魔法少女リリカルなのは  二人の黒騎士(凍結中) (孤独ボッチ)
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エピローグにしてプロローグ

 はじめまして、孤独ボッチです。
 文才も想像力もないのに無謀な挑戦をしようと思います。
 折れて撤退などという事がないよう頑張ります。
 応援をお願いします。


               

 私は、分かり切った報告を待つ間に、この回想をしている(注)。

 

 

 旨い話には裏がある。よく聞く話だ。

 賢明なる皆さんは、そんなものに騙されるか、と思うだろう。

 

 だが、ここに騙された転生者が一人。

 私だよ。コンチクショウ!

 

 私は何故死んだか覚えていない。気が付いたら二次小説お約束の光の空間。

 神はいなかった。

 代わりに色々な意味でチャラそうなアンチャンが一人。

 アンチャンは神ではなく、言ってみれば平行世界全ての公務員だと言った。

「いやいや、そんなに偉くないっス」

 私の勘違いに満更でもなさそうにチャラく笑った。

「死因?どうでもいいじゃないっスカ。死んだのは確かナンスから。こっちのミスとかじゃないっス。アンタは正真 正銘キチンと死んだっスよ」

 嬉しそうに言われ、正直殺意が沸いたもんだ。

「アンタは目出度く、チート付きで転生出来る権利を得たっス。おめでとう!!!」

 笑顔で拍手。

 私だってオタクだった訳で、二次小説をチョコチョコ読む人間だった訳で、凡夫である自分がオリ主として活躍する展開は憧れがあったんだよ。

「転生する世界はリリカルなのはの世界っスよ!!」

 以前はハマっていたアニメだけに、萌えま…いや、燃えましたよ。

 

 特典を選ぶのは、最大の醍醐味。

 

 回数制限されなかったのを、いいことに好きに言いまくった。

 

 呆れられるかと思ったが、意外にもアンチャンは、まだないかと訊いてきた。

 その段階で、変だと気付くべきだった。

 何故にそんなに特典を認めてくれるか、考えるべきだったのだ。

 

 リリカルなのはの世界に転生した。

 

 

 ただし、古代ベルカ時代にね。

 

 

 リリカルなのはって言えば、現代のアレだと思うじゃないか!

 詐欺だ。インチキだ!

 しかも、意識が戻ってみれば、聞いたこともない(当然だが)王国の第五()()

 TSしてましたよ。意識も女に変わっていたのは不幸中の幸いだったよ!

 道理であんな滅茶苦茶特典許してくれる筈だよ!

 元凡夫じゃ、これくらいしないとすぐ死ぬしね!

 

 それから私は頑張った。ベルカの未来を曲がりなりにも知っているからね。

 紆余曲折を経て、私は国を率いる女王となった。どういう経緯でって?

 いつか説明するよ。面倒くさ…まだ、その時ではない!

 

 誰か近づいてくるね。

 

 分かってるよ。現実逃避してたんだよ。

 

 今、私は滅亡必死の戦前なのだ。

 

「王よ!聖王連合軍が国境を越え、進撃を開始。斥候の報告では兵・騎士合わせて約10万、戦船50、聖王のゆりかごも確認しています!!」

 入ってくるなり、我が国の魔導騎士は報告開始。

 重要な情報だからね。作法など無駄。不要。

 そう、私は頑張り過ぎた。私の名声は高まり過ぎてしまった。

 我が国も聖王連合の一王国であるにも関わらず、敵国と通じたなどと言い掛かりを付けられ現在に至る。

 交渉・会談は遣り尽くした。あとは戦うのみ。

 

「出陣する」

 

 私の一言で、城内が熱に包まれる。

 

 死出の旅に付き合わせてごめん。

 

 

                ベルカ アーヴェント王国記より

 

 王国と連合軍の戦いは、国民すら最後の一人まで戦う異様な戦いとなった。

 王の力で傷つき倒れても、すぐに立ち上がる兵、一騎当千の近衛騎士達、国を守らんと死兵となり戦う民、何より剣王と呼ばれる我が王により、連合軍は瓦解寸前に追いやられた。

 しかし、聖王のゆりかごにより、事態は連合に傾いた。

 王の妹同然の聖王女オリヴィエ様を盾にされた王国側は、ゆりかごの圧倒的な武力もあり、次々と倒れていった。

 (以下省略)

 

 こういった書物は勝者により処分されるか、改変されるものだが、唯一他国にて生き長らえた筆者は、これを守り伝えていく事が使命と考えている。オリヴィエ様はシュトラとアーヴェントに手を出さない事を条件にゆりかごに乗り込んだのだ。その命を懸けた約束を違えた。連合は恥を知るべきである。

 

                           ヴィルヘルム・ドートリッシュ記す

   

 

 

 




 本物のプロローグは次になります。
 ただ、思うままに駄弁っただけか?


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プロローグ②

 プロローグくらいは本日中に作成したいので
 頑張りました。


 気が付けば、私は光の空間に戻ってきていた。

 まあ、あれだけゆりかごの集中砲火を喰らえば死ぬのも仕様がないか。

 

「お帰りなさい。アレクシア・レイ・アルジェント」

 私の転生時の名前が呼ばれる。

 原作だと、シュトラのクラウスはやたら長い名前だが、それは嫡男だからである。

 女の私ならこんなもんなのだ。

 まして、私が女王になるなど想定外だったからね。

 しかも、ミドルネームに至っては、私の武が桁外れだった為、周辺諸国から贈られた名前である。ちなみに切り裂く者という意味だそうだ。

 どっかで聞いたような話だったが、やはりスルーだ。

 

 脱線したか。

 

 私は声の方にノロノロ振り向くと、最初に会ったチャラいアンチャンではなく、キッチリビジネススーツを着用したお姉さんがいた。デキル女といった感じだ。

「最初に会った人じゃないけど?」

 デキル女の眉間に皺が寄った。

「その件について、まずはお詫びを申し上げます」

 デキル女はお手本のような所作で頭を下げる。

 30秒程、頭を下げて顔を上げると意を決したように、その一言を言った。

「我々のミスで本来より過酷な世界に送ってしまい、申し訳ございません」

「は?ミス?」

「あなたは本来ならば、現代、つまり原作の時系列に転生する筈でした。担当者が初めてで張り切って空回りしたようでして、時系列の確認ミス、特典の過剰付与などを行ってしまいました」

 

 つまり、あの犠牲は本来必要なかったと?

 

 デキル女は突然ビクッと硬直した。

 それも当然である。

 私は今、本気で殺気を放っているのだから。

 前世では殺気など無縁でいられたが、ベルカではそうはいかない。前世での価値観などすぐに吹き飛んだ。戦乱の前でもそんな価値観を引きずって生きてはいけなかった。

 そして私はベルカで指折りの強者となり、アーヴェントの剣王などと呼ばれたのだ。

 神でもないデキル女くらいはビビらせられる。

「お怒りは分かります。しかしながら、犠牲に関しては…」

「私の失策もあるのは分かる。だが、私がいなければあそこまで酷い事にはならなかったんじゃないのか」

 

 あの国で最後まで生きていたのは、私だったのだ。

 

 民たちですら、国が滅んだ後に希望を見いだせなかったのだ。

 

 生きる事が第一のご時世だったにも関わらず。

 

 中途半端に希望を見せてしまったから。

 

「あなたはよくやったと思いますよ。あなたの成した事は特典とは関係ない、あなた自身の力です。なかなか出来る事ではないと思いますよ」

「やめてよ!!」

 そんな言葉に何の意味もない。

「すみません」

 デキル女に八つ当たりしても仕方ない。

 

 

「で?私は地獄行き?」

 切り替えられたと感じ取ったのだろう。デキル女も調子を戻した。

「いいえ、あなたには本来の時代に転生して頂きます」

 今更、もう一回生きろって?お断りだよ。

 30歳後半で死んだとは言え、前世も合わせれば、80歳くらいいっている。

 十分生きたよ。

「断る」

「申し訳ありませんが、世界にあなたの存在が登録されているのです。ここより出れば魂が引かれ、自動的に転生する事になります」

「オイ!強制かい!!」

「申し訳ありません」

「もういいよ!それは!」

「その代わり、過剰に与えられた特典はそのままで結構です。更にあなたはベルカで最も有名な英霊ですので、その功績により英霊化という特典も追加致します」

 更に追加とかオーバーキルだろう。チート過ぎて何でも出来る気がするわ!

 しかも、英霊って私はサーヴァントか!

 

「それでは、今度こそあなたの人生に幸多くあらんことを」

 光が消え、意識が遠のいていく。

 

 

               :とある転生者

 

 気が付けば光の空間にいた。

 これはまさか、アレか!!!

 遂に、転生きたか。まさか本当にあるとは。

 

 俺は踏み台になんてならないぞ。

 決意を固めていると不意に声を掛けられた。

「ようこそいらっしゃいました」

 そこにはビジネススーツを着た奇麗なお姉さんがいた。

 俺は、気合を入れて挨拶した。

「押忍」

 

 

 

 




焦りのあまり書き忘れましたよ。
次回から始動します。原作にはまだ入りませんが…


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第1話 雨音の記憶①

ここからが本番になります。
頑張って書き切りたいと思います。


          :夢

 

 私は転生する前は雨の音が好きだった。

 勿論、雨の日の外出が好きだった訳じゃない。

 雨が地面や植物・ものを打つ音が好きだったのだ。

 私はそれが風流だと勘違いしていた。

 今にして思えば、立派に黒歴史だ。

 

 私はメイド服の女性と黒いタール状の大地に立っていた。

 天候は大地同様の黒いドロッとした分厚い雲が空を支配している。その雲から黒い雨が大地に降り注いでいる。

 

 私にはこれが夢だと分かっている。

 ここは、ベルカの地であるからだ。

 何故なら、私が大人だったからだ。

 私は黒い金属製の騎士甲冑を纏っている。金属鎧を着ても違和感がない年齢になってから、死ぬまで変えなかった。

 隣にいる人物が、私の傍にずっといてくれた人物、エルザだったからだ。

 私は無理矢理転生させられ、今は子供からやり直しているからだ。

 

 私達は全身を魔法でシールドし、雨に当たらないようにしている。

 足には魔法・水蜘蛛を発動中。そうしないと、体が沈み込んでしまう。

 因みに、水蜘蛛は魔法科高校の劣等生の魔法である。その作品の魔法・技術・能力全てが私の特典の一つである。精霊の眼(エレメンタルサイト)の強化、更に私はデメリット解消も頼んである。

 

 大地には地形に関係なく、僅かな盛り上がりが数千はある。

 

 それらは元は人間である。

 

 この惨状を招いたのは、万物を腐らせ、死滅させる禁忌兵器である。

 私はベルカがこれらの兵器の使用により滅亡に近付くことを知っているので、禁忌兵器の始末、改造するなどして無力化する努力はしていたが、一番使わせたくないものを使われてしまった。

 

 私達の足元にも黒い塊がある。それもまた元人間だが、他と少し違う点があった。塊の下からまだ原形をとどめている布が覗いている。恐らく作りから抱っこ紐だろう。布に纏わりついている黒い塊は赤ん坊だろう。布は庇った人物(恐らく親だろう)と赤ん坊に挟まれた部分がまだ腐っていない状態だった。庇われた赤ん坊は下敷きになっており、呼吸は困難だっただろう。加えて地面は腐敗が拡大し、赤ん坊を腐らせた。

 私はそれを見ていた。

「姫様、もう戻りましょう。私たちに出来る事はもはやありません」

 エルザは私を気遣うように声を掛けた。

 エルザは私の護衛騎士だったが、私が諸々の理由で王位に就いた時、ずっと仕えているという理由だけで護衛騎士になる訳にはいかないと、彼女は護衛から降りたのだが、どういう訳かメイドにジョブチェンジした。自分の立場にケジメを付けるなら、呼び名も直すべきだが私にとって姫様は姫様だからという意味不明な理由で呼び名は直さなかった。

「うん、助けられなかったなって思ってさ」

「姫様、その考えはよくありません。傲慢です」

 エルザの厳しい言葉に私も頷く。

「分かってるよ。私が出来る事は限られてる」

「姫様、他国の事です。冷たいようですが…」

 ここは、他国である。入国の許可は取っているとは言え、いつまでもここにいる訳にはいかない。

 私は自分の国の事を第一に考えなければならない。

「腐敗がどこまで広がるか分からない。まずは禁忌兵器の始末をつけて拡大を防がなくては」

 また使われたらどこまで、被害が拡大するか分からない。

「アーヴェントとこの国は距離があります。始末を付ける理由はどうするのですか?」

「友好国の近くだ。手を貸す形で積極的自衛権の行使」

 どうせ、聖王連合は他国を理由を付けて潰す腹積もりだ。私がやる事は基本、黙認を通している。

 私がゆりかごに手を出さない限りだけどね。

 エルザは諦めたように、溜息をついた。

 私はそれを無視して、惨状から背を向け歩き始めた。自分の国に向かって。

 

 雨音が風流とか考えてた過去の私、馬鹿な事を思った瞬間に死ね。私は雨音を聞く度にこの惨状を思い出すだろう。もう風流などと思う事は二度とない。

 

 

 

             :現代(海鳴)

 

「…皆さんも……の夢………下さい」

 担任の先生の声が途切れ途切れに聞こえてきて、意識が浮上してくる。

 授業中に居眠りするなど、この聖祥大付属小学校に入学してからなかった事だ。

 地球の教育なんてものから一生分無縁だった為、毎日が新鮮だったのに。

 窓の外に何気なく視線を向けると、雨が降っていた。

 

 だから、あんな夢を見たのか。

 自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

 今生の両親曰く、ベルカ時代の夢を見るときはうなされる事が多いらしい。そんな時は、今生の母上は添い寝をしてくれているらしい。迷惑かけてすまんです母上。

 居眠りでうなされるなどという最悪の展開が避けられた事は不幸中の幸いだろう。

 みんなノーリアクションだから大丈夫だろう…。

 

 そんな事をやっている間にチャイムが鳴った。

 

 私の名前は綾森 美海(アヤモリ ミウ)となった。容姿の方はPARA-SOLの谷田部 美海にそっくりである。ベルカ時代もそうだったけど。私も可愛くて好きなキャラクターだったが、何故これになったのか、神の趣味か何かか?スタイルの方はベルカ時代は、小柄だったが出るところは出てたし、今生でも問題はないだろう。

 しかし、これだけ名前がコロコロ変わる奴も珍しいんじゃないだろうか。

 そして現在、聖祥学園三年生である。つまり原作突入までカウントダウン状態という事だ。

 実は私は、無印についてはあまり印象にない。最後くらいしか覚えていない。A`Sとストライカーズの印象が強すぎて。アニメで見た時、何を隠そう私はストライカーズから観たのだ。そしてシリーズを逆走して観たのだ。生粋のファンからしたらあるまじき行為だろう。自覚あるよ。

 そんな私がこの世界に転生するのだから世の中分からい。

 

 原作の主人公・なのはちゃんとの関係はどうなんだって?

 

 実はあまり話した事ないよ(爆)。むこうはどういう訳か話したいみたいで、時々近づいてくるが、その度に周囲に極小の精神干渉魔法を使っている。途中で他の子が話し掛けるようにしたり、私に別の子が話し掛けるよう仕向けたりしてね。

 何故そんな事をって?決まってるよ。必要以上に関わりたくないからだよ。それに必要とも思えない。何故なら、()()()()()()()()()()()

 私いらなくない?見たところ所謂踏み台という感じでもないし、何より一度目(多分)の転生にしては、あの歳で破格の腕前だ。

 無印くらい余裕だろう。何しろ敵はロストロギア・フェイト・アルフ・病人だけだよ?

 

 何故、転生者と気付いたかと言えば、精霊の眼(エレメンタルサイト) で見たからだ。わざわざ眼を使わなくてもリミッター掛けてれば分かるけど。リミッターはリンカーコアから体に流す魔力を押しとどめる技術だ。ダムの取水制限状態といったところかな。魔法科高校の劣等生の九重八雲の教え通り、私は眼に頼らずともある程度は()()()()でも分かるようにしている。だから、転生者の存在など一発で分かる。ランクはAAAくらいあるだろう。原作で、それだけの魔力量がなのはちゃん以外で持っていたら、A`Sの時に夜天の守護騎士にいいカモとして狩られてる筈だからね。

 

 因みに転生者の名は飛鷹 浩介(トビタカ コウスケ)といった。

 

 で?彼となのはちゃんの関係はというと、あまり話していない(大爆)。

 そりゃあ、男の子と女の子だしね。飛鷹君は話そうとしているようだが、アリサ・すずか組に阻まれて今一歩仲良しとはいかないようだ。ヘタレめ。人の事言えないだろうって?他人事だから言えるんだよ。

 因みに容姿は強いて言えば、空の境界の黒桐 幹也を幼くした感じか? 

 

 でも、転生者二人がこんなんで大丈夫なのか?

 

 放課後が近付くにつれ、雨は激しさを増しているようだった。




全て書き切ると長くなるので、切ることにしました。
無念なり


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第2話 雨音の記憶②

ようやく、書き上がりました。
うーん。予定では、もう一話ぐらい書き上げてる筈だったんだけどな。
難しいです。


            :美海

 

 結局、放課後になっても雨は止まず、雨の中を帰宅という事になった。

 突然の雨だったが、心配は無用である。他の生徒と違い私は常に折り畳み傘を持っているのだ。母上の手を煩わせたりはしない。

「美海ちゃん、帰るの?傘は?」

「大丈夫。持ってる」

 私は仲のいい子に挨拶をしてから、教室を後にする。

 友達を置いていくのかって?二人で差して歩けるほど傘は大きくないからね。決して冷たいわけではないぞ。それに大体、放課後は残らずにサッサと帰るのが常だしね(爆)。

 女の子はグループを形成する。ウチのクラスにも幾つかあるしね。断っておくが、みんな仲はいいよ。ただ、あまり話さない子もいるだけ(爆)。私はなのはちゃん達とは違うグループに薄く繋がっているだけだったりする。よく話す仲のいい子はいても、休みに必ず遊びに行くという感じではないので、薄情だと思われたことはない…筈だ。

 実は友達いないのかも…。まあ、いいか。

 

 私は学園の外に出た瞬間に、カバンからヘッドフォンを取り出す。

 元キャラの所為か今生になってヘッドフォンが気になってしまって、初めて親に頼んで誕生日に買って貰ったものだ。ベルカ時代は存在しなかった所為か気にならなかったのにね。ヘッドフォンは大型電気店で父上と一緒に選んだものだ。黒いヘッドフォンで炎のマークが入っている。元ネタは覚えてるよ。思わず懐かしくて購入してしまった。

 CDも何枚かプレゼントして貰った。勿論、小型のCDプレイヤーも。

 今ではローテーションでCDを選んで、聴いている。

 

 断っておくけど、ヘッドフォンで音楽を聴きながら歩くのは危ないよ。私だから出来る事だと思ってね。真似はダメだよ。

 

 

 音楽を聴きながら、ダラダラ歩いていると、近所の子供が遊ぶような小さな公園の前で、キン!と澄んだ音が頭の中に響いた。

 

 私は公園を見ると、人除けの結界が張られていた。

 あまり出来はよろしくない。所々、術の形成に甘い部分が散見される。

『それは、主の魔法に比べれば不出来なのは仕様がなかろう』

 念話で突然に声を掛けられたが、これは私の相棒である。インテリジェンス・デバイスではない。

 ベルカ時代の愛用の聖剣である。名をバルムンクという。()()()()()()()()

 ゲットバッカーズの赤屍 蔵人の能力が私の二つ目の特典である。私の血の中には他に様々な武器が入っている。

 因みに、これは私のレアスキルとなっている。

 勿論、私はデバイスも持っている。それは、バルムンクに制御させていたりする。チート技術でどうにかしてますが、何か?どうせ騎士甲冑の形成や魔法の簡単な補助ぐらいしかやらせないし。

『そうかな?この時代の魔法自体いい加減だと思うけど』

 正直、もっと丁寧に術式を組めばいいと思うけど。それだけで、負担は大幅に減るし、魔力の節約にも繋がる。

 バルムンクの苦笑いが伝わってくる。

『それは主には全てが見通せるからな』

 精霊の眼(エレメンタルサイト)があるので当然と言われ、少し不機嫌になってしまった。

 私だって努力してるけどね。

『そう不貞腐れるな。主が資質故に人の何十倍も努力している事は知っておるよ』

 分かってるなら言うなと言いたい。

 気持ちを切り替える。

 それよりも、今は結界の内部だ。

『誰かが、人に入ってきてもらっては困る事をやっているって事だからね』

 結界に触れ、より深く術式を探る。

 どうやら侵入者を警告する機能はないらしい。

『不用心だね。まあ、いいけど』

『やり過ぎるでないぞ。主よ』

 やり過ぎとは、環境破壊行為ですね。分かります。

 私は頷き、結界の内部に入り込んでいった。

 

 あまり大きな公園ではない為、すぐに目的の場所に到着したようだ。

 移動に一切の音も気配も漏らさない事など、私には朝飯前だ。

 目立つ傘はとうに投げ捨てている。

 小柄な体の為、隠れるのも楽だ。

 眼を使うまでもない。声も聞こえる。

「こんな所に落ちてたのか」

「あの年増の元使い魔なんて、どうすんです?もうすぐ消えそうですぜ」

 男二人が、毛玉をしゃがみ込んで見て話していた。

「バカ。あの年増が造った使い魔だぞ。力も経験もある。使えりゃ、俺達の仕事も捗るってもんだろ。依頼料をケチられたしよ。このぐらいの駄賃は頂いてもいいだろう。

 それに、人間の形体はなかなかいいカラダしてたしよ」

 頭らしき男が下品な本性丸出しで笑う。

「ゲっ!マジっすか!本体獣すっよ!俺、無理だわ」

「バ~カ!こういうのがいいって物好きもいんだよ」

「あっ、兄貴の趣味じゃねぇんですか」

 兄貴とかいう男はもう一人の男の頭を叩いた。

 

 何かもう始末を付けていいように思う。

 私はウンザリしつつ、デバイスを音も無く起動させる。魔力を不必要に散らすようなヘマはしない。

 手の中に普通の拳銃より薄い作りのカートリッジ付きのオートマティック拳銃型のデバイスが現れる。

 

「今すぐ…私の前…から…消えなさい」

 どうやら、毛玉が喋ったようだ。声も囁くような小ささで喋るのも辛そうだ。

 まあ、消えかけているのだから当然か。

「流石だな。魔力も殆ど無くなりかけてんのによ。お前にゃ俺の使い魔として、新たな人生をスタートして貰う。因みに拒否権はねぇよ。使い魔は契約に逆らえねぇ」

「下種…」

「契約が済んだら、まずは口の利き方からだな」

 兄貴とやらの足元から魔法陣が浮かび上がる。

 毛玉は必死に逃れようとするが、微かに身動ぎするのが精一杯のようだ。

 

 私はデバイスを構え、二度引き金を引いた。

 こんな近距離、ゼロ距離射撃と変わらない。外しようがない。そもそも()()()()()()()()()()()()()

 

 兄貴とかいう男の伸ばした手がバッシュっという音と共に風穴が開き、血が噴き出した。

 ニ発目は魔法陣。パキンっという軽い音を立てて魔法陣が消し飛んだ。

 

「ぎゃぁ!」

 兄貴とやらが手を庇って倒れる。

 その程度の痛みで、大袈裟な。戦場では死ぬよ。

 私は相手が倒れた頃には別の場所に移動を完了している。

 もう一人の手下は、まだ間抜けにも呆然と突っ立ったままだ。

 甘い。

 私は素早く手下の肩に魔法をポイントし、引き金を引く。

 次の瞬間には手下も肩を射貫かれ情けない悲鳴付きで倒れる。

 

『命が惜しければ立ち去れ』

 

 私は念話で二人に警告する。

 

「ちくしょう!!誰だ!ふざけやがって!!」

「兄貴ぃ…イテェよ」

 兄貴のメンツか知らないが、手を押さえたまま上体を起こし、辺りを見回し叫んでる。

 私はまたもデバイスの引き金を引く。

 空中に魔法陣が現れると、爆発のような凄まじい突風が放たれる。

 魔法科高校の劣等生の偏倚解放である。

 原作ではイチイチデバイスを操作するが、私には必要ない。すぐに必要な魔法を引き金を引くだけで使える。そのくらいの鍛錬は積んでいる。

 正確に二人のみを吹き飛ばす。

 骨が何本かイっているようで、二人は芋虫みたいにもがいている。

 もう、手下は半泣きである。

 

『今度は腕の一本も千切ってやろうか?』

 

 私は軽く殺気をぶつけてやる。

「分かった!!消えるよ!!勘弁してくれ!!」

 流石に私の殺気は堪えたらしく、二人はすぐさまリザイン。

 兄貴とやらは手下に肩を貸し立ち上がると、ヨロヨロと逃げていった。

 

 二人の魔力が遠ざかるのを確認し、管理局に魔力パターンと人相・違法渡航者として密告する。

『よいのか。あんなゴミを生かしておいて』

『ここはベルカじゃないよ。あんなのでも殺すと面倒になる。何よりやり過ぎるなって言ったのはバルムンクでしょ』

 あとは管理局の頑張りに乞うご期待でいいでしょ。期待できないけど。

 

 毛玉は猫のようだ。

 どこかで見たような?

 茶色の長い毛の猫である。

 私は念の為、侵入者・観察者(いるなら)を排除する結界を張り直した。

 取り敢えず、半透明になっているので、一時的に魔力を供給し意思確認をする事にする。

「あり……がとう」

 少ししか魔力渡してないのに、本当に凄い子だね。

「感謝は受けとく。確認するよ。あなたはどうしたい?」

 

 

           :使い魔(猫)

 

「あなたはどうしたい?」

 私を助けたのは女の子だった。しかも、私が面倒を見ていた教え子と歳は変わらないように見える。

 だけど、決定的に違うのが、眼だった。

 あの子の眼は何の感情も浮かんでいなかった。私の教え子でももっと感情が豊かだった。

「このまま消えたい?それとも生きたい?消えたいのなら、さっきのみたいな連中が出ないように手を汚してもいい」

 表情を一切変えずにデバイスを私に突きつける。

「穏やかに一人で消えたいなら、結界を維持したまま、外であなたが消滅するまで待つ」

 淡々と選択肢を上げる女の子は、雨でグッショリ濡れていた。

「生きたいのなら、私と契約する手もある」

 ここでほんの僅かな感情の揺らぎを私は確かに感じていた。

 表情が一切動かなくても。

 この子は多分、私に生きていて欲しいのではないか。

 凄く不器用な子なのではないか。

 放って置けない。そう、思ってしまった。

 

 更に金髪の教え子の姿が過る。

 

 綺麗事は言うまい。未練が出たのだ。消滅するしかなかった私にチャンスがきた。

 可哀想なあの子を助けるチャンスを。

 分からず屋な元主を諫めるチャンスを。

 

「…たす…けて……下さい」

 気が付けば力を振り絞って口にしていた。

「承知」

 その子は言葉短く承諾した。

 私たちの包み込むように、先ほどの下種とは似ても似つかぬ精緻な契約魔法陣が現れる。その魔法陣は三角形をしていた。

「我は汝と共に歩む事を願う。汝、我と共に歩む事を望むか。我に応えるならば、汝の名を示せ」

 物凄いスピードで、魔力の供給ラインが構築されていく。

 繊細だが遊びを持たせた見事な契約魔法。こんな美しい魔法は見た事がない。一切無駄な魔力が使われていない。大魔導士と言われた元主ですらここまで到達していない。

 私は得難い主を得たようだ。

 

「私の名はリニスです」

 

 契約は成された。

 

 

 

           :夢

 

 ブランセル王国

 万物を腐敗させる禁忌兵器を使用し、民諸共敵を葬った国。

 そんなやり方をして民が納得などする筈がない。

 そして、助けを求める相手は我が国の同盟国であり私だった。

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)は禁忌兵器の場所を正確に割り出す。

 

 一番守りが厚い場所。

 

 一番兵がいる場所。

 

質量爆散(マテリアルバースト)発動」

 魔法科高校の劣等生の戦略級魔法。

 

 私は使った。これ以上泣く人が出ないように願いながら。

 

 禁忌兵器ごと周辺数十キロが消滅した。

 

 守っていた兵・騎士ごと

 

「助けてくれてありがとう!!」

「あなたは英雄です!!」

「死んだ連中の仇を打ってくれてありがとうございます!!」

 

 口々に皆が称える。

 

 やめてくれ。私は失敗した。禁忌兵器をもっと穏便に始末する筈だったんだ。

 私は失敗を誤魔化す為に、虐殺しただけだ。

 

「やめて!!!」

 

「そうです!すぐやめるべきです。不健康ですよ!美海」

 

 あれ?誰?

 振り返ると猫がいた。

 

 

           :美海

 

 

 意識がズルズルと浮かび上がってくる。

 朝のようだ。

 鼻を何かがくすぐっている。

 寝ぼけ眼で起き上がるとリニスがいた。

 どうやら、尻尾でくすぐっていたらしい。

 何やってんの?

 

 昨日、ずぶ濡れで帰宅する羽目になり、母上には物凄く怒られた。仕様がない。

 母上にまず、リニスの事を説明し飼う許可を貰う、という難事を劣勢の状態でやらなければならないのは辛かったが。

 両親には私のベルカ時代の事は大体話してある。物心ついた頃の私は生きる事に投げやりで、両親には迷惑を掛けた。毎日、私の所為で喧嘩していて、両親は離婚寸前だったし、私も養護施設行き寸前だった。父上の上司が割って入ってくれなかったら、今の私達家族はない。なんでも、その上司の子供も難しい子だったのだとか。

 結局は父上が帰ってきてから家族会議となった。

 結局は、私を守る存在になるならいいだろうという結論になった。二人とも流石に人型に変身したリニスには驚いていたが、受け入れてくれた。

 

「もしかして、私の夢に割って入った?」

「はい。魘されていたので。ロクロウとサエにも頼まれていましたからね」

 祿郎と紗枝とは両親の名前である。両親よ、いつの間にそんなに信頼した。

 

 私とリニスの話し合いとしては、まず基本私の守護獣として活動する。私の方はいずれ来るフェイト テスタロッサを助ける為に協力するという事になった。そう、思い出したよ今更。リニスってフェイトの師匠でデバイスのバルディッシュのマイスターだったよ。チョロッとしか出てなかったんで、すぐ思い出せなかったよ。ついでに無印ラスボスの元使い魔。

 

 やっぱり、原作介入有ですか。

 

 リニスの話ではあの下種二人組は、ラスボスの依頼でロストロギア関連の情報を探らせていた連中らしい。捕まって、計画事前阻止とかないですよね。

 私は溜息をついた。

 私の溜息をどう取ったのか、リニスが勢い込んで言った。

「美海。失敗したなら、それを今生で活かせばいいのです。嫌な記憶もいい記憶でドンドン埋めていきましょう。雨の日もいい事があるのですから」

 まあ、ボチボチやっていきましょう。先は長いし。

『ふん!何を偉そうに。弁えよ駄猫』

 バルムンクは主従関係に意外と厳しい。

「ご心配なく。キッチリ務めさせて頂きますよ。駄剣殿は自分では動けませんからね」

 何やら火花が散ったような…。

「「………」」

 

 何はともあれ、記憶の上書きには問題なさそうか?

 




次回、ようやくもう一人のオリ主視点の話になります。
頑張らねば。


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第3話 世界の不思議とロリコン容疑

 ようやく、もう一人のオリ主の視点の話です。
 では、どうぞ。


             :飛鷹

 

 俺の名前は、飛鷹 浩介となった。

 俺は飛鷹という苗字が気に入っている。クラスメイトにも苗字で呼ばせているくらいだ。

 某・米のXな記録を捜査する捜査官のように親にまで苗字で呼ばせるほどの強者じゃないが。

 物心ついて、自分の意識が戻った時、初めて苗字を聞いて少しビビったのを覚えている。

 父親が刑事だと聞いて、苗字が飛鷹と聞いた時。

 

 もしかして、謎の生物Xと闘う刑事の相棒じゃないよね、と。

 

 まあ、結果は違ったけどね。当然。

 親父は、ぺルソナ4の堂島刑事に似た感じの人だった。そしてスゲー仕事人間。真面目に殆ど家にいないよ。まあ、でもそれ以外は普通の家庭だ。

 オリ主らしく、なのはちゃんが一人ぼっちの時に公園で会って、話せた。

「もう暗くなるよ。家に帰ったほうがいいよ」

「……」

「何か、帰りたくないような事あった?」

 ベンチに一人で座っているなのはちゃんの話を聞いて励ましたよ。

 最後はさ。

「話、聞いてくれて、ありがとう」

 ってさ。少しだけど笑ってくれたよ。

 断っておくが、俺はロリコンじゃない。なのはちゃんは可愛かったが、将来嫁にすべく唾を付けたかった訳じゃない。これから始まる戦いに絡む為だ。なのはと言ったらバトル!だからさ。その為に、特典はほぼ、戦闘系能力を願ったんだからさ!

 順風満帆、順風満帆。

 などと思えたのは、この時までだった。

 

 

 分かっているが、敢えて言わせてもらう。

 この世界、本当にリリカルなのはの世界なんですか!?

 魔法文化ないんだよね!?

 何かこの前、鍛錬してたらさ、変な超能力的な能力使う羽が生えた人いたよ!転生者かと思ったけど、どうも違うらしいし! 

 親父にそれとなく訊いたら、病気の一種で近づくなって言われたよ! 何?病気?そんなのリリカルなのはの設定にあったっけ!?

 しかも最悪なのはさ、あれからなのはちゃんに会えなかったんだよ。大丈夫なのか俺!?もしかして無自覚の踏み台化でもしたのか!?だったらどうにかしなきゃだけど、どうすりゃいいのかわからなかったわ!いきなり、家も知らない筈の俺が喫茶・翠屋に行けば不自然だし、下手すりゃストーカー扱いされる。それこそ踏み台の所業だ。

 

 結局は、小学校に上がる頃に再会出来たけど、向こうは俺の事を覚えていなさそう。

 ここから仲良くなればいいか。 

 こんなところで諦める俺じゃないぜ。

 

 なんて言ってる間に小学三年生だよ。

 三年生で、アリサ・すずかコンビがなのはちゃんの友達に加わってから、何故か二人は俺を警戒してるみたいで、あんまり話させてくれないんだよ。逆になのはちゃんが申し訳なさそうに、二人の見えない位置から手を合わせて謝っているくらいだ。二人の過剰反応だと話もしてくれてるみたいだし。

 なのはちゃん、いい子だよ。

 因みに、三人が仲良くなったキッカケは原作通りだった。

 

 この世界の疑問はそれだけではない。

 他ならぬ、なのはちゃんだ。

 なのはちゃんは運動神経が小学生の時は悪かった筈だよね。なのにさ、バスケットボールとかやると、時々すずかちゃんすらかわしてスリーポイントシュート決めたりするんだよ。動きも俊敏だし、50m走とかでも順位は上位にいる。偶々、聞こえた事だが彼女は家の独自の剣術を習っており、かなりの腕前なんだとか。特典持ちの俺からすると、年の割に強いって程度だけどさ。でもね。

 

 君、ホントに、なのはちゃん?

 

 正直、彼女が魔法を得たら、俺いらないじゃないの?って思っちゃうよ。  

 

 いや、俺は負けん。きっと俺にも二次小説のオリ主のような事が出来る筈だ。

 決意を新たに、俺は戦士の休息をする事にする。

 

 便所に行くと、男子数人が密談していた。

(そうだよ。休息は便所だよ。悪いか!)

「やっぱり、月村だよ。やっぱり女の子は優しくなくちゃ」

「バニングスの良さが分からんとは甘いな」

 クラスメートは便所で女の子の品評会をやっていた。何やってんだ、お前ら。便所で。

「おお、飛鷹か。お前は聞くまでもないよな」

 クラスでよくツルむ安達がそんな事を言った。

「何が?」

「いやぁ、今、クラスの女子で誰が一番可愛いか話してたんだよ」

 察しはとっくについてるよ。マセガキ。

 しかし、何故便所なんだよ。

「他で話すと漏れるからな、話が」

 ああ、女子ネットワークね。怖いよね。

「ここだと比較的安全なんだよ」

 絶対じゃないのね。

「で?何が聞くまでもないんだ?」

「お前、高町好きだろ?モロバレ過ぎて訊くまでもないってこと」

「そりゃ、誤解だ」

 俺はロリコンではない。

「俺はお前ほどの勇者を知らないよ」

 実感が籠った声を出したのは、武藤だった。

「俺がサッカーチームにいるの知ってるだろ?」

 武藤は所謂、スポーツの出来る人気者だ。そして、こいつは高町 士郎率いる翠屋JFCに所属している。正確にはコーチらしいけど。

 頷いてやる。

「偶にさ。高町が応援っていうか、マネージャーっぽい事してくれるんだけどさ」

 ほう、そいつは初耳だ。

「俺が高町の応援にさ、手振って応えたわけ。そしたら、高町も結構手振り返して応えてくれてさ。したらさ、コーチが笑顔でこっち来てさ。顔が笑ってるのに、目が笑ってないんだよ。こえーのなんのって。その後、マンツーマンでしごきだよ」

 武藤は目が虚ろになっている。地獄を思い出したんだろう。不憫な。

 君の人生に幸あれ。敬礼。

「高町のこと、好きだって男がいるって知ったら殺されるんじゃないか?」

 武藤はポツリとそう言った。

 誤解だって言いましたよね!? 

「いやいや、アイツの兄貴もこえーぞ」

 お調子者の浜口も口を挟む。

「この前、銀行で強盗あったろ?」

 そういえば、ニュースですぐ逮捕されたって言ってたような?

「実はさ。俺、かーちゃんと一緒にその時、銀行居たんだよ」

「「「「「マジかよ!?」」」」」

 全員の声がハモった。そんな経験普通しないからな。

「そしたらさ、高町の兄貴が美人と一緒に来ててさ。銀行強盗がカウンターに行った瞬間にさ。全員倒しちまったんだよ!」

 は?

「ホントに人って鍛えると消えるんだな!テレビとかであるじゃん!速過ぎて見えないってやつ!あれだよ!」

 飛天御剣流ですか?それ?

「何か高町の兄貴も高町可愛がってるみたいだしな。あそこの男二人有名みたいだぞ」

 安達を筆頭に俺にいい笑顔でサムズアップ。

 意味わかんねぇよ。なんでサムズアップだよ。

「「「「「成仏しろよ」」」」」

 何?俺、無実の罪で殺されんの?

 

 それでも、俺は生き抜いて見せる、この世界で。

 

 某・黒の剣士みたいに走り出したくなったが、俺の場合そんな事をしても問題は解決しないので止めた。

 

 

         




 飛鷹は転生一年生なので、明るいです。
 美海はHGSの事は覚えています。リリなのが元はスピンオフだという事も覚えている為、不思議な事が起こっても、特別反応しません。故に触れません。でも、無印は覚えていない。人間、重要な事は忘れるけど、どうでもいい事は覚えてますよね。
 次、主人公・なのはちゃん視点の話になります。原作開始までもう少し掛かります。


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第4話 変な飛鷹君、不思議な美海ちゃん

 本物の主人公視点です。
 少し伏線いれてみました。けど、話は進んでいません(汗)
 頑張ります。


              :なのは

 

 私の名前は高町なのは。ごくごく普通の小学三年生。というと最近、アリサちゃんが怒ります。

「アンタの家のどこが普通なのよ!!」

 ちょっと納得いかないの。家に道場があって、家独自の流派を持ってて、お弟子さんを取ってないくらいであとは普通だと思うんだけどな。

 あと、お弟子さんがいないって言っても家族以外という意味です。本当の意味で弟子なのは、お兄ちゃんとお姉ちゃんくらい。私はただ隅で護身程度に習っているだけで、弟子じゃないそうです。

 私は弟子じゃないの?って、お父さんに訊いたらこう言われました。

「なのは、御神の剣を修めるなら、覚悟がなければダメなんだ」

 覚悟ってどういう事なんだろう?

 痛い事とか我慢する事かな?

 でも今でも痛いけど、稽古。まだどんな覚悟か分かりません。

 あっ!あと喫茶店をやってます。店の名前は喫茶・翠屋です。美味しいお店として、結構有名なんですよ。

 

 

 小学生になってお友達も増えました。三年生になって、もっと沢山お友達つくろうと思ってます!

 お話したいと思う子は二人います。他の子(男の子は何故か壁を感じるけど)とは会えば楽しくお話するんだけど、この二人とは上手にお話出来ません。

 

 まず、初めは飛鷹 浩介君。

 

 この子は結構変わった子で、同じクラスになってよく私の事を見ています。

 一番仲良くなった親友のアリサちゃんとすずかちゃんが言うには…。

「アイツ絶対!ストーカーのケがあるわよ。注意しなさいよ!」

「それはちょっと言い過ぎだと思うけど、ちょっと熱心すぎるよね」

 二人ともいきなりその感想はひどいと思うの…。

 確かに私も多少鍛えてるから視線には気付いてた。でも二人が言うような嫌な視線じゃないし、何だかお話したがってるだけだと思う。

「甘いわよ!小学生だからってストーカー被害に遭わない訳じゃないわよ!実際、私、今被害に遭ってるのよ!」

「私も…」

 二人とも少し気分が落ち込んだみたい。

 二人とも綺麗だし可愛いもんね。気を付けてね。

 でも、それで反応が過敏だったんだ…。

 二人ともお金持ちで名家?らしいから守ってくれる人はいるんだろうけど、お父さんに相談してみようかな。

 

 あっ!今は飛鷹君の話でしたね。

 飛鷹君が一番変わってるのは仲のいいお友達にも飛鷹っていう苗字で呼ばせてる事。何か自分の苗字が大好きなんだって。確かにカッコイイけどね。飛んでる鷹と書くみたいだし。

 他の男の子達もふざけて苗字で呼び合うようになっても気にしてないみたいです。

 あと、これは絶対挙げなくちゃいけないって思うのは、()()()()()

 多分、私よりずっと強いと思う。一応、隠してるみたいだけど、お父さん達を間近で見ている私には分かる。何気ない動き一つでも私より凄いのが伝わってくる。

 何であんなに強くなろうと思ったんだろう?

 それはお父さんの言う覚悟に通じるのか訊いてみたいです。

 それに、最初は全く気付かなかったけど、最近どこかで会ったような気がしてきて、似た子に会ったことがあるのを思い出したの!

 今よりずっと小っちゃかった頃に公園で会った子に似てるような気がする。

 ぜひ、確認したいの!

 

 

 もう一人の子は綾森 美海ちゃん。

 この子は飛鷹君とは違って不思議な子という感じ。

 小柄で髪がフワッとした癖毛で子猫みたいに可愛い子なんです。

 でも、見た目と性格は違うみたい。

 困っている子がいると何も言わずに、手伝ったり、何気なく助けたりするし、男の子が悪戯しているのをハッキリと注意してるのを、見たりする。それで男の子に意地悪されたり仲が悪くなったりしないのが不思議です。

 あまりお喋りが好きじゃないみたいで、返事も簡単な一言だけだったりします。

 誰とも凄く仲良しっていう子がいないみたいなのに、放っとかれているというのでもありません。普通は返事が素っ気ないばっかりだと、一人になっちゃうけど。それを怖がってるようにも見えないし、そういうの自然体って言うんでしょうか?

 表情もあまり変わりません。

 だから、誰かが笑った顔を少し見ただけで、その子は結構自慢しています。アリサちゃんやすずかちゃんが言うにはマスコット的人気って事みたい。

 すずかちゃんは猫が大好きでお家で沢山飼ってる所為か、美海ちゃんを見ると撫でたいと言っています。

 でも、すずかちゃん、何だか視線が危ないと思うの。飛鷹君の事あんまり言えないような…。

 

 うん、何でもないよ!

 

 でも!一番不思議なのは、私達三人は授業のグループで一緒になる以外、お話どころか近付けもしない事!丁度お話出来るタイミングと近付くと、途中で他の子から話し掛けられたリ、先生に呼び止められたリ、美海ちゃんに話し相手が出来たり、私が自分で忘れていた用事を思い出したりで仲良くなる事が難しいの。

 

 優しい子みたいだし、どうしてか気になるから仲良くなりたいです!

 

 お母さんが言うには、まだ縁?がないのかもって言ってたけど、私は頑張ります!

 

 必ず、二人とお友達になって見せます!




 次回の話が片付いたら、原作突入する予定です。
 一話じゃ、終わらないかも…。


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第5話 災いの種

 う~ん。
 やっぱり長くなりそうです。
 すみません。
 


          :???

 

 ワシは運から見放されとる。

 親戚連中いや、ワシ以外の血縁は容姿に恵まれ、才能に恵まれ、カネも上手い具合に増やしとるのに、ワシ一人が凡才や。あるカネをなんとか遣り繰りしとった。

 残りカスみたいなワシにも才能が一つはあるかも知れへん、なんて阿保な夢見たわ。

 あんな阿保な事やらんかったら屋敷にも住んでられたんや。今や風呂なし便所共同のアパートに隠れ住んどる始末や。

 

 まあ、そんなワシが株に手を出したのが間違いの元や。偶々、情報が入って株を買うたら大当たり。順調に資産を増やしたんや。ワシがやで?ワシは思った。ワシには株の才能があったんや!っと。大間違いやったけどな。今やスジの悪いとこからの借金がうん億。

 見付かったら、殺されるわ。

 姪にカネを貸してくれと頼んだけど門前払いや。情のない女やで。

 

 遺産の分配もそうや。ワシにキチンとした取り分があれば、こないに苦労せんと挽回も出来たかもしれん。ワシに残されたのは、ガラクタ一つや。封印はワシにしか解けんもの、そんな文句に騙されたわ。封印なんぞ解けへんやないか。まあ、解けたとこで使えたかは、怪しいもんやけど。

 姪のとこのも直さな使えへんかったそうやし。

 

 アパートでしょうもない事考えとった時や。

 携帯が鳴り出しよった。

 今時、連絡先がないと働くのもキビシイ。

 仕事の電話やろ。出んとな。

「はい」

「やぁ~、探しましたよ。月村さん。覚えてますかね?東南金融の東田です」

 ワシは血の気が引いた。それは、ワシを追い回す借金取りやった。

 この携帯かて普通のルートで買うたヤツやない。どっからバレたんや。

「あぁ、外にウチのもんがいるんで、逃げないでくださいよ」

 ハッタリや。そうであってくれ!祈るように外を伺うと、おった。散々、外道な真似しくさった東田の手下が。手を振っとる。

 仕舞や。

「もう、分かっとるやろ。カネならないで。…殺すんか」

 もう自棄や。

「嫌だな~。自棄にならないで下さいよ」

「はよ、どうしたいか言えや」

「実は貴方にいい話があるんですよ」

 ハッ!ええ話やて?胡散臭さ。

「仕事を一つして頂ければ、借金は帳消し。更にあなたの遺産を売却する事で一千万支払いましょう」

「あんなガラクタに一千万とは剛毅やな。それにやな、ワシの借金、忘れた訳やないやろ。帳消しになんてなるかい!馬鹿にすんなや!」

 殺すならサッサとやれや。

「分かっているでしょうが、当然、非合法な仕事ですよ。それだけのリターンがあるんですよ」

「そんなら、アンタらだけでやればええやろ。ワシは役に立たんで」

「まぁ、確かにそうなんですがね。私はあなたを気の毒だと思っているんですよ」

 グッ!ハッキリ言いよるわ。気の毒なんぞ、どの口が言うんや。

「親族にも遺産を正当に渡されず。渡す遺産も使えないように嘘の封印解除法を教えられた」

「どういう事や!なんで封印の事を!」

 あれはウチの一族秘事やで。誰が一体!?

「私も親切な人から教わったんですよ。巨万の富を生む鵞鳥の事をね」

 東田はいくら訊いても情報元は言わんかった。

「月村 安二郎さん。悔しくないんですか?一族の他の方はいい暮らしをしているのに、貴方は今、生命の危機に陥っている。姪御さんにもお金を借りられなかったんでしょ?追い返されたそうじゃないですか」

 そないな事まで…。

 

 東田は具体的な内容を話しよった。…とんでもない事を企んどった。

 

「貴方が受け取る筈だった正当な遺産を、今貰うだけじゃないですか」

 

 どうせ、このままだとコイツらに殺されるんや。

 

 やったろうやないか!

 

 

          :美海

 

 リニスが私のところに来て、半月。

 相変わらず、バルムンクとは仲が悪いようだが、まあ、馴染んでいる。馴染み過ぎている。

 主にウチの両親と。

 本日は、授業は半日で終了の為、リニスを入れての自主練となっている。

 

 私達は無人世界に転移し、訓練を行っている。

 砂と砂丘しかない世界で、生物もいない。

 管理局も次元犯罪者すら来ない。

 そういう場所こそ、次元犯罪者が居そうなものだが、ここは最近次元断層が起きた場所から、近い場所でまだ空間が安定していなかったりする。

 次元犯罪者はおろか管理局の監視機器すら置けない場所だ。

 空間が安定していなかろうが、私は多少の妨害をものともせず転移出来る。

 だからこそ、ここで訓練しているのだ。

 

 

 砂が私の剣風で大量に巻き上げられる。

 リニスはギリギリで砂ごと剣を回避。

 私は即座に追撃を選択。砂に突撃。第三者が私を見ていたなら、砂に溶けたように見えただろう。

 まだ、腕をクロスして防御したままのリニスにが音もなく砂から凄いスピードで出てきた私に目を丸くする。

 私は下から斬り上げる。

「くっ!!」

 リニスがまだ使用が不慣れなベルカ式魔法でシールド。ストライカーズでギンガが使っていたトライシールドに当たる魔法である。

 私は余裕をもって剣の軌道を変え、シールドを下から跳ね上げ、手首の返しだけで剣を振り下ろす。

 リニスは脚から魔力を渦上に放出。強制離脱。

 私は空中でワンステップで追い付き、すでに横薙ぎの体制に入っていた剣を振り抜いた。

 殆ど時間も稼げず、トライシールドを跳ね上げられ、魔力で強引に離脱したリニスは既に体勢を崩してしまっている。何とか一太刀は魔力で滑らせたものの、滑らかに鋭く幾度も繰り出される。剣閃が繰り出される度に尾を引く。リニスは遂に剣戟を捌ききれずに、連撃を受けて吹き飛んでいった。

 

 砂が巻き上げられる。

 私は残心の姿勢で剣を構えたままだ。

 砂埃が晴れ、大の字に倒れているリニスが見える。

 しかし、私は無言で剣を後ろに振り抜いた。

 流石に不意を突いたと思ったのだろう。碌な防御も出来ないまま砂を転がっていった。

 大の字になったリニスが消える。やっぱり、幻術か。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)は使ってないからね。眼を使わなくても、このくらいは出来るよ。眼に頼りっきりになったら、それを逆利用されて死ぬからね。何度も言うけど。

 

 リニスは砂だらけで蹲っている。荒い息遣いが聞こえてくる。

「術式が違うと、やっぱり勝手が違う?」

 私は構えを解いて、剣を担いだままリニスに訊く。

「じゅ…つの違い……とか…そういう…問題では…ありません」

「と言うと?」

「貴女が強すぎるんです!」

 私、剣に関しては全盛期の四割ってところだよ。リーチとかの問題で同じようには振れないんだ。体も小さいし。魔法完全使用で五割くらいかな。

 因みに、今は鍛錬の為、振出と打ち込みの瞬間しか魔力を込めていない。それもごく少量。 魔法科高校の劣等生に出てくる柳大尉、千葉 エリカみたいに必要な部分を瞬間的に強化しているだけだ。ほぼ私の素の剣技と言っていい。

 一応言っておくと、空中を移動する際は、足場を作ったりするのに魔法を使ってるよ。それでも飛行魔法までは使わない。(特典は全てリリカルなのはの世界に適用するよう、特典の原作とは若干違うところがある。)

 

「どこが!剣なら、まだそれほどでも。ですか!現在で達人じゃないですか!全盛期ってどんな化け物だったんですか!」

「全盛期?十二本の剣を一度に操って戦えたね」

 勿論それで、動きが悪くなったりしない。そんな事になるなら、十二本使う意味がない。一本一本が達人級の剣でなくてはならない。ほら、まだまだでしょ?

 今は体の使い方を思い出させているところで、リニスの言う達人の動きをするなら二刀流が限度だ。他の剣を操る余裕がない。操れなくもないが、多分浮かせて操る剣に混乱が起きる。自分の体、味方の動きで。二本で四割、五割とは?と思うかもしれないが、私にとって残り五割で完成させられる技術だ。事実私はベルカ時代完成させている。一番習得に時間を掛けただろう。

 そして、これが私の特典その三である。複数の武器を浮かせて操る技術は、比較的似た技術を見掛ける為、浮かせた剣を飛ばすのではなく、剣技として操れるようにしてほしい、とお願いした。十二本操れるようになったのは、私自身の努力の賜物だ。

 ベルカでこれは()()()()と、ほぼまんまな名称で呼ばれ、私もそれを採用した。剣聖操技を完全に使えるようになった事が剣王の所以である。

「……」

 おっと、リニスが黙ってしまった。口からエクトプラズム出てますぞ、リニス殿。

 

 大体これで、私の特典は取り敢えず説明したと思う。後はメカニック技術やら武術マックスやらが三つの特典の付属に付けたくらいかな?やり過ぎだって?私もそう思うけど、これでベルカギリギリです。

 こういう時に言う言葉は、ベルカマジパネェっす。かな?

 

 数分後。

 模擬戦再開。前回と私は同じ条件でやる。

 魔法まで本格的に使ったら、私の鍛錬にならないからね。圧勝してるのに何をって?

 さっきから言ってるけど、私の方は体の使い方を思い出す為にやってるからね。

 終わった後はリニスにも悪い点は指摘して、改善法をアドバイスしてるよ。

 まあ、模擬戦結果は同じだから割愛するよ。

 いきなり、強くなったりしないから、ドンマイ、リニス。

 

 模擬戦終了後、魔法の講義。私が受ける方だよ。

 リニスは模擬戦の影響で人型を維持出来ず、猫に戻ってしまっている。

「特性に多少の違いはあるけど、ベルカ式とそんなに違いはなさそうだね」

「多少の違いで済ませられるのは、美海だけです。何より、使い勝手が違いすぎます」

 リニスが倒れたまま、弱った声を出す。

 まあ、ベルカ式は近接戦闘を前提としたものが多いからね。勿論、支援魔法もミッド式同様遠距離射撃魔法もあるが、基本動き回る前提ではない。支援も長距離射撃も後方から動かない支援も可能な固定砲台みたいなものだ。分かり易く言えば、はやてやシャマルを見ればわかると思う。彼女達激しい立ち回りなんてあまりしないでしょ?

 一方、ミッド式はなのはちゃん達を見れば分かるけど、高速移動しながら攻撃を繰り出す事を前提としている。支援とか大威力砲撃とかは流石に足止める事になるけど。

『駄猫!なんだ!そのザマは!主に仕えておった騎士達は、どれだけ疲弊したとて、主の御前では最後まで立っておったもんだぞ!未熟者め!!』

 バルムンクは、疲労から倒れたまま講義しているリニスにお冠だ。

 

 実は私はリニスからミッド式の魔法も教わってるんだよね。

 現在はベルカ式と言えば、ミッドとベルカが混ざった近代ベルカ式が主流になっているくらいだから、そんなにかけ離れた魔法ではないと思うけど。術理も理解出来るし、もうオリジナルの魔法とかやろうと思えば組めると思う。

 

「駄剣の言う通り、確かにまだまだのようですが、貴方は出されてすらいなかったですよね?」

 そう、私は鍛錬で一度もバルムンクを出した事がない。

 今日も使ったのは周辺諸国が送ってくれた魔鋼を鍛鉄した剣だ。これすら、厳密に言えばロストロギア扱いらしい。売り買いが可能なレベルで、私が剣聖操技で使う聖剣・魔剣に比べ、使っても問題ない品だからだ。バルムンクを筆頭とした聖剣・魔剣は問答無用で秘匿級である。威力も洒落にならないから、迂闊に使えないのだ。

『ふん!愚か者め、我は主の切り札なのだ。そこらの有象無象の剣と一緒にするでない」

「つまり、使い勝手が悪いんですね?」

 静寂が流れる。

『貴様とは一度徹底的に話す必要があるな』

「奇遇ですね。私も同じ事を考えていました」

「『……』」

 いつの間にか立ち上がっていたリニスとの間に、バチバチと火花が飛び散っているが、リニス貴女立てなかったのでは?

 

 そして、私は僅か半月でミッド式魔法講座を修了した。

 

 なんか、もういいって事で。

 

 投げ槍になってませんか?リニスさん。

 

 

          :リニス

 

 今の私の主は、間違いなく天才だ。

 

 魔法は元々使えていたとは言え、術式の違う新しい魔法を瞬く間にマスターしてしまった。

 フェイトも才能という点では凄い子だったけれど、例えば今からベルカ式魔法を一から覚えろと言われたら、ここまでアッサリとはいかないだろう。下手をすれば習得出来ない可能性すらある。本来は一つの術式をものにしていれば、他を覚えるなど無駄と判断されるからだ。凡人では混乱するか、どっちつかずになるかである。つまり、役立たずが出来上がる。

 しかし、美海は魔法を組む上で他の術式のコードを見ておくのは、無駄にならないとアッサリと吸収してみせた。もう、オリジナルで魔法を組めると言う。流石の私も修了を宣言せざるを得ない。私が再び、ミッド式魔法を使えるように契約を調整するとまで言っている。何度でも言いますが、普通は無理ですからね?契約後に術式弄るなんて。

 

 模擬戦にしてみても、流石にベルカの英雄。

 剣ならまだ完成していない、というのでやってみれば、惨憺たる結果だった。

 剣筋が尋常ではない。直線から曲線、曲線から直線、剣筋が変幻自在で攻撃しようとする頃には、攻撃がすでに繰り出された後という始末だ。結果、私は防御一辺倒になってしまう。反省会では、容赦ないアドバイスが飛ぶ事になる。

 私もかなり出来ると認識していたが、美海を見るとそんな認識捨てた方がいいと思える。

「じゃあ、槍か組打ちにする?」

 騙されませんよ。

 訊いてみると、槍は二番手で組打ちは三番手だったそうだ。ホラね?ボコボコになる未来しか見えないですよ?そうは言っても私は美海の守護獣。精進は欠かせません。…やるしかありません。

 関係ない事ですが、バルムンクとかいう剣が小姑みたいに煩いです。

 

 因みに、守護獣と使い魔の役割は大して違いはないようです。少しホッとしました。

 

 

 転移の魔法で海鳴に帰還すると、もう立派な夕暮れでした。

 帰宅途中の事だ。

 

 私は美海の横を猫のまま歩いていました。

 日は大分傾いて、夜が近付いていた。

 私達の前を一台の車が横切った。高級な黒塗りの車です。

 そして、後から距離を開けてスクーターが通り過ぎる。

 起こった事はそれだけ。

 

 美海はその後ろ姿を立ち止まり、見詰めていた。

 高級車は大きな門に入って行く。

 スクーターは門の前で曲がって消えていく。後からライトバンがスクーターが消えた方向に走り去った。

「どうしたんですか?」

 私は美海を見上げると、美海は鋭い視線をスクーターやバンが消えた方向に向けていた。

「あれ、アリサちゃんの屋敷」

「はあ、立派ですね」

「うん、そうだね」

 呟くような小さな声だったが、私にはハッキリ聞こえた。

 

「悪意…」

 




 案の定、一話で終わらなかったよ。
 最低、あと二話くらいいきそうな感じです。
 原作開始までもう暫くお付き合いを、お願いします。
 関西弁に関しては、おかしいところがあったら教えて下さい。
 一応、ネットで調べたんですけど。分からん(汗)


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第6話 芽吹く災い

 難産でしたよ。
 これで?っていう突っ込みはノーサンキューです。
 ようやく、この話の中間ですよ…。


              :飛鷹

 

 結局、今日までなのはちゃんと仲良くなれなかったよ…。

 

 俺は放課後、母さんに頼まれた買い物をすべく商店街へ向かった。

 商店街!俺の前世では近所から姿を消してしまったものだ。

 趣があってよろしい!

 俺は上機嫌で買い物を済ませていく。

 ラインナップからすると今日はカレーか。俺は見掛けより力があるので、重いものも結構引き受けたりするんだよ。父さんが仕事人間で買い物なんていかないからな。俺は三人分くらいの食材で音を上げるような鍛え方はしてないからな。

 

 幾らなんでも子供にそんな大荷物頼むか?と思った奴。一応言っとくけど、母さんはブラッキーな人じゃないからな。今日は母さんに用事があったからだぞ。

 

 買い物が終わり歩いていると、向こうからすずかちゃんが歩いてくるのが見えた。まあ、向こうはまだ認識してないだろうが。

 珍しく一人だな。

 

 ああ、今日は図書委員の活動か。

 

 なんて呑気に思ってた時だ。

 路地から急にライトバンが出てきて急停止。

 車が遮蔽物になっているが、俺には分かる。

 出てきた人数は三人。オイオイ、小学生攫うのに多いんじゃね?

 車の中に二人。運転席に一人、後部座席にさらに一人。

 気配でそれくらい分かるぜ!俺の力はこういう時の為!ってな!!

 買い物袋を地面に置き、魔法陣を展開させる。

 俺は走り寄ると同時に手で前輪のタイヤを薙ぐように振る。

「カット!!」

 魔法が発動し、タイヤが真っ二つに切れる。車が斜めに傾く。

 これは、俺が特典に選んだものの一つだ。ラノベのストレイト・ジャケットの魔法。簡単に言えば、不可視の魔法の剣を振るう魔法だ。原作だと呪詛が発生するが、特典は全てこの世界に適応するよう設定される。故に呪詛は出ないんだそうだ。俺の場合はミッド式の亜種みたいな位置付けになっている。

 運転手がドアを開け、身を乗り出すように銃を構えるが、俺は無視。

 身体強化で車を跳び越し、すずかちゃんを掴んでいる男の上へ落ちた。

 男の肩に着地と同時に脚を振り上げ、踵落としの要領で男の顔面を痛打する。

 後部座席にいる奴も銃を抜いているものの、仲間が邪魔で撃てない。

 後部座席に残ってる奴が間誤付いて(まごついて)いる間に、俺が蹴りを入れた奴が車の中に強制的に叩き込まれる。

 それを確認し、あと二人の鳩尾にワンパン入れてやる。

 体がくの字に曲がった奴らの陰にすずかちゃんの手を引いて盾にすると、叫んだ。

「幼女趣味の変態だぁぁぁ!!車に連れ込まれるぅぅ!!!」

 大声に反応したか、建物の窓が開かれる。

「ちっ!!」

 男達は路地に逃げ込んでいく。

 俺はすずかちゃんを連れ、壁を盾にそっと路地を覗くと、新たな車に連中が乗り込んでいった。

「ちっ!まだ仲間がいたのか」

 あの分だと車は複数用意しているだろう。簡単には捕まらないな。

「あなた達!大丈夫!?」

 慌てて出てきたのか裸足のおばあちゃんが駆け寄りながら訊いてきた。

「俺は大丈夫ですけど…」

 隣を見るとすずかちゃんが青白い顔で震えている。

「大変だったねぇ」

 おばあちゃんはすずかちゃんをしゃがみ込んで抱きしめてやった。

「あの、俺、警察通報しますね」

「あっ!ごめんなさい…通報まだだったわ」

「気にしないで下さい。彼女の傍に居て貰えますか?」

「分かったよ」

 俺は110番に通報する。

 

 

 数分後、警察が到着。

 父さんがいたよ。

「バカ野郎!!ガキがヒーローぶってんじゃねぇ!!!そういう時は、すぐに通報だろうが!!お前、下手したらどうなったか分からないんだぞ!!!」

 そして事情を説明したら、これである。しゃーねーか。

 ついでに頭に拳骨をくらった。スゲェ痛てぇ…。

 俺が誘拐犯と闘った事は暈して説明したが、父さんは俺が無茶したと、すぐに勘付いてしまった。プロなんだから、そりゃバレるわな。

 車を叩いて騒ぎまくったと説明したんだけど…。

「車の前輪が斬れてるのは、どういう事か知ってるか?」

「さぁ?」

 内心、冷や汗ダラダラである。

 ヤベェ。咄嗟に使い慣れてる魔法チョイスしちまったよ。しかも魔法使うのに結界張り忘れたよ。普段ならこんなミスしねぇのにな。いつもは自分一人だからな。

 

 やっぱり、()()()()()()()()()()と怖えな。

 

 頭を抱えて悶えているとすずかちゃんが近付いてきた。

「あの…助けてくれてありがとう」

 俺は涙目のまま、立ち上がる。

 締まんねー。

「いや、無事でよかったよ」

 すずかちゃんはまだ顔色が悪かった。

「あの、飛鷹君…さっきのって…」

 ヤベェ。彼女にも見られてたんだよね。黙ってて貰えませんかね?

「「すずか(ちゃん)!!!」」

 あれ?この声は。

 声の方を二人で見ると、そこにはなのはちゃんアリサちゃんがいた。

「すずかちゃん!どうしたの!?」

「すずか!大丈夫!?」

 規制線の向こうで二人が騒いでいる。

 

 騒ぎを聞きつけて父さんがやってくる。

「何の騒ぎだ」

「彼女の友達だよ」

「そうか」

 父さんは頷くとすずかちゃんに視線を合わせる為にしゃがむ。

「もうすぐ、少年課の刑事とウチの人間がくる。君のお姉さんにも知らせてあるが、今こちらには来れないそうだから、刑事さん達と家に戻ってくれ」

「分かりました。…飛鷹君、本当にありがとう。助けてくれて」

 すずかちゃんは俺に頭を下げると、父さんの許可を貰い、なのはちゃん達に事情を説明に行った。

「お前も帰れ。また話を聞くかもしれないからな。()()()()()()()()()

 俺にも、むさいおっさんが付くようですよ?

 YES!私は呼んでません!おっさんより俺強いよ?平気だよ?

 

 問答無用でした。

 ドナドナならぬズルズルと引き摺られていった。

 

 あの、私めも善良な市民なんですがね。扱いが乱暴じゃありませんこと!?

 

 

              :すずか

 

 少しして、私を送りってくれる刑事さん達が来た。

 なのはちゃん、アリサちゃんは凄く心配してくれて、一緒に帰ってくれるって。

 正直、心細かったから本当に嬉しかった。

 

 でも、ノエルはともかくファリンまで忙しかったのかな?なんか、お姉ちゃんらしくないような気がするけど…。

 覆面パトカーっていうの?に三人で乗って家に向かう。

 

「でも、飛鷹がねぇ。明日、私もお礼言うわよ」

「強いのは知ってたけど、大人相手にすずかちゃん護るなんて凄いな」

 二人はしきりと関心している。

 でも、あの身体能力。あの子人間なのかな?普通、子供は車を跳び越えたり出来ない。

 私も腕を掴まれたから分かるけど、あの人達随分鍛えていたみたいだし、子供の攻撃が効きそうには思えない。一人なんて吹き飛んでたし。

 一応、お姉ちゃんに相談するまで、飛鷹君の身体能力については二人には話さない事にした。飛鷹君がした説明と、誘拐犯の攻撃を引き付けて、時間稼ぎをしたとしか言ってない。なのはちゃんは、もしかしたら気付いてるかもしれないけど。

 

 三人でお話してたんだけど、まだ家に着かないので、外を見るとドンドン海鳴市から遠ざかっていってる。

「あの!こっち違いますよ!」

 アリサちゃんが運転してる刑事さんに声を掛けるけど、声に反応がない。

 

 私は見てしまった。運転席と助手席に座っている刑事さんのガラス玉みたいな目を。

 私はその目をよく知っていた。

 

 夜の一族の魔眼で強力な暗示に掛かった人の目だった。

 

 車は海鳴市を出て、山へ向かっているみたい。

 私達は誘拐されたと気付いた時に、携帯電話で助けを呼ぼうとしたけど、助手席の刑事さんに拳銃を突き付けられた。

「携帯…を渡…せ」

 袋をこっちに投げてくる。携帯電話を入れろという事らしい。

「そっちの…こ、子供。妙な…ま…ねは止せ。狭い…車内だ。弾は誰…かに当たる…ぞ」

 なのはちゃんは悔しそうに携帯電話を袋に入れる。私達も大人しく入れる

「貴方達、警察でしょ?こんな事していいの?」

 アリサちゃんは刑事さん達を睨み付ける。

「「……」」

 二人とも返事はせずに袋を受け取った。

 当然だ。この人達は操られているだけなんだから。

 

 山道にドンドン入って行き、まるで豆腐みたいな形の白い建物の前で停車した。

 建物から人が出てきて車を取り囲む。

 一人が車のドアを開ける

「出ろ」

 私は恐る恐る降りる。なのはちゃんとアリサちゃんは見た感じは落ち着いている。

 

 私達を取り囲んでいる黒服の人達が道を開けると、三人の人間が現れる。

「安二郎叔父さん!?」

 叔父さんは目を逸らして、私達を見ようとしなかった。

 もう一人は金髪の女の人。叔父さんの後ろにピッタリくっついて歩いている。

 そして、最後の人を見た時、私は凍り付いた。

 

「氷村さん…」

 

 氷村さんは冷たい笑みを浮かべた。

 

 

 私達は建物の中に連れていかれた。

 そして、何故か分からないけど、牢屋があった。

 私達はそこに入れられた。

「何故、牢があるか不思議かい?ここは昔、法整備が済んでいない頃の精神病院でね。隔離用に未だに残っているのさ。人間のやる事は杜撰だよね」

 氷村さんは鉄格子を蹴ると、凄い音が鳴るもののビクともしない。

「きゃあ!」

 音にビックリしてアリサちゃんが思わず悲鳴を上げる。

「そこの茶色い子は災難だったね。運が悪かったと諦めてくれ」

 なのはちゃんは無言で睨み付けてる。

「どうしてですか?」

「どうして?こんな事したかって?つまらない質問だな。忍も面白味のない女だったから、むべなるかな…かな?」

「氷村さんは、なんでも出来るって、聞きました。お金だって…」

 氷村さんは私の言葉に指を鳴らした。

「そう!なんでも出来るよ。っと、これは僕でも言い過ぎだな。大抵の事は可能と言い直そう。だからだよ!!僕が出来ない事は誰であっても出来ない事。僕が出来る事が出来る奴は驚くほど少ない。つまらないんだよ。退屈だ。だから遊んでるんだ」

 そんな…遊んでる?

 それで私のお友達を巻き込んだの?巻き込んでしまったの?

「ああ、心配する必要はないよ。バニングス嬢は必要だから攫ったんだから。完全に巻き込まれたのは、そこの茶色い子だけだ」

 私は恐いのを我慢して氷村さんに一歩近づく。

「お願いします。私ならお付き合いします。だから…」

「駄目だね」

 取り付く島もありません。

「僕の目的は金じゃない。他の連中はそうだけど。例えば、君の屑叔父さんとかね。すずか、実は今回君には試験体として、とある研究機関に行って貰う。そこはある金持ちが所持している所でね。お約束の不老不死を求めてるのさ。バカだろ?しかも結構高値がついてさぁ!笑い堪えるの苦労したよ!僕らは老化は遅いし、再生能力は凄いからね。DNAでも調べれば可能かも、なんて思うかもね」

 私は背筋が凍る思いでした。

「やめてください!!」

 私は思わず叫んでいた。

「おや?もしかして、言ってないのかい?」

 氷村さんは楽しそうに私を覗き込んだ。一族では私たちの正体は知られてはならない決まりなのに。

「隠すことないじゃないか!」

「いや!」

「僕達は人間じゃない」

「やめて!!」

「吸血鬼なんだよ」

 氷村さんはなのはちゃん達に向かって、歯を見せて笑った。八重歯と言うには鋭すぎるそれが目立つ。更に氷村さんは持っていたナイフを取り出して、思いっきり腕の動脈を切った。血飛沫が私達に掛かる。血が流れる腕を私達によく見えるように、鉄格子に腕を突っ込む。傷がみるみる塞がっていく。

「これが証拠さ」

 作り物では有り得ない本物の血の匂いが、血そのものが証明している。

 私はなのはちゃんとアリサちゃんが、どんな顔をしているか見る事が出来なかった。

 

「五月蠅いのよ!!」

 アリサちゃんの怒声が響くいた。

「すずかが何でも関係ないわよ!私達は友達なんだから!」

 氷村さんは鼻で嗤う。

「君は気味悪そうにしてたけど。言う事は立派だね」

「勿論、ビックリしたし、ビビったに決まってるじゃない!」

 アリサちゃんは震えてた。でも、胸を張っていた。

「すずかとアンタじゃ、全然違うわ!すずかは人を傷つけるなんて出来る子じゃない」

「アリサちゃん…」

 氷村さんは面白くなさそうだった。

 なのはちゃんが私達の前に庇うように立つ。

「私もすずかちゃんの友達です。私は二人を護ります」

 氷村さんは一転して大笑いしだした。

「アハハハ!いやぁ、傑作だね!いいね!君!護るって?じゃあ、君に友達を護るチャンスをあげよう」

 氷村さんは奥に一声かけると、男が入ってくる。

「君達の中で腕に自信のある奴…そうだな、二人でいいや。連れてきてよ」

 男は一礼して出ていく。

「君、武術を少し齧ってるみたいだね。今から来る二人相手に勝てたら、君達を解放してあげるよ。二度と関わらないと約束しよう。どうかな」

 大人二人相手なんて!いくら武術を習ってても無理だよ!飛鷹君なら兎も角。

「なのは!ダメよ!」

「なのはちゃん!お願い、やめて!」

 なのはちゃんは私達二人を抱き締めると囁く。

「大丈夫。無理はしない。きっと誰かが気付いてくれるから。それまで時間を稼ぐよ」

 音を立てて男が二人入ってくる。筋肉質の大男が二人。

「それとついでだから教えるけど、バニングス嬢の家に要求を出すよ。娘の命が惜しければ、バニングス家が持っている世界商取引ネットワークアクセス権をよこせってね。当然だけど、アクセス権を貰っても君達が家に無事で帰る事はない。勿論、君が勝てば、この話はなしだ。

 更に茶色い君、君が負けた場合、二人には変態の玩具になってもらう。死ぬ前に、実験動物になる前にね。変態に関しては、すずかとバニングス嬢の周りを、うろついていた奴等だよ。失敗した時の身代わりだったけど。面白い余興に役立ったね」

 あのストーカーは氷村さんが使ってた人だったんだ。

 それにしても、世界商取引ネットワーク。

 一度、お姉ちゃんに聞いたことがあったけど、ホントにあるんだ。

 世界の有名大企業がアクセス権を持ち、世界経済活動に多大な影響を与えるものなんだって言ってたけど。

 私達三人は牢から出されて、なのはちゃんとは別に連れていかれる。

「「なのは(ちゃん)!!」」

 私たちの声になのはちゃんは私達を安心させるように微笑んだ。

 

 

 私達は二階で縄で縛られている。

 一階の様子は見える。吹き抜けになっているからだ。

「茶色い君!武器は何がいい?ラインナップは豊かじゃないけどね」

「長い棒があれば」

「棒ね。鉄パイプかな」

 氷村さんは近くにあった長めの鉄パイプを、なのはちゃんに投げる。

 なのはちゃんは危なげなく受け取った。

 それを二人の大男はニヤニヤして見ている。

 

「それじゃ、始め」

 

 氷村さんのふざけた声が響く。

 

 

             :美海

 

 一応、ライトバンやスクーターを調べておいて正解だった訳だね。

 もう既に警察、高町家、バニングス家、月村家には通報済み。

 

 私は白い豆腐みたいな建物の()()()()()()()()()()()()()()()。勿論、魔法でね。

「美海、お友達が危険なんですよ!助けないと!」

 リニスが責めるように言う。

 私そんなに薄情に見える?

「当然、助けるよ。でも一人?変なのがいるね」

「変?」

 私の眼は、チビデブのおっさんに貼り付いている金髪女性に向いていた。

 

 そして、金髪女性の目もこちらに向いていた。

 魔法でハイディングしていないとはいっても、気配は完全に消してるんだけどね。

 

 

             :飛鷹

 

 こんな事もあろうかとってな!

 サーチャー付けといて正解だぜ!家まで安全に帰れるか確認する為だったけどな。

 そして、こんな事も以下略!セカンド!身代わりを作る魔法を根性で作っといて正解だったぜ。おっさんには便所に行きたいと公園の便所に入り、華麗に身代わりと入れ替わる。

 アメリカの超人も昔から変身はこうしたものだぜ!見たか伝統!本家は電話ボックスだったけどな。

 

 

「でも、まさか()()()()()だったとはな」

 考えてみれば、有り得る話だったんだよ。二次小説でも他の作品が混じってるなんて、よくある事だったしな。騒いじまった自分が恥ずかしいぜ。誰にも聞かれてないから迷惑はかけてないがな。

 となると、誘拐犯は別作品の悪役か!ネタ元が分かんねぇけど。負けねぇぜ!

 イケメンは俺にとっても敵だしな。顔面裁判で奴は執行猶予なし実刑判決だ。

 俺は、ツラにムカデを落とすぐらいじゃ済まさねぇぜ。

 

 なのはちゃんをキッチリ助けてこそのオリ主だ。

 

 

 間に合ってくれよな。…なのはちゃん!!

 




 氷村が喋る喋る。
 次回で、誘拐編完結です。
 頑張って、書くぞぉ。
 これ以上の難産が待っているだろうがね。
 氷村がどう遊ぶかも、次回かな?書けるかな…。
 応援お願いします。


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第7話 災いの華

 大変申し訳ございません。
 これで、誘拐編が終わる予定だったんですが…(汗)。

 無理でした。
 もう一話で今度こそ終わります。


              :美海

 

 屋上にいるにも拘らず、建物の中にいる人物と見詰め合ってしまった私です。

 

 今頃なんですが、私は今バリアジャケット初披露しております。この年齢なんで金属鎧風のバリアジャケットは似合わないから、調整した。結果こうなりました。大き目のフード付きの黒いコートに所々に鎧のような脚甲や手甲、肩の部分にもショルダーガードのような物が付いている。フードの中は口元まで覆った布で顔は窺えないようにしている。素顔晒すのもなんなんで。

 

 私は動く前に、念話を強制的にアリサちゃん、すずかちゃんに繋げる。

『反応しないでね』

 二人が思いっ切り挙動不審になっているが、サディスト吸血鬼はなのはちゃんに夢中のご様子。

『気付かれると、殺されるかもよ』

 二人はなんとか表面上は落ち着きを取り戻す。

『あとは、移動式の結界装甲…シールドを張るから、落ち着いて自分達が確実に逃げられるタイミングで逃げてね。隙は必ず出来るから』

 結界装甲はベルカ式と魔法科高校の劣等生の魔法を合わせた私のオリジナルである。物理・魔法攻撃を防げる優れものである。干渉装甲でも空気甲冑でもいいんだけどね。あれは、私が干渉力を強めてやったり、プラスアルファの技術が必要だったりするからね。私の手を離れると柔軟性がなくなるんだよ。その点、リリカルなのはの魔法は効果・作用が、いい意味で自由が利くからね。

 私は、拳銃型デバイスを二人に向けて二度引き金を絞った。

 二人の縄の結び目が解けるが、二人は気付かれないようにしっかり手で押さえている。流石。

 そして、不可視の結界装甲が展開されたのを確認し、今度はなのはちゃんの相手二人をなのはちゃんの棒を少し操って、黙らせる。何気にピンチだったんだね。なのはちゃん。

 なのはちゃんは、目を白黒させているが、時間がないので念話を強制的に繋ぐ。

『援護するよ。身体能力を一時的に制御が効く範囲で上げる。応援その1とその2も、もうすぐ、到着するから、それで粘って。あと上の二人もちゃんと護ってるから大丈夫」

『お、応援その1?その2!?えっ!?ええ!?』

『動揺は後、ほら、目の前の敵が持ち直すよ』

 二人同様、シールドでもいいんだけど、下手するとサディスト吸血鬼が騒ぎ出すかもしれないからね。健闘を祈る。

 

「リニス、今こっちに応援その1、その2が向かってるからさ、外の雑魚片付けといてよ」

「分かりました。その応援に見付かったら不味いですか?」

「不味いね」

 リニスは一つ頷き、屋上から飛び降り、雑魚を片付けに向かう。

 

 私は下の階に向かって動き出す。

 そしたらさ、件の人物?にエンカウントしたよ。

 貴女、今も下の階でチビデブのおっさんに付いてるよね。

 私は、下の階を視ると確かにまだいる。

「よう!透視能力かなんかの持ち主か」

 金髪美女は不敵に嗤う。

「アタシは、イレイン。記念すべき最初にぶっ殺す奴だからな。名乗ってやったよ!ガキってのが、気に入らないけどね」

 う~ん。相手見ていった方がよかったね。

 イレインさんとやらの腕からブレードが飛び出る。

 こっちじゃ、自動人形って言うんだっけ? 

 

 こっちに転生してから初実戦闘開始。

 

 

              :イレイン

 

 アタシと妙なガキとの戦いは、私の解析結果から導き出される予想から外れていた。

 アタシの解析結果が悉く裏切られる。いけ好かないが氷村の改造で性能が上がった筈なのに、どういう事だい!

 解析では、ただの瞬発力のあるガキなのに、動きは化け物じみている。透視を使った筈なのに、血の中からアイツは剣を一本出しやがった。普通は異能は複数持ちえない。HGSでもない。何だ!?こいつ!

 

 剣は、恐ろしい腕前だ。

 棒のように撓る(しなる)一撃が打ち込まれる。腕を滑り込ませて防御した筈なのに、気が付くと軌道が変化し、腕を飛び越え肩に打ち据えられる。そこから信じられない程に滑らかに、高速に突きが繰り出される。まるで砲弾のような剣先が腹に突き刺さり、吹き飛ばされ壁を突き破る。

「がぁ!!」

 アタシは腹に貯めていた空気を思わず、吐き出す。

 さっきからブレードによる攻撃と仕込みが可能になった重機関銃を使い戦っているが、掠りもしねぇ!ブレードは捉えたと思っても、幽霊みたいにあと一歩が届かない。空を切る。刃での打ち合いにすらならない。弾丸の嵐もまるで当たる気配がない。そこまで高速で避けているように見えねぇぞ。

 さっきから一方的にボコられてやがる。アタシが人間ならもう死んでるぞ。だが、この結果でさえ、奴が手加減しているからだ。()()()()()()()()使()()()()()()

 奴が剣として使っていれば、私は今頃細切れになってるからね。衝撃のみを伝える打ち方をしていやがるんだ。打ち込まれる度に、内部機関が悲鳴を上げてやがる。

 

【戦闘能力が50%を切りました】

 私の戦闘管理システムが無情にも危機的状況を告げる。

 ちっ!使いたくなかったんだがな。

 

「悪りぃな。正直、舐めてたわ。これで仕舞だ」

「そう」

 反応薄いな。精々、余裕コイてろ!

 

 アタシの最大火力だ。

 両腕が、巨大な砲身に変形すると同時に強烈な光が放たれる。

 氷村が傑作の一つと吹いていた荷電粒子砲

 轟音と共に光が収まると、アタシがいる階から上が消し飛んでいた。

 しかし、この威力でなんで光が出るんだろうね?

 くだらない事を考えていると、呆れた光景が姿を現した。

 

 そこには無傷のガキが立っていた。

 

 

              :美海

 

 おお!流石にちょっとビックリした。

 思わず、血の結界で防御しちゃったよ。魔法込みの剣技でも防げたと思うけど。

 

 血の結界は血界戦線の裸獣汁外衛賤厳(らじゅうじゅうげいしずよし)がやってたヤツだ。血で対象を中心に円で囲みドーム状の結界を造るヤツ。え?特典まだあったのかって?

 赤屍さんの能力って血液を武器化したりも出来るから、再現できると思って色々試したんだよ。それに血界戦線の特典選ばなかったけど、結構好きな作品です。現に斗流血法とか魔法絡めれば再現可能だったよ。

 

「化け物め」

 イレインさんは両腕の砲身を通常の腕に戻す。

 貴女の方は正真正銘人間じゃないけどね。

「しゃーねー」

 イレインさんが指を鳴らすと、イレインさんの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何人もいるのはそういう事ですか。

「チッ!驚かねぇな。ロストテクノロジーを構造解析して、氷村が造ったアタシの複製さ。性能はアタシと大差ないレベルさ。あのクソ野郎はコイツ等をネットワークを通じて売る気さ。

 遂に人形が人を殺す時代になるって訳さ。大戦争の父やら母やらになる覚悟がありゃ、大儲け出来るだろうぜ!だが、コイツ等にはチョットしたイタズラが仕掛けてある。いざ戦争になりゃ、コイツ等は敵味方の区別なく、目に映る者全て殺すように出来てるのさ。事前にプログラムしてあって、バレないようになってるんだとよ!」

「なんで、そんな事教えるんです?」

「さてな。死ぬ人間に冥途の土産って奴だろうよ」

 イレインさんは再び指を鳴らすと、後ろのイレインさん軍団が私に殺到する。

『大丈夫ですか!?なんか建物吹き飛びましたけど!?』

 ここで、リニスの念話が飛び込む。空気読もうよ。

『片付けは終わった?』

『無事ですね!?雑魚はもう片付きましたよ。応援はもう既に突入済みです。あともう一組も、もうじきといったところです。…彼等って本当に人間ですか?』

 高町家の人達の事ですね。ベルカに住んでた人達を見ていた私には、珍しくないけどね。

『こっちはもう片付く。撤収準備』

『お友達はいいんですか!?』

『最後の応援も到着するでしょ?もう私はもう必要ないよ』

 某・入れ墨を入れたお奉行様だって、引き上げるタイミングだよ。

 まあ、飛鷹君にいいところは譲るからさ。頑張ってよ。

 

 私は念話を切るとイレインさん軍団に向かって行く。

 私はイレインさん軍団の隙間を縫うように駆け、剣を振るう。

 首筋、胴、袈裟切り…私が通った後には動く者などない。最後の一人を切り倒し、本物のイレインさんの前に立つ。

「やっぱり、手加減してたかい」

 イレインさんはその場から少しも動いていないし、戦おうともしていなかった。

「もう、ネタ切れだ。殺んな」

「承知」

 

 私は目を閉じたイレインさんの頭部に剣を振り下ろした。

 

 

              :なのは

 

「それじゃ、始め」

 気の抜けたいい加減な開始合図と共に、私は鉄パイプを構える。

 男の人二人は余裕の様子。

 初手は譲ってくれるという事なんだろう。私が攻めに入っても、すぐに負ける事は目に見えている。リーチ・力・身体能力どれも劣っている。受け流すのも難しい。避けるかいなすか。

 

 男の人はニヤニヤ嗤いながら、挑発しているようだが、私が向かってこないので、ワザとらしくゆっくり近付いてくる。

 私は多対一にならないように、位置を相手の動きに応じて変える。

 男の人は最初はふざけて拳を出していたが、足捌きだけで避け続けた私に徐々に苛立ちだした。

 お兄ちゃんやお姉ちゃんの動きに比べれば、全然遅い。

 僅かな隙があっても、攻撃する訳にはいかない。

 

『なのははまだ小さいからね。大の男が相手の場合、確実に相手を一撃で戦闘不能にしなければダメだ。半端な攻撃は相手を本気にさせるだけだからね』

 

 お父さんに稽古の時に言われた言葉が頭の中に浮かぶ。

 

 相手には余裕を保って貰わないと。

 偶にワザと攻撃を受けて、派手に転がり距離をとり、立ち上がる。

 腕で柔らかく受けるだけではダメ。自分で後ろに跳ぶように転がる。

「「なのは(ちゃん)!!」」

 まだまだ、時間を稼がなきゃだね。

 

 拳を避け、いなし、一人の攻撃しか受けないよう立ち回り、もう一人の男の人は私の前に立つ男の人を盾にするように動きを妨害する。

 拳を鉄パイプでいなした時、今まで味方が盾になって攻撃出来なかった人の脚が私に飛んでくる。

「きゃあ!」

 私は大の大人の蹴りで吹き飛ばされる。一応、受け身はとれた。素早く立ち上がろうと片膝をついた時、男の人の追撃。

 ダメ!避けられない!

 

 アリサちゃん・すずかちゃんの悲鳴が聞こえる。

 

 衝撃を覚悟した私だけど、その時、()()()()()()()()()()()

 私は鉄パイプに引っ張られるように、男の人の攻撃を避け、カウンター気味に相手の弁慶の泣き所に鉄パイプが突き刺さる。

 鉄パイプが跳ね上がり、体勢を崩した男の人の脇を抜け、残った男の人の側頭部に鉄パイプが振られる。打たれた男の人は堪らず膝をついた。

 

『援護するよ。身体能力を一時的に制御が効く範囲で上げる。応援その1とその2も、もうすぐ、到着するから、それで粘って。あと上の二人もちゃんと護ってるから大丈夫」

(お、応援その1?その2!?えっ!?ええ!?)

『動揺は後、ほら、目の前の敵が持ち直すよ』

 

 次の瞬間、身体がポカポカして、力が湧くような感覚があった。

 

 男の人二人の目は怒りに染まっていた。手加減はもうないだろうな。

 二人同時に私に向かってくるが、今度は連携を意識している。

 嵐のようなラッシュ…なんだろうけど…。凄く遅く感じる。

 私は二人からの連携攻撃を、一転して余裕で躱し、攻撃を簡単に受け流す。

 集中力が増し、私の周囲で何が起きているか、全て分かる。

 

 頭上で建物の一部が消し飛んだみたい。でも小石程度の瓦礫が落ちてくるだけ、殆ど私にもアリサちゃん達にも当たらない。大丈夫。

 男の人二人は動揺してるけど、戦闘に支障はないみたい。

 

 攻撃が避けきれない時もあるけど、真面に殴られたりしない。インパクトの瞬間を外している。衝撃は大した事がないけど。やっぱり、腕に自信があるって言ってたのは嘘じゃないようで、唇を少し切ったりはある。

 血が少し流れても、気になんてならない。この男の人くらいなら、大体の攻撃がどう来るか分かる。これが、お兄ちゃん達が見てる世界なんだ。凄いな。

 

 互角以上に男の人二人と渡り合っていた時、突然轟音。

 男の人二人は痙攣して倒れてしまった。

「おい!何やった!?」

 氷村さんっていう人が上で喚いている。

 私にもサッパリ分からないよ?

 

 そして突然、氷村さんの後ろのガラスが割れて、黒い塊が飛び込んできた。

 

 

               :飛鷹

 

 俺はサーチャーで見付けていた白い建物の二階の窓に向かって、身体強化した身体で跳躍する。

 サーチャーで三人の位置は確認済み。

 窓にグングン近付くと、なのはちゃんが野郎二人と戦っているのが直接見える。

「ライトニング!」

 俺は野郎共に向かって魔法をブチかます。感電して倒れた。

 俺は窓を突き破り、アリサちゃん・すずかちゃんの前に立つ。

 

 今の俺は、バリアジャケット姿だ。正体はまだ明かさないぜ!

 俺のバリアジャケットのデザインは黒の契約者の(ヘイ)の恰好まんまだ。剣を背をっているくらいの違いしかない。あの特徴的な仮面も付けてるぞ。文句あるか?趣味と実益だよ。

 

 三人に魔法が掛かってるぞ!?建物上部が吹き飛んだので、最悪俺が傷を治すか、最後の特典を使う事も想定していたが、無傷なのは誰かさんの魔法のお陰だったか。

 もしかして、俺以外に転生者いるの?

 なのはちゃんは魔法の効果で全然ピンチじゃなかったし、他の二人も防御魔法が掛けられて安全って、俺ダメじゃん。タイミング的には俺がアウトだぞ。

「なんだ。お前?」

 若干、呆れを含むサドイケメンの声が精神にモロにくる。

 チビデブのおっさんに貼り付いていたネエチャンが俺に向かってくる。ネエチャンの腕からブレードが展開される。アンタ攻殻機動隊の敵サイボーグか!?こんなもんまで混ざってるのかよ!

 俺は剣を抜き放つと、ネエチャンの攻撃を上に跳躍して躱し、大地斬を肩にお見舞いする。頭が無事なら死なないだろう。

 

 大地斬は言わずと知れたダイの大冒険のアバン流剣術の技である。俺の特典の一つで、ダイの大冒険の剣技・闘気の技全てと願った。

 

 強化された腕力での剣技は確実にネエチャンの肩を直撃する。心配するな。峰打ちならぬ非殺傷設定だ。

 かなり派手に地面にめり込んだ筈のネエチャンが、緩慢な動作で立ち上がる。俺は着地と同時に回避運動を開始していたから、紙一重でブレードを躱し、更に三度剣を旋回させる。流石にサイボーグでも、耐えられなかったみたいで、倒れて完全に動かなくなった。

 そして、呆けている黒服の残りを素早く昏倒させていく。

 

「なんだって?助けに来たのさ。三人ともな」

 三人ともピンチじゃなかったとしてもだ!俺の決意は…この程度では折れんぞ。

 サドイケメンの額は血管が浮き上がり、ヒクヒクしている。切れて倒れたら笑うぞ。

「あとはお前だけだな」

 チビデブのおっさんは腰を抜かしている。ないわー。

「いいだろう。劣等種の分際で調子に乗った罪。死で贖って貰おうかな」

 服の袖から刃が飛び出す。某・アサシン教団の人か?お前。しかも劣等種って英雄王も少し入ってね?雑種と似てるぞ用法が。お前がやっても痛いだけだ。

 サドイケメンは中々のスピードで向かってくる。俺も刃が届く寸前で少し横に飛び回し蹴りをかます。

 奴は鼻血吹きながら手摺に引っかかって止まった。

 これなら、サイボーグネエチャンの方が強いな。

「どうした?優良種。遊びたいんだろ?遊んでやるから来いよ」

 俺は手で来いと挑発してやる。

「ぶ、ぶっこおしてやりゅ」

 溢れる鼻血を押さえながら、血走った目で立ち上がる。

 お前程度じゃ、無理だよ。

 

 サドイケメンは携帯電話を取り出すと、素早くキー操作した。援軍でも呼んだかよ。

 すると、俺達の頭上が急に暗くなった。

 見上げてみると、巨大な鉄の塊が落ちてくるところだった。

 おぉぉぉい!!どこまで世界観無視してんだ!!!

 落下地点はなのはちゃんの居るあたりだ。俺は柵を飛び越え、なのはちゃんを抱え跳ぶ。途中、野郎共は蹴りで端までどけてやる。俺ってば、なんて優しいんだ。甘い男だぜ。

 落ちてきたのは、ロボットだった。おい、これって無印劇場版に出た、一番デカいロボットじゃねぇか!なんでここにあるんだよ!

「こんにゃめに、あわへた罪を!」

 カメラアイが赤く輝く。

「あがなへ!!」

 ロボットはサドイケメンの意を酌み、腕を振り上げる。そして、振り上げた先はアリサちゃん達がいる上層階に当たり、天井が崩落する。

「アリサちゃん!すずかちゃん!」

 なのはちゃんは俺に抱えられたまま、悲鳴のような声を出す。

「安二郎叔父さん!」

 上からすずかちゃんの声が聞こえてくる。無事みたいだな。それにしても、叔父さん!?

 すぐに俺は、ロボットの手を掻い潜り二階へ跳躍する。

 

 そこには、チビデブのおっさんが瓦礫に半分埋まっていた。

 二人は瓦礫の落下の影響がない通路にいた。二人はどうやらこのチビデブのおっさんに庇われたみたいだ。惜しむらくは、二人は瓦礫の落下くらいでは、どうにもならない防御魔法に護られたていた事だ。

 流石に哀れだぞ。

「早う、行けや」

「叔父さん。どうしてこんな事を…」

「アイツも言うとったやろ。カネや、カネ。それ以外ないわ」

 俺はおっさんを瓦礫から引き摺り出すと、三人に言った。

「この男を連れて逃げろ。あとは引き受ける」

 おっさんは痛みで気絶したようだ。

 二人ともおっさんを両脇から支えて歩き出す。防御魔法が三人を覆うように形を変える。魔法は指示があった訳じゃないのに、勝手に変化した。スゲェ魔法だな。

 あれ?なのはちゃんは?

「あの!私にも出来る事ありませんか?」

 おいおい、無茶振りすんなよ。

 二人は当然、付いてきてると思ったんだろうな。あとで怒られるぞ。

 俺は無言で首を横に振る。

 ロボットはサドイケメンの命令を、もう受けていないようだ。

 建物を壊しながら外へ出ようとしていた。

 サドイケメン携帯と格闘中。ダサ!

 

「このままじゃ、私達だって逃げられるか分からいの!アリサちゃん達を護ってるバリアー、きっと二人で使うより弱くなってる!私まで入ったら、もっと弱くなっちゃう!もし、あのロボットの攻撃があたりでもしたら、どうなるか分からない!

 だから、お願いします!アリサちゃん達が無事に逃げ切るまで、協力させてください!囮でもなんでもします!」

 確かに、あの魔法伸びたから多少防御力が落ちただろうけど、まだまだイケそうだったぞ?

 ん?()()()()?なんでバリアーって分かったんだ?まだ魔法に目覚めてない筈なのに。もしかして、未覚醒の状態で具体的に魔法を感じられるのか!?原作だって、漠然とした感じだったぞ。

「死ぬかもしれないんだぞ」

 ガチでな。

「覚悟…ですか?」

 そうだな。結局はそういう事なんだろう。だから俺は無言で頷いた。

「覚悟とか、私にはよく分かんない。でも、お友達を護りたい!!」

 ここで、意地張るところじゃないだろ、全く。

「君には魔法才能がある。それがあれば、護れるだろう。でも厄介な事も引き寄せる。君は今回は巻き込まれる側だった。だが、次は巻き込む側になるかもしれないぞ?」

 力って奴は厄介事を連れてくる。俺もそれで、多少実戦を経験したくらいだ。

「!!」

 なのはちゃんはハッとしたようだ。俯いてしまった。が…。

「でも、必要なのは今なの!」

 ポップか、君は。

「私に魔法の力が使えるなら、使わせて!あんなのを町に降ろしたら、危ないよ!」

 ロボットは鈍い動きで町に向かっているが、ロボットから金属音が響き出す。

「きっと、お父さん達だよ!」

 え!?あの人達ロボットとも戦えるの?ホントに飛天御剣流!?

 実を言うと、俺一人で片付けるには不安があった。

 俺の魔力はAAA。あのロボットはAAAランク二人の砲撃で沈んだのだ。特典で強力な魔法が使えると言っても、AAA二人の砲撃の威力を上回るのは流石に無茶だ。

 原作開始まで、結界は使う必要がないと高を括っていたから、俺は結界を張っていない。

 

 いや、綺麗事は止そう。俺は格好つけたかったんだ。踏み台転生者になりたくないとか言って、踏み台と変わらねぇじゃねぇか!

 今頃、結界を張ったとしても、なのはちゃんは結界に残ってしまう。

 

 とんだ勘違い野郎の俺だったが、今からでも腹を括るしかねぇ。

 

 俺は結界を展開する。

 案の定、なのはちゃんは取り残された。他の人間は見事避難成功だ。

 これで思いっ切りやれる。

 

「じゃあ、協力してくれ。俺が今から言う事を繰り返してくれ。

 自分の胸の中心に力の根源・球体があるイメージで、それに語り掛けるように」

「分かったよ」

 なのはちゃんは深呼吸すると、集中するように目を閉じた。

「風は天に…」

「風は天に…」

「星は空に…」

「星は空に…」

「不屈の心は子の胸に…」

「不屈の心は子の胸に…」

「我が手に魔法を!」

「我が手に魔法を!」

 

 瞬間、なのはちゃんからピンク色の光の柱が天に向かって伸びる。

「ホント、スゲェ…魔力」

 

 

               :美海

 

 結解が展開され、ピンク色の光の柱が天を衝く。

「まさか!素人に魔法を!?」

 あれは覚醒の光。

 リニスは信じられないものを見たような声を上げる。

『主よ。あの小僧に任せたのは、見込み違いではなかったか?』

 あんな玩具に手古摺るようには、感じなかったけどな。

「ねー」

「ねー、じゃありませんよ!」

 リニスは私に食って掛かる。

「助けに行きましょう!」

「ダメ」

 私はにべもなく却下した。

「何故です!?」

『思い違いをするな山猫。お前が分も弁えず、取引した事を忘れたか』

「どういう事です!?」

『お前は外道がこれ以上道を誤らぬうちに止め、フェイトとかいう小娘を助けたい。そう言ったであろう』

 リニスは頷く。

『主が結界を使わなかったのは、管理局とやらに察知されない為よ。管理外世界は次元犯罪の温床。干渉はせずとも監視はしておるのだ。奴等は多忙のようだが、マークされる恐れはある。あれだけのものを隔離する結界ともなれば、いくらなんでも気付かれるわ。そうなれば、時の庭園とやらの捜索も更に難航するぞ』

 リニスは黙り込んでしまった。

 私達は訓練の合間に、時の庭園探しをやっている。広大な次元の海を、常に移動し続けている時の庭園を補足するのは私の強化された精霊の眼(エレメンタルサイト)でも難しい。正直、難航している。

 因みに、訓練は特殊なあの場所だからこそだ。いざとなったら、姿を消せばいいしね。

 ロボットは予想外だったけど、倒す方は問題はない筈だ。

 なのはちゃんにしても、魔法を手にするのが早まっただけだ。寧ろ、なのはちゃんにとっては、原作の苦労が少しは減るんじゃないだろうか。

 

 責任もって、飛鷹君が面倒見るんだろうし。

 

「撤収するよ」

「美海…」

 

 それにね、リニス。誰にでも、いい顔は出来ないんだよ。

 全て助けると運命の赤毛さんは、理想に掲げてたけど、そんなの実際は寝言だと分かるだろう。

 私だって出来る限りはやるけどね。今はここまでだよ。

 全て助けたいと足掻いて、ベルカ時代散々痛い目にあったからね。

 

 今はフェイトちゃんを一番に考えてやりなよ。リニス。

 




 戦闘シーン上手く書くコツとかないんですかね?
 難し過ぎるよ。それでも頑張りますが。
 飛鷹はロボットに一人でも勝てるでしょう。ただ彼は、原作が頭にまだこびり付いていて柔軟性に欠けている為、このような事になりました。
 
 前書きでも書きましたが、次こそ終わりです。
 
 暫し、お付き合いをお願いします。


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第8話 災い散華

 どうにか、書き上がりました。
 何やら、矛盾や説明し忘れが多いこと多い事。
 自分で気付くだけで、これとは。本当はどれだけあるのやら。
 すんません。
 故に、しょっちゅう各話修正しております。


              :飛鷹

 

 光が収まり、なのはちゃんが目を開く。

「気分は悪くないか?」

 覚醒したばかりの時、俺は正直気持ち悪かったからな。後で分かったが魔力酔いらしい。

「大丈夫だけど…もしかして、飛鷹君?」

 は!?

「何言っている?」

「魔法の力?が分かるようになったからかな?雰囲気みたいなのが、そっくりだから」

 これ完全にバレてますがな。

 でも、覚醒しただけで、ここまで分かるの?マジで天才じゃん。流石、本物の主人公。

「寧ろ、本人だよね?」

 お惚けなしでってかい!

「それより、あれを放置はできないだろう」

「あっ、やっぱり本人」

 俺は答えず、なのはちゃんを抱えて、飛行魔法で飛び上がる。

「自分で、歩いて行くから!」

 こっちの方が速いよ。

「作戦は単純だ。俺がロボットの行動力を奪い、動きを止める。その後、俺と君とで魔法で砲撃を放つ」

「砲撃!?」

 なのはちゃんの頭には?マークが乱舞している。ツインテールも逆立っている。

 実際にツインテールが動いているところが見れるとは。正直、不思議だ。

「今の君なら胸の奥に力の源・リンカーコアの存在を感じるだろ。コアで空気中にある魔力を吸い込んで固める。今度は出来上がった魔力を全身に循環させる。それが魔力運用の初歩だ。砲撃は更に丹田で魔力を練って、今の君だと掌に集中させて、放つ」

 本当はデバイスに送り込むが、彼女はまだレイジングハートを持っていない。

「君はここで、砲撃準備。出来たら合図を。心の中で俺に声を届けるイメージで話し掛ければ通じる」

 まだ、要領を得ないみたいだな。

『こんな感じだ』

「にゃっ!!」

 いきなり念話を送ったから、驚いたようだ。

『こうかな?』

 早速、使用出来るようになったみたいだな。マジ天才だな。俺なんてコツ掴むまで半日掛かったぞ。

「ああ、君なら出来る。頼んだ」

 なのはちゃんは決然と頷いた。

 

 ロボットは早々に結界の縁まで辿り着いて、結界を破ろうと奮闘していた。

 やらせるかよ。

(ジャイ)!」

 俺は闘気を込めて、結界破壊に集中しているロボットの背に剣を振り下ろした。

 

 この技は元はストレイトジャケットのロン・コルグが使っていた技である。魔族の魔力圏ごと対象を斬る事が出来る。正確には気合の言葉みたいなもんで技名じゃいけど。俺はそのまま使っている。こっちの世界では、闘気を纏わせ剣閃を飛ばす技になる。元ネタ通り結界斬りの効果も付けられる。

 今は間違って自分の結界を斬るかもしれないから付けてないがな。

 

 金属が擦れる嫌な音が大音響で響く。

 これだけ至近距離で放ったのに、精々引っ掻き傷程度か。やっぱ、頑丈だな。

 ロボットは、すぐさま振り向き四本の腕を振るう。

 剣のような腕二本を斬り付けるように振るい、あとの二本は手の中に大振りの斧が現れ、振るう。

 一本目の剣を踏み台にステップ、二本目の剣は軌道に合わせて剣を振るい逸らす。斧は振られる頃には俺はロボットの懐に入っていた。

「コンプレックス・アサルト!!」

 この魔法は体内に、大量の小規模な衝撃波を閉じ込めた爆弾を目標に送り込み、全身で破裂、無数の衝撃波をまき散らし、内部から徹底的に破壊する凶悪な魔法で人には厳禁である。

 外殻が丈夫なら、内部はどうだ。

 連続的に爆発が起きているようだが、まだ動き続けている。

 装甲の隙間から煙が出ているが、すぐに消える。

 自動消火か?流石に動きは悪くなっているようだが、内部の動力部も頑丈だな、おい。

 腕も滅茶苦茶に振り回している。

 俺はそれを、難なく回避しつつ、剣を振るう。腕四本が瞬く間に斬り落とされる。

 

 腕が落ちると、再生するように光を放ち新たな腕が現れる。

 動きもあっという間に、元通りになった。

 やっぱり、一撃で潰さないとダメか!

 なら、こいつだ。

「マグナ・フリーズ!」

 説明不要の凍結魔法。

 ロボットの巨体がすぐさま凍結する。

 しかし、再度巨体が光り出す。

「ストラグルバインド!」

 ロボットの全身をバインドが拘束する。光も若干阻害されている。

 ロボットがまだ凍結している身体で、ぎこちなくもがいている。

 逃がさねぇぜ!

 

『飛鷹君!イケそうだよ!』

 いや!だから…もういいです。

『1・2・3でいく』

『分かった!』

 

 俺は最大火力をブチかます。

『『1・2・3!』』

「マキシ・ブラスト!!」

「ディバイ~ン・バスター!!」

 ロボットに二方向から砲撃が撃ち込まれる。

 ピンク色の光は原作より太く濃い色をした砲撃だった。

 ピンクと深紅の砲撃がロボットに直撃する。原作より威力は上になる筈。

 少しだけロボットも粘ったが、やがて耐え切れなくなり、ひしゃげて爆散した。

 見事に粉々になったようだ。

 再生が起こらないか、まだ油断できない。

 

 暫く監視してたが、再生は…しない。

「大丈夫だな」

 俺は結界を解除し、なのはちゃんの傍に降りる。

 それにしても、ディバインバスターって言ってたな。もう殺し技その1マスターですか?

 

「お帰りなさい!やったよ!!」

 降りると、なのはちゃんは地面にへたり込んでしまっていた。

「大丈夫か?」

「凄く疲れた。起き上がれないなんて、久しぶり」

 多分、制御が出来てない所為だろう。デバイスがないと自分で打ち出す魔力量を制御しないといけない。魔力を放出し過ぎたな。原作だとレイジングハートが制御しているから、自前で制御して気絶しなかっただけ、大したもんだろう。

「「「なのは!」」」

 複数の男女が聞こえてくる。

「お父さん!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

 げっ!撤退致します。

「俺はこれで」

 なのはちゃんに一声かけると、上空へ。

 なのはちゃんが下で何か言っているが、俺の命に関わる事だ。失礼します。

 同時にオプティックハイドを発動。高速で飛行し帰宅する。

 

『しかし、マスター。あのお面、やっぱり止めた方がいいんじゃないか?』

 気だるい声が聞こえてくる。

 コイツは俺のデバイスである。名をスフォルテンド。

 そして、AI人格はレイオット・スタインバーグ。なんで、お前なんだよ。

『あの吸血鬼のお兄さんに呆れられてたろ?』

 ほっとけよ!

(ヘイ)カッコイイだろ!」

『マスターがカッコイイ訳じゃないだろ』

 ほっとけよ!

 

 

              :すずか

 

 安二郎叔父さんを、アリサちゃんと一緒に建物の外に連れ出した時、なのはちゃんがいない事に気付いたけど、大きいロボットが空から降ってきて、戻れなくなってしまいました。

 

 そのロボットもすぐに消えてしまって、何が起きたんだろう?

 

 安二郎叔父さんを放って置く訳にはいかないし、怪我人を連れて当てもなく、なのはちゃんを探す訳にもいかなくて、立ち尽くしていると私達を呼ぶ声がした。

 

「「すずか(お嬢様)!」」

 現れたのは、お姉ちゃんとノエルだった。

「アリサちゃんも無事ね!鮫島さんも来てるわ」

「アリサお嬢様も、ご無事で何よりで御座いました」

 お姉ちゃんとノエルがアリサちゃんにも声を掛ける。

「ありがとうございます。でも、なのはがいないんです!」

 アリサちゃんがお姉ちゃんとノエルに訴えた。

「もしかして、中にまだ…「アリサちゃ~ん、すずかちゃ~ん!」」

 私の声に被さるように、なのはちゃんの声が聞こえた。

「「なのは(ちゃん)!!」」

 安二郎叔父さんをお姉ちゃん達に任せて、私達はなのはちゃんに駆け寄る。

 なのはちゃんは、なのはちゃんのお父さん・士郎さんの背におんぶされたまま、こっちに手を振っている。

 なのはちゃんのお兄さん・恭也さん、お姉さんの美由紀さんも後から続く。

 

「バカなのは!!心配したじゃない!!」

「よっかたよ!無事で!」

「にゃははは、ごめん」

 なのはちゃんは苦笑いの後、しょんぼり頭を下げた。ツインテールも垂れている。

 多分、家族にもここまでくる時に、散々怒られたんだろうな。

 

「ところでなのはちゃん、アリサちゃん。今日は疲れてるだろうから、別の日でいいんだけど。うちに来てくれないかな。お話しなきゃならない事があるの」

 一族の決まりで、秘密を知った人にする話だろう。

 でも、なのはちゃんもアリサちゃんなら、きっと大丈夫。私を信じてくれた二人を私は信じる。

 

 それから、なのはちゃんに、あれからの出来事を聞くとビックリした。

 なのはちゃんはロボットを壊すのに、協力していたみたい。

 あの黒衣の子が私達を助ける為に、頑張ってくれたって。

 でも、あの子が突っ込んでくる前に建物の上が吹き飛んだよね?あれもあの子なのかな?

 

 恭也さんと美由紀さんとノエルは、効率よく悪い人達を縛り上げて、一箇所に集めて監視している。

 士郎さんだけは建物の中を見に行っっていて、今戻ってきた。

 戻ってきたけど、女の人を担いでいる。あれ?あの人、安二郎叔父さんに付いてた、多分自動人形。

「士郎さん?それは」

「どうも、人ではなさそうだね。一応、全身が無事なのを連れてきたよ。上の方に残骸がまだあるけど…」

 士郎さんは、難しい顔をしてノエルを見た。

「はい、恐らくは私と同じかと」

 ノエルは淡々と告げる。

 なのはちゃん達はちょっとビックリしたような顔をした。

「全く!遊にも困ったものね。これで、もう悪さは金輪際出来ないでしょうけど」

 お姉ちゃんは自分の足元に、別に特別な拘束具でグルグル巻きになっている氷村さんを見下ろした。

 叔父さんは怪我がなかなか治らない為、拘束していない。

「警察も、リスティさんが担当してくれるから、引き継いだら帰りましょう」

 リスティさんはお姉ちゃんの知り合いの刑事さん?らしい。

 

「その件で、言っておかないといけない事があるんだ」

 士郎さんはお姉ちゃんに深刻な顔で言った。

「なんでしょう?」

「あそこには、なのは達が言う黒衣の少年の他に、もう一人いたようだね。しかも、動きをトレースしてみたけど、正直人外の域だね。しかも、その子も子供だ」

 

 士郎さんの声が冷たく響き、パトカーのサイレンも聞こえてきた。

 

 

              :美海

 

 夜になりました。こんばんわ。

 

 さて、おいおい!の展開はあったけど、飛鷹君となのはちゃんは無事にロボットを倒したようだ。

 飛鷹君も私と違って、魔法の制限なんて無視してるんなら、再生がキャンセルされるくらい魔法を使うか、魔法剣?か何かで、動力部に狙いを絞て削り切ればよかったのに。実戦はそんなに経験豊富じゃないみたいだね。

 バルムンクの言う通り、今後あんまり頼るのは止そう。

 勝手に任せたクセに、とは思うけど。

 

 私達はと言えば、なのはちゃん達の救出こそ、途中で抜けたがアフターケアぐらいは、やっておかないとね。

 

 私は今、とある施設に訪れています。

 ただのビルだけど。会社名は東南金融。

 只今、絶賛高跳び準備中。

 私は、人除けの結界を張り巡らす。最小限の魔力で最大効果の魔法を。

『リニス。挟み撃ちでいくから、逃がさないようにね』

『分かりました』

 手順を確認し、突入。

 私は、ビルにそっと侵入すると、ブレーカーを壊した。火花が散り、辺りが闇に包まれる。

「なんだ!?」

「停電か!?ブレーカー見てこい!」

 大の男がこんな事で騒がないでほしい。

 

 さてと、痛い目に遭って貰わないとね。

 私は、廊下をゆっくりと進んでいく。

 ビルの裏手では、もう悲鳴が上がりだしている。

 リニスは、もう始めてるみたいだね。

 大丈夫。そんなに慌てなくても。

 

 一人も逃がしはしない。

 

 その夜、悲鳴が後を絶たなかったそうな。めでたし、めでたし。

 

 

              :飛鷹

 

 後日談的な話になるが、あの黒服連中はヤクザの類だったらしい。

 目的は金。という事になったようだ。

 真実は明かされず。何せ、あのサドイケメン捕まってねぇし。

 何とかとかいう金融会社の連中は捕まったけどな。ヤクザの所謂フロント企業?ってやつみたいだ。

 

 ああ、平和が戻ったぜ!…なんて事はなく。絶賛ピンチに陥っているよ。

 

 現在、校舎の裏手。

 俺は、なのはちゃんを含め三人に囲まれていた。

 カツアゲか!?いかんよ!そんな事したら!

「で?あのお面。アンタで間違いないの?」

 アリサちゃんが鋭い目付きで聞いてくる。近いです。俺壁に追い詰められてるよ。まさかの壁ドン?女の子にやられる側になるとは…。男として情けない、ってそんな訳ありませんよね。

「あの、飛鷹君。私達、凄く感謝してるの。もし、黒衣の子が飛鷹君なら私の一族の秘密を知った事になるから、うちに来て話を聞いてほしいの。勿論、どんな結果になっても飛鷹君の事は言わないよ」

 すずかちゃんが懇願するように詰め寄ってくる。だから近いって!

「飛鷹君。私達を信じてほしいの」

 なのはちゃんもかい。

 

 実のところ、どうするか?

 なのはちゃんには、確信してるみたいだし。アリサちゃん達に知られても、確かに言いふらすような子達じゃないだろう。

『別にいいんじゃないか?』

 突然、スフォルテンドが気怠い声を出す。そう、念話ではない方で。

 三人はビックリして、辺りを見回している。そうなるわな。

「おいおい、勝手に何してくれたんだよ!」

 俺はスフォルテンドに思わず、素で文句を言ってしまった。

 三人の視線の先には、剣型のキーホルダー。俺の視線でバレたよ。俺、こういう星の元に生まれたの?

「何よ!それ!?」

 これは諦めるしかないな。実はお喋りする玩具だ、で納得しないだろうし、どうせ、スフォルテンドが余計な事を口走るに決まってる。

 俺は一つ溜息を吐く。

「これは、分かり易く言えば魔法の杖みたいなもんだ。誤魔化してないぞ。俺が使ってるのは、魔法の力だ」

 胡散臭そうにしているアリサちゃんに、先手を打ってやる。

 すずかちゃんは興味深そうにスフォルテンドを見ている。

『よろしくしなくていいが、初めましてお嬢さん方』

「え!?私は杖どうすればいいの!?」

 俺は天を仰いだ。

 デバイスの面倒なんて見れねぇよ。整備くらいはイケるが、一から造るなんて無理だよ。

「「え!?」」

 え?口ぶりから全部話したと思ってたけど!?もしかして知らないの?

「どういう事よ!」

「それは聞いてないよ!?なのはちゃん!」

 ここにも口走る子いたよ…。しかも、魔法の事抜いて話してたのかよ。

 これ一種の自爆か?

 

 何はともあれ、月村邸に俺は連行される事が決定した。

 二人に集中砲火を浴びて、項垂れているなのはちゃんと共に。

 俺は悪くないぞ。

 

 ドナドナならぬズルズルセカンド!

 かくして、俺はアリサちゃんの高級車に押し込まれ拉致されるのであった。

 安達ぃ~、何サムズアップしてんだ!お前!明日話があるからな!

 

 ひーとぉーさーらーいー!

 

 そう叫んで、赤い飛行機で消えるってなしか?

『往生際が悪いぞ?』

 お前の所為なんだよ!!誤魔化しきれた自信ないけどな!!!

 

 

 豪華お屋敷に入って行く。

 ブルジョワっちゅーの?労働階級の辛さってやつを教え込んでやりたいぜ。

 まあ、別種の大変さがある事は分かるけどね。

 

 応接間に通されると、そこには高町家を始め、すずかちゃんのお姉さんが勢揃いしていた。が…。

「げっ!!」

 俺はある人物がいる事を確認して、思わず声を上げてしまった。

「ご挨拶だね、少年」

 そこには、銀髪の麗人がいた。

 俺がこの海鳴の不思議を、初めて目撃した時にいた人物だ。

 今日は羽がない。

 俺は無意識にスフォルテンドを握りしめた。

「まあ、そう警戒しないでくれ。何もしないよ」

「会っていきなり雷撃してきた奴が?」

 コイツはいきなり攻撃してきた。だから、俺は返り討ちにしていた。

「まあ、その件については謝るよ。でも、私の柔肌を拝んだろ?」

 この一言で女性陣の絶対零度の視線が放たれる。

 腹いせに殺す気か!?

「誤解を招く言い方するなよ。服の腹んとこが少し切れただけだろう」

 咄嗟にアバンストラッシュかましたんだよな。非殺傷設定万歳!

 速攻で逃げたよ。今思うと警察に通報すりゃ、よかったか?あれじゃ、俺が犯罪者臭いぞ。

「事件の被疑者を逮捕した直後でね。いきなり妙な力場を感じたものだからね。仲間がいたかと、つい攻撃してしまったんだよ」

「逮捕?アンタ警察か何かか?」

「こう見えて、海鳴署の刑事だよ」

 マジで!?父さんの同僚か!?

「飛鷹警部補とは部署が違うが、協力し合う仲さ」

 銀髪はそう言って笑った。

 

「飛鷹君、でいいのかしら?彼女の言ってる事は本当よ」

 すずかちゃんのお姉さんが割って入る。

「リスティさん。話が進みませんから、揶揄うのは後にしてもらえませんか?」

 銀髪が肩を竦める。サマになってんな。

「私はすずかの姉の月村 忍です。宜しくね」

 俺は黙って頭を下げる。

「みんな、立ち話もなんだから座って」

 忍さんが俺達にも座るよう促す。

 

「まずは、事後報告だけど。今回の首謀者の氷村 遊は一族の掟を破り続けて、今回の問題を起こした事で生涯幽閉される事になります。もう会う事はありません」

 警察は?

 俺の疑問を察したのか、銀髪・リスティ?が口を開く。

「警察だって、清廉潔白な奴ばかりじゃないからね。特にああした奴は、身内でどうにかして貰った方がいいのさ」

 ああ、あのサドイケメン、取引材料とか腐るほど持ってそうだからな。

「それに、こっちの問題もあってね。特殊な能力をもった犯罪者を、収監出来る施設が少ないんだ」

 そりゃ、深刻だね。こわっ!キャパオーバーになったらどうすんの!?

「そういう訳で、懇意にしているリスティさんに頼んで、遊の身柄をこちらで貰ったのよ」

 納得したよ。大人の事情ですね。分かります。

「安二郎叔父様は警察に逮捕されたわ。どうも遊が関わっている事を知らなかったみたい。

 イレイン、あっ、自動人形で飛鷹君が一体倒したヤツね。アレの事を知っていたから、一族に関わりのある人物だと思っていたみたいだけど、遊みたいな非道な事をする人間が関わっているとは、知らなかったみたい。

 すずか達を助けたのも、流石に罪悪感が湧いたんでしょうね。元々、悪い人でもないから。叔父様も素直に自供してるみたいだし」

 あのチビデブのおっさん、本当に叔父さんだったんだ。こりゃキツイわー、同情するよ。

 

「でね。ここからが今日の本題なんだけど。

 私達一族には正体を知られた時は、盟友として、これからも友好関係を継続するか、全てを忘れるか選択して貰う決まりがあるの」

 忘れるって、忘れますって誓えって事か?

「忘れる選択をした場合。私の力で記憶を消します」

 そんな事出来んの!?

「申し訳ないけど。今、決めてほしいの」

 なのはちゃん、アリサちゃんは、もう決めているみたいだけどね。

「「盟友になります!」」

 二人は迷いなく即答。

「俺も盟友になりすよ」

 俺も同意した。何しろ魔法の事を握られているからな。俺だけ忘れさせられるのはな。勿論、それだけじゃないけど。

 忍さんはニッコリと笑った。

「新たな盟友(トモ)を歓迎します」

 

「さて、これで最大の問題はもう一人、秘密を知った可能性がある人物が未発見という事だけだね」

 リスティがいきなり爆弾投下。

「そちらの手掛かりは、やっぱりありませんでしたか」

 リスティは頷く。

「あの後、実行犯からの聴取・捜査で東南金融が浮かんで、令状を取って乗り込んだんだけど。高跳び準備中に襲撃にあって、証拠付で全員グルグル巻きになってたそうだよ」

「それも、件の人物が?」

 状況から言ってそうだろうな。

「だろうね。実行犯の中にも姿を見た奴はいた筈なのに、誰も覚えていないときた」

「私もイレインの記憶領域を探ってみましたが、どうも消されたようです」

 全員が深刻そうだ。まあ、そりゃそうか。

「飛鷹君は心当たりありませんか?」

 俺は無言で首を横に振る。

「まあ、要探索だね」

 リスティが締めくくって、終わるかに思えたが。

 

「飛鷹君。娘を助けてくれたんだって?ありがとう」

 今まで、黙っていた高町家家長が口を開く。

 ここで高町家紹介が入る。リリカルなのはファンには紹介不要だよね?

「どう致しまして」

 俺は素直に礼を受けておく事にする。

「俺からも礼を言うよ」

 恭也さんも?

 お二人から凄いプレッシャーを感じるのですが?

「「これからも、なのはと仲良くしてくれると嬉しい」」

 お二人で俺の肩を掴んでいるが、ミシミシ言ってるんで、そろそろイイッスカネ。

 

 その後、なのはちゃんの魔法は、俺が覚醒させた事がアリサによって暴露され(なお、三人から名前を呼び捨てでよいと、許可を頂いた)、高町家に詰め寄られたり、忍さんにスフォルテンドを解体されかけたり、カオスが続いた。

 結果として、なのはは魔法を制御出来るまで、俺が訓練する事に決まった。

 そして、重要な事だが、俺がロリコンでない事を二人には(誰か言う必要なし)納得して頂いた。

 一応は。多分。

 

 俺は声を大にして言いたい。

 精神は兎も角、いや精神は大人だからこそ、小学生を好きになったりしない!!

 

 別れ際、リスティからこんな事を言われた。

「君は魔法とやらの事は、警部補には言っていないのだろう?打ち明けてみたらどうだい?薄々、君が普通と違う事は、君のお父さんも気付いているよ」

 魔法に関しては気付かれていないと思ってたが、違ったらしい。いや、俺は子供らしくないというのも、口には出さないけど、母さんも気付いていて、悩んでいるのかもしれない。

 

 そう思うと少し気が重くなった。

 

 

              :イレイン

 

 全く、なんで私がこんな事を。

 繰り返し思うぜ。

「行儀作法の習得は、早くお願いしますよ」

 鬼か?テメェ。

 コイツは私と同じ自動人形のノエルだ。メイド長なんだと。

 コイツも自動人形のクセに何やってんだ。

 アタシは()()()なんてするように出来てねぇんだよ!

 あのクソ野郎から貰った武装も全部没収されちまったしよ。

 

 全く、こんな事なら、あの時に死んどきゃよかったぜ。

 あのガキ、何が承知だ!

 責任もって殺しやがれってんだ。

 お陰で、こんなヒラヒラした服着て、恥晒す羽目になっちまったよ。

 と言っても、ガキの事は覚えていない。姿形、性別、解析結果もアタシの記憶領域から消えちまってる。

    

 だが、いずれ思い出してやる。アタシを舐めるなよ。

 今度会ったら、絶対に文句言ってやる。

 

 

              :???

 

 ふむ、やはり玩具ではあんなものか。

 私は、モニターを見ながら落胆する。

「まあ、あれはあれで釣れたと言っていいのかな」

 興味深い観察対象だ。悪くはない結果といっていい。

 後ろから私に近付く足音が響く。

「完全に破壊されたようですが、戦力をもう少し投入しますか?」

 私の後ろで一人の女性が立ち止まった。

「いや、いいよ」

 この世界もハズレかね?

「何か探し物があれば、専門の要因を手配しますが?」

 彼女はオリジナル同様優秀だ。こちらの望みを的確に予想して手配してくれる。

「いや、それもいいよ。時間はあるからね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「彼女?」

 

 

「そう、()()宿()()だよ」

 




 次回から原作突入する!…はずです。
 美海は原作突入から活躍し出すと思いますので、お願いします。
 飛鷹の魔法(ストジャケ)は原作ではイグジストと言いますが、ミッド式の亜種になっている為、省いております。

 よし、気合入れます。


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第9話 覚悟を示す者

 原作に突入しました。突入したんです。
 そういう事でお願い致します。

 ジュエルシード事件プロローグ的な話になります。


              :ユーノ

 

 僕の名前はユーノ。スクライア氏族の考古学者…の卵。

 

 今、僕は保護管理世界・プレギエーラに来ている。勿論、発掘作業でだ。

 この世界は、滅んでしまい現在は生き物も建物も木々もない。

 一説によるとロストギアで滅んだらしい。だから、管理局が厳重に管理している。

 

 管理局が、発掘許可を出してくれる事自体が珍しい。

「ユーノ。こんな所にいたのか。族長が苛立ってるぞ」

 レダ先輩がやってきて、コソッと囁いた。

 レダ先輩は、僕に考古学の楽しさを教えてくれた人だ。

 僕は何気なさを装って、族長のいる方をチラッと見る。

『作業やれや。手をサッサと動かせや。時間ねぇんだぞ?ああ!?』

 念話を受けた訳でもないのに、族長の目が明確に僕にメッセージを送ってくる。

 僕は思わず、呻いてしまった。

 族長は決して横暴な人ではない。両親がいない僕を、一族みんなで育ててくれた。凄く優しい人だ。

 でも、仕事に関しては頑固な職人のようになる。

 管理局が指定した発掘期間は、たったの七日。

 そして、肝心のものが発掘されないまま、既に五日経っている。

 それから族長は機嫌が悪い。

「管理局め!こんな期日で何を掘れというんだ!」

 ここのところの夜の族長の決まり文句である。

 

 でも、僕には勝算がある。

 偶々、見つけた神話が記された文献・第71管理世界エウケーの神話集。

 今も研究者が神話の研究をしてるけど、何かの寓意を歴史的出来事をもとに創られた、というのが定説になっているが、僕はプレギエーラの世界の出来事を神話化したものだ、と推測している。

 実は、次元世界では文明の発達した世界が、未発達の世界に影響を与えるのは珍しい事じゃないんだ。

 古語の文字形体はプレギエーラと、エウケーの文字には類似点が見られると思う。

 行き来があった結果だと僕は思う。

 エウケー神話の〈祈りの神殿〉が崩壊した下りは、プレギエーラ消滅の原因を思わせる。

 プレギエーラの中央魔導施設は、神話であるような石造りの神殿では勿論ないが、構造も神話との類似が認められる。

 族長は、考古学的な根拠に乏しい。どれも、お前の勘みたいなもんだ。そんな事じゃ、管理局は発掘許可を出さん、と渋い顔をした。だから、僕は族長に直接交渉させてほしいと頼み込んで、三か月の間、管理局の担当に毎日日参して、熱弁を振るった。

 管理局の担当者も、にべもない反応だった。が、突然風向きが変わった。

「七日間です。こちらの指定期間中なら、発掘許可を出しましょう。こんな事は例がないんですがね」

 担当者は、苦虫を噛み潰したような顔で言葉短く説明を終え、出ていった。

 

 許可が出た事を族長に話すと、怪訝な表情で考え込んでいた。

 だが、結果的に発掘作業を開始する決定を下した。

 

 但し、滅んだ原因となったロストロギアを発掘する事が条件だった。

 

 大体、建築跡が露わになっている。流石、スクライア氏族。

 僕は文献のコピーと睨めっこしながら、場所を特定していく。

「結果を出さないと、管理局の審査が今以上に厳しくなるぞ。ユーノ」

「はい!大丈夫です。もう特定しました」

 管理局は信用が落ちた考古学者の申請は、受け付けなくなる。いや、許可を出し辛くなる。

 

 跡地中央から外れた場所。

 僕はレダ先輩達と共に、発掘作業を開始する。

 三人がかりで魔法で土砂を慎重に取り除く。

 僕達は土砂が除かれた穴に突入し、貴重品を傷つけないように、細心の注意を払って掘っていく。

「ユーノの予想だと、魔力のエネルギー結晶体なんだよな?」

「はい、だから下手な衝撃を与えたら、危険です」

 祈りの神殿での祭祀は、魔力付与のプロセスと似ている。

「名前は、なんて言ったっけ?」

「僕達の共通言語に無理に直すと、イデアシード…違うな、()()()()()()()()()?」

 

 丁寧に土を取り除いていくと、丸い金属が姿を現す。

 そこからは、更に慎重に金属に穴を開けていく。火花が中に入らないように、気を使わなければならない。

 魔力エネルギー結晶体とは言っても、どんなエネルギーを吸収するか分からない。吸収するのが魔力のみとは、限らない。

 

 そして、遂に金属をゆっくり取り除く。

 中は、ほぼ石と言っていい程の土砂が詰まっていた。

 無心で、淡々と、だけど、慎重に石と土を取り除く。

 

 刷毛で土を退かしていくと、青い輝きが姿を現した。

 

「あったぁー!!見付けました!!」

 僕は思わず声を上げた。

 僕の手の中で青い宝石は怪しく輝いていた。

 スクライア氏族のみんなが集まってくる。

「これが…」

 誰かの呟きが聞こえる。

「施設の規模からいって、これだけってこたぁねぇだろ。残りも掘り出すぞ!」

 族長の指示で人員が増えた。

 結果として、二十一個のジュエルシードが発掘された。

「ご丁寧にナンバーまで振ってくれているとはな」

 レダ先輩が、ジュエルシードを見ながら笑った。

「皆さんが協力してくれたので、もうこれ以上はないと断言出来ます」

 レダ先輩は頷く。

「だろうな。今度は封印だ。やっつけちまおう」

 僕達はジュエルシード全てに封印を施し、金色の耐衝撃専用のケースに収納した。

 

 管理局へ報告後、あまり時を置かずに次元航行船が到着した。

 

 

              :バーン提督

 

 ロストロギアを、規定通りに受け取った。

 勿論、受け取ったのは部下だが。

 

 私の机の上には、()()()()()()()()()のロストロギアが置いてある。

 次元航行船の艦長であれば、造作もない事だ。船内のどこでもアクセス可能なのだから。

 一応、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 全く、あの穴掘り共も節操がないな。もう少し自重して貰いたいものだ。それか、根本的に仕事を変えるか。

 奴等がこんなものを掘り出さなければ、定年まで勤めあげる事も出来ただろうに。

 先輩も今更借りを返せとは、酷な事を言う。穴掘り共より先に、私が職を変える事になりそうだ。

 

 既に進路は言われた通りに、変更してある。後戻りはできない。

 

 私はブリッジに重い足取りで向かった。

 ブリッジに入ると副艦長が報告を入れてくる。

「艦長。今のところ問題はありません。順調に行けば定刻で本局に、到着出来ます」

 私は無言で頷くと、自分の席に腰を下ろした。

 

 何気なく時刻表示に目を向けると、もうすぐ時間だった。

 アラートが盛大に鳴り響く。

「艦長!本艦がロックオンされています。次元跳躍攻撃です!」

「回避!」

 私は当然の指示を出す。

「間に合いません!」

 次の瞬間には、凄まじい衝撃が本艦を襲った。

「状況報告!」

 私の言葉に我に返った部下が、慌てて報告する。

「操舵系、80%損傷!制御不能!」

 アラートが鳴りっぱなしだ。

 部下が不測の事態に右往左往している。

 更に、船体から爆発が起こる。艦内に悲鳴が満ちる。

「落ち着け!脱出急げ!本艦を捨てる!」

 副艦長を筆頭に部下が驚愕する。

「しかし…!」

「議論している暇はない!艦の制御が利かんのだ。いつ本艦がバラバラになるか分らんのだぞ!」

 次元の海は航路を少しでも外れれば、次元航行船でさえ地獄となる。バラバラになる可能性があるのは嘘ではない。

 

 結局は全乗員が脱出した。

 

 脱出艇の中で副艦長から、当然の報告を受けた。

「艦長…。実は保管庫からロストロギアが…消えていて、回収…出来ませんでした」

 私は言葉少なに答えた。

「犯人捜しなど、今始めるなよ。責任は私がとる」

 

 なにしろ、犯人は私だからな。

 

 

              :???

 

「予定通りです」

 彼女は私の秘書であり、我が子のようなものだ。

「ふむ、そうか。それは重畳」

 私は、研究の手を止めずに答えた。

「よろしかったのですか?あの御仁に協力を依頼して」

 彼女が、何を言わんとしているかは分かる。

「大丈夫さ、彼が私を裏切るように、私も彼を裏切る、お互い承知の上さ。それでも、あの御仁は成し遂げたいのさ。平和をね」

 あの正義は狂気の産物だ。実に私好みだよ。面白い。

 彼の観察もまた重要な研究だ。私の将来の子供達を、輝かせる一助になるかもしれないからね。

 

「さて、仕込みが済んだからね。我が親愛なる友人に連絡を取るとしよう」

 

 

              :プレシア

 

「どういうつもり?」

 私は、ウィンドウに映る軽薄な笑みを浮かべる男に、開口一番そう言った。

 この男は、私の目的を知っている。そして、今態々それの鍵になる情報を、アッサリと話した。

「随分酷い言い草だねぇ」

 私は、この男の頭脳は認めているが、人格は全く信じていない。

 まして、慈善事業など絶対しない。今じゃ、私もそんなものしないけれどね。

「魂胆を言いなさい。私の目的の邪魔にならなければ、好きにすればいいわ」

 男が苦笑いする。相変わらず作り物染みた表情だ。

「警戒させてしまったかな。目的は単純だよ。里帰りだ」

「里帰り?」

 思わず鼻で嗤ってしまった。

 貴方にそんな感傷があるとでも?

「正確に言えば、アルハザードにあるデータだね」

 ようやく、マシな理由が聞けたわね。

「何故、貴方が自分で試さないの?」

「私は賭け事は嫌いでね。自分の命をチップに博打をする気はないよ」

 だから、私の命をチップにするという事ね。

「君自身、時間が無いんじゃないかと、心配になってね」

 私の死病も承知の上での話、という訳ね。

 

 ならば、訊いておく事は一つだ。

「アルハザードは、今も存在するのね?」

「君は、自分が調べ上げた事に疑問を持つのかい?勿論、存在しているよ。()()()()()()()

 

 結局は時間が無い。

 私はあの男の話に乗るしかない。

 

 私は通信回線を繋ぐ、この時の庭園にいる子に。

 ようやく、役に立つ時が来たわね。

 我慢が報われてよかったわ。

 

 

「私のフェイト。お願いがあるの」

 

 

               :ユーノ

 

 結果を見事に出した事で、発掘作業の延長が認められた。

 自分の考えが当たっていた事も嬉しい。

 でも、僕が一族に貢献出来た事が、もっと嬉しかった。

 

 恩返しがしたい。

 

 いつしか、僕の中での目標になっていた。立派な考古学者になって、スクライア氏族を穴掘りなんて呼んでいる人達の認識を変える。それこそが一番の恩返しになる。僕はそう考えている。

 今回の事で、みんなが笑顔でよくやったと褒めてくれた。

 確かに、今回は焦り過ぎたかもしれない。でも、今度は族長も納得するような根拠を示す。

 

 僕は、族長のテントに発掘計画の見直し案を持って、向かった。

 テントの前まで来ると、小声で話し声が聞こえてくる。

「何!?それで、ロストロギアは!?」

「恐らく、通過中の世界に落ちたんだろう」

 え?それってもしかして、ジュエルシード?

「胡散臭い許可に、次元航行船の襲撃…やっぱり裏があったか」

 族長が溜息交じりに呟く。

「だがアード。許可を出された以上、やらないなんて選択肢はなかったろ」

 アードとは族長の名前だ。という事は相手は補佐のジェドさんだろう。

「あの子の懸命な気持ちを、台無しにしたくねぇ。ジェド、折を見てユーノにはそれとなく注意しとけ」

 

 僕は目の前が、一気に暗くなっていくのを感じていた。

 手に持っていた発掘計画書類が、滑り落ちる。

「ん!?誰かいるのか?」

 僕はそのままテントに背を向けて、走り出す。足が縺れて上手く走れない。

 何度も転ぶ。

 

 自分達が発掘したものが、悪用される。しかも、ロストロギアが。

 それが惨事を招けば、発掘した者の責任も問われる。法的な問題ではない。恐ろしいのは、世論である。発掘許可に問題はなかったのかから始まり、瑕疵がないか粗探しが始まる。発掘者に責任はなくとも、有形無形の独自制裁が下される。

 次元世界の古代遺産発掘は、危険物を多く含んでいるケースがある。

 それを踏まえ慎重にやるべきだったんだ。

 でも、僕は焦ってしまった。

 だから、餌に飛び付いてしまった。

 思えば、族長も許可など下りる筈もないと高を括っていたんだと思う。でも、許可は下りてしまった。申請しておいて、やめますとは言えない。

 これは、とんでもない不名誉に発展するかもしれない。

 穴掘りなどと言われても、スクライア氏族は発掘品の悪用など決してさせなかった。それが誇りだった。

 

 僕は、その誇りに泥を塗ってしまった…。

 

 走りながら、涙が出てきたが、そんな事に構っている暇はない。

 まずは管理局で、落下予想地点は聞き出す。

 

 ジュエルシードは、僕が必ず全部回収してみせる!悪用なんて絶対にさせない!

 

 

               :美海

 

 毎度恒例の時の庭園探し。

 

 私は無人世界にいる。

 センサーに感知されないように細心の注意を払う。()()()

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、無人世界上の次元の海を注視する。

 時の庭園は当然移動済み。寧ろ、常に移動している。

 こりゃ、あれだね。在り来たりな喩えだけど、砂漠の砂の中からダイヤの小粒を見付けるようなもんだ。しかも、その小粒は風で砂と一緒に移動してるときた。

 原作開始まで、ダメかな。

 

「どうですか?美海」

 リニスが訊いてくるが、返答は同じです。ごめんなさい。

「いないね」

 リニスは私に気を使ったのか、明るい声を出す。

「まだ時間はあります!気長に探しましょう!」

 しかし、私はリニスの気遣いに乗る事が出来なかった。嫌な情報が見えるよ。

 う~ん。そろそろ原作開始するのかな?

「どうしたんですか?」

 私が眉間に皺を寄せているのを、不思議に思たのかリニスが訊いてきた。

「時の庭園が、スピードを上げて移動してるみたいなんだよね」

「私達の追跡がバレたんでしょうか?」

 事の重大さにリニスの表情も険しくなる。

「そりゃないでしょ。周回遅れもいいところなんだから」

 私は精霊の眼(エレメンタルサイト)を切る。

 

「でも、嫌な感じだね」

 私の言葉にリニスは不安そうだった。

 

 ごめん、リニス。プレシアが何かやる前に押さえるの、無理だと思う。

 私はそっとリニスに心の中で謝罪し、目を閉じた。

 

 約束通り、フェイトちゃんは助けるから、許して。

 

 




 ユーノ回ともいうべき話です。
 ユーノが、ただのマスコット淫獣ではない、という事を示すための話です!
(ユ:ちょっとぉ!!)
 
 転生者の特典は飛鷹が最後の一つ、レアスキルが明かされた段階で、この場で纏めようと思います。
 恥ずかしい話。投稿だけで精一杯…。
 頑張りますので、お願い致します。


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第10話 落下する光、集まる者達

 美海の話となります。
 彼女の活躍のさせ方、難しいんですよね。
 動かしやすくはあるんですけど。

 原作、一話序盤の話です(おぉい!)


              :夢

 

 ベルカ時代のいけ好かない方の母上が、私の前に座っている。

 断っておくが、好感の持てる母上は今生の母上を指す。私に母が複数いた訳ではない。

 兄妹みんな、母親が違っていたから、いたと言えば間違いではないのだろう。

 だが、赤の他人だ。

 

「よいですか、アレクシア。女は殿方に見初められてこそ、価値があるのです。まして、貴女は王家の女。そのうち、どこかの騎士爵の元に嫁ぐでしょう。

 貴女は残念ながら絶世の美女になる事はないでしょうが、可愛らしい容姿はしています。貴女のような女が好みだ、という殿方もいらっしゃいます。その中から力のある殿方を選ぶのですよ」

 あまり話した事もない母上が、大真面目で小児に言ったセリフである。現代日本だったなら、物議を醸すだろう。つまり、ロリスキーな変態探せって事かい。死んでよし。

 

 ベルカでは、強力な魔導騎士には爵位を送る風習があった。それが騎士爵である。完全な名誉のみで一代だけの領地しか付かないが。

 婚姻によって、強い男の血を取り入れて金もウハウハという狙いである。

 強力な騎士の忠誠を保つ為、各国は金を惜しまないのである。騎士爵の方はそのまま重鎮となる目もある。

 私の場合、小国の第五王女。どこぞの王族や貴族に嫁ぐなど、有り得ないレベルである。

 

 私の容姿は、PARA-SOLの谷田部 美海とこの時から同じだった為、正直将来はスリムな体型になると思っていた。まあ、実際は小柄は同じでも、結構身長にしてはプロポーションはよかったけど。チャラ男の趣味か?私も、前世では美海はマイエンジェルだったクチだが。

 TSして意識は女になったが、男としての記憶がある為、ウホッいい男とはならないし、逆にタイが曲がっていてよ…の百合にも興味が出なかった(アレは違ったか)。

 生涯を通して性欲が希薄だった。

 故に、こういう話は精神的にキツイものがある。

 私だけしか王族がいない訳じゃないから、いいやと無視したが。

 

「貴女は、どうやらあの愚か者の血を濃く継いでいるようね。失望しました。もう顔を出す必要はないわ」

 無視して戦闘訓練三昧になった私に、母上が言った言葉である。

 私も母上との会話は、精神的に辛かったので助かった。

 

 因みにあの愚か者とは、父上・アーヴェント王の事である。

 うちの国は聖王連合の選定王家の一つだが、聖王を輩出した事はうん百年くらい遡らないといけない。

 つまり、ここのところ聖王がうちの王家から出ていない。

 理由は単純。聖王の条件が、()()()()()()()()()事だからだ。

 当然、私は持っていない。兄妹の誰ももっていない。

 

「アーヴェント?ああ、あのうらぶれた小国の事か」

「貴殿の国土には、何人の騎士爵がおりましたかな?」

「おいおい、騎士爵に領地などやったら、自分達が住む場所を騎士爵から借りる事になるではないか」

 ゲラゲラゲラ(爆笑)。

 これが、うちの国の他国評である。

 だからかな、父上は矢鱈と虹彩異色に拘った。子供が生まれる度に、期待して裏切られた。子供に愛情など湧く筈もない。

 

 あれ以来、母上とは生涯話す事なく私は死んだ。当然、父上とも疎遠のまま、葬儀にも出席していない。

 

 私は転生者で、あの段階で歳は食っていたから、大丈夫だった。

 

 でも、フェイトちゃんは辛いだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

              :美海

 

 深夜にも関わらず、私は飛び起きた。

『どうしたんです?美海』

 リニスが念話で声を掛けてくる。貴女ちゃんと寝てる?

 私は素早く窓を開く。

 上空から、二十一個の煌めきが海鳴りの街に降り注いだのが、見て取れた。つくづく第六感を鍛えておく事の重要性を、再確認させられる。精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認出来た事は大きい。

 

「妙なものが空から降ってきたね」

 正体モロに知っているけどね。流石にうろ覚えでも、それくらいはね。

「妙なもの?」

 念話で会話する必要がない為、小声で話すとリニスも合わせる。

「多分、魔力エネルギー結晶」

「!?それって、ロストロギアじゃないですか!」

 小声で叫ぶという芸当を披露するリニス。

 流石に、この不思議の街・海鳴でも魔力エネルギー結晶が、空から降ってくる事はないわ。

「さて、放っておくのは、流石に不味いからね。すぐ出るよ」

『久しぶりに、我の出番もあるかしれませんな』

「ない事を祈るよ」

 リニスは既に人型になっている。

「では、参りましょう。美海」

 私は無言で頷くと、自分そっくりの化成体を作成する。

 本当は使い魔を造る技術で、動物に機械を埋め込み、古式魔法を掛けるのが化成体である。しかし、私はこの世界のいい意味で自由度が高い事を利用して、自在に土を使って形を造り、術式を小型の機械の代わりにしたのだ。そこには、体を動かす術式も組み込んでいる。司波 達也の技術とこの世界にサンキュー。当然、鍛錬した成果でもある。

 

 私は騎士甲冑を纏い、窓から飛び出す。リニスも私に続き、外から窓の鍵を閉める。

 滅茶苦茶遠いところから、時の庭園探すより楽だよ。

 私は早くも一つ発見する。

 場所は、因縁かリニスを助けた公園だった。

 

 公園に降り立つ。

「リニス。結界構築、人除けで」

「分かりました」

 リニスが結界を張る。

『ふむ、まあよかろう』

 バルムンクが結界を見たのか、鷹揚に頷く。

 リニスはムッとしたようだが、シリアスな場面である事を考慮して口喧嘩はしなかった。

 人除けの結界で十分だ。

 被害なんて出す前に片付けるからね。どっちにしろ。

 

 ジュエルシードが落ちていたのは、よりにもよって砂場だった。

 子供が遊ぶ場所のど真ん中に落ちるとか、アンタ狙ってるの?

 砂場に近付くと、まさに狙ったようにジュエルシードが輝き出す。

 まるで封印などさせない、とばかりに砂を吸収し、サンドゴーレムのような姿をとる。

「オオオオオォー」

 生まれたてでご苦労さん。

「四の剣、風花乱舞」

 私が名付けたオリジナル技って訳じゃないからね。ベルカに()()()ってところがあるんだよ。そこの技だよ。この技の習得は、正真正銘私の努力です。特典じゃありませんよ。

 剣聖操技は私の特典だからオリジナル?だけど。

 血の中から取り出した剣を構え、サンドゴーレムとの間合いを詰める。

 ゴーレムは意外な事にボクシングスタイルだ。

 巨大な岩のような拳が、私に迫ってくる。

 おお!なかなかいい動きだね。

 拳を僅かに体をずらすだけで、避ける。両腕から繰り出される嵐のような拳を、スルスル避けて懐に入り込んでいくが、相手も気付いて後ろに跳ぼうとする。

 

 が、跳べなかった。

 

 私もただ避けてただけじゃないんだよね。私の剣から強烈な冷気が漏れ、地面を走りゴーレムの脚と地面を凍結させていたのだ。

 

「じゃあ、お疲れ」

 冷気を纏った剣が高速で、文字通り乱舞する。

 ゴーレムも、腕を振り回して当たるまいとするが無意味だ。

 相手の拳ごと剣は斬り砕きながら、本体にも斬撃が襲い掛かる。切り裂いた先から凍り付き、砕け散る。

 相手の攻撃を無効にするほどの冷気の暴風が、ゴーレムを氷の粒にした。

 

 夜のダイヤモンドダストだね。

 

 青い菱形の宝石が落ちて、私の手の中に納まる。

 私はそれを握りしめ、封印処理をする。

 封印完了。

 私の血の中に収納する。

「お見事でした。でも、そんなもの血液中に入れて、大丈夫なんですか?」

「私の血液中だから安心なんだよ。外部から一切遮断してるから、封印を破られるような事もないし」

 リニスはまだ心配そうだが、私は安心させられる切り札を出した。

「バルムンクだって私が許可を出さないと、デバイスの制御ができないんだよ?この程度のロストロギアじゃ、私をどうにか出来ないよ」

 リニスは何やら複雑そうな顔だが、一応納得したようだ。

 

「まあ、それより次、行くよ」

「はい」

 結界を解除して、移動する。移動時は奇門遁甲術を使用しながらだ。遁甲術は相手の意識を逸らす、あるいはあるものに集める事が出来る。センサーすらも感知出来ない。

 

 途中、魔法戦闘の気配がしたが、すぐ消えてしまった。

 多分、タイミング的にユーノ君だろう。一応探したが、ジュエルシードの思念体もユーノ君も見当たらなかった。

 ユーノ君に関しては、その場所から血の匂いが微かにする。

 魔力の残滓を元にユーノ君の捜索を開始する。

 森の奥にフェレットが倒れていた。

「使い魔…いえ、人間?でしょうか」

 リニスがフェレットを見て言う。

「人間だろうね。情報を見ると」

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で見た情報を告げる。

「そう言えば、種族によっては、動物にトランスフォーム出来るものもいるとか、聞いたような気がします」

 多分、それかな?でも、何故フェレット?

 何はともあれ、傷の手当てをしないとね。私は拳銃型デバイスをユーノ君に向ける。

 

 コアデータより変更履歴遡及を開始。

 

 復元時点を確認。

 

 復元開始。

 

 完了。

 

 ユーノ君が()()()()()()()()()

 

 魔法科高校の劣等生の魔法・再成である。

 最高峰の治療魔法と言っていい。無傷の状態のデータをフルコピーして、上書きするという魔法だ。

 この世界にエイドスは確認出来ない。代わりに確認出来るものが、人の情報が収納されているコアである。

 原作では二十四時間データを遡る事が可能で、対象が感じた痛みが時間に応じて、濃縮されて追体験するデメリットがあった。私は特典でデメリット破棄を願ったが、世界の修正の所為で痛みは濃縮されないまでも、痛みはそのまま追体験する事になった。

 

 ユーノ君が気が付いて、慌てて起き上がる。

「あれ!?傷が!?ジュエルシードは!?」

 パニックになっているユーノ君に声を掛けてやる。

「落ち着きなよ」

 声を掛けられて、初めて私達に気付いたようだ。不用心だね。

「貴女達が助けてくれたんですか?」

「まあね」

「ありがとうございます」

 ユーノ君は、礼の言葉とは裏腹に苦い表情だ。

「で?事情を聞かせて貰える?」

 

 ユーノ君からの事情説明は、次元航行船が襲撃で落ちて、迷惑な事に地球の海鳴にピンポイントでジュエルシードが落ちたと。世界中に散らばるなら分かるけど、なんで海鳴に狙って落ちるの?ユーノ君は自分が発掘したものだから、何が何でも自分で見付けたいとの事。なんか思い詰めてて、危ない感じだね。

 

「話を聞いた上で言うよ?君はこんな事はやめるべきだね」

 私はバッサリと言った。

「それは…!」

 承服しかねる、と顔全体に表れている。

「誰かに、お前の所為だから自分で回収してこい、って言われたの?」

「そんな!!そんな事誰も言っていません!!」

「だったら、君を大切に思っている人の為にも、もうやめなさい」

 ユーノ君は戦闘に向いていない。正直ジュエルシードを全て回収するなど、到底出来るものではない。

「でも、僕はそれでも…!」

「すぐに納得しろって言っても、出来ないのは分かるよ。だから、戦うのはやめなさい。私達の目的に差し障りがない限りは、協力するよ」

「目的?」

「そりゃ、目的があるでしょ」

 私は、回収したジュエルシードを一つユーノ君に放った。

 ユーノ君は慌てて、飛んできたジュエルシードをキャッチした。

「これ!?」

「君の泊まる先は紹介するよ」

 泊まる場所を言った時のユーノ君の顔は、心底情けなさそうだった。

「今夜は、うちに泊めるけど、悪いけどその記憶は消させて貰うよ」

「え!?何でですか?」

「顔を隠してる段階で察してよ」

「……」

 

 結局はバルムンクの反対でユーノ君は眠らせておく事になった。

 曰く。

『主は、まだお相手を決めておられない。どこの馬の骨か分からぬ男を連れていけるか!』

 リニスはそのセリフを聞いて、生暖かい目を私に向けてきた。

 ええ、そうですよ。過保護なんですよ、うちの聖剣は。

 折衷案を飲ませるのに、苦労した事だけは言っておきたい。

 

 フェレット形態で眠らせたユーノ君をリニスに託し、思念体の捜索を試みたけど。

「思念体になると、痕跡消せるの?」

 痕跡が精霊の眼(エレメンタルサイト)で見てもブッツリ途切れている。

「相手はロストロギアです。何が出来ても不思議ではありません」

 未発動のジュエルシードを、追えるだけでも収穫か。

「でも、ユーノの事ですけど。美海の家においてあげる事は出来ませんか?」

 バルムンクが私の中で騒いでいるが、ちょっと黙ってて貰う。

 流石にユーノ君の滞在先に関しては、リニスとしては思うところがあるのだろう。

 なにしろ、そこはリニスもお世話になってるからね。

 

 その名も槇原動物病院。

 

 先生は責任感の強い人だ。()()()()()()()()()()()()()()

 これで、ユーノ君がうっかり死んだりする事はないだろう。

 

 リニスにも言えないけど、これから問題のフェイトちゃんが来る。

 これ以上の肩入れは出来ない。

 ユーノ君と行動を共にするのは、ユーノ君への裏切りと同じだ。

 無責任に全面協力の約束は出来ない。だから、目的に障りがない限りと付けたのだ。

 ユーノ君は頭がいいから、察してくれただろう。

 場合によっては、フェイトちゃんにジュエルシードを、一時的に預ける事も考えられる。

 それをユーノ君は承知しないだろう。どんな目的か分からないままではね。

 だから、ジュエルシードをせめて一つ渡したのだ。

 

 原作ではユーノ君の思いは、詳しくは語られなかったけど、話してみて無茶をやったのは、それなりに理由があるのも分かる。正直分かりたくなかった。

 

 だって、私は今回、フェイトちゃんの味方だから。

 誰かの思いを護るという事は、他の誰かの思いを踏み躙る行為だ。

 運命の赤毛少年の義父も似た事を言ってたけどね。

 

 因みに、レイジングハートの存在は忘れてないよ。ちゃんと回収したよ。

 ジュエルシードはレイジングハートに収納した。

 後でレイジングハートの記憶領域も細工しないとね。

 

 この夜の成果は、取り敢えず発動前の一つを何とか回収した。

 

 家に帰り、ジュエルシードを調べる。

 術式に歪みが見られる。恐らく、整備もせずに使い過ぎだ。これじゃ、おかしくもなるだろう。

 呆れと共にジュエルシードを見ていると、リニスが言った。

「それも、ユーノに渡さないのですか?」

「他を探す資料にするよ」

 私はサラッと嘘を言った。

 血の中に収納する。

 ユーノ君は、リニスが使っている籠に寝かせている。リニスが今夜は私のベットで寝る事になる。

 

 いい加減、寝ようと窓に近付いた時だった。

 魔力反応。なのはちゃんでも飛鷹君でもない。しかも、転移反応だ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、感知した方角を探る。

 

 そこには、高層ビルの屋上に立つ女の子。オレンジ色の大型犬(狼らしいけど)

 

 早過ぎる!原作はよく覚えてないけど、フェイトちゃんは途中から参戦だった筈だ。

 こんなほぼ開始と同時に来るなんて。

 まあ、私と飛鷹君というイレギュラーがいるんだから、変化はあって当然だけど。

 これは、面倒な変化だ。下手をすれば、彼女と話をする為に、戦わなければならないかもしれない。

 ジュエルシードを交渉材料にして、プレシアと話す予定だった。向こうも集め出すと、ぶつかるかもしれない。

 

「リニス。一つ聞くけど。フェイトちゃんって、金髪美少女でバリアジャケットは黒、戦斧のデバイス持ってる?」

 リニスは怪訝な表情で頷く。

 私はリニスに触れて、私の観ているものを観せる。

 

「フェイト!?アルフ!?」

 

 すぐに向かうのは、控えて貰った。作戦を練り直す必要があるから。

 リニスは渋々、承知してくれた。

 多分、今会っても揉めると思うから。

 

 

 私は呪われているのか。

 その夜、私はユーノ君がジュエルシード思念体にボコられている夢を見た。

 怪我治したのに、何してんの?

 

 それはそうと、なのはちゃんにレイジングハートは渡るんだろうか?

 このままいけば、フェイトちゃんに関わらないのかな?

 いや、飛鷹君がいるしな。

 

 私は、全部を明日の朝に投げる事にした。解決にならないけど。

 

 

 

  

 




 次回はなのはちゃん、飛鷹の話になる予定です。
 
 あと、ここで弁解を一つ。
 美海はユーノに死んでもらいたくなくて、ああしています。
 それは分かってあげて貰えれば。

 さて、なのはちゃんにレイジングハートは渡るのか!?


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第11話 魔力の夢

 偶々、リリカルなのはの設定を調べている最中に、自分の考えとまるで違う事が
 分かり、冷や汗を掻いております。

 それを踏まえて、再構築しましたが、上手く出来た…と言いたい。
 それでは、どうぞ。

 お詫び 第11話について

 翌日には修正しましたが、修正前を読んだ方、申し訳ありません。
 今後は、仕事の関係で一日二日はおいて、客観的に見れるように
 なってから、チェックを行い、投稿しようと思います。


              :なのはの夢

 

 魔法の力が目覚めたからかな。

 それが夢だと、すぐに気付いた。

 なんか、映像と自分が明確に切り離されてる感じ。空を飛んで、空から見下ろしてるような?

 これは、多分実際に起こっている事。私はそれを体験している。

 

 ここは、森林公園かな?

 多分、池があるあたりだと思う。

 茶色い髪の子が、黒い塊と戦っている。

 茶色い髪の子は、変わった民族衣装みたいな服にマントを付けている。

 バリアジャケット?かな。

 

 黒い塊の方が優勢に戦いを進めてる。

 黒い塊は、体から黒い砲丸みたいなものを、撒き散らした。

 茶色い髪の子は、急いで走って黒い球から逃げる。

 動きが、物凄く悪い。飛鷹君の動きと比べると、落差がある。当たり前なのかもだけど。

 戦闘経験自体ないんじゃないかな。

 黒い球はそのまま、ボートや橋桁、地面や木々に突き刺さる。どれも一撃で、壊れて小さなクレーターを造っている。茶色い髪の子も避けるのには成功してるけど、地面に突き刺さった黒い球の衝撃で飛ばされた。

「うわっ!!」

 受け身も取れずに、転がっていく。

 黒い塊は、黒い球で追い打ちをかけていく。

 茶色い髪の子は、倒れたままで回避出来ない。

「危ない!!」

 私は聞こえないと分かってても、叫ばずにいられなかった。

 

『シールド』

 

 茶色い髪の子の前に、赤いビー玉みたいなのがひとりでに浮いて、魔力で盾を造る。

 もしかして、デバイス!?

 黒い球を、盾で防ぎ切ると同時に盾が砕ける。

 その隙に、茶色い髪の子は立ち上がり、駆けだす。森の奥へ。

 黒い塊は追っていく。スピードも速い。茶色い子はあっと言う間に追い付かれる。

 黒い塊は、自分から細長い鞭みたいなのを伸ばして、茶色い髪の子を叩く。魔法の盾は間に合っているが、衝撃まで逃がせないみたい。また、茶色い髪の子は吹き飛ばされる。

 まだ、デバイスが護っているみたいだけど、黒い塊が今度は小さい球を高速で飛ばす。

 あんなに大きな球を防いでいた盾が、たった数発で破壊され、茶色い髪の子を…打ち抜いた。

 腕や脚、脇腹から血が流れる。

「いやぁぁ!!」

 ダメ!それ以上やったら、死んじゃうよ!!止めて!!!

 

 茶色い髪の子が木に叩き付けられる。

 私は自分を抓ったり、引っ叩いたりして、目を覚まそうとした。

 私には無理かもしれないけど、飛鷹君なら。

 ぐったりして、動く気配がない。もしかして、打ち抜かれた衝撃で、気を失ったのかもしれない。

 何も出来ない自分が悔しかった。悲しかった。見ているだけの自分が情けなかった。

 

 黒い塊がニヤリと笑った。

 邪悪って多分、この顔の事を言うんだって思った。

 そして、一気に巨体をぶつけるように、茶色い髪の子に突っ込んでいく。

 その時、気絶したようにみえた茶色い髪の子が、顔を上げ、赤いデバイスを突き出す。

 黒い塊が驚いたような顔をする。

「妙なる響き光となれ!赦されざる者を、封印の環に!ジュエルシード!!封印!!!」

 魔法陣が展開し、眩い光が放たれる。

「グオォォォ!!」

 黒い塊に光の帯が絡み付いていく。

 気が付けば、黒い塊の下にも魔法陣が設置されている。

 凄い!これを咄嗟に狙ったんだ!

 黒い靄がドンドン払われていく。

 苦悶の叫びを上げる黒い塊。

「お前は、こんなところに、いちゃいけないんだ!」

 デバイスからの光が強まる。

『シーリング』

「グオォォオオアァァ!!」

 黒い塊の中心から青い菱形の宝石が、姿を現す。

 しかし、それは一瞬の事。

 黒い靄がテレビの逆再生みたいに、戻っていく。

「なっ!?」

 今度は茶色い髪の子が驚く番だった。

 

 元に戻った黒い塊は、光の帯とデバイスからの光を振り払う。

 バリンッという音を立て、拘束を外すと細長い鞭を力一杯振られる。

「うわあぁぁ!!」

 木々の隙間を縫うように、遠くへ吹き飛ばれる。

 物凄い音を立てて、何かが転がる音がする。

 お願い!私!目を覚まして!助けなきゃ!!

 

 私の願いが通じた訳じゃないだろうけど、黒い塊の動きが止まる。

 あんなに、容赦なく追撃してたのに、どうして?

 急に辺りをキョロキョロと見回す姿は、先ほどまでの凶悪さは感じない。まるで、天敵に狙われた野生動物みたいだ。

 黒い塊は、黒い靄を菱形の宝石の中に仕舞い込み、池に飛び込んでいった。

 

 茶色い髪の子は、傷付いた体を無理に起こそうとしていた。

「ダメだ…。待ってくれ。……らないと」

 力尽きたように、そのまま倒れると、光に包まれフェレット?に変わった。

 え!?嘘!?

 デバイスは力を失ったように、地面に落ちる。

 

 私は急に視界が暗くなり、何も分からなくなった。

 

 

              :なのは

 

「変な夢見た…」

 私は朝日と共に起き上がる。

 少しづつ目が覚めてくる。

「って!!夢じゃないよ!!!」

 私は急いで、携帯電話を手に取ると、登録しているナンバーを呼び出す。

 コール音が、もどかしい。早く出て!

『はぃ。飛鷹』

「飛鷹君!?なのはだけど!昨日の夢見た!?」

『夢?』

 もしかして、見てない!?

 私は昨日見た夢の話をした。

 飛鷹君は黙って話を聞いているみたいだけど、反応は何となく鈍い。

「飛鷹君!聞いてる!?」

『ああ、それ、森林公園なんだよな?俺さ、魔力反応があったから、昨日の夜森林公園行ったぜ。傷付いたフェレットも黒い塊もいなかった』

 え!?ホントに!?

「じゃあ、夢だったって事?」

『待て待て、魔力反応があったって言ったろ。なのはが言うんだから事実だろ』

 それに、公園内はかなり壊されていたようだ。

 でも、なんか信じて貰えて嬉しい。

『一応、リスティ刑事には、親父を通じて伝えて貰うよ』

 追加で情報も入れておく、って飛鷹君は言った。

 飛鷹君は、魔法の事を両親に打ち明けたみたい。二人とも納得して貰ったみたい。でも、なんか複雑そうな顔してたけど、どうしてかな?

 

 結局、朝の訓練は気になるから、森林公園でやる事になった。

 いつもは、ランニングしながら、海鳴臨海公園を見下ろせる丘まで行くんだけどね。

 

 飛鷹君(ともう一人の子)に助けられた後、すずかちゃんのうちでの話し合いの結果、私は本格的に魔法使いとしての訓練を飛鷹君に付けて貰える事になりました。正確には魔導士っていうらしいんだけど。

 当初はうちの道場でやる事を考えていたんだけど、飛鷹君が狭いし、私の魔力制御の失敗で吹き飛んだら、不味いって言って却下されたの。

 流石のお父さん達も、渋々納得したみたい。

 

 飛鷹君とは森林公園の入り口で待ち合わせている。

 私は、身支度を整えて、ジャージに着替えて出発する。

 

 

               :飛鷹

 

 なのはからの話で原作に突入したとみるべきだろう。

 でも、聞いた話だと、原作より思念体は過激になっているようだ。まあ、俺とか()()()()()()とかのバグキャラがいるんだから、このくらいの変化は予想出来るけどな。

 しかし、大きな問題が存在している。

 

 ()()()()()()()()()

 

 大抵のオリ主って、なのはと同じ夢を見る事で、原作開始を覚るけど、俺見てないよ!もうオリ主なんてもんに拘ってないけど、こういう差異って怖いぞ。どう変化したのやら…。まあ、出来る事をやっていくしか、ないんだけどな。

 

 なのはが、やっぱり森林公園での事が気になるそうなので、今日の訓練は、森林公園に行く事になった。

 別に、俺の事を信用してない訳じゃないだろうけど。

 

「飛鷹く~ん!おはよう!」

 なのはの声が聞こえてくる。

「おはようさん」

 俺もなのはに挨拶を返す。

 なのはは急いでやってきたようだ。何時もより、息が切れている。

 

 最初に念の為、森林公園を広域サーチを掛け、更に念を入れてランニングしながら探す。

 そこかしこに警官の姿が見える。リスティ刑事流石だな。もう、動いてくれたか。

 やっぱり、フェレットの姿は、見付ける事が出来なかった。

「無事に、ここを離れたのかな…」

 なのははまだ少し心配そうだが、納得出来たようだ。

 今朝、なのはに言ったように、俺は魔力感知した段階で、現場に急行している。が、間に合わなかったのか、発見出来なかった。

 

「あの…。もしかして、怒ってたりする?」

 並んで走っている時に、不意になのはから話し掛けられた。

「え?なんで?」

「なんか、難しい顔してるから」

 どうも、機嫌が悪く映ってしまったらしい。いや、信用して貰ってる事は知ってるし、分かってるよ。大丈夫だよ。怒ってないから。

「違う違う、俺、間に合わなかったし、夢も見なかったなってね」

「……」

 なのはも、どう言っていいか考えているようだ。

『なのは嬢が夢を見たのは、可能性として、なのは嬢がまだ魔法の制御が未熟だから』

 いきなり会話に参加するスフォルテンド。

 どういう事だ?

「お前、原因分かるのか」

『そりゃ、分かるだろ?』

 当然のように言う、俺のロクでもない相棒。

『まだ、幼く未熟な奴は、無意識にそういう魔力波長を受信しちまうんだよ。加えて、なのは嬢の場合、もう一つ可能性がある』

 俺が夢を見なかったのは、見た目は子供、頭脳は大人を地でいってるからなのか?

『なのは嬢は、たった二週間程度で、ミッドにいる並の魔導士より、魔力制御が出来てる。幼さだけなら、受信する可能性は低い。つまり、一番デカい原因は、なのは嬢は他人の魔力と同調出来るってものだ』

「同調?」

 なのはの頭にも、俺の頭にもクエッションマークが、幾つも浮かんでいる。

『幽霊が見えるメカニズムを説明するのに、ラジオのチューナーを例に挙げられるだろ?つまり、なのは嬢はどんな周波数でも、合わせられるチューナーって事だ。同調する事で、魔力をより詳しいレベルで感じられるんだよ』

 それって、今回以外で役立つ事があるのか?

『なのは嬢が収束砲を使えば、相手の制御を離れた魔力でも、再利用して使う事が出来るだろう』

 え?それって、原作より威力が上がるって事っスカ。ただでさえ、殺し技最終形態が。

「その、なんとか砲は兎も角、つまり、茶色い髪の子は私に、何かメッセージを送った訳じゃなくて、私が勝手に同調?して見ただけって事かな?」

『その理解でいい』

 魔力を持ってる主人公に助けてメッセージでも送った、とか思ってたよ俺。

『他にもエリアサーチの精度が、他の魔導士の比じゃなくなるな。なにしろ、専門機器も使わずに、人物特定が出来るんだからな』

 ああ!アッサリ俺の正体がバレたのは、そういう事だったのか。

 ドラゴンボールの気じゃあるまいし、魔力では人物の特定は個人では出来ない。次元航行船のセンサーでもない限りは、魔力反応を感じる程度なのだ。流石主人公ですね。

 

 暫く走ると、リスティ刑事がいるのが、見えてきた。

「チィース」

「おはようございます。リスティさん」

 リスティ刑事は声で振り返る。

「君達か、飛鷹君、挨拶はキチンとしたまえよ。なのは君を見習え」

 うるせぇよ。

「で?どうです?」

「菱形の宝石も、化け物も、フェレットも見当たらないね。破壊の痕跡がなきゃ、帰るところだよ」

 俺は一応確認をとる。

「ジュエルシードっていうらしいですけど。危険物ですから…」

「分かってるよ。制服警官に見付けても、直接触れるなと言ってある」

 遺失物扱いにもなっているので、交番に届けられても、警官が見付けても確保する体制を整えているそうだ。

「それでも、確実じゃないですけどね」

 リスティ刑事は眉間に皺を寄せる。

「厄介だね。魔法って奴は」

「なので、基本回収は俺がやります」

()()()()()()と一緒にかい?」

「あんまり、期待出来ないと思いますよ」

 奴はロボットが出てきた時、手を貸さなかった。なのは達を助けに来た筈なのにである。

 安易に味方と判断する訳にはいかない。事によると、あのロボット暴走は奴の差し金、という事もあるかもしれない。

「それが、確実かな」

 俺は無言で頷いた。

「それはそうと、打ち明けたそうだね」

「ええ、まあ…」

 俺は曖昧に濁した。

 流石に転生者である事まで、明かさなかったけど。

 打ち明けた時、やけにアッサリと納得してくれて、拍子抜けした。

 俺の苦悩って一体。

「彼も喜んでたよ」

 あれ?そうだったの?表情に一切の変化がなかったけど。

「不思議そうな顔をしているね。彼はこの街でベテランの刑事だよ。彼も慣れてる」

 そもそも、海鳴署ではFの符丁で呼んでいる事案があるらしい。不思議のF、HGSの羽のF、由来はそんなところらしい。俺もそういうカテゴリー扱いされるそうだ。

 

 この警官の数では、魔力制御訓練をやる訳にはいかないので、体力作りのみとなった。

 引き続き、放課後に捜索範囲を広げて、探す事に決めた。

 

 

               :美海

 

 私は、通学路からかなり外れた河川敷に来ている。

 ここで、ユーノ君とお別れする予定である。

 本当はあんな映像バラ撒いた事に、文句を言うつもりだったのだが…。

 

 なんでも、私が夢を見たのは、ユーノ君の所為ではなかったらしい。

 リニスから説明を聞いたが、ベルカ時代そんな事なかったけどな。

 残る原因は、私が魔力と同調したというもの、なにしろ本人が枕付近にいた訳だからね。ってそれでも、おかしくない?今まで一度もないんだよ?

「多分ですけど、美海がミッド式魔法を習得した事も原因だと思いますよ?」

 リニス談である。

 ミッド式は脳内に魔法領域と魔法演算領域の二つがある。ベルカ式は魔法演算領域のみである。魔法領域を作成した事で、魔力をより深く感知出来るようになったのでは?という事らしい。

 魔法領域は、目に見えない本棚とでも考えればいいと思う。その分だけ、記憶領域に余裕が出来て、新しい魔法を入れられるという訳だ。外部記憶装置の方がいいかな?

 魔法領域が必要になる理由は、演算領域では幾つもの魔法を併用しながら戦うミッド式には、不向きになってきた為のようだ。時代が進むにつれ、必要とする魔法が増えているそうだ。だがら、魔法領域に魔法を格納し、演算領域で規模・威力計算を行う仕組みが、出来上がったようである。

 ベルカ式では、記憶領域に魔法を格納し、演算領域で計算を行う。

 私は記憶領域だけで、事足りるけどね。ミッド式って無駄な術式多いからじゃないの?でも魔法領域もあれば、もっと便利ですけどね(爆)。

 

 河川敷を選んだのは、聖祥に通う子が通らないからだ。それに、死角になる遮蔽物もあるしね。

 私は、騎士甲冑を纏うと、ユーノ君が入ったケージを開けて、ユーノ君を出して起こしてやる。

 リニスも人形態になって貰う。

 うっかり猫形態の時に鉢合わせして、バレるなんて御免被りたい。

 

 化成体作成の要領で、鴉に監視させたけど、フェイトちゃん達も、早速動き出したみたいだし。

 

 流石にユーノ君には、ちょっと申し訳ないよ。

 

 

               :ユーノ

 

 僕は軽く体を揺すられる感覚で目を覚ました。

 そう言えば、結局眠らされたんだっけ。

 僕はフェレットのまま、二人に顔を向けた。

「おはようございます?」

「うん、おはよう」

「おはようございます」

 うん、朝で間違いないようだ。恐らく、一夜明けたところだろう。

 黒いバリアジャケットの人も使い魔(恐らく)の人も、なんだか雰囲気が暗い。

「実はね、協力するって言ったけど、出来なくなったんだ」

 黒いバリアジャケットの人が、申し訳なさそうに言った。

 使い魔の人も辛そうに頭を下げた。

「どういう事でしょうか?」

 責めるつもりは毛頭ないけど、事情を聞いておきたかった。

「私達の目的の人物が、どういう訳か、この世界に現れたんだよ」

 そう、彼女達は()()()()()()()()()()()()と言った。

「もしかして、その人物はジュエルシードを?」

 黒いバリアジャケットの人は苦々しく頷いた。

「鴉を使って監視させたんだけどね。件の人物は昨夜の内に一つ確保したよ」

 鴉!?いや、今はジュエルシードだ。

 まさか、次元犯罪者!?だとすると不味い。早く取り返さないと。

「これだけは、教えてください。その人物は次元犯罪者ですか?」

「違います!!」

 使い魔の人が、すごい剣幕で否定する。

「私達は、もし犯罪行為をするようなら、止めるつもりだけど、話によっては一時協力するかもしれない。全てが終わったら君に返す、なんて安請け合いは出来ない。恨み言なら聞くし、恨んでくれてもいい。ただし、恨むなら、私だけにして欲しい」

「っ…マスター!!」

 僕と目線を合わせるように、しゃがみ込み、揺らぎのない目が僕をジッと見つめている。

 この人には覚悟がある。自分の目的を果たす為なら、他人に恨まれても、それで傷付けられたとしても、やり遂げるだろう。

「分かりました。残念です」

 僕もしっかり相手の目を見て答えた。

「裏切っといて、と思うかもしれないけど、君は帰った方がいいと思うよ。君は戦闘に向いてない」

 心配してくれているのは、よく分かった。だけど、僕もこのまま帰れない。

「ありがとうございます」

 だから、せめてお礼を言った。心を込めて。

「じゃあ、これ」

 黒いバリアジャケットの人は、何かを放って寄こす。

 僕は、反射的にキャッチする。フェレットでは抱き締めるような格好になる。

 一度、地面に置き見てみると、ジュエルシードだった。

「いいんですか?」

「私なりのケジメだと思って貰えばいいよ。私は必要なら他を確保するから」

 それは彼女達は語外に、いつでも集める事が出来ると言っている。

 思念体とは戦闘になった上で、言っている筈だ。

 彼女は、会ったその日に言っていた。()()()()()()()()()()()

「敵対するような事に、ならない事を祈ります」

 僕は本心から告げた。

「うん。それじゃあ、気を付けて」

 そう言って、彼女達は去って行った。

 

 僕は覚悟が足りていないのかもしれない。僕に戦闘は向いてない。認めるしかない。この世界に彼女達みたいな人が他にいるなら、協力をお願いしよう。

 

 例え、それがどんなに勝手でも…。僕が始めた事なんだから。

 

 

               :飛鷹

 

 放課後。

 俺は安達達に、帰る事を告げると扉に体を向けた途端に、なのはに腕を掴まれる。

「は!?」

「飛鷹君!帰ろう!!」

 ズルズル引きずられて行く。

 俺は、安達達の方を振り返ると、全員で合掌していた。縁起でもないから止めろよ!!

「おかしい人を亡くしてしまった」

 何故、そのネタを知ってる!?いや、おかしくないか?

 気が付けば、俺は腕を掴まれたまま、校門を出ていた。

 

 

               :アルフ

 

 アタシはご主人様のフェイトと一緒に97管理外世界に来ている。

 勿論、あの鬼婆の頼みでだ。

 フェイトは、この世界に来てから、ほんの少しだけ明るい。

 

『ジュエルシードさえあれば、ようやく終わるのよ』

 

 鬼婆はそう言っていた。

 フェイトは、鬼婆のやっている事が終わり、元の優しい母親に戻ると思っているようだけど…。

 アタシはそうは思えないけどね。フェイトの喜びに水を差したくなくて、言ってないけどね。

 アイツからは、愛情の匂いがしないんだよ。

 

「アルフ。そっちはどう?」

 私の目の前に、ウィンドウが開きフェイトが映る。

「こっちは一つ見付けたよ!」

「私も一つ。昨日のと合わせると、もう三つ集まった」

 アタシは笑顔を向ける。ご主人様の為に。

 

「早く、届けてあげるんだ!」

 

 フェイトの嬉しそうな声に、アタシは心の中で不安を感じた。

 




 飛鷹が夢を見なかったのは、純戦闘魔導士としての側面が、強調された為です。
 美海が夢を見たのは、魔法の才能がMAX状態であるからです。
 なのはちゃんと同等に、魔力を感知する事が出来ます。
 因みに、フェイトちゃんは寝てません。テンションが上がって、そのまま探し続けました。

 更に封印の呪文ですが、輪が環になっていますが、ワザとです。

 いつになったら、原作1話が終了するのか?
 多分、1話が終了したら、サクサク進むと思います!(大風呂敷)

 我慢して、付き合ってやってください。


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第12話 心と覚悟

 やはり、客観的にチェック出来るまで、待つのが正解だったようです。
 焦り過ぎに、反省しております。

 これからは、これ以上に投稿の間隔が伸びるかもしれません。


              :ユーノ

 

 河川敷で二人と別れ、僕は一人でジュエルシードを探す。

 協力者は見付けたいが、全体に向けてメッセージを送るのは、まだ早いと思う。

 彼女たちの目的の人物が、聞いてしまう恐れもあるし。

 幸いというか、彼女のお陰で魔力も回復しているし、傷も治りよく寝たので、頭もスッキリしている。

 

 僕は返してもらったレイジングハートを使い、広域サーチを行う。

 フェレットではなく、人の姿で歩きながらジュエルシードを探す。

 服はバリアジャケットを、この世界で違和感がないものに変える。

 

 しかし、おかしな事に一つも見付からない。

 幾らなんでもおかしくないかな。

 未発動のジュエルシードなら、遠い距離なら感知出来ない可能性があるけど。

 でも、僕は街中を歩き回っている。こんなにも見付からないものなんだろうか?

 それとも、彼女達の目的の人物か彼女達自身が、既に集めた後なのかな?

 

 日が大分傾いてきた。

 薄暗い中、歩いていた時だった。

『注意して下さい!!』

 僕も気付いた。

 何かが接近してくる。

『思念体です!!』

 向こうから近付いてきた!?

 僕は、周囲に被害が飛び火しないように、すぐに結界を張った。

 

 

              :飛鷹

 

 夕暮れ時になり、かなり日も傾いてきた。

 そろそろ、制服姿での捜索は、補導対象になりそうだ。

 リスティ刑事に話は通してあるけど、流石にね。

 ユーノの捜索が暗礁に乗り上げた為、ジュエルシード捜索を試みるも、失敗。

 なのはに広域サーチをやって貰う案もあったけど、意外にもスフォルテンドに反対にあった。

『仮免許を取ったばかりの人間に、F1のレーシングカーを与えて、都内を走り回ってこいって言ってるも同じ』

 とか言ってた。ミシェル・ヴァ〇ヨンじゃあるまいし、無理だろと納得。

 ん?なんか違わないか?

 俺も把握してなかったけど、スフォルテンドは俺用にチューンアップされていて、他人には使い辛いらしい。 こんなところで、俺ってば転生者なんだと実感するよ。

 という訳で、俺がサーチしたんだが、それがコテンコテン(ダメだった)。

 素直にジュエルシード発動を、感じ取った方が建設的かもな。

 

そんなこんなで、もう遅い為なのはを家に送っていく事になった。

「やっぱり、難しいね」

 なのはは落胆しているようだ。ほぼ、無駄足に近いからな。

「ま、地道にやっていくしかねぇだろ」

 俺は敢えて気軽にそう言った。

 それでも、成果がなかった訳じゃない。なのはが自分の魔力を薄く延ばして、サーチの真似事をやれるようになったのだ。まだ、サーチャーの形は取れないが、デバイスなしで自前の魔力操作だけで、やったにしては初心者として上出来だろう。

 

 そんな事を話しながら歩いていると、街灯が明かりを灯し出した。

 

 やべぇ。あの二人に殺されるかもしれん。誰かは語るまでもないだろう…。

 遅くまでデート、なんて取られかねないからな。小学生だぞ?ないだろ、普通。

 俺の冷や汗に、なのはは気付いていない。

 

 気を抜いていた罰か。

 突然、結界が張られたのだ。

「「!!」」

 二人同時に反応。流石にこれは、俺でも分かるからな。

「飛鷹君!」

「ああ!」

 一緒に走り出そうとするなのはを、俺は止めた。

 なのはは一瞬、キョトンとした顔して止まる。

「なのはは、このまま帰れ。送ってやれなくて悪いけど」

「え!?どうして!?」

 なのはは怒り気味だ。

「俺はロボット騒ぎの時に、ミスをした。お前を巻き込んじまった。…高町 なのはが普通の女の子でもよかったんだよな…。だけど、俺は安易に魔法をやっちまった」

 恥ずかしいから、あまり大きな声ではなかったが、ハッキリ伝えた。

 全くもって、黒歴史化してるよ。

 あの時、感触として、実は俺一人でも勝てたかもって思ってた。

 でも心のどこかで、どうせもうすぐ魔導士になるんだし、いいかって思ったんだ。

「飛鷹君…」

 訓練に付き合い、友達になって思う。

 俺はなのはを、キャラクターとしてしか、見れてないんじゃないのか。

 踏み台を、まだ脱してないんじゃないのかって。

 だから、今度は間違えないように、自分自身で出来る事をやると決めたんだ。

 態々原作通りに初心者を、巻き込む必要はないだろう。

 なのはは一人の人間なんだから。

 俺のミスに対する後悔を、なのはは分かってくれたのか黙っている。

「だからさ、頼む。俺一人でやらせてくれ」

 立ち尽くすなのはに背を向け、俺は走り出した。

 バリアジャケットを展開する。

 ここからが、俺のホントの戦いって事だ。

 

 

 結界は閉じ込める目的のもので、入り込むのは難しくなかった。

 そこで見付けた。

 ユーノ・スクライアを。ジュエルシード思念体を。

 

 ユーノはピンピンしていた。なのはの話じゃ原作以上の大怪我だったみたいだが。

 ユーノはバリアジャケット姿で、レイジングハートを構え、思念体と対峙している。

 思念体は原作通り、黒い塊に顔が付いてる奴だ。

 

(ジャイ)!!」

 俺はすぐさまユーノを飛び越えて、思念体を斬り付けた。

「グオォ!?」

 纏う魔力ごと斬られた事に驚いたみたいだな。

 だが、みるみる斬られた部分が、復元していく。そして、体が一瞬膨らんだかと思ったら、黒い砲弾を大量に放出する。

 回避すると、ユーノが避けきれねぇ

「ディフレイド!!」

 俺は左手を前に突き出し、魔法のシールドを展開する。

 これは、物理的な攻撃を防ぐだけでなく、炎の熱や冷気なども遮断する優れモノだ。

 凄い音を立てて、砲弾が盾にブチ当たる。

『油断するな!!』

 スフォルテンドが、いつになく真面目な声で注意を促した。

 盾に弾かれた砲弾、障害物にめり込んだ砲弾が、意思を持つように、俺とユーノを襲う。

『ホーミングだ!!』

「見れば、分かるって!!」

 盾で防げるものもあるが、幾つか盾を迂回し、俺とユーノに砲弾が迫る。

「なろ!!」

 俺はユーノを引き倒し、地面に伏せさせると、盾でユーノを護りつつ、剣で砲弾を斬り落とす。

「海波斬・漣!!」

 これは、アバン流刀殺法・海の技。スピードを重視した斬撃を放ち、炎などの普通は斬れないものを斬る事が出来る技で、俺はこれが連撃出来るようした。それが、漣である。これは原作にないものだ。ただの連撃だけどな。

 衝撃波の剣閃が縦横無尽に走り抜ける。

「グルル!!」

 自分の身体を縮めたり、へこませたりしながら、思念体も攻撃を幾らか躱したが、無傷とはいかない。

 体が幾つか黒い靄になって切り裂かれていく。

「グオォォ!!」

 思念体が、まだ無事な砲弾を操りながら、今度は触手を伸ばし鞭のように振るう。

 俺は、シールドバッシュの要領で、触手を跳ね飛ばす。

「マナバレット・バラージ!!」

 これは純正ミッド式魔法で、なのはのアクセルシューターみたいなもんだ。

 残った砲弾を魔力弾で打ち抜き、思念体を包み込むように打ち込む。

 

 直撃寸前、()()()()()()()()()()

 細かく分かれたおかげで、思念体は三つとも全弾直撃を避けている。

「しつこい!!」

 いっその事、ヴォルテックスで片を付けるか?

「ああ!逃げます!!」

 ここまで、目まぐるしい戦闘で、口を挿めなかったユーノが初めて喋る。

 思念体はいっそ清々しいほど、逃げに入った。

 三方向に別れ、逃げ出す。

 劇場版の方の流れじゃねぇか、これ!!って事はアイツ、三つくらいジュエルシード取り込んでるのか!?

 

 その時、逃げ道を塞ぐようにピンク色の光が思念体三体を打ち落とす。

「な!?」

 思念体の前に立ちはだかったのは、なのはだった。

「どうして、来た!!」

 俺はなのはに厳しく問い質す。

「違うよ!!飛鷹君!!」

 なのはは決然と魔法を得た時のように、迷いがない目をしていた。

「これは、私自身が望んだ事…。飛鷹君、あの時に言ったよね?そう在りたかったからだって!!」

 

 

 それは、すずかの屋敷で盟友になった時、士郎さんに訊かれた事だった。

「君は、どうしてそこまで強くなろうと思ったんだい?」

 士郎さんはジッと俺も見詰めてそう言った。

「ほらっ、俺、男じゃないですか。憧れみたいなもんで、大した理由じゃないですよ」

 俺はそう答えたが、士郎さんは納得しなかった。

「君には、なのはの魔法の訓練をして貰うんだ。君の強さは、生半な憧れで手に入るものじゃないだろう。誤魔化さないでほしい」

 厳しいね。

 その時に答えたのが。

「ホントに大した理由じゃないんですけどね。…そう在りたかったからですよ」

 だった。

 

 

 俺はヒーローに憧れた。漫画やアニメの世界にしかいなかったけど。

 絶対的強者が存在する二次小説にハマった。

 そして、アニメでは高町 なのははヒーロー、いや、ヒロインだった。まさに、絵に描いたような存在だ。

 どんな大敗を喫しようと、立ち上がり勝利を掴む。護るべき人をキッチリ護り抜く。

 だから、俺はなのは贔屓だった。

 特典さえあれば、俺もヒーローになれると思っていた。二次小説のオリ主みたいに。

 でも、そんなの間違いだった。俺にはあの子みたいな輝きはない。

 問題は変えられないもの。

 

 心だ。

 

「私は嬉しかったの!不謹慎だけど、私も誰かを護れる力があったんだって!

 もっと小さい頃は、誰かを失う事が怖くて、私は震えるだけだった。

 だから、少しでも強くなりたいって思った。

 でも、武術をどんなに頑張っても、多分私はお父さんやお兄ちゃん、お姉ちゃんに敵わない。

 飛鷹君が私にもあるって言ってくれたの!護る為の力が、理不尽を打ち抜く力が!

 

 だから!私にも護らせて!」

 

 どんなに才能を貰おうが、この子の心には敵わない。

 全く、幾つだ俺は。俺の勝手な感傷なんざ、こんなに簡単に打ち抜いてくれる。参ったね。

 俺もいい加減学習能力がないらしい。

 一人の人間として見ようって決めたのに、今度は勝手にあの子の行く道を、決めようとしてたらしい。

 

「そうだな。俺の詰まんねぇ意地じゃないよな、大切なのは。

 

 じゃあ、一緒に大切な人達を護れる自分になろうぜ!」

 

 ヒーローになれない俺でも、この子の背中ぐらい、護れる自分でありたいと思う。

 

「うん!!」

 

 

              :なのは

 

「なのはは、このまま帰れ。送ってやれなくて悪いけど」

 私達は手掛かりを見付けた。

 飛鷹君は、危険が迫っているのに、突然そんな事を言った。

「え!?どうして!?」

 何で、そんなこと言うの?

