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原作開始前~ニュクスの思い出~
先生からのプレゼントです。


早くもお気に入りが100を超えたのでちょっとずつ更新していこうと思います。


これは大切で、楽しくて、悲しくて、忘れられない、そんな思い出の一欠片――

 

 

 

 

星々が煌めく綺麗な夜空、心地良い風が吹く中、とある一室で男の人生に関わる重大な事が起きていた。

 

「今日から貴方は、生活させて貰う代わりに、任務を受けて貰うわ。」

 

俺、ニュクス=アバター推定16才男性。今特務分室って所で、赤い髪した女の前に立って任務を渡されてます。え?どうしてこうなったって?俺が気絶してから、身柄をイヴに拘束され、身寄り無し、仕事無し、衣食住なんて出来てません。と違う世界から来た事以外の自分について説明したんだよ。そしたら、なら好都合ね、貴方しばらく私の所で生活しなさい、と言われたんだよ。急な展開に凄い驚いたんだけどさ、出て来る料理は豪勢だし、前世の俺は異性の家で住むとかしたこと無くて、まぁ少し?少しだけ?この世界来て良かったぁ・・・なんて思いましたよ。でもさ、当たり前だけど条件があって、任務を受けろと言う。働かざる者食うべからずってね。どんな任務、と聞いたら、害虫を退治するだけ、と言われたんだ。害虫退治にこんだけ大きい城みたいなのいるのかねぇ・・・・・・。

 

「んで、どんな害虫?」

「毒をバラまく蛾のようなモノね。一緒にセラを同行させるから、頑張って学んで来なさい。」

 

渡された資料には期限は3日後、と書かれている。蛾の退治に3日って、周囲にも被害が出てるのかな、と書類を見る。しかし、蛾の項目等何処にも無く、変わりにあるのは麻薬取引に関する人物について。

 

――あれ、コレヤバい仕事じゃない?

 

「どうしたの?まさか昨日まであれだけ豪華な食事を取らせてあげたのに断るつもり?」

 

料理はこの為だったのか・・・、セラという人には悪いけど、ここは全部任せよう。本当に申し訳無いけど。

 

ニュクスは分かりましたと答えて、セラについて聞く。イヴは聞かれると分かっていたかの様に一度もつっかえず、スラスラと説明して行く。

その説明によると、セラという人物は、執行官ナンバー3『女帝』のアルカナを持つ遊牧民族シルヴァース一族出身の女性らしい、しかも族長の娘で元姫君らしい。

・・・・・・無礼が無いようにしないと・・・・・・

 

「・・・・・・えと、それ本当ですか?」

「本当よ、元だけどね。」

 

何故わざわざそんな人選ぶんだよコイツ・・・・・・

ニュクスは自分に元姫君という普通ではない立場の人を付けた事に疑問を覚えながらも、セラに顔を合わせに部屋を出る。扉を開けようとすると、コンコンコンコンと4回扉を叩く音、ニュクスは扉を開けると、青い髪をした鷹の様な目の長身の男と目が合った。

 

「?失礼、帝国宮廷魔導士団特務分室所属、執行官ナンバー17アルベルト=フレイザー、任務を終了した。」

「あぁ早かったわね?なら次の任務はそこに突っ立っている子に付いてもらうかしら。」

 

突っ立っている子――ニュクスはアルベルトの目に内心少し怯えたが、表情には出さないように気を付け、軽く自己紹介を済ませる。

 

「えっと、ニュクス=アバターと言います。身寄りが無い所をイヴさんに拾われて、生活の代償に此処で働く事になりました。えっと、宜しくお願いします。」

「此処で働く・・・・・・?何を考えているイヴ。」

 

アルベルトはニュクスの自己紹介を聞き終えると、イヴをその鷹の様な目を細める。此処での仕事がどれだけ普通の子供にキツいものなのか、理解しているからこそ疑問に思ったのだろう。イヴはそれに当たり前の事を聞かれ困惑する様な表情で説明する。

 

「私が何の価値も無い駒を作ると思う?その子に魔術の特殊な素質が合ったと分かったからに決まっているでしょう?」

「特殊な素質だと?」

 

アルベルトは怪訝な表情でイヴを見る。普段は浮かべない様な楽しそうな表情をしているイヴを見るに、相当珍しいモノなのだろう。執行官ナンバー0のグレンの様に、魔術に向いていないが応用すれば強いのかも知れない。

 

「え、俺の素質?いつ調べ・・・・・・あぁ・・・引き取られた直後のアレか・・・」

「そう。貴方の魔術特性は『反映』、別の言い方をすると状態維持かしら?貴方は魔術を他と比べて消費を少なく、長く現象を維持出来る。アルベルト、貴方が欲しくなりそうな魔術特性ね?」

 

アルベルトはその発言を無視し、ニュクスを直視する。ジーッと見つめ、しばらくして目を離し、後で俺の部屋に来い。と告げて部屋を出た。ニュクスは、何だったんだ、今の・・・と呟き、しばらくして要件はもう無いわと言われ、イヴの部屋を出る。ニュクスが出て行った後、イヴは窓から見える星空を眺めながら、これから起きそうな事を少し楽しそうに考えていた。

 

「魔術特性・・・あんなの初めて見た・・・フフッ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

イヴの部屋を出た後、俺は言われた通りアルベルトさんの部屋を訪れた。この後セラさんに会わなければいけない為、長くならなければ良いな・・・

 

「来たか・・・」

 

ニュクスは机の上に置かれている資料に目を向けている為、アルベルトの表情が見えない。要件は?とアルベルトにニュクスは聞いた。アルベルトはそれでも資料に目を向けたまま、要件を話し始める。

 

「お前の得意な事は何だ?」

「・・・・・・え、あ、得意な事ですか?」

 

いきなり飛んできた小学生の様な質問に驚いたが、素直に前世で得意だった事を伝える。

寝る事とゲーム、勘と射撃ですかね。と答えてアルベルトの様子を見る。射撃と聞いて一瞬アルベルトは資料のページをめくる手を止めたが、未だに資料を見ている。

 

「・・・苦手な事は?」

「そう・・・ですね・・・あ、勉強とゴキブリ退治、後は殆どのスポーツです。」

 

アルベルトは勉強が苦手と聞くと、サッと座っていた席を立ち、ニュクスに読んでいた資料を渡す。イヴへの返却だろうか、とニュクスは考え、アルベルトから軽く100枚近くある資料を受け取る。

 

「それは宿題だ。此処での学力不足は時に死に繋がる。死にたくなければ、その資料の内容をバカでも分かるぐらいに簡単に纏めてこい。評価は俺がする。」

 

期限は3日後だ。と告げて、アルベルトは再び机に向かい、新しい資料を読み漁る。勤勉で頭良さそうで強そうだなぁ・・・もしかしてセラって人も筋肉とか凄いのか・・・?とアルベルトを見たニュクスは考えていた。宿題として出された資料を持ち、ニュクスは部屋を出る。アルベルトはニュクスが出て行ったと判断し、読んでいた資料のページにしおり代わりに何かが書かれたメモを挟む。

 

――射撃が得意でマナ消費が少ない、か。成る程、確かに羨ましい魔術特性だ。特に狙撃に通ずるものに置いて、才能がありそうだ。

 

アルベルトは椅子に座ったまま、ニュクスの才能を開花させるプランを考えていた。因みに、アルベルトの作るプランは、無理してなんぼ、無茶してなんぼのものである。何でも、とある『隠者』は見ただけで恐怖して1日眠れなかったとか。

 

「フッ、久し振りに任務以外の事で徹夜をしそうだ。・・・・・・そう言えば宿題を渡しに行かなければな・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルベルトの部屋を出て行き、資料を持ったままニュクスはセラの部屋を目指す。途中で会った黒髪の男性によると、この先にある民族の着けてそうな羽の付いたアクセサリーが掛かっている部屋がそうらしい。

 

「お、見つけた。」

 

ニュクスは資料を片手の平の上に乗せ、ウェイトレスの様になりながら扉をノックする。コンコンコンコン、4回叩くと部屋の中から声が聞こえ、しばらくして扉が開いた。

 

「あれ?君は?」

「自己紹介に来ました。えっと、本日付けで良いの・・・かな?任務を受ける事になったニュクス=アバターです。えっと、その、宜しくお願いします。」

 

相手が女性の上、元姫君というのもあり、先のアルベルトより緊張が増したニュクスは自己紹介を間違いが無いか心配になりながらセラへする。その様子にセラは少し笑うと、ニュクスの頭の上に手を乗せて、その青い髪をよしよし、と言いながら優しく撫でる。緊張を解す為なのだろうが、ニュクスからすると恥ずかしいと言う追撃でしか無い為、顔をほんの少し赤くする。・・・・・・恥ずか死い。

 

「あれ、緊張解せなかったか・・・、でも君みたいなまだ小さな子がどうしてこんな所で?」

「あ、えと、代償です。養ってもらう。」

 

それを聞いたセラは即座に引き取ってくれる身寄りが居ないんだと気付き、暗い表情を見せる。これから任務をして辛い思いをする事になるだろうまだ自分よりも若い男の子の姿に、セラは優しく、ニュクスの心に問い掛ける様に質問する。

 

「・・・・・・君は任務をどう思う?」

「任務、ですか?それは、その、イヴから貰った内容を見る限り・・・・・・好きとは思えなかった・・・です。」

 

ニュクスは素直に自分の思っていた事をセラへと打ち解けた。セラはその事に満足したのか、うん、そっか、と少し嬉しそうに笑みを浮かばせる。

 

「・・・あれ、その資料は?」

「あ、アルベルトさんから宿題で・・・・・・」

 

アルベルトからの宿題、という言葉に、セラはえっ、と固まる。えっと、どうかしました?とニュクスが聞いてもセラに反応は無く、しばらくして意識が戻り、一言ニュクスへと伝えた。

 

「あー、えっと、死なないように頑張って!私応援してるからっ!」

 

セラはそう言うと扉を閉める。・・・・・・どうやら非常にマズい物を受け取ってしまったようだ。

 

「・・・・・・死なないように死ぬような物渡すかなぁ・・・普通。」

 

一人扉の前で呟くニュクス、しかし誰もその疑問に答えてくれる者は居なかった。ニュクスは一人、夜の廊下を自室まで歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子大丈夫かなぁ・・・?アルベルトの出す宿題って、拷問レベルで有名なんだけど・・・・・・ん、誰?どうしたのアル――」




どうでしたか?アルベルトが殺る気(本人にその気は無い)になっている姿を書くのは苦労しました・・・・・・
コメントで矛盾点や誤字脱字、思った事があったら是非書いていって下さい。


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原作
タナトス最高、格好良い


思い付きで書いてみました。ちょっと小説書きの練習をしようと思います。書き続けるかは未定。


「なんつーかさ。俺、つくづく思うんだよ。働いたら負けだなって」

 

それは、とある早朝の一風景。長き修行の果てに悟りを開いた聖者のような表情で男――ニュクス=アバターは言った。気だるげに頬杖をつきながら、テーブルの先にいる偉そうな赤い髪をした女に、死んで1年経った魚の様な目で視線を送る。

 

「ふーん、じゃあ私に養われるの、止める?」

 

ニュクスのその視線を受け、女は優雅な振る舞いで組んでいた足を組み替える。

 

「いやいや、そんな事したら俺、死んじゃうよ・・・?」

 

既に限度を超した死んだ目をしている奴が死んじゃうよ?と言うと、本当にヤバそうな気がするのだが、女――イヴ=イグナイトはその程度では心配等微塵も湧かなかった。

 

「そう、なら死ねば良いんじゃない?」

「だが断る。」

 

イヴはサッと席を立ち、自分の言った事へ即答したニュクスへ少しイラついた表情で首を絞める。ニュクス=アバターはニートであると同時に、この世界に転生してきた存在である。これは誰にも話しておらず、気付いたらこの世界にいたのだ。そんな状況でいきなり衣食住を確保する事等出来ず、偶然拾ってくれたイヴの世話になっており、それから約1年が経ち現在に至る。

 

「あんたねぇ・・・いい加減働いたらどうなのっ!?」

「ぐ・・・ぐるしぃ・・・息、息がぁ・・・」

 

もがき苦しむニュクスを見て、イヴはため息をつきながら、ニュクスの首に巻いていた腕を放す。

 

「痛たたた・・・・・・全く、この暴力泥酔女め!」

「はぁっ!?誰が暴力泥酔女だって?!」

「ちょ、首駄目!暴力反対っ!?あ!駄目!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「失礼します。・・・・・・失礼しました。」

 

またもや腕でニュクスの首を絞めているイヴ。そんな上司の姿を見た小柄な少年は、まーた何時ものか、と判断し、自分も巻き込まれ無い様にとそっと開けかけたドアを閉めようとする。

 

「待ちなさい・・・・・・報告でしょ?」

 

イヴはニュクスの首を締め落として、ふぅと溜め息を尽きながら扉から覗いている小柄な少年――クリストフ=フラウルを中に入れる。入って来たクリストフは報告書を持ち、イヴへとその報告書を受け渡す。

 

