Fate/Object (あんぼいな)
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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅰ

初めての小説です。 よろしくお願いします。


結局、戦争はなくならなかった。

でも、変化はあった。くだらない殺し合いが淡々と続く中にも、変化はあった。

超大型兵器オブジェクト。

それが、戦争の全てを変えた。

ーヘヴィーオブジェクト 一巻よりー

 

 

 

「なぁヘイヴィア、俺たち何で死んだ後まで給料も貰わずに戦争やってるんだろうね。」

鬱蒼と茂った森の中、二人の少年が声を潜めて話している。二人とも、緑色の割合の高い迷彩服を着用し、一方は小銃のスコープを覗き込み、もう一方は双眼鏡を目に当てながら遠くに見える城を眺めている。

「そう言うなよクウェンサー、ここにはおっぱいのでかい女王様もケモミミスレンダー美少女もいる、それで充分じゃねえか。」

「本当にそう思ってる?」

「んなわけねぇだろ、第一手を出したら殺されるようなのばっかりじゃねえか。それ以外はむさ苦しい男かイケメンしかいねぇよ。何が楽しくて敵の本拠地の偵察なんてしなくちゃいけないんだよ!」

「同じ偵察なら女風呂の偵察に行きたいよね。こう、湯けむりの向こう側にうっすらと見える身体のラインとか、火照ってほのかに赤くなった肌とか。」

「やめろクウェンサー!そこまで聞くと見たくなってくるだろうが!」

「そういえば俺たち一回フローレイティアさんのシャワーシーン覗いたよね。」

「そういえばそんなこともあったな。トライコア沈めた後だったか。」

「また覗きたいな……。」

「ちょっと待て、そういえば俺たち霊体化できるぞ!」

「それだ!」

「やったなヘイヴィア、今の俺たちはバレずに覗きが出来る。これは行くしかない!」

「「ハッハッハ、ハッハッハッハ!!」」

 

ゴゥン!

 

「おいクウェンサー、なんか聞こえないか。」

「確かに、何かが動いているような……。」

 

ゴゥン!!

「やっぱ何かが近づいてきている…。」

ゴゥン!!!

「おいやべえぞクウェンサー!敵のゴーレムが何体もコッチに向かって来てやがる、多分さっきの笑い声で気付かれた!逃げるぞ!」

「畜生、生きてた時からこんなんばっかりだ!」

「お前さっきハンドアックス仕掛けてたよな!それであいつら倒せるか?」

「OK!任せろ相棒!」

走り出す二人の少年、彼らの名はクウェンサー=バーボタージュとヘイヴィア=ウィンチェル、彼らはある世界において、数多の超大型兵器オブジェクトを生身で撃破し、伝説となった兵士と学生である。彼らはこの外典の地で何を成し、戦ってゆくのか、彼等が持つのは銃と爆薬、それと少しの運と機転

 

「「ただいま、くそったれの戦場さん」」




読みたいものがない?なら自分で書けばいいじゃないか。


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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅱ

二話目です、どうぞ


『聖杯戦争』

万物の願いを叶える「聖杯」を巡り、七人の魔術師(マスター)が自らと契約した七騎の使い魔(サーヴァント)をもって覇権を競う魔術儀式である。他の六組が排除された結果、最後に残った一組にのみ、聖杯を手にし、願いが叶う権利が与えられる。

だが、冬木で行われていた第三次聖杯戦争。その大聖杯が第二次世界大戦の混乱に乗じて何者に強奪された。

数十年後、魔術師の名門ユグドミレニア一族の長であるダーニック・ブレストーン・ユグドミレニアは、「大聖杯」の所有及び、魔術協会からの離反と独立を宣言した。

そしてダーニック達ユグドミレニア一族は、「黒」の陣営としてサーヴァントを召喚。ルーマニア、トリファスに拠点を置いた。

これを危険視し、何としてでも大聖杯を奪還したい魔術協会は、ユグドミレニアの討伐を決意。「黒」の陣営に対する「赤」の陣営として、魔術師たちを送り込み、サーヴァントを召喚させた…

 

「と、聖杯大戦の状況はこのような感じですね。」

ルーマニア、シギショアラの山上教会、そこに三人の人影があった。カソックを着た白髪の青年、金髪で線の細い青年、茶髪に金髪の青年と同じ迷彩の軍服を着た青年の三人だ。

「状況は分かったけどなぁ、いい加減自己紹介ぐらいしようぜ。」

そうボヤく茶髪の青年、彼らは、かなり長い間話していたようだ。

「そういえばまだでしたね。 私はシロウ・コトミネと申します。今回、聖杯大戦の監督役兼マスターを務めさせていただきます。」

「じゃあこっちも自己紹介しようかな。」

金髪の青年が言う。

「赤のアサシンとして召喚された、正統王国第三十七機動整備大隊所属、クウェンサー=バーボタージュ。」

「同じく正統王国第三十七機動整備大隊所属、ヘイヴィア=ウィンチェルだ。」

「よろしくお願いします、これからの働きに期待しています。それにしても、クウェンサーとヘイヴィアですか…」

「どうかした?」

「いえ、聞いたことの無い名前でしたので、お二人は何処の英霊なのでしょうか?」

確かに、その疑問ももっともだ。クウェンサーやヘイヴィアといった人物の名前は聞いたことがない。さらに、正統王国と言った国家は存在しない。

「ああ、多分俺達はまだこの時代には生まれていない。」

「と言いますと?」

「つまり、俺らは未来から来たってことだろ。」

「なるほど、未来ですか… 聖杯戦争で召喚が可能な事は知っていましたが、見たのは初めてですね。」

「そういえば、俺達を召喚したマスターは何処に行ったんだ?」

「それでしたら、奥の部屋で休んでおられますよ。会うのは後日にした方が良いかと。」

「そっか、ならそうさせてもらうよ。」

「では、そろそろ他の方達との顔合わせに行きましょうか。」

そう言って、奥の部屋へと歩き出すコトミネ。

「俺ら以外には、何が召喚されているんだ?」

「すでにアーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカーが召喚されています。」

「後はセイバーだけか。」

「ええ、セイバーとそのマスターはまだ此方に到着していません、此方に合流次第、聖杯大戦の開始となります。」

「つまりそれまでは…」

「自由にしていただいて構いません、何かあれば、こちらから招集します。」

「よしクウェンサー!ナンパしに行くぞ!」

「やだよ、生前一度も成功しなかったじゃんか」

「一応、神秘の秘匿をしなければならないので、やめておいて頂けると…」

苦笑いするコトミネ、そこからしばらく歩き、一つの扉の前で立ち止まる。

「では、皆さんここでお待ちですので。」

そして、扉を開いた。

「皆さん、アサシンを連れて来ましたよ。」

 

「遅かったではないか、我がマスターよ。」

奥に座る黒いドレスを纏った女性がそう答える。

「すみません、説明に時間がかかってしまったもので。」

「そうか、ならば仕方ない。」

緑色の衣装を纏った少女が言う。

「あれ?何で二人いるんだ?」

銀の軽鎧を着た美丈夫が問いかける。

「……」

壁際に立っている男は何も言わない。

「ははははは!アサシンよ、共に叛逆を成そうではないか!」

筋肉(マッスル)が叫ぶ。

アサシン(クウェンサーとヘイヴィア)は思う。

「「キャラが、濃いッ…!」」




入試怖い…


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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅲ

三話目です、どうぞ


「(ヤバイぞヘイヴィア、思ってた以上にキャラが濃いんだけど!)」

「(落ち着けクウェンサー、生前にもキャラが濃いやつなんていっぱいいただろ。ほら、お姫様とかおほほとかスラッター・ハニーサックルとか。)」

「(いやそうだけれども!というか最後のはキャラが濃いというか頭がおかしいのほうが合ってるんじゃ……。)」

コソコソと話すクウェンサーとヘイヴィア、

「どうした、入らないのか?」

いつまでも部屋に入らないクウェンサーとヘイヴィアを疑問に思ったのか、銀の軽鎧を着た美丈夫が言う。

「いやいや、入るぜ。」

「失礼しまーす。」

そう言って部屋に入る。部屋には大きな長机と椅子が置いてあり、そこに四人が座っていた。

「そこ、空いてるぞ。」

銀の軽鎧を着た美丈夫が席の一つを指差す。

クウェンサーとヘイヴィアが座り、コトミネが黒いドレスを纏った女性の隣に座る。

「さて。」

黒いドレスを纏った女性が口を開く

「我はアッシリアの女帝、セミラミスである。此度はキャスターとして現界した。貴様ら、名は何という?」

「クウェンサー=バーボタージュです。」

「ヘイヴィア=ウィンチェルだ。」

「そうか、知らぬ名だ。まぁよい、結果を出せば文句は言わん、精々努力する事だな。」

「(……この人多分かなりのドSだな。)」

「(ああ、しかも部下に無理難題を押し付けて楽しむタイプだ。)」

「(フローレイティアさんみたいな?)」

「(それよりもヒドいだろ多分。)」

「そういえば、二人ともアサシンなのか?」

先ほどから疑問に思っていたのか、美丈夫が質問した。

「ああ、俺達二人は生前にずっとコンビ組まされてたからな、二人で一セットって認識されていたんだろう。でも何で死んでからもこいつとセットなんだ……。」

「それはコッチのセリフだぜクウェンサー、テメェのせいで何度危ない橋を渡ったと思ってやがる!」

「あの時はしょうがなかっただろ。そうでもしなきゃ皆死んでた。」

「テメェはいつも爆弾仕掛けるだけだっただろうが!イグアスの時もジブラルタルの時もコッチはいっつも銃撃戦だったんだが!」

「イグアスの時はお前 "コッチは俺が担当する、そっちはテメェに任せた!"って言ってただろ!」

「随分と仲がいいんだな。」

「「誰がこんな奴と!」」

「息ピッタリじゃねえか……。」

呆れる美丈夫。

「そういえば、アンタは…。」

「ああ、済まねえ、自己紹介がまだだったか。俺はアキレウス。ライダーとして召喚された。それでコッチの姐さんが、」

別の席に座っていた緑色の衣装を纏った少女を指す。

「アーチャー、アタランテだ。」

そう自己紹介するアタランテ。だがクウェンサーとヘイヴィアは別の場所に注目していた。

「(クウェンサー、あれはまさか…。)」

「(ああ、間違いない。あれは本物のKEMOMIMIだ!)」

「(マジかよ。過去にあの"島国"で爆発的なブームを引き起こしたという……。)」

「(まさか本物が見られるなんて……ッ。)」

「(死んでまで来た甲斐があったな。)」

感動するバカ二人(クウェンサーとヘイヴィア)

「どうした、私の顔に何か付いているか?」

「「いいえなんでもないですスイマセン!!」」

「そうか、ならば良いのだが。」

全力で誤魔化すバカ二人、流石にあなたの耳を見て感動していましたとは言いにくいだろう。

「(バレなくて良かったな。)」

「(ああ、だがここにお姫様がいなくて良かったな。いたらどんな目で見られるか……。)」

ゾッッ!!

「(どうしたクウェンサー?)」

「(いや、今謎の悪寒が……。)」

「 そういえば、アンタは誰なんだ?」

ヘイヴィアが振り向き、壁際に立っている男に聞く。

「ランサー、カルナだ。」

「そうか、よろしく。」

そう返し、前に向き直る。

目の前に壁が、いや筋肉が聳えていた。

「「………、えっ。」」

「アサシンよ、さっそくで悪いが、君は圧制者かな?」

思わずコトミネの方を向き、助けを求めるクウェンサーとヘイヴィア。

「彼はスパルタクス、バーサーカーですよ。」

にこやかに答えるコトミネ。違う、そういう事が聞きたいんじゃない。

「どうなのだ、早く答えないか。」

答えを急かすバーサーカー、

「因みに、圧制者だった場合は……?」

「決まっているだろう、叛逆だ。」

「なぁヘイヴィア!俺達超虐げられてたよな‼」

「あぁクウェンサー!俺らあの上官にケツ蹴られたりしてたしな‼」

そしてバーサーカーの顔色を伺う。

「そうか、ならば共に叛逆だ!我々は虐げられし奴隷である‼ならば圧制者への叛逆を成さねばなるまい!!!!」

バーサーカー的にセーフだったようだ。

「(すみません、フローレイティアさん、勝手に圧制者にしてしまいました…。)」

「皆さん、セイバーとそのマスターから明日到着するとの連絡がありました。よって、到着次第、聖杯大戦の開始とします。」

コトミネが注目を集めて言う。

「キャスターは私と一緒にセイバーと会って下さい。」

「了解した、我がマスターよ。」

「他の方々は追って指示を伝えます。それまでは自由にしていただいて構いません。」

「腕がなるな、どんな豪傑がいるのか楽しみだぜ。」

ライダーが楽しそうに言う。

「汝らなら大丈夫だろうが、あまり無茶はするなよ。」

アーチャーが言う。

「承知した。」

ランサーが返答する。

「ははははは!待っておれ圧制者たちよ!我が愛で滅ぼしてやろう!!」

バーサーカーが高笑する。

 

聖杯大戦が、始まる……。




まだ戦闘に入れてない……。


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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅳ

四話です、どうぞ。


聖杯大戦が、始まる……。

 

とは言ったものの、実際セイバーが到着するまではヒマである。と、いうことで……。

「そういえばルーマニアって俺達の時代だとどの勢力だっけ、信心組織?」

「知らねぇよ。そういう世界地図を見て作戦を立てるのは上の仕事だったからな。俺らは戦場の地図さえ覚えておけばよかったし。」

そう言いながら車を走らせるヘイヴィア、彼らは街に買い物に出ていた。

「それにしても、こんな大量に買う必要があったのか?」

振り向いて荷台を見るヘイヴィア、そこには大量の荷物が積まれていた。

「ハンドアックスは魔力さえあればどれだけでも使えるけど、他にもトラップを作る為の材料も必要だしね。軍と違って支給してくれる訳でも無いし。」

「そうか、そういやテメェの兵科は工兵だったな。」

「そうやって考えると軍って結構恵まれてたんだね。自作しなくても済むから。」

そう言って窓の外を眺めるクウェンサー、彼らのいるシギショアラは古い建物が数多く残されている地区であり、窓からは古き良き中世の景色が今も楽しめる。

「長閑だねぇ、この景色見てると戦争なんてやりたく無くなってくるよ。」

視界をシギショアラの景色が流れていく、趣ある建物や灰色の筋肉、鮮やかな植物の緑……

「ん?」

「どうしたクウェンサー、ビキニのねーちゃんでもいたか?」

「いや、露出度的にはそれ以上だと思う。」

「マジでか!テメェだけズルい俺も見たい!」

そう言ってUターンするヘイヴィア、

「お前、さっき見た目が未成年だったせいでエロ本売ってもらえなかった事気にしてる?」

「当たり前だ!何でこの時代の見た目なんだよ!」

「サーヴァントは全盛期の肉体で召喚されるってコトミネも言ってたし、仕方無いんじゃないか?」

「そう言うテメェは悔しく無いのか、エロ本が買えなかったんだぞ!」

「ふっふっふ、俺にはコレがある!」

「携帯端末、しかも軍で支給されていた奴か?そんなもんがどうした……。 まさかッ!」

「ああ、俺はコレにあんな映像やこんな画像を保存して持っていた!」

「畜生、俺も嫁が定期的にチェックしなければ……。」

「まぁ、俺も何回かはバレて殺されかけたんだけどね。」

生前の思い出に浸るクウェンサーとヘイヴィア、

「おい、お前の言ってたのってあれじゃ無いよな…。」

「残念ながらあれだよ。」

「ビキニのねーちゃんじゃ無いじゃねえか!!」

「誰もそんな事言っていないし、露出度は高いだろ。」

「バーサーカーじゃねえか!!見なかった事にして帰ろうぜ。」

だが、その前にバーサーカーが気付いてしまった。

「おお!アサシン達よ!」

「(仕方ない…)何でこんな所にいるんだ?」

「此れより圧制者達へと叛逆しに行くのだ!!こうしている今も圧制者達は弱者を虐げ、君臨している。弱者の盾となり、虐げられし者達を解放することこそ、我が全てである。故に、我は圧制者へと叛逆するのだ。」

「(どうしようヘイヴィア、全く分からない。)」

「(安心しろ、俺もだ。)」

「圧制者達よ!待っておれ‼直ぐに汝らを抱擁してやろう‼」

そう言って再び走り出すバーサーカー、

「えっと、つまりは敵の本拠地に殴り込みに行ってくるって事でいいのかな?」

「知るかよ、何も見なかった事にして帰るぞ。」

しかし、そんな二人に声がかけられる。

「どうしたアサシン、こんな所で。」

声をかけたのはライダーとアーチャーだった。

「買い物に行った帰りだけど。ライダーと姐さんは何でこんな所に?」

「汝らまでその呼び名で呼ぶのか……。」

「俺達はバーサーカーを追い掛けて来た。野郎、突然圧制者がどうとか叫んで走り出したからな。」

そう言って再び追い始めるライダーとアーチャー、だか、ライダーが振り向いて言う

「そう言えば、ヤツに伝えていなかったな。丁度いい、今から帰るならコトミネに伝えておいてくれ。」

「分かった、伝えておくよ。」

そして、車を走らせる事数十分、協会から少し離れた駐車場に車を停める。

「さて、コトミネに報告しに行きますか。」

「荷物を運び込むのは後でいいよな。」

「ああ、そういえばセイバーは到着したのか?」

そう言いながら協会へ続く屋根の付いた階段を登る、途中で、髭を生やしたダンディーなおっさんとすれ違う。

「今のおっさん、かっこ良かったな。」

「ああ、あんなおっさんになりたかった。」

そう話すクウェンサーとヘイヴィア。

「おい、テメェら。」

突然後ろから話しかけられる。

「どうしました?」

そう言って振り向くクウェンサーとヘイヴィア、するとそこには、鎧兜に身を包んだ騎士が立っていた。

「テメェら、サーヴァントだろ。」

急な事に、戦闘体制を取るクウェンサーとヘイヴィア、ハンドアックスに信管を差し込み、直ぐに起爆できるようにする。またヘイヴィアも、銃の安全装置を外し、騎士に向けて構えていた。

「ほれ見ろマスター、やっぱりサーヴァントじゃねえか。」

「さっきまでの見た目で分かる訳が無いだろ。」

そう会話する騎士とおっさん。

「テメェらは……。」

「ああ、紹介が遅れたな、俺はセイバーのマスターの獅子劫界離だ。それでコッチが」

「セイバーだ。」

そこまで聞き、武器を下ろす二人。

「それで、そっちは?」

「アサシンだ、二人ともな。」

「どっちもアサシンなのか……。」

「それにしても、さっきまでの格好は英霊としてどうなんだ?」

そう言う獅子劫、確かに先程までのクウェンサーとヘイヴィアの格好は、上がTシャツに下がカーゴパンツと、何処にでも居そうな格好だった。

「良いんだよ、休みの時まで軍服なんぞ着たくない。」

そう答えるヘイヴィア。

「そういうモンなのか……。」

「じゃ、俺達はここらで。」

「ああ、また戦場で。」

そう言って別れる二人、暫らくしてクウェンサーとヘイヴィアが離れた後、獅子劫が聞く。

「セイバー、あのキャスターには警戒していたが、あいつらは良かったのか?」

「ああ、キャスターは母上みたいな感じがしたから警戒していたが、あいつは大丈夫だろう。」

「何でだ?」

「あいつら、馬鹿っぽかったし。」

 

 

 

「「ハックショイ!!」」

「風邪か?」

「いや、サーヴァントは風邪なんて引かないだろ。」」

「じゃあ誰かがこのイケメン貴族ヘイヴィア様の事を噂しているんだな!」

「この時代に知っている人なんていないだろ……。」




次こそ戦闘に……。


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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅴ

