Fate/Hentai Order (「旗戦士」)
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第一節: 変態、冬木に立つ

<カルデア>

 

日本。

世界有数の経済大国として名を馳せるこの国には、ある文化が根付いていた。

それは魔術。遠坂、間桐、そしてアインツベルンの御三家が集結するこの国では、"聖杯戦争"というものが行われていた。2015年、人理継続保証機関"カルデア"によって収集された多くの魔術師がいた。理由は2016年に起こる大崩壊に向けて、魔術師の力を結束し回避をしようというもの。そして、僕も呼び出されたその一人だった。

 

「僕はこの数年間、エロエロな女性サーヴァントを召喚して童貞卒業をするという試みをしてきた。晴れてカルデアにもマスター候補として呼ばれ、ウキウキしてた矢先になんかカルデアの機械が暴走して昔の冬木市に行くことになってしまった」

「先輩、何ブツブツ言ってるんですか」

「マシュのマシュマロおっぱいを食べたいと言ってたんだよ。だからその盾で後頭部殴るのは止めて? 」

「盾の先で突いた方がいいですかね、フォウさん」

「フォウ、フォウフォ(どてっ腹はいけねぇ。脾臓だ脾臓)」

「なんかクッソ物騒な事言ってない? 」

 

とりあえず冬木市に降り立ったはいいけど辺り一面焼け野原過ぎてぶったまげた。初心者マスターに課す仕事じゃないし、いきなり超展開過ぎないだろうか。僕を励ますように、青いフードを被った男性サーヴァント、クーフーリンが僕の肩を叩いた。

「まあそんな辛気臭い顔すんなよ、坊主。俺が必ず家に連れて帰ってやっから」

「ありがとうキャスニキ……。でも僕兄貴より兄貴の師匠に会いたいんだよね」

「師匠にぃ? やめとけ、おっかねぇぞ」

「性的な意味でおっかないおっぱいしてる筈だから」

「絶対会わせたくねぇ」

 

閑話休題。焼け野原の間を駆けていると、突然僕の頭に男性の声が響いてくる。この声の主はカルデアで医療顧問を務めるロマニ・アーキマン、通称ドクターロマンという青年であった。

『やぁ、ぐだ男くん。そっちはどうだい? 』

「いきなりクライマックスな場所に来させないでくださいよ。どう見てもこれラストダンジョンレベルの崩壊っぷりじゃないですかコレ」

『ごめんごめん。マシュの方はどうかな? 』

「異常な……すいません、今見つけました。私の胸を揉んでるマスターです」

「揉んでるんじゃない、揉みしだいているんだ」

「ブチ殺すぞクソ先輩」

「さんを付けろよデコ助後輩! 」

 

マシュからの一撃が最近気持ち良く感じれてきた。僕もそろそろあっちの領域まで達せそうかもしれない。そんなこんなで僕達三人は比較的安全な場所で野営をする事になり、火の手が回っていない公園でテントを広げた。

「なあマスターよぉ、そろそろ英霊召喚でもしてみたらどうだ? 戦力増強の為にも、必要だと俺は思うがな」

「そうだね……。ちょうど手元に虹色の綺麗な石が6つもある。一個ケツに入れてみたけど、ちょうど良い感じにフィットした」

「お前化物? 」

サーヴァントに化物と言われましても……。困惑したまま僕は先程設置した携帯用召喚陣を展開し、3つの聖晶石をその中へ投げ込む。即座に召喚陣が起動し、六つの光球が円を作り出した。しばらくして光の柱が陣の中心に現れ、その奥から背丈の高い男性が現れる。

「おやおや、これはこれは奇遇ですな。デュフフフフフ。黒髭、参上ですぞ。緑は敵ですぞ」

「なんだよこの黒ひげムックはっ!? しかもなんか聞いた事ある口調してるし! 」

「お、辛辣ゥー! でもマスターからは何故か気の合う感じがしますぞい」

「僕は巨乳のお姉さんか可愛い貧乳ロリっ子を召喚したかったんだ!! 畜生っ! これが人間のやることかよぉぉっ!! 」

 

地面に膝を着き、拳を叩きつける僕。無論の事マシュから養豚場の豚を見るような悲し気な視線を浴び、黒髭ことエドワード・ティーチは優しく僕の肩を叩いた。

「大丈夫でござるよ……。まずはこの本を読むべし」

「なにこれ? …………ねぇ、ティーチって言ったよね……」

「そうですぞ。さて、感想をお聞き願えるかな? 」

「今すぐメデューサさんを召喚したくなった」

「ごめんなさい、クーフーリンさん。今すぐ先輩を殴らないと止まらない気がするんです」

「嬢ちゃん、流石に盾の先で突き刺すのはNGだと思うぞ」

マシュの明確な殺意を感じ取る。これが漆黒の意思というやつか……。気を取り直してもう一度僕は召喚陣を起動し、聖晶石を投げ込んだ。

「サーヴァント・アーチャー、エミヤ。召喚に応じ参上した」

「また男かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 」

 

「まあまあ。ここに眼鏡後輩ドスケベ系ヒロインがいるじゃないですかぐた男氏ー。あとマシュ氏は盾で突くのやめてほちぃ」

「止めるなぁぁぁぁぁぁ!! 」

「ちょっとタンマ! マジで座に還るから!! 」

黒髭がマシュにボコボコにされているのは気にしない。なんか今後よく見る風景になりそうだしね。おもむろに僕は召喚できるサーヴァントの一覧を見ると、黒髭が聖晶石から召喚されるサーヴァントではないらしい。隣に立っていたアーチャーの視線が僕を憐れむようなものに変わっていることは気にしない。

「ようアーチャー。男だらけのところに召喚されちまったな」

「構わないさ。むしろ女性だらけのところに召喚されたら私は死ぬ」

「あー……それは言えてる」

なんだこのリア充の会話は。黒髭なんてマシュに盾で殴られすぎて顔の原型が留めていないのに……。僕は霊基が消えかけているティーチに肩を貸し、魔術による応急処置を施した。マシュももう少し手加減してあげたらいいのに……。

「大丈夫か同志ティーチ。このイケメン共は放っておいて僕たちでこのオーダーをクリアしてしまおう」

「そうですな……。でも拙者、マシュ氏に殴られてかなり悦に入ってたでござる」

「テメェこの野郎! 召喚されて早々ご褒美貰ってんじゃねぇ! 」

「童貞には出来ない所業ですぞ」

僕はティーチに自害を命じた。

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<特異点F・最終地点>

 

ティーチが令呪に対してすさまじい耐性を見せるのでとりあえず助走をつけて殴り、僕らは地下洞窟を抜けて聖杯のある場所へたどり着く。僕らに課されたオーダーは特異点の中に悪用された聖杯を取り戻し、歴史を元ある形に修正すること。その道中、女性のサーヴァントが敵対してきたが僕とティーチによる超絶技巧セクハラアタックでどうにか撃退することができた。

「遂にたどり着いたね……苦しくも悲しい戦いだった」

「敵対したサーヴァントが漏れなく憎しみに満ち溢れた顔で座に還っていったがな……」

 

「うるせぇぞエロゲ主人公! 童貞の気持ちが貴様らに分かるのか!! 」

「いや、女は自分で惚れさせるものだろ……」

イケメンの正論により僕の戦意は喪失される。そんなことができたら僕は今頃マシュをイチャイチャしてる頃なんだよ!!!

「先輩、今変なこと考えてませんか? 」

「マシュのタイツを被って香りを楽しみたい」

「あ、分かるー。足のところが臭かったらなお良し」

「止せ嬢ちゃん!! 今こいつを殺したら俺らいなくなっちまうぞ!! 」

段々黒髭の言っていた事がわかってきたかもしれない。頭から大量の血液が流れ、僕の顔は血塗れたものとなりこの場にいた全員の表情が青ざめる。まあこの程度僕にとっては全然問題ないので無視して先に進むことにしよう。

「……マスター、構えろ。何か気配を感じる」

「そうだねアーチャー。僕も美少女の波動を感じるよ」

「いやそうじゃないんだが」

 

崩壊した冬木市の奥にあったのは巨大なクレーター。既に周囲に都市のような影は無く、まるで地球ではない所に来たような雰囲気に僕たち全員の空気が張り詰める。そしてその先に立っていたのは、黒く禍々しい甲冑を身に纏った金髪の少女だった。

「見てアーチャー! 僕の予想当たった! 絶対あの娘ア〇ル弱いよ! 」

「やめろ! 彼女のア〇ルは普通だ! 」

「お前なんで知ってんだよ」

「あっ」

 

あとでアーチャーは殴る。そうしないと気が済まない。黒騎士の美少女はすごく微妙な表情を浮かべながら手にしていた両刃剣を構える。でもなんだかあの目線は興奮するな。

「…………えーと、あの。そろそろいいか」

「あ、ごめんね女騎士さん。あとでこの赤い服を着た男が土下座するんで」

「なんでさ! 」

アーチャーの隣に黒髭が立ちふさがり、彼の肩を掴んだ。

「うるさいでござる! 御用改めろクソエロゲ主人公! 」

「待て待て! 仲間割れしている場合か! マシュ、ランサー! 助けてくれ! 」

「エミヤさん最低です」

「お前そういう奴だったかー、ないわー」

 

膝を地面に着いて落ち込むアーチャーを見て、正直な話僕は彼が可哀そうに思えてしまう。あとでアーチャーにはごく普通の主人公が魔法の戦いに巻き込まれてハーレムを形成するエロゲを渡そう。

気を取り直して黒騎士と対面すると僕はまずキャスターの兄貴の攻撃力を魔法によって上げ、僕は黒髭と彼に攻撃の指示を送った。

「アンサス! 」

「ぐっ……! やるな……! 」

「隙有りですぞ~」

 

さすが黒髭、自身の変態性も相まって黒騎士――セイバー・オルタと死闘を繰り広げている。落ち込んでいるアーチャーを励まし、なんとか戦闘に参加させたが、この後彼に更なる悲劇が襲った。

「貴様らが仲間を率いるのなら、こちらも召喚するまで。出でよ! 」

セイバー・オルタがそう言い放った瞬間、巨大な弓を携えた黒い髪のツインテールの少女と、黒いチューブトップを纏った紫の長髪の女性が現れる。そしてエミヤの顔が真剣なものから引き攣ったものへと変わり、僕は彼の顔を見上げた。

 

「なっ……」

「見ろよアーチャー! またア〇ル弱そうな女の人が出てきたぞ! 」

「止せ! 彼女たちの穴は硬い! 」

「だからなんで知ってんだよ」

「あぁぁぁぁぁぁ!! しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

もう完全にコイツは戦力外通告だ。そうしないと僕の気が収まらない。でもあの子たちが下の方で緩いというギャップを知ったので正直僕の息子も収まっていない。

 

「先輩! こんな時に何やってるんですか! 」

「ごめんマシュ! でも文句はアーチャーに言ってくれ! 行くぞ黒髭! 今こそ僕たちの友情コンボを見せつける時だ! 」

「任された! 行くでありますぞマスター! 」

 

そう言うと黒髭は僕の両脚を掴んで持ち上げ、肩車の要領で僕の身体を構える。いきり立ったマイサンがこいつの後頭部に当たっているのが非常に不快だが、この状況ではどうとも言ってられない。

「えっちょっ何それ」

「さあ行くぞ! 美少女たち! 僕の流星一条を食らえぃい!! 」

先ほどの威厳はどこへやら、素で引いた反応を見せるセイバー・オルタ。少し寂しい部分もあるが、僕の身体は黒髭によって投擲させられる。

股間部分から急激な魔力爆発を発し、セイバー・オルタを除いた2人のサーヴァントは消滅した。

傷ついた彼女だけが残り、僕は膝を着く彼女の前に立ちはだかる。

 

「立てるかい? セイバー? 」

「私は敵だぞ……そんな奴に手を差し伸べるなどってきゃあああ!! なんで裸なんだ!!? 」

 

何を隠そう、今の僕は流星一条により着ていた魔術礼装が吹き飛び生まれたままの姿となっていた。だがやけに清々しいのは何だろう。

 

「いや待て! この景色を最後に座には還りたくない! あっ待ってちょっ――」

「……決まったな」

「嬢ちゃん……」

「何も言わないでください。今からこの人と一緒に人理を救うんですから」

 

もう一度言うが僕は全裸である。要はケツ丸出しでこの戦いを乗り切ったわけだ。他のサーヴァントたちから向けられる視線がやけに突き刺さるが、僕は気にしない。というか黒髭はいい笑顔してやがる。

そんなこんなで僕は全裸の状態からキャスターの魔法によって股間だけ隠され、聖杯が設置されたとされる場所へと向かう。

「やあ、諸君。よく来たなってなんで一人半裸なんだ」

「レフ教授! 生きてたんですね! 」

「いやそうだけど今自分の状況を見てみような? 半裸だぞ? はっぱ隊と同じだぞ」

 

人生葉っぱ隊とは言い得て妙である。話を聞くにこのレフ・ライノール教授が2016年以降の人理を破壊した張本人らしく、黒幕っぽい感じで待っていたら半裸の僕が立っていた、という事になるらしい。

まあ申し訳ないけどこれが僕のスタイルなんだよね。

 

「貴様……なぜこんなことを! 」

「あっ、そこは普通にするんだ……。ふ、フハハハハハ! 人類というのは等しく愚かなものだ。それを見ている神は――破壊するしかあるまい? 」

「じゃあここにあるレフ教授秘密の日記を……」

「どこから持ち出してきた!! ってかやりづれえなオイ!! 」

 

やけに厳重に仕舞われていたのでこっそり持ち出してきました。早速開いてみるとそこにはまあひどい内容が書かれている。マシュのスリーサイズの成長過程だの、自分好みの性格にしただの……。

 

「何が書かれてるんですか? 見せてください先輩」

「……うん、これはマシュが見ちゃいけないものだね」

「えっなんでですか? 気になるんですけど」

「どわーっ!! 手が滑って日記が燃えてしまったぁぁぁ!! 」

 

迫真とも呼べる演技で日記を燃やすレフ教授。マシュ、この世には知らなくてもいい事実があるんだ。それを守っただけ僕もえらいと思う。

「くそう! ここは一時撤退だ! 覚えておけよ貴様らー!! 」

「物凄く3流な捨て台詞を残して消えたでござるな」

 

聖杯も手にし、この空間を保っていた魔力が崩壊し始めたのか周囲のクレーターから地割れが起こった。その時、通信が遮断されていたロマンからの声が聞こえ、僕はそれに応答する。

『ぐだおくん! マシュ! みんな! ようやく通信がつながったよ、今すぐそこから脱出してくれ! 』

「言われなくてもしてやりますぜ! 早く転送してえええ!! 」

『飛べよおおおおおお!! 』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<カルデア・転送ターミナル>

 

 

 冬木での戦いを経て、僕たちはようやく元の場所へと帰ってきた。転送された先には人理焼却から生き残ったカルデアのスタッフたちとロマン、それにダヴィンチちゃんが僕らを迎える。

 

「ぐ、ぐだおくん!? なんで裸なの!? 早く服着てよ! 女の子もいるんだから! 」

「死闘の末にこうなりました。な、黒髭」

「ですぞですぞ。というか拙者たちもここに来ちゃったんでありますな」

 

どうやら一度召喚を行ったサーヴァントは僕に仕える者としてカルデアスに記録されているらしく、先ほど泣きそうになっていたエミヤと共に戦ってくれたキャスターの兄貴もこの場に立っていた。ダヴィンチちゃんから替えの服を渡されて腕を通すと、再び布に僕の身体が抑えつけられる。

 

「ひとまずお疲れ様、みんな。後の処理は僕たちがやっておくから、みんなは休んでいてくれ。今回召喚されたサーヴァントたちは部屋に案内するよ」

「……助かる。今は一人になりたい」

「あとで酒でも飲もうぜ、アーチャー」

 

ようやく得る事のできた安心感に僕の身体は疲労を覚え、一気に倦怠感が僕を襲う。マシュに身体を支えられながら部屋まで歩くと、彼女が何か気づいたらしい。

 

「先輩、そういえば所長はどうしたんです? 」

「……………あっ」

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<時空の狭間>

 

「どこなのよ~!! ここは~!!? 」

 

白一色の空間に、閉じ込められる少女が一人。美しい銀髪を携え、黒とオレンジのブレザーを羽織った彼女の名は、オルガマリー・アムニスフィアと言った。

突然起こったカルデアスの暴走により施設が崩壊し、彼女もその爆発に巻き込まれて死亡した……はずだったのだが、何故かオルガマリーはこの白い区画に身体を落ち着けている。

 

「えっちょっマジで!? 本当なら私あのマスター候補とマシュと一緒に冬木にいるはずじゃない!! なんで存在忘れられてんの!? 冗談じゃないわよ! 出しなさいよ! サーヴァント化してもいいから出しなさいよ! 」

 

彼女は地面にへなへなと座り込んだ。

 

「うわ~ん!! 助けてよ! ロマニ、レフ、みんなぁ~!! 」




「ぐすん……誰もいなくなっちゃった……またあの時みたく独りぼっちに……」
「む。確か私はあの全裸の変態に打倒されて……」

「えっ!? 人!? それにセイバー!? 」
「誰だお前は。何を泣いている」

「わぁーい!! 私の他に生き残りがいたわぁー!! 」
「いや二人とも死んだぞ。私の場合は座に還っただけだが」

「えっ死んだの私? 」

というわけであとがきには所長と物語で消滅した鯖を絡ませる小話になります。


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第二節: 息子は息子でも違う意味の息子

「ねえねえナイチンゲール。最近持病がまた悪化してきたんだ」
「ほう。それは一体? 」
「童貞」
「殺菌」

今日のぐだ男:ナイチンゲールの銃で穴だらけにされて死亡


<カルデア・自室>

 

 初めての歴史修正によって無意識のうちに身体が疲労を感じていたのか、自分の部屋に入るなり僕は即座にベッドへ寝転んだ。白い壁に囲まれた無骨な部屋に転がっているダンボール箱の数々へ視線を傾け、溜息を吐きながらガムテープの封を切る。

「……あ、これ確か持ってきてたエロゲだ……」

瞬間僕の全身に張り巡らされた魔術回路が動き出すのを感じ、そしてそれは下半身に集中している。

――息子よ。君は今、白日の下にその体を晒したいんだね。

――はい。父さん。

 

まあこんな脳内会話をこなしながら僕は足元にある段ボール箱から銀色のノートパソコンとエロゲソフトの入ったパッケージを机に置き、自分の手元に数枚のティッシュペーパーを置く。これを見ている日本男児諸君ならもうお分かりだろうが、僕はこれから息子との対話を始めようとしていた。

「既に任務を終え、僕は部屋に一人きり……ならばやる事は一つ! 出ろぉぉぉぉぉぉぉ!! マイサァァァァァァァン!! 」

 

某機動武闘伝のニュアンスで僕はいつでも息子が仕舞いやすい寝間着に着替え、いよいよPCの電源を点ける。久方ぶりの対話に胸を躍らせながらソフトをパソコンのディスクドライブに入れてから読み込ませると、いよいよゲームは起動する。

その時だった。部屋の玄関から扉の開く音が聞こえ、僕の部屋には似つかないいい匂いが鼻を突きさす。

瞬時にその方向へ視線を向けると、灰色のパーカーを羽織った僕の後輩ことマシュ・キリエライトが入ってきたようだ。

 

「先輩? 何してるんですか? 」

「……少し、調べものをね」

 

表示されているのはエロゲのウィンドウである。断じて調べものとかいう高尚なものじゃない。

 

「なんの調べものですか? もし宜しければ私もお手伝いします」

「英霊たちの歴史を調べようと思ってね。ありがとう、気持ちだけで十分だよマシュ。でもこれは僕一人でやりたいんだ」

 

もう一度言う。決して英霊たちの歴史なんてすごく頭の良いものじゃない。むしろ本能剥き出しの物品である。

 