「・・・はい、アルザーノ帝国魔術学院に、テロリストが侵入した件なのですが、どうも、天の智慧研究会が関係していたそうです。」

「へぇ・・・グレンの居る所ね・・・目的は何か分かっているの?」

「はい、テロリストの仲間であったヒューイ=ルイセンが、学生であるルミア=テンジェルを攫い出せと命令されたと述べたそうです。」

 

イヴは渡された報告書に目を向けながら、しばらくの間思考に没頭する。あの憎たらしい正義の味方願望が居るのなら、一応は攫われる事はないだろう。しかしアイツが此方へ連絡を取って来るとは思えない。ならば連絡が取れる様に此方から誰か送った方が良いだろう。

 

「起きなさいニート。アナタの仕事が決まったわよ?」

 

イヴは白目を向いて寝ているニュクスの頭部に手刀を入れる。ニュクスは痛みによって目を覚まし、イタタタタ・・・アレ?法王君だ?久し振り~、と呑気に手を振って来た。クリストフはそれに変わらないですね、と答えた。

イヴは、ニュクス、と真剣な声で呼ぶ。ニュクスは変わらない眠たげな表情で自分を呼んだイヴの目を見る。

 

「アナタに、アルザーノ帝国魔術学院へ学生として、ルミア=テンジェルの監視、及び、天の智慧研究会の調査を命じます。拒否権はありません。良いですね?」

「・・・・・・・・・助けて法王君、僕、魔女に殺されちゃう。」

「いえ、(ニートへの)正しい判断だと思います。」

 

イヴの視線から逃げる様にクリストフに顔を向け、助けを乞うが、此処で助けると自分の明日(未来)は無いと判断したクリストフは、残酷にも切り捨てる。ニュクスは魔力欠乏症になったかの様に顔色を悪くすると、机に顔を打ち付け、イヴへ呪いを掛けるかの様に呟き始める。

 

「この鬼、魔女、赤い悪魔、泥酔暴力女、変態天才女。」

「・・・・・・これは後でどういう事かみっちり聞くとしましょう。クリストフ、もう良いわよ。」

 

クリストフは扉を開け、お邪魔しましたと言い出て行った。部屋に残された二人の内一人は未だに机に突っ伏している。イヴはどうするべきか困った様に顔を歪める。

 

「・・・好い加減、認めたら?アナタは私達帝国宮廷魔導士団と同じ位に強い。アナタなら任務を簡単に攻略出来るでしょう?それに――」

「分かったよ。受ける受ける。だからそれ以上は言わないでねっ、と。」

 

イヴの言葉を遮る様に、ニュクスは突っ伏していた机から勢い良く顔を上げ、 座っていた椅子から立ち上がる。とやかく言われたく無いのか、顔は勉強から逃げる子供のそれだった。

 

「んじゃ、自分の部屋に戻りますか!んじゃね~。」

 

ニュクスは笑いながら手を振り、退散退散っ、と言いながらドアから出て行く。

 

「・・・はぁ、こんな殺伐とした場所で、心の底から笑えるなんて、本当に変わってる・・・」

 

イヴは逃げて行くニュクスを追うことも引き止める事もせず、ただ眺めていた。

 

思えば会った時から変わっていたかと思い、呆れた顔で眉間を押す。仕事に私情は持ち込むな。いつだったか、私が部下に言った言葉であったが、まさか自分がこうなるとは・・・

 

「・・・しっかりしないと。私は帝国宮廷魔導士団特務分室室長、執行官ナンバー1、魔術師のイヴ=イグナイト。貴方は仕事に集中し、あの憎き正義の味方願望に完膚無きまでに差を付ける。私情なんて、仕事にはいらない。」

 

もはや今までに何度も自分に言い聞かせているのだが、効果が薄いという事は本人も分かっているのだが、ついついしてしまう。

 

そうだ、私は部下等気にかけない。それが宮廷魔導士でも。たとえ、家族であったとしても・・・

 

「・・・・・・家族、か・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前はニュクス=アバター。年は推定16。イヴ=イグナイトに養われている居候だ。イヴと出会ったのは1年前、確か帝都オルランドのとある路地裏。人気の無い場所で俺とイヴは会った。その時のイヴは怖かったね、本当に。ずっと冷徹な表情でこっちを見てた。

 

――貴方が犯人ね。大人しくしなさい。

 

そう言われても俺には意味が分かんなかったし、何より此処何処?俺容姿変わってね?気のせいか俺がやってたゲームの主人公に似てない?と、その時は本当に混乱してた。だから俺は、この人は俺の姿が違う事について何か知ってるのかなと思い、色々と聞いてみようとした。

 

――あn

――喋らないで、詠唱したって無駄よ。

 

いきなり炎が顔の横で小さく爆発したから凄い驚いて、尻餅をついてしまった。もうやだ何コレ?(泣)と思っていた時、それは起きた。

 

――知恵の実を食べた人間は、その瞬間より旅人となった。

 

いきなり俺の周辺が青い炎で燃え始めて、独りでに口が動き始め、俺はニュクス=アバターの言葉を言いながら立ち上がった。もう意味が分からない事だらけで、その時俺は夢なんだコレ、と納得していた。・・・まぁ実際は現実だった訳だが・・・

 

――『永遠なれ』

 

この言葉を喋った時、俺の目の前に居たイヴは口をパクパクさせてて、凄く面白かったな。何かディスペル出来ないとか何とか、まぁ、驚いていた。

そんな驚いてるイヴに追撃で、俺の目の前にゲームのキャラクターが現れたんだ。ペルソナ3というゲームの主人公の使えるペルソナ、『死神』のタナトス。俺はコイツが好きだった。主人公の使う初期ペルソナを差し置いてフィギュア化、そしてパッケージを飾ったペルソナ。何よりも登場シーンが格好良かったのを覚えている。オルフェウス食い破っての初登場と映画での活躍は、是非見て貰いたい。

まぁ、その時のタナトスはアルカナ13と本来存在しないDEATHだとか言われているが・・・まぁそんな事は今は良いだろう。

 

――『グルルルルァァァ』

 

そう、格好良いのだ。いくらムド野郎と言われても俺はコイツが好きだった。だって格好良いから。

でも、一つだけ。一つだけ気にしちゃうんだけどさ――

 

コイツ、全てにおいて燃費が悪くない?

 

――あ、無理、もう無理。倒れる・・・

 

とまぁこんな事があった訳で、名前は皆カタカナだったからパッと思い付いた名前に改名してニュクス=アバターになった。タナトスの呼び出しに力を使い果たして気絶した俺を、イヴが保護してくれた。あの後、犯人は結局捕まったらしく、タナトスは呼べなくなっていた。俺はイヴの部屋で目を覚まし、俺が働き手が無く家も身寄りもないと言うと、イヴは俺を預かってくれた。最初は酷い扱いだったが・・・まぁ預かってくれただけ感謝するべきだろう。本人には絶対に言わないが。

 

「さてと、久し振りの日光だ・・・眩しいねぇ・・・」

 

俺は今、イヴに言われた通りにアルザーノ帝国魔術学院へと足を進める。進めるのだが――

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

「待て!強盗!」

 

何やら見覚えのある顔が遠くにいる警察に追われていた。見覚えのある男は片手に重そうな何かが入った袋を持って走っている。確かに見るからに強盗しそうな顔をしている。

ここは・・・邪魔した方が面白そうだ。

 

『ちょっと・待て』

「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

取り敢えず避けれるだろう速度でもの凄く弱いライトニング・ピアスを男に向けて放つ。当たればちょっと足が止まるレベルだ。男はそれをギリギリで避けた。あの避け方、あの死んだ魚のような目、間違いない。俺は男と同じ位の速さで走り、話し掛ける。

 

「あ、やっぱグレンだ。お久しぶり~。」

「お前は・・・!って、今はそれどころじゃねぇぇぇぇ!」

 

あ~あ行ってしまった。どうやら警察に強盗と疑われていると見た。まぁ、グレンだし、問題無いだろうと考え、ニュクスは学院へとまた足をゆっくりと進める。イヴが既に手取り足取りしてあるそうだから、後は俺がそこへ行くだけである。

 

「ふわぁぁぁ・・・眠い・・・早く学院に着いてゆっくりしたい・・・」

 

俺はニュクス=アバター。今日も俺は室内の温もりを追い求める。例え修羅の道があったとしても、地獄に堕ちたとしても――俺は極楽浄土を目指す。働かずして生活する、素晴らしき環境を――




どうでしたか?
作者はこんな小説を書いておいてペルソナ3 についてそこまで知りません。アルカナ繋がりで書こうと思い付いた感じです。


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ワイルド持ちは大抵変な奴

ペルソナシリーズの主人公は大抵変な奴。そして、この二次小説の主人公も・・・?

コメントを受けてグレンとニュクスの出会った期間について書き加えました。グレンとニュクスが出会ったのは、一年と1ヶ月前、グレン退職の1ヶ月前としました。


「どういう事ですか学院長!」

「まぁまぁ落ち着いてグレン君。」

 

強い風の中で揺れる木々の音で騒がしい朝、まだ学生が来る少し前、グレン=レーダスは何時もよりも早く学院に来ていた。同じ部屋に居た美しい美貌を持つ女性――セリカ=アルフォネアはグレンに質問をする。

 

「グレン、ソイツは確かに『力』のニュクスだったんだな?」

「たぶんそうだ・・・俺がまだ宮廷魔導士の時、俺が辞めたせいで1ヶ月ぐらいしか面識は無かったが、その頃のアイツは仕事を淡々とこなしていた・・・・・・それに、アイツが動く時は、大抵後ろにイヴがいた。今回の件も、天の智恵研究会の調査と、ルミアの監視と言った所だろうさ・・・!」

 

グレンは顔を歪め、強い眼光で握り締めた自分の拳を睨む。軍が動くのはまだ良い。イヴの差し金と言うのが不安で仕方ないのだ。

ニュクスは拾われて間もなく、軍に混じって人を殺した。その力は抜きん出ており、必ず人を殺す前に、誰かに教わったという方法で十字を切っていた。その様子から当初は死神、もしくは正義となる所だったのだが、本人が自分は本当の死神では無いと言い断った。

 

タロットカードには三種類あり、3つある内の一つはマルセイユ版、更に一つはウェイト版と言う。

マルセイユ版とウェイト版、この二つの違いは、正義と力にある。

マルセイユ版には正義が、ウェイト版には正義の代わりに力がある。正義=力、コレ程タロットカードで分かりやすい意味は無いだろう。

断ったニュクスのコードネームは正義となったのだが、犯罪者となった元・正義、ジャスティス=ロウファンの存在もあり、もう一つの正義として『力』のコードネームとなった。力のイメージが自分に全く無い、と本人は嫌っているが。

 

「学院長、ニュクスは俺の所に来るんですよね?」

「そうだ。ルミアちゃんがアルザーノ帝国女王の娘だと言うことがバレないよう、学生としての入学だ。頼んだよ、グレン君。」

 

学院長――リック=ウォーケンはグレンの瞳に訴える。私の学院の生徒を、どうか危険な事から守ってくれと。

グレンはその言葉に当たり前です。と答え、部屋を後にする。

 

「グレンの奴、立派な先生だな。」

 

そんなグレンの背中を安心した顔で見るセリカは、母親の様な暖かい表情で優しく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁダルい・・・イヴの奴、グレンの褒め言葉録音してやるから帰らせてくんないかなぁ・・・」

 

学院の階段にて、ニュクスは残業にウンザリした社会人の様な表情で一人座っていた。どうやら少しすると、この学院は魔術競技祭をするらしく、俺もそれに巻き込まれる可能性が少々あるらしい。この学院では何時も成績上位者を競技に連続して出す傾向があるらしく、少しでも優秀な結果や行動を取れば、とても危ないのだ。

 

「俺、動きたく無いなぁ・・・」

 

もし選ばれたとしたら、それはもう大変だ。ルミア=ティンジェルの監視をしながら競技に出、更には天の智恵研究会まで気にしなければいけない。HARDモード等生温い、MANIACSモードだ。

 

因みに俺の魔術適正は反映である。何かをし、何かを残す。そういった物で、行使した魔術が長く維持出来るらしい。まぁ、人との絆がペルソナを生むのだから、反映になるのは当然と言ったら当然なのだが。

 

「やってらんねぇ・・・俺の分までグレン、お前が頑張ってくれ・・・」

「なーにが俺の分までだ。コイツめ。」

 

声のした方向に顔を向けると、後ろにグレンが居た。ここから上の階層だと学院長室がある。イヴが俺を寄越して来た事についてを学院長と話していたのだろう。

グレンは俺の隣に座ると、白い手袋の付いた手でニュクスの青い髪を雑に撫でる。

 

「俺だって好き好んで働いてる訳じゃねぇんだよ。」

 

グレンはそう言うが、学院長から聞いた話だと、生徒を大切にしている良い先生だという。グレンが素直じゃ無いのは相変わらずか、とグレンのそういった所が変わっていない事に安心したニュクスは良かったと言いながら笑う。昔、俺が軍に入ったばかりの頃、グレンは大切な人を失った。その日の事からグレンは軍を抜けたのだが、養ってくれていたらしいセリカのおかげで、腐らずにいれたのだろうか。グレンの目は、前より大分良くなり、死んで一日経った魚の目をしている。

