の知る貴様は、無口だったが?』

「はっ、冗談くらい嗜まなきゃこんな状況呑み込めるか───それで、要件はなんだよ。駄弁をしに来た訳じゃないだろ」

『その通りだ』

 

 ヴェータス・マヌスは9本の腕を巧みに動かすとアキトに急接近する。

 

『そんなに身構えるな。我は貴様に力を授けに来たのだ』

「力を───?笑わせるな。お前たちのその力は世界を破滅へと導くだけだろ!」

 

 気づけば声を荒らげていた。

 アキトはこの世界とアイリスを愛している。そのためだったら悪魔にだって魂を売る覚悟がある。確かに、ヴェータス・マヌスの力が手に入れば世界を救うことだって可能だろう。

 

 ───しかし。それは制御できればの話だ。

 

 闇の王はこの力を制御できなかったという。なら、闇の王より闇の力が劣るアキトがこの力を制御できるはずがない。

 

 そして、最悪の場合───

 

『何か勘違いしているようだが───』

「───?」

『我らがあの男の力にならなかったのは理由があってこそだ。奴は世界を安寧の闇に包み込むことだけを常に考え、他のことは考えもしなかった。だから我らは奴を拒んだのだ』

「そんな話、信じられるわけ───」

 

 瞬間、ヴェータス・マヌスはアキトの身体を掴み上げた。巨大な隻眼がアキトを睨む。

 

『よく聞け闇の王子。貴様が我らを受け入れないのは勝手だ。そうなった場合、誰が我らの力を使うと思う?』

「……なに?」

『光の王だ。奴はお前のためなら自分の体が崩壊するのなんて気にしないだろう。そうなった場合、世界の均衡が崩れ、破滅への道を辿る』

 

 ヴェータス・マヌスの言葉に血が出んばかりに手を握る。

 

「……それじゃあ、どうしたらいいって言うんだよ!?」

『貴様が我らを受け入れる他ない。安心しろ。お前の糧になれば、我らの人格は自然消滅して、闇は自然とお前に馴染む』

「……だが、過ぎた力は暴走の危険性が───!」

『なに腑抜けたことを言っている!光の王と世界を守るためだったら暴走なんて抑えてみせろ!!』

 

 ヴェータス・マヌスの言葉にアキトは僅かながら目を見開いた。

 数秒の沈黙が開く。アキトは息をゆっくり吸うとヴェータス・マヌスの瞳を見つめた。

 

「……力はどうやって受け取ればいい」

『その気になったか』

「答えろ」

『簡単だ。拳と拳を合わせればいい。そうすれば力の継承は終了だ』

「……それだけか?」

『ああ。それだけでお前の闇は遥かに増幅される』

 

 アキトは数秒唸った後、右手をヴェータス・マヌスの前に突きだした。

 ヴェータス・マヌスは瞳孔を細めると一本の腕をアキトの拳にくっつけた。

 

『これで我の役目は終了だ。残りの四魔幻も時期に目覚める。その時はまた、闇を継承しろ。そして、「我こそが最強の後継者」だと名乗りを上げろ』

「……ああ。やってやるさ」

 

 大量の闇がアキトの中に流れ込んでくると同時に、アキトは再び意識を失った。




5周年イベント始まりますね。私は王子様が当たれば今回のガチャはいいかなと思ってます。配布だとガチャを回さなくて済みます。
そう言えば白猫プロジェクトのプロローグにて主人公のグラフィックが三周年闇の王子に変わったそうな。三周年闇の王子持ってる方はグラフィックチェンジみたいな機能入れてもいいと思うんですけどね。まあないでしょうけど。

長尾景虎さんが可愛いですね。さすが奈々さん。





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黒キ運命

ワールドエンド編が終わったら島編でも投稿しますかね(なお更新頻度)


 ───戦う。世界を守るために。

 

「ちょっのアキト!早いわよ!!」

 

 ───戦う。アイリスと共に歩む世界のために。

 

「アキト、休まなくて大丈夫なの?」

 

 ───敵は邪魔だ。退け。消え去れ。退かないのなら殺すだけだ。

 

「アキトッ!!」

 

 

 

 

 最近のアキトはどうもおかしい。それに気づいたのはエレノアと戦ってから数日が経過した時だった。

 普段から敵は斬る、という意志を持っていたアキトだったが、これはどう見ても異常だった。

 

「アキト……少し、休んだ方が」

「大丈夫だ。俺はまだ戦える」

 

 敵に対する執着が以前と比べ物にならないほど増幅しているのだ。無闇矢鱈な殺生を好まないアキトだったが、最近は盗みを働こうとしたほしたぬきの子供を火で炙ろうとしたので、慌ててアキトを宥めたのは記憶に新しい。

 何が彼をそこまで追い詰めているのだろうか。

 

「アキト、もし私に出来ることがあったら───」

「俺一人で大丈夫だ」

 

 そう言って、アキトは私たちを遠ざける。既に限界が来ているのではないかと思うその体を闇の力による超回復とポーションで強制的に回復。次の日は昨日の疲れが嘘かと思うくらいに暴れまわるのだ。

 

「カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム」

 

 闇を抑えることの出来る魔術を使おうと、アキトには通用しなかった。魔術をあろう事か破壊し、敵を完全に排除するのだ。そして、その後に───

 

「なぜ邪魔をした」

「なぜって……!このままいったらアキトの身体が壊れるかもしれないんだよ!?昨日だって利き腕が吹き飛んだじゃない!!たまには休んで───」

「いくらアイリスからの頼みだろうと、こればかりは聞くことが出来ない」

 

 そう言って、アキトは聞く耳を持たない。そして、いつも決意を固めたような表情で言うのだ。

 

「───もっと、強くならなければならない。強くなきゃ意味がないんだ」

 

 

 

 

 

 みんなが寝静まった後に、こっそりと抜け出す。アキトには強烈な睡眠作用を起こす魔術を仕込んだ料理を大量に食べさせたので、今夜起きることは無いはずだ。これなら起きることは無いはずだが、もし目が覚めたら私共々慈愛の檻の中に閉じ込めるつもりだ。

 川辺を歩いていると、プラチナブロンドの髪の少女が裸足で川の中に立っていた。

 エレノアだ。

 誰かに祈りを捧げているのだろうか、手を合わせながら星空を見上げていた。

 どうも、話す気にはなれない。

 彼女の事情はよく知っている。自分の未来を変えるために、この時代にやってきた少女だ。本来なら、時間介入は許されていないことなのだが、私も因果律を歪めて時を十数秒ほど止めることが可能なので、彼女のことは何も言えないのだが。

 ずっと見ていると、エレノアは突然苦笑いを浮かべて困ったような微笑みをうかべた。

 

「……流石にそんなに見られると照れてしまいますよ。アイリス様」

 

 どうやら、ずっと気づいていたようだ。

 意を決して、息を吐くと、川から出て温熱魔法で足を乾かしているエレノアの元まで向かった。

 

「こんな時間に起きるなんて珍しいですね。怖い夢でも見ましたか?」

 

 柔和な雰囲気の彼女にどことない違和感を覚える。しかし、人にはオンオフというものがあるので、これが彼女の本性なのだろう。アイリスは慣れぬ彼女の態度に動揺しながら話しかける。

 

「……エレノアは」

「はい?」

「エレノアは、アキトを殺すの?」

 

 震える声で、訊ねる。すると、エレノアは一瞬思考を巡らせると、力なく笑った。

 

「いえ、私ではアキトさんには勝てません。なので、殺すというのは出来ないでしょう」

「───え?」

 

 ならなぜ、あの時彼女は敵になるかもしれないと言ったのだろうか。

 その表情が顔に出ていたのか、エレノアは答えを告げる。

 

「だけど、暴走する前にアキトさんを止めることは出来ます」

「……どうやって?」

「暴走して人格が変わる前にアキトさんから闇の一部を抽出します。そうすれば、暴走しているアキトさんも自我を取り戻すはずです」

「……その闇はどうするの?」

「───」

 

 エレノアは答えなかった。しかし、彼女がなんと言おうとしているかは分かった。分かって、しまった。

 

「……駄目よ、エレノア。それは貴女の身体を蝕む行為よ」

「……。覚悟の、上です」

「でも───」

「───未来を変えるためなんですッ!!」

 

 エレノアの剣幕にたじろぐ。

 彼女の決意は揺らぐことはないだろう。このままいってしまえば、確実にエレノアの身体は闇に侵され、消滅してしまう。

 どうすればいいのだ。私にはやれることがないのか。そう思っていた時だった。

 

「───余計なお世話だ」

 

 振り向けば、アキトが木にもたれ掛かりながら立っていた。睡眠魔法をあんなに導入したと言うのに、なぜ動けるのだろう。見れば、目の下には大きなクマが刻まれており、闇で無理矢理無力化したのだろう。結果、体力の低下が起きていた。

 

「エレノア……だったか。俺はこの闇に乗っ取られることなんてない」

「そんなこと言ったって未来では───ッ!」

「未来の俺だって途中までは制御出来ていたはずだ。今の俺みたいにな。ならば、最後まで集中力を切らさなければいい」

「あなた───ッ!」

 

 瞬間、アキトの姿が掻き消え、エレノアの首筋に黒の剣を突きつけていた。黄金に変わった瞳でエレノアの顔を睨めつけながら、アキトは云う。

 

「これ以上何か言ってみろ。俺はこの場でお前を殺す」

 

 アキトはエレノアから顔を離すと、森の奥の方へと歩み始めた。

 

「───アキトッ!?」

 

 慌ててアキトを止めるも、アキトは振り返らない。しかし、一瞬足を止めて言うのだった。

 

「───ごめん」

 