「……さっきからなんでパソコンの画面を隠してるんですか? 何かやましい事でもあるんですか先輩」

「そ、そそそそそんな事あるわけないじゃないか!! ほらもう夜遅いよ? 明日もトレーニングあるんでしょ? 早く寝ないと」

「あっ……もう。せっかく真面目にしてると思ったら……むぅ」

 

口が裂けてもマシュに似たキャラのエロゲとは言えない。というか言ったらあの盾の錆びになってしまう。僕はマシュの身体を無理やり部屋から押し出し、机へと戻る。

 

「…………ほほう、これが現代のエロゲでござるな」

「ぎゃぁぁぁっ!! テメェ黒髭!! どこから沸きやがった!! 」

「いやだって拙者サーヴァントだから霊体化できるし。隣にクーフーリン殿もいますぞ」

「坊主、俺は別に人の趣味にとやかく言うつもりはねえが……。その、流石にリアルの知り合いに似ているのはやばくねえか? 」

「うるさい! そっちの方がシコリティ高いの知らないだろ!? 」

 

もう僕のプライバシーガバガバじゃないか。これにエミヤまでいたら僕は終わりだったが、少なくとも2人にしかバレていない。まだ慌てるような時間じゃないと落ち着かせ、僕はエロゲのウィンドウを閉じた。

 

「ほんでどうしたのよ、二人そろって僕のところに来るなんて。夜這いはNGだよ」

「拙者そっちの気はないから。ノンケだから」

「俺がホモみてえな言い方すんなヒゲ」

「実際兄貴の方がエミヤとのカップリング多――」

「それ以上言ったら燃やす」

 

無造作に置かれたエロゲへ杖を向けて火の玉を具現化させる兄貴。男女ともにモテるっていう事は僕良い事だと思うんだ。だからその杖を降ろしてほしい。

 

「まあマスターとの親睦を深めようと思いまして、拙者ゲーム持ってきたでござるよ」

「なんのゲーム? 場合によっちゃリアルファイト起こるのはだめだからね」

「たけしの風雲城でござる」

「チョイス古ッ」

「ファミリートレーナーも二人分用意してある。これで遊ぼうぜ坊主」

 

またなんでこんな鬼畜難易度のゲームを選んできたのかは定かではないが、僕は段ボール箱から大き目のモニターを引っ張り出してファミコンとファミリートレーナーを繋ぐ。

 

「おお! 拙者ゲームを体験するのは初めてでありますからなぁ、結構楽しみですぞ~」

「現界してた時は何度かやったことはあるが……俺もこうして何人かでやるのは初めてだな」

 

確かに、こうして誰かと集まってゲームをするのはカルデアに招集される前の高校生の時以来だ。だが一つ文句を言うとならば遊ぶメンバーが二人とも滅茶苦茶ごつい男だという事である。

 

「……この場にいる人間が女の子だったなら……どれだけ、どれだけ……ううっ」

「まあまあ元気出せよ。いつか女のサーヴァントも召喚できるって、な? 」

「だったら兄貴の師匠呼んでよ」

「別に会わせてもいいけど確実にドン引きされる気がする」

 

ケルト人ドン引きさせるとか僕はどんだけ酷い人間なの? ただ欲望に満ち溢れてるだけだよ?

 

「おっ始まりましたぞ。ささ、マスターも早くこのマットの上に立って」

「はいはい……」

 

どうやらこのゲームは三つの城という名目で分けられているらしく、最後のボスまで辿り着くのにはこの三つのステージをクリアしなければいけない。

そんなこんなで僕はスタートの項目を押すのだが、これが想像以上に体力を削られる。マットの上で走ったり、飛んだり、はたまた足を交差させたりと僕みたいなキモオタにはしんどい運動ばかりだ。

 

「い、意外と動くんだなこれ……暑いわ」

「きゃあっ! 兄貴のエッチ! いきなり脱ぐなんてデリカシーのかけらもないわ! 」

「心底キモい」

「辛辣」

 

悪ノリすると罵倒されるのがキモオタの基本である。この調子で遊んでいるとそろそろ体力も限界だ。息切れが半端なくなってきた上に何故か動悸もすごい。隣で上半身裸で動いている黒髭へ無意識に身体が傾き、僕たちはそのまま地面に倒れる。

 

「ぐぁあああ!! マスター!? なぜピンポイントに拙者の上に乗ってるんですかぁ!? 」

「いやちょっ……死ぬ……黒髭の男くさい匂いと息切れで死ぬ……」

「坊主!? 絵面的に不味い位置に顔がいってるぞ!? 」

 

ほぼ深夜に騒いでいるので僕らの声が周囲にも漏れているのか、急に部屋のドアが開いた。どうやら危険を察知して助けに来てくれたロマンとダヴィンチちゃん、マシュがやって来たようでバタバタと足音が聞こえる。

あぁ……この状況はヤバいと僕の息子と本能が告げている……。

 

「ぐだ男くん!? 大丈夫――えっ」

「……………おやおや」

「せ、先輩……? 」

「あっ、こ、これは違うんだ三人とも」

 

黒髭の身体の上に倒れた状態で僕はやって来た3人と鉢合わせた。三人の目にはきっと僕が無理やり黒髭とそういう雰囲気になっている、所謂僕×黒髭の状態が写っていることだろう。

 

「…………ロマニ、そっとしておいてやろう」

「う、うん……そうだね。世界は広いね」

「……そうですか。先輩はそういう人だったんですね」

「違うから! 僕女の子大好きだから! 」

 

汚物を見るかのような視線が僕に浴びせられる。マシュに至っては大切にしていた虫の標本をパクられた某文学のキャラみたいな顔つきになっていた。いくら変態紳士と言えどこの視線はきつい。

 

「行こう……邪魔しちゃったね、ぐだ男くん」

「待ってってば! 誤解してるって! いやちょっ、待ってェェェェェェェ!!? 」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<カルデア・転送ターミナル>

 

 翌日。

僕はどうにかして誤解を解こうと3人をかき集め、傍にいたクーフーリンの兄貴にも弁解して貰ってどうにか事なきを得たが何か大切なものを失った気がする。

今回僕がこの場にいるのは既に最初の特異点……歴史修正のポイントをカルデアのスタッフが見つけ出したのでその説明を、という事らしい。

 

「やあホ……ぐだ男くん。おはよう」

「今ホモって言いかけただろコラ」

「そ、そんな事ないよ! 決して僕は君がそっちの気があるだなんて……」

「確信犯じゃねーか! 何度も言うけど僕は女の子が好きなんだって! 」

 

状況を知らない女性カルデアのスタッフからは豚を見るような目で、男性スタッフからはドン引かれた視線を浴びせられる。僕の幸せキャッキャウフフカルデアライフはもう既に終わったのかもしれない。

 

「エミヤからも何とか言ってくれよ! 」

「……いやその、信用はしている」

「ケツ押さえながら言える台詞じゃねーだろそれ! 」

 

あとでエミヤのベッドにはクーフーリンの兄貴とエミヤがそれらしいことをしている本を隠しておく。気を取り直してロマンが咳払いをすると、騒然としていたターミナルは一瞬にして静かになった。

 

「今回集まってもらったのは次の特異点……オルレアンの話だ。聞いての通り、場所はフランスのオルレアンで、時代設定は1431年、ちょうど百年戦争の休止期間になる」

百年戦争と言えば……確かオルレアンの乙女と名高いジャンヌ・ダルクが死んでしまった時代か。世界史の授業で何度か耳にしたぐらいだが、こう実際にその時代へ飛ぶとなるとまた緊張感も違ってくる。

 

「どういった状況がこの特異点で続いているのか分からないけど、観測機のデータから分かったことはジャンヌ・ダルクが"まだ生きている"という事。つまり、聖杯の干渉がこの時代にはあるんだ」

「という事はジャンヌ・ダルクに会えるっていう事……? 」

「十中八九、そういう事になるだろうね。でもどんな敵の勢力がいるのかはまだ判明していない。そこで君たちには、ここの調査を行ってほしい」

 

真面目な声音に思わず僕は息を呑む。こんな現代クソもやしキモオタが歴史上の超有名人と協力して歴史を修正するだなんて思いもよらなかった。そんな不安げな僕を見て心配に思ったのか、隣に立っていたエミヤが僕の肩を叩く。

 

「そんなに気負う事はない、マスター。君は私たちと契約した人間だ。こういう時はもっと胸を張るといい」

「アーチャーの言う通りだね。それに、今回は戦力を増強しようと思ってるから、ぐだおくんが心配することはないよ。以上が作戦の概要だね」

 

持っていた紙束を下ろし、彼は周囲を見回し始めた。一つ気になったことがあるので僕は手を挙げると、少し戸惑いながらもロマンは僕を指す。

 

「ロマン、一つ質問があるんだ」

「ん? なんだい? 」

「ジャンヌ・ダルクってマジで処女なの? 」

僕はマシュに殴られた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<カルデア・召喚部屋>

 

既にマシュの盾によってボコボコにされた顔を押さえながら僕は30個の聖晶石を手にこの召喚部屋へと来ている。この聖晶石というのはサーヴァントを使役する際に消費するカルデアの魔力を具現化したもので、綺麗な七色の光を放っていた。隣にはその様子を見守る(監視する)役目のマシュと黒髭がその様子を見守っている。

 

「やっぱりさ、こういうのは形から入るのが大切だと思うんだよね」

「と、言うと? 」

「とりあえず服を脱ぎます」

「待てやコラ」

 

ズボンのベルトに手を掛けた時点でマシュの黄金の右ストレートが突き刺さった。最近キレが増してきているのは気のせいではないのだろう。気を取り直して僕は革製の穴あきグローブを両手に填め、指の間に聖晶石を挟む。

 

「さあ来たまえ! 僕の可愛い可愛い女の子サーヴァントォォォォォォ!!! 」

「ほんとブレねえなコイツ」

「正直拙者でも心配になってきましたぞ」

 

余計なお世話じゃ、特に黒髭。9つの光球が回転し始め、それらは次第にカードの形を模っていく。カードからは長い紫色の髪を背後で束ね、和風の青い羽織りを纏った美形の男が現れた。

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。ここに参上――」

「また男だぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

「…………えーと」

 

なんとも微妙な表情を浮かべる色男こと、佐々木小次郎。歴史の偉人に全力で喧嘩を売っているのは百も承知だ。

 

「すいません小次郎さん。ちょっとこの人おかしくて」

「い、いや。此度のマスターはちゃんと人間で良かったと某も安心よ。何はともあれ、よろしく頼むぞ。主殿」

「う、うん……よろしく小次郎……」

「マスター、まだ召喚は始まったばかりですぞ。ほらしっかりする」

 

黒髭に倒れた身体を抱えあげられながら、僕は再び召喚陣と対面する。空気を読んで召喚されるスピードも遅くなっており、僕が前に立つと再び起動した。

 

「あっ! 先輩! 今度は金色のカードが出ましたよ! 」

「金色ぉ!? も、もしかして本当に女の子か!? 」

 

金色のカードから姿を現したのは、白い甲冑と黒いミニスカートを穿いた紛れもない女の子だった。三つ編みのピンク髪が揺れ、彼女は笑顔を見せながら僕の前に降り立つ。

「やっほー! ボクの名前はアストルフォ! クラスはライダー! それからそれから……ええと、よろしく!」

「あ……あ……」

「あ、あれあれ? どうしたのマスター? そんな呆けた顔して? もしかしてボクの可愛さに見惚れてた? 」

 

見惚れてたも何も、すらっと伸びた白くて細い太ももに視線は釘付けだ。しかも僕っ娘とかストライクゾーンまっしぐらである。

 

「なんだか、某の時よりもはるかに反応が違うでござるな……」

「大丈夫ですぞ小次郎氏。拙者の時もそうでした」

「本当にすいません……。あのアホが……」

 

なんか勝手に評価が下げられてるけど僕は気にしないぞ。さっそく僕はやって来たアストルフォちゃんの感触を確かめようと彼女を胸に抱き寄せる。

 

「う、うわぁっ! 急に何するのさ! 」

「君は記念すべき初めての女の子サーヴァントだ……こんなにうれしいことは無い……」

「え? もしかしてマスター、何か勘違いしてない? 」

 

本能的に嫌な予感を察知する僕の身体。う、うっそだぁ! こんなに可愛い女の子が男の子なわけないやい! さては僕を出し抜こうとしてるんだァ! 可愛いやつめ!

 

「ボク男だよ。ここ触ってみて」

「そ、そんな大胆な――えっ」

 

僕の手に感じるのは確かに自分のモノと同じ感触。自分の息子に触れてからもう一度アストルフォちゃん、否。アストルフォくんの股間に触れる。

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」

 

その後の事はよく覚えていない。絶叫と共に何故か僕の服は弾け飛び、マシュに気絶させられたのはまた別の話。




今回は所長反省部屋はおやすみです。
次回からはちゃんと書くので許してください。
石ガチャで小次郎とか出ねえしアストルフォピックアップじゃねーぞハゲっていうのは勘弁してください。
あとオルレアン編、始まります。


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第三節: あぁ無常、変態紳士

「トリスタン達が禁断の恋について話をしていると聞いて参加したくなった」
「いいですねマスター。ではランスロット卿、話の続きを」
「グィネヴィアと(自主規制)して(放送禁止)して王がキレた」
「でもそこにアルトリアいるけどいいの? 」
「あっ」


今日のぐだ男と円卓: 光になった


<フランス・平原>

 

「毎度の事ながらどうしてレイシフトする時に場所が安定しないんだろうね」

「きゃあああ!! 先輩!! 先輩の頭が地面に突き刺さっています!! 」

 

とてつもない磁場と魔力行使を経て、僕らは無事にフランスの地を踏めることに成功した。まあ頭が突き刺さって普通の人間だと全然無事じゃないんだけど、そこはまあ僕なので問題ない。

既に顔がボロボロなのはさておき、先ほど召喚したサーヴァントたちをこの地に呼び寄せた。今回の編成はアストルフォ、小次郎、エミヤのパーティーでこの特異点を攻略する。

 

「すごーい! マスターって不思議な体してるんだね! 今度調べさせてよ! 」

「いいよアストルフォきゅん。特にこの股間を入念に調べてほしいかな」

「んー、それはまた今度! 」

 

最近男の娘もイケるようになってきたのでアストルフォきゅんはアウトよりむしろストライクゾーンへと寄っていた。レイシフト開始数秒でマシュの目が死んできているが、決して僕のせいだとは思いたくない。

 

「む、マスター。あそこに鎧の兵士たちがいるぞ。おそらくはどこかの部隊だろう」

「じゃあじゃんけんで負けた人があの人たちに全裸で突撃するってのはどう? 」

「ふふ、乗ったぞその勝負。何やら面白そうだ」

「ボクもやるー! 」

 

案外小次郎もアストルフォきゅんもノリが良い。マシュとエミヤは参加しないそうなのでとりあえず3人でジャンケンをする事に。

 

「まあこうなる事は分かってたよね。じゃあ行ってくるよ」

「マシュ。君は目を閉じていた方がいい」

「大丈夫です。フォウさんが私の視界を守ってくれてます。ああ……しゅごいモフモフ……しあわせぇ……」

「君もなんだか問題ありなんだが」

 

そんな二人を一瞥し、僕は生まれたままの姿で鎧の兵士たちに近づいた。これぞ究極の投降スタイルだ、まさにネイキッドぐだ男とは言い得て妙である。

 

「やあ兵士さんたち。僕はぐだ男。この通り武器は何も持ってないし危険な感じもしない。信用してくれ」

「へ、変態だ! 変態がいるぞぉーッ!! 敵襲! 敵襲ーッ!! 」

「そ、そんな馬鹿な! 究極の無武装スタイルだぞ!? 」

「やはり……何か兵士たちの様子がおかしいでござるな……」

「おかしいのは先輩たちですからね!? むしろあの兵士さんたちはまともですからね!? 」

 

続々と剣を抜く人たちに僕は唖然とする。しかしこのままでは僕は殺されてしまうだろう、ならばやる事は一つ!

 

「そちらが剣を抜くのなら僕もこの妖刀を抜くまで! さあ覚悟しろ! 」

「……まだ抜けてないな……」

 

よし決めた。この兵士たちは殺す。こいつのあられもない姿を写真で撮って全世界に拡散してやる。そんな僕を援護するかのように、背後にいた小次郎たちが僕を守るようにして部隊の前に立ちふさがった。

 

『やっほー、手が空いたから様子を……ってなんで周りを武装集団に囲まれてるんだい! 』

「全裸で近づいたらこうなった」

『んなの当たり前だろ馬鹿! もう少し考えろ! 』

 

普段の優しい口調はどこへやら、罵倒の数々が通信機を通して聞こえる。そんなこんなで僕たちは戦闘態勢に入り、兵士たちと対峙したマシュたちの一番後ろへ僕は移動した。

 

「エミヤ! まず前線に立っている剣士を倒してくれ! アストルフォは彼の援護、小次郎は弓兵へ遊撃だ! 」

「いいだろう」

「よぅし! 任せて! 」

「心得た」

 

白と黒の双剣で剣を持った兵士と渡り合うエミヤとアストルフォを横目に、小次郎が二人を狙っていた弓の兵士へと急速に接近していく。さすが稀代の剣豪と呼ばれただけはあるようで、瞬く間に小次郎の刀が放たれた弓を斬り落としていった。

 

「な、なんだこいつらは……! あの変態といい剣士といい化け物じみてやがる! 」

「撤退だー! 退け、退けーっ! 」

「あっ待てコラァ! 僕のマイサンを侮辱した罪はデカいぞォ!! 」

「怒るとこそっちなんですか!? というか完全に自業自得ですよね!? 」

 

ごめんマシュ、僕の頭の中に自業自得なんて言葉は無いんだ。服を着てボタンを留めずに乳首を晒していると、妖艶な笑みを浮かべながらアストルフォが近づいてくる。

 

「もう、マスターってば。ボタン留めないと風邪引いちゃうよ? それとも……ボクに留めてほしいの? 」

「ぐへへへっ、フヒヒヒッ。アストルフォきゅん……」

「なぁに? マスター? なんか笑い方が変だよ? 」

 

もう僕はアストルフォきゅんだけで生きていけるかもしれない。彼女……否、彼の蕩けるようなボイスに僕の脳内は既に侵されている。もう性別:アストルフォでいいんじゃないかな。

この時代の人間と接触を図る為、とりあえず僕たちは逃げていった兵士たちの後を追う事に。周囲に町の様子や手がかりも見つからないせいか、頼みの綱は彼らとなった。

 

「これは……なんて酷い状態に……」

「ほんとだねー……。外壁こそ無事だけど……」

『ここから見ると中はボロボロだ。砦とは呼べないぞ』

 

ロマニの説明によれば、今僕らがいる年は1431年。百年戦争が休止中の年なのに、この負傷兵の数は異常だ。多くの屈強な兵士たちが着ていた鎧から血を流し、傷の痛みに呻き声を上げている。

 

「あっ! さっきの変態男! 何しに来た! 」

「何度も言っている様だけど落ち着いてほしい、ボンボヤージュ」

「先輩、フランス語の挨拶はボンジュールです」

「うるさい! わざとだわざと! 」

 

100歩譲っても僕は自分が馬鹿だと認めたくない。アホだけど。

 

「敵では……ないらしいな……」

「そういえば、負傷している兵士の数が多い気がするが……この時代は休戦協定を結んでいるのでは? 」

「その筈です。1431年と言えば、フランスのシャルル7世がイギリスのフィリップ3世と休戦条約を結んだはずですが……」

 

兵士の一人は訝し気な視線を僕たちに贈る。どうやら最初の異変をもう既に僕たちは見つけてしまったらしい。戦争が起こりえない時間に勃発している戦争。特異点という名に相応しい出来事だ。

 