 

「例えそうでも俺は働きたく無いよ。だからグレン、お前に凄い期待してるからな。本当に。」

「それ、イヴの奴が聞いたら殺されるぞ?」

 

止めてくれ、本当に聞いて無いか心配になるだろうが。

グレンはイヴの事が嫌いだ。大切な人――セラ=シルヴァースが亡くなったのは、元・正義、ジャスティスの他にイヴが関わっていたからだ。イヴは作戦の為に、セラとグレンを囮として使った。もし囮で無かったら、作戦中にグレンを庇ってセラが死んだ事も無かっただろう。俺は当然イヴに聞いた。何故グレンとセラを囮にした、と。そう言ったらイヴは、仕方のない事だった、と返して来た。その日の俺は、まぁ、凄い荒れたよ。しばらくイヴとは顔を合わせられ無かった。本当の理由を知るまでは・・・

俺の前でイヴとちゃんと名前で呼ぶのは、俺を養ってくれていたのがイヴだからだろうか。

 

ニュクスが思い出に浸っている隣で、グレンは立ち上がり、先程髪を撫でて来た方の手を差し伸べて来た。

 

「さて、もうそろそろホームルームの時間だ。行こうぜ。転校生?」

「仕事、気に入ってるじゃ無いか・・・ハイハイ、分かりましたよ、先生。」

 

ニュクスは差し出された手を掴み、階段から腰を上げる。どうやら来てからかなり時間が経っていたらしい。グレンの行く道に従って移動すると、自分がこれから学生として生活する場所、2年2組の教室の入り口に着いた。学生の賑やかな声が聞こえてくる。その楽しそうな声を聞き、もしかしたらと、ふとニュクスは思った。

セリカだけじゃない。グレンは此処で生活する事で、今の様な明るい表情になれたのかもな、と。

 

――この体で学院生活、か。まさかなるこんな事になるとはね・・・

 

グレンの手によって扉が開かれる。眩しい日光が差す中、グレンを先頭にニュクスは教室の中へと歩を進める。足進める事に男女の口から歓迎の言葉が聞こえてくる。どうにも新鮮な感じで、思わず生徒達を見るのを止め、グレンの方を向く。

 

「何だ?恥ずかしいのか?良~し!お前ら!コイツが今日から此処に転校して来た、ニュクス=アバターだ!」

 

グレンがニュクスの背中をその大きな手で叩き、ほら、自己紹介して来い。と笑顔で告げた。ニュクスは叩かれて少し前に出され、沢山の人の目の中、自己紹介を始める。

 

「ニュクス=アバターです。・・・宜しくお願いします。」

 

ガクッ

思わずそんな効果音が付きそうな位に、グレンとクラスの生徒はずっこけた。

ニュクスは極度の恥ずかしがりやで、こういった事は苦手なのだ。前世でも高校生になって直ぐの自己紹介の時、何を言えば良いのか四六時中考え、友人に相談までして、挙げ句の果てに名前を言って宜しくで終わりとなった。情けない。

 

「えっと、もうちょっと無いの?」

「え・・・、!寝る事とダラダラする事が好きです。嫌いなものはダラダラする時間を奪って行く赤髪の高慢な女です。宜しくお願いします。」

 

自己紹介に突っ込みを入れて来た銀髪の猫の様な女生徒――システィーナ=フィーベルを見て、ニュクスはとても驚いた。あまりにもそっくり過ぎるのだ、セラに。見ているとセラとの思い出を思わず思い出してしまいそうだ。

 

――たぶんグレンも、この子にセラの面影を感じているんだろうな・・・

 

「んじゃ、ニュクスはあのルミアの後ろの席に座ってくれ。」

 

ニュクスは全員の視線が少しずつ無くなっていく事で緊張がほどけて行くのを感じながら、グレンに言われた通りに自分の席へ移動する。ルミアの後ろの席にしてくれたのは、ルミアの監視がしやすい用にだろう。ルミアの安全の為とも言える。

 

「えっと、宜しくね。」

「ん?あぁ、宜しく。」

 

自分とは反対の明るい人だな、と笑顔で挨拶をしてきたルミアに対してニュクスは思った。ペルソナ3のキャラクターだと何だろ?等ふざけた事を考えながら、適当に挨拶を済ます。

 

ニュクスはルミアに挨拶を済ますと、隣に居たシスティーナに名前を聞く。これで――有り得ないとは思うが――セラの血族だったなら、俺はコイツを特に守るべきなんだろうとニュクスは思った。セラとグレンには短い間だったが、良くして貰っていた。その恩をいつか返したいと、ニュクスは今でも心の底から思っていた。

 

「私?私はシスティーナ=フィーベル。宜しく。」

「うん、宜しく。」

 

どうやら違ったらしい。少し期待していたが、最初から有り得ないと思っていた為、落胆は小さかった。それにしても良く似ている。特に猫耳の様になっている部分等、セラの犬耳に似せているのかと思ってしまう。

 

「よーし、お前ら!何か質問あるか?無いならこのまま終わりにするが――」

「はい!ニュクス君は何処から転校してきたの?」

 

質問して来たのは、元気が人になった様なツインテールの女生徒―― ウェンディ=ナーブレス。転校前の学院は何処って設定だったっけ・・・

 

「・・・・・・・・・あ、東の国にある月光館学園と言う所に居ました。」

「今の間は・・・・・・えぇっと、じゃあ好きな食べ物は!」

「謎のたこ焼きとはがくれカップ麺です。」

「謎?はがくれ?・・・えぇっと、じゃあ、嫌いな食べ物は・・・?」

「メギドラオンです。」

「メギ・・・ドラオン?」

 

この意味不明な返答に、クラス中が混乱した。グレンに至っては思考を放棄してボーっとしている。余程の事が無い限り考え続けるシスティーナを持ってしても、思考を放棄する他無かった。

 

「えぇっと、変わってる・・・ね?」

「そう見える?」

 

こうしてニュクスは入学早々に印象に残る挨拶を残し、クラスの空気に溶け込んでいった。

 

しめしめ、これだけ変な奴を演じれば、競技祭に選ばれる事も無いだろう・・・グヘヘヘヘ。

等と腐った考えを持っている等誰も気付かず、ニュクスは翌日からは面白い奴、としてクラスに受け入れられた。そんなニュクスにイヴは毎晩連絡を取って来るが、好い加減、さり気なくグレンの様子を聞いて来るのはどうにかしてほしい。本当にグレンの誉め言葉を録音して送ってやろうか、そう思うニュクスであった。




十字については原作にて羊太郎さんが女性だったら、と言っていたキャラクターです。
最近、ペルソナ3始めました。一日でタルタロス一気に登ったら(キャラクターが)風邪になりました・・・


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察しの悪いヒロイン

FGOで福袋の為に課金しました。
最近引き運が凄くて、ホームズが呼符で1発、福袋はスーパーケルトビッチとクレオパトラ。水着復刻で十練2回で弓王と水着マルタ、槍きよひーと弓メアリーアンが出てます。
この小説もお気に入りが一気に増えて・・・来年の運が心配だなぁ・・・


「ようこそベルベットルームへ。」

 

一面青い光に彩られたエレベーターの中の様な幻想的な部屋。自分の目の前に居座る何処か現実からかけ離れた様な、鼻の長い老人。その隣には、本を持った青い服装をした女性が立っている。

 

「ここは・・・」

「私はこのベルベットルームの管理者、イゴールと申します。」

「エレベーターガールの、エリザベスでございます。」

 

どちらも知っている。ペルソナのストーリーテラーと、ペルソナ3のペルソナ全書の管理人だ。

イゴールは机に両肘を立てて寄りかかりながら客人(ニュクス)へと話し始める。

 

「ここは意識と無意識の狭間をたゆたう部屋。感性豊かな者のみが、ここへの扉を見出すのです・・・さて、御用を伺いましょうかな。」

 

御用と言われても全く俺には心覚えが無い。今日もイヴとの連絡を取り終えて、さぁ寝ようと思って寝たのだが・・・何が起きたのか、どうやら、ベルベットルームに来てしまったらしい。

 

「御用が無い・・・成る程。まだ貴方自身はこの部屋を必要とはしないのかも知れませぬ。しかし、運命は確かに此処へと貴方を呼んだのです。きっと、これも何かの縁なのでしょう。」

 

ニュクスの心を呼んだかの様に老人――イゴールは自分の座っているソファの前に置いてある机にタロットカードと思わしき物を並べて行く。

 

愚者のアルカナ、星のアルカナ、戦車のアルカナ、そして、女帝のアルカナ。

 

4枚のカードが机を離れ宙に舞い、それぞれが裏表と回転しながら光っている。青白い儚い光は、まるで蛍の光の様にも見えた。

 

「・・・・・・あぁ、そういう事か。」

「おや?何かお気付きになされましたか?」

 

今まで俺は軍での活動でペルソナを使って来た。しかし、どうしても前世で使っていたペルソナの殆どが使え無かったのだ。レベル20ぐらいまでが今の限界だ。何故使え無いのか、それがとても不思議に思っていたのだが・・・

 

「うん。・・・成る程、確かに此処に来た意味はあった。明日は魔術競技祭の日程を決める大事な日なんだ。だからここら辺で戻ろうと思う。」

 

今所持ペルソナを合成しても良いのだが、どうせならその愚者、星、戦車、女帝をどうにかしてからにしてみたい。

 

「そうですか。では、またお会いしましょう。」

 

イゴールがそう言うと、俺の意識は朦朧として来た。きっと目が覚めるのだろう。周りの家具、部屋全体に靄が掛かり、ついにイゴールとエリザベスの姿もはっきりと見えなくなる。

 

「貴方の旅路はとても面白い物です。どうか、その旅路に幸がありますよう、私達は貴方をいつでも見ております。」

 

またお会いしましょう。

エリザベスの言葉を聞き届け、俺はベルベットルームを去って行った。またいつか来ると伝えて――

 

 

 

 

 

 

 

放課後のアルザーノ帝国魔術学院、東館二階。

 

「じゃあこの競技出たい人?」

 

教室内ではシスティーナとルミアが前に出て、チョークを持ちながら黒板の前に立っている。魔術競技祭で誰が何に出るかを聞いているようだ。

 

「・・・はぁ、困ったなぁ・・・・・・来週には競技祭なのに全然決まらない・・・」

「ねぇ皆、せっかくグレン先生が今回の競技祭は好きにして良いって言ったんだから、思い切って皆で頑張ってみない?」

 

ルミアが提案を出すが、誰一人としてやりたいと言う人は居なかった。システィーナは肩を落とし、落胆の表情を見せる。

 

やりたい人は挙手、とは言ったものの、誰一人として手を挙げようとはしない。それもそうだろう、毎年この魔術競技祭には魔導省に勤める官僚や帝国宮廷魔導士団の団員等、数多くの人々が足を運ぶのだ。何よりも今回はこの帝国の女王陛下――アリシア七世が見に来るのだ。誰も自分の無様な姿は見せたいとは思わないだろう。

 

「困ったなぁ・・・この競技も居ないの?」

「全く、無駄な事を・・・・・・」

 

静寂が支配する中、突然眼鏡の少年が席を立った。

少年の名前はギイブル=ウィズダン。皆からは皮肉屋な事で知られている。

 

ギイブルは立ちながら、システィーナを見下ろす形で持論を喋り出した。ギイブルの持論は少々嫌味な物言いであったが、この場にいるクラス全員の心情を的確に突いており、それをあまり良いと思わなかったシスティーナと遂に口論を始めようとした。その時だった、廊下からドタタタタと足音が聞こえて来た。

 

「お前らぁぁ!」

 

バンッと勢い良くドアが開き、このクラスの担任であるグレンが現れる。これに生徒達は、好きにして良いと言っていたグレンが現れた事に驚きを隠せない者と、面倒なのが来た、と呆れている者で反応が別れていた。約一名、どうでも良すぎて疲労回復の為に寝ている者も居るが・・・・・・。

 

「話しは聞いた。喧嘩なんて止めろお前ら、俺達は、勝利という一つの目標を目指して戦う仲間じゃないか!」

 

グレンの死んだ目は何時もの数十億倍以上に輝き、その時考えていた事と全く似合わない爽やかな表情で笑みを浮かべていた。――キモい、そう思った読者様はこのクラスにきっと馴染めるだろう。彼らもそう思っていたのだから。

 

システィーナはこの場に現れたグレンに何しに来たのかを問う。隣にいるルミアも興味深々と言った感じで近くへと寄る。

 

「あの・・・・・・先生何しに来たんですか?今言われた通りに自分達で決めている所何ですけど。」

「え?誰に言われたんだ?」

 

思わずシスティーナとルミアだけでなく、クラスの全員がは?と思った。自分の言った事を速攻で忘れる。というか、面倒な事は好い加減に決める、それがグレンスペックである。・・・・・・駄目だコイツ、早く何とかしないと・・・・・・

 

グレンはそんな全員の反応を見て、あ、あぁ思い出した思い出したぁ!等と言い、次の瞬間には野心と熱情に煌々と燃えた瞳で、偉そうに宣言する。

 