五話目です、どうぞ。


「「ただいまー。」」

教会の扉を開け中に入る二人

「おや、お帰りなさい。先程までセイバーとそのマスターが来ていましたよ。」

礼拝堂に立っていたコトミネが返事をする。

「それならさっきすれ違ったけど。」

「そうですか、では、セイバーも合流したので、此れより聖杯大戦を開始します。」

そう宣言するコトミネ。

「他の方達が奥にいると思うので呼んで来てくれないでしょうか。」

「ああ、その事なんだけど……。」

「何かありましたか?」

「バーサーカーの野郎が敵の本拠地に殴り込みにいったぞ。」

「えっと、本当ですか?」

「一応ライダーとアーチャーが着いて行ってたけど…。」

コトミネにしてもこれは予想外だったようだ。

「そうですか…、では、アサシンは敵地の偵察に行ってくれないでしょうか。」

「ライダーとアーチャーが行ってるし、十分じゃない?」

「いえ、アサシンには彼らとは別の地点からトゥリファスに侵入、そのまま黒の陣営の本拠地であるミレニア城塞を偵察して来てください。」

「此処の防衛とかは?」

「キャスターとランサーがいれば此処の防衛には十分でしょう。」

「「えー!働きたく無い!」」

「いいからとっとと行って来い、我がマスターを困らせるな。」

キャスターが霊体化を解除して言う。

「分かりましたよ。行って来るぜ女帝様。」

「帰ったらイイコトしてくださいよ、ご褒美も無しに仕事なんてできませんから。」

「巫山戯ているのか貴様ら…。」

そう言いながら扉へと歩いて行くクウェンサーとヘイヴィア、

「そういえば、あの車まだ使っていていいのか?」

「ええ、構いませんよ。」

「分かった、壊しても文句は言うなよ。」

そう言って、扉から出て行く。

二人が去ってしばらくして、キャスターが聞く。

「マスター、彼奴らは使えるのか?」

「分かりません、ですが……。」

二人が出て行った扉を見る。

「使えなかったら、それまでです。」

停めてあった車に乗り込むクウェンサーとヘイヴィア、

「クウェンサー、地図寄越せ地図。」

「はいはい、それにしてもこうしてるとオセアニアの時を思い出さない?」

「ああ、あの0.5世代の時か、懐かしいな。」

「それもだけど、二回目のオセアニア派兵の時とか。」

「そういえばあの時、テメェかなり良い思いしてたよなぁ!テメェだけ良い思いしててこのヘイヴィア様には何も無いのっておかしいと思うんだが!」

「日頃の行いじゃない?」

「少なくともテメェよりはいいと思うんだがな。」

「まあまあ、そう言うヘイヴィアも… あれ?」

「こちとらテメェと違ってラッキースケベなんて無かったんだよ!」

キレるヘイヴィア、確かにクウェンサーのラッキースケベは多かった。

「そういえば、当たり前だけどこの時代にオブジェクトって無いんだよね。」

「言われてみれば、オブジェクトと戦わなくて済むのか…。」

「オブジェクトも無いし、偵察だけでいいし、この仕事結構楽なんじゃない?」

「ならとっとと終わらせて美味いモンでも食いに行こうぜ。」

「「じゃあ、行きますか。」

 

そんなこんなで森である。

黒の陣営の本拠地、ミレニア城塞の東側に位置するイデアル森林、ここにクウェンサーとヘイヴィアの二人は到着していた。

「それにしても、割と準備に時間が掛かったな。」

「そうだな、もう夜になっちまったぜ。にしてもテメェ…。」

ヘイヴィアが訝しげに聞く。

「クウェンサー、テメェそんな荷物抱えて森に入るのか?此処は敵の本拠地の隣、トラップもたらふく仕掛けられてるだろ。」

「大丈夫だよ、間違っても一般人が引っ掛からないようにように森の入り口付近にはトラップは仕掛けられていない、それに…。」

自分の背中を指差すクウェンサー、大型のバックパックを背負っている。

「コッチもここにトラップを仕掛けておけば、次にここで戦闘が起きた時にこちらに有利なポイントを作れる。」

「ああそうかよ、その辺りはテメェに任せる。」

「何言ってんだヘイヴィア、お前にも手伝ってもらうぞ。」

そう言いながら森に入る、暫らく歩いて行くと急にヘイヴィアが肩を掴む。

「止まれクウェンサー。」

「どうしたんだよ、虫でもいたか?」

「いや、そこに何か刻んである。」

そう言って地面を指すヘイヴィア、そこには何か紋章のような物が描かれていた。

「うわっ、これ多分トラップだよ。多分踏むと反応するタイプだと思う。」

「気を付けろよ、ここでテメェが引っ掛かかると俺まで巻き添えを食らっちまう。テメェと心中なんて死んでもしたくねぇ。」

「もう一回死んでるじゃん。」

突っ込むクウェンサー。

「それにしても、良くこんなの見つけたね。」

「ああ、多分生前より視力が良くなってる。夜目も効くようになってるしな。」

「言われてみれば確かに、サーヴァントになった影響かな?」

「それしかねぇだろ。」

再び進み出すクウェンサーとヘイヴィア、かなりの距離を歩くと、道の右側が崖の様になっている場所に出た。

「ここなら位置も丁度いい、ここにしよう。」

「そう言っても何を仕掛けるんだ、ワイヤーか?」

「いや、丁度いい所に崖があったからね、これを使おう。」

そう言ってバックパックから折り畳まれたスコップを二本取り出す。

「要はラッシュと戦った時に道を塞いだだろ。それと同じだ。この土壁を崩して敵を生き埋めにする。」

スコップをヘイヴィアに手渡し、バックパックから鉄板を取り出す。

「まずはこの土壁に穴を掘ってくれ、そこに信管を付けたハンドアックスを放り込んでから鉄板で蓋をして、衝撃が穴の奥にいく様にする。」

そう言って土を掘り始めるクウェンサー。

「畜生、土木作業かよ、こういうのは工兵の仕事だろ!俺の本職はレーダー分析官なのに……。」

「でもヘイヴィアが椅子に座ってるイメージ無いんだけど。」

「そりゃあテメェと一緒に最前線に送られ続けたからだよ!」

そんな事を話しながらも、手はしっかりと動いている。

「よし!掘り終わったぞこのヤロウ!」

「お疲れ様、じゃあ入れてくよー。」

穴の奥へとハンドアックスを投げ込んでいく。そして鉄板を固定して、トラップが完成した。

そこから歩きながら要所にトラップを設置していく、地雷の様に爆弾を埋め、ワイヤートラップを仕掛けていく。

また暫らく歩くと、少し視界が通った場所に出る。

「お、あの城じゃないのか。」

「じゃあ、此処から偵察するか。」

そう言って伏せるクウェンサーとヘイヴィア。

ヘイヴィアはライフルのスコープを、クウェンサーは双眼鏡を覗き込む。

「見える見える、結構人が巡回してるな……。」

「おい、あそこに見えるのってゴーレムとかいうヤツじゃないか?」

「本当だ、パワードスーツとどっちが強いんだろう…。」

そんな事を考えるクウェンサー。

「それにしても、楽な仕事だな。」

「本当にね、偵察だけでいいし、オブジェクトも出ないし。」

「ああ、こんな仕事とっとと終わらせて帰るぞ。」

雑談するクウェンサーとヘイヴィア。

「そういえばお菓子持ってきたけど食べる?」

「何でそんなモン持ってきてんだよ、食べるけど。」

「どうせ戦闘なんてしないしね。それに生前は作戦中は消しゴムみたいなレーションばっかりだったし。」

「あれがフラグだった!絶対あれがフラグだった!」

「黙って走れクウェンサー!追いつかれるぞ!」

全速力で走るクウェンサーとヘイヴィア、彼らは大量のゴーレムに追われていた。

「テメェがあんな話始めるからこんな事になったんだよ!」

「ヘイヴィアだって乗り気だったじゃんか!」

走りながら喧嘩する二人、見つかった理由も、女湯ののぞきについて話していた際、それを感知されたといった、バカバカしいものだった。

そして二人は気が付かなかった、別の場所で行われていた戦闘が終了していたことを……。




次からはやっと戦闘です…


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七人の小人と杭の森 ルーマニア山中偵察戦Ⅵ

遅くなりました。どうぞ


イデアル森林の、クウェンサー達の現在地とは少し離れた場所、此処に赤のバーサーカー、スパルタクスはいた。

何本もの杭に貫かれ、泥の様なもので覆われて意識を失っている状況だが……。

 

「む?」

「どうした、ダーニックよ。」

そのスパルタクスの正面に、二人の男がいた。一方は騎乗し、槍を持った男である。彼は黒のランサー、オスマン帝国の侵略から幾度も領地を守り抜いた護国の鬼将、ブラド三世である。

「いえ、王よ、侵入者が現れた様ですが、如何いたしましょうか。」

そう答えるのはダーニック・ブレストーン・ユグドミレニア。黒のランサーのマスターである。

「現在侵入者はゴーレムに追われており、逃走している様ですが……。 ライダーを呼び戻し、追撃させるのは如何でしょうか。」

「それには及ばぬ。」

「と、申されますと……。」

「ああ、余が行こう。我が領地に侵入した蛮族達だ、バーサーカーは確保したが、少し見せしめがあっても良いだろう。」

そうランサーは言う。

「待っておれ、我が領地に侵入した愚か者よ。」

 

「ヤバいヤバい追いつかれるぞ!」

「うるさいヘイヴィア!もう少しでトラップを仕掛けた所だ!」

走るクウェンサーとヘイヴィア、彼らは非常に阿保らしい理由で感知されゴーレムに追いかけられていた。

「おい、アソコだろ、トラップ仕掛けたの!」

そう言い前方に見える土壁を指すヘイヴィア。そこはこの森に来た時に設置したトラップが仕掛けられている。

「OK、起爆するぞ!」

起爆用の無線機を取り出し、スイッチを押す。

ドムッ! とくぐもった音が響いた。穴の中で起爆した事による衝撃は、設置した鉄板によって奥に向かう。そしてクウェンサーとヘイヴィアが走り抜け、ゴーレム達が土壁の前に差し掛かった瞬間、

土壁が砕け、ゴーレム達の上に雪崩れてきた。大量の土砂がゴーレムを押し潰して動きを封じる。

「いや、何とかなったな。」

「全く、どうなることかと思ったよ。」

「ったく、テメェといると気が休まらねぇ。」

「まーまー、こうして無事なんだしいいじゃん」

「んじゃ、追撃が来ないうちにとっとと帰りますか。」

埋まったゴーレムに背を向けるクウェンサーとヘイヴィア、そして一歩踏み出し……。

「ぶべらっ!」

「何やってんだクウェンサー、お前がドジっ娘みたいな事してもどこにも需要がねーよ。」

木の根に足を取られてすっ転ぶクウェンサー、それを起こそうと手を取る。

だが、クウェンサーの背後に目を向けた瞬間、ヘイヴィアの顔に驚愕が浮かんだ。

「おらぁ!」

繋いだ手を振り回してクウェンサーを投げ、その反動で自身も飛び退くヘイヴィア、突然の事に驚くクウェンサーだったが、

 

極刑王(カズィクル・ベイ)

 

 

突如、先程まで二人の立っていた場所に何本もの杭が生えた。

「躱したか、我が領地に侵入せ愚か者共よ。」

そう言いながら一人の男が歩み出てくる。その威容、その圧力は人間では出せまい、それはまさしく

「「サーヴァントだとッ……!」」

「如何にも、余は黒のランサー、ヴラド・ツェペシュである。貴様達は赤のサーヴァントであるな。」

「ああそうだよ。それがどうした。見逃してでもくれるのか?(おいどうすんだよクウェンサー!)」

「この空気で見逃してくれる訳ないじゃんか。(どうにかして隙を作る、その間に全力で逃げるぞ。)」

「貴様らのバーサーカーは此方が確保した。隷属させ、手駒として使役する予定だが、少しばかり、サーヴァントですらこうなるという見せしめが必要だとは思わないかね。」

「あの筋肉ダルマ捕まったのかよ!」

「つまり…。」

「ああ、貴様らを

ランサーが話し出した瞬間、先程の会話の間にポケットから出していた携帯端末を顔面に向かって投げつける。武器ですらないそれを当てた所でダメージは零だが、この時代にタッチパネル式の携帯端末は存在せず、聖杯から送られる“現代”の知識にはそれは存在しない。

さらに、攻撃方法のわからないサーヴァントがよくわからない物体を此方に投げてくるという状況、その状況で当たりに行く選択肢を取るのはバーサーカーぐらいだろう。実際に……。

「フッ!」

首を傾けただけで携帯端末を躱すランサー、だが、その隙にクウェンサーとヘイヴィアは踵を返し、全速力で逃走を開始していた。

「ほう、逃げるか。ならば追い付いて串刺しにしてくれよう。」

そう言って馬に乗るランサー、その顔には深い笑みが浮かんでいた。

「クウェンサー、追ってきているか?」

「あの状況で追って来ない訳が無いだろ。それに、奴の後ろに馬がいた。多分あれに乗って追いかけてくる。」

「マジか、どうするんだよ。」

「だから今トラップを仕掛けているんだろ。」

先程の場所から離れた場所。そこでクウェンサーとヘイヴィアはトラップを仕掛けていた。

「それに、逃げる時にスキルの気配遮断を使ったとはいえ、さっきゴーレムに見つかってるからね。時間稼ぎにしかならない。」

そう言いながら木の地面から20cm程の所にワイヤーを結んでいく。そしてそのワイヤーを離れたところにある木に結びつけていく。

「ったく、コレに何の意味があるんだよ、こんな事している間に遠くへ逃げた方がいいんじゃねぇか。」

「それだと追いつかれる。此処で暫く動けなくしてから逃げた方がまだ確率は上がる。」

「それは分かったがこのワイヤーはどんな効果があるんだ?まさかコレで足を引っ掛けて転ばせます。とかいうんじゃ無いだろうな。」

「いいや、その通りだ。」

「はぁ?巫山戯てるのかテメェ。」

「このトラップで転ばせるのは馬の方だ。転ぶかバランスを崩した所に、お前が木の上から弾をばら撒いてくれ。」

そう言って側に生えている木を指差すクウェンサー。

「テメェはどうするんだよ。」

「俺は奴をこのトラップに誘導する為に囮になる。」

何かが走るような音が森に響く。そしてそれは徐々に此方へと近づいて来る……。

「来るぞヘイヴィア、準備してくれ。」

「死ぬなよ、テメェが死ぬと俺まで消える事になるからな。」

「それはフリか?」

「ちげーよ!」

そう言いながらスイスイと木に登って行くヘイヴィア、そして向こうから馬に乗ったランサーが姿を現す。

背中からハンドアックスを取り出し、信管を突き刺す。さらに円筒形の缶を取り出す。

ワイヤーまで後5メートル、額を汗が一滴流れる。

ワイヤーまで後4メートル、

3メートル

2メートル

1メートル

そして、馬の脚がワイヤーに引っかかった。

馬がバランスを崩して転倒していく。だが、ランサーはその直前に飛び降りた。そこへ上からヘイヴィアがフルオートで銃撃するが、

「極刑王!」

ランサーの盾となる様に、地面から杭が生み出される。それによりヘイヴィアの放った弾丸は弾かれてしまう。

「どうやら、罠を仕掛け此方を討ち取ろうとしていたようだが、残念であったな。」

クウェンサーに槍を突きつけながら言う。

「(どうすんだよ!このままじゃ二人とも殺される!)」

「(大丈夫だ、ヘイヴィア、目を閉じていてくれ。)」

「そうだな。此処で起爆しても自分も巻き込まれる。」

そう言って持っていたハンドアックスを捨てる。

「ほう、潔く諦めるか。」

「だが、此方は二人だ!」

もう一方の手に持っていた円筒形の缶を掲げ、起爆用の無線機を押す。ランサーは爆風を防ぐ為に杭を展開するが…

 

カッ!!

 

 

閃光が迸る。街で購入したアルミニウム粉末やマグネシウムなどを材料に制作したフラッシュバンが炸裂した。

通常であればこの様なものは役に立たないだろう。だが彼らはサーヴァントになり、生前よりも目が良くなり、夜目が効く様になっている。また森は暗く、目が闇に慣れていた。さらにクウェンサー達は知らなかった事だが、ヴラド三世はドラキュラのモデルであり、強い光は苦手である。そこに閃光を流し込まれたのだ。

「ああァァァァァッ!!!」

悶えるランサー、だがそれはクウェンサーも同じである。

「ヤバい痛いヤバい目がァァァッ!‼」

そのクウェンサーの後ろ襟を掴み、目を閉じていたことで難を逃れたヘイヴィアが全速力で引きずって行く。

「無茶にもほどがあるぞテメェ!テメェの死にたがりは治らねえのか!!」

「ちょっと待ってヘイヴィア!お尻が、お尻が地面に擦れて痛い!」

「待てるか!文句は後で聞く!」

そのまま森の中を走る。そして、遂に……。

「あれ、来る時に乗ってきた車だよな!」

「そうだからいい加減止まれ!もう此処までは追って来ない!」

そう言われてやっと止まるヘイヴィア、緊張が解けたのか思わずへたり込む。

「逃げ切った……。」

「ああ、後は帰るだけだ。」

「運転するのもめんどくせぇ。クウェンサー代わりに運転しろよ。」

「俺免許取ってないんだけど。」

そう言いながら車に乗り込む。

「ああ!」

「どうしたクウェンサー。なんかあったか?」

「奴の目を逸らすために携帯端末を投げてしまった……。」

「嘘だろ!って事は……。」

「あんな画像やこんな画像が見れなくなった、って事だ。」

「テメェ、唯一の楽しみを……。」

「あの時は仕方が無かっただろ。」

そんな話をしながら車を発車する。

「それにしても、もったいない事をしたな……。」

「あん?」

「いや、あの携帯端末の中に、オブジェクトの図面とかも入れてたんだよ。何時でも眺められる様に。」

「キモッ……。」

「何でだよ!いいじゃん眺めて楽しむぐらい!」

「これは……。」

「先生、どうかしましたか?」

「いや、面白い物を拾ってね。」

森の中で話す二つの人影、その手の中にはクウェンサーの投げた携帯端末があった……。




ありがとうございました。


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅰ

遅くなりました。


ある教会の一室、その薄暗い部屋の中で三人の男が顔を付き合わせていた。

「いいのか?その選択で。本当に後悔はしないか?」

「ああ、テメェには、テメェにだけは勝たなきゃならねぇんだよ!」

そう啖呵を切る男。だが……。

「こんな暗い所で何をしているんですか?アサシンにライダーも。」

そう言って部屋の扉を開けて入って来た男、彼はシロウ・コトミネ。

この聖杯戦争の監督役であり、キャスターのマスターでもある。

「ああ、ババ抜きとか言うゲームだ、アンタもやるか?」

そう答えるのはライダーのサーヴァント、真名はアキレウス。ギリシャ神話の大英雄である。

「因みに俺はもう上がった。」

「貴方もやっていたのですか?しかし、何故アサシンの二人はこんなにも迫熱しているのでしょうか?」

「最下位には罰ゲームがあるからな。」

「罰ゲーム、ですか?」

「ああ、負けた奴には町で色々と買って来て貰う事になっている。食いもんとか酒とかな。」

「成る程、それであんなに迫熱しているわけですか。」

「まあ、あいつらからふっかけてきて負けてるのもどうかと思うがな……。」

そう話している間にもゲームは続き、残りの札はクウェンサーが二枚、ヘイヴィアが一枚となっていた。そして現在はヘイヴィアの番、つまり此処でヘイヴィアがジョーカーを引けばゲームは続行、違う方を引けば上がりとなる。

