これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~ (超淑女)
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0「はい、巴マミです」

 朝。

 どんよりした空。曇り空の下のマンション。

 築数年のマンションの一部屋、そのリビングに現れる金髪ダブルロールの少女。

 疲れたような表情と共に、彼女。巴マミは学校に行くためのカバンを持つ。

 

『今日は曇り空。所によっては雨が降るでしょう』

 

 いつもと変わらず、今日もテレビから声が聞こえる。

 カーペットに座って、そこに不自然に置かれたちゃぶ台にて一人の少女がお茶を飲んでいた。

 マミは疲れたように玄関に向かう。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 彼女がそう言うが、少女は黙ってお茶を飲むのみだ。

 靴を履いて、折り畳み傘がカバンに入っているのを確認する。

 玄関を開けるとマンションの廊下に出た。

 そこから空を見上げると、ほの暗い曇り空が一面に広がっている。

 

「良い天気ね」

 

 笑みを浮かべてそう言うと、マミはゆっくりと歩きはじめる。

 

 

 

 

 

 学校へとやってきたマミは疲れたように席に座った。

 もうすぐ卒業。高校生ということもありピリピリしているクラスメイトもちらほらいるが、やはりほとんどの生徒はいつも通りである。

 

 ―――平凡な世界。平凡な毎日。ただ平和な日常。こんな日々が続く。

 

 強い日差しが窓際のマミにあたる。疎ましそうな顔をしてマミはカーテンをしめた。

 

「天気予報なんてあてにならないわ」

 

「ねぇ!」

 

 横から彼女に声をかけてきたのはクラスメイト。友達であろう。

 

「次の時間物理でしょ、ノート見せて!」

 

「もう……はい」

 

 マミはノートを出して友人に渡す。

 嬉しそうに笑ってそれを両手で持つ。

 

「恩にきります!巴マミさま!」

 

 両手を合わせる友達相手に、笑うマミ。

 そこそこ仲が良いのはそれを見ればわかることだ。

 

「今度お昼おごってもらうわよ?」

 

「お安い御用!」

 

 ―――今日もこうして、いつも通りの日常を過ごす。平和な日常。

 

 

 

 

 

 帰る途中、空には今だ灼熱の太陽。

 陽の光はマミの肌にジリジリと照りつける。

 雨なんて結局振る様子はない。疲れたような様子のマミ。

 

 ―――でも、ほとんどの人が気付かづに一生を終えていくけれど……世界には触れてはいけない秘密があふれてる。

 

 ふと気づいたマミ。道路で、仔猫がトラックに轢かれそうになっていた。

 気づいた時にはすでに走り出しているマミ。

 後ろを歩いていたサラリーマンが止めるが、無視して走って仔猫を胸に抱く。

 トラックは既に目の前に迫っていた。

 

 ―――あっ……私、ゾンビです。

 

 その瞬間、トラックがマミの体を弾き飛ばす。

 仔猫がマミの腕からすりぬけて、すぐそばの歩道にいた親猫の傍に着地する。

 空中を舞うマミ。

 

「いぃぃやぁぁぁぁっ!」

 

 吹き飛んで、マミは地面を転がった。

 その指についている黄色い指輪に、日が当たって輝く。

 吹き飛んだマミは、勢いよく地面に叩きつけられ―――あたりには鮮血が舞った。

 

 




あとがき

始まりました!
魔法少女まどか☆マギカ×これはゾンビですか?の小説です。
まだ初まりですが、ストーリーは基本まどか☆マギカに忠実に行きますので!
では、これからお楽しみいただければなによりです♪


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1「はい、魔法少女です」

 事故現場。トラックは止まっていて、先ほどのサラリーマンは空いた口がふさがらないと言った様子だ。

 そこには何もない。

 何一つも無いのだ。

 現場は、困惑した空気に包まれていた。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 マンションの一部屋、表札に“巴”と書かれた家。

 玄関に倒れこんでいる金髪ダブルロールの少女。

 名前は巴マミ。

 

「ぞ、ゾンビじゃなかったら即死だったわ……」

 

 なんとか壁を支えに歩いてリビングに行くと、そこに座っている少女が一人。

 今朝と同じくお茶を飲みながらテレビを見ている。

 いつも通りの光景だ。

 

「ただいま」

 

 疲れ切ったマミがそう言うが、眼のハイライトはどことなく暗い。

 死なないものの、体のダメージも尋常じゃないのだろう。

 ただ、声一つ出さない少女。

 

「ユウ、ただいま」

 

 “ユウ”と呼ばれた少女はマミの方を見ると片手にボールペンを持ってちゃぶ台の上に置かれたメモ帳をつつく。

 目を細めてそれを見るマミ。そこには文字が書かれている。

 

『飯の用意を』

 

「え?」

 

『めし』

 

 書かれている文字。長い輝く銀髪やプレートアーマーとガントレットの不思議な少女は、ただ無表情でその文字をつついていた。

 頭を片手で押さえる。ボロボロで髪も所々跳ねていた。

 あくまでも理性的に、マミは言う。

 

「ご、ごめん…今、軽くトラックにはねられたとこで」

 

『無問題。メニューは。満漢全席』

 

 一文ずつ書かれたその文章。

 伝えたいことは終わったのか、ペンを置くとお茶を飲みながらテレビを見ている。

 ボロボロのマミの足がガクガクと奮えていた。

 

「(これは巷に言うツンってやつよね?ほ、本当の気持ちは……)」

 

 マミの頭の中にユウが現れる。

 顔を赤らめているユウが、マミの頭の中で言う。

 

「お姉ちゃん、ユウお腹空いちゃった。早くご飯作って……あと、お・風・呂♪」

 

 一しきり妄想を終えると、マミはリビングのユウから視線を逸らして頷く。

 マミの少女はどことなく嬉しそうだ。

 

「そう、シャイなのね。お姉ちゃんユウのために頑張るからね」

 

 そう言うと、食事の準備のため立ち上がるマミ。

 ユウはマミの方を見ることも無くただお茶を飲みながらテレビを見ていた。

 

 

 

 キッチンにて、マミが米を磨いでいる。

 私服姿に着替えているマミは袖をめくって慣れた様子でやっていた。

 その背後にはユウが立つ。

 ユウは、静かに自分の手を見た。

 

「あぁ、その手で手伝おうなんて思わなくても良いからね」

 

 オープンフィンガーの手袋とガントレットを付けた手。

 マミはユウを見て優しく笑う。

 それを見て、ユウも頷いた。

 優しいのね、とマミが言うがユウはただ黙ってマミを見続ける。

 

 

 

 ちゃぶだいに並べられた食事の数々。ちなみに満漢全席は無い。

 実はユウがやってくる前まではガラス張りの三角形のテーブルだったのだが、ユウと買い物に行った時、ユウがこれを見ていた。

 実用性があって安い物ばかりのホームセンターに売っていたので買ったのだが、結構強度もあることがわかり買って正解だったと思っている。

 最近はあのテーブルよりもこちらの方がマミも気に入っているほどだ。

 

「ところで、今日はなにしてたの?」

 

 食事をしながらマミが聞く。

 ユウが食事の手を止めてペンとメモ帳を持ち、マミに見せる。

 

『寝てた』

 

 マミの脳内で再び妄想が始まる。

 顔を赤らめたユウこと妄想ユウが可愛らしい声で言う。

 

「えへ、お昼寝してたら夕方になっちゃった」

 

 ゆるんだ表情でうなずくマミ。

 そして、ふと気づいた。ユウの口の横にご飯粒が一つ。

 身を乗り出すマミ。

 

「ほら、ご飯粒ついてるわ―――」

 

 ―――よ。と言おうとしてそのご飯粒を取る寸前で、ユウがマミの手首を裏拳。

 凄まじいダメージと共に、マミの骨がゴキ、と鳴る。

 

「ひぎぃっ!?ぬうぅぅぅっ!人をゾンビだと思ってぇ!」

 

 手首を抑えながら床に突っ伏すマミが恨めしくユウを見た。

 ユウは片手でペンを使って文字を書くと、メモ帳をマミに見せる。

 

『ゾンビじゃなかったら、ここにいない』

 

 もう再生したのか、マミはそのメモ帳を静かに見た。

 ん?と頭を傾けるマミに、ユウはメモ帳のページをめくる。

 

『迷惑?』

 

 それを見ると、マミは微笑。

 なにを馬鹿なと言うようなマミの表情。

 

「いえ、ユウが生き返らせてくれなかったら……私は死にっぱなしだったわけだしね。一先ず感謝してるわ」

 

 そう言うと―――ユウは何も答えず、表情に表さず食事を再開する。

 一見無愛想に見えるも、マミはユウのことなら大体わかっていた。

 

「(死にっぱなしだったら……私を殺した人も見つけられないしね)」

 

 マミは目を細める。頭に思い浮かぶのはマミの家では無い部屋にぶちまけられた血液と、自分を貫く白銀の刃。

 刀身は確実に刀のものだった。

 

 

 

 

 

 食事を終えて、食後のお茶を飲むユウ。

 マミはそんなユウを見て物思いにふけった顔をしながら紅茶を飲む。

 冥界のネクロマンサー。ユークリウッド・ヘルサイズ。

 マミと住み始めて一ヶ月。一体何者なのか、マミにもそれはわからない。

 

 テレビを見ていると、マミにとって興味深いニュースが始まった。

 また自分たちが住んでいる見滝原市の隣町にて殺人事件のようだ。

 “姿無き連続殺人”あの日自分を殺したのも、きっとそいつの仕業。

 マミは今すぐにでも探しに、隣町行きたかったがそうも行かない。

 

「じゃ、行ってくるわね」

 

 そう言って立ち上がるマミ。

 ユウがメモ帳を持ち上げる。

 

『行ってらっしゃい』

 

「ええ」

 

 嬉しそうに頷くマミが家を出ていく。

 別に“姿無き連続殺人”の犯人を捜しに行くわけでは無い。

 マミの指輪から小さな宝石が現れる。

 黄色い宝石のわずかな光を見ながら、マミはマンションを出た。

 

 

 

 マミが探しているのは、非現実的なもの。

 歩いていると、マミの手の上にある宝石が一層強く輝いた。

 それに気づいて、歩いていくマミがついたのは路地裏。

 

「さて、一仕事終わらせてちゃっちゃと帰っちゃわないとね!」

 

 マミが宝石を目の前に出す。その瞬間、体を包む光。

 それと同時にマミの服装は大幅に変わっていた。

 黄色を主体とする服装。

 彼女が“魔法少女”として戦うべき時の正装。

 

 そのまま、路地裏の壁にある刻印を撃ちぬき。その中に入る。

 

 

 

 じっくり見れば吐き気を催しそうなほどのおぞましい絵が書いてある壁。

 そんな絵が描かれている壁。そして廊下。

 溜息をつくマミが、どこからかハンドガンサイズのマスケット銃を出現させる。

 それを両手に持って走るマミ。

 

「まったく、使い魔なのに面倒に迷路広げてくれちゃって!」

 

 廊下を走っていると、大きなドームのような場所に出た。

 天井付近を飛んでいる巨大な翅が生えた芋虫。

 まったくおぞましい容姿だと苦笑するマミが、両手のマスケット銃のトリガーを引く。

 奇声を上げながらその銃弾をよけていく“使い魔”と呼ばれる存在に、内心イラッとしながらも、マミは次々とマスケット銃を召喚して撃ち続ける。

 数発が当たって落ちていく使い魔。

 

「終わりかしら?」

 

 そう言うと近づいていくマミ。

 マスケット銃を召喚したりなどの“魔法”を使うための力。魔力を削減させるためにハンドガンタイプでしとめようと近づいていく。

 近づくための一歩を踏み出した瞬間、片足が沈んだ。

 刹那、背後から白い円盤が飛んでくる。

 

 上半身と下半身の間を、スッと抜ける円盤。

 マミが芋虫のような使い魔相手に銃を撃つ。

 銃声と共に使い魔が消滅。それと同時に、その不思議な空間“結界”も同時に壊れた。

 そこは先ほどと同じ路地裏。

 

「なにこれ痛い」

 

 ずるっと音を立てて、マミの上半身と下半身がずれて、倒れた。

 顔面から地面に落ちるマミが、腕を使ってあおむけになる。

 下半身は横に転がっていた。

 魔法少女姿からもとに戻ると、私服が血で汚れはじめる。

 

「あちゃぁ、まあ魔法で綺麗にできるかな……」

 

 それよりも、合体しなければと動き出すマミ。

 腕を使ってうつぶせになると、両腕をつかって動きだす。

 

「キャアァァァッ!」

 

 叫ぶ声が聞こえる。

 顔を上げると、路地の先の道に女性が一人。

 自分を指さしてガタガタと震えていた。

 これは不味いと汗をかきながら、片手を女性に出す。

 

「すみません!手伝ってほしいんですけ―――」

 

「キェェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!!!」

 

 女性は叫びながら走り去って行った。

 これは不味いと、マミは身体を両手で引き摺って移動しはじめる。

 正直いって不気味な光景であった。

 

 

 

 

 

 

 なんとか上半身と下半身をくっつけて帰ってきたマミ。

 血まみれだった服は魔法で綺麗にした。

 玄関を開けて、ダルそうにリビングのちゃぶ台の前に座る。

 ユウはメモ帳に『おかえり』とだけ書いて見せてきた。

 

「ただいま」

 

 優しげな表情で言うマミに、ユウはそっと頷く。

 マミはティーポットに残されている冷えた紅茶をティーカップに注いで飲む。

 ふぅ、と息をついて、この後のことをを考えた。

 風呂に入って、寝て、また明日。

 

 溜息が出るほど、マミにとっての日常通りだ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日。朝から強い日差しの元、授業を受けている巴マミ。

 窓際の彼女にとっては強いはずの陽の光だが、考え事をしているようであまり気にしていないようだ。

 

「(アンデッドであり魔法少女である。私という特異点がきっとなんらかの異変を呼び出しているのね)」

 

 難しい表情で何かを考えているマミ。

 

「(ユウの存在もわからないけれど私の存在も相当謎だわ。魔法少女でゾンビなんて魔法少女じゃないじゃない……ガイアよ。私に一体どうしろと言うの?)」

 

 難しそうな表情でいろいろと考えているマミだったが、チャイムが鳴って、昨日と同じく友人が傍に寄ってきた。

 ちなみに名前は“夏乃(なつの)”という。

 

「きゃぁぁっ!」

 

 叫びの原因。

 そちらを見る。夏乃はマミの腕を指さして震えている。

 指の向いている場所を見ると、マミの左腕。

 マミの左腕は陽が長時間あたっていたためか干からびている。

 

「マミの手がカッサカサだぁっ!」

 

 困った。本当にゾンビとは大変なものだ。

 これでも魔法少女なのだけれど、と言いたくなる気持ちを抑えて、まず水が必要だと水道へと走った。

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

 

 放課後。今日はいつにも増して日差しが強い。

 あまり外に出たくないので教室で日が陰るまで待つことにした。

 使い魔たちのせいで人になにかがあるかもと思うが……自分がやられては元も子もない。

 そんな時、夏乃がやってきた。

 

「まだ帰らないの?」

 

「ええ」

 

 振り返ってそう言う。

 一ヶ月前まではホームルームが終わり次第ダッシュで帰っていたマミにしてはかなり珍しい。

 夏乃とだって一緒に遊んだことは無いほどだ。

 

「最近いつも残ってるけど、なにしてるの?」

 

「(ゾンビは日向を歩けないのよ)」

 

 心の中で思っても口が裂けても言えることでは無い。

 だからこそ、しっかりと疑われないように言う。

 

「色々事情があるのよ」

 

「帰れない事情?」

 

「複雑な家庭なのよ」

 

 疑わしい目でマミを見る夏乃。彼女、というより同じ小学校の同学年は全員知っている。

 マミの両親が居なくなって一人暮らし。

 だからこそあまりみんな突っ込んだことを言わないが、夏乃は別だ。

 夏乃の疑う表情に、顔をしかめるマミ。

 

「あっ、そうだ。今日これ持ってきたんだよ。やって感想聞かせてよ」

 

 そう言って夏乃が出したのは“ゾンビハザード”と呼ばれるゲーム。

 マミは魔法少女の時でも出るか、という速度で夏乃の腕をつかんだ。

 

「だめよ!」

 

 ギリギリと音が鳴る腕。

 夏乃は驚愕した表情でマミを見ている。

 容姿端麗文武平等のお嬢様的存在のマミ。

 

「(世界は極めて理解しがたい。ゾンビだからって撃っても良いの?殺戮しても良いの?否、答えは断じて否!私は訴えたい。ゾンビにだって人権はある!)」

 

 その時のマミの眼は魔女を狩る時の眼。それにそっくりだった。

 夏乃は顔をしかめながらゲームをカバンにしまう。

 

「そ、そっか…なんかすごい事情があるんだね。自分に負けないでね!じゃぁ!」

 

 明らかに動揺した顔で教室を出ていく夏乃。

 教室を出てすぐに、夏乃はつぶやく。

 

「一人暮らしも、大変なんだな」

 

 そのまま帰っていく夏乃。

 一方、教室で暗くなるまで待とうというマミの頭に声が響く。

 

『マミ!助けて!』

 

 ユウが来てから一切聞いていない声だ。

 ずいぶん久しぶりだなと思うも、切羽詰まった声に反応する。

 

『どうしたの!?』

 

 テレパシーでの会話に、テレパシーで返すマミ。

 魔法少女としての能力の一つで、テレパシーと使えるのは“魔法少女”と“魔法の使者”であるこの声の主だけだ。

 そしてこの声は後者のもの。

 

『助けて!』

 

 声のする方向を理解すると、昨日の宝石を手に出現させる。

 目をつむると、どこから声がしたのか感じ取れた。

 

『助けて!』

 

 同じ声が聞こえる。

 そしてカバンを持って外に出ようとした瞬間、マミは止まった。

 外の日差し。夕焼けは地を茜色に染める。

 この地獄に赴けと―――そう、言うのだろうか?

 

『マミ!』

 

「(ガイアよ。なぜ貴女は私にこのような試練を)」

 

 茫然としながら外を見たマミは、何かを諦めた表情で走り出した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 二人の少女が、そこには居た。

 ピンク色のツインテールをした少女“鹿目まどか”と青い短髪の少女“美樹さやか”の二人。

 彼女たちはちょっとした事情により、ある人物から逃げていた。

 だがその最中、突如異質な場所にたどり着いたことに気づき立ち止まる。

 

 そこは使い魔の結界。マミが狩るべき敵の巣窟。

 

「冗談だよね?私、悪い夢でも見てるんだよね?ねえ、まどか!」

 

 さやかが叫ぶが、それでも現実は変わらない。

 使い魔の姿は毛玉に黒いひげをつけたようなファンシーなもの。なのだが、使い魔は突如、口を大きく開きながら巨大なハサミを二人に向ける。

 命が切り取られようとした瞬間―――二人の周囲に銃弾が降り注ぐ。

 

「あ、あれ?」

 

「これは?」

 

 二人の周囲には銃弾により穴が空いた使い魔。

 足音が聞こえて、二人はそちらを見る。

 

「あ、危なかったわね。でも……もう大丈夫、よ」

 

 そこにはやつれた巴マミ。

 二人の少女は同じ見滝原の制服だと気づくも、その次に気づいたことは違う。

 

「なんか便りにならなそうな人キタァァァッ!」

 

 叫ぶさやか。いまだに窮地は抜けられていないと思っているのだ。

 マミは、カバンから水の入ったペットボトルを出すとおぼつかない手つきでキャップを開けて一気に飲む。

 500ミリの水を一気飲み。そしてペットボトルを投げ捨てた。

 

「よし!危ない所だったわね。でも、もう大丈夫」

 

 やつれたマミの表情がつやつやになっている。

 するとマミはその手に宝石を出して、光と共に姿を変えた。

 魔法少女としてのマミが飛びあがると―――上空で手を振る。

 

 あたりに出現するマスケット銃の数々。

 数十を超えるそれを従え―――そして、再び手を振った。

 周囲に配置された銃が一斉に弾丸を撃ちだす。

 あたりの白い毛玉の使い魔は全て消え去る。

 燃え盛る結界。

 

 華麗に着地したマミ。

 それと共に結界が消えて、改装中の建物の一部屋になる。

 

「あ、案外すごい!」

 

「戻った!」

 

 案外は余計だと思ったが、マミは広い心で許す。

 そして、マミは何らかの気配がする方を向く。

 新人ゾンビでありながらベテラン魔法少女であるマミが言う。

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいならすぐに追いかけなさい」

 

 その言葉と共に、物陰から出てくるのは黒髪の少女。

 ずいぶん長い髪の毛だな、と思うマミ。

 黒髪の少女は少し眉をひそめていた。

 

「今回はあなたに譲ってあげる」

 

「さっきカラッカラだったけど、大丈夫なの?」

 

「……飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるの」

 

 さらに眉間にしわを寄せる黒髪の少女。

 さやかとまどかの二人にも、話を逸らしたとわかった。

 

「まぁ、もし貴女が望むなら話合いで終わらせても―――」

 

「その必要はないわ」

 

 黒髪の少女が消える。

 マミは顔をしかめて溜息をついた。

 振り向くと、二人は安心したような顔をしているのに気づく。

 あの黒髪の少女になにかされたのだろうか?

 

「まぁいっか」

 

 そうつぶやいて頷くと、マミはまどかが抱いている生き物を見る。

 一ヶ月ぶりぐらいに見る。傷ついたその白い体を見て、下ろしてもらう。

 まどかがそっと地面に降ろしたのは白い生き物。地球上のどの生き物にも属さない容姿をした生き物。

 

「(治癒なんて久しぶりね)」

 

 ここ一ヶ月はずっとゾンビだったせいでうまくできるかわからないけれど、なんとなくやってみたら―――成功した。

 傷がふさがった白い生き物は元気よく体を動かす。

 

「ありがとうマミ!」

 

「私は来るの遅れてしまったでしょ、この子達にもお礼を」

 

 この生物がしゃべるのにも慣れているマミがそう言うと、白い生物はさやかとまどかの方に顔を向け、ありがとうと礼を言う。

 さやかは、喋った!とのけ反る。

 

「あなたが私を呼んだの?」

 

 マミはわずかに疑問を抱く。

 

「(助けてもらうのにこの少女を呼ぶ意味はあるのかしら?)」

 

 助けを必要としているなら自分だけでいいはずだ。

 特に、あの魔法少女に痛めつけられたなら。といまいち腑に落ちていない。

 

「そうだよ、鹿目まどか、それと美樹さやか」

 

 なぜ名前を知っているのかと、美樹さやかは疑問を持つ。

 確かにそれはマミも思った。でも魔法の使者と自称してしまうぐらい魔法の使者なのだから知っていて当然か?と納得。

 そして白い生物は二人に向けて言う。

 

「ボクの名前はキュゥべぇ。ボクと契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

 

 キュゥべぇが笑みを浮かべてそう言うと、まどかとさやかの二人は若干戸惑っているようにも見える。

 だがマミはそんな二人と一匹構うことはしない。変身を解除してカバンから携帯電話を取り出した。

 すでに時刻はいつも帰っている時間。

 

「お腹空かせてるわよね」

 

 急いで帰ろうと頷く。後ろでキュゥべぇが二人に説明してあげて欲しいとか言っているが構いたくない。

 正直な話、今はユウの空腹の方が心配だ。

 しかし、二人の後輩は目を輝かせながらそのことについて聞きたそうにしている。

 巴マミは大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 ―――私、魔法少女です。あと、ゾンビです。

 

 

 

 

 

 




あとがき

はい!とりあえず一話でした。
この調子でガンガン頑張っちゃいますからね!
舞い上がっちゃってますね。私!

ゾンビで魔法少女なマミさん。魔法少女にあこがれる二名。魔法少女な二人。
そして冥界人であるユウとの物語はこうして始まります!!

さて、一応悩んでるんですがこれゾンのキャラクターってもっと出した方が良いんですかねぇ~
ハルナが出る予定はとりあえず無いんですが、サラスとかトモノリも出したいってのもあって……

とりあえずこれからも頑張っていくのでよろしくお願いします!!
感想くれたら、それはとっても嬉しいなって♪


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2「そう、義姉です」

 マミはダッシュで家へと帰ってきた。

 外の日差しのためもはややつれて今にも干物になりそうな顔だが、震える手でなんとか部屋に入る。

 カバンの中にストックしておいた水を飲むと、すっかり元通りのマミ。

 キッチンでエプロンを取って、リビングへと入る。

 そこにいるユウはメモ帳をペンで叩く。

 

『めし』

 

 さては昨日書いた奴の使い回しかと思ったが、カバンをソファに投げると、エプロンをつけ始める。

 そして苦笑しながらユウを見るマミ。

 

「今から私出かけなきゃならないから、留守番しておいてもらえる?」

 

 その言葉に、頷くユウ。

 笑みを浮かべながらごめんね。と言うとマミは調理に入る。

 あまり難しいものは作れないから、軽く肉を炒めて味を付けて、手際よく野菜なども切ってドレッシングで和えると、ちゃぶ台に並べる。

 さらにご飯も用意して箸もしっかりとおいた。

 

 急いでエプロンを外すマミは、エプロンをテーブルに置くと自室に戻る。

 ユウは両手を合わせると、箸と茶碗を持って食事を始めた。

 静かに食事をするユウ。

 すぐに部屋から出てきたマミは、私服に着替えていた。

 

「じゃ、行ってきます!」

 

 ユウは静かに『行ってらっしゃい』と書いたメモ帳を持ち上げる。

 ドアが閉まる音と共に、ユウはメモ帳を置いて食事を再開した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 マミがダッシュで喫茶店につく。その時には日も沈んでいるのでそこまで問題は無かった。

 ガイアの試練を乗り越えた自分への褒美かと内心舞い上がりながらも喫茶店の席につく。

 向かいの席にいるさやかとまどか。

 テーブルの上には白い生き物キュゥべぇ。

 

「ごめんなさい。お待たせしたわね」

 

「いえ、忙しいのにごめんなさい」

 

 まどかがそう言うので、マミはほほ笑みで返す。

 とりあえずキュゥべぇと二人には少し忙しくてということで一時帰らせてもらった。

 嬉し恥ずかし電波な義妹ができたなんて言えない。

 

「大丈夫よ。それよりもどこまで?」

 

「願いを一つ叶えて魔法少女になってもらうということと、使い魔と魔女についてさ」

 

 大体のことは話したらしい。

 昨日も今日も戦った使い魔。使い魔は悪の権化ともいうべき存在である魔女の下っ端。

 人的被害としては、人間を食べるということ。それと“魔女の口づけ”と呼ばれるマーキング。

 それを受ければ自殺などをさせられてしまう。

 基本的にその二つが魔法少女の敵なのだけれど、まぁいろいろある。

 

「キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある」

 

 一度メリットだけを教える。魔法少女が増えるのはこれからが楽になる。

 ユウのこともあるから魔女狩りなどはさっさと終わらせたい。というのが本音だ。

 

 なによりも、一人で戦うのはやはり嫌。

 自分は死なないけれど、一人はつらい。

 

「でもそれは……死と隣り合わせなの」

 

 死なない自分とは違う二人に、そう言った。

 ゾンビでない二人は魔法少女になって攻撃されて死んでしまうのだ。

 

「ふぇ…」

 

「ん~、悩むなぁ」

 

 悩んでいるのが伝わった。

 けれど、一緒に戦ってくれたら嬉しいという気持ちがある。

 カバンに入っているメモ帳のページを二枚破って、そこに自分の電話番号を書いて渡す。

 

「これグリーフシードって言うんだけれど、さっき話した魔女の卵なの」

 

 黒い宝石を一つ、テーブルの上に置く。

 驚いて少し下がる二人。

 

「まぁこの状態だと安心なのだけれどね。道や壁なんかにたまにこれが落ちてる時があるの、これを見つけたら電話してくれる?」

 

 その言葉に頷く二人。その二人に笑みを浮かべて礼を言うマミ。

 わかってくれたようでなによりだ。

 だけど、デメリットは教えておかなくてはならない。

 死の怖さは良くわかっているつもりだ。

 

「なによりも魔法少女になることについてだけど……」

 

 マミは目を細めて紅茶を一口飲んだ。

 

「一生戦い続ける運命に身を投じるってこと、恋人や友達を作る暇がないぐらい忙しいってこと、決して忘れないでね?」

 

 二人の生唾を飲む音が聞こえた。

 ここまで言えば魔法少女になることは無い。なんてことまで考えられるかもしれない。

 けれど、自分の我儘で死なない自分に死ぬ彼女たちを付き合わせたくは無い。

 

「送っていくわ二人とも」

 

 マミは会計をするために立ち上がる。

 一応聞かれれば質問はなんでも答えることにした。

 できればなってほしい。

 確かにユウのおかげで一人ではないけれど、戦うときだけは一人。

 彼女にとっては、そんな孤独も辛かった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 二人を送った帰り、キュゥべぇがマミの肩に乗っている。

 真っ黒になったグリーフシードと呼ばれるその宝石を軽く指ではじく。

 グリーフシードがキュウべぇの背中が開いてそこに入る。

 

「今日はどうするの?」

 

「グリーフシードは回収したからボクはまた別の場所に行くよ」

 

 最近は来ないのね?と言うと、忙しい。と返された。

 他の魔法少女を勧誘するのだろうか?

 それにしても疑問がいくつか思い浮かぶ。

 

「あの、鹿目さんたちのクラスに転校してきたっていう暁美ほむらさんだけど」

 

「彼女に関してはまったくの謎だよ。なぜボクを攻撃してくるのか、なぜ魔法少女なのかもね」

 

 謎が多い少女、それだけに気になる。

 敵なのか、そうじゃないのか―――わからないことばかりだ。

 立ち止まるマミ。

 魔女の結界の前で立ち止まったマミが、宝石ソウルジェムを出現させて変身した。

 

「いくわよ!」

 

 マミがそう言うと、キュゥべぇがしっかりとマミの肩に掴まる。

 結界の入り口へと消えるマミ。

 彼女は、今日もまた同じことを繰り返す。

 日常に隠された非日常を、今日もまた繰り返す。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 魔女狩りが終わった後。マミはキュゥべぇと共に墓地にやってきていた。

 ほの暗い闇の中、ペットボトルの紅茶を一口。

 ふぅ、と息を吐いて落ち着いたように笑みを浮かべる。

 

「やっぱり落ち着くわね」

 

 夜中の墓地で少女が一人、紅茶を飲んでいるというのは不自然きわまりない光景。

 墓地のベンチに座りながら、マミがゆっくりとあたりを見まわす。

 

「迷子かしらね」

 

 近場の雑木林の奥から音が聞こえる。マミはそれでもおちついた表情で紅茶を飲むのみだ。

 雑木林から激しい笑い声。それと共に現れるのは使い魔。

 下半身が車で、上半身が子供。ただしほかの使い魔同様その姿は子供の落書きのようだ。

 笑い声をあげながらマミへと走ってくる使い魔。

 マミは立ち上がると、ペットボトルをベンチに置いたまま立つ。

 

 墓石が並べられた道を一直線に走ってくる使い魔。

 マミは足をしっかりと地面につけて、拳を後ろに振りかぶる。

 あの程度の使い魔ならば、生身の方が効率的だ―――マミにとっては……

 

「120%!」

 

 使い魔に向けて拳を放つ。衝撃がビリビリとあたりに伝わる。

 拳が直撃した使い魔は吹き飛んで地面を転がった。

 走り出すマミは通常の速度よりよほど早い。

 

「200%!」

 

 至近距離へと近づいたマミはさらに拳を叩きつける。

 それで、使い魔はバラバラに砕け散り。消えた。

 

 通常の人間というのは、肉体が勝手にリミッターをかけてしまうのが原因で100%の力を出すことはできない。

 しかしマミは違う。

 

「普通じゃないね。前例がないよ」

 

 キュゥべぇがつぶやいた。

 その通り。普通じゃなければ前例もない。

 使い魔が居た場所から拳をどかすマミ。

 

「私はゾンビよ?」

 

 彼女はゾンビ。そんな限界は構わないし、意味も無い。

 笑みを浮かべると手を軽く振る。

 刹那。使い魔を殴った方の手が肘より少し先からカクン、と音を立ててまがった。

 

「きゃぁっ!手が変な方向に!」

 

「新しい関節ができたね」

 

 折れてブラブラとしている腕をもう片手で持ってなんとかくっつけようとしているマミ。

 それを見て、キュゥべぇは表情を浮かべてはいない。

 すぐ、マミの腕はくっついて何事も無かったかのようになっている。

 

「ふぅ、ゾンビじゃなかったら大変だったわね」

 

「(魔法で回復してくれた方が助かるんだけどね)」

 

 キュゥべぇはゾンビのことを知っているようで、何も言わない。

 ネクロマンサーのことは知っているのだろうか?まったくわからないけれど、キュゥべぇはユウが来てから一度もマミの家へ姿を現さないのは確かだ。

 時たま魔女狩りの最中に姿を見せてソウルジェムの穢れを吸わせて危険なグリーフシードを渡す。

 

 ユウが来たからきっと自分が居なくてもマミは大丈夫。とでも思ったのだろうとマミは思っている。

 なんたってマミの数少ない友達なのだからと―――マミはキュゥベェを信頼していた。

 再びベンチに座ると、マミは紅茶を飲み始める。

 落ち着いた雰囲気と違って、あたりは不気味な雰囲気だ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 記憶にあるのは巴マミが自分に銃を向ける姿。

 マミのかつての弟子を、ほかならぬマミが撃ち殺した。

 そして、自分をその魔法で拘束して、自分に向けて銃を向ける。

 信頼していた彼女。尊敬していた彼女に銃を向けられた。

 それがトラウマになって……

 

 過去の姿を思い出すと、自分を助けてくれた彼女(マミ)を思い出すより早く―――自分に銃を向けた彼女(マミ)の姿が思い浮かぶ。

 

 だから、マミをどうも受け入れることができない。

 できることならばもう一度、マミの弟子として戦ってみたいという気持ちはある。

 彼女と共に戦えないののなら、せめて彼女(マミ)の弟子でありたい。

 

 それができればとっても素敵で、けれど―――それは無理だ。

 

 やはり記憶の底ではいつか“撃たれる”と思ってしまう。

 どんなに外見を変えても、自分はいつも臆病だ。

 そう思うと、塞ぎ込みたくなる。

 けれどそんなことをしている暇も無い。

 

「あの子と一緒に、夜を超える」

 

 それが今の目的。ただそれだけを求めて戦い続けてきた。

 ならば関係なんて無い。彼女(マミ)と一緒だとか、彼女(マミ)は……

 

「あの子を魔法少女にしないための……生贄」

 

 彼女、暁美ほむらは鋭い瞳でそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 家に帰ってきたマミ。リビングに明かりはついていて、ユウがお茶を飲んでいた。

 すでに時刻は10時を回っている。

 

「ただいま」

 

 そう言うと、ユウはゆっくりとメモ帳を持ち上げる。

 

『おかえり』

 

 それを見てほほ笑むマミは上着を脱ぐ。

 食事もすっかり冷めているけれど、炊飯器から茶碗に米をよそってユウの横に座った。

 多少冷えているが問題は無いだろう。

 肉と米を一緒に食べる。

 ユウを見ると、お茶を飲みながらテレビを見ていた。

 

「今日はごめんね。今度好きなもの作ってあげるわ」

 

 ユウが頷く。

 そして、マミの頭で妄想が繰り広げられる。

 

「私、お姉ちゃんの作ってくれるものならなんだって食べるよ?」

 

 妄想の中のユーはマミに優しい。

 ふと、袖を引かれてそちらを見るマミ。

 メモ帳をトントンとつつくユウ。

 マミが見たメモ帳には一言。

 

『トリュフ』

 

「それは無理」

 

 現実は非常よ。と言うとマミは食事を続けた。

 こんな感じの生活だけれど、マミは嫌いでは無い。

 一ヶ月前までは嫌だった。

 命懸けで戦って、傷ついて、恐い思いをして……けれど、今はすっかり違う。

 死なない。というのもあるかも知れないけれど帰りを待っていてくれる人がいるだけで、心も余裕ができた。

 魔法少女でも幸せになれる。一度は諦めたけれど、やっぱりそんなことは無い。

 今は離れている“彼女”にだって、マミは胸を張って言える。

 

 食事を終えたマミが、両手を合わせて食器を重ねた。

 すると、ユウの方を向き両手を開くと飛びかかろうとする。

 

「さて、ユウ!今日こそ一緒にお風呂入りま―――」

 

 マミがそう言った瞬間、ユウの裏拳が横顔に直撃した。

 ゴギン、という音共に、マミは地に伏せて動かなくなる。

 首が不自然なほど真横に向いているが、マミが突然動きだし両手で元に戻す。

 起き上がったマミ。

 

「何度も言うけど、そんな風にしちゃいけません」

 

 妹相手の姉のように言うマミに、ユウが頷く。

 すると、マミが両手を広げるてユウに飛びかかる。

 素早く移動するユウ。マミはちゃぶ台の角に頭を強打した。

 

「きゃああぁっ!頭が裂けたぁぁっ!」

 

 血が噴き出る頭を抑えながら転げまわるマミ。

 ユウはメモ帳を静かに持ち上げる。

 

『お風呂入ってくる』

 

 そのまま歩いて行ってしまうユウ。

 マミは今だ血が噴き出る頭を押さえて転げまわっている。

 これも、いつも通り―――彼女なりの幸せな日常の一つ。

 

 ―――あれもユウなりの照れ隠しなのよね。私の頭、割れてるけどね。

 

 

 

 




あとがき

はい!これで下準備は整いました。そして問題はここから、ハルナは出しにくいのでともかく、セラを出すべきか出さざるべきか……まぁハルナも出して問題は無いんですが思ったより出しにくい。
魔装少女は難しい。のでとりあえずセラを出すべきかで悩んでます!
みなさんの意見聞けたら嬉しいなとか思います!

では、次回もお楽しみに♪


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3「ええ、UFOはない」

 一月前のあの夜。

 透き通った銀髪、西洋の鎧を身に纏った少女に―――私は目を奪われてしまった。

 

 

 

 コンビニエンスストアの前で、座り込んでいた少女。

 むしょうに小腹がすいたマミは買い物のためにそこに来た。

 見惚れていたマミと、少女の眼が合う。

 マミは照れながらも声をかけてみることにした。

 

「すみません、UFOとか信じますか?」

 

 言って、失敗したと気づくまで数十秒。

 何を言っているのかと自分でも自分を疑うが、時すで遅し。

 顔はそらされた。

 

「(やっちゃった~! 一世一代の突飛な行動で相手の気を惹く作戦失敗~!)」

 

 変な空気を作ってしまい焦る。

 マミは何をすればいいか考えて、考えて、考え付いた結果は―――歌って踊ることだった。

 必殺のマミステップ。自身が名付けた華麗なステップと共に歌を歌う。

 

「サールティー ロイヤーリー」

 

 ステップしながら少女に視線を向けるマミ。

 すでに何をしているかなど考える余裕もない結果だ。

 

「タマリ―エーパッセアラーさ―――っ!?」

 

 片足をひねらせて、体勢を崩したマミは後頭部をコンクリートの床に直撃させた。

 普通なら重傷だろうが、マミにとっては軽傷で済んだ。

 あまりの痛みに頭を抱えているマミ。

 

「(ふうぅぅっ!? やってしまったわっ、慣れないのに知らない子に話しかけてあまつさえ友達になりたいなんてのが間違いだったのよっ)」

 

 仰向けに倒れているマミ。服が引っ張られる感じがして上体を起こす。

 そこには白い髪の少女がしゃがんでいた。

 一つのメモ帳を見せてくる。

 

『おもしろかった』

 

 それを見て少し驚くも、マミの顔に笑顔が戻った。

 

『だから、二度とするな』

 

「(なんでよ)」

 

 どんよりとした雰囲気をマミが包む。

 少女がメモ帳の一ページをやぶって、再びマミに見せる。

 

『あなたは、何者?』

 

 普通に応えるのも楽しくないだろうと、マミはしっかりと体を起こして少女に微笑を見せる。

 その微笑に少女は頭を傾げた。

 

「どんな人間に見える?」

 

 マミの問いに、少女はいろいろな角度からマミを見た。

 少し気恥ずかしくなるマミだが、少女はペンを片手メモ帳を片手に考えている。

 考えついたのか、すぐにメモ帳にペンを走らせる少女。

 そして―――

 

『どう見ても怪しいバカ』

 

 ―――帰ってきたのは手厳しい評価だった。

 マミは、つい声を上げて笑う。

 ここ数年で一番の笑いだった気もする。

 

「アッハハハハっ、それもそうよね」

 

 そのまま笑い続けると、少女も少しだけほほ笑んだ―――気がした。

 

 

 

 結局、彼女はその後も一言も声を出さなかったわ。

 けれど、右手はとても“おしゃべり”だった。

 友達……ではないけれど、可愛い女の子と会話するのがこんなにも楽しいなんて……私は、ユウと出会ってその楽しみを知った。

 

 

 

 コンビニの前で一時間以上喋っていたマミが立ち上がる。

 ビニール袋片手に立ち上がったマミが片手をあげた。

 

「それじゃ、こんな時間に一人でいるとナンパされちゃうからね?」

 

 マミは歩いていくも、視線はユウの方に向けている。

 もう一度片手を振ると視線を前に向けて歩いて行った。

 ユウは少し急いだようにメモ帳を持つとマミに向ける。

 

『気を付けて』

 

 見えてはいないだろうけれど、気持ちは伝わっていたはずだ。

 

 

 

 

 

 その帰り道、マミは上機嫌だった。

 鼻歌を歌いながら夜道を歩くマミ。

 

「すごいわ!私ったら知らない子に話しかけちゃった!しかも超電波!」

 

 自画自賛しながらビニール袋片手に歩く。

 上機嫌で歩いていると、そばの家からガラスが割れるような音がした。

 疑問に思い、少し近づいてみる。

 

 そして家を見上げて気づいたのは、二階の窓にべったりとついた血。

 

「血っ……これって……」

 

 気づいたのは連続殺人の記事。

 金銭や貴重品が盗まれるわけでもなく、ただ殺されると言う事件。

 それらがマミの頭の中には渦巻いている。

 

「(救急車っ……いや、警察っ)」

 

 ―――助けて!いやぁっ!

 

 家の中から悲鳴が聞こえた。

 顔を顰め葛藤するマミ。

 

「(どうする……魔法少女だもの、大丈夫よね)」

 

 自分の身体能力をもってすれば犯人を捕まえることも容易い。

 他人の体を治すことだってできるはずだ。

 マミはその家へと走った。

 

 ドアを開けると、家へと入る。

 

「(魔法は正義の力。人を助けるために使うんだもの)」

 

 そっと、土足で上がると忍び足で家の廊下を歩いていく。

 バレるわけにもいかない。

 ふと、横の壁を見て気づいた。

 

 階段横の壁にはべっとりと血がついている。

 血飛沫を上げても、マトモに刺されただけれはこうはならない。

 

「(なっ……なに、これ……)」

 

 魔法少女であり、残酷な現場をたくさん見てきたマミが驚愕で言葉も出ない。

 そこでふと我に返る。片手にソウルジェムを持つ。

 

「(悲鳴は二階からだったわよね)」

 

 二階に行こうと、歩き出す。

 一応先に変身しておこうとし、足を踏み出そうとした時―――マミは止まった。

 

「(なっ、体が……動かな―――っ)」

 

 瞬間、背中に焼きつくような痛みが奔る。

 背中からじわじわと進んでくる痛みが、胸あたりまで来た時。それはマミの胸の間から突き出た。

 銀色の刃。見るとそれは日本刀の刃。

 

 鮮血は刃が突き出た場所から流れ出る。

 お気に入りのシャツも血でよごれてしまった。

 

「(なにこれ……さっさと変身すれば良かったの……かし、ら?)」

 

 刀が引き抜かれると同時に、マミはその場に突っ伏しそうになる。

 だが、立っていた。魔法少女になったことによる痛覚のせめてもの弱化。

 それにより立っていることができた。

 

「(苦しぃ……息が……あっ、なんだかこの感じ、懐かしい)」

 

 背中からの衝撃。それにより前のめりに倒れるマミ。

 その手にあったソウルジェムは転がり、マミから離れて行ってしまった。

 必死にソウルジェムに手を伸ばすが、それは目前で叶わなくなる。

 マミの意識は―――闇に消えた。

 

 

 

 ―――死なないで……

 

 

 

 眼を開くと、そこには銀髪の少女。その背後に見える満月はその少女の美しさを引き立てていた。

 マミがハッとして地面に手を付き起き上がる。

 胸がわずかに痛むが大したことでは無い。

 魔法で復活すれば何の問題も無いのだ。

 

「貴女……っ、私、生きてるの?」

 

 自分に言い聞かすように、少女に問うように言う。

 少女はそっとメモ帳を持ち上げて見せてきた。

 

『死んでる』 

 

 少し悩んで、考えれる限りの設定を考えてみる。

 

「貴女は死神?」

 

 少女は首を横に振った。

 違うという意。

 

『私が“絶対”に死なないようにした』

 

 その意味がわからないが、わかる気がする。

 今のマミは死ぬ気がしなかった。

 魔法少女の時ですら怯えた死というものとは、自分が遠縁に感じる。

 

「貴女は、一体……」

 

 つぶやくように問うと、少女は両手でメモ帳を見せた。

 そこに書かれた文字はカタカナであり、見覚えがある単語。

 

「ネクロマンサー!?」

 

 それを復唱して頭を抑えるマミ。

 頭の中の引き出しを前回にしてそれに関する情報を整理する。

 出てくるのは死霊使いの魔術師。

 

「ちょっと待って、それじゃ……私の体ってもう」

 

『心配ない、私が一緒にいる』

 

 その文字がマミの視界に入った。

 現金な話だが、それでマミはどうでも良くなってしまってきたのだ。

 “生きてても一人”なのが“死んでても二人”になる。

 それだけで、マミの心は穏やかになっていく。

 

 少女は、そっと頷いた。

 

 

 

 ―――こうして私は、ゾンビになりました。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 鹿目まどか、美樹さやかと出会った翌日。

 こんな危険なことに二人を巻き込むのも気が引けると思い、あまり会話をしないようにした。

 きっとユウがいなければ一人の寂しさをまぎらわすために魔法少女の友達を作ろう。とか思ったのだろうけれど、今は一人じゃない。

 朝に一度念話で二人+一匹とは話をした。

 暁美ほむら。昨日キュゥべぇを襲った少女がもし二人を襲ったならすぐ助けに行くと、約束。

 それでも仕掛けてこなかったのだから心配ないだろうと、マミはいつも通り下校しようと思ったのだが……

 

「マミさん!」

 

 校門前で声が聞こえた。駆け寄ってくるのはキュゥべぇを肩に乗せたまどかとさやか。

 なぜ?と思ったがすぐにそれはわかる。

 

「こ、これから行くんですよね?」

 

 その言葉に頷く。

 

「私たち、見ちゃだめですか?」

 

 驚いたという顔をするマミ。

 しかし、それにしても一度帰る必要がある。

 昔なら暇ということもあり学校が終わりしだいすぐ魔女退治だったのに、自分も変わったと実感させられる。

 マミは今一度二人を見た。その眼には折れない、という意思。

 

「わかったわ。じゃあ一度帰って昨日の喫茶店で会いましょう?」

 

 二人は元気よく返事をする。

 それを見てほほ笑むと、マミは歩き出す。

 誰かと一緒に話をしながら帰るなんてことが新鮮で、少し嬉しく思うマミだった。

 

 

 

 

 

 家に帰ってきたマミ。

 リビングに行くと、いつも通りユウがお茶を飲んでいた。

 困ったように笑うマミが、素早く私服に着替える。

 

「水っ腹になるわよ?」

 

『問題ない』

 

 そんな風に返されて、苦笑。

 マミは少し急ぎ足でキッチンまで行くと、冷蔵庫からケーキを出して包丁で切る。

 残りのケーキをラップでつつむと再び冷蔵庫にいれ、切ったケーキはユウの前へと出した。

 ユウはそのケーキをジッと見る。

 

「昨日作ったの、帰ってきたら感想聞かせてね?」

 

『面倒』

 

 その瞬間、マミの頭の中が染まる。

 煩悩の象徴ともいえる存在、妄想ユウが口にクリームを付けながら言う。

 

「お姉ちゃんのケーキはいつもおいしいから……ユウの気持ち、伝わってるよね?」

 

 妄想のせいで、マミの顔はだらしなくゆるむ。

 こんな顔は美樹さやかにも鹿目まどかにも、ましてや暁美ほむらになんて絶対に見せられない。

 その顔を見て、ユウはメモ帳を上げる。

 視界に映ったから、妄想から帰ってきてメモ帳を見た。

 

『急がなくても良いの?』

 

 見て、読む。マミは焦ったような表情で財布をポケットに入れるとハンカチとティッシュも用意してポケットに入れる。

 準備ができたのか、髪の毛を軽く払う。

 

「じゃあ行ってくるわね、なるべく早く帰るわ♪」

 

 マミはウインクをすると走って家を出ていくのだった。

 もう一度、ユウはお茶を飲む。

 

 

 

 

 

 マンションを出ると、マミは走って喫茶店へとやってきた。

 店内に入ると、さやかが手を振ってきたので席に着く。

 

「ごめんなさい、お待たせしてしまったかしら?」

 

「いえ!我儘言っちゃったのは私たちだから……」

 

 まどかがそう言うが、マミは気にしないでと言って席につく。

 表情をひきしめて二人を見る。

 

「さて、準備はいい?」

 

 聞かれる二人。さやかがテーブルの下から布につつまれた何かを出す。

 布を取るさやか。金属バットが鈍い光を放つ。

 

「準備になってるかどうか分からないけど、持って来ました!何もないよりはマシかと思って」

 

「(最近の子って恐い)

 

 内心思いながらも、そういう覚悟でいてくれた方が良いと言っておいた。

 金属バットを下ろすさやか。

 さやかはまどかの方を見た。

 

「まどかは何か、持って来た?」

 

「え、えっと。私は……」

 

 カバンを出して、その中から一冊のノートを取り出したまどか。

 恐る恐ると言った様子でそれを開いて、テーブルの上に広げる。

 そこにはマミと思われる少女とまどかと思われる少女。

 二人とも魔法少女の衣装である。

 

「と、とりあえず、魔法少女になったときの衣装だけでも考えておこうと思って」

 

 笑い出すさやか。

 まどかは、どうしたの?とでも言いたげに狼狽えてる

「うん、意気込みとしては十分ね」

 

 我慢するが、くすくすと笑いが漏れてしまう。

 

「こりゃあ参った。あんたには負けるわ」

 

 二人に笑われながら、まどかは戸惑ったように声を上げている。

 可愛い後輩だなぁ、と思いながら、マミは頷いた。

 

 

 

 

 

 昨日の使い魔が現れた場所の魔力の痕跡を使い歩く。

 国道沿いの道を歩いているが、さやかは暇そうだ。

 10分は歩き続けているから、だろう。

 

「(それにしても……暁美ほむら、彼女は一体……)

 

 新たな魔法少女。

 今まで見滝原を狙う魔法少女とは何度も戦ったけれど、キュゥべぇを狙う魔法少女なんて見たのは初めてだ。

 それに、彼女の眼が気になる。なんとなくだけれど虐待したいだけ、というわけでもないようである。

 すぐ考えを放棄してさやかとの会話。

 考え終えてすぐに暁美ほむらの話題かと、ため息をつきそうになる。

 

「あの転校生、ほんとムカつくなぁ!」

 

 後ろにいるまどかが憂鬱そうな顔をしていた。

 彼女はまだ信じたいのだろう。

 しかしマミとて信用できないのは確かだ。

 キュゥべぇを攻撃したし、あまつさえ他の場所からきた魔法少女なんて信用できない。

 目を見るからにベテラン。新人ならともかくベテラン魔法少女なんて大体は利益しか考えないから信用なんてできるはずがない。

 これも経験上理解したことの一つだ。

 

 ふと、マミが気付いた。

 

「かなり強い魔力の波動だわ。近いかも」

 

 走り出すマミを追う二人。

 廃ビルの近くへとやってきた三人。

 

「間違いない。ここよ」

 

「あ、マミさんあれ!」

 

 さやかが指さした先は廃ビルの屋上。

 屋上には一人の女性。OLかなにかだろう。

 六階、数十メートルはあるだろう廃ビルの屋上から飛び降りる女性。

 

 まどかとさやかの小さな悲鳴が聞こえ、マミは変身せずに走り出す。

 

「(250%!)」

 

 跳びあがると、女性を腕の中に抱えて着地する。

 一見綺麗に着地したように見えたが、ゴギンッと音がした。

 両足がヤバいと気づくマミだが、二人の手前痛がって悶えることもできない。

 幸い音は二人に聞こえていなかったようだ。

 

「マミさん、生身で―――」

 

「魔法の応用よ!」

 

 さやかの問いに答える。

 その力強い目に、頷くさやか。

 マミは折れた―――というより砕けているであろう両足をこれ以上痛めつけないために女性をアスファルトの床に寝かせた。 

 

「魔女の口づけ…やっぱりね」

 

 女性の首元には、派手なエンブレム。

 

「この人は?」

 

 まどかが心配そうに女性を見る。

 見た通り怪我はしていないが心配なのだろう。

 

「大丈夫、気を失っているだけ。行くわよ」

 

 両足が再生したのを感じるマミが言うと、二人も頷く。

 さやかは金属バットを両手で握りしめる。

 人を連れて魔女との戦闘など初めてだ。油断するわけにはいかない。

 

 ―――ゾンビってバレるわけにもいかないものね。

 

 マミは深く頷き、立ち上がり歩き出した。

 二人もしっかりとマミの後を追う。

 

 




あとがき

はい!過去編。ここから頑張っちゃいますよ!
まどか☆マギカの方はここから話がだいぶ変わってきます。
いや、もともと違うけれども……

さて、ゾンビなマミさんはこれからどうしていくのか!
お楽しみにしていただければ幸い。
感想をいただければもっと幸せだなって、思ってしまうのでした♪


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4「デレ期?違います」

 マミを先頭として、まどかとさやかの二人もついてやってくる。

 そこは廃ビルのホールで、正面の大きな階段の上には結界の入り口があった。

 輝く禍々しいエンブレムを睨みつけるマミと、おびえるような目つきのまどかとさやか。

 

「今日こそ逃がさないわよ」

 

 ソウルジェムを指で弾き、変身する。

 いつもの衣装に身を包むと、マミはさやかが構えているバッドを掴む。

 輝くバッドが形を変えて剣のような形状になった。

 

「うわぁ~!」

 

「すごい」

 

 感嘆の声を上げるまどかとさやか。

 軽い剣を片手で軽く振るう。

 意外とその姿はさまになっていた。

 

「私が魔法少女になるとしたら武器は剣だね!」

 

 さやかがそう言って笑う。

 その姿を見て、ぶつぶつと喋っているマミ。

 

「蒼騎士。いえ、でもなんだかひねりが足りないわね。青い魔剣<ブルスパーダ>うぅん……ハッ、戦慄の青いブルー。ダメかしら……」

 

「ま、マミさん?」

 

 まどかに声をかけられて戻ってくるマミ。

 軽く謝るとマスケット銃を二挺持つ。

 結界へと足を踏み入れる手前、振り向くマミ。

 入り口付近を見るが、特に何の変哲もない。

 

「……絶対に私の傍を離れないでね」

 

 まどかとさやかの元気な返事を聞くと、その結界の中へと足を踏み入れる。

 

 

 

 結界内で走る三人。目の前に現れる敵を撃ち倒しながら進むマミ。

 できる限り華麗に優雅に戦う。先輩風を吹かしてカッコつけたがりなマミである。

 近づく敵を、さやかが怯えながら剣で倒す。

 

「や、やった!」

 

「油断しないで!」

 

 銃声と共に、さやかの顔の横を通って、襲ってくる使い魔を倒す。

 

「護身用の武器だからね期待しちゃだめよ」

 

 拳銃サイズのマスケット銃をマミは手の中で回すと両脇から迫る魔女を撃つ。

 本来ならばこうした華麗な戦い方をしていたのだが、最近はどうでも良くなってきたふしがある。

 ゾンビだが痛いのはわかっているのでどうしてもカッコ悪く戦ってしまうこともあるからだ。

 やはり後輩二人がいるからか、モチベーション故に戦闘能力がだいぶ変わる。

 

「どう? 怖い? 二人とも」

 ほほ笑みながら問うマミに、さやかは剣をギュっと握った。

 

「な、何てことねえって!」

 

 声がわずかに上ずっているので理解する。

 

「しっかり守ってあげるからね?」

 

 狭い通路で、三人は前と後ろから来る使い魔に挟撃された。

 前方の使い魔をマミが拳銃サイズのマスケット銃で倒す。

 背後ではさやかが剣を振るっていた。

 しかし細かい使い魔が合体して、まどかを襲おうとする。

 その瞬間、マミが蹴りで使い魔を倒す。

 

「(怖いけど……でもっ)」

 

 華麗に戦うマミを見て、まどかはふつふつと“魔法少女への憧れ”を抱いていく。

 走る三人。後ろのさやかは余裕のようだがまどかがだいぶ疲れているように見える。

 ここらで休憩を入れようか?悩んでいる。

 

「頑張って、もうすぐ結界の最深部だ」

 

 その言葉に、まどかが頷く。

 

「キュゥべぇ、居たのね?」

 

「君は実に失礼だなぁ」

 

 走る三人と一匹が、大きな部屋の前で立ち止まった。

 マミが指さす。

 それを見たまどかとさやかは怪訝な表情をする。

 

「あれが魔女よ」

 

「う、グロい」

 

「あんなのと……戦うんですか」

 

 さやかが握っている剣を受け取ると、その剣を二人と一匹の前の地面に突き刺す。

 そこからバリアのような薄い膜が展開して二人と一匹を守る。

 マミがライフルサイズのマスケット銃を持つ。

 

 目の前にいるのは巨大な魔女。

 体はヘドロのようで、蝶のような羽があり顔付近には緑色の濁りと共に薔薇が装飾されていた。

 何度見ても魔女の容姿というものは醜い。

 

「大丈夫。負けるもんですか」

 

 ゾンビですから。と言おうとして止まる。

 平静を意識して歩き出したマミが、魔女に銃口を向けるとトリガーを引く。

 弾丸の一発が魔女に当たったが、大したダメージにもなっていないようで、飛ぶ。

 

「私の魔弾からは逃げられないわ」

 

 頭にかぶる帽子を取ると、あたりに一周させる。

 地面に刺さって現れるマスケット銃を抜き撃つ。

 何度か繰り返すがほとんどが避けられる。

 

「いくわよ!150%!」

 

 地面を蹴ると、マミは魔女に蹴りをぶつけた。

 吹き飛んだ魔女は壁にぶつかる。

 着地したマミの足が、突如動かなくなった。

 

「(折れた? 違うっ!)」

 

 両足が地面から現れた触手に拘束されている。同様に両腕も拘束。

 あたりから先端がとがった触手が現れ、マミを狙う。

 

「(カッコつけて無理に接近戦なんかするからね……)」

 

 溜息をつくと、身体全体に力を込める。

 

「220%!」

 

 マミが、自分にまきついた触手を引きちぎった。

 両足で地面を蹴ると、空中で魔女に手を向ける。

 壁にある銃弾の痕から、黄色のリボンが出て、壁に魔女を拘束。

 

「これで最後よ」

 

 マミの手にあるリボンが輝き、巨大なマスケット銃が現れる。

 必殺技ともいうべきマミの技。

 先端に光が溜まっていく。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 閃光。魔女は炎に包まれて消滅する。

 着地と同時に紅茶を出して一口。

 まどかとさやかにウインクをすると同時に、魔女の結界は砕けた。

 

 

 

 魔女の結界が砕けると同時にマミも変身を解く。

 紅茶も消えて、そこは廃ビルの通路。

 外から夕日が差しこんでくる。

 

「かっ、勝ったの?」

 

 さやかの疑問に、マミが頷く。

 

「すごい……」

 

 踵を返して少し歩くと、落ちているグリーフシードを拾った。

 やはり“魔女の卵”には抵抗があるようで二人とも警戒する。

 そんな姿にマミがほほ笑む。キュゥべぇがまどかの肩に乗って話を始めた。

 

「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」

 

「私のソウルジェム、さっきよりちょっと色が濁ってるでしょう?」

 

「そう言えば…」

 

 言われなければ気づかない程度だが、確かに濁りはあった。

 これがなんなのかはわからない。

 

「でも、グリーフシードを使えば、ほら」

 

 マミのソウルジェムから、黒い何かがあふれ出てグリーフシードに移る。

 黒いグリーフシードはさらに黒さを増す。

 

「あ、キレイになった」

 

 綺麗になったソウルジェムをしまうマミ。

 手の上にあるグリーフシードを苦笑気味に見る。

 その表情にちょっとした疑問を持ったまどかが何かを言おうとしたが、マミが先に口を開いた。

 

「これで消耗した私の魔力も元通り。前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」

 

 そう言うと、マミはグリーフシードを投げる。

 あっ、と声を上げるまどかとさやかがグリーフシードの行先を視線で追う。

 その先は真っ暗になっている部屋の一つ。

 パシッ、と音が聞こえてから、足音が聞こえる。

 

「あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ暁美さん」

 

 そう言うマミ。現れるほむらを見て、さやかがまどかの前に立つ。

 ほむらは相変わらずの無表情でまどかを見て、マミを見る。

 

「暁美ほむらさん」

 

 名前を読んで、近づいていく。

 予想外なのか少しだけ後ろに下がるほむら。

 それが意外で、マミは少しだけほほ笑む。

 

「そうね、あんまり近寄らない方が良いわよね。ところで……暁美さんはグリーフシードが目的の魔法少女?」

 

 そう聞くと、あけみほむらは少しだけ表情を変える。

 少し煩わしそうにも見えて、マミは困ったような顔をした。

 

「違うわ。ただ……この街を守りたいだけよ」

 

 その言葉に、驚いた表情をするさやかとまどか。

 志はマミとまったく同じ。ならなぜキュゥべぇを攻撃していたのか?

 問おうとしたマミをわかってか、ほむらが先に口を開く。

 

「私は弱いわ。私より強い魔法少女が出れば争いが起きる。その魔法少女がグリーフシード目当てならこの街は地獄に変わる」

 

 その言い分はもっともだった。

 マミにもわかる。

 けれど、さやかは違うようだ。

 

「なによ、私たちがグリーフシード目当てになるって言いたいの?私たちは街の平和を守るためになるのに!」

 

「それでもそれから先ずっとそうしていけるとは限らないわ。巴マミ、貴女にはわかるわよね?」

 

 その言葉に、マミはかつての弟子を思い出した。

 同じ志を持った初めての魔法少女仲間。

 けれどそれは永遠には続かずに……終わってしまった。

 

 頷いて、そうね。と呟く。

 

「だから、私は貴女たちを魔法少女にするわけにいかない」

 

 そう言うと、ほむらがキュゥべぇをにらみつけた。

 さやかはまだ警戒しているようで、まどかを片腕で抱いて、まだ剣状態のバットを構えている。

 情に厚いさやかだからこそそうしているのだろうけれど、この状態であれば混乱を生むだけだ。

 マミが指を鳴らすと、剣はバットに戻る。

 

「しつこいようだけどもう一度聞くわ。貴女は街を守るのよね?」

 

「えぇ、気づいたら使い魔まで狩るようにしている。それは貴女も同じよね?」

 

 軽く笑うと、マミは片手を前に出す。

 驚いているさやか。暁美ほむらが本当に信用に足るのかと、さやかは心配なのだ。

 彼女自身まどかが大事なようにマミもまた尊敬できる魔法少女の『先輩』である。

 

「そのグリーフシード。もらってくれるのかしら?」

 

「この借りは地道に返していくわ」

 

 ほむらが差し出された手を握り返す。

 こうして二人の同盟が成立されたわけだが、さやかは気に入らないようだ。

 マミ自身もほむらの話全てを信用しているわけではない。

 眼を見ればわかる。彼女はどこか自分を偽っていた。

 

「キュゥべぇを苛めないでね?」

 

「あの子たちが契約しないなら……」

 

 どちらともなく手を離す。

 マミが頷くが、少しだけ二人の方を見る。

 

「最後を決めるのは彼女たちよ?」

 

 少し眉をひそめてから、頷く。

 そんなほむらの頭を軽く撫でるマミだったが、ほむらはマミの手を勢いよく払いのける。

 ついユウにやる癖で撫でてしまったマミが、キョトンとした後、笑った。

 

「ごめんなさい、ついね」

 

「わ、私もいきなりでびっくりしたから」

 

 勢いよく振り払った手をチラチラと見る。

 少し深呼吸をするほむら。

 長い後ろ髪を払うと、踵を返す。

 

「私は下にいる人を……」

 

 そう言って去っていく。

 グルルルッ、と音がなりそうなほど威嚇しているさやかだが、まどかがいさめる。

 ほむらに言われて、マミはあらためて思うものがあった。

 

 

 

 その後、廃ビルの前のOLの女性が四人に頭を下げて帰って行った。

 もう大丈夫だろうと、頷くマミ。

 まどかは憧れるような眼でマミを見ていた。

 それに気づいたほむらが、少し気に入らなさそうな顔をする。

 

「さて、帰る?」

 

「少し喫茶店でも寄って行かない?」

 

 ほむらの誘いに驚愕する三人。

 少し怪訝な顔をするほむら。

 三人が三人とも、まさかこの後にほむらと喫茶店に行くなんて思ってもみなかった。

 それだけあって開いた口がふさがらない。

 

 

 

 

 

 結局四人で喫茶店にきたものも、話すことと言ったら魔法少女の話だ。

 全員が飲み物を用意して、話を始める。

 

「二人になってほしくない理由についてしっかり私から説明しおくわ」

 

 ほむらはマミに目を向けた。

 なんとなくわかって、話して、と促すマミ。

 

「私は心臓の病気で……願いが無ければ一生病院暮らしだったかもしれない。一生戦い続けることに後悔なんてない程の願いのつもりよ」

 

 言いたいことがわかった。

 ようは願いに選択肢があるかないか、そしてその願いが一生をかけるに値するかだろう。

 釣り合う釣り合わないでは無く、かけるに値するかしないかだ。

 

「私も、交通事故で死にそうなところを願いで生き残った。私たちは選択の余地なんてなかったってことでしょうね。一生戦い続けるのだって“しょうがない”で済ますしかないもの」

 

 頷くほむら。まどかとさやかの表情は少し暗い。

 幸せで平凡な彼女たちには少しキツイ話なのかもしれないと、マミは目を伏せた。

 ほむらは話を続ける。

 

「鹿目まどか、美樹さやか、貴女たちが今までしていた生活は無くなるのよ。恋人も友達も居なくなるし魔法少女の仲間が死んでしまって一人になる時だってある」

 

 その重苦しい言葉に、まどかは俯いてしまう。

 暁美ほむらはそれでも言葉を止めるわけにはいかなかった。

 それなりの理由もある。

 

「それに鹿目まどか。貴女のように優しい子が魔法少女になるものではないわ……魔法少女に救いなんてないんだから」

 

 その言葉に、まどかは狼狽していた。

 

「あたしは無視かい!」

 

 鮮やかなツッコミだが、ほむらとまどかはスルー。

 マミが肩に軽く手を置くと、しみじみと頷く。

 結局、マミにとってほむらのその願いはわからないでも無いものだった。

 軽い願いで魔法少女になられるのは、マミにとっても嫌なものだ。

 

「たしかに暁美さんの言うこともわかったわ」

 

「なら巴マミ。これ以上二人をこんなことに連れまわすのはやめて―――」

 

 どこか、食い違っていたようだと感じるマミ。

 

「ほむらちゃん、マミさんに連れて行ってもらったのって私がお願いしたからなんだ」

 

「その通りだよ。魔法少女になるなら見た方が良いだろう?」

 

 まどかの後のキュゥべぇの声。

 むすっとした表情になるほむらだが、苦笑するマミ。

 なんだか思ったより人間らしい子のようで嬉しい限りだ。

 

「じゃあ、今日から二人は……私たちと下手を関係をもたないように」

 

 ほむらがそう言うと、マミはわずかに寂しそうにしていた。

 だれもそれに気づくことはなかったけれど、さやかは反発する。

 

「なんでさ、マミさんだって最後を決めるのは私たちだって……」

 

「美樹さやか、貴女もじっくり考えなさい。私は帰るわ」

 

 そう言うとほむらは立ち上がった。

 同時にまどかも立ち上がる。

 一緒に帰るつもりだろう。

 あの二人はあの二人で話があると見たマミは、特になにも言わずに二人を行かせようとする。

 

「ちょっと!」

 

 まどかが心配なのか、さやかも立ち上がった。

 いつのまにやらキュゥべぇはまどかの肩だ。

 

「じゃあマミさん!」

 

「また明日!」

 

 そう言ってほむらの後を追っていくまどかと、その後を追っていくさやか。

 あの三人が仲良くなってくれれば良い。と思いながら立ち上がるマミ。

 残った紅茶を、一人飲むマミ。

 もう少しゆっくりしていこう。

 幸い時間はまだ余裕がある。

 

 暁美ほむら。彼女のことがいまいちわからなくなる。

 突然現れた魔法少女、そしてキュゥべぇ曰く信用ならない。

 言葉を聞く分にはそうでも無いのだがマミだって信用はできないのは確かだ。

 別に殺されても問題無いので騙し討ちも恐くは無い。

 だからこそ歩み寄れたけれど、臆病な自分が平時に歩み寄れたかと言われたら、それは否だ。

 

 数々の魔法少女に騙されそうになったマミだからこそ、魔法少女を信じることの怖さがわかっている。

 騙されていないにしろ、暁美ほむらを完全に信用するのはまだ軽率だろうか?

