コンティニューマギライフ (myo-n)
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二度目の人生?よっしゃレッツエンジョイするか!!

勢いで書きました。
拙い文章ですがよろしくお願いします。


 命を賭けて挑戦する者に試練を与え、攻略者に不思議な力をもたらすと言われている迷宮。しかし風の噂によると不思議な力をもたらされるのは一部の特別な人間のみと言われている。

 そして今宵、その迷宮に挑み、攻略した少女もまた特別な存在なのだろう。黒髪にして黒眼であり、顔はまだ幼さが残っているが綺麗に整っている。まさに美少女、その顔立ちを見ると誰もがふり返るであろう。

 

「はぁ…なんでこんな事に……」

 

 少女はため息を吐く。無理もない、まだ幼さが抜けない少女が命を賭ける場所にいるのだから、パニック状態になっていても仕方ないだろう。

 しかし…少女の言い方はまるで何かをめんどくさがっているように聞き取れる。果たして迷宮内でそんな事を言えるのだろうか?

 

「まぁまぁ、そんなに邪険にしないで!ほらっせっかく大サービスで直通で宝物庫まで連れてきたんだしさ〜」

 

 少女に馴れ馴れしく話しかける青色のチャラ男。名はアザゼル、生命と怠惰のジンである。ジンというのは迷宮の主であり不思議な恩恵を与えてくれる存在なのである。しかし分かっているのはそれぐらいであり、ジンについて詳しい事はわからない。ちなみに彼が少女をいきなり自分の所…つまり宝物庫まで連れてきたのはその少女が彼の好みの娘だったのだからであろう。

 

 アザゼルがさりげなく腕を少女の肩に回そうとする。

 しかし少女はその手を振り払い、アザゼルの頭を叩いた。

 

「馬鹿かっ!お前今の俺に手を出すって事は犯罪だぞ!犯罪なんだぞ!」

「痛っ。もー、ガード固いなぁ…仕方ない、じゃあ君には二つの選択肢をあげよう。僕の物になるか死ーーー」

「じゃあお前が、俺の持ってるこのダガーに入って金属器になる選択で」

「ちょっ即答!?酷くない!?」

「うるせぇよこのロリコンが!」

「だーかーらーロリコンじゃないんだって!!僕は君が好みなだけなんだって!」

「それを世間一般ではロリコンって言うんだよ!分かったかエロとアホのジン!」

「僕は怠惰と生命のジン!何度言えば分かるの!?」

「お前が俺に好意を寄せるのを止めるまでだよ!」

「それ実質永遠だよね!?」

 

 少女の嫌悪を受けたアザゼルはシクシクと泣き始め少女に背を向け三角座りをしていじける。

 そしてその状態が暫く続いた後、アザゼルはいじけるのを止めて立ち上がる。

 

「分かったよ…一応君は王の器みたいだし今のところは金属器で我慢してあげるよ」

「そうか、ならさっさと入れ。そんでもって塔の外に帰せ」

「見てろよ…いつか君にあんな事やこんな事、果ては○○○な事もしてやるぞ…!!!」

「せいぜい頑張ることだな」

 

 まぁその気はないけどとアザゼルに告げる少女。実際、少女は男に興味など無い。むしろ彼女は女の方に興味があると断言できるだろう。果たしてアザゼルのアピールは届くのだろうか。いやそれ以前にジンが人間に恋をして結ばれるのだろうか。

 

「じゃあ取りあえず帰り道は出しておくよ」

 

 ちんたらほいっとアザゼルがまぬけそうな呪文を唱えると少女の目の前に円形の青いガラス盤みたいな物が出現する。迷宮の主であるジンは帰り道を作る事が出来るので恐らくこれは迷宮の外にでるための物だろう。

 

 少女はそれにひょいと飛び乗り、アザゼルに早く帰すように促す。

 その態度にアザゼルは驚いて少女に尋ねる。

 

「え、いいの?ここにある財宝を持って帰らなくて?」

 

 迷宮をクリアした者には不思議な力が与えられると共に宝物庫に眠っている財宝を持って帰る事ができる。

 なので大きな国家などでは財宝を求めて挑む事がある。しかし少女は財宝に目もくれずに帰ろうとしている、それがアザゼルにとっては不思議でたまらなかったのだ。

 

「…あぁ、そうだったな。じゃあ適当に集めてくれよ」

「やっぱり僕の扱い酷くない!?」

「出来ないのか?」

「いやできるけどもさ…」

 

 アザゼルが拍手を打つ。すると少女の横に袋に詰められた財宝の山が3つほど現れた。一つの袋でも10年は遊んで暮らせると言っても過言ではないという程の黄金を少女は大した物ではなさそうに見つめている。その考えがアザゼルには理解できなかったが口には出さない。

 

「これくらいでいい?」

「十分だ。さっさと帰してくれ」

「OK、じゃあいくよ!ついでに僕もダガーに入っとくよ!」

 

 アザゼルが拍手を鳴らすと、少女の乗っているガラス盤がゆっくりと浮き上がる。徐々に宝物庫が遠くなっていくのを眺めながら、少女は眠そうに欠伸をして腕を組んで考え始める。

 

(本当に〝マギ〟の世界に来ちゃったな……。特典の金属器がこんな形で貰えたのは少し驚いたけど…。さて、これ使ってどの辺りに行こうかな)

 

 少女が考えている事は恐らく誰も分からないだろう。何故なら彼女は元々この世界の住人ではないのだから。

 

(取りあえず外に出たらアリババに会ってみようかな。金属器集めは…後でもいいか)

 

 少女が会いたいと思うアリババという人物が誰なのか、また何故金属器を集めるのか。

 答えは単純かつシンプルである。

 

(それにしても…本当これだけは勘弁して欲しかったな…。見た目は女中身は男とか誰得なんだよ?)

 

 そう彼女は―――――彼は、この世界に存在しないはずの存在。

 つまり…彼は異界より転生した転生者なのだ。

 

□■□■

 

 七月中旬のある日の夜中。

 スーツを着た彼は額に汗をかきながら人気の無い歩道を歩いていた。

 

「今日は珍しく日が変わる前に帰れそうだな!」

 

 彼は中小企業の社員であり、今日は日付を越える前に残業を切り上げる事が出来たので疲れながらも喜んでいる。

 その喜び故か、右手には少し高めのビールとつまみとコンビ二弁当が入った袋が揺れている。

 

「それにしても暑い…。もう異常気象だろ」

 

彼は額の汗を拭いながら家へ帰る。

そんな彼の少し後ろに何かを握りしめブツブツと何かを呟いている太っている男が立っていた。

 

「俺だって…俺だって、やるときはやるんだ……」

 

彼は背後にいる男に気づいていない。

男はジリジリと確実に一歩ずつ近づいて行く。

やがて男が街灯の光に照らされると男の持っている物が見える。

男が持っている物それは…スタンガンと果物ナイフ。どちらもホームセンターで売られているような代物である。

 

「そろそろ彼女作らないとなぁ…。悠の事引きずってるって言われてるし」

「!!!?」

 

彼の独り言から、彼が彼女がいた事があるのを知った男はジリジリと動くのをやめ全力疾走する。彼の右手にはスタンガンが握られている。

 

「う……うわぁぁぁぁこのリア充があああぁあ!!」

「え?」

 

彼が発する事ができた声はそれだけ。その後は男が持っているスタンガンで気絶させられた。そしてその場に彼は倒れこむ。

 

「はぁっ!はぁ!…やったぞ!僕は!僕はリア充を殺せるんだああぁぁあ!!」

 

気絶した彼を見て男は叫ぶ。

しかし男はすぐに我に帰り、彼の体を持ってすぐに退散する。

その後彼が何をされたかは男が持っている果物ナイフを見ると殆ど分かるだろう。男は果物ナイフで彼を何度も刺し、殺したのだ。

 

---

 

「はっ!俺は一体…?って、ビールがねぇぇぇ!!!」

 

持っていた袋がないことに彼は驚く。そしてその直後、自分が見慣れない場所にいることに気づいた。

 

「ここは…?」

 

≪生と死の狭間、それがこの空間の名称です≫

 

彼の頭に突如響く高い声。

彼は周りを見渡すが、周りには誰もいない。

なら一体、誰が自分に語りかけているのだろうか?そう思った彼は一人しかいない空間で問いかけた。

 

「あんたは誰なんだ?」

 

≪私は生と死を分かつ者、人は私を死神という呼称でもまたあるいは神様という呼称などでも呼びます≫

 

「…どうやら、話はできるみたいだな」

 

≪はい、会話自体は可能です。しかしながら私の姿をお見せすることはできません≫

 

「そうか、なら一つ聞きたいんだけど。何で俺がこんなところにいるんだ?」

 

彼がそう問いかけると、謎の声はしばらく無言になりやがて意を決したように答えを返す。

 

≪それは貴方様が私の予定していた時期より非常に早く死亡したからです≫

 

「……そうか」

 

≪何故…驚かないのですか?≫

 

「夜道を歩いていたのに持ち物は消えてこんな殺風景な空間に連れてこられたらそれぐらいは考えるだろ」

 

≪随分と冷静なのですね≫

 

「まぁ特に未練みたいな物はないしな」

 

彼は生まれた時から両親がいなかった。つまり捨て子である。

しかも彼には彼女がいなかったため、強いていうなら仕事が心配くらいの気持ちしか無かったのだ。

だから彼は貴方は死にましたという宣告に至って冷静になれるのだ。

 

「で?この後俺はどうなるんだ?」

 

≪貴方様には二つの選択肢がございます。一つは輪廻の輪に帰り、記憶失くして新しい生を得るか。もう一つは記憶を保持したまま私の指定した世界に転生するか。この二つのうちのどれかを≫

 

「じゃあ二つ目の方で」

 

≪よろしいのですか?≫

 

「あぁ、大丈夫だ。じゃああんたが指定する世界を選んでくれ」

 

≪承りました。では貴方様の転生先は"マギ"の世界です≫

 

「マギの世界っていうと…確か金属器とか魔法を使える世界だったよな?いやいやそれより、漫画の世界にいけるもんなのか?」

 

≪はい、大丈夫です。何せパラレルワールドという物は無限の可能性を秘めているのですから≫

 

「そうか…なら頼む」

 

≪何か特殊な能力などはが必要ですか?≫

 

「じゃあ金属器一つと適度な金、あと魔法を使えるようにしてくれ」

 

≪承りました。それでは段々と眠くなっていきますので、目覚めたら転生完了です≫

 

「分かった」

 

しばらくすると彼は強烈な睡魔に襲われる。

しかしそのまま眠りに落ちる前に彼は謎の声に再度問いかけた。

 

