もぐらとテストと召喚獣 (冬目 ゆうら)
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もぐらとプロローグとキャラ設定

もぐらが来た時期は学園祭直前の、アニメでいうと1期5話あたりです


_______なんと清々しい朝であろうか。

 

茶髪の少年、吉井明久はたっぷりと降り注ぐ朝の光に目を細めつつ、近場の公園に置かれたイナ●マイレブンの絵が描かれた時計を覗いた。万年金欠の彼が、腕時計などという大層なものを持っているはずもない。

 

8:56

 

少年は穏やかな顔で一人、ぽつりと他愛も無い言葉を漏らした。

 

「遅刻も、たまには....ね☆」

「あ・き?」

 

明久の背後には、ニッコリと笑った赤髪の美少女が立っていた。長くなめらかな赤茶髪を黄色いリボンでまとめ上げ、スカートからは細くて健康的な生足が伸びている。胸の辺りはひらぺったいが、それ以外は完璧と言っていいほどスタイルがいい。

 

「おらあ!!!」

「アッーーーー!!」

 

▽明久はスープレックスをかまされた!

 

明久の身体は三日月のような軌跡を描き、彼の脳天は我らが母なる大地にめり込む。

母なる大地よ...嗚呼....

 

「あんたのせいよ!なんで自転車で突っ込んできたのよ!」

「いやごめんて、余所見してて気付かなくって...少女漫画によくあるじゃん」

「自転車と歩行者じゃ洒落になんないでしょ!」

「そんな怒んないでよ...まず美波は無傷じゃん...僕もまさか自分の自転車が美波のパンチで大破するとは思わな腕がなんかありえない方向にアッーーーー!!」

 

美波と呼ばれた少女が、最早何も語るまいと明久に肘十字固めを極めた。少女は笑みを浮かべてはいるものの、その目は微塵も笑っていない。怖い。

 

二人がこのような状態に陥ったのは、現在から丁度三十分の出来事に起因する。

 

 

 

 

____「そういえば最近近くに教会みたいな建物できたよなあ...でも教会なんて今時作られるもんかな?」

 

明久がシャコシャコと音を立てて自転車のペダルを回す。

明久は普段徒歩で登校するのだが、今日彼が自転車を利用した理由は、"なんとなく"などという優柔不断なものでは一切ない。

彼はここの所、街の北側に新設された教会のような建物に興味を惹かれていた。

教会などという非日常的な建物は、齢16の少年の好奇心を掻き立てるには充分すぎる代物なのである。

 

「......やはりあの建物は.......ラブホに違いない!!!!」

 

____ラブホテル。別名愛の巣。明久はその神聖な施設を生で見たことこそ無いものの、クラスメイトのムッツリーニこと土屋康太から、それはまるでお城や教会のような幻想的な見た目をしていると教えられていた。

現代において、街中に教会が建てられるなど不自然だと考えた明久は、教会のような建物がラブホなのではないかと踏んだわけだ。

 

「...登校ついでに近くまで行って観察する必要があるな」

 

少年は●ルゴ30と仇名が付いても頷けるような凛々しい顔付きで、建物に熱い眼差しを送った。思春期の男子の健全な反応だ。

明久の若干吊り上がった口角を、鼻から流れ出た赤い液体が濡らす。

 

「うわっ口に鼻血入った!拭こ」

 

...以上、事故直前の状況である。

 

 

「ちょ、わっ!!」

「へ?」

 

ガシャーーーーーン!!!

 

 

 

 

********

 

明久と美波は肩を落とし、すごすごと校舎の廊下を歩いていた。彼等が向かうはFクラスの教室だ。

もうどのクラスも既にホームルームを終え一時限目を始めた様子で、二年の廊下は嫌に静まり返っている。

....彼等の目的地以外の話だが。

 

「美波、なんかうちのクラスから知らない女の子の声しない?」

「あ、ほんとね...そういえば今日、Fクラスに転校生が来る日じゃなかった?」

「え!そうなグェーッ!!」

「何嬉しそうにしてんのよ!すぐ女の子にデレデレするんだから!」

「今ツンデレ要素いらな今日僕三本は折れてる気があ"あ"あ"あ"」

 