 アキトは黒の剣を手にしたまま森の奥の方へと消えていった。



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最凶

 宿敵、ロイド・イングラムと対峙していたアイリスとエレノアは後方から近づいてくる足音に気づき、首を後ろに向けた。

 薄汚れた赤い髪、爛々と輝く青い瞳。そして、手に持った黒い剣───間違いない、数週間前に姿を消したアキトだった。

 どこで何をしていたのかはわならないが、無事だったようである。

 よかった生きてた、と安堵の息をつくアイリス。

 そんなアキトは面持ちをゆっくりと持ち上げて、目の前で浮遊するロイドを睨めつけるとその視線を鋭くした。

 

「……ようやく、見つけたぞ───ロイド……イングラムッ!!」

 

 低く唸る声でアキトは叫んだ。

 瞬間、身も毛もよだつ殺気が半壊していた建物に直撃、辺り一帯を更地に変えた。

 

「アキトさん!?」

 

 すぐに何かに気づいたような表情を浮かべるエレノア。

 

「アイリス様っ!逃げてください!今のアキトさんは───ッ!?」

 

 瞬間、ドス黒い風が靡いた。一瞬でアイリスの横に立っていたエレノアの真横に立ち、薙ぎ払うように腕を振るい、吹き飛ばしたのだ。

 アイリスの横に立ったアキトは興味がなさそうにエレノアを見ると、ロイドの方に足を進めながら、剣を抜く。

 

「……アキ、ト?」

 

 そこで初めてアイリスは気づいた。

 アキトの闇が、嘗てないほどに膨張していた。

 

「どう、したの?その闇の量……」

「……」

 

 アキトは何も答えない。ただわかってしまったことがある。

 ここまで強大な闇を集めるには莫大なソウルが必要になるということで───アキトは沢山の生物をその手にかけたのだということを。

 

「ねえ、アキ───」

「黙っていろ」

 

 アキトが見たこともない表情でアイリスを一瞥。アイリスはたたらを踏んだ後、思わずしりもちをついた。

 

「……頼むから、俺の前に出てこないでくれ」

 

 思いつめたような表情で手に持った黒の剣の切っ先をロイドに向けた。

 

「……ロイド・イングラム。お前は俺に言ったな。『闇の王子はこの世界を破壊する怪物になる』と」

「はて。そんなことを言ったような、言ってないような───」

「だから、決めたよ。お前を倒すために俺は───」

 

 アキトの身体から濃密な闇が溢れ出て、そこを中心に闇が竜巻の如く渦巻く。

 

「───貴様を倒す……悪魔になると!!」

 

 短かった赤い髪は光沢を放つ黒く長い髪へ。青かった瞳は暗い昏い黄金に。そして、服が黒いロングコートとアーマープレートへと変化していき、最後にアキトの持っていた黒の剣が巨大な剣へと変わった。

 

「駄目、アキトッ!」

「黙れッ!!」

 

 アキトが手を振りかざした瞬間、アイリスの周りに闇で編まれた檻が現れた。

 

「……慈愛の檻の模して創った闇の檻だ。周囲のソウルを吸収し、強度を増す。俺が解除するか死ぬまでその檻は永遠にあり続ける」

 

 アキトはアイリスを一瞥してからロイドを睨んだ。

 

「……邪魔者は居なくなった。ロイド・イングラム……始めようか」

「いいのか?光の王無しで私が倒せるとで───も!?」

 

 言っているうちにアキトは動いていた。

 風切り音を鳴らし、砂塵を巻き上げロイドに肉薄。その顔面を鷲掴みにすると、思いっきり地面に投げつけた。

 そのままアキトは急降下、剣を振り下ろす。

 

「甘いっ」

 

 しかし、そこでやられるロイドでは無い。ギリギリのところで剣を防ぎ、アキトの猛攻を凌ぐ。

 

「ッァ!!」

 

 鍔迫り合いになる。殺意の籠った眼差しでロイドを睨めつけるアキト。

 

「闇の王子ッ!お前の力はそんなものか!」

 

 アキトはそのまま口を開くと、闇を放射した。ロイドはよける間もなく直撃、喀血した。たたらを踏むロイドの頭を掴むと、アキトは小さく口を動かした。

 瞬間、アキトを中心に巨大な魔法陣が展開される。

 アキトの意図を察したのか、ロイドは表情を歪めた。

 

「貴様、まさか!?」

「……俺とお前、どちらも滅ぶしかない───」

 

 瞬間、アキトの体の中の闇が暴走する。

 

「アイリスを……この世界を守るためには……!」

 

 アキトの体が眩く発光したかと思うと───辺り一体がドス黒いほどの紅に包まれた。

 

 

 

 ⿴

 

 

 爆炎が晴れる。闇の檻がゆっくりと消え、アイリスは拘束から逃れられた。

 

「アキトッ」

 

 檻から解き放たれるなり、アイリスは駆け出す。凄まじい闇の奔流に飲み込まれた廃墟は荒野へと姿を変えていた為、アキトはすぐに見つかった。

 

「酷い傷……今手当をするから!」

 

 慈愛の光をアキトの傷口に当てる。十数秒が経過すると、アキトは苦しげな声を上げながら目を覚ました。

 

「アキトッ」

 

 アイリスは涙を浮かべながらアキトに抱きついた。自分の置かれた状況を理解出来ていないのか、アキトは呆然とした顔を浮かべている。

 

「アキト、私がわかる?」

 

 アキトの視界にアイリスの姿が映った。すると、アキトは自分の手のひらを見つめた。そして───

 

「……くくく」

 

 アキトは、途端に笑い始めた。

 

「アキ、ト?」

 

 アキトはアイリスを突き飛ばすと、のろりと立ち上がる。

 

「くく、はははは!!」

 

 アキトは狂ったように笑い始め、アイリスを蹴飛ばした。

 

「残念だったなぁ、闇の王子よ。私を倒したつもりでいたのだろうが……」

 

 アキトの闇が膨張する。そして、姿が変わっていく。

 赤かった髪は銀色に。冒険家の服は血色のコートに。そして、黒の剣は歪な形をした巨大な大剣へと姿を変えた。

 

「私……いや、俺の方が、早かったなぁ!?」

 

 アキト───ロイドはぐるりと顔を回して言った。

 

「……ついに……ついに手に入れた!最強の肉体を!くく、はははは!!」

「アイリス様っ」

 

 エレノアが呆然とするアイリスの前に立つ。しかし───

 

「邪魔だ」

「きゃあっ!?」

 

 なすすべもなくエレノアは吹き飛ばされた。その際、エレノアから紫色の水晶が落ちた。

 

「な、なんで……アキトは確かにあなたを……」

「流石にあれは危なかった……あと一歩遅れていたら俺は死んでいたよ。しかしまあ、虚無のルーンは入れられなかったが───」

 

 ロイドは腕に力を込めると、再度笑う。

 

「素晴らしいな、この肉体は……この力があれば……俺はこの世界を簡単に破壊できるだろう!」

 

 ロイドは言いながら、アイリスを見下ろす。

 

「さて……まずはじめに……光の王、貴様から消えてもらおうか」

 

 アイリスは足に力を込めて逃げようとする。手に力を込めて、抵抗しようとする。

 

「……!」

 

 出来なかった。

 

 最愛の人である彼の身体だ。傷つけるなんてそんなこと───

 

「……できるわけ、ないよ」

 

 アイリスは諦めて自分の死を受け止めた。一度死んだこの身だ。二度死のうが三度死のうがもう何も変わらない。

 

 ───ごめんなさい、アキト。

 

「消えろ」

 

 ロイドは、アイリス向けて剣を振り下ろした。

 その時だった。エレノアが落とした紫色の水晶が眩しいほどに輝いた。

 

「───なにッ。グッ!?」

 

 瞬間、ロイドは真後ろへと吹き飛ばされた。

 

「───久しぶりの、地上か」

 

 その全貌が徐々に顕になる。

 水晶の中から出てきたのは黒いコートを身に纏った長身の青年だった。

 赤い髪と黄金の瞳、異形の形をした片刃の剣を担いだ青年。アキトとどことなく似ているが、声も肉体も魔力の質も全然違う。

 

「あ、あなたは───」

 

 アイリスが震える手で青年を指さした。

 だって、彼は目の前で切られたはずの───

 

「相変わらずの面構えだな、光の王」

 

 青年───アデルは蹲るアイリスを見下ろして言った。




書き方忘れてる。


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ADEL

 アデルは周囲を見渡すと、鼻を鳴らしながら再度アイリスを見下ろした。

 

「よう、光の王。まあ随分と弱くなったもんだな」

「よ、弱っ?」

「俺の知っている光の王は剣を向けられてもビクともしねえ冷徹女だった筈だが───ってああ。そういう事か。ここは別の世界だったな」

 

 アデルはどうなってんだったくとボヤくとロイドの方へと向き直った。

 アデルを目にしたロイドは眉間に皺を寄せると低い声で呟いた。

 

「何者だ、お前は」

「あ?」

「この時代に、闇の王子の攻撃を防げる人間なんて殆どいないはず。お前は、何者かと聞いているのだ」

 

 ロイドの言葉にアデルは唇の片端をあげると、剣の切っ先を向けた。

 

「それは直接聞き出した方が早えんじゃねえのか?」

「───いや、その必要は無い。君は、この私に倒されるのだからな」

 

 ロイドの姿が掻き消える。

 

「空間転移?いや、違うな───これは高速移動か」

 

 アデルは自分の身に置かれた状況を冷静に判断すると、剣を担ぐように持った。そして、アイリスを見やり。

 

「どけ」

 

 真横に蹴り飛ばした。鳩尾を蹴られたアイリスは地面に何度も跳ね、転ぶ。蹴られた衝撃で失われた空気を必死に補給するように何度も呼吸をすると、アデルを睨んだ。

 しかし、アデルはこちらに一瞥もくれることがなかった。アデルの踵がスローモーションで地面を蹴るのを、アイリスは呆然と眺めていた。

 雷鳴のような魔力と同時に、アデルの姿もまた掻き消える。

 

「ッ」

 

 同時に、凄まじいほどの闇の奔流がアイリスに襲い掛かり、再び呼吸をするのを困難にさせる。

 