「俺が指揮を執る!全力で勝ちに行くぞ?俺がお前らに優勝をプレゼントしてやる。だから、遊びは無しだ。俺の編成で行く。心しておけ。」

 

これを聞いたクラスの全員は嘘・・・だろ?と心中が一致した。何時ものグレンの低温生物度からは予想も出来ない熱血ぶりに、生徒達はどよめきながら顔を見合わせる。

 

「五月蝿いなぁ・・・・・・ん?決まったの?もう授業終わった?」

 

グレンの登場とどよめきにより、夢の中から帰還したニュクスは、現在の状況を隣の席の紫色の髪をしたおっとりとした女生徒――テレサ=レイディに聞く。

 

「良く寝るのですね?今グレン先生が競技祭の編成をすると仰ったのですが・・・・・・」

「あ、『決闘戦』は白猫、ギイブル、カッシュだな。『暗号早解き』はウェンディで確定・・・『飛行競争』はロッドかな?もう一人はカイだとして・・・」

 

怒涛なる速さで決まって行く競技の数々。どうやらグレンはちゃんと生徒の事を見ていたらしい。質問を受けても理由を答えてくれて、それが全て納得の出来る物だと言うのだから恐ろしい。

 

その様子に、ギイブルとニュクスは歯軋りする。

ギイブルは成績上位層で固めれば良いのにふざけているのか、と。

ニュクスは俺の任務の難易度を上げるな、給料全部俺が引ったくるぞ、と。

 

「『変身』は・・・ニュクスかリンだな・・・」

「!?」

 

グレンからしたら全員出なくちゃいけないのなら、任務の妨害にならない用、一番簡単なのにしてやろう。と気遣いしているのだろうが、本人からしたら、上位層で固めて!お願いだから!?といった感じである。

グレンは顎に手を添え考える素振りをし、やがて――

 

「良し、『変身』はニュクスに――」

「ぇ・・・」

「」

 

編成が決まった。と思い、口に出した時、小柄で気弱な少女――リン=ティティスが絶望したかの様な声を出し、ニュクスは決定に絶望し、白目を向いて口から魂が出かけていた。

黒板に文字を書いていたグレンは、その小さな声を聞き、決定と言わず、改めて『変身』の発表をする。

 

「・・・・・・良し。変身はリンにしよう。ニュクスは器用だから残った『魔法瓶一気飲み』で良いよ・・・・・・な?」

 

グレンは黒板から目を背け、ニュクスの方を見ると、気絶しているニュクスが目に入った。何で?と思ったその時、ギイブルが再び立ち上がり訴えた。

 

「先生、ふざけているんですか?こんなの全て成績上位層で固めれば良いでしょう?」

「・・・・・・え?」

 

グレンの動きが止まり、思考が真っ白になる。

え?何?そんなんいいの?硬直状態のまま、グレンの脳にとめどない思考が流れて行く。グレンは自分が勘違いしていた事に気づき、内心でガッツポーズを取っていた。

 

――これでニュクスも任務が楽になり、俺も何とか賞金が貰えそうだ・・・!

 

グレンが正に編成を変えようとした時、悲劇は起きた。

 

「何を言ってるの!ギイブル、貴方、せっかく先生が皆が活躍出来る用に考えてくれた編成にケチつける気!?大体、成績上位層だけで競いあっての勝利なんて、何の意味があるの!?そもそも――」

 

――ちょ、止めてぇぇぇ!?

 

システィーナがギイブルへと反論する。ギイブルの案に乗ろうと思っていたグレンからすれば本当に勘弁して欲しい所だ。システィーナはクラスの全員へと出たくないのかと訴え、長い長い話し合いの末、ギイブルは、ふん、君は相変わらずだね。まぁ、それがクラスの総意なら好きにすれば良い。と言い、クラス全員での参加を渋々認めた。

 

――てめぇ押し弱すぎだろ草食系男子がぁぁ――ッ!

――死んで詫びろこの中二病こじらせ野郎がぁぁ――ッ!

 

クズ二人の心の声等つゆ知らず、ギイブルはスッと席に座り、システィーナは良かったですね!先生!とグレンの前でニコリと笑った。他から見れば可愛らしく見えるのだろうその笑顔は、ニュクスとグレン、双方にクリティカルヒットを食らわせた。

 

「も、もしもイヴに監視対象を見失ったなんて知れたら・・・・・処刑される・・・・・・!?」

「ま、せっかく先生が珍しくやる気出して、一生懸命考えてくれたみたいですし?私達も頑張ってあげるわ。期待しててね、先生。」

「お、おう・・・・・・任せたぞ・・・・・・」

 

待っているのは日常か、それとも地獄か。ニュクスは顔を青ざめ、グレンは自分を追い詰めたシスティーナ(悪魔)に顔を引きつる。

 

「な、何だろうなぁ・・・この噛み合っていない感じ・・・」

 

ルミアは混沌とした教室を眺め、苦笑いしながら呟く。

こうして、アルザーノ帝国魔術学院、二年二組の苛烈な魔術競技祭練習は始まった。全ては優勝と(まともな食事)の為に、安全(処刑回避)の為に――




イヴ「悪口を言ってる時点で処刑は確定、慈悲は無い。」


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どうでもいい話

何でも無い日常の一部と原作と少し違う所。

お待たせしました。
うぅぅ旅行疲れた・・・・・・


魔術競技祭開催一週間前、編成が決まって1日が経ち、ニュクスは学院でシスティーナとルミア、グレンと一緒に食堂に居た。

最初はグレンとニュクスの二人で食事をしていたのだが、しばらくしてグレンを探していたシスティーナを連れたルミアが隣に座り、共に食事をすることになった。

 

「なぁニュクス、お前好きな人とか居ないのか?」

「随分といきなりですね・・・」

「あ、それ私も聞いてみたいなぁ~。どうなの?」

 

グレンの思春期の男子の様な質問にルミアは興味深々といった感じでニュクスに聞く。

ルミアがニュクスに興味が湧くのは、とある一点に置いて、ニュクスとルミアは近いものがあるからだ。ルミアは現在、システィーナの住む屋敷に同居しており、朝になってシスティーナにもう朝よ、と言われても、後3分と引き伸ばし、これを延々と繰り返すのだ。いつもシスティーナが起こしにベッドの布団を剥ぐのだが、布団の端を持って離さないと言う。ニュクスはそれと良く似ていて、布団から出ず、朝はしばらく布団を装備して行動する。起きるのも大分遅く、イヴ――これは言っていないが――が炎を片手に寄って来るのを勘で察知するまでは寝ている。遅い時は過去最大で23時から14時まで計15時間寝ていた。この事から親近感を感じ、ニュクスとルミアは仲が良い。

ニュクスはしばらく考え、自分の望む人物像を言い表す。

 

「好きな人ですか・・・・・・布団愛好家なら良いですね。あ、でもツルツルの生地は駄目ですね、こう、薄くて通気性の良い布団が好きな人ですかね。」

「それ分かるかも。私もツルツルよりは涼しい感じの、タオルケットみたいなのが――」

 

白熱する布団談義。グレンはどうしてこうなった、と遠い目をしており、システィーナは友人の変わった一面に困惑するも、直ぐに終わりそうにない話し合いにストップを掛ける。

 

「ストップ!ストップ!グレン先生が遠い目しちゃってるから・・・・・・」

「あぁ、悪い。・・・・・・そういえばさ?」

 

システィーナのストップによりニュクスは話すのを止め、何か話題が無いか考え、ふと聞きたかった事を思い出した。ニュクスはグレンへとニヤニヤとした表情で問い掛ける。

 

「先生、お金ギャンブ――」

「だぁぁぁっとけぇぇぇ!!」

「先生っ!?」

 

ニュクスの皿に盛ってあったケーキを強引に口にねじ込むグレンの姿に、食堂に居た生徒達は何だ何だ、またグレン先生が何かやったのか?と視線を向ける。システィーナとルミアはそれとは別に、驚いた後、ポカーンと口を開けている。

 

ひごいははいへふは、へんへい(酷いじゃないですか、先生)

「んー?何言ってるのか分からないなー?」

 

コイツ、死んでくれる?と内心で思ったニュクスは、自分のポケットに入っている通信機に反応があることに気付き、口に押し込まれたケーキをモグモグと食べ、そのまま口の周りに少し付いたクリームを自分の親指で軽く拭き取りそれを舐め席を立つ。いきなり席を立ったニュクスに、グレンは怒らせちまったか?と心配するが、ニュクスはそんな事無いですよ、ちょっと用事が、と言いながら移動を開始する。

 

ニュクスは食堂を出て誰も居ない階段で、自分のポケットに入っている通信機から連絡を取りたがっている人物と話し始める。

 

「何だイヴ?今はまだ学院内だぞ?」

『ごめんなさいね、牢獄から元・『塔』のアンリエッタが今朝になって消えていたらしいわ。見かけたら連絡お願い。』

 

『塔』のアンリエッタとは、NO.21『世界』の頃のセリカによって牢屋送りとなった者である。セリカは当時任務によりとある村へと向かい、アンリエッタの悪事に気付きイクスティンクション・レイをアンリエッタへと放った。殺さずにジワジワと苦しませる為に、ギリギリの所で死なないようにしたセリカは、任務終了と共に、アンリエッタを牢屋送りにしたのだが、何十年も経った今、何故逃亡したのだろうか。どうやって逃亡したのか疑問に思うニュクスは、イヴに詳細を聞く。

 

「牢屋の状態は?」

『損害大有り。多分魔術ね、アンリエッタ以外の誰かが連れ出したと考えるのが妥当ね。』

 

牢屋送りになると、生きるのに最低限必要な分のマナになるよう削減される。よってアンリエッタが牢屋から抜け出す事は不可能であると考えられる。異能者だったなら分からないが、アンリエッタは異能者では無い。牢屋には看守が2人付いていたが、どちらも殺害されていたらしい。

 

「看守の腕も高かった筈、つまりそれ以上、するとただのテロリスト及び犯罪者以外の人物か・・・・・・?アンリエッタを連れ去って得するのは・・・・・・」

 

まず第一に思い付くのがジャティス。同じ元・ナンバー持ち宮廷魔導士だ、何か事件を起こすパートナーとしては使えるかも知れない。

もう一つは天の智恵研究会。正直言って一番面倒なのがコイツら。常識が無いしこの国で一番大きい犯罪組織だろう。アンリエッタが組んだ理由として考えられる理由は宮廷魔導士への復讐、もしくはセリカへの復讐だろうか。

 

「・・・・・・分からないな。けど警戒すべきだな、分かった。こっちも一層周囲に気をつけるよ。・・・・・・お前も気をつけろよ。」

『誰に言ってるのかしら?私がアンリエッタ如きに負けるとでも思った?安心しなさい。それよりグレンにも伝えて。アンリエッタとその仲間がルミア=ティンジェルを襲撃しに来るかもしれない、とね?』

 

慢心が透けて見えるイヴの返答に苦笑いしながら了解と答え、通話を切る。当分は警戒を怠らず、常に注意すべきだな、と決めて食堂へと戻る。

 

「あ、グレン先生、後で話があるんで。さて、何を話してたんですか?」

 

ニュクスはグレンへと話し掛けると、グレンは、今丁度お前の話をしてたんだよ。と答えた。何やら競技祭について話していたらしい。

 

話の内容としては、魔法瓶一気飲みについてだったらしい。

魔法瓶一気飲みとは、その名の通り魔法瓶を一気飲みする競技で、魔法瓶の中には、薄くした意識を奪う成分が含まれており、それを意識を失わずにどれだけ飲めるか、という割と根性に依存する競技である。似た様な競技にルミアも出ているが、そっちはもっと危険なので、正直少し注目されない影が薄い競技である。

 

「それにしてもニュクスは大丈夫だったの?その競技で?」

大丈夫だ、問題無い。(嫌だよ、本当は。)

 

システィーナの質問に答えるニュクスは、どこか作り笑いに見えたのだが、システィーナは見間違えかと判断し、グレンに何故ニュクスにしたのか、興味深そうに聞く。

 

「先生はどうしてニュクスを魔法瓶一気飲みにしたんですか?」

「ん?あぁ、器用だからだよ。コイツが。」

 

え?とルミアは不思議に思った。器用ならばもっと他の競技、特に大目玉の決闘戦で活躍出来たのでは?と思ったのだ。システィーナも同じで、思わずニュクスの顔をジーッと見る。

 

「俺は特筆すべき事が無いからだろうさ。グレン先生は嘘ついて器用だとか何とか言ってカバーしてくれてるけど、学力、魅力、勇気、全て星5の内3、つまり平均的ってだけさ。ほんの少し得意な変身が無ければ、俺は他の競技出ても他の人の方が適任だから簡単なのになったんだよ。」

「それ、魅力は関係あるのか・・・?」

 

これ以上嘘の理由を話していると、その内ボロが出そうなので、ニュクスはまぁそれは置いといて、と話を逸らし、ニュクスはシスティーナとルミア、グレンの三人に質問をする。

 

「グレン先生、毎日男子生徒のヘイト高めさせて何しようとしてるの?ヘビーカウンターで一層させようとしてるなら止めないけど。」

「はぁ?どういう事だよ?」

 