男女が廊下で絡み合うというとなんだか卑猥に聞こえるが、現状はそんな生易しいものではない。

おそらく頻繁にプロレス技が見られる高校は、ここ文月学園ぐらいであろう。

 

「おーーい!」

「あ、あの子かな?」

 

呼びかけに気付いた美波が顔を上げると、教室内からこちらに向かって笑顔で手を振る少女の姿が見えた。右手に、彼女の小柄な体格には随分と不釣り合いなゴツいスコップを持っているのが気になる所ではあるが、その場でピョンピョンと飛び跳ねるその仕草は、見ているだけでなんだか微笑ましい気分になる。

 

ガララ。

 

明久がげっそりとした表情で、建て付けの悪いFクラスの教室の扉を開けた。転校生の紹介により若干スケジュールが遅れたのか、先生は教壇に登る最中で、一時限目の授業が始まる直前のようだ。教壇に立つ西村先生...もとい鉄人が、二人をジロリと睨む。

 

「ラッキー!セーフですね!」

「アウトだ!!!」

 

鉄人の声と共に、明久が教室に勢いよく足を踏み入れた。

 

__________刹那。

 

 

「ん?」

 

\\スコーン//

 

 

唐突に明久の足元が崩れ、彼の体がボッシュートした。

クラスの誰もがおよそ想像していなかった事態のようで、教室中の空気が一瞬固まる。

 

「先生幾ら何でも酷いです!」

「いや誰だよ教室に落とし穴作った奴!!!」

「これは草」

「mg(΄◉◞౪◟◉`)プギャーwwww」

 

 

教室に突如現れた落とし穴にツッコミを入れる者、ひたすら欲望のままに爆笑する者、人々の声が入り乱れ、教室の内部は混沌と化す。

 

ガタリ。

 

教室中に広がった喧騒を搔き消したのは、一人の少女が立ち上がり、机代わりの段ボール箱が擦れた音だった。

水晶の如く透き通るオレンジ色の髪が、甘い香りを放ちながらゆらゆらと揺らめいた。

 

少女の華奢な手が、彼女頰の真横でピースサインを形作る。

清宮もぐらははにかみ、ただ一言、他愛もないその一言を、鈴のような可愛らしい声に乗せた。

 

 

 

_______「てへぺろ☆」

 

 

 

********

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

清宮もぐら

 

 

性別:女

年齢:16歳

身長:153cm

得意科目:地理、日本史、世界史、現代社会

趣味:穴掘り

 

穴掘りの芸術家・アナホリストを自称する変人少女。穴を心から愛しており、芸術的な穴を掘るのが彼女の生涯における目標。

よく言えば天真爛漫、悪くいえばアホな性格。大抵の事に対してあっけらかんとした態度で対応でき、彼女が取り乱す姿は滅多に見られない。

こういうタイプの例に漏れず神出鬼没だが、穴の話をすると高確率で出会うことができる。

 

聖職者の家系であり、司祭として日本に帰国することになった兄に付いてきた。実家はイタリアのバチカンにあり、父親が枢機卿なのでそれなりの権力を持つ。

現在は兄と二人暮し。

 

決して勉強ができないわけではないが、穴掘りに集中してテストを受けないという愚行を繰り返しているため万年Fクラス。結局アホ。

実家の影響か社会科目、特に地理に関してとにかくずば抜けており、地理では名だたるAクラスの猛者を押しのけ堂々の学年トップ。地理の成績最高1252点、最低654点。化け物の領域。常に成績は400点以上な為腕輪を所持しており、彼女の召喚獣には空間を歪める特殊能力が付与されている。

 

何故か買ってきたストッキングがすぐのびのびになってしまうため、ガーターベルトで留めて着用している。

...のびのびになる原因は言うまでも無い。

 

 

清宮遥希

 

【挿絵表示】

 

 

性別:男

年齢:18歳

身長:182cm

趣味:妹

 

文月学園付近に新設された教会の神父で、もぐらの兄。

普段は紳士的で物腰柔らかな聖職者を絵に描いたような態度を取っているが、その正体はシスコン変態野郎。なまじイケメンだけにもったいない。

もぐらに近付いた男は一人残らずぶち殺す勢いで脅してくる他、えっちなものは全てもぐらの目に触れないよう徹底的に隠すため、もぐらの羞恥心が極端に少ないのは大体こいつのせい。

頭は非常に良く、学力試験を行えば教師並の学力を垣間見ることができる。




私の高校の近くにはラブホがあります(謎報告)

もぐらの兄は変態野郎なのでその分イケメンにしました
色ぬり3分クオリティ&バストアップのみの雑仕様でごめんねもぐら兄!!