「なんであんたは…ここまでしてくれるんだ…?」

 

彼は強烈な睡魔に耐えられなくなって倒れる。

そして彼が眠りに落ちる直前、謎の声は返事をした。

 

≪貴方様の死に方があまりに理不尽だったので同情してここまでしました≫

 

「そう…なの…か……」

 

とうとう彼は眠りにつく。すると彼は生と死の狭間から瞬時にして消え去ったのだった。

 

◼︎◽︎◼︎◽︎

 

そして時は現在に戻り、彼は彼女となり新たな生をうけたわけである。

 

「ねぇ」

「なんだ?というかまだ喋れたのか」

「まぁね、まだ外に出てないし」

「そうなのか、早いとこ出してくれよ」

「もうじき出るよ。その前に一つ聞いていいかな?」

「何だ?」

「君の名前は何?」

「俺か?俺はな…えーっと……レイリスだな」

「長いからレイちゃんでいいや。よろしくねっ我が主レイちゃん♪」

「あぁ、よろしくなエロとアホのアザゼル」

「だーかーらー!!怠惰と生命のジンって言ってるでしょ!?」

「気が向いたらそう呼ぶよ」

 

彼女…レイは上を向く。

彼女の頭上には見渡す限りの星々がキラキラと光っている。

 

(取り敢えず全身魔装目指しながらアリババのいる町にでも行くか)

 

レイは自分の金属器である小ぶりのダガーを握りしめて小さく呟いた。

 

「第二の人生?上等だよ」

 

 



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スタート地点?絶対間違ってるよ!!

出してからまだ1日も経ってないのに5件のお気に入りがついてるのを見て驚いています。ありがとうございます。
第2話、始まり始まり。


この世界は三つの軍勢が互いに均衡を守りつつ存在している。

 

一つは、人類の力を使うレーム帝国。

一つは、七つの小国が互いに協力すると盟約を結んだ七海連合。

一つは、侵略国家である煌帝国。

 

これらの軍勢が現在、世界を支配しているといっても過言ではない。

しかしどれか一方がその力を大幅に強化した時、均衡は崩れ去るだろう。

 

そんな中、侵略国家の煌帝国の第一皇子である練 紅炎は少ない時間を趣味の読書に費やしていた。

 

「………」

 

紅炎は静かに本を読んでいるかの様に見えるが、実は彼が読んでいる本はつい先日迷宮内で手に入れた今はない世界の話がお伽話で書かれている本なのだ。

 

「ほう…これは興味深い……!!」

 

ニヤリと口角を上げる紅炎。彼は公私を分ければ知識欲の人間であり、自分の知らないことを知ることが出来るというのはとても喜ばしい事なのだ。もしできれば一日中自室で書物を読みたいと彼は考えている程に彼の知識欲は大きい。

 

そして紅炎が本を読み終わり、次の本に手をかけようと立ち上がった時に彼の部屋の真ん中が光り輝いた。

 

「……!?」

 

即座に腰にかけている剣を抜き臨戦態勢に入る。

しかし光は紅炎を攻撃する様子もなくしばらく光り輝いた後、

 

「はぁ〜やっと着いた……!え、でもここって……」

 

黒髪の少女レイが紅炎の目の前に現れた。紅炎は5秒程考えた後、彼女に第一声を発した。

 

「お前は何者だ!」

 

恫喝とも言えるような問いにレイは一度深呼吸してから答えた。

 

「まぁ落ち着け。俺はレイリス、ダンジョン攻略者だ」

「攻略者?貴様のような餓鬼がか?」

「後ろの財宝を見てそれが言えるのか?」

 

レイは自分の後ろにあるおおきな袋を少しだけ開いて中身を見せる。

中に入っているのは黄金のカップやら剣やらと豪華な中身だ。

紅炎はそれを見て、驚きの視線をレイに向ける。

 

「…驚いたな」

「まだ信じられないんなら金属器見せるけど?」

「いや…いい。お前は攻略者だ、でないとその財宝の説明とここに現れたのも納得がいく」

 

紅炎は攻略者が外に出る時、出現する場所がランダムであると知っていた。彼自身も攻略したダンジョンから出される時に迷宮のあった場所とはかなり別の場所に飛ばされた事があるからだ。

 

「そうか…てっきり牢屋とかに入れられると思ったんだが」

「本来ならするんだがな。攻略者なら話は少し変わる」

「良かった。で、ここはどこなんだ?」

「俺の部屋のだが?」

「え、マジ?」

 

レイは鳩が豆鉄砲を食らった様にポカンとする。

何故かと言うと練 紅炎の自室と言ったら煌帝国第一皇子の部屋だからである。一般人はもとより、煌帝国の他の皇子でさえ入るのを躊躇うだろうその部屋にレイは転移したのだから。

 

「本当だ。嘘をついて何の得になる?」

「それもそうか…ならここは煌帝国か」

「ほう、何故そう思う?」

「だってあんた練 紅炎だろ?煌帝国第一皇子の」

 

レイは転生者なので紅炎の事を知っている。これから煌帝国で何が起こるかすらも。

本来なら煌帝国の第一皇子にタメ語で喋る事は自殺行為であるが、紅炎は話のわかる人間なので多分大丈夫だろうと彼女は思っているからタメ語であるのだ。

 

「それを知っていてその口ぶりか」

「嫌なら直すけど?」

「いやいい。わざわざ自分の部屋で気を遣われるのも煩わしいからな」

「分かった、じゃあ一つ頼みごとしていいか?」

「何だ」

「チーシャンの町まで送ってくれない?」

 

チーシャン町とは領主ジャミルが治めている中規模の町である。

紅炎は何故、彼女がチーシャンの町に行きたいのかが分からなかった。あの町の領主と会った事がある紅炎はあの町が良い町とは思えなかったからである。

 

「何故だ?あの町は特別良い町ではないはずだが」

「会ってみたい奴がいるんだよ」

「そうか…なら手配しよう。その代わり貴様の後ろにある財宝を一つ貰おう」

 

紅炎はレイに揺さぶりをかける。ここで金に執着するような選択を取れば紅炎はレイを興味対象から外し冷遇するだろう。

しかしレイはなんだそんな事かと言わんばかり一番大きい財宝の山を指差した。

 

「じゃあやるよ」

「ほう…いいのか?」

「持っていても邪魔なだけだろ。あっ、どうせなら全部やるし換金して袋一つ分くらいの金くれよ」

「……ふっ、はははは!」

「何がおかしいんだよ?」

「いや…試したつもりがまさかこの俺が利用されるとはな」

 

紅炎は心の底から笑っていた。

自分の予想していた展開の斜め上に行くレイのような人間を今まで見た事がなかったからだ。

紅炎はかつてない程の興味をレイに対して抱いていた。

 

「面白い…俺はお前に興味が湧いたぞ」

「あっそ。で、換金してくれるのか?」

「あぁ、良いだろう。煌帝国にとって悪い話ではないからな」

「なら交渉成立だ」

 

レイは立ち上がり紅炎に握手を求める。

差し出されたその小さな手を紅炎はフッと笑って握った。

彼がレイの友になりたいという気持ちを感じたからだ。

そして、思い立つと即座に行動に移すのが紅炎である。

 

「ところで…俺からの頼みも一つ聞いてもらえないか?」

「あぁ、ある程度ならいいぜ」

「既に知っていると思うが、俺の名は練 紅炎。貴様の名は何という?」

「レイリスだ。レイとでも読んでくれ」

「ではレイリス、貴様に頼もう。俺の友になってくれ」

「あぁいいぜ。確認するけど"練 紅炎"の友達でいいんだな?」

「無論だ、誰が何言おうとお前と俺は友だ」

「じゃあよろしくな、紅炎」

「こちらこそよろしく頼むぞレイ」

 

こうして二人の間には友情が芽生え始めた。

後にこの話を盗み聞いていた紅覇が、驚きのあまりに色々な所に話をばらまいた事は言うまでもない。

 

---

 

あの後、レイは財宝の一部を換金してもらい残りの財宝は煌帝国に寄付した。そしてそれに対する感謝の印として煌帝国宮殿内で宴が開かれた。

レイはお酒は断りつつ、煌帝国ならではの料理を食べながらこの煌帝国にいる主力キャラには全員顔を合わせておいた。

しかし公の場なので、レイは紅炎以外の全員に敬語を使った。

何故、紅炎だけ砕けた口調なのかと色々言われたり聞かれたりした彼女だが友達だからの一点張りで通した。

やがて宴がヒートアップしてくるとレイは静かに場を抜け出して外に出る。

 

「ふぅ…中々美味かったな」

「レイリス殿!」

 

夜空を見上げて少し黄昏ていたレイに槍を携えた一人の青年が声をかける。

彼の名前は練 白龍、煌帝国の王の妃である練 玉艶の息子である。

 

「お初にお目にかかります。私は練白龍と申します」

「私はレイリスと申します。ところで、一体私に何の用でしょうか?」

「貴方に少し訪ねたい事がありまして…」

「答えられる範囲であるならばいいですよ」

 

レイとて答えられない事はある。

例えば、まだ幼さが抜けていない少女なのにどうしてある程度の礼儀作法が出来ているのかなどと聞かれても前世の知識があるからとしか言いようがない。

 

「何故、紅炎殿に砕けた口調で話せるのですか?」

「友達だからですよ。私は煌帝国第一皇子の友達ではなく、ただの練 紅炎の友達なのですから。友達に気を遣うのはおかしいものでしょう?」

「そうですか…ではもう一つ聞かせてください」

 

さっきまで白龍の様子がゆったりとしていたものから突如真面目なものになる。

そして白龍は意を決したようにレイに視線を向け問いかけた。

 

「貴方は…私の母上、練 玉艶のご友人ですか?」

「……何故、そう思いに?」

「ダンジョンの財宝を殆ど煌帝国に寄付するなどありえない行為だからです。ですからこれは玉艶が手引きしたものと考えるました」

 

淡々と答える白龍。

しかし穏やかそうな顔つきをしていて瞳の奥の猛烈な憎悪を感じたレイ。彼女はそれに臆する事なく、答えを返す。

 

「それは間違いですね。そもそも私の様な一介の攻略者がそのような方と会えるはずないでしょう」

 

レイはまだ練 玉艶に会っていない。

玉艶は急用のため宴に参加していなかったからである。

レイの答えを聞くと、白龍は抱いていたわずかながらの敵意を消した。

 

