スーパーロボット大戦Re・disk3 (jupi)
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蒼穹編
1話-彼らと彼女たち


 アークエンジェルはナデシコ隊と合流して、竜宮島でささやかな休息を取ることになる。

 

「もう大丈夫なのか?伊奈帆」

 

「怪我は完全に。左目も大人しくさせてる……ただ」

 

 一騎の質問に伊奈帆は溜息をついて、スレインが代わりに。

 

「彼女と喧嘩中らしい」

 

「彼女じゃなく婚約者だ。韻子があんなに怒っているの久々に見た」

 

 喫茶店’楽園‘でカレーを食べるパイロット達。

 

「二人は付き合いが長いのか?」

 

「結構ね。訓練校では主席と次席を争ってたライバルだよ」

 

 ふと、喫茶店の扉が開く。

 

「えっと、いいですか?」

 

「いいよ、入って入って」

 

 一騎に手招きされて入ってきたのはグレートゼオライマーのパイロット、秋津マサトだった。

 

「あの、バサラさん探してるんですが」

 

「あの人なら入れ違いで何処かいったな。ウチで一番辛いカレー食べて満足そうにしてた」

 

 一騎がバサラの居場所を知らないのなら、他を当たるしかない。

 マサトは食事をとること無く去った。

 

「……例の女の子、次元連結システムと言ったな」

 

 一番奥のカウンター席で総士が。

 

「システムとはいえ歳場のいかない少女を寄ってたかって攻撃した事実は変えられない」

 

「その作戦立案者は僕だ」

 

 水の入ったグラスを見つめながら、伊奈帆が呟く。

 しかしそれをよしとしない総士。

 

「総力戦だったんだ。その後悔は全員で背負わなくてはならない」

 

 

 

 

 

 

 戦艦の補給等が落ち着いた頃に、ペンギンコマンド達にも上陸許可が降りた。

 

「じゃあイオク、その捕虜の見張りちゃんとやっておけよ」

 

「そのくらい、このわたしにかかれば」

 

「竜宮島観光だー!銭湯と駄菓子屋にもいくぞー!」

 

「人の話を聞けないのかお前達!」

 

 イオクが置き去りにされて、ペンギンコマンド達は躍りながらアークエンジェルから出た。

 

「まったく……」

 

 牢に入った鎧姿のエフィドルグ兵。

 体格的にはやや太め。身長はイオクの方が大きいくらいだ。

 

「……そこのお前」

 

「おわっ!いきなり喋るな!」

 

 エフィドルグ兵がイオクに声をかけてきた。

 

「話がある」

 

 思わず牢の柵に近寄るイオク。

 

 

 

 

 

 その頃、銭湯で体を温めていた由希奈とムエッタとソフィーは、未だにオルガの話をしていた。

 

「不思議なものだな……由希奈の先祖の複製体であるわたしが、他人に好意を持つことになるとは」

 

 湯船に深々と浸かるムエッタにソフィーは。

 

「元より感情がある段階で変ではありませんよ。喜ばしい事です」

 

「しかしオルガさんねぇ。背も高いしワイルドだし顔も悪くないけど」

 

 由希奈の言葉を察したムエッタ。

 

「剣之介のような’何か‘がないのだろう?」

 

「よくわからないけど……でもそれをムエッタが良いって言うんでしょ?」

 

 ブクブクと湯船に沈む。

 

「いやぁ可愛いなぁムエッタは」

 

 すると、壁の向こうの男湯の方が賑やかになる。

 

「これが地球の銭湯か!」

 

 オルガと、三日月の声。

 

「ねぇオルガ、どうすればいい?」

 

「そりゃあ体を洗うんだろうが……そうか、お前片手使えないんだもんな」

 

 戸惑いの声に続いて、昭弘の声も。

 

「こんなに大量のお湯に入るのか……なんて贅沢な」

 

「火星じゃ水が貴重だった」

 

 アキトの声。

 

「あっちは女湯か……確か今日はパイロットの貸し切り。誰か居るかも知れない」

 

 次はハサウェイの声。

 由希奈とムエッタとソフィーが聞く耳をたてていたが、無言で湯船から出て脱衣所へ向かう。

 

「……行幸である……」

 

「ムエッタ、顔が真っ赤ですよ」

 

 扇風機に顔を近付けてほてった顔を何とかしようとするムエッタを、ソフィーが笑う。

 それから三人は充分に水分をとりつつ、番台の女性と挨拶がてら軽い雑談をしてから銭湯を出た。僅か15分ほどだろうか。

 

「なんだあんたらか」

 

「お、オルガさん?」

 

 三人が出ると、オルガが夜風に涼んでいた。

 

「参ったぜ……銭湯ってモンがあそこまで熱いとはな。お陰で他の連中は我慢比べを始めるし、阿頼耶識の手術跡が熱いしで……ん?」

 

 オルガが勝手に喋っていると、ムエッタが顔を赤らめて由希奈の後ろに隠れているではないか。

 

「どうしたんだ?ムエッタ」

 

「……いや、その、なんだ」

 

 目を会わせられないムエッタ。

 恋に目覚めたばかりの彼女には助け船が必要と判断したソフィー。

 

「そう言えばオルガ団長。その前髪は癖毛ですか?」

 

「これか?まぁな。濡らしても固めてもこの髪型に強制的に戻りやがる。切ったところで伸びればこれだ」

 

 苦笑いする由希奈とソフィーは。

 

「大変ですね。それでは女性の気を引くためのお洒落にも影響がでそう」

 

 嫌な予感がしてソフィーを見るムエッタ。

 

「別にそんなの気にしたことねぇよ。宇宙ネズミだからな……ってあんた等には意味のない自嘲か」

 

 鉄華団はアークエンジェルに合流してから宇宙ネズミ、ヒューマンデブリという言葉の必要性を感じなくなっていた。どんな出路があろうと、人は人だと思い知らされたから。

 

「それじゃあ恋人とか作ったり」

 

 グイグイ行こうとした由希奈の脇腹をムエッタが背後からつねる。

 

「なんだよ今日は随分変な絡み方をされる日だな……まぁなんだ。俺から積極的にというよりは、相手次第かな。そういうのよく知らねぇし」

 

 何処か気恥ずかしそうに語るオルガに、ムエッタは顔が熱くなるのを感じた。

 

「それでは……」

 

「おい、オルガ!ハサウェイがのぼせて倒れたぞ」

 

 遠くからする昭弘の大声に、ムエッタが吐きかけた台詞が消される。

 

「言わんこっちゃない……それじゃあな」

 

 走っていくオルガの背を見送る三人。

 

「不粋ですね、あの筋肉」

 

「いやいや昭弘さん悪くないし……それよりムエッタ」

 

「……疲れた……」

 

「あ、うん。帰ろ」

 

 三人は宿泊施設へと向かった。

 

 



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2話-angelvoice

「……いいぜ。歌ってやる。ただしお前に言われたからじゃねえ。俺が歌いたい気分なだけだ」

 

 マサトは熱気バサラを灯台で発見し、医療施設へとつれていく。

 二人の会話はアルヴィスでモニターされていた。

 

「それにしても意外だったな。彼が申し出を受け入れるとは」

 

 騎士ユニコーンがアルヴィスのCDCで真壁指令と映像越しでバサラ達の様子をみていた。

 

「やりたいようにやる。そのやりたい事が変化してきているのかも知れないな」

 

 真壁はスタッフに指示を出す。

 

「急造で構わない。学校の体育館を仮設ライブハウスに作り替えろ。怪我人や同化現象の影響がある者。疲労が見える兵士等を優先して向かわせるんだ」

 

 

 

 ファフナー隊の、一騎達の後輩たちは戸惑っていた。

 

 広登の死と暉の消滅。パイロットの同化現象が進んだことによるSDPの負担。

 さらには一騎達が連れ帰ったナデシコとアークエンジェルの乗組員との出合い。

 修理中のゼロファフナーの横にガンバスターがあることや、ペンギンコマンドが闊歩する町並み。

 平穏を取り戻すために頑張ってきたのに、さらに島を乱された気分でいた。

 

「ライブか……」

 

 零央は美三香を誘う気でいたが彼女は何やら野暮用があるらしく、ナデシコへ度々顔を出しては忙しそうにしている。

 

「まったく。皆浮かれて……いつフェストゥムが来るかわからないのに」

 

 自宅で真剣の素振りでもしようか。

 アークエンジェルから降りてきた本物の侍に剣術を教わろうかと考えた事もあったが、見たら女の子と楽しげに話すジーンズ姿の普通の男だったので落胆した。

 あまり新参者に期待するわけでもなく、ライブには参加するのもどうかと思い始めていた。

 

「あれ?零央」

 

「彗。それに里奈先輩」

 

「ちょうどよかった。手を貸して」

 

 やはりと言うべきか。里奈は眠気と戦いながら彗に肩を借りて歩いている。それを見て彗にとっては役得なのではと、邪魔してはいけないのではと考えてしまう。

 

「あ~御門くん。こっちはいいから、美三香ちゃん探してきて。多分ナデシコにいるから」

 

「……あいつ、なにやってるか聞いてます?」

 

「さぁ?ただナデシコの艦長さん達が迎えに来たらしいわよ」

 

 まさか美三香まで島の外の戦いに連れていく気ではないだろうか。

 だとしたら非常に腹が立つ。

 乗り込んでやろう。

 島の戦力として重要な存在だとか、そんなことよりもだ。

 零央にとって好きな女の子が誰かに利用されるのではないかと。

 そちらの方が気になったのだ。

 

 

 そしてナデシコに到着して、イズミというエステバリス隊の変な女性に案内されて美三香がいる場所までたどり着くことが出来た。

 

「あれ、零央ちゃん」

 

「美三香。ここでなにしてんだよ」

 

 すると不適な笑みを浮かべてから。

 

「ジャーン!ゴーバインのHDリマスター化をしてもらったんだよ!」

 

「はぁ?」

 

 思わず美三香の正気を疑った。

 軍艦の一室で将校に呼び出されてアニメの作業?

 

「ナデシコといえど軍艦には娯楽が少ないので。オモイカネと彼女に協力してもらいました」

 

 連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリが淡々と語る。

 

「彼女は言わばゴーバインのPR大使です。我々の部隊でもロボットアニメを好む方が多いので、精神面でのケアのために尽力願いました」

 

「それに、それだけじゃないの」

 

 次にミスマル・ユリカは真面目な顔で。

 

「鉄華団や異世界から来たガンダムさん達、幼い頃から戦争に関わってきた人達はこう言った楽しみを知らないの。彼らにはもっと色々学んでほしいから」

 

 零央は納得出来るだけの話を聞けた。

 

「そういや零央ちゃん。何か用があって来たんじゃない?」

 

「あぁ……えっと」

 

 いざとなると躊躇してしまう。

 女の子を気軽にライブへ誘うことが出来る程の人生経験が、零央は無いのだ。

 

「そう言えば」

 

 ルリが思い出したように。

 

「熱気バサラさんが学校の体育館を使って即席のライブをやるって言ってましたね。取り合えず作業を中断して聴きに行きましょう」

 

 するとユリカも。

 

「そうね。私はアキトと合流するわ。ルリちゃんも」

 

「いえ、たまにはハーリーくんと行こうかと」

 

 自然な流れを作られ。

 

「二人も行ってきたら?」

 

 二人がフォローしてくれたのだと、ようやく気付く零央。

 

「行こうよ零央ちゃん」

 

「あぁ、行こう」

 

 美三香がゴーバイン関連のデータをオモイカネに任せてから、自然と零央の手を握ってきた。

 

「なぁ美三香」

 

「なに?」

 

「ライブ終わったら俺にもナデシコでの娯楽作り、手伝わせてくれよ」

 

 折角だし、浮わついてもいいかも知れない。

 好きな女の子と手を握って走っている高揚感にあてられたのだろう。

 こいつが布教したがっているゴーバインを、他の連中に広めるのもやってやる。

 広登先輩や小楯先輩の分も。

 

 

 

 

「流石ルリちゃんだね。見事なオペレートでした」

 

「ユリカさんは棒読みでしたけどね」

 

 二人を見送って満足気なルリとユリカ。

 

「それにしても最近アキトが構ってくれないの。実はライブ誘われてないし」

 

「あれ?そうなんですか?」

 

「いっつも鉄華団の人達とか、ハサウェイくんや剣之介くんと一緒にいるから」

 

「……今度それとなく聞いてみます。今日はユリカさんから誘ってもいいかと」

 

「そうだね。それでなんだけど、ルリちゃんとハーリーくんってさ」

 

「どうでしょうね」

 

 はぐらかして部屋から逃げるルリもまた、ユリカに温かく見守られていた。

 

 

 

 学校の体育館に入りきらないほどの人数が、ライブに押し寄せていた。

 地球の片田舎には知られていないものの、全銀河の頂点に登り詰めたロックスターである熱気バサラが無料で、しかも島民が足を運びやすい場所でライブをするなら行かない方がどうかしている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ANGEL VOICE 見つけたのさ

地平線の向こうに

キラリ光った

おまえの姿は夢じゃなかった

流れ流れていこう

いつかまた会おうぜ

瞳閉じれば

いつも心の中に響く ANGEL VOICE

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 バサラの歌に皆が酔いしれる中、その誰もが周囲の異変に気付く。

 体調が悪かったり怪我をしていたり、同化現象に苦しんでいた者に影響が出るのは想像できていた人間もいたのだが。

 

「ミールが……活性化、いや歌っているのか。彼と……」

 

 島全体からわき上がった無数の光が、天高く昇っていった。



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3話-竜宮島、その在り方

 熱気バサラが圧巻のライブと奇跡を魅せ、その日の内に部隊内での状況報告が行われていた。

 

「負傷していたアスランとシンは完治。彼等は元々アルヴィスでの治療もあり今は元気にやっています」

 

「ファフナー隊の同化現象にも変化が見られました。進行速度の低下だけではなく、SDPが強化された者も現れています」

 

 次にルリが立ち上がり報告を始めようとする。

 

「座ったままで構わない」

 

「あ、はい」

 

 真壁司令の微笑まれて着席。

 

「グレートゼオライマーの次元連結システム、呼称氷室美久ですが、推測通り熱気バサラさんの歌により復旧。現在は普通の人間と変わりなく生活をしています」

 