 けれど信じたいのは確かだ。

 彼女も自分と同じ志を持った魔法少女であると、もしかした脆い自分を支えてくれると、信じたい。

 それ以外の理由だってある。けれどそれを直接言うのは失礼にあたるかもしれないと、頷く。

 

「(ダメね、ユウと一緒にお風呂でも入りましょう)」

 

 どうせダメだろうけれど、と思いながら笑った。

 立ち上がると、伝票を持つ。

 そう言えば誰一人お金おいて行かなかったと思いながらも、会計をする。

 

「960円です」

 

 店員の言葉に、千円札でも出そうかと財布を開くと、横から手と共に千円札が出てきた。

 テキパキと会計を済ます店員。マミが横を見るとそこには肩を上下させているほむら。

 喫茶店を出ると、マミが困惑したような笑みのまま問う。

 

「どうしたの?」

 

「忘れてたのよ」

 

 その言葉に、頷く。

 あのままでも構わなかったけれど、と言おうと思ったがそれは野暮だろう。

 

「ありがとう」

 

 返事は無く、その代わりに髪を払うほむら。

 どちらともなく歩き出した。

 歩く二人の空気は重くは無い。

 

「なんで、私と組もうと思ったのかしら?」

 

 歩いて数分、突然ほむらがそう聞いた。

 死なない。というのもあるけれど理由はある。

 失礼かもしれないけれど、言ってみることにした。

 

「少し前の私に似てたから……」

 

 その言葉に、横のほむらはわかっていないよう。

 

「一人なのかなって」

 

 少し動揺したような顔をする。

 それが新鮮で、少し笑ってしまった。

 別に悪い子ではないのかもしれない。

 

「でも、お互い孤独を感じる心配なんて無いでしょ?」

 

 少し目を見開くほむら。やはり人間らしい部分が垣間見えて楽しいと思った。

 最初は機械のように冷たい少女だと思ったが、ユウとどこか似ている。

 “仮面”をかぶっているのだろう。

 何かを“殺す”ための仮面を―――それがなにかはわからないが、自分がそれを外す手伝いをできればな、と思ってしまう。

 それでも、きっとこの仮面を外すのは“鹿目まどか”だ。

 

「それじゃ、私はこっちだから」

 

 そう言うと、ほむらはマミの家とは反対方向に歩いていく。

 彼女は自分の家の方向を知っているのだろうか?

 まぁそんなことは些細な疑問にすぎない。

 あの謎だらけの少女と“同盟”を組んだのだから……

 

「また明日ね」

 

 その背中にそう言うと、少し立ち止まる。

 

「ええ、また……」

 

 去っていくほむらの背中を見て、マミはわずかにほほ笑んだ。

 帰り道を行く足取りはいつもより軽く、気持ちのいいものだった。

 

 

 

 

 

 帰ってきたマミは、リビングに向かう。

 相変わらずの“おかえり”を見て嬉しそうにただいま。と返し食事の準備。

 米は炊いてあるので味噌汁をつくりおかずである豚キムチを作るだけだ。

 ユウが来てからは自分で料理を作る回数が増えた。

 魔女狩りで疲れた日はコンビニ弁当で済ましていたこともあったが最近は料理を必ず作る。

 そんな所にも一人じゃなくなったという影響が出ていて、なんだかおかしくなって笑う。

 20分程度で晩御飯の準備をすると、二人でちゃぶ台を囲んで食事を始めた。

 

 問題としては、ユウの食事量が尋常じゃない。

 米もおかずもすぐ食べる。

 まぁマミが小食なだけあってそれぐらい食べてくれると一周まわって気持ちが良いが……あまりの速さに自分がご飯を食う暇があまりない。

 

 そしてまた茶碗が突き出される。

 マミの脳内で妄想が繰り広げられた。

 

「お姉ちゃんの帰りが遅いから、ユウお腹ペコペコだよ」

 

 妄想ユーは饒舌で可愛らしい。

 

「ご飯が終わったら。一緒にお風呂入ろうね!」

 

 決して外では魅せられないニヤケ顔。

 マミを尊敬しているまどかやさやかが見れば卒倒しかねないほどだ。

 

「はいはい、お姉ちゃん大変だな~」

 

「私も味噌汁をいただきたいのですが?」

 

「はいは―――えっ?」

 

 あたりに、葉がまっているのに気づく。

 室内なのになぜ―――と思うと、ちゃぶ台で座っているマミ、ユウのほかに一人。

 綺麗な、美女がそこに居た。

 流れるような黒いポニーテール。翡翠色の眼をした―――高校生ぐらいだろうか?

 

「えっと……誰?」

 

「味噌汁」

 

「味噌汁……さん?」

 

 微妙な沈黙が、その場に流れた。

 とりあえず味噌汁を用意した方が良いのだろうか?

 非日常に慣れ親しんだマミは対して驚かなくなっている。

 

 ―――なんだか、それがとってもヤバいなって、思ってしまうのでした。

 

 

 

 

 




あとがき

とりあえずほむらと協力することになりました!
そして現れたのはもちろん彼女です。
ここから話もだいぶオリジナル入ってきます。
なんたって魔法少女でゾンビですからww

では、次回もお楽しみいただければいいなと思います♪
感想おまちしてます!


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5「はい、吸血忍者です」

 食事を用意すると、突然現れた美女はしっかりと全てたいらげた。

 ハンカチで口元を拭い、しっかりとごちそうさまと言う。

 その仕草が終わると、マミは最初に口を開いた。

 

「ユウの知り合い?」

 

 そう聞くが、ユウは無言で食事を続けている。

 ユウの知り合いでもないようだと、マミは視線を移す。

 

「あの、一応自己紹介とかお願いしてもいいかしら?」

 

 マミがなるべく相手を刺激しないような声音で言う。

 突然現れたのだ。魔法少女かユウと同じくまた別の何かか……

 

「わかりました。私はセラフィムです」

 

「(外国人!? い、意外なとこから来たわね)」

 

 戸惑いながらも、マミは平静を装う。

 セラフィムは続けて口を開く。

 

「好きなものは“秘剣燕返し”」

 

 少し好きなものについて引っかかりを覚えるマミ。

 

「特技は“秘剣燕返し”趣味は“秘剣燕返し”です!」

 

 気のせいではないと思うが、三回目の秘剣燕返しがやけに強い音程で言っている気がする。

 マミは絶句しながら、言う。

 

「全部、秘剣燕返しなんですね……」

 

 何しに来たんだ。と思いながらも愛想笑いを返すマミ。

 内心は恐ろしいほど焦っている。

 

「(ヤバいわ! この人ヤバい人だわ!)」

 

 セラフィムはユウの方に視線をやった。

 

「ユークリウッド・ヘルサイズ殿の力をお借りしたい」

 

 食後のお茶を飲んでいるユウが、湯飲みから口を離す。

 視線は一度もセラフィムの方にはやらないようだ。

 

「私の任務は、ヘルサイズ殿の同意の元、同行を求めることです」

 

 ユウはもう一度湯飲みに口をつける。

 

「どこに?」

 

「忍者の里」

 

 まだあったんだ。と思いながらも嘘だとは思わない。

 魔法少女がいて冥界人がいるんだから、忍者ぐらいいまさらといった感じだ。

 マミは問う。

 

「じゃあ、貴女は忍者ってこと?」

 

 それに肯定するセラフィム。

 

「私は、吸血忍者です」

 

 まったくもって意味不明。

 マミは無意識に、吸血?とつぶやいた

 音がした。ちゃぶ台を見ると、その上にユウのメモ帳。

 ペンでそのメモ帳をトントンとたたく。つまりは急かしているのだ。

 

『マミ、構わない、追い返せ』

 

 単調だがわかりやすい。

 目を伏せているユウを見て、マミが困ったように笑う。

 

「そ、その必要はないんじゃないかな、ユウ?」

 

 もう一度ちゃぶ台を叩くペン。

 メモ帳には新たに“いいから”が追加されていた。

 まったくもって困ったことだ。

 マミが唸るように声を上げる。

 

「ところで貴女は、ヘルサイズ殿のなんなのですか?」

 

 そんな質問を投げかけてきたセラフィム。

 少し得意げな顔をするマミが片手で額を押さえて言う。

 

「私はユウの保護者と言うか、まぁ~」

 

 マミの脳内に妄想ユウが現れる。

 

「おねぇ~ちゃん!」

 

『下僕』

 

 即座に妄想から現実に戻されるマミ。

 

「(そこはお姉ちゃんと言ってよ~)」

 

 うなだれるマミだったが、現実は非情だ。

 暗い雰囲気がマミの背中に重くのしかかる。

 ソウルジェムが濁りそうだが、そんなことはなかった。

 

 マミを放って、セラフィムはユウを見る。

 

「ならば私も下僕となります。私のことはセラとお呼びください」

 

 うなだれていて状況がまったく理解できていないマミ。

 ユウがセラフィムにメモ帳を持ち上げて見せる。

 一切マミには見えない。

 

『下僕は一人で良い』

 

 その文字を見て、いささか動揺するセラフィム。

 

「でしたら、この頭が悪そうな女に代わり、私が」

 

 うなだれていたマミが顔を上げるが、些か表情が険しい。

 

「勝手に上がりこんだあげくに失礼極まりないわね」

 

 そんな抗議に表情を一ミリも変えずに立ち上がるセラフィム。

 

「お役御免の馬鹿に、気遣う必要はもうありません」

 

 少しだが、マミに向けられるセラフィムの視線も厳しくなった。

 向こうから向けられる対抗心と敵対心。

 

「どこか、人の居ない場所に行きましょう」

 

「できれば戦いたくないのだけれど?」

 

「ヘルサイズ殿の下僕に相応しいのはどちらか……はっきりさせてあげます」

 

 深いため息をつくマミからは不本意という念がにじみ出ている。

 せっかく暁美ほむらと仲良くなれたのにこの始末。

 自分は常々敵をつくることに長けているのかと疲れて仕方がない。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 結局人気が無い場所を求めてやってきたのは、墓地だった。

 不気味な雰囲気なのだが、相変わらずマミには落ち着く場所だ。

 

「で、セラさん……? 本当に私を殺すつもり?」

 

「目的のためなら仕方ないでしょう。しかし―――」

 

 セラフィムの翡翠色の眼が、紅に変わり輝く。

 長い黒髪のポニーテールと相まってその姿は綺麗だ。

 

「―――貴女は命ある人間ではない」

 

「そこまで知ってるの……」

 

「忍者ですから」

 

 会話になっていないことを今さらどうこう言うつもりもない。

 辺りに木の葉が散る。

 風に乗り、辺りを舞う緑色の葉。

 

「戦闘不能になるまで切り刻みます!」

 

 セラの手元に集まった木の葉が、一振りの刀になった。

 これまた大層なものがでてきたと思いながら、マミは言う。

 

「ゾンビだけど、痛いものは痛いのよ?」

 

 その刀の切っ先を、マミに向けるセラフィム。

 タンクトップにジーンズに紺色のマント。まったくファッションセンスがわからない。

 などと考えるマミだが、そんな余裕はない。

 

「降参しますか?」

 

 その威圧感を感じながら不敵に笑うマミ。

 わかりやすい兆発に乗らないなど、ベテラン魔法少女の恥だ。

 

「ユウが追い返せって言っていたからね」

 

「では、参ります!」

 

 一際凛々しく大きな声と共に、跳びだすセラフィム。

 瞬時に間を詰めて振られた二撃だったが、マミはバックステップでなんとか避ける。

 さらに続く連撃に紙一重と言った様子でよけていくマミ。

 

「なっ!?」

 

 しゃがんで避けた斬撃は、背後の墓石を切り裂く。

 マミが蹴りを放つが、その瞬間セラフィムは木の葉の中に消える。

 姿が見えず、あたりには木の葉が舞うだけだ。

 立ち上がり次の攻撃を警戒する。

 

「好きなものは“秘剣燕返し”特技は“秘剣燕返し”」

 

 辺りから聞こえる声に、マミは困惑していた。

 

「趣味も―――」

 

 瞬間、背中に強烈な激痛が走る。

 背後にはセラフィム。刀は既に振られていて、マミの背中からは血が吹き出た。

 地面に伏すマミ。

 

「―――秘剣、燕返しです!」

 

 セラフィムは倒れるマミを見下しながら、刀についた血を振り落す。

 

「その程度でヘルサイズ殿の下僕などと、お話になりません。この、クソ虫」

 

 紅の瞳が―――輝いた。

 両手を地面について、飛び跳ねるマミ。

 跳ねると同時に空中で体勢を変え、蹴りを放った。

 だがその攻撃は横に移動され、避けられる。

 

「ちぃっ!」

 

 マミが着地して振り返ると、セラフィムは刀を振り上げていた。

 横に転がり避けるマミ。墓石が再び切断される。

 再び振られる刀に、慣れてきた動体視力で追いつく。

 しかし完全に避けられずに頬をわずかに切ったようだ。

 

「(この人っなんて罰当たり……っ!?)」

 

 木の葉の中から再び斬撃。

 

「ふっ、やっ……ぐっ!?」

 

 何度も振られる素早い斬撃を避け続けるマミ。

 時折跳んで両手だけで避けたり。アクロバティックな戦闘。

 横に振られる刀。マミはしゃがんで避けると蹴りをセラフィムの腹に直撃させた。

 

「ぐっ!」

 

 くぐもった声はセラフィムのものだ。

 肩で息をしながらも立ち上がるマミ。

 

「はぁっ、はぁっ……秘剣燕返し、ギリギリかわすのが精一杯っ」

 

 刹那、背後に木の葉が集まる。

 感覚だけでそれを感づき、マミは表情を変えた。

 そして、振り向いた瞬間―――刀が振られた。

 

 マミの腕、肘から先が跳ぶ。

 腕の断面から血飛沫が上がった。

 

「ぁぁっ!」

 

 苦悶の声を上げるマミに、セラフィムが追い撃ちをかけようと走る。

 マミが、わずかに口元を歪め、走り出す。

 自ら、刀が突き刺さるように誘導。

 胸の間に突き刺さった刀の刃はマミの背中から飛び出す。

 そしてマミは、突き刺さった刀を掴んだ。

 

 マミの顔は痛みのせいか汗でいっぱいだ。

 

「っ……これで、秘剣燕返しは使えないでしょ?」

 

 刀を引き抜こうとするセラフィムだが、マミの力に敵うはずもない。

 

「貴様ぁっ!」

 

 悪態をつくセラフィム。

 マミが頭を大きく後ろに振りかぶった。

 

「喰らえぇっ!250%!」

 

 振られた頭が、セラフィムの頭に直撃する。

 後ろに下がるセラフィム。

 

「痛ったぁっ!」

 

 セラフィムがマントを残して、木に変わった。

 変わり身の術という奴だろう。

 倒れるマミの横には、左腕の先が落ちていた。

 

 マミの視界に映る満月。そして黒いシルエットが視界に映る。

 黒い翼を羽ばたかせて飛んでいるのはセラフィム。

 彼女は―――刀を振る。

 

「秘剣燕返し! 八連!」

 

 八つの紅の斬撃がマミを襲う。

 飛ぶ斬撃はマミに直撃したのかしていないのか、マミの周囲には激しい砂埃が舞った。

 僅かに笑みを浮かべるセラフィムだが、すぐにその顔を驚愕にゆがめる。

 

 砂埃の中から飛び出してきたのは、マミの左腕だった。

 それはセラフィムの腹部に勢いよく直撃する。

 落ちていくセラフィムを見ながら、地上のマミは笑みを浮かべる。

 

「私……ゾンビですから」

 

 落ちながらも、セラフィムは最後に腕を振るった。

 振るった腕からまっすぐ飛んできた手裏剣は、マミの額に突き刺さる。

 

「んうっ!?」

 

 直立不動のまま、倒れるマミ。

 勝負は―――一応、マミの勝利で決した。

 

 

 

 そして、セラフィムは地面に正座をして頭を下げた。

 すぐに上げるが、その表情に敵意は見られない。

 

「参りました。さすがヘルサイズ殿の下僕と認める女」

 

 腕はくっついたものの、マミは額に刺さった手裏剣を抜けないでいる。

 立ち上がるセラフィム。

 

「私は家に帰らせていただきます」

 

「いさぎ良いのね?」

 

「吸血忍者なりのプライドです」

 

 凛々しい声と表情。一瞬の内に消えるセラフィム。

 マミは斜め上に視線をやる。

 

「吸血忍者セラフィム、恐ろしい相手だったわ。次に勝てるかどうかはわからない」

 

 セラフィムのように凛々しく言う。

 だが、手裏剣の刺さった額から、血が流れた。

 

 

 

 

 

 そして、帰ってきたマミはいつも通り、ただいま。と言ってリビングに入る。

 だがそこで目撃したものは、ユウの湯飲みに茶を注いでいるセラフィムだった。

 

「な、なんでまだいるの……家に帰ったんじゃないの!?」

 

 額に手裏剣を刺しっぱなしの挙句、血だらけのマミは言う。

 セラフィムは茶を入れるのをやめて、マミの方に視線を向ける。

 

「家には違いありません」

 

「あぁ~! なるほど、私の家に帰ってきたんだ……って居座るつもり!? セラさん決闘に負けたじゃない!」

 

 勢いで手裏剣を抜いたマミ、額から血が噴き出ることもお構いなしと言った様子だ。

 それが何か?という表情でなんでもなさげ。

 

「吸血忍者のプライドはどうしたのよ!」

 

「なんとしてでも任務を果たすのが、忍者のプライドです」

 

 ユウがそっとメモ帳を持ち上げる。

 

『どういうこと?』

 

「私が聞きたいわよ」

 

 マミは疲れたようにつぶやくのだった。

 

 

 

 ちゃぶ台を囲んで座る三人。

 ユウを見ながら、セラフィムがマミを指さす。

 

「しかたりません、私はこの胸しか取り柄がなさそうな女の下僕となりましょう―――」

 

「黙って聞いてれば胸しかって、しかって……貴女がそのつもりならっ!私の下僕になったからには私の優雅な生活のために毎朝メイド服で起こして紅茶をついで!それからそれから―――」  

 

「嫌です気持ち悪い」

 

 マミの心がズタズタにされる。

 今度こそソウルジェムが濁っただろうと思うマミ。

 

「せ、せめてマスターとか、ロード、とか?」

 

「嫌です、このクソ虫がっ」

 

「(なんて凛々しいお方っ!)」 

 

 マミは驚愕と同時に、折れざるを得なくなってしまった。

 酷い展開である。

 彼女たちは、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 マミは自分の部屋で横になる。

 まさか同居人が二人になるとは、一ヶ月前とは大違いだ。

 あの静かで孤独な日々も、もう無い。

 そう考えると、なんだか自然と涙が出てきた。

 

「情けないなぁ」

 

 つぶやいて涙をぬぐう。

 明日の魔女狩りはきっと、暁美ほむらと一緒だ。

 もう、なにも恐くない。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 一軒のアパートの一室。

 表札に暁美と書かれた家の中には、ほむらが一人。

 あまり広いともいえない居間の壁にはたくさんの資料が貼り付けられている。

 ちゃぶ台の前に座って、コンビニ弁当を食べている暁美ほむら。

 学校でも無愛想である彼女だが、今夜はやけに嬉しそうにも見えた。

 

「まさか、巴マミがあんな風に味方になってくれるなんて」

 

 心底意外といった表情。

 でも、できることなら魔法少女なんてものをあの二人には見せないでいて欲しかった―――などとしばらく考えた後、切なそうな表情を浮かべる。

 先ほどとは違う表情だ。

 

「貴女はまた、一人なの?」

 

 誰に問うでも無くつぶやく、ほむら。

 目を細めて、天井を見る。

 

「私はまどかのために全てを捧げる。でももし、全てが終わって私と貴女が生きていたなら……私を傍にいさせてくれますか?」

 

 つぶやいて、畳の上に横になると、腕を顔の上に置く。

 憂鬱そうに溜息をつくと、腕をまっすぐと伸ばす。

 その瞳は、わずかに潤んでいた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌朝、マミが窓際に立って憂鬱そうな表情で外を見ている。

 外は雨が降っていて、灰色の空はマミにとって嬉しいはずだ。

 

「周囲にヒトが増えても、私は結局一人なのね……泣けない私の代わりに、空が泣いてくれているようだわ」

 

 はぁ、と艶かしく息を吐くマミ。

 そんなマミの制服の裾が引っ張られる。

 振り向くと、そこにはユウが立っていた。

 メモ帳を持ち上げる。

 

『おかわり』

 

 ちゃぶ台に乗っているユウの茶碗と味噌汁の御碗が空になっていた。

 マミの眼がわずかに揺らぐ。

 ユウがメモ帳を下げて、ペンでなにかを書いた。

 

『至急、おかわり』

 

 頭を抱えるマミ。

 

「さっきの私のあのシリアスな雰囲気どうするのよ」

 

「やめてください気持ち悪い」

 

 これは酷い。と思いながらユウのおかわりを用意しだすマミ。

 すると、セラフィムも空の御碗を差し出してくる。

 それを受け取ったマミがおかわりを注ぐ。

 

「セラさんは私馬鹿にしすぎじゃない?」

 

 困ったように笑うマミが御碗を渡す。

 受け取ったセラが、無表情で味噌汁を飲んでいく。

 

「ご飯だけは褒めます」

 

「ふふっ、ありがとう♪」

 

 マミはそう言い、箸を動かす。

 この後すぐに学校に行かなくてはならないからか、制服はもう着ている。

 髪もしっかりいつものようにセットされていて、いつものマミだ。

 

「少しは見直してくれたかしら?」

 

 クスッとほほ笑みながら聞くマミ。

 いつものような姿なのだが、セラフィム一人増えただけでだいぶ騒がしさが違う。

 マミ自身それに喜んでいて、楽しそうでもある。

 だからついからかう意味も含めてそう聞いてみたのだが……

 

「ありえませんクソ虫ッ!」

 

 ―――台無しじゃない。 

 

 マミは、黙々と食事を続けた。

 

 




あとがき

さて!セラフィム参戦です!
えっ、ハルナが出てない?魔装少女なんて出したら面倒なことに(
とりあえず吸血忍者参戦ということで、次回からいろいろと大変なことになります!
まどか☆マギカは二話までですからこれからはしばらくオリジナルの魔女などと戦います。一気にシャルロッテとかも考えたんですがねぇ

まぁなにはともあれ楽しんでいただければ幸いです!
では次回もお楽しみに♪


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6「そう、きっと夢オチで」

 放課後、巴マミと暁美ほむらは路地裏から出る。

 初めての協力。戦闘はすぐ終わった。

 一人ならばそこそこ苦戦したかもしれない魔女。

 しかし暁美ほむらのサポートが絶妙だった。

 

「(私の戦い方を熟知しているようだったわ)」

 

 だが、ほむらの方は内心驚くこともあったのだ。

 主に巴マミが接近戦をした時などは時折驚く。

 そもそもマミの戦い方は遠距離戦メインの戦い方だ。

 接近戦はゾンビの力があるからこそ、である。

 

「ありがとう、おかげで楽に終わったわ」

 

「いえ、役に立てたならなによりよ」

 

 いつも通り、後ろ髪を払う仕草をした。

 まどかとさやかだが、今日はほむらの要望もありかえらせることになったのだ。

 あの二人をあまり危険にさらしたくないとマミに言った。

 もちろんマミも思っていることで、それに新しい魔法少女を増やすことについてはほむらに言われていらないと思い始めている。

 

「これから二人で頑張りましょうね♪」

 

 そう言って笑いかけると、ほむらは少し視線を逸らしながらも―――頷いた。

 なんだか、その姿がやけに可愛らしく見え、気づけば動いていたマミ。

 ほむらの頭を優しく撫でる。

 

「あっ……嫌だったかしら?」

 

「べ、別に……」

 

 マミが気付いて手を頭から離すと、赤い顔でそっぽを向くほむら。

 

「……いやでないわ」

 

「ほんと?」

 

 頷くほむらを見て、マミは嬉しそうにほほ笑んだ。

 

 

 

 狩りを終えると、時間は8時を過ぎていた。

 充実した時間だったと思うマミだが、表情のないほむらも内心はそう思っている。

 実際ほむらは嬉しいのだ。

 しかしそんなことを言えば―――

 

「(私の信念が揺らぐ)」

 

 ほむらはマミの顔を見て、そう思う。

 マミは彼女が何を目的になにをしようとしているか、なんて今更考えてはいない。

 ただ純粋に街を守ってくれているのだと思うことにした。

 

「それじゃ、気を付けて帰ってね?」

 

「貴女こそ」

 

 マミが軽く手を振るので、軽く返しなおすと、いつも通り髪を払い去っていく。

 そのほむらが見えなくなるとマミはマンションへと歩き出そうと踵を返した。

 

「……セラさん」

 

 目の前にいたのはセラフィム。

 自分より高い身長のせいで見上げる必要がある。

 マミを見下ろすセラフィムは、ほむらが去って行った方向を見ていた。

 

「ストーカーですか」

 

「違うわよ!?」

 

 自分の保身のために言っておく。

 友達であると言うと、なんだかつまらなさそうに頷くセラフィム。

 どんだけ自分を弄り倒すつもりなんだろうと気が遠くなりそうになりながらも、項垂れるマミ。

 

 程なくして、二人は話をしながらその場を離れる。

 買い物も必要ないということで真っ直ぐ家を目指す二人だったが、暗いせいかだんだん人気が無くなっていく。

 すると、目の前に一人の男性が現れる。

 不穏な雰囲気を察して立ち止まるマミとセラフィムの二人。

 長身で大柄な男性はマミを見て唇をゆがめた。

 

「(貞操の危機!?)」

 

 ビクッと反応するマミに、男は歩き出す。

 

「ま、魔法少女の魔力……」

 

 魔法少女のことを知っている!?と戦慄するマミ。

 隣にいるセラフィムも目を細めていることから危機感があるのだろう。

 すると、突然マミの肩に白い獣が乗った。

 

「あれはメガロだ!魔法少女を倒すために冥界が作り出した兵器だよ!」

 

 白い獣ことキュゥべぇがそう解説して、肩から離れる。

 男の背中から、二つの腕が出てきた。“男”という皮を内側から引き裂き、現れるのは巨大なザリガニ。

 茫然とするマミ。

 その巨大なザリガニは変な鳴き声を上げる。

 

「お前が欲しぃ~」

 

「ヒィィィィッ!?」

 

 恐れおののき、マミは自分の体を抱く。

 

「あんなのでも良いんですか、この変態」

 

「ちょっ!」

 

 そんなことは無いと言おうとをしたマミだったが、その瞬間、ザリガニのハサミが跳びだした。

 ロケットのように飛んでくるそのハサミを、マミは片手で押さえる。

 

「ば、バカな!」

 

 ありがちなそんなセリフを聞いて、マミはハサミを抑えながら顔に笑みを浮かべた。

 その笑みはどこか不敵で、そして大胆である。

 横にいるセラフィムは、何の心配もしていない表情。

 

「せいっ!」

 

 マミが、押さえているハサミの向く方向を180℃変えさす。

 ハサミは真っ直ぐメガロの方へと飛んで行くが、身体をそらしたせいでハサミは空高く飛んでいった。

 

「セラさん、合わせてください!」

 

「わかりました」

 

 刀を持つセラフィム。

 マミが走ってメガロの懐に飛び込んだ。拳を下に振りかぶると、地を勢いよく蹴る。

 それと共に跳びだしたマミが、肘にてメガロの腹部を打つ。

 

「200%!」

 

 衝撃と共に、空高く飛ぶメガロ。

 マミが変身。それと同時に二挺のライフルサイズのマスケット銃を撃った。

 弾丸がメガロに撃ちこまれる。

 その弾丸からリボンが出現。

 リボンはメガロを拘束した。

 

「終りね」

 

「当然です」

 

 木の葉と共に、浮いているメガロの前に現れるセラ。

 すでに刀を振り上げているセラは、赤い瞳で眼前の敵をにらみつける。

 

「秘剣燕返し!」

 

 真っ向からの一刀両断。

 真っ二つになったメガロは光の粉となって空中に消えゆく。

 着地するセラの傍へと寄るマミ。

 昨晩戦いあった二人だが、全然弱かったと思える。

 

「コスプレですか」

 

「違います!」

 

 そう言うマミが気付く。おそらくセラフィムには魔法少女の素質は無いのだろう。

 先ほどもキュゥべぇが見える様子は無かった。

 そのキュゥべぇも今は居ない。

 変身を解くマミが、セラフィムを見る。

 

「帰りましょっか」

 

「ええ」

 

 少し腑に落ちないマミだったが、セラフィムと歩いていく。

 まさかコスプレイヤーなんて印象はついていまいと自分に言い聞かせる。

 まったく厄介なことになったと、マミはため息をつきながら歩いて行った。

 

 

 

 

 

 家に帰って、マミはメガロのことを忘れていた。

 もちろんあえて忘れていたのであって、本気で忘れたわけじゃない。

 たまに本気で忘れそうになるが、すんでのところで思い出す。

 そして、夕食を食べ終えてユウがいつも通りテレビを見ながらお茶を飲んでいた。

 その隣に腰かけたマミが、静かに聞く。

 

「ねぇ、メガロって知ってる?」

 

 ユウは静かにお茶を置く、メモ帳に片手で文字をかくと、そっとマミの方に寄せた。

 優しく微笑むマミがそのメモ帳を見る。書かれている文字は単純な一言。

 

『知ってる』

 

 頷く。ユウはページを千切る。

 次のページには既に文字が書かれていた。

 

『どこで知ったかはだいたい予想できる』

 

 再びページがめくられる。

 

『冥界は魔法少女を消そうと考えてる』

 

 頷くマミ。言いたいことも、言っている意味も大体理解したつもりだ。

 先ほどあの力は我が身で味わった。勝てないことはないが、油断はできない。

 

『気をつけて』

 

 それが終わりなのだろう。すぐにテレビの方に目をやってお茶を啜る。

 マミはほほ笑んでユウの頭を撫でた。

 表情を変えないユウだが、心配してくれているのがわかる。

 

「マミ」

 

 セラフィムが名前を読ぶ。振り返ったマミの前にいたセラフィムの手には皿。

 その上に乗った料理はおそろしいオーラを放っていた。

 黒い暗黒のオーラを放つその薄緑の液体。

 本能的な恐怖により震えながらも、マミはそれを指さす。

 

「ここここっ! こここっ、ここここここここっ、これはなに?」

 

 その料理を指差す指すら震える。

 体中の水分が一斉に汗となって出ていく中、セラフィムはマミの前にその料理を置く。

 マミの前にスプーンが置かれた。そしてセラフィムは死を宣告。

 

「さぁどうぞ」

 

 日頃料理を作ってもらっていますから、という言葉を受けながらも、スプーンを使いスープを飲む。

 刹那、口の中が焼けるような感覚に陥る。液体はすでに喉を通り胃を焼く。

 叫びすらも出ない中、マミはの床をのたうちまわった。

 

「あまりのおいしさに阿鼻叫喚していますね」

 

『おいしくて阿鼻叫喚はでない』

 

 ユウのメモにも目をやらないセラフィム。のたうちまわっているマミが起き上がりそのスープを見て、セラを見る。

 いつも冷たい眼をしているセラが、少し優しい顔でマミを見ていた。

 

「どうぞ、全部飲んで良いんですよ?」

 

 喉を鳴らすマミは、死を予感する。

 なんだか妙に子孫を残さねば、と言う気になってくるのは死を意識しているからだろう。

 息が徐々に上がってくる。汗が顎を伝う。

 そして、両手で皿を持つと、皿の端に口を付けた。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……っ……っ!!?」

 

 全てを飲み干すと、マミは一瞬ビクビクっと跳ねて、倒れる。

 セラはおいしさのあまり気絶した。とした。

 気絶しているマミが時たま痙攣するのを見てから、ユウは再び興味なさげにテレビを見る。

 日常と言えば、日常なのだろう。

 

 

 

 

 

 マミが目を開く、体の内部はもう再生しているようだと冷静に判断するが、イマイチ冷静になれない。

 それも全部、目の前一杯にある胸が原因だろう。

 巨大なソレだけでわかるのは、セラフィムだということ。

 

「おはよう」

 

 そう言って起き上がるマミ。

 セラフィムは、おはようございます。と一言。

 料理のことはなんとも思っていないのだろう。

 

「優しいのね」

 

 笑顔でそう言うマミ。セラフィムはそっぽを向いて立ち上がるとそのまま歩いて行ってしまう。

 少し困った顔のマミは、怒らせてしまった? と心の中でつぶやく。

 外がもうすぐ朝なのに気づき時計を見る。

 デジタル時計は時刻4時を示していた。

 

「もう一眠りしようかしら」

 

 大きく背を伸ばして、マミは髪留めを外して二つのロールを解く。

 そのままだらしなくベッドに横たわると、眠りについた。

 ベッドに横たわったマミ。その横で、ごそごそと動く影があった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 見滝原の見慣れた河川敷に立っているマミは、暁美ほむらと共にいた。

 なぜか暁美ほむらはおさげでメガネだ。

 オロオロとした雰囲気から、今の雰囲気は想像できない。

 

「と、巴さん。ほんとにやるんですか?」

 

 ほむらの手には、一丁のマスケット銃。

 ハンドガンサイズのそれを、ほむらは両手で持っている。

 後ろにいるマミは笑顔でうなずいた。

 

「あの缶に向かって銃を構えてトリガーを引くだけ、簡単よ」

 

「そ、そんなこと言ってもぉ」

 

 恐る恐ると言った様子で、銃口を缶に向ける。

 息を整えて、トリガーを引いた。

 反動で後ろに倒れてしまうほむら。

 吐き出された弾丸は缶に当たることは無い。

 

「あぅぅっ」

 

 尻もちをついたほむらが泣きそうな表情を見せるが、その頭を撫でるとマミがほむらを立ち上がらせる。

 体についた砂埃を払うと、プっと吹き出して笑い出す。

 涙目で抗議するほむら。

 

「巴さぁ~ん!」

 

「ごっ! ごめんごめん、ついね」

 

 そう言うと、マミは新たなマスケット銃を出そうとする。

 出そうとしたが、そこで止めた。

 少し意識を集中。そして、その手に新たに出したのはマスケット銃じゃない。

 

「はい」

 

「これは……」

 

 それは現代の拳銃だった。オートマチック式の拳銃。

 反動はそれほど大きくない物を作り出したつもりのマミはそれをほむらに渡した。

 撃ってみて、と言うと、ほむらが先ほどと同じように銃口を向けて、撃つ。

 

「きゃっ!」

 

 ほむらが後ろに倒れそうになるが、マミが受け止める。

 倒れなかったほむらだが、弾丸も当たらない。

 

「少し一緒にやってみましょうか」

 

 そう言ったマミが、ほむらに銃を構えさせる。

 すると後ろからほむらの背中にぴったりとくっつくと、ほむらの手に自分の手を合わせた。

 少し硬くなるほむらに笑う。

 

「リラックスしてみて?」

 

 その言葉に、少しずつ肩の力が抜けていく。

 ほむらの顔の横から、銃口をしっかりと缶に向ける。

 重ね合わせた手。

 

「撃って、反動は上に向ける……良いわね?」

 

 その言葉に、恐る恐ると言った様子で頷くほむら。

 そして、ほむらはトリガーを引いた。

 反動を殺してしっかりと立っているほむら。

 弾丸は真っ直ぐと奔り、缶を貫いた。倒れる缶を見ながらも、驚いたほむらは表情を変えない。

 

「やったわね」

 

 そう言うマミを見て、嬉しそうに頷く。

 満面の笑みで頷くほむらの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 ハッとして、マミは眼を覚ます。

 すでに、夢の記憶はほとんどなくなっていた。

 覚えているのはほむらが出てきたということと、銃を出したということだ。

 どういうことだろうと、悩む。

 

「魔法少女タッグで浮かれてるのかしら」

 

 起き上がるマミ。カーテンが開いていることに気づく。

 ジュゥゥゥッ、と肉を焼くような音が聞こえた。

 

「きぇぁぁぁっ! 足があぁぁっ!」

 

 ベッドから転げ落ちるマミ。

 日向に放置された足の熱さに、押さえて転げまわる。

 転げまわっていると、本棚にぶつかり、今度は後頭部を押さえて転げ回った。

 揺れる本棚。その本棚から巨大な広辞苑が落ちてくる。

 

「(あぁ、ガイアよ……これが私への試練なのね)」

 

 広辞苑がマミの顔面にぶつかる。

 辺りに―――鮮血が舞った。

 

 

 

 

 

 朝、暁美ほむらが自宅の自室にて目を覚ました。

 少し驚いたような顔をしている。

 涙が伝い、白い布団にシミを作った。

 

「なんでっ、あんな夢……」

 

 両手で布団を掴む。

 

「全部っ貴女のせいよ……こんな夢っ」

 

 涙を両手で拭うが、ボロボロとこぼれる涙は止まらない。

 彼女と一緒に戦う。こんなことがここまで嬉しいことだとは自覚していなかった。

 結局一緒だったのだ“彼女”は“彼女”と同じく自分の命の恩人。

 守ってくれる存在であり、守ったことは一度も無い。

 

「っ!!?」

 

 いつか、彼女が魔女に頭を食われた時を思い出した。

 布団を出て、立ち上がると黒く長い髪を払う。

 

「今度は守るわ」

 

 テレビをつけると着替えを始める。

 流れてくるニュースに耳を傾けると興味深い内容のニュースが流れた。

 隣街での連続殺人犯。巴マミぐらいの正義の味方ならすぐに行ってしまうのだろうと思い笑う。

 まぁ、あくまでも隣町に正義の味方が行ったらの“もしも”の話である。

 

「風見野の方じゃないわね」

 

 確認すると頷く。

 風見野には彼女の目的を達成するに必要な人材がいるのだ。

 余計なことになるわけにはいかない。

 ほむらは頷くと、制服に腕を通した。

 

 

 

 

 

 マミが登校していると、学校へと向かう通りで後ろから声がかけられる。

 振り向くと、そこには青い髪。少しだけ見上げる形になるが、そこには美樹さやかがいた。

 隣には鹿目まどか。そしてさらに隣には―――知らない緑髪の少女。

 

「えっと……」

 

「志筑仁美です。お話は二人からかねがね」

 

 礼儀正しい少女に自分も軽く会釈する。

 そしてさやかに視線を戻すが、少し複雑そうな表情をしていた。

 まどかもどこか困っているように見えた。

 

「私やっぱり転校生を信用できない」

 

 そう言ったさやかに、マミは残念そうな表情をする。

 まどかも同様に、なぜ? という表情。

 

「一緒に戦ってマミさんの戦闘をサポートしてる。わかってる! 理屈ではわかってるんですよ……」

 

 拳をギリギリと握りしめる。

 そして眼を力強く瞑った。

 

「ただ、ただっ……気持ちが納得しないんですよっ! 」

 

 言いたいことはなんとなくわかるけれど、どうしてと言いたくなる気持ちを押さえる。

 まどかもほむらを信じたいらしく、さやかも同じ。

 

「でも、違うんです。信用できないんです……あいつの奥底にある、何かがしこりになってて……」

 

「美樹さん、なにをっ」

 

 どこか苦しそうに言うさやかが心配になるマミ。

 隣の志筑仁美が、静かに歩き出す。

 

「さやかさんは今、現実と向き合おうとしていますわ」

 

「志筑さん?」

 

「人間ならば誰もが持っている固定観念。そういうものを打ち破り、さやかさんは今、新たな世界に適応しようとしています」

 

 仁美は、背後からさやかの肩をそっと抱く。

 少しビクッとするさやかだったが、仁美は気にしていない。

 そっとさやかの顔の横に顔を出すと、再び言葉を続ける。

 

「さやかさんは、暁美ほむらの存在を自分自身に納得させようと懸命に戦っているのです」

 

 そう喋りながらも、仁美とさやかの顔の距離はどんどんと近づいていく。

 

「それは魂の再生、あるいはリバース―――醜い芋虫が美しい蝶に変わるように、彼女は生まれ変わろうとしているのです」

 

 さやかの頬をそっと撫でる仁美。

 少し上気した顔で消え入るような声をあげるさやか。

 真っ赤な顔のまどかとマミは言葉が出ていない。

 

「はぁっ!? 私は何を! 離れてわかめ!」

 

 一瞬で正気に戻ったのか、さやかは仁美を弾き飛ばす。

 少し後ろによろめく仁美だが、倒れる寸前で一回転して華麗に体勢を整える。

 

「私は内なるハイヤーセルフに誓って!いつか受け入れて見せます!」

 

「(まともに戻ったけどダメだった!)」

 

 ショックを受けるマミをよそに、走っていくさやか。

 同時に追っていくまどかを見送るマミ。

 なんだか妙な焦燥感に襲われる。

 

「巴先輩?」

 

「あっ、志筑さん……美樹さんになにしたの?」

 

 ジト目で仁美を見るマミだが、仁美は笑いながらなにも無いと言う。

 大きなため息をついて、歩き出すマミ。ついていく仁美。

 初対面でさっそく二人きりだと言うのに、そこまで居心地が悪くない。

 

「ところで巴先輩、ユークリウッドはどうですか?」

 

「うん、結構元気で……ってなんで知ってるの?」

 

「私、冥界人ですから」

 

 立ち止まるマミが、大声を上げて驚くまでに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 ―――私の周囲は、なにかおかしい。

 

 

 

 

 

 




あとがき

はい、だいぶとんでもなことしました!
そしてここからメガロなんかを絡めながら魔法少女なことが巻き起こります。
次回は一気に一週間後!楽しんでいただければ嬉しいです。

では、次回をお楽しみに♪


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7「はい、マミります」

 なんやかんやで一週間。

 ほむらとの共同前線は順調で、放課後は共に街を巡回していた。

 巡回の前か後に絶対に二人でお茶をするのが日課で、前にお茶をする場合はまどかが一緒に、だったりもする。

 マミはまだ、ほむらに自分がゾンビだということを明かしてはいない。

 拒絶されるのが恐いというのもあるが、ただ今の状況を維持したいだけだ。

 

「じゃあ、今日もありがとう」

 

 喫茶店を出たマミとほむら。

 そう言ったマミの言葉に、ほむらはいつも通り質素な返事を返す。

 一週間でわかったこととしては、無愛想に見えても、ほむらが案外優しいということだ。

 攻撃を食らったマミを心配する素振りだって見せるし、時たま不安そうな顔をする時もある。

 

「また明日ね」

 

「ええ、また明日」

 

 そう言ってから、ほむらはマミの顔を見つめた。

 言いたいことはわかる。

 

「鹿目さん、まだ魔法少女になることを諦めたわけではないようよ。キュゥべぇも契約を諦めてないし」

 

 そんな言葉に、ほむらは眉をひそめた。

 

「不安なのよ。貴女にだってわかるでしょ?」

 

 その言葉を否定しようとした。否定したかったマミ。

 しかし完全に否定はできないのはマミの心の中に“彼女”がちらついたからだ。

 やがてはまどかやさやかも“彼女”のように変わって、自分を否定してしまうのではないかと、不安だった。

 そんなマミの杞憂を吹き飛ばすかのように、足音が聞こえる。

 

「マミさん!」

 

 現れたのは、美樹さやか。

 ほむらを見ると、わずかに眉をひそめる。

 そして深呼吸すると、さやかは言う。

 

「ねえ、マミさん。願い事って自分の為の事柄でなきゃダメなのかな?」

 

 その言葉に、少し驚くマミ。

 ほむらはまだ魔法少女になる気なの? と言った様子だ。

 それでも何も言わないのは、マミに気を遣ってだろう。

 

「例えば、例えばの話なんだけどさ、私なんかより余程困っている人が居て、その人の為に願い事をするのは……」

 

 深いため息をつくほむら。

 

「貴女の惚れてる男のため、かしら?」

 

 ほむらの言葉に、眼をキッと鋭くさせるさやか。

 明らかな敵意を受けながらも、ほむらはしっかりと目を合わせていた。

 マミはなるほど、と理解。

 

『美樹さやかが惚れてる上条恭介という幼馴染がいるの、彼が事故によって腕をダメにしたから、それを治したいのだと思うわ』

 

 テレパシーで伝わってくるほむらの言葉。

 なんとなくだが事情は理解できた。

 彼が好きだからこそ、彼を助けたいということだろう。

 

「でもあまり関心できた話じゃないわ。他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておかないと」

 

 マミの否定的な態度に、驚くさやか。

 “正義の味方”であるマミなら人のために願いを叶えるのは肯定するはずを思っていただけあり余計だ。

 弱い人間を助けるための自己犠牲が、いけないというのだろうか?

 さやかは内心困惑していた。

 

「美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?」

 

 はっきりとした物言いに、少し驚くほむら。

 少しばかり俯くさやか相手にマミはしっかりと目を向けている。

 

「同じようでも全然違うことよ。これ」

 

「その言い方は…ちょっと酷いと思う」

 

 うつむいたままそう言うさやかに、マミは困ったような微笑を浮かべた。

 落ち込んでいるようなさやかの頭を撫でる。

 

「ごめんね? でも今のうちに言っておかないと……そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」

 

 その言葉に、顔を上げるさやか。

 やはりどこか落ち込んでいる。

 

「……そうだね。私の考えが甘かった。ゴメン」

 

 その言葉を聞くと、マミは笑顔を浮かべて頷く。

 顔を上げたさやか。

 

「じゃ、私は帰るから」

 

 送る。と言おうとしたがそれよりも早く踵を返して走り去ったさやかの後ろ姿。

 ほむらは少し険しい表情をしていた。

 

「暁美さん、そんな顔しちゃだめよ。可愛い顔が台無しよ?」

 

 ジトッ、とした眼で睨まれるマミ。

 苦笑するマミをよそに、ほむらはため息をついた。

 表情も先ほどより穏やかだ。

 

「帰るけど……」

 

 マミの眼をジッとみるほむら。

 

「魔女が出たら絶対私を呼ぶこと……その、余計なことして怪我されても困るから」

 

 その言葉に頷くと、ほむらは踵を返して帰り道を行く。

 

「(心配してるのかしら?)」

 

 少しうれしくなりがらも、頷くマミ。

 頭を軽く撫でると、おとなしくそれを受け入れるほむら。

 空はもう暗い。そろそろ晩御飯の用意をしなければと、ほむらの頭から手を離す。

 

「それじゃ、今度こそ、また明日」

 

 踵を返して去っていくマミ。ほむらは自分の頭を少し触ってフッと口元に微笑を浮かべる。

 

「また明日」

 

 数分そこに居て、ほむらも同じくその場を去ろうとした。

 しかし、背後をむいた瞬間、そこには巨大なカンガルー。

 視覚で理解していても思考がおいつかない。

 初めて見たパターンで初めての展開だ。

 

「な、に?」

 

「こんにちは!!」

 

 カンガルーが手を振り上げる。

 不味い。と理解して変身。背後にバックステップをして拳を回避した。

 カンガルーの拳は地面のコンクリートを破壊する。

 

「手痛い! 堤体!?」

 

 やかましいカンガルーだが、侮るわけにはいかない。

 

『それはメガロだよ。暁美ほむら』

 

 キュゥべぇのテレパシーが頭に響いた。

 辺りを見渡すが、そこからはわからない。

 

『知らなかったのかい? 魔法少女の敵さ』

 

 その言葉を聞きながらも、素早いカンガルーの拳をよけていくほむら。

 なぜ学ランを着ているのかがわからない。

 

「メガロ?」

 

「はいはい! ボクです! ボクメガロ!」

 

 あくまで冷静を装って聞く。

 

『君の秘密を離してくれたなら、情報交換で教えようじゃないか』

 

 その言葉に、もう聞くことをやめる。

 ここで話せばキュゥべぇの思うつぼなのだろう。

 ほむらは盾から機銃を取り出すと、空中にて連射する。

 無数の弾丸がカンガルーを襲うが大したダメージにはなっていない。

 

「痛いじゃない!!」

 

 カンガルーのパンチは届かない距離まで下がるが、カンガルーの拳圧にてほむらは体勢を崩す。

 しかたないと舌打ちをした瞬間、ほむらが消える。

 カンガルーはほむらが消えたことに戸惑う。

 

「どこ!? どこなの!?」

 

 そして振り返るカンガルーの先にはほむら。

 足元には、爆弾があった。

 

「勝てててん!?」

 

 爆発。爆音と共に、メガロと呼ばれた巨大なカンガルーは消滅。

 冷静に髪を払い変身を解く。

 しかし、内心は焦りに襲われていた。

 イレギュラーであるメガロの存在。

 魔女ほど厄介ではないものの、面倒な存在が増えてしまった。

 

「なにが起きてるの……この街で」

 

 ほむらは、空を見上げてつぶやいた。

 漆黒の空は、何も答えてやくれない。

 

 

 

 

 

 帰ってきたマミは、気分がいいのかスキップをしながらリビングに行く。

 

「ユウ! た・だ・い・ま♪」

 

 そう言ってユウへと歩み寄ろうとするマミだったが、足元にあった人形を踏みつけたマミが転ぶ。

 

 ドアを開いて、ほぼ同タイミングでセラフィムが帰ってくる。

 しっかりと鍵をしめると、ビニール袋片手にリビングへと向かう。

 

「ただいま帰りまし……た」

 

 セラフィムが見たのは、ユウを押し倒してあまつさえ片手でその胸を揉んでいる。

 振り返るマミの顔には汗が流れていた。

 おそらく、冷や汗だ。

 

「ち、ちがうのよセラ! これは!」

 

 セラフィムの紅の眼が輝く。

 巴家の壁に、鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 正座しているマミ、その前にセラフィムが立っていた。

 うつむくマミの頭に突き刺さっているセラの刀。

 とろうとすらしない姿は不気味と言える。

 

「で?」

 

 高圧的なセラフィムの言葉。

 

「その、あれは……」

 

「気持ち悪い。このミドリクソ虫!」

 

 泣きそうになるマミだが、耐える。

 雰囲気は重い。全部事故だが、と思うマミ。

 

「いえ間違えました……この黄色クソ虫!」

 

「(色のためだけにわざわざ言い直したぁ!!?)」

 

 内心激しく突っ込むマミだが、それをセラフィムに伝える気力は無い。

 セラフィムの背後で、いつも通りお茶を飲みながらテレビを見ているユウ。

 

「(これは酷い)」

 

 いつも通りといった様子で溜息をつくマミ。

 深いため息を吐いた彼女の額からは、血が噴き出ていた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。マミは食堂に居た。

 寝過ぎたせいで朝食も昼食も作れなかったこともあってだ。

 食堂の空席に、ラーメンを持って座るマミ。

 友達である夏乃を誘ってみたが、来ることは無かった。

 

「(ぼっちじゃない。私は孤高なだけよ)」

 

 チャーシューを増した味噌ラーメンを、制服に跳ねないように気を付けながら啜る。

 突然、携帯電話が鳴った。

 メールのようで、見るとほむらのようだ。

 

「ん?」

 

 

 From : 暁美ほむら

 まどかが一緒にお昼ご飯を食べないかって言ってるけど?

 私はどちらでもいいけど?

 

 

「(暁美さんは一緒に食べたいってわけじゃないわけね)」

 

 なんてことを考えて、苦笑する。

 できれば行きたい気持ちもあるけれど、弁当も無いしほむらに悪い気がした。

 結局お互い、利害の一致なのだろう。

 なんだか妙に寂しくなったマミは、ラーメンを啜りながら携帯電話のボタンを押していく。

 

 

 ありがとう

 けれど今回は遠慮しとくわね

 また誘ってね

 

 

 それだけ打ってみる。

 メールなんて普段しないせいでずいぶん淡泊だ。

 それはほむらも同じだから大丈夫なのだろうけれど、なんだかさみしい気もした。

 

「……最後にハートでもつけときましょ」

 

 そう言って文章の最後にハートをつけると送る。

 少し沈黙したのち、携帯電話をしまって、マミはラーメンをすすった。

 

 

 

 屋上にて、ほむらが携帯電話を閉じる。

 少し溜息をつく。

 

「どうしたのほむらちゃん?」

 

 今日、昼食を一緒にすることになったまどかが、そう聞く。

 美樹さやかは案の定来なかった。

 まどかの誘いを断るとは珍しいが、ほむらが関わっているということは別なのだろう。

 

「なんでもないわ」

 

「そうなんだ」

 

 携帯電話を見て、眉をひそめてみるほむら。

 

「なんで素直になれないのかしら、私」

 

「なんて?」

 

 つぶやきが聞こえていたのか、まどかが聞く。

 首を横に振るほむらは、ため息をつく。

 

 まどかはマミと一緒に食べよう。とは言っていない。

 ただほむら自身、誘うのが気恥ずかしかっただけだ。

 本当にまどかが一緒に食べたい日は自ら誘いに行く。

 

 不器用なほむらは溜息をついて携帯電話をもう一度見た。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 なんだか憂鬱だったマミは、今日は別行動で魔女を探すと電話で連絡した。

 ほむらもそれに了承したので、マミは一人見滝原を歩く。

 帰ってユウに慰めてもらおうとおもいながら、歩くマミ。

 

「マミさん!」

 

 声が聞こえて、振り返った。

 走ってきたまどかは、肩で息をしている。

 喋れないのか、胸を抑えて息を整えようとするまどか。

 

「だ、大丈夫? 鹿目さん……」

 

「マミさん! さやかちゃんが、グリーフシードを見つけて!」

 

 その言葉に、マミは眼を見開く。

 大体は理解できた。

 ここにさやかが居ないという時点で確実だろう。

 

「どこにいるの!?」

 

「病院の駐輪場です、キュゥべぇと一緒にっ」

 

 急いでいかなければと焦るマミが、まどかを見る。

 いまだに息は荒く、今すぐ行ける状況で無いのがわかった。

 しかたないと理解すると、まどかにカバンを持たせる。

 うむを言わさず持たせると、少し混乱しているまどか。

 

「ごめんなさい、急ぐわよ!」

 

 マミはまどかの首とひざ裏に手を回すと、足の裏に力を込める。

 

「400%!!」

 

 走り出すマミの速度は、異常だった。

 まどかの見る景色は流れるようでもある。

 抱えたカバンを腹の上に乗せると、まどかはマミの首に腕を回した。

 走りながらも、まどかの顔に視線を向けるマミ。

 

「こ、この方が安全だと思って」

 

 頷いて、笑顔を見せるマミ。

 病院につくまでそんなに時間はいらないだろう。

 

 

 

 

 

 病院についたマミ。

 まどかを下ろすと、カバンを壁際に寄せる。

 手をかざし結界の中に入ろうとして、気づいた。

 

 ―――魔女が出たら絶対私を呼ぶこと。

 

 ほむらの言葉が頭をちらつくが、首を横に振る。

 

「(魔女一体相手にわざわざ呼んで、嫌われるのは嫌だものね)」

 

 中に入ろうとするマミ。

 

「私も連れて行ってください! さやかちゃんが心配なんです」

 

 その言葉に、困りながらも頷く。

 ここで余計な時間を割く方がさやかの身に危険が及ぶと判断した結果だ。

 中に入るとあたり一面がお菓子だらけなのに気づく。

 まどかの手を取って進む。進みながら気づいたことがあった。

 

『キュゥべぇ聞こえる?』

 

 テレパシーを使って語りかけるマミ。

 

『聞こえているよ。まだ魔女は生まれていないけれど……ゆっくり来てくれ、魔女を刺激しないように』

 

『わかったわ』

 

『マミさ~ん!』

 

 さやかの声が聞こえて、改めて安心するマミ。

 キュゥべぇが後ろのまどかにも中継しているようで、まどかもホッとした表情をしている。

 

『すぐ行くからね?』

 

『はい!』

 

 テレパシーを切ると、まどかを連れて歩いていくマミ。

 しっかりと手を握りしめて、まどかを横につけるようにあたりを見まわす。

 本当はもう一度“お姫様だっこ”をして連れて行きたいところだが、あのままで結界内を走るのは危険だ。

 自分と違ってまどかは人間なのだから。

 

「あの、マミさん」

 

 横のまどかが、歩きながらマミに言う。

 どうしたの?と聞くと、まどかの表情がいつもと違うことに気づく。

 

「願いごと、私なりにいろいろと考えてみたんです。ほむらちゃんには怒られちゃうかもしれないけど……私って、昔から得意な学科とか、人に自慢できる才能とか何もなくて、きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって―――それが嫌でしょうがなかったんです」

 

 まどかの言いたいことは痛いほどわかった。

 誰かの役に立てない、必要とされない自分。現状が恐いのだ。

 いつか誰からも必要とされなくなるんじゃないかという不安。

 

「でもマミさんやほむらちゃんと会って、誰かを助けるために戦ってるのを見せてもらって、同じことが私にもできるかもしれないって言われて―――何よりも嬉しかったのはそのことで」

 

 徐々に髪に隠れていくマミの表情。

 

「だから私、魔法少女になれたらそれで願いごとは叶っちゃうんです。こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって……胸を張って生きていけたら、それが一番の夢だから」

 

 顔を上げたマミには、わずかに喜びの感情がある。

 だけどそれ以外にも少し困ったような表情も見えた。

 少しわからなくなるまどかだが、マミが話を始める。

 さきほどまで急ごうと言っていたのに歩みを止めるということは、そこまで重要な話なのだろう。

 

「その話は帰ったらしましょう―――もしかしたら後輩になるかもしれない子にこう言うのも酷なんだけど、魔法少女は……そんなに良いものじゃないわ」

 

 少し、マミはナイーブになっていた。

 魔法少女の仲間、それも自分を慕ってくれる魔法少女が生まれるなんていうのは嬉しいことだ。

 しかし心のどこかで考えてしまった。まどかも“彼女のように”自分から離れて行ってしまうのではないのだろうかと、考えてしまう。

 今は一人じゃない。セラフィムやユウも居る。

 それでも、魔法少女として誰かといるというのは恐いのだ。

 

「行きましょう」

 

「あっ。はい!」

 

 マミはまどかの手を引いて走り出す。

 とんだタイムロスだが、問題は無いだろう。

 現れる使い魔は全て銃で倒しながら進んでいく。

 

「(すごい! マミさん、やっぱり魔法少女は誰かのための……)」

 

 その中で、まどかは魔法少女への憧れをさらに増していくのだった。

 一際大きな扉を打ち破ると、巨大な広間に出るマミとまどか。

 二人の視界に映ったさやかとキュゥべぇは、巨大なお菓子の影に隠れていた。

 そばに寄るマミとまどか。

 

「お待たせ」

 

「はぁ、間に合ったぁ」

 

 安心したように息をつくさやか。

 

「気をつけて!出て来るよ!」

 

 キュゥべぇの声と共に、孵化した魔女。

 いつもの魔女と全く違う。

 その魔女は小さな人形だった。

 

「今回は楽かしら?」

 

 マミは二人と一匹から離れて部屋の中央に立つ。

 落ちてくるその人形のような魔女をにらみつける。

 

「悪いけど―――速攻で決めさせてもらうわ!」

 

 一歩踏み出す。その瞬間、勢いよく跳んだマミは魔女を蹴り上げた。

 上空に吹き飛ぶ魔女相手に真下からマスケットを撃つ。

 マミはさらに跳ぶと、魔女を掴んで地面へと放り投げた。

 やわらかい体だからか、ダメージは無いように思える。

 華麗に着地したマミ。地面に落ちている魔女に銃を当てて、トリガーを引く。

 

 弾丸からリボンが伸びると、魔女を絡めて高くへと持ち上げる。

 マミは離れると、ライフルを構えた。

 ライフルが巨大な大砲へと変わる。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 激しい音と共に、銃弾が魔女に直撃。

 爆発と共に爆煙をまき散らした。

 いつもの紅茶を飲むモーションすら忘れてマミは考えている。

 

「(鹿目さんが魔法少女になる理由。もっともらしいけれど納得できないわね……デメリットがわかっていないわ。戦いの痛みや辛さを)」

 

「マミさん!」

 

 まどかの怒鳴るような叫び声。

 そんな声を聴くのが初めてで、驚いた。

 だが目の前にいるのはまどかでもさやかでもなく、黒い体と白い牙。

 茫然とするマミ。

 

 魔女は―――口を閉じた。

 

 肉が千切れ、骨が砕けるような音がして、魔女は長く黒い体を持ち上げる。

 魔女の口から宙吊りになるマミ。

 その瞬間、上にある別の入り口から、ほむらが現れた。

 さやかとまどかの隣に着地したほむらが、吊られたマミを見ている。

 

「あっ……あぁっ……転校生ぃっ!」

 

 さやかが、ほむらの胸倉をつかみ上げた。

 

「あんた、マミさんが死ぬまで見てたんじゃ……っ!!?」

 

 黙るさやか。ほむらの胸倉から手を離すと、信じられない物を見たと言う顔をする。

 まどかも同様だった。それも当然だ。

 今までずっと感情を抑えるように鉄仮面をつけていたほむらが―――泣いていた。

 

「そんなっ、助けられなかった……言ったのにっ! 私に連絡しなさいって……なんでよっ!」

 

 地面をたたくほむら。

 まどかもさやかも、言葉をかけられなかった。

 今のほむらを慰めることができるのは、魔法少女くらいだろう。

 魔女はマミの首を体を噛み千切り頭を食う、次はマミの体を食べ始めた。

 

「巴さんっ、どうしてよ……」

 

 こうなると全てを後悔してしまう。

 マミをお昼ご飯に誘えなかったことも、彼女の家に行くことができなかったのも、自分の家に招待できなかったことも、全部が全部を後悔し始める。

 ソウルジェムが濁っていくのを感じるほむらが、顔を上げた。

 涙を袖で拭うと、盾からグリーフシードを出してソウルジェムを浄化。

 

 お菓子を飛び越え、その前に着地すると後ろにグリーフシードを投げる。

 背後で、キュゥべぇがグリーフシードを食う。

 魔女はマミの体を食い終え舌を出してペロリと口の周囲を舐めた。

 残ったのはマミの鮮血のみ。

 

「……あああぁぁぁぁっ!!」

 

 常にクールなほむらからは想像もつかない咆哮。

 それと共に放たれるロケットランチャーRPG7。

 それは魔女の鼻先に直撃する。

 だがその程度で倒れる魔女ではない。

 

「(巴マミ……いいえ、巴さん。例え次の世界に行っても貴女は貴女ではないのよね)」

 

 サブマシンガンを撃ちながら魔女の攻撃をよけていくほむら。

 彼女は力を使わない。この魔女には、その価値すらない。

 

「(一つだけ言えることがあるわ。私はこの世界の……この世界の……)」

 

 弾切れになったサブマシンガンを捨てると、その手に二挺の大口径マグナムを持つ。

 

「巴マミが―――嫌いじゃなかったわ」

 

 トリガーを引こうとしたしたほむらだったが、魔女の動きが止まる。

 魔女の体から、不快な音がした。

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 声が、あたりに響く。それは聞きなれた声で、いつも通りの優しい声。

 魔女の黒い頭であろう部分から、血が噴き出した。

 そこから出てきたのはまず“腕”だ。

 二本の腕が跳びだすと、ぎちぎちと音を立てて裂けていく魔女の頭。

 

「フフフッ……これから嫌われても、まだ耐えられそうよ」

 

 裂けた傷口から出てくるのは、真っ赤な鮮血に濡れた金髪の少女。

 

「と、巴マミ?」

 

 傷口から這い出た少女は、魔女の血に濡れた体を振りながら笑う。

 血まみれの彼女が笑うというのは不気味で、人外とも思わせるような雰囲気であった。

 しかし人間であるとも言い切れない。

 彼女は自分たちの前でばらばらにされて喰われたのだ。

 

「言うつもりだったけど、秘密がバレちゃったわね―――学校の皆には内緒よ?」

 

 真下の魔女は、まだ生きている。

 腕を振り上げたマミが、強く拳を握り締めて魔女に叩きつけた。

 地上に勢いよく叩きつけられた魔女は、地面を抉って埋まる。

 

 ―――私、ゾンビです。

 

 

 




あとがき

最後の部分、ギャグにするかカッコ良くするかで悩んだんですけど、後者にしました。
ギャグだと某SSとだいぶ被るので(汗
マミ「くびがぁぁぁっ!くびがぁぁぁぁっ!」
ってなことにwww

とりあえずゾンビだとバレたマミさんの話が次回になります!
ここからだいぶいろいろ絡んであげくにシリアス展開も多めになったり(汗
まぁまどか☆マギカ本編と同じですね。ここからダークなシリアス展開。

では、次回をお楽しみにしていただければ嬉しいです♪
感想お待ちしてます♪


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8「う~ん、ゾンビかな?」

 暁美ほむらの頭では、理解できなかった。

 現状が、今―――目の前で起きた光景がまったくと言っていいほど理解できなかったのだ。

 巴マミは、首を食いちぎられた。

 挙句に、身体を噛まれて砕かれて、食われたはずだ。

 

「はぁ~ぁあっ……まさかあんな風に殺されるなんて思ってもみなかった。痛かったわ」

 

 地面に埋まっている魔女の頭から降りて、マミは身体を伸ばす。

 血まみれの彼女に、ほむらは恐怖を抱いた。

 

「ま、マミさん?」

 

 つぶやいたのは鹿目まどか。口を開いたまま固まっている美樹さやか。

 この中の誰もが状況を理解できていない。

 いや、マミにだけはできている。

 なんとか整理して、ほむらは頭の中で考えをめぐらせた。

 