「それもそうですね…すみませんこんな事をお聞きしてしまい」

「まぁそう思われるのも仕方ないですよ。ところで話を変えますが、白龍様は何故こんなところに?」

「姉上の様子見ですよ、酒に関してはあまり強くはないので」

「なら今すぐ止めに行った方がいいですよ。凄い勢いでお酒をお飲みになられていますから」

「本当ですか!?ならすみませんが私はこれで!」

 

軽く礼だけして白龍は部屋の中に入っていき白瑛を止める作業へと移った。

そしてレイはまた一人になったので夜空を見上げつつある事を考えていた。

 

「……」

 

(練 玉艶…か、確かアルマトラン時代の魔道士で極大魔法バカスカ打てた奴だよな……。今はどうかなるべく会いませんように)

 

しかし運命はレイの願望を裏切るかのように働いてしまった。

 

「あらあら…こんな所に子供が迷いこんでいるじゃないの。大丈夫?お嬢ちゃん?」

「………!!?」

 

レイに向かって歩いてくる女性。

その女性こそが煌帝国を影で牛耳っている張本人。

煌帝国の王の妃、練 玉艶である。

 

「……申し遅れました。お初にお目にかかります私、レイリスと申します」

「貴方が財宝を寄付してくれたという人ですか。人は見かけによらないものですね。初めまして、練 玉艶と申します」

 

玉艶の笑みに背筋が凍る様な感覚に見舞われるレイ。

しかしここで不審がられてもいけないので会話が途切れない様にする。

 

「ありがとうございます。玉艶様は今夜、急用ができたと聞いたため会うことが出来ないかと思っておりましたが、お会い出来て光栄です」

「そういう事を言ってもらえると嬉しいわぁ。今度、私と一緒にお茶でもしません?」

「お誘い、大変嬉しいのですが私は明日にはここを発ちますのでまたの機会にしてください」

「それは残念ですねぇ。それはまた今度にしましょう。では私は宴に参加するとしましょうか。レイリスちゃんは参加しなくて良いのですか?」

「眠くなってきましたのでこれ以上の参加は厳しいと思います。申し訳ありません」

「いいのよぉ、ゆっくりと体を休めてくださいね?」

「はい、かしこまりました」

 

会話を終え、玉艶は部屋の中に入って行く。

玉艶の姿が見えなくなった時、レイは安堵のため息をついて、もう一度だけ夜空を見上げて呟いた。

 

「練 玉艶…いずれ敵になるから注意しないと」

 

そしてレイは本当に眠くなってきたので指定された寝室まで向かい、眠りにと着いた。

 




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チーシャンの町に行く方法?そんなもん転送魔法だろ!!

少し短めです。
すみません。


「…ふぁ…あぁ……ねむっ」

 

煌帝国のとある寝室の一つでレイは朝早く目覚める。

レイは一人の少女が寝るには贅沢すぎるほどの大きさのベッドから降りて洗面台に移動し顔を洗い口をすすぐ。

そして用意してもらって着た寝巻きから元々着ていた短いズボンと白シャツに着替える。

そしてそれが終わると同時に部屋の扉がノックされる。

 

「俺だ、開けてくれ」

 

声の主が紅炎である事を知ると、レイは扉の鍵を背伸びして開ける。

 

「鍵開けたから入ってもいいぞ」

「そうか、なら入るぞ」

 

紅炎が部屋に入る。彼の手にはパンが二つあった。

 

「起こしにくるの早すぎだろ」

「俺は色々とやることがあるからな。まぁ俺が起こす前に起きていたようだが」

「長年の習慣になってるしな」

「?」

「あ…いやなんでもない」

「おかしな奴だな」

 

レイの転生する前の生活は日が出る前からが一日の始まりだったのでこれくらいの時間に起きるのは造作も無いことである。

しかし、そもそもの問題であるが子供はこんな時間には滅多に起きない。自分の意思でとなるとなおさらである。

レイが行った事を含めその事に紅炎は疑問を感じたが追求はしなかった。

 

「それで?こんな朝早くに何の用だ?予定じゃ送ってもらうのは昼過ぎのはずだが」

「予定が変わった。今からお前を送ることにしたんだ」

「何でだよ?」

「自分で考えてみろ」

 

そう言われ昨日の事を思い出しながら考えるレイ。

紅炎との出会い、宴会、白龍との会話、玉艶との会話。

これらの中で紅炎が時間をずらしてでも送り届ける理由をレイは考えた末出した答えは――――

 

「……錬玉艶か」

「正解だ」

「やっぱり…」

「ほう…何故か分かるのか」

「多分、あいつが俺に"興味を示した"からだろ?」

「そうだ。お前とて玉艶とは関わりたくないのだろう?」

「何で分かったんだ?」

「実は玉艶と会話をしているのをみかけてな。その時お前が警戒心を隠そうとしているのを感じた」

「ばれてたか…じゃあ一刻も早く出発しないとな」

 

紅炎が持っているパンを取り、レイは素早く食べきると金属器アザゼルの短剣を腰にかける。

紅炎もパンを食べ、そして食べ終わるとレイに小さめの手提げ袋を手渡す。

 

「例の財宝を換金しておいた。持っていけ」

「サンキュー、まぁ俺が頼んだんだけどな」

「入ってるのは金だけじゃない。色々と入っているが後で見ろ」

「分かった」

 

レイは手提げ袋を受け取ると靴を履いて立ち上がり肩にかける。

その姿は幼いながらもしっかりとした旅人の服装であった。

 

「準備できたか?」

「あぁ、おかげさまで」

「では行くぞ」

 

紅炎はレイにそう言うと部屋を出て移動を始める。

レイも頑張って紅炎に付いて行くがやはり子供と大人の歩幅はかなり違う物なので少しずつ差が出る。

それを見かねた紅炎がレイを担ぎ上げた。

 

「ちょっ!何すんだよ!」

「このままお前に合わせていたら日が出てしまう、我慢しろ。不満なら抱えてやってもいいが」

「あ、いやそれは勘弁して」

「分かった」

 

そうしてレイは紅炎に運ばれる事五分、目的地へとたどり着いた。

そこは煌帝国第二皇子、練 紅明の自室であった。

 

「すまんな紅明」

「いえいえ、兄王さまの頼み事なので引き受けますよ」

「そう言ってもらえると助かる。ではすぐにでも取りかかってくれ」

「承知しました。ですが…まずはレイリス様を降ろされてはどうですか?」

 

紅炎は紅明に指摘されてレイの存在を思い出してすぐに降ろす。

レイは恥ずかしかったと紅炎を叱り、紅炎はそれを素直に聞いていた。

紅明はその光景を見て苦笑しながら準備にとりかかる。

 

「それでは少々離れていてください」

「はい、分かりました。ほら紅炎も離れて!」

 

レイは紅炎を押しながら少し離れる。

それを確認した紅明は軽く礼をして黒扇を持つ。

 

「我が身に宿れ、ダンダリオン!」

 

紅明の持つ黒扇の柄に八芒星が浮かんで光り、光が紅明を包む。

そして光が徐々にやんでいくとそこにはさっきの服装ではない物を着ている紅明がいた。

彼がしたのは金属器使い達が使うことのできる全身魔装である。

金属器に宿るジンに限りなく近い状態にするという全身魔装はどれも強力無比な物なのだ。

 

「これが全身魔装…」

「これくらいならほとんどの者ができますよ。貴女もすぐできるようになります」

「そうなんですか?」

「絶対できる、とは断言しかねますけどね」

 

クスッとレイに笑いかける紅明。

その目はまるで子供達の相手をするお兄さんの様な物である。

彼は内心ではレイの事をまだ遊びたい盛りの無邪気な子供として見ているようだ。

しかしご存知の通り、レイの中身は半分以上がおっさんである。

それを知れば彼は恐らく立ち直る事ができないショックを受けるだろう。

 

「ところで、何故私に全身魔装を見せたのですか?」

「兄王さまにレイリス様に全身魔装を見せてやれと頼まれましたので」

「全身魔装の例を見ておけば具体的なイメージが持てるだろう?」

「いいのか?敵か味方かもわからない俺に見せて?」

「例え敵だとしてもお前なら喋らんと俺は信じているからな」

「それ反則じゃね?まあそんな事はしないけどさ」

 

レイと紅炎は互いに笑う。

それはまるで他愛もない会話をして笑いあっているような光景である。

 

「兄王さま…そろそろいいでしょうか?」

「あぁ、もういいぞ」

「承知しました、ではレイリス様この円に乗ってください」

 

そう言うと紅明は光っている両手をかざす。

すると床に八芒星の円が浮かび上がる。

ダンダリオンは後方支援が得意な金属器、得意魔法は転送魔法である。

どれほどの物質を転送できるのかは定かではないが、いずれにせよ大量の物を転送できる事は戦争において役立つ能力である。

 

「今からレイリス様のみをチーシャンの町の入り口に転送します」

「何故私だけなのですか?」

「チーシャンの町は非常に遠いのでもし向こうで何かあって帰るのが遅れた場合、玉艶に気づかれかねない可能性があるからです」

「そんな事滅多にないでしょう?r

「だとしても常に最悪の状況は想定しておきませんといけません」

「…分かりました」

「すまないなレイ、本当なら見送りたいのだが」

「いいよ、別に」

「それでは転送しますので兄王さま、お離れください」

 

紅明に言われ後ろに下がる紅炎。

それを確認した紅明は手を上に振った。

そうするとレイのしたにある八芒星の円が上へと上がっていきレイの姿もそれに伴い消えていく。

 

「じゃあな紅炎、次会えたらゆっくり話でもしようぜ」

「その言葉、覚えておこう」

「あのー…一応私もいるのですが……まぁいいですか」

 

送るのは自分なのに何故こんなに空気みたいな扱いを受けなければならないのかと紅明は思うが、思うだけに留めてレイを転送した。

 

「ふぅ…転送完了しました兄王さま」

 

魔装を解き、紅炎の方に見る紅明。

しかし紅炎の表情が優れないことに気づく。

 

「……そうか」

「どうかされましたか?」

「いや…何でもない」

「名残惜しく思われているのですか?」

「そうだな」

「何故…あのような少女に?いくらダンジョン攻略者といえどもたった1日で兄王さまがそこまで思うことあるのですか?」

「……あいつは人を惹きつける何かがある、俺はそれに魅入られた人間さ」

 

そこまで言うと紅炎は話を切り上げ早々に紅明の部屋から出て行く。

紅炎にも色々と思う事はある。自分が何故あそこまでレイに惹かれているのか、またレイがまだ何か重要な事を隠している事も彼は気にしている。しかし、送り出したからにはもう聞けない。

そして彼は少し歩いたところで頭上を見上げた一言呟いた。

 

「ふっ…今度会った時にでも聞くとするか」

 

こうして紅炎はのちに煌帝国の国王となるが、それはまた先の話である。

 

---

 

「うおっ!?着いてる!?」

 

高くて綺麗な声で間抜けな叫びを上げるレイ。

彼女の感覚的には目の前が暗くなった後、数秒後に別の景色になったのだから仕方ないだろう。

ちなみに、彼女が転送された場所はチーシャンの町のとある路地裏である。

レイは路地裏から出て大通りに出ると感嘆の声を漏らす。

 

「ここがチーシャンの町…」

 

まだ朝早いというのに周りを見ると店を開いている所がある。

これだけの数でも軽いお祭り状態なのに、昼になるとどうなるんだろうとレイは思う。

 

「って!見とれてたら駄目だ。取り敢えず生活の拠点を探しつつアリババも探さないと」

 

首をプルプルと振って気合を入れるレイ。

彼女の今日の目的はまず宿を取るところからだろう。

 

「よっしゃ!やるぜ!」

 

気合に満ちた声を出しながら、レイは自分の勘に任せ走っていった。

 




読んでくださり有難うございます。
もしよろしければ感想等聞かせていただければ励みになりますのでよろしくお願いします。


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アリババに会う?中々見つかんないよ!!