「シャルル王か……王なら死んでしまったよ。魔女の炎に焼かれてな」

「マジで!? この時代に魔女っているの!? おっぱいでかい!? 」

「俺の見た所では……たぶんDはあるぞ」

 

僕だけをぶん殴るなんて理不尽だと思うんだ、マシュ。話していた兵士も咳ばらいをしながら話を続ける。

 

「"ジャンヌ・ダルク"だ。あの方は"竜の魔女"なって蘇ったのさ」

「な、なんですって……? 」

「俺たちも最初戸惑ってたが、あの姿は紛れもなくジャンヌ・ダルクだった。イングランドの軍勢も撤退して、俺たちだけが残されたが……もうどうしようもないんだ」

 

むぅ。安息できる自分の故郷で危険に脅かされるなんて思ってもいなかっただろう。ここはひとつ、この僕が一肌脱ごうじゃないか。ほぼ全裸だけど。

 

「落ち着いてくれ、兵士さん。一先ず今は休みながらこの本を読んでほしい」

「ん? 何々……ほほう、これは……」

「中々いい本だろう? 著者は黒髭というんだ、もし生き残ったらこの世界にこの本を普及してほしい」

 

無論のこと僕が渡したのは同人誌である。いくら兵士と言えど娯楽が無いとしんどいもんね。

この兵士と仲良くエロ本を読んでいるその時であった。獣のような大きな咆哮が聞こえ、その場にいた全員が身を凍り付かせる。

 

「ああ畜生っ!また奴らだ! 全員、戦闘態勢に入れ! 」

「わ、ワイバーンだって……? 」

「……ふむ。この時代にいない某が唯一言えるのは、この時代には似つかない妖がいるという事よなぁ」

「今更そんな事言ってもしょうがないって! マスター、ボクたちに指示ちょうだい! 」

「任せろ! 」

 

砦の内部にいよいよワイバーンの群れが襲い掛かって来ると身構えたその時。紺色の鎧と身に纏い、金色の三つ編みを揺らしながら大きな旗を掲げる一人の少女が僕たちの間を駆け抜けた。何より目を惹くのはそのおっぱい。デカい、フランスの大地とはこうも偉大なのか。

 

「戦える者は私に続いて! 皆、武器を取るのです! 」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<フランス・砦>

 

砦に残留していた兵士、それに突如現れた巨乳金髪美少女と共にワイバーンの群れを撃退すると周りにいた兵士たちは気の抜けたように地面に座り込んでいる。まさか小次郎に竜殺しの才能があるだなんて思いもよらなかった。燕返しで竜を三枚に卸した時なんて歓声ものだった。

 

『ようし! よくやってくれた! 手に汗と抹茶羊羹握りながら見入っちゃったよ! 』

「ドクター。抹茶ニストと呼ばれる私の前でもしゃもしゃ食べるのは止めてください」

「ロマン殿。某も後で頂きたいでござる」

『いいよー』

 

戦闘を終えたというのになんだこの緩い会話は。それに早くあの金髪碧眼美少女と接触しないと逃げてしまうと思った僕は、真っ先に彼女の元へ近づいた。

 

「先ほどは加勢ありがとうございましたマドモアゼル。僕はぐだ男。人は僕の事を愛の探求者と呼びます」

「い、いえ。こちらこそ……」

「貴女の名を伺っても? 」

「ルーラー。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名を"ジャンヌ・ダルク"と申します」

 

瞬間、僕の全身から血の気が引いていくのを感じる。えっ? 今手を握ったら可愛く顔を赤くしているのがあのオルレアンの乙女と名高いジャンヌ・ダルク? 噓でしょ?

 

「じ、ジャンヌ・ダルク様……? い、いや……! この人は竜の魔女だ! 逃げろー! 逃げるんだァー! 」

「あっ待つんだアホ兵士どもめ! こんなかわいい子が竜の魔女な訳ないだろ! あ、でもそれはそれで」

「何納得してるんですか変態」

 

ちぇっ、ジャンヌとの逢引きの最中だったのに。マシュは最悪のタイミングとも呼べる状況で僕の所に戻ってきた。

 

「とりあえず、状況の説明と折り入って話があるので……その。こちらに来て頂けませんか? 」

「勿論ですとも、マドモアゼル。というかそのままベッドインでオーケー? 」

「OK(ズドン)」

 

了承の旨を言いながら腹に一発ぶち込むのはダメだと思う。普通の人間なら死んでるよこれ。そんなこんなで僕はあのフランスの聖女と名高いジャンヌ・ダルクと合流し、森の奥底へと消えていった。




すいません。今日も所長反省部屋できません。
最初期からのユーザーなので小次郎は外せませんでした。


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第四節: 私の安珍様がこんなに変態なわけがない

「イリヤちゃんリアル小学生ってそれマジ? 」
「は、はい……そうですけど……」
「とりあえずお兄さんと一緒にエッチな薄い本を売ってほしい」
「お、お兄ちゃん! パパ! 助けて! マスターが変! 」

今日のぐだ男:エミヤ家セコムコンビに銃弾をケツにぶち込まれる


<オルレアン・森林>

 

 「ここなら落ち着けそうです。まず、あなた方のお名前をお聞かせください」

「了解しました。私の個体名はマシュ・キリエライト。こちらがぐだ男。本当に不本意ながら私のマスターに当たります」

「どうも改めて申し上げるとぐだ男です。日々彼女……否、女性サーヴァントを追い求める愛の探求者です」

「あっ貴方には聞いてないです」

辛辣。この一言に尽きる。既に風当たりが強いのはいつもの事だが、初対面の女性に蔑まれるのも悪くない。隣の小次郎とアストルフォ、エミヤからの視線が悲し気なものになっている。

 

「ところでこの聖杯戦争にもマスターはいるのですね」

「いえ、聖杯戦争とは無関係の立場にいます。私はデミ・サーヴァントに過ぎません」

「デミ・サーヴァント……? 」

「僕の彼女って意味です。ここ必須事項ですよ」

最早恒例となったマシュの右ストレート。顎が外れかけたので嵌め直すと気を取り直して話を戻した。

 

「……コホン。とりあえず、デミ・サーヴァントは正規の英霊ではないのです」

「なるほど……。私は確かにサーヴァントです。クラスもルーラー、そのことは理解できています。しかし……本来与えられるべき聖杯戦争の知識が、大部分存在していません。知識だけではなく、ステータスの面でもランクダウンしています」

「つまり今襲えばヤれる……? 」

「オルルァッ!!!! 」

ステータスが下がってても僕への対処は可能らしい。持っている槍で脳天をぶっ叩かれると僕の視界は揺れ始めた。流石に気絶するほどの暴力は許容しきれない。よろしい、ならば戦争だ。

 

「……ところで、こちらの世界にはもう一人のジャンヌ・ダルクがいるようです。フランスを崩壊に招いているというジャンヌが……」

「同じ時代に同じサーヴァントが召喚された、という事ですか」

「じゃあそっちのジャンヌを懐柔してもいいですか? 」

「駄目です」

そんなぁ!あんまりだよぉ!!

 

「この変態はとりあえず置いておいて、私たちの目的はこの歪んだ歴史の修正です。カルデアという組織に所属してるんですよ」

「歴史修正の理由はこの僕たちの生きる現代そのものがある人物によって焼却されたからなんだよね」

ジャンヌ・ダルクは驚いたような顔を見せる。それもそうだろう、自分の死んでいった未来の世界が何者かの手によって滅ぼされているのだから。僕も最初聞かされた時は驚いた。変態紳士って言ってもたまには素の反応を見せるんだよ。

 

「……なるほど、良く分かりました。まさか、世界そのものが焼却されているとは。私の悩みなど小さな事でした……」

「そんな事はない。乙女の悩みは紳士の悩み。紳士の悩みは世界の悩みさ。というわけで僕たちはその偽物のジャンヌをぶっ倒して世界をこの手に収める」

「途中からただの願望になってませんか先輩」

「知るか! 僕はとにかく女性サーヴァントを召喚したいんだ! そしてあわよくば童貞卒業! 」

「ジャンヌさん、この世界を救った後に先輩をボコるのはどうでしょう」

「賛成です」

 

そう言いつつ前が見えなくなるまでフルボッコにするのはひどいんじゃないか後輩。「ボコる」と心で思ったなら既に行動は終わっているってどこのイタリア人だよ。

 

「……まあ。本来歴史の本筋ではジャンヌ・ダルクが処刑され、そのままフランス国家は存続していくというものだったが。この世界ではシャルル王が殺されて二人のジャンヌ・ダルクがこの場にいる。マスター、これが何を意味しているのか分かるか? 」

「急にエミヤが出てきたから若干漏らしたじゃないか。でも分かるよ、確実にこの特異点には"聖杯"が絡んでいる」

普段の言動からは想像もできなかったのか、周囲から変なものを見る視線が僕に突き刺さる。僕が真面目になっちゃいけないっていうのか!? ふざけんな! さすがに僕と言えど世界を救う事を第一に動いてるって!

 

「せ、先輩の言う通りですね。私たちはマドモアゼル・ジャンヌの協力者として貴女についていきたいのですが……その旗の下で戦う事を許してくれますか? 」

「そんな……こちらこそお願いします。どれほど感謝しても足りない程です! 」

「ねぇ僕は! 僕もその中に入ってる? 」

「は、はい……」

そんな視線を逸らしながら言われても信憑性が無さすぎる。ひとまず僕たちはジャンヌについて行く事に決定した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<ラ・シャリテ>

 

 「こ、この状態は……」

「……酷い、の一言に尽きるでござるな」

「生存者を探そう。まだ私たちの他に生きている人間がいるかもしれない」

一日休息を森林の中でとった僕たちはジャンヌと共に付近の街へと繰り出している。特異点の影響が想像以上に出ているのか、この城下町はひどい有様だ。

 

「この現状を作り出したのは……おそらくもう一人のジャンヌのせいかもしれないね」

「えぇ……早く止めないと」

「魔力をひしひしと感じるよ。マスター、ボクの後ろに下がって」

「アストルフォきゅん……」

普段の可愛い容姿からは想像もできないかっこいい姿に思わず僕の股間がきゅんきゅんする。しかしまあ普段は活気づいている町がここまで破壊されてしまうと、僕もボケる気にはならない。

 

「ッ! あれは! 」

「原住民の女性がワイバーンに襲われかけてます! マスター! 」

「任せろっ! 」

「って、ちょっ!? 主殿が前に出る事は――! 」

 

本能的に怒りを感じていたのだろう、僕の身体は足を挫いて動けなくなっている女性の前に自然と立っていた。緑の鱗に全身を覆われている巨大な飛翔竜は、まるで僕らをあざ笑うかのように唸り声を上げる。

「来い!! このトカゲ野――」

瞬間、僕の身体にワイバーンの口から吐き出された熱線を伴ったブレスが降りかかった。思いもよらない反撃に一度だけ走馬燈を覚えたが、僕の後ろにいる彼女の事を考えたらそんな事などどうでもよくなった。

「先輩っ! 」

「マスターっ!! 」

マシュとジャンヌの悲鳴が聞こえ、小次郎とエミヤの怒号が飛び交う。あぁ……最期に僕は女の子を守れた紳士になれて良かった……。

しかし、僕を襲ったのは死の恐怖でもなく、熱線ブレスの熱さでもなく、やけに身体に降りかかる開放的な寒さ。恐る恐る目を開けてみると、目の前にはやけに申し訳なさそうな表情を浮かべたワイバーンの姿。

 

「……そこの美しいマドモアゼル。お怪我はありませんか? 」

「いやーっ!!! 来ないでぇぇぇぇ!! 」

「えっなんで僕何もしてな――」

 

僕の右頬に彼女の左フックがダイレクトに命中する。彼女の柔らかく白い手から繰り出されるパンチに快感を覚えながら下半身へ視線を向けると、なんとマイサンが僕に挨拶をしていた。

あぁ、なるほど。つまり僕はワイバーンに服だけ燃やされたわけだ。

 

「せ、先輩……」

「おいゴラァこのワイバーン!!! テメェなんで僕の服だけ燃やしてんだ!! 燃やすなら向こうにいる金髪のジャンヌって子の服を燃やせや!! 」

「ガウゥゥッ!? (ツッコミどころそこなの!? )」

 

モンスターにさえツッコミを入れられる主人公って僕斬新だと思うんだ。隙を見たエミヤと小次郎が目の前に立っていたワイバーンを一刀の下に斬り捨て、僕の前に立つ。

「主殿、不要なことは為されるな。貴殿が死んでしまえば拙者たちも瞬く間に消えてしまう」

「アサシンの言う通りだ、マスター。無理は禁物だぞ」

「僕が出したのはイチモツだけどね」

「上手い事言ったみたいな顔をやめろ」

先ほどの女性はマシュたちによって無事保護され、残りの敵を片付けるととりあえず僕達は他の生存者たちを救助する事にした。ちなみに現在僕はまたほぼ全裸である。

 

「うーん……やっぱりもう一人くらいサーヴァントを召喚した方がいいかもしれない……マシュ、召喚サークルを展開して貰ってもいいかい? 」

「ここでですか? まあ既に敵の反応は見られないからいいですけど……」

「召喚する石もちょうど持ってきてるんだ。聖女様もいる事だしきっと今日こそは女性サーヴァントを召喚できる気がする」

「ボク……なんか嫌な予感するんだけど」

不安げな表情を浮かべるアストルフォきゅんも可愛いが、僕は彼の制止を振り切って無理やり召喚陣を起動する。三つの聖晶石をサークルの中へ放り込むと、三本の光線が周囲を包んだ。そして……僕の目の前に現れたのは紛れもない"女の子"だった。

 

腰まで伸びた水色の髪に、側頭部に生えた白い角。チャイナドレスを彷彿とさせるスリットの入った和風の着物を纏う彼女は、僕を見るなり微笑みを浮かべる。

「サーヴァント、清姫。こう見えてバーサーカーですのよ? どうかよろしくお願いしますね、マスター様」

「き、き、来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! しかも僕より背の小さいロリっ子!! 可愛い! 声も可愛い! もうだめ! 死ぬ! 可愛すぎて死ぬ!! 」

「…………えっ」

瞬間、彼女――清姫の目から一気に生気が失われる。それもその筈、僕は今全裸の状態で彼女の前にいるのだから。

 

「さあ清姫ちゃん! 僕と一緒に世界を救おう! あと色んな事もしようね! 」

「この露出狂が私のマスターだなんて信じられませんわ! あとなんでそんなに頭が爆発していますの!? 」

「こまけぇこたぁいいんだよ! 」

「全然細かくないから! サーヴァントにとって一番重要なとこだからそこ! 」

普段のお嬢様口調はどこへやら、既に彼女の視線がゴミを見るようなものに変わっている。うーん、いつになったらこの視線は治るのだろうか。僕個人としてはご褒美なんだけど。

 

「さあ早く! 僕と契約してサーヴァントになってよ! 」

「私の安珍様がこんな変態な訳ありません! 私は座に還ります! 」

「さぁせるかぁぁぁぁ!! 」

「ひっ! 必死さがキモい! 」

それもそうだろう、今の僕はマシュとジャンヌ以外女性サーヴァントを使役できていない。今の所僕の下にいるのはイケメン3人と筋肉オタクと男の娘である。必死になるのも無理はないだろう。僕は座に還ろうとするきよひーの手を掴む。鼻息を立てながら。

 

「ハァ……ハァ……。ぼ、ぼぼぼぼくのサーヴァントに……」

「はい火生三昧」

「あぁぁぁぁぁ!! また燃えるのぉぉぉぉぉぉ!? 」

直後、この崩壊した土地で僕の身体は更に黒焦げになり数時間の間僕の意識は彼方へと飛び去ってしまった。




「という訳でわたくし清姫、ここの反省部屋にお世話になることにしましたわ」
「えっここそんな名前付いてんの? 所長びっくり」
「ひとまず聞いてほしい。私のアイデンティティであるアホ毛が抜けた」

「「えぇ……(困惑)」」

というわけできよひー次回から参戦です。
この回のラストで座に還ろうとしましたが、結局無理でした。


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第五節: ヴィヴ・ラ・フランスは魔法の言葉

「このドスケベボディを持った天真爛漫美少女があの高名な三蔵法師だなんて認めないぞ」
「そんな事言わないでよ! しょうがないじゃない! 」
「このおっぱいで仏教徒は無理だろォ!! 煩悩の塊じゃねえかぁ! 」
「じゃあ性転換してリボルバー持った金髪のイケメンになろうか? 」
「出来るの!? 」

きょうのぐだ男: 聞き覚えのある法師に銃で撃ち抜かれる


<ラ・シャリデ>

 

 「結局ますたぁの不可抗力によって座から引き戻されましたわ。このひとこわい」

「よしよし……大丈夫ですよ……私が守りますから……」

 

いつの間にか僕が悪者になってるのが納得いかない。マシュに抱きしめられる清姫ちゃんの姿に興奮を覚えながら、僕たちは崩壊してしまったフランスの街を突き進んでいく。

とりあえず服を着ないといけないので予備用に持ってきていた全身を覆う黒タイツを着ておいた。

 

「……ッ! 」

「なんて、事? まさかこんなことが起こるなんて」

「なんだあの一団は! マイナーなV系バンドがいるぞ! 」

「誰がThe ALFEEよ! 似てるのこのおじさんだけじゃない! 」

「えっ我なの? ギター弾けないけど我」

 

僕の視界に黒一色に染め上げられたジャンヌと、彼女が聖杯の魔力によって召喚したサーヴァントたちと僕らは対峙する。長い金髪のナイスミドルが既にキャラ崩壊を起こしているがもうツッコまない方が良いのだろう。

 

「でも……可笑しい事ね。こうしてもう一人の私と出会うなんて。私はジャンヌダルク。蘇った救国の聖女ですよ、もう一人の私」

「馬鹿げた事を! 貴女は聖女などではない、私がそうでないように! 」

「すげえ……リアルでもう一人の僕ごっこやる人初めて見た……」

「うるさいわね! 何よこの黒タイツ! 誰が武藤遊戯よ! もう! 気持ち悪いったらありゃしない! 」

「あ、それには同意です。もう一人の私」

 

反面してる同じ人間に存在否定されるのも中々悪くない。何より金髪の美女二人が言い争っているのを見るだけで眼福である。

 

「……こほん。それで、この町を襲った理由ですって? 馬鹿馬鹿しいですね。そんなもの、明白じゃないですか。単にフランスを滅ぼす為です。私、サーヴァントですもの」

「馬鹿なことを……! 」

「馬鹿な事? 愚かなのは私たちでしょう、私。裏切り、唾を吐いた者たちと知りながらなぜ救おうとしたのです? 」

「それは……」

 

ジャンヌ達の議論が白熱しているところで、僕は黒ジャンヌ側にいるやけに服装がエロい紫髪のサーヴァントへ向けて左手の指で輪っかを作りながらその穴に右手の人差し指を通す。

このジェスチャーが分かっていないようで、彼女は隣にいた緑の服を着ている貧乳美少女に説明を尋ねていた。意味が分かるなり彼女は僕へ中指を立て、僕は笑みを浮かべる。

 

「……人類種が存続する限り、この憎悪は収まらない。このフランスを死者の国に作り替える。それが私。それが死を迎えて成長し、新しい自分になったジャンヌダルクの救国です」

「な、なにを……! ってマスターさっきから何やってるんですか? 」

「いや性的なアピールをしてました。あのおっぱいで聖女は無理でしょ」

「黙れ変態! 」

 

この場にいるほぼ全員が団結して僕に色んな攻撃をしてくるって酷くない? しまいには旗付きの槍で脳天貫かれる始末。これはひどい。

 

『サーヴァントが人間として成長するケースがあるのか……? 』

「うるさい蠅がいますね。あまり耳障りだと殺しますよ? 」

『うわっ!? コンソールが燃え出したぞ!? あのサーヴァント、睨むだけで相手を呪うのか!? 』

「ずるいドクター! 僕も燃やされたい! 」

「あ、どうぞ」

 