「慈愛の、檻よ───」

 

 苦痛に顔を歪めながら、レクスルークスを掲げる。力を使う度に力強く撃った場所が痛む。アイリスは思わず顔を顰めた。

 

「やるじゃないか。君のような男がこの時代にいるとはな」

「アキトの顔で気持ちの悪い言葉遣いするな」

「君のような男が世界崩壊の時に生きていたらと思うと悔やむよ」

「───てめえはどこまで俺の神経を逆撫ですりゃあ気が済むッ!!」

 

 アデルがロイドの足を払って頬を殴ると、数メートル先まで移動。

 闇の力を高めると、アデルの身体が赤黒い闇に包まれる。

 

「爆ぜ狂えッ!ドミニリング───」

 

 剣を中心に爆風と雷が巻き起こり、地面を抉っていく。

 

「───ザロートッ!!」

 

 アデルが剣を真横に振るうと、斬撃そのものか実体化し、ロイドに襲いかかる。しかし、ロイドは避けることも無くアデルの斬撃を真正面から受け止めた。

 

「なんだそれは。それでこの俺を倒せるとでも思っているのか?」

「ちっ……腐ってもアキトの肉体ってことか」

 

 アデルは唾を吐くと、更に後方へ跳躍。アイリスの首根っこを掴むと無理矢理立ち上がらせる。

 

「光の王。そこで這いつくばってるならあそこにいるもう一人の光の王を連れて来やがれ」

「つ、連れてきてどうするの?」

「決まってんだろ」

 

 アデルは悔しいがなと呟きながら剣を握りしめた。

 

「あのカスに捕らえられているアキトを解放する」




ドミニリングザロート
本作オリジナルのスキル。
簡単に言うと月牙天衝みたいな感じ。意味は横暴な狂信者。

誤字脱字、感想お待ちしております。


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ノア篇
焔と紅玉


 白猫プロジェクトというソーシャルゲームをご存じであろうか。

 最近になって有名な声優を起用するようになり、キャラクターデザインにもお金をかけるようになったコロプラの看板ゲームだ。

 私───香風チノは寝る前にログインボーナスを回収しようとしていたのですが、そこから記憶が途切れています。そして何故か真っ白い空間に立っていました。理由は皆目見当もつきません。

 すると、目の前に神々しいオーラを放ち、謎の民族衣装を纏った鷺沢文香似の女性が黄金の光とともに舞い降りてきました。

 

「わたしは神です」

「か、神様?」

「はい。突然ですが、あなたは死にました。布団の中で白猫プロジェクトを起動していたら、たまたま居眠り運転をしていたトラックがあなたの部屋に突撃、そして見るも無惨な姿になっていて───」

「え、そんな酷い死に方私したのですか!?」

「大丈夫です。ブラックジョークですので」

「冗談でもやめてください心臓に悪いので……」

 

 よかった、と安堵の息を漏らすも目の前の女性は追い討ちをかけるように私に言い放ちます。

 

「本当は、電気代をケチってエアコンをつけてなかったせいで凍死しました」

「やっぱりろくでもない死に方じゃないですか……!!」

「馬鹿だなあ、と思いました。無様だなあ、と思いました。何億人も見た人の中で、碌でもない死に方をしたのはあなたで666人目です」

「不吉の数字じゃないですか」

 

 愚痴るように呟くと、女性は私の方にずいっと顔を近づけて本題に入りますと言います。

 

「白猫プロジェクト、もちろんご存知のゲームですよね?」

「え。あ、はい。一応配信当初からやってますし」

 

 死んじゃいましたけどね、とボヤくと女性はいつの間にか手にしていた錫杖を揺らして妖艶に笑う。

 

「───おめでとうございます。あなたは記念すべき666人目の転生者ということで白猫プロジェクトの世界に飛ばしてあげますよ」

「いえ、遠慮しておきます」

「なぜ?」

 

 断る理由がどこにあると言いたげな女性でしたが、私には重要な理由があったのだ。

 理由は至極簡単、現在読み進めているティーンズラブが読めなくなると困るからだ。例え死んだとしても善行を積んできた私だ、天国に行っても読めるに違いない。

 

「腐った性癖していますね」

「心を読むのやめてもらえませんか!?」

「665人目の方はバトルガールハイスクールの世界に行ってミサキという少女とイチャイチャしたいという邪な思考を抱いていたので今回のあなたはどうかなと思いましたが……類は友を呼ぶとはこのことを言うのでしょうか?」

「そんな人と同類に扱われるのは癪です。というか、やめてください。私は見たいという欲求はあっても関わりたいという欲求はないので」

「そうですか。なら、ノア・メルに転生させる権利を与えましょう」

「話聞いていましたか!?」

 

 女性はそのまま手を振ると、ただ一言頑張ってくださいと言う。

 すると、私の足元にぽっかりと大きな穴が空き浮遊感が襲った。そのまま重力に従い世界が遠ざかっていく。

 

「絶対に!絶対に!!許しませんからー!!」

 

 

 ───こうして、私の『ノア・メル』としての物語は始まったのでした。

 

 

 

 

 ⿴

 

 

 

 目が覚めるとベッド上で横たわっていた。体を持ち上げようとするも力が入らない。そこでようやく、自分の体に包帯が巻かれ、点滴が刺さっていることに気づき、体を起こした。

 やけに蒼くなった一房の髪が視界に入る。

 嗚呼、どうやらあの女性が言っていたことは本当だったようだ。まさか、ノア・メルに転生するなんて思いもしていなかった。

 しかし、ここはどこだろう。

 私が知る限り、ここはまず知らない。白い天井に白いベッドだなんてまるで病院みたいではないか。

 

「……目が醒めたのか」

 

 声の方を振り向くと、そこには左眼に包帯を巻き、あるはずの左腕をなくした青年が椅子に座ってこちらを見ていた。灰色の瞳が私を睨め回す。

 数十秒が経過して、青年は安堵の息を吐くと、片目を瞑った。

 

「───やられたよ。守った島が燃やされて。たまたまその島にいた俺たちは唯一の生き残りだ。まあ、俺は利き手を失ったが」

 

 病院みたい、ではない。ここは病院のようだ。

 

「……!」

 

 頭痛が一瞬して、失われかけていた記憶が蘇る。

 

 急な転生に動揺した私は、島を守ろうとしているネモの足を引っ張ってしまい、そこでネモは連邦の連中に左腕を噛み砕かれ、左眼を鋭利な刃物で切り裂かれ───

 

「……ごめん、なさい……」

 

 ネモの左袖に手を伸ばし、キュッと握り締める。嗚咽が漏れ、目の前が涙に濡れる。

 

「私の、せいで……」

 

 謝ったところでどうにもならない。謝ったところでネモの左腕と左眼はもう二度と、戻ってこない。

 いっそこのまま転生しなければよかったのだ。すべては、私のせい。私がもっとちゃんとあの女性を説得さえできていれば、こんなことには───

 

「……」

 

 そんな時だった。ネモが右腕を伸ばし、私の頭に手のひらを載せた。

 

「気にする必要は無い。左眼にはもう義眼が埋め込んである。義手も時間の問題だ、すぐに完成するだろう」

「で、でも!ネモの左眼と左腕はもう二度と戻ってくることは───!」

「多くの人間を失った。守れなかった。だが、お前だけは守れた」

 

 ぶっきらぼうに。だけどハッキリとした口調でネモは言う。

 

「お前が無事でよかった、ノア。お前が助かったという事実があれば、左眼や左腕なんて安いものだ」

 

 ネモが徐ろに包帯を外す。そこから現れたのは無機質だが、鋭利な光を放つ灰色の左瞳。左の眉から左の頬に掛けてまだ痛々しい傷痕が残っている。

 

「それに……中々悪くないだろ、こういうのも」

 

 ネモは私に小さく微笑みながら言った。

 

 

 あれから数週間後。無事、退院した私の元にネモが再びやって来た。

 あれからも毎日やってきてはいたのだが、その時はまだ黒い軍服を着ており、連邦に所属していた。しかし、今はどうだろうか。血濡れた真っ赤な軍服を羽織り、左腕には黒と赤の義手。そして、背後には()()()()()を従えていた。

 

「迎えに来たぞ、ノア」

「ネモ?」

「安心しろ。連邦は俺が破壊する」

 

 その瞳に復讐の炎を燃やしながら、ネモは言い放った。

 

「お前を傷つけたあの組織を、俺は破壊する。世界がそれを拒むなら世界だって破壊してやる───」

 

 殺気に満ちたように言い放つネモに私はただただ頷くことしか出来なかった。




【次回】

『蒼海少女』


エレノア「……アキトさん、ワールドエンド編はいつ連載再開するのでしょうか。私もう茶熊学園の制服まで準備してしまったんですけど」
アキト「さあな。だが、3月までには完成させたいらしい」
エレノア「は、はあ?」
アキト「ダークラグナロクもやると意気込んではいるらしいからな」
エレノア「……期待しないで待ちます」
アキト「それがいいだろう」


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紅き瞳の蒼海少女

遅ばせながら、あけましておめでとうございます。


 ギルドの依頼でアキトたち一行はとある島に訪れていた。

 目的はこの島に隠された『古代のルーン』である。

 

「見て!ようやく辿り着いたわ!!」

「キャトラが道草食わなければもう少し早く着いたんだけどね……」

 

 目の前の台座には、光り輝く結晶が埋め込まれていた。これが、目的である『古代のルーン』で間違いないだろう。アイリスはルーンに手を伸ばす───

 

「伏せろ」

 

 アキトがバスターブレードを放ちながら回転斬り。すると、隠れていた魔物たちが一瞬にして塵芥になる。そんな中、霧散する魔物に紛れて、何者かが石版からルーンを奪った。

 

「アイリス!魔物がルーンを!!」

「違うわ!あれは……人!!」

「待てッ!!」

 