いつの間にかお気に入り評価が増えてる…感謝感激です。
読んでくださりありがとうございます。


「うーん…」

 

紅明にチーシャンの町に送ってもらったレイは今、宿屋の一室のベットの上で悩んでいた。

着いた後の行動に差し支えはなく、宿も取ることができこの町の地図を宿屋の女将さんに貰うことができ、さらにはご飯を買う時におまけまでされたのだが彼女は悩んでいた。

その理由はただ一つ。

 

「……アリババ見つかんねぇ!!」

 

彼女が探しているこの世界の主人公のアリババが見つからないからである。

レイは宿屋を取り終えた後、日が暮れるまで探し回った。

しかしこのチーシャンの町は意外に広く、道も入り組んでいるので一人の少年を見つけるのは至難の技であるのだ。ましてや少女一人だけが探しているとなると尚更である。

 

「どうしよう…」

 

出鼻をくじかれガックリと項垂れるレイ。

彼女の考えでは探したらすぐに見つかる、ぐらいの認識だったのだろう。

 

「…悩んでいても仕方ない。まだ時間はあるんだ」

 

レイは根拠も無しに言ってはいない。

何故なら彼女が昼間チーシャンの町のどこからでも見えるように建ってある大きな塔を見たからだ。

その塔は迷宮であり、そこには礼節と幻覚のジンであるアモンがいる。

レイが見たマギの話だと、アリババはアラジンというマギと騒動を起こした後そのまま一緒に迷宮に入る事を知っているので町中にそれらしい話を聞いてみたが収穫はゼロであった。

なのでアリババはまだ迷宮内に入っていないという事がわかり、まだ時間はあると思うレイだがいつそれが起こるか分からない状況下にある事もまた事実である。

 

「取り敢えずまだ眠くはないからあれの練習を始めよう」

 

そう言ってレイが取り出したのはアザゼルの金属器である短剣。

彼女も迷宮に潜ろうとしている身。自分の身を守れる最低限の事…つまり金属器を扱えるようにする練習を今から始めるということである。

 

「えっと…確か怠惰と生命のジンって言ってたから…」

 

レイは周りをキョロキョロ見渡す。

そして彼女は花瓶に備えられている花を一輪取るとベットに置く。

アザゼルの金属器は生命関係の魔法だとレイは思っているからである。

そして彼女は短剣を鞘から抜き、構える。

 

「………そう言えば金属器って呪文っぽいの唱えるけどアザゼルのってどんなのだろう」

 

前世で見た漫画ではアリババ達金属器使いは普通に呪文を唱えていたが、レイにはそれご分からない。

だからいざアザゼルの金属器を手にしてもどう使えばいいのか分からないのである。

 

そうしてレイは数分悩んだ末、一つの答えを導き出した。

 

「よし、途中まで言おう」

 

現在打つ手なしの状態の彼女は取り敢えず試行錯誤を繰り返すしかない。

なのでそれっぽい事を言えば浮かんでくるのではとレイは思ったのだ。

そして再度レイは短剣を構える。

 

「怠惰と生命の精霊よ、汝と汝の眷属に命ず。我がマゴイを糧として、我が意思に大いなる力を与えよ。出でよ、アザゼル!」

 

レイは漫画で覚えていたアリババの台詞をアザゼルに置き換えて叫んでみた。

ダメ元で挑んでみたつもりだったが、レイの予想に反して金属器は光り輝く。

 

「……!!!?」

 

そしてその時、一瞬の時ではあったが、レイはアザゼルの金属器の能力が頭に入った。まるで最初から覚えていたかのようにアザゼルの知識が入り込んでいったのだ。

やがて光が治るとレイは息切れしたかのように呼吸して短剣を見つめる。

 

「はぁ…はぁ……これがアザゼルの能力」

 

アザゼルの能力を理解したレイは短剣を花に向ける。

 

「生命の断絶≪アザベール・シャウト≫」

 

金属器の短剣から紫色の光が花に当たる。

すると花はみるみるうちに萎れていった。

と同時に、レイの体から何かが抜けていく感覚がする。

 

「あっ…えっ」

 

レイは慌てて生命の断絶を止める。

そして落ち着いて考える。

 

(今のがマゴイを使う感覚…覚えておかないといけないな)

 

マゴイを使う度に驚いていては使いこなせない。

そう思うレイは恐れずに枯れかけの花に剣を向け、もう一度金属器を使う。

 

「生命の断絶」

 

またマゴイが抜けていく感覚がするがレイは耐える。

そして花が完全に枯れると、生命の断絶は止まりそこには茶色に変色した変わり果てた花の姿があった。

 

「や…やばいなこれ……」

 

枯れた花を手にとって見ながらレイは呟く。

植物でたった一輪の花だけだが確かに花の命を止める事が出来たのだ。人相手に使えれば強力無比な物になるだろう。

しかし生命の断絶には欠点があった。

 

「…え?」

 

突然素っ頓狂な声を出すレイ。

何故、彼女がそんな声を出したかというとベットのシーツが赤くなっていたからである。

マゴイは生命力と直結していて多くのマゴイを使えば体が耐えられなくなり出血したり最悪死ぬ場合がある。

レイは鼻と目からから、主に鼻から血が出ている。

つまるところレイはマゴイを使い過ぎて出血しているのだ。

 

「嘘だろ…まさか花一本でマゴイ切れかよ……」

 

そしてマゴイの使い過ぎによりレイは意識を失った。

その時、生命の断絶は強力な物だがマゴイの消費が著しく激しい物だったんだとレイは意識を失いつつも思ったのであった。

 

---

 

時は流れレイは翌日の昼に目覚める。

まだマゴイが完全に回復しきっていないせいか倦怠感が残る彼女だが、色々と行動しないとまずい事もあるので頑張って起き上がる。

そして彼女は真っ赤で大きな円がベットの自分が寝ている下にできているのを見る。

 

「やっぱりマゴイ切れか…」

 

昨晩、彼女はマゴイを使い過ぎた為に出血して意識を失った。

生命の断絶のマゴイ消費量が高いだけなのか、はたまたレイのマゴイ量が少ないだけなのか、理由を考えるレイだが答えが見つからない為一旦保留にしておく。

 

「取り敢えず…これについて謝っておかないとな…」

 

血に染まったシーツを見て呟くレイ。

一晩放置されたレイの血はシーツに染み込み、洗い取るのが不可能なレベルになっている。

どう言い訳をしようと考えているレイの部屋の扉がノックされた。

 

「お客様ー、そろそろ退出の時間ですがよろしいですか?」

「あっ、はい!」

 

突然の事だったので慌てて扉を開けるレイ。

しかし彼女はその行動をすぐに後悔する。

 

「ちょっと!ベットが血まみれじゃないですか!?」

 

ベットに染み付いた血を見て金切り声を上げる従業員。

それはそうだろう、自分達の商品である物が汚されたのだ。

しかも染み付いたのは洗っても落ちないであろう血液。

怒る理由はこれだけで十分すぎるほどである。

 

「えっとその…ごめんなさい……。弁償しますから!」

「弁償すればいいって問題じゃないでしょ!!」

 

(いや弁償すればいい問題だろ)

 

軽くヒステリックみたいな症状が出ている従業員。

それはさながらモンスターペアレントのような勢いと圧力を兼ね備えている。

 

「貴方ねぇ!一体どんな教育を受けたらこんな事ができるんですか!!?血まみれですよ!血ですよ!血!!」

 

(この人面倒くせぇ…。元いた世界でもここまでの奴はいなかったぞ)

 

あまりの従業員のウザさにレイの顔がピクピクと引き攣り始める。

そしてそろそろキレかけたその時、宿の女将がドタバタと慌てて部屋に入ってきた。

 

「なんだいなんだい!騒々しいね!!一体何の騒ぎだい!!?」

「あっ、女将!聞いてください!このお客様が私達の宿のベットを汚したんですよ!!しかも血ですよ!!血!!」

「ごめんなさい…」

「取り敢えずお前は落ち着きな」

 

女将は従業員の様子とベットの状態を確認すると、レイの目の前でしゃがんで優しい口調で喋りかけた。

 

「お客様、一体何があったんだい?」

「すいません…少し、マゴイを使い過ぎて…」

「………」

「あっ、マゴイっていうのはですね。魔道士が魔法を使う時に」

「大丈夫さ、分かってる」

 

実は女将の職業は元々は魔道士であった。

しかし仕事中に一度マゴイ切れを起こした事があり、それがトラウマとなって二度と魔法が使えなくなった過去がある。

なので女将はマゴイ切れを起こした時にどうなるのかを知っている。

だがか弱い少女が魔法を使えるのか?そんな考えが女将の頭をよぎるが、見た所レイが刃物で自分を切りつけたような後は無かったためマゴイ切れの考えが強くなる。

様々な事を考え、その上で女将が考え出した答えとは。

 

「……あたいも昔に似たような事を体験してね。だからあんたの気持ちも分かる。今回は多めに見てやるさ」

「女将!!」

「あんたは黙っとき!!」

「は、はい…」

「すみません…すぐにでも弁償を」

 

そう言ってレイは金が入っている袋を取ろうと動くが女将がレイの肩に手を置いて止める。

 

「お金はいらないよ。稼ぎ口がないんだろう?」

「…!!ありがとうございますっ!」

「別にいいさ」

「わかりました!」

 

女将に言われ、レイは弁償する事なく受付に行く。

女将は優しい人なんだなとレイは思いつつも申し訳ない気持ちも感じた。

そしてレイは女将に礼をして、荷物を持って外に出る。

レイが取っていたのは一泊だけだったのだ。

 

「本当にごめんなさい」

外に出たレイは宿の前で振り返って深く謝罪した。

そして、レイは宿に背を向け歩いて遠ざかって行った。

 

そのまま少し歩いたところでレイはある事を思いついた。

 

「あっ!!何で思いつかなかったんだ!」

 

名案をレイは思いついたようにレイは自分を褒めて、走り出した。

彼女の目的地は……アモンの迷宮である。

 




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アリババが見つからない?いや見つけたよ!!