「おいクウェンサー、どっちがジョーカーだ?」

「そんなの答えるわけないじゃん、右がジョーカーかもしれないし、左かもしれない。」

「まあ、コッチだろうけどな。」

そう言って右の札を引くヘイヴィア、引いた札は、ジョーカーでは無い。つまり、クウェンサーの負けである。

「何で、何で解ったんだ?」

「テメェ生前からジョーカーを左手側に置く癖があっただろ。治ってなくて良かったぜ。」

「マジかー。そんな癖があったんだ。」

「つー事で、罰ゲームはテメェが行ってこい。」

「めんどくさいなぁ。」

そんな彼らに話しかけるコトミネ。

「少し、よろしいでしょうか。」

「あれ、コトミネ来てたんだ。あんたもババ抜きやるかい?」

「いえ、それは良いのですが。」

「どうした、出撃か?」

「そう言う訳では無いのですが……。」

そう言ってポケットからメモの様なものを取り出す。

「幾つか切らしてしまいそうな備品が有りまして、町に行くならついでに買って来てはくれないでしょうか。」

「うわ、結構量があるな、ヘイヴィア、車出してくれない?」

「結局俺も行くのかよ!勝ったのに!」

「すみませんが、よろしくお願いします。此方は少し用事が有りまして……。」

「わかったよ行けばいいんだろ行けば!」

「俺の酒も頼むぞ。」

「ライダーもか、了解だ。」

「暗くなる前に帰って来るんですよ。」

「そんな子供じゃないんだし、大丈夫だろ。」

「いつ敵のサーヴァントが襲って来るか分かりませんからね。」

「うっわ、思ったより物騒な理由だった。」

そう言って立ち上がるクウェンサーとヘイヴィア、

「それじゃ、行って来るわ。」

「気をつけて行くんですよ、それと、お釣りをちょろまかさないように。」

「分かってるよ。」

「いや、貴方たちこの間だいぶ誤魔化してましたよね。」

「いやー、聞こえないなー。」

そう言って部屋を出る。暫く歩いていると、ぽつりとヘイヴィアが口を開いた。

「クウェンサー、サーヴァントをパシリに使うマスターってどうなんだろうな。」

「まあ、サーヴァントって元々召使いとかそう言う意味じゃなかったっけ。」

「意味としては合ってるって訳か。」

「生前から俺達何でも屋として扱われている感じは有るけどな。」

そんな事を話しながら車に向かうクウェンサーとヘイヴィア、

「にしても、敵にはこの間の黒のランサーみたいなのが後七騎もいるんだろ。あんなバケモンが七騎もいるとか、考えたくもねぇよ。」

「まあ、コッチもバケモンが揃ってるしね。」

「俺ら以外な。」

「俺達も一応、サーヴァントの筈なんだけどな。」

「神話の大英雄と一兵卒を比べちゃダメだろ。それに、あいつらは一人一人がオブジェクトみたいな物だよ。」

「はあ、戦いたくねぇな。」

「本当にね。」

そう言って車に乗り込む。

何だかんだで、彼らは今日も通常運転であった。




ありがとうございました。


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅱ

それでは、どうぞ。


「クウェンサー、頼まれていたものはこれで全部か?」

「いや、後洗剤を買ったら終わりだ。」

「ったく、サーヴァントをパシリに使うなよ。」

賭けに負けたため、 シギショアラの町へ買い出しに来たクウェンサーとヘイヴィア、買い物を終わらせる為、入店しようとするが、

「おう、久しぶりじゃねーか。」

そう言われて肩を掴まれた。

当然だが、未来から来た二人にはこの町に知り合いなどいるはずがない。

では、肩を掴んでいる、コイツは()()……。

警戒しながら、ゆっくりと振り向く。

そこには、見覚えのない少女が立っていた。

「よっ!久しぶりだな!」

「「いや、誰だお前!」」

二人のツッコミが朝のシギショアラに虚しく響いた……。

シギショアラで発生した連続殺人事件。潜入した魔術協会の魔術師全員が殺害され、敵サーヴァントによる魂食いが行われた。

神秘の隠匿の為、魔術協会のロード・エルメロイ二世より赤のセイバーのマスターである獅子劫界離へ、対応が要請された。

 

「確かにそいつは、俺の仕事だ。」

そう言って電話を切り、頭の中でこれからのプランを構築し始める。

ある程度の目処がつき、自らのサーヴァントであるセイバーへと状況を説明しようと目を向けるが、

「どこ行ったんだ、あいつ……。」

猫と戯れていたはずのセイバーが影も形も見当たらない。

「(仕方ない、探しにいくか。)」

そう思い、席を立とうとした時。

「マスター、いいもん拾って来たぞ!」

「何処に行っていたんだ、お前。」

セイバーが帰ってきた。だが、

「何を持っているんだ?」

「へっへー、これはだな……。」

そう言って手に持っていたものを前に出す。それは、

「あれ、セイバーのマスターじゃん。」

「て事はこいつがセイバーかよ。」

首を後ろから掴まれて吊られたクウェンサーとヘイヴィアであった。

「アサシンか、何故こんな所に。」

「コトミネに備品の買い出しを頼まれてな。その途中でセイバーに捕まった。」

「そうか、うちのセイバーが済まないな。それといい加減に離してやれ。」

そうセイバーに言う。

「よっと、」

手を離され、地面に着地するクウェンサーとヘイヴィア。

「そういえば、さっきの電話は何だったんだ?」

「あー、そうだな。」

チラリとクウェンサーとヘイヴィアに目を向ける。

「俺達は聞かない方がいい話題か?」

「いや、大丈夫だ。むしろお前達にも手伝ってもらいたい。」

「「は?」」

「と、言う訳だ。」

先程までの電話の内容を説明する獅子劫。

「つまりは、俺らにそのサーヴァントの撃破を協力しろと言う訳か?」

「そうだ、頼めないか?」

「そんなんに付き合ってられるか、ヘイヴィア、とっとと帰るぞ。」

「実際に敵とやり合うのはうちのセイバーだ。お前達には援護してくれるだけでいい。」

「絶対に嫌だ。給料の出ない仕事なんてしたくねぇ。」

「多少の報酬は出すぞ。」

それを聞いてピクッと反応するクウェンサーとヘイヴィア、彼らには現在どうしても欲しい物があった。

「話だけは聞いてやる。」

そう言って座り直すクウェンサーとヘイヴィア。

「手伝ってくれるのか?」

「ああ、だが先に報酬を払って貰いたい。」

場に緊張が走る。彼らは一体何を求めて来るのか。貴重な魔術触媒だろうか。はたまた令呪そのものと言う可能性も……。

セイバーが警戒を強める。そんな中、バカ二人(クウェンサーとヘイヴィア)が口を開く。

 

「「じゃあ、エロ本で」」

「エロ本……。」

「EROHON?」

「エロ本?!」

驚愕する獅子劫とエロ本が何か良く解っていないセイバー。

「お前達そんな物でいいのか?もっとこう、魔術触媒とか、情報とか。」

「そんな物よりもエロ本だ‼」

「そうだ!こちとら見た目が未成年なせいで売ってもらえなかったんだよ!」

「お、おう、そうか。」

あまりの剣幕にたじろぐ獅子劫。

「なあ、マスター。」

「どうしたセイバー、お前までエロ本が欲しいとか言い出すんじゃないだろうな。」

「エロ本って何だ?」

「……。」

「何だよ。」

「お前は、その純粋なままでいてくれ……。」

「はあ?」

「それじゃあ、ちょっとコトミネに連絡して来るよ。」

そう言って電話を手に離れるクウェンサー、残されたヘイヴィアにセイバーが話しかける。

「お前達は何処の英霊なんだ?」

「そういえば俺も気になっていた。小銃を出すわ着ている軍服は調べても何処の物がわからないわ、一体何処の英霊だ?」

「ああ、その話か。」

顎に手をやり、少し考える。

「まあ、特に話しても問題はないか……。」

 

ヘイヴィアが自分たちの真名について説明しているのを横目に、コトミネに電話をかけるクウェンサー。

コール音がなり、三回目で相手が電話に出た。

「もしもし、アサシンですか。帰るのが遅れているようですが何かありましたか?」

「ああ、それが……。」

かくかくしかじか。

獅子劫に説明された事を伝える。

「そうですか、分かりました。」

了承するコトミネ。

「ですが、明日の昼までには帰ってきてくださいね。」

「何かあるのか?」

「ええ、」

少し楽しそうに、コトミネは言う。

「黒の陣営の本拠地、ミレニア城塞へと攻撃を仕掛けますので。」




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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅲ

遅くなりました。


「タルタルソースってあるじゃん。」

「どうしたクウェンサー、エビフライでも食べたくなったか?」

「タルタルソースってどんなやつだ?」

夕焼けに染まるシギショアラの町、その一角のベンチに三人の人影があった。

「マヨネーズにみじん切りにしたピクルスとか茹で卵を混ぜたソースだ。それがどうしたんだ。」

「あれってエビフライとカキフライを食べる時にしか使う事無くない?」

「確かにな……。突然どうした?」

「あまりにも暇だったからね、ふと思いついた事を言っただけだよ。」

「そうか、セイバー、何か話題はないか?」

「エビフライか、食べてみてぇな。」

「食べたことないのか?」

「生前はそんなモン無かったし、何より食糧事情がな……。」

「ウチも消しゴムみたいなレーションばっかりだったな。」

「しかしお前達、よく食うな……。」

呆れた様に言う獅子劫。彼は赤のセイバーのマスターとしてこの聖杯大戦に参加した魔術師である。

「オレの食事は趣味だよ。折角肉体があるんだからな。」

そう話す少女は赤のセイバー、手にスナック菓子の袋を抱えている。

「そうそう、食べれる時に食べておいた方がいいよ。」

「いつ倒されるかわからねぇからな。」

そう言いながら手に持ったホットドッグにかぶりつく二人、彼らは赤のアサシン、クウェンサーとヘイヴィアである。

彼らは魂食いを繰り返す黒のアサシンをおびき出す為、此処シギショアラに待機していた。

「そういえばアサシン、爆弾を仕掛けるとか言っていたが、それは終わったのか?」

ふと思い出したように獅子劫が聞く。

「大丈夫だ、もう完了している。」

「むしろ戦闘後に回収するのがめんどくさくなる様な数仕掛けたからな……。」

「一応何処に仕掛けたかは地図に記入しているけど、見えにくいようにしているしね。」

そう答えるクウェンサーとヘイヴィア。

「……。」

それを物言いたげに見つめるセイバー。

「どうした?何かあったか?」

「いや、何と言うか……。」

言いよどむセイバー。

「サーヴァントらしくない戦い方だと思ってな。」

「まあ、アサシンだし。仕方ないと思うよ。」

「生前はあくまでオブジェクトのサポートとして動く役割だったからな。」

「途中から何故か生身でオブジェクトと戦うハメになってたけどね……。」

「お、おぅ……。」

テンションが急降下していくクウェンサーとヘイヴィア、見兼ねた獅子劫が声をかける。

「そろそろ行くぞ。セイバー、鎧を身に付けておけ。」

「おう!出陣だ、マスター!」

立ち上がり、一瞬の内に鎧を装着する。

「お前達も、とっとと立ち上がってくれ。」

ベンチに座り、うな垂れるクウェンサーとヘイヴィアに言う。

「はぁ、行きたくねえな。」

「本当にね、めんどくさいにも程がある。」

それでも立ち上がらない二人に業を煮やしたのか、セイバーがツカツカと歩み寄った。

そして、ガッ!と首根っこをひっつかむ。

「いいから行くぞ!」

「グェ!もうちょっと優しく運んでくれよ……。」

「テメェは子供を運ぶ母猫か何かか!」

ピクリ、とセイバーの動きが止まる。

「母、か……。」

「あん?どうした?」

「いや、何でも無い。行くぞ。」

何でも無いように歩き出すセイバー。

「ったく、仕方無ぇな。」

「さて、それじゃあ。」

「「働きますか。」」

 

シギショアラのある建物、その一室に二人の人影があった。

「また魔術師が来てくれたみたいだよ?」

「それじゃ、シギショアラでの最後の食事にする?」

「うん、そうしよ!」

「でもお母さん、今日は見に来ちゃダメ。サーヴァントがいるみたいだから。」

「わかった、ハンバーグ作って待ってるわね。」

「うん!」

部屋の中には、一人の女性だけが残った。

 

「やっぱりゴーレムはいいな。命令に決して逆らわない!」

ミレニア城塞の地下空間、ゴーレムを生産する為に作られたそこに一人の少年がいた。

彼はロシェ・フレイン・ユグドミレニア。

黒のキャスター、アヴィケブロンのマスターである。

「それにしても、先生は凄いな。あれだけの図面からこんな物を作り出してしまうなんて!」

興奮した様子でまくし立てるロシェ。

「でも先生の宝具はもっともっと凄いんだろうな!早く見てみたいな!」

「この聖杯戦争に勝ち抜いて、僕は先生を受肉させる。そしてゴーレムの秘術を習うんだ!」

「最強のゴーレム、何にも負けないゴーレム、その為になら、サーヴァントだろうがマスターだろうが何人来ようとコレで打ち倒してやる!」

ふと、疑問に思う。

「そういえば、この図面を落として行ったのはどんなやつ何だろう?そのおかげでコレが造れたんだけど……。」

背後に目をやるロシェ、そこには、地下空間を埋め尽くすように、余りにも巨大な物体が鎮座していた。

全長は60m程だろうか、中心の50m程の球体状の構造物の右側には、10m以上の長さの砲が取り付けられている。また、球体表面には無数の砲がハリネズミのように据え付けられている。

それは一つの世界で最強を誇った兵器(バケモノ)。核も効かず、同じ兵器(バケモノ)でしか破壊出来ないとされた悪魔の化身。

 

ブォン、と、その表面に青く発光するラインが無数に現れた。

さあ、兵器の王(オブジェクト)が目を覚ます。

 




ありがとうございました。


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅳ

どうぞ。


「何だ!お前達は!」

黒のアサシンを撃破する為セイバーとそのマスター、獅子劫界離と行動を共にするクウェンサーとヘイヴィア。

彼らは黒のアサシンをおびき出すためシギショアラの路地を歩いていた。歩いていたのだが……。

「鎧……?それに銃まで…。そこを動くなよ!」

「まあ誰でもそこつっこむよね。」

「確かに、今の俺らはどう見ても不審者だからな……。」

地元の警官にピストルを向けられかけていた。

確かに、夜道に甲冑を着込んだ人間と軍服に小銃を下げた男がいたら警戒するだろう。

「どうする?気絶させる程度なら直ぐにできるぜ。」

「いや、それには及ばん。」

そう言って咥えていた煙草を持ち、空中に文様のような物を描く獅子劫。

「我々は内務省公安部の者だ、この現場は任せてくれ。」

それを受けた警官は焦点の合わない目で返事をし、フラフラと引き返して行った。

「ったく、早いとこ片ずけないと神秘の隠匿もあったもんじゃないな。」

「今の魔術か?便利そうだな。」

「おい、なんか妙じゃねえか。」

それまで黙って周囲を警戒していたセイバーが口を開く。

そう言われて気がつく。彼らの周りには先程までは無かった筈の霧に包まれていた。

「この霧は……。」

「なんだこれ、さっきまでは無かったよな……。」

それを吸った獅子劫が突如、激しく咳き込む。

「ゴホッゴホッ‼」

「どうしたんだ獅子劫!」

「毒だ!吸うな、セイバー!」

「こんなのが効くかよ!」

たまらず膝をつく獅子劫。着ていた上着を口に当て、毒を吸い込まないようにする。だが……。

「やばいナニコレ喉が痛ガホッ!」

「何やってんだクウェンサー!テメェも吸ってんじゃねぇよ!」

「ともかくこの霧から逃げるぞ!」

そう言って獅子劫に肩を貸すセイバー。同じ様に、クウェンサーもヘイヴィアが肩を貸して運ぶ。少しの距離を走り、霧の無い所へ出る。

少し広いそこで、息を整える獅子劫。

クウェンサーも大きく呼吸する。

「うっし、抜けた。」

「あー、やっと楽になった。」

息を整えた獅子劫が口を開く。

「おい、これから

だが、彼はその先を言葉にする事は出来なかった。

その瞬間、彼の喉元にナイフが突きつけられていた。あと数センチ押し込めば容易く獅子劫の生命を刈り取るだろう。

咄嗟の事にクウェンサーとヘイヴィアは反応出来ない。いち早く反応したのはセイバーだった。

獅子劫の足を払い、浮いた敵のナイフを弾き飛ばす。

そこへ硬直から回復したヘイヴィアがライフルを腰だめに構えて撃つが

ギィン‼

 

腰の後ろから抜いたナイフに弾かれる。そして少し離れた位置へ着地する敵、いや、このタイミングで攻撃を仕掛けて来るのであれば、黒のアサシンに違いないだろう。

そして、止まった事でようやくその姿が見える。だが、

「「なっ!子供だとッ…!」」

「切られちゃった、ヒドイことするね。」

「それにそっちのあなたも、あんなに沢山撃って。あぶないよ。」

「何がヒドイだ、魂食いをやってるテメェなんぞに言われたかねえな!」

剣を突きつけるセイバー。だが、黒のアサシンは何が駄目なのかわからない幼子の様に首を傾げる。

「別にいいじゃない?ねぇ!」

同時に何本ものナイフを投擲するアサシン。そして霧の中へ後退する。

「ここで待ってろ、マスター。」

「任せる。」

そう言って飛来したナイフを弾きながら追撃するセイバー。それを追う様に、ヘイヴィアも口元に布を巻いて走り出す。

「援護する!クウェンサー!テメェは獅子劫を護衛してろ!」

「ああ、了解だ!」

そう言って霧の中に飛び込む二人。

「そっちはテメェに任せたぞ、ヘイヴィア。」

「これぞ懐かしき我が庭園、虚栄の空中庭園(ハンキング・ガーデンズオブバビロン)よ。どうかな、マスター?」

「素晴らしい、私の要望もきちんと組み込まれていますね。」

「そうであろう、何故かあのアサシンの要望も聞くことになってしまったが。」

「アサシンの要望……。ああ、アレですか。」

そう会話する赤のキャスター、セミラミスとそのマスター、シロウ・コトミネ。

「黒のサーヴァント共も、流石に度肝を抜かれるであろうなぁ。」

「ええ、黒のセイバーが消滅した今が好機、こちらのセイバーも、すでに動き出しています。」

「一大決戦よなぁ、派手な幕開けを期待するとしよう!」

「行こう、キャスター。」

手を空にかざし、握り締めるコトミネ。まるで何かを掴むかのように。

「悲劇は繰り返さない、大聖杯も、俺達の物だ。」

 

 

「それはそうと、そのアサシンめは何処へ行ったのだ?」

「言って無かったですか。セイバーと一緒に黒のアサシンの撃破に向かいました。」

「明日までに間に合うのか?」

「さあ……。」




ありがとうございました。


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅴ

それでは、どうぞ。


ギィン‼

赤のセイバーが飛来したナイフを弾き飛ばす。

「わぁ、なかなかやるね!」

霧の中に黒のアサシンの声が響く。だが、その姿は霧に紛れて確認することが出来ない。

「ぬかせアサシン風情が!」

「一応俺もアサシンなんだが…。」

ぼそりと呟くヘイヴィア。彼らは黒のアサシンを追い、アサシンの生み出した霧の中に入っていた。

「貴様など英霊ではない!ただの殺人鬼だろうが!」

「あれ?なんでわかったの?」

「なに?」

予想外の返答に驚く赤のセイバー。その肩にフッ、と小さな重みが加わる。

 

 

 

