俺はドラゴンである~異世界編~ (nyasu)
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えっと、兵藤一誠。職業フリーター。趣味は喧嘩全般。アーシアとかドラゴンが好きです

それはある日のことだった。

 

「誰だお前」

「俺はアザゼル、ヴァーリの父親だ」

「なんだって、オラァ!」

 

俺はアザゼルを殴った。

ヴァーリの親父はガキの頃のヴァーリをボコボコにしていたからだ。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『相棒、それは別の父親だぞ』

「なんだって、ラッセー早く言えよ」

 

ボロボロになったアザゼルを回収し、ヴァーリの元に連れて行く。

ヴァーリは笑いながら殴ってきた、悪い間違えたみたいだ。

アーシアに頼んで治療してもらうと、アザゼルは唐突に言い出した。

 

「慰謝料を要求する」

「金か?」

「俺の実験に付き合ってもらおうか。そのバイト代で慰謝料ってことにしてやろう」

 

包帯だらけで、動くことが出来ない状態でアザゼルが要求してきた内容を飲むことにした。

最近、転移装置を作ったらしい。

これがあればどこでもいけるそうだ、すごい。

 

「それで、このカプセルに入れば良いのか」

「あぁ、これで転移出来るはずだ」

『嫌な予感しかしない、合体してドラゴン人間になったりしないだろうなぁ』

 

ラッセーは相変わらず、何を言ってるのか分からなかった。

それはそれとして、転移装置が黒い煙を出してバチバチ言い始めた。

 

「いつまでこうしたらいいんだ、アザゼル……あれ、いないぞ?」

『いかん、爆発するぞ!間違いない!逃げるんだ相棒!』

「うん、分かっ――」

 

その時、目の前が真っ白になった。

 

 

 

気付けば、俺は知らない家にいた。

 

「ゲホッ、ゲホッ……なんだよ、何が起きたんだ」

「どこだ、ここ?」

 

最初に気付いたのは血の臭いだ。

ムッと匂った臭いに顔をしかめる。

なんか、足元に魔法陣あるけどどうなってんだ。

 

「むぅぅぅぅぅ!」

「子供が拘束されてる?変わった趣味だな」

 

よく見たら、首が取れた死体がある。

ふむ、殺人現場ってところか。

 

「えっと、アンタってもしかして悪魔とか?」

「悪魔ァ……俺は、ドラゴンだァ……」

「なにそれ、ダサっ……アンタさぁ、良い歳してマジで――」

「フンッ!」

 

ムカつくなと思っていたら、気付けば俺は殴っていた。

すまない、壁にめり込ませてしまってすまない。

 

「うわぁ、綺麗……何だよ、こんな所に――」

「あっ」

 

口から吐血したまま横になる青年、やべっマジかよと思って脈を取る。

し、死んでる!やっぱり、死んでるわこれ。

 

『安心しろ、ソイツは殺人鬼だ』

「あぁ、そうなんだ。でも死ねばみんな仏様だ、主よまた一つ貴方の元に迷える子羊が向かわれました。彼に安息をお与えください」

 

取り敢えず、祈りを捧げておく。

これくらいしておけばいいだろう、手違いで殺したけど許してくれ。

 

「さて」

「うぅ!?うぅぅぅぅぅ!」

「少年、助けに来たぞ」

『手遅れ感がスゴイ』

 

ビビる少年に近づき、口にされたガムテープを取ってやる。

どうした、なんか言えよ。

 

「大丈夫だな」

「うん」

「警察を呼ぶんだぞ」

 

そう言って、外に出ようとした瞬間に掌に痛みが走った。

なんだこれ、痣?

うお、眩しいぞなんだこれ!?

 

「問おーう。我を呼び、我を求め、キャスターの座を依り代に現界せしめた召喚者……其は、何者なるや?」

「えっと、兵藤一誠。職業フリーター。趣味は喧嘩全般。アーシアとかドラゴンが好きです」

「分かるぞ、貴様ぁ!聖女を汚したな!この匹夫めがぁぁぁぁ」

「うわ、あぶ」

 

何やらピガーと光ったと思ったら、魚みたいなギョロ目のおっさんが現れて掴みかかってきたので殴り飛ばした。

スゴイ、なんかそのまま粒子になって消えていった。

何だったんだ、新手の悪魔か?おのれグレモリー、またやりやがったな。

 

『いやいやいや、アレがそれってことはまさか』

「知ってるのかラッセー」

『青髭の旦那とかヤバイだろ。ゼロっぽいな』

 

独り納得するラッセー、なんだ持病の謎電波受信中か。

取り敢えず、さっきと同じで外に出ようと思ったので出ることにする。

それにしても何だったんだ一体。

 

「知らない街だ、冬木市?JRは通ってるのか?」

『駒王町とかないからな、別世界だぞここ』

「なんだって!?どうやって、帰ればいいんだ……」

 

アザゼルめ、これでは帰ることも出来ないじゃないか。

しかし、そんなことで悩む必要はないとラッセーが言う。

 

『聖杯というのがあってだな』

「邪竜を復活させるあれか」

『それを使えば帰れる』

 

ラッセー曰く、聖杯というのを争うバトルがこの冬木市では行われているらしい。

そして、そこでは英雄の幽霊を使った英霊バトルっていうのがやってるそうだ。

優勝者には聖杯が与えられ、なんでも願い事が叶うらしい。

ただ、聖杯ってのはバグってるからもしかしたら破滅的な方向に願いが叶えられるみたいだ。

最悪ダメなら危険だが殴って次元の壁に穴でも開けろとのことだ。

 

「そうか、俺はマスターってやつなんだな」

『そうだ』

「まずは英霊をゲットしないと、英霊マスターにはなれないってことだ」

『うんうん、うん?お前は何を言ってるんだ?』

 

大丈夫だ、ポケモンには詳しいんだ。

まずはウロウロして英霊を手に入れないといけない。

英霊は伝説ポケモンと一緒で一度倒すと二度と出てこない、つまりゲット出来ない。

だから、できるだけ瀕死にして……仲間になれって言えば良いのかな?

 

『おい、なんか違うぞ』

「あっちに気配がする」

『話を聞け!』

 

大丈夫だって言ってんだろ、子供じゃないんだから分かったよ。

ラッセーのわからず屋は置いておいて、俺は気配のする方に移動する。

海か、港の倉庫街に来たぞ。

おっ、なんか音がする。

野生の英霊がバトルしてるみたいだ。

 

「槍使いと剣使いの英霊だな、ランサーとセイバーって奴だ。俺は聖杯戦争に詳しいんだ」

「誰!?新しい、マスター?」

「おっす、俺は兵藤一誠。通りすがりのマスターだ」

 

俺が英霊達の方に近づくと、銀髪の姉ちゃんが話しかけてきた。

普通の人間より魔力を多く感じる、というか本当に人間だろうか。

にしては骨格から筋肉まで左右対称で均整が取れてやがる。

 

「まさか、頭のそれは竜種……貴方、キャスターのマスターね!サーヴァントを実体化させないのは余裕のつもりかしら?」

「キャスター?あぁ、キャスターは死んだもういない!」

「えぇ!?まさか、だってアレはアサシンで……でもタイムラグがあったしやっぱりキャスターなのかしら?」

「アイリスフィール!くっ、こんな時に」

 

むむむ、バトル中に英霊が姉ちゃんを心配していた。

つまり、野生の英霊ではないみたいだ。

とすると、これが英霊同士のバトルってことか。

トレーナーはどこにいるんだ?

見聞色の覇気を使ったら、意外と多いことが分かった。

俺には見えないが建物の上に一人、クレーンの上に一人、離れた場所に二人、スゲー離れた場所に二人、あと地下の方に二人、意外といっぱいいた。

 

「フン、サーヴァントの実体化すら出来ない三流魔術師が参加しているとは、所詮は極東の島国程度が知れる。邪魔だ、雑魚はさっさと失せるがいい」

「なんだお前、喧嘩売ってんのかこの野郎」

 

その喧嘩買うわと、地面を何度か蹴る。

六式の剃による高速移動、奴の近くまで一飛びである。

 

「ケイネス殿!」

「むっ、槍か」

 

だが、その移動を鋭い槍の一撃が邪魔をする。

目の前に伸びてくる穂先を、俺は篭手の突いた腕で弾くようにして防ぎ、相手を見た。

目の前には爽やかなイケメン、男じゃなきゃ惚れちゃうレベルのイケメンだ。

 

「やらせはせんぞ、メイガス!」

「何を言ってるんだ?俺はイッセーだ」

「ハァァァァァァァ!」

「紙絵」

 

鋭い槍の応酬が俺に対して行われる。

だが、見聞色と風圧を利用して避ける紙絵の併用で難なく交わす。

 

「英霊と張り合ってる!?」

「馬鹿な、三流魔術師ではないのか」

 

俺の移動を邪魔をし、イケメンが攻撃を仕掛けてくる。

絶妙な槍使い、俺の動くであろう場所に先んじて穂先が動くのだ。

自分から槍に当たりにいってるような感覚に陥るほどの技術だ。

クソが、邪魔なんだよ!

 

「いい加減にしろ、ダイヤモンドダスト!」

「吹雪!?魔術か!」

「何をしておるランサー、相手はただの魔術師だぞ!」

 

牽制で、俺の魔力を拳に込めて凍気を発生させる。

結果、相手は怯み距離を取る。

ふぅ、ひょっとして曹操より巧みに操ってないか?

 

「まぁ、関係ねぇ!ブッ潰す」

「相手に取って不足なし、来い!」

 

俺とイケメンの間で視線がぶつかる。

外野の女騎士とか放置で、今まさに始めようとした時だ。

 

「Aaaaaaaarrrrr―――!!」

「ラッセー、空からおっさんが」

 

なんか戦車に乗ったおっさんが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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これ捨てちゃうんですか?貰ってもいいですか?

空からおっさんが現れる。

赤い髪に、筋肉モリモリのマッチョマン。

キレてる、冷蔵庫、山がスゴイ!

 

「双方、止まれ!王の御前であるぞ!我が名は征服王イスカンダル、此度――」

「そうか、俺は兵藤一誠だ」

「――は、ライ……うむ、口上の間に口を挟むとは剛毅な奴だのぉ」

「ハハハ、ありがとな」

『褒めてないと思うぞ相棒』

 

 

頭をそのデカイ手で掻くイスカンダルさん。

それにしても、ナイスマッスルだな。

 

「まぁよい兵藤一誠よ。そして、ランサーとセイバーよ。少し出鼻を挫かれたが、ひとつ我が軍門に降り聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を制する快悦を共に分かち合う所存である」

「えー、やだ」

「やだってお前……ちょっと、余にも扱いにくい人材じゃぞコイツ」

 

ドラゴンって言うのは何ていうか自由でないといかんのですよ、その辺が偉い人には分からんのですよ。

権力なんて飾りです、偉い人には分からんのですよ。

大事なことなので二回思いました。

 

「俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人。断じて貴様ではない、ライダー」

「そもそも、そんな戯れ言を述べ立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか?」

「いや、邪魔をしていたのはソイツだと思うんだが」

 

サーヴァント達の視線が俺に集まる。

どうした、俺の顔に何かついているか?

 

「確かにそうだったな」

「マスター同士の喧嘩に横槍とか、騎士道舐めてんの?恥を知れ!」

「くっ、言わせておけば!」

 

悔しそうに顔を顰めるランサー、馬鹿め!人の邪魔をするからである。

そんな悔しそうなランサーとメンチを切っていると、何やら金色の粒子が電柱の上に集まってきた。

すげぇ、ホタルがいる。間違いない、ホタルだよアレ!

 

「我を差し置いて、王を称する不埒者が湧くとはな」

「ホタル……じゃなーい!」

「不愉快だ、死ね」

 

俺がホタルだと思っていたのは人であった。

どうやら空間系の神器を持っているらしい。

その応用か、背後に波紋が浮かんだと思ったら何やら武器の穂先が見える。

竜殺しとか神殺しのオーラがスゴイ、見ただけで吐き気を催すレベルだ。

 

『避けろ、相棒!』

「あぁ、行くぞラッセー!

『Boost!!Boost!!Boost!!』

 

射出される武器の数々、素人の俺でも高そうに見える。

まずは頭を貫こうとする槍を掴む。

続いて、足元に向かって飛んでくる剣をもう片方で掴む。

次、飛んでくる鈍器を口にくわえて防ぐ。

流石にそろそろ厳しくなってきたので、迫ってくる武器を無視して回避に専念する。

七個くらい武器が飛んできたが、だいたい奪えたので儲けた。

 

「貴様ァ!我が宝物に汚い手で触りおって!」

「これ捨てちゃうんですか?貰ってもいいですか?」

『セーフです』

「よっしゃぁ!」

「貴様ァ!許さんぞ、おのれ!」

 

足で道路灯をぶち壊す金ピカ、器物破損である。

そんな煽り耐性の低い金ピカの前で俺は手に入った神器らしき物を篭手にぶち込んでみた。

この篭手、収納だけでなくパワーアップにも使えるんだ。

 

「盗むだけでなく、取り込みおっただと!これだから、蛇や神は気に食わんのだ!」

「す、スゴイ!さっきの倍は出てきたぞ」

「虫ケラの如く死ぬが良い!」

 

あー、何?なんか使い捨て感あるからいらないと思ったんだがそんなに大事だったのか?

正直、スマンなぁ。まぁ、返したりしないんだがな。

 

「何が起きたんだ、さっぱり分からない」

「偉く芸達者な奴じゃな。迫りくる武器を奪っては後ろに回避したんだ」

 

ほぉ、あのマッスル俺の動きが見えたのか。

それなりの悪魔レベルってことだな。中級、いや上級って所か。

それはそれとして、なんか黒い靄が出たんだがアレって地下にあった気配じゃね?

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!」

「バーサーカー!?」

 

アレ、バーサーカーって言うのか。

確かに狂戦士っぽいぞ。

 

「ええい、大きく出たな時臣!首を洗って待ってろよ、貴様ァ!」

「あ、帰った」

「アー……■■■■■■■■!」

 

消えていく金ピカを見ていたら、何か言いかけて黒いのが走ってきた。

理性を失ってる、つまりトレーナーの言うことを聞かない、ってことはゲットしても問題ないのではないか?

よし、バーサーカーゲットだぜ。

 

「オラァ!」

「■■■■■■■■!」

「日本語しゃべれぇ!」

 

俺の拳がバーサーカーの顔面に入る、するとバーサーカーは殴られてるにも関わらずパンチを繰り出す。

お互いの顔面を殴り、お互いに吹っ飛ぶと今度はバーサーカーが電灯を引き抜いた。

器物破損の次は道路の破壊である、冬木市の財政がヤバイ。

 

「うわ、気持ち悪」

『気を付けろイッセー、奴はなんでも宝具にしちゃう宝具お化けだ』

「よく分からんが、あの赤い血管みたいなのがヤバイってことだな」

 

武器を持ったほうが強いんだと、強気なバーサーカーに俺も武器を使うことにした。

新必殺技の開帳である。

 

『Blade!』

「な、何だあれ……まさか、何らかの魔術なのか?」

「というか、生身で英霊と殴り合えるもんなのか?」

 

外野が何か言ってるが無視してバーサーカーを相手取る。

おい、さっきから何を余所見してんだよ!お前、なんだパツキンの姉ちゃんが好きなのか!こっち見ろや!

 

「■■■■■■■■!」

「叫んでちゃ分かんねぇんだよ、この野郎!喰らえ、エクスカリバー!」

「なっ、エクスカリバー!?」

 

俺の中の気を集中して飛ばす斬撃である。

お前は、身体の中に宇宙を感じたことがあるか、俺はある!