遅くなりました。すみません。
最近、この作品のお気に入り件数の伸びが高くて驚いている作者です。
お気に入り登録してくださりありがとうございます。


「始めからこうすれば良かったんだよな…」

 

アモンの迷宮の前に着いたレイは額の汗を拭った。

昼下がりとはいえ今の時間帯で走れば誰だって汗をかくだろう。

それにしても何故彼女はアモンの迷宮の前に行ったのか?

それは至極単純な話で、見つからないならアモンの迷宮の前で待てばいいという方法を思いついたからである。

入り口は一つしかないのでこうすればすれ違う事もない。それにアリババが来るのは夜なので、夜までの時間に金属器の練習もできる。まさに一石二鳥の作戦なのだ。

 

「中々良い景色だな」

 

アモンの迷宮のある場所はチーシャンの町でもっとも高い所に位置するので町全体を一望できる。その光景は中々に良い物だ。

しかしここでレイは今ここにきたことを後悔する事になる。

 

「…腹減った」

 

レイのお腹が可愛らしい音を出す。

レイは今日何も食べていなかった事を思い出した。

昨晩からマゴイ切れで倒れていたので朝食も昼食も食べられなかったのである。

 

「でもこの道を往復はめんどくさいな…」

 

ため息をつくレイ。それもそのはず、アモンの迷宮に至るまでには長い階段を登らなければならないのだ。それを往復するには中々の体力が必要となる。

 

「うーん…仕方ない一度降りるか。腹が減ってはなんとやらっていうし」

 

愚痴を零しつつも、レイは下の屋台がある通りまで降りる。

屋台の並んでいるこの通りはまるでお祭りみたいな状況になっている。

レイは少し通りを歩いて屋台を見て回る。

 

「安いよ安いよ!」

「今ならこの商品が半額です!」

「冒険に必要な装備を整えるなら是非当店をご利用くださーい!」

 

通りには大勢の人が歩いている。観光、仕入れ、販売、一人一人の目的は違うがとても賑やかな様子だ。

レイは当たりそうになる大人を避けつつ歩いて行く。

 

「毎日がお祭りみたいな状況だな」

「あらあら可愛らしいお嬢ちゃんね。焼き鳥串一本買って行かない?」

 

屋台で焼き鳥串を売っている女性がレイに声をかける。

レイは財布から少量の銅貨を渡し焼き鳥串を買う。

何故なら女性が作っている焼き鳥串のいい匂いが屋台から出て、通る者の鼻孔をくすぐったからである。

この香ばしく美味しそうな匂いには誰も抗えないだろう。

 

「うんっ、ひとつちょうだい!」

 

レイはここぞとばかりに120%サービススマイルを女性に見せつけながらお金を手渡しで支払う。その笑顔は前世にいた某天才子役にも負けず劣らずの可愛さだ。

女性はレイの純粋(内心は邪推)な笑顔に胸を貫かれ顔をにやけさせる。

 

「可愛らしいわ……。お姉さんサービスしちゃうぞ!」

 

そう言うと女性は焼き鳥串を一本多くしてレイに渡す。

 

「いいのっ!?おねえちゃん?」

「可愛いは正義なのよ!…特別だから内緒にしてね?」

「はーい!」

 

焼き鳥串を持った手を上げて子供口調で返事をする。

その姿に女性はまたもや心を打たれ内心で悶絶した。

 

「ばいばいっ!おねえちゃん!」

「また買ってねー!」

 

手を振りながら女性に別れを告げ背中を向けるとレイは素に戻る。

 

「ちょろいちょろい」

 

そう呟いてレイは焼き鳥串を食べていく。

その顔は子供らしくなく、片方の口角を釣り上げてにたりと笑っている。恐らく先ほどの女性がレイの素を見た瞬間、その場で倒れるだろう。

それほどまでにレイの演技力は高かったという事である。

 

「よし…もうちょっと見て回るか。少しくらいこの町のこと知っておかないとな」

 

焼き鳥串二本を食べきり、お腹が満たされたレイ。

大人にらこれだけで腹が満たされることはないが、今のレイは子供でありこれくらいの量でも食事は事足りるのだ。

しかしもう食べることが出来ない状態ではないので、レイは途中で買ったリンゴを食べてながら屋台が並んでいる通りを抜けた所を歩いていた。

周りには荷物を運んだりしている人達がいる。恐らくレイ以外の全員が何かしらの仕事をしているのだろう。

 

そして少し歩いていると、ふとレイの耳にある会話が入ってきた。

 

「精がでるな、アリババ。何かあったのか?」

「今日はブーデル様に卸すんですよ」

「あー…あのごうつくな」

 

(んん!?これはまさか!!?)

 

微かではあるが聞こえた声の方向にレイは走り出した。

そして声のした所にレイは着く…がそこにアリババの姿は無かった。

レイは仕事をしていたおじさんに尋ねる。

 

「ねぇおじちゃん!」

「ん…?何だい、お嬢ちゃん?」

「さっきアリババってひととしゃべってた?」

「あぁそうだよ」

「どこにいったの!?」

「ブーデルの所だよ」

 

そこが分かれば苦労しないんだよぉぉ!とレイは内心叫びながら子供モードで話を続ける。

 

「おじちゃん!アリババお兄ちゃんのばしょおしえて!」

 

女将から貰った地図を差し出すレイ。

おじさんさその地図のある場所に赤い目印をつける。

 

「ここに行けば会えるだろう」

「ありがとう!おじちゃん!!」

「礼には及ばないよ」

 

じゃあねっ!と子供らしく別れを告げるとレイは猛ダッシュで赤い目印の所まで移動する。

一方おじさんはというと…、

 

「いやぁさっきの子可愛かったなぁ…」

「そうだな、見た所アリババの妹だなあれは」

「あいつ妹いたのかよ」

「さぁ、もしかしたらって話だからあんまり気にするなよ」

「それもそうだな」

 

ボーイズトーク(中年)をしていた。

 

---

 

「はぁ…はぁ……」

 

目的地に着いたレイは息切れを起こしつつアリババを探す。

すると奥の荷車の方から男の怒鳴り声が聞こえた。

 

「アリババ!どういうことだ!」

 

荷車に隠れながら奥の方に行くレイ。

そしてそこにいたのは、レイが会いたかった金髪の青年アリババと頭にターバンを巻いた少年アラジンがブーデルに怒られていた。

いや…怒られているというよりはアリババがブーデルに一方的に蹴られているという言い方の方が正しいだろう。

 

「あれがブーデル…あんなにデブなのにどうして動けるんだろう……」

 

ブーデルを見つめながらレイはそう呟いた。

そして視線をアリババの方に戻すとアリババの表情が硬くなっている。原因は至極単純、

 

「どうして男の人なのにおっぱいが付いているんだい!?僕はおっぱいが大好きなのさ!」

「なっ……!?」

「………!」

 

笑いを堪えながらレイはブーデルを見る。

ブーデルの額には青筋が数え切れないほど浮かび上がっていた。

もう少し頑張れば髪が金色に染まるのではないかというぐらいには。

 

「ふざけるな!貴様が弁償しろ!弁償するまでタダ働きしろ!逃がさないからな!!」

 

ブーデルはキレながらもアリババの頭を踏みにじる。

アリババは顔を俯かせて何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。相手は自分よりも高い地位にいる商人、下手すれば自分が奴隷にされかねないとアリババは思ったからである。

 

「………」

 

それを見ていたレイは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも何もしない。ブーデルの借金があったからアリババとアラジンはアモンに挑む事になるのだから。

 

「さぁ、今からでも働け!」

「……はい!分かりました!」

 

アリババは笑顔で答える。しかし彼の手を見ると血が出そうなほどに固く握り締められていた。

 

レイは何もする事が出来ずにただただ見ているしかなかった。

 

---

 

時は流れて夜になり、アリババは自分の家でブーデルの愚痴を呟いていた。

 

「くっそー…ブーデルの野郎。あのガキもバックレやがるし…最悪だぜ」

 

横になった状態で彼は今日一日の出来事を思い出していく。

用意した積荷を勝手に食い散らかしたアラジンの事、そのせいで自分に弁償しなければいけない事、ブーデルにこき使われてへとへとな事。

 

ふと、グギュルルルーと情けない音がアリババの腹から鳴った。

アリババはゆっくりと起き上がり果物が入っているかごへと手を伸ばす。

そのかごには大量のりんごが入っている…はずだった。

 

「はむっ…あむ…」

 

アリババがかごから取り出したのはりんご…を食べているアラジンだった。

アリババは驚いた顔をしてアラジンを掴んでいる手の握力を強めに投げた。

 

「……!!全部食ってやがる…!!?」

 

投げられたアラジンは不思議そうな表情でアリババに聞く。

 

「どうして…?さっきもくれたじゃないか」

「やってねぇ!」

 

大きな声を出そうとしたアリババだがその時再度彼の腹が鳴った。

空腹のせいかアラジンに対する怒りよりも空腹感の方が勝ったので溜め息をついてアリババは窓際に干してある干し肉をちぎって食べながら呟く。

 

「はぁ…こりゃマジでダンジョン落とさないと干からびちまう……」

「…?ダンジョンって何だい?」

「…んな事も知らねぇのかよ」

 

アリババは書物を手に取りアラジンに広げて見せる。

書物にはダンジョンについての説明が記されていた。

 

「ダンジョンってのは14年前世界のあちこちに現れた謎の遺跡群の事さ。そこを攻略した人間には莫大な富と権力が与えられるんだ。金銀財宝や不思議な魔法のアイテムとかがな」

「魔法……」

「まぁ…まだ本物の魔法使いもどっかにいるって噂はあるけどよ。ダンジョンにあるのはマジモンさ」

 

眠そうに喋るアリババの話を熱心に聞くアラジン。

今日の疲れが溜まっているからかはたまた今日の仕事量が異常なほどに多かったのかは定かではないがアリババは強い睡魔に襲われつつも話を続ける。

 