また黒タイツが燃え尽きてしまった。今回は上半身だけだったから有難いものの、この状態になってしまっては僕の心の師匠である江〇2:50さんになるしかない。

 

「……貴女は、本当に私なのですか……? 」

「呆れた。ここまで分かりやすく演じてあげたのに、まだそんな疑問を持つなんて。なんて醜い正義なのでしょう。この憤怒を理解できないのではなく、理解する気さえない。貴女はルーラーでもジャンヌダルクでもなく、私が捨てたただの残り滓に過ぎないという事がよく分かりました」

「くっ……! 」

「バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン。その田舎娘と連中を始末しなさい。あと変なポーズとってる黒タイツは入念に痛め付けて」

 

ドSプレイとはまた興奮する。僕にとって喜びにしかならない事をやってくれるなんてなんとも良い聖女だろうか。もうあっちの陣営についちゃおうかな。

 

「――よろしい。では、我は血をいただこう」

「いけませんわ王よ。私は彼女の肉と血、腸を頂きたいもの」

「マジで!? そこの銀髪エロエロドS美女! 僕は全てをささげよう! 」

「要らないわ」

「なぁぁぁんでだよぉぉぉぉぉ!? 」

 

心からの悲鳴。ボンテージ調の衣服をまとった彼女は引き攣った笑いを浮かべながら隣の男性の陰へと隠れる。

 

「……強欲だな。では私は魂を頂こう」

「ふふふ。血を啜る悪魔になり果てた今になって、彼女の美しさを理解できるようになっただなんて」

「くっ……! 」

「……マスター。ん、マスター? カメラ構えて何してるんです? 」

「いやあの美女とジャンヌのレズプレイを写真に収めようと……」

 

持ってた盾の穂先をケツに突き刺すのはマスター酷いと思うんだ。

それはともかく、既にジャンヌのあの二人は戦闘を繰り広げているようで僕は即座に小次郎と清姫、エミヤに戦闘態勢へ入る事を指示する。

 

「絶叫せよ」

「くっ……こいつ……! バーサーカーか! 」

「私を忘れてもらっては困るわね、侍」

「……ほう、お主もあの女狐と同じ性質を持っていると見た」

 

バーサーク・アサシンから放たれる光弾の数々を躱す小次郎と、槍を持ったバーサーク・ランサーと斬り結ぶエミヤ。その様子を見守る事しか出来ない僕の隣に立つ清姫が手にしたセンスを口元へ運びながら呪文を唱えている。

 

「ますたぁ。貴方の事を良く思っていなくとも、私は貴方のサーヴァント。全身全霊を以て、あの敵を打倒しましょう。どうかご照覧あれ! これより逃げた大嘘つきを退治します。 "転身火生三昧"! 」

「むっ……これは……」

「アサシン! 戦闘から離脱しろ! 」

 

二人は清姫が宝具を展開すると同時に後方へ飛び退き、青い炎の竜が現れたと同時に僕の両隣へと舞い戻った。

青い炎に包まれていてもまだしもバーサーク・アサシンとランサーは健在だが、だいぶ体力を減らされてしまったと僕は予測する。

 

「あんな小娘を仕留めきれないだなんて……温情でもお掛けになったのかしら」

「……ふん。悪魔と謳われた吸血鬼らしくあるまいな」

『悪魔……そうか。ルーマニア最大の英雄、ヴラド三世か……』

「人前で我が真名を明らかにするとは。時を統べる魔術師よ、不愉快極まるぞ」

 

あれだけ余裕のあったバーサーク・ランサー、もといヴラド三世は笑顔を浮かべていた顔を苦痛に歪ませた。

本来真名を隠して召喚されるサーヴァントにとって元の名前がバレてしまうのは自分の弱点を晒すことにもなるし、そして彼らは過去の名にトラウマを抱えた人物が多く存在する。

ヴラド三世がこういったように不快感を露わにするのはサーヴァントとして道理とも言えた。

 

「まあ良い。そこの少女よ……お主に一つ質問がある」

「あら、同じことを思っていたのね。年端のいかぬ少女なのに戦闘だけは熟練の技。矛盾しているわ、何者かしら? 」

「……デミ・サーヴァント。確かに、召喚された普通のサーヴァントとは違う存在」

 

黒いジャンヌ……もとい、ジャンヌ・オルタは僕の隣に立っていたマシュの正体を言い当てて見せる。

 

「それが君たちにとってどういった事に繋がる。彼女は僕が初めて契約したサーヴァントだ、文句は言わせない。あとこの戦いが終わったら踏んでほしい」

「先輩……一言余計ですけど嬉しいです……」

「マジで! 僕今かっこいい!? よし、この任務をクリアしたら僕の部屋においで」

「嫌です」

 

即答は先輩泣いちゃう。マシュを守るように使役していたエミヤと小次郎が彼女たちの前に立ちはだかるが、ジャンヌ・オルタのサーヴァントたちとの闘いでだいぶ疲弊しているらしい。

 

「まあ良いでしょう。さあ、この場にいる全員の首を斬り落としなさい」

「マスター、マシュさん! 私たちの後ろに隠れて! 」

「いくら変態とはいえ、私のますたぁを好き勝手されるのは納得いきませんわ」

「きよひーがかっこいい。あとで膝枕してもらってもいい? 」

「嫌です」

 

きっぱり断るのもますたぁ泣いちゃうよ? あのスリットから伸びた白い太ももに包まれたいと思ったのは僕だけでないはず。隣に黒髭が居たら全力で同意してくれるはずだ。

 

その時、ガラス製の羽の生えた馬が僕たちの背後から駆け抜け、オルタ達との間に割って入るように銀髪の美少女が舞い降りた。可憐の一言に尽きる彼女の姿に僕は釘付けになり、思わずマイサンも反応する。

 

「あ、貴女は……! 」

「バーサーク・セイバー。あの女の正体、知ってるの? 」

 

「忘れるはずもない、ヴェルサイユの華と謳われた少女。マリー・アントワネット……」

「はい、ありがとう。私の名前を呼んでくれて」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!! ヴィヴ・ラ・フラァァァァンス!!! 」

 

何故か知らないけど僕は両陣営からボコボコにされた。突然現れた美少女――マリーに踏んでほしいと懇願しただけなのに。




「今考えたら私のアホ毛は抜けたままだった。落ち込んで損したな。つーかあの角女消えたし」
「なんかフランスで頑張ってると思うわよ。私の第六感が告げている」
「……む。新しい連中が来たようだぞ」

「どうもこんにちは。高〇沢俊彦です、ギター担当です」
「いやヴラド三世何やってんの。あ、ドラム担当のカーミラです」

「よし、所長とやら。私たちも対抗してギターとピアノでユニットを組もう。私はアフロにしてピアノを弾き、お前はギターを持って歌え。あとがきからとって名前はスキ――」
「それ以上いけない」


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第六節: マリーに踏まれたい

「ハサン・サッバーハにも色んなキャラクターがいるよね。僕は特に静謐のハサンちゃんが大好きだ」
「マスター……そう言ってもらえるのは嬉しいですけど服着てください」
「僕毒耐性あるからへーきへーき。ほら抱き着いておいで」
「……主よ。何故我に抱き着いた」
「あっ」

今日のぐだ男:首を出した


<オルレアン・草原>

 

「……ふう。ここまで逃げれば大丈夫かしら? 」

「はい。ってあれ……? マスターの姿が見当たりませんが……」

「みんなぁ~! 」

 

ジャンヌ・オルタ率いるサーヴァントたちからマリーの宝具であるガラスのペガサスで逃げ切り、崩壊した街からこの草原に辿り着いた。

まあ僕はマリーちゃんに踏んでほしいと頼んでしまったせいか、両陣営からフルボッコにされた僕は彼女の宝具から蹴落とされてしまう。

なので僕は自律機動型飛行生命体と化し、こうして股間のマイサンをヘリコプターのローターよろしく回転させて空を飛んでいる。

 

「…………えっ」

「マリーさん、申し訳ないんですがあの変態が私たちのマスターです。もし変なことをされたら迷いなくぶっ殺してください」

「はっはっは! 某のマスターは面白い男よなぁ! 」

「どうしようマシュ! 小次郎さんが泣きながら笑ってるよォ! 」

 

僕の陣営から阿鼻叫喚の様子がよく伝わってくるが、気にせずに僕は華麗に地面へと着地した。あのアストルフォきゅんでさえも若干僕に引いてるのが辛い。

 

「まあマスターの事は置いておき……ドクター? 反応は見られますか? 」

『いや、反応は消失してるよ。あとぐだ男君のストッパーとしてティーチをそっちに呼んでおくね』

『ファッ!? 拙者いつからマスターのストッパーになったんでござるかぁ!? だって今回はお休みだって……あっちょっ! この服装のまま召喚されるのきついから! 今普通に私服だから! 』

 

通信端末から聞こえてくる黒髭の必死の抵抗虚しく、僕の前に何故かTシャツ短パン姿の黒髭が現れた。彼は額に冷えピタを貼り、手には作りかけのプラモとスミ入れ用の筆ペンが握られている。

 

「なんだ黒髭! その恰好は! ちゃんと特異点を無くすっていう意識があるのかい!? 」

「マスターに言われたくねーよ! あんたが一番やる気ないでしょ!? 」

 

そう思われるのも仕方がない。何せ僕は今普段の魔術礼装が焼け落ち、黒タイツを穿いているのだから。マリーちゃんの隣にいる派手な服装に身を包んだ金髪のイケメンが僕の下へと近づいてくる。

 

「いいねぇ、君。何か芸術性を感じるよ。バンド組まない? 」

「マジで!? ようやく僕の魅力に気づく男が現れたとは……君、名前は? 」

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。しがない音楽家さ」

 

自分ではしがない音楽家とは言っているものの、生のモーツァルトに出会えるとはかなり貴重な体験だ。僕は彼と握手を交わし、マシュから渡された灰色のパーカーを羽織る。

 

「それでドクター。これからどこへ向かえばいいでしょうか? 」

『この先の森林に霊脈の反応が見られた。ぐだ男君の魔力も温存しておきたいし、ここで魔力の補充を行おうと思うよ』

「魔力の補充……? はっ! つまり僕は女性サーヴァントととのいかがわしい行為を体験できる……? 」

「マスター。それは止めにして拙者の懐に仕舞ってある本でシコるといいでござるよ」

「なにぃ? そこまで言うなら……うーんこれは爆シコ」

 

流石に黒髪の巨乳お姉さんの同人誌を持って来られたら僕もこう言わざるを得ない。既に見慣れた痛々しい視線を肌で感じながら僕たちは森林へと入る。

ダ・ヴィンチちゃんによるサーヴァント相性の説明を受けながら、いったん休息を取ろうと開けた野営地へと僕は腰を落ち着けた。

 

「落ち着いたところで、改めて自己紹介をさせて頂きます。私はマリー・アントワネット。クラスはライダー。召喚された理由は不明ですけど、よろしくお願いいたしますわ」

「改めて、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。僕も彼女と右に同じさ。確かに高名な芸術家だけどここに召喚された理由は分からないね」

「僕と一緒に特異点を救う……それだけでも理由は十分さ。マリー、モーツァルト。この特異点を救う事に協力してほしい。僕の行動からは見て取れないかもしれないけど、この思いだけは本気だ」

 

いつもとは違う真面目な雰囲気を漂させる僕に、マシュたちの不安げな視線が突き刺さる。

仕方のない事だけど、本当にこの歴史を修正する事には本気だ。

 

「……分かりました、マスター。わたくしは今から貴方のサーヴァントとして、仕える事を誓います」

「うん。僕は分かっていたよ。この世界が滅ぼされるという事は、僕の偉大な作品たちが受け継がれない事に繋がるからね」

「ありがとう、アマデウス、マリー。ジャンヌダルクと一緒に、このフランスを救おう。歴史が変わるという事は、君たちの生きてきた人生が全て否定されたことになる。僕はそれが許せない」

 

僕は特に歴史の授業が大好きだった。それこそ、マリー・アントワネットやモーツァルトのような歴史に名を刻んだ人間たちが否定されるようなことは僕には許せない。

佐々木小次郎と言い大海賊エドワード・ティーチと言い、僕の下には多くの高名な人間が集まり過ぎた。

ならば僕は彼らの人生を肯定するまで。

 

「まあ! そちらの方はかのジャンヌダルクだと言うのね! 光栄だわ、わたくしのような人間が聖女と呼ばれた方と共に戦えるだなんて! 」

「私が聖女と呼ばれたのはあくまでも結果論です……。でも、そう言っていただけると私も救われます」

 

「ねえアマデウス。二人のカップリングどう思う? 」

「最高」

「拙者も同意」

 

ねえマシュ。いきなりふざけた瞬間にケツに盾を刺すのはひどいと思うんだ。隣の黒髭も頭にジャンヌの槍を刺され、アマデウスもマリー・アントワネットに足蹴にされている。

どんなご褒美だアマデウス。僕は羨ましいぞ。

 

「……とりあえず。霊脈の魔力からマスターの魔力を回復し、一旦休息をとってから次の目的地へと進もう。そうだったな、マシュ? 」

「そうです、エミヤさん。ほら、先輩も早く立って」

「僕のマイサンは既に勃っているよ」

 

僕の意識はマシュの痛烈な一撃により再び彼方へと消し飛んだ




「なんだか今回は進展ないわね。ねぇオルタ、二人でゲーム実況しない? 」
「ここから配信できるのか? まあいいだろう、今回のゲームは何だ」

「チーターマンよ」
「時代背景考えろアホ」



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第七節:あのおっぱいで聖女は無理がある

「ねえねえノッブ。君の相方の沖田っていう子がかなりエロいんだけど呼んでくれないかな」
「いつからあの人斬りサークルの姫が抜ける対象に……うわっマジじゃん。ワシより薄い本多いじゃん! ふざけんな! 儂で抜け儂で」
「えぇ、頼むよノッブ。人の骸骨で乾杯させてあげるから」
「それマジ? ここにな沖田の着替え写真があるんじゃが……」


今日のぐだ男とノッブ:無明三段突き


<森林>

 

「とりあえず、話は分かりました。このままあの黒いジャンヌダルクにフランスを滅ぼされてしまっては、世界の危機なのですね。形は違えど、これもまた聖杯戦争、という訳ですか」

「そうですマリーさん。あとその足元にある音楽家を僕に置き換えてほしいかなって」

「ふざけんな! この位置は僕のもんだぞ! 」

「黙れ変態! 」

「お前もだろうが! 」

 

マリー・アントワネットの足元に佇むアマデウスが羨ましすぎる。本当に僕と変わってほしい。

 

「……ちっ」

「あっごめんマシュ、決して君の足が嫌だって事じゃないんだ。むしろ気持ちいいから大丈夫だよ」

「黒髭さん、この人やっぱり殺していいですかね? 」

「駄目ですマシュ氏。そしたら世界終わっちゃいますぞ」

 

僕の頭に乗っているマシュの足の力が更に強まっていく。きっと彼女は生粋のドSに違いない、僕にはわかるよ。とりあえず足蹴にされていた僕たちはその場から立ち上がり、身体に付いた砂埃を落とした。

 

「でも、こう見てみると戦力は拮抗しつつあるよね。アマデウスもマリーも来てくれたし、それにボクたちにはジャンヌもいる。勝てる見込みがだんだん沸いて来たんじゃないかな? 」

「あ、分かった! ひらめきましたわ! こうして私たちが召喚されたのは英雄のように彼らを打倒する為でしょう? 」

 

アストルフォきゅんとマリーの絡みが可愛すぎる。全く会話が頭に入っていないのはいつもの事だが、僕が口を開こうとした瞬間にマシュから殺意を向けられたので黙っておいた。

 

「根拠のない自身はいいけどね、マリア。相手は掛け値なしに強敵だぞ。ジャンヌとマシュ、それにぐだ男とそのサーヴァントたちは戦いに慣れているとしても……僕と君は前線に立つタイプじゃあない。戦力差は未だに空いたままだと思うけどね」

「……確かに、アマデウス殿の言う通りで御座るな。ヴラド三世にエリザベート女王、加えてジャンヌダルクとその使役するサーヴァント……。某が見た所彼らはなかなかの腕の持ち主よ。特にあの紫髪の聖女とやら……彼女は手ごわいぞ」

 

小次郎の言葉に周りの空気は重いものへと変貌する。本来は武人としての成り立ちがあるからこそ、小次郎の感覚は本物だ。

 

「それにあの金髪のセイバー……。彼女は君の存在を知っているようだったが? マリー・アントワネット」

「……そうね。もし彼女が私の事を知っているのなら……きっとシュヴァリエ・デオンじゃないかしら。分かるのよ、私」

「あの子の名前はデオンちゃんっていうのか……。今度セクハラしないと」

「たぶん剣でズタズタにされると思うわ。あの子めちゃくちゃ剣強いし」

 

可愛い子にボコボコにされるのなら本望である。言葉には出さないが顔に出ていたのか、黒髭とアマデウスのみが頷き、僕はより一層絆を彼らと深めた。

 

「もし彼らが改心するのなら、こちらの陣営に組み込める事はできませんかな? マリー氏の知り合いならばそれが容易だと拙者は考えますぞ」

「それは難しいと思います。私の能力で彼らの能力を見てみたのですが、黒い私により狂化を施されているようですね。歴史の有無など関係なく」

『……聖杯の力か。狂騒の話が無くても英霊にバーサーク状態を付与できる……厄介な話だ』

 

僕にもバーサーク状態を付与してほしい。そしたら思いのままに女性サーヴァントへのセクハラが可能になるのに。また顔に出ていたのか、黒髭とアマデウスは"わかる"と口パクで僕に告げ、更に絆が深まる。

 

「でももし仮に、こういったサーヴァントが召喚されているのなら……マリー達の他にも召喚されているサーヴァントがいるという事じゃないのかな? ボクたちも彼らに対抗するためにさ」

「まあ! それってまだ新しい誰かに出会えるって事ね! 」

「そうだねマリー。とりあえず僕も踏んでほしい」

「えい」

 

踏むって事は蹴る事じゃないんだよマリー。流石に本気の蹴りは血を吐くからやめてほしい。

でも気持ちいいから良しとする!