 アキトが背負っていたもう一振の剣を抜き、斬撃を放つも手馴れた動きで避けりてしまう。舌打ちをつきながら、周囲を睨め回した。

 

「今はここを突破するしかないか……!」

 

 黒と黒の剣を擦り合わせ、火花を散らす。アキトが一瞬左右の腕に力を込めると、アキトの容姿が変わる。全体的に赤を占めていた髪色は墨を流し込んだ様な漆黒へ。蒼碧だった両眼は黄金に変わる。瞬間、99.9秒のカウントダウンが始まり、アキトは緊張の糸を張った。

 

「そのままいろ!」

 

 腰のマントを翻しながら、アキトは剣に魔力を込めると、地面に足を踏み締めながら左の剣を振るった。闇を纏った斬撃が放たれる。さらに右の剣を振るい、闇の斬撃を放つ。

 ツヴァイダークブレード。剣に闇を乗せて形ある斬撃を周囲に放つ剣技。

 しかし、なぜだろう。倒したという手応えがない。

 

「……こいつら」

 

 切った部位が恐ろしい速度で再生する。嫌な予感がして、アキトは闇の出力をさらに上げた。駆け抜けるような激痛がアキトの体を駆け抜ける。

 暴走する闇の魔力を拳に乗せながら地面に叩きつけ、巨大な魔方陣を展開。ブラックホールのように引き付けられた魔獣たちはアキトによって生み出された闇に呑み込まれ、消滅していく。

 冷たい闇が思考を呑み込み始める。ドス黒い感情がアキトの思考を支配し始める。

 

 ───コロセ、光ノ王ヲ───

 

「アキト!無理はやめて!!」

「……!」

 

 感情に完全に呑みこまれる前に、アキトは闇を解除。

 漆黒に染っていた髪が元の赤髪に戻り、瞳も蒼碧に戻る。息を吐きながら、口から血を吐く。左目が血飛沫き、視界が赤くなる。暴走した魔力を数秒かけて抑え込み、アキトは剣を杖がわりにして立ち上がる。

 

「……ちっ、こいつら……まだ湧いてきやがる」

 

 しかし、魔獣は延々と現れ続ける。ちょっとな希望すら抱かせてくれない。

 

「アキト!?」

 

 駄目だ。視界が揺れる。足でまといになっている自分に思わず歯を食いしばる。そんな時だった。

 

「───邪魔なのです」

 

 蒼の鉄槌が魔獣を蹂躙した。

 サファイアブルーの髪を靡かせ、不思議な形をした鎚を持った少女がアキトたちに視線を向けると、口元を綻ばせて笑う。

 

「こんにちは、私はノアといいます」

「あ、あう?よ、よろしくノアさん?」

 

 突然のことに思考が追いつかないアイリス。そんなアイリスを気にせず、ノアは血反吐を吐くアキトの元まで近づくと、担ぎあげた。

 

「ゆらゆらとここを脱出するのです」

「ちょっと!魔物に囲まれてるのよ!?」

「問題ないのです」

 

 ノアは海月の形をした何かを魔物に向けて放り投げると、突然それが起爆。周囲を眩く照らした。

 

「……助けてくれるんですか?」

 

 訝しげに訊ねるアイリス。そんなアイリスにノアは笑って答えた。

 

「───助けになれば、それはとても素敵なのですよ」

 

 ノアたちは洞窟の外を目指して駆け出した。

 

 

 

 ⿴

 

 

 

 魔物たちを撒いたアイリスたちは潜水艦の中にいた。闇を使った反動で深手を負ったアキトを治癒しながら、アイリスはポツリと呟いた。

 

「……この世界にもあったのね」

「なにが?」

「ううん、なんでもない」

 

 まさか、転生する前の世界にも潜水艦があって、文明的には僅かに劣るこの世界にこんな文明的なものがあったなんて口が裂けても言えない。言ったところであんた何言ってるの?と言われるのがオチだろう。

 ノアがキャトラに潜水艦のことを話ていると、ドアが突然開いた。

 アイリスが扉の方を振り向くと、赤い軍服を身に纏った青年が立っていた。

 

「ノア。なぜ部外者をこのアルゴノートに入れた」

「困っている時は、お互い様なのですよ。そうでしょう?」

 

 凄まじい殺気に黙っていたアキトは青年に向けて殺気を放った。殺気と殺気のぶつかり合いに、重い空気が流れる。

 

「……何者だ、お前」

「ただの冒険家だ。そういうあんたは」

「俺は侵略者だ」

「悪者か」

「実はいい人なのです」

 

 ノアがそう言うと、良い奴なのねというキャトラ。

 

「駆けつけ一杯、海水でもどうだ。幸いここは海の中だ、嫌という程ある」

 

 ネモがそう言うと、悪い奴なのねと叫ぶキャトラ。アキトはキャトラの首根っこを掴むと、一言黙れと睨みを効かせる。

 

「お前たち、なぜあの廃墟にいた」

「ルーンの回収。それがギルドの依頼だ」

「……ルーンが狙いの冒険家か。溺れて死ね」

「ネモ」

 

 ノアがそう言うと、ネモはため息をついて軍服を翻した。

 

「くれぐれも邪魔はしてくれるなよ」

「お前もな」

「その減らず口は何とかならんのか」

「お前がそれを言うか侵略者」

「表へ出ろ。殺してやる」

「いいだろう。丁度体力も戻ってきたところだ。手足を切断して海に捨ててやる」

 

 一触即発。今にもぶつかりそうなアキトとネモだった。




闇の王との邂逅を果たしてからというものの、自分の力を扱えなくなってしまったアキト。長時間戦うことが出来ず、闇も大きく制限がかけられてしまった。


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猫と機龍

 アキトたちの歓迎会が終わり、皆が寝静まった頃。

 エントランスで目を閉じていたネモは此方へと近づいてくる足音に気づき、目を開けた。

 足音の主は、黒の剣を二本背中に吊った赤髪の少年───アキトだった。

 アキトはネモを見ると、小さく口を開いた。

 

「……俺と戦え、侵略者」

「……ろくに戦えないと聞いたが?」

「夜ならば特に問題ない。それに、俺がやるのは命を懸けた殺し合いではない」

 

 駄目か?そう問うアキトに、ネモは数瞬躊躇いを見せてから渋々ながら頷く。

 

「決まりだな。ここに演習場は?」

「ないことは無いが……いいか、起きているのは俺たちだけだ。もし、剣戟音で目が覚めたら───」

「なんだ、負けるのが怖いのか?」

「……いいだろう。その減らず口を黙らせてやる」

 

 着いてこいというネモに連れられ、やってきたのは半径15mほどの大きさの演習場だった。壁に僅かな銃痕が刻まれていることから、結構頻繁に使用されているのだろう。

 両者ともに距離をとると、アキトは剣を抜き放ち、ネモは銃剣を構えた。

 

「あそこで寝転がっているガラクタたちは使わないのか?」

「……必要ない」

「そうか───後悔するなよ」

 

 爆音と共にアキトがネモに肉薄。勢いよく振るわれた右の剣がネモに襲いかかる。

 咄嗟に義手で剣による攻撃を防ぎ、アキトの腹に銃口を突きつけ引き金を絞る。しかし、絞り終わる前にアキトが後方に跳躍。剣を交差させていた。

 

 ───こいつ、この潜水艦を鎮めるつもりか……ッ。

 

 そうネモが思った時にはもうアキトは技を発動させていた。

 ツインスラッシュ。千鳥の鳴き声に似た空気を切る音を鳴らしながら斬撃。射程距離は6mだが、アキトが放ったそれはゆうに10mを越している。

 ネモは歯噛みをすると、銃剣に魔力を纏わせ、引き金を絞っていた。

 サンダーバレット。物理80%雷属性20%の技。仄青いスパークを撒き散らしながら放たれた紫電の銃弾が質量を持った斬撃と衝突、爆音。

 爆煙の中を潜ってネモに近づくアキト。ネモも負けずと爆煙の中に飛び込み、アキトに近づく。

 二本の剣と銃剣で鍔迫り合いになり、互いを睨めつける。

 

「やるな、冒険者……ッ!」

「俺は逆にガッカリしてるぞ侵略者。お前の力はそんなものか?」

「なにッ?!ぐッ!!」

 

 アキトがそう呟くや否や、鞭のように繰り出された蹴りがネモの脇に突き刺さった。

 体勢を崩し、横に吹き飛ぶネモ。なんとか宙で体勢を立て直し、地面に降り立つも先程居たはずのアキトは地面にいない。

 どこだ。

 その答えはすぐに見つかった。

 

「防いで見せろ、侵略者」

「ッ!上か!!」

 

 闇の刃を纏わせたアキトがネモに剣を振り翳さんばかりに思いっ切り振りかぶっていた。

 

「───グランディヴァイド!」

 

 物理100%。相手を叩き斬ることのみを考えた上段斬り。敵を引き寄せて叩き斬るという技だが、魔力の消費量の多さと使用後に利き腕の骨が砕けるというデメリットがある。

 その使い勝手の悪さと危険性から禁止技としてギルドはその下位互換であるバスターソードを編み出したが、闇の力の抑制によってその技をデメリットなしで使用できるアキトは、容赦なくその技を使用した。

 

「ちいっ!」

 

 これを喰らえばただでは済まない。ネモは止むを得ず、機龍を起動した。

 

「───こいッ!アルゴノート!!」

 

 ネモの呼び掛けに応じて、待機していた赤き機龍が起動。一瞬でアキトとネモの間に割り込んだ。アキトの鳩尾目掛けて鋼の翼を叩き込み、不発に終わらせる。

 アキトが後方に吹き飛び、壁に叩きつけられ喀血。

 

「……満足したか?」

「……いいや、全く満足出来ないな」

「アルゴノートを使ったことは謝る」

「そうじゃない。お前、本気で戦ってなかっただろ」

 

 アキトの言葉にネモは目を丸くした。

 