「空飛ぶ布、酒の湧く壷、究極なのは魔人が宿る金属の器ってやつ」

「お兄さん、そのダンジョンっていうのはどこにあるんだい?」

「………」

 

アリババは強烈な睡魔のせいでアラジンの質問に答えることが出来ずに倒れて寝てしまった。

アラジンはそれを見て自分も横になり笛を見つめながら小さく呟く。

 

「やっと君の仲間が見つかるかもしれないよ……おやすみ、ウーゴ君」

 

そう言って目を瞑り、アラジンも眠りに着いた。

 

―――

 

「んんっ…ふあぁ………」

 

アリババは朝早く目覚めた。

まだ日が昇ってから少ししか経っていないがアリババの生活スタンスは朝早くから始まるのだ。

そして寝ぼけ眼のアリババに手を差し伸べて起こそうとする人間が彼の目の前で立っていた。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

「あぁ…大丈……」

 

アリババは最初、声をかけているのはアラジンだと思った。

しかし喋り方と声の高さが全然違う。

まさか別の誰かが入っているのではと思うアリババだが自分に声をかけられるのはアラジンしかいない。

では誰が誰が自分に声をかけたのか?アリババは重たい目をこすって眠気を飛ばして前を見る。

するとそこには自分よりも幼い、黒髪の美少女が手を差し伸べていたのだ。

 

「……!!!」

 

二つの意味で目が点になるアリババ。そんなアリババにお構いなしのように少女はりんごを彼の口に突っ込みにこりと笑う。

 

「もがっ!!」

「おはようっ!ありばばお兄ちゃん!!」

「…あ…あぁ…おはよう」

 

どこから入って来たのだろうかと思うアリババなのだが美少女の天使のように無邪気な笑顔を見てほっこりしてしまったのだった。

 

(あー…やっぱり何回しても気持ち悪い……)

 

もっとも無邪気な美少女の内心は腹黒い。

何故ならこの美少女はレイなのだから。

 





先日、主人公がチートではないのではないか?とのご指摘をお受けしましたが、主人公はこれからチート化していきますので生暖かい目で見守りください。

いつも読んでくださりありがとうございます。
もしよろしければ感想等送ってください。
お待ちしております。


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アリババ?ちょっと理解しがたい奴だよ!!

お久しぶりです。
これからもボチボチ進めていきます。


「………」

「………」

 

互いに見つめ合う2人、いやこの場合はアリババがガン見しているだけという表現が相応しいだろう。

知らない子供がいきなり現れたのだ、誰だって驚く。

アリババは一瞬外に放り出そうかと考えるがレイの嬉々とした笑み(演技)を見て落ち着いて話を切り出す。

 

「……えっと、君の名前は?」

「私、レイリス!レイって呼んでね!」

「お、おぅ。それで、レイちゃんは何で俺の家にいたのかな?」

「んー…分かんない!」

 

ガッツリ嘘である。

レイは昨晩、アリババとアラジンが部屋に入る前にアザゼルの能力を使い数秒だけボーッとさせてその隙に部屋に入って適当なところに隠れたのだ。

怠惰と生命のジンであるアザゼルの能力は命に関することだけではなく、相手の無気力にさせる事もできるからこそできた芸当だろう。

 

アリババはそんなかなり無理がある嘘に頭を抱えてレイに聞く。

 

「分かんないって……お母さんはどこかな?」

「いないよ!」

「えーっと…じゃあお父さんは?」

「お父さんもいない!」

「………」

 

アリババはレイの言葉を踏まえて考える。

状況から考えて突然アリババの目の前に現れたレイは非常に怪しいだろう。

では一体どこから来たのか?

扉を破ったとしたら音が出るし、痕跡も残る。しかしアリババは扉を見て、強引に開けた痕跡がないことを確認していた。

では窓から入って来たのだろうか。それもあり得ないとアリババは首を横に振った。窓は子供がどう足掻いても届かない位置にあり何かしら台みたいな物を使わないと入れない。しかし外には何もない。

 

「うーん…一体どこから……」

 

自分では見つけられない答えを探すアリババ。

しかしふとある事に彼は気づいたため慌てて支度し始める。

 

「って考えてる場合じゃねぇ!早く行かないと遅れちまう!!」

 

急いで支度し終わるとアリババはレイを抱えてアラジンを外に投げ捨てる。

アラジンは壁に頭を打ち転げ回ると涙目で講義した。

 

「酷いじゃないか!」

「うるせぇよ!こっちはお前より仕事の方が大事なんだよ!!お前も早く出ろっ」

 

アリババはレイを抱えると部屋から出て鍵をかけて路地に出る。

路地には行商人から奴隷まで、様々な人が歩いていた。

 

「ちょっと待っておくれよお兄さん!」

「待ってられるかよ!付いてくるんなら勝手に付いて来い!」

「じゃあ何でその子を抱えてるんだい!?」

「お前よりも子供だからだよ!!」

「えええぇぇ!?」

「(何だその訳のわからない理由は…)」

 

---

 

「ふぃー終わったー」

 

額の汗を拭いながら一息吐くアリババ。

あれから彼は積み荷の用意から運搬までの全ての事を午前いっぱいで終わらせたのだ。レイも、現実世界のブラック企業に勝らずとも劣らないレベルの重労働をアリババがこなしていたことにびっくりである。

ちなみにレイはその間、ずっと脇に抱えられていた。

その状態でよく仕事が出来たなと感心しつつ呆れるレイ。

彼女からすれば移動が非常に楽なのでありがたい事だが、流石にこれ以上抱え続けられるのもどうかと自身の良心に叩かれたのでアリババの仕事が終わると同時に降ろしてもらった。

 

「お兄ちゃんすごかった!」

「へへっ、そうか?……って違ーう!!君は誰!?それにお前は誰だよっ!?」

 

アリババはレイとアラジンを交互に指差しながら尋ねる。

そんな彼の照れる、驚く、ツッコミを入れるという芸人並みのノリツッコミに笑いそうになるレイだが顔に出ないように抑える。

 

「僕はアラジン、旅人さ」

「私はレイリス!旅人だよ!」

「………」

 

頭を抱えるアリババ。突如現れた子供2人、しかも両方とも得体が知れない。一見ただの子供に見えるがアリババは2人から奇妙なオーラを感じている。

そして数分程考えた末彼が導いた答えは…

 

「取り敢えず飯食うか」

 

不意に鳴った腹の音に気づき、昼食を取ることだった。

この唐突な行動にレイはアリババは馬鹿なのかと思いつつも歩いていくアリババに着いて行った。

 




凄い短かかったですよね…すみません。


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ウーゴくん?シャイだったよ!!

お久しぶりです。作者は辛うじて生きてます。
最近色々としんど…え?もう始めなきゃいけない?
何それ理不尽(´・ω・`)…
というわけで第7話、始まりまーす。


空腹を満たすために食べ物を買いに市場へ向かったレイ達は現在、焼き鳥片手に市場を歩いていた。

 

「ふぇ、ほひぃさん」

 

アラジンが焼き鳥を口一杯に頬張りながらアリババに聞く。

レイは行儀が悪いからやめてほしいと思ったが、ずっと子供キャラで喋っていたのを思い出したために何も言わなかった。

 

「ん、何だ?」

「はのはへものははんばい?」

 

アラジンがアモンの塔を指差す。

街の至る所でもアモンの塔は見えるが、アリババ達がいる市場はアモンの塔がよく見えた。

 

「あれがアモンの塔だよ」

「へー、ぼふひふぶつほひるほはひめへばよ!!」

「そりゃ良かったな。ところで…」

「?」

「口に物を含んでるときは喋るんじゃねぇよ!」

 

キレたアリババはアラジンの頭に拳骨を落とす。

そしてアラジンはあまりの痛さに地面を転げ回る。

そんな様子を見てレイはアラジンが可哀想というよりよく会話できたなという関心があった。

 

ちなみに今の会話は、

『ねぇ、お兄さん』

『ん、何だ?』

『あの建物は何だい?』

『あれがアモンの塔だよ』

『へー、僕実物を見るの初めてだよ!』

という感じである。

 

「まったく…行儀が悪すぎるにもほどがあるだろ。次からは気をつけろよ」

「ううぅ…分かったよお兄さん」

 

頭に手を当てながら立ち上がるアラジン。

そんなアラジンを横目にレイは焼き鳥を食べ切る。

ちょうどそれくらいにアリババも食べ終わり、アラジンま食べ終わった。

 

「お腹いっぱい!」

「僕ももう食べれないよ」

「うっし!腹も一杯になったし…」

 

ここからの行動に期待するレイ。

何故ならこの後、アリババとアラジンはある一人の奴隷の少女と出会うはずだからだ。

名前はモルジアナ。戦闘民族のファナリスでありチーシャンの町の領主であるジャミルの奴隷である。

そんな彼女はアリババアラジンと出会いなんやかんやあって仲間になるのだがそれは後の話。

 

「帰って寝るか」

 

地面に頭を叩きつける勢いでずっこけるレイ。

しかしすぐ後ろのアラジンに支えられたので怪我はしなかった。

 

「大丈夫かい?」

「う、うん大丈夫……」

 

原作通りに動かないのかよこいつとレイは思いながらアリババに笑顔を返す。

レイとしてはモルジアナを見てみたい気持ちでいっぱいなので一刻も早く見に行きたいのだろう。

なのにアリババがまだ日が出ている内に家に帰って寝るというアホみたいな選択肢を出したのだ。ずっこけるのも仕方が無いだろう。

 

では何故アリババが原作と違う行動を取ったのか。

今の彼の行動はモルジアナという主要キャラとの出会いを消すようなものだった。

しかし、その事に関してレイには心当たりがある。

 

「(もしかしたら、俺という異分子(イレギュラー)の介入のせいで原作に何か影響があったのかもしれない…)」

 

本来、物語には存在しないはずのレイは他の主要キャラと出会った。

それにより進むべき原作の道から外れてしまう現象が起こっているのかもしれないとレイは考えを導く。それにレイにはもう一つ心当たりがあった。

 

「(パラレルワールド…)」

 

パラレルワールド、人が物事を選択する際に生まれる数多の並列世界。

分かりやすい例えで言うのならば、朝食をパンかご飯のどちらかを食べる事によりパンを食べた道とご飯を食べた道が生まれる。これと似たような解釈である。

つまりこの場合、モルジアナと出会う事で発生するアリババの決意が無かった事になってしまうのだ。レイはそれだけは避けたかった。

 

「おーい、聞こえてるかー」

 