 

「ますたぁが踏まれてるけどいいんですか? 」

「既に見慣れた光景だ。気にすることはない。というかこの時の方が話を割られずに済む」

「おいゴルァ! エミヤてめぇ扱いが雑だぞ! お前の元カノ連れてこい! 」

「傷を抉るな! 全ルート回ったら心が死にかけたんだぞ!! 」

 

切実すぎるエミヤの言葉に僕は正直引く。

心がガラスと言わんばかりの彼の悲鳴に隣の黒髭がエミヤの方を叩いた。

 

「と、とりあえずここで一旦休息を取りましょう。霊脈も確保できたことですし、サーヴァントを召喚されては如何ですか? 」

「なんか踏まれた状態で召喚すると女性サーヴァントが出そうな気がする。よし召喚だ」

 

なんとも緩い状態で令呪の刻まれた右手を展開された召喚陣にかざす。

すると9つの光球が普段とは違う虹色の光を生み出し、金色のカードが周囲に光を放った。

そこから青いドレスを纏った金髪の女性が現れ、僕は思わず目を見開く。

 

「問おう。貴方が私のマスターか? 」

「…………」

「……あれ? あの、貴方が私のマスターか? 」

 

まさか本当に女性サーヴァントを召喚できるだなんて。隣のエミヤはなぜか右手で顔を覆っているが、気にせずに僕は彼女と話を続ける。

 

「や、やあこんにちわ! 僕はぐだ男。踏まれている状態だけど僕が君のマスターだ」

「は、はい……よろしくお願いします。マスター」

 

まさかかの有名なアルトリア・ペンドラゴンをこの手で召喚できる日が来るとは。マリーのおみ足というのは本当に力のあるものらしい。きよひーやマシュ、ジャンヌが何故か可哀想なものを見る目でアルトリアを見ているが、それは見なかった事にしよう。

 

「おや? その赤蓑は……もしやアーチャーか? 」

「あ、あぁ……そうだ、セイバー。また会うとはな」

「某もおるぞ、セイバー。久しいな」

「おお! いつぞやの侍ではありませんか! あの時は貴方と剣を交えられて光栄でした」

「うむ。此度は同じ味方となる。共に戦えて光栄だ、騎士王よ」

 

そういえば、小次郎とエミヤは過去の聖杯戦争でアルトリアと戦ったライバル同士だったな。このように記憶を引き継いでいるとなるとなんともマスター冥利に尽きる。

 

「ねえねえアルトリア。アーチャーの事は……ごにょごにょ」

「え? ま、まあそう呼ぶのは構いませんが……」

 

何やら不穏な雰囲気を感じ取ったのか、エミヤからの睨みが僕に突き刺さった。

ふふ、もう遅いぞエミヤ。ネタは仕上がっているんだ。

 

「えっと……その……よろしくお願いします……シロウ」

「あぁァァァァッぁぁァァァ!!!! マスターぁァァァァッ!!! 」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<夜・森林>

 

 変態紳士にしてはうまく気を利かせたつもりなのに当の本人は全力を以て僕を殴ろうとするのに納得がいかなかったが、ひとまず召喚も終えて僕たちは森林で火を熾しながら野営地を製作していた。

ぶっ殺してやると言いながらエミヤの外見が赤い服装から黒いものに変わりかけたのは正直驚いた。

今後エミヤの元カノについて言及するのは止めておこう。

 

「ねえマシュ。すごい静かだね。まるでこの世界に僕と君しかいないみたいだ」

「は? きっしょ」

「辛辣」

 

どこでそんな言葉覚えたの。マスターそんな言葉づかい許しませんよ。

 

「……主殿。雰囲気と普段の言動を考えては如何か。そんな事では、女子の一人も落とせんぞ? 拙者が手本を見せよう」

そういうと小次郎はマシュの隣へと近づき、彼女の肩に羽織っていた陣羽織を着せる。

元々端正な顔立ちの小次郎があんなことをやってしまっては僕のダメっぷりが更に際立つからやめてほしい。

 

「マシュ殿。いくらサーヴァントとして契約した身とは言え、お主は生身の女性と大差ない。そのお身体をご自愛されよ」

「あっ……小次郎さん……有難うございます……」

「うむ、お主はやはり笑っている方が美しい。努々忘れてはならぬぞ、マシュ殿は可憐な華のように美しいとな」

「そ、そんな事ないですよ……えへへ……」

 

なんだあの顔。僕に一度も見せた事無いぞ。おい小次郎、僕へそのサムズアップを向けるのを止めろ。

まるで童貞とイケメンの差を見せつけられた様じゃないか。

ようし、僕もやってやる。

 

「マシュ。僕のズボンも穿くといい。そんな彫刻のようにきれいな生足を出してしまっては寒いだろう」

「いやぁぁぁぁぁ!!! なんで脱ぐんですか!!? 」

 

忘れてた。今の僕は黒タイツだけだったんだ。また生まれたままの姿に戻ってしまった僕に、マシュの張り手が突き刺さる。先ほど召喚したアルトリアの視線が既にドン引きしたものに変わってるのはご愛嬌。

 

「主殿……流石に脱ぐのはまずいなぁ……」

「ぶぐぐぶご(前が見えねェ)」

「マスター、ボクのマント着てね? さすがに全裸は絵面的に終わっちゃうから」

 

アストルフォきゅんの白いマントが僕の全身を包み込む。男なのになんでこんないい匂いがマントから漂うんだろう。もうアストルフォきゅんは女の子でいいんじゃないかな。

 

「ローランみたいなことはしちゃ駄目だよ? 女の子に嫌われちゃうからさ」

「僕はアストルフォきゅんさえいればいいかなって思うんだ。なあ黒髭にアマデウス」

「全面的に同意」

「僕もそう思う。ってかその性的な容姿で男ってのが反則だよね」

 

各自ストッパーに足蹴にされる辺り、僕たち三人は本当に気が合うのかもしれない。

うーむ、世界の偉人たちに変態性を並べる僕って何者なんだろうね。

 

そんな時、エミヤの隣に座っていたアルトリアが何かを感じ取ったようでいきなり座っていた丸太から立ち上がる。同時に僕の耳に装着されていた通信端末が起動し、ドクターの声が響いて来た。

 

『ぐだ男君! サーヴァント反応だ! おそらく黒いジャンヌの手先だろう! 』

「何ッ! 女か!? 男か!? 」

『喜べぐだ男君! 女の子サーヴァントだ! 』

「ッしゃぁぁぁぁぁオラァァン!!! 」

 

アストルフォきゅんのマントの留め具を留めて全身を隠した後、足蹴にされていたきよひーの足から立ち上がると僕は反応があった先へと視線を向ける。

その先には半分肌が露出している礼装を纏ったサーヴァントであり、そしてさっき僕がセクハラしたサーヴァントであった。

 

「……こんばんは、皆様。寂しい夜ね」

「何者ですか、貴女は? 」

「何者? そうね……自分でもわからないのが辛い所です。壊れた聖女に使役されて――」

「あっ!! 君はあの時のドスケベエロエロサーヴァント!! 」

 

まさに運命と言っても過言ではないだろう。紫髪の彼女はその胸に提げた二つの豊満なメロンを揺らし、僕らの前へと現れた。

あのおっぱいでサーヴァントは無理があると思うんだ。

 

「あっ、あんたは! よくもあの時はえっちな事言ってくれたわね!? ふざけんじゃないわよ! 真面目な場面だってのに一人だけ赤くなっちゃったじゃないの!? 」

「だってその服装で見るなって方が無理あるでしょう!? どう思うみんな!! 」

「無理だな」

「あの胸に包まれたいで御座る」

「拙者は踏んでほしい」

「屈服させたいね」

「ボクは甘やかされたいな」

 

ほれ見ろ。エミヤや小次郎、アストルフォきゅんでさえも同意してくれるとは思わなかったが男性陣からは賛成で一致のようだ。ここまで結束が固くなったのは初めてだね。

対して女性陣からは養豚場の豚を見る視線が僕らに投げかけられた。正直気持ちいいのでもっと見てほしい。

 

「あぁもう! せっかくかっこよく登場したっていうのに! 覚悟しなさいね!……コホン、覚悟なさい。異世界のマスターよ」

「いやそのキャラは無理があるでしょ」

 

僕にしてはまともな事言ったのに殴るのはひどいと思うんだ。




「うぅ……セイバーが"私を呼ぶ声がする"とかいう電波的な事言ってアホ毛をくっ付けてどこか行ってしまったわ……どうしよう……」
「そういうわけで儂颯爽登場! 沖田にケツを無明三段突きされてこの部屋行きじゃ! 」

「えっヤバくない? 普通に年末の特番パクリじゃないこれ? 」
「こまけぇこたぁいいんだよ! ここからぐだぐだ所長オーダーの始まりじゃ! とりあえずこの企画の名前を冬木エンカ〇ントに変えようと思うんじゃが」

「本当に殴られるからそのタイトルは止めましょうね!? 」



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第八節: 秘技! マスターがブロークンファンタズム

「マスター、円卓の騎士ランスロット……呼び出しにより参上致しました……ってえぇ? なんでマスターとトリスタン卿が王に足蹴に……? 」
「あっパパスロット! 君を呼んだのはほかでもない!僕たちと一緒にトナカイになろう! 黒タイツで踏まれるの最高! 」
「王の脚でイきましょう」
「大賛成です! 私もトナカイに……! 」
「お父さん…………? 」
「あっ」


今日のぐだ男とトリスタンとランスロット: 前が見えねェ


<森林>

 

 エロい服装に身を包んだ紫髪のサーヴァント、聖女マルタは十字架を模った杖を掲げて幾つもの魔法陣を展開する。そこから幾つもの魔獣が姿を現し、さっき僕の服を燃やした忌々しいワイバーンの姿も見えた。

 

「えぇい! またワイバーンか! 」

「こうもポンポンとあの飛竜を出されるとなると……キツイものがあります」

「令呪を以て命ず。あのトカゲもどきをぶち殺せ」

「マスターァ!? 個人的な恨みが含まれすぎてるんですけどぉ!? 」

 

当たり前だ。僕のイケメンタイムをあの鱗に覆われたクソ爬虫類は絶対に許せない。僕の服もこうして魔術礼装から黒いタイツだけになっちゃったし。

僕の使役するサーヴァントは一斉に緑鱗の竜もどきに向かっていき、聖女マルタに召喚された他の兵士やアマゾネス達の視線が僕に一気に集中する。

 

「そんな事しちゃったらますたぁが他の敵に狙われてしまいますわ! 」

「先輩!! 逃げてくださいッ!! 」

「マスターッ!! 」

 

僕を守る者がいなくなったと同時に隙を突こうと操られたフランス兵やアマゾネスの兵士が一斉に飛び掛かって来た。フッ……こうも舐められてもらっては困るんだよ……。

 

「ほわったァッ!!! 」

 

切り掛かってきたフランス兵の頬を掌底で弾き飛ばし、周囲にマルタの使役した魔物たちが僕を取り囲む。兵士の槍を拾い上げ、頭上で何回も回転させながらわきの下へ挟んだ。

 

「僕が守られるだけの男だと思うんじゃねぇぞぉ!? こちとらモテようとして通信空手10年以上やっとんたんじゃい!! 」

「モテようとするベクトルが違うぞマスター! 」

「黙らっしゃい! ほらぁドンドン掛かって来いよ! あっ、アマゾネスさんたちは後で僕の事踏んでね! 」

 

そう言ってアマゾネスしか向かってこないのはずるいと思うんだ。アマゾネスさんたちに殴られて腫れ上がった僕の顔をお化けと思ってビビったのか、フランス兵やアマゾネスさんたちは逃げ帰っていく。

操る魔力を破る程の僕の顔面の酷さってどうなんだろう。

 

「くぅ! なんでこうなるのよ! ワイバーン、あの男をやっちゃいなさい! 」

「ガウゥゥ! (はい! 姐さん!) 」

「誰が姐さんよ! 早くやりなさい! 」

 

マルタさんの号令と共にワイバーンの軍勢が僕へと襲い掛かって来た。手にしていた槍を構えるが、ワイバーンの爪が僕が切り裂くよりも早く青と赤の蓑を纏った男女が立ちはだかる。

 

「マスター! 無事ですか! 」

「無理はするな! セイバー! 合わせるぞ! 」

「御意! 」

 

なんともこの二人は頼りになる。セイバーとエミヤの間に入るように小次郎が二人の隙をカバーし、三人共神業ともいえる太刀筋でワイバーンの群れをなぎ倒していった。

 

「くっ……! なかなかやりますね……! 」

「小次郎氏! 残ったワイバーンの殲滅をお願い致しまする! 拙者はあのライダーの胸を! 」

「おいゴルァ黒髭ェ! それは僕の役目だ!! 」

「いやいやいや! 僕の方が相応しい! 」

「テメェら一回黙ってろ! 」

 

戦闘中にも関わらず黒髭と僕とアマデウスを足蹴にする余裕があるマシュとマリーと清姫はかなり強い部類に入ると思うんだ。あっ黒髭が良い笑顔を浮かべてる。分かるぞその気持ち。

 

「ああもう! なんなのよあんたたち! 変態と戦士しかいないの!? 」

「あの本気であの変態達と一緒にするのは勘弁してください」

「私もですマルタさん」

「わたくしも」

「ボクも」

「あっごめんなさい」

 

存在全否定はひどくない? さすがに泣くよ?

 

「よしエミヤ! 僕と君で合体技だ! 」

「な、何をするつもりだマスター!? 」

「僕を矢にして射るんだ! 」

「無茶苦茶じゃないか!? 」

 

エミヤの反論もいざ知らず、僕は彼の弓の弦に股をはめ込み両手を伸ばす。弦に掛かったマイサンが悲鳴を上げているがこの際気にしてはいられない。

三本の矢と共に僕がそのまま射出され、そして股間に溜まっていた魔力を放出すると同時にその一体が爆発に包まれた。

 

「まっ、マスターが!? 大丈夫なんですか!? 」

「安心してくださいセイバー氏。あれでもマスターはほぼ無傷ですぞ」

「そんな筈は……!? 」

 

ご安心ください、それが変態クオリティ。セイバーの心配も無用に終わるだろう、何せ僕はいまマルタさんの目の前で全裸で立っているのだから。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何よこいつ!! 裸だしなんかドヤ顔なのが腹立つし! 私こんなので座に還りたくないわ!! 」

「僕の全裸は全年齢対象さ。監査も安心のぐだ男クオリティ。実は男の裸体好きなんでしょ? その服が全てを告げているよ」

「んな訳ないでしょ!! 」

「えぇ? 本当でござるかぁ? 」

「うるさい! つかなんなのよこの侍も! 」

 

怒りと悲しみを孕んだ表情で消失していくマルタさんのドスケベ礼装を目に刻み込み、僕はケツに挟んでいたスマートフォンで彼女の様子を写真に収める。何故かスマートフォンが爆発して僕はあっという間に黒焦げになってしまったけど全裸よりかはマシだからいいかな。

 

「……ふっ。決まったな、これぞ僕のグランドオーダー……って痛いなんでマシュ殴るの」

「ワタシ ヘンタイ ユルサナイ」

「ヒェッバーサーク状態になってる! 痛い痛い痛い!! マスター特攻なんて聞いてないよ!? 」

『今しがたマシュの能力の上昇が確認されたね。その調子だぐだ男君』

「ふざけんな! 変態で能力値上がってたまるか!! 」

 

前回と同じようにマシュの殴撃により僕の顔はボコボコに腫れ上がる。

そろそろこのたんこぶでさえも愛着が湧いて来たよマスター。

 

「ひ、ひとまずライダーも倒したことだし休憩に入りましょう。マスターの消耗も激しそうですし」

「この通りなんともない。というかあともう一回戦いけるよ」

「あっ丁度良い時にシャドウサーヴァントが来ました」

「いやそれどう考えてもヘラクレス!! さすがにタイマンでヘラクレスは僕死んじゃ――」

 

そう言いかけた瞬間に僕の意識は彼方へと消えた。

意識が消し飛ぶ際にみんなの歓声が聞こえたのはあえて聞かなかった事にしておく。




「うぅ……なんであんな変態の光景を最後に座に還らなきゃいけないの……? ばっちり見ちゃったじゃない……」
「おっなんか痴女が来たぞ所長。水着の儂よりもエロい」
「ホントだすごくエッチね。彼女には黒い布地に金の筆記体が入ったパーカー着せましょう」
「誰が田舎のヤンキーよ!! 」

「自覚してんじゃねーか! あと儂とポジション変われ! お主の方がゲームのコントローラー持つとなんかしっくり来る」
「だから安直なパクリは止めましょうね!? 」


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第九節: 性別はアストルフォ

「ケツ……オジマンディアス様。ここにおられましたか」
「おい貴様今なんて言いかけた」
「言い間違えてませんって。高貴なるファラオの御名前を臀部を言い間違えるだなんて」
「いやそれ自供してない? つか普通に不敬じゃない? 」
「くぉらぁーっ! 偉大なるファラオに向かってなんて口を利くのですか! 不敬ですよ不敬! 」
「あっニトクリ〇リスちゃん」
「不敬ィィィィィィ!!!! 」

今日のぐだ男:メジェド様に見られながらケツにピラミッドを突き刺される


<草原>

 

「みんなー! 情報を貰ってきましたー! 」

「すいません、マリー。私が街に行くとそれだけで大騒ぎなので……」

「僕も情報集めてきたよ。返ってきたのは拳だけだったけど」

「そりゃあ半裸で近づけばそうなるでしょうが……」

 

でもフランスの可愛い女の子にぶん殴られたのは気持ちよかった。黒髭とアマデウスを連れて行ったら「おかしい人間ってあんたたちの事でしょ! 」と言われて拒否されたのは納得いかなかったが。

 

「聖女マルタが教えてくれた都市、リヨン。結論から言うとそこは少し前に滅ぼされたらしいのですけど、そこから逃げてきた難民たちが住み着いたようですね」

「ふむ……リヨンには怪物たちが闊歩している様ですね」

「拙者たちも集めてきましたぞい。どうやら拙者とマスターとアマデウス氏だけ、難民たちの新たな脅威として受け入れられてるようですぞ」

「当たり前だろ馬鹿! 3人共半裸で聞き込みしたらそうもなるわ! 」

 

最近服を着ると乳首が圧迫されてしんどいんだよね。それに究極のネイキッドスタイルだし受け入れやすいと思ったんだけど彼らにはまだ早かったらしい。

 

「それに詳しい話も。なんでも、リヨンには守り神がいたんですって」

「守り神……ですか? 」

「大きな剣を持った騎士さまが化け物たちを蹴散らしていた、とか」

「大きな剣だったら僕の股間にも付いてるよ」

「テメーのはダガーだろうが!! 」

 

さすがに羽交い締めにして殴るのはひどいと思うんだ。あっでも僕を抑えてるジャンヌのおっぱいが背中に当たってるのが堪らん。

既にアルトリアが口調崩壊してるのはなんだか複雑な心境だ。

 

「なるほど。それがもしかすると、マルタ様が言っていたサーヴァントかもしれませんね」

「えぇ。でも、少し前に黒いジャンヌのサーヴァントたちがやって来た」

「かくして……リヨンも滅ぼされてしまった……」

 

ジャンヌの言葉にその場にいた全員が頷く。

難民たちの中にいた美少女を守るためにはどうにかして魔の手から彼女たちを救い出すしかない。

 

「そのサーヴァントとやらが生きている保証は低い……少なからず私たちだけの戦力で連中を倒すことを視野に入れておいた方が良いだろう」

「アーチャーの言う通りよな。幸い某はあの蜥蜴擬きを殺すことに長けているようだ、以降あの者共の処理は任せて貰っても構わない」

「小次郎素敵! 抱いて! 」

「はっはっは、半裸でくっつくなマスター。某は男色の気はないぞ」

 

無論僕もホモの気はないと言っておく。

でもアストルフォきゅんは余裕で抱けるので問題ない。

 

「そうそう。シャルル7世が討たれたのをきっかけに混乱していた兵をジル・ド・レェ元帥が纏め上げたそうよ」

「嘘……ジルが……? 」

「おそらくリヨンを取り戻すために攻め入ろうとしているのでしょうなぁ。拙者ももし同じ立場だったのなら、こんな大規模な都市で兵がいないところには攻め入るでござる。所謂、恰好の的というものでありますな」

 

普段よりも真面目な黒髭の雰囲気に僕は思わず驚いた視線を彼に向ける。

でも考えてみたら彼も海賊の頭領だったし作戦を考えつくのも容易か。

 

「合流は難しいよね……なんたって今のジャンヌが竜の魔女となって知られてるし、ジル・ド・レェとの因縁も知ってる。ボクからしたらローランと会いたくない気持ちだね」

「……だとすると、ジルも私たちだけで倒さなければなりませんね……」

 

ジャンヌの言葉に僕たちは頷き、マリーが笑顔を浮かべながら彼女の手を取った。

 

「でも、会いたくない気持ちも分かるわ。だって女の子だもの! 無理して会わなくていいに一票! 私たちも急がなければならないしね! 」

「うむ……リヨンに住み着いた魔物たちを一介の兵士達が倒せるとは思わない。某たちが倒すのが一番だろう」

「小次郎さんの言う通りですね……私たちだけで倒しましょう」

「勿論さ。その為に僕たちはこの特異点に降り立った。如何なる脅威が僕たちに向かおうとも、倒さねばならない。まあみんなは安心してよ、見ての通り僕は殺しても死なない男だからね」

 

僕の言葉に何故かエミヤやアストルフォきゅん、ジャンヌは微妙な表情を浮かべ黒髭とアマデウス、小次郎とそれにマリーは笑顔を浮かべていた。

あれ? 僕何かおかしい事言ったかな?