「わたしたちの名は、ジャックザリッパー。」

 

 

「なっ!」

耳元で囁かれた声に驚きながらも払いのける。だが黒のアサシン、ジャックザリッパーは猫の様に音も無く着地する。

「ねぇねぇねぇねぇ!あなたのお名前、教えて頂戴?」

そこへ斬り下ろしとヘイヴィアの銃撃が襲いかかるが、セイバーの肩の上を側転倒立する様にして避けられる。

それを払う様に切るが、回避され、再び霧に紛れる。

「やっぱり、あなた女の人なんだ!」

「おいセイバー、このままじゃ埒が明かねぇぞ!」

うんざりした様にヘイヴィアが言う。

「分かってる!舐めんなよ、クソ餓鬼が!」

兜を解除し、素顔をさらけ出す。

「赤雷よ!」

セイバーが掲げた剣から、四方八方に赤い稲妻が撒き散らされる。それにより、周囲に充満していた霧が霧散していく。

「終わりだアサシン、今のうちに思う存分泣き叫べ。」

剣を突き付け言う。

「首を刎ねられりゃ、悲鳴も上げられなくなるってもんだ。」

「あはははっ!」

黒のアサシンが笑う。

「やだよ!まだお腹すいてるんだもん!」

そう叫び、腰からナイフを抜いて突撃を仕掛ける。

それに合わせるかの様にセイバーも踏み出す。

「ならば後悔しろ!ジャックザリッパー!」

そして二人が激突する……。

「上だ‼セイバー‼」

 

ヘイヴィアが叫んだ。

その瞬間、辺りは爆炎に包まれた。

 

その衝撃は離れた場所で待機していたクウェンサーと獅子号にも届いていた。

「なんだ、お前の爆弾か?」

「いや、起爆はしていない筈だ。」

その時、クウェンサーの無線に通信が入る。

「…クウェンサー、新手のサーヴァントだ!そいつに爆撃された!」

「ヘイヴィア、状況は?」

「セイバーも俺も無傷だ、現在ソッチに向かってる。黒のアサシンは南西方向に逃走、少なからずダメージを負っている。」

「そうか、じゃあ俺は引き続き獅子劫とここに来ると思う敵マスターを……。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

ナニヲイッテルンダコイツハ、

「いやいやいや、俺一人で倒せるわけ無いだろ。」

「いや、そうも言ってられねぇ。」

声から焦りが感じられる。

「ヤツの真名はジャックザリッパー(切り裂きジャック)だ。」

「嘘だろ……。」

「残念だが本当だ。今のヤツは傷を負っている。そのダメージを癒すために一般人をも襲いかねない。」

ジャックザリッパー、19世紀のロンドンに現れた連続殺人鬼である。そんなモノが手負いのまま動いている、それはどれだけ危険な事だろうか。

「クソッ!やるしか無いのか……。」

「コッチのサーヴァントは俺とセイバーでなんとかする。そっちはテメェに任せる!今動けるのはテメェしかいねぇんだよ!」

「ああ分かったよ、やってやるよこの野郎‼」

そう叫んで無線を叩き切る。

「話は聞いていた。敵のマスターは任せろ。」

「ああ、逝ってくる。」

「お前……。」

「流石に冗談だよ、死ぬつもりはない。」

そう言って駆け出すクウェンサー。

「大丈夫かあいつ……。」

 

「ちっ、切られたか。」

所変わって敵サーヴァントに向け走るヘイヴィアとセイバー。

「アサシン、テメェはそっちの路地から隠れながら接近しろ。」

セイバーが右の路地を指差す。

「気配遮断使えるだろ。見えない敵がいると相手が思っているだけでも大分やりやすくなる。」

「了解だセイバー。」

そう言って離脱するヘイヴィア。1、2秒でフッと先程まで感じていた気配が消える。

そこへ敵の放つ矢が着弾、爆発を起こす。

その衝撃で少し飛ばされるが着地。続けて放たれる矢を弾きながら獅子劫とすれ違う。

「敵のサーヴァントは引き受けた!」

「頼む、マスターの方は任せろ!」

それを聞き、走りながら叫ぶ。

「任せた‼」

ふと思う。

「(まさかオレが、魔術師なんて輩を信用するとはな……。)」

 

「さて、と。」

煙草を投げ捨て、視線を斜め上に向ける。

「自己紹介は、省いて構わないよな。」

「そうでしょうね、お互い名を知らない筈はありませんし。」

そう答える嫋やかな声、だが、その声は地上から7メートル程から発せられていた。

金属の四本の脚、節足動物を思わせるそれが、建物の外壁を掴む様にしてその少女、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアの体を支えていた。

「ただ、一応警告させていただけないでしょうか。」

「どうぞ。」

「立ち去りなさい、死霊魔術師(ネクロマンサー)。」

先程とは違う、凛とした声を発する。

「ここは遍く全て、千界樹ユグドミレニアの大地。踏み入った無礼は不問に処します。この警告を看過する様であれば、」

「死という等価をもって、愚行の代償を支払っていただきます。」

「へぇ。で、俺が聞くと思ってるのか?」

「いいえ、でも、こうして宣言しておかないと、私の内側で覚悟が決まらないので。」

そう、にこやかに語るフィオレ。

「へぇ。」

何かを呟く獅子劫、壁に貼られていたチラシが、意思をもっているかの様にフィオレの顔に貼りつく。

そして、一射目が放たれた。




工兵vs殺人鬼
叛逆の騎士&レーダー分析官vs半人半馬の弓兵
死霊魔術師VSブロンズリンク・マニピュレーター


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅵ

それでは、どうぞ。


さて、黒のアサシンを追撃すると言った所で、手負いとはいえ自分よりも敏捷値の高い相手に追いつけるモノだろうか。

「とか思ってたんだけどな……。」

「どうしたのー?」

「いや、なんでもないよ。」

正面を向く、黒のアサシンがいる。

もう一度向く。やっぱりいる。

「はぁ……。」

考えてみれば簡単な事だった。

魔力が足りず、腹を空かせる黒のアサシン、そんなモノに魔力の塊であるサーヴァントが単騎でホイホイと近づいていったのだ。

向こうからしてみれば、餌が自分で寄って来るようなものだろう。

では何故クウェンサーはこんなにも落ち着いているのだろうか。

それも簡単なことだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(こんな状況、あの"島国"の言葉で何て言うんだっけ。)」

左手のあった場所から伝わる痛みに耐えながら、クウェンサーは考える。

「あ、あれだ。 絶体絶命。」

その瞬間、黒のアサシンのナイフが振るわれた。

 

 

赤のセイバーが壁を駆け登る。

先程までこちらを狙撃、爆撃していた敵を壁の上に目視する。

茶髪を後ろの低い位置で後ろに纏めた男だ。 弓を持っている事から、アーチャーで確定だろう。

走りながらも思考する。

 

アサシンからの援護もある、

充分だ、ここで仕留める!

 

上から射られるが、避け、時には弾きながら接近する。

壁が途切れた所で一太刀目、紙一重で躱される。

だが本命は次!

上部にある塔に着地。そのまま傾斜を利用し滑り降りる様に接近する。

「獲ったぞアーチャー‼」

右から左への胴切り、そこから連続しての袈裟斬り、どちらも後ろに跳ぶ事で回避される。

「なにっ‼」

その体勢が崩れた所へ、アーチャーが落下しなが何本もの矢を放つ。

鎧や剣に弾かれる。だがその内の一本が、セイバーの上腕へと突き刺さった。

 

「(これは無傷では勝てんな……。)」

落下しながら壁を見上げる黒のアーチャー。その視線の先には、矢が当たったことで激昂し、赤雷を撒き散らす赤のセイバーが映っていた。

後転で勢いを殺しながら着地、右手を前に出し、左手を後ろに引き込み迎撃体勢を整える。

「くたばりやがれッ‼」

赤のセイバーが赤雷を纏い、魔力放出で彗星のように加速して降ってくる。

剣を振り下ろされた瞬間、左手でセイバーの腕を掴む。肩に刃が食い込むが、ダメージを無視して右手を脇腹へ。

ベクトルを捻じ曲げ、地面に叩きつけるようにして投げ飛ばす。

それは、古代ギリシャにて伝えられし、現代では失われた格闘技。

 

「失礼、これがパンクラチオンです。」

 

「ガハッ!」

吐血するセイバー、だが瞳は闘志が漲り、今にも襲い掛からんとする表情だ。

立ち上がろうとしたその時、

「避けろセイバー!」

後方から聞こえる声、その声は。

「遅ぇぞアサシン!」

そう答え、背後に振り向くセイバー。だが、一瞬でその表情が固まる。

それもその筈、ヘイヴィアが肩に担いでいる武器をセイバーもアーチャーも見た事は無いが聖杯からの知識により知っている。

それは近代において、兵士が単独で運用出来る中で最も破壊力の高い兵器の一つ。

()()()()()()()()()()

「テメェ俺ごと爆殺する気か⁉」

「文句なら後で聞く!全力で逃げろ!」

引き金が引かれ、弾体が黒のアーチャーに向け発射される。

シギショアラに、再び爆炎の花が咲いた。

 

 

「クッソ、キツいな……。」

脚を引きずりながら歩くクウェンサー、そのふらついている様子は一見すると酔っ払いの様だが、よく見るとシュルエットがおかしいのが分かる。

まず左手は肘から先が存在せず、切断面はスッパリと切られたようになっている。

また、その身体には幾つもの切り傷が刻まれ、所によっては医療用のメスが突き刺さったままになっている。

これらの傷は全て、黒のアサシンによって付けられたものだ。

黒のアサシンとクウェンサーの戦闘は完全にかくれんぼの様相を呈していた。

クウェンサーが隠れながら逃げ、それを黒のアサシンが追跡、襲撃する。そこからまたクウェンサーが逃走する。このやり取りをもう幾度も繰り返していた。

そして今も……。

「あはっ、見ーつけたっ!」

「チッ‼」

前に跳ぶようにして避ける。そこに上から降ってきた黒のアサシンがナイフを突き立てる。

「あなたしぶといね!普通だったらもう死んでるのに!」

「生憎、スキルで戦闘続行持ってるからなっ。」

「そっかー。でもそろそろお腹減った!」

そう言ってナイフを投擲する。

右肩に突き刺さり、倒れ込むクウェンサー。

そこに追撃しようと黒のアサシンが接近するが、

「これでも食らってろ!」

掌サイズの直方体が投げつけられる。

「また?」

それはハンドアックスという爆弾である。

しかし、先程から何発かクウェンサーが仕掛けたトラップを見た黒のアサシンはその効果範囲を既に把握していた。

後退し衝撃から顔を守る。だが……。

ゴトッ

「あれ?」

爆発が起きない。

それもその筈、そのハンドアックスには信管が付いていなかった。

「あっ!」

前を向く。既にクウェンサーは逃走しており、気配遮断によって気配も追えなくなっていた。

「あはっ、あははははっ‼」

つい、笑いが漏れる。

「そっか、まだ逃げるんだ。楽しいなぁ。早く殺して食べてあげないと‼」

再び追跡を開始する。

「待っててね。すぐに殺してあげるから!」

 

かくれんぼはまだ続く。




ありがとうございました。


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かくれんぼには十秒数えろ シギショアラ夜間市街地戦Ⅶ

お願いします。


「全く、無茶をしますね……。」

 

  ヘイヴィアの放った携行型対戦車ミサイルを辛くも回避した黒のアーチャー、だが弾体の直撃は避けたが爆風までは防ぐ事が出来ず、右手に浅くはない傷を負っている。

  周囲はもうもうと黒煙が覆い、赤のセイバーの状態も確認出来ない。

であれば、これ以上は不利となるばかりか……。

 

「(すみませんマスター、仕損じました。)」

 

 赤陣営、セイバーのマスターである獅子劫界離対黒陣営、アーチャーのマスターであるフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 獅子劫の放った銃弾により始まったこの戦闘は現在、膠着状態に陥っていた。

 

 一度はフィオレを追い詰めた獅子劫だったが、車で撥ね、体勢が崩れた所へ放った銃弾をフィオレの弟であるカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアの魔術により防がれる。そして体勢を立て直したフィオレからの銃撃により、獅子劫は遮蔽物としている車の裏に釘付けにされていた。

「こりゃあ、虎の子を使うしか無いか!」

手に持った、棒状の物体に目を向ける。だが突然、先程まで嵐の様に連射されていた銃撃が停止した。

「どうやらここまでの様です。」

そう声がかけられる。

 

「撤退するのか?」

「ええ、次はトゥリファスでお待ちしています。そちらで決着を着けましょう。」

言うが早いか、その場にいたもう一人、カウレスを小脇に抱え、壁を跳んで撤退して行く。

「サーヴァントに何かあったか……。」

 

「(了解しました。ありがとう、マスター。)」

撤退する旨を念話で伝えたアーチャー、その時、

 

「くたばれぇーッ‼」

 

黒煙を切り裂いて、赤のセイバーが突撃してくる。背後は壁、であれば……。

 

「逃げるかアーチャー!」

 

空中に跳んだアーチャーに向って、セイバーが吼える。

 

「ええ、このままでは、こちらの敗北です。お互いに痛み分けと言う事で。」

「テメェ!待ちやがれ!」 

 

追撃しようとするが、アーチャーの射た矢に阻まれ、遂には見失う。

 

「チッ、くそったれが‼」

思わず掴み取った矢を地面に叩きつける。そこへ声をかける男が一人。

 

「撤退して行ったか……。」

「アサシン、テメェ何であそこで俺ごと撃った⁉」

 

セイバーもヘイヴィアの放った対戦車ミサイルに当たりはしなかったものの、爆風により少しばかりのダメージを受けていた。

 

「済まねぇ、だが、どうしてもこの戦闘を早く終わらせたかった。」

「どう言う事だ?」

「ああ、状況は最悪だ。」

顔を顰めて言う。

 

「クウェンサーの野郎が死にかけてやがる。」

 

 

シギショアラの路地は複雑に入り組んでおり、一本メインストリートから外れてしまえば地元民でもない限り迷ってしまうだろう。

そんな路地の奥、行き止まりとなった袋小路にクウェンサーは倒れていた。

その体は正に満身創痍、放っておけばスキルに戦闘続行があろうと後一時間もたたずに消滅するだろう。

「あはっ、もう逃げられないね‼」

「ああ、そうだな……。」

 

上体を起こし壁にもたれかかる。声のした方を向くと、黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパーがニコニコと笑顔で歩み寄って来た。

 

「楽しかったね!ね、あなたもそう思わない?」

「いや、コッチはお前に殺されそうになってるんだが……。」

「もう、お前じゃなくてジャックって呼んでって言ったでしょ?それに、」

 

じゅるり、小さな赤い舌で唇についた血を舐める。

 

「殺されそう、じゃなくて殺すんだよ?」

「(ああ、今の動作エロいな……。)」

 

朦朧としているのか、全く関係の無い事を考えるクウェンサー。

 

「もっと遊びたいけど、そろそろ魔力も補給しないと。」

 

そう言って近付いてくるジャック、だが、

 

「なあ、粘土で遊んだ事あるか?」

「へ?」

 

クウェンサーが突然問いかける、一見意味の無い質問に戸惑うが。

 

「うん、この前おかあさんが買ってくれたよ!」

「お母さん……?まあいいか、粘土ってのは形を加工するのに適しているんだ。物の隙間に詰めたりも出来るしね。」

「うん……。」

 

何を言っているんだこいつは、

警戒を最大限にする。何を企んでいるかはわからないが動きを見せた瞬間に首を落とすと決意する。

 

「さっきから投げてた爆弾あるだろ、あれはハンドアックスって言って、粘土と同じ様に加工出来るんだ。つまり……。」

「ッ‼」

 

察しがついた、()()をさせる前に殺そうと一歩踏み込むが、

グジュ!

足下、踏み込んだ場所にあったレンガが潰れた。

()()()()()()()()()()()()()()()()

脚を取られ、思わずたたらを踏む。

クウェンサーの手には、既に起爆用の無線機が握られていた。

 

「レンガに偽装しておく事も出来る!」

「あっ…。」

 

スイッチを押し込む。無線機から電波が発せられ、ハンドアックスに差し込まれた信管がその電波を受信、起爆する。

シギショアラの街に、三度爆発音が響いた。

爆発はジャックの足下で起きた。

 

「やったか……。」

 

普通であれば、今ので撃破できたかもしれないだろう。だが、現実は非情であった。

 

「あはっ、あはははははははッ‼」

 

粉塵の奥に、ゆらりと人影が立ち上がる。

 

「おい、冗談だろ……。」

 

呻く様に呟くクウェンサー。立ち上がったジャックは全身に傷を負っていたが、何よりも目立つ所が一つ、

 

右脚が存在していなかった。

 

その断面は爆発でもぎ取られたのでは無く、鋭利な刃でスッパリと切断されたようになっている。

恐らく起爆の瞬間、右脚で爆弾を強く踏むことで爆発を抑え込み、それを切断しながら残った左脚で後ろに全力で跳ぶ事で即死を免れたのだろう。

だが、そんな躊躇無く自分の足を斬り捨てる事など出来るのだろうか。

 

「びっくりした、死んじゃうかと思ったよ。」

「ほら見て、足無くなっちゃった!」

「だから、あなたの右脚をちょうだい!」

 

ジャックが嗤いながら、クウェンサーにナイフを投げつける。だが、クウェンサーはもう避ける事すら出来ない。

覚悟を決め、目を閉じる。

 

「随分と男前になってんじゃねーか。」

 

ふと、幾度も聞いてきた声がした。

ギィン!

投げつけられたナイフがヘイヴィアの軍用ナイフによって弾かれる。

 

「遅いんだよ……!」

「悪い、向こうで手間取ってた。」

 

ジャックに銃口を向ける。

「これで二対一だ。どうする、まだ続けるか?」

少しの逡巡、だが、

「うん、おかあさんにも帰ってきなさいっていわれたから、帰るね。」

 

あっさりと撤退を認めるジャック、霊体化しようとするが、ふと振り返る。

 

「そういえば、あなたのお名前、なんて言うの?」

「俺か?」

「うん、あなた!」

クウェンサーを指差す。

 

「クウェンサー・バーボタージュだ。」

「くえんさー、よし、覚えた!また遊ぼうね!」

 

そう言い残し、去って行く。

暫く警戒を続けるが、本当に撤退して行ったと判断し、力を抜く。

 

「やっと終わったか、にしてもテメェ、何か懐かれてねぇか?」

問いかけるヘイヴィア、だがクウェンサーからの反応が無い。

 

「おい、どうした?」

「やばい、死ぬ……。」

「あ、忘れてたぜ。」

 

そう、現在クウェンサーは瀕死の状態、魔力を補給しなくては死にかねないのである。

 

「おい、無事か⁉」

そこへ遅れてセイバーと獅子劫が駆けつける。

 

「獅子劫、何か魔力を補給出来るようなモノは無いか⁉」

「いや、あるにはあるが……。」

「出してくれ、このままだとクウェンサーが死ぬ。こいつが死ぬのは別に構わねぇが俺まで消えちまう。」

「わかった、これだ。」

 

そう言って懐から二つ、握り拳ほどのサイズのモノを取り出す。それは……。

 

「なあ、それ、心臓に見えるんだが……。」

「ああ、戦闘時に爆弾として使っているヤツだ。魔力は込めてある。」

「それでいい!」

「いや、よく無いよ‼」

「ちなみに死体から獲ってきたモノだ。」

「その情報は完全に聞きたく無かった‼」

「もういい!セイバー、ソイツ羽交い締めにしてくれ。」

「おう!」

 

セイバーが後ろから羽交い締めにする。抵抗しようとするが、筋力B+に押さえつけられる。

 

「ちょっと待て、他に方法は無いのか!」

「無い、諦めて受け入れろ。」

「そんな、獅子劫、助けてくれ!」

 

獅子劫に助けを求める。だが、獅子劫は煙草を吸いながら、聞こえないふりをしていた。

 

「なあヘイヴィア、俺たち友達だよな……。」

ゆっくりと口に近付いてくる心臓、クウェンサーはそれを受け入れるしか無い。

 

「それとこれとは話が別だ。」

 

 

 

 

 

「アッー‼」

シギショアラに絶叫が響いた……。




ねじ込まれました。(口に)


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ステータス クウェンサー&ヘイヴィア

どうぞ


【クラス】

アサシン

【出典】

ヘヴィーオブジェクト

【真名】

クウェンサー=バーボタージュ

ヘイヴィア=ウィンチェル

【属性】

中立・善

【性別】

男性

【マスター】

???