グレンって馬鹿なのかな?と思いながらニュクスは周りを見るように言う。グレンへと向かれているまるで刃物の様な冷たく鋭い視線に、グレンは冷や汗を流す。

 

――ジーッ

 

「お、お前たち、確かに俺の隣にはルミアが居るぞ?だが良いのか?」

 

グレンは生徒のヘイトを鎮めるために、内心で焦りながらも説得する為に、冷静を装って胸を張って演説を始める。

 

「その様な心を、ルミアが喜ぶのか?違うな、間違っているぞお前たち!お前たちのその荒ぶる気持ちも、殺意だって分かる。だがっ!そうじゃ無いんだよ!ルミアが喜ぶのは、皆の笑顔と、優しい心を持った者なんだよ・・・・・・!今のお前たちが、ルミアに好かれることは一生無いだろうな・・・・・・だが、まだ間に合う。今ならきっと、ルミア様はお許しになってくれるだろう・・・・・・。」

 

グレンの演説により、食堂に居た生徒達は皆ハッ、と目を見開く。そこにさっきまでの表情は無く、あるのは穏やかな綺麗な表情。

 

「え、ええっと・・・・・・」

「「「すみませんでした、ルミア様!俺達は間違っていました!でもどうか、どうかお許しを!」」」

 

困惑するルミアに土下座し、謝罪する男子生徒達。他の女生徒達は呆れ顔を突き通って、家畜の豚を見るような目をしている。

ルミアは慌てて土下座を止めるように言う。

 

「え、や、止めてよ?皆を別にそんな風に思って無いから、ね?」

「「「あぁ、有り難きお言葉、感謝永遠に。」」」

 

変わり果てた生徒達の姿に、ニュクスとグレンは笑い声を我慢しようと堪えているが、体が震えており、笑っていると一目で分かる。システィーナは呆れ顔でルミアを連れて食堂を出ようとする。

 

「本当男子って馬鹿ばっかり。行こう、ルミア。」

「え、あ、うん。」

 

システィーナに手を引っ張られ、ゆっくり食堂を出るルミア。その頃グレンは食堂の人に呼び出され、此処は食堂だ。良いな?と怒られていた。ニュクスは男子生徒と言う括りで、馬鹿呼ばわりされたギイブルに合掌し、システィーナとルミアを見送る。ルミアがそれに気付き手を振ったので、ニュクスも手を降って見送る。

 

「良し、皆席に戻れ。ルミア様が本当に好きならば、此処で迷惑を掛けてはいけないからな?」

「「「サーイエッサー!」」」

 

ニュクスの命令に逆らう者は居らず、男子生徒達は全員自分の座っていた食堂の席へと移動した。

 

「ふぅ・・・アレ?グレンが居ない・・・・・・仕方無い。」

 

ニュクスはイヴの伝言を伝える為に、食堂の外で、怒られているグレンが来るまで待機するのであった。




なるべく投稿する日は影時間(0時)投稿にしよう。
ペルソナ3は現在荒垣さん死亡。泣いた。以上。

次は競技祭かな?たぶん。


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今日は地獄の運動会

遅れてスミマセン・・・・・・リアルでコミュ活動(友人との遊び)や学力アップ(発掘された忘れ去られていた宿題)をしててタルタロス攻略(執筆)が全く進みませんでした・・・・・・
そんなほぼ白紙の宿題があるのに、私の夏休みはあと7日(と1日)で終わる(白目)


「はぁ・・・・・・」

 

教室の窓から空を見て、溜め息をつきながらニュクスは眠そうな顔で自分の席に座っていた。溜め息と共に欠伸まで出てきており、その姿からはやる気どころか立つ気力すらも全く感じられない。

 

「さぼりてぇぇ・・・・・・」

 

ニュクスの心から漏れ出す呟きは誰の耳にも届かず、逆に、楽しそうに笑っている同学年の生徒達の話しがニュクスの耳に入って来る。

 

「楽しみだね!システィ!」

「そうね!」

「深呼吸深呼吸・・・・・・」

「大丈夫かよリン?そんな緊張すんなって!」

「君は人のことを言えないだろう、カッシュ?さっきまでガチガチになっていたのは何だったんだ?」

 

勝つ事より楽しむ事を大事にしているのは良いことなのだが、そのテンションで今の俺に話し掛けないで欲しい。正直ウザイ。俺は返事の無いただのマーヤですよ?俺と話す為に二酸化炭素を排出しないでください。地球温暖化が進む。

 

そんな無気力症に掛かったかの様なニュクスの姿を発見したルミアは、システィーナだけで無く、その他の何人かを連れて歩み寄り、空いていた隣の席――テレサの席に座り、少し心配するような顔で話し掛ける。

 

「ニュクス君大丈夫?体調悪いの?」

「いや?ただ眠いだけ。」

 

ニュクスの死んだ様な表情から放たれた一言に、周りに居た人達は、楽しみで眠れなかったのか、案外子供らしいな。と判断した。全然違う、と言うか180°真逆だ。

 

「そうなんだ。それじゃあ良かったね。今日は心地良い日差しだからお昼寝出来るね?」

 

クスッと笑いながら言うルミアに、ニュクスはそうだね。と短く答え、ウトウトとし始める。でも、応援とか競技はちゃんと起きてよ?とルミアが軽めに忠告するが、ニュクスの耳には届いていない。既に寝てしまっている様だ。

 

「お休み。」

 

ルミアとその他の生徒達も呆れた様な顔をしながら暖かい表情でニュクスの寝ている姿を見る。こんな一大イベントが有っても、コイツはブレないなぁ、と皆がそう思い、しばらくはまるでクラスのペットの様にニュクスは観察された。本人はグレンが来るまでぐっすりと眠っており、その事には全く気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――数時間後、アリシア七世の演説により、魔術競技祭は始まった。各クラスの生徒達は担任の先生に激励の言葉を受け取り、掛け声を上げて、決まっていた自分達の席へと座る。ニュクスはルミアの後ろに座り、ゲンドウポーズを取り、周りに聞こえるぐらいの声で呟いた。

 

「さて、俺は寝るかねぇ・・・・・・」

 

勿論嘘だ。ルミアの監視を人の沢山居る中で外せられない。深夜に誰にも気づかれない様に学園に忍び込み、ちょっとした仕掛けを施したニュクスは、その仕掛けにパスを通し、そっと目を閉じて集中する。

 

瞬間、脳裏へと広がる沢山の景色と人の声。学園の中とその周辺の景色がニュクスの監視下に置かれた。

 

――見た所、怪しい動きは・・・・・・特に無い・・・かな。

 

ニュクスの監視も完全では無い。特にアリシア七世とセリカの居る特別席には仕掛けを準備出来なかった。国の女王が見る場所に誰でも入れる訳は無く、祭前の段階でも侵入することは出来なかった。

 

ニュクスが集中している中、約束を破り、いきなり寝ると言ったニュクスに、ルミアは少し怒っている様で、意外にもシスティーナよりも早く、優しく注意をする。

 

「だーめ。起きてちゃんと応援する。」

「ん・・・・・・善処する。」

 

寝る事を皆に伝える事で、普段寝ている自分は監視の邪魔をされないと思っていたニュクスは邪魔された事に少し驚くも、直ぐに適当に返事をする。と言っても、目を瞑っている状態で返事――それも適当に返した所で、ルミアが引き下がる訳も無く――

 

『目覚めの水よ』

「ぶっ・・・・・・寒い・・・」

 

顔面に少量の冷たい水が水鉄砲の様に飛んで来る。あまりの冷たさに仕掛けとのパスを切ったニュクスはビクッとして、水をぶつけて来たルミアを恨ましそうに見る。それに対してルミアは全く気にする様な動作は見せず、当然だ。といった表情で此方を見る。

 

「もう始まるよ?競技。」

 

どうやら少し御立腹のようだ。此処は邪魔されるの覚悟で監視に専念しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何事も無く、幾つかの競技が終了して、前半の最後の競技――魔法瓶一気飲みが遂に始まる。どこのクラスにも何人かが早く御飯食べたーいと思っているのが表情から分かる。因みに何処かのクラスには、そんな腹減ってんなら枝を食べろ枝を、と言う未来へ投資した顔色の悪い講師が居た。

 

[次は魔法瓶一気飲みです。代表者は前へ移動して下さい。]

 

魔術を使って全体へと広がる実況担当の生徒の声に、グランドへと代表メンバーが全員集まる。デブデブデブデブ・・・・・・その殆どがグルメな月コミュの男子生徒を想像させる体形をしていた。

 

[さぁー。始まります魔法瓶一気飲み。どうやらグレン先生率いる2組はニュクス=アバター君を出場させるそうですが、果たしてどうなるのでしょうか・・・・・・」

 

体形的に予想外だったのだろう。実況担当の生徒は競技を捨てたのかどうなのか、その判断が出来ずに居る様だ。

 

[それではカウントダウンを始めます!3・・・2・・・1・・・スタァァトッ!]

 

パァンと言う音と共に、一生に代表者達はテーブルに置かれた1L程の魔法瓶を飲み始める。

 

誰もが魔法瓶を飲み、冷たい物を食べた時にたまに感じる頭の痛みの10倍の痛みを感じる。これがこの競技で忍耐力を試す方法であり、最初からゲームを捨てていたクラスの生徒達は次々とギブアップして逝き、それに合わせて実況も大きな声で叫び出す。

 

[おーっと!5組と6組、遂には4組と8組もギブアップ!残るは6クラス!全員既に15本を超えてほぼ互角だぁ!〕

 

デブ達が此方を睨んで来る。自分達と違って細々とした体つきの俺が何故此処まで付いて来られるのか不思議に思っているのだろう。・・・・・・ふむ、そろそろギブアップすれば5位だ。まぁこれで十分だろ。

 

ニュクスは魔法瓶を飲むのを止めて、審判役にギブアップの意思を伝える。此処で止めれば上位でも下位でも無くなり、真ん中、普通レベルになれるのだ。攻められても流石に限界だったと伝えればどうにでもなるだろ、多分。

 

因みにこの競技、俺が此処まで粘れたのはただの我慢等では無い。3本目位から監視に使っていた何十匹ものネズミ相手に感覚の共有呪術を使った。

 

感覚の共有呪術とは、お互いの血を一滴飲み、飲んだ相手の思考や視界等の情報を共有出来る術の事である。

つまりは一方的に脳に感じた痛みの感覚を、人間的思考を持たない何十匹ものネズミ達に押しやったと言うことだ。学生位の年の子には少し危険な魔術だというが・・・・・・俺は宮廷魔導士だし、バレなければ問題は無い、良いね?

 

実況がギブアップした事を大声で伝えると、頑張った方だ。と、会場を出る途中、応援席から応援していたカッシュ達に言われた。いや、まだ行けたんだが、等言わずに、ニュクスは足早に会場を出て行く。

会場を出て、自然の広がる学院内の校庭を通った時、ニュクスの前方にある木から、少し痩せた男が溜め息を付き、頭を掻きながら現れ、隣にまで来て共に移動を始める。片手には口元に血の付いた白ネズミが握られている。まだ生きているようだ。

 

「嘘を付くのも良いが、あまり付きすぎるとロクなことに会わないぞ?」

「そうですね、俺は今正に、ロクでなしと自称しながら全然ロクでなしでは無い先生に捕まってしまいました。これ以上ロクなことは無いでしょう?」

 

確かにな、と言いながら歩き続けるグレンは、少し笑みを浮かべながら、手に握っていた白ネズミを放す。此処の監視をしていたらしい。

白ネズミだって考えて行動する。が、一度何をするか決めてしまえば、俺が考えるに、人間よりも動物は余計な行動をしないらしい。何時間、何十時間、動物は生きる為に待ち続ける事も出来る。一つの行動に長く取り組むのだ。つまり一度行動を決定すれば、その気になれば動物はそれを達成するまで別の行動を取らない。ニュクスはそこに、共有した状態で自分の意思をネズミの頭脳内で決定させる事で、脳に持ち主(ネズミ)がその行動を決定したと誤任させたのだ。誤認した頭脳はニュクスが気を緩めパスを切ったとしても、持ち主の出した命令を忘れず、記憶し、行動する。

つまりは撤回、解呪されるまで命令に従い続ける完全なる下部となると言うことだ。

 

「お前は凄いな?アンデットを操るのも簡単なんじゃ無いか?」

「馬鹿言わないで下さい。アンデットって操るのは難しいんですよ?あいつら皆揃いも揃って雑念とか呪いを術者に送り付けるんですよ?御陰で集中力は途切れるしで・・・・・・一度試した身としては、もう二度と御免です。」

 

ニュクスはグレンと話しながら、少し遠くで既に食事を始めているクラスの2人を見つめ、もう競技終わったのか、と驚く。

コンセントレイトを使うにも、ペルソナを持続させるのは、いくら魔術特性が向いていても疲れるのだ、体力的にも、精神的にも。

 

「・・・・・・さてと、俺は寝ますね?先生。今日は日の光が気持ち良さそうだ。寝ずにいるのは惜しい。」

 

大きな木にもたれ掛かる様に座り込んだニュクスの言葉にグレンは苦笑いをし、そうか、とズボンに両手を入れて、システィーナとルミアの居る場所へと向かう。

 

「あ、先生!ニュクスは5位だったみたいです。対する1組の生徒は1位だったみたいで・・・・・・でもまだ負けてませんよね!」

 

システィーナのテンションの高い言葉に、再び苦笑いをするグレン。その姿は子が親に無茶を頼んでいる様にも見えた。システィーナとの話しが終わり、ルミアとグレンはシスティーナに聞こえないようにひそひそと話し始める。

 

「なぁ、何で白猫はあんなにテンションが高いんだ?流石に高過ぎんだろ?」

「さぁ?誰かさんの言葉でやる気に満ちているんだと思います。」

 

ルミアはクスクスと笑いながら、思い人の為に頑張るシスティーナを応援するのであった。

 

「あ、先生、これなんですけど、とある女の子が男の子の為に作ったんですけど――」




えー、頭の悪い作者が今回の呪術をどんな風かざっくりと説明すると、ニュクスはネズミを洗脳した。ですね。
ニュクスは事前に自分の意思を確認してから共有しているので、ネズミに洗脳はされないと言った感じです。意思が弱いと直ぐ洗脳されます。
簡単に言うと、脳の取り替えっこが出来て、尚且つ返す時にニュクスはネズミに命令出来る。これが今回の呪術。

詳しい事は質問とかで、言葉に出来ればお答えします。
次回は最後にグレンが弁当を渡された時から、少し時間が過ぎます。予定ではルミアが衛士に処刑宣告される所。つまり、とうとうペ・ル・ソ・ナが登場する・・・・・・カモシレナイ。
後、活動報告で好きなペルソナを書けるようにしました。人気があれば出てくるかも・・・?
それではまた今度。

・・・・・・碌でなしとは、まともじゃ無い人の事も言うらしいです・・・そういう面では確かにグレンはロクでなしなのかな?