 

「まあ確かに……股間から魔力を暴発させてサーヴァントを打倒したり自分を矢にしろだなんて言うマスターは初めてだよ。安心したまえ、君の下には鼠一匹通させない」

「エミヤ……今ならケツ空いてるよ……? 」

「要らん。つーかその雌の顔を止めろ」

「エミヤさんはやっぱりホモもいけるんですね……」

「なんでさ」

 

でもマシュには怒らないのは正直言ってずるいと思う。

僕はケツに干将と莫耶を突っ込まれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<リヨン>

 

そんなこんなで僕たちは守り神の騎士とやらがいる街、リヨンへと辿り着く。ケツに突き刺さった二振りの双剣をどうにかして引っこ抜くとサーヴァントたちを二手に分ける事にし、正式に契約したマシュ、ジャンヌ、小次郎、黒髭、アストルフォきゅんを率いて僕は街の東門から入ることにした。

 

反対側はアマデウスとマリーがリーダーとなり、いつでも彼らと連絡が取れるように予備用の通信機を清姫に持たせておく。でもきよひーって無線なくても余裕で追ってきそうだよね。

 

「……止まられよ、マスター。何か嫌な気配を感じる。これは……」

「呻き声……ですな」

 

黒髭の言葉を聞いた瞬間、僕の身体は本能的に崩壊した瓦礫の中から聞こえる呻き声の主の下へと駆けていた。積み上げられた木片やレンガを掻き分けた先には――。

 

「……ッ!? う、嘘だろう……? 」

「死体が動いている……リビングデッドだね。マスター、離れて! 」

 

皮膚が千切れかけれ鮮血と肉が露わになるも、僕の目の前にいる死体は僕を食らおうと必死に両手を伸ばしている。正直な話、僕にも今の光景が信じられない。まさか崩壊で死んでいった市民たちをゾンビにするだなんて、変態の僕でも許せない。

 

アストルフォきゅんの槍に貫かれて間もなくゾンビは消滅していくが、その音を聞きつけられたのか続々と瓦礫の下から手が伸びてくる。

 

僕はアストルフォきゅんに手を引かれ、急いでその瓦礫群から抜け出すと僕を守るようにマシュとジャンヌが前に立った。

 

「……けッ。胸糞悪ィことするじゃねぇか。死者を冒涜なんて事は流石に俺もやらなかったぜ」

「く、黒髭殿? 普段と口調が……」

「あァ、すまねえな。正直連中の行為にカチンときたんだ。な、マスター? 」

「……おうとも。黒髭、みんな。この人たちを眠らせてあげよう」

 

バツの悪い表情を浮かべながら、街の住民たちを屠っていく僕ら。聞こえこそ悪いが、今の僕には命を奪っていく重みを確かに感じている。

変態紳士は決して人の死を蔑んだりはしない。人にはセクハラするけど。

 

「いつもこんな雰囲気でいてくれたらいいのに……ああ! マスター! 敵の数が減りません! 」

「マリーたちに連絡しよう! みんな、時間を稼いでくれ! 」

「お任せってね! 」

 

こんな時でも可愛いアストルフォきゅんはやっぱり僕の天使である。

股間にイチモツがついてても可愛い人間って本当にいるんだね。しばらくして僕たちとは反対側から見覚えのある魔力弾と矢がゾンビの群れに殺到し、ほとんどの敵を殲滅する。

 

「マスター! 無事ですか! 」

「この通りピンピンしてるよ! エミヤ、アルトリア! 二人は黒髭と小次郎の援護! アマデウスとマリーはマシュの回復を優先して! 清姫! 宝具の準備、出来てる!? 」

「……無論ですわ。皆様の非難を優先してくださいまし」

「聞こえたね、みんな! 僕が合図したら離脱するんだ! 」

 

僕の隣で手にした鉄扇を構え、宝具の詠唱を始める清姫を横目にエミヤとアルトリアが未だゾンビの軍勢と交戦を繰り広げる黒髭たちの下へ飛び込んでいった。

 

「――風王、鉄槌!! 」

「ほほう、これは拙者も負けてはいられんな。屍共よ、僭越ながら拙者の剣も見て頂こうか」

 

一度だけ背中に背負っていた鞘に刀を納め、小次郎は中腰の姿勢でゾンビの群れへと常軌を逸する速さで駆けていく。そして、直後に鋭い金属音と共に彼は背中の刀を引き抜いていた。

 

「――秘剣、燕返し」

「ひゅーっ……これがかの有名な燕返しですな。拙者も漫画で読みましたぞ」

「黒髭! キャラ! キャラ! 」

「あっ。……やるじゃねえか、あの侍」

「いやさすがに無理ありますよね!? 」

 

途中で気が抜けて普段のキャラに戻ってしまうのはご愛嬌。そして隣の清姫は僕の肩を優しく叩き、笑顔を浮かべながら頷く。

いつもこんな風にめっちゃ可愛くいてくれたら僕としては一生大切にするのに。

ただし毎日肉体関係は求めるぞ!

 

「これより逃げた大噓付きを退治します。――転身火生三昧! 」

「令呪を以て命ず……僕の下に来いッ! 」

 

全てを覆いつくす竜型の炎に巻き込まれないよう、僕は右手を翳しながら戦闘を繰り広げる彼らに命令した。一瞬で全員が僕の頭上に現れ、僕は彼らの下敷きになる。

どうやらきよひーの宝具によって周囲の敵は倒したみたいだけど、僕の顔には何故か固い感触の何かがくっついていた。

 

「ま、マスター……そこ、ボクの……スカートの中だよ……」

「へ? と、というと……まさかこの感触は……! 」

 

イエス、マイサン。

この場合はアストルフォきゅんズサンか。

天にも昇る勢いで僕の意識は真っ白に燃え尽き、そして鼻の中から勢いよく熱い液体を噴出する。

間もなくして僕は意識を失ってしまった。




「というわけで前書きでも本文でも座にイキかけたぐだ男だよ。ケツにモノつっこまれる主人公って斬新だよね」
「あっぐだ男じゃない! 良かったぁ! 生きてたのね! 」
「いや所長、こいつケツにピラミッド刺さってるしなんか変なマスコット持ってるしヤバい奴なんじゃね? ワシの危険人物センサービンビンなんじゃが」

「あっはっは、君も十分ヤバいでしょ。寺焼き討ちしたり人の頭蓋骨で酒飲んだり。あと色んなとこで女体化させられたり」
「それもそうじゃった! ワッハッハ! 」

「んでこの黒髪美少女誰? 」
「知らねぇのかよ」


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第十節: 俺の股間はエクスカリバー

「せんぱーい! 小悪魔系後輩のBBちゃ……きゃあっ!? なんで全裸なんですか!? 」
「これが後輩を受け入れるスタイルなんだよ。あとBBちゃんのその大きいおっぱいに包まれたい衝動が全身に現れてしまった」
「訳わかんないですよ!? 助けてマシュ先輩! 」
「その程度……何ともないと思わなければ……先輩の後輩は務まりませんよッ!! 」
「どんな関係だよお前ら!! 」

きょうのぐだ男: ケツにBBちゃんの注射器を突っ込まれる


<カルデア>

 

意識を失った僕はロマニとダヴィンチちゃんによって一旦カルデアに戻され、目が覚めた僕が次に見た景色はカルデアの真っ白な天井だった。

きっとマシュ辺りが僕を部屋に運んでくれたのだろう、僕の身体は自室のベッドに寝かされている。

マシュったらああ見えてやっぱり僕の事を心配してくれているんだ。

なんてツンデレ後輩。なんて麗しき僕の後輩……。

 

「うーん。オルレアンのみんなは大丈夫だろうか。ひとまず誰かを呼ぼう」

 

僕は脳に浮かんだ……あっ、こういう時はいつも落ち着いてるエミヤを呼ぼう。

自分の脳内にエミヤの姿を浮かべ、間もなくして彼の赤い礼装が目に入った。

 

「……む。マスター、目が覚めたんだな。身体の方は平気か? 」

「やあエミヤ。身体を心配してくれるなんてやっぱりエミヤを召喚して良かったよ。あ、ケツの穴も平気だよ」

「いやケツの穴に関しては聞いていないんだが」

 

またまたぁ。

僕知ってるんだよ? エミヤがクーフーリンの兄貴と抱き合ったり赤髪の若い男を襲ってたり……。

でもこれ以上言及すると確実にボコられるのであえて僕は胸に仕舞っておく。

 

「ドクターの言伝を貰っているぞ、マスター。オルレアンのレイシフトは君が十分な休息を取れた後に再び行うらしい。君がオルレアンの特異点から出た際に、そこで時間は経過しているみたいだがジャンヌ達もどこか安全な場所で姿を隠している様だ」

「そうなのか……。正直不安だったけど、エミヤの言葉で安心できたよ。ありがとう。ところでエミヤ、君って"投影魔術"を使えたよね? 」

 

ジャンヌ達がまだ無事という話を聞いて、僕はほっと胸を撫で下ろす。

僕の言葉にエミヤは投影魔術をやって見せてくれたようで、彼の手には小次郎が手にしている鍔のない刀が握られていた。

 

「して、マスター。この投影した武器をどうするつもりだ? 何か変な事に使うんじゃないだろうな」

「いやだなあ、僕がそんな事に使うと思う? もしもの時の為に、自分でも戦えるようにしておきたいだけだよ」

「だが君、余裕でオルレアンの兵士を倒してなかったか? 」

 

核心を突かれたように僕は顔を引き攣らせる。

言えない……アストルフォきゅんかセイバーの武器を投影してケツに突っ込もうと思っていたなんて……!

 

「そ、それは火事場の馬鹿力ってやつさ! だから教えてよ、ね? マスターからのお願いだよぉ」

「……はぁ。仕方ない。悪用しない、という条件付きだぞ」

「やったあ! さっすがエミヤ、エロゲの主人公務めただけあるね! 」

「やめろ」

 

そんなところで、エミヤが呆れた顔を浮かべながら僕の両腕を手に取る。

あっ……エミヤ……なんで僕の胸はこんなにドキドキしてるの……? 」

 

「いやだからなんで雌の顔を浮かべてるんだ? 」

「べ、別にエミヤに手を取られてドキドキしてるんじゃないんだからっ! 」

「心底キモイ」

「辛辣」

 

仮にも僕マスターだよ?

そのマスターにキモいはないんじゃないかなぁ、あっでも思い返してみればワイバーンに火を噴かれてもピンピンしてたね。

これは気持ち悪い。

 

「まず自分のイメージを具現化するつもりで右手に魔力を集中させるんだ。そしてそのイメージは、今まで自分が一番印象に残っているものを連想しろ」

「うーん……こうかな? 」

 

僕の身体を通して、魔力回路が全身を駆け巡って発現していくのを感じる。

直後僕の伸ばした右手の中に、あるものが段々と形作られていく。

ん? でもこの形って……。

 

「…………マスター。君は……」

 

エミヤが頭を抱えるのも無理はない。

段々と姿を現したそれは、ピンク色で男性器を模った振動音をかき鳴らすアレだったのだから。

 

「……仮にこれを投影したとして、これで戦えるかな? 」

「女性になら効果があるかもしれないが……確実にやられるだろう」

「だよね……」

 

完全に役に立たない事は自明の理だ。

でも僕も完全に誤解な事は知ってほしい。

まさかこんなものが真っ先に投影されるだなんて思ってもみなかった。

 

「よし。ならセイバーの持っている剣を頭の中で想像してみろ。少々宝具のレベルは高いが、練習にはもってこいのものだろう」

「わかった、やってみるよ」

 

エミヤに言われて、早速僕は再び右手を伸ばし始める。

青い柄に金色の鍔、そして彼女の性格を表すようなまっすぐに伸びた両刃の刀身。

数秒を時を経て僕の右手にはセイバー・アルトリアの愛用する愛剣、エクスカリバーが僕の手に握られていた。

 

「ふむ。中々上出来だな。此れを一瞬で出来るようになれば戦闘でも使っていけるだろう」

「よし。なんだか興奮してきたぞ。呼び出して悪いんだけどエミヤ、部屋から一旦出てもらってもいい? 」

「ん? 何を……」

 

そう言いつつ僕は自分のズボンのベルトに手を掛ける。

即座に察したのかエミヤの手によって行く手を阻まれるが、無理やり僕はパンツ一丁の姿に早変わりした。

 

「やめろ!! おい!!! 聞いているのか変態!!! 」

「なんだよ!! 僕だって一度異物をケツの穴に突っ込んでみたかったんだって!! 」

「だからってセイバーの剣を使う事ないだろう!? 」

 

今更になってディ〇ドが一瞬で投影できたのが分かる気がするけど、僕を邪魔するエミヤを振り払って投影したエクスカリバーをケツに突っ込もうとパンツを脱いでお尻を露わにする。

何故そんなにエミヤが必死なのか分からないが、一先ず僕の方は準備万端だ。

 

「マスター、お目覚めになったと聞いて――」

「あっ」

「…………えっ」

 

抑止力。

僕はこの時ほどこの言葉を恨んだことはない。

僕が目覚めたことを聞きつけたのであろうセイバーが部屋に入ってきて、エミヤが僕のパンツを戻そうと必死な場面を彼女は目の当たりにしてしまう。

 

「そ、それって……わ、私の……」

「せ、セイバー! これは違うんだ! 決して私は彼の手伝いなどしようとは……」

 

直後、アルトリアの姿が鎧に包まれる。

手には愛用の剣である本物のエクスカリバーを握っており、どうやら本気で怒っているようだ。

 

「ま、マスターとアーチャーの馬鹿ァァァァッ!! 」

「だから誤解だってぇぇぇ!? 」

「あっ……でも……なんか気持ち良い」

「お前ほんとふざけんなよ!? 」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<黒髭の部屋>

 

「おっす黒髭、遊びに来たよー」

「あっマスター、目が覚めて……ってなんでパンツ一丁に頭がアフロになってるんでござるか」

「セイバーのエクスカリバーを投影してケツに突っ込もうとしたら怒られた」

「当たり前だろお前」

 

さすがの黒髭でも理性は持ち合わせているらしい。

なんだよ、僕の同類かと思ったら全然そんな事ないじゃないか。

 

「今なにしてたの? 一日くらい暇だし、一緒にゲームしようと思ったんだけど」

「えー。拙者今プラモ作るのに忙しいでござるぅ。手伝ってくれるなら話は別ですけどね」

「何作ってるの? 」

「美少女のやつ」

 

よし決めた。

僕魔改造して全裸にしちゃうぞ!

 

「おっ、手伝ってくれるんでござるか? 有難いですなぁ」

「ふっ……美少女が関わってるなら話は別さ。その子の胸の大きさは? 」

「Dですぞ」

「部品を貸してくれ。魔改造しよう」

 

下衆な笑みを浮かべながら僕と黒髭は握手を交わす。

まあこういう所は本当に気が合うよね、黒髭とは。

僕は傍に置いてあったニッパーを手に取り、部品を切り離してから人間とは思えない早さで組み立てていく。

 

「やっぱり二人いると違うでござるなぁ。作業が進む進む」

「だよね。これからエロゲのルート消化も二人で進めない? 」

「それは拙者がシコりたくなるのでNG」

 

こいつ無駄に正直だな。

あっそれは僕もそうか。

そして数十分後、黒髭が元々素材を組み立てていたのもあってか僕らのプラモはあっという間に完成した。

プラモとかあんまり作ったことないけど結構楽しいもんだな。

 

「つーかマスター、こんなとこで油売ってていいんでござるか? 何やらロマニ氏が探してたでござるよ」

「という声を聞きつけて登場さ! 久しぶりだねぐだ男くん! 」

「ドクター! 何やら隈がすごいけど……」

「徹夜続きでね! あとマギ☆マリでネットサーフィンしてたんだ! 」

 

何やらドクターまでも僕たちと同類な気がする。

 

「でもドクター、次のレイシフトは明日なはずじゃ? 」

「あれ? もう知ってたの? てっきり僕は目が覚めたばっかりかと……」

「エミヤから聞いたよ。でもエミヤは今セイバーにお説教中」

「何それ裏山でござるな」

 

ほんとだよね。

エミヤはやっぱり主人公の風格あるよ。

 

「あとマシュが探してたよ。でも逃げた方がいいかもね」

「え? なんで? 」

「セイバーさんに迷惑かけたからに決まってるでしょう! あと見つけましたよ先輩! 」

 

あっマイラブリーエンジェルマシュたんだ。

でも彼女は私服姿ではなく甲冑を身に纏っているあたり、僕の事を本気で怒る気でいるらしい。

 

「落ち着いてくれ、マシュ。僕がデ〇ルドを真っ先に投影したのとセイバーの剣をケツに突っ込もうとしたの謝るから許してほしい」

「そんな事してたんですか!? 通りでセイバーさんが殺意の波動纏ってた訳ですよ! 」

「あとエクスカリバー撃った時にちょっとセイバーの胸触った。板だった」

 

その後、僕が二度目のエクスカリバーを食らったのは言うまでもない。

黒髭と僕の努力の結晶の吹き飛んでしまった。




「マスターのせいで強制的に座に還ったアーチャー、エミヤだ。お初にお目にかかる」
「おっワシと同じクラスじゃーん! 最近調子どう? エロゲの方も順調? 」
「知るかなんだこいつは! 其処の人、助けてくれないか!? 」

「私冬木の特異点の後ここに連れてこられただけだし……あと貴方からすごい女タラシ王の雰囲気がするのよね」
「なんでさ!? 」

「なあなあ、お主やっぱ弓使うの? ワシはぁ、弓じゃなくて銃! コイツなら相手の綺麗な顔を吹っ飛ばせるぜェ! 」
「やめろぉ! 私はぐだぐだになりたくなぁぁぁぁいッ!! 」


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第十一節: 深夜ポテチと深夜ラーメンは肥満の基

「よォマスター。新宿のアサシンだよォ」
「わぁっすごい入れ墨! それって乳首にも股間にも入ってるの? 」
「入ってるよぉ。何なら見る? 」
「見る見る! あとアサシン、メディアさんに擬態してから全裸になってほしい」
「いいよぉ」



今日のマスター:ルールブレイカー


<カルデア・ぐだ男の部屋>

 

一騒動起こった後、僕はマシュとロマンからのお説教を経てベッドに横たわっていた。

明日のオルレアンへのレイシフトに備えて今日は早めに寝ておこうという僕の考えにより、全身の倦怠感と共に寝息を立てている。

しかし急に催したのかベッドから立ち上がり、股間に走る尿意を感じながら寝間着姿のままトイレへと走った。

僕の部屋に生憎トイレは備え付けられておらず、カルデアの共用トイレで用を足すしかない。

 

「あ~……」

 

なんとも気だるい声を出しながら僕は用を済まし、濡れた手をタオルで拭う。

再び寝直そうと思い欠伸を掻きながら自分の部屋に辿り着くと、僕はポケットに手を突っ込んだ。

 

「……ん? 」

 

各サーヴァントや職員にあてがわれた部屋はカードキーによってロックされている。

なので必然的に再び部屋に入り直すのにはカギが必要だ。

 

「……ない」

 

しかし、目当てのカードキーはどこにもない。

トイレに落としたのかと思って戻ってみるも、白いカードキーはどこにも見当たらなかった。

これもしかしなくても詰んでるんじゃないか?