「報告にあった対エフィドルグ用作戦の要でもある。彼女には出来る限りの協力を頼もう。それと既に切り札が揃っている以上、今は皆に鋭気を養ってもらいたい」

 

 

 グレートゼオライマーの秋津マサトと氷室美久が正式に紹介された。

 既にマサトはナデシコメンバーと打ち解けていた事もあり、明るく接していたのだが美久は複雑な面持でいた。

 木原に道具として使われ、この部隊の何人を殺しそうになったのだろうか。

 

「何も気にせずに学校へ通っていた頃が懐かしい……」

 

 ナデシコの甲板で一人佇む美久に声をかけてきたのは、この島のコアである皆城織姫だった。

 

「ならばこの島で学びなさい。あなたの悩みの小ささと、仲間達の懐の大きさを」

 

「……」

 

「あなた達は平穏な生活に馴染んで一度心を穏やかにする必要があるわ。これから起きる大きな災いの前に」

 

「あの……」

 

「何よ」

 

 美久が根本的な疑問を織姫にぶつける。

 

「あなた、もしかして迷子?」

 

「………」

 

 

 

 

 次の日には部隊の全員が召集され、施設の広い場所に並ばされていた。

 何処か楽しそうなユリカと、苦笑いしながら周囲からの質問を受け流すマリュー。

 

「諸君。集まってもらえただろうか」

 

 ふとペンギンコマンドが呟く。

 

「あれ?イオクの奴いないな」

 

「捕虜の見張りだって。交代の奴行ってやれよ」

 

 真壁司令の咳ばらいで静まり返る。

 

「しばらくの間、諸君らには島での生活に順応してもらう。無論、有事には通常の働きを期待しているが」

 

 チラッと、ファフナー隊のメンバーやアルヴィススタッフが笑いを堪えている事に気付いた。

 

「この島は若者不足等もあり労働力の枯渇には日々悩まされていた。故に君達には様々な職業で働いてもらいたい」

 

「え……」

 

 一同が時間が停止したのを感じたが。

 

「最低限の教育過程を終えていない未成年者は、学校へ通ってもらう。」

 

 鉄華団やムエッタの事がメインだ。

 真壁をサポートするように、今度は総士が。

 

「軍関係で特殊な技能や資格を持つ者はアルヴィス内で働いてもらう」

 

 技師の資格があるマリュー、キラ、ウリバタケ。

 ラーメン屋の経験があるユリカ、アキト、ルリ。

 漫画家、声優、バー等なら出来るナデシコ乗員の面々。

 

「なお、パイロットばかりやっていた者はくじ引きだ」

 

 誰もが開いた口が塞がらない。

 

「マクギリス・ファリド……君には初等科の社会科教育を担当してもらう」

 

「……教員免許を持ち合わせていないが」

 

「初等科ならある程度問題あるまい」

 

 そんな勢いで真壁司令は構わず。

 

「ペンギンコマンド達には漁師の手伝いを」

 

 それから次々と発表される職業。

 

 そしてバサラだけが呼ばれなかった。

 

 

 

 そして解散後に各々の働き場所へ。

 

 

 

「いやいや意味わかんない」

 

 寂れた定食屋で働くことになった由希奈と剣之介。

 混乱する彼女に、楽しげに笑いかけた。

 

「よいでないか。それにこれが、もしかしたら将来の目標に繋がるかも知れない」

 

「あ……」

 

 昔、剣之介に対して由希奈が言った将来についての会話。

 

「侍としての生き方もいいが、この時代に生きる者として考える必要もある。由希奈の為にもな」

 

「サラッと恥ずかしい事言うな……」

 

 剣之介は由希奈が背を向けたのを微笑ましく眺めてから。

 

「お主はどうなのだ?界塚」

 

 調理場から客席清掃をしていた伊奈帆と韻子に声をかけた剣之介。

 

「確かに、一生軍属でいる気はなかった。今後のプランを考える上で真壁司令の策は実に興味深い」

 

「そ、そうだな」

 

 剣之介も由希奈も、韻子が一言も発せずに黙々と作業している姿を不気味に思った。

 

「韻子」

 

「話しかけないで」

 

 しばらくは韻子とのコミュニケーションは由希奈や剣之介を通さないと無理な様子。

 

 妙に重たい雰囲気の中で、定食屋として働き始めることになった。

 

 



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祭典-前編

 

「あれ?ハサウェイさん。どこにいくんですか?」

 

 ルリとハサウェイが顔を会わせたのは、ナデシコ正規クルーの居住区域。

 普段は他の出向者は立ち入らない。

 

「……アキトの部屋ってどっちかな?」

 

「そこの通りを左に……」

 

 言葉がつまる。

 仮にもテロリスト・マフティーが自分達の領域に入ろうとしている事に警戒を覚える。

 

 アキトの部屋はルリやユリカが乗艦する限り、本人不在の状況が続いていても確保されてた聖域でもある。

 

「……借りていたアニメを返しにね」

 

 何処か恥ずかしげに紙袋を見せてきたハサウェイ自身が、ルリの警戒をさっした。

 アキトから借りるアニメといったら、恐らくあれだろう。

 

「案内します」

 

 僅かに微笑むルリ。

 相変わらずのアキトの布教活動と、それにかかったハサウェイ。

 昔のナデシコとさほど変わっていない。

 そんな今が嬉しくなった。

 

「ハサウェイさん」

 

「なんだい?」

 

「提案があります」

 

 

 

 その日の昼だった。

 

「お祭り?」

 

「はい。娯楽の少ない艦内でのちょっとしたイベントです」

 

 ユリカがブリッジに訪れたルリとハサウェイを笑顔で迎えた。

 

「……アキトは?」

 

「ユリカさんならOKだしてくれるって、今格納庫で準備中です」

 

「さすがアキトね。でもまだまだ」

 

「と、言うと?」

 

「実はね、竜宮島部隊からの提供で’ゴーバイン‘ってアニメがあるの。トップ部隊のノリコさんも乗り気だし、大規模にやろうか」

 

 

 一方格納庫ではアキトが何やら始めたと人が集まっていた。

 剣之介や万丈、鉄華団は彼の奇行を怪しげに見つめていた。

 

「……ようアキト。なんかあったのか?」

 

 思わずオルガが声をかけた。

 火星にいたメンバーは彼が復讐鬼だった頃を知っているが、過去の明るいアキトをあまり知らない。

 

「皆には刺激が強いかもしれない……それでも逃げ出さないでほしい」

 

「そいつは……」

 

 三日月も現れる。

 

「ねぇアキト。それは皆がいれば乗り越えられそうな事?」

 

「できる限り人数がほしい。少なくとも俺とハサウェイ。ナデシコの皆が乗り越えた事だ。」

 

 大型のモニターや数々の配線を運ぶアキトを見て、三日月もおもわず首をかしげた。

 

 

 次の日の昼。

 ユリカが艦内放送で格納庫に全ての乗員や協力者を集めた。

 

 テーブルや料理等が列べられ、ちょっとした立食会が始まるのだと誰もが思った。

 しかし司会にユリカとアキトが現れて、アニメの上映をするといい始めた時は、僅かに響動めきがおきた。

 

「ゲキガンガーのお祭りか」

 

「界塚。これは日本のアニメだよな?」

 

 スレインにとって初めて見る日本アニメ。

 

「あぁ。実は僕も初めてだ……僕らより彼らの方がショックを受けているようだな」

 

 鉄華団と騎士ユニコーン。彼等はアニメを見るのが初めてだ。

 

「熱血ロボット?どういう事だ?」

 

「なんだよこの暑苦しい絵は。なんで合体中に攻撃しないんだ」

 

 ざわめきの中で隅っこに座る万丈が複雑な顔で彼らを見ている。それを剣之介が気にした。

 

「どうしたのだ?」

 

「剣之介か。いや、あぁ言ったスーパーロボットの概念をボロボロに言われるのはね。何せ僕も当事者だし」

 

「気にする必要はあるまい。ノリコ殿を見ろ。あのように堂々として、誇らしげな顔をしているではないか」

 

「あれは……布教活動中のオタクの顔だよ」

 

 ゲキガンガーの話はすすみ、次第にシリアスシーンやラブストーリーも出てくる。

 いつの間にか三日月とアトラが床に座って見入っている。

 

「最初はよく分からなかったけど、なんかいいね」

 

「三日月はその……こういうの興味あったりするの?」

 

 ゲキガンガーのパイロットがヒロインとのキスシーンを演じている。

 

「どうだろう。でもアトラならいいかな……してみる?」

 

「えっ、ちょっと三日月……ダメだよぅ」

 

 顔を真っ赤にして照れるアトラを微笑ましく眺めるオルガとクーデリア。

 そしてマクギリスも……しかし、彼の前には騎士ユニコーンが。

 

「幼女趣味はどうかと思うぞ。種族が違えどそれは等しく非難されるものだ」

 

「フッ……何のことやら」

 

 マクギリスは前髪を弄りながらアトラから距離をとり、ゲキガンガーの映像をみる。

 

「中々魂に響く曲じゃねぇか!戦闘シーンが多いのは気に入らねぇが、熱いロックのオープニングは認めてやるぜ!」

 

 どうやらバサラもゲキガンガーを認めたようだ。

 

 

 

「リッツはアニメとかわかるのかよ?ペンギン帝国がどんなものかはしらないが」

 

 孝一と恭子がリッツに声をかける。

 

「それなりに見てるわよ。ゲキガンガーも見たことあるし。クールなロボットアニメより熱さがあった方がいいわ。」

 

「成る程ねぇ」

 

 恭子がスレインの方を見たのをリッツが察した。

 

「彼はクールだけど、熱さもあるの!朕は絶対に諦めないんだから!」

 

 ダイミダラーパイロット達が騒いでいるすぐそばで、ヴァルヴレイヴ隊も楽しんでいた。

 

「グッズ販売による経済への影響。ストーリーで惹き付ける事による麻薬的中毒症状、導きだされる結論は……」

 

《また始まった……で?》

 

「アイドルによる人心掌握をやめよう。ヴァルヴレイヴや神憑きをネタにアニメを」

 

 珍しくゲキガンガーの熱にやられているエルエルフの手を、サキがつねる。

 

「……何をする」

 

「現役アイドルの前で言う台詞じゃないわよねぇエルエルフぅ」

 

 サキが笑顔で怒るのを見てショーコが苦笑いしながら。

 

「と、所でアキラちゃんどこに居るか知らない?」

 

 



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祭典-後編

 ゲキガンガーの熱さにあてられたクルー達がラストシーンを息を飲み見守っていた。

 普通なら手に入らない最終話も、アキトは出してくれた。

 仲間の死と最強の敵との戦いから生れたご都合主義展開。新必殺技等が、心踊らされる。

 初めてアニメを見る面々も興奮と感動を覚えたものの、ご都合主義には若干の戸惑いを覚えたようだ。

 

「最後のはなんだ?何故勝てたのだ?」

 

 騎士ユニコーンは由希奈と韻子に訪ねる、笑ってごまかされる。

 

「何はともあれ、ゲキガンガーが皆に受け入れられて良かった」

 

 アキトがユリカに言うも、ユリカは不思議そうに。

 

「アキトってさ。いつだったかゲキガンガーが嫌いになったって言ってたよね」

 

「……まぁな。けど現実でご都合主義に救われて改めてその良さに気付いたんだ」

 

 バサラを見ながら。

 

「あいつに感謝の言葉は要らなかったらしい。好きな歌を歌っていただけで、俺に興味なんて無かったようだ」

 

「それでも、アキトの味覚を取り戻した事にかわりないわ」

 

「そうだな……」

 

 

 

 上映が終わり、ゲキガンガーのグッズの展覧場所にも人が流れ始める。

 

「非売品かぁ。アキトさんのだもんなぁ」

 

 シンとキラ、アスランも随分と楽しんだようだ。

 

 

 

 続いてファフナー隊の美三香が’機動侍ゴーバイン‘の映像を流し始め、漫画本やグッズの展開を始める。

 

 いつの間にか手伝いに呼ばれた零央も一役かう。

 

 侍と言う単語に反応して最前列の席に座る剣之介と由希奈、それにムエッタ。

 

 一方で出された料理に手を出すために離れる鉄華団。

 

「これはゴーバインのヘルメット?」

 

 伊奈帆が見つけたヘルメットは手作りに見えた。

 

「それは代々の……云わばゴーバイン信者のファフナーパイロットが使用してきた、変成意識に関わってきた代物だ」

 

 総士が切なそうに。

 

「俺はそれをあまり好きになれない」

 

「どうして?」

 

「衛と広登……それを被ったパイロットが続け様に犠牲になった」

 

 美三香を見る。

 

「彼女が同化現象の影響で一度肉体を失ったと聞いた時は、呪いすら感じた」

 

「………」

 

 難しい顔をする伊奈帆に、総士が。

 

「何か君も覚えがあるのか?」

 

「えぇ。過去に、スレインがアセイラム姫にペンダントを送った後彼女が不幸になった。そしてそれをスレインが再び持つと、彼自身が道を踏み外した」

 

 遠くでリッツにくっつかれながらゴーバインを視聴するスレイン。

 

「なんだそれは……ちなみに今は?」

 

「どうやらアセイラム姫が回収しているらしい」

 

「……エフィドルグ化したのだったな……」

 

 改めて呪いのアイテムについて考えさせられる二人だった。

 

 

 一方での黒部部隊。

 

「ゴーバインは中々必殺技が多彩ですな」

 

「でも何で必殺技の名前を叫ばなきゃいけないのかしら?」

 

 ソフィーが茂澄に訪ねる。

 

「恐らく音声認識のシステムなのでしょう。ゴーバインプログラムという単語もありましたし。まぁ、これを言うのはご法度であり無粋なのですが」

 

「よく分からない価値観ですね。」

 

「男のロマンと言っては少々差別的かも知れませんが」

 

「それにしても今回のゴーバインは合体攻撃は少ないですよね」

 

 然り気無く由希奈が言った点に剣之介は。

 

「そう言えば俺達も地獄谷でやった事があったな」

 

「あれはフォーメーション、連携攻撃というのです」

 

「どう違うのだ?」

 

 改めてその定義、その違いを考えるも、やはり理解できない。

 結局同じだと結論づけてから。

 

「そうだ。皆で合体攻撃考えようよ!」

 