「俺が気づかないとでも思ったか」

「……ノアを起こさないためにな。そういうお前もなぜ途中で技の発動を止めた」

「俺は戦いたかっただけで殺し合いをしていた訳では無い。もしお前が動きを見せなければ技はどちらにせよ止めていたさ」

 

 痛む体に鞭を打ちながら立ち上がり、肩を竦めてみせるアキトにやれやれと首を振る。

 

「迷う暇があったらどちらかを捨てろ」

「……」

「もしくは、何もかもを捨てるな。侵略者」

 

 アキトは一言言ってから剣を収め、その場を立ち去っていった。



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方舟

最近はピッコマでバキシリーズ読んでます。
あの絵柄も慣れてくると癖になりますね。


 ネモ一行は火山島に到着する。するとノアの様子がおかしい。

 大丈夫かと心配するアイリスだったが、ノアは何でもないと答える。

 

「あの、ネモさん」

「どうした」

「ノアさん、とても疲れてる。休ませてあげた方が───」

「必要ない。使えない人間は置いていくだけだ」

「ネモさん!」

 

 アイリスは詰め寄ろうとするも、アキトがアイリスとネモの間に割って入る。

 

「アキト!」

「……この男にも考えがあるはずだ。今は従っておけ」

 

 アキトの言葉に渋々ながら了承するアイリス。息を荒くしながら膝を着くノアに回復魔法をかけつつ、歩みを進める。

 

「……」

 

 それから何分が経過しただろうか。魔獣が一切現れない道のりを歩いていた一行は拍子抜けだと思う反面、不気味だと感じた。

 長年、人が住み着かないような場所には魔獣が湧くという。ここの工場は、廃棄されてからかれこれ数年経過していた。

 グレイルジャガーとまでいかなくとも、星たぬきやキャットシャドウが出ても可笑しくない状況なのだ。

 工場の中心部までやってくるなり、ノアは目を細くして

 

「呼んでる……」

「おい、どうした」

 

 ネモの静止虚しく、ノアは工場の奥へと進んで行った。

 そこには、大きなクラゲの姿が見えた。

 

「これが、まさか……」

「方舟だ。しかし……記録映像より遥かに大きい」

「その通りです。艦長……!」

 

 刹那、発砲音。ノアに放たれたそれをネモの義手が弾いた。

 アキトは剣を抜き、3人の前に立つ。

 

「この大層な仕掛けで<方舟>を操るつもりか」

 

 ネモもまた銃を抜くと、発砲音がした方に銃口を向ける。

 しばらくして、建物の影から白衣を着た男が現れた。年齢は30代前半くらいだろう。黒縁の眼鏡を掛けた青年が古式の拳銃を手に立っていた。

 

「……ヤブ医者が。何が目的だ」

「医師とは仮の姿でして。島では<方舟>研究チームを指揮しておりました」

 

 ネモは、ためらいなく引き金を引く。しかし、銃弾はすり抜けていく。

 

「……ちっ、<幻影のルーン>か」

 

 ネモは苛立ちげに銃を機龍に捩じ込むと、男を睨んだ。

 

「───なぜ島の連中を狙った」

「帝国にべらべらしゃべられても、面倒なんですよ。スパイもいたでしょうしね」

 

 男の言葉に、ネモの左半身に変化が現れる。炎のような痣が首元中心から浮かび上がり、濃密な魔力が噴き出した。

 

「お前たち連邦はいつもそうだ。小さな犠牲は止むを得ないといいながら、弱いものを殺す……!」

「あんな無能な連中といっしょにしないでください! 我々はもっと大きなものに仕えているのですよ!」

 

 男の言葉にネモは眉を顰める。

 

「……帝国ではないな。帝国には、お前のような愚か者を真っ先に狩る獣がいる」

「我々が仕えているのは、この世界の絶対的な<法則>というべきもの。あの<方舟>であらゆるものを滅ぼせば、彼はきっと喜んでくれる───!」

「……もう黙れよ」

 

 ネモが左手を前方に出す。

 

「……アルゴノートⅡ。照準を合わせろ。この男に、制裁を下す」

「馬鹿が!ここは通信妨害が施されている!」

「馬鹿はお前だ」

 

 ネモが乗っていた機竜が変形し、ネモの義手と合体一巨大な砲身となった。

 

「主砲はこいつだ」

 

 男は、は嘲笑を浮かべる。

 ネモの濃密な魔力がアルゴノートに集中される。形となった魔力の嵐が地面をえぐり、竜巻を起こす。

 

「……こいつは……まずいッ」

 

 アキトはアイリスとノアの襟首を掴むと、ネモの背後数メートルまで跳躍。

 闇の力を解放し、守るように障壁を張る。

 

「64層の隔壁と、187のルーンによる魔法防壁。そんな豆鉄砲で!」

「主砲、発射」

「無駄、だと!?」

 

 ネモの砲撃は、施設の防壁とルーンによる障壁を貫く。

 火、水、雷。三属性を纏った魔力の砲撃は数秒で男の元に到達した。

 

「え、エピタフ───」

 

 男の姿は掻き消えた。アルゴノートのクールタイムを待たず、ネモは方舟に向けて照準を定めた。

 

「もう一撃だ。アルゴノート。あの<方舟>を破壊するぞ」

 

 アルゴノートの銃口に魔力が装填。眩い輝きを放ち始める。

 ネモが引き金に指をかけ、絞ろうとしたその時だった。

 

「駄目です」

 

 ノアが腕を大きく広げ、ネモの前に立ち塞がっていた。

 

「方舟は、殺らせません」

「退け……!」

「あれは兵器ではないんです。大昔の人が作った、すべての命を救うための<方舟>なんですよ!!」

 

 ノアの瞳が青く染まる。ネモはそんなノアの姿を見て唸った。

 

「お前は、何者だ」

 

 ネモが容赦のない殺気を放つ。殺気に当てられたノアは一瞬たじろいぐも、力のない笑みで答える。

 

「……私は<方舟>の使者。<方舟>が今の時代を知るために生み出した、分身。私も、今知ったのです……」

 

 ネモは眉間に皺を寄せて呟く。

 

「<方舟>はどうするつもりだ」

「<方舟>は、救いたいのです。人類が、世界が滅ぶ前に」

 

 ネモは小さくそうかと呟いてから方舟に歩み寄っていく。

 

「俺はこいつを撃つ。こいつは……この世には必要ない」

 

 退け。ネモがそう言い放つと、ノアは瞑目しながらふるふると首を振った。

 

「……やっぱり、こうなってしまうんですね」

 

 言いながら、ノアは方舟に近づこうとするネモの目前に水の障壁を張った。

 

「ノア……!?」

「ネモ。あなたと過ごした日々、短かったけど幸せだった」

 

 ノアの体は方舟の中に吸い込まれていった。

 

「……さよなら」

 

 ノアのその言葉は、水の音と共に消えていった。



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双闘機龍

Twitterでも載せましたが、ノアさんコンプリートしました。


 方舟は深海の底へと沈んでいく。

 このまま行けば、何事もなく普通の生活に戻れることだろう。

 ネモは瞑目し、小さく息を吐いてから艦長席に座る。

 

「……出航準備だ。各員、配置につけ」

 

 ネモがクルーたち言い放ったその時だった。

 アイリスがネモの前に立つと、ネモの頬を思いっきり叩いた。

 

「あ、アイリスッ!?」

 

 珍しく狼狽するアキトだったが、そんなアキトに構わずネモに詰め寄るアイリス。

 

「これで、いいのですか!?」

「……何を言っている。あいつは行った。これ以上、俺にどうしろと? あの島で助けた時、ノアは致命傷を負っていた。だが数日で完治した。<方舟>と無関係なはずはな───」

 

 言葉を紡ぐ前に再びアイリスの手が閃いた。

 

「本当に、いいのですか!?」

「……分かっていた。こんな、終わり方になることくらい───」

「あっていいはずがないでしょう」

 

 アイリスの瞳が()()に染る。体から凄まじい魔力を放ちながら、ネモの襟を両の手で掴むアイリス。

 

「絶対的な力で全てを奪い去る、それが侵略者ネモ!違う!?違うなら、違うなら言ってみなさいッ!!」

「……侵略者?」

 

 ネモがアイリスの言葉を反芻する。

 

 ───ごめんなさい、私のせいで───

 

 かつてノアが言った言葉を思い出す。

 

 ───ネモの左眼と左腕はもう二度と戻ってくることは───

 

 嗚呼、そういえばそうだった。あのノアという少女は、自分の身ではなく誰かのことを第一に心配していた。

 

 ───私は、あなたを守るのです。私を守る、あなたを守るのです───

 

 ネモは歯が砕けんばかりに噛み締める。

 

「……退け」

 

 ネモは立ち上がると、アイリスを真横に突き飛ばした。

 アイリスはネモを睨めつけるも、ネモは非常に冷めた表情でアイリスを見つめた。

 

「……俺が戻り次第すぐ出発だ。準備をしておけ」

「ネモさんッ!」

 

 アイリスが飛び出そうとした時、アキトはアイリスの腕を掴んだ。

 

「アキト!どうして───」

 

 アキトの方を振り返り、困惑の表情をうかべるアイリス。アキトは悟ったような表情で、ネモを見つめた。

 

「死ぬなよ。お前との決着はまだ着いてないからな」

「ああ。俺も白黒ハッキリさせたいからな。そう簡単には死なん」

 

 言うと、ネモは艦長席から飛び出していった。

 

 

 

 

 

「起動しろ、ブラズニル」

『お久しぶりです。マスター』

「……悪いが感傷に浸ってる暇はなくてな。訳あってお前の力を借りたい」

『我が身は、マスターと共にあるので』

 