アリババが声をかけても返事をしないレイ。

そしてアリババが何度か声をかけ、ある程度の事なら気づかないだろうと思いレイの頬を指でツンツンする。

 

「ほらほらーツンツンしちゃうぞー」

 

アリババのイタズラはエスカレートしていき、両頬を優しく引っ張っる。

だがしかし全く反応しないレイ。そしてその様子がアリババのイタズラ心に火をつける。

 

「ほらほらーくすぐっちまうぞー!」

 

そう言いながらくすぐるアリババ。

だがしかしこれでも反応はない…とアリババが思った瞬間、レイは笑い始めた。

 

「あっははは!!くすぐったいよお兄ちゃん!!」

「うりうり〜!可愛い奴め!」

 

純真無垢な笑顔(殺)をレイはアリババに向ける。

レイの笑顔に殺意が含まれている事に気づかないアリババは求めていた反応を得られて満足した。

しかしレイはくすぐられるのがあまり好きではない。ましてや考え事をしている最中に邪魔されるのだ、殺意の一つや二つ湧く。

 

(全くこいつは何やってんだよ…。あ、にやけてる、うぜぇぇぇ)

 

テンションが急直下していくレイは辛うじて態度に出す事なく会話を続ける。

 

「ねぇお兄ちゃん!わたしもっと色んなとこ見たい!」

「よし分かった!今日はもうやる事もねーし俺がこの町の良い所を案内してやるよ!!」

「「わーい!!」」

 

手を上げて喜ぶアラジンとレイ。

何でお前が喜ぶんだよ?という素朴な疑問を抱いたレイだが、アラジンだからという理由で強引に自分を納得させた。

 

「よーし、じゃあ皆の者俺に続けー!」

「「おー!」」

 

そして2人は市場を小一時間程かけて案内された。

そこまで案内できるのか?と疑問に思う所だが、ここの店員は優しいとかこの店の果実は超新鮮だとかアリババの解説付きでさらに店員とアリババとのノリが面白く、中々に楽しいと感じるレイであった。

 

そしてアリババが先導して歩いていると、ふと少女に肩をぶつけた。

 

「あっ、悪りぃ大丈夫か?」

 

アリババさ少女が頭上に乗せているザルのような物に大量の果物を見て申し訳なさそうに謝る。

一方少女はアリババに軽く会釈してその場を立ち去ろうとする。

 

その時、アラジンがアリババに対して尋ねた。

 

「ねぇお兄さん。あのお姉さんの足に付いてる物って何だい?」

「…あれは足枷、奴隷が付ける物だ」

 

顔をしかめながら答えるアリババ。

助けられない悔しさがアリババを襲うがどうしようもない。

奴隷は奴隷、人間とは違う。今の世の中では殆どの国がそう思っている現状を彼は許せないのだ。

 

そんな悔しさと同情の目を少女に向けるアリババ。

少女は自分の足枷に視線が行っているのを感じて着ている服の裾を下げて隠そうとするが、バランスを崩して運んでいたであろう果物を床に落とす。

 

「大丈夫か!?」

「…っ!」

 

果物を拾おうとするアリババに怯えるが何も言わずに果物を拾う少女。彼女としてはアリババの同情の視線が非常に辛いのだろう。

そんな彼女の目の前にアラジンが立つ、彼の手には黄金色の笛が握られている。

 

アリババと少女はアラジンが何をするのか分からなかった。

だがしかし、レイだけは何が起こるかを知っていた。

 

ピーーーーーーッ!!!!!

 

甲高い笛の音が辺りに響く。

甲高いといっても特別不快になるようなものではなく、むしろもう一度聞いてみたいと思える音色である。

 

そしてその笛の音の直後に少女の足枷がバキッと砕ける。

 

「はい、もうこれで大丈夫だよ!」

 

満面の笑みを少女に向ける。

アリババと少女は困惑した様子で足枷を見つめる。

 

「騒がしいぞ、何事だ!?」

 

状況を理解できていないアリババと少女の所に野次馬をかき分けて衛生兵3人が騒ぎを聞いて駆けつける。

衛生兵達は少女の足枷が砕けている事とそのそばにいるアラジンを見て奴隷の少女を逃がそうと足枷を砕いたと彼らは判断してアラジンに槍を向ける。

何故こんな人目につくところで足枷を突然砕いたのか、またこんな子供の何処に足枷を砕く手段があるのか、色々とおかしい所があったがそんな事を彼らは気にしなかった。

むしろ誰であろうと犯罪行為を犯した者を捕らえれば自分達に特別手当が入ってくるのだから相手が子供だろうが知ったこっちゃではない。

 

流石にマズイか?と思いつつカバンから短剣を取り出そうとするレイ。しかしその心配は杞憂に終わる。

 

「出て来ておくれっ!ウーゴくん!」

 

そう言ってアラジンが再度笛を吹くと、なんと笛の下の穴から巨大な青い腕が現れた。

青い腕は衛生兵達の前で勢いよく柏手を打つと、バチィンという大きな音と若干の風圧を生み出した。

その音と迫力に、衛生兵達は思わず腰を抜かしてしまう。

 

「紹介するよ、この手は僕の友達のウーゴくん。ちょっぴりシャイだけどとても良い人さ!」

「「………」」

 

意気揚々と青い腕について語り出すアラジン。

次々と起こる出来事についていけない2人は未だに目を見張っている。

青い腕…ウーゴくんは目の前の少女に気づいたような素振りを見せると腕を真っ赤に染めて笛の中に戻っていった。

 

「まったくシャイなんだから〜!」

 

からかうように言いながら笛を見つめるアラジン。

そこでようやく我に返った少女はその場を離れるように群衆をかき分けて何処かへ行ってしまった。

 

「こらーっ何事だー!」

 

そして群衆の外から聞こえる衛生兵の声を聞いて我に返ったアリババは慌ててアラジンとレイを抱える。

 

「やっべぇ!!逃げるぞ!」

「え、何でだい!?」

「お前が騒ぎを起こしたからだよ!!」

 

群衆の中から抜け出して脱兎の勢いで逃げ出すアリババ。

その後、何とかして自宅に帰り着いたアリババは吸い込まれるようにベッドに倒れて眠った。アラジンもそれにつられて眠った。

 

レイも特に出来ることが無かったので椅子に座って寝た。

翌日、レイがアリババにその姿を見られて凄いおっさんみたいだなと言われるのは後の話。

 




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1月7日追記、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。さて話は変わるのですが、ツイッター(@myonworld)を始めましたのでよろしければフォロー等お願いします。
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物語?ようやく始まるよ!!

今まで更新してなくてほんとにすみません…
今回は長めに書きましたので許してください…
でも久しぶりに書いたから途中おかしくなってるかもしれないです…
その時はご指摘お願いします。


時は過ぎて日が高く出ている昼過ぎ。

レイは現在、馬車を操作しているアリババの膝の上に乗っていた。

ブーデルに葡萄酒運びを命じられたからである。アリババは嫌々ながらもその仕事を引き受けたのだ。

実はこの仕事、葡萄酒を運ぶだけだと思われるが通る道には人を食べる植物型の魔物がいるのだ。商人の間でもかなりの犠牲者が出ている。要するに葡萄酒運びは命がけなのである。

そんな危険地帯に場所を走らせている最中に、荷台の方にいるブーデルは奴隷について語っていた。

 

「鼠は鼠、奴隷は奴隷らしく生きんとなぁ?」

「…そっすね」

「ん?何だ、聞こえんぞ?」

「いやー、全くもってその通りですね!流石旦那様!」

「そうかそうか、ワハハハ!!」

 

ブーデルとの会話中、アリババは縄を持っている手を強く握っていた。

本当はこんな事なんか言いたくないとアリババは強く思っている。彼は奴隷だろうが王族だろうが皆等しく同じ人間だと思っているからだ。

しかし彼の思いは口には出せない。今喋ってる相手は自分よりも立場が上、それに加えてブーデルの商品を食い荒らしたアラジンの代わりに金を払わなければならなくなっていて下手に文句を言えないのだ。

 

「(仕方ない…これは仕方ない事なんだ)」

 

レイはそんなアリババをただ見つめていた。

何も言わずに不気味な程静かに、それはまるで何かを見守っているような眼差しで──。

 

「お兄さんは嘘つきだね」

 

ふとアリババの横に座っているアラジンが声をかけた。

その顔をいつもの能天気な顔ではなくいつになく真剣味があった。

謎の迫力に気圧されるアリババの目をアラジンはまっすぐ見る。

 

「そうやって他の人に嘘をついていると、いつか自分自身も信じられなくなって誰も信じられなくなってしまうよ」

「…分かってるよ。けど、いったいどうすればいいんだよっ…」

 

アリババの問いにアラジンは答えない。

気まずい沈黙の中、馬車は進む。

その間アリババはアラジンに目を合わせなかった。彼は今、アラジンの純粋な瞳を直視できないのだ。自分がしていることがどれだけ卑怯かを知っているから。

 

そして目的地まであと半分というところまで行った時に地面が揺れた。

 

「おいっ!何事だっ!!」

 

気持ちよく眠っていたブーデルが怒って外を覗くと、地面が崩れ始め馬車が飲み込まれそうな状態だった。

その時ブーデルの部下の一人が叫んだ。

 

「ま、魔物だあぁぁぁ!!」

 

最前列の方にいたアリババは振り返る、そこには蟻地獄のような形に地面が崩れ中心には人を食べるという魔物がウネウネしていた。

もしその魔物に感情があるとするなら恐らくは喜んでいるのだろう。

何故ならこんなにも沢山の人(エサ)がいるのだから。

 

「ブーデル様いかがしましょう!!?」

 

ブーデルは焦っていた。

それは他人のためではなく、自分の葡萄酒を心配しているからである。

 

「積み荷の葡萄酒を出せるだけ出して馬と共に避難させろ!あの葡萄酒はわしの命そのものだ!!」

「奴隷を乗せた馬車の地面が崩れそうですがどういたしましょうか!」

「馬と馬車を切り離せ!奴隷(ゴミ)如きがワシの大切な商品と釣り合うと思うのか!!」

「りょ、了解しました!!!」

 

慌ててブーデルの部下は奴隷の馬車と馬を切り離そうとする。ほどなくして馬車から切り離された馬はブーデルの部下によって誘導される。

しかし馬車の方は今にも魔物に落ちそうな程傾いていた。奴隷の乗っている馬車は落ちないように端の方に寄っているため落ちてはいないが荷物が空になった馬車は数台落ちていた。

 