 由希奈の提案が大きな波を生む。

 するとエステバリス隊、リョーコが。

 

「いいなそれ!前にアキトとハサウェイがグレートゼオライマー相手にやってたもんな!」

 

 本人達が恥ずかしがっているのを知ってわざとらしく大声で言う。

 

「ヴァルヴレイヴ一号機とマークザインなんてどう?」

 

「似たような攻撃方法あるし、いいかもだけど、消費エネルギーすごそうだね!」

 

 逆に全く似たところの無い、例えばクロムクロとスレイプニール改の連携などもあげられた。剣之介と伊奈帆は満更でもなかったようだ。

 

「あの……ノリコさん」

 

「どうしたの?マサトくん」

 

 グレートゼオライマーの秋津マサトが、ガンバスターのタカヤノリコに声をかけた。

 

「あの、僕と合体しませんか?」

 

「ん?セクハラ?」

 

 マサトは美久に頭をひっぱたかれてから。

 

「間違えました。すみません。えっと……ゼオライマーとガンバスターの合体攻撃って出来ないかなって」

 

 周りが静まり返る。

 この二機の連携があれば他の攻撃は全く目立たなくなるだろう。

 

「例えば、次元連結システムを使ってスーパーイナヅマキックの雨を降らせる……みたいな」

 

「……優しい顔してえげつない事言うよね。もしかして木原?」

 

「違いますって」

 

 

 

 色々なやり取りがありながらも集まりは佳境を向かえ、公開する映像も終わり、用意された食事を食べながらの立食会になっていた。

 

 僅かになる警報と微細な振動。

 カタパルトハッチが開かれる事により強風が入ってきた。

 

 格納庫に突如ヴァルヴレイヴ六号機が着艦したのだ。

 

「な、なんだぁ?」

 

「六号機?アキラちゃんなの?」

 

 慌てて走って、機体から降りてきたアキラ。

 

「ちょっと皆……何してるの?」

 

「何って、アキラちゃんにも伝えたよ?お祭りやるって」

 

「……多分寝惚けてた……でもこれはまずい」

 

 エルエルフが近付く。

 

「どうした?何がまずい?」

 

「これ、違法行為……他人に権利があるアニメを勝手に皆の前で流したら……」

 

 全員がアキラを見つめる。

 

「これ、見た人も悪いけど……流した人もっと悪い。スタッフは?」

 

 全員がスタッフを見る。

 ゴーバインは竜宮島に権利があるから、問題は解決出来るだろうが。

 恐らくゲキガンガーはアウトだ。

 

「OK出したのはユリカ艦長だよね……」

 

 いつの間にかいないユリカ。

 

「機材用意して流したのはアキトだな」

 

 アキトは冷や汗を流しながらハサウェイを見る。

 

「ほ、発起人はハサウェイだよな?」

 

「なっ!それを言うなら……」

 

 つぎの台詞が出ない。

 仮にもテロリストがルリを、連合宇宙軍少佐の事を公の場で晒す?絶対に無理だ。

 

「ハサウェイ……」

 

「あ、アキト」

 

「粛清されちまえ」

 

 何となくだが、ルリが彼等の様子を見て笑いたくなった。

 

 本当に、自分を含めた皆が。

 

「バカばっか」

 

 それが嬉しかったのだった。

 



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4話-優しい時間

「それでは講義を終える」

 

「先生堅苦しいってばー」

 

「む……」

 

 クスクスと笑われながらエルエルフが教壇から降りて、教室を後にする。

 

「戦い以外の生活を学ぶ……か」

 

 幼い頃から武器を手にしていたエルエルフが、今はこうして学校で教師の真似事をさせられている。

 無下に断るわけにも行かない。

 補給や戦力の提供なとで多くの借りを作っている竜宮島の彼等を裏切る気にはなれなかった。

 仕方ないとはいえ、戸惑いがある。

 

「エルエルフ。浮かない顔だな」

 

「アスラン・ザラ」

 

 彼もまた、お偉い方の息子にして軍属。ザフトやオーブをフラフラ裏切ったりする余り印象の良くない人物だ。

 

「どうにも、俺の印象が良くなかったのかも。真壁司令には」

 

「……自覚はあるようだな」

 

「後悔のない結果だが……まさかメカニックやプログラミングの仕事からも外されるとはね」

 

「資格を持っていたのか?」

 

 自嘲気味に笑うアスラン。

 

「あぁ。キラとは同じ学校だったから。そういやエルエルフ。君はどこで教育を?」

 

 エルエルフは適当に誤魔化そうかと思ったが、特に嘘をつく相手でもないので。

 

「ドルシアの軍事施設で調教された」

 

「調教?」

 

 首をかしげるアスラン。

 

「今思えばやっていたことは何処にでもある軍事教練だったと思うが」

 

 ふと、女性徒からの黄色い歓声。

 

「アスラン様ぁっ!こっちむいて!」

 

「アスラン様ぁっ!連絡先を」

 

「アスラン様ぁっ!保健の授業を」

 

 他の学年の教室から聞こえた声に、アスランは頭を抱える。

 

「助けてくれ……」

 

「精々生徒には手出ししないよう頑張れよ。アスラン様」

 

 チャイムがなり、エルエルフは次の教室へ。

 

「……お前達か………」

 

 教室では明らかに浮いた存在。オルガと、ムエッタが端の席に座っていた。

 

「三日月や昭弘はどうした?」

 

「あいつらは読み書きができねぇ。マクギリスの所で初等科のガキ共と勉強してる」

 

 三日月は辛うじて許せるが、昭弘ような筋骨粒々の大男が初等科の子供達と席を並べているのか。

 複雑な気持ちになってからエルエルフはムエッタをチラッと見てから。

 

「そっちは?」

 

「私は簡単な勉学は由希奈に教わったし、高校にも数日間通った」

 

 ではなぜ参加しているのか。

 

「エフィドルグの兵をしていた頃に学ばなかった道徳と青春とやらが、わたしには必要らしい」

 

 その手の事は戦艦内でも学べるし、そもそもエルエルフが教わりたいくらいだった。

 実のところエルエルフは、ムエッタとオルガの間にあった真玉橋事件について情報を持っていたのだ。

 少しだけ面白そうだと思ったのは自分だけではなく、もしかしたらムエッタの心配をしていた由希奈達も同じ気持ちかも知れない。

 

「では、講義を始める。号令を」

 

 

 その校内の片隅でホウキを持って体育館近辺の掃除をしていたスレインとリッツ。

 先日のライブの後、ゴミ等が少々目立つようになっていた。

 

「他の方に比べれば楽なものかも知れませんね」

 

 二人は学校の用務員として、簡単な雑用をこなしていた。

 火星やペンギン帝国で多少なり教育を受けていたので授業は免除されていたが、彼等に合致する職業があるわけではなかった。

 

「ねぇスレイン様」

 

「だから様はよしてくださいと」

 

 振り向いてリッツの顔を見ると、いつもと違う真剣な表情。

 

「朕は本来ならペンギンさん達と合流した時点で帝国に帰るべきだったかも知れない。でも」

 

「貴女がこの先の戦いにおいて貫ける大義名分は無いはずだ」

 

 まるで拒絶するように言葉を遮る。

 スレインはアセイラムやエデルリッゾを救う為に戦い、その先には火星騎士達の統率という仕事もある。

 他の者に至ってはエフィドルグや101人評議会を打倒したり、異世界の仲間を集めたり救われた恩義を返すためなど、様々な理由があった。

 だがリッツには無い。

 スレインと一緒にいたくて艦に乗り、仲間意識が芽生えて共に何となく戦っていた。

 今までリッツが経験してきた戦いには’重さ‘がなかった。

 どこか軽いノリもあり、常に戦場において他とは違う何かが無かったのだ。

 

「恐らく次はフェストゥムとの大規模戦闘がある。心の弱さがある人間は同化される。悪いことは言わない。君はペンギンコマンド達と」

 

 冷淡に言うスレインも、リッツの涙には気付いていた。

 

「……帰るべきだ」

 

「いや、帰らない」

 

 反射的に反されるも次の言葉まで数秒、間が空く。

 

「……朕が火星騎士の人達とスレイン様を支える。ペンギン帝国と友好国になって」

 

「悪いが必要ない。僕はアセイラム姫を敬愛し、レムリナ姫が待っていてくれている。既に多くの支えもあるんだ」

 

「どうしても、朕はスレイン様と一緒に」

 

 スレインはリッツの頭に軽く手をあて。

 

「決して君の事を嫌っている訳じゃないんだ。冷静に考え直してほしい。君が僕に着いてくると言うのなら、ペンギンコマンドを危険にさらす事につながる」

 

 涙をポロポロの落としながら、リッツはスレインに背を向けて。

 

「……諦めない。諦めたくない。だって初めてこんな……」

 

 リッツはその場にいることに耐えきれず、走り去ってしまう。

 

 溜息をついて、頭をかきむしるスレイン。

 すると教員が二人スレインに近付いてきた。

 

「えっと……」

 

「わりいな。聞くつもりは無かったんだが……大変だな。あんた」

 

 スレインにとって初対面の男女。

 

「ファフナー隊の指揮をしている、近藤剣司だ。」

 

「あたしは近藤咲良。同じくファフナー隊で、一騎や真矢と同期なの」

 

「初めまして……でしたよね?僕は」

 

「銀仮面でしょ?前にナデシコで来たとき補給作業で見かけたわ」

 

「……今はスレイン・ザーツバルム・トロイヤードです」

 

 簡単な自己紹介を済ませて。

 剣司はスレインに。

 

「あの子は君の為に戦いたいんだろ?どうしてその気持ちに答えてやらない」

 

「彼女が僕のために誰かの命を奪うと言うのは納得が出来ない。僕はそこまでしてもらうような人間じゃないし、これから先は人間同士の戦いも増える」

 

 剣司はチラッと咲良を見てから。

 

「……俺はな、ガキの頃から咲良に惚れていて、咲良を守りたくて戦っていたんだ。最初はボロクソに言われて拒まれたけど今でもちゃんと仲間としてやってる。それなりの時間お互いを信頼して」

 

「……二人は同じ部隊だったのですか?」

 

「スリーマンセルだった。……それより」

 

「あんたさ、もっとあの子を戦友として、仲間としてしっかり見てあげな。そして頼る。今まであんたらがどんな付き合いやってたか知らないけど、突き離すだけが優しさじゃないよ」

 

 咲良の言葉に、スレインは改めてリッツの事を考え直す事にした。

 



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5話-恋を支えるモノ

「シミュレーションより遥かに忙しいですね……」

 

 閉店時間になり暖簾を片付けるルリ。

 

 ルリとユリカとアキトはアルヴィスで用意してもらったラーメン屋で働いていた。

 

「こういう忙しさを目指してたんだ」

 

 厨房を綺麗にしてエプロンを外すアキト。

 

「何か……いいね」

 

 テーブルに突っ伏して脱力するユリカ。

 

 島に僅かしかない飲食店は、時間帯により一斉に人が集中する。

 一騎の喫茶店や、由希奈達が働くようになった定食屋もそれだ。

 そしてアキトのラーメン屋。

 アルヴィスの軍務用出入口と、住宅街の丁度間に位置した立地上で最高の場所にラーメン屋があった。

 

「……自分で建てた店じゃないのが悔しいよな。いつか……また屋台から始めて……」

 

 アキトはユリカとルリにお茶を入れる。

 

「少しホッとしました」

 

「何?」

 

 アキトはルリを見つめる。

 

「アキトさんが戻ってきてくれて、また一緒に屋台をやる。でもそれはアキトさんの熱意次第だったので深く話すつもりはありませんでした」

 

 次にユリカは湯呑みを両手で持ちながら。

 

「ここがゴールじゃなくて良かったって事。確かに竜宮島はいい場所だし、アキトがこのお店でいいのなら、それならそれで受け入れていたけど」

 

「真壁司令には、この店の譲渡の話をされていたんです」

 

 借り物だと思っていたアキトは、譲渡という単語に首をかしげた。

 

「もしこのお店をアキトが選ぶなら、わたしとルリちゃんは離艦と除隊。そしてナデシコはハーリーくんに任せて、ここで旅は終わり」

 

「なんだよそれ」

 

 ユリカがアキトの呆れ顔を見て笑う。

 

「嫌だもんね。そんな後味悪くなるの。私たちはアキトを信じていた。だから借り物のままにしておいたの」

 

 何だか気恥ずかしくなり顔を背けるアキト。

 

「こんな立派なお店ではチャルメラを吹けません。夜空を眺めながら仕事する方が好きですし、さっさと戦いを終らせて屋台を引っ張ってください」

 

「……ありがとうな。二人とも」

 

 

 

 その頃、ムエッタとオルガは二人で夜道を歩いていた。

 メドゥーサの自己修復が完全に終わり、グレートゼオライマーから受けたダメージの影響が無かったかを確認するためアークエンジェルに出向いたムエッタ

 時を同じくして、バルバトスとグシオンリベイクの装甲や武装などが届いたので書類上の手続きに向かったオルガ。

 

 アークエンジェルで出会し、島の宿泊施設まで一緒に戻ろうとオルガの方から言い出したのだ。

 ふとムエッタは気付く。

 オルガと二人きりで歩いているというのに、普段のジャージではないか。

 昔、由希奈から借りたままのボロボロになった数少ない私服。

 

「あれ?オルガ」

 

「ミカ。なにやってんだ?こんな時間に」

 

 道端で三日月が一人あるいていた。

 

「うん。皆城総士に呼ばれて、目と腕の様子を見てもらってた」

 

「……で、結果は?」

 

「駄目だった。色々とバルバトスに持っていかれたから」

 

「……そうか」

 

「所で二人は?」

 

「あ、あぁ」

 

 アークエンジェルでの仕事について話す。

 

「じゃあバルバトスも戦えるんだね。ちょっと見てくる」

 

「おいおい。明日でもいいだろ」

 

「駄目だよ。常に準備はしておかないと。オルガはムエッタをおくってあげて」

 

 然り気無く二人きりにされる。

 

「なんだあいつ……」

 

 三日月は去り際にムエッタと目があった。ムエッタもそれを見て三日月の気遣いを知る。

 

「……どうにもこの島に来てから初めての事ばかりだ」

 

「あ?ま、まぁそうだな」

 

 それから二人は他愛の無い話をしながら宿泊施設へと戻った。

 