飛ぶ斬撃をバーサーカーは持っていた鉄柱で防ごうとするがいくら宝具化していても防ぐことは出来なかった。

そして、斬撃はそのまま切断してバーサーカーにぶつかる。

もう少し頭使えば持たないことくらい分かっただろうに、分かったコイツ俺より馬鹿だな。

 

「■■■……」

「よし、弱ったぞ。チャンスだ」

『消えかかってるんですが』

 

えっ、そんな馬鹿な。

気配はあるが、見えなくなっていく。

つまり、ゴーストタイプだった訳だな。

実体化が解除していると、把握した。

撤退するバーサーカー、仕方ない追跡するか。

 

「痛っ、なんだ……銃弾?」

「ば、化物だ!?」

 

バーサーカーを追おうとしていたら、頭に何かぶつかった。

見れば銃弾であり、狙撃されたらしい。

おい、ファンタジー舐めんなよ地球人、俺はドラゴンだぞ。

狙撃手は逃げていく気配が伝わったので、追わないでおいてやる。

気配は覚えたのでいつか殴る。

そんなことより今はバーサーカーである。

 

「おう、じゃあな」

「うむ、嵐のような男だったわ」

 

イスカンダルさんに挨拶して、バーサーカーを追うことにした。

今度、他の奴らの名前も聞かないといけないな。

バーサーカーを追っていたら下水道の方にやってきていた。

なんか臭い、そしてそんな臭い所に年寄りがいた。

 

「大丈夫か?」

「くっ」

「なんだ、若白髪か。おい、マジで大丈夫か」

「ガハッ……」

 

心配していたら、年寄りじゃなくておっさんだった。

しかし、ストレス社会の影響か若白髪で嘔吐なんかしやがる。

目の前で嘔吐したら、何やら口の中からミミズみたいなのがウネウネ出てきた。

生きてる、気持ち悪い。

 

「バー、バーサーカー……」

「何、お前バーサーカーのマスターなのか?」

「くそ、出ろ!出ろよバーサーカー!」

 

何度もバーサーカーを呼ぶおっさん、おっさん多分レベル不足だから英霊は言うことを聞かないんだ。

バッジを手に入れると言うことを聞くようになるぞ。

 

「なぁ、おっさん。俺にバーサーカーくれよ」

「なっ、ダメだ!俺は、時臣を殺さないと、桜ちゃんを救わないといけないんだ」

「分かった。時臣って奴をぶっ殺して、桜ちゃんを救えばいいんだな。そしたらくれるんだな」

「な、何を言ってるんだ?ひょっとして……本気で言ってるのか?」

 

時臣って奴はきっとブラック会社の社長何だろう、桜ちゃんは同僚かな。

取り敢えず詳しい話を聞いとくか。

 

「まぁ、座れよ」

「お前、頭おかしいんじゃないか?」

「なんだと!」

「す、すまん。本当に言ってると思ってなかったからな」

 

俺はその後、メチャクチャ話をした。

 

「つまり、虫大好きお爺ちゃんの性癖に付き合わされてる桜ちゃんと、児童虐待に加担した時臣を殴ればいいんだな」

「あれだけの説明をそんな簡単に纏めるのか!?」

「殴れば良いんだろ、分かってる」

「もっと、俺の人生とか間桐の闇とか魔術師についてとかも言ったよな!」

「ハハハ、元気だなおっちゃん。何か良いことでもあったのか?」

 

まぁ、殴ればバーサーカー貰えることだけは確かだった。



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これで俺も、英霊マスターになったか

カリヤって名前のおっさんの身の上話を聞いた俺は、夜の街を歩いて実家に来た。

 

「ここがカリヤの家か」

「あぁ、気を付けてくれ。奴は、妖怪の類だ。アイツに逆らえる奴なんてそういない、細心の注――」

「こんばんわ、徒歩で来た!」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

桜ちゃんとやら待っててね、きっとカリヤおじさんがこんな白髪になったのは妖怪の仕業なんだ。

なんだって、許せん!妖怪退治しなくちゃ。

 

「えっ、ちょ、えぇぇぇぇ!」

「何してるんだ、行くぞカリヤ」

「俺の、お前、俺の話を聞いてなかったのか」

 

何言ってんだ、聞いてたよ。

聞いてたけど、面倒だったから正面突破するだけである。

 

「ホッホッホッ、騒がしいと思えば大それた事をするようにな――」

「お爺ちゃんッ!こんばんわ、死ねッ!」

 

ドアをぶち破って最初に現れたご老人が悪臭を漂わせていたので、コイツはヤバイ奴だなと直感で殴りつける。

すると、俺の拳にはブチブチとした触感が与えられその辺に虫の死骸が飛び散った。

お爺ちゃんは頭が吹っ飛んでるのに、胴体が倒れなかった。

寧ろ、その胴体は黒い靄になったと思ったら極小の虫になって別の場所に集まっていく。

そう、お爺ちゃんは虫の集合体であって生きてはなかったんだ。

 

「何をするかと思えば、所詮は三流の魔術師よ。マキリの魔術は虫の使役、儂の身体はとうに虫に置き換わっておる」

「つまり虫なんだな」

「魂を移した虫の集合体こそが儂であり、全ての虫を消し去らぬ限り個としての儂は消えん」

「つまり、虫なんだよな?」

 

正直、何言ってるかわからないが取り敢えず殴れば良いんだろ。

俺は諦めずに復活したお爺ちゃんを殴りつける。

再び、床に虫の死骸が落ちるだけでお爺ちゃんは別の場所で復活する。

 

「無駄だと言っておるだろうに、それとも――」

「そこだッ!」

「――理解で、やめ、やめんか!話して――」

「そっちか!」

「――話してる、所じゃろうが!」

 

床に広がるの虫の死骸だけが増えるだけで、一向にお爺ちゃんは倒せない。

なんか、アレだな。きっと、本体は別の場所にいるんだと思う。

おのれ、お爺ちゃんめぇ……

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

「急にどうしたカリヤ?」

「ぞ、臓硯が俺を……ぐあぁぁぁぁ!」

「何言ってんだ、具体的に頼む」

「頼む、俺を殴ってくれ!このままじゃ、俺はお前に――」

「イエァァァァ!」

 

腹部に向かってパンチを繰り出すと、そのまま吹っ飛び家の壁にぶつかった。

慌てて近寄れば、奴はもたれかかるようにして意識を失っている。

打ちどころが悪かったんだな、あんな軽いパンチで気絶するはずがないからな。

 

「ほぉ、バーサーカーを――」

「イヤァァァァ!」

「――舐めるなよ小僧」

 

まったくしぶとい妖怪こと臓硯。

そんな奴は、身体を虫にすることで俺に襲い掛かってきた。

俺の身体中を虫が集まり、覆っていく。

 

「食らうが良い、これがマキリの魔術よ。鋼すら簡単に噛みちぎる、虫の物量攻撃。単純ではあるが、防ぐのも難しい。これが魔術の歴史による、格という奴よ」

「確かに、ちょっと痛いな」

「なっ!?」

 

俺は虫の群れを叩きながら、距離を取る。

流石普通の虫と違って魔術とやらの影響を受けている虫である。

俺の身体に傷を付けるとか、そこらの武器より強いってことである。

鋼すら断ち切るのは伊達じゃないな。

 

「お前が操作系の能力者ということは分かった」

「何を言っておるのだ?」

「俺は強化系だ!」

「何を言っておるのだ!」

 

力こそパワー、見せてやろう操作系能力者じゃ強化系には勝てないってな。

行くぞ、相棒!

 

「あれ、ラッセー?」

『ぐあぁぁぁ!く、食われる!ヘルプ、ヘルプゥゥゥ!』

「ラッセー!?」

 

俺の頭が軽いと思っていたら、なんとラッセーが虫に食われかけていた。

自分の身体を床に叩きつけるなどして奮闘しているが、虫が集まりすぎて本体が見えない。

寧ろ、声のする黒い毛玉のような感じだ。

 

「フェフェフェ、そこの竜種とカリヤがどうなってもええのかのぉ?」

「人質とは、おのれ卑怯な!」

「正面から戦わぬ方法もあるのじゃよ」

「悪には屈せぬ、エンダァァァァ!」

 

体表を覆うは、波紋の力。

山吹色の波紋、喰らえ!波紋疾走!相手は、死ぬ!

 

「何だこの光は、や、焼ける!?」

「震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート、刻むぜ血液のビート!」

「ぬわっーーーー!?」

 

何故か、弱点特効なのか妖怪お爺ちゃんはポロポロと崩れていく悪は滅びた。

と、思うじゃん。

食わせものな爺である。

 

「そこにいるんだろ?」

「お、お兄ちゃん何を言ってるの?」

「爺、子供はいきなり話し掛けられたら黙っちまうもんだぜ」

「……勘のいい餓鬼は嫌いだのぉ」

 

振り返ると、幼女が立っていた。

ハイライトが無くなってる、目が死んでる餓鬼だ。

こんな顔がデフォルトな訳がない。

気配もするし、操られてるのだろう。

おのれ、これが人間のやることかッ!

人じゃなかった……。

 

「さて、どうする?」

「いつから其処が安全だと錯覚していた?」

「ひょ!?」

「浸透圧って知ってるか?」

 

圧力が浸透するってことだよ!つまり、殴れば染みるんだよ!

 

『相棒、絶対違うぞ』

「オラァ!」

『Penetrate!』

 

それは静かな殴打だった。

まるで触れるように音もなくゆっくりしたパンチだ。

 

「はぁ?……ガフッ!?」

 

当たった、それだけで幼女が吐血する。

純粋なパンチ力だけを、霊体に叩きこんだのだ。

幼女は因みに無傷である。

吐血?幽霊の血だよ!

 

『まるで意味がわからんぞ』

「ぐっ、ぐぁぁぁぁぁ!?」

「カリヤ……虫が暴走してるのか?波紋疾走!」

 

説明しよう、波紋とは生命力であり太陽のエネルギー、つまり不思議パワーなので人体に影響はない。

なので、俺が殴ってもかえって健康になるのだ。

 

「メメタァ!!」

『ひでぇことしやがるぜ、まるでカエルが潰れたみたいな姿だぜ』

「……ハッ、俺はいったい!?」

 

どうやら健康になったカリヤ。

これで諸悪の根源である爺を倒したぞ、バーサーカーはもういらないだろ。

なので、俺にくれよ。

 

「臓硯が、死んだ……」

「あぁ、そうだ」

「そうか、そうか……」

 

カリヤは何故か、頭を垂れたまま固まる。

何ていうか、真っ白に燃え尽きている感じだ。

そう言えば桜ちゃんとやらを助けるのが目的であって、もう達成してしまったからだろうか。

 

「俺は、魔術師としては出来損ないだ。だから、令呪の渡し方なんて知らない。そっちでどうにかしてくれ」

「あざーす」

『ノリ、軽っ……』

 

令呪ってのは魔力である、でもって魔力ってことは魔法の源、魔法はイメージが大事。

つまり、俺の右腕がダイソンだと思えば変わらない吸引力で吸い取ることも可能ということだ!

俺はカリヤの腕を掴んで、気合で魔力を唸らせてみる。

すると、どうだろうか。令呪がカリヤの腕から俺の腕にズズズと移動した。

やっぱり、俺の考えは間違ってなかったんや!

 

『なんでもありかよぉ……』

「よろしくな、バーサーカー!」

「■■■■■■■■■!」

 

握手しようと現界させたバーサーカーに殴られる。

ハハハ、こやつめ照れておる。

聞けば、カリヤはどこの英霊か知らないらしい。

まぁ、パンチが挨拶ならケルトだな。

ケルト式挨拶はファンキーである。

俺も殴り返しておいた。

 

「ぐおぉぉ……」

「躾、最初、肝心」

 

勝手に消えようとするバーサーカーに、まったく貧弱だなという感想を懐きながら喜びを噛みしめるのだった。

バーサーカー、ゲットだぜ。

 

「これで俺も、英霊マスターになったか」

 

よし、まずはどこから攻め入るか。

ランサー陣営とか良いんじゃないか、アイツらが一番最初に喧嘩売ってきたしな。

 

「よし、ランサーを狙うとしよう」

『辞めておいたほうが良い』

「なんでだラッセー、大丈夫だ場所なら分かる」

 

アイツらの気配くらい覚えている。

ほぉ、高い位置にいるな。

どうやらホテルにでも泊まっているようだ、羨ましい。

 

「よし、行くぞ……うん!?」

『あっ、爆破あったなこれ』

 

ど、どういうことだってばよ。

ランサーの気配が落ちた。

えっ、飛び降り自殺したん?

 

「いったい、何が起きてるんだ?」

『ハードラックとダンスっちまったのさ。つまり、さよなランサー』

 



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あぁ、俺のバーサーカーは最強なんだ!

拝啓、ランサーが死んだ人でなし!敬具。

いつの間にかランサーが死んだ。

いや、死んでないかもしれないけど、すぐに戦うことは出来ないだろう。

 

「これからどうするか」

「Arrrr……thurrr……」

「朝?おいおい、朝まで戦わないのは無しだぜ」

 

まったく碌な意見も出せないなんて考えが足らないな。

あっ、コイツってバーサーカーだった。

じゃあどうするか、時臣って奴でも殴りに行くか。

それがいいな、そうしよう。

 

「行くのか」

「あぁ、俺のバーサーカーは最強なんだ!」

『嫌な予感しかしないんだが』

 

うるせぇ、行くぞ!

という訳でカリヤのおっさんに住所を聞いて殴り込みに行くことにした。

よし、張り切って令呪使っちゃうぞぉ……。

 

「令呪を持って命じる。余裕があったら、武器を奪うこと」

「グルルルル……」

「日本語喋れんのか貴様」

 

まぁ高速で頷いてるので分かったのだろう。

心なしか黒い靄が増えてる気がする。

や、闇のパワーを感じるスゴイ。

 

時臣って奴の家に向かう途中、小動物の気配が集まってきた。

ふむ、使い魔って奴だろうか。

どうやら時臣って奴は人を監視するのが好きなインドア派なようだ。

 

「ここが時臣の家か」

『本物はやっぱ違うなぁ、文化財みたいだ』

「なんだこの家、インターホンがないんだが」

 

相当昔からあるのだろう、ここを拠点にするなんて大丈夫か?

なんか結界とかあるけど、悪魔のに比べたら貧弱だな。

悪魔の方がもしかしたら魔術師より強いのかもしれない。

 

「よし入るか、あっ?」

 

扉を開けて中に入ったら、なんか庭に置いてあった宝石がたくさん割れた。

言い訳をさせて欲しい、俺は何もしていない。

こ、こんな所で精神攻撃とはやるじゃないか。

 

「痴れ者が!一度ならず、二度までも我が面貌を仰ぎ見るとは不敬であるぞ!」

「痴れ者が!一度ならず、二度までも俺を見下ろすとは不敬であるぞ!」

「貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

時臣の家に行ったら、野生の金ピカが現れたので煽り返したら顔真っ赤になっていた。

この金ピカやっぱおもしれぇわ、煽り耐性がなさすぎる。

きっと、コイツは時臣の英霊なんだろう。

いいぜ、そっちがその気なら俺の最強でお前の最強を打ち砕く!

 

「行けぇ、バーサーカー!君に決めた!」

「■■■■■■■!」

「狂犬が!主従揃って、不快にさせる!せめて散り際で我を興じさせろ、犬ゥ!」

 

金ピカの背後に波紋が現れる。

金ピカの宝具攻撃だ!

俺は仁王立ちのまま、マスターらしく指示を出す。

 

「バーサーカー!避けながら武器を奪い取るんだ!」

「■■■■■■■!」

 

バーサーカーは俺の言葉を無視して、金ピカに突っ込む。

く、クソったれぇ!やっぱりジム戦とかしてなかったから、なつき度とか低かったか。

だが、金ピカは遠距離攻撃しか出来ないのか宝具攻撃を繰り出してくる。

自然と、バーサーカーは俺の指示に従うように武器を奪い取った。

 

「いいぞ、そのまま攻撃だ!」

「■■■■■■■!」

「違う、俺じゃない!あっちだ、混乱してるのか?」

 

まさか、あの金ピカの後ろから出る光にはそんな効果がッ!