「(魔法少女の真実を知っている……どころの話じゃないわよ。この巴マミ、本物のゾンビってこと?)」

 

 ほむら自身の頭も混乱している。

 前へとやってきたマミ相手に、半歩下がってしまうほむら。

 苦笑するマミが、ため息をついた。

 その瞬間、マミの背後にいた魔女が動き出す。

 裂けた頭から血を吹き出し、その大きな口を開いてマミに噛みつこうとした。

 

「マミさん!」

 

 さやかの声が聞こえて、振り返るマミ。

 同時に、拳を突き出した。

 その拳は魔女の鼻先に直撃―――吹き飛ぶ魔女が離れた壁へとぶつかる。

 

「600%!」

 

 地面を蹴るマミが、衝撃と共に魔女へと拳をぶつけた。壁へと埋まる魔女。

 制服姿の彼女のその動きは不自然そのもの。

 魔法少女になっていない状態で叩きつけたマミの腕は、破裂するようにバラバラになった。

 

「ひっ!」

 

「うっ」

 

 息をのむさやかと、口をおさえるまどか。

 人の腕が破裂するさまを見るなんてことは、ほむらにとっても初めてだ。

 吐き気を抑えてマミを見ていると、マミの腕はいつのまにやら再生している。

 マミが変身と同時に巨大なマスケット銃を召喚。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 高火力の砲撃により、魔女は爆散し倒れる。

 黄色い光を纏いながら変身を解除するマミの制服はすっかり綺麗になっていた。

 辺りの景色も一変して、元の駐輪場へと戻る。

 

「ま、マミさん……」

 

 つぶやくさやかを見て、マミはいつも通りの笑みを見せた。

 その後、まどかを見るが真っ青な顔で今にも昼食を吐き出しそうだ。

 変身を解除するも、立ち尽くしているほむらの傍に寄ると、マミはハンカチを渡した。

 

「涙を拭いてね、私のために泣いてくれるなんて嬉しいわ」

 

 そのハンカチを受け取るほむらだが、涙を拭かずただ立っているだけだ。

 茫然としている彼女たちを見て、マミが笑う。

 

「せっかく生きてたのに反応が薄いわね」

 

 茶化すようにそういうが、無言と沈黙。

 うっ、と少し居づらそうにするマミ。

 

「まぁ、死んでるんだけどね」

 

 背中を伸ばすマミが、座り込んでいるまどかとさやかの腕を掴んで立たせる。

 二人の服を軽くたたいて埃を落とすと、うつむく二人を見て頷く。

 ほむらの方を見たマミ。ようやく、ほむらが動き出した。

 マミの前で立ち止まるほむら。

 

「黙っててごめんなさい。理由があってゾンビになったんだけど、少し言いづらくて―――」

 

 パァンッ―――と、乾いた音が響いた。

 

 マミの頬を、ほむらが平手打ちしたのだ。

 唖然としているマミ。

 前髪に隠れて見えないほむらの表情。

 

「……ぃで……ふざけないで!」

 

 うつむいたまま大声を出すほむら。

 ほむたの足元に、いくつかの滴が落ちた。

 立っているマミが、ほむらの顔を見る。

 

「い、生きてたから良かったものの……死んでたかもしれなかったのよ!?」

 

 そんな風に言われるのが新鮮で、うれしくなるも、マミは素直に喜べず。

 

「死んでるんだけどね」

 

 なんてことを言って茶化してしまった。

 顔を上げるほむらは、怒るように泣いている。

 そんなほむらを見るのが初めてで、今度はマミが唖然としてしまった。

 

「喜んで良いのか、助けられなかったことを悔やむべきなのかっ……わからないじゃないっ!」

 

 ほむらが、マミの傍まで歩いて、マミの手を握る。

 両手の温もりが伝わり、なんだか心まで温かくなるマミ。

 

「マミさんっ」

 

 マミの背後から、マミに抱きついたのはさやかだった。

 身長はさやかの方が高いので、どことなく違和感もある。

 しかし、生きていた。ということでここまで喜ばれるのは嬉しいことだった。

 まどかを見ると、まどかも笑顔を向けてくれる。

 

「良かったです」

 

 前からほむらが手を握って、後ろからさやかが抱きついて、そんな光景を笑顔で見るまどか。

 そんな異様な空間ではあるが、マミは安心して笑うことができた。

 なんとなく役得だとは思うが言えば後が怖いので黙っていることにする。

 

 

 

 

 

 四人はその後、ほむらの家へとやってきた。

 さやかも、ほむらへの警戒をだいぶ弛めたのか睨んだりはしない。

 小さなボロアパートの居間に座る三人。

 ほむらがお茶を四つ持ってくるとそれぞれが一息ついた。

 

「さて、最初の話としては……私かしら?」

 

 そう言ったマミの言葉に、三人が頷く。

 

「どこから話そうかしら……やっぱり死んだところかしらね」

 

 ぽつぽつと、マミは話を始める。

 白銀の髪の少女に自分が話しかけたこと、刺されて殺されたこと、ゾンビにしてもらったこともだ。

 冥界のネクロマンサーだということも一応話しておく。

 全員半信半疑のようだったが、マミが生き返ることを思い出してか頷いた。

 

「この程度かしらね」

 

「冥界のネクロマンサー“ユークリウッド・ヘルサイズ”……」

 

 つぶやくほむら。顎に手を当てて何かを考えているようだ。

 

「このぐらいね」

 

 マミがそう言うと、頭を抱えているさやか。

 結構長い話だったから覚えきれなかったのかもしれない。

 一時間は話していただろうか?その間にメガロなども入れたせいで新しい単語だらけだった。

 

「マミさん、そんなことするんですね」

 

 その言葉に、ギクッと体を振るえさすマミ。

 確かに、ユウを踊りで誘おうとするなど意味不明なことをした。

 これは失態だと、苦笑するマミ。

 

「もっと先輩らしいとこみせなきゃダメなのに、頼りなくなっちゃったかしら」

 

 そう言って笑うマミ。

 

「私は巴さんに、頼るに値されてないみたいだけど」

 

 隣でほむらの言葉を聞いたマミが、苦笑してそっぽをむく。

 少しだけ視線をほむらに向ける。

 ほむらはジト目でマミをにらんでいた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝るぐらいなら心配させないで」

 

「(これは、デレているのかしら?)」

 

 心の中で、思いながらもこれ以上茶化したら今度は張り飛ばされると思って黙っていることにした。

 まどかは嬉しそうに笑っていて、さやかは苦笑している。

 

 その後も、ほむらに合間に怒られながら話を進めて行った。

 話したのは今後のことだ。これからも一緒に敵を倒していくということ、魔法少女二人のタッグを続けていくことだ。

 マミは『こんなゾンビと一緒で良いの?』ということを伝えたが、ほむらはそっぽを向きながらも、良い―――そう答えた。

 それを聞くと、マミは嬉しそうに頷く。

 

 その後、同居人のこともあって帰ったマミ。

 ほむらの家に残ったのはほむらを含めて三人。

 ふと、さやかがつぶやく。

 

「あたし、少し気持ち悪いと思っちゃった……死なないなんて」

 

 驚愕からか、眼を見開いて驚くまどかとほむら。

 さやかは両手で頭を押さえている。

 

「私、嫌な子だよね。でも、あんな風に殺されても生きてて、全然平気な感じで……」

 

「さやかちゃん」

 

 まどかが気遣うような仕草を見せるが、さやかは黙って立ち上がった。

 俯いているさやかの表情は見えない。

 ただ、ショックなのだろう。あこがれたマミが“死体”だったというのは……

 

「でも、マミさんはマミさんだよ……」

 

「ごめん、整理させてもらうわ」

 

 そう言うと『お邪魔しました』も無くほむらの家を出ていくさやか。

 残ったのは、まどかとほむらの二人。

 二人共さやかのこともあって複雑だ。

 

「鹿目まどか」

 

 その言葉に、まどかがほむらを見る。

 まっすぐとした視線に顔を背けそうになるも、眼を合わせた。

 静かな空間で、ほむらは口を開く。

 

「巴マミはともかく、あれが戦いよ。私ならばあれで死んでいるわ」

 

 そんな言葉に、背筋が冷える。

 首が噛み斬られて死ぬ。そんな死に方は絶対嫌だ。したくない。

 怯えからか、体を震わせるまどか。

 それが正しい反応だ。

 

「良いのよ。私の言ってた意味、理解してくれたかしら?」

 

 ほむらの言葉に、まどかは震えながら頷く。

 あの光景を思い出すだけで、吐き気を催し息が詰まる。

 マミの前では堪えていたが、限界だ。

 

「トイレ行く?」

 

 頷くまどかを支えながら、ほむらはまどかをトイレに案内する。

 トイレの扉の前で立っているほむらは、天井を見上げた。

 魔法少女がゾンビだなんて皮肉、笑ってしまう。

 

 ゾンビがゾンビになったようなものだと、ほむらは可笑しそうに溜息をついた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 家にて晩御飯を食べ終えたマミとユウとセラ。

 食後のお茶を飲んでいるユウが、静かに湯飲みを置いた。

 たった今、マミは自分がゾンビだと魔法少女の仲間にバレた話をしたばかりだ。

 

「細かい肉片になっても蘇るなんてゴキブリどころではありませんね」

 

 相変わらずセラは手厳しいな、と思いながら苦笑するマミ。

 

『マミは良いの?』

 

 メモ帳に書かれた言葉を見て、困ったように笑う。

 少しさみしそうにしながら紅茶を一口飲むと、静かにティーカップを置く。

 

「良いも何もないでしょ……バレちゃったんだから」

 

 難しい顔で眉間に皺を寄せるマミ。

 セラの雰囲気も、わずかにやわらかくなっているように見える。

 なんだかんだ言ってマミが悪い人間では無いということは知っているからだろう。

 時たまユウに抱きつこうとして壁などに血を飛び散らせるのは問題だとは思うが―――悪いゾンビではない。

 

「ただ、魔法少女の仲間は大丈夫なんだろうけど……一般人の子二人がダメそうね」

 

 困ったように笑うマミ。

 

「まぁ、もともとぼっちだった貴方には私とヘルサイズ殿ぐらいが丁度良いんじゃないんですか?」

 

 彼女なりに慰めてくれてるのだろう。

 それを察したマミが嬉しそうにほほ笑むと、セラはそっぽを向いた。

 ユウはお茶を一口飲む。

 手元のメモ帳を見る。

 

 ―――下僕はずっと一緒だから。

 

「うん!」

 

 マミは嬉しそうに返事をして頷く。

 彼女は彼女なりに、心を落ち着かせていた。

 ゾンビとネクロマンサーと吸血忍者。

 異色の三人。

 一人も人間が居ない中、落ち着いた雰囲気で、人間のような三人は人間のように話をしていた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日の鹿目家にて、まどかの苦しそうな声が聞こえる。

 トイレから聞こえる声に、母親が扉を叩く。

 

「まどかっ大丈夫なのか!?」

 

「だ、大丈夫……学校には行けるから……うっ」

 

 食事中、突然トイレへとかけこんだまどか。

 その理由を彼女の家族は知らない。

 魔法少女、魔女との戦い、なにより……巴マミの死。

 

 いや、正確には元々死んでいたから違う。

 ひどく残酷な考えと表現だが言うなれば解体。

 それも魔女の胃の中で再度合成して復活。

 挙句に自ら腕を吹き飛ばすような威力の攻撃。

 到底人間とは思えない。

 

「私……嫌な子だ。」

 

 まどかは、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 登校最中、マミが歩いているとさやかと仁美が見える。

 まどかが居ないようで、少し早歩きをして二人の元へと行く。

 すると、さやかが仁美に何かを言って走って学校へと行ってしまった。

 昨日の雰囲気から大体察しはついているが、まだ気持ちの整理がついていないのだろうと思うことにする。

 振り返った仁美が、マミを待つ。

 二人が横に並んで歩き出す。

 

「わかってはいましたが、バレたんですね」

 

「ええ……ところで、志筑さんは私がどういう存在かわかってる?」

 

 冥界人である。と言った志筑仁美に聞くと、仁美は意味ありげに笑った。

 それだけで十分だ。

 

「ゾンビで魔法少女でしょう?」

 

 その言葉に頷く。

 

「冥界人として、その……私ってどうなの?」

 

 良い質問です。と言い頷く仁美は、手を出した。

 

「魔法少女のことは良くわかりませんが、メガロはあまり好きではありません。個人的に争いは嫌いなもので」

 

 そう言うと、ほほ笑む。

 冥界人は総じて顔が良いのか、その姿はとても様になっていた。

 見惚れかけるマミだが、頭を軽く叩いて正常に戻す。

 

「さて、これからどうしましょうかね」

 

「巴さん、おはよう」

 

 そんな声が聞こえて仁美が居る方向と反対の方向を見ると、そこには暁美ほむらがいた。

 仁美も挨拶をすると、ほむらは軽く返す。

 

「暁美さんおはよう。今日はどうしたの?」

 

「たまたま見つけただけよ」

 

 そう言うほむらだったが、マミは何となく察することができた。

 きっと落ち込んでると思ったのだろう。

 暁美ほむらは優しい子だから、きっとそのぐらいの気遣いはしてくれる。

 

「あらマミ先輩、今日は日傘を持ってきてないんですのね」

 

 仁美の言葉に頷くマミ。

 空を見上げると、今にも雨や雷が振りそうなどんよりとした雰囲気だ。

 今日は天気予報も見ずに出てきてしまった。

 

「お昼から晴れますよ」

 

 その言葉に、マミは無言で死を覚悟した。

 

「(ガイアよ、これが貴方のなさることですか)」

 

 心の中で神を呪うも、もう帰っているような時間はない。

 カッサカサになるだろうけれど多少の我慢は必要かと頷く。

 そんな時、隣のほむらがカバンから折り畳み傘を出した。

 

「使えると思うわ」

 

 嬉しそうな顔で、それを受け取るマミ。

 ありがとう。と礼を言うとほむらは気恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 そしてふと、気づいた。

 

「志筑さん、さっきはなんて?」

 

「マミ先輩と言ったんですのよ?」

 

 なんだか新鮮で嬉しくなりながらも、先輩風を吹かせるために平常心で頷く。

 でも顔のニヤケを抑えるのに若干苦労もする。

 

「私とマミ先輩の……秘密を共有する仲ですもの」

 

 冥界人のことは秘密と言われた。

 確かに秘密を共有するということになると、頷く。

 すると、太股に痛みが奔った。

 案外痛く、顔をしかめるマミ。

 

「どうしたんですの“マミ先輩”?」

 

 後半を強調する仁美に疑問を感じるも、なんでもないと答える。

 なぜか痛みを感じる太腿をさすりながらも歩くマミ。

 隣のほむらと仁美。三人で話をし登校していく。

 こんな平凡な日常が、マミは愛おしい。

 

 ―――帰ってユウに癒されたいわ。

 

 そう思いながら、マミは痛む太股を擦る。

 

 

 

 




あとがき

さてさて!シリアスな雰囲気もありながら、その中にいろいろ入れながらです!
次回はまどか☆マギカでいう第四話になりますかね~
いろいろ大変です。はい、いろいろと(汗

まだまだ終わりそうにないですがおつきあいください!
では、感想などお待ちしてます。次回をお楽しみに♪


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9「そう、魔法とゾンビと晩飯と」

 たとえばの話だ。全部知っている人間と何も知らない人間。

 現実的な例を出すならば深夜だけ起きている人間と朝だけ起きている人間がいたとする。

 その二人が出会えば、それはきっと言葉が通じるだけだ。

 他の国に来たようなもので……鹿目まどかと美樹さやかはそれを実感していた。

 

 目の前で起きた“死”。前から“死んでいた”らしいが、まぎれもなく死の瞬間を見た二人。

 戦いを知っている。誰も知らずに生きていた、すぐそばにある生死をかけた戦い。

 古より続く戦いだ。

 背筋が凍るように冷たくなる。

 

「何だかまるで、知らない人たちの中にいるみたい」

 

 ふいに、まどかがつぶやいた。遅れてやってきたまどかはずっと顔色が良くない。

 学校の屋上、空は晴れわたっている。

 仁美はどこかに行ってしまっていないようだ。

 今日ばかりは、それが助かる。

 

「知らないんだよ、誰も」

 

 さやかの言葉に、まどかが視線だけをさやかに向ける。

 どこか空を見ているさやか。

 こう言うのは不味いかもしれないが、さやかは内心思っている。

 マミがあの場で死んだ方がまどかも自分もマシだったと―――そりゃ悲しいし魔法少女になるのもやめただろうけれど、精神的疲労はだいぶ違う。

 目の前で死んだ人間が血だらけのまま復活して、腕が吹き飛ぶシーンを見せられた。

 

「魔女の事、マミさんの事、あたし達は知ってて、他のみんなは何も知らない。それってもう、違う世界で、違うものを見て暮らしているようなもんじゃない」

 

 拳を握りしめるさやかには何か思う所があるのだろう。

 まどかは心配しているような表情だ。

 

「さやかちゃん……?」

 

「とっくの昔に変わっちゃってたんだ。もっと早くに気付くべきだったんだよ、私達も」

 

 立ち上がり、苦々しい顔をする。

 

「う、うん」

 

 ようやく、さやかがまどかの方を向いた。

 二人の目と目が合うも、すぐにまどかが目を背けてしまう。

 

「まどかはさ、今でもまだ、魔法少女になりたいって思ってる?」

 

 さやかの質問に、弱々しく首を横に振るまどか。

 難しい顔で頷くさやか。

 

「ずるいってわかってるの、今さら虫が良すぎだよね。でも無理……あんな死に方、今思い出しただけで息が出来なくなっちゃうの。怖いよ……嫌だよぅ」

 

 弱々しく言って、涙を浮かべる彼女。

 そんな顔を見てからさやかはもう一度空を見た。

 

「そりゃそうだよ。マミさんがあんな華麗に戦えるのは死なないからだし……死も恐くないからだ。私たちがなったらきっと怖くて仕方ない。私たちは、ならない方が良いんだよ」

 

「賢明ね」 

 

 そう言って現れたのは、長い黒髪をなびかせた少女、暁美ほむら。

 いつも通り音を鳴らして凛とした姿で歩いてくる少女。

 歩いてくる彼女は、わずかに眉を寄せていた。

 

「いくつか言いたいこともあるけれど、魔法少女にならない方が良いと言うのは確かよ。いつ死ぬかもわからない戦場に出るなんてね」

 

 その言葉を聞くが、さやかは顔をしかめてまどかの手を取ると立ち上がる。

 ほむらの話を聞く気は無いと言うことだろう。

 志筑仁美の言う“リバース”は失敗に終わった。ということだ。

 

「待ちなさい美樹さやか。巴マミは―――っ」

 

「うるさい! マミさんがゾンビだったってだけで頭ん中ごちゃごちゃ! マミさんのこと信用できなくなっちゃいそうだよ! でも、あんたはそれ以上に信用無いってことを忘れんなっ!」

 

 そのまま屋上を出て行ってしまう。

 まどかは俯いて口を押えているのみだ。

 涙をこらえているのか、それとも吐き気が止まらないのかわからないが、そんなまどかを連れて、さやかは行ってしまった。

 ほむらは口を開く暇も無い。

 そこに残ったのはほむら。

 

「……いつまで見てるのかしら?」

 

 それと―――キュゥべぇだった。

 

「まったく、恐い目だね」

 

 白い獣はまるで感情が無いかのように言う。

 その姿はまどかやさやかの前で見せる愛らしい獣のそれではない。

 ほむらには、その生き物は悪魔に見えたことだろう。

 

「マミも君も信用しなくなれば、自然とさやかは魔法少女になってくれるよ」

 

 そう言うと、キュゥべぇはどこかに歩いて行ってしまった。

 ほむらは拳を握りしめる。

 

「美樹さやか、巴さんは決して強い人では無いわ、貴女の考えるような、そんな人じゃ……」

 

 つぶやくと彼女は、深いため息をついた。

 全てを“知っている”彼女は“何も知らない”彼女たちを思う。

 彼女が“彼女である理由”鹿目まどかがあんな風になったのは巴マミのせいかもしれないが、ほむらは素直に、マミが生きていたことを喜べた。

 

 

 

 

 

 学校の中庭、そのベンチで弁当を食べているマミ。そして横にいる志筑仁美。

 仁美は特に違和感が無いと言うように弁当を食べているが、マミはチラチラと仁美を気にしている。

 それを気づいてか、仁美がクスッと笑った。

 

「どうしたんですの、マミ先輩?」

 

「あっ、いえ!その!」

 

 あたふたと戸惑うマミ。

 ニコニコとしている仁美に戸惑う。

 

「その、隣町のスーパーで半額のお弁当を目当てに戦いが起きてるから戦ってみようかな、なんて!」

 

「フフッ、面白い方ですのね。さすがユークリウッドさんのお気に入りですか」

 

 そんな仁美のペースに乗せられるマミ。

 比喩表現でなら、手の上で踊らされていると言ったところだ。

 眉間にしわを寄せるマミだが、仁美のペースから逃れられる気がしない。

 何か手は無いかと考えていると、空から自分の目の前に少女が舞い降りた。

 長い黒髪、そしてマント。考える必要も無い―――吸血忍者だ。

 

「おい貴様、巴マミだな?」

 

 そう言ってきた黒髪の少女に、マミが微妙な表情で頷く。

 すると一つの細長い箱を渡してきた。

 まるでプレゼントに使うような小箱。

 

「しっかりと渡したぞ」

 

 その言葉に、難しい顔で頷くマミ。

 突如、携帯電話の音が聞こえた。

 それは少女のポケットからで、通話ボタンを押す。

 

「なに? そんなこと自分で考えろ! このちれものがっ!!」

 

 大きな声にビクッと震えるマミだったが、少女はそんなマミに見向きもせず消えた。

 何事かと志筑仁美を見るが、笑っているだけだ。

 冥界人も吸血忍者もどこかおかしいような気がする。

 自分だけでは、ないはずだ。

 

 

 

 

 

 結局、帰りは校門で待っていたほむらとになったマミ。

 まどかたちと帰らなくていいのかと聞いたが、大丈夫と答えた。

 きっと自分を心配してくれているのだろうと嬉しくなる。

 

 パトロールもかねて歩いている二人。

 たった二人だけの会話なのだから、口数の少ないほむらと居れば話題も少なくなる。

 しかし、沈黙もそれほどと言って気にならなくなってきたのは確かだった。

 

「でね、隣町のスーパーが……」

 

「そんなことになってるんですか?」

 

 意外そうなほむら。知っていることと知らないことはもちろんあるらしい。

 そういうことがわかっていくと、マミ自身もうれしくなってくる。

 彼女のことがわかっていくのは、まるで友達のようだなと思えるからだ。

 

 

 

 

 

 結局パトロール中狩れたのは使い魔が数体とメガロが一体だ。

 中にはあと一人で魔女になったであろう使い魔がいた。

 それを見て良かったと安心したマミだったが、暁美ほむらはやはりもったいない感じがするようだ。

 まぁそれも人それぞれ、ということでマミは使い魔を狩る。

 使い魔を魔女にしようなんて精神は気に入らないが、ほむらのように目についたのであれば使い魔も倒す。

 ぐらいでマミだって妥協する。

 

「この後はどうする?」

 

「隣町のスーパーでお弁当が北海道フェアらしいのよ……行くわ」

 

 ほむらはそう言うと、立ち上がった。

 時刻は六時半。魔法少女になればすぐつくはずだが、できれば魔力消費は押さえたいのだろう。

 一人暮らしらしいが、それにしても弁当なのか、と心配になる。

 今度食事に誘ってみようかと思うも、セラが暴言を吐いたらどうしようと再び心配。

 

「なら、急ぐ必要が……っ!?」

 

 ほむらが急いでいるのを感じて立ち上がろうとするマミ。そのポケットで携帯電話が鳴った。

 液晶に表示されているのは『鹿目まどか』の文字。

 すぐに通話ボタンを押すマミ。

 

『マミさん! 人が沢山、港の工場にっ! マミさんの同級生も!』

 

「わかった!すぐ行くわ!」

 

 急いで電話を切ると、目の前のほむらが力強く頷く。

 さっさと会計を済まして外に出ると、ほむらと共に走り出す。

 目的地に迷いは無い。

 即座に変身すると、跳んでビルの上にまで行き、そこからさらに跳んでいく。

 

 

 

 二人して全速力で、港の工場へとやってきた。

 着地した二人が見たのは、鹿目まどかと、青い魔法少女。

 そんな青い魔法少女を見て、ほむらは驚いているようだった。

 

「美樹さやか……貴女、まさか幼馴染のため!」

 

 ほむらがそう言うと、さやかがほむらを睨む。

 いまだに敵視している。

 魔法少女になったのだから少しは話し合いの場を設けようと思わないのだろうかと思うマミ。

 さやかはマミを見る。その眼は少し困っているようでもあった。

 

「美樹さん、前に行ったわよね私。衝動なんかでそんなことを願ってしまったら後悔するわ、貴女も……その彼もね」

 

 その瞬間、俯くさやか。

 拳を握りしめていて、ギリギリと音が鳴る。

 

「なにがっ……ゾンビのマミさんに何がわかんだよ。腕が動かない人の気持ち、わかるのかよ……」

 

 そんな言葉に、まどかはおろかほむらすらも驚いていた。

 マミはわずかに目を細める。怒っているというより心配している表情。

 なぜだが、現状のさやかが心配だったのだろう。

 

「わからないわよ。死なないもの、どんな状況になっても死ねないもの」

 

「どんな傷も治るんでしょ、気持ち悪い!」

 

 顔を上げたさやかは、マミに敵意を向けていた。

 明確な敵意と憎しみだ。やはり友情より愛か、さやかは先ほどの上条恭介も不幸になるという物言いが気に入らなかったのだろう。

 彼の腕を治さなければ余計に彼は不幸になっていたと知っている。

 

「(セラのと違って、さすがに本気でシリアスな場面で敵意持ち……結構くるわね)」

 

 自称豆腐メンタルの巴マミには聞く。と思っていたが案外ユウやセラで慣れてしまって居るせいで大したことは無いようだ。

 さやかは今にも噛みつかんという表情で、マミをにらみつけていた。

 もうマミに憧れていたさやかは居ないということだろう。

 

「さやかちゃん、やめなよ!」

 

 まどかに言われても、睨むことはやめない。

 

「貴女のような新参には私は倒せない」

 

 マミがそう言うと、気に入らないと言う表情で変身を解くさやか。

 なぜここまで敵視しているのかわからない。決定的になったのは先ほどの上条恭介関連の話だろうけれど、ここまで揺れ動いていた理由がわからないのだ。

 マミにはまったく予想がつかなかった。

 隣のほむらは予想がついたのか、グッと拳を握りしめる。

 

「行こうまどか……」

 

 そう言うと、まどかの手を引いて行ってしまうさやか。

 あっけからんと言う風に、ため息を吐くマミだが、少しは効いているようでわずかに目がうるんでいる。

 先輩面したい。否、先輩面死体マミは本気の罵倒などには心底弱い。

 ほむらは盾から一つのグリーフシードを出す。

 

「すごい濁ってるわ」

 

「知ってる」

 

 マミの手をとって、その手の平にグリーフシードを握らせると、踵を返した。

 振り返るマミが驚いてそのグリーフシードを見る。

 見えるのは彼女の背中のみだ。

 

「私は……その、なんだろうと貴女を仲間だと―――思っているわ」

 

 途端に笑顔になるマミ。

 それを察してか、ほむらはさらに気恥ずかしそうにする。

 彼女はポケットから携帯電話を出すと時刻を見た。

 

「じゃあ明日! 私はお腹が空いてるから!」

 

 そう言ってほむらは魔法少女の姿のまま跳んで行ってしまった。

 あのまま弁当を買いに出かけるのだろう。

 彼女は空腹の狼。言わば今から戦場に出かけるのだ。

 

 だがそんな彼女の気も知らず、マミは今日の晩御飯のメニューと家へ招待することだけを考える。

 

 

 

 見滝原の大きな鉄塔の上に、腰かける少女がいた。

 まどかたちと同じぐらいの歳の少女で、あまり良い気分という顔はしていない。

 

「同じ地区に三人の魔法少女なんて、おかしいんじゃない?」

 

 つぶやいた少女は、横にいる白い獣に話しかける。

 白い獣ことキュゥべぇは後ろ脚で頭をかきながら応えた。

 

「ボクもそう思うけど、マミは新しい仲間となんとかやっていっているよ」

 

 目を細める少女。キュゥべぇの言葉にイラついたということらしい。

 なぜそんなことでイラついたのかはわからないが、イライラしているように手に持った菓子を食す。

 

「何ソレ? 超ムカつく」

 

「どうするつもりだい?杏子」

 

 菓子にかぶりつくのをやめて、少女こと杏子は口元に笑みを浮かべた。

 無邪気な笑みに、八重歯がきらりと輝く。

 

「決まってんじゃん。要するに、ぶっ潰しちゃえばいいんでしょう?」

 

 鋭くなる瞳。

 

「……全員」

 

 声音は酷く低かった。

 ようするに怒っているのだろうと理解したキュゥべぇは早々に杏子から離れようと思う。

 見滝原が戦場になるのは考えるまでもないだろう。

 まどかの勧誘に行くか、それともほむらの情報を集めに行くか、二者択一。

 まぁ―――どちらにしろこれからのことで重要だろう。

 

 鉄塔から降りたキュゥべぇは、上を見る。

 

「やっぱりまだマミに未練があるのかい。まったく人間は良くわからないなぁ」

 

 歩いていくキュゥべぇは呆れているようにも思えた。

 

 

 

 

 

 自宅へと帰ってきたマミは、早々に着替えて食事を作った。

 終えて、皿に盛って出す。

 三人分のそれにも馴れて、マミはテーブルにつくと食事を始めた。

 セラとユウとマミは食事を始める。

 いつも通り―――いや、マミにとってはいつも通りの“つもり”だった。

 

「どうしたんですか?」

 

 セラの言葉に、マミはハッとする。

 表情に出ていたのだろうかと思い『なんでもない』と答えるが、疑うような目を向けるセラ。

 瞳は赤く染まっている。視線を逸らしたマミが、もう一度見ると、セラは片手に手裏剣を持っていた。

 

「ちょっ!ちょっと待ちなさい!」

 

 セラの動きが止まる。

 フッ、と笑みを浮かべるセラを見て、なんだかマミも笑ってしまう。

 声を出して笑うマミと、静かながらも同じく笑うセラ。

 ユウは無表情でありながらも、少しだけほほ笑んでいるように見えた。

 そっと手を出して、ユウはマミの頭を撫でる。

 

「お姉ちゃん! ユウにもっとぉ、甘えて?」

 

 妄想のユウがそう言う。

 

「うぅん、甘えるよぉ~」

 

 デレデレした顔で言うマミだが、その瞬間セラの腕が振られた。

 マミのこめかみに突き刺さるクナイ。

 笑顔のまま、マミはセラを見た。

 さやかの件があったからだろう。

 本気で自分を憎んでないことも良くわかる。

 

「なんだか、支えられちゃってるわね」

 

「支える? 私がいつ貴女を支えましたか気持ち悪い」

 

 沈黙、そして……。

 

「うぇぐっ、きもちわるいって、うぇぐっ」

 

 膝を抱えて泣き真似をしてみるマミがチラッとセラを見た。

 セラはおろかユウすらもただ食事を続けている。

 本当に支えられているか心配になった。

 

「おかわりです」

 

『おかわり』

 

 茶碗を突き出すセラと、茶碗とメモ帳を突き出すユウ。

 マミは順番に米を盛ると、食事を再開した。

 少なからず先ほどより雰囲気は悪くない。

 明日も魔女狩りだと、気合を入れるマミ。

 だがさやかのことだけが気がかりだった。

 

 

 

 隣町では、今宵も叫び声が上がる。

 外から見れば、中でだれかが暴れているようにも見えた。

 そして、一瞬のうちに窓は真っ赤な血で埋め尽くされる。

 外で見ていた初老の男性が、逃げ出そうとした。

 しかし遅い、どこから現れたのか、真上から一振りの日本刀が振ってきて、男性を串刺しにする。

 

 言うまでもないだろう。

 連日ニュースで大騒ぎしている殺人鬼。

 明日の新聞の一面もきっと同じだ。

 

 日本刀は、まるで幻だったというように消えた。




あとがき

基本シリアスですね。やっぱり話のメインはまどか☆マギカなのでこうなります。
できる限りギャグは入れて行きたいなぁ~なんて思いながら頑張ります!
次回は五話、彼女がようやくでてきますからね!

みなさんお楽しみに♪
感想お待ちしてます!


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10「いや、帰れ杏子ちゃん」

 見滝原の病院。その屋上にさやかが立っていた。 

 その正面には白い獣、キュゥべぇだ。

 彼女の幼馴染である上条恭介は、自分のせいで苦しんでいた。

 

「本当に、どんな願いでも叶うんだね?」

 

 だからこそ、願いを叶えようとする。

 けれどやはり渋っていた。

 

「私の祈り―――でも、マミさんが魔女を倒すなら魔法少女としての私は……」

 

「彼女がゾンビになった頃から、急にマミの魔女狩りの効率が下がっているんだ」

 

 その言葉に、わずかに揺れるさやか。

 今さら魔法少女にならないとは言わない。

 揺れているのは、マミに対する信頼感だ。

 

 確かに彼女は自分の命を助けてくれた。

 けれどゾンビで、あまり自分たちを魔法少女にしたがらなかったことなどを考える。

 一度疑心を持ってしまうと人間とは全てが疑わしく思えるものだ。

 

 さやかは、自分が街を守らなくてはと思う。

 

「大丈夫、君の祈りは間違いなく遂げられる」

 

 頷くさやか。

 そして、彼女の魔法少女としての運命が始まる。

 さやかの胸から、宝石が現れた。

 青い宝石は間違いなく“さやかのソウルジェム”だ。 

 

「さあ、受け取るといい。それが君の運命だ」

 

 キュゥべぇの声と共に、さやかの姿が魔法少女のものへと変わる。

 その手に剣が現れた。

 全て、自分の力が理解できる。

 

 体がやけに軽く感じ、さやかは笑みを浮かべた。

 自分の力が信じられないのだろう。

 

「さっそく魔女が現れたよ。さやか……」

 

「なんで、マミさんと転校生がパトロール中じゃ……っ」

 

 頷くキュゥべぇ。

 

「ゾンビに他人の痛みがわかると思うかい?」

 

 その言葉に、さやかは答えることはない。

 ただソウルジェムが反応する方向を見据えて、さやかは跳んだ。

 真っ白のマントをはためかせて、彼女は“敵”の元へと跳ぶ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日、巴マミのクラスにて彼女のクラスメイトである夏乃が欠伸をしていた。

 昨日の魔女が集団自殺をさせようとしていた口づけを受けた中に、夏乃はいたらしい。

 なにか悩み事でもあったのだろうか?

 そこら辺がかなり心配になっているが、もう大丈夫だろう。

 

 今が昼休みなのを思い出して、立ち上がるマミ。

 丁度、昼を誘うためか迎えが来ていた。

 

 

 

 今日は屋上にやってきた。

 マミを初めとして、昼食を誘ってきたほむらと仁美の二人。

 三人は座って食事をすすめていく。

 

「(どうして志筑仁美が……巴さんと魔法少女の話ができないじゃない)」

 

 頭を抱えたくなるほむら。

 マミを誘おうと三年の階まで行ったは良いのだが、仁美と出会ってしまった。

 なぜこんな志筑仁美と巴マミの仲が良いのかわからない。

 性格的に相性がいいのだろうか?

 

「そういえば、昨日集団催眠の事件があったそうですね、マミ先輩のクラスでもって話を聞きました」

 

「うん、でもピンピンしてるし平気だと思うわよ?」

 

 そんな言葉に、それは良かったと笑う仁美。

 笑いあう二人を見ていると、平和だなと思う。

 たださやかのことだけが引っかかる。

 

「そう言えば暁美さんはどうしてそんなことになっているの?」

 

 マミが聞いた。どうして、とはほむらの体のことだ。

 片足に気をつかって歩いていたことから気になっていたのだろうけれど、それ以上に見かけにも気になる部分がある。

 額から後頭部にかけてまかれた包帯。そして頬にはガーゼで鼻には絆創膏。

 おそらく服の下も負傷しているのだろう。

 

 うつむいて、頭を片手で押さえるほむら。

 

「お弁当の北海道フェア……特製ザンギ弁当295円795kcal」

 

 夜の半額弁当を取るというのは戦争だと聞いたことがあるマミは驚愕していた。

 昔見たことがある。あれは男たち女たち―――獲物を前にした狼たちの魂のぶつかり合いだ。

 驚愕するマミと、静かにゆっくりと飲み物を飲む仁美。

 

「やられましたか」

 

 くやしそうな顔をするほむら。

 そんなほむらを見ると、好奇心が刺激されるマミ。

 行ってみたい。見てみたいなどという考えに気づいて、仁美がマミを見た。

 

「マミ先輩、五回は死にますわよ」

 

 ぞくっ、と背筋が凍りつくような感覚に陥る。

 やはりやめておくべきかと納得するマミの横で、ほむらは一人闘志を燃やしていた。

 そしてそれを見ているキュゥべぇが溜息をつく。

 

「まったく、カップラーメンで良いじゃないか、わけがわからないよ」

 

 確かに理屈は通っているがそういうことではないのだろう。

 傷だらけのほむらを見るマミの眼はどこか輝いている。

 さやかとまどかの方に行こうと、キュゥべぇは踵を返した。

 

 

 

 

 

 学校が終わると、今日はほむらとわかれることにした。

 急いで家に帰ってユウとセラにケーキを作る。

 久しぶりなのでやけに楽しく作れた。

 

「これはマミが作ったのですか?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 その言葉に、少し驚いているセラ。

 当然と言えば当然かもしれない。

 ユウに作ることはあったが、セラにつくるのは初めてだった。

 

 不思議そうな表情で食べている。

 マミがケーキ作りというのは意外だったのだろう。

 

 

 

 

 

 少しして外に出たマミ。

 ほむらと待ち合わせている場所に行くと、ほむらのほかにまどかも居た。

 顔をしかめてほむらを見るマミだが、微笑で返すほむら。

 困ったような顔でまどかの顔を見たマミだが、まどかは軽く会釈。

 

「マミさん、その……ごめんなさい。マミさんの顔見ると思い出しちゃって」

 

 頷くマミ。仕方ないことだろう。

 普通の中学生に見せたのだ。あの戦い。

 マミ自身としても今は後悔していないし、ほむらも良いと思っている。

 死するということの恐ろしさは理解できたはずだ。

 

 まどかがそっとマミの前へと出る。

 

「これからも、私の友達で、先輩でいてください」

 

 そう言って手を差し出すまどか。

 ふと、マミの視界が歪んだ。

 何があったのかは理解できる。

 自分の手で、目元をぬぐいながら笑みを浮かべた。

 

「参ったなぁ。まだまだちゃんと先輩ぶってなきゃいけないのになぁ、やっぱり私ダメな子だ」

 

 涙を拭う。

 

「これからもよろしくね♪」

 

 瞳に涙を浮かべながらも、笑うマミ。

 

「……っ!?」

 

 気のせいか、まどかの顔が少し赤らんだ。

 夕日で赤いせいだろうと思うマミ。

 まどかは少し紅潮した顔のまま、笑みを返した。

 

 

 

 

 

 美樹さやか。彼女は一人歩いていた。

 友人である鹿目まどかは『さやかちゃんと一緒に行く!』と言っていたが、メールで断ったのだ。

 理由としては彼女があの魔法少女、暁美ほむらとつるんでいるからということである。

 目がおかしい。確かに理屈もとおっている言葉だけれど、眼が本当のことを言っていないような気がするのだ。

 ほむらと共に居るならば憧れていたマミはおろか、まどかすらも信用できなくなる。

 

 路地裏に入ったさやかが、変身。

 そして使い魔を見つける。

 飛行機に乗った子供、と言う感じの容姿をした使い魔が飛びまわっていた。

 マントから計六本の剣を周囲に配置する。

 

 彼女自身気づいていないが、皮肉にもこの戦い方はマミと同じだ。

 計六本の剣を投擲するさやかだった。ほとんどを外して一発が直撃しようとした瞬間、剣が弾かれた。

 

「なっ!?」

 

 目の前に現れたのは、赤い魔法少女。

 槍を片手に持ち、片手でたいやきを持っていた。

 鋭い瞳で、さやかは赤い魔法少女、杏子を睨む。

 

「ちょっとちょっと、何やってんのさ、アンタ……見てわかんないの? ありゃ魔女じゃなくて使い魔だよ。グリーフシードを持ってるわけないじゃん」

 

「だって、あれほっといたら誰かが殺されるのよ?」

 

 杏子のことを察してだろう。

 さやかの口調は若干強い。

 

「だからさぁ、4~5人ばかり食って魔女になるまで待てっての。そうすりゃちゃんとグリーフシードも孕むんだからさ。アンタ、卵産む前の鶏シメてどうすんのさ」

「魔女に襲われる人たちを、あんた、見殺しにするって言うの?」

 

 なんとなく理解できたのだろう。

 杏子はグリーフシードだけが目当ての魔法少女だ。

 

「アンタさぁ、何か大元から勘違いしてんじゃない?食物連鎖って知ってる? 学校で習ったよねぇ弱い人間を魔女が食う。その魔女をアタシたちが食うこれが当たり前のルールでしょ、そういう強さの順番なんだから」

 

 剣を両手で持って構えるさやか。

 それを見ながら笑みを浮かべる杏子は、挑発をする。

 

「まさかとは思うけど。やれ人助けだの正義だの、その手のおチャラケた冗談かますわけじゃないよね? アンタ!」

 

「だったら、何だって言うのよ!」

 

 その挑発に見事に乗るさやか。

 潰しておこうと思った杏子は笑みを浮かべる。

 

「ちょっとさ、やめてくれない? マミじゃないんだからさぁ」

 

 そんな杏子の言葉を聞いたさやかは歯ぎしりをして、杏子に剣を向けた。

 

「あんな人と一緒にしないでよ! あの人は良いよね死なないしさぁ! あんなのだと恐いものなんてなにもないんでしょどうせ!」

 

 いつの間にか口に出していたのに気づいて口を紡ぐさやか。

 こんなことを目の前の魔法少女に言っても仕方ないのだろうと思い、剣をしっかりと構えた。

 しかし、杏子は俯いて腕を振るわせるだけだ。

 持っていたたいやきを口に入れて飲み込むと、両手で槍を構えた。

 

「テメェにマミさん……マミの何がわかるってんだっ」

 

 その言葉を聞いて、さやかが鼻で笑う。

 

「わかるよ! あの人は人の痛みがわからないんだよ……死なないから!」

 

 杏子は“死なない”の意味を純粋に強いという意味で言っていると思っている。

 まぁどういう風に伝わっても杏子は激昂していただろう。

 彼女は“巴マミ”という人物を一番良く知っていると思っているから……。

 

「超うざぃ……」

 

「なに? 自分から罵倒しながら他人に罵倒されるのは気に入らないってわけ?」

 

 槍を構える杏子。同時に剣を構えたさやかだが、初動は杏子の方がはやかった。

 剣の柄に付いたトリガーを引くと、刃が杏子へと飛ぶ。

 しかし槍を高跳びの容量で使い跳ぶ。

 空中に舞った杏子が槍を多節棍へと変えて振る。

 その棍はさやかに直撃。

 

「ぐぁっ!」

 

 さやかは吹き飛んで地面を転がる。

 地上に降りた杏子はさやかをにらみつけた。

 

「これ以上アイツのことをなんか言うようだったら……殺すぞ?」

 

 起き上がるさやかが、両手に剣を持つ。

 

「言ってることがさっきから支離滅裂じゃんあんた! それともなに、マミさんのこと好きなの? 気持ち悪い!」

 

 杏子の眼が見開かれる。

 槍を回転させ、勢いをつけての刺突。

 さやかが魔法陣を足元に出現させて、跳んだ。

 槍を避けたさやかが杏子の真上から剣を振り下ろして落ちる。

 しかし杏子もベテラン魔法少女だ。当たるわけにもいかないからだろう。

 

「このぉっ!」

 

 多節棍にした槍を振るうと、さやかの剣が杏子に当たる前にさやかは吹き飛んで地面を転がる。

 跳んだ杏子が、斜め下にいるさやかに向かって槍を突き出した。

 そして槍が突き刺さろうとしたその瞬間、さやかは消える。

 驚愕する杏子。そして、杏子より後ろにいるさやか。

 

「なにしやがるテメェ!」

 

 振り向いた杏子の視界に映るのは黒髪の少女。

 そしてその少女、暁美ほむらの向こうにいるのは美樹さやか。

 妙な技。理解した。こいつがイレギュラーだ。

 そんなほむらに槍を向けようとした瞬間、声が聞こえる。

 

「さやかちゃん!」

 

 さやかに駆け寄るのは鹿目まどか。

 魔法少女ではないが事情は知っていると言ったところだろう。

 そして、その奥から現れた人物に、杏子は目を細めた。

 

「テメェ……巴、マミっ」

 

 金色のロールを揺らしながら現れたのは、巴マミだ。

 少しさみしそうな顔をしながらも、咎めるような顔でもある。

 そっと歩いて、ほむらの横に立つ。

 

「佐倉さん、なぜ……見滝原に来たの?」

 

 わずかに顔をしかめる杏子。

 

「なんだよ、来ちゃダメだったかよ」

 

「そうは言っていないわ。ただ貴女が自分からくるなんて思ってなかったから……」

 

 目を伏せて言うマミに、杏子は気まずそうにする。

 だが、とつじょさやかが建ちあがった。

 剣を構えるさやかを見て、ほむらが盾を構える。

 

「やめなさい暁美さん」

 

 その言葉に、ほむらがマミの方を見た。

 目を見てから、消えるほむら。

 ほむらはまどかの隣に居た。

 

「これ以上、佐倉さんとやりあっても無駄よ。付け焼刃で勝てるわけがないでしょう」

 

 その言葉にも、さやかは決して目を逸らさないし応えもしない。

 溜息をつきたくなるマミだったが、困った後輩をこのまま置いていくなんてこともできなかった。

 

「どんなベテランでもマミさんにはかなわないでしょうけどね……」

 

 そんな皮肉も今は困った後輩が反抗期。程度ですます。

 特に気にすることもないだろう。荒れているのは見ればわかることだ。

 自分が彼女の期待を裏切ったと言うこともあり責任は感じている。

 

「さて、どうするの?」

 

「邪魔するなら斬ります」

 

 黙っているマミ。それを肯定と受け取ったさやかが動き出す。

 マミの目の前で振り上げられる剣。

 速度はそれなりということを理解する。

 

「磨けば私以上ね」

 

「正義の味方ですから……っね!」

 

 振り下ろされる剣を体を逸らして避けると、さやかの腹に膝蹴りを入れる。

 ちなみにマミはまだ“変身すら”していない。

 ゾンビとしての身体能力だけをつかって戦っている。

 地面を転がるさやか。

 

「来なさい。私が相手をしてあげる」

 

「テメェ一人で決めつけてんじゃねぇよ!」

 

 声は後ろから聞こえた。

 さやかへと走り出そうとする杏子を、マミは振り返ると同時に回転蹴りで横の壁に叩きつける。

 荒業にも程があると、ほむらはつぶやく。

 彼女がなにをしたいのかまったくわからなかった。

 

「っのゾンビには……人の痛みはわかんないでしょうね!」

 

 立ち上がり剣を構えるさやか。

 回復が早いのは圧倒的にさやかだ。

 

「……さぁどうかしら?」

 

 走り出すさやかが、突如跳んだ。空中で魔法陣を足場にマミの背後に跳ぶ。

 するとそこにも魔法陣を召喚してマミの背後から切りかかる。

 振り返るマミだったが、何もせず腕を大きく広げた。

 驚愕に顔をゆがめるさやかだったが、剣はマミの胸を貫いて飛び出す。

 

「まったく……一応痛いのよ?」

 

 そう言うマミ。

 壁に叩きつけられた杏子が、その光景を見て即座に動き出す。

 さやかの背後から槍でさやかを突き刺そうとしたが、地面から出てきたリボンが杏子を拘束。

 変身していないマミを見て、杏子はなんとしても抜け出そうとするが、不可能だった。

 

「まったく、私を心配してくれるなんて優しいじゃない? 佐倉さん」

 

 ふつうに喋っているマミが不気味で、杏子がわずかに怯む。

 

「さすがに強いですね。ゾンビさん……」

 

 皮肉なのだろう。さやかの言葉に苦笑するマミ。

 さやかが剣を抜く。手がわずかに震えていた。

 人を刺す感触というものにおびえているのだろう。

 

「これがわかったなら魔法少女同士で戦うなんてやめなさい。何度も魔法少女と戦った先輩からの忠告よ」

 

 さやかが変身を解除して、走り出す。

 マミの横を通って、ほむらもまどかも振り切って走って行ってしまった。

 息を吐くマミが、杏子を見てリボンを解く。

 

「なんなんだよマミ……お前は……」

 

「ゾンビよ。正真正銘の動く死体」

 

 笑って言うマミに、杏子の背筋が寒くなった。

 しかし、すぐにそれも収まった。

 なんだかさみしそうに笑うマミを見てわずかながら“昔”を思い出してしまったのだ。

 

「貴女も私とやり合うの?」

 

「勝てないのは目に見えてる……ゾンビ相手だからって頭撃って終わりじゃないんでしょ?」

 

 可笑しそうに笑みを浮かべて頷くマミ。

 杏子は槍を消す。

 怪訝な顔をする杏子は、走り出す。

 

 

 ―――そして、杏子はマミに抱きついた。

 

「マミさん!」

 

「佐倉さん♪」

 

 マミは抱擁で返した―――。

 

 

 なんてことを想像していたが、現実はそうはいかなかった。

 杏子の拳がマミの左頬に直撃。

 殴り、殴られたまま止まっている二人。

 

「な、なんで?」

 

「そりゃ決まってんだろ、蹴られたぶんだよ」

 

 なんだか仲直りを想像した自分が馬鹿だったと思わされる。

 手を外す杏子。腫れた部分はすぐに治るだろうと気にしないマミ。

 

「悪いけどここはもらうよ」

 

 すぐに表情を引き締めて言う杏子に、マミも表情を引き締めた。

 空気が一瞬で重くなる。

 

「いや、帰りなさい」

 

 そう言うマミだったが、ほむらがマミの前に出てきた。

 杏子は怪訝な顔でほむらをにらみつける。

 

「私に協力してほしい」

 

 そんな言葉に驚くマミとまどか。

 仲間を必要以上に増やせばグリーフシード争いになるし、杏子はグリーフシードを求める魔法少女だ。

 だが、それでもほむらは仲間にしたいようだった。

 

「けっ……マミと一緒にいるような奴と組めるかよ」

 

 そう言うと、杏子は左右の壁を交互に跳んでどこかに消えて行く。

 溜息をつくマミと、安堵の息をつくまどか。

 ほむらは呆れたような溜息である。

 

「うん、なんだか佐倉さんと美樹さんって相性良さそうよね。赤と青……対なる存在ってとこね」

 

 ドヤ顔で笑うマミの腹部からは血が流れているが、傷口も見えないからかまどかもそれと言って吐き気はないようだ。

 ただむせ返りそうな血の匂いだけは充満している。

 ほむらはまどかが血の匂いに慣れたら嫌だな、と思いながらマミを見た。

 

「さて、帰りましょうか……」

 

「そうね、でも……」

 

 まどかに向けて、二人が銃を構えて同時に撃つ。

 目をつむるまどかだが、急いで後ろを見た。

 そこには馬のような生き物。

 

「メガロね」

 

 ほむらとマミがまどかの前に立つ。

 変身するマミが、笑みを浮かべる。

 

「ついてこられる?」

 

「私だってベテランよ」

 

 馬のメガロが叫び声をあげた。

 マミとほむらは同時に動きだす。

 

 

 

 その光景を、遠くから見ているのは佐倉杏子。

 つまらなさそうに見ていて、つまらなさそうに溜息をつく。

 両手で頭をわしゃわしゃと掻く。

 

「んだってんだよ!」

 

 大きな声を上げて、杏子は菓子の袋を投げ捨てた。

 もやもやした気分を鎮めるためにゲームセンターにでもくりだそうと立ち上がると、もう一度共闘している二人を見て、踵を返す。

 見滝原の魔法少女たちは、ただすれ違う。

 

 小さなことでも、彼女たちにとっては大きなことだった。

 魔法少女たちにとっては、少しのすれ違いは敵対に値するものなのだから……。

 

「そういやあっちの方のスーパーって弁当安いし、夜は半額だった……行ってみるかな」

 

 つぶやく杏子の足元には、一枚のチラシが落ちていた。

 おいしそうな弁当の特集を見て、杏子のが鳴る。

 空腹なんていざとなれば魔法でどうにかできるが―――今日は魔法をそういうことに使う気分にはなれなかった。

 腹の虫より“彼女の言葉”を気にするぐらいなのだから、やはり杏子は未練があるのだろう。

 

 




あとがき

さてさて、これからどうなっていくやら(
とりあえずシリアスシーンもありながらギャグパートも入れて行きたいなと思っています!
どっちもなあなあになるのが一番怖いんですけどね。
でも私頑張っちゃいますからね。
感想が私の励みとなり血肉となるのだぁっ!!

では次回!筋肉刑事第六話「で、デカい……」じゃなくて
まぁとりあえずお楽しみに!
感想お待ちしてます♪


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11「うん、たぶんゾンビです」

 翌日、マミは日差しの中木の影を移動していた。

 日陰の中を移動するマミの傍には、仁美が歩いている。

 午前授業である今日は、仁美と帰ることになったのだ。

 ほむらは後で合流するらしい。

 ふと仁美を見るマミだったが、その顔がわずかに暗いことに気づく。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、さやかさんのことを思い出していました」

 

 その言葉に、わずかに顔をしかめるマミ。

 当然と言えば当然かもしれない。

 昨日のことを思えば……。

 

「どうしたの?」

 

「暗いというか、そんな感じでしたわね。上条君のことでなにかあったのでしょうか」

 

 少し顔をしかめて言う仁美。

 なにか思うことでもあるのだろうかと少し首を傾げるマミ。

 彼女がそんな顔をするなんて珍しいと思う。

 今日はほむらは先に帰ってしまった。

 

「ところで、ユークリウッド様のことなのですけれど」

 

 急に話題を変えた仁美を疑問におもいながらも黙って聞くマミ。

 

「マミ先輩の傷を治したことはありますか?」

 

 その言葉に、マミは頷く。

 誤って手を切ってしまった時など、時たま治してもらうことはある。

 少し前は魔女と戦って傷の治りが遅い時なども治してもらった。

 

「マミ先輩、いえ巴マミ。彼女が治癒の能力を行使したということがどういうことかおわかりになりますか?」

 

 そんな言葉に、マミは頭を傾げた。

 ご存じありませんでした? と不思議そうにする仁美。

 

「ユークリウッド様は他者の傷を治す代償に相手の痛みをそのまま引き受けるんです」

 

 マミが目を見開く。

 

「ユウはそんなこと一言もっ」

 

「それがあの人の優しさなのでしょう」

 

 空を見上げて言う仁美は、嘘をついているようには見えなかった。

 そして話を続ける仁美。ユウは冥界でも特別な存在で、そのユウがマミを特別な存在だと認めたということなどを語る。

 

「そんな……」

 

 今まで知らなかったにしては、罪深い。

 家族だと思っていた少女のことを、本当は何もわかってないと頭を抱える。

 微笑する仁美。そんな仁美を見て、なんで笑うのかわからないマミ。

 

「そこまでユークリウッド様のことを考えてくださっているならば結構です。では、私はこちらですので……」

 

 歩いていく仁美。

 別の道だが、マミは息をのんだ。

 目の前に続く道に影は無い。

 

「(ガイアよ、貴方はどこまで私に試練をお与えになるのかっ)」

 

 マミは息をのみ、足を踏み出した。

 

 

 

 結果―――マミは倒れた。

 しかして自宅へとマミがつけたのは運よくセラが通りかかって干からびかけていたマミを連れ帰ったからだろう。

 コヒューコヒューと息をしているマミは非常に不気味だったが、そんなマミを背負って帰ってくるだけセラもマミをそこまで嫌っていない証拠だ。

 

 自宅にて水を飲むマミが、ユウの隣に座った。

 視線をユウの方に移すと目が合う。

 少し気まずくなりそうだが、マミは口を開く。

 

「志筑仁美からいろいろ聞いたわ」

 

 少し、肩が揺れた。

 

『あのシーウィードから?』

 

 二つ名か何かだろうか?それとも向こうでの本名なのか……どちらにしろわかっているようだ。

 頷くマミ。ユウは相も変わらず無表情。

 困ったようなマミが、核心たる部分に触れる。

 

「ユウはさ……なんで感情を押し殺してるの?」

 

 その言葉に、再びピクッと震えたユウ。

 二人の視線が合い、メモ帳が持ち上げられる。

 

『答えなきゃだめ?』

 

「ええ」

 

『どうしても?』

 

「どうしても、よ」

 

 その言葉に、そっと頷くユウ。

 言いたくないのだろうけれど、マミは聞きたかった。

 我儘だと罵られようと、家族のことを知るのになにが悪いとマミは声を大にしてでも言える。

 少し考えるようにするユウだったが、あきらめたからか、メモ帳に言葉を書いた。

 ページを千切ってマミへと渡していく。

 

 

『運命の糸というものはゆらゆらと横に揺れながら前へと進んでいる。

 そこに強い魔力の影響があると揺れは大きく激しくなる。

 私は動揺、不安、心の動きで魔力がすぐに乱れてしまう。

 それは運命の糸に干渉し現実を変えてしまう。だから私は感情を出す事が許されない。

 言葉を出せないのは、言葉に魔力がこめられてしまうから。

 だから私は声を出す事が許されない。

 私は言葉は重すぎる。

 いつ、どの言葉が力に変わるか私にもわからない。だから一言も発することも許されない』

 

 

 その真実の数々を知って、マミは動揺が隠せない。

 

「で、でも、あーとかうーとかなら言えるんじゃ―――」

 

『言葉が力に変わる時、私の頭に激痛が走る。あれはもうイヤ』

 

 一言も話せない理由。

 何も言えない理由が理解できた。

 初めて出会った日にマミを見て『面白かった。だから二度とするな』は感情の動きをセーブするため。

 

 

『私の血液には不老の力があり、心臓は膨大な魔力を放出している。

 ガントレットとプレートアーマーは私の魔力を封じる為。

 私の力に私の意志は関係ない。私が死んでも魔力は発動する』

 

 

 そこまでを語って―――手が止まった。

 マミがユウを見る。俯くユウの足に乗っているメモ帳に涙が落ちる。

 メモ帳には一言。

 

『嫌いになったでしょう?』

 

 驚愕で目を見開くマミが、頭を左右に振る。

 

「なんでっ!」

 

 身を乗り出すマミ。散らばっていたメモ帳が舞う。

 マミは強い口調だ。

 

「なんでよ! 私がいつ、ユウを嫌いだなんて言った!?」

 

 怒るようなマミの声。いや、怒っているのだろう。

 そんなことを言ってくれなかったなども含めて、彼女は今怒っている。

 

『私の感情が動くと、近くにいるマミの運命が一番変わってしまうから』

 

 ユウの涙が、メモ帳にシミを作っていく。

 徐々に、ユウの嗚咽が漏れていった。

 

『こんな化け物みたいな奴が側にいる。それを知ったら嫌いになるでしょう?』

 

 震えるユウの肩。

 マミが腕を振って答える。

 

「馬鹿言わないで! 化け物なんてどこにも居ない! ここにいるのは、ただの優しい女の子だけじゃない!」

 

『一緒にいてもいいの?』

 

 漏れる嗚咽も涙の量もどんどんと増していく。

 それはたぶん、悲しいからだけじゃないはずだ。

 マミはユウの手からボールペンとメモ帳を取る。

 何かを書くと、ユウに見せた。

 

「っ……」

 

 ユウの涙が量を増やす。

 彼女自身ももう止める気はないのだろう。

 それは悲しみの涙じゃないから……。

 

 マミはほほ笑んで、ユウの頭を優しく撫でる。

 

「ユウ、笑いたい時は笑って良いんだよ……運命がどうとか、そんなのは私がなんとかする」

 

 そう言いながらユウの頭を撫で続けるマミ。

 ユウの頭からそっと手を離すと強い表情で窓から空を見上げた。

 

「(たとえ最強の魔女でも最強のメガロでも、なんとかしてみせる。それがユウと一緒にいる代償なら……安いモノよ。ドーンと来なさい!)」

 

 傍に置いてあったメモ帳。

 ユウの『一緒にいてもいいの?』の隣にあるページ、そこには『一緒にいなさい どこにも行かないで 私のところにいなさい』と書いてある。

 それがマミの答えだ。

 彼女たちの運命が変わる瞬間―――でもあった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 そして、二時間ほどしてからほむらにメールで呼び出されたマミはゲームセンターへとやってきた。

 遊びたいのかと思っていたがそういうわけではないようで、ほむらについて行った先にはUFOキャッチャーをやっている少女。

 赤い髪の少女が景品であるお菓子を取ると、嬉しそうにそれを取る。

 

「よう、今度はなにさ?」

 

 振り返ったのは佐倉杏子。

 昨日のほむらのように頭に包帯を巻いていて、ガーゼとばんそうこうが目立つ。

 すっかりほむらが治ったと思ったら今度は杏子だ。

 

「二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」

 

 杏子の眼が細くなる。

 隣のマミは沈黙の中―――え? と声を上げた。

 

「なぜわかる?」

 

 マミをスルーして話が続く。

 

「それは秘密。ともかく、そいつさえ倒せたら、私はこの街を出て行く……あとは貴女の好きにすればいい」

 

 さらに出て行くという言葉を聞いて、驚くマミ。

 今はマミの相手をしてる暇など無いようで、ほむらも杏子も構わない。

 さみしくなるマミだったが、自粛。

 

「ふぅん……ワルプルギスの夜ね。でもマミも一緒なんだろ? あたしはマミとは組めない」

 

「どうして? ちっぽけなプライドかしら、貴女はまだ巴さんに」

 

「黙りな」

 

 何が起こっているのかわからないマミ。

 だが空気がピリピリしているのは理解できる。

 自分が原因なのだろうかとあたふたとしはじめた。

 

「なに自棄になってるの、佐倉杏子」

 

「なってない」

 

「恐いんでしょ、巴さんと組めば貴女の信念が―――」

 

「黙れって言ってんだろ!」

 

 杏子の大声に、ほむらは黙った。

 大声に驚いている周囲の人間になんでもないんですと言いながら頭を下げるマミ。

 舌打ちをした杏子は歩いてどこかへ行ってしまった。

 溜息をつくほむら。

 

「ごめんなさい」

 

「謝る必要はないわ。私は貴女がいるのがなによりもうれしい」

 

 赤い顔で言うほむらだが、気づかないマミはその言葉をお世辞と思う。それでも嬉しかった。

 自分に気をつかってくれているのだということや、細かなことが嬉しい。

 やはりほむらと組んでいて良かったと思う。

 

 

 

 

 

 マミはほむらを連れて、自分のマンションへとやってきた。

 スーパーに寄って晩御飯の食材を買ってきた後だ。

 なぜほむらを連れて来たのかと言うと、そろそろ家族のことを紹介しなければということ。

 メガロのことや魔法少女のことを知っているし、知っていて損は無いだろう。

 

「ただいま!」

 

 玄関を開けて入るマミとほむら。

 少し遠慮がちにマミの後をついていくほむら。

 二人はリビングへとついた。

 驚愕するほむら、いつもの三角形のガラステーブルが無い。

 代わりにちゃぶ台だ。

 

「い、イレギュラーだわ」

 

 そのつぶやきは誰にも聞こえない。

 ちゃぶ台を囲むように座っている二人。

 ユークリウッド・ヘルサイズとセラフィム。

 

「マミ、その方は……」

 

 少し驚いているセラだったが、すぐに納得した。

 

「暁美ほむらです。巴さんにはお世話になっていて―――」

 

「ああ、堅苦しいことは良いです。大体世話になっているのはマミでしょうし」

 

「わからないじゃない、私がお世話してるかもしれないわよ?」

 

「ありえません」

 

 断言されたマミは低いトーンで晩御飯と作ると言って去って行った。

 残された三人。ほむらが座ると、セラが湯飲みにお茶を注いでほむらに出す。

 どうぞ、と言われたほむらは礼を言うと口をつける。

 

「ん」

 

 口を外すと、ふぅと息をついた。

 横から、トントンと音がする。

 そちらを向くと、ユウがメモ帳を叩いていた。

 

『いらっしゃい』

 

 マミから話は聞いていたが、本当に不思議な少女だ。

 綺麗なのだが、ガントレットとプレートアーマーがやけに気になる。

 それも様になっているような様子なのだが、ちゃぶ台には合わないだろう。

 

「貴女から見てマミってどういう印象なんですか?」

 

 セラの言葉に、少し迷うほむら。

 いろんな彼女を“知っている”ほむらは悩む。

 しかし今回の彼女の素直な感想を言うことにした。

 

「良い先輩ですよ。ゾンビなのも含めて」

 

 そう言って笑うと、セラは安心したように頷く。

 彼女はマミが好きなのだろうか? と疑問を抱くほむらだが、深くは考えないことにした。

 しばらくちょっとした話をしていると、ユウがほむらの服の袖を引く。

 そちらを見ると、メモ帳を見せられる。

 

『マミは強くない』

 

 頷くほむら。

 微笑を浮かべたほむらを見ると、ユウはメモ帳を置いて再びお茶を飲む。

 

「できたわよ~!」

 

 マミがいくつかの料理を持ってきた。

 

「今日は奮発しましたね」

 

 そう言ったセラ。

 ほむらは、自分のために? と少しうれしくなる。

 表情を出さないようにして、立ち上がって食事を運ぶのを手伝おうとした。

 

「良いのよ暁美さん、お客さんなんだから」

 

「何もしないっていうのは性に合わないのよ」

 

 そんな言葉に、マミは笑顔で皿を渡す。

 運んでいくほむらに、セラも『来客なのですから』と言うが同じように返した。

 全てを運び終えると、四人で食卓を囲むことにする。

 

「いただきます」

 

 三人の声と、一人の文字。

 食事を始めた四人は談笑をしながら箸を進めていく。

 ほむらは一昨日の夕食を求めるための“戦い”を思い出して肝を冷やす。

 あちらはあちらで気になるものの、ゆっくり“友達”と夕食というのも悪くないものだ。

 そう思わされた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 彼女、美樹さやかは想い人である上条恭介の自宅の前にいた。

 何かを躊躇するようなそぶりをみせているが、なにか歯がゆい。

 やはりやめるのか振り返る―――そして、眼を細く尖らせた。

 

「お前は」

 

「会いもしないで帰るのかい?今日一日追いかけ回したくせに」

 

 そこには昨日の魔法少女、佐倉杏子が居た。

 笑みを浮かべながらさやかの顔を見ている。

 ギラリと光る八重歯。

 

「知ってるよ。この家の坊やなんだろ?アンタがキュゥべえと契約した理由って……まったく。たった一度の奇跡のチャンスをくっだらねぇことに使い潰しやがって」

 

 もったいないと言わんばかりに言うと、お菓子をかじる。

 そんな言葉に、さやかがさらに表情をこわばらせた。

「お前なんかに何が分かる!」

 

「わかってねえのはそっちだ、バカ。魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。他人のために使ったところで、ロクなことにはならないのさ」

 

 お菓子を食べ終えると、飲み込んで立ち上がる。

 鋭い視線をさやかに向けた杏子。

 頭に巻いた包帯を外す。

 

「巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」

 

 そんな言葉に、さやかは若干動揺した。

 言っていたはずだ。彼女は良く考えて使えと言った。

 それを無視して願いを叶えたのは自分で……。

 

「やっぱり言ってたんだろ、やめろってさ?」

 

「うるさい!」

 

 これ以上は考えるのをやめた。

 自分は間違っていない。

 “正義の味方”として悲しんでいる恭介の片腕を治して、魔女だけじゃなく使い魔も倒して、街を守っている。

 誰にも気づかれないまま誰かのために戦っているはずだ。

 

 動揺している心に嘘をついて、さやかは笑った。

 

「ハッ!あの人って家族も友達も居ないんでしょ? ならわかるわけないじゃん……好きな人が泣いてる姿を見る辛さなんて!」

 

 その瞬間、杏子が変身して槍を持つ。

 杏子の眼は先ほどの眼とは全く違う。殺意と憤怒で溢れていた。

 笑うさやかに、歯ぎしりする杏子。

 

「……殺しちゃうしかないよね?」

 

 そう言った杏子を見て、背後の家を見たさやか。

 

「場所変えようか……あんまりそうしてると人目につくよ?」

 

 杏子とは違い余裕があるさやかはそう言って杏子に背中を見せて歩いていく。

 変身を解く杏子は、おとなしくさやかについていった。

 正々堂々と戦って“ぶちのめす”ということで頭がいっぱいだ。

 

 

 

 

 

 十分ほどしてから、杏子とさやかの二人は橋の上の歩道橋の上に立っていた。

 広めの歩道橋で、戦闘をするには十分な広さだ。

 怒りもだいぶ静まってか、杏子がソウルジェムを出した。

 

「ここなら遠慮はいらないよね、さっさと変身しなよ」

 

 変身して、槍を構える杏子。

 ソウルジェムを出すさやかだったが、足音と共にさやかの背後から少女が現れた。

 

「待って、さやかちゃん!」

 

 走ってきたのはまどか。

 彼女はキュゥべぇに呼ばれてやってきた。

 さやかは目を見開いて驚くが、再び杏子の方を向く。

 

「まどか。邪魔しないで!そもそもまどかは関係ないんだから!」

 

 そう言うと、さやかは変身しようとする。

 

「ダメだよこんなの、絶対おかしいよ」

 

 なおも止めるまどかに、さやかは少し煩わしそうな目を向けた。

 杏子は当分続くだろうと思い槍を肩にかついだ。

 

「ふん、ウザい奴にはウザい仲間がいるもんだねぇ」

 

 笑う杏子だが、さやかの先ほどの言葉を思い出して、槍を握る手が力む。

 今やれば一突きで終わる。槍を構えた。

 いつでも“殺れる”ようにと、構えた瞬間―――銃声。

 

 そちらの方向に全員が目を向ける。

 杏子の後ろに、マミとほむらがいた。

 

「チッ」

 

 舌打ちをする杏子だが、変身しているマミとほむら相手に突っ込む気にはなれない。

 ほむらの戦い方がわからないというのが理由だ。

 昔、別れる時は自分に良心から一切攻撃を当てることのできなかったマミだったが、昨日攻撃をしてきた。

 この二人に勝つのは、かなり骨が折れることだろう。

 

「やめなさい二人共、今は魔法少女同士で争うときじゃ」

 

「魔法ゾンビは黙っててくださいよ!」

 

「(これは酷い)」

 

 表情を変えることのないマミだが、心の中では結構傷ついていたりする。

 きっとユウやセラに出会っていなければソウルジェムの穢れもマッハだっただろう。

 マミはいつも通りの表情で微笑する。

 

「もうすぐ強大な魔女が来るのよ、みんなで協力しないと」

 

「勝手なこと言わないでくださいよ! 今までゾンビだってこと私たちに隠しておいてなにが協力だ!」

 

 変身しようとするさやか。

 だがそれを察してかまどかが足を踏み出す。

 

「さやかちゃん、ゴメン!」

 

 そう叫んでから、まどかはさやかのソウルジェムを奪い取る。

 驚愕で誰も反応できなかった。

 そしてまどかは橋から身を乗り出して両手を下に振り下ろす。

 

「うぇひっ!」

 

「(うぇひって!?)」

 

 心の中で突っ込むマミだったが、それはなんにもならない。

 落ちていくソウルジェムが、たまたま下を通ったトラックの荷台に乗る。

 走り去っていくトラックを見て、さやかがまどかの両肩を掴む。

 

「まどか! あんたなんて事を!」

 

「だって、こうしないとっ!」

 

 さやかに咎められるも、首を横に振るまどか。

 ふとした瞬間、さやかの瞳から光が消える。

 同時に、力の抜けたさやかがまどかの方へとよりかかった。

 キュゥべえが柵に乗る。

 

「今のはマズかったよ、まどか。よりにもよって、友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」

 

「何? 何なの?」

 

 そんな言葉に、マミの思考が高速回転した。

 解決して出される答えはこの場の“自分以外”の人間にとっての最悪の答え。

 胃がキリキリと痛むのは、この後のことを考えてだった。

 

 杏子がさやかの首を掴んで持ち上げる。

 

「やめてっ!」

 

 そう訴えるまどかだが、杏子は聞く耳持たず。

 彼女もなんとなくは察しているのだろう。

 

「どういうことだオイ……」

 

 ―――コイツ死んでるじゃねぇかよ。

 

 杏子の言葉があたりに木霊する。

 否、木霊したように聞こえた。

 “死んでる”のが自分だったら良かったのにと思いながらも、さやかの方へと足を進ませる。

 

 杏子が下ろしたさやかの体の横にそっと腰を下ろすと、さやかの左胸に手を当てる。

 鼓動は感じない。

 まどかの泣き声だけが、あたりに響いていた。

 

 

 




あとがき

感想をもらうと執筆意欲が湧きます!
感想をくださったみなさま、ありがとうございます♪

さて!相変わらずのシリアスが続きます。
まぁギャグも申し訳程度に入れているわけですが、これで楽しんでもらえてますかねェ。
とりあえず当分はシリアスメインですね。
最初の頃のギャグが懐かしい(遠い目

次回からさやかちゃん、さらにやさぐれます!
ちなみに誤解が無いように言いますが私はさやかちゃん大好きですよw
では次回もお楽しみに♪

感想お待ちしてます!