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もぐらと穴と召喚獣

リーンゴーン....

 

「んー...くぁ」

 

教会の鐘の音が一日のはじまりを告げる。ベットの周囲を覆う淡いオレンジの天蓋越しに、少女は時計の針が指し示す数字を確認した。

 

_____清宮もぐらの一日は早い。

 

 

 

「兄さまー!もぐらのストッキングを知りません?」

 

もぐらはドタドタと教会の階段を駆け上がり、勢いをそのままに二階の兄の部屋の扉を開けた。

もぐらは昔からよく衣類を無くす。しかもストッキングやパンツ、下着類だけ。

もっとも、元々もぐらは失せ物が多い性分なので、本人はあまり気にしていないが。

 

「おはようもぐら。」

部屋の先のベランダから、黒の修道服に身を包んだ青年が姿を現す。

丁寧に切り揃えられたもぐらとお揃いの色の髪を揺らし、青年はその整った顔に微笑みを浮かべた。

 

「部屋はちゃんとノックして開けなさい。女の子の嗜みだよ。」

青年は、右手に持っていたティーカップを置き扉の前に歩み寄ったかと思うと、もぐらの髪を梳くように撫でる。彼の紫の瞳に反射したもぐらの顔が、子犬のような笑顔を浮かべた。

この青年の名は清宮遥希。もぐらの兄である。

 

「それより朝のお祈りは済ませたかい?制服に着替える前に聖堂で祈りを捧げてきなさい。ストッキングは僕が探しておいてあげるから」

「ありがとうございます兄さま!今日は穴掘りにちょうどいい公園を見つけたから早めに出たいのです!よろしくなのです!」

 

ニコニコと手を振り彼の部屋から離れるもぐらを見送り、青年は溜息を漏らした。

...彼にとって、こうして肝を冷やすような出来事は日常茶飯事だ。それさえも、彼にとっては興奮する為の材料でしかないが。

遥希はもぐらが部屋に入って来た時、咄嗟に服の下に隠したストッキング....そう、もぐらのストッキングを出し、食い入るが如く眺めたあとキスを落とす。そして、そのままストッキングの香りを3分近く堪能した。側から見ると、その様子はとても気持ち悪い。キモい。重要なことなので二回言いました。

 

(これは今日着るストッキングだったか....どうりでマイエンジェルもぐらたんの残り香が薄いなあと)

 

遥希はもう一度ベランダに出て、大きく深呼吸した。

白く塗装されたロココ調の手すりに手を置き、真っ青な大空を仰ぐ。そして叫んだ。

 

「もぐらたんぺろぺろォーー^p^ 」

 

これが彼の日課である。

そしてこれが、人畜無害そうに見える彼の本性なのである。

 

 

 

********

 

 

「清宮さん」

「なにですか明久くん」

「なにですかじゃないよ!!!教室中に落とし穴作るのやめようよ!!!!」

 

明久は叫んだ。そう、穴の中から。

彼が穴に落ちたのは本日3回目だ。3ボッシュート目だ。

 

「ここの教室床が脆くて掘りやすいですよ!」

 

もぐらがウインクしてキラッと星を飛ばした。

その表情はどこか得意げで、丈の短いスカートは誘惑する様にひらひらと揺れている。

 

「掘りやすいとかの問題じゃないわよ!教室が忍者屋敷みたいになっちゃってるじゃない!」

「見え....見え....あ"あ"あ"あ"あ"」

「現にムッツリーニが利用しておるしな」

 

もぐらが開けた穴からスカートの中を盗撮しようと潜伏していた康太を、美波が勢いよく踏みつける。

事の惨状を観察していた秀吉が、呆れの混じった溜息をついた。

 

もぐらが転校して来てからの教室は、床を観察して慎重に動かなければ穴に嵌るという罠部屋と化していた。

もぐらが穴を掘ることは生理現象と同等のため彼女が過ごす教室内が穴だらけになるのは、もはや決まった運命ではあったのだが。

 