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死の呪い

流石にこれらのイベントはさっさと流せなかった・・・・・・次には絶対!絶対戦闘書くから!許して!(土下座)


時は少し巻き戻り、生徒達で賑わう会場、その観客席を通う通路にて、二人の男女が場に似合わないスーツを着て立っていた。男の足下には口元に微かに血の付いた白いネズミが居た。

 

「グレンとニュクスだな」

「・・・・・・ん。どう見てもグレンとニュクス」

 

二人は精神防御の終わった中央フィールド上で、銀と金の髪色の少女二人と話している黒い髪をした元同僚、その近くで此方を見ている自分達と良くにた髪色をした少年を見ていた。

 

男と共に居た青い髪をした無表情な少女――リィエル=レイフォードはグレンの居る中央フィールドに向かおうと歩き始める。

 

「・・・・・・アルベルト、私、行って来る」

「待て、行って何をする気だ?」

 

鷹のような目をした男――アルベルト=フレイザーはリィエルのボサボサなポニーテールを掴み、歩みを止める。それでもリィエルは無表情のまま、グレンの所に行って戦う。と告げ、だから離して、と感情の籠もっていない様な声でアルベルトに頼み込む。

 

「駄目だ」

「どうして?」

「アイツは確かに魔導士団だった。何の相談も無く勝手に抜けた事には思う所もあるが、今は関係無い」

 

そう説明するも、リィエルはグレンと戦うの一点張りで、アルベルトは頭痛に耐えるような表情でリィエルを抑え、遠見の魔術で異変が起きていないか確認する。

 

「・・・俺達の任務は不穏な動きが確認された王室親衛隊の監視だ。グレンの様子を見ていて分かったが、アイツは俺達の居る地濡れた世界には合わない。暗い場所より、アイツには明るい場所の方が似合っている」

 

アルベルトの話をリィエルは暴れずに対面した状態で聞いた。リィエルは真顔で何も喋らずに聞き、直ぐにアルベルトの方から会場の方へ顔を向け、無表情のまま一言喋る。

 

「つまり私はグレンを倒さないといけない?」

 

アルベルトはその後終始無言で、今にも飛び出しそうなリィエルを抑えていた。

 

「アルベルト、手を離して」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュクスが木陰に寄りかかってネズミで監視をしている時、グレンは今ルミアと二人きりで弁当を食べていた。最初はシスティーナも居たのだが、弁当を片手に途中で顔を赤くして何処かへ行ってしまった。風邪でも引いたのか?とグレンは少し心配するも、その後、ルミアから渡されたシスティーナの持っていたとある女の子が作った弁当(ツンデレ猫の作った弁当)を食べて、今に至る。

 

グレンは弁当を食べ終え、美味しかったとルミアに感想を伝えると、よっこらしょっ、と言いながら立ち上がる。

 

「さて、寿命が三日伸びたし、競技場に戻るか・・・・・・」

「・・・・・・?はい、先生」

 

グレンとルミアが歩き出そうとすると、背後からグレンの名前を伺い、近寄って来る女性の姿があった。

グレンはそれに適当に返事をしながら面倒臭そうに振り向き、少し疲れてウトウトとしていたニュクスがはっ!?と起きる位の大きな叫びを上げる。

 

「じょ、じょ、じょじょ、女王、陛下――ッ!?」

「――ッ!?」

 

グレンとルミアは顔を驚愕の色で染め、目を見開いて自分達の前に居る優しげな顔立ちの女性――アリシア七世の姿に、これが現実なのかを疑った。一国の女王がこんな場所へ、ましてや護衛も付けずに訪れるなど、誰が思うものだろうか。アリシア七世はグレンの隣に居る金髪の慈愛に満ちた瞳をした少女へと近寄り、抱きしめる。いきなりの事に、ルミアは状況を上手く理解出来ずに、大人しそうに慌てる。

 

「あぁ、貴女に、貴女に会いたかった、エルミアナ(・・・・・)・・・・・・!」

「――ッ!」

 

その言葉を聞き、ルミアの思考は直ぐに落ち着き、抱きついているアリシア七世の腕を解き、そのまま後退りする。グレンとアリシア七世は、ルミアの不自然な行動に疑念を抱き、ルミアが話すのを静かに聞く。

 

「失礼ですが、女王陛下・・・・・・陛下は、私を亡くなられたエルミアナ第二王女と・・・勘違いを、為されております・・・・・・」

「!・・・・・・そう、でしたね。申し訳・・・御座いません、失礼致しました・・・・・・」

 

そう言って辛そうな表情を浮かべたアリシア七世は、グレンにルミアの事を頼み、背を向けて歩き出す。偶然にもその方向には、先程までウトウトしていた不安そうな顔をしたニュクスが居た。

 

「その、大丈夫ですか?陛下・・・・・・?」

「・・・・・・えぇ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。出来れば、ここに来ていた事は内密にしてくれませんか・・・・・・?」

 

一国の女王が泣きそうな程辛い表情を浮かべているのに、ニュクスは心配して声を掛けた。

この女王陛下は、ニュクスが嘗てのグレンと同じ宮殿魔導士だという事を知らない。ニュクスとアリシア七世は会った事が無いのだから当然だろう。逆にニュクスは、アリシア七世の事を任務上他よりも良く知っているが。

 

アリシア七世は自分の娘に拒絶された事に動揺を隠しきれていないのに気付き、ニュクスの自分を心配する言葉にしばらく間を置いて、落ち着いてから自分にも言い聞かせるように返答した。本人が教えてくれたのだが、どうやら人除けの魔術が掛かっていたらしく、人除けの魔術が聞かなかったのはきっとグレン先生の大声で気付いたのかと、と気付かれた事を不思議に思っていたアリシア七世に説明し、自分が勝手に外に出ていたのを秘密にして欲しいとの要望に勿論ニュクスは口外しないと約束した。

 

「大丈夫な訳無いだろ、アレは・・・・・・」

 

アリシア七世の後ろ姿を見ながら、ニュクスは誰に言う訳でも無く、一人小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一方その頃、競技祭会場の貴賓席にて、セリカは珍しくとても焦っていた。

 

「糞っ・・・・・・!」

 

たった今判明した事件に、自分の親友が死ぬかもしれないと言うのに動けないという自分の状況に苛立ちを隠せず、セリカはヤケクソに、凝縮された風の玉を自分の座っている席の隣の壁にぶつける。

 

「セリカ様、落ち着いて下さい。我々の総力を持って女王陛下は必ず御守り致します。」

 

壁は一部が粉々になり、荒れるセリカに汚れの無い銀色の騎士の鎧を纏った屈強な大男――ゼーロスが強い語気を持って真剣な顔の状態で諭す。自分も本当はセリカの様に内心では荒れ狂う嵐の様に焦りと心配が入り乱れているというのに。

 

「・・・・・・だが、お前らの方法ではアリスが・・・!」

「女王陛下の為なのです。私は女王陛下の為ならば、女王陛下に何を言われようと、思われようと構いませぬ。それが私のあの御方への忠義です」

 

ゼーロスの目は真剣そのものであり、嘘などは見受けられ無い。忠義の騎士ゼーロス、その姿を目にしたセリカは自分と同じ位、嫌、もしかしたら自分以上にこの男はアリシアの事を思っているのだと気付く。

 

セリカはゼーロスの親友(アリシア)への忠誠心を知り、その身を挺してでも守ろうとする姿勢に嬉しさを感じると同時に、それでも自分の大切な親友の宝物を壊さない道を選ぼうとする。

 

「・・・・・・勝手にしろ。止めはしない、お前の忠誠に私が口出ししても仕方が無いからな。私は私で、最善だと思ったやり方を選ぶ」

「・・・・・・分かりました。ならば私も貴女の意思を否定しない。陛下を救いましょう。セリカ殿」

 

そう言い残すと、ゼーロスは騎士を連れて貴賓室から出て行く。セリカは貴賓席からグレンが担当している生徒達を眺め、ゼーロスが探しに行った為に人除けを解いてしまったアリシアをどうしたら守り通せるか、腕を組みながらただそれだけを考えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・そうか・・・その手が・・・・・・!」

 

長い思考の末、ただ一つだけ、親友の大切なものを傷つけずに親友を救う方法を思いついたセリカはその可能性を信じ、自分の着ている黒いドレスに付いているポケットの中の通信魔導器を手で握り締める。

 

セリカは祈る様に通信魔導器を両手で挟み、目を瞑って自分の弟子に願いを託す。

 

「頼む、グレン。お前だけが・・・・・・お前だけがアリスを救えるんだ・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・!これはっ!?」

 

ニュクスはグレンとルミアが会場に戻った後も木陰から動かず、しばらく――30分ぐらい――ネズミによる監視をしていたのだが、ニュクスはそこでとある異変に気付く。

 

薄暗い会場の小道で、騎士達が王女を囲んでいるのだ。

単なる護衛では無く、まるで連行している警官の様に。

 

ニュクスはネズミの耳を使って、話し声を聞こうと精神を集中する。

 

『女王陛下、大変申し憎い事なのですが、今、陛下には呪い(・・)が掛けられております』

「んなっ!?」

 

呪い、それは発動のトリガーさえ引いてしまえばどんな魔導士にも止められないと言われる古典的な魔術。

 

そしてどんな呪いも大抵は面倒な制限が課せられる。

 

『それは、勝手に外す、装着から一定時間経過、呪いに関する情報の開示を意図的に第三者にする、この三つの条件を達すると装着者が・・・・・・陛下が呪殺されるとの事です。』

 

ニュクスはゼーロスの口から語られる真実に驚愕を隠せず、口を開けたまましばらくの間思考が停止する。

この時点でニュクスは呪いの存在を明かせなくなってしまった。

 

『そして、その呪いを解呪する唯一の方法、それは――』

 

ゼーロスの口から放たれた悲報に、アリシアは数歩後退り、ニュクスは嘘だろ・・・・・・と漏らす。

 

『ルミア=ティンジェルの殺害です。』

 

 

 

 

 

 

 

「・・・糞っ!」

 

ニュクスはネズミとの接続を切り、立ち上がって木に向かって思い切り拳をぶつける。

 

天の智恵研究会の仕業だと、直感的に直ぐに分かったニュクスは、直ぐに頭の中で女王の救出方法を模索する。が――

 

「・・・・・・駄目だ。この事態にあのセリカ=アルフォネアが気付いていないとは思えない。何より、まだ事件が解決していないならばセリカ=アルフォネアは今俺と同じ状況と考えるのが妥当か・・・・・・」

 

ニュクスは世界最高峰の魔導士がこの事態に気付いていないとは思えず、どうにかしてセリカに頼ると言う方法が採れない事に気付く。

 

「・・・なら俺がすべき事は・・・・・・」

 

可能性は低い、部の悪い掛けだろう。それでもルミア=ティンジェルが死なずに、グレンが生徒を失うという辛い思いをせずに問題を解決するにはこれしか無い。

 

「・・・・・・師匠に会いに行こう」

 

ニュクスは会場の観客席の通う場所へと足を進めた。




久し振りに書いたら前より更に超駄目文になってました・・・・・・
次回は衛士達が悲惨な目に遭う模様

文化祭もその準備ももう直ぐ終わる・・・!早く終われぇぇ・・・・・・


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仮面の舞踏会

すみません!毎回遅くてすみません!言い訳させてもらうとリアルでちょっと辛い事がありまして・・・・・・少々精神的にヤバかったんです・・・・・・。


薄暗い会場のとある場所にて、ニュクスは青い髪の二人の下へ向かい、深刻な顔で話をしていた。

 