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12「もう、離さないから」

 いつの間にやら暁美ほむらは消えている。

 倒れているさやかに抱きついたまま泣いているまどか、杏子はキュゥべぇを掴んで持ち上げた。

 もう、マミは止める気などない。

 友達と言ったその生き物を今回ばかりは助ける気になれないのだ。

 

「君たち魔法少女が身体をコントロールできるのは、せいぜい100m圏内が限度だからね」

 

 あっけからんと言った様子で言うキュゥべぇ。

 その感情の込められていない声にも、反応できない。

 この中で反応できるのは杏子だけ。

 

「100メートル? 何のことだ、どういう意味だ!?」

 

 頭では理解できているはず。

 もちろんマミには理解できている。

 まどかはただただ泣いていた。

 

「普段は当然肌身離さず持ち歩いてるんだから、こういう事故は滅多にあることじゃないんだけど」

 

 しかし、顔を上げて泣き顔のまま叫ぶ。

 

「何言ってるのよキュゥべえ! 助けてよ、さやかちゃんを死なせないでっ!!」

 

 まどかのそんな叫び声を聞くのはマミも初めてだ。

 しかし、それに驚くような余裕も無い。

 

「はあ……まどか、そっちはさやかじゃなくて、ただの抜け殻なんだって」

 

 キュゥべぇの言葉に、まどかは驚いているようだった。

 まったくと言っていいほど理解が追いつかないのだろう。

 魔法少女であるなら大体、今の展開でわかる。

 

「さやかはさっき、君が投げて捨てちゃったじゃないか」

 

 まったく疑問だという様子のキュゥべぇの声が、煩わしい。

 手にマスケット銃を出そうとするマミは、やめる。

 ここでどうこう言う“権利”が、自分には無い。

 

「ただの人間と同じ、壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。君たち魔法少女にとって、元の身体なんていうのは、外付けのハードウェアでしかないんだ……君たちの本体としての魂には、魔力をより効率よく運用できる、コンパクトで、安全な姿が与えられているんだ」

 

 杏子も、手の力が抜けたのだろうか?

 彼女の手からキュゥべぇが抜け落ちると、もう一度キュゥべぇは柵の上に乗った。

 

「魔法少女との契約を取り結ぶ、僕の役目はね。君たちの魂を抜き取って、ソウルジェムに変える事なのさ」

「テメェは……何てことを……ふざけんじゃねぇ!!それじゃアタシたち、ゾンビにされたようなもんじゃないか!!」

 

 まどかが、ビクッと跳ねてマミを見る。

 彼女の眼に映るのは一番身近な“ゾンビ”だ。

 前髪で表情が隠れているマミ。

 キュゥべぇは話を続ける。

 

「むしろ便利だろう? 心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その身体は魔力で修理すれば、すぐまた動くようになる。ソウルジェムさえ砕かれない限り、君たちは無敵だよ。弱点だらけの人体よりも、余程戦いでは有利じゃないか」

 

 効率的……なのだろう。

 これが彼のやり方。魔法少女と呼ばれるものとは程遠くある。

 マミは、吐き気すら催す。

 

「ひどいよ……そんなのあんまりだよ……」

 

「君たちはいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする―――訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?」

 

 不思議で仕方がないというように言うキュゥべぇ。

 まったくこの生き物には会話が通じないのかもしれないと思わされるような言葉。

 マミ自身はとてもどうでも良い会話だ。

 別に今更、体が死んでいると言われてもなにも問題ない。

 

 それよりも、さやかと杏子のことだ。

 おそらくほむらは知っている。根拠は無いがそんな気がした。

 しかし杏子はなんだかんだ言って平気かもしれない。

 それでも、さやかが心配だった。押しつぶされてしまうかもしれない。

 

 ふと、さやかの手にソウルジェムが置かれた。

 マミが見上げると、そこにはほむらが居る。

 肩を上下させている所を見ると、急いで走ったというのがわかった。

 

「……あっ!?」

 

 起き上がるさやか。

 泣いているまどかと、複雑な表情をしているマミ。

 息を切らしているほむらと、明らかに怒っている杏子。

 

「なに? なんなの?」

 

 まったくわからないと言うように言うさやか。

 キュゥべぇが再び話を始める。

 それを止めようというものは誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 黙ってさやかが話を聞いていたのは意外だった。

 全てを話し終えたキュゥべぇを見ながら、さやかは震える声でつぶやく。

 

「えっ、つまり……なに、私も……」

 

「君たちで言うところのゾンビだね」

 

 キュゥべぇにハンドガンサイズのマスケット銃を構えるマミ。

 溜息をつくキュゥべぇが口を紡ぐ。

 言いたいことを理解できたようで、マミは銃を下ろした。

 

「さやか。マミに君が言っていた言葉の数々、ボクに性格があったら“滑稽だと笑っていた”だろうね」

 

 じわじわと、さやかの手に握られたままのソウルジェムが穢れていく。

 マミが急いで身を乗り出すとさやかのソウルジェムを奪い取る。

 反応するさやかだが、それより早くマミは自身の持っていたグリーフシードでさやかのソウルジェムを浄化した。

 

「あっ……」

 

「ソウルジェム、濁っても危険な気がしたから」

 

 マミは感で動いて、さやかの危機を回避。

 ソウルジェムをさやかの手に戻すと、息を吐く。

 立ち上がったマミが背中を伸ばす。

 

「おいキュゥべぇ、なんであたしたちをゾンビ“なんか”にした!」

 

 ゾンビ“なんか”の“なんか”がやけに強調して聞こえたのは、マミやほむらやまどかの気にし過ぎだ。

 あまりにゾンビに対してのそう言う言葉は無神経だが、杏子は、マミのことを考慮する余裕も無かった。

 仕方ないこととと言えばそうなのかもしれないが、マミが苦笑いをする。

 

「マミよりはマシじゃないかな?」

 

 そんな言葉に、杏子の表情が無くなった。

 ただ一言『どういうことだ?』とつぶやく。

 

「そう言えば杏子はマミがどういうゾンビなのか知らなかったね……彼女のことを説明してあげようじゃないか」

 

 そして、今度は杏子の知らないことをキュゥべぇが説明する。

 その間さやかは俯いたまま聞いていた。

 一時よりはソウルジェムの濁りも進んでいないので今は安心できる。

 

 杏子に全てを語り終えるキュゥべぇ。

 ネクロマンサーのこと、巴マミという“ゾンビ”のこと……。

 

「んなもんを信じろってのかよ!」

 

 叫ぶ杏子。しかし事実だと、本当のことだと全員の眼が言っている。

 知らなかったのは自分だけだと、柵を殴った。

 歪む柵だが、キュゥべぇは音も無く歩道橋の上に降りる。

 

「あたしたちはゾンビで、マミは二回ゾンビになったっていうのかよ!?」

 

 杏子が地面に膝をつく。それほどショッキングなことだ。

 一度はマミが死んだと言うことが……。

 

「で、アタシたちの方がましってのはどういうことだ?」

 

「マミには魔法少女としての優位性が多少損なわれている。一つが痛覚さ……マミにはわかるだろう?」

 

 そんなキュゥべぇの言葉に、マミは頷いた。

 困ったように笑うと柵に背中を預けたマミ。

 

「ゾンビになってから痛覚が跳ね上がった……いえ、元に戻ったと言うべきね」

 

 全員が驚愕する。戦いでの痛みはセーブされた痛み。

 それでもあんなにも痛いのにと、下手に反応できない。

 マミは両肩を上げて『まぁ慣れてるけどね』と言う。

 

「そして君たちの命には終わりはもちろある。ソウルジェムが破壊された時とかね」

 

 そんな言葉に、背筋がぞっとするさやかと杏子。

 

「だけどそれと違ってマミには無いんだよ。彼女のソウルジェムはすでにただの変身アイテム程度でしかない……本物のゾンビは魂なんてものどこにあるかボクにもわからないからね」

 

 驚愕。自分たちは死体でありながらも魂、命というものがある。

 しかし彼女には本当に無いのだ。

 

「君たちに比べればマミは“動く死体”程度なんじゃないかな?」

 

 拳を握りしめて、俯くマミ。

 キュゥべぇが何かを喋ろうとするが、それより先に音が響く。

 槍が、キュゥべぇの体を貫いていた。

 

「っ……はぁっ……はぁっ、はぁっ……」

 

 息を荒くして、眼を見開き殺気に満ちた姿。

 そんな杏子が敵を貫いていて、相当苛立っているのがわかった。

 だが、それも無駄な行為にすぎない。

 

「まったく、体なんてただの器にすぎない。君たちにできないことがボクにはできるんだよ」

 

 そう言って、現れたのは忌々しき生き物。キュゥべぇ。

 

「わかったかい? マミに比べれば君たちなんて遥かに人間に近い生きっ―――」

 

 今度はほむらが―――撃った。

 

 冷たい瞳だ。いつもよりずっと冷たい。

 いつも無表情の鉄仮面を付けているほむらよりもずっと無表情。

 それはきっと“マミを傷つける”キュゥべぇが許せなかったからだ。

 

「しつこいなぁ」

 

 現れた新しいキュゥべぇ。

 呆れたように言うが、それがまた周囲の苛立ちを募らせる。

 こうして、何人の少女たちを陥れてきたのだろうか?

 

「魔法少女は便利さ……慣れてくれば、完全に痛みを遮断することもできるよ。もっとも、それはそれで動きが鈍るから、あまりオススメはしないけど」

 

 ただ純粋に、戦闘を指南するように言う。

 さやかがつぶやく。

 

「何でよ。どうして私達をこんな目に……っ!」

 

「戦いの運命を受け入れてまで、君には叶えたい望みがあったんだろう? それは間違いなく実現したじゃないか」

 

 当然と言うキュゥべぇ。

 だれも反論する気にすらならない。

 殺してもダメとなれば、もう黙る以外の方法も見つからない。

 そもそも、会話が成立しないのだから、これ以上話しを続ける必要性も見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 結局、なんとなくで五人揃って公園へとやってきてしまう。

 全員その場の勢いで一緒だった。

 今日離れれば、それぞれ潰れる気がしただろう。

 一種の防衛本能だ。

 

 しばらくして、マミが居ないその場に、ビニール袋を両手に持ったマミが帰ってきた。

 

 公園のベンチに座るさやかとまどか、少し間をあけてベンチに座る杏子。

 そして木に寄りかかるほむら。

 傍にはユウとセラまでいる。

 全員集合と言ったところだろうか?

 

「ただいま。自己紹介は済ました?」

 

 セラとユウの方を見ると、二人が頷いた。

 事情なども話したのだろう。

 

「さて、どのへんから始めましょうか……そうね。大体の話はしてしまったのよね」

 

 明るくそう言うマミ。

 さやかは俯いていて、まどかはさやかをフォローすることで一杯一杯。

 杏子はそんな気分でも無いようで、ほむらも無表情。

 ユウも無表情であるし、セラは目を閉じて黙っていた。

 

「(こ、これは強敵ぞろいね)」

 

 ビニール袋からパンやらおにぎりやらを出してそれぞれの膝の上に置いていく。

 立っている面々には手渡しだ。 

 そして配り終えたマミ。

 最初に口を開いたのは―――。

 

「ねぇ……」

 

 ―――さやかだった。

 

 ぽつ、としたつぶやきだが、全員がそちらに目をやる。

 その視線の先はユウだ。

 

「根暗マンサーだかネクロマンサーだか知らないけど、なんでマミさんをゾンビにしたの? そのせいでマミさんはこんな体なんだよ?」

 

 少しもたじろぐところを見せないユウ。

 きっと夕方までだったらたじろいでいただろうけれど、今は決してそんなことは無い。

 マミが側にいるのに、何の恐怖も無いと言うことだろう。

 メモ帳を出すユウ。

 

『なんでゾンビにしたかは、ただ死んでほしくなかったからというだけ。後悔は無い』

 

 そんな字を見て笑うさやか。

 

「結局マミさんも私たちも人間じゃないんだよね……」

 

 つぶやいたさやか。

 

「違うでしょう」

 

 否定したのは、セラだった。

 初対面のセラにその言葉を否定されたさやか。

 魔法少女のなんたるかを知らなかったセラにそんなことを言われる筋合いはないと、さやかは鋭い瞳でセラを睨んだ。

 

「私たち吸血忍者は自分たちを人だと思っています。純粋な人間ではないものの、別に人間だとか人間じゃないだとか思っている者は誰もいません」

 

「なにが言いたいの?」

 

 その言葉に、セラは目をつむる。

 これ以上自分で言う気は無いと言うことだろう。

 困ったような表情をするマミが引き継ぐ。

 

「貴女は人間ってなんだと思う?」

 

 そんな言葉に、さやかは少し考える。

 

「そんなもの……そんなもの……」

 

 定義を考えているのだろう。

 人間の定義とは『感情がある。話ができる。知恵が使える。見かけが人間らしい』など様々だ。

 しかし、この場にいる魔法少女たちは一度でも人間の定義に“魂”を持ち出したことがあっただろうか?

 答えは否。断じて否だ。

 

「ようは魔法少女程度の違いなら、思い込みなんじゃないかしら?」

 

 笑うマミ。

 そんなマミを見て、微笑した杏子とほむら。

 彼女の言いたいことがわかったのだろう。

 

「貴女が魔法少女は人間だと思えば人間だと思うわ。私のように何度体をばらばらにしても蘇ると言うわけでは無いからね」

 

 そんな言葉だったが、決して自分がゾンビだということに後悔を感じない。

 むしろ自分がゾンビだということが普通だと言うように語る。

 

「少し脱線しわね。ようは何が言いたいかと言うと―――人間なのよ。魔法少女なんて……少し人のためになれる力があるだけ」

 

 スッと、さやかは自分自身にとりついていた重荷が消えるような感覚に陥った。

 少しずつ、さやかに近づいていくマミ。

 さやか自身、すでに抵抗なんてなくなっている。

 

「ごめんね美樹さん。貴女たちを信用してなかったから“ゾンビ”だということが言えなかったわけじゃないのよ? ただ私も臆病だったのよ。一度は近くにやってきてくれた人が遠ざかるのは……」

 

 そっとさやかの手を取るマミは、その表情に笑みを浮かべた。

 人間となんらかわりないその少女の頭をそっと撫でる。

 マミがさやかの眼に映る。

 すでにその眼に敵意も殺意も無かった。

 

「恐かったのよ」

 

 その言葉に、そっと頷くさやか。

 まどかは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「貴女も恐い?」

 

 マミの質問に、頷くさやか。

 

「当然よね、今まで平和に暮らしてた貴女が、突然魔法少女になったのだもの……」

 

 俯いて、ただスカートの裾を握りしめるさやか。

 肩が震えているのがわかった。

 マミがさやかの隣、まどかとは反対の方に座る。

 

「マミさんっ……ごめんなさいっ……」

 

 うつむくさやか。スカートを握る手の上に滴が落ちていく。

 笑みを浮かべるマミが彼女の頭の頭を撫でる。

 

「謝ることなんてなにもないのよ」

 

「だってっ、マミさんのことを……わらひっ、うっ……」

 

 ポケットからハンカチを出し、さやかの顔を片手で上げさせた。

 涙で濡れたその顔を困ったように笑うマミ。

 さやかが袖で涙を拭う。

 だがマミはハンカチでさやかの涙をぬぐった。

 されるがままのさやかは、すでにマミに対しての抵抗は無い。

 

「今一番つらいのは、美樹さんだものね」

 

 そう言ってさやかの涙をぬぐうマミ。

 先輩として、なにより年上の“友達”として……。

 

「さて……」

 

 立ち上がるマミ。その体に黄色い光を纏い、マミは魔法少女へと変わる。

 見上げる空には巨大な影。それはどこからどうみてもクジラであった。

 違うのは学ランを着ているということだろう。

 

「あれがメガロってやつか」

 

 杏子がつぶやくと、マミが頷いた。

 

「グリーフシードも何も出さないから興味ないでしょ?」

 

 そう聞くマミ。何も答えず、顔を逸らす。

 肯定ということだろうと頷くと、マミは辺りに銃を配置する。

 その姿を見て動こうとするさやかとほむら。

 

「二人共休んでいて……あのメガロは私たちが倒す」

 

 セラがマミの隣に立った。

 メガロは魔力に吸い寄せられて現れる。

 魔法少女に吸い寄せられるメガロ、そのメガロが反応するのは魔力。

 強すぎる魔力。ユウに吸い寄せられてきたメガロとは、マミとセラの敵だ。

 

「攻撃来るわ!」

 

「わかっています」

 

 セラとマミが、地を蹴った。

 背中に翼を展開させて、空を飛ぶセラ。

 同じく跳んだマミだったが、足場が無い。

 自由飛行などマミにできるはずもなかった。

 

「けどね!」

 

 マミが落ちて行きそうな瞬間、マミの足元に黄色の魔法陣が浮かんだ。

 それは空に固定されているかのように固まっていて、マミが乗っても決して揺れ動かない。

 

「足場ぐらいは作れるのよ?」

 

 つぶやくと、その場でマスケット銃を二挺もち、撃つ。

 銃弾はメガロに直撃するも大したダメージにはなっていない。

 舌打ちをするマミだったが、その瞬間、メガロが背中から潮を吹く。

 完全なクジラだ。だが、その潮は水の弾丸となってマミとセラを襲う。

 

「セラっ!」

 

「言われるまでもありません!」

 

 セラは空を飛びながら避けていくが、水の弾丸は何度でも向きを変えて襲い掛かる。

 マミも足場を次々と作ってよけていくが、その足場を作るのにも魔力は使う。

 

「ちぃっ!」

 

 どういう原理かわからないが、避けていると水の弾丸同士がぶつかって爆発。

 街に被害が無いようにと戦っているが、見つかってもまずい。さっさとつぶさなければと焦る。

 

「ちょっと無茶だけどやるしかないわね! セラ!」

 

 そんなマミの大声に返事をするセラ。

 何か案があるのかと、少し期待しているようでもある。

 あんなに大見栄を切っておいて今さらあの魔法少女たちに助けを求めるわけにはいかないマミ。

 

「その刀、大きくできたりする!?」

 

「可能です。しかし、どうするつもりですか?」

 

「アレの首に軽く切れ込みを入れてちょうだい……そうしたら後は私がなんとかするわ」

 

 そんな言葉に疑いすら持たず頷くセラ。

 

「わかりました。貴女の力は信用に値します」

 

 魔法陣に乗ったマミがマスケット銃をあたりに配置。

 銃口は全てメガロに向いていた。

 セラのマントがはためく。刀を両手で持つ。

 彼女の翡翠色の眼が、赤く煌めく。

 

 沢山の葉が集まり、セラの刀は長く大きく変わった。

 

「あっ」

 

 飛び立とうとするセラが止まり、マミの方を見る。

 マミはそんなセラを不思議そうに見た。

 

「無駄に見栄を張るコスプレ趣味のあるキイロ虫ですが、貴女の力は信用に値します」

 

 そう言い放つと、素早く飛んで行くセラ。

 微笑したマミがそっと立ち上がる。

 彼女の周囲に黄色―――いや、その輝きは黄金。

 

 金色の魔力が彼女の周囲に集まる。

 

「200……300……400……」

 

 力を上げているマミ。

 一方でセラはメガロに近づいていた。

 潮を吹くメガロの水の弾丸、いやミサイルがセラへと向かう。

 目を閉じ体を強化しているマミが腕を振ると、配置されていたマスケット銃が火を噴く。

 そのマスケット銃の弾丸が水のミサイルを撃ち落とす。

 セラはよそ見もせず、真っ直ぐとメガロへと飛ぶ。

 

「秘剣燕返し! 行きます!!」

 

 巨大な刀を振りかざし、メガロの頭頂部を一閃。

 クジラに頭頂部があるのかどうかはさだかではないが、上部が引き裂かれた。

 

 マミの周囲には金色の魔力が集まっていく。

 

「750……800っ……」

 

 魔法少女姿のマミの衣装。その腰裏に大きなリボンが装飾される。

 服の肩を隠す部分は消えて、コルセットも外れた。

 

 

 地上の面々は、その姿を驚いた様子で見ている。

 今にも跳びだしそうだったほむらは魔法少女姿のまま止まった。

 勝てると悟ったのだろう。

 

 

「850……900っ……もうちょっと!」

 

 衣装はまだ変化する。

 マミの胸元のリボンがほどけると、谷間が見える。

 頭のソウルジェムが外れるとマミの胸の上に浮いた。

 マミの胸の上に装着されたソウルジェム。

 

 

 地上のまどかが、巨大なメガロを忘れてか口を開けたままだ。

 いや、忘れていないのかもしれないがマミが負けるビジョンが見えないのだろう。

 

「マミさんの衣装、どんどん綺麗になってく……」

 

 まどかがつぶやく間にも、マミは『950……980』と上げていく。

 全員がその姿に見惚れていた。

 

 

 マミの眼が、開かれる。

 それと共に金色の魔力が散った。

 

「1000パーセントォッ!!」

 

 だいぶ変わっているマミの衣装。

 手の甲や足にもリボンの装飾がされている。

 自分の姿を見て目を見開き驚くマミ。

 

「急いでください! このクソ虫!」

 

「わかってる!」

 

 マミが足を曲げると、飛びあがる。

 上空に飛びあがったマミは雲の上にまで跳んだ。

 どういうわけか帽子は決して外れない。

 手の甲についたリボンがほどけると、螺旋状に回転する。

 

「トッカ・スピラーレ!」

 

 手を囲むように螺旋を描くリボンが、マスケット銃を作るように形を作った。

 マミの腕についたそのリボンは、ドリルのような形に変わる。

 まるで、マミの二つのロールのような螺旋を描いてドリルへと変わったリボンが高速回転をはじめた。

 

「ギガ・トリヴェラ・スグラナーレ!!」

 

 叫びと共に、マミは重力に従い落ちていく。

 腕をまっすぐ下に伸ばして、ブレることなく真っ直ぐと落ちる。

 雲を引き裂き、風を引き裂き―――マミは真っ直ぐとメガロの傷口を、貫いた。

 地上、公園へと着地するマミは膝と両手をついて勢いが付きすぎた体を止めた。

 ドリルはすでにリボンへと変わっていて、ゆっくりと空を舞っている。

 

 立ち上がると、振り向くマミ。

 

 頭に穴が空いたメガロは光の粒となって、空に消えた。

 

 地上へと降りてきたセラ。

 戦いが終わったと悟ってか、傍へとやってきたユウがわずかにほほ笑んで頷いた。

 マミはそっとユウの頭を撫でる。

 だが、全部が終わったわけじゃない。

 問題はまだ一人居た。

 

「みんな、帰っていてもらえる?」

 

 変身を解くマミがそうつぶやいた。

 わかっているのか、ユウとセラが先に帰路へとつく。

 まどかとさやかが立ち上がった。

 明るい表情とは言えない二人。

 

「美樹さん、あまり思いつめないでね?」

 

 そんな言葉を聞くと、さやかはぎこちない笑みで頷く。

 まだ完全に整理はできないということだろう。

 ほむらに眼をやると、頷いて二人の後を追っていった。

 

 そして残ったのは―――マミと杏子の二人だ。

 

「マジで人間じゃないんだな」

 

「そうね。私も“私だけは”人間じゃないと思ってるわ」

 

 そう言うと笑うマミ。杏子はあまり良い顔をしていなかった。

 大体の理由は察しがつく。彼女はあまりにも優しい。

 

「さっきの姿どうだったかしら?」

 

「お前にはお似合いだったよ」

 

 そう言うと、ベンチに座る杏子。

 膝の上に置いてある棒付きアイスをくわえる。

 

「今のアタシじゃマミになんど挑んでも勝てるわけないね」

 

 負けず嫌いの杏子だが、そこは認めるようだ。

 というより非情な現実とでも言った方が正しい。

 決して死なない相手に挑むのは負け決定だ。

 

「勝ち負けなんてどうでも良いわ」

 

「良くないね」

 

 そんな言葉に、マミは困ったように笑みを浮かべた。

 ベンチに座っている杏子が立ち上がる。

 アイスは既に半分ほど食べ終わっていた。

 

「正義の味方だとか言って、全部を守れる気でいるなら大間違いだよ。守っていきたいものから……無くなってくのが魔法少女さ」

 

 経験談なのは、マミも知っている。

 希望を求めた分だけ、絶望が降りかかると彼女は言った。

 希望と絶望の差し引きはゼロ。

 だから、彼女は他人に奇跡を分け与えることなどしない。

 

 曰く“徹頭徹尾自分のために使う”ということだ。

 

 だが、マミは全てを見透かしたように言う。

 

「恐いんでしょ?」

 

「……あ?」

 

 マミの言葉に杏子は怒りを露わにした。

 鋭い視線がマミを射抜く。

 だがその程度はどうということはない。

 見滝原をテリトリーにする魔法少女であるマミにとって魔法少女とのぶつかり合いは少なくない。

 だからこそ、くぐっている修羅場の数が違う。

 

 今更、その程度の殺気ではピクリともしない。

 

「なにかを失うのが恐いから、なにも求めない」

 

「言ってることがわからないよ?」

 

 鋭い瞳は、マミだけを捉えている。

 

「だからこそあの時、私を拒絶した」

 

 実年齢以上の落ち着いた素振り。

 中には戸惑う者もいるかもしれないが、杏子にとって彼女は変わっていない。

 当然のように“正義の味方”をして当然のように皆を“助けよう”とする。

 

「自惚れるつもりもないけれど、私が貴女を拒絶するのが貴女は恐かった」

 

 そんな言葉に、杏子が変身した。

 マミは変身することはない。

 

「それは自惚れって言うんじゃないのかい?」

 

「違うわね。自分を過大評価しているつもりは無いわ……」

 

 それは絶対の自信。

 マミ自身もどこからそんな自信が出てきたのかわらかないけれど、彼女が自分を拒絶するとは思えなかった。

 他人の感情には、多少敏感なつもりだ。

 あの時、杏子と別れるあの時にこう言えていたらだいぶ状況は違ったはず。

 

「でも私もあれ以来、恐かった。また佐倉さんのように誰かが私を拒絶するんじゃないかって」

 

 そんな言葉に、杏子が目を見開いて驚く。

 苦虫を噛んだかのように顔をする杏子。

 

「正義の味方のアンタと自分のことだけを考えて戦うアタシ、共闘できないのは当然じゃない?」

 

「そうかもしれないわね。確かにあの頃は……私も本気で正義の味方になれると思ってた」

 

 そんな言葉に、眉にしわを寄せる杏子。

 疑問に思った。正義の味方であるマミしか杏子は知らない。

 

「結局、私が守れるのは私の周囲だけだった。この手が届く範囲だけだった……それを痛感したわ」

 

 どこか遠い目をするマミに、杏子はやきもきとした気分になる。

 なにか落ち着かない。どこか落ち着かない。

 焦りを感じているのも事実だ。

 

「私が守れるのは所詮見滝原という小さな箱庭一つ。隣町なんかには手が回るはずもなかったわ」

 

 何が言いたいのか杏子には理解できなかった。

 

「だから……私は貴女の家族を救えなかった」

 

 杏子は槍を召喚するとマミの首筋に槍を添える。

 腕を少し動かせば、頭と体は別たれることになるだろう。

 しかし眉ひとつ動かさないマミは、杏子の言葉を待つ。

 

「父さんたちは関係ないだろ」

 

「いいえ、あるわ」

 

 断言するマミ。

 

「私がもう少し強ければ良かった」

 

 それは心の意味も含めている。

 一人で戦うのが心細くて、マミは杏子と共に見滝原の魔女を優先して狩っていた。

 かつて弟子だった杏子は、いや、今の杏子もそのことを疑問に持っていない。

 

「そうすればきっと、佐倉さんのお父さんもお母さんもモモちゃんも……それに佐倉さんだって助けられたわよ」

 

「あれは父さんが勝手に一家心中しただけだ! マミには関係ないだろ!」

 

「あるって言ってるでしょう!」

 

 大声を上げるマミ。杏子がわずかにたじろいだ。

 そんなマミは見たことが無かったからだろう。

 過去でも現在でもマミはおとなしい優等生タイプという印象しかない。

 

「貴女の家族と一緒にご飯を食べた日のこと、今でも覚えてるわ。モモちゃんが私のエビフライを食べて、お姉ちゃんの貴女が私に謝って、お母さんがコーヒーを出してくれて、お父さんに貴女のことをよろしくされて!」

 

 事細かに話すマミ。その瞳にはわずかに涙すら見える。

 

「嬉しかったのよ。家族がいるみたいで……」

 

「やっぱりアタシが家族を殺したせいだろ?」

 

「違うわよ……」

 

 つぶやくマミが、眼をこすった。

 こぼれそうになる涙をこらえるためだ。

 

「かつて“貴女の気持ちはわかる。自暴自棄になってはだめよ”って言ったのを覚えてる?」

 

「あぁ、一部始終全部覚えてるよ」

 

 そう言う杏子は、やはりマミのことを気にしていた証拠だろう。

 やはり優しい子なのだろうと思うマミ。

 

「貴女の気持ち、やっぱりわかるわけないわ」

 

 そんな言葉に、杏子の眼が見開かれた。

 ショックという言葉が一番あっているだろう。

 やはり自分で思っていても相手に言われるのとでは違った。

 自分の魔法で家族が死んだ。マミの家族は事故死。

 

「私、本当はあの場で家族を助けることができたのよ?」

 

 そのつぶやきに、杏子の考えていることが全て消える。

 

「それにもかかわらず私はただ“自分だけが助かる”ために自分のためだけに願いを使った」

 

 遠くどこかを見ているマミ。

 

「貴女は言ったわ―――」

 

『事故で家族失うのと、自分のせいで家族が死んだんじゃぜんぜん違うだろ!』

 

「でもね、私は“家族を見捨てた”のよ」

 

 こんな深い話。当時では考えられなかった。

 両親のために戦い続けるマミ。

 事故の時、両親が死んだと言っていたが、そういうことだったのかと納得できた。

 なぜか杏子の心は穏やかだ。

 

「佐倉さんも美樹さんも、きっと暁美さんすらも元を正せば自分のため。屁理屈をならべれば全ての願いは自分のためになるのだけれど、結局貴女たちは他人のための願いでもある」

 

 心がなぜか落ち着いているのは、きっと目の前の少女のせいだ。

 わらいながら、マミは杏子の槍を掴んで自分の腹にずぶずぶと刺していく。

 

「でも私だけは違う。ただ自分のために願った……私が生きてて本当の意味で喜んだ人なんて誰も居なかったわ。身内も、学校の人も、誰もね」

 

 槍の刃が、マミの背中から突き出た。

 杏子は槍を離そうともしない。

 マミはゆっくり自分の方へと歩いてくる。

 

「だから私は“罪滅ぼし”のために戦ってるの、この手の届く範囲で良い。自分の助けられる人を助けるために……私は正義の味方でも博愛主義者でもない」

 

 槍に貫かれたまま、ゆっくりと歩を進めるマミ。

 決してひるむことが無い杏子の眼が揺らぐ。

 それはきっと、マミが泣いているからだ。

 見たことのないマミの表情。

 

「結局アンタは何が言いたいんだよ!」

 

 大声を上げる杏子。このままでは崩れてしまう。

 ずっと彼女に傍に居て欲しかった。傍に居たかった自分が出てきてしまう。

 目の前のか弱い先輩から、離れられなくなる。

 

「ごめんね。貴女のことを否定して……貴女は魔女しか倒さない。それでも良い……」

 

 少しずつ歩くマミだが、腹に刺さっている槍を動かすのだ。

 並大抵の痛さではないだろう。

 ただ純粋に刺さるのとでは格が違う。

 

「だからお父さんの言ったことを、守らせて……貴女を私に守らせてよっ」

 

 マミにとって、敵対する信念を持つ魔法少女である杏子。

 だが過去に一度でも友達として過ごせた日々。

 それがある。過去のことを思いながらその相手を許すマミ。

 だからこそさやかとも再び仲直りできた。

 

 彼女にとってはユウもセラもほむらもまどかもさやかも……もちろん杏子も……彼女にとっては手の届く範囲。

 自分が守るべき、手を差し伸べるべき友人たちだ。

 

「私と一緒にいてよ!」

 

 槍が―――消えた。

 倒れかけるマミだが、その体を正面から支えて、抱きしめる。

 柔らかい体をギュっと両手で抱きしめる杏子。

 

「マミっ……」

 

 一瞬、驚いた顔をするも、すぐに笑みを浮かべるマミ。

 安心したような嬉しいような、そんな笑みだ。

 ただ純粋な笑み。

 

「ごめん、あたしっ……マミのこと……本当にごめんっ」

 

「ふふっ……」

 

 二人がそっと顔を離す。

 お互いの顔がお互いの視界に映された。

 昔の記憶が杏子とマミの中に鮮明に蘇って、再生されていく。

 

『ゆるしません』

 

 これは必殺技を馬鹿にした時だ。

 

「ゆるします」

 

 笑顔のマミ。

 瞳一杯に涙を溜める杏子は、マミの体に回した手にさらに力を込める。

 少し強すぎる気もしたがマミは全く苦になっていないようだ。

 

「勝手に出て行って、また帰ってきて……あたしって図々しいかな?」

 

 笑顔を浮かべるマミは昔のことを思い出したのだろう。

 それは杏子も同じことだった。

 

『図々しいついでと言ったらなんだけど、あたしをマミさんの弟子にしてもらえないかな?』

 

「図々しいついでだよね……あたしを、マミの友達にしてくれよ」

 

 そんな言葉にマミは杏子の首に腕をまわした。

 支えられるようになっているマミが笑顔を浮かべ頷く。

 

『離せ!』

 

 かつて杏子が言った。

 

「離さない」

 

 そして今、杏子が言う。

 

「うん」

 

 マミは素直に頷く。

 他人に甘えるマミなんていうのは、早々見れるものでもないのだろう。

 こんな彼女を一面を知っているのは杏子だけ。

 

『今の貴女を放っておくことなんて、私には絶対にできない』

 

 かつてマミはそう言って杏子を止めようとした。

 けれどそれは叶わなかったのだ。

 杏子がマミを倒したから、マミが杏子を攻撃できるはずもなかった。

 嗚咽が漏れる。それは杏子からだ。

 

 腹部の痛みがすでに治まっているマミ。

 傷ももう治ったのだろう。

 だから、泣いている杏子を両手で抱きしめる。

 

『まったく、どこまでも手のかかる後輩ね』

 

 かつて、一戦を交えた時の言葉。

 笑みを浮かべたマミが杏子を抱きしめた。

 自分の胸の中で泣く杏子の頭をそっと撫でる。

 甘えていたのがすっかり“逆”になってしまっていた。

 

「まったく、どこまでも手のかかる後輩ね」

 

 そう言って笑うと、マミは幸せそうにほほ笑んだ。

 自分の大好きな少女たちが一緒に、同じ場所に立てるようになるだろうか?

 それは、マミにもわからないけれど、一緒になれればと願望は抱く。

 

 みんなが仲良しなら、それはとっても嬉しいなって―――。

 

 




あとがき

最近は感想をもらえるのが嬉しくて執筆速度が天元突破!!

さて!これで一通り和解。と見せかけてまださやかのことが全部すんだわけじゃありませんね。
まだ面倒ごとはたくさん残ってます。
ちなみに、杏子がメインヒロインみたいになってますけど、そのつもりはありませんよ?w

では、次回をお楽しみに!
感想お待ちしております♪


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13「そう、大人の階段」

 家へと帰ってきたマミ。

 後ろには杏子もいた。

 二人は家に上がるとリビングへと向かう。

 中央にあるちゃぶ台の違和感。

 

「ただいま~」

 

 先に家にいた“二人”が杏子を一目見るが、特に気にする様子も無い。

 雰囲気で“仲直り”できたと悟ったのだろう。

 それほど長くいる二人でもないが、それぐらいは察せるぐらいマミと仲が良いのも確かだ。

 

「好きに座ってて、晩御飯の残りがあるから」

 

 杏子を座らせると、マミはキッチンへと消えた。

 

「(まさか再び巴マミの家で食事がとれるなんて、夢にも思わなかった……)」

 

 そう思う杏子だったが―――嘘だ。

 夢に思っていた。もう一度マミの家で食事をしたりするのが、彼女の夢であった。

 自分から腕を振り払っておいて卑怯なのも重々承知だが、彼女にとってマミは家族の次か同じくらい大事だ。それぐらい大きな存在だ。だからこそ再び拒絶されるのが恐かった。

 再び“自分のせいで大事な人が死ぬ”のが恐かった。

 守りたかった人間が死ぬなんていうのは御免だ。

 

「あっ……」

 

 ふと気づいた。机を囲む二人。

 黒髪と、その逆の白銀の髪をした少女の二人。

 

「(たしか根暗マンサーと忍者の人だったよな)」

 

 その片方である忍者の人と目があった杏子は、咳払いをするとしっかりと頷く。

 

「改めて、佐倉杏子だ。よろしくね」

 

 二人にそう言う。

 根暗マンサーと忍者の人はほぼ同じタイミングで湯飲みを置いた。

 ビクッとする杏子。無言の雰囲気は異常なプレッシャーを感じる。

 

「セラフィムです、セラとお呼びください。私もつい最近ここに住み始めたばかりですので……よろしくお願いします」

 

 そう言って軽く会釈するセラフィムから敵意のようなものは感じなかった。

 公園での自己紹介の時は冷たい印象を感じたのだが、そういうわけではなさそうだ。

 とりあえず杏子は決め台詞として決めておきたい。

 

「食うかい?」

 

 そう言ってうまい棒を差し出す杏子。

 忍者の人ことセラフィムは少し笑みを浮かべて、いただきます。と受け取った。

 まずは好印象だと心の中でガッツポーズ。

 次は根暗マンサーである。

 杏子はもう一本ポケットから出すと、白銀の少女に差し出した。

 

「根暗マンサーだろ? よろしく」

 

 セラのように年上な感じがしないので、思いのほか緊張しない。

 杏子自身は気づいていないのだろうが、ドヤ顔になっている。

 美樹さやかがそう言っていたという記憶があるので根暗マンサーと覚えていた。

 

「……」

 

 無言の中、杏子があれ? と首を傾げる。

 根暗マンサーはそっとうまい棒を受け取った。

 

『よろしく』

 

 持ち上げられたメモ帳を見ると、そう書かれていて安心。

 杏子は笑みを浮かべてなんでもない風にした。

 二人がうまい棒を食べる。

 キッチンから皿を持ってきたマミがテーブルに茶碗と皿を置く。

 

「あら、仲良くなったのね」

 

 そう言ってほほ笑むマミが笑顔を浮かべる。

 

「ええ、コミュ障では無いので」

 

 ピタッ、と止まるマミがギギギと音を立てながらセラを見た。

 どういう意味かしら? と問うマミだったが、セラは無言でうまい棒を口に入れてお茶を飲む。

 

「わ、私は少し友達が少ないだけで……で……」

 

 落ち込み始めるマミだが、杏子はなんとなく二人が仲が良いのを察しれた。

 本気で罵倒しているのを感じたら杏子は怒っていただろうけれど、セラはそうでも無いようだと頷く。

 どちらかというと、杏子はセラがマミを慕っている感じがする。

 どういう意味か、とまではわからないけれど本気で嫌っているわけではないだろう。

 

「(好きな子に意地悪する男、みたいな感じか?)」

 

 なんとなくそんな感じを想像してみたが、マミは似合ってるなと思わされた。

 

「さ、どうぞ佐倉さん」

 

 マミが料理を並べると、テーブルの上には野菜炒めとサラダもある。

 相変わらず豪華だなと思うも、懐かしい感覚がした。

 

「あっ……」

 

 箸を持ち上げて気づく。

 あれはマミと一緒になってから二ヶ月ほどしてからだったか、二人で買い物に行ったときに自分のためにと箸や茶碗を買ってくれたのを思い出す。

 学校が無いときには昼ご飯や朝ご飯、学校がある時でも夜ご飯を食べに行ったりしていたのだ。

 世話になっていたなと、思い出す。

 

「箸も茶碗も、捨ててなかったんだな……」

 

「貴方が帰ってくるって……信じてたから」

 

 そう言って笑うマミを見て、同じく笑う杏子。

 なぜかプレッシャーを感じたマミがハッとセラの方向を見た。

 その視線を追って杏子もセラを見る。

 コトン、と音を立てて湯飲みが置かれた。

 

「重すぎ気持ち悪い」

 

 まるでマグナムを撃ちこまれたような気分に陥るマミ。

 そんなセラを見て杏子が優越感を感じる。

 

「(嫉妬か?)」

 

 あやうくしそうになるドヤ顔をおさえる杏子。

 だったが、ふと思う。

 なんで優越感なんて感じたのか、と……。

 

「いただきます!」

 

 すぐに考えるのをやめた。

 食事をはじめた杏子。

 そう言えば根暗マンサーが喋れない理由を聞いていないと思った杏子。

 聞いていいことなのかはわからないけれど、気になっていた。

 

「なぁ、根暗マンサー」

 

「え?」

 

 マミが反応。

 

「どうしたマミ」

 

 なんの疑問も持たぬ杏子に、マミがどうするかと考えているようなしぐさを見せる。

 セラと根暗マンサーの方に目をやるマミだったが、静かに頷く。

 

「佐倉さん、あのね……根暗マンサーじゃなくて、ネクロマンサーよ?」

 

 マミの言葉を頭の中で再生する杏子。

 しばらく固まる杏子だったが、突如、ボンと音を立てて顔を真っ赤にした。

 勢い良く食事をかきこむ杏子。

 

「なんで教えてあげなかったの?」

 

『楽しいかと思って』

 

 メモ帳にそう書いた根暗マンサー。

 

「(美樹さやか いず ふーりっしゅ!)」

 

 頭の中でさやかを恨む杏子だったが、突然杏子の袖が引かれた。

 そちらを見ると根暗マンサーがメモ帳を持ち上げている。

 杏子が茶碗と箸を置く。

 

『ネクロマンサーのユークリウッド・ヘルサイズ。ユウで良い』

 

 そう書かれたメモ帳を見ると頷く。

 別に嫌われているわけでは無いので一安心と言ったところだろう。

 もう一度よろしく。と返して笑顔になる杏子。

 そんな姿を見て、マミは静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 その後、杏子は風呂に入り寝ることになった。

 いつかと同じく、マミのベッドで寝ることにした杏子はマミと隣り合って横になっている。

 静かで薄暗い空間の中、マミの方を見る杏子。

 穏やかな笑顔を浮かべているマミ。

 杏子は静かにマミの方へと体を向けた。

 

 静かな寝息。

 穏やかな表情で眠るマミを見ながら、杏子は笑みを浮かべた。

 何度確認しても確認し足りない。

 そのぐらい幸せな状況だった。

 

「そういえば佐倉さん」

 

 突然目を開いて自分の方を見るマミに驚く杏子。

 そんな杏子を見て笑みを浮かべたマミが言う。

 

「明日、たぶん学校に来ない美樹さんのこと慰めてあげてくれない?」

 

「は、はぁ? なんであたしがあいつのこと」

 

 特に仲が良いわけでもない。むしろ悪いと言っても過言ではない美樹さやかを慰める理由がどこにある。

 抗議する杏子がだ、静かにそれを理解しているという様子のマミ。

 いつもなんだか大人っぽくて、全て見透かされているような感じがする。

 すべて杞憂なのだが、そんな気がしてしまうのだ。

 

「美樹さんは“理想の私”になり損ねたのよ。私という存在は彼女の中で“本当の私”以上の正義の味方。私よりもよっぽど正義の味方であろうとしている彼女を支えてあげて欲しいのよ……一人ぼっちは寂しいもの」

 

 つぶやいて笑うマミだったが、なんだか寂しそうでもあった。

 そっと手を伸ばすと、マミの頭をそっと抱き寄せる杏子。

 

「あたしが一緒にいてやるよ」

 

「フフッ、なんだか不思議な感じね。佐倉さんに甘やかされるなんて」

 

「うっせぇ」 

 

 そうしている内に、二人は自然と眠りについた。

 久しぶりに二人で寝たなと思うマミ。

 先に杏子の寝息が聞こえてきて、吹き出しそうになるもすぐに眠りにつくマミだった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日、杏子が起きた時にはすでにマミはいなかった。

 ずいぶん長く寝ていたと思いながら着替えて部屋を出る。

 リビングにはユウとセラの二人。

 

「おはよう」

 

 少し緊張しながらもそう言うと、ユウもセラも返してくれる。

 メモ帳で、とはいえ返してもらえるだけ十分だ。

 ちゃぶ台の前に座る杏子はテレビを見ながらもセラが用意してくれたお茶を礼を言い飲む。

 テレビのニュースでは連日の殺人事件の話ばかりだ。

 隣町で起きてる連続殺人。

 

「魔女もたくさん出てるだろうな……」

 

 グリーフシードもわんさかということだろうか?

 少しばかり羨ましい気もするが、父親だったらこんな事件みたら号泣ものだろうと笑う。

 ふと時刻は11時すぎであることに気づく。

 

「杏子、朝ご飯と昼ご飯がありますが、どちらを食べますか?」

 

 セラの言葉。

 マミは朝御飯も用意していたのかと思うと、少し寝過ぎたと反省する。

 食事が二つと考えて頷く。

 

「食べ物は粗末にしない。ってことで二食共食うよ」

 

 微笑を浮かべるセラ。

 

「太りますよ?」

 

「その分動くさ」

 

 そう言うと、頷くセラ。

 思いのほかフレンドリーなんだなと頷くと、ふと思った。

 

「あれ、今杏子って……」

 

「いけませんか?」

 

 そう聞いてくるセラ。

 昨日知り合ったばかりだけれど、仲良くなれるのは嬉しくて……杏子は知らずの内に笑っていた。

 口元を押さえて、杏子はセラを見る。

 

「全然オーケー」

 

 なんだか平和な空気だな、と思う。

 一人で魔法を悪用してホテルなどに泊まってた杏子にとっては温かすぎて眩しすぎる。

 けれどここに居たいと思った。

 マミが居る場所であり“友達”になれたこの二人もいる場所。

 

 昨晩のマミに言われたことを、ふと思い出す。

 さやかを慰めろと言う言葉。

 ここまで借りを作って何もしないというのも癪だ。

 杏子は時計を見た。

 時刻は12時を回っていない。

 

 ふと杏子の視線が動く。セラはメガネを胸元につけている。

 なにかに必要なのだろうかと疑問に思うも、特に気にしない杏子。

 

 それは、マミが受け取りセラに渡したものだが、なんだか嫌な雰囲気がした。

 

 

 

 

 

 学校にて、昼休みに屋上に集まる面々。

 マミの左右にまどかとほむら。

 

「じゃあ杏子ちゃんとマミさん仲直りできたんですね」

 

「まぁそうなるのかしらね?」

 

 まどかの言葉に、同意するマミ。

 あの様子ならば仲直りと言っても過言ではないだろう。

 雨降って地固まると言ったところだろうか、マミはこの際一緒に住むことも考えている。

 それも悪くない。家族の居ない者同士。

 

「……」

 

 ほむらがわずかに目を細めた。

 なんだかもやもやした気分になるが、なぜそんな気分なのかもわからない。

 自分で自分が不思議になる。

 

「一人ぼっちの子ってほっとけないのよね」

 

 私もぼっちだからなかな? と言って笑うマミ。

 そんなことありませんよ。というまどか。

 確かにマミは一人ぼっちじゃないと思うほむら。

 みんながいる。

 しかし一人ぼっちがほっとけないというのも本心なのだろう。

 

「杏子は貴女の心中相手だものね」

 

「え?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 つぶやいて昼食を続けるほむら。

 今日は仁美も居ないから魔法少女の話もわけなくできる。

 けれど、なんだか腑に落ちないほむらだった。

 

 

 

 

 夕方頃、さびれた教会にて杏子とさやかの二人がいた。

 マミにもらった“おこずかい”で買ったリンゴを食べながら話している杏子。

 さやかも片手にリンゴを持っている。

 結局杏子はマミに言われたことを守った。

 いや、言われなくても同じように行動していただろう。

 

 丁度昔話を終えた杏子は息をつく。

 

「アタシの祈りが、家族を壊しちまったんだ」

 

 そう言って自嘲するかのように笑う杏子。

 黙って話を聞くさやか。

 

「他人の都合を知りもせず、勝手な願いごとをしたせいで、結局誰もが不幸になった。その時心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切るって」

 

 リンゴをかじりながら言う杏子の言葉。

 その言葉には強い重みがあった。

 

「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

 

「何でそんな話を私に……?」

 

「そう思ってたからさ」

 

 思っていた? 過去形だと感じたさやか。

 リンゴをかじると杏子は話しを続ける。

 

「一応ね、あんたがあたしと同じてつを踏んでも不味いと思ったからさ……希望はあるんだよ。マミがそれを教えてくれた」

 

 きっとマミの前じゃ口が裂けても言えないであろうけれど、杏子は言う。

 自分と似たような美樹さやかが相手だから言えるのだろうと思った。

 

「たぶん家族が死んだとき、マミがいなかったらあたしのソウルジェムは真っ黒になってどうにかしてたと思う。死んでたか、またそれ以外か……」

 

 指輪を見て言う。赤く輝く魂は今は穢れていない。

 グリーフシードもそれほど数は無いし、次に強い魔女が出てくればかなり絶望的な状況。

 それでも今は希望しかなかった。

 

「あんたも希望を信じてみなよ。その願いで人を救えたと思うなら、一瞬でも救えたならそれで良いじゃないか……その間は相手も自分も幸せだった。少なからずマミよりは希望のある願いだと思うよ、ホントさ」

 

 マミの『生きたい』という希望。直後の『みんな死んだ』という絶望。

 彼女の願いはそれで差し引きゼロになったはずだと思う杏子。

 本来なら命をもらったも同然の願いなのだから差し引きはゼロではない。

 命をもらったならば返すのが本当の差し引きゼロなのだろうけれど……考えても無駄だと杏子は思った。

 

 自分の希望は『父さんの話をみんなが聞いてくれますように』ならば絶望は『自分の話を父さんが聞いてくれない』ということ。

 暁美ほむらの希望も絶望もわからないけれど、きっと絶望したのだろう。

 それでもなお何かを心の支えに今だ立っている。

 

 さやかの希望は『彼の腕を治すこと』ならば絶望は?

 

「マミさんより、希望がある?」

 

 さやかの言葉で我に返る杏子。

 

「そう、マミは本当に願いを決める猶予なんて無かった。それ以外に考えられる状況じゃなかった……それでも、性分なんだろうね。自分を呪わずにはいられない。両親も他の誰かも救えられる状況で救えなかった自分が許せない」

 

 そんな言葉に、なんとなくだけれど話は理解できた。

 交通事故の時に願いを決めたというのは聞いたことがある。

 奥深くまで話は掘り下げなかったけれど、杏子の言葉で理解した。

 

「でもあたしはそれで良かったって思ったわけだ。マミが他人を助けなくて良かったって」

 

「なんで……?」

 

 疑問に思ったのか、さやかはつぶやく。

 

「自分ひとりの命ならまだしも、他人の絶望までアイツが背負ってたまるかよ」

 

 苦い顔をして笑う杏子。

 

「アタシは人のために祈ったりしたことを、今は後悔しちゃいない。この力で悪いことだってやってきたからね……でもさ、マミは他人の命をいくつも救ってるわけじゃない? 自分の命を犠牲にしてまでそれを続けてきてる。だったらこれ以上絶望するマミなんて見てらんないよ」

 

 彼女の絶望の一つに自分も入っているのかもしれないけれど、と思う杏子。

 一度は一人じゃなくなった彼女を再び一人にしたのは自分だ。

 

「アイツを幸せにしてやりたいんだ。アイツだけじゃない……他にもいる。けどさ、まずはこの風見野も見滝原も守んなきゃいけない。だからあたしの我儘に付き合ってくれないか? 美樹さやか」

 

 真剣な表情で、その名を呼ぶ。

 少しの沈黙の後、さやかがふと笑った。

 

「あんたのこと、いろいろと誤解してた。そのことはごめん、謝るよ」

 

 そっと歩み寄ってくるさやか。

 左手でリンゴを持つと、そっと右手を差し出す。

 杏子も笑うと、紙袋を左手で抱えて右手を差し出した。

 二人が握手という形で共闘を決定づける。

 

「あんたマミさんにべた惚れじゃん」

 

 赤い顔をする杏子。

 

「あたしはただ借りを返したいと思ってるだけだよ」

 

「そう、へ~」

 

 意味ありげに笑うさやか。

 杏子が腕に力をこめると、ギリギリと音が鳴る。

 

「だ~っ! 痛いっつ~の!」

 

 さやかの声が広い教会に響いた。

 

 

 

 

 

 5時ごろになって、公園に集まったのはマミ、まどか、ほむら、杏子、さやかの五人だ。

 魔法少女が全員集合。共闘できるようになったのは空気で察せるだろう。

 笑顔のマミとまどか、いつも通りのほむら、頬をかいている杏子とさやか。

 いつも通りでありながら、マミにはなんとなくほむらが喜んでいるのが理解できた。

 

「さて、魔女退治といきましょうか!」

 

 両手をパンと合わせるマミに、頷く面々。

 

「じゃあ私帰ります!」

 

 そう言うまどかを見て、マミはほむらの方に視線をやる。

 頷くとまどかの傍へと移動したほむら。

 

「送っていくわ」

 

「えっ、でも……」

 

「心配いらないよ。あたしたちだけでも十分やれるし……お前がキュゥべぇと契約なんて自体は避けたいしな」

 

 杏子の言葉に、それでも迷うまどか。

 その背中を押すようにさやかが言った。

 

「安心しなよまどか、マミさんも杏子もいるし、転校生……ほむらに送ってもらいな」

 

 それを聞いて、ようやく頷くまどか。

 ほむらとまどかが一緒に公園から消えると、マミが頷く。

 さやかと杏子を見ると少し悩むような表情をして、すぐに二人の手を持ちつなげる。

 

「二人は一緒にね?」

 

 驚愕する二人。

 

「どういうことだよ!」

 

「そうですよマミさん!」

 

 笑顔を決して崩すことのないマミ。

 ニコニコしながら二人が共闘を決めてくれたのが嬉しくてしかたないと言った雰囲気。

 

「接近戦なら佐倉さんの方が教えるのが上手いと思ったのだけれど?」

 

 それに相性も良さそうだと付け加える。

 

「でもあたしに槍の応用なんかを教えてくれたのはお前だぜ?」

 

「じゃあ剣の応用は教えるわ。今は接近戦がなんたるかを教えてあげてくれない?」

 

 そんな言葉に、杏子は後頭部をかく。

 マミにはやっぱり敵わないと思いながらも頷くと、マミが杏子の頭を撫でる。

 それが恥ずかしくなり手を払うと、さやかに向けて行くぞ、と言って行く。

 頷くマミが、その後ろ姿を見送った。

 

 少しすると、マミが動き出そうとする。

 ふと、立ち止まるマミ。

 

 目の前には、茶髪でツーサイドアップテールにした少女。

 驚いている様子のマミと、ほんわかとした笑顔を浮かべている。

 

「あっ、アサミちゃん!?」

 

 知り合いのようで、マミが驚いていた。

 珍しくマミが名前で呼ぶ少女である。

 

「はい!」

 

 少女が頷く。

 まぶしい笑顔はなんだか心が癒されるようだった。

 

「久しぶりね」

 

 彼女、アサミは隣町の魔法少女である。

 武器は素手で、二年前に見滝原を狙ってマミに襲い掛かってきたことがあった。

 無論、すぐにマミが拘束して終わったが、心を入れ替えるということで隣町に返した。

 それ以来何度か会ったりもしたが、最初の尖っていた雰囲気は息をひそめすっかり良い雰囲気の少女になっていた。

 杏子が一度仲間になって以来一度も会わなかったが、無事なようでなによりだ。

 

「今日はどうしたの?」

 

「なんだか巴さんの顔が見たくなっちゃって、だって私の街最近連続殺人のせいで、魔女も多くなってきたし」

 

 そんな言葉を聞いて、マミは表情を変える。

 自分を“殺した”連続殺人犯。

 なんとかして捕まえたいとも思う。

 けれど最近はその暇をどうにも作れなかった。

 

「隣町の魔女狩りぐらいなら……手伝えると思うわ」

 

 来るべきワルプルギスの夜との戦い。

 そのためにも、マミは動く必要があったのだ。

 だからこそグリーフシードを落とす魔女を狩るためにも手伝うことにする。

 ありがとうございます。と礼を言って頭を下げるアサミ。

 

「フフッ、改心できたご褒美かな? あっ、でもご褒美ってもっと別のが良いわよね。何が良いとかある?」

 

 そう聞くマミ。

 また全員集まったとき彼女を紹介しようと思う。

 一人で隣町を守ってきたのだ。十分な戦力になりえる存在になる。

 

「いえ、大丈夫です!」

 

 遠慮がちになったものだ。そう言えば彼女にも家族が居なかったはずだと思い出す。

 もう一人ぐらいなら住めるかな? と思うマミ。

 

「ケーキとか料理ならできるけれど」

 

 そう言うマミを見て、わずかに頬を赤らめるアサミ。

 いじらしく両手を合わせるアサミ。

 自分より一つ下の歳である彼女だが、マミほどもある胸が強調される。

 

「マミさんって付き合ってる方とかいるんですか?」

 

「い、いないわよ……できないしね」

 

 あまり学校で話す友達も居ない。とは口が裂けても言えない。

 アサミの体に視線が行って、恥ずかしくなり踵を返す。

 なんだかやけに恥ずかしくなってきた。

 

「さっきご褒美は大丈夫って言ったんですけど……おねだりして良いですか?」

 

 そっと近づいていく足音が聞こえる。

 まさか、と思うマミはどこか期待していた。

 

「(私、一線超えちゃう!? 大人の階段登っちゃう!? いけないわ、貴女はまだシンデレラなのよ!? これもガイアの試練!?)」

 

 頭がいろいろなことで一杯一杯のマミ。

 背後から聞こえる足音が、止まる。

 すぐそばにいるであろうアサミ。

 

「一つだけ、欲しいものがあるんです」

 

「欲しい……もの?」

 

 わずかに熱っぽい声。

 それだけで緊張するマミ。

 

「巴さんの―――」

 

 期待しているのかもしれない、けれどこの感じはなんだろう?

 そう、疑問をもったりしている内に―――何かが起こった。

 

 舞い散る“紅”は、マミのものだ。

 自分の胸の間から飛び出ている刃。

 その光景には、見覚えがあった。

 

 ―――命を。

 

 聞こえた声は、アサミの声。

 冷たい声を聴きながら、マミはその刃を見ていた。

 白銀の刃は月光を反射し、輝いている。

 

 




あとがき

はい、こんな感じです。
今回はオリジナル(笑)の敵です。
まぁ完全にどっかで見たことあるようなキャラなんですが(汗

さて物語は新展開。これからいろいろ忙しくなっていきますよ!
ではみなさん、次回をお楽しみに♪

感想お待ちしてます♪


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14「いや、死なない女たち」

 刀で串刺しにされたマミ。

 まるであの日のようだと、心の中で思う。

 後ろで、その刀をもっているのはアサミだった。

 正義の味方として頑張っているという彼女を信じた。自分がバカだったのだろうか?

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 

「アサミ……ちゃん?」

 

 膝をつくマミ。刀を抜かれると地面に倒れた。

 アサミはその手に持った刀を振る。刀に付いた血が地面に痕を残す。

 痛みに呻くマミだったが、アサミは表情一つ変えない。

 

「やっぱり簡単には死んでくれないんですね?」

 

 なんとか、立ち上がるマミ。

 

「あなたは何回殺せば死ぬんですか?」

 

「アサミちゃんっ……貴女はっ」

 

 先ほどとまったく変わらず、マミを刺しても変わりない表情。

 刺された胸の間を押さえながら振り返るマミ。

 

「フフッ、知ってるじゃないですか、貴女の友達で改心した魔法少女ですよ?」

 

 マミの考えることは、連続殺人のこと。

 どこからどう考えても、残る答えは彼女が、犯人ということだけ。

 

「まさかっ、嘘でしょ?」

 

「はい! 嘘で~す! ぜぇんぶ嘘、かつて貴女と友達になったのも改心したというのも……ね?」

 

 刀を撫でながら、少女はソウルジェムを掲げて変身する。

 胸元にソウルジェムが浮かび上がり、彼女の服装は変わった。

 白を基本色としたふりふりとした衣装。

 特徴はぼうしと、ニーソックスを固定するガーターベルトなどだろうか、手には二振りの刀。

 

「魔法少女が四人。でも一番の脅威は貴女だけ、たった一人で数年も一つの街を守って挙句に使い魔まで狩る……魔法少女の中でもとびっきりの化け物。でも貴女を殺せば全部解決!」

 

 走り出すアサミ。マミは変身できない。

 そこそこ仲の良かった少女であるアサミを攻撃することに、やはり躊躇があった。

 攻撃を回避していくも、魔法少女に変身していない彼女の身体能力などたかが知れている。

 

「はぁっ!」

 

 刀が振られると、風圧でマミは吹き飛ぶ。

 吹き飛んだマミが公園のオブジェクトにぶつかる。

 堅い石でできたそれに体をぶつければ、通常の人間であれば即死。

 しかしすぐ立ち上がるマミを見て、アサミは些か不気味そうに見る。

 

「回復力が高いですね。癒しの祈りでもしたんですか?」

 

 彼女にマミは願いを教えていない。

 それほど仲が良かったわけでは無いからかもしれない。

 最初の出会いが戦いということもあったけれど、本能的に彼女の危険性に気づいていたと信じたい。

 あれも演技だったのだから……。

 

「強い!」

 

「せっかく効率良く魂集めをしていたのに、おまけにメガロまで出てきちゃうんだからやになっちゃう」

 

 冥界のことも知っているということだろうか?