【ステータス】

筋力 : E

耐久 : D

敏捷 : E

魔力 : E

幸運 : EX

宝具 : A

【クラス別スキル】

気配遮断 : C

自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てば発見は難しくなるが、攻撃体勢に移るとランクが大きく下がる。

 

【固有スキル】

軍隊行動 : C

生前軍に所属していた事により会得したスキル。Cランク相当の「気配遮断」「破壊工作」「単独行動」を得る。

 

戦闘続行 : C+

決定的な致命傷を負わない限り生き延び、戦闘し続ける「往生際の悪さ」

絶望的な状況下でオブジェクトという強大な相手を撃破し続けた事からスキル化したもの。

 

星の開拓者 : EX

人類史のターニングポイントになった英霊に与られる特殊スキル。

あらゆる難航・難行が「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。

オブジェクトでしか破壊出来ないとされた超大型兵器オブジェクトを生身で破壊し、世界の戦争のルールを覆した。

 

【宝具】

ただ人の身で成せし偉業(エクスプロイト・ドラゴンキラー)

ランク : B

種別 : 対軍宝具

レンジ : 1〜10

最大補足 :1〜⁇

生前クウェンサーとヘイヴィアが■■もしくはそれに貢献した■■■■■■を召喚する。1■■■、1■■単位でも召喚が可能だが、非常に消費魔力が大きく、基本的に令呪でブーストをかけなければ発動できない程燃費が悪い。

 

『■■■■■■■■■■』

ランク : A

種別 : ■■宝具

レンジ :1〜99

最大補足■■■

クウェンサーとヘイヴィアの■■と■■■■に■■■■■■■■■■■■を■■する。■■という■■■■■しか現■■

■■■■■■■■■■■■■■■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

【使用兵装】

ハンドアックス

クウェンサーが軍から支給されていた爆薬。グラム単価はプラチナより高いと言われているが、製造に用いる触媒が高額なのであり、ハンドアックスそのものには換金性はあまり無い。

起爆は粘土状のハンドアックスに電気信管を刺し、無線機で起爆信号を送る事で行う。粘土状であるため隙間に詰めたり形を加工したりと言った事も可能。

 

正統王国制式採用アサルトライフル

光学スコープや赤外線カメラ、索敵マイクなど各種アタッチメントを取り付け可能。さらに ヘイヴィアはサイドアームとして50口径の自動拳銃を所持している。




こんなステータスで戦っていけるのかこいつら……。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅰ

サブタイトルの阿呆はアホウと読んで下さい。


「ランサー、呼び立てて申し訳ありません。」

 

中央に巨大な玉座のそびえる空間。そこに赤のサーヴァント達は集められていた。

 

「構わない。いよいよか。」

「はい、直ぐにアサシンも来ます。詳しい事はそれから……。」

「来たよー。」

「ったく、コッチはついさっきまで戦ってたんだけどな。」

 

そう言って扉から入ってくるクウェンサーとヘイヴィア。彼らは半日ほど前まで黒のアサシンと戦闘を行っていた。

 

「到着しましたか、アサシン。」

「ああ、全員集まっているって事はつまり……。」

「貴方には話してありましたか。」

「ともあれ、皆揃うたな。」

 

コトミネの隣、玉座に座ったキャスターが口を開く。

 

「準備が整った今こそ、打って出る時期だ。」

「えー、働きたく無ーい。」

「ブラック企業かよ此処は。」

 

茶々を入れるクウェンサーとヘイヴィア、だが……。

「せっかくの聖杯大戦だ、派手に行こうでは無いか。のう?」

「おっとクウェンサー、スルーされたぞ。」

「女王様には下々の言葉なんて聞こえないんだよ、きっと。」

 

ハッハッハッハ、笑うクウェンサーとヘイヴィア。

ドゴッ‼

 

クウェンサーとヘイヴィアの間をキャスターの放った魔術による砲撃が通り抜けた。

 

「「……。」」

「(…おいヘイヴィア!何も言わずに撃ってきたんだけど‼)」

「(…まずいな、キレさせたか。)」

「(まずいな、じゃねーよ!どうするんだよコレ!)」

「おい、アサシンよ。」

「「はいッ!」」

 

思わず姿勢を正すクウェンサーとヘイヴィア。

 

「次は、無いと思え。」

「「スイマセンデシタ!」」

 

そして飛び出すは極東の島国に伝わる伝家の宝刀、

DOGEZAであった……。

 

「話は逸れたが、これより黒の陣営に強襲を仕掛ける。」

「わざわざ城を造って、立て篭もる準備を整えたのか?」

 

ライダーが問いかけるがその疑問も最もだろう。

城とは本来、防衛するものなのだから。

 

「ライダー、お主は前提が間違っておるぞ。」

「は?そりゃどういう事だ?」

「まぁ、外を見てくるが良い。」

「あ?」

 

虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)

赤のキャスター、セミラミスが生前作り上げたと伝えられる空中庭園

その実態は一言で表せば "空中要塞" である。

 

「おいおい、こりゃ何の冗談だ……。」

 

思わず目を見開くライダー、その隣ではアーチャーも呆然としている。

何しろ、城が宙に浮き、移動しているのだ。驚くのも無理は無い。

 

「驚いたであろう。この城は、守るために存在しているのでは無い。」

「空中要塞、という事か。」

「成る程、こいつで攻め込むって訳だ。」

「大したものだな。」 

 

滅多に感情を表に出さないランサーですら、驚愕を表している。

 

「この速度であれば、黒の陣営が我々を視認出来る距離まで、そう時間もかからないでしょう。」

 

「それでは皆さん、戦闘準備を。」

 

「そういえばこれ、頼まれていた備品だ。」

「ありがとうございます、アサシン。」

「ったく、サーヴァントをパシリに使うなよ。」

 

コトミネにビニール袋を手渡すクウェンサー。

その中身は、洗剤や日用品など、黒のアサシンと交戦する前に買っていたものだ。

 

「サーヴァントと違い、この様なものが必要になるのは生身の辛い所ですね。」

「確かに、この体になってからはあんまり必要としなくなったからな……。」

「そういえば、貴方の要望もキチンと取り込んでいたとキャスターが言っていましたよ。後で確認しておいてください。」

「マジか、了解した。」

 

確認に向かうクウェンサーを眺めながら、ポツリと呟く。

「それにしても、あんな場所とあんなモノ、どう使うのでしょうか?」

 

 

ミレニア城塞到着まで、後四時間




まだまだクウェンサーとヘイヴィアの宝具が出せない……。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅱ

どうぞ、


始まった。

ミレニア城塞前にて黒陣営と赤陣営が激突する。

赤陣営はホムンクルスとゴーレムの混成編成、対する黒陣営はキャスター、セミラミスの召喚した竜牙兵。

数多の雑兵、その一騎はサーヴァントには遠く及ばない。

あくまで戦争の主役はサーヴァント。黒の七騎と赤の七騎。だが、

()()()()()()()()()()()()()()()()()

生前、クウェンサーとヘイヴィアが何度も行ってきた行為。オブジェクトを何基も破壊した。撃破した。だが、その全てが綱渡り。奇跡を、悪運を積み重ねた結果。

だから、再び同じ事をしろと言われても、する事は不可能に近い。

だから、そう、彼等がオブジェクトの天敵である様に、オブジェクトも彼等の天敵であるのだろう。

つまり、何が言いたいかというと

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「我が弓と矢を以って太陽神(アポロン)月女神(アルテミス)この加護を願い奉らん。」

 

凛とした声が響く。赤のアーチャー、アタランテが弓に二本の矢をつがえ、天に向ける。

それは彼女の伝説より昇華されし宝具、矢では無く、天に向け矢を射る事こそが宝具。

 

「この災厄を捧げん。」

「『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』‼」

 

矢が放たれた。放たれた矢は天へと昇って行き、そして、

豪雨の如き矢の雨が降り注いだ。

ホムンクルスもゴーレムも、皆頭上より降り注ぐ矢の雨に貫かれ、命を落としてゆく。

 

「露払いは終わったぞ。交代だ!ライダー!」

「応‼」

 

銀色の鎧を纏った美丈夫が立ち上がる。その顔には、隠し切れない喜びが滲み出ている。

空中庭園を飛び出し、空中へ躍り出る。指笛を吹き、呼び出した戦車へと飛び乗る。

 

「さあ開戦だ!赤のライダー、いざ先陣を切らして頂こう!」

「では、行って来る。」

 

それを追う様に、アーチャーとランサーが飛び降りる。

 

「さて、それじゃあ、コッチも予定通りに。」

「上手く行けばドンパチせずに済むんだろ。楽じゃねーか。」

 

ライダー達を見送ったクウェンサーとヘイヴィア。彼らはこの空中庭園の進行を妨げる()()()()()()が現れた際に対応する役目を担っているため、未だ空中庭園にて待機していた。

 

「何も出ないと良いんだが……。」

「大丈夫だろ。サーヴァントが来てもコイツなら防げる。俺らの出る幕は無えよ。」

 

だが、彼らは運命からは逃げられない。

 

中央に強大な玉座のそびえる間、そこでクウェンサーとヘイヴィアは文字通り"観戦“していた。

 

「ライダーの野郎、楽しんでやがるなアレ。」

「通った所、轢死体ばっかりだね。」

 

壁に沿って、空中に投影するように戦場の様子が映し出されている。

 

「アサシン、少しいいですか?」

クウェンサーとヘイヴィアの後ろ、玉座の階段に座っていたコトミネが声をかける。

「どうした?深刻そうな顔をして。」

「啓示が降りました。ルーラーが此方に向かって来ます。」

「ルーラーって言うと、この間話してたヤツか……。」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「まさか倒して来いなんて言わないよな……。」

「ええ、それは流石に。此度の聖杯大戦では、彼女もまた啓示に導かれている。ゆえに、互いの啓示をどの様に解釈し、どの様に利するか、それが私と彼女の戦いという事になるでしょう。」

「そうか、ならいいけど。」

 

そこでふと、先程から一言も話していないヘイヴィアに疑問を抱いた。ヘイヴィアの方に目を向けると、彼は食い入る様に空中に投影された内の一つ、戦場の全体を俯瞰する様に映したものを見つめていた。

 

「どうしたヘイヴィア、さっきから黙りこくって。」

「なあ、クウェンサー、あれ、おかしくねぇか?」

 

そう言って映像を指差すヘイヴィア。暫く眺めたクウェンサーにも、それが分かった。

まず、ゴーレムの数が圧倒的に少ない。

召喚されて暫くした後、クウェンサーとヘイヴィアはこのミレニア城塞の偵察に来ていた。その際にはかなりの数のゴーレムを確認出来た上に、そこから時間が立っているため、さらにゴーレムが増えていてもおかしくは無い。

だが、この戦場においてゴーレムは要所にしか配置されておらず、全部で15体もいない様に見える。

次に、ミレニア城塞前に、ぽっかりと直径70〜80m程の空間が空いており、ゴーレムもホムンクルスも寄り付かない謎の円形の空間が出来ている。そう、まるで、その空いた空間に何かがあるように。

 

「何だこれ……。」

「ゴーレムが少なくなったということは、その分を何かに使った……?」

「何かってなんだよ。」

「それが分からないから考えてるんだよ。お前も考えろレーダー分析官。」

 

だが、その直後、疑問は氷解する事となる。

 

突如、空中庭園が大きく振動した。

まるで砲撃を受けたかのように。

 

外部の様子を投影していたものも、ノイズが混じり見えなくなる。

 

「なんだなんだ!」

「まさか、攻撃か?」

「落ち着いて下さい、映像が復活します。」

そしてノイズが晴れ、映像が復活する。そして、

「嘘だろ……。」

「なんでコイツが此処にあるッ⁉」

ソレを、目撃した。

 

 

直径50m程の球体状の構造物であり、その右側には余りにも強大な砲が接続され、此方を睨んでいる。後部には巨大な構造物が放射状に生えており、球体表面には無数の砲がハリネズミの様に据え付けられている。

材質こそクウェンサー達の知っている様なものでは無く、黒い岩の様なものに見えるが、その表面には無数に枝分かれした青く発光するラインが走っている。

そんなもの、そんな巨大兵器が、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




ありがとうございました。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅲ

それでは、どうぞ。


「あれはゴーレムでしょうか?それにしては大きすぎる様な……」

 

首を捻るコトミネ、彼の目は先程砲撃を仕掛けて来た謎の物体(オブジェクト)を捉えていた。

 

「先程の砲撃から動きが無い……。アサシン達はアレが何か分かりますか?」

「「イヤーワカラナイナー」」

「そうですか、しかし……」

 

彼らは現在空中庭園の端に移動し、遥か眼下に存在するそれを観察していた。

考え込むコトミネ、その後ろで、クウェンサーとヘイヴィアはコソコソと話し合っていた。

 

「(おいクウェンサー!なんでアレがこの世界に存在するんだよ!)」

「(知らないよ!まさか、敵のサーヴァントに俺達の世界の人間が……。)」

「(それは無ぇよ、俺らの世界にゃゴーレムなんて存在し無かっただろ!)」

「(それもそうか、そうなるとつまり……。)」

「(偶然あの形になったか……。)」

「(此方の世界で造り方を知った、って事か……。)」

「(なあクウェンサー、俺ちょっと心当たりが有るんだが……。)」

「(奇遇だなヘイヴィア、俺も少しばかり心当たりが出て来た。)」

「(やっぱ"あの時"だよな……。)」

「(ああ、あの時投げた携帯端末の中身を見られたんだろう……。」

「(これ、ばれたらマズイんじゃねぇか?)」

「(ああ、ばれる前にどうにかしなきゃ……。)」

「(特にキャスターにばれたらヤバイぞ、果たして何をされるが……。)」

「(ああ、キャスターには絶対にばれちゃいけない、絶対にだ!)」

思いを一つにするクウェンサーとヘイヴィア、だが、現実はそう甘くは無い。

「(さて、じゃあどうキャスターを誤魔化すかを……。

 

 

()()()()()()()

 

 

ピシッ、と空気の凍る音が響いた。

恐る恐る振り向くクウェンサーとヘイヴィア、そこにはやはり、

 

「いたのか、キャスター……。」

「まさか、今の話……。」

「ああ、聞いていた。」

「ちなみに、何処から……?」

「最初からだ。」

 

それは事実上の処刑宣言。まさしく蛇に睨まれた蛙の様になるクウェンサーとヘイヴィア。

 

「さて、詳しく説明して貰おうか。」

「「あっ、ハイ……。」」

 

 

かくかくしかじか

 

「つまり、だ。」

 

コメカミに手をやり、心底呆れた様に溜息を吐くキャスター。

 

「汝らの落とした携帯端末を拾われ。」

「「ハイ。」」

「そこに入っていた設計図を見られ。」

「「ハイ。」」

「アレが造られた。という訳か。」

「「ハイ。」」

「阿呆か貴様らは。」

「「返す言葉もございません。」」

「まあキャスター、その辺りで……。」

 

キャスターを宥めるコトミネ。その間クウェンサーとヘイヴィアは地面の上に直接正座をさせられていた。

生前にも上官であるフローレイティアに正座をさせられていたが、あの時は床、今回は地面に直接である。

 

「(ヤバイ痺れてきた……。)」

「(我慢しろクウェンサー!此処で動いたらまた何か言われるぞ!)」

「(そうは言っても……。)」

「おい、聞いておるのか?」

「「ハイ!大丈夫です!」」

「……、まあ良い。しかし、此方の魔力から言ってあの砲撃を余裕を持って防げるのも後十回程度だろう。そこでだ。」

「(おいヘイヴィア!何か嫌な予感がするんだが……。)」

「(奇遇だなクウェンサー。俺もだよ!)」

 

遥か下にあるオブジェクトを指差すキャスター。

 

「アレ、貴様らが破壊して来るがよい。」

「いやいやいや、アレの相手はキツいと思うんだが。」

「何故だ?生前何度も破壊したのであろう?」

「いやまあ、そうだけどな……。」

()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

「アレが終わってませんからね。急いで終わらせます。」

苦笑いしながらコトミネが言う。

 

「いいから行って来るがよい。倒して来るまで帰って来てはならぬぞ。」

そうキャスターは言うと、クウェンサーとヘイヴィアを()()()()()()

 

「「え?」」

 

そしてそのまま落ちて行くクウェンサーとヘイヴィア。普通であればキャスターに蹴られた程度で落ちる様な事は無かっただろう。

だが彼らは正座で空中庭園の縁に座っていた。そこを上半身を押す様に蹴られたのだ。

突然の事に抵抗する間も無く、クウェンサーとヘイヴィアは真っ逆さまに落ちてゆく。

 

「あの女巫山戯んなコノヤロー‼」

「叫んでる場合か!このままだと地面に激突するぞ‼」

「畜生、何時もこんな役回りばかりだ‼」

「いいから黙ってろ!舌噛むぞ!」

 

何秒経っただろうか。クウェンサーとヘイヴィアが地面に"着弾"した。

余りの衝撃に悶えるクウェンサーとヘイヴィア。

 

「ゲホッ!痛ってぇ……。」

「全くだ。生身だったら死んでたぞ!」

「ったく、にしても()()()()()()()

 

辺りを見回すヘイヴィア。だが着弾の衝撃で上がった土煙によって視界が阻害されている。

 

「周りが見えない。爆風で土煙を吹き飛ばすか?」

「辞めておけ、此処は敵地のど真ん中だ。んな事したら直ぐに包囲される。」

「そうか……。」

 

そして土煙が晴れ、見通しが良くなる。

現在位置の約500メートル程後ろには黒の陣営の本拠地、ミレニア城塞が。そして、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ゾッ‼

背筋が凍る。約5メートル先、オブジェクトが此方を向いていた。

 

「「(なんて所に落としてくれやがったあの女‼)」」

 

クウェンサー&ヘイヴィア対オブジェクト、生前を再現したかの様なその戦いは、絶体絶命の状況から始まった。




ありがとうございました。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅳ

まだまだ長くなりそうです。


オブジェクトとの距離5メートル。

主砲、副砲を使うまでも無いこの距離で、オブジェクトの取った行動は単純。

その重量で敵を轢き殺す

 

ゴゥン、と脚部の車輪が回転し始める。

その回転数は急激に増し、3m程の間に時速100kmを叩き出す。

そして、クウェンサーとヘイヴィアのいた場所を()()し、振り向いて跡形も無い事を確認した後、そのままミレニア城塞の方向へと向かって行く。

その車輪に轢かれたモノは、原型もわからない程細切れにされているだろう。

轢かれていれば、の話だが。

 

 

「クウェンサー、生きてるか?」

「ああ、何とかな……。だけど背中が死ぬ程痛い」

「俺もだよ。コノヤロウ」

「オブジェクトは行ったみたいだな……」

「そりゃあ良かった。このままコンビニに行って時間潰してから帰ろうぜ」

「そうしたいけど、多分キャスターに俺達が潰されるよ」

「だよなー。あの女敵前逃亡とか許してくれなさそうだもんなー」

「多分フローレイティアさんも許してくれなかったけど……」

 