「そういえば、前から疑問だったんですが、ここは二階ですよね?どうやって穴を掘っているのですか?」

「確かに!不思議よね...」

 

しゃがんでいた瑞希が穴の中に落ちた明久を覗きつつ、唇に指先をあてがい立ち上がった。瑞希の問いかけに、彼女の隣にいた美波もコクコクと頷く。

床に穴を開けるとしても、現在地は二階なので一階の下の部屋に落ちるのが常であろう。それなのに、もぐらの作った穴には底があり、一階まで落ちるのを防いでいる。まるで空間を歪めて穴を作ったようだ。

 

「んー...それはですねー.......明久くん」

「え、僕?」

「黒金の腕輪使ってください!」

 

もぐらは美波や瑞希と同じようにしゃがみ、穴に嵌ったままの明久を覗き込んだ。二人が彼女の動きを興味深く観察する。

明久は言われるがままに黒金の腕輪を使い、召喚フィールドを展開した。

黒金の名を冠するだけあり、普通に先生が展開する召喚フィールドよりも黒を帯びた空間が、もぐら達を中心に教室の三分の一を包み込む。

 

_____黒金の腕輪は、もぐらの転校直後に行われた文化祭で明久が手に入れた道具だ。学力が高いと不具合を起こして壊れてしまう為、使える者は現状究極の馬鹿である彼だけなのだ。

 

召喚フィールドが展開したことを確認すると、もぐらは右手のスコップを前方に突き出した。

 

「サモン!!」

 

もぐらの凛とした声と共に、修道服に身を包み地球儀のような球体に乗った召喚獣が姿を表す。

 

「かわいいです!」

「これがお主の召喚獣か...」

「あれ?この子、腕輪してるわ!」

 

その姿を見た者が各々口々に感想を言い合う中、美波がもぐらの召喚獣の右手にはめられたそれに気が付いた。

美波の視線に、もぐらがふんぞり返る。

 

腕輪は実力者の証。どの教科にせよ、一つの教科で400点を越える点を取ることが可能な実力の持ち主にのみ与えられる、召喚獣に特殊効果が付与できる便利アイテムなのだ。

 

つまりこの事実は、もぐらがどれかの教科で400点以上を取る実力がある、才女であることを証明していた。

 

「もぐらの召喚獣、腕輪の力で空間を歪められるですよ!」

 

もぐらと召喚獣はシンクロした動作でぴょんぴょんと飛び跳ねて、その美しい橙髪をゆらゆらと揺らす。

もぐらの召喚獣が空間を歪めて落とし穴を掘りだしたので、明久が召喚フィールドを収束させた。

それを見計らってか、美波がガシリともぐらの手を握る。

 

「もぐらちゃんって頭良いのね!瑞希ちゃんと同じように振り分け試験に出られなかったの?」

「いや、試験のときにもぐらのアナホリストの血が騒いだです。だから試験会場脱走して穴掘ってたらこのクラスに決定してたです!」

「あほ」

「あうっ」

 

もぐらの返答に、美波がチョップをかました。

とは言っても、明久に普段向けている暴力の十分の一にも満たない、大幅に手加減したものだが。

もっと上位の、もしかしたらAクラスにさえいける可能性を、彼女は自ら投げ捨てるどころか丸めて満塁ホームランで宇宙の彼方までかっ飛ばしたのである。

美波の頭に天才と馬鹿は紙一重、ということわざが浮かんだ。

 

「穴の素晴らしさが理解出来ないとは難儀な...」

「あ、もう少し...」

「もしかしてパンツ見たいです?もぐらの見せてあげるですよ」

 

踏みつけられて顔面に靴跡がつけられても尚覗きを諦めない康太に、ついさっきまで腕を組んで溜息をついていたもぐらが、仄かに笑いかけてスカートの裾を摘む。もぐらの短いスカートは、ストッキングを支えているガーターベルトの面積を、普段より多く晒させた。

 

 

ブッシャアアア!!