「俺はロボット騒ぎの時に、ミスをした。お前を巻き込んじまった。…高町 なのはが普通の女の子でもよかったんだよな…。だけど、俺は安易に魔法をやっちまった」

 あの時の事?でもそれは、私が無理を言ったからで、飛鷹君に悪い事なんてない。

 今まで、飛鷹君がそういう事を、気にしていた素振りはなかったけど…。

 でも、飛鷹君は後悔していたんだ。

 飛鷹君は、普段の態度では分からないけど、自分の心のホントの部分は話さない子だと、友達になって分かった。

「飛鷹君…」

 私には、分からない。踏み込めない部分。

「だからさ、頼む。俺一人でやらせてくれ」

 そう言って、飛鷹君は物凄いスピードで走り去っていった。

 

 私は立ったまま、動けないでいた。

 

 私はもっと小さい頃、お父さんがお仕事で大怪我をした。

 小さかった私は、何も出来なくて、家族はみんな忙しくなった。

 私は一人でいる事が多くなった。

 家族と一緒でも、みんな疲れていて、私は何も言えなかった。我儘なんて言えない。

 みんなお父さんが心配だった。死んじゃうんじゃないかって。

 私は怖かった。怖くて、様子を見に来てくれたおばあちゃんに、しがみ付いて震えていた。

 結果的に、お父さんは助かったけど。私は大切な人を失う恐怖を、初めて感じた。

 それを振り払うように、私は武術を始めた。お兄ちゃん達がやっていたっていうのもあるけど。

 誰かを助けられる、護れるようになりたかった。

 でも、現実は上手くいかない。武術は護身の域を出なかった。本格的に教わっても、お父さん達のようにはなれないと感じていた。無駄だなんて思わない。思わないけど…行く先が見えなくなっていた。

 そんな時だった。

「君には魔法の才能がある」

 私にも、誰かを助けてあげられる力がある。嬉しかった。

 私自身も救われた気がした。

 

 このまま、帰っていいの?このまま帰ったら、私は飛鷹君の友達じゃなくなるじゃないの?

 ただ震えていただけの自分と、何が違うの?

 

 これは、私自身が選んだ事。

 

 目指すべきは、私の身体能力を強化した魔法。魔法の力がある今なら分かる。あの魔法は美しかった。体に負担を掛けないように、気を使った優しい魔法だった。

 

 辿り着くべきは、躊躇なく誰かを助けに行ける実力と心。

 

「ごめん。飛鷹君。帰れないよ」

 

 私は結界に向かって、全力で走った。

 強化魔法は一度目にしてる。それを真似てみる。

 似ても似つかない不格好な魔法。でも、普通に走るより遥かに早く駆け抜けていく。

 結界の境界が見える。

 お願い!通して!

 祈るように、目をギュッと閉じて境界を走り抜ける。

 違和感があって、目を開けるといつもと同じ風景なのに、どこか違う景色が広がっている。

 人がいない。街がまるで水の中に沈んだみたい。

 

 魔法による戦闘は、もう開始していた。

 攻守は目まぐるしく変わっている。

 下手な手出しは、飛鷹君や茶色い髪の子を危険に晒す。

 

『なのはは砲撃型だからな。距離を取って、隙を見て砲撃するのが基本だな』

 

 飛鷹君との訓練での会話が頭に浮かぶ。

 後ろから、支援砲撃すると、今の私だと誤射するかもしれない。

 なるべく、被害が出なさそうな場所…。

 

 私は、飛鷹君を追い越しすようなコースで走った。

 側面から砲撃する。

 そのつもりで走っていると、黒い塊が飛鷹君の攻撃の直撃を回避し、三つに別れて逃げていこうとする。

 逃げちゃう!

 瞬間的に閃く。ロケットだ。

 私は魔力を練り上げ、一気に自分の斜め下に叩き付ける。

 私の身体が一気に吹き飛んでいく。

「ふぇぇぇ~!!」

 これは怖いの!!

 なんとか空中で体勢を整え、魔力で体を護り、着地する。着地すると言うより、落下したって言った方がいいけど。心臓がバクバク言っている。無茶だったかも…。

 でも、価値はあった。

 黒い塊三つ。視界に入っている。

 

『まずはイメージする事かな?』

 

 飛鷹君の声が浮かぶ。

 

 イメージ。あのロボットに撃った光を三つに分ける。

 魔力を練る。一点に集中して、三方向に同時に射撃する。

 外せない!!当たって!!

「ディバイ~ン、バスター!!」

 三つの光が三方向に同時に伸びていく。私は砲撃の反動で、後ろにひっくり返る。

 すぐに立ち上がると、見事に黒い塊に三つとも、無事に命中した。

「どうして、来た!!」

 飛鷹君の厳しい怒鳴り声が響く。

 でも、私も譲れないの!

 私は思っている事を、全て飛鷹君に叫んだ。飛鷹君の心に届くように。

 飛鷹君は顔を顰めた後、苦笑いで言った。

「じゃあ、一緒に大切な人達を護れる自分になろうぜ!」

 伝わった。今、多分私はホントに飛鷹君の友達になったんだ。

「うん!!」

 

 

 やっぱり、基本は大切だね。

 あのロボットの時は、立てなくなったのに、今はまだ余裕がある。

 飛鷹君が茶色い髪の子を抱えて、私の隣に立つ。

 黒い塊は私の攻撃で、墜ちたけど、同時に姿を隠してしまった。

 私が喋ってる間に…。ごめんなさい。

「大丈夫です。今のところ結界に反応がありません。結界内にいますよ」

「そいつは朗報だな」

 茶色い髪の子は、何かに気付いたように私に話し掛けてくる。

「あの、貴女はデバイスは持ってないんですか?」

「うん。先生が厳しくて、まだ要らないだろうって」

 茶色い髪の子は、考え込むように黙り込む。

 決心したように、私に言った。

「よかったら、これを使ってください」

 差し出されたのは、赤いビー玉みたいなデバイス。

 私は、飛鷹君に尋ねるような視線を送る。

「俺個人は、あまり勧めたくないけどな。なのは自身はどうしたい?」

「私は、今、必要だと思う」

 私自身の魔法は、かなり不格好で魔力がまだ少し拡散しているみたい。上手く収束出来ていない。

 今は実戦。デバイスの助けが必要だと思う。

 飛鷹君は外人の人みたいに、肩を竦めた。

 私は茶色い髪の子に向き直って言った。

「借りるね」

 でも、茶色い髪の子は真剣な表情で言った。

「いえ、差し上げます」

「「え(は)!?」」

 デバイスって、確か物凄く高いって言ってたよね?

 飛鷹君は言いたい事が分かったのか、頷いてくれる。

「その代わり、僕に協力して頂けませんか?勿論、危険な事です。断って頂いても構いません。

 でも、お願いします!僕に力を貸してください」

 茶色い髪の子の表情は必死だった。

「大切な事なんだね?」

 私は訊いた。

「はい…」

 私は飛鷹君を見ると、諦めたように頷いてくれた。

 私が決めた事に付き合ってくれるって事だよね?

「あんな危険な事が、他に起きるって事だよね?」

 茶色い髪の子が苦々しく頷く。

 なら、今回はこの子が結界を張ってくれたけど、次は間に合わないかもしれない。

 でも、人手が増えれば、被害が少なくなるかもしれない。

「分かったよ。後で事情を聞かせて?」

 茶色い髪の子が、驚いたように顔を上げる。

「ありがとうございます」

 涙交じりに、茶色い髪の子がお礼を言う。

 

 茶色い髪の子が、魔法陣を展開する。

「レイジングハート。新規使用者設定。魔力波長登録。バリアジャケットイメージ形成」

 レイジングハートが赤く輝くと、私の身体に光が当てられる。

『登録完了しました。よろしくお願いします、マイマスター』

「あっ、はい!お願いします」

 私は思わず頭を下げた。

「なのは。状況が状況だ。セットアップ急いどけ」

 飛鷹君の言葉に、私は頷いた。なんだか、ドキドキするな。

 私はレイジングハートを翳して叫ぶ。

 

「レイジングハート!セ~ト・アップ!!」

 

 ピンク色の魔力光が溢れ出す。

 バリアジャケットのデザインを考えたけど、いい考えが浮かばなかった。

 だから、聖祥の制服を参考にした。

 杖も飛鷹君が持っているファンタジー小説の、魔法使いが持っていたものをイメージする。

 

 光が収まり、目を開けると私は白い魔導士になっていた。

「デザイン、それにしたのか」

 飛鷹君が、反応の薄い言葉を言う。

 聖祥の制服が基本だから、馴染むよ。

 

「早速だが、あの黒い塊…」

「ジュエルシードの思念体です」

「その思念体を探さないとな」

 その言葉に反応するように、結界の一部が衝撃音と共に凄い光を放つ。

「って、探す必要はないみたいだな。結界はどれくらいもつ?」

「三つに別れたままなら、暫くは」

 飛鷹君は私達に振り返る。

「それじゃ、役割分担だ。前衛は俺、後衛はなのは、封印も担当してくれ。それで…?」

 茶色い髪の子が、自分の名前を言っていない事に気付く。

「僕の事はユーノって呼んでください」

 ユーノ君か。なんか女の子みたいで可愛い。

「じゃあ、ユーノは遊撃を頼む」

「遊撃、ですか」

 飛鷹君は、ユーノ君が攻撃魔法を使ってほしいと、勘違いしている事に気付き訂正する。

「危ない方を適時支援してくれ」

 ユーノ君は、勘違いした事が恥ずかしそうだ。

「はい、分かりました」

 

 

 まずは、飛鷹君が結界を破ろうとする思念体に、斬り付ける。

「海波斬!」

 思念体の身体が半分ほど、切り裂かれる。

「グゥォォォ!!」

 身体半分を一気に斬り飛ばされて、思念体は悲鳴のような咆哮を上げる。

 思念体は素早く振り返ると、反撃しようとする。

「ストラグルバインド!」

 そこにすかさずユーノ君が魔法で拘束する。

「なのは!今だ、封印!」

 飛鷹君の合図。

 レイジングハートが力を貸してくれる。私にも封印する事が出来る。

「封印するは、忌まわしき器!ジュエルシード、封…」

 最後まで言い終える前に、黒い影が二つ私に向かって飛んでくる。

『残りの思念体です』

 私は咄嗟に飛び退く。

 私がいた場所が、二つの爪痕を残す。

『アクセルフィン』

 私の足から、ピンク色の可愛い羽が現れる。

 私の身体は風に乗るように、空中に舞い上がり、思念体の追撃を回避する。

 うわっ!デバイスって、こんな事までサポートしてくれるんだ。

 便利過ぎる!飛鷹君がデバイスが早いって言ってた意味を理解した。

 こんな至れり尽くせりじゃ、魔法は上達しないよね。

「ハッ!探す手間を省いてくれて、ありがとよ!」

 一体は、まだユーノ君が拘束している。

 飛鷹君は残り二体のうち片方に狙い、剣を振るう。

 斬るのではなく、剣の腹で叩き付けて、もう一方の移動先を予測し、打ち出す。

 見事に命中し、思念体が呻き声を上げる。

「魔力には、こういう使い方もあるんだぜ!」

 飛鷹君のシルバーの魔力が、竜巻のように二体を巻き込む。

「ユーノ!そっちも纏めるぞ」

「え!?あっ、はい!」

 残り一体も、飛鷹君の魔力の竜巻に飲まれる。

 

「「「グオォォォォ!!」」」

 

 思念体が脱出しようとしているみたいだが、それを一切許さない。

「なのは!封印!!」

 私は頷いて、集中する。

「レイジングハート!」

『準備完了しています!カノンモード』

 杖の形状が変わる。まるで、大砲の砲口みたい。

 練り上げられた魔力が、術式により収束していく。

「ジュエルシード、封印!!」

 杖から凶暴なまでの魔力の奔流が、思念体に殺到する。

 撃った瞬間に、やはり砲撃の反動で後ろにひっくり返ってしまう。

 三体に直撃し、光が三つ纏めて一つに圧縮されるように、黒い塊が消えていく。

「「「グァァァ!!」」」

 断末魔の悲鳴のように、辺りに思念体の咆哮が響いた。

 

 バッシュ!という音を立てて、黒い塊は消失した。

 代わりに、その空間には青い菱形の宝石が浮かんでいた。

 

「やったな、なのは」

 飛鷹君が私の手を取って、立たせてくれる。

「うん!!」

 私達は二人で、予め決めてあったみたいにハイタッチした。

 

 戦いが終わり、ジュエルシードを回収しようと、ジュエルシードに目を向けた時だった。

『御命…し……』

 宝石から何か、黒いものが滲んで消えた。

 ゾッとするような声だった。何を言ってたの?

 

 いつの間にか、達成感なんて吹き飛んでいた。

 何か得体のしれない悪寒が、少しの間止まらなかった。

 

 こうして、私達はジュエルシードを、レイジングハートに回収した。

 

 

              :飛鷹

 

 回収したジュエルシードは、たったの一つだった。

 どういう事だ?三つ取り込んだから、三つに別れたんじゃないのか?

 それに、なのはの聞いたっていう声。

 ここでも、嫌な感じだぜ。

 

 俺達は、近所の公園に場所を移している。

 そして、ユーノから事情を聞いた。

 ほぼほぼ原作通りといった感じだな。

 ただ一点、違う点があった。

 原作では輸送中の事故って言ってたが、ユーノはハッキリと襲撃に遭ったと言っていた。

 

 それと、ユーノは転生者と思しき人物に、助けられていたらしい。

 黒いバリアジャケットを纏った人物で、顔は隠していたらしい。それと使い魔を一人。

 どうも、特徴を聞くとリニスっぽい。どういう経緯で、そうなったんだ?

 おまけに、敵対するかも発言をしていたらしい。全く、何考えてるんだ。

 あと、なのはは凄い食いつきだったが、敵対するかもの下りで萎れていた。

 

 因みに、リスティ刑事には親父経由で報告済みだ。

 

「危険な事は、十分承知の上で、改めて協力してくれませんか」

 必死に頭を下げて、頼み込まれて俺もユーノに協力する事にした。

 

 それにしても、俺を追ってくる時の話を聞いたけど、なのはの無謀な行動には肝が冷えるわ!

 何やってんの!?死ぬの!?

 勿論、厳重に注意したけどな。

 なのはは萎れてたけど、猛省して貰わないと困る。

 あのスフォルテンドすら、呆れて何も言えなかったくらいだ。

 いつもは皮肉くらい言うんだけどな。

 

 ユーノは俺の家で預かる事になった。

 何故かって?俺はユーノが処刑されるところなんて、見たくないからだよ。

 なのはは、うちで預かってもいいなんて言ってたけどな!

「ユーノは仮にも男だぞ。なのはの家は不味いだろ」

 そう言って納得して貰った。

 ユーノは、仮にもってなんだって怒ってたけどな。

 親父に許可を求めたら、OKしてくれた。

 

 こうして、俺はジュエルシード回収に、P・T事件に脚を突っ込む事になった。

 

 

              :???

 

 彼の目覚めはよろしくなかったらしいね。

 随分、アッサリと撤退してしまった。

「お知り合いは、どうでした?」

「寝惚けているようだったよ。まあ、彼も流石に目が覚めたと思うけどね」

 まあ、何百年も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()仕様がないだろう。

 

 本番はここからだ。

 じっくり観察させてもらうよ。

 

 




 飛鷹の疾と海波斬の違いは、疾は魔力のシールドも切り裂く事が出来るが
 海波斬は無理という違いがあります。

 さて、第一話終了…ではありません。
 賢明な皆さんなら、疑問を感じたのではないかと思います。
 美海やフェイトは何やってたの?と。
 次回はこの回の裏サイド的な話になります。


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第13話 想いと交渉

 前回、お伝えした通りの裏側回です。
 楽しんで頂けたらと思います。


              :美海

 

 放課後。

 私はリニスと別れて、ジュエルシードを探索する。

 万が一にも、リニスが単独でフェイトちゃんと、接触する事のないよう注意しないといけない。

 フェイトちゃんは、相変わらず化成体が監視してるから、大丈夫だと思うけどね。

 サーチでは発見出来なかった為、精霊の眼(エレメンタルサイト)を使用した。

 そして、分かった事は、ジュエルシードの幾つかは、隠蔽の魔法が掛かっているという事だ。

 全く、誰が掛けたのかね。

 

 私は、バリアジャケット姿で山中を歩いていた。

 右側には海が臨める。生憎と散策しにきた訳じゃないけど。

 そして、茂みに光るものを発見した。

 近付くと、光が爆発する。

「こんな事だと思ったよ」

 私はそう呟く。

 光が収まると、巨大な怪鳥が姿を現す。

 元は雀か何かかな?取り込まれた鳥よ、災難だったね。

 

「キシャァァァ!!」

 怪鳥は私を見て、威嚇するように鳴く。

 怪鳥の喉が膨れ上がり、嘴から炎が吐かれる。

 私は障壁を展開する。

 炎が私に迫るが、私の前に展開された障壁に当たった瞬間に、炎が怪鳥を舐める。

 私の使用した魔法は、反射障壁(リフレクター)である。運動ベクトルを反転させる魔法だ。

 自分の吐いた炎で、焼き鳥になるほど間抜けじゃないよね。

 

 私は魔力で足場を形成し、怪鳥に向けて駆けていく。

 怪鳥が炎を振り払う頃には、私は怪鳥の目の前に迫っている。

 

 私の身体が魔力光で薄っすらと包まれる。

 

 怪鳥は私を鋭い爪で引き裂こうとするが、私の腕に阻まれる。

 私はそのまま鳥の胸に、魔力が籠った掌底を打ち込む。

 その勢いを殺さずに、舞うように拳・掌底・蹴りを無数に叩き込んでいく。

 

 怪鳥もただ攻撃を受け続けた訳じゃない。

 ただ、炎を吐こうとした瞬間嘴の下を蹴り上げ、翼で叩こうとするのを弾き、爪の攻撃を避けていた為、攻撃が悉く無効化されていただけだ。

 堪らず怪鳥は逃げようとするが、赤い糸状のものが巻き付き、墜落する。

 

 再現技術・空斬糸である。

 

 怪鳥が必死にもがいて空斬糸を外そうとするが、ビクともしない。

 私は怪鳥の上に、落下エネルギーを利用し一撃を見舞う。

「封印」

 精霊の眼(エレメンタルサイト)でジュエルシードを確認し、直接封印処理を実行したのだ。

 怪鳥の姿が消え、鳩が慌てて飛び立っていった。雀じゃなくて鳩だったか。

 ごめんね。

 封印したジュエルシードを血の中に収納する。

 

『美海、こっちはもうありませんでした』

 リニスから念話が届く。

 誰かに先を越されたか。

『まあ、仕様がないよ。こっちは一個確保。取り敢えず合流しよう』

 リニスを労ってから、予め決めてあった合流地点に向かう。

 

 

 合流したリニスは、いつもの勢いがなかった。

 そりゃ、フェイトちゃんが次元犯罪者紛いの事やってりゃ、元先生としては複雑だろう。

 しかも、元・主が元凶だもんね。

「リニス。思い悩むのは仕様がないけど、どう話をもってくか決めなきゃ不味いよ」

「そうですね」

 リニスは俯いて、言葉少なく応じる。

「リニスが策なしなら、私が取り敢えずの行動方針を出すけど」

 私の言葉に、リニスが勢いよく顔を上げる。

「どうするんです!?」

 私に詰め寄ってくる。少し顔を動かせば、キス出来るよ。

 私は近くなったリニスの顔を、手で押し返す。

 リニスはその時になって、近過ぎた事に気付いたのか、顔を赤らめた。

「まず、フェイトちゃんに、最初のうちは説得しない」

「え?どうしてです?」

「言っても無駄だから」

 私のにべもないセリフに、鼻白むリニス。

「フェイトちゃんはリニスの話を聞いてると、プレシアに未だ敬意を持ってるし、自分の事は二の次にして愛情を注いでくれた記憶も持ってる。フェイトちゃんの記憶じゃなくてもね。

 しかも、自分の我儘や事故の怪我で昏睡した設定が、プレシアの心が壊れた原因だと思ってる節がある。罪悪感もプラスされてる。

 彼女にとって、プレシアは一番大切な存在なんだよ。

 多分、今アリシアの事を絡めて真実を話しても、信じないと思うよ。リニスの言葉なら、動揺ぐらいはするかもしれないけど、最悪、裏切られたと感じて、激昂するかもしれない。そうなったら、不味いどころじゃないからね」

 リニスは苦々しく頷く。

「出来れば、アリシアの事は触れたくないんですが…」

 それが出来ればいいけどね。プレシア自身がバラすだろう。

 プレシアがフェイトに、ちゃんと愛情を向けられれば一番いいんだけどね。

 残念ながら、リニスの話だと期待出来ないだろう。

「それを踏まえて、ジュエルシード収集がユーノ君にとって、物凄く困る事だと伝えて、止めるよう言う」

 リニスの眉間に皺が寄る。

「聞いてくれるでしょうか」

 疑問に感じるのも当然だね。

「聞かないでしょうね」

「え!?じゃあ、どうするんです?」

「暫定的な協力者になる」

 リニスの表情が曇る。ユーノの事を気にしてるんだろう。

「ジュエルシードを欲しているのは、プレシアで間違いないでしょ。だから、集め終えたらプレシアと交渉させてほしいとお願いするんだよ」

「プレシアが承知するとは、思えませんが…」

「承知するか、しないかは問題じゃないよ。フェイトちゃんは、ジュエルシードを届ける時、必ず手渡しする筈だよ。そこを追尾してプレシアを押さえる」

 物質転送でもいいけど、ジャミングや事故が怖い。

 もし、途中でバラ撒いてしまったら、その分が無駄になる。

 最悪、フェイトちゃんが協力を拒否しても、別に構わない。

 私のやる事は変わらないから。でも、完全拒否でなければ、遣り易くなる。

「それって、フェイトを騙すって事ですか!?」

「心配しなくていいよ。私が勝手にやるから」

 リニスに責任を負わせる気はない。

「美海は、それでいいんですか?」

 リニスは私に怒っているような、悲しんでいるような複雑な表情だった。

 だってね。彼女にはリニスがいれば、十分でしょう。

 

 私は彼女に必要ない。

 

 

              :リニス

 

 分かっていた事だ。

 彼女は自分を大切にしていない。

 自分一人なら、大抵の事はなんとかしてしまう。

 だから、言う。恨むなら自分にしろ、と。

 例え彼女を誰も助けなくとも、彼女は他人は助ける。

 他人の負の感情を受け止める。言い訳もしない。

 それが、私には悲しく映る。

 彼女は、まだ英雄の仮面を被っている。

 それで、未だに夜、悪夢に魘されているのに。

 彼女は助けられなかった人の、死体の数を数えている。

 真実のあの子は、普通の女の子なのに。

 

 でも、私に何か言う資格はない。

 他ならぬ、私が英雄としての彼女に、頼っているのだから。

 

 

              :美海

 

 あれから、ジュエルシードを発見する事が出来なかった。

 明らかに、何か細工してる奴がいる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、見付からないなどあり得ない。

 隠蔽の魔法も感じられなくなったよ。

 リニスが見付けられなかったジュエルシードも、恐らく誰かの手が入っている。

 なにしろ、フェイトちゃん達は監視下にあるし、なのはちゃん・飛鷹君ペアは魔法を派手に使うから、すぐに分かる。

  

 そろそろ、日が落ちる頃だった。

 魔力反応が急に現れ、目的地があるように、一直線にどこかに向かっている。

 ドロッとした黒い嫌な魔力だ。

 明らかにジュエルシードの思念体だが、他と違う。

 思念体の動きが、変わる。

 結界が展開された。

 誰かが襲われている。

 直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なのはちゃん・飛鷹君ペアだ。なんで、別々に向かってんの?

 大体一緒に訓練している事は、知っているけど、なんかあったのかな?

 襲われてるのは、ユーノ君だね、これは。

 分かっていたけど、やっぱり帰らなかったか…。

 

 リニスと共に向かおうとした時だ。

 厄介な人物が向かってるよ。

 当然の事だけど。まあ、向かうよね。

 私は天を仰いだ。

 

 いつまでも、現実逃避してる訳にもいかないよね。

「リニス!!」

 リニスも当然気付いている。

「分かっています!」

 二人で高速で向かう。フェイトちゃんのところに。

 

 今、乱入させるのは不味い。

 何故なら、飛鷹君がいるからだ。

 飛鷹君は、フェイトちゃんより実力が上だ。なのはちゃんだけなら、フェイトちゃんでも穏便に勝利を得る事が出来るだろうが、飛鷹君が絡むと大怪我の危険がある。

 飛鷹君が、手加減出来るかって心配もある。

 付け加えるなら、思念体も普通ではなさそうだしね。

 取り敢えず、彼女を止める必要がある。

 いずれ話さなきゃいかなかったんだから、ちょっと早くなっただけだと思おう。

 それに、フェイトちゃんの到着が早まった以上、管理局の到着も早いかもしれない。

 盲目的にジュエルシードを集めているフェイトちゃんに、ブレーキを掛けないとね。

 下手打って、フェイトちゃん捕縛なんて遠慮願いたい。

 そして、フェイトちゃんと接触する以上、魔法もある程度解禁でいいでしょ。

 

 私達は、ワザとフェイトちゃんに分かるように接近する。

 

『悪いけど、そこで止まってくれる?』

 私は視認出来るくらいの距離まで近付き、念話を送った。

 

 

              :フェイト

 

 私とアルフで、ずっと手分けして探したけど、ジュエルシードは朝に確保した一つを最後に見付けられなかった。もっと、捜索範囲を広げないとダメかな…。

 

 認識阻害を掛けたまま活動し続けたので、そろそろ切り上げないといけない。

 今になって、少し眠くなってきた。昨日は張り切り過ぎて、睡眠時間を取らなかったから。

 見付けられないのは、集中力が落ちているのかもしれない。

 残念だけど、今日はここで終わりにしよう。

 

 太陽は大分沈んでいる。

 私がアルフに念話を送ろうとした時だった。

 突然、街中に結界が張られたのが分かった。

 この世界に魔法文化はない筈なのに!!

 もしかして、もう管理局が?それとも、別に探してる人がいる?

 どっちにしても、行かなきゃ。私はその為に強くなったんだから。

 

『アルフ!!』

『分かってるよ!アタシが行くまで待ってよ!』

 アルフに念話で呼びかけると、すぐに反応が返ってくる。

 アルフはリニスがいなくなってから、過保護さが増した。

『大丈夫。私、強いもの』

 だから、安心させるように言い切った。

 

 私は、全力で結界の張られた地点に急ぐ。

 すると、同じく結界に向かっている人達の反応を捉える。

 まだ、競争相手がいる!?

 二人のようだが、二人共私より魔力量が少ない。でも、連携された時の力量が分からない以上、油断出来ない。心の中で警戒レベルを上げる。

 二人の姿が小さく見えてくる。

 

『悪いけど、そこで止まってくれる?』

 念話が送られてくる。

 どうやら、声の感じだと私と歳は変わらなさそう。

 私は、素直に止まる。

 アルフが向かっている。私は時間を稼げばいい。

 でも、なんだろう?背の高い方の人の魔力には覚えがあるような…。

 

『フェイト!?敵!?』

 アルフから慌てた声で念話が入る。

『分からないけど。今どこ?』

『もう着くよ!』

 よかった。少しだけホッとした。負けるつもりはなかったけど。

 二人は私と距離を取ったまま、動かない。

 

 無言で向き合っていると、アルフが到着する。

「アンタ達!痛い目に遭いたくなかったら、失せな!!」

 アルフが大声で威嚇する。

 背の小さい子は無反応。だけど、背の高い方の人は違った。

「アルフ!!何ですか!その言葉遣いは!!」

「「え!?」」

 その声は、まさか!?

 

 一瞬の気の緩み。

 それが命取り。

 私達の足元から光が放たれる。

 しまった!?

 咄嗟の事で、私達は目を固く閉じて、腕でガードする体勢を取っていた。

 幸か不幸か、閃光で目が眩むほどじゃなかった。

 私達は、状況が分からないものの、後方に跳び距離を取る。

 周りを見渡す余裕が、ようやく生まれた。

 

 一面の砂漠。

 

 強制転送!?

 

 しかも、他の世界に転移を可能にするほどの。

 私の背中を冷たい汗が流れる。強力な暑さにも関わらず。

 魔力はそれほど感じなかった。つまり、少ない魔力で、この魔法を実行したという事。

 こんな事が、出来る魔導士なんて聞いた事がない。

 自分の迂闊さに唇を噛み締める。

 

 二人が近付いてくる。

 二人の顔が見えるくらいに。

 一人は信じられないけど、やっぱりリニスだった。契約が終了して、時の庭園から消えた大切な先生。

 最後に見た姿と変わらない。

 もう一人の子は黒いバリアジャケットに、フードの下は口元が布で覆われていて、顔がよく分からない。

「久しぶりですね。フェイト…アルフ」

 リニスは微笑んでいたけど、私には苦いものが混じっているように見えた。

 アルフは警戒を解いていない。

「そうだね。でも、どういう事か説明してほしい」

「そうだよ!隣の奴はなんだい」

 私とアルフの目は、黒いバリアジャケットの子に向けられる。

 アルフの敵意交じりの視線を受けても、その子は平然としていた。

「私はリニスの新しい主だよ。私の事は…レクシアとでも呼んでよ」

 なんでもないような調子で、偽名を名乗る。

 やっぱり、リニスと契約してるんだ。二人からは魔力的なつながりを感じる。

 魔力が少し違うのは、多分主が違うから。

 

「事情の説明は私の方でするよ」

 レクシアと名乗った子は、リニスを助ける切っ掛けから、今に至るまでの説明をしてくれた。

 

「じゃあ、貴女はリニスを助けてくれたんですね」

 母さんが仕事で使っていた人に、私は心当たりがあった。

 あの人達は、偶に時の庭園に来ていた。

 そう言えば、リニスの事を嫌な目で見てた。

「ありがとうございます」

 私は彼女にお礼を言う。

 アルフは黙って下を向いていた。

「そろそろ本題を話そうじゃないか」

 アルフが二人を睨み付けて言う。

「そのリニスを助けた奴が、こんな事をした理由をさ!」

 レクシアが頷いた。

「当然の質問だろうね。じゃあ、単刀直入に。ジュエルシードを集めるのは、中止してくれない?

 勿論、今持っているものも、渡してくれる?」

 怒って怒鳴ろうとしたアルフを、レクシアが片手を上げるだけで止めた。

 そこには、アルフにも逆らえない圧力を感じて、止まってしまった。

「理由はあるよ。最後まで聞いて。あれは実は知り合いが発掘したものでね。あれはその人にとって大切な人の為に必要なものなんだ。命を懸けてでもね。貴女の方はどうして、集めてるの?」

 ホントの事かな?リニスの方を見ると、彼女は無言で頷いた。

「貴女に関係ありますか?」

「大ありだよ。その知り合いは君ほど強くない。でも命を懸けて必死に回収しようとしてる。いくら大切な人の為って言っても、命を懸けるなんて、そうそう出来ない。違う?」

 大切な人の為…。

「もし、君に重大な事情があるなら、話してくれないかな」

 私も母さんの為に…。

「フェイト!言う事ないよ!!」

 アルフの苛立ちの声が、考えに沈んでいた私を引き戻す。

「ずっと一人で、辛い毎日に耐えてたんだよ、フェイトは!リニスだって、その事を知ってるじゃないか!どうして今になって出てきて、勝手な事言うんだよ!!」

 リニスは辛そうに俯いた。

「どうせ!リニスから事情は聞いてるんだろ!白々しく事情を話せなんて言うなよ!

 お察しの通り、あの鬼婆の頼みだよ!じゃなかったら、フェイトがこんな事する訳ないだろ!!

 それとも、新しいご主人様に変わって、のうのうと過ごしてる内に忘れちまったのかい!!」

 そう言った瞬間、物凄い冷気がレクシアから放たれる。

 

 身も凍らせる怒気。

 

 アルフは恐怖で凍り付いている。

「確かに、私はプレシア女史の関与を疑ったし、それが理由だろうとも思ってた。リニスからある程度事情を聞いた事も認める。白々しかったかもね。

 

 でも、リニスの貴女達を大切に想う気持ちを、疑うような真似は()()()()()

 

 この人もリニスを大切に想っているんだ。

 レクシアが軽く指を振ると、魔法陣が展開する。

 私達は咄嗟に身構えたが、攻撃魔法ではなかった。

 彼女が契約魔法の内容を、私達に見える形で表示したんだ。

 こんな事出来るんだ。

「これが証拠だよ」

 契約は、主がリニスの願いを叶える為に尽力する限り、献身的に尽くすという内容だった。

 その願いは、私が幸せに過ごせるようにする事。

 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 契約に遊びがある。つまり、典型的な主従関係を強制するものじゃない。

 嘘ではないと、提示された術式が語っている。これを見せられれば、魔法を解析出来るから。

 リニス…。

 アルフは耳を垂らして項垂れた。

「リニス。ごめんよ」

「いいんですよ、アルフ。確かに勝手な事でしょうから」

 レクシアは、怒気など発していなかったみたいに、穏やかな気配に変わっていた。

「そういう訳だから、ジュエルシードの件はプレシア女史と話し合いたいんだけど」

 レクシアを信用していいのかな?

 信じたいと思ってる。

 けど、母さんは話を聞いてくれるかな…。

「連絡だけでもしてくれない?どちらに転んでも、暫く君に協力するよ。

 知り合いには悪いけどね。結果的にはこの方が、知り合いの為にもいいでしょ。早く回収出来るだろうし、上手くいけば返してくれるかもしれない」

 そう言って、レクシアはジュエルシードを一つ、私に放り投げた。

 私は慌てて、それをキャッチする。既に封印が施されていた。

 どこに入れてたのかな?

 

 彼女はフードと口元を覆う布を外す。

「これも、信頼に通じる一歩って事で」

 黒いフワッとした癖毛に、子猫みたいな顔に、ブルーの瞳が印象的な可愛い子だった。

 

 

              :美海

 

 フェイトちゃんは、気が進まないみたいだったけど、連絡はしてくれた。

 事情をフェイトちゃんの口から説明して貰う。

 ウィンドウに顔色が悪いプレシア女史が、映し出されている。

「ダメよ。信用出来ないわ。その場で始末なさい」

 木で鼻を括る対応ありがとうございます。

 始末しろとは、言う事が違う。

 思った通りだ…。

 某・国選弁護しか仕事がこない借金弁護士みたいなセリフを、心の中で呟く。

 娘を自分の開発した新型魔力炉の暴走事故で亡くし、蘇らせようとした娘は別人。絶望続きで、他人との共感を失っている。目的を達成する為なら、なんでもやる。

 流石にリニスが生きていた事には、驚いてたけどね。

 

 私はここらで割って入る事にした。

「まあ、そう結論を急がずに。

 私がリニスから事情を、ある程度聞いている事はご存知だと思いますが」

 私はフェイトちゃんの前に立って言う。

 プレシア女史だって、今真実を暴露する気はないだろう。

 時間が無い以上、手駒を今失う危険は冒せないだろう。

 プレシア女史の顔が険しくなる。

「それで私が承知するとでも?手が足りないなら、伝手は幾らでもあるのよ。これでも昔、大魔導士と呼ばれていたのだから。舐めないで貰いたいわね、お嬢ちゃん」

 違法魔導士を金で雇うだけでしょ?研究員時代の伝手なんて、みんな関わり合いになりたくないでしょ。弱みを握るくらい強かだったら、あんな事故は起きなかっただろうしね。

「いえ、分かっていますよ。でも私以上の協力者を得る機会はないと思いますよ。ご存知ですかね?かのロストロギアはどうも誰かさんが悪戯しているみたいで、探すのは困難な状態だと」

 プレシア女史は心当たりでもあるのか、表情が微妙に歪んだ。

 これは、動く身としては嫌な事だが、説得には嬉しい誤算だ。

「貴女も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 プレシア女史は忌々しそうだ。

「私の知り合いも、悪用されない事が分かれば、安心するでしょう」

「悪用などではないわ!断じてね!!」

「そうでしょう。知り合いに伝えますよ。早く安心させてやりたいので」

 そこでプレシア女史からストップが掛かる。

「待ちなさい。貴女は見たところ、フェイトより魔力量が少ないわね」

 何かの機器を操作する仕草がある。

 私の事を調べたのだろう。

「協力者として、実力はどうなのかしらね。()()()()

 面倒な事言い出さないでよ。

「フェイト。このレクシアさんと模擬戦をやりなさい。大口を叩くだけの実力があるのか、確かめたいわ」

 フェイトちゃんは話についていけずに、オロオロしている。

 なんか可愛いな。

「それで納得して頂けますか?なにしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 プレシア女史の眉間に、盛大な皺が寄る。

 決断はお早めに、のメッセージは正しく受け取ってくれたようだ。

「いいでしょう。うちの娘に勝てたら、()()()()()()()聞き入れましょう。

 ただし、ジュエルシードは一時的にでも渡して貰うわよ」

 私達の本当の目的なんて、予想してるって事ね。

 フェイトちゃんが目的だって。まあ、リニスがいるんだから分かるか。

「分かりました」

 

 私とフェイトちゃんは向き合う。

 離れた場所で、リニスとアルフが見守っている。

 開始合図はプレシア女史がやる。

 ここは、ある程度力を見せないとね。

 警戒レベルを上げ過ぎないように注意しなきゃいけないけど。

「始め!」

 開始合図と同時にフェイトちゃんが飛び上がる。

 流石はスピード型。速い速い。

 制空権を取ると、デバイス・バルディッシュを私に向ける。

「プラズマ・ランサー、ファイア!!」

 私といえば、拳銃型のデバイス・シルバーホーンを持ったままで、構えていない。

 ネーミングまんまだって?いいんです。

 

 雷の短槍が無数に現れ、私に殺到する。

 私に全弾直撃コース。私は動かない。

 

 着弾する直前に、微かな音と共に雷の短槍が消え去った。

 干渉装甲で、魔法を消し去っているのだ。

「っ!!」

 フェイトちゃんの驚愕が伝わってきたが、私は無反応。

 フェイトちゃんはデバイスのモードを砲撃に変える。

「プラズマスマッシャー!!」

 デバイスではなく、左手を翳す。

 私はシルバーホーンをフェイトちゃんに向け、引き金を引く。

 砲撃魔法陣が砕け、魔法が無効化される。

 

 術式解体(グラムデモリッション)

 この世界では直接魔力の塊を対象魔法陣にぶつけて、術式を吹き飛ばす魔法になっている。

 

 砲撃が無効化されても、フェイトちゃんは戦意を失わない。

『ソニック・ムーヴ!』

 フェイトちゃんの身体が金色に霞む。

 物凄いスピードで移動したのだ。

 私はフェイトちゃんの加速した斬撃を、僅かな動きで躱していく。

 そのうち、フェイトちゃんから体術も飛び出す。

 まあ、先生はリニスだからね。当然か。

 それでも、私を捉える事は敵わない。

 私はフェイトちゃんの手首を捻るように、バルディッシュを奪い背後を取る。

「っ!!」

 フェイトちゃんは武器に拘らずに、距離を取る。

 うん。いい判断だね。

 私は、バルディッシュを遠くに投げ捨てる。

 フェイトちゃんはバルディッシュに手を伸ばす。

 彼女の手から微かに電気が走ったようだった。すると、バルディッシュが浮き上がりフェイトちゃんの手に戻った。いやいや、電磁石みたいに引き寄せたのかな?器用な事出来るね。

 フェイトちゃんの顔を見ると、楽しそうだった。

 ああ、この子バトルジャンキーだったけ?

 強い相手との模擬戦であればあるほど、燃えるってやつですね。分かります。嘘だけど…。

 みーくんみたいな事を思いながら、フェイトちゃんの挑戦を受ける。

 

 が、いつまでもやめないので、終わらせないとね。

「そろそろいくよ?」

 言い終えた頃には、フェイトちゃんの間合いに入り込んでいた。

 咄嗟に引こうとするフェイトちゃんに、私は貫き手を放つ。

 フェイトちゃんの顔の横を疾風が駆ける。

 私は、フェイトちゃんに手を突き出した姿勢のまま止まる。

 風圧でツインテールのリボンが吹き飛び、髪が一房ハラリと背中に落ちる。

 私がその気なら、彼女の顔に穴が開いていた。

 この辺でいいでしょ。

 

 彼女は降参を宣言した。

 

             

              :フェイト

 

 私とレクシアじゃ、実力が全然違う。大人と赤ん坊くらい離れていた。

 聞けば、リニスでさえ指導を受けているみたい。

 いいな。私も教えて貰えないかな。

 アルフは完全服従の姿勢になっていた。彼女の前だと直立不動になる。

 

「貴女、何者なの?アルバザードの魔法使いなの?」

 模擬戦終了後に母さんが言ったセリフ。

 アルハザード!?

 母さんは、どこか期待するみたいな声だった。

 リニスは心配そうにレクシアを見ている。

 だけど、レクシア本人は不愉快そうな顔をしていた。

「あんな連中と、一緒にしないでくれます?」

 知り合いみたいな反応だけど。滅びた人達だよね?

 

 母さんは、仕事には結果を重んじる人だから。結局レクシア達を協力者にする事になった。

 レクシアは知り合いに相談して、母さんから事情を聞く必要があるからと説得するそうだ。

 リニスは複雑そうな顔をしていたけど。

 こうして私達は、一緒にジュエルシードを探す事になった。 

 

 

 私はこの時、気付いていなかった。

 この出会いが、運命の出会いみたいなものだって…。

 

 




 第1話終了しました。やっと?という突っ込みは勘弁して下さい。
 ここらでジュエルシード回収状況をば。

 なのは・飛鷹・ユーノ連合      3つ回収

 フェイト・アルフ・美海・リニス連合 4つ回収

 となっております。
 次回は、毎度の事ですが、投稿遅めになると思います。
 すいませんが、お願いします。


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第14話 衝突

 長い時間が掛かってしまいました。
 心が折れた訳では、ありません。まだ頑張ります。
 少しずつ書いてたんですけどね。時間が掛かってしまいました。

 文字数最高を記録してしまいました。
 皆さんの心が折れないか、少し心配です(汗)
 我ながら、文章が…。


              :飛鷹

 

 なのはの魔導士デビューとジュエルシードを、回収した夜を終え、次の日。

 

 昼休みの屋上での事。

 何してるんだって?弁当食ってんだよ。

 メンツは、俺、なのは、アリサ、すずかだ。

 もう普通に昼飯時になると、連行されるんだけどさ。

 考えてくれねぇかな。

 女3人に男1人は辛いぞ。ガールズトークに参加しろってか。

 二次小説の踏み台なら、喜ぶんだろうが、俺は真っ当な精神なんだよ。

 まあ、今日は丁度、話さなきゃならない事があったからいいけどな。

 

 俺達は、アリサ、すずかに昨日までの経緯を説明した。

「つまり、飛鷹の家にそのフェレットモドキがいる訳ね」

 経緯を聞いたアリサの第一声である。

 ユーノ哀れ。クロノだけじゃなく、事情を知ったアリサにまでフェレットモドキ扱いとは。

 原作では、あんなに心配して貰ってたのに。

 しかし、一部視聴者に淫獣扱いされる事に比べれば、100倍マシだろう。

 

 最初、なのははアリサ達に今回の厄介事を話すのは、反対の様子だった。

 心配させたくない、と言っていたが、そうも言っていられない。

 魔導士である事を隠していたなら兎も角、アリサ達は俺達が魔法を使える事を知っている。

 ならば、逆に隠しておく方が危険になる場合だってあるだろう。

 

 すずかは夜の一族とかいう吸血鬼一族らしいが、某・国教騎士団に仕えている吸血鬼みたいな能力はない。

 吸血鬼特有の弱点はないが、とんでもない力もない。

 普通の人間に比べれば凄いんだろうけど、俺達と比べれば一般人と言ってもいいだろう。

 アリサについては完全に一般人だ。金持ちの名家だけど、この場合関係ないしな。

 巻き込まれたらどうしようもない。

 

 原作だって、すずかの屋敷の庭に、ジュエルシードが落ちてた訳だからな。

 見付けたら下手に触らないように言っておく必要があるだろう。

 原作とはかなり違ってきているから、アリサ達が発動させないとも限らない。

 そういう事を説明して、なのはには納得して貰った。

 

「まあ、そういう訳だ。だから、菱形の青い宝石を見付けても触るなよ。

 俺かなのは、最悪リスティ刑事に通報しろ。洒落で笑えない結果になるからな」

 俺はそう話を締め括った。

 二人が頷いたので、俺は残りの弁当を再び食べ始めた。

 

 それと、転生者疑惑のあるユーノを助けた人物から、念話があったそうだ。

 やっぱり件の目的の人物とやらに、一時協力すると言ったそうだ。

 ふざけてやがる。

  

 話が終わったら、なのは達はガールズトークに花を咲かせている。

 が、俺は弁当食い終わったら、居た堪れないんですけど。

 もう、教室に戻ってイイっすかね?

 

 

              :美海

 

 フェイトちゃんと協力者になった翌日。

 

 なのはちゃん・飛鷹君ペアは、無事思念体に勝利したようだ。

 若干の不安はあったが、いくら特殊と言ったって、思念体に負けやしないだろうと思ったのだ。

 無理だったら、この先どうしようもない。

 バルムンクも面構えがマシになったって言ってたし、そういう部分もあった。

 フェイトちゃんをあの場で説得したら、ジュエルシード回収を優先したかもしれない。

 目的のものから、離す必要があった。

 ユーノ君には、目的の人物の協力をする事。出来る限りはジュエルシードを返すようにはするけど、あまり期待しないよう念話で伝えた。

 ユーノ君からは、苦い声音で残念ですとの返答があった。

 言っても無駄と思ったんだろうけど、なのはちゃん・飛鷹君ペアが味方についた事もあって、返答はアッサリしていた。

 

 そして、本日はいつも通り私は学校に来ている。

 勝手に休んだら、聖祥は家に必ず連絡してくる。

 両親に心配を掛けるのは、流石に不味いからね。

 私は、両親と約束している。義務教育くらいは終える、と。

 これはリニスとの約束と同じくらい、破ってはならない約束だ。

 なにしろ、本当の家族になった時にした約束だから。

 身代わりの化成体モドキは、パーマンのコピーロボットみたいにはいかない。

 学校となると自分で行かないと、不味い対応をしかねない、あまり知能を高く出来ないから。

 フェイトちゃんには悪いけど、リニス・アルフで収集を続けて貰っている。

『レクシア、やっぱり見付からないよ』

 そんな事を考えていると、フェイトちゃんから念話が入る。

 まあ、精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化すほどの相手だからね。

 無理か。

『フェイトちゃん、少し休憩しててよ。あと、3時間くらいで合流出来るから』

『分かった』

 最悪、()()()()()()()()()()()()()()()

 精霊の眼(エレメンタルサイト)での捜索は、今は情報をかなりカットした状態なんだよね。

 深く潜って観ると集中する必要があるから、一応探す間は護衛が必要になる。

 別に敵襲に反応出来ない訳じゃないけど、精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化すような相手だと用心しないといけない。

 

 そう言えば、リニスから素顔を晒したのに、なんで偽名?という質問をされた。

 偽名って訳じゃないでしょ。ベルカ時代の愛称だから。

 一文字削っただけじゃ?と思うが、本当の話だ。まあ、呼んでたのはヴィヴィだけだけど。

 苦いものが込み上げてきたけど、無理やり飲み込んだ。

 自分が招いた事で、込み上げたもの飲んでちゃ、世話がないよね。

 

 脱線したけど、今の名前を教えるのは不味いでしょ。

 あのバリアジャケット姿なら、私だってそうそうバレないけど、フェイトちゃんがあのペアの前で美海だの綾森だのって呼んだら、終わりだよ。そんな事になったら、記憶消さないといけなくなる。記憶の消去はあれはあれで面倒臭い。少しでも違和感があると、すぐ思い出したりするからね。

 それに、学校くらい中立地帯にしておきたい。隙見てドンパチなんて御免だよ。

 

 私がこちらで生活している事は、フェイトちゃん達に言ってある。

 約束の為に手伝えない時間がある事も。

 勿論、いい顔しない人もいたけど。

 リニスは、学校をサボらなかった事に関しては、嬉しそうだった。何故に?

 私だけ一定時間姿を消す事に、申し訳ない気持ちはあったんだけど…。

 

 まあ、放課後に挽回しよう。

 

 私は気持ちを切り替えて、授業に集中した。

 

 

              :???

 

 日差しが鬱陶しい。

 私は神社を囲む木々の隙間に、身を寄せていた。

 木の陰にいるものの、気付いた人間がいれば、悲鳴を上げただろう。

 何故なら、黒い澱みに眼球が二つ浮いている状態だからだ。

 もし、人間がいれば、ゾッとしたに違いない。

 が、幸か不幸か人自体がいない。

 

 私は目を覚ましてから、困惑していた。

 知っている風景とまるで違っていたからだ。

 だが、それでも自分がどうなったかは、思い出す事が出来た。

 

【あの美しくも禍々しい蒼い光に滅ぼされたのだ】

 

 そして、私が目覚めた日に感じた気配は、細胞レベルで覚えているものだった。

 ならば、探し出さなければならない。自分をこんな姿に変えた者を。

 ここがどこかなど問題ではない。

 やる事は変わりはしないのだから。

 

 どうやら、私が創作した玩具を探すものの中に、求める人物がいるようだ。

 ならば、やる事は決まっている。

【撒き餌で居場所を炙り出せばいいのだ】

 黒い澱みに笑みの形に空間が開く。私は笑みを浮かべた。 

 

 私は何者かの接近を感じた。

 視線を向けると、女と小動物が上がってくるのが見える。

【協力してもらうとしよう】

 自らの身体から、青い菱形の宝石が転がり出ていった。

 

 私は観察の為、自らの姿を消した。

 

 

              :なのは

 

 飛鷹君がジュエルシードの危険性を、アリサちゃん達に伝えるのは反対だった。

 それは、飛鷹君が言った事が原因だったんだけど。

 

 今度は私が、アリサちゃん達を危険な目に遭わせるかもしれないって。

 

 それを避けたかったんだけど、飛鷹君はむしろ説明した方がいいって言うの。

 理由を聞いて納得したけど、私ももう少し考えて行動しなくちゃって思った。

 

 私は今は一人で歩いている。

 学校が終わって、そのままジュエルシード探しをしている。

 アリサちゃん達にも、話してある。暫くは一緒に帰れなさそうって事も。

 やっぱり話しておいた方が、よかったんだね。

 

 みんな一緒の方が安全だけど、発動したら危険が大きいから、まずは探す事に力を入れる事になった。

『まず、未発動なら即封印だ。発動した時は、結界を張って時間を稼ぐんだ』

 ユーノ君にも念話で方針を伝えて、三手に別れてジュエルシード探しをしている。

 大規模に結界を張ったら、すぐに分かるもんね。

 今は私にも、レイジングハートっていう強い味方がいる。

 結界も封印も出来る。

 レイジングハートに感謝だね。

 

 小さな神社の前に来た時の事だ。

 魔力の波動が広がるのが感じられた。

 上から!?

 私が参道の階段を見上げると同時に、女の人の悲鳴が上がった。

 いけない!!

 私はレイジングハートを握りしめる。

「お願い!!」

『スタンバイ・レディ。セットアップ』

 魔力光が溢れ、バリアジャケットが形成される。

 私は白い魔法少女になっていた。

 

「レイジングハート!結界お願い!!」

『承知しました』

 杖型のデバイス・レイジングハートから、構築された結界が広がっていく。

『思念体、見付けたよ!これから時間稼ぎを始めます!』

 私は念話で二人に伝える。

『すぐに行く!!』

『僕も!それまで持ち堪えて!!』

 二人の力強い返事が念話で返ってくる。

 

 階段を上がり切ると、そこには巨大な黒い犬のような生物がいた。

 私は、レイジングハートを構える。

 犬が私を見据えている。

 野生動物の殺気とでも言うのかな?凄い圧力に額から汗が出る。

「レイジングハート。前と違うんだけど!」

『恐らく、こちらの生物を取り込んだのでしょう。実体がある分、こちらの方が手強いかと』

 聞いてはいたんだけど。こんなに危ないものだなんて、予想以上なの!

 

 目を逸らしてはいけない。弱いところを見せたら襲ってくる。

 って思ったら、もう襲ってきたの!!

 あれ!?犬ってそうだって聞いてたんだけど!?

 跳び掛かってきた犬を、私は上空に飛び上がり回避する。

「レイジングハート!」

『リングバインド』

 バインドで丁度着地したところを拘束する。

 あれ?ジタバタしてるけど。バインドが砕ける様子はない。こっちの方が弱いんじゃないの?

「このまま、封印いけるかな?」

 バインドを維持しつつ、レイジングハートに訊いてみる。

『…この程度でしたら、大丈夫でしょう』

 なんか、レイジングハートも考え込んだような声を出した。

 AIだけど、よく出来てるよね。

 じゃあ、やっちゃおう!

 待ってなくていいよね。危ないし。

 レイジングハートをカノンモードに切り替えて、犬に向ける。

「今、助けるからね!…ジュエ…」

 魔力を集中させ始めた時だった。

 金色の魔力光が犬を弾き飛ばした。

 バインドも更に強化するように、拘束する。

 私は弾かれたみたいに、魔力光がきた方を向く。

「誰!?」

 飛鷹君ともユーノ君、綺麗な魔法の人とも違う魔力。

 

 そこには、金色の髪をした綺麗な子が、戦斧型のデバイスを手に立っていた。

 

 

              :飛鷹

 

 俺は、神社までの道を急いでいた。バリアジャケット姿で魔法を使用して。

 緊急走行みたいなもんだ。認識阻害くらいは使っているけどな。

 

 神社にジュエルシードがある。

 それは原作を知っている俺には、分かっていた事だ。

 当然、調べた。見付からなかったけどな!

 どうなってんだ!?まるでジュエルシード自身が、動き回ってるみたいじゃないか!

 

 俺は、結界内まで辿り着く。

 なのはがもう戦闘開始してるじゃないか!

 しかも、相手は思念体じゃないぞ!?あれ、もしかしてフェイトか!?

 嘘だろ!早過ぎるぞ!なんでいんだよ!

 急いで、二人に割って入ろうとした時だった。

『マスター』

 スフォルテンドが静かな声で引き留めた。

 そこで、俺も気が付いた。

 俺から離れた距離に、黒いバリアジャケットの人物が立っている事に。

『マスター…』

「分かってるよ。油断なんてしねぇ」

 転生者であろう人物相手に、気なんか抜けるか。

 いざとなったら、レアスキルを使うしかないだろう。

『そうじゃない』

「じゃあ、なんだよ」

『なのは嬢を連れて逃げろ』

「は!?」

 俺は信じられないセリフを聞いた。

 

『あれは、強者どころか、化け物級だ』

 

 

              :美海

 

 私は合流地点に急いでいたんだけど。

 予定は変更する羽目になった。

 結界が構築されたからだ。

『レクシア!結界が!!』

『うん、そっちで合流しよう』

 念話でフェイトちゃんと打ち合わせを終え、走る。

 飛鷹君とユーノ君が、結界に向かっているのが分かる。

 なのはちゃんが対峙中か。

『アルフ。魔力反応が小さい方の足止めしといてくれる?』

『サー・イェッサー!』

『……』

 ずっと、この調子なんだよね。大丈夫なのかね、この子?

 面白いから、いいとしておこう。

 

 私の方は飛鷹君を引き受けないとね。

『リニスはいざとなったら、フェイトちゃんのサポートを』

『分かりました』

 さて、参ります、と。

 

 結界内で飛鷹君を待ち受ける。

 向こうも結界内に侵入し、なのはちゃんのところへ向かおうとして、気付いた。

 距離を置いて向かい合う。

 向こうはなんだか、デバイスと揉めているみたいだけど、戦う事にしたらしい。

 飛鷹君が剣を抜き、こちらにゆっくりと歩いてくる。

 私は無手で、ゆっくり接近する。

 

 お互いの間合いが接触した瞬間、お互いに疾駆する。

 飛鷹君が剣を振り上げた時に、私も血液から剣を取り出す。

 彼には、剣が突然出てきたように見えただろう。

 

 剣と剣が火花を散らし、交錯した。

 

 

              :フェイト

 

 ジュエルシードの発動地点に到着すると、そこには白い魔導士が封印の態勢に入っていた。

 思念体は、彼女の魔法で拘束されていたけど、顎の拘束が弛み出していた。

 他の手足ではなく、自分の顎の解放を優先する。

 警戒すべきは、口からの攻撃。

 私はバルディッシュを黒い犬に向ける。

『プラズマランサー』

 雷の槍を複数作り出し、放つ。

 レクシアに放った時のように消されず、全弾命中し、黒い犬が弾き飛ばされる。

 私はバインドで彼女の魔法の上から縛り上げる。勿論顎も。

 

「誰!?」

 白い魔導士から誰何の声が上がる。

 私は返事をせずに、バルディッシュを向ける。

「バルディッシュ」

『シーリング』

 封印砲が放たれ、黒い犬に突き刺さる。

 声すら上げられずに、思念体は消え去り、ジュエルシードが封印される。

 

 私は黙って白い魔導士を追い越し、ジュエルシードを拾おうとした。

「ちょっと待って!」

 私の手がジュエルシードの手前で止まる。

 私は白い魔導士に視線を向ける。

「あ、あの!それ、ユーノ君の大切なものなんです!」

 ユーノ?レクシアの知り合いかな?

 だけど、私は無言でジュエルシードを拾い上げた。

「あの私に…」

 私は彼女に最後まで言わせなかった。

 言葉を遮るように、バルディッシュを突き付けたからだ。

「これは、私にも必要なの。だから、これを集めるのは、もう止めて」

 白い魔導士が驚いたみたいだった。

 けど、すぐに真剣な表情で首を横に振る。

「出来ないよ。ユーノ君は詳しくは言わないけど、それを集めて帰らないと、凄く困るんだよ、ユーノ君の大切な人達が。貴女はどうして必要なの?」

 私に武器を突き付けられても、彼女は怯まずに拒否した。

 みんなが、大切な人の為に動いている。

 いっその事、管理局員が集めていれば、よかったのに。

「お願い、教えて、どうして必要なの?」

「言う必要はない。邪魔をするなら…」

 私は、バルディッシュに魔力を集めて威嚇する。

「言ってくれなきゃ、分からないってば!!」

 彼女は次の瞬間、バルディッシュを払い除けると、軽いステップで私から距離を取る。

 

 私と彼女、ほぼ同時に空へ飛びあがる。

 私は、上空で砲撃体勢になった彼女に接近する。

 空戦のセオリーは、飛行テクニックで隙を作らせてから、攻撃あるいはバインドで動きを止めなてから、砲撃を行う。それが、分かっていない。

 彼女は、魔法を使って間もない素人だ。武術の心得はあるみたいだけど。

 

『アクセルシューター』

 5つの魔力弾が生成され、発射される。

 碌に魔力弾の制御がなされていない。ただ打ち出しただけの攻撃。

 これなら、怪我をさせずに制圧出来る。

 

 5つ魔力弾を難なく避けて、彼女に魔力を込めた手を突き出す。

 彼女は身を躱したが、それは囮だ。

『スタンショット』

 バルディッシュから雷光が、弾ける。

「っ!!」

 スタンショットを真面に受け、彼女は力が抜けて落下する。

 私は、彼女の落下速度落としていき、ゆっくりと石畳の上に降ろした。

 彼女は薄っすらと目を開けはしたが、感電している為動けない。

 何か言おうとしたみたいだけど、声にならなかった。

 

「ごめん」

 

 怪我をさせずに、彼女を制圧出来た事が、救いだった。

 

 

              :美海

 

 空中で武器が火花を散らす。

 既に何合か剣を交わしている。

 勿論、実力を見る為である。

「くっ!!」

 飛鷹君が呻き声を上げる。

 彼の実力なら、手加減されている事に気が付いているだろう。

 彼は苛つかないように、必死に自分を抑えている。

 冷静さを保つ事の重要さを知っている。

 よく怒りで強くなる主人公がいるが、あんなのは大嘘だ。

 力任せに攻撃してるから、強力に見えるだけで、大抵大振りしたところをやられるのがオチだ。

 実際に、経験してみると分かるんだけどね。

 怒りで強くなれるのは、アニメや漫画の世界だけって事で。

 

 こんな事を考えながらやれる。

 飛鷹君の斬撃を流し、打ち込み逸らす。僅かに身体をズラし躱す。

 努力も怠っていなかったのは、よく分かる。

 でも、あまり実戦はやってこなかったみたいだね。

 全部狙いがバレバレなのさ、私レベルになれば。

(ジャイ)!」

 残留魔力を断ち切りながら、飛んでくる剣閃を難なく躱す。

 そういう技なんだろう。

 隙を作る目的でもなく、隙が出来た時に放った訳でもない。

 そんなんじゃ、技使ったって無駄だよ。

『てめぇ!転生者だろう!どういうつもりでフェイトに味方してる!!』

 念話でそんな事を言ってきた。

「転生したと言えば、したんだろうね」

 

 感情が乗り出している剣に、私は狙いすまして自分の剣を打ち込む。

 力が入り辛い手首が固定された瞬間。

 剣を振り下ろしきった時。

 私の剣が叩き付けるように打ち込み、掬い上げるように跳ね上がる。

 飛鷹君の剣が空中に舞い上がる。

 飛鷹君の身体から、魔力ではない力が湧き上がる。

 恐らく、(フェン)の類だろう。

 今度は拳か、と思いきや。

 彼の手から、(フェン)で形成された剣が出来上がった。

 間合いを詰めた私に斬り付けてくる。

 私は斜めに前方、彼の横に流れるように移動する。剣は私のいた空間を切り裂いた。

 私は剣を振り下ろし開いた脇腹に、肘を打ち込んだ。

「っ!!」

 声にならない呻きを上げる飛鷹君。

 その時、魔力の奔流を彼に叩き付ける。

 術式解体(グラムデモリッション)を発動し、飛行魔法や強化魔法を引き剝がす。

 剣を血液に戻す。

 私はそのまま剣を振り下ろして、勢いのついた腕に、手を添え投げた。

 彼は一回転し、地面に叩き付けられた。

 地面にクレーターが出来ている。

 私はその中心に膝を打ち込む。

 が、魔力そのものが放出され、彼は横に転がり、膝を回避した。

 

 息が上がっているが、膝立ちで剣を構えてる。

 突然、彼の雰囲気が変わる。

 私の頭の中の警報が鳴り響く。

 彼の身体から白金の光が漏れ出そうとしていた。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)でそれが分かる。その正体も。

 第六感はやっぱり重要だね。

 あの光を発動させてはならない。

 私は、避雷針を発動寸前で打ち込んでいた。

「うっ!!」

 彼の背中には、魔力で生成した黒い針が撃ち込まれていたのだ。

 感電した彼は前のめりに倒れこんだ。

 

 避雷針とは魔法科高校の劣等生の電撃魔法だ。相手を無力化するのに使える。

 

 飛鷹君の使おうとしたスキル。多分、レアスキルだろうけど、危ないスキルだね。

 どうもあれだけじゃないみたいだけど。あれは力の片鱗だろう。

 最初から使われた時の対策、考えなくちゃ。

 でも、あんな副作用でよく使おうと思うよね。

 

 まあ、私が言えた義理じゃないか。

 

 

              :ユーノ

 

 僕はなのはのところに急いでいる。

 でも、その前に困難が立ち塞がっている。

 多分、使い魔だと思うけど、赤い狼が後ろから迫ってくる。

 僕は、フェレット形態で逃げながら、目的地に急いでいた。

 僕に戦いが不向きだという事は、間違いない事と認めている。

 だから、設置型バインドの罠で足止めしつつ、小柄な身体を生かし、狙い辛く動く。

 トランスフォームがフェレットっていうのは、コンプレックスだけど、今は役に立っている。

 物凄く、皮肉だ。

 飛鷹となのはは、もう戦闘を開始しているみたいだ。

 魔力の状態から、芳しくないみたいだ。

 僕が行っても、無駄だと分かってる。二人が押されるような相手じゃ、僕は足手纏いだ。

 それでも、僕が自分の意志で始めた事。僕が行かなくちゃいけない。

 例え、どうなろうと。

 

 僕が逃げに徹したのが、よかったのか、結界に入り込んだ。

「ちっ!!」

 赤い狼の舌打ちが聞こえる。

 確実に、戦闘になったら勝ち目がない。

 逃げに徹して、石の階段を駆け上がっていく。

 

 そこで見たのは、倒れているなのはだった。

 

 頭に血が上る。

「どうして、こんな事するんだ!!」

 僕は傍にいた金髪の魔導士に、声を荒げた。

 

 こうなるかもしれないのを、承知で協力をお願いした。

 でも、僕はまだ本当の意味で、分かってなかったんだ。

 そんな自分にも腹が立った。

「私にも、必要なものだから、諦めて」

 金髪の魔導士はデバイスを僕に突き付ける。

「ゴメンよ。逃げられちゃって」

 使い魔は項垂れている。

「いいよ、いずれ言わなきゃいけない事だったから」

 僕は俯いたまま、絞り出すように言った。

「無理だよ、諦めるなんて。それを無事に管理局に届けないと、一族の将来を危険に晒すんだ」

 僕は顔を上げて、金髪の魔導士を見上げる。

「貴女の目的が、違法なものじゃないなら、管理局からの安全宣言を待ってください!そうすれば、貸出許可が下ります!なんなら、僕も一番に借りられるように、口添えします!」

 ロストロギアは、安全な使用法が分からないから、危険と判断される。

 それが分かれば、貸出許可が下りたりもする。

「ごめんなさい」

 金髪の魔導士は申し訳なさそうに見えた。

 デバイスに魔法が形成される。

 僕は目を固く閉じた。

 

 鋭い金属音が響く。

 地面で電光が弾ける。

 目を開けると、倒れた筈のなのはが立っていた。

 金髪の魔導士のデバイスの狙いが、逸れていた。

 金髪の魔導士は驚いていた。

 なのはの手に杖がない。

 え!?レイジングハートを投げたの?

 なのはは、手から魔力で造ったワイヤーのようなもので、レイジングハートを絡め取って引き寄せる。

 

 なのはは感電して動かない身体を、魔力で無理やり動かしているようだった。

 なんて無茶な事を!

「なのは!」

 身体は痙攣している。

「こんな事、間違ってる…よ。なんで自分を大切にしないの!?」

 それは、金髪の魔導士だけの話じゃない。僕にも言っていた。

「私は必要な事をしているだけ、貴女には関係ない」

「だったら!なんでそんなに辛そうなの!?」

 優しい子なんだろうっていうのは、分かる。

 さっきの魔法だって、動きを止める為の魔法だ。

 金髪の魔導士は答えられなかった。

 

「分からないんだったら、止めな。恵まれた環境で生きてきた奴には、分かる訳ないけどね。

 当たり前の願いさえ、叶わない子の気持ちなんて分かりゃしないだろ」

 使い魔の冷ややかな声が響く。

「そんな…」

 冷たい言葉に、なのはが凍り付く。

 

 その時、怒号が響く。

「ふざけんじゃねぇ!!」

 全員が声の方を向く。

 飛鷹がフラフラしながら、歩いてくる。

「勝手に、分からねぇなんて、決めつけてんじゃねよ!言ってくれなきゃ、俺達だって分からねぇよ!話すのが辛くても、言ってくれ!それが、どんなに理不尽だって、俺達がぶん殴ってでも、どうにかしてやる!だから、話してくれ!言葉って、伝える為にあるんだろ!」

 なのはと僕も、凍り付いたものが溶けた気がして、少し笑みを漏らす。

 飛鷹が一歩踏み出そうとしたが、金髪の魔導士は僕達から背を向けてしまった。

「今度、会った時は容赦しません。だから、これ以上、邪魔しないで」

 金髪の魔導士は、いつの間にか造り出していた魔力球を、握り潰す。

 途端に、バッチっと弾ける音と共に、閃光が満たされる。

 

 気付いた時には、金髪の魔導士も使い魔も消えていた。

 

 

              :なのは

 

 もう、辺りは夕暮れになっていた。

 ジュエルシードに取り込まれていた犬は、無事元に戻って気絶していた飼い主さんと、家に帰って行った。

 でも、ジュエルシードは回収出来なくて、問題も残りました。

 

 飛鷹君は、あの誘拐騒ぎの時の魔導士らしい人と戦ったらしい。

 負けちゃったって言って、落ち込んでいた。

 その人はどうして、協力してるんだろう。

 目的の人って多分、金色の髪のあの子だと思うけど。 

 

 ユーノ君も考え込んでいたみたいだけど、顔を上げて私達を見る。

「ごめん。こんな事になって。でも、ここからは…」

「自分一人でやるとか言い出すなよ」

 ユーノ君の言葉を遮り、飛鷹君が言った。

「厳しい事言うけどな。それが出来るなら苦労はねぇだろ。今更遠慮してんじゃねぇ。俺だってこのままじゃ、引けねぇよ」

 飛鷹君はお前はどうする?っと言うように、私に視線を投げる。

「私は、ちゃんとあの子と話がしたい。勿論、ジュエルシードは取り返すよ」

 その上で、あの子を助ける手伝いがしたい。

 

「でも、あの時の飛鷹君。少し格好よかったよ」

 飛鷹君は、恥ずかしそうに真っ赤になった。

 

「私も頑張らなきゃ、だよね。だから、お願いします。私を鍛えてください」

 私は真剣に頭を下げた。

 

 

              :フェイト

 

 もう、一時的な待機所として使っているマンションに戻った時には、もう夜だった。

 尾行や追跡がないか、念入りに調べた。

 

 私はソファーに座って、今日の事を考えていた。

 必死に私に呼びかけた人達。

 分かってる。傷付く人がいるなんて事は、でも私は母さんの為に、出来る事をしてあげたい。

 譲れない事なんだ。

 

 そう思っても、握り締めた拳が震えた。

 

 いつの間にか、目をギュッと閉じていたらしく、微かな甘い香りで目を開いた。

 私の前のテーブルにマグカップが置かれる。

 マグカップには茶色い液体が、入っていた。取っ手は私の方に向いている。

「ありがとう。リニス」

 お礼を言って顔を上げると、リニスじゃなかった。

 レクシアが、バリアジャケットすら解除した状態で立っていた。

「え!?」

 もしかして、レクシアが淹れてくれたの?

「ココアだよ。昔から、何故かこれだけは上手く淹れられるんだよ」

 微笑むと、部屋を出ていこうとする。

「待って」

 呼び止めると、レクシアは立ち止まり振り返る。

「何?」

「今日の事だけど。なんで、あの男の子を通したの?」

 レクシアなら接近に気付かない訳がない。

「彼に戦う意志があったら、止めたよ」

 それは、黙って通したと認める言葉だった。

「どうして?」

 私の欲しい返事じゃないから、同じ事を訊いた。

 どうして私を迷わせるような事をするの?

 見たくないものを見せようとするの?

「私はね。フェイトちゃんにもっと色々な人に会って、もっと色々考えて、悩んでほしい。

 だからだよ」

「どうして?」

 私は馬鹿みたいに、繰り返すしかなかった。

「今まで、貴女は考える事を避けてたんじゃない?傷付いたお母さんの為って理由で。

 フェイトちゃん。他人の答えに身を任せると、後悔する結果になるかもしれないんだよ。

 共感出来る事と、納得出来る事は違うよ。

 自分なりの答えで納得しないと、大切なものを見失ってしまうよ」

「そ、そんな事ないよ。大切なものは、ちゃんと分かってる」

 母さんやアルフ、リニスだ。

 でも、真剣な言葉にたじろいでしまう。

「あの三人の言葉に何も感じなかった?心を決めてしまった人は、迷わないよ」

 私は戸惑う。

 

「私は貴女に、後悔してほしくない」

 部屋にレクシアの悲しみや後悔が、そのまま響いた気がした。

 

 レクシアは、改めて部屋を出ようとしたけど、思わず引き留めてしまった。

「待って、その、お願いがあるんだけど」

「何?」

「あの、フェイトって呼んでくれないかな。フェイトちゃんって線引きされてるみたいで、

 なんか嫌なんだ」

 何言ってるんだろう私は。

 もっと言う事があったんじゃないの?って、心の中で呻く。

 そうすると、レクシアはキョトンとした顔をした後、笑い声をあげた。

 

 少しだけ、ホッとした気がした。

 

 

 




 第2話終了。

 飛鷹のレアスキルの情報を少しだけ、出しました。
 これで気付いた方は、凄い!分からないですよね?

 時間が掛かっても、次も必ず投稿しますので、お願いします。


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第15話 敵の正体

 冒頭、お詫びする事になります。
 私のミスで、掲載が差し止めになっていたようで、すいません。
 私も、心臓が止まるかってほど、ビックリしました。
 すわっ!何やったんだ俺!?って思いましたよ。
 今も、削除されるんじゃ、と怯えております。

 今回も文字数がとんでもない事になりました。
 削れませんでした。どれも書きたかったんです。


              :なのは

 

「なのは!そっち行ったぞ!」

 飛鷹君の声が飛ぶ。

 私達は夜の地元中学校にいる。

 勿論、悪戯とかじゃなくて、ジュエルシード回収の為だ。

 発動を捉えられたのは、幸運だったんだけど。            

 

 私はレイジングハートを構えて、待ち受ける。

 そして、思念体が現れた。

 でも、あれ人体模型だよね?なんか夜の学校のお約束な気が…。

 半身の臓物が突然伸びて、私に襲い掛かる。これは…酷いと思う、別の意味で。

 

 私は動揺する事なく、バインドで動きを止め、伸びた臓物を背中に待機させていた魔力球を

放ち、打ち落とす。

 バインドで絡め捕られた人体模型は、必死?に抜け出そうとするが、ガチガチに拘束されて

いる為、動けない。

「ジュエルシード、封印!!」

 私は封印砲を放ち、無事封印に成功した。

 

 凄く疲れた。色々な意味で。

「なのは、レイジングハートを待機モードにしろよ」

 飛鷹君の言葉に初めて気付いて、レイジングハートを待機モードに切り替える。

「なのは、大丈夫?」

 ユーノ君が心配して声を掛けてくれた。

 いけないよね、心配かけちゃ。これじゃ、ユーノ君の事言えないよ。

「ごめんなさい。少し疲れた」

 飛鷹君が急に私の前に出て、背中を向けた。

「おぶされよ」

 しゃがみ込んで飛鷹君は、そう言った。

 え!?そこまでして貰うのは、ちょっと…。

「フラフラしてんじゃねぇか。遠慮するなって」

「うん、飛鷹の言う通り、ここのところ忙しくしてたし無理はよくないよ」

 二人がかりで少しの間、説得されておんぶして貰う事になった。

 

「なのは、明日は完全休養な。訓練なしだ。レイジングハートもいいな?」

 負けてしまってから、私は訓練に打ち込んでいた。勿論、飛鷹君も。

 授業中まで、シュミレーションを熟すくらいだった。

『問題ありません』

「え!?」

 でも!それじゃあ…。

 私の頭の中に、あの金色の髪の子の辛そうな表情が浮かぶ。

 ユーノ君の必死の声も。

 未だに私は、基礎を積み終わっていない。

 時間の関係で、実戦形式で叩き込むやり方に変更したから、上達速度は上がってるけど。

 それでも、あの子の実力に遠く及ばない。

「焦ったって、実力なんて一朝一夕で付かねぇよ。焦らずやる事が重要だ。それにとんでも

ないスピードで上達してるだろ?俺なんて、初めの1か月なんて、まだ魔力制御やってたぞ」

 呆れた声で飛鷹君が言った。

「でも…」

「今が我慢のしどころだ」

 私は飛鷹君の背で黙り込んだ。

 焦りは消えないけど、飛鷹君の言っている事も分かる。

「明日は、丁度アリサ達と約束してるだろう?休むのも訓練の内さ」

 そうか、アリサちゃん達と、サッカーの応援に行く約束してたんだった。

 焦りはある。飛鷹君は凄いスピードで上達してるって言ってくれるけど、最近は

そのスピードも落ちてきている。

 もしかして、疲れもあるのかもしれない。

 私は静かに頷いた。

 

 家に帰ると、家族が出迎えてくれた。

 飛鷹君は、お父さんとお兄ちゃんに道場に連れていかれてたの。

 飛鷹君はまるで仏像みたいな顔になっていた。

 悟りを開いた人って、もしかしてあんな感じなのかも。

 なんか、澄み切ってたもん。

「まあ、あの二人もなのはが、本当に疲れて動けないって分かってるから、適当なところで

止めると思うよ」

 お姉ちゃんが笑いながら言った。

「後で私も様子を見に行くから、なのはも今日は早く休みなさい」

 お母さんに言われて、身体が思うよう動かい事を自覚させられる。

 

 やっぱり、そろそろ休息しないとダメかも。

 

 

              :飛鷹

 

 俺は自分の鍛錬、というかリンチというかを終えて、大の字に倒れていた。

 マジこの2人は化けモンだわ。

 魔力をフルに使用して、なんとか戦えるレベルだ。

「あら、美由紀の言った通りね」

 桃子さんの声が入り口からした。

「ああ、本人の希望もあるし、稽古の相手になっているけど、無茶はやらないよ」

 士郎さんが桃子さんに苦笑いを返す。

 これで、手加減してるんだから、ヤバい。

 

 実は奴にボコボコにされた後、無理を承知で稽古の相手をお願いした。

 別に門下生にしてくれと言った訳じゃない。

 悪いところを指摘して、どうすればいいか意見を貰う為だ。

 まずはスフォルテンドの映像記録を見て貰い、意見を聞いた。

 勝つ為には、どうしたらいいかを。

 

 結論は、短時間で勝てるようになるのは不可能、だった。

 

 あの2人をもってしても、冷や汗を掻くレベルらしい。

「年齢から言ったら有り得ない。どうすれば、こんなになるのか」

 恭也さんもそう漏らしていた。

 俺も、この年にしては異常な強さらしいけど。

 奴をどうにかするか、どういうつもりなのかを、聞き出さない事にはどうにもならない。

 そこで、俺も剣術を実戦形式で改善している。

 まず、勝てないなら、話し合いにまでもっていかねぇとな。

 悪足掻きだが、やらないよりマシだろう。

 自力を磨くのも、無駄にはならない。

 

 なのはには、焦るなと言っといて、自分はこれとは示しがつかないわ。

 なのはの成長スピードに比べれば、俺はカタツムリ並に遅い。

 凡人は努力あるのみだ。

 勿論、俺も明日は訓練はしない予定だ。()()()()

 これで俺が体を壊したら、とんだ反面教師になっちまう。

 

「飛鷹君。夕飯まだでしょ?お家には連絡してあるから、食べていって」

 桃子さんの言葉に俺は素直に頷いた。

 

 頷いた理由は、悪いと思って断ったら、凄いプレッシャーを掛けられたからではない。

 そう、断じて違う。

 

 

              :フェイト

 

 今日もジュエルシードの反応を、見付けて駆け付ければ、空振りだった。

 

 私達は、夜の住宅街に立っていた。

 一応、アルフとリニスには、周辺を見て回って貰っている。

「レクシアがサーチしたら、ここだったんだよね?」

 私は隣にいるレクシアに、そう声を掛けたが、反応がなかった。

 ただ、一点を見詰めていた。

 その顔は妙にヒンヤリとしていた。

 もしかして、疑ったと思われたかな?

「別に、レクシアのサーチを疑った訳じゃないよ」

 慌てて、声を上げるとレクシアは、キョトンとした顔で私を見た。

「ごめん。何?聞いてなかった」

 私は、少しムッとした。

 どうしてか、放って置かれたみたいで嫌だった。

 これじゃ、本当に子供みたいだ。…子供だけど。

 こんなのじゃなかった筈だ、私は。

 あの夜から、どうも私は調子が出ないような気がする。

『私は貴女に、後悔してほしくない』

 この言葉を聞いてからのような気がする。

 

「ジュエルシード。ここなんだよね?」

 少し、尖った声になってしまった。

 彼女はボンヤリと頷いた。

「そうだね。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()だね」 

「あの子達が回収したって事?」

 あの子達は当然、白い魔導士の子達だ。

 だけど、レクシアは首を横に振る。

「違うね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()

 レクシアの表情に鋭いものに変わる。

「こんな事が出来る連中は、限られる。まあ、予想はしてたけど」

 冷ややかな声音に、私までビクッとなった。

「つまり、具体的な犯人は分からないけど、敵の正体は分かったって事」

 レクシアは私に獰猛な笑みを浮かべた。

「これも、無駄じゃなかったって事で」

 レクシアは、また見ていた方向に視線を戻し、私に言った。

「さて、今度はこちらが、追い込んでやらないと」

 獰猛な笑みには、凍える炎が灯っていた。

 

 矛盾した表現だけど、こうとしか言いようがなかった。

 

「因みに、フェイトが気にしてる人達は、ジュエルシード回収成功したみたいだね」

 雰囲気が戻ったレクシアに安心したけど、切り替えが早すぎてついていけないから、止めて。

 私はそれを聞いて何とも言えない気分だった。

 あの子達が、収集を止めなかったって事だから。

 あの子達も大切な人達の為に行動している以上、分かっていた事だけど。

「まあ、その調子で考えてよ」

 レクシアが一転して、揶揄うように言った。

 私はまたムッとする。

 いじわる。

 私は、無言でレクシアをパシパシ叩いた。

 

 当然、彼女には堪えた様子はない。

 叩かれても笑みが見える。

 彼女は、笑っている方が断然いいと思う。

 

 

              :美海

 

 こんな事だと思ったよ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を誤魔化せる奴なんて、そうそういない。

 可能性としては、常に上位に位置していた。

 欺瞞情報ぐらいで、私の眼は欺けない。

 まあ、最初からやらなかった私が言う事じゃないけど。

 つまり、やりようはあるという事だ。

 

 ジュエルシード探しが空振りに終わった翌日。

 私は今、河川敷を歩いて、サッカーグランドに向かっている。

 グランドなんていうほど、上等なものじゃないけど。

 なんせ、少年サッカーチームが、練習試合やるような場所だからね。

 

 実は、前日に適当に潜り込んでいるクラスの女の子グループの1人から、誘われたんだよね。

 少年サッカーチームの応援に行こうって。

 普段サッサと1人帰っている身としては、断り辛い。

 なので、フェイトに昼の収集は休みにしてほしいって、お願いした。

 少しご機嫌斜めだったけど、了承してくれたよ。

 ついでに、彼女も休ませた。捜索し通しで、疲労も溜まっているだろうから。

 またしても、渋々承知してくれた。

 今、動き回っても無駄骨になるって説得したよ。

 拗ねても可愛いってなんか、ズルいんですけど。

 他の子が同じ事やったら、微妙な気持ちになるのにね。

 

 グランドに辿り着くと、既にチームのベンチ付近にギャラリーが集まっていた。

 肝心の選手は、まだ疎らだっていうのに、どうしてギャラリーの方が熱心なの?

 

 グループの子がいたので、近寄っていくと今あまり関わりたくない子達が集合していた。

 関わりたくないのは、常時だがそれは言えやしないよ。

 なのはちゃんグループ3人と飛鷹君、おまけにユーノ君までいた。

 勘弁してよ。

 まあ、正体がバレる事はないだろうけどね。

 しかも、5人とも私に気付いたみたいだ。

 

 今から、体調不良で帰るってナシかな。

 

 

              :飛鷹

 

 今日はサッカー観戦の日だ。

 原作を知っているなら、分かるだろうがジュエルシード発動の日だ。

 キーパーの彼が、どこで拾ったのか知らないが、まずは持っているか確認する必要がある。

 そして、機会を見て譲って貰う。

 あれの発動は、回避すべきだろう。

 被害が洒落で済まない。

 

 俺はユーノを連れて、家を出てなのは達3人と合流した。

 ユーノは人間形態での参加だ。

 アリサ達とユーノが、お互いに自己紹介し合い、サッカーグランドへ向かう。

 

 道々、サーチしながら進む。

『飛鷹君。もしかしてサーチしながら歩いてる?』

 なのはから念話が届く。

『ま、念の為な。なのははやんなよ。備えでやってるだけだし、河川敷だけしか調べてねぇから』

『ああ、それ僕がやるよ。戦闘では役に立たないし…』

 ユーノも念話で会話に参加。

 ユーノはアリサ達と喋りながら、サーチで一帯を捜索し出す。

『んじゃ、任すわ』

 俺はなのはの手前アッサリ引く。

 キーパーの彼だからな、問題は。持ってなきゃ、それでいいんだけどな。

 

 グランドでは、両チームとも選手は、殆ど来ていない。

 当たり前だ。開始まで時間があるんだから。

 本日の対戦カードは、翠屋JFCVS桜台JFC。

 たかが、小学生のサッカーチームなのに、親や各方面の知人以外にもギャラリーが多い。

 俺はクラスメイトの武藤が翠屋JFCにいるので、応援に駆け付けている。

 

 適当に周りにいる顔馴染みと雑談に興じていると、なのは達が振り返っているのが見えた。

 俺も振り返ると、そこにはクラスのマスコット綾森 美海がいた。

 個人的には、あんな不愛想なマスコットいて堪るかと思うけどな。

 確かに、気紛れな猫っぽい。

 

 実は、転生者かと疑った時期があった。

 だって、あのヘッドフォンどう見ても、某・問題児の1人が付けてたヤツだよな。

 調べたら、猫耳バージョンまで売られていた。

 恐るべし、ちゃんぽん。

 疑いを持って調べたが、魔力・リンカーコアも確認出来なかったので、マークから外したんだ。

 勿論、二次小説お馴染みの、魔力なしの転生者の可能性も考慮した。

 機会があって、闘気をぶつけてみたが無反応だった。

 それ以来、アイツに関しては会うと、ちょっとバツが悪い。

 

 綾森は、そのままよく一緒にいる女子のところに行ってしまった。

 なのは達は、友達になりたいらしいが、今のところ成功していない。

 まだ、縁がないだけじゃないか?

 機会はあるさ。そのうち、きっと。

 

 

              :美海

 

 時間が経ち、選手達のアップも終了したようだ。

 因みに、私達は翠屋JFC側での応援だ。

「そろそろアップもいいでしょうし、始めますか?」

 なのはのお父さんが、隣の無精髭の男に声を掛けた。

 向こう側のコーチだったんだ、この人。

「そうですな」

 チョイ悪親父風なのに、意外に爽やかだった。

 向こうのコーチが、向かいのベンチに向かって歩いて行った。

 

 試合が始まった。

 ギャラリーが集まった理由が分かったよ。

 それは、隣にいる適当に潜り込んでいるグループの子・川名さんの言葉で分かった。

「翠屋JFCのキーパーの工藤君。有名プロチームの若手養成やってるコーチに

声掛けられたんだって!!」

 だからか、ギャラリーが多いのは。

 未来のプロ選手を見たかったのか。まあ、可能性の話だけど。

 

 私自身はサッカーをやったのなんか、ベルカ転生前の学生時代の授業が最後だ。

 それでも、分かる。

 あれは、他の子と違うわ。小学生レベルじゃない。

 コーチングも上手い、シュートコースを限定しキャッチしている。

 一切得点を許さない。

 勿論、裏をかかれる形になっても、冷静に対処する。

 でも、私が意外に思ったのは別だった。

「へぇ。武藤君、上手いじゃん」

 ボソッと小声で言ったのに、反応する人物がいた。

「どこがよ?」

 アリサちゃんだった。

「ボールにあんまり触ってないし、シュートも決めてないわよ?」

 貴女もミーハー組ですか?

 私も素人だけどね。見れば多少分かるよ。

 武藤君は、確かに一見して活躍はしていないように見える。

 でも、マークする子をなるべく多く引き付け、他の子が攻撃し易いように行動してる。

 隙あらば、積極的に攻める為のお膳立てもする。

 相手チームは武藤君を警戒しているから、彼がこのチームのエースだろう。

 だから、彼の動きに釣られる。

 味方を引き立てる事の出来るエースだ。

 貴方もしかして、転生してます?

 そんな事をボソボソ説明する。無論、転生は抜きで。

「「「へぇ~!」」」

 アリサちゃんだけじゃなく、なのはちゃん達まで感心している。  

「よく見てるね」

 なのはちゃんのお父さんまで会話に参加する。

「彼は攻撃の要だよ。司令塔だね。勿論、単独で攻め込んでも点を取れる。

それだけじゃ、ダメだってちゃんと分かっているんだよ」

 結局試合は、翠屋JFCの圧勝に終わった。

 

 試合が終わったのはいいが、例の3人組が絡んでくるんですけど。

 川名さんも、ちょっと困惑気味である。

 普段、仲が悪い訳じゃないけど、大の仲良しって訳でもないからね。

 こんな事に巻き込んでしまって、本当に済まない。

 

 

              :飛鷹

 

 俺はスフォルテンドに、キーパーの彼の荷物の中をサーチして貰う。

 名前は工藤君というらしい。

 女子の話を聞いていたが、これだけのギャラリーはそれが原因か。

 おっと、サーチ結果が出たようだ。

『ないな』

 簡潔だった。

 原作ではバックのポケットに入っていたが、この世界では彼は持っていない。

 取り敢えずはホッとした。完全に気は抜けないけどな。

 

 関係ない話だけど、武藤って凄い奴なのか?サッカーはよく知らんけど、凄いらしい。

 俺は心を込めて、サムズアップしてやったら、微妙な顔をされた。

 失礼な奴だ。勝利を称えたってのに。

 

 武藤の非礼に心を痛めていると、視線を感じた。

 振り返っても、視線の主を探り当てる事が出来なかった。

 

 なんか、気になるな。スゲェ嫌な視線だった。

 

 

              :???

 

 ホウ…。なかなか鋭いな。

 本命ではないが、私の玩具を奪い合っている輩の一人だ。

 では、今回は彼らに協力してもらうとしよう。

 

 私は取り込んでいる玩具を、一つ取り出そうとした。

 が、途中で止まった。

 突然、結界で閉じ込められたのだ。

「やっと見付けたよ。君が悪戯してる悪い子か」

「!!?」

 咄嗟に飛び退くが、相手は追ってこなかった。

 その場に立ったままだ。

 間違いなく、先程まで後ろに誰もいなかった。

 これだけ、接近されるまで気付かないとは。

 

 小柄な人間がいた。

 覚えのある凄まじい殺気を放ちながら。

 

 

              :美海

 

 飛鷹君が視線に気付いたようだが、視線の主までは気付かなかったようだ。

 上手く偽情報を上書きしてるからね。

 でも、種が割れれば何の事はない。

 私は、極小の精神干渉魔法を瞬間的に使い、用事があると3人組と川名さんと別れ、人混みに

紛れて姿を消した。

 

 騎士甲冑を纏い、自分自身の情報を偽る。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)があり、魔法科高校の劣等生の魔法を極めている私には可能だ。

 気配を断ち、音さえも立てず移動する。

 偽情報で偽っている箇所を探す。

 バレバレなのさ。

 私は結界を構築する。本気で。

「やっと見付けたよ。君が悪戯してる悪い子か」

 私が唯一、問答無用で殺していいと思う相手。

「!!?」

 相手は飛び退いた。

 黒い人型の靄がそこには立っていた。

 私の眼には、ジュエルシードが幾つか見える。

 なるほどね。ジュエルシードを取り込みながら、力を取り戻してるのか。

 2度と再生しないように、葬ってやる。

 

 アルハザードの魔法使い。

 

 

              :なのは

 

 突然、結界が張られた。

「「「!!?」」」

 飛鷹君もユーノ君も気が付いている。

 こんなにすぐ近く!?

 金色の髪の子か、私を助けてくれた魔法の人か。

「アリサちゃん、すずかちゃん!ごめん!」

 2人は緊急事態だと、察してくれたみたいだ。

 飛鷹君もユーノ君も駆け寄って来る。

「いいわよ!気を付けてね!」

「気を付けてね!怪我しないでね!」

 二人の応援を受けて、私達は走り出す。

 

 まだ、実力は足りないけど、今度は伝えてみせる。

 私の思いを。

 

 

              :フェイト

 

 レクシアに休むよう言われたけど、ジッとしているとあの子達の事を考えてしまう。

 だから、待機所として使っているマンションの屋上で、素振りをしていた。

 レクシアの思惑通りというのも、癪だし。

 拗ねているって自覚は…あるけど。違う。そうこれは違う。

 じゃあ、なんだって言われると困るけど。

 雑念だらけの素振りに、これ以上やっても成果は上がらないと、見切りをつける。

 

 その時、結界が張られた。

 私は弾かれるみたいに、そちらを振り返る。

 これは、レクシアの魔力!?

 しかも、これは侵入も脱出も出来ないようにする完全な隔離結界だ。

 これの示すところは、手出し無用。という事だ。

 

「フェイト!!」

 屋上にリニスがやって来る。

「リニス!レクシアが!」

「分かっています。私が援護に向かいます!フェイトはここにいて下さい」

「私達も!」

「いえ、主があれだけの結界を張る相手です。何があるか分かりません。信じてください。

必ず連れ帰りますから。一緒にあの分からず屋を、叱り飛ばしてやりましょう」 

 リニスが悪戯でも企むみたいに言った。

 リニスは返事も聞かずに、認識阻害を掛けて飛び出していった。

 

 リニス。なんか、変わった?

 

 

              :美海

 

 私は、血液中から一本の魔剣を取り出す。

 埋葬剣・オルクス。

 生者を斬れば、死の呪いを。死者を斬れば、冥界へ連れ帰る剣。

 前の所有者は、有名な冥王・イクスヴェリア。

 破壊された神殿跡地で私が見付けたものだ。

 正体に気付いて、危ないから戻そうとしたんだけどね。

 気が付けば、契約状態だったんだよ。

 バルムンクが通訳するところ、戻るのは拒否するって。いいんだけどね。

 

 黒い靄は手に該当する部分を黒い刃に変化させる。

 私は、埋葬剣を構える。

 

 次の瞬間には、刃と刃が火花を散らし、高速で何度も踊る。

 金属が擦れる耳障りな音が響く。

 高速でお互い移動しつつ、剣を交える。

 剣風のみで地面が抉れる。

 当然の如く、魔法を発動中。

 領域干渉、情報強化の2種。

 相手の魔法を僅かでも無効化する為の探り合いが、斬り合いの最中に行われている。

 こいつらに、いきなり攻勢魔法を放っても無駄だ。

 まずは、干渉力を弱め、断ってからでないと攻撃が当たると同時に回復してしまう。

 私の剣は靄を何度も捉えているけど、すぐに再生する。

 こちらは偶に掠る。掠ったところが、切れると同時に焼け爛れる。

 この程度の痛みは、平然と耐える事が出来る。

 自己修復術式も作動しない。

「ふん、そのザマでは往年の輝きは放てないか」

 嘲るように靄が言う。

「アンタに言われてもね」

 逆に鼻で嗤ってやる。黒い靄が言う事じゃない。

「それはそうと、アンタ誰だっけ?私の事、知っているみたいだけど、私が斬った人かな?」

「貴様ァ!!」

 この程度の挑発で激昂するとはね。

 私の魔法が僅かな綻びをこじ開ける。

「ニブルヘイム」

 液体窒素すら発生させる強力な凍結魔法。

 黒い靄の中のジュエルシードが凍結し、機能を停止していく。

 氷の粒になって、靄が急速に消え失せていく。

「おのれ!!だがしかし…」

 残り一つのジュエルシードがニブルヘイムに抵抗し、吐き出される。

 同時に消えかけた靄の手に魔力の奔流が、弾丸にまで圧縮され放たれる。

 結界に小さな穴を穿つ。

 そこに輝きを増したジュエルシードが飛び出していった。

「チッ!!」

 今度はこちらの気が逸れる。

「力を糧に咲け、邪悪の華」

 邪な祝詞が響く。

 結界の外でジュエルシードが発動したのを感じる。

「さぁ!どうする!?」

 さっきの油断で、ジュエルシードが幾つか稼働状態に戻っている。

「ケージングサークル」

 私は舞台俳優よろしくポーズを決めている靄を、隔離してやった。

 情報強化でも抑え込んでいる。

 

 私は結界を一時解除した。

 

 

              :飛鷹

 

 結界内部に入る事が出来ない。

 結界破壊を、ユーノとなのはの3人掛かりでやってもビクともしない。

 

 外で躍起になっていると、小さな穴が開きジュエルシードが飛び出してきた。

 やべぇ!発動してやがる。どうなってんだ!?

「力を糧に咲け、邪悪の華」

 不気味な声が響く。

 ジュエルシードが周辺の植物を吸収し、膨張していく。

 

 その時、結界が解除される。そして、素早く結界が再構築された。

 俺達もそれを黙って見ていた訳じゃない。

 俺達も構築が完了する前に、結界内に飛び込んでいく。

 

 そこには、魔法の檻で閉じ込められたものと、俺をボコってくれた魔導士がいた。

 魔導士の方は焼け爛れた傷が、複数付いている。

 肉の焦げる嫌な臭いが、微かにする。

 やったのは、閉じ込められてる奴か!?

 おいおい、第三勢力かよ!?

 

「大丈夫ですか!?」

 すぐになのはが、黒い魔導士に駆け寄るが、奴は来るなとばかりに手を振った。

 植物が寄り集まり、天辺にでかい華が咲いた。毒々しい赤い華が。

 

 黒い魔導士は剣を構え、すぐさま攻撃に移る。

 赤い華は、触手のように茎を伸ばしこちらに高速で飛ばしてきた。

 更に華からは、紫のガスを噴き出す。

『なのは!ユーノ!吸い込むなよ!!』

 念話で2人に注意を促す。

『『了解!』』

 返事がハモる。

 なのははアクセルシューターを、飛んでくる茎を避けるように放つ。

 訓練で簡単な操作を可能としていた。

 幾つか茎で落とされたが、本体に命中しても大した傷になっていない。

 俺も茎を斬り払いながら進む。

 ユーノはバインドで動きを止めている。

 

 しかし、一番とんでもないのは、やはり黒い魔導士だった。

 まるでミキサーの刃みたいに、あっと言う間に茎を片付け、本体を半ばまで斬り付ける。

 毒霧も何も、アイツに触れられず消えていく。

「ニブルヘイム」

 一瞬にして白銀の世界に変わる。

 俺のマグナフリーズと同等かそれ以上だ。

 氷の華が出来上がった。

「後よろしく」

 黒い魔導士がそう言うと、空から人が降ってきた。

「ハアァァー!!」

 裂帛の気合と共に拳が振り下ろされ、氷の華が砕け散る。

 同時に魔力光が放たれ、ジュエルシードは封印された。

 

 着地した人物は俺の予想通り、リニスだった。

 

 

              :リニス

 

 到着と同時に美海から合図が入り、私は凍り付いた思念体を砕き、封印を行う。

 接近に気付いていてからではなく、こうなる前に応援を求めてほしい。

 

 私の手にはジュエルシードが残る。

 

 私は主の傍に寄ると、睨み付ける。

「何故、応援を求めないんですか!帰ったらお説教です!!」

「呼んだら、死ぬからだよ」

 私の怒りなどものともせず、美海はあっさりとそう言った。

 淡々とした返事に、美海に対しても、当てにされなかった私自身にも腹が立った。

 それほどの相手だとは。

 もっと鍛えておくべきだった。後悔しても、もう遅い。

 

「あの!!」

 白い魔導士が私達に声を掛けてきた。

「何?」

「誘拐された時、助けてくれた人ですか?」

 姿は見せていなかったのに、よく分かりましたね。

 あの時は、美海が魔法を使った後の覚醒だったのに。

「助けたかは、微妙な結果になったけどね」

 美海が苦笑いした。

「それでも、助かったから。ありがとうございます」

 礼儀正しい子ですね。感心です。

 

「俺からも礼は言うが、一つ訊きたい」

 黒い魔導士が、警戒の滲んだ表情で話し掛けてくる。

「何かな?」

 美海は何の気負いなく、応じる。

「ユーノから聞ける事は聞いたが、どうして、っ…あの子に協力してる?」

 何か不自然に詰まりましたね。

「聞いたなら、それ以上はないよ」

「あの子は次元犯罪者になるんだぞ!!」

 怒りの籠った声で黒い魔導士が吠える。

「じゃあ、どうすればいいのかな。あの子を監禁でもして、元凶がいるなら殺せば

いいのかな?」

 美海はアッサリとそう言った。

 同時に必要なら殺しも、厭わない事も滲み出ていた。

 プレシアは諦めない。諦めるくらいなら、とうにそうしている。

「「「っ!!」」」

 3人とも衝撃を受けたようだった。

 当然だ。この年の子がこんな事を言っては。

 勿論、戦争中の世界等では、その限りではないですけど、今は関係ない。

 

「私一人が恨まれて済むなら、そうするよ。でも、それじゃ、あの子は前に進めない。

 間違いには違いないけどね。それより私は後悔のない選択をしてほしいよ」

 どんな善人も罪を犯してしまうもの。それは仕様がない面もあるんだよ。

 私が黒い魔導士と同じような事を訊いた時、美海はそう言った。

 でも、それは、未だに美海を縛る荒んだ価値観だ。

 

 言葉を失う3人に、美海は背を向けて魔法の檻を確認する。

「チッ!」

 美海は、一つ舌打ちすると魔法を解除した。

 そこには、拘束された筈の存在はいなかった。

「瞬間移動か。私も平和ボケしたらしい」

 忌々し気に美海は吐き捨てた。

 瞬間移動?

「連中の緊急離脱魔法だよ。高位の奴が使うやつだね。空間に干渉して別空間を移動する魔法

だよ。連中でさえ無茶な術式だから、使用は戦闘中1度が限度ってもの。暫くは大人しいと

思うよ」

 私の疑問が伝わったのか説明してくれた。

 別世界への転移ではなく、空間そのものに移動ですか。

 結界構築とはレベルが違う。結界は例えるなら、岩を別の場所に移動する事とするなら、

魔法使いがやったのは、岩に含まれる一定の成分のみを移動させるようなもの。

 流石はアルハザードの魔法使いといったところですね。

「君達もあれに遭遇したら、全力で逃げた方がいいよ。死ぬから」

 3人は言葉もないようだった。

 美海は、私の持っているジュエルシードを受け取る。

 

「あ、あの!協力は出来ないんですか!?」

 背から白い魔導士の声が掛かった。

 心の強い子ですね。この状況で美海に声を掛けてくるとは。

 他の2人は、まだ動揺しているようなのに。

 

「それは、君達次第だよ」

 美海は微笑んだようだった。

 少しも恐れずに、話す姿に喜んだんでしょうね。

「私はユーノ君を助けたい!けど、あの子も助けたいんです!」

「その気持ちを大切にして」

 

 立ち去ろうとする美海を、私は抱き抱えた。所謂、お姫様抱っこというやつですね。

 美海は少しビックリしたようだ。

 少し、気分がいい。

「怪我人は無理しないで下さい」

「これくらい一瞬で治るって知ってるよね?」

 不機嫌に言う主を無視して、私は抱き抱えたまま、空に飛び上がった。

 そして、3人に向かって言った。

 

「空から失礼ですが、これにてお暇します」

 私は目晦ましと同時に、転移した。

 

 

              :美海

 

 フェイトの待機所のマンションに帰り付いたが、1人と2匹から非難の嵐を受けた。

 1人で無茶やって、怪我した事までリニスにバラされて荒れた荒れた。

 1個回収出来たんだから、と宥めるのに苦労した。

 

 そして、私は自分の家に戻った。

 夜空を見上げて思う。

 飛鷹君の言う事は100%正しい。

 フェイトを助けたいなら、犯罪など犯させるべきではない。

 小学生でも分かる事だ。

 問題はどの世界であっても、それは建前だという事だ。

 情状酌量なんてものがあるのが、いい証拠だろう。

 所詮、法など不特定多数が、許せるか許せないかの問題だと思っている。

 それが、善悪の堺だと思う。

 私にしてみれば、フェイトが母親の願いを叶えようとする事自体、悪いとは思わないのだ。

 次元犯罪者というが、フェイトだって管理局法の恩恵など受けていない筈だ。

 私に出来る事は、彼女が納得の上で行動させる事ぐらいだ。

 その為に、考えてほしいと言っている。あの子はちょっと盲目的だから。

 あのままでは、後悔する事になるだろう。

 納得の上でなければ、決意も覚悟もない。

 人は理性より感情優先だから。

 少しでも納得してやれる事をやって、後悔が減ればいいと思う。

 

 まあ、最終的にあの子を利用するような事を、計画している私が言えた義理じゃないけど。

 上手くいったって、私はあの子と決別する事になるだろう。

 

 でも、きっと大丈夫だ。あの子には、なのはちゃんやアルフ・リニスが付いている。

 飛鷹君だって、あんなに怒っていたんだから、支えるつもりがあるんだろうし。

 

 でも、そこには私はいてはいけない。

 今はそれが少し寂しい気もする。

 

 

              :飛鷹

 

 道場での稽古は、早々に切り上げとなった。

 理由は俺が集中出来ないからだ。

 

「あの、よく知りもしない相手を、助ける為に誰かを殺そうと出来ますかね?」

 俺は、士郎さんに訊いてみた。

「君も薄々気が付いているだろうけど、私は昔、裏社会と関わりがあった。そういう連中から、

護る側だったけどね。大切だと思える人に逢ったら時間は関係ないよ。そして、その人が危険

に晒されるなら、私は殺せるよ」

 士郎さんはそう答えてくれた。

「すぐに出る答えでもない。今からでも、考えるのも悪くないと思うよ」

 そう言って道場を出ていった。

 俺が、どうしてこんな事言い出したか、分かってんだろうな。

 

 アイツは俺とは違う。

 俺みたいにヌルい世界から、転生したのではないだろう。

 アイツは言った。

 転生したと言えばした、と。

 どういう意味かは、分からない。

 なのはが腹を決めているのに、俺がこんなんでいい訳がない。

 

 俺もいい加減、本当の意味で腹を決めないとな。

 アイツからどういう意味か訊く。その上で、全部助けてやるよ。

 引けない理由が、増えちまったよ。

 

 

 




 第3話終了。
 オリ主が絡む以上、こうなってしまいました。
 う~ん、我ながら長い。どれほどの時間掛かるかな。
 無印。
 それにしても、今回の題名って今更感が半端ないですね、我ながら。
 
 次回も頑張って投稿するので、よろしくお願いします。


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第16話 お茶会トラブル

 今回、ギャグモドキ回になってしまいました。
 あと、1話くらいこんな感じになると思います。
 すみませんが、お付き合いを…。

 では、お願いします。


              :美海

 

 私は今、学校に来ている。

 私の前で、3人組が話をしているんだけど。

 何故に?

 どの3人組だって?分かるでしょ?なのはちゃん達ですよ。

 あのサッカーの試合以来、感知されないくらいの弱い精神干渉魔法じゃ、抑えられなく

なったんだよ。なのはちゃん達には、申し訳ないけど鬱だ。

 今、敵同士なんだけど、一応。

 

 私はと言えば、前回の無茶の所為で収集に参加させて貰っていない。

 探しても、見付かってないけど。

 フェイトやリニスに休養を強制されてしまった。

 リニスからは何故か精霊の眼(エレメンタルサイト)の使用も禁止された。

 いや、意味が分からん。

 いやいや一瞬で治るって!治ってるって!あれの相手したら貴女達がヤバいからね!

 

 だから、コッソリとあれに嫌がらせしている。

 

 あれから、敵に感知されないように、ジュエルシードを全て私の血液中に移動させ

たんだよね。フェイトの説得に苦労したよ、ホント。

 ともあれこれで、ジュエルシードは物理的にも魔法的にも外界から遮断される。

 向こうより私の方が実体もあるし、干渉力が上だ。向こうが私達の居場所を特定するの

は難しい筈だ。現にちょっかいを一切掛けられていないからね。

 それに、念の為に化成体を一緒に連れて行って貰っている。例の鴉である。

 

 向こうは今は逃げるしかないが、こっちは攻められる。

 ジュエルシードは、元々連動させて使う事が前提となっている。

 故に、ジュエルシード同士、多少通常でもリンクはある。

 ジュエルシードは願いを叶える石。それに干渉して、私が接近している気配を発する

ようにしている。

  追う方は、ロストしない限りは休憩は自由だが、追われる方は休む事は出来ない。

 休んだとしても、いつ追いつかれるか神経を尖らせる必要がある。

 向こうもある程度は、情報を引き出せるとはいえ、私ほどではない。

 地味に嫌がらせになっているだろう。

 出来れば、見付け次第始末したいんだけどさ。

 居場所を特定して接近すれば、向こうも逃げに徹するだろうから、始末は難しい。

 ま、今は逃走ルートを絞り込んで、行く先をコントロールする事を試している。

 時間が掛かるけど、追い込んであげるよ。

 

 そんな事をツラツラ考えていると、話を振られた。

「ねぇ!今度、ウチに遊びに来ない?」

 すずかちゃんだった。

 時たま目付きが怪しいんだけど、この子。

「なのはちゃんもアリサちゃんも飛鷹君も来るんだよ!」

 そして、ユーノ君も付いてくる訳ですね?分かります。

「それと、最近仲良くなった子も来るよ!」

 ほぉら、来た。思った通りだ。…外れてほしかったけど。

「いつ?」

 私は、断る方向で訊く。

「明日よ」

 アリサちゃんが簡潔に教えてくれる。

 よし、用事があると…。

「佐伯に聞いたけど、アンタ予定ないんでしょ?」

 は!?

 佐伯さんとは、私が適当に潜り込んでいるグループのリーダー格の子だ。

 …確かに、あの子に明日は暇と漏らしたかもしれない。

 収集強制停止状態だから、つい漏らしたのかもしれない。

 精々、嫌がらせに勤しむくらいだし。

 迂闊だった…。

「佐伯達も誘ってみたんだけど、断られちゃったのよ」

 アリサちゃんがアッサリとそう言った。

 そりゃ、断るでしょ、普通。

 私達のグループは、全員中流層なんだから。

 上流階級の2人の家に、遊びになんて行けますかっての。

 気疲れするわ。なのはちゃんとは違うのだよ、なのはちゃんとは。

 一般人にはキツイわ。

 それにしても、佐伯さん。アンタ、私を売ったな。

 私はジットリとした目線を、佐伯さんに送ってやった。

 気付かない振りしてるよ。

 決めた、この先厄介事が起こったら、積極的に君を巻き込んであげよう。

 佐伯さんを呪う人間のリストにぶち込んでから、私は頷いた。

「参加させてもらうよ」

「「「やったー!!」」」

 3人が同時に喜びの声を上げる。

 

 何故に、そこまで喜ぶの?

 

 

              :アルハザードの魔法使い

 

 相も変わらず、粘着質な女だ。

 追跡の気配の正体は分かっていても、反応してしまう。

 ゆっくり力を取り戻す事は、出来ないようだ。

 向こうは、こちらを休ませないつもりだ。

 だが、私も徐々に記憶がハッキリし出した。

 

『彼女の眼を誤魔化したいなら、存在を誤魔化してはいけない。()()()()()()()()()()()()」          

 あの方はそう仰っていた。

 今こそ参考にすべきだ。

 今段階だと、回収が辛いが、あそこに落ちた玩具を頼るか。

 そして、今ある玩具の情報を隠蔽し、バラ撒く。

 勿論、発動し易いように細工する事も忘れてはならない。

 奴はそういう点では甘い。私より優先するだろう。

 

 早速、行動に移す為、私は移動を開始した。

 

 

              :フェイト

 

 レクシアがマンションに来たんだけど、用件が問題だった。

 

「明日は、ちょっと、出掛けなきゃならなくなってね」

「どうしたの?」

 最近、彼女は怪我をした。

 すぐ治るのは分かったけど、リニスと相談して少し休んで貰う事にした。

 今までは学校という教育機関に通いながら、終わったらそのまま、収集をずっと手伝って

くれたんだもの。私も何かと休まされたし、レクシアだって休養が必要だと思ったんだ。

 前回のイレギュラーや白い魔導士の子達の事があったけど、収集自体はいいペースできてる。

 それに残りのジュエルシードの所在も、大体は分かっている。

 分かってないのも、幾つかあるけど。

 かなり、難しいけど。上手くすれば、予想より早く終わる。

 もし、収集の関係だったら、休める時に休んで貰わないと。

「ユーノ君…分かるかな?私達と収集で対立?してる子達の友達に誘われちゃって」

「え!?どういう事!」

 いきなりの内容にビックリしてしまった。

「実はね。学校一緒だったりするんだよね。まあ、正体はバレてないけど…」

 レクシアは、言い辛い内容に、いつもより話のテンポが悪い。

 それ、早く言ってよ…。

 

 それにしても、レクシア達ってここら辺に住んでるんだ。

 学校の説明を聞いたから、そういう事だろうと思う。

「まあ、意味なく嫌がったりすると、勘繰られる可能性もあるしね。非常に気が進まないけど、

明日、行ってくるよ」

「……」

 言葉の割には、そんなに嫌そうじゃない?

 なんかモヤモヤする。

「確かに、レクシアから私達まで辿られた嫌だし」

 なんか尖った嫌な言い方になってしまった。

 でも、言葉は止まらなかった。

「じゃあ、いってらっしゃい。バレないようにね」

 私はレクシアから顔を背けた。

 きっと今の私は嫌な顔してると思うから。

 窓側にあるソファーに座り、外を見る。

 

 重い溜息と共にレクシアが、私の傍にきて両腕を掴んで立ち上がらせる。

 え!?何!?怒ったの?

「買い物行くよ」

 え!?どうして!?

「どうせ、見付からないし、今日はフェイトも休み」

 

 

 レクシアはこっちのお金は持っているかとか、確認して私を外に連れ出した。

 でも、いいのかな…収集もしないで、こんな事して。

「効率的じゃないよ。気分転換も大事。そして、フェイトは思い詰め過ぎ」

 レクシアはそう言って、私を連れ出した。

 私達は顔や髪型を少し魔法で変える。

 この辺にあの子達が住んでいるらしいから、必要だよね。

 手を引かれて、街に出掛ける。

 収集以外で、街に出た事なんてなかったから、新鮮に感じる。

 

 そう言えば、母さんとこんな風に出掛けた事があったっけ。

 まだ、母さんが研究所で働いていた頃だ。

 沢山の服やおもちゃを買って貰ったっけ。

 あの頃の母さんは、優しい笑顔を浮かべる人だった。

 ジュエルシードが集まれば、きっとあの頃の母さんに戻ってくれる。

 

「顔上げて歩かないと、危ないよ?」

 レクシアの声で我に返る。

 いつの間にか、下を向いていたみたいだ。

『〇〇〇〇、チャンと歩かないと危ないわよ?』

 母さんにも、そう注意されたっけ。

 気を付けないと。

 次の瞬間、言いようもない違和感を感じた。

 

 なんで、名前が聞こえなかったんだろう?いつもはハッキリと思い出せるのに…。

 

 額に手が当てられる。

 気が付くと、レクシアの手が額に触れていた。

「今、考え事もお休み。もっと考える余裕がないほど、振り回そうか?」

 揶揄うみたいに、レクシアはニヤリと笑った。

 心が少しだけ軽くなった。

 

 デパートで服を見る事になった。

 いろんな服が沢山ある。子供服の専門売り場。

「フェイトなら、何着ても似合うだろうけど、まずはサイズだね」

 そう言うと、私の手を引いて店員さんのところへ向かった。

 店員さんにサイズを測って貰い、私に合うサイズの服を教えて貰う。

 あれでもない、これでもないと次々と試着した。

 といっても、身体に服をあてるだけだけど。

 結構時間を使って、フロアを一周してしまった。

「うん、それだね」

 選んだのは、フリルと花の刺繍があるワンピース。

 可愛いけど、動き易いし、丈夫そう。

 フリルも花の刺繍も派手じゃないけど、キチンと服を引き立てていた。

 意外な事に、服はレクシアが買ってくれた。

 私は必死に断ったけど、レクシアは譲らなかった。

 それで、今度は私が選んで、レクシアの服を1着買うと約束した。

 なんでも、レクシアはお金をあまり使わないらしい。

「こういう時こそ、使い時でしょ?」

 そう言っていた。

 

 帰りにカフェに寄って、ケーキとお茶を注文したんだけど、レクシアに視線が集中していた。

 理由は、レクシアは紅茶を頼んでたんだけど、所作が洗練されていて、気品があったからだ。

 それに比べて、レクシアの服はあまりにも適当で、途轍もない落差を周りは感じたんだと思う。

 それは、私も感じた。場所にもだけど。

 やっぱり次は私が彼女の服を選ぼう。

 

 辺りがすっかり暗くなって、マンションに戻ったらリニスが仁王立ちしていた。

 帰宅が何の連絡もなく、遅れた事を怒っているらしかった。

「主。説明はご自分でなさって下さいね」

 リニス…なんか怖い。

「了解」

 レクシアも神妙に頷いた。

 

 そして、その日はリニスに引き摺られレクシアは帰って行った。

 そう言えば、私、聞かれた割にお金使わなかった…。

 

 

              :美海

 

 そして、時間は無情にも流れ、次の日。

 私は待ち合わせの場所に突っ立っていた。

 

 フェイトには、今日の事で何故か拗ねられた。

 いくら休んでいいと言ったとはいえ、遊び呆けていると思われたようだ。

 月村邸に行く事が決まったその日は、収集を休ませ、街に一緒に買い物に出掛けた。

 気分転換を存分にして貰い、機嫌を直して貰い、ようやく今日の日を迎えた。

 別に行きたかった訳じゃないけどさ。

 これじゃ、まるで拗ねる彼女を宥める男の図だよね?なんか間違ってない?

 そして、更に謎だったのは、リニスも拗ねていた。

 

 待ち合わせ場所は、バス停である。

 どのバスに乗るかは、携帯で連絡があった。

 携帯番号まで、渡してしまった…。

 考えると深みに嵌りそうなので、思考を切り替える。

 

 目的のバスが到着したので、乗り込むとなのはちゃんと彼女のお兄さんが一緒に乗っていた。

 2人共窓際って。

 海沿いだから、景色がいいのは確かだけど、お兄さん、なんでアンタも窓際なんだ。

「あ、綾森さん!」

 なのはちゃんは元気一杯に手を振った。

 いや、見えてるから。

「バスの中は、静かに」

 私は流石に挨拶を返した後、一言注意した。

 これは、聖祥の送迎バスではない。

「にゃ!?ごめんなさい!」

 分かってます?言ってる事…。

 呆れていると、お兄さんが苦笑いしつつ、私に謝る仕草をした。

 ああ、そういう子なんですね。

 私は、なのはちゃんの1個前の席に座り、同じく到着まで景色を眺めた。

 

 バスを降りて、歩く事数分、月村邸に到着した。

 誘拐騒ぎの時に、家は確認してたけど、改めて見ると大きい家だね。

 ベルカ時代に城に住んでた私が、言う事じゃないけど。

 

 チャイムを鳴らすと、メイドが姿を現した。

 随分と懐かしい存在だ。

「いらっしゃいませ。恭也様、なのはお嬢様」

 メイドが完璧な礼で迎える。

「綾森様でいらっしゃいますか?初めまして。メイド長のノエルと申します」

「綾森 美海といいます。本日はお招き頂きありがとうございます」

 私も礼をして、挨拶した。

 別にノエルさんに呼ばれた訳じゃないけど。

 挨拶も終わり、中に案内される。

 

 向こうから、何やら見覚えのある人が近付いてくる。

 金髪の態度の大きいメイドだった。

「おお、恭也になのはか。またお嬢に呼ばれたのか?ご苦労なこったな」

 態度の大きいメイドの視線が、私に向く前にノエルさんが動いた。

 流れるような動きで、金髪メイドの体勢を崩すと、抵抗しようとした力を利用し、投げ飛ばす。

 金髪メイドは、大きな弧を描いて飛んで行った。

 端の壁に激突し、沈黙する。

 やるね。

「見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」

 今の風景がなかったかの如く、ノエルさんの態度は変わらない。

 高町家は苦笑いしている。いつもの事のようだ。

 

 負傷者を出しながらも、私達は応接室に辿り着いた。

「恭也!それになのはちゃん、いらっしゃい!…綾森さんだったわよね?私は、月村 忍です。

すずかの姉ですよろしくね」

 私は無難に挨拶した。

 

 忍さんはなのはちゃんのお兄さん・恭也さんを連れて、別室に行くようだ。

 まあ、これ以上の詮索は野暮だろう。

 あと、すずかちゃんの後にいる人はファリンさんというらしい。ノエルさんの妹らしい。

 人外多いな、ここ。

「なのはちゃん、いらっしゃい!綾森さんも、来てくれてありがとう!」

 すずかちゃんが嬉しそうに言ってくれるが、取り敢えず言いたい。

 なんだ、この猫の数は。

 

 

              :飛鷹

 

 俺とユーノはすずかの家に到着した。

 

 お茶会とは、優雅な催しだ。

 俺には、大凡似合わない。

 ユーノとはいえ男が一緒であるから、少し気が楽だ。

 ユーノよ。お互いこの難局を乗り切ろうじゃないか。

 

 毎度お馴染みのジュエルシード発動日だが、日付は今のところ同じだが、ジュエルシードの

発動の仕方が違う。第3勢力?が絡んでいる所為か。

 あれから、研鑽をなのはと共に積み上げ続けている。

 が、アイツが傷を負うような相手だ。どうなるかは分からない。

 そうなったら、ベストを尽くすだけだが。

 

 ノエルさんの案内で、応接室に向かう途中、ヤンキーメイドにガン飛ばされたり、ヤンキーが

飛んだりしたが、概ね平和に目的地に辿り着いた。

『飛鷹。ここでもサーチしてるの?』

 ユーノが念話で訊いてくる。

『友達の家だからな。念の為さ』

 俺達はすずか・アリサの歓迎を受けて席に着く。

 傍にいたファリンさんも、最早顔見知りだから軽く挨拶する。

 

 ユーノが大モテだった。猫に。人間形態なのに。

 猫はユーノに群がっている。

 あるものはひたすら猫パンチ。あるものはよじ登り、噛みついている。

 あるものは跳び掛かっている。

 大人気である。

「ちょっ!?飛鷹!助けてよ!」

「ここは飼い主に、助けを求めるべきじゃねぇか?」

 俺は正論を言ってやった。

 すずかは慌てて止めに入っているが、追い付かない。

 やっぱり、動物は本能で分かるのかもしれない。

 ユーノがフェレットだと。

「いや!違うから!僕は人間だから!!」

 ユーノが恐るべき読心術を見せた事に、恐怖すら感じる。

 迂闊な事は考えられん。

 

 そのカオスの最中。本日の主賓が到着したようだ。

 

 

              :なのは

 

 応接間に到着して、私と綾森さんは用意してあった椅子に座る。

 私の席は猫に占拠されてたけど、ちょっと退いて貰う。

 それと、なんかユーノ君が大変な事になっている。

 綾森さんは、横で猫に襲われているユーノ君に無反応。

 大変なユーノ君に普通に自己紹介して終わり。

 

 なんかまだ、心を開いて貰えてない感じ。

「なのはお嬢様、綾森様、お茶はどうなさいますか?」

 ノエルさんが訊いてくる。

「お任せします!」

 ノエルさんにお任せした方が美味しいからだ。

「紅茶なら、何でも。お任せします」

 綾森さんって紅茶党なのかな?

「かしこまりました。ファリン、手伝って」

 すずかちゃんの傍にいたファリンさんが敬礼する。

「了解です!お姉さま!」

 

 場所を中庭に移して、お茶会を再開した。

 ファリンさんが猫にじゃれつかれて、お茶の乗ったトレイをひっくり返しそうになったり

しながらも、無事にお茶を飲む事が出来た。

 猫も一緒に付いてくる。ユーノ君に。

 でも、家の中みたいに襲い掛かったりしなかった。

 理由は不思議なんだけど、綾森さんだった。

 

 ユーノ君が、付いてくる猫に引き攣った顔をしていた時に、綾森さんが口笛を鳴らすと

猫達が一斉に綾森さんを見たんだよ!なんか凄い。

「折角、天気がいいんだから、みんなで遊んだら?」

 穏やかな表情で綾森さんが言った。

 ああいう顔も出来るんだって、みんな驚いたと思う。でもそれ以上に、驚く事があった。

 猫達がユーノ君に何もしなくなったの!すずかちゃんでもダメだったのに!

「え!?何それ!?魔法か、何か?」

 アリサちゃんが驚きの声を上げる。

「違う」

 綾森さんが若干呆れたような顔をしてた。

「じゃあ、何よ!」

 アリサちゃんが恥ずかしかったのと、呆れられたのに怒り気味だ。

「動物に聞き取りやすい音で、注意を引いただけ。あとは月村さんの躾じゃない?」

 綾森さんは、そう言って紅茶を一口。

 全員が驚いた。だって、一連の動作が物凄く優雅だったから。気品?っていうのかな?

 私服の残念感も、物凄く目立つけど。

「あ、あの!私にも今の出来る?」

 すずかちゃんが、一番早く立ち直って話し掛ける。

「出来るよ」

 短い返事の後、すずかちゃんはやり方を熱心に聞いていた。

 

 そこから、綾森さん私服の話題へ移っていった。

「アンタもっと服装に気を使いなさいよ!」

 アリサちゃんが一番熱心に言い続けてるけど、綾森さんは関心がないみたい。

「別にいいよ、これで」

 と繰り返している。

 綾森さんの格好って、一番手に取りやすい場所にあったのを着たって感じだから。

 色合いとか、一切考えてないみたい…。

 アリサちゃんを援護すべく、私とすずかちゃんも説得に参加していた時だった。

 

 魔力の波動が漣のように広がった。

「「「!!」」」

 ジュエルシード!?こんなに近くに!?すずかちゃんの家の中なのに!

 

 

              :美海

 

 魔力の波動には気付いていたが、私は無反応を貫いた。

 当然だけどね。

 3人は思いっきり反応してた。一応、私は一般人扱いですよ。変な人に見えますよ。

 少し考えようよ。

 

 飛鷹君が、発動と同時にその地点を結界で封鎖。

 結構器用な事出来るんだね。

 

『レクシア!ジュエルシードが発動したよ!』

 フェイトから念話が入る。

『うん、分かってるけど。残念だけど間に合わない』

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観る限り、なのはちゃん達なら余裕で封印可能なヤツだもん。

『私も今は動けないし、後で貰えばいいし今は譲っていいよ』

 フェイトは、飛鷹君には勝てない。その事は本人に言って聞かせているし。

 フェイトの出動を止めたと同時に、3人が席を慌ただしく立つ。

 

「ごめん、ちょっと」

 なのはちゃんが席を立つ。

「ああ、俺達は庭でも見物してくるかな」

 飛鷹君がなのはちゃんをフォローする。

「そ、そうだね」

 ユーノ君は慌ててそれに乗っかる。

 すずかちゃん・アリサちゃんは事情が分かっているみたいで、頷いた。

「うん、分かったよ。大きい石とかもあるし、気を付けてね」

「なのはは、ちょっと抜けてるとこあるしね」

 2人の方が演技派ですな。

 3人は庭を見に行った筈なのに、走って行った。建前どこいったの?なんだかね…。

 

 それにしても、アレはやり方を変えてきたか。

 発動し易くしたジュエルシードで目晦ましして、時間を稼ぐ気か。

 ま、いいでしょ。手持ちをバラ撒いたなら、遠慮なくそれを拾えばいい。

 行きつく先は想定内。その時に始末しよう。

 

 

              :飛鷹

 

 ジュエルシード発動と同時に、俺が発生地点に遠隔で結界を構築。

 俺達はジュエルシードのところへ急ぐ。

 綾森は不審そうな様子だったが、何も言わなかった。

 ツッコミ入れるほど親しくないしな。

 

 到着した先に見たのは、俺にとって既知の光景だった。

 

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 なのはとユーノは呆然としてる。

「え~と、これは…」

 ギャグにしか見えんわな。今までがシリアスだったし。

「子猫の大きくなりたいっていう願望が、正しい形で叶えられた結果じゃないかな?」

「ええっと…。と、取り敢えず元に戻さなないと!」

 なのはが気を取り直して、セットアップする。

 俺もユーノもバリアジャケットを構築する。

 

「よし!俺とユーノで動きを止めるぞ!」

「うん!任せて!」

 ユーノが頷く。

「なのはは封印を頼む!横槍が入る前に肩を付けるぞ!」

「うん!…そうだね」

 なのはは、フェイトの事情を訊きたかったんだろう。

 でも、ユーノの事情もあって歯切れが悪くなったってとこだろう。

 

 ユーノが先制でバインドを発動しようとした時だった。

 猫がユーノを捉えた。

 ユーノは、巨大子猫に少し怯んでしまった。

 ユーノも見た目、凶悪な思念体なら容赦なくいけたろうけど、外見はまんま子猫だしな。

「にゃ~」

 大音響の鳴き声と共に、凶悪な猫パンチが炸裂する。

「うわ~!!」

 ユーノに直撃した。

「ユゥゥゥノォォォォー!!」

「ユーノ君!?」

 ユーノはヤンキーメイドの比ではない距離を飛ばされて行った。

 

 あれから、俺が猫の注意を引き、なのはが直接バインドで拘束し、そのまま穏便に封印処理

を行った。子猫は元気一杯、すずか達の方へ駆けて行った。

 

 これ以上の戦闘描写?ないよ。

 不運だったな、ユーノ。

 ユーノを助けに向かった俺達だが、ユーノは酷く落ち込んでいた。

 まあ、元気出せ、ジュエルシードが今回は手に入ったんだからな。

「ごめん。あれぐらいで、躊躇するなんて油断したよ」

 いや、アレは俺でも怯むと思う。大きいけど可愛かったし。

 お前は悪くないさ。きっと。

 

 なのはの慰めで、どうにかユーノは立ち直ったとさ。

 

 

              :フェイト

 

 彼女達がジュエルシードを封印した日の夜。

 レクシアは私達のマンションに来ていた。

「決闘?」

「その通り」

 レクシアが彼女達のジュエルシードを奪う算段を話してくれた。

 アルフが今日の事で疑念を持ったからだ。

 実は白い魔導士達と通じているんじゃないかって。

 プランは、単純だった。

 それで、乗ってきてくれるかな?

「乗ってくるから安心して。向こうは貴女の事情を知りたいんだから。それにこっちも手持ちの

ジュエルシードを賭ければいい」

 私の疑問を感じ取ってくれたみたい。

「決闘は、最後だよ。向こうとこちらしか、ジュエルシードを持っていない状態の時にやる。

それで総取り出来る」

 こちらは労力も減らせる。うん、なるほど。

 アルフも渋々ながら納得してくれた。

「フェイトが負けなければ、これでコンプリート」

 私はムッとした。

「負けないよ。あの子、まだ魔法を使うようになって日が浅いもの」

 私だって、毎日収集だけやってる訳じゃない。

 向こうが訓練するように、私も努力を怠っていない。差なんかそうそう埋まらない。

「まあ、なんにしても、それまでに貴女の考えた答えを聞かせて?」

「私の結論は何も変わらないよ」

 そう、変わる訳がない。

 私の名前を呼ぶ母さんの声が、思い出せなくても。

「そう…」

 レクシアはそう言うと、私から背を向けて夜空を窓から見上げた。

「それでも、考えるのは止めないで。貴方の為に」

 

 レクシアの背が、なんだか寂しそうで、私は不安を感じた。

 

 

 

 




 子猫回潰そうかと考えましたが、折角二次小説に手を出したんだから
 書こうと決めました。
 必然的に、実力が上がったなのはと飛鷹君がやるんだから、子猫じゃ
 アッサリ終わるのは仕方ないかと…。
 だから、フェイトを出しませんでした。
 流石に飛鷹君の相手はさせられません。

 あと、美海が猫に言う事をきかせていましたが、あれにも一応理由が
 あります。それが明かされるのは、後になります。

 次回は、温泉です。サービスカットは…出来るのか?


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第17話 温泉へ

 戦闘シーンの下手さはどうしようもないようです。
 この先、進歩する事があればいいが…。
 勿論、努力しますけど。

 ギャグモドキになる筈がいつも通りに。
 はい、大嘘言いました。すいません。

 では、お願いします。


              :美海

 

 お茶会から、グループ移籍状態の私です。

 薄情なもんだよ、今時の女の子は。

 喧嘩が起きないだけ、マシなのかね。

 スムーズな移籍ありがとうございますって?

 まあ、正体バレなきゃ問題ない…と思わなきゃ、やってられない。

 私の事も、名前で呼ぶようになりました。

 私もだけど。

 完全に友達化してるじゃないですか。

 

 表情に出さずに現実逃避していると、なのはが声を掛けてきた。

「よかったら、美海ちゃんも来ない?」

 へ?どこに?

「完全に聞いてなかったわよ、この子」

 アリサの呆れた声が木霊する。

 3人が沈黙に包まれる。

「考え事してた」

 嘘ではない。

「あ、あのね。ウチ年に1回、喫茶店を従業員さんに任せて、旅行に行くんだ。すずかちゃんと

アリサちゃんも一緒に行くんだけど。一緒に行かない?」

 なのはちゃんが復活を遂げたようだ。

 苦労かけてごめんね。グループから外して貰って構わないからね。

「今年はね。海鳴温泉なんだよ!それにこの前、お茶会に来てた飛鷹君とユーノ君も来るよ!」

 余計に遠慮したい。

「いつ?」

「来週の連休だよ!」

 喫茶店も忙しいだろうに。余程信頼してる人なんだな。

「私もその日は旅行」

 嘘ではない。

 付き合いの長い父上の上司と、この時期になると旅行に行くのが、綾森家の年間行事なのだ。

 私達家族にとっては、恩人だ。

 悪いけど、そっちを優先します。

 

 収集には参加するが、旅行も行くよ。不義理は出来ないからね。

 収集が終わったら、旅館かホテルに戻るようにすればいい。

 そう!こんな時の為に、魔法は存在する!

 あんまり収集も疎かには出来ない。

 収集休むとフェイトが不機嫌になるし、協力者が休んでばっかりっていうのは不味い。

 

 3人には随分、残念がられたけど、こればかりはね。

 

 で、その日の夜の事である。

「海鳴温泉!?」

 父上が、旅行の行き先について爆弾を投下した。

 何故、そんな近場にするの!?毎年もっと遠くに行くでしょ!

「どうかしたのですか?」

 リニスが台所から顔を出して言った。

 リニスは今、人間形態で母上を手伝い中である。

 母上は、リニスがお気に入りである。

「いや、旅行先の話」

 私が眉間に皺を寄せているのを見て、父上の方をリニスは窺った。

「近場でガッカリさせてしまったかな…。今年は海鳴温泉にしようって話していたんだ」

 父上は困った顔をして、リニスに助けを求めている。

『何が問題なんです?』

 リニスが念話で訊ねてくる。

『なのは達も、そこへ行くんだよ』

『ああ、それは…また』

 今までの経験からいって、彼女達のいるところにジュエルシード有り。

 あれは、驚異の確率だ。

 リニスも学習したようで、困った顔をした。

 必然、彼女達とジュエルシードを巡って、ドンパチやるという事である。

 両親と恩人がいるまさにその場所で。

 万が一にも巻き込みたくない。

 眉間に皺も寄るというものだろう。

「昨年までの事は、私には分かりませんけど、どうしてその地に決まったんです?」

 リニスが父上に訊く。

「うん、ヒューズ支社長があまり時間を取れなくてね。近場にするしかなかったんだよ。

海鳴温泉は行った事がなかったし、丁度いいだろうと思ってね」

 忙しい人だからな。当然の話だけど。

 

 恩人はヒルダ・ヒューズさんという。

 父上が勤める会社の支社長をしている。

 父上は何気にデキる男なのである。ヒルダさんの右腕なんだそうだ。

 役職はよく分からない。今更聞けません的な理由で。

 ドイツ人女性なのだが、ニューヨーク支社にいた時にアメリカ人と結婚した。

 2人の間に生まれた息子さんが、少々難しい子だったそうだ。

 そのお陰で、私達家族がどうにかなったのだから、感謝しかない。

 ヒルダさんも、家族と旅行に行けばいいのにと思うが、旦那さんもエリートで忙しく予定が

合わない。

 成長した息子さんは、適度に距離があった方がいいのだそうだ。

 端的に言って、母親と旅行はなしだそうだ。

『男の子なんて、ある程度育ったらあんなものよ!私も女の子をもう一人ぐらい、頑張るべき

だったかしら』

 とか言っている。散々苦労した筈なのに、母は偉大である。

 今も、私を養女にしたいとか言っている。

 勿論、冗談半分だ。両親、苦笑いしか出ない。

 私、そんなに面白いか?

 

 なにはともあれ、子供が駄々を捏ねたところで覆る訳じゃない。

 リニスには、フェイト達の引率をして貰う事にした。

 両親とヒルダさんは、別室をとって貰う。ゆっくりして貰うという建前で。

 私達は友達という事で、一緒の部屋にして貰おう。

 そして、時間を作って、注意しながら4人で探そう、ジュエルシード。

 

 

              :飛鷹

 

 なのは達に誘われて、温泉に行く事になったんだが、道程が問題だった。

 俺とユーノがどの車に乗るんだ、って事だ。くだらないって?俺もそう思うよ。

 だが、人生はくだらない事で出来ている。辛い現実だ。

 結果、運転手・士郎さん、助手席・恭也さん、後部座席・俺とユーノだ。

 花も何もありゃしない。ギスギスしたまま胃の痛みに耐え、俺達は温泉に向かった。

 原作でのジュエルシード発動地点だし、行かない選択肢はないからな。

 耐え忍ぶしかない。

 

 車から楽しそうに降りてきたなのは達に、俺達はホッとした。

 最近、目まぐるしい日々だったからな。

 が、それに比べて俺達は、既に疲労困憊だ。

 お前等、分かってんだろうなぁ…。という無言のプレッシャーで。

 ユーノは精神的にも同い年だから兎も角、俺はロリコンじゃねぇよ。

 車から降りた時、自由を感じた。素晴らしい、解放感だ。

 旅行として大いに間違っているだろ、これ。

 

 部屋に荷物を置き、まずは温泉に入らねば!っとなった。

 野郎の温泉入浴描写なんていらんだろ。

 割愛するぞ。

 勿論、ユーノは男湯だ。原作みたいに女性の裸見放題にはならないし、俺がさせん。

 まあ、フェレットじゃないってバレてるから、事実上不可能だけどな。

 

 

              :美海

 

 私は、フェイトを連れ出す事から始めた。

「温泉…?」

 フェイトは純粋に頭にクエッションマークが浮かんでいる。

 ミッドに温泉ってないのかね?

 フェイトは、ずっと時の庭園暮らしだから知らないか。

「端的に言えば、天然のお風呂」

 風呂といった瞬間、フェイトの顔が翳ったように感じた。

「私の恩人と一緒に行く事になってね。丁度、あそこら辺はサーチしてないでしょ?

だから、一緒にどう?」

 ジュエルシードが絡んでいるし、少し悩んでるみたい。

 両親に友達とその家族と一緒に行きたいと、お願いしたところ、何やら凄く喜んで

了承してくれた。

 ヒルダさんの意向は、確認してないけど大丈夫なのか?

 まあ、堅っ苦しい人ではないから平気だと思うけど。

「私、探索に集中してて、大丈夫?」

 温泉に入る事自体は、乗り気ではないようだ。

 あれやこれや言いつつ、みんなでの入浴を避けようとしているようだ。

 こんな時、勧める役割のアルフも黙っている。

 

 それで、私も察する事が出来た。

 

 思えば、ベルカ時代にも、似たような反応の子がいた。

「もしかして、傷が気になる?」

「!!」

 フェイトとアルフの顔が強張る。

 私はソッとフェイトを抱き締めた。力を入れず、優しく。嫌がったらすぐに止められるように。

 フェイトの身体がビクッと反応したけど、拒絶はされなかった。

「貴女の思いは正しい」

 傷の具合が大体分かってしまった。服の上からでも。

 治りかけているけど、鞭で打たれた箇所が未だに腫れている。あとは痣だ。

 しかも、質の悪いやり方だ。服で隠れる箇所しか打たない。

 更に遣り切れないのは、そういう子ほど親を庇う。時折優しくなるからだ。

 プレシアが、優しくしているかは知らないが、彼女にはアリシアの記憶がある。

 

 こういう時は、勝手に情報を分析してしまう癖が、忌々しく感じる。踏み込み過ぎている。

 フェイトの隠したいものを、暴きたてる権利なんて私にはないのに。

 私はこんなにも無神経だ。

 せめてもの自己満足に、優しく抱き締めた手で治癒魔法を使う。再成ではない方だ。

 

 私は、ベルカに風呂に入る文化を広めた。ネット小説とかにありがちなものだけど。

 子供達の一部がみんなで入る公衆浴場に入りたがらなかった。

 理由が虐待だった。どんな時代にも、一定数いるものなんだと、当時の私は愚かにもそういう事があって初めて悟った。自分の馬鹿さ加減を思い知らされていた時の、苦い記憶だ。

 

「ごめん。嫌だったら、私とリニスで探すよ。無理しないで」

 耳元で囁くように言う。

 すると、フェイトはゆっくり首を振った。

「行くよ。レクシアが私の事、考えて言ってくれたって分かるから、大丈夫。だから泣かないで」

 フェイトの手が私の背に添えられる。

 今度は私が反応してしまった。

 別に本当に泣いた訳ではない。でも、悲しみは伝わってしまったようだ。それを泣いている

ように感じたのだろう。

 余計な気を遣わせるとは、私も全く成長していない。

 

 フェイトを連れ出す事には成功したものの、私の気は重かった。

 リニスに家に帰って、その事について聞くと怒っていた。

 怒り狂っていたと言っていい。

 どうやら、まだリニスがフェイトの教師をやっていた時は、そこまでではなかったようだ。

 最早、他者に対して慈悲の心が消え去って久しいのだろう。だから、目的の為なら何でもやる。

 プレシアは私が止める。

 私は改めてそう決意した。

 

 

 出発当日。私達はバス停に並んでいた。

 旅立ちというほどの距離ではないが、私はヒルダさんに挨拶を済ませ、リニス・フェイト達と

バスで現地に向かう事にした。

 完全に別行動になるが、ヒルダさんも何やら嬉しそうに許してくれた。

 申し訳ないので、出発前日に家に来たヒルダさんの持ち帰りの仕事を、リニスと共に手伝った。

 どうも、私は転生2回にして、現代の仕事も出来るようになったようだ。

 我ながら遅い事この上ない。

 持ち帰りの仕事は出発前に片付いたのだから、良しとしておこう。

 

 因みに、リニスは秘書にならないかと、勧誘されていた。

 まあ、あの大魔導士の使い魔だったからだろうね。スキルが凄かった。

 ヒルダさん大絶賛である。

 人気だねリニス。

 

 バス乗車中は事件などなく、無事に到着した。

 なのは達除けに、私達は容姿は少し変えている。

 会わなかったから、無駄になったが、いい無駄だ。

 私達が泊まるのは、隠れ家的な宿なので入ってしまえば、なのは達に会わない。

 

 

              :なのは

 

 気になる事、考える事は多くあるけど、取り敢えず今、この旅行中はお子様らしくしたいと

思います。

 この日の為に修行もバッチリやって、旅行中はお休み。

 焦りは消えないけど、やり過ぎはよくないから仕方がない。

 

 旅館の浴場は脱衣所も広かった。

 私達はいそいそと服を脱いで、髪が湯船に付かないようにアップに纏める。

 いざ、突入!私とすずかちゃん達が一番乗り。お姉ちゃんとお兄ちゃんの恋人の忍さんが、

後からゆっくり入ってくる。

 自然に囲まれた大きい露天風呂!いいよね!

「お姉ちゃん!背中流してあげるね!」

「ありがとう。すずか」

 すずかちゃんは嬉しそうだ。

 それでは!私も!

「私も背中流してあげるね!」

「ありがと。なのは」

 私はお姉ちゃんの背中を流します。

 それにしても、私達はお子様だから仕様がないけど。

 2人共凄いスタイルだよね。

 お姉ちゃん、可愛いし、髪の毛は綺麗だし、スタイルもいいし、優しいのに、なんで恋人

いないんだろう?

 もしかして、私が知らないだけで、いるのかな?

 なんとなく、気になっちゃったの。

 

 温泉から出たら、旅館の中を探検だ。

 飛鷹君もユーノ君もあまり気が進まないみたいだけど、アリサちゃんが連行した。

 それから、ダブルスで卓球をしたり、美味しい料理を食べて沢山お話をした。

 楽しい時間は、気分を上向きにしてくれる。来てよかった。

 

 最後は定番の枕投げ。

 飛鷹君が集中砲火を浴びていたし、ユーノ君は力尽きていた。

 そして、男の子は当然部屋が別なので、引き上げていった。

 

 

              :フェイト

 

 レクシアに身体に残った傷を治して貰った。

 その時の気持ちは、形容し難い。

 安らぎとか、安心感とか、兎に角暖かい気持ちになった。

 ただ一つ言える事は、こんな気持ちは母さんが優しかった頃以来だ。

 嫌だとは思わなかった。

 レクシアは私の為に悲しんでいた。自分に怒っていた。心で泣いていた。

 少なくとも私はそう感じた。

 だから、つい、泣かないでなんて言ってしまった。変な子だと思われないといいけど…。

 彼女にこれ以上、悲しんでほしくなくて、温泉に行くと言ってしまった。

 …後悔してる訳じゃないけど。

 鞭の痕もぶたれた痕も綺麗に無くなっても、少し躊躇してしまう。

 

 浴場に着いて、往生際が悪いと思うけど。

 アルフは私に気を遣って、温泉に興味なさそうにしてたけど、やっぱり興味があったみたい。

 人の姿でいそいそと服を脱いでいる。

 私はと言えば、グズグズしていた。なんとなく、恥ずかしさもあるし。

「フェイト。こういう場面で無理する事ないよ。部屋にも小さいけど温泉付いているし」

 レクシアが気遣ってくれる。

「ううん、大丈夫だよ」

 私は自分に小さく気合を入れると、思い切って服を脱いだ。

 

 私が大丈夫そうだと安心したのか、レクシアはリニス達を見て、動きを止めた。

「2人共ストップ」

 リニスとアルフは温泉の扉を開こうとして、レクシアに止められた。

「どうしました?」

 リニスは呼び止められたのが、不可解みたいだ。

 私も当然、分からない。

「2人共、なんでバスタオル巻いてるの?まさか、そのまま湯船に入るつもりじゃないよね?」

 2人は当然のように頷いた。

「湯船に髪の毛とか、タオルを入れるのはエチケット違反だよ」

「「「え!?」」」

 奇しくも、私達はハモってしまった。ダメなの?

 私は、持っていたバスタオルを手に固まった。

「でも、テレビではバスタオル巻いたり、水着で入ってたじゃないですか」

 リニスは反論したけど、レクシアは溜息交じりに答える。

「それ、テロップかなんかで、許可を得ていますって表示がある筈だよ」

 止め、とばかりに、レクシアはある貼紙を指差す。

『湯船にタオルを入れないで下さい』

 リニスが、書いてある文字を読んでくれた。

 ああ、それ、ダメだね。

 

 それで、力が抜けたのか、私は温泉に入った。入る事が出来た。

 木造のお風呂場は初めて見た。

 この国では風情があると言うそうだ。確かに、その言葉が似合ってる。

 アルフとリニスは温泉が気に入ったようだ。

 2人共凄く気持ちよさそう。

 私も気持ちいい。固まった何かが溶けていくみたい。

 全てが終わったら、母さんも連れてきたい。

 

 お風呂から出て、お土産物を売っている場所があった。

「母さんに、何か買って行こうかな…」

 私の言葉にアルフが渋い顔になった。

「正直、止めた方がいいんじゃ…」

 アルフが反対した。やっぱり、喜ばないかな…。

「まあ、大魔導士向けじゃないんじゃない?」

 レクシアがやんわりとそう言った。

 母さんが、木彫りのストラップを手に、喜んでいる姿が確かに想像出来ない。

 でも、昔、母さんの似顔絵を描いてプレゼントした時は喜んでくれた。

 

『ありがとう!〇〇〇ア』

 優しい笑顔で受け取ってくれた…。

 

 あれ?…おかしい。名前が一瞬、聞こえたような気がした。それ自体はおかしくない。

 でも、違和感があった。最近、名前を呼ばれる時、私の名前が聞こえない。

 ノイズが入るみたいに。でも、音が違ったような…。

 お風呂に入ったばかりなのに、嫌な汗が噴き出してくる。

 

「フェイト!」

 レクシアの声に我に返る。

 気が付くとアルフとリニスが、心配そうに私を覗き込んでいる。

「大丈夫?」

 レクシアが心配そうに声を掛けてくれる。

「うん…。大丈夫!ただ、確かに似合わないかもって思って」

 みんなを安心させる為、ぎこちなく笑みを浮かべたが、上手くいったか自信はなかった。

 

 気のせいだ。そうに決まっている。

 

 差し出されたレクシアの手を私は握った。レクシアの温もりに縋り付くように。

 

 

              :美海

 

 フェイトは不安そうだった。

 なのは達の事を考えている顔じゃない。

 もしかして、記憶の矛盾に、気付き始めているのかもしれない。

 記憶の操作は意外に難しい。僅かな違和感から、本当の記憶が蘇ったりする。

 

 頑張って、フェイト。

 

 私とフェイトは気を取り直すように、お互いの為にお土産を選んだ。

 どこにでもありそうな、キーホルダーなんかは今は却下だ。

 何か特産でいいものはないかな。

「あっ!これ、綺麗…」

 フェイトが見付けたのは、組紐で造ったミサンガモドキ。

 店員さんに聞くと、海鳴独特の組み方があるのだそうだ。

 なるほど、カラフルだけど派手じゃない。組紐の印象かな。

 昔は、願掛けに様々な日常品に使ったそうだ。

 願いによって、組み方を変わるそうだ。

 私はフェイトに幸運を祈るもの。

 フェイトは私に災難除け。

 お互いの選んだ物を交換する。

 

 まるで、なのはとリボン交換してる場面に似てるね。

 なに?印象ないんじゃなかったのかって?それくらいは思い出したよ。

 

 今のフェイトと別れるのは少し不安があるが、恩人も放置出来ない。

 リニスに後事を任せ、ヒルダさんと両親の元へ。

 旅行なのに慌ただしいね。

 

 ヒルダさんにフェイトの事を訊かれたが、出会いについては嘘でない範囲で誤魔化した。

 すみません。

 

 ヒルダさんが気を遣わなくていいと言うので、お言葉に甘える事にする。

 夕涼みがてら、ジュエルシード捜索をフェイト達と一緒に開始する。

 

 夕暮れの自然の中、4つの影が疾駆する。

 ジュエルシードは当然の如く、通常サーチに引っ掛からない。

 そこで、私が精霊の眼(エレメンタルサイト)で情報解析しながら進む。

 

 一度、4人で旅館に帰り、夕食を食べる。

 夕食後、食後の散歩という建前で、捜索再開。

 既に調べた箇所を潰し、まだ見ていない場所に的を絞る。

「見付けた」

 私の眼がジュエルシードを映し出す。

 でも、これは。発動寸前だ。

「急ぐよ!」

「うん!」

 フェイトが緊張した声で返事をする。

「リニス!結界構築!」

「もう構築完了します!」

 流石、言われる前に結界を構築開始してたのね。

 結界で一帯の地域が封鎖される。

 そして、案の定発動開始。

「フェイト!遠距離からの封印!いける!?」

「大丈夫!」

 フェイトは、バルディッシュを砲撃モードへ変形させる。

 

「ジュエルシード!封印!!」

 

 

              :飛鷹

 

 俺は寝たフリだけで、寝ていなかった。

 原作では、ジュエルシードは夜に発動するからだ。

 俺はトイレに行くフリだけして、外に出た。

 認識阻害は当然使っている。

 バリアジャケットを纏い、いざ、探索へと思ったら、声を掛けられた。

「散歩するには遅い時間だよ」

 なのはの声だった。振り返るまでもない。

 後ろには、ユーノとなのはがいた。

「全く、あれだけ騒いで、よく起きてられるな」

 俺は仕方なしに振り返り、憎まれ口を叩いた。

「それは、飛鷹に言われたくないよ」

 呆れたようにユーノが言った。

「そうだよ。飛鷹君って油断すると、すぐ自分でやろうとするから。警戒してたの」

 なのはから有難い言葉を頂戴する。ただ、信用ねぇだけじゃん。

 

「僕の問題に付き合わせてるんだから、僕も行くよ」

「私も手伝うって決めたから、行くよ」

 2人の決意に根負けし、渋々頷いた。

「わぁったよ。一緒に探しに行こうぜ」

 

 月夜で少し明るいが、昼より探し物にはキツイ環境だ。

 サーチしながら肉眼でも探す。

 発動するときは光るからな。光を見逃さないようにしないとな。

 

 なんて思いながら探していると、予想外に近くに反応をキャッチする。

 原作通り、川沿いにあったか!

 結界が形成される。

 結界を無理矢理こじ開け、2人を入れて俺も滑り込む。

 魔力反応もある。フェイト達か!

「なのは!長距離で封印砲!いけるか!?」

「うん!」

 レイジングハートをカノンモードに変形させる。

 

「ジュエルシード!封印!」

 

 なのはが封印砲を放つ。だが、向こうの方が早い。

 なのはの封印砲が若干遅れて着弾する。

 

「飛鷹!僕を投げてほしい!!」

 は!?投げる?放って置けって事?

「文字通りの意味で!」

 ユーノはフェレットに変身すると、俺の肩に乗る。

 マジか。

「封印と同時に飛び込む!」

 考えてる時間はなさそうだな。

「じゃあ、俺が相手の動きを妨害する!少し荒っぽいぞ!!」

「分かった!」

 俺はユーノを手に乗せると、魔力をユーノに込めて固める。

「カタパルト!」

 魔法の砲弾を打ち出すカタパルトが完成する。

「ちょっ!ちょっと!!僕がキャッチ出来るスピードで頼むよ!!」

「男は気合だ!」

「関係ないよね!?」

 それ以上の問答は男には不要だ。男は黙って行動するものだ。

 俺は渾身の力でジュエルシード目掛けて、ユーノを投擲した。

 カタパルトでユーノが更に加速する。

「ぎゃあぁぁぁぁ~!!」

 ユーノの断末魔と同時に俺も動く。

「ギガスラッシュ!(雷なし)」

 同じくカタパルトで加速するが、こちらの方がユーノより早く目標に到達する。

 

 俺のギガスラッシュで、派手な水飛沫が上がった。

 

 

              :フェイト

 

 封印砲を放つと一拍遅れて、別方向からも封印砲が放たれる。

 あの子達、ここにも来てたんだ。

 別の魔力同士での封印の為、発動直前のジュエルシードの封印が遅れている。

 封印の上から、封印するなら兎も角、2人で別々に封印しようとしてる為、拮抗している。

 でも、放ったのは私の方が早い。実力も私の方が上だ。

「ハアァァァー!!」

 私は声と共に出力を上げる。

 ピンク色の魔力光が弾き飛ばされ、私の魔力での封印が完了する。

 貰った!と思った時だった。

 アルフが封印されたジュエルシードを拾いに行こうとした。

 が、物凄いスピードで魔力の斬撃が通過する。アルフとジュエルシードの間を。

 水飛沫が上がる。

 

 そして、衝撃音が響いた。

 

 

              :なのは

 

 私の封印が吹き飛ばされ、金色の髪の子の魔力で封印された。

 実力差が、まだこんなにある。

 

 と、その前に。

 

「ユーノ君、投げたの!?」

「ああ、本人の希望でな。惜しい男を亡くしてしまった」

 飛鷹君が目頭を押さえて、声を絞り出す。

 いやいや。多分、ユーノ君の望みとは全然違うと思う。

 金色の髪の子の仲間の人だって、硬直してるよ。

「死んでないよ!死ぬかと思ったけどね!!」

 土煙が少しずつ晴れていき、ユーノ君が姿を現す。

 ユーノ君はボロボロだったけど、人間形態でジュエルシードを掲げて見せた。

「お前ならやると思ってたぜ!」

「2度と、こんな事しないよ!」

 その方がいいと思うの。私も似たような事したから、怖さは分かる。

 

「このガキャァァァー!!」

 赤い狼がユーノ君に跳び掛かる。

 ユーノ君が即座にラウンドシールドを展開する。

 赤い狼がシールドに体当たりするけど、シールドは壊れない。

「僕は、戦闘は苦手だけど。防御は得意なんだ!」

「チィッ!」

 赤い狼から舌打ちが聞こえる。

「この使い魔は僕が足止めする!あと、お願い!」

 

 なら、私は、あの子の相手をしないと。

 

 金色の髪の子の方に私は歩いていく。あの子の方も。

 お互い向き合う。

「やっぱり、止めないんだね。それで、どうするの?」

「話し合いで、解決にはならないんだよね?」

 金色の髪の子は、答える代わりに戦斧型のデバイスを構える。

 私もレイジングハートを構える事で、答えた。

 

「プラズマランサー」

「アクセルシューター」

 雷の槍が、魔力の砲弾が、幾つも浮かぶ。

 

「ファイア!」

「シュート!」

 槍と砲弾が全くのズレなく衝突する。

 

 爆発と同時に私達は飛び上がる。

 私だって、特訓したんだ。前回みたいに簡単にいかない!

 

 

              :飛鷹

 

 対戦相手は、残り2人だが、俺の相手は決まっている。

 どういう訳か、リニスは手を出さないようだしな。

 お互いに、剣を持ったまま間合いギリギリまで接近する。

「じゃ、手合わせ願おうかい」

「お相手するよ」

 

 黒い影2つが霞む。

 目まぐるしく、剣が無数に走る。お互いの位置が入れ替わる。

 剣と剣が打ち合わされる。その度に衝撃波が起きる。

 相変わらず、ヤツの剣は速いようには思えない。

 でも、捉え辛い。一瞬、ヤツの剣を見失う。

 ヤツの剣の軌跡が突然変化しやがった。

「!!?」

 辛うじて剣で受ける。突然変化したにも関わらず1撃が重い。

「おや?腕を上げたね」

「上から目線で、ありがとよ!」

 俺は皮肉で返す。

 全く、高町家のしごきを受けてなきゃ、あれで終わってたぜ。

 所謂、鍔迫り合いの状態。踏ん張った地面に罅が入る。

 力で負ける訳にいかないぜ!

 ヤツは、意外な事に魔力量は俺より低い。力なら男で鍛えている俺の方が上だ。

 このまま、押し切ってやる!

 力を更に籠めた。まさにその時。

 

 俺の身体が流れた。

 

 体捌きと剣に掛かる力を流すように、剣を傾けたのだ。

 力の入った俺の剣は火花を散らしながら、途中で止める事も出来ずに剣と一緒に体勢が

崩れてしまった。

 

 案の定、引き戻させたヤツの剣が迫る。

「ディフレイド!」

 魔法のシールドを展開すると同時に衝撃音が響く。

 クソ!剣術だけじゃ、やっぱりダメか!

「マナバレット!」

 魔力弾を幾つか作り出し、打ち出す。

 ヤツが魔力弾に向かって駆ける。

 待ってたぜ!

 ヤツは剣に自信を持ってる。剣で対処すると思ったぜ!

「マナキャノン!」

 俺の純粋魔力砲。所謂バスターだ。ネーミングセンスないって?ほっとけ。

 ヤツが斬り落とす前に、キャノンがバレットにぶつかり誘爆する。

 これなら、逃げ場はねぇだろ!魔力量は俺の方が上だ。威力でゴリ押しした。

 みっともないけどな。

 これでやれるなんて思ってやしない。

 防御で脚が止まったヤツに追撃を掛ける。

 

「どっち見てんの?」

 

 なに!?上からヤツが降ってきた。

 不意を突かれた形になり、しかも間合いにモロに入られた。

 結局、抵抗空しく、たった数合で剣を飛ばさてしまった。

 喉元に剣を突き付けられる。

「逃げ場奪うなら、もっと弾幕張らないと。ケチったね。そうすれば、君が優位に攻められた

かもしれないのに」

 あのタイミングで避けられる訳ねぇだろ、普通。

 今度があったらそうするよ、クソ!

「お前、この前、転生者かって訊いたら、転生したと言えばしたって言ったよな?

どういう意味だ」

 俺は冷や汗を無視して、ヤツに問い質す。

「さてね」

「答える気はないって事か?」

 ヤツは答えず、剣を下ろす。

 

「時間切れ」

 ヤツはそう言うと、指で上を指す。

 

「キャアァァ!」

 なのはが悲鳴と共に落ちていく。

「クッソ!」

 俺は飛び上がり、なのはの元へ急ぐ。叩き付けられたら、魔力強化が低くなっているなのはじゃ

大怪我する。

 なんとか、空中でなのはをキャッチする事に成功する。

 

 なのはをキャッチしたまま、振り返るとヤツは消えていた。

 俺は思わず舌打ちする。

 気が付くとフェイトもアルフ・リニスも消えていた。

 結界も解除されている。

 

 碌に話、訊けなかったじゃねぇか。

 

 

              :フェイト

 

 同時に空に飛び上がる。

 あの子の上昇してくるであろう地点にバインドを設置する。

 あの子は私と一緒に空中で静止して、デバイスを構え直す。

「サンダーレイジ!」

 砲撃に反応して飛び退こうとしたけど、設置型バインドがあの子を捉える。

 けど、慌てずあの子はバインドをブレイクして、シールドを砲撃を逸らすように展開。

 砲撃の衝撃を利用して、後方に離脱する。

 私のカウンターを警戒している。

 飛行魔法も、前とは比べものにならないくらい安定している。

 もう…そこまで、やれるの?

 

『フェイトが負けなければね』

 

 レクシアの声が頭の中に響く。

 あの子が、どんなに成長が早くても私は負けない!

 

 私が後を追う形で、空戦を開始。

 ピッタリとあの子を追尾しつつ、プラズマランサーを展開。

「ファイア!」

 あの子が私の方を一瞬、見た。すぐに回避。

 あの子を通り過ぎていった槍を操り、再びあの子を追わせる。

 魔力弾であの子も迎撃し、漏れたものは防御する。

 お返しとばかりに、魔力弾をこちらを見ずに放つ。

「シュート!」

 複数の魔力弾が私に殺到するが、当たる訳がない。

 余裕で躱し、高度を大きく変える。

 あの子の上をとる。

 一瞬、あの子は私の位置を見失った。

『サイズフォーム』

 バルディッシュが私の意志を汲み取り、変形する。

 急降下、鎌の刃が魔力で形成される。

 あの子は、こちらに気が付くと、手を微かに動かした。

 すると、躱した筈の魔力弾が私に1つ向かってくる。

 私はそれを歯牙にも掛けず、最小限の動きで躱す。

「アークセイバー」

 私は魔力刃を放つ。

 魔力弾の制御の所為で反応が遅れ、シールドで防御。

 砲撃を逸らすような展開をする余裕は、なかったみたいだ。

 魔力刃はシールドを削り取るように回転し、破壊しようとする。

 意識は完全に逸れた。

『ソニックムーヴ』

 私の姿が消えた事に、あの子は驚いたみたいだ。

 気付けば、私がシールドの前にいた事に、再度驚いている。

 私はそのまま、シールドを越えて、魔力刃を再度展開したデバイスを彼女の首に突きつけた。

 直線にしか動けないデメリットがあるけど、使いどころさえ間違えなければいい。

 

「終わりだよ」

『フォトンランサー』

 高速で打ち出された槍が彼女に直撃する。

 魔力で、咄嗟に小型のシールドを展開したみたいだけど、威力を多少弱めたに過ぎない。

「キャアァァ!」

 選択ミスだよ。

 あの子は落ちていった。

 落ちる速度を落とそうかと思ったけど、レクシアの方は勝負が付いていた。

 レクシアなら、黒い剣士が助けに入るのを邪魔しないよね。

 

 あの子にもう反撃は無理だ。

 アルフの方を見ると、亀のように防御に徹している男の子から、ジュエルシードを

奪えないみたいだ。

『アルフ、もういいよ。レクシアの作戦があるから、一時預けよう』

 念話をアルフに飛ばす。

『…分かったよ』

 悔しいのか、返事があるまで少し掛かった。

 

『じゃあ、もう撤退しよう』

 私はみんなにそう念話で伝えた。

 

 落ちたあの子は、黒い剣士が受け止めていた。

 

 

              :飛鷹

 

 なのはを抱き抱えて、旅館に帰る。

 ジュエルシードは手に入れたが、勝負は負けだ。

「う…ううん…」

 なのはが呻き声と共に、目を覚ました。

「飛鷹君…?私、負けちゃった」

 なのはは沈んだ様子だ。

 仕様がないさ。経験も何も違うんだ。簡単にはいかない。お互いにな。

「今は休んどけ、治癒魔法は俺が掛けといたから」

 責任をもってユーノにも治癒魔法を掛けた。

 俺が治癒魔法まで使えるのに、ユーノは驚いてたけどな。

「うん。飛鷹君、ユーノ君、ごめん」

 辛そうに、なのはは目を閉じた。

「謝る事なんて1個もない」

「そうだよ。寧ろ、僕の方こそ巻き込んでゴメン」

 この言葉だけじゃ、足りないか。

 俺は、魔力で片手を自由にすると、なのはにデコピンした。

「痛たっ」

 なのはが驚いたような、文句を言いたげなような顔をした。

「ヘコんでる暇なんてねぇぞ。それとももう止めとくか?」

「やだよ!」

 なのはは強い口調でそう言った。

 

「なら、帰ったら、更に研鑽しないとな」

「うん!」

 なのはは少しだけ持ち直したようだ。

 

 なのはを抱き抱えたまま、旅館に入った為、高町家の男衆に見付かり、別室での尋問を受ける

羽目になった。

 勘弁してくれよ。マジで…。

 

              :美海

 

 ジュエルシードの収集には失敗したが、最後にこちらが持っていればいいからね。

 私の本当の計画は、どっちでもちゃんとジュエルシードが集まっていればいい。

 表向きの計画を聞いているフェイトは、ガッカリした様子はない。

 アルフはスッキリしてないみたいだけど。

 慌ただしい旅行も、これで終わりだ。

「どうだった?旅行は」

 フェイトに訊いてみる。

「うん、初めて入ったけど、気持ちよかった。また来たいよ」

 気に入ってくれて何より。

 初めてをこれからも経験していけばいい。

 貴女だけの思い出を作っていけばいい。

「また、一緒に来れる?」

 フェイトが無邪気に私にそう訊いた。

 

 私は言葉なく、微笑んだ。

 

 

 

 




 温泉回の不思議。
 そう何故、アルフは主に仕事を任せて、自分は温泉に浸かっていたのか。
 フェイトが許可したとか、偵察など目的はあったのでしょうが、使い魔
 としてどうなんだ?と思っていたのですが、解釈が浮かび、話を変更す
 る事に。

 因みに、なのはは、まだ上手くバインドを使えません。習得中です。
 動きの速いフェイトを拘束するには、実力不足です。

 文字数もまたこんな事に。

 次回から話が加速する…なんて風呂敷を広げない方がいいですかね。


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第18話 次元震

 意を決して、修正を幾つかしました。

 聖祥学園→聖祥大付属小学校

 再生→再成

 第16話 忍のセリフの一部

 やっぱり、間違いが多いな。
 気を付けねばと、改めて思いました。
 今後、更に気を付けて投稿しようと思います。



              :美海

 

 温泉から帰ってきたけど、不味い事を思い出した。

 フェイトの問題とケアで、すっかり忘れてた。

 

 なのは達にお土産を買ってなかった。

 

 よしんば、覚えていたとして、お土産の問題は解決しなかっただろうけど。

 なにせ、行った場所が同じだからね。

 お互いに海鳴温泉のお土産交換してどうする。

 非難の弾丸で、蜂の巣になってしまうよ。

 頭を抱えていた私に女神がいた。

 ヒルダさんである。

 彼女は家に来る際に、東京土産を買っていたのである。

 私達にもくれたので、有難く頂戴した。

 そして、両親にお願いして東京土産を全て譲って貰った。

 ふぅ、ギリギリで助かったよ、本当に。

 

 

 放課後になのは達(飛鷹君・ユーノ君を含む)と翠屋に来ていた。

 なのは達から海鳴温泉のお土産を貰った。

 木彫りのキーホルダー。梟かなこれ。フェイトもこれ手に取ってたような…。

「私が選んだんだ!」

 なのはが元気一杯に言う。

 ああ、君達、やっぱり気が合うんだね。

 

 でも、元気一杯に見えるけど、私は気付いていた。

 時々、表情が翳るのを。

 フェイトに負けた影響かね。

 まあ、なのはの事は飛鷹君に任せるよ。

 飛鷹君も気付いているみたいで、心配そうだしね。

 頑張ってねー。薄情だって?私は今、フェイトの味方だからね。それでいいよ。

 

 さて、私の番だね。

 ドヤ顔で箱を出す。

「1人、2つずつね。余ったのは話し合いでよろしく」

「「「「「……」」」」」

 あれ?どうしたの?

 銘菓ひ〇こ12個入り。東京土産の定番でしょ。

 実は、東京の銘菓じゃないってところもポイントだ。

「アンタ、お土産のセンスもないのね」

 アリサが絞り出すように、それだけ言った。

 他の面々は、黙ってひ〇こを取って、お礼の言葉を絞り出した。

 

 なんだ、東京ば〇なの方が、よかったっていうの?

 

 

              :なのは

 

 あの敗北から、私は更に飛鷹君と一緒に鍛錬を重ねた。

 最近は、朝練でお父さん達の修行に付いて行って、ランニングしたり、道場で近接戦闘の

訓練をしたりしている。魔法の訓練も勿論やる。

 レイジングハートとも、訓練では動きの素早いターゲットを利用したりしている。

 やり過ぎないように、飛鷹君とお父さん達に注意される事もある。

 私って、そんなに無茶するイメージなのかな。…してるかもだけど。

 

 ちょっと、熱中し過ぎているとは思う。

 思い浮かぶのは、あの冷たいのに悲しみに満ちた眼。

 なんにも知らなかった私を助けてくれた。

 優しい子なんだと分かってる。

 でも、どうしてあんな危険なものを集めているんだろう?

 凄く必死だった。ユーノ君みたいに。

 飛鷹君が言うには、ユーノ君も隙あらば1人で探しに出歩いてしまうみたい。

 止めるのが大変だって言ってた。飛鷹君も1人で動こうとするから、似た者同士かも。

 じゃあ、あの子はどうなんだろう。大怪我しちゃうかもしれないのに、全然気にしてない

みたい。

 あの子に話をして貰う為に、鍛錬を重ねてるけど、最近は重ねるほどにあの背中は遠いと、

感じる。

 私はあの子に、話をして貰えるのかな。

 

「ちょっと!なのは!」

 アリサちゃんの声で気が付く、あっ、ここ学校だった。

「なのはちゃん、大丈夫?」

 すずかちゃんが心配そうに、覗き込んでくる。

「ごめん。この頃のあの問題で、ちょっと…」

 2人はそんなの分かってるって顔してる。

 最近だと、それしかないよね。

「最近、根を詰め過ぎなんじゃないの?」

 アリサちゃんの言葉に、すずかちゃんが頷く。

 美海ちゃんだけは事情が分からないから、キョトンとしている。

 アリサちゃんが、事情の分からない美海ちゃんを気遣って、問題ない範囲で説明して

くれる。

「最近ね。この子が、友達になりたい子と逢ったみたいなんだけど。話もしてくれない

らしいのよ。それで喧嘩しちゃってるみたい」

 うん。流石アリサちゃん。嘘じゃないけど、ちゃんと暈してある。

 美海ちゃんは軽く頷く。

「好きの反対語は嫌いじゃないって、よく言うでしょ?あれ、本当だと思うんだ。好きの

反対語は無関心だよ。喧嘩が出来るなら、まだいいと思うよ」

 美海ちゃんにしては、凄く喋ったから、私達はビックリしてしまった。

「言葉を、格好良く飾って言う必要なんてないよ。思った事を素直に言ってみれば?」

 美海ちゃんにとっては、なんて事ない言葉だったんだと思う。

 でも、私にとっては、凄い衝撃だった。

 

 私はいつの間にか、あの子と話をしようとしてなかったんじゃないの?

 力を手に入れて、どこかでそれにのぼせてたのかも。

 最近は、勝たなきゃってずっと思ってた。そうしないと話も出来ないって。

 勿論、勝たないといけないと思う。ユーノ君との約束だから。

 でも、話をする事を諦める必要なんてなかったんだ。

『それは、君達次第だよ』

 フェイトちゃんも助けたいって、伝えた時にあの人はそう言っていた。

 あの人は、美海ちゃんが言ったみたいな事を、言いたかったのかもしれない。

 自分の気持ちを、伝える事を諦めるなって。

 

 ここのところの、靄が少し晴れたような、そんな気がした。

 

 

              :海鳴署警邏

 

 パトカーに乗って、巡回中だ。

 連休の活気が何週間か前に終わり、街は落ち着きを取り戻している。

 不審人物は今のところ見当たらない。いい事だ。

 私の隣で運転しているのは、若手の警察官だ。

 一応の技術を身に着けているが、まだ経験が足りない。

 私が、面倒を見る事になったのだ。

 この街は、不審者に注意すればいいという訳にはいかない。特殊な街だ。

 

 そして、私の眼はあるものを捉えた。

 街のエアポケットのように広い歩道。そこに青い輝きを見付けたのだ。

「ちょっと、止めてくれ」

「どうしました?」

 若手の警察官はゆっくりと車を止める。

 車が止まったのを、確認し私は車を降りる。

 日の光を反射し、輝くそれを確認した。

「本署に連絡してくれ。捜索指定の危険物を発見したと」

「は!?どこですか?」

 キョロキョロしている若手に、私は問題のものを指で差した。

「え?アレ…ですか」

 私は1つ溜息を吐いた。

「いいから、連絡してくれ。後で説明する。急いでくれ」

 私は、応援到着まで、2人でどう人を遠ざけるか思案し始めた。

 

 

              :リスティ

 

 今までのジュエルシードとかいうものは、みんな彼か敵対している人物に回収された

という報告を、彼から受けていた。意外に律儀だ。

 彼の父親も律儀だから、血かもしれない。

 発見したはいいが、私達では流石に魔法の事は分からない。

 だから、捜索は難しいと考えていた。

 ここまで見付からないと、無理かもしれないと思い始めたくらいだ。

 それが、見付かるとはね。

 ベテランの巡査部長に感謝だ。

 

 現在、規制線を張って、処理できる人物の到着を待っているところだ。

 表向き、不発弾処理という事にして貰っている。

 カモフラージュに爆処理が、それっぽく動いてくれている。

 報道関係者も、ヘリも飛ばしていない。そこは土地柄というものだろう。

 依頼があったとしても、F関連なら誰も動かない。そういう事になっている。

 楽だから歓迎だ。

 

 もし、彼等が到着前に発動とやらの状態になったら、私がどうにかしないとね。

 そうならない事を祈るけどね。

 

 だが、私も警察官である以上、そうなってしまっては仕方がないか…。

 

 

              :飛鷹

 

 俺達も、日課と化しているジュエルシード探索を切り上げ、帰宅した時だった。

 携帯が着信を伝えてくる。電話はリスティ刑事からだった。

 リスティ刑事の話は、俺達の度肝を抜いた。

 まさか、警察がジュエルシードを発見するなんてな。

 しかも、未発動!

 こんな展開は、原作に完全にない。原作なんて当てにならなくなってるけどな。

 

 俺は、すぐになのはに連絡を入れ、ユーノと共に家を飛び出していく。

 所謂、緊急走行再び。

 すぐさま、なのはも合流する。

 まだ、発動兆候はない。それでも、最速で現場に行かないとな。

 

 俺は携帯でリスティ刑事に連絡を取る。

「飛鷹です!もうすぐ着きます!到着したら結界で隔離しますので、リスティ刑事も退避

して下さい!」

『有難いよ。結界とやらは、私達にも見えるのかい?』

 携帯の向こうで、少し安堵している様子だ。

「いえ、ジュエルシードが消えたら、それが合図だと思って下さい」

『了解、今現在は異常はないようだ。待ってるよ』

 通話をそれで終了させる。

 

 俺達が到着した、まさにその時だった。

 ジュエルシードが胎動するように、輝き出した。

「やべぇ!」

 ユーノが素早く印を切る。

「間に合え!!」

 結界がギリギリの線で構築される。

 輝きが洪水のように、溢れ出していく。

「なのは!」

「了解!ジュエルシード、封印!!」

 なのはは封印砲を放った。

 

 

              :フェイト

 

 ジッとしていられなくて、私とアルフはジュエルシードを探していた。

 私達のサーチじゃ、引っ掛からないかもしれないけど、運良く肉眼で発見出来るかも

しれない。

 レクシアには呆れられるか、ちゃんと休むよう怒られるだろうけど。

 最近の私は、おかしさが少し増した。

 レクシアに注意されると前は、落ち込んだけど、最近は本気で心配してくれてるって

分かるから、少しだけ嬉しかったりする。

 こんな事言ったら、レクシアが怒るかな。

 そんな事を考えて、少し笑った。

 視線を感じて、横を見るとアルフが安心したみたいに笑ってた。

「どうしたの?」

「フェイトが笑ったのが、嬉しかったんだよ」

 そんなに変だったかな?

「フェイト。最近、笑わなくなっちゃってたからさ。安心したんだよ。そりゃぁさ、笑顔を

作る事はあったけど、上手く言えないけど本当に笑ってなかったんだよ」

 そう、だったかな…。

 だとしたら、アルフに心配掛けちゃったな。

 確かに、早くしなきゃっていう焦りは消えてない。

 最近では悩みも増えたけど、信頼出来る人が支えてくれる、助けてくれる。

 そういった安心感があるから、必要以上に固くならずに済んでいるのかもしれない。

 

 そんな事を考えていた時だった。

 胎動するような魔力の波動。

 これは!?

「フェイト!」

「うん、もう発動する!」

 意外にそう遠くない。間に合う!

『フェイト。発動したけど、気を付けて。なんか不気味だ。アレの小細工は入ってると

思うから。私もすぐに合流するよ』

 レクシアからの念話が入る。

『分かった!』

 私達がジュエルシードのところへ来た時には、結界が構築される寸前だった。

 あの子達だね。

 私達はすぐに構築寸前の結界に飛び込んでいった。

 

 ジュエルシードのある場所に立つと、あの子が封印砲を既に放っていた。

 封印は成功した。

 あの子達が回収しようと近付いたと同時に、私達は彼女達と相対する形で降り立つ。

 

 今度は私達が貰う。

 

 

              :美海

 

 発動の兆候を確認して、動き出した所為で、少し出遅れたかな?

 すぐに、リニスと一緒に飛び出したんだけどね。

 さて、アレはどんな小細工したのやら。

 一応、フェイトには注意するように言ったけど。

 

 呑気に考えているように見えるだろうけど、今、私達は高速移動中です。

 少し、荒っぽくなるけど、結界に入るとしようか。

「行くよ!リニス!」

「はい!」

 

 私は剣を取り出すと、魔力を籠めて剣を振るった。

 

 

              :なのは

 

 やっぱり来た。

 前回とは逆になったけど。

 ユーノ君は赤い狼の方を警戒しながら、私達をサポート出来るように下がる。

 赤い狼の方は、今日は人型になっている。

 人型になると、あんな感じなんだ。

 飛鷹君は、あの人の姿がないのを警戒しているみたい。

 

 私は少し緊張しながら、2人に近付いていく。

 2人が、警戒しデバイスを構えたり、無手で構えた。

 私はそこで止まった。

 私は思いっきり息を吸い込んで、吐くと2人に向かって呼び掛けた。

「私は高町 なのは!聖祥大付属小学校3年生です!」

 いきなり、自己紹介を始められて、2人共戸惑ってるみたい。

 私は、改めてジュエルシードを集める理由を説明した。

「目的が違うから、ぶつかり合うのは仕方のない事なのかもしれない。でも、それじゃ、

それだけじゃ、嫌なの!貴女の理由を教えてほしい。あんな危ないものを集めてるのは、

どうしてなの?」

 金色の髪の子は少し考えて、口を開く。

「フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 え?私達とは話したくなさそうだったから、もう少し時間が掛かると思ってたから、

ビックリしてしまった。

「名前…」

 伝わってないと思ったのか、金色の髪の子・フェイトちゃんが言葉少なに答えてくれた。

「うん!」

 話が出来る。そう期待した。

「でも、貴女に理由を説明する必要はない。それは変わらない」

 やっぱり、そう簡単じゃないよね。

 私は落胆を感じながら、気を取り直す。ここで、止めたら今までと同じだ。

「何度も、助けてくれたよね?」

 私の言葉に、フェイトちゃんが少し動揺したように見えた。

「今まで、言えなくて、ごめんなさい。ありがう!」

 フェイトちゃんが目を見開く。

「違う…!」

 フェイトちゃんは、絞り出すようにそう言った。

「もしかして、貴女の…フェイトちゃんの中では、そうなのかもしれないけど、私はそう

思ってる。だから、知りたいの!フェイトちゃんがどうして、ジュエルシードを集めて

るのか…」

「フェイトは、話す事ないって、言ってるだろ!」

 赤い狼が冷ややかに私の言葉を遮る。

 今までの私なら、何も言えなくなっていたかもしれない。

「それでも!私はフェイトちゃんと話すのは、諦めない!!」

 赤い狼が驚いたような気がする。

 私はフェイトちゃんから目を逸らさない。

 

 その時、爆発音が響いた。

 

 

              :飛鷹

 

 なのはが熱い思いを語っていたまさに、その時。

 空気を読まない爆発音と共に、2人の人影が降り立つ。

 ヤツとリニスだった。

 

「うん?あれ?もしかして、取り込み中だった?」

 更に空気を読まない発言だな、おい。

 そこで、ヤツはなのはとフェイトを見て、察したのか結界の綻びを勝手に修復すると、

なのは達に気にするなと言わんばかりに、手を振る。

「ああ、どうぞ、続けて続けて」

 色々と台無しな空気で、流石に続けられるか。

「いや、終わったよ」

 フェイトが終了宣言。

「終わってないよ!」

 食い下がるなのは。

「私のやる事も、貴女のやる事も変わりはしない。そうでしょ?」

 フェイトが戦闘態勢に入っている。

 それが、分かる。

「私はフェイトちゃんの理由を知りたい、知った上でやれる事をしたいんだ。貴女の為に」

 お互いが計ったように、空中に飛び上がる。

 なのはとフェイトの空戦が始まった。

 

 それが合図となり、アルフとユーノの戦闘?も開始された。

 

「いや、あれで続けろって無理だろ」

 俺はヤツに一言言っておきたかった。

「だね。流石に無理だったね」

 お互い軽口を利いているが、一切気の緩みはない。

 既に、お互いの隙を探っている。

「お前は、なのはがあのフェイトって子と話すのは、妨害しないんだな。目的を言えよ」

 ゆっくりと俺は剣を抜いた。

「君は納得しないだろうけど、私なりにフェイトに幸せになってほしいと、思ってるよ」

 ヤツは剣を構える。

「ああ、納得なんて出来なねぇな!!」

 俺は身体強化を最大に引き上げ、ヤツの間合いに踏み込む。

 剣が打ち合わされる。

 それから、何合も打ち合う。

 動と静。

 俺は大気を切り裂くようなスピードで動き、剣風でアスファルトを削り取る。

 ヤツはふわりと受け、力もなにも全て受け流してしまう。

 チッ!まるで手応えを感じない!まるで、そこにいない奴に斬り掛かってるみたいだぜ。

 まるで、約束稽古でもしてるみたいに、ヤツに刃が届かない。

 

 剣術だけじゃ、ヤツに届かない。魔法も使っていくが、ヤツの左手で流されるか

いなされる始末。

 右で斬り、左で防御。余裕であしらわれている。

「ブラスト」

 近距離で、ステイしていた魔法を放つ。

 ただのブラストじゃない。かなり魔力を籠めて巨大化した火玉だ。

 ヤツは少しも動揺を見せずに、魔力の燐光を放ちアッサリ躱す。

 巨大火玉はアッサリとヤツを通過していく。

「だから、隙を作らないと、大技は当たらないよ」

「ああ、そうだよな!」

 俺は、放たれたブラストに仕込んだ術式を解放する。

 巨大な火玉が分裂し、大量の火玉に変わり奴に殺到する。

 前回のアドバイス、活かしてやったぜ。

 回避出来る量じゃない。なにしろ逃げ場がないくらい火玉を造ったからな。

 これは、烈火の炎で主人公がやっていた技だ。

 原作・ストレイトジャケットじゃ、こんな事当然出来ない。

 だが、この世界じゃ、術式をキチンと組めれば可能だ!

 完全に、火玉が通過した事で、ほんの僅かに背に隙が生まれた。

 避けられないだろ?

 全弾直撃。

 まだ土煙で視界が利かない中、俺は剣を手に既に間合いに踏み込んでいく。

 魔力弾を展開と共に斬り掛かる。

 まだヤツは、そこにいる。

 俺は剣を振り抜く。

 だが、凄い音と共に剣が弾き返される。

 土煙が晴れて、ヤツが姿が視認出来るようになる。

 ヤツはなんの動揺もなく、平然と立っていた。

「うん、魔法が必要な攻撃だった」

 俺に喜びはない。

 まだ、対等な場所に俺は立ってないからな。

 

 再び、仕切り直しになると思った時だった。

 何かが、胎動するような鼓動を感じた。

 

 

              :なのは 

 

 空中に飛び上がり、そのまま空戦を始める事になった。

「フェイトちゃん!」

「黙って!」

『プラズマランサー』

 フェイトちゃんが雷の槍を一杯に展開して、放つ。

 私はラウンドシールドで防御しながら、避けられるものは避ける。

『アクセルシューター』

 私も魔力弾を展開し、反撃しながら近づいていく。

 今回はフェイトちゃんの後を、私が追う形になる。

 

 フェイトちゃんの後を取っても、すぐに引き剥がされてしまう。

 でも、前よりは食い下がる事が出来る。

 それでも、フェイトちゃんの空中機動は凄いの一言だ。

 設置型のバインドを予想位置に仕掛けても、躱されてしまう。

 こっちはまだ全然ダメみたい。

 まるで、テレビで見たスポーツカーが、パイロンを縫って走ってるみたいだ。

 それより動きが速いし、激しいけど。

 接近戦に持ち込まれないように、弾幕を張るけど、フェイトちゃんは雷の槍で

迎撃しながら、スルスル近付いてくる。

『サイズフォーム』

 デバイスが鎌の形態に変わる。

 そして、フェイトちゃんの身体が魔力光で輝く。

 来る!?

『ソニックムーヴ』

 眼で捉えられないくらい加速して、私の目の前に現れる。

 鎌が振るわれる直前。

『フラッシュムーヴ』

 私も一瞬でフェイトちゃんの背後を取る。

 私もレイジングハートとフェイトちゃんの高速機動魔法を研究した。

 フェイトちゃんみたいに、かなりの距離を移動する事は出来ないけど、短距離なら

私もフェイトちゃんのスピードに、対抗出来るようになった。

 私はレイジングハートを打ち込む。

 フェイトちゃんは特に驚く事なく、私の杖を受け止める。

 デバイスが打ち合わせれ、ギリギリと嫌な音を立てる。

 お互いに魔力で強化されている為、魔力がスパークする。

 魔力刃が、私にドンドン近付いてくる。

 シールドで魔力刃を受け止め、シールドに魔力を注ぎ続ける。

 そして、シールドを敢えてオーバーフローさせる。

 爆発により、強引にお互いに距離を取る。

「貴女、滅茶苦茶しますね」

 フェイトちゃんが眉間に皺を寄せながら、そう言った。

「実力が足りなきゃ、無理くらいはするよ」

 フェイトちゃんが少し怒ったような顔をした。

 一応、怪我しない程度に爆発させている。魔法の防御があるのが、前提だけど。

 衝撃波を利用して距離を取る魔法だから。

 全く未完成の魔法だから、レイジングハートは止めた方がいいって止めたけど。

 安全は一応考えてるんだよ?

 

 その時、何かが胎動するような鼓動を感じた。

 私達は弾かれたみたいに、そっちを向いた。

 

 

              :リニス

 

 私が参戦すると、あっと言う間に戦闘の均衡が崩れるので、美海からは基本的に

サポートに徹するように言われている。

 別に私が、ジュエルシードを回収してもいいんですけど。

 それでは、フェイトの為にもならない、という事だった。

 美海は、フェイトが迷う時間を作りたいみたいですね。

 

 そんな事を考えながら、それぞれの戦いを観察していると、封印された筈のジュエルシード

から、胎動するような鼓動が響いた。

 その時、私はある事に気付き、周りを見回す。

「これは!?」

 そう言う事ですか!ここは発散された魔力で満ちている。

 それを吸収したんですね。

 これが美海の言うアレの細工!厄介な事を!

 これでは、封印する為でも魔力を当てれば、暴走しかねない。

 

 再度の発動に気付いたフェイトとなのはが、封印すべく動く。

「ダメです!フェイト!!」

 私も止めるべく飛び出す。

 しかし、フェイトとなのはは、既にジュエルシードを挟んでデバイスを打ち合わせて

しまった。

 

 その瞬間、ジュエルシードが禍々しいまでの光を放つ。

「「あっ!!」」

 光の強力な破壊力に2人のデバイスが、無数の亀裂が走る。

 2人共、同時に吹き飛ばされてしまう。

 フェイトはどうにか、打ち付けられる事は回避しましたけど、なのはは地面に打ち

付けられる。

 衝撃でアスファルトが削れて土煙を上げる。

 

 ジュエルシードが、更に力と輝きを増す。

 なんて、強力な力…。

 結界内に地震のような振動が、発生し始めた。

 

 

              :飛鷹

 

「なのは!!」

「フェイト!!」

 奇しくも俺達の声が重なる。

 なのはが抉れたアスファルトの中から這い出して来る。

 なのはは多少のダメージはあるようだけど、無事のようだ。

 俺はホッとした。

 

 ジュエルシードは強力な力を放出している。

 やべぇ。すっかり夢中になって忘れてたぜ!

 このジュエルシードは、封印後に再発動して次元震を起こすんだった!!

 しかも、俺とヤツという2人のイレギュラーの存在、なのは・フェイトの原作以上の力の

所為か、原作より激しいぞ!?

 これも、二次小説にありがちな展開じゃねぇか!

 まさか、俺がその轍を踏むとはな!

 

 悔しさに歯噛みしていると、ヤツが声を掛けてくる。

「悪いけど、一時休戦でいい?」

 声に深刻さがねぇな、おい!

「言われなくても、続けられねぇよ!」

 

 ヤツは特に何も言わずに、拳銃型デバイスを光の柱に向ける。

 

 

              :美海

 

 私はジュエルシードにシルバーホーンを向けて、魔法を放つ。

術式解散(グラムディスパージョン)

 ジュエルシードに刻まれたアレの術式に干渉して、消そうと試みる。

 が、上辺だけの魔力が掻き消えたのみ。

 ファランクスやレンジ・ゼロと同じか!?

 となると、魔力を拡散させて、ジュエルシードを直接抑え込むしかない。

「一応、訊くけどアレ、どうにか出来る手段ある?」

 飛鷹君は眉間に皺を寄せる。

「あるには、ある。だが、時間が掛かる」

「どのくらい?」

「…5分だ」

 沈黙が流れる。勿論一瞬の事だ。

「魔力の拡散、任せていい?」

「やってやるよ!」

 飛鷹君はヤケクソ気味だね。

 話し合いが終了したところで、対応開始しようとした時。

 フェイトとなのはが再度、突撃しようとしていた。

「フェイト!」

 リニスが準備してくれていたようで、フェイトを抱き止める。

「リニス!?」

「フェイト。アレは任せて!」

 私はフェイトに声を掛ける。フェイトは頷いてくれた。

 が、間に合わなかった人もいるようだ。

「なのは!よせ!」

 飛鷹くぅぅぅん!!頼むよ!!なのはは君の担当なんだからさ!!