 メガロが出てきたのも厄介ということは、何体か倒しているということだろう。

 攻撃を回避しながらマミが反撃に出ようかと言う時、アサミがいくつかの火炎弾を飛ばす。

 足元まで飛んで爆発する火炎弾。

 

「ぐぅっ!」

 

 地面を転がるマミ。

 すると、視線の先に紅い髪が見えた。

 

「なにやってんだマミ?」

 

「ちょっ! 怪我してるじゃん!」

 

 現れたのは杏子とさやか。

 帰ってくるのが早すぎると思うが、体中が痛い。

 突如、あたりに葉が舞い始めた。

 

「いたいけな少女に破廉恥な振る舞いをして返り討ちにあったようですね、この卑しいキイロ虫!」

 

「(今夜ばかりはその罵りが快感ですぅ!)」

 

 いつも通りの罵倒と共に、現れたのはセラ。

 このメンバーが揃ったのだから、負ける気などしない。

 目を鋭く細めるアサミ。

 

「なにやってんだマミ、あ?」

 

 杏子、セラ、さやかが同時にアサミをにらむ。

 魔法少女ということ、マミが怪我をしているということ、それだけで敵だと認識するには十分だ。

 アサミは若干なりともわずらわしそうに顔をしかめた。

 

「誰こいつ」

 

「私を殺した魔法少女」

 

 敵意を込めた視線でアサミを睨みつけるマミ。

 その視線に気づいた杏子が、アサミを見た。

 さやかも同じくアサミを睨む。

 マミを殺した張本人。

 

「マミの敵? ならあたしの敵だな……」

 

 杏子もさやかも、マミの横に立った。

 仲間を守るためだろう。一人ぼっちではないということにも、慣れないと思うマミ。

 少し離れた場所にいるセラも、マミを守ろうと言う気が無いわけではない。

 

「ヘルサイズ殿に言われて来てみれば、敵は人間ですか?」

 

「心配しないで、あれは人の皮をかぶった化け物だもの」

 

 その物言いに普段なら驚くのだろうけれども、杏子もさやかもセラも驚くことはなかった。

 マミを殺したのだから、マミに恨まれるのも、セラたちに恨まれるのも当たり前だ。

 

「そうですか、貴女も大変ですね」

 

 足を踏み出すセラ。

 

「この街周辺は、私が居た里より殺しが多いようです」

 

 セラの瞳が、先ほどマミがぶちまけた色と同じ紅に変わった。

 その眼を見て笑うアサミ。まったく動揺していないところを見ると、勝てない手が無いわけでは無いということだ。

 まったく厄介そうな敵だと、マミは悪態をつきたきなる。

 セラがさやかとマミの間で止まった。

 

「四対一ですかぁ、巴さん卑怯じゃありませんか?」

 

「これでもハンデが足りないくらいよ!」

 

「いきます!」

 

 走り出すセラ。それと同時にマミ、さやか、杏子が変身。

 同時に走り出す四人。

 まずはセラが刀を振るう。

 

「秘剣燕返し!」

 

 紅の斬撃が飛ぶが、その斬撃を軽く弾くアサミ。

 

「こんなのが秘剣ですかぁ?」

 

 つぶやいたアサミ。驚愕するセラ。

 秘剣燕返しはその名に恥じぬ強さをしていたはずだ。

 確かに強い。

 

「私の秘剣を、お見せしましょう!」

 

 アサミの刀の先から、巨大な火炎弾が放たれる。

 直撃コースだが、セラの前に杏子が現れて槍を振るう。

 かき消された火炎弾だが、もう一発火炎弾が放たれた。

 吹き飛ぶ杏子とセラ。

 

「セラ! 佐倉さん!」

 

 マミが二人を心配するようにそちらを見る。

 杏子が巨大な火炎弾を放った。

 再び放たれる火炎弾だが、斬撃がその火炎弾を切り裂く。

 

「マミさん! ゾンビって火とか弱いらしいんで気を付けて!」

 

「ありがとう!」

 

 わざわざ調べたのだろうか? と思うも今は礼を言う。

 さやかが跳びだす。地を蹴って素早くアサミの懐に入る―――はずだった。

 振った剣は避けられて、蹴りを入れられ転がる。

 

「ぐぅっ!」

 

「それ!」

 

 何本もの刀がアサミの背後から飛びだす。

 それらはさやかの体を傷つけた。

 立っているのはマミとアサミの二人。

 

「これで一対一ですね、巴さん」

 

「いえ、二体一です」

 

「セラ! 大丈夫なの?」

 

 心配するようなマミだが、なんとか立ち上がるセラ。

 杏子とさやかはまだ動けなさそうだ。

 癒しの力で治しても、痛みまでは抜けないだろう。

 

「何度か死んでもらうことになるかもしれませんが、ゲハッ!」

 

 吐血するセラを心配するマミ。

 

「もぉ! しゃーなしね!」

 

 ハンドガンサイズのマスケットを二挺持ってアサミに狙いをつける。

 二挺を撃つが刀で弾かれる。さらに同じマスケットを二挺再び召喚。

 アサミが両手で振るう。

 竜巻が現れた。

 

「さぁ、死んでください!」

 

 マミが跳びだす。

 

「まったく変幻自在ね!」

 

 アサミが腕を振るうと竜巻がアサミを守るようにマミへと向かう。

 だが、マミはその竜巻を避けてアサミへと近づく。

 火炎弾が飛ぶが、マミは地面を蹴る。

 横回転しながら、マミは銃を撃った。

 二挺のマスケットから放たれる銃弾を、刀で防ぐアサミだが、さらにクナイが二本飛んだ。

 

「ハハハッ!」

 

 笑いながら、身体を反らしてクナイを避ける。

 マミを蹴り飛ばすアサミ。蹴られたマミは転がって最初の場所で起き上がった。

 起き上がるとマミ走り出す。

 今度はセラも一緒だ。

 途中で別れるセラとマミ。竜巻は二人を追うように分裂した。

 

 竜巻を避けて、マミはアサミの方へと飛んだ。

 

「どうするつもりですかぁ!?」

 

 笑うアサミ。だがマミの表情にも笑みが浮かんでいた。

 マミの背後から剣が飛んでくる。

 それを受け取ったマミが剣でアサミに切りかかった。

 二振りの刀でマミの剣を防ぐ。

 その剣はさやかのもので、向こうにいるさやかが剣を投げていた。

 

 回復速度が速い。

 

 つば競り合いになっているマミとアサミ。

 お互いまったく引かない。

 

「どうしても聞いておきたいんだけど、どうして人殺しなんて!」

 

「巴さんだって人を殺して永遠の命がもらえるなら殺すでしょう?」

 

 どういうわけか、永遠の命をもらえるのだろう。人を殺せばと言う条件で……。

 さらにその死や負に引き寄せられた魔女が現れる。

 二度得と言うことだろう。けれどマミは目を鋭くとがらせた。

 

「ふざけないで! そんなの欲しくない!!」

 

 けれど、力負けして吹き飛ばされるマミ。

 吹き飛んでいる途中、左右から迫った竜巻に体をはさまれる。

 マミの姿は見えなくなった。

 

「ぅがああぁぁっぁっ!!」 

 

 叫び声だけが聞こえる。

 

「はいおしまい。フフフッ、このまま体をすりつぶしてあげましょうかぁ? それとも……」

 

 マミの体が見える。苦しそうな表情で叫び声をあげるマミが、竜巻ごとアサミへと近づいていく。

 笑みを浮かべながらアサミは片方の刀をその腹部に刺し込む。

 目を閉じているマミ。

 

「もう生き返れないようにバラバラに切り刻んであげましょうか?」 

 

「どっちも困るね」

 

 突如、眼を開くマミ。

 横から、槍が飛んでくる。

 だがそれはアサミの片手に握られた刀で防がれた。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 その隙を見逃すマミじゃない。

 無理矢理動こうとしたせいで竜巻が真っ赤に染まっていく。

 けれどそんなものは構わないようで、マミはアサミに抱きついた―――いや拘束した。

 

「離せ!」

 

 初めて動揺した様子を見せるアサミ。

 

「それもお断りするわ!」

 

 マミの体が輝きを増す。

 すると、マミの衣装は昨夜のように変わった。

 さやかと杏子が竜巻を切り裂く。

 もう邪魔する者はなにもない。

 

「はあぁぁぁっ!」

 

 飛んでくるのは、セラ。

 その刀で、マミごとアサミを突き刺した。

 アサミの背中から飛び出す刀の刃。

 

「四対一です」

 

 そう言ったセラ。

 静かに、アサミは倒れた。

 密着状態のセラとマミだが、お互い気にするような様子は無い。

 

「終わったようですね」

 

「ええ」

 

 血まみれのアサミが倒れている。

 これにて一件落着、なのだろうか?

 

 

 

 杏子が出したグリーフシードでソウルジェムを浄化する三人。

 今回はセラの功績もあっただろう。おもいのほか四人で良くやったと思うマミ。

 

「マミさん、超カッコ良かったっすよ!」

 

 そんな言葉に、苦笑するマミ。

 これで本当に終わりなのだろうかと不安になるが―――終わっていなかった。

 何かを斬るような音がして、セラが倒れる。

 

「セラっ!」

 

「マミ……っ」

 

 つぶやき、倒れるセラを受け止めるマミ。

 その背後を見る三人が驚愕に顔をゆがめた。

 

「不死身は貴女だけの専売特許じゃありませんよ?」

 

 魔法少女の専売特許でもあるが、早すぎる。

 癒しの力じゃないはずだ。

 ならば、ゾンビ。

 

「ハハハッ、ゾンビじゃありませんが……後数十回は死ねますから」

 

 魂がどうたらと話していたのを思い出すマミ。

 そして魔力量はそこまで多くなかったはずなのに大量に使っていた派手な魔法。

 人体的、魔法少女的な死を向かえた時に、生き返る?

 

 マミの脳内での仮設は、ほぼ正解だ。

 

「さぁ! 今度こそ骨ごと燃え尽きてくださいね!」

 

 放たれる火炎弾。

 

 だがその火炎弾は、マミたちの目の前で防がれた。

 マミたちの目の前にいるのは、長い黒髪の少女。

 腕につけている盾から、さらに大きな魔力の盾を展開して火炎を防いだのだ。

 

「誰ですか?」

 

「……友達よ」

 

 何所から取り出したのか、機銃をアサミへと構える。

 友達を守るべく、暁美ほむらは眼前の“敵”をにらみつけた。

 

 




あとがき

さてさて、まだ続きますよアサミ戦。
長々と続きます。そしてまどか☆マギカで言うと現在の日にちは「本当の気持ちと向き合えますか?」の一話前でございます。
まだまだ猶予があるので頑張っちゃいますよ!

では次回をお楽しみに♪


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15「いえ、ティロフィナりません」

 突然現れたほむらが、眼前の(アサミ)をにらみつける。

 この相手が何者か、どういう敵なのかなんて一切わからなかった。

 けれど明確にわかることが一つだけある。

 

「マミの敵なら“私たち”の敵よ」

 

 ほむらの背後でセラを支えているマミ。

 武器を構えて立っていたさやかと杏子も若干唖然としていた。

 足音と共に、セラが軽くなる。

 

「え?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 現れたのは鹿目まどか。

 ほむらは送った後に来たというわけではないようだ。

 異変を察知して二人一緒に来たのだろう。

 マミがそっとセラを下ろすと、まどかがセラを支えた。

 

「貴女は……」

 

 痛みを我慢するように離すセラ。

 そんなセラをいたわるようなまどか。

 

「鹿目まどかです!」

 

「ああ、そうでした。申し訳ありません」

 

 まどかに支えられながらも、セラはアサミを見る。

 目障りと言わんばかりに顔をしかめる彼女。

 それと反対に、マミは笑みを浮かべてライフルサイズのマスケット銃を構えた。

 

「いくわよ!」

 

「ええ!」

 

 マミの声と共に、ほむらが消える。

 僅かに動揺するアサミだが、そんな動揺も銃声によって消えた。

 放たれた弾丸。しかしその弾丸もアサミにきりさかれる。

 だがその弾丸からあふれたリボン、それはアサミの刀に何十にも巻きつく。

 

「くっ」

 

 ほむらがアサミの背後に現れると、後頭部に銃を押し当てる。

 

「撃つわよ」

 

「撃てば良いんです」

 

 構わず振り返るアサミ。

 舌打ちをしたほむらだったが、一瞬でアサミの両足から血が噴き出した。

 撃った気配もしなければ、音もしない。それにもかかわらず弾丸が足を貫く。

 まったくわけがわからないが、攻撃は直撃。

 

「私は言ったはずよ……撃つと」

 

 髪を払うほむらだったが、瞬時に両足を治したアサミが立ち上がる。

 切りかかるが、ほむらは居ない。

 どこにいるのかとあたりを見まわすが、銃声と共にアサミは倒れた。

 

「がっ……」

 

 腹部から血を流して倒れるアサミの背後には、ほむら。

 見ているマミたちにも全く理解できなかった。

 強さの次元が違いすぎる。

 

「やめなさい」

 

「フッ……フフフフフッ! ハハハハハハッ!」

 

 笑いながら立ち上がったアサミが、切りかかった。

 消えるほむらが再び彼女の背後に立つ。

 その瞬間、ほむらの背中から銀色の刃が跳びだす。

 

「……え?」

 

 つぶやくほむら。

 背中を向けているアサミは刀を逆手に持ち、器用にほむらに刀を刺している。

 腹部に刺さった刀が引き抜かれることは無い。

 ほむらの方を向くアサミが、もう一方の刀で足を切り裂く。

 

「どう?」

 

 太股から、血が噴き出して倒れそうになるほむら。

 だが、アサミがそれを許さない。

 倒れないように刀をさらに刺していく。

 

「あぐぅっ!」

 

 苦痛に声を上げるほむら。これ以上刀が刺さることは無い。

 足に力が入らずに倒れそうであるけれど、アサミがその体を掴んで離さなかった。

 

「一体どんな能力を持ってるんですかぁ?」

 

 楽しそうに言うアサミだったが、ほむらが盾からサバイバルナイフを出す。

 ナイフを手慣れた手つきで操ると、アサミの首にナイフを突き刺した。

 アサミがよろめき、後ろに下がると同時、ほむらの刀が抜ける。

 ほむらを背後で受け止めたマミ。片手でほむらを抱きとめて、片手で拳銃サイズのマスケットを持ち狙いをアサミの首のナイフに定めた。

 トリガーを退くと同時に撃鉄が鳴り、銃弾は吐き出される。銃弾はアサミの首に刺さったナイフの柄尻に直撃し、アサミの首を突き抜けた。

 あたりに飛び散る血飛沫から、マミはほむらを守るようにほむらの前に立つ。

 

 だがまだ終わりではない。

 アサミの左右から迫る赤と青の閃光。

 

「これで!」

 

「とどめだぁっ!」

 

 杏子とさやかがアサミの左右から迫り、斬り抜ける。

 上空に舞うアサミの腕が鮮血をあたりに飛び散らせた。

 魔法少女四人の猛攻。

 さやかがほむらの傍によって回復させようとした―――しかしそれよりアサミの方が早い。

 

 落ちてきた腕がくっつく。そしてアサミの両手には日本刀。

 振られた二振りの刀が衝撃波を放ち、四人は吹き飛んで結局セラとまどかのいる場所まで転がった。

 ほむらの腹部と足からの出血がひどい。

 衝撃波による攻撃は細かな刃が混ざっていたようで、杏子とさやかも所々にけがをしている。

 マミの傷は徐々に回復。

 

「さぁ! 終わりですよゾンビともどきさんたち!」

 

 火炎弾が再び放たれる。先ほど同じようなシーンを見た気がする。

 しかし今回ばかりは誰も動けない。

 

「(どうする……どうする!?)」

 

 考えていたマミだったが、すでに遅い。

 眼前に迫る火炎弾は、目の前で四散した。

 先ほどと違い目の前に誰かが居るわけでは無い。

 だが、目の前に壁があるのはわかった。

 

 アサミの笑い声が聞こえる。

 

「アハッ! やっと来てくれましたねぇ! お待ちしてましたよ……」

 

 マミたちの前に現れた少女は、白銀の髪を風になびかせ立つ。

 

「ネクロマンサー」

 

 目の前に立つユークリウッド・ヘルサイズの背中を見て、全員が驚愕に表情を変えた。

 ただ、目の前に立つ少女は無表情。

 

「ユウ……」

 

 その名を呼ぶマミだが、反応は無い。

 先ほどと違い嬉しくてしかたがないと言った表情のアサミ。

 危険だと思うも、今動けるのは自分だけだ。

 

「近くにいるだけで感じますよ。その膨大な魔力……はぁっ!」

 

 アサミが刀を振るうと、竜巻がユウへと向かって行く。

 しかし少しも動かないユウの目の前でその竜巻はバラバラになった。

 さらに楽しそうに、狂ったように笑うアサミ。

 

「すごい! すごい! すごい!」

 

 刀を振って斬撃を飛ばすが、それらすべてはユウの眼前で消え失せる。

 まったく攻撃が通じないにも関わらず、彼女は笑っていた。

 

「セブンスアビス、ユークリウッド・ヘルサイズ。本来こんな所で遊んでいて良い方ではないはずですよねぇ?」

 

 歩き出すユウはまったくの無表情。

 一歩ずつ、アサミへと近づいていく。

 

「くだらない女一人にこだわって、くだらない街に拘束されて……まるで私に、その魔力を奪ってって言ってるようなものじゃないですかぁ!」

 

 放たれる火炎弾。先ほどの威力よりよほど高いそれらは、ユウの目の前で全て消え失せる。

 それを見て、興奮したように自らの体を抱くアサミ。

 

「あぁっ! その魔力が欲しいぃっ!!」

 

 なんだか危険な予感がしたマミが跳び出そうとするが、地面が紅く輝いた。

 地に掘られた文字。そこには『来るな。邪魔』とだけ書かれている。

 その小さな足で、地を蹴るユウが、飛んだ。

 

 ユウは少し離れた公園の中心に立った。

 同じく、その近くに着地するアサミ。

 

「巴さんたちを巻き込みたくないんですね。フフッお優しい……」

 

 相変わらずの無表情で、アサミを見るユウ。

 

「ねぇ知ってます? 人間の体にはリミッターがかかってるんですって……でも命のストックがある私には関係ありませぇん。100%!」

 

 アサミの手から放たれる赤い炎の弾。

 だがそれはユウの前でかきけされた。

 150%200%、300%、500%、次々と放たれる炎の弾や竜巻も、ユウの目の前で四散して消えていく。

 自らの攻撃に耐えきれず傷つくアサミの体。

 

「ぐぅっ!」

 

 苦しみだしたアサミのソウルジェムが―――砕けた。

 

 ソウルジェムは魂。それが砕ければすなわちその命が終わる。

 だが、彼女は言った通り『命のストック』があった。

 砕けたソウルジェムが元に戻り再び動き出す。

 笑う彼女に悪寒を感じる面々。

 再び放たれる火炎弾だが、それも効くわけがない。

 

 それを見ていたまどかがつぶやく。

 

「すごい」

 

「いえ、彼女が真が恐ろしいのは……鎧の力や、魔力がどうのではなく……」

 

 怪我が痛むだろうにつぶやくセラ。

 マミをはじめとする魔法少女たちも、その光景を唖然として見ていた。

 

 

 ユウが、近づいて行き、一定の距離で足を止める。

 肩で息をするアサミにさすがに余裕の表情は無くなっていた。

 

「い、いい加減倒れなさいよっ……げほっ!」

 

 口から血塊を吐き出すアサミに、ユウは無表情。

 アサミの足元の地面に文字が彫られた。

 

『帰れ』

 

「ハッ、だぁれがっ!」

 

 その両手に魔力を集めるアサミ。

 だがユウは無表情でその姿を見るだけだ。

 

 そしてユウは口を開いた。

 

 ―――瞬間、ユウの周囲の全てが“終わり”を向かえる。

 

 そばにあった草や花は全て枯れ果て、アサミすらも倒れた。

 セラがつぶやく『言葉の力』だと……。

 

 それに戦慄を覚える魔法少女たちと、まどか。

 純粋な恐怖。 あの小さな少女への恐怖。

 セラが少し離れた場所で起こった光景を見ながら話す。

 

「今、ヘルサイズ殿はこう言葉にしたのです―――」

 

 ―――死んで。

 

「(そんなっ……言葉一つで人が死ぬ……?)」

 

 だから、ユウは自分の力を封じていた。

 あまりにも大きな死の力。

 全てを悟るマミ。

 

 ピクッ、と動き出すアサミ。両手を地面につき少し起き上がると、口から大量の血を吐き出す。

 すでにアサミの下は血の海状態だ。

 離れた場所にいるマミたちでさえ血の匂いが届く。

 

「ハッ……ハハハッ」

 

 ―――死んで。

 

 笑い声は止まり、アサミは血の海に倒れる。

 しかし、命のストックがたんまりあるアサミはすぐに起き上がった。

 ユウは頭を押さえている。

 

 マミの頭はアサミなどどうでも良く、ユウのことで沢山だった。

 だからこそ感情を殺していた。

 

 ―――死んで。

 

 再び、アサミは倒れる。

 

 ―――死んで。

 

 ―――死んで。

 

 ―――死んで。死んで。死んで。

 

 ユウが頭を押さえてうずくまる。

 頭を押さえながら、その激痛に喘ぐユウ。

 そんな痛みなど知らぬという風に笑いながら立ち上がるアサミ。

 

 ―――死、ん、で。

 

 倒れるアサミ。

 

 マミとセラが拳を握りしめた。

 だからユウは誰よりも死に近く、悲しい。

 それらを一番感じ取っているのは、マミだろう。

 

 先ほどより長く倒れているアサミ。

 ユウの頭痛も少し引いたのか、いつも通りの無表情に戻った。

 

「はっ……ヘ、ハハハハッ」

 

 眉をひそめて、ユウは再び『死』を言葉にする。

 

 ―――死んで。

 

 だが、笑っているアサミが倒れることは無い。

 

 ―――死んで。死んで。

 

 なんど言葉にしても、死を迎えないアサミ。

 笑い声をあげながら、アサミは両手の指を『耳から』抜く。

 自ら鼓膜を破ったのだろう。

 痛覚を“遮断”できる魔法少女には問題ないことだ。

 

 驚いた様子を見せるユウ。

 

「ハハハハッ、これで貴女の言葉は届きませぇんっ……ハハハッ」

 

 ゆっくりと、ユウへと近づいていくアサミ。

 

「期待通り貴女は強い……ならばこういうのはどうですかぁ?」

 

 ゾンビのように一歩一歩を踏み出す。

 マミが逃げろと叫ぶ。

 だがすでに遅い。

 アサミはユウに片手で抱きつくと、片手でソウルジェムを握り潰した。

 

 砕けたソウルジェム。それと共に―――爆発が起きる。

 

 その爆発の爆風はマミたちにも襲い掛かった。

 なんとか踏ん張る彼女たちだったが、マミが叫ぶ。

 

「ユウ!!」

 

 そして公園の中心に立っているのはアサミだった。

 ユウはボロボロの状態で倒れている。

 血だらけのアサミが、身体をゆっくりと伸ばす。

 

「死んで死んでと、馬鹿の一つ覚えですかぁ? 命が一つしかないというのは……不便ですよねぇ? 巴さぁん?」

 

 アサミの視線と、マミの視線が交じり合う。

 マミの視線がしっかりとアサミを捕らえた。

 鋭い眼光。

 

「なぁマミ、アタシはもう二度と他人のために魔法は使わないって決めたんだ……けどさ、今むしょうにあいつをブッ飛ばしたい!!」

 

 隣に立った杏子が、槍を構える。

 こんな状況にも関わらず、マミが笑みを浮かべた。

 

「それはたぶん、たった少しの時間でユウが貴女にとってもう他人じゃなくなったんじゃない?」

 

 その言葉に、杏子は自嘲するかのように笑う。

 

「そっか、そうかもしんない」

 

 立ち上がるのは杏子だけじゃない。

 体の回復を終えたのであろうさやかとほむらも、同じく隣に立つ。

 

「あれですね、正義のゾンビと悪のゾンビ! 勝つのはもちろん正義のゾンビ!」

 

 笑みを浮かべるも、どこかしっかりとした視線のさやか。

 マミは困ったように笑顔を浮かべる。

 ほむらは盾から拳銃を二挺取り出した。

 

「もう誰も目の前で、死なせないわ。巴さんだって、ヘルサイズさんだって」

 

 そう言うと、ほむらはマミ、さやか、杏子を見る。

 魔法少女たちが同時に頷いた。

 四人の魔法少女が再び動き出そうとした時、セラが起き上がる。

 

「マミ、新しい技を思いつきました。家に帰ったら……一緒に名前考えてもらえますか?」

 

 笑みを浮かべるセラ。マミは無言で頷いた。

 マミがマスケットを二挺、杏子が槍を、さやかが剣を、ほむらが拳銃を、セラが刀を構える。

 五人が同時に武器を構えた。

 マミがそっと後ろを振り返ると、まどかが歯痒いと言った表情をしている。

 

「鹿目さん」

 

「はい!?」

 

 名前を呼ばれビクッと跳ねるまどかを見て、マミがクスッと笑った。

 

「私たちが帰る日常は貴女なんだからね?」

 

 そう言うと、まどかは笑顔で頷く。

 マミは再びアサミを視界に入れて腰を下ろす。

 

「いくわよ!」

 

 同時に動き出す五人。

 

 最初に攻撃したのはやはりほむらだった。

 彼女に多数の銃弾を叩きこむ。

 どういう原理かはわからないが、無数の弾丸がアサミを襲う。

 しかしそれは読まれていたのかアサミの目の前で弾丸が弾かれた。

 

 斬撃にほむらは吹き飛ばされる。

 

 走るセラが、跳んだ。

 刀の刀身部分が無数の葉に変わる。

 

「秘剣、技名未定!」

 

 葉が集まり巨大な刀身へと姿を変えた。

 振り下ろされる葉を、片手の刀で受け止めたアサミがそのまま刀を振るう。

 衝撃波で吹き飛ばされるセラ。

 

「まだまだぁっ!」

 

 アサミの上から、杏子が槍を振り下ろす。

 しかしそれも軽く受け流され、蹴りを入れられ吹き飛ぶ。

 間髪入れずに突っ込んださやかは二刀流で連続攻撃をいれるもすべて弾かれ腹を斬られた。

 その隙を狙いアサミは蹴りを撃ちこむ、杏子の隣に転がるさやか。

 

「佐倉さん、美樹さん!」

 

 二人の元へとかけよるマミ。

 その傍らに突如あらわれるほむらとセラ。

 

「アッハハハハッ! ハハハハハッ!!」

 

 不愉快な笑い声だけが響く。

 五人が立ち上がると、アサミをにらみつける。

 しかし狂気じみた笑みを浮かべているアサミ。

 

「せっかく集めた命を、今日はずいぶん失いましたぁ……取り急ぎ貴女たちの命を……頂戴しませんと、ハハハッ」

 

 笑いながら近づいてくるアサミに、身構える。

 マミが手に持つマスケットをリボンへと変えた。

 無手になったマミ。

 

「これ以上は、誰も殺させないっ!」

 

「アハハハハッ! カッコい~! じゃあ最初に殺してあげる!」

 

 刀を空に振るアサミはバカにするようにマミを見た。

 そして、瞳を細める。

 

「嫌いじゃなかったわよ、巴さぁん!?」

 

 振られる刀、斬撃がマミを突き抜けた。

 

「ぐっ!」

 

 マミのくぐもったような声と共に、マミの背中からは大量の血が噴き出す。

 それを見ていた四人、いやまどかを含めての五人は驚いていた。

 四人の前に出るマミ。まどかは四人の元までやってきている。

 

「アホですか!?」

 

「少しは避けろよ!」

 

 セラと杏子の言葉を受けながらも、マミは震える足で立っていた。

 

「ゆ、ユウはこの攻撃を受けながらも考えてたんだよ……命を奪うってことを……そんなこと、軽はずみにやり取りして良いわけないわよね!」

 

「なに言ってるの、カッコ悪い……死ねぇっ! 死ね! 死ねぇっ!!」

 

 数度の斬撃。それがマミを貫き、背中から大量の血を吹き出しながら体勢を崩すマミ。

 四つん這いになりながらも、倒れることはない。

 

「それが、死ねないんだよね」

 

 つぶやいたマミは、倒れているユウの方を見た。

 

「ユウ……帰ったらご飯にしましょうね?」

 

 そんな光景を見ていたアサミが頭を左右に振る。

 鬱陶しそうにわずらわしそうにマミを見下ろす。

 

「アアァッ! しつこい! 死んでって言ってるでしょぉっ!!」

 

 振り下ろされた刀は、マミの顔向かってまっすぐに降りていく。

 しかしその刀はマミの右手に掴まれた。

 手の平に巻きついたリボンがマミの右手を切断させない。

 掴まれた刃は、マミに握り砕かれた。

 

 驚愕するアサミ。

 

「死ねないのよそれが……私、ゾンビです。あと、魔法少女です」

 

 立ち上がり、口からこぼれる血をぬぐう。

 マミの片目が一瞬、紅に輝いた。

 後ずさるアサミ。

 

「私は一人ぼっちが寂しかった……でも家族を見捨てた私は家族を求めちゃダメなんだって思ってた。でも違ったんだ。私は一人ぼっちじゃなくても良いんだってわかった!」

 

 一歩ずつ、アサミへと近づいていく。

 

「ありがとう。貴女に殺されたおかげで人生が変わったよ」

 

 そっと、彼女の片手を取るマミ。

 必死にマミの手を振りほどこうとするアサミだが、力は圧倒的にマミが強い。

 

「だから、今度は貴女の人生を変えてあげる」 

 

 マミの腕を必死で振り払おうとするアサミ。

 自らの腕を掴んでいるマミをにらみつけた。

 

「私は命の魔法を持ってるのよ!?」

 

「じゃあ生き返って見せなさい! その借り物の命が尽きるまで、何度も……私が殺してあげる!」

 

「ええい離せ!」

 

 片手を掴まれながらも、空いた片手に魔力を集めると手の平をマミの腹部に向ける。

 その手から放たれた光弾はマミの体を貫く。

 力が抜けたのか、マミの腕を振り払うと、マミは倒れる。

 肩で息をしながら、頭を押さえて目をきつく瞑るアサミ。

 

「うぁぁっ! 気色悪ぅっ!」

 

 純粋にマミが気持ち悪いわけではないのだろう。

 目をつむりながら頭を抱えるアサミ。

 

 だがその瞬間―――何かが回転するような音と共にアサミの体が地に倒れる。

 

 天を向いているのは、ドリル。

 

「っ……あぐぁっ」

 

 辛そうに顔を歪めているマミが、腕に展開していたドリルをほどく。

 リボンへと変わったドリル。うつぶせのマミが両手を使ってなんとか起き上がる。

 腹部の傷は、治らずに痛みが続く。

 

「うっぐっ……」

 

 立ち上がっているマミを睨み、見上げるアサミ。

 マミは肩で息をしていた。痛みは通常の人間と同じほど。

 この中にいる魔法少女。アサミ、杏子、さやか、ほむら。

 誰か一人でも、マミと同じ痛みを背負って動けるものは居ないだろう。

 

「っ……あぁぁぁっっ!」

 

 その右手に、リボンで長いドリルを形成する。

 マミはそれをアサミへと振り下ろした。

 血飛沫と共に、彼女の“断末魔が何度も”聞こえる。

 

 その叫び声は一介の少女が出せる声とは程遠く、醜いものだ。

 本来の断末魔というものだろう。

 痛みで正常な判断はできないのか、痛覚遮断もしない。

 吐き気すらも忘れて、全員がその光景をみている。

 

 

 

 

 断末魔が止むと、マミは右腕を振り上げていた。

 ドリルは展開しつづけているが、回転は止まってすでにアサミから抜けている。

 肩で息をしながら、マミは立っていた。

 

「あっ……あぁっ……」

 

 怯えるような表情で、尻もちをついたまま後ずさるアサミ。

 マミの鋭い視線を受ける。

 

「どうやら、最後の命みたいね?」

 

「い、いやっ……」

 

 怯え、恐れるアサミ。だがマミはそんなアサミに近づく。

 

「貴女は身勝手に人の命を奪いすぎた……償わないと」

 

 決して怒っているような口調ではない。

 ただ強い、意思を持った言葉であるのは確かだ。

 

「いやっ、死にたくない……っ」

 

「みんなそう思った……私だって……」

 

 前髪に隠れて見えない表情。

 歯をかみしめるマミ。彼女はそう思っていた。いままでずっとだ。

 両親を見捨てた事故の時も、魔女と戦う時も、アサミに刺された時も……。

 

「いやっ……」

 

 つぶやくアサミ。マミの右手のドリルがリボンに戻る。

 その右手のドリルを形成していたリボンが、マミの手に巻きつく。

 

「終わる、何もかもっ!」

 

 強く握りしめられた拳。

 震えるアサミ。

 

 その眼に映るのは―――腕を振り下ろすマミ。

 

 瞬間、マミとアサミを中心とした地面が砕ける。

 その拳の衝撃を物語る威力であり、それを見ていた五人はただ驚いていた。 

 爆煙のように起きた砂埃はすぐに散る。

 拳を叩きつけたマミは、大量の汗をかいていて、その顎から汗がしたたり落ちた。

 

「っ……はぁ、はぁっ……ぐっ……はぁっ」

 

 立ち上がるマミ。

 その拳は、アサミの顔の真横に叩きつけられていた。

 あまりの恐怖からか、気絶しているアサミ。

 終わった。

 

 

 

 近くのベンチにユウを座らせると、程なくして目を覚ます。

 安心したように息を吐くマミは、微笑んだ。

 

「良かった……」

 

 目を覚ましたユウは、どこから出したのかすぐにメモ帳を上げた。

 

『終わったの?』

 

「とりあえずかな?」

 

 相変わらずの無表情。いつもと変わらぬ様子で、メモ帳に何かを書き込んでいく。

 一度ペンが止まったが、すぐにペンは動き出す。

 

『よくやった下僕』

 

「結局それなのね」 

 

 溜息をつくマミだったが、再びメモ帳があげられる。

 

『約束』

 

 その文字を見て、セラと杏子も反応した。

 一緒なのだから当然と言えば当然だ。

 

「ええ、帰ったらご飯にしましょうね」

 

 頷くマミに、さらに突き出されるメモ帳。

 

『フルコース』

 

「できるかなぁ……ハハ、ハッ」

 

 甘やかしてあげたいという気はあるものの、できるかできないかでと考えて苦笑。

 聞きなれた足音が聞こえた。

 振り向いたマミと、その他の面々。

 

「とんでもないね、君は……まさかアサミが負けるだなんて思ってもみなかったよ」

 

 そう言う“キュゥべぇ”は、まったく何も感じていないようだ。

 いや、実際に意外だとは思ってるのかもしれないが、声に感情が乗っていない。

 全員がその生き物を睨みつけるように見る。

 

「言っておくけれど今回のこととボクはなんの関係も無いよ」

 

 一度も“嘘をつかない”キュゥべぇが言うことだ。

 本当ではあるのだろうと頷く。

 

「彼女、アサミちゃんはどんな祈りで命の魔法を得たの?」

 

 マミの質問に、キュゥべぇがユウの隣に着地する。

 

「彼女の祈りは“助けて”という願いさ」

 

 衝撃を受けるマミ、杏子、ほむらの三人。

 マミの祈りとまったく同じだ。

 しかし、なぜマミと違うのか?

 

「死にそうになった彼女が祈ったのは『助けて』ということ、それは他人に命を分け与えてもらえる魔法へと変わった。だからこそ他人の命を奪って自分のものにできるというわけさ」

 

 同じ願いで魔法が違う。

 ならば、マミが命の魔法を得ていたら? 

 考えるだけで悪寒がした。

 

「目が覚めたようだね」

 

 そうつぶやくキュゥべぇ、マミたちが背後を向く。

 立っているのはアサミ。虚ろな瞳で魔法少女たちを見ている。

 一歩踏み出すさやか。

 

「さぁ、とっとと帰ってもらお―――」

 

「楽しい余興だったよ」

 

 アサミの声で無い声がした。

 だが口を開いているのはアサミ。

 混乱しているようなさやかの前にマミが立つ。

 

「あなたは誰?」

 

 マミの問いに、虚ろな瞳が答えることはない。

 

「ユークリウッド・ヘルサイズ……」

 

 名を呼ばれ、ユウが視線を鋭くした。

 その動揺は知り合って間もないまどかやさやかにもわかる。

 

「元気そうでなによりだ……そんなに怖い目で見ないでおくれよ」

 

「夜の王、そういうことか」

 

 知っているのか、キュゥべぇは意味ありげに言葉を放った。

 誰も動かないものの、なにかしらの因縁があるのは予想がつくというものだ。

 

「ふっふっふっ、どうかな?」

 

 アサミから黒い何かがあふれ出る。

 それを感じて、マミとほむらが武器を構えた。

 その感じのする敵と何度も戦った二人だからこそすぐ構えられる。

 

「この感じ、メガロね」

 

 つぶやいたほむら。

 笑うアサミ。

 

「ハッハッハッ、それもどうかな?」

 

 いまいちつかみどころのない会話である。

 不愉快な感覚だとマミ銃をリボンに戻した。

 相手から攻撃する意思は受けられない。

 

「では、来たるべき時まで。それまでお大事に、ユークリウッド……」

 

 そして、黒い何かが消えると倒れるアサミ。

 緊迫した空気が消えて、全員が変身を解除する。

 溜息をつくマミがまたひと悶着あるのだろうと目を細めた。

 

「ユウ、さっきのアレは……」 

 

 地面に文字が刻まれる。

 

『あの黒い霧は』

 

 話すのを渋っているかのような表情。

 無理に聞き出すことはしないでおこうと思うマミだったが、再び文字が刻まれた。

 

『私が消滅させたはずのゾンビの力』

 

 その文字が見るも、誰も特に何も言うことは無い。

 

 

 

 マミが笑って解散を宣言するけれど、結局晩御飯は全員で、ということになった。

 キュゥべぇに『アサミが起きたら帰るように言って』とお願いして、全員でマミのマンションの部屋に集まった。

 ちゃぶ台だけではとても足りないので三角形のテーブルも出して、全員でにぎやかな夕食。

 

 しばらく全員で楽しくやりながら、その後この家の住人であるマミ、セラ、ユウ、杏子以外の面々は帰って行った。

 何も言わなくても杏子は家族だと、全員がわかっている。

 昔からずっと、マミの大切な弟子でもある彼女をこのままにしておくなんてセラもユウも考えない。

 

 全員が帰ると、杏子はマミのベッドで、セラは自室に戻って寝た。

 唯一起きているのは、マミとユウだけだ。

 リビングにてお茶を飲むユウとマミ。

 何かに気づいたような表情をして、マミがユウの方を見る。

 

「ねぇユウ?」

 

 ユウがマミの方を見た。

 

「私以外にも、ゾンビがいるの?」

 

 そっとメモ帳を置くと、ペンを走らせていく。

 素早く書かれた文字。

 

『居ないと信じていた』

 

 別段表情を変えることも無く、その文字を見るマミ。

 再びペンが走る。

 

『かつて私は彼をゾンビに変えた』

 

 つまりは男、ということだろう。

 そして自分と同じくゾンビになった男。

 

『でも悪意に包まれた彼を』

 

 ただしっかりと真面目な表情でそれを見るマミ。

 ユウが文字を書き終えたのか、ペンを置く。

 メモ帳には一言。

 

『消した』

 

 それだけが書かれていた。

 マミが笑いながら聞く。

 

「もしかして、恋人だったとか?」

 

 首を横に振るユウを見て、マミは息をついた。

 恋人だったなら、あまりに複雑すぎて自分が間に入っていいか迷うところだ。

 だが、その心配は無い。

 安心するように息をつくマミ。

 

「心配しないでね、私がいるから……ね」

 

 窓の方を見ながら言うマミに、ユウは視線を向けた。

 小恥ずかしいのだろう。マミは窓の方を向いたままだ。

 

「ほら、私不死身だから……ユウの力のおかげなんだけど……あと、魔法少女の皆やセラもいるしね」

 

 マミがユウの方を向いた。

 目と目が合う。

 ただ元気づけようとしているのはわかる。

 

「(あれ、笑った?)」

 

 そんなことを思うマミだったが、聞くのは野暮だろうと思い、止めておいた。

 

 

 

 ―――ほとんどの人が気付かづに一生を終えていくけれど……世界には触れてはいけない秘密があふれてる。

 

 連続殺人事件は終わった。けど、不安の種が消えたわけじゃない。

 ま、とは言え一先ずは一先ず。

 これで一旦、ティロ・フィナーレ。

 今はこうしてユウとちゃぶ台を囲んでいるのが幸せ。

 

 

 

 マミが、口を開く。

 まだ杏子が来ても間もない。というより二日。

 聞くのは早いと思っていたが、これだけは聞きたかった。

 

「ねぇ、ユウは今の生活のこと……どう思ってるの?」

 

 少し考えてから、ペンを動かす。

 

『嫌いじゃない』

 

 ユウのその言葉で、十分だ。




あとがき

はい!魔法少女要素・皆無! まぁ原作通りみたいなもんですよねw
さて、次回はまどか☆マギカの話でいう『本当の気持ちと向き合えますか?』ですね。
この仁美が仁美(冥界人)なのでどうなるかはお楽しみということでw

では、次回もお楽しみに♪
感想の方もお待ちしてます♪


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16「なら、後悔なんてない」

 翌日の朝、マミが学校への道を歩く。

 たった一人の通学路。いつも通りで特に気にする様子も無く歩いていたマミ。

 ふと、後ろから背中をポンと叩かれて振り返る。

 背後には、志筑仁美が立っていた。

 笑みを浮かべるマミ。

 

「おはよう、志筑さん」

 

「仁美でよろしいですのよ?」

 

 そういう仁美を見て、頷く。

 考えてみれば自分が名前で呼ぶのは夏乃とアサミとユウぐらいではないだろうか?

 なぜ夏乃が入っているのだろうと思い、なんだかもやもやした気分になる。

 今度からは夏乃も苗字で呼んでやろうと思うも、ふと思う。

 

「(そう言えば夏乃の苗字ってなんだったかしら……)」

 

 物覚えが良い自信があっただけ少し戸惑う。

 すぐにやはり考える必要も無いと思い仁美と他愛のない話をしながら歩く。

 少し歩くと聞きなれた声と共に足音が近づいてきた。

 

「マミさ~ん!」

 

 走ってきたのはさやかとまどかの二人。

 マミの横にさやか、そしてその隣にまどかと並んだ。

 

「仁美とマミさんのツーショットとはこれまた新鮮ですね!」

 

「そうかしら?」

 

 ふと、四人の誰でもない声が聞こえた。

 気づくと、仁美の隣にほむらた歩いている。

 驚くさやか。マミ、まどか、仁美はふつうにおはようとあいさつ。

 それを返すほむら。

 

「いきなり出てくるなよ、心臓に悪いなぁ」

 

「心臓が止まっても気にすることないわ」

 

 まったくもってそうである。仁美には理解できないだろうとさやかは苦笑。

 魔法少女のことを知っている仁美であるが、マミは言わないように念を押されているので言わない。

 とりあえずここにて見滝原の人外が集結と言ったところだろうか?

 思ってもさやかのためを思い口に出さない辺り、マミはしっかりしている。

 

 他愛も無い話をしながら歩いている途中、仁美が何かに気づく。

 

「あら……上条君、退院なさったんですの?」

 

 そんな言葉を聞いて、さやかが何かを思うような表情でそちらを見る。

 まどかがさやかの方を見て言う。

 

「よかったね。上条君」

 

「うん」

 

 なんだかそっけない返事だ。

 いろいろ思うこともあるのだろう。

 マミが、まどかの肩を軽く叩く。

 それで理解したのかそれ以上は言わない。

 

「はぁ……」

 

 深いため息をつくさやかを見て、仁美は軽く顔をしかめた。

 そんな仁美を見たほむらは、眉を寄せて難しい顔をする。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 放課後、結局昼もさやかは黙っていて、それにつられてまどかもだんまり。

 ほむらはもともとなので例外として今日はずいぶん沈んだ雰囲気の学校になってしまった。

 せっかくアサミを倒して一件落着となったかと思ったが、問題は山積みのようだと―――マミはため息をつく。

 隣を歩くまどかがそれに気づいたようで、マミの方を見た。

 

「さやかちゃん、たぶん上条君のことで……」

 

 ボソッと言うまどか、頷くマミがさやかの元へと歩く。

 このままではいけないだろう。

 

「上条君のことね?」

 

 隣を歩くマミが聞くが、さやかは少しうつむくのみ。

 

「気にしないでください」

 

 そういうわけにもいかないけれど、と思う。

 

「でもね、美樹さん。上条君に、自分の気持ち……」

 

「人間じゃない私には無理ですよ」

 

 立ち止まるマミが、さやかの腕をつかむ。

 マミにつられて、立ち止まるさやか。それと同時にまどかとほむらも足を止める。

 仁美は委員会ということで学校に残った。だからこそ今は四人でこうして話ができる。

 

「色々言ってもらったけど、やっぱり学校くると思っちゃうんです。私は結局って……」

 

 まぁその考えは理解できないことはない。

 マミだってゾンビになった当初は人間じゃないと理解して一喜一憂したりしていた。

 けれどすぐにそんな考え無くなったのは、ユウがいたからだろう。

 さやかも自分の一番である上条恭介に体のことを打ち明けられればずいぶん楽になるのだろうけれど……言えるはずもない。

 

「(やはりガイアの試練は難関ね、この世界線、時間軸の特異点たる私でも……)」

 

 頭の中で中二全開な妄想をする。

 その瞬間、まどかの声が聞こえた。

 たくさんの生徒たちもまどかの方を見て、次にまどかの指さす方を見る。

 そこには、一匹の仔猫。いつぞやマミが助けた仔猫だ。

 そして、その仔猫を今にも轢かんとするトラック。

 

 仔猫に気づいた運転手だが、ブレーキをかけても止まらないだろう。

 

「なっ、エイミー!」

 

 珍しく叫ぶほむら。仔猫の名前だろうか?

 高速移動か瞬間移動かわからないが、彼女ならばすぐにたすけにいけるだろう。

 だが、魔法少女の姿をここで晒すわけにはいかない。

 

「はぁっ!」

 

 マミが跳び出した。いつぞやの日のように迷わず猫を抱き上げる。

 

「マミさん!」

 

 さやかの声が聞こえる。マミはフッとほほ笑む。

 トラックがブレーキをかける音が聞こえるが、もう無理だ。

 

 ―――私、ゾンビです。

 

 トラックがぶつかる直前、マミは仔猫を歩道へと放った。

 

「うごぉっ!」

 

 とても女子中学生が出して良いような声ではない。

 吹き飛んだマミが空中を回転して歩道近くの石垣に頭をぶつける。

 地に伏すマミへと走る面々。

 マミが顔を上げると、目の前に見慣れたブーツが映った。

 

「……マミが死んでるっ!?」

 

 目の前には杏子。大きなリュックを持ったまま立っていた。

 なんとか立ち上がったマミが頭をだくだくと流れる血を袖で拭う。

 口をあんぐりと開けている杏子の元に、まどか、さやか、ほむらが集まる。

 そしてそんな時、また一人。

 

「揃いも揃って……またクソ虫ですか」

 

 これはひどい。と思いながらも慣れていく自分が恐いマミ。

 やってきたのはセラ。相変わらずの罵倒だが、マミの両脇に腕を回して起き上がらせるだけ心配していないわけではないのだろう。

 セラにささえられるマミの足元に仔猫が寄ってきた。

 ほむらは安心したように、しゃがんでその猫の頭を撫でる。

 

「ほむらちゃんの猫?」

 

「いえ、そういうわけではないの」

 

 そう言ったほむらはどこか思う所がある、といったところだろうか?

 それに気づいたマミは『助けられて良かった』と言って笑う。

 立ち上がって、ほむらは少し赤い顔でそっぽを向く。

 

「その……あ、ありがとう」

 

 マミはほむらの頭を軽く撫でたが、突如マミを支えるのをセラがやめたので思いっきり地面に倒れた。

 顔からいったマミを心配するセラ以外の面々だが、マミはふつうに立ち上がる。

 これはゾンビ関係なしだろう。

 杏子が苦笑。

 

「嫉妬か?」

 

「杏子、おかしなことを言いますね」

 

 紅の眼で見られた杏子は視線をそらしてリンゴをかじる。

 そんな二人をよそに、マミがさやかのことを見た。

 真剣な表情と言うわけでは無い、いつも通りのふわりとした雰囲気のマミ。

 

「わかってくれた? 美樹さん……」

 

「なにがですか?」

 

 わかっていないさやか。マミが苦笑した。

 そんな間に入るセラ。

 

「それは家に行ってから、というわけにはいけませんか?」

 

 セラの言葉を聞いて、マミは周囲を見る。

 トラックと事故を起こして平然としているマミを、信じられないと言う風に見るギャラリー。

 マミを先頭として、全員が走ってその場を離れる。

 今回はセラに感謝、と思うと同時に好きなものにしてあげようと思うのだった。

 

 

 

 家へと帰ってきたマミと、面々を迎えたのはお茶を飲むユウだった。

 セラと杏子にお茶、まどかとさやかに紅茶、ほむらにコーヒーを出したマミが、ようやく座る。

 そして話の続きを言わんばかりに咳払いをした。

 さやかの隣に座ったマミが、先ほどの続きを言おうとする。

 

「(……いざ言うとなると恥ずかしいわね)」

 

 先ほどならば場の空気で言えただろうけれど、いざとなると難しい。

 

「巴さんが言いたいのは、普通の人間じゃないからこそああいうことができたってことよ」

 

 ほむらの助け舟、心の中で感謝する。

 さやかが自分の方を向くので、マミは頷いた。

 確かにその通りだろう。マミがゾンビだからこそ自分を犠牲にしてでも猫を助けることができた。

 それでも、頭で理解していても、気持ちは納得しない。

 

「わかってるつもりだったんだ、私だって……でも現実はそうもいかなくて、やっぱり無理だよ。私……」

 

「そんなに彼のこと、好きなのね」 

 

 その言葉の重みがわかってか、マミがつぶやいた。

 頷くさやか。全員黙ってその状況を見ている。

 下手なことを言うつもりもなかった。

 

「だから打ち明けられないね……」

 

 正座しているさやかが、涙を流す。

 それほどまでに苦しんでいるということだろう。

 

「私っ、何も出来ない……だって私、もう死んでるもん。ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ」

 

 そんな言葉に、マミがそっとさやかを抱きしめた。

 驚くさやかとほかの面々、だがすぐにほむらと杏子は察した。

 続いてセラもだ。

 ユウは……最初からそれほど驚いていないようだった。

 

「これ以上苦しむのなら、いっそのこと彼に伝えてきなさい。これはお願い……それでもダメで、伝えられないなら、みんなが……いや違う。私が抱きしめる!」

 

 そんな言葉に、さやかはギュっとマミの体に腕を回す。

 静かに、堪えていた嗚咽は漏れ始めて、徐々に崩れる。

 堪えがきかなくなったのか、最終的にさやかは本格的に泣いてしまった。

 別段誰も迷惑だなどと思っていない。

 仲間の、友達のことだ。

 

「うん、一杯泣いて……それから決めれば良いから、ね?」

 

 さやかが泣きやむまでの数分。マミは優しくさやかの頭を撫でていた。

 その間黙っているのも、彼女たちなりの優しさなのだろう。

 まどかに関しては涙を流しているが、それも彼女の優しさ。

 

 

 

 泣き止んださやかはさっぱりとした顔だ。

 憑きものが落ちた……のだろう。

 マミがティッシュを渡すと鼻をかむ。

 

「最近あたしみんなに泣いてるとこばっか見られてるやっ」

 

 小恥ずかしそうに言うさやか。

 杏子がさやかの肩に腕を回す。

 

「確かになぁ~さやかは泣き虫ってイメージついちまうよな!」

 

「ちょっ、佐倉さん!」

 

 そんなことを言う杏子をどうにかしなくてはと思うマミだったが、さやかは笑った。

 おかしそうに笑いながら、杏子にグッと親指を立てた手を向ける。

 

「魔女との戦いで汚名挽回して見せるからね! 杏子!」

 

「へっ! 期待してるぜさやか!」

 

 二人が仲良くしているのを見て、ホッとした。

 彼女たちは相性がいいのだろうと頷くマミ。

 そしてついでにと思い言っておく。

 

「美樹さん、汚名は挽回しないで返上するものよ」

 

「え!?」

 

 さやかのそんな言葉で、その場が和んだ。

 やはりみんな笑顔が良いものだと頷くマミが、ユウの方を向く。

 全員が和気藹々と喋ったりしている中、一人無表情のユウだが、つまらないわけではないのだろう。

 

『楽しいから安心して』

 

 マミが話す前にメモ帳が持ち上げられた。

 それを見て頷くと、皆の輪の中に入るマミ。

 セラがお茶を飲みながら疑問を口にした。

 

「そういえば杏子はなにをあんな荷物を?」

 

 その疑問はマミも同じく持っている。

 いろいろあったので言わなかったがついでに聞いておこうと思い杏子の方を見た。

 少し焦っている様子の杏子が、背後にある大きなリュックを持つ。

 

「えっ、こ……ここに住んで良いんだろ? マミが言ってくれたんだよな?」

 

 そんな言葉に、素で忘れていたマミも内心焦る。

 けれどそれを表に出すとセラになんと言われるかわからない。

 『物覚えまで悪くなりましたかこの若年性痴呆キイロ虫!』ぐらいは言われる。確実だ。

 

「もちろんよ、ごめんなさいね? 戸惑わせちゃった?」

 

 優しく言うマミ、杏子は後頭部を掻く。

 忘れたことを感づかれていないようだとホッとした。

 

「別に、ダメなら前みたいになるだけさ」

 

 そう言った杏子は少しさみしそうに見える。

 忘れていたのが本当に申し訳なくなったマミ。

 そっと立ち上がると、大量の皿に乗ったケーキを持ってきた。

 全員分をテーブルに置く。

 

「どうぞ」

 

 そう言うと笑顔で、いただきますと言う魔法少女の面々とまどか。

 セラとユウを見ると、そっとメモ帳が出てきた。

 

『いつも通り』

 

 マミの頭の中に久しぶりに妄想ユウが現れる。

 

「お姉ちゃんのお料理はいつもおいしいから♪」

 

 だらしない顔になるマミ。

 魔法少女とまどかは誰も見ていなくて安心だ。

 突如跳んできた手裏剣が、マミの額に刺さる。

 

「なにするの~」

 

 咎めるように言って手裏剣を抜く。

 セラはすでにケーキを食べ終えていた。

 美味だったのだろうけれど、なぜ刺されたのかわからない。

 マミは魔法少女プラスまどかを見る。

 

 みんなで騒いだりしながら数十分経って、一同は魔女狩りへと出た。

 四人揃っての初めての魔女狩りだが、アサミ以上の強敵なんていないだろう。

 まったく相手にはならない。

 

 相手は影の魔女。

 

「佐倉さん、触手の相手を!」

 

「了解だマミ!」

 

 マミの指示にて、結界のあらゆる場所から伸びる触手を切り裂く杏子。

 伸縮自在の槍だからこそできる“守る”戦い方だ。

 ほむらは相変わらずの瞬間移動の傍に爆弾をしかけるという方法もあったのだが、それはマミが止めさせた。

 理由は強くならないからだ。

 当然自分も、さやかも、杏子も、もちろんほむらも……。

 

 あの力だって魔力は消費するだろうから、いざ時が止められなくなった時の戦いも想定しようということでこうしている。

 風見野の魔女も片っ端から倒せば十分なグリーフシードは手に入るだろう。

 ワルプルギスの夜との戦いに備えるには十分だ。

 

「暁美さん!」

 

 マミの声にて、ほむらは迫る影を斬り道を作る。

 左手にあるのは大きめのサバイバルナイフ。

 右手には拳銃を持っていた。最大限体を使う戦い方だろう。

 

「美樹さん!」

 

「任せてください!」

 

 大きな返事が聞こえた。前方の敵をマミとほむらが片付ける。

 さやかが地面に両手両足をつけると、あたりに衝撃波と放ち跳ねた。

 素早い動きで敵に近づき、その剣を振り上げた瞬間―――真下から伸びた黒い影がさやかの腹部を打つ。

 上空に跳んださやかが体勢を整えるが、その瞬間複数の触手がさやかに伸びる。

 

「……っ!?」

 

 さやかが剣でそれらを防ごうとするが、間に合わない。剣をもう一本出して振るのも間に合わないだろう。

 その触手がさやかの腹を貫こうとした瞬間、目の前の触手が弾丸に阻まれた。

 さやかが驚愕する。

 

「早くしなさい」

 

 背後から声が聞こえる。

 そんな声に頷くと、さやかは空中で魔法陣を展開。

 

「サンキューほむら!」

 

 自分を手助けしてくれた“仲間”にそう言うと、さやかは魔法陣を蹴った。

 すさまじいスピードで影の魔女へと向かうさやか。

 だが魔女もただでやられはしないということ、大木のように枝分かれした巨大な触手をさやかへと伸ばした。

 

「久しぶりのティロ・フィナーレ!」

 

 聞きなれた声と共に、放たれた巨大な銃が触手を吹き飛ばす。

 マミの方を向けばウインクが帰ってきた。

 

「(マミさん、片足千切れてます)」

 

 何も言うまいとさやかはそのままツッコミ、魔女の体を切り裂く。

 倒れた魔女に止めを刺そうと、再び剣を振り上げた瞬間、あたりから触手が伸びてきた。

 だがその触手もさやかを傷つける前にすべて阻まれる。

 

「ハッやらせるかよ!」

 

 杏子がさやかの背後に立つ。

 

「ありがとう杏子! でぇぇい!」

 

 倒れた魔女を切り裂いたはずだったさやかだが、影は即座に動く。

 凄まじいスピードで、すっかり足も元に戻したマミの方へと走る。

 回避しようとするマミだったがすでに遅い。

 完全に油断していた。

 

「ぐっ!?」

 

 くぐもったようなマミの声と共に、マミの体に触手が回る。

 足や腰を掴む触手、魔女の本体がまっすぐのマミの体にぶつかった。

 マミの上半身と下半身がわかれて、上半身が吹き飛んだ。

 

「また私の下半身がぁっ!」

 

 吹き飛ぶマミの上半身が地面を転がる。

 さらに左腕まで吹き飛んでとんだ状況だ。

 

「痛い! 死ぬ! 死なないけど!」

 

 左腕と下半身が吹き飛んだマミが叫ぶ。

 自分の左腕を持った杏子が駆け寄ってくる。

 さやかとほむらもそばに寄ってきた

 

「なんで倒せないの!?」

 

 驚愕するほむら。そんな魔法少女たちの横に現れたのは自称魔法の使者の契約者。

 白いしっぽを振りながら現れたキュゥべぇ。

 

「あれは……魔女に細工をくわえたね、夜の王。やってくれるよ」

 

 その名を聞いて、わずかに顔をしかめたマミ。

 

「まったく、夜の王ねぇ。私の下半身は?」

 

「影に取りつかれてる」

 

「え~」

 

 上半身をほむらに抱えられて、持ち上げられた彼女。

 マミの倒れた下半身は影ががっつりと寄生していた。

 ドロドロの影に自分の下半身が巻き込まれている部分を見ると良い気分はしない。

 

「マミさん!」

 

 遠くで見ていたはずのまどかが走って近寄ってくる。

 危ないと言うほむらの言葉も聞かないようだ。

 心配するようにマミを見ている。

 

「大丈夫よ鹿目さん……私たちは勝つわ。それはもうカッコよく!」

 

 そんな言葉に、まどかは笑顔で頷く。

 説得力のある真面目な表情のマミにより、四人の背後に下がるまどか。

 魔法少女たちの前に座るキュゥべぇ。

 

「見たところあれは普通の魔女と耐久力もなにもかも違う。気を付けてくれ」

 

 嘘は言わないとわかっているほむらがそう。と頷く。

 それを見て杏子とさやかもそれを信用した。

 三人、杏子とさやかとほむらが少し難しい顔をする。

 

「無茶かもしれないけど、少し手伝ってくれる?」

 

 そんな中、マミが提案した。

 全員その作戦を聞いた瞬間頷いた。

 さやかと杏子が、武器を構えて敵の方を向く。

 

「いくよさやか!」

 

「任せて杏子!」

 

 二人が地を蹴ると同時に、戦闘は再開された。

 触手と槍と剣が交差する戦場を見て、マミはほむらにそっと語りかける。

 

「貴女にしかお願いできないことがあるの……付き合ってくれる?」

 

 何かあるというのを察してほむらは、頷く。

 じゃあ、と言ってマミが小さな声で言う。

 戸惑っているようなほむらが、じき頷いた。

 

 マミが突如、大きな声で叫んだ。

 

「美樹さん! 佐倉さん! 私の下半身の結合部分を露出させてもらえる!?」

 

 その言葉に、さやかと杏子が触手を切り裂きながら応える。

 マミの下半身はほとんど影に覆われていた。

 

「任せとけよ! あたしを……あたしたちを誰だと思ってやがる!」

 

「巴マミの弟子ですよ!」

 

 そんな答えに笑みを浮かべたマミが、頷いた。

 そばに置いてある腕はそのままのようだ。

 『時間停止は使わないで』というマミのお願いを聞き入れるほむらは、一瞬の隙を逃さぬようにと目を細める。

 その瞬間、さやかの剣が触手を切り裂き、杏子の槍が影を切り裂いた。

 

 マミの下半身の結合部が見える。

 

「今だ!」

 

 杏子の叫びに、ほむらが走りだした。

 何かを決めたかのような表情で、マミを抱えて影へと近づいていく。

 

「さぁ暁美さん!」

 

 マミの言葉に、ほむらが口を開いた。

 

「集いし力が大地を貫く槍となる。光差す道となれ!」

 

 影の触手が切り裂かれるが、そんなほむらの前口上に杏子が目を見開く。

 遠くのまどかにも聞こえていたようで、驚いていた。

 

「えー」

 

 恥ずかしくて死にたくなるほむらだったが、もうこの際どうにでもなれだ。

 ほむらはマミの上半身を下半身の断面に押し付けた。

 輝くマミの体の結合部。ほむらはバックステップで素早く下がると、マミの左腕を拾う。

 

「砕け! ドリル・ウォリアー!」

 

 ほむらの叫びと共に、最後のパーツとも言えるマミの左腕が投げられた。

 その左腕がマミの上半身の結合部に付くと、そこもまた輝く。

 

「ドリルランサー!」

 

 マミが叫ぶと、左腕にドリルが現れる。

 もちろんリボンでできたドリルなのだが、いつもと技名が違う。

 明らかにイタリア語ではない。

 

「はあぁぁっ!」

 

 ドリルが突き刺さった影は徐々に形を崩していき、マミの体が地面に落ちた。

 抜けたドリルをすぐさまリボンに戻すと、強化した足で地面を蹴る。

 上空へと退避したマミを、無数の触手が襲う。

 しかし、その触手がマミを襲うとした瞬間、マミの手のリボンがその触手を切り裂いていく。

 

「リボンにはこういう使い方もある!」

 

「ねぇよ!」

 

 杏子のツッコミなんて知らんふりで触手を切り裂いていく。

 地上にいるさやかが、剣を二本持つ。

 自慢のスピードでのラッシュ、影はバラバラにされていき、同時に触手攻撃のスピードも弱まる。

 

「ハアァァッ!」

 

 切り裂かれた触手たち。

 さやかは手に持つ剣二つを敵に突き刺すと、柄についているトリガーを引く。

 柄から離れて飛ぶ刃。それは影を突き刺したまま、壁に突き刺さり貼り付けにする。

 さやかが開いて手を影に向けた。

 

「爆ぜろ!」

 

 グッ、と拳を握りしめた瞬間、壁に突き刺さった刃が爆発。

 同時に影の残骸があたりに飛び散るが、ずいぶん離れた場所にいる魔法少女たちにかかることもない。

 そのまま、結界も同時に崩れはじめた。

 

「ちょっと私良かったんじゃない?」

 

 笑うさやかの横に立つ杏子。

 

「調子のんじゃないよ後輩」

 

 隣にいる杏子は嬉しそうでもある。

 やはり後輩の成長はうれしいものなのだろうか?