 鋼色の機龍が倉庫から飛び出すと、ネモの篭手に纏わり、巨大な戦斧となる。

『ブラズニル零式』。小型の機龍であり、篭手と合体して自我を持った戦斧になる人工知能搭載型の兵器。

 アルゴノートⅡより前に生み出された機龍の一つであり、破損していたところをネモが修復したのだが、制御が効かず長い間、眠らされていたのだ。

 だが、今のネモには使いこなせる自信と覚悟があった。ネモは小さく息を吐いてからアルゴノートに跨り、呼吸のルーンを身に纏う。

 

「行くぞ……ッ!」

 

 そのまま潜水艦から飛び出したネモは、凄まじいスピードで深海に進んでいく。

 呼吸のルーンのお陰で水中でも呼吸は可能だが、深海の水圧は凄まじくネモの身体と機龍を蝕んでいく。

 魔物がネモを阻むものの、ネモの侵略は止まらない。ブラズニルを振るい、魔物の群れを薙ぎ払っていく。

 数分が経過して、ようやく方舟に到着。ネモはそのまま方舟の中に突入した。

 

「……これ、は」

 

 全ての命を取り込む方舟は、ネモの体を優しく受け止めた。

 心が安らいでいくようだった。憎しみも、悲しみも。すべて洗い流されていくようなそんな感覚。

 だが、奥で膝を抱えていたノアを目に捉えるなり、そんな感覚は全て吹き飛んだ。

 

「ノアッ!」

「……! ネモッ!?」

 

 ここまでやってくると思ってもいなかったであろう、真っ赤に腫らした目でネモを見た。

 

「来いッ!」

「で、でも……」

「これがお前の意思なのか!」

「ちがうのです! でも、私がいなくちゃ方舟は……」

「ならそんな法則は、俺が破壊してやるッ!」

 

 ネモはブラズニルを頭上に掲げると、引き金を弾いた。翡翠色の眩い光が海に風穴を開けた。

 

「お前が必要なんだッ! ノア!!」

「……」

「俺と共に来いッ!」

「……ネモ。あなたはいつも、強引なのですよ……」

 

 ノアは泣きながら、だが口元には笑みを浮かべながらネモの伸ばした手を掴んだ。そのままネモはノアの手を掴むと、浮上し始めた。

 

「しっかり捕まれよ、ノアッ!」

 

 凄まじい速度で浮上するネモ。だんだんと遠ざかっていく方舟を見つめながら、ノアは小さく呟いた。

 

「……さようなら、なのです」

 

 方舟はゆっくりと沈んでいく。誰の手にも届かぬ、海の底へと。

 

 

 

◻️

 

 

 

 陸に上がったネモは、アキトたちになんのルーンが必要なのかを訊ね、その答えを聞いた瞬間、目じりを抑えながら小さくため息を吐いた。

 少し待ってろ、と言ってから数分後、ネモはアキトにルーンを投げてよこした。

 

「……これは」

「発酵のルーン、だよね」

 

 身近なところにあったことに驚きを隠せないアキトとアイリス。

 ネモは小さな声でこんなくだらんものを探していたのか、とボヤく。

 アキトはネモの篭手を見やり、先程まではなかった龍の意匠があることに気づく。

 俺と戦え。そう言いたかったが、ここは弁えるところだろう。と、アキトは喉まで出かかった言葉を飲み込み、タコクルーと遊んでいたキャトラの首根っこを掴みあげた。

 

「お前ら、これからも侵略を続けるのか?」

 

 アキトの問いに、ノアは首肯する。

 

「続けていくのです。なぜなら」

 

 ネモは一冊のファイルを見せた。どうやら、施設から奪い取ったものらしい。

 

「ターゲットには、事欠かないからな」

 

 ネモの表情はどこか晴れ晴れとしていた。

 アキトは小さく笑みを浮かべてから、言う。

 

「そのうち飛行島にも来い。お前との決着、白黒つけたいんでな」

「ああ。お前に、敗北という言葉を教えてやるよ」

「吠え面かいて待ってやがれ、侵略者」

「精々腕を磨いておけよ、野良猫」

 

 一触即発、という雰囲気であったが、ネモとアキトがその場で争うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネモ、これからどこにいくのです?」

 

 ノアの問いに、ネモは瞑目しながら答える。

 

「終わったと、伝えにいこう……あの島に」

 

 まだすべてが終わった訳では無い。だが、復讐の鎖は僅かに砕けた。

 ネモは目をゆっくり開けると、手を上げて言い放った。

 

「錨を上げろッ! アルゴノート号、発進!!」

 

絶海の侵略者 -完結-

 




ついに絶海の侵略者終わりました。長かったですね。
そして、次回なのですがワールドエンドはそのうち更新するとして本編でも書こうかなと思っています。
リクエストがあれば、他のキャラクターのストーリー書くつもりですが。
セイヤ×ティナカップリングの方、申し訳ありません。茶熊の方を結構進めないといけないので、もしかしたら時間かかるかもです。私も書きたいので早く進めたいところ(何十話先になるんだろう)
ちなみに、感想とおきにいりと評価が増えると、筆がとても早くなりますよ。この作者に感想送りづらいなと思ったそこのあなた、なんでも送ってみるのです。
私は100%返しますから安心してください。
お付き合い頂き、誠にありがとうございました。















『後日談』

アイリス「アキト×ネモ……これは今年のコミケ、来ますね!」
ノア「私のネモに何させるつもりですか」
アイリス「ノアさん!?」
ノア「アキト×ネモって……アイリス、まさかBL好きだったなんて」
アイリス「私はBL以外もいけますが!まあ、TLはだけは苦手というか大嫌いですけどね」
ノア「アイリス……あなたはノアを敵に回したのです。もう容赦しないのです。心血注いで書いた作者さんの代わりにノアがアイリスをあの世に送るのです」
アイリス「なるほど……ノアさんは私の敵なのですね。いいでしょう、戦争です。始祖のルーンの力であの世に送って差し上げます」



アキト「……何してんだあいつら」
ネモ「どうせ碌でもない事だ、放っておけ」
アキト「碌でもない事って……」
ネモ「お前は女の部屋から訳分からない本が出てきたらどうする?」
アキト「……あいつも、そういう残念な奴なのか」
ネモ「……まあそう言ってやるな。俺達にはわからない世界だ」

ホントのホントに完結


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イスタルカ島篇
新たな大地に向かうことになったようなのです


主人公がキツイのは仕様ですので見てられないと思ったらそっとブラウザバックしましょう。

以前も言った気がしますけども。


 海風が気持ちいい。うんと伸びをすると、銀色の髪が靡く。

 今日は天気もいいので、絶好のお洗濯日和ではないだろうか。

 ふと、背後を振り向くと草むらで赤髪黒メッシュの少年が最近島にやってきた猫人間とブリキ兵士と闘っていた。向こうはフル装備だと言うのに、赤髪の少年は素朴な木剣一本のみ。それで何とか戦えているのだから、彼の戦闘センスは天才的なのだろう。

 アキト。白猫プロジェクトの主人公であり、生粋の戦闘狂。戦いのことになると我を忘れて延々と敵を狩り続ける。

 数日前、晴れて彼のパートナーとなったのだが、食事よりも戦闘を優先する彼の姿は凄まじい執念を感じる。

 そんなことを考えていたら、ブリキ兵士の一人の武器が真横を通り過ぎた。

 横目で見ると、戦いながらこちらを訝しむような目で睨むアキトが居た。

 

「……私は何も見てない。見てないから」

 

 なので、洗濯物を干すことで先程のことをすべて忘れることにした。

 このまま彼に睨まれ続けたら命がいくつあっても足りない。

 

「アイリスー、アイリスー」

 

 草むらで星たぬき達と追いかけっこをしていたキャトラが何かに気づいたのか、こちらへとやって来た。

 どうしたのだろう、キャトラの方へ近づくと、地面に立て掛けられていたルーンドライバーから光の柱が出ていた。

 

「……そう、ようやく新たな島にいけるのね」

 

 ここまで来るのに沢山の寄り道をしたような気もするが、それはきっと気の所為だろう。

 気の所為に違いない。

 

 

 

 

 訓練を終え、汗を拭きながらアキトがルーンドライバーを翳しながら小さな声で呟く。

 

「イスタルカ島とか言う場所に大いなるルーンがあるわけか」

 

 相変わらず原作と違って口がともかく悪いが、彼にそれを指摘すると「俺は元々こんなんだ」との事なので気にしないでいる。

 そんな時、キャトラがアキトの頭によじ登り、ルーンドライバーを覗き込んだ。

 

「ねぇねぇ、ルーンドライバーを見せてよ!」

「見せてやるから、俺の頭から降りやがれこのクソ猫」

 

 アキトは思いのほか優しくキャトラを地面に降ろすと、ほらよとルーンドライバーをキャトラに見せた。

 

「……あれ?」

 

 そこで変化に気づいた。ルーンドライバーから出ていた光が消えていたのだ。

 

「なんとこれは、どうしたことだ」

「……なんだ、いたのかバロン」

 

 アキトは居たのかお前、と言わんばかりにバロンを見つめるも、特に気にした様子もなくバロンは進める。

 

「ふむ……いたし方ない。ここから先は、己の力で探し出すしかあるまい」

「……その間、この飛行時は無防備になる訳だが」

「任せておけ、アキト。お前たちがいない間、我々がこの飛行島を守ろう。幸い、猫兵士もブリキ兵士もお前が原因で大分強くなっている。大体の敵ならなんとかなるだろう」

 

 アキトくんこの数日で何してるんですか。

 冷めた瞳で彼を見つめるも、彼はさして気にした様子もなく空を見上げていた。ただ、視線が所々泳いでいるので自覚はあるらしい。

 

「じゃあ、俺たちは陸地に上がる準備をする。バロン、俺の武器を───」

「またあの黒の剣(大量破壊兵器)持っていくのか!?」

「ホコリ被るよりはいいと思うんだが」

「砥石どれだけ使うかお前知らんだろ!?」

「鍛冶屋はそれが仕事だろ。後で買い出しにも行くつもりだ、そこで砥石も購入しておく」

 

 アキトはそれじゃあな、というと自らの拠点へと向かっていった。

 残されるアイリスとバロン。彼の自由は今に始まった話ではないが、ココ最近はさらに酷いような気がする。

 

「……白の、巫女殿」

「……なんですか」

 

 震える声で呟くバロン。

 

「あいつが暴走したら、止めてやってください」

「……頑張ります」

 

 アイリスもまた、震える声で呟くのだった。




あうあうー!アキトくんは暴走しかしないのですよー!!