 なのはは、ジュエルシードに手を伸ばしていた。

 飛鷹君も飛び出していたけど、間に合わない。

 私は自己加速で限界まで強化してから、身体技能でなのはを止める。

 なのはには、いきなり私が目の前に現れたように見えただろう。

 ギリギリのところで止めたが、ジュエルシードの光が刃のように襲ってくる。

 魔力の籠った腕で光の刃を跳ね除けるが、私の防御を抜いて斬り付けられる。

 クッ!こっちはバリオンランスみたいだね。

 血飛沫が飛び、なのはの顔に掛かった。

「レクシア!!」

「大丈夫だから!!」

 私は手でフェイトを押し止める。

「君は大丈夫?」

「は、はい」

 なのははガクガクと頷いた。

 悪いね。上手く助けられなくて。怖い思いさせちゃったかな。

「下がってて、私と彼でやる」

「すいません」

 意気消沈しているなのはに、私は額を指で弾いてやった。

「痛っ!」

「言葉の選択が違うよ」

 なのはがハッと気付いた。

「あ、ありがとうございます!」

「よくできました」

 近付いてきていたユーノ君に、なのはを任せる。

 

「さて、やろうか!」

「応!」

 飛鷹君が、光の柱の魔力を制御して拡散を開始する。

 光の柱から刃のような攻撃が加えられるが、飛鷹君は剣で叩き落としながら拡散作業を

並行して行っている。うん、器用だね。

 それでも、既に傷だらけだけどね。

 私が拡散を担当すれば、いいという話だが、私がやる訳にはいかない。

 今回の場合は、直接手でジュエルシードに触れる必要がある。

 でないと、最悪時間切れで、次元断層に発展する危険性が高い。

 だが、この高密度の力の柱に手を突っ込むのは、危険過ぎる。普通なら。

 

 アレの狙いは、私ごとこの世界を消す事だろうが、私を舐めるなよ。

 

 自己修復術式がある私なら、出来る。

 

 私は魔力を高密度で腕に纏わせ、圧縮により薄い膜でも張っているように見えるぐらいに。

 そして、残像すら残さないスピードで、光の柱に突き込んだ。

 すぐさま、腕がバラバラになりそうになる。

 だが、この程度の痛み、屁でもない!!

「「レクシア!!」」

 フェイトとアルフの悲鳴のような声が響く。

 大丈夫、信じて!

「っ!…主!!」

 リニス。今、危なかったね。本名言いそうになったでしょ?

 

 腕の1本くらい、くれてやる!!

 

 ボロボロの右手がジュエルシードを掴んだ。

「あああああぁぁぁぁぁーーー!!!!」

 次元断層すら引き起こしかねない力を、抑え込んでいく。

「ウオォォォォーーーーー!!!!」

 飛鷹君も血塗れになりながらも、拡散し私の分の抵抗も排除し続ける。

 

 光の抵抗が弱まり、薄くなると同時に()()()()()()()()

「っ!!!」

 チェックメイト。

 脂汗が噴き出るが、私はニヤリと笑った。

 

 爆ぜた後には、ジュエルシードは残されていなかった。

 私の血の中に収納されたのだ。

 

 私も堪らず膝をついた。

 飛鷹君も尻餅をつくように座り込む。

 お互いの荒い息遣いのみが、聞こえる。

 

「レクシア!!」

 フェイトが駆け寄って来るのが、分かる。

 到着と同時に、包み込まれるような温かさを感じる。

 抱き締められているようだ。

 ただね。痛いから、手加減して。

「ああ!レクシア!?どうしよう…!!治療を!!」

 落ち着いて、とは言う余裕がない。

 自己修復術式がオートで作動する。

 傷など、初めからなかったように消える。

 

 ふぅ。あ~、痛かったわ、久しぶりに。

 幻肢痛はまだ、感じるけど。用法間違ってる?気にしないで。

 

 まだ、パニック状態のフェイトを落ち着かせる為、右手でフェイトの頭を撫でてやる。

「ほら、大丈夫だから、心配しないで」

 フェイトはようやく落ち着いて、戻った腕を見ると涙を浮かべた。

「心配…するよ…当たり前じゃない」

 そのまま涙を流し、私を強く抱き締める。

「うん、そうだね。ごめん」

 泣くフェイトの背を優しく叩きながら、落ち着かせる。

 

「あ、あの…」

 なのはが遠慮がちに声を掛けてくる。

 それにいち早く反応したのが、フェイトだった。

 強烈な怒りの籠った表情で、なのはを睨み付けた。

「あっ…」

 なのはは俯いてしまった。

 

 飛鷹君はなのはの手助けで、起き上がりユーノ君の治療を受けつつ、こちらを窺って

いる。ユーノ君も気にしているようだ。

 

「フェイト。どんなにベストを尽くしたって、報われない事もあるよ。彼女もフェイト

も自分の出来る事を精一杯やろうとした。それだけだよ」

 なのはを睨み付けているフェイトの顔を、こちらに向けさせて語り掛ける。

「それに、フェイトだって止められなかったら、同じ事をしてたんじゃないの?」

 そう言うと、フェイトの顔がさっきまでと違う意味で赤くなった。

「ごめん…」

 私は下を向くフェイトの顔を上げさせた。

「それは、私にじゃなくて、あの子に言ってあげて」

 フェイトは気まずそうに、なのはを見る。

「ごめん。八つ当たりだった…」

 なのはは慌てて首を横にブンブン振る。

「私こそ、迷惑かけちゃったし、怪我させちゃったから、…その…ごめんなさい」

 ペコリと、なのはは頭を私に下げた。

「じゃあ、この件これで終わり」

 

 お互いに損害が多かった為、ジュエルシードは今回は私達のものになり、こちらの

撤収をあちらが見送るという、実に平和的な幕引きになった。

 

 

              :飛鷹

 

 今回の件が終了し、リスティ刑事に俺は謝らないといけなかった。

 折角、見付けてくれたのに回収出来なかったからな。

 謝る俺にリスティ刑事は、無事で何よりと言ってくれた。

「私としては、危険性を知れただけでもよしとしてるよ。回収されただけでもよかった

とすべきだろう」

 悪用される可能性を考えてない訳ないから、これは気を遣って貰ったという事だろう。

 どうやら、こっちでもかなりの地震となって、影響を出していたようだ。

 危ねぇな。今、思い返しても冷や汗が出るぜ。

 

 俺の傷はといえば、ヤツが治してくれた。

 回復魔法も凄腕で、俺の傷もなのはの傷まで治していった。

 全く、分かっていたつもりだが、とんでもない奴だ。

 

 だが、決戦は近いだろう。

 ヤツが、どういう幕引きを狙っているのか知らないが、俺は俺に出来るベストを尽くす

だけだ。もう、ここまでくれば、助けられるだけ助ける、それしかねぇだろ。

 

 いざとなったら、レアスキルを最初から、発動状態で臨むしかねぇかもな。

 とんでもなく、危険だが。

 

 それにしても、ユーノが気になる事、言ってたな。

 

「あれは…失われた筈の…自己修復術式。どうして彼女が…」

 とかなんとか。

 

 詳しい事は後日だな。俺もなのはもいい加減、帰らねぇとキツイ。

 

 

              :アルバザードの魔法使い

 

 ヤツは化物か?

 

 これで始末出来れば、と思っていたんだがな。

 私にとって、こんな世界に価値などないからな。せめて、ヤツと一緒に消えるくらいの

役に立ててやろうとしたんだが、ダメだった。

 

 次元干渉型のアレを最大出力で暴走させた筈だが、無効化された。

 あんな事は、我らの世界の高位の存在でも、容易な事ではない。

 身体の欠損がある程度治るとはいえ、アッサリ片腕を捨てる決断をする。

 ヤツもまた、心が壊れている。

 

 まあ、いいだろう。

 時間稼ぎは万全。

 もう、目的地に到着している。

 

 かの地で待つぞ。

 

 

 

              :リンディ

 

 時空管理局・次元航行艦アースラ艦内。

 ようやくパトロール任務も折り返し地点。

 今まで順調に来てるわね。

 珍しく、担当事件もなく、パトロールなんて滅多にあるものじゃないわ。

 

 私は抹茶に角砂糖2つとミルクを注ぐ。

 これが私の一番美味しい飲み方だ。残念ながら受けが悪いのよね。

 どうしてかしら?

 

 自室でのんびりしていると、私の目の前でウィンドウが開き、エイミィから通信が届く。

『艦長。本局より緊急連絡です』

 あ~。やっぱりそういう事になるのね。

 緊急。嫌な響きだわ。

「繋いで頂戴」

『了解しました』

 ウィンドウが切り替わり、レティの姿が映し出させる。

 彼女は同期で親友と言っていい人物だ。そして、やり手でもある。

『リンディ。折角のパトロールだけど…』

「どんな事件なの?」

 私はサッサと話を促す。

 レティは苦笑いする。

『事件の詳細は、暗号データで既に送ってあるわ』

 そこまでの事件という事ね。

『今回の事件は、下手をすると次元断層に発展する恐れがあるわ』

 その言葉に、私は顔が強張るのを感じた。

「了解!ただちに現地へ向かうわ。で、場所は?」

 未曾有の大災害の恐れ。多くの次元世界も飲み込みかねない大事件。

 

『97管理外世界よ』

 

 

 




 ようやく、ここまで来ました。
 美海視点が多くなってしまった…。
 
 戦闘描写に悩みを感じ、リリカルなのはの小説版を購入してしまった。
 まだ、読んでませんが…。


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第19話 管理局の到着

 誤字を指摘して下さった方に、この場を借りて、お礼
 申し上げます。
 まだ、気付かないだけであるとは、思っていましたが、
 まさか、あれほどとは…。
 やっぱり一度スルーすると目がいかないみたいですね。

 それでは、お願いします。


              :リンディ

 

 事件詳細を暗号データで確認する。

 詳細を読み、頭痛を感じる。

 いつでも、管理局は多忙だけど。これはどうなのかしら?

 次元干渉型のロストロギアを放置したなんて、マスコミにでも漏れたら大事よ。

 

 既に、幾度もロストロギアを巡って2つの勢力が、ぶつかり合っている。

 ハッキリ言って、もう少し早く対応して然るべき案件じゃない。

 今まで大事にならなかったのは、運が良かったと言える。

 しかも、件のロストロギアは、1回は管理局が回収したものだった。

 それを襲撃のドサクサで回収出来ずに、97管理外世界にバラ撒いてしまった。

 襲撃があったとはいえ、これは大失態ね。

 しかも、レティの調べでは、その襲撃も疑念が残るものらしい。

 

 はぁ。愚痴ってても仕様がないわね。

 

 私はアースラブリッジへ移動する。

 事件発生は、もう既にクルーに伝えてある。

 

 ブリッジに入ると、早速報告が上がってくる。

「艦長、現在、最大船速で航行中です」

「97管理外世界の監視網にリンク完了。現在、2勢力による戦闘行為は認められません」

 全員、前回の次元断層で起こった悲劇を、よく知っている。

 だから、みんないつも以上に緊張感をもって仕事をしている。

 あの悲惨な出来事を2度と起こすな、が管理局のスローガンみないになったくらい。

「分かったわ。引き続き、監視を怠らないで」

「了解!」

 しっかりした返事が返ってくる。

 

 私は自分の席に着くと、同乗の執務官に視線を送る。

「クロノ執務官。転移座標の確認は?」

「済んでいます。いつでも跳べます」

 現時点では、ピンポイントで跳ぶのは難しいが、次元震発生地点からそんなに遠く

ない筈。

 もう既に執務官は、バリアジャケット姿で準備が出来てるみたいね。

 

 何を隠そう、私の息子だったりするのよね。

 因みに、容姿は夫に似ていい男よ。…まだ背は低いけどね。

 って、そんな事、考えてる場合じゃないわね。

 

「現地到着次第。ロストロギアの捜索と、関係者からの事情聴取を行います!」

「「「「了解!」」」」

 

 

              :美海

 

 前回の事があって、私は休養中に逆戻りした。

 まあ、今回は無理した自覚はあるから、大人しく従う事にする。

 もう大詰め、というところまできている。

 

 こちらのジュエルシードは7つ

 なのは達が6つ

 未回収が8つ

 

 あとはどうケリを付けるかだ。

 それをフェイト達にも話してあるから、()()()()()()()()焦りはない。

 だけど、予想外が1つ。

 それは、プレシア女史の仕事の雑さだ。

 フェイトは態度に出さないようにしていても、自分の記憶に疑念を持ち始めている

のが分かる。

 最初の内は、なのはとの事を考えさせるだけのつもりだった。

 この調子だと、私の予想より早く記憶が偽物だと気付くだろう。

 私も時機を見て、記憶の穴を突くつもりではいた。

 でも、ここまで、雑な作りとはね。

 フェイトの心が心配だ。

 フェイトも、これを狙った私に心配なんてされたくないだろうけど。

 これは、私の責任だからね。精一杯フォローするつもりだ。

 つもりだけどね…。

 

「ねぇ。レクシア!これとかどうかな!」

 フェイトが、ショウケースの中のケーキを指さして、はしゃいでいる。

 事の起こりはと言えば。

 

 

 休養とは言え、フェイトのマンションには顔を出していた。

 バルディッシュも派手に壊れたし、自己修復機能をフル回転で修理中。

 放っておくと、無理する子だからね。

 デバイスなしでジュエルシード捜索なんて、やりかねないんだよ。

 だから、顔を出したんだ。

 そしたら、フェイトとアルフが話していた。

「あの人に…お土産ねぇ…」

 アルフが渋い表情で言う。

「うん!もうすぐ、ジュエルシードを集め終わるから。お祝いにケーキを買おうって

思うんだ」

 さも、いい考えでしょ?とばかりに言うフェイト。

 

 私は何とも言えなかった。

 

 フェイトに私が協力する条件として、彼女はジュエルシードを最後まで集め終えるまで、

時の庭園へ帰れない。私を警戒した結果だった。

 そして、ジュエルシードの解析結果は、データとして提供する。

 そういう条件だ。

 データは疑いをもたれないように、渡し済みだ。

 収集の続行もフェイトに指示している。

 だから、やってんだけどね。

 

 どっちに転んでも、プレシア女史がフェイトの選んだケーキを食べる事はないんだ

よね。言えやしないよ…。

 私が成功すれば、プレシア女史は捕まるか、最悪死ぬ。

 プレシア女史が成功すれば、フェイトとの共犯関係は解消される。

 

 結局断れず、私はフェイトに、お勧めの店を紹介する羽目になった。

 

 私は転生する前は、別にグルメじゃなかった。

 でも、ベルカ時代に薄味の、お世辞にも美味しいと言える料理を食べていなかった所為

か、今生では味覚が鋭くなった。

 ベルカの料理が不味かったのではなく、物資が限られていたからだけど。

 それだって、食べられたのは、私が腐っても王族だったからだし。

 私が王になった時に、改善させたけどね。

 まあ、そのお陰もあって、食べ物がホントに有難く感じる。

 甘いものは最高だ。砂糖はベルカ時代、ホントに貴重だったからね。

 よって、私はケーキを食べ比べたりしている。なんたる贅沢か。

 別に詳しい訳じゃないけどね(爆)。

 

 因みに、翠屋はケーキも美味しいけど、一番はシュークリームだね。

 あそこは私にとって、シュークリームの店だ。

 私は翠屋に行かないけど、母上が好きなんだよ。

 それ以前にフェイトを翠屋に連れていくなんて、論外だけどね。

 

 だから、私の穴場へご案内。

 フハハハハ。ご近所と通以外は来ない場所だよ。

 商店街の外れの、ほぼ民家といった風情の店だ。

 その名も、洋菓子店フリーデン

 ドイツ語だからドイツのお菓子だと思うでしょ?

 なんと、普通のケーキ屋だ!

 碌に宣伝もしていない。ヤル気あるのか!?と言いたくなるが、これでも知る人ぞ知る

名店である。

「いらっしゃい」

 老齢の女性がパティシエ兼販売員である。

 品のいい女性で、背もまだ曲がっていない。

 小川さんという名前の人だ。

「どうも、また来ました」

 私は小川さんに挨拶する。

「お友達と一緒っていうのは、珍しいね」

 小川さんが微笑む。

 私って、そんな1人の印象あるのか。

「どれにする?」

 小川さんに話し掛けられて、フェイトが挙動不審である。

 優しく他人に話し掛けられるなんて、()()は初めてだろうから仕様がない。

「フェイト。どれも当たりだよ。安心して」

 小川さんのケーキは、実際どれも絶品だ。

 小川さんが、私にビックリしたような顔を向けた。え?何?

「有難うね」

 小川さんが笑顔を戻すと、そう言った。生意気な事、言われたと思ったかな?

 すいません。

 フェイトは、ぎこちなく頭をチョコンと下げる。

 

 ショーケースを見ると、色とりどりのケーキが並んでいる。

 オーソドックスなものから、オリジナルまで。

「うわぁ…」

 フェイトが感嘆の声を上げる。

 それから、フェイトのテンションが上がる上がる。

 甘いものの威力は凄まじい。

 普段は、ここまでしないほどの試食をさせて貰った。

「美味しい!!」

 普段のフェイトからは、想像も出来ないほど笑顔だった。

 これは、これでいいか。

 

 そして、アルフとリニスにもケーキを購入した。

 プレシア女史には、全て集め終えた後にワンホール買うという事になった。

 プレシア女史は、ビターなチョコケーキが好みなんだとか。

 どうでもいい情報ですな。

 

 

              :なのは

 

 私の部屋には、今、飛鷹君とユーノ君がいる。

 2人とも、冷や汗を流しながら、私の部屋に入った。

 なんか、階段の下から殺気が漂っている気がする。

 なんか、ごめんなさい。

 

 私はお菓子とジュースを取りに下へ降りていく、ついでにちょっとした用事を済ませ、

自分の部屋に戻る。

 お父さんとお兄ちゃんが焦げてるのは、きっと天罰か何かだから。気にしない。

 

 扉を開けて入ると、飛鷹君とユーノ君が難しい顔をしていた。

 2人は、レイジングハートの修理状況を見に来たのだ。

「どう?レイジングハート、大丈夫?」

 ユーノ君がレイジングハートから目を離さずに、答えてくれる。

「今、自己修復機能全開で修理しているから、明日には直ると思う」

 私は、レイジングハートを見る。

 待機状態でも、ハッキリと亀裂が走っている。

「ごめんなさい。レイジングハート…」

 当然、レイジングハートから返事はなかった。

「ユーノ。あの時の振動はやっぱり…」

 飛鷹君が、ユーノ君にいつにも増して真剣な声で話し掛ける。

「うん。なのはとフェイト…だったよね?2人の魔力の衝突だけではないだろうね。

間違いなくジュエルシードの力だよ。2人の魔力が全く関係ない訳じゃないけど」

 あれが!?ジュエルシードの本当の力…。

 フェイトちゃん…。

 必死にジュエルシードを求める姿が思い浮かぶ。

「あれが次元震だとすると、流石に管理局が来るな」

 飛鷹君が深刻な顔で言う。

 次元震?

「うん。ここまでの事態になっちゃったらね。あと、あれ、次元断層になりかけてたよ」

 次元断層??

「何!?」

 2人がドンドン話を進めていく。

「ストップ!!私にも分かるように言ってよ!」

 2人が詳しく、分かり易く説明してくれた。主にユーノ君が。

 説明を聞いて、私は言葉を失った。

 世界が滅びかけてたなんて…。

 

「早く、集めなきゃ、だね」

 私は呟くように言う。

 2人は無言で頷いた。

 

 

              :フェイト

 

 バルディッシュの修復が済んで、収集を再開した。

「バルディッシュ。大丈夫?」

『問題ありません』

 一応、バルディッシュに確認し、私は頷く。

 バルディッシュも大丈夫と言わんばかりに、光を放つ。

 

「フェイト」

「うん。分かってる。ジュエルシードがあるのが、分かる」

 アルフの言葉に力強く私は頷いた。

 前回の事もある。用心しないといけない。

 レクシアに大怪我なんて2度とさせない。

 例え、すぐ治ると言ってもだ。

 リニスが言っていた。傷は一瞬で治る。でも、痛みを感じない訳ではないって。

 私は覚えてる。レクシアが凄い脂汗を流していたのを。

 物凄く辛そうだった。

 どうして、あんな痛みに耐えられるんだろう。

 どんな辛い事があったんだろう。

 私には分からない。それが、悲しい…。

 だから、せめて、私の出来る全ての事をする。

 

『フェイト。分かってるだろうけど…』

 レクシアから念話が送られてくる。

『うん。大丈夫!』

 私はしっかり答える。

 

「アルフ。行くよ!」

「はいよ!」

 私達はマンションの屋上から飛び出して行った。

 

 

              :なのは

 

 私達3人は、ジュエルシードの存在を感じ取った。

「行こう!」

 私の言葉に2人が頷いてくれる。

 レイジングハートの修復は完了している。

 けど、レイジングハートに訊かないといけないよね。

「レイジングハート。力を貸してくれる?」

『勿論です』

「ありがとう。レイジングハート」

 私は感謝を込めて、レイジングハートを手で包み込む。

 

 ジュエルシードの反応があった場所に、私達は急いで向かった。

 

 場所は海鳴臨海公園。

 到着すると、ジュエルシードは発動していた。

 公園の木々の前で、ジュエルシードが浮き上がり、輝きを増していく。

 私達とフェイトちゃん達が、同時に現場に到着する。

 ジュエルシードが、1本の木に飲み込まれて行く。

 木はみるみるうちに巨大化していって、腕と足が付いたお化けに変わってしまった。

「ドラクエに、同じようなモンスターいたよな」

 飛鷹君が思わずといった感じで、独り言を言った。

 実は、私もやった事あったりして。

 確かにあんな感じだね。

 私達は馬鹿な事を、思わず考えてしまったけど、ユーノ君は素早く結界を構築する。

 私と飛鷹君は気を引き締め直す。

 

 私達はお互いに視線を交わす。

 最優先で、これを止めるのが先。

 数の暴力ってこういう事を言うんだね。

 ドラクエモンスターはアッサリ倒された。

 まずは、私がバインドで動きを止めて、フェイトちゃんが魔力刃をブーメランみたい

に飛ばして、切り刻む。

 飛鷹君とあの人が、地面から出てくる根を斬り飛ばす。

 使い魔?さん2人が腕を縫い止める。

 

「ジュエルシード。封印!!」

 止めは私の封印砲になった。

 

 ジュエルシードは封印された状態で、空中に浮いている。

 回収してしまいたいけど、ここからは競い合いになってしまう。

 こんな事するのは、危険なんだけど。

 

 私とフェイトちゃんはジュエルシードより高度の高い位置で相対する。

「フェイトちゃん。前の事があるんだよ!?こんな事、止めようよ!」

「だったら、貴女が止めればいい」

「ねぇ、せめて理由を教えて!!」

 フェイトちゃんは無言で首を横に振った。

 フェイトちゃんのデバイスが鎌の形に変形する。

 私もレイジングハートを構える。

「私は諦めないよ」

 フェイトちゃんの瞳が揺れた気がした。

 私の願いが見せたものかもしれないけど。

 飛鷹君とユーノ君、レイジングハートと相談して作り上げた新しい変形モード。

「行くよ!レイジングハート!!」

『了解しました。マスター。クロースコンバット・モードロッド』

 レイジングハートが変形して、長い棒になる。棒の中央にレイジングハートの赤い宝石

が輝く。私の接近戦用モード。

 私は再び、レイジングハートを構える。

 

 私達は、それぞれの武器を構えて、相手に突っ込んで行く。

 今回から、私も接近戦を織り交ぜていく。

 鎌と棒が打ち合わされる寸前。

 私もフェイトちゃんも攻撃を止められてしまった。

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 

 いつの間にか、私達の間には黒いバリアジャケットの男の子が、私達のデバイスを掴ん

でいた。

 

 魔導士って、黒が普通なの?

 

 

              :飛鷹

 

 俺はヤツと対峙する。

 対抗出来るのは、俺だけだしな。

 ヤツも既に剣をどこからともなく手にしている。

 俺も剣を抜き、魔法を使う。

 

 今度は余裕に満ちた面、崩してやるぜ。そんで全部、吐かせる。

 

 ヤツから動く気配はない。おまけに隙だらけ。

 誘ってやがるのか!?

 上等!!

 俺はヤツとの間合いを一気に詰めると、剣を振りかぶる。

 魔力弾を展開。

 ヤツが剣をこちらに向ける。

 俺は魔力弾と共に剣を振り下ろした。

 

 衝撃音と共に俺の剣が、アッサリとヤツを捉え、気付けば振り切っていた。

 ヤツが倒れる。

 

 え!?

 

 魔力弾が俺の戦闘意志が消えた所為か、霧散する。

 幻術か!?

 俺は周りを見回す。油断なく周りを警戒する。

「いや、倒れてるよ。私」

 声が足元から聞こえた。

「な、なんでワザと食らったり、したんだ」

 ヤツはゆっくりと上体を起こす。

「いい加減、アドバイスも終了しなきゃいけないからね。最大の欠点を教えよう

と思ってね」

「欠点?」

 俺はアホみたいな返事しか、返せなかった。

 ヤツは完全に立ち上がると、身体に付いた草を払った。

「非殺傷設定っていってもさ。平和に暮らしてた人がさ。殺す事はないっていっても、

真剣で人を打つのは、簡単じゃないよ。

 君さ、無意識だろうけど、私が対応出来る時に振るう剣と、もしかしたらって時に

振るう剣じゃ、太刀筋が全然違うんだよ」

 そんな…馬鹿な。

 俺は非殺傷設定だから、遠慮なんてしてねぇぞ。

 してるつもりはなかった。

 だが、ヤツの眼は嘘を言っているようには、見えなかった。

「次、私の邪魔するなら、ヌルい対応は出来ないから。今、言っとく。後悔しない

行動をとった方がいいよ。あの子を護りたいならね」

 今更、剣を向ける気になれなくて、俺は剣を鞘に戻した。

「ああ、だが、どうして、そんな事言ってくれるんだ?」

「さてね」

 ヤツは肩をすくめた。

 またかよ。この機に問い詰めて…。

 

 その時だった。

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 声と同時に上を向くと、そこには黒衣の執務官・クロノがいた。

 

 そして、俺達の周りやリニス・アルフの周りにも、武装局員が転移し、取り囲んでいる。

 原作じゃ、クロノだけだったんだがな。

「飛鷹君!」

「レクシア!リニス!アルフ!」

 上空で対峙していた2人の声が聞こえる。

 

「全員、デバイスを下ろすんだ!」

 取り囲んだ武装局員の杖が、威嚇するように光った。

 

 

              :クロノ

 

 アースラ艦内が一転慌ただしくなる。

「監視対象同士が接触!ロストロギアの思念体と交戦を開始しました!」

 アースラはまだ97管理外世界に到着していない。

 やはり、転移する事になったか。

「詳細座標を!」

 目印があるなら、使わない手はない。

「座標特定!いいよ!クロノ君!!」

 アースラの通信士兼僕の補佐官のエイミィが、データの転送と共に叫ぶ。

「武装局員の転移も頼む!僕は一足先に行く!」

「了解!」

 エイミィが片手で機器の操作をしつつ、サムズアップする。

 ふざけてる場合じゃないぞ、全く。

 まあ、いい感じに力が抜けたけどね。

 

 僕は一瞬で現場まで跳んだ。

 

 転移した瞬間に、デバイスが2方向から迫って来る。

 僕は咄嗟に両方、手で掴んで止めた。

 手が痺れる。この年で大した研鑽だ。

 それにしても、エイミィの奴。こんなところに送るとは!

 僕じゃなきゃ、2人に殴られてたところだぞ!

「全員ストップだ!!ここでの戦闘行為は危険すぎる!!」

 デバイスを止められて、2人共ビックリしている。

 少し遅れて、武装局員が転移して、残りの対象の包囲が完了する。

「飛鷹君!」

「レクシア!リニス!アルフ!」

 2人の声が響く。

「全員、デバイスを下ろすんだ!」

 僕はデバイスを掴んだまま、ゆっくり地面に降りると、デバイスをゆっくり放す。

「僕は時空管理局・執務官クロノ・ハラオウンだ!双方、事情を聞かせて貰おう!」

 僕は身分証を提示する。

「管理局!?」

 使い魔の1人が声を上げる。

 

 その時、武装局員の悲鳴が上がった。

「うわぁぁぁぁーーーー!!」

 声の方を向くと、フードを被った人物が、剣を振り抜いた姿勢で止まっている。

 もう1人の剣士は立ち尽くしている。

 たった1振りで局員を無力化したのか!?

 気付かなかったという事は、大して魔力も籠っていない一撃という事だ。

 なんて技量だ。

 僕も咄嗟にデバイスを向ける。

『スティンガースナイプ』

 光弾が螺旋を描き、フードの人物へ向かう。

 が、慌てる事なくフードの人物は、剣を振り下ろした。

 魔法が切り裂かれ、剣閃が刃となって僕に襲い掛かる。

 僕は辛うじて避けたが、デバイスの先端が斬り飛ばされ、結界まで破られてしまった。

 馬鹿な!?

 結界が崩壊する。

 その前に、スクライア氏族が結界の修復を開始していた。

 

 フードの人物に注意が逸れた隙に、金髪の魔導士がロストロギアを奪おうとする。

 僕はギリギリ反応し、魔力弾を複数打ち出す。

 が、それは、いつの間にかフォローに入っていたフードの人物に、無効化されてしまった。

 金髪の魔導士がロストロギアを回収してしまう。

「チッ!」

 それで、包囲が崩れ、使い魔2匹が一転突破。

「逃がすな!」

 追い縋ろうする局員の前に、スフィアが現れる。

「危ない!!」

 厳しい訓練の賜物だろう。局員は反応し、すぐに退避。

 同時に、大音響と閃光が走る。

 音と光が去った後、金髪の魔導士の勢力は姿を消していた。

「エイミィ!!」

『分かってますよっと!!』

 すぐにウィンドウが開く。既に追跡を開始していたようだ。流石。

『ダメ!反応が一切出ない!!」

「何!?」

 アースラの設備だぞ!?

 転移か移動系の魔法か分からないけど、これじゃ、発見は困難だろう。

 僕は、表情にこそ出さなかったけど、悔しさで一杯だった。

 ここまで、一方的にやられたのは久しぶりだ。

 

 だが、もう片方の勢力は、この場に居残っている。

 

「クロノ。今回は仕様がないわ。取り敢えず、その子達にお話を聞きたいから、アースラまで

来て貰って」

 艦長がウィンドウを開いて指示する。

「了解しました。艦長」

 僕も同じ事を考えていたので、取り敢えず、近くにいる白い魔導士に声を掛ける。

「そういう訳だから、一緒に来てくれるかな?」

 スクライア氏族と黒い剣士がこちらを窺っている。

 2人共、局員が監視している。

 白い魔導士が仲間に僕の要件を伝えて、アースラまで行く事を承知して貰った。

 

 話が付いたタイミングで、局員が近付いて来る。

「怪我人は?」

 僕は局員に被害状況を確認する。

「幸いにも、いません。不幸中の幸いとでも言うべきでしょうが…」

 表情は曇っていたが、それこそ仕様がないだろう。

 僕も同じ気持ちだ。

「撤収だ」

 僕は短くそう告げた。

 

 

              :飛鷹

 

 俺達は、アースラへ監視付きで転移する。

 まるで、犯罪者扱いだな。

 ただ、手錠や腰紐が付いてないだけだぞ、これ。

 

 なのはが辺りを興味津々で観察している。

 原作じゃ、オドオドしてたけど、現実はやっぱり違うんだな。

 俺もこんな扱いじゃなきゃ、テンション上がったんだけどな。

「ねぇ。飛鷹君、ユーノ君。ここって…」

「時空管理局の次元航行船の中だね」

 ユーノがなのはにあれこれ説明している。

 俺はユーノが説明を終えたタイミングで、なのはに声を掛ける。

「ともあれ、相手の懐の中なんだ。用心していこうぜ」

「う、うん」

 なのは…。お前、テンション上がって用心する気なかったな?

 

「ああ、君達。バリアジャケットは解除して大丈夫だよ」

 クロノが、俺達のやり取りは聞こえていただろうに、そんな事を言ってきた。

 なのはが俺の方に、どうする?というような視線を向ける。

「デバイスだけ、待機状態にしておきますよ」

 なのはが頷く。

 クロノは若干眉間に皺が寄ったが、認めてくれた。

 

 そして、到着した。

 原作通りの滅茶苦茶な和室に。

「ようこそ、では、お話を聞かせてね?」

 そこには、リンディ・ハラオウンがいた。

 どうしてか、紅葉が舞い散っている。

 隣にいる息子がいるとは、思えないほど若々しいよな、この人。

 やっぱり人種が俺らとは違うのか?

 

「なるほど。事情はよく分かりました。立派だわ」

「だけど、無謀でもある」

 ユーノから事情を聞いた2人が、それぞれコメントする。

 まあ、ぶっちゃけ、無謀って意見には賛成だけどな。

 だが、ユーノの行動にも、仕様がない側面もあると思う。

「それでは、今後、ジュエルシードの回収は管理局が担当します」

 リンディさんが穏やかに微笑みながら、そんな事を言い放った。

「君達は、今回の件は忘れて、普通に暮らすといい」

 クロノからは労りは感じるが、正直、出来るか!だよな。

「そんな!?」

 なのはも納得出来ずに、声を上げる。

「事は、もう民間人の介入出来るレベルを超えている」

 そう言われて、なのはも何も言えずに俯いてしまう。

 ユーノは悔しそうだ。

 最後までやるつもりだったんだから、そりゃ、そうだよな。

「まあ、今すぐ答えも出ないだろうから、今日はここまでにしましょうか」

「艦長!」

 ふざけた物言いにクロノが突っ込みを入れる。

 

「返答なら後日にする必要はないですよ」

 俺の言葉に、リンディさんとクロノが俺を見る。

 なのはとユーノはビックリした顔で、俺を見ている。

「と、言うと?」

 リンディさんが訊いてくる。

「俺達は手を引くつもりはありませんよ。そんな事するんだったら、もっと前にしています」

「飛鷹…」

 ユーノが若干嬉しそうだ。男にそんな顔されてもな。

「なのは。お前はどうだ?」

 俺はなのはに問い掛ける。

「私はユーノ君の力になるって約束した。フェイトちゃんがどうしてこんな事してるのかも、

聞けてない。フェイトちゃんの力にもなりたいの!だから、止めたくない!」

 なのはも気持ちを確認し、俺はリンディさん達を見る。

「だ、そうです」

 リンディさんはポーカーフェイス。

 クロノは渋い顔だ。

「君達、僕の話を聞いていたか?」

 俺達はそろって頷くと、クロノは頭痛を堪えるような顔になった。

 実際、頭痛を感じているんだろう。

「手を引かない理由は3つです」

「聞かせて貰える?」

 リンディさんは、促すようにそう言った。

「ええ、まず1つは、単純に信用出来ない事。2つ目は、そちらも戦力不足なんじゃないのか

という事、3つ目は、俺達もこちらの捜査機関に断りを入れてやっている事だからですよ」

 クロノは憮然とした顔で、俺を睨んでいる。

 リンディさんは、ハッとした顔である。

 リンディさんは、俺の話のポイントに気付いたようだ。

「待ってください!捜査機関!?ここは魔法文化がない筈ですよ!」

 流石です。クロノもハッとする。

「魔法文化はなくとも、特殊能力を持った者はいるんですよ。捜査機関があって不思議

じゃないでしょ?」

「そんなデータはなかった!!」

 クロノは疑ってるか。

「嘘だと思うなら、紹介しましょうか?どちらにせよ、話を通しておかないと現地の捜査

機関と揉めますよ。執務官殿は大丈夫でしょうが、一般の局員?の方じゃ、制圧されると

思いますよ」

 リンディさんは考え込んでいる。

 クロノもベテラン執務官だからか、こちらの言葉に嘘がないと分かったようだ。

 ここらで畳み掛けておくか。

「それに、ユーノは兎も角。俺達は時空管理局って組織の実態を知りません。よく知りも

しない組織が、民間人がどうこう言って任せろって言われても、安心出来ませんよ。

 戦力に関しては、どうです?あれ以上の戦力があるんですか?執務官殿クラスの魔導士

が、他に乗船してるんですか?

 自宅が火事になってるのに、通りすがりの人が火は消しとくから、いつも通り暮らして

いていいですよ!って言ってるようなもんでしょう」

 クロノは苦い顔になったものの、相変わらず俺を睨んでいる。

 リンディさんは、取り敢えず結論が出たのか、ポーカーフェイスに戻っている。

「俺達の実力が信用出来ない貴方達、管理局を知らず信用出来ない俺達。お互いに監視を兼ねて協力し合えば、悪くないんじゃないですか?それに、こちらの捜査機関との橋渡しもしますよ」

 さて、これでどうかな?

 断られても、勝手にやるけどな。ここ管理外世界で、連中の権威は通じないからな。

「あの!私からもお願いします!!」

「僕からも!」

 なのはとユーノも、頭を床に擦り付けるような勢いで下げる。

 俺も2人に倣って頭を下げる。

「…ふぅ。分かりました。そこまで言われたら、ダメとは言えないわね」

 リンディさんが溜息を吐いた後、苦笑いでそう言った。

「母さん!!」

 クロノが慌てて声を上げる。

 おいおい。オタク仕事中だろ。

「クロノ執務官。今は艦長と呼びなさない」

 案の定、リンディさんの厳しい突っ込みが入る。

「すみません。艦長」

 クロノは若干顔を赤らめて謝る。

「「ええ!?」」

 なのはとユーノが同時に声を上げる。

「もしかして、親子なんですか?」

 なのはがビックリ顔固定で訊く。

「ええ。そうなのよ。こっちじゃ、珍しいからしら?」

「は、はい…」

 なのははなんとか返事を返す。

 まあ、人手不足だからだろう。

 案の定、リンディさんがそう説明する。

 管理局で、信用出来る身内を使うのは珍しい事ではないそうだ。

 そんな話をした後に、協力条件を提示してきた。

「まず、こちらの指示には基本従ってほしいの。貴方達の安全の為に。2つ目は、貴方達の

デバイスが、記録したデータをコピーさせてほしいの」

 まあ、譲歩としては、こんなもんか。

 フェイトやヤツの事は、より知っておく必要が出来ただろうしな。

「ええ、分かりました」

 交渉成立とばかりに、俺とリンディさんが握手した。

 

 クロノがその時、ちょっとムッとしてたのが気になる。

 まさか、マザコンか?

 そして、なのはさん。貴女は何で眉を顰めるのですか?

 話し合いの余地は?ない?

 

 

              :美海

 

 私達は目晦ましの後、私の奇門遁甲術でその場を離脱した。

 結構、管理局はアッサリ引いたな。

 暫くは、捜索が続くと思ったんだけど。

 それで、フェイトのマンションに戻ってきていた。

 

「不味いよ!!管理局が出て来たんじゃ、もうどうにもならないよ!!雑魚クラスなら

兎も角。アイツ、執務官だ!レベルが違うよ!いくら、レクシアが強いっていっても、

数で押されたら、いくらなんでも無理だよ!」

 アルフは管理局が出てきた事で、パニックになっている。

 今更だよね、ホント。

「でも、私は母さんの為に、やれる事をやりたいの」

「でもさ!…なんとか言ってやっておくれよ!」

 アルフは私やリニスにも、説得参加するように言ってきた。

「フェイト。事実として、いつまでここが見付からないか、分かりませんよ?」

 リニスも静かな口調で、撤退を暗に匂わせている。

「もうすぐ、全て集まるんでしょ?」

 今度はフェイトが私に向かって確認する。

「まあ、想定外がなければね」

 私はアッサリと、それを認めた。

「じゃあ、大丈夫」

 フェイトは俯き加減にそう言った。

 そこにフェイトの不安を感じたのは、私だけじゃないと思う。

 確かに、数で押されるのは、実力が戻っていない状態では辛い。

 けど、私が調べた情報ならあれ以上はない。

 大丈夫。私が護るから。

 口にはしないけど。

 

 

 私とリニスはフェイトのマンションを出て、家に帰る途中。

「1つ訊いていいですか?」

 リニスが徐に口を開いて、そんな事を訊いてきた。

「何?」

「何故、ワザと彼の攻撃を受けたんですか?」

 ああ、その事か。

 衝撃は殆ど受け流したよ?多少のリンクがあるから分かるでしょ?

「ベルカ時代にね。一番苦労したのは、人に本気で剣を振りを下ろす事だった」

 平和ボケした日本人が、いくら非殺傷設定だからといって、刃の潰れていない剣を他人に、

振り下ろすのは難しい。無意識的に加減してしまう。

 私の場合は、そんな設定なかったけど、それを指摘された時は、私も驚いたものだ。

 ベルカ時代には非殺傷設定なんてなかったし、殺し合い上等な世界だった。

 そんな世界ですら、平和ボケパワーはハンパなかった。

 でも、今は非殺傷設定がある。殺さないように、加減する必要はない。

 この先も戦っていくなら、彼はそれを活かして、戦えるようにならなければならない。

 

 私がその悪癖を克服出来ずに、犠牲を出してしまった事も…ある。

 

 中遠距離の砲撃魔導士なら、直接人に刃を振り下ろす事は基本ない。

 フェイトみたいに特殊じゃなければ。

 人を魔力で打つ事は、比較的にすぐ慣れる。

 直接手を下す感覚が薄いからだ。

 だが、彼が剣を使うなら言っておく必要があった。

 何せ、次から彼に構っている暇がない。

 アドバイスはあれが最後になる。

 

 そんな事をリニスに私は説明した。

 

「どうしてですか!?貴女がそんな事する必要…ないじゃありませんか!」

 リニスは悲しそうで、それでいて怒っていた。

 心配してくれるのは…本当に有難い。

 私は、悪戯っぽく笑って言った。

 

「あるよ。彼が規格外らしく無双してくれれば、私が楽出来るでしょ?」

 

 

 

 




 なのはの接近戦モードの名前に関しては、いい案が浮かびません
 でした。英語だと棒はスティックらしいので…。
 それはどうもな、と思い。本編のアレになりました。
 もっといい名前あんだろ!?という方。教えてください。

 なお、ケーキ屋の店名に関しては、実在する店名とは一切関係ありません。
 あったとしても、偶々なのでご了承下さい。

 次回、海上決戦にまだなりません。少し足踏みします。必要な回なので、
ご了承を。
 すいませんが、お付き合い頂ければ、幸いです。
 


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第20話 暴露

 誤字を折角指摘して頂いたのに、理解不足で変な文のまま
 になっていました。しかも、次元震の時の魔法セレクト
 ミスしてましたがな。修正しましたけど(汗)
 
 自分でもどうして気付かなかったのか不思議です。

 今回はフェイト回です。

 では、お願いします。


              :クロノ

 

 僕は、エイミィが映し出している映像を見ていた。

 後ろのドアが開く。

 僕とエイミィが振り返ると、母さん…艦長が入ってきた。

「データの検証?」

 艦長も映像を見ながら、近付いて来る。

 飛鷹となのはのデバイスからコピーしたデータだ。

「はい!みんな凄いですよ。飛鷹君となのはちゃん、それにフェイトちゃん…だっけ?

3人共、魔力量だけでAAAランク。魔力量だけならクロノ君、追い越されてるね」

 エイミィが、揶揄うように僕を見る。

 ムキになって言い返してはいけない。いけないが…。

「魔力量だけで実力は決まらないだろう!」

 エイミィを喜ばせるだけだと、分かっていても言い返してしまった。

 案の定、してやったりといった顔だ。

 自分の眉間に皺が寄るのが分かる。

 全く、人が気にしている事を…。

「それにしても…」

 エイミィの横に立って、艦長が自らコンソールを操作する。

 黒いフードの()()()()が映し出される。

「問題はこの人物ね」

 魔力量だけなら、AAランクだが、厄介なのは腕前が破格だという事だ。

 飛鷹が前に立っていたにも拘らず、一太刀で包囲していた局員の意識を刈り取った。

 少量の魔力での最大効率の運用、隔絶した剣技、戦闘の勘、全てが揃わないと、こんな

事は出来ない。

 

 飛鷹達と協力関係を結んだ後の事だ。

 

 フェイト・テスタロッサと名乗る人物と、その協力者についての情報を訊いた時だった。

「そう言えば、ユーノ。お前、次元震の件が終わった後、何か言ってなかったか?」

 飛鷹がユーノにそんな事を言った。

 どうやら、忘れていた事を今、思い出したようだ。

「ああ!レイジングハートの事とか、色々あって言い忘れてたよ」

 ユーノがしまった、といったような顔で項垂れた。

「一体、何の事だ?」

「ああ、ユーノがヤツについて、何か気付いたみたいでな」

 それを、真っ先に言って貰いたい。

「じゃあ、それを話して貰える?」

 艦長は表情に変化はない。流石だ。

 僕も修行が足りていない。

「はい。僕の予想ですけど、大きく外れてはいないと思いますが…」

 ユーノはそう前置きすると、話し出した。

「彼女は、前世の記憶や経験を継承しているのではと、思います」

「どういう事だ!?」

 飛鷹がやけに大袈裟に反応する。

 彼も何かあるのか?

「うん。古代ベルカ時代の記憶や経験を、保持して生まれてくる人が偶にいるんだ。

血縁がある場合が多いけどね。彼女もそれだと思う」

 そこで、なのはがおずおずと手を上げる。

「あの…古代ベルカって何?」

 話の腰を折って申し訳なさそうだが、口を挿まずにいられなかったようだ。

「ええっと、飛鷹は知ってる?」

「俺は少しな。こことは違う次元世界で、戦乱の世界だったって事、それを収めたのは、

聖王女オリヴィエだって事ぐらいだな。あとはもう滅んでるんだっけ?」

 管理外世界で、どうやって知ったのかは気になるところだけどな。

「正確には、今も旧ベルカ自治区っていう地域が、ミッドにあるんだけど。概ねその通りかな」

 そして、足りない部分を補足して、ユーノがなのはに分かり易く解説していく。

 その度に、なのはがコクコク頷いていた。

 そして、ようやく本題へと入る。

「彼女の傷だけど、一瞬で治っただろ?片腕が吹き飛ぶような怪我だったのに」

「あっ!そう言えば!!」

 なのはが声を上げる。

 飛鷹はそれがどうした?と言った顔だ。

 それは、もしかして…。

 横を見ると艦長も険しい表情になっている。

「自己修復術式だと思うんだ」

 やはりか。

「そう言えば、あの時も同じような事言ってたが、それとベルカとどう繋がるんだ?」

「自己修復術式は、古代ベルカのある人物のみが使用可能だった魔法だ。継承者は確認されて

ない。魔法の研究機関も再現に何度も挑んだけど、今まで成功例はただの1度もないんだ」

 厄介な人物の、記憶とスキルまで継承してしまっている人物が敵か。

 応援を頼んでも、恐らく難しいだろう。

「つまり、その使えた奴が、ヤツの前世だったって事か?」

「前世って言うと、語弊があるけど、僕はそう思う。根拠はそれだけじゃないけど」

 そこで、また、なのはが申し訳なさそうに手を上げる。

「ごめんなさい。自己修復って、レイジングハートにも機能として付いてるよね?なんで再現出来ないの?」

 魔法を扱ってまだ日が浅いなら、当然の疑問か。

「デバイスは確かに精密機械だけど、それ以上に人体は処理すべき項目が多過ぎるんだ。

とても処理出来ない。どんなに術式を縮めても、人一人が使えるものじゃないだ。今じゃ、優れた回復魔法が、使えたんだろうっていうのが定説になってる」

 ユーノや飛鷹の代わりに僕が答える。

 なのははへぇ~と、分かっているのか微妙な反応だ。

 致命傷を負うと、自動的に傷を全て治す術式。

 怪我を負ったと思った瞬間に、発動するようにするだけじゃなく。一瞬で全て修復し戦闘可能な状態にする。そんなものを実現しようと思えば、術者は魔導士生命を断たれる障害を負う事が分かっている。脳の処理が追い付かず、オーバーロードを起こすからだ。

 自前の脳を十全に使えないベルカ式では、余計に無理だ。

 どう考えても、複数人いないと発動すら出来ない。出来たとしても、それならその人数で回復魔法を使った方が安上がりだ。

 当然、今、そんな研究しているところはなくなった。

 そう言った事を僕はなのはに説明した。

 それだけ脱線して、ようやく本筋だ。

「で、他の根拠というのは?」

 僕はユーノを促す。

「フェイト…ちゃん?が、彼女の事をレクシアって呼んでたんですよ」

「かの人物の愛称か」

「はい。歴史小説とかで、よく書かれているから有名ですけど、それに自己修復術式が加われば、ほぼ間違いではないと思っています。それにあの剣の腕前ですよ?」

加われば、ほぼ間違いではないと思っています。それにあの剣の腕前ですよ?」

 飛鷹が今度は手を上げる。

「有名人なのか?」

「うん。ベルカで英雄を上げろって言われたら、飛鷹が上げた聖王女オリヴィエと1・2位を争うよ」

を争うよ」

 飛鷹がビックリした顔のまま、固まっている。

 それはそうだろう。自分がそんな化物を相手にしてたんて、気分のいいもんじゃない。

 僕も冷や汗しか出ない。

 そして、ユーノは、かの人物の名を告げた。

 

「剣王・アルジェント。それが彼女が継承した人物だと思う」

 

 

 ほぼ、全員が同じ回想をしていただろう。

 ジュエルシードに、謎の黒い影、剣王・アルジェント。

 頭痛の原因が多過ぎる事件だ。

 唯一の救いは、彼女がまだ幼い事だ。実力は十分に発揮出来ないだろう。

「ともあれ、手始めは、こちらの捜査機関との協議ね」

 艦長が方針を示す。

 それも、頭痛の種だ。

「それは、僕が行こうと思います」

「いえ、責任者として私が直接話します」

「艦長!」

 僕は思わず声を上げてしまった。

「大丈夫よ、クロノ。飛鷹君の話では、ちゃんと話せば分かってくれそうな人達みたいだし」

 能天気な言い分に、僕は更なる頭痛を感じる。

 事件が終わるより早く、僕の頭が割れるかもしれない。

 

 

              :フェイト

 

 管理局が捜査に乗り出してから、数日。

 私達は、慎重に捜索している。管理局に捕捉されないように魔法を極力使わない。

 感触としては、もう陸地にはないだろう、というのが私とレクシアの共通見解だ。

 そろそろ海を探さないといけない。

 海中に沈んだとすれば、陸地より厄介だ。

 なにしろ、海は広いし海流で流されて、どこまで行ってしまうか。

 しかも、遮蔽物が何もなく、視認される恐れもある。

 取り敢えず、徒歩でレクシアと一緒に沿岸から、サーチしてみる予定だ。

 

 夜。

 私は歩き回って、疲れてしまい眠ってしまったようだ。

 だって、目の前の母さんが、優しく私に微笑んでいるんだから。

 ミッドの自然公園に2人で遊びに行った時だ。

 花が沢山咲いていて、それで冠の作り方を母さんから教えて貰って、私も不格好な出来だったけど母さんと一緒に作ったんだ。

 

「ここを通して、こう、はい、出来た!」

 母さんは器用に花の茎を編んでいって、すぐに作り終わってしまう。

 私はあんまり器用じゃなくて、編み目がガタガタでまだ出来上がらない。

「お母さん、早い!少し待っててよ!!」

 私はムキになって、母さんみたいに早く編もうとして、更に酷くなっている。

 私はあの頃は、母さんにあんなに我儘を言ってたんだ。

 やっと、出来上がったのも、母さんに比べれば不格好で、私は自分の冠にガッカリした視線を落とす。

「〇〇〇ア」

 母さんが微笑みながら、私の頭に冠を被せてくれた。

 私は思わず笑顔になってしまう。

 だって、綺麗な冠で、まるでお姫様にでもなったような気になったから。

 でも、少し笑顔が曇ってしまう。

「これ、お母さんのだよ?」

「だったら、ア〇〇アが作った冠を私に頂戴」

 私は不格好な冠に視線を落とす。

 綺麗で優しい母さんに、私の不格好な冠を被せるのは嫌だった。

 母さんには、もっと綺麗なものが似合う。

「私は、ア〇〇アが作ってくれたものがいいわ。他のどんな綺麗なアクセサリーよりもね」

「嘘だよ…」

 母さんは、冠を持った私の手を優しく包み込むように握ると、言った。

「本当よ。お母さんが嘘を言ってるように見える?」

 私はジッと母さんを見詰める。

 暫く見詰めた後、私は首を横にユルユルと振った。

「でしょ?私に冠を付けてくれる?私のお姫様」

 私は母さんの頭に冠を被せる。

 

 お姫様という言葉に、私はテレビでやっていたお姫様みたいに、母さんの右頬を撫でる。

 母さんも一緒に視た番組だったから、何のマネをしたのか分かったんだろう。

 騎士にお姫様が祝福を与えるシーン。

 母さんが微笑みを浮かべて、言う。

 

「ありがとう!ア…」

 

 嫌な予感と恐怖で私の目は、一瞬で醒めた。

 心臓が物凄い速さで脈打っている。

 冷や汗で身体が冷えている所為か、身体が動かない。

 呼吸が整うのを、横になったまま待つ。

 

 どうして、私は恐怖を感じたんだろう…。一番幸せな時だった筈なのに。

 

 そんなの分かってる。

 どんどん名前がハッキリ聞こえてくる。

 私の名前ではない名前…なんなんだろう。

 今まで気付かなかったけど、私の記憶はどこか歪だった。

 それを、考えるのが恐ろしい。

 

 私は、ようやく動くようになった身体で起き上がる。

 冷や汗で服が身体にくっついている。気持ち悪い。

 シャワーを浴びよう。

 

 浴室で冷や汗を流す。

 そう言えば、帰ってからお風呂に入らずに寝てしまったんだ。

 ついでに、身体も洗ってしまおう。

 そう思って私は、ボディソープに手を伸ばして、手が止まった。

 

 私は思わず手を引っ込めてしまった。

 自分の利き手をジッと見詰めてしまう。

 私の手は、情けないほど震えていた。

 

 私はどっちの手で、母さんの頬を撫でた?

 普通は利き手で撫でるし、あの番組でもそうだった筈だ。

 なら、私は()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…ああ…」

 声が震える。身体がガクガク震える。

 

『ありがとう!()()()()!!』

 記憶が勝手に再生される。

 

 アリ…シア!?あれは、私じゃ…ない?

 

 私の全ての記憶から、母さんの声から、私の名前が消える。

 アリシア・アリシア・アリシア・アリシア………。

 

「ああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 私は絶叫した。

 屈み込んでしまう。力が入らなくて。

 シャワーの水が私を打ち付ける。

 

 じゃあ、私は…誰?

 

 

              :なのは

 

 海鳴の山中。

 私達は、サーチしながら山中を移動していた。

 全然、見付からないし、発動の気配すらない。

 リンディさん達とリスティさんの話し合いが終わって、正式に私達も協力する事になった。

 でも、管理局の人と協力し出してから、ジュエルシードを発見出来ていない。

 あの戦艦?のセンサー類で、もっと詳細に調べても、ジュエルシードは発見出来なかった。

 それでも、ジッとしていられなくて私達は、動き回っていた。

「もう、陸地にはないかもしれないな」

 飛鷹君がそんな事をポツリと言った。

 私とユーノ君は、静かに頷いた。

 管理局の人、警察の人、私達も見付けられない。

 それなら、海鳴の海しかないよね。

 

 私達の目の前にウィンドウが開く。

『3人共、そろそろ引き上げて。こちらのセンサーにも反応はないし』

 リンディさんが言う。

「これだけ探して見付からないとなると…」

 飛鷹君が真剣な声でそう言った。

『そうですね。今後は海の捜索になるでしょうね』

 やっぱり、管理局の人も同じ考えなんだ。

『海での捜索はこちらでやります。飛鷹君達はアースラで待機を、お願いします』

「「「はい」」」

 

 私は、沈む夕日に照らされた海を見詰めながら、フェイトちゃんの事を考えた。

「フェイトちゃん。貴女も海を探してるの?」

 

 あれ以来、私達はフェイトちゃん達とも会えていなかったから。

 

 

              :フェイト

 

 あれから、私はジュエルシードを探せていなかった。

 レクシアにも捜索は少し休むと告げた。

 レクシアは何も訊かずに、頷いてくれた。

 アルフやリニスも私を心配してくれているのは、分かってる。

 でも、何も私から言えなかった。

 自分の記憶が気になって、捜索どころじゃなかったし、気遣う余裕もなかった。

 

 私は唯一持っている母さんとの思い出の品、2人で映っている写真を眺めていた。

 この写真の子は、本当に私なのかな。

 何もする気が起きない。

 どの思い出にも、私の名前は既に消えていた。

 思い出を思い浮かべると、前は私に勇気と力を与えてくれた。

 でも、今は思い浮かべれば、おかしな点ばかりに目がいく。

 

 これは、私の記憶じゃない。アリシアっていう子の記憶なんだと思う。

 

 じゃあ、私は誰?アリシアって子と、どんな関係なの?姉?妹?

 私はどうしてアリシアの記憶を持っているの?

 アリシアが、母さんにとって大事な子だったのは、確か。

 訊きたい。でも訊きたくない。

 頭の中でこれを繰り返している。

 

 母さんは、ジュエルシードが全て見付かるまで帰還しなくていいし、連絡もいらない。

 連絡する時は、全て終わった時にする事、という素っ気ないメッセージ以来、連絡もない。

ない。

 私は写真を置いて、バルディッシュを手に取る。

 すぐに連絡出来る。バルディッシュにお願いすれば、時の庭園に繋いでくれる。

 バルディッシュを持つ手が震える。

 私は、バルディッシュを握る手を下ろし、額に付ける。

『メッセージが届きました』

 至近距離でいきなりバルディッシュが、メッセージ受信を知らせてくる。

 驚いて、思わずバルディッシュを落としそうになった。

「誰から?」

 恐る恐る訊く。

『レクシアからです』

 母さんじゃなかった事に、ホッとすると同時にガッカリする。

 気を取り直す。

「どんな?」

『表示します』

 ウィンドウが開かれる。メール形式で音声はなかった。

『私は貴女の判断を尊重する』

 悩んでいるのは、知られてしまっていると思う。

 それでも、こういう時に慰めや励ましの言葉がないのが、彼女らしい。

 素っ気ないメッセージ。

 自分で考えて、そういう事だね?レクシア。

「今回は一番、厳しいよ。レクシア」

 少し苦笑いを浮かべる。

 少しとはいえ、笑みを浮かべられた事に我ながらビックリする。

 

 ずっと、こうしている事は出来ない。頭では理解している。

 ただ、恐ろしい。真実が。

 でも、もう逃げ場がない。

 

 決意したつもりでも、身体が震える。

 それでも。

「バルディッシュ。母さんに通信を繋いで」

 言ってしまった。

『イェッサー』

 緊張で喉がカラカラになる。

 

 ウィンドウが開いた。

 そんなに時間が経っていないのに、母さんの顔が懐かしく感じてしまう。

『全て集め終わったのね?すぐに持って来て頂戴』

 私には一言もない。

 私は声が出なくて、首を横に振る。

『フェイト。私はなんと指示を出したかしら?どこまで手を掛けさせるの?貴女』

 冷ややかな怒りの籠った声が私を打つ。

 声を出そうとするけど、上手く言葉にならない。

 焦りで汗が噴き出てくる。

『何度も言わせないで。今度こそ集め終えたら連絡しなさい』

 回線を切断しようとする母さんに、私は声を上げた。

「待って!!」

 母さんの眉間に皺が寄る。

『なんなの?いきなり大声を上げるなんて。躾が足りないのかしら?』

 私の身体が恐怖でビクッと反応する。

 震える身体に力を籠める。

 私は全身の力を使って顔を上げる。

「教えてください。アリシアって誰なんですか?」

 母さんの顔が、歪む。

 私は母さんの感情をこれ以上ないほど理解した。

 失望。

『レクシア…。あの小娘ね。全く余計な事をしてくれる事』

 母さんの顔から表情が消える。

「母さん…?」

『もう分かったのでしょ?母などと呼ばないで頂戴。汚らわしい』

 嫌悪で一杯の顔と声が、私を打ちのめす。

『最後に教えてあげるわ。アリシアは私の娘の名よ。唯一のね。でも亡くしてしまった。

私はあの子を取り戻す為に、研究を重ねてきた』

 母さんが血を吐くように、言葉を重ねる。

 

 じゃあ、私は?

 

 私はまだ縋るように母さんを、母さんだった人を見る。

『貴女は私の研究で作り上げたアリシアのクローンよ。出来損ないの失敗作よ!貴女は!折角、優しいアリシアの記憶をあげたのにね。

 所詮、あんな研究じゃ、アリシアは取り戻せなかった。出来損ないでも、魔力資質が高かったから、使おうと思っただけだけど、苦痛だったわ。出来損ないから、母なんて呼ばれるなんて。救いはもう呼ばれる事はないって事かしら?』

 嘲るように、私を見る。

 その視線は最早、憎しみすら感じられる。

 足がガクガクする。立っていられない。

 膝をつく。

「あ…ああ……」

 バルディッシュからデータを吸い上げたのか、母さんがデータを見ながら口を開く。

『まあ、ジュエルシードの在処は特定されているようね。何処へなりとも消えなさい』

 ウィンドウが閉じられる寸前。

「どうして…」

『何ですって?』

「どうして!そんなに憎んでいるなら、どうして、私を殺さなかったんですか!?

こんな事、知りたくなかった!!」

 嫌だったなら、どうして!!

『アリシアと同じ顔だったからよ。虫唾が走るけど、流石に殺す事は躊躇われただけよ。それにあるなら使わないとね。でも、使えない道具はもういらないわ。殺さずにいるのは慈悲だと思いなさい』

 ウィンドウを回線を切断しようとしたようだが、思い出したように言った。

『そうそう、あの小娘も貴女の事を知っていたわよ』

 それだけ言うと回線が切断された。

 レクシア…が…。思えば、おかしくない気がした。

 

 もう、何もかも、どうでもいい…。

 

 私は床に力を無くして倒れ込む。私の手からバルディッシュが転がり落ちた。

 

 

              :美海

 

 アルフが血相を変えて、会いたいと言ってきた。

 その慌てぶりからして、重大事だろう事は間違いなかった。

 私は勿論、リニスにも念話がいく。

「美海。もしかして、記憶が…」

 リニスが心配して、私に声を掛けてくる。

「それしか、原因はないだろうね。状況から言って」

 だが、アルフの様子からするに、フェイトが自分の記憶への疑念が強めた程度ではないだろう。確信を得て、アルフでも手に負えなくなったのではないか、と思う。

 確信を得る方法は1つ。プレシア女史の言葉。

 

 私とリニスは暗澹たる気持ちで、アルフとの合流地点へ向かった。

 

 合流地点には、アルフが既に到着していた。

「レクシア!リニス!」

 アルフは最後に見た時より、憔悴していた。

「何があった?」

 私の言葉にアルフが顔を歪める。

「フェイトが部屋に籠ったまま、出てこないんだよ!幾ら呼び掛けても返事がないし、ドアも開けてくれないんだよ!食事も水も摂らないし!絶対におかしいよ!」

 

 予想が当たっていそうだ。得てして嫌な予想は的中する。

 私とリニスは視線を交わす。

 

 遂にこの時がきたか…。

 あのフェイトが収集を休みたいと言ってきた時点で、近いうちにこうなる予感はあった。

 衝撃は少ない。

 ただ、フェイトが受けるであろう衝撃を緩和し切れなかったのが、悔やまれる。

 私としては、少しずつ真実への心構えをしていって貰いたかった。

 人を傷付けてまで、成す事かを考えて貰いたかった。

 でも、アッと言う間に崩れてしまった。

 彼女の最終的なケアは、なのはに任せるつもりでいたんだけど。

 こりゃ、そんな事、言ってられないね。

 私には責任がある。やらなきゃいけないだろう。

 

 私はアルフを宥めて、フェイトのマンションへ向かった。

 当然、リニスとアルフも付いてくる。

 

 私はフェイトの部屋の前で振り返って、リニスとアルフを見る。

「2人共。今から、私が中に入る。今日でこの部屋は引き払うから。すぐに離脱する準備を」

 アルフは、突然の私の言葉にビックリする。

「え!?どういう事だい!?」

 多分、ここにいられないくらいに、荒れるって事だよ。

 私はリニスに視線を送る。リニスが頷く。

「アルフ。取り敢えず、準備があるならやりましょう。今は主に任せましょう」

 リニスがアルフの背を押してリビングを出ていく。

 床には、まだバルディッシュが落ちたままだった。

 私はバルディッシュを拾い上げる。

 アルフ。相当、焦ってたんだね。拾ってテーブルの上に置くぐらいしてやんなよ。

「さて、バルディッシュ。主のところに行こうか」

『イェッサー』

 私は息を思い切り吸い込むと、足を振り上げ、()()()()()()

 

「ちょっ!?みっ!…主!?何やってんですか!!」

 音にビックリして、リニスとアルフが駆け込んでくる。

 リニス。だんだん、ボロが出てきたから、気を付けてよ。

 私は2人を手で制すと、私は部屋の中に踏み込んでいった。

 

 乱暴な手段で、部屋に入ったにも関わらず、フェイトは無反応にベットで、こちらに背を向けて横になっていた。

 私はベットに近付いていく。

「知ってたって…聞いたよ」

 背を向けたまま、フェイトが口を開いた。

「そうだね」

 私は認めた。誤魔化しなど今、必要ない。

「こんなの…酷いよ…」

「うん。酷いね」

 私はベットの端に腰掛ける。

「私は母さんに…昔みたいに優しい人に戻って、ほしかっただけなの…愛して、ほしかった!でも!そんなもの、最初から…なかった!!」

 血を吐くような声。背が震えていた。

 私はフェイトの方へ身体を向けた。

 その途端に、フェイトが素早く向き直り、両手で私の胸倉を掴んだ。

「私は!そんな事、知りたくなかったの!!知らなければ、私は母さんを信じられた!!レクシアを信じられた!!優しくしてくれたのは、ただ、私を哀れんだだけなの!?」

 フェイトの眼は悲しみに満ちていた。

 やり場のない怒りに燃えていた。

 私は、フェイトの腕に触れようとしたが、電気を帯びた腕が私の手を払おうとする。

 だが、私はしっかりとフェイトの腕を掴んでいた。

 瞬間、文字通りの雷が身体を突き抜ける。

「嫌っ!!もう!嘘で…同情で優しくしないで!!」

 私の腕に雷で出来た火傷が走る。どんどん電撃が強力になっていく。

 肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。血が沸騰しそうになる。

 毛細血管は既に破れている。視界が赤く染まる。眼から血涙が流れる。

 発動しそうになる自己修復術式を止める。

 私には、彼女の悲しみを怒りを受け止める義務がある。

 これを、結果的に望んだ者として。

 だが、動けなくなるのは、避けなければならない。

 決着をつける責任もあるのだから。

 

 不意に電撃が止んだ。

 

「カハッ!」

 私は軽く血の混じった咳をする。

 それでも、私はフェイトから目を離さない。

 フェイトの顔は悲しみで歪んでいた。

「どうして…。そこまでするの!?」

 フェイトの眼から涙が流れる。

「確かに…哀れみがなかったかって言われれば、ないとは言えない。でも、リニスからの頼みが、あったとはいえ、私も貴女が幸せになって貰いたいって…思ったのは…本当だよ」 私の言葉に、フェイトが涙を流して、首を横に振る。

 私はフェイトを掴んでいた手で、引き寄せる。

 フェイトは抵抗して、大暴れしていたが、無理やり抱き締める。

 火傷が服に貼り付いていて、暴れられると地味に痛い。

「じゃあ、なんでこんな事になったの!?」

 フェイトは私を滅茶苦茶に叩いた。

 フェイトは頭のいい子だ。本当に答えが知りたい訳ではない。

 そして、遅かれ早かれこうなった事も、理解している。

 ただ、納得出来ないだけだ。

「こうなると思ったから、私は言ったんだよ。考えてって」 

「そんなの勝手だよ!」

「うん、そうだね。でも、貴女は怒る事が…出来てる」

「え?」

 フェイトの勢いが緩み、手が止まる。

「本当に無気力になった訳じゃない。貴女はまだ、行動出来る」

 フェイトが、戸惑うような表情になる。

「だから、敢えて訊くよ?これから、どうしたい?」

「まだ、……考えろって言うの?」

 私は静かに首を横に振る。

「違う。考える時間は終わり。私は貴女の結論が聞きたい」

 フェイトが黙り込む。

「フェイト。何も考えず、ただ適当に生きるのは楽だよ。でもね、それじゃ、生き方が雑になる。折角の人生なら、丁寧に生きなきゃ。これが、私が得た教訓」

 2度も転生して、ようやく最近になって分かった教訓。私も大概にダメダメだ。

 フェイトの涙が止まっていた。

 ただ、私を見詰めていた。

「だから、教えて、貴女の願いを。貴女はどうしたい?

 貴女が、本当にもう何もしたくないって言うなら、管理局の手の届かないところに逃がしてあげる。でも、まだやる事があるなら、協力する」

 私はフェイトの反応を黙って待つ。

 

 

「私は偽物なんだよ…。どうすればいいかなんて、分からないよ」

 私はフェイトから体を離す。でも、手は肩に置いたまま言った。

「違う。それはプレシアの意見だ。私にとっても、アルフやリニスにとっても、なのは達にだって、貴女は本物なんだよ。私は付き合いは短い。出掛けたのも、たった3回。だけど、貴女はどう感じた?貴女は楽しかったと思ってくれたでしょ?」

 言葉にして、ハッキリそう言った訳じゃない。

 でも、伝わる。

 また来たいって、今度は自分がって、言ってくれていた。

「そう思える貴女が、心優しい貴女が、偽物な訳がない!」

 フェイトが目を見開く。

「勇気を出して!このままじゃ、貴女はどこにもいけない!」

 

 フェイトは暫く、ジッと考え込んでいた。

 私はそんなフェイトを見守っていた。

 

 

 

 

 

 フェイトは俯き加減で、ポツリと呟く。

「分からない…」

「フェイト…」

 

「でも、会わなきゃ。もう一度、あの人に」

 

 

              :フェイト

 

 レクシアがジッと私の答えを待っている。

 本当は分かってる。

 レクシアは私の事を、本気で心配してくれている事が。

 勿論、アルフやリニスだって。

 だから、これは八つ当たりみたいなものだって。

 

 すぐに切り替えなんて、私には到底出来ない。

 私は、ずっと母さんの…あの人の為に生きてきたから。

 今のままじゃ、答えなんて出そうにない。

 だから…。

 

「分からない…」

「フェイト…」

 レクシアが悲しそうな顔をする。

「でも、会わなきゃ。もう一度、あの人に」

 私は、まだ、何もしていなかったのかな。

 一度も、私自身の意志で行動した事がない。

 今、あの人に捨てられて、初めて自らの意志で行動する事になって、分かった。

 あの人にとって、私は偽物だったのかもしれない。

 でも、私にとっては本当の母さんだった。例え、それが私の記憶じゃなくても。

 だから、話さないと。

 本当の自分を、本物の自分を始める為に。

 

 レクシアは黙って頷いてくれた。

 身体の毛細血管が切れた所為で、服が所々血で赤く染まっていた。

 肉の焦げる嫌な臭いもする。

 言い訳せずに、私を受け止めてくれた。

 傷付けたくないって、思っていたのに、私自身が傷付けてしまった。

「ごめんなさい…」

 申し訳なさと、後ろめたさで一杯だった。

 私がレクシアの傷を見ていると気付いたのか、気にするなとばかりに首を振る。

「いいんだよ。これは私の意志だからね」

 優しく私に微笑んでくれる。

 こんなに傷付けたのに。

 不意に温かい熱に包まれる。

「それに…」

 また、抱き締められていた。

「味方でいてあげたかったんでしょ?最後まで。温泉に行く前にも言ったけど、貴女の想いは正しい。管理局が罪だと言おうが、私が認める。私がプレシアと話す時間を作るよ」

 胸の中が温かいもので、満たされていく。

 この返しきれないものを、どうすればいいのか、いずれ分かる時がくるのかな。

 出来れば、早く分かるといいな。

 

「頑張ったね…」

 

 レクシアの手が私の頭を、優しく撫でる。

 また、不意に涙が流れ出してしまう。

 

 そうだ。私はずっと母さんに……こうして貰いたかったんだ。

 

 気付けば、私はレクシアの胸の中で泣きじゃくっていた。

 でも、今はこの感情に従っていたかった。

 

 

 

 泣き止むと、急に恥ずかしくなった。

「ごめん…」

 私は辛うじてそれだけ口にして、レクシアから離れた。

 自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。

 感情が制御出来ないって、こんなにも恥ずかしいのか…。初めて知った。

 

 レクシアが私の手に何かを握らせる。

 見てみると、バルディッシュだった。

 そう言えば、落としたまま拾ってない!!

「バルディッシュも心配してたんだから」

 私はバルディッシュに視線を落とす。

「バルディッシュ。ごめんなさい…。また、力を貸してくれる?」

 私は恐る恐る訊く。

『勿論です』

 力強い返事にホッとする。

 

 不意に結界が構築される。リニスの魔力だった。

 

「何!?」

「まっ、管理局が来たんでしょ」

 レクシアがなんでもないように言う。

 それって、私の所為…だよね。

 私は慌てて立ち上がろうとしたが、ふらついて立てなかった。

「飲まず食わずでいて、いきなり魔力放出して暴れたら、そうなるよ」

 レクシアが呆れたように言う。でも、微かに笑いを含んでいた。

 恥ずかしい…。

 レクシアが、お姫様抱っこで私を抱き上げる。

「え!?ちょ、ちょっと!?」

「遠慮しない」

 私を抱いたまま、ドアをくぐる。

「リニス!状況は!?」

 レクシアが声を張り上げる。

「局員にマンションの周りを、囲まれてます」

 リニスにも動揺はない。

「ど、どうするんだよ!?」

 アルフは動揺して、パニックになっている。

「決まってるでしょ?突破するんだよ」

 レクシアが当たり前のように言う。傷はもう完治しているようだ。

 レクシアが私をアルフに渡す。

 ちょっと残念と感じる。

 

 あれ!?何考えてるんだろう?

 顔がまた赤く染まるのが、分かる。

 レクシアはそれに気付かない。

 

「リニス!どれくらい維持出来る?」

 結界の破壊工作を実行されているんだろう。

「お望みとあらば、いつまででも」

 自信タップリだった。なんか、リニス嬉しそう。

「説明する時間を稼げればそれでいい。突破したら、フェイトに何か消化にいいものを食べて貰って、休ませる。魔力と体力が回復次第。最後までいくよ」

 リニスが頷く。

 最後まで?

「最後のジュエルシード回収から、そのまま時の庭園に行く」

「それ、大丈夫なのかい!?」

 時の庭園は常に動いている。今、どこにいるか私にも分からない。

 転移は使えない。

「最後のジュエルシードを集めれば、向こうから手を出してくるよ」

 そうか、もうあの人は自分で動かないといけない。

 

 私は、少し間が出来たけど、しっかりと頷いた。

 

「じゃ、行こうか?リニス!」

「解除しますよ!」

 結界を解除した瞬間、新たな結界が張られる。

 

『管理局だ!!デバイスを捨てて、投降せよ!!投降しなければ、武力行使を行う!!』

 

 管理局員から、威圧的な警告が念話で送られてくる。

 レクシアとリニスが先頭で、マンションのベランダから飛び出す。

 私を抱いたアルフが後に続く。

「止まれ!!」

 管理局員から静止の声が上がる。

 レクシアが剣を出す。

 

「押し通る!!」

 レクシアは一言、声を張り上げると管理局員へと向かっていった。

 

 




 本当は飛鷹君の話を入れるつもりだったのに、入れられ
 なかったです。次回に持ち越しになります。

 原作ではフェイトって強靭な精神力ですよね。
 なのは達の活躍も力にはなったでしょうが、ほぼ自力。
 スゲェ。
 
 今回の話も、もっとドラマチックにいきたかったんですけど、
 力不足で、これが精一杯でした。

 次回は海に行けるかと。
 次回からどれほど時間が掛かるか、不安であります。


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第21話 海へ

 まだ、無印が終わる気がしない。
 年内に終わるの無理かもしれません。

 いつ、A`sに入れるやら。

 では、お願いします。


              :飛鷹

 

 少し前から、アースラでの待機になっている。

 アースラのセンサーでも、未だジュエルシードは見付かっていない。

 おいおい。こりゃ、最悪、俺達が原作通り、海に魔法打ち込むしかないか?

 原作ではフェイトがやってたけどな。

 最近、姿を見せない事を、なのはが気にしている。

 陸地にジュエルシードがない以上、会いようがないだろう。

 次、会うとすれば、海だ。

 

 そして、最近なんだか、なのはが何か言いたそうにしている。

 なんだ?

 

 今も口を開きかけては、止めている。

 ユーノもそれに気付いていて、俺に視線を送っていくる。

 なんとかしろと?お前じゃダメ?

 ユーノは視線を一瞬、なのはに向けると、再び俺を見る。

 ああ、いけって事ね。

 なんか会話が、視線だけで成立してるよ。なんで野郎とこんな事しなきゃならんのだ。

「何か気になるのか?それなら言ってくれ。溜め込むのはよくないぞ」

 俺はなのはを促してやる。

「あっ、うん。ジュエルシードの事と関係ないんだけど…」

 なのはが言い淀み、俺とユーノの間を視線が彷徨っている。

 俺はユーノと顔を見合わせる。

 

 まさかっ!?ユーノとの、ホモ疑惑とかじゃないだろうな!?

 やはり、野郎と視線で会話なんてすべきじゃないか…。

 もう、ロリコン疑惑だけで、お腹一杯なんだよ。

 俺の背後にオドロ線を感じたのか、ユーノが声を掛けてくる。

「えっと…。飛鷹、どうしたの?」

 止めろ、ユーノ。それが誤解の元なんだ。

 

 俺がそんな馬鹿な事を考えていると、なのはが意を決したように、口を開く。

「私ね。そろそろ、飛鷹君の事が聞きたいなって思うんだけど」

「俺?」

 なのはが頷く。

「どうして、飛鷹君は強くなろうと思ったの?」

 ああ、その話か。

 誤魔化すような言い方になったから、不審に思われたか。

 

 確かに、言い辛い事だった。

 俺の前世の話だし、下手すれば軽蔑されるかもしれない。

 でも、放って置くとずっと気にしそうだしな…。

 正直に言っとくか…。

「正直な、立派な理由じゃないんだよ。軽蔑されるかもしれないし。だから、あんまり言いたくない」

「軽蔑なんてしないよ!!」

 なのはが心外だとばかりに、怒って大声を上げる。

 俺は反応に困る。

「飛鷹君は私に可能性をくれた。前は分からないけど、今の飛鷹君を私は凄いと思ってる」

 なのはが真剣に言葉を紡ぐ。

「僕も感謝してるよ。こうしていられるのは飛鷹のお陰だしね」

 ユーノからも、なのはへの援護射撃が入る。

 あんまり、気が進まないんだけどな…。

 

「今から話す事は、少しおかしく感じるだろうけど。そこは突っ込まないでくれよな」

 俺は2人にそう前置きした。

「全部は話せないって事?」

 なのはが訊いてくる。

「いずれ話すよ。今はこれで勘弁してくれ」

 転生云々は、流石にな。

 2人は取り敢えず納得してくれた。

 

 

「随分前になるけどな。俺のクラスで、イジメがあったんだよ」

 俺は昔話を始めた。

 俺がオタクになった原因だな。

 

 俺のクラスには質の悪い奴がいた。

 よくない評判が多い奴で、その評判は殆どが真実だったと、後になって知った。

 それがなくとも質が悪かったけどな。

 別に見るからにって、外見じゃない。でも中身は最低だった。

 教師の前では、優等生。俺らの前じゃ暴君だった。

 

 そいつがある日、クラスカーストで一番の下位の男子に目を付けた。

 今まではクラス全体に迷惑を掛けるのが、楽しかったようだが、新たな楽しみを見付けた。

 いや、見付けてしまったと言うべきだろう。

 俺にも切っ掛けなんて分からない。

 ただ、気付いたらそうなっていた。

 端的に言って、イジメるようになっていた。

 行為は当然エスカレートしていった。

 金を毟り取る。暴力行為。そして、万引き強要、便器の水を飲ませたり、素っ裸で縛り付けた

写真をネットにアップしたりしだした。時には足を縛ってドブ川に放り込んだりしていたようだ。

当然、それもネットにアップしていたようだ。

 

「そんな…酷い!」

 なのはは信じられないとばかりに、怒った。当然だと思う。

 ユーノも不快感を示していた。

 

 そんな酷い事をされていたのに、俺達は何もしなかった。

 何かしたら、次は自分がやられると分かっていたからだ。

 俺達はその男子生徒を生贄にして、学生生活を送った。

 

 そうこうしているうちに、男子生徒は自殺した。

 

 学校の屋上を選んだのは、イジメていた奴だけじゃなく、俺達への当てつけでもあっただろう。

 流石に、暫くはそいつも大人しくしていた。

 俺達も男子生徒のメッセージを正しく受け取っていた。

 虐待事件の場合。黙って虐待を見ていた人物も虐待行為があったとされると、テレビで聞いた

時に、俺達も同じなんだと思い知った。俺達も男子生徒をイジメていたんだ。

 遺書には、恨み言が書かれていたという噂だが、真相は分からない。

 

 それから、俺は漫画やアニメにハマった。

 そこにはヒーローがいた。困っている人を助ける事が出来るヒーローが。強いヒーローが。

 趣味に合うものがなくなると、ラノベ、二次小説やネット小説にハマった。

 そこから、普通の小説も読むようになった。

 

 その時に漫画編集者が主人公の小説を読んだ。

 その主人公がこう言うのだ。

「普段、どんなに情けなくても、優柔不断でも構わない。でも、ヒーローは立ち上がるべき時に

立ち上がらなくてはならない」

 言葉にしてみれば、当たり前だが、俺はそれに気付かなかった。

 あんなにアニメや漫画、ラノベを読んだり、観たりしていたのに。

 

「だから、思ったんだ。今度は立ち上がるべき時に立ち上がれる人間になりたいって…」

 別に、男子生徒の事を気にしていた訳ではない。

 何もしなかった自分が嫌だっただけだ。

 強くなれば、何でも出来るヒーローになれると勘違いしていた。

 立派でもなんでもない。

 

 話し終えて、2人を見ると俺の方をジッと見ていた。

 

「軽蔑なんてしないよ。飛鷹君は、立ち上がれる人になってるもの」

「うん。それで僕も助けて貰ってるわけだからね」

 2人がそれぞれに口を開いた。

 

「ありがとな…」

 俺は柄にもなく、小声でそう言った。

 だが、そんな小細工は無駄だったらしく、2人は少し笑った。

 

 

 しんみりした雰囲気は、突如鳴り響いたアラートで搔き消された。

 

 

              :なのは

 

 突然、艦内にアラートが鳴り響く。

「ジュエルシード!?」

 私は、飛鷹君とユーノ君を見る。

「いや、それなら僕達にも連絡がある筈だよ」

 ユーノ君が否定する。飛鷹君も無言で頷いている。

 私達は、忙しいのに悪いと思ったけど、近くの人を捕まえて事情を訊こうとする。

 けど、その前に館内放送?が流れる。

『街中で魔力反応を感知!魔導士が魔法を使用したと思われる。武装局員は出動準備が整い次第

現場へ急行せよ』

 放送が繰り返される。

「街中で!?」

「ジュエルシードが、絡んでるって感じじゃねぇが…」

 飛鷹君が言い淀む。

 分からない事を、ここで考えても仕様がないので、ブリッジに行く事にする。

 

 ブリッジに着くと、みんな慌ただしくセンサーのチェックや、よく分からない操作をしていた。

 私達は、リンディさんに声を掛ける。

「あの!何があったんですか!?」

 リンディさんは私達の方に振り返る。

「なのはさん。今回はジュエルシードの発見ではなく、フェイトさんの魔力反応を感知したの」

「フェイトちゃんの!?」

 それは、フェイトちゃんが魔法を使った事を意味する。

 何があったの!?

「あ、あの私達も!!」

 リンディさんは、少し考えてから頷いてくれた。

「分かりました。でも、無理はしないで下さい」

 私達は頷く。

 

「艦長!武装局員出動準備完了!転移を開始します!」

 局員の人達が、ドンドン転移していく。

 私達は、アースラの転移順番を待っているのも、もどかしいからユーノ君と飛鷹君の転移で現

場へ向かった。

 

 転移が完了すると、海鳴でもかなり目立つ高層マンションの前に出る。

 こんな近くに来てたんだ。

 局員の人達が、結界を張ると同時に包囲網を敷いていく。

 局員の人がクロノ君をチラッと見ると、クロノ君が頷く。

『管理局だ!!デバイスを捨てて、投降せよ!!投降しなければ、武力行使を行う!!』

 局員の人が威圧的な念話を放つ。

 それに、私も飛鷹君も嫌な気持ちになって、顔を見合わせる。

 それに対して、反応は一切ない。

 時間にしたら、そんなに経ってないんだろうけど、随分永く感じられる。

 

 私達はマンションの様子を見に行きたくて、クロノ君に頼もうとした時。

 ベランダから、2つの影が飛び出してきた。

 あの人とあの人の使い魔の人だった。

 それに続くように、フェイトちゃんを抱えたフェイトちゃんの使い魔の人が飛び出す。

 フェイトちゃんは、なんかぐったりしている。

 どうしたんだろう?

「止まれ!」

 局員の人達が口々に静止の声を上げるけど、全然止まる気配がない。

「押し通る!」

 あの人がいつの間にか剣を握っている。

「一斉射撃、開始!!」

 クロノ君が局員の人達に指示を出すと、前回持っていた杖とは違う形状の杖を、あの人達に向

ける。

「待って!」

 私の声も空しく魔法が放たれる。

 だけど、全ての魔法が一瞬で叩き落とされる。

 あの人が、弾の形成から発射までを、ほぼ一瞬でやったの!

 凄い…。

 私達は、呆然としてしまった。

 

 その間も、クロノ君が指示を出しながら、あの人達を逃がさないように、陣形を臨機応変に変

えているけど、あの人と使い魔の人は、ほんの僅かな隙を見逃さず、陣形を崩していく。

 そして、その度に局員の人達が倒れていく。それが早くて、私達は介入出来ないでいた。

 アッと言う間に、クロノ君と私達だけになってしまう。

「クッ!分かっていたが、局員じゃ、彼女の相手は厳しいか!?」

 あの人は、前とは感じが違う。

 前までは、こちらに付き合っている感じだったが、今は倒す事を前提とした動きに、変わって

いる。

 たったそれだけで、小柄な身体が凄く大きく感じる。

 受ける圧力がまるで違う。

 私も飛鷹君も、現場で活躍しているらしいクロノ君でさえ、冷や汗が止まらない。

 あの人は、少しも本気を出していない。手加減してこれなんだ。

 瞬く間に、あれだけいた局員の人を全員倒してしまった。

「で?貴方達はどうするの?もう、ヌルい対応は出来ないって言ったよね?」

 あの人が剣を私達に向けて言う。

「クッ!」

 飛鷹君が悔しそうに反応する。

 誰もが口を開けない中、突然、声がした。

「あ、あの!今は捕まる事は出来ません。でも、全てが終わったら自首するつもりです。だから、

今は見逃して貰えませんか?決して、この世界の人達に迷惑は掛けませんから」

 口を開いたのは、フェイトちゃんだった。

 飛鷹君が物凄く驚いていた。

 私も驚いていた。だって、フェイトちゃんから感じていた拒絶が、今はあまり感じられない。

 あの人も、注意はこちらに向けたまま、フェイトちゃんを見た。

 フェイトちゃんがあの人に、静かに頷いて見せた。

 あの人も静かに頷き返す。

「済まないが、それは出来ない」

 クロノ君が首を横に振る。

「そうですか…。では、これだけは言わせて下さい。責任は全て私にあります。だから、彼女達

を罰しないで貰えますか」

「「フェイト!?」」

 使い魔の人達が驚きの声を上げる。

「そりゃ、無理でしょ。管理局の立場じゃ」

 あの人がアッサリとそう言った。

 クロノ君が認めるように頷く。

「それじゃ、物別れに終わったところで、やろうか?」

 闘気という訳でもない、殺気という訳でもない。

 それだけで、空気が変わった。

 私達は慌ててデバイスを構える。

 

「リニス。フェイト達の護衛を」

「分かりました」

 1人で私達の相手をするようだ。

 普通なら油断していると思う。でも、あの人には無茶じゃないんだ。

 使い魔の人が、アッサリ納得したのも、それが理由だろう。

 

「援護頼む!」

 飛鷹君がそう言うと、先陣を切ってあの人に向かって行く。

「アクセルシューター!」

 私も援護する為に、魔法を使う。

「ディスポーズ!」

 飛鷹君も魔法を使う。でも、それは今までのものとは違った。

 魔力の刃が網の目状に、あの人に殺到する。逃げ場がほぼない。

 飛鷹君も加減なしでやるつもりなんだ。

 私も魔力弾を打ち出す。

『スティンガーブレード』

 クロノ君もいつの間にか、魔力の剣を複数形成し打ち出していた。

 

 あの人は網の目状の刃に、剣を一閃する。

 何かが割れるような音と共に、刃がバラバラになった。

 あの人が高速で、飛鷹君との間合いを詰める。

 私とクロノ君の攻撃は、コントロールが利く。

 私は飛鷹君への援護として、飛鷹君に魔力弾を並走させる。

 クロノ君は、直接あの人に攻撃する。

 一瞬で構築・発射されたあの人の魔力弾が、クロノ君の魔力の剣を砕く。

 私は、飛鷹君の背後から魔力弾を四方から飛び出させ、あの人を包み込むように放つ。

 飛鷹君は、あの人に魔法を打つ暇を与えないよう、剣で迎撃。

 多少は、集中が乱れるかと思ったが、まるで妨害にならない。

 私の魔力弾も、アッと言う間に砕かれる。

「海波斬・漣!!」

「五の剣・風牙烈招」

 飛鷹君のスピード重視の連撃が、あの人を襲う。

 けど、あの人も実体のないものを斬る技を、纏わせた風を食わる。

 風をワザと斬らせ、威力を相殺したんだ。

 あの人は、ただの打ち込みになってしまった剣に、自らの剣を打ち込んでいく。

「グッ!!」

 剣技の差、打ち込みの力の差で数合もしないうちに、飛鷹君の技が無効化され、剣を跳ね上げら

れてしまう。

 あの人が飛鷹君に剣を振り上げた瞬間、クロノ君の狙いすました魔法の一撃が放たれる。

 でも、それはあの人が魔法の盾で、受け流してしまった。飛鷹君の方に。

 魔法の剣は盾を滑り、飛鷹君へ向かう。

「なろうっ!!」

 飛鷹君が全身から魔力を放出し、強引に距離を取る。ギリギリのところで剣が掠めていく。

 だけど、飛鷹君は忘れていた。あの人がまだ剣を振るえる事を。

 飛鷹君はすぐに反応し、剣で受けようとした。

 けど、すぐに飛鷹君は身体だけ、ずらして避けた。

 それは、正解だった。だって受けた剣が砕けてしまったから。

 それだけの力で振り下ろしたのに、一切体勢が崩れない。平然と絶え間なく恐ろしい威力の剣

が、飛鷹君に襲い掛かる。

 私達にも、一瞬で構築・発射が可能な魔法の弾丸が幾つも撃ち込まれる。

 私とクロノ君は、飛鷹君と距離が離れてしまった。

 ユーノ君は逃げ回るのが、精一杯みたい。

 この弾丸の嵐じゃ、援護してる余裕がない!

 

 そして、飛鷹君は剣戟の嵐を耐えていた。

 飛鷹君がどうにか隙を見付けて、反撃に出る。

 横薙ぎの一撃を躱したその時、飛鷹君が折れた剣をあの人に向けたの。

「オーラブレード!!」

 折れた剣から何かの力の刃が生まれる。刃が伸び、あの人に届く。

 と、思った時には、そこにあの人の身体はなく、飛鷹君は側頭部に肘打ちを受けていた。

 あの人は振り抜いた剣の勢いを利用して、身体を半回転させて回避と攻撃を同時にやったんだ。

 だとすれば、あの横薙ぎは誘い。

「ガッ!!」

 物凄い音がした。飛鷹君は呻き声のような声と共に、墜ちていく。

「飛鷹君!!」

 私は飛鷹君を助けようとしたけど、何かがおかしい。

 確かに、凄い弾幕を掻い潜っているけど。

 いつもなら、このぐらいじゃ、息切れなんてしないのに。

 クロノ君もユーノ君も苦しそうだった。

 動きが鈍い。視界がだんだん狭くなっているような気もする。

 

 そこに、あの人の声がした。

 

窒息乱流(ナイトロゲン・ストーム)

 

 私達は意識を失った。

 

 

              :クロノ

 

 意識を取り戻した時には、当然、取り逃がした後だった。

 殆どの武装局員は、暫く現場に出られない怪我というおまけ付きだ。

 自由落下で墜とされる事がなかったのが、幸いだ。

 アースラの救出も黙ってやらせていたようだ。

 その間に、姿を消されたのでは、どうしようもないが。

 それにしても、デバイスも特殊装備で出動させたけど、やっぱり無理か…。

 これだと、武装局員は彼女の逮捕に使えない。

 ダメ元で本局に応援要請を出すよりほかないか。

 

 僕は飛鷹とユーノのお陰で仕事に戻っている。

 

 2人共、治癒魔法が使えるのは、有難い。

 2人には、局員達の傷を治して回って貰っている。

 

 僕はエイミィと一緒にデータを検証している。

 因みに、一応、彼女達の拠点に使っていたマンションも家宅捜索してもらった。

 勿論、この世界の警察に。

 ジュエルシードは勿論の事、重要な物証は何1つなかった。

 念の為、確認して貰ったのだ。

 向こうにとっても、イレギュラーな事態で、慌ただしく出て行ったのだから、何かが残されてい

る可能性はあったからだ。

「クロノ君。本局から資料が届いたよ」

 検証中に、本局から申請していた資料が暗号データで送られてくる。

「資料を先にチェックしよう」

 僕は検証を中断する。

 

 表示されたデータは、プレシア・テスタロッサについてだった。

 僕達、魔導士にとってテスタロッサの名は特別なものだ。

 テスタロッサ自体、そこまで珍しいファミリーネームではないけど、そこに魔導士という要素が

加わると、調べない訳にはいかない。

 

 なにしろ、犯罪者に堕ちた大魔導士のファミリーネームだから。

 

 当時の捜査記録。

 裁判記録。

 その後の研究内容。

 血縁関係を調べる為の家系図まで。

 全て調べていく。

 

「やっぱり、フェイトっていう名前の娘はいないねぇ」

 家系図を調べていたエイミィが、呟くように言う。

「プレシアの娘の名前はアリシア。でも、これって…」

 僕はアリシアの顔写真を確認する。

 予想通り…か。

「これを見てくれ」

 僕は捜査記録の一部を表示する。

「……」

「研究内容と、計画名から言って当たりだと思う」

 捜査記録には、こう記録されていた。

 

 プロジェクトF・A・T・E。

 

 プロジェクトFと研究中は呼んでいたようだ。

 資料で復元出来た物のみだから、研究の概要くらいしか分からないが、概要で十分だ。

 それだけで、違法だと分かる。

 プレシアは、この違法研究の発覚と同時に、全ての研究データを破棄し、姿を消した…。

 

 

              :美海

 

 私はフェイトが動けるようになるまで、学校を休む事にした。

 正確には、この件が片付くまでだ。

 両親には、私から説明した。勿論、犯罪行為をやるなどと余計な事は言わない。

 その間は、リニスとアルフについていて貰った。

 リニスがいれば、余程の事がない限り大丈夫だから。

 表向き、私は風邪という事にして貰った。

 酷いので、お見舞いは遠慮するという事にして貰った。

 両親に心配を掛けるのは、本意ではないが仕方がない。

 

 フェイトがまだ持っている活動資金で、海鳴グランドホテルにチェックインした。

 こういう時は、守護獣は便利だ。保護者役に出来るからね。

 アルフじゃ厳しいので、リニスの出番となった。

 

 数日、休養した事で、フェイトの体力・魔力共に回復した。

 心配なのは、相変わらずフェイトの精神面だが、ここでウダウダやっていても仕様がない。

 ここは、本人の大丈夫を信じるしかないだろう。

 管理局は、流石に暫く動きが取れないだろうから、先を越される心配はない。

 それでも、のんびりしていられない。

 今日、いよいよ海に出る。

 チェックアウトを済ませ、海までバスで移動した。

 勿論、変装はしておいた。知り合いに見付かる可能性もあるからね。

 

 バスから降りて、岸壁に立つ。

「じゃあ、みんなは援護をよろしく」

 私は3人を見る。みんなが頷いてくれた。一部…いや大部分が納得していないようだが。

 アレの相手は、悪いけどさせられないよ。

「じゃあ、広域攻撃魔法を打てばいいの?」

 フェイトは不満そうにだが、確認をしてくる。

「いや、それもいいよ」

 私が、アッサリそう言うと、みんな訝し気に私を見た。

 私は、みんなに視線を向けずに言葉を紡ぐ。

 

「お待ちかねみたいだからさ」

 

 私は結界を構築した。

 

 それを待っていたかのように、遥か先の海が盛り上がる。

 海水の巨人が現れる。幾つもの水の龍を従えて。

 

「前のようには、いかんぞ?」

 巨人がニヤリと嗤った。

 私も笑い返してやる。

「それは、どうかな?」

 私は変わらず視線を固定したまま、みんなに言う。

「じゃあ、あの龍の相手をお願いね」

「承知しました!」

「「分かった」」

 リニス、フェイトとアルフの返事が力強く返ってくる。

 

「それじゃ、参る!!」

 私は2本の剣を血液から選択する。

 水の魔剣・波濤剣シュトレームング。

 葬送の魔剣・埋葬剣オルクス。

 魔剣の強大な魔力に3人が驚きと共に、冷や汗を流す。

 

 私は、魔剣2本を手に()()()()()()()()

 事象改変により作り出した巨大な水の槍を持つ巨人へと、向かって行った。

 

 

              :リンディ

 

 突如、アラートが鳴り響く。

 嫌な予感がする。

「結界の構築を確認!それとほぼ同時にジュエルシードの発動を確認しました!!」

 データを確認していたランディが、顔色を変える。

「同時に7つ!多重発動です!!」

 クルー全員の顔が緊張で引き攣る。

「結界内の映像は?」

 私はなんとか平静を装い、確認する。

「映像、取得可能です!」

「映して頂戴」

「了解!」

 

 そこには、水の巨人と幾つもの龍が荒れ狂う地獄が、映し出されていた。

 

 

              :美海

 

 巨人と化したアレが、槍を振り回す度に海が割れる。

 流石に剣で受けるのは無謀か。

 だが、動きは荒くなっている。

 槍を掻い潜るのも楽だ。魔法の干渉を跳ね除けつつ、剣をクロスするように振るう。

 2本の魔剣が唸りを上げる。

 大量の海水が、巨体から離れ海に返っていく。

 

 龍を相手にしているフェイト達は、順調に龍を潰している。

 最も、本体が残っているから、減っていないが。

 

 その本体は、動きが荒いがスピードはある。

 高速の突きが、私を突き刺そうと繰り出される。

 私は、柔らかく剣で槍の軌道を変えてやる。接近戦で私に勝とうなんて思うな。

 軌道を変えられた槍は海面を突き、ミサイルでも撃ち込まれたように爆発し、水柱を上げる。

 原初の魔法は、常に私を干渉しようと狙っている。

 でも、向こうはエネルギーの塊の所為か、気を遣っていない。

「ニブルヘイム」

 液体窒素すら発生させる冷却魔法が、巨人の動きを封じていく。

 フェイト達が、相手にしている龍にまで効果が及ぶ。

 私は動きが止まった巨人に、衝撃波を放つ。

 フェイト達も龍に雷の雨を降らせる。

 凍り付いた巨人と龍が砕けるも、凍っていない水を吸い上げ、すぐに復元する。

 しかし、私は見逃していない。

 ジュエルシードの煌めきを。

 数は、キッチリ7つ。

「ハッハハハハ!!」

 巨人が嘲笑する。無駄だとでも言いたいのだろう。

「おもちゃも存外に使えるものだな」

 今度は無数の巨大な水の槍が造り出される。

「こんなのはどうだ?」

 そう言うと、手を振り下ろす。

 無数の槍が私に殺到する。

 私は2剣を振るう。

 波濤剣は水の魔剣。水の攻撃など容易く切り裂き、ただの海水に変えてしまう。

 埋葬剣はアレにとっての猛毒だ。触れないように、サッサと斬られた部分は支配を手放す。

 槍の雨を縫って、本命の槍の突きが繰り出されるが、そんなものに当たってやる気はない。

 昔、ベルカで受けた槍の使い手と比べれば、何もかもがヌルい。

 ドンドン片手で槍をしのぎ、残りの手で巨人を斬り飛ばす。

「無駄だ!!」

 海水を撒き散らしながら、槍を打ち込む。

 そっちの方が無駄だ。

 そんな攻撃には、私は当たらない。学習能力が低下してるね。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 私は巨人に手を翳す。

 すると、ジュエルシードが反応し出した。

「な、何だ!?」

「ジュエルシード。封印」

「!?」

 7つの光が一斉に消えた。

「バカな!?」

 何が馬鹿か。

 私が嫌だったのは、アレが実体を得る事だった。

 人の身体で実体を得て、真面な事象改変の力を取り戻されるのは、厄介でしかない。

 対処が面倒になるし、最悪、憑依されたものを殺す必要が出る。

 だからこそ、私は嫌がらせを執拗にやった。

 向こうは力を回復する必要があったから、確実に手付かずのジュエルシードがある海に行くと、

私は踏んだ。

 だから、そちらに誘導したのだ。海なら多少派手な事をやっても大丈夫だしね。

 魚や他の哺乳類に憑依しても、実体に思考力がないと干渉力が低下する。

 ならば、意思を持った魔力の塊のまま、力を発揮しようとするだろう。

 その方がマシだからね。

 海水を使う事も予想出来る。破壊されても修復材料は幾らでもあるからだ。

 

 私がP・T事件の印象がないといっても、覚えている部分はある。

 海に複数のジュエルシードが落ちているという事も、その1つだ。

 一応、確認はしたよ。実際には落ちてないなんて事もあるだろうし。

 アレも力の回復の為に、近場から取り込んでいた関係で、海まで手を伸ばしていなかった。

 初期はアレが関わっているとは思わなかったから、かなり運に助けられた。

 

 海のジュエルシードを、そのままにしておくのはフェイトにとって不味かった。

 あれでフェイトは魔力を消耗する。現実では大怪我をする危険もある。

 だから、フェイト達と協力関係になった後、隙を見て海のジュエルシード全てに細工した。

 最初は、プレシア女史用の撒き餌として想定していたが、アレが出てきた時に予定を変更した。

 だから、封印自体はすぐに出来るように細工してあったのだ。

 

「私がただ水遊びをしてただけだと、思った?」

「何!?」

深淵(アビス)

 私は戦略級魔法を使用した。

 この魔法は本来、海戦において戦艦等の海上兵器を、海水に巨大な穴を造り出し、落として海水

を戻し沈める魔法である。

 今回は、アレの海水補充を断つ為に使ったのだ。

 海が大きく円形に巨大な穴を形成する。

 今度は波濤剣を一閃する。

 余分な海水が消え、前回のような大きさに戻った。

「っ!?」

 波濤剣の本領は水を自在に操る事にある。

 本体の意志の介在した魔力が、どこにあるか分かれば、余分な海水を除くなど容易い。

 今までの戦いは、アレの魔力を追い込み、居場所を限定させる事にあった。

 アレは、今は魔力に思念が宿っただけの存在。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジュエルシードで魔力を補給するのも、限界は存在する。

 外部魔力に自分の思念を馴染ませるのも、すぐには出来ない。

 

 私はアレの動揺を無視し、剣を構える。

 私の手加減なしの殺気に、アレが初めて恐れを感じたようだ。

 海水の顔でも分かる。見慣れてるからね。

 次の瞬間には、アレを貫いていた。

「!?」

「九の剣・閃光刹那」

 私の最速の突き技。

 2本の魔剣が、アレの存在を消していく。

 

「止めろぉぉぉーーーー!!」

 

「散れ…!」

 私は突き刺した剣を、そのまま振るう。

 

「風花乱舞」

 

 2本の魔剣が連動し、振るわれ、威力が跳ね上がる。

 剣を止めると、ダイヤモンドダストが舞っていた。

 これでアレは存在を保てない。

 だが、アレは腐ってもアルハザードの魔法使いだ。油断は出来ない。

 

 私は残心の構えで、精霊の眼(エレメンタルサイト)で空間を監視する。

 アレの残滓は感じ取れない。

 私は、2本の魔剣を血液中に収納する。

 

 ただ、私の前にはジュエルシード7つが残った。

 

「レクシア…」

 フェイトが近付いて声を掛けてくる。

 私はフェイトの顔を見る。

 そこには、ハッキリとした意思を持つ人間の顔があった。

 私は、フェイトに頷いた。

「それじゃ、行こうか。プレシア女史のところへ!」

 フェイトも黙って頷く。

 

 

 そして、雷が落ちた。

 次元跳躍攻撃。

 やっぱり介入してきたね。最後に。

 大魔導士のクセに遣り口がセコイね。

「リニス!」

「分かっています!!」

 私とリニスで、誘雷の魔法をフルパワーで使う。

 結界が破壊される。

 全く、病人のクセに無茶するよ。身体の負荷も尋常じゃないだろうに。

 私はフェイトを、リニスがアルフを護る。

 

 雷が止むと、ジュエルシードはそこから消えていた。

「ジュエルシードが!!」

 フェイトが慌てる。

「大丈夫。今ので場所を特定したよ!」

 私はリニスに座標を伝える。

 

「フェイトちゃん!!」

 なのは達が降りてくる。

「そこまでだ!全員、拘束させて貰う!」

 クロノ執務官がなんか言ってるが、どうでもいい。

 私の構築した結界を破壊出来ずに、外で頑張って入ろうとしていたんだろう。

 そうこうしているうちに、結界が攻撃で壊れたと。

 なんか締まらないね。

 

 私が口を開く前に、事態が急変する。

 執務官の前にウィンドウが開く。

「クロノ君!緊急事態!!」

 茶髪の女の人が映し出される。

「どうしたんだ!?」

 

「アースラが次元跳躍攻撃を受けた後、襲撃を受けてるの!!すぐに戻って!!」

「何!?」

 アースラ内の映像が映し出される。

 無数のロボットが局員を蹂躙する姿が。

 

 プレシアさんや。ハッスルし過ぎでしょ。

 

 

 

 




 飛鷹君もそろそろ活躍させねば。
 その前に最近、特になのはちゃんが活躍してないぞ。
 彼女も活躍させねば。
 やる事が山のようにありますね。

 頑張りますので、気長にお付き合い頂ければ、幸いです。


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第22話 道程

 文章を書くって難しいですね。今更ですが…。
 
 今回はプレシアの話になっているのですが、
 ちょっと様々な意味できついと言う方は、
 中盤まで読んで、スキップして頂いても
 大丈夫です。おい!!

 では、お願いします。
 頑張って読んで頂けると幸いなんですが…。


              :リンディ

 

 なのはさん達を送り出し、私達は仕事に戻る。

「結界の解析結果出ました!術式、エンシェントベルカ!」

 クルーの報告に、私は苦いものを感じる。

 不用意に厄介な相手に手を出して、先を越されていては世話がない。

 管理局員として、それしか選択肢がなかったとしても。

 

 現場に行ったのは、クロノとなのはさん達4人。

 武装局員は、怪我で出動させていない。させたとしても、また怪我をするだけだ。

 武装局員は、フェイトさんの裏にいる人物逮捕に使うべきだろう。

 

 クロノの報告では、結界の破壊工作中のようだが、ビクともしないようだ。

 クロノ達の頑張りを余所に、結界内では水の巨人と英雄が対決していた。

 これだけ強固な結界を維持しながら、あれだけの戦闘を継続できるなんて、信じら

れない。

 

 戦いはドンドン私達の常識を逸脱していく。

 一面の海水を一瞬で凍結させ、衝撃波で砕く。剣2本で巨人と互角以上に斬り合う。

 あの小さい身体で、それをやっている。

 

 あの意思を持つ巨人は、どうやらなのはさん達の言う人型の黒い靄のようだ。

 ジュエルシードの力で、あんな姿に変わったのね。

 

 私達が何も出来ずにいる間に、戦いはクライマックスを迎え、巨人は倒された。

 海水を広範囲で操る魔法、文献の通りの性能を示す魔剣、とんでもない光景だった。

 文献の通りだと、あんな剣があと10本存在する。

 あの2本だけで凄い魔力反応だ。

 あれは、間違いなく秘匿級ロストロギアに認定されるわね。

 

 こうして、彼女達はジュエルシード7つを、手にしたかのように思えた。

 だが、その時、雷が巨大な柱となってクロノ達の頭上に降り注いだ。

「状況は!?」

 私はクルーに確認させる。

「次元跳躍攻撃です!執務官達は回避に成功しています!」

 報告に、取り敢えずホッと胸を撫で下ろす。

「結界が破壊され、執務官が突入しました!」

 私は頷いて言う。

「執務官には、慎重に接触するように…」

 だが、私の言葉は最後まで紡がれなかった。

「本艦にも次元跳躍攻撃!!」

 回避は間に合わない。

「シールド出力最大!」

「了解!」

 次の瞬間、凄まじい衝撃が本艦を襲う。

 衝撃が収まると、私は被害状況の確認をさせる。

 だが、それも中断される事となった。

「艦長!本艦内部に転移反応!!」

「何ですって!?」

 次元航行艦に攻め入ってくるなんて、正気なの!?

「転移反応多数!推定Bランク相当の魔導機械兵と思わます!!」

 映し出さた映像を見れば、魔導兵が次々転移してきている。

「戦闘に参加出来ないクルーは、いつでも退避出来るよう準備させて!」

「艦長!?」

「念の為よ。武装局員は、悪いけど出て魔導兵を抑えて貰うわ」

 本当は、もう少しくらい休ませたかったんだけどね。

 武装局員には、頑張って貰わないといけない。

「了解!」

 そして、更なる凶報が入る。

「艦長!ハッキングです!」

 エイミィが滅多に見せない程の必死な形相で、コンソールを叩いている。

「始めて見る型のウイルスが、多数流れ込んでいます!」

 私の顔は青ざめていただろう。

 もし、艦のコントロールを奪われるような事になれば、どれ程の死傷者が出るか。

 最悪は、コンピューターそのものを強制切断するしかない。

 全てマニュアルで操作するしかない。

 

 だが、その前に確認しなくてはならない。

「相手の狙いは、分かる?」

 エイミィが顔を上げずに答える。

「恐らく、ジュエルシードの在処…ですね。保管庫関連のデータを漁ってます」

 このタイミングだとそれしかないわね。

「通信は、まだ使える?」

「大丈夫です」

「それなら、クロノ執務官にも戻るように伝えて」

「了解」

 エイミィがすぐにクロノに連絡を取る。

 クロノは、緊急事態を告げられると、表情が流石に強張った。

 なのはさん達も、驚愕の表情だ。

「了解しました。すぐに戻ります」

 クロノは意を決したように答えた。

 

 が、その時、意外な人物から待ったが掛かった。

 

「ちょっと、待ってくれます?」

 

 

              :美海

 

 プレシア女史が、最後のハッスルタイムに入ったようだ。

 これを止めるのは、ちょっと無理だろう。

 事前に手を打っていたなら兎も角、管理局の危機など完全無視で考えていたからね。

 ロボットに入り込まれたら、打つ手は2つ。

 戦力から考えて死守か、敗北を認めるかだろう。

 どちらが被害を少なく出来るかなど、考えるまでもない。

 

 だから、すぐに戻るとか言ってる執務官に私は声を掛けた。

「ちょっと、待ってくれます?」

 私から声が掛かったのが意外なのか、ウィンドウに映る人物を含めて驚いている。

 

 私の前に新たなウィンドウが開く。

「私は時空管理局・次元航行部隊のアースラ艦長のリンディ・ハラオウンです」

「どうも。レクシアとでも呼んで下さい」

 私も名乗り返す。まあ、嘘じゃないから。

「分かりました。ではレクシアさん、何を待つのです?」

 緊急事態で忙しいんだけど!といったところか。

「ジュエルシードは、そちらの艦にあるんですか?」

「どうでしょうね。いつまでもロストロギアを艦で保管するのも危険ですしね」

 リンディさんが、ポーカーフェイスで暈して答える。

 でも、残念。誤魔化しきれてないよ。

 私は僅かな反応を見逃していなかった。

 私は王様なんてやってた関係で、嘘がすぐ分かるんだな、これが。

 注意深く見ないとダメだけどね。

「艦内にあると…。そちらも忙しいでしょうから、本題に入りましょう」

 リンディさんがピクリと目元が引き攣った。

「一時的に手を組みませんか?」

 リンディさんが、僅かに目を見開く。

 なのは達も、フェイトやアルフも驚きの声を上げる。

 リニスは、特にリアクションはない。ま、私の事を知ってれば、意外じゃないか。

「どういう事ですか?」

 まあ、疑問に感じるのも無理はない。今まで敵対してたんだから。

「利害が一致しているからですよ。

 貴女達は、私達や首謀者を逮捕して、次元災害の元であるジュエルシードを回収したい。

 私達は、首謀者を止めたいが、ジュエルシードはその為の道具に過ぎない。次元災害

だって、起こったら困る。

 どうです?かなり一致してると思いませんか?」

 戦力的な意味でも、ここで私達が加われば、最大の敵の力を利用出来る。

 向こうは、結果を伴えば文句は言われないだろう。結果を伴えばの話だけど。

 おまけに、ジュエルシードは要らないと暗に言っているのだ。

 

 意味は分かっていても、案の定というか、クロノ執務官が難色を示している。

 口には出さないけど、顔がそう言っている。

 犯罪者と手を組むのは嫌か。

 

 だが、リンディさんは違う。

 彼女は清濁を併せ呑める人だと、私は感じている。

 なにしろ、手を組むのは()()()なのだから。

 リンディさんは、考える仕草をしている。

 足元を見られない為だろう。

 まだ、余裕がありますよアピールだ。

 私もゆったりと待つ。

 

 

「いいでしょう。手を組みましょう!」

 リンディさんが、ニッコリ笑ってそう言った。

 私も微笑み返す。

 

 腹黒っ。

 

 なのは達やフェイト・アルフもドン引きである。

 クロノ執務官は苦虫を噛み潰したような顔である。同情するよ君に。原因は私だけど。

「それで、こちらに応援に来てくれるの?」

 リンディさんが、方針を尋ねてくる。

「いいえ。魔導兵の侵入を許した以上、ジュエルシードは渡しちゃって下さい」

「君は!!」

 クロノ執務官が食って掛かってくる。

「執務官。最後まで聞きましょう」

 リンディさんが冷静に宥めてくれる。

 有難い。

「制圧出来る戦力が戻れば、向こうも今より手段を選ばなくなるでしょう。自爆とか」

「「っ!!」」

 リンディさんとクロノ執務官が、衝撃を受ける。

 

 あれだけのロボットが一斉に複数自爆すれば、艦内は酷い事になる。

 向こうは、ジュエルシードを確保出来さえすればいい。

 確保の為なら、なんだって遣って退けるだろう。

 逆に、プレシア女史には時間が無い。無駄な事などしている余裕がない。

 ロボットを自爆させる方法は、動力炉を暴走させる事だろう。

 となれば、今のプレシア女史は、なるべく避けたい筈だ。

 なにしろ暴走させるにしても、魔力が必要だ。身体に掛かる負担は大きい。

 目的の物を手に入れば、アッサリ引くだろう。

 無駄遣いしなかったロボットは、防衛戦力にでも回せばいい。

 目的のための時間稼ぎにもなる。

 

「今の首謀者はなんでもやりますよ?ジュエルシードは取り返します、私が」

 暗にそちらに引き渡すと告げると、リンディさんは頷いた。

「分かりました。提案を受け入れましょう」

「艦長!」

 クロノ執務官が非難の声を上げるが、私達は無視である。

「ついでに、素直に捕まってくれないかしら?」

「お断りします」

 私達はにこやかに遣り取りした。

 その筈なのに、みんなドン引きしていた。

 

 

 結果として、私の考えは当たった。

 ジュエルシードを手に入れたらロボットは、引き上げていった。

 流し込まれたウィルスは、そのままにしていったけど。

 ま、そこまでお人好しじゃないよね。

 これで、プレシア女史はジュエルシードを13個手に入れた訳だ。

 それだけあれば、時の庭園の動力炉の魔力も合わせれば、余裕で目的達成出来るだろう。

 最も、次元跳躍攻撃2連撃で、動力炉は魔力残量が心許ないだろうけど。

 

 私達は時の庭園に突入しようとしたが…。

「あの、どうしてジュエルシードを、譲ってくれる事になったんですか?」

 転移しようとしたその時に、ユーノ君が訊いてきた。

 彼からすれば、今まで散々邪魔してたのに、いきなり手を組もうと言われれば、戸惑う

だろうし、不愉快かもしれない。

 私はフェイトを見て、どうする?というような仕草をする。

 フェイトは、正しく意味を理解したようで頷いた。

「大切な人の為に必要だったけど、今はもう…」

 フェイトはそう答えた。

 ユーノ君も、言い辛い事が起こった事を察したようだ。

「そうですか…」

 言葉短く、そう言った。

 なのは達も表情が暗くなっている。

 

 私は手を打って、パン!と軽い音を立てる。

 私以外の暗くなった面々が、ビックリしたように私を見た。

「これから敵陣に攻め込むんだからさ。切り替えていこうよ」

 そう言って、私はニヤリと笑った。

 暗くなるのは、後で幾らでも出来る。今は今しか出来ない事をしないとね。

「それでは、決戦の舞台へ、ごあんな~い」

 私は転移を実行した。

 

 一瞬にして、荒れ果てた庭に私達は立っていた。

 そして、ロボットが次々と転送され、私達を包囲する。

 みんなそれぞれのデバイスを構えるが、私は制止してみんなの前に出る。

「道なら、私が開くよ」

 私はシルバーホーンを左手で構える。

「フォノンメーザー」

 熱戦が一直線にロボットを打ち抜いていく。

 爆散し、その爆風で他のロボットも巻き込みながら吹き飛び、道が出来上がる。

 私が使うと何故か、こうなるんだよ。威力アップには努めたけど、ここまでとは。

「さ、行って」

 私は道を作ると振り返ったが、みんな呆然としている。

 呆けないでよ。

「はい!行った行った!!」

 私は、みんなを急かして行かせた。

 燃え盛る道を、私に急かされて慌てて突入する。私は最後に付いていく。

 

 みんなが建物の中に入ると、私は入り口で立ち止まる。

「レクシア!?」

 フェイトが気付いて止まる。

「行って。話をするんでしょ?すぐに追いつくよ。貴女達は動力炉の停止、頼んでいい?」

 前半はフェイトに、後半はなのは達に言う。

「待ってるからね!」

「分かったよ!」

 フェイトとなのはが返事を返してくれる。

「君は僕が逮捕する。忘れないでほしい」

 これはクロノ執務官。

「あれ?口説かれてる?」

 私が冗談で返すと、フェイトとリニスが冷たい視線をクロノ執務官に送る。

「違う!!」

 分かってるよ。俺が捕まえるまで、無事でいろって事でしょ?

 執務官のクセに、小娘と使い魔の視線にビビるなよ。

「俺も言いたい事があるからな!今度は逃げるなよ!因みに口説いてねぇぞ!!」

「はいはい」

「なんで俺だけ、御座なりなんだよ!?」

 こんな雑魚に死亡フラグ立てるなっていうの。

 さて、フラグを叩き折りますか。

 

 みんなが飛んで行った後、炎の壁からロボットが向かってくる。

 私はシルバーホーンを構え、不敵に笑う。

「相手にならないね」

 次の瞬間、無数の弾丸がロボットを打ち抜いていった。

 

 ロボットの残骸の上で、私は目を凝らす。

 フェイト達はプレシア女史と接触出来そうだね。

 なのは達は、ロボットを順調に排除中っと。

 

 さて、私もジュエルシードの回収に行きますか。

 

 

              :プレシア

 

 まだあの失敗作は、ジュエルシードを回収しようとしているのね。

 救いようのない愚かさだわ。

 魔導兵を使って回収する気だったが、手間が省けそうかしら。

 思念体を片付けたタイミングで、次元跳躍攻撃を行う。

 時の庭園の動力炉から、魔力を使用しないといけないが、仕方がない。

 小娘の結界を破壊し、封印したジュエルシードを転送魔法の応用で回収する。

 あの小娘がいる以上、魔導兵を回収に使えない。

 確実性の点ではやりたくなかったけど、これしか方法がなかった。

 それで、7つ。

 まだ足りない。

 忌々しいが、あの小娘から奪うのは、無謀だろう。

 だとすれば、管理局から奪うしかない。

 連続使用は負担どころではないが、仕方がない。

 私は躊躇などしない。

 次元航行船を攻撃し、魔導兵を大量に送り込む。

 情報戦用の試作品も送り込んだ甲斐があって、回収はスムーズに済む。

 何故、ここまでスムーズだったかなど、どうでもいい。

 意外に奪われてたのね。あの失敗作は、本当に使えないわね。

 これで、6つ追加され13個手に入れる事が出来た。

 魔導兵を回収する。

 

 一息吐くと、全身に言葉に出来ない程の痛みが襲う。

 激しく咳き込み。血を大量に吐く。

 呼吸が出来ない。

 激痛にのたうち回る。

 

 発作が治まると、自分の吐いた血で汚れている。

 私は、まだ死ぬ訳にはいかない。

 発作が治まったとはいえ、痛みは続いている。

 私の死病に、安息の時は存在しない。

 まともに眠る事が出来た日など、何年もない。

 私は震える手で、ローブに入れてあるケースから注射器を取り出し、腕に注射する。

 勿論、治療薬などではない。ただの鎮痛剤だ。

 普通の薬では最早、効果はない。今は原液に近い物を注射している。

 それも最近、効きが悪い。

 

 なんとか立ち上がれるようになり、血で汚れたローブをその場に捨てる。

 フラフラと歩き始める。

 

 待っていて、アリシア。今、起こしてあげるから…。

 

 もうすぐ、もうすぐ願いが叶う。

 今までの事が走馬灯のように蘇る。

 何度も、思い出しては後悔で死にたくなるのを堪えた。

 今は、落ち着いて思い出せる。

 

 

 28歳で私はアリシアを授かった。

 夫とは、それからすぐに上手くいかなくなり、離婚する事になった。

 それでも、別に悲しくなどなかった。

 私には、宝物が残ったから。

 夫が親権を主張しなかったので、苦労せずにあの子と暮らせるようになった。

 因みに、離婚の理由は下らない。自分より優秀な妻など嫌だ、というものだった。

 

 私は魔導工学の研究所に勤めながら、職場で子育てを行った。

 アリシアは活発な子に成長した。

 研究所でアイドル的な存在になるのに、時間は掛からなかった。

 

 1人で留守番が出来るようになると、私が仕事で遅くなると泣かれた。

 そこで、私はペットショップで1匹の山猫を購入した。

 その山猫が、アリシアの孤独を、少しでも和らげてくれるように願って。

 私の願いが叶い、アリシアは山猫に夢中になった。

 2人で名前を散々考えて、リニスと名付けた。

 

 暫くすると、研究所からプロジェクトの異動を命じられた。

 新型の大型魔力駆動炉の開発プロジェクトへの参加だった。

 それが可笑しな話だった。

 前任者の進めた部分の変更は認めない、というものだった。

 十分な引継ぎもなされないまま、私は開発を再開せざるを得なかった。

 

 前任者の無能さは、私の想像を超えていた。

 碌な安全性も確保されておらず、魔力を効率よく駆動炉に力を伝えられる訳でもない。

 しかも、各方面からの要望という名の命令で、構造はグチャグチャだった。

 前任者も何をやっているか、自分でも分かっていなかったのではないだろうか。

 この中途半端な代物を、どうしろというのかと、怒りを覚えた。

 

 このプロジェクトに、私は掛かり切りになった。

 相変わらず下りてくる意味不明の命令に、開発チームは疲弊していた。

 1人留守番をするアリシアの顔は、ドンドン曇っていった。

 それが分かっていながら、私にはどうする事も出来なかった。

 

 ある夜、就寝前に、今まで何も不満を漏らさなかったアリシアが私に言った。

「お母さん。明日もお仕事…?」

 私は申し訳なさで一杯だった。

 アリシアを抱き締める。

「ごめんなさい、アリシア。このお仕事が終わったら、ずっと一緒にいられるから…」

 このプロジェクトが成功すれば、私は残業も休出もない管理部へ異動出来る筈だった。

「ホント!?」

 アリシアの顔が輝く。

「ええ!勿論よ!」

 私は笑顔で頷いた。

 この時の私は、あんな事になると思ってもいなかった。

 

 ようやく実用の目途が立った頃だった。

 私は開発主任から補佐に格下げされ、顔も知らない研究員が入ってきた。

 それだけならいいが、新しい主任も研究員も、嫌がらせのように足を引っ張った。

 そうこうしているうちに、信じられない知らせが私に届いた。

 

 足手纏いを抱えての、開発の最中の事だった。

 主任と共に私は所長に呼び出された。

「稼働試験!?」

 所長は厳かに頷いた。

「ちょっと待って下さい!!まだ時期尚早です!!まだ検証も足りていないんですよ!?」

 完全な新型なのだ。もっと安全性の確認が取れないと稼働なんて、とても出来ない。

「プレシア君。先方は、いつになったら完成するのか、気にしておられる。

もう完成間近だとアピールする必要があるのだ」

 形だけの主任が、そんな事を宣う。

 アンタは、この事を知っていた訳ね。

 口を開いたと思えば、何を馬鹿な事を言っているの。

「それで、事故が起こったらどうなさるのです!?」

「そうならない為にも、万全の態勢で臨むよ」

 全然万全ではないのに、結局は試験は行われる事になった。

 

 稼働試験は私主導で行う取り決めになっていた。

 それなのに、主任とその取り巻き研究員が、強引に私達を外に追い出し試験を開始した。

 勿論、抵抗した。だが、警備員まで出てきて引き摺り出されてしまったのだ。

 あとは成功を祈るしか、私に出来る事はなかった。

 

 そして、悪夢は起こった。

 突然、アラートが研究所内に響き渡る。

 慌てた様子の取り巻き研究員が、私を試験場に連れ込む。

 私が来た時には、緊急停止すら受け付けない状態だった。

 私は必死でコンソールを叩いた。

 どのコマンドも受け付けない。

 どうなってるの!?

 そして、分かった。

 何故、私が試験場を追い出されたのかが。

「駆動炉が一部、私の把握していないエリアが存在しています。どういう事ですか!?」

「知らん!私は知らない!!安全管理は君の担当だったろ!私は知らない!」

 主任達は少しずつ後退りし、逃げ出してしまった。

「待ちなさい!!」

 この意味不明なエリアが、システムを妨害しているのは、確かだった。

 

 気が付けば、私は警備員に引き摺られシェルターに避難していた。

 無理矢理にコンソールから、引き剥がされた所為か、痣と擦り傷が出来ていた。

 

 シェルターを出た私に、更なる悪夢が訪れる。

 駆動炉の魔力が研究所外に広範囲で広がった、というものだった。

 あの駆動炉の魔力は、酸素を取り込みエネルギーに変える。

 それが外に拡散したなら、人間は一瞬で体内の酸素まで奪われ、死に至る。

 駆動炉内であれば、画期的な物になる筈だったそれは、とんでもない凶器になったのだ。

 

 だが、問題は拡散した範囲だった。

 その範囲に自宅が入っていたのだ。

 

 私は調査委員会がどうの言う声を無視し、自宅に走った。

 乗り物など動いていない。

 身体強化までして、走る。

 

 家の扉を開けて、中に入る。

 いつもいるリビングの扉を開けると、そこにはアリシアがいた。

 テーブルの上には、絵が描きかけの状態で放置されていた。

 アリシアは横になっていた。眠っているように。

 その横には寄り添うようにリニスが、横たわっている。

 まるで、現実感がなかった。

 私はその場で、呆然と立ち尽くしていた。

 

 事故調査委員会が、私を見付けるまで、私は立ち尽くしていたようだ。

 気が付けば、一室に監禁されていた。

 研究所は私に全責任を押し付けた事を、後で聞かされた。

 

 私はそのまま拘留され、裁判所に移送された。

 怒りをもって私は裁判を戦った。

 だが、強力な弁護団を前に私は無力だった。

 私には、天文学的な額の賠償金支払いを命じられた。

 

 私は全てを失ってしまった。何もかも。

 私に残ったのは、アリシアとリニスの遺体のみだった。

 家も何もかも処分しても、賠償金に届く訳がない。でもやらないと支払いが出来ない。

 今は、ボロ家を間借りしている状態だ。

 途方に暮れていた時、私の弁護を担当した弁護士が来た。

「娘さんの遺体の埋葬が、まだと伺いまして…。そろそろ弔って差し上げては、どうで

しょうか?」

 弔う?誰を?

 私は激しい怒りに襲われ、弁護士を叩き出した。

 アリシアを埋葬する?ふざけるんじゃないわよ!!

 

 そう、アリシアは眠っているだけよ…。

 何もかも失った?違う。私にはまだ頭脳が残っている。魔導の技術が残っている。

 法律?そんなもの守ってなんになるの。

 手段を選ぶ必要なんてないじゃない。

 

 待ってて、アリシア。お母さんが起こしてあげるからね。

 

 どんな方法を用いても。

 

 私は研究所をクビにはならなかった。

 かなり恩着せがましい事を言われた。神経を疑う連中だ。

 ギリギリまで私の頭脳を使おうという魂胆が見えた話だった。

 ほぼタダ働きになる。賠償金の支払いがあるからだ。

 

 流石にそのまま働く事は出来ない為、地方に左遷された。

 私は地方で結果を出し続けた。

 私は今、所長とウィンドウ越しで話していた。

「プレシア君!データを渡さないとは、どういう事だ!?」

「どういう…とは?」

 私は意味が分からない、といった態度をとった。

「研究データだ!!何故、渡さない!!」

 私は微笑んで見せた。

「所長。これだけ成果を出したとなれば、所長賞を頂けるでしょ?」

「何!?」

 所長の感謝状など、どうでもいい。問題は賞金の方だ。

「犯罪者のお前に!?所長賞!?ハッ!冗談ではない!!使ってやってる事を感謝しろ!!」

「犯罪者?それは貴方も同じでしょう」

 責任を全て私に押し付けただけで、善良な市民気取りとはね。

 私の冷笑に、所長が怯んだ。

「そうそう。犯罪者と言えば、最近、ミッドは治安が悪いそうですね?」

「いきなり何を…」

「娘さんは、ゲイル魔法学院に通っていらっしゃるとか。あの辺りの道は1本、道を逸れる

とガラの悪い連中がいますからね。注意しなくてはいけませんね」

 私は所長の発言を遮って、調べ上げた事を教えてやった。

「っ!?」

「奥様もブランドものを買うのに、中央まで行かれるようですね?強盗などに襲われないと

いいのですが…」

 私はこの時、既に裏社会の連中とも付き合っていた。

 下らない研究ではない。私の本当の研究資金が足りない。

 私は裏社会で違法な魔薬の生成から、必要なら犯罪に役立つ魔法などを連中に渡して、

金を得ていた。

 その伝手で調べた事だ。

「ま、まさか!?脅す気か!!」

「それこそ、まさかですよ。聞いた事を教えて差し上げただけですわ」

 私は笑ってやった。

 弁護団だって動けやしない。

 連中の後ろ暗い秘密も、私が握っているのだから。

 あの人災の前に、私にこの力があったらよかったのに。

 所長は蒼白になって、私に所長賞を与えた。いや、与え続けた。

 それから、私に干渉はしてこなくなった。いい事だ。

 お陰で、予想より早く賠償金の支払いが済んでいた。

 

 肝心の研究は、順調とはいかなかった。

 この頃から、体調が変だったが、病院などに行っている余裕はなかった。

 そして、遂に私は職場で血を吐いて倒れた。

 診断は、魔導士特有の死病だった。末期で治療は不可能と言われた。

 今すぐに、入院すべきという医者を無視して、退院した。

 研究を急がなくてはならない。

 

 そんな時に、裏社会で世話になっている組織から、連絡がきた。

「プレシアさん。アンタ、変わった研究してるんだって?」

 私はウィンドウ越しに、組織の男を睨んでやった。

「詮索はしねぇよ。俺も長生きしてぇからな」

 組織の男は、降参とばかりに手を上げて見せた。

「アンタの研究に興味があるって、奴がいるんだが、あってみねぇか?」

 私の研究は、極秘裏に進めていた。裏社会の連中にも。

「こいつがクセのある奴だが、アンタに匹敵するくらい天才だよ」

 この男がここまで褒めるのは珍しい。

 研究に行き詰まりを感じていた為に、興味を持った。 

 そこで会ったのが、()()()だった。当時は少年だったが。

 遺伝子研究に異常な情熱を燃やす男だった。

 天才という評価は、正当だった。

 なにしろ、研究が1年で完成したんだから。

 

 完成して、いよいよという時に、管理局が私を調べているという情報が入った。

 私は所長やあの人災を起こした連中を、スケープゴートにして捜査の目を逸らした。

 その間に、移動型の庭園を購入した。魔力蓄積型の動力炉がいい。

 管理局が連中を食らっている間に、私は証拠とデータを処分して、姿を消した。

 

 私はまずリニスで開発した技術を試した。

 山猫は見事生前の姿を取り戻した。

 

 私は満を持してアリシアを目覚めさせる。

 記憶の転写も完璧の筈だ。

 目を覚ましたあの子が私を見る。

「お母さん…?」

 私は感極まって、あの子を抱き締めた。

 私は遂に取り返した。あの子を。

 

 でも、違和感はすぐに形となった。

 利き手が違ったのだ。

 私は悪い予感を感じながら、あの子を調べた。

 結果、あれにはアリシアが受け継がなかった魔法資質を、受け継いでいたのだ。

「失敗…した…の?」

 考えてみれば、リニスももっと気紛れな性格だった。

 

 あれは違う。アリシアじゃなかった。

 

「うわあぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 私は絶叫を上げて、あらゆるものを手当たり次第に壊した。

 

 あの時の絶望は筆舌に尽くせない。

 私は動けなかった。

「お母さん?」

 あれが扉の影から顔を出している。

 顔は同じなのに違う。悍ましい存在。鳥肌が立った。

 すぐに処分を…。

 

 

 いや、あれを利用しよう。

 私には時間がない。

 あるものは使えばいい。

「部屋に戻りなさい」

 私はそれだけ言うと、視線をあれに向けなかった。

 あれは部屋に戻って行った。

 

 私があれに教えるのは御免だ。

 教育係が必要だ。

 私の視界に山猫が映る。

 あれだ。

 

 私はあの山猫モドキを使い魔にした。

 山猫が人型に変わる。

「これより貴女の使い魔となります。宜しくお願いします」

 山猫が頭を下げる。

「あの…。私、記憶がまるでないのですが、生まれたての赤ん坊だったんでしょうか?」

 山猫が不思議そうに頭を捻っている。

「そんな事は、どうでもいいわ。貴女の名はリニスよ」

「かしこまりました。これより私はリニスです」

「貴女には、教育係をして貰うわ。今から紹介する子を一人前の魔導士にしなさい」

 私はあれを呼んだ。

「この子よ。名前は()()()()

 私はアリシアの名前を名乗らせておくのは嫌だった為、計画名から適当に名前を新たに

付けた。記憶も適当に名前を置き換えた。

「宜しくお願いします。フェイト」

 偽物同士、お似合いだこと。

 

 あれは、順調に魔導の技術をものにしていった。

 私は、アリシアを目覚めさせる別の方法を、模索し続けていた。

 リニスは、あの山猫と同じ素体とは信じられない程、口喧しい。

 あれを構えだの、愛情がどうのだの、ストレスが溜まる。

 

 そして、リニスは遂に私の秘密を探り当てた。

 私に対して不信感があったのだろう。

 忌々しいからリンクを殆どしていなかったのが、仇となった。

 リニスは、隠してあったアリシアの生体ポッドの前で、立ち尽くしていた。

 どうやら、書類やデータも漁ったようだ。

「主の秘密を覗くなんて、躾がなっていなかったようね」

 リニスが慌てて振り返る。

 私の魔法で、リニスが反応出来ずに壁に叩き付けられる。

「これが…フェイトに辛く当たる理由…ですか?」

「正当な対応よ」

 リニスが憤然と顔を上げる。

「正当!?あの子になんの落度があるんですか!!」

 リニスが距離を詰めて私の胸倉を掴む。

「あの子は口には出しませんが、愛情を求めているんです!!」

 私はリニスの腹に手を翳す。

 至近距離から魔法を受けて、再び壁に叩き付けられた。

「あの偽物に!?あんなものにやる愛情なんて1匙すらないわ!!」

 私は冷たくリニスに言い放つ。

「貴女には分からないでしょうね」

 リニスがフラフラと立ち上がる。

「分かりませんよ。貴女が全部忘れさせたんじゃないですか!!」

 私は鞭を振るった。

 リニスは顔を打たれ、倒れた。

「貴女の契約は、あれが仕上がり次第終了よ」

 私は冷たくそう言うと、立ち去った。

 

 

 様々な事が浮かんだが、今度は間違いない。

 今度こそ、貴女を目覚めさせるからね。アリシア。

 

 

 

 今、旅立つわ。

 2人の再生の地・アルハザードへ。

 

 

 

 

 




 年内に終わらないな。
 あと最低で2話というところですか。もっとあるかも。

 今回はプレシアの事情を妄想込みで書きました。
 
 以下は興味のある方は読んでみて下さい。


 美海の使用した魔剣。

〇埋葬剣オルクス
 冥王イクスヴェリアの佩剣として有名な魔剣。
 死者を冥界に連れ帰り、生者を冥界に連れ去る魔剣。
 だが、古くは彷徨う霊魂を天上に導く聖剣として
神殿に祀られていた。
 イクスヴェリアがマリアージュの使用が避けられない
事を悟り、せめて死者の魂を慰められるように、神殿に
頼み込んで佩剣にした経緯がある。
 だが、マリアージュの使用で、イクスヴェリアは、他
国に国民まで殺して兵器にしているというデマを流され、
国民の信用を失い、遂に討たれてしまう。
 イクスヴェリアが最後まで持っていた所為で、風評被
害にあった剣。
 因みに、美海は未だに埋葬剣が聖剣だと知らない。

〇波濤剣シュトレームング
 湾岸都市を治める領主が、代々受け継ぐ水の魔剣。
 水系統の魔法の無効化。水を斬る事が出来る。
 本領は、水を自在に操る事が可能。
 貿易の要であった為、調子に乗った領主の態度が、
聖王連合の癇に障り、美海に攻められ都市は陥落した。
 降伏の条件として、聖王連合は波濤剣を要求した
が、領主が聖王連合にやるより、武勇のある美海に
やった方がマシという消極的理由で、美海の物に
なった珍しい魔剣。
 


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第23話 決戦

 まず、最初に申し上げておきます。
 まだ、折れていません。まだまだ!

 投稿が遅れて申し訳ありません。
 単純に書く時間がなかったんです。
 年末年始は、いや、これからちょっと時間が減ると
 思われます。

 書き切る覚悟はありますので、意欲がなくなった訳
 ではありません。

 では、お願いします。


              :プレシア

 

 動力炉の消費した魔力を回復させる為に、エネルギーを取り込む作業に追われていた

まさにその時、アラートが鳴り響く。

『転移反応を検知。庭園に侵入者が確認されました』

 来たわね。

 ようやく、ここまできたのよ。誰にも邪魔はさせないわ。

 

 私は手を止めて、魔導兵を侵入してきた連中に送り込む。

 

 魔導の技は、錆び付いていない。大丈夫。

 私は、ジュエルシードに囲まれたアリシアを見詰める。

「行ってくるわ。アリシア。すぐに戻るわ」

 私専用にカスタマイズしたデバイスを手に、私は邪魔者を始末する為に部屋を出た。

 

 歩きながら、状況を確認する。

 外に配置した魔導兵は、もう粗方片付けられていた。

 全くとんでもないわね。

 それでも私は負けない。負ける訳にはいかない。

 

 小娘共が管理局員を引き連れて、庭園内部に侵入してきていた。

 失敗作も一緒だ。今更、何をしにきたのかしらね。

 私の顔に自然と嘲笑が浮かぶ。

 

 小娘共が二手に別れる。

 どうやら、動力炉を押さえに行く担当。私を押さえる担当に別れたみたいね。

 舐めた真似をしてくれるわね。二手に別れて私をどうにか出来るつもりとはね。

 レクシアの小娘なら兎も角、あの連中に私が止められる訳がない。

 

 ならば、各個撃破でいくのがいいわね。

 まずは、向かってくる失敗作と管理局員を始末。動力炉に行った連中を始末して、最後に

レクシアの小娘を片付ける。

 合流が難しくなるよう、特別製の魔導兵をレクシアの小娘の予想進路に配置する。

「大魔導士と言われた私を、舐めるんじゃないわよ」

 私はデバイスを握り締め、懐から痛み止めではない方の薬を取り出す。

 私が犯罪組織の連中用に合成した魔薬だ。

 

 身体に魔薬を打つ。

 弱った身体が悲鳴を上げる。

 私は歯を食いしばって耐える。

 

 あと少し、あと少しよ。お母さんに力を貸して頂戴、アリシア。

 

 私は薬が効いてきた事を確認し、力強く歩き始めた。決着は近い。

 

 

              :なのは

 

 正直、話に付いていけてないんだけど…。

 なんだか、黒幕の人のアジトに突入する事になった。

 ただ、私達でも、悪い事が起こっているのは分かった。

 黒幕さんが、ジュエルシードを使えば大変な事になるという事も。

 

 今、私はあの人…レクシアさんの指示で、この建物?の動力炉を止める為に動いてる。

 少し前まで、フェイトちゃん達やクロノ君もいたけど、手分けする事になっていた

ので、下へ通じる階段と上へ通じる階段で私達は別れた。

 建物の中もロボットが沢山いたけど、クロノ君と飛鷹君がアッと言う間にやっつけた。

 下は黒幕さんがいて、上は動力炉になっていた。

 上に動力があるんだよ?なんか不思議だよね。ここ。

 ともあれ、上にもロボットが湧いてきて、私達は戦闘中です。

 

 私は、まだ事情が分からないけど、飛鷹君もユーノ君も戸惑いはないみたい。

 もしかして、分かってないの、私だけ?

 ロボットを打ち落としながら、そんな事を考えていた時だった。

 

 飛鷹君は、スフォルテンドでアースラと通信する。

 すぐにアースラと繋がり、リンディさんが出る。

「リンディさん。事情の説明を受けてる暇がありませんでした。説明して貰えませんか?」

 私だけじゃなかったんだ。よかった…。

 飛鷹君も楽々ロボットを斬り倒している。

 やっぱり、飛鷹君も強いんだよね。レクシアさんと比べるから悪いんだ。

 復旧作業を大急ぎでやっている最中で、忙しそうでなんか悪いけど。

 実際、フェイトちゃんには、あれ以上訊き辛かった。

「…ごめんなさい。つい言った積もりになってたみたい…」

 リンディさんも顔を赤らめてそう言った。恥ずかしそうだけど、なんか可愛い。

「実際に彼女達に何があったかは、想像の域を出ないけど…」

 そう前置きした後に、リンディさんは知る限りの事を話してくれた。

 

 黒幕さんが、フェイトちゃんのお母さんの可能性がある事。

 

 そのお母さんが、違法な研究をしていた事。

 

 フェイトちゃんは、その成果である可能性がある事。

 

 ジュエルシードを使って、フェイトちゃんの元になった人を、生き返らせようとしている

可能性がある事。

 

 その為に、地球や他の世界を壊しても構わない程、追い詰められている可能性がある事。

 

 

 そして、ジュエルシードの回収に必死じゃなくなったのは、事情を知ったからじゃないか

という事。

 

 飛鷹君は歯を食いしばっていた。

 剣が残光を残して振り切られると、ロボットが3体纏めて真っ二つになった。

 

 ユーノ君は、暗い表情をしていた。

 チェーンバインドでロボットを2体同時に拘束する。

 

「フェイトちゃん…」

 辛い事を我慢して頑張っていたんだ。でも、それは踏み躙られてしまった。

 当のお母さんに。

 フェイトちゃんは優しい子だ。耐えられないくらい辛かっただろうな…。

 

 だから、私は!フェイトちゃんの助けになりたい!!

 

 アクセルシューターを襲ってくるロボット5体に放つ。

 私だって、今までの戦いから何も学ばなかった訳じゃない!

 高速でロボットを打ち抜いていく。

 弾丸を硬く、発射速度を速く。高速で撃ち出す。レクシアさんがやっていた事だ。

 

 弾丸は死んではいない。引き続き操作して、新しく出て来たロボットを打ち抜く。

 まだ、レクシアさんみたいにいかないけど。1歩近付いたと思う。

 

 そして、ジュエルシードを取り返して、ユーノ君に返して上げるんだ!!

 

「余裕、出て来たな!ユーノ!」

 飛鷹君がワザと明るい声を出す。

 その言葉に、ユーノ君がハッとしたような顔をしたけど、すぐに苦笑いになる。

「2人が、話聞きながら余裕で倒してるんだから、安心してるだけだよ!」

 言い終わって、ユーノ君が思い出したように付け加える。

「それに、バインドを破られる前に、倒してくれるでしょ?」

 ユーノ君が私と飛鷹君を見ながら言った。

「「勿論!」」

 偶然、私と飛鷹君の声が重なる。

 私と飛鷹君が視線を交わす。

「じゃあ…」

「こんなところで、もたもたしてられないよね!!」

 

 言い終えると同時に、誘拐の時に見たような巨大なロボットが姿を現す。

 前のより強そう。

 6本の腕に剣を持ち、身体に砲が幾つか付いている。

「なんだ、前のは予行演習か?」

 飛鷹君が冗談を言う。

「予習が出来てるから、完璧だね?」

 私が笑う。

 

「いくよ!!」

「任せろ!!」

「僕も忘れないでよ!!」

 

 私達の魔力光が、輝いた。

 

 

              :フェイト

 

 私の前を執務官とリニスが先行する。

 確か、名前はクロノっていったけ?

 クロノの隣で、同じく先行しているリニスが、見た事のないハルバードを振るっている。

 流石、私の師匠という言葉しかでない。

 ハルバードが振るわれる度に魔導兵が両断される。

 リニスがアタッカーで、クロノがバックスという感じだ。

 リニスの打ち漏らしを、クロノが素早く片付ける。

 クロノは流石に執務官だけあって、魔導兵をものともせずに片付けていく。

 私とアルフは、後ろから付いていくだけの状態だ。

 

 隔壁で閉鎖された通路が見える。

 あの向こうにいつもあの人がいた。

 心臓が早鐘のように脈打つ。

 話すとは言っても、何を話すかは具体的に決まっていない。

 漠然としたものだ。

 それでも、私はあの人の前に立たないといけない。

 私が本当の私になる為に。

 

 クロノが隔壁を魔法で撃ち抜く。

 私達は、そこに迷わずに飛び込んでいった。

 

 飛び込んだ先に、いた。あの人が。

 クロノがデバイスを向ける。

「プレシア・テスタロッサ。時空管理局・執務官 クロノ・ハラオウンだ!」

 クロノが身分証を、あの人に見せる。

 あの人は特に反応を見せない。

「生命倫理法並びに危険魔法の使用、その他諸々で逮捕する!」

 あの人は、クロノの言葉を鼻で嗤った。

「やってみれば、いいわ」

 あの人は、デバイスを私達に向けた。

 

 私は、クロノとリニスの前に庇うような形で立つ。

「あら、全員で掛かってくるのかと思えば、貴女から?失敗作の分際で私と戦うつもり

なの?」

 私は静かに首を横に振る。

「じゃあ、なんなの?」

 あの人が苛立つ。

「私は貴女の言う通り、確かに失敗作だったのかもしれません。でも、私は本物の

フェイト・テスタロッサです」

「わざわざ、そんな事を言いにきたの?」

 あの人は、ウンザリした様子だった。

「貴女は、やっぱり私の母さんなんです。そして、私は貴女の娘です。貴女がそれを認めて

くれるなら、私は貴女を護ります。世間が貴女を、どう非難しようと最後まで貴女の味方で

います。貴女をどんな悪意からも護ります」

 

 私を除く全員の視線が私に集まる。驚きと猜疑の視線。

 猜疑の視線はクロノからだ。今になってあの人に加担すると思ったんだろう。

 あまり、私の中で纏まっていなかったから、正直な気持ちをそのまま言った。

 

 確かに、残酷な真実だった。

 傷付いたし、こんな事なら感情なんてなければよかったと思った。

 何も分からないうちに、殺してくれればよかったと思った。

 でも、そう思ったのは、大切だったからだ。

 例え、それが偽物の記憶であっても。

 間違いなく、この人は、私の母さんだった。

 

 だから、私はこの問いの答えを知らないといけない。

 

「私の答えは変わらない。貴女のような偽物を、私は娘とは認めない。貴女に割く愛情

なんてないわ」

 

 それが絶望的な答えでも。

 それが、予想出来るような答えであったとしても。

 

 ショックではあったけど、耐えられる。レクシアが耐えられるようにしてくれたから。

 

「プレシア!!…貴女って人は!」

 リニスが私の為に怒ってくれる。

「そうですか…。なら、私は貴女を止めます。貴女の娘として、私が出来る唯一の事だと思う

ので」

「あら、断ったら管理局に突き出すの?」

 私は首を横に振った。

「違います。認めてくれるなら、護ると言ったんです。管理局から…現実から逃げ出す手助け

をするとは、言っていません」

 どんな魔法を使おうと、ロストロギアを使おうと、人を蘇らせる事は出来ない。

 だから、あの人はクローンに手を出した筈だ。 

 あの人の顔が怒りに歪む。

「逃げる!?偉そうに何を!?」

「アリシアなら、貴女のやっている事を止めると思うから」

 私の中のアリシアは、少なくとそういう子だと思う。

 憤怒の表情とは、こう言うのだろう。

 あの人の顔が、今までのどの表情より歪んでいる。

「偽物が…偉そうにアリシアを語るなんて!!」

 デバイスが私に向けられる。

 私は冷静な気持ちで、バルディッシュを構える。

「消えてなくなりなさい!!!」

 

 光が爆発する。

 

 全員の防御魔法が、あの人の攻撃を防いでいた。

 シールドで守られていない部分は、抉れて凄い事になっている。

「話し合いは、終わりって事でいいのかい?」

 アルフが私に訊いてくる。

 私は静かに頷いた。

「じゃあ、遠慮はいらないね。ブッ飛ばしてやるよ!!」

 アルフが拳を握り締める。

 リニスは無言でハルバードを構えた。

「逮捕協力という事にしておこう」

 クロノがそれだけボソリと口にする。

 

「アルバザードに辿り着ければ、私の願いは叶えられる!!」

「アルハザードだって!?」

 クロノが驚きの声を上げる。

 確か、アルハザードって…。

 リニスの授業で、次元の狭間に消えたって聞いたけど…。

「滅びた地に行くだって!?正気なのか!?」

 クロノは呆れ交じりに叫んだ。

「アルハザードは滅びていないわ!!今も存在する!!失われた秘術と共にね!!」

 狂気を孕んだ声であの人は言った。

「バカな!!」

「だから、私達は旅立つのよ!!アルハザードへ!!」

 

 あの人が両腕を広げると、庭園全体が振動し出す。

「何をするつもりですか!?プレシア!?」

 リニスが声を上げる。

「知る必要はないわ。すぐに死ぬんだもの」

 

 振動が激しくなる中、あの人は嗤った。

 

 

              :リンディ

 

「艦長!次元震を庭園内から確認!」

 一斉に全員の顔色が青くなった。

「執務官から連絡は?」

 私は辛うじて冷静なフリを通す事が出来た。

「艦長!執務官から、デバイスに記録した映像が届きました!」

「映像を」

 私は言葉少なく指示する。

 ウィンドウが開く。

「アルバザードに辿り着ければ、私の願いは叶えられる!!」

 

「アルハザードは滅びていないわ!!今も存在する!!失われた秘術と共にね!!」

 狂気の言葉が続く。

 

「だから、私達は旅立つのよ!!アルハザードへ!!」

 

 捜査結果から目的は想像出来たけど、ジュエルシードはどう使う気なのか疑問だった。

 まさかアルハザードに行くつもりだったなんてね。

 ジュエルシードの力で、次元に穴を開けて強引にアルハザードが落ちたとされる次元の

狭間へ行こうだなんて、博打どころの話ではない。

 クロノ達は戦闘を開始したようだ。

 

 クロノが、映像記録を送ってきた意図は分かる。

 私にも現場に出ろ、という事ね?

 上官使いが荒いこと。

「エイミィ。私も現場へ行くわ。次元震の進行を抑えます!」

「了解!お気を付けて!」

 私はエイミィに見送られ、時の庭園に乗り込んだ。

 

 

              :なのは

 

 私達は、大きいロボットと戦っていた。

 砲口から砲弾が連射される。

 飛鷹君は、ユーノ君を護りながら、6本の腕が持つ剣を捌き、砲弾を斬り落としている。

 ユーノ君はチェーンバインドで腕の動きを阻害している。

 まずは砲を黙らせないと!

 私はラウンドシールドを構え、ロボットに向かって行く。

 砲弾を躱し、躱し切れない弾はシールドで逸らす。

 逸らすのに失敗して、シールドごと壁に打ち付けられるが、衝撃を緩和させる。

 衝撃の緩和は課題の1つだったから、出来るようになっている。

「なのは!」

 ユーノ君が声を上げる。

「心配すんな!ユーノ!なのははあの程度じゃ、やられねぇよ!」

 飛鷹君の信頼の言葉が聞こえる。

 私は思わず笑みを浮かべてしまった。実際、効いてないしね!

 すぐに再突撃を掛ける。

 今度は1撃も当たらない。

 レイジングハートを接近戦用の棒に変形させ、襲い来る剣を跳ね上げる。

「レイジングハート!」

『オーライ。アクセルシューター』

 改良型の魔力弾が、複数生成すると砲口にピンポイントに放つ。

 高速化した魔力弾は、回避も許さず砲口を撃ち抜く。

 砲口が爆発し、煙を出しているが、まだ動いている。

 そこに、飛鷹君がチャンスを逃がさず、飛び込んでいく。

 2本の手首が飛鷹君の剣で斬り飛ばされる。

「マナバレット!」

 飛鷹君が、剣を振るいながら、魔力弾を造り出す。

 魔力弾がロボットに殺到する。

 ロボットが残りの腕で防御態勢を取る。

 魔力弾が腕に直撃する。

「ブラッディースクライド!」

 飛鷹君が、防御の為に重ねられた腕の盾に、高速回転する突きを放つ。

 魔力弾は腕を纏めて破壊する為の布石。

 あの突き技が本命だったんだ。

 ドリルのように高速回転する剣が、全ての腕を打ち抜き、ロボットの身体を貫通する。

 身体を護る事はもう出来ない。

「なのは!」

「うん!せーのでいくよ!」

「分かってる!」

 飛鷹君が剣を逆手に持ち替える。

 私は砲撃モードに切り替える。

「ディバイ~ン…バスター!!」

「アバン…ストラッシュ!!」

 私達の砲撃と魔力の剣閃が、ロボットを撃ち抜く。

 ロボットは、木端微塵に爆散する。

 

「「イェーイ!!」」

 

 私達はハイタッチする。

 なんか、テンションがおかしいけど、今は気にしない。

「ちょっと!僕は!?」

 文句を言うユーノ君ともハイタッチしたその時だった。

 

 

 建物全体を凄い振動が襲う。

 

「何!?」

「なのは!こりゃ、早いとこ、動力炉を封印しないと不味そうだぜ!」

 飛鷹君が焦る。

「この魔力反応は…ジュエルシードを使ったとしか、思えないよ!!」

 強大な魔力反応が下からする。

「行こう!」

 どこへなんて言う必要はない。

 

 動力炉へ通じる扉は隔壁ロックされていたが、私が魔法で撃ち抜く。

 私達が3人で動力炉へ飛び込んでいく。

 

 動力炉は、明らかに暴走中といった感じで、嫌な音と魔力が漏れ出している。

「ユーノ。動力炉を封印するから、俺達を護ってくれ!」

 ユーノ君が力強く頷く。

「なのは。俺が動力炉の余計な魔力を削ぐ。封印を頼む!」

「任せて!」

 私も力強く頷く。

「じゃあ、いくぞ!マグナブラスト!!」

 炎熱の砲撃が動力炉へ直撃し、覆い尽くす魔力を削ぎ落していく。

「レイジングハート!」

『オーライ、シーリング』

 私は飛鷹君に続いて封印砲を放つ。

 動力炉が軋むような音を立てて、抵抗する。

 私は魔力を更に籠めて、砲撃を押し込む。

 動力炉が、悲鳴のように最後に鋭い音で軋み、停止する。

 

「これで、こっちは終わりだね!」

「ああ、じゃあ、応援に行ってやらないとな!」

 飛鷹君は手を下に翳す。

『おいおい。過激な事やるな?いいのか、それ?』

 飛鷹君の意志を汲み取ったスフォルテンドが、声を上げる。

「当たらなきゃ、問題ないだろ?」

『だといいがね。ま、取り敢えず人は射線上にいないぞ』

 飛鷹君がニヤリと笑う。

「んじゃ、壁貫きいくぞ!マナキャノン!!」

 飛鷹君の砲撃が床を打ち抜いていく。

 煙が凄い。

「ショートカットで行くぜ!」

 ユーノ君は顔が引き攣ってるけど、なんとか頷いていた。

 

 私も頷いたけど、後で絶対、クロノ君が怒ると思うな。これ。

 

 

              :美海

 

 時の庭園内部は、他とは違うロボットが私を邪魔してきたが、問題なく掃除する。

 フェイト達に追い付いたけど、少し考える。

 

 私はプレシア女史とフェイト達の遣り取りを見て、先に行く事にした。

 奇門遁甲で、私は全員の横を素通りする。

 サッサとジュエルシードを、回収してしまった方がいいだろう。

 フェイトとリニスは、プレシア女史に言いたい事も、まだあるだろうし。

 万が一ヤバくなったら、なのは達も参戦するだろう。

 横目でプレシア女史を確認すると、薬でも使ったのか魔力がブーストされていた。

 だが、身体の方は、生きているのが不思議なくらい酷い。

 執念だけで生きているようだ。

 ベルカ時代に、そういう奴がいない訳ではなかったから、特に驚かないけど。

 

 私はアリシアのポッドの前まで、特に障害もなく辿り着いた。

 障害はなくとも、事態は切迫してきた。

 ジュエルシードも動力炉も暴走させたようだ。勘弁してよ。

 

 そして、着いてところで呆れた。

 

 ジュエルシードが13個浮いていて、暴走中だったけど、それはいい。予想出来てた。

 だけどね…。

 

「猿芝居はいいから」

 私は()()()()()()()()()()()()()()

「バレたか。まあ、そうであろうな」

 アリシアは目を見開く。

 だが実態は違う。私の眼は誤魔化せない。

 幼い女の子の声で、アレはそんな事を言った。

「あれで死なないとか、ゴキブリと比べるのも、ゴキブリに失礼な気がするよ」

 アレはニヤリと嗤った。

「貴様の掌から飛び出したようだな」

 私は頷く。

「そうだね。でも、こちらも都合がいい」

 アレは訝しげに眉をひそめる。

 

 そう、ここならある程度、被害は無視出来る。

 

「私もね。あれから上達したんだよ」

 

 私は手を翳す。

 

「出番だ。バルムンク」

 血液の中から蒼い水晶のような物で造られた剣が現れる。

『久しぶりの戦場だ』

 バルムンクの昂ぶりを感じる。

 

 制御は出来るようになっているが、相変わらず不安がある為、私は滅多に使わない。

 でも、今は別だ。

 ここなら、地球にまで被害が及ばない。

 フェイト達も、巻き込まれて死ぬような間抜けじゃない。

 

 これだけ保険があれば、使ってもいい。

 

「今度こそ、間違いなく消してやるよ」

 バルムンクが私の気持ちに応えるように、蒼い光を強く放った。

 

 

              :フェイト

 

 あの人がローブを脱ぎ捨てる。

 痩せ衰えた身体が分かる戦闘服形態のバリアジャケット。

 痩せた身体は頼りなく映らない。

 狂気と執念を感じさせ、それが圧力となって私達に圧し掛かる。

 

 アルフが先陣を切って突撃する。

 その後を、リニスがハルバードを構え追う。

 クロノと私は自然と援護に回る事になる。

 

 あの人のデバイスから閃光のような雷が飛ぶ。

「そんなの食らうか!」

 アルフが余裕で避ける。

 スピードがあるだけの直線攻撃なら、問題なく避けられる。私と訓練してるから。

 しかし、あの人の口が、微かに笑みの形をしたように見えた。

 私は嫌な予感を覚えて声を上げる。

「アルフ!避けて!!」

「!?」

 咄嗟にアルフが床に転がるが、雷がうねるようにアルフを追い、弾き飛ばした。

 床をアルフが滑っていく。

 あの人が素早く()()()()()()

 今度はリニスに雷が振るわれるが、リニスは雷をハルバードで打ち落とす。

「成程。電撃で分かり難くなっていますが、鞭ですか…」

 そうだ。あの人は鞭を使っていた。

 電撃の魔法を鞭に纏わせているんだ。

 あのスピードで動く鞭を制御下に置けるなんて…。

 あの人がニヤリと嗤う。

「気付いたくらいで防げないわよ!」

 雷の鞭を振るう。

 嵐のように雷が私達を襲う。

 そして、あの人の周囲に雷の魔力弾が生成される。

「死になさい!!」

 無数に生成された魔力弾が、鞭の隙間を縫って襲う。

 鞭を避けるのに精一杯の私達を、魔力弾が撃ち込まれる。

 私とクロノ・アルフはシールドで防ごうとしたが、体勢が不安定だったし、魔力弾の威力

もあって吹き飛ばされ、鞭と魔力弾が撃ち込まれた。

 みんななんとかシールドが使えなくなった瞬間に、フィールド系の防御に切り替えていた

から致命傷になっていないけど、既にみんなボロボロになっていた。

「クッソ!腐っても大魔導士と言われただけあるか…」

 クロノが立ち上がる。バリアジャケットはボロボロだけど身体の方は無事みたい。

 凄い。これが執務官の実力なんだ。

 私は、リニスの姿が見えない事に気付いた。

 見回すとリニスはあの人の前に立っていた。

 ボロボロだったけど、立っていた。ハルバードから煙が上がっている。

 殆ど、打ち落としたの!?

「プレシア。どんな魔法を使おうと死者は生き返ったりしません。知っている筈です」

 リニスが静かな口調で、あの人に言う。

「アルハザードの秘術をつ…」

「そんなものでは戻りません!!主の話を聞く限り、そんな秘術があるとも思いません!!」

 リニスがあの人の言葉を遮って言う。

 私達は、その言葉に驚いた。アルハザードに出来ない事はなかったって聞いていたから。

 レクシアは、どうしてそんな事を知っているんだろう?

「戻らない命を悼むのは、構いません。でも!今は生きている命を大切にしてあげる事は、

出来ませんか!?」

「黙りなさい!!答えは変わらないと言ったでしょ!!」

 怒りにあの人の顔が歪む。

 複雑な術式が構築される気配がする。

「プレシア!!」

「レクシアの小娘に取って置きたかったのだけど、仕方ないわね。弾けなさい」

 魔力密度が濃い。この部屋を覆い尽くしている。

 逃げられない!

 

 その時だった。

 

 暴走していた動力炉が停止したのが、感じられる。封印に成功したんだ。

 直後、巨大な魔力反応。

「「!!」」

 あの人とリニスが反応する。

 

 光の柱が天井を突き破って、床を打ち抜いていく。砲撃?

 

 光の柱はあの人とリニスの間を撃ち抜いていった。

 あの人とリニスは飛び退いた。

 術式が霧散する。

 あの人が上をキッと睨み付ける。

 

 天井の穴から3人の人影が現れる。

「フェイトちゃん!大丈夫!?」

「応援に来たぞ!!」

「怪我が酷い人はいない!?」

 確か、なのは…だったよね。後は黒い騎士みないな魔導士と、ジュエルシードを発掘した人。

 そのメンバーが降りてくる。

 

 何気なくクロノを見ると、こめかみの血管がピクピクしていた。

 

 あっ。怒ってる。

 

 

     

              :飛鷹

 

 丁度、プレシアとリニスが対峙している間に、着弾したようだ。

 もうちょっと、安全確認してくれよ。スフォルテンド。

 降り立った時の視線が痛い事、痛い事。

 特にクロノがヤバい。主に血管が。切れないか心配だ。

「取り敢えず、救援には感謝しよう。だが、後で話がある」

 クロノが俺にそう言った。

 よしっ!終わったら逃げる。

 

 なのははフェイトに一直線に向かって、無事を確認している。

 ユーノは、ボロボロのアルフの治療を開始した。

 

 俺は取り敢えずクロノの言葉に頷く。今だけの方便です。

「絶対、逃がさないぞ」

 仄暗い炎がクロノから発せられている。逃げません、サー!

『ユーノ。そっちの使い魔は戦えそうか?』

 俺は冷や汗を流しつつ、ユーノに念話で訊く。

『戦えなくはないけど、止めた方がいいだろうね』

『分かった。お前はソイツに付いててくれ』

 ユーノが頷くのを確認して、俺は前に出る。

 リニスと並ぶように立つ。

「フォーメーションを入れ替えましょう」

 隣にいるリニスに声を掛ける。

「貴方…いいんですか?私は敵ですよ」

「今は味方でしょ?問題ありませんよ」

 俺はそう言って剣を構えた。

 後ろからなのはとフェイトが近付いてくる。

「私も戦うよ!」

「私もまだやれる。私の問題でもあるし…」

 なのはとフェイトは、デバイスを構える。

「雑魚が集まったって、どうしようもないわよ」

 プレシアが女王様みたいに光る鞭を構える。

 それじゃ、試すとするか。

 

 プレシアの鞭が閃光のように迫る。

『スティンガースナイプ』

 光の螺旋が鞭を絡めて、プレシアに返す。

 プレシアも返されたからといって、狼狽えたりしない。

 冷静に手元に鞭を戻す。

「何度も見せられれば、対策くらい立てられる!」

 クロノがデバイスを構え、援護の態勢を取る。

「あらそう。本当に対策出来たか、試してあげるわ」

 再び鞭が振るわれ、クロノが同じ魔法を使うが、今度は絡め捕られない。

 俺とリニスはプレシアに突っ込んでいく。

 黙って見てる訳にいかないぜ!

 閃光のような速度で、蛇のようにうねる鞭が俺達に振るわれる。

 クロノの魔法は、最早掠りもしない。

 さっきのは本気じゃなかったって事か!

 更に雷の魔力弾が追い打ちを掛ける。

 

 俺も剣で、リニスはハルバードを振るい対抗するが、向こうの手数が多い。

 近付こうとすると、狙い澄ましたように鞭の軌跡が変化し、迫ってくる。

 ヤツの剣を受けてなきゃ、とっくにやられてたかもしれない。

 俺もヤツに似たような戦術で戦ったんだ。

 ヤツがやったみたいに、手はある筈だ。

 なのはとフェイトも魔力弾の対応で精一杯。砲撃を撃つ隙が無い。

 クロノも効果が期待出来ない魔法を、そうそうに止め、魔力弾の迎撃に参加している。

 5人いて、攻撃捌くのにやっとかよ!

 チッ!隙がねぇ。

「そろそろ死になさい」

 複雑な術式を構築してるみたいだぞ!

 これだけの弾幕と、鞭の制御までしててよく出来るな!?

 原作じゃ、そんなに強い印象なかったのに、なんだこの強さ!?

 なのはとフェイトに前に出て貰って、俺がレアスキルを使うか?

 ヤツの時は、使う途中で潰されたが、今なら4人に時間稼ぎして貰う事が出来るかも

しれない。

 でも、今使ってしまうとアリシアに使えない。

 それに倒す事が出来ても、無力化する事が出来るか分からない。

 となれば、もう1枚の切札を切るしかない。

 だが、今はプレシアの魔法を防がないとな。

 なら、あれだな。

 プレシアの魔法が完成しそうだ。

「みんな!俺のところに集まれ!!」

 全員が攻撃を受けつつ、俺のところに滑り込む。

「死になさい!!」

「シェルター!!」

 魔力光が部屋を覆い尽くす。

『どうも、雷を使って血液を沸騰させる魔法みたいだな』

 スフォルテンドが魔法を分析する。呑気な感想だな。食らったらリアルにヤバいぞ。

 完全に外界と遮断する、文字通りのシェルターを造り出す魔法。

 選んでよかったぜ。

 原作のシェルターは効果時間がくるまで解除出来ないが、こちらの魔法で再現している

お陰で解除が自由というのがいい。

 俺は解除する前に、みんなに頼み事をする。

「切札を1枚切る。動きが少し悪くなるから、フォロー…頼めるか?」

 俺はみんなを見回す。

「アンタの動きは、アタシがフォローするよ。お陰様で休ませて貰ったしね」

 若干、皮肉が入っているが、有難い。

 ユーノの治療で少しは回復したようだ。

 ユーノは死にそうになってるが、大丈夫か?

「君の切札とやらは、プレシアをどうにか出来るのか?」

 クロノが訊いてくる。

「ああ、やれる。だが、決着は…」

「うん。私がやるよ」

 フェイトが硬い表情で言った。

「フェイトちゃん…大丈夫?」

 フェイトは無言で頷いたが、なのはやリニス・アルフは心配そうだ。

「じゃ、解除するぞ。頼んだ!」

 全員が頷く。

 

 解除するとプレシアは忌々しそう舌打ちした。

 すぐさま、攻撃を再開する。

「目も慣れてきたよ!」

 なのはが前に出ていく。

 フェイトは無言で頷き、同じく前に出る。

 リニスもカバーに入れるような位置取りだ。

「その厄介な防御魔法。今度は発動する暇など与えないわ」

 俺には頼れる仲間がいるが、アンタはどうだ?

 

 少しの睨み合い。

 どこかが崩落したのか、崩れる音がした。

 一斉に動き出す。

 雷の魔力弾が弾幕を張るように迫りくる。

 その隙を縫うように、雷の鞭が振るわれる。

 なのはが魔力弾を棒で、打ち払っていく。フェイトが鞭を捌いていく。

 防護し切れない部分を、リニスが補う。

 本当に対応してるよ。フェイトは俺達が到着まで対応してたが、なのははさっきが初見

だった筈だ。

 

 なら、俺も負けてられねぇな。

 

 気合を入れた、その時だった。

「どこまで、邪魔をするの!!失敗作が!!」

 散々、言ってきた事なんだろう。散々、思っていた事なんだろう。

 だからこそ、スルッと言葉が出てくる。

 フェイトの必死さを思い出す。ここまでの悲しそうな背中を想う。

「失敗作って、何!?」

 なのはが怒気を発する。

「失敗作以外のなんなの?アリシアと同じなのは、見た目だけよ!!あとは違う!!

全部違う!!」

 まだ、何か喚いているが、俺は聞いていなかった。

 

 俺は、生まれて初めてキレた。何かがキレる音がした。

 

「ふざけんじゃねぇ!!」

 

 気が付けば、そう怒鳴っていた。

 みんなが何故か、俺の方を振り返る。

 プレシアも俺を見た。まともに俺を見たのは初めてかもしれない。

 

「アンタの娘ってのは、こんな事する母親を喜ぶ奴だったのか!?自分の血を分けたも同然

の子を、アッサリ見捨てるのを喜ぶ奴だったのかよ!!」

 似てねぇって言うなら、そういう事だろう。

 俺は原作でしか、アリシアを知らない。

 でも、それで見る限りは、そんな子じゃなかった筈だ。

「アンタみた、みたい…いなガキに、何…がが、分かるっていうの!?」

 顔付きがヤバい。変な薬でもヤッたのか、興奮で涎を垂らしながら、喋る。

 怒りと興奮でチャンと喋れてないけどな。

「ああ!分からねぇな!!自分の娘を汚す親の気持ちなんざ!!」

 子を失って、嘆くのは分かる…いや、察する事は出来る。

 俺は、前世で人の親になった事なんてねぇ。

 でも、自分の悪行で、子供を犯罪者の子供にするのは、違うだろうと思う。

 まして、自分の為に頑張る子の気持ちを踏み躙る事なんて、あっていい訳がない。

 プレシアは、泡を飛ばして何か言おうとしているが、言葉になっていない。

 プレシアが喚きながら、魔法を放つ。

 単純な雷撃。

 俺は剣で受ける。剣が雷を纏う。

 

「我・法を破り・理を越え・更なる力を欲す者なり…」

 

 俺は闘志を滾らせたまま、静かに詠唱を開始する。

 ヤツとの戦いで動きながらでも、ある程度使えるようになっている。

 修練の成果だな。

 未だに無詠唱じゃ、無理だけどな。

 

 雷の鞭が滅茶苦茶に振られる。

 さっきまでの精密さがない。

 アルフが魔力の籠った拳で打ち落とす。

「これなら、アタシでもいけるね!!」

 アルフが割って入った事で、他の面々も動き出す。

 

「我は鉄人・我は巨人・我は超人・瞬く間なれど・与えよ・我が身に・人を越える力を・

仮初なれど・我が拳に・万物を粉砕せしめる・奇跡を宿せ!」

 

 なのはとフェイト・リニスがアルフ同様に前に出て、プレシアの攻撃を迎え撃つ。

「シュート!!」

「ファイア!!」

 2人の魔力弾が、プレシアを圧倒し出す。

 リニスは2人の援護に徹している。

 クロノも、デバイスを構えて、ユーノを護っている。

 こちらに任せてくれるようだ。

 

「ソコム・ソコム・ラ・アスプ…ヘルケ・ウント・コッフ・パウ・エイス……アスプ・アスプ・

アスプ・ラン!……」

 

 プレシアが攻撃も食らっていないにも関わらず、鼻血を出しつつ鞭を振るっている。

 クロノの魔法が、プレシアの鞭を捉える。

 ユーノを護りながら、機を窺っていたようだ。

 精密射撃だ。

 鞭は手放さなかったが、プレシアは体勢が崩れた。

 

「アクセラレータ!!」

 

 強化魔法。ただし、最大級のだ。自分の能力をまさに何倍にもする。

 倍率は?決まってる。最大だ!!

 

 俺は全てを置き去りにする。

 苦し紛れに、崩れた体勢で魔法を撃ってくる。

 雷すら遅い。余裕で躱す。

 一瞬で間合いに入る。強化された腕力で剣を容赦なく振るう。

 プレシアはデバイスごと吹き飛ばされる。

「ガっハ!」

 壁に叩き付けられ、プレシアが血を吐く。

 俺はそこに一瞬で辿り着き、連撃。

 壁をプレシアごと斬り砕き、部屋の向こうへと吹き飛ばす。

 非殺傷設定だから、殺す心配はしなくていい。

 レアスキルの方だと、非殺傷設定も効果が怪しくなるからな。

 

「ガアァァァァーーーー!!」

 獣じみた声で、プレシアがデバイスを向ける。

 砲撃。

キィィィィィィィ(マグナブラスト)!!」

 スピード強化の影響で、俺の声も聞き取る事は出来ない。

 

 砲撃がぶつかり合う。

 

 雷と業火が爆発した。

 

 

              :リンディ

 

 次元震を抑えようと時の庭園にきたはいいが、全く抑えられない。

 全ての持てる魔導を駆使しても、手応えがない。

 冷や汗を流す。

 

 庭園内部では、怪しい魔力反応が蠢いている。

 首謀者・プレシア以外でだ。

 

 私は不吉な気配に、身を震わせた。

 

 




 本当はプレシアの件を片付けるくらいは、いきたかったんですが、
 やむなく次回に続きます。

 本当なら、年内に無印終了を目指していたんですが、今年は下手
 をすると年内最後の投稿になりそうです。

 色々、難しいですね。
 
 


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第24話 想いの行方

 間に合った。
 取り敢えず、それしか言えません。
 第二次目標は、どうにかなりました。

 とんでもない文字数ですので、お願いします。


              :フェイト

 

 あの黒い魔導士の動きが見えない。

 影さえ捉えられない。

 レクシアが、相手にしないように言った意味が分かった。

 

 アッと言う間に、あの人が壁に叩き付けられ、壁が斬り砕かれて吹き飛ばされる。

 次の瞬間には、雷と炎の砲撃がぶつかり合う。

 紫と赤の光が爆発する。

 

 その時に、フッと頭に声が聞こえた。

『あ…た…、だ…』

 誰かの念話?混線しているみたいに声が聞き辛い。

 隣にいた、なのはもキョロキョロしている。

 もしかして、今のが聞こえたの?他の人達が聞こえている様子はない。

「今の…聞こえた?」

 私は、なのはに訊いてみる。

「うん。女の子の声みたいだったけど…」

 なのはも困惑してるみたいだ。

 顔を見合わせていると、いきなり抱え上げられて、その場を飛び退く。

「戦闘中に何を呆けているんです!?」

 リニスの叱り付ける声が耳を打つ。

 気が付けば、私達が立っていた場所が、抉れていた。

「ごめん」

「ごめんなさい」

 2人でリニスに謝った。リニスは、私達2人共抱えて助けてくれた。

 

 私達が気を取られている間も、戦いは続いていたみたい。

 砲撃は相殺され、再びスピードを生かして黒い魔導士が、接近戦に持ち込み、あの人を圧倒

していたようだ。

 あの一撃は、あの人の苦し紛れのものだったみたいだ。

 

 あの人は、もう防戦一方だった。

 幾ら攻撃を受けても、立ち上がり反撃する。

 鬼気迫る表情で、食らいつく。

 私は目を逸らしてしまいたくなった。でも、そんな事は許されない。

 私は見届けなきゃいけない。そして、決着は私が付けなくてはいけない。

 バルディッシュを握り締める。

 その手をなのはの手が添えられる。

 私は思わずなのはを見た。

 なのはは、戦闘から目を逸らさずに言った。

「大丈夫?」

 私を心配してくれたみたいだ。

 私は注意を戦闘に戻し、黙って頷いた。

 私もいい加減任せ切りにしないで、戦闘に加わらないと。

 そう思った時だった。

 

『あなたは、だれ?』

 

 幼い子供の声。だけど、聞き覚えがある。

 そう、あれは…。

 

 なのはが息を呑む。

 なのはの見ている方に私も目をやると、そこには私達より幼い子供が立っていた。

「アリシア…」

 私は譫言のように呟いた。

「え!?」

 なのはがビックリして手を放す。

 放した瞬間にアリシアは見えなくなってしまった。

 私達は目を擦って、目を凝らすが何も見えない。

 私達は、再び顔を見合わせる。

 あれは、アリシアだった。幻影魔法でも何でもない。本物だと私は確信している。

 

 あの人が、遂に黒い魔導士の剣を受けて、倒れ込む。

 黒い魔導士は剣を構えたまま、残心。

 あの人は仰向けに倒れたまま、咳き込んで血を吐いていた。

 

 行かなきゃ。行ってどうする?止めを刺すの?分からない。でも行かないと。

 

 私の足はあの人へ向く。

 混乱している私の手を、あの子が、なのはが握った。

『ねぇってば!きいてる!?』

 私達の動きが止まった。

 私達は再びアリシアが見えた場所へ、視線を送る。

 そこには、アリシアが変わらず立っていた。

 もしかして…。

 私達はもう一度手を放す。

 見えなくなる。

 もう一度手を繋ぐと、アリシアが見えた。

 

 理由は分からないけど、なのはに触れていると見え易くなるみたいだ。

 

 あの人は、もう立ち上がる事が出来ないみたいで、倒れたままだった。

 それを確認すると、私達はアリシアの方に歩き出した。

 

 アリシアはキョロキョロ周りを見回している。

 見覚えのない場所に戸惑っているみたいだった。

 誰も自分を認識していない中、私達が気付いた。

 

 突然、あの人が素早く上体を起こし、腕を振るった。

 プラズマの大剣が私達を纏めて薙いだ。

「「!!」」

 完全にアリシアに気を取られていた所為で、避けられそうにない。

 シールドで防げそうもない一撃だ。それでも私達のデバイスはシールドを展開する。

 私達は固く目を閉じる。

 

 ガキッと凄い金属音が響く。

 

 刃はいつまでもくる気配はない。ゆっくり目を開けると

 黒い魔導士が私達を庇うように立っていた。

 プラズマの刃は黒い魔導士の剣に止められていた。

「もう筋肉痛、決定だ」

 あの魔法の効果が切れてしまったのか、普通の話し方に戻っている。

 黒い魔導士は、身体が血だらけになっていた。

「飛鷹君!?大丈夫なの!?」

 なのはが声を上げる。

「ああ、ちょっと、毛細血管が切れただけだからな。大丈夫だ」

 それでも、無茶な強化の影響か、身体が痙攣している。

「さっきから、どうしたんですか!?」

 リニスがハルバードを油断なく構えながら、私達を怒鳴る。

「アリシアが…見えるんだ…」

「え!?」

 なのはが私の言葉に頷いて、自分も見えている事を伝える。

「どういう事です!?」

「どうしてか、分からないけど…なのはに触れると見えるみたい…」

 

 プラズマの大剣は黒い魔導士に止められた後、動かない。

 あの人を見ると、目を見開き、固まっていた。

 視線の先は、アリシアがいる方だ。

 あの人にも見えてる?なのはに触れていないのに?

 黒い魔導士は、身体に鞭を打ってプラズマの大剣を弾き飛ばした。

 あの人のデバイスが抵抗なく、飛ばされ床を滑っていった。

「ア…シ……ア」

 呆然と出ない声を無理に絞り出す。

 アリシアは視線をあの人に向けるが、ビクッと体を震わせると後ずさった。

『だれ?』

 あの人はショックで反応出来ない。

「なんだか、よく分からねぇけど、アリシア…?がいるのか?」

 黒い魔導士が私達を振り返り、訊く。

「少なくとも、見えるけど…」

 なのはが自信なさげに答える。

 黒い魔導士は天を仰いで、そうなのか、とかなんかブツブツ言っている。

 そして、固まっているあの人に向き直る。

「それで?今でも正しいって思えるか?アンタ、自分の今の顔、見て見なよ。悲しくて狂った

鬼みたいな顔してるぜ?自分の娘に見せられる顔じゃないぜ?」

 薬物の影響と怒りと興奮、様々な理由で顔は歪み痙攣しているし、髪も乱れ、服もボロボロ

だ。アリシアが分からくても仕方がないかもしれない。

 あの人は、黒い魔導士の話など聞いていないようだ。

「アリ…シア。私…お…あさん…よ。分か…で…?」

 あの人は、縋るような目でアリシアを見る。

 伝わっていないと思ったのか、立ち上がる事は諦め、床を這ってアリシアの元へ向かおうと

する。

『いや!こわい!』

 アリシアは、走って私達の後ろに隠れてしまった。

 

 あの人は、声にならない呻き声を上げた。

 

 暫く、呻き声を上げて泣いているようだったが、不意に泣き止んだ。

「そう…。あ…が、アリ……の訳が…ないわ…。幻…魔…に…決まっ…る。

あ…子…私…が分から…い訳がない…。フハ……ハハ…クック…」

 狂ったように嗤い出した。

「アンタは救えねぇよ」

 黒い魔導士はそう言うと、あの人に向かって歩き始める。

 

 アリシアが、私のマントを強く掴んでいるのが分かる。

 怯えている。

 

「殺してやる…殺…て……!」

 ゆっくりと立ち上がろうとする。

 どこにそんな力があるの?

 

 もう、やめて!!

 

「なのは!アリシアをお願い!」

 私は、それだけ言ってあの人に近付いていく。

 接近してきた気配を感じたのか、黒い魔導士も立ち止まって、私を見る。

「「フェイト!!」」

 リニスとアルフが声を上げる。

 黒い魔導士を追い越す。彼は止めなかった。

 

 あの人の前に立つ。

 

「失敗…!よく…こんな…!!」

 憎悪の籠った視線を受けても、私は動じなかった。

 

 次の瞬間。パンっと乾いた音が響く。

 

 私があの人の頬を張ったのだ。

 

 あの人は呆然と私を見ていた。

 私はあの人の胸倉を掴み上げた。

「本物のアリシアを、取り戻したかったんじゃないんですか!?その為に私を捨てた

んじゃないんですか!?自分の思い通りじゃないからって、本物のアリシアも否定する

んですか!!そんなの!!悲し過ぎるじゃないですか!!!」

 感情のまま私は絶叫した。

 

 あの人は力が抜けて、私の手を滑り落ちていった。

 

 私が立ち尽くしていると、視界の横からハンカチが差し出された。

 私はノロノロとそちらを向くと、ハンカチを差し出したのは、なのはだった。

 今、気が付いた。自分が涙を流している事に。

 

「終わったみたいだな」

 黒い魔導士はそう言うと、迷ったように私の横で立ち止まり、肩をポンと叩いていった。

 クロノもあの人の傍まで行って、手錠を掛けた。

「エイミィ。プレシアの身柄を確保した。人を寄越してくれ」

『クロノ君!大変!!次元震が艦長でも抑えられないの!!』

 確かに、ドンドン振動は強くなっている。

「分かった!!ジュエルシードの封印を急ぐ!!」

 クロノは、走って行った。

 

 残されたのは、立っていられずに座り込んでしまった黒い魔導士と、なのはとリニス・

アルフ、手錠を掛けられたあの人、そして、アリシアだけになった。

 

『ところで、おねえちゃんたち、だれ?』

 なのはの陰に隠れたまま、アリシアが訊いてくる。

 私を除くみんなが自己紹介する。

 私は、アリシアにしゃがみ込んで視線を合わせる。

「はじめまして、私は貴女の…」

 どう言おうか、迷った。

「妹。それでいいだろう?」

 黒い魔導士が私をフォローするように言う。

 いいのかな?それで…。

「うん!そうだね!妹!!」

 なのはが私の迷いを感じたのか、元気よくそう断言した。

 リニスとアルフも頷いていた。

 

「貴女の妹です」

 正しいかは分からない。でも、今はこう言おう。

『いもうと?わたし、しらないよ?』

「無理もないと思うよ。貴女が眠っている間に生まれたから…」

『いもうとって、ねてるあいだにうまれるんだぁ』

 リニスと黒い魔導士が微妙な顔をしていたけど、どうしてだろう?

 

「今までフェイトちゃんもあの人も、アリシアちゃんが見えなかったんだよね?」

 なのはが根本的な疑問を口にする。

 私は頷いた。あの人も見えていた様子はない。

 リニスも心当たりがなさそうだった。

『うん?わたしが、おきたのさっきだよ?』

「「「え!?」」」

 どういう事?

『べつのおねえちゃんが、こわいおじさんがいるから、むこうにいって、て』

 レクシア!?他に思い当たる人がいない。

 でも、魔力反応が…。

 

 クロノが走って戻ってくる。

「おい!奥に行けないぞ!!」

 

 

              :美海

 

 バルムンクを構えた私は、空間が変化するのを感じていた。

「分かるか?貴様等の紛い物とは違う本物の魔導が!!」

 異界構成。

 一言で言ってしまえば、固有結界みたいなものと思って貰えばいい。

 だが、空間が丸々異界化する為、破るのは普通の魔導士には無理だろう。

 

 バルムンクの蒼い光が私を包み込み、異界の影響を遮断する。

 

 神聖剣・バルムンク。

 それが、正式な銘である。

 正真正銘、本物の神が造った剣である。

 初代聖王が所持していた剣で、この剣を神から授けられたのが聖王の名の由来だ。

 初代から私が現れるまで、宝物庫の肥やしになっていた。

 聖王王城内で襲撃された際、武器を求めて入り込んで勝手に使ったのが、付き合いの始まり

である。盛大に叱られたけどね。思えば、あれも嫌われる原因として大きいよね。

 バルムンクは何でも切断し、それは概念レベルに達している。

 一番の効果は斬ったものを、滅ぼす事だ。

 毒のように、一度斬られれば一巻の終わりという物騒な聖剣なのだ。

 蒼い光は使用者を護り、強化する。

 完全なるチート武装である。

 

 アレは哄笑を上げながら、私の周りに魔力の爆弾を生成する。

 面制圧でご挨拶か。

 ニヤリと嗤いながら指を鳴らす。

 私の周囲が吹き飛ぶ。

 私はバルムンクを手に無視して突撃。

 バルムンクを一閃する。

 爆風ごと真っ二つに切り裂き、アレの間合いに侵入しようとして、直前で飛び退く。

 丁度、踏み込む位置が、空間が歪みガラスが割れるような音を上げて、崩れる。

 飛び退くと同時に私は魔法を発動。

「フレースベルグ」

 ベルカの魔法陣が一瞬で展開され、魔法が崩壊した空間を盾に、弧を描いて放たれる。

 アレは余裕の表情で、腕を振り魔法を握り潰す。

 魔力の残滓が潰された場所から上がる。

 

 即座に私は別の位置から、突撃。

 無数の炎熱刃が私を焼き斬ろうと迫る。

 バルムンクで全てを消し去る。

 それを待っていたように、アレが腕を振る。

 私の周りの空間が、隔離される。

 空間が崩壊。

 ()()()()()()()()()()

 アレがニヤリと嗤おうしたが、慌てて飛び退く。

 が、遅い。

 アレの片腕が斬り飛ばされる。

 アレが咄嗟に肩口を削る。

 空中で腕のみが霧状になって消えた。

 

「ッ!!」

 アレが何もない空間を凝視する。

 私の姿がそこから突然現れたように見えただろう。

 

 仮装行列(パレード)

 位置情報を偽り、相手に術者の居場所を誤認させる魔法。

 一瞬、フレースベルグで注意を引いた隙に、発動していたのだ。

 

「貴様!正気か!?こちらには人質がいるんだぞ!!」

 私は鼻で嗤ってやる。

「人質?私は死んだ人間より、生きた人間を優先する主義だ」

 語外に人質など無意味と伝える。

 大体、アルハザードの連中が、人質を無事に返す事はない。

 アレの余裕は、人質になる人間を手に入れたとでも、思ったんだろう。

 

 アレの歯ぎしりが聞こえる。下品だぞ。

 アレが無事な腕で、斬り落とされた切断面に触れる。

 新たに腕を生成した。軽く動かして調子を確かめる。

「残念だな。この世界にいる限り私を殺す事は出来ないぞ」

 余裕を保ててないぞ。

 

 残念なのはそっちだ。

 自分の世界で自由に出来る奴が、相手なら無敵だったろうに。

 だが、私にはバルムンクの護りがある。

 干渉力に注意を払う必要は、あまりない。

 

 そして、仮装行列(パレード)は未だに発動中だ。

 この魔法と私のスピード・身のこなしが加われば、私を捉える事など出来ない。

 幻影と思えば、実体。実体と思えば幻影。

 武術的な動きと魔導の動きで、ほぼ実体と区別がつかない幻影が意思を持って動いている

ようなものだ。

 アレをいいように翻弄する。

 

 アレに細かい傷が量産される。その度に、傷の周辺をパージする。

 私は高速で踏み込み、アレの爪先を踏みつけて動きを止める。

「!!」

 卑怯だって?ベルカじゃ、当たり前にこのくらいやる。砂で目潰しとかも有りだ。

 アレは振り上げられた剣に反応して、魔力刃を造り出すが、刃が振り下ろされる直前に、

自ら足を斬り落とし、離脱する。そう、魔力刃なんて無駄だ。それごと斬るからね。

 私は斬られた足を横に蹴飛ばし、追いかける。

 アレは脚を既に生成している。

 アレが魔法を発動する。

 私の時間がゆっくりになり、アレの時間が早くなる。こっちにスローのデバフ。

 アレが素早くバルムンクの反対側に回り込み、踏み込む魔力刃を振るう。

 バルムンクで、自分に掛かる魔法の効果のみを斬る。

 アレが斬り込むギリギリで斬った為、刃はもう数センチで私に届く位置にある。

 咄嗟の寸止めは出来ていなかった。

 私はほんの僅かな動きで、魔力刃を躱し、バルムンクに注意が向いているアレにカウンターで

肘打ちを顔面に打ち込む。魔力強化した一撃は、顔面を破壊する威力がある。

 アレが後ろに倒れ込むように躱す。

 体勢が崩れたアレに、私は容赦のない前蹴りを打ち込み吹き飛ばす。

 アレが仰向けで咳き込んでるが、私は思わず追撃を止めてしまった。

 

 アレから、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんだ、ありゃ?