俺は飛んでくる宝具を左手で掴み、返す動きで次に飛んでくる宝具を今手にした宝具で破壊する。

更に飛んできた宝具を二つ回収し、三個目は掴めないので片手にあるやつを金ピカに投げてからキャッチした。

宝具、ゲットだぜ!

 

『どんどんパワーアップしてくな、相性が悪すぎる』

「死ぬが良い!」

 

金ピカが一本の剣を抜き取って、上から振り下ろすと同時にビームが出た。

なんだそりゃ、なんでビームが出てくるんだスゲェ。

 

「ビームですよ、ビーム!ビームですよぉ、スゴイなぁ!」

『喜んどる場合かぁ!』

「ドラゴン破ァァァァァ!」

 

確かに、と慌ててビームを俺も出す。

気を集めればこれくらい出来るのだ。

 

「無礼者、黙って食らうが良い!」

「無茶言うな、うお!?出力上がった」

 

剣からビームが出るとは非常識な、対抗するのも一苦労である。

なので、俺はもう片方の手からもビームを出す。

魔力と気によるビームが合わさり、威力が二倍に見える。

両手からビームを出す日が来るとは、中々やるな。

 

「抑えてくれだと!誅伐の余波程度で場打てするようでは、我の臣下には値せぬと知れ!」

「ほぉ、MP切れか」

 

どうやら連戦による連戦で魔力がないとか言い出していることが伺える。

まったく、魔力を作り出す気合いが足らないんだ。

と思ったら、何やら金ピカが飲み物を出して補給し始めた。

なにあれぇ……。

 

飲み物を片手にビームを撃つ金ピカ。

ま、まさか魔力をアレで回復してるのか。

 

「汚ねぇぞ、回復アイテムを使うなんて!」

「フハハハハ、見たがこれぞ我が財力のなせる技よ!」

「バーサーカー、もっと気合出せ!俺は手が放せない!」

 

自分の周囲を囲まれるようにして絶えず攻撃の嵐に晒されるバーサーカーに指示を出す。

掴んではぶつけて防いでいるようだが、それだけだ。

戦いは数とは言うが物量がスゴイ。

このままではジリ貧である。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

『Boost!!Boost!!Boost!!』

「何だと!?」

 

俺のビームが屋敷を飲み込むほどに大きくなる。

ふっ、忘れていた。俺の戦いはビームを出すことじゃない、倍加を使って戦うってことをな。

巨大なビーム、これは金ピカも防げまい。

驚いた顔で飲み込まれる金ピカ、やった聖杯戦争完!

 

「やったか!」

『どうしてそんなこと言った、言え!』

「フフフ、フハハハハ!甘いぞ、甘いぞ雑種!」

 

ブォンっと謎の音と共にビームが消え去って周囲に風が吹き荒れる。

よくわかんない方法で防ぎやがった。

圧倒的、圧倒的無傷!金ピカは仁王立ちしたままである。

おい、俺とポーズ被ってるぞ。

 

「興が乗った。我が直接、手を下そう」

「うるせぇ、死ね!グレートホーン!」

 

仁王立ちからの居合抜きの如きパンチ、相手は死――。

 

「その程度か」

「なぁ!?」

 

俺の抜き放った拳は、金ピカの片手に防がれていた。

何だと、俺の攻撃が防がれた。

 

「良いことを教えてやろう。我は脱いだ方が強い」

「ぐっ!?」

 

視界が変わる、衝撃と共に俺の身体が吹っ飛んでいく。

痛い、どうやら殴られたらしい。

甘く見すぎていたらしい。

 

「ほぉ、その姿が本気ということか?やはり、人ではなかったか」

「この姿になると加減は出来ない、だから記念に殴らせてやったのだ。決して油断していた訳ではない」

『言い訳にしか聞こえないよ』

 

煩いぞラッセー、細かいことは良いんだよ。

半壊した戸建ての中から、俺はドラゴン形態で前に出る。

キュピキュピと独特の音を鳴らす、太くて天然の鎧に覆われた足。

赤い鱗が棘棘しく、そして燃えるように輝いている。

爪は鋭く、牙は太い、そして尻尾がヌルリと瓦礫を振り払う。

褒めてやるぜ金ピカ、俺をちょっとだけ本気にさせたってな。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

「所詮は獣よ」

「な、何ィィィ!?鎖だとォ!?」

 

よし殴るぞと思ったら、身体が鎖に包まれていた。

なんだこの鎖、全然壊れないんだが!

 

「その姿では神性が上がったと見える。所詮は獣、考えが足らぬな。さぁ、死に際で我を――」

 

大きく目を見開いて、金ピカが固まった。

一体どうしたというのか、苛立ち混じりに金ピカは振り返った。

 

「おのれ時臣ィ!臣下の勤めすら果たせぬとは、役立たずが!」

「あ、アイツは……」

 

屋敷の中から、黒い靄が現れる。

半壊し、炎上する屋敷、その中から奴は現れた。

その片手には、黒く染まったオッサン。

バーサーカーだ、バーサーカーが時臣を殺したのだ。

 

「■■■■■■■■!」

「邪魔だァ!」

 

黒く染まったオッサンが、金ピカに向かって投げ飛ばされる。

それを金ピカは片手を振るうことで波紋から武器を発射して防いだ。

下から上へと飛んでいく剣群により、死体は細切れになる。

ミンチよりひでぇや。

 

「我にゴミを投げつけるとは、先に死にたいらしいな狂犬!」

『死体に鞭打つとはこのことだよぉ』

 



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テメェ、俺の尻尾が食えねぇってか!

令呪は残り二つだが、俺は急いで使った。

 

「令呪を持って命じる。バーサーカー、一瞬で俺の鎖を宝具化して解除しろ!」

「なッ!?」

 

相対していたバーサーカーが霞の如く消え去り、俺の背後に転移する。

バーサーカーはイヤイヤと首を振っていたが身体は正直で、俺の鎖を宝具化して無力化していく。

悔しい、でも宝具化しちゃうって奴だ。

そして、再び使われると困るので宝具化してる間に俺の篭手の中に収納していく。

残念だったな、お前の鎖頂くよ!

 

「我が宝物に飽き足らず、天の鎖までとは万死に値する!」

「そういうの良いから、喰らえ天の鎖!」

 

道具に意思はなく、そして宝具化して取り込んだ鎖は今や同化している。

俺の篭手から出る鎖、それは真っ赤な色に変色していた。

その真っ赤な鎖は金ピカを拘束する。

 

「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇ!」

「お前、もしかして神性高い感じですか?えっ、マジ神性高いのが許されるのって小学生までだよねぇ~!」

「貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

最高にスカッとしたので、そのままバーサーカーの剣を奪って首を薙ぐ。

えっ、それ俺の剣って感じでバーサーカーがこっちを無言で見てきたけど、お前の物は俺の物ってことで借りる。

返すとは言ってない、これもしまっちゃうぜ。

 

『しまっちゃうおじさんかよ、いやドラゴンか』

「なんか、コレクター趣味に目覚めたかもしれん」

『ドラゴン度が高くなってるんだろ。俺もよく銅像をフィギュアみたいに集めてた』

 

ラッセーの過去に、そんなオタク趣味があったことが分かったがそれはおいておく。

やったぜ、英霊バトルに勝利した。

金ピカは、粒子になって消えていった。

お前、消えるのか?

ラッセーが言うには聖杯に焚べられたらしい。

へぇ、よく分かんねぇけど人妻が動けなくなるらしい。

そうなんだ、大変だな。

アイツは並の英霊じゃないから、三倍くらいスゴイやつだったそうだ。

レア英霊だったのか、確かにキラキラしてたもんな。

 

「朝か、帰ろう」

『■■■■■■■■!』

「もう帰るって言っただろ!まだ混乱してるのか!それとも反抗期?。令呪を使うぞ!バーサーカー、正気に戻れ!」

『■■■■■……あっ?えっ、あっ』

 

俺の令呪が効いたのか、バーサーカーの頭部がパカっと割れた。

それ、キャストオフするんかいワレェ!

バーサーカーは俺を見て、自分の手を見て、そして頭を掻き毟りながら地面に頭を叩きつけた。

 

「うわぁ」

『こういう奴見たことあるぜ、鬱の気が強えんだ』

「慣れないことするから、バカ」

 

取り敢えず、道の邪魔だったので頭を軽く蹴り飛ばす。

バーサーカーは、ぐげぇと言いながら電柱まで吹っ飛びぶつかった。

よし、立ったな。どうした、なんだプルプルして……。

 

「き、貴様!貴様という奴は、マスターでありながら」

「何だお前、正気に戻っても反抗するのか?」

「私は、私は狂っていたかったのに!どうして、どうしてこんなことした言え!」

「お前が反抗するからだろ、文句があるなら来いよ」

 

バーサーカーは腰に手をやり、そして思い出したと悲しそうな顔をして、そして怒りを胸に此方を睨んだ。

そう言えば、お前の剣奪ってたな。

もう自棄だと言わんばかりに殴りかかってくるバーサーカー、その腕を弾いてやる。

仰け反り、胴体がガラ空きになった所に無言で腹パン。

だいたい、これで大人しくなる。

 

『パリィだ、ダメージはデカイ』

「俺は主人、お前は部下だ分かったな」

「わ、私の主はアーサー王ただ一人だ」

『なお、そのアーサー王の奥さん寝取って、国を崩壊に導いた模様、その名も何スロットさんなんだ!』

 

君の名は?とか聞いて置きたかったんだが、突然ガチ凹みし始めた。

情緒不安定だな、何だコイツ。

つうか、円卓の騎士って奴だったんだな知らなかったよ。

 

「おい、ゲロってるサラリーマンにしか見えねぇから帰るぞ、後は髪を切れ」

「私は……私は……」

「おい、聞いてるのか?後、髪を切れ」

『また髪の話してる』

 

男がロン毛なんかやめろ、ロン毛は強い奴しかなっちゃダメなんだぞ。

 

 

 

落ち込むランスロットと名前を聞き出した俺はカリヤのオッサンの所に行った。

オッサンは身体を病気でボロボロにしてるから、見舞いに来たのだ。

俺の波紋を使って治療してやらないといけないからな。

 

「オッサンも波紋を覚えろよ」

「お前の言ってた呼吸法は、現代人じゃ出来ないんだよ!」

「やる前から諦めんなよ」

 

オッサンの家を間借りさせてもらって、ついでに結界とか張り巡らせる。

時臣が出来て俺がやらないのは、なんか負けた気がするからだ。

俺が結界を張ったら、カリヤのオッサンがそんなインテリっぽいことがと驚いていた。

魔法はイメージ、つまり不可能はないのだ。

 

「頭おかしいくらいの密度で魔力を固めただけですよね、これ」

「細かいことは良いんだよ」

「マーリンに見せたら、こんなの魔術じゃないって言いますよ」

 

しばらく落ち込んだお陰か、ランスロットはすっかり正気に戻った。

どうでもいいが女好きならしく、オッサンが桜ちゃんが危ないとか言っていた。

流石にないだろうと聞けば、まだ狙う訳無いでしょうと言われた。

当然だよな、ロリコンじゃあるまいし……まだ?細かいことは気にしないでおこう。

 

「それで今後の作戦ですが、あとアロンダイト返してください」

「敵を探す、見つける、倒すだ」

「分かった、このマスター馬鹿だな!ハハハ、あとアロンダイト返せ!」

「うるせぇ!」

 

お前の者は俺の物だろと、物理で説得する。

コイツ、殴っても反抗するとか正気かよ、バーサーカーだな正気じゃない。

結局、桜ちゃんに家が壊れるからやめてと言われるまで説得は続いた。

夜、インターホンを鳴らすバカが来た。

誰だよ、子供は寝てる時間だぞ。

 

「よぉ、久しぶりだな。バーサーカーのマスターよ」

「お前は、イスカンダル!」

「今日は酒宴を開こうと思ってな、当然来るよなぁ?」

 

酒か、酒はいい。

酒は人類の作った良い文明だ。

ドラゴン的に俺も酒は好きなので、行くことにした。

 

なんでもイスカンダルのオッサンは、聖杯って言っても話し合いで解決できるならそれで良くねみたいな事を言っていた。

確認したら、格をどうのと言ってたが最終的にそれでいいって言ってたから多分あっている。

つまり、誰が相応しいか偉いやつを決める会合である。

 

「よし、バーサーカー!上手くやれよ」

「マスター、戦いに行くわけではないですよ」

「おい、バーサーカーって言ったか?アレがコレか?喋ってるぞ」

「進化したんだ、姿形が変わるなんて良くあることだろ」

「んな訳あるかっー!うわわ、やめろ頭を掴むな」

 

ハハハこやつめ、愉快なライダーのマスターである。

気に入った、最後にお前は殴ってやろう。

空の旅を楽しみ、城に向かって突撃を敢行するとフル装備のセイバーさんが出てきた。

おっ、金髪姉ちゃんセイバーさんじゃないか。

 

「ら、ランスロット卿!?」

「あぁ、あぁぁぁぁ、■■■■■!」

「やめろ、バカ」

「あぐっ、はっ!?私は、いったい」

 

もう、隙あらばすぐに発狂しようとするんだからランスロットには困ったものである。

イスカンダルのオッサンはどうやらアポなしだったらしく、でもお前の家って広いから使わせろとのことだった。

まぁ、積もる話もあるだろうしそうすべきだと俺は思う。

 

「ら、ランスロット卿……貴方が、バーサーカーだなんて」

「金ピカの奴も誘おうと思ったがな、お主らが倒してしまうとは思わんかったわ。まったく、剛毅な輩よ。どこの英霊が目星がついていた分、いまだに信じられん」

「聞いているのですかランスロット卿!どうして、どうしてこっちを見てくれないんですか!」

「なぁ、坊主。コイツら、何かあったのか?」

 

俺とイスカンダルがワイン樽を開けてる横で騒いでる奴らを見ながら聞いてくる。

なんか上司の奥さんと不倫したんだってよ。

 

「桜ちゃんが言っていた、これが昼ドラって奴だってな」

「そりゃどっちも悪いな」

「そんなことより、酒だ!」

「肉もあるしな、所でなんの肉だ?」

「うん?俺の尻尾だが」

 

その瞬間、イスカンダルが伸ばしていた手を引っ込ませた。

どうした、美味しいのに。

 

「今夜は月をつまみに酒だけでよいな」

「おい、どうした食えよ」

「えー、嫌だわそんなの」

「テメェ、俺の尻尾が食えねぇってか!」

「食えるか!この征服王、そんな得体の知れない物を食うほど落ちぶれてないわ!」



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安心しろ、峰打ちだ

聖杯問答、それは英霊たちによる英霊たちの為の英霊の格を競う場である。

まぁ、結局みんな聖杯が欲しいわけなので話し合いは最終的に物理になる。

つまり、肉体言語で会話すれば最速で解決って訳だ。

 

「イスカンダル、貴様とて……世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わったはずだ。

その結末に、貴様は、何の悔いもないというのか!今一度やり直せたら、故国を救う道もあったと……そうは思わないのか?」

「ない。余の決断、余に付き従った臣下たちの生き様の果てに辿り着いた結末であるならば、その滅びは必定だ。痛みもしよう。涙も流そう。だが、決して悔やみはしない」

「そんな――」

「ましてそれを覆すなど!そんな愚行は、余と共に時代を築いたすべての人間に対する侮辱である!」

 

それにしても、マスター同士では会話しないから暇だな。

そんなことを思っていたら、何やらセイバーの姉ちゃんが説教されていた。

何してんだよ、まったく。

 

『過去を変えるか、世界を騙すんだなきっと』

「お前は何を言ってるんだ?」

「こ、この人……何を一人でブツブツ言ってるんだ」

 

俺の方を見て、何やら言ってるが聞こえてるんだからな。

それにしても、セイバーの姉ちゃんが凹んでる横でアイツは何をしているんだ?