「それで俺の所に来たのか・・・・・・」

「はい」

 

ニュクスはアルベルトへ自分が今出来ない事を呪いがアリシアに掛かっていると伝えずに説明した。

 

アルベルトは賢い。宮廷魔導士の中でも高い部類に入る。ニュクスは呪いの情報について話さず、今自分はアリシア王女を助けたくても助けられない。何故かは言えない。けれど助けようとする者の助けは出来る。と伝えただけで現状の殆どを理解してみせた。

 

「・・・・・・成る程、王室親衛隊が不穏な動きを見せたのもそれが原因か・・・・・・この事はグレンには?」

「言っていません」

 

そうか、とアルベルトは短く答え、片手で顎下に手を添える。

 

「ところで師匠」

「ん?どうした?」

「その片手で抑えてる幼兵はもしかしなくても戦車ですよね?」

「アルベルト、離して、グレンと戦いに行けない」

 

ニュクスはアルベルトの片手で抑えつけられている自分よりも小さな青髪の少女――リィエル=レイフォードを目にして、信じられないといった顔で震え始める。過去にリィエルのせいで大変な目にあったり、その評判を聞いた事のあるニュクスにはこの状況が理解出来なかった。

 

アルベルトは片手でリィエルのボサボサの髪を掴み、普通の事のように喋り始める。

 

「グレンが居なくなり、近距離戦を行える奴が少なくなったからな。隠者の翁も居るが、今回は別の任務で代わりにリィエルを連れている」

「あー、成る程。確かに少なくなりましたね・・・・・・けど師匠の性格からすると――」

「最悪だ。悪くない筈が無い、足を引っ張られるのはどうにかしてほしい」

「足を引っ張らないでアルベルト。グレンを倒したいのに邪魔」

 

感覚としてはきのこの山派とたけのこの里派のような物だろうか。リィエルの発言にもアルベルトは冷静差を保ち、やがてその髪を引っ張りながら付いて来いと出入り口まで歩き始める。

 

「女王とルミア=ティンジェルの殺害を阻止し、今回の騒動の元凶を探し出す。お前は衛兵の妨害を担当しろ、周辺の衛兵を駆除した後連絡を寄越せ。俺はリィエルと共に別行動をし、グレンと接触を図る。その後の動きは随時連絡する」

 

分かりましたと告げ、ニュクスは認識阻害魔術を掛け、フィジテの街へとフィジカルブーストを掛け急ぎ向かう。既にグレンとルミアが会場の外へ出て行ってしまったのは確認済み、後はその付近へ群がる衛兵を相手するだけだ。

 

やがてニュクスの視界からアルベルトとリィエルの姿が見えなくなり、無人の建物の屋上で立ち止まり、遠見の魔術をフル活用する。

 

「大勢居るな・・・ペルソナを使うか・・・・・・グレンは・・・・・・・・・・・・居た」

 

グレンとルミアの姿を確認し、魔導器を手に取りアルベルトへと連絡を入れる。場所はフェジテの西地区、住宅街付近の路地裏ですと伝えると、アルベルトから了解したと返答が来る。それを確認し、ニュクスは少し遠い場所から追って来ている衛兵を倒しに向かう。

 

認識阻害魔術を掛けているため、そう簡単には気付かれ無い。ニュクスは不意打ちを狙い、特殊な錬成詠唱を静かに始める。

 

『アルカナは示す・心の声聞く・その意義を』

 

詠唱が終わり、ニュクスの片手にまるで最初からあったかの用に銀色の拳銃が出現する。感覚で成功した事を確認すると、ニュクスは屋上から衛兵達の居る場所へ落下し、それを自分の顳顬(・・・・・)へと向け――

 

「――アプサラス」

 

引き金を引くと同時に現れた青い衣装の女神らしき者は、ニュクスの着地と共に周囲に居た衛兵の腰から足を凍らせる。突然の事に衛兵達は驚き剣を抜こうとするが、腰ごと剣が凍らされており、目の前のニュクスを襲うことが出来ない。

 

「しばらくじっとしていて下さい。少ししたら解決する筈なので」

「ふ、ふざけr――」

 

衛兵が何かを喋ろうとするも、ニュクスの背後に居るアプサラスが前進し、衛兵達を恐怖で黙らせる。ニュクスは目立つアプサラスを消す為に持っていた拳銃を捨てると、持ち主から離された拳銃は光り輝きながら粉々に散り、同時に出現していたアプサラスも青く儚い光を放ち消え去った。

 

「すみませんが、それではもうしばらくお待ち下さい」

 

ニュクスはそう言って衛兵達へ背を向け、次の衛兵達を探しに向かう。蟻のようにゾロゾロワラワラと現れる衛兵達には、王女を守るという強い意思を感じると同時にとても面倒だなと感じた。

 

「ホント多いな・・・・・・これは骨が折れる・・・」

 

数は30近く。

そう言いながらもニュクスは未だに続いているフィジカルブーストの身体強化を利用し建物の屋上へ跳び、先程と同じように建物の屋上を次々と移動する。

 

「しばらく女教皇は使用不可か・・・・・・」

 

ペルソナ召喚には制限があり、女教皇は使えなくなったニュクスは第二の衛兵達へと向かい、次の詠唱を始める。

 

『アルカナは示す・全てが不確か故・答えを間違えてはならぬ事を――エンジェル』

 

再び出現する拳銃により召喚されたのは、白き翼を持つ汚れを感じさせない女性。エンジェルは屋上を走っているニュクスを抜き、衛兵達の下へ目視出来るレベルの速さで近づき風を凝縮した玉を両手から撃ち続ける。

 

「コイツはいっt――」

 

とある衛兵が何か喋ろうとするが、凝縮された風の玉は勢い良く大量に撃ち出される為、ニュクスの耳には全く届かない。ニュクスに分かるのは衛兵が現状を理解出来ず、酷く混乱している様だけだ。

 

やがてエンジェルが撃つのを止め、構えていた両手を下げると、アプサラスの時と同じように、ニュクスの持っていた拳銃と共にエンジェルは消えていった。

 

「少しやり過ぎたか・・・・・・?生きてる・・・よね?」

 

ニュクスは心配そうに地面に伸びている衛兵達の顔を見るが、誰もが白目を向いて倒れており、何人かは泡を吹いていた。ニュクスは人気の無い路地裏まで移動し、衛兵達を日陰の方へと運ぶ。流石にこの強い日差しの中ままでは不味いだろう。

 

「次探すか・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェジテ西地区の路地裏にて、グレンはルミアを連れたまま焦りを隠せない様子で、自分達の前にいる知り合いをじっと見る。その様子にルミアは不安に似た何かを感じ、隣に居るグレンへと声を掛ける。何故彼らが此処に居るのか分からないグレンは、最悪の事態を想像し、青髪の少女へと話し掛ける。

 

「先生、この人達は・・・・・・?」

「おい、これはどういう事だ・・・・・・まさか宮廷魔導士団も――」

 

動いているのか。と言う暇も無く、グレンの下へ物凄い速さでリィエルが迫る。リィエルは詠唱をしながら大きく跳躍し、その手に自分と同じ位の大剣を錬成する。高速武器錬成、形質変化法と元素配列変換を応用したもの、それがリィエルの十八番である。

 

魔導士団の頃にも何度か見た事のあるそれに、グレンは舌打ちをしながら背後へジャンプし、リィエルの一撃を辛うじて回避する。だがリィエルは止まらない。餌を見つけた野獣のようにしつこくグレンへ接近戦を仕掛ける。

 

――糞っ、このままだと俺とルミアが・・・・・・

 

グレンは躊躇していた魔術による攻撃をリィエルへと開始する。元同僚を攻撃するのは嫌だが、仕方が無い。

 

『白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆け抜けよ!』

 

アイス・ブリザード、グレンは左拳から冷気を纏った風を放つ。圧倒的な凍気により、空気中の水分が凍り、大量の氷礫がリィエルを襲う。

が、リィエルはそれを物ともせず、グレンへと一直線に移動し、剣撃を上空から食らわせる。グレンはそれをとっさにウェポン・エンチャントで強化した拳で交錯し、身を守る。とは言え、接近戦となればリィエルが圧倒的有利となる。リィエルはグレンを叩きのめし、余波によりグレンの周囲の地面が砕ける。

 

「いいいいやぁああああ――ッ!」

「がはっ――!?」

 

しかし流石に戦車と呼ばれるだけの事はあり、リィエルはそれでもグレンへと手を緩めず、二閃、三閃と打ち込む。その様子は正に戦車そのもの。守りに徹しているグレンは必死にその身を守りながら、リィエルの背後でこちらをじっと見ている狙撃手に焦りを感じていた。

 

まだグレンが宮廷魔導士だったころ、アルベルトは天才的なその狙撃テクニックにより、同僚であったグレンの手助けをしていた。だからこそグレンにはアルベルトが外す事など微塵も考えはしなかった。

 

――駄目だ、避けれねぇっ!糞っ、此処までかっ!

 

アルベルトが手を拳銃の形にすると、指先に稲妻が集まり、戦っている二人の方へライトニング・スピアを撃つ。

この状況で避ければリィエルに殺される。そう判断したグレンは覚悟を決め、身を固める。

 

放たれた稲妻は真っ直ぐにグレンの方向へと迫り――

 

「きゃん!?」

 

リィエルの後頭部に綺麗に刺さった。突然の奇襲、それも身内からの後頭部への殺傷力Aランクの術での狙撃、流石のリィエルでも立ってはいれなかった。リィエルは地面へと倒れ、ぴくぴくと痙攣を始める。

 

「・・・・・・は?」

「・・・久し振りだなグレン、場所を変える。衛兵の駆除は粗方終わった、着いて来い。」

 

アルベルトはグレンの状況を理解出来ていない呆けた顔に冷たい声色で挨拶を済ませ、伸びているリィエルの髪を掴み、ずるずると引きずりながら路地裏の奥へと歩いて行く。全く持って意味の分からない状況に、グレンとルミアは素直にアルベルトの後ろを着いて行くのだった。




ペルソナ能力についてはまたどこかで説明します。


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事件は現場で起きてるんだ!

テストが終わり、しばらくは勉強から解放される予定です。が、12月はまた今回の様に遅くなると思います。期末テストめ・・・
10/31ですね。皆さんお菓子を持っている友人がいたら、いくぞ○○、菓子の貯蔵は十分か?と聞いてあげましょう。

競技祭完結。そしてゾンビ系ゲロイン登場。今回は約6000文字と、いつもの1.5倍位です。


私――クロス=ファールスは今、広大なフェジテの街の中で、とある二人組追っていた。周りには自分と同じ服装をした同胞。皆腰の剣に常に手を置き、見つけしだい直ぐに拘束出来るように構えていた。

 

「いたぞっ!」

 

張り詰めた空気を壊すかのように、仲間が大声で目的の二人組を追う。二人組の片方、金髪の少女の手を引き、黒髪の長身な男は顔も見せずに一目散に逃げる。

 

――手間を掛けさせる・・・・・・

 

これで何度目だろうか。目前に現れては直ぐに消える。フェジテという都市一つを使った鬼ごっこは予想以上に体力と精神力を削って行く。隣で併走している仲間の顔にも苛つきが見え始めている。

 

――それにしても、先程から感じる踊らされているかのようなこの感じは・・・・・・一体・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の道を右に移動して、衛兵が接近するまで待機して下さい。町から離れた場所へ誘導した後、リィエルは鏡を壁に用意して」

『わかった』

「師匠は合図とトライ・レジストの中和をお願いします」

『了解した』

 

衛兵が右往左往している中、ただ一人、時計塔の屋上からそれを見下ろす少年。時計塔の屋上には今の状況とは合わない心地良い風が吹いている。

 

これから後は、全て計画通りに進めるだけ。自分にミスは、許されない。

 

頭を上げ、快晴の空を見上げる。未だに時間の経過を感じさせない空からは、今日がとても濃い1日であり、心に余裕が無かったことが伺える。

 

――・・・・・・・・・・・・

 

『ニュクス、準備が出来た。合図を出したら鏡への狙撃を頼む』

「了解しました」

 

リラックスの為に無心となり、風を感じていたニュクスは即座にアルベルトとリィエルの示し合わせた場所を遠見の魔術で見る。

 

衛兵が次々とその場へと集まって来る。幾つかに別れていたグループも、いつしか一つの場所へと集まっていた。腰に掛けた剣を引き抜き、リーダーであろう人物が拘束をしようとしていた。

 

ニュクスは先に錬成しておいた狙撃用のライフルを構える。レンズには遠見の魔術がエンチャントされている為、標的を狙撃するのにはとても向いている。

 

衛兵のリーダーがグレンに化けたアルベルトに接近したその時、アルベルトが両腕を上げた。狙撃の合図であるそれを見たニュクスはトリガーに指を掛け改編した三節を唱える。

 

『若き雷帝よ・数多の閃光の槍以て・刺し穿て』

 