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で正体を探る。

 

 アリシアの身体に別の情報体が入り込んでいる。それはいい。アレだから。

 だが、はみ出しているのは、正真正銘のアリシアのものだった。

 おいおい。

 おそらくは、自分が死んだ事に気付いていない所為で、ずっと眠っていたのだろう。

 自分自身の身体で。情報を精査するとそういう事だと思う。

 アレの魔力が消費され、支配が少し緩んだ所為もあるだろう。

 

 一度、見ちゃったからな。取り敢えず…。

 

 私はバルムンクで地面を斬り付ける。

 地面の表面が、霧状に宙に舞い上がり、姿を隠す。

 制御を失敗すると庭園ごと壊してしまうので注意だ。

 空いた手にシルバーホーンを取り出す。

 幻影と実体で、動き回る。アレの魔法の照準にロックオンされないようにする。

 広範囲攻撃魔法で、対抗するが、術式解散(グラムディスパージョン)で発動を阻止する。

 幻影を囮にアレにサイオン徹甲弾を打ち込む。

 

 この世界でのサイオンは、魔力を実態ではないものに作用するようにした魔力を指す。

 それを徹甲弾という形で撃ち出す。

 

 幻影に気を取られていたアレは、躱せずに直撃した。

 情報体が引き裂かれ、貫通する。

 見事に、アリシアの情報体が体外に出ていった。

 アレは自分の面倒で忙しい。

 

 私は素早く、アレに接敵する。

 アレが気付いて、面制圧を掛けてくるが、それをバルムンクで迎撃し、身構えるアレを素通り

する。

 アレが驚くが、無視してサイオンを纏った腕でアリシアを保護する。

 アリシアを後ろに庇い。アレと対峙する。

 アレの顔は、屈辱で歪んでいた。

『んっ…うん?』

 アリシアの意識が戻ったようだ。ただの情報体ではあるけど。

「起き抜けに悪いけど。悪いおじさんがいるから、道は造るから、向こうに行っててくれる?」

 寝惚けた様子のアリシアが、訳が分からないままに頷いた。

「じゃあ、いくよ!」

 私は、バルムンクを横薙ぎする。

 蒼い光が、異世界と化したこの場所を切り裂く。

「走って!!」

 破砕音が響き渡る。

 アリシアが大声にビックリして走り出す。

「舐めるなぁぁぁーーー!!」

 アレが阻止しようとするが、私が立ち塞がる。

 蒼い光が、アレの魔力を吹き散らす。

 アリシアは余波で吹き飛びながら、出ていった。

 

 直後に空間が異世界に戻る。

 

 私はニヤリと笑ってやった。

 アレは屈辱に震えている。

 

「さて、そろそろ決着といこうか?」

「ああ、お前の死という決着をな…」

 憎悪の籠った視線をアレが向ける。

 

 アレが術式の構築を開始する。

 私は術式解散(グラムディスパージョン)で構築を邪魔しようとして、横に跳んだ。

 私のいた場所が、陥没する。

 よく見ると、地面から腕が伸びている。

 なるほど。

 地面から次々と人型のゴーレムが立ち上がる。

 術式解散(グラムディスパージョン)は、対象は1つのみ、多重発動しているものは最初の一つしか打ち消せない。

 魔法の弱点を的確に突いてきたね。

 

 あるものは武器を生成し、あるものは魔法を展開する。

 ただのゴーレムではなく、死霊が宿っている。死霊魔法の併用か。

 私はシルバーホーンを血中に戻し、埋葬剣・オルクスを取り出す。使用頻度高いね。

 二剣を構えると、それを待っていたようにゴーレムが殺到する。

 

 私は獰猛に笑う。こういう感覚は久しぶりだ。沸き立つような興奮。

 

 四方八方からくる攻撃を捌く。

 二剣を互いに補うように、攻撃の継ぎ目を消すように振るう。

 一切の停滞はない。流れるようにゴーレムを切り裂いていく。

 魔法は魔力弾を撃ち込んで、その場で爆発させる。

 私は爆風ごと前面にいるゴーレムを斬る。前面の爆風を消し、屠ったゴーレムを飛び越える。

 他のゴーレムは爆風が消されずに、巻き込まれている。

 

 主の元に行かせまいと襲ってくるゴーレムを、二剣で斬り倒し、薙ぎ払いつつ、疾駆する。

「フレースベルグ!」

 用意する砲門5つ。

 同時に発射する。着弾点から爆発する。

 5つ砲門のみでゴーレムをほぼ殲滅する。元々殲滅魔法だからね。ベルカじゃ。

 魔法の効果を及ぼさない範囲が1つ。

 見付けた。

 いつまでも同じ場所にいる訳もないしね。

 一番護りが厚い箇所に突撃していたが、これで確実にいる場所が分かった。

 一直線にアレに向かって走る。

 

 アレの顔が見えるまでに接近する。

 アレの口が三日月型に吊り上がる。

 魔法が発動する。

 世界が主の命令に反応し出す。

 世界が急速に縮小していく。世界を使って圧し潰そうとは、剛毅な事だね。

 世界自体が迫ってくる。

「ハハハハハ!!死ね!!」

 アレの哄笑が聞こえる。五月蠅い。

 

精霊の眼(エレメンタルサイト)、完全開放」

 私の要求した特典。精霊の眼(エレメンタルサイト)()()()()()()()()

 あの眼は、情報を読み取るのみだが、私は()()()()()()()()()()

 魔法を作成するだけでなく、相手の魔法もある程度、弄れるようにしたのだ。

 ただし、魔力を馬鹿食いする。

 

 データアクセス…。

 

 データよりコード抽出開始。

 

 コード改変開始。

 

 …完了。

 

 世界が崩れ去り、新たな異界が現れる。

 

 圧し潰す世界の他に、自分の有利が揺らがないように保険を用意していたのは、分かっていた。

 私の中からかなりの魔力が消費される。疲労と倦怠感が襲う。

 だが、私の足は止まらない。

 世界の破片と共にアレのいる場所へ突っ込む。

 勝利を確信している間抜け面が、目の前に現れる。

 あまりの事に、アレの表情は不敵なまま固まっていた。

 

 じゃあ、派手にいこうか?

 

「秘奥・神翼飛翔」

 魔力を武術の技で昇華する。神鳥が羽ばたくように。

 心を無に、二剣が翼のように幾重にも剣閃を幻視させ、全ての剣技要諦を織り込み、連撃と

する。

 まさに、集大成の技。剣の館の秘奥。

 

 アレが防ごうとするが、それすら砕き、両翼がアレを包み込む。血が霧状に霞む。

 バルムンク・埋葬剣の力で世界ごと霧散していく。

 世界が蒼い閃光に包まれる。

 

 轟音。

 

 閃光が止み、私は油断なく構えたままだった。

「貴様…化物…か…」

 アリシアの血に塗れた身体から、黒い煙のようなものが立ち昇っている。

 それも、本物の煙のようにすぐ消えていく。

「よく言われるけど、そういうアンタは何なの?人間とか言い出さないだろうね?」

 イギリスにいる吸血鬼みたいなセリフを吐く。

「我々は神にも等しい力を持つものだ!」

 立ち上がる。傷のあちこちから血が噴き出す。

 黒い刃を手に造り上げる。

「このまま、死ねるかぁぁぁーーー!!」

 黒い刃を振り上げて、突撃してくる。

 

 私もバルムンクを振り上げる。

 

 鋭い金属音と共に刃がぶつかる音が響く。

 

 アレと私が交錯する。

 

 アレが血飛沫を上げて倒れ込む。

 アリシアに入り込んでいたアレが霧状に空中に舞う。

 

『片付きましたな』

 バルムンクが終了を告げる。

 魔力の残量がヤバい。

 

 私はアリシアの死体から流れる血を見て、天を仰いで溜息を吐いた。

 

 

              :飛鷹

 

 クロノが何やら喚きながら戻ってきた。ダセェ。なんて言ってる場合でもない。

 

 ようやく、リンディさんの魔法が効果を現したと、先程連絡があった。

 ホッとする事が出来ない話が、その後、テンコ盛りだったけどな。

 

 次元震がヤバい状態で、応援の局員が投入出来ない事。

 次元震は次元断層に至る1歩手前で、ギリギリ留まったという事である。

 故に、相変わらず船酔いしそうな程に、庭園は揺れている。

 リンディさんは引き続き次元震を抑える為、今いる場所を離れられないと言っていた。

 

 アリシアの幽霊?の話じゃ、ヤツは何かと戦っており、それはおそらくあの黒い靄だ。

 何もせず、待機して成り行きを見守る訳にもいかず、俺達は(主に俺が)疲れた身体に鞭を

打って、進めない地点ではプレシアを引き摺って到着した。

 

 確かに進めない。

 スフォルテンドに調べて貰ったが、結界の一種という事が分かるだけだった。

 それもかなり高度なもののようだ。

 

 なのはとフェイトが協力して砲撃したりしたが、ビクともしない。

 フェイトはかなり必死に頑張っている。ヤツが余程心配らしい。

 

 みんなで色々試していたが、無駄骨に終わった。

 が、変化はやってきた。

 

 結界があると思われる場所が、蒼く膨張したのだ。

「おい!これ、ヤバくないか!?」

「逃げるぞ!!」

 俺のセリフにすかさずクロノが撤退を判断。

 

 クロノが咄嗟に、まだ破壊工作を試みていたフェイトを掴んで撤退。

 俺達も全力で撤退する。

 後ろから爆風を受けて、俺達は前のめりにスライディングするように吹き飛ぶ。

 

 みんなで衝撃と地面を滑って出た埃を吸い込んだ所為で、咳き込む。

「全く、俺達の配慮も…欲しかったぜ…」

 俺の言葉に、みんな概ね賛成してくれた。

 

 これ以上の爆発はないと判断して、戻ると進めるようになっていた。

 さっきの一撃は、やはり結界を破壊していったようだ。

 

 先に進むと別の衝撃が待っていた。

 ポッドは無残に破壊され、アリシアの身体はボロボロで血だまりに倒れていた。

「お前…何したんだよ!?」

 俺の震える声で、ヤツが振り向く。

「あの黒い靄…アルハザードの魔法使いの残りカスが、アリシアの身体を乗っ取って

使ったんだよ」

 アルハザード!?え!?あの黒い靄、あれそうなの!?

 みんな色々な意味で言葉を失っている。

 何かが倒れる音がする。音の方を向くとプレシアだった。ショックで気を失ったようだ。

 無理もないな…。

「お前なら…もっといいやり方があったんじゃねぇのかよ!!」

 俺の怒りにアイツは無表情だった。

「どんな?アレに乗っ取られた人間を取り返す術を私は知らない。手垢の付いたセリフだけど、

その時出来る事をやっていくしかないないでしょ。それは私も同じだよ。私を何だと思ってる

のか知らないけどさ」

 それに、元々死んでいたんだよ?とヤツは付け加えた。

 そこには、寂しさのようなものを感じた。

 

 ヤツは正しい。俺だってなんでも出来る訳じゃない。

 特典を貰った俺でもそうだ。ただ、納得は出来ない。

 

「今は、ジュエルシードをどうにかして、次元震を止めるのが先決だ」

 クロノが冷静な意見を述べる。

 確かに、そうだな…。

「回収してくれるという話だったが、どうする?プランはあるのか?」

 クロノがヤツに問う。

 ヤツの魔力は目に見えて、枯渇寸前といった感じだ。冷静でいられる意味が分からん。

「今の私の魔力量じゃ、厳しいのは分かってたよ。だから、持ってたんだよ。これを」

 ヤツが手を開いて見せると、そこからジュエルシードが8つが浮かび上がる。

「ジュエルシードを使って止めるのか!?」

「毒を以て毒を制す。だね」

 ヤツがニヤリと笑う。

「個数の差は、白い子とフェイト・リニス、それに貴方に埋めて貰う」

 ヤツがグルリと俺達を見渡し、最後にクロノに言う。

「プランを聞こう」

 時間が切迫している為、クロノは簡潔にそう言った。

 

 プランは簡潔。

 ジュエルシード8つに、なのは・フェイト・リニス・クロノで、逆のベクトルの力を暴走させ、

ぶつけて打ち消し、最後に機能の封印を掛ける。という事らしい。

 難しい調整はヤツが担当するという。バランス崩すと終わる話だしな。

 リンディさんは次元震を引き続き抑える事になった。

 残りのアルフ・ユーノは、俺・プレシアの面倒を見る為、待機。

 

「俺は?」

 どうすんの?

「ボロボロの怪我人に参加して貰っても、足手纏いだからいい」

 直球で言うなよ!

 

「んじゃ、いくよ!!」

 参加者4人が頷く。

 8つのジュエルシードが輝き出す。

 ヤツが配った術式を4人が使用する。

 

 一瞬、揺れが酷くなる。大丈夫なのか!?

 だが、徐々に振動が小さくなっていく。

 

 そして、俺は見た。

 

 ヤツの魔力操作・制御を。

 あれだけの莫大な2種類の魔力を、苦も無くコントロールしている。

 あそこまでいくと、芸術と言っていい。

 チッ!差はまだデカいな…。

 

 21個のジュエルシードの輝きが、鈍くなっていく。

 そして、完全に蝋燭の火を消すように、光を失った。

 

「最後に封印。よろしく」

 なのは・フェイトにヤツはそう言った。

 2人は頷き、デバイスをジュエルシードに向ける。

「「ジュエルシード、封印!!」」

『『シーリング』』

 2人の封印砲が炸裂し、見事ジュエルシードは全て封印された。

 

 ヤツが封印されたジュエルシードを回収し、何故かフェイトの前に立った。

 不思議そうな顔をするフェイトに、ヤツはジュエルシードを差し出した。

「貴女が返して上げて」

 ヤツがユーノを見て、そう言った。

 フェイトは暫くジュエルシードを見詰めていたが、ヤツの顔を見て頷いた。

 フェイトはユーノの前に立ち、ジュエルシードを差し出した。

「ごめん。貴方達のジュエルシード…返します」

「こちらこそ、集めるのに協力してくれて…ありがとうございます」

 ヤツとフェイトの気持ちを汲んで、ユーノは礼を言って受け取った。

 これで、ジュエルシードは全て収集を完了した。

 

 

 

 それでも、まだ問題は残っている。アリシアの事だ。

 アリシアの血は拭い去られている。それくらいはしてやろうと女性陣がやった。

 アリシアの幽霊?は、なのはの傍にまだいるようだ。

 時折、ブツブツ独り言を言っている。

 

 ヤツはフェイトに向き合う。

「恨んでくれていいよ」

 こいつ。本当にフェイト優先だな。

 フェイトは首を横に振る。

「レクシアが出来ないって言うなら、出来なかったんだと思う。責められないよ…」

 フェイトは、複雑そうな表情だ。

 直接、会った事がない姉については、複雑な心境だろう。

 

 ヤツが、フェイトに詳細な事情を話している最中に、フッと思った。

 

 ここは、俺の出番だろうか?

 

 なんでもは、出来ないが、肉体は生き返っていたようだし、それなら今出来る事はある。

 その為に、レアスキルにあれを選んだんだからな。

 特典を取得後、スフォルテンドの説明で、デメリットがほぼ解消されなかったと聞いて、

落胆したが、この状況なら、いけるんじゃないか?

 だから、俺は口を開いた。

「俺なら、アリシアを助けられると…思う」

 みんながビックリして俺を見る。

 いつの間にか、意識を取り戻していたプレシアも、何か言おうとしているが、声が出ない。

 アンタ、もう大人しくしてろよ。

 

 ヤツが冷静な声で、口を開く。

「フェイト。そういう事らしいけど、どうする?どうしたい?」

 は?助けられるって言ってるんだが?

「え?…どうしたいって…」

 フェイトも困惑している。

「考えるまでもないだろう?」

 俺の言葉に、ヤツは呆れたように溜息を吐いた。

「今まで死んでいた人間が、生き返る。確かにいい事に見えるね。でもさ。プレシア女史は

不治の病と薬の影響で余命もない。必然的に、フェイトがアリシアの家族になるんだよ?

 今まで存在すら知らなかった者同士で。アリシアが納得する?フェイトの気持ちは?

そういう事、確認が必要でしょ。君だって助けたら、助けっぱなし?助けた後は?放置するの?

協力するとしたら、何をするの?」

 一気に訊かれて混乱した。

 

 そういう事は…確かに必要だった。なんも考えてなかった事を、認めない訳にいかなかった。

 

 プレシアは現金なもので、フェイトに縋るような視線を向けている。

 俺が意気消沈していると、フェイトが意を決して言った。 

「助けてあげて下さい」

 フェイトが俺に向かってそう言った。

「いいのか?」

 俺は、こういう時に助けられるように特典を貰った。

 でも、それを考えなしと切って捨てられ、自信がなかった。

「直接、話さずにいたら…後悔しそうだから…」

 フェイトがなのはと手を繋ぐと、一点何もない場所を見た。

 アリシアを見たのだろう。

 俺はヤツを見た。

 ヤツは特に反応はしなかった。自分で決めろって事か…。

 

 キツイね…。

 

 なら、俺の出来る事は、なんでもしよう。協力も惜しまない。

 俺もそれでビビったら前世と一緒になっちまう。

 

 俺も腹を決めた。

 アリシアの前に立つ。

 

運命改変(カミムスビ)

 俺は祈るように掌を合わせる。

 

 俺がレアスキルに指定した最後の特典。

 はるかかなたの年代記の主人公が持っていた失われた換象の1つ。

 運命の歯車を修復する事で、死者を蘇生させる事が出来る。

 ただし、12時間以内で使わないと手遅れ。

 原作では更に短い。デメリットとして破棄しようとしたが、これが限界だった。

 更に修復は、歯車が支えを失い、落下するまでの短い間に全て修復する必要がある。

 

 俺の眼が金色に変わる。

 違う世界が俺の眼前に姿を現す。

 破損が激しい歯車の群体。

 

 ところどころに黒い汚れがへばり付いている。

 これが、ヤツの言う残りカスだろう。

 これを取り除く必要がある。

 激烈な痛みが襲う。口から謎の呻き声が漏れる。

 それでも、俺は手を止めない。歯車を修復し、汚れを落としていく。

 

 手を止めると、俺の眼に幾何学模様が浮かぶ。

 祝詞のような文句を唱える。増幅言語だ。

 

 俺の眼から幾何学模様が消える。

 修復が完了した。

 

 俺はそれを掌サイズに纏めると、アリシアの遺体の前に跪いた。

招魂回生(タマフリ)

 俺はそれをアリシアに戻す。

 

 少しの時間なのか、実際に大分時間が経っているのか、分からない。

 緊張して蘇生を待つ。頼む、頼む!

 

 失敗したのか!?

 

 焦り出した頃、ようやくアリシアの血色が良くなり、生命活動が確認された。

 俺は溜まっていた息を、吐き出した。

 なのはとフェイトも、アリシアが消えた事を確認したようだ。

 とすれが、身体に戻ったんだろう。

 

 焦ったぜ。でも…出来たんだ。俺にも誰かを救う事が…。

 喜びを今は素直に噛み締めよう。 

 

 

              :美海

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、時間干渉型の能力かな?

 私の再成より上かな。なにしろ私がやると、漏れなくアレが付いてくる。

 アレだけ分離なんて芸当は出来ない。

 

 飛鷹君はホッとしたように脱力している。

 プレシア女史は涙を流している。なんだかね…。

 他の面々は、本当に生き返った事に呆然としている。まあ、当然だろう。

 

 クロノ執務官が、バリアジャケットのコートを脱いでリニスに渡し、意図を理解したリニスは、

アリシアにコートを着せる。

 飛鷹君。思いっきりアリシアの裸、見たね。本人そんな気ないだろうけど。

 そして、クロノ執務官がこちらに向き直る。

「さて、協力はここまでだろ?君も逮捕する。投降してくれ」

 私にデバイスを向ける。

 まあ、魔力は相変わらずガス欠間近な状態だしね。そう言うか。

「断るよ」

 私は、バルムンクを出す。

 凄まじい魔力に、クロノ執務官が緊張が走る。

 

 それでも、引かないようだ。上等。

 

 (フェン)だけでバルムンクの制御は、無茶振りだ。

 他の面々には、逃げて貰おうと思った時だった。

 

 忌まわしい気配が突然、湧きだした。

 まさか…。私が振り返るとゴキブリより会いたくない奴が、浮かんでいた。

「なっ!?決着を付けたんじゃなかったのか!!」

 クロノ執務官が声を荒げる。そんな事言ってもね。

「付けたよ」

 バルムンクに滅ぼせないものはない。確かに消えた筈だ。

 

『運命は余程、お前を殺したいらしいな』

 アレが嫌らしい顔で嗤っている。

 ウンザリする…。もうお腹一杯で、胸焼けがする。

 

「ああ…。これ、俺の所為、だったりして…」

 みんなが一斉に飛鷹君を見る。

 

 飛鷹君の説明を聞くと、彼の能力は運命の歯車を修復するもの。神の設計図に人の身で禁忌に

踏み込む行為。それの使用は、罰が伴うらしい。

 その罰は、倒した敵の復活或いは敵の出現という事らしい。おい!

「それって、最初にリスクの説明をすべきじゃないの?」

「ぐっ!!」

 私の言葉に飛鷹君が言葉に詰まる。

 そんなコード入ってなかったけどな。神様の領分だからかな?

 

 まあ、兎も角、アレの相手は私がしないといけない。だけど…。

「私が相手するけどさ。君は責任取って居残りね」

 私は飛鷹君にそう言い渡した。憑り付かれてでも動きを止めろ。

「しゃーねーだろうな」

 覚悟を決めたようだ。

「それじゃ、貴女達は逃げてね。魔力量がヤバいから、制御なんて期待しないでね」

 バルムンクが私の言葉を援護するように、蒼い光を放つ。

「すぐに、追い付くからよ」

 私達はそれぞれに言った。

 みんな動かない。急いでほしいんだけど。

 

「行こう」

 流石、執務官。冷静な判断をありがとう。

「でも!」

 フェイトが声を上げる。なのはも声こそ出さなかったが、同じ気持ちのようだ。

 リニスは、俯いていたが、徐に顔を上げた。

 

「私は…残ります。私は貴女の守護獣なので」

 

 リニスには、頼み事が済んだら、フェイトのところに行くよう言ってたんだけどね。

 覚悟は決めているようだ。

 

「もう、フェイトと会えなくなるかもよ?」

 リニスはフッと笑った。

「フェイトより手が掛かる人を放置していくなんて、出来ませんよ」

 暫し、見詰め合うが、目を逸らしたのは私の方だった。

 

「それじゃ、付いてこい」

 私はそれだけ言った。もう、気兼ねなくコキ使うよ。遠慮しないよ。

 今までしてたのかって?勿論!

 

「はい!!」

 リニスは力強く頷く。

 そして、フェイトに向き合う。

「それでは、ここでお別れになるかもしれませんが、無理はいけませんよ、フェイト」

 フェイトはオロオロしている。

「もう、会えないの?」

 フェイトが私の方も見る。少なくとも、私はそのつもりではある。

 私は戦闘はもう十分だ。管理局にも関わる気はない。

 

 私は血中からある物を取り出して、フェイトに放った。

 フェイトが慌ててキャッチする。

 フェイトの手には1つの懐中時計があった。

 私のベルカ時代の友人に友情の証として渡された物だ。

「私を見付けた時に、返して。今はそれしか言えない」

 フェイトは私をジッと見詰める。

 私もフェイトを見詰めている。

 フェイトは力強く頷いてくれた。

「フェイト・テスタロッサ!また会おう!なんてね」

 フェイトは苦笑いだったけど笑ってくれた。

 

 そして、3人を除いて全員が退避していった。

 

 振り返るとアレは、まだそこにいた。

「律儀に待ってくれるとは、驚きだね」

『お別れくらいは、させてやろうと思ってな』

 絶対、嘘だな。何か企んでる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、アレと庭園に繋がりがある。

 なるほどね。

 リニスが何も言わなかったにも関わらず、魔力を分けてくれる。

 有難い。

 私はシルバーホーンを取り出し、()()()()()()()。 

「おいおい!何すんだよ!?」

 焦る飛鷹君に私は引き金を引く。

 次の瞬間、青い炎が飛鷹君から上がり、傷が全て治る。

 再成の魔法だ。

 飛鷹君は身体のあちこちを確認している。

「君はフェイト達を護ってくれる?」

「いや、だって、コイツの相手は!?」

 私はバルムンクを振り上げる。

「この庭園自体がアレなんだよ」

「何!?」

 コイツは、相変わらず自分より弱い奴を狙う。

 それが伝わったようで、飛鷹君が全力で飛んでいく。

 

 私は、バルムンクの制御を考えずに振り下ろした。

 

 庭園の半分が落ちた。

 

 

              :フェイト

 

 庭園から脱出しようとしているが、阻まれている。

 黒い靄を纏った壁や配線などが襲ってくる。

 明らかに、レクシアが言っていた存在が邪魔している。

 レクシアの話だと、あれは身体を乗っ取る。

 最大限の注意をしないと、レクシアの邪魔になってしまう。

「ディバイーン・バスター!!」

 なのはが砲撃で道を開いても、すぐに新しい障害が出てくる。

 私達は魔法で強引に道を開いていく。

 

 不意に轟音と共に庭園が大きく傾く。

「不味そうだね。早く脱出したいけど、これじゃ…」

 今は、クロノがアリシアを抱え、アルフがあの人を抱えている。

 前衛が私となのはしかいない。

 私も砲撃を放ち、道を開けていく。

 

 私となのは、交互に砲撃を撃つ。

 魔力量がそろそろ砲撃を撃つには、厳しくなってくる。

 多分、それを向こうも待っている。

 

 庭園の施設と魔導兵の残骸が、こちらに押し寄せてくるのが見える。

 このままじゃ、約束が守れない。

 私は唇を噛む。

 

 私はなのはと視線を交わし、覚悟を決める。

 接近戦をやるしかない。

 2人で突っ込もうとした時、黒い影が私達を飛び越える。

 

 灼熱の砲撃が、前方にいる障害を焼き払う。

 驚いて振り返ると、そこには黒い魔導士がいた。残った筈じゃ!?

「飛鷹君!?どうしたの!?」

 なのはが思わず声を上げる。

 彼は傷が綺麗に治っていた。きっとレクシアだと思う。

「敵は、庭園に憑り付きやがった。俺は護衛に回れってよ!!」

 レクシア…。

 正直、彼の協力は有難い。

 

 回復した彼の魔力に頼り、私達は打ち漏らしを片付ける。

 だが、出口間際に、黒い靄の人型が無数に湧き出してくる。

「退けやぁぁーーー!!」

 彼が魔力弾と共に突撃。私達も後に続く。

 

 どれ程、倒したか覚えていない。

 私も2人共、息が既に上がっている。

 そこを突かれた。

 黒い靄の刃が背後から迫ってきていたのだ。疲労の所為で反応が遅れる。

 ゴメン。レクシア。

 

 肉を貫く音がする。

 でも、私に痛みはなかった。

 閉じてしまった目を開けると信じられないものが見えた。

 あの人が、いた。刃に貫かれて。

「どうして…?」

 私は思わず呟いた。

「ただの、打算よ。残りの命、有効に使った…よ」

 あの人がニヤリと嗤う。

「魔力は覚えたわよ。娘の身体を汚した罪は、重いわよ?」

 あの人は、凄い勢いで、魔力を吸収していく。

『貴様!何をするつもりだ!?』

 どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。

「私と一緒に行きましょう?地獄までね!!」

 あの人が駆け出す。

 あの人がドンドン黒く染まっていく。

 私達は後を追うように走り出す。

 

「無事ですか!?」

 外に出ると、リンディさんがいた。彼女も外の敵を抑えていたようだ。

 立場がある人なのに、脱出しなかったんだ。

「あの黒い人影は!?」

「プレシア…と黒幕です!!」

 黒い魔導士が断言するように言う。

 

 庭園の下には次元震の影響がまだ残っていた。

 虚数空間が小さいながら、覗いている。

 あの人が、こちらを振り返る。

「自分は、本物の…フェイト・テスタロッサ…だって言ったわね?」

 私は何かしないと、と思いながらも動けないでいた。

 なんとか頷く。

「なら、幸せになって御覧なさい。出来るものならね…」

 黒く染まって表情は見えなかったが、私の記憶の中にある笑みに似ている気がした。

 

 そして、あの人は虚数空間へと、身を投げた。

 

『ウガァァーー!!』

 悍ましい悲鳴が木霊する。

 

 私はあの人が立っていた場所まで、走る。

 滑り込むように、下を覗き込む。

 

 あの人は、笑っているように見える。それとも嗤っているのだろうか。

「母さん!!」

 私は叫んでいた。手を伸ばしたのは、母さんが消えた後だった。

 

 突然、腕を掴まれ立たされる。

「行こう。無駄になんか出来ねぇだろう」

 黒い魔導士は、険しい表情でそれだけ言った。

 横にはなのはがいた。私の手を取る。

「行こう?フェイトちゃん」

 なのはの目には悲しみがあった。

 敵だった人なのに。優しくて、強い人だ。この子は。

 アルフも心配そうに私を見ている。

 私は時間がないと分かっていても、レクシアから預かった懐中時計を取り出した。

 レクシアの叱咤が聞こえるような気がした。

「うん。行こう」

 私は母さんが消えた虚数空間を横目に、次元航行船に向かった。

 

「結局、勝てなかったかよ…」

 黒い魔導士が、悔しそうに呻いた。

「いや、勝ったさ、君は。あの大魔導士にね」

 クロノはそれだけ言って先に行った。

 

 

「さようなら。母さん…」

 私はそれだけ告げた。

 

 

              :美海

 

 私は庭園の半分を景気よく斬り落とし、次々と黒い影を斬り倒していく。

 リニスも私の背を護って戦う。ハルバードも器用に使うようになった。

 アレがペラペラ喋らない。やはり向こうが本命か。

 庭園を鰹節みたいに削りながら、進んでいく。

 

 斬り進んでいくと、黒い靄が揺らめく。支配が弱まってる?

 

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、確認するとプレシアがアレを吸い取っている。

 プレシア女史は、ここで死ぬ気か。

 

 なら、私もそれなりの方法で送らないとね。

 

「リニス。大技いくから。後はよろしく」

『しっかりと頼むぞ。駄猫…いや守護獣リニスよ』

 リニスが目を見開いて驚いている。

 まあ、仕事してくれればいいけどさ。

 

 血中から11本の剣が現れる。

 どれも、凶悪な程に凄まじい魔力を放っている。

 

 それが、空中で構えられる。

 

 息を吸い込み、吐き出す。心を無に。

 

「神翼飛翔」

 

 轟音が響き、庭園が吹き飛ぶ。

 

 アースラは上手く離脱したようだ。

 魔力で造った足場に私達は立って、離脱する白い戦艦を見送った。

 

 

「それじゃ、帰るかね?」

「はい!」

 

 私達は地球に一足先に帰還する。

 

 

              :???

 

 ふむ。敗れたか。

 当然と言えるだろうね。

 

 モニターに映る姿を見ながら、笑う。

 元気そうで何より。

 そして、面白い力を持っているね。彼は。

 これだから、生きる事は楽しい。

 

 玩具は、もっと凝ったものを用意しなくてはね。

 

 笑い声だけが部屋に木霊する。

 

 

 




 遂に飛鷹君のレアスキルが出たので、特典のまとめです。

 美海

〇魔法科高校の劣等生の魔法・技・技術全て。
 エレメンタルサイトの強化。再成のデメリット破棄。
 魔法の才MAX
 (再成のデメリットは、世界の修正で痛みの倍化なしのみ)
〇剣を複数を浮かせて、達人と大差なく使えるようになりたい。
 (剣聖操技とベルカで呼ばれる)
 武術の才MAX
〇ゲットバッカーズの赤屍蔵人の血液能力。レアスキル指定。

〇ベルカで英雄となった功績で、英霊化の特典が付けられる。
 本人は望んでいない。

 他にも再現出来そうな技術を再現している。
 他の魔法・剣技はベルカ時代に現地で努力で習得したもの。
 血液中には、ベルカ時代に使っていた武器などがそのまま入っている。


 飛鷹

〇ダイの大冒険の剣技・闘気技全て
〇ストレイトジャケットの魔法全て
 (世界の修正でミッド式の亜種となっている為、呪詛の発生等なし)
〇はるかかなたの年代記の主人公が持つ失われた換象の1つ白金の換象。
 デメリット破棄
 (世界の修正で使用リミットが12時間以内になった以外、変化なし)


 となっています。
 
 去年の私にお前、二次小説の連載始めるぞっと言ったら、それはない
というでしょう。今でもよく思い切ったと思います。我ながら。
 無印はあと1話あります。
 あれをやってませんし。

 では、よいお年を。


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第25話 暫しの別れ

 奇跡的なスピードで投稿出来ました。
 まさに、奇跡。
 これで、運使っていいのか?
 前回、説明不足だなと自分で感じたところを解説させたり
 してます。

 では、お願いします。


              :クロノ

 

 僕達もあれから無事にアースラに帰り着いた。

 時の庭園は吹き飛んで、跡形もない。よく生きて帰れたものだ。

 

 帰り着いた直後、フェイト・テスタロッサが、僕に両手を差し出した。

 逮捕を求めている。

 アルフも無念そうではあったが、暴れなかった。

 でも、僕は手錠を掛けずに、その手を下ろしてやる。

 集まってきた局員に、僕は言った。

「被疑者2人が自首してきた。誰か、案内を」

 フェイトが僅かに驚いたようだった。

「了解!」

 女性局員が、フェイトと使い魔・アルフを連れて行こうとした時だった。

「あ、あの!」

 なのはがフェイトを呼び止めた。

 フェイトがなのはを振り返る。

「貴女達にも迷惑かけて、ごめん」

 フェイトは俯き気味にそう言った。

「全然!大丈夫!」

「どうして…そこまで、よくしてくれるの?」

 フェイトが戸惑ったようにそう言った。

「最初は、何か辛い事情がありそうだし、助けて上げられればって思ったからだけど…。私ね、

貴女と友達になりたいんだ。やっぱり、そういう理由だと思うんだ。単純に」

 なのはのセリフにフェイトがどうしたらいいか分からないようだった。

 アルフもフェイトを窺っている。

「取り敢えず、返事に悩んでいるなら、ゆっくり考えたらいいわ。なのはさんだって待って

くれるわ。ね!」

 ここで、リンディ艦長が助け舟を出して、なのはにウインクしてみせる。

「はい!」

 なのはが思わず頷いていた。

 

 

 それから数日後、2人の事情聴取を終え、僕は報告書の作成をしていた。

「クロノ君!捗ってる?」

 副官のエイミィがノックもなしに入ってくる。いつもの事だが…。

 手には、コーヒーを乗せたトレイを持っている。

「難航してるよ」

 僕はそれだけ言って、コーヒーを貰う。

「どうして?被疑者死亡で解決っていうのは、よくない結果だったけど。次元断層を防いで、

ロストロギアを無事全て回収。状況からいったらよく解決したと思うけど?」

 エイミィが惚けた事を言う。

「本気で言ってるか?」

 僕は眉間に皺を寄せて、問い質す。

「あ~。ゴメン」

 空気を軽くしようとして、言ってくれたのは分かっているけどね。

 今回は素直にそれに乗れなかった。

 

 今回は問題だらけだ。

 第一に、被疑者であるプレシアを一度は捕らえたにも関わらず、逃亡を許し、死亡させた事。

 (正確には逃亡とは違うが、広義に置いては逃亡という扱いである。)

 第二に、飛鷹のレアスキルとアリシアの蘇生。アリシアの今後の扱い。

 第三に、剣王のスキル継承者の発見と取り逃がした事。

 第四に、アルハザードの魔法使いの残滓の存在。

 

 第一は、確実に僕の失点である。第三の取り逃がしも同様だ。

 そして、第二以降は、正直に報告しようものなら、管理局の理性の箍を外し兼ねない。

 それを想像するだけで、頭痛がする。

 アリシアの扱いに関しては、死亡が当時、確認されている為、説明が難しい。

 下手な説明をすれば、アリシアは研究対象になってしまう恐れもある。

 

 色々と()()()()()()()()を書くのは、難しい。

 挫けそうになるよ。全く。

 

「今、差し支えない真実を材料に、物語を作成中だよ…」

「ああ…。お疲れ様」

 

 エイミィが誤魔化し笑いをしながら、執務室を出ていく。

 エイミィには、後で埋め合わせをしないとな。

 

 更に不味いのは、艦長にまで、責任の声が上がる可能性がある事だ。

 プレシアの逃亡及び死亡は、艦長が応援を送らない決断をした所為とも言えるからだ。

 次元断層に至る一歩手前の状態での、局員の追加動員は出来ないと判断した艦長が間違って

いるとは思わないが、そう思う上層部も多いだろう。

 

 僕は溜息を吐くと、エイミィが持って来てくれたコーヒーを啜って、再び執筆活動を再開した。

 

 因みに、飛鷹はあの後、散々に油を搾ってやった。

 

 

              :リンディ

 

 エイミィからの報告で、クロノは随分と報告書の作成に頭を痛めているようだ。

 こちらが何も言わなくとも、フォローしてくれるあの子に感謝しなくちゃね。

 

 私は、食事を持ってフェイトさんのところへ向かっていた。

 一緒に食事しながら、話す為だ。

 実は、何回か食事を一緒に食べている。

 色々と1人で背負い込んでしまう子のようだし、少し心配だったから。

 

 留置所に着くとノックして、返事を待つ。

「は、はい。どうぞ…」

 戸惑った声で返事が返ってくる。

 留置所にいる自分にノックするなんて、と思ってるのだろう。

 あの子は確かに法を犯した。でも、私個人はこの子が犯罪者とは思っていない。

 ()()()()、いいように使われただけだと思っているから。

 

 中に入ると、2人共座ったままだった。

 最初のうちは、アルフはフェイトさんを護るように立ち塞がっていたけど、今は少しは信じて

くれたみたいね。

「食事を持って来たわ」

 食事の入ったカートを中に入れる。

「アンタも変わってるね。艦長だろ?」

 思わず苦笑いが漏れる。

 私も人の親だから、どうしても気になってしまう。いい事ではないわね。

 

 フェイトさんは、私に会釈すると自分の手に視線を落とす。

 手には、懐中時計が握られていた。

 レクシアさんから預かった物だ。

 特に逃亡や不都合な魔法が仕込まれている訳ではない為、こちらで預からなかった。

 精々、蓋を開けると音楽が鳴るくらいのものだった。

 エイミィが調べたところ、とんでもない高額な品のようだけど。

「フェイトさん。食事にしましょう」

「あ、はい…」

 3人で食事を始める。

 

 フェイトさんは、プレシアの言葉の意味をずっと考えているようだった。

 私も、デバイスの映像データを確認した。

『なら、幸せになって御覧なさい。出来るものならね…』

 フェイトさんはあれが呪いの言葉だったのか、それとも祝福の言葉だったかを、ずっと考えて

いる。

 本人は既に死亡しているのだから、確認する事など出来ないが、安易にあの言葉を祝福の言葉

とするには、私は汚い世界に身を置き過ぎている。

 プレシアはフェイトさんを庇ったのは、打算だと言っている。

 その言葉に、おそらく嘘はない。

 愛情が芽生えたという事ではないだろう。

 プレシアは、最後までアリシアさんの事だけを気にしていた。

 そういう人物が、土壇場で改心する事がないとは言わない。

 だが、私の経験ではレアケースだ。

 

 勝手な推測になるが、プレシアはフェイトさんにアリシアさんを見捨てられないように楔を

打ったのだと思う。自らの命で。そして、フェイトさんは、この楔を無視出来ない。

 最後の言葉も、楔の1つ。

 そして、アリシアさんの復活に同意してくれた礼みたいなものも、混じっているだろうと

思う。

 我ながら嫌な事を考えるわね…。

 管理局員としての自分の推測は、残念ながら、そう的外れという事はないだろう。

 

 少しでも、この子の背負っているものを軽くしてあげたい。

「ねぇ。フェイトさん。やっぱり、プレシアの言葉で悩んでる?」

 フェイトさんは少し考えてから、頷いた。

「気が付いたら、考えちゃいますけど…」

 だから、私はこう言うしかない。

「私はこう思うのだけど。生き方次第じゃないかって」

「生き方?」

 私は頷く。

「プレシアの言葉を呪いに変えるも、祝福に変えるも、フェイトさん次第だと思うわ。プレシアの

言葉を気にするあまり、不幸になってしまったら、それは呪いになってしまうわ。でも…」

「幸せになれば、祝福に変わりますか?」

 私は、笑顔で頷いた。こんなのは詭弁ね。嫌な大人になってしまったわね。

 フェイトさんが不意に苦笑いした。

「どうしたの?」

「レクシアに…。流されるだけで、考えないと生き方が雑になるって言われました」

 取り調べでも、レクシアさんはフェイトさんに、考えるよう促していたと供述していたわね。

 彼女が、スキルを継承した剣王の人生からきたセリフだろう。

 フェイトさんは、少し寂しそうな顔をした。

 

 そして、フェイトさんが悩んでいる事が、もう1つ。

 それは、レクシアさんの事。

 彼女は、いつの間にかフェイトさんから自分の個人特定に繋がる記憶を、消していたのだ。

『私を見付けた時に、返して』

 彼女の言葉は、記憶を消した事からきていたのだ。

 彼女の場合は、もう会う事はないという意味ではないから、救いはある。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という意味なのだから。

 そこには、ある種の愛情がある。

 フェイトさんも、それは理解している。彼女はハッキリと告げているから。

 それでも、寂しいのだろう。

 レクシアさんの情報を、管理局に話すかもと疑ったようなものだから。

 

 それから、会話は弾む事無く食事を取り終えた。

 

 焦らずに、じっくり話していけばいいわよね?

 

 

              :フェイト

 

 リンディ艦長には、物凄くよくして貰っている。

 さっきも、一緒に食事をしたところだ。

 ただ、ずっと誰かと一緒に食事っていうのは、あまりした事がないから、どうすればいいのか

分からない。勿論、アルフやリニスと一緒に食事した事はあるけど…。なんか違う。

 

 留置所は、考え事をするには丁度いい。

 母さんの言葉については、考えても答えは想像するしかない。

 でも、都合のいい解釈は、出来ないのは分かる。リンディ艦長の言葉でも、それが分かる。

 気が付けば、この事は考えてしまうけど。考えてもどうしようもない事は分かる。

 

 レクシアの事は、探せばいい。多分、見付ける手掛かりはある筈だ。

 レクシアから預かった懐中時計を見詰める。

 記憶に関しては、文句を言わないといけない。

 

 今、私が悩んでいるのは、なのはの言葉だ。

 友達になりたいと言っていた。私と。

 友達…。何をすればいいんだろう?何が出来るんだろう?

 多分、私はレクシアがしてくれたみたいな事は、出来ないと思う。

 私は犯罪者になってしまっている。なのはにとって私は迷惑な存在なんじゃないかな?

 なのはは、強くて優しい子だから、言ってくれた事なんじゃないかな。

 あの子には、周りに優しい人が沢山いる。

 私のような人間が傍にいるべきじゃない。

 レクシアみたいに、管理局の法なんて、どうでもいいというとんでもない考えは、あの子には

ない。

 レクシアは犯罪だと分かっていても、考えて納得するまでやれ、と言った子だ。

 私が犯罪者でも、友達がどういうものか分からなくても、気にしないだろう。

 多分、レクシアとは気楽に付き合えるが、普通の感覚のなのはには、応えられない後ろめたさの

ような感情が出てしまう。

 

 

 やっぱり、私はなのはと友達になれない…。

 

 私にはなのはの想いに、どう応えればいいのか分からないから…。

 

 折角、言ってくれたけど、無理だろう。

 

 答えは決まった。

 

 

 断ろう。友達にはなれないって言おう。

 

 だけど、あの子の才能は凄い。短期間にあれだけの成長をするんだから。

 将来は、凄い魔導士になるだろうな。

 いつか言えるかな。あの高町なのはの成長に自分は貢献したんだって。

 流石に図々しいかな。友達になれないのにね。

 

 そうだ。最後にあの子の糧になるくらいは、出来るかもしれない。

 友達になれないなら、せめてこれくらいはしてあげよう。

 

 それで、終わったら私の結論を言おう。

 

 私は、留置所の入り口にある人を呼ぶボタンを押した。

「どうしたんだい?フェイト」

 今まで、動かなかった私が突然、人を呼んだのでアルフが不思議に思ったみたい。

「うん。考えが纏まったから、お願いしようと思って」

 アルフが更に不思議そうな顔をする。

『どうかした?』

 留置所の警備をしている女性局員の声が、ドア越しに聞こえる。

「すいません。リンディ艦長に取り次いで貰えませんか?空いてる時間でいいので」

 

 全力でやろう。

 

 

              :なのは

 

 あれから、フェイトちゃんとは会えていない。

 時々、リンディさんからフェイトちゃんの様子を聞いたりするけど、凄く悩んで

いるみたい…。どうも、私の言葉も原因みたい。

 

 でも、私はフェイトちゃんと友達になりたかった。

 伝えて置きたかったんだ。

 フェイトちゃんを支える1人になりたい。

 

 だから、後悔はない。

 うん。だから、待つよ!

 

 そして、今も私は修練を欠かさない。

 今日も飛鷹君と一緒に結界内で訓練をしている。

 前までは、ユーノ君もいたけど、ジュエルシードの回収が無事に終わって、今はアースラに

滞在している。いつまでも飛鷹君の家に、お世話になるのも悪いって。

 

 近接戦闘の相手を飛鷹君にして貰い。

 その次が空戦。

 勿論、基礎訓練も疎かにしたりしない。全ては基礎あってこそだもんね。

 

 そして、最後に試行錯誤の時間になる。

 

 実は、そんな事をしてるのは、私がアリシアちゃんの姿を見る事が出来た理由に関係する。

 スフォルテンドの分析では、私の魔力同調する力が関係しているんだって。

 幽霊も思念の1つ。思念も魔力の1つの形だから、同調出来る?とかなんとか。

 つまり、私は幽霊も見えるって事でいいのかな?今まで見た事ないけどって言ったら、

その時は、魔法が使えなかっただろうって言われた。そんなものかな?

 

 兎に角、そんな事が出来るなら、相手と同調する事で、出来る事があるんじゃないかって、

飛鷹君が言った事から、色々試してる最中です。

「う~ん。やっぱり予想通りだな。チートだな」

 飛鷹君がそんな事を言った。

 飛鷹君にチートとか言われたくないんだけど。

 結果としては、結構上手くいったかな?といった程度。

 集中しなくちゃいけないから、そんな精度はよくないんだけね。

 

 同調能力から、切札となる魔法の作成は、いい感じだよ。

 1回試し撃ちしたら、結界が吹き飛び掛けた。

 飛鷹君が冷や汗というか脂汗というか、汗をダラダラ流していた。

「俺も、結界構築の腕を上げないといけないようだな…」

 なんか、飛鷹君が遠くを見てた。

 目も虚ろだった。

 

 飛鷹君と訓練をしている最中に、アースラから連絡が入った。

 ウィンドウが開くと、リンディさんだった。

『なのはさん…。今、いいかしら?飛鷹君も一緒ね?』

 私と飛鷹君が顔を見合わせる。

 なんか、リンディさん、言い辛い事があるみたい。

「大丈夫ですけど。何かあったんですか?」

 私が訊くと、リンディさんが思い切って口を開く。

『フェイトさんから、申し出がありました…』

 フェイトちゃんから!?

『あの…。ガッカリしないでね?』

 え?

 

『決闘を申し込むと、言っています』

 

 

 ええ!?どういう事態になっちゃったの!?

 

 

              :飛鷹

 

 決闘イベント。

 立ち消えしたかと思ったら、こんなとこでやんのか。

 もう、全部終わってるぞ?なんでやる必要あんの?

 曰く、決着が付いていないとか…。

 ああ、そう言えば、彼女はバトルジャンキーっぽかったよね。ちょっと。

 

 なのはも、友達になってくれるものだと思っていたから、意気消沈していた。

 すぐに思い直して、決闘に向けて切り替えたけどな。

 なのはが決闘を受ける事で、アースラ側も決闘の許可を正式に出した。オイ!

 そこから、試行錯誤中の技術の実用化に取り組み。

 

 そして、遂になのは最強の殺し技が完成した。

 俺もアニメ知識を動員して協力した。

 けど…ちょっと早まったかもしれない。

 前回の試し撃ちですら、結界が吹き飛び掛けたのに、更に威力が上がった一撃を撃つという事

で、シェルターに迫る程の結界を組んだ。魔力馬鹿食いです。

 

 結果はと言えば、フリーザすら爆殺出来るね。

 とんでもないものを、作成させてしまった…。どうしよう。

 

 あれ、フェイトにぶつけるの?マジで?非殺傷設定でも不安が残るよ。

 

 

 そして、決闘の日が来る。

 

 

              :クロノ

 

 前代未聞だ。

 今の時代に決闘なんて…。頭痛がする。

 艦長は、それで区切りが付くならと言っているけど。

「クロノ君も、よく納得したね?」

 エイミィが面白そうに話し掛けてくる。

「納得する訳ないだろ。艦長命令だよ」

「まあ、そうか」

 分かってるなら訊かないでほしいが。

 僕は不機嫌なのを隠してもいないからな。

「それより結界は?飛鷹の進言だと、最大級に強固なものじゃないと、耐えられないそうだぞ?」

「うん。それは大丈夫。飛鷹君・ユーノ君の協力もあって、5重の結界になってる」

 流石にそこまでやれば、大丈夫だろう。いくらなんでも。

「それと、障害物の建造物を配置。どれだけ暴れても大丈夫!」

 エイミィが嬉々としてコンソールを叩いている。

 ここでの戦闘データも取る気満々だな。

 

 両陣営の様子が映される。

 

 なのは側は、飛鷹とユーノがセコンドのように、色々アドバイスしている。

 フェイト側は、アルフのみ。当初は艦長が付き添う案もあったが、本人が断った。

 自分だけ艦長が味方みたいに付くのは、フェアじゃないと言っていた。

 因みにアルフは、主人に最初に応援の言葉を掛けた以外、会話は特にない。

 

 審判役は僕なので、そろそろ行かないとな。

 僕は審判役だけでなく、いざとなった時に、救助も担当する。

 当然、飛鷹・ユーノ・アルフも救助を手伝う。

 

 僕は結界内に侵入し、両陣営の中間に位置取りする。

「それでは、両者前へ!」

 2人が僕の近くまで飛んできて、向き合う。

「それでは、ルールの確認だ。と言っても、非殺傷設定で臨む事。降参した際は攻撃を中止する

事。あとは、非殺傷設定といっても危険と判断したら止めに入る。以上だ」

 非殺傷設定とは言え、完全じゃないからな。

 2人は、互いに目を逸らさずに頷く。

 それを確認し、僕も後退する。

「それでは、始め!」

 僕の開始合図と同時に、2人はシューティングスタイルにデバイスを移行させる。

「レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

 2人の周りに無数の魔力弾が生成される。

「シュート!」

「ファイア!」

 まずは、撃ち合いからスタートか。

 無数の弾丸が、弾幕を形成する。あるものは、互いにぶつかり相殺。あるものは、交錯し相手へ

向かっていくが、互いのシールドで防御される。

 今は、挨拶のようなものだ。

 徐々に威力が上がり、速度も上がっていく。

 まるで、艦隊の撃ち合いだな。これは。

 ベテランでも目をつぶってしまいそうな魔力弾の嵐の中、2人は互いから目を逸らさず、正確に

魔力弾を撃ち出している。

 フェイトも学習期間は、長いとは言えない。が、なのはは、ついこの間まで素人だったのだ。

 それが、短期間でここまでやる。

 優秀な指導者に恵まれ、才能に恵まれると、こうなるという事か。驚異だな。

 

 威力がドンドン上がっていくが、ここでフェイトが押され始めた。

 防御にドンドン比率が傾いていく。

 魔力弾の威力と弾幕に関しては、なのはが上か。

 堪らず、フェイトがその場を離脱する。

 その後を、なのはが追っていく。

 なのはが後追いの形で空戦が始まる。

 

 なのはが後ろから魔力弾を斉射する。

 フェイトが建造物スレスレを飛び、躱していく。

 建造物が、魔力弾の威力に耐えられずに倒壊する。

 倒壊した建造物が粉塵を上げ、フェイトの姿を覆い隠してしまう。

 なのはが、魔力弾を1つ生成すると投げる。

 空中で魔力弾が爆発し、粉塵が晴れる。

 そこには、フェイトの姿はなかった。なのはの視界から完全に消えている。

 なのはが、ハッとしたように大きく回避行動を取る。

 直後に魔力弾が通過する。

 瓦礫の1つに乗って落ちたのか。それなら移動に魔力を使わずに、なのはの背後を取れる。

 後ろを取られたなのはは、スピードを上げてフェイトを振り切ろうとする。

 攻守交代。

 

 今度はフェイトが、後ろからなのはを魔力弾を撃ち込んでいく。

 なのはとの違いは、建造物を上手く利用しながら、攻撃している点だ。

 わざとなのはの進行方向の建造物を破壊し、進路をある程度操っている。

 経験ではフェイトに軍配が上がっている。空戦技術もフェイトが巧みだ。

 瓦礫を避ける動きを読まれたなのはが、遂に捕捉される。

 雷の槍がなのはを襲う。

 シールドで凌ぐが、その隙にフェイトが間合いを詰め、バルディッシュの形態を鎌に変え、

斬り掛かる。

 なのはも、デバイスを棒に変化させ、迎撃態勢に入る。

 魔力刃と棒が、ぶつかり合い火花が散る。

 なのはが押され始める。近接戦闘もフェイトが上だ。

 なのはが離脱しようとするが、フェイトはそれを許さない。

 互いに高速で飛びながらの打ち合い。

 遂に、なのはが打ち負けて隙が出来てしまう。

 フェイトはその隙を逃さず、バルディッシュを振るおうとして、横に跳ぶ。

 なのはの背後から魔力弾が、円を描くようにフェイトに飛んでいく。

 フェイトとの距離が出来たなのはは、魔力弾を追加して撃ち出す。

 誘導弾。

 フェイトが、回避しつつ全て打ち落としていく。

 なのはが魔力弾を生成し、フェイトに向かっていく。が、今度はフェイトは動かなかった。

 なのはが魔力弾を撃ち出そうとして、何かに足を掴まれたように、つんのめる。

 魔力弾の制御が乱れ、フェイトの横を通過し、爆発する。

 設置型のバインド。

 次々となのはの四肢が拘束されていく。

 

 フェイトは今までにない程、雷の槍を生成していた。

 

 

              :アルフ

 

 あれは、まさか!?

 フェイトは本気みたいだね。でもあの子無事に済むのか?

『プラズマランサー・ファランクスシフト』

 フェイトの切札の1つだ。

 無数に雷の槍が、なのはに降り注ぐ。

 あの子はシールドを展開して防いでいるみたいだけど。いつまでも耐えられる訳がない。

 障害物にも槍が当たって、吹き飛んでいる。

 粉塵で視界が利かない。フェイトは、止めとばかりに巨大な雷の槍を造り出し、放つ。

 直撃したのか大爆発を起こす。

 

 こりゃ、勝負あったかい。救助でも手伝うかね。

 

 そう思ったけど、信じられない光景が目に入った。

 無事だったよ!?どうなってんだい、あの子!!

 バリアジャケットは、かなりボロボロになっているが、ダメージはそれ程なさそうだった。

 なんて頑丈さだい。感心するより呆れるよ。

 

 あの子がデバイスを砲撃モードに切り替えている。

 フェイトは驚くでもなく、離脱しようとして、動きが止まった。

 気が付くと、フェイトの足がバインドで拘束されていた。

 まさか、ファランクスを撃たれる前に!?

 確かに、あの時、フェイトは止まってたけど、フェイトが気付かない程の魔力操作って事だ。

 今度はフェイトが四肢を拘束される。

 

 あの子の魔力が高まっていく。

「ディバイ~ン・バスター!!」

 今までの比ではない程の威力の砲撃が、フェイトに放たれる。

 フェイトが何重ものシールドを展開し、一方でバインドブレイクを試みる。

 砲撃の直撃と同時に、何枚かシールドが砕け散る。

 徐々に砲撃がシールドを砕いて、フェイトに迫る。流石にバインドブレイクを継続できずに

放棄し、防御に全ての力を使う。

 魔力をゴッソリ持っていく程の砲撃。こんなの反則級だよ!!

 

 ギリギリシールド1枚を残し、砲撃をフェイトが凌ぎ切った。

 フェイトが前方に目を向けると、そこにはもうあの子の姿はなかった。

 

 フェイトが上を見上げる。

 

 あの子が上空にいた。

 

 巨大な魔力反応と共に。

 

 

              :飛鷹

 

 長引くと不味いぞ。

 俺とレイジングハート・スフォルテンドは、短期決戦で決める必要があると一致している。

 だが、都合よくそんな事はさせて貰えない。

 

 俺は手に汗握って、決闘を観戦していた。

 なのはが、フェイトと互角に戦えている理由は1つ。

 なのはが同調能力を使いフェイトの魔力と同調し、攻撃のタイミングをある程度察知している

からだ。

 それでも、万全ではない。手練れになる程に、察知と同時に攻撃はもう放った後という事は、

よくある事のようだ。現になのはは完全にはフェイトの攻撃に対応出来ていない。

 おまけに、集中力が滅茶苦茶いるのだ。

 だが、経験で負けているなのはが勝つには、それしかない。

 

 バインドに捕まった。

 ファランクスシフトって、何あれ。実際に見ると普通に死ぬよね。

 建物ごと轟音を上げて吹き飛ぶ。

 

 なのはは無事に凌ぎ切ったようだ。

 バインドでフェイトを拘束したぞ!よし!

 改良版・ディバイン・バスターを放ちシールドを順調に砕いていく。

 フェイトも流石というべきか、凌ぎ切った。

 

 こりゃ、いよいよお目見えか…。凶悪な一撃が。

 

 なのはは、砲撃を撃ち終えると同時に上空に飛び上がっている。

 ()()を使う為に。

 

 ()()()()()()()()()()()が螺旋状に渦を巻き、球体となっていく。

 なのはが片手を天に突き出し、それをレイジングハートと共に制御している。

 使い切れなかった2人の魔力を収束していく。

 

 アニメ知識を動員したって言ったろ?螺旋丸をイメージしたらとんでもない事になった…。

 魔力を収束し糸状に圧縮し、更にそれを球形に編み上げ、圧縮を掛ける。

 それが直撃すれば、まさにお仕置きだべ~の世界になります。すいません。

 

「ちょ!?ズルい!!それ!私の魔力!!」

 フェイトがバインドを外しながら、叫ぶ。

「ズルくない!!受けてみて!私の全力全開!!」

 君の、というには少し微妙なような…いえ、なんでもありません。

 

 はーい。そろそろ救援に向かいますよ。みなさん。

 

『スターライトブレイカー・スパイラルシフト』

 

 だが、原作通りにフェイトが、シールドを多重展開しない。

 おい!?何考えてんだ!?

 なんとか、両腕のバインドを外した段階で、解除は諦めたようだ。

 そのまま、バルディッシュを構える。

 

 え!?あの構えは!

「ぶっつけ本番。だけど、私もただ戦いを見物してた訳じゃないよ!!」

 フェイトがこの状況で不敵な笑みを浮かべる。

 なんかカッコイイな、おい!?

 

 魔改造スターライトブレイカーが放たれる。

 フェイトがバルディッシュに出来る限りの魔力を纏わせる。

「ハアァァァーーーー!!!」

 絶叫と共に、バルディッシュを振り抜く。

 

 魔改造砲に三分の一程の切れ込みが入る。

 完全に斬れなかった。そこまでやれんのかよ!?

 確かに、俺もヤツも魔力を斬って見せていた。

 だが、それをフェイトが練習していたとは、とても思えない。

 おそらくは、本当にぶっつけ本番。

 流石、もう1人の主人公。

 

 繊細な造りになっている分、綻びが生じるとヤバい魔改造砲。

 これは、チョイヤバです。

 

「救援しろ!!」

 クロノが逸早く声を上げる。

 

 中空で魔改造砲が爆発する。

 お仕置きだべ~。

 

 俺達は、救援の為全員突っ込んでいった。死地に。

 

 

              :なのは

 

 目が回ります。世界が回っています。

 負けちゃった?どうなったの?

 

 改造したスターライトブレイカーが、斬られて誘爆して、私も流石に錐揉み状態で吹き飛んだ。

 私自身、今、どうなってるか分かりません。

「おい!!なのは!!大丈夫か!?」

 頬をペチペチ叩かれ、意識がハッキリしてきた。

 目の前に、かなり近い位置に飛鷹君の顔があった。

「にゃぁ~!!」

 ビックリして飛鷹君の顔面に掌底を入れてしまった。

 バチンと凄い音がした。

 

 ゴメン。

 

 なんとか正気を取り戻した私ですが、飛鷹君が流石に不機嫌です。

 こればかりは、私が悪いから平謝りした。

 

 そんな事をやっていると、向こうからクロノ君とボロボロのフェイトちゃんが、アルフさんと

一緒にやってきた。

 

 ユーノ君?私の治療をしてくれてます。ありがとう。ユーノ君。

 

「無事みたいでよかったよ」

 クロノ君は、渋い顔だけど、辛うじてそれだけ言ってくれた。

 周りを見れば、惨事だからね。クロノ君がそうなるのも仕方ない。ごめんなさい。

 フェイトちゃんも、私の無事にホッとしたみたい。

 ありがとう。フェイトちゃん。

 

「決闘の結果だが、引き分けだ。異議は認めないし、これで終わりだ」

 決着が付かなかったんだ。

 あれだけ準備しても、勝てなかったな。

 

 そんな事を考えていると、フェイトちゃんが手を差し伸べてくれる。

 私は手を取って立ち上がった。

「ありがとう」

 フェイトちゃんにお礼を言うと、フェイトちゃんは首を横に振る。

「私が言う事だよ。付き合ってくれてありがとう」

 そう言って、フェイトちゃんは手を離した。

 

「それでね。私、考えたんだけど。やっぱり、貴女と友達にはなれない」

 なんとなく、予感はあった。決闘を申し込まれた時に。

 でも、酷く悲しい気持ちになる。

 フェイトちゃんが慌てて口を開く。

「別に、貴女が嫌いとかじゃないの!ただね。私、友達って何していいか分からないの。どう

貴女に応えればいいのか分からない。それに、私は罪を犯した。多分、貴女に何かしてあげる

のは、難しいと思う。それにね。罪だとは思うけど、悪いとは思ってないの。今は」

 どういう事だろう?

 疑問が伝わったのか、フェイトちゃんが口を開く。

「多分、私はこの罪を犯さないと自分に納得出来なかったと思うの。ユーノ達には悪いとは思う

けど」 

 ユーノ君に慌てて付け足した。誤解はしてないよ。

 ユーノ君も言いたい事が、なんとなく分かるようで、気にしないでって仕草で伝えた。

「母さんの為に戦った自分を、私は否定しない事にしたの。だから、悪いとは思ってない。でも、

罪から逃げたりもしないよ。やった事は犯罪だから。だから、償うよ。そんな私が友達になって

も、迷惑掛けるだけだと思うから。だから、ごめんなさい」

 強くて悲しい女の子だ。

 だからだよ。

「そんなの、幾らでも掛けていいよ」

「え?」

「迷惑。友達にね。何か特別なルールなんてないよ。そんなの多分お互い様だよ。私だって迷惑

掛けると思うし。私は貴女の支えになりたい。支える1人になりたい。だから、名前を呼んで」

 困惑するように、フェイトちゃんが私を見詰める。

「それだけでいいの。戦いの最中、ずっと呼んでくれたみたいに」

 今度は私が手を差し伸べる。

「それだけでいいの?私は…」

 私の手に視線を落として、フェイトちゃんが言う。

「フェイトちゃんは悪くない!私もそう思うよ。それでも罪から逃げないって言った貴女を、私は

尊敬するよ」

 フェイトちゃんは目を見開く。

「いいじゃねぇか。犯罪を犯すと友達作っちゃならないって法律でもあるか?」

 飛鷹君がクロノ君に訊く。

「ある訳ないだろ」

 クロノ君は、眉間に皺を寄せて答える。

「応えたいって、思ってるなら問題ないさ」

 飛鷹君がフェイトちゃんに笑ってそう言った。

 

「迷惑かけるよ?」

 ボソッとフェイトちゃんが呟く。

「うん」

「犯罪者だよ?」

「関係ないよ!」

 フェイトちゃんが驚いたように身体がビクンと反応する。

 

 暫くして、フェイトちゃんは、顔を上げた。

 涙は流していたけど、その顔は笑顔が少しだけ混じっていた。

 

 フェイトちゃんが差し出した私の手を握ってくれる。

 

 

 その日、私達は友達になりました。

 

 

              :飛鷹

 

 友達イベントが済んで、数日。

 アースラの修理を大車輪で働いて済ませたそうな。

 

 アースラが旅立つ時がきた。

 それは、フェイトとユーノの2人との一時的な別れを意味する。

 フェイトは追加の取り調べと、裁判の為。

 ユーノは、スクライア氏族に報告に戻る為。

 

 クロノも原作通り、最後にフェイトに会わせてくれると言ってきた。

 なんだかんだでいい奴だ。

 

 2人は原作通り、リボンの交換を行ったようだ。

 

 近くにいないのかって?無粋だろう?

 勿論、アルフと野郎共は遠くから見守るのみだ。

 今はお別れだが、すぐに会えるさ。

 幸い、クロノが自首扱いにしてくれたし、フェイトは利用されただけだしな。

 

 因みに、リスティ刑事には事の顛末を説明した。

 律儀だな。と苦笑いされた。まあ、礼を言われたからよしとしよう。

 クロノ達からも、報告があったと後で知った。

 そういうの、早く言ってよ。

 

 これから、冬まで鍛錬を頑張っていかねぇとな。

 

 次はこの事件以上の過酷さだろうからな。

 

 

 

              :フェイト

 

 私となのはは、偶然にも同じツインテールなので、分かれにリボンを交換した。

 再会を約束して。

 

 そして、私は再会を誓わなくちゃいけない人がいる。

 

 きっとどこかで見てるよね。

 

 だから、クロノやアルフ・ユーノと一緒に転移する前に私は叫んだ。

 

「ありがとう!!!」

 

 

              :美海

 

 別れの場所は、すぐに分かるよ。地元民ですので。

 一応、そのシーンは覚えていたから、特定は簡単ですよ。1つしかない。

 見渡せる場所に陣取って、私達もフェイトを見送る事にする。

 

 なのはとの感動の別れ。

 もう、私は必要ないね。

 

 仲良くリボンを交換するのを見て、私はホッとした。

 少し寂しさもあるけれど、頼み事は終了だ。

 

 そして、アースラに転移する前に、偶然だろうがこちらを向いた。

 どうした?気付いたって訳じゃないだろうけど。

「ありがとう!!!」

 フェイトが叫んだ。

 

 私は思わず笑みを浮かべてしまった。

 

「挨拶でもしてきたらどうです?」

 リニスが揶揄うように言う。

 喧しい。

「生き方が雑になるんじゃないですか?」

 ほっといていいんですか?と暗に訊いてくる。

「戦闘が人生を豊かにするなんて、ないから!丁寧に生きるのに寧ろ邪魔だって」

「戦闘?戦わなくてもいいじゃないですか。傍にいるだけでも」

 残念。あの子のこれからは、戦闘だらけだ。

 あの子がピンチになったら、巻き込まれるに決まってるわ。

 

 全力回避じゃ、ボケ。

 

 

 それじゃ、幸せを祈ってるよ。フェイト。

 

 

              :???

 

 私の後ろには石碑に似たものが鎮座していた。

 だが、私は完全無視でコンソールを叩いている。

 よりよい作品作りに取り組んでいる。

 

 石碑。正確にはシステムを格納したものだが、それがボウッと光る。

 そこから、赤いドレスを着た少女が姿を現す。

 

「君が出て来たという事は、僕の申し出を受けてくれたと考えていいのかな?」

 僕はそちらには目を向けずに、尋ねる。

「信用なんてしてないわよ」

 僕は思わず鼻で嗤ってしまった。

 ムッとした気配が伝わってくる。

「当然じゃないか。それこそが僕らの流儀だろ?騙される方が間抜けなのさ。君にメリットが

ある話だ。精々、警戒しながら受けるといい」

 彼女がフンッと鼻を鳴らして、石碑状の物に戻っていく。

 

 さて、次の仕込みも上々だ。

 

 再会の時には、よりよい贈り物が出来るだろう。

 

 誰もいなくなった部屋に私の嗤い声が響いていく。

 

 

 

 




 これにて、無印終了です。
 次回からは、いよいよA`sの始まりとなります。
 A`sに関しては、原作+色々+オリジナル風味となる予定です。
 じゃないと、守護騎士が蹂躙されて終わりになりますからね。
 原作と乖離するのは仕方ないかと。

 読んで頂ければ幸いです。


 以下は、興味のある方は、お読み下さい。

 〇神聖剣バルムンク

 美海がベルカ時代に武功を上げ始めた為に、面白くないと感じた
 選定王家の人間が、聖王の居城に美海が呼び出された際に、刺客
 を放った。居城の中では美海は帯剣が認められなかった為、丸腰
 だった美海が、逃げながら宝物庫に偶然辿り着き、魔法で強引に
 扉をぶち抜き、手に取ったのが、バルムンクでした。

 バルムンクはベルカの神から授けられた神剣で、聖王の名乗りの
 由来となっているが、次世代から使用を認められる王が生まれず、
 宝物庫の肥やしになっていた。

 聖王が貸し与えたという体裁で美海の剣になった。
 その所為で、刺客の数が激増したのは余談である。

 


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第26話 足音

 ご存知のキャラクターと名前が同じ別人とでも、思っていただければ。
 あと守護騎士達も少し違う部分がありますので、ご了承下さい。
 関西弁難しいですね。滅茶苦茶でも、野呂盆六だとでも思って下さい(爆)。
 ネタが分からない方は、調べてみて下さい。

 では、お願いします。


              :夢

 

 昔の夢というのは、嫌なものだ。

 今も夢だと分かっているのに、目が覚めない。

 

 夢の中の私は、高速飛行中である。

 これが、どの出来事かも、完璧に把握している。

 どんなに急いでも、間に合わない。

 それが分かったとしても、スピードを緩めるような真似はしなかっただろうけど。

 

 私は、この時、友達を助けようとしていた。

 第五王女なんていう中途半端な身分でも、私は腐っても王族。対等な友達なんていなかった。

 それでも友達が出来た。

 

 切っ掛けは、当代の聖王だった。

 聖王連合諸国の近場で、キール国王の野心満々のエロジ…もとい、自称・邪眼王などと名乗る

残念な王様が、領土の拡大を始めたのだ。

 (邪眼王は、艶福家として有名。妾の数はベルカで1番だった。)

 ベルカの統治者を自任する聖王陛下は、この厨二病患者がお気に召さなかった。

 ただ、相手の能力が分からない。

 何故か、強い。何故か、戦争に大した損害もなく勝つ。

 あの患者の能力が、厨二病を拗らせたものか、美堂蛮よろしくチートなのか確かめたい。

 でも、戦って負けるなど聖王の沽券に係わる。

 そこで、俄かに注目度が上がった国が、聖王連合諸国とキール王国との間に存在する小国・

ヴァリスだった。

 あの国、どうせ侵略対象になってるだろうし、様子見に使えるんじゃね?

 という、軽いノリでヴァリスのテコ入れが決定した。

 そして当時、領土を取り返したりして、調子に乗っていた私にやれというお達しがあった。

 聖王連合が関わっていると、大っぴらには出来ないので、独立戦力で当たれと。

 つまり、私1人。…ヤル気あんのか?

 

 当然、ヴァリス側に、いい感情なんてある筈もなく、当時は苦労した。主に私が。

 ヴァリス王と話すのは、一苦労だった。

 

 ロード・ディアーチェ。

 白に近い銀髪の女性で、傲慢とも取られ兼ねない自信の漲った人物だった。

 彼女の起源はミッドの方らしい。父王が早逝した為に、唯一の継承者である彼女が後を継いだ。

 因みに、ディアーチェは称号のようなもので本名ではない。

 前世の知識の所為で、友達になった後も、私は彼女をディアーチェと呼んだ。

 

 更に厄介な事に、王の両腕と呼ばれる者のうち、左腕の方がアホの子だった。

 レヴィ。

 蒼い髪の女の子で、元気がよかった。威勢もよかった。

 ディアーチェが取り付く島もない受け答えをしている最中も、大声でそうだ!そうだ!と合の手

を入れ、主君を煽る。

 私が外見の年齢通りなら、キレていたところだ。

 それでも、友達になってみれば、天真爛漫な食いしん坊さんだった。愛すべきバカだ。

 魔導騎士としては、左腕と言われるだけあって破格の腕前だった。

 因みに、彼女も本名ではない。例によって、私はレヴィと呼んだ。

 

 そして、右腕。

 彼女は、ヴァリスの常識人だった。

 唯一、私を他国の要人扱いしてくれた人物である。

 私は非公式とはいえ、一応は聖王連合の使者として面会したんだけどね。

 シュテル。

 茶色の髪に理知的な美人さんといった感じで、彼女がいなければディアーチェと会話が、成立

しなかっただろう。武力だけでなく、政治にも関わっていた。

 レヴィが武人とするなら、シュテルは武人であり、将だった。

 友達になっても例の事情によって、シュテルと呼んだ。

 

 仲良くなったのは、ベルカ特有の肉体言語だった。

 余りに、私がしつこいので、ならば実力を示してみよ!となった。

 王本人と両腕対私である。勿論、1対1だ。それを3回。

 結果は、私の3勝。

 それから、私の事を認めてくれるようになった。

 自分達に手を貸す実力があると。

 でも、夕日をバックに殴り合いして友情が生まれるって…古くない?古代でしたね、ここ。

 私としては、やり易くなったんだから、文句なんて言えない。

 

 そして、最後に友達になった人物が問題だった。

 アイツは闇の書、いや、夜天の書のマスターだったのだ。

 夜天の魔導書。

 リリカルなのはA`sに出てくる悪意の改変を受けた悲劇の魔導書。

 よりにもよって、私の友達がマスターとなっていた。

 守護騎士にも実際に会った。現実と理想は違うもの。

 連中は私の知る彼女達ではなかった。

 言ってはなんだが、転生する前の私は守護騎士贔屓だった。

 だが、それを帳消しにして、マイナス反転するくらいの連中だった。

 

 それから、私は客将としてヴァリスに滞在する事になった。

 ちょくちょくキール王国の国境を越えて、みんなと遊びに行った。

「ディアーチェ。アンタは来たら不味いでしょ」

 そう言ったが、聞かなかった。

 嫌がらせとは、楽しいものだ。困った事に。

 暫くは、そんな日々を過ごしていた。

 

 だが、そんな日は長続きしなかった。アイツが突然、倒れたのだ。

 闇の書の呪いが、本格的にアイツに牙を剥いたのだ。

 

 それからの私は、それこそ寝る暇も惜しんで動き回った。他人の手もコッソリ借りた。

 前から諸々の対策を考えていたが、完成を急がなくてはならない。

 厨二病患者が仕掛け難くなるように、本格的に工作をやり、合間に夜天の魔導書から自動防衛

プログラム・ナハトヴァールを抑えるか、停止して、暴走を起こさないようにプログラムを、

アレンジする案を纏める。傍らナハトヴァールを止める道具造り。時間が幾らあっても足りない。

 この頃には、バルムンクを持っていたが、制御が出来なかった為に因果のみを切り裂く事は、

出来なかった。それに切断しても問題ないよう機能しないと意味がない。

 システムをアレンジした方が早い。

 

 アイツには、守護騎士にページを収集をさせて、時間を稼ぐように言って置いた。

 蒐集をしたところで、相手は死にはしない。守護騎士自身が手を下さなければ。

 そう言ってアイツを説得した。

 だが、油断出来ない。

 突如、マスターに対する侵食を、加速させる事もあり得るからだ。

 

 時間がないというのに、本国から一時帰還命令が私に届いた。

 無視していたが、脅迫紛いの文言になってきたので、仕方ないので、少し国に報告に戻った。

 丁度、そんな時だった。

 

 最悪の報が届いたのは。

 

 邪眼王が、僅かな隙を付いてヴァリスに電撃戦を仕掛けたという報告。

 そして、闇の書が暴走寸前であるという報告を受けた。

 

 この時代でも既に、かの書の厄災は有名になっていた。

 事態を甘く見ていた慢心のツケを、私は最悪の形で支払わされる事になる。

 聖王から、何とかしてこいという命令をされるまでもなく、私は全力で飛んだ。

 

 ヴァリスとの国境地域に到達した時、もう邪眼王の旗印を付けた戦船がいた。

 私は怒りに任せて、邪魔してくる戦船を全て叩き落した。

 ヴァリスの国民が、アーヴェントに向かっているのが、分かる。

 それくらいの段取りはしていたが、それを実行したという事は、不味いという事だ。

 祈るような気持ちで、先を急ぐ。

 

 祈りも空しく、既に手遅れだった。

 

 眼下には、紫の魔力の帯が触手のように周囲に伸びて、あらゆるものを侵食を開始している。

 完全な暴走状態。

 これを避ける為に、頑張ったのに。

 これから更に、防衛プログラム・ナハトヴァールは、世界を飲み込み始める。

 その前に、止めなくてはならない。

 

 こうなってしまったら、マスターからのコマンドも、管制融合機のコマンドも受け付けない。

 

 アイツは、敵軍に暴走状態のまま突撃をしたようだった。

 最後に少しでも国の為になる事を、なんて思ったんだろう。

 敵の先鋒が壊乱している。 

 

 私はヴァリスの本陣を見付けると、急降下していく。

 既に本陣にしか騎士はいない。完全に敗北は決定していた。

 私は生き残り本陣に近付こうとする敵兵を、雲散霧消(ミストディスパージョン)で片っ端から消し去る。

 

 私は降り立つと、ディアーチェに詰め寄った。

「どうしてこんな事に!?」

 黒と紫の騎士甲冑を纏ったディアーチェは、無表情だった。

「我も、あのエロジジィと、アイツを見くびっておったのだろう」

 自嘲するように、それだけ言った。

「守護騎士連中は!?」

「奴が、蒐集を容認する訳があるまい。連中も命令がなければ、働く事などない」

 はやての時は、勝手にやってたのに!!

 聞けば、もう取り込まれた後なのだそうだ。

「なんにしても、弱虫の臣下が勇気を見せたのだ。我も付き合ってやらねばな。最も、もう王では

ないがな」

 目の前の惨事を前に、無表情な顔は優しげなものに変わった。

 最早、決意を固めている様子だった。

 

 私は表情に出さないように気を付けていたが、奥歯を噛み締めていないと怒りが噴出しそう

だった。

 守護騎士さえ、もう少し主の事を考える連中だったら、アイツが無事だったら、ディアーチェ

だって違う選択を現時点でしただろう。

 私も守護騎士達の境遇は多少知っている。

 ああなるのも無理はないだろう。

 分かっていても割り切れないだけだ。

 私だって、都合のいい事を言っている自覚はあるんだから。

 そうだ。自分がもっとしっかり工作を、やっていればよかった。

 最初から、工作は信頼出来る連中に任せて、夜天の書の問題に注力すればよかった。

 例え、聖王から文句を言われようと、私の立場が不味くなろうと。

 

 両立出来ない事だったのに、二兎を追った。実力を過信した。

 

 他人を責めるなど、お門違いだ。

 

 私は無様だった。

 

「そのような顔をしないで下さい」

 凛とした声が、私に向けられる。

 私は声の方を向くと、シュテルがいた。

 シュテルは返り血に塗れていた。

「貴女が、この国の…いえ、私達の為に無理をし続けてくれた事は知っています。聖王にバレない

範囲で他人の手を借りていた事も」

 そこで、言葉を切った。

 その顔は、まるで慈母のようだった。

「貴女は、胸を張ってよいのですよ」

 シュテルは、最後にそう呟いた。

「そーだよ!!ありがと!!アーちゃん」

 レヴィが、何の裏もない言葉を放つ。

 レヴィはシュテル以上に真っ赤に染まっていた。

 レヴィは、私の事をアーちゃんと呼んでいた。アレクシアだからと。

 

「して、友よ。この最悪の事態を少しはマシにする方法が、あるのだろう?」

 ディアーチェが私にそう訊いてくる。

 確かに、私はナハトヴァールをどうにかする物を、準備していた。

「このまま、ベルカを心中に巻き込む訳にもいくまい。アヤツは、偶に抜けておる」

 そう言ってディアーチェは苦笑いした。

 だが、渡していいのか?私が責任を取るべきじゃないのか?

「戯け。貴様には、まだやるべき事があろう」

 

 私は観念して、血液中からある物を取り出した。

 

()()()()()()()()()()()

 

 ディアーチェは使い方を聞き、結晶を受け取ると、精一杯の笑みを浮かべた。

 

「さらばだ。友よ」

 

 

 

 ディアーチェ達は、その後、残った騎士達を率いて夜天の書へ突撃した。

 私はそれを見送った。拳を握り締め過ぎて、血が滴った。

 邪眼王の軍は、もう撤退を開始している。逃げ遅れが飲まれている。

 たった1度しか通じない、手段。

 封印というより、活動を封じるが近いだろう。

 ウィルスを流し込んでナハトヴァールを飽和攻撃し、機能停止に等しい状態にする物。

 そして、管理権限を取り戻した管制融合機が、転生を強行する。

 厄災を最小限に抑えて、彼女達はこの世から消えた。

 遺体も残らなかった。

 

 私はこの日、一度に友達を全て失った。

 

 

 

 鳥の囀りが聞こえる。

 目は覚めたようだ。

「また、昔の夢を見たんですか?」

 心配そうな声が上から聞こえる。

 正式に私の守護獣になったリニスだ。

「こればっかりはね」

 見る理由は見当が付く。

 

 窓を開けると、朝日が差し込んでくると同時に、冷気が入り込んでくる。

 最近、空気が冷たくなってきている。

 確実に海鳴に、冬の足音が近付いていた。

 

 

              :はやて

 

 私は夕飯の支度をしとる最中やった。

 最近、空気が冷たくなってきたわ。

 そろそろ、鍋の季節やな。

 今は流石に早いやろうけどな。

 私は器用に車椅子を操り、夕飯を作りながら台所を動き回る。

 

 私に家族が出来て、4ヵ月になる。

 両親が、お星さまになってしもうてから、ヘルパーさんが来る以外1人やった。

 最初に()()()()()()、ビックリしたけどな。

 

 死ぬ時、1人やないだけ、有難いわ。

 

 効率よく夕飯を作り終えると、時間がポッカリ空いてもうた。

 本を読んどってもええんやけど、今は気が乗らん。

 最近は、みんな活動的で、ちょくちょく家を空けるようになってもうた。

 今日は、病院の帰りやったけど、珍しくみんな揃って用事が出来てもうて、出掛けて

もうた。

 出て来たばっかりの時とは、えらい違いや。

 それでも、夕飯には帰ってくるけどな。

 

 こうして、久しぶりに1人でおると、思い出すわ。

 私は、古い本・闇の書を見ながら、出会いを思い出した。

 

 

 私は、いきなり、よう分らん病気になってもうた。

 最初は、よう転ぶようになったな?ってくらいやった。

 学校でまた転んだ。いつもの事や。そう思っとった。

 でも、いつもと違ごうて、私は立ち上げれへんかった。それっきりや。

 最初は、みんな冗談やって思うとった。でも本気で立てへんと分かった途端にパニック

やった。私は救急車で運ばれた。

 最初あった足の感覚ものうなった。

 そこから、車椅子が私の足になった。

 訳が分からんかった。

 私の身体は、医学的にはどこも悪ないらしい。

 じゃあ、なんで立てへんねん。

 精神的な理由まで疑われたけど、原因なんて分からへんかった。

 それから、胸の辺りが痛なって、気を失う事が増えてきよった。

 

 正体不明の難病。

 

 笑えへん。なんで、私がこんな目に合わなあかんのや。

 最初は心配してお見舞いに来てくれた友達も、ドンドン来んようになった。

 あの時は、荒れたもんや。この時の自分を正直余り思い出したくないわ。

 何度目かの発作?で倒れた時に、確かな予感が私にあった。

 

 こら、死ぬわ。

 

 心の中が冷たかった。恐ろしくて仕様がない。

 暫くは、震えとった。そして、更に荒れた。

 

 心の中の嵐が過ぎ去って、心が静かになった。

 そんな時やった。信じられん事が起こったのは。

 

 あれは、6月の事やった。

 病院の検査が長引いてもうて、すっかり日が落ちてもうた。

 病院の前のバス停で、バスに乗って帰る途中やった。

 私の膝には古い本を置いとった。

 鎖が巻き付いとって、読めへんけど。大切な私の本。

 持っとると安心するんや。

 

 バスに乗っとる時に、私の携帯電話が震えた。

 携帯電話を見ると、メールを知らせるバイブレーションやった。

 送り主は、主治医の石田先生。

 優しいけど、厳しいお医者さんや。

 メールを開く。

 

『明日ははやてちゃんの誕生日よね?よかったら一緒に食事でもしない?都合のいい時間を

教えてくれる?』

 

 ほんま、ええ先生や。

 私はメールを確認すると電源を落とした。マナー違反やし。

 

 でも、断ろ。

 

 石田先生が忙しいのは知っとるしな。プライベートまで付き合わせたら申し訳ないわ。

 私は、流れていく街の灯りを到着まで、見上げとった。

 

 バスの運転手さんに手を貸して貰ろうて、私はバスを降りた。

 横断歩道が青に変わる。

 私は左右を見て、渡り始めた。

 その時、急に私は凄い光に晒された。

 トラックのヘッドライトやった。猛スピードでこっちにくる。ブレーキを掛ける様子はない。

 もう、避けられん。

 なんや、私、よう分らん病気で死ぬんやなくて、ここで死ぬんか。

 顔は凍り付いとったけど、心は冷めとった。

 私は目を閉じた。

 急ブレーキの耳に痛い音が私に届く。

 でも、幾ら待っても衝撃はない。でも、話に聞く浮遊感はあった。

 意外に痛ないもんやね。

 

 一向にお迎えがけぇへんな。あの世も渋滞するんやろか?

 

 

 もしかして、私、生きとる?

 

 トラックが止まってくれたとは思えへん。

 それに、急に寒なったような…。 

 

 私は思い切って目を開けた。

 開けてビックリや。

 私は、()()()()()()()

 よう分らんけど、寒いし、死んどらんみたいや。

 ここまで、ぶっ飛んだ事が起きると、一周回って冷静になるもんやね。

 

 私は銀色に輝く三角形の上に乗っとった。

 そして、目の前に紫色に輝く、私の大切な本。

 ファンタジーや。私、異世界に転生するんやろか?

 せやったら、ええな。今度は健康な身体が欲しいです。神様。

 早く、人間になりたい!って…別のネタやったか。

 

『マスターの危機を確認。保護の為、早期の起動認証を承認。闇の書。起動します』

 

 私がアホな事考えて、現実逃避しとる間に、事態は進んどった。

 本が膨張して、鎖を引き千切る。

 初めて見る本の中身。なんも書いとらんかった。真っ白け。

 立派な表紙やのに、なんて残念な本や。実は日記やったか!?

 

 紫色の輝きが増し、私の敷いとるもんと同じヤツが、4つ空中に現れる。

 そこから、4人の人間?が現れた。

 

 女の人2人。男の人1人。子供(女の子)1人。

 不思議な組み合わせの人達やった。

 特に男の人は、ケモ耳やった誰得や?

 みんな日本人やないみたいやし、黒い身体にピッタリした服だけ。寒ないの?

 

 みんな私の前に跪いとった。

 後ろを確認する。お約束やな。

 でも、誰もおらんかった。

 

「闇の書の起動を確認しました。我ら守護騎士、これより貴女様にお仕え致します」

 一番前におる。ピンクのポニーテールの女の人が口を開いた。

 

 私の事?これ…闇の書っていうんや。

 

 なんや、力が抜けてもうて…気も抜けてしもうた。

 ここらへんが、おふざけやっても精神的な限界やったみたいや。

 

 私はスッと意識が遠のくのを感じた。

 

 

 気が付くと、見慣れた天井が見えた。

 私の家やないで、病院やここ。

 実は、トラックに轢かれとって、病院に搬送されたってオチかいな。

 やっぱり、夢オチやったか。

 

 ボウッとしとったら、石田先生が覗き込んできた。

「はやてちゃん。気分はどう?」

「悪ないです」

 私は正直にそう言うた。

「よかった!…あのね。はやてちゃん。病院に運んでくれた人達なんだけど…」

 石田先生はホッとした後に、なんや警戒するみたいに視線を別の方向に向けた。

 私もそっちに目を向けると、…夢オチちゃうやん。

 

 そこには、怪しさ大爆発な4人組がおった。

 

「はやてちゃんの知り合いだって、言ってるんだけど。ホント?」

 石田先生が怪しむように言うた。

「はい!?知り合い…になったばかりですぅ?」

「はやてちゃん?」

 石田先生が眉を顰めとる。疑われとるわ。ヤバい。

「実は、グレアムおじさんが、手配してくれた人なんです。ほら!グレアムおじさんって、

警備関係のお仕事しとるって言っとったやないですか?ちょっと、事情があって一時的に

職場を離れなあかん人がおって、丁度、私が1人やないか!って事になって!送ってくれた

人なんです!ほら!みんな鍛えとるって分かるでしょ?でも、ビックリしてもうて、それで

倒れたんやと思うます」

 咄嗟に私はでっち上げが口からスラスラ出てきよった。

 すいません。先生。

「グレアムさんの?」

 石田先生はまだ疑わしそうに、4人を見とる。

 

 グレアムおじさんは、お父さんの友達やった人で、遺産の管理とか、資金の援助とかして

くれてる人や。葬式にも出れなくて申し訳ないって、色々やってくれとる。逆に、こっちが

申し訳ないわ。イギリスで警備関係のお仕事しとるとかで、こっちに来れんのやて。

 でも、電話でしょっちゅう話すで?日本語ペラペラやから。

 

 すみません。勝手に名前使こうてしまいました。

 後で、口裏合わせて貰わな。

 

「それじゃあ、グレアムさんに確認すれば分かるわね?」

 ギクッ。対応早過ぎやないですか?

 後ろにおったフィリス先生が、頷く。

 おったんか、フィリス先生。気が付かなかったわ。

 この先生にもお世話になった。

 

「構いません。どうぞ、確認して下さい」

 ピンクのポニーテールの女の人が、突然、口を開いた。

 ええ!?バレるやん!?

 

 結果から言えば、バレへんかった。どうなっとるん?

 

 

 検査を念の為やって、帰宅する事になった。通院日が増えたわ。

 家に帰ってから、4人の話を聞く事になった。

 

 説明を聞くに、この古い本は昔の世界の魔導書で闇の書っていうんやて。

 ページが真っ白けなのは、蒐集しとらんかららしい。

 魔法使い?の核?のリンカーコアを収集して魔法の情報を集めページを増やすんやて。

 最後の666ページまで蒐集すると、凄い力が手に入るらしい。

 で、この人達は、守護騎士。闇の書の主を護る騎士らしいわ。

 つまり、私を護ってくれるんやて。

 闇の書のページ蒐集もやるみたいや。

 

 因みに、名前は烈火の将・シグナム、鉄槌の騎士・ヴィータ、湖の騎士・シャマル

盾の守護獣・ザフィーラ。ザフィーラだけは、狼がホントの姿なんやて。

 

「そうなんや…」

 説明を聞き終わって、私はそれだけ言った。

「ご命令があれば、すぐにでも蒐集を開始致します」

 シグナムが畏まって言うた。

 4人共、跪いて目を合わせへん。

「せんでええよ。蒐集」

「「「「はっ!?」」」」

 初めてまともに見てくれたわ。少しだけ勝利感。

「だって、沢山の人に迷惑掛けなあかんのやろ?確かに、健康になりたいとかあるけど、人様に

迷惑掛けてまで、叶えたいと思わへん」

 正直、あんまり未練もあらへんしな。

「ただ、一緒にいてくれへんか?最後まで」

 4人共戸惑った顔やった。

 でも、最後は全員頷いてくれた。

 

 ホントそれだけで、ええ。

 

「さて、他にも分かった事がある」

 4人が不思議そうに見ている。

「私が主になった以上、貴女達の衣食住、キッチリ面倒見なあかんいう事や」

 幸い、遺産はあるし、家も部屋数は十分や。

 医療費はグレアムおじさんに援助して貰ろうてるけど…。

 最初は、遺産から出してほしいって言うたんやけど、なるべく残すべきって言うて聞いて

くれへんかった。

 まあ、グレアムおじさんには、後で謝ろう。

「取り敢えず、服のサイズからやね!」

 あんな怪しさ大爆発の格好なんてさせられへんわ。

 

 

 それから、守護騎士同士がギクシャクしとるのが分かったり、心を開いて貰うのに、苦労

したわ。

 でも、それを乗り越えた。

 ホントの家族になったって感じでええと思う。

 

 それと、私を病院に担ぎ込んだのは、丁度、電話してきたグレアムおじさんの指示なんやて。

 その時に、色々話したらしいんやけど、よく信じて病院に運んで貰う気になれたな。

 私なら、疑うわ。

 グレアムおじさんは、仕事柄、嘘や誤魔化しを見破るのが、得意やからと言っとった。

 別に信頼はしてないとも。シグナム達もそんな感じや。

 

「「「只今戻りました」」」

「ただいま!はやて!!」

 

 腹ペコ共が帰ってきよったな?

 

 今、私は幸せや。私はコレを求めとったんやなぁ。

 

 

      

              :シグナム

 

 今日、我々に衝撃が訪れた。

 

 主の病についてだ。

 足が悪く、歩けないのは知っていたが、命に関わるものだとは思っていなかった。

 我々が来るまでは、倒れたりしていたようだ。

 石田先生が言っていた。

 このままでは、内臓麻痺に発展する恐れがあると。

 倒れるのは、それが原因の1つのようだった。

 医学的に不可解な麻痺。

 

 だが、私達は心当たりがあった。

 

 闇の書の呪い。

 私の記憶では、あれ程、幼い主は初めてだ。

 未成熟な主の肉体を闇の書が圧迫していたとしても、不思議ではない。

 まして、主は蒐集を禁じているのだ。余計に負担があった筈だ。

 

 全く、気が付かなかった。

 

 そう言えば、かなり昔、我らを真正面から叱り飛ばした人間がいたか。

 何も考えず、命令通りに動けば、楽だろう。だが、そうじゃないだろうと。

 あの時は、何も感じなかったが、今なら分かる。

 我々は、いつの間にか騎士である事すら止めてしまったのだ。

 ただのシステムに成り下がってしまっていた。

 

 忸怩たる思いだ。

 

 私は幹に拳を打った。

「何故、気付かなかった…」

「ごめんなさい!」

 私の言葉に、シャマルが涙ながらに謝った。

 だが、私はシャマルを責めた訳ではない。

「自分に言っている」

 握り締めた拳が、メキメキと音を立てる。

 

「助けなきゃ…」

 今まで口を開かなかったヴィータが呟く。

「はやてを助けなきゃ!シャマル!治療魔法得意じゃんか!あんなの治してよ!!」

 シャマルが力なく首を横に振る。

「怪我や病気なら兎も角。闇の書が原因じゃ…ごめんなさい」

 涙を流しシャマルが俯いてしまう。

 ヴィータがクソッと吐き捨てるように言う。

 

「どうする?シグナム」

 ザフィーラが冷静に問うてくる。

 

 手はある。あるが…。

 

「方法はある」

 私は胸元からレヴァンティンを取り出す。

 それで、みんなが察した。助ける方法を。

「いいのか?」

 主は蒐集を禁じている。

 

 主は私達に感情を思い出させてくれた。

 対等な家族として迎えてくれた。

 頑なな心を解きほぐしてくれた。

 みんなが主を最初は、信じていなかった。だが、今は違う。

 これ程、みんなが打ち解けた事などなかった。

 

 これは、主の命令ではない。我らの願いだ。

 

「責めは私が負う。蒐集を開始する」

「シグナム…」

 ヴィータが辛うじてそれだけ口にした。

「シャマル。情報を集めてくれ。管理局といったか、魔法の犯罪を取り締まる連中についてだ」

「あんな連中。アタシ等の敵じゃないだろ」

 ヴィータがそう言い捨てる。

「我等がどの程度、活動を停止していたか分らん。未知の実力者や兵装がないとも限らん」

 ヴィータが不満そうに黙る。

 レアなスキル保持者などに奇襲されれば、我々とて敗北は有り得る。

「失敗は許されん」

 ザフィーラが同意するように頷く。

 シャマルも頷いた。

「後は、グレアムという男に警戒が必要だろう」

 それには全員が同意を示した。

 

 

 思い出すのは、主と出会った直後の事だ。

 

「……」

『おい!シグナム!』

 私は無視していた。どうせ、いつもの我儘だろう。

『こいつ。気絶してねぇか?』

 無礼を咎めようとした私は、中断して主を見る。

 気絶していた。

 

「大丈夫か。こいつ?」

 ヴィータの声が空しく響く。大丈夫かどうかは問題じゃない。我々に選択権などない。

 

 その時、何かの音が聞こえる。

 主の服から聞こえてくる。

 闇の書は、主の世界の情報を収集し私達に伝えてくる。

 おそらく、携帯電話という物だろう。

 問題は、放っといていいのかという事だ。

 余計な事をするのも面倒だし、気が利かないと文句を言われるかもしれない。

「それより、病院にでも連れて行った方が、いいんじゃないかしら」

 シャマルがどうでもよさそうだが、義務的にそう言った。

 そうだな。まずは病院にでも行くか。

 話はそれからだ。

「では、救急車でも呼ぶか?」

 丁度、電話はある。

 ヴィータが主の服から勝手に携帯電話を取る。

「おい!」

「グダグダ言ってたって仕様がないだろうが」

 ヴィータが携帯電話の通話ボタンを押す。

「あー。もしもし?通り掛かったモンだけど。持ち主が倒れたからさ。救急車呼ぶから。

切るぞ?」

 だが、一向に切る様子がない。

「どうした?」

 ヴィータが、ウンザリしたように携帯電話を、私に突き出す。

「大人と代われってさ」

 皮肉っぽくヴィータが言った。

 溜息混じりに携帯電話を受け取る。

「もしもし。話している間が、惜しいのですが…」

『だったら、君達の携帯で掛ければいいのではないかね?』

 落ち着いた年配の男性の声が、聞こえてくる。

 この口調には、慣れ親しんでいる。

 軍人だ。私はそう感じた。

「残念ですが、我々は携帯を持っていませんので」

『ついでに、パスポートもかね?』

「……」

 私はみんなに視線を送る。それだけで通じる。

 3人共、周囲を警戒し出す。

 パスポート。

 他国の人間が、この国に入るのにいる入国証明。

 私達が、この国の人間と容姿が違うと、何故分かる?

 それに、何故パスポートなどと言い出した?

『なに、驚く事はないよ。私も外国人でね。イントネーションで分かるのさ』

「なるほど」

 まるで、答えになっていない。発音もネイティブと変わらない筈だ。

 何しろ、闇の書が収集した情報をフィードバックしているのだから。

『そこで、お願いなんだが、その子を海鳴大学病院に連れて行って貰えるかな?救急車では、

時間が掛かるからね。運んで貰った方が早い。地図をメールで送る。困ったら、私が手配した

人間という事にして貰っていい。私はギル・グレアムという』

 そう言ってグレアムという男は、通話を切った。

 直後、メールで病院までの地図が送られてくる。

「どうした?シグナム」

 ザフィーラが訊いてくる。

「主に近しい人間らしいが、な。パスポートがないだろうと言われた」

「「「っ!!」」」

 シャマルが魔法で周囲を探り出すが、すぐ首を横に振った。

「なんにしても、警戒しておいた方がいいだろう。電話のタイミングも良過ぎる」

 

 こうして、私達は病院に新しい主を運んだ。

 

 

 のちに、グレアムという男は、主の御父上の友人であると聞かされた。

 遺産の管理から、医療費の援助もしているという。

 だが、聞けば聞くほど正体不明な男だ。

 主は信じ切っていて、不審にすら思わないようだ。

 

 それから、偶に電話で話すが、こちらを知っているように感じる。

 それにしては、あちらからアクションがない。

 不気味だ。

 

 主が心配するので、話し合いを切り上げて主の元へ戻らねば。

 管理局やグレアムに注意しながら、これから蒐集を開始しなければならない。

 

 難事だが、やり遂げねばならない。

 

 

 我等は守護騎士なのだから。

 

 

              :ユーリ

 

 薄暗い部屋に通された。

 私の研究に興味があるから、という事だけど。

 少し、怪しい。

 

 向こうの顔がよく見えない。

 年配の男性と、その左右に女性が立っている。

「君が、あのユーリ・エーベルヴァインかな?」

 私は、まだ若いけど次元世界の魔法関係者の間では、有名だと思う。

 魔法の理論研究者として。

「はい。それで…貴方は?」

「私の事は気にしなくていいよ。ただ君の意見が聞きたいんだ」

 益々、怪しい感じです。

 いつでも、逃げられるように魔法を待機させる。

「警戒するのも無理はないけどね」

 そう言って年配の男性は、苦笑いした。

「君は、闇の書を知っているかね?」

 闇の書。確か、一級捜索指定のロストロギア。

「概要は」

「ならば、話が早い。アレを完全封印するとして、方法は君の論文の内容が使えるかな?」

 ああ、管理局の人か。私は目の前の人物の正体に当たりを付ける。

 管理局の人から話で、ここまで来たんだから変な人の訳ないよね。

「過去にベルカの剣王が、被害を抑え込んでいるが、抑え込むだけでは足りないのだよ」

 

「はい。剣王は()()結晶を自作して対応しましたが、本物の永遠結晶(エグザミア)を使用すれば、完全封印は

可能と考えます』

 

 

             

 

 

 




 頑張って書いたんですけどね。こんな感じになってしまいました。
 難しいですね。ホント。

 守護騎士は、感情や意思疎通が確認されてないって言ってましたよね。
 ドラマCDでも、かなり鬱屈してたみたいですしね。
 だから、こんな感じになりました。

 オリジナル風味ですから、勘弁して下さい。


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第27話 新たな始まり

 少し時間が掛かってしまいました。
 私にしては、普通の長さになってます。
 どんな展開でやるか、考えてこうなりました。

 ギリギリまで考えたんですが、動いている他の人に関しては、
次って事で、お願いします。

 それでは、お願いします。


              :飛鷹

 

 もうコートが必要な寒さになった。

 闇の書の起動を確認しようにも、はやての住所が分からん。

 こういう時は、私立は不便だ。公立ならある程度近い場所に住んでいると予想出来るんだがな。

 正直、サーチ範囲に魔力反応はなかった。

 ちゃんと0時に調べてたんだがな。そう都合よくいかねぇって事か…。

 こんな事なら、はやてが通う病院は分かってるんだから、ストーキングすればよかったか?

 後悔先に立たずだよな。

 ここらが、覚悟がないって言われんのかな。

 時期的に、闇の書は起動している筈だ。

 

 そんな訳で、切り替えていく事にする。

 今、出来る事は自分を鍛える事だ。

 

 朝、なのはとの恒例の鍛錬だ。

 だが、最近ある意味問題が発生している。

 原作で、なのはが空き缶使った鍛錬やってたろ?

 100回空き缶を地面に落とさずに打ち上げるってやつだよ。

 

 実はあんなのもう出来るようになってんだよ。

 今は続けようと思えば、幾らでもイケるだろう。

 もう、鍛錬にならない。

 

 だから、今は複数の空き缶と、複数の魔力弾でバトミントンをやっている。

 複数の空き缶を弾く軽い音が、高速かつ連続で響いている。

 実力が上がったのはいいのだが、お互いミスをしなくなったのだ。

 少し前までは、何点先取で勝利。とかやってたんだが、今はどちらかが失敗するまでになった。

 これは、いい加減やり方を変えるべきなのだが、なのははこれが気に入ったらしい。

 嬉々としてやる。

「いい加減、終わりにしねぇか!!」

「うん。飛鷹君もミスしていいんだよ!?」

 お互い嫌らしいコースで空き缶を返すが、悉く打ち返す。終わりが見えん。

 お互いかなり負けず嫌いだったらしい。俺もそうだとは予想外だな。

「そろそろ、負けてくれてもいいよ!!」

「まだまだ、先生面する予定だしな!それに、こんな短時間で抜かれたら格好悪いだろうが!!」

 お互い速度を、更に上げていく。

「「アクセル」」

 お互いに教え合えるところは、取り入れてる為に、技術が同じ部分があるんだよ。

 空き缶を弾くのも技術がいる。

 力を入れ過ぎたら、空き缶が潰れる。力が足りないと飛ばない。

 絶妙な力加減で、弾かなければならない。

 スピードを上げるのも技術がいるぞ。勿論。

「また遅刻しちゃうよ!」

「それは、俺の所為じゃねぇよ!」

 遅刻とは学校の事じゃないぜ?高町家の朝稽古の時間の方だ。マジで命が危うい。

 

 

「なのはさん!そろそろ俺の命に気を遣ってくれませんかねぇ!!」

「大丈夫!飛鷹君、強いから!!」

「まさかの適当発言!?」

 咽び泣きたくなる朝だった。

 

 なんとか今日も勝ったぞ。

 

 なんて言ってる場合ではない。

 遅刻寸前だ。学校じゃないぞ以下略。

「どうして、こうなった!?」

 俺も意地張ったからだけどね。

「ごめんなさい!!でも、強くなりたいし!スターライトブレイカーも強化したいし!」

 は!?アレを強化だと!?正気か!?

 マジでフリーザ爆殺を目指すというのか!?

 お前に、その位置からスターライトブレイカーを撃てる訳がない!とか言わせたいのか!?

「ホラ!斬られて爆発しちゃったでしょ?だから、斬れた糸を編み直して、幾つかの散弾にして

ぶつけようと思うんだよね。飛鷹君がやってたでしょ?」

 もしかして、烈火の炎の主人公がやってたヤツのコピーの事か?

 そりゃ、出来なくないのか?

「あれなら、フェイトちゃんのファランクスみたいなのを、近距離で撃ち込めると思うんだ!」

 実は殺そうと思ってるか?相手を…。

 衝撃の発言に、思わず走るスピードが落ちてしまった。

 

 朝稽古に間に合わず、高町家の男2人にボコボコにされたのは、言うまでもない。

 

 

              :フェイト

 

 裁判は長引く事なく、進んでいた。

 やっぱり、自首扱いされているのが、大きいみたいだ。

 ある程度、自由にさせて貰ってるし。

 なのはとは、ビデオメールで話している。

 なのはの友達も紹介して貰った。一気に3人も友達が増えた。

 少し戸惑いもあるけど、嬉しいと思う。

 飛鷹とも友達になった。姉さんの事を頻りと気に掛けてて、いい子だ。

 もう1人いるらしいんだけど、予定が合わないんだって言ってた。

 本来なら、こんな事は許されないんだって。クロノには感謝しなくちゃいけない。

 

 今は裁判の最後の日に備えて、最後の打ち合わせをしている。

「今回は、アルフにも被告席に立って貰う」

「分かった」

 アルフは、本格的に裁判に参加するのは初めてだ。

 少し緊張してるみたい。

「ユーノ。君も証人として今回も出廷して貰う」

「分かってるよ」

 ユーノは、ずっと裁判に証人として出ている。

 私が重い罪に問われないように、頑張ってくれている。

「もう勝訴は確定しているが、油断は出来ない。どんな事を言われてもブレない事。

発言内容は、そこに書かれているが、アドリブをやっても大丈夫なくらいに練習して

いこう」

 クロノが検察の役をやる。クロノが意地の悪い質問を思い付く限りする。

 私達は、それに冷静に答えられるように、練習するという形式だ。

 

 準備は万端。やれるだけやった。

 

 後は、鍛錬の時間になる。

 なのはには、飛鷹がいるけど。私には傍にレクシアがいない。

 でも、言って貰った事。見せて貰ったものもある。

 

 私は心を澄まし、バルディッシュを振る。

 動きを確認するように、どこでどう力を籠めて振るうのかを考えながら、ゆっくり振る。

 飛鷹も凄いけど、やっぱり剣はレクシアの方が凄い。

 頭にレクシアの剣を思い描く。見事な魔力切断。

 なのはの時は失敗した。でも今度は成功させる。

 なんて思ってるけど、なのはの時の感覚すら、私の中にまだ固まっていない。

 焦らず、じっくりとやらないといけない。

 今ズレた。修正する。力の加減が違うのかな?

 

「そろそろ、終わりにしないか?明日に差し障るぞ」

 無心で振っていたから、クロノが来てる事にも気付かなかった。

 クロノにも空戦のアドバイスを、偶に貰ったりしている。流石に執務官だけあって、クロノの

腕は確かだ。

「ごめん。気が付かなくって…もうそんな時間?」

 時計を見るとかなり時間が経っていた。

 

 アリシアのお見舞いに、裁判が終わったら行かないとね。

 

 アリシアは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 原因は分からない。医学的には問題は見当たらない。でも、目を覚まさない。

 

 今もアリシアと、どう話していいかは分からない。

 でも、何か声を掛けてあげたいと思う。

 

 それが多分、最初の一歩だと思うから…。

 

 

              :美海

 

 相も変わらず、私はなのは達のグループにいる。

 そろそろ誰か、白タオルを投げてくれてもいいと思う。

 この前なんか、フェイトに送るビデオメールに強制出演させられそうになったし。

 私の変装は、フードと口元のマスクくらいなんだよ。声とか目の周りとかモロバレ要素満載

なんだよ。

 探してとかいった手前、そんなのに出演出来ないって。

 だから、その日は用事があるとか、用事が出来たとか言って、のらりくらりと出演を避けて

いる。

 今までの経緯から、特に不審には思われていない。

 私はそういう星の元に生まれたのさ。って事でよろしく。

 

 でも、話を聞く限りフェイトは、友達を得て明るくなってきたらしい。よかったね!フェイト。

 アリシアは、目を覚ましていないらしいから、完全に元気って訳にはいかないだろうけど。

 アリシアの件は、飛鷹君経由で盗み聞き…もとい、知った事だけどね。

 

「私、図書館で新しい友達が出来たの!」

 すずかのセリフにハッとなった。

 飛鷹君も反応している。

 そう言えば、すずかははやてと図書館で友達になるんだっけ。ここら辺は朧気だよ。

 なのはとアリサは、食い付きがいい。

 どんな子か訊き出している。

 曰く、身体が悪いようで、車椅子に乗っている。保護者が外国人という事だ。

 そして勿論、本が大好き。

 そこまでいくと人物が特定出来るよね。はやてだね。

 しかもやっぱり、あの連中が付いてるんだね。もう関わりたくないわ。

 連中と向き合ったら、私怨やら八つ当たりやらで、やり過ぎそうだ。

 私が、表情に出さずに思考の海に遊びに行っている間に、話が移り変わっていた。

 

「私の方も、負けないくらい凄い話があるわよ!」

 アリサが今度は意気込んで言う。

「実は、家でプロデュースしてるアミューズメントパークの建設予定地にね、物凄く大きい水晶が

出てきたのよ!折角だし、アミューズメントパークの目玉として、展示しようって話してるくらい

なのよ!」

「どれくらいの大きさなの!?」

 なのはがアリサに訊く。

「大体、校舎の2Fくらいは高さがあるわよ」

 アリサは得意げに言う。

「もうすぐ完成するから、みんな招待するわね!って言ってもすずかは、既に来る事になってる

けどね」

 流石、金持ち。すずかの家は金を出資してるのだそうだ。

「美海!アンタは参加条件は、フェイトのビデオメールに参加する事よ!いつも用事とかで逃げる

んだから!!」

 金持ちのクセにセコイ条件出すな。

 本来なら、興味もないけど、この時の私は発見された水晶に、引っ掛かるものを感じていた。

「分かった…」

 顔に出さないけど、渋々頷いた。

 みんな。頷いたのに、なんで驚いてんの?

 

 さて、これは偶然か、必然か。昔の夢に水晶が出てきたばっかりなんだけどね。

 

 

 フェイトに何言えばいいのさ?表向き初対面の相手に。

 

 バレないように出来るかが問題か

 

 

              :フェイト

 

 なのは達からビデオメールが届いた。

 私は裁判で保護観察処分が下ったばかりだ。

 返事にその事を報告しようと思う。

 

 それで、ビデオメールを見たんだけど…。

 

 最初にみんなの最近あった出来事なんかを順番に話してくれた。

 そして、最後に今まで都合が合わなかった子が、初めて出てきた。

『初めまして…綾森美海です。……以上』

 少しモゴモゴ言った後、終了したみたい。…人見知りなのかな?ちょっと親近感を感じた。

『だぁーー!美海のクセに何、人見知りしてんのよ!もっとなんか言いなさいよ!!』

 アリサの怒号が飛んでいる。

 すずかが、素早くアリサを宥めに入る。

『アリサちゃん!フェイトちゃんへのメッセージだから、邪魔しちゃダメだよ』

『どんなメッセージよ!!ただ名前言っただけじゃない!!』

 なんか美海は、もう素早くフレームアウトしている。

『ちょっと!何、やり切ったみたいな顔してんのよ!やり直しよ、やり直し!』

 なのはと飛鷹も宥めるのに参加している。

 ただ、騒ぎの原因である美海は、どこかに退避したらしく、一切映っていない。

 もう、カオスだった。

 

 暗転した後に、全員が並んで私へのメッセージを言ってくれた。

 

『ええ…失礼しました。では、改めて…』

 なのはが少し汗を流しながら、最初に話す。

『『『『『もうすぐこっちであえるね(な)。楽しみにしてるよ(ぞ)!!』』』』』

 みんなで揃って言ってくれた。

 

 こんなに嬉しい気持ちになるんだ。知らなかったな。

 

 でも…大丈夫かな。この中に入って上手くやっていけるかな?

 ちょっと不安。

 

 私はこの後、海鳴へ正式に住む事になっている。リンディさん達と一緒に。

 リンディさんは私とアリシアの保護責任者になってくれたんだ。

 ホントにこんなによくして貰って、申し訳ないんだけど。

 後見人になってくれた人は、リンディさんより偉い人で忙しくて、今は会えないんだって。

 会ったら、お礼を言わないと。

 

 

 でも、美海って、レクシアに似てる気がするんだけど。

 声とか、もう少しハッキリ喋ってくれると分かるんだけどな。

 私はビデオメールを巻き戻して、美海の顔を映す。

 口元と頭を隠してみる。

 う~ん。似てるような…似てないような?

 向こうで会えるから、それで確認すればいいよね?

 

 ああ!そうだ。私もビデオメール撮らないと!

 

 

              :とある犯罪者

 

 俺は仲間と一緒に、管理外世界にいる生物のハンティングに来ていた。

 だが、それは、中止しなければならなくなった。

 

 俺は今、必死に逃げ回っている。

 相手は、たった一人だったのに。

 俺が何したよ!?

 ただ、狩りを楽しんでただけじゃねぇか!そのついでに金になりそうな生物を捕獲する。

 俺の天職だ。楽しみながら、大金が貰える。最高だ。

 少し前まで、俺もそう思ってた。でも違った。

 

 追ってくる気配は、続いている。

「なんなんだよ!?来るな!!」

 俺は振り返ってデバイスを向け、魔法を放つ。

 魔力弾が光の尾を引いて、追っ手に殺到する。

 爆発が起こる。

「へっ!ザマァミロ!ハッハハハハ!!」

 

「面白れぇか?」

 ゾクッとした。恐る恐る声のした上を見上げると、それがいた。

 赤いドレスみてぇなバリアジャケットを纏ったガキを。

「くたばれよ!!」

 デバイスを向けようとしたが、間に合わずに地面に押し付けられた。

「お前みたいな奴だと、気楽だよ。お前は餌だ」

 ガキの手から、本が出現する。

 何するつもりだ!?

「ア、アンタも同業者だろ!?アンタの縄張りを荒らしたのは悪かったよ!!もうここに

は来ないからよ!見逃してくれよ!」

 俺は媚びるように笑いながら言った。

 が、ガキは俺の頭を地面に打ち付けた。

「一緒にすんじゃねぇ。もういい。闇の書、蒐集」

『蒐集』

 本が怪しい光を放つ。

 俺の胸の辺りが、突然、強烈な痛みを感じる。

 俺の胸から、光の玉が出てきた。まさか、これは!?

「ウワアァァァァァ!!」

 俺の意識は、ここで途切れた。

 

 気が付くと、俺は仲間と一緒に管理局に捕まっていた。

 

 どうなってんだ…。

 

 

     

              :レティ

 

 管理外世界を中心に、違法なハンティングをしていたグループを確保した。

 それだけなら、よかったのだけど。確保した経緯が問題だった。

 彼等は、魔導士の核である。リンカーコアを抜かれて、意識を失っていたのだ。

 事情聴取に、彼らの1人は、聞き捨てならないセリフを聞いている。

 

 闇の書。

 

 第一級捜索指定ロストロギア。

 そして、友人であり、親友の夫である人物が、死ぬ原因を作った因縁のロストロギア。

 果たして、これは親友に告げるべきかしらね…。

 

 悩んだところで、決まっている。

 今、手が空いているのは、彼女のアースラだけなのだから。

 闇の書の事を知って、リンディが我を忘れる程、未熟だとは思わないけど。

 

 心配だった。

 

 でも、任務に私情は挿めない。

 

 事の始まりは、もっと前からの可能性が高い。

 管理外世界に出入りしている犯罪者や、魔法生物を違法にハンティングしている者が、

いるのは分かっていた。

 だが、普通はリンカーコアの有無まで確認しない。

 逮捕された連中は、大抵、発見が遅れて意識を取り戻し逃げている最中だってし。

 逮捕されれば、魔封じの手錠を掛けられる。

 今回のように、発言を記憶している被疑者がいたから、分かった事だ。

 ハンティングされた魔法生物は、大抵は殺されていたから、調べてすらいない。

 今、洗い出しを開始しているが、ほぼ闇の書の騎士達の蒐集行為で、間違いないだろう。

 勿論、何件かは、ただの密猟者や犯罪者だが。

 

 更に、嫌な事実がある。

 闇の書の蒐集活動が、解析してみると大体97管理外世界を起点として動いている可能性

が高いという事。

 

 どれもリンディに関係するのだ。

 

 そして、最近、親友が入れ込んでいる子は、優秀な魔導士だ。

 リンディは、その子と一緒に97管理外世界で暮らすと決めていた。

 

 事件に巻き込まれなければいいけど…。

 

 取り敢えず、クロノに先に連絡かしらね。

 

 

              :オーリス

 

 私は地上本部の幹部の執務室が、密集している階の廊下を歩いていた。

 父であり、上司に報告する為だ。

 レジアス・ゲイズ少将。

 地上のトップを支える将官の1人である。

 

 執務室の扉をノックする。

 返事はないが、それはいつもの事だ。私は構わず扉を開け、入っていく。

「失礼します」

 それでも一言添えるのを、忘れてはいけない。

 顔を上げると、上司はサウンドオンリーで通話中だった。

 

「それは、難しい。アレは長官のお気に入りだ」

『今回の事では、必要な人材なんだがねぇ…』

 どうやら、あの男と話しているようだった。

『貴方なら、説得出来るのでは?』

「そうさせるだけの、成果を見せるのが先だ」

 上司は冷ややかと言える程に、冷静に返答する。

 あの男は、こちらに頼み事を多く持ってくるのに、こちらの依頼は一向に進む気配はない。

『まだ、満足していないんだがね。まあ、進んだ部分だけでいいのならデータを送ろう』

「データを検証してから、再度連絡する」

 上司は一方的に通話を打ち切った。

 

 聞いただけの情報でも、用件は予想出来る。

「ユーリ・エーベルヴァインを貸し出せと?」

「ああ。…そんな事より、報告があったのではないのか?」

 ジロリと私を見る。私は背筋を伸ばす。

「失礼いたしました」

 私は頭を下げる。

「いい。報告を頼む」

「はい。2件有ります。1件目は、本局がエーベルヴァインと接触したがった理由が分かり

ました。闇の書が発見されたようです。最も、主は特定出来ていないようですが」

 上司は鼻を鳴らした。

「なるほど、それでか」

 先日、本局の上層部の1人から、接触させてほしいと依頼があったばかりだ。

 この事を念頭に置いた接触だったのだろう。

 理由は、闇の書を絡めて考えれば、自ずと答えが出る。

 最近、彼女が発表した論文だろう。

 確か、魔導で構築された水晶の活用に関するものだった。

「何故、あの男が?」

 本局なら分からなくもない。でも、何故あの男がエーベルヴァインを?

「何も、ヤツの元へ送る訳ではない。本局に捜査協力者として送り込めという事だ」

 何か企んでいるという事ですか。まあ、本局相手ならどうでもいいですが。

「で?どうする御積もりで?」

 それによって、私の仕事も決まる。

 上司は少し沈黙した後で、口を開く。

「データ検証後。使えるようなら、協力する」

 私は、この決断で、自分がどう仕事するかを、頭の中で組み立てていく。

「説得出来ますか?」

「出来る」

 言葉少なく断言する。

 上司は、絶対的な信頼を方々に勝ち得ている。

 お気に入りでも、なんとかするのだろう。

「もし、アレを貸し出すとすれば、こちらからも人を出しておけ。2人でいいだろう。

人員は分かるな?」

「ハッ!」

 私は了解の代わりに敬礼で答える。

 護衛と監視を行える人員という事だ。

 それに長官は、無類の本局嫌いだ。

 あちらの護衛のみでは難色を示すだろう。

 

「次は?」

「最後はバーン元・提督の事です」

 上司の眉がピクリと動いた。

 上司にしては、反応した方だろう。

 無言で報告の続きを促してくる。

「最近、探られているようだ、と」

 上司は重い溜息を吐いた。

「気の済むまで探れと言ってやれ、と言っておけ」

 証拠など、残っていないのは、本人も分かっているだろう。

 それでも、不安を感じるから言っているのだ。

 私の視線で、言いたい事を正確に把握したらしい上司が、再び口を開いた。

「ボロを出さないように言え。魔法で得た証拠など、どうせ、希少技能保持者の魔法だろう。

水掛け論に持ち込んで、煙に巻くなど容易い」

 希少技能保持者の魔法に、本当に正しい効果があるのかを実証しろと言われれば、幾らでも

難癖を付けられる。術式の開示など、本人にも出来ない。

 したとしても、理解など出来ないだろう。

 現代で再現出来ないから、希少技能なのだし。

 結局は、希少技能保持者も、その力で直接的な証拠を探さなければならない。

 だが、今回はそれがない。ならば、どんなものを出されてもでっち上げとなる。

 魔法のみでは、証拠として我々が納得しない。

「だが、念の為だ。()()を1人付けておけ。いざとなったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。以上だ」

 私は承知した事を、敬礼をもって答える。

 

 思考の海に沈んだ上司の邪魔にならないように、執務室を後にする。

 

 アインヘリアル計画。

 あの男の研究だけで計画を立てる訳には、いかない。

 独自でも研究しなければならない。

 あの男がデータを送ってきたとしても、検証が必須だ。

 

 廊下の窓に目を向けると、街から一筋の煙が上がるのが見える。

 

 また、犯罪が起きたのだろう。急がなくてはならない。

 

 力を手に入れる。平和を贖えるものを。

 

 

              :ヴィータ

 

 夜。

 表向きは、公園で知り合ったじいちゃんの家にいる事になってる。

 だが、今日はアタシの蒐集日だ。

 はやての傍から、んないなくなると不安だからな。

 持ち回りで、蒐集をやってる。

 あんまり、時間も取れねぇけどな。

 下手に遅くなると、じいちゃんの家に連絡がいく場合もあんだろ。

 

 チマチマ雑魚から蒐集してたんじゃ、時間が幾らあっても足りやしねぇ。

 まだ、闇の書は、ページ3分の1以下。

 ここらで、大物を狩る必要がある。

 

 そこで目を付けたのは、はやてのいる世界にいる巨大な魔力反応2つだ。

 そこは、アタシに一任して貰っている。

 発見したら、そくゲットだ。

 相棒を片手に、慎重に調べていく。

 どうも、出たり消えたりしていて、見付け辛ぇ。

 今日こそ、見付けてやる。

「ヴィータ。どうだ?」

 アタシの後ろには、ザフィーラが声を掛けてくる。

「どうも、ビシッと分からねぇんだよな。いるような、いないような…って感じだ」

 焦って見逃すなんて事をやる程、素人じゃねぇからな。

 じっくり、探すさ。

 

 少しずつ、範囲を変えてサーチしていく。

 

 

 巨大な魔力反応が、お誂え向きに2つ並んでいやがる!

 

 見付けた!

 

「行くよ!グラーフアイゼン!」

『了解!』

 アタシは一瞬で騎士甲冑を纏う。

「気を付けろよ。ヴィータ」

「分かってるよ。アンタもしっかり頼むよ」

 ザフィーラの言葉にアタシはしっかり答える。

 前までは、これ、うるせぇって思ってたけどな。変わるもんだよ。

 だから、護らなきゃならねぇ。大切なものを。

 

 その為なら、なんでもやってやるよ。

 

 だが、今回は余裕だろう。

 いくら魔力が大きかろうが、所詮、平和ボケした魔導士だろ?

 すぐに、終わらせてやるよ。

 

 まっ、油断する気はねぇけど。

 

 アタシはザフィーラと二手に別れる。

 スピードを上げ、巨大な魔力反応に向かう。

「封鎖領域、展開」

『了解!』

 赤い魔力光が放たれて、人が消えていく。

 遂に、待望の魔力反応の持ち主を、閉じ込めた。

 閉じ込められた事に気付いて、移動してる。

 出られやしねぇよ。

 

 夕飯には、帰るぜ。

 

 

              :なのは

 

 放課後の鍛錬が終わって、私は飛鷹君に送って貰っていた。

 私だって、魔導士なんだから、大抵の相手は大丈夫なんだけど。

 飛鷹君は、男の見栄なんだから素直に受けろって言って、譲らない。

 お母さんも、飛鷹君はいい子ねって高評価。

 お父さんとお兄ちゃんは、なんか嫌な気を放ってる。

 お姉ちゃんはと言えば、苦笑い。子供っぽくないって。

 

 私としては、なんか少し、暖かい気持ちだ。

 

 口には出せないけど。

 

『警戒して下さい!』

『来るぞ!』

 レイジングハートとスフォルテンドが、同時に警告を発する。

 次の瞬間、結界内に私達は閉じ込められた。

「なんだと!?」

「何!?」

 奇しくも、私達も同時に声を上げた。

「敵襲って事でいいだろ」

 飛鷹君が即座に切り替えて、私に声を掛ける。

「でも、どうして?」

 私の方は、まだ動揺している。

「さぁな。あちらさんに訊くしかねぇだろ。答えてくれればだけどな」

 高速で大きい魔力反応が、一直線に私達に向かってくる。

 私も、深呼吸1つして、取り敢えず可能な限り落ち着ける。

「俺達も移動しよう。ここじゃ、やり辛い」

 丁度、私達がいるのは、住宅地の道路。少し、立ち回りには狭い。

 私は頷いて、一緒に魔力強化で走り出す。

 目指すは、ある程度高い建物の屋上。

 

 私達は、一番近い建物の屋上に出る。

 

 私と飛鷹君で背中合わせに、周囲を警戒する。

『来ます!実体弾です』

 レイジングハートの警告に、視線を向けると赤い魔力光を纏った複数の鉄球が、私達目掛けて

飛んでくる。

『飛鷹!』

 スフォルテンドの声で、視界の端で警告の元を見る。

 筋骨隆々の大きな男の人が、飛鷹君に突進してきていた。

「テオヤァァァーーーー!!」

 気合一閃。白銀の魔力光を帯びた拳が、飛鷹君を襲う。

 飛鷹君は舌打ち1つして、スフォルテンドを起動。バリアジャケットを纏う。

 次の瞬間、背中から飛鷹君が消える。

 

 でも、私も気を取られてばかりはいられない。

 複数の鉄球が私に襲い掛かる。

 私も一瞬で、バリアジャケットを纏うとレイジングハートを構える。

 この程度!

『アクセルシューター』

 私の魔力弾が、実体弾に放たれる。

 だが、絡み合うように、どれも当たらない。

『ホーミングバレットです!』

 問題なんてない!私も得意だ。

「コントロール…」

 突然、魔力弾の動きが変わる。

 鉄球を捉え出す。次々と鉄球を砕いていく。

 

 全て砕き終えると、飛鷹君の方に目を向けると、筋骨隆々の男の人と、飛鷹君が打ち合って

いる。

 私は接近するもう1つの影を捉えていた。

 視線を向けると、丁度、突っ込んでくるところだった。

 

「ぶっっっち貫けーーーーー!!」

 戦槌を持った女の子が、襲い掛かってくる。

 

 私はラウンドシールドを展開する。

 シールドで戦槌を逸らす。

 が、衝撃を逃がしきれずに、私は手摺を突き破って屋上から飛び出していた。

 

 赤いドレスみないなバリアジャケットの女の子が、驚きの表情をする。

 私もビックリした。逸らしきれなかった。

 

 空中に私は静止する。

 

 視界の端に飛鷹君達の姿も見える。

 丁度、飛鷹君達も、無言で構えて向き合っていた。

 

「大人しくしてりゃ、怪我もさせねぇ。だから、お前のリンカーコアを寄こせ」

 

 

 赤いドレスの子が、静かな口調でそう言った。

 

 どうも、新しい事件が始まっちゃったみないなの…。

 

 もうすぐ、フェイトちゃんもこっちにくるのに!

  

 

 

 

 

 

 




 はやてと守護騎士の交流に関しては、原作同様にして省略するか、
プラスするか悩みどころです。

 あと、お察しの人達は次回…に出てくる…と思います。

 


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第28話 救援

 今更ですけど、vividの最終巻読みました。
 あれ!?はやてのセリフ、フラグじゃなかったの!?って思ったの
 私だけですかね。
 
 今回途轍もなく長いです。
 心してお付き合い下さい。

 それでは、お願いします。



              :クロノ

 

 それは、僕が書類を整理している時に、伝えられた。

 通信を伝えるコールが鳴り、僕はウインドウを開く。

 相手は、レティ提督だった。

「お久しぶりです。レティ提督」

 いつもなら、すぐに返答が返ってくるのだが、この日は違った。

「…ええ。今、いいかしら?」

 言い辛い事が起こったかな?

 残念ながら、僕のこの手の勘は外れない。まあ、これは誰でも分かるだろうけど。

「はい。厄介な事件ですか?」

 レティ提督は、意を決したように表情を硬くした。

「落ち着いて聞いて貰いたいのだけど。どうも、闇の書の騎士が活動しているようなの」

「っ!!」

 僕は辛うじて大声を抑え込んだ。

 闇の書。僕達家族には、因縁のロストロギアだ。

 僕の父さんは、闇の書の護送任務の際に殉職している。母さんの目の前で。

「詳しい話を聞かせて下さい」

 

 レティ提督の話では、管理外世界において連続して、大型の魔法生物のハンティングに、

魔法の不適正使用による魔導士の襲撃事件が多発。

 最初は、新手の密猟者とそこを縄張りにしている犯罪者との衝突と見られていたが、事態は

思わぬ方向へ進んだ。

 被疑者の1人が、闇の書を持った子供にやられたと証言したのだ。

 それから、その被疑者の仲間も検査を実施したところ、リンカーコアが抜かれている事が、

判明した。

 今まで、無視されていた案件も再調査した結果。複数の事案で同じ状況があった事が確認

された。

 これをもって、この事件は、ロストロギアによる広域次元犯罪となり、現在に至るらしい。

 

 更に悪い事に、闇の書の騎士達の行動を解析していくと、97管理外世界にいる可能性が

高いという。

 

 これは、母さん…いや、艦長に真っ先に知らせるべき案件だ。

 今日まさに、サプライズで引っ越しをしている筈だから。

 フェイトにアルフ、なのはに飛鷹にも警告をするべきだろう。

 捜査するなら、また話をあっちの世界の警察に通す必要があるな…。

 

「では、僕から艦長に伝えます」

 おそらく、レティ提督は僕達に気を遣ってくれたんだろうから。

「なんだったら、他のチームと捜査を取り換えて貰ってもいいのだけど…」

 レティ提督は、懸念のありそうな顔で僕を見詰めている。

 何を心配しているかは、分かる。

「御心配には及びません。復讐など考えていませんよ。あれが起こった背景は、分かって

いますから」

 突然の報に驚いたのは事実だが、本心だ。

 そう、背景を知らずにいたら、これで復讐が出来ると思ったかもしれない。

 だが、父さんが死んだのは、闇の書だけが原因ではなかった。

 

 俗な話だが、権力闘争が背景にあった。

 父さんは優秀過ぎたんだろう。

 だから、闇の書の護送に使うケースに細工をされた。

 それに細工されていなければ、父さんは生きていたという単純な話ではないが、聞かされた

当時は愕然としたものだ。

 父のいる組織は、正義の味方だと、当時の僕は信じていたから。

 ずっと管理局員に自分もなりたいと思っていた僕の価値観は、容易に吹き飛んでしまった。

 組織である以上、万人の納得する正義など成せないのは、当たり前だ。

 だが、当時の僕は管理局が実は悪の組織だったんだと、絶望したものだ。

 それでも、何人かの人の言葉で、持ち直したけどね。

 

 それからは、()()()()()()を信じる事にしている。

 

 闇の書にも、何かがあるのかもしれない。

 それを無視する積もりはない。

 

 僕は、気を遣ってくれた礼をレティ提督に言うと、ウインドウを閉じた。

 

 まずは、艦長に連絡だな。

 ついでに、エイミィにも呼び出しだ。

 

 僕は、これからやるべき事を頭の中で整理しながら、艦長に連絡を入れた。

 

 

              :リンディ

 

 なのはさん達には、内緒で97管理外世界にマンションを購入した。

 借りたのではない。購入である。

 我ながら、思い切ったものだと思う。

 なんとなく、住み易いなと思ったのもある。

 でも一番の理由は、フェイトさんだ。

 私は、この子に入れ込んでしまっている。ホントはよくないんだけど…。

 でも、放って置けない。

 

 そこで私は覚悟を決めた。

 

 フェイトさんをアリシアさんと一緒に引き取ろうと。

 当初は、クロノが難色を示すかと思ったが、思いのほか簡単に賛成してくれた。

 まだ、他人行儀な呼ばれ方しかしないけど、これからよね。

 アリシアさんに関しては、目も覚ましていない。

 簡単にいくなどと甘い考えは、持っていない。

 

「こっちです」

 私が考えに耽っている間に、アルフが引っ越し業者に指示を出してくれていた。

 いけないわね。

「ありがとう、アルフ」

 フェイトさんの使い魔は、少し照れた様に頬を染めた。

「い、いえ」

 さぁ。引っ越しに今は集中しましょう。

 

 張り切って片付けましょう。

 

 それから、フェイトさんを加えて3人で、運び込まれた荷物を解いていった。

 

 もう日も沈んだ頃、ようやく粗方片付けが完了した。

 後は、細々とした荷物は各自で解いて整理すればいい。

 

 お茶を飲んで、一休みしていた時の事だった。

「あ、あの。アルフの散歩に行って来ていいですか?」

 私は頭に疑問が浮かぶ。アルフに散歩?

 答えはすぐに現れた。

「どうだい?子犬フォーム!燃費も良くて、怖がられないし、アタシも楽!」

 そこには、立派な赤毛の狼は存在せず。小さい子犬がいた。

 それにしても、アルフ。自分が楽なのを強調したわね。

 確かに、人型って魔力を食うからフェイトさんも楽だろうけど。

「うん!アルフ、可愛いよ!」

 フェイトさんが、微かに微笑みを浮かべて感想を言う。

 フェイトさんが、少しでも笑う事が出来るようになったのは、いい事だ。

 事情を理解した私は、遅くならないように、いってらっしゃいと送り出した。

 

 1人になってお茶をチビチビ飲んでいたが、不意に呼び出しのコールが鳴る。

 私は溜息を吐きたくなった。タイミングがいいんだか、悪いんだか。

 ウインドウを開くと、そこには息子の姿があった。

「すみません。艦長、今いいですか?」

 艦長…ね。という事はお仕事の話という訳ね。当然なのだけど。

「ええ。どうしたの?」

 私は話を促す。

「まず、闇の書の活動が確認されました」

「っ!!」

「真っ先にご報告した方がいいと判断しました。どうやら闇の書は97管理外世界に

あるようです」

 私の動揺を余所に、クロノが淡々と重要な情報を言った。

 私は目を閉じて心を落ち着かせると、クロノに報告の続きを促した。

 

 発覚までの詳細が報告されていく。

 

 今回も後手に回ったのね。

 私の脳裏に忌まわしい光景が蘇る。

 

 乗員を救う為、ただ1人艦に残り、消滅した夫の姿を。

 

 だが、同時に思い出す。

 

『リンディ。どんなに危険なロストロギアでも、そこに至る事情はあると思うんだ。

物品だったらいいが、それが意思を持っているものも少なくない。だからこそ、

公平な目で見なければならないんだと、思うんだよ』

 

 闇の書の捜査に当たった時の、夫のセリフだ。

 

 大丈夫。復讐なんて考えてないから…。でも、思うところがあるのは、許して頂戴。

 

「それならば、なのはさん達にも警告しないといけないわね。クロノ執務官。

ただちに、捜査本部を設置します。準備を。」

「了解しました」

 後は、またこちらの捜査機関にも、断りを入れないといけないわね。

 だが、まずはなのはさん達に警告だ。

 サプライズが台無しになってしまったけど。

 あの子の友達になる為に必死になってくれた子達を、危険に晒す訳にはいかない。

 

 だが、それを嘲笑うように、異変は起きた。

 

 この違和感は、結界!?

 

 私は慌てて窓に駆け寄る。それと同時にクロノへコールを入れる。

 クロノの顔が、ウインドウに映し出される。

「どうかしましたか?」

「遅かったみたい。至急臨場して下さい。クロノ執務官」

 クロノが驚愕の表情を浮かべると、それを消し、苦い顔で急行すると言って切った。

 苦い顔も分かる。今から急いだところで、どれ程時間が掛かるか。

 

 私も現場へ向かわなくては。今いるのは私しかいない。

 

 フェイトさんに通信を送ろうとするが、通信が届かない。

 なのはさん達に通信しようとしても、デバイスから応答がない。

 

 なんて事!

 

 私は窓から飛び出していった。

 

 新しい家族と、その友達を護る為に。

 

 

              :フェイト

 

 アルフの散歩に出たのは、周囲に犬を飼っていますと、アピールする目的もあるし、

なんとなく歩きたかったというのもある。

 

 新しく家族になってくれた人達。眠り続けるアリシア。レクシアの行方。

 考える事が一杯ある。

 リンディさんはいい人だけど、すぐに母さんとは呼べない。

 どうしても、母さんの最後を思い出してしまう。

 母さんは最後まで私を認めなかった。

 

 私がリンディさんを、図々しく母さんと呼んでいいのかな…。

 

 なんとなくだけど、リンディさんも私達を引き取るのに、無理をしたんだろうという事は、

分かる。どういう無理かは分からないけど、感じるものはある。周囲の視線とか。

 リンディさんのキャリアを傷付けたんじゃないの?ってクロノに訊いた事があったけど。

 いい大人が決めた事なんだから、気にする必要はないし、その程度で母さんはどうにも

ならないって、ぶっきらぼうに言っていた。

 

「フェイト。難しく考える事ないと思うけど?」

 物思いに耽っていた私を、アルフが引き戻す。

「え?」

 周囲に人の姿はない。それでも、アルフは小声で話す。

「優しくしてくれる人がいる。それでいいじゃないか。過去の事はさ、いくら考えても

変わらないよ」

 アルフらしい言葉に、少し苦笑いしてしまう。

「ありがとう。アルフ」

 

 前に来た時に、地形は把握してある。

 問題なく、マンションの周りを一周し終わるといった時だった。

 

 強烈な違和感と共に、結界が構築される。

「「!!」」

 違和感を感じる方へ、視線を向けると封鎖型の結界が張られているのが分かる。

 この世界で、魔法で襲撃を受けるとすれが、限られる筈。

 なのは、飛鷹!

 私はバルディッシュに、通信を送って貰うが、応答がない。

「アルフ!」

「応さ!」

 私はバリアジャケットを纏うと、アルフと共に空中に飛び上がったまさに、その時。

 私の周囲にも、結界が構築された。

 視界に入る疎らな人が結界と共に、消失する。

『封鎖型の結界であると推測されます。ミッド式の魔法ではありません』 

 じゃあ、どこの魔法?

 アルフと共に、周囲を警戒する。

 

「お互い、災難だった。という事だろうな」

 上から不意に声が聞こえてきて、すぐに距離を取る。

 見上げると、ピンク色の髪の剣を携えた女の人がいた。

「悪いが、応援に行かせる訳にはいかん。そして、相対した以上、お前のリンカーコア

も貰い受ける」

 この人も、なのは達を襲撃したであろう人達の応援に、行く積もりだったんだ。

 でも、私を見付けてしまった。

 確かに、運が悪いかもしれない。でも!

「どうして、こんな事をするんですか?」

 私はバルディッシュを構え、問い質す。

「悪いが、話す気はない」

 剣士が剣をゆっくり構える。

「アルフ。援護に徹して」

 アルフが悔しそうに頷いたのが、分かった。

 

 この人は強い。

 

 多分、アルフでは歯が立たないだろう。レクシアと同じような魔法の気配。

 もしかして、何か関係でもあるかな?

 でも今は、この場を乗り切る事だけを考えなきゃ。

 

 電光石火。

 ピンクの剣士が素早く間合いを詰めてくる。

 剣が上段から振り下ろされる。

 レクシアの動きや威圧を経験していなければ、これで終わっていたかもしれない。

 だが、速くても上段からの一撃。

 私はバルディッシュで一瞬だけ剣を当てると、叩き斬られる前に斜めに斬撃を受け流す。

 素早くバルディッシュを引き戻し、逆に打ち込む。

 剣士も体勢が崩れる寸前に、強引に立て直し、身体全体を使った私の一撃を受け止める。

 火花が飛び散る。

 身体が押し込まれる感覚。勝負にならない。

 

『プラズマランサー』

 

 雷の槍を一瞬で複数生成し放ち、すぐさま、引き下がる。

 

「ハアァァーー!!」

 気合一閃。槍が一振りで砕かれてしまった。

 アルフも援護射撃を撃ち込むも、一撃も掠らない。

 剣風の刃がアルフを襲うが、咄嗟に飛び退いて躱しいた。

 私もアルフの後退を支援する為に、突撃を敢行する。

 剣と戦斧が打ち合わされるが、圧倒的な力に逆らわず、その勢いを利用して私も後退し、

距離を取る。

 余裕なのか、追撃がない。

 

 力は圧倒的に向こうが上。まさに剛剣と呼べる剣だ。

 魔力強化をしていても、力勝負は避けるべきだ。

 

 攻撃を避け、狙い澄ました一撃を打つ隙を伺う。

 レクシアとは違うけど、怖い攻撃が嵐のように攻め立ててくる。

 魔力強化した身体でも、薄く皮膚が切れて薄っすらと血が滲む。

 隙など一切見当たらない。

 

 アルフもポジショニングを変えて、援護してくれるけど、全く堪えている様子はない。

 2人掛かりでも、剣士の攻撃を止められない。

 

 技術も凄い。このままだと押し込まれる。

 焦りを抑え込んで、全身のセンサーをフル稼働して、紙一重で躱し続ける。

 隙は必ず生まれる。落ち着いて。

 剣風の嵐は途切れない。

 

 だが、チャンスは巡ってくる。

 一瞬の間隙。隙を逃さず攻撃。頭の中に警報が鳴る。

 あの剣士の目に動揺はない。誘いだ!

 

 もう攻撃態勢に入ってしまっている。止められない。

 私は咄嗟に、バルディッシュをサイスフォームに変形させる。

『ハーケンセイバー』

『シュランゲフォルム』

 剣の柄の辺りから薬莢のような物が、吐き出される。

 魔力が爆発的に高まる。

 剣が蛇腹剣へと変形する。

 強力な魔力を纏った蛇腹剣が、文字通り蛇みないに迫ってくる。

 だが、一瞬だけ、私の方が速かった。

 

 蛇腹剣と魔力刃が激突する。

 

 爆発が起きる。

 

 爆風で押し流される。威力が向こうの方が上だった所為だ。

 

 私は、アルフの隣で止まると、油断なくバルディッシュを構える。

 煙が晴れると、当然のように無傷で剣士がいた。

 蛇腹剣を元の剣の状態に戻す。

「今までの魔導士とは違うな。その歳で大したものだ」

 少し感心したように剣士が言った。

「ありがとうございます」

 嫌味な口調ではないので、私は思わずそう言っていた。

「ちょっ!フェイト!」

 アルフが敵に何言ってるの!?といった反応を見せる。

 ごめん。つい…。

「侮った事を詫びよう。烈火の将・シグナム。これより本気で相手をさせて頂く」

 剣士の雰囲気が劇的に変化した。

 本気じゃないとは、思っていたけど、ここまでなんて。

 正体の分からない圧力に、集中が乱されかけるが、どうにか立て直す。

 

 負けられない。

 

「魔導士・フェイト・テスタロッサ!」

 圧力を押し返し、私は名乗った。

「その意気やよし」

 睨み付けた私を、剣士が獰猛に笑う。

 もう剣士から侮りの色はない。

 

 剣士、いやシグナムから剣が繰り出される。が、今までとスピードが違う。

 受け流せない!

『ディフェンサー』

 魔力シールドを展開し、受け止める。明らかな悪手。

「レヴァンティン!!叩き斬れ!!」

『了解!』

 また剣のデバイスの内部で魔力が爆発する。

 結界に切れ込みが入り、あっと言う間にバルディッシュまで斬られてしまった。

 辛うじて、私は身を引いていたので、斬られなかったけど不味い。

 また剣の内部で爆発する。これだ。内部で魔力を爆発させて瞬間的に威力を高めて

るんだ。

 今までとは違う攻撃に、避ける事も満足に出来ない。

 嵐の中の虫みたいに、ビルに吹き飛ばされる。

「フェイト!」

 アルフが咄嗟に抱き締めて、激突の衝撃を和らげてくれる。

 ビルの中間ぐらいで止まった。

 身体が衝撃で痺れを感じる。凄いパワー。

 接近の気配。身を起こそうとする私をアルフが立ち上がり、盾のように護る。

「フェイトはやらせないよ!」

 滑るようにシグナムがアルフの前に立つ。

「いい守護獣だ」

 剣を構える。

「覚悟」

 アルフが魔力を全開にして護りを固める。

 冷や汗が流れているのが、分かる。大丈夫だよ。アルフ。

「貴女の方がです」

 私の言葉にシグナムが怪訝な表情をする。

「何?」

 直後にシグナムの背後から、青白い光が漏れる。

「何だ!?」

 剣士の剣が青白い柱に吸い寄せられていく。

 もう勝った。そう思った時が、一番隙が出来る。

 鉄筋の柱を電磁石化し、その指向性を全て剣に向けた。

 振り切れるものなら、振り切ってみろ!

 シグナムの剣が柱に叩き付けられる。

「チェーンバインド」

 アルフがすかさずバインドを掛ける。

 魔力で出来たチェーンが、唸りを上げてシグナムを拘束する。

 

 砲撃モードに移行。

 

『プラズマスマッシャー』

 シグナムが拘束を外しつつ、三角形の魔法陣で形成されたシールドを展開する。

 雷の砲撃が放つ。

 

「ウオォォォォーーーー!!」

 シグナムが炎を纏った拳で、シールドごと砲撃を殴り付ける。

 轟音。

 

 ビルが2つの魔力光のぶつかり合いで、吹き飛ぶ。

 

 閃光と疲労でフラフラになりながら、どうにか立ち上がると、目の前に

シグナムが迫っていた。

「なっ!?」

 シグナムは剣を取り戻し、上段から斬り下ろす。

 

「紫電一閃!!」

 

 咄嗟にシールドが間に合ったが、意味はなかった。

 紙のように千切られて、真面に一撃が撃ち込まれる。

 他人事のように自分の悲鳴を聞きながら、瓦礫に叩き付けられる。

「ガフッ」

 口から血が混じったものが吐き出される。

 

 シグナムが近付いてくる。

 立ち上がらきゃ、立ち上がらなきゃ。

 でも、身体が動いてくれない。

「見事だ。フェイト・テスタロッサ。これ以上続けるのは危険だ。降伏しろ」

「初めて…出来たんです」

「何?」

 ボロボロになり、短くなってしまったバルディッシュを支えに上体を起こす。

「初めて出来た友達なんです!」

 赤い影が私に覆い被さる。

 アルフだった。

「フェイトは、アタシが護る…」

 アルフ…。

「すまんとは言わない。恨んでくれて構わん」

 シグナムが剣を振り上げる。

 やけに、ゆっくりと見える。

 

 せめて、なのは達だけでも助けられないの?

 なのはの傍には、飛鷹がいる。

 なら、そう簡単に負けない筈。

 

 私とアルフは間に合わないけど、なのは達の救援は間に合うんじゃない?

 

 レクシアの顔が浮かぶ。

 この状況をどうにか出来る人は、彼女しかいない。

 

 都合のいいお願いだと、分かってる。呆れられるかもしれない。でも…。

 

 私は意を決して、念話を全方位に向けて送る。

 

『レクシア!!お願い。なのは達を助けて!!』

 

 なのは達だけでも助けて。

 

「む?この期に及んで救援の依頼か?」

 シグナムが剣を止める。

「ええ。別にどう言って貰っても構いませんよ」

 シグナムが首を横に振った。

「いや。友の為にプライドをかなぐり捨てられるのは、大したものだ。嫌味

でなくな。昔の自分達より上等だ」

 シグナムは自嘲気味にそう言った。

 沈黙が流れる。過去、この人に何があったんだろう。

「だが、そろそろケリを付けさせて貰おう。向こうに救援が来たら面倒だしな」

 シグナムがビクッと何かに反応した。

 視線をチラッと別の方向に向けると、剣を振り上げた。

 

 風を切る音がする。

 

 アルフと私は目をきつく閉じる。

 何かが弾かれる音が響く。

 いつまで経っても衝撃が訪れない。

 

 何かが刺さる音がして、目を開くと私達の前に黒いバリアジャケットを纏った

女の子が、拳銃形態のデバイスを構えて立っていた。

 

「フェイト。分かってると思うけど。これ、ちょっと反則じゃない?来ない訳に

いかないじゃない」

 

 レクシアが困った顔をして立っていた。

 

「何者だ!」

 レクシアは、シグナムの方をチラッと見ると、冷ややかな声で言った。

 

 

「自己紹介は、随分と昔に済ませてるでしょ」

 

 

              :シャマル

 

 距離を取り、別のビルの屋上に陣取っている。

 救援の救援?どれだけいるの!?この世界、魔法文化ない筈よね!?

 シグナムが負けるとは思えないけど、妨害はしないとね。

 もう1人は、現在、こっちにくるのは止めている。

 後回しでいいわね。

 

 私は魔法を発動しようとして、止まった。

 

 目が合った?

 この距離だし、姿は隠しているし、偶然よね?

 

 魔法を使おうとして、私は地面を転がった。

 頭に警報が鳴り響いたからだ。これを無視すると碌な事がなかったから、躊躇

せず、転がった。

 正解だった。

 魔力弾が、私が立っていたところを通過する。

 

 ゾッとする。まさか救援に来てるあの子!?

 

『シグナム!気を付けて!救援がそっちに行くから!!』

 念話でシグナムに注意を促す。

 が、念話が通っている感はあるのに、返事がない。

 

 どうなってるの!?

 

 私の周りに無数の魔力弾が生成され、一斉に襲い掛かってくる。

 私はバックアップで、直接戦闘は苦手なのよ!

 

 かといって、逃げ帰る訳にもいかない。

 必死に逃げ回っていると、突然、魔力弾が全て破壊される。

 

 誰!?

 

「大丈夫か?」

 私は反射的に距離を取る。

 そこには、仮面を付けた怪しい男が立っていた。

 相棒であるクラールヴィントに、反応すらなかった。

「何者?」

 警戒感を滲ませながら、尋ねる。

「それよりも、奴が結界内に侵入したぞ」

 え!?もう!?なんなのあの子!

「撤退させる準備をしろ。私が救援に入る。あとはあっちも救援が入っている。

こっちが済んだら、向こうの撤退も支援してやれ」

 この男もなんなの?いきなり命令される覚えもないんだけど。

 

 仮面の男は、こっちの事など、お構いなしに突然消えた。

 変な魔力ね?

 

 もう!なんなの!?

 

 

              :美海

 

 夕食を食べて、これから宿題でも片付けるかい。っと思ったら結界が張られた。

 間を置かずして、2つ。

 しかも、よく存じております術式でございますね。

 

 非常に遺憾ながら、この術式使ってんのここだと私を除くと、限られる。

 飛鷹君。いい加減、任せていいんだよね?これがフラグになったりしないよね?

 

「美海」

 

 よし!今日の宿題はと。

 

「美海!」

 

 リニスの声に強いものが混じり出した。

「何?リニス」

「助けに行かなくて、いいんですか!?」

 私は渋い表情になる。

「正直、アイツ等と関わるのは、ちょっとね…」

 リニスは眉尻を下げる。

「今回の相手に思うところがあるのは、分かっていますけど。美海はどうしたいんです?

助けてあげたいんじゃないんですか?」

「……」

 でもねぇ。やり過ぎんのもね。

 多分、私はここぞとばかりに過去の鬱憤を晴らすと思う。

 そんな事をアイツが望まないとしてもだ。

 だから、関わりたくないんだ。

 助けてやれなかった身としては、せめてアイツの意向くらいは汲んでやりたい。

 だから、飛鷹君に強くなるヒントを出し続けた。

 

 結構長い間、黙り込んでいたようだ。

 だって…。

 

『レクシア!!お願い。なのは達を助けて!!』

 

 こんな念話が聞こえてくるぐらいだもの。

「美海。行きましょう!」

 お願いじゃ、行かない訳にもいかないか…。

 こんな頼まれ方したら、断れないじゃないか。

 

 今のうちに謝っとく。ごめん、多分やり過ぎる。

 

「リニスは最初に張られた結界に、応援に行ってくれる?私はフェイトを助けに行くよ」

「はい!!」

 リニスが力強く頷く。

「多分、バックアップがいるから。奇襲に注意してね」

 リニスは再び頷くと、転移していった。

 まあ、リニスなら湖の騎士相手に後れを取ったりしないでしょ。

 それ以前に、どっちにいるか知らんけど。

 戦力を二分しているなら、どっちかにいるだろう。

 

 私も転移で近場に移動し、結界の前に立つ。

 

 だが、こちらに急いで駆け付けてくる艦長さんを発見。

 仕様がない。

『艦長さん。フェイト達の応援は私がします。待機していて下さい』

『その声は、レクシアさん!?』

『はい。助けを求める声。艦長さんも聞こえたでしょ?』

 少し沈黙。

『ハッキリ言わせて貰います。来て貰っても邪魔です』

『!!』

 厳しい事を言うが、勘弁して下さい。

『本当に助けてくれるんですね?後で説明して貰いますよ』

『善処します』

 私はそう言って、念話を切った。

 流石に貴女の面倒までは見ませんよ。なんかあったら、自力でどうにかして

下さいね。

 

 うん。こっちにいたか。じゃ、なのは達の救援は問題ないでしょ。

 私はチラッとあるビルの屋上を見て、結界に向き直る。

 

 血液の中からシルバーホーンを取り出し、構える。

雲散霧消(ミストディスパージョン)

 結界に穴が開いた隙に入り込む。

 流石にこれで結界自体が壊れるなんて、お粗末な出来じゃないか。

 すぐさま、穴が塞がる。

 

 魔力反応は、あの瓦礫か。

 

 ピンクのポニーテールが、剣を振り上げているのが見える。

 

 私は、シルバーホーンを剣に向けて撃った。

 剣が手から弾き飛ばされる。

 私はフェイトとアルフの前に立つ。

「フェイト。分かってると思うけど。これ、ちょっと反則じゃない?来ない訳に

いかないじゃない」

 

 フェイトが嬉しそうな、それでいて驚いた顔をしている。

 君が呼んだから、来たんだが?

 

「何者だ!」

 シグナムがボケた事を言っている。

「自己紹介は、随分と昔に済ませてるでしょ」

「何!?」

 私はシグナムを無視して、シルバーホーンをフェイトとアルフに向ける。

 初めてだから、2人共ビックリした顔をする。

 が、構わず引き金を引く。

 

 2人から青白い炎が上がり、怪我をする前に状態に戻った。

 

「リニスが向こうの応援に行ってる。心配しないで。だから、貴女達も応援に行って」

 暫く、身体中を2人共、点検していたが大丈夫と分かったようで、礼を言われた。

「レクシアは、どうするの?」

「決まってるでしょ。こいつにヤキ入れて帰る」

「「……」」

 2人共、何とも言えない沈黙。

 いいじゃん。別に。

 

「ほら、結界に穴開けるからさ。飛び込んでよ」

「やらせると思うか?」

 シグナムが剣を魔力で引き寄せ、構える。

 私は無視してシルバーホーンを構える。

 雲散霧消(ミストディスパージョン)を発動。

 空に穴がポッカリと開く。

「行って!」

 フェイト達が慌てて飛び立つ。

「行かせん!」

 シグナムが妨害しようと動くが、それは私がやらせない。

「おやおや。余所見か?」

「!!」

 一瞬で間合いを詰められた事に、驚いている。

 残念。隙は見逃さないよ。

 剣を振るう。

 腐っても騎士。辛うじて剣で防ぐ。

 凄まじい金属の衝突音が響く。

 所謂、鍔迫り合いをするが、押し切れずに戸惑っている。

 まあ、見た目がこんなだからね。でも、見た目通りじゃないんだな。

 逆に、押し切ってやる。慌ててシグナムが距離を取る。

 私はすかさず追撃。

 

「シャマル!どうした?」

 援護もない。念話が通じない。不審に思っても仕方がない。

 いるのは確認している。

 結界がなければ、死の踊りをしている姿も見えただろうに。

 念話が私にしか届かないように細工している。

 斬り結びながら、あっちにも魔法攻撃してるんだなこれが、地味になってる

けどさ。

 

 流れるように剣を振るう。シグナムも剣を振るうが、火花を散らして

逸らされ、弾かれる。その度にシグナムに薄く切り傷が増えていく。

 光が走り剣が舞う。剣舞とでも言えるような攻防が続く。

 そして遂に捌き切れずに、一撃。吸い込まれるように私の剣が胴に、入る。

「ガッ!!」

 シグナムがくの字に折れ曲がる。

 普通なら飛んでいくところだが、脚で踏ん張っている。

 痛みを堪えて無理矢理剣を振る。

 だが、一度崩れた剣を立て直す暇など、与えない。

 剣閃をより激しく舞わせる。

 今度こそ、シグナムが瓦礫に吹き飛ばされる。

 

 煙のように粉塵が視界を覆う。

 その粉塵を切り裂くように、蛇腹剣が鞭のように飛んでくる。

 私は僅かに躱し、剣を振るう。澄んだ音を立ててシグナムの蛇腹剣が両断される。

 纏った魔力の影響で、切断された刃は瓦礫を一掃しながら飛ばされる。

 

 切断された剣を持ちボロボロの姿で、シグナムが立っていた。

 息が上がっている。

 密度の濃い戦いは久しぶりか。

 

「さて、アンタ等は夜天に事が終わるまで、格納されてろ」

 私は殺気を放ちつつ、近付いていく。

 これが終わったら、湖の騎士を片付けないとね。いっそ雲散霧消(ミストディスパージョン)で消すか?

 

 シグナムが目を閉じる。覚悟が決まったようだ。

 

 まず1人。そう思った時だった。

 私は飛び退く。

 飛び退くと同時に、赤い熱線が地面を切断する。

 切断面が膨れ上がり、爆発する。

 なんか変な魔力だな。

 

 攻撃した仮面の男がシグナムの傍に着地する。

「逃げろ。ここでやられる訳にはいくまい」

 シグナムは、やけにタイミングよく現れた怪しさ大爆発の人物に、当然の視線を

向けた。不信感。

「湖の騎士は、双方の撤退支援に入ったぞ」

 シグナムは、仮面の男と距離を取り結界を解除する。

 同時に、シグナムの姿が掻き消えた。

 転送で撤退させたのだろう。

 瓦礫が消え、元の街並みが戻ってくる。

 だが、私と仮面の男は、注目されない。

 私は魔法を、仮面の男はなんらかのステルス機能か何かを、発動したんだろう。

 

 必然的に私と仮面の男が、相対する事になる。

 

 私は剣を油断なく構えている。

 仮面の男が手で制止する。

「戦う気はない。これが正しいと、そのうち分かるだろう」

「知った事じゃないね」

 私の返しに仮面の男が怯んだ。

 

 私が踏み込もうとしたまさにその時、仮面の男が大急ぎで見知らぬ魔法で消えた。

 

 変な魔法だな。違和感を覚える。

 

 それはそうと見事な逃げっぷりだな。

 

 

 私も帰りますか。いつまでもここにいても仕様がないし。

 

 

              :なのは

 

「大人しくしてりゃ、怪我もさせねぇ。だから、お前のリンカーコアを寄こせ」

 ええ!?それを今言うの!?

 さっきの攻撃にしても、当たれば大怪我決定だったよ!?

「あ、あの…理由を教えてくれないかな」

 顔が少し引き攣ってるけど、それは許してね。

「言う必要ないだろ」

「あるから!!」

 赤いバリアジャケットの子は、五月蠅そうに手を振った。

「じゃあ、拒否って事でいいんだな?」

 話が通じない!?

 

「アンタ…苦労してんだな…」

 飛鷹君が心の底から同情した声で、相対している筋骨隆々の人に話し掛けていた。

「……」

 筋骨隆々の人は、表情こそ変えないけど、無言だった。

 

「ゴチャゴチャうるせえよ」

 赤いバリアジャケットの子が、戦槌を振り上げて突っ込んでくる。

 私はレイジングハートを構える。

「アイゼン!!」

『ラケーテンフォルム』

 何か弾の薬莢のような物が、デバイスから吐き出される。

 魔力が跳ね上がる。

 戦槌が変形して、ロケットのような物が取り付けられる。

 ロケットが火を噴いて、赤い子が加速する。

「ラケーテン…ハンマーーー!!」

 加速したと思ったら、高速回転して襲い掛かってくる。

 これは、ラウンドシールドで逸らしたり出来ない。

 受けるのは、論外。

『フラッシュムーヴ』

 激突寸前に、私の最速の魔法で回避する。

『アクセルシューター』

 無数の小さい弾丸を形成し、高速で撃ち出す。

 赤い子は、回転しながら器用に弾丸潰していく。

 牽制にもならないで、突っ込んでくる。

 砲撃じゃないと、防御が貫けない。

 だけど、スピードは速いし、威力は破格。

 私はギリギリの回避しか出来ていない。

 戦槌が暴風のように、私を掠めていく。

 魔力強化した状態でも、一撃でも食らえば撃墜される。

「レイジングハート。力を貸してね」

『オーライ!クロースコンバット・モードロッド』

 レイジングハートが私の意志を汲んで、棒に変形する。

「ハッ!魔導士が騎士に接近戦挑もうってのか!」

 同調。あの子の魔力から攻撃のタイミングを計る。

 フェイトちゃんの時は、上手く出来なかった。

 でも、あれから私だって精進してきた!

 

 圧倒的な暴力が身体に向かって伸びている。

 

 幾度も繰り返し、型は身に付いている。自然と身体が動いてくれる。

 後は、タイミングのみ。

 棒を短めに持つ。

 

 ここ!

 暴風が身体を捉えるまさにその時、私は棒を振るった。

「地雷閃!!」

 飛鷹君直伝の力技。御神とは根底から違う技だけど、私には意外に合った。

 いくら力技といっても赤い子の力には、敵わない。

 でも、タイミングさえ合わせる事が出来れば、最大の力技さえ放てれば、逸らす

くらいは出来る。そして、それで十分だ。

 

 棒が戦槌のロケットを捉える。火を噴いている場所が少し潰れる。

 戦槌が私の身体を逸れていく。

 赤い子がバランスを崩す。

 あんな高速回転に高速移動をするには、軸がブレないようにコントロールしない

といけない。しかし、バランスを崩せば、制御など出来ない。

「うわっ!」

 戦槌に振り回されて、飛んでいく。

 すぐに体勢を整えるだろう。でも、その僅かな時間が欲しかった。

『カノンモード』

 砲撃モードに移行。

「このヤロー!!」

 赤い子が体勢を整えるまさにその瞬間。バインドが赤い子の四肢を拘束する。

 赤い子は、強引にバインドを破ろうとする。

『ディバインバスター』

 魔力運用の腕が更に上がったから、威力もフェイトちゃんと戦った頃とは違う。

 ピンク色の魔力光を放ち、艦隊砲のような砲撃が赤い子に直撃する。

 

 大爆発を起こす。

 

 私は油断なく、レイジングハートを構える。

 煙が晴れていく。

 そこには、赤い膜のような魔力シールドに、護られている赤い子の姿があった。

 流石に、少しはダメージが通ったのか、帽子が失われ、バリアジャケットも少し

ボロボロだった。

 

 赤い子がシールドを解除する。

 

「悪かったな…」

 呟くように赤い子は、私にそう言った。

「分かってくれた!?」

「ああ。舐めちまって悪かったよ。こっからは、本気でやる」

 あれ?分かって貰えてないね。

 凄い殺気と闘気が圧力となって、私を圧し潰そうとする。

 

 これは、お父さん並だ。ううん。それ以上だ。

 

 でも、ここでやられる訳にはいかないの。

 

 お父さんやお兄ちゃんの圧力を経験してなきゃ、戦意喪失してたかもしれない。

 でも、私も高町家の人間。最後まで抗う!

 フェイトちゃんも、もうすぐこっちに来るんだ。

 ここで、楽しい思い出を作って貰うんだ!

 

 私は赤い子に闘気を放つ。

 赤い子は、僅かに目を見開く。

「鉄槌の騎士・ヴィータだ!」

「高町なのは!」

 もう言葉が入り込む余地はない。僅かな気の緩みで撃墜される。

 

 ヴィータちゃんのデバイスから薬莢が、幾つか排出される。

 魔力がまた跳ね上がった。

 あの弾丸みたいなやつで、魔力を上げて威力を上げてるんだ。

 戦槌の形がより叩き潰すのに、適した形になった。

『ギガントフォルム』

 そのまま、戦槌を構えたと思ったら、これまでの直線的な動きとは、違った。

 曲線を描くような攻撃も、器用に織り交ぜてくる。

 しかも速い。

 同調が、上手くいかない。ほぼ攻撃のタイミングを察知した頃には、攻撃が

振り下ろされている。

 直接、打ち合えるような威力じゃない。躱すのだって難しい。

 フラッシュムーヴを多用して避けてるけど、このままだと押し込まれる。

 魔力弾も、防御を貫く事が出来ない。

 

「ぶっっっ潰せーーー!!」

 何度目かフラッシュムーヴでも回避の後、回避地点にヴィータちゃんが戦槌を

振りかぶった状態でいた。

 

 読まれた!

 

 咄嗟にラウンドシールドとレイジングハートを割り込ませる。

 赤い衝撃が魔法とレイジングハートを破壊する。

「キャァァァーー!!」

 戦槌に真面に殴られて、吹き飛ばされる。

 自分が今、どうなっているかも分からない。

 

 いくつかビルを突き破って、ようやく止まる。

 

 私の口からは、呻き声しか出ない。

「レイジング…ハート」

 レイジングハートから返事はない。

 

 ヴィータちゃんがやってきた。

「悪りぃな。お前のリンカーコアを貰う」

 ヴィータちゃんの手から、本が現れる。

 なんとか、立ち上がろうとするが、身体が言う事を訊かない。

「闇の書。蒐…」

 何かしようとしたヴィータちゃんが、飛び退く。

 なに?

 建物を突き破ってくる音がする。

 なんとか視線を向けると、ヴィータちゃんが立っていた場所にハルバードが

刺さっていた。

「誰だ!!」

 

 私の前に女の人が降り立つ。

 この人は、レクシアさんと一緒にいたリニスさん?

「救援に来た者です」

 

 

              :飛鷹

 

 ヴィータが、問答無用で戦いを再開した。

 こちらも、いつまでも睨み合いをしている訳にも、いかないだろう。

 なのはが心配だしな。原作より強くなってるし、簡単に負けやしないだろうが。

 

 俺も剣を握り直す。

 それを合図にしたようにザフィーラが突っ込んでくる。

「オォォォォーーーーーー!!」

 スゲェ雄たけびを上げて殴りかかってくる。

 

 一丁、アンタ相手に腕試しといくか。

 

 両手の拳には、白銀の魔力光が帯びている。

 狼とは思えない流れるような動きで、拳を繰り出してくる。

 ヤツの相手をしていなければ、対応出来たかあやしい。

 あとは、高町一家の地獄訓練のお陰だ。

 俺も負けじと剣を振るう。

 金属を打ち付ける激しい音が、響き渡る。

 拳と剣がぶつかり合う。

 

 だが、俺の方が優勢に進めている。

 俺の剣は偶にザフィーラを捉えている。

 非殺傷設定だからな。

 チャンと振り切っているが、矢鱈、頑丈な身体で当たっても、ビクともしない。

 流石、盾の守護獣だな。

 

(ジャイ)!」

 

 ザフィーラがシールドを展開するが、俺はシールドごと叩き斬る。

 袈裟切りで、斬り付けるが奥歯を噛み締めて耐えたばかりか、反撃してくる。

 

 俺の後ろの方で、ピンク色の閃光が走る。

 

 背後で大爆発が起きる。

 

 ザフィーラは俺に集中している。

 おいおい。ヴィータの事は心配してないのか?いや、信頼してるのか。

 あの程度じゃ、やられないと。

 

 背後から凄まじい殺気と、闘気が溢れ出す。

 なのはは、抗っている。

 

 だったら、俺もアイツを信じてやらねぇとな!

 

 俺もザフィーラに闘気を放つ。

 ザフィーラも、ヴィータと同等の殺気と闘気を放ち、こちらに圧力を掛ける。

 

「テオヤァァァァァーーーー!!」

「ブラッディースクライド!!」

 

 白銀の魔力の一撃と同時に、白銀の刃が雨のように降ってくる。

 高速回転する突きが、刃の雨を振り払いながら激突する。

 

「グッ!!」

「うおっ!!」

 爆発と同時に、両者吹き飛ばされる。

 

 俺とザフィーラは、同時に構え直す。

 通じる。歴戦の守護獣相手に俺の技が。

 だが、通じるだけじゃ、ダメだ。

 勝たねぇとな。

 

 その時、爆発的に魔力の高まりを感じた。

 ヴィータの魔力だ。

 これ程、上げるって、まさかギガントか!?

 迂闊にも、気が逸れてしまった。

「鋼の軛!!」

 クッソ!俺も魔法を一歩遅れて発動させる。

「ディスポーズ!!」

 網の目状の刃が白銀の刃を弾き、破壊しながら虚空に消える。

「ウオォォーーーーー!!」

 気が付けば、懐に入られていた。

 こっちが本命だったか!

 俺は咄嗟にシールドを展開。

 ザフィーラは、お構いなしに拳を打ち付ける。

 

 凄まじい衝撃音となのはの悲鳴と共に、破砕音が連続して響く。

『なのは!大丈夫か!?』

 思わず念話で声を掛けるが、返事がない。

 

 クッソ!信じるとか言っといて、このザマかよ!!

 ザフィーラは、俺をここに釘付けにするのが、目的だろう。

 

 俺はマナバレットを展開する。

 ザフィーラも、それを確認している筈だが、変わらず拳を打ち付けている。

 シールドにも罅が入り出している。

 

 上等だ!やってやるぜ!!

 

 衝撃波が届く。

 ヴィータの攻撃が、なのはを捉えた事を意味していた。

 手早く終わらせてやるぜ!!

 

 だが、決め切れなかった。

 

 突如、ザフィーラがバインドで拘束されたのだ。

 

「!!」

「は!?」

 

 思わず俺は振り返る。

 そこには、ヤツと共に消えたリニスがいた。

 

 

              :ヴィータ

 

 もうちょっとで蒐集出来たのによ。

 でも、目の前の奴は、ちょっとメンドイ奴だな。

 守護獣だろう。

 ザフィーラとは感じが違うけど、高町なのはより接近戦に慣れてそうだ。

 

 守護獣がハルバードを引き抜き、構える。

 チッ!高町なのはの所為で、カートリッジの残りが心許ないってのによ!

 

 イケっか!?ここまでやって、手ぶらで帰れるかよ。なぁ!

 

 腹を決めてグラーフアイゼンを構える。

『あちらの救援が接近中』

 突然、グラーフアイゼンから嫌な情報が齎される。

 流石に、これ以上の救援を相手取るのは、キツイ。

 

 クソ!

 

『ザフィーラ。撤退するよ』

 嫌々この言葉を、念話でザフィーラに伝える。

『心得た』

 ザフィーラ。なんでアンタは少し笑ってんだよ。

 失敗してんだよ!笑ってんじゃねぇよ!

 

『ヴィータちゃん!ザフィーラ!聞こえる!?』

 シャマルか。

『丁度いいや。撤退するから援護頼む』

『ええ。そうして。管理局の増援も来てるから。目晦ましをやるから、上手く

逃げてね』

『心得た』

 チッ!管理局もかよ。1人1人は雑魚だけど集まると、ウザいしな。

 仕様がねぇ。

 

 アタシは相棒を下ろす。

「今回は見逃してやるよ!」

 背後に空いている穴から、外に飛び出す。

「あっ!待ちなさい!!」

 守護獣が追ってくるが、構わねぇ。

 

 もう、シャマルが目晦ましを準備済みだしな。

 

 見るとザフィーラが相手している奴は、こっちに注意を向けてる。

 その隙を付いて、ザフィーラがバインドを引き千切る。

「何!?」

 ザフィーラも素早く後退し、距離を取る。

 

 その直後、アタシとザフィーラの間に、緑の魔力光を放つ球体が出来上がる。

 

 直後、スゲェ音と光が放たれる。

 封鎖領域を解除。

 

 次は貰うかんな!!

 

 

              :リニス

 

 凄まじい音と光が発生し、その隙に相手は逃げていた。

 まあ、危険ではありますが、目の前の危機を回避出来ただけ、よしとしますか。

 フェイトとアルフがこちらに高速で向かってくる。

 管理局もようやく動いたようですね。

 

 なら、任せていいでしょう。

 

 飛鷹はなのはに駆け寄っている。

 なのはは、意識は保っているみたいですね。

 

 さて、治して上げられなくて申し訳ないんですが、私も管理局は遠慮したいので。

 失礼しますよ?

 

 注意が逸れている間に、その場をそっと離れる。

 

 それと同時にフェイト達が到着する。

 フェイトも一応は元気そうでよかったです。

 

『美海。こちらはなのはが怪我をしましたが、無事と言っていいでしょう』

 念話で美海に報告を入れる。

『相手は?』

『すいません。逃げられました』

 少し間が空く。

『変な仮面が現れた?』

 仮面?そちらに出たんでしょうか?

『いえ』

『そう。お疲れ様』

 

 それで念話が終了。

 

 詳しい事を、帰ってから訊いた方がいいですかね?

 

 

              :アミタ

 

 私と妹のキリエは、ある人物の護衛任務の為、転送ポートに向かっていた。

 キリエは不機嫌さを隠そうとせず、私の斜め後ろを歩いている。

 

 昔は仲が良かったんですが…。

 いつの頃から、こんな関係になってしまった。

 

 転送ポートの前には、3人の人間がいた。

 

 1人は護衛対象。

 あとの2人は、陸士隊の制服を着用している。

 何故、ここに地上の人間が?

 

「お偉い本局様は、重役出勤か。時間も守れないとはな」

 陸士隊の女性の方が、到着早々に嫌味を言ってくる。

 キリエがウンザリしているのが、視界に入っていなくとも分かる。

「失礼しました。任務の事後処理が長引いてしまいました」

 今度は陸士隊の男性の方が、爽やかな笑みを浮かべて近付いてくる。

「いや、こちらこそ失礼したね。僕はニルバレス・ホールデン一尉。所属は

遺失物機動3課だよ。で、こっちが…」

「同所属、ケイト・ドヴェルグ陸曹」

 遺失物機動課が何故ここに?

 そんな事より、まずは敬礼する。

「失礼しました。一尉殿。私は本局所属の特別捜査官アミティエ・フローリアン

准尉であります」

「キリエ・フローリアン准尉であります」

 キリエもヤル気を感じさせない敬礼をする。

「うん。これから同じ任務に就くんだ。仲良くいこう!」

 ホールデン一尉は、にこやかにとんでもない事を言った。

「聞いてなかったかい?僕らもユーリ嬢の護衛をするんだよ。専門外だから、

いるだけと思ってよ」

 ドヴェルグ陸曹は、なんの反応も示さない。

 

 ユーリ・エーベルヴァイン。

 私達の()()()()()()で、護衛対象になる人物を見た。

 ここまでで、かなり粘着質な対応続きでウンザリしているのが、分かる。

 ご愁傷様です。

 

 そう()()()()()()()()()()()

 

 

 さて、この2人は私達の任務に、どんな影響を与えるのでしょうね。

 

 

 

 

 




 なのはは、闘気技の適正自体そこまで高くありません。
 が、今のところ地雷閃と海鳴閃は習得しています。
 モード問題は、これも暫定です。

 飛鷹は腕試しをやった所為で、今回、失敗しました。
 経験不足は、そう簡単に補えないようです。

 ヴィータのギガントはゼスト戦と同様な使い方です。

 ザフィーラが少し笑ったのは、撤退の判断をキチンと下せた
からです。前までなら、戦闘を止めなかったでしょう。

 今回、これだけ長くなったのは、アミタ達を出す為です。
 立場全然違いますがな。


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第29話 思惑

 休みの日しか、まとめて書けないです。
 今回は、そんなに話は進んでいません。

 それでは、お願いします。


             :飛鷹

 

 俺は、なのはに急いで駆け寄って行った。

 なのはは、辛うじて意識は保っていた。

「なのは!大丈夫か!?」

「飛鷹君…」

 俺は治癒魔法を使う。

 癒しの光が、なのはの傷を癒す。劇的に回復したりしないけどな…。

 

 自分の技が通用したもんだから、夢中になっちまった。

 どうしようもねぇな。俺は。

 

 なのはの治療に夢中になってる間に、リニスが消えていた。

 益々、凹むぜ。

 

 すぐにフェイトとアルフが、何故か到着した。

 あれ?裁判終わったって連絡なかったぞ?

「ごめん!遅くなった!」

「悪いね」

 フェイトとアルフがそれぞれ口を開く。

「フェイトちゃん!?」

「こっち、来てたのか!?」

 俺となのはもビックリした。聞いてないもんな。

 てっきり、原作と違って長引いてんのかと思ったぜ。

「うん。実はリンディさんの発案で、ビックリさせようと思って…」

 あの人の茶目っ気か。

 フェイトは少し申し訳なさそうだった。

 逆にアルフは、俺達が驚いて満足そうだ。おい!

 

 そして、聞かされる驚きの事実。

 フェイトも襲われたが、ヤツに助けを求めたんだとか。

 しかも、ヤツは応援にやってきたそうだ。

 リニスがこっちに来たのは、そういう訳か。

 

 

 いつまでもここにいる訳には、いかない。

 俺達は認識阻害を使って、公園に移動した頃に管理局御一行様が到着した。

 

 遅せぇよ。とは言える立場じゃねぇな。

 

「無事だったか。まあ、救援は別に入ったようだから当然か」

 淡々としたクロノの発言が、俺の心に刺さる。

「みんな!大丈夫だった!?」

 そこにいたのは、ユーノだった。

 俺は無言で頷いた。俺の方は大した怪我はない。

 なのはも無理して少し笑いながら、大丈夫!と答えた。

 敗戦が堪えているんだろう。

 

「ユーノ。報告はしてきたのか?」

 俺は気分を換える意味合いで、ユーノに訊いた。

 ユーノは裁判もあるが、氏族への無事ジュエルシード発見・回収の報告をすると言っていた。

「うん。随分、怒られたよ…」

 まあ、だろうな。

 普通、身内が無茶したら怒るだろう。まあ、愛させれてるって事だろう。

 怒られた後は、無事でよかったって言われたそうな。

 いい人達だ。

 

 クロノは武装局員に、慎重に周囲を捜索するように指示する。

 連中が捜索の網に、引っ掛かるとは思えんがな。

 暫く、捜索したが案の定、影も形もなかった。

 

 その間、俺達はと言えば、フェイト達の拠点となるマンションに移動していた。

 高町家には、俺も電話に出て説明した。

 男衆には、冗談抜きで殺気が混じっていたが、今回ばかりは俺が悪い。

 甘んじて制裁を受けなきゃならん。

 

 そして、クロノ達も見切りを付けて、マンションに戻ってきた。

 フェイトはヤツに傷を治して貰ったようで、無傷だったが、なのはは違う。

 俺とユーノの治癒魔法で、ある程度治していた。

 レイジングハートは、破損したままだ。

 フェイトのバルディッシュも一度、壊れているらしい。

 レイジングハートは、ユーノが応急処置をする。

 念の為に、2機とも技術スタッフ送りに決定。

 

 落ち着いてから、クロノが口を開いた。

「まずは、忠告が遅れた事と、救援が間に合わなかった事を謝罪する」

 俺達は、力なく首を横に振った。

 特に俺は、クロノを責める資格はないしな。

「ここからは、僕達が捜査を続行する。君達に危害が及ばないように、全力を尽くす積もりだが、

人員には限りがある。済まないが、各自、何かあれば撤退を第一に考えてくれ。危険な事は極力

避けてくれ」

 クロノは苦々しくそう言った。

 そこで、なのはが手を上げる。

「私達も手伝いたいんだけど…」

 負けた手前、邪魔と言われれば、どうしようもない。

 だからか、なのはの口調はいつになく弱々しい。

「戦ってみて分かったと思うが、今回の相手はある意味プレシアより厄介だ。こちらとしては、

自身の安全を第一に考えてほしい。なのははデバイスも壊れているしね」

 やんわりとではあるが、これは断られたという事だろう。

 

「でも、何が起こっているかは、説明するよ」

 

 ロストロギア・闇の書。

 その説明は、原作通りだった。

 

 発覚の経緯は、次元犯罪者からのものらしい。

 

 リンカーコアを食らいページを増やし、完成後は主を巻き込んで厄災を振り撒く。

 そして、リンカーコアを蒐集するのが、闇の書の守護騎士達。

 

 原作と違って、なのはは蒐集を免れているが、自分の魔力が厄災を振り撒いたかもしれないと

聞いて、なのはは蒼い顔をしていた。

 

 それは俺も同じだった。

 

 今のなのはは、間違いなく原作より強い。とんでもない殺し技もある。

 原作時のなのはでさえ、あれだけページが埋まったんだ。今は、もっとページが埋まる筈だ。

 それは、フェイトも同様だし、俺とヤツというイレギュラーも蒐集されたら、ヤバい。

 特にイレギュラー組は、完成間近ぐらいいくんじゃねぇか?

 

 俺が調子に乗った所為で、世界がヤバくなっていたところだったのだ。

 俺は、何が何でも自分となのはを、護らなければならなかった。

 だが、俺は相変わらずだった。前回の事件から成長出来てねぇじゃねぇか!

 

「守護騎士達に関しては、過去に会話が出来る事は確認されているが、今回のような自分の意志

を感じさせる発言をしたのは、確認されていない」

 説明しながら、俺とフェイトのデバイスに記録されたデータを見ながら、クロノが言った。

「でも、ヴィータちゃんは、感情豊かな感じだったよ?」

 なのはは不思議そうに言った。

 なのはがフェイトを見る。

 フェイトも、それだけで訊きたい事を理解したようだ。

「私が戦ったシグナムも、苦悩?みないなのを感じたよ」

 俺は原作を知ってるからな。守護騎士がシステム通りにしか、動けないような連中じゃないって

知ってるからな。特に驚きも不思議もねぇけど。

「それも今まで確認されていない」

 クロノは淡々と言う。

 

 フェイトは怪訝な表情で手を上げて、発言の許可を求める。

 クロノが軽く頷くと、フェイトは言った。

「さっきからよく分からないんだけど。守護騎士達は結局どういう人達なの?」

「守護騎士は、闇の書のシステムの一部だ。人間でも使い魔でもない。ページを蒐集するだけの

システムと言っていいだろう」

 フェイトは、複雑そうにポツリと呟いた。

「人間でも、使い魔でもないって、例えば…私みないな存在?」

「「「違う(わ)(よ)!!」」」

 クロノ、リンディさん、なのはが強い口調で否定する。

「フェイトさんは、少し違う生まれ方をしただけで、フェイトさんは人間よ!」

「そうだ。検査でも、そういう結果が出てただろ。馬鹿な事を言うもんじゃない」

「フェイトちゃんは人間だよ!」

 3人がそれぞれフェイトに言った。

 

 フェイトの方は、少し戸惑ったような顔をしている。

 自分が造られた存在だと、気にしているんだろうな。

 まあ、これからだろう。

 

「守護騎士は、古代魔法によって造られた存在だ」

 クロノは怒ったように、付け加えた。

 遺伝子操作して生み出した存在でもない。

 100%魔法で記述され、それが具現化した存在。

 生命とすら定義出来るか疑問な存在。

 

 どちらにしても、フェイトと一緒ではないわな。

 

「まあ、そういう事だ。フェイトはまだ気になるんだろうが、俺達は気にしてない」

 俺も最後にコメントした。

 少しづつ変わっていけばいいだろう。時間はあるんだから。

「ありがとう…」

 俺達の言葉にフェイトが礼を言った。

 

「話は変わるが、俺は協力させてくんねぇかな?」

 管理局の面々は、話聞いてたか?といったような顔をしている。

 他は純粋に驚いた顔をしている。

 

 前回も同じ様な事言ったけど、俺もいい加減変わらねぇとな。本当に。

 

 

             :シグナム

 

 全員の撤退を完了して、集合場所に無事辿り着いていた。

「シグナム。大丈夫?」

 シャマルが、治癒魔法で傷を治してくれている。

「ああ。ほぼ、傷は塞がった。もう大丈夫だ。主に心配される事はないだろう」

 身体を軽く動かしても痛みはない。魔力もすぐに回復するだろう。

「まさか、お前がここまでやられるとはな」

 ザフィーラが言う。

「まっ、アタシ等も撤退したから、人の事言えねぇけど…」

 ヴィータは言葉を濁してそう言った。

 まさかヴィータの側にも、救援が来ていたとはな。

「いずれにしても、ここでの蒐集は避けた方がいいだろう」

 私は将としての判断を、みんなに伝える。

 他の2人は素直に頷き、ヴィータでさえ、渋々頷いた。

 ヴィータは、ここで大物を確保したいと思っただろう。

 リベンジしたい気持ちもあるだろう。

 私も気持ち的には同じだ。

 それでも、失敗は許されない。慎重にいかないと取り返しがつかない。

 

「シャマルは、暫く主の傍を離れるな。あの怪しい男の目的が分からん」

 シャマルが深刻な表情で頷く。

 怪しい男とは、勿論我等を助けた怪しい仮面の男だ。

「闇の書でも狙ってんのか?そいつ」

 ヴィータが、無駄だと言わんばかりに言った。

 闇の書を奪っても、主以外には使えない。

 だが、だからこそ、今、奪わなかったと見る事も出来る。

 恩を売って、主の力を利用する積もりかもしれない。

 

 偶々にしては、タイミングが良過ぎる。

 

 最悪、監視されていた、という可能性も考慮に入れるべきだろう。

 我等に今まで一切気付かせない程の監視となると、凄腕という評価でもまだ足りない。

「助けて貰っただけっていうのは、楽観的過ぎるものね」

 シャマルがポツリとそう言った。

「主の家の護りも強化しておけ。ザフィーラも主のガードに付け」

 シャマルとザフィーラが僅かに目を見開く。

「2人だけでやる積もりか」

「止むを得ないだろう。今までより遠出する事になるが」

 ヴィータを見ると、不敵な笑みを浮かべた。

 見た目は子供だが、頼りになる一流の魔導騎士だ。

 

「蒐集の件はそれでいいけどよ。救援に入った連中の対応はどうすんだよ?」

 ヴィータが次の問題を提示してくる。

 ヴィータの側に来た救援も、只者ではないようだ。

「それは問題ないだろう。どうもテスタロッサ…私が蒐集を失敗した相手だが…あの子に

助けを乞われたから、来ただけで、こちらには関わりたくなさそうだった」

 恨みは買っているようだがな。

 過去に出会っていただろうか?

 記憶にない。

 あれくらいの年の子となると、前回の目覚めでさえ、恨みを買うには若過ぎる。

 

 あの剣技…どこかで見た気もするが…。

 

 

             :クロノ

 

「話は変わるが、俺は協力させてくんねぇかな?」

 

 飛鷹が、今回の敗戦に思うところがあるのは分かる。

 が、今回、上手くすれば決着が付けられるかもしれないのだ。

 正直、飛鷹達の手は借りずに済む。

 少なくとも、上層部はそう考えているようだ。

 僕は眉唾だけど。

「飛鷹君…」

 なのはも、飛鷹の決意のようなものを感じているようだ。

 

 言い辛い。が、言わない訳にはいかないだろう。

 

「済まんが、今回、手を借りる必要はなさそうなんだ」

 流石に僕も少し申し訳なく感じる。

 僕も、その話を聞いたのは出る直前だった。

 その決意は、別に取って置いてくれ。

「は?」

 飛鷹は、反対されるだろうと思っていただろう。

 しかし、いなくても解決出来ると、暗に言われて怪訝そうだ。

「実はな…。闇の書の封印が可能なようなんだ」

「何!?」

 今まで管理局が封印出来なかったロストロギアが、急に封印出来ると言い出したんだ。

 不審には思うだろう。それは僕でさえ、そうだ。

「どうやるんだよ!?暴走した闇の書って、確か純粋な魔力の塊で、どんな封印も破る

んじゃなかったのか!?」

 そこまで説明した覚えはないが、飛鷹なりの推論か?