 結界が崩れて周囲は港に戻る。

 

「影の魔女、恐ろしい敵だったわ。次戦っても勝てるかどうか……」

 

 どこか遠くをみながら言うマミ。

 特に気にする様子の無い様子の面々、ほむらとまどかが三人の傍に歩いてくる。

 マミがほむらを見てグッ、と親指を立てた。

 

「やったわね! 私たちのキズナパワーの勝利よ!」

 

「そう言えばさっきのなんですか?」

 

 そんなさやかの質問に、マミはさやかの方を見る。

 じっと見て頷くマミ。

 

「シンクロ召喚よ」

 

「えー」

 

 まどかが訳が分からないと言う風に言葉を上げる。

 しかし、あまりのドヤ顔にどう答えるかで悩んだ結果、ほむらをみることにした。

 ベテランの魔法少女であるほむらなら、さきほど自ら前口上をしたほむらならわかるはずだ。

 しかし、ほむらはマミに言われてやっただけだ。

 言わされた意味はいっさい不明。

 

「やっぱシンクロ召喚は良いわね」

 

「さっきはビックリしたけどやっぱシンクロ召喚は良いな!」

 

 マミと杏子の間に流れる古い友人オーラ。

 それになんだか気に入らなさそうな目つきをするほむら。

 まどかとさやかはわけがわからない。というようだ。

 

「さて、今日はこんな感じかしらね?」

 

 そう言ったマミの言葉を聞いて頷く面々

 まどかがそんな様子を羨ましそうに見る。

 

「まどか、魔法少女になってはだめよ?」

 

「あっ……うん」

 

 なんだか腑に落ちないと言った様子だ。

 それもそうだろう。事情も何も聞かされずただなるなと言われているのだから、多少は腑に落ちない。

 ほむらはそれも全て見越しているのだろうけれど、と思いマミはため息をつく。

 

「さて、じゃあ帰りましょうか……暁美さんは鹿目さんを送って行ってくれる?」

 

 手を叩いてそう言うマミ。ほむらは少し驚いた様子でマミを見る。

 そっと頷くマミに、ほむらは困ったような顔をした。

 

「(これもガイアからの試練よ!)」

 

 マミは心の中でほむらを励ます。

 しかしてそれがほむらに届いているかと言うと……そんなことはないだろう。

 いざ言われてしまうと仕方がないので、ほむらは頷く。

 まどかとほむらの二人は帰路へとついてマミたちから別れて行った。

 

「おいマミ、どういうつもりだよ?」

 

 杏子の言葉に、フッと笑うマミ。

 二人だけを先に帰らせたことを言っているのだろう。

 もっともベテランであるマミと、杏子だけが気付いている。

 冷静なほむらならばわかるのだろう。けれどさっきのは焦っていたせいで気づいていない。

 メガロの気配を感じる。

 

「さぁて、私たちは街の人たちを助けるために暗躍、といきましょうか?」

 

「普通の人間じゃないからこそ、できることを……だね!」

 

 杏子は八重歯を見せて笑う。

 軽やかに槍を回転させて、両手で槍を構えた。

 さやかは二刀の剣を召喚する。

 

「どれだけ誰かを助けても、救っても、誰にも気づかれず……なんの見返りも与えられない道。だからこそともに生きましょう?」

 

 そう言うのはマミ。杏子が肩に槍をかついで呆れたように笑う。

 魔法少女だからこそ、死地へと行く魔法少女だからこそ仲間としていられる。

 どんな最後を迎えようと、杏子やさやか……もちろんほむらの傍にもマミはいるのだろう。

 彼女だけが自分たちの死を見送ってくれる唯一の存在。

 

 だからこそ、彼女の“ともに生きましょう”という言葉の重みも理解できるのだ。

 

 さやかは、片手に握った剣を見る。

 その剣は銀色に輝く。

 

「(私が……恭介を……みんなを、救うんだ)」

 

 頷いたさやかがマミを見た。

 その眼にすでに迷いは無い。迷いなどあるはずがない。

 さやかが二刀流をしっかりと持つと、杏子は槍を構えた。

 マスケット銃は出さない。マミはリボンを手に巻くと、両手をぽきぽきと鳴らせる。

 

「さぁ! 私たちの満足はこれからだ!」

 

「サティスファクションだな!」

 

「えっ! なにそれ!?」

 

 さやかのツッコミも無視して、走り出したマミと杏子。

 この二人についていけるのだろうか? と思いながらも、自分の笑みを止められないさやか。

 上条恭介がどうあろうと、すでにさやかには関係ない。

 自分は自分の道を行く。腕を治したのは幼馴染として、あのバイオリンに惚れた者としてだ。

 

 彼と同じ道を歩むことなんてできない。

 魔法少女になったときからきっと無理だったのだ。

 それでも……。

 

「後悔なんてあるわけない」

 

 二人を追って走りだすさやか。

 

 それでも……彼女たちと歩むことができるのだ。

 魔法少女たち。自分たちしか知らない世界で、自分の大事な人たちと共にいく。

 その生き方しかできないのだから、選択の余地なんてない。

 だからといって絶望する必要はない。

 

 きっと自分はこの状況で満足するだろう。

 杏子がいてマミがいて……まどかだっている。

 

 なら―――後悔なんてあるわけがない。

 




あとがき

お久しぶりです!
さて、今回はシンクロ召kげふんげふん……さやかが本当の意味でふっきれた話でした。
つまりさやかの件は解決。ですかね!
次はほむらやまどか、さらには夜の王の話などまだまだ話は待ってます。

ではまた次回をお楽しみに!
感想お待ちしています♪


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17「ご察しの通り、中二病です」

 あれから一日が経った。

 今日も変わることなく、マミは朝御飯を作ってちゃぶ台に並べる。

 ここ一ヶ月ですっかり賑やかになった食卓を見渡すと、三人。

 杏子、セラ……そしてユウ。

 ここが、前までと同じ一人ぼっちで泣いていた家とは到底思えない。

 

「いただきます」

 

 四人で声をそろえて言うと、食事を始める。

 朝食を食べながら『そう言えば……』とマミがつぶやく。

 

「ベランダに矢が落ちてたんだけどあれなに? 儀式?」

 

 そう聞くと、おそらく関係者であろうセラがそっと茶碗と箸をおいた。

 マミと静かな雰囲気を見に纏うセラが近くにあったティッシュで口を拭く。

 雰囲気に呑みこまれそうになるマミが、ゴクリと喉を鳴らした。

 

「……矢文です」

 

「今時っ!? なに吸血忍者!?」

 

「いちいち騒がないでください気持ち悪い」

 

 そんな言われようにくじけそうになるマミ。

 ふつうにその会話を聞いている杏子に内心恐怖すら感じる。

 セラはついでというように『前マミに預かってもらった眼鏡を使ったと言うわけです。ご苦労さまでした』とメガネを軽く持ち上げて見せてきた。

 なんだかんだで嫌われていないのだろうけれど、自称豆腐メンタルのマミには厳しい毒舌っぷりだ。

 

 ふと、杏子への連絡手段が無いなんてことに気づく。

 テレパシーだけというのも不便で仕方がない。

 

「佐倉さん、今日は午前授業だから一緒に生活用品でも買いに行きましょうか?」

 

 そう言うと、杏子が驚いているようだった。

 マミにとってはそれと言って特別なことでもない。

 ユウもセラも同じくだった。生活用品を買いに行くことが無かったわけでは無い。

 ただセラの場合は持ってきたものが多い。

 

「あのリュックの中身って服とかでしょ? 新しい服も、生活用品も必要だし……なによりも携帯ね」

 

 そう言うと、杏子は嬉しそうに頷いた。

 横から袖を引っ張られる。

 無論ユウだ。

 そちらを見るとメモ帳が持ち上げられる。

 

『時間』

 

 書かれた文字を見てから時計を見た。

 もう待ち合わせの時間だと、急いでご飯をかきこむとカバンを持って立ち上がる。

 口の中のものを全てお茶で流し込むと、マミは玄関へと走った。

 

「そういえば、セラとユウも杏子と一緒に校門前で待っててね!」

 

 出て行ったマミ。

 杏子はしばらく黙っていた後『え?』とつぶやく。

 二人きりだと思ったのだろう。

 セラとユウは行く気満々のようで、杏子は何も言えないまま頭を抱えるばかりだった。

 

 

 

 

 

 マミは走っていた。道の曲がり角を曲がると、そこには仁美。

 待ち合わせの時間には間に合ったというように頷くと、歩き出す。

 他愛も無い話をしながら歩いていると、マミが何かを思いついたように話しだした。

 

「夜の王について聞きたいのだけれど……」

 

 だが、仁美はそんな言葉に眼を細めるばかり。

 語らない気は無いのだろうけれど、あまり語りたくは無いと言った表情。

 

「ユークリウッド様に黙って言うのは非常に忍びない話です。それでも聞きますか?」

 

 いつものほんわかとした雰囲気をした仁美はいない。

 冥界人である『シーウィード』と呼ばれる者だけがそこにいた。

 その威圧感。マミにとっては大したことも無いけれど、確かに凄みは伝わる。

 語れと言えば語ると言うことだろうけれど、マミは首を横に振った。

 ユウに聞かなければならない話ならば、いずれ聞くだけだ。

 

「そう言うと信じていました」

 

 なら言う気など最初から無いと言えば良いのに、と思うも言わない。

 仁美なりに自分を試したのだろう。

 前方に、見慣れた三人を見つける。

 マミが軽く手を振ると、三人は手を振りかえしてきた。

 元気そうな青髪の少女を見て、仁美も嬉しそうである。

 

「(鹿目さんのことは……終わってなさそうね、暁美さん)」

 

 心の中でつぶやいて、マミは溜息をつく。

 一難去ってまた一難どころではない。難が溜まっていくばかりだ。

 消化も一苦労。まぁなにはともあれさやかの件だけでも片付いて上々。

 ほむらにもいずれは話してもらいたい。

 何者なのかということや、どうして鹿目まどかを魔法少女にしたくないのか……。

 

 いずれで良い。自分が彼女にとってそれを話すだけの価値の人間になれれば、良いのだ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 恋愛に関しての難題とは、相手が自分の好意に気づいていないというのが一番の問題だ。

 ある一人の少女の色恋沙汰が片付こうとも、そういう恋愛というのは問題の種が消えることは無い。

 だれかのそれを片付けたところで次は自分だ。

 

 いわゆる朴念仁とやらを好きになればその時点で壁は高い。

 彼女、佐倉杏子もそんな壁に挑む挑戦者の一人である。

 

「えへへ♪」

 

 そんな気分良さげな声は後ろからだ。

 見滝原にある巨大なショッピングモールにて、歩いている杏子。

 その背後にはセラ、まどか、ユウ、ほむら。そしてさらに後ろにマミとさやかである。

 さやかはマミの腕を掴んでいた。

 

「み、美樹さん、ちょっと近すぎない?」

 

「いえいえ! 弟子、いや舎弟としては常に傍に居ないと!」

 

「やめて!」 

 

 物騒なことを言うさやかを止めるマミ。

 周りの一般人からは奇怪な眼で見られている。

 魔法少女の面々、それにマミの家族であるセラとユウ、そしてまどか。

 アサミのことでかかわった全員で歩く。

 なぜだかマミにべったりのさやか。

 

「それにしても、屋根があって助かったわ」

 

 ゾンビであるマミに日差しは強烈な攻撃だ。

 ふと、マミの隣にいたさやかがマミの腕を引いた。

 そちらを見たマミが立ち止まる。

 

「どうしたの?」

 

「あの…腕組んで良いですか!?」

 

 ブッ、と吹き出すマミ。

 突然のことについていけないマミが、少しあたふたとする。

 頬をかきながらマミの顔を見るさやか。

 

「おいマミ!」

 

 大きな声に、そちらを見るマミ。

 杏子が気に入らないと言う顔をしていた。

 

「なにしてんだよ……?」

 

 機嫌が悪いのはわかりきったことだ。

 なぜそんなに不機嫌なのか、まったくわからない。

 

「いや、それは……」

 

 相変わらず局面にしていまいちハッキリしないマミ。

 近づいてくる杏子が、マミの片腕を取る。

 

「あの店に行くぞ」

 

 不機嫌そうな声音で、マミの手を引いていく杏子。

 同じく引き摺られていくさやか。

 面々は店へと入って行った。

 

 

 全員で遊びに行くと言った時、マミは自分で『私のおごりよ!』なんてことを言ってしまった。

 今ではそれを後悔している。目の前で行われるファッションショーは見ていて良いものだ。

 しかし、それと比例するように財布から去っていく者も居た。

 

「うぅっ、諭吉さん何枚かかるんだろう……」

 

 一応お金は持ってきておいて良かったと安心する手前、いくらかかるのかと肝を冷やす。

 目の前で広げられるユウ、杏子、さやか、ほむら、まどかのファッションショーはかなり良いものだ。

 こうなったら自棄だと、マミもいろいろ似合いそうな服を用意するのだった。

 

 一方、セラは端の方にあるコスプレ用のメイド服を見ている。

 

「似合うんじゃない? 来てみたらぁ?」

 

 いつも一方的に言われるセラに仕返しのチャンスと言わんばかりに言うマミ。

 さすがのセラも焦っているようだった。

 

「そしてっ! これもつける!!」

 

 マミが取り出したのはどこから持ってきたのか猫の手と猫耳。

 

「お断りしますクソ虫」

 

「はやっ!」

 

 冷めた眼をしたセラがマミを睨んだ。

 

 その数分後、マミがまどかたちと服を見ているのを見計らい、セラは鏡の前に立つ。

 猫耳をゆっくりつけると、恥ずかしそうにしながらも両手を猫のように頭の部分に持っていく。

 

「にゃ、にゃぁ……っ!?」

 

 背後にはマミ。ニヤニヤした顔でセラを見ている。

 良いものを見たと言う気になっているマミの両目に、手裏剣が刺さった。

 

「にゃぁ~!!? 目がっ! 目がぁぁっ!!」

 

 案の定悶えることになったマミ。

 眼球が再生するまで、些か時間がかかることだろう。

 

 

 

 

 

 大きなベッドの前、バスローブを着たさやかとマミがいた。

 本来ならばさやかより少し背の低いはずのマミだが、さやかより少し大きい。

 マミはいつもしないような表情で、さやかの頬をそっと撫でる。

 

「ま、マミさん……」

 

「マミさんじゃないでしょ?」

 

 そっと、近寄ってくるマミがさやかの耳元で囁く。

 ほんのりと頬をそめたさやかが小さくつぶやいた。

 

「ま、マミ……」

 

 そして、二人の唇は近づいて行き―――いき―――。

 

 

 

「だあぁぁぁぁっ!!」

 

 下着売り場の真ん中で大きな声を上げるさやか。

 自らの頭をボサボサとかく。

 真っ赤な顔をするさやかの目の前にはド派手な下着をまとうマネキン。

 

「(なななっ! なんでここで恭介じゃなくてマミさんなのよ!? どう考えたって……があぁぁっ!!)」

 

「なにやってんだ?」

 

 隣にやってきた杏子がツッコム。

 焦って言葉にならない言葉を出すさやかを見てから、マネキンを見る。

 それを見た杏子はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

「例の男かぁ?」

 

「違うわよ!」

 

 そう言うが、杏子はケラケラと笑うのみだ。

 なんだかそれが悔しくもあるが、そう言われてホッとしている自分が居る。

 妄想になぜかマミが出たなんて、杏子並びにもろもろには口が裂けても言えないことだ。

 

 

 

 

 

 そして、お昼頃になった時、全員が歩いている中、マミがただ一人大量の荷物を抱えていた。

 のっそのっそと全員の後ろを歩くマミは不満そうな顔をする。

 携帯電話を買ってもらった杏子は上機嫌と言った様子で先頭を歩く。

 

「なによもぉ、少しぐらい持ってくれても……」

 

 まどかやほむら、さやかがマミの方を向く。

 

「持ちましょうか?」

 

 そんなまどかの言葉。

 いざあんなことを言ったはいいものの、マミ自身とて後輩に物を持たせるのに抵抗はある。

 頼りにされたい先輩としては物を持っていてあげるぐらいするべきだろうと、大丈夫だと答えた。

 マミはおとなしく物を持っている。

 前の方を歩くユウが、メモ帳を持ち上げる。

 

『空腹』

 

「お姉ちゃん、ユウねぇ? お腹ペッコペコなのぉ」

 

 もちろんマミの頭の中の妄想ユウの言葉であった。

 後輩の前ということも忘れ、緩んだ顔でマミが言う。

 

「じゃあご飯にしよっかぁ~」

 

 そんなマミの顔を見ているのが誰も居ないと言うのが幸いだろうか。

 

「そう言えばお腹減ったね」

 

「なににしましょうか?」

 

 セラやまどかたちが楽しそうに話す。

 ご飯をどうするかと話をしながら歩いていく。

 少なからず、こう見ると彼女たちはただの女子中学生だった。

 

 

 花屋で働いている青年が、ふと歩いているマミたちを視界に入れる。

 そして、視線の先でユウを捕らえると……静かにその糸目を開いた。

 金色の眼が鈍く輝く。

 

 

 

 

 

 牛丼屋の店内で、まどか、マミ、さやか、ユウ、セラ、ほむら、杏子。計七人が並んで座る。

 目の前にならぶ七つの牛丼を見て、マミが複雑そうな表情をしていた。

 元々遊びに行くような友達がほとんどいなかったマミとしては、こうして大勢で遊びに来るなんてめったにないことだ。

 しかし、自分が求めていた遊びは違う。

 

「(こう、おしゃれなレストランで、とか……ファミレスでドリンクバーで三時間、とか……)」

 

 マミの理想と些か違ったこともあり、戸惑っている。

 

「ユウ、本当にここで良かったの?」

 

 気を使うと言うのも含めて、着てみた。

 全員不満は無いようで、むしろまどかとほむらは初めてなのかそわそわとしている。

 杏子は、良く牛丼を食べたりしていたのだろうか? 小慣れていた。

 

『問題ない』

 

 なら良いかと、全員が割り箸を持って手を合わせる。

 

「いただきます!」 

 

 七人の揃った声。

 同時に箸を割る音が七つ。

 マミが牛丼へと手を伸ばそうとした瞬間、隣のまどかが悩むような表情をしていた。

 ソレが気になり、手を止める。

 

「どうしたの?」

 

「牛丼、こう……がっつり行っていいんですか? お肉とご飯別々にするので、いまいち食べ方で悩むというか……」

 

 なんだそんなことかと、笑う。

 さすが、牛丼屋で牛丼を食べる経験なんて今まで無かったのだ。

 魔法少女稼業が忙しいマミは、ユウが来る前などは良く来ていたものだと思い出す。

 なつかしい気持ちになりながらも、マミはまどかに言う。

 

「普通で良いのよ、貴女が思うように……食事って大抵そういうものよ。相当じゃないかぎり誰も何も言わないわ。でもぐちゃぐちゃにかき混ぜるのは牛に対する冒涜だから注意ね」

 

 そう言われると、まどかはみんなと同じように牛丼を食べ始める。

 まどかの方を見ると、全員が見渡せた。大勢で食べる牛丼。

 たかが牛丼ではあるが、こうみんなで食べるとありがたいものに感じられた。

 

「同族意識ですか?」

 

「セラ、あなたねぇ。胸で言ったら貴女の方が牛並よ……」

 

 割り箸を折りたくなる気持ちを押さえながらも、言い返した。

 

「私は腹のことを言っているのです」

 

 再びマミが怒り出す。まぁ、本気で言っているわけではないとわかっているから本気で怒りはしないのだろう。

 そんな家族間の冗談を笑いながら見る面々だったが、ユウとほむらだけは笑顔で見ていない。

 ユウは相変わらずの無表情だが、ほむらはどこか気に入らないと言った表情だ。

 

 

 

 

 

 昼食を終えると、七人はショッピングモール内にあるゲームセンターへと向かった。

 それぞれ遊んでいる面々をよそに、マミは近くのベンチに座っている。

 たくさんの荷物を横にベンチに座るマミは、難しい顔をしながらUFOキャッチャーをやる杏子を見ていた。

 

「やはり貴女は誰でも良いのね」

 

 気づけば、一つ離れたベンチに座るほむら。

 腕と両足を組んでいた。

 

「なんの話をしているの?」

 

 いつもと同じく高揚の無い声だがわかる。

 数週間ずっとそばに居たのだからわからないはずがない。

 この暁美ほむらは、少し不機嫌だ。

 

「自分と一緒に居てくれれば誰だって良かったんでしょって話よ」

 

 冷めた目だ。始めて会ったあの時のような目をしている。

 いや、それは今に始まったことではない。

 今日朝見たときからずっとそうだった。

 昨日まではそうではなかったはずだ。

 

「暁美さん、貴女……」

 

「お~い! マミさん!」

 

 走ってきたのはさやかだった。

 問答無用でマミの腕をつかむ。

 

「ゲームしましょうよ!」

 

「えっ!? ちょっ、暁美さん! 荷物よろしく!」

 

 そのまま連れて行かれてしまうマミ。

 ベンチに一人になったほむらが、腕と脚を組むのを止める。

 ほむらは一度だけ、自らの指につけられているソウルジェムを見た。

 

 

 

 その後、荷物をロッカーに入れてからほむらも皆の輪へと入った。

 一度も笑顔は見せなかったけれど、それにも慣れている面々は特に何かを言うわけでは無い。

 全員それなりに普通じゃないのだから、当然と言えば当然だろう。

 それから全員でプリクラを取る。

 

「みんなとプリクラ! 私もう一人じゃないのね! もう何も恐く―――」

 

『それ以上いけない』

 

 ユウに止められたマミは不思議そうに頷いた。

 とりあえずマミにとっては初めてなのだ。こうして沢山の友達と遊びに行くことなど、基本的に一人で魔女狩り以外することがなかったマミ。

 いつ魔女や使い魔が出るかわからないこともあって事情を知らない相手と遊びに行くのも問題がある。

 だからこそ一人だったが、このメンバーが一緒ならいつ抜けても問題無い。

 安心して遊べるというものだ。

 最近はいいことづくめで逆に恐さすらあるが、今はただこの場を楽しめばいい。

 

 

 

 

 

 夜、傍にある観覧車に乗った後、外はすでに暗くなっていた。

 近くの広場、ベンチに腰かけているユウとまどか。

 木製のテーブルの上、UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみで遊ぶ二人。

 

 少し離れた場所で立って話をしている杏子、さやか、セラの三人。

 マミは飲み物を買いに行くとそこから離れた。

 ほむらもその後を追ってすぐに離れたので、今は三人きりだ。

 

 

 

 暗い中、数少ない明かりである自動販売機の前に立つマミ。

 財布を出して小銭をいくつか確認すると、千円札を自動販売機に入れた。

 足音と共に、ほむらが現れる。そちらを見たマミが笑みを浮かべた。

 

「暁美さんも飲む? 何が良いかしら」

 

「巴マミ、貴女は一人ぼっちの溝を埋めるならだれでも良いの?」

 

 マミの笑みが、凍る。

 何を言っているのかと、驚いているようでもあった。

 少し前に自分のために泣いて、自分にほほ笑んでくれたほむら。

 

「誰でも良いのでしょう? 何度やりなおしても貴女は一人。だからこそ私は貴女を諦めたくなかった―――だから諦める前は貴女に手を差し伸べた。貴女は本当に可愛い人だったの、一人ぼっちだから私が少し手を差し伸べただけで貴女は私へと依存した……だけどそんな貴女は私やまどかをかばって死んでしまう。無理なことだったのよ、貴女とまどかを助けるなんてこと!」

 

 ここまでほむらが話し続けるなんてなかったことだ。

 それに驚きながらも、頭でほむらの言葉を整理するマミ。

 あの時、自分が食われた時の言葉も思い出す。

 

「だからあきらめた。貴女への敬愛もすべて忘れて、まどかのためだけに戦うことを決めた……けどまたここで諦めきれなくなった。だから私に依存していた貴女を私はまた守ろうと―――そう思ったのに! 思ったのに! 貴女は私と一緒に“いてくれた”のなんて最初だけじゃない。わけがわからないわ!」

 

 そんな言葉の数々をマミは頭の中で整理し終えた。

 後半の言葉で、全て理解できる。おそらくではあるが、マミの感は間違っていないだろう。

 

「暁美さん、貴女まさか……」

 

「っ!?」

 

 瞬間、ほむらは無表情へと変わった。

 まるで一瞬で頭を冷静にしたようである。

 数分は経っているんじゃないかという変わりようにわずかに戸惑うマミ。

 しかしすぐに気づく。マミが思っていることが確かならば“ソレ”は……可能なのかもしれない。

 

 

 

 ぬいぐるみで遊ぶユウと、一緒になって遊ぶまどか。

 ふと、まどかもユウもいじっていないはずのぬいぐるみが、みんなで撮ったプリクラの上に置かれた。

 

「たまたま散歩していたら君に会った」

 

 声が聞こえる。優しそうな声だが、どこか冷たい声。

 そんな青年の声に、まどかが反応するが、それ以上にユウが反応した。

 

「やぁ、不幸な偶然だね。ユークリウッド」

 

 見上げるユウとまどかの視界に映ったのは薄茶色の髪をした青年。

 少しばかり長い髪を一本に縛って前に垂らしている。

 優しそうな表情をした冷たい青年は、ほほ笑んだ。

 

 

 

 鋭い瞳が、マミを貫く。

 今さら言い逃れもできないことはわかっている。ということだろう。

 溜息をついたマミが苦笑した。

 

「とりあえず今は忘れておきましょう」

 

 そんな言葉に、ほむらは驚愕する。

 

「貴女が話したい時に話してほしいの、別にいつでも良いから」

 

「……貴女はいつでも優しいのね」

 

 いつでもなんて言葉に、マミは笑ってしまう。

 もう隠す気も無いのはわかる。

 だが深くは言うまいと、自動販売機のボタンを次々と押していくマミ。

 腕にたくさんの飲み物を持つと、歩き出す。

 

「持つわ」

 

 いつも通り淡泊な言葉。それに頷いたマミ。

 ほむらがいくつかの飲み物を持って歩く。

 黙ってある二人。

 

「(時をかける少女暁美ほむら。そうねこれは運命の女神(ディスティーノ・デーヴァ)の定めた道、数多の私という可能性の中、特異点たる私が最後に道を切り開く。それがガイア、貴女が私にかす試練ね!)」

 

 そんなことを思っているマミだが、ほむらは悟っていないのだろう。

 内心マミは舞い上がっている。

 理想的な主人公状況なのだろう。

 たった一人特別な存在。特別ではないけれど特別な存在だ。

 

 

 

 みんなが集まっている場所へとやってきたマミとほむら。

 ユウたちとは少し離れた木製のテーブルの上に飲み物を置く。

 辺りを見渡すほむら。

 

「まどかとヘルサイズさんは?」

 

 少し離れたユウとまどかの座っていたテーブルを見ると、そこにはぬいぐるみが散乱しているだけだった。

 静かな風が、マミの肌を撫でて、髪をなびかせる。

 プリクラが落ちていた。

 マミとセラとユウと杏子で撮ったプリクラ。

 

 落ちているソレを見て、マミは黙ったまま、唖然としていた。




あとがき

さて「これはゾンビですか?」の方のストーリーもかなり進んできましたよ。
ここはまどかマギカで言うさやかが魔女化するはずの日でした。

あとマミさんをデブって言った奴屋上な

これからほむらの葛藤やセラの葛藤など、そしてユウと共に消えたまどかは一体!?
というこです。さて、次回もお楽しみに!!

感想お待ちしてます♪


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18「はい、それはビームです」

 観覧車付近、つまりはマミたちのいる場所の傍に建つ展望台の上に、ユウはいた。

 ユウだけではない。まどかと、例の青年も一緒だ。

 回る観覧車を背景に、三人がその場に立つ。

 青年が笑みを浮かべると、ユウはまどかを後ろに下がらせる。

 ユウとまどかの視線の先に立つ青年が口を開いた。

 

「ずっと……ずっと会いたいと思っていたよ」

 

 歯ぎしりをするユウが、右手に握ったボールペンに力を込める。

 ユウの右手にあるボールペンは巨大な鎌へと形を変えた。

 少しひるむまどかを背に、ユウが駆けだし両手で鎌を振りかぶる。

 

「っ!」

 

 小さな、息ともとれるような掛け声と共に鎌は振り下ろされた。

 すでにそういうことにも見慣れたまどかは顔をそらさずとしっかり見ている。

 ユウが鎌を青年に突き刺すシーン。しかしなんとなく理解できるまどか。

 

「いいのかい、そんなに興奮して……なにをしに現れたって言いたげな眼をしているね」

 

 笑う青年。間違いなく青年はゾンビなのだ。

 青年の問いかけに、そっと頷くユウ。

 

「今日はさぞかし楽しかったんだろうね……だから、ボクが君の前に姿を現すことになったんだよ」

 

 ユウは感情が少し揺れ動くだけで、この世界や自らの運命に影響を及ぼす。

 それによって現れた青年。

 

「楽しいという感情が君の心を揺さぶったときに、一番会いたくない奴が現れるなんて……皮肉なものだね?」

 

 青年から鎌を抜くユウ。

 まどかがユウの傍へと駆け寄って青年を見上げた。 

 糸目の青年は、まどかへと視線を動かす。

 

「そんなにボクに会いたくなかったのかい、ユークリウッド?」

 

 青年の糸目が開かれて、金色の瞳が現れる。

 その瞳は、真っ直ぐとユウを見つめていた。

 

 

 

 

 

 観覧車のすぐそばにある広場で、ユウの落としたプリクラを拾って見ているマミ。

 あたりに不穏な空気が広がる。さやかと杏子がいまいち釈然としない表情だ。

 ほむらに関しては、まどかが心配なのかしきりにあたりを見渡していた。

 

「もしかしたら、私の上の者の仕業かもしれません」

 

 そんな言葉に、眉をひそめるマミ。

 

「どういうこと?」

 

 俯くセラが、マミの問いに答える。

 視線を合わせないあたり、不安が拭えない。

 

「実は……ヘルサイズ殿を殺せと指令が下りました」

 

 目を見開いて驚くマミ。

 いや、マミだけではなく杏子も、さやかも、もちろんほむらもだ。

 一番マミたちと長い関係であるほむらなだけあって驚いている。

 

「なんで……なんでユウを殺せなんて指令がセラに下るの!? セラはユウを忍者の里に連れて行くのが目的だったんでしょ!?」

 

 セラの肩を掴んで問いただすマミだが、セラはただ視線をそらしていた。

 その紅い瞳にいつものような自信は無いように見える。

 

「それがなんでっ……ユウを殺すことになっちゃうの!!」

 

 いつもとはまったく違う。

 険しい剣幕でまくしたてるマミ。

 周りは唖然としていて、止めることなどできなかった。

 

 

 

 

 

 展望台の上にいる三人。

 ユウは大きな鎌をボールペンに戻してメモ帳に文字を書き込んだ。

 

『恨んでるの?』

 

 そんな問いかけに、まったく意味がわからないまどか。

 しかし青年は金色の瞳でユウを見たまま口を開く。

 

「そりゃそうだよ。僕は君のことを信じていたのに、これからも二人でずっと一緒にやっていけると思っていたのに……」

 

『それは無理』

 

 明確な拒絶だった。

 

「なるほどね、かつての仲間を殺したボクを君は許せないんだね。だから君は僕に“消えて”なんてつれない言葉をあびせたんだね」

 

 ユウはなにかにおびえるように、両手でメモ帳をにぎりしめる。

 まどかはそんなユウを後ろから支えて、青年を少し強い目で見た。

 微笑する青年。

 

「でも残念だったね、あの時確かに消えたけど、でも―――世界から消滅したわけじゃなかったんだよね」

 

『なにが望み?』

 

 そんな問いかけに、青年は黙って無表情になる。

 

「望み……か」

 

 何かを思うような言葉。

 それを疑問に思うまどか。

 ユウは何かにおびえるような表情だ。

 

「それよりビックリしたよ。君がこんな所にいることも驚きなんだけど、お友達ができていたなんてね、そうだね。僕の望みというのはね……」

 

 青年が展望台にある設置型の双眼鏡に百円金貨を入れる。

 そこから、青年が覗いたのはマミたちだった。

 

 

 

 

 

 セラの肩から手を離すマミ。

 ゆっくりと、セラは語り始めた。

 

「暗殺指令が下ったのは、メガロの襲撃がヘルサイズ殿の魔力によるものだと、我々の組織が考えているからです」

 

「え、どういうこと?」

 

 さやかの疑問。

 激怒したマミは腕を振る。

 

「くっだらない……そんな指令無効に決まってるわよ!」

 

 そんなマミの怒声に、セラは唇をかみしめた。

 鋭い視線でマミを貫くと、今度はセラが口を開く。

 

「簡単に言わないでください!」

 

「じゃあユウを殺すの?」

 

 だがマミだって一歩も引く気は無い。

 そんな質問にセラは首を左右に振った。

 

「っ……あえて聞かなければわからないんですか?」

 

「だったら簡単なことでしょ?」

 

「私は忍者なのですよ?」

 

 だからなに? とマミは言う。

 しかし彼女たち吸血忍者の任務の“重み”はマミにはわからない。

 大きくため息をついたセラが踵を返した。

 

「もう良いです。私は私でヘルサイズ殿とまどかを捜します」

 

「ちょっと待ちなさい、なんで貴女たち吸血忍者は融通が利かないのよ! やりたくないことはやらなければ良いでしょ!」

 

 こんなことならあの黒髪の吸血忍者から受け取ったメガネなんて渡さなければ良かったと思う。

 アレのせいで任務なんてものを受けるはめになったのだ。

 実際マミの予想は当たっている。あのメガネは例の“矢文”の文面を見るのに必要な物だ。

 

 立ち止まったセラが、マミの方へと視線を向ける。

 

「貴女は任務というものの重さを知らない」

 

「ユウの命は任務より軽いの?」

 

 そんな言葉に、セラは苦虫を噛んだような表情。

 

「そんな言い方は卑怯です。我々吸血忍者にとって……」

 

「その言葉はもう聞き飽きた。貴女、本当にユウを殺す気なの?」

 

 俯きながら聞くマミ。

 前髪でマミの表情は隠れている。

 

「だからっ、そんなわかりきったことを聞かないでください―――」

 

 歯を食いしばるマミが、静かに息を吸い込む。

 

「そう言う言葉を聞きたいんじゃない! どっちなの! 殺すのか、殺したくないのか!」

 

 服の胸元を掴みながらマミが叫ぶ。

 そんなマミに叫ばれるのなんて、セラも初めてだろう。

 今度はセラが俯き、前髪で表情が隠れる。

 

「私は吸血忍者に聞いてるんじゃない! セラに聞いてるの!」

 

 セラが勢いよく顔を上げてマミを見た。

 

「殺したいわけがないでしょう!」

 

 僅かに潤んだ瞳で、叫ぶセラ。

 

「セラ……」

 

 今にも泣きだしそうなセラを見て、マミはそっとその名をつぶやく。

 その間に、杏子が入る。

 

「もう良いだろ! マミもセラも、やめとけよ。それよりも今は、ユウとまどかを探す方が大事だろ!」

 

 杏子の言葉に、落ち着くマミとセラ。

 

「ええ、そうよね」

 

 微妙な表情をする二人を見て、少し難しそうな顔をする杏子。

 さやかが僅かに笑みを浮かべながら片手を上げる。

 

「それじゃ行きましょう!」

 

「お、おう!」

 

 走り出すさやかの後を追って走る杏子。

 ほむらも同時にその後を追って走り出した。

 少し落ち込むマミに背を向けて、歩き出すセラ。

 マミは後頭部を掻くと、微笑を浮かべて言う。

 

「セラはいつも正直よね」

 

 背を向けたままのセラが立ち止まる。

 

「お世辞は結構です。気持ち悪い」

 

「むっ、なによぉ?」

 

「ですが……」

 

 振り向くセラは、どこか清々しそうな表情だ。

 いつもより明るい感じがする。

 

「おかげで吹っ切れました。私はこの任務を放棄します」

 

 そんなセラに、笑みを向けるマミ。

 

「そっか」

 

 歩き出したマミが、セラの隣で立ち止まる。

 

「必ず見つけ出しましょう、ユウと鹿目さんを」

 

 マミにつられるように微笑を浮かべるセラ。

 先に走って行った三人を追うように、マミとセラも走り出した。

 

 

 

 

 そんな光景を展望台から見ていた青年。

 双眼鏡から目を離す青年がつぶやく。

 

「あ~ぁ、良い所だったのに……お願いだよユークリウッド。君だけ、いやそこの子も一応は可能かな? 僕の望みを叶えられるのは君たちだけなわけだ」

 

 青年が再び百円硬貨を双眼鏡へと入れた。

 これで再び機能し、マミたちのことをみることができる。

 青年はそこから一歩引くと、ユウとまどかを交互に見た。

 

「君たちも見るかい?」

 

 そんな言葉に、首を横に振るユウ。

 まどかは迷っているようだ。

 

「みんな必死に君たちのことを捜しているみたいだよ。見てごらん、ほら」

 

 歩き出すユウにつられるように歩き出すまどか。

 ふたりで一つの双眼鏡をのぞく。

 その先には、たしかにマミが見えた。

 

「君たちがいつまでも僕の望みに耳を貸さないとね」

 

 青年が指を鳴らす。

 その瞬間、観覧車のまわる部分が爆発した。

 観覧車がゆっくりと落ちて、マミへと転がりだす。

 小さく叫び声をあげるまどか。

 

 観覧車は大きな音と共に崩れ落ちた。

 崩れ落ちた観覧車だったが、案の定マミは無事なようだ。

 すぐにマミへと駆け寄る面々。

 セラがまた何か言ったのだろう。全員そこまで気になってはいないようだ。

 

「今はこんなお気楽な感じだけど……その内、もっと大変なことになるよ?」

 

 笑みを浮かべながら言う青年。

 ユウが焦ったような様子を見せた。

 

「マミさんたちに酷いことしないで!」

 

 叫ぶまどかだが、青年は表情を変えず笑う。

 そんな中、ユウは小さく戸惑う声を出す。

 

「フフッ、ほらまた気持ちが揺らいだね?」

 

 後ろへと下がるユウが、自らの体を抱くように怯える。

 

「ユウちゃんっ」

 

 まどかが後ろから優しくユウを支えた。

 青年をまっすぐな眼で見るまどか。

 

「それとも、君がその膨大な力で僕の願いを叶えてくれるかい?」

 

 魔法少女になる時の願いのことを言っているのだろう。

 わずかに揺れるまどか。魔法少女の時に使う願いなんてどうでも良い。

 みんなを守れる力が欲しいだけのまどかには関係ないことだ。

 ユウがまどかの服の袖をつかむ。

 そちらに視線を向けると、焦るような表情をしたユウは左右に首を振った。

 

 

 

 観覧車の残骸から離れるマミたちの背後に、轟音と共になにかが降りてくる。

 あたりに砂埃が舞った。勢いよく振り返った杏子がソウルジェムを出すが、輝きは見られない。

 つまりは魔女じゃない。

 

「メガロか!?」

 

 砂埃の中から現れたのは、黒いなにかだった。

 

「違うわ! 学ランを着てない!」

 

 影で学ランを着ていないことがわかる。

 その黒い何かが正体を現すことはない。

 ただの影だ。

 

「昨日の魔女!?」

 

「違う!」

 

 さやかの疑問を否定するほむら。目の前の敵に見覚えは無かった。

 なにがなんなのか頭がわからない。

 観覧車が崩壊したのも目の前の影の仕業なのかと疑う。

 

「でも、味方じゃないことは確かみたいよ!」

 

 マミの変身と同時にほむら、さやか、杏子も魔法少女の姿へと変身した。

 セラも木の葉を集めて刀を生成。マスケットや槍、剣を構える魔法少女。

 影はひたすらに蠢き、カタチを変える。

 

 瞬間、その影が飛び跳ねてマミへと飛んだ。

 胸を貫き、そのカタチある影はマミの体の内部をはい回る。

 

「っ……!?」

 

 叫び声すら上げることすらできないほどの痛みがマミを襲う。

 痛覚遮断もできないマミは倒れそうになる体をなんとか立ち上がらせるのみだ。

 痛みを気力で抑えながらも、叫ぶ。

 

「セラっ!」

 

「秘剣・燕返し!」

 

 刀を振るセラ。マミの腹部が縦一閃に切り裂かれた。

 切り裂かれた腹部に、間もなくその手を突き刺したマミ。

 自分の体の中で何かをつかむと引きずり出す。

 その手に持った影を投げ捨てる。

 

「あっ、内臓一緒に出ちゃった」

 

 自分の体の中に、跳び出したものを詰める。

 しっかりと詰め終えると、投げ捨てた影を見るマミ。

 その影は蠢きながら、杏子へと飛びかかった。

 

「ティーロ!」

 

 マミの背後に現れた三つのマスケット銃が瞬時に撃鉄を鳴らす。

 放たれた弾丸が影を貫いた。液体のように地面に垂れる影が、杏子の前で落ちる。

 動かなくなった影を確認するため近づくマミ。

 

「佐倉さん、大丈夫?」

 

「あ……あぁ、なんとかな……」

 

 その影を見て、怪訝な顔をする杏子だったが、すぐにその顔は驚愕に変わる。

 左腕に熱い痛みを感じた。その痛みはすぐに強烈なものへと変わり、杏子は左腕を抑えながらうずくまる。

 

「がっ……あぁっ! んだよっ! うあぁぁっ!」

 

 燃えるような痛みにあえぐ杏子。

 左腕を良く見ると、ソウルジェムには黒い何かが付着していた。

 それは間違いなく影の破片。

 

「杏子!?」

 

 近づこうとするさやかだが、杏子の背後に黒い影が現れる。

 先ほどの影が少しずつ集まり、杏子の背後で何かを形作っていく。

 マミが瞳を細めながらそれを見る。

 

「乗馬している騎士? いえ、あれは……」

 

 隣のほむらを見たが、唖然としたまま体を震わせていた。

 今助けてもらうことは無理だろう。

 マミは急いで自分の周囲にマスケットを出現させる。

 

 

 

 展望台の上で、マミたちの方を見ていたユウがメモ帳に急いで何かを書き込み、突き出す。

 涙すらその顔に浮かべるユウを支えているまどか。

 

『杏子にひどいことしないで!』

 

「……わかりきっていることだろうユークリウッド、君の心が動くと災いが起こる。だから君は言葉を発さない、心を揺らさないと誓ったはずじゃなかったのかい?」

 

 笑みを浮かべる青年。

 

「なぜなら、君は―――死を呼ぶものだから」

 

 絶望したかのような表情と共に、地に膝をつくユウ。

 まどかがそんなユウを心配するように両肩を抱く。

 俯くユウの眼の焦点はあっていない。

 

「ユウちゃん! 大丈夫だよ。マミさんたちは―――っ!?」

 

 膝をついているユウを励まそうとするまどかだが、青年の眼を見た瞬間喋れなくなった。

 元々気が小さいというのもあるが、膨大な殺気に当てられたのだろう。

 自分の太腿をつねって意識を逸らすと、再びユウを励まそうとする。

 

「フッ……ユークリウッド。さぁ僕の願いを……」

 

「御取り込み中のところ申し訳ないね」

 

 そんな聞きなれた声がした。

 青年が背後を向くと、そこに居たのは小さな生き物。キュゥべぇ。

 図鑑に載っているような生き物で無いのは一目でわかる。

 

「これはこれは……インキュベーターが何の用だい?」

 

「インキュ……ベーター?」

 

 まったく知らないという雰囲気をするまどか。

 それを見て青年は何かを悟ったかのように笑う。

 ユウを再び見て、口を開いた。

 

「そうか、ユークリウッド……君は残酷だね。教えていないなんて……」

 

 つぶやいた青年。ユウはビクッと体を震わせる。

 まどかは何か、知らないことを知っているということを悟った。

 魔法少女の何かには、違い無いのだろう。

 

「さて、インキュベーターなんの用だったかな?」

 

「ボクたちのプランを水の泡にするような、余計なことをしないでもらえるかな?」

 

 杏子のことを言っているのだろうか?

 キュゥべぇの言う『プラン』や『余計なこと』とはなんなのか、沢山の疑惑が交差する。

 この場で何も知らないのは自分だけだという現実。

 小さな生き物は、紅の瞳を杏子の方へと向ける。

 

 杏子の背後に集まった影が形を成していくのがわかった。 

 

「あれが完成してもエネルギーは発生しない。それどころか穢れを全て吸収する……相手を殺すことに関してはずいぶん長けたものかもしれないけれど、宇宙のことをもっと考えてくれ」

 

 わけがわからなかった。頭の中がぐしゃぐしゃになる。

 突然『宇宙』と言われてもまどかのキャパシティではとてもじゃないが整理できない。

 自分はほむらやマミのように整理する能力もないのだ。

 現状が、どうしようもなく歯痒かった。

 

 

 

 黒い影が杏子の背後で形を成していく中、紅の斬撃が影へと放たれるが、効いている様子はない。

 その紅の斬撃を放ったセラは、マミの方を向く、背後の無数のマスケット銃。

 

「準備完了! 行くわよ……パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!」

 

 マミの背後に展開された百近くあるマスケット銃が同時に弾丸を放つ。

 その名“無限の魔弾”に見合うだけの攻撃だ。

 弾丸は全て杏子の背後の影へと直撃した。

 

「これだけの弾丸、防げるわけがないわ!」

 

 その言葉の通り、影は砕け散る。

 砕け散った影に破片も残すまいと、集まりかけている影にマミは巨大なマスケット銃を構えた。

 それに気づいたほむらがいつのまにやら杏子の傍に移動していて、再び消えてマミの背後へと移動する。

 なにがなにかはわからないが安心だ。

 

「ティロ・フィナーレ・トゥラーヴェ!」

 

 巨大なマスケット銃から放たれたのは、いつもの砲弾ではない。

 それは、金色の光線だった。トゥラーヴェは“ビーム”の意。

 すなわちマミの“新技”だ。

 それによって消し飛ぶ影。

 

「ふぅ……」

 

 毎度のように、紅茶を出して優雅に飲むマミ。

 すぐにそれを消すと、ほむらの方へと歩く。

 ほむらに肩を借りている杏子は、ぐったりとしている。

 

「はぁっ……」

 

 しんどそうな杏子を、ほむらの反対側から支えるセラ。

 今聞くのは野暮かもしれないと、マミは押さえておく。

 それにしても、魔女でもメガロでも無い敵となると、だいぶ違ってくる。

 

 

 

 影が一変のカケラも無く消し飛んだのを見て、青年は表情を消す。

 あまり気に入っていないのは見てわかることだ。

 

「魔法少女の割に、中々やるね彼女……」

 

 青年が指をパチンと鳴らした。

 巨大な光線が空から降り注ぎ、マミを一度殺す。

 また運が悪い程度で向こうですまされているのだろう。

 

「ユークリウッド、鹿目まどか……君たちが願いを叶えてくれるまで、僕はあきらめないからね?」

 

 巻き込まれた形であるまどかを、悲しそうな眼で見るユウ。

 もう一度青年を見るが、青年はほほ笑むのみだ。

 冷たい笑み。まどかは背筋が凍るような思いをする。

 青年は、影に包まれて消えた。

 

 その場で立ちすくむユウ。

 

「はぁ~」

 

 座り込むまどかは、緊張の糸が切れたと言った様子だ。

 

「まどか、ボクと契約するときはいつでも呼んでおくれ」

 

 キュゥべぇもこれ以上は何も語る気は無いのか去って行った。

 この場にはユウとまどかの二人だけだ。

 心配そうな表情をしながら、まどかはユウの顔を見る。

 

「ユウちゃん、行っちゃったりしないよね?」

 

『大丈夫』

 

 そう答えたユウに、まどかは笑顔を向けて頷いた。

 立ち上がったまどかが、ユウの手を握って歩き出す。

 

 

 

 広場で、上空から降り注いだ光に焼かれたマミが倒れていた。

 辺りに漂う香ばしい香り。

 杏子が、そんなマミをつつく。

 

「大丈夫か?」

 

「ウェルダンですね。焼肉になるとは……」

 

 マミが死ぬことに慣れたなんて嫌な慣れだ。

 そんな面々の元に、ユウとまどかが帰ってきた。

 

「ヘルサイズ殿?」

 

 セラの言葉に、全員がそちらに視界を向ける。

 

「まどか!」

 

 さやかとほむらの言葉に、苦笑して謝るまどか。

 

「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ?」

 

 少し怒ったような口調で言う杏子だが、心配している証だ。

 起き上がったマミが怪我ひとつ無い二人を見てほほ笑む。

 

「まぁ良いじゃない……さっ、帰りましょうか?」

 

 ユウはいつも通り静かに頷いた。

 まどかはユウからの他言無用と口止めされていることから、言うことは無かった。

 彼女に、後に後悔するということを知る術は無い……。

 

 

 

 

 

 

 荷物を持つマミと一緒にいるのは同居人の三人だけだ。

 さやか、まどか、ほむらとは先に分かれた。

 四人で歩いていると、ユウがマミの服の袖をつかむ。

 

「ん?」

 

 立ち止まる面々、ユウが指さす方向はコンビニ。

 ユウと初めて出会ったコンビニと場所は違うが、同じコンビニだ。

 出会ったころを思い出して、マミはなんだか懐かしくなった。

 

『先に帰ってて』

 

「お腹減ったの? 私も付き合おうか?」

 

 ユウは静かに首を振る。

 横に振っているということは、否定ということだろう。

 ユウがそう言うならば特に気にする必要も無い。

 荷物を置いたマミが、空いた片手でユウの頭を撫でる。

 

「あまり遅くなっちゃだめよ?」

 

 優しくユウの頭を撫でると、マミは荷物を持ち直す。

 ユウの方を見ながらも歩き出すマミとセラ。

 同じく杏子も、遅れて動いた。

 

「埃だらけだからな、風呂わかしとくぞ!」

 

 そう言う杏子。三人は帰路へとつく。

 コンビニの前で、ユウは三人に手を振っていた。

 三人が見えなくなるしばらくの間、ずっと手を振っていた……。

 

 

 

 ―――ただいま! という声と共に帰ってきた三人。

 

 荷物をまとめて、マミはすぐ寝室に戻ってベッドに腰掛ける。

 ポケットに手を入れて、そこからプリクラを出す。

 複数人で映った写真なんて『家族写真』以外は一つも無い。

 

「みんなで遊ぶって楽しいのね♪」

 

 撮ったプリクラを、もう一度ポケットにしまった時、なにかに触れた。

 マミはそれを掴んでポケットから出す。

 一緒に飛び出たプリクラがベッドの上に落ちる。

 マミがつかんだのはメモ帳。それを見た瞬間、マミの眼が見開かれた。

 急いでリビングで二人を読んでメモ帳を渡すと、外へと走る。

 

 

 

『さようなら。

 

 すべて私のせい、ごめんなさい。

 

 私さえいなければ、今日こんなことにはならなかった。

 マミもセラも杏子も、みんな優しい言葉をかけてくれる。

 それはとても嬉しくて、私はそれに甘えていた。

 

 でも私は、一緒にいてはいけない存在。

 すべて私が悪いのだから。

 いつも大変な思いをさせてもらってごめんなさい。

 このまま私が側にいると、いつかきっと、また誰かが悲しむことになる。

 

 私は“死”を呼ぶものだから』

 

 

 

 帰ってきたマミは、ユウの部屋に入った。

 あまり大きくない部屋なので、ベッドだけでも十分だ。

 それでもぬいぐるみがたくさんで、女の子らしい部屋だった。

 

「……っ!」

 

 主の居なくなった部屋で、膝をつくマミ。

 ユウのお気に入りだった丸い河童のぬいぐるみを握りしめて、俯く。

 

「一緒にいてくれるって……言ったじゃないっ」

 

 床に滴がおちていく。

 ポタポタと落ちる滴はとどまることを知らない。

 マミはぬいぐるみを握りしめながらつぶやく。

 

「ユウっ、ゆうっ……ユークリ―――」

 

「マミ!」

 

 後ろから聞こえた声に、マミの言葉は止まる。

 その声の主は確認するまでも無くわかっていた。

 佐倉杏子。彼女だ。

 

「なにクヨクヨしてんだよマミ!」

 

「そうですよマミ、今生の別れでもないでしょう」

 

 同じく、セラの声が聞こえた。

 

「まだまだこれからだ! ネバネバなんとかだぞ、マミ!」

 

 元気そうな声で、杏子が言う。

 悲しくないわけではないだろうけれど、きっと自分のためにそういう部分を魅せないのだ。

 マミは杏子たちの方を見ずに、服の袖で顔を拭く。

 振り返ったマミは、泣いていたと良くわかる顔だ。

 

「わかりきったこと言わないでよねっ……佐倉さん!」

 

 マミに、笑顔で応える杏子とセラ。

 どこかへ行ってしまったユウだけれど、マミたちはユウを離さないともう決めている。

 今さらどこかへやる気は無い。

 自分の家族になってくれる少女のため、目の前で頑張ろうとしてくれる二人。

 その二人に、マミは目いっぱいの笑顔を向けた。

 

 ―――あぁ、あとネバネバなんとかじゃなくて、ネバーギブアップね?

 

 

 




あとがき

必殺技と言ったらビーム!ということでマミさんの新技です。
展開のせいで存在感薄いですけどw
とりあえず物語も終わりが近づいてきました。
まどかやユウのこともまだ終わりません。

そして、キュゥべぇや青年のことなども、お楽しみに!
感想おまちしています♪


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19「そう、お前はもう死んでいる」

 翌日、マミは学校を行くのをやめてユウを捜しまわった。

 それは杏子とセラも同じで、マミの家はもはやもぬけの空状態だ。

 一日中探しても見つからない。のは、大体わかっていた。

 だからいくらでも探し続けるつもりでいる。

 

「はぁっはぁっ、ユウ……」

 

 肩で息をしながら走っているマミ。

 今日は使い魔や魔女を良く見つけてしまう。

 こんな日に限って、という感じだ。

 見つけた使い魔や魔女は放置できない。

 

「グリーフシードが溜まるのは良いんだけどねぇ」

 

 そう言えば、グリーフシードが濁るとどうなってしまうんだろう?

 まだしっかりと聞いたことは無い。

 どうせろくなことにならないのは確かだろうけれど……と思っていた矢先、マミの視界に見慣れたピンク色のツインテールが映った。

 

「鹿目さん、どうしたの?」

 

 まどかだけでなく、隣にはさやかもいる。

 

「どうしたのって下校中です」

 

 えっ? とつぶやいてポケットから携帯電話を取り出す。

 着信やメールが何件も入っていて、時刻はもう夕刻だ。

 確かに空を見れば茜色。まったく気づかなかったと反省する。

 

「二人にも話しておいた方がいいかな、場所を変えましょうか……」

 

 そしてマミと共に二人が近くの公園のベンチに座った。

 マミの話が始めった。昨日の帰りユウが居なくなってしまったこと、そして置手紙のことをだ。

 

 

 

 驚いているさやかとまどか、話終えると、暗い顔になった二人。

 ユウを友達と思っていただけあって衝撃は大きいということだろう。

 

「私はまだ探すから、二人とも気を付けてね!」

 

 安全を、という意味もあるだろうけれど魔女狩りの方だろう。

 まどかは帰るがこの後もさやかはパトロール。

 それだけ言うと走っていくマミ。

 さやかとまどかがそこに残るが、さやかがソウルジェムを出すと輝いているのがわかった。

 

「気を付けてねさやかちゃん」

 

 そう言うと、強く頷くさやか。

 踵を返して走っていく彼女の後姿を見て、公園のベンチに一人座って背もたれに寄りかかる。

 まどかはポケットから一枚に紙を出す。

 メモ帳の一ページ。

 

「言えなかった……」

 

 その紙に書かれた文字、間違いなくユウの文字だ。

 まどかは深いため息をつく。呆れるような溜息。

 

「やぁ、元気そうだね……」

 

 急いで顔を上げるまどか。その視線の先には見間違えるはずもなく昨日の青年。

 強い眼差しで、その相手を睨みつけるまどか。

 きっとまどかの周囲にいた人間が見たなら驚くことだろう。

 鹿目まどかは“気弱”で“誰にでも優しい”女の子だ。

 他人を睨むなどと、無いことである。

 

 だが、マミやさやか、杏子やユウなどにあれだけのことをした。

 それは彼女のその視線を受けるに値するということだ。

 

「夜の王……さん」

 

「おや、どこでそれを知ったんだい?」

 

 間違いなくユウ。それを知って聞いているのだろう。

 だがその青年が『夜の王』だということ知るのはまどか一人。

 

「で、ボクの願いを叶えてくれる気には……なったのかい?」

 

 首を横に振るまどか。

 

「それもそうだよね。他人のために自分を犠牲にするなんてね」

 

 笑う夜の王。

 まどかは彼を睨むのをやめる。

 静かに深呼吸して立ち上がると、ずいぶん身長が違う夜の王を“ただ見る”……先ほど睨んでいたのが嘘だったかと思えるほど静かな表情だ。

 だからといって冷めてるような表情でもない。

 

「私、誰かのためにこの祈りが使えるなら何でもいいって思ってた。魔法少女になって誰かを救うのが私の望みだから……」

 

 夜の王の笑みが消える。

 昨晩と同じように金色の眼を開いて、まどかを見つめた。

 冷たい氷のような視線を受けながらも、まどかが揺れることはない。

 

「でも違う。私は魔法少女にならない。それが……ほむらちゃんや、ユウちゃんのためになるなら」

 

 まどかは、ハッキリと口にした。

 

 暁美ほむらは自分に魔法少女になるなと、そう言っている。

 何度も何度も言っているのだ。理由も聞いたが教えてくれない。

 それでも信じる。友達だから、彼女のお願いを聞き、自分は魔法少女にはならない。

 今手に握られているユウからの手紙にも『魔法少女にはならないで』と書かれていた。

 ならば自分はならない。友達を悲しませるぐらいなら、ならない。

 

「じゃあ目の前で死にそうになっている彼女たちがいても、君は見捨てるんだね?」

 

 首を横に振るまどか。

 

「最大限、今の私にできること……やれることを考えて、それでもダメなら……私はその時、魔法少女になるんだと思う」

 

 魔法少女に“なる”のか“ならない”のか?

 まったく正反対な言葉を続ける。

 夜の王は眼を細めた。

 

「それでも一つ言えることがあるの……私の願いは私のために使う、みんなと同じようにでも良い。貴方のためになんて使わない。貴方の願いを私が叶えることがあるとするなら、それは私が貴方の願いを叶えて私のためになる時だけ」

 

 自分の願いは自分のためだけに……それは杏子に言われたことがある。

 誰もが自分のための願いだ。けれど誰かのためにもなる願いもあった。

 それがさやかや杏子の願い。ならば自分もそうして願いを叶えたい。

 

 誰かのためになるなら自分のためにならない願いでも簡単に叶える。

 それは間違いなく―――残酷なことなのだ。

 

「そうか、それが君の答えだね。僕の願いを叶えられるのはこれでユウだけになったわけだ」

 

 背後の影が蠢く。

 まどかはわずかに後ずさる。

 

「フッ、またね……僕の願いを叶える気になったら見滝原動物園に来てくれ、ペンギンの前で待ってるよ」

 

 そして、夜の王は消えた。

 先ほどとは全く違う静寂があたりに残る。

 完全に夜の王が居ないのがわかったからか、まどかはベンチに腰かけて息を吐いた。

 胸を抑えると、ドクンドクンと激しくなっている動悸を感じる。

 片手に持ったユウのメモ帳。

 

 

『先に、この手紙のことは誰にも言わないでって約束してほしい。

 

 まどか、今日はありがとう楽しかった。

 それとごめんなさい。

 私のせいで、貴女まで巻き込んだ。

 

 マミや貴女たちの前から私は姿を消す。

 彼は夜の王。

 夜の王は、また貴女に迫ることがあるかもしれない。

 

 でも決して魔法少女にはならないで、なにがあってもならないで。

 貴女はなってはいけない。

 お願い、私やほむらを信じて』

 

 

 メモ帳に書いてある言葉の数々。

 きっと自分はほむらを信じるということを、忘れていた。

 理由を求めていたのだ。

 

「信じることに、理由なんていらないよね」

 

 頷くまどか。ただ一人、戦わないのはツライかもしれない。

 けれど、今は魔法少女になる必要のないように、彼女たちを信じよう。

 ベンチから立ち上がって、まどかは歩き始めた。

 

 

 

 

 

 日が沈んでからも、マミは街を走り続ける。

 自分にとっての特別。ユウをみつけるまで、諦めるわけにはいかない。

 立ち止まるマミが肩で息をしながら、ふらつく足で再び歩こうとするが、その腕を誰かが掴む。

 振り返ったマミの視界に映るのは、長い黒髪を持った少女。

 

「暁美、さん……」

 

 まっすぐと、いつかとは違う目で自分を見つめるほむら。

 強い意思がその瞳には見える。なぜ、まどかになにかあったのだろうか?