ライトニングピアスの殺傷レベルを下げ、対象に当たると分散する術式は、詠唱の完了と共にライフルから鏡へと発射される。

ニュクスの持つライフルのスコープからは分散したライトニングピアスが沢山の鏡によって反射し、その場に居た全ての衛兵の手足を撃ち抜く姿が見えた。威力を弱くした事で、筋肉を長時間麻痺させるレベルに収まっている為、衛兵達はバタバタと固いレンガの床へと倒れていく。

 

『後は俺達が見ている。グレンの援護を頼む』

「了解しました」

 

ライフルは仕事を終え、すぐさま崩れて行く。耐久に限界が来ていた。

 

「普通の錬成も今後の課題か・・・・・・」

 

ライフルを捨て、屋上から消える。まだ終わっていない自分の役割を果たす為、ニュクスはフィジカルブーストを掛けながら自分の通っている学院を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたはアルベルト・・・?」

 

――やっと、たどり着いた。

 

アルベルトの真似をして、グレンは競技会場にて、アリシア女王陛下の前に立っていた。その後ろにはリィエルの真似をしたルミアが居る。

 

――俺達は今回、お前の援護は出来ても直接的な問題解決は出来ない。これは『(アイツ)』も同じだ。

 

路地裏で遭遇したアルベルトに言われた事、その前にセリカに言われた事でやっと分かった。

 

どんなに優れた魔術師でも直接手は出せないモノ。脅しというのも考えられたが、アルベルトとリィエルが自由に行動して俺に接触している時点でその可能性は薄くなった。ならば相手に絶対に破る事の出来ない規則やルールを付けたと考えられる。

 

宮廷魔導士だった頃、良く事件の資料などで見た古くから使われていた魔術の一つ。

 

「いいえ陛下、私の名前はアルベルトではありません――」

「き、貴様は!?」

 

自分とルミアに掛けていたセルフイリュージョンが解け、声や姿が元の自分の物に戻る。ゼーロスは何故ここにいる!?と、驚いているが、答える前にやって貰わなくてはいけない事がある。

 

グレンがセリカにアイコンタクトすると、セリカは待っていたかのように即座に防音結界をグレンを中心に発動させる。

ゼーロスはセリカの行動を見てもそれに動じはしなかった。手は既に剣の鞘へと動いている。

 

――呪いの品はどれだ?陛下に掛かってるなら陛下のどこかにあるはず・・・・・・あの首飾り・・・陛下はいつもロケットを付けていた。もしかしたら・・・

 

「大変失礼ですが陛下、その首飾り、拝見させて貰っても宜しいでしょうか?」

「・・・!はい、ではそちらに移動しま――」

 

ブォン、と空気の切れる音。

グレンは咄嗟に後ろへと後退する。

 

「陛下、私がこの不届き者を排除いたします故、下がっていて下さい」

「ゼーロス・・・!」

「ゼーロス、大丈夫です。見せるだけですよ?何も警戒する必要はありません」

「・・・協力者の可能性もあります。私は1%でも可能性があるならば、確かめなければなりません」

「!ルミア、下がってろ」

「先生!?何をする気ですか!?」

 

そう言いながら、ゼーロスは剣を持ち、グレンへと迫る。接近戦を得意とするグレン。しかしそれはゼーロスも同じ。ゼーロスとの技量の差は即座に埋められるものでは無い。

 

――一か八か

 

グレンはその事を理解していたからこそ、戦おうとはしなかった。フィジカルブーストの三節詠唱をしながら宮廷魔導士だった頃に鍛えられた瞬発力と足の速さでゼーロスを追い抜き陛下の下に辿り着ければこの事件は解決する。

 

グレンは走り始めようとする。が――

 

「させぬっ!」

 

ゼーロスがそれを邪魔する。フィジカルブーストの三節詠唱を唱える暇を与えない攻めに、グレンの顔色は悪くなっていく。

 

「糞っ、武器のリーチが長い分こっちの攻撃は届かねぇし・・・拙いなっ!?」

 

ゼーロスの剣技によって徐々にグレンの傷が増えていく。見るからに劣勢なのはグレンである事に、後ろへと下がっていたルミアは心配そうな顔で泣き叫ぶ。

 

「先生っ!もう良いんですっ!やっぱり私が、私が――」

「黙ってろっ!お前は俺が守らないといけねぇんだ!約束しただろうがっ!」

「でもっ・・・!」

 

グレンの言葉がルミアへと届くと同時に、グレンの左腕にゼーロスの剣が深々と突き刺さる。ゼーロスが剣を引き抜くと、グレンの腕からは血がドクドクと流れ出る。

 

「ぐぅ・・・う・・・!」

「勝負付いたな魔術講師、後ろにいるルミア=ティンジェルを引き渡せば命は奪わん」

「誰が、渡すかっ・・・!」

 

グレンは弱々しく立ちながら、苦悶の表情を見せつつも、ゼーロスを正面から睨み付ける。既にグレンがアリシア女王の下へ辿り着ける可能性は0に近い。

 

「そうか、最後まで守るべき者を見捨てなかったその姿勢、敬意を称する」

 

ゼーロスは最後まで守ろうとするその姿勢を評価し、グレンへ最後の一撃を与える。

 

これを見ていた誰もがグレンはここで殺されるのかと思った。次に起こる事を目にするまでは。

 

『アルカナは示す、強い意志と努力こそ、唯一夢を掴む可能性である事を』

 

結界の中に猫と女性の混ざったような生き物が現れる。

ゼーロスはその生き物が襲いかかって来るのを感じ、咄嗟にグレンから離れる。

 

「何者だ!・・・まさか――」

「違うよ、ゼーロス。私じゃ無い。この結界に人は入れ無いから、きっとこれは対象の場所へと召喚する魔術だ。これの発動者はかなり召喚魔術に長けているんだろう」

 

セリカは召喚されたネコマタを舐めまわす様にじっくりと観察する。今まで見て来た魔物や生物、神の下部に悪魔を記憶しているセリカは、見たことも無いネコマタの一回一回の仕草や行動を見逃すまいと興味深々になっている。

 

グレンは自分の前に立っているネコマタを見て、誰が助けてくれたのか即座に分かった。

 

「ったく、便利な魔術だな、召喚魔術ってのは・・・」

「先生っ!」

 

後ろに居たルミアがグレンの側へと近付き、治癒の為に腕にライフアップを掛ける。すると腕の出血は少し減り、感じていた痛みも徐々に消えていった。

 

「ありがとよ、助かった。さて、1人対1人と1匹。行くぜゼーロスのおっさん!」

「くっ・・・」

 

ゼーロスはネコマタが加わった事で不利となり、有利だった時とは違い、皺を寄せた顔に汗が流れ落ちる。

 

「化け猫、少しで良い、お前はゼーロスのおっさんの足留めを頼む。俺は陛下の下まで一直線で向かう。いけるか?」

 

飽くまでも目的は陛下の呪いを解く事、グレンの言葉にネコマタは頷くと、口から息を吹くように炎を放つ。徐々に大きく、熱くなっていく炎は、ゼーロスの周りを囲まんと円の形に走る。

 

「厄介な・・・!フンッ!」

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・後少し・・・・・・!」

 

ゼーロスは一振りで炎の壁の一部を消し飛ばす。が、目の前にネコマタが足に炎を纏わせた蹴りを一撃入れに来ている。ゼーロスはこれをガード出来無いと判断し、炎の壁に当たるのを覚悟し後ろへと衝撃を減らす為に下がる。

 

ゼーロスが炎の壁を突き破り、転がる様に出てくると、既にグレンはアリシア女王へ後十数歩で付く所にまで来ていた。

 

「させるかァァァァ!」

 

ゼーロスはネコマタの攻撃を受け瀕死の体に鞭を打ち、グレンへと決死の体当たりをしようとする。ゼーロスの瀕死とは思えぬ速度の体当たりに、ネコマタはグレンごと炎に巻き込むと判断し、自身の身を使ったタックルをする。

 

タックルをしたネコマタ、受けたゼーロスはどちらも固い地面へと転がる。既にグレンはアリシア女王の目の前、ゼーロスは次のグレンの行動を妨害出来る程の距離には居ない。

 

「これで終わりだぁぁっ!」

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

グレンはポケットに入っていた物を左手で出し流れる様にそれを見る。そして右手で、アリシア女王の付けている首飾りを掴み――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁ・・・あぁ・・・あぁ・・・陛下・・・陛下ぁ!!」

 

ゼーロスはグレンが首飾りを取ったのを見て激昂する。片手に剣を持ち、尋常では無い速度でグレンの下へ辿り着くと、その体へと一閃を食らわそうとする。ネコマタが気付いたのはグレンの下にゼーロスが付いた時であり、既にその行動を止める事は出来ない。

 

「お止めなさい、ゼーロス」

 

――筈だった。

 

「陛下・・・?生きて・・・おられるのですか・・・・・・?」

「えぇ、ゼーロス。このグレン先生が助けて下さいました」

 

一体、どうして・・・と嬉しさと共に混乱するゼーロスへ、グレンは何が起きたのかを説明する。

 

「愚者のアルカナ・・・・・・、そうか、聞いた事がある。かつて宮廷魔導士団の中に、魔術士殺しと呼ばれていた者が居たと・・・・・・まさか貴方だったとは・・・ではあの化け猫は・・・・・・?」

「ん?あぁ・・・その頃からの仲間だよ。ありがとな・・・・・・て、もう消えてるし・・・」

 

見ればネコマタは既に消えていた。説明の途中に消えていったのだろう。

 

ゼーロスは今回の騒動で多大なる迷惑を掛けた事、命を狙った事、その全てを心から反省し、ルミアとアリシア女王はお互いの気持ちを伝えあい、この事件は幕を閉じた。ゼーロスはその理由から軽い罰を受けることで免除され、グレンとルミアのお互いが持つ秘密もバレること無く収集が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ・・・とても興味の湧くお力ですね・・・。もうしばらく遊んでいたいのですが、残念ながらここは逃げさせて貰います」

「ぐぅ・・・・・・待てっ!」

「女性が帰るのを呼び止めるのは、あまり良くありませんよ?」

 

フェジテの南地区の裏通りへと続く薄暗い通路にて、ニュクスは薄気味悪い女性と戦い、苦戦していた。

 

ネズミの目によって、会場から逃げる黒髪の女性の存在に気付き、それを追うも、薄気味悪い雰囲気をしているその女性の使う魔術により、召喚された多くの女性の死体がニュクスを攻撃した。ニュクスはこれに応戦する為、ペルソナや魔術を使用した。しかしニュクスへと攻撃する女性の死体の数が多く、何時まで経っても死体は尽きずに、ニュクスの傷だけが増えていった。

そして現状に至る。

 

「貴方は不思議な殿方ですね・・・。ここまで私の道具(アンデット)が進んで寄って行ったのは貴方が初めてです・・・。・・・ふふ、あぁ、貴方を見ていると体が火照ってしまいますわ・・・。次に会う時にはもっと魅力的な殿方になっていて欲しいものです・・・」

「黙っていろ・・・!生憎、痴女や変態に好かれても嬉しく無い・・・!」

 

ニュクスは血で濡れた顔を歪ませ、目の前の化け物女を睨み付ける。

既に死んだ者を使い捨ての道具として何の躊躇も無く使用する姿は、ニュクスの心を怒りで黒く染め上げる。

 

「あぁ、溜まりませんっ!その目、もっと見ていたい・・・!決めました!貴方ならこれを授けるに相応しいっ!」

 

女性は徐に服から鍵の様な何かを取り出し、それをニュクスの胸元へと物凄い速さで投げる。投げられた鍵は、ニュクスの体へと沈んで行き、やがて完全に溶け込む。

 

「何を・・・したっ!」

「少しだけ変わる為の手助けをと思いまして・・・。試作品ですが、きっとそれは貴方に力を与えましょう・・・。あぁ、申し遅れました。私はエレノア=シャーレット、天の智恵研究会のアデプタス・オーダーをしております。次に会うときが楽しみですね・・・ふふ」

 

ニュクスへと自己紹介を終え、エレノアは姿を消す。暗い路地にはニュクスと女性の死体の残骸しか無い。

 

「・・・逃げたか・・・糞・・・」

 

力が足りなかった。あの異様な感じの女――エレノアは天の智恵研究会のアデプタス・オーダーだった。つまり捉えられれば今度こそ天の智恵研究会の目的を知れたかもしれなかったのだ。

オマケに体へと溶け込んで行った謎の鍵。良くない物だとは思うが、それ以外の判断材料が無い。完全に分からない状態。

 

ニュクスはしばらく体を固い煉瓦に預け座り込む。周りの死体も何体か同じ様に背中を壁に預けているのを見て、まるで死体になった気分だな、等と思っていた。

 

「調査が終わったら・・・ちゃんと燃やしてやるからな」

 

ニュクスはそう言うと、数十分後にアルベルトが来るまで、沢山の死体の中で死んだ様に眠った。

 




ニュクス死す(嘘)
この後ニュクス君は打ち上げに出る事も無く、アルベルトと一緒に傷の手当て+報告です。
鍵は原作の最新巻に出てきているやつと似たものです。
9巻は驚きましたね、我は汝、汝は我とか。
読んでてペルソナかっ!って言っちゃいました。
・・・・・・上手いこと利用出来ないかな、とか考えちゃったり。



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