 僕が不審そうなのを感じたのか、慌てて飛鷹が弁解する。

「だって、魔力蓄積型だろ?」

 リンカーコアを蒐集するというだけで、そこまで考えたのか?

 まあ、今は忙しい。その問題は今でなくていいだろう。

「ミッドである論文が発表された。過去に存在した永遠結晶(エグザミア)についてだ。

それはどうやら実在し、魔法的な異空間を内包しているという研究結果だ。欠片だけで

容量は大き過ぎて測定が困難な程らしい」

 始まりは、永遠結晶(エグザミア)の欠片の発掘らしい。

 そこから誰もが、お手上げ状態だったらしい。

 ただの水晶の欠片でない事は分かる。

 でも、そこから中が解析出来ない。

 解析する為の鍵があるだろう、とまでは突き止めたが、魔法のコードはそれこそ無限

に近い。匙を投げたところを拾ったのが、かの論文を書いた人物だった。

 その人物は、気の遠くなるような作業の末に、魔法式の断片を発見。

 そこから、全体像を類推。遂に中身を解析した。

 まさに、稀代の天才だ。本当にそれをやったのなら。

 

 その魔法空間は、中に入れたものの魔力を外に漏らさず、遮断する特性がある。

 完品が見付かれば、理論上でしか存在しない惑星級魔法でさえ、吸収し封印する事が

可能なんだそうだ。

 

 管理局の上層部が、論文執筆者に確認を取った。

 闇の書は封印可能と。

 

 それを説明してやる。

 

永遠結晶(エグザミア)?なんだそれ…」

 飛鷹は呆然とそう呟いた。

 顔色が悪い。

「大丈夫か?」

 飛鷹は緩慢な動作で頷いた。

 飛鷹の様子は気になるが、僕もいつ動く事になるか分からない。

 

『クロノ君!お客さんが到着したよ!マリエルも』

 エイミィがウィンドウ越しに報告してくれる。

 タイミングがいいな。

「なのは、フェイト。技官が到着した。一緒に来てくれ」

 なのはとフェイトも飛鷹の様子を気にしているが、頷いた。

「じゃあ、飛鷹君…」

「俺も一緒に行くよ。今度こそちゃんと送ってく。1人でなんて帰したら殺されるわ」

 飛鷹は間髪入れずに答える。

 顔色も少しは、よくなっている。

 

 そこにユーノが部屋に入ってくる。

「レイジングハート。持ってきたよ」

 なのはがレイジングハートを覗き込む。

「ごめん。レイジングハート。また壊しちゃって…」

 ユーノは落ち込んだなのはを、慌ててフォローする。

「大丈夫だよ!核である部分は無事だから!すぐに直るよ!」

 ユーノは明るい声を無理やり出して、慰める。

 なのはも気遣いに、微かに頷いた。

「フェイトも、バルディッシュを見て貰った方がいい」

 僕もフェイトに声を掛ける。

 

 僕達は、そのままアースラに移動する事になった。

 

 

             :リンディ

 

 随分と急な話だったのに、素早いわね。

 皮肉っぽく私は、頭の中だけでそう呟いた。

 ()()()()()()()()()()()()

 結局は、レクシアさんからの説明もなし。

 ただ、フェイトさんの助けを求める声に応えただけ、という訳ね。

 

 管理局が、こういう手回しが早い時程、警戒しないといけない。

 大抵、碌な事にならないから。

 

 そして、私の前には5人の人間が立っていた。

「聞いていた人数より、大分多いようだけど?」

「すみません。今回、協力させて頂く、ユーリ・エーベルヴァインです」

 本命の協力者のユーリさんは、申し訳なさそうにしているが、他はふてぶてしい。

 顔色一つ変えない。

「本局特別捜査官・アミティエ・フローリアン准尉であります」

「同・キリエ・フローリアン准尉であります」

 この2人だけだと聞いてたんだけど。

 2人は有名人だ。若いが腕のいい捜査官だと。それを護衛に任命とは剛毅だわ。

「遺失物機動3課・ニルバレス・ホールデン一尉であります」

「同所属・ケイト・ドヴェルグ陸曹であります」

 この2人は聞いていない。

 ホールデン一尉は、本局でも有名だ。女性関係で。

 元々、3課は個人が違法に所持しているロストロギアを、追う部署だ。

 彼は、そこで女性に取り入って情報を得ていると、評判の人物。

 女性によって対応を変えているのだろうけど、今は素なのかしら?

 さっきから、私の胸辺りに視線が集中しているけど。

 コンビを組んでいる彼女は、聞いた事がないが遺失物機動課にいるという事は、凄腕

なのだろう。

 

「失礼いたしました。本局の方々を信用しない訳ではないのですが、彼女は地上の宝。

長官より警護は厳重にせよとのお達しで」

 なるほどね。()()()()()()()()()()()()()というところかしら?

 遺失物機動課は本局の所属だが、3課だけは地上をメインにしている。

 地上と関係が深く、今では完全に地上本部よりの部署だ。

 全く、仕様がないわね。

 本局の人間が、本局の意向より地上本部の命令で動くなんて。

「分かりました。お招きしている身です。否やはありません」

「ありがとうございます」

 爽やか笑顔でホールデン一尉は、礼を言った。

 

 挨拶をそこそこに、アミティエ准尉がキリエ准尉に護衛を任せて、退出の許可を求め

てきた。

「貴女、護衛でしょ?」

 私が訊くと、彼女は事も無げに答えた。

「ずっとこの場所にいるなら、そうしますが、移動もあるでしょう。地理を把握して

置きたいのです。幸い増援もいる事ですし」

 皮肉ではなく本心のように見える。色々誤解され易い人柄みたいね。

「分かりました。許可しましょう」

 彼女は敬礼して出ていった。

 キリエ准尉の方は、出ていった姉の方は見もしなかった。

 仲が悪いって噂はあったけど、本当とはね。大丈夫なのかしら。

 

 そこへ戻ったクロノがエイミィを連れて入ってくる。

「遅くなりました。お待たせしてしまいましたか?執務官のクロノ・ハラオウンです」

 クロノがユーリさんに声を掛ける。

 彼女も自己紹介し、待っていないと微笑みながら首を横に振った。

 これまで、粘着質な遣り取りの応酬を見てきた事は、想像に難くない。

 クロノの対応は、好感が持てるだろう。

「では早速、今後の方針を決めていきましょう」

 クロノがユーリさんをエスコートしていく。

 護衛の3人が、ゾロゾロ後を付いていった。

 

 女性クルーには、気を付けるように釘を刺しておかないといけないわね。

 

 最後はあの男。エイミィのお尻を見てたし…。

 あれが、演技だとしたら大したものだわ。

 

 問題が起こりそうな予感に、私は溜息を吐いた。

 

 

             :フェイト

 

 アースラに行くと、すぐにクロノはエイミィと一緒に打ち合わせに行ってしまった。

 ユーノも打ち合わせに考古学者として、参加するんだって。

 飛鷹は、考えたい事があるって、別行動。

 

 バルディッシュは大丈夫だと思うんだけど。

 バルディッシュ自身も異常はないって言ってるし。

 心配してくれてるのが、分かるから断らなかった。

 点検して貰うのは悪くない。

 私達は、別のクルーの人に案内して貰って、メンテナンスルームに行く。

 

 到着すると、眼鏡を掛けた可愛らしい白衣の女の人が、出迎えてくれた。

「いらっしゃい!っていっても私の部屋じゃないけど。マリエル・アテンザです。

技術部に所属しています。今回は先輩…エイミィさんからの依頼で、貴女達のデバイス

を見る事になりました。よろしくね!」

 手を広げて、笑顔でマリエルさんは言った。

 私はなのはと一緒に、お願いしますと頭を下げた。

「なのはちゃんのデバイスから見るよ。もう一機のフェイトちゃんのは後でいいかな?」

 一転して真剣そのものの表情で、マリエルさんは素早くデバイスをユーノから受け取る

と検査機に入れる。

 コンソールを高速で操作していく。

「うん。核となる部分は無事だね。戦闘データを見ると、よく無事だったね」

 凄い。データだけで分かるんだ。

 ユーノも驚いている。

 映像で見たのではなく。デバイスに、記録されているデータそのものから読み取ったと

いう事だ。

 暫く、マリエルさんは、無言でコンソールを操作した。

 高速で操作して、手を止める。

 終わったのかな?

「後は、足りないパーツを取り寄せて、組み立てれば終わりだから。すぐに直るよ!

応急処置も的確だったし」

 最後はユーノを褒める。

 ユーノは、自分で造ったデバイスですから、と照れながら言った。

 

 デバイスに詳しい人だし、訊いてみようかな?

 

「あの、知ってたら教えてほしいんですけど…」

 マリエルさんは、嫌な顔せずにいいよ、と言ってくれた。

「今回、戦った騎士?達の使っていたデバイスなんですけど…」

「あっ!なんか変わってたかも!なんか内部で爆発してた!」

 やっぱりなのはも気付いてたよね。

 その言葉だけで、心当たりがあるのか、マリエルさんの表情が真剣なものになる。

「カートリッジシステムだね」

「「カートリッジシステム?」」

 マリエルさんが頷く。

「魔力を籠めた弾丸を、デバイス内部で爆発させて、攻撃の威力を文字通り爆発的に高める

危険なシステム。未熟な術者が使えば、ただの自爆装置なんだけどね。優秀な術者が使えば

強力な兵器になる。そういった優秀な術者をベルカでは魔導騎士と呼んでるの」

 マリエルさんが、映像データで騎士のデバイスを拡大しながら教えてくれた。

 そうか、だからクロノも騎士って言ってたんだ。

 

 ベルカ…レクシアは、ここの記憶を持っているってクロノから聞いた。

 魔法の感じが似ていると思ったのは、気のせいじゃなかったんだ。

『自己紹介は、随分と昔に済ませてるでしょ』

 レクシアは、そう言っていた。

 シグナムは、覚えてなかったみたいだけど…。

 レクシアの声は冷たかった。

 レクシアは何か騎士達と因縁があるのかな?

 

 戻った時、レクシアとリニスは姿を消していた。

 2人を探す。それも私の目標だ。

 でも、それを後に回さないといけないかもしれない。

 

 マリエルさんが、今度はバルディッシュね、と言ったので、バルディッシュを預ける。

 

 私達は、マリエルさんにバルディッシュ達を任せて、部屋を出た。

 

 

             :アミティエ

 

 私は、闇夜に紛れて人工島に侵入する。

 この世界での遊び場…テーマパークというらしいですが。

 この世界は、こんなものを造る余裕があるんですね。

 羨ましいし、妬ましい。

 

 警備をすり抜けて、情報を元に奥へ進んでいく。

 そして、見付けた。

「これが永遠結晶(エグザミア)…」

 巨大な赤い水晶が、ガラスケースに包まれて、鎮座していた。

 今すぐに確保したい。

 しかし、今、騒ぎを起こすのは得策ではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()

 確保は鍵を手に入れてからだ。

 

 私は未練を断ち切るように、永遠結晶(エグザミア)から背を向けた。

 

 周辺の地理を確認して置かないといけない。

 この世界の警備を出し抜くのは、容易い。

 後は人に出くわさないかどうかだ。

 侵入経路は確認した。後は脱出経路の確認だ。

 

「恨みはありません。でも、私達の世界を救う為です」

 

 私は自分に言い聞かせるように呟き、静かにその場を後にした。

 

 

             :キリエ

 

 長い長い打ち合わせがやっと終わった。

 

 打ち合わせって言っても、殆どあのユーリって子の理論説明。

 チンプンカンプンだし、聞いてるのも辛かった。

 お姉ちゃんに場所の下見を任せたけど、私がやればよかった。

 

 やっと与えられた自室に、引き上げてきた。

「イリス。もう出てきても大丈夫だよ」

 私は誰もいない事、監視されていない事を確認して呼び掛けた。

 すると、何もない空間から人が浮かび上がった。

 赤いドレスを着た女の子が現れる。

「ふうっ、やっと出てこれたぁ」

「ごめんごめん。時間掛かちゃって」

 古い遺跡のシステムナビゲーター。それがイリスだった。

 私が泣いていると、いつも慰めてくれた。

 私の友達だ。

 今は、私のデバイスにデータを移している。

 最初は容量が足りなくて、大変だったけど、イリス自身が色々と知恵を貸してくれて、

問題はなんとか解決した。

 お陰でデバイスの性能も上がった。

 

「アミタは下見?」

 アミタとは、お姉ちゃんの愛称だ。

 当然、イリスの事はお姉ちゃんも知っている。

 これはイリスが示してくれた計画で、お父さんが承認してくれたから。

 でも、イリスがお姉ちゃんをアミタと呼ぶのは、嫌だった。

 ()()()()()()()()()()()

 だから、私の対応は素っ気なくなる。

 ただ頷いただけ。

 イリスもそれが分かったのか、苦笑いしている。

 

「これからが、大変だよ。覚悟は?」

 イリスは今なら引き返せると、暗に言っているのだ。

 私は自分の世界を救う。エルトリアを。

 そして、認めさせるんだ。

 お姉ちゃんやお母さんに。お父さんにだって。

 

 私が一番、優秀なんだって。

 

「出来てるよ。とっくにね」

 

 

             :飛鷹

 

 意外な事に、ボコボコにされなかった。

 ただ労われただけ。

 ポップがぶん殴られるより、気分が悪いと言っていた意味が分かった。

 俺はマゾじゃねぇが、モヤッとするな、これは。

 

 俺の知っている原作とは乖離が進んでいた。

 俺がいなくても、事態は収まる。ヤツすらいらないという。

 ホントにそんな事あるのか?

 なのは達にも、危害がこれ以上及ばない。そんな事信じられるか?

 

 活躍出来なかったのが、悔しいんじゃない。

 的確に行動出来なかったのが悔しいんだ。

 

 次こそ同じ失敗はしない。

 

 俺は聖祥に来ていた。

 当然だ。今の俺は小学生なんだからな。

 そして、本日、転校生がやってくる。

 言わずと知れたフェイトだよ。

 

 ヤツはどうしてフェイトの傍にいないんだろうな…?

 

 

             :美海

 

 残念ながら、サプライズは起こらない。

 何故なら、なのは経由でフェイトが今日、転校してくると知っているからね。

 ウェルカム、フェイト!と言えない事の方が残念だ。

 身バレの危険増大中。どうすんの?これ。

 私の気も知らず、なのは達はみんなにバレないように、静かに盛り上がるという神業を

披露している。

 

 先生が入ってきた。

 いよいよか。

 一通りの儀式が終了。

「皆さんにお知らせがあります。今日から皆さんと一緒にお勉強するお友達が増えます」

 みんなが、おお!とかええ!?とかナイスな反応を返す。

 私達は得意げにドヤ顔。

 私はしてないよ。飛鷹君は…放置でいいね。なんだか凹んでるし。

 

 そして、入ってくるフェイト。

「フェイト・テスタロッサです。宜しくお願いします」

 初々しいね。男子が沸いているよ。

 いくつでも男は男か。

 

 綾森美海としては、どう接するかな、これ。

 

 

             :マリエル

 

 レイジングハートは核の部分が無事だし、バルディッシュは無傷で機能に異常なし。

 修理もすぐに終わりそうだ。

 後は組み立てるだけ!

 そう思った時だった。

 2機共にエラー音が鳴り響く。

 あれ!?どうして!?

 私は急いでコンソールに急ぐ。

 データを確認し、エラーの原因を探る。

 

 その表示を見て、私は固まった。

「カートリッジシステム。貴方達…」

 

『『お願いします』』

 

 悔しかったのね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが。

 

 私は期日を確認する。

 出来る限りはして上げる。

 

 そういう子が私は大好きだからね。

 

 

 

             :???

 

 踊れ踊れ、可愛い可愛い愚かな子。

 

 久しぶりに、あの子を見られた。憎むべきあの顔を。

 絶望に突き落として上げる。

 使い潰して、ボロ雑巾みたいに捨てて上げる。

 

 貴女がそうしたように。

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回は、飛鷹君凹んでいます。
 次回から彼はドンドン成長していきます。
 多分。
 フェイトは、転入手続きも密かに済ませていました。
 最後の???は誰か分かるでしょ。という突っ込みは要らんですよ。

 次は来月になりますかね。


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第30話 因果

 決して、折れた訳ではありません。
 大体の展開は決めているのですが、細部の構築が…。
 難しいですね。

 それでは、お願いします。


             :美海

 

「ねぇ!フェイトちゃんって、外国の人だよね!?」

「日本の食べ物は何が好き!?」

 私の周りまで群がった人が、来てるんですけど。

 戦術的撤退をした方がいいよね?これ。

 フェイトちゃんフィーバー中です。

 フェイトは輪の中心でオロオロしてます。

 私は立ち上がって、撤退を開始しようとしたら、掴まれた。

「静かに!そんなに一度に話し掛けられたら、フェイトが答えられないでしょ!!」

 うん。正しい言葉だけど、なんで私を掴むのかな?

 そう言うとアリサは私を掴んだまま、フェイトのところへ向かった。

 これがアニメでよく見るバーゲンセールの状態か。

 フェイトのところに辿り着いた時には、私は揉みくちゃになっていた。

 なんの罰ゲームなの?

 私の有様に比べて、アリサは全く平気だった。

 どんな裏技を使ったの?

 アリサが周囲を落ち着かせる。

「それじゃ、順番にね」

 ようやく、一息吐けてフェイトもホッとしたようだ。

「ありがとう。アリサ」

 フェイトが礼を言うと、周りが驚く。

「ええ!?アリサちゃん知り合いなの!?」

 アリサはドヤ顔である。

 だから、なんで私を連れて来たの?

 更に不可解な事に、フェイトまで私を掴んでいる。

 だから、何故だ。

「どこの国から来たの?」

 フェイトには、答え辛い難問が放たれる。

 が、同じグループのフォローが入る。

「テスタロッサだから、イタリアじゃない?」

 流石、すずか。やりよるわ。

 

 その後も、ドンドン質問を捌いていって終了した。

 

 で、終わった後。

「アンタね。友達が困ってるのに、平然と逃げようとすんじゃないわよ」

 眉間に皺を寄せてアリサが怒る。

 ああ!なるほど!そういう事だったか!

「美海も一緒にいてくれて、ありがとう」

 フェイトが私に礼を言う。

 君とアリサに掴まれて、動けなかっただけだから気にしないで。

 

 そして、フェイトはなのは達のグループになりました。

 

 昼休み。

 お弁当を食べて、ガールズトークに花が咲く。

 話は、携帯電話の話題に流れていった。

「フェイト、携帯電話持ってないんだ?」

 そりゃ、念話使えれば要らんだろうよ。

 デバイスもあるし。

「それじゃ、この機に携帯電話買おうよ!」

 すずかが携帯電話のよさを語り出す。

 マニアックなところまで。

「う~ん。どういうのがいいの?」

 メーカーの回し者かと言うくらいに、すずかが語り終えた後、フェイトは

訊いた。

「通話とかメールは、そこまで大差ないから音楽が聴けるやつとか、写真機能

が充実してるやつがいいよ!」

「操作性も大事だよ!」

 なのはが、声を上げて言う。

「デザインで決めるのも手ね。すずかの言う通り性能は大差ないんだし」

 今度はアリサが口を開く。

 そして、アリサが私と飛鷹君を見る。

「アンタ達はどう思う?」

 飛鷹君は珍しく私達と弁当を食べていたのだ。

「うん?フェイトが、実際見て選んだ方がよくね?携帯なんて電話出来て、

メール出来ればいいんだし」

「携帯電話、嫌い」

 私は端的に述べて上げた。

 あれ、どこでもお構いしに掛かってきて、嫌なんだよね。

「アンタ達に訊いた私が、バカだったわ」

 アリサが唸るように言った。

 なのはとフェイトが苦笑いしていた。

 

 更に話は変わり、私にとって重要そうな話になった。

「でも、フェイトがこのタイミングで来たのは、丁度いいわ!例のアミューズメント

パーク。遂にご招待出来るわよ!」

 例の水晶だね。

「その名もオールストン・シー!今回は関係者だけ先行して楽しめるわよ!みんなで

行きましょう!すずかも友達誘ってみたら?」

 すずかは難しそうに考え込む。

「う~ん。身体悪い子だから、どうだろう?一応、訊いてみる…」

 まあ、話は振り難いよね。

 

 いよいよご対面か。

 

 そして、フェイト。何故、私の裾を掴む。

 

 

             :ヴィータ

 

 全く、時間掛かって仕様がねぇな。

 ようやく、三分の一に届くってところか…。

 アタシの足元には、デケェ亀がひっくり返っている。

 魔法生物は、罪悪感をそんなに感じなねぇけど、デカい図体の割に質が悪りぃんだ

よな。

 そろそろ、シグナムと引継ぎか。

 アタシはガキの容姿だからな。長時間出掛けられねぇ。

 大体、なんでアタシだけガキなんだよ。

 アタシ設計した奴出て来いよ。アタシ1人ガキって可笑しいだろ。

 ガキで得する事なんてないだろ。

 

 闇の書のページを意味もなく捲っていたが、突然、闇の書が私の手から離れる。

「おい!なんだよ!」

 アタシは文句を言ったが、アタシの文句なんて聞く訳ねぇか。

 睨み付けるが、闇の書がアタシの手に戻って来ない。

「おい!なんだってんだよ!」

 シグナムと合流しなきゃらなねぇんだよ!

 

 何が言いてぇんだよ!お前はよ!

 

『ヴィータ。どうした?どこにいる』

 げっ!シグナムから念話きちまったよ。

『闇の書が、アタシの手に戻んねぇんだよ。現在位置が…』

 アタシは仕様がないから、シグナムの方にこっちに来て貰う事にした。

 うるせぇ事言われそうだな、おい。

 アタシは溜息を吐いた。

 

「成程。確かに何か伝えたいのだろうな」

 アタシのところに来たシグナムが、何度か頷きながらそう言った。

 シグナムが手に取ろうとしても、避けやがる。

 はやての命が、掛かってんだぞ!全く!

「よし。主の元に戻るぞ。ヴィータ」

「は!?」

 なんでそういう結論になんだよ。

 シグナムがそう言うと、闇の書がシグナムの手に戻った。

 おいおい。正解なのかよ!時間ねぇんだよ!こっちは!

「闇の書がページの蒐集を邪魔する訳がない。ならば、それを中断せざるを得ない

事が起こったと見るべきだ」

 一体何が起きたってんだよ。

「でもよ。シャマルからもザフィーラからも、なんの連絡もねぇじゃんか」

「連絡出来ないのか、それともシャマル達にも把握出来ていないのかもしれん」

 シグナムはそう言うと、サッサと飛ぶ。

 アタシも後を追って飛ぶ。

 一応、視認し辛い位置から、元の世界に戻らねぇと、どこで襲われるか分かんねぇ

からな。

 アタシはシグナムを後ろから見て、意地悪く笑う。

「なんだ」

 シグナムは、すぐに気付いて声を掛けてくる。

「いや。()()()()()()()()にしては、早く帰る事になったよな」

 揶揄うように言うと、シグナムの眉尻が上がる。

「喧しい」

 シグナムがムカついてる。自分が言ったんじゃねぇか。

 アタシは忍び笑いを漏らす。

 シグナムの背が怒ってる。後で殴られるかもな。っぷ!

 

 そう、シグナムが長期に家を留守にする理由。

 男と旅行に行く、だった。

 最初、聞いた時は唖然としたぞ。

 

 

「シグナム。でも、そんなに貴女が家を空けると、はやてちゃんが心配するんじゃ

ない?」

 それは、シャマルがそう訊いた時だった。

 次に笑撃のセリフが、あのシグナムから飛び出した。衝撃じゃねぇぞ。

「私が剣道場に出入りしているのは、知っているだろう。あそこには男が大勢いる。

その中の適当な奴と旅行に行くと、言えばいいだろう」

「「「……」」」

 全員が、初めて将のセリフに絶句した瞬間だろう。

 あのザフィーラでさえ、こめかみに汗が一筋流れてたからな。

「確かに、お前、胸はデケェけど。マッチョじゃねぇか!」

 アタシの失言に、すかさずシグナムが拳骨を落とした。

「同性と旅行も考えたが、流石に旅行資金まで向こう持ちはないだろう。だが、男と

なら全額向こう持ちで通る。主に偽装とは言え、金の無心などせんで済むからな」

 恐るべき事に、シグナムは本気だった。

 流石に、シャマルとザフィーラは余計な事を言わなかった。

 

 はやては、大喜びでどんな人か訊いてたけどな。

 シグナムが冷や汗流して、適当言った。

 自業自得って、こういう時に使うんだよな?

 

 闇の書のページは、230ページをシグナム回収分で越えた。

 しょっぺえな。やっぱ、あの白い奴…高町なのはから蒐集出来なかったのは、痛いぜ。

 

 

             :キリエ

 

 お姉ちゃんが、戻ってきた。

 地理と永遠結晶(エグザミア)を確認して。

 映像からイリスは、間違いないと断言した。

 まずは一安心。

 ここまで来て、空振りは勘弁して貰いたいしね。

 

 表向きの任務としては、進展がない。

 永遠結晶(エグザミア)を生成する手筈を整えている最中だ。

 説明はよく分からなかったけど、生成なんて出来んの?

 実際、籠って生成し始めてるんだから、出来るんだろうけど。

 完成品があると知られる訳には、いかない。

 

 あれは、私達が使うんだから。

 

 外出は、まだないから暇もいいところ。

 まだ、鍵も取り出せないから、動けないし。

 与えられた一室で、ボウっとしていると、デバイスからイリスが顔を出す。

「暇なら、少し手を打ちにいかない?」

 流石に護衛だから、出掛けるっていうのはね…。

 お姉ちゃんも、サッサと戻らなきゃいけなかったし。

「護衛なら、4人もいるんだよ?ローテーションでやればいいじゃない」

 あっ。そうだよね。自分達が任されて、向こうが勝手に増員したから思い浮かば

なかった。あのスケベ男にも仕事振ればいいんだ。

 アイツ、流石にユーリって子には、そういう視線は向けないけど、私達には向けるから

ね。正直言って鬱陶しい。

 

 善は急げ。

 

 私はリンディ艦長に進言しに行った。

 

「ローテーションですか。機動3課の2人が承知するなら構いません。今のところ、外出

する事はなさそうですから」

 話が分かる人は、いいわね。私達の上司も、これくらい融通が利けばいいのに。

 まあ、あのスケベ男を、仕事で拘束する意味もあるんだろうけど。

 

 私は意気揚々と部屋に戻る。

 と、そこにはお姉ちゃんが待っていた。

「どういう事ですか?先程、リンディ艦長からローテーション件を聞きました。私は聞いて

いませんよ」

 上手くいった高揚感が、萎んで苛立ちに取って代わる。

「イチイチ、お姉ちゃんの許可なんていらないでしょ。私達は階級も同じ筈だけど?」

 一瞬、お姉ちゃんが怯んだが、すぐに立て直す。

「コンビで仕事をしてるんですよ?相談くらいしてくれてもいいじゃありませんか」

 私とお姉ちゃんの睨み合いは、突然の訪問者に断ち切られた。

 

 来たのは、スケベ男と陰険女だった。

「ローテーションの件は聞いたよ。先に話をこっちにしてほしかったけどね」

 にこやかに嫌味を言うスケベ男。

 隣では、皮肉っぽく鼻で嗤う陰険女。

 嫌な取り合わせね。

「すみませんでした。それで如何でしょうか?同じ護衛なのです。ここは協力しませんか?」

 少し考えてから、スケベ男は気障ったらしく頷いた。

「そうですね。現在の状況なら、4人纏まっている必要はないでしょう」

「本局の軟弱者は、お休みが必要なようだしな」

 陰険女は嫌味を忘れない。ムカつく。

「では、ローテーションを決めてしまいましょう」

 お姉ちゃんが黙っているので、私が勝手に進める。

 ツーマンセルで、交代する事に早々に決定。

 まあ、これしかないよね。組み合わせも。

 

 打ち合わせが終わり、結果をリンディ艦長に報告しに行く時だった。

 

「それはそうと、君達はこの世界に興味があるのかな?」

 それは何気ない疑問。

「それは、魔法文化のない世界と聞いていますし」

 無難な答えを返す。

「そうですか。仕事をしてくれれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 コイツ…。

 

「僕の事は、ニールと親しみを込めて呼んで下さい」

 スケベ男は、最後に爽やかにそう言った。

 コイツ。私達に、別の目的があるって気付いてるの?

 エリート様は伊達じゃないって事ね。

 警戒を強めて、私は頭だけ下げた。

 

 リンディ艦長に報告後、イリスと打ち合わせだ。

「で?何するの?」

 イリスは微笑んで言った。

 

永遠結晶(エグザミア)に細工に行きましょう!気付かれていない今なら簡単だし!」

 

 

             :はやて

 

 まさか、シグナムに彼氏が出来るとは、堅物っぽかったのに意外やなぁ。

 祝福して送り出したけどな。

 でも、やっぱり強さが重要なんやなぁ。

『まあ…見所のある男です』

 なんて言うてたし。多分、剣やろ?見所って。

 焦るシグナムってレアなもんも見れたし、満足や。

 ヴィータも、今はゲートボールにハマっとるらしい。

 よく練習に行ったきり、暗くなるまで帰ってけぇへん。

 もう少し早く帰るよう、言わんとあかんか?

 

 シャマルは、近所付き合い専門みたいになっとって、買い物くらいしか行かへん。

 ザフィーラは狼のままじゃ、外出出来へん。ご近所、怖がらせてまうから。

 人型にもなれるって言うても、あの耳やし。

 ザフィーラは、シャマル以上に外に行かん。

 

 そんな事をつらつら考えとるうちに、夕食の準備が終わった。

 あとは、ヴィータが帰るのを待つだけや。

 

 携帯が鳴っとる。

 

 テーブルに置いてある携帯を取って、出るとすずかちゃんやった。

 暫く、本の話をしてから本題へ入った。

「実はね…。私達、新しく出来たアミューズメントパークへ行くんだけど、一緒にどう

かな?バリアフリー化もチャンとしてるし、アトラクションも絶叫系以外は楽しめる

よ?それに、先行で招待されてるから、人も少ないし」

 すずかちゃんは、気を遣ってくれとるんや。

 声がいつもより優しい。

 こんなお誘いしてええか、迷っとるのやろうな。

「私、こんな足やし、他の友達にも迷惑になるやろうし、今回は…」

「大丈夫!そんな事、迷惑に思う子と友達になってないから!」

 おっと、すずかちゃんの友達、侮るような事言うてもうたか。

「私の方の問題やから。すずかちゃんの友達は信じとるよ」

 私の方で引け目を感じてまうだけや。

「無理強いする気はないんだけど…。折角、友達になれたから寂しいよ」

 う~ん。そう言われるとなぁ。

 私自身が、壁造っとるみないやな。

 でも、迷惑掛けたくない言うんも本当やし…。

「私自身、はやてちゃんと行きたいの。正直に言うと。はやてちゃん、余計なお世話

なのを覚悟で言うけど、別れる時、寂しそうだよ」

「!!」

 もう諦めとると思っとったけど、まだまだ勝手なところが残っとるんやね。

 挙句、友達が言いたくないと思っとった事まで、言わせてまうなんてな。

「私ははやてちゃんの友達のつもりだよ。だから、はやてちゃんの力になりたいって

思ってる。子供だし、こんな勝手な事しか出来ないけど」

 有難いなぁ。私の足が…身体がこんなでも、友達として、なんて言うてくれる。

 友達と疎遠になってもうて、諦めたつもりやった。

 どうせ、付き合いなんて、すぐになくなるんやろ?って思っとったのかもしれん。

 でも、諦めた積もりになっとっただけやったんやね。

 なら、私も応えなあかんな。失礼やしな。

「先生に訊いてみるわ。それでOKやったら一緒に行ってもええやろうか?」

 勝手に行ったら、石田先生がキレるしな。

 優しい先生やけど、怒ると怖いねん。

「うん!いつぐらいに分かりそう?」

「明後日に、丁度、病院やから訊いてみるわ。分かったらメールするな」

 すずかちゃんの嬉しそうな声を聞いて、携帯を切る。

 ふと、テーブルの上のグラスに私の顔が映っとった。

 

 なんや、意外と私も楽しみにしとるんやないか。

 

 無意識に笑みを浮かべているのに、気付いて苦笑いに変わった。

 

 

             :シャマル

 

 はやてちゃんが、友達と出掛ける。

 それは、私達にとっても嬉しい事だ。

 現状がこんなでなければ。

 グレアム氏、怪しい仮面の男、応援に来た未知の使い手、管理局、蒐集し損ねた相手。

 厄介の種が多い。

 どこが、どう絡んでいるのか見当が付かない。

 それぞれ独立している勢力なのか、協力しているのか、はたまた根は同じなのか。

 未知の使い手は無視していい。

 だけど、他がどうなのかしら。

 主を1人で行かせられない。ザフィーラは目立つから外はダメ。

 となると私しかいないのよね。

 はやてちゃんには悪いけど、石田先生が許可しなければいいんだけど…。

 

「海鳴から出るんだったら、ダメって言うところだけど、そんなに遠くない所ならいいわよ!」

 無情にも、許可が出た。

 理由を訊いてみると、はやてちゃんが治療に前向きになってくれる切っ掛けになるかもって、

説明してくれた。心って治療に結構、重要だって知っていた積もりだけどね…。

 なんか、変な力が働いてる?

 はやてちゃんが喜んでるから、苦い顔は出来ない。

 

 私は心の中で泣いていた。

 

 そんな私にも朗報がって、朗報じゃないわね。

 闇の書が警戒するくらいの事態が、起こるかもって事だもの。

 でも、シグナムが戻るのは、朗報よね?

 

 シグナムから、一応メンバーを確認するよう言われて、はやてちゃんに訊いてみた。

 メールに添付された写真を見て、目の前が真っ暗になった。

 

 そこに映っていたのは、蒐集に失敗した3人だったんだから。

 シグナム。帰ってきてくれてありがとう。

 内心で、貴女の旅行案を無茶と思った私を許してね。

 

 シグナムに報告して、私1人が付き添いで同行。

 シグナムとヴィータが、陰から護衛するという形に落ち着いた。

 

 そして、遂に遊園地?に行く当日になった。

 

 因みに、シグナムは男性との旅行は上手くいかなかったと言って、前日に戻り、

はやてちゃんをガッカリさせた。

 ヴィータちゃんは、忍び笑いを漏らして拳骨を貰っていた。

 

 余計な力が抜けたわね。

 

 

             :美海

 

 水晶と対面する当日。

 高町家、月村家、バニングス家、それぞれが車を出し、目的地へ向かう。

 

 私と飛鷹君にとって、驚愕な人物が参加した。

 てっきり、ダメだと思ってたんだけどね。

 おまけに、嫌な奴まで同行してるし。

「八神はやてです。今日はお願いしますぅ」

「八神…シャマルです。お願いね」

 湖の騎士。アンタ、顔を見られてないからって大胆だね。

 しかも、他の連中も遠くから監視してるし。

 

 なのは達は嬉しそうに自己紹介。

 飛鷹君と私は、ぎこちなく自己紹介。

 

 自然と2つのグループに分かれる。

 

 グループ1は、なのは、飛鷹君、アリサ、すずか。

 グループ2は、フェイト、はやて、湖の騎士、私。

 何、この作為的な組み合わせ。

 て、いうかさ。すずか!はやての面倒を見てよ!

 

 そして、フェイト。何故、ここでも私の裾を掴むの。

「あの…なんで掴むの?」

 私は、思い切って訊いてみる事にした。

 フェイトは無意識に掴んでいたらしく、慌てて離した。

「ごめん!嫌だった?」

 フェイトが上目遣いに私を見る。

 ズルいな。嫌とは言えないでしょ、これ。

 私は無言で首を横に振る。

「あの…多分、美海が知り合いに似てるからだと…思う」

 フェイトが歯切れ悪くそう言った。

 心の中で頭を抱える。既にバレかけてますがな。

 

 ここで何も起きませんように!

 

 フラグかね、これ。

 

「2人は仲ええんやね!」

 はやてがそんな事を言った。

 フェイトが何故か照れる。

 何、その反応。

 表向き、付き合いははやてより少し長い程度です。

 はやてに冷やかされ、私達はオールストン・シーに入って行った。

 

 流石、特別招待。

 人が少ない事。ガランとしたアミューズメントパーク。新鮮だね。

「うわぁ」

 横にいるフェイトが感嘆の声を上げる。

 初めての体験だね。フェイト。

 私は顔には出さずに、心の中で微笑んだ。

 入場したら、グループは再びバラバラになった。

 すずかは、キチンとはやてを回収してくれた。よかった。

 湖の騎士と相席なんて、ストレス以外の何物でもないからね。

 うっかり、叩き斬っちゃったりしたら、不味い。

 その代わり、飛鷹君が微妙な顔してるけど。

 ガンバです!飛鷹君!

 

 でも、結果、フェイトと2人で歩いてるんですけど。

 前方には、本隊がいるから別にどうって事ないけどさ。

 

 まずは、はやてでも楽しめるアトラクションを楽しんでいく。

 トロッコに乗って、海上のコースをゆっくり巡る冒険物とか。

 リアルな映像で、海中を進むジェットコースターモドキとか。

 海の水族館とか。シャッチやイルカショーなんかもあった。

 あのショー、いるのか?ここに。

 ジェットコースターモドキとか、実際に飛んでいる人間には、あんまり楽しめない

よね?

 と思ったら、なのはとフェイトは楽しんでいた。あれ?

 私と飛鷹君が例外のようだ。

 

 それと、フェイト。映像と乗り物の動きだけのなんちゃってジェットコースターで、

手を握る必要ないでしょ。

 

 そして、いよいよメインイベントがやってきた。

 オールストン・シーの中央へ。

 これをメインにしてるのは、私くらいのものだろう。

 

 説明されるまでもない。

 嫌な予感は、当たった事を確信する。

 特殊な魔法の気配が、感じられる。

 他の3人も感じているようで、笑みが消えていった。

 勿論、湖の騎士も感じているようで、警戒心が顔に滲み出ている。

 

 そして、忌まわしい赤い水晶が姿を現した。

 

 やっぱりか…。

 

 嫌な事にフラグは回収される。

 

 唐突に灯りが全て消えたのだ。

 非魔導士組が動揺する。

「何かのトラブルかしら?」

 アリサが呟くように言う。

 

 トラブルはトラブルでしょうけど、機械的なものじゃないだろうね。

 これは、意思を持つ何者かの起こしたトラブルだ。

 

 私は警告もなしに、フェイトを押し倒した。

「え!?」

 フェイトが驚きと共に倒れる。

 直後、巨大な何かが私達の上を通過していった。

 

「何かいるぞ!気を付けろ!」

 飛鷹君が警告を発する。

「な、なんなんや!?」

 はやての戸惑った声がする。

「はやてちゃん!伏せていて下さい!敵です!」

「敵!?なんで!?」

 湖の騎士。身バレ覚悟か。この状況じゃ、日和見決め込む訳にいかないな。

 

 ボォとした灯りが天井に上がり、辺りを照らし出した。

 飛鷹君の魔法らしい。

「誰だ!姿を見せろ!」

 驚いた事に飛鷹君は、既にバリアジャケットを纏っていた。

 剣を構え、辺りを警戒する。

 

 湖の騎士は、蒐集のチャンスと見るべきか悩んでいるのか、周囲と飛鷹君の間を

視線が行き来している。

 まあ、流石にアレが敵だって飛鷹君は分かってるだろうけど。

 

 驚いた事に、()()()()()()

 

 なんか、ライダースーツっぽいコスチュームのお姉ちゃんだった。

「こんな筈じゃ、なかったんだけどね」

 合成音声みたいな声で、件の人物が喋った。

 

 ライダースーツのお姉ちゃんの後ろから、ゾロゾロとロボットが出てくる。

 さっきのは、ロボットの拳か。これは殺しにきてるね。

 

 遠慮はいらないみたいだね。

 

 飛鷹君がみんなの前に、庇うように立ち塞がる。

「同じ失敗はしねぇ。もう絶対にだ!!」

 彼の周囲から魔力弾が生成され、待機状態になる。

 

 なのはが、アリサとすずかを庇う位置に立つ。

 湖の騎士もはやてを庇う。

 そして、フェイトが私を庇う位置に立った。

 

 戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

「ウオォォォォーーーー!!」

 飛鷹君は魔力弾と共に、剣を構えて敵に挑みかかった。

 

 

             :アミティエ

 

 ローテーションでの護衛が決定し、自分の考えを整理してから、キリエと話す

為に部屋に向かったが、部屋は既にもぬけの殻だった。

 

 まさか!?勝手に行動を!?

 何を考えているのです!

 念話にも通信にも、応答がない。

 

 イリスの差し金ですか…。あの子の勝手な行動の陰には、必ずあの子がいる。

 古代のシステムのナビゲーターという話ですが、本当なのでしょうか?

 私は、ハッキリ言って彼女を信頼出来ずにいた。

 ナビゲーターというには、人間臭い。システムというには嘘くさい。

 父さんも何故、彼女の計画に賛同したのか…。

 愚痴っていても仕様がありませんね。

 

 彼女達が向かうとすれば、鍵か永遠結晶(エグザミア)のある場所。

 

 私は大急ぎでアースラを飛び出して行った。

 勿論、艦長に外出する旨を伝えて。

 お陰で、大分、不信感を持たれてしまった。

 

 全く!

 

 私は地上に降りると、()()()()()()()()

 まずは、訪れたばかりの場所へ!

 私はステルス機能を全開にして、バイクを走らせた。

 

 

             :シグナム

 

 主が、丁度敷地の中央にある施設に入った辺りで、雰囲気が変わった。

「おい!シグナム。なんか…魔力の気配がしねぇか?」

 ヴィータもそれを感じたようだ。

「闇の書の警告は、これか?」

 なんにしても、もっと近寄らねばならない。

 私とヴィータは、施設に侵入しようとして、立ち止まった。

 結界が構築される。

 隔離型の結界。

 

 私はヴィータとアイコンタクトを取る。

 ヴィータは正しく私の意図を理解した。

『シュワルベフリーゲン』

 ヴィータが無言で鉄球を撃ち出す。

 鉄球は過たず標的を捉えた。

 鉄で出来たロボット?が、打ち砕かれる。

 だが、すぐに再生して、立ち上がる。

 それを合図にしたように、建物の陰から大量にロボット?が出てきた。

 

 厄介な。

 

 私は剣をゆっくり構えた。

 ヴィータも既に戦槌を構えている。

 

 成程、主とシャマルを助けるには、コイツ等を叩き潰す必要がある訳か。

 

 私とヴィータは、同時にロボット?に向かって行った。

 

 

             :キリエ

 

 こんな筈じゃなかった。

 どうして、あの子達がここにいるの!?

 あの子達の事は、データで知っていた。ここの出身である事も。

 よりによって、このタイミングでここにいるなんて!

 永遠結晶(エグザミア)にイリスが細工して帰る。それだけだった筈なのに。

 あまり長時間、アースラを留守に出来ない。

 でも、手ぶらで帰れない。

 来た以上は、何か成果を持ち帰りたいのが人情だ。

 

「キリエ。あの子達の足止めをしてくれる?私の駒を貸すから」

 駒とは機械兵の事だ。

「どうするの?」

 私が訊くと、イリスはニッコリと笑う。

「逆に考えようよ!これは好機だよ。鍵の主もいるんだよ?鍵にも細工する

チャンスだって、ね」

 …確かに、その方が楽かもしれない。

「イリスは、どうするの?」 

「私は鍵に細工するよ!」

 大丈夫かな。データ通り騎士が護衛に付いている。

 データ通りなら、歴戦の魔導騎士だ。

 

「心配しないで!私は負けないから!」

 

 私は無理矢理笑みを浮かべて、頷いた。

 イリスが出来ると言うんなら、出来る。私はイリスを信じる。

 

 イリスが姿を消す。

 

 私は私でバリアジャケットをアーマーに変化させる。

 黒いライダースーツを基調にしたものに、フルヘルメットで顔を隠した。

 声も変える。

 もう1つの方は、切札だ。ここでは切れない。

 

 まだ、正体を知られる訳にはいかない。

 

 願わくば、大人しく気絶でもしてよ。

 あんまり、弱い者イジメは趣味じゃないんだから。

 

 私は身体の出力を上げると、電源を切断する。

 灯りが消え、暗闇に包み込まれる。

 

 私は機械兵と共に、敵の前に立った。

 

「こんな筈じゃ、なかったんだけどね」

 

 1人の男の子が、私の前に立つ。

 挑むというなら、相手になる。仕方ないから。

 

 

             :???

 

 永遠結晶(エグザミア)に鍵が訪れる。

 運命ってあるのね。

 このチャンスを、しっかり掴まないと。

 手加減しないわよ?私はね。

 

 お嬢ちゃんにお坊ちゃん。

 死んだら運が悪かったとでも、思いなさい。

 

 直接には、会ったことがないけど守護騎士は、どんなものなのかしらね。

 さあ、みんなで踊りましょう。私の笛の音で。

 私の駒も一緒に踊るから。楽しいわよ?

 

 

 

 

 

 




 次回は戦闘パートになります。
 いつ、グレアムさんとリーゼ達を出せるのか!?
 次の次辺りかな?
 ドンドンズレ込んで遅くなりそうです。
 ですが、書き切る覚悟は変わりません。

 3月中頃に投稿出来るように、頑張ります。


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第31話 不審

 なんとか、誤差の範囲で投稿出来ましたかね?
 ドンドン厳しくなっていきますね。

 飛鷹がはっちゃけてます。

 それではお願いします。


              :飛鷹

 

 気合と共に、ライダースーツの女に斬り掛かる。

 同時に魔力弾の弾幕を、繰り出す。

 なのはとの特訓は、伊達じゃない。

 俺の動きを阻害しないように、撃つなんて問題なく出来る。

 俺の動きの隙を、魔力弾の攻撃で補う。

「!?」

 楽勝だとでも思っただろ!?

 甘いぜ!

 高速で剣を振るう。

 ヤツの域までは届かないが、俺にはヤツにない魔力量がある。

 魔力弾と剣技の両面攻撃に、ライダースーツは防戦一方になる。

 だが、分かってるぜ。本気じゃないんだろ?

「スフォルテンド!」

『ホントにやるのか?』

 俺はデバイスであるスフォルテンドとも、話し合いを済ませていた。

 こんな事が起こった時、どうするかを。

 

 なのは達にシェルターの防御が掛かる。

「飛鷹君!?」

 なのはが声を上げる。

 これで、なのは達に気兼ねする事なく戦える。

 何しろ今のなのは達は、デバイスを持ってないからな。

 シャマルと一緒に放り込むなんて真似はしない。

 アイツも今は敵だからな。

 はやては防御範囲に入れたが、シャマルは意図的に外した。

 だから、シャマルは弾かれた筈だ。

 確認してる暇はない。

 まだ、油断している間に、コイツを倒す。

 

 ライダースーツの女が、溜まらず俺から距離を取ると、腕を振る。

 ライトの魔法が掻き消える。

 辺りが闇に包まれた。

 

 安易に暗視の魔法を使う訳にはいかない。

 突然、閃光魔法なんてよくある事だからな。

 逆に俺が仕掛けるという手もあるが、相手はフルヘルメット。

 閃光で目が眩むなんて事は、期待しない方がいいだろう。

 

 地獄の高町家・闇稽古の成果を見せてやるぜ。

 

 剣を構えて、気配だけでなく五感を研ぎ澄ます。

 足からロボットが歩く振動が、空気を搔き乱しているヤツがいる。

 これが、ライダースーツの女だろう。

 それにしても、魔力反応も気配も一切ねぇ。

 闇稽古、やっとくもんだな。

 ロボットが俺を取り囲み、俺に向かって拳を一斉に振り下ろす。

 俺は、思惑通り上に跳んだ。

 その時、ロボットの陰から飛び出す存在があった。

 だろうな!

 銃剣のお化けみたいなデバイスが振るわれる。

 マナバレットが縦横無尽に飛ばすと、ロボットが爆発を起こす。

 爆発の光で、相手が浮かび上がる。

「ッ!!」

「海波斬」

 俺は魔力で足場だけ造り、踏み込む。

 俺だって、漫然と見物してた訳じゃねぇ。

 向こうは必殺の一撃を打ち込んだ積もりだろうが、こちらも計っていた。

 鋭い金属音と共に、交錯する。

 俺は振り向きザマに、腕を振るう。

「トランプル!!」

 高圧で対象を圧し潰す魔法だ。

 ライダースーツの女が、地面に叩き付けられる。

 俺を魔法を維持したまま、別の魔法を撃ち込む。

 これも、なのはとの空き缶バドミントンの成果だ。

「マグナブラスト!!」

 立ち上がろうとするが、そう簡単にはいかない。

 爆炎の砲撃が、ライダースーツの女に直撃する。

 

 これで倒したなんて思わねぇよ。

 

『勝ったと確認するまで、気を抜いてはいけない』

 高町家地獄修行で、最初に言われた事だ。

 

 そして、案の定。

 ピンピンしていた。

 多少、ライダースーツに焦げ目が付いてるが、ほぼ無傷。

 だが、最初に斬撃は少しは通ったようだ。

 上腕部が薄っすらと切れている。

 でも、これは流石にダメージなさ過ぎだろ。

 

 もう一頑張りってところか!?

 

 俺が気合を入れ直した時、ライダースーツの女から魔力とは違うエネルギーが噴出

する。

 

 ちっ!ヤル気出しやがったか!!

 

 剣を構え直した、まさにその時。

 俺の目の前に、ライダースーツの女が腕を振りかぶった状態でいた。

「っ!?」

 目視すら出来ないスピードで、腕が振り抜かれる。

 

 俺は、錐揉み状態で吹き飛ばされていた。

 

 

              :美海

 

 私の前にフェイトが立つ。

 気遣いは嬉しいけど、ちょっとやる事あるから、ごめんね。

 湖の騎士が防御魔法から弾かれる。

 私も巻き込まれた振りをして、一緒に魔法の外へと出た。

「シャマル!!」

「美海!?」

 はやてとフェイトの叫び声が聞こえる。

 後でフォローしとかないと、飛鷹君が大変な事になるね。

 勝手にやったんだから、それくらいして上げないと申し訳ない。

 今回、彼のミスじゃないんだから。

 

 湖の騎士が弾かれた勢いのまま、地面に転がる。

 コイツ、戦闘得意じゃないとはいえ、これくらい着地を決めなさいよ。

 私は余裕を持って着地した。

 

 流石にいつまでも地面に転がったままじゃない。

 湖の騎士が素早く立ち上がり、私に目を向ける。

「あ、貴女も出されちゃったの!?美海…ちゃんだったよね?ごめんなさい!

巻き込んじゃったのかしら…」

 そんな事を宣う。

 アンタに心配されると、違和感しかないな。

 私は1つ溜息を吐いた。

「自分で出たんだよ。あの場に留まったら、やれない事があるからね」

「え!?」

 さっきまでの私と印象が違うので、戸惑っているようだ。

 私はサッサと湖の騎士に背を向けて、永遠結晶(エグザミア)のある場所に歩き出していく。

 

 ライダースーツの女と飛鷹君の戦闘が、始まっている。

 男の決意に水を差すのもなんだし、スルーする。

 今度こそ頼むよ、飛鷹君。

 それを横目に永遠結晶(エグザミア)へと歩いていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

 湖の騎士が私を追ってくる。

 要らんっていうの。付いてこないでいいって。

 私は魔法を発動する。

 

 湖の騎士は、()()()()()()()()()、ついでに私も見失った。

 私は水晶に近付いていく。

 直前に立ち止まった。

 

「誰なの、貴女?」

 そこには、赤いドレスの女がいた。

「見て分かるでしょ。敵だよ」

 私には分かる。コイツが敵だと。

 よく知っている人でなしの気配。心の腐った匂い。

 ベルカ時代に、一時期嫌になるくらい嗅いだ。  

 

 私は一瞬にして、騎士甲冑を纏う。

 血液の中から埋葬剣と、シルバーホーンを取り出す。

 シルバーホーンを永遠結晶(エグザミア)に向けて、引き金を引く。

 女がせっせと細工していたものが、音を立てて文字通り台無しになる。

「成程。確かに敵みたいね」

 女の手から黒い靄が噴出し、杖の形を取った。

「私。敵には厳しいわよ?」

 ああ、そう。奇遇だね。私もだよ。

 

 ロボットが一斉に爆発に、辺りが一瞬、閃光が包む。

 

 それを合図にしたように、私の戦闘が始まる。

 黒い杖から、怪しい光る赤い魔力が槍のように飛び出す。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観ると、生命力そのものを奪い取る効果があるようだ。

 下種らしい魔法だ。

 私は最小限の動きで躱していく。

 私の身体の横を通り過ぎていく槍を、埋葬剣で斬り砕いていく。

「!!?」

 ジュエルシードの時の奴より弱いな。コイツ。

 シルバーホーンを向ける。

術式解散(グラムディスパージョン)

 赤い槍が展開前に消える。

 女が驚愕に目を見開く。

 

 私は、その隙を付いて間合いを詰める。

 

 だが、斬り付けようとした姿勢で、止まる。

 

 飛鷹君が殴り飛ばされ、こっちにライダースーツの女が向かってくる。

 おや?奇門遁甲術が効いてないぞ。

 術式が乱されてる。どうなってんのやら。

 剣の軌道を変更する。

 ライダースーツの女に。ライダースーツの女の拳を剣で逸らす。

 大したスピードとパワーだけど。それだけだ。

「友達に手を出すな!!」

 怒りに燃えているところ悪いが、アンタの相手は私じゃない。

 それと重要な事が1つ。

「コイツは、アンタと友達になんてならない」

 もう魔法は滅茶苦茶になっているので、奇門遁甲術を解除する。

「!?」

 フルフェイスヘルメット越しでも、激怒しているのが分かるけど、頭に血が上り過ぎだ。

 

「どっち向いてんだ!!コラァ!!!」

 飛鷹君が額から血を流しながら、ライダースーツの女を背後から斬り付ける。

「!?」

 今度はライダースーツの女が驚愕する。

 だが、キッチリ剣を回避している。

 

 飛鷹君が、こっちをチラッと見て言った。

「なんでお前が、ここにいるのかは今は訊かない。こっちを片付けるのが先だ」

 飛鷹君は、ライダースーツの女と相対する。

 やっと一皮剥けたか。

 

 私が相手をしていた奴は、シルバーホーンをずっとポイントしていた為、動いていない。

 じゃあ、私はこっちを始末するか。

 

 私が向き直ると、女は表情が険しくなる。

 

 私の方が敵に厳しかったかな?

 

 

              :キリエ

 

 ちょっと…。どうなってんのよ!

 本気で相手をしているのに、倒れない。

 私も、まだ全力ってわけじゃないけど、これで倒せない程、強い奴がいるなんて信じられ

ない。しかもまだ、子供じゃない!

 

 最初は暗闇の中で、一発いれれば終わりだと思ってた。

 気配も何もない、音だってしないサイレントムーヴでの奇襲。

 それに気付かれ、反撃すらされた。

 しかも、ミッドで見た事もない魔法も使われた。

 ミッドで見た魔法なら中和するなり、打ち消すなり出来たのに!

 

 お陰で、本気でやらざるを得なくなった。

 本気で殴って終わりだと思ったら、イリスがピンチだった。

 感覚を乱されていると、データが示している。

 何か魔法を使われてる。これも見た事ない魔法だ。

 魔法を乱す音波を出す。

 これで変な魔法も、ある程度は乱せる。

 私の友達を侮辱した報いをくれてやるって、意気込んで攻撃した。

 だが、こっちの変なのにも、攻撃をあしらわれた。

 

 そして、今。

 殴り飛ばした子が、剣を構えて相対している。

 どれだけ頑丈なのよ!

 まだ、スピードは捉えられてない。

 これで押し切る。

 残像を残して、私の姿が消える。

 畳み掛ける!

 拳がボディに突き刺さる。

 そこで、気付く。拳を両手で掴まれていた。

「!?」

「そのスピードは捕捉出来ねぇからな。だが、攻撃を食らう瞬間なら捉えられる!」

 どうして、そこまで!

「スフォルテンド!」

『根性見せられたら、応えない訳にはいかないな』

 子供の気配が変わる。

『アクセラレータ!!』

 押さえられた腕が、弾かれる。

 放されれば、こっちのもの!スピードで圧倒してイリスの応援にいく。

 私は近距離から最速で動く。

 どんな強化をしたか知らないけど、このスピードを出せる()()がいる訳がない。

 拳でフェイントを入れて、本命であるデバイスを叩き付ける。 

 金属が打ち合わされる鋭い音が響く。

「え!?」

 デバイスが剣で受け止められていた。

 まさか!?

 それだけじゃない。デバイスが徐々に押し込まれている。

 押し返そうにも、ドンドン押し込まれていく。

 堪らずに、距離を取ろうと後ろに跳ぶ。

 

 だけど、向こうは追撃してくる。私のスピードに付いてくる!?

 デバイスを振るうが、悉く剣に止められ、弾かれる。

 それどころか、反撃を受けてシールドが削れている。

「キィィィィィーーー!!」

 強化の影響か、声すら言葉になっていない。

 あの子供の剣が、突如魔法とは違う力で輝き出す。

 私もデバイス・ヴァリアントザッパーのエネルギーを解放する。

 

 叩き潰してやる!

 

 あの子供の剣の軌道が、スルリと変わり私のデバイスが掠る。

 肩が大きく抉られる。

 そして、子供の剣が私の肩を刺し貫いた。

「!!?」

 光る剣が、刺し傷から抉るように振るわれる。

 私の片腕が光る剣の威力に、斬り落とされた。

 痛覚を切っていてよかった。痛みで逃げられなくなったかもしれない。

 蹲って、やられた振りをする。

 案の定、あっちは子供。攻撃してこない。油断はしてないみたいだけど。

 

 もう、撤退するしかない。

 

『イリス。ごめん!撤退する』

『仕様がないね。でも、()()()()()()()()()()()

 

 ごめん…。クッソ!このガキ!今度戦う時は、後悔させてやる。

 

 私は不意に立ち上がって、目晦ましを掛ける。

 強烈な閃光と音が炸裂する。

 

 証拠は残せない。

 デバイスを斬り落とされた腕に向ける。

 腕を消滅させる。

 

 私はステルス機能を全開にして、サイレントムーヴで撤退した。

 

 

              :イリス

 

 あれだけ動き回っていたのに、アイツはピタリと私を狙い続けていた。

 下手に動いたら、撃たれただろう。

 あっちの子供と違って、アイツは躊躇いなく撃つ。子供らしくない。

 キリエの相手をしていた子供が、戦線に復帰した。

 随分と頑丈ね。

 そして、化物が私に向き直った。

 

 私はどちらかと言うと技術者だ。

 戦闘はあまり得意じゃない。でも、そこら辺の奴に負ける事はない。

 でも、あの化物相手は、無理だ。

 アレがあれば、こんな奴、敵じゃないのに。

 

 滑るようにアレが間合いを詰めてくる。

 私が大半の時間を使って開発した魔法は、発動前に無効化される。

 私は杖を地面に突き刺す。

 地面に私の魔力が血管のように、張り巡らされる。

 アレは構わず斬り付けてくる。

 地面が溶けて自在に形を変える。

 アレを包み込み、圧し潰すように圧力を加える。

 邪魔が出来なくなったところで、槍を形成する。

 一気にあらゆる方向から、槍を突き刺す。

 突き刺した槍を抉ってやる。

 

 これでどう!?

 

 突き刺した槍が色を失い、ボロボロと崩れていく。

 包み込んだ地面も同様だった。

 拘束力などなくなった瞬間に、魔力放出で爆発する。

 爆発と同時に、人影が飛び出してくる。

 

 咄嗟に迎撃を選択してしまった。

 これは悪手だ。

 高速でアレの剣が走る。

 槍があっと言う間にバラバラにされる。

 今更、回避行動を取ろうとしても、間に合わない。

 辛うじて、振り下ろされる剣に杖を割り込ませる。

 ()()()()()()()になる。

「チッ!!」

 アレが舌打ちする。

 

 亡霊のような存在でよかった。

 じゃなきゃ、死んでたところだわ。

 自分の身体を拡散させて、永遠結晶(エグザミア)の上に収束させる。

 

 その時、丁度よくキリエが念話を送ってくる。

『イリス。ごめん!撤退する』

『仕様がないね。でも、最低限の事はやったから』

 そう、最低限の事は遣り終えた。

 

 今度は負けない。

 

 私はキリエの目晦ましを使い、離脱しようと跳躍した時だった。

 剣閃が飛んできて、私の足を薙いだ。

「ぎゃっ!!」

 思わず呻き声というか、悲鳴を上げてしまう。

 それでも、止まらない。止まれば殺される。

 

 クッソ!なんて出鱈目な化物なの!?こっちが確認出来る訳ないのに!

 それを当ててくるなんて!!

 

 調べれば、データ化した身体が破損していた。

 

 キリエは心配してくれたが、この時ばかりは鬱陶しかった。

 

 

              :アミティエ

 

 嫌な予感は、高確率で的中する。

 永遠結晶(エグザミア)のある場所では、戦闘が始まっていた。

 私は無意識に舌打ちしていた。

 バイクのスピードを上げて、ゲートを突破する。

 

 一体何をやっているのです!?

 

 下手をすれば…いや、高確率でここは目を付けられる。

 捕まりでもしようものなら、全てが終わりだ。

 

 未来をドブに捨てる積もりですか!?

 

 隔離型の結界は、イリスが張ったものだろう。

 なら、私にも入れる筈です。

 私のデバイスも、キリエと同じ物ですから。

 まあ、普段の仕事で使える物ではありませんが。

 私はヴァリアントザッパーを取り出し、幾つかあるスイッチの1つを押す。

 案の定、結界の一部が波のように揺らぐ。

 更にスピードを上げて、突っ込んでいく。

 

 結界内に侵入すると、イリスの使っている機械兵が薙ぎ倒されていた。

 2人の姿がないという事は、足止めですか。

 相手は闇の書の守護騎士主力の2人。

 機械兵は、そろそろ打ち止めのようです。

 

 戦闘中なのか、念話が通じない。

 もしかして、拒否しているのかもしれませんが。

 手が離せない方だったら、この2人の乱入は厄介でしょう。

 私が相手をしますか。

 素性を誤魔化す時に使う姿になる。

 ライダースーツにフルフェイスヘルメットの姿。

 他にもありますが、これが一番簡単です。

 

 私はスピードを緩めずに、2人に突っ込んでいく。

 2人が気付いて、二手に別れて避ける。

 私は入り口にバイクを横付けして、止まる。

 

 2人は無言でこちらを睨み付けている。

 言葉は無用でしょう。

 皮肉ですね。今は妹や仲間より好感が持てます。

 私はゆっくりバイクを降りて、デバイスを構える。

 

 それでも、止めないといけない。

 

 私の世界を、みんなを救う為に仕方がない。

 

 

              :シャマル

 

 結界から弾き出された。

 おそらく、これは故意に出されたわね。

 あの子、私が敵だって分かってたのね!?

 あの子には顔を見られてない筈だけど。

 現実にこうなったんだから、そういう事だろう。

 はやてちゃんが、弾き出されなかったのは、幸いと言えるかは微妙な事ね。

 下手をすると、はやてちゃんが確保されてしまう。

 

 呆然としたのは一瞬の事。

 すぐに立ち上がると、驚いた事にすずかちゃんの友達が1人立っていた。

 なんか、ボゥっとしてて印象の薄い子だったけど、私が出された時に、

巻き込んじゃったのかしら?

「あ、貴女も出されちゃったの!?美海…ちゃんだったよね?ごめんなさい!

巻き込んじゃったのかしら…」

 心配して声を掛けると、美海ちゃん?が、溜息を吐いた。

「自分で出たんだよ。あの場に留まったら、やれない事があるからね」

 さっきまでと印象が違う。気配が違う。

「え!?」

 戸惑いの声を上げる事しか出来なかった。

 

 もう、彼とライダースーツの女の戦闘が、始まっていた。

 美海ちゃんも、それを横目にサッサと歩いていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

 後を追ったけど、突然、視界から彼女が消える。

 何かの魔法!?

 でも、なんか、どこかで見た事があるような感じだけど、よく思い出せない。

 辺りを見回しても、どこにもいない。

 

 一瞬浮かんだ、騎士失格な考え。

 実行するなって事だったのかもしれないわね。

 

 あの子を人質にして、はやてちゃんを取り戻す。

 

 そんな事を考えてしまった。

 

 取り敢えず、この防御結界ならはやてちゃんは安全だろう。

 これをどうにかするのは、やはりあの2人と合流しないといけない。

 

 1人だと碌な事を考えない。

 

 私はソッとその場を離れた。

 はやてちゃんは、取り戻さないといけない。

 

 待っててね。はやてちゃん。

 

 

              :シグナム

 

 ロボットをヴィータと共に、淡々と片付けていく。

 再生するというなら、粉々にすればいい。

 流石に、ここまでやれば再生は難しいようだ。

 私が動きを止め、ヴィータが叩き潰す。

 慣れたものだ。

 

 あっと言う間に、ロボットの始末を終える。追加の戦力もない。

 終わったか。

 ヴィータに声を掛け、中に入ろうとした瞬間、背後から猛スピードでバイクが

突っ込んできた。

 私とヴィータは左右に別れ躱すと、バイクは建物の入り口で横付けして止まる。

 ライダースーツの女が巨大な銃剣のような武器を手に、バイクから静かに降り、

武器を構えた。

 

 相手の闘気から、言葉は無用。

 だが、我らは急いでいる。

 1人で立ち向かう気概には応えてやりたいが、ここは2人で相手をさせて貰う。

 身体から、魔力とは違う力が噴き出すように、立ち昇る。

 

 ヴィータが突っ込んでいく。

 グラーフアイゼンを打ち付ける。

「ぶっっっち貫けぇぇぇーーー!!」

 気合と共に、振り抜く。

 グラーフアイゼンの軌道を読み、女が銃剣を振るい受け流す。

 だが、ヴィータもそんな事で攻撃が、終わる事はない。

 受け流されるとクルリと回り、遠心力をプラスして再度攻撃しようとする。

 一瞬とはいえ、敵に背中を見せている状況を相手が見逃さずに、銃剣を素早く

引き戻し、繰り出すが、その時には私が横から斬り付けていた。

 気合の声もない静かに剣を振り抜く。

 ヴィータに繰り出した攻撃で、こちらに銃剣を引き戻す事は出来ない。

 女はヴィータの方に転がるように、避けて飛び退く。

 飛び退きながら、銃口をこちらに向けて発砲。

 エネルギー弾の弾幕が張られる。

 ヴィータは回転の勢いのまま、エネルギー弾を弾き飛ばし、私は剣で斬り払う。

 それで私達の足が止まる事はない。相手に弾き飛ばし、斬り払いつつ接近する。

 その動きに女も弾丸を撃ちつつ、こちらに向かってくる。

 まずは、防御の厚いヴィータが前に出る。

 相手が拳でグラーフアイゼンを横合いから殴りつけて、前蹴りを放つ。

 ヴィータが後ろに跳ぶ事で回避。

 私がヴィータに追撃が出来ないように、割って入る。

 女が私の剣を防ぎ、凄い力で弾くと銃剣を振るう。

 途轍もない近距離で、何合も高速で打ち合う。

 ヴィータが今度は私の陰から飛び出し、攻撃を加える。

 銃剣で私の剣を、拳でヴィータのグラーフアイゼンを同時に捌いていく。

 

 よくやる。

 

 だが、私は騎士だ。剣しか扱えない訳ではないぞ。

 銃剣を受け流すと片手で女の腕を取り、組み付いた。

「っ!!」

 我らが無手で戦えないとでも思ったか。

 如何にパワーが凄まじいものだろうと、それをさせない技を使えばいい。

 女が腕を外そうと動くが、その動きを利用して投げる。

 関節技を極める。自慢のパワーで外そうとする。

 が、頭がガラ空きになっているぞ。

 組み付いたら、ヴィータが手を出さないと思っただろうが、そうではない。

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げて、女の頭に振り下ろす。

「!?」

 女の身体からエネルギーが放出される。

 私がひっくり返るように振り払われ、ヴィータの攻撃が逸れる。

 銃剣から、エネルギーが溢れ出し、それが横薙ぎされる。

 私達は咄嗟に防御態勢を取る。

 お互いの相棒のシールドが間に合ったが、吹き飛ばされる。

 衝撃に逆らわず転がり、素早く立ち上がる。

 が、女はこちらを倒す為の技を繰り出す時間は、十分だったらしい。

 銃剣の刃がエネルギーを纏い、天を衝くような長さになっている。

 離れた場所にいる私達にも、威力の程が伝わってくる。

 

 致し方ない。

 

「レヴァンティン。悪いが付き合って貰うぞ」

『お気になさらず』

 私はニヤリと笑う。

 威力をどれだけ抑えられるか、分からんがな。

 ヴィータ。暫くの間、頼む。

 

 私は相手に向かって間合いを詰めようとした時。

 

 女の身体に緑の魔力光を放つ糸が絡み付く。

「!?」

 

「「シャマル!?」」

 入り口には、想像通りの人物が立っていた。

「大丈夫!?2人共」

 何故、ここにシャマルがいる!?

 主はどうした。

 

 問い質そうとしたが、その時、結界が解かれる。

 拘束された筈の女が、糸を強引に引き千切ると、跳躍してバイクに飛び乗る。

 シャマルがすぐ近くに着地されて、再び拘束しようとするが、猛スピードで

走り去っていく。

 後を追おうとしたヴィータを制止する。

「今は、それより優先しなければならない事がある」

 ヴィータは舌打ち1つして、グラーフアイゼンを下ろした。

 

「シャマル。何故、お前がここにいる?主はどうした」

 気になっている事を問い質す。

「それが…」

 シャマルの言葉に、私達は天を仰いだ。

 主に禁じられた蒐集を行っていた事が、バレるのは仕方がないが、主が管理局

に押さえられれば、どうなるか分からない。

 

 このまま、強敵と連戦しないといけないらしい。

 

 

              :美海

 

 ちっ!仕留め損ねたか。

 まあ、こっちも仕込みをしたから、最低限の戦果か。

 飛鷹君が、魔法の効果が切れて地面に尻餅をついている。

 

 評価を下方修正しないとダメかな。

 

 さて、姿を消すか。

 フォローは、ちゃんとするから安心していいよ。飛鷹君。

 なんて考えていると、防御結界が解除される。

 タイミング悪っ!

 

 全員の視線が私に向く。奇門遁甲使っときゃよかった。

 このまま使うかと思った時に、高速で接近してきたフェイトに捕まった。

「レクシア!!」

 抱き着かれる。

 流石に振り払えないよね。

「捕まえたよ!!」

 いやいやいや。それは流石に拒否しますよ。

 それと、フェイト。管理局の回し者にいつからなったの。

 

「バカ!!」

 離れたところから、なのはの怒声が聞こえた。

 なのはの方は、私には目もくれずに飛鷹君のところに行ったらしい。

 まあ、今度は1人でやろうとし過ぎだったね。

「どうして1人で戦ったの!?」

「いや…。なのはとフェイトはデバイス持ってないだろ!」

 しどろもどに言い訳する飛鷹君。

「支援くらい出来たよ!!」

 

「ちょっと、ええやろうか?」

 はやてがなのはを遮る。

 湖の騎士が弾き出されたから、怒ってるみたいだね。

「あれは、飛鷹君?がやったって事で、ええんか?」

「まあ、そうだな」

 飛鷹君は静かな口調で認めた。

「そうか。シャマルが出されたみたいに見えたんやけど。どういう事?」

「その前に、訊いとく。お前の家族が今、何やってるか知ってるか?」

 はやてだけでなく、私を除く全員が怪訝な顔をする。

 飛鷹君。まさか、カミングアウトする気?

「何、言うとるの?人様にご迷惑になるような事、しとらんよ」

 はやてが、不愉快げにそう言った。

「悪いが、してる。俺達は、お前の家族に襲われた」

「そんなん嘘や!!」

 なのはとフェイトは戸惑っている。

「襲撃の時に、彼女の顔を見た」

 お?そんな設定で誤魔化す気か。流石に転生云々は言えんわな。

「嘘や!!不愉快や!!すずかちゃん。悪いけど帰らせて貰うわ」

 はやては車椅子を操って出ていこうとする。

 誰1人として呼び止めない。

 すずかも、どう呼び止めていいか分からないようだ。

 

 その時、はやての頭上が光り、一冊の魔導書が現れる。

「闇の書!?」

 はやてが驚きの声を上げる。

 だが、私も驚く事が起きた。

 

 夜天の魔導書が私の方に飛んできたのだ。

 咄嗟に受け取る。

 なんで!?

「レクシア!?どういう事!?」

 それは私が訊きたいけどね。

 ダメ元で訊いてみますか。

「何か言いたい事でもあるの?」

 夜天の魔導書がボンヤリと光る。

 イエス・ノーくらいはイケそうだね。

「それは、言いたい事があるって事?」

 再び光る。意思疎通はイケそうだね。

 用件は察しが付きますよ。流石に。

「あの子を助けろって言うの?」

 はやてに視線を送ると、その通りとばかりに一際輝いた。

 ですよね。

 

 私はフゥと溜息を吐いた。

 分かってるよ。はやてが悪い訳じゃない。

 守護騎士だって、仕方がない部分がある事も。

 

「闇の書。どういう事や?」

 はやてが呆然と声を上げる。

 私は仕方なく口を開く。

「主を名乗るなら、闇の書なんて呼ぶな。これは正式名称は夜天の魔導書って

いうんだよ」

「え!?」

 いきなり、そんな事を言われて混乱しているようだった。

 まあ、知らなかったんだから仕様がないけどさ。

 

 私を決意を促すように、再び輝く夜天の魔導書。

 

 

「分かったよ…。こっちの負けだ。なんとかしよう」

 夜天の魔導書が感謝するように、輝いてはやての手に戻った。

 はやてが、ジッと夜天の魔導書を見詰めている。

 

「アンタ等も、そういう事だから大人しくしてろ。嫌だって言うんなら夜天の

魔導書に叩き返してやる」

 はやてが顔を上げると、騎士達が立っていた。

 騎士甲冑姿なんだから、飛鷹君の言っていた事が嘘とは言い切れないだろう。

「みんな…」

 

「正直、我等にはそれが正しいか分からない。だが闇の書が意思を示した。

取り敢えず、静観すると誓おう」

 シグナムが代表して口を開く。

「シグナム!この人等の言った事、ホントなん?」

 はやてが問い質すように、口を開く。

 表情から真実は分かっただろう。

「なんでや!せんでええって、言ったやないか!?」

 シグナムとヴィータは、沈んだ様子で黙り込んでいる。

「はやてちゃん。貴女の足は、闇の書の呪いが原因なんです。死に向かっている

のも。だから、貴女に正しく主として覚醒すれば、呪いは消えると思ったんです」

 シャマルが意を決して言った。

「シャマル!」

 シグナムが、それは自分の役目だと言わんばかりに睨み付ける。

「え!?闇…夜天の魔導書が!?」

 信じられないと目が語っている。

「その通り、夜天の所為じゃない。歴代の主が復讐目的で改変したんだ。呪い

と破壊を齎すように」

「そんな!?」

 はやてが驚愕する。

「だから、夜天は私に助けを求めた。1度助けようとした私に」

「「「!!?」」」

 なのは・フェイト・飛鷹君が驚く。

 はやて達も驚いていた。

 

 

「そうだ!美海は!?」

 驚愕の沈黙の中、フェイトが私の事を思い出した。

 本当に格好付かないな。

 私は、口元を覆っているマスクを下げる。

「は~い」

 みんなが私を見る。

 

 

「「「えええぇぇーーーーー!!!」」」

 

 みんなの悲鳴が木霊した。

 

 

              :アミティエ

 

「どういう積もりなんですか!?」

 私は2人を問い詰める。

 

 キリエは無視してイリスの心配をしている。

 イリスは修復があると言って、デバイスに戻った。

「リンディ艦長は、私達に不信感を持っていますよ!」

「ローテーションで警護するんだから、空いた時間に何してようが勝手でしょ」

 何を言ってるんですか!

 警護に問題ないとはいえ、()()()()()。休みではない。

 不信感を持たれても、文句は言えない。

「何をしてきたんですか!?」

「ちょっと、今後に必要な事よ」

 私は苛立った。

 おそらく、この子はイリスが何をしたか具体的に知らない。

「あの子達は、アースラと関係が深いですよ。艦長にも今回の事は、報告される

でしょう。動き辛くなりますよ」

 キリエが五月蠅そうに、1人で歩いて行く。

「どうせ。鍵を取り出せるようになるまで、表の仕事しか、やる事ないでしょ」

 キリエがこちらに背を向けたまま、言い捨てて行った。

 

 

 イリスは本当に味方なんですか?

 

 デバイスに戻る時も、気にした様子はなかった。

 その様子は、どうにも不気味だった。

 

 

         

              :ニルバレス

 

 ユーリ嬢の警護中だが、思わず失笑してしまった。

「どうした?」

 ケイトが無表情に訊いてくる。

 知ってるだろう?

「いや、()()()()()()()()んだけどね。噂は話半分に聞いておいた方が、いい

みたいだね」

 彼女は深く頷いた。

「覗きか」

 それはないんじゃないかな?

 

 僕は肩を竦めた。

 

 

              :リンディ

 

「それで、どうだった?」

 私はエイミィと向き合っていた。

 エイミィには、フローリアン姉妹の事を調べて貰っていたのだ。

「どうも、怪しい感じですね。捜査に実績を残しているのは、事実でしたけど、

最近怪しい動きが増えていて、監察が動いているとか」

 私の表情が硬くなるのが、分かる。

「どこからの情報?」

「はい。リーゼ達と連絡が取れたので、調べて貰いました」

 私は頷くと、エイミィには本来の仕事に戻って貰った。

 

 さて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかしら。

 監察の仕事は極秘だ。

 そうでなくては、意味がない。

 

 機動3課の人間に、怪しいフローリアン姉妹。

 そして、何故か監察の情報を探っているリーゼ達…いえ、グレアム提督。

 

 闇の書だけでも厄介なのに、きな臭い事。

 何故、監察にマークされるような人間が、護衛に就いたのか。

 上層部で何かが、起こっているのかもしれない。

 

 レティに、裏口をノックして貰わないといけないかしら。

 

 私はデスクの上の夫の写真を、ジッと見詰めた。 

  

 

 

 

 

 




 イリスは戦闘は不得意で技術者です。
 陰謀も得意じゃないってどうなの?
 でも、最低限は仕込んで撤退しています。

 さて、美海の仕込みとイリスの仕込み。
 どっちが上手くいくかですね。

 決めてますけど。

 それでは、なるべく早く投稿出来るように頑張ります。


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第32話 変化

 もう少し間隔を空けて書いた方が、いいかなっと思っています。
 仕事の関係で…。
 折れた訳じゃありませんよ。

 では、お願いします。



              :飛鷹

 

 なんだよ!!綾森だったのかよ!!ヤツの正体って!!

 てっきりイレギュラーで出てきたモブか何かだと思ってたぞ!

 しかも、闇の書助けようとしたって!?

 なんだそりゃ!?

 

 おっと。混乱しちまった。

 そんな事より、訊かなきゃいけない事があったな。

「似てると、思ってたけど…。やっぱり、そうだったんだ」

 フェイトが複雑な表情でそう言った。

「ホントは、こっちから言う積もりなかったんだけどね」

 綾森が苦々しい顔で言った。

 こいつ、本当に言う気なかったんだな。演技には見えない。

「どうして?」

 フェイトの質問に、無表情で綾森が答えた。

「戦いたくなかったからだよ。管理局は、私が前になんだったか、どうせ調べたでしょ?」

 それは、当たりという事か。

 管理局は、剣王=綾森ではなく剣王の記憶保持者だと思っているようだが、ベルカから

の転生者というのが、口振りから正しいんだろう。

 少なくとも、剣王=綾森が本人の認識みたいだな。

 

 ベルカの英雄の1人。

 アーヴェント王国の最後の女王。

 最後まで聖王の為でなく、領民の為に戦った人物。

 数々の武功を上げて、聖王の治世に協力していた筈なのに、最後にはベルカ全土の民の

支持が、聖王を上回る名声を得てしまっていた。

 何しろ、戦乱の日々で、その日の食い物にも困窮していた時にも、アーヴェントだけは

領民に最低限の食は提供出来てたってんだから、そりゃ、評価されるだろう。

 その時代じゃ、有り得ないくらいにライフラインも、整った国だったらしいしな。

 一時期は、綾森のヤツが聖王になればいい、なんて囁かれた事が原因で、アイツは聖王

から切り捨てられた。所謂、国家転覆罪みたいな罪で、最後には滅ぼされてしまったそう

だ。どこも同じだな、ホント。

 だから歴史書には、最悪の戦犯扱い。

 まあ、聖王にしてみりゃ、そうしなきゃならんわな。

 だが、自国の領民だけでなく他国の民は、聖王のネガティブキャンペーンを信じずに、

慕い続けた。

 つまりは、権力者の英雄ではなく、一般市民の英雄だったのだ。

 

「私の人生、戦だらけだった。今生ぐらいはやらずに済ませたい」

 勿論、火の粉が降りかかった時は、払うくらいはするけどと、綾森は言った。

 フェイトの時は、リニスの依頼があったからだという。

 因みに、フェイトもその事を承知していた。

 

 管理局に関わったら、戦わずに済むとは思えない。

 だからだと言った。

「私は管理局に技術を提供する気もないしね」

 そう言って、綾森は説明を締め括った。

 

 それで、俺の感想はと言えば、納得だった。

 なんでアイツは、フェイトの傍にいないのか疑問だった。

 アイツにとってフェイトの事は、乞われたからに過ぎない訳か。

 道理で俺達に関わりたくなさそうだった訳だ。

 プレシアの一件の時、敵対してた訳だしな。そりゃ、仲良くなるのは嫌だっただろう。

 実は俺達は、それは薄々感じていたからな。

 

「でも…。美海ちゃんは美海ちゃんなんでしょ?」

 全て聞き終わり、なのはがそう言った。

 当人でもないのに、実感が籠っていたのを不思議に思ったのかもしれない。

 綾森の頭に?が見えるようだった。

「美海ちゃんが、ベルカ?の女王様って訳じゃないんだよね?」

「いや。その人だよ。記憶だけあるとかじゃない」

 綾森はアッサリとそう言った。

「生まれ変わって、綾森美海って名前になったから、違う人って言われればそうかもしれない

けどね」

「でも…」

 なのはは、何か言いたかったみたいだが、結局は何も言えなかった。

 

「そろそろ、こちらの話を始めていいだろうか?」

 シグナムの言葉に全員が、ハッとした。

 そういや、静観するって言ってたけど、具体的な話は詰めないといけないわな。

 

 はやてのみが、怒っていいのか、悲しんでいいのか分からないような顔をしている。

 

 アリサ達だって話に付いていけてないんだから、はやてが付いていけないのは、仕様がない。

 まあ、これから説明するみたいだから我慢してくれ。

 

 

              :美海

 

 あーあ。自分からバラず事になるとはね。

 正体を隠そうとする場合、イチイチアリバイを考えないといけない。

 プレシアの時は、なんとかなったが、今回は都合よく私が姿を消すとなれば、疑われる事

間違いなしだよ。ただでさえ、フェイトに似てるとか言われたし。

 今回の一件を解決するとなると、正体を晒した方が面倒がない。

 飛鷹君のフォローは、明かした方が遣り易いし…。よしと考えよう。

 

 ベルカ時代、前半は唾棄すべき事に、楽しんで戦っていた。後半は嫌々やっていた。

 そんなに、戦いたくないって不思議な話?

 今生を蔑ろにしてる訳でもない。寧ろ、大切にしているからこそなんだけどね。

 私はアレクシアであり、美海でもある。それでいいじゃない。

 だから、なのはにフェイト。そんなに悩む必要ないよ。

 私がその点で悩んでないんだから、今は。

 

 烈火の将が話を変えてくれたし、乗りますか。

 

「私のプラン通りに動いてくれるなら、ある程度は助けられると思うよ」

 私の言葉に、守護騎士連中が不快感を露わにしている。

 無責任な発言だとでも言いたいんだろうけどね。

 私のプランで、()()()確実に助けるなんて言えない。

 誠実に言った積もりだけどね。

「ある程度だと?」

 シグナムが代表して口を開く。

「不誠実な態度でもいいんなら、確実とか言うけど?」

「貴様!!」

 アンタに怒られる義理はない。

「それなら、蒐集を継続した方が確実って事ね?」

 今度は湖の騎士が、口を挿む。

 それこそ、どこが確実なんだ、一体。

「ちょっと待って下さい!貴女達が行動している理由は、さっきの言葉で分かりましたけど。

少し落ち着いて下さい!美海…レクシア?も!」

 フェイトが口喧嘩寸前の私達を止める。

 

 因みに、今は美海でもういいよ。

 

「蒐集を継続した場合。主は死ぬ。蒐集が完了した時点で、蓄積した魔力と主の命全てを

使って、夜天は転生する。今までだってそうだった」

 勿論、未曾有の厄災を振り撒いて。

「バカな事言ってんじゃねぇ!!闇の書がそんな事するか!!お前なんぞより、アタシ達の方

が闇の書を知ってる!!」

 鉄槌の騎士が寝言をほざいている。ついでに五月蠅い。

「確か、アンタ等の言い分は、夜天を完成させれば、大いなる力が手に入るって事だったね?

じゃあ、訊くけど、前の主はその力で何をした?どんな事を望んでた?名前は?何処にいた?

さぞかし、名を遺しただろう」

 私の問いに、守護騎士全員が言葉に詰まった。

「我等は、前の主が願いを叶える現場に居合わせていない」

 烈火の将が、言葉を絞り出す。

 自分が確認してもいない事を、勝手に進める。詐欺みたいなものじゃないの?

 他の質問にも答えられなかった。記憶がないんだから当然だけど。

 

「じゃあ、質問を変えるよ?主を侵食して死に追いやろうとする物が、大いなる力を与える。

なんだってやれるようにしてくれる。これに疑問を覚えない?」

 守護騎士は黙り込んでしまった。

 一方では殺そうとし、他人から力を搾取すれば、ご褒美に何でも出来る力をくれる。

 しかも、蒐集を真面目にやったとしても侵食は、突然訪れる。

 そんな物が、助けになるなんて思えないね。

 大体、そんな気前よく力を分けてくれる存在が、転生して回るって?おかしいと思わないの?

 

「では、貴様はどうするというのだ」

 はやては口を挿めずにいます。

 混乱もしてそうだね。

「取り敢えず、蒐集はやって貰う。そこから管理者権限を取り戻して貰ってから、ナハトヴァール

と不都合なデータを消去して、問題なく動くようにデータをアレンジする」

 元データは、ベルカ時代にすら消失していた。

 最初に書き換えた奴が、念入りに消した形跡があった。

 だからこそ、アレンジするしかない。

 だが、アレンジした結果が読めない。

 他ならぬ管制融合機としての夜天に、どう影響するか分からない。

 上手くすれば、影響はないし、下手をすれば全くの別物になる可能性すらある。

「闇の書のデータをアレンジだと!?」

 シグナムが驚愕の声を上げる。他の連中も驚いている。

 古代ベルカのロストロギアだ。

 語外に無理だと言っているのが、分かる。

「私になら可能だ」

 私は簡潔に事実を伝えてやる。

 

 最も、はやてが管理者権限を取り戻せるかが未知数だ。

 小学生が、怨霊に勝てるかな?

 私のプランのウイークポイントは、そこもある。

「まあ、いきなり結論を迫っても、答えられないでしょ。はやてとよく話し合って決めると

いいよ」

 私ははやてを見て、守護騎士連中にそう言った。

 はやては、どこかホッとしたようだった。

 考える時間くらい上げるよ。悠長にはしていられないけど。

「このまま、主をお連れして邪魔はしないのか?」

「私はしない」

 私は貴方達はという視線を飛鷹君達に送る。

 3人は私に同意するように頷いた。

 

「最も、そこで立ち聞きしてる執務官殿の意見は分からないけどね」

「「「え!?」」」

 3人共、気付いてなかったのか。

 守護騎士連中も、視線を執務官殿が隠れている場所に向けている。

 

「事情次第だね。詳しく話を聞かせて貰おうか」

 執務官殿は、悪びれもなく出てきて、そう言った。

 

 流石。図太い事。

 

 

     

              :クロノ

 

 結界の発動が確認され、僕は現場へと出動した。

 ベルカとも違う術式により、形成された結界。

 確認が急務だった為に、1人で先に出た。武装局員は出撃準備が出来次第の出動だ。

 本来ならば、無謀な行いだが、今回は正解だったらしい。

 

 興味深い話が聞けたしね。

 

 一応、隠密が不得手とはいえ、気配は消してたんだけどね。

 アッサリと気付かれた。騎士達も気付いていた。

 それで恐れ入るような新人じゃない。

 僕は特に誤魔化す事なく、出ていく。

「事情次第だね。詳しく話を聞かせて貰おうか」

 騎士達が主を庇う位置に立つ。

「僕1人だ。話を聞く耳があるなら、話し合いには応じよう」

「じゃ、応援も向かってるみたいだし、手短に。管理局は今はどういう方針で動いてるの?」

 レクシア…いや美海か。彼女が表情を変える事なく本題を訊く。

 応援が向かっている事にも、気付いていたのか。厄介な相手だな、相変わらず。

 

「管理局は封印する方針で動いてる」

 これ以上、警戒させない為に端的に答える。

 それに、美海の解決法に興味があった。

「どうやって?」

 美海が更に詳しい事を訊いてくる。

 守護騎士達は、主であるはやてという子を連れて、いつでも逃げられるような態勢だ。

永遠結晶(エグザミア)を使う」

 美海が眉を寄せる。

「確かに、あれはアルハザードの連中が、失敗作を投棄する目的で造ったものだけどね。

どうやって夜天だけ放り込む気なの?まさか、はやてごと放り込むの?」

 その言葉に、守護騎士達の表情が険しくなる。

「違う。タイミングが難しいのは事実だけど、方法は考えてある。主と闇の書を強制的にリンクを

遮断して、闇の書が転生しようとする一瞬を突いての封印を考えている」

 美海が呆れたような顔をする。

「ちょっ!ちょっと待って!それシグナム達はどうなるんや!?夜天の魔導書だって犠牲になった

子やないか!!見捨てるんか!?」

 主のはやてがここで口を挿んだ。

「他にプランがなければね」

 1つ世界が滅ぶより余程マシだ。

 それを回避する為なら、恨まれる覚悟くらいはある。

 だが、美海のプランが浮上した。

「成功率はどの程度と?」

 美海が怒るはやてを無視して訊いてくる。

「話を聞くと、大体7~8割らしい」

「残り2~3割失敗する訳だ。世界の命運掛けるには、分が悪いと思うけど?」

「……」

 確かに、それがネックだった。

 今、ユーリが永遠結晶(エグザミア)の複製を造っているが、色々と説明を受けたが彼女なりの

勝算があるように思う。僕はそれを伝えた。

「へぇ。それってユーリ・エーベルヴァイン?大物引っ張ってきたね」

「知ってるのか?」

 美海は頷いた。現代の魔法理論がどうなっているのか調べたそうだ。

「プレシア以来の大魔導士の称号を持つ人物だし」

 美海の言葉にフェイトが驚く。そうか、言ってなかったか…。

 彼女の魔法技能と研究成果から彼女は、空位だった大魔導士の称号を受け継いだのだ。

「まあ、そんな人物が成功させるって言ってるなら…どうなんだろうね?」

 美海は微妙な反応だ。

 

「それでは、そっちのプランはさっき聞いた通りか?」

「そうだね。浸食の原因は防衛プログラム・ナハトヴァールだから、それさえなんとかなれば問題

ないからね」

 僕の質問に簡潔に美海が答えた。

 だが、しかしと彼女は付け加える。

「これには、はやてが頑張らないとどうにもならない。他人が手助け出来ないし」

 管理者権限にアクセス出来る機会は、1度きり。

 闇の書が完成し、管制融合機に主導権が一時的に渡る僅かな時間のみ。

 当然、妨害が予想される。

 はやては独力で、これを突破しないといけないらしい。

 そして、取り戻した管理者権限を使って、防衛プログラムを分離。

 防衛プログラムを破壊した後、美海の出番となる。

 残留したバグを完全に見付け出し削除。

 そこから、闇の書のデータを防衛プログラムなしでも、問題なく動くようにアレンジする。

 というのが、彼女のプランらしい。

 

 しかし、これにもユーリ案と同じように不安材料がある。

 主であるはやてが、管理者権限を取り戻す事が出来るのか。

 アレンジした後、管制融合機にどういう影響が出るか不明。

 そして、管理局としての問題は、蒐集を継続しないといけない事である。

 明らかな犯罪行為を見逃していいものか…。これは持ち帰って艦長から上層部に諮る必要が

ある。

 

 だが、困った事にこれが成功すれば、ユーリ案より救われる者がいるという点だろう。

 

 僕1人で判断する訳にいかない為、持ち帰って協議すると告げる。

 

 後は気が重いが、これも告げる必要がある。

「後は君の事だ。フェイトを裁いた以上、君も裁判を受けて貰わなきゃならない」

 返事は案の定だった。

「お断りだね」

 自分は管理局が管理する世界の住人ではない。

 管理局法に従う義理もないという主張だった。

 

 頭痛がする。

 

 この議論は、平行線になりそうなので打ち切る。

 逮捕に来たら抵抗すると言われた。

 

 肝心の闇の書の問題は、はやてに選択の時間を与える事になった。

 

 僕は応援に向かっている武装局員に、念話を送り一緒にアースラに戻った。

 期限は、3日。

 

 海鳴臨海公園で決まる。

 

 

              :はやて

 

 なんか、私1人…いや、すずかちゃん達も置いてきぼりやったな。

 

 シグナム達が、蒐集をやっとって人様に迷惑掛けとった事。

 私の病気が、夜天の魔導書の呪いの所為やった事。

 そして、それが夜天の魔導書の意志やない事。

 なんや、魔法の犯罪を取り締まる組織があるっちゅう事。

 それと、これからどうするかの選択肢。

 容赦なく告げられて、頭ン中滅茶苦茶や。

 

 私、なんも知らんかったんやなぁ。

 違うな。知ろうとなんてしとらんかったんや。

 自分に将来があるなんて、考えた事なかったしな。

 事情なんて、どうでもええと思ったんや。

 

 でも、突然、目の前に助かる方法…どれも犠牲になるもんはありそうやけど、あるって

分かった。

 美海ちゃん?は、これからどうするか3日で決めてって言うとった。

 あまり、長い時間は取れんらしい。

 

「貴女には4つの選択肢がある。1つ、守護騎士達を信じて蒐集をやらせて世界と心中する。

2つ、管理局案の採用。3つ、私のプランに乗る。4つ、何もせずに世界と心中する」

 心中って…。実際の選択肢は2択やないか。

 その2つのメリット・デメリットも聞いとった。

 それを踏まえて、話し合うように言われた。

「1つ訊いてええか?」

 私は美海ちゃんに言うた。

 美海ちゃんは無言で促す。

「前回って、どうして失敗したん?」

 美海ちゃんは、青汁を一気飲みしたみたいな顔になった。

 そして、失敗の原因を教えてくれた。

 本国からの呼び戻しに、本来は集中して取り組まなんといかん事に、幾つかの仕事を掛け

持ちでやらなあかんかった事。

 なんかまだありそうやったけど、美海ちゃんは言わなかった。

 

 死んでもうた人は、美海ちゃんの大切な人やったんやね。

 そう感じた。

 だから、あの子は一切言い訳せえへんかった。

 

 3日後に、結論を伝える為に海鳴臨海公園へ行く事になった。

 管理局っちゅう警察みたいな人も、それで帰ってった。

 

 私達も家に帰る事が出来た。

 シグナム達は、尾行や追跡を警戒しとったけど。

 

 それは、そうと、帰ったらまずやらなあかん事がある。

 

 お説教と感謝や。

 

 

              :フェイト

 

 クロノが難しい顔でアースラに帰還して、はやても騎士達と一緒に先に帰って行った。

 そして、私達のみが、この場に残った。 

 3日後、結論が出る。

 この前、聞いた闇の書に、あんな事情があったんだ。

 そして、レクシア…美海は、どれくらい前のか分からないけど、闇の書の主と知り合い

だったんだ。そして、助けようとして失敗した。

 美海は言わなかったけど、その原因の1つに騎士達も絡んでいたんじゃないかな?

 シグナムは言っていた。昔の自分達より上等だって。

 

「あの…美海。まだ、分からない事があるんだけど…」

「私達は、もっっと分からないわよ!!どうなってんのよ、一体!!」

 私の言葉を遮るようにアリサの怒号が木霊する。

 あっ。そうだね。アリサ達もいたんだった。

「まあ、事情は後で説明するよ。取り敢えず、今日はこれ以上、ここにいれないでしょ」

 美海は、赤い水晶を一瞥して出口に向かって歩いて行ってしまう。

 私は慌てて美海の後を追いかけた。

「ちょっと待ってほしいの!飛鷹君が生まれたばかりの小鹿みたいになってるから!!」

 なのはの制止する声に、美海も私も立ち止まる。

 美海は呆れ顔だった。            

「君、それ使い方、考えた方がいいと思うよ」

「仕方ねぇだろ!」

 飛鷹が抗議の声を上げたけど、すぐ痛みで黙り込んだ。

 なのはが肩を貸してるけど、手が足りなさそう。

 私も肩を貸してあげる。

 アリサとすずかは、事情が分からずに怪訝な顔をしてる。

「飛鷹君の強化魔法って、身体に負担が掛かるんだよ」

 なのはが、苦笑い気味に説明する。

 ピンとこないのか、2人はキョトンとしている。

 

 飛鷹を支えて、建物を後にした。

 

 支えられて駐車場に到着した時には、車の運転を担当した両親組が既に待っていた。

 飛鷹の有様を見て驚いていた。

 

 その次の瞬間には、なのはのお父さんとお兄さんが素早くなのはを引き剥がしていた。

 ついでだと思うけど、私も剥がされた。

 そして、飛鷹は荷物のように抱えられ車に放り込まれていた。

 

 いくらなんでも、少し気の毒な気がした。

 なのはも苦笑いしていた。

 

 美海は帰る途中も、一切口を開かなずにジッと窓の外を見ていた。

 私は隣に座って、そんな美海を見ていた。

 

 

              :なのは

 

 次の日の昼休み。

 

 私達は、屋上でお弁当を食べていた。

 勿論、アリサちゃんとフェイトちゃんが、美海ちゃんを確保した上でだけど。

 なんかだんだん美海ちゃんの事が、分かり始めてきました。

 自分から動かない時は、嫌なんだなって。

 美海ちゃんは、屋上まで引き摺られていた。

 登校して来た時には、いつもの美海ちゃんに戻っていた。

 オールストン・シーの帰りみたいな雰囲気だったら、いくらアリサちゃんでも引き摺って

行けなかったと思うの。

 あの時は、誰も美海ちゃんに声を掛けられなかったし。

 

「それで、どういう事なの?あれは」

 お弁当を食べ終わって、アリサちゃんが口を開く。

 飛鷹君?当然いるよ。筋肉痛でまだヨロヨロしているけど。

 

 まずは、フェイトちゃんに許可を取って、ジュエルシード事件の経緯から話す事になった。

 何しろ、危険な魔法道具を集めてるって事と、フェイトちゃん達と奪い合いになってると

しか、説明してないから。そこから説明した方が分かり易いって思って。

 

 取り敢えず、私達が分かっている事を先に説明する。

 その間、アリサちゃんとすずかちゃんは黙って聞いていた。

 闇の書…夜天の魔導書の下りは、顔色が変わったけど。

 

「それで?美海は、そのベルカ?とかいう世界で王様で、その…夜天の魔導書の主を助けよう

とした事があって、それで今回の展開って訳?」

 アリサちゃんが全て聞き終えて、そう纏めた。

 すずかちゃんはポカンとしてる。

 結構、壮大な話だよね。ベルカ時代って。

 

 美海ちゃんはと言えば、なんだか嫌そうな顔をしていた。

 フェイトちゃんは横でハラハラして美海ちゃんを見てる。

 どうも美海ちゃんは、王様扱いされるのが嫌みたい。

 美海ちゃん自身が、過去の自分の事を、こう言っていた。

『愚王だったんだよ。私』

 なんだか、物凄く悲しい事だと私は思った。

 私は、美海ちゃんの友達だ。

 なんとか支えになりたいって思った。

 

 それでようやく本題。

「美海。あの赤い水晶は何?襲ってきた人達は何が目的って何かな?」

 フェイトちゃんが、思い切って踏み込んで訊いた。

 飛鷹君も真剣に身を乗り出す。

「まずは赤い水晶は、永遠結晶(エグザミア)だよ」

 え!?それって今、クロノ君達が造ってるって言ってたよね?

「ちょっと待て!って事はオリジナルか!?」

 飛鷹君が焦ったように大声を上げた。

 一応は、認識阻害を掛けといてよかった。

 そう言えば、複製だって言ってたっけ。

 

 って!重大な事なんじゃないの!?

「確か、何か封印してるって言ってなかった!?」

 私が確認すると、美海ちゃんが頷く。

 じゃあ、あれにも!?

「あの人達の目的は中身って事?」

「どうかな…」

 美海ちゃんは意味ありげに呟いたきり、説明はしてくれなかった。

 闇の…夜天の魔導書とは別の事件って事?

 

 私は、それっきり何も説明してくれなくなった美海ちゃんの、フォローをするように話を

変えた。オールストン・シーの感想に。

 

 それから、帰りにフェイトちゃんの携帯を見に行こうと話した。

 いい機会だしね。実物を見ながら決めるのもいいと思う。

 

 放課後。

 私達は暗い話題を忘れるように、はしゃいで携帯電話を見に行った。

 勿論、美海ちゃんはフェイトちゃんが捕まえて連れて行った。

 何故か、みんなフェイトちゃんより盛り上がっていた。

 偶々、リンディさんから連絡があって、その場で買う事も出来るようになったから。

 フェイトちゃんは申し訳なさそうだったけど。

 

 リンディさんは忙しい中、携帯電話の契約に来てくれた。

 フェイトちゃんが選んだのは、黒い折り畳み式の携帯。

 なんとなく、バルディッシュを彷彿とさせるデザインだった。

 

 そして、最後に重要な事を私とフェイトちゃんに伝えてくれた。

「2人のデバイスが、明日には修理が終わるって言っていたから、取りに来てくれる?」

 なんだか、説明もあるんだって。なんだろう?

 そして、美海ちゃんにも同行をお願いしいた。

「フェイトさんの救援の時に、説明に来てくれなかったでしょ?」

 リンディさんはにこやかにそう言ったけど、目が笑っていなかった。

 なんか…怖い。

「善処した結果、行かないという事になりまして」

 そのプレッシャーをモノともせずに、言い返した。

「方針について話し合いたいので、今回はすっぽかさないで下さいね?」

 流石に、これには美海ちゃんも頷いた。

 美海ちゃんは、苦々しい顔をしていたけど。

 

 私達は明日、アースラに4人で行く事になった。

 はやてちゃんは、大丈夫かなっと心配になった。

 

 期日までは時間がある。今から私が心配しても仕様がないけど。

 

 あの戦槌を持ったヴィータちゃんが、どうするのかも心配だった。

 

 

              :リンディ

 

 クロノから齎された報告には、正直に頭を悩ませた。

 今、管理局上層部がおかしな動きをしている。

 仮に、レクシアさん…いえ、美海さんの案を相談したところで却下される可能性がある。

 ユーリさんに無理して来て貰っている関係もある。

 

 ユーリさんと言えば、フローリアン姉妹が戻ってきた。

 当然、彼女達から事情を訊いた。

 珍しい世界に興味があったから出た。というのがキリエさんの話。

 その妹を連れ戻しに行ったというのが、アミティエさんの話。

 2人の様子に裏があるのは、最早、分かり切っているが、注意に止めた。

 今は突くべき時ではない。下手に突いて蛇でも出たら事だ。

 

 それでも、まずはユーリさんと話す必要がある。

 私は、彼女が作業場に使っている部屋へと足を向けた。

 入ると、丁度、彼女は休憩中だった。

 惜しむらくは、護衛がフローリアン姉妹だった事だろう。

「ごめんなさい。2人共、ちょっと席を外して貰えるかしら」

 不審に思われている事ぐらい、分かっているだろうからと開き直る。

 2人は黙って敬礼して部屋を出た。文句も質問もなかった。

「何かありましたか?」

 ユーリさんが怪訝な顔で訊いてくる。

 私は真剣な表情で、向かいに座っていいか尋ねる。

 彼女は、快くどうぞと言ってくれたので、座る。

「実は意見が聞きたいのよ」

「意見ですか」

 私は頷くと、美海さんの方法を説明する。

 彼女は黙って聞いていた。

「どう思う?」

 話し終えると、彼女に意見を求めた。

「管理局としては、蒐集行為を認められないという事ですか?」

「勿論、それも問題ね」

「まだ、幼い主に賭けるのは、避けたいと?」

 正直、どこまでやれるか完全に未知数だ。

 今まで心から仕えてこなかった騎士達を、従えている事実を思えば大丈夫そうでもある

し、逆に力がない主であるからこそという部分もあるだろう。

「正直、それを出来る程の方なら会ってみたいです!」

 どうやら、彼女は自分のやり方が全てというタイプの天才ではないらしい。

 取り敢えず、これで彼女が拒否しているという理由で却下はなさそうね。

「私でも、闇の書をアレンジなんて出来ませんよ!管理局さえよければ、そちらをお手伝い

したいくらいです」

 好感触ね。多分に興味本位だけど。

「実現については、どう?」

「一番困難なのは、アレンジです。勿論、管理者権限を取り戻すのは別にしてですが。それ

が出来るなら、問題ないですね」

 私は彼女に礼を言って、立ち上がった。

 

 ユーリさんは最後まで、美海さんと話したいと言っていた。

 どんな人かとか、研究テーマはとか。

 話して上げたけど、何か不味い事したかしら?

 

 ユーリさんは恍惚とした顔で、あれこれ考えているようだった。

 

 2人の天才が話せば、もっといい方法が浮かぶかしら?

 現実逃避気味に私は、そんな事を考えていた。

 

 問題はあの子が、来てくれるかだけね。

 まあ、フェイトさんが連れて来てくれるでしょ。

 なんだかんだで、美海さんはフェイトさんに甘い。

 

 まずは、上層部に話す前に、レティに裏口の様子を訊かないと。

 

 

      

              :美海

 

 私達はアースラに来ている。

 なんで私まで。

 明日でいいじゃん。

 内心愚痴が渦を巻いていたが、フェイトに腕を掴まれては仕様がない。

 最近、こんなのばっかりだ。

 

 まずはデバイスの受け渡しに立ち会う。

 私と飛鷹君いらないでしょ。

 しかし、4人で技官さんの前に立つ。

「いやぁ。なんとか間に…あったよぉ」

 目の下に隈が出来ていて、本人ボロボロだった。徹夜が続いたんだな。

 ブラックなとこだよ管理局。終わったら断固として、関係を断つぞ。

「「ありがとうございます!」」

 2人が声を揃えて礼を言った。

 タイミングを計った訳じゃないのが凄い。

 

 あれ?なんか変わってる?

 

「レイジングハート」

「バルディッシュ」

 2人がデバイスを手に取る。

「なんか形が変わってる!」

 なのはが歓声を上げる。

 レイジングハートは台座の部分が変わっていた。色も濃くなってるかな?

『オシャレでしょ?』

 レイジングハートがジョークを飛ばす。中身も変わったか?

「バルディッシュも!」

『イェッサー』

 バルディッシュは形がかなり変わっているが、返事は普通だった。

 説明を求めるように技官殿を見る2人。

 

「2機の希望でね。カートリッジシステムを搭載したの」

「「!!」」

 2人は驚いたようだ。

「悔しかったんでしょうね。主の力を十全に発揮させて上げられなかったのが」

「そんなの!私の力不足だったのに!」

「私も…」

 沈んだ表情になってしまった2人に、技官殿が首を振る。

「2人はね。その歳から考えられない程、力が強いんだよ。だからこそ、サポートが追い

付かなかったんだよ」

 成程、カートリッジシステムを入れる事で、容量の増設も大幅に行ったのか。

 カートリッジがあれば、威力増幅も問題ないしね。 

 それぞれモードが3つあるが、フレームの強化がまだ済んでいないので、使用は控える

ようにと言われていた。それ、修理終わってないって言わない?

 

 デバイスを神妙に受け取って、部屋を出る時に新しい名前も考えて上げてと言われていた。

 

 そう言えば、ユーノ君だが夜天の魔導書の裏付けを頼まれて、無限書庫に行ったそな。

 影が薄いね。哀れな。

 まあ、気の済むまで裏付けすればいいよ。

 

「あ!!」

 突然、大声が聞こえる。

 声の方を見ると、そこにはフェイトとまた違った金髪の美少女がいた。

 なんか変な2人組を引き連れて。

 

 こちらに走ってくる。

 が、途中で見事に転んだ。何もない所で転ぶとか、現実に始めて見たよ。

 挫けずに、立ち上がると再度走り、私にタックルを食らわせようとしてきた。

 当然、避けたけど。

 

 ヘッドスライディングして、ズザァーーという音を立ってて滑り止まる。

「どうして避けるんですか!?」

「いや。その前に、どうして突っ込んできたの?」

 話はそこからでしょ。

 なんか金髪さんは、不思議そうに私を見ている。

「聞いてませんか?」

「特に何も」

 

「ええぇ~!!」

 金髪さんは悲鳴を上げた。

 

 これが、ユーリ・エーベルヴァインとの邂逅であった。

 格好付けても、どうしようもないけどね。

 

 そして、フェイトが何故か不機嫌そうにユーリを見ていた。

 どうしたの?

 

 

              :リンディ

 

 やっぱり不味い事したかしら?

 呼ぼうとして、映像で様子を確認したら、トラブルになっていた。

 あの子、暴走する悪癖があったのね。

 

 思わず、溜息が出る。仕様がないわね。

 

 私は気を取り直して、呼び出そうとしたまさにその時、コールが入る。

 スイッチを押すと、ウィンドウが開く。

 エイミィだった。

「どうしたの?」

 エイミィが困惑した顔をしていた。

『グレアム提督がいらっしゃいました』

 提督が?フェイトさんに挨拶に来たって訳じゃないわね。

 レティと話せなかったのが、痛いわね。

「分かったわ」

 私は頷くと、立ち上がった。グレアム提督と話すいい機会と思うしかないわね。

 私は応接室に向かった。

 

 応接室に入るとグレアム提督とリーゼ達が、立ち上がって迎えてくれる。

「突然、済まないね。リンディ」

「いいえ。歓迎致しますよ」

 笑顔でそう告げると、グレアム提督が苦笑いする。

「警戒させてしまったかな」

 笑顔を崩したりはしない。

 

「今日は話にきたんだ。八神はやてについてね」

「っ!?」

 まさか、自ら不味い事を話すなんて…。

 流石に、笑顔が崩れ掛ける。

 私は必死に笑顔を維持したけど、グレアム提督の表情に一切変化はなかった。

 リーゼ達も。

 

 提督の隠し事はこれなの?

 

 

 

 




 辛うじて、グレアム提督を出せたよ。
 次回、はやて回にするか悩み中です。
 劇場版のレイジングハート、本体は赤い球ですよね?
 それ考えれば、形変わってないんじゃ…って思ったの
 私だけですかね。

 頑張ります。


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第33話 回想

 また、やってしまいました…。
 プレシアの回想回をご記憶でしょうか?
 あれよりはマシになった筈ですが…。
 いや、どうだろう…。

 辛いという方は、最初と最後だけでもいいです。

 では、お願いします。



              :リンディ

 

「今日は話にきたんだ。八神はやてについてね」

 この衝撃的な発言からで、多少動揺したのは事実だが、私もそれで主導権を渡す程未熟では

ない。

「驚きました。まさか、そんな発言を提督からお聞きするとは」

 グレアム提督とは、現在は向かい合って座って話している。

 リーゼ達はグレアム提督の背後で立ったままだった。

「私もまさか君にこんな事を言うとは、思っていなかった」

 グレアム提督の顔には、苦悩がありありと刻まれていた。

「いい封印法があるそうだね?」

「どちらで、その事を?」

 私は質問に答えずに、訊き返す。

「私も老いたとは言え、まだ慕ってくれる者もいるのでね」

 私は内心で溜息を吐いた。

 アースラに詰めている武装局員の中には、グレアム提督にお世話になった者もいるだろう。

 となると、盗み聞きという事になる。

 身内にまで、警戒の必要ありという事実に頭痛を感じだ。

「いい方法と言われますが、管理局では違法行為を許可しなければなりませんが…」

 私は詳細を改めて説明した。御存知でしょうけど。

「ふむ。管理局としては悩ましいだろうね」

 グレアム提督は説明を聞き終えると、唸るように考え込んだ。

 結局、グレアム提督はそれ以上、美海さんの案についてコメントしなかった。

 

 

「最初は、私がやる積もりだった」

 暫くして、グレアム提督は突然、呟くようにそのセリフを口にした。

 年を取られた。実感を持ってそれが感じられた。

「前回の闇の書事件で私は君の夫を…優秀な男を死なせてしまった」

「夫の葬儀の時にも、言いましたが、あれは提督の所為ではありません。あれを防げる者など

いないでしょう」

 私は過去と同じ事を再び告げた。

 実際、私は提督を恨んでなどいないし、責任があるとも思っていない。

「クライドの事を、言い訳にする積もりはないよ。私自身が自分を許せなかった…いや、気が

済まなかったのだ」

 そして、提督は事件後の私達親子が知らない事を語り出した。

 

 提督は、ずっと闇の書の転生先を追っていた。

 気の遠くなるような作業だっただろう。

 そんなに簡単に特定出来るなら、苦労はないからだ。

 大部分は賭けだった筈だ。

 だが、提督は見付け出した。執念の成せる技か、運命の神様の悪戯かは分からないけど。

 主は幼い女の子だった。八神はやてという名の。

 秘密裏にリーゼ達が調査に当たった。

 結果、彼女は幼さ故か、闇の書にリンカーコアを侵食され、死を待つ身だった。

 グレアム提督は、これを天の配剤だと思ったそうだ。

 厄災を撒き散らしてきた闇の書を、永久封印する為の機会を与えられたと。

 だが、あの子を見ているうちに迷いが生じた。

 残された時間をせめて有意義なものに。そう考えて援助を始めた。

 あの子の死んだ父親の友人と騙って。

 だが、それと裏腹にはやてさんは、どんどん人生を諦めていった。

 本来は、提督にとって都合のいい事の筈だった。

 だが、彼の管理局員としての心は、この状況を拒否した。

 本来、こんな子を守るのが、自分達ではないのかと。

 提督が、用意した封印プランは、凍結魔法で主ごと氷の中に永遠に閉じ込めるというもの

だった。

 その専用のデバイスが完成する寸前、提督は方針を変えた。

 彼女を助ける為に。

 

「裏切りと取ってくれて構わんよ。実際、君にしたら私は裏切り者だろうしね」

 自嘲気味にグレアム提督はそう言った。

「だが、願わくば、はやてが救われた事を、確認させて貰えないだろうか?それが済めば、

私は自ら襟を正すつもりだ」

 グレアム提督は、そう言って言葉を締め括った。

 

 これが提督の全てかは、分からない。

 でも…。

 

「私は、提督がそのプランを放棄してくれた事に、ホッとしております。夫や息子、勿論

私も尊敬した人物を軽蔑せずに済みましたから」

 

 これが、話を聞いた私の本音だった。

 

「君の保護している子の後見人は、どうする?最早、私に力はなくなるだろうが」

 最後に提督が訊いてくる。フェイトさんの後見人か…。

 もう、裁判の判決も出てるし、後ろ盾としての後見人の力は必要ないけど…。

 提督が起訴される事はないだろうけど、フェイトさんに対する印象にどう作用するかね。

 

 代わりの後見人が見付かるまでは、保留にして貰った。

 

 フェイトさんに挨拶して貰おうと思ったんだけど、どうしようかしら?

 

 

              :はやて

 

 あれから、家に帰ってやる事は1つや。

 お説教と感謝や。

「私の事を心配して想ってくれた事は、正直有難い事や。でも、人様に迷惑を掛けたら

あかん。それは私を大切にしてくれた他の人達に対する裏切りやと、私は思っとる。私かて

死にたい訳やあらへんけど、出来るだけ正しく生きたいと思うんや」

 みんなは黙って聞いてくれた。

 もうすぐ死ぬとしても胸を張っていたい。

 それを分かってほしかったんや。

 勿論、シグナム達の気持ちも聞いたし、分かっとる。

 

 でも、これは譲れない。

 いや、譲れなかったやな。

 

「お心を理解出来ず、誠に申し訳ありません」

 シグナムが頭を下げる。

「しかし、我等も譲れなかったのです。貴女が主だから助けたかったのではありません。

貴女だからこそ、死なせたくなかった。天寿を全うし、笑って悔いなく生きてほしかったの

です」

 我等が後にどうなろうと、と語外の言葉を私は受け取っとった。

 他のみんなもしっかりと同意している。

 分かっとるよ。

 

 今まで言うた事は、本心や。

 迷惑を掛けるのは、あかんと今でも思う。

 だからこそ、私は怒った。

 でも、私の中には、捨てきれんもんがあったみたいや。

 友達と別れるのは寂しいと思う気持ち、もっと生きていたと思う気持ち。

 せめて、私の騎士達には、尊敬出来る自分でありたいという見栄。

 同時に気付いた私の心の中にある矛盾する本音。

 

「うん。ありがとな。私な、みんなに感謝しとるんよ?正直、みんなに会う前は、私は人生

投げとった。このまま死ぬんやろって、諦めとった」

 どんどんと離れていく人達。気付けば、大して知らない大人しか周りにいなかった。

 有難くはあるんやけど、申し訳なさの方が強かった。

 

 そんな時に、夜天の魔導書が覚醒して、この子達が来た。

 

「もしかして、手を汚したくないって思っただけかもしれん、私は」

 すずかちゃんにオールストン・シーに誘われた時の言葉。

 あれは効いたわ。

 根本的な部分で、私は変わってなかったのかもしれん。

 そう思った。

「そんな事ねぇよ!」

 思わずといった感じで、ヴィータが声を上げる。

「ええんよ。そんな部分があるのは、多分事実や」

「主…」

 ザフィーラが労わるような声音で呟く。

 これで、説教と感謝は終了や。

 

 こっからは、私の新しい決意の話。

 

「だからな。眼を背けるのは止めようと思うんや。みんなと一緒に生きる努力をしようと

思う。足掻こうと思う。幻滅される事もあるかもしれん。けど、力を貸してくれへんやろか?」

 私の中では、答えは決まっとった。

 出来る限り、救う。

 その為に犯す罪は、私自身も背負ってく、みんなと一緒に。

 迷惑掛けたんなら、償ってこう。私はもう1人やないんやから。

 みんなの目を見る。

「当然です。我等はその為にいるのですから」

「当たり前の事言ってんなよ」

「頑張りましょう!」

「御心のままに」

 

 みんなが少しの躊躇なく頷いてくれる。それが嬉しい。

 

 私は自然と、出会った最初の頃を思い出していた。

 最初は、こんな感じにはならへんかった。

 なんかお互い無視って言うと言い過ぎやけど、あんまり一緒におらんかった。

 

 

 

 服を初めて買いに行った時。

 ザフィーラは、狼やから服はいらんと言っとったからいいとして、他の面々が問題やった。

「え?行くのシグナムだけなん?」

 私が訊くと、無表情に頷いた。

「護衛なら私1人で十分ですから」

 いやいや。服買いに行くんやで?一緒に行かなしゃーないやろ。

「いや。好みとかあるやろ?」

「他の者も、無論、私も主の選ぶ服に否はありません」

 こら難物やわ。

 

 結局、他の人達は付いてこんかった。

 まあ、服や下着は買えたからええか…。

 

 なんでもこの世界の知識は、闇の書から教えられとるそうやけど。

 なんか、扱いがぎこちないな。

 しかも、みんな揃ってなんのリアクションもない。

 

 食事。

 私がみんなの歓迎も兼ねて料理をした。

 会話なしの感想なし。

 重苦しい沈黙が、食卓を支配しとる。

 理不尽な支配には抵抗せんといかんけど、これで私だけ喋り倒したらイタさが増すな。

 

 こ、これは、キツイな。

 せめて、感想くらいは言ってくれへんか?

 でも、みんな、戸惑ってるのは感じてた。

 みんなで揃って食事なんて、今までせえへんかったんやろうか?

 なんにも感じてないんやない。

 

 焦らずに、ここから始めよう。そう思ったんや。

 

 

              :ヴィータ

 

 はやてが、黙り込んだ。

 何かを思い出すように。

 

 アタシも思い出してた。

 最初は、変な主に当たったもんだよな、って思ったもんだ。

 

 

 

 出会った日から、あの主は命令をしない。

 闇の書の事は説明した筈なのにだ。

 ガキだから、分かってねぇんじゃねぇか?

 そうシグナムに言ったら殴られた。

 

 あんまり覚えてねぇけど。蒐集をしないって変わり者は若干数いたと思う。

 もしかしたら、コイツもそうなのかもな。ハッキリとやらなくていいって言ってたし。

 大体の奴は、気が変わるけどな。

 

 コイツは初日に食事を作った。美味かったけど、誰も何も言わなかった。

 全員、何を言い出すか、どうする積もりか警戒してたんだ。

 いきなり、マナーだのなんだの騒ぎ出した奴もいたしな。

 だけど、コイツも何も言わなかった。

 料理はどうだったとか、味の評価をしろだの、面倒な事は言わなかった。

 ホッとした。料理は美味いか、不味いかだけでいいんだよ。

 

 料理の腕は認めてやってもいい。

 

 何日か経って、相変わらずあの主の気は変わらない。

 働かされてボロボロになるのも嫌だけど、暇なのも案外キツイ。

 家の中で、アタシ等はボゥとしていた。

 勿論、顔なんて合わせない。ウンザリする程、見たツラだしな。

 アタシは1人、庭を見ながら座り込んでいた。

 この世界じゃ、庭でアイゼンを振り回すと不味いらしいし、やる事がない。

 すると、私を見付けた主が話し掛けてきた。

「遊びに行って来てもええよ。暇やろ?」

 こんなナリだけどよ。アタシは大人なんだよ。

 やっぱり、コイツ、分かってないだけじゃねぇか。

「い…いいえ。いつ何があるか分かりませんし」

 いや、そんな事しねぇよって言いそうになった。

 丁寧に喋らねぇと、シグナムがうるせぇからな。

 折角、丁寧に喋ったのにコイツは笑って言った。

「別に無理に丁寧に喋らんでええよ」

 アタシもそうしてぇよ。

「いえ。ケジメですから」

「シグナムがそう言っとるの?」

 アタシは頷いてやった。

「シグナムの事、嫌いか?」

 アタシの顔に不満が出てたのか、コイツはいきなりそんな事を訊いてきた。

 確かに、ウゼェけど。嫌いな訳じゃねえ。

「優秀な将です」

 アタシは答えの代わりにそう答えた。嘘じゃねぇからな。

「それ、本人に言って上げたらどうや?」

 ハァ!?なんでそんな事言ってやらなきゃならねぇんだ。本人知ってるだろ。

 顔に言いたい事が出てたんだろう。

 主が苦笑いする。

「ええ事も、悪い事も、口に出して言った方がええよ。ドンドン喋れなくなるしな」

 それって命令か?

 私は訝し気に主を見たが、それ以上は何も言わなかった。

 

 変な奴だな…。

 

 更に数日、遅過ぎるけど、騎士甲冑を賜ろうという事になった。

 暇過ぎて忘れてたぜ。正直。

 

 主にその事を話す。

「騎士甲冑?」

 そっから説明しないといけねぇか。

 シグナムは根気よく説明した。

「う~ん…。私はみんなを戦わせたりせえへんから…服でええか?騎士らしい服!」

 防御力は変わんねぇしな。シグナムは承諾した。

 

 ただ、騎士甲冑に嫌な思い出があるんだよな。

 コイツ、変な服にしたりしないだろうな。偶に変なの着せる奴いんだよ。

 シャマルにそれとなく話すと、シャマルも苦い顔になった。

「まあ、主も子供だし、それ程可笑しい服にしないでしょ」

 自分に言い聞かせるように、そう言った。

 こういう時、ザフィーラが羨ましい。

 

 主はネタを探しに行くとか言って、出掛けた。

 騎士甲冑の事だから、アタシ等も一緒だ。ザフィーラ以外のな。

 ネタという言葉には、シグナムも嫌な予感がしたのか表情が曇っていた。

 

 そんで到着したのは、玩具売り場だった。なんでだよ。

 主はシグナムに車椅子を押されて、キョロキョロしている。

 アタシはそれを呆れてみていた。

 この後、運命の出会いがあるとも知らずに。

 

 主はなんだか人形?を手に取って、考え込んでいる。

 こんなんで決まるのか?

 アタシは暇を持て余して、視線を別の棚を彷徨わせた。

 そして、目が合った。

 雷に撃たれたような衝撃。

 こんな奴がいたのか…。

 

 そこには一匹のウサギがいた。

 

 ただ可愛いだけの奴じゃない。人に媚びないプライドを感じる。

 

 欲しい…。アイツと一緒にいてぇ。

 

 そんな事を考えていると、視線が向けられている事を感じた。

 主とシグナム達だった。

 微笑ましそうに見んじゃねえよ。主。

 それと2人共、呆れんじゃねえよ。コイツは特別なんだ!

 決してガキなんじゃねぇぞ!

 

 散々だった。

 

 主の家の帰り道、アタシは不貞腐れて主達から離れて歩いていた。

 シグナム達はアタシを放置している。

 アタシはフラフラと距離を置いて歩く。

 すると、主が止まった。

 なんだ?

「ヴィータ。この子頼むわ」

 この子?主は箱みたいなもんを、こっちに突き出した。

 んだよ。シグナム達の方が近けぇじゃねぇかよ。

 シグナムに睨まれる前に、サッサと受け取る。

「家に帰ったら開けてな。大切にするんやで?」

 あ?アタシのなのか?これ。

 

 家に帰って、箱を開けてみた。

 入ってたのは、アイツだった。いつの間に…。

 アタシの目を誤魔化すとはな、やるな…。

 本来なら、余計な事すんじゃねぇ!って捨てるとこだけど、コイツに罪はねぇ。

 大切にしてやるか。

 どうも、コイツはのろいうさぎというらしい。

 そうか…お前、呪い背負ってんのか。

 それでこの面構え。流石、アタシが惹かれただけあるぜ。

 不屈なとこがいい。これから頼むぜ。

 

 

 それから穏やかな日々が続いていったんだ。

 決して長い時間じゃねぇけど、かけがえのない日々だと思い出す為の時間。

 その間も、はやては決して態度を変えたりしなかった。

 

 信用ってのは、積み重ねていくもんだ。突然沸いて出るもんじゃねぇ。

 特別な何かが、他にあった訳じゃない。

 でも、当たり前の事をアタシは忘れてたんだと思い出した。思い出せた。

 それで、アタシは徐々にはやてを認めていったんだ。

 

 

              :シャマル

 

 ちょっと前の事を思い出す。

 本来の自分を取り戻すまでの事を。

 

 

 いつからか、仕事は惰性になった。文句言われない程度にやればいい。

 こちらが親身になったところで、暴言を吐かれるだけなんてよくある事だった。

 いつしか適当にやる習慣が、身に付いた。

 シグナムは眉を顰めたけど、やる事をやってるんだから文句も言ってこない。

 ヴィータちゃんみたいに不貞腐れない。

 でも、シグナムみないに割り切れないし、ザフィーラみたいに忠実ではいられない。

 

 今度の主は、子供だった。

 あんまり記憶は残ってないけど、子供は初めてだと思う。

 人でない私達が言うのもなんだけど、大人気ない態度を取っていると思う。

 

 ある日、料理を手伝ってほしいと言われた。

「私達は、召使いじゃないんですけど」

 私1人で助かった。シグナムがいたら鉄拳が飛んでいたところだ。

 私の暴言に対して、主は不思議そうに首を傾げた。

「騎士かて、料理くらいするやろ?野戦食みたいな」

 ベルカでは従者がやるから、騎士は戦いに集中している。

 つまり、料理なんて態々しない。好きでやってる物好きはいたように思うけど。

 そして、そもそも私達は、魔力供給さえあれば食事は必要ない。

 それを、今度は言葉に気を付けて説明する。

「そんなもんなん?」

 納得出来なさそうな主に、私は頷いた。

「でも、食べられるやんな?」

「ええ。まあ…」

 初日に歓迎として食べた。味覚もある。満腹にもなる。ただ、栄養にならない。

 そこから力が補充出来ない。

 それも説明する。

「それは残念やけど、味覚はあるんやろ?なら必要や」

 私は訝し気に主を見た。どうして必要に繋がるの?

「料理は何も栄養を取るだけとちゃうで。心にも必要なものなんやで?」

 心に?

 主は私の心情を察したように頷いた。

「美味しいものは、心を満たしてくれるんや。心の治療にも食事療法があるんやで?

治癒術師として興味ないか?」

 そんな考えが!?

 私は適当にやっているけど、手を抜いている訳じゃない。

 治癒術師としてのプライドまで捨てていない積もりだ。

「分かりました。お手伝いさせて貰います」

 挑むようにそう言った。

 

 確かに、この子の料理、美味しいのよね。何か効果があっても可笑しくない。

 

 それで分かった事は、意外に料理が楽しいという事だ。

 いい気分転換になる。何かが出来上がっていく過程が楽しい。

 そして、完成。

 

 やはり、みんなで食事を取る。

 みんな表情は隠しているけど、長い付き合いの私には分かる。

 心のどこかで喜んでいる。

 

 本当に心にも作用するのかもしれない。

 

 余談だけど、私1人で料理したものには、みんな食事を噴き出すところだった。

 それが、私のプライド酷く刺激した。

 絶対に美味しいと言わせてあげるわ!

 それで、より一層料理に打ち込む事になった。

 主は苦笑いしていたけど。

 

 それから熱心に料理を教えて貰うようになった。

 どこから聞き付けたのか分からないけど、近所の奥さんまでアドバイスをくれる

ようになった。

 

 

 因みに現在の私は、不味い料理から微妙な味付けの料理にレベルアップしている。

 あれから私の役目に近所付き合いが、追加されるようになった。

 

 ここの世界の奥さん方はいい人が多い。

 私も徐々にだけど、気分が前向きになっていった。

 

 多分、はやてちゃんを認めたのは守護騎士の中じゃ、早い方じゃないかしら。

 

 だって、日常の重要さを教えて貰ったんだもの。

 

 

              :ザフィーラ

 

 今までの事を思い出すように、全員が沈黙した。

 私自身、少し前の事を思い出していた。

 

 

 今度の主は、少々変わり者のようだった。

 一切、蒐集を御命じにならない。

 過去、そういう人物もいただろうが、少数派であった事は間違いないだろう。

 おまけに、シグナム達に服や生活必需品を買い与えている。

 正直、騎士甲冑だけで事足りるのに、だ。

 これは、珍しいのだろう。

 我々は、生物ではないからな。

 

 私は盾の守護獣である。

 つまり、主と仲間を守る盾だ。

 敵は勿論、時には歴代の主の無体から守る事もあった。

 盾の役割を与えられただけあって、私の身体は頑丈に出来ている。

 

 それだけにペットの如く可愛がられるのは、慣れない。

「ごめんな。ちょっと我慢してな」

 撫でられたリ、足を弄られたり、偶にやられる。

 別に嫌ではないが、落ち着かない。

 他の仲間と扱いが違う気がするが。

 私は気になって1度、質問した。

「私、今まで動物好きやけど、飼う事出来なかったんよ。こんな脚やし。勿論、

ザフィーラがペットだなんて思ってないで?そう!これは癒しなんよ!」

 何やら力説された。

 私は機嫌がよさそうな主を見て、もう1つ気になっている事を訊くチャンスだと、

思った。

「主は他の守護騎士達が、仲良くする事を御望みなのですか?」

 主が色々と動いているのは知っていたが、疑問だった。

 それ程、気になるのであれば、一言命じればいい。

 そのくらいの小芝居は出来るだろう。

「それじゃ、意味ないやん。私は楽かもしれんけど」

 主が微笑んだ。

「私は凄い力とか興味ない。みんなは私が死んでも長い旅をせなあかんのやろ?

だったら、私が生きとる間くらい休んでもええやん。それが命令になったら、今まで

と同じや。本末転倒ってやつやな」

 ならば、放っておいてもいいのではないか?

 私の言いたい事を察したのか、主は首を振った。

「みんなは、これから先も一緒やろ?なら、少しでも思ってる事を言える方がええと

思うんよ。無理に仲良くなってほしいんやない。話せるようになって貰いたいんや。

それだけで、違うんやないかと思う」

 私は瞠目した。

 この主は、我等の先まで案じておられる。

 どれだけ足掻こうと、取り残されるしかない我等を。

「このままやと、ドンドン声が出なくなってくしな」

 主は寂しそうにそう言った。

 おそらく、御自身の経験からの言葉だろう。

 主は病院と図書館、買い物以外の外出をしない。

 御友人が訪ねて来た事もない。

 話せなくなったのは御自身なのだろう。

 

 それからも主は他の守護騎士に、五月蠅くならない程度に話をされ、気分転換を進め

られたりしていた。

 それが、どんなによそよそしい態度であっても、主は穏やかな態度で変わらず接し

続けた。

 

 私はこの主に尽くそうと決めた。

 それだけの価値がこの主にある。

 今までの主に忠節がなかった訳ではないが、やはり義務感のようなものは混じって

いた。

 

 だが、この主の為ならば、この身が滅んでも構わない。

 そこまで思った。

 

 

 主・はやては、それから他の守護騎士からも信頼を勝ち取っられた。

 このような事を成した主は今までにいなかった。

 

 主が決めた事であれば、私は喜んで従おう。

 

 

              :シグナム

 

 私には義務感しかなかった。

 それを主が変えた。いや、元に戻ったというのが正しいのかもしれない。

 今の仲間を見れば、その表現の方が正しいと感じる。

 みんなが主の為に、全力を尽くす。

 これがあるべき姿だったが、いつしか失くしてしまった。

 それを私は放置した。私も本来の姿を見失ったからだ。

 

 少し前の事を苦々しく思い出される。

 

 

 

 今回の主は蒐集を命じない。

 命令がないなら、護衛の任務をすれば済む事だ。

 他の連中…ザフィーラを除いてやらないからな。

 いつからこうなのか、既に覚えていない。

 随分と昔からなのは確かだ。

 ならば、将として模範を示す義務がある。

 言葉がダメなら行動で示せばいい。

 最初のうちは、主の傍を離れなかったが、主はそれをよしとしなかった。

「シグナム。別に危険な事なんてないし、ベッタリくっついてなくてええよ」

 これは、遠回しに目障りという事だろう。

 そこまで言われれば、こちらとしても尊重するしかあるまい。

 

 だが、ここで問題が起きた。

 手持ち無沙汰なのだ。

 レヴァンティンを振る訳にもいかない。

 態々、結界を張って、注目を浴びてまで振る必要性はない。

 故に、室内で体捌きの練習をするのが常だった。

 いざという時に、鈍っていたではお話にならない。

 悩んでいると、主が声を掛けて来た。

「シグナムは剣術が好きなんやね」

 むっ。好き…なのだろうか?考えた事がなかった。

「嫌いやったら、そんな風に寂しそうにしとらんやろ?」

 私の表情から察したのか、主がそう言った。

 寂しいか?自分でもそんな顔をしていたか、分からない。

「だったら、剣道やったらどうやろうか」

「剣道…ですか?」

 知識としては知っている。

 何やら、ルールに従って剣を振るう遊びだったと思う。

 好き嫌いは兎も角、気が進まなかった。

 剣は敵を討つ為のものだ。訓練としても微妙だ。

 組打ち禁止、面・胴・籠手・喉への突き以外を斬っても、打っても負けにならない。

 意味不明だ。

 私は思った事を主に告げると、主は苦笑いしつつ言った。

「シグナムがやりたいんは、剣術と。剣術道場は、ここらにないみたいやし。剣道でも

動きの確認くらいになると思うし、どうやろうか」

 ふむ。正確には剣も形状が異なるのだが、そうまで言われてやらないのも角が立つ。

 

 私は仕方なく剣道場に通う事になった。

 案の定、実戦とは違うように感じた。

 まあ、そこに期待はしていなかったが。

 だが、確かに室内で体捌きや足捌きのみよりいいかもしれない。

 それを見ていた師範代とかいう立場の人物が、話し掛けてきた。

「シグナムさんは、お国で洋剣を振っていたんですか?」

 気付いたのか。まあ、気付くだろうな。

「ええ。まあ…」

 私は曖昧に頷いた。

 私はいい機会なので剣道をやる意味を聞いてみた。

 不快な思いをされるのは覚悟していたが、意外にも笑って答えてくれた。

「確かにシグナムさんは、()()()()のようだし違和感を感じられるかもしれません」

 そこまで気付かれていたか。もう少し気を引き締める必要があるかもしれん。

「剣道はスポーツです。同時に礼節と心身を鍛える場の1つとなっています。ですが、

剣道で強くなれない訳ではありません」

 そう言って師範代は試合を見せてくれた。

 結果を言えば、舐めていた部分があったと素直に認める事になった。

 私は、遊びなどと評した事を心の中で詫びた。

 

 それから、剣道をやってみる事にした。

 自分の動きは極力壊さず、剣道に応用する。

 長年剣を振るってきた身としては、それくらいはやれる。

 道場の人間からは、唖然とした表情で見られた。

 師範代は苦笑いと共に、私も指導に参加するよう言ってきた。

 

 命を取らない剣。それは、純粋に剣技のみに磨きをかける行為なのかもしれない。

 そう思えるようになった。そんな剣も悪くないと。

 

 存外、私は剣が好きだったようだ。

 

 ある日、道場から帰ると、主とザフィーラが話す声が聞こえた。

 私は結果的に、それを立ち聞きしてしまった。

 主は私が投げ捨てた事を、ずっとやってくれていたのだ。

 私は自分を恥じた。

 これで何が模範を示すだ。何が将か。

 

 主の言う通り、すぐには本来の姿に戻る事は難しいだろう。

 しかし、私は誰よりも早く戻らなければならない。

 再び、責任を背負い直す為に。

 

 

 あれからは、リハビリに励んだ。リハビリという言葉が相応しいと思う。

 結局は、主にご迷惑をお掛けする結果になったのだから、無様といしかないが。

 

 今度こそは、主の期待に応えなければならない。

 シグナムとして、将として。

 

 

              :はやて

 

 長い沈黙の後、私は結論を口にする。

 みんなも察しとるやろうけど。

「私は美海ちゃんの案に乗ろうと思う」

 美海ちゃんは、確かにシグナム達を嫌っとるみたいやけど、夜天の魔導書に悪感情

がある訳やない。

 美海ちゃんは、多分、大切な人を失った。

 夜天の魔導書と深く係わる人。多分、私と同じマスターやったんやないかと思う。

 美海ちゃんは、その人を裏切らん。

 だから、助ける事を承知したんやと思う。

 

 信用出来る。

 

 守護騎士達も、個人的感情を抑えて頷いてくれた。

 

「みんなで生きよう!」

「「「「はっ!!」」」」

 

 

              :リンディ

 

 いつまでも、管理局に報告しない訳にはいかない。

 頭の痛い問題を一時的に棚上げし、まずはレティから上層部へ報告して貰う。

 勿論、詳しい説明は私がする事になる。

 前もって話を通しておいた方がいいだろう。

 未知の知識から、ユーリさんを味方に付けられる。

 私は頭の中で、どう話をもっていくかをシュミレーションしていく。

 

 どれ程、考え込んでいたか、気付けばかなりの時間が経っていた。

 通信がきた事を示すスイッチが点滅していた。

 私は慌ててスイッチを押すと、ウィンドウが開く。

 映し出された人物は、レティだった。

「あら?何かあった?」

 返答があるには早過ぎる。何かしら?

「返答があったわよ」

 は!?前もっての話だった筈でしょ!?

「お察しの通り、私は貴女の報告の前の地均しの積もりだったわ。でも、何故か

結果が出た」

 嫌な予感しかしないわね。

「異例のスピードよね」

 レティが皮肉たっぷりにそう言った。

 

「ここまでくれば、予想してると思うけど。本局上層部の判断はユーリさんの

案を継続。美海さんは逮捕するよう通達される予定よ」

 

 

 

 

 




 心を閉ざした人物に必要なのは、時間を掛けて接する事なのだとか。
 はやては、日常の大切さを気付かせる事に集中しています。
 ここらが、美海が失敗した原因の1つと言えるでしょう。
 まあ、そういうのは酷かもしれませんが。

 一応、プレシア回と違って、守護騎士リレー形式にしました。
 う~ん。難しい。

 これからバラバラだった話が交わってきます。
 問題は私の技量でしょうか。

 頑張ります。


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第34話 決断

 頭の中で、策を練っておりますが、何故か詳細を詰めると
 作戦通りにいかないです。
 
 では、お願いします。


              :クロノ

 

 正式な提案でもないにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()

 普段はウダウダと長く会議をやるのにだ。

 正式な命令は、永遠結晶(エグザミア)での封印を継続するようにという内容だった。

 更に、美海の逮捕が任務に加えられている。

 前回の人員で無理だったのに、出来る筈がない話だ。

 今、上層部にいる人達は、大して現場を知らない。

 時として、こんなとんでもない無茶を言ってくる。

 流石に、子供の姿な訳だから、全盛期の力という事はないだろうが、それでも厄介な事

に違いはない。

 

 艦長は上申する積もりのようだが、覆せるかどうか。

 実は、艦長も僕も蒐集をどのようにするかは、腹案があった。

 軌道拘置所に収監されている囚人の中でも、更生の余地がありそうな人間を見繕い

リンカーコアを提供させるというもの。

 それで司法取引を持ち掛ける。というものだ。

 中には凶悪犯ばかりではないから、減刑を引き換えにすれば応じる者はいる筈だ。

 その案で、デメリットの印象を薄れさせようとした。

 が、早々の正式通達だ。

 

 裏側はレティ提督も掴めていないようだが、何かあるのは確実だ。

 

 上申には僕も参加する予定だ。

 そして、自分の案が棄却されるというのに、ユーリも美海の案に賛成していて、自分も

立ち会うと言ってきていた。

 単純に美海が、闇の書…夜天の魔導書のアレンジをどうようにやるのか興味があるだけ

みたいだけど、それでも有難い。

 ユーノの途中経過報告でも、美海の話が真実である可能性が高いという事だし、厄介な

相手を敵に回すのは避けたいものだ。彼女の言い分も、分からないとは言えないしね。

 

 僕は誠意を示す為、美海に協力出来ない可能性がある事を、伝える事にする。

 確か、今はユーリと話をしている筈だ。

 何か向こうの譲歩を引き出すようなものが、出ていればいいが…。

 部屋の前で護衛していたのは、機動3課の2人だった。

 部屋の中に入れて貰う。

 扉が開いた瞬間に声が飛び込んでくる。

「疑似的なリンカーコアを作成してみる、というのは?」

「まず、夜天の魔導書を誤魔化す程の精度のものを、どうやって造るの?データの塊を

魔法式の形にして丸めるくらいじゃ、誤魔化せないよ?」

 今まさにその問題を話しているようだった。どうもダメそうだが。

 リンカーコアは、生物に1つしか生成されない。

 つまり、生物から取り出す以外ない。

 粗悪品でも造れる方が、どうかしているものだ。

「じゃあ、それらしきものは造れるのですね!?そこから改良出来ませんか!?」

「そんな事出来れば、ベルカは魔導騎士で溢れ返ってるよ」

 出来たら出来たで頭痛の種になる訳だ。

 そうなると難しいか。

 2人の議論は続いているが、横から声が掛かった。

「クロノ。どうかしたか?」

 声を掛けたのは、飛鷹だった。

 少し顔付きが変わったか。

 それは、別にいいか。

 なのはも僕の表情から何か感じたのか、心配そうにしている。

 問題はフェイトだ。どうして機嫌が悪そうなんだ?

「なんと、本局からこちらがまだ提案すらしていない案件について、返答がきた」

「「!?」」

 2人が驚く。フェイトは無反応だ。多分、聞いていない。

 更に、議論中の2人は、白熱していて僕の存在を無視している。

「どうなるんだ?」

 飛鷹が真剣な表情で問い質す。

「本局の答えは、美海の提案は却下。美海は逮捕しろとの事だ」

「そんな!!」

 なのはが悲鳴のような声を上げる。

 

「ん?ああ。執務官殿、来てたの?」

 ここまで騒いで、ようやく美海が僕に気付いた。

 それで改めて本局の決定を伝える。勿論、上申はする旨も伝えた。

「どうして!?」

 フェイトも聞いていなかったようで、ようやくそう言った。

 肝心の本人の反応は、淡白だった。

「ふ~ん」

 一切、興味なしと言った感じに頭痛を感じる。

「もう少し、危機感を感じてほしいんだが」

 頭痛を堪えて辛うじてそう言った。

「意外だなとは思うよ。だって執務官殿も私を逮捕したがってたでしょ?」

「それと救済案は別だよ。逮捕は穏便な方法にすべきだと考えている」

 強硬な手段に訴えれば、最悪全滅という事態になり兼ねないからね。

 穏便とは、例えばフェイト同様に自首して貰う等だ。

 確かに、美海は管理外世界の住人だし、フェイトを助ける為にプレシアの手助け

を行っていた。手助けと言っても、フェイトに協力したのみで、プレシアの逮捕に

協力したとすら言える。裁判は形だけのものになるだろう。

 そういった形を整えてくれれば、態々敵対する必要もない相手だ。

「まあ、ありがとうとは言っておくよ。犠牲を出さない為の考えだったとしても」

 まあ、事実だが。

 

「救済案は私が勝手にやる事。敵対するなら、そりゃどうぞだよ」

 美海は大した事ではないと言わんばかりに、そう言った。

 はやての考えにもよるけどと、美海は最後に付け加えた。

 ユーリは、局の上層部に発案者として、こちらを案を採用するように働き掛けて

くれると言っている。

 これは、僕が話すまでもなく用件が済んでしまったな。

 

 だが、フェイトは苦悩に満ちた表情で黙り込んでいた。

 

 

              :リンディ

 

 上申には、早速、グレアム提督に口添えを頼んだ。

 あの人が声を発したなら、耳を傾けなければならない人は多いから。

 私とクロノはどちらに転んだとしても、作戦を実行する為に艦を離れられないので、

映像での参加になる。

 私の横では、ヤル気に満ちたユーリさんが座っている。

 発案者からの口添えを貰えるのは、正直有難い。

 

 そして、ウィンドウには本局お歴々が勢揃いしていた。

 そして、3提督の姿もある。

 これは、グレアム提督が捻じ込んだのだろう。

 現在の上層部は、3提督を煙たがっているから。

「それでは、闇の書対策案に対する上申がなされた為、検討会議を始めたいと思います」

 進行を務めるのは、キント執務官長である。

「この案件は既に決していた筈だが?今更、どんな案を持ち出すのかね」

 将官の1人が口を開く。

「もうご存知でしょうが、闇の書のアレンジ案の再検討をお願いしたく」

 私はお歴々に向かってハッキリと言った。

「違法行為をする必要のない事で、態々違法行為を行う必要はあるまい」

「大体、犯罪者の出した案に乗るなど、正気の沙汰ではない」

 お歴々がそれぞれに肯定を示す。

「彼女は、管理外世界の人間です。厳密に言えば、管理局法の範囲外です。また、管理

世界の魔導士の身内でもありません」

 クロノが執務官としての意見を述べる。

「それでも、魔法で行われた犯罪に関しては、適用していた筈だ」

 将官の1人が、何を今更と言わんばかりに言った。

「その通りです。ですから、逮捕に反対はしません。しかし、その手段は実力行使が

伴うものであってはならないと考えます」

 クロノの言葉に嘲笑が起きる。

「勝てそうにないからかね?」

 揶揄するようなヤジが飛ぶ。

 だが、息子はそんな言葉に恐れ入るような事はない。

「その通りです。現在の管理局の戦力で彼女を取り押さえる事は出来ません。怪我人を

量産するだけです」

 アッサリと認められ、上層部お歴々が鼻白む。

「クロノ執務官。説得出来そうなの?」

 黙り込んでしまったお歴々の隙を突くように、のんびりとした声が発せられる。

 発言者はミゼット提督だった。

「材料はあります。徐々に、といったところでしょうか」

 フェイトさんの説得なら、罪に問われない条件で裁判に出廷させるくらいは出来そう

よね。フェイトさんを出汁に使うのは、個人的には嫌なんだけど…。

 かの剣王を敵に回すよりマシなのよねぇ…。

「そうなの。なら、逮捕というより自首を促すという形ね?」

「はい。こちらが一方的に屈した形でなければ、ハッキリ言わせて頂いて構わないと

考えます」

 フェイトさんと美海さんは縁が出来てしまった。

 なのはさん達の絡みもある。

 付き合わないという選択は、フェイトさんにはないだろう。

 なら、形だけでも美海さんにも裁判は受けて貰った方がいい。

 

 ここで咳払い。

 咳払いは本局長官だった。

「ミゼット提督。貴女方の出席はオブザーバーとしての筈だ。勝手な発言は控えて頂き

たい」

 長官が3人に睨みを利かせる。

「いやいや。すまんな、ノルド長官。老い先短いものだからな、つい先を急いでしまう」

 キール元帥がにこやかに詫びを入れたが、眼光は鋭い。

 一瞬、怯んだ長官だったけど、すぐに立て直した。

「今後、気を付けて頂きたい」

 長官がキント執務官長を視線で促す。

「では、容疑者逮捕はクロノ執務官が交渉して自首させる、という事でいいのかね」

「却下だ!アースラでは手に負えないなら、別の者にやらせればよい!!」

 折角、キント執務官長が纏めようとしたのに、将官の1人が強硬に反対。

 結局、本局が特別チームを編成する事が決定した。

 クロノと私も食い下がったけど、聞く耳持たないのではどうしようもない。

 

 クロノの蒐集案も、アレルギー反応を起こすように拒否。

 受刑者の刑を無暗に軽くするなと、騒ぎ立てた。

 ユーリさんは、自分の案より救えるものがあるのならと美海さんの案を推したが、技術

的に出来るのか、どのようなものか訊かれ返答に詰まった。

 大魔導士のユーリさんでも、夜天の魔導書のデータなど知っている筈もない。

 ユーリさんは、それを言わなくてはならず、更に無責任な話だと言われる事になった。

 ユーリさんも技術革新に繋がるからと説明したが、それで承知する訳がない。

 

 やはり、ダメかと思い始めた時だった。

 

 本局側の会議室が騒がしくなる。

 局員が必死に静止する声が聞こえてくる。

 そしてドアが、滑りの悪い襖のように開けられる。

 あれ、手で開けるものじゃないわよね?

 

 そして、大勢の局員を纏わり付かせた巨漢が入ってきた。

「失礼する」

 まるで、局員がいないかのように平然としている。

 

 レジアス・ゲイズ少将がそこにいた。

 

 彼、魔法は使えなかった筈よね…。

 

 

              :レジアス

 

 本局の連中が、即時封印に拘っているので、なんとかしろと言ってきた。

 勝手な話だ。何故そこまで骨を折らんといかんのか。

 そもそも、即時封印に手を貸したのは、他ならぬ奴だ。

 今度は阻止しろと言う。

 データが使えるもので、大分研究が進むものでなければ、無視しているところだ。

 おまけに、貸し出したユーリ・エーベルヴァインも巻き込んで、上申したという。

 長官も騒ぎ出した。

 やらざるを得ん。

 溜息を吐きつつ、本局へ向かう。強引に参加した方が面倒がない。

 

 虎の子の魔導士に本局に転移して貰い、受付を素通りして会議室へ向かう。

 後から声が上がるが無視する。

「少将!突然の来訪はどういった用件ですか!?止まって下さい!!」

「会議に出席する為だ。邪魔は止めたまえ」

「そのような話は聞いていません!!」

「今、聞いたな?失礼する」

 武装局員が身体を張って制止してくるが、無視して進む。

 何人かワシにへばりついているが、平然と進んでいくワシに一般局員が道を空ける。

 会議室へ辿り着くが、ロックされている。

 知った事ではない。強引にドアを開く。

「失礼する」

 入室すると、3提督を除く連中が驚愕の表情で固まっていた。

「大魔導士が予定にない会議に参加させられると聞き、参上した」

 用件を口にすると、邪魔な人間を引き剥がす。

 軟弱な連中だ。鍛えられておらん。

 所詮、魔法に頼り切りの連中か。

 そこで、ようやく立ち直った連中が騒ぎ出す。

「ゲイズ少将!どういう事かね?呼んだ覚えはないが!?」

 理由は既に言ったと思うがな。

「技術協力というので、虎の子に協力させたというのに、これはどういう事ですかな」

 ワシはウィンドウを睨み付ける。

 流石に小動もせんか。

 だが、エーベルヴァインは焦ったように口を開く。

「いえ!これは、私からお願いしたのです!」

「それなら、こちらにも一報がほしかったところだ。こうなる前にな」

 エーベルヴァインが項垂れる。

 

 ワシはまだ地面に転がっている局員に、視線を送る。

「ここに来るまでに疲れてしまいましてな。椅子を用意して頂きたい」

 局員が慌てて退出していく。

「出席を許可していない!」

 声を上げる将官を睨み付けると、勢いが削がれ黙り込んだ。

 暫くすると、椅子が届いた。

 ドッカリと座ると、一同を見渡した。

「では、聞かせて頂こう」

 執務官長が詳しく経緯を語る。まあ、大部分は聞いているがな。

 それでも最後まで黙って聞く。

「成程、そんな事ですか」

 ワシの一言に場がどよめく。

「そんな事!?」

「そんな事ですよ。本局の皆さんは、即時封印の準備を続ければよい」

 上申した3人の顔が強張る。

「しかし、封印手段の完成前に闇の書が完成したのならば、仕様がないでしょう」

 会議室の全員が驚愕する。

「何を言っている!?」

 察しが悪いのか、頭が悪いのか判断に困るな。

「封印する機を逸したなら、出来る事をすべきと言っておるのですよ」

 3提督とウィンドウの向こうにいる奴等は、ワシの言いたい事に気付いておるぞ。

 そう永遠結晶(エグザミア)完成前に、やってしまえとな。

「地上本部はいつでも人手不足ですからな。どこぞの方々の活躍で、違法魔導士なぞ

幾らでもいる。協力者の素性など調べる余裕はない。そして、逮捕協力の過程で、

リンカーコアがなくなっていようが、調べようがありませんな」

「なっ!!貴様!!犯罪者に犯罪者狩りをやらせようというのか!?」

 ワシは心底不思議といった顔で言う。

「なんの事ですかな?地上でもし事が起こったらを想像して、つい愚痴ってしまっただけ

だが?」

「ぬけぬけと!」

 知った事か。

 

 このぐらいの駄賃は貰ってよかろう。なあ?

 

 この後、エーベルヴァインに永遠結晶(エグザミア)がいつ頃完成するか、しつこい程、

確認していたが、エーベルヴァインは時間が掛かりそうだと嘯いておった。

 

 何がなんでも急げと、仕舞には騒いでおったがな。

 呆れた連中だ。

 

 

 地上本部へと帰還した。

 子供の我儘みたいな会議が、終わって疲労しかない。

 エーベルヴァインには軽挙は慎むように、釘を刺しておいた。

 長官への義理はこれでいいだろう。

 

 オーリスが出迎えてくれる。

「逮捕に協力を申し出てくる者がいれば、あまり詮索せずに使えと通達を出しておけ」

 オーリスは何も言わず、敬礼で答えた。

 

 こちらに害がないなら、ヤツが何を企もうが好きにすればよい。

 

 

              :飛鷹

 

 話を聞いて驚いた。

 いよいよ、俺の原作知識は当てにならなくなってるな。

 まさか、ここでレジアス・ゲイズが出てくるとはな。

 

 皮肉な事に、早く夜天の魔導書を完成させないと、いけなくなった。

 しかも、ミッドで蒐集か。

 クロノも言ってたが、食えないオヤジだな。

 どうも、レジアスは俺の印象と違うように思う。

 まあ、気にしても仕様がないけどな。

 

 問題は結論が告げられた時だ。

「それじゃ、管理局でも本局は敵対と。地上本部は傍観ね」

 そう言って綾森は頷いただけだった。

「クロノ達はどうするんだ?」

 俺の問いに、クロノが苦い顔だ。

「正式な命令である以上、従わざるを得ないだろうね。最も、()()()()()()()()()()()()()

如何ともし難いけどね」

 つまり、意図的にサボタージュしてくれるって事か。

「あ、あの!」

 フェイトが意を決した表情で口を開く。

 が、それは遮られた。

「フェイト。私に協力したいって申し出だったら止めてね」

「で、でも…」

「フェイトが気にする事ないよ。私がやりたくてやったんだから。フェイトはこういう

言い方嫌だろうけど、折角、プレシアのとばっちりから解放れたんだから、自分を大切

にしないと」

 フェイトは項垂れてしまった。

「でも、美海ちゃん。1人じゃ…」

 今度はなのはが心配そうに声を上げた。

「寧ろ、みんなには、そのまま管理局側にいてほしいんだよね。助けたいと思ってる

ならね」

「「?」」

 なのはとフェイトは、頭に疑問符が浮かんでいる。

 つまり、クロノ達同様俺達にも協力するフリして、足を引っ張れって事か。

「その場合だと、お前が悪役になるじゃねぇかよ」

 俺達は無能呼ばわりされるぐらいだろうが、コイツは益々管理局から敵扱いされる。

 綾森が苦笑いする。

「慣れてるよ」

 剣王の最後は聞いた。それだけに、胸の中で嫌なものが広がった。

「まあ、そんな顔しないでよ」

 宥めるように言われ、俺は顔を顰めた。

 コイツにとって、どこまでも俺はガキらしい。

「ウンザリなんだよ。大勢に味方するの。どうせ、やるなら自分の気持ちに正直でいたい

からね」

 俺達は、その言葉に何も言えなかった。

「当てにしてない訳じゃないからさ。間接的な協力を頼むよ」

 

 フェイトは拳を握り締めて、黙っていた。

 

 

              :なのは

 

 海鳴臨海公園での最終判断が迫る中、私達はデバイスの調整をしていた。

 新しく搭載されたカートリッジシステムを確かめる。

 レイジングハート達の名前も考えなきゃいけなくて、散々考えて決めた。

 

 レイジングハートが、レイジングハート・エクセリオン。

 

 バルディッシュが、バルディッシュ・アサルト。

 

 飛鷹君もカートリッジシステムを使わないか訊いたけど、要らないって言ってた。

 美海ちゃんに訊くと、使った事ないって。

 ベルカのシステムだよね?って訊いたら、負担がバカにならないから使わない人は、

結構いたんだって。

 

 ついでに、模擬戦も付き合って貰ったんだけど。

 結果は、全く歯が立たなかった。

 3対1で戦ったんだけど…。

 

 同時に攻撃しているのに、背中に目が付いてるみたいに回避されたり、剣で斬られたり

して、攻撃が当たらない。

 美海ちゃんは、全然魔法らしい魔法を使わなかった。

 それなのに、少しの時間で3人撃墜されてしまった。

 

「うん。当初よりは、考えて動けてるね」

 涼しい顔で言われると、なんとなく悔しい。

 飛鷹君は、かなり粘ってたけど、それでもあしらわれてる感じだった。

「化け物め…」

 飛鷹君が大の字に倒れたまま、呻いた。

「ベルカには化け物なんて結構いたよ?私なんて大した事ないよ。二つ名が付いた連中

とか、洒落にならなかったんだから」

 二つ名?

 私の疑問に気付いたのか、美海ちゃんが説明してくれる。

「ベルカの説明されたなら、聞いた事あるでしょ。聖王とか。それだよ」

「それが二つ名なら、シグナム達も二つ名を持ってるって事か?」

 飛鷹君が質問する。

 確かに、ヴィータちゃんは、鉄槌の騎士って言ってたっけ。

「アイツ等のは違う。一応、アイツ等は騎士団なんだよ。で、鉄槌の騎士とか烈火の将

は、騎士団での立場を表す言葉。誤解を恐れずに言えば、係長のヴィータとか課長の

シグナムですって言ってるようなものだよ。こっち風に言うと」

 思わずフェイトちゃんと顔を見合わせちゃったよ。

 その例えって、なんだか…。

「二つ名は、その人物が成した事に由来するものなんだよ」

 ベルカの豆知識を教えて貰ったけど、残念だけどよく分からなかったの。

 

 だけど、模擬戦のお陰で、問題点の洗い出しは出来た。

 美海ちゃんは、ついでだからってカートリッジシステムの調整をやってくれた。

 なんかもう1回試してみたら、ピタッときた感じ。

 私はフェイトちゃんと一緒に驚いてしまった。

 負担も段違いに軽くなったし!

 

 でも、マリエルさんは、なんだか燃え尽きていた。

 

 そして、はやてちゃん達と再び会う日が来ました。

 

 

              :はやて

 

 少し指定の時間より早く着いてもうた。

 遅れるよりええやろうけど。

 

 なんか緊張するな…。

 

「大丈夫です。我々が指一本触れさせはしません」

 みんなが笑って頷いてくれる。

 

 今更、何を心配しとんのや、主ならチャンとせんとあかんやないか!

 私は笑みを作って見せた。

 

 みんな騎士甲冑姿で、武器を持っとるけど、構えてない。

 それでもすぐに戦える体勢なんやろうな。

 

 向こうから誰かが歩いて来てるみたいや。

 現れたのは美海ちゃんやった。

 美海ちゃんは一定の距離まで近付いて、立ち止まった。

 シグナム達が何もない方を警戒する。

 私もなんや違和感感じるわ。

 すると、何もない場所から人が湧いて出よった。

「転移して来たのです。魔法です」

 シグナムがコソッと教えてくれる。

 はぁ~。魔法って便利なんやね。

 結界っていうのも、張られてるらしいわ。人が寄って来んのやて。

 

「初めまして。アースラ艦長、リンディ・ハラオウンです。管理局を代表して来ました」

 艦長!若い人やね!物凄く優秀なんやろうか?

「僕は執務官・クロノ・ハラオウンだ。この前も会ったね」

 うん。覚えとるわ。変わらず黒尽くめやね。

 今度は私の番や。

「初めまして。八神はやてです。宜しくお願いします」

 私はペコリと頭を下げた。

 艦長さんも頭を下げて挨拶してくれた。

 でも、申し訳なさそうなのが気になるな。

「まずは、はやてさんの答えを…と言いたいところなのですが、こちらの方針を先に表明

しなければなりません」

 2人共、言い難そういう事は…。

「管理局本局は、永遠結晶(エグザミア)での封印を変える積もりはないそうです」

「……」

 そうか…。もしかして悪い知らせやないかと思っとったけど、やっぱりか。

 ショックは受けとるけど、絶望はしてへん。

 私は顔を上げる。

「それで、はやての答えは?」

 美海ちゃんが、今度は私に答えを求める。

 私は美海ちゃんとしっかり目を合わせる。

「私は、助けたい!みんな欠ける事なく今まで通りに、暮らしたい!私も生きる事を

諦めたくないんや!!」

 美海ちゃんはニヤリと笑う。

 なんや格好ええな。

「上等。私は貴女の手助けを全力でやろう」

 騎士達は嫌そうやけど。

 私は美海ちゃんを頼もしく思った。

 

 その時、全員が上空に弾かれたように視線を向ける。

 

「管理局だ!!武器を捨てて投降せよ!!」

 艦長さん達が現れた時みたいに、人が湧き出しよった。

「どういう事です!!」

「貴女のやり方は、温過ぎる。犯罪者などサッサと拘束すればよい!!」

 艦長さんは、知らんかったみたいやね。よかったわ。ええ人や、思っとったから。

 シグナム達が武器を構え、突撃しようとして動きを止めた。

 冷たい風が吹き抜けた。

 震える程の風や。

「自称レクシア。綾森美海だな。貴様を拘束する!!」

 この人等は、感じんのやろうか?

 この風は、美海ちゃんが発しとる。

「邪魔だ。命がある事に感謝しろ。ニブルヘイム」

 美海ちゃんが、無表情で腕を振り抜く。

 

 世界が凍り付いた。

 

 あれだけいた人等が、一瞬で氷の彫像になっとった。

 ドサドサと彫像が地面に落下した。

「美海!」

 執務官とかいう子が、非難の声を上げる。

 美海ちゃんは、眼力だけで執務官を黙らせよった。

「言った筈だよ?敵対するならどうぞって。まさか、手加減して貰えるなんて、甘い

事考えてなかったでしょうね?」

「いいえ…」

 艦長さんが力のない返事をした。

 

 美海ちゃんが今度は私を見る。

「覚悟は?」

「罪を背負って、償う覚悟なら出来とるよ」

 美海ちゃんは再び笑みを浮かべる。

 今度は優し気なものやった。

 

「それじゃぁ、始めようか」

「うん!!」

 

 私達は、そのまま臨海公園を後にした。

 

 

 

 




 次回からサクサクと話が進む筈!と大風呂敷を広げてみる。
 レジアスは原作通りにしたくなかったんですよね。
 それで、こうなりました。

 そして、3提督は原作でも大層な地位の割にお飾り臭かったですよね。
 それは、変えていません。

 次回から更に短くしていこうと思います。
 やっぱり、文章が長過ぎますよね。


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第35話 行動

 そろそろ事態を動かそうとしています。
 悪戦苦闘中です。

 では、お願いします。


             :美海

 

 ミッドチルダに来ています。

 廃棄都市区画にいる連中を狩り出している。

 陸士隊に協力を申し出て、今日も蒐集を行う。

 今日の当番は、鉄槌の騎士。

「おい。こんな事してて大丈夫なのかよ!?ぜってぇ何か裏あるだろ!!」

 五月蠅い。裏?あるだろうよ、それは。

「罪にも問われないで蒐集出来るの、ここだけなんだから仕方ないだろ」

 余計な罪を背負い込む必要はない。

 本局の狙いと、地上本部の狙いは別だから、こうなったのは明らかだ。

 だが、地上の犯罪者食い放題は魅力的でしょ。体よく使われてるけど。

「雑魚ばっかじゃねぇか」

「その代わり数は多いでしょうが」

 偶にAAクラスもいるし、悪い狩場じゃない。

 噂じゃ、AAAもいるって話だし。なのは達狩るよりマシだと思うよ。

 手間も心も。

 

 文句は言えないけど、廃棄都市区画なんて犯罪者の溜まり場になるような所を、

放置するのはどうかと思うけどね。

 

 で、指定された場所を監視出来る場所に陣取る。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で建物を確認する。

 入り口に5人。階段を上り切った場所にそれぞれ2人。各階の部屋に5・6人が

いる。そして、建物の中央の部屋に3人。魔力反応から手配されてる奴だろう。

 それを鉄槌の騎士に伝える。

「オメェのそれ。反則だな」

 忌々しそうに吐き捨てる鉄槌の騎士。

 これに頼り切りにならないようにならないように、気を付けているんだよ。

 前にどれだけ苦労したか、分からないだろうが。

「まずは、アンタが屋上から突入。私は少し遅れて正面から行く」

「アタシを囮にしようってか」

 ああ言えばこう言う。

「アンタは戦い方が派手でしょうが。目立つ方がいいと思ったんだけど?気に入らないなら、

私が屋上から行くよ?」

 ムッと黙り込む鉄槌の騎士。

 私もサッサと終わらせたい、この協力関係。ストレス溜まるわ。

 隔離結界を展開する。

 

 一応、陸士隊に待機して貰い。

 鉄槌の騎士に突入させる。

 屋上の扉が破られる。ここまで音が聞こえる。

 銃撃の音が聞こえる。

 さて、そろそろ行きますか。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認すると、手配されている3人が下の階に撤退している最中だ。

 私も正面の扉を開けて中に入り込む。

 入り口の5人は上階に気を取られていて、私の侵入に気付いていない。

 突然の襲撃で棒立ちになっているようだ。所詮はチンピラだわね。

 

 コイツ等はプロじゃない。一度退却してから反撃なんてしない。遠慮なく逃げるんだわ。

 だから、最初に逃げ場を塞いでやんないといけない。

 鉄槌の騎士に恐れをなして、慌てて下に下りてくる奴等を私が始末して、挟撃する。

 更にパニックを起こすという訳だ。

 ま、囮作戦には違いない。効果的なんだからいいでしょ。

 

 遠慮なく後から襲い掛かる。

 剣も抜かずに素手で接近。

 手刀で全員を昏倒させ、段階を上る。階段の上にいる2人に気付かれた。

 が、遅い。

 素早く拳を叩き込み2人は何も出来ずに倒れた。

 鉄槌の騎士が派手に暴れ回っているから、注意力散漫で倒すの楽だわ。

 上階へ上がる頃には、相手が挟撃を受けている事に気付くが、遅い。

 あっと言う間に鉄槌の騎士と合流する。

「な、なんだ!!テメェ等!!俺を誰だと…」

「誰でもいいよ。そんなもん。リンカーコア寄こせ」

「お疲れ」

 鉄槌の騎士と私が、手配された奴の1人の言葉を遮る。

 1人は戦槌の一撃で吹き飛び。1人は私の拳で黙らせた。剣なんか使うまでもない。

 そして、逃げようとする最後の1人。

 私と鉄槌の騎士の、二方向からの攻撃で昏倒した。

「チッ!私がやろうと思ったのによ」

 鉄槌の騎士の憎まれ口に、辟易する。

 あー。さいですか。

「それじゃ、どうぞ」

 私は蒐集を済ませるように、鉄槌の騎士を促した。

 

「や…夜天の書。蒐集」

『蒐集』

 倒れている奴等のリンカーコアを頂く。

 ごちそうさまでした。

 

 後は陸士隊にお任せ。

「それじゃ、頼んだよ」

「協力に感謝する。本局の連中が来る前に撤退する事を勧める」

 管轄違いだろうに、本局来てんの?

 大して感謝していないであろう言葉に、私は適当に手を振って応えた。

 

 お言葉通り、サッサと離れる。

 

 鉄槌の騎士は、夜天の魔導書をパラパラやっていた。

 貯金箱を振る子供の図だね。

 物騒な貯金箱だけど。

「あと、どれくらい?」

「半分越えたけど、遅せぇな」

 それでも、コソコソ世界変えながらハンティングするより、早いでしょうが。

 もう言わないけどね。

「戻るよ」

 

 まあ、向こうでも本局が目を光らせてるんだけどね。

 

 

             :はやて

 

 蒐集を再開して1週間。

 ページは増えてるらしいんやけど…。

 その代わり、私の時間もなくなってくるんや。

 

「だから、魔法式の構築段階で間違いがあるよ」

 美海ちゃんの指が私の脇腹に突き刺さる。

 も、もうちょいお手柔らかに、お願い出来ないやろか。

 魔力運用を午前中にやって、午後に美海ちゃんが学校終わったら、魔法の訓練。

 美海ちゃんは、騎士達の誰かと夜にミッドチルダに蒐集へ行く。

 これが、ここのところのローテーションや。

 私より美海ちゃんの方が大変なんやから、弱音吐く訳にいかん。

 けど、キツイわ。

「キッチリ魔法式を展開出来ないと、定義破綻で発動しないよ」

 分かっとるんやけどね?

「それに防衛プログラムの抵抗が、どんなものになるか分からないからね。自衛手段

を確保しておかないと、失敗するよ?」

 何度も聞いとるけどね。私が成功しいないと話にならん。

 美海ちゃんが、アレンジするところまでいかんとな。

 アクセスする時は、精神世界?みたいなとこらしいんやけど、妨害を跳ね除けて、

管理者権限を取り戻さんとあかん。

 妨害は恐怖で縛るか、幸福感に浸らせるか、その時になってみんと分からん。

 精神世界なら、死んでもええっちゅう事にはならんのやて。

 私が死んだと思えば死ぬって、怖い話やわ。

 そうならん為にも、魔法の訓練や。防御と攻撃の各1つ。

 

 それが難しいどころちゃうねん!

 

 普通はデバイスで補助して貰えるらしいんやけど、私は精神世界に行くんやし、

そんなん持っていけへん。必然的に自前で使わなあかん。

 でも、今まで魔法に関わってこなかったんよ。

 頭、パンクしそうやわ。

 私のリンカーコアは、夜天の魔導書の中に格納されとるらしいけど、格納されとる

だけで、魔法は使えるんやて。

 私のリンカーコアも侵食されとるから、魔力運用と魔法式の構築をキチンとやらん

と、発動すらせんらしい。しかも、無駄弾も侵食されとるからなしや。

 だから、こうして訓練中や。

「いっその事、洗脳技術の応用で脳に魔法式を刻み込む?」

「頑張らせて貰います!!」

 そんな怖い事するくらいなら、頑張りますぅ!!

 ギリギリまで、やるよ!いざとなったら、嫌やけど、お願いします。

「それじゃ、もう1回最初から行ってみよう」

「了解しました!」

 

 みんな頑張っとるんや。私も頑張らんとあかんやろ。

 

 私は気合を入れ直して、魔法式の構築を開始した。

 

 

             :フェイト

 

 海鳴臨海公園へは、私達は行けなかった。

 私達は管理局員じゃない。ただの現地協力者だからって。

 リンディさんは、知り合いと敵対するような現場には居辛いだろうと、配慮してくれた

からだ。

 私達は、それに甘えた。

 実際は、美海達に間接的に協力するけど、私達が管理局側にいるのは動かせない。

 臨海公園では、管理局の立場とはやての意思確認のみの筈だった。

 でも、本局はアースラとは別の特別チームを編成して、美海達に襲い掛かった。

 その場にいたら、私は美海達に協力していたと思う。

 そんな事をしたら、リンディさん達に迷惑が掛かった。

 だから、行かなくて正解だったんだ。

 ずっと、無理矢理そう思っている。

 

 襲い掛かった局員は、全員氷漬けにされてしまったそうだ。

 幸い殺されていなかった為、今、解凍しているらしい。

 クロノが苦い表情で、教えてくれた。

 解凍すれば、また働けるって。

「手加減はしてくれたんでしょうね。敢えて、派手に敵対する事で、私達でも容赦はしない

というメッセージを上層部に伝えたんでしょう」

 それが、リンディさんの意見だった。

 それを証明するように、美海は翌日からなのは達のグループから抜けた。

 放課後も、気付けば姿を消している。

 こちらの警察は、管理局の捜査は認めたけど、無関係の人間を巻き込む事は許さない方針

みたいだ。だから、学校にいる間は、結界で隔離して突入という手段は取れないみたい。

 一種の中立地帯になっている。

 勿論、強硬に美海を逮捕して、夜天の魔導書を即時封印したい本局は、現地の警察に抗議

したみたいだけど、子供が僅かでも巻き込まれる可能性がある場所での、行動は断固として

認めないと申し渡したんだって。

 今のところ、それは守られている。

 何しろ、学校から美海が姿を消した直後、結界が構築されて、すぐに解除される事が多い。

 短時間で返り討ちにされてるんだよね、これ。

 学校帰りに美海を襲撃しているのは、解凍中の人達じゃない方の局員だけど、腕前は解凍中

の人達より劣るみたい。

 美海はミッドチルダの方で、蒐集を継続している。

 地上本部は、非協力的で情報も提供しないらしい。

 

 そして、昼休み。

 美海は、何処かで1人でお弁当を食べている。

 少し前まで、一緒に食べてたのに。

 クラスメイトも流石におかしいと感じたのか、色々と訊かれる。

 無難にケンカ中という事にしてるけど。

「ねぇ。これでいいのかな?」

 私がポツリと呟く。

 本局の特別チームの人達は、正直なところ好きになれない。

 私達にも、美海の背後から襲い掛かれとか言ったり、学校で拘束出来ないのかとか、

嫌な事を言ってくる。

 その度に、飛鷹が笑顔で気が付いたらいなくなってて、と言い放っている。

 悪びれのない態度が、腹立たしいみたいで、飛鷹が1人で罵倒されている。

 そもそも私達は、嘱託魔導士ですらない現地協力者だ。

 そんな文句を言われる謂れはない。

「アイツ等、リンディさんにも無茶言ってるらしいな」

 飛鷹も顔を顰めている。

「あのユーリちゃんにも、遅いって文句言ってるって」

 なのはも流石に不機嫌そうだった。

 なのはが不機嫌なのは、飛鷹の1件が大きいだろうけど。

「それで作業の邪魔になってんだから、世話ねぇだろ」

 飛鷹が皮肉を言う。

「私もフェイトちゃんと同じ気持ちだよ。今回は、管理局の…本局?の人達が間違ってる

と思う」

 なのはの言葉に、アリサとすずかは力強く頷いている。

「人を助ける仕事してんのに、どういう事よって感じよね。話聞いてると」

「それに、はやてちゃんの事を悪く言うのも、許せないよ」

 アリサとすずかも不快感を隠さない。

「なら、どうする?反旗を翻す覚悟はあるか?」

 飛鷹が真剣な表情で問う。

 反旗を翻す。完全に美海達の側についたら、今度はどうなるか分からない。

 リンディさん達にも迷惑が掛かる。

 

 だからこその覚悟。

 

 

 リンディさんには申し訳ないけど、私は美海を助けたい。

 美海は助けなんていらないと思う。

 でも、私は美海の味方でありたい。

 ジュエルシード収集の時に、美海がしてくれたみたいに。

 

 何を迷う事があるの?

 

 美海がいなければ、私は今、チャンと立っていられたか分からない。

 絶望に沈んでいたかもしれない。

 

 今度は私の番だ。

 

「私は美海の味方でいたいよ」

 私はキッパリとそう言った。

 勿論、知り合ったばかりとは言え、はやての事も気になる。

 でも、一番の理由はそれだから。

 みんなは苦笑いする。

 そんなに呆れる事ないでしょ。

「私も!はやてちゃんは、すずかちゃんの友達だもん!はやてちゃんだって助けて上げたい!」

 なのはが最近見せなくなっていた笑顔で、賛成してくれる。

「足の引っ張り合いは、クロノに任せりゃいいか!」

 飛鷹が何気なく酷い事を言って、笑った。

「ようやく、アンタ達らしくなってきたじゃない!」

 アリサが揶揄うように言う。

「はやてちゃんのところには、私も行くよ。今まで行っていいか迷ったけど」

 すずかも晴れやかにそう言った。

 みんな心の中じゃ、納得してなかったんだね。

 

 美海。貴女の言う通りだよ。納得しないと後悔しちゃう。貴女が教えてくれた事。

 

 だから、頼み事は引き受けられないよ。

 

 

             :イリス

 

 今は、あの姉妹は部屋にいない。

 あの2人は、私がデバイスの中にいると思っているようだけど、実は違う。

 一種の転送ポートみないなものだ。

 私は亡霊のようなものだから、本体などというものはない。

 強いて言えば、このあやふやな身体が本体だ。

 あの2人は護衛中。監視もあの2人に向いている。

 それでも確認は怠らないけどね。

 安全を確認し、アレに連絡を取る。

『やあ。待ってたよ』

 不愉快な声が通信機から漏れる。

「あら、捨て駒扱いだと思っていたけど?」

 あの化物の事は、まるで聞いていない。

 この程度の嫌味くらい構わないだろう。

 こんな事で、堪えるようなタマじゃないだろうけど。

『待っていたのは本当だし、勝手に交戦したのも君の筈だか?』

 その通りね!ムカつく男だ。

「データは送ったけど、あんなのアンタにいるの?」

 私が送ったのは、ギアーズのデータ。つまりフローリアン姉妹のデータだ。

 あの2人は、サイボーグと言っていい連中なのだ。

 生身の部分もあるけど、殆どが生体機械で出来ている。

 過酷な環境を生きる為に、あの2人は改造された。

『違うアプローチというのは、貴重な資料だよ。当然いるね』

「じゃあ、これで義理は果たしたって事でいいのね?」

『ああ。あとは君の好きにするといい。お膳立ては済ませてある。アレはキチンと取り出せる

筈だ』

 気味の悪い事ね。

 どんな裏があろうが、アレを取り出す事が出来れば、問題ないけどね。

 アレの封印が解ければ、あの化物だって敵じゃない。

「それじゃ、さようなら」

『ああ。協力に感謝するよ』

 私はサッサと通信を切ろうとするが、待ったが掛かった。

『ああ!忘れていたよ。あの2人はどうするんだい?』

 は?アンタに何の関係があるの。

 その内心を言葉にしてやる。

『もし、始末でもするんなら、死体は僕に送ってくれ。実物も出来たらバラしてみたい』

 変態野郎。

 私は適当に頷いて、通信を今度こそ切った。

 

 フッと監視網に何かが引っ掛かる。

 

 素早く、原因を探る。

 巧妙にハイディングしていたみたいね。

 しかも、魔法を一切使用せずに。

 こんな事が出来るのは、そしてやるのは、あの子しかいない。

 案の定、探知範囲を広げると、アミタの姿が見えた。

 護衛をサボって、盗み聞き?

 いけない子ね。護衛も重要な仕事よ?

 

 私を見付けたのは偶々だろうけど、運が悪かったわね。

 貴女の愚かな妹は、聞く耳持たないわよ?

 

 鍵を取り出す目途も立ったし、姉は始末してもいいかもね。

 

 

             :アミティエ

 

 それは偶然だった。

 護衛と言っても、次元航行船の中。

 襲撃など滅多に起きるものじゃない。

 精々、不審者など遺失物機動課の2人と、私達くらいなものだろう。

 だから、お手洗いくらい交代で行ける。

 近くにお手洗いは勿論ある。

 でも、前回の件で妹の態度は余計に硬化している。

 あまりの気詰まりに、少し遠くのお手洗いに態と行った。

 キリエも文句など言わないだろう。

 

 なんとなく歩いていると、自分達に割り振られている部屋の前だった。

 妹の事、イリスの事を考えて歩いた所為か、遠くに行き過ぎてしまった。

 いくらなんでも、これ以上はゆっくりする訳にいかない。

 仕事の姿勢について、説教を垂れたばかりだ。

 頭を切り替えよう。

 踵を返した時だった。

 部屋から誰かの声が聞こえる。

 防音は勿論あるが、ギアーズである私には問題なく音が拾える。

 それでも、普段から聞こえるようにしていたりしないが、考え事をしていて無意識に集中

していたようだ。ハッキリ言って偶然だ。

 

 そして、中から聞こえるのはイリスの声。

 父さんや母さんに連絡する専用の通信機を使っているようだ。

 しかし、どうやって?彼女はデバイスの近くでないと出てこれない筈だ。

 私は咄嗟にステルス機能を最大にして、耳を澄ませる。

 

 内容は信じられないものだった。

 誰かに私達のデータを売った事。

 そして、最終的に私達を始末する気でいる事。

 何より、イリスはエルトリアの事など、何も考えていない事が伝わってくる。

 

 エルトリアは、今、滅亡に瀕している。

 大地は荒廃し、正体不明の死病が蔓延している。

 私達は、それを助ける為に管理局に助力を頼んだ。

 私達は、見返りに管理局の捜査官として働き出した。結果も出した。名も売れた。

 だが、管理局は移住計画を立案して以降、放置している。

 死病に対しては、何も対策を取っていない。

 このままでは、私達の世界が滅んでしまう。生まれ育った故郷が。

 だからこそ、私達は、父さんはイリスの提案に乗った。

 それなのに…。

 

 じゃあ、永遠結晶(エグザミア)は!?

 あれに封印された莫大な力で、世界を元に戻す計画はなんなの!?

 父さんはそれを知ってるの!?

 いや、知ってる訳がない!!知ってたら協力なんてしない!!

 

 キリエは、おそらく話しても信じないだろう。

 あの子は、イリスを信頼している。

 また、反発されるのがオチだ。

 

 父さんに知らせなきゃ!イリスに別の企みがある事を!!

 私達は利用されただけだったんだ!!

 

 この時、私は気付かなかった。

 動揺するあまり、一瞬の隙を見せてしまった。

 そして、それをイリスに気付かれた事に。

 

 私は護衛の事など既に忘れ、ただ父さんに連絡すべく先を急いだ。

 連絡手段を、考えなくてはいけないから。

 

 

             :???

 

 送られてきたデータを見ながら私は、ほくそ笑む。

 誰も彼もいい仕事をしてくれる。

 満足いく仕事振りだ。

 

 しかし、天才というものは、いるところにはいるものだな。

 興味深い。

 これは、本気で死体を送って貰うのもいいかもしれない。

 まあ、本当にアレで彼女を殺せたらの話だ。

 試すには丁度手頃だろう。

 彼女も流石に、手の内を多少は晒してくれるだろう。

 アプローチの違う技術のデータと、彼女のデータも取れる。

 いい仕事だった。

 

 ここからは、じっくりと観察させて貰うよ。

 

 

             :グレアム

 

 ゲイズ少将の登場は、皮肉な事にはやてを助ける一助になった。

 かの剣王が、管理局の武装局員に捕らえられる事はないと思っていたが、蒐集が停滞しない

のは有難い。向こうに思惑があったとしてもだ。

 

 今はミッドにあるバーにいる。

 かなり分かり辛い立地に存在するバーだ。

 そして、マスターは元・局員で口は堅い。

 カクテルを酔わない程度に飲む。

「隣、よろしいですか?」

 声を掛けられる。

 待ち人来るだ。

「ああ。構わんよ」

 女性を待っていたなどという艶っぽい事はない。

 隣に座ったのは、壮年のガッチリした体格の男だ。

 マックス・キント執務官長だ。

 キントがマスターに私と同じカクテルを頼む。

()()()はいないのかね?」

「ええ。遠慮して貰いました」

 つまり、尾行者はいて、撒いたという訳だ。

 彼も現場から出世した男だ。このくらいはやってのけるだろう。

「それでどうかね。最近は」

「ええ。提督のお陰で順調です」

 まだ若かった頃の彼の面倒を見ていた縁で、今でも親しくしている。

 だが、今の質問は、近況を尋ねたのではない。

「しかしながら、ある案件で少々問題がありまして、詳細は言えないのですが、相談に乗って

頂いても?」

 ここからが本題だ。

「勿論だとも。今も最前線で仕事をしている君に、老いぼれがどこまで助言出来るか分からん

が」

 キントが几帳面な態度で礼を言う。

 彼は仕事だから固くなっているのではなく、これが素なのだ。

「対象が、ある時代のロストロギアの調査をしていたようなんですが、それと対象の敵対勢力が

強引な手法を用いている理由が、判明しません。そのロストギアは敵対勢力には、なんの利害も

ない筈なんですが」

 対象者とは、クライドの事である。

 そして、敵対勢力とは本局上層部を指す。

 当然、ロストロギアは闇の書だ。

 私ははやてを救うと決心した後、偶然にもクライドの置き土産を発見した。

 そこから、彼に調査を依頼したのだ。

 今日は途中経過を聞きに来ていた。

 こんな面倒な話し方をしているのは、マスターにいざという時に迷惑を掛けない為だ。

「そのロストロギアだが、どんな事を調べていたのかね?いや、差し障りがあれば訊かないが」

 クライドは、他の局員と違い闇の書について、その背景を調べていたのは、上司として知って

いた。

 だが、それでどうして上層部が慌てて封印などしようとするのか。

 今まで、こんな事はなかった。

 上層部の動きは迅速だった。

 以前から、闇の書の対策を考えていた節がある。

 まるで、闇の書事件を待っていたように。

 前回の闇の書事件より前は興味すら示していない。

 つまり、クライドが関わった闇の書事件に何かがあるという事だろう。

「詳しくは説明出来ませんが、ロストギアが()()()()で無力化された時の事を、調べていたよう

です」

 剣王の時代の事を?

 確かに闇の書は、あの時代にも現れている。

 いざとなった場合の、被害の抑制法でも調べていたのだろうか。

 大魔導士が封印手段を説明する際に、その時代の出来事を引き合いに出したと聞いた。

 前回の闇の書事件と今回の封印手段の発見は、繋がっているのか、それとも偶然か。

 知らなければならない。

「ふむ。ではその時代の事を、もう一度詳しく調べる必要があるかもしれんな。済まないね。

こんな事ぐらいしか言えなくて」

「いいえ。参考になりました」

 キントが慇懃に頭を下げた。

 幾度も調べ直した事だろうに、礼を言って貰って申し訳ない。

「そう言えば、今、無限書庫にスクライア氏族の若者がいるそうだ」

「ほう。今、そこにいるという事は、クロノ執務官絡みですかね?」

 キントは僅かに興味を示す。

「ああ。だが、上層部の決定である以上、もう調べる事もないだろう。協力を求めてみては

どうかな?」

 視点を変えてみるというのは、重要な事だ。

 リンディに管理局の裏を探る手助けという名目で、頼んでみるか。

 裏を探るという意味では、嘘ではないのだしな。

「検討してみます」

 キントはそう言うと立ち上がり、カウンターに金を置いていった。

 相変わらず律儀だな。

 

 皮肉な事だ。

 はやてを助けたいと思わなければ、クライドの残した置き土産に気付かなかった。

 封印にばかり目がいっていた事だろう。

 かの剣王が味方に付いていれば、はやては大丈夫だろう。

 あとは、私自身が責任を取るだけの事だ。

 責任は全て私が持っていく積もりだ。

 それが、管理局に老齢までしがみ付いていた者の責務だ。

 

 これが私の最後の仕事になる。

 

 私は残りの酒を飲み干すと、カウンターに金を置いてバーを後にした。

 

 

 

 




 次回は、戦闘があると思います。
 アミタが気付きました。
 クライドさんの置き土産は、また今度説明します。
 そろそろ、ユーノも動かさんといかんですな。

 では、次回も頑張ります。


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第36話 不快

 説明不足との指摘を頂きましたので、少し予定を変えました。
 少しは、今回の話で解消されたと思います。
 残り部分は、どう加えるか考え中です。
 最悪、後の話で入れるかもしれません。

 説明した気になっていた自分にビックリです。
 敢えて語らなかった部分もありましたが、勉強になりました。
 内側からは、分からないものですね。
 分かっていた事ですが…。

 では、お願いします。


              :美海

 

 今日も今日とて蒐集の日々。

 私は今、掃き溜めの廃棄都市区画に来ています。

 どっから湧いてくんのか、餌がなくならない。

 それを陸士隊の奴等に言ったら、苦り切った顔をして吐き捨てた。

「本局の無責任な対応の所為だ」

 いや、絶対にそれだけじゃないでしょ。

 

 今、目の前の集会会場を見てると、ミッドそのものにも原因がある臭いし。

 夜の闇の中、神々しさでも演出したいのか、ランプみたいな淡い光がポツポツと

配置してある。手配されてる割に、随分と堂々としてるな。

 今回のターゲットは、新興宗教の教祖と幹部連中。

 教祖は、ここまで腐敗臭が匂ってきそうな若い男だった。

 因みに、自称初代聖王の生まれ変わりらしい。勿論、大嘘だけどね。

 宗教団体・聖王の階とかいうらしい。クソみたいな名前だね。

 罪状は拉致監禁に誘拐だそうで。何処も同じ事してるね。

「神は見ておられます!不浄なこの世界を、楽土へと変える時なのです!!」

 神様ねぇ…。そんなもんいるのかね?