 

「……これが王のスメル」

「うわぁ」

『うわぁ』

 

ドン引きである。

なおランスロットの願いは説教されたいという奴で、そんなにされたいならしてやるよとセイバーの姉ちゃんに一発殴られた。

でも、姉ちゃん的には別にあれいらないから怒ってないんだけど的なことを言ってたような気がする。

つまり、別に気にしてない相手に気にしてるんだろ、裁いてくれよと詰め寄る傍迷惑なアホの勝手な暴走だった。

何してんだよお前、あと怒られるために怒りそうなことするなよドMなの?

さて、そんな英霊達を見ていたら何やら見知った気配を感じた。

 

『フン、何かと思えばこのような場で密談かねウェイバー・ベルベット君。どうやら卑劣な輩の側には、同類である卑劣な者が集まると相場は決まってるらしい。大方、騙し討ちの算段でもしていたのだろう。よろしい、ならばこれから行うのは決闘ではない。誅伐だ』

「なんか一人で盛り上がってるオッサンが来たぞ」

 

ランサーが俺達の前に歩いてくる。

その後ろで、銀色の液体を従わせたオッサンが現れた。

な、なにあれかっけぇー、超欲しい!

 

『す、水銀ちゃん!』

「知ってるのか、ラッセー」

『にゅるーんってくるぞ、にゅるーんって』

 

にゅるーんだって!?水銀ちゃんとは、一体何者なのだ……。

 

「悪いが、主の意向なのだ。さぁ、剣を取れ!今こそ、決着を付ける時だ」

「ランサー……私は……」

「王よ、ここは私が出ましょう。構わんな、輝く貌のディルムッド!我が名はランスロット、王の剣である円卓の騎士が一人!」

「良いだろう、いずれは争う定め、いざ尋常に勝負!」

 

何を勝手に決めてるんだよと思っていたら、オッサンと目が合った。

目と目が合う瞬間、好きだと気付いた……んな訳あるかい。

 

「何見てんだよ」

「貴様がバーサーカーのマスターか。何度か煮え湯を飲まされたが、驚くべき魔力だ。そして生身で英霊と対峙できる力量、伝承保菌者で間違いないな」

「違います」

「…………本当は?」

「…………違うって言ってんだろ、ハゲ」

 

ドヤ顔が困惑に至り、最後は怒りに彩られた。

生え際気にしてたのかな、ハゲって言ったの怒ってそうだ。

スクラップだか、シャラップだか、なんかオッサンが言った瞬間に水銀が此方に伸びてくる。

 

「魔術師として稀有な『水』と『風』の二重属性に共通する『流体操作』を基本とした術式で金属であるにも関わらず、常温で液体の形状を取る水銀を高速、高圧と自在に操作する。これによって防御力、破壊力を獲得している。また、昇降機のような移動手段としても応用が可能だ!おまけに敵の所在を発見する自動索敵すら備えている。まさにロード・エルメロイならではの戦闘魔術、貴様に堪能してもらうとしよ――」

「よし、キャッチ!そして、確保ォォォ!」

 

此方に向かってくる水銀を掴んでそのまま篭手にぶつけていく。

篭手の中に収納すれば支配権はこっちの物である。

 

「エェェェェェェェ!?」

『説明はフラグだって分かんだね』

「俺のターンはまだ終わりじゃないぜ、喰らえ天の鎖!」

 

俺の篭手から鎖が伸びる、それを水銀が防御して壁となり防ぐ。

まだだ、まだ終わらんよ!

礼装の性能が戦力差ではないことを教えてやる。

 

「ウオリャァァァァァ!」

「なっ、馬鹿な!?」

 

無理矢理引っ張ることで、水銀が引っ張られる。

別に解除してもええんやで、そしたら鎖で背骨が折れると思うけどな。

 

「なんという強化魔術、ええい!Scalp!」

「ほぉ、鱗を剥ぐとはやるねぇ……」

「あ、ありえん!貴様、人間か!」

 

相性が悪かったな、中々やるようだが魔術師はドラゴンを倒せない。

ドラゴンを倒すのはいつだって剣士(物理攻撃)で戦うものだけである。

 

『凛ちゃんの五倍は性能がいいケイネスだったが、相性が悪かったな。せめて、八極拳を習っておけば』

「魔術より身体を鍛えたほうが早いんだよ!あと魔術は使ってない、これは素だ」

「水銀の重さは13キロ、単純計算で100キロは超えてるんだぞ!ありえん!」

「ところがぎっちょん、現実です。目の前の奇跡を否定するとか、魔術師としてダメだろそれ!」

 

綱引きの要領で引っ張ること数十秒、目の前に引き寄せられた水銀を千切っては篭手に入れを繰り返す。

液体化して防ごうとしてるが、それより早く取り込めば問題ない。

水銀の壁を千切って、剥がしていけば驚愕するオッサンの顔があった。

 

「こんなものは、魔術の冒涜だ!貴様、それでも魔術師の端くれか!」

「俺はドラゴンだ、ボケ」

「ドラ……ゴン……まさか、幻想種の力を取り込んでいるのか?より強い神秘による魔術を作用を利用して」

「細かいことは気にするなよ」

 

ありえんとかブツブツ言うオッサンの顎にパンチする。

掠れるようにすることで、脳を揺さぶる。

脳が震える、相手は気絶した。

 

「よし!」

「よしじゃねぇだろぉぉぉ!魔術じゃなくて、物理じゃねぇかぁぁぁぁぁ!」

『ウェイバーがツッコミ、そうかここはカーニバル時空だったのか。もしくはぐだぐだ時空』

「ケイネス殿!くっ」

 

ランサーが此方を見る、そこに飛びかかるランスロット。

いいぞ、鉄パイプで戦ってるとかスゴイぞ。

あと、その槍とか欲しいから抑えてろよ。

 

「安心しろ、峰打ちだ」

「マタマモレナカッタ……」

「同じNTR属性持ちですが、このランスロット容赦はせん!」

 

ランスロットが怒涛の攻撃を繰り出す。

それに対し、ランサーは二本の槍では力負けすると判断したのか黄色い槍を上空に投げ赤い槍を両手で持つ。

 

「はぁぁぁぁ!」

「なっ!?」

 

ランスロットの鉄パイプが赤い槍に触れると同時に、普通の鉄パイプに戻り破壊される。

なんてことだ、あの槍はどうやら魔術的ななんやかんやを解除するらしい。

俺はその光景を見ながら、黄色い槍を篭手に収納した。

 

「くっ、アロンダイトさえあれば」

「だったら殴ればいいだろ」

「それが出来たら苦労はしない」

 

仕方ないな、アロンダイトをレンタルしてやるか。

 

「ランスロット、新しいアロンダイトよ。そーれ!」

「ちょ」

「俺の槍が……ぐあぁぁぁぁぁ!?」

 

ランサーが俺の投げたアロンダイトに串刺しにされる。

それでも最速のサーヴァントか、何か動揺していたようだが戦場で動揺するとは情けない。

緊張感が足りないんだよ、お前。

 

「ら、ランサーが死んだ!」

『槍を奪って動揺した所を串刺しとか、この人でなし!』

「ランスロット、やはりあの時切るべきでしたか!」

「お、王よ!お待ち下さい!今のは」

「ありゃないわ、騎士の決闘を邪魔するとか礼儀知らずも程があるぞ」

 

何やらライダー達がおこだが、お前ら喧嘩してたんじゃないの?

取り敢えず、俺は赤い槍も消える前に回収するのだった。

 

「あぁぁぁぁ!そうまでして、貴様らは勝ちたいか!」

「うるせぇ!」

『言わせてやれよ』

 

負けたやつに慈悲はない。



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爆発オチなんて最低ッー!

ランサーが死んだ、悲しい事件でしたね。

その光景が凄惨を極めたのか知らないが人妻が変形した。

……えっ、変形ェェェェ!?アイエ、変形ナンデェェェェ!

 

「あ、アレは」

「どういうことだってばよ」

「そういうことか、アインツベルンが作った聖杯は人型だったんだ!そして、その聖杯が身体から出てきたに違いない。だが、だというならあの黒い泥は何なんだ……」

「うぬぅ、見るからに危なそうな見た目をしておる」

 

人の身体から浮くように現れた黄金の聖杯、ただし汚れている。

何やらコールタールとも石油とも見える黒い泥を吐き出している。

黒い泥に触れた植物は枯れ、地面が焦げていく。

し、知ってる!ジブリで見た、タタリガミの仕業に違いない!

 

『いや、それは違う。そうか、ギルガメッシュ三人分だったからか』

「知ってるのかラッセー」

『アレはこの世全ての悪、アンリマユが汚染して、なんやかんやで触れたら英霊は死ぬ。あと人は呪われる』

「みんなアレに触れたら死ぬらしいぞ、気を付けろ!」

 

俺の忠告を聞いて、皆が身構える。

まさかの危機に対して素早く動けるのは英雄だからだろうか。

最初に動いたのはライダー、イスカンダルのオッサンだ。

オッサンの身体から光が発生したと思ったら、いつの間にか俺は砂漠にいた。

 

『固有結界だ!』

「瞬間移動した!」

 

砂漠の真ん中で黒いオアシスとも言うべきか、聖杯が黒い泥を排出する。

その量は、どこにあったんだというくらい質量保存の法則を無視している。

 

「アレが、聖杯……そんな、私は……だが、聖杯を手に入れなければ」

「危ない!」

「なっ!?」

 

そんな泥に、誰かが頭から突っ込んだ。

見れば、ウチのバーサーカーであった。

頭が悪いアイツの事だ、俺の言葉が理解できなかったのだろう。

 

「ら、ランスロット卿!」

「私は、貴方に、裁かれたかった……」

「ランスロット卿ゥゥゥぅ!」

 

なぜか金髪の姉ちゃんが手を伸ばしながら叫んでいた。

まぁまぁ、落ち着けよ。泥まみれになってるだけで、死ぬだけだぞ。

離せとか言ってる金髪姉ちゃんを無理矢理抱えて移動させる。

 

「ウゥゥ、グアァァァァ!アァァァァァサァァァァァ!」

「日本語喋れ!」

「ぐふっ!?」

 

ひょっとして、ギャグで言ってるのかと思えるほどの変わり身でバーサーカーが泥から飛び出す。

そして、こっちに殴りかかってきたので逆にパンチしておいた。

ふむ、どうやら死ぬというのは社会的に死ぬという意味らしい。

アイツ、どう見ても正気じゃなかった。

 

「こうなったら、あの聖杯を俺の篭手に収納しなきゃ」

『待て、お前も正気じゃないぞ!早まるな!』

 

ラッセーが何か言ってるが、たかが泥である。

あとで洗えば良いのである。

それに、ここでアレを手に入れないと泥がずっと出てきて世の中が大変なことになる、それは良くないことだ。

 

「行くぞぉぉぉぉぉ!」

「す、スゴイ!あの人の右手に泥が吸い込まれていく!」

「吸引力が変わっておらんぞ!しかし、アレではいつか限界が来る」

 

俺は泥を吸い込みながら、一歩一歩前進していく。

足に泥が触れると何か汚いので死にたくなったが取り敢えず前に行かなければならない。

それにしても、なんか死にたいわ。すっごく死にたいわ。

あれ、もしかしてこれが呪いなのか、鬱になってしまったのか。

まぁ、死にたいと思っても実行に移すほどではない。

 

『な、なんかキタァァァァ!』

 

泥が盛り上がり、人型の泥が武器を持って現れる。

それが俺に襲い掛かってきたので殴り返せば、ちゃんと感覚があった。

実体を伴った泥人形ってやつだな。

 

「なんだあれ、一体一体がサーヴァントだ!」

「なんということだ、加勢することも出来ぬとは……」

 

後ろで聞こえた声からコイツらがサーヴァントということが判明した。

よく分からんが、俺の邪魔をするなら敵である。

俺は全身から魔力を放出して、泥を寄せ付けなくする。

物理的な圧力を持って、サーヴァント達の攻撃を防いだ。

そんな戦闘の際に、俺は後方で魔力の高まり的な物を感じた。

 

「おい、何やってんだ!」

「逃げ……ろ……くっ!」

「まさか、令呪か!セイバーのマスターは何してるんだ!」

 

何事だと、振り向けばプルプル震えている金髪の姉ちゃんがいた。

金髪の姉ちゃんは、なんか光ってる剣をライダーに向けている。

ライダーが動けば、それに合わせて剣を向けていた。

仲間割れとかやめろや。

 

「恐らく、固有結界の中の状況が分かっとらんのだろう。それで、この征服王イスカンダルの首を狙ったと見た」

「冷静に反応してる場合か」

「フン、ならばその策を征服し、我が物とするのも征服王の努めだと思わんか?」

 

イスカンダルのオッサンが、マスターである少年の肩を掴んで後方にいる仲間の兵士達に投げ込んだ。

っていうか、アンタいつの間に部下を召喚してんだよ気づかなかったわ。

 

「その者を抑えろ、邪魔はさせるな!」

「おい、何を考えてるんだライダー!まさか、やめろ!マスターの言うことが聞けないのか!」

「フハハハ、ウェイバーよ!余は一度も貴様をマスターだと思ったことはない」

「えっ……」

「だがな、共に戦場を掛けた友だとは考えておる。ウェイバーよ、貴様と過ごした日々は真に楽しかった。しかと、見届けよ!これこそが、征服王の最後の遠征である!行くぞ、ブケファラス!」

 

ライダーが馬を蹴り、此方へと駆けてくる。

さっきまで泥に触れることすら躊躇していたのにどういう吹き回しか。

そして、それを無視するかのように後ろで剣を頭上に掲げる姉ちゃん。

やめて、なんか地面からポワポワした謎の光が浮いてる。

 

『来るぞイッセー、束ねるは星の息吹だ!』

「何が来るっていうんだ」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

剣が、振り下ろされると同時にビームが放たれた。

おい、剣からビームってまるで意味が分からんぞ!