 

 

「あ、ムエッタ遅かったね」

 

「随分とゆっくりでしたね……どうしました?ニヤニヤして」

 

 同室の由希奈とソフィーが迎えた。

 ムエッタは自らの顔が緩んでいる事に気付いて、両手で顔を押さえた。

 

「い、今オルガと一緒に帰ってきたのだが」

 

 二人がガバッと顔をあげムエッタに詰め寄る。

 

「それでそれで!?」

 

「尋問の時間ですね」

 

「……今日ほとんど一緒に過ごしていた気がするのだが……」

 

 ムエッタは由希奈に。

 

「由希奈。すまぬが洋服を見繕ってほしい」

 

「あー。そうだよね。火星から戻ってからナデシコの支給品しか」

 

 言葉が途切れてソフィーと目が合う。

 エフィドルグの兵だったムエッタが恋をして、お洒落に興味を持った。

 彼女の進化は止まらない。加速する。

 

「味方援軍が必要です」

 

「そうだねソフィー。ムエッタの為に一肌も二肌も脱いじゃおう!」

 

「脱ぐのか?……というか何故二人の方が元気になるのだ?」

 

 勝手にテンションが上がるソフィーと由希奈に、ムエッタは呆れる。

 

 

 

 



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6話-静かな夜に

 総士はダンボール箱を手に宿泊施設に向う。

 この施設はアークエンジェルやナデシコが停泊しているドックの真上にあり、有事には徒歩五分もかからず乗艦出来るようになっていた。

 彼はここ数日、敵勢力の解析や味方の謎の多い機体についても調べるために研究所を出入りしていた。

 次元連結システムである美久とヴァルヴレイヴ隊のアキラにも協力を頼んでいたのだが、そこへ荷物の誤配送があったのだ。

 そしてたどり着く鉄華団がいる場所。

 

「オルガ、君に荷物が来ていた」

 

「俺に?誰から」

 

「名瀬・タービンという人物だ」

 

 驚いて荷物を受け取る。

 

「兄貴か!……これは、兄貴が着てたスーツ?」

 

「確かに渡した。それじゃあ」

 

「あ、待ってくれ。その、ミカが世話になったみたいだな。礼を言う」

 

「力になれなかった。……オルガ。一つ余計な事を言わせてもらうが、鉄華団はこの先の可能性を持ち合わせた団体だ。だからこそ阿頼耶識の使い手は増やすな。必ずしも三日月のような結果になるとは限らない」

 

「それは、言われずともってやつだ。……こんな時間で悪いが、火星に通信を送れる施設はあるか?」

 

「アルヴィスの第二CDCだ。万丈も申請をだしていたから、彼と時間を合わせて行くといい。こちらから許可を出す」

 

「感謝するぜ。皆城」

 

 頭を下げられ、総士は再び歩き出した。

 

 もう一騎の店は閉まっている筈だが、仕込みをしている頃だろう。少し顔を見に行くか。

 

「総士も感じているのでしょう。オルガ・イツカや三日月・オーガス達に未来を感じていない」

 

 道端に佇む皆城織姫。唐突に現れた彼女に驚きもしない総士。

 

「呼び捨てはやめろ。俺は君の叔父にあたる。それに鉄華団の事は口にするな」

 

「……優しいんだね」

 

「未来はいくらでも変えられる。我々が見えているのは一部の分岐に過ぎない。それを回避する力を持ち合わせているのはフェストゥムだけではない。人間もだ」

 

「やっぱり優しいよ。総士は」

 

 

 

 

 翌日の朝、タカヤノリコは外を走っていた。

 ガンバスターパイロットであり宇宙軍の中尉である彼女は、この島に来てから漫画家の手伝い担当になった。

 エステバリス隊のヒカル主導の下、指南ショーコとハーリー、サブロウタと共に原稿と戦っていたのだ。

 早朝になってからヒカル以外が睡魔に撃墜され、作業が止まったことによりノリコは仮眠の後に体を動かすため浜辺へ足を運んでいた。

 

「二人とも。ここにいたんだ」

 

 騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッドがアルヴィスの歩兵を鍛えていたのだ。

 二人にひと声かけようかと思ったが、真剣に訓練したのでやめておく。

 

「あの二人にも、戦いとは無縁な時間を知ってほしかったな……」

 

 ノリコは再び走り出す。漫画を書くために。

 

 

 大勢が戦いを離れた生活をおくるなか、アルヴィスに定期的に集まっている将官達は時々雑談にも時間を費やしていた。

 エルエルフ、キラ、マリュー、ユリカ、伊奈帆、真壁司令が適当に座って寛いでいた。

 

「苦戦しているようだねエルエルフ」

 

「まったく、冗談ではない」

 

 定例報告を終えてからコーヒーを手に落ち着く。

 

「リッツが来なくなったが、何か情報は?」

 

「アークエンジェルにいるわよ。何かあったのかしら」

 

 マリューが総士を見る。

 

「スレイン絡みだ。報告は受けている」

 

「若いな……」

 

 真壁が僅かに微笑みながら呟く。

 

「ミスマル艦長。ラーメン屋についてアキト君は?」

 

「屋台を選びました。お気遣い感謝します」

 

 丁寧に頭を下げるユリカ。

 

「構わないさ。まぁ君達には島の住人になってほしかったのもあったのだが」

 

 冗談とも本気ともとれる返答をする真壁に対して屈託のない笑顔を見せるユリカ。

 

「ラミアス艦長、キラ君も同様だ。帰る場所があるとは言え、この島が気にいればいつまでも居てくれて構わない。君達二人はアルヴィスのスタッフからも意見があった」

 

「オーブやプラント……エルエルフにはジオールがありますからね……伊奈帆くん、どうかした?」

 

 何処か思い詰めた様子の伊奈帆が気になったキラ。

 

「いえ。ただ……」

 

 どうにもはっきりと言葉を出せない伊奈帆。それを皆が珍しく見ていたが、エルエルフが話題をかえる。

 

「そう言えば、この部隊の名前がまだ無かったな」

 

「部隊名?」

 

「ふむ……」

 

 伊奈帆はチラッとエルエルフを見てから。

 

「確かにそうですね。アークエンジェルとナデシコ。そしてアルヴィス、美容室プリンスとペンギン帝国」

 

「ジオール革命軍と黒部研究所部隊、界塚小隊と異世界の来訪者、そして鉄華団」

 

「これだけ雑多な組織構成を一まとめに呼べる部隊名か。」

 

「……統合革命艦隊」

 

 エルエルフの提案に、キラは僅かに笑う。

 

「やっぱり革命は外せない?」

 

「勿論そうだが、既にエフィドルグや101人評議会に侵食されている地球軍と敵対する組織だ。さらに宇宙生物とも戦っている以上、多少なり格好をつけてもいいだろう」

 

 

 統合革命艦隊という部隊名が決まってから伊奈帆がアルヴィスを出て海を眺めていると、エルエルフが来る。

 

「さっきはありがとう」

 

「構わないさ。それで、さっきのは何だ?」

 

 海に視線をおくる伊奈帆は。

 

「戦いが終ったら何をしよう、そんな事を考えるようになって」

 

「……」

 

「……竜宮島で今の生活になってから初めて口にした。軍人でい続ける気はないなんて」

 

 エルエルフは少し驚いた。伊奈帆の発言とは思えなかったからだ。

 

「何れは退役も考えようとは思っていた。でも何をするかって」

 

「……網文韻子はなんと?婚約者なのだろう?」

 

「その話が出来なくてね。僕がエドモントンで無理を通した件で怒っている」

 

 ため息をつくエルエルフ。

 

「すまない。人生相談に対応出来る人間ではないのでな。ただ網文韻子と話すしかないだろうとは思うぞ」

 

「……君は?戦場から離れたらどうするんだ?」

 

「……お前ほど簡単な状況ではない。俺は戦いしか知らない。時縞や指南に話すことは出来るかも知れないが、結局は自分で決めなくてはいけない重大な案件だからな」

 

 伊奈帆はふと気付く。

 

「多分こんな悩みが普通なのかもしれない。僕たちの、年相応の」

 

「まぁ、悪くない」 

 

 



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7話-動き出す厄祭

 

「貴様の話、受けようかと思う」

 

 イオクはペンギンコマンド達に押し付けられた捕虜の監視に務めていたが、エフィドルグ兵の話に心揺らいでいた。

 

「さすがはクジャン家の当主。判断力はあるようだな」

 

「黙れ下郎。私は何としても本国に戻らねばいかんのだ。」

 

 イオクは牢の鍵を開ける。

 

「貴様の名前を聞いていなかったな」

 

「エフィドルグ辺境矯正官、グリフォンだ」

 

「ならばグリフォン。これを」

 

 イオクが手渡すのは竜宮島の地図。

 

「では、手筈通りに」

 

 

 

 

 数分後にアークエンジェル内で警報が鳴り響く。

 

「この騒ぎは?」

 

「格納庫です!これは……メドゥーサがハッチを切ろうとしています!」

 

「どういう事?ムエッタさんに連絡は」

 

 アークエンジェル内にいたマリューとノイマン。

 

「確認取れました。現在各パイロットと共にこちらへ向かっています」

 

 マリューは直ぐ様竜宮島の仲間達にも連絡を入れる。

 

「捕虜のエフィドルグ兵が脱走してメドゥーサを奪ったのね……しかし監視は何を……」

 

「ムエッタから通信です」

 

 画面にムエッタが表示される。

 

「バルバトスを出撃出来るようにしておいてほしい。それと、クロムクロを浜辺に射出してくれ」

 

「クロムクロはわかりますが、バルバトスですか?」

 

「……既に三日月が先行している。私はオルガと現場に向かう」

 

 通信が切れる。

 

「あの二人の行く末の方が気になるわね……」

 

「そうも言っていられません。メドゥーサが竜宮島の住宅地に近付いています」

 

 マリューは別の通信機をつかんで、格納庫に通信を。

 

「マードック曹長。被害と出撃の状況は?」

 

「艦のハッチをやられた。もう三日月が出撃する」

 

 無駄に暴れずに外へ出たエフィドルグ兵もそうだが、三日月の動きも気になる。

 

「あの人、ニュータイプじゃないですよね」

 

「多分……」

 

 

 

 エフィドルグ兵が奪ったメドゥーサは市街地を抜けて島の中腹に差し掛かった。

 

「来たか……」

 

 背後からメイスで殴りかかるバルバトス。

 

「我が名はエフィドルグ辺境矯正官」

 

「そんなのどうだっていい」

 

 メドゥーサが殴り飛ばされるも、同時にメイスの持ち手が振動ブレードによって切り落とされる。

 

「お前たちと戦う事が目的ではないのでな!」

 

 メドゥーサがバルバトスを蹴り、後方から走りよっていたクロムクロに激突させる。

 

 その隙にメドゥーサが片膝をついて、エフィドルグ兵が機体を降りた。

 

 次の瞬間にクロムクロが投げた振動ブレードがメドゥーサをかすめる。

 

 その衝撃で落下した木がエフィドルグ兵を直撃。

 

「な……」

 

 倒木から這い出たエフィドルグはカブトを脱ぎ捨てクロムクロを睨み、それから走っていく。

 その姿を見たとたんに、三日月と剣之介が動きを止めてしまう。

 

「ビスケット……どうして」

 

 死んだはずのビスケット・グリフォン。

 そのエフィドルグ兵は何故か彼の姿をしていたのだ。

 

 

 混乱の最中、緊急通信が入る。

 

「島のミールにエフィドルグ兵が近付いた!誰か」

 

 総士の珍しい焦った口調に、緊張が走る。

 

「太陽騎士とユニコーンが向かっているが、間に合わない!」

 

 そして、島全体に大きな衝撃。

 

 さらにバリアや偽装鏡面が解除される。

 

「こちら騎士ユニコーン。エフィドルグ兵を確保!しかし……」

 

 続けざまに太陽騎士ゴッドが。

 

「ミールとやらが傷をつけられ黒く変色しているぞ!」

 

 アルヴィス内で、真壁が苦渋の決断をする。

 

「変色部分の切断を!」

 

 ミールの欠落は島の命そのものに影響が出る。ファフナー隊の力や住民の生活にも。

 そのミールの一部を切り捨てるのだ。

 

「これは賭けだな……」

 

 騎士ユニコーンが変色部分を切り落とし、太陽騎士ゴッドがそれを掴む。

 ゴッドが太陽の力でそれを熱して炭にする。

 

 突如、妙な気配に二人は周囲を警戒する。

 

「……誰だ?」

 

 アルヴィスでモニターを確認していた真壁は、太陽騎士の横を通りすぎた何かを確認する。

 

 僅かに再生を始めるミール。

 太陽騎士ゴッドが周囲を確認する。

 騎士ユニコーンは暴れて逃げようとするエフィドルグ兵を掴んだまま離さない。

 

 次々と現れる影。

 

 切除されたミールに向かって歩いていく影は、人の形をしている。

 

「カノン……衛……羽佐間!」

 

 突如侵入してきたマークニヒト。

 

「ミールよ!俺の命を使え!」

 

 同化してミールの再生に力を貸そうとする。

 

 だがマークニヒトはミールに弾かれる。

 

「大丈夫だ」

 

「この声は……父さん……」

 

「お前がこちらに来るのは、まだ先だ」

 

 マークニヒトの中で、総士は自らの寿命が少しだけ延びたのを感じた。

 

 

 

 

 その頃、アークエンジェルから一機のスカイグラスパーが無断発進して島から出ていった。

 それはペンギンコマンドの姿をした、イオク・クジャンだった。



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8話-汚れる太陽

 捕縛したエフィドルグ兵への尋問が始まる。

 

「イオク・クジャンは地球軍の施設に脱走したのね?」

 

「……あぁ」

 

「貴様の目的はミールを傷付ける事だな?」

 

「あぁ」

 

 随分と素直に応答するエフィドルグに、マリューとエルエルフが片をすくめる。

 総士は精密検査に行っているため尋問には参加出来ない。

 

「嘘は言っていませんね」

 

 伊奈帆のアナリティカルエンジンが、嘘を暴こうと試みていた。

 

「我等エフィドルグはこの星の軍事施設に精通している。そしてミールやフェストゥムの存在は我等の仇敵。攻撃は当然の事」

 

「黙れよ」

 