 

「やっべぇ……寝ぼけててカードキー忘れたみたいだ……」

 

不幸な事に現在深夜0時。

セキュリティ担当の職員さんも寝ている時間だろうし、サーヴァントたちも各々の行動を取っている。

おそらくほとんどの人間が眠りについているであろうこの時間帯に、僕は最悪の事態に陥ってしまったわけだ。

 

仕方ない、いったん黒髭の部屋にでも向かおう。

きっと彼も起きてゲームとか何やらしているはずだ。

 

「おーい、黒髭? 今いるー? 」

 

僕は黒髭の部屋の前に立ち、白いオートロック式のドアを何回かノックする。

瞬間、目に隈を作りながら血走った目で僕を見つめる彼が現れた。

 

「……なんでござるか、マスター」

「インキーしたから部屋に入れてほしい。できれば朝まで」

「……非常に申し訳ないんだけど、拙者同人誌描くのに徹夜続きで死にそうでござる。割と本気で座に帰るの考えてしまった」

 

こんな真っ白な黒髭見たことない。

さすがに可哀そうなので僕は彼に謝罪の言葉を送ってから立ち去り、再びカルデアの暗い廊下を歩き始めた。

僕が次に向かったのはロマ二の医療室。

 

「ロマン、今入ってもいいかい? インキーしたからちょっと助けてほしい」

「マギ☆マリと徹夜続きで死にそうだから無理、ごめん」

 

次に僕はマシュの部屋へ。

 

「マシュ、君の部屋に入れてほしい。インキーしちゃった」

「そう言って私に変なことするつもりですよね。エロ同人みたいに」

 

そう言われるのも無理はない。

というかマシュのパジャマ姿可愛かったな。

上下ピンクとか普通に発情しそうだったよ。

 

マシュにも断られ、次に僕は小次郎の部屋へと足を進めた。

 

「――あぁ、主殿ォ? 今くーふーりん殿と酒盛りしてるでござるぅ」

「ボウズゥ、こっちきて俺の酒注いでくれぇ~」

 

僕は無言で立ち去る。

思わず絶望に打ちひしがれ、廊下で両ひざを着いた。

 

「やべぇェェェェ!! どいつもこいつも役に立たねェェェェ!! いやインキーしたのは僕のせいだけど!! 明日オールで言ったら絶対ボコボコにされちゃうぅぅぅぅ!!! 」

「うるせぇ!!! 」

 

そりゃ寝ている最中に大声でツッコんだら怒られるのも当然である。

でも叫びたくもなるよね。

今ならアメリカ横断編のミ〇ターの気持ちがわかる気がする。

 

「……おや。マスターか、どうかしたのか? 」

「あ、どうもこんばんは。ひどく悩んでおられるがどうかしたのですか? 」

「せ、セイバーにエミヤ! 助けてくれ! 君たちが最後の希望なんだ! 」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<カルデア>

 

「つまり、トイレに行った時に鍵を忘れて部屋から閉め出されてしまった訳か。なるほど」

「それは困りましたね……その様子ですと他の方にも断られたみたいですし……」

「うん。ほんと絶望で絶頂に達しそうだったよ」

「ドMにも程があるだろお前」

 

訳を話している間に僕たちは元の部屋の前に辿り着く。

暗い照明が二人を照らしている光景は、何故か死ぬほど見たことのある光景だった。

 

「マスター、私にいい考えがあります。少し離れててください」

「ん? 何を……」

 

えっへんと言わんばかりのドヤ顔でセイバーは鎧を見に纏い始め、手に伝説の聖剣エクスカリバーを発現させる。

あれ、なんだか嫌な予感。

 

「エクスカリ――」

「おいィィィィ!! 止めろぉぉぉぉぉ!! ここ一帯吹き飛ばすつもり!? つか僕ごと消そうとしてなかった!? 」

「……ちっ。バレたか」

「何舌打ちしてんだテメー! たかがケツにエクスカリバー突っ込もうとしただけだろ! まだ恨んでんのか! 」

「いやそれ怒って当然ですからね!? 」

 

まあ恨まれるのも当然である。

次にエミヤが僕らの前に立ち、ドアの前に右手を翳した。

 

「おお! もしかして投影魔術でカードキーを出そうって言うんだね! さすがエミヤ! どこぞはらぺこあおむしとは違うね! 」

「誰がはらぺこあおむしですか! ほんとシバきますよ! 」

「でも食っても食ってもその発育には……」

「テメーぶっ殺されてえか」

 

セイバーが普段の口調を忘れて胸倉を掴んだ辺りでエミヤの投影は終わったようである。

僕セイバーも可愛いと思うんだ、特に私服の黒タイツが死ぬほどエロい。

だが次に僕が見たのは白い長方形の塊が部屋のドアに設置されている光景。

何やら嫌な予感がする。

 

「マスター、これでどうだ? 」

「えっこれ何? すごい物騒な匂いするんだけど」

「C4爆弾だ」

「丸ごと爆破してどうするつもりだテメェ! しかも丸眼鏡掛けて言うんじゃねえよ! どこぞの爆弾魔か! 」

 

ツッコミってこんなに大変なんだと僕は痛感する。

改めてマシュやきよひーの偉大さがわかったよ。

 

「だいたいなんでそんな奇行に走ってるの二人とも! 深夜テンションでアホになったの!? 」

「あわよくばマスターに復讐をと思ってな」

「こんなとこであわよくばなんて思うんじゃねえよ! 僕生身の人間! 君らと違って蘇生不可! 」

「ただのうんこ製造機では? 」

「その顔でうんこって言っちゃダメ! 色んなとこから怒られる! 」

 

閑話休題。

僕らには何も手立てがない事に気づいたのか、三人で廊下の端っこで体育座りをして落ち込んでいる。

 

「……どうしよう……」

「C4も宝具も撃てないじゃどうしようもないな……」

「もう床で寝ればいいんじゃないですかね? マスターなら大丈夫ですって。私たちは個々のベッドで寝ますから(笑)」

「(笑)じゃねーよ! 何満面の笑みで立ち去ろうとしてんだテメーら! 関わったのオメーらだからな! もう寝るとは言わせねーぞ! 」

「嫌です。あっ別に私はシロウと寝るという意味で言った訳では……」

「せ、セイバー……」

 

何こいつら。

深夜だとみんなアホになる病気でもかかったの?

二人とも何顔赤くしてんだよ。

当てつけか? 僕への当てつけなのか?

 

「あれ? マスター? こんな夜遅くにどうしたの? 」

「あ、アストルフォきゅん! あぁ……今は君が女神に見える……」

「わっ、くすぐったいよぉ~」

 

同じ男はと思えないほどアストルフォきゅんの肌は柔らかい。

マジでこのままお持ち帰りしたいくらいである。

 

「アストルフォきゅん……僕は今非常に困っているんだ……。どれくらい困っているかって言うとエロサイトに架空請求された中学生時代のように……」

「割と深刻なんだね……分かった! ボクに任せて! 」

「あ、アストルフォ! 何か打開策があるとでも言うのか! 私たちでも解決できなかった代物だぞ! 」

「うるせー脳筋バカップル! これから僕はアストルフォきゅんと深夜ランデブーすんだよぉ! 」

 

何を思ったかアストルフォきゅんは僕の胸の中から離れ、カードキーをかざす部分へと近づく。

 

「オラァッ!!! 」

 

普段の可愛いアストルフォきゅんとは思えないほどの野太い声。

何故か画風も変わっているのが妙に気になるが、彼の拳はカードキーの部分を易々と貫いた。

そして、嫌な音を立てながら僕の部屋のドアは開く。

 

「ほら、開いたよ? マスター、明日遅刻しちゃダメだからね~」

 

沈黙。

そんな僕らを無視して悠悠自適に立ち去っていくアストルフォきゅんを一瞥し、僕は部屋へと入る。

 

「…………あの、これからお茶会でもしない? 」

「出来るかァっ!!! 」




「今日座に還ったサーヴァントいねえしワシらだけじゃな所長。つか腹減った。そこのインスタントラーメン取って」
「自分で取ってよノッブ。というか私が貴女の相方でいいの? 」

「いいんじゃいいんじゃ。あの人斬りサークルの姫も儂離れする時じゃろ。でもあいつの着替え画像流したら面白そうじゃの」
「ここに丁度良くパソコンあるわよ」

「うっしゃあ! 震えるぞインターネット! 」
「ネットリテラシー三段突きぃぃィィィィ!!! 」

「ケツがァァァァァ!!! 」
「あたしのパソコンンンンンン!!!! 」


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第十二節: 覗きは男の勲章

「ねえねえおかあさん。おかあさんはどうして裸なの? 」
「こうしてジャックを暖かく迎えられるようにする為さ。さあ胸に飛び込んでおいで」
「なんか変な匂いするからやだ」
「これはママの匂いなんだよ。だから僕はママでありジャックちゃんは僕を甘やかす義務がある」
「あっそうなんだ」
「んなわけねえだろこのロリコンがァ!! 」



今日のぐだ男:黒髭に右ストレート


<オルレアン>

 

 「うーんこの感覚は間違いなくオルレアン」

「なんでしょう……先輩の頭が地面に突き刺さっているのが普通の光景に見えてきました」

「見慣れちゃダメだからな嬢ちゃん。嬢ちゃんだけは最後の砦であってくれよな」

 

この風、この匂いこそオルレアン。

やけに土臭いのが妙だが、僕は地面に突き刺さった頭を引き抜く。

 

「それで、ここはどこなんだ? 水の音が聞こえるから多分川の近くだと思うんだけど」

「おっ! その黒い髪と白い服は! ぐだ男! ぐだ男かい!? 」

「やあアマデウス。久しぶりだね。とりあえず状況を教えてほしい」

 

やけにテンションの高いアマデウスといきなり鉢合わせた僕たちは人通りの少ない河辺へと向かった。

そこにあったのは綺麗に折り畳まれた二つの女性ものの服と純白の白い下着。

それとマリーのクラゲみたいな帽子も置かれている。

一瞬で僕の脳内は回転し僕は川辺へ向かおうと足を進めようとした瞬間、背後にいたセイバーに首根っこを掴まれた。

 

「どうするおつもりですかぁ……マスターぁ……? 」

「い、いや?別に覗きに行こうだなんて思ってないよ? 決してそんな欲望にまみれたことなんてそんな……」

「その双眼鏡で目論みバレバレなんですけど!? ジャンヌとマリーさんの水浴び覗く気満々ですよね!? 」

 

まずい。

欲望が言動よりも先に出てしまっていたようだ。

唯一の常識人に加えてマシュでさえも僕へ向けて盾の穂先を構えている。

 

しかし。

状況は思っていたよりも好転した。

 

「ぅマスターぁー!! ここは拙者に任せて先にいくでござるぅーッ!! 」

「く、黒髭……!? 」

「黒髭殿!? 何をするんですか!? マスターを止めようと……! 」

「黙らっしゃい!! 男が腹を括ったときに止めるとは何事ですかぁーっ!! 」

「いやクッソ汚い覚悟ですけど!? 欲望に走ってるだけですけど!? 」

 

く、黒髭……! 僕はこの時ほど僕は君を召喚して良かったと思うときはない……!

黒髭がセイバーを止めている間に、僕は川辺に向かって駆けていく。

なんだか背後で彼が座に還る音が聞こえたが、黒髭の心意気を買って敢えて振り向かずに近くの茂みに辿り着いた。

 

「ぐふふふふ……。まさかあの美少女二人の水浴びしている光景を拝めるとは……」

「いやぁやっぱり英霊として召喚されてみるものだね。美少女の裸体見られるんだから」

「えっ君も来るのアマデウス? 僕一人で楽しもうと思ってたんだけど? 邪魔しないでくれる? 」

「何言ってんだテメー! 独り占めなんて許さないぞぉ! 紳士は楽しみを共有してこその紳士だろうが! 」

「その一言が既に紳士じゃねえよ! 」

 

その瞬間、茂みに隠れた僕らの背後に殺気が走る。

恐る恐る振り向くとそこには布を身体に巻いたジャンヌとマリーが立っていた。

 

「へぇ……久しぶりにこっちに来たと思ってたら覗きなんてしてたんですか……」

「許せないわよねぇ……ジャンヌ……」

「ひぃぃぃ! 僕は関係ないよ! こっちのぐだ男が僕を無理やり引き込んだんだ! 」

「おいィィィィ!! 僕を売るなァァァァ!! お前もノリノリだったじゃねえかァァァァ! 」

 

即座に仲間を売るアマデウスに僕は怒りを露わにする。

同じ変態仲間としてあるまじき行為、これは許されたことじゃない。

まあ二人にボコボコにされてから追及することになるんだけど。

 

「誰の帽子がクラゲみてえじゃコラァァァァ!!! 」

「いやそこォォ!? 」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<オルレアン・町>

 

 マリーとジャンヌに前が見えなくなるまでボコボコにされた僕とアマデウスは、同じように打ちのめされた黒髭と合流して今に至る。

以前レイシフトしたときはこの町の住民がゾンビに変えられたのだが、今の様子は誰一人としていない閑静なものだった。

 

「まさかバレるとはね……前回ではツッコミ役に回って許されると思っていたのに」

「何が許されるんですか。先輩の罪は原罪に匹敵しますよ」

「重すぎない? 僕の重ねてきた罪重すぎじゃない? 」

 

まさか僕が人類悪になっていたとは。

もう切腹したりしたら済む話じゃないのこれ?

 

「……ん? なんだあれ? 瓦礫の上で黒い服の男が体育座りしてんだけど」

「えっ何あの人? 顔の片側だけ仮面被ってんだけど……」

 

僕はゆっくりとその男に近づく。

何やら目に涙を浮かべながら僕を見上げた。

 

「……ラララ。待望の敵が現れた。私は嬉しい」

「いやどう考えても待っててくれたんだよね!? 本当にごめんね!? 今まで変な行動しかしてなかったからね!? 」

 

思わず僕も彼に頭を下げ、彼に手を差し伸べる。

彼は浮かべた涙を腕で拭い、男は僕らの前に立ちはだかった。

 

「……君らがあの……人類最後のマスターかな。君の思いやりには助けられた」

「いや"前々からスタンバってました"なんて顔されたら誰だってそうなるよ」

「……いやそんなことはない。別に時間軸とか関係ないし」

「ちょっとマスター!! またあの人涙目になってるじゃないですか! 」

「僕のせい!? 」

 

そんな事をマシュと話していると、目の前の彼はゆっくりと立ち上がる。

両手に嵌めた長い鉄爪が血に濡れていることを確認すると、マシュが僕を守るように立ちはだかった。

 

「さあ始めよう。私の……悲劇を」




「あーなんだかすごい暇じゃのー。なあ所長。ここに茶々か沖田を召喚できないかの? 」
「無理無理。だってここで魔力発動しても全然行使できないんだもん」

「えぇー。ゲームも漫画も読み飽きたしのー。あっでも儂が主人公の漫画面白かったのう。なんつーか儂が美少女だったりおっさんだったりするけど」
「いや元々あんたおっさんだからね!? 普通に名声高い武将だからね! 」

「というわけでこんにちは! いつも美少女にされたりイケメンにされたり血を吐くイケメンの沖田さんですよぉ! 」
「なんか知らねえ痴女出てきたァァ!!? 」



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第十三節:造形は美少女フィギュア

「みんな久しいな! ローマの皇帝で愛されサーヴァントの余であるぞ! 」
「黒髭、あの赤い痴女は一体……? 」
「いや普段から裸体晒してるマスターが言えた義理じゃないでしょ。彼女はローマ皇帝のネロ・クラウディウスちゃんですぞ」

「うむ! 其処の髭男は良く勉強しておるな! 褒美を取らせよう! 」
「えっマジで? じゃあネロちゃんのおっぱい揉みたいでござる」

「任せよ! 」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」

今日の黒髭とぐだ男:殴り合いによる相討ち


<フランス>

 

 

 仮面の男が周囲に召喚した黒いサーヴァントを携え、僕らの前に立ちはだかる。

ただでさえ不気味な姿だというのに、黒い影が彼の周りにあるせいで余計に恐ろしさを際立たせた。

 

「こ、こいつは……! 」

「クーフーリンさん! 術式の展開を! 彼らはアサシンクラスの敵です! 」

「おう分かった! 坊主、身構え――」

 

隊列の真ん中に立ったクーフーリンが、手にした杖を構えながら背後の僕に視線を向ける。

 

「……えっ」

「僕は坊主なんかじゃない。シンシ・ド・ヘンタイという女の子の心を盗んでいく怪盗さ」

 

黒いブーメランパンツに肩に掛かった黒いマント、そして顔に装着した蝶型の仮面。

ゴキゲンな蝶になって煌く風に乗ろうとした結果がこれである。

対峙した彼は驚きの表情を浮かべながら僕へ右手を向け、震えながら口を開いた。

 

「ま、まさか君は……あの、伝説の……? 」

「そうだとも。僕……否、私は世界中の紳士の味方だ。無論……君もね。ファントム・ジ・オペラ」

「…………」

「えっこのノリで真名分かったの? お前らの頭の中どうなってんの? 」

 

アマデウスの疑問は尤もだ。

マリーやジャンヌの視線が既に汚物を見るような視線に変わっているが、僕は気にしない。

なんたって僕は今謎の紳士、シンシ・ド・ヘンタイなんだからね!

 

「シンシ・ド・ヘンタイの名の下に命ずる!クーフーリン! あの迷える子羊を救いたまえ! 」

「うるせえ燃えろ変態」

「あぁぁぁぁ!! ケツに!! ケツに火がァァァァ!! 」

 

地面を転がりながら臀部に点いた火を消す。

敵側のファントムでさえも哀れみを抱いた視線を僕に向け、まる焦げになったケツを抑えながら僕は立ち上がった。

 

「……往け。我が僕たちよ」

「ちょっと!先輩のせいで先制されたじゃないですか! 」

「だから今の僕はシンシ・ド――痛い痛い! 殴らないで! 謝るから! 変なノリで真名バラしちゃったの謝るから! 」

 

僕にだけ攻撃が集中するのが納得できないが、一通りフルボッコにされた後で僕は再び彼らへ視線を向ける。

 

「あの仮面の変態をぶっ殺せェェェェ!! 」

「無理矢理過ぎないですか!? 」

「うるせえ! せっかくの僕の晴れ舞台を汚すとは許さんぞファントム! 」

「完全な逆ギレだよ! 最早尊厳投げ捨てちゃったよ! 」

 

使役したエミヤ、クーフーリン、アルトリアを立ちはだかるファントムへ向けて突撃させると、反撃として彼のシャドウサーヴァントが一斉に飛び掛かってきた。

 

「アーチャー! セイバー! 時間を稼いでくれ! 」

「御意! 」

「まさか君に命令される日が来るとはな」

 

そんな事をぼやきながらも二人は見事なコンビネーションで迫り来るシャドウサーヴァントの攻撃を捌き、クーフーリンの下へ敵を近づけさせない。

 

「いいぞ三人とも! 僕がボコボコにされている内にやっつけるんだ! 」

「いや先輩酷い顔になってますよ!? 」

「まさかファントムに殴られるとは思わなかった」

 

所謂"前が見えねェ"状態である。

恒例となったこの顔面はさて置き、マシュが僕を守ろうと盾を構えた。

今これはチャンスなのでは……?