 まあ、バルムンクがいるんだから、いるんだろうけど、ベルカじゃ、会った事ないんだよ。

 転生した時、会った連中は役人みたいだったし。チャラいのもいたっけ。

 

 そして、今日の担当は烈火の将。

 コイツは、鉄槌の騎士みたいにネチネチ言ってこない。

 一番遣り易いけど、必要最低限しか喋らない。

 私も喋りたい訳じゃないから、問題ないけどね。 

 

 演説は過激の一言だ。

 私にしてみれば失笑ものだが、信者にとってはカリスマがある指導者なのかね。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で会場を確認する。

 教祖は本人に間違いなし、舞台の下に魔導士が3人潜んでる。奇跡を演出する連中だろう。

 裏手に15人。魔導士は7人。後は非魔導士。

「それじゃ、私が灯りを消す。明かりが消えたら左右から行く」

「分かった」

 私は血液中からシルバーホーンを取り出し、構える。

 私なら灯り全てを1度にポイント出来る。

 私が引き金を引くと、灯りが全て消える。

 同時に、私と烈火の将は左右に分かれて、壇上を目指す。

 舞台袖にスピードを緩めずに突っ込む。

 裏手にいた4人の魔導士が、こっちに走り込んでくる。非魔導士も4人いる。

 だが、一切スピードを緩めずに突っ込んでくる私を見て、全員が驚きで及び腰になった。

 甘い。

 少し傾斜のある魔力の足場を造り、それを空中で姿勢を変えた私が勢いそのままに、蹴り

付ける。これで急な方向転換が可能になる。

 減速しないまま、勢いを付けて一番端にいた魔導士を蹴る。

 ダンプカーにでも跳ね飛ばされたように、蹴られた魔導士が飛ばされていった。

 残り、魔導士3人。

 着地した瞬間に、魔導士の1人が剣を抜いて斬り掛かってくる。

「キィエェエェーー!!」

 勢いを付けて突っ込んで、剣を振り下ろす。

 所謂、渡世人戦法だね。下手な侍より、思い切りがいい渡世人の方が強かったと、どこか

で聞いた事がある。

 だが、それは実戦慣れしてない奴の話だ。

 

 途轍もなく遅い剣を私は余裕で躱し、血液中から剣を取り出し、そのまま振るう。

 胴を一閃され、アッサリと昏倒。残り2人。

 振り抜いた勢いのまま駆け抜ける。

 魔力弾は、狙いが甘く掠りもしない。

 接敵し、剣を振るっていく。

 1人を下から斬り上げるように逆袈裟斬り、2人目を切り上げた剣をそのまま振り下ろし斬る。

 これで、魔導士の始末を完了。

 頼みの魔導士が、すぐに始末されてしまい非魔導士連中が銃を乱射する。

 障壁で銃弾が全て弾かれる。

 非魔導士連中は最早パニックになっている。

 私は、ファランクスの要領で障壁を連中に飛ばす。

 全員が纏めて吹き飛ばされた。

 

 そして、私はシルバーホーンを床に向け、引き金を引く。

 床下から悲鳴が上がる。

 下から襲い掛かろうと接近してきた奴に、雲散霧消(ミストディスパージョン)で肩を撃ち抜いてやったのだ。

 セコイ事する奴等だね。

 

 舞台に入ると、反対側から烈火の将が姿を現した。

 そして、中央には教祖。

 

「神の意志に逆らう反逆の徒めが!!この私が浄化してくれる!!」

 

 聖王に浄化の能力なんてないんだよ。刑務所で歴史の勉強でもしてろ。

 

 

              :シグナム

 

 今回の獲物は未確認だが、AAAランクという話だ。

 いくら数が多いとはいえ、ここら辺で大物を蒐集しておきたいところだ。

 

 共闘の相手は、何やら我等に恨みの有りそうな小娘。

 主の決定とはいえ、正直、信用の出来ない人物だ。

 この小娘は、主が主であるから助けると言っているのではない。

 夜天の魔導書に乞われて、過去の柵か何かを清算する為に協力しているだけだ。

 いざとなれば、主を見捨てるのではないか、という懸念は消えなかった。

 それは守護騎士全員の見解だった。

 それに、向こうだって非友好的だ。それで好意的に接するのは無理だろう。

 取り敢えずは、裏切りの兆候がない限りは協力していくしかないだろう。

 

 ヤツが灯りを消すと同時に、素早く飛び上がり舞台袖へ降り立つ。

 既に剣は抜いている。

 後から斬り掛かってくる魔導士を、素早く剣を一閃させて切り捨てていく。

 勿論、殺さないよう手加減はしている。

 実際、斬っているのは皮膚だけだ。あとは打ち込みの衝撃で気絶させている。

 ヤツの友人のテスタロッサ…に比べれば、気の抜けた攻撃しかしてこない連中を、片っ端

から切り捨てる。

 全員を片付けると、ヤツが反対側から姿を現す。

 

 教祖?とかいう奴が、神がどうの言っている。

 こいつは無知なのだろう。この世に神などいない。

 我等は、ある意味その証拠と言える。

 ヤツのいう事が本当なら、我等は厄災を振り撒く手助けをしている事になるのだから。

 もし、神がいるというなら、我等は既に存在していないだろう。

 主とて、こんな事に巻き込まれなかった筈だ。

 

 ヤツがゆっくり近付きながら、拳銃型のデバイスを構える。床に向けて。

 続けざまに2度、引き金が引かれる。

 床から悲鳴が上がる。

 私も教祖とやらに近付いていく。

 投降を呼びかけようとして、止める。

 教祖から、魔法が放たれる。

 魔力弾などという単純な魔法ではない。

 空間に干渉する魔法である事は、ヤツのような特殊な目を持っていなくても分かる。

 警戒し、身構えようとして気付く。

 身体の動きがおかしい。

「このレアスキルともいうべき魔法が、私が神に選ばれた者の証なのです」

 傲慢なセリフに、狂気に染まった顔。

 幾度も見た事のある嫌な顔だ。

 思い上がり、勘違いした挙句に増長した人間の顔。

「この魔法は、周りの速度を思い通りに変えられるのですよ!素晴らしいでしょ!?どんな

強者も、この魔法の前には無力です!!」

 こちらが碌に動けない事をいい事に、余裕な態度で演説を続ける。

「管理局は、まだこんな愚かな事を続けているのです!!」

 パニックに陥っていた信者が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 灯りが再び灯される。

「さあ!皆さん!!新たな世界を作ろうじゃありませんか!!」

 信者が歓声を上げる。

 

 が、突然、教祖の脚から血が噴き出した。

 

「ぎゃぁあぁぁぁーー!!」

 堪らずに教祖が倒れる。

 魔法の効果が切れて、身体に自由が戻った。

 教祖は痛みで、のたうち回っている。

「どうした?神様が余所見でもしたか?」

 ヤツが拳銃を構えた姿勢のまま、冷ややかに言った。大して大きな声ではないのに、会場

全体に声が届いたように感じた。

「ど、どうして!?なんで動けるんだ!?俺に出来る最大の遅さにしたんだぞ!!」

「アホか。これだけやってれば、無敵。そんなものないんだよ。勉強になったな?」

 魔法の無効化は、ヤツの十八番だったか。協力関係になってから、幾度もそれは目にして

いた。それなら私にも使ってほしかったものだ。

 教祖は理解出来ずに、混乱したままだった。話を聞いていたかも疑問だ。

 混乱から怒りへと、感情が切り替わっていくのが分かる。

 教祖が血を流しながら立ち上がる。

 目が血走っている。

「許さんぞぉ!!天から選ばれた俺にぃ、こんな事をぉぉぉーーー!!」

 魔力で剣を造り出す。

 AAAという話は、嘘という訳ではないようだ。

 喚き散らして、ヤツに突っ込んでいく。

 次の瞬間には、ヤツが霞むように消え、私の目の前にいた。

 いつの間にか剣を構えた姿勢で。

「閃光刹那。自称聖王。これが本来の聖王の剣だ」

 教祖の手から魔力が霧散し、倒れ込んだ。信者から悲鳴が上がる。

 

 この剣は!?剣の館の剣技!!

 まさに閃光の如く、神速の突き技。

 どこかで見た事がある筈だ。

 剣の館の剣技は、広く学ぶ者がいた。聖王家の剣技指南も務める程だ。

 ベルカでマスターを得た事は、何度かあった筈だが、記憶にあるどの使い手も凌駕している。

 これ程の腕前の人間となると…限られる。

 

 教祖が倒されると、信者が騒ぎ始める。

 呆れた事に、まだ教祖・自称聖王を慕っているらしい。

 何を思ったのか、ヤツがツカツカと舞台の教祖をバインドで拘束した後、信者に向き

直り会場を睥睨する。それだけで声が小さくなり、やがて消えてしまった。

 特に殺気を放った訳でも、闘気を出した訳でもない。

 だが、ヤジを言う事など許さない空気があった。

「この男は聖王ではない!!聖者でもない!!人に斬り掛かる時の顔を見たか!?あの声を

聞いたか!?聖者があんな歪んだ顔をするか!!聖者があんな下劣な声を出すか!!事実を

視ろ!!皆、気付いている筈だ!!この男が、ただの詐欺師だと!!」

 蒼い光が漏れているのが、見える。

 あの光は…!?

 会場の誰一人として、声を上げない。

 言うだけ言って、ヤツがこちらに近付いてくる。

 

「それじゃ、どうぞ」

 ヤツはそう言うと、サッサと会場を出ていった。

 

 私は、信じられない思いで、闇の書に蒐集を命じた。

 

 

              :美海

 

 全く、不愉快な仕事だね。

『バルムンク。遣り過ぎだ』

 私は念話で聖剣に文句を言った。

 最後の蒼い光。聖剣の輝きだ。知らない人間にも感じられた筈だ。聖なる気配を。

 あの光は実際には、私を護り強化し、斬ったものを滅ぼす光だ。

 聖なるものとは程遠いにも関わらず、聖剣の名に恥じぬ神聖な気配を放つのだ。

『ふん。我があのような下郎を選んだ事があるなどと、思われたら堪らぬ』

 仕様がない剣だ。

 初代とは色々あったようだし、思うところがあったんだろうけどね。

『それよりよいのか?』

『何が?』

『あの下郎の魔法を夜天にやってしまって』

 ああ、その事か。対抗手段はあるんだからいいよ。別に。

『大丈夫でしょ』

 それで納得したのか、なんなのか分からないが、バルムンクはそれっきり黙った。

 

 暫く、待つと烈火の将がこちらにやってきた。

「蒐集は終わった」

 言葉少なく、烈火の将が言った。

「それじゃ、戻るか…」

 烈火の将は、突然、言葉を切った私に不審そうな顔をする。

 私は何も説明せずに、剣を一閃した。

「ッ!!」

 怪しい仮面男が、姿を消して潜んでいたのだ。

 剣は仮面男の首ギリギリで止められている。

「背後から忍び寄って、何をする積もりだった?」

 仮面男は慎重に私から距離を取る。

 だが、私は剣を突き付けたままだ。

 烈火の将も剣は既に抜いていた。

「待て。これを見ろ」

 仮面男が掌を開くと、幾つかリンカーコアが光っていた。

 私は目を細めて、仮面男を睨む。

「勘違いするな。そこら辺にいたゴミから徴収しただけだ」

 ゴミねぇ。

 私は烈火の将に目配せすると、意外に素直に頷いた。

 烈火の将が警戒しつつ、リンカーコアを受け取ると、夜天の魔導書に蒐集する。

「今度やったら、命の保証はないよ?」

 うっかり叩き斬ってしまうかもしれないからね。

「心しておこう」

 仮面男が気取った口調でそう言った。

 残念。平静を装っても動揺しているのは、バレバレなのさ。

 

 仮面男は、こちらを警戒しつつバックステップで距離を取ると、姿を消した。

 

「あの男の目的を、訊き出さなくていいのか?」

 姿が消えた後、烈火の将が訊いてきた。

「素直に話すとでも?」

 烈火の将が溜息を吐く。

「話さないだろうな」

 そういう事だよ。

 捕まえるって選択肢もあるけど、あの突然消える方法を使われると、第六感だけじゃ

見付けるのは、骨なんだよ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使えば、簡単かもしれないけど、こんな場所で隙だらけになるのは、勘弁して貰いたいしねぇ。

 

 私達は、今日の蒐集を終えてミッドを後にした。

 

 

              :はやて

 

 少しづつやけど、コツみたいなもんが見えてきた。

 希望の光が見えてきたで!

 ただ、突然に侵食が早まる可能性もあるから、油断は出来ないんやて。

 浸食されると、もっと魔法を使うのが困難になる。

 使える回数だって当然減る。

 出来れば、これ以上の浸食が始まる前に、夜天の魔導書を完成させたいって言うとった。

 

 今日は褒められたんやで?

 あの鬼教官・美海ちゃんがやで?

 魔法式を曲がりなりにも構築出来た時は、気分がよかったわ。

 

 蒐集も順調らしい。複雑な気分や。

 それにしても、美海ちゃんとシグナム達の仲の悪さは、どうにかならんのやろか?

 これも時間が掛かるんやろうな。

 

 シグナムが神妙な顔で、ミッドから戻ってきた。

 収集が終わると、美海ちゃんは流石に家に帰るので、おらんかった。

「どのくらいいったんだ?」

 ヴィータが、シグナムに蒐集の進み具合を訊いた。

「今日、大物を食ったからな。500は越えた」

 シグナムが淡々と答えた。

「うっし!もうちょっとだな!サッサと完成させちまおうぜ!」

 ヴィータの顔に、久しぶりの笑顔が浮かぶ。

 ずっと、蒐集をやっとる間は、張り詰めとったからな。

 シャマルも、どこかホッとしたみたいやった。

 普段、感情を表に出さんザフィーラも、狼形態のまま頷く仕草を見せとったのに、シグナムの

表情に変化があらへんかった。

 なんかあったんやろか?

「シグナム。なんかあったんか?」

「ええ、まあ、取り敢えず後で、お話致します」

 シグナムは、答えると奥へ入って行った。

 

 夕食は、出来るだけみんな揃って食べる。

 私に黙って蒐集しとった時は、出来へんかったけど、今は蒐集が終わった後に、みんなで

食べとる。

「別に、揉めた訳ではありません。御安心下さい」

 私が心配しとるのに気付いたのか、シグナムが開口一番にそう言うた。

 うん。一安心や。

 でも、他のみんなは、じゃあなんだ?っと言わんばかりにシグナムを見とる。

「誰か。この中で剣王に関わった事があるか、覚えている者はいるか?」

 シグナムが、真剣な表情でみんなに訊いた。

 剣王?って誰?

 ヴィータとシャマルは、首を横に振る。

 ザフィーラが狼形態やのに、ハッキリと苦い表情をしとった。

「ザフィーラ。覚えているのか?」

「つまり、あの少女が剣王の記憶を持った人間、という事でいいのか?」

 シグナムの問いに、ザフィーラは答える前に、確認した。

「「っ!!」」

 ザフィーラの言葉に、ヴィータとシャマルが驚く。

「つまり、我等は関わった事がある、という事か?」

 シグナムの言葉にザフィーラは頷いた。

「そこまで記憶が鮮明、という訳ではないが、主であった人物の1人が剣王の友だったと記憶

している」

 自分達はあまり関わらなかったから、技能だけでは剣王さんと結び付けられんかったって、

ザフィーラが零した。

 大人が子供になっとった訳やからね。

「「「……」」」 

 みんながザフィーラの言葉に顔を顰めた。

 

「あのな。言い難いんやけど。話に付いていけてないやけど?」

 私の言葉に、全員があっ…って感じになった。

 忘れんといて貰えるかな?流石にキツイで…。

 

 代表してシグナムが説明してくれた。

 剣王は、ベルカの王様の1人で、その名の通り剣に長けた人やったんやて。

 剣の館っていうとこの、剣技を学んどったそうやけど、独自の発展をさせた天才。

 剣に対する伝承が多い所為で、他の固有の技術はあまり有名やなかった事も、気付かなかった

原因の1つみたいや。

 何本もの聖剣・魔剣を所持しとって、単身で国の軍隊と戦えた…って、どこのアニメキャラ

やねん!!

 それで、数え切れない程の武功を上げた人やったらしい。

 武功だけやなくて、内政も頑張っとって武だけの人やなかったとか。

 物凄く国民を大切にしとった人らしい。

 でも、歴史書では聖王さん…ベルカを統一した王様に疎まれた所為で、ボロクソに書かれとる

らしい。

 

 で、その剣王さんの記憶を、美海ちゃんが引き継いどる?っちゅう事らしい。

 なんか美海ちゃんが、同年代に見えんのってそれが原因なんか…。

 前世の記憶があるみたいなもんやろか?

 

 それで、美海ちゃんがシグナム達を嫌う理由。

「彼女の言が正しければ、死んだのだろうな。夜天の魔導書の呪いによって」

 ザフィーラの言葉が、部屋に冷たく響いた。

 やっぱり、美海ちゃんは大切な人を亡くしとったんやね。

 その時のシグナム達は、私が初めて会った時より、事務的やったみたいや。

 いっそ、システムという言葉がピッタリなくらいやったそうや。

「私の記憶でも、横暴な主ではなかった…と思う。何故、今の主にだけ、と思うのも理解は

出来る」

 そうザフィーラは締め括った。

 

 ヴィータがフンと鼻を鳴らした。

「それだって、アタシ等の事情無視してんじゃねぇか!事が終わるまでは、警戒しときゃいいん

じゃねぇか」

 ヴィータはそう言うと、サッサと部屋を出ていってしもうた。

 残った大人組は、複雑そうやね。

 警戒の部分には、賛同してたみたいやけど。

 

 でも、多分、美海ちゃんはやり遂げると思う。

 人柄がいうんやない。美海ちゃんは、出来ん事は言わん気がするからや。

 何より、大切な人の想いを美海ちゃんは、大切にしとる。

 だから、私は美海ちゃんを信用しとるんや。

 

 シグナム達と美海ちゃんが和解出来るように、橋渡し出来たらええな。

 このままお互いを嫌い合っとるんは、悲しいやろ。

 きっと、美海ちゃんの大切な人も喜ばんと思う。

 

 そんな事を私は考えていた。

 

 

              :アミティエ

 

 秘密裏に父さんと連絡を取る必要がある。

 それには、普段通りにしておかないといけない。

 幸い…というと変だが、キリエとの仲は芳しくないので、口を利かなくても特に問題はない。

 イリスも、あれ以来出歩いていないようだ。

 

 エルトリアの一時避難所に繋げられる通信手段を探す。

 その間の仕事にも、力が入らない。

 危険地帯での護衛でなくて良かった。

 そうでなければ、取り返しのつかない事になっていただろう。

 

 どうにか、アースラに独立した緊急通信設備がある事が分かった。

 メインシステムを経由しないのもいい。

 

 私は遺失物機動3課の2人に引継ぎを行うと、まだ腹を立てているフリをして、サッサと

キリエの傍から離れる。キリエも何も言わなかった。

 寂しいと今更ながら、感じる。

 キリエは、私の言葉を信じないだろう。

 だから、1人でやらないといけない。

 

 あまり得意分野じゃないけど、ロックされたドアのバスワードを探る。

 アースラの監視装置に見付かっていないかも、並行して警戒する。

 人が滅多に訪れない場所とはいえ、急がないといけない。

 私達は不審に思われているのだから。

 パスワードを解析して、ようやく解錠した。

 素早く、部屋の中に身体を滑り込ませる。

『ヴァリアントザッパー。監視カメラは大丈夫ですか?』

 ヴァリアントザッパーに確認する。

『問題はありません。ただし、泳がされている可能性を示唆致します』

『……』

 ここまで、逸脱行動をしているにも関わらず、アクションがない。

 その可能性は高そうですね。

 でも、私が拘束されるような事態になろうとも、父さんに知らせないと。

『引き続き、監視をお願いします』

『了解』

 ヴァリアントザッパーが、淡々とした返事を返す。

 

 通信コードと通信先を入力していく。

 通信を繋いでいる最中である事を、示す表示が出る。

 早く、早く。

 祈るように待つ。

 

 そして、通信が繋がる。映像は送れないタイプの為、声だけだ。

『ん?何方かな?』

 丁度、父さんが通信に出てくれた。

「父さん!アミティエです」

『!?アミタ!どうしたんだい!?』

 私は前置きなしに本題に入る。

「実は!…」

『どうしたんだい・どうしたんだい・どうしたんだい・ど・どう・どうした

んだい・どどどどどど』

「父さん!?」

 まるで壊れたレコーダーみたいになっている。

 向こうの通信機の不調!?

 エルトリアで何かあったのですか!?

『どうし………い~けないんだ~。仕事サボってこんな事しちゃ』

 背筋に悪寒が走る。

 

 イリス。何故!?

 

 聞こえてくるのは、確かにイリスの声。。

「イリス。どういう事ですか?」

 気を抜くと、声が震えそうになる。 

『どういう?こっちのセリフだよ~。何やってるの?』

 察知されていた!?

 相手はナビゲーターではない。正体不明の存在だ。認識を改めなくてならない。

「もう…知っているのではないんですか?」

 

「うん。まあね」

 背後から声が突然聞こえた。

 身体が逸早く反応する。

 大きくその場から飛び退く。

 そこには、イリスが立っていた。

 通信に割り込んだ!?それだけ!?

「お父さんに、通信しようとしたみたいだけど、無駄だよ?」

「貴女が妨害しているからですか?」

 呆れた表情で首を振る。

「違う違う。さて、ここで問題です。貴女がお父さんと直接会ったのは、何時?」

 スッと身体が冷えるのを感じた。

 直接会ったのは、随分前だ。父さんが体調を崩す前…。

 

 

 何故…今まで気付かなかったの!?

 こんな大切な事を忘れるなんて…。

 父さんは、エルトリアに蔓延した死病に侵されてしまったんだ…。

 それでも、無理して研究をしていた。

 遂に、無理が祟って寝たきりになってしまった。

 

 計画に賛成するなんて出来る筈ない!!

 

「父さんは、どうしたんですか!?」

 私はイリスにヴァリアントザッパーを突き付ける。

「今も寝てるんじゃない?もしかして…死んじゃってるかもしれないけど」

 イリスがニッコリと笑って言った。

 

 頭に血が上るのが分かる。

「ヴァリアント!!」

 一瞬にして装甲が私を包む。

 ヴァリアントザッパーを構えて、イリスに斬り掛かる。

「そう。それが出来る貴女は、キリエより優秀よ?」

 イリスが歌うように言う。

「でも、残念!さよなら。アミタ」

 イリスの手から赤黒い塊が放たれる。

 

 何!?この力は!?

 

 凄まじい衝撃と共に、私の意識が薄れていった。

 

 父さん…キリエ…ごめんな…さい。待ってて。必ず助けるから……。

 

 

              :イレイン

 

 ちっ!あのサド女。今日も容赦なく投げやがって。

 背中が痛てぇ。

 とっくに深夜と呼べる時間に、忍の屋敷をうろついているのには訳がある。

 夜にまで研修なんぞさせられてたんだよ。

『覚えが悪いのですから、仕様がないでしょう。言葉遣いの修正は急務ですよ』

 顔色一つ変えずに、そんな事を言いやがった。

 アタシ等は、戦ってなんぼだろうが。全くよ。

 

 それなのに、メイドなんてやってる奴にポンポン投げられてりゃ、世話ねぇか。

 

 らしくない溜息を吐いちまうよ。

 兵装が没収されてなきゃ…いや、止めとくか。接近戦じゃ勝てねぇって言ってるような

もんだからな。

 

 イライラと自室に向かっていると、外に何か降ってくるような気配を感じる。

 窓に近付いていくと。

 衝突音。

 そして、土煙が上がってやがる!

 扉が開く音が複数する。

 私はイライラしてた事もあって、素早く窓を開けて外に飛び出す。

 ストレス発散だぜ。

 顔がニヤリと笑ってしまう。侵入者なら問答無用だろう?

 なんせ、ここは女しかいねぇしよ。

 

 一番早く到着した。

 土煙越しに気配を探る。

 物じゃねぇ事は確かだ。アタシ等の感覚を誤魔化す事は出来ねぇよ。

 落ちて来たのは人だ。

 

 だが、動く気配はねぇ。なんだ、もう降参かよ?っと思ってたが、違うと気付いた。

 こいつは既にボロボロだった。

 大怪我だな、こりゃ。かなりの高度から落ちたんだろうから当然だろうけどな。

 アタシはそいつに近付いていった。

 死んでねぇみたいだしな。普通の人間じゃねぇだろう。警戒は怠らない。

 

 近付いてみてビックリだ。

 

 こいつ。アタシ等と同類なのか!?

 生体部品っぽいもんが、色々と飛び出してやがった。

 

 ノエルやファリンの奴も駆け付けてくる。

「何事ですか?」

「飛行機の部品でも落ちたんですか!?」

 ノエルの冷静な声とは逆に、ファリンの奴はアホな事を訊いてくる。

 アタシは無言で顎をしゃくってやった。

 ノエルの拳骨が頭に落ちた。

 

 だが、それを目にすると流石の鉄仮面にも罅が入った。

「これは…」

「ああ。ここは我らが、ご主人様の出番らしいぜ?」

 

 地面には軽くクレーターが出来て、中心には女が倒れていた。

 銃剣みたいな武器と一緒にな。

 

 さて、こいつは退屈しのぎになる事かな?

 

 




 これが終わったら、修正を考えます。
 フェイトのあれこれとか、ユーノのあれこれとか、グレアムさんのあれこれ
 とかは、次回にぶち込めるだけいきたいと思います。

 使い魔さん達が影薄いですから、そろそろ出したいんですけどね。
 
 次回投稿は、かなり遅れる可能性が高いので、ご了承頂ければと思います。
 


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第37話 道標

 もうちょっとで、盛り上がっていく筈です。
 頑張っていこうと思います。

 ※すいません。お知らせし忘れました。
  32話、ご指摘の件で加筆しております。

 では、お願いします。



              :フェイト

 

 みんなで決めた事を、リンディさんに言わないといけない。

 私は執務室の方ではなく、リンディさんのプライベートルームの方へ向かう。

 アルフも一緒にと言ったけど、これは私が1人で言わないといけない事。

 

 私は1つ深呼吸すると、ドアをノックした。

 今は、待機の時間だという事は確認してるから。

 中から返事が返ってくる。

 

 口の中が緊張で乾いてくる。

 

 ドアがスライドして、リンディさんが顔を出す。

「あら?フェイトさん!どうしたの?」

 私は唾を飲み込むと、思い切って用事がある事を告げた。

 リンディさんは、私の顔をじっと見て、部屋に入れてくれた。

「お茶、飲む?」

「はい。頂きます」

 咄嗟に頷いてしまったけど、クロノのいうリンディ茶じゃないよね?

 緊張していた筈なのに、そんな事を気にしている自分に苦笑いする。

 

 出てきたのは、湯呑に入った普通の緑茶だった。

 キチンとミルクと角砂糖が添えられてたけど。

 取り敢えず、ミルクと角砂糖は見なかった事にした。

 

「それで、お話って?」

 リンディさんは穏やかな表情で、話を促す。

 私は覚悟を決めて、口を開く。

「実は、養子の事なんですけど…。お断りさせて下さい」

 これからやる事は、絶対にリンディさんやクロノに迷惑が掛かる事だ。

 流石に、このまま甘える訳にはいかない。

「理由を聞かせて貰える?」

 リンディさんは、穏やかな表情のままで心の内は分からない。

 私は、リンディさんの顔を見るのが、辛くて下を向いた。

「あの…、別に、リンディさんが嫌とか、そんな失礼な事は考えてなくて…」

「いいのよ。そんな事を誤解したりしてないから、ゆっくりでいいから、聞かせて?」

 この優しさには、まだ慣れない。

 上手く説明出来ないけど、申し訳ないというか後ろめたいというか、そういう感情に近いと

思う。

「私、美海を助けたいんです。形だけでも敵対したくないんです。だって、美海は自分が不利

な立場になるのも構わずに、私の味方でいてくれたから。それが、リニスの望みを叶える為

でも、嬉しかったんです。今度は私が美海の味方でいたいんです。でも、それにはリンディ

さんやクロノに迷惑が掛かってしまうから…」

 喋り出したら止まらなくて、ここまで一気に下を向いたまま、言ってしまった。

 美海は真剣に私と向き合ってくれた。

 ただ、頼まれたからでは、とても出来ないと思う。

 リンディさんに散々よくして貰ったのに、こんな事をいうのは辛いけど、これは譲れなかった。

 

 でも、私の都合にアリシアを巻き込む訳にはいかない。

 図々しくても、アリシアの事は頼まないといけない。

 ガッカリされるかもしれない。呆れられるかもしれない。

 顔を上げたら、それを確認する事になるかもしれない。

 でも、私はそれを見ないといけない。

 私は決心して顔を上げて、ビックリしてしまった。

 リンディさんは、ガッカリするどころか微笑んでいた。

「いい子ね、フェイトさんは。なかなか出来ない事よ。ただ、これだけは言わせて?迷惑を

掛けてもいいのよ。親子になるんだもの。でも、フェイトさんが納得出来るまで保留として

おきましょう」

 リンディさんはそう言うと、私をそっと抱き締めた。

 温かくて思わず泣きそうになった。

 これが愛情なのかは、私にはまだ分からない。

 でも、リンディさんの想いは伝わる。

「ありがとうございます」

 私は、震える声で辛うじてお礼をいった。

 

 だが、次の瞬間、大きな爆発音と衝撃がアースラを襲った。

「フェイトさん!」

 リンディさんの腕が強く私を引き寄せる。

 振動が治まると、リンディさんが口を開く。

「フェイトさん。今度ゆっくり話しましょう。美海さんの件は分かったわ。事前に話してくれて

ありがとう」

 リンディさんは、そう言って微笑むと大急ぎで部屋を出ていった。

 

 一体、何が起きたんだろう?

 私もそれを確かめる為に、立ち上がった。

 

 局員の人に訊いたら、ユーリの護衛だって人の1人が、逃亡を破壊工作を行い逃走したと

聞いた。

 

 

              :キリエ

 

 丁度、待機に入っていた事もあって、ゆっくりしていた時に、爆発音と艦が大きく揺れた。

 お姉ちゃんは、まだ怒っているのか、サッサとどこかへ行ってしまった。

 気楽でいいけどね。最近一緒にいても、煩わしい事の方が多いし。

 

 だからこそ、逸早く行動に移れた。

 お姉ちゃんと一緒ならこうはいかない。

 爆発場所を特定して、走り出す。

 アースラには、まだ沈んで貰っては困るから。

 爆発現場へと踏み込むと、そこには意外な人物がいた。イリスだ。

 お姉ちゃんは知らない事だけど、イリスはデバイスの中にいるが、少しなら実体化して外で

活動出来る。

 実体化といっても、姿が視認出来るようになるだけだけど、力を通して物体に干渉出来る。

 あまり、遠くに離れるのは無理だけど。アースラの艦内くらい問題ない。

 だから、前回の戦いに参加出来ていたんだしね。

 そのイリスが床にヘタリ込んでいた。

「イリス!?どうしたの!?」

 私はイリスに駆け寄った。

 すると、イリスは涙を浮かべて口を開いた。

「アミタが…私を殺そうとしたの…」

 私は衝撃で言葉が出なかった。

 どうして…。

「アミタは…本局上層部の手先になっていたみたい」

「なんですって!?」

 確かに、最近は関係はよくなかった。

 でも、まさか…。

 

「と、兎に角、イリス!隠れて!流石に人がくるよ!」

 人が複数接近してくるのを感じて、私はイリスを急かした。

 イリスは、ショックが大きいのか、いつもより反応が鈍い。

 それでも、人が来る前には姿を消した。

 

 武装局員と整備班が駆け込んでくる。

 私を見て、敬礼するが、視線には警戒が浮かんでいる。

 不審に思われていたのは、失敗だったかもと思わされた。

 私がやったと疑われてるか…。

「艦長に重要なお話があります…。それと、これをやったのは、私ではありませんよ」

 武装局員の1人が頷くと、手で出るように促す。

 私と入れ替わりに、整備班を護衛するように武装局員が突入していく。

 私の傍には4人が残って、取り囲むように連れていかれた。

 

「では、聞かせて貰えますか?」

 リンディ提督が、真剣な表情で私を見ている。

 他の局員と違い、疑うような視線は一切感じさせない。

 私はここに連れて来られるまでに、イリスと打ち合わせした事を話す事にする。

 

「率直に言わせて頂きます。犯人は私の姉です」

 リンディ提督は、目を閉じて息を吐く。

「間違いないのですか?」

 リンディ提督が確認してくる。

 身内を一切庇う様子がない事を、不審に思われたみたいね。

 私は頷いた。

 

 私は、今回の護衛を引き受ける経緯を話し出した。

 

 闇の書発見の報が入った辺りの事だと思う。

 私達は、捜査主任に呼び出しを受け、更に上の管理官の前に引っ張り出された。

 この時、既にイリスの提案に乗った後だった。

 勿論、その事は教えたりしない。

 管理官は、典型的な役人といった感じの男で、神経質な印象だった。

 私達が指揮下に入った事のない人物だ。

 主任が声を掛けても、生返事しか返さずに書類を処理し続けていた。

 主任もいつもの事なのか、気にした様子はない。

 主任は、私達を置いて1人だけ、サッサと帰っていった。

 用事があるのは、向こうだろうに一切こちらを見る様子はない。

「掛けたまえ」

 暫く、立ったまま待機させられて、ようやく一段落したのか、顔を上げて机の前に2つある

椅子に座るように言われた。

 管理官は、新たに書類を引っ張り出す。

「君達には、ある容疑が掛けられている。監察官も動いている」

「「!?」」

 爬虫類のような目が私達を捉えていた。

「ふむ。心当たり有りか」

 管理官は感情の籠らぬ声で、これは困ったと呟いた。

「心当たりなどありません。監察が動いているなどと言われてビックリしただけです」

 お姉ちゃんは、即座に冷静さを取り戻し、弁解した。

 管理官が私の方を見る。

 君は?とでも言いたげな視線に、私は頷いた。

 ふむ、と管理官は頷くと、また書類を捲る。

 こういうのは、データで送られてくるものだ。紙など資源の無駄だと思った。

 わざと紙媒体で用意して、相手に圧力を掛ける手法を使う人間がいると聞いた事があるけど、

この人がそうなのかな。嫌な感じ。

 神経を逆撫でするような、大きな音を立てて書類を捲っている。

「君達が捜査に当たった案件で、ロストロギアを数件ロストしているね?それもエネルギー結晶

タイプのものばかりだ」

「お言葉ですが、私達は遺失物機動課ではありません。事件捜査を任務としています。きちんと

解決はしています。ロストロギアの件は、失態と取られても文句はありませんが、着服したと

疑われるのは心外です。それに、恥を晒すようですが、エネルギー結晶だけではありませんよ」

 お姉ちゃんが、即座に反論する。

 そう、エルトリアの役に、お父さんの役に立ちそうだと思ったものを、着服していた。

 一番は、エネルギー結晶タイプ。

 私達の世界を修復する為には、恐ろしい程の力がいるから。

「そのようだね」

 管理官は淡々とそう言った。

「だが、あちらが証拠もなしに動いていると思うかね?」

「「……」」

 感情がない目で私達を見詰める。

 ロストロギアは、ロストしても仕方がない状況を装っていた。

 だが、甘かったという事か。

 折角、見付けたエルトリアを救う方法。イリスが見付けてくれた方法を実行せずに拘束される

訳にはいかない。私達は、膝に置いた拳を握り締めていた。 

「だが、それは同情の余地のある話だ」

 一転して、管理官が笑顔を向ける。

 だが、目は笑っていなかった。

「エルトリア。君達の故郷が大変な時に、管理局は何も出来ていないのだからね。君達が独自の

道を模索するのも、当然というものだ」

 身売りした甲斐もないだろう、と管理官は嫌な物言いをした。

 内心では私達を見下しているのが、よく分かった。

 それに私達が、罪を認めたような言い方になっている。

 確認は形だけという事だ。

 既に、容疑は固まっているから呼び出したのだ。

 私達は不快感を押し殺して、話をジッと聞く。

「今日は君達に任務を与える為に、呼び出したのだよ。やってくれるかな?」

 事実上の強制だ。

「実は、今回、一級捜索指定のロストロギアである闇の書が発見されてね。管理局は被害を出し

続けている。いい加減片を付けたい」

 ここで、こちらから何か言えば、認めたも同然だ。

 私達は押し黙ったまま、管理官を見る。

 こんな事ってあるのね。私達は、喜色を出さないように気を付けないといかなかった。

「任務は護衛だ。闇の書の封印手段が見付かった。それを実行する為にVIPを呼ぶ。その人物

の護衛をやって貰いたい」

 それを何故、私達がやるのよ。専門の人間がいるでしょ。

「どこにでも、ケチを付ける輩はいるものだ。君達にはそういった輩の排除もやって貰いたい

のだよ」

 私達は、顔色が変わるのを止められなかった。

 つまりは汚れ仕事の強制じゃない!

「その代わり、見事、任務を達成したら、監察に一言口添えしよう。嫌疑不十分という結果が

出るだろう。勿論、()()()()()()()()()()も格段に早く実行に移されるだろう」

 もう移住計画なんていらないのよ。それをこいつ等は知らない。

 私達もまた闇の書を探していた事も。

 私達は本当は嫌だという雰囲気を纏って、今回の件を受けた。

 ここで拒否すれば拘束されただろうけど。

 

 それにしても、凄い偶然だ。これで闇の書に大手を振って近付ける。

 しかも、ある場所は、イリスがあらゆる情報を調べ上げて、見付けた場所。

 永遠結晶(エグザミア)があると推定される地球だ。

 

 私達はこうして表向きは、ユーリ・エーベルヴァインの護衛。裏ではエルトリアを救済する為

にここへやってきたのだ。

 

 イリスは、お姉ちゃんの不審な行動に気付き、監視していたという。

 本局上層部と秘密裏に交信していた現場を、イリスに発見され、凄く驚いたという。

 そして、お姉ちゃんは本局の移住計画が、確実な手段だと思い始めた事を説明した。

 同じ犯罪行為でも、違法行為で罪に問われない方に、方針を変えようとイリスに持ち掛けた

らしい。

 でも、イリスは私の気持ちを汲んで拒否した。

 そして、お姉ちゃんはあろう事か、イリスに刃を向けた。

 結果、イリスの咄嗟の抵抗によりアースラが一部破損し、お姉ちゃんは行方を晦ました。

 

 つまり、罪に問われるのが怖くなったって事ね。いい子なお姉ちゃんらしい理由だと思う。

 

 私は裏側の理由を除いて、本当の事を説明した。

 勿論、話はイリスではなく、私が聞いた事にした。

 そして、私に問い詰められたお姉ちゃんが、暴挙に出た。そう説明した。

 監視システムに関しては、お姉ちゃんが細工していたので問題ない。

 

「つまり、貴女は移住計画の推進に反対という事?」

 リンディ提督は最後まで聞いた後、そう私に訊いてきた。

「いえ。私は最後まで、故郷を救う手段を探したいと思っているだけです」

 リンディ提督は、頷くとアッサリと退室していいと言った。

 

 これで、疑いが晴れたと思うような事はない。

 何しろ、ロストロギアの件を認めたようなものだし、これからもやると言ったようなものだ。

 これからは、マークされるだろうけど、もうすぐだ。

 あとは、時間稼ぎをすればいい。

 

 誰にも邪魔なんてさせない。

 

 

              :リンディ

 

 キリエさんが退出した後、私は溜息を吐いた。

 自分の姉をアッサリと売る発言に、ある意味ロストロギアの着服を認めたような発言もする。

 何を考えてるのかしら。

 監察がうごいているような人間に、護衛の依頼がいった経緯は分かったけど。

 彼女達は、自分達のやった犯罪行為をネタに脅されていたという事だ。

 上層部は、闇の書の早期封印に拘っている、という事だろう。

 私達のような人間の排除を、明確に告げた事から明らかだろう。

 しかも、監察まで黙らせるというのだから。

 

 彼女の後には上層部がいる。

 今、拘束したとしても、邪魔が方々から入るのは目に見えている。

 やるなら、一気に片を付けないと、取りこぼしが出るだろう。

 今は、監視を強化するくらいかしらね。

 

 レティも探りを入れてるみたいだけど、未だに有益な情報はないみたいだし。

 ここから、どうしたものかしら。

 

 これからの事を考えていると、通信が入った。

 出るとウィンドウが開き、グレアム提督の姿が映し出される。

「リンディ。忙しいかい?それなら後にするが」

 何かしら?

 この人もよく分からないわね。

「いえ、大丈夫です。どのような事ですか?」

 グレアム提督は、そうかと呟き、本題に入った。

「実は、今、無限書庫に行っているスクライア氏族の子に、執務官長が調査を依頼したいそう

なんだ。協力して貰えないか、訊いてくれないか?」

 確かに、ユーノ君の調査で闇の書の裏付けは済んでいるけど…。

 ユーノ君は、後片付けにまだ残っている。

 スピード重視で調べて貰ったから、本が散らかっているみたい。

 キント執務官長が?直々にどんな調査をするのかしら。

「どのような調査か、訊いても?」

「それは、彼に直接訊いてくれ」

 ふう。この人も、まだ全て話してくれている訳じゃないみたいね。

「話してはみますが…」

 私は言葉を濁して、ユーノ君次第と告げた。

「彼も分かっているよ。初対面だからね。紹介をお願いしたいと頼まれてね」

 私はユーノ君に紹介する事を承知して、通信を切った。

 

 フェイトさんの件、フローリアン姉妹の件、夜天の魔導書。それに、グレアム提督。

 悩みは尽きない。しかも、続けざまに押し寄せてくる。

 

 私は気を取り直すと、ユーノ君に通信する事にした。

 

 

              :ユーノ

 

 リンディ提督から、偉い人が協力要請に来るかもしれないと、連絡を受けた。

 一応、待っているけど、来る様子はない。

 

 夜天の魔導書の裏付けが、ざっとだけど終わっている。

 あとは偉い人から話を聞いて、協力するか決めるだけだ。

 

 もう、事態は僕の知らない間に、随分進んでいて、もう調べる事もなさそうだった。

 だから、今は待ちながら、後片付けの最中だ。

 本を元の場所に戻していく。

 でも、敢えて言いたい。もう少し整理するべきだよ、ここは。

 本当に片っ端から手に入れた本を詰め込んだ、といった感じだ。

 凄く落ち着かないよ。

 だけど、他人の書庫。勝手に弄る訳にはいかない。

 元の場所は覚えている。サッサと戻していく。

 無心でやっている途中、後の方に置いた本を引き寄せようとした時だった。

 本の横に、人が浮いていた。

「うわっ!!」

 思わず大声を上げてしまった。

 声を上げられた人物は、眉一つ動かさずにジッと僕を見ている。

 役人というより、軍人といった感じの細身だが筋肉質な男だった。

 いや。怖いんですけど。

「あ、あの、もしかして、リンディ提督の言っていた人ですかね?」

 僕は心当たりを口にして、反応を窺う。

「おそらくその通りだ。マックス・キント執務官長だ」

 執務官長って事は、クロノ達執務官の一番頂点にいる人って事だろう。

 確かに、偉い人だ。

 挨拶も握手もない。

「君に頼みたい事があってきた。調査の依頼だ。別に無理な事を頼む気はない」

 そうして貰えると助かります。

「調べてほしいのは、闇の書に消滅も取り込まれもせずに、残る箇所はあるのかどうか。

あるとすれば、どこにあるのか。どういう場所なのかを知りたい」

 え?闇の書の事なの?

「あの事情を伺っても?」

 キント執務官長は、少し考えるような素振りを見せる。

「あ、あの、支障があるなら、別に…」

「そうだな。協力して貰うのだからな。全て話せねばなるまい。その代わり、危険な目に

遭うかもしれないが、覚悟しているというなら、問題あるまい」

 いや、覚悟以前に引き受けてないんですけど。

 

「それでは、全て話そう」

 

 僕は知った。この人、人の話を聞かない人だ。

 そして、判断の余地もなく僕は協力を余儀なくされた。

 

「心配する事はない。護衛兼手伝いは派遣するさ」

 それはどうも。まともな人ですよね?

 そんな心配をするけど、嫌な予感程当たるという法則がある。

「彼女達だ。といっても常に2人共付ける訳にはいかないので、片方どちらかが持ち回り

で、護衛を務める」

 そして、これまた、いつの間に現れたのか2人の女性が浮いていた。

 明らかに猫型の使い魔が人化した人達だよね?

 なんか、目がギラギラしてるんですけど。約1名。

 

「リーゼアリアです。よろしくね」

「リーゼロッテ!よろしく!」

 貴女ですよ。最後の貴女!手がワキワキ動いてますよ!?

 寧ろ、この人が大丈夫なんですか!?

 

 身の危険を感じつつ、再び無限書庫で発掘作業だ。

 なのはや飛鷹に知らせて置かないと。

 帰れないかもしれません。ユーノ。っと。

 

 取り敢えず、歴代主とその周辺人物に的を絞ってやるかな。

 

「にやぁぁぁぁーーーーー!!」

「ぎゃぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 僕はダメかもしれない。

 貴重な時間の筈なのに、暫く屍と化したのだった。

 

 

              :グレアム

 

 スクライア氏族の子には、協力を取り付けたとキント執務官長から連絡があった。

 彼の後で悲鳴が聞こえたような気がするが、大丈夫なんだろうか。

 2人には、あまりふざけないように言って置いた方がいいかもしれない。

「強引な事はしていないだろうね?」

「勿論です。()()()()()()()非常に協力的になってくれまして」

「……」

 偶に彼が使う手だが、気の毒に。押しに弱そうな子だったんだろう。

「私から後で、差し入れでもしておくよ」

「お願い致します」

 平然とそう言うと、彼は通信を切った。

 仕様がないな。

 最大限に()()気を遣うとしよう。注意したとして、改善されるか分からんしな。

 

 私のデスクには、1枚のメモと封印用に造り上げたデバイス・氷結の杖デュランダルが

置かれていた。

 このメモが、クライドの残した置き土産だった。

 

 はやてを救う事を決意して後、私は新たに方法を模索し始めた。

 封印から救済へ。全く別の方法。今まで誰も辿り着けなかったものを、見付ける。

 茨の道でも進まなければならなかった。

 1度、誤った道を進んだ私に、選択肢などない。

 無論、無限書庫にも答えを求めた。

 だが、無限書庫は未整理の状態であり、大規模に人を派遣しなければ、到底発見出来る

か分からなかった。

 現に私が派遣出来るギリギリの人数では、調査が進まない程だった。

 そこで、クライドが行った闇の書調査を当たる事になった。

 言い訳になるが、今まで封印にばかり気を取られていたので、思い出さなかった。

 それに、本局上層部が事故調査と称して、荒らしていった後だった事も原因の1つと言える。

 案の定と言おうか、資料は滅茶苦茶で紛失しているものすらあった。

 だが、資料を調べる過程で、私はおかしな事に気付いた。

 滅茶苦茶にしてあるが、それには規則性が感じられる。

 しかも、紛失した資料は、どれも闇の書そのものに関する考察の部分。

 彼は調査を人任せにせずに、自分でも行う男だった。

 次元航行船の艦長に抜擢されたというのに、仕事を大量に増やす結果になっていた。

 そういった関係で、クライドは調査用の魔法も習得していた。

 調査用の魔法は、かなりマニアックな代物で、考古学者でさえ殆ど習得している者がいない。

 何しろ、魔力を消費しなくても、人を使えばいいと考える人間は多い。

 学者顔負けの熱心さで、クライドは術式を手に入れ習得していた。

 

 もう1度、自分で全て資料を調べる。

 そして、結論として、これは意図して荒らされたものだ。何かを調べていた事を隠蔽する為に。

 闇の書に本局上層部がどんな用があったのか…。

 

 兎に角、私はクライドの残したものを徹底的に調査した。

 関係ないと思えるような事でも。

 それでも、手掛かりとなるものは発見出来なかった。

 

 見落としなく何者かが、処分したのか。

 それとも私の目が節穴なのか。

 そして、最後の資料。

 これは、私が失態を犯した護送任務の引き継ぎの時のものだ。

 捨てられず、私がずっと持っていた物だった。

 本当なら闇の書は、私の艦が護送を担当する筈だった。

 万が一の為に、若者に任せるのは私の主義に反するからだった。

 しかし、クライドは珍しく強引に、その役目は自分がやると言って聞かなかった。

 この時に、私が折れなければ…。

 後悔と共に、資料に目を通していく。

 うん?違和感に眉を顰める。

 別におかしな部分は見当たらない。どこだ。何がおかしい。

 こういう時は、視野を広くして眺める事だ。

 あるものは、引き継ぎ書、指示書の写しが数枚。いずれもクリップで留められている。

 万年筆にバインダーに仕事の覚書が挟まっている。

 

 暫く眺めて、万年筆を手に取る。

 クライドはよくメモを取った。データに入力するより、自分で書いた方が考えが纏まると言って。

 しかし、この万年筆は彼の執務室にあった筈だ。

 この万年筆は、彼が次元航行船の艦長に就任にした記念に、私が送った物だった。

『君は、よくメモを取るだろ?使ってくれ』

 持ち運びに便利なように出来ている物を送った。

『失くすといけないですね。執務室に置く事にします』

 そう言って彼は笑った。

 その言葉の通り、これはずっと彼の執務室にあった筈だった。

 

 私の贈った時と違いがあった。

 紙くらいなら、仕込める隙間があったのだ。

 こんな時代錯誤な物は、見逃されたか。

 疑いを持って調べないと気付けないのだから、仕方がないか。

 いや。この場合幸いだったな。

 

 随分と小さいメモだった。

 慎重に開いてみる。

 

『私が護送中に死んだなら、闇の書に私はいます。話はその時に』

 

 隠されたデータの隠し場所。

 或いは暗号か?

 

 この時の、私には意味までは理解出来なかった。

 だが、その後の調査で闇の書には、変化していないシステムが存在するという事が判明した。

 これが、正解かは分からない。

 もしかして、そこに何かクライドは残す手立てを発見したのか。

 私は知らなければならない。メモの意味を。

 

 私の経験が告げている。この先にはやてを助けるものがあると。

 

 ならば、進むしかあるまい。

 

 

              :美海

 

 今日が最後の蒐集になる筈だ。

 私は授業終了と同時にソッと教室を抜け出す。

『リニス。今日も念の為、よろしくね』

 念話でリニスにはやての護衛を頼む。

 守護騎士が3人残っているが、念には念を入れて、いつも頼んでいる。

『承知しました』

 リニスから返答が返ってくる。

 私は一歩学校から外に踏み出すと、毎度恒例行事が待っていた。

 

 全くどれだけ連れて来てんの?武装局員。

 すぐに復帰出来ないように、骨を圧し折ってやってるんだけど、学校から出ると決まって結界が

張られ、時代劇の浪人みたいにワラワラ出てくる。

 

 面倒くさいな、ホントに。

 

「局員に対する度重なる暴行!許される事ではない!!投降しろ!!」

 本日の指揮官も間抜けらしい。

 さて、今日はラストだし、骨は砕くか。いや、最初からそうすればよかったかな?

 騎士甲冑すら要らない。身体から一瞬で余分な力を抜く。慣れたものだ。

「くっ!掛かれ!!」

 私が呼び掛けに応じず、臨戦態勢にアッサリ入ったのを見て、指揮官が声を上げる。

 この指揮官、分かってないな。

 命令が下されたにも関わらず、局員は私に向かってこない。

 当然だ。

 今まで同僚が同じように襲い掛かって、酷い目に遭っているのは、全員知っている筈だ。

 対策も立てずに、同じやり方されれば部下は嫌になるだろう。

 何より、結果は同僚の状態を見れば一目瞭然。恐怖も覚えるだろう。

「部下は嫌みたいだけど?」

 私は指揮官に言ってやった。

 こんな指揮官の下にいる方々に、同乗する。手加減しないけど。

「どうした!?行け!!」

「貴方が先陣を切れば?」

 私は指揮官の喚き声に、意見してやった。

 が、掛かってくる様子はない。

 

 なら、こっちから行くか。時間の無駄だし。

 

 動こうとして、止めた。

 何故なら、私の後から魔力弾やら雷やらが、局員に撃ち込まれたからだ。

 私に意識を集中していた局員は、不意打ちを受ける事となり、なすすべなく打倒された。

 あの弾幕は、キツイだろうね。安らかに眠れ。

「貴様等!!なんの積もりだ!?」

 指揮官は無事か。だが、ご愁傷様。

「罵倒してくれて、ありがとうよ。これは礼だ!!」

 思いっ切り、頭に剣が振り下ろされる。

 指揮官は、飛鷹君に気付かなかったらしい。お粗末な。

 魔力弾でやられた方が、楽だっただろうに。

 

 後を振り向くと、全員が勢揃いしていた。

「何やってるのかな?」

 折角の気遣いが無駄になったんですけど。感謝がほしくてやった訳じゃないけどさ。

 フェイトが、なのは達に促されて私の前に立つ。

「私は美海の味方でいたいの。形だけでも敵なんて嫌。それに、美海の言う事聞かなきゃいけない

理由もないでしょ?」

 …まあ、そりゃあね。

 恥ずかしい事、言うようになったね、この子。

「でも、いいの?管理局と完全に敵対する事になるよ?」

 気遣いで訊いたのに、全員が笑った。

「あんな連中に、協力なんて出来ねぇよ!罵倒のバリエーションばっか豊富でよ」

「友達を悪く言う人に、協力なんて出来ないよ!」

「フェイトがやるなら、私はなんだって敵に回すよ!」

 飛鷹君、なのは、アルフが口々に言った。

 アルフ。いたんだ。

「ちょっと待ちな!今、気付いただろう!私に!」

 アルフが怒り出した。

 表情に出してないのに、よく分かったね。

 

「美海は言ってくれたよね?納得する事が大事だって」

 確かに言ったけどね。

「もしかして、チャンスをふいにしたかもしれないんだよ?」

「また、掴めばいいよ」

 前向きのセリフに驚く。こうもハッキリ聞くと感慨深い。

「私は美海と対等の友達になりたいんだ。護られてるだけなんて嫌」

 確かに、そこは失礼だったかもしれない。

「だから、言うよ。美海は過去を見過ぎてる。何も護れなかったっていう後悔で生きてる」

「……」

 

 

「護るべき友人も、国民も、部下も、みんな死なせてしまったからね」

 

 思い付いた先から、内政もののラノベでやっていた事を試した。

 ただただ自分が楽に生きる為に。

 詳しく書かれてなくて、実現が厳しいものも、魔法というチートが代替してくれた。

 勿論、手酷い失敗も何度もした。それでも諦めずにやった。

 結果、どの国よりよくなった。

 そう、ここ以外では、生きられないと思わせてしまう程に。

 最後の戦いの時、私はみんなに降伏を勧めた。生きていれば、まだやり直しが利くと思った

からだ。でも、誰も降伏しなかった。付き合わせる積もりなどなかった。

 私の自己満足が、みんなを殺して、自分も殺してしまった。

 私のは自業自得だ。でも、他は違う。もっとやりようはあった筈だった。

 

「分かる…とは言えない。私も、さっき掴むとか言ったけど、正直自信はない。でも、変わりたい

と思う。一緒に変わっていきたいと思う。1人じゃ、自信ないけど、2人ならなんとかなるんじゃ

ないかなって、思うんだ」

 

 逆に諭される時が、こんなに早くくるとか、どれだけ成長してないんだ、私は。

 

「そこまで覚悟されたら、断れないね…。私、今も見てる積もりだったんだけどね」

 参ったと頭を掻く。

「急には変われないよ。じっくりやろうよ。2人で」

「みんなで!!だよ!!」

 なのはが大声で訂正する。

 フェイトは恥ずかしそうに、なのはの言葉に頷いた。

 

「それじゃ、巻き込むからね?後悔しないでよ?」

 

 それじゃ、取り敢えずはやてに協力者として紹介しないとね。

 なんて、考えていた。

 

『美海!八神家が襲撃を受けてます!!』

「っ!!」

 

 凶報が、またしても私に届いた。

 

 

 

 




 クライドさんが万年筆を使っているのは、管理局の人間としては
 珍しいです。ああいう技術水準ですからね。
 紙でなんて殆ど仕事しないでしょう。
 
 そういう意味では、グレアムさん地球人です。

 夜天の魔導書に不変の部分があるのは、間違いないでしょう。
 ですので、今回こんな感じになっております。

 次回、八神家の襲撃経緯から入ります。

 次回も頑張って投稿したいと思います。
 予防線として、時間が掛かるかもしれません。
 気長にお待ち頂ければ…。


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第38話 加勢

 どこで切るか、正直悩みどころです。
 久しぶりに、書いててテンション上がってました。
 深夜に体験するアレなのでしょうか?

 では、お願いします。



              :リニス

 

 美海と別れ、八神家へと向かう。

 勿論、猫の姿で。人型は目立ってしまいますからね。

 蒐集を行っている最中や、美海が学校へ行っている間は、大体備えとして、私が外で監視して

いた。

 管理局が押し掛けてきたり、美海の言う仮面の人物がやってきたりするかもしらないからだ。

 1人欠けたくらいで負けるかは、分からないですけど。

 今日も何もなければ、いいのですけど。

 今日の夜で、蒐集が終わる見通しらしいですしね。

 この件で夜天の魔導書を救えれば、美海にとって大きいと思う。

 少しは過去の後悔も、軽くなるかもしれない。

 あの子は、未だに夜になると昔の夢を見て、魘される事がある。

 昔は、紗枝が添い寝して落ち着かせていたようですが、今は私が役目を代わっています。

 夢に入り込んで、起こしているだけですが。

 

 そんな訳で、是非成功して貰いたいのです。

 

 八神家の向かいの屋根で、寛ぐように寝っ転がる。

 あくまで、私は猫という体裁だ。

 意識は八神家に集中している。

 

 しかし、無事に終わってほしいと思うと、終わらないものです。

 突然、辺り一帯が結界で閉ざされる。

 隔離型の結界。

 でも、何かおかしな感じの魔力ですが…。大魔導士に仕えていたからこその感覚が訴える。

 何かが違うと。でも、それの正体は分からない。

 幸か不幸か、そんな事を考えている場合ではない。

 

 仮面を付けた男が、八神家上空に現れたからだ。

 

 成程、確かに怪しいですね。

 結界内に残った時点で、ただの猫の演技は要らないですね。

 素早く、物陰に入り人型になる。

 

 八神家からは、騎士甲冑姿の2人が出て来た。

 あとの2人は、護衛に残したといったところですね。

 しかし、家の中から魔力反応がある。

 家の中は、特定の人間以外転移出来ないように、湖の騎士とやらが魔法で細工していた筈だ。

 それを突破した!?

 それに気付いて、烈火の将、鉄槌の騎士が戻ろうとしたが、物凄いスピードで接近してきた

仮面の男に蹴り飛ばされて、何軒も先の民家に突っ込んでいった。

 あのスピードは、尋常じゃありませんね。

 私もボウッとしていた訳ではありません。

 物陰から、素早く八神家の正面玄関を蹴破る。

 ハルバードを取り出し、走る。

 リビングに着くと、そこには外にまだいる筈の仮面の男が立っていた。

 2人いたという訳ですか!

 護衛である守護獣は人型で片膝を突いている。

 湖の騎士は、既に倒れて気絶しているようですね。

 全く、やられるのが早過ぎます!

「ザフィーラ!!」

 主であるはやてが、しがみ付くように、守護獣の傷の具合を確認している。

「主!構わず撤退して下さい!!」

「そんなん、出来る訳ないやろ!?」

 今、そんな事してる場合でもないんですよ!

 はやての方に仮面の男が手を伸ばす、いや、正確には夜天の魔導書の方に。

 私は踏み込みと共に、ハルバードで仮面の男の手を叩き落す。

「っ!」

 仮面の男が警戒して、後方へ跳躍して庭に着地する。

「貴様は、確か…」

「貴様ではありません。リニスといいます。加勢します」

「すまん!」

 守護獣の方は、こんな時に私の素性に拘るタイプの者じゃなかったようですね。

 美海の話を聞くと、未だに協力している美海に突っかかるらしいですから。

 

 私は油断なくハルバードを構える。

 出来れば、外に主戦場を移したいところですね。

 部屋の中では私の得物は使い辛いですから。

 

『美海!八神家が襲撃を受けてます!!』

 念話で美海に緊急連絡を入れる。

『管理局?』

『いえ、違います。どうも美海が言っていた仮面を付けた男のようですね』

 少し間が空く。

 なんとなく、面倒くさそうな感じですよ?向こうで何かありましたか?

『すぐに応援と一緒に行く』

 応援?もしかして、フェイト達でしょうか?

 確か、管理局側に残って貰った、と言っていたような気がしますが。

 フェイトの性格から考えると、大人しく管理局側いる訳ありませんか。

 フェイトもいい子ですからね。

『仮面の男は2人います。少なくとも、ですが』

『了解』

 その遣り取りで念話が切れる。

 

 さて、お相手致しましょうか?

 

 

              :飛鷹

 

 話の最中に綾森の表情が硬くなる。

「どうしたの?」

 フェイトが綾森に声を掛ける。

 少し黙ったままだったが、不意にこちらを向く。

「悪いけど、急ぐから、話はまた後で」

 それだけ言って、サッサと行こうとする綾森を押し止める。

「待って!何かあったの!?」

「そう、だから放してくれる?」

「一緒に行くよ!」

 フェイトの言葉に俺達も同意する。

 このタイミングで急ぐ用事なら、俺達だって手を貸すべきだろう。

「…分かったから、じゃあ、付いてきて」

 また少し黙る。多分これ、念話で話してるな。

 そして、認識阻害と同時に空へ飛び上がる。

 俺達も慌てて飛び上がる。

 

 目的地はすぐに見えて来た。当然だ。俺達の飛行スピードならな。

 

 しかも、結界が張ってある。

 あれだけ大々的な事やったら、管理局にもバレる。

 管理局の手入れか?無茶しやがる。

 なのはとフェイトも同じ事を考えているようで、険しい表情だ。

 結界、どうやって突破する積もりだ?強引にブレイクか?

「突入するから!私の後を付いてきて!」

 綾森の手から拳銃形態のデバイスが現れる。

 あれ、どうなってんだ?

 そんな事を考えていると、綾森が魔法を放つ。

 すると、結界に風穴が開く。

 …反則だろ。あれ。

 そこに飛び込んでいく。文字通り綾森の後に付いていく。

 

 中に侵入すると、俺達の想像は間違っていた。いや、ある意味あってんのか?

 そこにいたのは仮面の男だったからだ。

 原作だとリーゼ姉妹だよな。俺達リーゼ姉妹に会ってないけど、アイツ等なのか?

 

 あの動きは違うだろうな。

 

 俺が相手したライダースーツより、とんでもないスピードとパワーだ。

 流石のリーゼ姉妹もあれは出来ないだろ。

 守護騎士主力2人が、なすすべなく押されてんぞ!?

「呆けるな!私は守護騎士襲ってる方に入る!リニスがもう1人の方を相手してるから、そっち

を援護して!すぐに行くから!」

 綾森はそう言うと、真っすぐ仮面の男へ向かう。

 

 じゃあ、俺達は…。

 

 轟音。守護騎士がいるって事は、八神家だよな!?吹き飛んだぞ!?

 まあ、結界内だから大丈夫、と思おう。

 

 そこからリニスと仮面の男が戦っているのが見える。

「俺達も行くぞ!」

 俺は3人に声を掛けると、慌てて3人共頷く。

 

 それにしても、流石はリニスだな。今のところ互角に戦ってる。

 

 

              :美海

 

 守護騎士が、圧倒的なパワーとスピードと頑健さに押されている。

 全く、これくらいで押されないでほしいところだ。

 

 仮面の男が拳を振り上げる。

 魔力のような力が拳に収束していく。

 私はシルバーホーンの引き金を引く。

 守護騎士2人の横を衝撃波が通り過ぎていく。派手に民家を巻き込みながら。

 私の魔力弾が仮面の男の腕を弾いたので、狙いが逸れたのだ。

 仮面の男が私の方に振り返る。

 私はシルバーホーンを収納して、代わりに剣を取り出す。

 今度やったら、命の保証はしないと言った筈だけどね。

 だから、言葉は無用。

 殺気を放つ。

 気圧されている仮面の男を、鼻で嗤ってやる。

「舐めるな!!」

 姿が掻き消える。だが、私には分かる。

 大きく横に躱すと、衝撃波が空に放たれる。

 次々に繰り出される強力な一撃を、私は難なく躱していく。

 そして、大きな衝撃音。

 仮面の男の拳が、私の手に止められていたのだ。

「っ!?」

 私は驚愕している仮面の男に言った。

()()()()()()()()()

「!!?」

 私は握った拳を放してやる。

 仮面の男が慌てて距離を取る。

 動揺してなければ、気付いたかもしれない。私の眼が僅かに輝いているのが。

 

 警戒して攻撃してこない。

「こないのか?それじゃ、こっちからいくぞ」

 私は剣を構え、相手に斬り込む。

 相手の姿が同様に消えるが、私は冷静に体捌きと剣閃を変化させる。

 急激な変化とは思えない滑らかな動き。これが出来るからこそ、私は前世で剣王なんて呼ばれ

てたんだよ。理由の1つだけどね。

 咄嗟に腕をクロスさせて仮面の男が、私の剣を防御する。

 動揺が激しい。身体能力に物を言わせれば勝てると思ったんだろうけど、甘い。

 武術の世界で反応速度を上回る相手との戦いなど、とっくに想定されている。

 こいつにはそれがない。

 どんなに速くなろうが、私は戦えるんだよ。

 性懲りもなく、スピードで押そうとする仮面の男を私の剣が捉える。

 衝突音がする。

 カウンター気味に攻撃した私の剣が、仮面の男の胴を薙ぎ払ったのだ。

 頑健さは大したものだけど、ね。

「ぐっ!」

 思わずと言った感じで、呻き声を漏らす。

 剣で打つ事で、身体の内部に衝撃を伝えたのだ。これなら頑健でも意味はない。

「次は、キチンと斬ってやる」

 冗談を言ったのではないと、相手も感じたようだ。

 そう、打ってみた感じ、問題なく斬れる。

 ベルカにいた、成体ドラゴンみたいなトンデモ種族と比べれば、安い魔力構造だ。

「おのれ!」

 また消える。だが、一撃で私は相手の動きを止める。

「風牙烈招」

 風の刃と切断に重きを置く剣を融合させた剣技。

 風のように僅かな隙間から、剣閃が入り込む。

 血煙が無数に上がる。

 斬られれば斬られる程に、隙間は広がる。風の通り道が出来る。剣の通り道が出来る。

 堪らず、仮面の男が撤退の為の閃光を放つ。

 毎度、それで逃がすか。

 それで攻撃出来なくなるなんて、目に頼る2流だけだ。

「絶」

 止めの一撃を放つ。

 が、血痕を残し、姿を消していた。

 常人なら死んでいるところだけど、流石に頑丈だな。

 だが、逃げ切るには流石に足りなかったようだ。

 

 少し離れた場所で蹲っていた。

 荒い息を吐いている。

 私はシルバーホーンを再び取り出し、引き金を引いた。

術式解散(グラムディスパージョン)

 慌てて避けようとするが、傷で流石に動きが鈍くなっている。

 避けられずに、仮面の男は魔法を食らう。

「魔力を疑似的にでも使ったのが、失敗だったね」

 

 仮面は付けたままだったが、姿は明らかに女のものだった。

 服装は本来の力で、構成したものなんだろう。元には戻らなかった。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、大まかには解析していたのだ。

 この女は魔導士や騎士の類じゃない。

 

 轟音。空間攻撃が広がっていく。フェイト達が応援に行った八神家中心に、魔法が広がって

いく。

 私は舌打ちしつつ、シルバーホーンを構えて引き金を引く。

 魔法を無力化していく。

 

 その隙に念話で話しているのか、女はまだジッとしていた。

「でも!…ごめん…」

 急に声を上げる。思わず声に出してしまったんだろう。

 用件も想像が付く。

 

 突如、女の周りの空間が歪む。

「容赦しない。雲散霧消(ミストディスパージョン)

 そのまま、シルバーホーンの引き金を引く。

 だが、効果を及ぼす前に女は姿を消した。

 

「チッ!本物の瞬間移動か」

 私は忌々しさに舌打ちした。また、アルハザードの連中か。

 

 イライラしてばかりもいられない。

 今度は、あっちの応援にいかないと。

 

 

              :なのは

 

 飛鷹君の声で我に返る。

 そうだ。行かないと!

 フェイトちゃんと一緒に返事をして、アルフさんも一緒に轟音と土煙が上がる現場へと突入

する。

 フェイトちゃんの先生であり、今は美海ちゃんの使い魔のリニスさんが、ハルバードを振るって

いる。魔法を使う隙を与えないように、絶え間なく攻め立てている。

 相手の仮面の男の人も、魔法を使おうとしているみたいだけど、発動のタイミングを外されて、

押されている。しかも、守護騎士で使い魔の男の人が、リニスさんの後から滑り込むように攻撃に

加わっている。

「いくぞ!」

 飛鷹君が気合と共に、剣を抜いて突撃していく。

 私とフェイトちゃんは、お互い視線を交わす。

 3対1でこれ以上加わると、邪魔にしかならない。

 なら、要所で狙撃に徹するのと、はやてちゃんの護衛になる。

 フェイトちゃんとアルフさんが、はやてちゃんの前に護るように立つ。

「レイジングハート!」

『ロードカートリッジ!アクセルシューター!」

 レイジングハートが魔力の弾丸で強化される。

 無数の魔力弾が生成される。

 普通に使うより、威力が高いものが生成されている。

 私はジッと撃つタイミングを計る。

 

 それにしても、凄いな。3人で攻撃しているのに、味方の動きの邪魔は一切してない。

 3人で予め申し合わせたみたいに、一糸乱れぬ攻撃を繰り出している。

 流石に、3対1では分が悪い。それでも耐えているのが凄いけど。

 

 遂に、撃つ隙が生じた。

「シュート」

 狙い澄まして、生成した魔力弾を1発放った。

「っ!!」

 小規模な魔法が発動する。

 でも、撃ち抜ける!

 その確信は、ひっくり返されてしまった。

 魔力弾は、弾道が逸れて別の家に直撃して爆発する。

 

 だけど、その一撃は無駄にならなかった。

 

 決定的な隙を作る事に成功したんだから。

「海波斬!」

「瞬雷刃!」

「テェオヤァァァァァーー!」

 不可視の剣閃と雷の衝撃波、白銀のグローブのようになった一撃が同時に放たれる。

 轟音と共に、家が吹き飛んでいく。

 3人共、残心。私も冷静に狙う。

 土煙が納まり、仮面の男の人の姿が見えてくる。

 立っている。腕をクロスして防御したみない。

 これだけ離れていれば!3人が突撃する前に、魔力弾の弾幕を放とうとしたけど、それは中断

してしまった。狙っていた仮面の人が、映像が乱れるように姿にノイズが走った気がしたからだ。

 思わず、手が止まってしまった。

 

 その隙に仮面の人が魔法を発動したようだったけど、何も起きない。

 仮面の人が手を下ろす。

 降参?

 違う事はすぐに分かった。

 突然、空間そのものが歪み出したから。

「やべぇ!広域空間攻撃だ!!」

 飛鷹君の警戒を促す叫び声が上がる。

 避難…間に合わない!!

 私は素早く地上に降りて着地。

「レイジングハート!お願い!!」

『プロテクション』

 カートリッジの弾丸全て消費。流石に全弾使用は負担が掛かる。

 でも、使い始めた時より、ずっといい!

 飛鷹君、リニスさん、使い魔の男の人もそれぞれ障壁を展開する。

 後では、フェイトちゃんもアルフさんも防御しているのが分かる。

 

 次の瞬間、空間自体が悲鳴を上げるような衝撃波が、障壁に叩き付けられる。

 4人で力を合わせてるのに、凄い力…!!

 流石に後のフェイトちゃん達のところは、少しは衝撃が緩いと思うけど、これを1人の時に受け

たらと思うとゾッとする。

 

 どれ程耐えたか、分からない。

 どうも、耐え切ったみたいなの。

 

 あの人相手じゃ魔法を使われたら、私達じゃ厳しい相手だ。

 魔法を防ぎ切った。だからこその弛緩。

 

 仮面の人が、物凄いスピードではやてちゃんに向かっていた。

 私達は全力防御の所為で、気が緩んでいた。そこを突かれて、一気にはやてちゃんの前まで、

あの人は来ていた。

 フェイトちゃんとアルフさんが咄嗟にはやてちゃんを庇う。

 でも、仮面の人が片手でフェイトちゃんとアルフさんを払い除ける。

 2人が瓦礫に突っ込む。

「フェイトちゃん!!アルフさん!!はやてちゃん!!」

 はやてちゃん…違う!夜天の魔導書!?

 仮面の人は夜天の魔導書に手を伸ばし、しっかりと夜天の魔導書を握る。

 気のせいか、魔導書が震えたような気が…?

 でも、ここで仮面の人も驚く人が、奪われる事を阻止した。

「ジークフリート!!」

 はやてちゃんが、魔法で強化した腕を振り抜いた。

 はやてちゃんの弱い腕力。でも、それに仮面の人は驚いて手を放してしまった。

 どうも、はやてちゃんが使った魔法は、身体を護る効果くらいしかなかったみたい。

「残念やわ。うちの家族を傷付けた報い!!受けて貰うで!!」

 更に魔法の行使!?

 はやてちゃんが魔法式を構築していく。

 たった数日で、これだけの魔法を!?

 次の瞬間に、仮面の人がバインドで拘束される。

 魔法の発生源を見ると、フェイトちゃんが立っていた。

 アルフさんは、蹲ったままニヤリと笑った。

 アルフさんがフェイトちゃんのダメージを身体を張って、軽減したんだ。

「フェイトちゃん!!」

 2人共、無事でよかった!

 仮面の人がバインドをブレイクしようとするが、その前にはやてちゃんの魔法が完成した。

「トールハンマー!!」

 物凄い光が降り注いだ後に、轟音が響く。

 雷撃魔法!!魔法の正体を知ったのは、終わった後だった。

 

 はやてちゃんは、荒い息を吐いている。

「やれば出来るやん。私」

 

「まだだ!」

 飛鷹君が剣を振るって、魔法を切り裂く。真っ二つになった魔法が背後で爆散する。

 仮面の人の姿にはノイズが頻りと走っているが、傷は見当たらない。

 もう少し、頑張らなくちゃだね。

 ここでようやく、金髪の女の人が意識を取り戻す。

「シャマル!…大…丈夫か?」

 まだはやてちゃんは息切れしている。

「はやてちゃんこそ、大丈夫ですか!?」

 朦朧としていた女の人は、はやてちゃんの様子を一目見て、完全に覚醒したみたい。

 

 仮面の人は、それを見てイライラしたような感じだった。

「今日は引く。次は覚悟する事だ」

 仮面の人は、そう吐き捨てると、クルリと背を向ける。

 だけど、そこには美海ちゃん、ヴィータちゃん、剣士の人がいた。

「次なんて、アンタにない」

 美海ちゃんの両手から剣が現れる。

 剣自体から凄い魔力が放たれている。

 右手の剣から炎が天を突く、左の剣から風が竜巻のように天を突く。

 

 炎を風が強め、()()()()()()()()()()()()()が放たれる。

 暴力的な炎が風に導かれるように、空間を切り裂きながら焼き尽くす。

 仮面の人は逃れようとしたが、すぐに飲み込まれてしまった。

 

 風が空を舞い、焼き尽くしていく。

 それが、逃がさないと言わんばかりに炎が消えない。

 

 暫くして、ようやく鎮火。

 あとで聞いた事だけど、途中で炎を消す事も出来るんだって。

 

 消えた後、仮面の人の姿はなかった。

 もしかして、焼き尽くしちゃった!?

 でも、違ったみたい…。

「チッ!逃げるのは上手い連中だな」

 美海ちゃんは舌打ちして、顔を顰めた。

 

 あれでも、逃げられるんだ。

 私達は、空を呆れたように見上げた。

 

 

              :イリス

 

 全く、頭がおかしいとしか思えないわよ。

 あんな使い魔を配置するだけじゃ飽き足らずに、闇の書の主にも魔法を教えてたなんて!!

 

 でも、大丈夫。

 私は思わず笑みを漏らす。

 

「イリス…。ごめん。今回も足引っ張っちゃって」

 キリエが項垂れている。

 傷の自動回復を行っているけど、暫く動けないだろう。

 私も魔法で治してやらないと、次に間に合わないかもしれない。

 まあ、リミッター完全解除までやって、あの結果は確かにガッカリさせられるけどね。

 でも、最低限の足止めをやってくれたお陰で、アイツに気付かれずに最後の仕込みが出来た。

 だから、許してあげるわ。今回はね。

「気にしないで!イリスがアイツを足止めしてくれたお陰で、()()()()

 私は、ニッコリ笑ってキリエを励ます。

「勝てた?」

 キリエが怪訝な顔をする。

「ええ、そうよ。あの場で手に入れる事が出来れば、面倒はなかったけど。最悪、闇の書に

触れられれば、ウィルスは流せるからね」

「ウィルス?どういう事?」

 あらあら、珍しく突っ込んでくるわね。

 闇の書は外部からアクセスする事は、一切出来ないって事を覚えていたのね?

「鍵を取り出し易くする為の細工よ。ああ、キリエの疑問は分かるわ。闇の書のアクセスの

事よね?」

 キリエはぎこちなく頷く。

「それじゃあ、なんでアクセス出来ないんだと思う?」

 少し考える素振りを見せるキリエ。

 まあ、頓珍漢な答えを言うのは、目に見えているけど。

「それは…、闇の書のシステムがロックされているからじゃないの?」

 やっぱりね。まあ、無理もないけど。

「違うわ。闇の書の防衛プログラムであるナハトヴァールが、侵入してきたデータですら、

飲み込んでしまうからよ。だから、管理者権限を得る為には、中枢に入り込む必要がある。

それが唯一可能なのは主のみ。でも、なんでそんなところを残しているのかしら?」

 キリエは困惑したように私を見ている。

「答えはね?中枢にある無事な部分こそ、()()()()()()()()()だからよ」

 ナハトヴァールは防衛プログラム。自分で旅は出来ない。中枢を奪ったらそれまで。

 防衛プログラムの主は、自分からは何も出来ない。

 亡霊なんだから、当たり前。

 恨みを抱き、自らプログラムの主となった最初の1人。

 だから、新しい主が必要なのよ。その魔力と命で災いを振り撒く為にね。

 だからこそ、プログラムの主は、中枢を侵食しない。

 餌がなければ、そんなところまで来ないでしょ?

 勿論、大いなる力が手に入るとかっていう話も、餌。

 そういった誘惑に人は弱いもの。

 だから、守護騎士の口から言わせている。

 真実味を持たせる為に。

 大体、こういうものに目が眩む連中は、嘘に敏感なものだから、本当だと思い込んでいるヤツの

口から言わせるの。

 中枢で唯一、干渉されているのは、そういう事なのよ。

 悲惨なラストなんて覚えて警告されても困るしね。

 

 逆に言えば、そこ程安全な場所はないのよ。

 ある程度は、ナハトヴァールが護ってくるんだから。

 だからこそ、()()()()()()()

 

 実はね。主以外にも中枢に行く権利を持つ者がいるのよ。

 ナハトヴァールの設計を行ったアルハザードの塔の血筋を持つ者。

 塔というのは、アルハザードで最も力が強い連中のいる場所。権力者のいる場所ね。

 証明するものはなんでもいい。血液でも、遺伝子情報でもね。

 

 今回、私は遺伝子情報を使って、中枢にウィルスを流し込んだ。

 中枢まで行ってしまえば、ナハトヴァールも手が出せない。

 固まったデータなら兎も角、あちらこちらに貼り付いて断片化していては、ピンポイントに削除

するのは難しい。下手に削除すれば、中枢を形成するデータまで一緒に消してしまうからね。

 そして、時がきたらウィルスは、断片を集めて一斉に目覚め、動き出す。

 

 妨害がなければ、普通に主が取り込まれた後にでも、悠々と干渉すれば解決したんだけどね。

 小細工をチョコチョコしなきゃいけなかったわ。あの化け物の所為でね。

 

 私はその説明を当たり障りのない部分のみ、キリエに説明してあげた。

 

「だから、次は私達の望みが叶う。貴女の望みが叶うのよ!」

 

 見てらっしゃい。私を追い散らして得意になってる小娘に、死と後悔ってものを教えて上げる。

 気の遠くなる程、私は待った。

 もう、十分に待った。私はもう待てない。

 

 

『ねぇ!嘘って言ってよ!!約束したじゃない!!どうして裏切るのよ!!』

 突然だった。いつものように親友のところに行こうとして、私は拘束された。

 他ならぬ、親友の手配で。

『お前がそこまでバカとはな。所詮、他人ではないか。他人なんぞ、信じた自分でも恨め』

 私の腕を掴んでいる1人が言う。

 この世界を変えようって約束した。でも嘘だった。

 最後に見たあの子の後ろ姿を思い出す。無関心に去って行く背中を。

 背を向ける前の顔を思い出す。そこら辺の石ころでも見るような見た事のない表情を。

 

 奪われた。何もかも今までの成果も、時間も何もかも。

 

 

 過去の記憶が過る。

「っ!!!」

 顔が盛大に歪む。止めようがなかった。

「イリス!?どうしたの!?」

 

 虫唾が走る。

 今すぐ消し去りたい。この甘ちゃんを。でも…今は耐えなくてはならない。

「大丈夫。ちょっと、調子が悪かっただけよ」

 暴力的な行動を必死に抑え込む。それには途轍もない労力が必要だった。

 人を心配する耳障りな声に応えるのは、きつい事だった。

 

 私はやっと手に入れる。もう奪われたりしない。騙されたりしない。

 何もかも奪い、破壊したら、この気持ちは楽になる。きっと。

 

「最後の蒐集。その時に闇の書の制御を奪って、守護騎士を生贄に鍵を手に入れましょう」

 騎士は大した戦力ではないけど、うろつかれると面倒。

 今までのセオリー通りに退場して貰いましょう。

 

 

              :キリエ

 

 今夜が最後。それでエルトリアが救われる。お父さんも救われる。

 望み通り。

 でも、私は初めてイリスの言葉に不安を覚えた。

 最後の言葉には、狂気があった。深い絶望があった。

 どうして?もうすぐ私達の望みが叶うのに。

 

 私は、闇の書の主を襲うと告げられた時の事を思い出していた。

 

 

「え!?襲撃するの!?」

 イリスは真顔で頷いた。

「ええ。そろそろ頃合いだと思うの。残りのページ数なら守護騎士を取り込ませれば完成するわ。

もう、管理局の顔色なんて気にしなくていいの。これで私達の目的は叶うのよ!」

 私は闇の書の主に恨みはない。

 アースラにいると現在の主のスタンス…守護騎士の扱いが漏れ聞こえてくる。

 家族のように大切にしている、と。

 いや、あの子にとってあの騎士達は家族なんだ。

 私にとってイリスが大切な友達であるように。ナビゲーターかどのかなんて関係ない。

 イリスを失う事なんて、私は考えられない。

 きっと、闇の書の主も同じだ。

 

「完成してからでも、出来るんでしょ?だったら、無理に守護騎士達をどうにかする必要ない

んじゃないかな…」

 私の躊躇いに、イリスは首を振った。

「キリエ。よく思い出して。エルトリアの状況は、そんなに余裕がある?」

 イリスが私の目を覗き込んでくる。

 吸い込まれるような深い目。

 伝わってくる。私の事を考えて言ってくれている事を。

 

「キリエ。守護騎士達はプログラムよ。今は吸収されたとしても、主が正しく目覚めれば復活する

わ。私達は目覚めを手伝って上げるようなものよ。少し状況を利用するだけ」

 私が主だったら、それでも嫌だけど…。

 確かに、エルトリアは、それ程余裕はない。

「私は、イリスをナビゲーターだなんて思ってないよ」 

「ありがとう。私の友達」

 イリスがそう言って、私を抱擁する。

 

 この時、私はイリスの焦燥を感じていた。

 だから、結果的に賛成した。

 

 短時間で闇の書を奪って、闇の書を完成させ、鍵を取り出す。

 ただ、それだけの筈だった。

 

 何かが私の考えと違い出している。

 こんな時、お姉ちゃんなら…。

 思考にブレーキが掛かる。なんで、お姉ちゃんの事なんて考えたんだろう。裏切り者じゃない。

 

 私はこの事を深く考えなかった。

 

 

              :クロノ

 

 いつもの捕り物で観測される魔力反応とは、違う反応が観測された。

 僕はエイミィのところへ急ぐ。

「エイミィ。捕捉は出来てるか?」

 彼女の城に入るなり、僕はそう訊いた。

「不味いね。場所は現在の夜天の魔導書の主・はやてちゃんの家。勿論、特別チームにも伝わった

と見ていいだろうね。それにこの仮面の男」

 エイミィが映像を出す。

 随分とあからさまに怪しい男だな。

 それにしても、敢えて詳細な場所を探すフリだけにしていたのに、場所を知られているとはね。

 美海が尾行されたとは思えない。なら、どこから漏れた。

 一番有り得そうなのは、事前に調べられていた事。

「それと、ね。問題なのは、魔法を使う方の仮面の男なんだけど…。魔力パターンが読み取れた

んだけど。アリアのだったの」

 エイミィがデータを表示する。

 管理局所属の魔導士は、例外なく魔力パターンを登録している。

 魔力パターンは、遺伝子情報と並んで証拠として採用されるものだ。

 アリアとは、当然、僕の師匠筋に当たるリーゼアリアの事。

「特別チームは、襲撃前に美海ちゃん…じゃなくて、なのはちゃん達に撃破されちゃったから動け

なくて、今、艦長にクレームの真っ最中。魔力パターンの事がバレてるかは分かんないな」

 流石に身内をハッキングする訳には、いかない。

 管理局のシステムを使えば、バレる危険も大きい。

「それは、僕の方にも話がきたよ。代わりに僕らで行けって言われたけど、武装局員は全員怪我

で動けないって言って置いたけどね」

 本当の事だ。

 僕にも出ろと言ってきたが、アミティエ准尉の事で出られないと断った。

 喚き散らされたけどね。

 なのは達がいて、美海までいるんだから、防衛失敗なんて事にはならないだろう。

 だから、こちらは背景の洗い出しに集中しようとした。

「でも、どうしてアリアが…。確かに怪しい動きはしてたみたいだけど」

「いや、違う。これはアリアじゃないよ」

 僕の断言に、エイミィが僕を伺う。

「でも、魔力パターンが…」

「よく映像を見れば分かるだろ?こんな規模の魔法、いくらアリアでも無理だ。それに艦長に

聞いたけど、今、リーゼ達はユーノの手伝いをしてる」

 どちらか一方だけで、交代で手伝ってるらしいけど。

 圧倒的なスピードとパワーで押していた人物からは、ロッテの魔力パターンは検出されて

いない。アリアがロッテ以外のヤツと組むなんてないだろう。

 こんな事をする以上。余程、信頼出来る相手とじゃないと組めない。

 条件をクリア出来るのは、ロッテだけだ。僕を除けば。

 グレアム提督は、現場を離れて長いからないだろうしね。

「それに、アリアが魔力パターンを取られるようなヘマをすると思うか?」

「ああ…、そうだね」

 エイミィも落ち着いたのか、すぐに納得した。

 大方、攪乱目当てで本気でミスリードを狙ってないだろう。

 証拠が出た以上、調べない訳にもいかないからね。

 

「と、なると、怪しい2人組が2組」

 僕が呟く。

 魔力パターンの情報にアクセス出来て、利用出来る立場となると管理局員に絞られる。

 全く関係ない人間が関わってくる可能性は、あまりないだろう。

 ならば、遺失物機動課の2人、フローリアン姉妹となる。

 フローリアン姉妹なら、あの騒ぎはフェイクとなるけどね。

 一番の容疑者は、あの姉妹かな。

 

 映像では、案の定というか当然というか、撃退に成功していた。

 

 今夜にも、闇の書は完成する頃合いだ。一体、このタイミングで仕掛けて来たのは、

どういう事なのか。

 

 何かが起きるかもしれない。僕はそんな気がしていた。

 

 

              :???

 

 とある場所。

 闇の中、声だけが響いていた。

 互いの姿は見えない。

「ふむ。何やら邪なものが紛れ込んできておるな」

 落ち着いた女性の声だが、姿は見えない。

「おお!王様!分かるんだ!凄~いーーー!!」

「止めんか!喧しい!」

 無邪気な大声を、落ち着いた女性が叱り付ける。

「となると、良くも悪くも因果は終わる…という事でしょうか?我が君」

 冷静な声が響く。

「そうなろうな」

 落ち着いた声が肯定する。

 

「取り敢えず、呼び出されれば従わざるを得ん。故に、我は表には出んぞ。この地にて現在の主

を待つ事にする。そこで貴様の出番だ。居候」

 この場で今まで口を開かなかった人物が、ここで応えた。

「分かっていますよ。願わくば、私の想定通りだといいのですが」

 

 長い時間この中にいた3人と違い、この人物は3人に比べれば来たのは、つい最近と言って

よいものだった。

 

 

 




 リニスが使用した技は、雷帝式のオリジナル技です。
 美海が手解きしました。

 美海が今回使用した魔剣。
 頸風剣・オルカーン
 火焔剣・ヴルカーンの2本です。
 炎の技は、紅蓮舞踏となります。
 2本の魔剣を手に入れた経緯については、また今度
 説明させて頂きます。

 これから事態は大きく動いていきます。

 あと、アミタ、今回出せませんでした。次回には必ず
 出しますので、すいません。

 今回、意外にも早く書き上がったので投稿出来ました。
 次回は、ちょっと分かりませんので、保険として、こう
 言わせて下さい。

 次回も気長に待って頂ければ幸いです。


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第39話 陽動

 久しぶりに長いです。
 最近、どうも言った事を守れていないようなので、
 頑張ってみました。

 いや、ホント頑張りましたよ?

 では、お願いします。



             :リンディ

 

 ようやく、特別チームからのクレームを聞き終えて、執務室に戻ってくる。

 彼等の対応がよければ、フェイトさん達も離反しなかったでしょうに。

 美海さんの言う通り、獅子身中の虫に徹したと思う。

 それを私に文句を言われても、どうしようもない。

 息を吐いて、気持ちを切り替える。

 手元に小さな魔法陣が現れる。

 キリエさんの監視は続けられている。

 今も映像が送られてくる。

 人員を付ける余裕も、付けられる人材にも心当たりがない以上、切札の1枚を使うのも

やむなしね。

 それは、精霊魔法。私のレアスキルともいうべきもの。

 流石に得体の知れない魔法を使うお友達も、精霊相手では分が悪いみたいね。

 美海さんには何故か通用しないけど。

 本来なら、ここで逮捕といきたいところだけど、材料が足りない。

 何しろ、彼女は自分で本局上層部の要請内容を、私に暴露している。

 彼女は、別の手段を考えているというような事を言っていたけど、本局上層部のやり方

を否定していない。つまり、本局の意向に仕方なく従ったと言われれば、本局が握り潰す

可能性は否定出来ない。

 もどかしいわね。

 本来なら、ややこしい事になる前に解決してしまいたいんだけど。

 

 執務室がノックされる。

 やってきたのはクロノだった。 

 はやてさんの自宅が襲撃された件の報告だった。

 アリアの魔力パターンをね。悪質な行為だけど、今は手を出す訳にはいかない。

 クロノにも、それを言わなければならない。

「艦長が自ら監視していたんですか…」

 説明を聞き終えたクロノの第一声がこれだった。

 クロノ自身、フローリアン姉妹が第一容疑者と考えていたようだけど、クロノにして

みれば、早く言ってくれればと思っているでしょうね。

「ごめんなさいね。対応に追われていたのよ」

「すみません。顔に出ていましたか?」

「いいえ。こちらが察しただけよ」

 クロノの事だから、これからの改善点として、これから注意していくのでしょうね。

 親としては、息子が段々思考を読ませないようになるのは、少し寂しいけれど。

「ともあれ、まだ拘束するには材料が足りないわ。やるなら一気に片付けないと」

「分かりました。こちらは、彼女達の目的を探ります」

「接触するなら、慎重にね」

 誰にとは言わない。

「了解です」

 クロノはそう言って、退室していった。

 美海さん達に接触すれば、何か感じたものがあるかもしれない。

 美海さん自身も、まだ話していない事があるかもしれない。

 

 事件は動き出している。

 何事もなく解決出来ればいいのだけど。

 今までの経験から、この状況で完璧な形で解決出来る事のは、至難の業だと私自身

分かっていた。

 

 私達はベストを尽くすのみね。

 少しでもいい未来を掴み取る為に。

 

 

             :アミティエ

 

 意識が浮かび上がってくる。

 まだ、意識がハッキリしていないけど、まだ私は生きているみたい。

 見知らぬ天井が視界に映る。

 白い天井。もしかして捕まった!?

 急激に意識がハッキリする。

 慌てて身体を起こそうとしたが、激痛が走り起き上がれなかった。

 痛みの中、周囲に目を配る。

 幸い管理局に逮捕された訳ではないみたいですね。

 どうも、一般人の家と言った感じでしょうか?

 誰かが部屋に接近してくる。部屋の前で止まって扉がノックされる。

 意識を失っているフリをした方がいいか悩んだけど、それでは恩人に対して不誠実

ですね。

 覚悟を決めて、どうぞと声を掛けた。

 乱暴に扉が開かれる。反射的に身構えて、痛みに顔を顰める。

 入ってきたのは、金髪の目付きの悪いメイドだった。

「おお!目が覚めたかよ」

 そう言ってメイドはニヤリと笑った。

 私の知っているメイドと随分違いますが、ここではみんなそうなんでしょうか?

 

 私が目を覚ました事を確認すると、金髪のメイドは何も言わずに出ていきました。

 なんだったのかと思っていると、若い女性を連れて戻ってきました。

 どうやら、この人を呼びに行ったみたいですね。

 服装からすると、メイドの主人の家族といったところでしょうか。

「よかった。目が覚めたみたいで。この子達と違うから手探りだったんだけど」

 女性はホッとしたように言った。

 どうやら、助けてくれたのは、この人のようですね。

 自分の身体を見る余裕が戻り、見てみると自動回復するよりも身体が治っている

のが分かる。初見でここまで出来るとは、父さん以外にも天才はいるものですね。

「すみません。私のような者に、ここまでして頂き感謝しています」

 どうやって彼女達に発見されたかは分からないけど、決して親切にしたがる登場

の仕方ではなかったでしょう。

「私はアミティエ・フローリアンといいます。騙されて、怪我を負い、このザマです」

 管理局員という事は言わなかった。管理局を知っているか分からなかったし、どちら

にせよ、肩書きには元が付くでしょう。

 頭に血が上ったとはいえ、軽率な行動で艦を破壊する原因を作ったのですから。

 それに残ったイリスがどう言っているか、分からない。

「私は月村忍。詳しい事を話してくれれば、力になれる事もあると思うわ」

 名前の響きからすると、現地協力者の子達と同じ国の人でしょうか。

 という事は、そう遠くに落ちなかったという事ですね。

「お世話になって置いて、勝手な事を言いますが、すぐにでも行かなければなりません」

 身体を無理に起こそうとする。

 金髪のメイドが、いつの間にか近付いていて、私を押さえ付けた。

「おいおい。無理すんじゃねぇよ。動けるようになってねぇだろうが」

「イレイン。また、ノエルに怒られるわよ。その言葉遣い」

 月村さんが窘めると、イレインと呼ばれたメイドが眉を顰めた。

「何だよ、忍。チクる気か?」

「お嬢様がそのような事をする必要はありません」

 突然、声がした。

 気が付けば、部屋にもう1人の女性が入ってきていた。

 私のセンサーは大破しているのでしょうか?

「げっ!」

 イレインさんが呻き声を上げる。

 同じメイド服に身を包んだ女性が、ツカツカとイレインさんに近付くと、片耳を

指で掴むと、引っ張っていった。

 イレインさんは騒ぎながら、もう1人のメイドさんに連行されて行った。

「アハハハ…。騒がしくてごめんなさいね」

 月村さんが苦笑いしながら、乾いた声で謝った。

「焦っても、今はどうしようもないわ。暫く休んで」

 月村さんの労りの言葉に、素直に頷く事が出来なかった。

 キリエを助けないといけないから。父さんも。

 私の葛藤を見て、月村さんが更に声を掛けようとした時。再び扉が開いた。

「お姉ちゃん!怪我した人が目を覚ましたって!?」

 そう言って入ってきた少女は、月村さんによく似ていた。

 そして、後から見た事のある人達がゾロゾロと入ってきた。

 

 最早、これまで…ですか。

 入ってきたのは、管理局の現地協力者の子達と、闇の書の騎士に協力している子

だったから。

 

 

             :美海

 

 敵の消えた場所を、睨み付けていても仕様がない。

 結界が消えた瞬間に、認識阻害と人除けの結界は張り直している。

 私は、はやての傍に下りる。

「リニス。お疲れさん」

 私はまずリニスを労う。

「いえ。本当ならこんな事が起こらない方がよかったんですけど、役に立ってよかった

です」

 リニスはホッとしたような、残念そうな複雑な表情だった。

「はやても頑張ったみたいだね」

 はやては息切れしたままだったが、サムズアップで応える。

 やっぱり、侵食された状態で魔法を使うのは、きついか…。

 私が冷静にはやてを見ていると、後から声が掛かる。

「アタシ等を監視してたのかよ」

 鉄槌の騎士が疑念に満ちた声で言った。

 …なんでこう、腹立つ言い方するのかね。

 私は鉄槌の騎士を振り返り、口を開こうとした時だった。

「そんな言い方はないでしょう!?」

 リニスが逸早く怒声を発していた。

「美海が本気で貴女達を、どうにかしようとすると思っているんですか!?どれだけ

美海が貴女達の為に、動いていると思っているんですか!?どれだけ自分の時間を

使っていると思っているんですか!?この子は、記憶がどうであれ子供なんですよ!?

それに頼り切っている貴女達が、美海を非難する資格があると思っているんですか!?」

 リニスの怒りにフェイト達が驚いている。

 まあ、リニスが本気で怒る事は、殆どないからね。

 付き合いのないはやても、固まるくらいの怒気だし。

「ヴィータ。確かに、今の発言は礼を失している。謝罪すべきだ」

 発言したのは、今まで瞑目して黙っていた盾の守護獣だった。

 ヴィータが少し驚いた顔をしている。

 そう言えば、盾の守護獣とは、話した事なかったな。

「美海殿が護りを付けていてくれたから、今回の戦いを凌ぐ事が出来た。主の危機を

我等に代わって救った御仁に、失礼があってはなるまい。恥の上塗りだ」

 守護騎士が主を護れない。これは恥だ。それで他人を責めるなど論外。

 久しぶりに聞いた話だ。

 そんなもの戦乱になったら、すぐに寝言になったけど。

 寡黙な守護獣の厳しい言葉に、私に思うところのある3人が俯いた。

「美海殿がやろうと思えば、いつでもどうにでも出来た筈だ。そろそろ認めてもよい

のではないか?」

 分かっていてもどうにもならない事はある。

 夜天の魔導書も、心配そうに主の周りを飛んでいる。

 はやてもジッとこっちを伺っている。

 分かってるよ。

 私も大人気ない態度だったしね。

 この件を片付ける為に、私も譲歩はすべきかね。

「私も思うところはある。だから、提案だ」

 私は守護騎士連中を見て言った。

「綾森美海が夜天の守護騎士団に対し、決闘を申し込む。ベルカの天地に自らの誇りと

尊厳をもって、正々堂々と戦う事を誓う」

 私は血液中から剣を取り出し、地面に突き立て、剣を握る手を天に翳す。

 ベルカの騎士が決闘を申し込む正式な作法。

 勿論、向こうも知っている筈だ。

 武器を地面に突き刺し、その手を天に翳すという行為は、自分の攻撃を遅らせる行為、

つまり正々堂々と戦う事を表す。

 天地とは、神の事を指している。つまり、宣誓を違えた時はどのような制裁も受けると、

神に告げる儀式という訳だ。

 守護騎士達もサッと表情を変える。

 烈火の将が瞑目する。

「日取りは?」

 烈火の将は目を開くと、そう訊いた。

「今回の件が終了したのちに」

 私としては、なかなかフェアな条件を出したつもりだ。

 今、戦っても私は大して消耗していない。一方、向こう側はかなり消耗している。

 これではただでさえ一方的な勝負が、勝負にすらならなくなるだろう。

 それに今夜は最後の蒐集がある。

 烈火の将が納得したのか頷いた。

「何を求める?」

「こちらが勝てば今までの事は、全て水に流す。こちらが負ければ、2度とそちらの前に

姿を現さない事を誓おう」

「承知した」

 返事と共に烈火の将が剣を地面に突き刺し、同じく手を天に翳す。

「夜天の守護騎士団、烈火の将がお受けしよう」

「遺恨無き決着をつけよう」

「異論はない」

 これで一先ず、対応終了かな。

 どうなるかと、息を呑んで見守っていたなのは達もホッと息を吐く。

「もう!どうなるかと思ったわ」

 はやてが疲れた声を出した。

 

 全員が私服姿にもどる。

 はやてが複雑な表情で辺りを見回す。

 そりゃそうか、ここら一帯瓦礫の山になったのに、結界解除したら元通りだもんね。

 

 これからなのは達の事情説明をしようと、はやての家に入ろうとしたが、その前に

人数が追加された。

「はやてちゃ~ん!」

 すずかの声が何故かする。

 誰か連れて来てた?そんな訳ないけどさ。

 息を切らせて、すずかとアリサが走ってきていた。

 なんでも管理局が仕掛けてくるタイミングで、加勢する予定の4人にくっついてきていた

らしい。

 ここまで来た理由は、入り込んだ4人が、結界が解かれたにも関わらず、消えていた事で

何かあったと考えたんだって。鋭いね。

 そして、何かとは、この時期だとはやての事じゃないかと、焦って走って来たそうだ。

 家の中に入って、お茶を頂きながらその話を聞いていた。

「ごめんな。心配掛けてもうて。この通り大丈夫や!それとありがとうな」

 はやては、すずかやなのは達に管理局より、自分の味方になってくれた事に礼を言った。

 正直な話、このまま友達に戻れないかもと心配もしてたみたいだし、よかったんじゃない

のかな。

「でも、なんで突然、はやてを襲撃なんてしたんだろう?」

 フェイトが疑問を口にする。

 前々から、はやての家も突き止めていた感じではある。

 なら何故今なのか?

「ま、永遠結晶(エグザミア)のオリジナルと、関係はしてるだろうとは思うけど」

「え!?どうして!?」

 なのはが声を上げる。

「だって、あの仮面、ライダースーツと同一人物なのは明らかだからね」

 動きだけでなく、私の目で確認したから間違いない。

 構成要素が同じだ。

「「「「ええ!?」」」」

 なのは達とはやてが思わず大声を上げる。

 守護騎士達も表情が硬くなる。

「どうしてそんな事が分かるの?」

「私はちょっと特殊な眼をしているから、見れば分かるんだよ」

 フェイトの疑問を私は解消して上げた。

「特殊な眼?」

「まあ、今風に言えば、レアスキル?かな?」

 詳しい説明はまた今度という事で、納得して貰った。

「問題は永遠結晶(エグザミア)と夜天の魔導書の関係だけどね。そっちは流石に夜天の魔導書を

調べないと分からないよ。ただ、分かる事はあるよ。あの仮面、脳以外は作り物

だって事」

「「「「「ええ!?」」」」」

 うん?なんですずかまで驚いてるの?

 なのは達も気になったのか、すずかの方を見た。

「うん。偶然…なのかな?うちに同じような女の人が、怪我して寝てるんだけど…」

 

 うん。そりゃ、偶然と呼ぶより、関係ありと見るのが妥当だね。

 蒐集まで少し時間がある。

 ちょっとお見舞いといこうか?

 

 

             :なのは

 

 すずかちゃんの家に行ってみる事にする。

 もしかすると、そのまま戦闘になるかもしれくて、美海ちゃん以外は緊張していた。

 流石というか、美海ちゃんは全く普段と変わりない。

 はやてちゃんの家には、引き続きリニスさんが、そして追加でアルフさんが残ってガード

を強化する事になった。

 守護騎士の人達も頑なな空気が、マシになった感じで受け入れてくれた。

 

 すずかちゃんの家に着いて、中に入る。

「あ、お帰りなさいませ!すずかお嬢様!」

 すずかちゃんの専属メイドのファリンさんが出迎えてくれた。

 みんなでお邪魔しますと挨拶する。

「丁度よかったです。怪我をなさった方は、意識を取り戻しましたよ!」

 凄いタイミングで来たみたいなの。

 みんなで顔を見合わせる。

 なんかこういうの、嬉しい。

 少しの間だけど、こういう事出来なかったから。

 

 早速、ファリンさんの案内で、その人がいる部屋まで案内して貰う。

 すずかちゃんが真っ先に扉を開ける。

「お姉ちゃん!怪我した人が目を覚ましたって!?」

 私達もすずかちゃんの後に続く。

 そこにいたのは、ユーリちゃんの護衛を担当していた人だった。

 お話した事なかったけど。アースラにいたから顔は見ていた。間違いない。

「貴女は!?」

 フェイトちゃんが声を上げる。

 護衛さんの名前は確か…。

「アミティエ・フローリアン。元・准尉ですね」

 名前が出てこない私達に、アミティエさんが教えてくれる。

 なんかすいません。

「いいんですよ。付き合いありませんでしたし。いえ…敵としてあった…というべき

でしょうか」

 またも表情から読まれたみたいで、先回りして答えてくれた。

 でも、敵!?どこで敵対したんだろう。

「ああ…。アンタが外にいたっていうライダースーツか」

 美海ちゃんが納得したように言う。

 え!?外!?

 アミティエさんが諦めたように頷いた。

 なんか2人で分かってるみたいな感じだけど?

 美海ちゃんが気が付いて説明してくれた。

 最初にオールストン・シーに行った時の襲撃で、外でも守護騎士の人達が襲われてた

んだって。美海ちゃんも協力するようになってから、聞いた事なんだって。

 じゃあ、この人、はやてちゃんを襲った人達の仲間!?

「管理局の人がなんでそんな事するの!?」

 私は思わず声を上げてしまった。

「管理局は正義の味方じゃありませんから…。私は故郷を救って貰うのを条件に手を貸して

いただけです。言い訳する気はありませんけど…」

 故郷…。この人も何かの為に戦っているんだね。当然…なのかな。

「私達も管理局の味方という訳じゃありませんけど、事情が事情です。アースラに連絡

させて貰います。大丈夫、他の局員は兎も角、リンディ艦長は信頼出来る人ですから」

 フェイトちゃんが真剣な表情で、アミティエさんに告げる。

 アミティエさんも苦い顔だったけど、頷いてくれた。

 フェイトちゃんがバルディッシュを通じて、リンディさんに連絡する。

 リンディさんに連絡する分には、美海ちゃんも飛鷹君も反対はしなかった。

 

 リンディさんに連絡すると、すぐにクロノ君がやって来た。

「接触しようと思った矢先に、これは少し驚いたよ」

 入ってくるなり、クロノ君はこの第一声だった。

 美海ちゃんは、流石に同席出来ないって言って出ていってしまった。

 でも、話は聞いていると言っていたから、問題ないんだろうけど。

 

 クロノ君は、まずはアミティエさんの妹のキリエさんが、どういう証言をしたかを

アミティエさんに聞かせる。

 アミティエさんが、キリエさん達を裏切って、本局?の偉い人の言いなりになって事件

を起こした事。アースラの破壊は、アミティエさんがキリエさんに暴力を振るおうとした

からだって事を、クロノ君は説明した。

「そうですか…。そんな話になってますか…」

 アミティエさんは悲しそうにそう呟いた。

「それじゃ、君の言い分を聞かせて貰おう」

 クロノ君は、アミティエさんのベットの前の椅子に腰掛ける。

「念の為言って置く。君の証言は記録され、証拠となる場合ある」

「分かっています。これでも、捜査官でしたから…」

 アミティエさんは俯いてそう言った。

 クロノ君は頷くと、アミティエさんを促した。

 

 アミティエさんは決意したみたいに、口を開いた。

 

 

             :アミティエ

 

 私達が捜査官になった経緯はご存知ですよね?

 私達の故郷・エルトリアが、滅びに瀕しているからです。

 私達は管理局に助けを求めました。その見返りに人手不足の管理局で捜査官になりました。

 捜査官になって実績も上げましたが、何時まで経っても管理局は故郷に手を差し伸べては

くれませんでした。

 今は、住人の殆どが、コロニーに避難している状態です。

 でも、そんな状態は長くは続きません。一刻も早くなんらかの手を打つ必要がありました。

 

 父は生物工学の研究者で、母は生物学者でした。

 父はずっと故郷を救う方法を模索していました。勿論、母も。

 私とキリエも手伝っていたのですが、途中で故郷に蔓延する死病に侵されて、倒れて

しまいました。身体が徐々に腐っていきました。このままでは死ぬのを待つだけでした。

 そこで、父は病に侵されていない脳を残し、私達の遺伝子データを元に造られたボディに

脳を移植する事で、命を繋いだのです。

 だから、私達はこんな身体なのです。

 そんな中、父も発病してしまいました。父は母を説得してコロニーに向かわせました。

 管理局に助けを求めたのも、この辺りの話ですね。

 父以外には、ボディを造れなかったので、父は人間のままでいるしかありませんでした。

 それに処置は更に困難を極めますから、私達では無理だったのです。

 父は病に侵されながらも研究を続け、私達は管理局で捜査官として活動し出しました。

 

 ある時、事件捜査をしている時に、偶々遺跡を発見したのです。

 そこにいたのが、イリスでした。

 彼女は、古い滅びた文明時代のナビゲーターだと名乗りました。

 彼女とキリエはすぐに仲良くなりました。

 いつの間にか、だったので詳しくは分からないのですが。

 彼女は、今はない文明の知識を、豊富に持ち合わせていました。

 ダメで元々でした。彼女に今、故郷で起こっている事を相談しました。

 詳しいデータがないと分からないと言うので、コッソリ彼女を連れ帰りました。

 データを確認した彼女は、解決法を即座に教えてくれました。

 それが、莫大なエネルギー結晶体を手に入れ、それを電池として環境を再生させる魔法

を使う、というものでした。

 しかし、世界を1つ救う程の結晶体とすれば、ロストロギア以外にありません。

 それ以降、事件捜査の過程で見付けたロストロギアを、着服するようになりました。

 でも、どれも力が足りないし、力の性質が違うとかで、今まで手に入れたロストロギアを

合わせて使う事も出来ないと言われました。

 それでイリスが文明の記録を検索して見付けたのが、永遠結晶(エグザミア)でした。

 中に封印されているエネルギーとロストロギアを使えば、理論上エルトリアを救える。

 父とイリスの共通見解が出たんです。

 私達は、それを手に入れるべく動き出しました。

 

 あとは、キリエが言った通り、着服がバレて本局上層部に脅されて警護任務に就きました。

 でも、それは好都合でした。

 だって、封印を解くカギは闇の書の中にあると言う事だったので…。

 あとはご存知の通りです。

 

 でも、私達は騙されていた事が、偶々分かったんです。

 イリスが話しているのを偶然聞いてしまったんです。

 イリスは初めから別の目的の為に、私達を利用したに過ぎないんだと。

 彼女の本当の目的は、分かりません。

 でも、私達ギアーズのデータをどこかに売り渡したようでした。

 ギアーズというのが、私達のボディの名なんです。

 そして、最後には私達を始末するというような事も、話していました。

 

 お願いです。罪は素直に認めます。なんでも証言します。

 だから!妹を!キリエを助けに行かせて下さい!!その時間を下さい!!

 私は必死にお願いをした。

 

 だけど、その返事をクロノ執務官がする前に、とんでもない情報が飛び込んできました。

 ユーリ・エーベルヴァイン嬢が誘拐されたという報せが。

 

 

             :イリス

 

「ユーリ・エーベルヴァインの身柄を押さえましょう」

 私の言葉にキリエが驚愕する。

「ええ!?どうして、そんな事するの!?」

 キリエが戸惑いに満ちた声を上げる。

 私にとって、これは変わらない予定だった。

 精々、身柄確保は順番が前後するくらいで、予定通りだ。

「ダメだよ!!関係ない人を巻き込めないよ!!」

 あら、初めて反対意見を言ったわね。

「それじゃあ訊くけど、どうやってエルトリアまで戻る積もり?」

「え!?…それは…」

 少しも考えていないでしょ?貴女なら。

「少しの間だけよ。彼女は地上本部のVIPなんでしょ?本局だって粗雑に扱えないわ。

強引な手で怪我でもさせたら一大事。エルトリアを救った後、解放するし、自首だって

すると言えば、勝算は高いと思うの」

 遺憾であると顔全体で表してやる。

 効果有りと認めたのか、キリエが苦悩の表情をする。

「キリエ。私の目を見て。騙しているように見える?」

 私はキリエの目を覗き込む。

 キリエの目が一瞬虚ろになる。

「私は貴女の親友よ。貴女の考えはよく理解しているわ」

「そう…よね。少しの間なのよね…」

「ええ。勿論よ」

 私はニッコリと笑った。

 

 あの場で闇の書が確保出来たなら、永遠結晶(エグザミア)の専門家として同席して貰う為とでも、

言って納得させる気だった。

 その時は、闇の書を完成させ、鍵を取り出してから連れ出す。

 どちらにしても、闇の書の完成に管理局の目を釘付けになり、注意が逸れる。

 今回にしても闇の書の主を押さえるチャンスに、管理局は色めき立っている筈だ。

 戦力がないようだけど、だからこそ対処すべく忙しい。

 そう、順番が前後しただけだ。

 どちらにしても、あの護衛程度なら私でもなんとかなる。

 

 アースラに戻る。

 私はナビゲーターという事になっているから、ハッキングしたと説明しているけど、

実際は魔法で、認識を狂わせている。

 一応念の為、例の仮面姿で潜入する。

 全く見咎められずに、ユーリ・エーベルヴァインが作業している場所へ辿り着く。

 ドアの前には、護衛が2人立っている。

 横を通り抜けようとして、止まる。

 チャラチャラした感じの男が、手で制止したからだ。

「見た事のない魔法だけど、遺失物をあいてにしている僕達を甘く見たね」

 女の方も臨戦態勢に入っている。

「僕達も油断はしないよ」

 男の方が、指を鳴らすと警報が艦内に鳴り響く。

 思わず舌打ちが出た。

「悪く思わないでくれよ?彼女を護るのが僕らの仕事だ」

 姿を隠し続けても、目の前の相手には意味がない。

 なら、仕方ない。

「強引な方法を取る気はなかったんだがな。優秀さが仇になったな」

 私はニヤリと嗤う。

 私から黒いタール状の魔力が溢れ、形になっていく。

 タール状の魔力に紅い光が混じり出す。

 呆然としているキリエに声を掛ける。

「コイツ等は私が相手をする。お前は確保を」

 有無も言わせぬ口調で言うと、キリエがビクッと震える。

 面倒臭いな。でも、あと少しの我慢と思い直す。

「頼む」

 言葉短く言うと、生命力を奪う槍が無数に造り出す。

 遺失物機動課の2人が身構える。

「死ね」

 槍が2人に殺到する。狭い通路に逃げ場などない。

 通路が破壊される。勿論、ドアも。

 キリエが中に滑り込む。

 私の背後から、魔法が放たれる。

 それを意識の手を伸ばすイメージで払う。

「面白い手品を使うな」

 背後にいつの間にか短い杖が、幾つか浮いていた。

 この狭い通路で攻撃を避けたのは、女の持つスキルだろう。

 今もピッタリくっついている。

 侵入したキリエがユーリ・エーベルヴァインを抱えて出てくる。

 あの加速にいくら大魔導士なんて言われようが、付いていけない。

 男の顔が強張る。

「次はこちらの番だな。受け取れ」

 今度は槍ではなく、丸い球体を造り放つ。

「くっ!!」

 女が呻き声を上げて、何かの魔法を発動する。

 チラッと魔法式を見る。

 なかなか面白い魔法だ。空間の隙間に入り込むのか。

 広域空間攻撃じゃなければ、有効だったのにね。

 放たれた球体が、破壊力を持って広がっていき、大爆発を起こした。

 艦体が大きく揺れる。

 それじゃ、次に会う時には終わりの時だからね。

 

 私は、キリエに抱き抱えているユーリ・エーベルヴァインの顔を、無表情に

眺めてアースラから、キリエと共に離脱した。

 

 

             :クロノ

 

 僕の目の前に突然、ウィンドウが開く。

 緊急通信という事だ。

 エイミィの顔が映る。

『クロノ君!大変!ユーリさんが連れ去られたの!!』

「何!?犯人は!?」

『逃げられた、というか、取り逃がしたの。遺失物機動課3課の2人は怪我して、

今は休んでる。犯人は仮面を付けた2人組』

 僕は天を仰いだ。

 向こうの動きが早い。後手に回っている。

 今まで繋がりがあるかも分からない話が、ようやく全体像を見せ始めた矢先に

これか。

「おそらく、永遠結晶(エグザミア)のところに行く筈です!お願いします!!

行かせて下さい!!」

 アミティエ・フローリアンが必死に訴えてくる。

「彼女達が、ユーリを誘拐する理由に心当たりはないか?」

 アミティエが力なく首を振る。

 嘘を言っている様子はない。

「僕が代わりに行く」

「おいおい!1人で行くのは無茶だろ!!」

 飛鷹が制止する。

 無茶は百も承知だ。

「本来なら、局員を連れて行きたいが、美海に怪我させられて動ける人間が、殆ど

いない。仕方がないだろう」

 飛鷹達は苦い表情で黙り込んだ。

「お願いします!!逃げたりしません!!人手が必要なら尚更連れて行って下さい!!」

 ここでエイミィが口を開く。

『クロノ君。連れて行ったら?』

 意外な言葉に思わずエイミィを凝視する。

『人手が足りないのは、事実だよ。そこの護りはなのはちゃん達に任せて、アルフを

貸して貰って、アミティエさん連れて行けば、かなりの戦力になるでしょ』

 確かに逃げる可能性は低いと僕も見ている。

「艦長に繋いでくれ」

 僕の言葉に短く了解と返事すると、エイミィは艦長に通信を繋げる。

 艦長に、僕は今まで聞いた事を説明する。エイミィの提案も。

 艦長はそう、と呟くと考え込む。

 少しして、艦長が顔を上げた。

『分かりました。クロノはアミティエさんと共に、永遠結晶(エグザミア)のある場所へ』

 

 別室で待機していた美海にリニスも借りて、僕、アミティエ、アルフ、リニスで、あの

テーマパークへ急行する事になった。

 

 

             :ユーノ

 

 キント執務官長の依頼は、闇の書事件に大きく関係していると思われる事だ。

 リンディ提督には、キント執務官長が話すという事だったので、僕は早速調査に

取り掛かった。

 依頼内容は、夜天の魔導書に隠された秘密がないか。

 それを知っていたと思われるのが、クロノのお父さんのクライド提督だった。

 彼は探索魔法を使って、この無限書庫で調査をしていたという。

 ならば、ここに答えは眠っている。持ち出されたり、破棄されていなければ、という

注釈付きになるけど。

 

 何時間か調査して空振り。一度調べたものを調べても同じものしか出ない。

 もっと深い階層の未整理区画に行くしかないかな。

「う~ん。そうやって考えているところを見ると、クライド君を思い出すよ」

 突然、手伝いをしてくれているロッテさんが口を開いた。

 僕は行き詰っていたので、ロッテさんの話に耳を傾ける。

「クライド君も、ここでそうやって、よく考え込んでたよ」

 聞けば聞く程、学者っぽい人だな。クロノのお父さんって。

 調査用に探索魔法まで態々…。あっ…。

 

 僕は馬鹿な事してたな!!そう!!探索魔法だよ!!

 

「ロッテさん!クライド提督の持ち物って持ってたりしませんか!?」

 慌ててロッテさんに訊く。

 ロッテさんはキョトンとして答える。

「クライド君の?リンディなら持ってるだろうけど…。あっ!お父様が持ってるわ!!」

 思い出してスッキリしたような顔をしている。

「あの!それ、貸して貰えませんか!?」

 ロッテさんが怪訝な顔をする。

「お父様に訊いてみないと、分かんないけど。何に使うの?」

「探索魔法で、一番新しいクライド提督の痕跡を探すんですよ!!」

 どれ程残っているかは賭けだけど、今のままだと時間が掛かり過ぎる。

 それにほぼ全てが未整理のこの場所に、調査にくる物好きがそういるとは思えない。

 やってみる価値はある!

 ロッテさんは、そのお父様?に連絡している。

 念話で話しているらしく、何度か頷いていた。

「そういう事ならいいって!それじゃ、早速受け取ってくるから!!」

 ロッテさんはそう言うと、素早く無限書庫を出ていった。

 

 この真相がどう繋がるのか分からない。でも僕は僕に出来る事をやろう。

 もしかしたら、これはなのはや飛鷹達の助けになるかもしれない。

 

 

             :リンディ

 

「なんたる失態か!!」

 特別チームの責任者が喚き立てる。

 全く!重要な話が飛び込んできて、忙しくなりそうだというのに!

 クロノがアミティエさんから聴取した事実。

 夜天の魔導書の中に、永遠結晶(エグザミア)を開くカギがあるという。

 問題は何が封印されているのか、何に使う積もりなのかという事。

 夜天の魔導書を完成させると取り出せるカギ。

 ナビゲーターと正体を偽る謎の少女。

 拉致された大魔導士。

 遺失物機動課の2人は、怪我で医務室で休んでいる。

 ただでさえ、夜天の魔導書の暴走に対する警戒で頭を痛めているのに、ここにきて

新たに考える事が増えた。

 責任者の喚き声を右から左に聞き流す。

 責任者は散々喚き散らして去って行った。

 

 溜息を吐いて、頭から五月蠅い責任者を追い出す。

 まずは、キント執務官長にユーノ君に頼んだ仕事が、中断させられるか確認する

必要がある。

 夜天の魔導書と永遠結晶(エグザミア)のカギの関係について調べないと。

 もしかしたら、その過程で何が封印されているか、どう使うか分かるかもしれない。

 それが分かれば、最悪の場合は対策を練れる。

 早速連絡するが、本人が捉まらない。

 忙しい人だから、仕様がないけど。

 切り替えて、今度はグレアム提督に連絡を取る。

 ウィンドウが開き、グレアム提督本人が通信に出た。

「グレアム提督。お忙しいところすみません。お聞きしたい事があります」

「ふむ。何かな?」

「キント執務官長の仕事の件なんですが、中断する事が可能か知りませんか?」

 グレアム提督の表情が険しくなる。

「何があった?」

「実は…」

 私は今まで分かった事実をグレアム提督に説明する。

 グレアム提督も目を見開いていた。

「ユーノ君なら、それに関連した事を調べているよ。その事は伝えよう」

「どういう事です?」

 今度は私の表情が険しくなる。

 私は今回の事件の責任者だ。それを私に教えない理由を訊かないといけない。

「済まない。事情を説明するよ、リンディ」

 それで知った。夫のメモの事。夜天の魔導書の調査の事。上層部の怪しい動き。

「何故…それを教えて下さらなかったのですか!?」

 私の色々な感情でごちゃごちゃになっていた。

 悲しんでいいのか、怒っていいのか、分からない。

 久しぶりに夫の声を聞いたよう喜びも、少しだけある。

「確証を得てから話す積もりだったが、済まない…」

 グレアム提督は、それだけ言って黙った。

 上層部の件がある以上、私が万が一暴走するような事を恐れたのは、理解出来る。

 それでも、納得は今は出来そうにない。

「すみません。もう切ります。何かわかれば、すぐに連絡を下さい」

「分かった…」

 私は何か言ってしまう前に、通信を切った。

 

「あなた…」

 私は、机の上に置いてある写真を手に取り、胸に抱いた。

 

 

             :イリス

 

 ユーリ・エーベルヴァインを永遠結晶(エグザミア)の前まで連れて行く。

 魔法を封じる手錠を付けて、縛り上げてあるが、解いて外す。

 キリエはホッとしたような顔をする。

 でも、ごめんなさい。貴女の思うような理由じゃないわ。

 私は永遠結晶(エグザミア)に手を翳す。

 赤い水晶の表面が、一瞬揺らめくがすぐに元に戻る。

 やっぱり何か細工されてたみたいね。

 でも、戦闘は兎も角、こっちは専門分野なのよ。

 すぐさま、魔法を解析していく。

 カウンター魔法を構築。発動。

 今度は、正常に機能し、表面が揺らめく。

 私はそこにユーリ・エーベルヴァインを放り込んだ。

「え!?何するの!?」

 キリエは、慌てたように私に詰め寄る。

「落ち着いて、管理局ももしかしたら、ここに目を付けるかもしれないわ」

 アミタが万が一生きていた場合、絶対にここにくる。

 あの化け物に、もしかしたら気付かれたかもしれないし。

「そしたら、一室に監禁なんて方法じゃ、取り返されるかもしれないでしょ?これから

カギを取りに行くんだし」

「でも…!…ねぇ、イリス。どうして人を中に入れる事が出来たの?」

 キリエが可笑しな事に気付いたように言った。

「私は取り出せないって言ったけど、入れられないとは一言も言ってないよ」

 ここにきて、初めてキリエが疑わしそうな顔をした。

「これは封印の手段だもの。難しいのは取り出す時だけなの。容量があれば入れるのは、

難しくないわ」

 勿論、誰でも入れられる訳じゃないけどね。

 ここには私の欲しいものしか入っていないのは、確認済みだ。

「そう…なの?」

 私はニッコリと笑った。

「さて、それじゃ、鍵を受け取りに行きましょうか」

 私の言葉に、キリエが迷いを振り払うように首を振ると、真剣な表情で頷いた。

 

 もうすぐ、もうすぐ願いが叶う。

 

 ねぇ?ユーリ。

 

 

             :飛鷹

 

 日が暮れてきた。

 今のところクロノからは連絡がない。

 無事にオールストン・シーに到着して、警戒しているってとこまでは連絡が来てた

けどな。

 いよいよラスト…だが、そんな簡単に片付かないだろうなっという予感があるから、

みんなの表情は明るくない。

 はやては襲撃を受け、ユーリは拉致された。

 俺達も蒐集の間、はやての護衛を引き受けていた。

 

 俺達は蒐集に行く綾森とシグナムを見送る。

 上空に飛び上がったところで、2人が動きを止める。

 上空には、最早正体も隠さずに赤いドレスの女とあの護衛の片割れがいたからだ。

 さっき逃げってった癖に、なんで今きた?

 アイツ等が綾森に勝てるとは思えない。

 俺達と守護騎士達もはやてをガードする。

 赤いドレスの女が不敵に笑って、シグナムに向けて手を翳す。

 いや、夜天の魔導書に向けて。

 夜天の魔導書が一瞬震えると、魔導書を縛る鎖が生き物のように蠢き出す。

「なっ!?まさか!」

 綾森が驚きの声を上げる。知る限り初めてアイツの慌てる声を聞いた。

「そう!そのまさかよ!」

 女の言葉が引き金になったように、夜天の魔導書から紫の触手のようなものが、

出て来た。同時にドス黒いオーラのようなものも出ている。

 

『守護騎士…戦闘続行不可能と…判…断。防衛プログラム・ナハトヴァール起動します。

これより、闇の書の完成を優先します』

 そもそも敵対してねぇよ!!

「な、何言うてるんや?」

 はやてが呆然と呟くようにそう言った。

『守護騎士システムを破棄。リンカーコア、強制回収を開始』

「チッ!」

 シグナムが舌打ちして、夜天の魔導書を離そうとするが、真っ先にドス黒い触手が

シグナムを絡め捕る。

 シグナムも綾森も剣を振るって応戦したが、綾森の剣は飲み込まれたように消えた。

 シグナムのレヴァンティンも同様だった。

 綾森が険しい顔で素早く距離を取る。

 残りの守護騎士も、シグナムを助ける為に動く。

 同時に俺達の周りにも、紫の触手が俺達の動きを止める。

 黒い触手と違うけど、動けねぇ!!クッソ!ボケッとして、このザマか!!

 なのは達も同じみたいだった。

「テオヤァァァアァァーーーー!!」

 ザフィーラが剛腕で殴り掛かるが、そのまま絡め捕られてしまった。

 ザフィーラもシグナムも必死に振り解こうとするが、全くビクともしない。

 シャマルが魔法で風の刃を作り出し、触手を切断しようとする。

 だが、それが鬱陶しく感じたのか、シャマルの周りにも黒いオーラが渦巻く。

 シャマルも絡め捕られた。

 ヴィータは、辛うじて回避を続けていたが、他の守護騎士が捉まったところで、

突然動きを止める。

 ヴィータは呆然と夜天の魔導書を見上げる。

「そうだ…。こいつの所為で…クッソ、なんで今まで忘れてたんだ?」

 綾森の言葉は実感のない話だったんだろうな。

 それを今、思い出した。そんな感じだった。

『回収』

 夜天の魔導書、いや、闇の書は自らページを開くとアニメと違って丸呑みだった。

 モンスターが口に人間を放り込んだような光景だった。

 そこに、悲鳴すらなかった。

 俺達も声一つなかった。

「はやて!!すまねぇ。後を頼む。主としてはやてが、覚醒出来ればアタシ等は何度

でも蘇る。死なねぇ!!」

 ヴィータが飛び上がる。

「ふざけんじゃねぇーーー!!!」

 ヴィータがグラーフアイゼンを振り抜く。

 凄まじい衝突音が響くが、闇の書はビクともしない。

「チッ!やっぱ、効かねぇか…」

『回収』

「やめてぇぇぇーーー!!」

 はやての悲痛な声が響く。

「はやて。帰ったら美味いメ…」

 ヴィータが闇の書に飲み込まれていった。

「ああ…あ………」

 はやてが目を見開いたまま、震えていた。

「落ち着け!!精神を鎮めろ!!いいようにやられるぞ!!」

 綾森の叱咤が飛ぶ。

 綾森は巧みに黒い触手の群れを躱し、魔法で黒い触手を消し去っていくが、すぐに

再生していしまう。

 流石に全てを飲み込むようなアレは、綾森でも手を焼くようだ。

 だが、綾森の声は届かなかった。

 

「あああぁぁぁぁぁぁあああーーーーーーー!!!」

 

 はやての絶叫と共に、紫の光の柱が天を突く。

 

「チッ!!」

 綾森が舌打ちして、はやての元に急ぐ。

 が、そこには護衛の片割れが割り込む。

「馬鹿が!!いつまで騙されてる!!」

 綾森の怒声を放つ。

「アンタなんかには分からない!!私達の苦しみなんて!!」

「自分1人が傷付いてるなんて思うな!!」

 

 赤いドレスの女は、その隙にはやてに接近していた。

「カギへの道は見付けた。貰うよ!!」

 赤いドレスの女が、紫の光に消えつつあるはやてに手を突き入れる。

 素早く、引く抜くと手には何かの球体と、その周りに3つの鬼火が躍る。

「やった!!ようやく手に入れたよ!!アハハハハハ!!」

 赤いドレスの女が哄笑を上げる。

「さあ、撤退しましょう!!ここに、もう用はないわ」

 赤いドレスの女が片割れに声を掛ける。

 

「逃がすか!!」

 綾森の手から血が流れる。

「バルムンク!!」

 血液の中から蒼い剣が姿を現す。

 

「カギの守護者よ。かの者を滅ぼせ!!」

 赤いドレスの女の言葉で、3つの鬼火が女の周りを離れる。

 綾森はもう一度舌打ちすると、剣を振るった。

 触手のみを狙い切断する。

 俺達はようやく動けるようになった。

 強い閃光が走る。

 

 鬼火が人に姿を変えていた。

 そこに立っていたのは、なのはとフェイト。

 

 それに、クロノによく似た男だった。

「アンタ…まさか、クライド・ハラオウンか?」

 俺の声が虚ろに響いた。

 

 

 

 

 




 リンディさんの魔法は、前々から考えていたものです。
 リンディさんって、多分普通の人間じゃないですよね?
 妖精の羽みたいなの生えてたし。いつまでも若いし。

 ベルカの騎士、結局脳筋です。腕力で解決します。

 美海が最初からバルムンクを使わなかったのは、理由が
 あります。が、それは次回に回します。
 クライドさんの件も今後説明していきます。

 〇頸風剣・オルカーン

 文字通り、風を自在に操る神剣です。風の魔法の精度が
 跳ね上がります。本気で使えば天変地異も起こせる。
 無尽蔵の魔力があればの話ですが。 
 元々は放浪の民の持つ神剣でした。
 何物にも囚われず、自由に行動し、税も兵役も無視する
 連中だったので、かなり他国から嫌がられていました。
 それに付け加え、優秀な人材が多く。富を持ち去る者と
 見做されて、迫害もされていました。
 そんな中、美海の国だけは彼等と上手く付き合っていま
 した。
 戦乱が始まり、族長が戦争の所為で死んだ為、美海が
 臨時の族長に就任した事から、彼女の血液中に入れられた
 神剣です。
 戦争が激化し、族長返上も神剣の返却も結局出来ず仕舞い
 で、美海の手に残されました。所有権のある血族がいれば
 返却するつもりでいます。

 〇火焔剣・ヴルカーン

 これも文字通り炎や熱を自在に操る魔剣です。
 本気で使えば、どこぞの神剣のように世界を焼く事が
 可能です。その前に使用者が干乾びるでしょうが。
 活発に活動を続ける火山を抑える為に、太古に造られた
 魔剣です。
 聖王連合に敵対的な勢力が、国力低下を狙い引き抜き、
 災害を起こそうとしましたが、美海がニブルヘイムで
 凍結させて、アッサリ終息。
 のちに取り戻した際に、元の場所に戻そうとしたが、
 バルムンク経由で拒否された為、彼女の剣になりました。


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第40話 足止め

 結構、小刻みに語り部が変わります。
 
 では、お願いします。



              :美海

 

 夜天の魔導書が遂に完成した。いや、させられてしまった。

 少しは備えて、はやてを行かせる積もりだったけど、問答無用だけじゃなく、精神状態が

よろしくない状態で行かせる羽目になった。

 

 紫の光が消え、虚無が収まると、そこには前世で見た奴が立っていた。

『すみません。折角、協力して頂いたのに…』

 念話だった。

 怪訝な顔で相手を見る。

『本来なら、ナハトヴァールに権限が委譲されるまで、暫く余裕があるのですが…。今回は

貴女がいるからか、もう身体を動かす事が出来ないのです。辛うじて割り込みを掛けて

いますが…。長く持ちません』

 沈んだ声が響く。

『謝るのは、まだ早いでしょ。身体は動かせなくとも、はやてに声を掛ける事は出来る

でしょ?声を掛け続けろ。一緒に戦うんだ。そうすれば、あとは私がなんとかする。前回

に比べれば、まだマシだ。最悪、一歩手前。まだ、盤上は引っ繰り返せる』

 前回は到着したら、完全暴走状態だった。

 虚無とも言うべき、全てを飲み込むものが噴き出していた。

 先程、噴き出していたものだ。

 あの剣は、それに飲み込まれてしまった。思い入れのある剣だったんだけどね。

 笑顔で私に渡してくれた物だ。英雄に相応しい剣を造ったからと。

 結局は、どんな縁が引き寄せたのか、聖剣や魔剣が何本か手に入ってしまい。

 あまり、使用する機会はなかったが、式典の時には欠かさず身に付けていた。

 

 あの剣の落とし前はキッチリ付けてやる。

 

 バルムンクは今の状態だと、使用すれば被害がデカい。

 精々、ナハトヴァールの尾を斬るのに使えるくらいだ。剣閃だけで斬れるくらいの代物

だし。

『…分かりました。主と共に精一杯戦いましょう。後を頼みます』

『承知』

 念話が途切れる。

 ああ。何一つ、誰一人救えなかったヤツだけど、私も精一杯やるさ。

 私はバルムンクを血中に戻すと、樹冠剣レーベンを血液中から選び出し、構える。

 生命を象徴する剣であり、虚無の性質の逆属性の剣である。万が一の時は、ある程度

打ち払う事は、出来る筈だ。

『敵対行動を確認。排除実行します』

「最初から、その積もりだっただろうが!!」

 夜天の魔導書の意志ともいうべき、管制融合機の姿を借りたナハトヴァールが機械染みた

声で、左腕に付いたパイルバンカーのような武器を構えた。

 視線を動かさず、味方の動きを探る。

 なのは達はそれぞれ敵と相対中か。暫くは自分達で何とかして貰おう。

「いくぞ?亡霊の手先」

『排除』

 私は剣を構えて接敵し、向こうも高速でパイルバンカーを突き出した。

 

 激突。轟音と閃光が辺りを包み込んだ。

 

 

              :ノルド

 

 最近の私は安眠出来ない日が続いている。

 それもこれも、闇の書…いや、クライド・ハラオウンの所為だった。

 ムカつく胃を押さえ、薬を呷る。

 

 今でも夢に出てくる光景が頭を過ぎる。

 

 闇の書の封印し、護送する旨が報告された時の事だ。

 本来なら、グレアムがする筈だった報告が、クライドの口から為された。

 しかし、報告はついでに過ぎなかった。

 本命は告発だった。

 闇の書の捜査の過程で、最後のピースが揃った。

 もう私への捜査は止まらない。

『以上が、管理局が闇の書、いや夜天の魔導書の暴走を利用した証拠です。不正の証拠も

程なく揃うでしょう。貴方も本局長官であるならば、自らの罪を明らかにすべきだ』

 そう目の瘤を取り除くのに、私は1度、闇の書を利用した。

 簡単だった。

 適当に餌をやれば、ある程度暴走時期をコントロール出来る。

 あとは、時期を測るだけだった。

 機械染みた騎士は、餌を何の疑いもなく闇の書に与えていた。

 お誂え向きだったのだ。

 だが、その餌を調達していた絡繰りをクライドに掴まれた。

 出された証拠は、多少は私の不利になるだろう。

 押さえられたのは、使っていた屑共だ。屑の証言など、どうとでもなる。

 こんなものは、幾らでも握り潰せる。

 だが、そこから私が行う不正に足が付いてしまった。

 屑共は、身の安全の為に私の会話を盗聴・録音していたのだ。

 その証言から調べられれば、身の破滅だ。

「分かった。だが、身辺を整理したい。時間をくれ」

『本局に着くまでに、済ませる事をお勧め致します。護送任務は、私がする事にしました。

私を始末すれば、とお思いになるでしょうが、証拠はどうあっても残ります。夜天の魔導書

の中に』

 どういう意味なのか分からなかったが、詳細に調べ上げたこの男の事だ。

 何か証拠を保管するすべでも、発見したのかもしれない。

「分かっているよ。私も男だ。無様な真似はすまい」

 通信を切り、天を仰ぐ。

 どうする?ヤツを始末するのは容易い。しかし、ヤツの握る証拠、協力者を全て潰す必要

がある。

 正直、アイツ等を追い詰め過ぎたのだろう。

 これは牽制であり、脅しだ。

 問題は脅しがハッタリであるかどうかだ。

 考え込む。

 

 どれ程、時間が経ったか気が付くと、通信が新たに入っていた。

 通信に出るとサウンドオンリーの画面が表示される。

『失態だな、ノルド。本来なら見捨てるところだが、お前はまだ使える。今度だけは助けて

やろう。だが、次はないと思え』

 評議会の方々からの通信。

 管理局最高権力者。

 その方々に今回の事が知られた。生きた心地がしなかった。

 しかし、今回は助けてくれるという。

 ならば、答えは1つしかない。

「申し訳もございません。よろしくお取り計らい願います」

 私は机に額を擦り付けんばかりに、頭を下げた。

 

 程なく、クライドの乗る戦艦・エスティアが()()で轟沈した。

 通信障害で遠距離通信は出来なかったようだ。

 私は、クライドが集めた資料の始末を命じた。

 評議会の方が手配してくれた人員は、よくやってくれた。

 誰も疑問の声を上げなかったのだから。

 

 通信が入り、私は現在に意識を戻す。

 私は通信に出た。

『た、大変です、長官!!これをご覧下さい!!』

 アースラに送り込んだ特別チームの責任者だった。

 責任者は、私からの返事など待たずにウィンドウを切り替える。

 

 そこに映っていた者は、悪夢で見慣れた男だった。

「ク、クライド・ハラオウン!?…馬鹿な…」

 あの日のまま、まるで年を取っていない。

 悠然と空中にあった。

 呼吸が苦しくなる。心臓が悲鳴を上げる。

 痛みに耐えられず、机に倒れ込んでしまった。

『ちょ、長官!!、誰か!!』

 無能の馬鹿が騒ぐ声を、遠くに聞きながら、私の意識は闇の落ちた。

 

 亡霊は私を逃がす気はないらしい。

 

 

              :なのは

 

 護衛の片割れの人が、赤いドレスの女の子と一緒に遠ざかっていく。

 だが、私達は後を追えなかった。

 目の前に現れた人達によって。

「私?」

 心の中の声が、信じられずに思わず口に出してしまっていた。

 微妙に違いはあるけど、その人は私そっくりだった。

 髪型はショートだし、バリアジャケットの色も違う。最も違う点は左手。物凄くごっつい

左腕と手を全て覆う手甲が付けられている。

「いいえ。申し訳ありません。自分の姿やら本名だとか、色々忘れてしまっているのです。

 決して馬鹿にする意図も、挑発の意図もありません。姿形がないと不便ですので、貴女

の外見をお借りしました。悪しからず」

 目の前の私が淡々と間違いを正してくれる。

 意外に話し合いが出来そうな感じかな?

 私より、なんか理知的な感じが…。

「残念ですが、私は命令により貴女を倒さねばなりません。話し合いには応じかねます」

 私は心を読まれたみたいな言葉に、ドキッとした。

「私の事はシュテルとお呼び下さい。短い間でしょうが」

 シュテルの手からレイジングハートとは違う、でもどこか似た槍が出現する。

 静かな闘気。ヴィータちゃんの燃えるような闘気と、まるで違う。

 それだけで、私も話し合いは出来ない事を知った。

 私は大きく息を吸い込み、吐き出す。

「高町なのは。私も負ける訳にはいかない!!」

 私もレイジングハートを構えた。

 相手が尋常な相手でないのは分かる。でも、私は諦めたりしない。

「では、いざ尋常に…」

「「勝負!!」」

 奇しくも私達の声が重なる。

 

 シュテルが展開した火炎弾と私の魔力弾が同時に放たれ、弾が正面から衝突し、爆発

した。

 

 

              :フェイト

 

 私の目の前で、火の玉のようなものが人型になっていく。

 完全に人の姿となると、それは私だった。

 私とはバリアジャケットや髪の色とか、微妙に違うけど。

 一番違うのは手に持った大剣。

 あの身体で、軽々と持っている。

 その私のそっくりさんは、大袈裟な動きで私を指差す。

「私はレヴィ!!ものすごっっく強い…何だっけ?まあいいや、兎に角、物凄く強い女

だ!!お前を倒す!!」

 本人は格好よく決めた積もりみたいだけど、なんだろう、物凄く残念な感じが…。

「……」

 私の無言に、そっくりさんことレヴィが真っ赤になって怒る。

「仕様がないだろ!!覚えてないんだから!!長い間に忘れちゃったんだよ!!私だって、

こんな子供の身体嫌だよ!!もっと、ナイスバデーだった筈なんだよ!!多分…」

 そうなのかな…。やってる事も、言ってる事も子供っぽいけど…。

 私の態度に、地団駄を踏んでるレヴィ。

「ホントなんだから!!ねえ!シュテルんって、聞こえないか」

 向こうでは、もうなのはとなのはのそっくりさんが撃ち合いを始めていた。

 大剣でレヴィは自分の肩を叩く。

「まあ、すぐ死ぬヤツだし、いっか。気に入らないヤツからの命令だけど、それこそ

仕様がない」

 大剣を私に向けた瞬間、レヴィの身体から殺気が立ち昇る。

 この子…。

 実戦を幾つも経験した人、特有の強力な圧力。

 この子は本気で殺す気だ。私を。

 冷や汗が流れる。

 でも…。

「死なないよ。私が勝つから」

 バルディッシュを構える。

「生意気だね。アンタ」

「私はフェイト。フェイト・テスタロッサだよ」

「どうでもいいよ。死にな!!」

 

 互いに高速で大剣と戦斧が打ち合わせられる。

 衝撃が、周囲に伝わり全てのものが震えた。

 

 

              :飛鷹

 

 なんでいるんだ!?

 どうして、ここでクロノの親父が出てくるんだよ!?

 俺の頭は混乱していた。

「ふむ。私を知っているという事は、管理局員かい?」

 穏やかな声でクライドさんが、話し掛けてくる。

「いや。違いますけど」

 混乱していたが、穏やかな問い掛けに思わず答えてしまった。

 クライドさんが不思議そうな顔をする。

「ああ、俺、クロノの…知り合いなんで」

 友達ってのは、嘘になるよな。そこまで親しい訳じゃないしな。

「成程、息子の知り合いだったか。まあ、呑気に話している時間は、残念ながらないようだ」

 クライドさんは、既に他で始まっている戦闘に目を遣る。

 そっくりさんとそれぞれ戦闘に突入している。

 違いは分かるけど、紛らわしいな。

 でも、時間がないっていうと…。

「すまないが、私も今は守護者の身でね。命令に逆らえないんだ。手加減も出来ない」

 クライドさんの気配が変わる。

 穏やかなイケメンから、戦士の顔に変わる。

 やっぱり、そうなるか…。

「でも、1つだけ訊かせて下さい」

「なんだろう?」

 クライドさんがデバイスの杖を取り出し、構える。

「俺が勝ったら、クロノやリンディさんの元に帰れたりするんですか?」

 俺の言葉に、クライドさんが寂しそうに微笑んだ。

 そして、無言で首を振った。

 そこまでのご都合はなし、か。

「僕が死んだのは事実だからね。それは変えられない。因果が終われば、役割も終わりだ。

気を遣わせてしまって、申し訳ない」

 俺も黙って首を振った。

 余計な事、訊いちまったな。

「勝ちますよ。せめて、その因果が終わるように」

 俺は決意を籠めて、クライドさんに剣を向けた。

「残念だよ。君とは、こういう形ではなく、別の形で会いたかった」

 俺も気持ちは同じだが、これ以上は言葉を無用だろう。

 何より、これ以上喋ったら、余計な事をもっと口走りそうだ。

 

 俺とクライドさんは、まるでこれから模擬戦でも行うように、向かい合って礼をする。

 俺とクライドさんの魔法が、同時に構築完了し放たれる。

 

 手加減抜きの殺し合いは初めてだが、俺は意外と自分が落ち着いている事を感じながら、

 クライドさんに向かって行った。

 

 

              :レティ

 

 俄かに、艦隊運用部が騒がしくなる。

 ノルド長官が倒れたという報が、ここまで届いたのだ。

 艦体管制室に、非常事態宣言を示す警報が鳴り響く。

 緊急通信で命令が下される。

『今現在、動けるアルカンシェル搭載艦は、出撃準備に入れ!!闇の書の暴走が始まった!!

繰り返す。闇の書の暴走が始まった。アルカンシェル搭載艦は、出撃準備が整い次第、97管理

外世界へ事態の収拾に当たれ!!以上』

 出れるだけって、それ程多い訳じゃないけど、97管理外世界の被害を無視する気なの!?

 まともな指示ではないのは、確かだ。

「レティ提督…」

 部下が私を伺うように見る。

「準備だけは進めなさい。私が確かめます」

「「「了解!」」」

 部下が敬礼と共に、作業に取り掛かる。

 私は素早く立ち上がると、管制室を後にする。

 長官が倒れたタイミングで、非常事態宣言。何かが起きている。

 ごめんなさい。リンディ。情報は間に合いそうにないわ。

 でも、私に出来る事はやるから。

 

 司令部に急ぎ足で向かう。

 司令部の中に入ると、自分達の作業に追われ、誰も私に気付かなかった。

 メイ司令が、ウィンドウを見ながら、部下に怒鳴り散らしている。

 彼は長官の腰巾着で有名な男だ。

 私は、メイ司令に近付いていく。

「祟り神め!手段を選ぶな!!事態の収拾が出来れば、管理外世界の被害など安いものだ!!」

 祟り神?その言葉に引っ掛かるが、先にやる事がある。

「メイ司令。今の発言は問題があるのでは?管理局員のセリフとは思えませんよ」

「レティ提督…。今は緊急事態なのだ!!余計な口を挿むな!!」

 メイ司令が激昂して、私に怒鳴り散らす。

 私は反論を口にしようとして、言葉が出なくなった。

 ウィンドウには、よく知る人物が映っていたからだ。

「クライド君!?」

 祟り神。メイ司令は彼を見て、そう言ったのだ。

 彼の存在が、今回の無茶苦茶な指示の原因の1つなのは、間違いないだろう。

「さて、司令。詳しい事情を説明してい頂けますか?」

 メイ司令は、ウィンドウを乱暴に切ると、目を泳がせる。

「君は、今緊急事態だと理解しているのか!?闇の書の暴走が始まっているのだぞ!!」

「その割に、貴方はクライド君…クライド元・提督を気になさっているようですが?」

 闇の書の暴走が気になるなら、そちらを映像を監視している筈だ。

 にも関わらず、彼が見ていたのは闇の書の暴走と関係が薄そうなクライド君の映像。

「命令の根拠を別室で、是非お聞きしたいですわ。出来ないと仰るなら、艦隊の手配の手を

止めざるを得ませんね」

 私の言葉にメイ司令が、青筋を浮かべる。

「貴様!!」

「現地の魔導師達がベストを尽くしているうちに、説明下さいますか?それとも、彼が何か

語るのを待ちますか?」

 メイ司令が言葉を詰まらせる。

 私は笑顔で外を示した。

 メイ司令は、手を止めてこちらを見ている部下を睨み付ける。

「手を止めるな!!」

 メイ司令は私を押し退けるように、司令部を出て行った。

 私はその後を追って歩き出した。

 

 出来るだけ、役に立ちそうな情報を取らないとね。

 

 

              :リンディ

 

 これ程、動揺した事はない。

 そう断言出来る出来事だった。

 アラートが鳴り響き、私は頭を切り替えるとブリッジに急いで向かった。

 ブリッジでその映像を私は見た。

 もう、写真でしか見られない夫の顔を。

「アナタ…。どうして…」

 頭のどこかで、冷静な部分がアースラ艦長としての責務を果たせと訴えるが、私は指示を

出す事が出来なかった。

 ブリッジメンバーは夫の顔を知っている者ばかりだ。

 私が呆然と立ち尽くしている理由も、承知している。

 こんな事ではいけない。

「艦長!アルカンシエル搭載艦が、こちらに応援に向かうとの事です」

「分かりました。現地魔導師のサポートと観測を怠らないように」

 私はどうにかそれだけ言えた。

「「「了解!!」」」

 今のところ、管理局の切札。暴走に備えているのは分かるけど、動きが早いわね。

 

 私は映像の中の夫に、チラリと視線を向けた。

 

 

              :ユーノ

 

 クライド提督の私物は、意外に早く届けられた。

 それは、万年筆。

 ロッテさんが連絡を取ってくれて、忙しい筈のアリアさんが届けてくれたので、早かった

らしい。事態を重く見て、アリアさんが届ける事になったという。

 どうあれ、早ければそれだけなのは達に重要な情報を伝えられるんだから、問題ない。

 

 僕は早速、検索を開始する。

 クライド提督の痕跡を。

 未整理で放置されていた事が、吉と出たみたいだ。

 流石に、時間が経って探り難くはなっているけど。

 探す為の糸は、なんとか追える。

 アリアさんとロッテさんが、護衛として左右を固める。

 糸は下層に伸びている。

 僕がその事を言うと、2人は苦い顔になった。

「封印区画とかじゃないといいんだけどね」

 アリアさんが不穏な単語を口にする。

「あの…封印区画って?」

 下へ移動しながら訊いてみる。

 知らないと困る事もあると思う。何せ、そこに行かなきゃいけないかもしれないんだし。

「無限書庫自体未整理なのは、知ってるでしょ?発掘調査はしてるんだけど、下層の奥になる

と、それ自体が魔力を持って悪さをしたりする魔導書とか、呪書とか、曰く付きの書があって

ね。ここを造った人も何を考えたのか、入れるだけ入れて扉で封印してるのよ」

 アリアさんが苦い表情のまま説明してくれる。

 何それ、怖い。

 他にも守護のゴーレム、亡霊、怖い書が仕掛けた罠が満載で、発掘は命懸けらしい。

 この2人をもってしても緊張する場所らしい。

 怖いから、ここで失礼しますって訳にはいかない。

 僕達は覚悟を決めて、糸を追ってドンドン下の階層に下りて行った。

 

 嫌な予感というのは、大抵の場合当たるものだよね。

 糸は、下層の封印された区画の向こうに伸びていた。

 やっぱり、そうなりますよね。

 僕は2人を振り返る。

「大丈夫。こんな事もあるかもしれないから、マスターキーを借りて来たから」

 あるんだ。マスターキー。

 アリアさんが、魔力の籠ったカードを翳すと、扉が嫌な音を立てて開く。

 が、暗がりからゴーレムが雪崩れ込んでくる。

「スティンガースナイプ!!ロッテ!!」

 アリアさんの魔法が螺旋を描きゴーレムの先陣を砕く。

「合点だ!ニャァーーー!!」

 ロッテさんが物凄いスピードで、アリアさんが撃ち漏らしたゴーレムをまるで舞でも舞う

ように、ステップを踏み蹴り砕いていく。

 拳を撃ち込めば、他のゴーレムを巻き込んで吹き飛んでいく。

 強い!!

 2人の連携の前に待ち構えていたゴーレムは、全滅してしまった。

「早く、クライド君の残したものを回収して、戻らないとね。いくら私達でも、スタミナも

魔力ももたないよ」

 ロッテさんが珍しく真剣な表情で言った。

 アリアさんも同意して頷く。

 僕も異論はない。

 ロッテさんが前、アリアさんが後を固める形で扉の奥へと向かった。

 

 立て続けに、物騒なものに襲われ、罠が発動する。

 僕達の後ろには残骸が山のように浮いている。

 2人も額に汗が流れている。

 どれだけ時間が経ったか、分かり難い。

 そして、遂に糸の先を見付けた。

「流石、クライド君。こんなところに隠されたら、見付けようなんて思わないだろうね」

 辿り着くのも、2人くらいの強い力も持った人間じゃないと、厳しいだろうね。

 怖い書物を退かしていくと、書架が壊れて空間が出来ていた。

 そこに書物が何冊も突っ込んであった。

 書物を全部取り出していく。

 

 僕達はすぐさまそれを取って、急いで封印区画を後にした。

 帰りもキッチリ何故か襲われたんだけどね。

 

 

              :クロノ

 

 例のアミューズメントパークに到着して、容疑者を待ち構える。

 艦長の魔法は、今も継続している。

 精霊が僕に容疑者の接近を教えてくれる。

 相変わらず、この魔法は反則だな。

 到着の報告は、艦長や飛鷹達に入れてある。

 魔法は使わずに、侵入しているので見付かり難い筈だ。

 相手はどんな存在か分からないから、当てにはならないが。

 前回、ここに来た時に警備システムを確認しておいたのが、役に立った。

 容疑者を誤魔化す役に立つかは、まだ分からないけど。

「アミティエ。大丈夫なのか、本当に」

 僕はまだ本調子とは程遠い感じの、アミティエに声を掛ける。

「ええ。大丈夫です」

 全く大丈夫ではなさそうだが、これ以上言っても聞かなそうだ。

 僕は1つ溜息を吐く。

 2人の使い魔は、気配も感じさせずに隠れている。

 アルフの方には不安があったが、おそらくリニスの方がなんとかしたのだろう。

 この2人は、師弟関係になるそうだしな。アルフも大人しく言う事を聞いたのだろう。

 僕とアミティエ。リニスとアルフでコンビを組んで隠れている。

 

 ジッとその時を待つ。

 もしかして、気付かれているかもしれない。色々な不安が過るが、それを飲み込む。

 そして、遂にその時がきた。

 

 容疑者の2人が永遠結晶(エグザミア)のある部屋に入って来た。

 

 

              :キリエ

 

 あの悲鳴が耳にこびり付いて離れない。

 仕方なかったとはいえ、罪悪感は拭えなかった。

 私も大切な人達を救いたいから、余計だった。

 自分の大切な人達を助ける為に、他人の大切な人を犠牲にする。

 自分がとんでもない悪人になったような気がした。

「キリエ、気に病まないで。仕方なかったなんて言わないけど、これが終わったら、みんな

救われるから」

 イリスが、気落ちしている私を気に掛けて声を掛けてくれる。

「ありがとう」

 私は弱々しく微笑んで礼を言った。

 そう、もうすぐだ。これが済んだら、あの子に謝ろう。許してくれないと思うけど…。

 大切な人達を取り返す手助けくらいは、出来ると思うから。

 永遠結晶(エグザミア)のある施設が見えて来た。

「行こう!」

 私はイリスを追い抜いて、施設の前に降り立った。

 イリスが文句を言いながら、後から降り立つ。

 

 中は静まり返っていた。

 まあ、当然だけどね、()()()()()()()()()

 永遠結晶(エグザミア)のある部屋まで、問題なく到着する。

 でも、私達は立ち止まる。

 焦ってはいけない。

「イリス。どう?」

 管理局がここを見張っている可能性は、十分にある。寧ろ、待ち構えていると考えるべき

だろう。なのに、この静けさ。

 イリスはニッコリと笑う。

「隠れてる人達。出てきたら?もうバレてるわ」

 私は臨戦態勢を取り、視野を広く持つ。

 すると、執務官と使い魔が出て来た。

 それに…お姉ちゃんも。

「流石に、正体不明だけあって、気付かれたか…」

 執務官が口を開く。

 正体不明?お姉ちゃんから聞いてないの?

 私はお姉ちゃんを睨み付ける。

「よく私の前に顔を出せたよね!?裏切った癖に!!」

 お姉ちゃんは、首を振った。

「それはイリスから聞いた事でしょう。私に訊かないんですか?」

 お姉ちゃんの顔に苦悩の色はなく、ただ淡々としていた。

「訊く?今更何を訊く事があるの?何故、裏切ったか訊けって!?」

「当然でしょう。貴女と私は捜査官として働いてきました。一方の主張のみを聞いても、

真実は見えてこない。知っている筈です」

 今更、捜査官ごっこをやれって?

 私は鼻で嗤う。

 お姉ちゃんはそれを無視して、言葉を続ける。

「私は裏切ってなどいません。逆に訊きましょうか?父さんが、あの父さんが、いくら

私達の世界が危機だからといって、人を踏み付けにする事をよしとする人でしたか?」

 お父さんは…思い出そうとして、思考を止める。

 誤魔化しだ。ただの時間稼ぎに過ぎない。今すぐに裏切り者を始末するんだ。

 お父さんも最初は悲しむだろうけど、納得してくれる筈だ。

「今、思考にブレーキが掛かりませんでしたか?」

 私の怒りの表情に、お姉ちゃんは冷静に指摘した。

 そうだ。お姉ちゃんが淡々としている時は、人を観察している時だ。

「……」

 私は言おうとした言葉を忘れてしまった。

 それ程、驚いたと言える。

 確かに今、お父さんの事を思い出そうとしたら、別の感情に塗りつぶされたような気が

する。今も感情が制御出来ない。怒りや戸惑いがごちゃ混ぜになっている。

 頭のどこかで、これ以上考えるなと言っている。

 考えるな?言っている?

「父さんがイリスの計画に賛同した時、寝ていましたか?それとも立っていましたか?」

 思い出そうとする。頭が痛い。

 戸惑ってイリスに縋るように視線をやると、イリスは見た事もないような醒めた顔で、

私を見ていた。どうして?何か言ってよ!

「父さんの病状はどうでしたか?最後に話したのはいつです?」

 思い出せない。どうだった?

「私はそのくらいで思い出したんですけどね。貴女は、それ程にイリスを信頼しているの

ですね」

 お姉ちゃんは、悲しそうにそう言った。

「父さんは、もう私達が管理局に入った時には、寝たきりで話が出来る状態じゃなかった

でしょ?」

「っ!?」

「計画に賛同した時の父さんは、どうでしたか?」

 答えられなかった。

 だって、そんな記憶、実際なかったんだから。

 父さんは、確かに寝たきりで、生命維持装置に繋がっていたんだから。

 それを思い出した。

「貴女…なの?イリス…」

 私は信じられない、いや信じたくない気持ちでイリスを見る。

 

『私は、貴女だって凄いと思うよ!』

『キリエだったら、出来るよ!自分を信じて上げて!少なくとも、ここに貴女を信じて

いるものがいるよ!』

 

 いつだって、励ましてくれた。唯一認めてくれていた。

 

「はぁ~。私と同じ方法とる?普通。ま、いいか、ここまで来たらもう要らないし」

 

「え…?」

 私の間の抜けた声が、虚しく響く。

 イリスは、ニッコリと笑った。いつものように。

「貴女は本当によくやってくれたわ。まあ、イライラさせられる事も多かったけど、概ね

満足いく結果だったわ。ありがとう」

「嘘…よね?何か事情があるんでしょ?チャンとエルトリアを救ってくれるんだよね?」

 イリスは笑顔から一転、白けた顔になった。

「アンタのそういうところが、嫌だったのよ。イチイチ肯定してあげないと進めない。

アンタ見てると、誰かを思い出して吐き気がするのよ」

 イリスは嫌悪感に満ちた表情で、手を差し出した。

 そこに、黒い球体が形成される。

「回避!!」

 執務官が警告の声を上げるが、私は動けなかった。

「キリエ!!」

 お姉ちゃんの声が、どこか遠くから聞こえた。

「それじゃ、さよなら」

 黒い球体から、鋭い槍が空間を埋め尽くす程、放たれた。

 やけに、切先が遅い。身体は動かないのに、時間だけはゆっくりと迫ってきていた。

 

 ああ…。イリスに見捨てられたんだなぁ。

 

 裏切られたのに、涙が一筋流れた。

 

 衝撃が身体に襲い掛かる。

 壁に叩き付けられる。

 

 意識が一瞬遠のいたけど、いつまで経っても死が訪れない。

 私は目を開けた。

 けど、そこには、信じられない光景が広がっていた。

「キリエ…。無事です…か」

 お姉ちゃんが、私に覆い被さるように私を護っていた。

 遠くに飛ばされたお陰か、身体が粉々になるような事はなかった。

 でも、お姉ちゃんの身体には、黒い槍が幾つも貫通していた。

 私に刺さらなかったのは、お姉ちゃんが身体で槍を止めてくれたからだった。

「どうして…?」

 裏切ったのに。嫌ってたのに。どうして、護ってくれるのよ…。

 お姉ちゃんは微笑んだ。

「妹を護る…のに、理由…が要りますか?」

「馬鹿だよ…」

「お互い様です」

 黒い槍が引き戻される。

 視界が回復すると、辺りは瓦礫の山だった。

 イリスが永遠結晶(エグザミア)の前に、立っているのが見える。

 永遠結晶(エグザミア)に球体の鍵が吸い込まれる。

 

 そして、轟音と共に永遠結晶(エグザミア)が崩れ落ちた。

 

 ユーリが地面に落ちる。

 が、そこに異様な物が浮いていた。

 白い機甲の翼というべきもの。

 それを見て、イリスは涙を流した。

「お帰りなさい。私の魄翼。やっと私の元へ戻ってきたね…」

 機甲の翼も、喜ぶように震えた。

 

「うっ…ううん…」

 地面に落ちた衝撃でユーリが目を覚ましたようだった。

「あら、お目覚め?」

 ユーリはイリスをボンヤリと見る。

「あ、貴女は?」

 ユーリがそう言った瞬間、黒いバインドがユーリを拘束する。

「そうだったわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()。安心して、すぐに

思い出させて上げるから」

 イリスは残忍な笑みを浮かべて、楽し気に嗤った。

 イリスが私の方を振り返る。

「無事だったんだ。ご愁傷様ね」

 まるで踏み潰した虫が、死んでいなかったかのような声で言った。

「ああ!生き残ったご褒美にエルトリアは救ってあげる。魄翼を使ってね」

 私はどういう顔をしていいのか、分からなかった。

 ただお姉ちゃんを抱き締めていた。

「そう!所謂、安楽死ってやつね!」

「っ!!」

 まだ、イリスの言葉にショックを受けている自分が情けなかった。

「ごめんね。これ、壊す事、滅ぼす事しか出来ないの。でも、貴女には散々役に立って

貰ったし、チャンスを上げるわ」

 イリスが私の方へ歩いてくる。

 私の目の前で立ち止まると、私に顔を近付けてくる。

 私は咄嗟にヴァリアントを取り出し、拳銃形態にして構える。

「私を撃てたら、安楽死は止めて上げる。でも、出来なかったら…分かるわよね?」

 私が構えた拳銃を掴んで、イリスは自分の眉間にピタリとポイントする。

「っ!!」

 私の手が震える。

「さあ、撃って御覧なさい。さあ!」

 震える指でトリガーに力を籠めようとする。

「うわぁああぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

 私の腕が地面に垂れる。

 イリスの手には、ヴァリアントザッパーのみが残される。

「貴女のお姉ちゃんは、出来たわよ?やっぱり、ダメね。貴女」

 イリスは興味を失い、背を向けてユーリに近付いていく。

「待たせたわね、ユーリ。始めましょうか」

 イリスがユーリに手を伸ばした。

 だが、その手はユーリに触れる事はなかった。

 高速で回転して飛んできたハルバードに阻まれたからだ。

 瓦礫にハルバードが突き刺さって止まる。

「しぶとい獣ね」

 忌々しそうにイリスが視線を送った先には、使い魔が2人立っていた。

「確かに…、主の言う通りですね。貴女、不快ですよ」

「奇遇ね。私も不快だわ。もう決着が付いているのに、まだやるなんて」

 ハルバードが使い魔の手に戻る。

「私では残念ながら貴女に勝てないでしょう。ですから、時間稼ぎさせて貰います」

 イリスは鼻で嗤うと、機甲の翼に触れる。

「どれ程、稼げるかしらね?」

「必要なだけに決まってんだろ!!外道が!!」

 もう1人の使い魔が吠えた。

 

「仕様がない獣ね。少しだけ、遊んであげる。試運転くらいにはなってね?」

 

 

              :クロノ

 

 瓦礫の下敷きになったか。

 身体が動かない。

 死んだという訳ではない…と思う。

 周囲は暗いし、身動き1つ取れない。

 魔法で脱出するしかないが、どうも上手くいかない。

『〇〇〇〇〇〇との血縁を認められるが、守護者筆頭の不在の為、格納出来ません』

 何?どこからだ?

『肉体の生存を確認。強制送還を開始』

 何を言っているんだ?

 

 僕の身体は、突然何かに弾き飛ばされたように打ち上げられた。

 

 意識が覚醒してくる。

「なんだ?今のは」

 

 そんな事を考えている場合じゃないな。脱出だ。

 執務官としての責務を果たさなければ。

 

 

              :はやて

 

 鳥の鳴き声。

 それに気付いて、私は目を開けた。

 見慣れた天井が目に飛び込んでくる。

「悪い夢でも、見たんやろか?」

 身体の調子が今日は矢鱈ええな。

 体を起こすと、部屋のドアがノックされる。

「もう起きとるよ!」

 扉が開かれる。

「せやったら、サッサと下りてこなあかんやろ。朝ご飯、出来とるよ」

 そこには、写真でしか見る事の出来ない人が立っとった。

「お母ちゃん?」

 お母ちゃんは怪訝な顔で私を見てくる。

「寝惚けとらんと、早う支度しい」

 お母ちゃんはそう言うと、扉を閉めた。

 

 ベットの傍を見ると、見慣れた物がない。

 車椅子や。どこいったんやろうか?

 無意識のうちに、私はスルリとベットから出て立ち上がっとった。

「あれ?…車椅子?なんで私、そんなもん探しとったんやろか?」

 

 ああ。学校に遅刻してまうわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回は、4人の戦闘にケリを付ける積もりです。
 おいおい、と思った方すいません。

 次回は戦闘だらけになる予定です。
 難しい戦いになりそうです。私がですが。

 次回も気長に待って頂ければ幸いです。


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第41話 激闘

 七転八倒しながら書きました。
 厳しい戦いだった。

 では、お願いします。


             :なのは

 

 魔力弾と炎熱弾が衝突して爆発する。

 展開出来るだけ展開して撃ち込んでいるけど、ちっとも攻撃が通らない。

 それどころか、こちらに炎熱弾が幾つかこっちに抜けてくる。

 私は防御か回避にも思考を割かないといけなくなった。

 このままだと、押し切られる!

 私は魔力弾を切り替える。

 前回の事件で学んだもの。

 魔力弾が小さくなる分、弾道の制御をキチンとしないといけないけど、貫通力が増す。

「シュート!!」

 魔力弾を圧縮し、拳銃みたいに螺旋の回転をしながら加速して飛んでいく。

 こちらに殺到してくる炎熱弾が撃ち抜かれていく。

「なっ!」

 初めてシュテルから驚きの声が漏れた。

 撃ち抜かれた炎熱弾が一拍遅れて爆発する。

 高速の魔力弾が全弾、シュテルに直撃し爆発する。

 私の方は、抜けてきた炎熱弾を防御する。

 油断なく残心。

 煙が晴れてくる。

 無傷ではない筈。

 シュテルは、キチンと防御出来たとは思えないくらいの魔力しか纏っていなかった。

 煙が晴れて、シュテルの姿が完全に見える。

 

 シュテルは無傷だった。

 

 レイジングハートに似た感じの槍からは、少し煙が纏わり付いている。

 まさか!?槍で全部打ち落としたの!?

「このまま押し切れると思ったのですが。どうやら侮っていたようです。失礼しました」

 シュテルはそう言うと槍を一振りして、煙を完全に払う。

「才だけではなく、余程よい師、よい戦いに恵まれたのですね」

 シュテルが片手で槍を構える。

 両手で構えないの?

「ここより、私の戦い方をお見せしましょう」

 炎熱弾を生成しつつ、こちらに吶喊してくる。

 私は咄嗟に魔力弾を展開し、撃ち込む。

 シュテルが炎熱弾を先行させる。

 やっぱり撃ち落とすのかと思ったら、突然シュテルが加速し、炎熱弾を追い越す。

「っ!!」

 シュテルが魔力弾の隙を縫うように、接近してくる。

 魔力弾が小さくなった分、避け易くなってるんだ!

 でも、なんで追い越したの?

 その理由は、すぐに分かった。

 シュテルの背後で爆発が起きる。

 シュテルは爆風を利用して、更に加速し一気に間合いに突っ込んでくる。

 気付けば、シュテルが目の前に来ていた。

 槍を片手にも関わらず、物凄いスピードで突き込む。

 私はレイジングハートで防御姿勢を取る。

『ラウンドシールド』

 レイジングハートが、カートリッジを数発使用しシールドを強化する。

 強化した筈のシールドに槍が激突する。

 しまった!と思った時には吹き飛ばされていた。

「きゃあーー!!」

 幾つか民家を突き破り止まる。

「…っ!!」

 痛みに顔を顰める。

 あれだけの猛スピードで吶喊してくるんだから、衝撃も相当なものだ。

 私は美海ちゃんがよくやっているように、衝撃を逃がすような受け方をしなければ

ならなかった。

 痛みを無視して上体を起こした途端に、目を見開いてしまった。

 無数の炎熱弾が殺到して来ていた。

 回避は間に合わない。

 レイジングハートがカートリッジを消費する。

『プロテクション』

 私を包み込むバリアが完成し、炎熱弾を防ぎ切る。

 攻撃が止み、煙が晴れていくと周囲はクレーターになっていた。

 そこにシュテルの槍が、炎刃を纏い焼き尽くすように振り下ろされる。

 衝撃音と共に地面が高熱で蒸発する。

「そこで防御を選択したのは、間違いでしたね」

 シュテルがそう言った瞬間、バインドが彼女を拘束した。

「何!?」

 でも、残念。

 私は僅かな攻撃の切れ間にフラッシュムーヴで、その場を逃れていたんだ。

 その場に、プロテクションを展開したままにした。

 自分の魔法を囮にしたんだよ。

「レイジングハート!!ロードカートリッジ!!」

 レイジングハートが答える代わりに、薬莢を次々に吐き出していく。

『カノンモード。ディバインバスター』

 カートリッジ丸々一本使い切った全力の魔力砲撃。

 それが、シュテルに直撃した。

 大爆発を起こす。

 使い切れなかった魔力がレイジングハートから吐き出され、私は予備弾倉を取り出し

レイジングハートに装填する。

『リロード』

 周辺の気配を探りつつ、魔力弾を展開。

 シュテルはまだうごいていない。やっぱり、倒せてない。

 すぐさま、魔力弾を全弾発射。

 同時にシュテルも、煙を引き裂くように高速で向かってきた。

 多分、今シュテルが展開している盾で防がれたんだと思うけど、シュテルにダメージ

はない。

 高速魔力弾を炎熱の盾と槍が、次々に打ち落としていく。

 私は即座に離脱。

 私とシュテルは空戦を開始した。

 

 目まぐるしく、前後が入れ替わり、魔力弾と炎熱弾が交わされる。

 私はレイジングハートを近接戦モードの棒に変形させている。

 技量の差で、頻繁に接近戦に持ち込まれるからだ。

 今も追いつかれ、炎熱の槍が振るわれる。

 激しい打ち合いになるが、こちらのシールドはシュテルの槍の一撃を受けるので精一杯

だ。となると、手段は砲撃による攻撃しかないんだけど…。

 隙を見て砲撃を撃っても、分厚い炎熱の盾で防がれる。

 鋭い刺突を逸らし損ねて、瓦礫に叩き付けられるが、すぐさま飛び上がる。

 息が切れる。

「手札が尽きてきましたか。一つ覚えの砲撃では、私は倒せません」

「まだだよ!!」

 まだ切っていない手が、ある。

『レイジングハート…』

 念話でレイジングハートに呼び掛ける。

『美海のおかげでアレは安定しています。存分に』

『ありがとう。レイジングハート』

 念話での確認が終わる。なら、迷わず使う。

「レイジングハート!!エクセリオンモード!!」

『オーライ。エクセリオンモード』

 カートリッジを消費し、ボロボロになったバリアジャケットとデバイスが再構築される。

「成程、防御を強化し、攻撃力を上げたのですね。しかし、舐められたものですね。まだ、

その程度で逆転出来ると考えるとは」

 シュテルが不快そうに眉を顰める。

「レイジングハートが力をくれてる!私は、はやてちゃんもみんなも護ってみせる!!」

「言葉ではなんとでも言えます。実際に見せて貰いましょう」

 私はそれを証明する為に、シュテルに立ち向かう。

 正面からシュテルと激突する。

 デバイス同士が火花を散らし、お互いに距離を取る。

「海鳴閃!!」

 離れる瞬間に技を繰り出すが、シュテルの一撃に打ち消されてしまう。

「そんな技まで使えますか、二流なら炎を切り裂かれるでしょうね」

「っ!!」

 技を一撃で見抜かれた。

 私は吶喊してくるシュテルと距離を取ろうとして、足が引っ張られる感じで停止して

しまった。

 見れば、足に魔力で出来た鎖が巻き付いていた。

 バインド!?

「では、失礼」

 シュテルはそう言うと、物凄い力で鎖を引っ張り私事振り回す。

 遠心力を付けて地面に叩き付けられる。

 こんな使い方もあったんだ!?

 バインドの鎖を海鳴閃で切り裂く。

 フラッシュムーヴを使おうとして、顔面に衝撃が走り地面に再び叩き付けられる。

 余りの衝撃に意識が飛び掛ける。

 これ、左手…?

「高速の移動手段があるのは、承知しています。ブラストクロウ」

『プロテクション』

 次の瞬間に凄い爆炎が巻き起こる。

 

 私は離脱に成功していた。

 ダメージは免れなかったけど…。

 寸前でレイジングハートが、バリアバーストを使ってシュテルの手を緩めてくれなかった

ら、そこで終わっていたかも。

 それでも結んでいた髪は、解けてしまっていた。

 少しの火傷はあるかも。ヒリヒリする。

 フィールド系の防御でレイジングハートが護ってくれたとはいえ、よく無事だったと思う。

「呆れた頑丈さですね。直撃ではないとはいえ、あれに耐えるとは」

 あの手甲、あれもデバイスだったんだ。

 私は予備弾倉を無言で装填する。

「アクセルチャージャー起動。ストライクフレーム…」

 レイジングハートが砲身を槍のような形状にして、魔力の羽を広げる。

 もう、あまり余裕はない。

「エクセリオンバスターA・C・S。ドライブ!!」

 これで決める。

 私はこれまでにないスピードで、シュテルに突撃をする。

 シュテルは一瞬、目を見開いたけど、冷静に回避を選択。

 これは、たった一度しか多分通じない。

 今までにない程のスピードで突撃しているのに、時間が飴みたいに伸びている。

 物凄く遅く感じる。

 焦らないで、見極める。

 シュテルが、カウンターで一撃入れて終わらせる態勢に入る。

 当然そうなるよね。でも!!

 ここ!!

 物凄く耳障りな擦れる音が響く。

 私は逃さず()()()()()()()()()()()()()()

 私は足場でレイジングハートの軌道をズラして、もう一度スピードを出す為に蹴り上げた

んだ。

「その技術は!?」

 そう、美海ちゃんが空戦でやっていた事だ。

 ワンパターンな突撃は、回避され易い。でも、これなら一度くらいイケると思った。

 シュテルが、咄嗟に炎熱の盾を展開して()()()私を止めたけど、構わず突撃する。

「クッ!!」

 シュテルが初めて顔を歪ませる。

 ドンドン押し込んでいくけど、盾は突破出来ない。

「お願い!!通って!!」

 レイジングハートが応えるように、カートリッジを使用する。

 私もありったけの魔力と力を注ぎ込む。

 硬い盾を穂先が僅かに貫通した。

「まさか!?」

「ブレイク…シュート!!」

 私の魔力が奔流となってシュテルを吹き飛ばした。

 

 荒い息を吐く。

 バスターをゼロ距離で直撃。これで、どう!?

 気力だけでレイジングハートを構える。

 そして、ボロボロではあるけど健在なシュテルが姿を現す。

「もう一頑張りだね」

『イエス』

 シュテルは目を閉じて、微笑む。

「まさか、ここまでとは。名残惜しくなりましたが、これで終わりにしましょう。

ルシフェリオン!!」

 シュテルが槍を振り上げる。

 周辺魔力が動く気配がある。まさか!?シュテルもブレイカーを!?

 皮肉だけど、私もブレイカーくらいしか手札が、残っていない。

「レイジングハート!!」

『オーライ。スターライトブレイカー』

 ブレイカーは周辺の魔力を集め、収束する。

 ブレイカー同士なら、先にチャージを始めた方が威力は上になる。それだけ多くの魔力を

吸収されてしまうんだから。

 本来なら。

「っ!?」

 シュテルが気付いた。私のブレイカーも威力がそんなに劣っていない事に。

 私だけの武器。同調。

 シュテルが吸収する筈だった魔力を、奪い取る。

『スパイラルシフト』

 収束した魔力を球体に編み込むように、螺旋を描き構成していく。

 朱色とピンクの巨大な球体が完成する。

「スターライトォーー」

「ルシフェリオン…」

 

「「ブレイカー!!!」」

 

 巨大な2つの球体が激突し、大爆発を起こす。周囲の被害…大丈夫だといいけど…。

 そんな事が少し頭を過ぎったけど、自然と私は魔力爆発の中心へと突撃していた。

 エクセリオンモードじゃなかったら、同調がなかったら、収束した魔力で自分を護って

いなかったら消し飛んでる。

 爆発を突き抜け、シュテルの元へ。

 流石に予想外だったようで、シュテルが驚きの表情で見ていた。

「飛鷹君直伝…ブラッディースクライド!!」

 レイジングハートを突き出す。

 シュテルが笑った。

 え?

 レイジングハートがシュテルの胸に吸い込まれる。

 シュテルが吹き飛んで瓦礫に突っ込み、停止した。

 

 私はシュテルのところへ降り立つ。

 シュテルは立ち上がれないようで、倒れたままだった。

「お見事です」

 シュテルはそんな事を言った。

「どうして、本気で戦わなかったの?」

 必死で戦っている最中は気付かなかったけど、シュテルは私に余裕で勝てた筈だ。

 エクセリオンモードでも軽くあしらわれたくらいなんだから。

 シュテルはこちらを試すように戦っていた。

 どうして、そんな事をしてくれたの?

「殲滅しろと言われましたが、どう殲滅するかは、私の自由です。貴女が心折れるようなら、

そのまま死んで貰う積もりでしたよ」

 あっ…。

 どれ程の覚悟かを試されていたんだ。

 戦う者の覚悟、傷付ける覚悟、傷付けられる覚悟をシュテルは教えてくれたんだ。

 それが足りずに足が竦んでしまわないように。

「ありがとう…ございました」

 師匠がどんどん増えていくみたいだ。

「やはり、よい師に恵まれているようですね。手をお出しなさい」

 私は訳が分からなかったけど、シュテルに手を差し出した。

「餞別です」

 シュテルの身体が発光する。少しずつ身体が消えていく。

「シュテル!?」

「私は亡霊のようなものです。でも、ご安心を。()()()()()です」

 光が私を包み込む。

 バリアジャケットとレイジングハートが再構成される。

 

「あの方の支えになってあげて下さい」

 

 シュテルはそう言って消えていった。

 どういう理屈かは分からない。でも、分かっている事は私がシュテルの力を引き継いだ事。

『フォートレスモード』

 かなり装甲が強化されているし、シュテルの手甲も受け継がれている。

 魔力も体力も回復している。

 私の身体から炎が上がる。

 

「ありがとう、シュテル。頑張るから…」

 

 あの方って、多分美海ちゃんの事だよね?

 シュテルは、あの足場を造って蹴り上げる技術を知っていた。

 あんな空戦する人、美海ちゃんくらいしかいないもん。

 

 なんで、美海ちゃんを知ってるんだろう?

 

 

 

             :フェイト

 

 大剣と戦斧が空中で激突する。

 私とレヴィは変換資質が同じらしく、レヴィの大剣は放電している。

 空中を舞いながらレヴィが、大剣を振るう。

 レヴィの体格だと大剣が余計に大きく見える。

 レヴィはそれを小枝のように振り回している。

「ほれ、ほれ、ほれ!」

 余裕を持って私と打ち合っている。

 どれ程、技を尽くして攻め立てても、大剣に阻まれる。

 レヴィの剣は不思議なもので、美海のようにどこかで正式に習ったものではないみたいだ。

 自由奔放な剣とでも言えばいいのか、凄く変則的だ。

 好機と危機を見逃さない臭覚は、凄いと思う。

 奇抜な動きも計算の元でやっているように、自然にこちらの好機を潰して、レヴィの好機

に変えてしまう。

 その所為で、さっきから防戦一方だ。

『プラズマランサー』

 バルディッシュがシリンダーを回し、カートリッジを消費する。

 なんとかレヴィから距離を取り、魔法を放つ。

「光翼ざーん」

 気の抜けたような声と共に大剣が振られる。

 大剣が稲妻の片翼のような形に変化し、それが翼を広げて飛んでくるようだった。

 雷の槍が蹴散らされ、私目掛けて飛んでくる。

「はっ!!」

 私は魔力を切断する要領で戦斧を振るう。

 稲妻の翼を斬るまではいかないけど、爆発させる事は出来た。

「ターン!」

 蹴散らされた雷の槍が、方向を変えてレヴィに向けて放たれる。

「およ?」

 レヴィの気の抜けた声がする。

 レヴィは軽く動いては槍を斬り払っている。

 私はその隙に、ソニックムーヴで一気に間合いに侵入する。

 私はバルディッシュを全力で振り抜く。

『ハーケンフォーム』

 レヴィは紙一重で躱そうとしたが、突然伸びた鎌の刃で目測を誤る。

 誤った筈だった。

 でも、この攻撃は空を切る結果になった。

 高速の移動魔法!?それとも武術的な動きだったの!?

 まるで霞むように刃が届かなかった。

 奇襲同然での攻撃なのに、レヴィがカウンター気味に大剣を振るう。

『ディフェンサー』

 咄嗟にバルディッシュが防御してくれる。

 大剣をシールドが阻んでくれる。

 でも、私はバルディッシュが張ってくれたシールドを、蹴り付ける。

 それと同時にシールドが割られ、大剣が私の身体スレスレに通過していく。

 肌がヒリヒリする。真面に攻撃を受けたら真っ二つになる。

 レヴィが追いかけてこなかったので、距離を取りバルディッシュを構える。

「へぇ。なかなかやるじゃん」

 レヴィが大剣を担いで、悪戯っ子みたいに笑う。

「ありがとう」

 私の方は、それ程余裕はない。

 バインドも捉える事が出来ないから、砲撃は牽制にしかならない。

 牽制に魔力を大量に消費する訳にいかない。

 なら、もっと攻撃を引き付けないといけない。

 レヴィでも躱せないくらいに。

 こちらが傷を負うリスクがあるけど、このままじゃ負ける。

「おお!覚悟決めました!って顔だね?」

 内心ギクリとする。

 迂闊に顔に感情を出したりしないようにしてるけど、バレた。

 態度は子供っぽいけど、経験が本当に豊富なんだ。

 私程度の感情抑制術じゃ、見抜かれる。

 でも、やる事は変わらない。

「ハーケンセイバー!!」

 私は鎌の刃の魔力刃を、レヴィ目掛けて放つ。

「フォトンアロー、ファイア!!」

 雷の矢が多数展開され、放たれる。

 レヴィは意図も簡単に大剣で魔法を斬り払って、高速でこっちに接近してくる。

「諦めっちゃったかな?それじゃ、これで、終わり!!」

 レヴィが私に大剣を振り下ろす。

 次の瞬間、バルディッシュが放電し発光する。

「は?」

 レヴィが間の抜けた声を上げる。

 だって、大剣が狙ったところじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 シグナムの時にやった電磁石化だ。狙いはレヴィの大剣の切先。

 私はその隙を見逃さなかった。

 私は左手をレヴィに向かって突き出した。

「プラズマスマッシャー、ファイア!!」

 デバイスを経由させず、直接砲撃を叩き込む。

 レヴィが驚いた顔のまま、砲撃を受け、()()()

「ええ!?」

 今度は私が間の抜けた声を上げる事になった。

 高速移動の魔法どころではない。消えた…。これは…。

 左脇腹に鋭い痛みと衝撃が走り、私は瓦礫に叩き付けられた。

 思考に沈んだ隙に、攻撃されてしまった。

 叩き付けられたけど、そのまま転がる。

 その判断は正しかった。

 次の瞬間には大剣が地面にめり込んだんだから。

 蹴りで、電磁石が解けた隙に、大剣を取り戻していたんだろう。

「いやぁ、今のはビックリした!」

 身体が上手く動かない。蹴りを受けたからじゃない。これは!もしかして…。

 今の状態だと、無茶になるけど。これで確かめる!

 私はなんとか立ち上がった。

 息を吐く。

 バルディッシュを構え、身体強化とソニックムーヴを使い、レヴィに突っ込む。

「また、スピード勝負すんの?っ!!」

 レヴィも流石にビックリしたようだ。

 だって、今までとはスピードが違ったんだから。

 私はレヴィが反応出来ないスピードで、バルディッシュを振り抜いた。

 これはリニスに使用を禁じられた魔法。

 血液の流れを速くする。これにより、人の反応速度を越えられる。

 周囲の時間が遅くなる。スローモーションを見ているようだ。

 身体強化を完全にコントロールしても危険な魔法だ。

 これは流石にこっぴどく怒られた。それ以来封印していたもの。

 

 でも、消えた。まるで幻惑魔法のように。

 

 私は即座に魔法を解除する。

 身体が魔法の反動で怠い。この程度で済んでよかった。

 確認した甲斐もあった。

 目を閉じ、魔力を波のように放つ。

 電磁場を形成し、ソナー替わりに使う。

 私は無言でハーケンセイバーを放つ。

 レヴィが今いるところではなく、何もない空間に向かって。

「おお!?」

 レヴィの声が何もない空間から聞こえる。

 レヴィの虚像が消える。

 手の内がバレたのにレヴィは、相変わらず悪戯っ子みたいに笑った。

「バレたか」

「うん。バレた」

 私も不敵に笑う。

「最初、貴女の変換資質は私と同じだと思ってた。でも、違う。貴女の変換資質は超音波。

しかも、それを自在に操って発生した効果にも干渉する事が出来る、でしょ?」

 しかも、いくら元が魔力とはいえ制御能力が凄まじい。

 普通ならすぐにバレてしまうくらい強力な力だ。

 突然消えるのは、超音波を使って光の屈折率を変えて、像を別の場所に結んでいたから。

 私は元々レヴィのいる場所を誤認していたんだ。

 見えた通りに剣が振り下ろされていたから、余計に騙されてしまった。

 雷に見えていたのは、電磁パルスを操っていたから。

 放電した電気まで操っていたんだ。

 身体が上手く動かなかったのは、少し身体にソニックウェーブの影響を受けた所為だった。

 しかも、変換資質の偽装にもなる。

「う~ん。これ見破ったの、あの人以外だと初めてだな」

 レヴィが大剣を持ったまま、拍手する。

 あの人?

「でも、気付いたからって、どうなるかな?」

 そう、これからどうするか。

 皮肉な事にやる事は変わらない。

「バルディッシュ…」

『イエッサー、ザンバーフォーム』

 全力を尽くす。

 カートリッジを消費して、バリアジャケットが再構成される。

 バルディッシュがレヴィと同じ大剣に変化する。

「僕と剣で勝負するっていうの?」

 私は頷く。

「その意気やよし!」

 スッとレヴィの表情が消える。

「じゃ、やろうか?」

 私は剣を構える。

「「勝負!!」」

 空中で再び大剣同士が激突し、衝撃波が広がった。

 

 レヴィは当然のように自分の居場所を偽る。

 目に頼ってたら、どうしても視覚からの情報に引っ張られる。

「どうにもならないでしょ?何せ、王様とシュテルんが考えてくれた戦法だからね!!」

 だからこそ、目を閉じる。

 美海が稽古を付けてくれた時、言っていた。

『視覚以外の感覚も多く情報が含まれてるから、そこも意識するといいよ』

 私は美海と同じようには、まだ出来ない。

 だから、視覚からの情報を遮断する。

 周囲に電磁場を発生させる。

 レヴィの姿がポッカリと浮かび上がって見える。

 剣を高速で振るう。

 目まぐるしく、立ち位置が変わり、剣が命を刈り取る為に襲い掛かる。

 剣と剣が擦れて火花が散る。

 ここで技量の差が出る。少しずつ私に小さな傷が付いていく。

 正確な位置が分かっても、剣技で負けている。

 思い切って踏み込み剣を振るう。レヴィが珍しく剣で受ける。

 その時、不思議な音がした。何かが響くような…。

 レヴィが無言で、剣を振り下ろす。

 私は上段で受けようとして、背筋に悪寒が走る。慌てて後退する。

 身体だけ剣を避けるような形になった為、レヴィの大剣が私の剣に振り下ろされる。

 レヴィの大剣が触れた瞬間に、私の剣の刃が霧散する。

 これは!?

「魔法もね。私、解析出来れば分解出来るんだよね」

 固有振動数を合わせて、物質崩壊に導く方法の応用…!!