 オルガがエフィドルグの胸ぐらを掴む。

 

「なんでお前がビスケットの顔をしているんだよ!」

 

「そのような名の者は知らぬな」

 

 するとムエッタがオルガの拳に手をあて。

 

「エフィドルグ辺境矯正官、グリフォンと言ったな」

 

「……貴様は?」

 

「かつてはお前の先輩にあたる存在だった。ムエッタだ」

 

 エフィドルグ兵、グリフォンは僅かに笑う。

 

「脱走兵か。エフィドルグの恥さらしめ。腹を切って罪を償うがいい」

 

「罪か……それは我等が産まれた事そのものだぞ、グリフォン」

 

 オルガがグリフォンから手を離す。

 

「我等辺境矯正官は現地の人間の情報を元に複製された、ただの骸だ」

 

「何を世迷い言を」

 

「……やはり情報が流れている訳がないよな。お前はビスケットの紛い物。今一度問うぞ。お前はエフィドルグとして命令を全うするのか?それともこの真実を確かめるために足掻くのか」

 

 グリフォンはムエッタに唾を吐きつける。

 

「……そうか。ならばそれを尊重しよう。最後に聞きたい。貴様の上官の名は?」

 

「……ミラーサ様だ」

 

 大きくため息をつくムエッタ。

 

「ミラーサか……生きていたのだな」

 

 ムエッタはグリフォンに背を向ける。

 

「私の用は終わった。後は任せる」

 

「ねぇムエッタ」

 

 三日月が声をかけた。

 

「難しい事はよくわからないけどさ、こいつはビスケットじゃない。死んでいいやつなんだよね?」

 

「……それは」

 

「待ってくれミカ」

 

「オルガ?」

 

「すまん。俺は……このビスケットの姿の野郎を殺す事に躊躇ってしまっている」

 

 数人がオルガの甘さに辟易としながらも、理解していた。

 

「どこまでも愚かな劣等種め!大人しく滅びの時まで震えていればいい!」

 

 ビスケットの顔と声でオルガに吐き捨てる罵声に、三日月は銃をとろうとする。

 

「待ちたまえ」

 

 三日月を制止して自らの銃をグリフォンに向けたのは、破乱万丈だった。

 

「グリフォン。お前は自分の存在が人間よりも優れていると考えているのか?」

 

「貴様らを劣等種と言ったぞ」

 

 唐突に響く銃声。

 万丈はグリフォンの足を撃ち抜いた。

 

「ぐあぁっ!」

 

「続けよう。この場でエフィドルグである君を生かした場合、どうする?」

 

「決まっている!私を侮辱したお前たちを根絶やしにして」

 

 再び銃声。

 今度はグリフォンの腹。

 

「万丈。もうやめろ」

 

 騎士ユニコーンが止めようとする。

 

「いや、駄目だ……お前たちがこの星で集結しようとしているのは、やはり黒部なのか?」

 

「エ……エフィドルグに安寧を……」

 

「やめてくれ万丈!」

 

 思わず声が出たオルガ。

 

「……人間をなめるなよ……その身勝手な理想ごと滅ぼしてやる」

 

「や、やめ……!」

 

 頭部へ二発の銃弾。

 絶命したグリフォンの遺体が横たわる。

 

「……オルガ。どうすればいい?俺は万丈のやり方で良かったと思うけど、納得いってないよね」

 

「ちょっと待ってくれ……」

 

「メガノイドとは違うが人の形をとりながら機械に作られた紛い物の存在を、僕は受け入れられない。軽蔑してくれてかまわない」

 

「それは、わたしもか?」

 

 ムエッタが万丈に。

 

「君次第だ」

 

 次の瞬間、オルガは万丈に掴みかかる。

 

「お前何様だ!どんな事になっても俺はお前のやり方を認めねぇ!ムエッタだって俺の命に変えても守り抜いてやる!」

 

 オルガは自らの言葉の重さが感情的すぎてよく分かっていなかった。

 思わずオルガを注視するムエッタ。

 

「……そうか」

 

 どこか感心したような、安心したような顔を見せる万丈は退室する。

 

 

 グリフォンの遺体が処理されて解散から数分後に、その場所に現れたのは熱気バサラと太陽騎士ゴッドだった。

 

「結局殺すんじゃねえか……」

 

「万丈の独断ときいていたが、気に入らない。どうする」

 

 どうする。

 つまり今後もこの革命統合艦隊に参加していいものかと。

 捕虜の尋問中の殺害。

 決して許されるものではない。

 

「俺は歌う。フェストゥムやエフィドルグに聴かせてやる。何よりこの部隊の連中に」

 

「……万丈は太陽の化身だと知らされていたが、奴にも陰りはあるようだ。本当の意味で魂を震わせるべきなのは、仲間内……バサラ、お前の戦いに俺も存分に力を貸そう」



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9話-界塚小隊の一日

 

「特別編成?」

 

 伊奈帆と由希奈がいる定食屋にスレインが食事に来ていた。

 剣之介はアルヴィスに呼ばれていて、韻子は休憩で席を外している。

 

「あぁ。今回の竜宮島での戦闘をシュミレートしてその結果、界塚小隊を一時的に解散する事を決めた」

 

 味噌汁の椀を置くスレイン。

 

「お前……いつまで網文と喧嘩している気だ?」

 

「私情は関係ないし、リッツさんとゴタゴタしてる奴には言われたくない」

 

 横で苦笑いしている由希奈は二人はすっかり友達みたいだなと思う。口にはしなかったが。

 

「フェストゥムの読心と同化対策だ。韻子には昭弘さんと狙撃担当として島の中腹に陣取ってもらい、味方機の援護に徹してもらう」

 

「で?僕らは」

 

「スレインはスーパーロボットの現場指揮だ。全体的な指揮は真壁司令だが、各々に指揮系統を分けた方がいいらしい」

 

 それが読心対策の一つでもある。

 

「MS隊とGAUSの指揮はラミアス艦長。エステバリス隊はミスマル艦長、ヴァルヴレイヴ隊はエルエルフ、ファフナー隊は近藤さん、鉄華団はオルガ団長」

 

「君は?」

 

「クロムクロとメドゥーサ、騎士ユニコーンとゴッド、熱気バサラ」

 

「そうか……」

 

 伊奈帆の負担も大きそうだ。一癖も二癖もあるメンツだ。

 

「しかしスーパーロボットか」

 

 ガンバスター、グレートゼオライマー、ダイターン3、ダイミダラー二機と超南極。

 

「大火力がありながら機動性に掛ける部隊だ。その為に僕やスレインの未来予知が必要になる」

 

「不安要素満載だな。的が大きいぶん集中砲火を受ける」

 

 嫌そうな顔になるスレイン。

 

「……同化現象に対向できる機体あったか?」

 

「不明だ」

 

 特殊なバリアを持ち合わせないダイターン3。

 情報を公開しようとしないダイミダラー。

 味方機としても未だ恐ろしいグレートゼオライマー。

 火力が高過ぎて島への影響が不安なガンバスター。

 

「な、なぁ、交代を」

 

「却下だ」

 

 

 

 時を同じくしてリッツと韻子はアキトのラーメン屋にいた。

 

「二人とも、食べ過ぎだ。このくらいにしておけ」

 

 アキトが呆れながら厨房で手を休めて皿を洗い始める。

 

「ストレス発散の為に食べられてもな……」

 

「すみませんアキトさん」

 

 暗い表情の韻子とリッツ。

 

「二人の噂は聞いてる……そこそこ有名になってるから」

 

「リッツはともかく、私と伊奈帆についてもですか」

 

「ともかくって何……」

 

 ルリが項垂れるリッツの前にお冷やをおいて。

 

「部隊内の話題の一部としてお客さんから情報が流れてくるんです。ムエッタさんとオルガ団長の件なんて本人以外は殆ど知っているかも」

 

「うわっ……」

 

「え、でも朕とスレイン様の件は誰が」

 

 スレインを疑うことなんてないリッツ。

 

「誰かに見られていたのかも知れないし、二人の様子が変わったから気付いた人もいるだろうし」

 

「……」

 

 黙る韻子とリッツにユリカが。

 

「二人とも、もっと男の人の言葉を飲み込んであげたら?」

 

「ユリカさん?」

 

 ユリカが前に出たとたんに、アキトは然り気無く店の外に出る。

 

「伊奈帆くんの戦いには常に貴女への信頼が込められている。彼が無茶をするのは大好きな婚約者の為じゃないかなって思うの」

 

「それは……」

 

 わかっていた。でも認めたくなかった。伊奈帆がアナリティカルエンジンに脳細胞の一部を預ける事も意味がある。でも心配があり、それでもどんどん前に進まれて。

 

「リッツちゃんはね、自分の気持ちだけを前に出して押し付けすぎだと思う。本当にスレインくんが好きだと言うのなら、彼を尊重するべきだよ」

 

 リッツもわかっていた。ただ本当の意味で誰かを好きになったことが嬉しくて、その気持ちに歯止めをかける事を知らなくて。そしてそれを受け入れてもらえない事実を、受け入れられない。

 

「……」

 

 ユリカはリッツと韻子の顔を見てから。

 

「二人なら、大丈夫」

 

 

 その日の夜。

 指南ショーコ、流木野サキ、連坊小路アキラはナデシコに赴いた。

 

「調子どう?ハルト」

 

《いつも通りだよ》

 

 ナデシコの格納庫。ヴァルヴレイヴ二号機のコクピットにショーコが座り、サキとアキラはハッチから二人を覗き込む。

 三人は暇をしているだろうハルトに島での生活について話に来たのだ。

 

「ジオールでもあったよね。こんなゆっくりとした時間。」

 

《……そうだね》

 

 ふとハルトの中に違和感が生まれる。

 確かにゆったりとした日常はあった。

 だが、明かに何か忘れている。

 

「この島の神社にいる巫女さんが可愛くてね、その人もファフナーのパイロットだって今日初めて知って」

 

《神社……》

 

「どしたの?」

 

《ううん。何でもない》

 

 確かハルトにとってサキやショーコを相手に、神社という特殊な場所で何かがあったはず。

 忘れている。

 記憶の欠落。

 既に無い筈の血の気が引く。

 

 人の形を失い、ルーンの集合体としてヴァルヴレイヴ二号機のAIと化した時縞ハルト。

 

《なんかさ、ファフナーのパイロットって凄いよね》

 

 余命幾ばくもない身体で自らを消耗させながら戦い、島を守る。

 今となってはハルトも近い存在だ。

 

 もうすぐ、自分は情報そのものが消える。

 だからせめて、残りの時間をショーコや仲間達の為に使いきろう。

 ハルトの意思は強くなっていった。

 



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10話-魂を偽るもの

 

 竜宮島に鳴り響く警報。

 

 イオク・クジャンが逃亡し、ビスケットの姿をしたエフィドルグが万丈の手で殺害されて数日が経過した頃だった。

 

 レーダーに反応したのは地球軍の中でも竜宮島と因縁のある新国連派であり、さらに彼等とは反対方向からはフェストゥムの大軍勢。

 完全に挟撃ちになった状態での迎撃作戦になる。

 

 しかしながら大まかな敵襲予測時間は‘羽佐間カノン’という故人の遺言によって知らされていたため、万全な体勢を整えていたのだ。

 

「ムエッタ!乗せてくれ」

 

 メドゥーサに入ろうとしてくるオルガに、ムエッタは。

 

「オルガ……何故だ」

 

「俺は鉄華団団長として団の指揮をとる。明弘はともかくミカは俺の指示しか聴かない。界塚達と同じ様に俺も前線指揮官として動く」

 

 アークエンジェルの中からの指揮でもいいのではとも考えたが、ムエッタは別の事を考えた。オルガが一緒では集中出来ないかもしれない。

 

「お前……邪魔になるようなら降ろすからな」

 

 ムエッタは事前にフェストゥムとメドゥーサの相性について聞かされていた。

 もしかしたら一番安全な場所として最適かもしれない。

 渋々オルガを乗せて発進する。

 

「聞こえるかミカ!」

 

「うん聞こえる」

 

 バルバトスに追加装甲を装備させて、さらに太刀を背負ってゲーグナー、ベヲネッタ、ガルム44などファフナーの重火器を限界まで持つ。

 

「お前は好きに動け。フェストゥムと新国連が島に侵入してきたら片っ端から潰せ!ただし引際は俺が判断する」

 

「了解。大丈夫だよオルガ」

 

「明弘!お前は網文と狙撃班だが情況によってはミカと遊撃にまわれ!前に出すぎるなよ」

 

「了解」

 

 グシオンリベイクにもドラゴントゥース等のファフナーの重火器が。

 

「しかし心を読む相手か……」

 

「問題ない」

 

 オルガの呟きにムエッタが素っ気なく反す。

 

「お前の指示なら鉄華団の二人は脊髄反射的な動きで対応する。奴等が頭を使って戦っているように見えるか?」

 

「いいや。然り気無く酷いなムエッタ……」

 

「それに、メドゥーサの中ならフェストゥムの読心の効果はない。」

 

 

 

 今作戦は傷ついたミールと空から来るアルタイルの交信を目的としている。

 しかしそれを阻もうとするフェストゥム群と、ベイグラントに掌握されエフィドルグの影響下にある新国連を同時に相手をする事になる。

 恐らく敵増援は幾度もあるだろう。

 その指揮をとるのは‘マークレゾン’に乗るジョナサン・ミツヒロ・バートランド。

 そう思われていた。

 

「艦影確認……これは、ドミニオンです!」

 

 アークエンジェルの面々には苦々しい記憶のある戦艦。

 さらにはカラミティ、レイダー、フォビドゥン、アビス、ガイア、カオス、ブリッツの七機のガンダムタイプが護衛する十機のデストロイ。

 アークエンジェルの乗員に僅かな動揺が生まれる。

 

「ガイア、デストロイ……」

 

 シンがデスティニーの動きを止める。

 

「どっちだ……どっちに乗ってるんだ、ステラ!」

 

「よすんだ、シン!」

 

 エフィドルグが地球軍に寄生していること。そして彼等が過去の人間のデータを使って再び自分達の前に現れる事も情報としてあった。

 だが、眼前に現れた現実に冷静に対処出きる人物は少ない。

 

「お久しぶりです。マリュー・ラミアス艦長」

 

 突然のドミニオンからの通信。

 

「……ナタルなの?」

 