その光に飲み込まれながら、満足そうなイスカンダルのオッサン。

そして、ビームが泥を焼き払いながら俺の方にも到達する。

 

「ど、ドラゴン破ァァァァァ!」

 

掌からドラゴン破を放ち、謎のビームと衝突する。

まさか、俺ごと焼き払いに来るとは騎士王とか名乗っておきながら外道である。

俺の身体はビームとビームがぶつかった衝撃で後ろに下がる。

その時、俺の閃きが走る。

逆に考えるんだ、別にふんばらなくてもいいやって。

 

『ふぁ!?』

「フハハハハ、見ろ!ビームを利用して飛んだのだ」

 

ジャンプした事で、俺の身体が後方に向けて飛んでいく。

そして、そのまま聖杯に近づき、その聖杯を抱きしめた。

黒い泥に身体が飲み込まれるが根性で篭手に向かって収納する。

何というか、スゴイ胸焼けが半端ない。

身体に良くないものだって分かんだね。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!?」

 

しまった、聖杯を手に入れてドラゴン破をやめたから直撃した……無念。

 

『ば、爆発オチなんて最低ッー!?』

 

俺の意識は途切れた。

 

 

 

 



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まとめ

真名:兵藤一誠(イッセー)

身長:300cm / 体重:200kg

出典:不明

地域:日本

属性:混沌・狂/隠し属性:天

性別:雄

好きなもの:鍛錬、キラキラする物、ビーフシチュー / 嫌いなもの:殴れない物、偉そうにする奴、人外生物

 

略歴

 

ハイスクールD☓Dと呼ばれる世界において、異物である元オッサンのドラゴンが封印された篭手を先天的に宿していた少年の兵藤一誠は、その篭手が目障りだった堕天使と呼ばれる存在に殺されてしまいそうになり、契約することでドラゴンになって覚醒した。覚醒後はドラゴンの如く傍若無人で考えなしに行動することから「狂戦士」のクラスへの適性はそこそこある、また基本的に全クラスに当てはまるが最終的に行き着く先はステゴロなのでクラス適性は平均的に低い。

最終的には無限と夢幻が合わさり最強に見えるドラゴンとなり、神の如き存在を屠った。

 

人物

冴えない茶髪のマッチョに見えるドラゴン。一人称は俺。

自分が強すぎるため、戦闘力を抑えている。その為、人状態、マッチョな人間状態、半竜人状態、ドラゴン状態、巨大ドラゴン状態と変身を残している。

ドラゴンになったことで世の中パワーが全てだと本気で思っている。その為、倒せないやつが現れると自分が弱いからだと鍛えだす。本来の性格は犯罪も厭わないエロの塊のようだが、ドライグ(元オッサン)の悪影響を受けて脳筋になってしまった。ただ、エロに全てを掛けれるように筋肉に全てを掛けれる、努力することが出来る才能がある。

ヴァーリとの戦いでは小細工を捨て最終的に殴ったり、曹操との戦いも殴ったり、シンプルに殴ることしか考えてないことが推察される。

原作を知っている人物の証言によると、エロい目的の為なら寿命を削ることも死ぬことも躊躇わないが、そのベクトルが強くなるためならなんでもするようになってしまったのかもしれないらしい。

 

能力

圧倒的な怪力と驚異的な体躯に似合わぬ素早さから白兵戦においては敵無しとされる。またドラゴンの特性上、低レベルの魔法は無効化され、驚異的な生命力を誇り、無限に近い魔力を心臓が動く限り生成する。更に、仙術を覚えているため目の前に居ても気づかれないレベルで気配を操作できる。

独学なため技量は皆無だが、その剛力から生み出せる一撃と卓越した反射神経から倍加を用いたスピード及び攻撃回数を誇るとされ、ただ息をするだけで焦土に変えられるブレスも撃てる。小手先の技術など彼のロケットのようなパンチの前には無力とされる。その拳圧は当たってなくても人が吹っ飛ぶレベル。

一方、自分で封じていることから普段は銃弾を素手で止めたりパンチで地面を割る程度の身体能力しか持っていない。

防御面も何もしなくても効かないのだが、ミサイルほどの威力は防がないとダメージを負う状態となっている(ただしスキル「倍加」「透過」による緊急回避や触れても当たり判定されないなどは可能であり、攻撃に対して迎撃したり、致命傷を受けても中々死なずあまつさえ反撃すら可能)

 

 

ステータス

 

人状態        筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運

            C C C C E

マッチョな人間状態  筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運

            A B B B D

半竜人状態      筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運

            A A B A C

ドラゴン状態     筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運

            A A A EX A

巨大ドラゴン状態   筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運

            EX EX EX EX EX

 

固有スキル

 

『Boost!!』 倍加することが出来る

『Penetrate!』 触れるものを選択することが出来る

 

念   魔力を使って色々出来る 

仙術  気合でビームから飛行まで出来る

覇気  強化したり、気配を読んだり、威圧できる

小宇宙 根性で、なんでも出来る

 



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もう、これで満足するしかねぇだろ!

気付けば、俺は知らない空間にいた。

うむ、あの程度で死ぬ俺ではないのだがなんでだろう。

咄嗟にパンチして防いだ気がするんだが、分からない。

 

「はわわわわわわ」

 

おや、何やらちっこいのがいるな。

あっ、違うわ。なんか、俺が大きい感じだわ。

あれ、なんか俺が本来の姿に戻ったようだな。

それにしても、本来のドラゴン形態は大きいから見えにくいは……まぁ、ゴマを見るような物だからな。

仕方ないので、何やら現地人らしき者に顔を近づける。

 

「ド、ドラゴンってとっても可愛らしい顔をしてると思うの」

「…………」

「ぎゃぁぁぁ、食べても美味しくないわよ!美味しくないったらぁぁぁ!」

 

急にどうしたんだお前、とキョトンとする。

呼吸したついでに俺の鼻息がブワッと髪を逆立ててしまってビビらせてしまった。

わざとやないねん、身体が大きいから仕方ないねん。

 

「出てって!私の前から出てって!アンタみたいなヤバイのとか聞いてないの!」

「お前は何を言ってるんだ」

「キャァァァァ、シャベッタァァァァァァ!?」

 

テンションが振り切れてる青い髪の女が半狂乱になる。

正直、ドン引きである。

それより、ここは何処なのか教えてください。

と、思っていたら何やら変な魔法陣が足元に現れた。

おっ、おっ、なんだこれ、乗ってればいいのか?

そして、俺の視界は急に変わり違う場所に移動していた。

 

 

 

そこは、何処とも知れない荒野だった。

何やら遺跡らしき物が見える。

そして、俺の足元にはこれまた米粒程の小さい何かがいる。

だから、身体が大きくて見えないんだけどなぁ。

 

「わが名はこめっこ、家の留守を預かる者にして紅魔族随一の魔性の妹!わが召喚に応じたあくまよ。われと契約を交わすがよい」

「悪魔だぁ?俺はドラゴンだ」

「じゃあ、ドラゴンと契約する」

 

いや、契約するってなんだよ。

っていうか、あれか。あの魔法陣はこの子供が書いたのか、子供なのにスゴイんだな。

 

「お嬢ちゃん、ドラゴンっていうのは何ていうか自由で最強で最強な生物なんだ。つまり、答えはNOだ」

「いけにえです」

『捕まったクマー』

 

幼女が何やら掲げていた、それがクエーと悲しい声を上げていた。

というか、ラッセーだった。

おぉ、ラッセーよ捕まってしまうとは情けない。

 

「ほんとうは晩御飯にするつもりだったけど、あげる」

『言うことを聞くんだ、コイツ俺のこと齧りやがった!やると言ったら、実行するぞ、絶対だ!』

 

ラッセーもこんななりだがドラゴンの端くれ、それを捕食しようとはやりおるわ。

このこ大物かもしれない。

 

「ソイツを離してやってくれないか」

「しってるよ、等価交換って奴だよね。何をくれるの」

「えっ、う、うーむ。なんだろうな、何が欲しいんだ?」

「この世の全部」

「全部かぁ……ちょっと無理だなぁ他の物にしてくれないか」

 

俺の回答に幼女は不満そうにして、そして少し悩む。

子供って欲がないから、スゴイことを要求してくるな、俺びっくりだよ。

 

「じゃあ、魔王にしてくれたらいいよ」

「魔王か、魔王もちょっと無理だなぁ」

「もう、わがままばかりだなぁ」

 

我儘なんだろうか、願い事の規模が凄すぎてちょっと出来ないんですが。

もっと、シンプルで簡単なのなら叶えられるんだがな。

 

「仕方ないから何か食べ物がいい。もう三日も食べてなくて、満足するまでたべたい!」

 

その幼女の回答に、全俺が泣いた。

俺の上に幼女が乗り、その上にラッセーが乗る状態で俺達は移動することにした。

目的は食い物を求めてである。

 

「人里が見えてきたな」

「あそこに住んでるんだよ」

 

なるほど、どうやら里から飛び出して近くの場所で遊んでいたらしい。

そして俺を召喚したとのことだった。

召喚したのだろうか、追い出したあの青い髪の女と呼び出そうとしたこめっこのパワーが重なってなんやかんや偶然の結果な気がする。

とはいえ、約束を破ることはいけないので何か食べ物を見つけないといけない。

 

「敵襲、敵襲だ!」

「喰らえ、インフェルノ」

「カースド・ライトニング」

「カースド・クリスタルプリズン」

 

里に近付くと、何やら魔法が放たれた。

どうやら警戒させてしまったらしい。

 

「お腹すいたね」

『現在進行形で襲われてるのに、なんてマイペース』

 

襲われてると言っても、この程度可愛いものである。

はっはっは、無駄無駄無駄ぁ!

所詮は、脆弱な人間である。

 

「き、効いてない」

「お前は逃げろ、ここは俺が食い止める」

「お、おい何を言ってるんだ」

「誰かが足止めしなきゃならない、そうだろ?何、あとで追いつくさ!」

 

俺があくびを搔いていると、下ではシリアスな雰囲気で会話が繰り広げられていた。

何やら悲壮な覚悟で俺に挑むつもりらしい、それでも意味はないと思われるんだがな。

 

「行くぞドラゴン!うおぉぉぉぉぉ」

「むっ、来るか?」

「テレポート!」

「…………」

 

目の前にいた紅魔族らしき男達がいっせいにその場から消えた。

あれ、戦う流れじゃなかっただろうか。

 

「うちの芸風だから」

「芸風……変わった種族なんだな」

 

なんだか不完全燃焼な状態で、俺は地上に降りて里に近づいて行くことにした。

なお、俺の上では高ーいとはしゃぐこめっこがいる。

 

「あれはぐりふぉんを石化して飾ってるんだよ」

『ほへー』

 

ドシン、ドシンと地面を揺らしながら、俺は紅魔族の里に近づいた。

すると、里の中から何やら人がわらわらと出てきて俺の前に一人のオッサンが現れた。

 

「静まり給え、静まり給え!霊峰ドラゴンズピークのドラゴンたる方が何故このように荒ぶるか!」

「俺はべつになんたらピークのドラゴンじゃないのだが」

「キャァァァァシャベッタァァァァァァ!?」

 

仰天するオッサン、なにそれ流行ってんの?

俺が喋るとみんな同じ反応をするので困る。

俺が困惑していると、俺の頭の上でこめっこが仁王立ちしてパサッとマントを翻した。

 

「わが名はこめっこ、家の留守を預かる者にしてドラゴンを駆る紅魔族随一の魔性の妹!」

「あ、あれはひょいざぶろーさんの所のこめっこちゃんだ」

「スゴイ、ドラゴンに乗ってるぞ」

「ドラゴンは言っている、ご飯を用意しろと!」

 

……言ってない!

しかし、何を思ったのか里の人達はははぁと拝んでから蜘蛛の子を散らすように動き出した。

暫くして、食べ物がたくさん集まる。

これは、恐喝なんでは……まぁいいか。

 

「わーい、ドラゴンすごーい!」

「フフン、俺の凄さが分かったか」

『チョロいわぁ~超チョロいわぁ~』

 

褒められて悪い気はしない。

それに、これで満足するまできっと食べたはずである。

 

「こめっこや、俺はそろそろ行こうと思う」

「えー、ダメ」

「何だと!満足するまで食べただろ」

「もっと食べたい」

 

……あれ?

 

「今、食べただろ?」

「うん」

「お腹いっぱいだよな」

「うん」

「満足しただろ?」

「してない」

「えぇ……」

 

満足してないって、どうしたら満足するんだよ。

もう、これで満足するしかねぇだろ!

 

「じゃあどうしろと」

「分かんない!」

「…………」

『もう、満足するまで食べさせるしか無いだろう』

 

こめっこの頭の上で、あくびをしながラッセーがそう嘯いた。

そうか、そうかぁ……。

 

「そうだ、お母さんのとこ行ってくる」

「う、うむ」

 

何やらこめっこが母親らしき者の所に行き、俺の方を指差しながら会話をしている。

お金、食べ物、ドラゴン、何やら色々と聞こえてくるがよく聞こえない。

 

「帰った」

『おかえり~』

「よし、行く」

「どこにだよ」

 

こめっこは明後日の方向をさしながら言った。

 

「姉ちゃんのとこ」

「どこだよ」

 

こめっこはドヤ顔で俺の方を見て、数秒してから言い放った。

 

「あはは、分かんない」

 

その快活なまでの笑顔を見て、俺は思った。

コイツはきっと大物に違いない。

 



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なんという、魔王ムーブ!無念じゃー

こめっこを満足させる旅が今始まろうとしていた。

最初の目的地は姉ちゃんのいる場所である。

村人というか里の人間が言うにはだいたいあっちの方ということでそっちの方に飛ぶことにした。

その方向にはアクセルというゲームみたいな始まりの街があるらしい。

上から見ると円形で分かりやすいらしい。

 

「すごーい、すごーい!飛んでる、飛んでるよ!」

 

 

頭上ではわーいと無邪気に喜ぶこめっこの姿があった。

俺は落とさないか気が気でないのだが、コイツ恐れを知らぬというのか。

落ちたら死ぬんですけど、お客様は手を上げたりしないでください大変危険です。

 

『ところでなんだが、その黒いのは何なんだ』

「コイツ、直接脳内に……」

『いや、そういうの良いから』

「これはちょむすけ」

 

なぁーお、と頭上で猫の声が聞こえた。

えっ、猫が頭にいるんですか?

 

『えっ?』

「ちょむすけです」

『えっ?』

「ちょむすけです」

 

何やらラッセーが納得行かなそうな声を上げていたが、そういう名前なんだろう。

ここは異世界、そういうセンスの名前が普通に違いない。

里の人達だってみんなそんな名前だった。

とはいえ、そんな空の旅もあっと言う間に終わりを告げる。

半日も飛べば、目的地まで一瞬だからである。

ワイバーンよりずっと早いのだ。

 

「見えた」

「おや、何やら人が集まっているぞ」

 

カンカンカンと鐘の音がする。

街の外にはたくさんの人がおり、此方を見ていた。

ここから導き出される答えは簡単だ。

 

「どうやら、歓迎しているらしい」

「らしい」

『どう見ても警戒です。本当に、本当にありがとうございました』

 

警戒って、警戒するレベルを通り越して逃げるべきなのに何を言っているのか。

まさか、俺と戦おうというのかスゴイなこの世界。

そんな威勢の良いやつがいるならぜひとも戦いたいくらいである。

というわけで、アクセルの街に降り立った。

 

「わが名はこめっこ、ドラゴンを駆りし紅魔族随一のグルメリポーター!」

「こめっこ、こめっこではありませんか!」

「あっ、姉ちゃん」

 

俺が降り立つと冒険者達の中からちびっこが現れてなにやらこめっこの名を呼んだ。

顔立ちからして、たぶん血縁者である。

その予想通り、姉ちゃんと言ってこめっこが飛んだ。

飛んだ!?

 

「ちょ」

 

俺は慌てて、手を差し出す。

その上になんとかこめっこが乗るが、こめっこは再び飛び降りやがった。

なので、今度は逆の手を使ってこめっこを着地させた。

俺の手を階段の如く使ってこめっこは降りたが、俺が居なかったら普通に怪我してる高さだった。

 

「今、このドラゴン喋りませんでしたか?」

「喋ってない」

「…………」

「…………」

「キャァァァァシャベッタァァァァァァ!?」

 

頭のおかしいちびっこが俺の前でドン引きするくらい叫んだ。

だから、流行ってるのそれ?

 

「どどど、どういうことですか!説明してください、こめっこ」

「だだだ、大丈夫なのこめっこちゃん」

「誰?」

「ゆんゆんだよ!覚えてないの!」

「じょーくです」

「子供に弄ばれた!?」

 

目の前で繰り広げられる茶番にどうした物かなと困惑する。

どうしよう、たくさんいるし一人くらい襲っても問題ないのでは無いだろうか?