 

その言葉と動作は、上級者すぎて妄想のみで鼻血を噴出できる康太にはあまりにも刺激的であったようだ。血の噴水が出来上がった直後、彼がいたはずの穴は血の海と化していた。

 

「穴の中に血溜まりと人肉...猟奇的で印象的な素敵な作品なのです!」

なにやら物騒な言葉とともにキラキラと目を輝かせているもぐらを他所に、穴から這い上がった明久は、ふと思い出したようにパッと顔を挙げた。

 

穴に嵌ったせいで危うく忘れるとこだった。ここに雄二がいないのは、霧島さんを誘いに行ったからだったっけ。

 

_____彼が思い出したのは、わざわざ美波達のところに話しかけに来た理由だった。

 

「そこの女子三人!」

 

明久がひらひらと手を振る。

もぐらと美波、それに加えワンテンポ遅れて瑞希が、明久の呼びかけに気付いて視線を移した。

 

 

 

「僕プール掃除のついでにプール貸切で遊べることになったんだよ!一緒に行かない?」

 

 




ペロペロォーーー^p^

次は水着回です。


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もぐらとプールと水着の楽園___

夏の日差しが少女の真っ白な柔肌を焼く。

さらさらと風に揺れる琥珀色の髪が、光を受けて煌めいていた。

 

翔子ともぐらが、日向で待っている明久達の元へ歩み寄る。普段は日光にさらされることのない少女達の玉肌は、光を反射して彼女達の存在を一層際立たせていた。

...ついでに胸のサイズも。

 

「おおー!」

「...なんか...二人共以外と大きいわね...」

 

「私はCよ」

「もぐらのカップもCなのです!」

翔子と共にもぐらがふんす、と鼻を鳴らし、自らの胸を寄せて強調した。敗北感に打ちひしがれる美波の後ろで鼻血が飛び散っている。

もぐらの着ている水着は、オレンジ色を基調とした大きなリボンとたくさんのフリルで装飾されており、夏の季節感を演出しつつもどこか清楚な印象を受ける。流石は聖職者。

もぐらや翔子のスタイルを隅々まで観察した美波が、よろけながら立ち上がった。

 

「Charme des Mädchens Brust ist nicht. Toller Mensch mit einem großen Herzen Verstand ist wichtig....」

 

説明しよう!島田美波は一年前ドイツからきた帰国子女であり、余裕がなくなると、喋る言語が馴れ親しんだドイツ語になってしまうぞ!

 

「あああぁあぁぁ...!!!」

 

「雄二は他の女の子見ちゃだめ」

怒涛の勢いで翔子に目潰しされた雄二が、断末魔をあげてもがいた。明久が、悟りを開いた菩薩のような表情で二人を眺める。

 

.....雄二。南無。

 

 

 

 

夏の日差しが照りつける午後、明久達はなんとかプール掃除を終え、掃除したてのプールで早速泳ぐことにした。各々浮き輪で遊んだり、日陰で休んだり、恋人をプールの底に引きずりこんで窒息させたりと、この状況を最大限に楽しんでいる。

弾け飛んだ水飛沫が光を受けて宝石のように輝き、少年少女の髪を濡らした。

 

「もぐら泳ぐです!!うおおおおおお」

 

他の女子達がビーチボールなどで遊ぶ中、もぐらが一人だけ物凄い速度でバタフライしている。プールを一回往復するのに12秒もかかっておらず、その様子はまるで魚雷のようだ。

 

「もぐらちゃんって泳ぎ得意なんですね〜!」

「もぐらはゴボッ水泳部にも勝てゴボゴボ!」

「泳ぎながら喋るでない!」

 

プールの西側で遊んでいた女子二人...もとい女子一人と秀吉一人が魚雷(もぐら)の泳ぎっぷりを眺める。もぐらと彼女がたてる水飛沫により、プールの一角はまるで戦場だ。

プールサイドで発狂しドイツ語を永遠と呟き続けていた美波にも水飛沫がかかり、美波が正気を取り戻す。

 

「Brust ist nicht erforderlich Größe ist kein problem....はっ...ここは....!?」

「あ!もぐらだー!ボクと勝負しようよー!」

 

キョロキョロと辺りの様子を確認する美波をよそに、ペタペタとプールサイドを歩く足音と共に、ショートの緑髪少女、工藤愛子が現れた。

 

「愛子ぼぼごぼ〜!遊ブクブクブ」

「うん!今着替えてくるよ!待っててね!」

「なんで頑なに泳ぎ続けるんじゃ!一旦止まれば良いではないか!」

 