地面に寝転びながら話すクウェンサーとヘイヴィア。彼らは落下した地点から50mほど離れた場所に吹き飛ばされていた。

 

「にしてもヘイヴィア、一歩間違えば死んでたよアレ。」

「仕方ねぇだろ。アレしか思い付かなかったんだよ。」

 

 彼らがオブジェクトを躱した方法、それは敵が0.5世代をモデルにしていなければ絶対に行えなかった方法。

その場に伏せる。ただそれだけである。

 仮にベイビーマグナムと同じ静電気式推進機構やウィングバランサーの用いるエアクッション式推進機構では、下に潜り込んだだけで莫大な電圧によって弾け飛ぶか、エアクッションの巻き起こす風によってズタズタに引き裂かれるだろう。

 だが0.5世代をモデルとして造られたこのオブジェクトには、元と同じ設地重量分散式の車輪が使われている。

 そして、このオブジェクトはその車輪の集まったブロックを四つ並べた上に球体が乗ったような形をしている。

つまり、そのブロックとブロックの間にスペースが空いており、そこに自分の身体が収まるように身を伏れば轢かれることは無い。

 だが、巨大な物体が高速で動く際に起こされる風圧により、オブジェクトをやり過ごしたクウェンサーとヘイヴィアは吹き飛ばされた。

そのまま40m程飛んでから地面を転がり、地面の窪みに偶然嵌った事で、オブジェクトの眼を免れたのだ。

 

「見え無くなっただけで誤魔化せたという事は熱源や魔力を感知してるって事じゃ無い……」

「そうなると0.5世代と同じか?」

「ああ、恐らく光学センサー、カメラを使っているんだろう」

「そんな所まで0.5世代と同じなのかよ……」

「つまりあの時と同じだ。服に泥付けて行こうぜ」

そう言いながら服に泥を塗りつけていく。

「さて、これからどうするんだ?キャスターの話だと後十回ぐらいしか耐えられないんだろ?」

「でも俺達にはヤツに関する情報が足りない」

「0.5世代と同じじゃ無いのか?」

「主砲の形が違った。それに装甲の材質も既存の物と違う」

「じゃあどうするんだよ」

「調べよう。ヤツに関する情報を集めるんだよ」

「どうやってだ?まさか潜入する訳じゃ無いよな……」

「ああ、そんなことはしない」

 

上を指差すクウェンサー。その指差す先は、彼らが先程までいた空中庭園。

 

「あそこで暇してる女帝様に手伝ってもらおうぜ」

 

 

「この赤い所を押せばよいのか?」

「違うそこ押すと電源が切れる!そこの隣だ!」

「ええい紛らわしい!これでよいか?」

「それでいい。聞こえているか?」

 

クウェンサーは現在無線で通信をしていた。通信相手は空中庭園にいるキャスターである。

 

「ああ、先程よりもハッキリと聞こえておる。それで何をすればよいのだ?」

「ああ、今敵のオブジェクトがミレニア城塞に引っ込んでいる。上から撮った映像をヘイヴィアの携帯端末に送ってくれ」

「わかった。こうするのだったな……」

 

カチャカチャと何かを操作する音が無線から聞こえてくるが……。 

 

「なあ、アサシンよ」

「どうした?何か異常でも起きたか?」

「いや、何もしていないのに壊れたのだが……」

「コトミネに代わってくれ」

 

「はい、送信していますが、届きましたか?」

「ヘイヴィア、届いているか?」

「ああ、大丈夫だ。これで見れる。」

「助かった、ありがとうコトミネ。」

「いえ、頑張って来て下さい。」

そう言って通信が切られる。

キャスターが後ろで「機械じゃなければ…。」と呟いていたのは聞かなかった事にした方が良いのだろう。

「さて、どうなってやがる?」

クウェンサーとヘイヴィアが携帯端末を覗き込む。そこにはハッキリとオブジェクトやその周辺が俯瞰で映されていた。

「さて、何か見つかるといいんだが……。」

 




最後の方は決めているけど、そこまでが長い……。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅴ

遅れました。どうぞ。


「見ろよヘイヴィア。細部までハッキリと見えるぜ」

「ああ、それに奴ら、俺らが覗いてるって事に気づいてない」

「まったく、これだから覗きはやめられねぇ!」

「全くだ!」

「……。」

「……。」

「やめよう、無理にテンション上げても虚しいだけだ」

「そうだな……」

 

クウェンサーとヘイヴィアは現在、敵オブジェクトの弱点を探るため、空中要塞から中継された映像を確認していた。

 

「さてと、それでこれからどうするんだ?」

「さっきから気になっている事が二つある。一つは敵の装甲だ」

「さっきテメェが言ってたヤツか。既存の物と違うだとか」

「ああ、どんな材質で出来ているのか、俺達の持っている中での最高火力、お前の携行型対戦車ミサイルで抜けるのかといった所だな」

「そうかよ、それで二つ目は?」

「主砲についてだ。連続射撃できるのか、装填数はどのくらいなのかとか、そんな感じかな」

「その事で、、少し気になった事があるんだが……」

「何だ?」

「何でヤツは一発撃っただけで引っ込んで行ったんだ?」

「言われてみれば、対策をされる前にそのまま撃ち続ければ勝てたかもしれない。ならば何で……」

「まさか一発しか装填できないってことは無いだろうな」

「そんなわけないだろ、これ見ろ」

 

そう言って端末を示すクウェンサー。その画面には、オブジェクトを俯瞰している映像が映っているが、

 

「何かでかいモン積んでいるな、何だこれ?」

「多分主砲の弾薬だと思う」

「はあ?大きすぎるだろ。目測で5メートル近くあるぞ!」

「それが5発だな、一回の補給で5発か……」

「じゃあさっきは何で一発しか撃たなかったんだよ、何発も装填できるならそんだけ撃てば良かったじゃねぇか」

「多分、だけど」

 

そう前置きするクウェンサー。

 

「試し撃ちだったんだと思う」

「試し撃ち?」

「ああ、俺達はこの城塞に強襲しに来ている訳だからな。主砲のテストも終わっていない機体を出したのかもしれない」

「そういう事かよ……。」

「もしかしたら機体自体も急いで組み上げたのかもしれない。それならば何処かに不具合が生じる可能性も……」

「そうだったら良いんだがな、そんなに上手く行くもんじゃないだろ」

「ああ、分かっている」

「つまりだクウェンサー、結論を言え」

「現在装填された分まではまだ耐えられるけど、その次、もう一度装填されて撃たれたら……」

「それまでに倒さなければコッチが落とされる、って事か」

「ああ、それまでにどうにかしてヤツを倒さなければいけない」

「まったく、給料も出ないのによ……」

「っておい!画面見ろ!」

 

そう叫ぶヘイヴィア。そこにはゆっくりと動き出すオブジェクトが映されていた。

 

「動き出したか……」

「此処からどうするんだ?いくら天才のヘイヴィア様でも直ぐにはアイディアは出ねぇぞ」

「ああ、気になっている事のもう一つを調べようと思う。」

「もう一つ、ってのは装甲の事だったか?」

「ああ、材質とか強度とか、その辺りだな」

「どうやって調べるんだそんな物、オブジェクトにクライミングでもする気か?」

「そんな事自殺行為でしか無いだろ。それにオブジェクトに登るのはもう懲り懲りだ。それよりも楽に分かる場所がある」

「まさか……!」

「ああ、オブジェクトに弾薬を装填していた所、ミレニア城塞の内部。そこに恐らく換えの装甲とかが有るはずだ」

「敵地のど真ん中じゃねえか……」

 

 




ありがとうございました。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅵ

一ヶ月も間が空いてしまった……。


「おい、ヘイヴィア」

さて、潜入すると決めたはいいが、潜入するにも準備が必要だ。

「おい、聞こえてるだろ!」

例えば、目立たぬようにその場所に合った衣服に変装するなどが挙げられる。

そのためにクウェンサーとヘイヴィアは、殴って気絶させたホムンクルスから奪った衣服を着用しているのだが……。

 

「おい!」

「どーしたクウェンサー、そんなに声を荒げて」

「何で俺だけ女装なんだ⁉」

 そう、ユグドミレニアのホムンクルス用礼装(女性用)なのであるッ!

 

「仕方が無いだろ。折角気絶させて奪ったんだ。使わねぇともったいない」

「納得できるか!伝説の看板娘クウェン子ちゃんはもう封印したと言っただろ……」

「安心しろ。似合ってんぞ」

「テメェ……!」

 

そんな会話が有りつつも、アサシンとしての能力を遺憾無く発揮してミレニア城塞に潜入して行くクウェンサーとヘイヴィア。

そして、

「ここだよな……」

「ああ、さっきの映像とも一致する。此処で間違いないはずだ」

先程の映像と一致する空間を発見した。しかし、

「チッ、割と人が残ってやがる」

「6人か。ヘイヴィア、無力化できるか?」

「舐めてんのか。10秒で終わらせる」

 

取り回しを重視したためか、ライフルではなく拳銃を取り出すヘイヴィア。

 

「テメェは片付けを頼む。そのくらいは働けよ」

「はいはい」

銃口に消音器をねじ込み、ナイフを腰に装着する。

敵の位置を確認し、

「行くぞ」

 

内部へと躍り出る。

照準を手近に居るホムンクルスの頭部に合わせ、

パン

 

消音器(サプレッサー)により減衰された銃声が響き、額を撃ち抜かれたホムンクルスが糸が切れた様に地面へと倒れる。

そのまま2人目、3人目と撃ち殺した所で離れた位置にいた残り3人が此方へ気付くが、

「遅ぇ!」

 

その中で最も近くにいた敵の首をナイフで掻き切る。

残り2人。

立てかけてあったハルバードを取ろうとした敵にナイフを投擲する。

回転しながら飛ぶナイフは、まるで斧のように敵の側頭部を叩き割った。

悲鳴すら上げず、そのまま真横に薙ぎ倒される。

残り1人。

 

「敵しッ」

 

増援を呼ぼうと声を上げる最後の1人の首を掴み、壁に叩きつける。

首を締め上げながら壁に押し付け、

 

ゴキッ

首の骨を折る。事切れたホムンクルスは、ドチャリと地面に崩れ落ちた。

 

「終わったぞ」

 

「片手で首の骨折るとかバケモノかよ……」

ヘイヴィアが作った死体を一箇所にまとめながらそう漏らすクウェンサー。

「サーヴァントになったせいで多少は強化されてんだろ」

そう言いながら、首を折った最後の1人を引きづり、死体の山に追加する。

そこに落ちていたシートを被せ、死体を見つかりにくくする。

「こんなもんか。」

「良いんじゃねぇか。細かい所まで気にしてたらキリが無ぇ」

 

死体の偽装を切り上げ、本来の目的を再確認する。

 

「先ずはヤツの装甲を調べたいと思う。オブジェクトの装甲は一部を除いて高耐火反応剤を混ぜた鋼を何百、何千と重ね合わせたオニオン装甲でできている」

「流石にそれは整備兵じゃ無くても知っているな」

「だけど、あのオブジェクトの装甲は一見、磨いた石の様な質感だった」

「それが何なのか調べるわけか」

「ああ、まずはそれを探さなきゃな。予備か換えの装甲でも置いてあると良いんだが……」

「あれじゃ無ぇか?」

そう言って奥を指差すヘイヴィア。その視線の先を辿ると。

 

「本当だ、大量に積まれている……」

「とっとと確認しようぜ。いつ敵が来るかもわからないからな」

 

駆け寄り、しげしげと観察する。

 

「この手触りは、やっぱり金属じゃ無いな」

「つまりだ、ヤツの装甲は脆いのか?」

「この材質が岩石を加工したものだったらな。だけど妙だ、あのオブジェクトは防御を捨てているのか?」

「試して見ればいいじゃねえか」

「それもそうだな。それが一番手っ取り早い」

 

近くにあった機材を利用し、積まれた装甲のうち一枚を壁に立てかける。

 

「ヘイヴィア、コレに対戦車ミサイルを撃ってみてくれ」

「了解だ。だが、爆発音を立てれば敵がわんさか来るぞ」

「分かっている。だから結果をカメラに録画して後で解析する。お前が撃ったら敵が来る前に逃げるぞ」

「分かった。いつでも撃てる」

取り出した携行型対戦車ミサイルを構えるヘイヴィア。

「撃ってくれ」

 

携帯端末のカメラを起動したクウェンサーが発射を指示し、

「ッ!」

引き金が引かれ、弾体が発射される。

煙の尾を引いて飛翔する弾体は命中と同時に成形炸薬弾頭の効果によりメタルジェットを生み出し、装甲を穿つ、

だが……。 

 

「命中、したが…」

「マジかよ……」

 

装甲は、表面に微かな焦げ目がついているものの、成形炸薬弾頭による貫通効果など効かなかったかのように、穴の一つも空いていなかった。

「って、惚けてる場合じゃねえ!とっとと逃げるぞ!」

「今の音に気付いたヤツはかなりいるはずだ。無事に脱出出来るといいけど……。」

脱出のため走り出すクウェンサーとヘイヴィア。だが、

カツン

「これ、足音か?」

 

カツン

 

「もう来たのか。」

 

カツン

 

「この足音、ホムンクルス達の履いていたブーツじゃ無い……?」

カツン

 

「まさか……。」

 

そして、クウェンサー達が入ってきた所から、スッ、と1人の男が入ってくる。

 

カツンッ!

 

その男は、マントを羽織り、無貌の仮面を着用した怪人だった。

 

「僕の知らない間にネズミが入り込んでいるとは、参ったな。」

 

「テメェは……。」

 

「僕かい?僕は。」

 

 

 

「黒のキャスター、君達の敵だ。」




来年もよろしくお願いします。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦Ⅶ

久しぶりの投稿です
なのに話が全く進まない……。


さて、突然だがここでクウェンサーの格好を思い出して欲しい。

そう、クウェンサーは現在女装している。女装工兵クウェン子ちゃんになってしまっているのだ。

だからこそ、この様な悲しい勘違いが起きてしまうのも仕方ない事だろう。

 

「赤のアサシン、君達の事はランサーから聞いているよ」

「ランサー…、あの時のヒゲか…」

「ああ、偵察の時の……」

 

 そう言われて思い返すのは召喚されてからの初戦。ゴーレムに追われてサーヴァントにも追われたあの戦闘だ。

 

「彼からは君達を発見したら殺さずに連れて来いと言われている。おそらく自分の手で殺し(串刺し)たいのだろう。そこまで怒らせるとは、君達は一体何をしたんだい?」

「何って、そりぁ……」

そう言われて思い返す。

 

・携帯端末を顔面に投げつける

・足を引っ掛けて転ばせる

・フラッシュバンを投げつける

・目つぶし

 

「そりゃ怒るわ。」

「だな、こんな事されたら誰だってキレる。」

「それにアレに殺されるって事は串刺しだろ。嫌にも程があるよ!」

「知ってるかクウェンサー…、串刺しってケツの穴から刺していくらしいぞ」

「うわあ聞いてるだけでぞわぞわしてきたッ‼」

ぞわぞわぞわぞわーッ‼と悪寒に震えるクウェンサー。

「でもなんでそんな事知ってるんだ?」

「俺の婚約者の家系が昔な……」

「ああ、あの子の……」

 

  納得するクウェンサー。貴族の家系というのは総じて闇が深いものなのだ。

「それにしてもだ、情報の伝達はしっかりして欲しいものだ。」

突然、黒のキャスターがポツリと愚痴を漏らす。

 

「ランサーは赤のアサシンは男の2人組と言っていたが、どう見てもそちらの金髪の方は女じゃないか。」

「「ん?」」

 

そう、クウェンサーは現在女装している。つまり……。

 

「彼も一国の城主であるなら情報の正確性の価値がわかっているだろうに……」

「「こいつ、(クウェンサー)を女だと勘違いしてやがる!」」

「フフフフフフフフフフッ…!」

「おいヘイヴィア、笑うな」

「いや、けどな、フフッ…」

「おい。」

「フフフフフうごっ!」

 

  半ばキレかけたクウェンサーが拳をヘイヴィアのみぞおちに突き込む。

いくら訓練された軍人だとしても、みぞおちを殴られれば呼吸が詰まる。

その様子に気付いたキャスターが問いかける。

「もしかして、男なのか……?」

「ああそうだよ男だよ!」

「いや、その見た目で男……?」

「テメェ……!」

「クウェンサー、ぶっちゃけ俺からも女にしか見えない」

「フアッ◯ク‼」」

崩れ落ちるクウェンサー。彼の女装は、余りにも似合いすぎていた。

 

盛大に気が抜けてしまったが、ここは敵の本拠地、ミレニア城塞である。

そして敵の陣営のサーヴァントと対峙したならば、取るべき行動は一つだろう。

 

「どうした?」

「いや……、全然そんな空気じゃないなと思って……」

 クウェンサーが男だと発覚してから五分、彼らはまだ睨み合いを続けていた。

いや、睨み合いと言うには語弊があるだろうか。

 

「ところで、この配線構造、コレには一体どんな目的が?」

「ああ、それはだな……。」

 

「なんで和気あいあいと話し合ってるんだテメェらは⁉」

「いや、だって自分の知らない技術を持った人間(技術者)がいるんだぞ、語り合いたいと思うのは仕方ないだろ!」

「そうだぞ、赤のアサシン」

「そうだぞ、じゃねえよ……」

 頭を抱えるヘイヴィア。普段からクウェンサーの行動に悩まされる事が多々あるが、今回は特に酷い。

「それにだヘイヴィア、話の合間にこっそりとあのオブジェクトの情報を聞き出す作戦なんだ、黙って見ていてくれ。」

「少なくともソレを敵の目の前で言っちゃダメだと思うぜ。」




夏に書き始めたのに気付いたら春……。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦VIII


気づいたら前の投稿から3ヶ月以上…


「キャスター、ここは?」

「ああ、そこはだね…」

「(こいつらほっといたらいつまで喋りつづけるんだ…?)」

 

 クウェンサーと黒のキャスターが情報を聞き出すという名目で話し始めてからいくらか経つが、技術者同士話の種は中々尽きず、すでに隣で聞いているだけのヘイヴィアは飽き始めていた。

 

「(にしてもこいつらよくそこまで話が続くな…。)」

 

 そう思い、熱く語り合う2人を尻目に携帯端末を弄り出すヘイヴィア。

 

「(しかしまぁ…)」

 

 ヘイヴィアとて隙を突いてキャスターを殺すつもりで、銃のセーフティーは解除してある。直ぐに拳銃を抜いて、キャスターの額に穴を開けられるだろう。だが…

「(思ったよりも隙が無ぇ…。)」

 

 キャスターは先程から此方に目を向けていない、だが非常に警戒している。現にこうしてクウェンサーと話している間も必ずヘイヴィアとの間にクウェンサーを挟む位置に移動している。

 そしてそれはクウェンサーも同様で、キャスターからは見えない位置に信管を刺したハンドアックスを隠し持っている。だがキャスターも直ぐにゴーレムを呼び出し反撃できる様に準備している事だろう。

 やろうと思えば殺せる、だが此方も反撃され痛手を負うだろう。下手をすればこちらも倒される。そしてそれは向こう(キャスター)も同じ、三人は膠着状態に陥っていた。

 その均衡を破ったのは小さな電子音だった。

 その音はクウェンサーの持つ無線機から聞こえていた。

 ちらり、とキャスターの様子を伺う。

 

「おや、返答しないのかい?」

「じゃあ、失礼して。」

 

 そう言って会話がキャスターに聞こえないようイヤホンを着け、鳴り続ける無線に応答する。

 

「はい、こちらクウェンサー。」

『アサシンですか。ひとまず貴方達の分の令呪の移植は完了しました。』

「コトミネか、何で俺達の分だけ先に?」

『だって貴方達弱いじゃないですか。相性の悪い相手と当たったらすぐ死ぬでしょう。』

「事実なだけに反論できない……ッ」

『では、令呪が必要になったら連絡してください。』

そう言って通信が切断される。

 

「(どうだったクウェンサー?)」

「(取り敢えず令呪は使えるようにしてくれたらしい)」

「(そうか、じゃあいい加減脱出しねぇか?これ以上ここでヤツと話していても有用な情報が入るとは思えねぇ)」

「(同感だ。あいつ全くボロを出さないからな…)」

 「終わったかい?」

 「ああ。それで、これからどうする?」

 「それなんだが…」

 キャスターが手を掲げる。その瞬間、 

 「クウェンサー!!」

 咄嗟に転がる。頭上から落下してきた何かの直撃は避けたが、衝撃で吹き飛ばされ、さらに砕けた地面が腹にめり込む。

 

 「カハッ…」

 「何だ!何が降ってきやがった!?」

 土煙がおさまり、落下物の全容が明らかになる。それは…

 「「ゴーレム!?」」

 

 「すまないね、()()()()()()。」

 「何すんだテメェ、死ぬとこだったじゃねぇか!」

 「殺すつもりは無かった。だが…」

 黒のキャスターが歩み寄ってくる。その足跡を辿るように地面が盛り上がり、何機ものゴーレムが造られていく。

 

 「マスターに呼ばれてしまってね、すまないが帰ってくるまでおとなしく捕まっていてくれないか?」

 

 そして、手が振り下ろされた。

.