 こんな事まで…。

 

 でも、これは、反撃に使えるかもしれない。

 

 相変わらずレヴィの大剣から、音のようなものが漏れている。

 決意を持って私は剣を構える。

 少しでもタイミングを間違えれば、私は死ぬ。

「絶対に諦めない。それ、大切な事だよ。でもね、諦めなきゃいいってもんでもない」

「うん、そうだね。でも、大丈夫」

「僕さ。こんな特殊な変換資質だったからさ。最初は使い方分かんなかったんだよね」

 お互いに一切、気の緩みはない。隙も見せない。

 でも、そんな空気の中、突然レヴィがそんな事を言った。

「でも、王様に逢って、シュテルんに逢って、それで初めて自分が凄いって信じられる

ようになった。僕に可能性をくれた。それで掴み取った。強くなれたよ。王様の国で一番

強くなった。魔法では王様に敵わないし、総合力じゃシュテルんに敵わなかったけど、

個人の武では一番だった」

 私は気を逸らす事なく、レヴィの話を聞いていた。

 これは、聞かなければならない話だと、直感的に思ったから。

「でも、別の国から来たヤツに負けちゃった。悔しかったけど、僕は諦めなかった。一緒に

なって鍛錬してさ、気付けば友達になってた。結局、追いつく前に死んじゃったけどさ。

君の動きから、あの子の影響を感じるんだ。気のせいって思うのが正しいんだろうけどさ。

僕は自分の勘を信じてる。君の傍にはあの子がいる」

 あの子って、もしかして美海の事?

「もしかして、だから?最初は殺そうとしてたのに、途中で止めたの」

 レヴィは頷いた。

 レヴィの殺気は間違いなく殺す気だった。でも、途中から風向きが変わった。

 命が懸かってたのは間違いないけど、私を試すような戦いに変わった。

「まあ、命令だしね。それに私は逆らえない。でも、やり方を変えるくらいは出来るからね。

それで死んじゃったら、それでもいいかって感じかな」

 私は苦笑いしてしまった。素直過ぎる。

「だから、見せてよ。あの子と並べる可能性を…」

 私はただ頷いた。

 レヴィはニッと笑った。

 レヴィの大剣から、あの響くような音が放たれる。

 私は魔法陣を展開する。

 

『ジェットザンバー』

「共鳴破砕剣」

 

 お互いに持てるスピードと技術で、一瞬にして間合いを詰める。

 剣が激突する、その瞬間にバルディッシュの剣の刃が消えた。

 剣が消され、相手の剣がそのまま迫ってくる。それがヒントになった。

「っ!?」

 まだ、打ち付けていないのに魔法が消えて、レヴィが驚く。

 私は更に一歩踏み込む。

「っ!」

 レヴィが光翼斬?って言ってた技の踏み込み。私は咄嗟にそれを取り込んで使った。

 レヴィの大剣が、バルディッシュの刃があった部分を通過する。

「撃ち抜け!雷神!!」

 レヴィの大剣が通過し、引き戻せないタイミングで、再びジェットザンバーを再構築する。

 私はレヴィの大剣を潜るように躱し、私の剣がレヴィを初めて真面に捉えた。

 少し態勢は崩れてしまったが、私は持てる全ての力を注ぎ込んだ一撃をレヴィに打ち

込んだ。

 ここまでは一瞬の出来事だったけど、物凄く時間が長く感じた。

 

 レヴィが物凄い吹き飛び方をして、幾つも建物を破壊しながらようやく止まった。

 

 そこで、ようやく時間が元に戻ったように感じた。

 私は暫く、剣を構えたまま、その場に留まっていた。

 レヴィが立ち上がる気配がない。

 私はそこでようやく剣を下ろした。

 

 私はレヴィの傍まで近付く。

 態勢が崩れたとはいえ、全力での一撃はレヴィを倒していた。

 レヴィは意識こそ保っていたけど、上体を起こすのがやっとの状態だった。

「う~ん。きゅーだい点!」

 ボロボロなのに、レヴィは晴れやかにそんな事を言った。

 なんかちょっとムッとする。

「うちの王様ってさ。変わっててさ、料理が趣味なんだ。それで料理人が辞めちゃうくらい

美味しんだよ」

 なんか突然、話が飛ぶ。

 付いていけないんだけど…。

「あの子の料理ってさ。物凄い普通なんだよ。王様が教えて、その通りに作った筈なのに

普通なんだよ。凄くない?」

 確かに凄いかも。

「でも、さ。好きだったんだよね。あの人の料理。一生懸命に作ってくれたって感じでさ」

 何が言いたいんだろう?

 レヴィは私の顔を見て、笑った。

「ああ!最後に、あの人の料理食べたかったなぁ~って話」

「っ!」

 最後って、やっぱり…。

 レヴィが手を差し出してくる。握手?

 私も手を差し出し、レヴィの手を握った。

 レヴィの身体が発光して、身体が消えていく。

「レヴィ!!」

「全く、僕の夢を君に託すんだから、キチンと使ってよ?」

 レヴィの力が流れ込んでくるようだった。

 

「あの子の事、頼むよ」

 

 レヴィはそう言うと、消えていった。

 

 気付けば、私のバリアジャケットとバルディッシュが再構成されていた。

 装甲が強化されているのに、身体が軽い。

 バルディッシュも見た事のない三又の槍に変化していた。

 魔力も傷も治っている。

 

『トライデントフォーム』

 

 バルディッシュから、レヴィの大剣から聞こえた音が聞こえる。

 そうか、全部託してくれたんだ…。

 追いつきたかったんだ、レヴィは。

 友達として、美海の隣に胸を張って立てる日を夢見ていたんだ。

 でも、出来なくなった。だから、私にその夢を託した。

 

「ありがとう。美海の事は任せて。私は強くなるよ。隣に並べるくらいに」

 

 

 

             :飛鷹

 

 俺とクライドさんと戦闘を開始したが、一筋縄ではいかなかった。

 予想はしていたけど、な。

 何しろ、俺より遅いのに攻撃を弾いたり、逸らしたりするんだから。

 力も俺の方が上だろう。

 技量は向こうが上だが、それ程圧倒的という感じはしない。

 でも、攻撃が当たらない。でも、向こうの攻撃は当たる。

 そこまで深刻なダメージはないが、ジリジリダメージが蓄積されている感じだ。

『経験による先読み…だな』

 スフォルテンドが分かり切った感想を述べる。

 ンな事は知ってんだよ!問題はどうするか、だ!

『なら、1つしかないな』

 だな。

『「読まれても、どう仕様もない攻撃をする」』

 魔力弾を展開し、魔力弾と共にクライドさんに向かって行く。

 クライドさんも魔力弾を放つ。

 魔力弾が相殺され、爆発を引き起こす。

 相殺を免れた魔力弾をクライドさんに撃ち込むが、鞭状の魔力刃が躍り、叩き

落とされてしまう。

 それでも俺は止まらない。

 強力なシールドに物を言わせて、突っ込んでいく。

 爆発を突っ切っていくと、クライドさんが待ち構えていた。

 杖による鋭い打突が繰り出される。

 それを躱して、剣をカウンターで斬り付けようとするが、杖の石突が横から

迫ってくる。

 咄嗟に剣で受け止める。

 すると、クライドさんの背後から魔力弾が飛び出した。

 スフォルテンドが、魔力弾の軌道上に小さなシールドを展開する。

 本来なら、ナイスフォローと言っただろうが、今回は違った。

 シールドに当たる前に爆発したのだ。

「っ!?」

 小さいシールドで魔力をケチったツケで、威力はないが爆風がモロに視界を塞ぐ。

 それで出来た隙を、クライドさんは見逃さなかった。

 剣を一瞬で跳ね上げられ、脇腹に蹴りが入る。

 魔力で強化された蹴りは、十二分の威力だった。

「グッ!!」

 俺は呻き声を漏らした。

『サウンドジェット』

 クライドさんの杖から、振動系の魔力砲撃が放たれる。

『ディフレイド』

 スフォルテンドのフォローでなんとか直撃を回避したが、その代わりクライドさんを

見失った。

 俺は剣を一時的に収納し、目を閉じる。

 実戦で使うのは初めてだ。成功率は、高町家の鬼特訓で少しは上昇しているが、まだ使い

こなすには至っていない技。

 だが、下手に探し回ってもおそらくは後手に回って、一撃貰う事になる。

 ここまでいいとこなしだ。

 ここらで名誉挽回しないとな。

 脱力する。魔力も浮くのに必要な分のみ、闘気をゼロにする。

 無刀陣。

 直後、頭上から空気を裂く程の一撃が振り下ろされる。

 俺はその攻撃をギリギリまで引き付ける。

 そして、頭を横に倒すように振り、頭部への一撃を回避する。

 肩に鋭い一撃が打ち込まれると同時に、俺は再び剣を取り出し振り向きざまに技を放つ。

「アバン…ストラッシュ!!」

 勇者アバンが魔王ハドラーとの戦いで会得した技。

 カウンター技だ。

 だが、クライドさんもアッサリ食らったりしない。

 後退で剣が当たらない位置まで、下がろうとしていた。

 だと思ったぜ!

 だから、俺は放つタイプのアバンストラッシュを撃ったんだ。

「っ!?」

 ベルカじゃあるまいし、こんな攻撃は珍しいだろう?

 この技は、剣から砲撃を放つような威力になるからな。こっちの世界じゃ、な。

 俺は魔力量に物を言われて、効果範囲を広げて放つ。

 回避技術?そんなもの持ち込ませない。

 それを覚ったのか、クライドさんが初めて防御態勢に入る。

 待ってたぜ!

 クライドさんの足が止まるのを、俺は待っていた。

 動き回られると、今の俺では厳しい。だが、止まっていればゴリ押しが可能だ。

 だが、ただのゴリ押しになんてしない。

 俺だって、戦いから学ぶ事が出来る。

 クライドさんの無駄のない体捌きは、今、俺の頭の中に刻まれている。

 綾森のようには上手くいなかない。

 なのはみたいにヒーローの手本みないなセンスもない。

 でも、フェイトみたいに強くなろうっていう貪欲さは、ある!!

 俺は練習よりも素早く無理なく、技の仕上げに入る。

「ハアァァァーーー!!」

 叩き付けるタイプのアバンストラッシュ。

 これはダイの大冒険の主人公・ダイが編み出した最強の派生技だ。

 

 アバンストラッシュ×(クロス)。

 

 クライドさんに放出系のアバンストラッシュが届くと同時に、叩き付けるタイプの

アバンストラッシュを叩き込む。

 クライドさんが如何に経験豊富な魔導士でも、これは防げない。

 クライドさんが吹き飛ばされて、叩き付けられる。

 俺は、油断なく剣を構えたまま残心。

 

 クライドさんが動く気配はない。

 芝居ではなさそうだな。

『あれを真面に食らったら、あの男の魔力じゃ防げないだろうからな。ちょっとした

罰ゲームだな』

 ×(クロス)だけに?面白くないぞ。いつからダジャレなんて言うようになった?

 

 俺はクライドさんの傍に駆け寄る。

 クライドさんは意識があった。

 俺はしゃがみ込んで、クライドさんと目線を合わせる。

「クライドさん」

「気にする事はないよ。これは実戦だ。君は自分の得意とする分野で、戦い、勝った。

それでいいさ。それに最後の動き。しっかりと見た訳じゃないが、見事だった」

 俺は実のところ勝ったけど、スッキリはしていなかった。

 当然の事だ。

 綾森ならもっと上手く勝った筈だ。

 やっぱり、平和ボケした世界からの転生者か、戦乱の時代から転生?したヤツの違い

は大きいな。近付こうとすればする程に、遠いと感じる。

 クライドさんは、俺の鬱屈した気持ちに気付いたんだと思う。

「ありがとうございます」

 俺はただ頭を下げた。

「まあ、君はまだ若いからね。ゆっくり自分と向き合っていくといい」

 クライドさんに苦笑いされてしまった。

 全然納得していないとバレバレだったんだろう。

「それに感謝しているのは、私だよ。チャンと終わらせてくれた」

 そうだ。クライドさんはこれで完全に死ぬ。

 俺のレアスキルでもどうにもならない。

 それ以前に、まだ再度使用出来ない状態だ。

 無茶した影響は、まだ響いている。

「これをクロノに…リンディでもいいが、渡してくれないか」

 クライドさんがバリアジャケットを解除し、デバイスを待機状態にする。

「これが最後の証拠だ」

 証拠?

 俺の疑問に答える前に、クライドさんの身体が発光する。

 徐々に消えていっている。

「クライドさん!?」

「僕は死人だ。デバイスに、こびり付いた残滓に過ぎない。だから消える。それだけだ」

「っ!」

 俺は、クライドさんが差し出したデバイスを受け取った。

 

「最後にリンディとクロノに伝えてくれないか。愛していると」

 

 俺は頷く事しか出来なかった。

 そして、クライドさんは消えていった。

 

 俺は、何か出来たのかな?

 手に残ったクライドさんのデバイスを見詰めながら、そんな事を考えていた。

 

 

             :美海

 

 私とナハトヴァール(管制融合機の姿)の戦いが始まっていた。

 だが、あちらとしては、想定外だろう。

 魔力を纏わせての攻撃は、殆どが回避されるか、受け流されるかで、頼みのあの詐欺

野郎から蒐集した魔法は、意味をなさないんだから。

 正直、虚無を使われなければ、あんまり強敵じゃない。

 問題は、はやてがキチンと目覚めて、やる事やってくれるかどうかだ。

 ナハトヴァールの本体ともいうべき、デバイス(パイルバンカー)が繰り出される。 

 私は魔力放出の影響まで計算し、ギリギリで回避しカウンターで左手で掌底を放つ。

 が、向こうも黙って食らったりしない。

 向こうも僅かに顔を逸らして回避するが、私は放った掌底の手を返してナハトヴァール

の頭を掴むと横っ腹に膝蹴りを入れた。

『理解不能、理解不能』

 ナハトヴァールが何故攻撃を受けるのか、分からずにさっきから言っている事だ。

「理解なんか求めてないから、安心しろ」

 夜天のヤツ、チャンと声を掛け続けてるんだろうな?

 ナハトヴァールが性懲りもなく、()()()()()()()()()攻撃してくる。

 純然たるプログラムのせいか、ナハトヴァールは最適手しか打ってこない。

 本来ある駆け引きやらなんやらが、不足している。

『スレイプニール』

 背部から6枚の羽が出現する。

 スピードアップする気か。

 ナハトヴァールが、高速接近と同時にブラッティーダガーを放つ。

 私はシルバーホーンを使わずに展開した魔力弾で、全てのダガーを打ち落とす。

 樹冠剣を振るい、魔力を纏わせた拳とパイルバンカーを捌いていく。

 ノータイムで放たれる砲撃を躱し、痛烈な一撃を見舞う。

 吹き飛ばされたが、6枚の羽が地面の激突を回避する。

「倒すだけなら、楽なんだけどね」

 思わずぼやいてしまった。

 暴走前に片付けるなら楽なものだ。

 完全暴走に突入したら、虚無が溢れ出してくる。

 そうすると、こっちも手段が限られてくる。

 出来るだけ、はやてには早く管理者権限を奪い取って貰いたい。

 が、暴走しないけど、管理者権限を取り戻す気配すらない。

「たっく!適当に相手し続けるのも骨なんだから!!」

 魔力弾の弾幕で攻めてくるナハトヴァールに、ウンザリしながらある程度の魔力弾を

撃ち落とし、防御しながらナハトヴァールの攻撃を掻い潜る。

 樹冠剣が高速で縦横無尽に走る。

 幾つか防御されたものの、攻撃の全てを防ぎ切った訳じゃない。

 またも吹き飛ばされるが、今度は堕ちて貰おう。

術式解散(グラムディスパージョン)

 ナハトヴァールの背面の6枚の羽が消え去る。

『!?』

 さっきと同じように羽で激突を回避しようとしたが、羽を無効化されてしまえば、激突

は回避出来ない。

 土煙が上がる。

 油断なく気配を探る。

 だが、有り得ない事が…いや、考えたくない事が起きた。

 

 土煙が黒い虚無に吹き散らされたのだ。

 

『管理者権限の発動が受理されました。力の解放を選択』

 

 ナハトヴァールの身体から虚無が溢れ出す。

 これは明らかにはやてが使用したものじゃない!!

 

「はやて!!このまま、終わる気か!!」

 

 私の声が虚しく響いた。

 

  

 

 




 これから仕事が忙しくなる関係で、投稿間隔が長く
 なると思います。
 今回は1日遅れくらいで済みましたが、これからは
 そうはいかないと思います。

 次回に樹冠剣の説明などをしようと思います。
 次ははやての戦い?がメインになると思われます。

 それでは、気長にお待ち頂ければ幸いです。


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第42話 復帰

 遅れて申し訳ありません。
 決して折れた訳ではありません。

 では、お願いします。


             :はやて

 

 1人で立ち上がって、着替える。

 たったそれだけや。それだやのに、なんでやろか?

 こないに感動するんわ。

 内心で首を傾げとったけど、見当が付かへんわ。

「学校、遅刻するよ!」

 下からお母ちゃんが大声で呼ぶ。

「はーい!恥ずかしいやんか!そないな大声上げんといて!近所迷惑や!」

「全く!よく口が回るとこは、あの人似やな…」

 お母ちゃんが下でブツブツ言うとる。

 鞄を玄関に置いて、食卓へ。

「おはよう!」

「おそようやね!」

 お母ちゃん、意地が悪い事言うわ。

「おはよう。はやて」

「おはよう!お父ちゃん!」

 お父ちゃんは新聞を広げて読んどって、顔がよく見えへん。

「弘明さん!いつまでも新聞読んどらんと、支度せなあかん時間じゃありません?」

「分かってるよ。̪史乃…」

 うちの両親は相も変わらず名前呼びやな。

 仲がよくてええ事や。

 冷蔵庫に牛乳を取りに行って、振り返るとお父ちゃんはどっかに行っとった。

 新聞が畳まれ、姿が消えとる。

「ホンマ、夢中になると、いつもああやからね」

 お母ちゃんが溜息交じりに、朝食を持って現れた。

 

「いってきます!」

 私はお母ちゃんに玄関から声を掛ける。

 お母ちゃんは、奥からいってらっしゃいと返事して、忙しくしとるようやった。

 玄関を出ると犬小屋が見える。

 犬小屋?犬なんて飼ってたやろか?あんなん庭にあったやろか?違和感あるわ。

 犬小屋には名前が刻まれとる。

「ザフィーラ?」

 既視感のある名前やけど…。

「あっ!遅刻してまうわ!!」

 既視感について棚上げして、走る。

 学校の送迎バスが丁度停車したとこやった。

「おはよう!」

 バスに乗り込んで、すずかちゃんとアリサちゃんに挨拶する。

「「おはよう!」」

 友達が笑顔で迎えてくれる。

 2人の間に腰を下ろす。

 新刊の本の話、昨日のテレビ番組の話、友達の話。

 話に花を咲かせとると、学校に着いた。

 

 授業は問題なく付いていけとる。

 うん?なんで授業の心配なんてしとるんやろ?

 ずっと、学校通っとるし、勉強もサボッとらんやないか。

 首を捻っとる間に授業が終わった。

 

 昼休み。

 すずかちゃん達とお弁当を食べる。

「あれ?私等しかおらんの?」

「「?」」

 すずかちゃんとアリサちゃんが顔を見合わせる。

「何?はやては高町とかとも一緒に食べたいの?まあ、私達は別に構わないけど…」

「うん。はやてちゃんがそうしたいなら、今度誘うよ」

 2人は少し戸惑ったようにそう言うた。

 いや、そうやなくて…。なんやろな。圧倒的に人数が足りんような気ぃするんやけど?

 あの犬小屋の違和感と同じ違和感。

 どういう事やろか…。

『主…気…た……か…』

「っ!?」

 なんか聞こえた気ぃして、慌てて周りを見回す。

「ちょっと!はやて!聞いてんの!?」

 アリサちゃんが大声を上げる。

 おお!ビックリしたわ。

「え?何?」

「今度の休みの予定、聞いてるんだけど!?」

 時計を見るとチャイムが鳴る寸前やった。

 あれ、そんな時間経っとった?

「う、うん。大丈夫や」

 詳しい事、すずかちゃんに後で訊いとかんとな。アリサちゃんの期限が悪なるわ。

 答えた後に丁度チャイムが鳴って、休み時間が終わった。

 

 午後の授業も終わって、帰り道に今度の休みの予定を話した。

 2人と別れて、家に帰ってきたんやけど、家の前に誰かおるな。

 背広姿の外国人が3人。うち1人が子供やった。

 家になんか用やろか?

「あの~。うちになんか御用ですか?」

 ヤバい。英語喋れへんわ。日本語通じんかったら、ジェスチャー大会やな。

「八神さんのお宅はこちらで?」

 ドキドキしとったけど、日本語ペラペラやん。よかったわ。

 でも、今度はどうして外国の人が訪ねてきたんやろうか?っちゅう疑問が沸く。

「私達はMr.グレアムの部下でして、シグナムと申します」

 4人の代表らしきピンクのポニテさんが、丁寧に言ってくれたんやけど。

 グレアムって誰やねん?

「Mr.グレアムは、八神弘明氏の友人だとか、その縁で仕事が片付くまでの間、こちら

でお世話になるという話でして」

 今朝、お父ちゃん、何も言うてへんかったけどな。

 取り敢えず、お母ちゃんを呼ばな。

 家の鍵を開けて、お母ちゃんを呼ぶとすぐに返事があった。

「お帰り…って、どないしたの?」

 お母ちゃんが後のシグナムさん達を見て、ビックリしとる。

 それで、私が事情を説明すると、お母ちゃんはああ!といった感じの反応やった。

「グレアムさんの部下の方?」

 なんや、お母ちゃん聞いてたんやないか。

「朝、弘明さんがそんな事言うとったわ」

 それ、私にも教えといてくれへんかな。

 私の表情で察したんか、お母ちゃんはごめんごめんと謝った。

 お母ちゃんは、シグナムさん達を招き入れる。

 お母ちゃんは靴脱いで下さいね?とか言っとる。

「はやて、着替えたらザフィーラの散歩行ってきてくれへん?」

 

 え?散歩?私は庭を見ると大きいハスキー犬が、犬小屋の前に座っとった。

 あれ?今朝は…おらんかったような…。

 

「何、ジッと見てんねん?今日ははやてが散歩当番やろ?サボったらあかんよ。アンタ

が飼いたい言うたんやから」

 私は暫く呆然とザフィーラを見とった。

 

 ああ…、そうや。子犬のあの子見て、飼いたいって強請ったんやったな…。

 疲れとるのかもしれん。

 って、散歩行く前に疲れたらあかんやろ!

 1人で突っ込んで、私は部屋に戻って着替え、ザフィーラの散歩に行った。

 ザフィーラはええ子やった。

 なんかごめんな。

 

 夕食は私も手伝って豪華に仕上げた。

 でも、肝心のお父ちゃんはお仕事で、まだ帰って来とらん。

 そこで色々、シグナムさん達の事を聞いた。

 グレアムさんは警備関係のお仕事を海外でしてはる人で、お父ちゃんとは海外出張で

しりあったそうや。年が離れとるらしいけど、話してすぐに意気投合したんやて。

 シグナムさん達は、グレアムさんの部下で警備員?みたいな仕事をやるらしい。

 意外な事にヴィータ…一番小っちゃい子供まで警備をやる事や。

 シグナムさんかシャマルさん(もう1人の大人の女の人)の子供かと…。

 すません。まだ、お若いですもんね?

 なんか、2人に思いっ切り睨まれたわ。流石、警備員さんやね。ハハハハハ!!

 海外じゃ、子供でも働いとる子は珍しくないんや、言うとった。

 

 楽しい時間もあっと言う間で、すぐに寝る時間になった。

 シグナムさん達とも、すぐに仲良くなれてよかったわ!

 でも、時々なんや言いたそうにしとるのは、どうしてやろか?

 明日、すずかちゃん達にも教えてやらな。

 そう思って、私は布団を被った。

 

 どっかで声がする。

 ボソボソと耳障りやな…。

 段々と何を喋っとんのか気になって、耳を澄ます。

 内容が聞き取れてきよったな。

『戯け!貴様が甘やかすから、こやつがいつになっても起きんのだ!!』

『いや、些か刺激が…』

『刺激?大いに結構ではないか。眼も覚めるであろうよ!それ、()()が様子を見に

くるぞ』

 途端にピタリと喋り声が止んだ。

 怖いぐらいの静寂。

 こんなに静かやったやろか?夜更かしして本を読んどっても、もう少しくらい音がする。

 

 ぎぃぃぃ、パタン。

 

 うん?玄関やろか?こんな時間に?もう誰も出入りもない時間やで。

 グチョ、ピチャ、グチョ、ピチャ。

 歩いとる?それになんや、この気色悪い音?濡れとるんか?

 私はベットの中で硬直しとった。嫌な汗が噴き出してきよる。

 

 ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ。

 

 上がってきよる!!

 偶に何かが落ちて、ぴちぴち何かが跳ねる音がする。

 なんなんや!!

 遂に階段を上り切ったみたいや。

 

 グチョ、ピチャ、グチョ、ピチャ。

 

 私の部屋の前で止まりよった!!

 私は布団の中で固まっとった。身体が震えないのが不思議なくらいや。

 ガチャッ。ノブが回される。

 は、入ってくる!?

 ぎぃぃぃぃ。扉が開く音がやけに大きく聞こえる。

 一直線にこっちに歩いてきよる…。ゆっくり、ゆっくり。

 何かが布団の上に落ちる。それも複数。

 覗き込んどる…。

 目を閉じて、耐える。

 

 暫く、()()は私の部屋を徘徊しとった。

 気が済んだのか、()()は出て行った。

 気配が家から消えるまで、ジッと布団の中で待つ。

 ()()が玄関から出ていきよった。

 

 思い出したみたいに、身体が震え出す。

 ガタガタ身体が震えて止まらん。

 

 でも、今、窓から覗けば何が入ってきたか、分かるんやないやろうか?

 

 そんな事を思ってしもうた。

 恐る恐る布団から顔を出し、窓を見ようとして固まった。

 そう、何かが布団に落ちとった。

 その正体が月明かりに照らされて、見えてもうた。

「いやぁぁぁぁーーーーー!!」

 絶叫。今まででこんな怖い思いした事なんてあらへん。

 

 布団には大量の蛆が落ちとった。

 

 私の悲鳴に家が騒がしくなる。

 私はそれどころとちゃうけど。

 誰かが部屋に突入してくる。

「どうしました!?」

 誰かが抱き締める。

「いや!!いややぁ!!」 

 恐怖で暴れまくる。次の瞬間顔を両手でグイと挟まれる。

 強引に視線を合わせてくる。

 それはシグナムさんやった。

「はやて!!どないしたの!?こないな時間に!?」

 お母ちゃんが駆け込んでくる。

「な、なんか来よった!!蛆が…」

「蛆ぃ!?」

 シグナムさんとお母ちゃんが顔を見合わせる。

「ああ…。怖い夢見たんやね」

 ゆ、夢?

 恐る恐る布団の上を見ると、そこにはなんにもおらんかった。

 

 ど、どうなってんのや。

 

 あんまり顔色悪かったもんやから、お母ちゃんが一緒に寝るか?って訊いてきた程や。

 シグナムさんも心配してくれた。

 それから、私は一睡も出来へんかった。

 お母ちゃんからのお誘いは断って、ジッと自分のベッドで身動ぎ1つせぇへんかった。

 あれは、夢やない。

 本当にあった事や。

 時間が経つにつれて、その確信が強くなる。

 

 何かが起きとるんや…。私はそれを知らなあかん。

 

 その日から積極的に歩き回る事にする。

 当てなんてあらへん。

 でも、このままやダメや。

 学校が終わると、すずかちゃんとアリサちゃんの誘いを断って、図書館へ直行する。

 でも、どうしてやろか?2人がジッとこっちを見とったんや。

 その視線が探るようなもんで、恐ろしく感じた。

 まさか、私が怪談以外で心霊関係を調べる日がくるなんてなぁ。

 しかも、大真面目や。

 幾つか本を見繕って、手続きを取って席を確保して、そこに座る。

 さあ!調べるで!!

 なるべく分かり易いもんを選んだつもりやけど、難しいわ。

 文字を追っても、頭から内容がすり抜けていく。

 しっかりせな!!

 気合を入れて、内容を頭に入れようとする。

 その時、本の文字がぐにゃりと歪んだ。

 目をこすって、見直しても変わらん。

『起きようとしているのは結構だが、何故、こっち方面の本を当たるのだ。戯けが!!』

 文字がそんな文面に変わった。

 偉そうな…。じゃあ、どないせい言うんや。って!!

 思わず本を投げ出してしまった。

 静かな図書館内に音が響く。非難の視線が集中する。

 すんません。

 司書さんも睨んどるわ。ペコペコして本を拾う。

 深呼吸をして、思い切って本を開く。

『もうすぐ、邪魔が入る。綻びを探せ。どこかにある筈だ』

 綻び?

『夢の…』

 突然、本が取り上げられた。

 な、なんや!?

 あまりの事に顔を上げると、そこにはすずかちゃんがおった。

「なんだ。はやてちゃん。ここにいたんだ」

 いつものすずかちゃんやなかった。

 取り上げた本を机に放り出しよったからや。

「どうして、ここに?」

「はやてちゃんがいないと詰まらないから、遊ぶの止めたの。だから、本でも読もうと

思って」

 すずかちゃんは、無表情やった。

 こんな態度やのに、誰も何も言わん。

 いつもなら、誰かが注意する。なのに誰も反応せん。

 まるで、決められた動きを繰り返してるみたいや。

 その想像にゾッとする。

「そんな詰まらない本じゃなくて、他の本を読もうよ!新刊も入ってきてるみたいよ?」

 詰まらない本?すずかちゃんはそんな事言わん。

 まず面白いか訊く。内容を訊く。何よりどんな本を読んどるか訊きもせん。

「こっちだよ!はやてちゃん」

 すずかちゃんが私の腕を掴む。無理矢理立たされる。痛い!

 咄嗟に腕を振り解く。

「はやてちゃん。酷いじゃない」

 すずかちゃんがまるで人形みたいに首だけ振り返って、何の感情も交えん声で言うた。

 周りの人達が一斉に私を見る。

 全員同じタイミングやった。

 

 私は一歩、すずかちゃんモドキから距離を取る。

 

「アンタ、誰や!?」

 

 思わず、決定的な一言を言ってしもうた。

 すずかちゃんモドキが、能面みたいな無表情で私を見とる。

 周りの人達も手を止めて、私をジッと見とる。

 周りの座っている人達が、一斉に立ち上がる。なんや人形染みた動きやった。

 棚からも人が出てくる。みんなが無表情やった。

 囲まれる!!

 私は無意識に走った。

 周りから手が伸ばされるけど、どうにか捕まらずに逃げ出す。

「はやてちゃーん。どうして逃げるの?ずっと、ずっと、ここで幸せに楽しく暮らせば

いいじゃない」

 後からすずかちゃんモドキの声が掛けられる。

 図書館を出ると、通行人やら建物の中から人が出てくる。

 やっぱり、人形染みた動きや。

 さっきより動きが早い!?もう包囲されてもうた。

 図書館からも、すずかちゃんモドキと他の人達が溢れ出してくる。

 捕まる!!

 身体を縮こまらせて、目を硬く閉じる。

 その時、獣の声がした。

「ガウガウ!!」

 目を開けると、ザフィーラが人に噛みついとった。

「ザフィーラ!!」

 ザフィーラが人に振り払われるけど、体勢を空中で変えて着地すると走り出した。

 人が思わず道を空ける。

 私はザフィーラに続いて走り出した。

 道路に差し掛かったところで、ザフィーラを止めるように車が止まる。

 この車!?アリサちゃんのところの!!

 車の後部座席の窓が少し開き、目だけがこちらを見ている。

「戻りましょう。はやて。大丈夫。もう怖い思いなんてしないから。少し眠れば忘れる

から。さあ、乗って?」

 車のドアが開いても、誰も乗っ取らん。暗闇にアリサちゃんの目だけが浮いとる。

 恐怖に悲鳴を上げそうになる。

 でも、ザフィーラがドアに体当たりして、ドアを閉めた。

「主!!走って下さい!!夜天が導いてくれる筈です!!」

 車が止まったまま、スピンする。

 ザフィーラが跳ね飛ばされる。

「ギャウゥン!!」

 ザフィーラが建物の壁に叩き付けられる。

「ザフィーラ!!」

「走って下さい!!我等もいつまで意思に反して動けるか、分かりません!!」

 ザフィーラ…。ごめんな!!

 私は、車に立ち向かっていくザフィーラを置いて走り出す。

 追ってくる人等は、疲れないようやね!!人間やないわ、あれ!! 

 少しづつ思い出してきたわ!なんで、忘れとったんか…。

 綻びを探せ、やったね。

 多分、この状況は逆に分かり易くなりそうやん!

 一番、護りが厚いとこに行ってほしくないやろ!

 人?が少なくなると来た道を戻る。

 うわっ!人がぎょうさんおるわ!!当たりそうやけど、どないして突破する?

 まだ、こっちには気ぃ付いてないみたいやけど、こっちも突破法がないと捕まるだけや。

 なんか、使えるもんは…。

 必死に使えそうなもんを探す。と、建物の陰に自転車を見付ける。

 カギも掛かってへん。

 これは出来過ぎやね。でも、有難いわ!

 問題は、私、自転車乗れるやろか?

 

 結論、乗れた。思えば、乗った事ない訳やないんや。

 随分と前やけど、身体は覚えとったみたいや。

 私は裏道、間道を通って追手を分散させて、どうにか進んどる。

 向こうさんも、私が自転車に乗ると思わんかったみたいやね。

 車椅子が通れる道は、全て把握済みや!

 長年の主婦経験がこんなところで生きるとは!

 安売りで、車椅子やから取っといて、なんて言えるかい。

 だから、なるべく早く行ける道を模索したんよ。

 お陰で、海鳴の街の道はバッチリや!

 追手の腕や身体を掻い潜り、突破していく。

 なんや!イケるやん、私!

 なんて調子に乗っとったのが、悪かったな…。

 大通りに出た途端に、待ち伏せされとった。

 後から追手が来とるし。

 強行突破、イケるやろうか!?

「うぅぅぅぅりゃぁぁぁーーー!!」

 幼い声で気合が聞こえる。なんや!?

 私の目の前に紅い影が…って赤影ちゃうで?

 それはヴィータやった。

 ヴィータは着地と同時に、何故か手に持ったゲートボールのクラブを一閃する。

 前列にいた人?が吹き飛ぶ。

「はやて!大丈夫か!?」

 それと同時に、背後の追手も蹴散らされた。

 こっちは…。

「主、御無事ですか?」

「はやてちゃん、遅れました!!ぜぇぜぇ…」

 シグナムとシャマルやった。

 シグナムの木刀は分かるけど、シャマルは何故か手に箒を持っとる。

 それとシャマル、死にそうになっとるけど、大丈夫か?

 ここまで走りっぱなしやったんやろうけど。

「ありがとう!みんな。それとごめんな…」

 こうならん為に、頑張った筈なのに情けないわ。

「夜天が、こっちの身体をある程度動かせるように細工してくれたのです」

「でも、長くはもたねぇ!!」

「はやてちゃん、ここは私達に任せて先へ!!って言っても、次に会ったらどうなって

るか分からないから、信用しないでね!」

 そっか、夜天の魔導書も戦ってくれとるんや。なら、応えなあかんやろ!!

 私は自転車のペダルを力を籠めて踏み込む。

 簡単な魔力強化、みんなのお陰で思い出したわ!

 シグナムとヴィータがこじ開けてくれた道に、自転車とは思えんスピードで突っ込んで

いく。

 後の人?は手に角材とか金属バットとか持っとる!?

 舐めんなや!!

「ジークフリート!!」

 ガンガン叩かれるけど、自転車で跳ね飛ばしていく。

 遂に、人垣を抜ける。

「「はやて!!」」

 横から私を呼ぶ声が聞こえる。

 見ると、お父ちゃん、お母ちゃんやった。…偽者の。

 お父ちゃんは、顔が真っ黒やった。顔が分からんかった。そう、写真も顔がボケとって

分からんかったから。だから、お父ちゃんは顔を見せられへんかったんや。

 お父ちゃんは写真が嫌いな人やったらしい。葬式にもあのボケたヤツやったそうやから

筋金入りや。

「短い間やったけど、偽物でも嬉しかったよ。会えて…」

 スピードを緩めず私はそう言うた。

 聞こえる事なんて期待してへんかった。

 でも…。

 

 2人はしっかりと頷いてくれた。

 

 私はもう振り返らんかった。

 涙が零れそうになるけど、耐えた。

 

 我武者羅に漕ぐ。

 すると、前方に空間の揺らぎ?みたいなもんが見えた。

 けど、それは消え掛けとった。

「ここで、無駄になんかせぇへん!!」

 更にスピードアップして飛び込む。

 飛び込んだ瞬間に景色が消える。

 自転車のチェーンが外れて、私はコケてもうた。

 地面?に転がると自転車も跡形もなく消えた。

 痛みに呻く。

 

「遅い!!我をこれだけ待たせるとはな。全く不甲斐ない」

 この偉そうな声、どっかで?

 声の方を向くと、私が立っとった。なんで!?

「戯け。この姿は借りとるだけだ。永い間、自分の姿も何も確認出来なんだからな」

 ええっと、詰まり?

「我は貴様ではない。別人だ。我とてこんな威厳もない姿を好きでしとる訳ではないわ」

 なんや、言いたい放題やな…。この人。

 それが自分と同じ顔っちゅうのが、妙な感じやけど。

「もしかして、心とか読めるん?」

「戯け。読む必要すらないわ。顔にハッキリ言いたい事が出とったわ」

 ああ、なんか恥ずかしいわ。

 

 その時、ドォンという音と一緒に空間が揺れる。

 

「な、なんや!?」

 わたしのそっくりさんが舌打ちする。

「遂に、夜天も抑えきれなくなったか…。もとより、嫌がらせ程度でしかなかったろうがな」

 夜天の魔導書が戦っとるの?

 なら、急がなあかん。

 立ち上がって走り出そうとすると、そっくりさんが私の前に立ち妨害してくる。

「どこへ行く?」

「決まっとる!夜天の魔導書のところや!」

「行ってどうする?」

「なんやさっきから!」

 そっくりさんが呆れたみたいに溜息を吐いた。

 ムッとして何か言う前に、そっくりさんの格好が変わる。

 魔法少女…ぽいか?それにしてはゴテゴテしとるけど。

 持っとる杖もゴッツイし。

「我が夜天に代わって貴様に声を掛けておったのは、夜天の事ばかりではない。貴様だ、子鴉」

「こ、子鴉!?」

 なんで鴉やねん!?

 そんな抗議の視線をものともせずに、そっくりさんが持っとる杖を私に突き付ける。

「我、ロード・ディアーチェが問う。貴様に因縁を断ち切る覚悟があるか?」

「ある!!」

 こんな事、終わりにせなあかんやろ!

 私は即答した。

「夜天が、我が友が必死になって時間を稼いでいる時に、眠りこけていた貴様がか?」

「っ!?…それは…」

「仕様がないか?自分はやれる事をやった。ダメだったら、そんな言い訳を吐きそうだな。

そして、自己満足を抱いて死ぬのだろう?」

 そうや。美海ちゃんから散々聞いとった。

 どんな事をしてくるか、分からんって。

 その為にある程度、対策を立てたのに、私は結局いいようにやられてもうた。

 でも…。

 

「確かに、私は無駄な時間を使ってしもうた。でも!まだ、終わってへん!!私を信じて

くれた守護騎士達、美海ちゃん達の為にも最後まで諦めへん!!」

「口ではなんとでも言える。行動で示せ!!」

 ロード…って事は、王様と呼ぼう。

 王様が魔法式を構築する。物凄いスピードで高度な魔法が組み上がった。

 私は自分を魔力で強化して、ジークフリートを掛け直して走り出す。

「っ!?正気か、貴様!!」

 向こうは魔法を使い慣れとる!防御魔法も充実しとるのやろ!?

 なら、真っ向勝負はなしや!!

 懐に飛び込んで、唯一最高の魔法を至近距離で叩き込む!!

 向こうも大魔法を至近距離で撃ち込むのを、躊躇してくれよったからな。

 貰ったわ!!

 私は王様に抱き着くように飛び込む。躱されてもかまへん!!

 だけど、王様は避けへんかった。

 

「トールハンマー!!」

「ジャガーノート!!」

 

 2つの魔法が互いに打ち消してしもうた。

「え!?なんで!?」

 これがダメやと殴り合いになってまうんやけど!?

 付き合ってくれればやけど。

「我がジャガーノートは重力系魔法だ。魔法構築も我の方が速かったのだ。発動寸前に

潰せば問題ないわ」

 王様はドヤ顔で説明してくれよった。

 無重力下じゃ、雷は発生し辛いんやて…。

 正確には魔法の干渉力の問題らしいんやけど、無重力にしたのも関係あるそうや。

 王様曰く、魔法は世界を騙す事なんやて。詰まり、詐欺師か…。

「我でなければ、貴様も死んでいたかもしれんぞ。だが、貴様は相手の実力と自分の実力を

見極め、最も勝利の可能性の高い選択をした。貴様の覚悟、見せて貰った。持っていけ」

 項垂れてる私に王様が、自分の持っとるゴッツイ杖を押し付けてきよった。

 思わず受け取ってもうた。

「え!?何…」

「喧しい。サッサと行かんか。本当に間に合わなくなるぞ」

 杖を握り締める。

 すると杖が輝き、疲れがとれて、魔力が戻るのを感じた。

「ありがとう」

 私はそれだけ言うと走り出した。

 王様が背後で微笑んだようやった。

「後は貴様次第だ。かなり厳しい状況になっているがな」

 皮肉っぽい声でそう言うんが聞こえた。

 アンタの所為もあるやん!!

 後を振り返らずに、心の中で文句を言った。

 

 景色が変わる。

 なんや?この匂い。鼻が曲がりそうや。思わず鼻を摘まんでしまう。

 視線を巡らせると、2人の人間の姿が目に飛び込んで来た。

 黒いローブを着けた人と、銀髪の女の人。

 黒いローブの人がなんかの前に立っとって、黙々と作業?しとる。

 銀髪の女の人は、ローブの人にしがみ付いとる。

「後生です。今度の主は、まだ幼いのです!!」

 銀髪の女の人が、必死にしがみ付いて訴えとった。

 けど、ローブの人はガン無視や。

 私は警戒しながら、近付いていく。

 近付いてローブの人や、銀髪の女の人を覗き込む。

 危うく悲鳴上げるとこやったわ…。

 ローブの下は、骸骨に近い状態やった。

 いっそ骸骨やったら、直視も出来たやろうけど、肉や表情筋が残っとって、蛆が

現在進行形で食い荒らしとった。

 あの時、私を見に来たのはコレやったんか!?

 なら、この銀髪の女の人は…。

「アンタ。夜天、やね?」

 美海ちゃんから説明は受けとった。

 夜天の魔導書には、管制融合機と呼ばれる意思を持ったもんがおるって。

 夜天は、私を見ると申し訳なさそうに項垂れた。

「どうにか無理に夢に干渉したのですが、暴走を早めてしまったようです…」

「それに関しては、私の不甲斐なさもある。貴女が謝る事ない。寧ろ、ありがとうな。

お陰でここまで来れたわ」

 話している間も、フードの人の作業は進んどるようやった。

 ここで疑問やけど、このお化けなんやねん。

「彼女がナハトヴァールの正体…と言えるでしょう」

 私の表情から訊きたい事を察したのか、夜天が答えてくれる。

 彼女って、女の人やったんか…。最早、性別なんて分からへんわ。

「そして、決定的に夜天の魔導書を、歪めた張本人でもあります」

「こ、この人が!?」

 夜天が酷く悲し気に頷いた。

「研究熱心な方でした。こうなる前は…」

 夜天は軽くこの人の事を教えてくれた。

 人の為の魔導を目指して、研究していた人やったらしい。

 旦那さんとお子さんに恵まれて、研究も援助してくれる国も現れた。

 夜天も助手として補佐しとったそうや。

 順風満帆やった。ここまでは。

 戦争が始まり、お子さんと旦那さんが、仲間が捨て石として使われ、死んだ。

 この人の研究は不要物を発酵分解して、肥料や燃料を作り出す魔法やった。

 これが実用化出来れば、ベルカは少なくとも物を奪い合う戦争は減らせる筈やった。

 でも、国はこれを軍事転用した。

 旦那さんやお子さん、仲間の魔導士に使わせた。

 まだ、実用段階でもない使用は、不備を明らかにした。

 使用者を含め敵対者が、全員腐敗して死ぬという結果をもって。

 それを聞いて、この人は静かに狂っていった。

 仕舞には、国に復讐し、厄災を振り撒く存在となった。

 自らプログラムの一部となって、未来永劫自分や他人を罰する為に。

 

 私は辛そうな夜天の腕に触れる。

「主?」

「そう、今は私が貴女のマスターや。もう復讐も済んでしもうたんやろ?だったら、悲し

過ぎるやないか。もう、休ませて上げなあかん」

 私はローブの人に歩み寄る。

 私はローブの人の腕を掴む。グジュッと嫌な感触が手に伝わる。

「もう、終わったんや。もう止めよう」

 ローブの人は首を傾げる。その動きは虫みたいやった。

 もう完全に狂っとるんや…。

「コロスコロスコロスコロスコロスコロス…」

「っ!?」

 突然、黒い霧のようなものが吹き出す。

 思わず、手を放してしもうた。

「主!!」

 くっ!こんなんでやられてたまるかい!!

 この霧、魔法を食っとる。急がんと!!

『管理者権限の発動が受理されました。力の解放を選択』

 私はそんな事、許してへんわ!!

 その時。

 

『はやて!!このまま、終わる気か!!』

 

 美海ちゃん!?

 美海ちゃんの声が聞こえてくる。

 せやな!終わる訳ないやん!!絶対ハッピーエンド…とはいかんかもしれんけど、グット

エンドにはしてみせるわ!!

「王様の杖!!なんかないんか!?使える魔法!!」

 私、基本的な強化と魔法2つしか習ってへんのや!!

 あと、魔力コントロールくらいしか出来へんで!!

『エルシニアクロイツです。主の使用可能な魔法は、一部を除いて貴女にも使用可能です』

 おお!喋れたんか!?

「なら、風の魔法!強力なやつ!!」

『了解しました。フレースベルグ発動します』

 とんでもないスピードで魔法式が構築される。

 これが、デバイス…。便利過ぎや!?

 これの正体なんて知らん!霧なら吹き散らせばええやろう!!

 王様が教えてくれた事や。なんでもええ、騙せ!!

「フレースベルグ!!」

「ガガ…!?」

 ローブの人が爆発と共に吹き飛ばされる。

 私はあの人が作業しとったコンソールみたいなもんに、しがみ付く。

「主!!」

「止まって!!止まれぇぇぇーー!!」

 魔法陣が現れる。

 全てストップや!!強く念じる。

『八神はやて。管理者権限を確認しました。停止命令を受理します』

 ホッと息を吐いたのも束の間、向こうから蠢く気配がしよる。

 あれでやられてくれへんか!?

 

「主!今がチャンスです。外にいる方に全力の魔力攻撃を加えて貰いましょう」

「それ、大丈夫なんか!?」

「強引ではありますが、ナハトヴァールを切り離します。管理者権限を取り戻した今しか

ありません」

 そうか、今はそれしかないか!

 私は外に向けて声を上げる。

 

『美海ちゃん!聞こえるか!?』

 

 

             :美海

 

 ナハトヴァールから、虚無が噴き出している。

 私は樹冠剣を発動させる。

「生命の樹よ!死を振り払え!!」

 優しい翠の気が、虚無をどうにか押し止める。

 邪気なら一発で浄化するんだけね。虚無じゃ足止めにしかならないか。

 本当にはやてがダメなら、バルムンクの使用も仕方ない。

 そう思った時、虚無の放出が収まる。

『美海ちゃん!聞こえるか!?』

 はやての声が、ナハトヴァールから聞こえる。

 無事に管理者権限を取り返せたか!

 ハラハラしたよ。全く。

「遅いよ。ダメかと思ったよ」

『ごめんな!ってそんな事言うてる場合とちゃうんよ!この子をブッ飛ばして欲しいんよ!

全力で!!』

 戦略級魔法じゃなければ、全力でも問題ないかな。

「分かった」

 ナハトヴァール本体ともいうべきパイルバンカーから、蛇が飛び出している。

 私はシルバーホーンを取り出し、構える。

 魔法式を構築する。

「響け!終焉の笛!」

 使うの久しぶりだな、これ。

「ラグナロク!!」

 シルバーホーンから滅びの光が砲撃となり、動きを封じられたナハトヴァールに直撃する。

 シルバーホーンが悲鳴を上げる。

 もってよ!

 完全に蛇を吹き飛ばし、管制融合機の姿も消えた。

 

 爆発が起きる。

 まだ、残心は解かない。

 

「美海!」

「美海ちゃん!」

「綾森!」

 フェイトとなのは、それに飛鷹君がそれぞれの戦闘を終えて、駆け付ける。

 

 私は爆心地から目を離さない。

 そして、光の柱が天を突いた。

 

 ごめん、シルバーホーン。この後、キチンと調整し直すから。

 

 光の柱からはやてが姿を現すと、私はそんな事を考えた。

 

 

             :はやて

 

 凄い威力の砲撃が、空間を揺らす。

 ホントに大丈夫なんか!?これ!?

 揺れが収まる。

「主。防衛プログラムの分離を確認しました」

 ホッとする。

 どうにか上手くいったんか…。

「しかし、切り離された防衛プログラムは、程なく暴走を開始します」

「うん。それもなんとかしよう」

 その前にや。

「この際やから、名前を変えよう」

「名前…ですか?」

「そうや。夜天っていうのもええ名前やと思うけど。夜って闇を連想させるやん。だから、

改名しよ。祝福の風・リインフォース…どうやろか?」

 夜天が驚いた顔をする。

 まあ、突然やったと思うけど、今やらな忘れそうやから。

「承知しました。これより私はリインフォースとなります」

 うん。あとは修復せなな。

「管理者権限発動!守護騎士システム修復開始」

 夜天の魔導書から破損したシステムをなぞる。

 バックアップから即時修復する。

 4つのリンカーコアが輝く。

「それじゃ、行こうか!私の騎士達」

 

 こうして、私は現実に帰還した。

 

 

 

 

 

 




 仕事で集中して書ける時間が足りませんでした。
 これから、こんな感じの時間が増えます。
 月に2回の投稿を目指す事になるかと…。


 〇樹冠剣・レーベン

 森林の民の神木を護る為の神剣。
 生命と森林を表す剣。
 森が戦乱で焼き払われる際に、神木は護れなかった
 ものの、剣だけは引き抜いてきた。
 護るべき神木を失い。神剣を救出してくれた美海に
 平和を齎して欲しいと願い、託された。
 生命の結界を張る事が出来る。
 結界内では体力・魔力を少しずつ回復させる事が、
 可能。樹木を操る事も出来る。
 邪気を払う神聖な気を放つ。


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第43話 希望

 想像以上に時間が掛かりました。すいません。
 はやて覚醒からになったのは、書く時間の関係
 です。
 あと、また可笑しなところをみつけたので、ほん
 の少し修正しています。

 では、お願いいたします。



              :飛鷹

 

 それぞれの戦いが決着し、夜天の魔導書の意思の相手をしている綾森のところへ駆け付ける。

 これまた珍しい綾森の感情的な言葉を聞いた時。

 もしかして…。なんて思っちまったよ。

 綾森が砲撃してたし…。

 だが、はやては原作通り強かった。心がだぞ?

 黒い霧が収まり、光の柱が天を突く。

 ベルカの魔法陣の周りに4つの光が囲み、人型となる。

「ヴィータちゃん!!」

「シグナム!!」

 なのはとフェイトがそれぞれ声を上げる。

「我ら、夜天の主のもとに集いし雲」

 シグナムが言葉を紡ぐ。

「主ある限り、我らの魂尽きることなし」

 シャマルがそれに続く。

「この身に命ある限り、我らは御身のもとにあり」

 そして、ザフィーラが後を引き継ぐ。

「我らの主、夜天の王、八神はやての名のもとに」

 ヴィータが締めくくりの言葉をいった直後、光の柱が消える。

 ベルカの魔法陣に残った丸い膜のような光が、ガラスが割れるような音と共に内側から砕ける。

 はやてが杖を持った姿で現れた。

 でも、杖がなんか派手になってるような?

 シュベルトクロイツってあんなだったか?

「夜天の光に祝福を!セッ~トアップ!!」

 シュベルトクロイツから光が放たれ、はやてが騎士甲冑の姿に変わる。

「リーンフォース!!ユニゾンイン!!」

 白銀の光がはやての胸に吸い込まれる。

 はやての髪と瞳の色が変わる。

「主…」

「はやてちゃん」

「主」

「はやて」

 シグナム、シャマル、ザフィーラ、ヴィータがはやてに向き直る。

「みんな。ありがとう。お陰で戻って来れたよ」

 はやてが守護騎士達に礼を言う。

 うん?どういう事だ?はやての自力じゃないのか?

 そんな事を考えていると、綾森が遠慮なく近付いていく。

 おい。いいのかよ?邪魔にならないか?

「戻って来られてよかったけど、ゆっくりはしてられない。そろそろ現実の問題に対処しないと

いけないからね」

 綾森の言葉にはやてが頷く。

「うん。防衛プログラム・ナハトヴァール、やね?」

 綾森は頷いた。

「そこで悪いけど、こっちはフェイトとなのは、はやて達に任せていいかな?」

「美海!?」

 フェイトが驚きの声を上げる。

 てっきりこのまま防衛プログラムを、一緒に撃破するもんだと思ってたから、俺もなのはも

ビックリした。

「みんな忘れてるみたいだけど、敵がまだ残ってるからね。私と飛鷹君はそっちの対処に行く。

なのは、悪いけど彼を借りるよ」

 なんでなのはに確認して、俺に確認しない?

「う、うん。分かった!」

 なのはさん?俺の意志は?

「どういう経緯かは不明だけど、3人共パワーアップしてるみたいだから、任せて大丈夫だと

思うよ」

 綾森が俺に言うが、行くのはいいけど意思確認をしろや。

 確かになのはもフェイトも、おまけにはやてまで原作以上に格好良くなっている。

 魔力も強化されているようで、戦闘後なのに全く消耗もしていないようだ。

 確かに、これ以上の人員はここじゃ過剰だろう。

「分かったよ。行くよ。それじゃ、ここ頼むぜ」

 俺はなのはに後事を託す。

 なのはは笑顔で任せて!と返事した。

「アレ…いえ、美海殿。ありがとうございます」

 移動しようとした時に、背後から声が掛かる。

 振り返ると、夜天…いや、もうリーンフォースか?が、はやての肩に立ち礼を言った。

 勿論、元のサイズじゃなく小さくなった状態でだぞ。

「まだ終わってない。まだ、貴女がどのくらい救えるか分からないんだ。それが終わって、

礼が言えるような結果だったら、その言葉を受けよう」

 綾森は振り返りもせず、そう言うとサッサと飛んでいった。

 俺も慌てて追う羽目になった。

 

「なんで俺も一緒なんだ?」

 綾森の後ろ姿に俺は疑問を投げ掛ける。

「まあ、いざとなったら、安全にリニス達を逃がす要員が必要だからだよ」

 おい!戦力としてじゃないのかよ!?

「あの赤いドレス、アルハザードの魔法使いだからね。今のところ足止めに徹してくれている

みたいだけど、長くは持たないよ。無駄口はここまでで」

 綾森はスピードを上げる。

 使い魔を通して、状況を把握してるのか。

 俺も付いていく為に、スピードを上げた。

 

 

              :ユーノ

 

 急いで回収してきた本を精査する。

 その内容は驚くべきものだった。

 ここに来た時も、アリアさんの説明を聞いた時も思ったけど、よくこんな本まで回収して

書庫に入れたものだと感心する。

「それで!?何が分かったの!?」

 ロッテさんが詰め寄って来る。

「ご説明しますが、どう事態が動いているか分かりません。報告も込みで説明します」

 ロッテさんとアリアさんを押し止めて、通信を入れて貰う。

 待っていたかのように、すぐに繋がり、3人に同時に報告する事になった。

 3人とは、キント執務官長、グレアム提督、リンディ提督だ。

「それでは聞かせて貰えるかね」

 感情の籠らぬキント執務官長が促す。

 

 クライド提督は、本当に根気よく未整理の魔窟とも言うべき、無限書庫で調べ尽くしたようだ。

 夜天の魔導書の起源に、限りなく近づいたのではないかと思う。

 勿論作成段階の記録だのは、流石に存在していなかったようだけど。

 でも、夜天の魔導書が性質を変化させた原因ともいうべき、書物を発見していたのだ。

 まだ、夜天の魔導書が、キチンとした研究に使われていた時代の記録だ。

 その当時のマスターは意外な人物だった。

 ベルカで悪名高い禁忌兵器″腐敗の王”の基礎理論を完成させた人物だったからだ。

 これはそのマスターの記録ではなく、研究を途中から手伝った知人の手記という形で残って

いた。

 ベルカの歴史書では、稀代の悪人みたいな書かれ方だったけど、本来の彼女は違ったらしい。

 ベルカでの戦争は、資源・物資の奪い合いの側面が強い。

 豊かな土地、資源が採掘される土地、豊かな水源、そんなものの奪い合いなんだよね。

 ベルカは資源豊かな世界じゃなかった。技術が未熟だった事もあったと思うけど。

 だから、戦乱が絶えなかった。聖王家が統一するまでは。

 だから、土壌の改善をする為の肥料、採掘に頼らないエネルギーを当時のマスターは研究して

いた。発酵分解を目的とした魔法開発だった。

 勿論、機密指定の為、詳しい術式やら研究課程やらは書いていない。

 それでも事の経緯は分かった。

 失敗から出来たなんでも腐らせる魔法。

 その失敗でマスターは、大切な人達を実験の為のモルモットとして死なせてしまう。

 そこからのマスターは、徐々に狂気の世界に行ってしまう。

 腐敗を促す魔法の軍事利用に積極的に賛成し、手を貸し出したのだ。

 知人はそれに何度も苦言を呈すが、聞き届けられる事はなかったようだ。

 マスターは結局は魔法に留まらず、魔法兵器として完成させてしまう。

 各国からこの魔法兵器の使用は、非難が集中した。当然だけど。

 遂に各国は、連合を組み国を攻め落とすまでに至った。

 腐敗の王は、禁忌兵器として封印された。

 マスターは国が滅びても満足しなかった。

 もう狂っていたのだと思う。もっと広範囲に、もっと悲惨な死を求めた。

 そこに接触したのが、アルハザードの派遣団だった。

 アルハザードの派遣団は、マスターの狂気を刺激し、魔導書の改悪案を承諾させてしまう。

 そして生まれたのが、防衛プログラム・ナハトヴァールだ。

 生贄を求めて彷徨い、マスターとして選ばれた人間を糧に破壊と死を撒き散らした。

 

 クライド提督の調査をそこで終わらなかった。

 聖王家の資料を隅々まで調べ始めたのだ。

 何故、聖王家かと言えば、聖王家自身がアルハザードと深い繋がりを持っていたからだ。

 それは、言い伝えにある聖王のゆりかごからも明らかだ。

 だから、アルハザードを知る資料としてベルカ聖王家の記録は、歴史的に重要なのだ。

 そして、それらしき記述をクライド提督は発見した。

 誰にも手を出せない場所を造ったと。

 どうもそこに鍵となるシステムを隠したようだ。

 その鍵は、それ単体では意味をなさないモノであり、どのようなモノの鍵なのか興味を

そそられるとベルカ外交官が手記で記していた。

 

 そして、クライド提督は、その鍵が夜天の魔導書の改悪にどの程度関係しているのか、して

いないのかを調査し始める。

 普通なら諦めるレベルの話まで、突き詰めて調べた。

 結果、鍵を必要とするものを幾つか、過去の聖王家の記録から探し当てた。

 ある技術者の走り書きからだ。

 その技術者は聖王のゆりかごの整備が出来るように、仕込まれた者だったようだ。

 愚痴と一緒に、興味を惹かれた事等を走り書きで日誌の端に書いていた。 

 こんな公私混同しても大丈夫だったのか、気になるところだ。

 まあ、個人的な日誌なんだろうけど、それが件の人物の死後、一緒に資料として放り込まれ

たんだと推測する。

 肝心の内容だけど、それは下手をしたら聖王のゆりかごも失敗作として封印されたかも、

という皮肉とも取れる内容のものだった。

 アルハザードには、通称・ゴミ箱と呼ばれる水晶があると笑い話にしている。

 倫理を無視して造ったはいいが、明らかな失敗作の場合にゴミ箱行きになるそうだ。

 だが、それを拾って改良しようとするヤツがいる為に、鍵を付けるようになったと皮肉って

いる内容だ。

 失敗は成功の母ともいうし、拾って改良する事自体はいいのかもしれないが、多分、失敗

して被害を出したんだろうと思う。審査を設ける為に苦肉の策だったんだろう。

 鍵掛けないと、勝手に取り出すなんて、流石倫理を捨て去った世界だ。

 こっちも大して変わらないか…。

 

 おそらくは、このゴミ箱の鍵である可能性が高いと、クライド提督も考えたんだと思う。

 だけど、ここからクライド提督の調査は、腑に落ちないモノに変わる。

 この鍵の事を詳しく調べ出したのだ。

 夜天の魔導書の変転を調べる上では、貴重な内容ではあるけど、事件を捜査する提督として

は、明らかに余計な調査に感じる。

 それとも、鍵が文字通り、夜天の魔導書の問題を解決する鍵と読んだのか…。

 クライド提督は、アルハザードと関連する場所・ミッドを選んだ。

 ミッドが魔法文明に切り替わる前の有様は、アルハザードと類似すると指摘する専門家も

多いし、資料もベルカ程ではないが残っている。

 そして、本物かの鑑定はしなければならないが、ミッドとアルハザードを繋ぐ関係を探り

当てる資料をクライド提督は見付けた。

 ミッド入植時と思われる記録がそれである。

 彼等は、アルハザードから権力闘争で敗れた者達であったらしい。

 その名簿の中に興味深い者を見付けた。

「興味深い?」

 黙って聞いていたグレアム提督が、口を挿む。

「はい。ここ、見て下さい」

 僕は本を開いたまま、問題個所を指差す。

「…済まないんだが、読めん」

 キント執務官長が、暗に勿体ぶらずに読めと言ってくる。

 ミッドの古語までは、なかなか読めないか…。僕も少し興奮してたな。

「済みません。ここ、テスタロッサって読めるんですよ」

「「「っ!!」」」

 全員の驚愕が伝わる。

 それはそうだ。僕も驚いた。プレシアの家の起源がアルハザードにあったなんて。

 でも、驚くのはまだだ。

「更に、名簿を調べていくと…ハラオウンがあるんですよ!」

「なんですって!?」

 ずっと黙り込んでいたリンディさんが、思わず声を上げる。

「はい。どうしてクライド提督が、これを調べたのかは分かりません。でも、ゴミ箱は、

永遠結晶(エグザミア)の事だと思われます。となると、この権力闘争に敗れた人達も重要な要素に

なります。開く鍵は、塔と呼ばれるアルハザードの行政機関に近い場所にいた血族の、

許可がいる。つまり、この敗れた人達でもいいとなりませんか?」

 僕の言葉にキント執務官長が待ったを掛ける。

「待ち給え。幾ら何でも逃げた者は外しているだろう」

 そう。それが当然だ。

「僕は何度も言いましたよ。倫理観なんてない世界だと。自分の興味がない事は熱心にやり

ませんよ。倫理観がないんですよ?」

 それに永遠結晶(エグザミア)は、適当にバラ撒かれているのだ。

 当の血族すらどこに何があるか、把握していないと思われる。

 それに所詮はゴミという認識なのだ。

「馬鹿な。信じられん…」

 初めてキント執務官長が渋面で呻いた。

「分かった事は、あともう1つ。ここです。クローディア」

「その名は知らんな」

「ええ。でしょうね。ベルカ時代を研究している歴史家くらいしか知らないでしょう。

クローディアは、更にベルカに渡るんです。そして王にまでなります。魔導王の名で最後の

王は呼ばれました。そして、この最後の王は、夜天の魔導書の暴走を止めた王なんです!

剣王の手を借りて!」

 全員が唸るように考え込む。

 ここで彼女の因縁が絡んでくる。

「そこら辺の事もクライド提督は調べていますね。剣王から封印結晶を渡されて、暴走を最小限に

止めている事も調べたようです。分かったのは以上です」

 キント執務官長が頷く。

「君の見解を纏めると、クライド提督は夜天の魔導書の問題解決に、永遠結晶(エグザミア)が鍵に

なると見ていた…そう言う事でいいのか?」

「寧ろ、鍵のシステムを使って何か出来ないか、探ったのかもしれません」

 これ以上は分からない。

 クライド提督の日記でも見付からない限り。

 僕は3人に労って貰ったけど、無限書庫の整理及び封印区画はなんとかすべきだ。

 管理局も人を雇ってやればいいのに、と考えていた時だった。

 

 リンディさんに通信が入った。

 

 

              :レティ

 

 のんびりと時間を掛けて尋問している暇はない。

 メイ司令を適当な部屋に、押し込んだ。

「貴様!!何をする!?」

 メイ司令の腕を取って、関節を極めて身動きを止めてから、部屋に押し込んだので、声を

荒げるが、遅い。もう室内に入ってしまっている。

 防音効果はそれなりにあるし、今は非常時だ。

 私は関節を極めたまま、壁に押し付ける。

「自分が何をやっているのか、分かっているのか!?」

「勿論ですよ。時間がないので手っ取り早く済ませたいので、ご協力を」

 耳元で凄んでやると、彼の顔は引き攣った。

 アルカンシェル搭載艦を、複数送り込むような暴挙は許容出来ない。

 しかも、管理外世界だからといって、被害を度外視するなど論外だ。

「こちらの質問に素直に答えてくれますよね?」

「……」

 私は膝裏に蹴りを入れてメイ司令の態勢を崩すと、メイ司令を転がす。

 そして、急所を踏み付けた。

「さて、もう1度お訊きしましょうか?質問に答えてくれますよね?」

 私は少し力を籠めて踏み付ける。

「っ!?」

 メイ司令が冷や汗を流して、渋々頷いた。

 結構。

 

 素直に歌ってくれたので、サッサと部屋を後にする。

 部屋の中から喚き声がするが、放置させて貰う。

 管理局員として、この事態を座視する訳にはいかない。

 最悪、懲戒処分も覚悟の上だ。

 

 通信室に入ると、すぐにアースラに繋げる。

「レティ?何かわかったの?」

 硬い表情の親友の顔を見る。

 どうも、他にも聞いている人間がいるようだけど、リンディが気にしないという事は、

聞かれても問題ない相手なのだろう。気にせず、用件を話す事にする。

「ええ。取り敢えず聞いて頂戴」

 私はメイ司令から聞き出した事を話し出す。

 

 始まりはクライド君の調査。

 闇の書の捜査以前の話になるけれど、上層部の不正を調べていたらしい。

 そして、彼は不正の証人を押さえた。

 闇の書事件の際に。

 どうも、この証人は闇の書が食らうリンカーコアを与える役割を持っていたらしい。

 勿論、蒐集する相手を騎士達の前に突き出すだけだ。

 その現場を彼は押さえた。

 ここからは、言い難い事だが、告げなければならない。

 そして、クライド君は、この事をノルド長官に突き付けた。

 証人が録音した音声データを元に、捜査をしていけば証拠も固められる筈だった。

 そこに介入したのが、評議会の方々だったという。

 評議会の子飼いは、クライド君が乗っている戦艦・エスティアを沈める工作をし、更に

彼が集めた証拠・捜査メモの核心部分を始末した。

 だが、皮肉にもそれが、彼等にとっては最悪な情報も齎した。

 彼は闇の書の防衛プログラムに目を付けていたのだ。

 これを掻い潜り、なんとか闇の書に干渉出来ないか調べていたようだ。

 そこで分かったのが、永遠結晶(エグザミア)の鍵を生成するシステムが、闇の書の内部に勝手に作成

された事。

 彼は鍵の生成手段を調べた。

 そして、アルハザードの塔の血族に連なる者の魔力パターンを鍵のシステムに通さない

と、鍵の機能は果たせないようだ。

 この資料は持ち出し出来なかった上に、途中が読めなかったようだ。

 魔力パターンを読ませる。つまりこれは、読み込ませる手段があるのではと彼は推測した。

 闇の書の防衛プログラムを誤魔化す手段があるという事では?と彼は考えた。

 そして、彼は一縷の望みを掛けて血族を探した。

 あわよくば、闇の書を呪縛から解放出来ると考えたんだと思う。

 鍵は闇の書のコアシステムの付近にある。

 そこに行けば、突破口があると彼は考えた。そして、更なる証拠もあるかもしれない。

 闇の書に蒐集された者の残留データが。古い物は流石に期待出来ないが、新しい物なら

もしかたら、システムという以上完全にデリートされていないかもしれない。

 コアシステムに干渉出来なくとも、読み込み保存くらいは可能ではないかと考えた。

 そして、無限書庫を封印区画まで危険を冒して調査した結果。

 自分がそうかもしれないと、分かった。

 問題は微妙に発音が異なる事だったそうだ。

 そう、撃沈した事により重要な証拠が、有り得ない事だが、闇の書に眠っているかも

しれない。上層部はそれを恐れた。だから、闇の書事件だけは熱心だったのだ。

 自分達を告発する最後の証拠だから。

 現にハッタリかは不明だが、クライド君も闇の書の中に証拠が残ると言ったらしい。

 彼なりの確信はあったのかしれない。

 

 私は聞き出した事の全てを話した。

 リンディは無言だった。

「レティ提督。ご苦労様です。これでユーノ君の調査で抜けた穴が埋まりました。ですが、

どうやって、そんな事を聞き出したのです?」

 なんとそこには、キント執務官長がいた。

 しかも、ユーノ・スクライアが協力してたのね。

 私は動揺を出さずに、笑顔を作る。

「勿論、根気よく説得したお陰ですわ」

「…そうか、その説得が痛みを伴う脅迫・拷問でない事を祈ろう」

 キント執務官長は渋面でそれだけ言った。

 

 私は最後にリンディに声を掛けようとしたその時だった。

 私に緊急通信が入る。

 私は2人に断わり、通信に出る。

『大変です。まだ、出撃を許可していないのに、5隻の次元航行船が、進路を97管理外世界

に取りました!まだ、指示の確認中だと言っても、応答が一切ないんですよ!!』

 

 私は舌打ちしたくなった。こっちも暴走を開始したって訳ね。

 

 

              :リニス

 

 私とアルフが、あのイリスとかいう魔法使いと相対する。

 イリスが機甲の翼に手を触れる。

「仕様がない獣ね。少しだけ、遊んであげる。試運転くらいにはなってね?」

 機甲の翼が輝き出す。

「アルフ!あれの起動は阻止しましょう!」

「同感だね!あれはヤバそうだ」

 2人同時に左右から攻める。

 イリスが鼻で嗤う。切札に自信があるのか、侮っているようですね。

 ですが、それに付き合う気はありませんよ。

「フォトンランサー!!」

「っ!」

 まさか、アルフの方が魔法を使うとは思わなかったようで、一瞬、相手が驚き隙が

出来る。アルフは見るからにインファイターですからね。

「サンダースマッシャー!!」

 私は、その隙を見逃さない。

 雷の槍を躱しているイリスではなく、あのユーリという子とイリスの間に砲撃を撃ち

込む。

 イリスが舌打ちと共に、槍と砲撃の両方を避ける為に、少し距離を取って避ける。

 目的は取り敢えず、人質になっているユーリの救出だった。

「アルフ!!」

「応さ!」

 アルフは今度こそ拳を握り締めて、イリスに突撃していく。

 私はイリスの方を見ずに、しかし警戒は怠る事なくユーリに接近する。

 手を伸ばすと、静電気のようなものに阻まれた。

 バチッ!という音と共に手が弾かれる。

「なっ!」

 思わず私は声を漏らしてしまう。

「馬鹿じゃないの?備えをしてないとでも思った?」

 イリスは難なくアルフのラッシュを躱しながら、嘲笑う。

 悪戯が成功した子供ですね、まるで。

 私はそれに一切答えずに、ハルバードを真横に振り切りる。

「っ!?」

 流石に人質ごと斬る等しないと、高を括っていたイリスが驚愕する。

 しかし、そんな事をする訳ないじゃありませんか。

 これでも私は剣王の守護獣なのです。

 周りにどんなに邪魔なものがあろうと、目的のものや魔力を斬るなど、造作もありません

よ。これが出来るようになるまで、美海には何度も付き合って貰いましたからね。

 私は相手の小細工ごと叩き斬った。

 ユーリを覆う護りが消える。

 これで確保っと思った時、突然、機甲の翼がユーリを護るように動いた。

 私は本能に従って飛び退いた。

 空間を削り取りながら、私のいた場所を翼が通り過ぎる。

 なっ!?起動していたのですか!?

 私は驚愕しつつも、油断なく機甲の翼を警戒する。

 視線をイリスの方に一瞬やると、イリスはしてやったりといった顔ではなかった。

 アルフの魔法と打撃を捌きながら、複雑な表情をしていた。

 これは、イリスの意図したものではない?

 それ以上の行動には出ないところを見ると、完全に起動した訳ではないようだ。

 私は一先ずユーリ確保を諦めると、アルフの加勢に向かう。

 アルフが魔力を籠めた拳を振るう。

 横目でイリスが私の接近は見て、舌打ちする。

 おそらく私の武技が想像以上だったので、形勢逆転の可能性が出て来たと悟ったのだろう。

 本当なら、ユーリの安全を確保したかったんですがね。

 私はアルフと連携して、攻撃をしていく。

 基本はアルフが攻撃して、回避で出来た隙を私が突く形だ。

 勿論、私も陽動の役割も担う。

 押している。このまま押し切る!と思った時だった。

 苦しそうな表情から一転して、イリスがニヤリと嗤った。

 私の背筋に悪寒が走る。

 イリスの周りに突如、赤黒い槍が地面から出現する。

 私は突っ込もうとしていたアルフの首根っこは掴んで、後方に跳ぶ。

 私達がほんの一瞬前にいた場所から、剣山のように赤黒い槍が飛び出した。

「もうちょっとだと思ったでしょ?そろそろ私の方の試運転もしないとね」

 機甲の翼を!?

 赤黒い槍が形を失い、彼女自身に殺到する。

 それがみるみる人型に変わっていく、最後に色を取り戻した。

 そこには、バリアジャケット?姿のイリスが立っていた。

「やっぱり、実体がないとね。魄翼のお陰でこんな事も出来るのよ」

 今までの情報体染みた感じではない。

 本当に実体を得たのだ。まだ本格的に起動していない状態で、こんな事が!?

 そこからは、一方的な展開だった。

 イリスも赤黒い槍を無数に出して投擲し、本人も手に槍を持ち振るう。

 私が前衛に交代する程の腕前だった。アルフが後衛で雷の槍を投擲して支援してくれるが、

どんどん追い詰められていく。

 実体を得ただけで、これ程力が上がるなんて!

「はい!プレゼントよ!」

 赤黒い球体がイリスの掌に生成され、それが投擲される。

 私とアルフは大きく飛び退きつつ、障壁を展開する。

 私達がいた場所を球体が抉ると、黒い衝撃波が襲う。

 衝撃波で私達は大きく吹き飛ばされ、アトラクションに突っ込んで止まる。

「アルフ…大丈夫ですか?」

「こんなの屁でも…ないね」

 2人共、もうボロボロだが、目はまだ死んでいない。

「そう。じゃあ、これでさよならね?」

 気が付くと、イリスが目の前に立ち、あの球体を無数に発生させていた。

 私は押し殺した声で言った。

「そろそろ、いいんじゃありませんか?」

 私の言葉にイリスが訝し気に私を見る。

 だが、答えはすぐに知れた。

 バインドがイリスの身体に巻き付いて、拘束したからだ。

「っ!?こんなもので!」

 球体が姿を消す。

「これは!?」

「ストラグルバインド。対象の魔法を無力化しつつ、相手を拘束する」

 イリスの後からクロノ執務官が歩いてくる。

 瓦礫の下敷きになったので、少しボロボロだった。

「アンタ!起きるの遅過ぎだよ!」

 アルフが思わず非難の声を上げる。

 クロノ執務官は流石に申し訳なさそうに謝った。

 気を取り直してクロノ執務官が口を開く。

「イリス。君を逮捕する」

「ハッ!舐めるんじゃないわよ!」

「魔法で実体化しているなら、すぐにその身体も消える。もう何をしても無駄だ」

 イリスは目を閉じると、赤黒い光が身体を覆う。

 すると、アッサリとバインドが砕け散る。

「「「っ!!?」」」

 私達の驚きを、イリスが嘲笑う。

「この程度で、私が拘束出来るもんですか!」

 再び、球体がさっきより多く生成される。

「もう、今度こそこれで終わり。吹き飛びなさい!!私の糧となって!!」

 回避出来ないし、防御も出来ない事は、さっき証明されてしまっている。

 クロノ執務官が魔力の刃を放つが、球体が全て飲み込んでしまった。

 球体が放たれる。

 視界が黒く染まった。

 

 美海…すいません。

 

 しかし、死は訪れなかった。

 目を開けると、そこにはピンクの髪の少女がいた。

「アンタ…」

 アルフが呟くように言う。

 

「キリエ。アンタ、まだいたの?しかも、邪魔するとはね」

 そこに立っていたのは、騙されていた少女・キリエだった。

「しかも、私がカスタムして上げたリミッター解除で邪魔するとはやるじゃない」

 どうやら、黒い衝撃波の嵐が発生する前に、キリエが全員を救い出してくれたようだ。

「どうしたの?何か言ったら?」

「イリス…。私は貴女を止めなきゃいけない…と思う。貴女がどういう思惑でも私は、それで

救われたの。だから、これ以上は…」

「今更、何言ってるの。アンタも共犯者でしょうが!」

 イリスが鼻で嗤う。

「そう…だね。罪は償わなきゃいけない」

 キリエはイリスに目を合わさずに言う。

 それでは、相手に自分の心を伝える事は出来ない。

「罪!?罪ですって!?随分とご立派な事ね!!じゃあ、償いは手伝って上げるわ!!」

 イリスが機甲の翼に目を遣る。

 顔は何故か渋面だった。

「魄翼!!もう1人の主を護りなさい!!」

 え!?もう1人の主!?

 機甲の翼がユーリに舞い降りて、取り込む。

「ユーリ!!」

 クロノ執務官が声を上げる。

 眩いばかりの光が周囲を照らす。

 光が収まると、そこには機構の翼を背に装着したユーリがいた。

 

「天使…」

 

 誰かの呟きが聞こえる。

 だが、これはそんなに生易しいものじゃない。天使を模した怪物だ。

 イリスがユーリに近付いていく。

「イリス…」

「あら、思い出したの?よかったわ」

 イリスがニッコリと笑う。

 だが、次の瞬間、拳で彼女の顔を力一杯殴り付けたいた。

「気安く呼ばないでほしいわね」

「……」

 ユーリは何か言おうと動こうとしたようだが、身体は動かなかった。

「っ!?」

「動けないでしょ?ウィルスを流しておいたのよ。私の命令には逆らえない」

「お願い、私はどうなってもいいから、こんな事は止めて!!」

 イリスは気分を害して、再び彼女を殴りつけた。

「アンタが私に、お願いする権利があるとでも思ってるの?封印処分されて肉体を失って、

何度も消え掛けたわ。それでも、私は耐えた。何故だと思う」

 ユーリの顔が歪む。

「まあ、そんな顔しないでよ。ここは私が唯一アンタに感謝するところなんだから。その

度に耐えられたのはね。いつかアンタを同じ目に合わせる。それを思い出す度に耐えられた

わ。今度は私が貴女を使い潰して上げる。貴女がそうしたようにね」

 イリスはユーリに手を翳す。

「魄翼!手始めにここにいる奴等を皆殺しにしなさい!!」

 イリスがそう言った瞬間に、魔力弾が彼女に当たる。

 バリアジャケット?の着弾箇所が焦げている。

 凄い形相で魔力弾が飛んできた方を見る。

「死に損ないが!!」

 重傷の身体で這うような態勢で、拳銃型のデバイスを構えていたのはアミタだった。

「消し去りなさい!!」

「止めて!!」

 イリスの命令にユーリが悲鳴のような声を上げるが、身体は言う事を聞かない。

 腕が振るわれる。

「お姉ちゃん!!」

 キリエが姉を助けようと飛び込むが、間に合いそうにない。

 空間を削り取りながら死の光がアミタを襲う。

 彼女に回避する手段はない。

 

 だが、着弾はしなかった。

 物凄い音と共に、攻撃が逸れた。

 アミタの前には、一人の少女が剣を振り抜いた姿勢で立っていた。

「美海!!」

 美海は私の方を見て、微笑む。

「お疲れ様。あとは任せて」

「チッ!足止めも出来ないのか、アイツ等は!!」

 イリスが忌々しそうに言う。

 

「今度こそ、失敗しない」

「俺も忘れないでくれよ」

 飛鷹も来ていたようで、美海の横に立つ。

 

「「さあ、始めようか!!」」

 

 

 

 




 次回、防衛プログラムタコ殴りの予定になっております。
 イリスは魄翼復活で、力が上がっております。
 本格起動した以上、更に強くなりました。
 腐敗の王ですが、マイナーラノベが名前の元ネタです。
 次回は今月中に出来ればいいんですが、不透明です。
 少しずつ書いていますので、気長にお待ち頂ければ幸い
 です。


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第44話 打倒

 随分と時間が掛かってしまいました。
 すいません。

 では、お願いします。


              :キリエ

 

 使い魔の2人がイリスに立ち向かっている。

 どうして挑めるの?

 少し前の私なら、躊躇せずにイリスを助ける為に行動した。

 でも、今は…分からない。どうしたらいいのか…。

 私は重傷のお姉ちゃんを抱えて、途方に暮れていた。

 2人はイリス相手に善戦していた。と言っても、イリスが試運転がてらに遊んでいただけの

ようだけど。

 2人はまずユーリの解放を第一に動いたが、封印から目覚めた翼に阻まれ、失敗した。

 翼は万全の状態じゃないのか、ユーリを護る以上の動きはない。

 あの翼がある限り、ユーリの救出は難しいだろう。

 2人は頭を切り替えて、イリスと協力して戦うが、すぐにイリスの魔法で形成が変わる。

 赤黒い槍の形が崩れ、イリスに吸収されていく。

 そして、最後には人型となった。実体化した…の!?あんな事まで出来るなんて…。

 イリスは今までに見た事のない格好をしていた。

 いつものドレスではなく、装甲まで付いた動き易い格好に。

 イリスが無数の槍を放ち、自らも槍で攻め込む。

 

 私はただその姿を見ていた。

 その時、腕の中でお姉ちゃんが動いた。

「お姉ちゃん…」

 お姉ちゃんが目を開く。

「戦いは…どう…なりましたか?」

 お姉ちゃんの目は、まだ諦めていなかった。あの2人のように。

 2人は黒い球体の攻撃でボロボロになっていた。

「多分…もうすぐ…終わるよ…」

 私はお姉ちゃんの顔を見られなかった。

 結局、私のした事はエルトリアの、父さんの手助けにならなかった。

 状況を悪化させただけ…。合わせる顔もない。

 かと言って、どうする事も出来ない。

「そうですか…」

 お姉ちゃんはそう言うと、私の腕を退けようとする。

「何する積もり?」

「私も戦います。最後まで…」

「無理だよ!!」

 私は思わず反論した。

 お姉ちゃんが何も言わずに、私の頬を軽く叩く。

 全く痛くなんてない。でも、驚いてしまった。

「キリエ…。告白…します。私は貴女の…事が嫌いでした」

 別に好かれていると思っていた訳じゃない。

 でも、ハッキリと言われるのは初めてだった。

「貴女はみんなに…甘やかされて…いた。みんなが可愛がった。貴女がそんなだから私は物分かり

のいい…姉でいなければならなかった。そうしないと…認めて貰えない気がして…。それは正しく

も…ありました。だから、認め…られた。エルトリアの状況の悪化で…私は頼って…貰えるように

なりました。でも…相変わらず、誰にも甘える…事は出来なかったんです。だから、腹が立ち

ましたよ。貴女の態度が」

 お姉ちゃん…がそんな事を考えていたなんて…。

 そんな事、1度だって表に出さなかったのに…。

「今まで、姉として…いえ、アミティエとしての意地で、姉として振舞ってきました。…でも、

今…アミティエとして言います。甘えるんじゃ…ないの!自分の、不始末は自分で…どうにか

しなさい!私は、そうします。退いて下さい」

 お姉ちゃん…。

 私は腕に力を籠めた。

「キリエ!」

 お姉ちゃんは非難の声を上げる。でも、手を放す訳にはいかない。

「私もみんなが頼りにするお姉ちゃんが嫌いだったよ。だから、お願いは聞かない。私が行くよ」

「そうですか…」

 なんだか、少しだけスッキリした気がした。

 お姉ちゃんの顔にも、いつもの余計な力が入っていない気がした。

 どうすればいいか、未だに分からない。でも、行かなきゃいけない。

 このまま止まっていては、また動けなくなってしまうから。

 お姉ちゃんを地面に寝かせて、走り出す。

 リミッター解除を行う。

 

 いつの間にかクロノ執務官が、戦いに参戦していた。

 だが、イリスの力の前には、力が足りなかったみたいだ。

 イリスから黒い球体が放たれる。

 私はヴァリアントザッパーを拳銃形態に変えて、黒い球体の軌道を逸らすように魔力弾を撃つ。

 黒い球体は、軌道をズラし3人の横を通過していった。

 私は3人の前に庇うように立つ。

「アンタ…」

 紅い髪の使い魔が呟くように言う。

「キリエ。アンタ、まだいたの?しかも、邪魔するとはね」

 イリスの事を真面に見る事が出来ない。

 でも、言わなきゃいけない。 

「しかも、私がカスタムして上げたリミッター解除で邪魔するとはやるじゃない。どうしたの?

何か言ったら?」

 私は目を合わせないまま、自分の気持ちを伝えた。

 でも、イリスから返ってきたのは、嘲りと怒りだった。

「罪!?罪ですって!?随分とご立派な事ね!!じゃあ、償いは手伝って上げるわ!!」

 イリスが翼に命令を下す。

「魄翼!!もう1人の主を護りなさい!!」

 その言葉と共に、ユーリが翼に取り込まれる。

 そして、翼を背に装着したユーリが姿を現した。

 

「天使…」

 

 誰かの呟きが聞こえる。  

 だけど、あれはそんなものじゃないのは、イリスが語っている。

「イリス…」

「あら、思い出したの?よかったわ」

 イリスがニッコリと笑う。でも、目は笑っていなかった。

 今まで誰か分かっていなかったのに、今はイリスのことを知っているような感じだ。

 イリスがユーリを殴り付ける。

 そして、語られるイリスの気持ち。

 そうだったんだ。イリスにとってユーリは大切な存在だったんだろう。

 でも、それはユーリのなんらかの理由で破られた。

 イリスは傷付いていたんだ…。

 私はそれに気付いて上げられなかった…。

 確かに、私は友達を名乗れないのかもしれない。

「魄翼!手始めにここにいる奴等を皆殺しにしなさい!!」

 イリスがそう命じた直後、イリスに魔力弾が命中する。

 射手を見ると、お姉ちゃんだった。

 お姉ちゃんは這うように、ヴァリアントザッパーを構えていた。

「死に損ないが!!消し去りなさい!!」

 ダメっ!!

 私は咄嗟にお姉ちゃんえお助けに向かう。

 ユーリの悲鳴のような声と共に、攻撃が放たれる。

 けど、間に合いそうにない!!

 絶望的な気持ちで体を動かす。時間がゆっくりに感じる。

 お姉ちゃんが目を閉じる。

 

 何か影のようなものが、お姉ちゃんの前に飛び込むと、物凄い音が響く。

 

 私は驚いた。そこにいたのは、敵だった筈の子がお姉ちゃんを庇うように立っていた。

 イリスにしたら、全員始末してから、戦いたかったのだろう。

 悪態をつく。 

「今度こそ、失敗しない」

「俺も忘れないでくれよ」

 彼女のセリフの後に、私と戦った男の子が出てくる。

「「さあ、始めようか!!」」

 戦闘開始の戦前をした。

 

 私は今になって、ようやくお姉ちゃんの元に辿り着く。

 お姉ちゃんが2人の背中を見ている。

「この世界には…ヒーローがいるんですね…キリエ」

 私達はなれず。

 私達の世界には今のところいない存在。

 それが今、目の前にいた。

 

 小さな2つの背中が、心なしか大きく見えた。

 

 

              :フェイト

 

 美海と飛鷹が、飛んで行ってしまう。

 私達だけでやるんだ…。

 でも、信頼の証だと思えばいいと思う。美海もハッキリと大丈夫だって言ってたし。

 切り替えて、状況を確認していく。

 夜天の魔導書と防衛プログラムは切り離され、黒い澱みとして存在する。

 アレをどうにかしないといけない。

「状況の確認をしようか」

 なのはが口火を切る。

 みんななかなか口を開けない中、真っ先に口を開くなのはは凄いと思う。

「そうやね。ええと…切り離された防衛プログラムを行動不能にするんが、今回の目的

やね。プログラムの意思みたいなもんがある以上、実体化するのは確実やと睨んどる。」

 はやてが分かっている事を含めて、予測を口にする。

「どうして?だって、全て呑み込んじゃうじゃなかったっけ?」

 なのはが実体なんていらないんじゃない?と語外に言う。

「私が会ったんは、もう狂った人やったけど、人型やった。つまり自分を人として認識

しとるんやなかいかと思うんよ。マスターを使って滅ぼすんやったら、それでもええの

かもしれんけど、今は夜天の魔導書から切り離されて、自分でやらなあかん」

「つまり…自分の形を定義しないと動き難いって事?」

 私の解釈にはやてが頷く。

 朗報は、夜天の魔導書から切り離したお陰で、全てを飲み込む虚無を自在に操れないらしい事。

 その代わりに防衛プログラムを護る為のシールドを、具現化するんだとか。

「それは、物理と魔法が交互に4つの構造で出来とる。まずはそれを破らなあかん」

 幸い騎士達が復活して、物理に関しては問題ない。

 魔法に関しても、私となのはがいる。

「問題はシールドを破った後や。純粋な魔力の塊になっとるナハトヴァールに下手な攻撃

は通用せぇへん。実体はあくまでコアである意思を護る為のもんや。実体を幾ら壊しても

再生してまうと思うわ」

 つまりは、コアを露出させた後、速やかにコアを一撃で消滅させなければならない。

 二段階突破すべき事があって、コアの露出も多分、短時間。

 コアの強度不明。厳しいな…。

「ええと、ヴィータちゃん達は何か意見はないの?」

 なのはがシグナム達にも意見を求める。

 そう言えば、騎士達はさっきからずっと黙ったままだったね。

「すまん…それに関しては有益な情報がないのだ」

 シグナムが苦い顔で言った。

「大体、こんな事態になってる時は、アタシ等は取り込まれてたみたいだしな」

「故に、それに関する知識はないのだ。どの程度手強いのか、それとも大した事がないの

か、それすら分からんのだ…」

「すみません…」

 ヴィータ、ザフィーラ、シャマルが同じく苦い顔で言った。

「私も、その時には優先がナハトヴァールに移っているから、主が語った概要程度しか情報

がない。済まない」

 夜天の意思がはやての肩で項垂れる。

 やっぱり、コアの方は私となのはで砲撃するしかないかな…。

 問題はそれで倒し切れるか、だね。

「コアの再生能力は、実体以上と思って間違いない」

 はやてが私の考えを呼んだように、追加情報を出す。

 コアが再生能力を司っているなら、それも考えられるね。

 

 悩む時間は限られている中、通信が入る。

 出るとリンディ提督だった。

『通信に出れるという事は、今のところ順調と考えていい?』

 リンディ提督の表情が硬い。

 私は代表して今の状況を説明する。

『成程ね…。コアの破壊を…。こちらにアルカンシェルでもあれば、状況次第では協力も

出来たんだけど…』

 アルカンシェル。対反応消滅砲、だったと思うけど、あれは被害が大き過ぎて流石に、

地球で使ってほしくないものだ。手札にないくらいが丁度いいと思う。

 守護騎士達も、これにはとんでもないと反対した。

 理由が、はやての家がなくなるからだったけど、私達も似たような理由で嫌なんだから、

苦笑いするしかない。

『それでね。こちらにも悪い知らせがあるの…』

 リンディ提督は、本当に申し訳なさそうだった。

『まずは僕から説明するよ。出来る限り簡潔に話すから』

「ユーノ君!」

 なのはが声を上げる。ウィンドウがもう1つ開き、話し出したのはユーノだった。

 なんだか凄く久しぶりな気が…。

 その説明は驚く事ばかりだった。クロノのお父さんの事、防衛プログラムの成り立ち。

 中に仕込まれたシステム。更にリンディ提督の友達・レティ提督という方からの報告も

付け加えた形で教えてくれた。

 守護騎士達も驚いていた。

 はやても知らない部分があったのか、驚いていた。

 美海の因縁がここで出てくるなんて…。

 更に驚きの知らせがあった。

『実はね。そちらにアルカンシェル搭載艦が5隻、証拠を消す為に向かっているの』

 全員の顔色が変わる。

 対応を間違えば、地球だって危ない。

「管理局って、そないな暴挙やるんですか」

 はやてが冷ややかとも言える口調で言った。

『一言もないわ』

「いえ!別にリンディさん、責めてる訳やないですよ!」

 はやてが慌てたように、手を振って全身で違うと表現していた。

「それでも、組織の一員としてお詫びするわ。勿論、全力で対処するから」

 リンディ提督が、決意を籠めて言った。

 それから、リンディ提督にも対処の相談をする事にした。

 リンディ提督も、その条件だとアルカンシェルくらいしか思い付かないみたい。

 何か、一撃で…。

 

 あっ…。

 

 私は手にしたトライデントを見詰める。

 レヴィが受け取った力。

 これで一気に崩壊に導けるんじゃない?

『バルディッシュ。どうかな?』

 私は自分の考えをバルディッシュに念話で話し、検証して貰う。

『魔力を解析出来れば、可能です』

 バルディッシュが少しの沈黙の後に、結論を教えてくれた。

 なら、迷う事はないよ。

「私、多分、一撃で消し去れると思う」

 全員が驚いて、こっちを見た。

「え!?ホンマ!?」

 はやてが信じられないと言わんばかりに、訊いてくる。

 まあ、無理ないかな。心の中で苦笑いする。もし、立場が逆だったら私も信じられない。

 私はレヴィの力を軽く説明する。

「レヴィさんの力って、なんか凄いね」

 流石になのはもビックリしている。

 でも、多分、なのはも戦った人から受け取ってるよね?

 それからの手順をリンディ提督とエイミィさんも交えて、決めていく。

 

「もうじき、ナハトヴァールが暴走を開始します」

 はやての肩に夜天の意思が、リミットを告げる。

「じゃあ、いこか!」

 はやてが締めくくり、みんなが配置に着く。

 

 これで夜天の魔導書の悲劇に、終止符を打つ。

 

 

              :なのは

 

 飛鷹君がいない戦いって、久しぶり…もしかして初めてかな?

 私もようやく任せてくれるくらい強くなったって事かな。

 美海ちゃんだって大丈夫だって言ってくれたし。自信を持っていいと思う。

 アースラからは結界の支援をして貰ってるけど、あんまり被害を出さないのがベスト。

 結界を過信すると、市街地に被害が出ちゃうらしい。

 だから、対策をする事にする。

『いい?例の場所に頑丈な結界を、もう1つ形成したから!座標を間違えないでね!」

「大丈夫です!はやてちゃんの家を護る為にも、失敗はしません!!」

「私もOKや」

 エイミィさんの最終的な確認に、シャマルさん、はやてちゃんがそれぞれに応じる。

 でも、シャマルさんのって…。

 エイミィさんも苦笑いしているし。

「主!」

 夜天さん?が警告を発する。

「みんな!打ち合わせ通りに!」

 黒い嫌な魔力が黒い澱みのような場所から、噴き出してくる。

 出て来たのは、女の人の上半身を持った怪物。

 邪神と言っても違和感なんかない。

「仄白き雪の王、銀の翼以もて、眼下の大地を白銀に染めよ。来こよ、氷結の息吹」

 夜天の魔導書のページが高速で捲られ、はやてちゃんが詠唱する。

氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)!」

 はやてちゃんが魔法を発動すると、出て来たばかりの邪神が一瞬で氷の彫像に変わる。

 こんな事をしても、すぐに元に戻る事は織り込み済み!

 ほしいのは少しの時間。

 私とフェイトちゃん、それに騎士達もバインドを使用して縛り上げる。

「シャマル!」

「はい!」

 邪神の周りに魔法の膜が形成される。

 シャマルさん1人じゃ出来ない。けど、はやてちゃんが持つ莫大な魔力があれば、出来る!

「「転送!!」」

 2人が息を合わせて、邪神を決戦の場に定めた場所に送る。

「エイミィさん!!私達も!!」

 はやてちゃんが叫ぶ。

「了解!」

 エイミィさんは返事と共に、アースラの転送で私達も決戦の場へ転移させる。

 

 到着と同時に、水飛沫が上がる。

 放り出された邪神が()に落ちたんだと思う。バインドでグルグル巻きだったし。

 これでかなり海鳴から離れたよ!

 私達は、オールストン・シーより離れた遠海に邪神を飛ばしたんだ。

「まずは4層のシールドを破る!」

 はやてちゃんがそう言った時に、派手に邪神がバインドを破り、水面に現れる。

 氷が割れて、新たな身体が氷の隙間から出てくる。気持ち悪い。

 随分と怒っているように感じる。

「鋼の軛!」

「戒めの風!」

 ザフィーラさんとシャマルさんが再び拘束していく。

 私とフェイトちゃんもバインドを掛け直す。

 邪神の後ろにある車輪のような物が回転して、バインドや拘束を破壊する。

 水面から触手が顔を出し、こちらに先端を向けると魔力が収束し出す。

 砲撃!

 すぐに全員が回避を選択して、躱していく。

 それぞれが、こちらの援護射撃や、囮として派手に動き回る。

「先陣突破!ヴィータちゃん!なのはちゃん!」

 シャマルさんの指示で、私達は邪神に突撃を始める。

「足引っ張るんじゃねぇぞ!高町…なんとか!!」

「なのは!!ヴィータちゃんも失敗しないでよ!」

「誰に言ってやがる!」

 どうも、関わりが途中で薄くなったから、私の名前を忘れたみたい。

 ヴィータちゃんと言い合いしながらも、戦槌で魔力弾で邪魔な触手や砲撃を倒し、進路を

確保する。

 ヴィータちゃんの奥の手の間合いまで、あと少し!

 沢山の触手が砲撃体勢に入る。

 ポジションを確保しなきゃ!

「レイジングハート!アクセルシューター・バニシングシフト!」

『ロックオン!』

「シュート!!」

 同時に20以上の炎熱弾が、砲撃体勢にあった触手を焼き尽くす。

 シュテルから預かった炎は、凄い。

 前の私の魔力弾じゃ、撃ち抜く事は出来ても、完全に倒せなかったと思う。

 ヴィータちゃんが対応しきれない砲撃を、炎熱弾で撃ってポジションを確保。

 あまりの精密射撃で驚いたのか、ヴィータちゃんがこっちを一瞬振り向いて、目を見開く。

 私は笑顔で頷くけど、プイッとそっぽを向かれてしまった。

 仲良しになるには、まだ遠い…。

 そんな事を考えていても、手は止めない。目に映る全ての触手を焼却する。

 ヴィータちゃんが空中で止まり、魔法陣が形成される。

「鉄槌の騎士・ヴィータと黒鉄の伯爵・グラーフアイゼン!!行くぞ!!」

『ギガントフォルム』

 ヴィータちゃんの戦槌がカートリッジの弾丸を吐き出し、形が変わり戦槌が大きくなる。

 ヴィータちゃんが豆粒に見えるくらい大きくなった!?

 凄い魔力が噴き出す。

 ヴィータちゃんが超巨大戦槌を振り上げる。

「轟天爆砕!!ギガントシュラーク!!!」

 超巨大戦槌が信じられない速さで振り下ろされる。

 邪神の大きい身体が、衝撃に耐え切れずにシールドを一枚叩き割るだけでなく、水中に

沈める。凄い威力!!

 でも、感心してる場合じゃない!次は私だ!

「レイジングハート・エクセリオンと高町なのは!!行きます!!」

 私はレイジングハートを構える。

 魔力が凄いスピードで収束される。

「エクセリオンブラスト!!」

 レイジングハートから高熱を帯びた衝撃波が放たれる。

 エクセリオンバスターとシュテルの炎を合わせた魔法で、ぶっつけ本番だけど、成功

させる!!

 射線を遮ろうとする触手を、焼きながら吹き飛ばす。

「ブレイク…シュート!!!」

 そして、本命の魔力砲撃が放たれる。

 4つの魔力砲が互いに絡み合い邪神に直撃する。

 2つ目のシールドを撃ち抜いただけじゃ足りずに、巨体が後ろ向きに倒れる。

 それでも炎がシールドに纏わり付く。

 すぐに邪神が炎で焼かれている部分をパージする。

 焼かれた部分が再生してしまう。

「次!シグナムとテスタロッサちゃん!」

 シャマルさんの合図で決めてあった通りに、今度は私とヴィータちゃんが陽動と援護射撃

に入る。

 フェイトちゃんとシグナムさんが、入れ替わりに突撃する。

 邪神が2人の接近させないように、海面から触手を大量に出してくる。

 砲撃がチャージされる。

 けど、させない!

 片っ端から炎熱弾で焼き払い、2人の進路を確保する。

 ヴィータちゃんはヒット&アウェイで、邪神を戦槌で叩き気を逸らす。

「シグナム…」

「分かっている。今は共闘中だ。上手く合わせてくれ」

 フェイトちゃんは、多分、一緒に組むからお願いしますって言いたかったんだと思う。

 シグナムさんもそれが分かった。

 この2人って案外似てるのかも。

 シグナムさんが急激に止まる。

 あれ?剣で斬るんじゃないの?

 フェイトちゃんは一瞬ビックリしたみたいだけど、すぐにシグナムさんが集中出来る

ように、離れた位置で速度を落として飛び回る。

「烈火の将・シグナム。レヴァンティン!連結刃に続く姿を」

 シグナムさんが鞘を手に取り、剣の柄尻に鞘を取り付けるとカートリッジの弾丸が、

吐き出されると、それは弓の形に変化した。

『ボーゲンフォルム』

 魔法陣が形成され、炎が吹き上がる。

 弓の弦が引かれると、剣の刃のような鏃が付いた矢が現れる。

「翔かけよ、隼!」

『シュツルムファルケン』

 矢が、物凄い魔力の炎を纏い、鳥のような姿になって邪神を撃ち抜く。

 3枚目の物理のシールドを貫き、邪神の身体が真っ二つに割れる。

 割れた身体から新しい身体が形成されていく。

 フェイトちゃんは、邪神の真上に陣取ると、魔法陣を形成する。

「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ・アサルト!!行きます!!」

 フェイトちゃんが三又の槍を高速回転させる。

「焼き尽くせ!!」

『ジェットトライデント』

 回転の勢いを殺さずに、三又の槍を振り下ろすと、シールドごと邪神が真っ二つになると

同時に、切断面が破裂する。

 えっと…もしかして斬撃に加えて、電子レンジみたいな効果がある攻撃…なのかな?

 なんか怖い攻撃だね…。

 それでもコアが破壊されていないので、新しい身体が形成されていく。

 4層のシールドを張り直される前に、決着を付けないといけない。

 海面から新しい触手も現れる。

 邪神が海面から浮き上がる。

 周囲にシールドを展開していく。

 触手は懲りずに砲撃の構え。

 させない!私はレイジングハートを構える。

「盾の守護獣・ザフィーラ!!砲撃なんぞ撃たせん!!」

 私や他の人達より早く、ザフィーラさんが動く。

 気合と共に、白銀の刃が海面から飛び出し、触手を刺し貫き、砲撃を阻止する。

「テェオヤァァァーーー!!!」

 拳に白銀の魔力を纏わせ、シールドを殴り付ける。

 何度も殴り付けると、シールドが歪み凹んでいく。

 私達もそれを黙って見物していない。海面から次々に出てくる触手を倒していく。

 そして、遂にザフィーラさんの拳がシールドを貫いた。

 シールドが崩れ落ちると同時に一斉に魔法攻撃が、身体のあちこちから放たれる。

 ザフィーラさんが飛び退いて、躱す。

「湖の騎士・シャマルとクラールヴィント!行きます!」

 シャマルさんの指輪から魔力が放たれ、風が舞う。

「風の檻!」

 風が竜巻のように邪神を巻き上げ、動きを妨害する。

 触手も巻き込まれ、砲撃が見当違いな方向に飛んでいく。

 シャマルさんの魔力だと、そう維持出来ない。

「はやてちゃん!今です!」

 シャマルさんが滝のような汗を流して、叫ぶ。

 はやてちゃんが頷く。

 魔導書はもう新しいページを開いていた。

「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け!!」

 空中に無数のスフィアが形成される。

「石化の槍・ミストルティン!!」 

 魔法の完成と一緒にシャマルさんが魔法を解除する。

 スフィアが槍になって邪神に突き刺さる。

 物凄いスピードで刺さった部分から石化して、完全な石像に変わる。

「お願いします!」

 シャマルさんが私達に合図を送る。

 私達3人が頷く。

 私の周りの魔力が反応して、一か所に集まってくる。

 フェイトちゃんは呼び出した雲から雷を降らせて、三又の槍で受ける。

 順番上、はやてちゃんが連射にまるので一番キツイ。

 けど、はやてちゃんには夜天の意思?が付いているので、大丈夫という事で、

合わせて貰う事になった。

 ページが捲られる。

「響け!終焉の笛!!」

 凄い魔力と魔法式が展開される。

 

「スターライト…」

「プラズマトライデント…」

「ラグナロク…」

 

「「「ブレイカーーーー!!!」」」

 

 3つのブレイカーが身体を形成中の邪神に突き刺さる。

 肉や骨が3つのブレイカーで消し飛んでいく。

 再生する暇などなく砕いていく。

 

「捕まえ……た!!」

 シャマルさんが砕かれた身体の中から、コアを見付け出す。

「ザフィーラ!!」

 シャマルさんに応えるように、ザフィーラさんが白銀の柱でコアを空に突き上げる。

 

「なのは!」

 フェイトちゃんの声に応えるように、フェイトちゃんの肩に手を添える。

 同調を開始する。

 人数が限られる以上、無茶をする場面はどうしても出てしまう。

 でも、私達なら乗り越えられる!!

 美海ちゃんが信じてくれた。飛鷹君が任せてくれた。

 だから!!

 同調成功。

 フェイトちゃんと私の演算領域と魔力がリンクする。

 雨雲を維持したまま、熱波が放たれる。

 コアを熱波が通過する。

 コアが雨雲に突っ込んでいく。

『魔力パターン及び構成式を解析』

 バルディッシュの言葉に私達は同時に頷く。

 

 フェイトちゃんが槍を投擲姿勢に入る。

 

「「F&Nサイコウェーブバースト!!!」」

 

 空間が歪む程の力を纏い、三又の槍が投擲される。

 

『マダマダコロスコロコロコロ…!!!』

 コアが人型になり、髑髏が叫ぶ。

 三又の槍が咆哮を上げて、髑髏を貫くと同時に周辺のコアの魔力が纏まりを無くし、

崩れていく。

 固有振動数に合わせて超音波を発生させ物質崩壊するみたいに、魔力のパターンに

合わせて魔力の振動波を放つ魔法にアレンジした。

 制御を失い魔力が一気に分解・霧散していく。

 雲にコアが覆われていたから、逃げ場所はない。

 私達の魔法で雲ごと吹き飛ぶ。

 

 邪神みたいになった防衛プログラムの魔力が消えている。

 暫く、油断なく警戒する。

 

 再生する気配も、移動したようにも感じない。

 みんな溜息を吐いて、緊張を緩める。

 

 でも…いつの間にか空に人が沢山立っていた。

 ええ!?

 フェイトちゃんとはやてちゃんは驚いているけど、騎士達は気付いていないみたい。

 その人達の真ん中の男の人が、バラバラになった骸骨を抱えていた。

 もしかして、あの骸骨…。

 全員が礼のような仕草をすると、全員で去って行った。

 家族とか友達だったのかな

 ユーノ君が言っていた。あの人は大切な人達を失ったって…。

 迎えに来た人達とは、同じところにいけないかもしれない。

 でも、あの人も少しは救われるのかな…。

 

 私達3人は、あの人達が消えた空をジッと見ていた。

 

 

              :リンディ

 

 夫が命を懸けて調べた事。

 それが今になって分かった。

 でも、()()()()()()()()()()()

 あの人ならもっと上手く対応出来た筈だ。

 何か、まだ知らない事がある。

 

「艦長!やっぱり、5隻共に通信を無視しています。どうも通信を切っているようです」

 でも、まずは目の前の事をやらないと。

「いざとなれば、私が彼等の前に立ちます」

「「「艦長!?」」」

 勿論、その時は乗員は退避させるつもりだ。

 子供が自分の世界を護る為に、命を懸けているのに、大人の私が命を懸けない訳には

いかない。

 それに約束している。全力で対処すると。

「5隻の出現ポイントとその経路を割り出して」

 私の指示に、返事をしようとしたエイミィが言葉を飲み込む。

「どうしたの?」

 

「オールストン・シーの辺りから巨大な魔法式が展開されました!!」

 エイミィがウィンドウに表示する。

 それはドンドン拡大していた。

 な!?こんな規模の魔法なんて、有り得ない!!

 

 そう簡単には、今回の事件は終息しないみたいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ようやくここまで来ました。
 最初の部分は、キリエが手を貸した理由を書かなければ
 と思ったからです。
 まだ腹は決め切れていませんけど…。
 亡霊の最後が見えたのは、はやては夜天の魔導書の主
 だからで、なのはが見えたのは同調の効果です。
 フェイトが見えたのはなのはと同調していたからです。

 次回はいつ投稿出来るか、不透明です。
 折れた訳ではありません。
 最後まで書く所存でございます。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。


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第45話 覚醒

 随分と時間が掛かってしまいました。  
 すいません。

 それでは、お願いします。


             :美海

 

「「さあ、始めようか」」

 ん?1人多いような?

 私の隣で飛鷹君が剣を構えていた。

『君にはここにいる人間の保護をお願いした筈だけど?』

『いや!ちょっと待てよ!ユーリもなんか変だし、撤退時間を稼ぐ為に、俺達が足止めするのが

セオリーだろ!?』

 念話でお互い遣り取りする。

 変に格好付ける形になってしまって、今更口頭で言い合うのも気が引けたからだ。

 あのユーリという子に視線を移してみると、確かに変な翼を背負っている以外にも、自由に動く

事が出来ないような印象がある。

 一応、リニスの眼を通して、見ていたので状況は大体分かる。

 これは人質の一種と考えていいだろう。

「残念ね。魄翼が目覚める前なら、アンタの勝ちだったのにね」

 赤いドレスから装甲過多なドレスになっている女が、得意気に言った。

 ちょっと前に、文句言ってたけど、切札を手に入れていると思い直したようだ。

『お前だって、流石に2対1じゃ、キツイだろ』

 飛鷹君の念話に少し考える。

実際、あの魄翼とかいう兵器で、操られているユーリの本気がどの程度か未知数だ。

 必然的に、私がユーリに。飛鷹君が赤いドレスに立ち向かう事になる。

 果たして、今の彼にアルハザードの魔法使いを任せられるか。

 どうも、戦闘方面に特化していないようだけど、なんでもありな魔法は厄介だ。

『任せてくれ。俺だって遊んでた訳じゃない。それに撤退支援はするぜ!!』

 飛鷹君が行きがかり上、助けた2人をチラッと振り返る。

 そこまで言うなら、やって貰うか。

『途中、ギブアップは出来ないよ?』

『分かってるさ』

 最低でも時間稼ぎは大丈夫でしょう。

 私は静かに頷いた。

「話し合いは済んだ?」

 赤いドレスが嫌味っぽく言う。

「ああ。終わったぜ!!」

 飛鷹君が言うや否や剣を地面に叩き付け、切り裂くと土煙が巻き上がる。

 私の感覚は、土煙と同時に魔力弾が生成されるのを感じた。

 乱暴だな。あとは、魔力弾で攪乱する気らしい。

 それじゃ、誤魔化しきれないよ。と、思ったら強力な障壁が部分的に展開する。

 どうもあれで受け流しや、突撃された時の進路変更などもやる積もりらしい。

 それじゃ、お手並み拝見。などと言っていられない。

 こっちもこっちで囮もやらないとね。

 私は仮装行列(パレード)を発動。

 自分の位置情報を偽る。

 土煙の中でも、赤いドレスがニヤリと嗤うのが分かる。

 次々と飛来する魔力弾を、ユーリと赤いドレス難なく躱していく。

 私は囮となるべく、ユーリと赤いドレスに剣閃を飛ばす。

「そんなもので!!魄翼!!」

 ユーリがこちらに向かって降下してくるが、その攻撃は空を切る。

「「っ!!」」

 両者が驚くのが分かる。残念、私はそっちじゃない。

 私の魔法はどんな巧者だって、騙せるくらいのレベルになってるんだよ。

 ユーリが素早く反転すると、再度突っ込んでくる。

 だが、現れた障壁が火花を散らしてユーリの進路を強引に変える。

『全員、集まれ!!』

 飛鷹君が仲間とおまけに念話で呼び掛ける。

 土煙の中、転送陣を準備したらしい。

 この短時間にこれだけの数の人を転送できるものを形成するとは、確かに遊んでた訳じゃない

みたいだね。

『美海…』

 リニスが念話を寄こす。その一言で何が言いたいか、分かる。

『大丈夫。問題ない。無事に帰るから』

『武運を!』

 私はその言葉に無言で応える。

 私は引き続き剣を振るって、向こうが無視出来ないように剣閃で動きを阻害する。

 仲間とおまけが転移した気配がする。

 囮終了だね。

 土煙が晴れていく。

「無駄な事するのね。転移したって無駄なのに」

 赤いドレスが嘲笑する。

 やけにアッサリしてると思ったら、切札は距離に関係なしになんらかの攻撃が可能なのか。

『だってさ。飛鷹君。今から帰る?』

『冗談じゃないね。俺だってやれる!!』

 

 ま、それが事実か、これからの戦いで確かめさせて貰いましょうか?

 

 

               :飛鷹

 

 シェルターを部分展開する練習はしていたが、実戦では初だったので密かに冷や汗もんだった。

 練習じゃ、かなりの成功率だったが、動きを止めた状態じゃないと発動出来ない。

 上手くいってよかったぜ。

 ユーリは綾森が相手をするようだし、俺は赤ドレスだな。

 俺は赤ドレスの前に立つ。

 赤ドレスが鼻で嗤う。

「もしかして、アンタが相手?」

「もしかしなくても、そうだ」

 向こうじゃ、なのはも頑張ってるだろう。俺だって負けてられない。

 剣を構える。

『随分と搦め手が得意な奴みたいだからな。気を付けろよ』

 スフォルテンドが注意を促してくる。

「ああ。十分に分かってるさ」

 いい加減に分かってきてる。俺にはチートがあるが、経験が不足している。

 十全にチートを使いこなしていない。

 だからこそ、チートに手を加える小細工が必要になるんだ。

 何故なら、どの特典の主人公もキチンとそれで戦えているからだ。

 だが、経験は少しづつどうにかなってきている。

 この一戦で確かめる。

 小手調べなんてしない。

 俺は相手との間合いを詰める。

 クライドさんとの戦いで気付いた点がある。

 完成された技術というのは、どこか似たような動きになる。

 勿論、綾森とも似た動きがある。

 だから、俺が間合いを詰めた時、向こうは驚いた。

 少し前までの俺の動きを見ていた筈だからな。

 驚いた際の一瞬の隙。

 容赦なくいかせて貰う。

 剣を一閃する。

 向こうもいつまでも驚いていてはくれない。

 咄嗟に後退する事で直撃を避ける。

 だが、避けきれずに胸の装甲に剣が掠り、耳障りな音がする。

 神経を研ぎ澄ましたまま、追撃しようとして斜め前に飛ぶようにして移動する。

 移動した瞬間に、今までいた位置に地面から赤黒い槍が飛び出し、俺の横を同様の槍が通過

する。

 飛び退くように躱していれば、放射状に放たれた槍に串刺しにされるって訳だ。

 それで無駄な魔力を消耗する。

 綾森に稽古を付けて貰った時、言われた事を思い出す。

『自分の身体をキチンと扱えずに、魔力なんて余計な力を乗せて上手く動ける訳がないでしょ』

 幼い身体を補う為に、強化魔法とかあるんだろうって思っていたから、この時は綾森の言葉に

反発したもんだけど、今なら分かる。

 身体のどこにどう力を入れるか、それを把握せずに強化なんてしても魔力の無駄だし、何より

動きが雑になるんだ。

 最初からそう言ってくれとも思うが、それは被害妄想だろう。

 魔法にしてもそうだ。

 なんの前触れもなく魔法が発動する訳じゃない。

 どんなに魔法の達人であっても、なんらかの兆候があるのだ。

 今までチートの反応に物を言わせて、躱すなりすればいいと思っていた。

 自分では上手くやれていると思っていたのは、ただの思い込みだった。

 避けるの楽だわ。

 あとクライドさんバリの経験による予測があれば、綾森の域に近付ける筈だ。

 俺は槍や魔力弾のような爆発する攻撃を難なく回避して、剣を振るう。

 シールドで逸らし、体捌きで躱し、剣を振るう。

 赤ドレスが舌打ちする。

 赤ドレスはさっきから両手に槍を持って、俺を間合いに入らせまいと奮闘している。

 お得意な投槍も俺に躱されっ放しだ。

 自分を巻き込むような無茶な攻撃は出来ないだろう。

 そして、小細工させる暇を与えない。

 槍で防がれても、気にせず剣を振るう。

 さながら俺達の周りは、槍の刺突と剣閃で刃の嵐みたいになっている。

「チッ!調子に乗るな!!」

 赤ドレスが霧状の赤黒い魔力を放出する。

 回避は出来ない。

「海波斬」

 俺が選択したのは攻撃。慌てずに技を放つ。

 ただの一閃で赤黒い霧が真っ二つに切り裂かれ、散っていく。

 だが、消えた霧の隙間から槍が放たれる。

 今までにない高速の連続射出。

 今度は俺が舌打ちする番になった。

 どこぞの英雄王みたいな攻撃しやがって!

すぐに防戦一方になってしまった。

 苦し紛れに魔力弾を撃ち返しても、投槍で無力化される。

 全く、所詮付け焼き刃かよ!すぐに馬脚を露しやがるな!

「ほらほら!もっと必死に頑張らないと私の相手は務まんないわよ!」

 赤ドレスが嘲笑が響く。うるせぇよ。

 弾いた投槍が黒い霧になって広がり出す。

 頭の中で警報が鳴り響く。

 あれを受けたらヤバい。

 咄嗟にシェルターをフルで使用して、身を護る。

『分析したが、あれは食らうと不味そうだぞ』

 スフォルテンドが見れば分かるような感想を言う。

「そんなもん見れば分かるって!分析結果教えてくれよ!」

『エネルギーを吸収発散させるみたいだな』

 簡潔にどうも。

 詰まり、触れればどうなる?

『干乾びたミイラの出来上がり』

 以心伝心ありがとう。泣けるよ全く。綾森にもギブアップ出来ないとか言われたからな。

 ここで降参なんてマネはしない。

「あら?亀のモノマネかしら?じゃあ、首を出してあげる」

 黒い霧が反応し出す。

 まさか!?

 シェルターの周囲に漂う霧が、赤黒く嫌な光を放ち爆発する。

 俺は咄嗟に魔法を使う。

 信じられない事にシェルターが、溶けるように薄くなり、ガラスが割れるような音を立てて

壊れる。

 魔力光が煙を突き破り、飛び出す。

「それじゃ、さよなら」

 赤ドレスがニヤ付いた顔で手を翳す。

 目論見通りとでも思っているんだろう。

 魔力光を赤黒い球体が撃ち抜くと、大爆発を起こす。

 周辺の霧の残留物が衝撃波で吹き飛んでいく。

 赤ドレスは物凄い光を伴う爆発と、魔力の散布で俺を見失っている。

 待ってたぜ。

 ()()()()()()()()()()()()()

「マキシブラスト!!」

 第三の業火。

 俺の魔法特典の主人公にして、今は俺のデバイスAIのレイオット・スタインバーグの切札

というべき魔法。

「っ!?」

 業火が赤ドレスを撃ち抜いて天を焼いた。

 咄嗟に防御したようだが、それすら焼き尽くし吹き飛ばした筈だ。

 油断なく警戒する。

 

 俺はあの時、大量の魔力を上空に態と放った。咄嗟に身体を魔力で保護して上空に逃れた

ように見せ掛けたんだ。そして、閃光で視界を悪くし、大量の魔力をバラ撒く事で鋭い感覚

も正常に働かないようにした。

 本当の俺は地面に自ら埋まり、気配を消して隙が生じるのを待った。

 そして、切札の一枚を切った訳だ。

 

「スフォルテンド。センサーは?」

『残念ながらマスターの策で、こっちのセンサーにも異常が出てるからな。分からん』

 嫌味か。

 俺だって、これ以上にいい策があるならやってるわ!

 まだ、綾森みたいに戦うのは厳しいか…。

 余計な事を考えてる場合じゃないな。

 感覚を研ぎ澄ます。

 眼だけでなく、感覚だけでもなく、魔力の兆候だけでもなく、3つを合わせろ。

「っ!?」

 俺はカッと目を見開くと、その場を飛び退こうとしたが間に合わなかった。

 突然発生した黒い霧にあっと言う間に巻かれてしまう。

 ものすごい勢いで、身体からありとあらゆる力が抜けていく。

 思わず、膝を突いてしまう。

「やってくれたわね。流石にビックリしたわ。まさかあんなセコイ手でくるとはね」

 目の前が暗くなっていく。

 まだ赤ドレスは何か喋っているようだが、聞き取れない。

『マスター!!どう…か…』

 スフォルテンドもエネルギーを奪われているのか、すぐに声にならなくなる。

 

 こんなとこで終わるっていうのか。

 

 このままじゃ、またダメなまま終わっちまうだろう。

 

 転生しても、これが俺の分か…。

 

 目の前に誰かが立つ。赤ドレスがとどめを刺しにきたか?

 だが、そこに立っていたのは学生服を着た昔の俺だった。

 なんだ?

 

 一瞬、校舎の入り口に張られた規制線と赤い血の跡がフラッシュバックする。

 視線を逸らして入り口に向かう自分。

 

 仕様がないだろ?俺に出来る事なんてなかったんだ。とばっちりなんて御免だ。

 もう1人の俺が言う。

 

 だから…だから、転生出来るって聞いて、特典貰ってよく聞くオリ主になるんだって思って

嬉しかったんだろうが!!格好良く誰かを助けられる自分になれるって!!

 

 スフォルテンドだって言ってただろ?俺がカッコいい訳じゃない。俺が強い訳じゃない。

 俺の強さなんて特典のお陰だ。そこに至る経験をすっ飛ばした紛い物だ。違うか?

 もう1人の俺の言葉に俺は言葉に詰まった。

 

 そりゃ、楽に強くなれるならいいよな?可愛い女の子にだって感謝されたしさ。

 変わる変わるって、結局は俺には違いないんだからさ。人が変われる訳ないだろ?

 お前は結局は本物にはなれないんだよ。俺なんだからさ。

 なれるんだったら、あの時になれって話だ。だろ?

 もう1人の俺の言葉にぐうの音も出ない。

 

 もうごっこ遊びは楽しんだだろ?恥の上塗りはもう止めようぜ、俺。

 もう1人の俺が穏やかに語り掛ける。

 

 

 恥…?確かに恥だったかもな。大口叩いた挙句、このザマだ。

 だったら!余計に恥晒したまま、終われねぇだろ!!

 前の俺が何やったよ!?オタクになっただけじゃねぇか!!

 これだって立派に現実逃避の恥じゃねぇか!

 結局は恥になるんじゃねぇかよ!?

 だったら恥を抱えてやるよ!!紛い物!?結構じゃねぇか!!

 紛い物だって、貰い物だってやれる事がある筈だ。

 今じゃなくとも、この先にな!

 紛い物だって、進み続けりゃ、それらしくなるかもしれねぇ!!

 いや、なってやるよ!!

 

 俺の言葉に、もう1人の俺が呆れた顔で見ている。

 そして、溜息を1つ。

 

 答えが開き直りって…。つくづく俺だな。

 まあ、兎に角、ギブアップしないんだな?

 もう1人の俺が呆れ果てたように言った。うるせぇよ。

 一転して真剣な表情になるもう1人の俺。

 

 レアスキルの制限を解放する。…まあ、無理だと思うけど頑張れや。

 もう1人の俺が謎の言葉と、投げやりな言葉で消えていった。

 ホント、つくづく俺だな。あれ。

 

 瞬間にレアスキルの固有換象の情報が、頭に流れ込んでくる。

 原作で出てきたのは第一と第三の固有換象のみ。

 特典は原作で出てきたものしか、使用出来ないと思ってたけど、違ったらしい。

 俺の換象には、固有換象という派生技というべき技術が存在している。

 運命改変を頂点としてそこに至る技があるって覚えて貰えばいい。

 まあ、そんな事言ってる場合じゃないわな。

 色々と自分の現状を確認するとギリギリだ。

 

「第二換象。構築変成」

 

 瞬間的に白銀の光が俺から滲み出る。

 黒い霧を食らい尽くした。

 その全てを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 運命に干渉する程ではないにしても、全ての物を俺の必要とするものに変える事が出来る。

 そういうものらしい。反則だな、これも。

 自分に合わせたエネルギーの為、抵抗なく全て吸収する。

 

「ふう。生き返ったぜ」

 死ぬかと思った。

 顔を上げると、赤ドレスが目を見開いて驚いていた。

「こ、この!」

 赤ドレスがすぐに驚きから立ち直ると、再び黒い霧を発生させる。

 しかも、今度はかなり濃いもののようだ。

 前回以上のスピードで発生したが、俺にはもう脅威に映らなくなっていた。

「第一換象。天道律」

 白銀の光が周囲に満ちると、黒い霧が消し去られていく。

「っ!?」

 この天道律の前には、どんな力も無力化する。

 綾森には、まだ慣れていなかった所為で発動が遅く使えないかったが、今は何故かすんなり

と発動出来た。これも制限の解除の影響か?

 白銀の光を纏ったまま、赤ドレスに向かって歩き出す。

「こんなのに!こんなのに!」

 どんだけ雑魚だと思われてたんだかな。

 俺は赤ドレスにある程度近付くと、跳躍する。赤ドレスに向かって。

 赤ドレスが喚きながら赤黒い槍を何本も放つが、白銀の光に触れると悉く消え去った。

「マキシライトニング」

 天から魔法の強力な雷が降り注ぐ。

「舐めるなぁ!!」

 赤ドレスが避雷針の魔法でも使ったようだが、狙いはお前じゃないんだよ。

 無駄な一手のお陰で、間合いに深く踏み込む事が出来た。

 雷が落ちる。

 俺の剣に。

「自分に!?」

 俺は雷を剣に纏わせ闘気で増幅する。

 咄嗟に逃れようとしたようだが、俺の方が速い。

「ギガブレイク!!」

 凄まじいエネルギーが放たれる。

 一瞬、周囲が白く染まる。

 何もかもが吹き飛ぶ威力。転生して初めて使ったけど、スゲェ威力だな。

 俺は着地したが、正面を向いたまま剣を振るった。

 金属を打ち合わせたような音が響く。

 そこには赤ドレスがいた。実体は失ったようだが、身体は霊体のような状態で意識を保って

いる。

 運命改変に至る道筋を全てを習得した所為か、相手の動きが手に取るように分かる。

「今は、こんなもんだ。だが、スキルに頼らない強さ。やってやろうじゃねぇか」

 心の中で言う積もりが、口から盛大に漏れたようだ。

 赤ドレスの顔が般若のようになる。

「私がお前みたいな奴に!魄翼のバックアップがあるのに!どうして!!」

「俺のズルだ。負けたのはお前の所為でも、綾森が相手してるもんの所為でもないさ」

 そう、これこそ特典の効果だ。俺の実力は介在してない。

「重なり合った形をよく見ろ」

「は!?」

 丁度、十字架のような形になっている。

 俺の闘気が流れ込み、十字に光り出す。

 赤ドレスはここで漸く危機を感じたのか離れようとしたが、離れる事が出来ずに顔を強張ら

せる。

「受け取れ。有りっ丈だ」

 赤ドレスが悲鳴のような声で叫ぶ。

 何を言っているのか、聞き取る事は出来ない。

 

「グランドクルス!!!」

 

 俺は赤ドレスの霊体みたいな身体が、行動不能になったのを感じた。

 よく持ったな結界。

 グランドクルスも初めてだが、とんだチート技だ。負担デカいけどな…。

 

 俺は第二換象の副作用と、魔力と闘気の消費のし過ぎでぶっ倒れた。

 

 

             :美海

 

 私はユーリの前に立つ。

 ユーリの背にくっ付いている翼は、威嚇するように魔力を放っている。

「すみません。私にはどうにも出来ないのです」

 ユーリが申し訳なさそうに、私に言った。

「いや。別にいいよ。でも、痛いよ?」

 私の言葉に目を見開くと、微笑んだ。

「構いません。止めて下さい、私を…私達を」

「承知」

 私は短く答える。

 もう、言葉は不要だ。行動あるのみ。

 私は血中から雷霆剣・ドンナーシュラークを取り出す、構える。

 それが合図になったのか、ユーリが翼を広げて突っ込んでくる。

 だが、それだけではない。

 不可視の刃が複数飛んでくるのを、感じていた。

 勿論、魔力で放つなど分かり易いマネはしていない。

 並の魔導師や騎士なら、気付かずに細切れにされていただろう。

 しかし、私もベルカで積んだ実戦経験は破格と言っていい。

 だからこそ分かる。何かがこちらに放たれた事が。

 大気を乱さない攻撃など殆どないからね。

「はあぁぁぁぁぁーーー!!」

 雷霆剣がバリバリと物凄い音を立てる。

 一閃すると剣閃がまるでレールガンみたいに放たれる。

 不可視の刃が金属が砕けるような音を立てて無力化され、ユーリに剣閃が届く。

 ユーリは翼を閉じて防御するが、衝撃を殺し切れずに進路がズレてしまう。

 それでも、スピードを殺さずに私の横を高速で通り抜ける。

少しでも戸惑って減速するようなら、すれ違いざまに斬ろうと思ったんだけど。

 何か丸い物が大気を乱してこちらに飛んでくる。当然の如くなんの力の気配もない。

 今度は私から、高速で空中にいるユーリに向けて走り出す。

 丸い物の大凡の大きさは分かっている。

 弾幕をすり抜けるように躱していく。

 通過後、背後に障壁を一瞬だけ展開する。

 案の定、突如爆発した。だが、爆風などの被害は一切受けずにユーリの間合いに踏み込む。

 ユーリが驚愕するのが分かる。

 そこは表情を変えたらいかんでしょ。まあ、ユーリ自身の望んだ事じゃないからいいけど。

 翼が剣、大型の戦斧のように振るわれる。

 随分と器用な事が出来るんだね。

 受け流すように捌いていく。

 超高速の斬撃、或いは叩き潰すような一撃が続けざまに放たれるが、私はいとも容易く捌いて

いく。流石に身体を気にしないでいい機械だけあって、限界を無視した動きだ。だが、それだけ

じゃ、私は斬れない。

 もう戦闘なんて金輪際お断りしたいくらいに、戦った私だからこその領域だ。

 要するに武術は、無駄な動きを極限までそぎ落とす事だ。

 最も、効率のいい動きを追求した結果だ。技などはそれを逆手に取る場合もあるけど。

 だからこそ、どんなに速い攻撃であろうと、見えていなくとも身体が勝手に反応する。

 鋭い羽が刺突のように放たれる。

 剣では対応出来なかった為に、拳で打ち払う。

 妙な力を振るわれるのを防ぐ為、接近戦に注意を向けさせ続ける。

 一撃食らえば死ぬ。そんな中を私は平然と剣を振るう。

 あの翼は、おそらく魔法防御など容易に突き破るだろう。

 雷霆剣は大丈夫でも、幼い私の身体が斬撃を受けられない。

 躱す、いなす、受け流すしかない。

 全盛期に遠く及ばない不本意な動きに、若干の不満を感じるけど仕様がない。

 死の嵐の中、遂にユーリの方が耐え切れずに滝のような汗を流していた。

 思いっ切り、無理矢理付き合わされている。使用者の都合を考えてないな、この翼。

 だが、無視には限度があるのか、離脱の気配を感じ取る。

 これ以上はユーリが持たないと翼が判断したんだろうけど、バレバレなんだよ。

 当の本人が、明らかに実戦経験済みじゃないのが災いしてる。

 それでも、あの空間型の攻撃があれば、大抵の奴は負けるだろうけど。

 離脱を成功させる為に、相手を吹き飛ばすような勢いで翼を振るう。

 それを掻い潜り、雷霆剣を一閃する。

 雷霆剣は、攻撃速度は私が持っている剣の中では一番速い。

 閃光のような光が走る。

 翼の内側のユーリを狙ったにも関わらず、魔力障壁を幾つか切り裂いた感覚しか得られない。

 斬った部分を修復される前に、左手でシルバーホーンを血中から取り出し、連射する。

 雲散霧消(ミストディスパージョン)を連射したが、紙一重で翼が強引に閉じられ、防がれる。

 閉じた翼を一気に広げ、風圧と不可視の刃が乱れ飛ぶ。

 詳細を見る それを雷霆剣で振り払うと、素早く血液を操った。

赫綰縛(かくわんばく)

 空斬糸を太く網目状に展開する技で、血液応用技だ。

 私は主に行動の制限に使ったりする。

 血液の頑丈な網が翼を絡め捕る。

「っ!?」

 ユーリが驚き、翼の方は早くも外そうと試みているが、そんな簡単に外れるか。

「雷舞狂乱」

 雷霆剣が、剣閃と共に舞うが如く雷が踊り狂う。

 戦場舞踏とも言うべき技だ。雷と共に舞う。

 雷が変幻自在に変化し、相手を斬り裂く。斬れずとも雷は相手を焼く。

 機械であるならば、内部を滅茶苦茶にする。

 流石に、この程度で故障はしないだろうがダメージは通ってるな。

 更に畳み掛けようとしたが、頭の中で警報が鳴り響く。

 エネルギーを翼が大規模に動かし始めている。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使って視る。

 大規模に空間を歪ませ、空間ごと私を破壊する気らしい。

 無茶するな。

 これは同時に自分自身の周辺空間も操作して、防御する攻防一体の技のようだから、自分だけ

は無事って訳だ。

 だが、幸いにも発動前だ。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)を使って、どこを崩せば技が破綻するか調べる。

 干渉する以上は魔法同様術式のようなものが存在している。

 あちらの準備が整うまでに、術式解散(グラムディスパージョン)を調整する。

 調整完了。

 タイミング的にも微妙。

 すぐさま放つが、完全無力化までは望めず、力の余波のようなものが発生する。

「まさか!?」

 ユーリが声を上げる。

 魔法だけじゃなく、他のエネルギー攻撃にも有効な事に驚いたようだ。

 力の余波が衝撃波のように襲ってくる。

 私はそれを斬り裂く事で漸く無力化した。

 あまり時間を掛けるのは、不味いな。

 だんだん向こうも、周りを気にしない攻撃にシフトしている。

 これ以上、威力を上げられると結界が持たない可能性も出てくる。

 そうすれば、大惨事になる。

 手早く片付ける必要がある。

 私は血中からもう1本の剣を取り出す。選んだのは、頸風剣・オルカーン。

 両手に剣を構える。

翼が何か霧状のものを自身に纏わせると、今まで付いていた傷や亀裂が修復される。

 そんな機能もあるのか。

 2本の剣を構えて、滑るように間合いを詰める。

 仮装行列(パレード)を同時に発動する。

 直後、羽から赤い光の網が広がっていく。

 何かが脈打つように音を刻む。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で正体を探る。

 これは地球の気脈から力を吸い上げてるのか!

 通りで赤いドレスが自信満々の訳だ。

 こんな事を繰り返せば燃料切れもないし、下手をすれば世界が力を失い滅びる。

 本気で吸い上げれば、世界を滅ぼせる。

 そうすれば、相手も生きてはいられないだろうから、最終的にあの翼の勝利って訳だ。

 流石、アルハザードの奴等が造った代物。イカレてる。

 その間も、翼と剣での斬り合いは続いていた。

 二剣にした事で、超攻撃的な斬撃を繰り出す。

 防御を頸風剣で弾き飛ばし、雷霆剣で斬り裂く。

 放電で気脈からのエネルギー補充を妨害しようとするが、上手く干渉出来ない。

 翼の読みか、それともユーリの頭脳を利用しているのか、こちらも決定打を打とうと

しても、ギリギリで防がれていた。

 こちらも、相手の攻撃は上手く位置情報を誤魔化す事により、致命的な攻撃は受けていない。

 物凄い勢いの斬撃に翼が削られていく。

 羽と不可視の攻撃による中遠距離攻撃も、頸風剣の風で逸らす。

 遂に片翼を斬り飛ばしたが、次の瞬間私は飛び退いていた。

 礼の霧状のものが噴き出し、切断面を接合してしまったのだ。

 それだけじゃない。

「くっ!」

 私の口から呻き声が漏れる。

 少し吸ったか!

 口から一筋血が流れる。

 微量だったお陰で、口の中で少し悪さをされた程度で済んだが、大量に吸い込んでいれば、

微細な粒子が刃となって身体の内側がズタズタになっていた。

 何かあるとは思ってたけど、回復と武器の両方を兼ねるなんてね。

「すみません。魄翼を幾ら攻撃しても止まりません。私を殺さないと…ダメなんです」

 ユーリが絞り出すようにそう言った。

 おそらく、彼女は私に期待なんてしてなかったんだと思う。

 だが、実際私と戦って、彼女は出来ると確信した。

 試されたとしても私は別に不快には思わないけど、人によっては勝手と思うだろう。

 しかも、殺してくれだしね。言い辛いだろう。

 私はユーリを安心させるように微笑んだ。

「任せて」

「ごめんなさい。嫌な事を…」

 

 機甲の翼は苛つくように翼を広げる。

 私は静かに二剣を構える。

 向こうは赤ドレスがだんだん気になってきているのか、勝負を決めたがっている。

 どうも飛鷹君が、切札を切って勝負を決めにきているようだ。

 サッサと応援に行きたいところなんだろう。

 証拠に、エネルギーの動きが見た事のないものに変わっている。

 ここまで大技は発動前に潰し、細々とした攻撃も期待した効果を上げられなかった以上、

次に来るのは奥の手だろう。

 

 応えて上げるよ。

 

 私は二剣を握り締める。

 

 翼が限界まで開かれる。

 何かのエネルギーが渦を巻く。

 それがどんどん強くなっていく。

 幼い身体でどこまでやれるかな。

 

 翼が雄叫びを上げるように咆哮する。力を発散したのだ。

「参る」

 私は空に駆け出す。

 高速で空中を蹴る。

 凶悪な破壊の渦が2つ翼から放たれる。

 

「神翼飛翔」

 

 両手で同時に奥義を繰り出す。

 右には雷、左には風の属性が追加され、技を放つ。

 空間を破壊し、そこから発生する力を食らいながら2つの渦が迫る。

 

 技と渦が激突する。

 

 渦が中半まで切り裂かれる。

 だが、完全には斬り裂けず、両手の剣は渦の力が制御を失った影響で生じた爆発で手から

すっぽ抜ける。剣聖操技で飛んでいった剣を止める。

 その隙に翼はこちらに突っ込んでくる。

 避けるのも防御するのも間に合わないタイミング。

 ユーリの表情が絶望に染まるのが分かる。

 だが、私は飛んでいった剣を戻す事も、新たに剣を出す事もせずに手をユーリに突き出す。

 私の手から赤い刃が伸び、ユーリの胸に突き刺さる。

 突っ込んできていたお陰で、大した力も要らなかった。

 ユーリが自分の胸を確認するように見る。

「カハッ!!」 

 ユーリが血を吐いた。

赤い剣(ブラッディソード)

 翼の多重防御を貫くには、バリオンランスがいいが、レアスキルのこっちの方が速く発動

出来るし、貫く細工もし易かった。何せ体内で魔力を弄れるから、気付かれ難い。

 私は傷口が広がるように、剣を捩じるように抜いた。

「あり…がとう」

 ユーリがそう言って落ちていった。

 同時に何やら光の十字架が、爆発するのを横目で見る。

 飛鷹君の方もどうにか勝ったようだ。

 

 ユーリと翼が地面に落下し、地面に激突して翼が大破する。

 私はそこに下りた。

 お礼はまだ早いよ。

 私は剣を引き戻すと、頸風剣を血中に戻し、シルバーホーンを取り出した。

 ユーリに纏わり付いている翼を引っぺがすと、ユーリにシルバーホーンを向けて引き金を

引いた。

 瞬間、青い炎を上げてユーリが翼の装着前の状態に戻った。

 そう、私には再成がある。

 だからこそ、躊躇もなくユーリを刺せたのだ。

 私の胸には、まだ痛みの名残が残っている。

 心臓は刺されるのはキツイな…。

 脂汗を流しつつ、顔を顰めていると、ユーリが目を開ける。

「私…は」

 私はユーリに手を差し出す。

「生きている…のですか?」

 私はニッと笑って頷いた。

 呆然としているユーリの手を掴み、上体を起こしてやる。

 暫く、正気に戻る事はなさそうなので、飛鷹君の方へ歩いて行く。

 彼はまたしても倒れていた。

「君はまたか…」

 シルバーホーンを飛鷹君に向けて引き金を引く。

 ユーリ同様に目を覚ます。

「我ながら、みっともないが勝ったぜ」

「うん。今度からもっとリスクを考えて使おうか」

「ああ。分かってるよ」

 彼にして大人しいな。まあ、思うところがあったんでしょう。

 私は黙って彼の肩を叩くと、問題の人物のところに歩いて行った。

 

 そいつは実体を失い、力を消費しかなり不安定になっていた。

 赤いドレスの奴だ。

 一応、身動きは取れないようだけど、意識は取り戻していた。

「なんで…!!まだ…」

 現実を受け入れられないみたいだね。

「魄翼を使ったのに!!どうして!!」

 確かに大したものだったけど、勝てない相手じゃないでしょう。

 私は呆れて口を開こうとして、弾かれるように振り返った。

 何もない空間を凝視する。

 

『そう睨まないでくれないかな?実体はここにないよ。久しぶりじゃないか。我が宿敵』

 

 飛鷹君は既に立ち上がり、周りを警戒している。

「アンタ!!どういう積もりよ!!」

 赤いドレスが喚く。

『どういう?君があまりにも不甲斐ないんで手を貸そうと思ってね』

「なんですって!?」

 

 その言葉の直後、翼の残骸から紫の蛇が這い出てくる。

「な!?まさか…あれは!?」

 飛鷹君が驚きを露わにする。

「私の魄翼に何したの!?」

 赤いドレスが食って掛かるように言う。

『心外だな。僕はこのままじゃ、君が納得しないだろうと気遣ったんだけどね』

 

 紫の蛇がみるみるうちに翼を繋ぎ合わせ、修復していく。

 翼から大きい蛇が姿を現す。

 まるでカタツムリだね。

「なんでここにいるんだよ!?ナハトヴァールが!!」

 飛鷹君が声を上げる。

「違う。アレは亡霊抜きの純粋なるシステム。防衛プログラム自体、奴等が造ったもの

だから、外部から弄るバックドアくらい仕込んでいても不思議じゃない」

 私の言葉に、飛鷹君が信じられないとばかりに首を振る。

 そして、()()が関わったなら私を騙せても不思議じゃない。

 

『さあ!楽しんでくれ!!』

 

 

『惑星破壊プログラムを起動します』

 翼を生やした蛇の無機質なアナウンスが響いた。

  

 大量の虚無を放ちつつ、魔法陣が広がっていく。

 

 嘲るような嗤いを残し、()()はこの場を去って行った。

 

 

 

 

 

 




 飛鷹の特典覚醒とラストは掛けてあるタイトルです。
 美海も飛鷹と同じ道を通っていますが、自分とは違う
 のだから、どうにかならないかと彼女は考えています。
 
 戦闘描写は最も苦手分野の為、どうしても時間を余計
 に食ってしまいます。すいません。

 美海が赤い剣を使用したのは、本編の通り発動時間の
 問題です。

 雷霆剣に関してはもう少し経ってから書けると思い
 ます。
 
 飛鷹の固有換象に関しては捏造です。
 原作が出る気配もないので、造ってみました。

 次回も気長にお待ち頂ければ幸いです。
 いつ次、投稿出来るか相変わらず不透明です。
 すいません。


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第46話 理由

 長い時間が掛かりました。
 最近メイン投稿はヤバいですね。
 悩みっぱなしです。

 では、お願いします。



             :フェイト

 

 突然、空が暗くなってきてみんなが空を見上げた。

 まるで、遮光のベールで空を包み込んだみたいな暗さだった。

 もう夜になるけど、この暗さは異常だ。

「え?何!?」

 なのはが声を上げる。

 その正体に気付いて全員が呆然とする。

「これは…魔法陣!?」

 それが私の言葉だったか、それとも他の誰かだったかよく分からない。

 魔法陣がドンドン空を覆い尽くしている。

 それが僅かな光もシャットアウトしている。

「発生源は、美海達が行った方角!?」

 こんな巨大な魔法陣なんて…!

 しかも、幾つも連動し更に広がりを見せている。

「なんかヤバそうな感じやね」

『おそらくは、あの方の予想を越える事態が起こったと思われます』

 はやてが呟くように言った言葉を、リインフォース?が補足するように言った。

 あの方って美海の事だよね?

「で?アタシ等はどう動くよ?」

 ヴィータがシグナムやはやてを見て、口を開く。

「ここで成り行きを見守るなんて、選択肢あらへんやろ」

 深刻な表情ではやてが言った。

 けど、はやての額には凄い汗が浮いていた。

「はやてちゃん!?」

 なのはが近寄ろうとしたその時、はやての胸から小さい光の球が飛び出し、リインフォースが

実体化する。

「主?まだユニゾンを解除しては…」

 リインフォースが怪訝な声ではやてに声を掛けるが途中で途切れた。

 はやてが不意に意識を失い落下したからだ。

 なのはが動く前にリインフォースが、はやてを受け止める。

 全員がはやての元へ急ぐ。

「心配ない。気を失っているだけだ。目覚めたばかりで大義を成した故、消耗されたのだろう」

 受け止めたリインフォースが、全員に心配ないと伝えてくれたけど、それ、大丈夫なのかな。

「それじゃあ、はやてちゃん達は退避して貰った方がいいかな?」

 なのはが私を見ながら訊く。

 そうだね。はやてがこの状態じゃ、厳しいと思う。

「うん。私達だけで行こう」

 美海には助けて貰ってる。今度は私が…私達が助ける。

 私達は頷き合う。

 なのはも同じ気持ちである事が分かる。

 ここではやて達と別れようとした時だった。

「おい。アタシ等も行くぞ」

「「え!?」」

 ヴィータが、そんな事を言うなんて、少し驚いてしまった。ちょっと失礼かな?

「アイツとは、まだ決着付けてないからな」

「戦わずに勝利したなど、騎士として恥だからな」

 ヴィータの言葉にシグナムが同意するよう言った。

「だが、ザフィーラとシャマルは夜天…リインフォースと共に残れ。護衛は必要だ」

 シグナムがリインフォースを見ると、彼女は黙って頷いた。

「グズグズしていても仕方あるまい。行くとしよう」

 シグナムがそう言うと、ヴィータと一緒に飛び上がる。

 私となのはも後を追うように、空へと上がった。

 

 今、いくから!

 

 

             :リインフォース

 

 若鳥と騎士が飛び立って行くのを、私は見送る。

 すると、腕の中にいた主が身動ぎする。

「主。もう暫くはお休みを」

 私は小さい声でそう呼び掛けたが、意外にも力強い言葉が返ってきた。

「戯け。この程度で倒れてどうするか。お前の主はひ弱過ぎるぞ」

「「「っ!?」」」

 私達は思わず目を剥く。

 腕の中にいた主ではない。

「御身はディアーチェ殿か!?」

 ディアーチェ殿は大仰に頷く。

「おちおち消えてもおれんわ」

「しかし、どうして貴女だけ…」

「我は倒された訳ではないからな。消えるのは時間の問題だろうが、少し猶予はあるようだ」

 そう言ってディアーチェ殿は、腕から降りる。

「不甲斐ない故、手を貸してやる。ついて参れ」

 

 ディアーチェ殿は傲岸に笑った。

 

 

             :美海

 

 いつまでも消えた気配を見ていても仕方がない。

 現実に目を向ける必要がある。

「取り敢えず、アイツを墜とすしかねえか」

 飛鷹君が私の傍でそんな事を言った。

 結界はアイツが飛び上がった事で、余裕で突き破られた。

 現在、近所どころか世界に迷惑を掛けている状態だ。

 アレを叩き墜とすのは、賛成する。

 でも、アイツ。惑星破壊プログラムとか言ってたけど?多分、真面な方法じゃ墜とせない

でしょ。まあ、墜とすしかないけどさ。

 でも、魔法陣は術者を倒しても、被害を及ぼす可能性がある。

 定義破綻で停止するならいい。でも、行き場がなくなった力が暴発する可能性もある。

「それで?どういう状況なの?これ」

 私は薄らボンヤリしている赤ドレスに向かって、訊いた。

 あれだけ喚けば、意識も取り戻してるってバレてるからね。

「結局は、アイツにいいように使われたって事でしょ!」

 吐き捨てるように赤ドレスが言った。

「そんな事は、もう分かってるよ。あれは防衛プログラムとは隔離されていた筈で、侵食され

ない筈だったんじゃないの?」

 だからこそ、アルハザードの連中は、あそこに突っ込んだんだしさ。

 赤ドレスは忌々し気に私を見た。

「多分、私が注入したウィルスを解析でもしたんじゃないの!」

「ウィルス!?」

 飛鷹君が素っ頓狂な声を上げる。

 ま、そう簡単に変われないか。私も今の私になるのに苦労したし。

「そうよ。一見無意味なデータの塊だけど、時が来たら集まってウィルスになるの。自在に

姿形を変えて潜伏し、消されてもどこかに別のコピーを潜伏させる。私の力作よ」

「攻機かよ!?」

 飛鷹君の言葉に赤ドレスが五月蠅そうに睨む。

 成程、それならウィルスチェックに引っ掛からない訳だね。

「つまり、アレは取り出される時に、あの翼のメインシステムに入り込んでいたって事ね?」

「そういう事になるわね」

 視線を逸らし座り込む。

「で?対策はないの?アンタが造ったんでしょ?」

「ハッ!アイツが絡んでんのよ!?とっくに私の手に負えなくなってるわよ!!」

 逆ギレか。こっちがキレたいところなんだけどね。

 全く、しぶといヤツだよ。一度殺されたくらいじゃ、反省はしない訳だ。

 元々アレに反省の文字は頭にないと思うけど。

 ベルカ時代の事が頭に浮かぶが、今は余計に不愉快になるだけだから、止める。

「惑星破壊プログラムっていうのは?」

「惑星自体の力を吸い尽くして、破壊にエネルギー変換するものよ。放っておけば死の星に

なるわね。変換したエネルギーは他の破壊にも使えるわ」

 つまり、この魔法陣は星を1つ覆い尽くす予定なのか。

 完成前に破壊しないといけないけど、複数の魔法が起動しているから単純に術式解散(グラムディスパージョン)じゃ

無力化出来ないな。

『となると我の出番となるか』

 バルムンクの声が頭に響く。

『幸いヤツは、宇宙空間といっていい程の高度に上がっとるようだ。これなら全力で力を解放

しても問題あるまいよ。主よ』

 うん。だね。

 となると今の私の魔力だと一発勝負になるな…。

 少しでも魔力を温存しないといけないから、同高度まで他の人に運んで貰わないといけない。

 

 アースラにでも…いや、ダメそうだな。忙しいかもだし。

 ここは復活した飛鷹君か…。

 

 

             :リニス

 

 私達は、飛鷹の魔法で虎口を脱した…ようですけど、どうしてここだったんでしょうか?

 私達は海鳴臨海公園に飛ばされていた。

 飛鷹のセレクトだから、真意は彼にしか分からないでしょうが。

 今のうちとばかりに、傷の治療をしていく。

 全員分がどうにか終了した頃には、少し時間が経っていた。

 フローリアン姉妹の方は呆れた事に、傷がかなり治っていた。

 流石に姉の方は、まだ動けませんが。

 美海には及ばないまでも、凄まじいですね。

 そして、程なくして辺りが暗闇に包まれた。

「なんだ!?あれは!!」

 クロノ執務官が声を上げて、上空を指差す。

 全員が釣られて上空を見上げる。

「「なっ!?」」

 私とアルフは同時に驚きの声を上げてしまった。

 それは私達には構造が違っても、見慣れたものだったからだ。

 魔法陣。

 それも超巨大で、幾つもの魔法陣が連動して動いている。

 まるで魔法陣で出来ている歯車です。

 しかも、それがどんどん広がっている。

 これ程であるなら、結界など効果を発揮する訳もない。

 結界で1つの世界を覆い尽くすなど、美海にさえ出来ない。

 どうも、闇の書…いえ、夜天の魔導書ですか、アレの件はフェイト達が片付けたようですし、

残り消去法でいくと、美海達のところで起きたイレギュラーという事になる。

 ならば、私も行かないといけない。

 剣王の守護獣として。

「アルフ、執務官。ここを頼みます」

 私はアルフと執務官に後事を託す。

「いやいや!どこ行く気だよ!?」

「君が行ったところで、役に立つか分からないぞ」

 アルフと執務官が私の言葉に難色を示す。

 2人の言い分も分かる。

 これは、使い魔や守護獣の出る幕ではない。

 執務官にさえ手に余る案件だ。

「アースラに今、連絡を取っているところだ。それを待って…」

「今は対処に忙しいのでしょう?いつ連絡が付くのですか?」

「いや…それは…」

 別に執務官を責める積もりも、ましてアースラの乗員を責める気もない。

 向こうも向こうで、遣らないといけない事があるのでしょう。

 私も遣らなければならない事が出来た。それだけなのです。

「2人の言いたい事も分かります。しかし、私は美海の守護獣なのです。アルフ、仮にあそこに

フェイトが居たら貴女は行かないのですか?」

「そんな訳ないだろう!?」

 アルフは激昂して言い返してくる。

 ならば分かって下さい。

 私の表情から言いたい事を察したアルフが黙り込む。

「今の美海は、フェイトよりも魔力量が低いのです。確かに何も出来ないかもしれない。でも、

魔力電池になるくらいは出来ます!」

 私の意志が固いと諦めたのか、執務官が苦い顔をしている。

 彼の立場なら、制止しない訳にいきませんからね。

「そこまで言うなら、もう止めない。でも…」

「馬鹿じゃないの!!?」

 執務官の言葉は、突然の叫び声に断ち切られる。

 叫んだのはフローリアンの妹の方だった。キリエでしたか?

「私達に出来る事なんて、もう何もないじゃない!!行ってどうなるのよ!?」

 彼女は子供のように喚いた。

「貴女は何か勘違いしていますね」

 私は、残念ながら貴女に付き合う気はありません。

「何がよ!?」

「役に立つ、立たないの問題ではないのです」

「じゃあ、何が問題だっていうのよ!!」

「私の気持ちです」

「は!?」

 美海から教わった事です。

 自分がどうしたいかを考えろ。

 私は美海を助けに行きたい。魔力電池としてしか役に立たずとも。

 いや、ここは魔力電池程度の役に立つなら喜んでいく。

「ここで行かなければ、私はあの子の守護獣は名乗れない」

 彼女は、ただ動かない理由を欲しているだけでしょう。

「貴女はどうなんですか?後悔しないんですか?」

「っ!?」

 彼女はビクッと反応したようですが、私はそれだけ言うと、飛び上がった。

 

 彼女の答えには興味はありません。

 止められる覚えもありません。

 後はご自由に。

 

 美海。今行きます!

  

    

 

             :アミティエ

 

 あの魔導騎士の使い魔が飛び立っていく。

 キリエは、それを見ずに下を向いたままだった。

「いいんですか?それで…」

 私は妹に声を掛けた。

「言ったでしょ?出来る事なんてないって!行ったて仕様がないじゃない!!気持ちの問題!?

馬鹿じゃないの!?」

 それに厳密に言えば、あの使い魔には出来る事がある。

 でも、キリエは何も出来ないし、望まれてもいないでしょう。

 それにあの使い魔にとって、キリエの答えなどどうでもよかったでしょう。

 でも…。

「そうですね。どうせ、後は捕まるだけですしね。何をやっても変わらないでしょう。しかし、

我が身内としては悲しいですが、イリスの言った通りですね。貴女は何も出来ない」

 私の冷ややかな言葉に、キリエが怒りを籠めて睨み付けてきた。

「なんですか?異論でもあるのですか?」

「ただの自己満足なんて、意味ないでしょ!?」

 キリエは肝心な事を忘れている。

 イリスもまた友達に裏切られたと感じている事を。

 でも、あの記憶を取り戻したユーリを見ていると、ただイリスを騙していたとか、裏切った

とは思えない。何か事情がありそうだと感じた。

 だからこそ、まだイリスを心の中では嫌えないキリエが行動する事に、意味はあると思う。

「本当に自己満足にしか、ならないんでしょうか」

「え?」

 キリエが、私の言葉に気の抜けた声を出した。

「イリスは裏切られて、他人など信用に値しないと考えています。ここで貴女が行動しなければ、

イリスは考えが正しいと思い続けるのではありませんか?」

 勿論、行動すれば報われるというものでもない。

 でも、出来る事があるうちに諦めるなんて、大切に想った心に失礼だと思いませんか?

「それを違うと示す事は、自己満足であっても意味はある。私はそう思いますよ」

 キリエは俯いて何も答えない。

 時間はあまりありませんよ。

「私が行ってもいいの?お姉ちゃんは」

 私に遠慮しているのですか?今更だと思いますけどね。

 私は苦笑いしてしまった。

 今まで散々な扱いだった思いますけど?

 それが伝わったのか、キリエが真っ赤になって怒ったような顔をした。

「少し…くらい悪いって思ってるのよ!!」

 私は苦笑いの消えない顔で頷いた。

「私にしても、貴女によかれと思っていた事が裏目に出ていた事が分かりましたし、いいですよ。

本音もぶつけ合えましたしね。そろそろ貴女を信じて任せる事にします」

 私は苦笑いを消して、真剣な顔で問う。

「それで、どうしますか?」

 キリエは、しっかりと私を見た。

 どうも、今の遣り取りで余計な力が抜けたようです。

「行くよ、イリスのところに。騙す為でも、私は随分救われたから」

「そうですか。では、また後で」

 別れは告げない。

「うん。また後で」

 私の気持ちが通じたのか、キリエも言葉を返してくれた。

「では、これを持って行って」

 私は自分のヴァリアントザッパーを差し出した。

 キリエはそれを受け取った。

「うん。ありがとう。返すよ。後で」

 キリエはそれだけ言うと、大地を蹴って空へ飛び出して行った。

 

 まだ、仲直りという訳にはいかないかもしれない。

 でも、ゆっくり歩み寄れればいい。

 私は、飛び去る妹を見送った。

 

 

             :美海

 

 私は、飛鷹君に向き直ると口を開いた。

「早速だけどさ、転移魔法で宇宙まで送ってくれる?」

「宇宙!?そんなところまで上がってんのかよ!?大丈夫なのかよ!?」

 ああ、宇宙服とか?

 騎士甲冑に一工夫と、呼吸に必要なものは魔法でなんとかするよ。

 そのくらいはしないとね。

 それ込みで魔力ギリギリだけどね。

「大丈夫だから。それより出来る?」

「ああ、まあイケると思うけどよ」

「じゃあ、頼むよ」

 飛鷹君が頷くと準備に入ろうとするが、その前に団体さんがこっちに向かって来るのを

感知する。

「なのは達か」

 うん。異常を察して応援に来てくれたみたいだね。

 それ以外にも、呼んでない人が向かってきてるね。リニスの後に。

 もしかして、リニス、焚き付けた?

 そして、何しに来た。守護騎士2人。

 更に可笑しな雰囲気のはやてが続いていた。

「美海~!!」

 フェイトが先頭で手を振る。

 いや、見えてるし、分かってるよ。

 先頭集団のフェイト達が到着する。

 少し遅れてはやて達が到着するが、フェイト達が驚いていた。

 どうも残る予定だった人が、追ってきていたらしいね。

 後には気を配らないと、そのうち怪我するよ?

 その後に、リニス。そして、お呼びでない人物。

「美海ちゃん。飛鷹君。何があったの!?」

「主!?リインフォース!どういう事だ!」

 なのはとシグナムがそれぞれ口を開いて、疑問を口にする。

 どうでもいいけどさ。応援に来たんだよね?

 意思統一とかしとけばいいのに。同じ所にいたんだし。

「フハハハハハ!我、推参!」

 はやてが高笑いと共に、気取ったポーズを取る。

 全員が固まった。

 この、微妙にバカっぽい登場は…。

「久しいな。友よ!」

 うん。はやての顔をしてるけど、別人なんだね。

 どうしてとか、色々と訊く事はある筈だけど、取り敢えず…。

「ああ…うん。感動の再会の筈なのに。色々と台無しだよ。ディアーチェ」

「相変わらず、分からん事を言う奴よ」

 ディアーチェが怪訝な顔で私を見た。

 これが大真面目な態度なんだよね。

 私は久しぶりに頭痛を感じた。

 頭は良いんだよ。なのになんでこうバカっぽく見えるのかな?

 事情が呑み込めない守護騎士に、私とリインフォースで2人掛かりで説明する。

 時間がないっていうのに…。

「つまり、疲労で倒れた主に代わり、貴女が手を貸すと?」

「その理解でよい」

 シグナムの問いに、ディアーチェが偉そうに答えた。

 これで、こっちは片付いた。

 問題はこっちだ。

 

 私は、赤ドレスの傍に立つ元・捜査官を見た。

 あれ、ほっといていいよね?

 無視して進めようと思うけど。

 

 その思考が伝わったかのように、ユーリが身動ぎする気配がした。

 リニスを通して事情は伝わってるし、こっちからも話聞いときますか。

 

 

             :ユーリ

 

 言い争う声で意識が浮かび上がってくる。

 私は死んだ。

 とすれば、ここが噂に聞く冥府という場所なのでしょうか?

 随分と聞き覚えのある声がしますが…。

 彼女達も死んだのでしょうか?

 眼を開けてみると、空が輝いていた。

 冥府にも魔法陣があったのですね。

 

 …そんな筈ありませんね。

 

 彼女は私を殺した筈…なのに何故あの魔法陣が!?

「ああ。起きた?」

 私を殺した筈の彼女が、悪びれる様子もなく話し掛けてきた。

「これは、どういう事ですか?」

 私は非難を込めて言う。

「キチンと殺したよ?ただ、蘇生させただけで」

「蘇生!?」

 馬鹿な!?剣王が魔法も達者だったとは知っていましたが、アルハザードですら成し

得ない死者の蘇生を可能にしているというのですか!?

「まあ、正確には違うけど、効果は一緒だからそれでいいよ」

 なんて事ないように彼女はそう答えた。

 そして、彼女はここまでの起こった事を説明してくれた。

「…そうですか。そんな事があったんですか」

 他に感想が持てない事態だった。

 ()が絡んでいるなら、最悪の事態も当然の事でしょうね。

 イリスはキリエさんでしたか?彼女と言い争いをしている。

 でも、イリスは一切聞き入れる気はなさそうです。

 魄翼がああなったのですから、イリスの動揺は計り知れないでしょう。

 ここに至っては、話してもいいでしょうか。

 何故、私が親友を裏切ったのかを。

「うん。そこでね。あっちは取り込み中だから、貴女に話を聞きたいんだ」

「話?」

「少なくとも、貴女も関わったんだよね?アレの開発に」

「…はい。その通りです」

何故知っているのか…なんて事は訊かない。

 私は苦い顔で頷いた。

 そして、私は惑星破壊プログラムの術式を強制的に停止すると、溜め込んだ力を糧に

破壊を齎す事を説明した。停止の方法は現行存在しないとも。

「じゃあ、バルムンクでなんとかするしかないか。ありがとう」

 彼女は絶望的な事を言われた筈なのに、微塵も動揺せずに仲間達の元へ戻っていった。

 暫くすると転送陣が輝き、高速で彼女が天に昇っていく。

 もしかして…と思ってしまう。

 彼女ならば、一度は()を倒した、彼女ならばと。

 地上に残った仲間達も、任せ切りにするつもりはないようで、何やら動いている。

 

 キリエさんはイリスと向き合う覚悟を決めた。

 ならば、私は真実を告げる勇気を持たなければならない。

 

 私はイリスに向き合う為に、第一歩を踏み出した。

 

「だから!私はイリスの力になりたいの!騙されていたとして、私は救われてたから!」

「アンタ、馬鹿じゃないの!?気持ち悪いわね!もう、どこかに行きなさいよ!!」

 なんだか、会話がループしてる気がしますが、今はそれどころじゃありません。

 私自身、覚悟しても話すのは気が重いのですから。

「イリス」

 私は意を決して話し掛けました。

 キリエさんが目を見開く。

 イリスの眼が凍り付いたように冷たくなる。

「ハッ!いい気味だと思ってるんでしょ?」

 イリスが背を向けて言う。

 拒絶を表す背中に私は言葉を紡ぐ。

「話をしにきました。これが最後になると思うから」

「ああ。今度こそ私は終わりだろうしね!最後になるわね!唯一の救いは、もうアンタの

顔を見ないで済む事かしら?」

 仕方のない事だ。

 イリスをこうしたのは私自身なのだから。

「いいえ。私が死ぬであろうからよ」

「え!?」

 キリエさんが驚きの声を上げる。

「魄翼を…彼のゲームを止めます」

 イリスが私の言葉を聞いてヒステリックに嗤う。

「ああ!アンタにとって魄翼はどうでもいいものですものね!」

 私は意を決して決定的な言葉を吐く。

「そうですね。アレは厄災の残滓です。()()()()()

「は!?何言ってるの!?アレは私達…いえ!私が造ったのよ!!」

 イリスが馬鹿な事をいうなと言わんばかりに、噛み付いてくる。

 しかし、事実だ。

「確かに組み立てたのは私達。でも、()()()()()()()()()()

「馬鹿な事言わないで!!そんな訳ない!!」

「事実よ。思い出してみて、貴女はどうやって星のエネルギーの吸収・変換の術式を思い

付いたの?翼の生体部品と機械部品の融合なんて貴女の専門だった?」

 確かに生命エネルギーの吸収は、彼女の魔法特性だった。

 でも、規模は個人の力を越える事が出来なかった。

 魔法特性が特殊過ぎて、汎用技術として確立出来なかったのだ。

 そして、彼女の専門は技術。ソフトウェアの方が専門で特殊加工はそこまで得意では

なかった筈だ。

「で、でも!そんな…」

 今、彼女は動揺している。思い出せる訳がない。存在しないのだから。

 私は、あの時に何があったのかを話し出した。

 

 

 私はアルハザードでも名門の出だった。

 そんなものはあそこでは飾りだったけれど。

 幼い頃から才覚を示し続けた私は、当然のように中枢へと進んだ。

 アルハザードには、倫理などというものは存在していない。

 いきなり人体実験など当たり前。

 研究室のゴミ捨て場には、買われてきた人間が山のように残骸と成り果てて捨てられ

ていた。

 私はそんな国で世界で育った割に、順応しなかった。

 そんな光景に眉を顰めていた。

 だからといって、何もしなかったのだけど。

 私は、それでも順調に出世を重ねた。

 助手から研究補佐に、そして遂に自分の研究室を持った。

 その時に入ってきた助手の1人が、イリスだった。

 イリスは珍しい出自だった。

 実験動物として売られる下層民の出だったのだ。

 それが、ここまで上がってくるのは珍しい事だった。

 アルハザードは上層と下層に別れる塔の構造をしていた。

 下層は、魔法的才能が乏しいと判断されたものが送られる場所だ。

 下層からは身売りという形で、お金を得る手段がある所為で、人買いが溢れていた。

 最初、イリスは慇懃無礼な態度で問題のある人物だった。

 当然の事だろう。

 私は彼女を虐げる側の人間だったのだから。

 それが変化し出したのは、ゴミ捨て場を見た私の反応を彼女が見た時からだった。

「ゴミに興味でも?」

 イリスは嘲るように私に言った。

「気分のいいものではありません。少なくとも、ここではああいった事はしません」

 イリスが私の答えを鼻で嗤う。

「自分がやらなければいいと?違う研究室で日常になっていようが、構わないと?」

「非難は甘んじて受けます。私には力がありません」

「あったら、やってくれますか?」

 イリスが一転して真剣に問うてくる。

 私はただ頷いた。

 だって、嫌だったから。本心だ。

 そこからイリスは積極的に私に接触してきた。

 勿論、下心があるとは分かっていた。

 でも、不思議なもので私達は徐々に親しくなっていった。

 それは、私の思考の跳躍にイリスが付いてくるだけでなく、その過程を埋めてくれる

からだった。

 つまり、研究において、彼女と私は互いに補い合う事が出来たのだ。

 そうなると互いに認め合うのも早かった。

 実力と実務を認めた後は、互いの性格に目が向けられたが、そこも意外にも問題

なかった。

 イリスは思い込んだらドンドン進んでいくタイプで、私は慎重に物事を判断し、前に

行こうとするイリスにブレーキを掛ける。

 仕事と正反対の状態で、ここでも補い合う関係だった。

 この頃から、下層民による抵抗運動が行われる事が増えていった。

「ねえ、イリス。みんなを落ち着かせる事は出来ないの?このままじゃ、何かする前に

みんな実験動物にされてしまうわ」

 私はイリスにそう訴えた。

 イリスも苦い表情だった。

「もう、押さえ付けるのも限界なの。私の言葉なんて聞いてくれない」

 忸怩たる声で、イリスは絞り出すようにそう言った。

「でもね!漸く光が見えてきたのよ!見て!」

 一転してイリスが明るい表情になり、データを私に見せてきた。

「これは…」

「そう!やっと奴等をどうにか出来そうな魔法理論が、出来上がったのよ!」

 それは兵器として優秀なものだった。

 装着者の魔力が必要なのは最初だけ、後は兵器が自動でエネルギーを吸収し空間破壊の

力に変換する。巨大な力を吸収する時は、魔法陣の形で外部にエネルギーを溜めて置く。

 ただ、使用出来る力の桁が尋常ではない。

 これなら、理論的に星一つ、世界一つを軽く消し去る事が出来る。

「これなら、中枢に巣食う化け物を殺せる!!」

 私は冷静に検証する。

 瑕疵があれば、死ぬから。

 私の中の知性はイリスに同意していた。

「うん。確かに、これで交渉までもっていく事が…」

「何言ってるの!?アイツ等が今までやってきた事を考えれば、死んで当然でしょ!?」

 私の言葉に、イリスが怒りを露わに遮る。

 私は頷くしかなかった。

 私は彼女と違い、加害者の側の人間だったから、否定する事が出来なかった。

 

 それから理論を元に兵器の作成に入った。秘かに。

 それは攻防一体の翼の形とした。

 思えば、ここでおかしいと思うべきだったのだ。

 あまりにも問題なく造れてしまえている事に。

「これが完成したら、決起する。この世界からアイツ等を一掃して、世界を変えるんだ!」

 イリスはそう喜んでいた。

 

 もうすぐ完成。

 そんな時の事だった。

 私はアルハザードの責任者・筆頭魔法使いに呼ばれた。

 アルハザードに王の概念はない。

 勿論、知っているが、欲した事がないというべきでしょう。

 そんな面倒を背負い込む人間も皆無だった。

 だから、一番実力のある魔法使いが筆頭として、緩やかな支配をしていた。

 私は声を掛けて扉を開ける。

 そこには少年がいた。

 年齢だけ見れば、彼が筆頭魔法使いであるなど冗談と思うでしょう。

 しかし、彼が並居る魔法使いの頂点にいるのは事実だった。

「ああ。ご苦労様だったね。で?どうかな?魄翼…って名付けたんだったね?アレの進捗

状況は」

「っ!!」

 私は辛うじて息を呑むだけに反応を止めた。

 それでも驚愕は伝わってしまっただろう。

 驚くのも仕様がない。

 あの兵器は秘かに造っていて、魄翼と名付けたのも昨日だからだ。

「ああ。驚く事はないよ。アレはネズミ捕りのチーズさ。最近、実験動物が騒がしいだろう?

だから、ここらで一網打尽にしておこうと思ったのさ。()()()()()()()()()()()()()()()?」

 彼は、なんでもないように恐るべき事を言った。

 吹き込んだ、つまりイリスは偽の記憶をいつの間に刷り込まれたのだ。

 彼がこの手の話でハッタリを言う事はない。

 私の全身から冷や汗が流れる。

「安心し給えよ。君は優秀な駒だ。ここで捨てたりしないよ。下層民も心配する事はない。

繁殖用の魔法も出来ているんだ!」

 私は凍り付いた。

 彼は下層民を人間だと思っていない。それは私達ですら例外ではない。

 そこから、どこをどう自分の研究室に戻ったか記憶にない。

 気付けば、自分のデスクにいた。

 真面な思考が戻ってくると、焦燥が私を支配した。

 イリスは魄翼の完成と共に、決起する気でいる。

 反骨心が残っている人達全員を引き連れて。

 勝てない。あれじゃダメだ。どうする!?

 もう、みんな耐える事は出来ない。

 何もしなければ、一部を除いて死に絶えるだろう。

 何かしなければ…。

 

 どのくらいデスクで思考の海を漂っていたか分からない。

気が付くと、かなり時間が経過していたように思う。

 その時、イリスに連れられて行った下層の家で、小さな子供から光る魔石の欠片を貰って

いたのを思い出した。

 デスクの端で鈍い光を放っていた。

  

 そうだ。

 全てを救う事など出来ない。私にその力は最初からない…。

 ならば…。

 

 私はコッソリ魄翼へ向かい細工した。

 ごめん。イリス。

 出力が出鱈目なだけの扱い辛い失敗作にしたのだ。

 そして、彼には失敗作になった事を告げた。

 つまり、密告したのだ。私は。

 こうして、イリスは反乱の為の兵器を造った咎で反逆罪で捕まった。

 イリスの悲痛な叫びに、私は見えなくなってから耳を塞いだ。

 イリスの声はずっと耳にこびり付いて離れなかった。

 

「ふぅん。そうか…。まあ、いいだろう。データは取れた。ベルカにやる船の参考くらいに

はなるだろう」

 事後の報告を聞いて、彼はアッサリそれだけ言った。

「彼女の処分ですが…魂のみの封印処置が妥当かと」

 魂だけでも生かしたいという私のエゴだ。

 魂のみでは、自然消滅の危機があるが、助かる可能性は残せる。

「実験に使うのではなく?」

「はい。見せしめには丁度いいかと。下層民も大人しくなるでしょう」

 彼は詰まらなそうに頷いた。

「では、それで。出てっていい」

 私は無言で頭を下げる。

「君もなりふり構わないね」

 出ていく時、彼はそう言った。

 私は無言で扉を閉めた。

 

 私が殺されるくらいでは、上層は動かない。

 間抜けが死んだくらいの感想しかない。

 これで下層が無謀な戦いを行う事はない。

 裏切った私に憎悪を向けて、復讐するだけだ。

 彼等とイリスを助けられる可能性は、私にはこれしか思い付かなかった。

 そして、復讐は成された。

 誤算だったのは、下層民がした復讐が私の記憶を消して身体ごと封印した事だ。

 アルハザードでは、資質が低い扱いだが、これくらいは可能だった事を私自身失念して

いた。

 

 

「そんな事が…」

 キリエさんが呆然と呟くように言った。

 イリスは無言だった。

「私は決着を付けなくてはなりません。あの翼を魔法陣を破壊しなければ。私は剣王の後

を追います」

 やっと決心も付きました。

 ケジメは付けなくてはなりません。

 根本的に何も救えなかった私が、今遣らなければならない事を遣る。

 

 私は2人に背を向けて歩き出した。

 

「待って!私も行くよ。でも、アンタの為に行くんじゃないから」

 キリエさんが背後から声を投げてきた。

 私は振り返らなかった。

 ただ、歩き出す。

 キリエさんはムッとしたように追いかけて来た。

 

 イリスは、変わらずその場から動く事はなかった。

 

 

 

             :リンディ

 

 巨大な魔法陣は依然として広がっている。

 だが、私達は魔法陣の対処と並行して、5隻の次元航行船の対処も行う事にした。

 正直、どちらを取っても難事である事は間違いないが、管理局員として無視する訳には

いかない。

「エイミィ。5隻の出現ポイントは?」

「予想ですが…」

 エイミィが額に汗を浮かべて、座標を口にする。

 おそらくは警告もなしにアルカンシエルを放つだろう。

 だから、即狙い撃ち出来るポジション。万が一の反撃を受け難いポジション。

 それをエイミィの頭脳と、コンピューターのデータで導き出した。

 アルカンシェルの射程ギリギリの場所ね。

 尤も射程がギリギリでも、直撃すれば被害は変わらない。

 しかも、それが5隻が一斉に撃ち込むとなれば、被害は考えたくないレベルになるだろう。

「艦長!魔法陣の方ですが、見た事もないものです。どこのデータベースにもヒットしません」

 本来ならエイミィがやっている事だが、エイミィが別の仕事に掛かり切りで別のクルーが担当

していた。

 こっちも予想外に手強い。

 これだけ巨大な魔法陣だ。ヒットしない可能性は高いと思っていたけど、やっぱりか…。

 こうした多重起動の魔法陣は、強引に破壊しようとすると、ろくな事にならない。

 行き場を失った力が爆発する可能性があるのだ。

 あれだけの力が爆発を引き起こしたら、アルカンシェルの被害を越えるかもしれない。

 願わくば、もうすぐ来るであろう5隻の次元航行船の艦長が、魔法陣に目を付けない良識を祈る

しかない。

 その前にどうにかするのが理想だけど。

「古代魔法の専門家とは連絡は付いているの?」

「はい。今、そっちの方も当たって貰っていますが、連絡はまだありません」

 まだ何も情報はないか…。

「艦長!転移反応!5つ!!」

 何事も理想通りにいく事はないわね。

 5つの艦影が浮かぶ。

 音信不通の戦艦、デューク、マークス、エアル、ビィスコント、バロムの5隻が転移してくる。

 なんにして対応しないといけない。

「通信を切っているなら、呼び掛けましょう。音響魔法装置をオン」

「了解!」

 音響魔法装置とは、通信に応じない犯罪者等に呼び掛ける魔法装置で、スピーカーより声が

届くのだ。

「問答無用に攻撃してくる可能性があります。対応準備を」

 ブリッジクルーが全員、緊張に強張った顔で了解と返事する。

 私は小型のデバイスマイクを取り出す。

『こちらは時空管理局・次元航行部隊所属・アースラです。機関を停止し、通信を開いて下さい』

 アースラから私の声が大きく響く。

 私が繰り返し呼び掛けようとした時、5隻が動いた。

「艦長!5隻が砲撃陣形を取ろうとしています!!」

『機関を停止しなさい!!』

 応じる気配は一切ない。仕方がないか…。

「陣形の形成を阻止します。副砲発射!!ただし、当てないようにして!!」

 陣形を邪魔する位置に副砲を撃ち込もうとしたまさにその時、マークスが爆散した。

 全員が驚愕で目を見開き、硬直してしまった。

 逸早く、私が我に返った。

「状況確認!!」

 私を除く全員、他の4隻も我に返ったようで動き始める。

「超高速の飛行物体が通過!マークスに接触し、そのまま通過した模様!!」

 戦艦の防御を貫いて速度が落ちない飛行物体!?

「反転して、こちらに接近中!!」

「回避!!」

 流石なもので、もう回避運動に入っている。

 でも、すぐに衝撃が艦を揺さぶる。

 アラートの文字が目の前に幾つも表示されている。

「飛行物体通過!!右舷損傷!!航行能力20%低下!!」

 アースラを掠めてエアルが轟沈する。

 私はマイクに向かって叫ぶ。

『この状況でも、まだ命令を遂行しようというのですか!?通信を開きなさい!!」

「再び、飛行物体反転!!」

「進路を予想して、砲を撃て!!」

 私は叫ぶように命じる。

 次元航行船をここまで容易に撃沈する相手だ。

 クルーも叫ぶように返事をした。全員が冷や汗で濡れていた。

 流石に転移してきた戦艦も、黙って墜とされている訳ではない。

 回避運動を取りつつ、砲を撃ち続けているが、向こうには掠りもしない。

 そして、辛うじて躱したものの、バロムにアースラ同様、飛行物体が掠る。

 轟沈こそ免れたが、アースラより傷は深いようだ。

「艦長!デュークから通信!!」

「繋いで!!」

 すぐにウィンドウが表示される。

『腹の探り合いはなしだ。協力をお願いしたい…』

 忸怩たる思いが顔に滲み出ていたが、気にせずに私は頷いた。

 ただでさえ、2隻轟沈、1隻が中破の状態では、私達に協力を要請するしかない。

「ただし、アルカンシェルを97管理外世界に向けるのは止めて頂きます」

 私は交渉の余地がないような声音で言った。

 無駄な時間を使う気はない。

 クルー達も必死に対応してくれている。

 ここで言質を取る。

 暫く沈黙が続く。恐ろしく長く感じられたが、ジッと耐えた。

『…事ここに至ってはやむを得まい。承知した。この戦闘終了をもって帰投する。ただし、部下は

私に従っただけだと、覚えておいてほしい』

 少しだけホッとする。

 良識は存在していた事に。

 でも、彼は何故こんな事に加担してしまったのか…。

 いや、ここで考える事ではない。

「承知しました。それではアースラとバロムで注意を引き付けます。その隙に攻撃を」

 本来の動きが出来ないアースラとバロムが、陣形に加わっても足を引っ張るだけだ。

 しかも、相手は戦艦の防御も容易く突破する相手だ。

 攻撃されたら回避しか取るべき手がない。

 それなら囮となり、無事な2隻で攻撃するのが最も勝算がある。

 バロムがアースラに苦労して並ぶ。

 それでは始めますか。

「攻撃開始!!」

 主砲と副砲が2隻から同時に放たれる。

 飛行物体は難なく回避し、こちらに迫って来る。

「バロムとアースラの戦術コンピューターを並列化!!」

「了解!!」 

 迫り来る飛行物体に、デュークとビィスコントが狙い撃ちする。

 それでも飛行物体は、紙一重で躱していく。

 こちらに迫って来る。

「シールド!!局所展開!!位置…」

 私は展開位置を指示する。

突撃を逸らすように展開する。

 直後、途轍もない音が響き渡る。シールドが破砕される音と共に、2隻が横に流される。

「凌いだ!!」

 クルーの誰かが叫ぶ。

「まだ、一撃凌いだだけよ!!終わってない!!」

 その直後に新たなアラートが鳴り響く。

「艦長!シールド展開式に異常発生!!」

 2隻分で集中展開でも、一撃しか凌げないの!?

 追撃して攻撃する2隻もダメージは与えられない。

「飛行物体反転!!」

 私は閉じそうになる目を見開く。

 艦長として最後まで見なければならない。

 アースラとバロムに飛行物体が迫る。

 時間が飴のように伸びて、飛行物体がゆっくりと迫って来るように見える。

 

 直撃する。

 

 と思ったその時に、蒼い光の柱が飛行物体を巻き上げる。

 反射的に放った相手を確認する。

 

 アースラの下方には黒い騎士が、蒼い剣を片手に浮いていた。

 

 

 

 




 本当なら、どうにか戦闘終了までいこうと思ったんですが
 いけませんでした。
 次回になります。
 
 戦艦の名前に関しては、5隻分。もっとリリなのらしい
 名称があれば、教えて下さい。修正します。

 飛鷹君も徐々に落ち着いてくる筈です。
 
 月に1回の投稿になりましたが、折れた訳ではありません。
 悩みつつ修正を加え書いています。

 次回も気長にお待ち下さい。

 
 〇雷霆剣ドンナーシュラーク
 
  美海が雷帝から賭け試合を仕掛けられた時に、分捕った神剣。
  雷帝は聖王連合に入っていなかったが、取り敢えず敵対関係
  ではなかった為、そこそこ交流があった。
  当時、武名が高くなってきた美海に、雷帝が興味を示して、
  試合を申し込んだ。
  最初は試合ではなく死合だった為、臆病と取られないように
  注意した。実は美海は試合より交渉の方が面倒だった。
  お互いに大切なものを賭けるという事で、試合にして貰った。
  因みに、美海は初めてを賭けさせられている。
  雷帝は国の護剣である雷霆剣を賭けさせられた。
  美海が死力を尽くして倒したのは言うまでもない。






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第47話 歪

 まずはお詫びからしなくてはなりません。
 コイツ折れたな、と思った方。
 一言もありません。
 申し訳ありませんでした。

 色々要因は重なりましたが、一番は完成しなかった
 からです。
 言い訳はこのくらいにして、本編どうぞ。


             :美海

 

 私はユーリとの話を終えて、みんなのところに戻った。

 ユーリが、赤ドレスとお呼びでない人のところに移動したようだが、それはあっちの問題だ。

 それより、サッサと遣る事遣らないといけない。

 魔法陣はかなり広がってしまっている。

 あれが地球を覆い尽くしたら、エネルギーの搾り取りが始まって終わりだからね。

「どうだった?」

 フェイトが私が戻ってきた事のを見て、近寄って来る。

「有意義な話はないね。期待してた訳じゃないけど」

 まあ、念の為ね。

 視点が違えば、情報も多少異なるかと思っていたけど、収穫なしだ。

 やっぱり、バルムンクに頼る事になるね…。宇宙行きか…。始めて行くよ、宇宙。

「でも、救われる事はあるかな。ディアーチェなら、私と飛鷹君ぐらい宇宙まで送れるよね?」

 ディアーチェが怪訝な顔で私を見る。

「む?そこの小僧も連れて行くのか?」

「安心して、おかしな話だけど、戦艦の対処に送るだけだから」

「確かに、戦艦の対処を生身の人間にさせるのはおかしいが、貴様の遣る事だ。納得しよう」

 まあ、死ぬ気で遣って貰うだけだよ。

 彼のレアスキルならイケるでしょ。

「宇宙まで行くのはいいが、俺もチャンと宇宙で活動する魔法を教えて貰えるのか?」

 今度は飛鷹君が質問してくる。

 まあ、普通は宇宙で活動する魔法なんて知らないよね。

 ()()()()()()()()、水中用の魔法を改良する気だから。

 魔法式を即興で弄って、飛鷹君に提示してやる。

「これでイケる筈だよ」

「筈!?」

 いや、試してる時間ないからさ。

 これで嫌なら、不参加でもいいよ?

「いや、行く」

 どうやら腹は決まったらしい。

 飛鷹君が魔法式をデバイスに登録して、発動手順を確認し出す。

 みんながビックリした顔で、飛鷹君を見る。

 まあ、普通、魔法式があっても何度か練習して、漸くものになるものだからね。

 こういうところは、転生者って便利だ。

 飛鷹君は置いておいて、他の面々と手順確認だ。

「それでみんなにやって貰いたい事だけどね」

 まず、ディアーチェと一緒に魔法陣解析を遣って貰う。

 これは、なのはやフェイトも参加して貰う。

 ディアーチェの魔法知識は、私と同等と言ってもいい。

 この場に居てくれてよかった。僥倖というヤツだね。経緯は後で確認するとして。

 守護騎士は、解析を万が一邪魔する者が居ればそれの排除。

 まあ、魔法陣の無効化が可能なようであれば、そっちの協力にも駆り出す。

 私が魔法陣諸共片付ける積もりだけど、次善策は用意しておいて損はない。

 フェイト達は、一緒に行けない事に御不満のようだけど、一応の納得はしてくれた。

 守護騎士の反応は、まあ、不満そうだったよ。リインフォースは別だけど。

 ディアーチェは、淡々としたものだけど。

「私は付いて行きますよ。紗枝と祿郎のところへ貴女を無事に帰すのが、私の仕事です」

 リニスだけは、こう言って譲らなかった。

 両親の事を理由にするのは、ちょっとズルいな。そう言われると弱いからさ…。

『まあ、よいのではないか?主よ』

「バルムンク?」

 珍しいな、バルムンクがリニスの肩持つのは。

 最近、認めているような感じではあったけど、ここまでハッキリ支持するのは珍しい。

『駄猫でも、魔力の補充くらいにはなるだろう。ここで滅んだら、それまでのヤツだったという事

だろう』

 やっぱり、まだまだ仲良くなるまで、遠いみたいだ。

 リニスもガン無視して、私を見てるし。

 私は溜息を1つ吐いた。

「分かったよ。確かに、使える魔力が増えるのは有難い。おいで」

「はい!!」

 リニスは返事と同時に、猫形態に戻って、私の肩に乗る。

 そして、フェイト。羨ましそうに見ないの。

「それじゃ、飛鷹君。準備は?」

「ああ。イケる」

 魔法のチェックを済ませ、飛鷹君も私の傍へ。

「じゃあ、ディアーチェ」

「任された。完璧に送り届けてやる。コヤツが誇れるのは今のところ魔力量だけだが、私が使う

のだ。問題ないわ」

 ディアーチェも相変わらず偉そうな物言いだな。

 多分、はやてに許可なんて取ってないでしょうに、酷い言いようだ。

「それじゃ、カウント、行くよ!」

 私の声に、飛鷹君の顔に緊張が走る。

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

「「発動!!」」

 

 私と飛鷹君は宇宙活動用の魔法を発動。

 ディアーチェは、タイミングもバッチリに私達を打ち上げる。

 高速で上昇していく。

 あっと言う間に、宇宙空間に投げ出される。

「うわっと!」

 飛鷹君がバランスを取るのに手間取っている。

 私の方は、水中戦もやった所為か、別に問題なくバランスを保つ。

 リニスも私にしがみ付いて凌ぐ。

 超高速で飛び回る物体を確認する。

 私は舌打ちしたくなった。

 予想より速い!

「バルムンク!!完全開放!!」

『久方ぶりよ!!了解した、主よ!!』

 蒼い光が剣から、全身へと覆う。

 眩いばかりの蒼。

 それを感じ取ったのか、翼を持つ蛇の動きが鈍る。

 判断にラグが生じたか。甘い!

 私は戦艦に激突寸前の蛇の前に滑り込み、バルムンクを振るう。

 

 凄まじい衝撃音と共に、蛇が金属片を撒き散らしながら横を通過して行く。

 戦艦の直撃も避けられたな。

 

 私は庇った戦艦・アースラに笑ってみせた。

 

 

 

             :飛鷹

 

 まさか宇宙に行く事になるなんてな…。

 転生前なら有り得ねぇよ。

 それにしても、なんでアイツいきなり宇宙でバランス取れるんだ?