「今はエフィドルグ指揮下、新国連の傀儡に過ぎません。この艦にはムルタ・アズラエルとロード・ジブリールの擬物が

乗艦しています」

 

「……」

 

「傀儡の中には私のように記録情報を移植されているケースもあります。故に」

 

 一呼吸おいてから、ナタル・バジルールの複製品は一切の迷い無く。

 

「我々を撃沈してほしい。人間の尊厳を守り、このような生き恥から解放してください」

 

 次の瞬間、銃声と共にナタルが倒れた。

 

「この出来損ないがぁ!奴等は滅ぼすんだよ!エフィドルグの安寧の為になぁ!」

 

 アズラエルが高笑いしながら、モニターに映る。

 すると、是非も言わずストライクフリーダムがレールガンをドミニオンに直撃させる。

 

「……情けを掛ける相手ではない……」

 

「やめて!キラ!」

 

 ドミニオンから響く声。

 

「わたしよ!フレイ。フレイ・アルスター!」

 

 キラはその声に顔面蒼白になった。

 

「な……なんで……」

 

 彼が攻撃をやめたことにより、他の者まで新国連側への攻撃を躊躇し始めた。

 

 すると脇目も振らずに、スレインの指揮下から離れ勝手にダイターン3がドミニオンに向かう。

 

「日輪の力を借りて……今、必殺の!」

 

 必殺技の瞬間に、今度はダイターン3に接近するのは、太陽騎士ゴッドだった。

 

「先走るな復讐者……今のお前に太陽の化身を名乗る資格はない!」

 

「そこをどけ!僕は機械に産み出された偽りの命を絶対に認めない!この世界に生きる我々を欺き、死人まで愚弄するエフィドルグを殲滅する!」

 

「ならばこそだ!お前の歪んだ感情で力をぶつけてはいけない!彼らの死を乗り越えて未来に繋ぐためにも、魂をぶつけ合った者達で決着をつけるべきなんだ!」

 

 太陽騎士ゴッドが万丈と怒鳴りあいをしているのを全機通信で聞いた後。

 

「……ニコルゥゥゥッ!!」

 

 突然、アスランがブリッツガンダムをビームサーベルで両断。爆散させた。

 

「皆迷うな!あいつらは死んだ!もういない!」

 

 アスランの声に呼応するかの如く、今度はネオファイヤーバルキリーを駆る熱気バサラが最前線に躍り出る。

 

「お前らの熱いハート、確かに感じたぜ!」

 

 戦場も殺し合いも決して望まないバサラが太陽騎士ゴッドやアスランの言葉を聴いて、歌い出す。

 

「行くぜ!俺の歌を聴けぇっ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

come on burning fire!

 

come on yeh yeh yeh!

 

come on burning fire!

 

come on!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アスランの言葉や、バサラの歌を聴いて迷いを捨て去るパイロット達。

 

「フレイ……今度こそ君を救う。そんな紛い物でいては駄目だ」

 

「そんな……キラ!」

 

「フレイの姿で語り掛けるな!エフィドルグ!」

 

 ドミニオンの一室にビームサーベルを突き刺し、更にライフルを射つ。

 キラの行動に、シンやマリューも動き出す。

 

「こんな、こんな事をする奴等、エフィドルグ!お前達はぁぁっ!!」

 

 デストロイガンダムの相手に慣れているシンが突撃する。

 

「ローエグリン照準」

 

 アークエンジェルが主砲がドミニオンに向けられる。

 

「あれは……」

 

 次々とドミニオンの前に出てくるMS。

 さらに量産型ファフナーや、量産型ダイミダラーが。

 

「射てェーーッ!」

 

 主砲がドミニオンに直撃したように見えたが、量産型ダイミダラーが密集体型でそれを弾く。

 

 陣形を整えた新国連が、攻勢を強めていく。

 

 マークジーベンが飛び、次々と新国連の機体を落としていく姿を見ながらダイターン3が立ち尽くす。

 

「……どうしたらいいんだ……」

 

 万丈は太陽騎士の言葉に、自らの未熟さに絶望する。

 

 すると、現場指揮のスレインからダイターンへ通信が来た。

 

 

 

 



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11話-対話の時

 

「万丈さん、貴方は島の防衛に専念してください」

 

「……あぁ、了解した」

 

 新国連側を攻撃する戦力から外されるダイターン3。

 代わりにダイミダラー二機と超南極が前に出た。

 

「各機は量産型ダイミダラーを撃破してドミニオンへの道を開けてください」

 

 スレインの指揮で攻撃が始まる。

 

 

 その頃の伊奈帆。

 島の反対側に進攻するフェストゥムに対してクロムクロとメドゥーサを前面に出す。

 

「僕自身に読心は通用しない。アナリティカルエンジンがあるから。そしてクロムクロとメドゥーサ。この二機は皆城総士の解析により、フェストゥムとは云わばカウンターのような存在だとわかった。恐らくエフィドルグとフェストゥムは数百年前から敵対していたのかもしれない」

 

「しかしな、界塚……」

 

 フェストゥムはクロムクロとメドゥーサを避けて通る。

 まともな戦闘をしようとすると、全速力で逃げようとするではないか。

 

「これじゃあジリ貧だよ」

 

 由希奈がぼやくと、三日月から通信が入る。

 

「じゃあ囮がいるね。こっちでやろうか?」

 

 つまり敵を引き寄せる囮役のバルバトスと、攻撃側のクロムクロとメドゥーサ。

 

「無理するなよミカ。俺達のMSはフェストゥムの同化対策は出来ていないんだ。どこまで攻撃が効くかも」

 

「大丈夫だよオルガ。何となくだけど、コアの場所もわかるし」

 

 バルバトスが太刀を突き刺し、一瞬で後退する。簡単にスフィンクス型を撃破した。

 

「……なんでだよ」

 

「さぁ?別に普通じゃん」

 

 三日月の謎スペックに呆れるオルガ。

 

「バルバトスに攻撃が集中します。クロムクロとメドゥーサは各個撃破を」

 

 伊奈帆の指示で二機がフェストゥム・スフィンクスB型を斬り捨て前に進む。

 この二機はフェストゥムのコアに触れずとも、ブレードから発せられるウィルスによって相手を黒く変色させて行動不能にさせる。

 

「スイッチ!」

 

 伊奈帆の指示で再びバルバトスが前に出る。

 バルバトス目掛けて集まるフェストゥムに、またクロムクロとメドゥーサが攻撃。

 

「剣之介!足もと!」

 

「しまった!」

 

 小型のフェストゥムが大量に涌き出て下半身を包み込む。

 

「なんかキモい!……あれ?」

 

 クロムクロを同化しようとしたフェストゥムが、次々と結晶化して霧散する。

 

「……落ち着け由希奈。この島において、クロムクロ程安全な場所はないのだ」 

 

「今あんたも焦ったでしょうに」

 

「気のせいだ」

 

「何を遊んでいる」

 

 ムエッタがクロムクロとスレイプニールに通信を入れる。

 

「界塚。全体的な戦況は?」

 

「優勢です。それにヴァルヴレイヴ隊を温存している最中で、ガンバスターとグレートゼオライマーが島に近付くフェストゥムを迎撃しているので、一気になだれ込む事も無いはずです」

 

 遠方より飛来するフェストゥムをグレートゼオライマーが凪ぎ払い、大型が現れればガンバスターが蹴り砕く。

 

「スレインの奴……指揮官としては微妙だな……」

 

 より確実なのはこの二機を分散させて早期にドミニオンを撃沈、フェストゥム側に戦力を集結し戦闘を終結させる事だ。

 

 エフィドルグと言えど人間の姿形をされれば情が移るのか。それも敵の狙いだろうに。

 だからこそ、人間を殺すことに躊躇しそうな剣之介やファフナー隊をフェストゥム側に配置したのだ。

 空中戦が出来ない鉄華団のMSを島の防衛にまわしたのは仕方なかったが、彼等は人間を殺すことに躊躇が無さすぎる。だからこそ新国連側には行かせられなかった。

 

「界塚!そっちにも行ったぞ!」

 

「問題ない。僕のフォローは彼らに任せている」

 

 韻子と明弘の狙撃。さらに足もとを駆け抜ける騎士ユニコーン。

 

「騎士ユニコーンも無理をする必要はない。君も同化への対抗策が無かった」

 

「気にしなくていい。以前は対話に失敗したが、彼らは私を同化して捕らえる気は無くなったようだ。要は戦うだけでいい」

 

 騎士ユニコーンの言葉に、三日月が反応する。

 

「対話って、あいつら話出来るの?エフィドルグとか新国連よりも?」

 

「おい、よせ!」

 

ーーあなたは、そこにいますか?ーー

 

 

「見てわかるだろ?ここにいる」

 

 フェストゥムがバルバトスに手を伸ばす。

 

「僕たちに興味を持ってくれたのかい?嬉しいなぁ!」

 

 間に割って入る来栖操のマークドライツェン。ルガーランスをフェストゥムに突き刺して消し去る。

 

「ねぇ、君は空が綺麗だって思ったことある?」

 

「え、まぁあるけど……」

 

「やっぱり!うれしい君とも友達になれそうだ!……あ」

 

 三日月に向けていた無邪気な笑顔が突如として曇り、来栖操はバルバトスを見てからグシオンリベイクを一瞥して、さらにメドゥーサの中にいるオルガをも感じとる。

 

「……君達は……」

 

 来栖操は鉄華団に未来を感じなかった。

 

 

 

 



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12話-勇者達の嘆き

 

 ヴァルヴレイヴ隊はルーンを使用しないようにファフナー隊の武装で戦っていた。

 

「ねぇ流木野さん。ハルトは?」

 

「温存でしょ?エルエルフの奴。出し惜しみもいいとこよね」

 

 サキとショーコ、アキラが航空戦力として機動性の高いフェストゥムを倒していた。

 

「アキラちゃん何か知ってる?」

 

 戦闘をしながらの無駄話。

 

「……」

 

「アキラちゃん?」

 

「あ、ごめん。なに」

 

「ううん。こっちこそごめんね。戦闘中に」

 

 

 

 アキラが言い淀む一方、待機していたヴァルヴレイヴ二号機。

 ナデシコの格納庫に呼び出されたエルエルフ。

 

「どうした?不調か」

 

 エルエルフはコクピットにはいる。

 

《エルエルフ……僕たちが初めて会ったのはどこだ?》

 

「なんだいきなり……学園のエレベーター前だ。確かお前は指南と」

 

 言いかけたエルエルフは、察する。

 

「……お前、まさかとは思うが」

 

《うん……》

 

 ルーンの欠乏。

 ヴァルヴレイヴ二号機のシステムとしてルーン集合体として存在しているハルト。

 数週間前のグレートゼオライマー戦でルーンを消耗したものの、それ以降は戦闘に参加していなかった。

 しかし日常的にルーンを供給していないため、少しずつ失っていた。

 

「どの程度記憶を失ったのかはわからないが……時縞、俺を使え。」

 

《だけど……》

 

「今までお前は俺をジャックしたこともあったんだ。今更だろ」

 

《……考えさせてほしい。僕は既に死んだ身だ。生きている人間を犠牲にしたくない》

 

「悠長な事を言うな」

 

 コクピットキャノビーが勝手にしまる。

 

《行こう》

 

「まて、お前……」

 

 これでは自殺ではないか。

 勝っても負けても、自暴自棄に任せていては先がないだけだ。

 無理やり止めてやりたくても、前とは違う。ヴァルヴレイヴその物になったハルトを止められない生身のエルエルフは、自らの無力さを感じるしかなかった。

 

 

 

 フェストゥムの大群と、新国連の間に挟まれての迎撃作戦。

 新国連側の迎撃戦力としてアークエンジェル、ストライクフリーダム、インフニットジャスティス、デスティニー、GAUSカスタム、マークジーベン、ダイミダラー二機、超南極等が参戦していた。

 

「くっそ!ちょこまかと!」

 

 ダイミダラーの中で孝一が苛立つ。

 大火力と強固な装甲に包まれたダイミダラーとて、カオスやレイダーのようなガンダムタイプを相手にすると運動性等に遅れをとっていた。

 それはダイミダラー6型・霧子や超南極も同じだった。

 しかも超南極の動きはいつもより悪い。

 攻撃を受けすぎて、出力が下がり始める。

 

「……やるぞ恭子!」

 

「……嫌!」

 

「なっ……」

 

 ダイミダラーの真の実力を出すには、どうしてもやるしかない行為があったのだが。

 

「嫌よ!だってこの部隊の仲間達には未だにダイミダラーの秘密について、誰にも言ってないのよ!」

 

 恭子は半泣きになりながら。

 

「リッツだって隠し通してた。女として、ううん、人として恥じて当然じゃない!」

 

「だかよ!粒子がなけりゃ……」

 

「色モノじゃない!普通にロボットのパイロットでいたいの!」

 

 アークエンジェルやナデシコに合流してからも恭子は孝一を避け続けていた。

 自分達がダイミダラーの乗手であるが故の宿命から逃げ続けていたのだ。

 一瞬急接近してきた量産型ファフナーに反応が遅れるものの、マークジーベンとストライクフリーダムが通りすぎていくだけで次々と撃墜されていくように見えた。

 しかもパイロットを殺さない、超高度なテクニックだ。

 それを視界に捉えながら、孝一はさらに苛立つ。

 仲間の活躍、それは自分達がまるで脇役ではないかと思えてしまう。

 

「孝一くん!私たちが先陣を切ります!」

 

 ダイミダラー6型・霧子が援護に来た。

 

「……いずれはバレる事だから……」

 

 霧子はサブパイロットの翔馬を見る。

 

「翔馬くん……お願いします」

 

「本当にいいの?」

 

 霧子と翔馬は部隊に参入してから地味で目立たない普通の学生として皆と過ごしていた。

 時折イキすぎたイチャイチャによって一部を苛立たせていたが、本人達はそれでも普通にしていたのだ。

 

「もう、迷わないから」

 

「わかった」

 

 爆煙に包まれるダイミダラー6型・霧子。

 完全に敵MS隊に包囲されてしまう。

 

「……ガリバーを使う!!」

 

 

 



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13話-犠牲

 マークジーベンを駆る真矢は交戦規定アルファに従った新国連兵士を次々と撃墜していく。

 