そう思って俺が冒険者の何人かを見ると、敵感知だとか言って何人か逃げ出す。

それに釣られて、みんな逃げ出した。

残ったのは、ちびっことこめっこと影の薄い子だ。

 

「まるで意味が分かりません、こめっこ下がってください!敵感知に引っ掛かる時点でコイツは危ないです!我が爆裂魔法で――」

「ふぅぅぅぅ」

「わぁぁぁぁぁ」

 

軽く息を吹きかけただけでちびっこがクルクルと回転しながら転がった。

その様子に、めぐみーんと影の薄い子が叫び声を上げる。

 

「めっ!」

「ちょっと戯れただけじゃないか」

「姉ちゃんは小さいから飛んじゃうのです」

「ぐはっ!?ち、小さい……小さいだとぉ……」

 

なにやら俺以外のダメージをくらって凹んでいる少女がいた。

おいおい、姉ちゃんお前の一言でダメージ食らってるぞ。

 

「す、スゴイよめぐみん、ドラゴンさんがこめっこに従ってる!」

「まさか、ドラゴンすら魅了するとは……恐ろしい子」

 

何やら盛大に勘違いされてるようだが、まぁ細かく説明するのも面倒なのでほっておく。

魅了と言うか、まぁ暫くは従わないといけないからな。

こっちから約束を破るのは負けた気がするしな。

 

「ところでこめっこ、こんな決戦兵器なんて連れて何しに来たんですか」

「出稼ぎ」

「えっ、いや、一人でこんな所に来る許可が与えられるはずがないんですが」

「ドラゴンがいるから平気、納得もされてる」

『ナ、ナンダッテー!?』

 

聞いてないよとラッセーが抗議する。

こめっこの頭の上でポカポカと殴ったら、尻尾を捕まれて地面に叩きつけられた。

やめろ、ラッセーがピクピクしてるから。

 

「私に挑むとは十年早い、ムハハハ」

『なんという魔王ムーブ、無念じゃー』

「よし、じゃあ出稼ぎするか」

 

行くぞ、こめっこに声を掛けられ応えるように動き出す。

だが、それを静止する声が聞こえた。

 

「待ってください、こめっこは小さいから稼げませんよ」

「姉ちゃんも小さいよ。あっ、ゆんゆんは大きいね」

「…………」

「待ってめぐみん!どうしてこっちを睨むの!痛っ、痛たたた!胸から手を離して」

 

何やら内輪揉めが始まってるのを他所に、こめっこはモグモグと芋を食べてた。

待て、どこから手に入れた。

 

「なんだそれは」

「蒸かした芋です」

「いや、見れば分かる」

 

気にしてはいけないのかもしれない。

こめっこは芋を食べながら喧嘩する姉達を放って歩き始めた。

いいのかそれで?

 

「待ちなさい!まだ話は終わってないですよ」

「黙秘します」

「ど、どこでそんな言葉を……」

「くっ、ころせ」

「本当にどこで覚えたんですか!?」

「ぶっころりーが教えてくれた」

「あの野郎、帰ったら覚えていろよ」

 

首根っこを捕まれてだうーんとした状態でこめっこは姉の質問に答えた。

というか話が進まないからチョロチョロしない方がいいんじゃないか。

 

「大体こめっこ、貴方はどうやって稼ぐ気なんですか?」

「……お願いする!」

「お願いっていうか脅迫では?」

 

チラチラと此方を見る、めぐみんとやら。

ニヤッと笑ってやったらヒッとビビられた。

顔が怖かったか、すまない。

 

「じゃあ路地裏でイケナイことする」

「こめっこ!?だだだ、ダメです!身体を売るなんてダメですよ」

「身体を売るって、なーに?」

「あれ?じゃあ一体何をしようとしてたんですか?」

「親父狩り」

「ダメに決まってるでしょ!」

「であるか」

 

こめっこは仕方ないなぁという目を向けた。

よく、君はその目をするけど仕方なくないからなぁ。

とんでもない行動をしている自覚がないようだ。

 

「無難に冒険者でしょう。町で手伝いなどなら出来るはずですし」

「めぐみん、でも登録料が掛かるよ」

「貸してあげれば良いでしょ」

「でも、めぐみんお金ないじゃない」

「……ゆんゆん、貴方の財布を賭けて勝負です!先手必勝!」

「ふ、不意打ち!勝負のルールは何!あっ、返して財布返して!」

 

わーわーとまたもや争う少女達、それをまたもや芋を食べながら真顔でこめっこは見ていた。

だから、どこで手に入れたんだ。

こめっこは俺の方を見ながら、手を出した。

 

「なんか下さい」

「……ウロコでいいか」

「おぉ、これは売れる」

 

醜い女の争いをスルーし、こめっこがギルドへ向かっていく。

待て待て、一人では危なかろう。

慌てて俺は半竜状態へと変身する。

人間体は全裸だからな、こめっこの教育に悪い。

 

「慌ててもギルドは逃げんぞ」

「兄ちゃん、誰?」

「俺だよ、ドラゴンだよ」

「そっか!兄ちゃんだっこ」

「全く動じないのなぁ……」

 

 



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そうだとも、最後に頼れるのは筋肉だ。身体を鍛えることが良き冒険者への第一歩だ

ギルドに入ると奇異の視線を向けられる。

周囲からリザードランナーなどという単語が聞こえた。

なんだ、モンスター扱いされるとはこの世界にはリザードマンはいないのだろうか。

 

「いら……ッ!?」

 

こめっこが無邪気に掲げたそれを、ギルドの受付の女が見た瞬間息を飲んだのが分かった。

まぁ、見るからに輝きが宝石と同等である。

それはルビーのような光沢を持っており、しかし子供が軽々と持ち上げられるほどに軽い。

間違いない、ドラゴンのウロコだ。というか、俺の鱗だった。

 

「お姉さん、買い取ってください」

「えっ、えっ、でも、えっ?」

「お金になると聞きました、これでお願いします」

 

受付嬢は失礼しますと、手を震えさせながら手袋をして持ち上げる。

鑑定のスキルでもあるのか、何かした途端一瞬で気配が変わった。

まるで信じられないものを目にして固まる人のような、そんな気配だ。

 

「……い、一億エリスはするわよこれ!」

 

たった一枚、されど一枚。

ドラゴンのウロコだ、用途は様々。

魔法の媒体から装備、はては武器から薬まで何にでも使える。

それくらいの値段はしても当然だろう、それを幼女が持ってきたのだからギルドの者もびっくりだ。

 

「すごいね、すごいね、お金持ちだね!」

「あぁ」

「これで固いものが食べられるね!やったね!」

「…………」

 

一個と言わずもっとあげれば良かっただろうか……。

急いで持ってきたギルドの受付嬢に俺は感心した。

子供だから悪びれもせずにネコババすると思ったのだが、誠実であろうとするとは素晴らしい。

盗もうとしていたら殴ってやろうと思っていたからな。

しかし、こういう場合はチンピラ風情が絡んでくるのがテンプレであるはずなのだが、どうして誰も俺と目を合わせようとしないのだろうか。

そこの金髪なんか、すごく絡んできそうなのに何故俯くんだろうか。

あれ、俺ってば避けられてね?

 

「馬鹿な、この俺が避けられてるというのか」

「キャァァァァシャベッタァァァァァァ!?」

『あっ、そういうのは良いから』

 

受付嬢の叫びも物ともせず、その手から金貨の入った袋を笑顔で奪い取るこめっこ。

目の前で人が叫んでるのに無反応なのは大物なのだと思いたい、人でなしだからではないはずだ。

こめっこは俺の腕を引っ張って、ギルドのカウンターへと誘導した。

そして、ドンと大きな音を立てて袋を置いてキメ顔で言った。

 

「めにゅーにあるもの、ぜんぶ下さい」

「えっと、全部?」

「……だめですか?」

「任せて!今すぐ、持ってくるわ!」

 

こめっこが悲しそうな目で店員を見れば、店員は大慌てで厨房に向かう。

視線一つで自分の要求を飲ませるとはやりおるわ。

だが、ちょっと待って欲しい。

俺はカードを作るために金がいると思ってウロコを渡したのだがどうしてカードを作らないのだろうか。

 

「カードはいらないのか?」

「既に持っています、じゃーん」

「なんだと!?」

「驚かせたか」

 

いや、持ってることに驚いたのではなく騙されたことに驚いたのだが、それに気づいた様子は見られなかった。

とはいえ、満足するまで旨いものを食わせるとかそういう約束を結んだ気がするので騙されてもいいとしよう。

 

「おぉ、食べ物がいっぱいだね」

「あぁ、とは言え普通はモンスターを倒して金を稼ぐのが冒険者というものだ」

「そっか、冒険者だもんね」

「そうだとも、最後に頼れるのは筋肉だ。身体を鍛えることが良き冒険者への第一歩だ」

 

力こそパワー、魔法なんぞ魔力がなければ使えない力、つまり無力。

最後に頼れるのは身に宿る力、有力なのは筋肉と言うわけだ。

 

「おお、筋肉……」

「おい、私の妹に変なことを吹き込むのはやめて貰おうか」

「あっ、姉ちゃん」

「ひひへふは、ほへっほ」

「あぁ!姉ちゃん、それこめっこの!取った、姉ちゃんがこめっこのご飯取った!」

 

こめっこが筋肉の道に目覚めようとした時、それを邪魔するが如く姉が現れる。

おい、何故に勝手に座って食べている。

 

「ふん、姉より優る妹などいない!ハーハッハッ、この世は弱肉強食!諦めるのです、こめっこ」

「うぅ……」

 

こめっこが俺の方を悲しそうな瞳で見ている。

弱肉強食か、良い言葉だ。

 

「おぉ、圧政者よ!汝の心意気はまさに天晴れ、では戦おうか」

「心の底からごめんなさい」

「姉ちゃん、この世は弱肉強食だよ」

「やめて下さい、死んでしまいます」

 

ギルドの真ん中で、妹に土下座する紅魔族の姿がそこにはあった。

まぁ、そんなこともあったがこめっこの好意により食事をみんなで取ることになった。

と言っても二人追加されただけだがな。

 

「あ、ありがとうねこめっこちゃん。ふぁぁ、夢みたい」

「なんでいるの、ゆんゆん?呼んでないよね?」

「夢でしょ!夢なら覚めてよぉぉぉ!」

「ところがどっこい、げんじつです」

「現実が辛い……」

「じょーくです」

「弄ばれた!」

 

こめっこの対応を見て、このゆんゆんなる者は弄られキャラなのだと認識した。

散々、飲み食いした姉とゆんゆんは今更ながら自己紹介を始める。

マントをファサっとしながら名乗り上げである。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操る者!」

「めぐみん?ふざけてるのか?」

「ちがわい!おい、私の名前に何か文句があるというのか?」

「変な名前だな」

「よし表に出ろ、この野郎!」

「ダメよめぐみん!あの人、闘うとなったら絶対容赦しないタイプだから!あと、正体はドラゴンだから!人の気持ちが分からないに決まってるでしょ、種族が違うんだから!」

 

めぐみんをゆんゆんが押さえるが、俺だって骨を折る程度には手加減するつもりである。

殺してないだろ、失敬な奴め。

それはそれ、これはこれ、闘うからには全力でだ。

 

『おいおい、コイツほど人間の気持ちが分かるドラゴンなんてのはいないぜ。人間にして人外にして人非人とはまさにコイツの事だ。化物染みた人間ではなく、人間染みた化物なんだぜ』

「こ、コイツ……直接脳内に」

『フッ、我こそはラッセー。言うまでもなく、言う必要のないことではあるが、言うべきではないのだろうけど』

「なんですか、面倒くさい喋り方をしますね。邪魔です」

『そんなー!ぐべぇ!?』

 

こめっこの上で、キメ顔を作りながら喋っていたラッセーは尻尾を掴まれてテーブルに叩きつけられた。

ドラゴン的にキメ顔だけど、あのカッコイイ角度がめぐみんには分からないようだ。

トカゲにしか見えないとか屈辱の極みである。

めぐみんは、尻尾を握ったまま何度も叩きつけながら、此方を見た。

おいおい、容赦を知らないとは頭がオカシイのではないかこの女。

まぁ、それくらいでボロボロになるラッセーではないのだがな。

 

『オデカラダハボドボドダ』

「何だと!?馬鹿な……」

「ええい、話が進まないので頭の中に響くようなその何らかのスキルをやめなさい」

『だが断る!このラッセー、ちょ!まだ喋ってる途中で、やめ、やめろっー!遠心力で胃袋でちゃうでしょ!』

 

ブンブン音をたてながら、ラッセーがめぐみんに振り回されていた。

なんというか、耐久値だけはラッセーも誇れるレベルだと思う。

 

「所で、貴方は一体何なんですか?どうしてドラゴンがこめっこに従って、そもそもドラゴンなんですか?」

『喋るドラゴンが不思議かね?モンスターが喋ることなど珍しくもないだろうに』

「俺はドラゴンだ、モンスターではない」

「えっ、ドラゴンってモンスターじゃ……ひぃ!ごめんなさい、睨まないで」

 

ゆんゆんが、顔を覗き込んだだけで涙目になってしまった。

ふむ、怖いかね。

少し窮屈というか、こめっこが急な不意打ちを受けないように警戒していたがそこまで荒んだ世界ではなさそうなので一番最弱の状態でも問題なさそうだ。

ということで、人間形態になってやった。

俺の身体が発光して、そして収まると眩しかったのかギルドの奴らが此方を見て固まっていた。

何人かは顔を背けたり、目を覆っている。

眩しかったのだろう、すまない。

 

「なっ……」

「どうした、目が真っ赤だぞ。どういうことだ、瞳から真っ赤だぞ?抉り取って確認してもいいか、治すから」

「サイコパスですか!というか、なんで全裸なんですか!変態なんですね、変態ですよ!」

「俺の肉体に、恥ずかしい所などないんだが?」

「こっちが恥ずかしいんですよ!馬鹿ですか!」

 

そうなのかと、こめっこを見たがこめっこは数秒悩んだあとに口を開いた。

 

「分かんない」

「そうか、そうだな」

「それよりごはん美味しいね、冒険もしたいね」

 

相変わらず、こめっこは動じてなかった。

 

 

 

 



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よく分からんが、分かった

我が名はイッセー!無限にして夢幻の龍神である。

そんな俺は伝統的猟方に取り組んでいた。

 

「すごーい、食べ物がいっぱいだね」

「ジャイアント……すまないアメリカ語はさっぱりなんだ」

『ジャイアントトードな』

「……つまりでっかいカエルだな」

 

草原、そこで俺は籠手から鎖を発射しカエルを捕らえる。

捕らえたら適度に叩きつけ弱らせる。

そして、ナイフを持たせてこめっこの背中を軽く押す。

 

「よし、やれ」

「えっ、もう刺しちゃった」

「早いな、将来有望だ」

「ご飯がいっぱいだね、やったねご飯が増えるよ!」

 

そう、それは養殖と呼ばれる経験値取得の紅魔族式の狩りである。

適度に弱らせ、それを狩らせることで経験値を与えていくという方法だ。

血塗れになりながら、こめっこが良い笑顔でカエルの心臓を取り出す。

レバーは旨いもんな、でも生で食べようとするのはやめようか。

 

「よし、討伐依頼を済ましたら唐揚げにしよう」

「食べちゃダメ?」

「唐揚げの方が旨いぞ?」

「そっか」

 

血塗れになりながらも良い笑顔でこめっこはカエルの心臓をしまった。

カバンに入れる際に、すごく物欲しそうに見ていたのは食いしん坊だからだと思いたかった。

さて、どうして俺達が冒険しているかというと出稼ぎだからではある。

まぁ、この場にいるはずのめぐみん達がいないのは不思議だと思われかねないがそれには理由があった。

何回か一緒に狩りをして、毎度の如く食事を共にしていたこめっこの一言が原因である。

 

「はむはむ、はむはむ、はむ!がるるるる!」

「ちょ、私のお皿から取らないでよ!まだ、自分のお皿に残ってるでしょ」

『お前らよく食うなぁ、特に胸が小さい方!痛てぇ!?』

 

食事中、フォークを投げられたラッセー。

それを投げためぐみんは満足そうに食事を再開しようとする。

その時、こめっこが何気なく言ったのだ。

 

「こめっこ知ってるよ、他人のお金でよく食べる人のことをニートって言うんだよね!」

「こめっこちゃん!?」

「だから、姉ちゃんは脛かじりの穀潰しの役立たずなニートだね!合ってるでしょ!」

「…………」

 

カラン、と皿の上にフォークとナイフが落ちた音がした。

見れば、めぐみんの食事の手が止まっている。

その顔には冷や汗のような物が滲み出しており、プルプルと何やら震えている。

 