 俺が四苦八苦してバランスを取るコツを掴んだ頃には、アイツは一仕事終えていた。

「それじゃ、戦艦の面倒頼んだよ。どういう訳か、協力体制を敷いてるみたいだけど、手の平返す

事もあり得るからね」

「ああ!分かった!」

 今、協力してたって、安全になれば反故にする可能性はあるわな。

 どっちにしても、俺じゃ、アッチの相手は務まりそうもない。

 動きの速さが、尋常じゃない。

『飛鷹君!』

 目の前にウィンドウが開き、リンディさん呼び掛けてくる。

「大丈夫ですか?一応、状況の確認させて貰っていいですか?」

 もしかして、協力体制も条件付きかもしれないからな。

 リンディさんからの説明によると、実質あの蛇が片付くまでの間の協力関係みたいだ。

 となると、綾森の懸念が的中するかもな。

 まあ、結構、壊れてたり、ボロボロだったりするし、当初聞いた時よりは対処可能っぽい。

「いざとなれば、向こうを容赦なくやりますからね」

 俺は、地球にアルカンシエルを撃ち込もうとした戦艦を、チラッと見て言った。

 悪いが管理局より地球の方が大切だ。

 本当なら、管理局とは上手くやりたかったが、正直、気が合う奴等じゃない。

 害をなすというなら、敵対も辞さない。

「ええ…。そうなれば致し方ありません」

 リンディさんが若干無念そうだが、認めてくれた。

 リンディさんにしてみれば、説得したかったのかもしれない。

 

 俺は改めて、綾森と蛇の戦いに目を移した。

 敵対するまでは、アッチの戦艦も護らないといけない。

 

 

             :美海

 

「行くよ!バルムンク!!」

『久しぶりに遠慮なくやれるわ!!』

 バルムンクの咆哮と同時に、身体全体から蒼い光が物凄い勢いで放たれる。

 蛇が威嚇するように口を開けて、こちらに突っ込んでくる。

 どうやら無事敵認定されたらしい。

 私はすかさず精霊の眼(エレメンタルサイト)を起動する。

 今回は、これを使わないといけない。

 だが、それだけじゃない。

 神が鍛えた剣の力を舐めるなよ。

 凄いスピードではあるが、今の私は問題ない。

「リニス!しっかり掴まっててよ!振り落とされたら回収出来ないからね!」

『分かってます!』

 この僅かな遣り取りの間に、蛇が至近距離まで接近していた。

 私は軽く跳ぶと頭を踏みつける。

 黒い虚無が噴き出すが、蒼い光は物ともしない。

 頭に私の足がめり込む。

 蛇が悲鳴を上げるが、あちらも頭を素直に下げて尻尾を振り上げて、私を叩き墜とそうとする。

 だが、私は動じる事なく剣を薙ぐ。

 尻尾がアッサリと切り離され、蛇が悲鳴のような声を上げる。

赤い雨(ブラッティレイン)

 高速で交錯したが、残念ながら私の攻撃ターンは終了していない。

 高速過ぎてあちらは小回りが利かない。故に読み易いんだよね、進路が。

 原作・赤屍さんはメスを使用しているけど、私の場合大量に保管している投剣だ。

 投剣の雨が蛇に降り注ぐ。

 虚無で呑み込むより早く、身体に剣が突き刺さる。

 蛇は虚無で瞬時に呑み込もうとしたが、それにもバルムンクの加護が宿っている。

 全開放とは私の身体は勿論、他の武器までもバルムンクの力を宿す事が可能になるのだ。

 その代わり、魔力を馬鹿食いするけど。

 虚無が瞬く間に吹き散らされて消え、刺さった剣のみが残った。

 刺さったままじゃ、再生も抜いてからじゃないと出来ない。

「焔丸三口」

 動きが鈍った隙に、三つの刃の付いた血の糸が蛇に突き刺さる。

「七獄五劫」

 蛇の体内に一気に炎を流し込む。

 宇宙空間なら兎も角、体内なら燃やせる。

 蛇が一瞬で膨張し爆散する。

 

「バルムンク!!」

『分かっておる!!』

術式解散(グラムディスパージョン)

 バルムンクに魔法を増幅させる。

 一気に蒼い奔流となって魔法陣へと迫るが、突然何かが庇うように滑り込む。

 術式解散(グラムディスパージョン)は、それに当たり拡散する。

 

「チッ!再生速度が早過ぎるでしょ…!!」

 流石にまだ再生は不完全ではあるが、魔法陣を背に蛇があっと言う間に自身を修復した。

 闇の書の件があるし、こいつもコアを一瞬で消滅させない限り、ダメかもしれないとは思って

いたが、この早さは予想外だ。

 コアは、ジュエルシード内の魔法使いみたいに逃がしてたな。

 コイツが再生する間に魔法陣を片付けるという案は、却下しなきゃいけない。

「なんですか!?あの非常識な再生能力は!?」

 リニスが驚愕して叫ぶ。気持ちは理解するよ。私も早く帰りたかったから、ガッカリした。

「諸共吹き飛ばすしかないかな…」

「はぁ!?」

 私の呟きにリニスが大袈裟に驚く。

 今も魔法陣は広がり続けている。

 すぐさま蛇が身体を反転させる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)でより深く情報を探りつつ、神経を研ぎ澄ます。

 それだけの時間を今の私は作り出せる。

 蛇がこちらに突っ込んでくるが、こちらと目が合った途端に少し反応したように見えた。

 気付いたか…。

 しかし、あっちのスピードが仇となる。

 気付いた頃には、こっちの間合いだ。

 一気に踏み込み、閃光のような光が2つ走る。

 蛇は咄嗟に身体を捻ったようだが、遅い。

 翼が蛇から切り離される。

 蛇は当然のように、すぐに修復しようとするが、そうならなかった。

 青白い光が切り口に残留していたからだ。

 スピードが目に見えて落ちる。

 当然だろう。あのスピードは翼があって出せるものだ。

 蛇と翼の構成要素を精霊の眼(エレメンタルサイト)で、既に暴いている。

 狙うは、丁度身体の中心。

 私の眼には、赤い光の珠が光っているのが見える。

 一気に勝負を掛ける。

 私の手から紅い紐状のものが幾つも伸びて、蛇に絡み付く。

「捕まえた!」

 蛇は驚いたように暴れるが、それが余計に身体に紅い紐を絡み付かせる事になっている。

 紅い紐は勿論、私の血だ。

 尻尾を伸ばし蛇が私を叩き墜とそうするが、逆に私はそれを足場にして踏み込む。

 私は剣を身体の中心へと突き込む。

 再び、蒼い光が剣に集中する。

「ニブルヘイム。術式凍結(フリーズグラム)

 蒼い光に2つの光が螺旋を描くように加わる。

 術式解散(グラムディスパージョン)を選択しないのは、属性を統一した方が負担が少ないからだ。

 余波だけで蛇は一瞬で凍結したが、魔法陣まではまだ届いていない。

 コアと魔法陣、諸共打ち抜く!

 コアを貫いたと思った瞬間に、凍結した身体が突然膨張する。

 氷の破片が飛び散り、刃となって飛んでいく。

「何!?」

 私の身体は、蛇の膨張の反動で吹き飛ばされる。

 見れば、納得という奴だった。

「魔法陣から魔力が吸い上げられてる!?」

「相当無理してるみたいだけどね」

 リニスの事態を正確に把握し、叫ぶ。

 いくらバルムンクが神の鍛えた剣だといっても、担い手がミスをすれば切れ味は活かせない。

 全く、精霊の眼(エレメンタルサイト)で確認したけど、無茶する仕様に変更されてるな。短時間でご苦労様って!?

 あちらさんに不利益がないだろうし、どうでもいいんだろうけどね。

 蛇が咆哮を上げると、姿形が変化する。

 蛇の頭を持つ巨人へと姿を変える。翼も相応の大きさになっている。

 無茶した甲斐がありますって?

 蛇は私達の顔を見てニヤリと嗤った気がした。

 

 何度か、魔法陣ごと消滅させようとするが、その都度、蛇と魔法陣のラインが強化される。

 流石にアレが関わっただけあって、当初の見込みを外されている。

 泥仕合になれば、こっちが不利だ。

 全く、格好が付かないったらない!

 

 

             :なのは

 

 美海ちゃんと飛鷹君が宇宙まで飛んで行く。

 ここでお見送りは少し、いや大分寂しいし、悲しい。

 能力的なものだ分かっていても、割り切れないものがある。

 隣にいるフェイトちゃんも、同じ気持ちだと思う。

「これ!そこな小娘共!我等には我等の仕事があろうが!呆けるな!」

 はやてちゃんが…違うんだよね?ディアーチェさん?が私達を叱り付ける。

 そうだよね。私達も任された事はある。それをやらないと!

 フェイトちゃんも同じ気持ちみたいで、目が合うと頷いてくれた。

「あやつは、自分で片付ける気だろうが、おそらくそうはならん」

 え?どういう事?

「どうしてですか!?」

 フェイトちゃんが私より早くディアーチェさんに尋ねる。

「あやつの今の魔力量は今の基準で言うと、AAといったところだ。明らかに魔力量が不足して

おるわ。それを腕前だけでカバーするのは厳しかろう。それに敵はアルハザードで造られたもの。

イレギュラーは発生するものとして考えておくべきだ。あやつはそれを見越して、あの小僧を

伴ったのだろうがな」

 無茶をする人達を止める役割の他に、飛鷹君はそんな理由で連れて行かれたんだ。

「あの!その解析といざとなった時は、手伝わせて下さい」

 考え込んでいると、突然声が掛かった。

 声の方を向くと、ユーリちゃんだった。

「ふむ。よいのか?有難くはあるが…」

 ディアーチェさんは、なんの感情もない声で言う。

「疑う気持ちも分かります。仕事を見て決めて下さい」

 ユーリちゃんはそう言うと、何処に仕込んでいたのかデバイスを取り出して、コンソールと

ウィンドウを出して、凄い勢いでパネルを指で操作し出した。

 物凄いスピードで凄い量の魔法式を記述していく。

 凄い!

 ディアーチェさんがウィンドウを覗き込む。

 因みに、ユーリちゃんが使っているデバイスは、通常の杖型のデバイスだった。

 実用的な感じで、クロノ君の持っているデバイスに似ている。

 同じメーカーなのかな?

「成程、取り敢えずの信用はしてよいようだな」

 私達も見てみると、緻密に魔法陣の術式が組まれていた。

「尤もこれは私が関わっていた頃の術式です。彼が関わった以上、変更されているでしょうが、

参考程度にはなる筈です」

 ディアーチェさんが、ふむと頷くと私達を見た。

「それでは我等も加わるぞ」

 私達は頷くと、フェイトちゃんは私の肩に手を置き、私は自分にしか出来ない同調を使用する。

 フェイトちゃんの魔力と並列化して、魔法陣まで手を伸ばす。

 ディアーチェさんが魔力で補助してくれる。

 ユーリさんのウィンドウを横目で見つつ、同調して探った魔法陣の情報に修正を加えていく。

「待て!そこで止めろ!」

 ディアーチェさんが突然大声を上げて、作業を止める。

「どうしました!?」

 ユーリさんが声を掛ける。

「ここの記述…。魔法式を弄れば完成前でも無理をすれば、エネルギーをこの星から引き出す事

が可能なのではないか!?」

 私とフェイトちゃんは横目で、ユーリちゃんはじっくり検証するように見る。

「成程。そうですね」

 ユーリちゃんも同意して頷く。

 その恐れは当たっていた。

 いきなり魔法式が変わったから。

「これはディアーチェさんの予想が当たりですかね。これでは一気に魔法陣を消し去るのは、

難しいでしょう」

「直接、干渉して魔法陣を無力化していくのが、妥当か…。となれば、直接赴かねばな」

 私とフェイトちゃんは顔を見合わせる。

「私達も!!」

 私がディアーチェさんに志願を申し出ようと、声を上げた。

 だが、ディアーチェさんに手で落ち着けと言いいたげに、手で制される。

「寧ろ、小娘共は引き摺ってでも連れて行くわ。問題は直接の書き換えを、誰がやるかだが…」

 ディアーチェさんが言い淀んで、チラリとユーリちゃんを見る。

「私しかいないでしょうね。大丈夫です。拒否するつもりはありません。裏切りが心配でした

ら、お二人が私を撃てばいいでしょう」

 ユーリちゃんが決意を籠めて、そう言い切った。

 ユーリちゃんの覚悟を見て、ディアーチェさんが頷く。

「決まりだな。それでは守護騎士連中は、3人が宙へ上がったら、高度を上げられるだけ高く

飛んで待機だ」

 今まで黙っていた守護騎士達が、頭ごなしに命令されて、ちょっと嫌そうだったが、今は

何か文句を言う時ではないと思ったのか、了承してくれた。

「何も暇が確定している訳ではないぞ?もしや、地味で一番キツイ仕事やもしれん」

 ディアーチェさんが、意地の悪い笑みを浮かべて言った。

 守護騎士達が全員、嫌そうな顔をした。

 なんかディアーチェさん、揶揄うの楽しんでるんじゃ…。

「ほれ!小娘共!サッサと一か所に集まらんか。宙まで纏めて打ち上げてやる。幸いな事に

宇宙で活動する為の魔法は、あやつが組んで公開したからな」

 ああ!飛鷹君に見せてたね!

 ユーリちゃんがそれを聞いて、慌ててデータを纏めてデバイスに記録して、私達のところへ

急ぐ。

 3人が集まると、ディアーチェさんは、すぐさま魔法の構築を開始する。

 凄い速いし、綺麗な魔法だな…。

 美海ちゃんの魔法とは違った綺麗さだ。

 ディアーチェさんの魔法は芸術品って感じで、美海ちゃんのは機能美って感じかな?

 気が付けば魔法は完成していた。

「それでは、行ってこい!!発動!!」

 

 美海ちゃん達と違って、カウントなしで私達は宙へと飛ばされた。

 

 

             :美海

 

 私が見込み違いに歯噛みした時、下から3つの魔力反応が上がって来るのを感じた。

 この反応、フェイトとなのは…それにあのユーリ!?

 こっちが時間掛かってるから、なんか強硬手段に出るつもりとか!?

 蛇も気付いて、そちらに目を遣ると、手を上がって来るフェイト達に向ける。

 私は舌打ちして、庇うような位置に素早く移動する。

 蛇がニヤリと嗤ったが、構わない。

 こっちの弱点にでもなると思ったら、大間違いだ。

 丁度、3人が宇宙空間に放り出される。

 3人は危機を予想していたのか、同時に連携してシールドを展開する。

 前の形態の砲撃なら、あれで防げただろうけど、曲がりなりにも地球の魔力を上乗せしている

今の状態では防げない。

「バルムンク!!リニス!!」

『承知しておる!!』

「お任せ下さい!!」

 頼もしい言葉が返ってくる。

 そろそろ不味い残量の魔力が少し回復する。

 リニスがパスを通じて魔力を供給してくれている。

 蒼い光が一時的に増す。

 気合一閃。

 バカげた威力の砲撃が、バルムンクの一閃に吹き散らされ、巨人と化した蛇の片腕から肩を

綺麗に吹き飛ばした。

 蛇がダメージにのたうつように暴れると、魔法陣からラインが伸びる。

 

 だが、次の瞬間、破砕音が響き、魔法陣のラインが切断される。

 

 見れば、ユーリが魔法陣の書き換えを行っていた。

 

「魔法陣は私達が書き換えます!!魄翼を頼みます!!」

 全く、任せろと言って置いて、助けて貰ってれば世話がないわ。

 これ以上、みっともない事は出来ないね。

 

 私は怒り狂う蛇に不敵に笑った。

 

 

 

             :クロノ

 

 飛び去る被疑者を見送るなんて、本来有り得ないけどね。

 逃走の心配がない為とでも書くしかないか。

 僕は1つ溜息を吐く。

「すみません、執務官。でも…」

 アミティエ元・捜査官が僕の溜息に反応して、頭を下げる。

 僕は手で彼女の言葉の先を制する。

「君の意図は分かるよ。それに彼女は、君の予想通りに進めば逃走しないだろう」

 アミティエ元・捜査官は力強く頷くと、それでもと頭を下げた。

 アルフは、こっちの話は聞いていないようだ。

 フェイトのところに応援に行くべきかで、悩んでいるんだろう。

 アルフはリニス…あの使い魔より実力は下になる。

 魔力供給とは別に、自身の魔力を貯蔵して主に供給するなんて離れ技は、まだ出来ないだろう。

 そんな事を考えていると、通信が入って来る。

 アースラからか!?

 慌てて通信を繋ぐ。

 だが、ウィンドウが開くと、そこにはグレアム提督の姿があった。

「提督!?」

『レティに頼んで、状況は確認させて貰っている。状況は切迫している。そちらにアリアとロッテ

を送った』

 リーゼ達を?

『ちょっとした届け物の為だ。元々は闇の書対策に造っていたものだが、それも必要なくなった。

だが、無駄にはならなかったようだ。君に使ってほしい』

「デバイスの類ですか?」

 グレアム提督が頷く。

『氷結の杖・デュランダルと、それに接続して威力を増幅するパイルスマッシャーだ』

 デュランダルは兎も角、パイルスマッシャーは開発中の砲撃支援デバイスだった筈だ。

 完成していたのか…。

『デュランダルと接続させれば、強力な凍結魔法を超長距離の相手にも当てられるとの事だ』

 実証はされてない訳ですね。

 すぐ傍で転移反応があり、リーゼ達が姿を現す。

 随分と素早いな。

 当然と言えば当然だけど。

「お待たせ!クロ助!」

「挨拶は悪いけど省略するわ」

 ロッテとアリアが巨大なデバイスを支えながら言った。

 でも、1つ言いたい。

「これ、僕1人で支えられるのか?」

「「……」」

 おい!

「それは私に協力させて下さい」

 背後から声が掛かる。

 声を掛けてきたのは、アミティエ元・捜査官だった。

「見たところ、照準補助もないようですし、お役に立てるでしょう」

 よく見ると開発中だけあって、パイルスマッシャーには照準補助のシステムが見当たらない。

 確か、聞いた話だとゴーグルのような照準補助が、付いていると言っていたけど…。

「「……」」

 おい!

『すまんな、クロノ。リーゼ達で使う想定だったのでな。君ともう1人で運用して貰う積もり

だったのだよ』

 グレアム提督が見かねたのか、口を開く。

 それなら最初から、そう言ってくれればいいじゃないか!

 僕はリーゼ達を睨むと、2匹は同時に目を逸らした。

 知ってって揶揄ったな…。この非常時に!

「程よく力が抜けたでしょ?」

 相変わらずあらぬ方向を向いているロッテの代わりに、アリアが言った。

「どういう事だ?」

「気付いてなかっただろうけど、かなり余裕のない顔してたわよ?」

 僕の質問にアリアが端的に答えてくれる。参ったな、そんな自覚なかったけど…。

 確かに、管理局員である僕が、この現状で何も出来ないという事に忸怩たる思いだった。

 もしかしたら、それが表情に出ていたのかもしれない。

 全く、まだまだ未熟だな、分かっていた事だけど。

 相変わらず僕は、この2匹に頭が上がらないようだ。

「アミティエ元・捜査官。協力を依頼する」

 僕はリーゼ達に敢えて礼を言わず、アミティエ元・捜査官に言った。

「はい!ご協力させて頂きます」

 アミティエ元・捜査官は敬礼しかけて止めた。

 もう、彼女は罪を償ったとしても管理局に戻らないだろう。

 彼女が受けた仕打ちを考えれば当然だけど。

「デュランダルは、もうセットしてあるから」

 リーゼ達が、アミティエ元・捜査官にパイルスマッシャーを渡す。

 彼女は、リーゼ達が2匹で持っていたデバイスを軽々と保持する。

「それじゃ、援護射撃の為の状況確認から始めよう」

 アースラは暴走した局員の対応で忙しい…。

 とすれば、話せそうなヤツに訊くしかないか。

 

 僕はそう言うと、アースラではなく飛鷹に念話を送った。

 

 

             :飛鷹

 

 綾森は信じられない事に、あの蛇の化け物相手に圧倒していた。

 蛇の自己再生がなければ、とっくに勝負はついていただろう。

 俺はと言えば、情けない話だが戦艦で凌ぎ切れない攻撃を打ち落とすのみになっている。

 まだ、十分に動ける戦艦は庇う必要がないが、あの蛇にコテンパンにやられたヤツは、

シールドも安定して使えない始末だ。

 まあ、これも任された仕事だ。全うするさ。

『飛鷹!聞こえるか!?』

 うん?

 突然に念話が入る。

 俺は飛んでくる羽状の刃をシールドと剣で払い落としてつつ、応えた。

『ああ!どうしたんだ、クロノ?』

『そちらの状況を確認したい』

 俺は現状をありのままクロノに教えた。

『そうか。こっちから援護射撃が可能になった。これからそっちにいるみんなに伝える』

 援護射撃?地上から?

『でも、言った通りとんでもなく速いぞ、アイツ』

『聞いた。甘く見ている訳じゃない。協力者も大丈夫だろうと言ってるしな』

 協力者って、もしかして…。残ってたのって元・特別捜査官の姉の方か?

 まあ、クロノが大丈夫と判断したんなら、大丈夫だろう。

 今更、向こうが裏切るメリットもないだろうしな。

『そうか。アイツが誤射でどうにかなるとは思えないが、なのは達を誤射しないようにして

れば問題ないだろう』

『流石にあまり動かないなのは達を誤射する程、間抜けじゃない』

 ならいいんじゃないか?

 

『みんな!聞いてくれ!地上から援護射撃を行う。こっちには正確な眼がある。誤射はしない』

 すぐにクロノが全員に念話を送った。

 

 だが、俺も備える積もりだ。

 何が起きるか分からないしな。

 俺は強力な再生能力の所為で、埒が明かない状態になっている戦いを見詰めた。

 

 

             :ユーリ

 

 魔法陣を書き換えても、すぐに修正が掛かる。

 先程から鼬ごっこが続いている。

 なのはさんもフェイトさんも、勿論書き換えを行っている私も額に滝のような汗が流れる。

 一向に劇的な改善が出来ない。

 時間稼ぎにはなっていると思うけど…。

 実際、書き換えは任せて下さいと言った手前、情けない。

 なのはさんの同調があるから、美海さんの助けになっているけど、単独だったらお荷物になって

いたかもしれない。

『みんな!聞いてくれ!地上から援護射撃を行う。こっちには正確な眼がある。誤射はしない』

 クロノさんが念話で伝えてくる。

 ならば、この機に私達も動きましょう。

 私はチラリと美海さんを見る。

 彼女の魔力量は、あの強力な剣を扱うには魔力量が明らかに不足している。

 彼女の使い魔が、魔力の譲渡を行っているようだけど、焼け石に水になっている。

 やはり、当初の彼女の予定通りに両方を同時に殲滅しないと、ダメだろう。

 それには、まず魄翼の魔法陣への干渉を緩め、魔法陣を一気に書き換える。

 それで初めてあの再生能力に隙が出来るだろう。

 ならば…。

 私が思考の海を漂っている間に、なのはさんとフェイトさんがお互いを励まし合っていた。

「援護射撃…だって。これで美海ちゃんも遣り易くなるんじゃないかな?」

「うん!あともう少しだね!」

 私はそこに割って入る事にした。

 私のプランを実行する為に。

「ここで、私達も動きましょう」

 私の突然の言葉に、2人が怪訝な顔で私を見た。

「動くって。でも、この状況で1人でも抜けたら…」

 フェイトさんが懸念を言う。

「でも、このままでは美海さんも消耗戦ですし、私達も持ちません。魔法陣の書き換えは私と

なのはさんで遣ります。フェイトさんは美海さんの援護を」

 援護射撃がどの程度当たるかは兎も角、そちらにも意識を削がれるなら、美海さんもすの隙

を突こうとする筈だ。

 その為の戦力としては彼女が一番いいだろう。

 この中で闇の書の騎士達を除けば、彼女が一番付き合いが長いようですし。

 フェイトさんは少し悩んでいるようだ。

「フェイトちゃん。大丈夫!少しの間くらいユーリちゃんと粘ってみせるから!それに向こう

の干渉が緩くなれば、私達だってもっと楽になるんだから!」

 なのはさんが笑顔で、悩むフェイトさんに言う。

「なのは…」

 フェイトさんは呟くように言った後、しっかりと頷いた。

「分かった!じゃあ、ここはお願い!」

 そう言うと、背を向けて飛び出して行った。

「頑張ってね!」

「なのはも!」

 

 正直、少し2人が羨ましいです。

 私も、イリスとああいう関係であれば、こんな事にはならなかったのでしょうか?

 

 

             :キリエ

 

 私は呆然とするイリスを見詰めていた。

 ユーリの言っていた事。

 あれはおそらく真実だ。少なくとも彼女が信じる真実である筈だ。

 私も一応は捜査官だったから、それが分かる。

 後悔しないように行動しようと、私はここまで来た。

 大切な人の為なら、恨まれても構わない。

 彼女の覚悟は、私には痛いものだった。

 だって、私にはそんな覚悟はなかったんだから。

 思えば、お姉ちゃんにもそれはあった。

 私は甘えていただけか…。

「イリス。行こう、終わらせる為に」

 イリスがこっちを見ずに、鼻を鳴らす。

「何言ってるのよ。なんとかなるんじゃないの?あのもう片方の化け物が動いているんだから」

「違うよ」

 きっぱりとした私の言葉に、イリスが初めてこっちを見た。

「アンタは私に使われたのよ?なんで私に関わるのよ。何?涙ながらに謝罪でもしてほしい訳?」

 イリスが投げやりにそう言った。

 私は首を横に振った。

「私は嘘でも救われたから。気が楽になったから。だから、騙されたけど、謝ってほしい訳じゃ

ない。多分、私はこんな経験しないと気付かなかったと思うから…。不満ばかりで自分では何も

変えようとしなかっただけだって。今はイリスがそうなんじゃない?」

 イリスの顔が怒りに染まる。

「ハァ!?私がアンタと同じですって!?ふざけないでよ!!」

 私は怯まずにイリスの目を見返す。

「ユーリから聞いたでしょ?貴女なら嘘じゃない事だって分かったんじゃないの?」

「っ!!」

 イリスが、初めて私の言葉に返答を詰まらせる。

「イリスは今までの自分の想いが間違いだって、認めたくなくてここにいるんじゃないの?」

「アイツが裏切った事実は変わらない!!」

「そう思うなら、納得いかないなら、とことん話し合わないとダメだよ。ここにいたら、話す

機会すらなくなるかもしれないんだよ?」

 私はイリスに手を伸ばす。

「私は今度こそ貴女と友達になりたい。だから、手伝いをさせて。今度は私の意志で」

「アンタ…常軌を逸した馬鹿ね」

「知らなかった?」

 私の言葉に、イリスが苦笑いを浮かべる。

「私の身体の制御ユニットへ入って」

「正気?」

 イリスが驚く。

 身体の制御ユニットへ入るという事は、私は身体の自由を無くす事を意味するから。

 それでも私はハッキリと頷いた。

「アンタと友達になるかは、保留にしとく。でも、ユーリには言いたい事が増えたわ。今度は

魄翼ごしじゃなく直に殴ってやる」

 イリスはプイッとそっぽを向いてそれだけ言った。

 素直になるには時間が掛かる。

 こういうところは私達は似ているのかもしれない。

 

 私は笑顔でイリスを迎え入れた。

 

 

             :美海

 

『みんな!聞いてくれ!地上から援護射撃を行う。こっちには正確な眼がある。誤射はしない』

 突然の執務官殿からの念話。

 ちょっと、怖いアドリブなんだけどね。

 こっちでいざとなったら修正するしかないか。

赤い奔流 (ブラッディストリーム )

 魔力節約の為、向かってきた蛇に投剣が奔流のように襲い掛かり、蛇の上半身を飲み込む。

 だが、投剣は翼の起こした力の波に吹き飛ばされる。

 直撃の瞬間に翼を閉じて、身体をガードしたんだろう。

 それでも無傷とはいかず、翼がボロボロになっていたが、すぐさま再生させて、再度突撃して

くる。全く、力に余裕があるとゴリ押しが可能っていうのが、嫌だよ。面倒で。

「美海…そろそろ、決めないと魔力が!」

 それがありましたね。

 まさか、魔力量でここまで泣かされる日がくるとはね。

 もう少し、成長すれば魔力量も…って、そんな事考えてる場合じゃないね。

 こっちに向かってきていた蛇が、急に進路を変更して、魔法陣へと向かう。

「「っ!!」」

 ユーリとなのはが目を見開く。

 よく見るとフェイトがいない。

 これを好機と見て、魔法陣にちょっかい出す奴を始末しようとしたか。

「美海!」

 分かってるよ。

 私は空斬糸を造り出し、一瞬で蛇を絡め捕る。

 止める為に、魔力でブーストし、力を籠めて無理矢理停止させる。

 巨体を止めるのはキツイ。

「子供とはいえ、女のお相手中に余所見するなんて失礼千万だよ」

 私は不敵に笑ってやる。

 蛇は怒ったように唸り声を上げて、糸を振り払う。

 そうだ。こっちに集中しろ。

 狙い目は、干渉力が弱まった瞬間。

 それまでは、耐えないといけないけど、何度か無茶してリニスの魔力を再成でなんとかして、

私は自己修復術式の権限を弄って、遣り繰りしてるけど、そろそろ限界っぽい。

 無言で私と蛇が向かい合う。

 その時、丁度私と蛇の中間を、デブリとなった戦艦の破損パーツが横切る。

 通過したタイミングで私と蛇が同時に動く。

 だが、私より速く動いた影があった。

「ハアァァァァーーー!!」

 フェイトだった。

 気合一閃。

 フェイトの三又槍は蛇と魔法陣のラインを断ち切った。

 魔力を武技のみで切断する。

 フェイトは、もう完全に会得していた。

 ラインを断ち斬られた蛇は、即フェイトに反撃した。

「「フェイト!!」」

 振り抜いた直後でフェイトは隙だらけだった。

 会得したと言っても、すぐに他の動きに繋げる事までは出来ていない。

 フェイトがシールドを展開するけど、それじゃ防げない。

 魔力の高い魔導士が、よくやるミスだ。

 今から剣で腕を斬り落としても、腕がフェイトのところに飛んでいったら、意味はない。

 地球から冷気の砲撃が、蛇へと直撃する。

 執務官の援護か!ナイス!

 僅かに拳の速度が落ちる。

 今のうちに!

 私とリニスが咄嗟にフェイトに飛び付く。

「ファランクス!!」

 展開出来るだけの障壁を多重展開させる。

 自身の身体が凍結するのも構わずに、蛇の拳が振り抜かれる。

 障壁の幾つかが砕ける衝撃と共に、私達は吹き飛ばされた。

 幸か不幸かデブリにぶつかり止まりそうだが、このままじゃ、フェイトをクッションにして

しまう。

 私は咄嗟に身体を入れ替え、フェイトを庇う。

 衝撃を緩和しようとして、目を見開く。

 クッソ!咄嗟で魔力を障壁に回し過ぎた!

 昔ならこんなミスしなかったのに!

 余計な魔力を使えば、宇宙で活動する魔法に支障をきたす程に、消費していた。

 意を決して、目を閉じて出来る限りの対ショック姿勢を取る。

 だが、1人と1匹を庇った事で、態勢が若干崩れる。

 受け身も取れずにデブリに激突してしまった。

 

 痛みには慣れていた筈だが、流石に頭部はきつかった。

 私の意識を失ってしまった。

 

  

 魔力大量消費に伴い、生命維持に必要な魔法の魔力保持の為―

 

 自己修復術式発動一時停止。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




 本当なら、全て片付くまで書くつもりでしたが、無理のようです。
 次は本来ならサブ投稿を書くのですが、次も黒騎士になります。
 今、あと2万字くらい書いているので(汗)

 最早、チェックしきれないので、やむなく切りました。

 次は早く出来上がる筈です。多分…おそらく…。


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第48話 回帰

 多くは語るまいと思います。
 それでは、お願いいたします。


             :フェイト

 応援に向かったはいいけど、美海とあの蛇の巨人の対決に割って入れる感じではなかった。

 ならば、邪魔にならない範囲で援護する必要がある。

 それなら、あの魔法陣と繋がるラインだ。

 あれを切断する。

 飛鷹の剣や美海の剣を参考に自分自身で訓練して、やっと形になった技。

 あれを使う。

 こっちに注意が向けば、美海だって戦い易い筈だ。

 私は自分の行動を決めると、タイミングを計る。

 こちらの意図に気付いている様子はない。

 美海と蛇巨人がほぼ同時に動く。

 美海とタイミングを合わせ、私も動く。

 研ぎ澄まし、振り抜く。

 魔法陣のラインが切断され、蛇巨人の魔力供給がストップした瞬間、即座に蛇巨人がこちら

を向いた。

 この技は、まだ放った後にすぐに態勢を戻せない。

 でも、防ぎ切れる!

 そう思っていた。

 でも、蛇の巨人の拳が迫る中、美海とリニスが私を庇う。

 信じられない事に、蛇巨人の拳は美海の張った強力な多重障壁を何枚も叩き割り、私達を

吹き飛ばした。

 一瞬のパニック。

 気付けば、何かにぶつかる直前だった。

 でも、激突の瞬間、美海が私と身体の位置を入れ替える。

 声を上げる暇もなく戦艦の残骸に激突する。

「美海!!」

 幸い…と言っていいのか、私は美海のお陰で激突時の衝撃は殆どなかった。

 でも、美海の返事がない。

 そんな…まさか気を失っている?

 私の頭の中が真っ白になる。

 彼女と協力してた時に言っていた。

 自分はどんなに大怪我をしても、自己修復するから大丈夫だって…。

 実際、そうだった。

 でも、今は声を掛けても目を覚まさない。

 今は蒼い光に包まれて、ぐったりとしている。

 私は…美海を助けに来たのに!逆に邪魔になるなんて!!

「フェイト!!しっかりしなさい!!」

 喚きそうになったその時、横からリニスが顔を出し、私を叱咤する。

「リニス…」

 蛇巨人は私達にゆっくりと近付いてくる。

 勝利を確信したのか、心なしか顔が嗤っている気がした。

 だが、その顔に魔力砲撃が打ち込まれる。

 地球から!?

 クロノ!

『チャージに時間が掛かるんだ!退避なら早く頼む!』

 クロノからの念話が届く。

 さっきラインを切断していたお陰で、再生速度が鈍い。

 ラインもまだ復活していない。

 砲撃のお陰で邪魔されたのかもしれない。

 蛇巨人が忌々しそうに地球を見下ろす。

 見ると、なのは達もラインを復旧させまいと必死になっている。

 

 そうだ。何かしないと…。

 

 思考がぐちゃぐちゃになっている私に、リニスが再び声を上げる。

「私には殆ど回せる魔力が残っていません。美海に魔力を分けて下さい!」

 あっ!そうだね。それが出来る!

『早くやれ!自力で保護も剣の身にはきついのだ!』

 いきなり頭に声が響く。

 念話とはどうも違う。

「フェイト!今の声は無視して構いません。それより魔力を!」

 リニスの言葉に、美海が持っている剣がカタカタと音を立てて震える。

 私は、なのはみたいに同調する事は出来ない。

 それでも大丈夫なら…。

 そう言えば、リニスが教えてくれた事がある。

 他人に魔力を渡すだけなら出来るけど、所詮は他人の魔力、扱うには並外れた魔力操作の

才能と経験が必要だって…。

 美海ならそれを満たしている。

 心配はいらない!!

 

 でも、確かそれって…。緊急時は…。

 授業風景が頭の中で再生される。けど…。

 

 今は非常事態!!これは、人助け!!私の所為でこうなったんだから、構わない!!

 

 顔が羞恥で真っ赤に染まるのが、自分でも分かる。

 けど、私は息を吸い込んで。

 

 美海に口づけした。

 

 舌越しに魔力を注ぎ込む。

『「っ!!?」』

 リニスが固まった。

 でも、他にも反応してたような?

 

 何!?その反応!?間違ってないでしょ!?

 だって、粘膜接触の方がいいって! リニスが前に言ったんだよ!?

 

 私は何故か、言い訳みたいにそんな事を思った。

 

 

             :美海

 

 体内に魔力注入を確認。

 

 魔力変換開始。

 

 自己修復術式オートスタート。

 

 バックアップよりリード。

 

 復元開始。

 

 完了。

 

 意識が一気に覚醒する。

 たっく!平和ボケもいいところだよ!昔ならあんな状態だって…!?

 眼を開けると何故かフェイトの顔がドアップだった。

 ええっと?これはもしかして…。

 多くは語るまい。いや、語れない。

 私はそっとフェイトを引き剥がした。

「なんというか…安心して?これはノーカンだから!!」

 我ながら何言ってんだ。

 フェイトに再成を掛けてやる。

 うん!君は清い身体に戻った!完璧だよ!

 無駄魔力を使用した!?それがどうした!!

「う、うん!兎に角、私も助けになれてよかったよ!」

『「……」』

 何やら冷たい空気が…って、もう目の前に氷を溶かした蛇来てるよ!

 どうして凍ってって、地球からの援護射撃か…。

 スッと頭が冷える。

 

 私は何をやっている。

 不意に自分に対する怒りが沸き上がる。

 なんだ。このザマは!!

 女の子にとっては大切なものを、私に使わせるなんて!!

 穏やかに過ごしたい?

 今はそんな事を考えたり、考慮する力なんて今の私にはないだろう!

 こんなんじゃ、飛鷹君にどうこう言えやしない!

 

 私は目を閉じる。

 昔のなんでもやっていた私を思い出す。

 実感として、思い出す。

「フェイト一時的にライン繋ぐよ!」

「え!?」

 本来は守護獣用なんだけど、これが一番使い慣れている。今は。

 守護獣の契約まではしないから、一方的な搾取になっちゃうけど、ごめん!

 フェイトとのラインを無断で造り出す。

「ええ!?」

 私との間に、突然一方的なラインが出来てフェイトが戸惑う。

 カッコ悪い?ダサい?情けない?

 そんなの今に始まった話じゃない。

「うん!罵倒は後で聞くから!」

 流石に魔力が潤沢だね!

 私はフェイトをデブリに残して、跳ぶ。

 爆発的に魔力が跳ね上がる。

 蒼い光が奔流になって迸る。

 はは!楽だわ、これ!

 小さい身体を補う為に、潤沢に魔法が使える。

 普段は2つくらいだけど、今は5・6個の魔法をマルチキャスト出来る。

 私の姿が霞んで消える。

 怒っていた蛇が、驚いたような鳴き声を上げる。

 怒りを籠めて甚振る積もりだったんだろうけど、そうはいかない。

 蛇が私の姿を捉えた頃には、私はそこにはいない。

 蛇が滅茶苦茶に腕を振り回し、翼で空間攻撃を展開するが、腕は悉く空を切り、空間攻撃

は無効化する。

 蒼い閃光が走る。

 蛇の身体が崩れるように溶け出す。

 蛇が戸惑いと怒りの鳴き声を上げる。

 蛇は私を攻撃しようとして、驚愕したように静止した。

 そりゃそうだ。()()()()()()()()()()

 勿論、偽物や幻影じゃない。

 実体を持っている。

 それが分かったから、思わず止まったんだろう。

赤い分身(ブラッディアバター)

 私のレアスキル一番のチート技。

 どれも私と戦闘力は変わらない。100%本物と変わらない。

 血液で出来ている事を除けば。

 ただ、武器は複製出来ない為、持っている武器は別々だ。

 魔剣や聖剣があるから出来る事だ。

 

 私は何を今まで甘えた事を考えていたんだろう?

 犠牲が出ないように?

 今の私が?

 前世で散々学んだじゃない。

 負ければ次などない。だからこそ、なんでも遣るべきなんだって。

 フェイトに偉そうな事は言えないな。

 全盛期だったら?今は違うんだから、昔通りに遣るしかない。

 何をどう思われようと、手を尽くして倒す。

 それだけだ。

 

()()()()()()()()()()

 私はフェイトに言った。

 今更何をって言われるだろうけど。

 後ろを向いていても彼女の驚きが伝わってくる。

 うん。約束通り罵倒はあとで聞く。

「う、うん!」

 え?

 フェイトが矢鱈と勢いよく頷く。

 しかも、嬉しそうって、どういう事?

 だが、私は一端その事を置いておく事にする。

 今は優先すべき事がある。

『地上に居残り班の連中は、これから攻撃の余波とかが、そっちにいくと思うからなんとか

してくれる?』

 私は地上にいる守護騎士や援護射撃を実行中の面々に念話を送る。

『『『『ハァ!?』』』』

 守護騎士達の怒りやら、戸惑いやらが含まれた声が返ってきたが、無視する。

『ふん。我は偉大な王であるからして、なんとかしてやろう』

 偉そうな声がディアーチェ。

『おい!これ以上の精密射撃しろというのか!?こっちはチャージにだって時間が!』

 これは執務官殿。

『そう、悉く地上に届く前に無効化して』

 私は無慈悲に告げて、一方的に念話を切る。

 泣き言なんて聞く気はない。

 こっちも言ってる暇はない。

 

「フェイト。コアの場所を教える。合図したら一気に叩いて。攻撃は私達がなんとかする」

 フェイトがトライデントを構えて頷く。

 4人の私が同時に蛇に襲い掛かる。

 右腕で氷雪が吹き荒れ、左腕で赤い剣閃が再生する先から切り刻んでいる。

 右脚で風の刃が躍り狂い、左脚では樹木が脚を圧し潰そうとしている。

 蛇も黙ってやられている訳ではない。

 四肢が形を変え、蛇になった。

 それに伴い身体も変化する。

 更に本来ある首からもう1つ枝分かれしたように、首が生えて6つの首を持つ蛇になった。

 私はニヤリと笑う。こう変化したか。都合がいい。

 上手く私達に対処する為に、変化したつもりだろうけど甘い。

 6つの頭を使うという事は、それだけ複雑な動きを必要とする。

 元々そういう設計であるなら兎も角、急造したのなら圧倒的に処理能力が足りない。

 首を6つにしたのは、最後に残った私とフェイトを警戒したんだろうけどね。

 攻撃がブレスによるいい加減なものに変わる。

 

 そう赤い分身(ブラッディアバター)にも副作用はある。

 でも、後先考えて無茶なんて出来ない。

 それを忘れていた。

 だが、2度と忘れない。

 何を一番に護るべきか、何を失ってはいけないか、それを決めて自分の力で足りなければ、

他人に助力を頼む。または利用する。それしかないっていう事を忘れてた。

 そして、やっと事の非難は甘んじて受ける。

 

 私は、一応、今、友達がいる訳だから。

 これからも友達でいてくれるか、分からないけど。

 

 ブレスを4人の私が一蹴する。

 いくら6つの首で放っていようが、雑なエネルギー放射程度、私の技が後れを取る訳がない。

 派手に地球にエネルギーの余波が、雨のように降り注ぐ。

 まあ、地上には人員がいるんだから、どうにかして貰う。

「フェイト!!」

「ハアァァァァーーーーー!!」

 私の合図と共に、フェイトが気合と共に蛇のコアへと突っ込んでいく。

 魔法陣の方へ向き直っている私とフェイトが交錯する。

 フェイトは不敵に笑っていた。なんともまあ、嬉しそうな顔だったけれども。

 私も微かに笑っていたように思う。

  

『なのは!ユーリ!魔法陣の解析結果をこっちに回して!!』

『え!?う、うん!』

『は、はい!』

 私からの突然の念話にも即座に応えてくれる。

 私の目の前にウィンドウが開く。

 データに目を通す。

 魔法陣の魔法式は現在進行形で解析を妨害するように、書き換えられて続けているのが、

分かる。

 だが、これが分かるだけで、負担は少しは軽くなる。

精霊の眼(エレメンタルサイト)。コードアクセス」

 

 カウンタープログラム作成開始。

 

 解析作業を短縮、データスキャン。

 

 改変パターンを比較分析。

 

 法則性を解明。

 

 それを加味して構築開始。

 

 構築完了。

 

 

 

            :ディアーチェ

 

『地上に居残り班の連中は、これから攻撃の余波とかが、そっちにいくと思うからなんとか

してくれる?』

 突然、友から念話が届く。

「ふん。漸くらしくなってきたではないか」

 我は思わず笑ってしまった。

「は!?」

 夜天…いや、今はリインフォースか。

「無責任な言いようだと思うか?」

 リインフォースは戸惑ったように黙ったままだ。

『ふん。我は偉大な王であるからして、なんとかしてやろう』

 念話を返してやると、若干呆れたような感情が感じられた。

 それでは我等も空へ上がるとするか。

 我が飛び上がると、リインフォースも慌てて付いてくる。

「あの、先程のお言葉は?」

「おお!そうであったな。自分1人居れば、全てが片付く。そんな事ある訳あるまい。偉大

な我でさえ、1人で出来る事等限られておるわ。ヤツとてそれは分かっている筈だ。だが、

ヤツは矢鱈と過保護になっておった。手を借りるのは最小限、後は全て自分が丸く収める。

 向こうとて、事を成そうと全力を尽くすのだ。それが通用するのは格下だけよ。今回、

()()()()()が絡んでいる以上、そのままでイケる筈なかろう」

 向こうがお遊び感覚だったとしてもな。

 リインフォースは考え込むように頷いた。

「確かに、以前お会いした時より、固い印象でしたが…。分かっていて何も仰らなかったの

ですか?」

「納得しないと、飲み込めん」

「は?」

「ヤツがよく言っておった事よ。だから、友として気が付くように手助けはしたではないか」

 全く、全て言わせるな。無粋な奴め。

 我は照れ臭くて顔を逸らした。

「ま、友として、これが最後の助力よ」

「主に代わり、お手伝いさせて頂きます」

「構わん。小鴉が起きたら、そっちを優先せよ」

 我は速度を上げる。

 

 守護騎士共は、雨のように降り注ぐ魔力の塊を捌くのにもたついておった。

 仕様のない奴等だ。

「ギャラルホルン!!」

 ラグナロクに単発の威力では劣るが、広範囲攻撃が可能な魔法。

 降り注ぐ魔力の塊を悉く打ち砕く。

 守護騎士共が我等を振り返る。

「気を抜くでないわ!不甲斐ない!この程度の範囲、貴様等で防いで見せよ!それともアヤツ

に眼鏡違いで自分達には出来ませんでした、とでも言う積もりか!騎士の誇りがあるというなら、

ここで我に示して見せよ!!」

 我の言い分に怒りを示す騎士共。

 ふん。気概はあるようだな。

「勘違いすんじゃねえぞ!アイツの為じゃねえ!はやての為だ!」

「そこまで言われては、貴殿の度肝を抜いてやらねばなるまい」

「頑張っちゃいますよ!」

 最後の守護獣は物言わず、拳を握り締める。

 

「よかろう。見せて貰おうではないか!!」 

 

 騎士共が、一斉になおも降り注ぐ魔力から地上を守る為に、立ち向かっていく。

 リインフォースも騎士共と並び、魔力の塊を防いでいく。

 

 ふん。小鴉め。いつまで倒れておる積もりだ。そろそろ目を覚まさんと知らんぞ?

 

 

            :クロノ

 

 アミティエにパイルスマッシャーを保持して貰う。

 男として若干情けなさを感じるが、ここは敢えて無視しなければならない。

 出来ない事を嘆いたところで、仕方ない事だ。

 因みにリーゼ達は、他にも下準備する事があるといって、グレアム提督のところに戻っていた。

「いくぞ!デュランダル!」

『OK!ボス』

 パイルスマッシャーに装填されたディランダルが応える。

 術式の読み込み及び増幅が開始される。

「執務官。照準このままで、速度と進路が一致したら、このまま撃って下さい!」

 アミティエがピタリと砲身を固定する。

 普通なら捕捉する事すら困難なスピードだが、彼女の眼でなら計算次第では当てられるらしい。

 現状の管理局は、なんでこんな人材を無駄に犯罪者にするような事をするんだ。

「目標が動きを変えました!!撃って下さい!」

「エターナルコフィン、発動!!」

 僕の魔力量で放ったとは信じ難い程の砲撃が、宙を突き抜けていく。

 どういう状況か理解は出来ないが、迷わずトリガーを引き撃った。

「命中しました…けど、すぐに魔法を打ち消されました!!」

「何!?アレをか!?」

 これじゃ援護にならないぞ!!

「足止め程度にはなるかと!」

「成程、多少意味はあるか…」

「はい!次弾準備を!」

 凹んでいる場合じゃないだろうからな。

「執務官!」

 宙を観測していたアミティエが、慌てたように声を上げる。

「どうしたんだ!?」

「今、メインで戦っていた子が動けなくなったみたいです!!ピンチですよ!!」

 クッソ!まだ、チャージ中だっていうのに!

 仕方がない。

「チャージを中断する!すぐに撃つぞ!!」

「了解!!」

 アミティエが、パイルスマッシャーの砲口を調整する。

 彼女もここでチャージを中断して撃っても効果が低い事は承知している筈だが、何も言わない。

 必要なのは今だ。

 稼げる時間は僅かだ。それでなんとかしてくれよ!

「発動!!」

 砲口から白銀の一撃が宙へ伸びていく。

「着弾確認!!」

 問題は効果の方だ。

 時間稼ぎになっていればいいが…。

「あっ…いえ、大丈夫みたいです。撃った甲斐があったみたいです…」

 なんでそんなに歯切れが悪いんだ。

 僕の頭に疑問符が浮かぶ。

 僕はそれを抑え込んで、再びチャージを開始する。

 そんな事をしていると、行動不能になった当人から、恐ろしい丸投げ発言が念話で届いた。

『地上に居残り班の連中は、これから攻撃の余波とかが、そっちにいくと思うからなんとか

してくれる?』

 何!?ここにきて更に無茶な注文を!

 方々から肯定と不満が漏れる。

『おい!これ以上の精密射撃しろというのか!?』

 余波という事は、地上に殺し切れなかった砲撃の流れ弾が飛んでくる。或いは衝撃波が届くと

いう事だ。

『そう、悉く地上に届く前に無効化して』

 それがどれだけ無茶か分かってないのか!?

 念話は無情にも切れた。文句を言っても仕方がないが…。

 となると、振り回す必要があるな。コレを。

 いっその事、パイルスマッシャーを捨てて、デュランダルを持って空へ上がるか。

「このまま使おうよ、これ」

「何!?」

 意外な事に、今まで黙っていたアルフがそう言った。

「よく分かんないけど、地上に届く前に無力化すればいいんだろ?これ、魔法だろうとなんだろう

と当たったら、凍らせるんなら、その余波でもなんでも凍らせれば楽なんじゃないの?」

 成程、元々は暴走する魔力の塊を封印する目的でデュランダルは造られたんだから、イケる筈だ

な。でも、問題はチャージ時間だ。

 上空には守護騎士達もいるらしいが、打ち漏らしがないとも限らない。

 悠長に考える時間はない。

 折角持って来て貰ったが、試作品の出番はここまでだ。

「済まないが、デュランダルを取り外す。手伝ってくれ」

「いいのかい!?」

「これから必要なのは手数だ。威力を失うのキツイが下手をすれば、地球に被害が出かねない」

 それにパイルスマッシャーは、あくまで増幅させる為に持って来た物だ。

 本来の機能はデュランダルに備わっている。

 僕は、その事を説明する。

「なら、こっからは個々でどうにかする場面って事だね?」

 アルフが単純に纏める。

 まあ、要するにそう言う事だからいいが…。

「これでアタシもフェイトの為に出来る事が出来たって訳だね!」

 アルフが何も言わないし、していないと思ったら、柄にもなく悩んでいた為らしい。

 これは、アルフに失礼だろうか。

「よし!そうと決まれば、行ってくる!」

 アルフは僕らと違って準備の必要がない為、サッサと飛び上って行った。

 いつもよりスピードが速い気がする。

 そんなアルフを思わず見上げていると、アミティエが声を掛けてくる。

「それでは取り出してしまいましょう」

 アミティエは、そう言うとパイルスマッシャーからディランダルをパージするべく、弄り

出した。

 僕も参加して、パーツを慎重に外していく。

 無事に取り出した僕達は、アルフの後を追って空へと飛び上った。

 

 空へ上がるとアルフは既に始めていた。

 流石に守護騎士達も守備範囲外まで手が出ないらしく、少し魔力の塊や魔法の余波等が降り

注いでいた。

「こちらも始めるぞ!」

「了解」

 

 僕とアミティエも地上への被害を防止する為に、腕を振るい出した。

 

 

            :美海

 

 フェイトがコアに迫るのを必死に邪魔しようとする蛇だが、私が振り払えないばかりか、残りの

首2本も剣で叩かれて、フェイトを阻めない。

 フェイトがトライデントを突き出す。

 トライデントがコアを捉える。

 コアを捉えたにも拘らず、変化がない。

 これ、どっかで見た気がするけど…。

「サイコグローリー…はっ!」

 フェイトは気合と共に、掌底を蛇に叩き込んだ。

 すると、蛇に罅が入り、その罅から砂のような光る粒子が零れ出す。

 あれは…レヴィが使ってた技だ!

「なのは!ユーリ!離脱!」

 私は慌てて2人に退避を促す。

「分かった!」

「分かりました!」

 私はバルムンクを一気に振り下ろす。

 なのははユーリの手を掴み、高速で離脱済み。

 よく分かってるね。

 カウンタープログラムを練り込んだ蒼い光が、柱のように伸びて魔法陣に直撃した。

 そこから魔法陣の性質を利用して素早く、カウンタープログラムが魔法陣を侵食する。

 フェイトがコアからトライデントを引き抜くと、飛び退く。

 残りの私も離脱する。

 

 すると、蛇が爆散した。

 

 それと同時に、魔法陣も光の粒となって地球に降り注ぐ。

 どちらにも補助させる事なく、崩壊させた。

 これで、復活出来ない。

 ここまでの失態の穴埋めに、エネルギーを地球に送り返すようにしたからね。

 振り返るとフェイトが笑って手を出した。

 私は彼女の希望通りにハイタッチして上げた。

 さて…帰ろ…。

 だが、そうは問屋が卸さないようだ。

 フェイトの背後には嫌な物が、無事な姿でそこにいたのだ。

「コアは破壊した筈なんだけどね」

 魔法陣も今はない。

 

 にも拘らず、そこには機甲の翼が、なおも翼を広げてそこにいた。

 

 

            :???

 

 モニター越しに状況をじっくりと観察する。

 彼女が自らに科した枷は、無事に取れたようだ。

 だが、このまま終わってはこちらが面白くない。

 泥仕合を観て最後はアッサリ等、最悪というものだ。

 うん。頭を増やすのか…。

 悪手もいいところだが、魄翼を魔法的にパージするいい機会か。

 僕はコンソールに指を躍らせる。

 ナハトヴァール複製と魄翼の惑星破壊プログラムをパージした。

 魔法の支援がなければ動かない機械なんて、ゴミと同じだからね。

 キチンと機械としても、最高の性能を発揮するようにしたさ。

 魔法ではないから、周辺情報からの適当に再現可能な兵器を検索っと。

 アレだけではサプライズとしては、弱いだろう。

 僕からの祝いだからね。

 地球上にある兵器で良さそうな物は…核か…でも手頃な材料が…。

 ああ!これでいいだろう。廃棄軍事戦略衛星、これのミサイルでも使えばいいだろう。

 堕ちるのは、海鳴とかいう街に設定すればいい。

 

 僕は古臭い受話器を手に取る。

 こっちの世界は遅れているな。

 すぐに目的の人物に繋がる。

「君か!セブンスプレイグが!!」

 慌ててるねぇ。

「落ち着いて下さい、()()()。顧問として助言致しますから」

 

 僕はニヤリと嗤って、愚かな指導者に助言をしてやった。

 この世界にある異能じゃ飽き足らず、魔法が見たいって言ったのは、君だ。大統領。

 じっくりと見ればいい。遠慮はいらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 まだ、終わりません。
 終わりがまだ書き上がりません。
 次回はそろそろサブ投稿を書こうと思うので、少し遅れます。
 年内には戦闘に肩を付けられればと思っていますが…。

 めげずに付き合って頂ければ幸いです。


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第49話 光明

 多くは語るまいと思います。
 ただ、長いです。
 それでは、お願いします。


             :美海

 

 魔力反応がない。

 魔法の要素なしの機械になった?

 アレが関わった以上、ショボイって事はない。

 サッサと破壊…。

 とか思った瞬間に、翼が猛スピードで飛び去る。

 咄嗟になのはが砲撃するという機転を利かせるが、それをアッサリ躱し小さくなっていく。

 私は咄嗟に追いかけようとして、思い止まる。

『私、追いかける!!』

 それを察したのか、なのはが機甲の翼の後を追いかけていく。

『悪い、飛鷹君も行ってくれる?』

 私はすぐに追えない状態だ。

 ここは、飛鷹君になのはのフォローを頼む。

 戦艦は邪魔なら始末する。

『…分かった!』

 飛鷹君もすぐになのはが飛んでいった方へ急いだ。

 さて、こちらは久しぶりに覚悟しますか。

 私はフェイトとのラインを切って、自分のアバターを消すと、出した剣を血と一緒に回収する。

 副作用として、分裂した分だけ疲労やら魔力消費やらが、圧し掛かってくる。

 肩にいるリニスが衝撃のあまり呻き声を上げる。

 私とパスを繋いでいる為に、リニスにも私の苦しみが伝わってしまったのだ。

 今回、気絶してないからマシだ。

「ごめん。フェイト…。魔力もうちょっと分けて?()()()()()()()()()()()()()()()()

 幸いなのは、フェイトにこのキツさを味合わせずに済んだ事だ。

 こんなの1人じゃ、気軽に使えないからね。

 リニスは本当にゴメン。

「あんなに派手に魔法使ってたのに、消費はそんなでもなかったから、大丈夫だけど…美海は平気

なの?」

 私の魔法は元来私用に魔力消費を極限まで抑えて、最大効果の威力を追及して組んだものだから

ね。それでも余裕でいられるフェイトの魔力量が凄いよ。

「問題ないよ」

 私は短く答える。

 あるとしても、この後だ。

 あれだけ派手に消費して戻すを繰り返すと、データを上書きしているとはいえ、調子がすこぶる

悪くなる。今回の一件が終わったら、暫く動けないな。

 フェイトは私の即答に疑問はあったようだが、魔力を供給してくれた。

 それで再度、自身に自己修復術式を起動する。

 フェイトと一緒になのは達の後を追おうとした時、念話が入った。

 

『なんか、魄翼が事故起こしたよ!?』

 

 なんですと?

 ちょっと、意味が分からん。

 

 

             :なのは

 

 もうすぐ終わりと思うと、次の展開…。

 でも、そんな事を考えている場合じゃないの!

 今度こそ、こんな事終わらせる!

 私の後を飛鷹君が追ってくる。

 飛鷹君ならスピードに付いてこれないなんて事はないから、更に加速する。

 でも一向にあの魄翼?に追い付けない。

 魔力がなくても、あんなに速いんだ。

「なんか、見えて来たって…人工衛星じゃねぇか!?」

 飛鷹君が声を上げる。

 私も魄翼の先を見ると、確かによくテレビでみるような物が浮いてる。

 でも形がちょっと違うような?

 って、ぶつかるよ!?

 追い付けない!

 砲撃する!?でも、避けられたら無駄に衛星を撃ち落としちゃう!

 アクセルじゃ、威力不足だと私の勘が告げていた。

 その迷いがミスに繋がった。

 もう、ぶつかる!!

「あれじゃ、当たって落ちちゃうよ!」

「衛星は一応、地上に落ちる前に燃え尽きるように出来てるって聞いた事あったけど…」

 私の声に飛鷹君が自信なさそうに言った瞬間、衝突した。

 衛星が軌道を外れたのか、地球に近づいているような?

「不味いぞ!あのままじゃ落下する!!」

「っ!?」 

 私は驚きで声も出ない。

「早く止めないと!!」

 

 私は焦りを抑えて、美海ちゃん達に念話で事情を話した。

 

                

             :キリエ

 

 他の子達がアッサリと行けてたから、余裕だと思っていたけど、1人(正確には中にもう1人)

じゃ、宇宙まで上がるのキツイ。

 予想以上に時間を食ってしまった。

『全く、手間が掛かるわね。アンタももっと役に立ちなさいよ』

 カチンときたものの、言葉を飲み込む。

 余計な時間を食ったのは事実だ。でも…。

「それを言うなら、私もアルハザードの魔法使いの魔法を披露して貰えると思ってわよ!」

『お生憎様。私、技術畑の人間なの。肉体労働はアンタの担当よ』

 私は苛立ち、舌打ちする。

『文句より早く行きなさいよ。アンタの企画なんだから』

 打ち解けられたと考えればいいんだろうけど、なんか遠慮が消えた…元々なかったかな?

 

 文句を言い合いつつ、宇宙まで出ると、既に魔法陣は消失していた。

 ユーリがいるのが見える。

 もう、全て終わった?上がり損?

 私は、それを訊く為もあって彼女に近付いていく。

「もしかして、全部片付いちゃったの?」

 ユーリがゆっくりと振り返ると、首を横に振った。

 私達の到着には驚かないみたいだ。

 でも、違うとなると、対象が移動してる?

 なんて考えていると腕が勝手に動き、ユーリの胸倉を掴んだ。

「イリス!?」

『で?なんとかするとか言ってなかった?どうしてこんなとこに居んのよ、アンタは!!』

 私の胸の辺りから顔を出すイリス。

 結構、ホラーな感じが…。

「私のスピードでは…追い付けません」

 どうも私の予想が正しいらしく、魔法陣はなんとかしたものの、魄翼だけはどこかに飛び去った

 らしい。

 もしかして、ユーリも技術畑って事なの?

 話聞いた感じだと、本来は別の事も優秀なイメージだったけど…。

 立場はイリスより上だったんだでしょ?

『言ったでしょ?私とコイツは基本は技術畑の魔法使いなのよ』

 私の心の声が聞こえたように、イリスが面倒そうに説明してくれた。

「まあ、一般的な攻撃手段くらいは持っていますが…すいません」

 これ、私が悪い流れなの?

 

『兎に角、ボケッとしてても仕様がないんだから、なんか出来ないか考えましょう』

 ヤル気になってくれたのは、いいんだけど…。

 なんだろう。この納得のいかない感じは。

 

 

             :リスティ

 

「は!?」

 私は場違いな話に、思わず間抜けな声を出していた。

「外交ルートで日本に通告があった。廃棄軍事戦略衛星が落下しているらしい。計算では、ここに

堕ちる」

 課長が脂汗に塗れた顔でもう一度、繰り返す。

 地方警察、所轄にくる一報じゃないわよ。

 いくらここが特殊な場所だといえども、限度ってものがあるわよ。

 しかも、墜ちるところがここ?

 頭痛がする。

 廃棄軍事戦略衛星。

 アメリカが極秘で打ち上げたもので、上空から敵国にミサイルの雨を降らせる事が出来る。

 だけど、問題はミサイル。

 これが劣化ウラン弾。しかも、それが30発以上。

 こんなの打ち上げるなんて、どうかしれるわね。

「どの程度の人間が知っているんですか?」

「今のところ、首相官邸に対策本部が出来ているらしいがな」

 どうしてそんな情報が私達のところに?

「まさかとは思いますけど、私達でどうにかしろって話じゃないですよね?」

 アメリカは流石にHGSの事を知っているし、研究も独自で行っていると聞いた事がある。

 まさか、こっちの情報をこの機に探ろうなんてしてないでしょうね。

「当然だ。もうじき避難命令を出す。我々も避難誘導のお手伝いだ。どれだけ意味があるか

分からんがね」

 課長も仏頂面だ。

「それにしても、どうして私達に先に教えるんです?」

「どうもアメリカの顧問とやらが進言したらしいがね」

「顧問?なんの?」

「知らんよ。その顧問様が同盟国に正直に知らせる事で、こちらの意図したものではないと

伝えるのが目的ではないか?…だそうだ」

 課長は吐き捨てるように言った。

 なんだか、思いっ切り表向きな話で嘘くさい。

「しかし、原因に関しては心当たりがありそうじゃないか?」

「あの異世界の彼女達ですか?」

 アメリカが魔法の事を嗅ぎ付けた?まさかだけど…。

 私の頭に子供と言っていい捜査主任と、小娘と言っていい外見の捜査責任者の顔が浮かぶ。

 今回は、こちらにキチンとこちらに事前に話をしてくれていた。

「でも、確か彼女達が調べていたのは、どこかの古い魔導書がどうのっといった話でしたよ?」

「魔法なんて、こっちの能力よりなんでも有りだろう。まあ、原因は今はいい。無事に済みさえ

すればな。だが、問い合わせはしておけ」

「分かりました」

 課長は立ち上がり、待機所を出て行った。

 課長はおそらく魔法絡みと睨んでる。

 だから、無事の解決を念押ししろって事ね。

 ま、いくら私達でも、戦略衛星墜とすのは無理なのは確かね。

 何が目的にしろ、碌な話じゃない事は間違いないわね。

 

 私は、リンディさんの直通の携帯番号に電話を掛けた。

 

 

             :リンディ

 

 やっと終わるかと思われた事件が、急展開する。

 現場ではよくある事だ。

 かといって、慣れない。

 私は少しでも動けるように、アースラの修理を並行して急がせる。

 周りへの警戒も怠れないから。

 そんな中で、突然ポケットから携帯の着信音が鳴る。

 フェイトさんの物と一緒に購入したものだけど、こちらの捜査機関との連絡やフェイトさん達

との連絡に便利と分かり、ポケットに入れたままだった。

 因みに機種もフェイトさんのものと同じだ。

 電波はアースラを中継しているからこそ、届いたんでしょうけど、誰かしら?

「もしもし?」

 私がでると、それはこちらの捜査機関の捜査員・リスティさんだった。

『ああ、まだ地球圏には居ましたか。よかった…』

 少なくと地球を離れない限り通じるとは、伝えてあった。

 何やら嫌な予感がするわね。

「それで、何かありましたか?」

『実は…』

 彼女の語った内容はとんでもないものだった。

 戦略兵器を積んだ衛星が、何者かの手によって落下軌道に入り、それは地球を汚染する力を

持っているという。

 しかも、狙ったように海鳴付近に落下する予想だという。

 事情を聴くと、どうにもキナ臭い。

 どうも彼女は、地球の大国が魔法の事を掴んでいるのではと疑っているようである。

 飛び去った翼…。

 嫌な予感がする。

「気になる点がありますので、調べて連絡します」

 私は彼女に調査を約束して、通話を切る。

 

『リンディさん!あの翼、事もあろうか、衛星にぶつかりやがった!!多分、墜ちる!!どこ

に堕ちるか調べて貰えませんか!?』

 

 私はこの嫌な符号に胸がざわつく。

 報告は後にした方がよさそうね。

 

 アースラはこんなだし。微力もいいところだけど、私が直接出た方がいいかしらね。

 そう思いつつ、全員に今回の厄災について念話を送った。

 

 

             :美海

 

『という事よ…』

 リンディさんから、全員に念話で事情が説明された。

 フェイトは、改めて聞いた状況に深刻な顔で黙り込んでいる。

「まあ、アレの性格なら、私の大切なものの上に、目の前で墜とさないと気が済まないでしょう」

『美海さんは、誰がやったか知っている…という事かしら?』

 リンディさんは目を細め、フェイトが眉を顰める。

「どうして、そんな事が分かるの?」

 アレの声をフェイトは聞いてないか。

 どうも首謀者の事を知っているくさい話には、2人共疑問を覚えるか。

「前世からの因縁ってヤツだね」

「ええ!?美海と同じようにこっちに転生してる人がいるの!?」

 私は頷いてやる。

 リンディさんが目を見開く。

 転生したのか、実は生きていたというパターンかは知らないけどね。

 殺した筈だけど、アレなら実は…が有り得る。

「あの赤ドレスを操ってたのも、アレだよ」

 あの声で確信した。

 おそらく、前回のジュエルシードの件にも関わっているだろう。

「アレって、誰なの?」

「アルハザードの頂点にいた男だよ。名前なんて覚えてないよ。忌々しいからね」

 リンディさんはフェイトに質問を任せて、私が嘘を吐いていないか、ジッと私を観察している。

 ベルカを実験場にしていたヤツを、私は殺した。

 禁忌兵器などは、アルハザードの持ち込んだものが殆どだったくらいだ。

 だが、それを聖王家は非常に迷惑に感じた。よくある話だ。

 そこから、聖王家との関係が決定的に悪くなった。

 私の表情から訊いてはいけないと思ったのか、フェイトからはそれ以上の追及はなかった。

 リンディさんは黙っている。

 情報を整理しているんだろう。

『飛鷹君。悪いけど、君だけで追跡やってくれる?あと、なのはを戻してくれる?転送で』

 私は追及がないのをいい事に、飛鷹君に念話を送る。

『別にいいけどよ。2人で戻ってもいいんじゃないか?だって、海鳴に堕ちるんだよな?』

『あの翼がある事を忘れないでね。変なちょっかいを他で出されても困るからさ』

『そうだな…確かに』

 飛鷹君は納得してくれたようだ。

『ヤバそうなら呼んで』

 飛鷹君は、やけに素直に承知して念話を切った。

 息長く翼を追えるのは、彼くらいなもんだし、それならなのはは休ませといた方がいい。

 なのはも転送されて戻って来る。

 彼も大分魔法の扱いに慣れてきたね。

 

 私は、これからどう対処するかを詰める。

 

 

             :リンディ

 

 この事件の背後に、まだ背後で糸を引いている存在がいる。

 しかも、それは美海さんと因縁がある相手だという。

 歴史上、彼女の敵は沢山いた。

 可能性の高いのは、やはりアルハザードの誰か。

 だとすると、これ以上何かされる前に終息させないと危険だ。

 だが、同時に調べられる事も調べなければならない。

 あの翼・魄翼がただの機械になったとすれば、干渉している人間が居るという事。

 上手くいけば、尻尾ぐらいは掴めるかもしれない。

 アースラの機材を使い、干渉者の割り出しにエイミィが全力を尽くしている。

 一番力を入れなければならない魄翼・戦略衛星の対処は、美海さんから2つの兵器の落下を、

なんとかする手札があると言ってきている。

 とはいえ、一度彼女の思惑は外れている。

 信頼し過ぎるのも問題だけど。

 何やら、ふっ切れたような印象もある。

 フェイトさん達もいるし、もう1度信じてみようかと思わされる。

 それはこれから詳しく詰めていきましょう。 

 それで大丈夫なら、リスティさんに連絡して置きましょう。

 念の為、避難はして貰うけど、万が一を考えるともう一手ほしいところね。

 それは戦艦の艦長間での話し合いになるかしら?

 

 今は対処法を検討していくのが先ね。

 

 

             :ディアーチェ

 

 騎士達が執念の戦いを見せる。

 悉く3人と1匹は、見事な連携をもって地上に被害が及ぶのを防いだ。

 我が友が苛立ち嫌うのも分かるな。

 我も闇の書の主を配下に持った身であるからな。

 その必死さを、アヤツに見せてほしかった。

 アヤツとて、小鴉に負けぬ優しい者だったから。

 我はもっと仕事が回ってくるかと、身構えていたが意外に暇であった。

 少しだけ撃ち漏らしを掃除しただけだ。

「お疲れ様です」

 リインフォースが労いの言葉を掛ける。

 よくできた臣下よ。

 うちの連中にも見習わせたかった。

 連中は働いても、当然といった顔をしておったからな。

「疲れる程、働いておらんさ」

 騎士達が我を振り返り、どうだといった顔で見る。

「ふん。まあまあといったところだな」

 我もお前達には腹を立てておったからな、素直には褒めんぞ。

 あっちもかなり不快になったようだ。

 

 我の中で何かが目を覚ます気配がする。

 漸くか。

 あれだけ魔力が身体を勝手に駆け回っていたのに、よくここまで眠れたものよ。

 普通、例え気絶していても、疲労していようが、他人に魔力を勝手に使われれば、違和感に

飛び起きるものだぞ。

 大物なのか馬鹿なのか分からんな、コヤツ。

 だが、一応最終決戦には間に合いそうだな。

『小鴉よ。寝惚けている場合ではないぞ。いよいよ大詰めだ』

『へぇ?』

 寝惚けた声が内側から返ってくる。

 溜息が出る。

『…え、ええ!?王様!?憑りついたん!?』

『人を悪霊扱いをするでないわ!!』

 我の剣幕に小鴉が怯む。

 我の威圧の前には仕様がなかろうがな。

『あの時に、消えてもうたんかと…』

『我は別に貴様に倒された訳ではない。それが原因であろうよ』

『そうなんか…』

 小鴉が気の抜けた声を出す。

 そこで目の覚めるような事態の数々を、承知している範囲で教えてやる。

『ダメやな…。そないな大事な時にダウンしてまうなんて…』

『後悔は後にしろ。貴様の身体で散々魔力の使い方は実践してやった。後は自分で判断するが

いい』

 時間切れか…。

 本人が目覚めた所為か、急に眠くなってきおった。

 アヤツも小鴉に魔力の使い方は教えたようだが、流石に身体を共有して使ってみせるなど、

アヤツにも出来ん事だからな。

 これで使い方のコツくらいは分かった筈だ。

「あとは貴様のサポート次第という訳だ。存分に腕を振るうがよいぞ」

 我はリインフォースにそう告げて、目を閉じた。

「ディアーチェ殿!!」

 リインフォースが叫ぶ声がする。

 

 意識が遠のいていく。

 恐らく、次は何があろうと目覚めないだろうという確信が、何故かあった。

 心残りは友に言葉を残せない事だが、別れは前に済ませてある。

 今回は省略させて貰おう。

 

『王様!?』

 

 小鴉の間の抜けた声が最後に聞こえて、我は笑った。

 

 

             :はやて

 

 王様の意思が、遠くにいくのを感じて声を上げたんやけど、次の瞬間には私の目の前には、

リインフォースがおった。

「リインフォース…」

「お目覚めになられましたか、主」

 リインフォースが労わるように声を掛けてくれた。

 どうも、私は目を覚ましたらしい、突然やけど。

 王様が言うとった魔力の使い方に関しては、確かに分かる。

 美海ちゃんが言うてたんは、これの事だったんや!って感じで…。

 王様は、多分もう会えんやろうなっていう確信があった。

 今度こそ、お別れや。

 王様は、美海ちゃんを最後まで気に掛けとった。

 なら、私は王様の代わりに、美海ちゃんを助けなあかん。

 2人にはお世話になったしな。

「うん。すっかり目が覚めたよ」

 私はリインフォースに返事を返す。

「私も行かな」

 私の突然の言葉にも、リインフォースは動じずに頷いてくれた。

 シグナム達も近寄って来る。

「王様は、行ってもうたよ」

 私はまずは私が王様ではもうない事を教える。

 みんなは少しホッとしたみたいな顔しとった。

 まあ、王様は王様だけに偉そうやしな。

 内心で苦笑いする。

「みんな。一緒に行ってくれるか?私、まだ魔法少女始めたばっかりやし」

 みんなに確認を取る。

 みんなは笑顔で頷いてくれた。

「勿論です。我が身は御身と共に」

「たっりめぇだろ!キッチリ護るからさ!」

「頑張っちゃいますよ!」

「無論です」

「存分におやり下さい」

 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、リインフォースが私の意思を認めてくれる。

 みんな、ありがとう。

 王様は、美海ちゃんの事を気に掛けとった。

 私は美海ちゃんと王様にお世話になった。

 なら、王様の想いに応えて、美海ちゃんを助ける。

 王様のお陰で魔力制御も大体分かるようになってる。

 これまた王様のお陰で、宇宙で活動出来る魔法も記憶済みや!

 全員分使こうても、魔力に余裕はある。

 王様に唯一褒められた点やしね!

 って、これ遺伝の結果か何かやんな?って考えると誇れんな。

 おっと、気を取り直して…!

「じゃ、行こか!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 今なら、なんだって出来る気がする。

 でも、慢心はよくないな。

 そこでリインフォースを見て、お願いしようとしたけど、リインフォースは黙って頷いて

くれる。

 じゃ、分かっとるか、答え合わせやね。

「ユニゾン・イン!!」

 私はリインフォースと再び融合した。

 流石や。

 それとは別に、前より負担が段違いやな!

 私はどんどん高度を上げていった。

 みんな!今行くよ!

 

 お呼びと違うかもしれんけど…。

 

 

 

             :クロノ

 

 状況が次々と念話で送られてくる。

 ここでの対応は、もうこれでいいんだから、宇宙の方の応援に回るのがいいだろう。

 攻撃余波の無効化にパイルスマッシャーを捨てて、高高度での無効化を選択したのは、土壇

場で正解だった訳だ。

 ここからなら、応援に駆け付ける事は可能だ。

「執務官。このまま向かいますか?」

「ああ。勿論」

 アミティエも同じ事を考えたようで、僕に確認してくる。

 向かおうとした僕達を止める声があった。

「ちょっと待った!」

 アルフだった。

「どうした?」

 急がないといけない状況だぞ?

「いや、宇宙って、そのまま行って大丈夫なのかい?」

「「……」」

 

 アースラに転移してから、美海が構築したという魔法を、デバイスにインストールする

という恥ずかしい対応になったのは、言うまでもない。

 

 

 

             :飛鷹

 

 俺はなのはを送り戻し、1人監視任務に入る。 

 なかなか地味な仕事だが、やらない訳にはいかないし、重要な事だ。

 こういう事もコツコツやらないとな。

 少しづつ高度が下がってるな。

 ここで奇妙な事に気付く。

「スフォルテンド。なんか違和感ないか?」

 俺は相棒に訊いてみる。

 スフォルテンドなら、俺の気付かないところに気付いているからもしれない。

『隕石だな』

 俺は衛星を再度よく観察すると、確かに隕石が少し離れているものの衛星と並走している。

 おい、まさか、これ。

『今、解析が済んだ。隕石に含まれる金属を使って、あの羽が隕石を引き寄せてる』

 ヤベェ。

 劣化ウラン弾だけでも厄介なのに、あんなのまで一緒かよ!

 監視は正解だったな。

 

 俺は念話で今の状況を伝えた。

 

 

             :リンディ

 

 美海さんの対策案を聞こうとした時、飛鷹君の念話が入る。

 飛鷹君の話では、あの翼は隕石を引き寄せ、諸共落下する気のようだ。

 隕石はまだ増えているという。

 それが全て降ってきたら、とんでもない事になる。

 ただ飛んで堕ちるだけだなんて考えは甘かったわね。

 これは下手をすれば、策の練り直しがあるかもしれない。

「それで美海さん。飛鷹君が言った隕石がプラスされるけど、軍事戦略衛星の方は大丈夫なの?」

 既に念話で情報は共有済みなので、単刀直入に訊く。

『ええ。対処出来る魔法もバルムンクもいますしね。それに手を貸してくれる友がいます』

 心なしか美海さんの声は、スッキリしたものを感じた。

 彼女の過去は歴史書で少しは知っている。

 知っている積もりが正しいわね。

 彼女は今も自国民や部下に対して罪悪感を持っていた。

 彼女が基本的に人に頼らないのは、その所為だろうと思う。

 でも、今度こそ本当に大丈夫そうね。

 詳細を確認していた時、地球から新たにこっちに向かう魔力反応を捉える。

 誰が?と思ったが、地上に残った人員が全員向かっている事が分かった。

 クロノ達だけは、転移で戻ってきたけど。

 

「偶然か、必然か、人手がいるというタイミングで全員が到着とはね」

 本当に今度は大丈夫そうだ。

 

 

             :美海

 

 リンディさんと念話で話している最中に、地球からこっちにくる魔力反応を捉える。

 ディアーチェ?騎士連中もセットで付いてきているようだ。

 まあ、人手はいるから呼ぶ積もりではあったけど、察して向かってくれたのかな?

 視認出来るまで近付いてきて、分かった。

 ディアーチェじゃない。

 だって、ユニゾンしてるから。

 多分、ディアーチェの意識のままでは、ユニゾンは出来ないだろうし。

 それが証明される。

「みんな~!私にも手伝わせてくれへんか!」

 はやてが大汗を掻いて、手を振ってこっちに来る。

 うん。はやてだ。

 ディアーチェは、はやてが目を覚ましたから身体を明け渡したのかな?

 はやては、心配したフェイトとなのはに色々と大丈夫か確認されている。

 リインフォースがいるから、大丈夫でしょう。

 騎士連中は、こちらを一瞥し、それだけ。

 私も特に言う事はない。

「目が覚めてよかった。でも、ディアーチェが代わってた筈だけど、彼女は?」

 体調の確認をされているはやてに、私は気になる事を確認した。

「ああ…それなんやけど…」

 はやてが途端に言い淀む。

 それだけで理解した。

 彼女は消えたのだろう。

「そう、消えたんだね?」

 はやては弱々しく頷いた。

 気にしてるみたいだから、言って置こう。

「気にしなくていいよ。私はもう彼女とお別れは済ませてるから」

 死ぬ前の話だけど、彼女も同じように思っているだろう。

 だから、構わない。

 私の言いたい事を察したのか、はやてはゴメンとは言わなかった。

 それでいい。

「それでな!美海ちゃん!今度は私がみんなを手伝いたいんよ!」

 はやてが意を決したように言う。

 心意気は買いたいんだけどね。

 私はフェイトとなのはを見る。

 2人は心情的には反対といった顔をしている。

「大丈夫や!確かに体調は万全って言えへんけど、王様から魔力操作のコツを伝手してもろうて、

手伝うのに何も問題あらへん!」

 私達の無理させるのはどうか、という気持ちが分かったのか、はやては必死にアピールする。

「今、ここで引いたら後悔すると思うんよ。王様にはお世話になったしな。勿論、みんなにも。

でも、王様はもっと美海ちゃんの手助けを、してあげたかったんやないかと思う。王様もこの戦い

の結末は気にしてると思うし!…お願いや、手伝わせて」

 フェイトとなのはは、お互いに顔を見合わせて、仕方ないなって顔で苦笑い。

 私の方は最後の確認だ。

「リインフォース。貴女の判断は?融合機として、主はこの戦いを無理なく終えられる?」

 はやての肩から、小さいリインフォースがホログラムの様な形で出てくる。

「はい。多少無理は生じると思われますが、主ならば遣り遂げると確信しています」

「リイン…」

 リインフォースの言葉に、はやてが嬉しそうな顔をする。

 そこまで言うなら、やって貰うか…。変に暴走されても困るし。

「後悔が残るって言われたら、私はダメって言えないな」

「はやてちゃんは、守護騎士さん達の指揮官だし、私達の指揮官でいいと思う!」

 フェイトとなのはがそれぞれ言う。

 それ、賛成って事だよね?

 まあ、いいか。この子ならやってしまいそうだし。

「分かった。みんなが賛成なら、何も言わない。でも、言った以上は遣り切って貰うよ」

 私は鋭い視線ではやてを射抜く。

 はやては一瞬怯み、守護騎士達が不満ムードを漂わせるが、はやてはすぐ持ち直して力強く

頷いた。

 まあ、私が言うなって話だ。

「なら、手順を確認していこうか」

 私がそう言うと、はやてが嬉しそうな顔をする。

 厄介事なのに物好きだね。

 内心で苦笑いする。

 

 私はこれからの事を話そうとした時、横槍が入る。

「あの!()()も協力させて貰えませんか?()()()()()()()()()()()()!」

 何か気になる言葉と、嫌味を言われた気がするが、気のせいじゃないね。

 声の方を見ると、ユーリと赤ドレスの片割れがいた。

『一緒くたにしないでくれる?気分が悪いから』

 片割れの胸から赤ドレスが顔を出す。

「キモッ」

『五月蠅いわよ!アンタ達でしょ!!私の造った実体破壊したの!!』

 私の思わずの感想に、赤ドレスが喚き出す。

 元気になったな。チッ!

「ああ!この子はイリスですので、宜しくお願いしますね」

 ユーリが割り込んで、私に赤ドレスの名前を教える。

 アルハザードの魔法使いの名前なんて、覚える気なかったのに。

 そして、勝手に協力する事になってるし、ユーリは承諾してたけど、こっちは大丈夫なの?

『アンタは憎いけど、アイツの方が今は優先よ』

 私の疑念にイリスが答えた。

 その表情には確かにアレへの憎悪があった。

 まあ、当面は大丈夫として置きますか。

「では、今の状況を改めて教えて頂けますか?」

 この子なんか少しの間にかなり変わったな。

 研究面以外じゃ、大人しそうだったのに。

『それはこっちで教えるわ』

 ウインドウが開き、リンディさんが手短に状況を説明する。

 それを3人?は黙って聞いていた。

「よかった、というと語弊がありますが、私達の予想通りという事ですね」

「というと?」

「彼なら、自分が仕組んだ遊びは必ず干渉してくる。という事です」

 成程。と私はあのクソ野郎の所業を思い出していた。

「ならば、私とイリスで魄翼と彼の接続を断ちましょう」

「どういうタイミングで?」

「ギリギリまで意図に気付かれたくありません」

 こっちが攻撃を開始する直前にやるという事か。

 あの翼は、衛星の後に陣取っている。

 攻撃が仮に始まっても最初のうちは、隕石と衛星が盾になる。

「分かった」

 でも、問題は…。

「それと確認しますが、その汚染兵器は貴女が始末を付けるんですよね?」

 私は頷いて肯定する。

「なら、最初は邪魔な隕石の排除。それまで汚染兵器?が誤射・誤爆しないように護らないと

いけないですね」

 そう問題は、衛星に隕石の欠片やらが当ったりしないように護る役を、誰に振るかだね。

 こっちで人を割くか?

 だが、問題はすぐに解決する。

『その役目なら、私がやりましょう』

 リンディさんが名乗りを上げた。

「いいんですか?艦の方は」

『どちらにしても、アースラは今、碌に動けないもの。出来る事はやるわ。隕石も動ける戦艦に

援護射撃して貰うわ』

「でも、艦の砲から防御出来ますか?」

 気になっている事を訊く。

 リンディさんも、私と大して魔力量が変わらない筈だ。

『私が、次元震を抑え込もうとしたのを覚えてる?』

 私は頷く。

『私の魔法特性は、空間にある程度の干渉が可能なの。だから、数発程度は防ぐ事が出来るわ』

 そうだったんだ。

 あの時は、色々とあったから忘れたな。

 でも、数発か…。戦艦が上手く撃ってくれる事、裏切らない事が前提だね。

『こっちを、誤射という名の証拠隠滅を企んだりしないでしょうね』

 私はどう対応する気か、確認する。

『それはこっちで監視する。本当なら手伝いたかったんだが…』

 忘れ去られた執務官が、横から出てきて代わりに答えてくれた。

 戻ってたんだ。

 他のメンツも一緒に戻っているらしく、後ろに移り込んでいる。

 ヤル気に満ちているらしい。この人も奇特な事だね。

「それなら、こういう手順で行こう」

 

 まず第1段階として、こちらの攻撃射程に衛星が入る直前、ユーリ、イリスと片割れが突撃し、

アレがこれ以上面倒な事をやれないように、ラインを探り出し切断する。

 この間に私は魔法式の構築開始。

 

 第2段階として、なのは・フェイト・はやてと守護騎士団・飛鷹君で、地球の地表に届きそうな

大きさの隕石を細かく砕いて貰う。

 私は彼女達の後ろで構築完了までガードして貰う。

 この時に戦艦の援護射撃。

 そして、リンディさんの魔法で衛星ミサイルの保護。

 執務官達は戦艦の裏切り監視。

 私も魔法式構築と並行して剣聖操技で隕石砕きとフェイト達と手の回らない範囲のガード。

 

 第3段階で先頭に立って堕ちてくる戦略衛星を、私の魔法で無力化する。

 そして最終段階。

 残りの力を振り絞り、全員であの翼をタコ殴りにして破壊する。

 あとはお片付けの時間となる。

 

 これを飛鷹君にも念話で送る。

 なお、彼には念の為海鳴付近まで監視を続行して貰った。

 

 

             :飛鷹

 

 綾森から連絡が念話で届く。

 これで今度こそケリが付く筈だ。

 最後には俺も参加出来そうだな。

 永かったな。

 

 俺は最終的に膨れ上がった隕石の数を念話で伝えて、みんなのところに転移した。

 

 

             :美海

 

 飛鷹君が確認した隕石の数は、とんでもない数だった。

 彼が戻ってきた段階で、疲労困憊の様子だったので、例によって再成を使用した。

 勿論、他のメンツも回復済みである。

 全員が配置に付く。

 もう先頭の隕石が視認出来る程になってきた。

 隕石は衛星を護衛するように動いている。

 まずは第1段階。

 突っ込むタイミングは任せている。

 攻撃射程に入るまさにギリギリで、3人?が飛び出して行く。

 上手い具合に、翼が引き寄せた隕石の陰に隠れて、素早く移動する。

 だが、向こうも馬鹿ではない。

 センサーのようなものはあったのだろう。

 隕石が、ビリヤードのように弾き合い3人?に襲い掛かる。

 片割れは兎も角、ユーリも器用に隕石を踏み台して近付いている。

 そして、3人?は見事翼の近辺に潜んだ。

 ラインの位置を推察した後の一発勝負になる為、取り付くのは慎重になっている。

 もう射程内に突入という段階で、翼に2人が組み付く。

 当然、翼は振り落とそうと躍起になって、隕石の牽引が疎かになっている。

 まずは第1段階終了。

 

 そして、第2段階。

 私は思いっ切り10本の剣を宙に展開する。

 そして、シルバーホーンを構える。

 情報通りなら、劣化ウラン弾。

 放射能事分解しないと被害が出る。

「それじゃ、フェイト、なのは、飛鷹君、はやて一党、頼むよ!」

「テメェ!一党とか言ってんじゃねぇ!」

 赤いハンマーが何か言っているが、無視していいだろう。

 ごく一部以外は、私の言葉に元気よく返事を返してくれた。

 衛星も確認した。

 護衛するように無数の隕石が飛来する。

「予定通り、隕石から潰していくで!みんな!」

 はやてが気合の籠った声を出す。

「兎に角、デカいの1つでも大惨事だ。通さねえ!!」

 飛鷹君が気合十分に叫ぶ。

 いやいや、はやてに譲ってやりなよ、そのセリフ。

「くれぐれも衛星に当てたりしないでね!」

 私は再度釘をさす。

 一応、リンディさんが護ってはいるけど、余計な負担は掛ける必要はない。

 私も護りには協力するけどね。

「頼んだよ。バルムンク」

『任せよ』

 ここまで大々的に剣聖操技を使うのも久しぶりだ。

 蒼い光が剣を包み込む。

「それじゃ、合図は私がするよ!!」

 はやてがなのは達に声を掛ける。

 みんなが闘志に満ちた眼で頷く。

 隕石が射撃圏内に入って来る。

「一斉射撃開始!!」

 はやてが大声で合図すると、みんなが一斉に砲撃を撃ち出す。

「小さいのは無視していい!!デカいの狙え!!」

 小さいのまで撃ってしまっている現状に、飛鷹君も声を出す。

 こういう時、デバイスは便利だ。

 大体これ位の大きさは燃え尽きると、分析して教えてくれる。

 戦艦からも攻撃が加えられ、隕石が小さく砕かれて無力化されていく。

 リンディさんが、隕石の破片が衛星にぶつかったりしないように衛星を護っている。

 今のところ彼女に多大な負担は掛かっていない。

 

 幾ら凄腕4人と戦艦の援護があるとはいえ、撃ち漏らしも出る。

 魔力弾では砕き切れないから、必然的に砲撃になるからだ。

 フルで撃つ必要はないが、多少チャージ時間が食う。

 はやては、初めてにしては上手く撃つタイミングを考えて指揮を取っているが、全て賄うのは

不可能に近い。

 戦艦も流石プロというところを見せて、同じところを狙わないよう気を付けていた。

 私は撃ち漏らしても気にしないように、前もって言ってあった。

 それは、私と騎士連中が担当するからだ。

 10本の剣が蒼い光を纏い砲弾のように飛んで行く。

 守護騎士も前衛2人が、突っ込んでいく。

 守護獣は湖の騎士のガードに付くようだ。

 余裕だね。

 私の剣が、光の尾を引いて隕石を破壊していく。

 縦横無尽に飛び回らせる。

 勿論、魔法式構築も並行して行っている。

 前衛2人は、剣で叩き斬り、戦槌で砕いて撃ち漏らしを片付ける。 

 

 原子分解式構築完了…。

 衛星の後ろに陣取っていた隕石が、一気に動き出す。

 隕石が戦艦の方にまで飛んでいる。

 アレが干渉したな。

 ライン切断はまだか…。

 

 私は放出した剣の1本である大地剣・ヴェルトを、隕石の1つに突き刺すと、()()()()()()()

 大地剣は、突き刺した大地を魔力が及ぶ範囲でコントロールする事が出来る。

 出来るだけ大きいのを選んだ甲斐があり、戦艦の方に飛んだ隕石の軌道を逸らし、宇宙の彼方に

飛ばす。

 同時に雷霆剣で隕石制御の妨害を試みる。

 

 ハドロン分解式構築完了…。

 

 もうじきだ。

 

 

              :ユーリ

 

 隕石を躱して、私達は魄翼に取り付く。

 いきなり取り付かず、すぐ近くの隕石で魄翼を改めて観察する。 

 早くラインを探し出して、切断しないと。

「貴女ならラインをどこに取りますか?」

 私はイリスに意見を求める。

 彼女が今の魄翼を間近に見ている。

 私の場合、接続されて見れていない場所がある。

『まず常識的な場所は除外でしょ。通信関係はすぐバレるからなし』

「ではどこに?」

『隕石の引き寄せに使っている磁場を発生させている装置』

 流石ですね。

 ありそうな話じゃありませんか。

「私の記憶じゃ、武装というか相手の行動の妨害に使うって触れ込みだったけど」

「まあ、金属を使用していない兵器は、アルハザードでも稀でしたからね」

 イリスは黙って頷いた。

 となると、魄翼の翼を潜っていかないと辿り着けない位置に行かないといけない。

 難易度としても、ありそうだ。

「他は増設も見当たりません。コンパクトに組むにはそれが妥当ですね」

「なら、もう砲撃が始まるから、行った方がいいよ」

 キリエさんが焦った声で言った。

「そうですね。イリスは異論がありますか?」

『問題ないわ。行って頂戴』

 キリエさんが少し眉を顰めて頷いた。

 まあ、そんな風に言われたら、納得出来ないのも分かりますけど…。

 

 もう時間がありません。

 私達はタイミングをギリギリまで見計らい、跳んだ。

 

 

              :美海

 

 大地剣で操った隕石を、そのままぶつけて他の隕石を破壊する。

 引き続き他の剣も操り、隕石を破壊して回らせている。

「あっ!」

 フェイトが思わずといった感じで声を上げる。

 フェイトが砲撃に集中していた為、他の隕石の陰に隠れていた隕石の侵攻を見逃した。

 他のメンバーも気付いたが、他を対応中という最悪のタイミング。

 しかも、どこに隠れていたのかってくらいに大きい。

 剣で破壊するのは容易いが、破片が地表に達する可能性がある。

 雷霆剣で妨害しているが、それが仇となったかな?

 予想外の動きをする隕石も出ている。

 戻すべきかな?と思いながら、操っていた剣を5本呼び戻し、フェイト達の前に柄頭を

中心に円を描くように配置する。

 5本の剣がそれぞれ輝き、巨大な盾と変わる。

 隕石がそれにぶつかり砕ける。

 フェイト達にも砕けた破片を送るような事もない。

「ありがとう!」

 フェイトが、こちらを見ずに感謝の言葉を告げる。

 優先順位がキチンと分かっている。

「もうすぐ終わるから!みんな宜しく!」

 私は応える代わりに言った。

 魔法式の構築はもうじき終わる。

 だが…。

『そっちはまだ掛かりそう?』

 念話でユーリに確認する。

 万が一、分解時に変なちょっかいを掛けられると、最悪間に合わないなんと事になり

兼ねない。

 ここは、ライン切断が済んでから魔法を放ちたいところだ。失敗は許されない。

 地上に残している最高の両親を想う。

 フェイト達の帰る場所である海鳴を想う。

『もうすぐです!あの雷の属性剣を、もっと魄翼の周りに飛ばして貰えませんか!?』

 うん?微妙な効果だと思っていたけど、役に立ってるところがあったか。

『分かった。もう構築は終わるから、そっちも頼むよ』

 時間が切迫して来ている。

 詳しくは訊かない。

 必要ならやるまでだ。

『はい!お願いします!』

 念話が切られる。

 

 ベータ崩壊式構築完了

 

 

              :ユーリ

 

 魄翼に取り付くと同時に、当然だが向こうはこっちを振り落とそうとしてきた。

 身体強化くらいは私にも出来る。

 簡単には振り落とされないけど、作業が難しい。

 キリエさんは、それでも器用にジワジワと目的の場所に近付いていた。

 私も見習わなければ…。

 もう、諦めたりしない。

 私は指に魔力を籠めて、凄い勢いで振り回される身体を片手で支え、少しづつ私も

近付いていく。

 もう隕石の迎撃は開始されている。急がないと…。

 砲撃が魄翼の横を通り過ぎていく。

 冷や汗が噴き出る。

 魄翼は兎も角、あんなのに当たったら私ではどうにもならない。

 今度こそは!遣り遂げる!

 キリエさんより大分遅い進み方。

 じれったく思っても、焦ってはいけない。

 その瞬間に、私は宇宙に放り出される。

 2度と戻ってはこれない。

 激しい動きが突如弱まる。

 訝しく思って周囲に目を向けると、1本の剣が隕石の制御を邪魔しているようだった。

 これは!

 あんな剣を持っているのは、彼女しかいない。

『そっちはまだ掛かりそう?』

 その彼女から念話が入る。

『もうすぐです!あの雷の属性剣を、もっと魄翼の周りに飛ばして貰えませんか!?』

 私はすぐに必要な事を伝える。

 これで早く到着可能になる!

『分かった。もう構築は終わるから、そっちも頼むよ』

『はい!お願いします!』

 あの剣が魄翼を妨害するように周囲を飛び回る。

 剣が放電するように光っている。

 おそらくはそういう属性を持つ剣なんだろう。

 私は動きが緩慢になった魄翼を、這って進んでいく。

 

 キリエさんは先に到着し、イリスの指導の下、外装を外していた。

「お待たせしました」

『遅いわよ!』

 声を掛けるとイリスがキリエさんの口を借りて、チクリと言った。

「ごめんなさい」

 私は特に弁解もせずに、作業に参加する。

 イリスだろうと思うけど、不機嫌なオーラを感じた。

 無言で作業する。

 いつまで剣で妨害出来るか分からない。急がないと。

 

 暫く経って、明らかに別目的の基盤が姿を現した。

「ビンゴ!」

 キリエさんが声を上げる。

 でも、いくら予想したとはいえ、随分と簡単じゃないかしら?

 キリエさんが、慎重に配線を退けていくと、基盤の全体像が見えた。

 基盤の見え辛いところに魔力結晶が付いていた。

 これは!?

『これからが楽しいところなんだ。邪魔は無粋だね』

 彼の声が響く。

 まさか!?

「イリス!!」

 私はキリエさんを突き飛ばす。

『お仕置きだ』

 魔力結晶が、活性化し魔法が放たれる。

 見付けられると読んで、対策していたんですね。

 身体から脱皮するような感覚が襲う。

 不味い!耐えなくちゃ!

 これは…魂魄分離の魔法!!こんなものまで!!

 相手から魂魄を身体から引き剥がし、魂魄を無意味化する魔法。

 アルハザードでは、魂は情報体であるとされている。

 身体から引き剥がされた魂魄は、エラーを起こしデータが壊れる。

 おそらくは、イリスを排除する可能性を考えて準備していたんだろう。

 精神体のイリスは、この衝撃に耐える事が出来ない。

『頑張るね』

 干渉力が強まる。

 このままじゃ、持たない!!

 私は動かし辛くなった腕を伸ばす。

 イリス!今度は遣り遂げるから!

 基盤を掴む。

『っ!?』

 彼が驚くのを初めて見た気がする。

 私はフッと笑うと、基盤を乱暴に引っこ抜いた。

 これで機械的なラインが断たれた。

 魔力結晶と魄翼が分離すれば、いくら彼でも魔法的にも干渉は難しくなる。

 私の背中が見えた。

 ああ…魂が抜かれたんだな…。

 

「ユーリ!!」

 最後に友達が、私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 

              :美海

 

 衛星の陰にいる翼から、黒い靄のようなオーラが離れていくのが見えた。

 連絡がないが、ラインの切断に成功したんだろう。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で観察していてよかった。

「アバンストラッシュ!!」

「ヒートスライサー!!」

 飛鷹君となのはが、合わせ技のように同時に放つ。

 巨大な隕石が爆散する。

 この後の事を考えてるんだろうね?

「プラズマスマッシャー!!」

「ギャラルホルン!!」

 フェイトとはやては、堅実に砲撃威力を絞って効率よく撃ち込んでいる。

 はやてに至っては、威力を絞るだけでなく、上手く衛星を避けて撃ち込むという器用

な事をやってのける。

 ディアーチェの置き土産だろう。

 それにしても、凄いもんだね。

「ラケーテン…ハンマー!!」

「飛竜一閃!!」

 鉄槌がグルグル回りながら隕石を砕き、烈火が蛇腹剣で細かくしていく。

 こっちの連携は流石と言える。

 勿論、私の剣聖操技も活躍中だ。

 

 そして、遂に衛星の周りから隕石が消える。

 

『リンディさん!!』

 念話で合図すると同時に、衛星を護っていた魔法が消える。

 

 シルバーホーンを衛星に向ける。

 衛星が魔法解除と同時にあちこちが軋み出す。

 

「ベータトライデント…発動!!」

 

 魔法が衛星を捉える。

 瞬間、衛星がミサイルごと分解される。

 

 光が溢れ出し、オーロラが出来上がる。

 

 まだ、仕事が終わっていない。

 翼を見ると、誰も残っていない。

 

「今だ!!撃ち込め!!」

 私の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 




 ここで魄翼絡みは片付ける筈だったんですが、無理と判断しました。
 次回に持ち越しです。
 前回の轍を踏まない為に、潔く切りました。
 最後の戦闘に関しては、素早く推移していると思って下さい。
 
 次回は年内いけるか、微妙なところです。
 気長にお待ち頂ければ幸いです。


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第50話 結

 今回は結構、駆け足で進めております。

 ではお願いします。


              :???

 

 いやいや、ビックリしたね。

 まさか彼女がここまでやるとは!

 大統領とは面会を済ませ、僕は人目がある場所で堂々と魄翼の様子を見ていたのだ。

 こっちのノートパソコンという奴でだ。

 勿論、中身は別物だけどね。

 予想外な事に、彼女の活躍でゲームが台無しになってしまった。

 残念だけど、流石にここからじゃ、魄翼に干渉するのは難しいな。

 随分と詰まらない結末になったものだよ。

 まあ、今回は負けたという事にしておくかな。

 負ける事も考慮してあったけど、我ながらあまり面白くない。

 月並みな最後の手段を、使わざるを得なかったよ。

 様式美として組み込んだんだけどね。

 最後の仕掛けは、もうじき発動する。

 あれくらいでどうこうなる筈もないし、少しは驚いてくれるといいけどね。

 あとは期せずして、もう1つ増えたかな。

 アレには驚いて貰えるだろう。

 アドリブだったけど、結構面白い要素になるかもしれない。

 観察出来ないのが、残念だ。

 僕がそんな事を考えていた時に、声が掛かった。

「あら?ジェイじゃない。噂を聞いたけど、辞めるんですって?勿体ない!」

 名前は忘れたが、彼女は確か大統領の()()使()()だったかな?

 僕は、そんな事をおくびにも出さずに笑顔を浮かべた。

「ああ。そろそろ本業に戻ろうと思ってね」

 彼女は頻りと勿体ないと引き留めたが、もういいだろう。

 それにサッサと立ち去らないと、彼女から戦略級魔法を食らいそうだ。

 今の彼女なら、私を滅ぼす為なら、周囲の人間を巻き込もうと使うだろう。

 それもまた興味深いが…。

 ここの連中を揶揄うのも、そろそろ飽きた。

 サッサと退散するとしよう。

 

 今頃は、あの子が部屋も引き払っている頃だ。

 

 

 

              :なのは

 

 美海ちゃんの魔法が衛星を破壊する。

 破壊というより、消滅。

 なんか散らばったら不味いものまで分解する魔法。凄い。

 光が広がり、オーロラが出来る。

 残念だけど、楽しんでいられないの。

「今だ!!撃ち込め!!」

 美海ちゃんの大きな声が聞こえた。

 私達は、その時が来た事が分かった。

 魄翼でラインを切断に参加してた子達は、みんな避難したんだ。

「レイジングハート!!」

『オーライ』

 魔力は十分に宙一杯にある。

 私は全員の魔力に同調する。

 集められる。

 レイジングハートにドンドン魔力が収束していく。螺旋を描くように。

 みんなが防衛プログラムを撃破した時と同じく、必殺の魔法をチャージする。

 

 全員が同じタイミングで魔法や技を放つ。

 ヴィータちゃんだけは、あの大きいハンマーじゃなくて、大きい鉄球飛ばしてたけど…。

 戦艦からも砲撃が放たれる。

 

 その全てが着弾する。

 

 魄翼が輝き一部が爆散…したけど。

 爆風!?衝撃波!?が凄い!!

 

 私達は吹き飛ばされてしまった。

 

 

              :フェイト

 

 あの魄翼から閃光が走ったと思ったら、強力な衝撃波?で吹き飛ばされていた。

 不味い!止まらないと!

 錐揉み状態で、自分がどうなっているか分からない。

 他の子がどうなっているのか確認する事が出来ない。

 砲撃と同時に何かが誘爆したんじゃないかな?

 って、そんな事を考えている場合じゃない。

 辛うじて目で確認した範囲では、魄翼の破片等も一緒に飛ばされている。

 不用意に止まるのも危険だし、このままでも危険。

 上手く破片が飛んでくる方向へ、シールドを展開して止まらないといけない。

 タイミングを合わせて…。

 そう考えていたけど、いきなり手を掴まれた。

「っ!?」

 顔を向けると、そこには美海がいた。

 剣が、柄頭を中心に円を描くように集まってシールドになっている。

「大丈夫!?」

「うん!他の子達は!?」

「大丈夫そう!」

 美海に掴んで貰って、護って貰って、周りを見回す余裕が出来る。

 なのはは飛鷹がキャッチしていたし、はやても守護騎士達でキッチリガードしていた。

 ユーリ達は見えないけど、魄翼を攻撃した段階でいなかったんだから大丈夫だよね?

 クロノもリンディさんもアースラ付近にいたし、無事だろう。

 ホッとした。

 次の瞬間、更なる爆発が起きる。

 残りの部分が爆発したんだと思うけど、その衝撃でシールドが押される。

 その拍子に、美海の手から私の手が離れた。

「「あっ!」」

 押された慣性のまま、私は後ろに押し出される。

 美海が手を伸ばす。

 私も手を伸ばしたけど、あともう少しのところで届かない。

 あっ!飛行魔法の要領で止まればいいんだ!

 今更、気付いて実行しようとした時。

「フェイトさん!!」

 リンディさんの声がして、私の身体に衝撃がある。

 リンディさんが私を抱き止めてくれていた。

「大丈夫!?怪我は!?」

 もの凄い勢いで訊かれて、私は咄嗟に答えられなかった。 

 こういうのは、慣れていない。

 大人に心配された経験があまりないから、反応に困る。

「どこか怪我でもした!?待ってて、今、医務室に連れて行くから!!」

「い、いえ!大丈夫です…。すいません。その慣れていなくて…」

 何がとは言わなかったけど、リンディさんは分かってくれたのかホッと息を吐いた。

「よかった…無事で…」

 安心したように私を優しく抱き締めてくれた。

 なんだろう…。

 涙が出そうなくらいに温かい。

 どれくらいそうしていたか、よく分からないけど、リンディさんが身動ぎした。

 私が顔を上げると、リンディさんはなんでもないと首を振った。

 

 なんだろう?

 

 

              :リンディ

 

 状況は非常に質の悪い足掻きだった。

 おそらく砲撃を、一部のパーツをパージする事で直撃を免れ、パージしたパーツの自爆

で目晦まし、そして本体が残りの燃料を引火させる形で自爆したのだろう。

 これを意図した人物は、相当に性格が悪い。

 証拠物件は諦めていたけど、最後にこんな悪足掻きをするなんて!

 最初の爆発で全員が吹き飛ばされた。

 けれど、なのはさんは飛鷹君が咄嗟に支え、体勢を素早く立て直している。

 守護騎士達も流石は歴戦の騎士だけあって、動じずにはやてさんをガードした。

 フェイトさんは…。

 美海さんがキャッチしたようだ。よかった。

 後方にいた私には、ユーリさんがキリエさんに支えられ離脱したのを確認している。

 クロノ達は当然無事だ。

 デューク以下暴走艦は、この期に及んで裏切らなかったし、よかったわ。

 私は全員の無事を確認する事を優先した為に、忘れていた。

 まだ無事な部分が翼には存在する事に。

 そして、最後にして最大の自爆を敢行する。

 私は咄嗟にアースラのまだ生きている機能で、吹き飛ばされる事はなかった。

 他のメンバーもチームで或いは2人で協力して、体勢を見事に立て直していた。

 だが、信じられない事に、美海さんとフェイトさんは無事ではなかった。

 2人の繋いだ手が爆発の拍子に離れてしまったのだ。

 あろうことか、フェイトさんが押されるように飛ばされてしまう。

 私は咄嗟に行動していた。

 フェイトさんを助ける為に。

 美海さんもフェイトさんも手を伸ばすが、手が届かなかった。

 私が助ける!

「フェイトさん!!」

 私はフェイトさんを受け止める。

「大丈夫!?怪我は!?」

 フェイトさんは、ボウッとしていて答えない。              

「どこか怪我でもした!?待ってて、今、医務室に連れて行くから!!」

 私は大急ぎでアースラに戻ろうとする。

「い、いえ!大丈夫です…。すいません。その慣れていなくて…」

 私の剣幕に焦ったのか、フェイトさんが漸く答えてくれる。

 慣れていない。

 そうだ。彼女はプレシアから直接心配された事がない。

 使い魔のリニスさんは心配してくれていたようだが、人間という意味では初めての

経験だったのね。

 何はともあれ、ホッとして息を吐く。

「よかった…無事で…」

 私は優しく、決して力を入れ過ぎないようにフェイトさんを抱擁する。

 フェイトさんは私の腕の中で、震えるように身動ぎしたが、私の抱擁を受け入れて

くれた。

 愛おしい。

 そんな感情が胸に溢れる。

 養子の件、諦めきれないわ。

 そんな事を考えていたが、そこで気付く。

 美海さんにフェイトさんの無事を教えていないと。

 私はフェイトさんを抱いたまま、顔を美海さんに向けると、彼女はそっと頷いた。

 私はあっと声を上げそうになったが、どうにか押さえ込んだ。

 そう。彼女がフェイトさんが、この程度の状況をどうにか出来なかったとは思えない。

 だとすれば、彼女はこの状況を咄嗟に利用したんじゃないだろうか!

 私がそんな疑惑を持って睨むと、彼女はそっぽを向いてしまった。

 フェイトさんが不審に思ったか、私を見上げる。

 私はなんでもないと首を振って、微笑んだ。

 彼女はフェイトさんが養子の件で、あまり前向きでない事を知っている。

 そして、彼女はフェイトさんが一番いい事を選ぶ為の助言をしていた。

 今回は随分と行動的だこと。

 

 でも、あとで話し合わないとね。

 

 

              :美海

 

 実際、手は掴み直せた。

 フェイトも突然の事で頭が真っ白になっただけで、放って置いても無事だっただろう。

 勿論、最初に掴んだのも実際はお節介に過ぎない。

 でも、今回は飛ばされると思われる場所に丁度彼女がいた。

 フェイトが、養子の件で乗り気になれていない事は分かっていた。

 でも、後ろ盾という面でも人間的な部分でもリンディさんは、フェイトにとって一番

いい保護者となるだろう。

 このまま私が助けたり、自分で助かったりしたら、フェイトは彼女に甘える事はない。

 だから、少しばかりお節介をやってしまった。

 予想通りにリンディさんは、冷静に考えれば自分でどうにか出来ると分かっていても、

フェイトを助けた。

 彼女には睨まれたが、文句ぐらいは黙って聞いてあげよう。

 抱き合う2人を見て確信した。

 フェイトの幸せに、彼女は必要だ。

 それにしても、あの野郎。

 あの状態から勝ちはないにしても、自爆なんてやりやがって。

 相変わらず性格のようだ。

 そんな愚痴を背中に視線を浴びつつ、考えていた。

 そして、翼のライン切断組が帰還したが、様子がおかしい。

 原因はすぐに分かった。

 あの片割れがユーリを抱えて戻ってきたからだ。

 ユーリはぐったりとして動かない。

 疲労や怪我とは違うようだ。

「どういう事?」

 私は片割れに問い掛ける。

「実は…」

 答えたのは、片割れの方だった。

 ユーリはラインを切断する際、基盤に仕掛けられた罠から片割れ達を庇う為、アレの

放った魔法の犠牲になったらしい。

 中にいるイリスとかいうのが喚くかと思ったが、随分と大人しく黙っている。

 流石に思うところがあったのかもしれない。

 それにしても、使われた魔法が魂の剥離とデータの無意味化か…。

 一応、試すか。

 シルバーホーンを構える。

「何を!?」

 片割れが声を上げるが、無視する。

 

 エイドス変更履歴遡及を開始。

 

 エラー発生。

 

 再成、定義破綻で強制終了。

 

「……」

 ()()()()()()()

 やはり魂がまだ魔法干渉を受けているのと、身体に魂がない事が原因だろう。

 こっちの再成は、魂の方を本体と捉えている節がある。

 魂の付随品である身体の情報を普段は読み取り、フルコピーしている。

 肝心の魂がないと再成は使用出来ない。

 だから私の再成は、制限時間を経過し、魂が無意味化すると、一切の情報が読み取れ

なくなる。

 アレには何度も再成を見られている。

 対策をされたとしても、アレならば不思議はない。

 人の事は言えないが、とんでもない事をしてくれるものだね。

 私は、仕切り直しの意味でシルバーホーンを下ろした。

「何考えてるのよ!文字通り死人に鞭打つ積もり!?」

 こいつ、私の魔法を知らないんだっけ?

「その死人を助けようとしたんだけど、魔法が発動しない」

「っ!?」

 私があまりにもアッサリと死者蘇生を口にしたので、驚いたようだ。

 知っている人でも、私の魔法が死者すら蘇らせると知らないかもしれない。

 傷の修復とか、魔力を回復させるとかしか使ってないからね。

「魂を探す必要がある。魔法干渉中なら、それを無効化する必要もある」

『それが出来れば、助けられるって?死者を?』

 私の言葉にイリスが片割れから顔を出し、皮肉っぽく言った。

「多分ね」

 試みた事がない事だ。

 実証もされていない。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)で、より深く潜る必要があるだろう。

 アリシアの時とは逆。 

 あの時は、アリシアの魂は保存されていた。

 だが、今回は探すところから始めないといけない。

 魂を探し、修復し、身体に戻す。

 魂がどこにどのくらいの深度に行ったか、それが問題になる。

 それに今回は、精神ごと情報の海へとダイブする事になる。

 その方がイメージがし易い。

『多分?無理だと素直に認めたら?』

 イリスが揶揄するように言った。

「で?貴女はダメだって言ってほしいの?それとも期待を裏切られるのが、怖い?」

『そんな訳ないでしょ!?』

「貴女は、どうしたい?」

 私はジッとイリスの目を見る。

 どんな事であれ、コイツは裏切られるのを恐れている。

 裏切られないで済むように、助けられないと言わせたいんだ。

 先に目を逸らしたのは、イリスの方だった。

『直接、文句を言ってやりたかったわよ…』

 全く、素直になればいいのに。

「じゃあ、直接言えばいい」

 私が言い放つと、イリスが顔を歪める。

『嫌な奴ね』

 どうもありがとう。

 アルハザードのヤツが言えば、誉め言葉だ。

 

 一向にみんなに合流しない私達を不審に思ったか、みんなが寄って来る。

「どうしたの?」

 なのはが代表で訊く。

 私は今聞いた事情を、みんなに話す。

 聞き終えて、みんなの表情が暗くなる。

「その為に、ちょっとした事を試そうと思うんだ」

「ちょっとした事?」

 私の言葉にフェイトが首を傾げて言った。

 私は考えている事を余さず話した。

 これに関しては、ボンヤリとした事を言う訳にはいかない。

 初の試みで、失敗は許されないからだ。

「悪いんだが、どう危険なのかピンとこないんだが…」

 飛鷹君が聞き終えて、第一声がこれだった。

 だけど、殆どがホッとした顔をしているところを見ると、チャンと分かった奴は、

いないな。

「例えるなら、海に潜るのを想像してほしいんだよね」

 海女さんが海に潜るのを想像してくれれば、分かり易いかな。

 海女さんが潜れる深さの限界が、私の限界。

 海女さんが潜っていられる時間が、私の持ち時間と思って貰えばいい。

 今回、それを超えるかもしれない。

 当然、そんな事したら溺れ死ぬ。

 精神が返って来れなくなる。

 精霊の眼(エレメンタルサイト)は、情報の海に潜るのと同じ。

 精神を送り込み、深く潜り過ぎると、戻って来れない可能性がある。

「という感じかな…」

「「それは、ダメ!!」」

 フェイトとリニスが同時に叫ぶ。

「勿論、私も助けて上げられればと思います!でも、それで貴女が確実に危険に晒され

るんじゃ!そんなのは却下です!」

 リニスが私の耳元で怒鳴る。

 そんな大声で言わなくてもいいよ。

「いやいや、だからね、みんなに協力して貰うんだって」

「どんな事が出来るの!?」

 なのはが口を開く前に、フェイトが勢い込んで訊いてきた。

「つまり、私が深く潜る間、命綱の役割をしてほしいんだよ」

 みんなの存在に概念上の綱を作り潜れば、ある程度安全性が上がる。

 それでも確実ではない事までは言わない。

 全員それに気付く事なく頷いてくれた。

 

 それじゃ、サッサと探しに行かないと。

 

 準備に入ろうとして、私の手に誰かが触れた。

 眼を開けると、フェイトだった。

「どうしたの?」

 フェイトは少し躊躇うような素振りを見せたけど、それを振り払うように、私の目を

真っ直ぐに見詰めて言った。

「美海は、ベルカから転生してきたのかもしれない。もう人生一度終えたのかもしれない。

でも、それはベルカのアレクシアさんだよ。今は美海なんだよ。だから…、戻ってきてね。

私は、私達は貴女とまだ作りたい思い出が沢山あるんだから」

 参ったな。

「そうだよ!色々あって、まだ全然遊んでないよ!」

 なのはが笑顔で言う。

 いや、年齢的に小学生と遊ぶのも辛い…。

「まだ、しごきしか受けてへんよ!私なんて!」

 いやいや、君の為だったでしょうが。

「まだ俺もお前に勝ってないからな!勝ち逃げは認めねぇぞ!」

 君はもう少し気張って、私に勝てるくらいになってほしかったよ。

「我等もまだ決着を付けていない」

 烈火の将の言葉に守護騎士連中が頷く。

「夜天の書もどうにかして頂く約束ですので、是非約束をお守り頂きたく」

 分かってるよ。

「これが終わったら話があるし、キチンと戻ってね」

 これはリンディさん。

 笑顔が恐ろしい。

 だが、断る。

「君にはキチンと罪を償って貰わないといけないんだ。被疑者不在で手続きなんてゴメン

だからな」

 よくも悪くも君もブレないね、執務官殿。

「大丈夫。戻るから」

『我が繋ぎ止めるのだ。大船に乗った気でおれ』

「当然、私もサポートしますよ」

 私の決意に、バルムンクとリニスが頼もしい言葉を掛けてくれる。

 それじゃ、始めますか。

 

 精神を研ぎ澄ます。

 バルムンクがアンカーの代わりとなり、みんなと魔法的に繋がる。

 文字通りの命綱の意味しかない繋がりだ。

精霊の眼(エレメンタルサイト)発動」

 魔法の痕跡を探し、更に情報量を増やし、追跡していく。

 いつもより深い深度で潜る。

 ここからは未知の領域だ。

 どこまで飛ばされているんだか。

 しかし、これが別の意味でも危険だった。

 情報量が増えるという事は、それだけ脳に負担が掛かっていくという事。

 精神をダイブさせているとはいえ、実際処理しているのは、自前の脳みそだ。

「くっ…」

 思わず声が漏れる。

 当面はこっちの方が大敵だ。

 こういう時、ミッド式の魔法領域を作成しておいてよかった。

 脳内の魔法領域に情報を入れて、保留して徐々に情報を解析していく。

 ベルカ式のままだったら、不味かった。

 脳みそがスプラッターな状態に、冗談抜きでなる。

 でも、このままじゃ、遅かれ早かれ破裂するだろう。

 だから、余計な情報にフィルターを掛ける。

 少し楽になったが、油断せずに慎重に深度を下げていく。

 どれだけ、情報の海を彷徨ったか、分からない。

 時間はどれくらい経った?

 一瞬のような気がするし、随分長い間のような気もする。

 そんな時は、命綱の出番だ。

 それを確認するだけで、気分が楽になる。

 これは堕落なのかな?

 いや、進歩した。そう思う事にしよう。

 

 見付けた!

 

 魔法式がユーリの周りを取り囲み、ユーリを壊している。

 ここからが勝負。

 命綱を握り締める。

『主よ。決して手を放すでないぞ!』

『美海!もう少しです!』

 バルムンクとリニスの声が聞こえる。

 随分、過保護だな。

 私はフィルターを解除する。

 一気に情報が流れ込んでくる。

 脳が熱を持ったように熱い。

 魔法式を読み取る。

 膨大かつ繊細で精巧な魔法式の全体像を読み取る。

 私は残る力全てを動員して腕を上げ、シルバーホーンを構え、照準を定める。

術式解散(グラムディスパージョン)

 ユーリを取り囲む魔法式が、破裂するように砕け散り、光の粒子となって消える。

 ここで気を抜く訳にはいかない。

 私はユーリを観察する。

 かなりの部分のデータが意味を消失している。

 だけど、まだ残っている部分がある。

 死力を尽くせ!

 再成開始。

 

 エイドス変更履歴遡及を開始。

 

 存在するデータを元に、復元時点を確認。

 

 魂の復元開始。

 

 完了。

 

 更に存在する肉体へデータを転送します。

 

 終了。

 

 終わった。

 視界がグラグラしている。

 かなりヤバい。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 そうだ。命綱だ。

 そして気付く。

 命綱が見えない。

 視界には情報の海しか見えない。

 手を伸ばせば、そこに誰かはいる筈なのに、身動きが取れない。

 自分の身体がどうなっているか、分からない。

 まだ、立っているのか?それとも倒れている?誰かに支えられているんだろうか?

 思考が働かない。

 不味い。

 眠くなってきた。

 このまま眠れば、元に戻るかな…。

 

 

「美海!!」

「「美海ちゃん!!」」

「綾森!!」

 

 

 ハッと目を見開く。

 寝るのは後にしないといけない。

 戻らないと。

 周りを見回すと、何かが接近してくる。

 怪訝に思って目を凝らすと、巨大な山猫だった。

 あれ?もしかしてリニス?

「美海!」

 リニスは私を呼ぶと、問答無用で首根っこを噛んで持ち上げた。

 子猫じゃないんですけど。

「なのは!いいですよ!」

「了解!」

 なのは?…ああ、そうか、同調したのか。私と。

 リニスは同調したなのはの指示通り、命綱で私の足跡を辿り、命綱を身体に巻き

付けて私を探していたのだ。

 加えて、なのはは私と同調しているのだから、現在地がなんとなく分かる。

 そして、私の代わりになのはが命綱を引っ張っているんだろう。

 やっぱり、人は1人じゃ何も出来やしないんだ。

 協力をお願いしてよかった。

 面倒掛けて悪いけど、助け合っていくのが友達ってもんだと諦めて貰おう。

 

 出来るだけ、早く目を覚まさないと…。

 

 

              :マリエル

 

 アースラに女の子が1人運び込まれてきた。

 件の闇の書を修理するという子だ。

 正直信じられないけど、その子なら直せるらしい。

 ならば、技術士官として見てみたい。是非とも。

 でも、倒れたのなら、世紀の瞬間までまだ掛かりそう。

 準備は整っているんだけど…。

 アースラは現在突貫修理中。

 ここが無事なのは幸いだった。

 そんな事を考えていると、外が騒がしくなる。

「…海!もう…しや……んでないと、ダ…だ…て!」

 どこかで聞き覚えのある声が、近付いてくる。

 子供の声だから…。まさかね。

 なんて考えていると扉が開く。

 扉の方を見ると、デバイスをアップデートした子達と、資料で見た闇の書の

メンバーが勢揃いしていて、その前に小柄な女の子が凄く疲れた顔で立っていた。

 え?まさかが現実になった?

 倒れてたんだよね?

「作業の準備、出来てるんだよね?」

 その子は、私に向かってそう言った。

 威圧感が半端ない。

 間違いなさそうだった。

 私はガクガクとぎこちなく頷いた。

 倒れてそれ程時間も経っていないのに、もう始められるの!?

「美海!せめてもう少し休んだ方が!」

 その子の使い魔が必死に止めるが、当人は首を振る。

「時間との勝負だよ。今は目が覚めた以上、これが優先だ」

 使い魔だけでなく、守護騎士以外はみんな心配そうにその子を見ていた。

「はやて。夜天の魔導書出して」

 闇の書の主の子が、思わずといった感じで魔導書を出す。

 あの子が素早く闇の書を回収する。

 出した後、しまったといった顔をしたが、もう奪い取られた後、時すでに遅し

だった。

 闇の書を機器にセットする。

「リインフォース。守護騎士システムは?」

「今は念の為、切り離してあります」

 あの子の問いに融合機が淡々と答えた。

 おそらく、侵食が万が一早まった時の対策だったんだろうね。

 優秀な機体だな。

「おいおい!聞いてねぇぞ!」

 騎士の1人が驚いたように声を上げる。

「大丈夫なのか?」

 守護騎士のリーダーと思われる人が、冷静に問い掛ける。

 融合機が無言で頷いて見せる。

「修復が済めば、戻せばいいしな。その方が安全だろう」

「分かった」

 融合機とリーダーは長年の友人のように、短い遣り取りで互いの考えを察し

たようだ。

「それじゃ、始めるよ」

 あの子が開始を宣言する。

 宣言と同時に融合機が消える。

 魔導書に戻ったのだろう。

 私も戸惑っている場合ではない。

 技術士官として見届けなければいけない。

 

 そこから始まった作業は、アレンジという域を超えていた。

 最初、聞いていた話と食い違う。

 もう改変というレベルだ。

 こんなクレイジーな作業を見る事になるとは…。

 それにこのスピード。

 素早く、問題となるデータをデリートし、構築を開始。

 古代ベルカですら、構築が難しい作業をこの子は、疲労した身体と頭で

実行している。

 他の見学の子達は、この凄さが分かってはいないだろうけど、凄い事が

起きているとは分かっているようだ。

 

 食い入るように作業を見届ける。

 集中していた所為もあるだろうけど、その時間はあっと言う間だった。

「終わった…」

 全員が緊張の面持ちで、この子を見ている。

 結果が気になるところだし。

「美海ちゃん!リインフォースは?無事なん?」

 疲れた表情で魔導書を機器から取り出す。

「最善は尽くしたよ。あとは見てみよう」

 主の子は緊張しつつ、魔導書を受け取る。

「リインフォース…」

 魔導書に呼び掛けると、魔導書から光が溢れる。

 光が小さな人型になる。

 いよいよね。

 成功?失敗?

「はやてちゃん!無事に帰って来れたですぅ!」

 

 この時の全員の反応は同じだった。

 

 ええ!?

 

 無言だったけど、確かにみんなの顔はそう言っていた。

 だって、大人の姿だったのに、小さな子供の姿だったんだから。

 サイズの問題じゃなく。

 実際に子供になっていた。

 

「ええっと…。と、取り敢えず無事?でよかったわ…」

 主の声が静寂の室内で響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




 初の活動報告を書かせて頂きました。
 それを見て頂ければ分かりますが、今作品を凍結しようと
 考えています。
 A`Sももうじき終わりますので、それが終了次第凍結と
 なります。
 感想で一番多いのが、飛鷹君不要論。
 最初は例によって無理だと思ったのですが、こうも多い
 なら、彼が居なかったらの話を書いてみようと思います。
 私自身、彼の態度は納得なんですが、普通は彼みたいに
 なりそうだって気がしています。
 動機は別にして。

 キリのいいところまでは書くので、次回も付き合って
 頂ければ幸いです。


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第51話 行く先

 かなり時間が掛かってしまいました。
 最早、毎度になってしまいましたが…。
 それでは、お願いします。


           :美海

 

 目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

 視線を彷徨わせると、どうもアースラの中らしい。

 リニスがこっちを覗き込んでいるのに、そろそろ反応すべきだろう。

「美海!大丈夫ですか!?」

 記憶障害とかはない。

 体調は、もう無理が祟って変調をきたしてるみたいだけど。

 だから、答えはこうなる。

「まあ、ボチボチ…」

「ダメじゃないですか!!」

 いや、頭に響くから。

 顔を顰めて、上体を起こす。

「まだ寝てて下さい!」

 そういう訳にいかない。

「どのくらい寝てた?」

「まだ半日も経っていませんよ」

 それこそダメじゃん。

 私はゴソゴソとベットを降りる。

「だからダメですって!」

「時間との勝負なんだよ。半日も無駄にしたんだから急がないと」

 約束がある。

 寝るのは終わった後でいい。

 幸い魔力は使わなくていい作業だ。

 リニスの制止を振り切るように廊下に出ると、そこには更なる刺客が。

「美海!もう大丈夫なの!?」

 フェイトだった。

 後にはなのは、はやて、飛鷹君が居たが、真っ先に声を上げたのはフェイトだった。

 凄い剣幕で、後ろに続く面々が口出し出来なかったようだ。

「うん。取り敢えず大丈夫」

 サラッと嘘を言って、通り過ぎようとしたが止められた。

「嘘だよね?」

 何故バレる?

 何気なく後ろを振り返ると、そこに般若の猫がいた。

 ああ。これでバレたのか。

「時間ないからさ。目を瞑ってよ。じゃ、そう言う事で」

 一点突破。

 かなりみんなから止められたけど、進んだ。

 約束は守らないといけない。

 なんとか作業を準備している筈の部屋を、局員から聞き出し入る。

 そこから作業を開始した。

 

 で、終わったんだけどね。

 なんでかリインフォースが小さくなっていた。

 

 うん。取り敢えず上手くいったかな?

「いやいや、どういう事だよ、これ!?」

 チッ!無理矢理納得しようとしてたのに…。

 飛鷹君の無用なツッコミで台無しになった。

「ええっと…美海ちゃん…。成功?したんやろか?」

 はやてに訊かれては仕方がない。

「多分になるけどいい?」

 私が確認すると聞かれてもいない人達も頷いた。

 私はアレンジを行う際に、可能な限り怪しいデータを削除した。

 少しでも汚染されたデータが残ると、そこから増殖する恐れがあったからだ。

 リインフォースは、まだ侵食されてはいなかったが、その影響が皆無な訳がない。

 だから、私はリインフォースのデータも調べ上げた。

 そして、案の定怪しい部分を多数発見した。

 リインフォースをそのままにしたら、今度はリインフォースまで飲み込まれる事に

なる。

 それを防ぐ為、それらの怪しいデータを全て削除した。

 それが無くても問題ないレベルでアレンジした。

 おそらくそれが原因だろう。

 では、何故こうなったか。

 私はコアになる部分を残し、極限までデータを削った。

 つまり、リインフォースの根幹部分を残した形だ。

 融合機も流行り廃りがある。

 最初の頃は、あのリインフォースみたいに大人な女性型が好まれたが、後年は燃費のいい

小人型が人気になった。

 まあ、大人の女性型だと問題があったからってのもあるけど…。

 今は関係ないから端折る。

 融合機は造った事がないから断言は出来ないけど、小人型が融合機の原型なのではないか

と思う。

 もう記憶は曖昧だけど、このリインフォースの後釜、確か2だか、ツヴァイだったかも、

このリインフォースを元に造った筈だ。

 つまり経験値やらアップデートしたものを取り除けば、すべからくこうなるんだと思う。

 私は以上の事を説明してやる。

 勿論、後釜の部分は抜いて話したけど。

「つまりは、この姿が原型って事か?」

 飛鷹君が首を捻りながら言った。

「まあ、繰り返すけど、多分ね」

 それよりも確認すべき事があるよね?

「リインフォース。記憶とかどうなん?」

 流石にはやてはマスターだけあって、気が付いたようだ。

 誰よりも早く確認する。

「はいです。いえ、はい?」

 リインフォースはといえば、現状に戸惑い始めている。

「ああ…。喋り易い方で話してくれたらええで?」

「すみません…」

 はやてのフォローに、リインフォースが申し訳なさそうに項垂れる。

「自己診断プログラムを起動したら、やっぱりかなり記憶が失われてますぅ。今の事も朧気

ながら…って感じですかね?魔法に関しては、全て失っています」

 つまり、はやてがマスターである事や、さっきまでの出来事は朧気ながらに覚えている

けど、完全ではない。

 昔の事となると殆ど思い出せないようだ。

「でも、リインフォースには違いないやね?」

「はい…です」

 どうも今の姿の影響で、喋り方が直らないらしい。

 例によって、申し訳なさそうにリインフォースが謝るが、はやてが首を振って言った。

「ええんよ。無事でいてくれさえすれば、それでええ。魔法なんてこれから一緒に覚えて

いったらええんやし。これからもよろしくな!」

「はいです!」

 しかし、元の姿を知っている身としては、違和感が半端ないな。

 私がやった事だとしても。

 

「となると、残る問題は我々の決闘のみとなるな」

 お祝いムードをガン無視した発言が飛び出す。

 こんな事を言ったのは、烈火の将だ。

「悪いけど、暫くは体調が戻らないから、そっちは調整でもしておいて。治ったら連絡する

よ」

 守護騎士連中は少し不満そうではあったが、頷いた。

 連中とて、不調の相手に勝ったって満足しないだろう。

 

「私との話し合いは、ゆっくり時間を取ってね?」

 いつの間にやら来ていたリンディさんが、黒いオーラを発しながら言った。

 

 あっ、そっちもあったね。

 

 

           :リンディ

 

 取り敢えず美海さんとのお話は、彼女の体調が回復してからの話だ。

 私はそれを念押しすると、ここへ来た本題は話す。

「飛鷹君。夫から預かった物を渡してくれる?」

 お互いに、バタバタしていた所為で、未だに受け取れずにいた証拠品を今のうちに受け

取りに来たのだ。

 本当はもっと早く受け取りたかったのだけど、一応投降という立場を取っている5隻の

戦艦の対処に追われていたのだ。

 本艦もボロボロで人員は足りない。

 回収に回せる余裕が一切ない状態だった。

 艦長が持つマスターキーを預かるのに、物凄く苦労したわ。

 まあ、仕方ない事だけど。

「ああ!すいません…。すぐ渡せばよかったですね」

 飛鷹君が慌てて謝りながら、夫のデバイスを渡してくれた。

 見慣れたデバイス。

 私はそれを淡々と仕舞う。

 今は感傷に浸る時ではない。

「ありがとう」

「いえ…」

 飛鷹君が気まずそうに俯いた。

 これは飛鷹君が気にする問題じゃない。

 証拠の件も、夫の件も。

「本当にありがとうね」

 私は心からそう言った。

 飛鷹君はただ黙って頭を下げた。

 

 後で話があると、美海さんに念押しして自室に戻る。

 夫のデバイスからデータを抽出する。

 そして、夫の捜査の全容が見えてきた。

 闇の書の捜査から見えてきた。

 本局の…いえ、評議会の陰謀を。

 闇の書を利用しての暗殺行為から始まり、更に暴走の場所を意図してコントロールする等、

そこから利益を出していた事などが、金の流れとそれに裏付けされた資料とで、詳しく

記されていた。

 金の流れは、管理局を未だに裏から支配する評議会に流れ込み、多額の金は何かの計画に

費やされていた。

 管理局員では、簡単に閲覧出来ない銀行等の資料もあった。

 夫がどうやってここまでの資料を手に入れたかは、分からない。

 でも、そういう伝手を持っていたとしても、驚かない人だった。

 夫はその計画名を探り当てていた。

 その大まかな目的も。

 どこかのメールの遣り取りの膨大なデータから分かった事だ。

 方法論は不明だが、かなり完成していた事が伺える。

 その計画は『オリジン計画』というらしい。

 管理局が、全次元世界を管理する為のシステムを作り上げる計画。

 恐ろしく歪んだ、傲慢な計画だった。

 それの資金調達が、あと一歩のところまできていた。

 それが完成してしまえば、立証する事が出来ない犯罪。

 何故なら、完成してしまえば、誰もそれに反論する事が出来ない。

 いや、使用とすら考えられなくなるというのだ。

 それが精神干渉魔法なのか、それは分からない。

 しかし、それを夫は阻止しようとした。

 ノルドにハッタリを言って。

 闇の書の件のみでなく、全ての証拠を掴んだと匂わせたのだ。

 夫はその段階で1人で殺される覚悟だった。

 夫が死んだところで証拠は、()()()()()()

 当然の事。

 闇の書の事件の裏側を告発する証拠しか、夫は持っていなかったんだから。

 闇の書を利用した犯罪と、資金調達の仕組みの機能を奪い、時間を稼ぐ事。

 これらの証拠が全て合法とは言えない事から分かる通りに、機能を奪う手段

も夫らしからぬダーティーな方法だったようだ。

 大掛かりな詐欺グループに、資金をプールしていた口座情報を流したのだ。

 犯罪者になりすまし、犯罪者を騙す。

 とんでもない事をするものだ。

 巨額の金の情報を掴んだ犯罪者は、巧妙に彼らの資金を食い物にした。

 デバイスには、それを行った事を自白する夫の姿も映っていた。

 全ては、味方が陰謀に気付く為の時間を稼ぐ為。

 私には相談してほしかった。

 頼ってほしかった。

 私は目を閉じて、そう思った。

 

 だからこそ、気付かなかった。

 データの読み込みに違和感があった事を。

 

 

           :ノルド

 

 私は病室から執務室に戻っていた。

 いつまでも寝てはいられない。

 私はもう終わりだ。

 後悔はないとはとても言えない。

 しかし、今は心は穏やかだった。

 通信を知らせるコールが鳴る。

 私は淡々と通信を受けた。

「リンディ提督。何かね?」

 用件は勿論分かっていたが、敢えて尋ねる。

『夫のクライドが残した証拠を入手しました。これでお分かりになる筈です』

「成程。で?どうするのかね?」

『当然、貴方を逮捕します』

 私は淡々と頷いた。

「そうか。分かった」

『それだけですか』

 なんの感情も含まれない声でリンディ提督が言う。

「ああ。それだけだ」

 私も無感情に応じる。

『では、後程』

 リンディ提督はそれだけ言って、通信を切った。

 私は溜息を吐くと、秘匿回線で連絡する。

「私です。後はお願いします。お役に立てず申し訳ありません」

 それだけ言う。

『後の事は心配するな。ゆっくり休むがいい』

 それだけの遣り取りで、通信が切られた。

 引き続き、身辺整理を開始する。

 そろそろ終わるかという時に、ドアが開く。

 2人の人間が入ってくる。

「覚悟は出来ている」

 家族がいない事が唯一の救いだ。

 私は目を閉じる。

 その瞬間がくるのを待った。

「ご安心を。苦しまないようにとのオーダーですので」

 

 そして、私の意識は永遠に閉ざされた。

 

 

           :リンディ

 

 アースラから転送ポートを経由して、本局に戻ると蜂の巣をつついたような騒ぎになって

いた。

 私は訝し気に当たりを見回す。

 嫌な予感がするわね。

 夫が集めた証拠を握り締めて、私は顔を強張らせる。

 すると、レティが向こうから走り寄ってくるのが見えた。

「リンディ」

「何かあったのね?」

 私の傍まできたレティに気になっていた事を訊く。

 レティが苦い表情で頷く。

「ノルド長官が自殺したわ。執務室は綺麗に清掃された状態でね」

 私は思わず舌打ちする。

 すぐに身柄を押さえるように、レティを通じて信頼出来る人員を揃えて貰っていたが、

先手を打たれた訳だ。

「彼の家やデバイスのデータは?」

「家は捜索令状を取って、今、捜索中だけど、途中経過を聞く限り望み薄ね」

「長官ですら捨て駒という訳ね」

 夫の死の責任も、他の犯罪の責任も取らずに死んだノルドには怒りを覚える。

 だが、あっさり切り捨てた黒幕には、憎悪を感じる。

「自殺と言っていたけど…」

 私は湧き上がる怒りを抑え込むと、レティに更に気になった点を訊く。

「察しの通り、遺書があったわ。直筆のね。全て自分が秩序を盤石にする為に、自分が主導

して行ったと」

 あまりに予想通りの答えに、溜息が出る。

「おそらく自宅からは、それを示す証拠が大量に発見させるでしょうね。核心に触れる物は

出ないという徹底振りで」

 そして、向こうに先手を打たれた以上、今回、身柄を押さえる事の出来た連中も、口裏

合わせは完璧なんでしょうね。

「でも、状況はこちらに勢いがあるわ。この機会に可能な限り膿を出し切ってしまいましょ

う」

 レティの冷静な判断に、私も落ち着きを取り戻す。

「そうね。その通りね」

 レティは私の肩に手を置いて、私を先導するように歩き始めた。

 そこに親友の気遣いを感じて、少し嬉しかった。

 

 今は、私に出来る全てをやらないといけない。

 

 

           :グレアム

 

 リンディ達は、クライドが残した証拠を元に本局内から多数の共犯者達を逮捕した。

 ただし、黒幕であろう評議会まではいけなかった。

 それでも、若手が主導したとはいえ見事なものだった。

 私の役割もここまでだろう。

 私も責任を取らねばなるまい。

 私のした事は、捜査妨害に当たるし、証拠の隠匿もしている。

 例え、それが最初意図した結果でなくとも。

 最後は明確に隠したのだから。

 はやてにも本当の事を話した。

 アッサリと許されてしまい、どうしていいのか分からないが、それは私の問題だろう。

 はやてが罪に問われる事もあるまい。

 私は、職場から私物を片付ける作業をしている最中だった。

 そんな時に私の目の前にウィンドウが開く。

『お父様。ハルバートン総長がいらっしゃいました。どうなさいますか?』

 アリアが同期の訪れを告げる。

 同期では、ヤツが一番の出世を果たした。

 本局参謀総長の席にある男だ。

 若い頃は互いに切磋琢磨した間柄だった。

 尤も私は現場に残り、ヤツは参謀になり道は分かれたが。

「通してくれ」

『分かりました』

 アリアの返事と共に、ドアが開く。

 身体の線は細いが、相変わらず貧弱という印象はない。

 若い頃から体型が変わらない。

「辞めるそうだな」

「ああ」

 少しの沈黙が訪れる。

「逃げるのか?」

 ハルバートンの言葉に、私は訝しく思った。

「逃げた覚えはないが?」

「いや、逃げさ。辞める程の事でもないだろう。この危機に」

 危機。

 今、管理局本局は世紀のスキャンダルで、マスコミから集中攻撃に晒されている。

 確かに危機的状況だろうが、それはこれからの若い世代がどうにかすればいい。

「辞めるな。老人の役割は若者から煙たがられる事だろう?いい人ぶって辞める等

言語道断だ。それに私にだけ苦労を押し付ける積もりか?」

「どういう意味だ?」

 苦笑いを浮かべる事も忘れて、訊き返してしまった。

「随分、上がスッキリしてしまってな。回ってこないと思っていたんだが…」

 向こうは苦笑いして言った。

 もしや…。

「そのまさかだ。誰も火中の栗を拾わん。だから私が拾う事になったようだ」

 私の表情を正確に察したハルバートンが、冗談めかして言う。

 だが、声とは裏腹に目は決意に満ちていた。

「だから、お前も付き合え」

「…納得する者など居らんぞ?」

「責任を背負い込む覚悟もないのに、ピーピー騒ぐヤツ等放っておけ」

 回答を迫る目付きだ。

 私は溜息を吐く。

「悪いが、即答は出来んよ。考えさせてくれ」

「荷物まで片付けて、やはり辞めない、は言い辛いか。あまり待てん」

 ハルバートンはそれだけ言うと、出て行った。

 見た目に反して強引な奴だ。 

 参謀等よく務まったものだ。

 

 私はまずは娘達に、相談すべく通信を繋いだ。

 

 

          :美海

 

 夜天の魔導書をアレンジしてから数日がたった。

 私は自宅ベットで唸っていた。

 前回の戦いのツケだ。

 壊して治してを繰り返したのだから当然だ。

 いくらデータを上書きしているとはいえ、何度も上書きすればデータに破損が生じる。

 私の場合は、数日の体調不良で襲って来る。

 当然、守護騎士連中との決闘は延期に次ぐ延期になっている。

 終わった後、リニスと何故かフェイトに凄い剣幕で怒られた。

 おかしいな、既定路線だった筈だけど。

 こんな事言った日には、またしても説教祭りになるので言わないけど。

 

 あれから管理局は大変らしい。

 飛鷹君が確保したリンディさんの旦那のデバイスを受け取ったリンディさんは、電光

石火の早業で動いた。

 リンディさんの旦那が残した証拠は、大したものだったらしい。

 詳細は知らないが、本局上層部が行っていた夜天の書を利用した暗殺やら、その資金

の流れやらで、上層部のかなりの人数が関与していたらしい。

 本局はゴッソリ上が消えて、大騒ぎらしい。

 ただし、肝心の首謀者には届かなかったそうだ。

 向こうが一枚上手だったようだ。

 私には関係ないけど、見舞いに来てくれるなのは達が教えてくれた。

 因みにユーリは、アリシア同様に目を覚ましていないらしい。

 そろそろ不安になってくる。

 事件を1つ片付ける度に、目を覚まさない人間が出るのはキツイものがある。

 護衛の2人も倒れそうになっていたとか。

 イリスは、取り敢えず空の魔力結晶に突っ込まれて大人しくしているらしい。

 取り調べには、一切答えない状況なんだとか。

 管理局お疲れ。

 フローリアン姉妹は、取り調べにも協力的で、執務官殿の口添えもあり、重罪は回避

出来る模様だとか。

 はやて達は、逃走の恐れなしとして拘束はされていないが、ちょくちょく呼び出され

ているようである。

 私にも出頭しろと五月蠅いみたいだが、フェイトにお願いされたリンディさんが、

体調不良を理由にお断りしてくれている。

「美海、大丈夫なの?」

 そんな事を考えていると、今生の母上が部屋に入ってくる。

「まだ回復してない」

 ここは素直に言って置くべきところだ。

 何より粗方片付いたから無理する必要がない。

 この人達を護れてよかったよ。

「フェイトちゃん達がお見舞いに来てくれたわよ」

 あの子達も義理堅い事だね。

 毎日来なくてもいいのに。

 私は上がって貰ってほしいと頼むと、すぐにみんなが入ってきた。

「美海。具合はどう?」

「美海ちゃん!大丈夫?」

「お邪魔します」

「おう!来たぞ!」

 フェイト、なのは、はやて、飛鷹君がそれぞれ言う。

「まだダメだね。もう暫くは寝てないとって、昨日言った通りだよ」

 みんなが苦笑いする。

 この反動が出ている時は、ジッとしているに限る。

 ここで無理すると、更に時間が掛かるのは前世で証明している。

「それでなんだけどね。今日来たのは用件があったからもあるんだ」

 フェイトが真剣な表情で言った。

「どんな事?」

 はやての様子から、リインフォースに問題が発生した訳じゃないようだし…。

「管理局の新しい人事が決まったんだけどね。新しい本局の長官が私達に会いたい

んだって」

 私の方は用がない。

「グレアム小父さんの頼みやし、無碍にもでけへんのよ」

 はやてが困り顔で言った。

 私が拒否するのも織り込み済みなんだろうな。

 それはそうと、件のグレアム小父さんとやらは、管理局の人間であるにも関わらず

はやてを保護していた人物だ。

 最初ははやてを生贄にしようとしたが、のちに心変わりした男だ。

 夜天の魔導書の事件にケリが付いた為に、はやてにも全てを話したらしい。

 はやては素直に感謝して、終了したそうだ。

 グレアム氏は罵倒も覚悟していた筈で、アッサリ感謝されて罵倒されるよりキツイ

想いを、内心ではしているだろう。

 引き続き援助は続けていく事になったそうだ。

 だが!私はフェイト以外には貸ししかない!という事にしておこう!

 頭に浮かんだシーンを、もう何度目か削除して話の続きを促す。

「どんな話かは、まだ分からないけど、会ってみようと思うんだ。美海も付いて来て

くれないかな?」

 フェイトが上目遣いに頼んでくる。

 私は顔が引き攣るのを感じた。

 この子には明確に借りがある。

 フェイトに頼まれると断り辛い。

 え?リニスにはって?リニスは私と一蓮托生の間柄だからノーカンだ。

 という事にしておく。

「……分かった」

 これで借りは返してたという事でお願いします。

 全員、何故かホッとしているのを見て、私は重い溜息を吐いた。

 

 それからみんなが、楽し気に今日の出来事を語る内容を、私は殆ど聞いていなかった。

 鬱だ。

 

 

            :なのは

 

 美海ちゃんに外出許可が出たのは、更に数日掛かった。

 美海ちゃんはクリスマスだったんだから、丁度いいんじゃない?と言っていたけど。

 それでも出て来た美海ちゃんは、あまり調子がよさそうじゃなかった。

「美海。延期して貰う?」

 美海ちゃんの横にいるフェイトちゃんが、心配そうに話し掛けている。

「延期すれば、立ち消えになるなら考えるよ」

 美海ちゃんは投げ槍に答えている。

 心配と言えば、私の横を歩いている飛鷹君もだ。

 ジッと考え込む事が、最近増えた気がする。

 悩み事なら相談してくれてもいいんだけど…。

 はやてちゃんは守護騎士のみんなを連れて来ている。

 当然なんだろうけど、ヴィータちゃん達は警戒心剥き出しでピりピりしている。

 もう、自首扱いになっていて、逃げる事がないと判断されたって、一番偉い人が話

たいって言われると緊張するよね。

 そして、約束された転送ポイントへ到着しました。

『ごめんなさいね。態々来てもらって』

 ウィンドウが表示され、リンディさんが申し訳なさそうに言った。

 リンディさんは途中の転送ポートでの待ち合わせです。

 それから私達は一瞬のうちに転送される。

 目の前にリンディさんが立っていた。

 相変わらず魔法なのに科学っぽい感じが不思議。

 実は機械とか好きな私は、アースラとかこういう施設に興味があった。

「まさか新長官が、貴女達に直接会いたいなんて言うとは思わなかったのよ」

 リンディさんも困惑気味だった。

 少しなんの話をされるのか不安。

「で?どんな人なんです?新長官って」

 飛鷹君が真っ先に知りたい事を訊いてくれた。

「本局の体質を変える事に、前から賛同してくれていた人よ。だから貴女達に不利益

な事は言わないと思うわ。そこは安心していいと思うわ」

 リンディさんは、私達を安心させるように微笑んでそう言った。

 フェイトちゃんやはやてちゃんはホッとした様子だけど、美海ちゃん、飛鷹君、

ヴィータちゃん達は表情を変えなかった。

 そこから何回か転移してやっと本局へ到着。

 遠いところなんだって、今更気付いた。

 

 入館パスを臨時で発行して貰って、いよいよ面会。

 流石にベルカの戦乱を経験している美海ちゃんやヴィータちゃん達は、平然と警戒を

続けている。

 飛鷹君も警戒しているのか、表情が硬い。

 秘書みたいな人が迎えに来てくれて、案内してくれた。

 幾つもセキュリティー付きの扉を潜り、やっと目的の場所に着いたみたい。

 そこには、男の人が1人立っていた。

 白髪頭だけど、顔の皺は殆ど目立たないから若く見える。

 身体の細いけど、引き締まっている感じ。

 優しそうな顔で、少しホッとした。

 この人が、新しい管理局の長官さんだろう。

「よく来たね。私が長官なんていう肩書きを貰ったアンディ・ハルバートンだ」

 長官さんは、笑顔でそんな事を言った。

 アレ?嬉しくないのかな?

 出世したんだよね?

「ハルバートン長官。流石に貰ったというのは…」

 リンディさんが苦笑いで、長官さんを注意している。

「まあ、長官になるなんて野望を持つ程、若くないからね」

 そう言って、長官さんはソファーに座るように私達に言った。

 やっぱり、出世したのに嬉しくなかったんだ。

「今回の事は、迷惑を掛けてしまい、申し訳なかったね」

 長官さんは真剣な顔で頭を下げた。

 私やフェイトちゃん、はやてちゃんは慌てたけど、美海ちゃん達は醒めた目をして

いた。

「で?本題は?」

 美海ちゃんの声は冷たかった。

 それに全く動じずに、長官さんは頭を上げた。

 

「管理局に入って貰えないだろうか」

 長官さんは、私達を真っ直ぐに見詰めて言った。

 

 

          :レジアス

 

「以上が今回の件に関する報告になります」

 ワシは今回の件に関する報告を、オーリスから聞き終えた。

 概ね予想の範疇に納まった形になるだろう。

 ユーリ・エーベルヴァインの事は残念だが、この先どうしても必要という訳でも

なくなっている。

 惜しくはあるが、割り切れるレベルだ。

「亡霊は帰還したのか?」

「はい。任務は滞りなく完了したと」

 ワシは一つ頷いた。

「で?()()()()()()()()()()()()()()?」

「任務中に失踪など、よくある事のようです」

 オーリスの他人事のような声を聞きながら、目を閉じる。

「家族がいれば、それとなくサポートしてやれ」

 オーリスが敬礼で応える。

 それからオーリスを下がらせると、秘匿回線を繋ぐ。

「私です」

 それだけで通じる。

『それでどうだ?クライドの残した証拠とやらは』

「ご懸念には及ばないようです。アースラに潜ませていた亡霊が探り出したところ、

皆様にまで捜査が及ぶ事はありません」

『クライドのお陰で大分計画に遅れが生じた。遅れは取り戻さねばならん。分かるな?』

「承知しております。ところで、本局の新長官は、少々五月蠅い御仁のようですが?」

 通信の向こうで沈黙が降りるが、それが笑っているような気がする。

 おそらく気のせいではあるまい。

『何も問題はない』

 ただそれだけあの方は言った。

 続く説明を待ったが、それっきり説明はなかった。

 ワシが知る必要がないという事か。

「承知しました」

 だが、察しは付く。

 

 それから2・3確認事項を確かめた後、通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 




 リインに関しては、元々ツヴァイのような感じだったのでは?
 と思ったのが、始まりです。
 何しろ、リインの残したものから造られた訳ですし、記憶も
 ある程度、見せられたリしていましたし。
 だから、外見のデータと魔法や経験のデータを排除すると、
 ああなると思いました。

 計画に関しては、ストライカーズで詰める予定だったので、
 ツッコミはご遠慮下さい。
 リメイクではマシに作り直し…たいと思います。
 色々。

 残すところあと一話で終了となります。
 気長にお待ち頂けると幸いです。


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第52話 未来

 時間が掛かりました。
 これでA`Sは終了です。
 結構駆け足したんですが…。

 それではお願いします。


           :美海

 

「管理局に入って貰えないだろうか」

 この長官とかいう爺さんは、ふざけた事を言った。

 まあ、予想しなかった訳じゃない。

 だけど、やっぱり思う。

 は?管理局に入る? 

 何言ってるの?

 私は呆れながらも、冷ややかに爺さんを見た。

「アンタ等のお陰で地球が大分危なかったんだけどな?」

 飛鷹君も冷ややかにそう言った。

 どうやら彼も私と同感らしい。

 世界の危機だったにも拘らず、海鳴で避難した人達は大らかだった。

 オーロラが見れたと喜んだらしい。

 日本でもニュースになった。

 正確な報道はされなかったけど。

 それでも、一歩間違えば滅びの危機だったのは、確かなのだ。

「言いたい事は分かるよ。残された我々に責任がないなどという積もりは毛頭ない。

 だが、秩序の維持は必要な事だ。それを正しく全うする事が償いになると信じて

いる。それぐらいしかないんだがね、実情は」

 長官とかいう爺さんが苦々しくそう言った。

「それと勧誘してるのは…」

「勿論、ここにいる全員に対してだよ。夜天の騎士達に君も無罪放免とは流石に

いかないが、管理局への協力義務を数年付けるだけに出来るだろう」

 私の確認を遮って、爺さんが答えてくれた。

 やっぱりそうか。

「重要な事だ。今すぐ返事を貰おうとは思わない。ゆっくり考えてみてほしい」

 私が丁度断りの返事をしようとしたのを、察知したように爺さんが私の言葉を遮る。

 流石に経験豊富な事で。

 しかも、話はここまでといった雰囲気を持たせる事で、即断りをさせなないばかりか、

しつこく迫って好感度を下げるのも回避したな。

 本題はそれだけだったようで、私達は退室する事になった。

 すぐ客を帰すのもなんだと思うけどね。

 

 まあ、居たくないからいいか…。

 

 

           :飛鷹

 

 アッサリと向こうが引き下がり、面会は終了した。

 もっとしつこく勧誘してくるかと思ったけどな。

 組織の立て直しが必要ってのも分かるけどな…。

「もしかして、リンディさんは今回の話、知ってました?」

 何気ない感じで綾森がリンディさんに尋ねた。

 リンディさんは苦い顔で首を振った。

 知らなかったか。

 管理局員だから、長官が言っていた事も分かるけど、このタイミングで勧誘っての

も納得してない感じだな。

「ごめんなさいね。突然、こんな話する事になってしまって…」

 リンディさんは申し訳なさそうに謝った。

 なのはやフェイト、はやてが慌てたように気にしていない事を告げた。

「それじゃ、サッサと出よう」

 綾森はマイペースだった。

 なのは達がフォロー中だったにも拘らず、ぶっちぎりやがった。

 で、帰ろうとした時、シグナムが綾森の前に立つ。

「残りは我等の決闘だな」

 シグナムがそんなことを言い出した。

 そう言えば、そういう約束があったよな。

「今からやる?」

 全てが終わったらやるという約束だったが、結局のところリインフォースを助けた後、

解散してしまい。

 決闘を遣らなかったんだよな。

 守護騎士達も何も言わなかったから、忘れてたぜ。

「今やるくらいなら、リインフォースが助かった段階で主張したさ。騎士ならば、万全

の敵を倒してこその誉だ。回復したら教えろ。その時こそ決着を付けよう」

 綾森は半眼で頷いた。

 その様子は呆れているようでもあった。

 お人好しだとでも思っているのだろう。

「分かったよ。そっちがそれでいいなら、そうしよう」

 綾森は外人みたいに肩を竦めて言った。

 だが、直後に綾森の肩に手が置かれる。

「忘れるところだったわ。なら、お話は出来るわよね?お話しましょうか?」

 リンディさんがにこやかに綾森の肩を掴みながら言った。

 顔はにこやかだが、オーラがどす黒い。

 

 抵抗も空しく綾森は連れ去らせていくのを、俺達はただ見送っていた。

 

 

           :シグナム

 

「それで…ホントに私等も参加せんでええの?」

 主が不満そうに言った。

 我等を家族として考えてくれるからこそだと分かっているが、今回ばかりは我等の

因縁だ。

 主に助けて貰う訳にはいかないし、リインフォースもこれには関係ないので遠慮して

貰った。

 ようやく年も明けて、ヤツの体調も整ったらしい。

 連絡があった。

 正々堂々と決着を付けてくれる。

 私は勿論、ヴィータもシャマルもザフィーラも決闘に向けて調整は万全だ。

 小細工はなしだ。

 全力でぶつかるのみ。

 

 不満気な主とリインフォースと共に家を出る。

 いよいよ、始まる。

 

 

           :美海

 

「本当に私も加勢しないでいいんですか?」

 リニスが何度目になるか分からない、質問をしてくる。

 いくら私の守護獣になったとはいえ、あの連中との因縁は前世の話でリニスは関係

ない。

 手を貸して貰う義理がないし、必要もない。

 体調も戻り、決闘に耐えうる状態にようやくなったから、連絡するとやる気満々な

返事が返ってきて、今日に決闘を行う事に相成った。

 決闘にははやては勿論、なのはやフェイト、それに飛鷹君も来る。

 立会人という程、大袈裟じゃないけどね。

 私は特に気負う事なく家を出た。

 あまりに緊張感なく家を出たので、リニスが思わす私を見送りそうになった程だ。

 慌てて付いてきたけど。

 それで先のセリフになる。

「負けると思ってる?」

「いえ…。そういう訳じゃありませんが…」

 心配してくれているのは、分かってるよ。

「だったら、任せてよ。前世にいたバケモノに比べたら、あんな連中くらい楽なもん

だよ」

 私に槍を教えてくれてくれた雷帝の弟とか、剣の館にいた師匠とか、化物揃いだった。

 チートを鼻にかけてた私の鼻を見事に圧し折ってくれた。

 相手をしたヤツにも化物だったヤツはいた。

 アイツとか。

 それに比べれば、楽と言ったのは嘘じゃない。

 病み上がり?みたいなもんでも。

 それでテクテク歩いて決闘の場所へと辿り着いた。

 ここは公園内でも基本誰も来ない高台である。

 程よくスペースもある。

 海が見える為、物好きなカップルが来るくらいだ。

 高台には、もう守護騎士連中が待っていた。

 腕時計を確認しても、まだ約束の時間30分前だ。

 フェイト達まで勢揃いしている。

 まあ、私もアップしようと思ってたから早く来たんだけどさ。

 流石に私のアップくらいは待ってくれるようなので、のんびりとやる。

 赤いハンマーがなんか舌打ちしているが、無視だ。

 終わった事を告げると、フェイトとなのは、それに飛鷹君まで結界を張る。

 そんな厳重にやらなくていいんだけど…。

 そんな事を考えつつ、騎士甲冑を纏う。

 剣は雷霆剣を選択した。

 つくづく精霊鋼で出来ていたあの剣を呑まれたのは、惜しい。

「それでは、私、リインフォースが決闘の立会人を務めさせて頂きますぅ」

 ちっちゃくなったリインは、まだ話し方が治らず顔を顰めていた。

「はやてちゃ…主がコインを投げて、地面に落ちたら開始とします。いいですね?」

 守護騎士連中と私は異論なしと頷く。

 はやては緊張した面持ちで、コインを弾いた。

 空中でクルクルとコインが回り、地面に当たりコインが跳ねる。

 

 私は一気に加速して間合いを詰める。

 それだけで発動した湖の騎士の風の戒めを置き去りにしていた。

 準備してたのは分かってたから、回避なんて楽なもんだ。

 そして、セオリー通り鉄槌の騎士が突っ込んでくる。

 いくら凄腕の魔導騎士とはいえ、得物が戦槌では攻撃パターンは丸分かり。

 戦槌を躱し、カウンターを入れずに通過。

 舌打ちが聞こえる。

 カウンターを入れようとしたら、自在に攻撃出来る烈火の将が私に攻撃する算段

だったのだ。

 つまり、承知の上で鉄槌の騎士は囮になった訳だ。

 更にそれで終わりじゃない。

 自由度に置いて烈火の将を上回る盾の守護獣が、殴り掛かってくる。

 私はゴツイ拳の勢いを利用して、守護獣を投げ飛ばす。

 背後から迫っていた2人に向けて。

「「「っ!!」」」

 咄嗟に後ろから迫る2人の動きが鈍る。

 守護獣の方も投げられたからといって、地面に叩き付けられる前に身体を捻って、

足から着地して投げのダメージを回避した。

 その隙で十分。

 私の狙いは湖の騎士なんだから。

 ここまでで一瞬の出来事のように、湖の騎士は感じている筈だ。

 あくまで騎士といっても、後方支援に特化しているヤツだから。

 その一瞬でガードが居なくなり、自分が無防備な状態になって、湖の騎士が目を見開く。

 だが、向こうも伊達に騎士を名乗っていない。

 動揺を一瞬でねじ伏せて、防御魔法を展開する。

 当然、デバイスの関係で風の属性魔法。

 私はそれを見た瞬間に背を向けた。

 私は既に魔法を放った後なのだ。

 私が振り返れば、丁度3人がこちらを攻撃するところだった。

 アッサリと私が3人に向き直ったので、背後からの援護があると思っただろう。

 だが、私は難なく反撃に転じた。

 背後からドサリと音が聞こえた。

 湖の騎士が倒れたのだろう。

 私が放った魔法は窒息乱流(ナイトロゲンストーム)

 風に護られている自分が、まさか窒息するとは思わなかっただろう。

 風を操ろうが、酸素濃度が計れる訳じゃない。

 地味だが、私は結構重宝している魔法なのだ。

 守護騎士はプログラムではあるが、人間と同じく呼吸もするし、存在している時は人間と

変わらないのだ。

 私の一閃を守護獣が獣の形態に戻って躱す。

 アンタは最初からそうすべきだった。

 人形態の武術に自信があるが故に、戦う時に人化する。

 守護獣が着地する前に、地面から魔法の鎖が放たれ守護獣を拘束する。

 ストラグルバインド。

 ミッド式の魔法だが、リニスの教えが役に立った瞬間だ。

 ご自慢のパワーは、魔力に寄るところが大きい。

 簡単に抜け出す事が出来ずに、守護獣が戸惑っている。

 そこに同時に前衛2人が守護獣の救援に入る。

 だが、向こうは大技は使えない。

 拘束された守護獣、気絶した湖の騎士が巻き込まれる。

 その為に乱戦に持ち込んだんだから。

 私は戦槌を振りかぶった鉄槌の騎士を、剣の一閃で牽制して戦槌が振り下ろされるタイミング

を遅らせる。

 手首を返し、剣を引き戻すと同時に鉄槌の騎士の腕を取り、烈火の将の盾に使うと、一瞬に

して関節を極めて破壊した。

 普通なら戦槌がすっぽ抜けるところだが、平然と片手で保持している。

 流石に歴戦の騎士だけあって声一つ上げずに、片手で戦槌を振り下ろそうとする。

 この細腕でも見た目に騙されてはいけない。

 魔力強化された腕力は、あのマッチョな守護獣に負けないのだ。

 だからこそ、威力が期待出来なくても当たれば骨くらいは折れてしまうだろう。

 だが、私は動かない。

 狙いは見えている。

 目の端に烈火の将が、回避予想位置にスッと移動している。

 それでも鉄槌の騎士は、動揺も見せずにこっちを潰しにくる。

 雷霆剣に電光が走ると同時に、剣が消えたと錯覚する程のスピードで動いた。

 引き戻した剣の存在は覚えていただろうが、こっちも近距離。

 頑丈な自分なら耐えられると思っていただろう。

 だが、とんでもないスピードで放たれた斬撃は、近距離にも拘らず鉄槌の騎士の残った腕ごと

頭に振り下ろされた。

 凄まじい衝撃音が響く。

 それでも倒れない。

 私は腕を破壊した腕で、(フェン)を籠めて掌底を打ち込んだ。

 鉄槌の騎士も流石に口から空気を吐き出し、吹き飛んでいった。

 そのタイミングで、烈火の将の剣が迫るが、雷霆剣に阻まれた。

 鍔迫り合いもなく、両者距離を取る。

 烈火の将は苦い顔だ。

 もっと早く救援に入る積もりだったのだろうが、私が早過ぎた。

 

 さて、残り1人。

 

 

           :飛鷹 

 

 綾森が強いとは知っていた。

 二つ名を持つヤツはバケモノだと言っていたが、本当の事だな。

 守護騎士も強いが、アイツは自分の土俵に立てば別次元な強さだ。

 本当に一瞬と言っていい高速戦闘で、あっと言う間に守護騎士3人が戦闘不能になった。

 残るはシグナムだけになってしまった。

 それにしても…騎士ってイメージの戦い方じゃないな。

 誰かが、勝つ為なら剣も投げるし、噛み付きもするなんて言ってた気がしたが、まさになんでも

ありなやりようだ。

「ああ、それは綺麗すぎる平和になってからの考えですね」

「!?」

 俺は思わずビックリしてリインフォースの方を見てしまった。

 どうも声に出ていたらしい。

「そうなのか?」

 なんか漫画読むと、ベルカってそういうイメージだったんだが…。

「はい。飛鷹さんのイメージ通りの方もいらっしゃいましたが、大体は生き残る為に必死の時代

でしたから、略奪もしましたし、目潰しや卑怯といわれるような事もやっていたのですよ」

 リインフォースは、自分のあやふやな記憶を思い出すように言う。

 その所為か、ちょっと自信無さ気な感じだ。

 でも、言われてみれば当然かもな。

 勝たなきゃ全て失うような時代だもんな。

「でも、立ったまま関節技とかやるんだな」

「それは態々戦場で寝っ転がる騎士なんていませんよ」

 俺の言葉に苦笑い気味に、リインフォースが言った。

 俺が納得して頷いている間に、勝負が動いた。

 

 シグナムが鋭い踏み込みで、綾森に迫ったのだ。

 将というだけあって、シグナムの剣技は鋭く強い。

 しかもとんでもなく速い。

 歴戦の勇士って感じだ。

 一方、綾森はといえばそれ程速いとは感じない。

 にも拘らず、気付けば流れるように動いていて、シグナムの剣を受け流している。

 シグナムが一方的に攻めているが、全く攻撃が通じない。

 綾森は余裕でシグナムの剣を捌いている。

 まるで達人が胸を貸しているような図だ。

 千日手になっていたが、シグナムが攻撃の手を止めた。

 綾森もその隙を突いて攻撃に転じたりしない。

 シグナムも何故攻撃しないなどとは訊かない。

 綾森も何も言わない。

 

 暫くの静寂の後、シグナムが剣を上段に構えた。

 あれは…紫電一閃か?

 だが、綾森の構えは相変わらず変わらない。

 シグナムが神速の踏み込み。

 やはり紫電一閃!

 でも、実際本気で放たれた一撃は、剣が霞むように掻き消えるように見えた。

 まさに一撃必殺。

 金属が擦れるような悲鳴が()()()()()

 気付けば2人は一撃を放った姿勢のまま、交錯を済ませていた。

 だが、シグナムの手にレヴァンティンは握られていなかった。

 レヴァンティンがどうなったか考える余地もなく、レヴァンティンが天から落ちて地面に

突き刺さった。

 綾森の構えから推測すると、おそらく綾森は上段からの斬り込みに下段から斬り上げたのだ。

 技は綾森の方が遅かった筈だ。

 にも拘らず、競り勝ってしまう剣技。

 圧倒的な差だった。

 シグナムが素早く拳を握り締め、振り返り殴り掛かる。

 綾森は背を向けたままだ。

 拳が容赦なく綾森の後頭部を振り抜こうと迫る。

 だが、その拳は空を切った。

 再びの交錯があったのだ。

 綾森は剣を振り抜いた姿勢で残心。

 シグナムはゆっくりと前のめりに倒れ込んだ。

 起き上がる気配はない。

 俺は無意識に拳を握り締めていた。

 何が起きたのかは、大体の想像が付く。

 シグナムが拳振るった時には、綾森は振り向きざまにシグナムの胴を薙ぎ払ったのだ。

「それまで!決着を見届けさせて頂きました。勝者・綾森美海!」

 リインフォースが冷静に宣言し、決闘は終了した。

 

 そして、目を覚ました守護騎士達に敗北した以上、今までの事を水に流す事を誓わされ、

ザフィーラ以外の守護騎士は渋面になっていた。

 ここまでボコられたら、異論は言えないだろうしな。

 気持ちは分かるよ。

 

 

           :美海

 

 私の圧勝から数日。

 お正月を迎えて、穏やかな日々を送っていた。

 守護騎士連中は、思いっ切り不満そうだが、今までの事は水に流して忘れる事を誓った。

 まあ、表面上はどうにかするだろう。

 向こうも歳は無駄に食っている訳だし。

 ユーリは目覚める気配はない。

 アリシアも相変わらずだ。

 こっちもアリシアの事もあるし、調べてみた方がいいのかもしれない。

 上手くすれば、目を覚ます方法を見付けられるかもしれない。

 管理局が出来ない以上、私が介入する事も視野に入れないといけない。

 あっちに任せて、何もしてないし。

 管理局と言えば、回答を迫られてたっけ。

 管理局への答えは、私の方は決まっているので、呑気に家で餅を食べていたりする。

 真剣に悩んでいるのは、フェイト達4人だろう。

 フェイトは受けるのかな?

 私も薄れているとはいえ、流石にフェイトが管理局の執務官になった事くらい覚えている。

 だけど、こっちには異物が2人もいるし、管理局プレゼンツの嫌な思いもしたから、どう

なるか不明だよね。

 あの子の事だから、リンディさんに義理立てする可能性もある。

 リンディさんといえば、あの後猛抗議だった。

 相手にして疲れたが、あれだけ本気でフェイトの事を考えてくれるなら、やった甲斐も

あっただろう。

 なんにしても、あの子の決める事だ。

 私はそれを尊重する。

 これから関係を解消しないといけなくなろうとも。

 そしたら、アリシアの事くらいは関わった責任として、どうにかしよう。

 

 夕方。

 自宅でまったりしていると、家の電話が鳴った。

 当然の如く、私は出ない。

 母上が電話を取る気配がした。

「美海ちゃ~ん!フェイトちゃんからお電話よ!」

 うん?なんだろう?

 特に約束もしてない。

 私は怪訝に思いながらも電話を代わった。

『もしもし、美海?フェイトです』

 緊張した声が受話器から聞こえる。

「うん。で?どうしたの?」

『今からちょっと時間あるかな?』

 何やら深刻な様子だし、私は承諾して電話を切った。

 母上と父上に出掛ける旨を伝える。

 リニスには、キチンとフェイトが話があるらしいから出掛けると伝えた。

 夕方でも日が落ちるのが、早い。

 空から雪がちらつき始めている。

 これは長々話せそうにないな。

 待ち合わせ場所へ早足で急ぐ。

 到着すると、フェイトがアルフを連れて待っていた。

 アルフは最近習得した子犬フォームで、犬の散歩に偽装しているようだ。

 こんな色の犬がいるのだろうか?

 バレないみたいだし、海鳴だし、みんな気にしないんだろうな。

「ごめんね。呼び出して…」

 フェイトが申し訳なさそうに言った。

 私は気にしてないと手を振って応えた。

 このまま立ち話する訳にもいかないし、歩きながら話す事にした。

「それでどうしたの?」

 フェイトが言い辛そうにしているので、私が促してやる事にした。

 フェイトは決心したのか、私を見て口を開いた。

「私、管理局、入ろうかと思う」

「そうか…」

 そうなるんじゃないかとは、思った。

 色々と可能性を考えていたが、リンディさんの事を考慮しない子じゃないから。

 私は口を挿まない。

「管理局にダメなところとか、怪しい部分があるのは、()()()()()()() から

聞いてる。だからこそ、私で手伝える事があるなら、やりたいと思う」

 母さんか。

 順調に絆を構築出来ているみたいだね。

 安心した。

 もう、私が関わる必要はないだろう。

 この子は、もう本当に私なんて必要ない。

「だから、美海にも手伝ってほしいの!」

 はっ!?

 私は思わず何言ってんの!?って目で、フェイトを見てしまった。

「ああ!勘違いしないでね!頼りっぱなしにはならないから!寧ろ支え合いたいって

いうか…」

 あわあわパニック状態になっているフェイトを見て、私は冷静さを取り戻せた。

 自分以上にパニックになっている人を見ると、冷静になれるって本当なんだね。

 流石は未来の執務官。

 私を落ち着かせるとは、やるね。

「レヴィもそれを望んでるって思ったんだ」

 パニックの果てに、なんか意外な名前が出て来たよ。

「レヴィが私に力をくれたのも、レヴィ自身がもっと美海と一緒に居たかったから

なんじゃないかって思うんだ。レヴィ、言ってたよ。美海の料理食べたかったって。

 多分、私がこの先も美海と一緒だと思ったんじゃないかと思う」

 アイツ、ディアーチェの激ウマ料理食べてたのに、私の普通飯食べたかったのか?

 色々と謎なヤツだ。

「それに、私が管理局に入ったら、美海は私達と距離を置くつもりなんじゃない?」

「……」

「だと思った。美海ならけじめは付けるだろうと思ったよ。だから、管理局じゃなくて

私が大変な時に手を貸してくれないかな?リンディ母さんの話だと、嘱託魔導士って手

があるんだって!嘱託魔導士は管理局の職員って訳じゃないから、嫌なら仕事を断る事

も出来るんだって」

 いやいや、あっちだってそんなので手を打つ筈ないよ。

 私の言いたい事が伝わったのか、フェイトが更に言葉を重ねる。

「だから、交渉する。私が入局する代わりに、美海は一協力者扱いにしてって」

「いや…、別に私に気を遣う必要はないよ。いざとなればなんとでもなるし」

 フェイトが私のセリフを聞いて、顔を曇らせる。

「それって、また私達と距離を置くって事だよね?」

「まあ、それが妥当でしょ?」

 フェイトはやっぱりと言わんばかりに、溜息を吐いた。

「私はそんなの嫌。美海は言ってくれたでしょ?後悔しないようにって。私は美海と

一緒にいたいの。リンディ母さんやクロノ、アリシア、勿論、なのは達とも」

 随分と強い眼光だこと。

 これは頷くまで終わらない感じかな?

「私、欲張りになるよ」

「そっか。でも交渉はしなくていいよ」

「でも!」

 私はまあまあと宥める。

「確かにね。ずっと敵のままにしとくのも面倒だしね。自分でやるよ、交渉」

 ただし、嘱託の線は譲る積もりはない。

 これでも、弱小国の王様やってたんだ。

 飲ませてみせるよ。

 って、だったらフェイトの申し出も断れよって感じだけど…。

 この子が関わりたいと決めた以上、私も頑張らないといけない。

 フェイトだけだと、なんだか普通に身動きとれなくなってそうだし。

 引き続き関係継続なら、手を貸さない訳にいかない。

 どうも信用が出来ない組織に感じるし。

「私は交渉するから、フェイトは管理局を少しでも居心地いいとこにしといてよ。

 そうすれば、入局する未来もあるかもしれないしさ」

「うん。約束する。一緒に頑張ろう」

 フェイトは少し仕様がないなって顔で頷いて言ってくれた。

 そこからはただ雪が舞う中を、2人で無言で歩いた。

 

 どうも、この子のお願いに弱くなってきたような…。

 これは気にしてはいけない事だろう。

 取り敢えず、そう思う事にした。

 

 

           :飛鷹

 

 決闘から数日、正月を迎えていた。

 本当なら、リインフォースは消える筈だったが、今回ビックリな姿で無事だ。

 それは目出度い事だし、はやてにとってもいい事だ。

 なのは達は結構頻繁に携帯で話して、管理局の件を相談しているようだ。

 何故、ようだなんて表現になるかというと、俺は参加していないからだ。

 あの決闘は、俺にも覚悟を決めさせた。

 本当なら胡散臭い管理局の謀略からなのはを護る為、俺も不本意ながら入局

するしかないかとか、考えていた。

 だが、()()()()()()()()()()

 俺がなのは達と並ぶ為には、何もかもが足りない。

 それでもなのは達のサポートは、出来る限りはする積もりでいる。

 なのは達が入局しようとしまいとだ。

 

 俺は庭でアバン流の剣の型をなぞっていると、母さんが俺を呼びに来た。

「浩介。アンタに電話よ。なのはちゃん」

 俺は無言で頷いた。

 もしかして、用件は管理局の件かもしれない。

 電話に出ると携帯が繋がらなかったから、家に掛けたと言われた。

 そういえば、携帯部屋だわ。

「ちょっと、遅い時間だけど、今から会えないかな?」

 なのはの真剣な声に、俺は予感が的中した事を覚った。

 

 待ち合わせ場所に行くと、既に雪がちらつき始めていた。

 そういえば、原作でも進路の話をする時、雪が降ってきてたな。

 なのはは先に待っていた。

 男としては先に着いていたかった。

 ここらも俺がまだまだな証拠なのかもな。

「済まない。待たせちまって」

 俺が声を掛けると、なのはは全然と首を振った。

「待ってないよ。私がもう表を歩き回ってただけだから、先に着くのは無理だったと

思うよ?」

 なんでもさっきまでフェイトと一緒だったらしい。

 それは無理だわな。

 俺は苦笑いする。

「で?どうした?」

 俺は本題をズバッと聞く事にした。

「うん。私、管理局、入る事にするよ」

 もう決心は固まっているんだな。

「かなり怪しい感じだぞ?」

「分かってる。でも、リンディさん達と知り合っちゃったんだもん。放っては置けない

よ!」

「それは管理局員じゃなくて出来るんじゃないのか?」

「ううん。それだと今回みたいに仲間外れにされちゃうよ」

 仲間外れか。

 妙な言い方だけど、言いたい事は分かるな。

「だから、関わらないとダメなんだ。それにね!夢が出来たの!」

「夢?」

「そう!伝えたいんだ。私の魔導もシュテルの魔導も」

 シュテルのも?

 なのはは俺の言いたい事を察したのか、言葉を続ける。

「うん。シュテルが私に力をくれたのも、美海ちゃんの助けになってほしいっていう

部分は勿論、伝えたかったんじゃないかなって思ったの」

 確かに。

 聞いた話だと、なのは相手に手加減する余裕まであったらしいからな。

 それ程の力の持ち主なら、受け継ぎたいと思ってもおかしくはないか?

「だから、管理局がおかしいんなら、それを直す手伝いをしたいの。私の夢はそれから

かな?」

 結構、遠い道程だな。

 原作以上に。

「それで、飛鷹君はどうするの?最近、全然お話してなかったから、気になって…」

 それがなのはの方の本題だったんだな。

「俺は…入らない。今はな」

「今は?」

「そうだ。今はだ。今の俺じゃ、なのは達の隣には立てない。だから、修行しようと

思うんだ。士郎さんには、実はもうお願いして、OK貰ってるんだ」

「ええ!?」

 なのはが驚く。

 実は俺から口止めしてたんだ。

 自分の口で説明したいからって。

「本格的にやろうと思う。今の俺じゃシグナムに勝つ事さえ難しい」

 まして、守護騎士を全員相手取る事など不可能だ。

 だが、綾森はそれを簡単にやった。

 最後の戦いは魔力量の関係で苦戦していたが、手段を択ばなくなった綾森は、手を

借りたとはいえ、殆ど自力で解決した。

 俺がどれ程の役に立ったのか。

 その問いの答えが修行をする必要がある、だった。

 それも本格的にだ。

 今までが温過ぎた。

 諦めるなんて考えていない。

 どうなるか不透明になってきたストライカーズを乗り切る為にも、ここは腰を据えて

望むべきだと思ったんだ。

 それよりも前に、なのはの撃墜は起きるかも気になるが、どっちにしても力がいる。

「だから、追い付くから。待ってくれないか?」

 なのはは、仕様がないなぁとでもいいたげに苦笑いした。

「1つだけ言わせて。飛鷹君が居てくれたから戦い抜けたと私は思ってるよ」

 嬉しい事言ってくれるな。

 だが、なのはは1人でもきっとやれただろう。

 それでも…。

「ありがとう」

 俺の言葉になのははどう致しましてと返した。

「待ってるから」

「ああ。追い付くさ、絶対に」

 俺達はそれから並んで帰った。

 なのはを送って行ったのは言うまでもない。

 

 そして、高町男衆に前倒しで修行させられて、ボコボコにされた事も言うまでもない。

 

 

           :はやて

 

 電話でなのはちゃん達と話した。

 2人は、もう決めたようやった。

 私も2人の言葉を聞いて決めた。

 グレアム小父さんの事もあるしな。

 なんや、私の所為で随分肩身の狭い思いしとるらしい。

 シグナム達は自業自得や、言うとるけどな。

 私は感謝しかない。

 経緯がどうあれ、最後には私の為に動いてくれた事は間違いないんやし。

 それに王様の願いもあるしな。

 

「主。考え事ですか?」

 突然、声がしてビックリしてもうたわ。

「すみません。何度も声は掛けたのですが…」

 シグナムが申し訳なさそうに言う。

「いや、ええんよ。こっちこそ、ごめんな。で?何?」

「管理局の事を考えていらしたのですか?」

「まあな。でも、決めたで」

 シグナムが私の表情から何か読み取ったのか、顔を顰めた。

 私の言葉が聞こえたのか、リビングにいた残りのみんなも集まってくる。

「入るのですか?」

 シグナムが代表で訊いてきた。

「うん。一番の親玉が無事いう時点で、危険やいう事は分かっとるよ。でも、多分、

逃げられんと思うんよ」

「御望みとあらば…」

「管理局から逃げ切れるん?シグナム達かて今回は家がバレんように、頑張ってた

んやろ?本気出した組織相手じゃ、逃げる事なんてでけへんよ」

 みんなの顔が曇る。

 私は慌てて手を振って、みんなの所為やないと言うた。

 管理局もこのまま物理的に逃げたら、追ってくるやろうし、そしたらグレアム小父さん

にも迷惑が掛かる。

 事によると、なのはちゃん達にも迷惑が掛かるかもしれへん。

 みんなともキチンと友達になったしな。

 そんな不義理はでけへん。

「それにな。癪やん」

「「「「「癪?」」」」」

 私は頷いた。

「逃げるやなんて、負けたみたいやん。キチンと罪を償って、みんなで護らなあかん。

私は今回護られるだけやったけど、今度は私がみんなを護る番や。なのはちゃん達の為

にも、美海ちゃんの為にもな」

「アイツの?」

 ヴィータ、顔に不満が滲み出とるで?

 負けて悔しいんは分かるけどな。

「美海ちゃんには、王様の魔法は夜天の魔導書に取り込んでもろうたからな。私も王様

の力を受け継いだと言ってええと思う。なら、王様の想いを汲んでやらなな。

 なのはちゃん達もサポートしたいと思うし」

 なのはちゃん達の下りは、みんな肯定的やな。

 まあ、こればっかりは時間掛けなな。

 2人は現場志望やし、私は2人のサポートとして幹部候補生っていうのになろうと、

思うとる。

 美海ちゃんは私自身も友達になったと思うとるし、何より王様が最後まで心配しとった

からな。

 代わりに、私が美海ちゃんのフォローも出来るようになりたい。

 2人よりはよ出世して、みんなをフォロー出来る立場を目指す。

 そう言えば、飛鷹君と美海ちゃんどないするんやろか?

 飛鷹君は、多分、なのはちゃんと一緒に行くやろうけど…。

 肝心の美海ちゃんはどうなんやろう?

 王様の杖は、不思議な事に夜天の魔導書に魔法をコピーした段階で、いつの間にか

なくなっとった。

 形見としてとっておこうと思ったんやけどな…。

 それはそうと、後でフェイトちゃんに確認しとかな。

 そんな私の気持ちも、みんなに伝えて、みんなに一定の理解はしてもろうた。

 最後にみんなもいつもみたいに、一緒に付き合ってくる言うてくれた。

 これから頑張らなな。

 

 そういえば、美海ちゃんと飛鷹君はどないするんやろか?

 

 

           :美海

 

 結果的に言えば、3人娘は管理局に入る事にしたようだ。

 フェイトは知ってたけど、改めて後日、残り2人の進路を聞いた。

 入る理由はそれぞれ。

 頑張ってってところだけど。

 意外だったのは、飛鷹君だった。

 彼はどうも修行するらしい。

 勿論、嘱託魔導士の資格を私同様取るらしい。

 これで、本当に…って言うのは止めて置こう。

 フラグだし。

 私の交渉はどうだったのかって?

 成功したよ。

 誰かが、外交は戦争だと言ったそうだけど、まさにその通り。

 ()()()()()()()()()()

 根回し(主にグレアム爺さんとリンディさんが担当した)して、いざと望んで快く承知

してくれた。

 いや、話が分かる人で助かったよ。

 2・3面白い話をしたら、分かってくれたよ。

 で、基本、私はフェイトからの要請がないと出ない。

 

 

 で、そんなこんなで月日が流れて。

 私と飛鷹君は屋上で、リインフォースといた。

 3人が中学校の制服のまま、駆け込んでくる。

「嘱託を待たせないでよ。アルバイトなんだからさ」

 私が茶化すと、3人共、冗談交じりに怒った。

「時間通りだよ!美海!ちょっとサボったら、またリニスが怒るよ!?」

 こんなに早く来れた事に不審を感じたらしいフェイトが、少し後半ホントに怒り気味に

言った。

「美海ちゃん結局、引っ張りだこで私等より稼いどるやないか!」

 これははやて。

 勿論、本心ではないのは分かるが、引っ張りだこなのは私の所為じゃない。

 グレアムの爺の所為だ。

「いくら楽しみだからって、サボりはダメだよ!?」

 これはなのは。

 楽しみは嫌味だろう。

 随分と擦れたね、君は。

「俺の方は、前の授業が歴史だったからな。早く終わったんだよ」

 1人いい子になったのは、飛鷹君。

 あの歴史教師は、平気で10分前に授業を終わらせる。

 彼も中学生になって、逞しくなった。

 なんでも、なのはのお兄さん達の仕事で、見事に歌姫を護り抜いて、頬にキスして

貰ったらしい。

 その後、なのはにその頬を殴られたらしいが。

 この2人は、ある事件を境に随分と()()()()()()

 なのは達はといえば、進路はバラバラになった。

 なのはは武装隊へ。

 そこから戦技教導隊入隊を狙う。

 フェイトは捜査官へ。

 そこから執務官を目指している。

 はやては幹部候補生として、あちらこちら研修しているとか。

 はやてが一番、夢に近いと言えるかな。

 私と飛鷹君は相変わらず嘱託魔導士のままだった。

 そろそろ入局しないとフェイトが拗ねるが、嫌な事は出来るならやりたくないものだ。

 飛鷹君は、奥義を習得するまでは入局しないと言っているそうだ。

 どうも、なのはの家の武術の奥義習得を目指しているらしい。

 守護騎士は基本武装隊の仕事をしているようだ。

 最近では、少しくらいは話が出来るくらいに関係が改善されている。

 事務的な話だけど。

 そして、今日は珍しく全員が顔を合わせて、同じ仕事に取り組むのだ。

「それじゃ、ここでいつまでも話してる訳にはいかないからな。そろそろ準備しようぜ」

 飛鷹君が正論を言う。

 みんなで円陣を組むように立つと、デバイスをそれぞれ取り出す。

 ああ、みんなで一緒にやるの?

 気恥ずかしいものだね。

 

「「「「「セ~トアップ!!」」」」」

 

 青空に魔力光が輝いた。

 

 

           :医師

 

 目の前に金髪の少女が寝ている。

 アリシア・テスタロッサ。

 意識は収容された時から戻らない。

 管理局から碌に事情を説明されていない。

 検査では異常は見られない。

 あとは精神的なものとしか考えられない。

 少しでも原因の手掛かりが欲しいのに、管理局からは何もない。

 しかも、この少女だけでなく、この前、有名人も同じ状態で運ばれてきた。

 貴重な子供時代を、こんなところで寝て過ごすなんてね。

 どうにかしてやりたいが…。

 私は取り敢えず、異常がないかを調べる。

 今日も異常は見当たらない。

 溜息を吐いて、私は部屋を後にした。

 

 その時、私は気付かなかった。

 この少女の指がピクリと動いたのを。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これで取り敢えずキリよく終わったと思います。
 散々、書き切る覚悟と書いたのに、忸怩たる思いですが、
 立ち止まる事にしました。
 廃棄するかどうかはまだ分かりません。
 
 次は美海が1人だけオリ主として存在したら?
 という感じで書きます。
 でも、最初、少し暗い展開になるのは避けられないと思い
 ますが…。

 もし気が向きましたら、次のやつも覘いてやって下さい。
 ありがとうございました。


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