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不思議な香りに誘われて

 森の中に入ったアイリスたち。彼女たちの道のりは険しいものであった。

 草むらから飛び出すジャガー。息をするように首を刎ねるアキト。

 空中から降ってくるスパイダー。息をするように足を斬り飛ばすアキト。

 地面から飛び出すクイーン。息をするようにさいの目状に切断するアキト。

 なぜだろう、何もしていないのに異様に疲れた。

 

「───にゃにゃっ!?ねえねえ、この香り……!」

 

 しばらく歩いていると、何かに気づいたのだろう。キャトラが鼻を動かして忙しく動き始めた。

 

「どうしたの、キャトラ?」

「すんすん……こっちよ!早く!!」

 

 キャトラはモンスターたちの死骸の山を飛び越えて、走り出す。

 

「え、ちょっと!?」

 

 捕まえようと手をのばすも、その小柄な肉体と軽い身のこなしで避けられてしまう。

 

「キャ、キャトラ!どこへ行くの!?」

「あっちからいい香りがしてるの!人が住んでるんじゃない!?」

 

 言いながらキャトラは森の奥へと消えてしまった。こういったキャトラは止められない。何度もスマホ越しで見てきた光景だが、いざやられるとなかなか腹ただしかったりする。

 そこで気が短いアキトを見てみることにした。こういうことがあったら真っ先に怒り狂って追いかけそうだが。

 アイリスは恐る恐るアキトの方を見やった。

 

「……」

 

 アキトはと言うと、蹂躙し尽くしたモンスターが落としたルーンを拾い上げ、ポーチに捩じ込んでいた。思いの外収穫があったのか、機嫌がいい。

 どこかの国の民謡だろうか、鼻歌を歌いながらルーンを集めるその姿はなかなか様になっている。

 しばらく見惚れていると、見られていることに気づいたのかアキトは目線を細めてなんだよと呟く。

 

「アキト?」

「あ?」

「キャトラが……」

 

 事情を話すとアキトは鼻を鳴らしながら、剣に着いた血を払った。

 

「はっ、生贄にはちょうどいいだろ」

「なんてこと言うんですか!?アキトに人の心はないの!?」

「んなもん知るか」

 

 ああ、そういえばそういう人だったなと思い出す。

 つくずく自分がこの少年に惚れた理由がわからなくなるが、こういうところを含めて好きになったのだろう。たぶんおそらく。

 気を取り直してアイリスは咳払いをすると、憂いを含んだ表情をするアキトを見やる。

 

「もしかしたらルーンのお話が聞けるかもしれないわ」

「……ちっ」

 

 舌打ちしたよこの人。喉まででかかったが何とか押さえ込み、アイリスはアキトの腕を掴んだ。

 

「さあ、いってみましょう!!」

 

 意外にも、アキトはアイリスの手を振りほどくことなくキャトラが走っていった方向について行った。




おきにいりとか評価とか気にしなくなったらすごく心が軽くなりました。
これで減っても自分のやりたいことやってるんだから!
タカキも頑張ってるし、私も頑張らないと!!
とりあえず島クエまでなんとか終わらせたい。

他は知らない。茶熊は何となく書く気が起きないけど魔改造セイヤだけは書きたい。
極悪人面のセイヤが茶熊学園を暴れ回るというプロットまではできてる。
「神が恐れ……悪魔すら慄く!このセイヤ様がお前らを地獄の片道切符をやるよ!!」
までは。


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見知らぬ孤島で敵意を向けられる

……あの、恥ずかしながら帰ってきました、はい。
8周年に間に合わせたかったんですけどね、忙しくて。
闇の王討伐ら辺までやれたらなと思ったりはしてます。
あと多分、ワールドエンドの書き直したいので、何話かお話消します。


 しばらく歩くと開けた場所に出た。

 進んだ先にはキャトラは居らず「あのクソ猫……」と呟くアキト。

 そんな中、扉が開く音が耳に入った。金色の長い髪に、どこか物憂げな風貌。必要最低限の防具を身につけた長身の青年が、建物の中から現れた。

 エレサール。一時的に敵対するも、基本的には温厚なエルフだと記憶している。

 アイリスは小さく手を握ると、エレサールの方へゆっくりと近づく。

 

「あのー」

「……お前は!」

 

 こちらを見るなり、異様に敵視するエレサール。

 手にはよく研がれた短剣を握り、低く腰を落としたエルフの青年が鋭い視線でいつでも戦闘態勢に入れるよう警戒していた。

 咄嗟に両手を上げて敵対の意思がないことを告げるも、エレサールは警戒を解こうとしない。

 と、そこでエレサールの視線が自分ではなく第三者に向けられていることに気づく。自分にではなく、数メートル後方にいるアキトに向けられているような……

 

「……誰だ?」

 

 剣を構えようともせず、腕を組んだままエレサールを見下すアキト。身長は明らかにエレサールの方が大きいのだが、アキトから発せられる異様なオーラがそれを上回っていた。

 

「……忘れたとは言わせないぞ!!かつてこの島に訪れた際、俺たちを攻撃したお前の顔を……!!」

「人違いだ」

「いや、間違いない!その赤髪、その人を見下す態度!!お前以外に誰がいる!!!!」

 

 その言葉にアイリスはゆっくりと後退りしながら、アキトの方に近づく。幸いにもエレサールはアイリスに危害を加えるつもりは無いのか、それともアキトのテリトリーに踏み入れたくないのか、アイリスを捕らえようとはしなかった。

 

「……あの、アキト。あの人たちに何をしたの?」

「知るか」

「知るかって……!!」

「お前は星たぬきの判別のつかない顔を一々覚えるのか?」

 

 どうやら、アキトにとって彼らは星たぬきと同程度らしい。

 アイリスは額に手を当てながら、どうしてこんな人を好きになってしまったのだろうと今更ながら後悔する。

 そんな彼女を見てアキトは小さく息を吐いてから、だが、と続ける。

 

「なんてな、冗談だ。戦った奴の顔くらいは覚えているさ。それも、人型なら尚更な。少なくともエルフと戦ったことは一度もない」

「……それは、本当?」

「ああ。最も、遺跡で目覚める前のことは知らないがな。それでも誰から構わず喧嘩を売るような人間では無いはずだ」

 

 黒の剣を引き抜きながらアキトはエレサールを見やる。

 そんなアキトを見て、エレサールは眉を顰め、声を荒らげた。

 

「貴様……!なぜ槍を使わない!」

 

 アキトは黒の剣を構えてから首を傾げた。

 

「俺は元々剣一筋だ」

 

 そこでアイリスは確信する。本当に彼らを襲ったのはアキトでは無いのだと。

 しかし、何を血迷ったのか、アキトは黒の剣を地面に突き刺してから、右肩を回す。そして、とんでもないことを口にした。

 

「まあそうだな。今回はこれ抜きで戦ってやる」

 

 腕を組み、しかし、隙は一切見せない。エレサールとアキトの間に不気味な空気が流れる。一触即発。正にいつ戦いが始まってもおかしくなかった。

 ───先に動いたのはエレサールだった。

 風切り音と共に現れ、閃光の如き速度で振るわれた短剣を、アキトはそれを上回る反応速度で受け流した。

 

「なんだと!?」

 

 そのままエレサールの腕を左手でロックし、そのまま右肘で顔面目掛けてエルボー。

 咄嗟に顔を逸らして避けようとするも、僅かにアキトの右肘がエレサールの顎を掠める。戦慄の表情を浮かべるエレサールだったが、そこで終わらなかった。

 回避運動に集中していたためか、アキトの次の攻撃に気づかなかったのだ。

 

「こいつは効くぞ」

 

 アキトの前蹴りがエレサールの鳩尾に突き刺さり、さらに体勢を崩す。そして、トドメと言わんばかりにエレサールの背中にダブルスレッジハンマー。この時、僅かに魔力が込められているのをアイリスは見逃さなかった。

 完全に殺しにかかっている。アイリスはそんなアキトを見て冷や汗を垂らした。

 原作にない展開。そこまでは今まで通りだ。しかし、これはあまりにも乖離し過ぎている。

 このまま行くと、仲間になるどころかエレサールだった屍がこの場に生まれかねない。

 アイリスの心配を他所に微動だにしないエレサールの長髪を掴むと、アキトはゆっくりと持ち上げながら言った。

 

「少しは人の話を聞く気になったか?」

「貴様……!」

「このまま戦ってもいいが、死ぬぞ。正直な話、俺は意思疎通ができる人間を殺すことは好まん」

 

 ───その割にはカイルさんを斬ろうとしてましたよね、という言葉は胸の奥にしまっておく。

 

「俺と会話するのも嫌だろう?そこのアイリスは俺と違って温厚だ、あいつから話を聞け」

「……!」

「それに、お前は近接型でなく遠距離型だろ。筋肉の付き方を見れば分かる」

 

 エレサールの拘束を解き、その際に肩の関節を外すのを忘れずに、アイリスの目前に投げ飛ばすアキト。黒の剣を地面から引き抜き、エレサールとアイリスの方を見やると、首を軽く回した。

 

「何をしている。早く話せ」

 

 どこまでも傍若無人かつ、悪魔のような男であった。




Q.NEWWORLDはやってるの?