「くたばりやがれ、死神ぃ!!」

 

 新国連のファフナーパイロット、キースとビリーが機体をぶつけてくる。

 特に動揺するわけでもなく、ハンドガンで無力化してみせるも、それでも無理矢理組着かれた。

 

「……」

 

「消し飛べぇ!!」

 

 フェンリル、つまり自爆しようとするキースとビリー。

 しかし冷静な真矢はハッキングでビリーのファフナーを停止させ、コクピットを切り離した。

 もう一方のキースの機体を振り払い、機体から放り出されたキースは生身のまま海面に叩きつけられる。

 落下していくキースを眺めて、その場所を確認しようとすると、ビリーの機体のコクピット部分が無事に着水しているのに気付く。

 

「キラさん。ジーベンを頼みます」

 

「……気をつけて。長い時間は守りきれない」

 

 真矢は機体から降りて、面識のあるビリーの前に立つ。

 

「僕は、どうしたら良かったんだ……兄さん……」

 

 ビリーは銃を抜き、真矢に向ける。

 

 鳴り響く銃声。

 

 真矢に銃弾は届かない。

 

 いつの間にか真矢を守るように現れていた太陽騎士ゴッドが銃弾を掴んでいて、タンクトップの男、溝口がビリーを狙撃していたのだ。

 

「……撃たれる気でいたな」

 

「……ごめんなさい……ありがとう」

 

 太陽騎士は何も言わず真矢を見つめてから、再び戦場へ走り出した。

 

 真矢も溝口に頼んで、補給を済ませてからマークジーベンで飛び立とうとする。しかし。

 

「ガリバァァー・チン○ォォォーーッ!!」

 

 突如として、全周波通信で響き渡るダイミダラー6型・霧子のサブパイロットである翔馬の声が聞こえた。

 

「……誰か、ふざけてる……」

 

 若干、イラっとする真矢だった。

 

 

 その頃、ソフィーと茂住が乗るGAUSカスタムはフォビドゥンガンダムを相手にいしていた。

 実弾兵器を主としているGAUSは、フォビドゥンのビームに苦戦していた。

 フォビドゥンは実弾が効きにくい装甲を常時展開していて、さらにはビーム兵器を屈折させる特殊な装備もあるではないか。

 

「曲がるビームとは厄介ですな……」

 

「当たらなければどうという事は無いわ

 

 華麗なステップで攻撃を回避していく。

 

「今です」

 

「えぇ!」

 

 フォビドゥンが誘導プラズマ砲を発射するため、一瞬動きを止める。

 その隙をついて、GAUSは粘着留弾で砲口を潰す。

 さらにヒートスピアを押し付けるようにしながら突撃。

 槍の先端が爆発し、フォビドゥンを撃墜する。

 

「お上手です。お嬢様」

 

「この調子で参ります……優雅にね」

 

 その瞬間に、ダイミダラーのパイロットからの声である。

 

「……不粋な……」

 

「聞かなかった事にして、次に行きましょうか」

 

「えぇ……ッ、セバスチャン!?」

 

 背後からの攻撃。

 レイダーガンダムの鉄球がGAUSの背中、コクピット部分に直撃する。

 激しい揺れがソフィーを襲う。

 機体の中から次々と警報が鳴るも、ソフィーにはそれを気にする余裕は無い。

 自らも頭部から出血している事に気づかず、サブパイロットの茂住の返答がない事に焦る。

 

「セバスチャン!!セバスチャン!」

 

 後ろを見ると見るも無惨な姿になったサブシートの残骸しか見えない。茂住の姿がそれに遮られて確認出来ない。

 再び激しい揺れ。

 完全にメインモニターが潰され、最早GAUSの中から外が見えなくなる。

 機体の頭部を失い、左腕も吹き飛ばされた。

 何より緊急脱出装置が作動しない。

 

「大丈夫か!?」

 

 エステバリス隊、リョーコ機とヒカル機がGAUSを担ぎ上げ、それを護衛するイズミ機。

 レイダーガンダムはハサウェイのクスィーガンダムが接近すると、撤退していった。

 

「退いていく?なんだ……」

 

 敵MSが全速力で離脱していく。

 残っているのはデストロイガンダムが10機。

 そして、量産型ダイミダラー。

 

「大火力の一斉砲撃がくる!」

 

 前線まで出てきたヴァルヴレイヴ二号機。

 エルエルフが通信で。

 

「全機左右に展開!射線軸から離れろ!それからスレイン!」

 

「わかっています。中隊指揮よりグレートゼオライマーへ。島の防衛を」

 

 スレインの呼び掛けに‘次元跳躍’でアークエンジェルの前に現れる。

 

「美久!」

 

「やるわよマサトくん!」

 

「次元連結砲……いけるか!」

 

 グレートゼオライマーによる大規模衝撃波。

 

 バラバラに砕け散るデストロイガンダムと量産型ダイミダラー。

 

 だが。

 

「……再生だと?」

 

 エルエルフが呟く。

 

 量産型ダイミダラーはデストロイを取り込んで合体していく。

 

「あれは、ダイケンゼン!」

 

 ダイミダラー超型・孝一の中で、恭子が驚く。

 

 するとヴァルヴレイヴ二号機の横を通りすぎていくのは、ダイミダラー6型・霧子。

 

「見せてあげるわ!ダイミダラーの、真の実力を!」

 



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14話-覚醒!ダイミダラー!

 

「しょ、翔馬くぅ~ん!」

 

 戦場に響く霧子の淫靡で艶めいた声。

 

 ダイケンゼンを前にしてダイミダラー6型・霧子がエネルギーを爆発的に増幅させた。

 誰もが二人がふざけ始めたと思ったのだが、真面目な人物ほどリアクションがあるのが性。

 

「アナリティカルエンジンで計測できる数値が全て上昇している?このままでは負担がかかりそうだ」

 

 伊奈帆がダイミダラーを分析。

 

「これがダイミダラーのエネルギー源。あの発光はなんだ?フェストゥム達も動きを止めているだと……これがエロというモノか」

 

 マークニヒトの中で皆城総士が驚愕する。

 

「パイロット達が情報を隠していた事、二人の声とリアクション、機体から発せられる特殊な粒子……導き出される結論は」

 

 ヴァルヴレイヴ二号機の中でエルエルフが呟くも、思わず時縞ハルトが。

 

《君がこの情況を冷静に見ているのは面白いね。記録したよ》

 

「……消せ」

 

 さらに総士とクロッシングしていたファフナーパイロットが全員吹き出す。

 

「総士がエロって言った!」

 

「皆城先輩……!」

 

「お、お前ら戦闘中だ。真面目にやれ……」

 

 指揮をとっていた剣司が笑いを堪えながら、黙りこんだ総士の代わりにファフナー隊を静かにさせる。

 そんな事はお構い無しの霧子。

 

「ディスガイズ!!」

 

 フルパワーモード。

 ダイミダラーの顔部分が変形し、さらにパワーアップする。

 

「全力でいくわよ!ダイミダラー・CPスラーーーッシュ!!」

 

 粒子を解放したビーム攻撃。

 反応する間もなく、ダイケンゼンの上半身を吹き飛ばした。

 

「やったか!?」

 

「いけない!」

 

 翔馬は思わず気を弛めてしまう。

 すると海中から突如として触手のような、長いケーブルが伸びてきてダイミダラー6型・霧子の脚部をぐるぐる巻きにした。

 

 そのケーブルはダイケンゼンから伸びていて、アークエンジェルや逃げ遅れたデスティニーガンダムなども絡めていく。

 

「くそ!アークエンジェルが!」

 

「出力低下!このままでは姿勢維持できません!」

 

 じわじわとケーブルで引き寄せられていくアークエンジェルは、ダイケンゼンにエネルギーを吸われていく。

 

「ゴッドフリート照準」

 

 ラミアスが指示しようとすると、ブリッジの電源が落ちる。

 

「予備電源に切り換え急げ。MS隊は?」

 

「ケーブル切断に尽力してくれていますが……焼石に水ですね……」

 

 海面に着水させられるアークエンジェルは、ダイケンゼンへミサイル等の攻撃を続けるがまるで効果がない。

 切断面が次々と再生していくではないか。

 

「ま、マサトくん!」

 

 グレートゼオライマー、美久が動かないマサトに対して声をかけるも。

 

「駄目だ。この機体の攻撃では……」

 

 あまりにもダイケンゼンとアークエンジェルが近すぎる。さらには艦債機のムラサメも捕縛された情況。

 ダイケンゼンが味方機を盾にしているせいで、下手に攻撃を仕掛けられない。

 

「グレートゼオライマーは確かに強い。敵を破壊する力は最強だ。でも……」

 

 捕らえられた味方を次元連結システムで救うにはマサトの技量では難しい。いや、おそらくマサトではなく‘マサキ’だとしてもアークエンジェルやデスティニー等を触手から逃がす事が出来るだろうか?

 

「中隊指揮からグレートゼオライマー。そちらはダイミダラーに一任します。フェストゥム側に現れたファフナーを頼みます」

 

「人使い荒いですよスレインさん……。ファフナーは味方だったはず。あ、そうか。」

 

「そうです。マークレゾンが……!」

 

 マサトがスレインと通信していると爆発音と共に、音が途切れる。

 

「美久!」

 

「援護にいきます」

 

 グレートゼオライマーが再び次元跳躍で移動する。

 

「代わりに俺が!」

 

 太陽騎士ゴッドがゴッドソードを召喚し、次々とケーブルを切断する。

 さらにダイケンゼン本体へ突撃をかけた。

 

「おい恭子!」

 

 彼等のような小さな存在が奮闘しているのを見かねて、孝一は我慢の限界をむかえた。

 

「味方の危機に頑張ってる奴等がいるんだ!これ以上は!」

 

「……あぁっ!もう!わかったわよ!好きにしなさい!」

 

「それでこそだ!恭子!」

 

 ダイミダラー超型・孝一のコクピット内で変形が行われる。

 

「ちょっと!通信、オープンになってるわ!」

 

「覚悟を決めろ!」

 

 フロントアタックモード。

 シートが向かい合う位置まで移動してきて、恭子の体が孝一の目の前に来る。

 

「おら、さっさと出せ!」

 

「焦らせないで…………いいわ」

 

 恭子は豊満な胸を曝け出す。

 

「へ、もう乳首が起ちまくってるじゃねぇか。何だかんだで期待してたようだな」

 

「いちいち言わない!……ほら、さっさとしなさいよ……」

 

 顔を背ける恭子と、眼をギラギラさせる孝一。

 

「やるぜぇぇぇっ!!」

 

 両手で胸を鷲づかみし、決して滅茶苦茶とい訳でもなく、それなりのテクニックを駆使して揉む。ただひたすらに、揉む。

 

「ん……」

 

「来た来た来たぁぁっ!!」

 

 ハイエロ粒子のチャージ。

 そして、ダイミダラーの覚醒。

 

「だ、駄目ぇぇえ!!」

 

 機体からの全方位への発光。

 ケーブルを溶かしていく。

 

「こ、これがダイミダラーの力……」

 

 無限広がり続けるエネルギー。

 全周波で恭子の喘ぎ声が響く。

 

「霧子!俺に合わせろ!」

 

「了解!」

 

「ダイミダラー・インサートブレーーーイクッ!!」

 

 二機のダイミダラーによる合体攻撃。

 

 新国連側の迎撃としち戦っていた誰もが注目するなか、どこか切無げに二機を見つめるリッツが超南極の中で闘志を燃え上がらせた。

 

「負けられない!」

 

 ダイミダラー二機による必殺技がダイケンゼンに直撃し、それに合わせて超南極が‘烈風・ペンギン突き’を放つ。

 

 爆散と共にアークエンジェル等を束縛していた触手が消える。

 味方機の救助、ダイケンゼンの撃破を同時に成功するのであった。

 



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15話-孤軍奮闘

 

 話は少し戻る。

 

「里奈先輩!」

 

「あたしの事は気にしないで全力でやりなさい!」

 

 ゼロファフナーの中で苦しみながらSDPを発動する里奈と彗。

 

「はあぁぁぁ……来いっ!!」

 

 二人のSDPでベイグラントを衛生軌道上から落下させる事に成功する。

 しかしミールへ接近するために進攻するので、ゼロファフナーが無理矢理押さえ付け食い止める。

 

「あれは……」

 

 マークレゾンが次々と島のファフナー隊を撃墜していく。

 

「くらえぇぇっ!!」

 

 振動共鳴波をマークレゾンに向けるも、ワームカッターが頭部に直撃。

 ゆっくりと倒れていくゼロファフナー。

 

 新国連でありフェストゥム側の戦力でもあるマークレゾンは次々と迎撃部隊を撃墜していた。

 

「ミカっ!」

 

「ちっ……」

 

 反応速度はバルバトスが上だが、マークレゾンのホーミングレーザーからは逃げきれない。

 バルバトスは左足と両手をレーザーで貫かれる。

 

「三日月!」

 

 援護に向かうクロムクロとメドゥーサは、フェストゥムのロードランナーに行く手を遮られた。

 

「終わりだ……」

 

 マークレゾンによるワームカッターがバルバトスを襲う。

 

「ここで倒れられては困る!」

 

 バルバトスを救うのはグリムゲルデ、マクギリスだ。

 しかしバルバトスは右足も切り取られ、グリムゲルデは下半身を失う。

 

ーーあなたは、そこにいますか?ーーー

 

 スフィンクス型に近寄られるも、身動きが取れない。

 

「バエルを手にするまで倒れる訳にはいかなかったのだが……アグニカ……アルミリア……」

 

 グリムゲルデが結晶化していく。

 

「……ごめんオルガ。約束の場所には……」

 

 バルバトスも結晶化していく。

 

「駄目だっ!!お前達は……まだ消えるな!!」

 

 霧散する直前、全速力で接近したマークザインがルガーランスを二機に向ける。

 バルバトスとグリムゲルデが同化現象から解放された。

 

「クロムクロ、メドゥーサはなんとか前に出てください。」

 

 次の瞬間、伊奈帆のスレイプニールが集中攻撃を受けて、逃げ回るしかなくなる。

 

「伊奈帆!」

 

「下がれ韻子!」

 

 韻子が狙撃で伊奈帆を援護しようとするも、フェストゥムに包囲される。

 

「逃げるぞ!」

 