 そう言えば昨晩はユウとまどかが一緒に居なくなったと気づく。

 

「鹿目さんになにか!?」

 

「違う」

 

 ハッキリと、そう言った。

 ならばほむらはなににこんな風に、そう……必死さを感じるのだ。

 今の彼女の眼からまどかに何かがあったということではない。というのは理解できた。

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

「貴女のことを心配したのよ……」

 

 昨晩のことを思い出してしまう。昨晩でいろいろあった。

 年甲斐も無く黄昏てしまいそうな自分を抑えてほむらを見つめる。

 

「鹿目さんのこと以外で必死になる貴女なんて珍しいわね」

 

「貴女が魔女に食べられた時にも、必死だったつもりなのだけれど?」

 

 そう言うほむらが、なんだかおかしかった。

 マミはくすくすと笑いながら、息を吐く。

 疲れがだいぶマシになってきたのだろう。

 

「そうね、あの時は嬉しかった。でも昨日はまるで他人みたいだったから驚いたわ」

 

「色々、思い出してしまったのよ」

 

 少しうつむき加減で言うほむらに、頷くマミ。

 

「繰り返した時の中でってことかしら?」

 

 少し驚いた表情のほむら。

 悪戯が成功した子供のようにほほ笑むマミ。

 昨日必要以上はきかないと言ったから、これ以上は追及してこようなどとはしないだろう。

 だが一応、ほむらは言っておく。

 

「今はノーコメントよ」

 

“今は”ということはその内語る気はあるようだ。

 頷くマミがほむらの頭をそっと撫でた。

 身長はほぼ変わらないので、多少なりとも腕を上げることになるが十分絵にはなる。

 

「さて、暁美さんが心配してくれたのは嬉しいんだけど……私はユウを見つけなきゃいけないから」

 

「取りあえず今日は帰りなさい。セラフィムさんに話は聞いた……私も探しておくから」

 

 少し強いほむらの言葉。ほむらの腕をつかむ力は強い。

 

「今夜は魔女も使い魔も少ないでしょうね、貴女やセラフィムさんが片付けたから」

 

 マミは、おとなしく頷いた。

 魔女や使い魔をずいぶん狩ったこともあり疲れ切っている。

 なによりも自分が晩御飯を作りに帰らなければ、セラの壊滅的な料理が杏子に振るまわれるだろう。

 

「それじゃ、よろしく頼むわね。暁美さん」

 

「ええ、任せなさい」

 

 その言葉を最後に、ほむらはその場から消えた。

 いや、移動したで正解なのだろう。全てがマミの推理道理だとしたら彼女の能力は中々どうして疲れるものだ。

 だがそれでもユウの捜索を手伝ってくれるというのだから、彼女もそれなりに自分たちを認めているのだろう。

 友達というには少し気が早いかもしれないが“友達”になるまでそこまで時間はいらないはずだ。

 

 

 

 

 

 マンションへと帰ってきたマミが、靴を脱いでリビングへと入る。

 若干ながらそわそわしている杏子が一人だけ。

 セラは、帰ってこないだろう。

 ここ数週間、一緒にいたのだから多少のことはわかる。

 

「お腹減った?」

 

「うん」

 

 どこか上の空の杏子の返事を聞くと、マミはすぐにエプロンをつけた。

 おそらく杏子もほむらから言われたのだろう。

 準備をして、食材を切っていくマミ。

 

「(はぁ……ユウ、どうしちゃったのよ……)」

 

 ユウのことを考えながら食材を切っていると、指先に痛みが走る。

 

「痛っ!」

 

 指がさっくりときれていた。骨まで達していないものの、決して軽い傷ではない。

 前ならば舐めたり消毒液をかけていたものの、今はその必要はなかった。

 流しの蛇口を捻り水を流して、指をつける。

 だらだらと流れていく血はすぐに止まって傷も再生。

 

 とりあえず、学校は二、三日休もう。

 受験生にあるまじき行為かも知れないけれど、知ったことでは無い。

 少し遠出してみても良いかもしれないし、風見野などの隣町も調べよう。

 マミはフッ、と笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 巴マミの背中は、私にとっての目標だった。

 あの子は私の理想というより、友達という意識の方が強かったから……私の魔法少女としての憧れ、正義の味方は巴マミ。

 私が守りたいのは願いを叶えるまではまどか一人だった。

 きっと、私は彼女の隣に立ちたかったんだと思う。

 

 彼女は強い人だから、私が守るなんておこがましいとまで思っていた。

 けれど、彼女は全然強い人なんかじゃなかった。むしろ彼女は弱くて、脆い。

 それに気づいたのは、皮肉にも魔法少女になった次の時間でだ。

 私は彼女だって守りたかったけれど、そんなことできなかった。

 彼女は一人、奴を巻き込み自爆。それでも奴を倒せなかったのは、きっと巴マミの心に迷いがあったからだ。

 

 佐倉杏子。彼女の中での彼女の存在は大きいものだった。

 彼女さえいれば戦力的にも倒せたし、巴マミの心の中のしこりだって取れたはず。

 まどかと巴マミを救う。それだけで良かった。

 

 けれど、次の時間でまた増えてしまう。

 あの頃の私はバカで臆病で説得力のある話方もできなかったから、誰も信じてくれなかった。

 そこの時間軸で、魔法少女の美樹さやかを初めて見て、そして巴マミのもろさを実感。

 美樹さやかは魔女へと変わり、私が始末した。

 でも、終われば巴マミが佐倉杏子を撃ったのだ。

 なんだか悔しかった。彼女の心中相手、一番はやはり佐倉杏子。

 

 そこでも命拾いした私は、その時間軸の最後、魔女になると思いきややはり命拾い。

 私はそこで初めてまどかを自らの手で“殺した”のだ。

 その後も戦い続けた。まどかのために、巴マミのために戦い続けた。

 美樹さやかが死ねばまどかが願う。佐倉杏子が死ねば巴マミは脆くなる。

 全員を助けなければ希望は薄い。

 

 でも、まどかをなんとか魔法少女にしなくて良い時間軸もあった。

 さやかが死んで、それでもまどかが魔法少女にならなかった時間軸。

 それでも、彼女は死んだ。ワルプルギスの夜に殺された。

 きっと巴マミと佐倉杏子に戦闘中気を使いすぎたせいだと思った。

 

 私の願いは『まどかを守る私になりたい』だったなら、私はまどかを生き残らせればそれで良い。

 そう。それが私の願いなのだから、と自棄になって戦い続けた。

 私の戦い。そう。だけれど彼女を見捨てることだけがどうしてもできない。

 でもしなければならない。だから最後に、もう一度だけ彼女に頼ってみようと思った。

 

 

 その結果、彼女は私に依存。

 彼女は寂しがりやで脆い。あの時間軸の彼女は私に依存していた。

 最終的に、私は彼女に私以外の存在が見えないようにした。

 それで彼女はもう一人の魔法少女候補者であるまどかに対してもまったく興味を示さない。

 私はひそかに杏子に協力を仰いだ。

 

 そして三人でワルプルギスの夜に挑んで、戦った。

 佐倉杏子は巴マミをかばって死んだ。そしてマミは、私をかばって死んだ。

 結果、巴マミはワルプルギスの夜との戦いに出してはいけないことを理解できた。

 彼女は誰かをかばって、誰かのために死んでしまう。

 

 もう、まどか以外はどうでも良かった。

 

 

 

「なのに……」

 

 小さな和室で彼女はつぶやく。

 自分の頭を押さえながらつぶやいた。

 この異質ともいえる状況下、彼女は葛藤していた。

 もう誰にも頼らないと決めた。それでも、自分は彼女に頼っている。

 

「まどかっ……」

 

 まどかはまどかじゃない。そして彼女は彼女じゃない。

 みんな違う。自分を助けてくれた彼女でもなければ、自分に銃を向けた彼女でもない。

 自分に敵意を向けてきた彼女でなければ、自分に好意を向けてきた彼女でもない。

 

 とっくの昔に、暁美ほむらは迷子になっていた。

 

 それでも、ほむらはここでみんなを救いたい。

 自分の意思で、強くそう思った。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 そして、三日が過ぎた。

 結局ユウは見つかることは無く、ワルプルギスの夜が現れるまでそれほど時間もない。

 季節は冬。二日前に降った雪はだいぶ溶けたが、今だ街には残った雪がある。

 

 まだ街に残っているはずの雪。

 しかし、マミとほむらの二人が立つ場所に雪などない。

 周囲に咲く桜。周囲の木々は桜の花びらを散らせている。

 

 火花と共に、銃弾が飛ぶ。

 

「まったく、次から次へとっ!」

 

 鬱陶しいと言わんばかりの声音で言うマミ。

 ほむらと背中を合わせて、拳銃サイズのマスケットを持っている。

 背中を合わせているほむらも、その手に拳銃を二挺持っていた。

 

 二人の周囲には木が人型になったような使い魔。

 歪な姿は使い魔らしい。

 きっと人間の醜い部分を具現化したらこんな感じなんだろうと、思う。

 

「(最深部のはずなのに、魔女がどれかわからないっ)」

 

 舌打ちをするマミがマスケットを撃ち、新たに創作した技を使った。

 

「カーリコ!」

 

 お得意のイタリア語、和訳するならば『再装填』つまりはリロードだ。

 今まで単発を撃ち使い捨てだったマミの武器だが、これによりだいぶ戦いやすくなった。

 リロード速度もそれほど遅くない。ほむらの持つ拳銃ほどではないがそこまで隙なくリロードは可能だ。

 

「暁美さん、ここの結界の魔女の弱点とかわからない!?」

 

「経験がないわ!」

 

 まったく困ったものだと、頭を抱えたくなるマミだがそんな余裕はない。

 二人で背中を合わせながらハンドガンで敵を撃ち続けていく。

 マミが敵を撃ちながら、ふと考えたことを実行してみる。

 

「暁美さん、跳ぶわよ!」

 

「え?」

 

 戸惑いの声を上げるほむらを無視して、ほむらをお姫様抱っこ。

 そしてそのまま足の力を上げて、跳んだ。

 魔法少女状態での限界は今のところ、千パーセント。

 結界の空高くまで跳ぶと、ほむらをさらに上に投げる。

 

「っ!?」

 

 叫び声をあげることもできぬまま、空に飛んで行くほむら。

 マミが下方に体を向けると、腕を振る。

 マミの背後から現れる巨大な二つのマスケット銃。

 

「ドゥーエ・ステルミナトーレ!」

 

 彼女が叫ぶ。それと共に“二つの破壊者”は同時にその魔弾を放つ。

 地上へと真っ直ぐとんだ魔弾は、地上で爆発し、桜の木などに火を放った。

 炎の中心に、華麗に着地したマミ。

 空から落ちてくるほむらを確認して、ほむらをリボンで受け止めた。

 ゆっくりとおりてくるほむらが地面に立つ。

 

「死ぬかと思ったわ。まったく」

 

 あたりの風景がガラス細工のように割れていく。

 魔女の結界は崩壊し、二人は早朝の廃ビルの中に立つ。

 軽く欠伸をするほむら。

 

「はしたないわよ暁美さん?」

 

「しょっちゅう死んでる貴女に言われるのは癪ね、何回死んでるのよ」

 

 そう言われると、マミはぐうの音も出なかった。

 かつての彼女ならば、あまりに無様な戦いをすれば『魔法少女の戦いは常にエンターテイメントでなければならない!』ぐらい言い出しそうだったが、何度も死んでて優雅もエンターテイメントもあったものじゃないと思う。

 

「しょうがないじゃない」

 

 分が悪いという表情をして、言うマミ。

 どこかそんな姿が先輩や年上っぽくなく、ほむらは微笑する。

 そんな笑みを見てマミも笑みを浮かべた。

 この三日でずいぶんと仲良くなれたものだと頷く。

 いや、仲直り、と言った方が正しいかもしれない。

 

「(フフッ……死んだ甲斐もあるというものね)」

 

 マミは自分て納得したような顔で、頷いた。

 

 ―――巴マミ、魔法少女でゾンビです。あと、人探ししてます。

 

 

 

 




あとがき

はい、今回はユウが居なくなった翌日です!
まどかが夜の王を拒絶しました。
多くは語りませんが、ほむほむも葛藤していたということです。
これからどうなっていくのか!お楽しみに♪


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20「そう、ネコのようなもの」

 数日間休みを取ることにしたマミは昼間、家で寝ていた。

 理由としてはただ、明け方まで探していたからだろう。

 そしてそのままほむらと魔女を倒し、家に帰ってそのまま寝たということだ。

 

 ほむらとの魔女狩りを終えた日の昼過ぎに起きたマミは、昼ご飯を食べていた。

 今日は杏子も一緒だ。ここ二日ほどお互いあまり顔を合わせていない。

 ユウを捜すための入れ違いだ。それはセラも一緒で、ユウ捜索にお互い時間をかけている。

 

「ユウの情報とかなかった?」

 

「全然、マミの方はどう?」 

 

 やはりか、と思いながらも探してくれている杏子にわずかに喜びを感じた。

 マミは首を横に振る。

 

「私もさっぱり……」

 

 そう言った瞬間、玄関の方でなにか音が聞こえた。

 何事かと急いで立ち上がり玄関へと向かうマミと杏子。

 玄関には、人が一人倒れていた。

 

「セラ!?」

 

「大丈夫かよ!?」

 

 傷だらけの姿で倒れているセラが、眼を開く。

 

「ただいま、戻りました……」

 

 苦しそうに呟くセラに、マミと杏子は急いで駆け寄る。

 

 

 

 

 

 その後、セラは風呂に入り大方の応急処置を終えると楽になったのか昼ご飯を食べた。

 体の所々に包帯を巻いたが、おそらく見かけほど傷は深くないだろう。

 安心したような杏子を見てほほ笑むマミ。

 三人はちゃぶ台を囲むように座っている。

 

 マミは一転、真剣な表情をしてセラに聞く。

 

「なにがあったの、セラ?」

 

 拳を握る強さが、キュッと強まったのを見逃さないマミ。

 憂鬱そうな表情で、セラが語り始めた。

 

「湯船に浸かりながら、私はどうやって嘘をつこうと考えていました……私は、嘘の付き方を知りません」

 

 一度目を伏せてからセラは言う。

 

「私を襲ったのは、私の仲間である吸血忍者です。私は任務を放棄したので……」

 

「ユウを殺せって言われた、あれ?」

 

 黙って頷き、俯くセラ。

 だからと言ってなにも、とつぶやいたマミだが、それほど重い物なのだろうと理解する。

 自分で言えば魔女狩りみたいなものだろうか? もしかしたらそれ以上なのかもしれないけれど……。と考えるマミ。

 

「私が甘かったのです。仲間の元に戻れば、なにかヘルサイズ殿の情報はないかと思ったのですが……」

 

「セラ、大丈夫?」

 

 俯くセラが顔を上げる。穏やかな表情の彼女は静かに口を開いた。

 

「はい、私自身が出した答えですから」

 

 しっかりと、意思の感じる言葉だ。

 マミが杏子の方を見ると、彼女は彼女で頷いた。

 もう一度セラに視線を戻すと、マミも穏やかな表情で返す。

 

「そっか」

 

 その一言だが、十分だった。

 

「フフッ」

 

 セラが笑みを浮かべると、マミと杏子も笑みを浮かべて笑う。

 やはりみんな揃っているのが一番だと、マミは心の中で思った。

 これでユウも居れば、全部めでたしだ。

 

 笑みを浮かべながら、セラは湯のみを持ってフーフーと冷ます。

 

「そう言えば、お風呂の湯加減は大丈夫だった? 結構冷めちゃってたでしょ、追い炊き」

 

 笑顔のまま固まったセラが、首をかしげる。

 

「まさか、マミの浸かった湯に入らされたのですか?」

 

 なんとなく不味い感じがした。

 自分が入った後は不味かったのだろうか? そんな思春期の女子高生じゃあるまいし。

 しかも自分がお父さん的な立ち位置かと、いろいろ情報が混雑する。

 

「肉汁だらけのお湯に入らされるなんて、気持ち悪い」

 

 紅の眼が輝く。

 体をはねさせるマミ。

 

「す、すみません!」

 

 マミが謝ると、その瞬間セラの殺気が消えた。

 えっ? とつぶやくマミを見ながら、セラが笑う。

 

「フフッ、冗談です。別に女同士ですし、気にしていませんよ」

 

 戸惑いながらも、それは良かった。と頷くマミ。

 案外本気で心配してしまった。いつもがいつもなだけに。

 ふと、マミが思い出す。

 

「そう言えば、暁美さんに連絡入れておかないと……」

 

「ほむらに、ですか?」

 

 セラが疑問を浮かべるが、頷くマミ。

 笑みを浮かているマミだが、その様子はいつもと違う。

 

「一応、全員揃ったのだからね……彼女も決心したのよ」

 

 そう言って笑うマミを見て、セラは軽く頷く。

 杏子もわかっていないのだろうけれど、頷いた。

 マミは携帯電話の電話帳の中にある数少ない名前から、暁美ほむらを選んだ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 夕方、マミの家へと集まっている面々。

 ゾンビこと、巴マミ。

 魔法少女であるほむら、杏子、さやか。

 吸血忍者であるセラフィム。

 そして、ただの人である鹿目まどか。

 

 この計六人が集まった理由。

 全員がほむらの方を見る。

 

「これから、私のことを話すわ」

 

 隣に座るマミの手を、ちゃぶ台の下でキュッとつかむほむら。

 それなりに勇気がいることなのだろう。

 自分のことを話すというのは……それでも、ほむらは話を始めた。

 

 

 

 

 誰も、何も言わずに聞く。

 ほむらの魔法少女としての願いは『鹿目まどかとの出会いをやり直したい』それによっての過去改変。

 ワルプルギスの夜を倒すだけの簡単な願いは、いずれ『まどかを魔法少女にさせない』という願いに変わった。

 それは自分に希望を与えてくれた友達を助けるためだ。

 絶対に不幸になんてさせないため。

 マミと杏子はどうやったって魔法少女になっているのだ。

 今からなんとかすることは不可能。それでも、鹿目まどかと美樹さやかを助けようと彼女なりに奮闘した。

 

 まどかを魔法少女に、そして―――魔女にさせないために。

 

 それでも無理だった。ただの一度もワルプルギスの夜に勝てない。

 魔法少女になったまどかは世界を破壊する魔女へと変わる。

 

 まどかが生き残ればなんでも良くなって居たにもかかわらず、それが叶えられなかった。

 どの世界でも優しいまどか。彼女はキュウべぇとの契約に応えてしまうのだ。

 ワルプルギスの夜が来ればそれは必然だった。

 目の前でさやかや杏子やマミが魔女へと変わっても、やがては魔法少女へとなる。

 そして、彼女は魔女へと変わるのだ。

 

 

 

 話を全て聞き終えると、その場を重い空気が包む。

 まどかは涙を流している。

 マミの手を握っているほむらの力はかなり強い。

 

「まぁ、もう何を聞いても驚かないつもりでいたけど……まさか、魔女になるとはね」

 

 苦笑するマミ。さやかと杏子もわずかに視線を泳がせる。

 目に見える動揺だ。落ち着いているマミに驚いているほむらだが、内心動揺しっぱなしだ。

 魔法少女が魔女になる。なら今まで殺してきたのは同類。

 今さら殺しにビビるほどの神経ではないマミだったが、やはり自分がいずれあれになるともなると話が別だ。

 

「ゾンビである君が魔女になったときは興味深いね」

 

 そんな声に驚く者は誰も居ない。

 テーブルの上に乗るキュゥべぇ。

 

「ゾンビである魔法少女が魔女になった例は古今無い。君が魔女へと生まれ変わった時にどれぐらいのエネルギーが発生するのか、どんな魔女を生むのかも……」

 

「そうね、私もいずれ魔女になるのだものね」

 

 笑うマミ。なぜ笑えるのかわからなかった。

 ほむらもまどかもさやかも、杏子もだ。

 感情の無い生き物であるインキュベーター。そのキュゥべぇが話を続ける。

 

「君は魔女になって、幾つの命を奪うのだろうね?」

 

「奪わないわ」

 

 そう、断言するマミ。

 

「奪う前に私が殺しますから」

 

 そう言ったのはセラ、穏やかな表情でそういうセラ。

 なにか清々しささえ感じるような表情だ。

 

「そういうこと」

 

 杏子は笑う。きっとマミが魔女になればこの場の誰もが悲しむだろうけれど、躊躇はしない。

 マミに誰かを殺させるぐらいなら、誰かがマミを殺すだろう。

 それと同じように誰かが魔女へと変わっても、彼女たちはしっかりとケジメをつける。

 ほむらは、驚いていた。この呆気なさに……。

 かつてのループで、さやかが魔女化した時に錯乱して全員殺そうとしたマミを思い出す。

 

 やはり、この世界こそがほむらの唯一の希望。

 

「なるほどね、つくづく興味深いね。君たちは」

 

 そう言うキュウべぇを見てマミは笑った。

 手を伸ばすとその体を掴んで床に下ろす。

 

「テーブルの上には乗らないでって言ってるわよね?」

 

「まったく、わかったよ」

 

 仕方ないと言う風に肯定するキュゥべぇ。

 マミがほむらの方を見る。

 

「つまり、今までのループで吸血忍者やネクロマンサー、メガロはいなかったの?」

 

 頷くほむら。そんな答えに、わずかに顔をしかめるセラ。

 確かに他の世界で自分だけはいなかったと言われても微妙な気分だろう。

 まぁあまり気にすることも無いと思うが―――。

 

「キュゥべぇ、勝手にソファーの上乗っちゃダメ!」

 

「やれやれ、わかったよ」

 

 大人しく降りるキュゥべぇ。

 なんだかすっかりマミはキュゥべぇへの負の感情は持っていないようだ。

 彼女に言わせればあくまでも命の恩人だから、なのだろう。

 ゴホン、と咳払いをして話を再開するほむら。

 

「でも、貴女たちのおかげで今のところ順調なのも確かだわ。鹿目まどかが今だ魔法少女にならず……なおかつ全員が生きている」

 

 だが数々の問題が新たに発生しているのも事実だ。

 ユウのこと、メガロのことなど。

 一応魔法少女は他人の記憶を消すことができる。

 だからこそいざとなれば大規模な記憶消去魔法でメガロのことなどはなんとかなるかもしれないが、やむをえない場合のみだ。

 だからこそ結界に隠れると言う行為をしない人目につくメガロという存在は厄介だった。

 

「キュゥべぇ、メガロというのはいつ頃から存在するの?」

 

 マミの質問に、床におとなしく座っていたキュゥべぇが答える。

 

「魔法少女システムができてしばらくしてから、かな……一人の冥界人の少女が魔法少女になり、冥界で魔女へと変わった。そこから魔法少女システムを破綻させるために冥界が作り出したのが対魔法少女のシステム。メガロシステムさ……まぁ詳しくはわからないけどね」

 

 その答えに頷くほむらが、マミの手をそっと放した。

 カバンへと手を伸ばしてカバンから資料を取り出すと、いくつかをテーブルに並べる。

 それらは全てワルプルギスの夜の資料だった。

 

「とりあえず統計データもあるからワルプルギスの夜の出現場所は大体予想できる。けれど今回の決戦で一番面倒なのが使い魔よ。ワルプルギスの夜は通常ならばこの街で一番魔力が高いまどかを狙ってくるから……当日まどかがいる避難所を狙ってくるわ。厄介なのが使い魔よ。こいつを通してしまってはそれで終わり。まどかは……」

 

 理解した面々。ワルプルギスの夜は鹿目まどかを狙ってくる。

 理由は魔力が高いから、だけなのだろうか?

 それは謎だが、ともかくここで決めるのは誰が避難所を守るか、だろう。

 

「私が守りましょう」

 

 立候補したのは、セラだった。

 驚いている面々だが、言わなくてもわかる。

 彼女も自分たちの仲間なのだから、協力してくれるのに『なぜ』も『どうして』も無い。

 アサミとの戦いのときだって、全員で協力して勝ったのだ。

 今さら後戻りする気は無い。誰も、誰一人としてだ。 

 

「さて、こうしているのも良いでしょう。パスタでも作りましょっか」

 

 立ち上がるマミが、そう言う。

 泣き止んだまどかが手を上げて立ち上がった。

 

「私も手伝います!」

 

「フフッ、ありがとう」

 

 マミとまどかはキッチンへと消える。

 その場に残ったセラがその奇怪な生き物をみつめていた。

 不思議そうに見てから、口を開く。

 

「まるでヘドロのようですね気持ち悪い」

 

「この姿は地球の少女に気に入られるように作られているはずなんだけど」

 

「生理的に無理です」

 

「……そうかい」

 

 若干残念そうに聞こえるが、感情のないキュゥべぇが残念がるはずもなかった。

 マミが居ないのをしっかり確認してから、ソファに乗るキュゥべぇ。

 だったが、手に掴まれ降ろされる。

 

「暁美ほむら、君は……」

 

「乗るなって言われていたでしょう。一回で覚えなさいインキュベーター」

 

 おとなしく床に寝そべるキュゥべぇを見て、さやかと杏子が笑いだした。

 そんな笑いにつられてか、ほむらとセラも笑う。

 キュゥべぇだけが、わからないと言う風に首を横にかしげのだった。

 

 

 

 ちゃぶ台に並べられるパスタ。セラと杏子が出したテーブルも並べられている。

 まるで大家族のような状況だが、にぎやかで良いと笑うマミ。

 まどかも座ったが、立ち上がったマミがキッチンに行って何かをしている。

 戻ってきたマミの手には小さな皿が持たれていて、それを床に置く。

 

「キュゥべぇの分よ」

 

「ボクの分もあるのかい?」

 

 キュゥべぇが歩いて傍に行く。

 間違い無くキャットフードだが、キュゥべぇの主食だ。

 マミは座って手を合わせる。

 全員が同じ用に手を合わせると同時に……。

 

「いただきます!」

 

 食事を開始した。

 パスタを食べながらそれぞれ感想を言いあう。

 まどかも手伝ったということもありいつもと違う味のあるパスタだ。

 杏子が大急ぎでパスタを食べている。

 

「杏子ちゃん、そんなに急いで食べなくてもおかわりあるからね」

 

「サンキュー!」

 

 おいしそうに食べる杏子を見ていると、作り甲斐があるとほほ笑むマミ。

 セラは箸でパスタを食べている。

 そっちの方がらしいと言えばらしい気がした。

 

「キュゥべぇもおかわりあるからね?」

 

「おかわりがあるのかい?」

 

 感情が無いキュゥべぇだが若干いつもより食い気味に聞いてきている気がしないでもない。

 気のせいだろうと思い、ほむらは食事を続ける。

 なつかしい味だな、などと思いながらも食べ続けていた。

 

「そういえば、ユウが来てからここに来なくなった理由ってなんなの?」

 

 マミの質問にキュゥべぇは口に入った食べ物を飲み込んで話す。

 

「彼女にソウルジェムのことをバラされるのも面倒だったしね」

 

 そう言いながら、キャットフードを食べ続けるキュゥべぇ。

 少し考えてみるマミだが、知っているというのも納得だ。

 ユウはなんでも知っているというイメージもある。

 

「(志筑さん、じゃなくて仁美さんは魔法少女のことを良く知らないって言ってた……でもメガロのことは知ってたはずよね。まぁ聞かなかった私が悪いのかもしれないけれど)」

 

 今度仁美ともじっくり話してみないといけないな、と思い頷くマミ。

 食事を続ける彼女たちを見てほころぶ口。

 とりあえず帰りに送っていくついでにユウとわかれたコンビニにでも寄ってみようと思ったマミ。

 ユウを見つけてワルプルギスの夜も倒して、とりあえずのところはハッピーエンドだ。

 フォークにパスタを絡ませることに苦戦しながらも、マミは食事を再開した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 ユウと別れたコンビニの前で、座っていたマミがおにぎりを食べている。

 暇そう、というよりも待っているのだ。彼女がもしかしたら来るかもしれないと……。

 まどかたちを送った後、迷わずここに来た。杏子やセラには言っていないけど遅ければ大体察してくれるだろう。

 

「あらぁ~夜野さんこんばんは!」

 

 声が聞こえて、おもわずそちらを見た。

 駐車場に立っている青年と女性。

 女性の方は犬を抱えていて、青年の方はハムスターを手に乗せている。

 

「この前のノミ取りシャンプー、すごく良かったわ」

 

 女性の言葉に、青年は笑顔で返す。

 

「そうですか、良かったです。動物は言葉を喋りませんから、その気持ちを汲み取るように気を付けてあげてくださいね」

 

「はい、では」

 

 去っていく女性を見送る青年。

 女性が去っていくと、青年はマミの方を向いた。

 金色の瞳と目が合うと、普通じゃないことを理解したマミ。

 瞳を鋭くするマミ。

 

「はじめまして」

 

「貴女……まさか」

 

 青年の手の内にいるハムスターが地面に降りる。

 ハムスターは真っ直ぐマミの足元に来て、そこで回り続けた。

 

「フッ、僕たちが放つ死の臭いに動物は引き寄せられるんだよ」

 

「そっか、貴女がもう一人のゾンビね……」

 

 笑みを見せたまま青年は聞く。

 

「ユークリウッドの姿が見えないけど、喧嘩でもしたのかい? それとも愛想を尽かされたとか……」

 

 痛い所をつかれたと言う風に、表情を変えるマミ。

 おにぎりを全て飲み込むと、立ち上がる。

 本格的に相手の青年をにらみつけるマミだが、青年は表情を変えない。

 

「たまに妙に食べたくなるんだよなぁ、ファミチキ」

 

 聞きなれた声が、聞こえた。

 そちらを見て杏子とセラを確認すると、マミが叫ぶ。

 

「来ないで!」

 

 驚いた表情をする杏子とセラだが、すぐに表情を変える。

 どうした? とでも言わんとする顔だ。

 だがすぐに気づいたのか、セラが身構える。

 青年がセラと杏子に視線を移す。

 

「ユークリウッドは、まさか冥界に帰ってしまったのかい?」

 

 少し大きな声でマミが言う。

 

「こっちが聞きたい!」

 

 いつもより乱暴な口調なのは、気が立っているからだろう。

 彼女自身ユウのことで痛い所を突かれた。

 失望したというような青年の表情。

 

「折角君たちにあずけていたのに……よし、ならば君たちを殺そう」

 

 いつでも動けるようにとするセラ。

 杏子はソウルジェムを持っていつでも槍を出せるようにする。

 

「なんだコイツ」

 

 攻撃しようとする杏子。

 

「ダメ!」

 

 だがマミが止めた。

 なんで、と言う杏子だが、マミの真っ直ぐな瞳に負ける。

 青年を視界に捉えるマミが、言う。

 

「こいつは私が殺る」

 

 マミが使うとは思えない言葉づかいだが、それほど怒っているのだろう。

 この敵のせいでユウは自分たちの前から消えた。すくなからずマミはそう思っている。

 挙句に神経を逆なでされ、マミの大事な人の中に入っている二人を『殺そう』と言った。

 敵意どころか殺気すら相手に向けるマミ。

 

 青年の背後に黒い影が浮かんだ。その影は素早くマミへと迸り、マミを包む。

 暗闇の中、マミは何が起きているのかわからなかった。

 まるで影の中に、無数の手があるような……錯覚。

 

「ガッハァッ!」

 

 影が散ると同時に、マミが口から血を吐き出す。

 口元の血をぬぐいながら青年を見るマミ。

 これが青年の……“夜の王”の力なのだろうか?

 

「なにっ、今のっ……貴方の攻撃、だっていうの?」

 

 顔を上げて、マミが問う。

 

「どうかな?」

 

 夜の王の背後で蠢く影が再びマミへと伸びる。

 気づいた時にはもう遅い。

 

「がぁっ!?」

 

 両足が膝から千切れて、倒れるマミ。

 痛みは通常通り食らうのだが、慣れもあって叫ぶことも無い。

 だが痛みはあるのだろう、苦しそうな顔だ。

 杏子が叫ぶ。

 

「マミ! 大丈夫か!?」

 

「だから来ないでって……ぐっ!」

 

 両腕を使って立ち上がろうとするマミだが、膝から先が無いのだから立ち上がれるはずもない。

 夜の王は笑ってから、セラと杏子に視線を移した。

 

「さて、挨拶はこれくらいにして……そろそろそこの二人を殺すかな」

 

 影と共に消える青年。

 驚愕に表情を変えるセラと杏子。そんな二人の背後に彼は現れる。

 瞬間、腕が宙を舞った。落ちる腕は、夜の王のものだ。

 

「秘剣燕返し」

 

「プラスワン!」

 

 夜の王の腹部に槍までもが刺さっている。

 しかし、彼は表情一つ変えない。

 

「思ったより早いね」

 

 千切れた腕の断面を見て呟いた。

 影があふれると同時に、セラと杏子を影が包む。

 夜の王はすでにセラと杏子の向こう、マミの前に来ていた。

 

「次は手加減しないよ?」

 

 黒い影は、セラと杏子の体を拘束する。

 

「セラ! 佐倉さん!」

 

 二人の名を呼ぶマミだが、立てないことにはどうしようもない。

 影に締め付けられて苦しそうに呻く二人。

 

「なぜこんなことをするのか、それはね、君たちを殺してユークリウッドをこの世界に引きずり出すため。君たちが死ねば、彼女はまたこの世界に現れる。どうだい、死ねばまた彼女に会えるんだよ?」

 

 苦しみながらも、笑みを浮かべる杏子。

 魔法少女はやはり感じる痛覚が弱いからだろう。

 セラほど苦しくは無い。

 

「ふざ、けんな! あたしは生きて合うって決めてんだ!」

 

 叫ぶ杏子だが、夜の王は笑みを浮かべながら影を蠢かせた。

 拘束されている杏子に攻撃をよける手段は無い。

 

「やめて! 杏子ぉっ!」

 

 叫んだマミ。眼をつむる杏子。

 その瞬間、掛け声が聞こえた。

 青い閃光と共に、影は切り裂かれる。

 そこに立つのは一人の少女。

 

 間違いなく、マミにメガネを渡した彼女だ。

 いつのまにやら、杏子とセラの拘束も解けている。

 あたりにはフードをかぶった男や女たち。吸血忍者なのだろう。

 少女は携帯電話を持つ。

 

「報告にあった男を確認、増援を頼む」

 

 ハムスターが夜の王の肩に上る。

 

「やれやれ、吸血忍者とやらは良い嗅覚をしているよ」

 

 倒れているマミを、夜の王が見た。

 二人のゾンビの視線がもう一度交差する。

 

「残念ながら捕まるわけにはいかないんだ。僕はまだ―――死にたいのでね」

 

 影に包まれる夜の王。

 

「待て!」

 

 怒鳴る少女が剣を振るう。

 だが、斬ったのは影だけ。

 静かに立ち上がった少女は、辺りをうかがう。

 

「追え、絶対に逃がすな」

 

 辺りの吸血忍者たちは一瞬で消えた。

 これが人外の力というものだろう。

 両手を使って起き上がるマミ。

 

「(……死にたい?)」

 

 眼を細めて、その言葉の真意を探ろうとする。

 だが、そんな言葉を理解できるはずもなかった。

 

 

 

 杏子がマミの足を断面に付けて再生させようとしている傍らで、負傷しているセラ。

 少女の背後に立つセラが、俯きながらも言う。

 

「すみませんサラス、助かりました」

 

 彼女と同じ吸血忍者であるサラスバティに礼を言うセラ。

 だが、サラスはセラにその手の青い剣を向ける。

 

「気安く声をかけるな、この裏切り者が!」

 

 表情を曇らせるセラ。

 

「セラフィム、貴様の顔など見たくも無い!」

 

 俯いていたセラだが、そこに介入するような知識も無いマミ。

 任務の覚悟も無く重要性もいまいちわかっていないマミは、介入する気も無い。

 サラスが消えると、セラが二人に歩み寄ってきた。

 

 

 

 夜の街を歩いているマミたち。

 三人は歩いているが、なんとなくセラが暗い感じがした。

 いや、なんとなくではなく間違いなくなのだろう。

 先を歩いているセラが、突如止まる。

 

「私、ヘルサイズ殿をもう少し探してみたいのですが」

 

「じゃあ私も行くわよ、一度戻って……」

 

「ええ、でもそれでは時間がかかるので」

 

 そんな言葉に、マミは頷いた。

 杏子も同じくと言った様子。

 

「そっか、でも気を付けてね」

 

「まだアイツがうろうろしてるかもだしね」

 

 マミと杏子の言葉に、頷くセラ。

 微笑して、セラは木の葉と共に消えた。

 せっかく帰ってきたのに、また二人きりになってしまったと寂しそうな顔をするマミ。

 それに気づく杏子。

 

「明日はどうすっか」

 

「佐倉さんはいつも通りでいいじゃない。学校もないし」

 

「たくっ」

 

 笑うマミに、笑みで返す杏子。

 さっきは名前で呼んでくれたから名前で呼んでくれ。ぐらい言おうと思ったが、言うに言えなかった。

 軽いため息をつく杏子。マミは何か考え事をしているようだ。

 マミは仁美にも『夜の王』の情報を頼もうと思っていた。

 きっと彼のことを知ればユウのことも見つかるはずだ。

 

 色々と整理すると、マミは杏子の手を取って歩き出した。

 杏子はどこか、恥ずかしそうにしている。

 




あとがき

ようやくマミさんと初顔合わせの夜の王です!
喋り方、夜の王とキュゥべぇがかぶってますけど気にしない。
ちなみに仁美はとんだ重要キャラになってきます。まぁ冥界人ということもあって(
そして本格的に登場した夜の王とユウとマミの三人でここからドロドロとした昼ドラ的展開が(秘剣、燕返し

では、次回もお楽しみに!
感想おまちしています♪


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21「はい、それはわかめです」

 三日後の昼間、マミがちゃぶだいの上に置かれた湯飲みを取って、お茶を飲んでいた。

 最近は紅茶を作る機会が無いな、などと思う。

 紅茶を飲むのは魔女狩りを終えた後のパフォーマンスでぐらいだ。

 

「ふぅ……ん?」

 

 突如、マミの携帯電話が鳴り始めた。

 その音を聞き、マミは湯のみを置くと通話ボタンを押して耳に当てる。

 表示名は志筑仁美だ。

 

「もしもし、仁美さん?」

 

 志筑仁美には『夜の王』の捜索を頼んだ。

 理由としてはただ一つ。ユウを見つけるため。

 彼さえいなければ、きっとユウは帰ってくる。

 

「えっ、夜の王の居場所がわかった?」

 

『はい、今からメールで地図を送ります。マミさんのマンションの近くで驚きましたわ』

 

「ほんと!? 助かるわ仁美さん!」

 

 無意識の内に、彼女の声音は嬉しそうに変わっていた。

 話をつけなくてはいけないし、ユウのこともある。

 もうワルプルギスの夜が来るまでの時間もそれほどない。

 

『吸血忍者も嗅ぎつけているようです。マミさん、貴女が一番に行ってくださいまし』

 

 そんな声を聞いて、フッ、とほほ笑むマミ。

 ユウのこともそうだが、仁美にはずいぶん世話になっている。

 

「仁美さん、ありがとう」

 

『いえ、お気をつけて』

 

 そして、電話が切れた。

 今度お礼になにかおごろう。お弁当を作ってあげるのも良い。

 取りあえず、今は仁美に感謝だ。

 

「佐倉さん!」

 

 マミの部屋から出てくる杏子。

 寝ていたのだろうか? どこか眠そうでもある。

 目をこすりながら、どうした? と聞く杏子。

 

「アイツの居場所がわかった」

 

 眠気などふっとんだのか、表情を引き締めた。

 マミが近いことを説明していると、携帯電話が鳴る。

 メールにつけられていた地図を見て、マミと杏子が近いことに驚く。

 

 

 

 二人の声は大きく、マンションの部屋の外にも聞こえていた。

 巴家の扉の前、マンションの廊下で、一人の少女が立っている。

 そして、その少女から少し離れた場所に立っているセラ。

 

「ヘルサイズ殿?」

 

 茫然と立っていたセラが、言葉にした。

 彼女の目の前、マミの家の前に立っているのは間違いなくユウだった。

 

「戻られたのですね!」

 

 嬉しそうに言うセラは、笑顔のまま駆けだす。

 ユウがセラの方に視線を移した。

 

「―――!?」

 

 突如、セラの背中から血が噴き出す。

 その傷から出た血は、あたりに飛び散り通路を汚した。

 地に倒れ伏したセラを見るユウの瞳が、見開かれる。

 

「やっぱりここにきたね」

 

 倒れているセラの背後にいるのは、夜の王。

 待ちわびていたと言わんばかりの表情を見せる彼。

 

「さぁ、一緒においで」

 

 目を伏せるユウが、静かに頷いた。

 倒れたまま、瞳を閉じているセラの隣を通り、夜の王の元へとやってくるユウ。

 二人は外に出るためにエレベーターの方に歩き出すが、数歩歩いて、ユウが立ち止まる。

 踵を返して、セラの元へと歩いて腰を下ろす。

 

「……」

 

 声は出さないものの、心配そうな表情はしていた。

 自らの指の先を噛み傷を作って、血を流す。

 滴る血をセラの口に移した。

 飲んだのだろうか、セラの表情は少し和らぐ。

 ゆっくりと目を開くセラ。

 

「ヘルサイズっ……殿……」

 

 ぼやける視界に映るのは自らがずっと探していた少女。

 名前を呼んで、再び眠りにつく。

 意識は暗い水底へと沈む。

 

 

 

「セラ!」

 

 聞きなれた声に、眼を冷ましたセラ。

 視界に映るのはマミと杏子の二人。

 

「大丈夫か、セラ?」

 

 心配そうな二人の表情を見ながらも、現状整理が追いつかない。

 朦朧とする意識の中、ここはどこかと問う。

 そして―――思い出した。早くユウを追わなくてはと起き上がるが、背中の傷が痛む。

 

「ダメよ起きちゃ!」

 

 マミはセラをゆっくりと寝かす。

 布団にゆっくりと横にされるセラが焦ったように声を出した。

 

「ヘルサイズ殿がっ、さっき家の前に!」

 

 そんな言葉を聞いて、マミと杏子が驚愕する。

 

「ユウが!?」

 

「私は、多分あの男に……」

 

 そう、とつぶやいて立ち上がるマミ。

 外はもう夕方だった。

 

「ユウ、来てたんだ……」

 

 つぶやくマミが、突然走り出す。

 杏子も同じくと言った様子だ。

 

 

 

 走る二人。見慣れ、歩き慣れた道を走っていく。

 目の前の赤信号が待ち遠しい。

 

「(ユウ、私たちのところに帰ってきたんだ! ユウ……ユウ……)」

 

 走って、近くのマンションを上っていく。

 マンションの最上階へと走る。

 

「(やっと会える!)」

 

 最上階の、メールで書いてあった部屋の扉を迷わず開く。

 

「ユウ!」

 

 扉を開くと、小さな部屋のちゃぶ台の前に座るユウ。

 すぐそばで、料理を作っている夜の王も視界に入る。

 ユウは決してマミと杏子を見ない。

 わかっていたのだろう。この二人が来ると言うことを……。

 

「いらっしゃい、来ると思ってたよ」

 

「一緒にどうだい? たくさんつくったからね」

 

 夜の王は一切の警戒なども見せずに、そう言った。

 

 

 

 テーブルに並べられた料理の数々。

 ちゃぶ台を囲むように座る四人。

 

「沢山作ったから、おかわりもあるからね?」

 

 夜の王の言葉に、警戒する杏子。

 不機嫌オーラを出す杏子だが、彼は笑っているだけだ。

 マミはユウだけを見ている。

 

「食べないのかい? 味は保障するよ」

 

 そんな言葉に、マミが答えることはない。

 

「ユウを返してもらいたいわ」

 

「まぁそんなに焦らないで……」

 

 俯いているユウを、みつめるマミ。

 そんなマミに気づきながら、笑う夜の王。

 マミは、夜の王の方に視線を移した。

 

「どうだい、死なない体を手に入れた気分は?」

 

「どうって?」

 

「人は誰しも永遠を求めるものだけど……永遠とはひどく退屈なものだとは思わないかい?」

 

 そんな問いに、ため息をつく。

 

「知らないわよそんなこと」

 

 苛立っているマミの声は些か荒い。

 

「実感するにはまだ時間が必要かな―――」

 

 ドン、とちゃぶ台を叩くマミ。

 力をおさえているのだろう、叩き割れたりはしないが、大きく揺れた。

 

「そんなことより私は!」

 

 言ってから、ユウを見る。

 ただ俯いている彼女を見て、気持ちを落ち着かせた。

 落ち着いたマミは視線を夜の王に移してから、視線を下げる。

 

「私は……」

 

 突如、鋭い音がした。

 家の扉が切り裂かれて、そこには吸血忍者サラスバティとその部下たち。

 いずれは来るだろうと思っていたマミだったが、早い気もする。

 

「いらっしゃい。君たちの分もあるからね、食べて行くと良い」

 

 笑みを浮かべながら言う夜の王だが、サラスは剣を構えて答えた。

 

「断る」

 

「そうか、今日はおいしくできたのに、残念だな」

 

 立ち上がった夜の王。

 それと共に、ユウも立ち上がった。

 唖然とするマミをよそに、ユウは夜の王の隣に立つ。

 夜の王はユウの手を掴んだ。

 

「ユウを離しなさい!」

 

 そう言うマミだが、彼は顔をしかめる。

 

「それはだめだね、手を離せばどうせこの子はどこかへ行ってしまう」

 

「貴方と居たくないってことでしょう!」

 

「じゃあ、君と居たがってるって思えるかい?」

 

 そんな質問を投げかけて、夜の王はユウを見る。

 金色の瞳は相変わらず冷たい。

 うつむいているユウから返事は無かった。

 

「下がれマミ、殺せなくても手足を斬り落とす!」

 

 杏子が変身して槍を構えたが、直後に影が彼女を拘束する。

 夜の王はユウの肩に手を回して、窓からその身を投げ出した。

 いや、その表現のしかたは不適切かもしれない。飛んでいる。

 ゆっくりと、夜の王とセラは窓から出て行った。

 どうやら、外にいる吸血忍者たちも全員拘束されているようだ。 

 

「ユウっ!」

 

 なぜ抵抗しないのかと疑問だが、行かせるわけにはいかない。

 走り出したマミが窓から飛び降りんとばかりに身を乗り出して手を伸ばす。

 

「ユウっ!!」

 

 手を伸ばすマミに、返すように手を伸ばすユウ。

 笑顔を浮かべるマミが、さらに身を乗り出して手を伸ばす。

 

「(帰りましょう、私たちの家に!)」

 

 手と手が重なり、握れば良い。その瞬間、ユウは手を下げた。

 

「えっ?」

 

 ユウは視線をマミから逸らす。

 口元に笑みを浮かべる夜の王。

 マミは呆然と、手を伸ばすのみ。

 

「っ……ユウーッ!!」

 

 叫んだマミだが、その声は届くことはない。

 影に包まれ、消えた夜の王とユークリウッド・ヘルサイズ。

 

「くっ、逃がしたか!」

 

 悪態をつくサラス。

 杏子を拘束していた影も消える。

 マミが、膝をついた。

 

「(なんで……なんで私の手をっ……掴まなかったの?)」

 

「おいマミ!」

 

 叫ぶ杏子が、マミの肩をゆする。

 ぞわぞわと自らの心の中を侵食するそれを感じた。

 その正体は他でもない。

 

 ―――絶望だ。

 

 漆黒に染まる黄色のソウルジェム。

 マミのソウルジェムが砕けると同時に、あたりに凄まじい衝撃が走る。

 吹き飛ばされ壁にぶつかる杏子と、床に剣を刺して吹き飛ばされるのを耐えるサラス。

 そのほかの、サラスの傍にいた吸血忍者たちは吹き飛んだ。

 

 衝撃波が止んだ時には、すでにあたりの景色は違っていた。

 明るい空、あたりは花がたくさん咲いている。

 洋風なテーブルとイスがおいてあった。

 

 椅子には小さな人形。

 いや、人形のような魔女。

 それは黄色く、腕がリボンになっていた。

 魔法少女姿で立っている杏子は溜息をつく。

 その魔女のテーブルを挟んで向かいにはマミが座っていた。

 ぐったりと座っているマミには意識が無いのだろう。

 

「マミっ!」

 

 走り出す杏子だが、目の前に赤い影が現れた。

 人型のその影は槍を持っている。

 

「ハッ……おもしろいことするね。マミ……ロッソ・ファンタズマってか?」

 

 赤い亡霊の名をつぶやいて、杏子は笑った。

 槍を突きだす杏子と赤い影、使い魔。

 二人の槍が幾度もぶつかりあう。

 

「たくっ! 面倒なっ!」

 

 つぶやいた瞬間、青い影が現れた。

 その影は二刀の剣を持ち杏子へと切りかかる。

 舌打ちをする杏子に、槍を抑えながら剣を防ぐ手立ては無い。

 

「ハァッ!」

 

 声と共に、青い影が切り裂かれた。

 驚愕する杏子。

 青い影を切り裂いたであろう少女が立っていた。

 

「このしれものが!」

 

 サラスバティ。彼女は剣を構えている。

 

「おい吸血忍者! マミの体に傷つけるんじゃねぇぞ!」

 

 怒鳴る杏子が、目の前の赤い影を蹴る。

 地面を転がる赤い影。マミの魔女である『キャンデロロ』はピクッと動く。

 剣を構えるサラスと、槍を構える杏子。

 赤い影と青い影、さらには紫色の影。

 そのシルエットは間違いなく杏子、さやか、ほむら。

 

「この量を二人でとは、厄介だな」

 

 そう言いながら、紅の瞳で使い魔をにらみつけるサラス。

 杏子も槍を構えながら額に汗を浮かばせた。

 その瞬間、目の前の使い魔たちに銃弾と剣が飛んだ。

 

「これは!?」

 

 驚愕するサラス。剣が爆発すると同時に、二人の前に立つ二人の少女。

 青と紫のソウルジェムをつけた少女二人が振り返る。

 

「さやかちゃん参上」

 

「巴さんが魔女になったのね」

 

 だが、二人はあまりショックを受けていないようだ。

 それもそうだろう。マミのソウルジェムは指輪の形でマミの指につけられている。

 今はただ意識を失っているだけなのは見てわかった。

 しっかり、肩も上下している。

 

「起こしてさっさと片付けるわよ!」

 

 ほむらが言うが、杏子が隣で槍を構えた。

 

「でもこいつらゾンビみたいに再生してくんぞ!」

 

「ならば!」

 

 三人を置いて行き、高速で敵を切り裂くサラス。

 赤も青も紫も酷いぐらいバラバラだ。なんだか複雑な気分になる面々。

 剣を空に振り、構えるサラス。

 

「全てきり伏せれば良いだろう!」

 

 笑みを浮かべる三人。

 まったくだ。あれは魔法少女の体のようなもの、ならば本体を攻撃すれば終わり。

 

「そういやあの人誰?」

 

 さやかの疑問もまったく。

 振り返ったサラスがビシィッと指を向ける。

 険しい表情に、身を引き締めるさやか。

 

「創遊学園の星川輝羅々(ほしかわきらら)そして今はサラスバティだ!」

 

「まぁようは吸血忍者だ、セラと同じな!」

 

 跳び出した杏子が使い魔を狩っていく。

 それに合わせてさやかとほむらも飛び出した。

 敵を切り裂くさやか。ほむらは敵の攻撃を避けながらマミへと近づいていく。

 だが、目の前に黒い影が現れた。

 黒い影のシルエットは間違いなくセラだ。

 

「ハァッ!」

 

 切り裂かれるセラの影。

 青い剣を持つサラスが影を切り裂いていた。

 

「あの裏切りものと一緒にするな!」

 

 そう言い、使い魔を切り裂いていくサラス。

 ほむらは軽く礼を言うと走ってマミの傍へ行く。

 盾から拳銃を取り出すと、キャンデロロに向けて撃つ。

 

「巴さん、起きて」

 

 肩をゆするが、起きる気配がしない。

 少しだけ、焦ったのか、ほむらが勢いよくその肩を揺さぶる。

 

「巴さん!」

 

 だが、起きることは無い。

 

「そんなっ……」

 

「ほむらっ!」

 

 さやかの声が聞こえた。

 自分の真上に現れた青い影。

 時間停止と共に、ほむらはその場から離れる。

 

 ほむら、杏子、さやか、そしてサラスの四人がそれぞれ武器を構えた。

 キャンデロロはテーブルの上に立っている。

 リボンのような腕は、幾重にもわかれて、それらすべてが使い魔とつながっていた。

 

「まったく、依存するところは本人と同じね」

 

 悪態をつくほむらだが、なぜ起きないのかまったくわからないでいる。

 精神的なものなのだろうか?

 

「なんだかんだ言ったってしかたねぇ! 魔女をつぶそうぜ!」

 

「死ぬなよ魔法少女!」

 

 剣を振ると、サラスが走り出す。

 杏子も同じように跳び出した。

 

「マントと剣とか私とかぶってるっての!」

 

 走り出すさやかが、二刀の剣を振るい使い魔を狩りながら魔女へと走る。

 ほむらが二挺の拳銃を持ちながら、溜息をついた。

 まったく手間をかける先輩だと笑って、これでいつかの借りを返せると頷く。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 どこか、暗い世界にマミはいた。

 一人でそこにいるマミがあたりを見渡す。

 一瞬で世界は灰色へと変わる。

 アスファルトのような地面の上に立つマミ。

 

「ここは……」

 

 辺りを見渡せばすぐにわかる。あの日、事故があった場所だ。

 自分が魔法少女の運命を背負ったあの地。

 だが目の前には見覚えのある教会。

 佐倉杏子の家でもあった、教会だ。

 

「お前が、弱いから、アタシの家族は死んだ」

 

 教会の前に立つ佐倉杏子が言う。

 

「マミが弱いからヘルサイズ殿は消えてしまった」

 

 その隣にいるセラが言う。

 

「貴女がいるせいで私は何度も時を繰り返す」

 

 さらに隣にいるほむらが言う。

 

「どうしろっていうの?」

 

 問うマミ。その瞬間、足場が消えて落ちていく。

 延々と空を堕ちていくマミ。真下に地上は見えない。

 ただただ落ちていくだけだ。

 

「消えればいいんじゃないですか?」

 

 一緒に落ちるさやかが言う。

 

「そう、消えちゃえばいいんだよマミさん」

 

 同じくまどかが言う。

 気づけばマミは、車の中にいた。

 ボロボロの車の中、後部座席で倒れているマミが前方の席を見る。

 血まみれの人間が二人いた。

 

「消えちゃえば……いいのかな?」

 

 そんな言葉をつぶやいて、マミは口元をほころばせる。

 

 戦いなんてずっと恐くて嫌いだった。強くなればそんなことが無いと思ったけど、恐い。

 魔女なんかと戦うのは嫌だったけれど、戦わなくては生き残れない。

 それでもこの無駄に生き残ってしまった命を誰かのために使う必要があった。

 生きる意味が無い。魔女と戦わなければ自分は生きていて誰のためにもならない。

 死んでも誰も困らない。そんなのは嫌だった。

 

 でも心の中で消えることだって望んでいた。このままスッと消えられたら、何も思わなくて済む。

 

「マミさん」

 

 声が聞こえた。目を開くが、辺りは真っ白。

 先ほどのように事故現場では無い。明るい光で一面が包まれていた。

 なぜだか、心が穏やかになっていく。

 後ろから、誰かが自分を抱きしめる。

 

「……誰?」

 

「それはピンク髪のとっても可愛い女の子だなって」

 

「どういうこと?」

 

 冗談です。と声が聞こえた。

 なんとなくだけれど、まどかの声と似ているような気がする。

 でも、こんな所に来るわけがないし、出てきたところでさきほどのようなことを言うのだろう。

 だからきっとまどかじゃない。

 

「私が観測した並行世界の数々……それでもこの世界だけは私の干将を受け付けないほどの何かがありました。理由はきっとユークリウッド・ヘルサイズさんの魔力」

 

 世界の観測者。つまりはパラレルワールドを移動する存在。

 暁美ほむらのような。しかし観測ができて干将ができないということはもっと高位な存在なのだろう。

 それこそ概念のような特別な存在。

 自分の頭で推理して思うことは、自分がとんだ中二病だということ。

 でもその中二病が通じるような世界に、自分はどっぷりと浸かり込んでいるのだ。

 結局頭の中に出る答えは、全部違うと否定した。

 

「でも理由はそれだけじゃないと思うんです」

 

 後ろから自分を抱きしめる。恐らく少女は否定する。

 先の言葉は違うと、そう否定した。

 

「きっと、ほむらちゃんを、みんなを幸せにするために世界が出した答えの一つ。完全なる解答(パーフェクト・アンサー)がここにあるんじゃないかと、私はそう思います」

 

「(ちょっとカッコイイかも……)」

 

 背後から聞こえる声は、次々と言葉を紡ぐ。

 その言葉はマミの中に自然と入ってきた。

 

「限界ですね。これ以上はこの世界への干渉は不味い……ということで私はこれでお別れです」

 

 背後の気配が、徐々になくなっていく。

 感じていた背中の温もりもだ。

 なんだかそれを寂しく感じて背後を向いた時には、そこには誰もいなかった。

 

 結局。一人だ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 まどかは巴家に来ていた。

 理由としては、マミが出かける前に電話をしたからだ。

 怪我しているセラの看病を頼むと、まだ戦うなんてことするには傷は治っていない。

 まどかはセラとちゃぶ台を囲んでいた。

 

「気になりますね」

 

「ダメですよ?」

 

 笑うセラはわかっています。と言って頷く。

 それでも気になっているのは目に見えてわかるほどにそわそわしている。

 行かせてあげたい気持ちもあるけれど、ダメだと自分に言い聞かす。

 

「やぁ、セラフィムと鹿目まどか」

 

 そんな声と共に、現れたのはインキュベーター。

 通称キュゥべぇと呼ばれる宇宙人だ。

 まどかが驚いてそちらを見るも、セラは刀を手に持ちそちらに向ける。

 

「ぐっ」

 

 痛みのせいか体勢を崩す。それを支えるまどか。

 キュゥべぇはただその光景を見ているだけだ。

 まどかがセラを座らせる。

 

「大丈夫ですから……」

 

「マミが魔女になったよ」

 

 そんな言葉に、セラとまどかが驚愕。

 目を見開いて数十秒は固まっていた。

 そして、最初に言葉を口にしたのは、意外にもまどか。

 

「嘘でしょ?」

 

「ボクが嘘を言う理由があるかい? それに嘘なんてついてもしょうがないだろう」

 

 その言葉に、当然だと納得してしまう。

 ほむらの言葉を思い出した。

 インキュベーターは嘘は言わない。伝えるべき情報をはぶくだけだ。

 だからこそ、横で驚愕した表情のままわずかに肩を震わせるセラの手を掴んで聞く。

 

「他には? 全部隠さずに教えて……」

 

「聞き方がうまいね。そう、僕は情報を伝えない。隠しているわけではないんだけどね」

 

「いいから答えなさい!」

 

 セラが怒鳴る。

 キュゥべぇへと突き付けられた刀だが、首を横に振ったキュゥべぇ。

 

「やれやれ、無駄だって知ってるくせに」

 

 馬鹿にしているように聞こえるが、していない。

 いや、馬鹿にすると言う概念自体インキュベーターには存在しないのだ。

 だからこそ、息を飲んでまどかは言う。

 

「早く答えてよ」

 

 冷静に、あくまで気を荒げずにだ。

 

「巴マミは魔女へと変わった。正確には巴マミの穢れが魔女へと変わったということさ、彼女の本体は無事でソウルジェムも復活した。とんだ規格外だけどね」

 

 呆れるように言うキュゥべぇ。

 あくまでも自分たちの冷静さをかけさせるのが目的だろう。

 間違いなくこの場で来ると、まどかは予感していた。

 しかし、材料が無いはずだ。確実に―――用意してくる。

 

「だが、巴マミは起きないよ。おそらく精神的なことが原因だろうね、彼女はユークリウッド・ヘルサイズに拒絶され、それ故に魔女となった」

 

 ユウにマミが拒絶された。

 それを聞いて動揺するセラ。明らかな動揺を見せるセラだが、まどかは冷静になれと自分に言い聞かせる。

 夜の王の誘いを拒絶した自分がこんな所で簡単に魔法少女になるわけにはいかない。

 

「なまじ心なんてものがあるから人間はこうなってしまう。面倒だね」

 

 そう言うキュゥべぇの眼が輝いた。

 怪しい紅の輝きはなにかの催眠術かと思うほど、まどかの動悸を早くさせる。

 助けたい。自分の命を助けてくれた彼女を、親友を助けてくれた彼女を、助けたい。

 けれどここで自分がブレればおそらく彼女たちは悲しむ。

 横にいるセラだって同じだろう。

 

「さぁ、マミを救えるのは君の願いだけだよ?」

 

 目の前の悪徳勧誘も言葉に、まどかは冷静さを忘れそうになる。

 自分ができることは模索するまでもなくないと言って良い。

 でも、それでも魔法少女にはならない、まだなるべき時ではないはずだ。

 

「その必要はありませんわ」

 

 聞きなれた、凛とした声が響いた。

 まどかは耳を疑い、そして目を疑う。

 部屋へと入ってきたのは、間違い無く―――志筑仁美だ。

 

 マミの友達にもなった彼女がこの家に来るのはおかしくないことかもしれないけれど、どういうことだろう?

 彼女はインキュベーターを見ながら言っている。

 まどかは冷静さを保つなんてことも忘れて驚いていた。

 

「話は全て聞かせていただきました」

 

「ならなぜ待っていたんだい?」

 

「演出ですわ」

 

 自分の胸に手を当てて自慢げに言う彼女は、間ごうことなく志筑仁美。

 何度確認しても違わない。驚いているのはセラも一緒のようだ。

 

「し、知らない人です」

 

「(ですよね~)」

 

 自分がおかしいのじゃないと気づいて、心の中で笑顔になるまどか。

 でも外では驚いた表情のまま固まっている。

 だいぶ状況に適応してきたようだ。

 

「マミさんは魔法をかけたんです。それは暁美さんにとっては奇跡、私にとっては魔法と呼ぶに値するものでした……彼女がユークリウッド様を変え、彼女は暁美ほむらを変えた。そしてマミさんとユークリウッド様と暁美さんの三人が、貴女を変えた。それは奇跡とも言えることですわ」

 

 いつもの志筑仁美とまったく違う雰囲気に、まどかは飲まれていた。

 目の前の少女は何者なのか? わからないけれど、彼女は自分の友達だ。

 信じるべき大切な友達なのだ。

 

「奇跡も魔法も魔法少女の専売特許だよ。魔法少女になった子だけが使えるものさ」

 

 そう言うインキュベーターを見ることなく、仁美はまどかを見た。

 

「奇跡も魔法も、そんなものはどうとらえるかです。鹿目まどかにとっての奇跡と魔法は、もしかしたら暁美ほむらの絶望につながるかもしれない。暁美ほむらにとっての奇跡と魔法はもしかしたら鹿目まどかにとっての絶望になるかもしれない。インキュベーターとこの世界の関係もまた然り」

 

「世界全てを君の物差しで測るものじゃない」

 

「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。貴方のそれは奇跡でもなんでもない」

 

「巴マミや美樹さやかの奇跡を叶えたじゃないか」

 

 目の前で行われる問答。

 

「いいえ、それは奇跡では無く悪魔の契約とも言えること」

 

「あれが奇跡じゃないとしたらなんなんだい? それなりの情報を持っているんだろう、マミの生還や上条恭介の腕の再生、あれは奇跡に違いない」

 

 志筑仁美はやんわりとほほ笑んでインキュベーターの方を向く。

 まっすぐな眼は、ブレない。

 

「ボクが現れなければあの願いは叶うことは無く彼女たちの人生は終わっていた。マミは死に、上条恭介の腕は治っていない」

 

「いえ、貴方が来なくてもマミさんは死ぬ直前で助けが来たかもしれない。それに『今の医学じゃ治せない』怪我が来月にでも治せるかもしれない」

 

「所詮“もしも”の話だろう? なんの利益も生まないよ」

 

「だからこそこの契約は間違いなく高すぎる対価を払わせられてるのではないのですか? 良心のかけらもないこんな契約」

 

「平行線だね。この問答に何の意味もない」

 

「そう、平行線です。貴方と“私たちヒト”がわかり合うことなど絶対にありえない」

 

 この無駄な問答を早く終わらせよう。と言うインキュベーター。

 志筑仁美がゆっくりとまどかへと近づいていく。

 まどかの前に立つセラ。

 

「大丈夫です」

 

 そう言ったまどかを見て、セラは引いた。

 まどかの前に立った仁美。

 

「無数の因果を螺旋状に束ねた貴女ならできるはずです。今度は、貴女がマミさんに魔法をかける番ですよ?」

 

 彼女、志筑仁美はまどかの額に人差し指を当てた。

 その瞬間、意識を失うまどか。そんなまどかを支えて、仁美はそっとソファに下ろす。

 心配しているのか、仁美をにらむセラ。

 

「大丈夫です。信じましょう、奇跡と魔法を……」

 

 笑顔でそう言った志筑仁美を見て、セラはゆっくりと頷いた。

 すでにインキュベーターは消えている。

 もう用は無いと言うことだろう。

 今、マミの魔女と杏子たちは戦っているのだろうか?

 

 背中の怪我が痛む。

 何もできない自分が歯がゆかった。

 

 それでも、自分は待つことしかできないのだ。

 




あとがき

※このサブタイトルに仁美はまったく関係ございません。
さて、今回はマミさんの魔女が出現しました。
そろそろクライマックスですね。次回はこの戦闘に決着。といっても戦闘はあまりないわけですが……。
とりあえず、ここからどうなっていくのか、現れた志筑仁美は何をするのか!?

次回をお楽しみに♪
感想がもらえたら、それはとっても嬉しいなって……思ってしまうのでした。


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22「いま、復活の魔法ゾンビ!」

 真っ白な空間を浮かぶマミは、いつの間にかまた違う場所にいた。

 小さく丸まったまま浮かんでいるマミ。

 真下には見滝原の街、真上にも見滝原。

 そのわけのわからない空間に、ただ一人いるマミ。

 

「早く消えちゃってよマミさん」

 

 まどかの声が聞こえた。自分の周囲を取り巻くように立っているまどかとさやか。

 

「アンタがいたせいで私はゾンビみたいな体にされたんだから、早く消えてよ」

 

 消えろ、消えろ、消えろ。と声がする。

 自分の周囲を囲むのはまどかとさやかだけでなく、ほむらと杏子までいた。

 

「(消えちゃったほうが良いのかな……)」

 

 マミの足元が、徐々に消えていく。

 辺りから聞こえる『消えろ』と言う声。

 きっと自分がいるからこんなことになったのだと、マミは消えることを望んだ。

 けれど、それは途中で止められる。

 

「マミさぁん!」

 

 その声は、間違いなく彼女だ。

 

「どっか行って!」

 

 マミの視界に入っていたまどかが、まどかに体当たりをされて吹き飛ぶ。

 無重力のような空間をふわふわとただよって風船のように大きく膨らんだかと思えば、破裂。

 あたりのほむらや杏子やさやかも、まどかは体当たりで倒していく。

 消えかけているマミを見て驚くまどか。

 

「何やってるんですかマミさん!」

 

 まどかに叱咤されるマミが一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐにまた俯く。

 

「私、ユウにも貴女たちにも嫌われて……」

 

「そうだよ、消えちゃえ」

 

 再び現れた偽物のまどか二人がそう言う。

 その瞬間、まどかの表情が曇る。

 数秒、上げたまどかの顔は、完全に怒っていた。

 

「こっの! どっかいけぇっ!!」

 

 まどかはその時、初めて拳を眼前の獲物へと突き立てる。

 偽物の顔面に直撃した拳。ふきとんでいく偽物は破裂して消えた。

 もう一人の偽物もまどかの蹴りで吹き飛んで破裂。

 

「本気でユウちゃんがマミさんのこと嫌ってるなんて思ってるんですか!?」

 

 丸まるのをやめたマミが、浮かびながらまどかを見る。

 表情を曇らせたマミ。

 

「だって、ユウは夜の王と一緒に……」

 

「ユウちゃんはマミさんのことっ! ユウちゃんと一緒に居たいって思うなら、素直にそう言えば良いんです!」

 

 本気で怒っているまどかを見るのが初めてで、マミはその迫力に押されかける。

 気弱なイメージがあったけれどそれもすでに消えていた。

 マミとまどかだけが、この空間にいる。

 巴マミという精神の最深部にいる二人。

 

「ユウは、私よりも夜の王と行く方を選んだんだもの……私には、ユウの気持ちを変える資格なんて」

 

「もぉ! 今マミさんのせいで杏子ちゃんやほむらちゃんは魔女と戦ってるんですよ!」

 

「やっぱり私のせいじゃない。消えた方が」 

 

 ブチンッ、と音が聞こえた気がした。

 

「ごちゃごちゃうるさいっ! そんなに気にしてるんなら、みんなの前に出て話をするのが筋ってもんでしょうがぁっ! いい加減にしないと温厚な私も怒りますよ!!」

 

「(もう怒ってる……)」

 

 鹿目まどかは怒るとこんな風になる。

 知っているのは自分だけじゃないだろうか? となんとなく心が温かくなった。

 マミぐらいになると、怒られるのなんてめったにないことだ。

 親しい身内は居ない。それでもマミ自身しっかり者のこともあって怒られる機会なんてまずない。

 

「いちいち深く考えすぎなんですよマミさんは! 良いじゃないですか、我儘でも……強引にやってみましょうよ!」

 

 まどかを見ていたマミが、表情を曇らせた。

 先ほどまで大声で怒鳴っていたまどかの表情が曇って、その瞳には涙が浮かぶ。

 

「帰ってきてよマミさん、そうじゃないと私たち……」

 

「鹿目さん……」

 

 まどかが上を向いて袖で目元をぬぐう。

 

「やっぱ訂正します」

 

 そう言って顔を下げたまどかはいつも通り。

 穏やかな表情で、先ほど怒っていたのが嘘のようだ。

 ふぅ、と息をつくまどか。

 

「そんないじけたマミさんなら帰ってこなくていいです。私やさやかちゃん、過去にはほむらちゃんや杏子ちゃんが憧れたマミさんは、もっとカッコ良い人ですから」

 

 光の粒子となって消えていくまどか。 

 そんな姿を、マミはただ黙って見送った。

 再び、その空間にはマミが一人だけ残る。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 目覚めたまどかが居たのは、巴家のソファの上だった。

 起き上がったまどかは目元の涙をぬぐう。

 傍にいたセラと仁美。

 お茶を飲む仁美が、笑みを浮かべて頷いた。

 

「貴女はやりとげられたはずです。まどかさん……奇跡も魔法もあるんですから」

 

 見せていただきます。そう言って仁美は立ち上がる。

 セラとまどかを見て一礼すると、彼女は踵を返して去って行った。

 

 

 

 

 

 おめかしの魔女キャンデロロの結界。

 その中で無限に再生する使い魔と魔女相手に戦い続ける魔法少女三人と吸血忍者。

 殺され続ける使い魔たち、だがすぐに再生する。

 まるでゾンビのようだ。

 同様に、魔女も風穴を開けてもバラバラにしてもすぐに再生。

 

「スクワルタトーレェっ!!」

 

 叫び声と共に、さやかが青い使い魔を切り裂く。

 

「どうすれば良いの!?」

 

「確かにな、このままじゃ撤退するしかっ……」

 

 悪態をつくさやかに同意する杏子。

 ほむらは黙って使い魔を撃ち続けるのみだ。

 一方のサラスは使い魔を切り裂きながらも、魔女への攻撃もやめない。

 拳銃とサバイバルナイフを片手ずつに持ったほむらが、使い魔を撃ちながら切り裂く。

 ほむらの背後から迫るセラのシルエットをした黒い影の使い魔。

 

「っ!?」

 

「甘いぞ魔法少女!」

 

 黒い影を切り裂き、サラスがほむらの背後に立つ。

 二人は背中合わせにして、あたりに現れる使い魔を視界にいれた。

 黒が一人、紫が一人、青が二人と赤が二人。

 

「残る義理は無いはずよ?」

 

「この場に立ち合わせたのだ。それにセラの影が出たのだ、斬らざるわけにはいかない」

 

 剣を空で振るサラスが跳び出した。

 その瞬間、ほむらが消える―――直後、ほむらが現れたのは青色の使い魔の前。

 サバイバルナイフを振るが、バックステップで避けられた。

 

「なっ!?」

 

 剣とナイフの圧倒的なリーチの差。

 暁美ほむらの胸へと一直線に突き出される剣。

 

 だが―――その剣は紙一重で止まる。

 

 戸惑うほむらが、青い使い魔を見た。

 青い使い魔の動きを止めていたのは、黄色いリボン。

 それを使う者はたった一人。

 

「巴、さん?」

 

 振り返ると、椅子に座っていた巴マミが消えていた。

 

「全員、体勢を低くしなさい!」

 

 そんな声に、頭を下げる面々。

 瞬間、巨大なビームが放たれ、周囲を一周した。

 上半身が吹き飛んだ使い魔たち。

 ほむらがビームが飛んできた方を見る。

 

 そこには、金髪のダブルロールを揺らし彼女が立っていた。

 彼女の真横にある巨大な二つの銃が消滅。

 

「ふぅ、間一髪ってとこね」

 

 巴マミ。微笑を浮かべる彼女。

 杏子もさやかも満面の笑みを浮かべていた。

 無数の使い魔が再生を開始するが、マミはすかさずリボンで使い魔たちを拘束する。

 

「四人とも、結界から撤退なさい」

 

 その言葉に、面々は驚愕する。

 

「私は私がケリをつける。この子は私が倒さないと」

 

 そう言ったマミは真っ直ぐと自らの絶望で生み出した魔女を見つめた。

 数十秒間見ていただけ、しかし彼女の中では数分は経っているような錯覚が起きる。

 二挺の銃を召喚する。ハンドガンサイズの銃を回転させて、魔女へと向けた。

 

「世界の特異点、そしてガイアから選ばれし私にしかこの魔女は処理できないのよ」

 

 振り向いたが、そこには誰も居ない。

 

「……ですよね」

 

 もうすでに、帰っていた。

 フッ、と笑みを浮かべたマミ。

 

「跡形も無く消し飛ばしたら貴女はどうなるのかしらね、中途半端なゾンビさん?」

 

 表情をひきしめた彼女が、銃のトリガーを引く。

 撃鉄が音を響かせる。

 魔女結界の中で戦いが始まった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 巴家にて、まどかとセラ。

 外はもうだいぶ暗くなっていて、陽はすっかりおちていた。

 誰も帰ってこなければ、誰も連絡を入れない。

 仕方がないので、まどかは晩御飯を作った。

 

「(マミさんの話じゃ、セラさんに料理させると一回は……らしいし)」

 

 ゾッとしながらも料理を作るまどか。

 専業主夫の父親から教えられた料理だ。

 父親と母親の二人からのおすみつきだし間違いないだろう。

 

「よしっ!」

 

 料理を作ったが、問題は大量に作ってしまったこと。

 マミも帰ってくる計算だが、大丈夫だろうか?

 まぁ問題ないだろうと、まどかが頷いた―――瞬間、ドアが開く音が聞こえた。

 

「あ!」

 

 まどかは小走りで玄関へと向かう。

 そこに立っていたのは杏子とさやかと―――巴マミだ。

 驚くも、嬉しそうな顔をするまどか。

 

「おかえりなさい」

 

 まどかの背後に、いつのまにやらいたセラ。

 静かに笑みを浮かべているセラを見て、マミはそっと頷く。

 

「ただいま」

 

 帰ってきたマミはボロボロである。

 疲れているようだが、大丈夫のようで安心をしたまどか。

 これで、この一件は落着といったところだろう

 

 

 

 けれど、まだ終わってないこともあるのは事実だ。

 マミ、杏子、セラとさやかそしてまどかの五人が食事を続けている。

 自分が作った食事でみんなが笑顔になってくれるのがまどかは嬉しかった。

 

 けれど、まどかの心の中ではどうにも引っかかっていることがある。

 夜の王の願いとはなんなのだろう? 自分が願いを叶えるという選択肢は万に一つにもない。

 今の自分ができることがあるならしたい。

 

「鹿目さん?」

 

 マミの言葉に、まどかはハッとする。

 どうやら上の空だったようだ。

 気にさせないように笑顔で返す。

 

「ん、なんでもありません!」

 

 その返事を聞くと、マミは笑顔で頷いて食事を再開した。

 まどか自身としては、とりあえずは目の前の幸せを満喫しようと思い、会話に混ざる。

 やはりユウが居ないのが気になるが、杏子もセラも、マミも言葉にしないので誰もその話はしない。

 きっと彼女たちにも事情があるのだろうと思った。

 いつか絶対ユウは帰ってくる。否、彼女たちが連れ帰ってくるだろう。

 

 まどかは心の中で静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 夜、まどかは公園にいた。

 二人で帰っている最中誘われたということもあってだ。

 公園のベンチに座るまどかに、マミが近づいてきて缶を渡す。

 紅茶のようで、肌寒い冬には良い。

 

「あったかい……」

 

 つぶやくまどかの隣に、マミが座る。

 空を見ながらほほ笑むマミが、まどかに視線を向けて笑う。

 

「今日は、ありがとう」

 

 そんな言葉に、一瞬わからないという表情をしたまどかだが、すぐ理解して頷いた。

 

「私の世界にまぎれてくるなんて、困った子ね。どうやったの?」

 

 聞かれたまどかは、少し困ったように笑う。

 答えにくいことなのだろうと、マミは悟る。

 マミから眼を逸らしながら、言う。

 

「その……仁美ちゃんが来て、キュゥべぇと難しい話してて、その後わたしに指を向けたらマミさんが居て……」

 

 なんとなく理解した。

 相変わらず謎な少女である。けれどずいぶん世話になった。

 今度本格的にお礼をさせてもらわないとならない。

 缶紅茶を開けて、マミは飲む。

 

「そっか、仁美さんのことはみんなに内緒にしてあげてね。たぶん、自分のタイミングで言うでしょうし……」

 

 それにしても、自分のタイミングなんて彼女にはあるのだろうか?