.

.

.

キャスターによってゴーレムが解き放たれた時、クウェンサー達に取れた手は一つ、すなわち

  

 「逃げるぞヘイヴィア!!」

 「おうよ!」

 逃走である。

 とはいえただでさえ広いミレニア城塞、さらに内部は魔術によって空間を広くする工夫もされているのだろう。

 そんなこんなで廊下を爆走するクウェンサーとヘイヴィア、後ろを振り向けばゴーレムだけでなくホムンクルスまでもが追いかけてきている。

 クウェンサー達もただ逃げていた訳ではない。廊下の角などにハンドアックスでトラップを仕掛け、ゴーレムと違い銃弾の通るホムンクルスを撃って数を減らしていた。だが…

 

「くそッ!また()()だ!」

 

 廊下の分岐地点から、部屋の扉からわらわらとホムンクルスが出現する。

 実際、ホムンクルス自体にそれほど脅威があるわけではない。だが、その数でゴーレムを破壊するために仕掛けたトラップを強引に破壊していく。自分の身を犠牲にして。

 そしてその間にも、ゴーレムは少しづつ迫ってくる。

「おい!このままじゃゴーレムに追いつかれるぞ!」

「仕方ない、宝具を使うか……。」

「いいじゃねぇか!何ならこの城倒壊させちまおうぜ!」

「それで行こう!」

 

 そう言って急停止するクウェンサーとヘイヴィア、後ろから迫ってくるゴーレムやホムンクルス達に銃と起爆装置を突きつけ、

 

「ちょっと待ってヘイヴィア。」

「あん?何か問題でも起きたか?」

「いや、俺達の宝具ってめちゃくちや魔力の消費が多いから使うなって言われてなかったっけ?」

「そういやそんな事女帝サマに言われた様な記憶が…」

 後ろを振り向く、ゴーレムとホムンクルスが廊下いっぱいに押し寄せてきていた。

踵を返して再び走り出す。

「どうする…?」

「どうしよう…?」

「このヘイヴィアの考えなし!」

「うるせー!頭使うのはテメェの仕事だろ!」

「天才イケメン貴族を自称してやがったのは何処のどいつだ!」

「自称じゃないですー、本物の貴族様ですー。」

「ってそんな事言ってる場合じゃねえ!」

「とりあえずコトミネに頼んで令呪をつかってもらおう!」

 

 そう言って懐から無線機を取り出してコトミネに繋ぐ。

「頼む、出てくれッ…」

  何秒かの呼び出しの後、スピーカー部からコトミネの声が聞こえてきた。

 

「はい、こちらコトミネ。」

「コトミネ、宝具を使いたい、令呪を使用してくれ!」

「何ですか⁈聞き取れなかったのでもう一回お願いします⁉」

よく聞けばスピーカー部からは金属同士がぶつかり合う音やスパーク音、低い唸り声などが聞こえていた。

「「コトミネー!ギブミー令呪ウゥゥ‼」

「今!戦闘中ですので!後にしてください!」

ブツッ…

「……」

「……」

 

 

「 「コトミネェーッ!」」




ありがとうございました。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦IX

 一年半ぶりの投稿です。まさか原作でもクウェンサーがルーマニアで女装するとは…


「見つけたか⁉」

「いえ!居ません!」

「何処へ行った⁉探し出せ‼」

 

 数人分の足音が遠くなっていく。

「(…行ったか?)」

「(…ああ、もう大丈夫だ…多分)」

 机の陰からクウェンサーとヘイヴィアが這い出してくる。

 クウェンサーとヘイヴィアは、逃げる途中にあった部屋に侵入する事で追跡を振り切っていた。

 

「美女のネーチャンに追っかけられるならともかく、あんな武器抱えた男に追いかけられても何も嬉しくねぇよ…」

 

 ヘイヴィアは足元に転がった()()を小突きながら、無線を弄るクウェンサーを睨みつける。

「テメェが赤のキャスターと和気藹々としてるからこんな事になったんだぜ、下手したらとっ捕まってたぞ」

「しょうがないだろ、あのオブジェクトの情報を得るためには必要な事だったんだ。それに有意義な話もできたし…」

「最後が本音だろ、それで、無線は通じたのか?」

「駄目だ、合コンで連絡先を交換した女の子みたいに音沙汰が無い」

「テメェじゃ合コンに行った所でドン引きされるのがオチだろ」

「そういうお前はどうなんだよヘイヴィア」

「"貴族"は見合いはしても集団で合コンする事なんて無いからな」

「あれ、でもお前婚約者が…」

「ああ、だから全部形式的なモンだった。それより、()()をどうするか…」

「できればコトミネか女帝様に指示を仰ぎたかったけど…」

 ちらりと床に伸びているモノを横目で見て、クウェンサーは言う。

 

「本当にどうしよう、コレ…」

 

 恰幅の良い体に金髪、左手には掠れて既に痕跡となった令呪。

 ユグドミレニア黒のセイバー、その元マスター

ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが

 

血溜まりに倒れこんでいた。

 

 

話は数分前に遡る。

 

「(おい、行ったか…?)」

「(まだうろついてる…)」

 ユグドミレニアのホムンクルス達に追いかけられていたクウェンサーとヘイヴィアは現在、偶然落ちていたスパイの必需品、ダンボールによって廊下の隅に身を隠していた。

 

  流石は島国のゲームに登場する蛇も愛用したと言うアイテム、その効果は絶大であり、隠れながら移動しても気付かれる事は無かった。

 流石に気付くだろうとは言ってはいけない、古来よりダンボールとはそのような物なのだ。

 

「(にしてもこのダンボール箱、中身はパソコンだったみたいだな…)」

「(パソコン?魔術師ってのは科学的なモンを嫌うんじゃねーのか?)」

「(そう聞いたけどな、例外もいるって事だろ)」

 

 そんな事を話している間に、周囲のホムンクルス達は別の場所を探しに行ったのか、見当たらなくなっていた。

 

 のそり、とダンボール箱の下から這い出す二人。

 

「さて、こっからどうするよ相棒」

「そうだな、ひとまずは…」

 

 先程見た光景を思い出す。

 

「あのオブジェクトに使われていた装甲板、あれが何なのかを探ろうか」

「アテはあんのかよアテは、まさか今からまた仮面野郎の所に戻るって言うんじゃねぇだろうな」

「それだけは勘弁願いたいな、さっきヤツと話していて分かった事がある」

「なんだよ、ヤツの好物でも教えてもらったのか?」

「あの妙な装甲は錬金術を応用して作られたらしい」

「錬金術か…、確かコトミネから渡された資料に書いてあったな」

「ああ、敵のマスターの一人が錬金術師だ」

「名前は確か…」

「ゴルドだ、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。」

「そうそうそんな名前だ、ひとまずソイツを探すってことか」

「そこからあのデカブツを切り崩すヒントを探していこう。しかしどうやって探すか…」

「仮にもマスターだ、軍隊で言えば指揮官みたいなもんだろ。なら他のやつに比べていい部屋を与えられているんじゃないか?」

「そのセンで探してみるか…」

 

 やることが決まれば行動が早いのがバカの特徴である。

 隠れながら人の気配のする部屋を探り、それらしい部屋を一つずつ潰していく。

 そして…

 

「おい…!なんだ貴様ら…」

「クウェンサー、こいつが?」

「ああ、こいつのはずだけど…」

 

 椅子にもたれたままなにやら喚いている男に目を向ける。明らかに顔が上気しており、呂律も回っていない。これは…

 

「酔っぱらってる?」

「おいクウェンサー、ホントにこいつが目的のゴルドなのかよ。本国の居酒屋にこんなの腐る程いたぞ。」

 

「私を誰だと思っている!ムジーク家当主、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアだぞ!」

 

「ほら、本人もそう言ってるし」

「まじかよ…、こんなのが黒のセイバーのマスターかよ…」

 

 ふと、興奮で赤くなっていた顔がふっと暗くなる。

 

「もう私はマスターではない…」

 

「なんだって?」

「もうマスターではないと言ったのだ!」

 

 興奮して思わず立ち上がるゴルドだが、その拍子に転がっていたワイン瓶を踏みつける。

 そのまま足を滑らせ、

 

ゴッ‼

 

 

「うっわ…。机の角にモロに行きやがった」

「血が噴水みたいになってる、これほっといたら死ぬんじゃないか?」

「そうだな、手間が省けた」

「……」

「……」

「って殺しちゃ駄目だ!情報吐かせないと!」

「今の音で位置がばれたかもしれねぇ!おいクウェンサー!一旦机の陰に隠れるぞ!ソイツも引きずり込め!」

「止血は⁉」

「机の陰でやればいい!」

「了解!ってこいつ重っ!」

「何やってんだ貸せ!」

 

 

 

 

 

「それにしても割とあっさり吐いてくれたな、もう少し粘ると思ったんだが」

「拷問紛いの事をされそうになったんだ、素人なら喋るよ」

「本題に入ろうクウェンサー、さっきの情報からヤツを倒す方法は思いついたのか?もう時間も無いんだ、まさかこれまでの時間が無駄になっただけとかは辞めてくれよ」

「大丈夫だヘイヴィア、可能性は出来た。後は命を張るだけだ」

 

「さあ、あのクソ忌々しいオブジェクトを壊しに行こう」

 




前回から一年半ぶりの投稿です。その間全く書いていなかったので以前以上に読みにくいかも知れませんが、これからも書いて行こうと思うのでよろしければ読んでいただければと思います。


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踊る阿呆と撃つ阿呆 ミレニア城塞強襲戦X

ヒサシブリ…


と、いうことで

 

「スコップは持ったなヘイヴィア‼」

「応よ‼散々あの爆乳上官に掘らされたんだ、俺達のスコップ捌きを見せてやる......‼」

 

 土木工事再びである。

 

 

 

 

 黒のセイバーの元マスターである男と穏便に"お話"した後、クウェンサーとヘイヴィアは城塞の庭からスコップを盗み出して戦場から1km程離れた地点で穴を掘っていた。

 

「にしてもこんな思いっきり体晒してて大丈夫なのかよ、敵のアーチャーに頭抜かれでもしたら笑い事じゃすまねぇぞ」

「アーチャーがテスト勉強中に部屋の隅のホコリがどうしても気になるタイプならともかく、今はこっちのサーヴァントも暴れてるんだ、こっちに構う余裕が無いことを祈ろう」 

「結局神頼みかよ、信心組織じみてやがる…」

 

 えっさほいさと掘り進める二人、しかし単純作業はつい無駄話が進むものでもあり

 

「なぁ…、俺達働かされすぎじゃないか?」

「確かに…、昨日黒のアサシンと戦わされてロクに休む間もなく今度はオブジェクトだ。このヘイヴィア様を顎で使いやがってドSめ…」

「こっちなんて片足持ってかれたあげく心臓食わされたんだぞ。カニバリズムの趣味は無いのに」

 

 クウェンサーはうぇっぷ、吐きそうと青い顔で口を押さえる。

 

「それが無けりゃあそこで死んでただろ、セイバーのマスターに感謝しておけよ…あれ?」

「どうしたヘイヴィア、女帝サマにいいイタズラでも思いついたの?」

「イイ感じに赤っ恥かかせる方法があればいいんだがな。って違う、クウェンサー、お前黒のアサシンの見た目覚えてるか?」

「そんなの殺されかけたんだから当然……あれ?」

「というか真名まで自分でバラしてた気がするのに全然思い出せねぇ…」

「なんだろう、喉元まで出かかってるのに出てこないこの感じ…」

「流石に二人まとめて記憶障害とかはないだろうな。」

 散々殺し相手の見た目どころか名前、獲物まで思い出せなくなっているのは異様でしかない。

「となると宝具かスキルか…」

「だろうな。ただ…」

「ああ…」

 

 確証は無い、だが己の魂がそう言っている。

 

「「ロリっ娘だった気がする……!!」」

 

 

 

 

「仕掛けも終わったところで言うのも何だが、本当にこの地点で合ってるのかよ。そもそもそれだって割と眉唾物だって聞くが」

「俺の所属してた『安全国』の学校は何の役に立つかもわからない技術を研究してる奴でいっぱいでね、これも研究テーマの一つとしてやってたはずだ。確か地磁気がどうとかって言ってたっけ…」

「確証があるわけじゃねぇのかよ!本当に大丈夫なんだろうな…」

「なんだかんだで昔から使われてきた手法だ、後は俺達の幸運を信じよう」

「テメェといると不運ばっかの気がするがな…」

 

 ヘイヴィアは大きな溜め息を吐いた。

 生前から散々巻き込まれていたが、その腐れ縁がまさか死後まで続くハメになるとは。

 

「これからどうするんだ?あのオブジェクトまだ空中庭園に向けて砲撃してるが」

「さっきから数えてるがもうすぐ5発撃ち終わる、そしたらこっちに気付かせればいい」

「主砲は弾切れになるだろうが、副砲が使われる可能性は?」

「さっきから竜牙兵に群がられても全て撥ね飛ばすことで対処している。副砲を撃てばわざわざ移動しなくてもいい位置でもだ。恐らくあの副砲は見た目だけだ」

「無視して弾薬の補充に行く可能性」

「さっきまでの会話からして黒のキャスターは俺を生け捕りにしようとしている。無防備に立っていたらチャンスだと思って突っ込んでくる筈だ」

「勝算」

「充分にある」

 

 

 

 

 

 5発の弾を発射し終えたオブジェクトが城塞に向けて転進するのを確認し、クウェンサーは指先大に丸めたハンドアックスに信管を突き刺した

 そして、

 

「たーまやー!」

 

 投げ上げて起爆した。

 

「なんの掛け声?」

「『島国』では花火の時にこう叫ぶんだってさ、フローレイティアさんが言ってた」

「『島国』の謎文化かよ…それよりも構えろ!ヤツがこっちに気付くぞ!」

 

 1km程離れているせいで少し小さく見えるオブジェクトが数瞬停止する。

 旋回しこちらに正面を向け突撃の準備を整える。

 そして、大量の車輪が地面に食い付き、

 

 ゴッッッ!!と衝撃波を撒き散らしながら、突撃を開始した。

 

 地面に轍を刻みながら突進してくるオブジェクトは、数秒もかからずにクウェンサー達を撥ね飛ばすだろう。

 生身ならともかく、今の赤のアサシンはサーヴァントだ、激突の際の速度を調整すれば()()()しないだろう。

 そう"黒のキャスター"は考え、

 

「やれ、クウェンサー」

「ああ」

 

起爆用無線器のボタンが押し込まれた。

 

 

 

 

 くぐもった爆発音とともにオブジェクトの正面の地面が盛り上がる。

 そして、大量の土が逆さに流れる滝のように巻き上げられ、地面にぽっかりと穴が口を開ける。

 その質量分の土が無くなり、落とし穴が発生した地面に、4つの車輪のブロックの内1つが足をとられ、

 そして、ドリフトするかのように機体を派手に横滑りさせ、オブジェクトが停止した。

 

 内部に操縦者が存在した場合、凄まじい重量を持つオブジェクトが振り回されることで発生したGによって、体が水風船のように弾けていただろう。 

 その場合であればこの時点でクウェンサー達の勝ちだ。

 しかし

 

「チッ!まだ動いてやがる!」

「てことは内部に操縦者がいないパターンだったか…」

 

 オブジェクトは動きを止めず、地面に食い込んだブロックを抜き出すためにギャリギャリと地面を削りながら車輪を回していた。

 このままではいずれオブジェクトは抜け出し、再び攻撃を開始する。

 

 

 

 城というのは、王族や貴族などの居住空間であると同時に、敵の侵攻を防ぐための防衛施設でもある。

 そのため、城内には籠城を前提とした施設が設けらるのが普通である。

 たとえば敵の侵入を防ぐための堀と跳ね橋、たとえば食料を貯蔵するための倉庫、たとえば水を確保するための井戸。

 井戸とは穴を掘って地下水を汲み上げる装置であり、地下では地上の川と同じように帯水層中を地下水脈が流れている。

 城塞中に侵入した際に、井戸に十分な量の水が蓄えられている事は確認した。

 つまりこの近辺には地下水が豊富に存在しており、その帯水層にまで爆発によって衝撃を届かせることができれば…?