バタフライしながら返答するもぐらに突っ込む秀吉。水上においてはこれがもぐらの通常運転なのか、愛子はこの状況に驚きすらしていない。

 

___愛子ともぐらの関係は、親友と言っても過言ではない。愛子は、もぐらが転校してきて一番最初にできた友達であり、現在は休日ほぼ毎日一緒に遊ぶ仲だ。二人とも水泳が好きという共通点もあり、最近では愛子が頻繁にFクラスの教室に遊びにいく姿も目撃されている。

 

「工藤さんと清宮さんってやっぱり仲良しだね〜」

「穴掘りのおねえちゃんはやーい!」

「転こボボブベしてブクブクブ初めてできたともだゴボゴボブクブクブ!」

「日本語が成り立ってないよ!」

 

美波の妹葉月と共に、明久がもぐらがいる隣のレーンに泳いできた。隣のレーンからでももぐらが起こす水飛沫の影響は大きく、勢い良く降りかかる飛沫に、葉月はイルカショーの水かけのノリではしゃいでいる。

愛子は女子更衣室へ向かおうとしたところで、何を思い付いたか意地悪な笑みを浮かべ、踵を返した。

 

「あ、女子更衣室を覗くなら、バレないようにね❤︎」

 

ぶしゃあああ!!

 

愛子がウインクして星を飛ばす。もちろん冗談なのだが、その言葉に思春期真っ盛り系男子の明久と康太は秒速で撃沈した。

ついでにプール内を縦横無尽に泳ぎまくる魚雷、もといもぐらに跳ね飛ばされ、鼻血が宙に舞い散る。大破。

 

その様子を微笑ましそうに眺めていた愛子が、はっと思い出したようにもぐらに手を振った。

 

「もぐら!きてる水着ってスク水?」

「ビキニボボボボブク!」

「あちゃー....男子はちょっと更衣室に移動してくれないかな?」

「?」

 

 

愛子が苦笑して、男子に呼びかける。

状況が掴めないまま頭に疑問符を浮かべる明久の横で、康太はピタリと動きを止めた。

彼が動きを止めたわけ、それは水面に浮かぶソレを目視してしまったからである。

オレンジ色の、フリル付きの...

 

「あれ、水着じゃ....」

「バ●ス!!!」

「あああああ目が!!目がああああ!!」

 

翔子が、雄二の目に指を突っ込む。

好きな人に他の女の子の裸を見せるのはやはり嫌なようで、翔子はその小さい頰を膨らませた。雄二はひたすら世紀末のような断末魔をあげており、雄二付近だけホラー映画のワンシーンのようだ。

翔子も目潰しで死にかけている雄二を引きずって更衣室の方角へ歩みを進める。

 

「ゴボゴボ?」

 

辺りの様子にもぐらが動きを停止させた。

康太が反射的にカメラを構えるも、妄想だけで血溜まりを作ってあえなく卒倒する。

 

デザイン重視の取れやすい水着で本格的に泳いだら、一体どんな状況に陥るかは、どんなバカでも簡単に予想ができる。だが、本能に生きるもぐらがそんなことを思慮するなど全く無いわけで。

 

もぐらの体が水面に浮かんできた。

愛子を始め、その場にいる人間が慌てふためく。

彼女は現在裸である。今彼女が水面から出れば、その華奢な体をありのままに男子含め大勢の前で晒すことになる。本人は全く気にしてないが、それでは彼女がお嫁に行けなくなってしまう。

 

 

__________刹那。

 

一陣の風が、プールサイドを通り抜けた。

 

 

「もぐら。女の子なんだからそこらへんは気を付けなきゃダメだよ。」

「誰!?」

「あれ?兄さま?」

 

一人の人物が、男子の視界からもぐら(裸)を遮るように、風のように現れた。整った顔立ちが、穏やかな微笑みを浮かべる。

 

「鼻血出てますよ」

「しっかり水着に着替えてるし」

 

そこにいたのは、オレンジ色の海パンに白のパーカーを羽織った、橙髪の青年だった。若干瞼の下がった澄んだ紫の瞳に、通った鼻筋と形のいい唇。普通に彼を見かけたら、女子は思わず二度見してしまうであろう、神の恩恵を一身に受けたが如き美青年だ。

...鼻から大量の血が流れ出ていることを除けば。

 