 自分の時のようになにかの拍子で軽く言ってしまいそうな気がする。

 まぁ、それでも他言無用と言われたのだから、そうしておこうと思う。

 

 あと数日もすれば、ワルプルギスの夜が現れる。

 ほむらにとって……いや、彼女たちにとって運命の日。

 

「そして、見滝原にとっての審判の日ね」

 

「ワルプルギスの夜ですか?」

 

 頷くマミ。

 

「(やっぱりこういうこと言ってる時のマミさんって様になるなぁ)」

 

 カッコ良さすら感じていた。

 まどかは思い出す。ほむらの話では、自然災害レベルの力を持ち、結界の中に隠れない。

 舞台装置の魔女とはいかほどのものなのか……いや、まどかにとっては考える必要も無かった。

 夢で見たことがある。その力で見滝原の街をボロボロにした力。

 

「私は、契約しない」

 

 自分に言いきかせるように頷く。

 隣のマミが笑顔のまま頷き、まどかの頭を優しく撫でた。

 可愛い後輩の頭を撫でながらも、マミは物思いにふける。

 

「(最悪なのは私の魔女、ソウルジェムが絶望か魔力の使いすぎで濁りきれば……魔女が生まれる。濁りきる寸前で、今日私の魔女を倒したようにソウルジェムを破壊した自爆も可能かもしれないけれど、30分は復活できない)」

 

 つまりは、自爆は最後の手段になるのだろう。

 しかしその自爆で倒せなければ後は他の面々に任せるしか無い。

 戦力が大幅に落ちるし、狙う者が一人少なるのだからワルプルギスの夜の方が有利。

 

「はぁ~」

 

 溜息をつくマミを見て、笑うまどか。

 撫でていた手をおろし少し咎めるような眼でまどかを見るマミ。

 

「大丈夫ですよ。きっと全部、大丈夫に決まってます」

 

 そんな言葉に、マミは困った顔で頷いた。

 まどかにそう言う風に言われると、本当に大丈夫な気がしてきてしまう。

 どうしようもなく能天気だというのは理解しているが、大丈夫な気がするのだ。

 

 数分ほど話をしてから、マミはまどかを送って家へと帰った。

 

 

 

 

 

 家に帰ると、待っているのは二人の声。

 いつも通りだが、リビングに帰ったときの後継にはやはり違和感がある。

 彼女が、いない。それに慣れるなんてことはないだろう。

 四人での生活は幸せすぎた。あまり長い間いたわけではないけれど、居心地が良すぎたから……。

 

 キッチンから戻ってきたマミは、ずいぶん久しく紅茶を持ってやってきた。

 自分で入れた紅茶を飲むと、満足そうな顔をして頷く。

 

「マミ、あたしにも」

 

「私も飲んでみましょう」

 

 杏子とセラから声がかかると、笑顔で頷いたマミが立ち上がって二人分のティーカップを持ってくる。

 二つのティーカップに紅茶をそそぐと、そっと二人へと出す。

 飲む二人は、文句も言わず笑みを浮かべて飲んでいた。

 

 そんな笑顔を浮かべる二人を見て、マミは安心するような表情を浮かべる。

 

 

 




あとがき

次回!そして最終決戦が始まります!
夜の王、そしてワルプルギスの夜との戦いなど、やること沢山、大変だねマミちゃん!
これゾンやまどか☆マギカとはだいぶ違う状況でどうなっていくのか、などなど……お楽しみに♪
感想お待ちしてます!


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23「そう、痛さは強さ」

 よどむ空、すでにワルプルギスの夜までの時間はそれほどない。

 数時間後には、この街や自分たちの命をかけた戦いをしているのだろう。

 街ではすでに避難警告が出ていて、見滝原の住人たちは避難している。

 そんな状況下で、マミの家に集まっている少女たち。

 マミ、ほむら、杏子、セラ、さやか。

 計五人の少女たちが集まり、話をしていた。

 

「で、ここであたしがフィナーレってことだな」

 

 杏子が地図を指して言う。作戦の見直しだ。

 完璧に行くとは思ってはいないが、完璧なぶん悪いことは無い。

 この異常な世界に、ほむらはかけていた。

 これ以上の失敗は自分が許せない。

 おそらくこの世界で失敗すれば待っているのは―――絶望だ。

 

「……そんな顔しないで」

 

 ほむらはハッとして、マミの方を見た。

 不安が顔に出ていたのだろうか? 杏子は笑っている。

 マミはほむらの頭をそっと撫でると、言う。

 

「アレもしっかり渡したでしょう?」

 

「えっ……あぁ、あれね」

 

 戸惑うようにほむらが頷く。

 ほむらとマミ以外の面々は話の内容がいまいちわかっていない。

 ムッとした表情を見せる杏子。

 素早く飛んできたクナイが、マミのこめかみに突き刺さる。

 

「ぬあぁぁぁっ! 最終決戦前もこれぇっ!?」

 

 苦悶の声を上げて床を転げまわるマミ。

 

「っ!?」

 

 セラが僅かに眉を寄せて、立ち上がると窓から空を見た。

 それについていく杏子とさやか。

 マミのこめかみからクナイを抜いたほむらが、マミを支えながら窓の方へと向かう。

 窓の方へと向かうと、唖然としたまま空を見ている杏子とさやかを疑問に思う。

 セラはクッと歯をかみしめる。

 空を見るマミが、ようやく気付いた。

 

「……メガロ、か」

 

 空にうずまく雲の中心から、現れたのは顔。

 まだ出てきてはいない。だが、徐々に出始めているのは確かだ。

 その顔の下には、見滝原を一望できるタワー。

 苦笑したマミ。間違いなく、そこにいるのだろう。

 

「みんな、もう少ししてから渡そうと思ってたのだけれど……今渡してしまうわね」

 

 ほむら以外の、一人一人に、メモ帳を渡していく。

 受け取る面々が、わずかに戸惑いながらも頷いた。

 苦笑するほむらを見て、頷く。

 マミは、空に浮かぶ巨大な顔、メガロをにらみつけた。

 

 

 

 

 

 メガロの顔の真下のタワー。

 その内部で、中心にあるエレベーターが開きマミが現れる。

 生身での戦いを想定してか、動きやすい短パンだ。

 ニーソックスでロングブーツ。薄手の上着を着ている。

 マミの視線の先には、二人。

 コートを着ているロングストレートの青年こと、夜の王。

 そして、ユークリウッド・ヘルサイズ。

 

「よく来たね」

 

 夜の王の言葉が聞こえるが、マミはユウだけを見る。

 

「みんな待ってる、帰りましょ」

 

 そう、言葉をかけるマミ。紙飛行機が飛んできた。

 真っ直ぐと飛ぶ紙飛行機を受け取ったマミが、その紙飛行機を開く。

 

『私がいなくなった方が平和だったでしょう?』

 

「えぇ、メガロが出ないからね……でも、物足りなかった」

 

 そう、言葉にする。

 マミにはユウの背中しか見えない。

 

「ユウが居ないとダメだよ」

 

 そんな訴えに耳を貸しているのは確かだ、返事を書いた紙を、ユウが紙飛行機に折っている。

 だが、そんなユウの手から紙飛行機を奪い取るマミ。

 小さく声を上げるユウだが、マミは紙飛行機を開く。

 

『けど、私は迷惑になるから』

 

 マミが一度目を伏せてから、紙をぐしゃぐしゃに丸めた。

 

「そんなの関係ない!」

 

 丸めた紙を床に放る。

 紙クズは夜の王の足元に落ちた。

 笑いながらも、夜の王言う。

 

「やれやれ、僕は無視かい?」

 

「貴女、なにするつもりなの!?」

 

 声を荒げながらも言うマミ。

 ワルプルギスの夜が現れる日だというにも関わらず、邪魔しにきたからだろう。

 早くみんなの元へ戻らなくては戦いが始まってしまう。

 

「メガロを呼ばせたんだよ、ユークリウッドにね?」

 

 いつも無表情なユウが、沈んだ表情を見せる。

 

「その切ない顔が見たかった……どうだい、綺麗だろう?」

 

 ユウを一目見たマミが、すぐに夜の王をにらみつけた。

 無言が数秒続くと、夜の王が続けて話す。

 

「まもなくこの街は滅びる、君が最も嫌いな争いごとでね。ツライだろう? 悲しいだろう? 僕が憎いだろう……だからユークリウッド。早く殺しておくれ」

 

 夜の王の懇願ともいえる言葉に、両手で耳をふさぎながら首を左右に振る。

 嫌がっているのは見てわかることだ。

 

「まただ……泣くほど辛いのに、殺したいほど憎いのに、この子はなにもしようとはしない。君は本当に残酷だよ。ユークリウッド」

 

 つぶやくように、言い聞かせるように言う夜の王を睨みつけていたマミ。

 だが、いつのまにやらマミの眼は睨みつけるものではなくなっていた。

 

「可哀そうなヒト、いやゾンビね」

 

 なに? と煩わしそうな眼を向ける夜の王。

 そんな夜の王を見るのはマミにとって初めてだ。

 敵対しているのに、彼は自分に中々敵意を向けない。

 

「貴女は、ユウのことなんにもわかってないじゃない」

 

 外の豪風が、窓を叩く。

 そろそろ来るということだろう。

 悪いがいけそうにないと、マミは心の中で謝る。

 

 

 

 

 

 外、見晴らしの良い川の傍に立つほむら、杏子、さやか、セラの四人。

 タワーの上空からゆっくりと現れるメガロ。

 だがそちらだけに集中するわけにもいかない。

 白い霧が、あたりに漂う。

 

「……来る」

 

 ほむらのつぶやきと共に、カウントダウンは始まる。

 

 ⑤

 

 何度も挑んで負けた。舞台装置の魔女。

 

 ④

 

「今度こそ、勝つ!」

 

 ほむらの言葉と同時に、三人の魔法少女が変身する。

 セラは刀を出現させた。

 

「私は避難所の方へ」

 

 風のように消えたセラ。

 

 ②

 

 さやかと杏子がほむらの前に立ち、武器を構える。

 盾を構えたほむら。

 あたりにはパレードのように行進する像やピエロのような使い魔。

 

 ①

 

 そして奴が現れる。

 舞台装置の魔女―――ワルプルギスの夜。

 

 巨大な体。女性のような上半身に下半身の歯車。

 逆さまになっているその魔女を睨みつけたほむらが大量のランチャーを周囲に配置した。

 盾から音がした。それと共に止まった時の中でほむらがそれらを撃つ。

 

 時が動き出せば、放たれたロケットランチャーの弾頭の数々がワルプルギスの夜に直撃する。

 地上へと落ちたワルプルギスの夜を相手に、杏子とさやかが跳び出した。

 

「マミさんが帰ってくるまで持たせよう!」

 

「ハッ! 別に倒しちゃっても良いんでしょ?」

 

 二人が浮遊を始めるワルプルギスの夜の体を切り裂く。

 

「決着はつけてきて……巴さん!」

 

 叫ぶと同時に、ほむらは走りながらストライカーを撃つ。

 筒から放たれたグレネードは正確にされた計算の元、ワルプルギスの夜へと放たれた。

 

 

 

 

 

 タワーの中にまで聞こえる爆発の音。

 だがそれも僅かな音にすぎない。

 夜の王がつぶやくように言う。

 

「不死を手に入れたとき、これでなんでもできると喜んだよ。だが、途端に見えてる世界が色あせたんだ……君にもわかる日が来るよ。死ぬことは辛い、けど生きることよりはマシだって」

 

 マミへと語る夜の王。

 彼女の背後でメモ帳に急いで文字を書いたユウが夜の王へと見せる。

 

『私はもう、友を殺したくない』

 

 笑う夜の王。

 

「相変わらずだね。なら、その気になるまで君の美しい顔を堪能するとしよう」

 

 夜の王が、ゆっくりを歩を踏み出す。

 

「どうやら彼女を痛めつければ、君は悲しんでくれるようだ」

 

 一歩下がったマミが、すぐに拳を握りしめて一歩踏み出した。

 キッと夜の王をにらみつけたマミ。

 

「ふざけないでよねっ!」

 

 拳を振りかぶり、突き出したマミ。

 だが夜の王からあふれ出た影に包まれ、影が晴れた時には目の前には天井が映っていた。

 重力に従い、床に背中を叩きつけることになるマミ。

 離れた場所へと落とされたことに気づくと、助走をつけて再び殴ろうと走り出す。

 

「でやぁぁぁっ!」

 

 再び影がマミを包む。次は自分の体を窓へと叩きつける形になっていた。

 頑丈な窓がひび割れる。べっとりと窓についた血はマミのもので、倒れたマミ。

 

「君は、僕に触れることすらできない」

 

 だが、マミは立ち上がる。

 負けるわけにはいかない。

 まだこれは前哨戦にすぎないのだ。

 

 

 

 

 

 避難所の外にて、避難所に近づく使い魔や亡霊のような形をしたメガロを斬りつづけるセラ。

 たった一人で避難所を守ると言うのはさすがに無理があったのかもしれない。

 けれども、彼女は負けるわけにはいかないのだ。

 

「くっ、数が多い!」

 

 黒い翼をはばたかせて、敵を切り裂いていく。

 おそらくほむらたちも使い魔とメガロを同時に相手にしてるのだろう。

 基本的に攻撃するのは魔女といっても、使い魔とメガロの攻撃が飛んでくる中、戦う。

 

 

 

 ビルの上に乗って対戦車ライフルを撃つほむら。

 ワルプルギスの夜へと近づいて斬るさやかと杏子がそこから見える。

 せめてもの救いは気が滅入るほどいるメガロと使い魔も戦っていることだろう。

 さやかと杏子が再び吹き飛ばされるのが見えた。

 

「っ!?」

 

 自分の背後から迫るメガロの攻撃を避けて、ビルから降りるほむら。

 地面へと着地すると、強化された足で駆けだす。

 サブマシンガンを二挺手に持つと、邪魔をするメガロと使い魔を狩りながら走るのだった。

 

 

 

 

 

 タワーの中で、マミは立っているも服の所々がやぶけていた。

 流れる血が、床に汚れを作る。

 肩で息をしながら、夜の王をにらみつけるマミ。

 

「この程度の傷じゃ、僕らは死ねやしないよね」

 

 無言で眼前の“敵”を睨みつけるマミ。

 ユウは心配するようにその光景を見守っている。

 

「しっかり見ているんだ。ユークリウッド、君が良かれと思って成したことの結果を……」

 

 歯ぎしりをするマミ。

 

 一度目はキュゥベェ。

 二度目はユウ。

 

「(二人に助けられた命を、何の役にも立てずに……)」

 

 心の中で悪態をつくマミが、ふと気づく。

 自分の手を見て、その中指についた指輪を見つめた。

 そう、自分はただのゾンビでは無い。

 

「だよね! 変……身ッ!」

 

 いつも以上に気合を入れた掛け声と共に、マミの身体が輝いた。

 一瞬―――マミは魔法少女の姿に変わったのだ。

 夜の王の背後の霧。それを消し去る。

 

 

 

 

 避難所を守っていたセラ。

 再び一体の使い魔を切り裂く。だが、その脇を通ってメガロが避難所へと飛ぶ。

 

「そんなっ」

 

「臆するなセラフィム!」

 

 凛とした声が響き、メガロが切り裂かれる。

 周囲の使い魔も同様に切り裂かれた。

 セラの周囲を飛ぶ、吸血忍者たち。

 

「サラスバティっ!? みんな!」

 

 敵を切り裂くサラスは、微笑を浮かべていた。

 ほかの吸血忍者たちもサラス同様、避難所に近づく敵を切り裂いていく。

 これでも防衛がやっとだろう。それでも十分、心強い仲間たちだ。

 

 

 

 

 

 変身したマミが、夜の王を視界に入れる。

 けれど彼女はまったくもって先ほどと違う。

 勝てる。という表情をしたいた。

 

「行くわよ。新必殺技!」

 

 マミの体が輝き、魔法少女の服装が変わる。

 

「シュヴァルツ―――」

 

 言葉を発し、足を踏み出す。

 

「(黒?)」

 

 必殺技の名前で、技など大抵予測できるものだと、夜の王は考えた。

 だがそれはマミを知らないが故の考えだ。

 

「―――シュヴァイン!」

 

「(意味を考えてもまったくわからない技だ。なによりも必殺技を使う意味がわからな―――)」

 

 マミの背後に現れる巨大な銃剣。

 驚愕する夜の王が出した霧だが、それらへと突撃するように銃剣は跳び出す。

 それが実体ある影を貫く。

 

「黒豚と全く関係―――ない!?」

 

 シュヴァルツ・シュヴァイン。和訳すれば黒豚。

 しかし巴マミはイタリア語以外ちんぷんかんぷんの少女だ。

 なんとなく発音で決めたのだろう。

 ユウもセラも、ほむらたちでさえもその程度なら理解できたことだ。

 

 銃剣に突き刺された影。そして、撃鉄が鳴る。

 爆発と共に、あたりに爆煙が巻き起こる。

 

 すぐに爆煙が晴れるが、ソウルジェムを確認したマミ。

 たった一撃だが、これ以上使えば問題も発生するだろう。

 それほどまでに魔力を使う大技だった。

 膝をついている夜の王がコートを脱いで立ち上がる。

 変身を解いたマミが、夜の王と視線を交差させた。

 

 ここからは、小細工なしの純粋な戦いだ。

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜との戦いが始まって何十分経っただろうか、それとも数時間か……。

 グリーフシードのストックの数は今までほむらがループした世界の中でもトップクラスだ。

 間違いなく勝てる状況のはずだったにもかかわらず、メガロのせいでかなり消耗させられる。

 

「まさか、ここまで堅いとはね」

 

 ビルの屋上に立つ杏子とさやか。

 そこにほむらが現れる。

 

「まだアイツは本気にもなっていない。強すぎるわ」

 

 おかしい。しかしほむらはなんとなく理解できてしまう。

 このおかしな世界線のワルプルギスの夜なのだから、と……。

 

「三人共、大丈夫ですか?」

 

 現れたセラ。避難所は吸血忍者の仲間たちに任せてきてくれた。

 だが、戦いはまったく上手く進まない。

 瞬間、衝撃波と共にワルプルギスの夜の周囲に浮かんでいたビルがほむらたちへと落ちてきた。

 避けようにも時間停止のために使う砂時計がないのに気づくほむら。

 衝撃と共に、ほむらたちは吹き飛ぶ。

 

 ボロボロになったビルの屋上にて、ほむらが横になっていた。

 近くの瓦礫を背もたれにして、ほむらが涙を流す。

 

「何度やってもアイツに勝てないっ……」

 

 自らの手にある盾に手をかけようとするが、あきらめた。

 ここで死ぬならば、自分ももう構わない。

 そう思える世界だった。そう思える場所だった。

 そして、ほむらに待つのは絶望。

 

「えっ?」

 

 魔女になる前に自分で止めをと思い銃を出そうとしたが、違う。

 自分の手にあるのはみんなより先にマミに渡されていたメモ帳だった。

 そのページを開く。

 何ページもあるメモ帳の数ページを見て、ほむらの口元には笑みが浮かんだ。

 

『ハハハハッ! ほむら、マミからもらったメモ帳見たか!?』

 

 杏子からテレパシーが飛んでくる。

 

『ええ、あの人らしいわ』

 

『だな!』

 

 立ち上がるほむらが、歩いてビルの角に立つ。

 ワルプルギスの夜は今だ健在である。

 ほむらの横に現れるセラ、杏子、さやか。

 

「まったく、どこまでも中二病なクソ虫ですね」

 

 穏やかな表情で言うセラ。

 

「私のかなり良かったよ!」

 

 さやかが嬉しそうに言って頷いた。

 全員が片手にメモ帳を持っている。

 そのメモ帳を全員がしまう。

 

「さて、マミが考えた技……やるぜ!」

 

 杏子が三つほどのグリーフシードを確認して両手を合わせる。

 真っ赤な魔力が彼女の周囲に放出され、巨大な槍が地面から現れる。

 

「あたしの必殺技、見せちゃうよ!」

 

 さやかの手に巨大な大剣が現れた。

 グリーフシードのストックはまだある。

 

「そうね、巴さんからもらったものだものね……」

 

 ほむらは、盾の中から日本刀を取り出す。

 彼女から受け取ったそれを持つと、鞘を背中にかけて、刀を抜き放つ。

 『魔力を使わない最大限の防衛』と言っていた。けれど、十分な力は秘めている……らしい。

 

「行くわよ……八咫烏!」

 

 マミから受け取った刀“八咫烏”を手に、ほむらはビルから跳んだ。

 まだ、戦いは終わらない。

 

 

 

 

 

 鹿目まどかは、ため息をつく。

 誰も避難所から出ようとはしない。

 母を説得して、避難所から出たまどかは周囲の使い魔やメガロたちを倒す吸血忍者たちを見ている。

 自分が行かなければと思うも、やはり邪魔になってしまうのではないかと思う。

 

 そんな時―――白い獣が、まどかへと近づいた。

 

 

 




あとがき
さてやってきました最終決戦。
終りませんよぉ、まだ終わりませんよ!
ドイツ語ってかっこいいですよね。おもにクーゲル・シュライバーとか(ボールペン)ね。
とりあえず今回ミストルティンキックがないのでこんなことに、まぁ問題はさほどないですがw

では、次回をお楽しみに!
感想がもらえたらとっても嬉しいなって♪




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24「だけど、死を呼ぶもの」

 数十分が経った。

 ワルプルギスの夜も、上空にいる巨大なメガロも、まだ終わらない。

 そして―――タワーの中の戦いも今だ続いている。

 

「400%!」

 

 マミの攻撃により、吹き飛ぶ夜の王がタワーの窓にぶつかる。

 

「ではこちらは500%!」

 

 夜の王の攻撃を受けたマミも同様に吹き飛んで背中を打ち付けた。

 鉄製の窓枠に背中をぶつけたマミ。背後の窓には血がべったりと付着している。

 

「600パーセントッ、友達を殺したくないっていうユウの優しさをっ!」

 

 腕と脚を使って、跳び出すマミ。

 立っている夜の王向かって飛び出すマミが、拳を振りかぶる。

 

「なんでっ、なんでわかってあげないのッ!!」

 

 拳を打ち付けるマミだが、夜の王は両手で防ぐ。

 防いでいた両手が音を立てる。

 彼の両手の骨が砕けていく。

 

「700%!」

 

 お返しと言わんばかりに放たれた夜の王の蹴りが、マミの腹に直撃した。

 大量の血を吐き出しながら、吹き飛んだマミがエレベーターの扉にぶつかる。

 床へと倒れ込むマミの周囲は吐き出された血で汚れていた。

 

「昨日今日知り合った君が、一体彼女の何を知っている……」

 

 冷たい声が聞こえるが、数日前や先ほどに比べるとずいぶん感情が乗っている。

 痛みに震える体、両手を床について起き上がろうとするマミ。

 俯くマミの髪留めが、砕けたのか落ちる。

 片方のロールを残して、片方のロールはほどけた。せっかく毎朝セットしているロールだが、今はそんなことに構っているほど心に余裕も無かった。

 

「そう、だからムカついてるのよ……」

 

 顔を上げるマミ。

 

「私なんかよりずっと前からユウを知ってる貴方がっ、なんでユウのことわかってあげないのかってね!!」

 

 眼を見開き、動揺する夜の王。

 マミが両手と両足に力を込める。

 

「800パーセントォッ!!」

 

 大きな声と共に、立ち上がったマミが勢いよく夜の王に駆けた。

 素早く近づいたマミは、下から抉るような拳を打つ。

 夜の王の顎を打った拳。マミは鋭い目つきのまま叫ぶように言った。

 

「ユウの笑顔をっ、一番可愛い顔をっ! 貴方は見たことがないわけ!?」

 

 マミの拳の衝撃でか、夜の王の喉元から骨が突き出てすらいる。

 だがお互いにゾンビ。その傷も音を立てて再生していくのみ。

 

「笑顔?」

 

 つぶやくように言う夜の王。

 ふらつくマミが、まだ叫ぶ。

 

「楽しい時、ユウがどんな笑顔を見せるのか、知ってるのか!」

 

 荒々しく言葉を投げつけ、拳を振るう。

 右からの拳により左に倒れそうになる夜の王を左から殴る。

 

「貴方はユウが好きな食べ物、知ってるのかッ!!」

 

 さらに拳が打ち付けられる。ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。

 ひたすらな攻撃。腹部を打つ蹴り。

 だがそんな攻撃を受けても死なない。死ねない。

 

「毎日毎日! ユウがどんな思いで暮らしてるのかっ―――知ってるの!?」

 

 打ち付けられる拳。

 

「好きでネクロマンサーに生まれたわけじゃない! それでも頑張って生きるしかないのにっ!」

 

 自分で言いながらも、思い出すユウとのここ一ヶ月の生活。

 足を蹴り飛ばすと、膝まで崩れ落ちる夜の王。

 

「生きることを諦めたお前にっ! わかったようなこと絶対に言わせないッ!!」

 

 叫ぶと共に放たれた拳は、下から抉るように夜の王の顔を貫いた。

 血液と、骨の破片が窓まで飛び散る。

 貫いたマミの腕は、血に濡れていた。

 

 だが、それでマミは止まる。

 マミの背中に抱きついているユークリウッド・ヘルサイズ。

 苦しそうな声が聞こえた。

 マミはゆっくり目を伏せて、腕を引き抜く。

 

 

 

 静かに立つマミと夜の王、そしてユウの三人。

 外では、いまだに戦いが続いている。

 夜の王が口を開いた。

 

「君もいつか知る。死ねないことの辛さを……だから、頼む……」

 

 そっと、ユウへと視線を移す夜の王。

 

「その時が来ても、ユークリウッドを恨まないでくれ」

 

「そんなことあるわけない、私には魔法少女の皆がいるし、セラもいる。貴方とは違うわ」

 

 はっきりと否定するマミ。

 ただ一人、死ねない体で孤独だったからこそこうしてしまったのかもしれない。

 マミ自身だってあのままユウと出会ったまま一人きりでいたらこうなっていた可能性だってある。

 

「そうか、そうだね」

 

 穏やかな表情で微笑する夜の王。

 

「もういいだろユークリウッド……これ以上は辛すぎる。お願いだ」

 

 その言葉に、眉をひそめるユウが静かに目を伏せた。

 一歩一歩、足を踏み出すユウ。そっと夜の王の手を握った。

 振り向いてマミを見るユウ。頷いたマミが数歩下る。

 夜の王が膝を曲げた。

 

 そして彼の耳元で―――つぶやく。

 

 膝をつく夜の王。

 足元から徐々に、光の粒子へとなって消えていく。

 ユウはその手を離さない。

 

「死んだら、ペンギンにしてくれ。ボクはペンギンが、好きなんだ」

 

 何度も、何度も頷くユウ。

 だが、涙を流しながらもユウは笑顔を浮かべる。

 

「すまなかった、ユークリウッド」

 

 そして、夜の王は完全に消えた。

 無言のマミとユウ。震えるユウの頭をそっと撫でると、魔法少女姿の時にかぶっている帽子。

 それを出すとユウの頭にそっとかぶせた。

 

「迎えに来るからね」

 

 そう言うと、マミは割れた窓から飛び出していった。

 彼女は再び戦いの舞台へと舞い降りる。

 

 

 

 

 

 上空でメガロが消えた。

 それを見たさやかが真上を見て笑顔を浮かべる。

 マミが勝ったという証拠だ。

 

「やったんだ……」

 

「さやか!」

 

 声が聞こえた。ほむらの声だ。

 振り向くとそこには使い魔。

 その手が自分を貫こうとした瞬間、使い魔は切り裂かれた。

 

「まったく、油断しないで」

 

 目の前に現れたほむらが刀を空に降り、背中の鞘に納める。

 

「あっ、ごめんごめん」

 

 さやかの手にある大剣。

 迫る使い魔をそれで切り裂くさやか。

 さすがに疲れがきている面々だが、グリーフシードは徐々に減る。

 戦える。

 

「ほむら! さやか!」

 

 セラの大きな声が聞こえる。

 大きなビルがほむらとさやかへと真っ直ぐと落ちてくる。

 不味いと思った時には、すでに避けられる距離でもなかった。

 

 ―――ティロ・フィナーレ!

 

 声と共に、ビルが爆散した。

 粉々になったビルの破片が周囲へと落ちる。

 ほむらとさやかの前に降り立つ。

 

「待たせちゃったわね」

 

 そこに立つのは、間違いなく巴マミだ。

 いつも通りの魔法少女姿。

 だが、帽子が無く片方のロールがほどけていた。

 残っている方のロールも、ロールと言えないぐらいストレートに戻っている。

 アンバランスに残ったもう片方の髪留めを外しストレートの髪型になるマミ。

 

「お待たせ」

 

 振り返ってそう言うマミの横に現れる杏子とセラ。

 

「遅いですマミ」

 

「ごめんなさいね」

 

 なぜここにセラがいるか疑問に思わないのは、なんとなく察したからだろう。

 吸血忍者たちが避難所を守ってくれているならば百人力だ。

 マミが自分の持っている三つのグリーフシードを確認する。

 周囲に配置される100を超えるマスケット銃。

 

「さぁ、舞台装置の魔女ワルプルギスの夜! この舞台の主役はこれより私が勤めましょう。おいでなさい!」

 

 100を超えるマスケット銃が同時に撃鉄を鳴らす。

 それと共に放たれる弾丸が、ワルプルギスの夜に直撃した。

 

「まだまだっ!!」

 

 跳んだマミが、魔法で足場を作るとそこに着地して巨大なマスケット銃を召喚する。

 

「ティロ・フィナーレ・トゥラーヴェ!」

 

 ビームが放たれて、ワルプルギスの夜が吹き飛ばされた。

 街から離そうとするが、あの巨体はそう簡単には吹き飛んだりしない。

 まだ浮いている。

 

「行くわ!」

 

 ほむらがリモコンを出してボタンを押す。

 見滝原の湖から放たれたミサイルがワルプルギスの夜に直撃し、爆発。

 まだだ、セラが空を飛び、刀を木の葉へと変える。

 木の葉でできた巨大な剣。

 

「スパーダ・エドゥ・キマーナ!」

 

 マミが渡したメモ帳に書かれた必殺技の名前だ。

 振り下ろされる剣に押されて、地へ落ちるワルプルギスの夜。

 地上を走る杏子が、槍を真っ直ぐ構える。

 

「フレーム展開!」

 

 槍の刃が二つに割れ、紅の魔力が巨大な刃を形作る。

 

「ロッソ・アルマ・フリオーゾ!」

 

 それが、ワルプルギスの夜の体を貫いた。

 杏子はワルプルギスの夜を貫き、その向こうのビルに着地する。

 ゆっくり浮遊を始めるワルプルギスの夜相手に、青い流星が迫った。

 

「コラテラルエッジ!」

 

 下から掬い上げるような斬撃。

 さやかはすぐにワルプルギスの夜から離れる。

 だがまだ終わらない。

 マミが走っていた。魔法少女姿で、手にリボンを巻きつけて拳を握りしめる。

 

「900%ッ!」

 

 再び地に落ちようとしているワルプルギスの夜を下から拳で撃つ。

 衝撃と共に、ワルプルギスの夜は浮いた。

 

「ぐっ!」

 

 くぐもった声を出すマミ。殴った方の右手の骨が砕けている。

 即座に下がってワルプルギスの夜から距離を取るマミが、背後に大砲を召喚した。

 その銃身に光が集まっていく。

 

「ボンバルダメント!」

 

 巨大な銃から、放たれた砲撃。

 吹き飛んだワルプルギスの夜。巨大な大砲が消えると、マミが跳ぶ。

 マミがビルの上へと乗ると、他の四人も集まった。

 

 五人の視線の先にいるワルプルギスの夜は浮遊して、身体をゆっくりと動かす。

 それは、絶望。反転し、頭を真上に向けるワルプルギスの夜。

 ほむらから聞いた情報によれば、本気モード。

 

「魔力もグリーフシードももうほとんどありませんよ!」

 

 焦るようなさやかの声に、頷くマミ。

 勝てない……勝てない……今から本気。

 焦るほむら。

 

「ドゥーエ・ステルミナトーレ!」

 

 巨大な二つの銃が現れ、同時に放たれる。

 二つのビームがワルプルギスの夜へと直撃するが、ダメージがあるようには見えない。

 実際はあるのだろう。けれどダメージを感じさせないほどの力なのだ。

 

「クッ」

 

 それぞれ、一つずつ程度だろう。

 マミは二つ。それでも勝てる気がしない。

 ほむら、さやか、杏子、少し遅れてセラ。その四人でしばらく戦っていた。

 ストックしていたグリーフシードは自分が三つ持って行ったとは言え、三人は十数個ずつほど持っていたはずだ。

 それでも倒せないのだから、異常と言うほかあるまい。

 自分が名づけた最大出力の攻撃を撃ったに違いない。

 

「私が……魔法少女になりましょうか?」

 

 そんな言葉に、勢いよく振り返る五人。

 居たのは、二人だ。サラスバティとまどかの二人。

 おそらくサラスが運んできたのだろう。

 だがそんなこと頭に入らないマミが、まどかの肩を掴む。

 

「貴女、今なんてっ……」

 

「わかってます。でも、みんなが死ぬくらいなら……今、私にできることは何もないから」

 

 瞳に涙を浮かべながら、言う。

 

「何も、ない?」

 

 ほむらがつぶやく。

 

「わかってるんです。頭では、私が魔法少女にならないことが私にできること……でもそれって結局なにもしてないんじゃないかって、心が納得できないんです!」

 

 涙を流しながら叫ぶまどか。

 足音が―――聞こえた。

 涙を流すまどかも、マミさえもそちらを見る。

 

「……ヘルサイズ殿」

 

 つぶやいたセラ。

 なにも言わずに、その場から去るサラス。

 現れたユウはマミの帽子をかぶっていた。

 ユウはゆっくりとまどかへと歩を進める。

 まどかの目の前で足を止めたユウは、メモ帳をしっかりと見せた。

 

『貴女にもやるべきことがいずれくる』

 

「でも……それでもっ……」

 

『今はマミを、みんなを信じて』

 

 メモ帳に書かれた言葉に、まどかは戸惑いながらもマミを見る。

 笑顔で頷くマミを見て、ほむらを見た。

 

「まどか、貴女を私に守らせて」

 

 穏やかな表情でそう言うほむらを見てから、さやかたちの方に視線を移す。

 

「心配性だなぁまどかは!」

 

「さやかはともかくアタシたちはやれるっての!」

 

「任せてください。私たちに」 

 

 三人の言葉に、頷くまどか。

 涙を流すまどかの頭を撫でると、マミはユウを見る。

 笑顔を浮かべたマミに、ユウは相変わらず無言だ。

 

「お待たせしました」

 

 声がした。巨大な何かが置かれるような音。

 全員がそちらに目を向けると、そこには志筑仁美がいた。

 

「志筑!」

 

「仁美!?」

 

 ほむらとさやかが驚くが、杏子は誰? と聞くのみ。

 まどかとマミが苦笑している。

 ユウはそっとメモ帳を持ち上げる。

 

「久しぶりですわユークリウッド様。さて、ワルプルギスの夜相手にここまでやっただけ十分でしょう」

 

 驚いているほむらやさやかを無視して話を進める仁美。

 今はそんな余裕が無いということだろう。

 仁美の背後にある巨大な、機械。

 

「マミさんからの依頼もありましたが、まずはこちらを……その名も魔力吸引器」

 

 なんだか危険装な機械だなあ、なんて思いながらもマミが苦笑している。

 仁美の手には巨大な機械につながれた二つのヘルメット。

 

「さぁ、早くすましましょう」

 

 笑顔で言う仁美に、マミは苦笑以外で応える術がなかった。

 視線をユウに移すが、すでにヘルメットをかぶっているユウ。

 やる気満々と言ったところか……なら、仕方あるまい。

 マミも心良く引き受けることにした。

 

 

 

 二人がその魔力吸引器とやらを使う間に、ほむらたちは時間稼ぎをするらしい。

 どうやらあの機械自体まだ未完成のようで、志筑仁美がなんとか持ってきたもの。

 中々どうして彼女にも世話をかけていたのだと、ほむらは苦笑した。

 背中に装備している刀も、マミが彼女に頼んだものらしい。

 気づかなかったが仁美も自分たちを支えていた仲間なのだろう。

 

「さぁ、いくわよ八咫烏!」

 

『ほむら、痛い』

 

 杏子からのテレパシーに、顔をしかめる。

 

「……感染症なのかしら中二病って」

 

 刀を抜き放ち、黒い刀身をもって使い魔を切り裂く。

 片手に銃を持つと、さらに敵を撃っていった。

 ワルプルギスの夜は先ほど吹き飛んだ場所から徐々に近づいてくる。

 マミ達の方に飛んで行く遠距離攻撃はすべてさやかがなんとかしているだろう。

 

「行くわよ!」

 

「任せてください」

 

 セラが返事と共に、巨大な刀を振り下ろす。

 だが先ほどより強力になっているワルプルギスの夜は両手を上にあげてその攻撃を抑える。

 ほむらは立ち止まると刀を鞘に納め、ロケットランチャーRPG-7を撃つ。

 弾道がワルプルギスの夜の顔面に直撃すると、セラの刀を押さえる手の力が弱まった。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 振り下ろされた刀。それと共にワルプルギスの夜が地上に叩きつけられる。

 相変わらず、笑い続けるワルプルギスの夜に苛立ちを覚えるほむら。

 上空にいるセラから見るが、見えるのは砂煙だけだ。

 砂煙が晴れると、そこから伸びる黒い鞭。それがセラを叩き、吹き飛ばす。

 地上のほむらが叫ぶ。

 

「セラフィムさん!」

 

 セラを吹き飛ばした鞭が三体ほどの使い魔へと変わる。

 倒れているセラの元へと走ろうとしたが、今のワルプルギスの夜に背中を見せた瞬間、殺られる可能性もいなめない。

 ワルプルギスの夜が砂煙の中から出てきたが、その瞬間、地面から現れた巨大な多節棍がワルプルギスの夜を高速する。

 それは間違いなく、杏子。

 

「感謝するわ!」

 

『早くセラを助けろ!』

 

 テレパシーで杏子の叱咤が飛ぶ。

 ほむらがハンドガンをしまうと、両足に魔力を回して走る。

 セラへと近づいたほむらが、背中の刀を抜いて他の使い魔をバラバラにした。

 苦しそうな声を上げているセラを確認するほむら。

 

「す、すみません……ぐっ」

 

「無理しないで」

 

「無理しろバカ!」

 

 叫び声が聞こえた。

 背後を振り向くと、そこには杏子がいる。

 視界に映る杏子の背中。そして、その前方には大量の使い魔たち。

 勝てるわけがないと、覚悟を決める。

 使い魔たちが束になってほむらたちを襲おうとした瞬間……。

 

 

 

 ―――巨大なビームが使い魔たちを殲滅した。

 

 この攻撃は、考えることすらしなくてもわかる。

 間違いない。この攻撃は間違いなく、彼女のものだ。

 尻もちをつく杏子。青い光が、ほむらとセラと杏子を回復させていく。

 そして、ほむらの視界に映るのは使い魔から自分たちを守るように立つマミと―――まどか。

 

「まど、か?」

 

 つぶやくほむら。

 マミがメモ帳を開いて文字を書くと、向けてくる。

 

『間一髪ってところね』

 

「もう大丈夫だよほむらちゃん」

 

 その姿が、かつて自分を守ってくれた二人の少女と重なる。

 涙があふれてくる。まどかは魔法少女になっていない。

 悲しくないはずなのに、涙が止まらなかった。

 

『行くわよ鹿目さん』

 

 まどかの足元に現れる文字。

 頷いたまどかが、右手に弓を持っていた。

 制服姿のまどかから、魔法少女である様子はうかがえない。

 ほむらと杏子とセラの背後で三人を回復させているさやか。

 

「マミさんがね。まどかのために仁美にお願いしたの……」

 

 そして、ほむらたちの足元にも文字が浮かぶ。

 

『ユウを縛り付けていた沈黙の誓いを、一時的に私に移したことにより私は無限と言っていいほどの魔力を手に入れたわ。魔力吸引器は仁美さんが自ら持ってきてくれたものなのだけれど』

 

 少しだけ、間が空く。

 

『本当に私が頼んだのはまどかさんが私たちと共に戦える力』

 

「まどかに戦わせる? 何を考えているの巴さん!」

 

 怒鳴るように言うほむらだが、振り返ったまどかがほほ笑む。

 

「私ね、うれしいんだ。ほむらちゃんが私に授けてくれたって言っても良いこの力……それで、みんなを守れる」

 

 さらに、仁美とユウが現れた。

 数々のことに協力してくれた仁美は、笑みを浮かべて全員の顔を見る。

 満足そうに頷くと、ワルプルギスの夜へと視線を移す。

 

「この舞台の主演はすでに巴マミへと変わりました。鹿目まどかを殺すことはついでになるでしょうからあまり心配はいりません……さぁ、まどかさん、今こそ魔装少女へと!」

 

 その言葉に、頷くまどか。

 『魔装少女』というわからない単語で、混乱するほむらや杏子。

 まどかの隣に立つマミはいつものような魔法少女衣装でありながら、いつもユウがつけているアーマーやガントレットを装備している。

 反対にユウは装備していない。

 ロールを解いている髪はほどかれていて、その長い金髪がユウと対となっていて、そのアーマーやガントレットをまた違う雰囲気に魅せた。

 

 不思議な状況で色々な疑問を投げかけたいが、今はそんな状況じゃない。

 

 襲い掛かる使い魔。だがマミが無言で片手を振る。

 それだけで多くのリボンが目の前の使い魔たちを拘束していく。

 聞きなれない声が聞こえた。

 

「魔装少女というのは、魔装錬器を使って戦う少女たちを言う」

 

 聞きなれない声の正体は、ユウの声だ。

 現在ユウの魔力はすべてマミの魔力へと変わった。

 ならばこれも必然と言えば必然。

 

「今はこの程度のことしか言う時間は無いけど、とりあえず心配するようなシステムじゃない」

 

 そんな言葉に、ほむらと杏子とサラスは戸惑いながら頷く。

 さやかは何がなんだか、と三人の背後で苦笑していた。

 まどかが、弓を持ち、眼をつむって―――言葉を紡ぐ。

 

「ノモブヨ、ヲシ、ハシタワ、ドケダ、グンミーチャ、デーリブラ!」

 

 輝くまどか。程なくしておさまった光、そこに立つまどかは、ほむらの記憶にある魔法少女そのもの。

 ピンク色の魔法少女、いや魔装少女としての衣装。弓矢を持つ彼女と銃を持つ彼女。

 二人の少女の背中を見て、ほむらは戸惑う。

 

「まったく厄介なことをしてくれたね。志筑仁美」

 

 現れたのは、キュゥべぇ。

 

「フフッ、私と貴方は所詮平行線。交わることのないひたすらな並行。なら……今更厄介もなにもないでしょう?」

 

 キュゥべぇは何も言わず二人の背中を見た。

 まどかとマミの二人が、自らの武器を構える。

 

 鹿目まどかの手に現れる桜色の矢。

 マミの手に現れるマスケット銃。

 

 二つの武器が音を立ててその『力』を―――撃ちだす。

 

 

 

 




あとがき
そう、今復活の魔法少女!
まどかが変身しました
一応細かい設定も考えてありますが出る場所があるかどうかw

とりあえず最終決戦は続きます!
では、次回をお楽しみに♪
感想お待ちしてます!


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25「うん、私の所にいて!」

 マミとまどかの二人がビルの壁を蹴って跳ぶ。

 使い魔たちを銃で撃つマミが、ビルの上に着地する。

 前方から迫る使い魔の大群が、ピンク色の矢が一掃した。

 それを撃ったのは間違いなくまどかだ。

 

 まどかはビルの上に着地したまま体勢を低くして弓を横に向けると、矢をつがい―――撃つ。

 

 ワルプルギスの夜を守るように固まっている使い魔たちの大群に穴が開く。

 地を蹴り、まどかがその穴を抜ける。

 生まれながらに持つまどかの魔力というのはそれほど高い物ではない。

 しかし、ほむらのループによって螺旋状に紡がれたまどかの因果、それらの影響により彼女の魔力は異常な高さだ。

 

 魔法少女になればその力は絶大。ワルプルギスの夜を一撃で倒すことすら可能だろう。

 魔力を全て使い尽くすことになり魔女になるだろう。けれど、それほどの力がある。

 しかし、魔装少女となると別のようで、ワルプルギスの夜を一撃で倒すことなど不可能だ。

 

「スプレッドアロー!」

 

 使い魔の大群を抜けて、ワルプルギスの夜へと接近したまどかが三本の矢を同時に飛ばす。

 それらは不自然なほどの曲線を描いてワルプルギスの夜に直撃する。

 無論、倒せるわけではないがダメージは無い。

 眉をひそめるまどかは、地上へと着地してさらに矢を撃つ。

 

 ビルの上にいたマミは、右腕にリボンを螺旋状に出現させる。

 リボンはドリルのような形になり、回転を始めた。

 マミの必殺技。しかし、現在マミは一言でも喋れば激しい頭痛が襲う。

 

「ッ……ギガァ!」

 

 言葉を発し、右腕を振り上げる。

 

「トリヴェラッ!!」

 

 右腕のドリルが激しい回転をしながら、巨大化した。

 わずかに顔をしかめるマミ。激しい頭痛が彼女を襲う。

 だが、それでも彼女は“必殺技の名を叫ぶのをやめない”いや、やめるわけにはいかない。

 ドリルが回転する右腕を後ろに振りかぶり、足を踏みしめ跳ぶ。

 

「スグラナーレェェッ!!!」

 

 ドリルを突き立て、跳ぶ。

 前に向けたドリルが使い魔を一掃しながらワルプルギスの夜へと迸る。

 それは遠くから見れば金色の閃光。

 ワルプルギスの夜の前方に、暗い色の壁が現れる。

 だがそれすらもマミのドリルにとっては脆く崩れるものだ。

 

 ―――アハハハハハハ……ハ……

 

 ワルプルギスの夜の笑い声が、止まった。

 とうとう余裕がなくなってきたのだろう。

 ドリルが、ワルプルギスの夜を貫いた。

 

 ―――かに思えた。しかし貫いたのはワルプルギスの夜の右肩で、片腕が落ちる。

 

 しかし十分。“彼女たち”がまだいるのだから。

 ドリルをほどいたマミが、リボンを真上に伸ばす。

 それがセラに掴まれて、使い魔の攻撃を引っ張って回避。

 

 右腕に巻きつけたリボンの先はセラが持っていて、セラのおかげで使い魔の攻撃を回避できているマミは左腕にマスケット銃を召喚して、ワルプルギスの夜に撃つ。

 ダメージは少ないだろうけれど、まだ終わらないのだ。

 青い閃光と共に、さやかが使い魔を切り裂く。

 開いた使い魔たちの穴を抜けて、杏子が槍をワルプルギスの夜の顔に突き立てる。

 貫くことはできないが、ダメージは入った。

 ワルプルギスの夜の顔を蹴り、距離を取る杏子。

 

「舐めんなよワルプルギス! さやか、ほむら!」

 

 使い魔を切り裂いていたさやかが、青い音符の魔法陣を蹴った。

 凄まじいスピードでワルプルギスの夜の顔を剣で切り裂く。

 だが、深い傷はできない。

 せいぜいかすり傷ができる程度だ。

 

「充分よ!」

 

 ほむらが跳んで、ワルプルギスの夜の顔の前まで行くと、手に爆弾を持つ。

 “自作の爆弾”のスイッチを押すと、それを投げる。

 地上へと落ちるほむら。ワルプルギスの夜の眼前で、爆弾は爆発した。

 

「うはぁ危ない!」

 

 さやかが笑いながら下がると、幾本かの剣を投擲。

 ワルプルギスの夜の顔に刺さらず、使い魔たちに刺さっていく剣。

 セラがマミの手にあるリボンを勢いをつけて離した。

 マミが飛んで行き、ビルの屋上に着地、隣にはまどか。

 まどかの手の弓は、さきほどより大きい。

 二人は顔を見合わせて、頷いた。

 

 セラは木の葉で巨大な刀を形成。

 

「不本意ですが……スパーダ・エドゥ・マキーナ!」

 

 木の葉の刀は使い魔をその木の葉に巻き込み、ワルプルギスの夜の目の前で拡散した。

 拡散した木の葉の刀から、さやかの剣が跳び出す。

 先ほど刀が刺さった使い魔を巻き込んだのだろう。

 ワルプルギスの夜の顔に、さやかの剣が刺さる。

 

 地上のさやかが、開いた手をワルプルギスの夜へと伸ばす。

 

「爆ぜろ、エクスプロスィオーネ!」

 

 拳をグッと握りしめると、ワルプルギスの夜の顔に刺さった剣が爆発する。

 さやかと杏子とセラがワルプルギスの夜から離れる。

 下がる必要があるからだ。

 ワルプルギスの夜はどんどんと避難所から遠ざけられていった。

 

 ビルの上に立つまどかが、両足をしっかりと開いて大きな弓を引く。

 まどかが持っている矢の先には桜色の光がどんどんと集まっていった。

 しかしまだ、ワルプルギスの夜に強い一撃を与えるにはまだ魔力を集める必要がある。

 

「魔力を集めながらっ……この弓を持ってるのって結構っ……」

 

 辛そうに表情をしかめるまどか。

 周囲に集まる使い魔を二挺のハンドガンで撃ち倒していくマミとほむら。

 新たにやってきたさやかと杏子、セラも共に使い魔を倒していく。

 

『暁美さん、鹿目さんを手伝ってあげて』

 

 ほむらの足元の地面に文字が浮かぶ。

 マミの眼前の敵を、ほむらは自らの刀“八咫烏”で切り裂く。

 

「貴女の出番でしょ巴マミ……ッ」

 

 ほむらの背後に迫る的を撃ち貫くマミ。

 ハンドガンサイズの銃をリロードして、また撃つ。

 

『ここまで頑張ってきたんでしょ!』

 

 叱咤するような目を向けるマミ。

 二人は背中を合わせて使い魔を撃ち、切り裂いた。

 

「それでも、最初は貴女とまどかの二人だった。最高の魔法少女コンビで……」

 

『今はみんないる!』

 

 真っ赤な文字が、地面に浮かんだ。

 ハッとした表情をしたほむらの真横に弾丸が跳ぶ、ほむらを襲おうとした使い魔が消滅。

 ほむらが背後を見るが、そこにあるのは巴マミの戦う背中。

 

「この世界は、どこでもない……ッ、この世界よ!」

 

 頭痛がするだろうに、叫ぶマミ。

 唖然とするも、すぐに頷くほむら。

 表情をひきしめるとまどかの傍に行き、後ろからまどかの持つ弓と矢を共に持つ。

 

「ほむらちゃん!?」

 

「行くわよまどか!」

 

 驚いた表情のまどかは、すぐに頷いて敵を見る。

 みるみる内にまどかとほむらの持つ矢の先に魔力は集まっていく。

 視線の先にいるワルプルギスの夜は段々と進んでくる。

 

「集いし星が一つになるとき!」

 

「新たな絆が未来を照らす!」

 

 まどかの言葉に、ほむらが続く。

 大量の弾丸が、周囲にばらまかれた。マミの攻撃だ。

 邪魔をする使い魔はこれでもう居ない。

 

「光さす道となれ!」

 

 二人が同時に叫んで、まどかとほむらはさらに手を引く。

 矢の先に集まった魔力が、炎のように揺らめく。

 

「天地創造撃―――ザ・クリエイション・バースト!!」

 

 まどかの言葉と共に、放たれる矢。

 その矢は風切り音と共に、ワルプルギスの体に突き刺さり―――大きな爆発を起こした。

 激しい爆音がまどかたちにも充分、聞こえる。

 まどかの隣に立つほむらそしてその隣にセラ。

 反対側にはさやかと杏子が立つ。

 

「まだ、終わってない」

 

 つぶやいたまどか。五人を飛び越えて、今だ巻き起こる爆煙の方へと跳んで行くマミ。

 誰も、止める術を持たない。魔力消費が激しく役に立たないだろう。 

 セラも体力の限界がきている。

 だからこそ、マミは一人で跳び出した。

 

「(せっかく良い所だったのに……)」

 

 爆煙が晴れると、ワルプルギスの夜の使い魔が黒い槍となってマミへと飛ぶ。

 足元に足場を作ると、跳んで攻撃をさける。

 現れたワルプルギスの夜は、すでに歯車だけになっていた。

 虫の息、という奴だろう。

 

 何本も飛ばされるそれらを避けながらも、マミは近づいていく。

 

「ッ!?」

 

 マミの腹部を貫いた槍。だが構わない。

 戦う。それでも跳び、ワルプルギスの夜を誘う。

 

「(そう、さぁ来なさい! 舞台には貴女と私の二人よ!)」

 

 二人が踊る。舞台装置そのものが踊る。

 舞台には二人。そして舞台のカラクリは舞台女優を襲う。

 金色の髪をなびかせながら、彼女は手にハンドガンを出現させて使い魔を狩る。

 

「さぁ! 幕引き(フィナーレ)よ!」

 

 言葉を発すマミの体に装備されていたガントレットやアーマーが消えた。

 マミへと移されていた魔力が戻ったのだろう。

 

「1000パーセントォッ!」

 

 姿が変わる。マミはソウルジェムを軽く投げた。

 “ワルプルギスの夜(歯車)”の中心、そのすぐそばにまで投げられたソウルジェムは、黒く淀んでいた。

 マミは両足に力を込め―――跳ぶ。

 

「ティロ・フィナーレェェェェッ!!!」

 

 右腕を振りかぶって歯車の中心に向かって跳んだマミは、その右手でソウルジェムごと“ワルプルギスの夜(舞台)”を砕く。

 

 ―――終幕。

 

 

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

 

 

 意識を覚醒させて目を開いた時、最初に視界に入ったのはセラの顔だった。

 ホッとしたような笑みを見せるセラに、自分なりの笑顔を返して起き上がる。

 自分の周囲には、まどかも、ほむらも、杏子も、さやかも、仁美もいた。

 そして、立ち上がったマミがこの場所がタワーの中だということに気づく。

 

 外はもう、真っ暗だ。

 

「ユウがね、ここに来たいって……」

 

 さやかの言葉を聞いて、頷く。

 窓際を見ると、外を見上げるユウがいた。

 夜の王の消えた場所。ここで空を見上げる彼女は、今にも消えてしまいそうだ。

 わずかに顔をしかめたマミが、言う。

 

「またどっかへ行っちゃうつもりなの?」

 

 ユウは背中を向けているだけで何も応えない。

 だから、マミは言う。

 

「私の所にいなさい、ユウ! 運命がどうとか、私が全部どうにかするから、私の所にいて!」

 

 少し乱暴な口調で言うマミだが、答えは帰ってこない。

 マミが、ユウの背後から、ユウの両肩を掴む。

 動揺したのか、わずかにユウの声が聞こえる。

 足元を見ながら、マミが言った。

 

「絶対離さないから! やっと手に入れた宝物なんだ。どんなに泣いても暴れても、傍にいるって約束しない限り! 絶対に離さないから!」

 

 足元を向いたまま叫ぶように言うマミ。

 背中を向けているユウが、手を後ろに持ってきてマミにメモ帳を見せる。

 

『わがまま、まるで子供みたい』

 

「ええそうよ、わがままだ。ユウの気持ちなんか関係ないの!」

 

 ユウの肩を掴む手に込められた力が強くなっていく。

 絶対に離さないという意思表示。

 

「だからユウにもおしつける! 私はユウにしてほしいことが山ほどあるんだから……」

 

『わかってる』

 

「わかってない!」

 

 怒ったような口調で、声音で響く声。 

 それを見守る魔法少女たち、まどか、セラ、仁美。

 

「わかってるよ」

 

 ユウの、声が聞こえた。

 驚いたマミが、ユウから両手を離してまっすぐ立つ。

 目の前のユウが、振り向いた。

 月明かりに照らされた白銀の髪の少女は“あの日”と同じようで違う。

 

 笑みを浮かべたユウは口を開いてハッキリと思いを口にする。

 

「私はもう、何があってもマミの傍にいるから」

 

 笑顔を浮かべたマミが、瞳に涙を溜めてユウを抱きしめた。

 同様に、ユウもマミを抱き返す。

 抱きしめられながらも、ユウは言う。

 

「でも、貴女が不幸になる」

 

「そうこなくっちゃね」

 

 高揚のついた声で、返事が聞こえた。

 

「私を、私の運命をマミはなんとかしてくれる?」

 

「するわ」

 

 なんの迷いも無く応える。

 

「だったらマミの不幸は、私がなんとかする……これってわがまま?」

 

「ええ、わがままね」

 

 ユウの疑問に肯定して、抱きしめる力をほんの少し強めた。

 

「私はきっと、こんなわがままを願っていたんだと思う」

 

 抱き合う二人。窓から差し込む月光は二人の金髪と銀髪を照らす。

 ユウを抱きしめるマミの力は強くなっていく。

 

「痛いよマミ」

 

「あっ……ご、ごめん」

 

 つい嬉しくなってしまったと反省しながら、ユウから体を離すマミ。

 フフッ、と笑みを浮かべるマミ。

 

「奇跡や魔法が無くても、願いは叶うものよね」

 

 反対にユウも、笑みを浮かべた。

 

「おかえり、ユウ」

 

「ただいま、マミ」

 

 向き合っている二人。

 マミが振り返って、背後にいる面々を見る。

 全員が笑顔を浮かべて立っていた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい!」

 

 全員からの声に、ユウは笑みを浮かべる。

 

「くっそ~可愛い声してんじゃん! これが萌えかぁ! 萌えなのかぁ!」

 

 そう言うさやかを、面々は笑っていた。

 同意するようにまどかも頷く。

 

「ホントだね、もっと喋ればいいのに」

 

「だよねぇ~」

 

 まどかの意見に頷くマミ。

 それに同意したのか、ほかの面々も同じく頷く。

 ワンテンポ置いて、全員が声を上げて笑い出した。

 

 

 とりあえず、これにてワルプルギスの夜との戦いはおしまいだ。

 街はできる限り最小限におさえたとはいえ、被害は少なくない。

 これによってまた心を病む人が、魔女を呼ぶかもしれないけれど、どんな魔女だって恐くない。

 皆がいるのだから、誰も恐れなど抱く心配はない。

 

 これからだって、まだまだ続いていく。彼女たちの生きるという戦い。

 

「あっ、そういえばママに心配かけちゃってる!」

 

 まどかの大声に焦る面々。

 同じくさやかも焦りだした。

 

「まったく、最後までしまらないんだから」

 

 そう言って心の底から笑うほむら。

 本当に、この世界は暁美ほむらの最後の希望だった。

 どこぞの誰かから言わせれば。完全なる解答(パーフェクト・アンサー)だけれど、これも一つの可能性にすぎない。

 彼女のハッピーエンドは、この形だけじゃない。いろいろな形があるだろう。

 それでも、今この場で全員が笑顔でいるのだから、それで良い。

 

 これが、この世界のこの少女たちの、幸せなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

ユウ「ようやく話せるようになった」

 

マミ「まさかこうしてユウとお話できる日が来るなんてね」

 

ユウ「これでようやく言える」

 

マミ「なに、お姉ちゃん大好き~、って?」

 

ユウ「マミ、私で変な妄想するのやめて」

 

マミ「はい、ごめんなさい」

 

ユウ「そんなことしなくても、ずっとそばにいるから」

 

―――お前もゾンビにしてやろうか?―――

 

 

 

 




あとがき

さて、これにてワルプルギスの夜との戦いは終了です!    もう少しだけ続くんじゃ!>

これで今ある問題は全てまるっとおさまりました。
まどかの必殺技とかマミさんの必殺技とか、いろいろとネタなところもあるんですがお気づきになられましたでしょうか?
まぁ、わからなければわからないで問題は無いんですけどw
そして止めは『ティロ・フィナーレ(物理)』です。ティロ(撃)ってませんけど、まぁそこはw

では、次回はエピローグとなります!
お楽しみに♪

感想お待ちしてます!!


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26「けど、それがいい」

 数日後……。

 臨時休校だった学校も今日から開始。

 

 金色の髪をしっかりセットして、いつも通りのダブルロールにしたマミが制服のまま玄関にかける。

 靴を履くと、ユウが玄関まで歩いてきた。

 軽く手を上げて、メモ帳を持ち上げるユウ。

 

「うん、行ってきます」

 

 笑顔で家を出て行った。

 

 マンションから出ると丁度セラと杏子の二人に出くわす。

 

「どうしたの?」

 

「ゴミ捨てです」

 

「あとエイミーのエサ」

 

 そう言えば最近はほむらやセラや杏子の間でエイミーを世話しているらしい。

 残念ながらマンションだから飼うことができないけれど、世話は続けているようだ。

 二人と軽く談笑して別れると、マミは通学路を歩く。

 

「まだお金は山ほどあるし、引っ越しでもしましょうか……」

 

 つぶやくマミ。

 

「マミさん!」

 

 大きな声が背後からかかる。

 振り返ると、そこにはピンク色の髪をした少女。

 言うまでも無く鹿目まどかだ。

 ほむらも一緒のようで、軽く笑みを向けられる。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

 二人の揃った声を聞いて、歩き出そうとした時、新たに自分を呼ぶ声。

 走ってきたのは美樹さやか。

 やってきてから少し驚いたような表情をする。

 

「まどか、それ!」

 

「うん」

 

 まどかが持っているのは巨大な弓。

 一応カバーに入っているがまるで弓道部のようだ。

 彼女は魔装少女。見滝原の守護者として武器は手放せないのだろう。

 例えばだが、魔装錬器がチェーンソーなどで無くて良かったなどと思う。

 

「クラスのみんなには、内緒だよ♪」

 

 まぶしいぐらいの笑顔。なんだかまどかはワルプルギスの夜との戦い以降明るくなった気がする。

 夜を超えたから、という理由で言えばほむらも明るくなったけれど……。

 まどかが明るくなった理由が力を持ったからだとしたらと思うと……マミはゾッとした。

 四人で歩いていればいつのまにやら志筑仁美も現れる。

 

「お久しぶりです」

 

「あっ! 仁美ぃ、事情を説明してもらうよぉっ!」

 

 あの後なんの説明も無しに消えてしまった仁美にかけよるさやか。

 だが仁美はさやかを笑顔で回避。

 

「それはまたおいおい、あっ、まどかさんは持ってきているのですね?」

 

「うん、仁美ちゃんにもらった大事な武器だもん!」

 

「(鹿目さん、貴女今すっごい輝いてるわ)」

 

 まぶしすぎる笑顔にマミは顔を逸らす。

 なんだかまどかが恐くも思えてくるのだから、内心で腹黒だったり? などと思うも首を振る。

 そんなわけがない。ラブリーでチャーミングなただの魔装少女だ。

 自分に言い聞かす。

 

「あっ、そうだ暁美さん。わたしもしかしたらエイミーを飼うかもしれないわ」

 

「え? マンションは……」

 

「一軒家に引っ越しも考えてるの、いつまでも佐倉さんと同じ部屋っていうのもね」

 

「わかった! 引っ越しの時は手伝うわね!」

 

 グッ、と拳を握りしめて笑みを浮かべるほむら。

 なぜか嬉しそうだなぁ、と思うマミはエイミーを引き取るからだろうと自己完結。

 わいわいとしたまま登校したせいか、目の前はもう学校だった。

 すぐにまどかたちと別れると自分のクラスに行く。

 窓際のマミにとっては憂鬱で気だるげな時間だ。

 

「死んだかと思ったよマミ」

 

 夏乃が寄ってくる。

 

「メールしたじゃない」

 

 そう返すマミに、笑う夏乃。

 なんだかんだで夏乃だって十分友達と言える仲だ。

 魔法少女のことを知らなくたって友達になれない、わけではない。

 

「そういえばスーパーセルに乗じてテロがあったかもしれないって知ってた?」

 

 ギクッ、とするマミだが血走った眼で夏乃に詰め寄る。

 

「タチの悪い噂よね」

 

「え、お……おう」

 

 返事をして夏乃は頷く。

 それで良い。余計な詮索は後々に関わる。

 普通には戻れなくなってしまう。

 まぁ夏乃はそれでも逞しく生きていきそうだけど、などと思うマミ。

 

 

 

 授業が終われば干からびる。

 昼にはみんなで昼ご飯。

 放課後はマミの家に集合して、パトロールで魔女を倒して、ついでに出てきたメガロを倒して……。

 

 こんな日常。言う人に言わせれば非日常かもしれないが、マミたちにとっては平凡な日常だ。

 生きていれば人間なんて危険がつきものだ。

 道を歩けば側を通る車。事故の可能性が0%だとも限らない。

 魔法少女たちはその可能性が少し高いだけ。

 

 マミは一人300%ほどあるかもしれないが、それだって些細なことだ。

 

「遅いぞマミ! もう晩御飯できてんぞ!」

 

「今日は自信作です」

 

『おかえり』

 

 テーブルに乗った異様な食べ物をこれからみんなで食すわけだが、きっと自分が犠牲になるだけだ。

 今日は出前だろう。悪くは無い……これだってちゃんとした日常だ。

 マミが望んでいた。帰ってきたら誰かが晩御飯を用意して待っていてくれるという、当たり前の幸せ。

 微笑したマミは、荷物を下ろしていつも自分が座っている座布団に座る。

 

 

 

 ほとんどの人が気づかずに一生を終えていくけれど……世界には、決して触れてはいけない秘密があふれている。

 それを知ったが最後。

 もう、普通の生活には戻れない。

 

 ……けど、それがいいんじゃないかな。

 

 

 

 ―――私、魔法少女です。あと、ゾンビです。

 

 

 

 




あとがき
はい!これにて終了です。
今までご愛読ありがとうございました♪

まぁ終わりといってもとりあえず、という感じですがw
一応続編も考えていたりはします。まぁ続編といっても後日談でのんびりしたりラブコメしたりですかね。あ、たまにシリアスとかもあるかもという感じでw

まぁ続編を望む声があれば、の話になりますがw

では、またお会いしましょう♪


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