 

 ちなみに、

 地下水の位置を探す場合、専用の機材が必要となるが、裏技としてダウジングという技術がある。

 科学的な根拠は薄いとされているが確かに昔から利用されてきた技術であり、極論であるが、針金が二本あれば地下水の位置を探り当てることが可能であるとされている。

 

・ 

 

 

 オブジェクトの足元の土が湿り気を帯び、色を濃くしていく。

 爆発の衝撃で罅割れた地盤から地下水が上がり、周辺の地面に浸透していく。

 さらにオブジェクト自身がが嵌まった穴から抜け出す為に車輪を回すことで水分を含んだ地面がさらに撹拌され、柔らかい泥状に変化する。

 

 異常に気付き、車輪を停止させた時にはもう手遅れだった。

 穴に嵌まった車輪のブロックがズブズブと泥に沈み、オブジェクトの傾きが徐々に大きくなっていく。

 傾きが限界に達し、ぶわりと反対側の車輪が浮き上がる。 

 そして、50mの巨体が、その側面を地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 轟音とともにオブジェクトが地面に叩きつけられ、機体表面にイガグリのように生えていた副砲がへし折れて辺りに飛散する。

 しかし。

 

「駄目だ。あの野郎、倒れる瞬間に主砲を振り回して地面に当たる箇所を調整しやがった!!」

 

 本来であればクウェンサー達は、オブジェクトの主砲をオブジェクト自身の下敷きにすることにより破壊するつもりであった。

 しかしオブジェクトは倒れる寸前、バットのように主砲を振り回すことで機体の角度を無理矢理調整し、主砲とは反対側の面で地面と衝突し、主砲の損傷を回避していた。

 仮にオブジェクトとはいえ、その装甲は鋼ではなく石でできている。

 つまり元となったオブジェクトよりも軽量であり、恐らく数十体のゴーレムで引っ張り上げれば、再び戦闘を開始できるだろう。

 だが。

 

「逆に都合が良いかもしれない、このまま主砲を鹵獲してしまおう」

 クウェンサーがなんてことは無いように言う。

 ヘイヴィアは唖然とし、

「待て待て待て!話を飛ばすな!第一どうやってオブジェクトをバラすんだよ!さっき対戦車ミサイル撃ち込んだときは傷一つつかなかったじゃねぇか!」

「大丈夫だ、もう終わってる」

 と、対するクウェンサーは気楽なものだった。

「はぁ?」

 と、ヘイヴィアが疑問の声をあげた瞬間。

 

 ビキィ!と、オブジェクトに亀裂が入った。

 

「こいつの装甲は岩石を板状に加工して、そこに錬金術の術式を埋め込んでいる」

「ああ、さっき尋問したデブが言ってたな…。確か着弾の瞬間に硬化させることであらゆる攻撃に対処するだとかなんとか…」

 

 敵からの攻撃を受けた瞬間にその部分の装甲板を魔術により硬化させて弾き、球体の曲面で受け流す。

 そのようなコンセプトだったのだろう。

 

「でも、硬化するのは衝撃が加わった部分の装甲板だけだ。瞬間的な攻撃ならそれで十分受け流せるかもしれないけど、一点に圧力をかけ続けるようにすれば、周りの装甲板にもダメージは蓄積されていく。」

 

 オブジェクトに入った亀裂がさらに増えていく。

 

「それに、岩は通常のオブジェクトに使われる鋼と違って靭性が低い、粘り強さが無いんだ」

 

「つまり、自分の重量で押し潰される」

 

 グシャリ。

 まるで卵を床に落としたように、オブジェクトが圧壊した。

 

 

 

「さて、それじゃあこいつと俺達を回収してもらわなきゃな」

「ああ、いい加減休みが欲しい。一丁女帝サマにお願いしてみるか」

 そう言って無線機を取り出し、空中庭園にいるキャスターに繋ぐ。

 暫く呼び出した後、応答があった。

 

「アサシンか、こうして通信してきたという事は死んではないようだな」

「「休みをください!!」」

「よほど毒漬けにされたいようだな…?」

「「すいません冗談ですぅーッ!!」」

 

 直接対面していなくても、身体は自然と正座の形を取っていた。

 

「というか今回の事は汝らの自業自得であろう」

「いやそうといえばそうだけど…。というか無線機の使い方覚えたんだな」

「ああ、あやつが使い方を紙に書いて置いていった。絶対に書いてある所以外を触るなと念押しされたが…」

「「(ありがとうコトミネ…)」」

 

 二人は内心でコトミネに感謝した。

 

「で、どうやってそっちに戻ればいいんだ?」

「今から大聖杯を()()()()()。それと一緒に上がってこればいい」

「はいはーい、了解でーす」

「ああ、それとだな」

 

 キャスターはなんてことは無いように言った。

 

「逃げるか隠れるかせねば死ぬぞ?」

 

「「は?」」

 

 振り向く。

 紫色の光が、まるで津波のように押し寄せていた。

 

 

「「ギャアアアアァーーー!!!!」」




オブジェクト:ゴーレム
全長…70m(主砲含む)
最高速度…時速350km
装甲…魔力硬化式石板
用途…対サーヴァント用ゴーレム
分類…0.5世代をモデルとしているが各所が魔術により強化されているため不明
運用者…黒の陣営
仕様…接地重量分散式車輪
主砲…岩石圧縮砲
副砲…未搭載
メインカラーリング…黒
操縦者…自動操縦→黒のキャスターによる遠隔操縦


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誰が蝙蝠を殺したか 空中庭園迎撃戦 I


原作完結!!!
原作完結!!!!
原作完結!!!!!!


 

 

 実際には、クウェンサー=バーボタージュとヘイヴィア=ウィンチェルがサーヴァントとして召喚される確率は限り無く低い。

 

 大前提として、彼らはこの時代よりも遥か未来に存在する()()()のある人物であり、またその未来、つまりは核の力が超大型兵器オブジェクトに根絶された未来が到来する可能性はゼロにほぼ等しいと言えるだろう。

 

 いわば数多に枝分かれした平行世界のさらに先。そのような位置に存在する彼らを召喚するには、余程の縁があったとしても小数点の後ろに無数の0が並び、気が遠くなるような後にようやく他の数字が現れるような確率を引き当てる事が必要である。

 

 つまりは確率論上では可能性はゼロではないが、実際に召喚する事は不可能であると断言できる。

 通常では召喚され得ない者が召喚される。それは、何らかのイレギュラーが発生したということに他ならない。

 

 

 

 

 

 

 彼等が挑んだ決戦、超大型兵器"オブジェクト"が産み出された地『島国』での、過去、因果、因縁との雌雄を決する、文字通り世界を救う為の戦い。

 

 それに彼らは間違いなく勝利した。

 

 オブジェクトの台頭により、一度はステンドグラスのようにバラバラに砕けた国々。

 それらは未だ傷を残しながらも再び1つの枠組みの下に集った。

 

 オブジェクトはその在り方を変え、戦争の形は大きく変わった。

 

 結局、戦争は無くならなかった。だが人は滅びず、彼らは確かに明日を生きていくだろう。

 

 これが昔話や童話ならば、"めでたしめでたし"で締めくくられるハッピーエンドに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、誰も気付かない、()()()()()()()()()()イレギュラーが既に発生していた。 

  

 そもそも、四大勢力などもはや関係の無い、史上最悪の「大戦」。その地獄が起きてしまった引き金は何だっただろうか。

 

『オブジェクト地球環境破壊論』

 

 総重量20万トンを越えるオブジェクトの瞬発的な高速機動による大地の地盤への深刻なダメージ。

 下位安定式プラズマやレーザービームを使った主砲砲撃による急激な温度差、気圧差による異常気象。

 

 あの日、惑星の表面を覆っていた殻は砕け、「信心組織」の本国は溶岩に沈んだ。

 

 星を覆う岩盤は既にひび割れ、様々な"自然な流れ"に影響を及ぼす。

 そしてそれは、目には見えない、彼らにとって認識できない物の流れまで歪めていた。

 

 

 ()()

 

 

 

 いわば大地を流れる魔力の流れ、魔術という概念が失われた時代において認識できない、されない無用の長物。 

 

 しかし魔術を行使するものが存在せずとも、霊脈は魔力を流し、蓄積させ続ける。

 

 大地が割れた時、霊脈もまたぐちゃぐちゃに歪められた。

 断ち切られ、ねじ曲げられ、不自然に繋げられた。

 

 例えるならば、バグのようなものなのだろう。

 

 いびつに歪められた霊脈は、まるで門のような挙動を取り、本来であれば存在し得ない場所への通り道を作り出してしまった。

 

 

 

 そして、彼ら(クウェンサーとヘイヴィア)はこの戦争へと召喚されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 視界にうっすらと光が入ってくる。

 例えるならば十分な睡眠を取った後の朝のような、そんな気だるさを感じている。

 

 「(あれ……?)」

 

 そこで違和感を覚えた。意識が落ちる直前の事が思い出せない……?

 

 「(何で俺は床で寝そべってるんだ……?)」

 

 記憶の連続性が途切れている。

 フラッシュバンの閃光を浴びて意識が飛んだような感覚に陥っていた。

 

 「(そうだ…、確かオブジェクトと戦った後に紫の光が…)」

 

 敵のオブジェクトを倒した後、巨大なビームのような光が迫ってきて、それから…?

 

 「(確か、ヘイヴィアと一緒にオブジェクトの残骸の陰に飛び込んで…。ヘイヴィア?!)」 

 

 もし自分と同じ状況であればヘイヴィアも近くに転がっているはずだ。

 そうならば限り無くまずい。

 二人とも倒れた状態で仮に敵に見つかれば、サーヴァントですらないホムンクルスが相手だろうと成す術も無く首を落とされてしまうだろう。

 

 その時、ぼやけた視界の端に人影が映った。

 

 「(ヘイヴィアか…?)」

 

 その人影がゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 そして倒れたクウェンサーの顔を覗き込み、視界に白と赤の

 

 「つッ!!」

 

 咄嗟に顔を逸らした。

 そして、顔面のあった場所に、ガチン!!と歯が噛み合わされた。

 避けていなければ顔面を食いちぎられていただろう。

 初撃は回避したが、襲ってきた何かはクウェンサーに馬乗りになり、マウントを取った。

 ようやく視界が明瞭になり、下手人の姿が捉えられる。

 

 「ホムンクルス…?」

 

 見た目は確かに何度も見た、黒の陣営が戦力として運用するホムンクルスに違いない。

 だが、元々無表情であったが、それとは大きく異なり目が血走り、口からはボタボタと唾液を垂らしている。

 例えるならば、ゾンビ映画で見るような、ゾンビに噛まれ、感染した人のような。

 それ以上に異常な点が、

 

 「(振り落とせない……?!)」

 

 クウェンサーの筋力値はEであり、これはサーヴァントとしては非力と言っても過言ではない。

 しかしそれでもサーヴァントとサーヴァント以外の戦力には天と地程の差があり、ホムンクルスに力負けする事はあり得ないだろう。

 だが、現にホムンクルスはクウェンサーの体を押さえつけている。

 そして、再びクウェンサーに噛みつこうと顔を近づけ、 

 

 バガッ!!と横からブーツを履いた足に蹴り飛ばされた。

 

 「いつまで寝てやがる!テメェは朝のコーヒーが無いと頭がスッキリしないタイプなのかよ!」

 

 「ヘイヴィア!」

 

 蹴り飛ばしたホムンクルスの脳天に弾丸を撃ち込みつつ、ヘイヴィアが吠える。

 

 「とにかく目が覚めたならとっととこっち来て働きやがれ!」

 

 ヘイヴィアに手を掴まれ、引っ張り上げられて立ち上がる。

 先程までは気が付かなかったが、オブジェクトと戦った屋外では無く、何か建造物の中に移動していた。

 この内装は見覚えがある。キャスターの宝具である空中庭園、その内部だ。

 

 そして、その廊下には、

 先程クウェンサーを襲ったのと同じ表情をしたホムンクルス達が、雪崩のように迫っていた。




まさか原作が完結するとは
最高の最終巻でした…。


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誰が蝙蝠を殺したか 空中庭園迎撃戦 Ⅱ



明けましておめでとうございます。(フライング)


 

 

 話はオブジェクトを撃破した後に遡る。

 

 

「おーい、生きておるかー」

 

………

 

「死んだか」

 

 

「生きとるわッ!!!」

 

 ガバッ!と瓦礫の中からヘイヴィアが立ち上がり叫ぶ。

 謎の紫の光の洪水が直撃する寸前に、クウェンサーとヘイヴィアはオブジェクトの瓦礫の陰に飛び込んで難を逃れていた。

 直撃していたら既に消し飛ばされ、この大戦から脱落していただろう。

 

「なんだ生きておったか」 

「命からがら助かった奴に言う言葉じゃねぇ!何だあのごんぶとビーム!?オブジェクトが半分溶けかかってんぞ!」

 

 無線機に向かって吠える。

 ヘイヴィアが盾にしたオブジェクトの装甲は、半分ほど熱したプラスチックのように溶けて捻じ曲がっていた。

 

赤のバーサーカー(スパルタクス)の宝具であるな、受けたダメージを魔力に変換するといった効果だったか。それを限界まで溜めて放ったのであろう」

「そういえば敵に捕らえられてやがったなあの灰色マッスル…」

 

 そこでヘイヴィアが余計な事に気付いた。

 

「てか、何でこっちに撃ってきたんだ?」

 

 クウェンサーとヘイヴィアがいる場所は黒の陣営の本拠地であるミレニア城塞からそこそこ離れており、背後には森が広がっているだけで特に何も存在しない。

 

「(オブジェクトの残骸ごと俺逹を消し飛ばそうとした…?)」

 

 そうならばかなりマズい。

 クウェンサーとヘイヴィアが生きている事が分かれば直ぐに追撃が来るだろう。

 そもそもこの大火力を放った赤のバーサーカーはどうしているのか。

 

「別に汝らが狙われた訳ではないぞ?」

「へ?」

「あれはルーラーに向けて放たれた物だ」

「ルーラーっていうとアレか、イレギュラーが起きた聖杯戦争に召喚されるっていう」

 

 ルーラー(裁定者)

 

 何かしらのイレギュラーの発生した聖杯戦争において、ルールに公平を期すため召喚されるマスターのいない管理者。

 

 そして、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

「如何した?」

「いや、何でもない。それでルーラーがどうしたんだ?」

「彼奴めに放たれた一撃を、宝具を展開して受け止めたのだ。そして受け流された分が向きを変えて汝らを襲ったのだな」

「つまり?」

「流れ弾だな。汝らは完全に巻き添えを食らった訳だ」

「チクショウとばっちりじゃねぇか!!」

 

 ヤケになって叫ぶ。

 聖杯戦争において「死因・流れ弾」など笑い話にもならない。

 

「赤のバーサーカーも既に消滅している。大聖杯の吸引も始めておるぞ…。そういえば貴様の片割れは何処へ行ったのだ?」

 

 そう言われてヘイヴィアも気がついた。

 そういえばクウェンサーの姿をさっきから見ていない。

 

「まさかアイツ死んでるんじゃないだろうな…」

 

 そう言って周りを見渡す。存外、すぐに見つかった。

 盾にしたのであろうオブジェクトの残骸と一緒に、少し離れた地点で転がっていた。

 消滅していないということは生きてはいるのだろう。だが、

 

「嘘だろコイツ気絶してやがる…」

 

 首をガクガクと揺さぶっても、ビンタしても一向に目を覚まさない。

 外傷も特に見当たらないということは、頭に強い衝撃が加わった事による脳震盪だろう。

 

「見つかったならばよい。黒のサーヴァントも空中庭園に向かってきている故、早く登ってきて防衛に回れ。」

「はいはい…、コイツは俺が担いで行くしかないのか…。」

 

 気絶したままのクウェンサーを肩に担ぎ上げ、ミレニア城塞へと目を向ける。

 

「にしても、正気を疑う光景だな…」

 

 黒の陣営の本拠地であるミレニア城塞、その大部分は赤のバーサーカーの一撃、ルーラーの防衛により逸れてしまったそれが直撃していたことで瓦礫の山になっている。

 そして、その頭上に鎮座する空中庭園により、ゆっくりと巨大な球体が吸い上げられようとしていた。

 

 赤のキャスターの宝具である、「虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)

 この宝具は『逆しまである』という概念を用いて浮遊する空中要塞である。 

 内部では水は下から上へ流れ、植物は上から下へと育っていく。

 

 その『逆しまである』という概念を用いて、ミレニア城塞の地下からこの聖杯大戦の核である大聖杯を吸い上げる。文字通り引っこ抜いて奪い取る事こそが、今回の戦闘における最優先目標であった。 

 

 そして、その目的は半ば達成されつつあった。

 既に大聖杯は半ば持ち上がりつつあり、完全に空中庭園に格納されるまでそう長い時間はかからないだろう。

 というか、

 

「瓦礫までビュンビュン吸い上げられているんだが、俺に今からあそこに飛び込めと?」

「ああ、いかに貧弱とはいえ一応はサーヴァントなのだ、当たっても死ぬことはなかろう?」

「死ななくても痛てぇんだよ!!」

 

 そんなヘイヴィアの叫びを聞き届けぬまま、ブツリと無線が切られた。

 

「…………」

 

「…あの女いつか絶対にシバいてやるッ……!!」

 

 

 

 

「それで妙に体が痛いのか、もっと丁寧に運べなかったの?」

「もっぺん気絶させて欲しいならそう言えよ、銃床で額かち割ってやるからさぁッ!!」

 

 ドカドカドカッ!!!!とヘイヴィアが人波に向かってライフルを連射する。

 頭に命中したホムンクルスは倒れるが、それを踏み潰して次の一団が迫ってくる。

 

「というか何なのあれ?いきなり世界観がゲーセンのゾンビ撃つやつになってるけど」

「さっき聖杯を奪い返しに黒のサーヴァント逹が来たことは言っただろ?そんで黒のランサーとそのマスターが合体した」

「合体???」

「そいつが近くにいたホムンクルスを噛んで、あのゾンビを増やしてった訳だ」

「噛んで…?そういえば黒のランサーの真名はヴラド三世だったっけ」

 

 ブラド三世、ブラド・ツェペシュといえば、15世紀におけるワラキア(ルーマニア)の君主であり、ドラキュラ(吸血鬼)伝説の元となった人物でもある。

 そしてドラキュラ伝説として有名なのが、人を噛んで吸血し、噛まれた方は眷属にされるというもの。

 

「それは分かった。いや合体のくだりはよく分からないけど…」

 

 そう言いながら手に持った爆弾をある程度密集した所に投げ入れ、爆破していく。

 半ば吸血鬼になっていることで筋力は上がっているが、ロクに頭が働いていないのか動きは鈍重になり、かつ体の耐久度は上がっていないことは救いであった。

 バラバラに爆破するなり頭を撃ち抜くなりすればキチンと死んでくれる。

 

「なかなか数が多いな…。そういえばその黒のランサーの方はどうなってるんだ?」

「ああ、やつは暴走してんのか敵味方関係なく襲いかかっててな、まあこっちのランサーとライダーとアーチャー、向こうのアーチャーとキャスターにルーラーもいたし大丈夫だろ、多分…」

「そうか…、あれ?ヘイヴィアはそれを見てたんだろ、なんで一緒に戦ってないんだ?」

「あんな超人共の天下一武闘会に割り込めるかよ、足手まといになりそうだし気配遮断使って逃げてきたんだよ」

「なんか情けなくない?」

「気絶してたヤツが言うなよ」

 

 そのまま一定の距離を保って撃ち続けていると、徐々に数は減り、いつしか立っているホムンクルスは0になり、廊下はホムンクルスの死体で埋め尽くされていた。

 

「終わったー!死屍累々だなぁ…」

「…なぁヘイヴィア、これ誰が片付けるんだろうな…」

「…言うなよクウェンサー、薄々分かってはいるけどよ…」

 

 後程訪れるであろう作業を思い浮かべ、苦い表情をするクウェンサーとヘイヴィア。

 そこへコトミネからの通信が入った。

 

「アサシン、可能な限り早急に礼拝堂に来てください。」

「「イエッサー、アサシン了解」」

 

 それだけの短い通信で念話が切られる。

 

「念話だって分かってるけど、つい無線機口元に持ってっちゃうよね。」 

「生前からのが癖になってるんだろ。」

 

 

 

 

 

 そうして向かった礼拝堂には、クウェンサーとヘイヴィア以外の空中庭園に乗り込んできたサーヴァントが勢揃いしていた。

 だが、

 

「(なんか様子がおかしくねぇか…?)」

「(ああ、もっとバチバチしてるものだと思ってたけど…)」

 

 敵意は確かにある。だがその場の空気を構成しているのは困惑であった。

 そして何より、シロウ・コトミネが同じ陣営であるはずのライダーとアーチャーから敵意を向けられている。

 つまりは

 

()()()()、もうネタばらししちゃったのか」

「自ら明かした、というよりはルーラーの真名看破によってですかね。元々ここで明かすつもりではありましたが」

「そうかよ、そりゃ敵意ってか殺意も向けられるわけだ」

 

 そして、クウェンサーとヘイヴィアはシロウ・コトミネの

 

「そこに立つって事は、テメェもマスターを裏切ってやがッたのかッ…」

「ああ、悪いなライダー、アーチャー」

 

 否、()()()()()()の隣に立った。

 

「「俺達もこっち側だ」」

 

 そして、聖杯大戦は歪んでいく。

 決定的に、取り返しのつかない方へと。






今年もよろしくお願いいたします(フライング)


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