「ニ、ニート……この私が、ニートだと……」

「ぶっころりーと一緒だね!」

「うわぁぁぁぁ!」

「めぐみん!待って、どこに行くの!めぐみん、めぐみぃぃぃぃん!」

 

そして、ギルドを飛び出しためぐみんとゆんゆん。

それから俺達はめぐみんには会っていない。

なお、こめっこはその後トイレかなと首を傾げたまま食事を続けた。

 

 

 

さて、慣れた方法で依頼料の幾らかを紅魔族の実家へと仕送りするこめっこ。

残ったお金で俺達は昼ごはんを取ることにした。

因みに、慣れた方法とは涙目上目遣いで今日もお願いしますとギルドの受付嬢にお願いするだけである。

後は手配から運搬料まで受付嬢がやってくれる。

その後、ケロッとしているのであのウルウルした涙目は演技であるのだがギルドの受付嬢は気付いては居ない。

こめっこ、恐ろしい子。

 

「唐揚げいっぱいだね」

「あぁ」

「でも、げんかを考えると高すぎるんだって……悲しいね、安かったらもっと食べれるのにね」

「そうか、こめっこは詳しいな……どうした定員?なに、この唐揚げはサービス?」

 

何やらこめっこが悲しそうな顔をしたら、定員が慌ててもう一品追加した。

サービスなら仕方ない。

テーブルに置かれた唐揚げに罪はないのだ。

お代はプライスレス、こめっこがありがとうと言えば定員は喜んで業務に戻る。

本人が嬉しいなら別に良いんだろう、それが定員のポケットマネーだとしてもな。

 

「そういえば、ポイントは溜まったのか」

「うん」

「上級魔法を取るのか」

「うん」

 

めぐみんから、変なことにポイントを使わせないように言われている。

魔法を取らせるのは問題になるかもしれんからな、子供が魔法を使えるのは危険だ。

 

「でも、まだダメだぞ」

「……魔法」

「仕方ないな、じゃあ上級魔法を取っていいぞ」

 

なんかあっても何とかなるだろう、大丈夫だ。

死にかけたら治せばいいしな、聖杯の力で魔法は得意になったんだ。

たまに、失敗してしまうが性格が変わるだけだし殴れば治る。

大体の物は叩けば治るからな。

 

カードに触れると、こめっこに目立った変化は現れなかった。

だが、よく見れば気配がちょっと変わった。

ふむ、こういう仕組みか。

世界が存在を塗り替える、みたいな物かな。

 

「さっそく魔法使いたいね」

「ここはダメだぞ、飯が出なくなる」

「そっか、イッセーだっこ」

「うむ」

 

こめっこを担ぎ上げ、肩にでも乗せてクエストを一枚取ってくる。

ゴブリンか、勝手に増えるし別に倒してしまっても構わんのだろう。

というわけでゴブリンの討伐に行くとしよう。

森まで走って、ゴブリンの気配が見つかった当たりで止まった。

 

「あっちから来るぞ。ゴブリンは食べれないので存分に撃つと良い」

「じごくの炎にだかれて消えろ……いんふぇるの~!」

「おぉ、カッコいい!」

『ちょ!?』

 

チリチリとした音がした。

数秒の静寂、まるで嵐の前の静けさに似ている。

だが、その魔法は炎、そして業火である。

 

「ゴブブ」

 

森からゴブリンが出て来て、此方を見たが既に遅かった。

次の瞬間、世界が紅く染まったのだ。

赤い壁が突如出現したかと思えば、それは一瞬で消えて……そして何もかもが消えた。

次に見えたのは黒い世界だ。

真っ黒な土が地平線に広がる。

一本の線を境界線に、森と焦土と森と区切られていた。

前方だけに炎がきっちりと行ったのだろう。

広がるはずの魔法を制御したことが垣間見える。

スゴい魔法の制御力である。

 

「今のはいんふぇるのではない、てぃんだーである」

『いや、インフェルノって言ってたよな!』

「言ってない!」

 

ぷるぷると首を振るが俺も聞こえた気がする。

ティンダーレベルではないだろうに、すぐバレる嘘を吐くとは姉妹そっくりである。

 

「あっ」

「燃え移ったな」

「食べ物燃えちゃう……」

 

確かに森が無くなるのは問題なので消すとする。

火とか消えろ消えろ……念じたら突風が吹き荒れて火が小さくなって消えた。

 

「何をしたんですか?」

「念じたのだ。つまり、気合いだ」

『聖杯を使って突風を出したんだ』

「つまり、気合いだ」

「左様かー」

 

こめっこは分かった風の顔をしていたが分かってないだろう。

大丈夫だ、俺も分からない。

ラッセーが分かってるし問題ないだろう。

さぁ、試し打ちも終わったしギルドに帰ろうと思ったら空の果てに巨大な気配を感じた。

 

「むっ」

「どうしたんですかイッセー、こめっこはお腹が空きました」

「さっき食べたではないか」

「過去は振り返らない、でも唐揚げまた食べたい」

『振り返ってんじゃん!』

 

相変わらずマイペースなこめっこ、そういえばあの神気は方向的にはアクセルか。

恐ろしいほどの神気……俺でなきゃ見逃しちゃうね。

調べたくはあるが、こめっこの腹がぐるぐる言ってるので保留にしよう。

方向的についでで調べられるだろ。

 

「帰るか」

「てれぽーと!」

「……おっ、場所が違う。転移か、スゴいな」

「ごっはんー、ごっはんー!」

 

ギルドに付けばあっという間に定員が大量の食事を持ってくる。

こめっこが満腹になったら俺が全部食べる流れが確立している。

 

「そろそろ満足しただろ、もう行っていいか?」

「どこに?」

「取り敢えず魔王かな、魔王とか戦いたい」

「じゃあ、イッセーが勝ったらあるじのこめっこは魔王だね」

「……ッ!?」

『待て待て待て、そこに気付くとは天才かみたいな顔はやめろ!』

 

いやだって……天才かよ。

 

「まぁ、そう言うことだ。何かあったらまた呼べば良いだろう」

「分かった。明日呼ぶ」

「明日か、一日じゃ魔王城まで行けないからな……」

『もうちょっと居とけ、魔王に挑むには幹部を倒さないといけないからな。あの神気、風が良くないものを運んで来やがったぜ』

「よく分からんが、分かった」

「分かった」

 

もう少し、こめっこの側にいることにした。



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どうして壁の方を向いてるんだろうか?

こめっこは冒険の傍ら、街を散策することを趣味としている。

特に最近好きなのは自分の父親が作った魔道具を見に行くことである。

 

「じゃじゃーん、これは誰でもスティールが出来る石です」

「すごーい、すごーい!」

「でも盗賊職しか使えないんだろ?」

「…………」

 

そこはウィズと呼ばれるリッチーの営む魔道具店。

始まりの街にある、意味が分からない店だ。

正直に言うと、無駄に高性能な無駄な物が多い。

もはや勇者とかが魔王を倒して二週目に入ってから開店する仕様の店なんじゃないだろうか。

始まりの街にしては、終盤の金が有り余ってる高レベルの冒険者がやっと買える金額の商品だしな。

後は、装備しても弱体化するかコレクションの意味しかないネタ商品とか。

 

「これは読んだら灯りが出る魔道具ですよ」

「暗いと読めないな」

「あ、暗視のスキルを取れば……」

「灯り、いらなくないか?」

 

まさにネタアイテム。

しかし、それを作っているのはこめっこの父親なのである。

おい、だから貧乏なんじゃないか?

 

「まぁ、買うのだが」

「えぇ!?」

 

店にある商品をあるだけ購入したら、店主が悲鳴を上げた。

おい、お前店主だろ。

何を驚いてるのだ?

 

「まさか買うなんて……」

「店主、君は商売に向いてないんじゃないか」

『きっと胸に栄養が取られて頭の中身腐ってるんだぜ。リッチーだけに、ぐべぇ!?』

 

ラッせーが首根っこを掴まれて悶ていた。

笑顔で殺しに来ている店主、ははは元気だな。

何か良いことでも合ったのだろうか。

 

「これで砂糖水以外の食事が出来る」

「空腹は、辛いよねぇ……」

 

こめっこがボソッと言った言葉が印象的だった。

 

 

 

ギルドに着いたらいつものカエルクエストである。

そろそろ、高レベルのモンスターを狩りたい所だがラッセーの指示的にこの街に居たほうが良い。

こめっこのレベルも上がりにくくなってるしな。

レベルを下げて、ポイントだけ貰うのはどうだろうか。

ポイントが手に入ってからレベルをリセットすればまたポイントが手に入るじゃないか。

 

「わーい、高ーい!」

「よしこめっこ、籠に入ったポーションを投げるんだぞ」

 

まぁ、そんなことを考えつつ狩りに遊びを盛り込んでみる。

今回はせっかく買ったネタ道具を使う。

まず、どこでも使える水洗トイレを草原に設置する。

噴水の如く水を噴射するウォシュレット機能、音によって聞こえなくする消音機能。

一見素晴らしく思えるが、デメリットとして水圧が強いこととモンスターがよってくることが挙げられる。

そんな物を設置したら、カエルが水を浴びつつ音に釣られて寄ってくる。

水圧が強すぎてケツから血が出ることに定評がある水洗トイレだが、ドラゴンには関係ない。

俺は普通に座った。なお、ズボンは水浸しである。

 

『いや、馬鹿だろ』

「水着にすればよかったか……」

『そういうことじゃないんだけどなぁ』

 

まぁカエルがそんな俺を取り囲むまでが俺の作戦であった。

俺は篭手から鎖を出してこめっこを頭上に上げていたのだ。

この鎖、こめっこを持ち上げることも出来る不思議鎖なのだ。

でもって、こめっこは籠いっぱいに爆発するポーションを持っている。

 

「いくよー」

 

後はカエルごと俺に向かって爆発するポーションを投げる。

それだけでカエルの討伐が楽しく出来るのだ。

なっ、簡単だろ?

 

「というわけで、今日も経験値を稼いだな」

「ふくが、耐えきれないとは、もうてんでした」

『いや、普通気付けよ』

 

今日もいつものように食事を取る。

最近、こめっこの分だけ支払わないで良くなってきた不思議。

店員のサービス精神が遂にここまで来たかと実感する。

そんな風に食事をしていると、尋常でない気配が漂ってきた。

馬鹿な、この俺がここまで接近されるまで気づかないだと!?

振り向けば、そこには仕事帰りの職人たちの姿が見える。

おかしい、確かに尋常でない気配がする。

馬鹿な、これほどの気配の持ち主が職人達に混ざっているというのか。

いや、恐らく気配を職人達に誘導することが出来る程の技量を持っているのだろう。

つまり、あそこにはいない。

どこだ、どこにいる……。

 

「どしたの、イッセー」

「う、うむ……何でもない」

「ふーん」

 

あの青い髪の女、どこかで見たような。

気のせいだろうか。

 

恐ろしい程の実力者なのか、いるはずもない場所に気配は漂っていた。

自分の気配を隠蔽して、別の場所に気配を漂わせる。

どんな技術だろうか、まるで意味が分からんぞ。

特に、神だと思わしき気配が馬小屋から漂うってどういうことだ。

馬の神様なのか?馬の神様ってなんだよ、知らねぇぞ。

次の日、俺は頭の片隅でチロチロしている神の気配が気になって仕方なかった。

 

「イッセー、あれ」

「めぐみんだな」

 

ギルドに着くと、こめっこが服の裾を引っ張る。

どうやら、めぐみんを指差していたようだ。

うん?ちょっと待て、あの青い髪の女ではないか。

 

「あっ、倒れた」

『あぁ、飯とか食べてなかったんだろうな』

 

めぐみんが膝を着く、そんなになる前に妹に頼れば良かったのにプライドが許さなかったのかもしれない。

めぐみんは青い髪の女とジャージの少年に突っ掛かっていた。

ジャージか、この世界にも存在していたんだな。

ちなみにめぐみんは眼帯をパッーン!されて目を抑えていた。

 

「むちゃしやがって……」

『たぶんカエルの討伐に行くんだろうなぁ』

「そうなのかー」

 

まぁ、カエルの討伐は最初にやることだからな。

アイツら、金属の装備があれば捕食の攻撃してこないから簡単に倒せる初心者用のモンスターだしな。

 

「あっ、ゆんゆん」

「どうして壁の方を向いてるんだろうか?」

『そっとしておこう』

 

壁と喋ってるゆんゆんは無視することにした。

今日は魔法実験の練習台だ。

魔法耐性と体力に自身がある方が募集されていた。

薬を飲んだり魔法を打ち込まれるだけの簡単な仕事である。

なお、体力不足なのか何人か怪我したらしい。

全く、軟弱な奴らである。

 

「あっ、姉ちゃん」

「ヌルヌルしてるな」

『そっとしておこう』

 

夕方、めぐみんがおんぶされていた。

なんでヌルヌル何だろうか、汚くないだろうか。

何やら騒いでいるが、絡まれると面倒なので逃げたほうがいいだろう。

 

「行くぞ、こめっこ」

「あっ、あぁー!そこ、そこの二人!」

「むっ、見つかったか」

 

立ち去ろうとした所をめぐみんに呼び止められた。

ヌルヌルで男に抱きついてる姉をこめっこに見せるのは教育的によろしくないのだが、仕方ない。

呼び止められたので、めぐみんの元に行く。

 

「おい、アンタ!コイツの知り合いなら、引き取ってくれよ!」

「こめっこ、貴方の方からもカズマを説得して下さい!お願いします」

「うん、分かった」

 

その言葉にめぐみんが目をキラキラさせる。

対して、ジャージのカズマと呼ばれる少年は気まずそうだ。

 

「わが名はこめっこ、ドラゴンを駆りし紅魔族随一のグルメリポーター!」

「これはどうも……えっ、グルメリポーター?」

「姉ちゃんを幸せにして下さい」

「ちょ、こめっこ!何か勘違いしてますよね!ねっ!」

「誰が、こんな……姉ちゃん?あれ、俺が結婚したらこの子は義妹?」

 

頭を下げるこめっこに、カズマとやらは苦悩の表情を浮かべた。

何かを天秤に掛けている。

 

「うわぁ、引くわー。ロリコンニート」

「ろろろ、ロリコンじゃねーし!悪いが、こんな欠陥魔法使いはこっちから願い下げだ」

「姉ちゃん、どんまい」

「こめっこ!待って下さい、どうして私がフラれたみたいな流れになってるんですか」

「ぬるぬるで、男に捨てられても、こめっこは味方だよ」

「おいやめろ、事実だけど人聞きの悪いことを言うんじゃない!いや、分かった!分かったから、精神攻撃はやめてくれ!」

 

こめっこは満面の笑みで姉に親指を立てた。

うん、まぁ本人が満足なら良いんじゃないか。

なお、姉は顔を真赤にして帽子で顔を隠していた。



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キャベツだぁぁぁぁぁぁ!

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者のは、至急冒険者ギルドに集まってください』

 

いつもの様に冒険に洒落込もうとしていた俺達は、受付嬢の叫ぶような勧告を聞いた。

ほぉ、魔王軍でも攻めてきたかと意気揚々と外に出る。

ラッセーはこめっこの頭の上でアホらしいと面倒臭がっていた。

 

「キャ、キャベツだぁぁぁぁ!」

 

まるで、呂布でもみたモブのように冒険者の一人が叫んだ。

キャベツ、お前は何を言ってるんだ?

 

「あ、あれ!」

「キャベツだぁぁぁぁぁぁ!」

 

アイエエエエエ、キャベツ、キャベツナンデェェェェェ!?