 明弘のグシオンリベイクが韻子のハーシェルを強引に引っ張り、伊奈帆達のいる場所まで飛び出す。

 

「危険かもしれないが、三日月とマクギリスさんは明弘に任せる。ナデシコに跳ぶんだ!」

 

 グシオンリベイクがバルバトスとグリムゲルデを担いでナデシコに離脱した。

 

 クロムクロとメドゥーサ、スレイプニールとハーシェルが完全に敵に囲まれるも、フェストゥムは仕掛けてこない。

 

「クロムクロとメドゥーサがいなければ終わっていた……」

 

「どうするの。伊奈帆……」

 

 ここまで包囲されてしまうと、最早未来予知も無意味。

 

「バスタァァーミサイル!!」

 

 援護に現れたのは、島の外の最前線から後退して来たガンバスターだった。

 

「無事ですか!?」

 

「助かりました」

 

 スレイプニールがガンバスターを見上げる。

 

「スレインくんも来ています。ここは任せて……」

 

 スレイプニールとハーシェルを離脱させようとした、その時だった。

 

「ノリコさん!上から!」

 

 スレインからの通信。

 マークレゾンからの、ワームカッター。

 咄嗟にバスターマントで弾く。

 

「虚無の破壊者を討伐するのがお前達だろう!この島の戦いに手を出すな!」

 

「それでも、仲間の為に私たちは!」

 

 ガンバスターが前に出る。

 マークレゾンがルガーランスで切りかかると、ガンバスターもバスタートマホークで対応。

 

「バスタァァー……ビィーーーム!!」

 

「なめるなぁぁ!」

 

 マークレゾンがイージスを広域展開して防御。

 

「同時に仕掛けるぞ!」

 

 ザイン、ニヒト、ドライツェン、フィアーの四機のファフナーによる同時ルガーランス攻撃。

 

「この四機でも駄目なのか!?」

 

 イージスで弾かれる寸前に、ニヒトはレゾンのワームカッターを受けて墜落する。

 すると今度は剣司から通信が。

 

「ポイント更新!ベイグラントを頼む!」

 

「了解した!……フッ、指揮を任せるのも悪くない。こうして戦えるのだから」

 

 島のミールが展開するシールドを破壊して突き進むベイグラントに体当たりするニヒト。

 

「今だ!」

 

 ベイグラントの両サイドからクロムクロ、メドゥーサが切りかかる。

 

「流石は界塚!剣司の指揮も先読みして送ってくれた!」

 

 マークレゾンとの戦闘から離脱して、クロムクロとメドゥーサを先行させてベイグラントの迎撃側に来ていたスレイプニールとハーシェル。

 

「僕らだけじゃない」

 

 離れていたタルシスとダイターン3も合流する。

 

「ダイターン・ジャベリン!伸びろぉっ!」

 

 勢いよく飛び込んだダイターン3の槍によって、ベイグラントに風穴が空く。

 その穴に向かってニヒトは両手を突っ込みコアを摘出する。

 

「終わりだ……」

 

 コアを破壊。

 消滅するベイグラントの前に力なく腰を下ろすニヒト。

 

「これで僕も存在と無の地平線の向こう側へ」

 

 マークニヒト、皆城総士が力尽きようとした瞬間だった。

 

 総士の身体を蝕んでいた同化現象による結晶化が止まり、砕け散る。

 

「俺の歌を聴けぇぇっ!」

 

「熱気バサラだと……」

 

 バサラの歌により、総士の寿命が僅かに延びた。

 

 



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16話-蒼穹に消えた失意

 

「たたみかけるんだ!」

 

 スレインの指揮により、ガンバスターの援護に来たグレートゼオライマー。

 

 マークザインとグレートゼオライマー、そしてガンバスターの三機がマークレゾンの前に立ち塞がる。

 

「真壁ぇえ!!」

 

「ミツヒロオォッ!」

 

 切り結ぶザインとレゾン。

 一瞬の隙をついてグレートゼオライマーがオメガ・プロトン・サンダーを放出しながら突撃する。

 

「がぁぁっっ!!」

 

 ミツヒロの悲鳴。

 マークレゾンは背後からの攻撃に右半身を消し飛ばされる。

 しかし結晶を纏い、再生。

 

「……たった一人で、こんなにも」

 

「黙れぇっ!アイの仇討ちを邪魔するなぁっ!」

 

「楽にしてあげましょう……ノリコ!」

 

「お姉さま……あれを使うわ」

 

「えぇ、よくってよ」

 

「うわぁぁあああぁぁっっ!!」

 

 雲を抜け天高く飛び上がるガンバスターに対して、ワームカッターとワームスフィアとホーミングレーザーを限界まで射出するマークレゾン。

 

「お前の蹴りをむざむざ食らうかよぉっ!」

 

「スーーパァーー!」

 

「イナヅマァーーーッ!」

 

 マークレゾンの総攻撃が直撃したように見えた。

 

 しかし次の瞬間にガンバスターの巨体が消滅し、マークレゾンの背後から現れる。

 

「キーーーックッ!!」

 

 僅かに攻撃が逸れて、マークレゾンの頭部をかすめる。

 

「な、なんだ今のは……」

 

 ファフナーの中にはワームの力を利用した跳躍が可能な機体もある。

 グレートゼオライマーが移動した瞬間も見ていた。

 しかしガンバスターも?

 

「失敗したとはいえ、流石に驚いたようだね」

 

「まだ調整が必用だけど」

 

 ガンバスターと並立つグレートゼオライマー。

 

「次元連結システムのちょっとした応用……ガンバスターくらいの質量単体なら動かせる。まだやれるな!?美久!」

 

「大丈夫よ!」

 

 マークレゾンの中でミツヒロが恐怖する。

 今までガンバスターとグレートゼオライマーはスレインによる指揮で各々の動きを見せていた。

 故にミツヒロは二機とどうにか戦えていた。

 しかし完全なる連携攻撃、合体攻撃が来るとなると、マークレゾンの性能と自らの反応速度では対応は出来ないと判断するしかない。

 

「クソッ!アイの仇を討つまでは……そう!お前だ、真壁ェーーーッ」

 

 グレートゼオライマーとガンバスターの間をくぐり抜け、連続でワーム跳躍を行いマークザインに肉薄する。

 

「もうやめろ!ミツヒロ!」

 

「喋るなァーーーッ!」

 

 マークレゾンがマークザインに一騎討ちを仕掛ける。

 ザインの腹部をルガーランスで貫く。

 

「世界の英雄を、俺が殺す!終わりだ……真壁ぇっ!」

 

「俺はもう、戦わない。ミツヒロ。お前の心はどこにある?」

 

「なっ……」

 

 一騎による対話。

 マークザインの左手が優しくマークレゾンに触れる。

 

「あ、アイ……」

 

 次第に正気を取り戻すミツヒロ。

 

「そうか……アイを殺したのは……」

 

 ミツヒロはフェストゥムの影響を受けて、大切な人を殺していた記憶を書き換えられていた。

 

「真壁……俺を殺してくれ…!」

 

ーーーお前は僕のモノだ!ーーー

 

 子供の姿をしたフェストゥムがミツヒロを惑わし、マークレゾンごとワームに包まれ消滅する。

 

 それに巻き込まれる寸前で、マークザインが離脱。

 ようやく島での戦いが終わる。

 

 

 しかし彼等の戦いとはお構いなしで落下していくアルタイル。

 島のミールへの接近。

 ガンバスターとゼオライマーがアルタイルを迎撃しようとするも、島のコアである織姫からの静止の声が。

 

「アルタイルと接触して島のミールを眠りにつかせるわ。そして傷付いたミールの回復を待つ」

 

「そんな……」

 

 落下する寸前に立上芹のファフナーが、アルタイルから弾かれる。

 

「駄目だよ芹ちゃん!早く逃げて」

 

「織姫ちゃん……いつも一人で泣いてた……もう一人にはさせないから」

 

 竜宮島が自動潜航モードになり、住人達は退避する。

 芹はそれに付き添うように島と共に沈んでいく。

 いち速く反応するのはガンバスター。

 

「皆の退避に協力する。行くわよノリコ!」

 

「了解!分離します!」

 

 ガンバスターが分離。

 バスターマシンが二機。

 住民達の脱出に尽力する。

 

「界塚小隊はダイターン3いや、ダイファイターにつかまりつつ撤退する」

 

 伊奈帆、スレイン、韻子が撤退。

 そして剣之介もクロムクロでメドゥーサを掴み上げて翔びたつ。

 

 



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17話-捧げる命

 竜宮島の住民達はアークエンジェルから連絡がいっていたオーブ艦隊により保護される事になった。

 

「我々の未来を繋いでくれた事。感謝してもしきれない」

 

「頭をあげてください真壁司令。僕らは出来る限りの事をしたまでです」

 

「いや、礼を言わせてほしい」

 

 アークエンジェルの艦橋にマリュー、キラ、ユリカが真壁司令に頭を下げられていた。

 

「僅な期間ではあるが我々の戦力をあなた方に」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 思わずユリカが制止する。

 

「それは……彼等の命にも関わる事ですよ」

 

「息子達からの願いでもある」

 

 顔を上げた真壁司令は。

 

「我々とて鉄華団と同じように、あなた方へ恩義を感じている。それに、エフィドルグの驚異と無関係を決め込むつもりは無い」

 

「……こちらとしてもファフナー隊が戦力でいてくれるのは、大いに助かりますが」

 

 キラの声のトーンが下がっている。

 それに気付いてもなお、真壁司令は。

 

「近藤剣司と近藤咲良、来栖操以外の全ファフナー隊を君達に託したい」

 

「……責任を持ってお預りします」

 

マークザイン、真壁一騎。

マークニヒト、皆城総士。

マークジーベン、遠見真矢。

マークフィアー、春日井甲洋。

ゼロファフナー、西尾里奈、鏑木彗。

スサノオ、神門零央。

ツクヨミ、水鏡美三香。

 

 八名のファフナーパイロットが改めて艦隊に参加することになる。

 

「島の皆を頼むぞ。剣司、咲良」

 

「それはいいけど、お前は大丈夫なのか?」

 

 剣司は総士に対して気遣う。

 

「恐らくそれほど長い命ではない。島の大気が生かしてくれている内に、やりたい事をやっておきたいんだ……」

 

「総士。これが別れになるなんて言うなよ」

 

「……そうだな。それより来栖」

 

「ん~。やっぱり僕も島外派遣に参加したかったなぁ」

 

「すまない。だが、お前にも仲間を守ってほしいんだ」

 

「まぁ、任せてよ」

 

 来栖操が総士へ微笑む。

 再び剣司が。

 

「後輩のケアは頼む。同化抑制材はありったけ積んでおいた。それと……」

 

「この部隊の仲間に頼るのも大事だよ。真矢はまだしも、一騎はセーブする必用がある」

 

 追加するように咲良が言う。

 その後数分だけ話してから、彼等と別れる。

 

「総士。無理はするな」

 

「甲洋?」

 

「よかったのか?残りの時間を島の皆と過ごさなくて」

 

 珍しく甲洋が優しい言葉をかけてきたので、僅かに笑う総士。

 

「フッ……わからないか。一騎や真矢、お前達がいる場所こそが、僕の居たい場所だ」

 

「……先の事は気にするな。俺が仲間も島も守る。翔子や護もお前を支える筈だ」

 

「……恵まれているな……」

 

 

 一方精密検査を終えた一騎と真矢。

 

「まだザインに乗るの?」

 

「俺はまだやれる。戦える内は乗るさ」

 

「……カノンがいたら怒ってたかも。正直、わたしも」

 

「ごめんな遠見。でも俺はここにいる。まだ総士が言う存在と無の……なんだっけ」

 

「……いちいち覚えてないよ。なんか、痛々しいし」

 

「あ……」

 

 医務室から出ると、剣之介と由希奈にぶつかりそうになる。

 

「一騎くん、真矢ちゃん。体調は大丈夫?」

 

「うん。こっちは問題ない」

 

「よかった……それじゃ」

 

 一騎達は振り返らず退室するも、やはり気掛りだった。

 

「GAUSのナビゲーター……茂住さんって言ったよな?」

 

「重体だって。意識も戻ってないし、復帰は難しいとか」

 

 

 

 そして医務室では、ソフィーとムエッタが剣之介達を迎えた。

 

「……馬鹿な真似はよせ、ソフィー」

 

 ふと、ムエッタの声がソフィーを止まらせた。

 

「いいえ。私は纏い手になってでも戦います」

 

 由希奈はソフィーに駆け寄り。

 

「それは駄目だよ。だってゼルさんにも」

 

「……自爆したイエロークラブの残骸、もう修復済みなのでしょう?」

 

 エフィドルグの機体は乗手が居なくても再生が可能。

 機体そのものにナノマシンがあるため、勝手に直っていたのだ。

 

「……おそらくセバスチャンの復帰は絶望的。ですが、剣之介と由希奈さんの実例があります。」

 

 四百年以上前剣之介は死んでいたはずだったのにも関わらず、雪姫によって救われた。

 未知の何かによって生き永らえただけではない。

 何より雪姫が纏い手として、ナノマシンが付与されていた血液を剣之介に託したからでもある。

 

「……戦場に戻りたいのなら纏い手は必要ないだろう?既に一人乗りがあるではないか」

 

 スレイプニール同様、付近の地球軍基地を散策すれば一人乗りGAUSは見つかるだろう。

 数年前と違って、GAUSはある程度生産されている。

 

「今優先すべきはセバスチャンの身体を治すことです。そして、私が戦場に出るのであれば、彼に背中を預けたい」

 

 ソフィーの言葉に反応するように、茂住が僅かに声を出す。

 

「お嬢様……」

 

「セバスチャン!意識が……あ、動いてはいけません」

 

 茂住が大人しくしたところで、再びソフィーが。

 

「……セバスチャン。選びなさい。このまま私の執事を引退するか、人の身を棄てて纏い手になるか」

 

「……二人乗りの機体なら……お嬢様に支えるために戦えるでしょうな……」

 

 ムエッタに視線を戻すソフィー。

 

「……出来ますか?」

 

「GAUSの残骸を混ぜればな。元々クロムクロのように、グロングルは二人乗りだったのだ。システム的には可能だ」

 

 後はもう、迷わなかった。

 

「頼みますムエッタ。イエロークラブに乗せてください」

 

 

 

 



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