「うわあああ!!!」

「誰か助けてくれえぇぇ!!」

「おかぁさぁぁあん!!!」

 

奴隷が乗っている馬車はパニック状態だ。いつ誰かが暴れてバランスが崩れるか分からない。

そんな状況を見たブーデルは煩わしそうに舌打ちして部下に命令した。

 

「おい!奴隷の入っている馬車を落とせ!!腹がいっぱいになればあいつも収まるだろう!!その隙に逃げるぞ!」

 

ブーデルの命令に戸惑う部下達。馬車を落とすということは乗っている奴隷を全員殺す事。そんな事並大抵の精神でできるわけなどない。

そんな部下達にブーデルは言い放った。

 

「ならお前らが飛び込め!!できなければ馬車を落とせ!!」

 

この一言で部下達はブーデルを恐れて馬車を落とそうとする。

やはりどこの世界でも上の命令は絶対という事であり、上位の立場にいるブーデルの命令に背けば厳しい制裁が待っているのだ。

それはアリババとて例外ではない。

 

「(どうすればいいんだ…。誰か…誰か助けろよ!)」

「おい!アリババも早くしろ!!」

「は、はいっ!!」

 

ブーデルに言われて動こうとした時、不意に彼の脳裏にアラジンの言葉が再生された。

 

─────そうやって他の人に嘘をついていると、いつか自分自身も信じられなくなって誰も信じられなくなってしまうよ

 

その言葉が彼にきっかけを与えた。

 

「おい?どうした!!早く──うぐっ!!」

「……誰かじゃねぇ!俺がやるんだ!!!」

 

彼は決意を持ってブーデルを殴り飛ばした。

そしてブーデルの首に短剣を突きつけ叫んだ。

 

「今すぐ馬車を引きあげろ!!じゃないとお前を切る!!!」

「な、なな何をする!!?ワシを切れば貴様は大罪人になるぞ!!」

「それでもいい!!だから早くしろ!!!」

 

アリババの脅しが効いたのか、ブーデルの部下達は馬車に紐をくくりつけて一斉に引っ張る。

 

「正気かアリババ!?たかが奴隷の為に自分を犠牲にするなど!!」

「奴隷だろうが何だろうが俺は救える命を救いたいだけだ!!!」

 

馬車はゆっくりと着実に上がっていく。

しかし悠長に馬車を引き上げている時間はあまりない。

いつ崩れるかも分からない地面に加えてすでに馬車の端の方の地面は崩れて始めている。

 

「頼む…頼む!!間に合ってくれ…!!」

 

アリババは切に願う。

その願いが届いたのか、馬車はあと少しで引き上がる所まで来た。

しかしあと少し、あと少しと言うところで現実は非情な結果を突き付けてくる。

 

「ま、魔物が動き始めたぞ!!」

「うわああぁぁぁ!!!」

「な、何だって!!!?」

 

今まで動かなかった魔物が痺れを切らしたように触手をアリババ達がいる所に振り下ろしているのだ。

馬車を引き上げるのに夢中になりすぎていたため避難はできない。

 

「ここまで来たってのに!!くそっ!!」

 

(また守れなかった、全部俺のせいだ)

 

自分を責めるアリババだが無情にも触手は落ちてくる。

しかし誰もが万事休すと思い目を瞑った時、奇跡は起こった。

 

「生命の退屈≪アザベール・リープ≫」

「───!!?」

 

誰がが呟いた呪文により魔物の触手はまるで電源が落ちたようにその場で停止した。

 

「あーもうめんどくさいなぁ」

 

聞き覚えのある声。アリババは後ろを振り向きその声の主を確認する。

そこには気怠そうな表情で頭を掻いているレイの姿があった。

しかし彼の知っているにこにことして可愛らしいレイとは雰囲気が全く違った。

 

「は…え?」

 

驚きのあまりに声が出ないアリババ。

そんな彼を見かねてかレイはアリババの背中を平手打ちした。

 

「チェストー」

「うわっ!痛って!!」

「ボーッとすんな。驚いてるかもしれないけど今まで猫被ってただけだから」

「お、おう」

「魔物は俺が止めておく。その間に馬車を引き上げろ」

「わ、分かった」

 

淡白な会話を交わした後、レイは再度振り下ろされる触手に向かって自身が持っている短剣を振るう。

その時短剣から緑色の斬撃が飛んでいき触手に当たる。すると触手は電池が切れたように止まる。

これはアザゼルの能力であり、触れる物全てを10分ほど行動不能にする斬撃だ、ただし生物限定である。原理を言えば、斬撃が当たった対象の意識を一時的に飛ばし動きを止めるという技なのである。

 

「す、すげぇ…!!」

「こっちに見とれるな!!さっさと引き上げろ!!」

 

たしかに魔物の触手を止める事は出来るがあくまでもそれだけ。

意識を飛ばす斬撃は普通の人間相手なら非常に便利だが、大きすぎる生物に関しては部分的にしか意識を飛ばせない。

よって現状、倒す手札はレイには無い。

 

アリババはレイに急かされて馬車を引き上げさせるのを再開する。

ブーデルの部下達は本当ならば今すぐにでも逃げ出したいのだがそんな事をすれば最悪領主に罪人にされかねないので黙ってアリババに従うしかない。

 

「皆!引き上げるぞ!!」

 

誰かが叫んだ言葉で部下達は力を込めて引く。

馬車は徐々に上がっていく。

そして数分後、馬車は引き上げられて地面に着いた。

 

「や、やったぁぁぁ!!」

「ありがとうございます、ありがとうございます…!!」

「助かったぁぁぁ!!」

 

歓喜の声が上がる中、レイは息を切らしながら次を考えていた。

 

「(さて…次はどうする?少なくとも今の手札じゃ魔物を足止めくらいしか出来ないしな…。それに原作の話の流れと全然違うから対処しづらい)」

 

彼女が知っている話では奴隷の入った馬車からモルジアナと子供の奴隷が魔物の所まで落ち、それをアリババがアラジンに協力されながらも助けアラジンと共にアモンの塔へ向かうという話なのだ。

だが現実はアリババがブーデルにナイフを押し当て脅している状態である。

 

「(それにしても、誰かじゃねぇ俺がやるんだ!…とか言って人に刃物押し当てて脅すってアホだろこいつ……)」

 

後で注意しようと思ったレイは脱線した思考を戻す。

過程がどうあれ奴隷の乗った馬車は引き上げられた。あとは逃げるだけなのだが、今のレイでは魔物の足止めが限界でありジリ貧である。

一応レイの知っている流れでは、アリババが奴隷を助けた後にアラジンが空飛ぶターバンに酒樽を乗せて魔物にぶつけてベロンベロンに酔わせるのだが───

 

「お兄さん!!後は任せて!!」

「(来た!)」

 

レイの頭上を一枚の布が飛んでいく。

その布の上には大量の酒樽とアラジンが乗っていた。

ちなみに原作を知っているレイ以外は驚きで固まる。

しかしブーデルだけはいち早く我に戻った。

 

「お、お前!!その酒樽は!!!?」

「確かこの魔物はお酒に弱かったんだよね!」

 

慌てふためくブーデルに満面の笑みを返すアラジン。

アリババは空飛ぶターバンに目が釘付けになってブーデルを離してしまう。

 

「その酒樽はワシの物だぞ!お前が一生かけて働いても買えない葡萄酒なんだぞ!!!?」

「そーれ!!」

 

ブーデルの必死の制止もアラジンには届かなかったようで魔物に目がけて大量の酒樽が次々に落ちていく。

しかし酒樽を魔物の周辺に落としても、魔物が栄養を吸い取る口の部分に酒を入れないと意味がない。

そして不安なことに魔物の口の部分は殻みたいな物できっちりとガードされている。

 

それを知っているレイは非常に焦る。

あれを無駄にしたら次はない、そうなれば終わりだ。

そう思ったレイは金属器に残りのマゴイを使って魔物の口を覆っている殻目がけて斬撃を繰り出した。

 

「アザゼルの剣≪アザベール・サイカ≫!!」

 

金属器から放たれる緑色の斬撃は超速度で飛び、酒樽が落とされるよりも前に魔物の口を覆っている殻に当たる。

すると殻が一瞬にして腐り落ちて穴が空いた。

 

「どうだ…!!?」

 

突然殻が腐り落ちた事により、魔物は驚いて殻を開いた。

そしてそこ目がけて酒樽がどんどん落ちていく。

 

「よし、何とか間に…あった」

 

安堵するレイだったが目からは血が少し流れている。

その血をすぐに拭ってフラフラする足を動かす。

 

「あぶな…ギリギリ、だったか」

 

やはりマゴイの容量オーバー手前まで金属器の力を使用した反動は大きい。

そう思ったレイの元にアラジンが近づいてくる。

 

「レイちゃん…君は一体…?」

「話は後だ。取り敢えず…逃げるぞ」

 

レイはアラジンの空飛ぶターバンに乗り込む。

その乗り心地は独特ので何とも表現しにくいものだった。

 

「(あぁ…そうだ。アリババも拾っておかないと…)」

 

そう思い彼女はアリババの方に目を向けようとする。

だがしかし、体が限界を迎えてしまい倒れてしまう。

 

「大丈夫!?」

「大丈夫なわけ…ないだ…ろ……」

 

そう言ってレイは気絶する。

アラジンはレイに向かってありがとうと小さく呟くとアリババの元へ移動した。

 

「やっぱり嘘つきだねお兄さん。本当の事言えるじゃないか。でも人に刃物を向けるのは良くないんじゃないかな…?」

「あ、あの時は他に方法が無かったんだよっ。それに何であんな事が出来たのかよくわかんねぇし」

「…それはきっと君の本心なんだ。身分に関係なく誰かを助けたいと願う気持ちがね」

 

アラジンは満面の笑みでアリババに手を差し伸べる。

 

「決めた!僕、お兄さんと友達になりたい!僕と一緒に旅に出ようよ!!」

 

アリババはアラジンの真っ直ぐな瞳を見る。

その瞳には一切の邪心は無く、アラジンは心の底から友達になりたいのだと彼は直感的に感じ取った。

 

数時間の様に感じる数瞬の後にアリババはアラジンの手を握る。

 

「……あぁ!一緒に行こうぜ!!」

 

彼はターバンに乗り込む。

彼らを乗せたターバンは空高くまで上がり大いなる旅路へと足を動かしたのだ。

 

━━━

 

「おいっ!アリババとガキ2人はどこへ消えた!!あれはワシの葡萄酒なんだぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ブーデルが大損害をくらいあわや首が飛びそうになったのは別のお話。

 




何かだいぶ原作からかけ離れた気がする……


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