A.更新されればやってます。正直、NEWWORLDは書かなくていいかなと思ってます


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見知らぬ島での行動 part01

 幸いなことに致命傷となる傷はなかったため、簡単な回復魔法でエレサールの体の治療を行うことが出来た。その際に、自分たちが別の島からやってきたこと、アキトは口は悪いが───今のところそう人間にしか見えないが───悪人では無いことを伝えた。

 治療が終わると、エレサールはゆっくりと立ち上がり、木陰で微睡むアキトの方へと近づいた。

 

「……すまない。本当に人違いだったとは」

「誰にだって間違いはあるさ」

 

 言いながら立ち上がろうとした時に、アキトの頭上に何かが降ってきた。

 白い毛並み、青いリボン。そして、宝石のような輝きを放つ青い瞳。キャトラだった。

 

「いやー、ほんと、危なかったわね!にしてもここはエルフの島だったとは!!」

「……私から言わせれば、人の言葉を操る君の方が珍しく見えるけれど」

 

 エレサールが頬をかきながら人語を操るキャトラを見下ろす。

 言われてみれば、人の言葉を理解し、尚且つ人語を操る猫の方が珍しく見えてしまうのは仕方の無いことだろう。

 実は、白の王は白猫に変化して隠密行動をすることが出来るのだが───アイリスにその知識がないため、あくまで余談である。

 そのまま地面に着地し、そそくさとアイリスの背後へ回るキャトラ。常日頃からまともな扱いをされないために行ったせめてもの反抗だったのだろう。キャトラはアイリスの背後に回れば攻撃されないと考え、アキトからの反撃を防いだ。

 

「もう、キャトラったら!すみません……」

 

 その時だった。アイリスの真横を一瞬の風が駆け抜けた。

 幸いなことにミニスカートではなかったため、下着が見えることは無かったが、普段隠れている健康的な脚が外気に晒された。

 突然のことに目を白黒とさせるも、エレサールは何か気まずそうな表情でそっぽを向いていた。

 

「……あう」

 

 下着が見えなかったことの安堵と、滅多に見せることの無い生脚を見られた羞恥心から複雑な感情を抱く。これでもし完全に捲れ上がったとしたら───考えたくはない。

 顔を赤くしながら何かが駆け抜けて行った方を振り向くと、前脚を捕まれた状態でアキトに睨めつけられるキャトラの姿があった。

 アイリスは小さくため息を吐きながらこの事態をどう収めるか思考を回転させるのであった。

 

 

 エレサールに連れられ、建物中に入ると、金髪のエルフの女性が書類整理をしていた。

 扉の開く音で気がついたのだろう、微笑を浮かべてエレサールの方を見やる。

 

「お帰りなさい、エレサール。すごい顔で出ていったから何事かと思ったわ。危険指定生物でもいた?」

「それよりももっと危険なのがいたよ」

「あら、それは見てみたいわね」

 

 そこでようやくアイリスたちの存在に気づいたのだろう、エルフの女性は視線を移動してから首を傾げた。

 

「あら、珍しいわね。ウチのギルド支部へ冒険家さんだなんて」

「……ギルド支部?」

 

 先程の戦闘以降、ずっと押し黙っていたアキトが小さく呟いた。

 

「え、ギルド支部を知らないなんて───まさか、野良の冒険家、じゃないわよね。あなたたち、どうしてこんな田舎の島に?」

「あ、えっと私たちは───」

 

 原作通りなら、ここで大いなるルーンを探し、この島にたどり着いたことを説明していた。しかし、もう既に原作とは乖離してしまっているこの状態で、このことを伝えていいのだろうか。そう考えていると、アキトはアイリスの前に立ち、そして答えた。

 

「大いなるルーンを探しに。そうしたらこの島に辿り着いた。ただそれだけだ」

「ははっ、また大きな獲物を狙いましたね。冒険家ギルドの存在も知らずに大いなるルーンとは」

 

 エレサールの言葉にアキトが黒の剣の柄に手を伸ばすも、それより先にエルフの女性が抑えた。

 

「こーら、言い過ぎよエレサール。あなたたち、ごめんなさいね。私の名前はラーレッタ」

 

 エルフの女性改め、ラーレッタは何も知らないアキトのために懇切丁寧に説明した。

 

「冒険家ギルドというのは、その名の通り冒険家を支援するために作られた協会なの。よほど小さな島でない限り、世界各地に支部があって正式なライセンスを持つ冒険家ならいつでもサポートを受けられるのよ。どうかしら。あなたたち、正式にギルドヘ登録してみる?」

「そんなもの興味無───」

「でも、エレサールの言う通り、今のままじゃちょーっと心もとないわね」

「……なに?」

 

 アキトの瞳が僅かに細められる。

 

「私が出すクエストにクリアできたらライセンスを発行してあげる。どうかしら?」

「上等だ」

「アキト!!」

 

 上手く肩車乗せられてしまったことに気づいていないのだろう。アキトは憮然とした表情で腕を組んだまま、ラーレッタを睨め付けていた。

 ラーレッタはデスクの上に紙を広げると、懇切丁寧に説明し始める。

 

「上から順番に簡単なクエスト。下に行けば行くほど難易度が上がっていくわ。本来、クエストをいくつか行った上でライセンスを発行するのだけれど───高難易度のクエストならば一つだけで大丈夫よ。それで、どうする?私としては上から簡単なのを数個選ぶのをおすすめするけど」

「これだ」

 

 そう言ってアキトが選んだのは一番上ではなく、一番下にあるクエスト。

 ラーレッタの表情が強ばったのをアイリスは見逃さなかった。

 

「『フォレストクイーンの果実』の採取。このクエストにさせてもらおうか」

「で、でもこのクエストは立ち入り制限区域内のクエストで腕利きの冒険者が───」

「立ち入り制限区域が、なんだって?」

「ッ!」

 

 到底主人公のそれとは思えない悪辣な笑みを浮かべるアキトを見て、アイリスは眉間を抑えながら小さく唸った。どうやら、騙されたフリをして最初から何かを企んでいたらしい。

 

「『ミノタウロス五頭の討伐』『モンスターの変異種の調査』───これらも並行して行おう。それでライセンス発行料、試験料をチャラにしてもらう。いいだろう?」

「そ、そんなの」

「ならギルド本部に言うだけだ。イスタルカ島には未登録の冒険者見習いに危険な任務を依頼するエルフがいると。ペナルティを食らうのはお前だろ?」

 

 悪役然とした表情をして、アキトは凄絶な笑みを浮かべた。




何なんだよこの主人公は。


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見知らぬ島での行動 part02

World End これから先書く上でどうしても辻褄が合わなくなってしまうので、二話ほどお話を消させていただきました。
誠にもうしわけありません。


 森の入り口前までやってきたアイリスはその不気味な雰囲気に思わず肩を震わせる。

 反して、アイリスの真横に立つアキトは黒の剣を担ぎながら、森を睨みつけていた。

 まるで、自分の実力が何処まで通用するのか、確かめたいと言わんばかりに。

 

「アイリス」

 

 ふと呼びかけれて、アイリスは面持ちを上げた。アキトはこちらを一切見ず、ただ森の方を見つめていたが、その声には何処か申し訳なさが感じられた。

 

「俺は問題ないが、アイリス、お前は植物系統のモンスターにトラウマがあるだろう。エルフの女にはアイリスが村に戻った場合、別のクエストを受けれるよう頼んである」

「え?」

「無理についてこなくても大丈夫だ」

 

 恐らく、頼んだのではなく脅したのだとは思うが、どうやらアキトは一人でこの森に挑むつもりらしい。

 アイリスはなんだ、そんなことかと小さく笑うと、アキトの横に立つようにして、剣を手にした。

 

「大丈夫、あなたと一緒なら、きっとどこまでもいけると思うから」

「……」

 

 微笑を浮かべながらそう言うアイリスに、アキトは一瞬、呆気に取られたような表情を浮かべた。年相応の、どこにでもいる少年のような表情。咳払いをしたからいつものポーカーフェイスに戻った。

 

「なら俺の足を引っ張るなよ。最短で、最速で終わらせる」

「ええ、任せて」

「───ところで、あの時の力は、まだ使えるのか?」

 

 あの時の力?と言われて思い出す。

 アストラ島にいた時の湧き上がるようなあの力のことだろう。

 しかし悲しいかな、今のアイリスにはその力の一端すらもないに等しい。

 魔力量こそ魔術師であるため多いが、あの力を使うことは叶わなかった。始祖のルーンを集めていくうちに、もしかしたら使えるようになるのかもしれないが、今は体内にある魔力を用いた光の斬撃を繰り出すくらいしかできないだろう*1

 

「今の私に、あの時と同じ力が使えるかと言われると……難しいと思う。だけど、再現なら可能かもしれない」

「再現?」

「ええ、一縷の可能性にかけてしまうことにはなるけれど」

「……」

 

 その言葉にアキトはため息を吐いてから軽くアイリスの頭を小突いた。

 

「あ、あう?!わ、私またなんか変なことやりましたか!?」

「普段やってないことを土壇場で出来るようになるわけないだろ。常識的に考えて」

「む、そういうアキトはあの時の力を引き出せるの?」

 

 そう言うアイリスにアキトは顎に手を当てながら言った。

 

「今は無理だな」

「今はって、まるで条件が揃えば使えるみたいな言い方ね」

「事実、条件さえ揃えば使える。時間付きだがな」

 

 アキトの言葉に思わず目を剥くアイリス。時間付きではあるが、あの時のような鬼神の如き強さを引き出せる。彼はそう言っているのだ。

 前世のことを思い出し、ゲームバランスが崩壊しないかと危惧するが、そこは安心していいだろう。

 なにせ、この世界はやたらとハードモードなのだ。これくらいのパワーバランスの崩壊はあってないようなものだろう。

 

「時間が惜しい。早く行くぞ」

 

 そんなアイリスを冷めた目で見つめながらアキトは黒の剣を担ぐようにして持ち、森の入口へと足を踏み入れる。

 

「あ、待ってよ。アキト」

 

 その後ろを、アイリスは着いて歩くのであった。

*1
ルーンセイバーのことである



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