現在の彼はもぐらに背を向けてはいるものの、息遣いが非常に荒く、全体的にキモいという印象を受ける。夜間に遭遇したら、例え自分が男でも間違いなくポリスにもしもししてしまうだろう。

 

「これは鼻血ではないよ。此処にいる天使の美しさを讃え、我らが神が与えたもうた聖水だ」

「この人全体的に頭がおかしいわ!」

 

真顔で鼻血を噴出しつつ天を仰ぐ遥希に、美波が嘆くように叫ぶ。

蛙の子は蛙ならぬ、アホの兄はアホである。

遥希が騒いでいる間に瑞希がもぐらの水着を拾い、慌ててもぐらに着用させた。

 

「瑞希、ありがとうございます!」

「水着って取れやすくて困っちゃいますよね〜」

 

「純粋培養すぎるのもよくないな...だがマイエンジェルに穢らわしいえっちな知識など」

「誰ですかあなた」

「あ、ごめんね!もぐらの兄だよ」

 

言葉を遮られ我に返った遥希が、コホンと咳払いし、外面である穏やかな微笑みを明久に向けた。

 

「今度もぐらのお色気描写をみたらぶち殺すよ」

「外面脆すぎかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

ガタ。

 

「あれ、このバスケットは?」

 

プールサイドをよろけながら歩いていた雄二が、物音に気が付いて荷物を置いているベンチの方に視線を移した。

雄二が隙間からバスケットの中身を覗こうとしたところで、彼の後ろに黒い影が這い寄る。

 

「雄二の目、回復したのね。もう一度潰す」

「あ"あ"あ"あああぁぁ」

 

「あ、それ私のです!失敗しちゃって人数分用意できなかったので黙ってたのですが...」

 

ひとつの悲劇の誕生とともに、瑞希が照れ臭そうに手を挙げた。プール全体の空気が固まる。

時は7月、夏真っ盛りにも関わらず、明久達の間に流れる空気は非常に冷たい。

 

「わあすごいね!こんなに綺麗なカップケーキ、君が作ったの?」

「ありがとうございます!よければいかがですか?」

「部外者の僕が食べちゃっていいの?」

「皆さんいいですよね?」

 

瑞希の問いかけに、場にいた男子たちがヘッドバンキングする勢いで首を縦に降る。

むしろ食べて下さいと言わんばかりの勢いだ。

 

「なんかごめんね〜?いただきます」

 

ぱくり。

 

 

 

_________遥希がその物体を口に含んでから、気絶するのに時間はかからなかった。遥希の体が無彩色に染まり、灰となって崩れ去る。

 

「清宮さんのお兄さん...せめて安らかに..」

「....南無南無」

「兄さまはキリスト教なので南無はダメですよ」

「問題はそこなのか...」

 

 

____瑞希の料理を食べる。それは死を意味する。

 

彼女の作った料理は、一見すると丁寧で見た目も美しく美味しそうだが、問題点はその成分にある。

彼女は料理を科学と同質に考えて行うため、食べ物に薬品をぶち込んだりして結果的に出来上がるのは猛毒なのだ。

前に彼女のお弁当で痛い目を見た男子四人は、それがどんなに恐ろしいものなのか知っていた。

 

 

「これは...」

「でもせっかく作ってきてくれた姫路さんを悲しませるのは可哀想だよ」

「お主命を投げ捨てるつもりか?」

「...つらい」

 

完全にお通夜ムードの男子四人が、バスケットの前でひそひそ話す。この劇物を何も知らない女子たちに食べさせるのは、流石に良心が痛む。

遥希が食べた分ひとつ減ったが、それでもカップケーキは三つある。生き残っている男子は四人、うち三人が犠牲にならなければならない。

彼女の料理を食べれば命の保証はない。四人の表情は必死で、緊迫した空気が彼らの心を圧迫する。

 

「じゃ、じゃあ、今から水泳で勝負しよう!」

「そそそ、そうじゃな!」

「一番早かった人が食べなくても...あっいや食べられないってことにしよう!」

 

明久の声が裏返る。もはや彼らはヤケだった。

男子四人の目から光は消え去っており、半分発狂状態になっている。

 

______彼らは自らの命運をかけ、プールのコーナーに立った。




そういえばもぐらのcvは植田佳奈さん、兄貴の声優は石田彰さんのイメージです


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