空を覆い尽くす緑の竜巻、否、空を舞うキャベツの群れである。

雄叫びを上げ、冒険者達が走り抜けていく。

だが、キャベツはその冒険者の攻撃をタイミングよく躱しカウンターを決める。

剣を弾かれ、胴体がガラ空きになった冒険者、その身体に四方八方からキャベツがツッコミ冒険者が吐血しながら倒れた。

慌てて近寄れば、既に虫の息であった。

肋骨は折れ、背骨も折れ、内臓に幾つかのダメージは伺える。

パリィからの致命傷連打、恐ろしいキャベツである。

 

「キャベツ……何かに……」

「治れ」

 

俺の身体が光り輝き、膨大な魔力が奇跡を起こす。

でぇじょうぶだ、聖杯で復活できる。

魔力があれば大抵のことが出来るので、名も知れぬ冒険者は見事復活した。

ワンチャン聖杯ヤッタ―!である。

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁ!」

 

どこかの冒険者が、俺のようにキャベツに驚いたのか疑問の声を上げていた。

きっと田舎から来たか、俺のような異世界人なのだろう。

誰だって驚く、俺だって驚く。

しかし、恐ろしいのはキャベツが人を容易く殺せるという事実だ。

雑魚だと思ったが、囲まれたら死んでしまうのである。

単独撃破が望ましい、恐ろしい強敵だ。

 

「すごいね、食べ物がいっぱいだね」

「もう少し危機感を覚えるべきだ」

 

いや、ある意味俺がいる時点でこめっこの安全は確保されてはいるのだが、しかし目の前で成人男性が死にかけた光景を見た後に美味しそうって、吐血見たはずなのに美味しそうって。

こめっこは姉が野垂れ死んでいても、そんなことよりお腹が空いたとか言いそうだ。

 

「うおぉぉぉ、デコイ!」

「あ、あれは!」

「俺達を庇って、自分から囮になったんだ!」

「クルセイダーだわ、あれこそクルセイダーの鏡だわ!」

 

ほら見たことか、近くにいた女騎士がキャベツに嬲られているではないか。

金属鎧が食物繊維の連鎖に為す術もなく剥がされていくのだから、恐ろしい。

あの女騎士だけ、エロゲみたいな世界観で生きてて紙装甲なんじゃないかと言うくらい簡単にボロボロになっていく。

 

「もっとだ、もっとだ!フハハハハ、おぉキャベツよ掛かってこい!」

 

もしかして、バーサーカーの類じゃないだろうか?

あれ、喜んでないか?俺の目がおかしいのだろうか。

 

「フォルスファイア」

「むっ」

 

何故か、キャベツ達が急に動きを変えた。

今まで広がるように戦っていたキャベツの群れが、統率された動きを持って俺の方向に飛んできたからだ。

まるで、何かに引き寄せられたかのようにキャベツが怒り狂い気性を荒くして襲い掛かってくる。

 

「やったね、キャベツが増えるよ」

「…………」

 

こめっこ、お前が原因か!

自ら危険に飛び込み、キャベツを得ようとするとは剛毅である。

 

『虎穴に入らずんば虎子を得ずとはこの事か』

「難しいことは分からん」

 

取り敢えず、目の前のキャベツをどうにかしないといけない。

考えるより先にパンチが出た。

パリィして来るキャベツをパンチで気絶させ、それをこめっこが齧る。

時間差攻撃をしてきて、逆にダメージを食らって落ちたキャベツを、こめっこが齧る。

飛んでる最中に俺に睨まれて止まったキャベツに、ジャンプしたこめっこが齧る。

音ゲーか何かと言わんばかりに、俺の回りでぐるぐる飛びながら向かってくるキャベツを千切っては投げ千切っては投げる。

どこかで、それを千切るなんて勿体無いという言葉が聞こえたが知ったことではない。

そして、戦場にキャベツの千切りと無傷の俺とお腹を抱えたこめっこがいるという光景が出来上がっていた。

 

 

 

夜になった。

こめっことキャベツとキャベツ、あと次いでにキャベツとオマケでキャベツ、デザートにキャベツを食べまくる。

その横で、何故かめぐみん達のパーティーが一緒に食事を取っていた。

狭い狭い、座りきれない。

邪魔だ、帰れよ。

 

「……納得いかねえ。キャベツが、なんでこんなに美味いんだ」

「それは経験値が溜まってますからね」

 

少年はカズマ少年というらしい。

東の、それはそれは遠い国からやって来たとのことだ。

そこは定期的に地震が起きるのだが、そこに住む人々は世界中の国家が崩壊するレベルでも平然とアニメを見るという。

しかも、兵士1人が刀1本で100人以上斬り殺せるほどの戦闘能力と有り余る予備の日本刀を持ち、毎年死人が出るにも関わらず、柔らかく白い粘着性の食べ物を年の初めに食べるそうだ。

さらに、その国の王様は二千年前から血が継承されているらしい。

そんな修羅の国で、彼は日々モンスターと戦いつつ自宅を守っていたが運悪く女の子を助けようとして死んでしまったらしい。

 

「すごいね!兄ちゃんは強いんだね」

「あぁ、裸でG級クエストをこなした物さ。ドラゴンだってあの頃は簡単に倒していた。今は弱体化してしまったがな」

「なんだと!」

「び、びっくりするな!急に立ち上がるなよ、なんだよ!」

「ドラゴンが裸の相手に負けただと、それはドラゴンではない。きっとワイバーンだ、ワイバーンに違いない。

君は、きっと熟練の戦士なのだろう。序盤中盤終盤、隙がない戦いをするのだろう、だがドラゴンは負けないよ。

だって負けたら、ドラゴンは最強じゃない。負けるってことはドラゴンじゃない、はい論破!」

「あっ、ハイ」

 

俺は論理的なのだ、俺の言葉にカズマ君も納得である。

それはそうと、そんなに強いなら俺と戦うべきだろう、そうするべきだ。

 

「カズマ、食べないなら私に下さい。紅魔族は膨大な魔力を生成するため、皆が大食漢なのです。ということで下さい」

「やらねぇよ、どうしてもって言うなら一口までだ」

「わたしにもください」

「全部お食べ、そうだジュースもどうかな?すいません、何か飲み物を!」

「カズマ!どうした、貴方は私の妹に甘いんですか!差別です、どうして私は一口なのに!」

「……フッ」

「あーあーあー!」

 

こめっこがめぐみんに不敵な笑みを浮かべた。

おいおい、まだ食べるのか。俺も大概だが、貴公は食べ過ぎではないか。

めぐみん、恐ろしい子。

こめっこもキャベツだけだが、スゴイ食べるな。

 

「所で先程思ったのだが、食後の運動にやらないか?」

「えっ、いや、俺ってばノーマルなので」

『因みに内容は戦わないかだぞ』

「コイツ、直接脳内に……ファミチキ下さい」

『この順応力である。やりおるわ』

 

俺のお誘いをラッセーがフォローする。

まさか、ホモと間違われるとか予想外である。

しかし、俺の誘いを自称女神のアクアが静止する。

この女、神性を感じさせながらもそのポンコツ具合から神の血を引くだけの人間と見た。

まぁ、その高すぎる神性からか自分を女神アクアだと思いこんでる可哀想な子らしい。

 

「辞めておきなさいよ、カズマってば最弱職なんだから瞬殺よ」

「うるせぇよ。因みに聞くが、アンタって職業は何なんだ?」

「俺は職に付いてないが?」

「えっ?」

「えっ?」

「お前のような無職がいるか!べーわ、やっぱ異世界やべーわ。何だよ、自宅警備員すら強すぎんだろ」

 

 

 

 

 

 



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誰だお前

こめっこがいなくなった。

大事件発生である、どうしてこうなった。

だがしかし、ラッセーも居ないということは大丈夫だろう。

 

「えっ、こめっこですか?見てないですけど、まさか……」

「おい、どうして俺を見る」

「分かってます、カズマ。だから、正直に言いましょう」

「ねぇ、カズマ。汝、罪を認めアクシズ教に入信するのです」

「悪いな、これも騎士の端くれ抵抗はするな」

「よぉーし分かった。戦争だ、この野郎!スティィィィル!」

 

ギルドで女性三名が下着を剥ぎ取られる事件が発生し、もれなくカズマ少年がご用となった。

スティールは運であり、あれは故意ではないなどと容疑者は意味不明な供述をしているが、そんなことよりこめっこである。

こめっこのことだ、ホイホイ飴に釣られて付いて行ってしまったのかもしれない。

全く、どこにいるのか。

 

「…………」

「額に指を当てて何してるのかしら?瞬間移動でもするのかしら?」

「行き先を考えてるんじゃないんですか?というかですね、こんなナリですがコレはドラゴンなんですよ」

「めぐみんは何を言ってるの?遂に、頭もおかしくなったの?」

「も?アクア、もってどういうことですか!おい、そもそも頭がおかしいとはどういうことですか!」

「ひゃーふぇーてー、ひっはらないでぇー!」

「なんですか、本当になんですかリスみたいなほっぺして!モチモチじゃないですか!」

「おいめぐみん、引っ張るなら私のにしてくれないか、いやマジで」

 

鬱陶しい!

女、三人よれば姦しいと言うが見聞色の覇気で探ってるんだから他所でやって欲しい。

精度を上げるというか、周囲から聞こえる音をいちいち判断してるんだからな。

声と気配から特定してるんだが、おかしいな街の中にいない?

もっと、範囲を広げ……いた。

 

「街の外、どういうことだ?」

「えっ、街の外ですか?」

「結構な距離だが、この方向は……」

 

そう言えば、この間めぐみんが爆裂魔法を放っていた城の方向じゃないか?

なるほど、めぐみんが魔法を使ったのを聞いて見たかったとか言ってたから先回りしたのだろう。

この間から姉ちゃんの魔法がすごいと言ってたからな。

事件の真相が分かったと思った瞬間だった。

新たな事件が発生した。

 

「ねぇ、なんだか透けてると思うの?」

「なっ、足元に魔法陣が!なんですか、何を今度はやらかしたんですか!」

「みんな後ろに隠れろ!しゃあきょい、しゅごいのがくりゅんだろうにゃ」

「ひえっ!」

「ダクネスひくわー、ひくわー」

 

鬱陶しい!

特に、メスの顔で期待する最近腹筋を気にしてるとラッセーにしてきされたクルセイダー!

俺にそんな趣味はない。

そんなことより、この魔方陣どこかで見た気がする。

あれ、これって、よばれてるのか?

気付けば、俺の視界は変わっていた。

 

「ひょ?」

「うん?」

 

そこは石造りの城の中だった。

目の前には首を持った騎士っぽい何か、後ろにはこめっこが床に両手を着けていた。

足元には、魔法陣の書かれた紙。

まるで意味が分からんぞ。

 

「誰だお前」

「こっちの台詞だ!誰だ貴様!」

「俺か、俺はドラゴンだァ……」

「頭おかしいんじゃないのか?」

 

ベルディアは困惑していた。

朝、侵入者の気配を感じて迎え撃つ準備をしてみたら、一向にくる気配がない。

昼、痺れを切らして自ら敵の前に出たと思えばそこには廊下で爆睡する幼女が居た。

そして今、目の前で小さいドラゴンが幼女を起こし、幼女が出たな魔王軍幹部と言って魔法陣を置いたら男が現れた。

まるで意味が分からなかった。

 

しかし、ベルディアも馬鹿ではない。

何の策もなく、単身で幼女が幹部の城に来るのはありえないことだ。

つまり、これは油断を誘い動揺させる何らかの作戦。

きっと、罠でも仕掛けてこの男を使ってテレポートで移動するつもりだろう。

とすれば、アレは召喚するとか呼び出すスクロールか。

いや、待てよ。そもそも、スクロールを使って逃げればいいじゃないか。

なるほど、なら男を目の前に呼び出すのが目的なのだろう。

ギルドのことだ、時たま現れる異様に強い存在をぶつけに来たのだろう。

 

「分かっているぞ、貴様出来るな」

「何してんだ、こめっこ。こんな所に来るなんて」

「ふっ、油断させようとしたってそうは行かないぞ」

「かんぶを倒しにきました」

「…………あの、聞いてる?もしもーし」

「なるほど、それでこの魔方陣か。スゴイな」

「遂に背中見せちゃったよ。おい、斬っちゃうよ、斬っちゃうぞ!無視すんじゃねぇ!」

 

背後で何やら騎士が騒いでいた。

なんだコイツ、これだから騎士って奴は変なのしかいないんだから。

不倫野郎とか、ブッパ姉ちゃんとか、碌なのいないからな。

お前もビーム撃つんだろ、この野郎。

 

「ソード」

「むっ、ほぉ!さぞや名のある魔剣と見た」

「分かるか。アロンダイトという」

「分かる、分かるぞ!さぞやスゴイ能力があるのだろう。だが、剣の能力だけが強さだと思っていては俺には勝てぬぞ!我が名はベル――」

「あぁ、能力は壊れにくいだ」

「――ディア……えっ、それだけ?ちょ、名乗ってただろうが!今、言うことではないだろ!」

「うるせぇ!」

 

お前が聞いたんだろ、何だコイツ態度悪すぎるだろ。

無茶苦茶な奴だな。

 

「えー、もうやだ何なの、最近バカスカ魔法打ち込んでくるやつとかいるし、アクセルって頭がおかしい奴しかいないんじゃないか。寧ろ、頭がおかしい奴がいる街がアクセルなんじゃないのか?」

「なんだお前、やるのか」

「来い!我が、眷属よ」

 

魔法陣が奴の足元に浮かび、ヌルっと馬が出てきた。

馬が出てきた!?

 

「フフフ、絶望したか。デュラハンは馬に駆る者、その突撃力は強力だ」

「室内で、馬だと……」

「まだだ、まだまだ上がるぞ!うおぉぉぉぉ!」

 

ブオンと黒いオーラがデュラハンから発生する。

強そうだけど、それがなんなんだろうか。

 

「魔力を滾らせ、リミッターを解除した。アンデット特有の不死性を活かした生者には出来ない無茶な肉体の運用、これで俺の戦闘力は数倍に跳ね上がる。貴様は最初から本気で行かせてもらう!」

「なんだって」

 

戦うのならカエル相手でも全力だろ、コイツ相手によって手を抜いているのか。

つまり、それくらい強いということなのだろう。

俺も普通に戦おうとしたが、カエルのように手加減出来る相手ではないのだと理解した。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

「フンッ!」

 

俺はアロンダイトを馬に向かって投げ、上段から振り下ろされる剣を殴り飛ばす。

その際、腕を半竜状態に変えることで硬質化して剣自体を破壊しようと試みた。

 

「なっ、馬鹿な!何をしたと思ったら凄まじいパンチだと、それが奥の手だというのか!納得だな」

「そうか」

「だが、此方も奥の手を斬らせてもらう。死の宣告!お前は一週間後、死ぬだろう!」

 

ベルディアは俺の方を指差し、何かを放ってきた。

それは黒いオーラ、それが俺に着弾する。

 

「フフフ、俺の死の宣告は魔王軍を追い詰める勇者パーティーすら解呪することは出来ない」

「そんなスゴイ物だったのか」

「流石に驚いたか。さぁ、死の恐怖に……あれ?」

「悪いが、発動してないぞ」

「ファ!?」

 

ハリーポッターを読んだこと無いのか、ドラゴンは古の魔法により大抵の魔法は効かないと書いてあっただろ。

基本的に呪いとか自動でレジストしてしまうので意味はない。

 

「あ、ありえん……人間じゃねぇ!人間離れってレベルじゃねぇぞ!何だコイツ、人類のバグか何かか?」

「あの程度の呪いよりスゴイの飲み込んだからな。聖杯の泥の方が強かった」

「ば、化物かよ……」

 

まぁ、魔王の幹部もこんなものか。

馬に乗っても普通に走った俺の方が早いし、斬り掛かる剣術も普通に避けれたし、所詮はアンデッドだからそれほど強くなかった。デュラハンとか動くだけの死体だもんな。

まぁ、死体にしては強かったんじゃないか?

 

 



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