僕はおそるおそる手を伸ばし、攻撃を耐え忍ぶマシュのそのマシュマロを手にしようと両手をワキワキさせる。

 

「いや何やってんですか貴方」

「貴方じゃない、シンシ・ド・ヘンタイ――」

「んなこと聞いてねえよ! 状況考えろ馬鹿! 」

 

ジャンヌとマリーからの全力の阻止。

まさかあのクラゲみたいな帽子で殴られるとは思わなかった。

ていうかそれ武器にもなるんだね。

 

「準備できたぜお前ら! 行くぞ、ウィッカー――」

「そこで僕が合体ィィィィ!!! 」

 

兄貴の周りに展開した赤い魔法陣の中へ、僕は無我夢中で飛び込んでいく。

ルーンによって形成された木製の巨人の内部へ僕の身体は取り込まれ、まるで某機動武闘伝のような雰囲気で僕と一体化した。

 

「なっ……! 」

「行くぞウィッカーマン! 僕の声に応えろ! 」

「おいィィィィ!! そんな風に設計したつもりはねえぞォォォ!! 」

 

クーフーリンの兄貴が怒るのも無理はない。

何せ僕と同化したウィッカーマンの股間部分が異様に突き出ており、赤い闘気というよりかは白いオーラを纏っている。

 

「うわー……」

「そういう人だったのですね、ランサー……」

「いや違ェよ! どう考えてもあの坊主のせいだろ! 」

「男にこの宝具……やはり兄貴はホモ」

「ぶち殺すぞテメェ!! 」

 

心の底からの怒号を無視し、僕の身体が動くたびにウィッカーマンは一歩、また一歩と歩みを進めた。

そうしてファントムの元へ辿り着いた瞬間、僕は全身に力を込める。

 

「出ろォォォ!! 」

「構えるのそっち!? 確実に弱点晒してるよね!? というか絵面的にアウトだよね!? 」

 

紳士に絵面を気にしている余裕はない。

伸びきった股間部分を振り下ろすようにウィッカーマンは倒れ、ファントムを巻き込むようにして砂埃が舞った。

それと同時に、ウィッカーマンは解除される。

 

「ぐっ……まさか……私が……! 」

「……ファントム……。君が負けたのはたった一つの簡単な理由だ。君は……愛を知らなかったんだ」

「フフフ……そうか……。手土産とは言えないが、君たちにある贈り物を送っておいた……」

 

霊基が消えかかっているファントムは、微笑みながら僕へ手を伸ばした。

 

「あと……股間の毛の処理……忘れているよ……」

「えっ嘘? マジで? 」

「嘘だ」

「おいテメェ」

 

不敵な笑みを浮かべながら彼は消滅する。

補足すると僕はまた全裸になったわけだが、ファントムは嫌な顔一つせずに消えていった。

実を言うと彼は良い人なのかもしれない。

その瞬間、僕の耳に付けられていた無線が起動する。

 

『特大な霊基反応があるぞ! これは……!? う、嘘だろ!? 』

「どうしたんだロマン! 全裸の美女でもいたのかい!? 」

『全裸は君だけだよ! ワイバーンじゃない……正真正銘のドラゴンだ! 』

 

この場にいる全員がロマンの言葉に顔を強張らせた。

逃げ道を探そうと彼らは周囲を見渡すが、不幸にも既に崩壊している町に隠れ場所などない。

 

「これが……ドラゴン……!? 」

 

緑色の鱗に全身を包まれた、巨大な爬虫類。

まるで獲物を見つけたことに関して笑みを浮かべるようにドラゴンは舌をなめずり、僕は全裸のまま巨大なトカゲと対峙する。

 

「ドラゴンといえばアメリカだと一つの性癖として理解されてるよね」

「今その話要る!? 」

 

 




「我が顔を見るものは恐怖を知ることになるだろう……」
「うぉっ何じゃ? 黒い服着た男が出てきたぞ」
「美しい声持つ人よ……君の声は美しい……」

「良くわかってんじゃーん仮面男! 褒美に儂に言わせたい台詞を言ってやろう! 」
「えっ急になんなのこれ。しかも仮面の人もう馴染んでるし」

「……"この馬鹿犬!"と頼む……」
「ただの釘宮病じゃねえか! 」


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第十四節: 自立飛行物体グダオ

「面白半分でマスターに鼻フックしたら毒が粘膜感染して草」
「なにわろてんねん静謐(瀕死)」

今日のぐだ男:鼻から毒を大リバース


<フランス>

 

「すごーいドラゴンだ見て見てマシュ! マジで火吐いてくる! 」

「言ってる場合ですか先輩! すでにアフロになっててひどい状態ですよ! 」

「全裸になってない辺りまだ温情あるよあの子」

 

最近になってエネミーの気持ちが汲み取れるようになってきた。

目の前の馬鹿でかいドラゴンは相変わらず僕たちに殺意を向けてるんだけど、まあそこはモンスターなので仕方ない。

 

「と、とにかく走って! このままじゃ私達全員やられてしまいます! 」

「自立飛行人型物体グダオにトランスフォームしたら逃げきれるかもね」

「あ、やっぱこのままドラゴンに燃やされた方が良いかもしれせん」

 

どんだけ僕のチン〇プターが嫌なんだろうジャンヌは。

ドラゴンに負ける僕のマイサンが可哀そうでしょうがない。

そんな時、宝具を展開したマリーとアストルフォくんが僕らの隣を滑空する。

 

「ジャンヌ! 皆さん! こちらへ乗って! 」

「こっちも空いてるよ! ヒポグリフなら3人いけるはず! 」

 

まるで椅子取りゲームのようにマシュとジャンヌ、それにアルトリアと清姫が二人の宝具の背中へと乗った。

小次郎とエミヤは既に霊体化し、クーフーリンの兄貴は自身のルーンを使用して姿を潜める。

地上に取り残されたのは僕と黒髭、それにアマデウス。

 

「なんか予想はしてたけどやっぱ残されたね……」

「落ち着いてる場合でござるかマスタァーッ!? 今にもトカゲモドキが迫ってきてますぞォ!? 」

 

「むむっ! ここは一つ、僕の音楽を聞かせようじゃないか! 」

「さ、流石天才音楽家のモーツァルトなだけある……でもここにゃ楽器なんてないですぞ! 」

 

「いや、まだケツがあるッ! 僕のドラムを聞けえェェェぃ!! 」

「み、妙につるつるなのが腹立つ……」

 

「いやそこォ!? 早くズボン穿きなさいこのアホ! 」

 

妙に優しい黒髭に抱えられながら僕らは必死に迫り来る巨大トカゲから離れようと逃げ惑う。

そこで妙案を思いついた僕はさっそく黒タイツの中に仕舞っていたスケッチブックを取り出して絵を描き始めた。

 

「こんな状況で何してるんですかマスター! そんな元気あるなら走ってちょ! 」

「いやあでも人間うんこしたい時ほど神経張り巡らされるって言うじゃん。それと一緒だよ」

 

「あ、それ分かるかも。僕は結果的に漏らしたけど」

「きったねえな天才」

 

吐かれた炎を間一髪で避ける黒髭に、出来上がった絵を見せる。

 

「どう黒髭? 題して穴があったら入りたい作戦」

「拙者桃白白が投げた柱みたいになってない? ってかアマデウス氏どうすんの? 」

「……悪ぃアマデウス、この作戦一人用なんだ☆」

「ぶっ殺すぞテメェ」

 

器用にもアマデウスは黒髭に抱えられたまま僕の胸倉を掴んだ。

このセリフをまさか使うときが来るとは思わなかったけど出来ればアマデウス自身に言ってほしかった、声的に。

 

「マジでどうすんのマスター!? このままじゃ全員バーベキューですぞ!? 」

「仕方ない、やはり僕がトランスフォームして竜殺しとやらの騎士様を見つけようじゃないか。幸い僕の飛行形態は二人まで載せられるよ」

「ほんと何者なのお前」

「変態です」

 

閑話休題。

一先ず僕は変形して二人を乗せ、なんとかドラゴンの魔の手から逃げ延びる。

その時、ドクターとダヴィンチちゃんからの通信が入り、僕は片手間に無線を起動した。

 

『大丈夫かぐだ……うわぁクッソ汚いもの見ちゃったよレオナルド』

『私はもう慣れてきたよ。とにかくあのトカゲから逃げ延びたようだね』

 

無理もない。

今の僕は全身にモザイクを掛けられても普通に貫通するレベルの汚さだ。

まだ黒タイツがあるおかげでなんとか難を逃れているが、全裸だったら普通に放送事故レベルだ。

 

「それで竜殺しの騎士っていうのはどこにいるの? この状態あと数時間しか持たないよ」

『いや数時間も持つのそれ? まあいいや、そこから北へ数キロ行くと騎士様が拠点にしてるお城がある筈だ。ひどい手傷を負っているようだから、なんとか治療してあげてね』

「合点承知の助! この特異点は僕に任せてくれて大丈夫だよダヴィンチちゃん! 帰ったら胸揉ませてね」

『中身おっさんだけどいいの? 』

 

いけるいける。

某騎空団の錬金術師もおっさんだったし。

 

そんなこんなで通信を済ませ、散り散りになった他のメンバーにも騎士が居るという座標を伝える。

なお僕の今の姿は筒抜けのようで、返答がすごく曖昧なものになっていたのは気にしちゃしけない。

 

「とりあえずここからは一時間近く掛かるみたいだね。その間に何する? 」

「猥談しようよ猥談」

 

「よっしゃそれで行こう。まず今のメンバーで一番シコれるの誰だと思う? 」

「拙者マリー氏」

 

「あっくそう先に言われた! じゃあ僕ジャンヌ」

「僕は清姫」

 

我ながら会話がひどい。

こんなの聞かれたら絶対にボコボコにされる。

ジャンヌ筋力めっちゃあるし。

 

「意外と敵側の方にもいい子いるよね。僕あのカーミラさんとかすき」

「あ、わかる。意外と乙女趣味なところありそう」

「ギャップ萌えってやつ? いいよねぇ、マリーがああ見えてヘビメタめっちゃ好きだったら惚れてた」

 

思春期かお前らと言われても過言ではない。

しかし突然、マシュからの通信が入り慌てて僕は会話を遮断する。

 

『……先輩、何話してるんですか? 』

「ん? 今いるメンバーで誰が一番かわいいか話してた」

 

『先輩は誰だと思います? 』

「もちろん清姫ちゃんでしょ」

 

『は? 』

「すいません、マシュが一番です。そのマシュマロ食べたい」

 

そう言う事言ってるんじゃ、と言いかけて彼女は突然顔を赤らめる。

え、何?

どう考えてもそういうノリじゃないよね今の?

先輩最低ですと言い残して彼女は通信を切る。

 

「うわあぐだお今のはやっちゃったねぇ。折角の卒業チャンス逃しちゃったよ」

「ウッソだろお前……。俺青姦でもイケるのに……」

「そういうとこですぞマスター。ん? あれじゃないですかね、お城って言うのは」

 

黒髭の言葉通りに僕たちはようやく騎士のいる城へと辿り着いた様だ。

誰もいない辺り、おそらく僕らが一番乗りというのだろう。

 

さっそく僕は飛行形態のまま城へと乗り込む。

中はすさまじい事になっており、あちこちが崩壊してたり瓦礫にまみれたりしている。

 

そんな中、瓦礫に寄り掛かりながら荒い呼吸を整えている銀髪の男が地面に座り込んでいた。

恐らく彼が竜殺しの騎士とやらだろう。

 

僕は彼に声を掛ける。

 

「やあそこの騎士さん、少し手を貸して――」

「うわああああああああああ!!!!! 化け物ぉぉぉぉぉぉ!!!! 」

 

まあ今更だけどそう思われても仕方ないよね。

僕たちは騎士が放った宝具により消し飛んだ。




「というわけで新しく実装されたアナスタシア皇女に来てもらったのじゃ。なんかしらん男が付いて来てるけど」
「ノッブこの人たち敵ですよ敵! めっちゃ氷出してくる人です! 」
「ねえねえ冷凍ミカンって作れるの貴方達? 」
「所長だけゆるゆるし過ぎィ! わしら凍結の危機なんじゃぞ!? 」

「なんだこいつら……」
「あっそれ炬燵というものでしょ? 私に入らせてくださらない? 」
「アナスタシア!? 」

「おっいいぞぉ、お主炬燵の魅力がわかるとはなかなかできるやつじゃの」
「ふへぇ……なにこれぇ……あったかぁい……」
「アナスタシアーッ!! 出るんだァーッ! 」


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第15節: 個人的には悪魔っ娘が好き

「ねーねー英雄王さん。私達と遊んでよ」
「我に命令を下すか、童。良い、申してみよ」
「おままごとしましょう? きっとあなたも楽しめると思うわ、ねぇジャック? 」
「うん! 」
「……ならば貴様が嫁で、貴様が夫と言ったところか。我は息子役だな」

「なにあれ」
「ルートほぼ全部畜生ムーブしてた奴の行動とは思えねぇな」

今日の兄貴とぐだ男:ケツに天の鎖


<騎士の根城>

 

 「ねえどうしてくれるの騎士様。僕はまだしも黒髭とアマデウスも股間以外隠れてない状態になっちゃったじゃん」

「す、すまない……まさかこの地に降り立ったマスターだとは……」

「まあまあ。少なくともエネミーと見間違えるのは仕方ないでござるよ。普通に考えて人間ヘリコプターとか頭おかしいですぞ」

 

負傷しているのにも関わらず、目の前のイケメン騎士は申し訳なさそうな表情を浮かべながら正座をしている。

出会い頭にバルムンクはひどいと思うんだ、ラブコメのヒロインでもそんな事しないよ普通。

 

「ともかくマリアたちには無事に彼と合流出来た事は伝えておいたよ。あとは僕たちの服を探さなきゃね」

「そういえばここに赤タイツと青タイツだけはあるのだが」

「モジモジ君かよ」

「すまない。でもこれしかないんだ」

 

大人しく赤青のタイツを身に纏うアマデウスと黒髭。

黒髭に至っては妙に筋肉質なせいか普通にボディビルやってる人に見える。

 

「先輩! 無事ですか……ってうわぁ……」

「待ってくだちいマシュ氏。これ誤解だから。決してマスターにシンパシー感じたとかじゃないから」

 

「アマデウス、それの着心地は如何なものかしら? 」

「めっちゃ良いよ。マリアも着てみる? 」

 

ナイスアシストアマデウス。

マリー様のタイツ姿とか純粋に興奮する。

何故か兄貴やエミヤでさえも親指を立てて満面の笑みを浮かべていた。

 

「君たちが……そうか。彼らの仲間という訳か」

「不本意ながらですけどね。とにかく、今は時間が無いんです。竜殺しの騎士というのは貴方の事ですね? 」

「如何にも。傷は既に君たちのマスターに治してもらっている」

「なら急いでください。すぐそこに、私達を追う竜種が近づいてきているのです」

 

何、と騎士が顔をしかめながら剣を手に取り立ち上がった瞬間。

聞き覚えのある咆哮と瓦礫の崩れる音が響き渡り、僕たちの身体を硬直させる。

 

「……なるほど。召喚されたのはこの為か……」

 

轟音の聞こえた元へ向かうとそこには相変わらずドラゴンは健在で、僕たちを見つけ出したのか更に元気になってる気がした。

こんなに熱いラブコールをくれるならせめて擬人化してくれ。

 

「おや、ここにいましたか。見つけましたよ、私」

「あっクラスに一人はいるツンデレキャラポジの女の子だ! 」

「誰がツンデレよ! べ、別にあんた達を見つけたかったわけじゃないんだからね! ただ聖杯で願いをかなえる為なんだから! 」

 

何あの子めっちゃノリいいじゃん。

ドラゴンを連れて僕たちの前に現れた黒いジャンヌは咳ばらいをしながら旗を掲げた。

 

「……瀕死のサーヴァントが数人、フン。これじゃあ肩慣らしにもならないわね」

「やべえぞマスター! あのトカゲモドキ、また火を吐いてきやがる! 」

「私がやります! 先輩、下がって! 」

 

マシュとクーフーリン、それにジャンヌが僕の前に立ちはだかり、各々の宝具を展開する。

しかし奴の吐く炎は3人の魔力を以てしても到底守り切れるものではなく、勢いが更に増していた。

 

『うわっ!? なんだこのエネルギー反応……! 』

「くそっ! もう持たねえぞ! おい竜殺しとやら! 準備できてんのか!? 」

「――無論。君達のおかげで、随分と回復できた」

 

降り注ぐ火の粉を払いながらイケメン騎士がドラゴンの前へと躍り出る。

 

「ふ、ファフニールが怯えている……? まさか! 」

「二度姿を現すのなら、この俺が二度この手で打ち倒すまで! 蒼天の空に聞け! 我が名はジークフリート! 汝を嘗て打ち滅ぼした者だ! 」

 

そう意気込むと騎士――ジークフリートは手にした剣を天高く掲げた。

辺りに風が立ち込み始め、その風に雷が纏っていく。

 

「宝具解放! 幻想大剣 天魔失墜(バルムンク)ッ!! 」

 

風を纏ったその剣から放たれる、必殺の一撃。

その攻撃を羽に食らったのか、ファフニールは情けない声を上げながら僕らの前から去って行く。

 

「はぁ……はぁ……。ひとまず、これで……」

「ジークフリート! 」

 

宝具を展開した瞬間に彼は倒れ、ジャンヌとマリーによって回復魔法を施される。

霊基はまだ消滅していない、おそらく病み上がりなせいで気を失ってしまったのだろう。

 

「ジャンヌ、マリー。今は応急処置だけ済ませて安全な場所へ撤退しよう。幸いボクのヒポグリフならジークフリートを乗せられるよ」

「お願いします、アストルフォ。クーフーリンさん、彼に付いて行ってあげてください」

「おう、分かった。坊主たちの事は任せたぜ」

 

そう言いながらアストルフォくんは大きな鷲の魔物を召喚し、気を失っているジークフリートの身体を乗せた。

鷲の背中に彼は跨ると、クーフーリンの兄貴も同じようにして彼の後ろに乗る。

 

「……む」

「気づきましたか、アーチャー。まだまだ我々を追うサーヴァントたちがいるようです。マスター、どうされますか」

「みんな、いけそうかい? 」

 

今のところ戦えるメンバーは黒髭にセイバー、エミヤに小次郎と十分な戦力が揃っていた。

アマデウスには魔力を使ったマリーとジャンヌの防衛を行ってもらうとして、マシュはずいぶんと疲弊している。

 

「やれ……ます……。まだ、私は……! 」

「無理はしないで、マシュ。君は僕の隣にいてくれ、それだけで良い」

「でも……! 」

「隣にいるという事だけでも、僕にとっては心強い。盾がいるなら、なおさらだ」

 

そんな事を話している最中に、漆黒の鎧をまとった騎士と長いコートに銀髪のイケメンが僕らの下へ姿を現した。

二人の姿を見るなり、マリーたちの護衛に回っていたアマデウスが苦虫を嚙み潰したような声を上げる。

 

「お前……! 」

「……やはり、君達だったんだね。マリア、それに……アマデウス」

「サンソン……」

 

シャルル=アンリ=サンソン。

マリー・アントワネットを処刑を執行した男が、黒い甲冑の騎士を連れて儚げな視線を僕らに投げかけた。

対する黒の騎士は、セイバーとマシュを見るなり絶叫する。

 

「Arrrrrrrrrrrr!!! 」

「バーサーカーか……。だがこの剣に甲冑……どこかで……」

「セイバー! 来るぞ! 」

 

自身の狂気を剥き出しにしながら騎士はアルトリアに斬りかかった。

無論の事その程度の斬撃に打倒される彼女ではない。

 

「……そうか。マシュ、マスター。お下がりください。この騎士めは、私が討ち取ります」

「君一人で大丈夫か? 」

「無論。アーチャーはアマデウス殿の援護に回ってください」

 

互いに距離を取った所で、アルトリアは透明化していた剣を具現化させて切っ先を地面に刺す。

エクスカリバー。

騎士王アーサーの持つ、最強の宝剣。

 

「Arrrrrrrrthurrrrrrrrr!!!!! 」

「来い。……再び私が、貴殿に引導を渡そう」




「今日珍しく本編シリアスじゃの。あっ皇女そこにあるリモコン取って」
「はい。……所長とやら、私にミカンの剥き方を教えなさい」
「カドック君教えてあげてちょうだい」
「何で僕が……」

「……お願いカドック。それとも私のお願いを聞くのは嫌? 」
「い、いやそんな事ないけどさ……」

「は? なんですかあれ? 無明三段突きしていいですか? 」
「やめとけ沖田。お主クッソ身体弱いんじゃから凍って死ぬぞ」

「……我が娘を頼むぞ、そこの魔術師」
「うへぇデカい象さんじゃ! 儂の事肩車してぇ! 」

「よかろう」


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